【艦これ】提督「ちんじふ裏らじお」【安価】 前編

192: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 19:05:15.12 ID:HcHECrivo
 
00~24 瑞鳳
25~49 龍鳳
50~74 大井
75~99 北上
 ※ゲスト艦娘やお便りには影響しないのでご安心ください
   はやめに置いておきます

↓直下コンマ  



193: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/14(水) 19:10:30.27 ID:/neEOxQDO
なんのコンマかよくわからないけどとりあえず踏んでおこう

197: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/14(水) 21:00:46.05 ID:HcHECrivo

今回のラジオに招待される艦娘選考 ↓1~5

198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/14(水) 21:00:48.30 ID:P0WnnC13O
秋月

199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/14(水) 21:00:56.30 ID:tyCEv+5FO
春雨

200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/14(水) 21:00:57.86 ID:i0CAs+tSO
吹雪 睦月 夕立

201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/14(水) 21:01:15.44 ID:SfLV7cqRO
瑞鳳

202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/01/14(水) 21:01:27.70 ID:7TbKfbuRO
瑞鶴

217: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 16:52:51.20 ID:VRuwtO/Ho



 コポコポ

駆逐イ級「…………」



元帥「…………」

憲兵「…………」

提督「…………」



元帥「――――どうだ、そこの駆逐イ級は。見たところ、ずいぶん慎ましやかだが」」

技術者「…………」カチカチ


技術者「…………他の駆逐イ級と比較して。深海係数も非常に薄く、周囲の建造物への“汚染”も確認されず」

技術者「昨夜からの監視記録もさきほど確認させていただきましたが――――」

技術者「非常に珍しい個体だと言えますねえ。“研究対象”として提出するに足りうるものかと」

憲兵「…………」

提督「…………」

元帥「……そうか」


元帥「だがな、その深海棲艦はどうやら、この鎮守府の潜水艦娘に懐いているらしい」

元帥「“研究対象”として施設に提出しようと思えば、途端に凶暴性を取り戻すやもしれん」

技術者「そこですねえ」

技術者「なにかに懐く――というのはまったく新しいケースです。我々もいろいろ試行錯誤してはきましたが……」

憲兵「そもそも、そこの深海棲艦がその潜水艦娘とやらに懐いた理由です。
   なにやら、砂浜に瀕死で打ち上げられているところを、その潜水艦娘が鹵獲した――と、聞いておりますが。事実でしょうか?」


提督「…………事実です」

憲兵「なるほど。瀕死でいるところを…………それではその“鹵獲”は、提督どのが指示したものと考えてよろしいでしょうか」

提督「その通りです」

憲兵「フム。――元帥どのは、このことは?」

元帥「いや、知らんな。憲兵どのに報せる直前に知ったことだ」

技術者「あら…………それは重罪ですねえ。場合によっては、提督さんにお縄がかかるかもしれませんねえ」

憲兵「…………」

憲兵「ふむ」

憲兵「――提督どの。こちらの指示なしに深海棲艦を鹵獲した理由。お聞かせ願おうかと」

技術者「それはありがたい。こちらとしても上に報告しなければいけませんからねえ。ぜひお願いしますよ」

技術者「場合によっては、深海棲艦の謎を解明して手駒として扱おうと企んでいる――なんて、囁かれてもおかしくありませんからねえ」



218: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 16:55:33.76 ID:VRuwtO/Ho

提督「――わかりました。では、順を追って説明させていただきますね」


提督「右手にあるスクリーンをご覧になっていただいてもよろしいでしょうか? ――はい」

提督「現在スクリーンに投影しているものは、南西諸島海域。東部オリョール海――いわゆる、“2-3”エリアの、年末年始における深海棲艦の活動記録です」

提督「信頼に足る潜水艦娘で艦隊を組み、データを収集させ、報告書として届いたものをまとめたものですが――」

提督「年末年始は、深海棲艦の活動が一時的に沈静化する…………というのはご存じですよね?」

技術者「ええ、それはもちろん。日ごろの襲撃が嘘のように静まり返ると聞きました」


技術者「我々としても非常に興味深いことでしてね。今回鹵獲した“駆逐イ級”は、ほかのイ級と違って非常にありがたいサンプルでございましてですね!
    これだけ小さな規格の深海棲艦は我々も見たことがありません! おそらく生まれて間もない状態なのでしょうが――」

憲兵「技術者さん」

技術者「おっとお……いやはや、ご迷惑をおかけしました。続きをどうぞ」

提督「……はい。年末年始の間は、深海棲艦が現れないことで通商や交易が盛んになるとして、商業活動も活発になりますが――」

提督「そのうち何件かは、深海棲艦の襲撃によって、水の泡と化しています」

技術者「あはっ、うまいですねえ! 物理的に水の底へ、ですからねえ!」

提督「……自分は、そこを疑問に思っていました。年末年始の間は、深海棲艦の勢力圏に入らない限りは、襲われることなんてありませんからね」

提督「なのに、貨物船等は実際に襲撃に遭っている。――そこで、深海棲艦の勢力圏は、日に日に大きくなっているのでは、と」

技術者「ンン~。まあ、考えるでしょうねえ普通は~」

元帥「…………」

憲兵「…………」


提督「そこで自分は、身近な海域――東部オリョール海と、潜水艦娘を使って勢力圏範囲の調査をしようと思い立ちまして」

提督「年末年始とはいえ、艦娘に休みはありません。毎日オリョール海に潜って調査していただきました」

提督「調査の結果、この赤い区域が深海棲艦の勢力圏と判明したのですが――」

技術者「おや? 思っていたよりもずいぶん狭いんですねえ」

提督「ええ、まあ……深海棲艦はその名のごとく、深海に“棲む”者ですから、海面で表すとこういった範囲になるんです」

提督「ですが、貨物船が海上を移動する際に、水中に音波が奔るんですよ。もちろんこの音波は、海中を移動しても発生しますね。“音の波”ですから」

技術者「そりゃまあ、当たり前ですねえ。なにをするに取っても音は発生しますから」


提督「そうですね。自分たちはこういった音波を用いて、敵の潜水艦の位置を捜索、察知したりしているんですが……」

提督「どうやら深海棲艦さんも同じなようで。水中に伝播する音の波を捉えて、こちらの存在を察知するんですよ」

技術者「まあ、腐っても分類は艦船ですからねぇ」

提督「はい。伝播する音波を捉えるには、“ソナー”という機器が必要なのはご存知ですよね?」

技術者「ええ、ええ」

提督「深海棲艦には、ソナーを積んでいる個体と、積んでいない個体がいるんですよ。
   ソナーを積んでいる代わりに、砲の数が少なかったり、そのまた逆で、ソナーを積まないことで砲の種類を増やす」

提督「もしもの話になりますが。昨日の貨物船が海域を通った際には、ソナーを積んでいない個体ばかりが、海の底で眠っていて――」

提督「今日の貨物船が海域を通過しようとすると、ソナーを積んでいる個体ばかりがいたとしたら」

技術者「ははあ、深海棲艦にも個体差があることは識っていましたが、そういうこともありえるんですねえ」

提督「はい。なので、ソナーを積んだ個体と、積んでいない個体が“両方存在する”オリョール海で調査をしようと思ったわけです」

技術「なるほどお、だから東部オリョール海を選んだ、というわけなんですねえ」

元帥「…………」

憲兵「…………」

219: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 16:57:27.54 ID:VRuwtO/Ho

提督「そして、潜水艦娘が日を分けて何度もオリョールの海に潜り、結果をまとめた図がこちらになります」

提督「左の図が、ソナーを積んでいないであろう日の勢力圏。右の図が、ソナーを積んでいるであろう日の勢力圏です」

技術者「わお! 倍以上も差があるんですねえ!」

提督「勢力圏の外にいるときはなんの音沙汰もありませんが、一歩でも踏み入れた瞬間、飛ぶ矢のように現れましたね」

提督「これで勢力圏は把握しました。――ですが、もう一つ疑問がありましてね」

技術者「疑問ですか?」

提督「はい。勢力圏の外にいるときは、どれだけこちらの数が多くても反応を示さなかった深海棲艦ですが――」

提督「――もし、目の前に餌を吊るされたらどうなるか。という疑問です」


技術者「エサ? ……――ああ、なるほど! “粗悪燃料”のことですね!」

提督「そうですね。普段、艦娘たちが使っているのは、その粗悪燃料から余分を取り除き、を抽出した“純正燃料”ですが……」

提督「深海棲艦においては、なぜか純正燃料には手を付けず、粗悪燃料に一直線というのは技術者さんもご存じだと思います」

技術者「ええ、ええ! それはぼくの先生が調べたものですからねえ! バッチリですよ!」

提督「そうなんですか。……それで、餌を吊るしたらどうなるか、というところでしたね」

技術者「ここまで来たらぼくでもわかりますよお! “勢力圏のすぐ外に、粗悪燃料を置いたらどうなるか”ですよね!?」

提督「その通りです。さすが、あの方のお弟子さんですね」

技術者「いやあ照れますねえ、あっはっは」


220: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 16:58:53.51 ID:VRuwtO/Ho

提督「……再開しますが、餌を吊るしたらどうなるか――」

提督「結果から言うと、ビンゴでした。粗悪燃料を抱えた潜水艦娘が、勢力圏の近くまで寄らずとも――彼らは飛び出してきましたよ」

提督「つまり彼らは、粗悪燃料の存在をなにかで嗅ぎ取っているか、察知しているかということです」

技術者「なるほどお。――あっ! だから貨物船が狙われるんですね!」

提督「おお、さすがです。そうですね、一般の貨物船に使用されているものは粗悪燃料ですから……。
   我々が使用しているような純正燃料は、一般的に高価なものですからね。粗悪なものに頼らざるを得ません」

提督「ですが、これはいまだ仮定の段階。なので自分は、実際に調べてみることにしまして」

技術者「実際に?」

提督「はい。最近の貨物船は、人が乗っていない自動操縦なものも多いですし。
   “艦娘がそばにいない状況で、どの距離までなら粗悪燃料を嗅ぎつけるか”ですね」

提督「艦娘が使用しているのは純正燃料ですから。もしかしたら、深海棲艦にとって純正燃料匂いや、艦娘の存在が妨げになっているかもしれない――」

提督「それでは、一般の貨物船と仮定して検証することが出来ません」

提督「ならば、粗悪燃料だけならどこまで食いついてくるか、と。
   技術者さんも作った記憶ありませんか? 子どものころ、鳥を捕まえる簡易トラップのようなもの」

技術者「ああー、ありますよ! あの、紐を括り付けた棒で桶を支えて、餌に釣られた獲物が桶の真下に来た瞬間――ピッと」

提督「そうです、ガバッと捕まえるやつですね。……あれと似たようなものを、作りまして」

技術者「へえ! うまいこと考えたものですねえ!」

元帥「…………」

憲兵「…………」



221: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:02:26.86 ID:VRuwtO/Ho

提督「罠を仕掛けて何日か。――アタリでした。見事にひっ捕らえましてね」

提督「粗悪燃料のような、彼らにとっての“食料”を集めるのは、働きアリである駆逐艦。
   女王たる戦艦は海の底で深く眠りについているようですが、彼らは女王のために寝ずに働く」

提督「その働きアリが、見事ひっかかりまして」

技術者「さっすがですねえ! ――つまり、海面を走る貨物船も、向こうからすればただのごちそうだったと」

技術者「たとえ艦娘の護衛があったとしても、彼らは獣の群れのように現れますからねえ。右手を処理している間に左手が――ガブリ、というわけですしねえ」

技術者「年末年始。すべての貨物船に大量の護衛艦隊を付けるわけにもまいりませんしねえ。コストが重すぎますから」


提督「貨物船はごちそう――そうなりますね。なので、貨物船がときどき襲われることの理由と、襲われないようにするための工夫。それがこの――」

技術者「“燃料”の問題だったんですねえ。いやはや、お手柄ですよ! そこにいる駆逐イ級は、その調査の副産物だと!」

技術者「そういうわけですね!」

提督「ええ。その通りです」



222: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:03:58.95 ID:VRuwtO/Ho


憲兵「…………」

憲兵「なるほど、そのような研究理由がおありだったとは。これでは、提督どのを連行するのは不可能ですね」

元帥「…………」

元帥「ああ、そうだな。むしろ功労者として讃えるべきであろうな」


技術者「ええ、ええ! この件、喜んで報告させていただきますよお! これで我が国の商業も発展しますねえ!」

提督「自分のような若輩が、お役にたてて光栄です。この身、祖国のためなら粉にして働く所存です」

技術者「いやいや、そんな畏まらなくっとも! すごい結果ですよこれは!」

提督「そう言っていただけると、肩の荷が下りた気分です」

提督「そしてこのたび鹵獲したこの“駆逐イ級”ですが、こちらの監視下に置いて研究を重ねようかと思います」

提督「うちの鎮守府の艦娘に懐いているというのなら好都合。いままでに採れれなかったデータが、とれるかもしれませんから」


技術者「わかりました! 本当は、こちらとしてもぜひいただきたいサンプルなのですが……」

技術者「駆逐イ級“程度”なら、また元帥どのが鹵獲していただけるでしょうしね!」

元帥「…………」

元帥「ああ、任せろ。さすがに、いますぐというのは難しい注文だが……」

技術者「いえいえ、先日送っていただいたサンプルがまだ手元に残っていますから! 気長に待つことにいたします!」

元帥「それなら助かる」


憲兵「…………それでは技術者どの、そろそろお時間です」

技術者「お、もうそんなお時間ですか! いやはや、たいへんうれしい話を聞かせていただきましたよ!」

技術者「さすが、年若き戦軍神ですねえ! 見事な手腕でございます!」

提督「いえいえ、そのような。…………それでは、お帰りということでしたら――」

提督「この鎮守府庁舎の出入り口に立たせている自分の秘書艦に、そのデータをまとめた報告書の束を持たせていますので。お帰りの際にはぜひそちらを」

技術者「はい、はい! それはもうありがたく受け取らせていただきますよ!」


223: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:04:25.61 ID:VRuwtO/Ho

技術者「さっそく上の方にも報告しておかなくては! それでは憲兵さん、元帥どの、帰りましょうか!」

憲兵「……いえ、自分は別件でまだこちらに」

元帥「こちらもそうだな。まあ、すぐに帰ると思うが……」

提督「…………」

技術者「およ? そうでしたか、それではお先に失礼させていただきますね!」

提督「はい。お見送りできないのが心苦しいですが……」

技術者「いえいえ、お気になさらず! それでは!」

 バタン  タタタ


224: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:05:32.51 ID:VRuwtO/Ho


憲兵「…………」

元帥「…………」

提督「…………」



元帥「くくく…………」

憲兵「…………よくもまあ、あんなことをベラッベラと」

元帥「かっかっかっ…………!」

提督「――――なにか、自分に落ち度でも?」

憲兵「落ち度もクソもあるものか。たしかに、燃料と勢力圏の関係は少し進んだ調査をしていたようだが――」

憲兵「そこにいる“駆逐イ級”を捕まえたことに関しては、まるっきり“こじつけ”ではないか!」

元帥「くくっ」

提督「……こじつけ? 具体的に、どこからがこじつけであると?」

憲兵「はじめからだ! まず第一に、東部オリョール界でソナー調査だと……?」

憲兵「よっくもまあ俺の前でベラベラ言えたものだ。“東部オリョール海では、ソナーを装備した個体は出現しない”!」

憲兵「出現したとして、天文学的な数字でしかないだろう!」

元帥「クカカカッ! そもそもが、オリョール海でソナーを積んだ個体が出るというなら、オリョクルなんて流行っていない」

元帥「低練度の娘が、単身オリョールに潜れるのもそのためだ。
   ソナー持ちの駆逐艦なんて現れてみろ。いま泳いでいる新人の潜水艦娘など、みーんなドボンだ」

憲兵「それなのにまあ、あれだけベッラベラ、ベッラベラと……!」


225: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:06:24.15 ID:VRuwtO/Ho

提督「…………」

提督「――ふふ」

提督「あっはは! さっすがその通り!」

憲兵「それにだ! そもそも勢力圏の話からだっておかしい!」

憲兵「“深海棲艦の勢力圏が、日に日に大きくなってきているのでは”だと!? よくもまあ、あんな神妙な顔で言えたものだ!」

憲兵「深海棲艦の勢力圏が日を追うごとに大きくなるなら、もう世界中の海がやつらの領海だ!」

憲兵「いったい何年前からやつらがいると思ってるんだ!!」

元帥「おれが子どものころから存在したから、おおよそ――七十年か八十年そこらか?」

元帥「いや、そんな昔から勢力圏が広がっているならもう大事だ。ヘタすると宇宙にまで進出しているんじゃあないか?」

226: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:08:57.55 ID:VRuwtO/Ho

提督「ふふふっ、いやホント、派遣された技術者の方がバカで助かりました。うふふっ」

提督「だいいち、あの深海棲艦が――鳥を捕まえるような、子供だましのトラップに引っかかるわけねえじゃん! あっははは、鳥頭じゃねえんだから!」

提督「そんなに鹵獲するのが簡単だったら、交戦なんかしないでずっと罠撒いてるわ! あはははっ!」

元帥「……おまえ、それに関しては許さんぞ。おかげでおれが、代わりの駆逐イ級を鹵獲しろと言われてしまっただろうが」

元帥「駆逐イ級“程度”だと……?」

元帥「あの頭でっかちクサレ軍団め。深海棲艦を“シカ”かなにかと勘違いしていやがる」

元帥「たかが駆逐艦一隻を鹵獲するのに、どれほど大がかりな仕掛けと人員、予算が必要になるか……」

提督「ウフっ、まあまあお願いしますよ、“栄光の元帥どの”!」

元帥「ぐっ…………」


憲兵「……それに、懐いた理由も説明していないし、こいつがここまで大人しいのも説明していない」

提督「ああ、それは正直自分も疑問なんですよね。懐くなら、しおいじゃなくっていむやだろうと――」

元帥「…………なんだ?」

提督「あ、いえ――――きっと、砂浜でボロボロになっているところを介護されて、しおいに情でも湧いたんでしょう」


提督「くっくっく…………いやしかし、頭ひねってばかりで現場に出てない人を騙くらかすのは簡単ですねえ!」

提督「普段、あれだけ無理難題を任務として突きつけてきますから。スカッとした気分ですよ!」

元帥「ひっひっひっひ、ついにお前もここまで来たか! 本音を消して建前を押し通すことのなんたる痛快さ!!」

憲兵「………………自分の前で言わないでいただけませんか」

提督「いやもうコレ、クセになっちゃいますよ! もう愉快痛快大爽快!!」

憲兵「お前はもう黙ってろ!!」



227: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:10:07.92 ID:VRuwtO/Ho

元帥「ククク…………――だが、念のためそこの駆逐イ級のデータは取っておけ。
   今回はお前が、駆逐に餌を吊るしたと言ったが……隠したことが明るみに出て、いつお前が吊るされる側に回るかわからん」

元帥「なにが起こってもおかしくないよう、ぬかりのないようにしておけ」

提督「ええ、それはもちろん。今回出したデータだって、その産物ですからね」

憲兵「……あの、“オリョール海の調査”のことか。思い出したら腹が立ってきたな」

元帥「くくっ」

提督「まあまあ! 調査の内容自体は、なにも間違ったことは書いていませんよ!」

憲兵「調査内容はそうだろうな。――だが、調査の時期だ! この年末年始の短い間に、あれだけのデータを収集できるわけもないだろう!」

憲兵「それに勢力圏の図だってそうだ。……あれ、年末年始のものじゃあないだろう! 夏場あたりのものを表示しただろうお前!」


提督「くくっ――あ、バレましたか? ええ、ええその通りです!」

提督「いやあ、日ごろから艦娘の戦闘報告書をまとめておいて正解でした! いつか使えるかも、と思って大事にまとめておいたんですよ、各海域ごとの敵データ!」

提督「報告書のテンプレートだって、わざわざ自分がこの手で手直ししたんですよ! ほらこれ!」バサッ

憲兵「やかましい、突き出してくるな! ……――すさまじく、細分化されているな、この報告書」

元帥「ほお、これは……うちでも取り入れたいのだが、構わんか?」

提督「ええ、どうぞ。――いやぁ、細かな努力はいつか花を咲かせるものですねえ!」

憲兵「クッソうぜぇコイツ…………」

元帥「あえて真実の種を撒いて、ウソの実を隠す――今回は見事だった。さすがに、おれの副官だったころとは違うな」

提督「……ええ、いろいろありましたから」

提督「別段、ウソばかり吐いているわけではありませんしね。本当に言いづらいことは言っていないだけです」

228: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:11:08.53 ID:VRuwtO/Ho

元帥「――さ、おれはそろそろ帰るとする。憲兵どのはどうされるつもりだ?」

憲兵「……そうですね。自分はもう少し、この深海棲艦を眺めていようかと」

憲兵「考えてみれば、自分は深海棲艦というものをよく知らない。こんなに近くで見たことなんてありませんでしたから」

元帥「そうか。…………それでは、また会おう」

提督「ええ、お見送りは――――必要ありませんね。また会いましょう」


229: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:12:02.78 ID:VRuwtO/Ho

提督「……憲兵どのは、しばらくどうされるおつもりで?」

憲兵「…………」

憲兵「さっきも言っただろう。俺はしばらく、ここにいると」

提督「――そうですか。じきに夕食の時間となりますが、こちらに運ばせましょうか?」

憲兵「いや、構うな。自前のものがある」チラ

提督「おや握り飯。――そうですか。もし足りないとあれば、艦娘食堂の方へどうぞ。今日の当番娘の腕前はピカイチですよ」

憲兵「ああ、考えておこう」


憲兵「――――ところで、潜水艦の艦娘は、いまどこにいる?」

提督「……潜水艦娘ですか? いまはオリョール海の方へ出払っていますね。ご用件がおありでしたら、こちらに寄らせましょうか?」

憲兵「いや…………気になっただけだ。気にするな」

提督「そうですか。それでは自分は職務に戻りますので、なにかありましたら呼んでください」

憲兵「ああ」



――――

――



230: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:12:36.31 ID:VRuwtO/Ho



榛名「あ、提督。お疲れ様でした!」

提督「榛名もありがとう。技術者さんは、もうお帰りになられたか?」

榛名「はい! 榛名から資料を受け取ってすぐに出られました!」

提督「そうか。……まあ、データとしては間違っていないものだし大丈夫だろう」

提督「榛名もわざわざ悪いな、小間使いみたいな扱いをさせてしまって。担当の仕事もなかったし、今日ホントは休みだったんだろ?」

榛名「いえ。お気になさらずとも、榛名は大丈夫ですから。榛名は提督の秘書艦ですし、提督の大事には必ずついて従います」

提督「……そうか。いつも助かる」


231: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:13:30.97 ID:VRuwtO/Ho

榛名「それより提督、そろそろお夕食の時間ですが……本日はどうされますか?」

提督「そうだ、夕食……。――そうか、しばらくの間ラジオ放送は止められてるんだったな」

榛名「ええ。本当に簡単なものですけど、お祓いもしましたが……念のため、三日間の間は執務室に立ち入らないようにとのことですね」

提督「まったく、ラジオ放送も始まったばっかりだってのに……なんだか、“けち”がついたみたいで縁起が悪いな」

榛名「そうですね……ですが、“ハク”がついたと思えばいいじゃないですか! おばけさんたちからのお便りも、どんどん受け取っていきましょう!」

提督「お前、自分の番が終わったからって気楽に言いやがって……」

提督「まったく。言っておくが、また榛名が選ばれる可能性だってゼロじゃないんだからな!」

榛名「榛名は大丈夫ですっ。――もし、また榛名が選ばれるときがきたら……」

榛名「そのときは…………提督と二人っきりで、こころのお便り読んじゃうぞっ?」バチコーン


提督「…………」

榛名「…………」

提督「…………?」


榛名「…………すみません、上手に言おうとして言えませんでした。忘れてくださいぃ……」カァ

提督「…………」

提督「ふっ」

榛名「あっ、いま笑いました!? 提督、いま笑いませんでした!?」

提督「ふ、い、いや…………べつに、みたいな? くふっ」

榛名「……む~~っ!!」

提督「え、なに、可愛いと思ってやったってこと? まあ超可愛かったんだけどさ。
   ちょっともう一回やってくれないか? もう一回聴きたいしさ、今度はしっかり映像にも残すから」ゴソゴソ

榛名「も~~っ! やりませんからぁっ! 忘れてくださいぃっ!!」

榛名「それに何度も何度も、その……かっ、可愛いだなんて……あまりからかわないでくださいっ」

提督「そりゃ残念だ」


232: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/16(金) 17:14:40.94 ID:VRuwtO/Ho

提督「まあ、可愛かったからいいんじゃないか。――そうだな、夕食は……うーん。
   正直、ここ最近は放送後に食うことが多かったからな。いまのところそんなに腹が減っていないっていうのが本音だな」

提督「それにさっきちょっとつまんじゃったしな。まあ、適当にぷらぷらしてから後で食うことにするわ」

榛名「……そうでしたか。実は榛名も――――」

提督「ストップ。榛名も気分ではないので、のちほどご一緒――はナシだ。無理して気を遣わなくてもいい」

榛名「えっ! でっ、でも榛名、本当にお腹がすいていなくって……!」

提督「どんだけの付き合いだと思ってるんだ。……榛名お前、腹が減ってくると、食事の当番表を確認しにいく癖あるんだよ」

榛名「えっ」

提督「実家にいるときもそうだったろ。霧島たちもみーんな気づいてて、榛名がそうしたら食事の時間を早めるようにしてたんだぞ」

榛名「あぅっ……」

提督「おおかた、当番を確認してその日の献立を想像していたりするんだろうが……」

提督「俺のことなんか気にすんな。適当にあとでなんかつまむからさ」

提督「ちょっとした癖が出てくるくらいだし、俺に合わせて待ってたりなんかしたらどんどん時間が――」

提督「……榛名?」


榛名「…………」カァァ

提督「あ――っと、悪かったな。本当に腹がへっていなかったのかもしれないし、べつに榛名のことを食いしん坊とかそういうふうには――」


榛名「――――とくの――――」

提督「――榛名?」


榛名「て…………、ていとくの…………っっ、ばかああ~~~~っ!!」ダダダ

提督「あ、おい榛名っ!!」






黒潮「な、なんやぁ!? 喧嘩かぁ!?」

龍驤「な、なんやこっちの方までえっらい響いてきたで!?」


提督「ぁ……ああ…………あああァっ…………」

黒潮「な、なんや! なにがあったんや!?」

龍驤「ちょいちょい、どうしたキミ! 大丈夫か!?」


提督「あ……あのはるなが、あの榛名が俺に……ばかって……おぉぉ…………」ゴロンゴロン

黒潮「…………」

龍驤「…………」

黒潮「あほくさ、帰ろ帰ろ」

龍驤「せやな、付き合うてられへんわ。こんなんの相手しとるより、みんなで盛り上がっとった方が百倍楽しいわ」

黒潮「ほんまそれやで。犬も食わんわ」




238: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:38:53.06 ID:PS3cmbkpo





 グツグツ


提督「ぅ……ん…………」


提督(なんだ……いいニオイが…………)」

龍鳳「提督、お目覚めですか?」

提督「ん――龍鳳? ここは…………えっと、どこだ? ……ベッド?」

龍鳳「ここはわたしの私室です。提督、どんな具合ですか? だいじょうぶ?」

龍鳳「廊下で倒れてるのを見てびっくりしたんですから。あんなところで寝ていたら風邪をひいちゃいますよ」

提督「ああ、そうだったのか……いや、妙にショッキングな夢を見た気がしてな。なんかこう、みぞおちを吹き矢で撃たれたみたいな……」

龍鳳「ふふ、なんですかそれ」

239: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:39:44.32 ID:PS3cmbkpo

龍鳳「――ずずっ。……うん、あとちょっとかな」

龍鳳「提督、お夕食はもう済まされましたか? わたしはこれからなんですけど、もしよしければ召し上がっていかれますか?」

提督「夕食――うわっ! もうこんな時間だったのか!」

提督「すまん龍鳳、俺のぶんも頼めるか。あまり遅くなると、夜中に腹痛で叩き起こされて辛くなる」

龍鳳「提督はお腹が弱いですもんね……わかりました。あともう少しだけかかりますから待っててくださいね」

提督「悪いな。……そういや龍鳳、お前今日の当番だったよな。まだ食ってなかったのか?」

龍鳳「はい。向こうではいろいろ試してみたいことがあって。気づけばこんな時間に……」

龍鳳「それに、今日はいむやちゃんたちが遅く帰ってくる日でしょう? ですから、ご飯を作って置いてあげようかなって思いまして」

提督「……ああ、なるほど。潜水艦組の帰りが遅くなるときは、適当にどこかで済ませてると思っていたが。
   悪いな龍鳳。本当はこういうの、こっちから指示して厨房担当の人に言付けておくべきことだったろうに」

提督「遅番の潜水艦って言ったら相当遅くなるだろ。わざわざすまない」

龍鳳「いえいえ、わたしもお料理は好きですから。……それに、花嫁修業の一環としても助かりますし」

提督「花嫁修業ゥ? なんだ龍鳳、お前結婚するのか?」

龍鳳「いえいえいえっ! ……その、いつ貰われてもいいように、というか。やっぱり、普段からこういう勉強は続けていないといつか困るでしょうし……」

提督「なんだ、驚かせるなよもう! ははは、可愛い顔してやることやってんのかと思ったわ!」

提督「もし相手が出来たらすぐに言ってくれよ。男目線からのアドバイスだったらいくらでもやってやるからさ」

龍鳳「…………そうですね。いつか母にも紹介できる日が楽しみです」



240: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:40:20.29 ID:PS3cmbkpo

龍鳳「そんな話よりも提督、お待たせしました! 龍鳳特製ヘルシーハンバーグです!」コトッ

龍鳳「提督はここ最近体調がすぐれないようですから、健康を意識しつつ、かつ活力が溢れる食べ物にしてみましたっ」

提督「おお、うまそうだ! ……でも、これだけの料理を俺に合わせて作ったのか?
   俺を運び込んだあと作り始めたにしては、妙に手が込んでいるというか……」

龍鳳「細かいことはいいじゃないですかっ。あ、ハンバーグの上に乗せているのは青じその葉ですので、気にせず食べて下さいね」

龍鳳「葉っぱに乗せている大根おろしはお代わりもありますから、もしそのハンバーグが脂っこく感じたら言ってください!」

提督「いや、大丈夫だ。このハンバーグ、豆腐で作ってあるだろ? それならさっくり入ると思う。ありがとな」

龍鳳「それ……と、こっちが茄子とピーマンの焼き浸しです。それでこっちがうずら卵のサラダです」コトッ

提督「うおっ」

龍鳳「最後にこれが、わかめのお吸い物です。熱いのでやけどしないように気をつけてくださいね」

提督「な、なんか凄いな。これを全部龍鳳がひとりで?」

龍鳳「はいっ。潜水艦の子たちも毎日たいへんですから、おいしいお料理を食べさせてあげたくって……」


龍鳳「あ、提督。もしお加減が優れなくって、あんまり食べられなくても気にしないでください。
   もし余ったら余ったで、ごーやちゃんが全部飲み干してくれると思いますから」

提督「あいつそんなに食うのか……いや、こんだけ美味そうな飯ならいくらでも入る」

提督「むしろ、廊下でぶっ倒れたくらいでこんな飯にありつけるなら、いくらでも寝込んでやるさ。ラッキーって感じだな」

龍鳳「ふふ、お上手ですね。……それじゃ、先に召し上がっていてください。わたしも後片付けをしたらご一緒しますから」

提督「ん……後片付けなら俺も手伝うから、まずは一緒に食べないか?」

提督「作った本人が片付けしてるなか一人で食うのも悪いしな。どうせだったら一緒に食おう」

龍鳳「……いいんですか?」

提督「なーにを遠慮してんだ。そんな気を遣うような仲でもないだろうに」

龍鳳「……わかりました。お心遣い、ありがとうございます。
   それじゃ、ごーやちゃんたちが来たときのために、ラップで巻いたお皿だけ先にテーブルに並べておきますね」

提督「おう。あっ、俺も手伝うぞ!」ガタッ



241: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:40:48.75 ID:PS3cmbkpo

龍鳳「いえいえ、提督はお客様だから、もっとがっしり座っていてください。体調も優れないでしょうし……」

龍鳳「お皿を並べるくらいならそんなに手間でもありませんから。ちょっとだけ待っててくださいね」

提督「んんん…………わかった。コップにお茶でも注いで待ってるな」

龍鳳「はい、お願いしますね」


龍鳳「…………」コトッ

龍鳳「…………」コトリ

龍鳳「…………」コト

提督「(…………ん?)」


龍鳳「――はい、お待たせしました。それではお隣、失礼しますね」ギュッ

提督「ぃあっ!? えっ、なんで隣!?」

龍鳳「え? 実家にいたときはいつも、この並びだったじゃありませんか」

龍鳳「いつもは食堂ですけど、こういった小さな部屋でテーブルを囲むときは、この並びじゃないと落ち着かなくって……」

提督「……ふたりだから、囲めてないんだが」

龍鳳「ふふ、いいじゃないですかっ。さ、食べましょう?」ギュッ

提督「(……あ…………あたるぅ)」

提督「あー龍鳳……その」

龍鳳「なんでしょうか、て・い・と・くっ?」

提督「い、いや、なんかその…………近くないか?」

龍鳳「…………」

龍鳳「あ、本当ですね。エプロン着けっぱなし……脱がなくっちゃ」ゴソゴソ

提督「いや、エプロンじゃなくて……」

龍鳳「……なんですか? さ、いただきましょう?」ギュッ

提督「…………あ、うん」

龍鳳「あ、もしかして暖房を効かせすぎましたか? ちょっと暑いなって思ったら言ってくださいね」

提督「いや、そういうわけじゃあないんだが……」



242: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:41:27.93 ID:PS3cmbkpo

龍鳳「あ、提督はお加減が優れないんでしたね。でしたら…………」スッ

龍鳳「――はい、あ~んしてください」

提督「えっ?」

龍鳳「ほら…………あ~ん……?」

提督「い、いい、いい! 体調悪いって言ってもちょっと頭痛いだけだからっ」

龍鳳「……そうなんですか? でしたら――――」サッ

提督「ひっ」

龍鳳「…………っ…………んっ――」コツン

提督「な、あ、わっ」

龍鳳「ね、熱があるわけじゃないみたいですね。…………もうちょっと、ながく……んっ……はぁっ……」スリスリ

提督「(と、といきが……――じゃなくって!)」

提督「やぁ、だ、そっ――大丈夫だから! べつにそんなじゃないし、気にするほどじゃないからっ」バッ

龍鳳「…………そうでしたか。それなら安心です」

提督「(ひ、額にまだ温もりが……というか、こ、この子こんなに積極的な子だったか!?)」

龍鳳「……それじゃ、冷める前に食べてしまいましょうか」

提督「ぅ、あ、ああ、そうだな。い……いただきます」

龍鳳「どうぞ、召し上がってください。…………ふふ」


243: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:42:30.82 ID:PS3cmbkpo

提督「んっ――はむ」オソルオソル

提督「……あ、うまい。うん、さすがだな! 昔より腕を上げたんじゃないか」

龍鳳「ふふ、良かったぁ。……それではわたしも、失礼して」スッ

提督「(あ、離れた……)」

龍鳳「んっ。……うん、いい感じ。この調子なら、きれいに使い切れるかも」

提督「むぐ――んぐ。はぁ……ところで龍鳳、この料理に使った具材は厨房から拝借したやつか?」

提督「もし自費だったら、潜水艦組の食事費ってことで公費でおろすことが出来るが」

龍鳳「あ、いえ。実は実家からたまーにいろいろ送ってくるんです。お野菜とか、お米とか……」

龍鳳「提督もご存じの通り、忙しい日々ですから……あまり使い切れることもなくって、厨房の人に譲ったりしていたんですけど」

龍鳳「あ、そうです。ラジオを聴いてか、提督にもいろいろ届いてますよ? 果物とか、日持ちする食べ物とか……」

提督「……俺にまでか。一人暮らしの息子じゃないんだから、気にしなくてもいいのに」


提督「どうだ先生は。元気で過ごされているか?」

龍鳳「はい! 実は、この間まで病気で入院していたんですけど、この間ようやく退院できて……」

龍鳳「それ以降は病気が怖くって、健康を気にして毎日を過ごしているみたいです」

提督「そっか。無事に健康だったらいいんだが……」

龍鳳「いえ、よくありませんっ! 自分が病気にかかったからか、わたしの体調もくどくど言ってくるんです!
   よく食べているか、ちゃんと寝ているか。運動は欠かさずに――なんて、わたしが艦娘だってこと忘れているんですっ」

提督「はは、まあそこは親心ってやつだろ。言わずにはいられないんだ……――はむっ」

龍鳳「こちらとしてはいい迷惑です……。わたしだって、もう一人の女なんだからっ」

提督「まあ、こんだけのモン作れるんだから過ぎた心配だよなぁ……。最初は給糧艦勤務志望だったんだろ?」

龍鳳「はいっ。あそこに掛けてある割烹着も、そのときの名残で……」

提督「はは、それなのに悪いな。“艦娘”としてわざわざ引っ張って来ちまって」

提督「過去の経験上。知り合いが、形は違えど同じ職で頑張ってるってなったら手元に置いておきたくってな」

龍鳳「わたしも驚いたんですよ。給糧艦としての指導を受けていたら、艦娘として指名してきた鎮守府が――って」

提督「ん。……あのときは規模も小さくって、給糧艦の枠は間宮さんしか取れなかったからなぁ。艦娘として呼びこむしか手がなかったんだ」

提督「まあ、俗にいう“裏ワザ”ってやつだけどな。けっこう使ってる人多いんだぞ、この手」

龍鳳「はい、それはよく聞かされていて……。“給糧艦として呼ばれるかはわからないんだぞ”って、いつも言われていて。
   最初はすっごく怖くって、鎮守府の戸を開けるまで震えが止まりませんでしたけど――」

龍鳳「まさかまた、提督に逢えるなんて……思ってもいませんでした」


提督「はは、はじめのころなんてツンツンしてたのに、鎮守府で働くって言ったらワンワン泣かれたもんな」

龍鳳「そ、それは忘れてくださいっ! ――だって、あぶないじゃないですか……」

提督「ん、まあな……。いつ酷使されて死ぬかわからない世界だもんな」

提督「だからこそ、“恩師の娘”がこの世界に飛び込んできたってなったら、手元に置きたくなるのもわかるだろ?」

龍鳳「はい。本当に、提督で良かった……いつも感謝しています」


244: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:43:10.21 ID:PS3cmbkpo

提督「まあ、いまは航空母艦としても働いていてもらっているが……悪かったな。龍鳳からは、なんとなくそんな才能を感じたんだ」

龍鳳「そんな、わたしなんて……いつもみんなに遅れてばっかりです。もっと速く動けたらいいのに……」

提督「そこは“龍鳳適性”の艤装の限界だな……まあ、とくに龍鳳は後発組の航空母艦だからさ、不備があったらすぐに言ってくれ」

提督「こちらとしても、できるだけ融通しようとは思うから」

龍鳳「あ、それだったら――あの、さっそくで申し訳ないんですけど、良いですか?」

提督「ん、かもーん」

龍鳳「えと、そんなに大事な話じゃないんですけど――」

龍鳳「…………新しいサイズの、胸当てが欲しいな……って」

提督「……胸当て? 戦闘の際に胸元を防護する、あの胸当てでいいんだよな?」

龍鳳「はい。あの、壊れたというわけではないんですけど――」

龍鳳「…………ちょっと、サイズが、合わなくなってしまって……もうちょっと大きいのが欲しいかな、って」

提督「あー、被弾で歪んだのか? いくら防護フィールド張ってるからって言っても、ある程度衝撃は通ってくるもんなあ」

提督「わかった、適当にこっちで見繕っておくよ。明日には届けさせよう」

龍鳳「あ、いえ、そういうわけではないんですけどぉ……いっか。ふふ」

提督「…………ん? どうした?」

龍鳳「いえ、なんでもないですっ。さ、潜水艦の子たちが帰ってくる前に、食べてしまいましょう?」 


――――

――


245: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:43:52.68 ID:PS3cmbkpo


提督「ひー、食った食った……ありがとう龍鳳。ごちそうさまでした」

龍鳳「おそまつ様でした。それではお皿の方お下げいたしますね」

提督「あ、それくらいは――」

龍鳳「提督はいいから、座っていてください。すぐに食後のコーヒーをお持ちしますから」

提督「…………むう」

龍鳳「もし手持ち無沙汰と感じるのでしたら、その……テーブルの左隣にある棚の、二番目にある引き出しの中でも眺めていてください」

提督「棚の引き出しィ? ……これか。――――ん。これは……手紙かな?」

龍鳳「はい。母から届いたものなんですけど」

提督「へえ――」パサッ

龍鳳「提督のことも内容に書かれていて。もしお暇でしたら、そちらを読んでいただいても――」

提督「――あっぶね、開くところだった! どうしてそんな危ないものを見せようとするんだ!」パッ

龍鳳「あ……お嫌いでしたか?」

提督「いや、好きとか嫌いとかじゃなくってな……。
   だいたい、自分に来た手紙を他人に見せるってのもおかしいだろ。自然な流れで開きかけたわ」

龍鳳「わたしは気にしませんけど……」

提督「先生からの手紙って言ったらあれだろ、先生と龍鳳の間で俺のことを批評してるわけだろ?」

提督「俺の知らないところで俺の話してるんだろぉ? やめてっ! 知らないものは知らないままでいさせてっ」



246: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:44:34.06 ID:PS3cmbkpo

龍鳳「変なところで怖がりさんなんですから。――さ、コーヒーの用意ができました。どうぞ」コトッ

提督「……さんきゅ」

龍鳳「ふふ、なにも入っていませんから」

龍鳳「こっちのクッキーはわたしが焼いてみたんですけど……。
   いま、お菓子作りの練習中で。もしよければ、感想を教えていただけると嬉しいんですが……」

提督「お、本当か。最近頭使う機会が多くってなあ……甘いものが欲しいなって思ってたところだったんだ」

提督「…………はむ」サクッ

龍鳳「……いかがでしょうか?」

提督「――うん、味もしつこくないし、食感も楽しい」

提督「美味いな! これ本当に練習中か? 店の味と比べて遜色ないぞ!」

龍鳳「よかったぁ! たくさんありますから、どんどん食べてくださいっ」

提督「うん、うん……俺の好きな味だ。龍鳳は才能があるのかもなぁ」サクサク

提督「迷惑じゃなければだが、いくつか包んでもらっていいか? 仕事中とかにつまもうと思ってな」

龍鳳「はいっ、もちろんです! …………あのぉ、提督?」

提督「……ん? なんだ?」サクリッシュ



247: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:45:00.81 ID:PS3cmbkpo

龍鳳「わたし、いまお菓子作りの練習中――と、さっきも言いましたけど……」

龍鳳「この間、お菓子作りの参考になりそうなケーキ屋さんを見つけたので……もしよければ、ふたりで――――」


 ガチャ


榛名「失礼します。龍鳳さん、提督の姿が見えないのですが――」


提督「おう、榛名か」

龍鳳「あっ――」

榛名「あっ…………」



248: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:46:04.71 ID:PS3cmbkpo

榛名「…………龍鳳さん」

龍鳳「…………榛名さん」


提督「…………?」

提督「榛名、そんな入口で立ち止まって……寒くないのか?」

榛名「……そうですね。――龍鳳さん、失礼します。提督、お隣失礼します」

龍鳳「ええ、どうぞ?」

提督「あ、ああ」


龍鳳「…………」
榛名「…………」


提督「……榛名? なにか用事があって来たんじゃないのか?」

龍鳳「たしかに。榛名さんはお忙しいでしょうし、あまりこんな場所に長居するわけにもいかないんじゃないですか?」

龍鳳「用事を済ませて早く戻ったほうが良いんじゃないですか?」

榛名「……ええ、その通りです。榛名は提督を探していたのですが、ようやく見つかりました」

榛名「提督? 憲兵さんがあと数十分ほどしたら帰られるそうなので、お見送りの準備をいたしませんと。さ、行きましょう」

提督「あ、そうだな――」

龍鳳「そんな人、放っておけばいいじゃないですか。さっきの技術者? さんだって、榛名さん一人でお見送りしていましたし」

龍鳳「その憲兵さんだけ、二人で見送るのもなんだか差別しているようで悪いですし、今回も榛名さんが一人でお見送りするのが良いと思います」

龍鳳「それに、提督はいま食後の休憩中です。ここ連日、提督はたいへん忙しくされていますから、“提督のためを考えて”ここでお休みになられるのが良いかと」

提督「いや、べつに見送りくらいは――」

榛名「そういうわけにもまいりません。技術者さんは急ぎの用事があるとおっしゃっていましたから、榛名が一人でお見送りしただけで――」

榛名「憲兵さんはそうではありません。それに憲兵の組合とは、今後のためにも縁を深めておいた方が“提督のため”になります」

榛名「…………榛名は“秘書艦”ですから。提督のことは誰よりも詳しく、誰よりも考えています」

龍鳳「…………」
榛名「…………」


提督「(ぽつーん)」



249: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:47:25.34 ID:PS3cmbkpo

龍鳳「提督は体調が優れないようですから、あまり食後に動かれないほうが提督のためです。
   無理して、その憲兵さんとやらをお見送りして、寒さにあてられて風邪でも召されたらどうするつもりなんですか」

龍鳳「だから提督はここでゆっくりお休みになられて……その間、榛名さんが一人でお見送りすればいいんです」

龍鳳「わたしは提督のお身体を第一に考えて、ついさきほども“わたしの手料理”を振る舞いました。
   もちろん、提督の胃腸の弱さを知っていますから。あまりもたれずに、かつスタミナが補充できる料理を振る舞ったつもりです」

榛名「――――手料理?」

龍鳳「はい。こちらのクッキーも、こちらのコーヒーも、すべてわたしがいちから“提督のために”お作りしたものです」

提督「え、お菓子作りの練習って言って――」

榛名「……提督? そんなに気を遣わずとも、お夕食でしたら榛名に申し付けてくださればすぐにでも――」

龍鳳「提督は“わたしの手料理”をとっても美味しそうにお食べになられていましたよ。
   “こんなに美味しいものなら、いくらでも――”と、言ってくださいました」

龍鳳「こうやって、ふたり隣り合わせで――」ギュッ

提督「あ、ちょっ」


榛名「…………」
龍鳳「…………」


提督「(……え、なに。おなかいたい)」


251: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:48:02.25 ID:PS3cmbkpo

榛名「――そうでしたか。“いつもは榛名がお作りしているところを”わざわざありがとうございます。提督に代わりまして、榛名がお礼を申し上げます」

龍鳳「いえいえ、大したことじゃないです。むかしはよく、うちに来られて何度も夕食をご一緒しましたから」

榛名「……たしかに、大したことではありませんね。榛名も“毎日同じ家に住んで”、一緒のテーブルを囲んでいましたから」

榛名「――こういったふうに、朝から晩まで」ギュッ


龍鳳「…………」ギュッ
榛名「…………」ギュッ


提督「(なにこのほかほかサンドイッチ。いつもなら嬉しいのに居心地が悪い…………)」



252: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:49:16.72 ID:PS3cmbkpo

龍鳳「……提督? さきほどのお手紙の話なんですが、そう悪い話じゃないんですよ?」

龍鳳「母も提督のことはすっごく気に入っているみたいで、いつも様子を訊ねてくるんです」

提督「え、あ、ああ。そうなのか」

榛名「――――先生が?」

龍鳳「はい。提督は個性の強い生徒だからと、いつも気にかけていて……。それはもう、“実の息子”のように可愛がっているみたいですよ?」

提督「はは、そうなのか……」

榛名「…………」

榛名「……榛名の父も、提督のことはいつも気にかけていますよ。先日、の、お手紙……みたいに――」プルプル

提督「お、おう。はは……」

龍鳳「――――神主さんが?」

榛名「……ええ。式を挙げる際にはぜひうちの大社で――と。ふふ、気が早いですよねぇ?」

龍鳳「…………そうだったんですか。金剛大社の雰囲気はうちの母もいたく気に入っていて――」

龍鳳「式を挙げるなら、親戚一同を呼びやすい金剛大社にしろと。行き遅れる前に早く身を固めろってうるさいんです」

龍鳳「まだそんな歳でもありませんし、毎日たいへんなのに……そんなこと言われたって困りますよね、提督?」

提督「え? あ、あー、たしかに艦娘だしな。ちょっと難しいよな」

榛名「…………」

榛名「榛名の実家――つまり金剛大社ですけど、昔から在る由緒正しい神社ではないですか」

榛名「ですが、榛名たちはみんな女性で……。跡取りが女性だと、いろいろ面倒みたいで――」

龍鳳「――榛名さん、知ってましたか? いまは、女性でも神主になれる時代なんですよ?」

提督「へ、へえ。そうなのか……」

榛名「…………ですが、やはり男性の跡取りが欲しい。とのことで」

榛名「提督さえ興味があれば、退役したあとにでも……ゆっくり時間をかけて、神主の仕事を教えてくれるとのお話です」

提督「か、かんぬし? う、うーん、興味はあるけどな……」


榛名「…………」ギュッ
龍鳳「…………」ギュッ



253: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/17(土) 19:49:53.25 ID:PS3cmbkpo

榛名「とにかく提督。あまりお待たせするわけにもまいりませんから――」グイッ

龍鳳「あ、ちょっと! 提督はまだ……っ」

提督「い、いや、悪い龍鳳! 個人的にも憲兵さんには話があるから、今日はここで失礼する!」

提督「クッキーありがとな! またゆっくりと食べさせてもらうことにする――――あぁぁ」ズルズル



榛名「――――龍鳳さん、おじゃましました」

龍鳳「…………ええ――ほんとうに」




――――

――




260: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 00:37:18.21 ID:e2QoXqi0o



 ガチャリン


提督「はっ……はぁっ……」

憲兵「…………なんだ、ずいぶん疲れているようだな。どうした」

提督「いえっ……っ……――憲兵どのがそろそろお帰りになられると聞いて、急いでお見送りにあがりました」

憲兵「……なんだ? 俺はそんなことを言った覚えはないが。――もしかして、遠まわしに早く帰れと言っているのか?」

憲兵「だとしたら悪かったな。こんな時間まで居座ってしまってな」

提督「いえいえいえとんでもない!! 風のお便りでそのようにうかがったもので……」

憲兵「……気にしていないが。いまはもう勤務時間外だ、気持ちの悪い敬語ばっかり使うんじゃない」

憲兵「それとも、ようやく今頃になって年上を敬う心が出てきたか?」

提督「まさか! ――まあ、お許しが出たんで気兼ねなく話させていただきますよ」

憲兵「まさかとはお言葉だ」

提督「まあまあ」


提督「それで、どうですか? 念願の、深海棲艦を目にした気分は」

憲兵「気分か? そうだな――――」


 駆逐イ級「…………」


憲兵「――――あまり良いものではないな。造形的にも美しくないし、なにより……嫌なことを思い出しちまった」

提督「…………」


憲兵「それにしてもこいつは、ずいぶん透き通った瞳をしているんだな。
   資料で見た深海棲艦はもっと、こう、憎悪を飼っている気がしたんだが。まるで憑き物が落ちたかのようだ」

提督「あーそこですか。今でこそ“こう”ですが、こいつが来たばっかりのときはもっと変な眼をしてたんですよ」

提督「うちの艦娘に協力してお祓いをしてから、こうなったんです。邪念が消えてスッキリしたんですかね?」

憲兵「フッ、“お祓い”か。……ゴーストバスターズでも名乗ったらどうだ。きっとありがたがられるぞ」

提督「あこぎな商売は好きじゃないんです。そういうのは学生時代だけで十分ですよ」


憲兵「学生時代――そういえば、お得意のラジオ放送はどうした。ついに打ち切られたか?」

提督「三日間のバカンスです。おかげさまで事務作業が捗って仕方ないですよ」

憲兵「最高じゃないか。……ま、知っているがな」


261: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 00:38:27.96 ID:e2QoXqi0o


 駆逐イ級「…………」コポコポ


憲兵「…………なあ」

提督「なんでしょう?」

憲兵「いや……。――あの技術者が言ったこと、覚えているか?」

提督「うーん……だいたい聞き流してましたからね。どのあたりでしょうか?」

憲兵「……この深海棲艦が、“生まれて間もない状態”というあたりだ」

提督「あー言ってましたねそんなこと。……それが、どうかしましたか?」

憲兵「余計な探りを入れるな、うっとうしい。――お前は、深海棲艦の出所については何と聞かされていた?」

提督「…………そうですねぇ。諸国の様々な文化の違い、思想の相違から。国々が冷戦状態に置かれて、一触即発状態のなか――」

提督「“海を割って、突如として現れた無差別殺戮兵器”としか聞かされていませんでしたねぇ」

憲兵「……生まれて間もないっていうのは、どういうことなんだろうな。深海棲艦は超常の存在とは違う、と暗に言っているようにも聞こえたが」

憲兵「俺は陸の勤務だから深海棲艦のことはよく知らん。考えても暗い海の底へ――だ」

憲兵「この駆逐を、ずっと眺めていてもわからなかった」

憲兵「対深海棲艦のスペシャリスト様は、どういったふうにお考えなのか、非常に気になるところだが?」

提督「…………うーん。そうですねえ」


262: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 00:38:56.73 ID:e2QoXqi0o

提督「――憲兵さんは、“想いの力”って信じますか?」

憲兵「……想いだぁ? おいおい、えらく突飛な発想だな。そんなもの、念じるだけで変化が起きるわけがない――と、昔なら一蹴していたが」

憲兵「こんなバカげた連中がいるくらいだ。まあ、あることにはあるんだろう……それで?」

提督「自分も、あんまりそういったオカルトは信じないタイプなんですが。まあ……家庭環境的に、どうしても昔っから信じざるをえないわけで」

提督「たとえば。植物状態で、もう二度と目覚めないであろう人間が……大切な人の声を聞いて目覚めるだとか。そんなのです」

提督「“澄み切った純粋な意識”は、人間を通して、力をこの世に発現させるわけです。
   まあ実際は、眠っている人間の力がなにかのキッカケで目覚めたとか、そんなところなんでしょうが――」

提督「いま挙げた例はプラスの意識ですけどね。……プラスがあるってことは、マイナスも当然存在するというわけで」

憲兵「マイナスの意識か」

提督「ええ。さっきも話しましたよね? “お祓い”って。
   お祓いによって祓われる邪念って、“澄み切った純粋な意識”の一つでもあるんですよ」

提督「後悔、憎悪、嫉妬――まあ、なにに起因するものかは知りません。知りたくもないですし」

263: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 00:39:41.90 ID:e2QoXqi0o

提督「…………この、駆逐イ級」コンコン

 駆逐イ級「…………」

提督「お祓いしたって言ったじゃないですか。放送も聴いてらしたと思うんですけど、お祓いするまでは霊障とかヒドかったんですよ」

提督「部屋中わっけわかんないこと書かれた紙が舞ってますし、窓も割れるし机も揺れる。さんざんでしたね」

憲兵「――ああ、あのあとそういうことになっていたんだな」

提督「ええ。まあ、これは霊障のなかでもさほど大きなものではないんですが……」

提督「本体――この駆逐イ級ですね? を見つけてひっ捕まえて、お祓いの儀式を執り行ったんです。そしたらピタリ」

提督「この可愛らしい目つきだって、最初はムカつく眼でしたよ。諦観を決め込んだ眼しやがりましてね」

提督「……――なんとなく、察しがついてきました?」

憲兵「…………」

憲兵「いや、おぼろげだな。つまりお前は、深海棲艦はその“マイナスの想い”から生まれる存在……と、そう言いたいわけか?」

提督「ん……当たらずとも遠からず、ですかね。“想い”だけの存在だったら、お祓いした段階で消滅するはずです」

提督「だから、あくまで“想い”はトリガーではないかと。そう思っています」


提督「そう、例えば――身近な例でたとえましょうか」

提督「たとえばそう、もし“艦娘が死んだら深海棲艦になる”としたら――」

提督「……まあ、キッカケとなる想いはなんでもいいです。敵への恨み、味方への想い、上官への辛み」

提督「――――迎えられなかった、無念」

憲兵「…………っ」

提督「もし、艦娘が死すときに、その“澄み切った純粋な想い”が、周囲に影響を及ぼすとしたら」

憲兵「…………艤装か」

提督「ええ。想いが溢れて、艤装を変容させる……まあ、あくまで“仮定”の話ですよ?」

提督「人の思念が艤装を包み込んで、長い年月を経て変質させる――。
   物言わぬ骸と化した艦娘に代わり、意識を獲得した艤装が人を取り込み、想いのままに暴れ回る。質量を持った悪意となるわけです」

提督「とくに、艤装を駆って戦う彼女たちの想いは、一般の人間と比べると大きいものですからね」

提督「…………まあ、しつこいようですが“仮定”です。ですがこれなら、お祓いをしたあと嘘のように大人しくなるのも納得いくか、と」

提督「超常なる存在には、超常なる理屈を当てはめよう、ということでひとつ」



264: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 00:41:15.69 ID:e2QoXqi0o

憲兵「……ふん、かたちを持たない“想いが溢れて”――か」

憲兵「あまりにも飛躍しすぎているな。根拠はあるのか?」

提督「いえ? あくまでお得意の“こじつけ”でしかありませんから、根拠なんてありません。なーんとなくそう感じただけです」

憲兵「……そうだろうな。そんなことがあってたまるか。だいいちに、深海棲艦の方が先に現れたのだから、艦娘が深海棲艦になる――というのはな」

憲兵「深海棲艦に対抗すべく開発されたのが艤装であり艦娘だ。その理屈だと、ルーツが逆になってしまっているではないか」

提督「はは、おっしゃる通りで」

提督「(――にしては、深海棲艦が現れてから艤装を開発するのが早すぎるんだよなあ……)」


憲兵「それに、お祓いでどうにかなるなら、戦場海域に祈祷兵団でも連れて行けばどうだ。一網打尽だろう」

提督「まあ、お祓いっていうのはあくまで受ける側が静止していないと執り行えませんから

提督「自由気ままに暴れまわる深海棲艦を相手にそれは、ただ首を差し出しているだけかと」

憲兵「……ふん。言ってみただけだ。いずれにせよ、国のために戦う艦娘の成れの果てが……こんなモノでいてたまるか」

憲兵「そうだ。味方に撃たれて死んで、死んでからも味方に撃たれるなんて……考えられん」

提督「…………」


提督「……そういえば、あいつに会いましたよ。ずいぶん久しぶりでしたけど」

憲兵「…………なんのことだ?」

提督「あいつとは顔を合わせたこともないですし、スクリーン越しの会話しかしたことありませんでしたけど」

提督「ドタバタ突っ込んできて、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、最後には“ありがとう”と言って消えていきましたよ」

憲兵「――――」

提督「あいつは優しいから、きっと“明るくてきれいなところ”にいったでしょう」

提督「まさか、いの一番にこの鎮守府を訪れるとは思いもしませんでしたけどね。…………嫉妬しました?」

憲兵「…………っ」

憲兵「……お前みたいな悪い男に引っかからないようにするのが、俺の役目だったんだがな」

提督「引っかかっちゃいましたね」

憲兵「あいつが死んですぐ、あのクソ提督を連行してやった。……あと少し、あと少し早ければ……」

憲兵「おとなしく連絡娘として務めていればよかったものを、あのクソの口車に乗せられて潜水艦娘なんかになりやがって。適性だってなかっただろうに」

提督「…………」

265: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 00:42:15.74 ID:e2QoXqi0o

憲兵「……そうか、最後はありがとうと言っていたか……それだけで、今日来た甲斐があった」

提督「満足されましたか?」

憲兵「この上なくな。…………だが忘れるなよ、俺はお前みたいな立場の人間をしょっぴく立場だ」

憲兵「たとえ妹が世話になったとて、余計な情には流されん。それが俺の、唯一の信条だ」

憲兵「こうしていまは仲良くさせてもらっているが、有事の際には遠慮なく連行させてもらうぞ」

提督「おっと! 構いませんよ。こちらとしても、腹は痛いですが肚は痛くないものですから」

提督「お天道様の下を、諸手を振って歩けるくらいには善行を積んでいるつもりです」

266: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 00:43:15.08 ID:e2QoXqi0o

憲兵「……それではこの間の放送。潜水空母の娘をまさぐっていた件に関しては、どう説明するつもりだ?」

提督「おっと心外ですね! そんな認識はありませんし、自分としてはよくあることで……」

提督「パワハラと言われるならまだしも、セクハラなんてとんでもございませんっ!」

提督「そんな認識はないし、そんな嫌疑をかけられてしまっては、相手も戸惑ってしまいます! まさかそんなふうに思われるだなんて……驚きですよ!」

憲兵「…………世田谷出身の番組司会者が、むかしそのようなことを言っていたな」

提督「ええ、オマージュです! ……ですが、自分は真っ白柔軟剤ですよ」

憲兵「願わくば、公の場でお前のそんな言葉は聞きたくないものだ」

提督「ええ、ご安心ください。信用がすべての世界ですからね!」

憲兵「……ふっ、本人が言ってもなんの説得力もないよ」

提督「おっしゃる通りで」


憲兵「……潜水艦が、ブラックだと騒いでいたが」

提督「冗談に決まっているでしょう……潜水艦娘に対するうちのホワイトっぷりはあなたも知ってのとおりだと思いますが」

憲兵「――ふう。まあ、そうか……巧妙に隠蔽するやつが多いものだからつい、な」

提督「……まあ、そうですねぇ」

憲兵「…………ライター持ってないか」

提督「あいにくと禁煙でございまして」

憲兵「……そうだったな」

267: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 00:49:37.19 ID:e2QoXqi0o

憲兵「…………――さて、ずいぶんと長居してしまったな」

憲兵「俺はもう帰ることとする。見送りはいらんからさっさと床に就くといい」

提督「いやあ、これでも忙しい身でしてね。これからまた見回りです」

憲兵「……そうか。それではな」クルリ


提督「…………どうされましたか?」

憲兵「いや――」

憲兵「普段、我々は心に蓋をして生活している。心が臭いものとは皮肉なものだがな」

憲兵「さきほどのお前の理屈、お前の理屈で考えれば――」

憲兵「深海棲艦は、剥き出しの感情。想いの塊のような存在なんだな」

提督「…………ん。まあ、そうなりますね。あくまで仮定の話ですけど」

憲兵「そうか…………」



憲兵「まさに――“ありのままの姿 見せるのよ”といったところか」

提督「……――アンタの入れ知恵かあああああああっ!!」



憲兵「それではさらばっ」ヒュバッ

提督「待てぇい! ――――速いなっ!?」

憲兵「ふはははっ! それでも艦娘を率いる一軍の将か!!」ダダダダ



――――

――


268: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 00:50:04.56 ID:e2QoXqi0o

明石「あ、提督。おはようございます!」

提督「ああ、おはようございます。久しぶりによく眠れましたよ」

明石「最近いろいろありましたからねぇ。……それで、本日はなにをお求めですか?」

提督「えっとですね。胸当てって置いてありますか? これよりもう少し大きなものなんですけど」

明石「胸当て……ですか。ちょっと貸してみてください」

明石「…………ああ、これは龍鳳ちゃんのですか? ちょっと前にお渡ししたものですね」

明石「とくに傷や歪みもありませんし、まだまだ使えますよ?」

提督「いや……。いろいろあるみたいです。サイズが合わなくなったんだとか」

明石「サイズが合わなく――あっ、なるほど。わかりました、ちょっと待っててくださいね。コンピューターで調べますから…………」カタカタ

提督「おおすごい、それだけでわかっちゃうもんなんですね。俺なんかさっぱりだったのに」

明石「いやまあ、提督は…………ほら、いろいろありますから」カタカタ


明石「――あった。提督、胸当ては酒保の商品ではなく格納庫の方に備品として置いてありますので、そちらの方へお願いします」

明石「この番号と同じものです。もしわからなければ、隅っこのほうに夕張ちゃんがいると思いますので、そちらに聞いてみてください」

提督「え、夕張ですか? ……格納庫ですよね? 工廠じゃなくって?」

明石「はい、格納庫です。実は夕張ちゃん、兵装開発の実験を手伝ってもらっているときに、開発の“いろは”を教えたらすっかりハマっちゃいまして」

明石「最近じゃもうずーっと格納庫で工具をいじくりまわしているようで……」

提督「あー……わかりました」

明石「正直、あまり格納庫を弄られるとごっちゃになって辛いんですけど……まあ、そのうち飽きるでしょうしね」

明石「なんだか、独自に開発技術を持っている方々にいろいろ伺っているみたいですよ。航空母艦のかたとか、航空戦艦のかたとか……」

提督「へえ……熱心なんですねえ。わかりました、ありがとうございます」


269: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 00:52:27.81 ID:e2QoXqi0o

明石「それより提督、明日明後日と大忙しですね。明後日にはラジオ放送が再開されますし、明日には……」

提督「ええ。……あ、そうだ。明日なにか買ってきてほしいものとかありますか? 街に出る機会なんてそう多くないですし、いまのうちに」

明石「ああ、そうですねえ…………うーん、いざそう言われるとなかなか思いつきませんね」

提督「はは、まあそういうもんですよねぇ」

明石「――あっ、それじゃあちょっと材料を買ってきてもらえますか? いまリストにしますので」

提督「材料……うーん、あまり大がかりなものなら取り寄せますけど――」

明石「いえ、違うんです。明後日の放送、あの子たちがゲストですよね? でしたら、せっかくなのでこういったものを……」サッ

提督「……ああ、なるほど。わかりました、これなら両手で持って帰れますね」

明石「はい。……――あ、提督。明日は榛名さんと一緒に行かれますか?」

提督「……? ええ、そのつもりですけど」

明石「でしたらその…………ぜひ、個人的にお願いしたい買い物があるんですけど」

明石「若者の女の子向けのお店ですから、提督に頼みづらいもので……」

提督「…………なんですか?」


明石「――ピンクのマシェリですぅっ!」

提督「ぶっ!」



272: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 17:16:36.63 ID:e2QoXqi0o



提督「とぅーとぅーとぅましぇりーまーしぇーり~」

提督「(鈴谷を思い出してつい笑ってしまったが、ピンクのマシェリは艦娘の間で最近流行っているらしい)」

提督「(ピンクのマシェリで洗ったら――。一本一本、なびく、光る。プラチナヴェールの、グロス髪)」

提督「(愛しいきみにすべてをあげる。だから僕のそばに来ておくれ。car je donne――シェリーに口付けを)」

提督「(どうやら俺の広報効果らしい。これもう販売元から金貰えるな。さすが俺)」


提督「(しかし、このへんの工廠エリアは、朝になるととくに冷え込むんだな……骨の髄まで刺されるみてぇだ)」

提督「(出撃がないってことで、一部の艦娘はまだおねむらしい。そして、これからもしばらく出撃の予定はない)」

提督「(どうやらうちのラジオは各家庭に好評らしく、その評判が歩いてか、うちに子どもを預けていない家庭も配信を希望しているらしい)」

提督「(自分の子の環境が良いか悪いかは、よその鎮守府の雰囲気も知らないと比較できないから、そういう意味もあるのだろう)」

提督「(配信二回目にして幽霊騒ぎがあったというのに、たったの三日で復帰できるというのもそのためだ。
    すでに聴取している家庭による再配信の声が大きく、そう簡単に放送を打ち切るわけにもいかんのよ――というのは、元帥の談)」

提督「(今月中から来月までの間は、クソ元帥がうちの鎮守府の代わりに護衛任務などを請け負ってくれるそうだ)」

提督「(俺としては、よその鎮守府もこんなラジオ放送をやっていたというのが驚きだが――まあ、よく考えてみれば至極当然のことだろう)」

提督「(正直、知り合いが勤めている鎮守府の放送はちょっと気になる。希望を出せば受信できるのだろうか)」

273: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 17:17:44.13 ID:e2QoXqi0o


 ガラッ


提督「(うおっ……こりゃまたずいぶん散らかってるなぁ。明石さんも困るわけだ)」

提督「(足元避けて…………と)

提督「ええっと、番号番号…………胸当てとかの防具類はこっち、かな?」


提督「ここか。えー……――あ、龍驤さんじゃないですか」

龍驤「――お? なんやキミか。えらい珍しいところで会うたもんやな」

提督「はは、どうも。龍驤さんも、なかなかお早いんですね」

龍驤「ウチら航空母艦は艦載機の調整もあるからなぁ。朝には強いほうなんや」

龍驤「小さい子らとかがおれへん明け方なんかは、いっちばんやりやすいからなぁ。誰もおれへん鎮守府の空を飛ばすのも気持ちええもんやし」

提督「たしかに。言われてみれば鳳翔さんはもちろん、赤城さんや翔鶴さんもだいたい朝早くから起きてますもんね」

龍驤「そっ。出撃はなくても、お互いに切磋琢磨し合って頑張っとるんや。
   それに、明石がつくった新しい兵装の検査なんかもだいたい早朝にやるしね。装備の調整をするにはええ時間なんや」

龍驤「隼鷹なんかはラジコン飛ばしたりで遊んだりしよるで。忙しい毎日のなかで、趣味の時間に使える唯一の時間なんよ」

提督「……なるほど。裏ではそんなことをやっていたんですね」

龍驤「ま、キミは執務室に缶詰やからなぁ。ウチらからしたらそっちの方が面倒やけど――っと」


274: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 17:18:22.04 ID:e2QoXqi0o

龍驤「キミはどないしたんや。こんなごっちゃごちゃしたトコまで来て」

提督「ん、自分ですか? 自分はちょっと、胸当てを探しに来ましてね」

提督「最初は明石さんトコ行ったんですけど、酒保にはないから格納庫にって――これ、わかりますか?」

龍驤「なんやコレ。……あーはいはい、ちょっと待ちぃな。もうちょっと奥のほうやわ」

提督「お願いします」


龍驤「ほいほいお待たせ。えらいおっきな胸当てやな。……――もしかして、榛名かぁ? うりうり~」

提督「違いますよぉ……榛名のあの衣装に胸当て着けたら、色合いが赤城さんみたいになるじゃないですかぁ……」

提督「じゃなくって、これは龍鳳ですよ。
   なんか、前使っていたものが合わなくなったらしいです。いろいろ世話になったので、自分が適当なものを見繕おうかと」

龍驤「あーあの子か。……あの子まだ成長期なんかいな。まったくもって羨ましい話やでホンマ……」

龍驤「……てか男に胸当て選ばせるて、サイズ教えた言うことか? ……いや、前の胸当て貸しとるし、そないいうことないか……」

提督「お、龍驤さんもわかるんですか。なんか明石さんもさっと理解してましたけど、自分はいまいちなんですよねぇ」

提督「前のものが歪んだわけじゃないみたいですけど。龍驤さん教えてくれません?」

龍驤「あーキミはほんまにアレやな。ヤバいな」

龍驤「もうヤバさしかないわ」

提督「そこまで!?」


275: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 17:19:22.12 ID:e2QoXqi0o


日向「――なんだ、なにかと思ったら提督か。君がいるとどこでも賑やかになるんだな」

龍驤「おう、日向かいな」

日向「やあ、龍驤さん」

提督「ああ、日向さん。こんなところで奇遇ですね。日向さんも艦載機の調整とやらですか?」

日向「まあ、そんなものだ。しばらく出撃がないとはいえ、艦載機のケアはちゃんとしておかねばな」

日向「たまには航空母艦のみんなのように艦載機をビュンビュンさせてみたいが。本格的な艦上機が積めないのは残念だ」

龍驤「まあ、大型戦艦モデルの艤装に水上機を積むってだけでも相当ムチャしとるからなぁ」

提督「航空戦艦の人たちの処理能力あってこそですからね。水上爆撃機だけでも相当すごいですよ」

日向「その水上爆撃機もだが、もっと複数積んでみたいものだ。扶桑たちなどはつい最近改装を受けたからか、搭載数も大幅に増えたようだし……」

日向「水上機の運用ならば、決して遅れを取らない自信はあるのだが。――ああ、晴嵐の載せ心地は最高だったなぁ」

提督「(あ、結局載せたんだ……)」

龍驤「まぁなぁ、そこはウチらのお株やな。ただでさえ最近は出番が薄いっちゅーのに……」

龍驤「戦艦組が、航空戦でも獅子奮迅の働きをし始めたらウチらの仕事なくなってまうわ」

日向「むろん、それは理解しているのだが……なあ、提督よ。せめてどうにかして艦上機も積めないようにはならないだろうか」

日向「いまなら飛行甲板が一枚ついてきてお得だぞ」

提督「いらないですよそんなもの……だいいち、そんなことを言われても如何ともしがたいです」

龍驤「そもそも、そない飛行甲板増やしてどないするつもりやねんな」

日向「最終的には、飛行甲板を戦艦ル級のように構えるつもりだ」

龍驤「盾やんけそれ!」

日向「飛行甲板を放って突撃――――これだ」

提督「“これだ”じゃねーです。発着どうするんですか」

日向「…………まあ、どうにかなる」


龍驤「(…………ウチは式神術やからアレやけど、赤城みたいな硬い飛行甲板なら普通に強そうやと思ってしもたやんけ)」

日向「(飛行甲板を改造して、バヨネット(銃剣)のように使ってみるのも一興だろう?)」

龍驤「(思考を読むのやめーや! ていうか飛行甲板を武器にしたらセルフ中破やんけ!!)」


276: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 17:21:43.08 ID:e2QoXqi0o

日向「瑞鳳に頼み込んで、その暁には艦載機を貸し出してくれるか交渉中だ。……瑞鳳自慢の天山、彗星――くっ、考えるだけで胸がアツいな」

龍驤「よそ様のネタをパクったらアカンよ」

提督「なんで瑞鳳――と思ったけど、あいつ押しに弱いもんなぁ……」

龍驤「どうせいつもみたいに、壁際に追い詰められて了承させられたんやろなあ。…………あの子も気の毒に」

提督「ああ、“壁ドン”ですか。女子が憧れるシチュエーションみたいですね」

龍驤「アホ言え、同性にやられても怖いだけや!」

提督「…………一部、喜ぶ艦娘もいますけれど」

龍驤「あいつらと一緒にしぃな。あれは特別や……瑞鳳はあんなんとちゃうで。もっと可愛らしぃ子なんやから」

提督「あー。成年組のなかでも、唯一と言っていい小動物系ですからねぇ……」


夕張「そうですよ、提督!!」ニュッ


提督「うわっ、どっから出てきた!」

龍驤「いやぁキミそれはひどいで……」

提督「いや、毎回こいつどこから出てくるかわからないんですよ。この間なんか俺の枕カバーから生えてきましたし……」

龍驤「そらアカンわ。人間かどうかもわからん」

夕張「…………わたしに対する風当たり強すぎませんか」

提督「だってお前、新兵装のテスターだけじゃ飽きたらず、ついには自分で新たな装備を造り出そうとしてると聞いたぞ。そりゃ風当たりも――」


日向「やあ夕張。悩みは解決したのか?」

夕張「日向先生っ!」


提督「…………」

龍驤「(またなんか始まりよったで。通称“日向劇場”)」

提督「(まーた夕張が感化されてしまったのか)」

夕張「それがいまひとつなんです。やっぱり直接入手して調整しないと難しいみたいで……」

日向「そうか……。夕張、君の研究に全てが懸かっている。革新的と言ってもいい。
   我々航空戦艦はもちろん、航空母艦や巡洋艦各種――この鎮守府の未来が、その双肩にかかっていると言っても過言ではないだろう」

龍驤「いや、なんやわからんけど過言やと思うで」

提督「日向さんが絡んでるときはたいていろくでもないからなぁ……」

日向「かくいうわたしも君には期待しているよ。生まれや故郷、歳や艦種は違えど通ずるものがある――そう信じている」

日向「君が悩めるときにはともに悩み、君が歩むときにはともに歩もう」

夕張「日向先生…………っ!」ガシッ

日向「夕張…………!」ガシッ

龍驤「あかん聞いとらんわ」



277: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 17:22:43.47 ID:e2QoXqi0o

龍驤「なあ、今さらやけどね……なんでこの鎮守府ってこんな変なやつばっかなんや」

提督「いや…………自分に言われてもわかりませんよ。なるべくしてこうなったと言うしか」

龍驤「そっかぁ……。やっぱりトップがトップやっちゅーこっちゃな」

提督「…………どういう意味ですか」

龍驤「にししっ! さぁね! ほなウチはここで失礼させてもらうわ。なんかあったらいつでも呼んでね」

提督「あ、はい……あれ? 龍驤さんもなにか用があってここに来たんじゃないんですか?」

龍驤「んーん。ここにはなかったみたいや。……まあ、明石さんにでも相談してみるから気にせんとってぇや」

龍驤「それよかキミ。胸当てはちゃーんとしたカワイイものを選んでやるんやで?
   柄かてそこそこあるし、いくら戦いとはいえ、オシャレできるところではオシャレしたいモンなんやから」ツンッ

龍驤「(それに龍鳳のやつ、提督が選んだものやったらどんなんでも喜んで着けるやろし……な)」

提督「は、はい! 了解です!」

龍驤「ん、わかればええんや。ほなキミも、変な航空戦艦病に感染する前に避難するんやで~」ヒラヒラ

提督「はい、それではまたー!」


日向「どうだろう、ここはひとつ策を講じてみるのは……」

夕張「もはや致し方なし、ですね。強硬策に出るしかないでしょう」

日向「うむ。時間帯としてはそう、人が集まるあの時間に――――」


提督「…………たしかに、よからぬ気配がするな。早いところ選んで次に行くか」

278: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/20(火) 17:24:07.58 ID:e2QoXqi0o



提督「(とりあえずこれを龍鳳のロッカーに入れといて……と。これで妖精さんが運んでくれるはず)」コトン

提督「(しかし胸当てと言えども、その種類の豊富さには驚いた。さすがにキャラ絵のものはなかったが……。
    花柄やチェック柄、レオパード柄にストライプ模様。……正直、男の俺にはどれも大差ないように思えた)」

提督「(とりあえず、頭の中で龍鳳のイメージを思い浮かべて着せ替えして、これなら――というものを選んだ)」

提督「(大空を舞う鷲の影絵と、ワンポイントのフリージア。――正直、俺の好みのビジュアルだっただけ。本当に俺が選んでよかったのか……)」

提督「(あの子に関しては、榛名と違っていまひとつ考えていることがわからない。
    もともと引っ込み思案な子だったが、ここに来てからずいぶんと明るく、積極的な子になった気がする)」

提督「(親元を離れてか、心細くなって知り合いを頼る――ような歳でもないか。もういくつだ? ハタチ前後か?)」

提督「(でも、それにしては妙に榛名に噛み付くような……と思えばときどき結託しているような素振りもある。よくわからん)」

提督「(…………ただ、やわらかく育っているのはわかった)」


提督「…………さて、と」

提督「(間宮さんのところにも寄ったし、今日の用事は済ませた。あとはちょっとした事務作業で、今日一日はおわりっ)」

提督「(とりあえず、明日のためにも今日は早く寝なくっちゃな。久しぶりに遠出するから……)」

提督「(三人はすでに現地入りしているようだし。いちおう、知り合いに遭遇したときのためにいろいろ持っておくか……名刺とか)」

提督「(というか最悪、大量に囲まれて質問攻めを受ける可能性も……一応、回答集のパターンは頭に入れておくか)」

提督「(…………財布――現金だとアレだし、カードにしておこう。あ、カメラ――はいいんだ。向こうで撮ってもらったものを送ってもらうんだった)」

提督「(車も手配しておくか。――さて、今日の事務作業。ちゃちゃっと済ませてしまいますかっと)」


――――

――



281: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:40:00.97 ID:96R/ftNSo



提督「えーっと……たぶんこの辺にいるはず…………」


提督「(時刻はマルキューマルマル。場所はいつもの鎮守府ではなく、人の行き交う街の広場)」

提督「(休日の朝。待ち合わせだろうか、周囲を見回しながら時計を気にする人間が多い)」

提督「(鎮守府がら遠く離れた、街の一角。目印となる大時計が設置されているからか、待ち合わせに利用する男女が多いようだ)」

提督「(視線を左右に泳がせている人間ばかり。なんとなくふわふわした広場だ)」


提督「(かくいう俺もその一人。この大時計の真下にて、大切な秘書艦と待ち合わせをしている)」

提督「(一緒に出ればいいじゃないか、と彼女に提案したところ。珍しく頑なで、“待ち合わせ”ということにこだわっていた)」

提督「(どうせ行く先も帰る先も同じなんだから、一緒に出ればいいのに……)」

提督「(でも、榛名が頑なになることはあまりないことだから。榛名にとって譲れないラインがあったのだろう)」


提督「(…………なんとなく、景色に溶けて榛名を探していると、学生時代に戻ったような錯覚に陥る)」

提督「(この数年間で、ずいぶん遠いところへ来たものだ。運に恵まれていたし、人にも恵まれていたんだろう)」

提督「(はああ…………しかし変わらないもの、“ラジオ放送”。どうすっかねえ……)」

提督「(ヘタに幽霊騒ぎで間も空いて、さらにご新規が大量に視聴を始めるしな……。
    幽霊騒ぎを引きずっていないように明るく振る舞うべきか? いや、逆に勘ぐられる可能性も……)」

提督「(それに、放送再開一発目。なにかインパクトのある放送しなきゃなあ。ムダに期待されているようだし)」

提督「(つっても、うちの鎮守府に子どもがいない家庭にもインパクト、かあ……)」

提督「(関わりのないところにもインパクトなんて、難しいよなあ……」

282: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:40:33.10 ID:96R/ftNSo


 コソコソ


提督「(うーん…………)」

榛名「――ぁ、てっ、て、提督っ! おま、お待たせしましたっ!」

提督「(いや、べつにプロのMCみたくさ、面白い放送しなきゃってワケじゃねぇけどさぁ)」

提督「(やっぱり人に聞かれてる以上、それなりに“聴ける”放送にしたいって思うことは仕方のないことで……)」

榛名「あ、あの? てーとく?」

提督「(うちにいる艦娘の保護者だって聴いてるわけだしさぁ、楽しい鎮守府だって証明したいじゃん)」

提督「(和気藹々とした、アットホームな職場! 未経験者優遇、やりがいのある職場です! ……これはブラック企業か)」

榛名「…………て、てーとくぅー?」

提督「(べつに保護者がなんだってワケじゃないけど。あんまりブラックな職場だと、保護者たちの鬼電による攻撃が凄まじいからなあ)」

提督「(鬼電は最悪ガン無視できるけど、艦娘にその話が知れ渡ったら士気が落ちるどころの騒ぎじゃないし……)」

榛名「…………むー」

提督「(うちの鎮守府がブラックかどうか、というのはあまり関係がない。保護者の方々に“ブラックだと思われるかどうか”が大切なのだ)」

提督「(一度ブラックだと思われたら最後。灰色がかった色眼鏡でうちを“視られる”ことになるからだ)」

榛名「…………」キョロキョロ

提督「(それからは、どれだけアピールしようが取り繕っているようにしか見えないわけで……)」

提督「(あんまり各家庭からの声が大きくなると、大本営も動かざるを得なくなる。虚が実になるというわけだ)」

榛名「…………だれもみてませんね」

提督「(正直、うちの鎮守府ほどホワイトなところはないと思っている。もしうちが潰れれば、いまいる艦娘が最前線に送られることもあるだろう)」

提督「(うちの艦娘が、深海棲艦になった姿は、絶対に見たくない)」

榛名「……――んっ」

283: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:41:19.24 ID:96R/ftNSo

提督「(にしても今は榛名だ。さすがに待ち合わせの三十分前は早すぎたか……――ん?)」


榛名「――――」チュー


提督「…………あ?」

榛名「…………」パチクリ


提督「――うわっ!! 近ぇ!!」ビクッ

榛名「――ぴっ!? ひえ、ひっ…………ひゃあっ!!」ズザザザ

提督「う…………っわ!? 榛名かぁ!? …………どうした?」

榛名「い、いいいっ、いえっ! なんっ、なんでもっ! なんでもないんですっ!」

提督「そ、そうか……。――はは、すっげぇビックリした。驚かせようとしてくれてたのか?」

榛名「は――、はいっ! そうです! その通りですっ!!」

提督「お、おう、もう十分驚いたから……」

榛名「ほんとうに、ほんとうなんですからっ」

提督「わかったわかった。――うっし、そんじゃ行くか! ここからそう遠くないところだしさっと歩いちゃおう」

提督「帰りは車を手配してもらってるから、それに乗り込んで帰るぞ」

榛名「わかりましたっ。…………それにしても人、多いですね」

提督「まあ、休日の九時となったらこんなもんだろ。俺たちはあくまで仕事の一環だけどな」

提督「…………でもそうだな。たしかに人が多い。はぐれると面倒だし――」


提督「――榛名」

榛名「はいっ」ギュッ


提督「…………よし、行くか」

榛名「…………はいっ」


284: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:42:27.34 ID:96R/ftNSo
 
 
 
 
 
  がや・・・
             がや・・・

     がや・・・


提督「…………」キュッ

榛名「…………」キュッ


提督「(繋いだ手は離さないように、行き交う人の波をぬって進む)」

提督「(年が明けて間もないからか、学生らしき団体やカップルがちらほら。
    この時期は大型量販店や、服飾店などの品ぞろえが豊富で、見て回るだけでも楽しいということなのだろう)」

提督「(さすがに薄れてきているが、“新年明けまして”という雰囲気が漂っている。午前とはいえ、派手な飾り付けの店舗が目立つ)」

提督「(お正月飾りに門松、新年の挨拶を記した掛け軸に、羊の姿をかたどった電飾――どれも色とりどりで目が忙しい)」


提督「(わっ――紙ふぶきだ! いきなり顔に向かって飛んできたものだから、ずいぶん驚かされてしまった)」

提督「(手に、変な力みが加わってないだろうか?
    こっそり横目で榛名を見やると、どうやら彼女も同じだったらしい。互いに顔を合わせて苦笑する)」

提督「(いい大人が二人して、紙切れ一つに驚かされるとは……紙ふぶきめ。なかなかどうして侮れない)」

285: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:43:17.39 ID:96R/ftNSo

提督「(ショーウィンドウに指をさしながら、あれやこれやと談笑するカップルの姿。
    鼻の頭を頬と同じに染め、互いのパートナーに笑顔を向け、楽しげに笑い合っている)」

提督「(カップル、とは違うが……――その姿が、ふっと昔の自分の姿と重なった)」


提督「(金剛大社は、全国でも知られた大きな神社)」

提督「(年末年始のシーズンは忙しくて、榛名も俺も走り回りっぱなしだったが――)」

提督「(まだ若いから――と、金剛大社に勤めている大人たちが気を遣ってくれて。毎年、ちょっとした時間を作ってくれる)」

提督「(そういうときは、いつも街に出ていた。
    さすがに、往復の時間だってかかるし、あまり長時間空けるわけにもいかないから、じっくり物色することはなかったけれど)」

提督「(立ち並ぶショーウィンドウ。煌びやかな店内を冷やかすだけでも、すごく楽しかった記憶がある)」

提督「(決して、地元が田舎だというわけではない。だけど街に来ると、不思議な高揚感に包まれるのだ)」

提督「(普段、内に秘めていた衝動も、この雰囲気に突き動かされるんだ)」


提督「(いつからだったか。いまのように、こうして手を繋いで街へ出るようになったのは)」

提督「(手が冷たいから、温もりを分けてほしい――と。気づけば、指と指を絡めていた気がする)」

提督「(ふふ、それはしっかり思い出せる。たしかに、おそるおそる、指を絡めた瞬間――心臓が猛烈に鳴り出したから)」

提督「(寒さに震えて手を繋いだのに、今度は熱さで震え始めたんだ。傑作だ――繋いだあとのことは、正直覚えていない)」

提督「(ただなんとなく、その日はお互いに笑顔が多かった気がする)」

提督「(なにが楽しいのかわからずに、おかしくって、笑い出しそうで……)」



286: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:43:52.82 ID:96R/ftNSo


榛名「…………なんだか、こうしていると……昔を思い出しますね?」


提督「――――! ふふふっ……」

榛名「……どうかしましたか?」

提督「(隣で首をかしげる彼女を見て、思わず笑みがこぼれる。なんだかんだ、こういうところは似た者同士なのかもなぁ)」

提督「いや……、俺もちょうどそのことを考えていたところだったから」

提督「なんだか懐かしいな、って。そう思ってさ」

榛名「ふふ、なるほど。……それでは、おそろいですね」

提督「ああ、一緒だな」

榛名「ふふっ」

提督「ははっ」

提督「(互いに顔を見合わせて笑いあう。なんだかここだけ、学生時代に戻った感じがした)」

提督「(流れる景色のなか、際立って映る榛名の姿。榛名といると退屈しないから、時間の流れがいまひとつ掴めないんだ)」


287: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:44:25.20 ID:96R/ftNSo

提督「(……なんというか。俺も榛名も、結局は街の人々と変わらねえや)」

提督「(言葉にならない感情も、街の喧騒に溶け込ませられる。やっぱり、街の雰囲気っていうのはいいものだ……)」

榛名「…………けれど、もう」

提督「…………ん?」

榛名「むかしと同じというのは、困りますから。だから――」スス

提督「(指を絡めたまま、榛名が一歩詰め寄ってくる。…………これは)」

榛名「……提督。今日は風も強く、冷えますから。温もりを分けてください――」ギュッ

提督「(左腕から、少しの圧と、温もりを感じる。絡んだ指はそのままに、榛名の右腕と、俺の左腕が絡んでいた)」

提督「(これは――“腕組み”ッ! その改二版ッッ!!)」


提督「は、はるな、さすがにこれは……恥ずかしいな……」

榛名「ふふっ。提督、響ちゃんみたいです」

榛名「ですが、せっかくですから。今日は――目的地まで、短い時間。このままで……」スリスリ

提督「――――」


提督「~~~~っ!」


288: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:44:53.09 ID:96R/ftNSo

提督「(感覚が、左腕から伝わる温もりに集中していく。景色がゆっくり流れているように感じた)」

提督「(ふと、左肩に妙な感触を感じる。そちらを見ると、どうやら榛名が頬ずりしていたらしい。……――なんだこれは)」

提督「(なんだこれは!!)」

榛名「ふ、ふふ、て、ていとく? ま、真っ赤なお顔で……な、なんだかかわいいですっ!」ツンツン

提督「ふ、ははっ…………お前もだろうが、おい」ツンツン

榛名「提督のほうが赤いですっ」ツンツン

提督「榛名のほうがっ」ツンツン



――――

――



提督「だいたい、可愛いって言ったらお前しかいないだろっ、このっ」ツンツン

榛名「ひゃっ! ――提督だって、かわいいところたっくさんあるんですからっ」ツンツン

提督「かわいいって言われて喜ぶ男なんていないっ」ツンツン

榛名「じゃあ、かっこいいですっ」ツンツン

提督「むっ……それは嬉しいが、俺だって榛名のカッコイイところたくさん知ってるんだからなっ」ツンツン

榛名「そんなことっ! あるはずありませんっ!」ツンツン

提督「あるっ! もう考えられないくらいあるっ!」ツンツン

榛名「はっ、榛名だってもっとたくさんあります! 提督の倍以上ありますっ」ツンツン

提督「あ、ズルいぞ! 俺だって榛名の三倍以上はある!」ツンツン


289: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:45:22.92 ID:96R/ftNSo


「…………あの、お二人とも……? こんなところで、いったいなにを…………?」


榛名「……――え?」

提督「――あ?」

天城「あ、あの? お取込み中、申し訳ありません……?」

提督「…………天城、さん……?」

榛名「ひぇっ」

天城「は……はい、天城です…………?」

天城「あの、お二人とも? 仲が良いのはたいへんよろしいんですけど、人の視線を集めてしまっていますから……」


 『あれって、榛名さんじゃ?』 『隣のは……あっ、見たことある! 提督だ!』 『榛名さんとてーとくさんが痴話げんかなうっぽい、っと』


天城「さすがに、あの……人も集まってますし、映画館の前でやるのは、ちょっとマズいんじゃないかなと……?」

天城「それに、その腕……指も…………ちょっと、目立ちます……」


提督「」

榛名「」

290: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:46:24.77 ID:96R/ftNSo

榛名「ひ…………ひやああぁ――」

提督「待て、止まれ榛名! さすがにここまで来て逃げ出すのはやめろっ!!」ムニュ

榛名「て、てーとく!? どっ、どこを触って…………っ」

提督「…………」ムニムニ

提督「――――あああっ! すまんっ!!」


 『榛名さんとてーとくさんが衆人環視のなか   じめたぽい、っと』 『夕立ちゃーん? なにを撮って……あっ』
   『夕立ちゃん、それをツイートするのはまずいですっ!!』 『なんか龍鳳さんからすっごくリプライが飛んでくるっぽい』


天城「…………えと、あまりここに長居して注目を集めるのも悪いですから……。……入りましょうか?」

提督「…………はい」

榛名「…………はい」

天城「ウソのように大人しく……ええっと、提督さんがたは関係者なので、こちらについてきてください。関係者用の入口がありますので……」

天城「吹雪ちゃん、夕立ちゃん、睦月ちゃん! おいで、おいで!」クイクイ

夕立「ぽいっ!」

吹雪「は、は、はひっ」

睦月「吹雪ちゃん、もうちょっと肩の力を抜いて……」

吹雪「う、うん――で、でもっ! 今日がアニメの“先行試写会”って、思うだけで震えが…………」ガタガタ

天城「ほらほら……吹雪ちゃんは主役なんですから、もっと大きく構えて…………?」

吹雪「で、でも、わたしが主役なんて、そんな……」

天城「アニメなんだから。実際のわたしたちじゃなくて、わたしたちを3Dモデリングしたキャラクターが動くだけなんだから」

吹雪「それでも、実際に動いて、声をあてたのはわたしたちですから……」

吹雪「有名声優さんとか、画家の人とかに囲まれて、もうどうしようどうしようって……」

天城「そういう諸々は、中に入ってからお話ししましょう……? あまり、みなさんに聞かれてしまうのはよろしくないですから……」

天城「それではみなさん、こちらです。照明が落ちていますので、足元にお気をつけて…………?」


291: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:47:42.94 ID:96R/ftNSo



「あ、提督さん! おはようございまーす!」 「おはようございまーす!」

 「最終チェック入ります! マイク音量大丈夫!?」 「ワン・ツー……オッケーです!」

「あ、提督さん、ども! 一言お願いします!」 「榛名さん! 最後に演者一同で集合写真の予定なんですが、いかがでしょうか!?」


榛名「あ、いえ、榛名は大丈夫です。エキストラとしての出演でしたから……」


「そうですか、わかりました!」 「おい、ホールの方はどうなってる!?」 「すでに満漢全席です!」 「満員御礼だ、バカ!」

 「孔雀模様のフカヒレ姿煮込みあがりましたー!」 「なんでお前は本当に満漢全席作ってんだ!!」 「ホールの意味が変わってくる!!」



292: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:48:33.02 ID:96R/ftNSo


吹雪「な、なんだかさっきよりもてんやわんやです!」

睦月「もう少しで放送始まるもんね」

夕立「め、目が回りそう~……」

提督「……たしかにすごいな。これ、3Dモーション撮影中もこんな感じだったんですか?」

天城「いえ、そんなことは。――いえ、だいたいいつもこんな感じでしたね」

天城「わたしたちの動きが、そのままアニメのなかに反映されますから。CGディレクターのかたなんて、それはもう鬼のようで……」

榛名「榛名も、最初の一シーンだけとはいえ、台本にはすごく細かい指示が書かれていました!」

睦月「吹雪ちゃんも、モーション撮影中に何回もリテイク出してたもんね~?」

吹雪「ゔっ……。わたしは、睦月ちゃんと違って、テレビの経験なんてなかったんだからしょうがないじゃないっ!」

夕立「吹雪ちゃんはちょーっと重く見すぎっぽい! いつも通りにやってって監督さんだって言ってたっぽい!」

吹雪「うぅ、そう言われてもぉっ……」

天城「……――こんな感じで、妥協を許さない姿勢でたいへんでした」

天城「アニメ化の構想時代は何年も前からあったようですけど、ついに……ということで」

提督「はっはあ……。さすがに、この業界のなかでもプロ中のプロってことですか」

天城「そうですね。3DCGだって凄かったんですよ? 自分の姿が、アニメの世界で動いて回ってるんですもの……」

榛名「衝撃でしたね……」

天城「本当に。わたしが子どものころに見ていたアニメとは、まるで別物でした。技術の進歩というものは本当にすごいものです」

293: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:49:03.56 ID:96R/ftNSo

提督「そこまでおっしゃる今回の試写会、楽しみです。裏方もこれだけ張り切っているようですし……」


 「おい間違えてるぞ! こっちじゃねえ!」 「すみません、三番はどちらでしょうか!?」 「ちくわ大明神」 「誰だいまの」


天城「艦娘は、いまや世界の護人ですから。その艦娘の日常に初めてスポットをあてた作品ということで、緊張も高まっているようです」

天城「キャラクターのデザインだって、わざわざわたしの父を起用したみたいで…………撮影中、すごく緊張でした」

提督「へえ、あの世界的に有名な画家の……本日は、こちらに?」

天城「はい。……とはいえ、すごく忙しそうにされていますから、面会するのは難しいかと…………」

提督「そうですか。赤城にも世話になっていますし、ご挨拶くらいにはうかがいたかったのですが……」

天城「今回、観客のみなさんの細かい反応を見て、そこからキャラクターのデザインを調整しなおすようですから」

天城「同じくしてキャラクターデザインを担当されている画家のみなさんと、特別席にいらっしゃいます」

天城「…………ほら、見えますか? こっそりと、あちらに…………」

提督「うわ、暗いですね。――――どれどれ……?」スッ

榛名「――――あ、いました! あちらですねっ」スッ


294: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:49:42.06 ID:96R/ftNSo


「しずまさん、これは、もしかして――」 「さすがコニシさん。なにが、とは言いませんけど」

 「肌色があればいいってもんじゃないでしょう!」 「ごもっとも。――ですが、こちらはいかがでしょう。バックプリントはスクリュー柄になっています」

「こ、この発想は…………」 「ふふ。御大将、いかがでしょうか」 「ぱんつ! ぱんつです!」



295: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/22(木) 19:50:35.78 ID:96R/ftNSo


榛名「…………なんだか、すごく神妙な顔で話し合っていますね」

提督「た、たしかに。世界を股にかける画家同士の会議となると、ちょっと割って入れない空気がありますね……」

天城「父も、普段はひとりで絵を描いておりますが、ああして他の画家さんと交流するのも刺激になるようです」

天城「昔にも、ああして話し合うことでスランプを抜け出したこともありましたから……できるだけ、そっとしていただけると…………?」

提督「そうですね。残念ですけど、ご挨拶はまた今度の機会に――」


 「天城さんっ! もうすぐ予定の時刻になります! オープニングトークの準備お願いします!」

 「吹雪ちゃんたちも、舞台袖に待機をお願いします!」


天城「あ、はいっ! …………わたしはこれにて、失礼させていただきますね」

天城「――吹雪ちゃんたち、準備はいい?」

吹雪「ううう…………お腹痛いですぅ…………」

睦月「吹雪ちゃん! 覚悟、きめちゃいましょー!」

夕立「さあ、最っ高に素敵なパーティーしましょ!」

提督「おう、お目たち、観客席で見てるから気張ってこいよ!」

榛名「頑張ってくださいね。榛名たちも、楽しみに観させていただきますから」

天城「ありがとうございます。――それでは、艦隊これくしょん。はじまりますっ!」


――――

――


299: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:34:17.81 ID:TP8kv+hoo

――――

――


天城『みなさん、本日はお忙しいなかお集まりいただき、ありがとうございました!』

天城『アニメ、“艦隊これくしょん-艦これ-”先行試写会、いかがだったでしょうか?
   雫のヴェールに包まれた、艦娘の日常! みなさんも驚くことが多かったのではないでしょうか』

天城『かくいうわたしも、“赤城”を演じさせていただきましたところ。
   鎮守府ごとの生活の違いに驚かされた――というのは、さっきのトークでも言いましたね』

天城『姉妹だから、対して変わらないだろうとタカをくくっていたら。まぁもうずいぶんとよく食べて……お姉ちゃんは心配ですっ』

   \どっ/

天城『まだまだ、世界の衛士たちの秘密はたくさんあります! これからもっともっとつまびらかにしていきますので、お楽しみに!』

天城『アニメ“艦これ”は、毎週末のゴールデンタイムに放送する予定となっております! 詳しくはパンフレットの方にも記載してありますので、そちらをどうぞ』


天城『また、アニメ“艦これ”の放送と同時に。毎週金曜日の夜、新ドラマ……“陽炎、抜錨します!”の放送も開始される予定ですっ』

   \ウオオオオ/ 

天城『あの天真爛漫で有名な、提督鎮守府に所属する陽炎ちゃん! 彼女が主役のシリアスストーリーとなっております』

天城『普段見られない、カッコイイ表情の陽炎ちゃんからは目が離せません!』

天城『こちらもまた、後日に公式ホームページにて告知が出ると思いますので、陽炎ちゃんが大好きなかたは、チェックを欠かさないように!』


天城『そして、こちらは未公開情報ですが…………なんと、今年の夏に、“艦これ”の映画も放映されることになっていますっ!』

   \エッ/ \オーゥ、ムービースター!?/

天城『こちらの詳細は、まだお話しできませんが……タイトルは、“瑞の海、鳳の空”というタイトルになっています!』

   \ざわざわ/

天城『あの“幼な妻系艦娘”が主演女優となって演じるこの映画。なんとなんと! 艦娘とのラブロマンスを描いた、恋愛映画というウワサが!?』

   \ざわっ/  \ウッドワー!/

天城『バトル・ガールのブレイクタイム! 鋭意製作中とのことです! 続報をお楽しみにっ』

   \タベリュウウ/ \タマゴヤキタベリュウウ/

300: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:36:03.20 ID:TP8kv+hoo


提督「…………あの人もうまくやるもんだなあ。普段の淑やかさからは想像も出来ない喋りっぷり。ずいぶん弁舌さわやかだ」

榛名「さすがプロ、と言ったところですね。こういった舞台には慣れているのでしょう」

提督「実家が“天城屋旅館”だもんな。
   女将として何度も人前には経っているんだろう。別名で遊園地みたいなテーマパークも経営しているみたいだし」

提督「艦娘にしては多芸に秀でてるんだよなあ。もしかして、艦娘をやめて退役したあと、のことも考えているんだろうか……」

榛名「テーマパーク……妖精さんたちがこっそり運営しているんでしたっけ。航空母艦ならではの経営術ですね」

提督「いっときは試行錯誤の繰り返しで振るわないときもあったみたいだが、外部からの協力者のおかげで持ち直したんだったかな」

提督「ずいぶん賑わっているみたいだし、一度行ってみたいとは思うんだが……幾分遠くてなあ」

榛名「あまり鎮守府から長く離れるわけにはいかないですしね」

提督「ああ。鎮守府にもいろいろあるから退屈ってワケじゃないけどな……というか、艦隊が膨らむにつれて仕事も積もっていくし」

提督「いつかこう、艦隊のみんなと一緒にパーッと遊びに行ってみたいもんだ」

榛名「ふふ、そうですね」


天城『……さてさて、いろいろとお話いたしましたが……そろそろお別れのお時間が近づいてまいりました』

天城『ふふ、最後にドカーンと情報出したから、ちょっと驚いちゃってるかな? ごめんね?』

天城『でも、最後の最後まで気を抜いちゃダメ。“慢心”せずに……――ねっ?』

   \どっ/ \アカギサンダ/


天城『――最後はなんと! あの“艦これ”アニメ、エンディングテーマのこの曲!』

天城『“吹雪”とともにお別れいたしましょう! 今回この“吹雪”、先行試写会バージョンといたしまして』

天城『特別に、去年の紅白歌合戦にも出演を果たした、あの! アドンさんとサムソンさんが! 合いの手を担当――』

   \ボディビル/ \オレヲミテクレー/


提督「……うっし、車の手配してくるから、ちょっと席を外すな。誰か来たら代わりに相手しておいてくれ」

榛名「わかりました、お願いしますね」


301: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:36:40.09 ID:TP8kv+hoo


提督「はい。……はい、指定の場所で、はい…………はい、そうですね。それでは、そのようにお願いします」

提督「……はい。はい、それでは――」ピッ

提督「――これでよし、と。あとは明石さんに頼まれた買い物を済ませるだけかな」

提督「(しかし……実際に動くドラマと違い、絵で描写するアニメの題材で艦娘は――と思っていたが、侮っていたようだ)」

提督「(正直、あの3DCG技術は凄まじい。本当に、アニメの中で人物が動いていた)」

提督「(個人的には、榛名が最高に可愛かったが……ああ、それはいつものことか。 
    球磨と多摩の戦闘シーンには目を見張るものがあったと思う。どこに行けばあの球磨たちに会えるんですかね……)」


吹雪「あっ、しれいかーん!」

提督「お…………三人とも。もう向こうの方は大丈夫なのか?」

睦月「はいっ、エンディングの時点でもう出番はなくなりましたからっ」

夕立「集合写真、アドンさんとサムソンさんも一緒に撮ったっぽい! すっごくおっきかったぁ……夕立も、もっともっと鍛えなくっちゃ!」

睦月「あはは、あそこまではしなくてもいいと思うけどね……」

夕立「せっかくだから、ブログに投稿しちゃおっかなぁ~」ポチポチ

吹雪「司令官は、今日はもう帰るんですか?」

提督「ああ。ちょっとスーパー寄るが、とくに用事もないしもう帰るつもりだ。車を手配してあるから、榛名と一緒に乗り込んでくれ」

提督「車が来るにはもうちょっとかかると思うが、適当に暇を潰してたらすぐだろう」

吹雪「わかりました!」

睦月「お買いもの、わたしたちもお手伝いしましょうかぁ?」

提督「いや、本当にちょっとした買い物だから気にすんな。すぐ戻るからさ」


302: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:37:30.46 ID:TP8kv+hoo

提督「――あ、そうだ。せっかく街に来たんだし、なんか甘いものでも食ってくか?」

提督「この間、龍鳳がおいしいケーキのお店を見つけたって教えてくれたんだ。ちょうどいいし寄ってくか?」

夕立「ぽいっ!?」

睦月「ふわぁぁ……ケーキですかぁ…………」

吹雪「ケーキいいですねぇ~……」


睦月「そうですかぁ……龍鳳さんが……――え、龍鳳さん?」

睦月「あ、ちょっと待ってください! それって龍鳳さん、今度一緒に行こうとか行ってませんでしたか?」

提督「ん? ああ、そういやそんなことも言ってた気がするが……それがどうした」

睦月「…………」

吹雪「…………あっ」

夕立「…………てーとくさん、それはちょっとナイっぽい」

提督「え?」

睦月「…………とりあえず、睦月たちのことは気にしないで、提督はお買いものに行ってくださいぃ!」グイグイ

吹雪「榛名さんと龍鳳さんのダブルパンチも気になるけどね」

夕立「てーとくさんのお顔が潰れたケーキみたいになっちゃうから……」

睦月「ほぉらはやくぅーっ!!」グイグイ

提督「えぇ?」

303: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:38:34.72 ID:TP8kv+hoo


榛名「あ、みなさん! こんなところにいたんですかっ」タタッ

吹雪「あ、榛名さん……」

夕立「わっ、ウワサをすればっぽい!」

榛名「みなさん、本日はお疲れ様でした! なかなか雰囲気が出ていましたよ」

吹雪「あ、あはは、変に思われてなければいいんですけど……」

睦月「吹雪ちゃんはもっと胸張って! 主人公なんだからもっとこう、ドカーンと元気出していきましょー!」

吹雪「そんなこと言われてもぉ……だってぇ、今日の様子って動画としてインターネットにアップされるんでしょ?」

吹雪「家族とかみーんな観るんだろうなぁ。イヤだなぁもうぅ~……」

睦月「あは、もう終わったんだからぁ。どんな吹雪ちゃんでも、みんな大事に見てくれるはずだよ!」

夕立「最後に“わたし、頑張る!”って宣言した吹雪ちゃんは、もういないっぽい~?」

吹雪「それはアニメのわたしだから! いまのわたしはわたし――って、どっちがどっちだかわかんないよぅっ!」

睦月「吹雪ちゃんはいつ見てもおもしろいにゃぁ~……」

榛名「ふふ、心配しなくっても、吹雪ちゃんは吹雪ちゃんでしたから。安心してね」

吹雪「それがどういう意味だかわかんないから怖いですぅ~っ!!」

304: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:39:23.19 ID:TP8kv+hoo

榛名「素敵でしたから、安心してください、ということですっ」

榛名「みんな驚くと思いますよ。吹雪ちゃんのしっかりした姿、かっこよかったですから!」

吹雪「そ、それならいいんですけど……」

睦月「気にしすぎだよぉ。それに、ありのままの吹雪ちゃんがいっちばんいいんだからっ」

夕立「そーそー!」


榛名「ふふ、そうですね。……なにはともあれ、お疲れ様でした!」

榛名「いま提督が車を手配してくれているみたいだから、もうちょっとだけ待っていてね。いろいろ暇をつぶしていたらすぐだと思いますから」

睦月「(おんなじこと言ってるぅ~)」

夕立「(たまにあの二人、シンクロするっぽい)」

榛名「――あ、せっかく街へ出てきましたし。なにか甘いものでも食べていきますか?」

榛名「そうでしたら提督に連絡を入れて、車の運転手さんに調整してもらうように言っていただきますけど」

吹雪「(えっこわい)」

夕立「(驚異の一致率っぽい…………)」

睦月「(台本でもあるんじゃないかなぁ?)」

305: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:40:43.70 ID:TP8kv+hoo

榛名「…………どうかしましたか?」

吹雪「あっ……いえいえ、なんでもないですっ」

睦月「甘い物も興味はあるんですけど……いまは、ちょっといいかなぁ?」

榛名「そうですか、わかりました。気が変わったらいつでも言ってくださいね」

吹雪「はい! ありがとうございます!」

夕立「お菓子よりも、はやくお風呂に入りたいっぽい~……。撮影のひとたち、タバコたくさん吸うからぁ……」

睦月「あ……たしかに。ちょっと髪がぎしぎししてるかもぉ……」

榛名「座席の方はそうでもありませんでしたけど……たしかに、舞台裏のほうは少し煙たかったかもしれませんね」

榛名「駆逐艦の子たちだっているんだから、もう少し抑えていただくよう、榛名たちから言うべきでしたね。すみません……」

吹雪「あ――いえ、そこまで気にすることでもないですしっ! でも、帰ったらちょっとお風呂に入りたいなぁ」

吹雪「舞台裏だけじゃなくって、都会のなかだと車の排気ガスとかでいろいろベタついてるし……」

夕立「ぽい~……。みんな電気自動車とかに変えてくれたらいいのにっ」

榛名「いくら環境に優しくても、そうそう気軽に買い換えられるものではないですからね……」


榛名「でも、わかりました! 入渠用のお風呂と、みんなが使うお風呂はこの時間だとあまり使えませんから、提督執務室近くのお風呂を用意しておきますね」

榛名「そう大きくありませんけど、あちらならすぐに沸かせられますし。みなさん、それでいいでしょうか?」

睦月「おっねがいしまーすっ!」

夕立「すぐに入れるならなんでもいいっぽい~……」

吹雪「お昼からお風呂なんて、なんだかちょっと新鮮だね」

睦月「交戦で被弾しても、さっとシャワー浴びて出ちゃうもんねぇ」

榛名「駆逐艦のみなさんは、艤装の修理にあまり時間がかかりませんからね。
   ……では、帰ったらすぐに準備しますから、着替えと替えの下着を持って集まってくださいね」

榛名「せっかくですし、みんなまとめて洗っちゃおうと思います。出撃がないと、あまりすることがありませんから……」

榛名「着替えはカゴに入れて置いてくれたら、榛名が勝手に回収しますから。カゴは並べて置いてくれると助かります」

夕立「はーい!」

睦月「わっかりましたぁ~!」

吹雪「了解です!」

306: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:42:42.19 ID:TP8kv+hoo


提督「おーい! 待たせたな~!」

吹雪「あ、司令官が戻ってきました!」

夕立「てーとくさん、おっそーい!」

睦月「睦月たち、もうお腹ぺっこぺこだよぉ~……早く帰ってご飯にしましょー?」

提督「はは、悪い悪い……ちょっと色んな人につかまってな。挨拶してたら遅れちまった」

提督「榛名も悪かったな。だいぶ待たせたろ?」

榛名「いえ、榛名は大丈夫です! 提督、おかえりなさい」

榛名「あちらに車が来ていますから、そちらへ。……その袋、だいじょうぶですか? 重くないですか?」

榛名「ずいぶん大きなものがたくさん入っていますけれど……」

提督「ん。ちょっと肩にクるが……まあ問題ないよ。そうは言っても、たった一袋だしな」


榛名「ほんとうですか? ちょっと確認しますね。……――んっ」グイッ

提督「あ、ちょ」

榛名「おっ……もたいですねっ! て、てーとく、こんな重たい袋…………だめですっ!」

榛名「榛名も少し持ちます! 少しの距離とはいえ、こんなものを一人で運んでいただくのは申し訳が立ちません!」

提督「ほ、本当に大丈夫なんだが……べつに気にしなくても――」

榛名「むっ」

提督「…………わかったわかった。榛名だって重たいって言ってるくせに、もう……」

提督「それじゃ半分こな。ほら、左側持ってくれ」スッ

榛名「はいっ!」スッ


提督「しっかし強引だなあ。大丈夫だーつってんのに無理やり奪うこたぁないだろ」

榛名「提督は自分に鈍いからですっ。ほら、離しているほうの指を見せてください。こんなに血の気が引いて……」

提督「あ? ああ、これは単純に重みで血の流れが止められてただけだろ」

榛名「あまり、こういった状態を続けるのはよくありません! 提督が大丈夫と言っても、榛名が大丈夫ではありませんからっ」

提督「ほんとうに大丈夫なんだけどなあ、ははは……」

307: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:43:16.77 ID:TP8kv+hoo

夕立「…………ねえ」

睦月「…………なあに?」

吹雪「…………おおむね想像はつきますけど、なんですか?」

夕立「……なんであのふたり、袋を持つか持たないかであんなにらぶらぶしてるの」

吹雪「いつもあんな感じでしょ……」

睦月「榛名さんも大げさだと思うんだけどにゃー……。迎えだって、ここから見える距離に停まってるしぃ……」

夕立「それに、最終的にひとつの袋を半分こって――」


榛名「でも、本当に重たいですね。丈夫な袋みたいですけど……いったいなにを買ってこられたのですか?」

提督「ん? これはな、小麦粉とかホットケーキミックスとか、シナモンパウダーとか……まあいろいろだな」

提督「あとは牛乳とか砂糖とか、ちょっとした果物だとか…………」

榛名「ああ……。けれど、鎮守府に備えているものではダメだったのですか? まだ貯えには余裕があったと思いますが」

提督「ん……いや、明日ラジオがまた再開するだろ? そんときのゲストがさ、ほら」チラッ

榛名「――なるほど。あ、だからこの材料なんですね!」

提督「そういうこと。間宮さんがいろいろ考えてくれているらしい。ほかの艦娘のみんなにも、食後のデザートとしてたくさん作ってくれるらしい」

提督「だから念のため、材料を追加しておきたいってさ。あ、あとシャンプーとかの日用品は郵送で送ってもらったから、帰ったら確認してくれ」

榛名「わかりましたっ」


夕立「――夕飯の買い出し帰りの新婚さんにしか見えないっぽい」

睦月「…………ね、せっかくだし、ちょっとアフレコしてみない? 睦月は提督の役やるね」

吹雪「あ、じゃあわたしが榛名さんやるっ!」

夕立「あ、ズルいっぽい!」



308: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:44:16.52 ID:TP8kv+hoo

睦月「それじゃ、提督たちが迎えの車に近づいたらスタートね!」

吹雪「ばっちこいだよっ!」

夕立「…………じゃあ、夕立は運転手さんの役やるっぽい」


夕立(運転手)『――お待ちしておりました。おやおや、これはまた……おしどりさんですね』

吹雪(榛名)『おしどりだなんて、そんな……照れてしまいます』

睦月(提督)『待たせてしまったようで悪かったね。ガラスの靴を履かせるのに、少々手間取ってしまった』

夕立『おや、それはそれは。いじわるな継母は大丈夫ですか?』

睦月『問題ない。――だが、魔法使いに“コレ”を授けられてね。どうしようか思案していたところだ』

夕立『ずいぶん重そうなナツメの木だ。――では、馬車の荷台に飾らせていただきましょうか。失礼します』

睦月『ああ。……姫、魔法が解ける前に逃避行と行こうか。お手をこちらに』

吹雪『ああっ、ありがとうございます。なんとお礼を言えばよろしいか……』

睦月『礼など、とんでもない! 貴女という奇跡に出逢えたことに、僕が礼を述べたいくらいだ』

睦月『さあ、姫よ! 貴女と二人、このまま世界の果てまで行ってしまおう!』

吹雪『…………はいっ! あなたと二人、恋の彼方へ消えてしまいたい。12時の鐘なんて、鳴らなければいいのに……』

睦月『鳴らないさ。鳴らせてなるものか。鐘なんかで、僕にかかった魔法は消えやしない!』

吹雪『嬉しい…………!』

309: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/25(日) 04:45:29.60 ID:TP8kv+hoo

夕立『――待ってください!』

吹雪「!?」

睦月「!?」

夕立『提督、あの言葉はウソだったのですか!?』

夕立『あの幸せに包まれた夜。あなたの腕に抱かれ、耳元で囁いてくれた言葉は――すべて、まやかしだったのですか!?』

睦月(提督)『おっ…………お前は、龍鳳!?』

吹雪(榛名)『りゅ…………龍鳳さん!?』

夕立(龍鳳)『この身には、あなたとの愛の結晶が宿っているというのに……! わたしのこの身体――飛行甲板は、提督にとって踏み台でしかなかったのですか!?』

睦月『りゅ、龍鳳っ、これは……違うんだっ』

吹雪『て、提督……? いまの話、ほんとうですか…………?』

睦月『は、榛名? い、いや、ウソだ! ウソに決まっているじゃあないかっ! 俺の瞳には、榛名しか映っていないんだ!』

夕立『あっ――――』

吹雪『……――龍鳳さん?』

夕立『…………そ、そうですよね。さすがに朝からこんな……重いですよね』

夕立『提督。…………わたし、頑張りますから。お腹のこの子さえいれば、わたしは十分ですから』

夕立『だから、提督は…………はる、はるなさん、とっ……お幸せにっ……』

睦月『待て龍鳳っ! 待ってくれ! 運転席に乗り込む前に、俺の話を聞いてくれっ!』

夕立『提督との子どもって、可愛いと思うんです、わたし……』

夕立『…………すみません、ちょっと長い運転になるかも』

吹雪『…………提督? いまのお話、じっくり後部座席で聞かせていただきますね?』

睦月『ちがっ――榛名! 誤解だ! 龍鳳が言っているお腹のっていうのはその――馬鈴薯だ! 馬鈴薯のことなんだよ!』

夕立『…………提督、ひどいです。あれだけ激しく抱いていただいたのに、そんな……』

睦月『うぐっ』

吹雪『……提督、見損ないました。ほら、あそこで見ている子どもたちも、こちらを見てクスクスと――』


榛名「みなさーん! どうかされましたかー!?」

提督「早く乗り込んでこいよー! 忘れ物でもあったのかぁー!?」


睦月「…………いこっか」

吹雪「…………うん。なんかちょっと、微妙だったね」

夕立「最後なんて相当無理やりだったっぽい……。ちょっとシチュエーションがよくなかったのかなぁ?」

睦月「こういうのは卯月ちゃんたちとか、足柄さんとかが得意な分野だもんねぇ。睦月たちにはちょーっぴし早かったかも」

吹雪「おもしろく言おうとすると、逆にちょっとクドくなっちゃうね」

夕立「あの二人はそのまま見てるだけでも十分おもしろいし、次からはちゃんと普通にアフレコしてみよっか」

睦月「あはっ、夕立ちゃん、何気に毒舌だねぇ」


――――

――

314: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:06:37.61 ID:ca5m1spWo


 ブロロロロロン バタン


提督「ありがとうございました。はい、はい……あ、荷物はこちらで持っていきますからお気になさらず。はい」

提督「はい、またお願いします。それでは――」


提督「うし、無事に着いたな。おーい夕立、起きろ~」ユサユサ

夕立「…………ぽ…………ぽいぃぃ~?」

吹雪「夕立ちゃーん、鎮守府着いたよー起きて~」ユサユサ

睦月「ぐっすりなんだからもー。榛名さんだって困ってるでしょ~」ユサユサ

夕立「…………ペポぉ……」

提督「それは別のキャラだ」

吹雪「キャラ崩れちゃってるよー夕立ちゃーん! 早く起きるぞーい!」

睦月「吹雪ちゃんもうつっちゃってるよぉ!」

榛名「今日は朝からたいへんでしたものね。疲れちゃったのかな」

提督「にしたって榛名のおんぶでぐったりと……母と娘じゃないんだから」

315: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:08:45.02 ID:ca5m1spWo

夕立「ぽよぉ~…………」ダラァ

榛名「――ぅひゃぁっ!?」

睦月「ああっ、榛名さんの首筋によだれがぁ!」

吹雪「ゆ、夕立ちゃん! すごい勢いで――ちょ、夕立ちゃん、起きてっ!」ユサユサ

夕立「…………ちちん、ぽいぽいぃ……」ドバドバ

榛名「ぃひぁっ!?」ビクッ

吹雪「よだれヤバっ!? 榛名さんの服の襟もとから、どんどん中に……!」

睦月「しゃ、シャツも透けちゃってるし!」


榛名「ぁはっ、榛名は大丈夫ですからっ、このまま、ゆっ、夕立ちゃんをおんぶして帰り――は、ぁ……帰りますっ」

榛名「てぇとく、もうしっ……もうしわけないですけど――んっ、買い物袋は、お任せします、ねっ……ふ、くぅ、ぁあっ……」ビクンッ

榛名「やぁ……服が貼りついて……ちょっと、きもち――んっ。わる……んぅぅっ!」ビクビク


提督「オッケーわかった。じゃあ悪いけど夕立は三人に任せることにするわ。俺はこの買い物袋運んでくっから」

吹雪「…………あの、司令官? なんで、その……前かがみなんですか?」

提督「え? いや? ちょっと買い物袋重たいし、みたいな?
   ほら、さっきまで二人で持ってた袋だからさ、やっぱ一人で持つとちょっと重さが肩にクるっつうか」

提督「俺も鍛えてるはずなんだけどな。はは、なんかみっともない姿で悪いな。重たいもんだから、袋が。ははは」

睦月「…………さっき、一人でも大丈夫って言って――」

提督「あっ、そうだ! 風呂も沸かしておかなくっちゃな! そんじゃ悪いけど任せたわ! 俺すぐに沸かせてくるから、風呂!」

提督「あとさ、腹も減ってんだろ? 風呂あがりに重なるように、メシ作っててもらうからさ。失敬!」ドヒューン

吹雪「あっ、司令官! …………なんだったんだろうね」

睦月「…………」

睦月「……わっからないにゃーん。わかってたまるかにゃーん」


榛名「んぅ……ぬれて、つめたい服が、こすれてぇっ……」モゾモゾ

吹雪「…………」

吹雪「(あっ)」

316: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:09:30.34 ID:ca5m1spWo



明石「――提督! こちらにいらっしゃいましたか!」

提督「やあ、明石さん。どうされたのですか、そのように息を切らして……」

明石「いえ、息はあがっていませんけど。……あ、もしかしていまからお手洗いでしょうか?」

提督「いえ、もう用は済んだところですから、お気になさらず」

明石「そうですか? それなら良かったです。ええと、提督執務室の厳戒態勢が解除されましたので、放送機器の調整をしようと思いまして」

明石「問題ないと判断されたとはいえ、わたしひとりで入るのは、ちょっと……気が引けますし。
   提督のご都合さえよければ、ご一緒していただこうかなー……なんて、思っちゃったりして。だめですか?」

提督「おや。いままでにも幾度か、ああいった霊障現場に遭遇しているのにもかかわらず、たいそう弱気なんですね」

明石「う、うるさいですねっ。あんなのは艦娘になるまでは起こったことがなかったんですから! 怖くって悪いですか!?」

提督「ふふ。いえ、そんなことはないと思います。そういったところもまた、明石さんの魅力なのでは、と。そう思います」

明石「…………提督、なんだか雰囲気違いませんか?」

提督「そうでしょうか? 僕はいたって平常で振る舞っているつもりなのですが」

明石「いや異常でしょう。なんですか“僕”って」

提督「気になさらず。そのような些細なこと、可憐な肌を伝う雫ひとひらに比べれば詮無きこと」

明石「(…………なんだこいつ)」

317: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:10:37.47 ID:ca5m1spWo

提督「そういえば、注文の品物。厨房の方に置いておきましたよ。間宮さんにも確認はとりましたので、ご安心ください」

明石「ああ、それは良かったです。良かったんですが…………あの、気持ち悪いんで、もとの話し方に戻していただけませんか?」

明石「なんだか、かませ軍師臭がプンプンするので、ちょっと」

提督「かませ軍師とは失礼ですね。バカめ、と言ってさしあげますわ!」

提督「バカめが! 兵法を知らぬ凡愚め、今に見よ! バカメガ粒子砲!!」ブオオオ

明石「――ひゃああっ!? な、なんですかあ!? この、かぜっ……す、すかーとがっ」ググッ

提督「驚きました? 市場に寄ったらワゴンセールで置いてあったんですよ。ちょっと振っただけで強風が巻き起こる扇子です」

提督「一部の艦娘が使っているものと同じ材質で出来ているみたいですね。価値に気付いてなかったんでしょうか。思わぬ掘り出し物です」

提督「自分は彼女らみたいにビームは出せませんけど。風くらいなら、ほら」ブオオオ

明石「わ、わかりましたからぁっ! や、やめ、やめてくださいぃぃ~~っ!!」ググググ

提督「ほれほれ、そんな腰が露出した   スカートなんて穿きおって。月に代わっておしおきしてあげます。ほれほれぇ!」ブオオオ

明石「や、ぁっ! みえちゃっ、みえちゃうからあっ! やめてええぇ~~っ!!」

提督「うひひひひ、なぁ~にが見えちゃうのかなぁ~?」ブオオオ

318: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:11:03.72 ID:ca5m1spWo



大淀「…………反省しましたか、提督」

提督「はい」セイザ

大淀「この扇子はこちらで回収しておきます。もう二度と、このようなふざけたもので浪費しないように」

提督「はい」

大淀「あと、わたしと明石が穿いているのは決して   スカートではありません。復唱!」

提督「大淀さんと明石さんが穿いているのは決して   スカートではありません」

大淀「大淀さんは裏表のない素敵な人です。復唱!」

提督「大淀さんは裏表のない素敵な人です」

大淀「よろしい。――まったく、廊下が妙に騒がしいと思ったら、あんな小学生のようなイタズラを年甲斐もなく……」

提督「…………言っても四捨五入してもまだ二十代ですよ。年相応だと思いませんか」

大淀「まったく思いません」ピシャリ

提督「はい」

提督「あと正直、その   スカートの隙間に手を突っ込んでみたいです」

大淀「黙ってください」

提督「はい」

319: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:11:54.67 ID:ca5m1spWo

明石「え、えっと…………も、もうだいじょうぶ?」

大淀「ええ、気苦労をかけたわね。まったく……クソバカの血は争えない、といったところかしら」

提督「クソバカって……仮にもこの鎮守府の最高指揮官なんですが……」

大淀「――なにか?」

提督「…………いえ」

大淀「……はぁ。たまにすっごくカッコいいときがあるのに、なんで普段はこんな……」

明石「あはは…………」


大淀「そういえば明石、提督になにか用事があったんじゃないの?」

明石「あ、そうだった! ありがとね、大淀。ありがとうついでに、大淀も一緒に来てくれると助かるんだけど……」

大淀「わたしも?」

明石「うん。明日の放送のために、機器をいろいろ調整しようと思うんだけど……次の放送は、ちょっと人数が多くなるから」

明石「できれば提督のほかにも、もう一人手伝ってほしかったところだったの。だめかな?」

大淀「なるほど。そういうことならいい、かな」

明石「ありがとう! それに次の放送は大淀にも関係あるし、ちょうどいいんじゃないかなって」

大淀「つぎ? ――ああ、なるほどね。わかった、それじゃ行きましょうか」

大淀「提督、ほら立って! きびきび歩きましょう!
   予定よりも早く厳戒態勢が解かれましたから、明日以降の時程の調整をいたしませんと」

大淀「放送も始まることですから、本日のうちに出来うる限りの業務を済ませましょう。今夜は寝られないものと考えてくださいね」

提督「はい」

明石「…………大淀も、なかなか尻に敷くタイプだねぇ」

大淀「なにか言った?」

明石「いーや。なんでもないですよーっと」

大淀「…………そう?」

提督「はい」

320: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:13:04.59 ID:ca5m1spWo



夕立「ふわああぁぁ~…………」

吹雪「夕立ちゃん、まだ眠そうだね」

睦月「お風呂に入ったらばっちし目が覚めると思ってたんだけどねぇ~」

夕立「じつは夕立、明石さんのところでゲームを買ったっぽいぃ……それで今日は――ふわぁ…………っ」

睦月「げえむ?」

夕立「うん……っ、ちょっと夜更かししちゃって、あんまり寝てないっぽいぃ~……」

吹雪「あー、そういえば最近新作出たんだっけ」

睦月「もー。今日は試写会で挨拶しなきゃいけないから、って昨日言ったのにー!」

夕立「夕立も早く寝るつもりだったんだけど、やってたらどんどん時間が過ぎちゃってぇ~……」

夕立「気づいたらちゅんちゅんしてたっぽいぃ……」

吹雪「そうなんだ。新しく出たのって、ものを作ったりするゲームだったよね?
   わたしはパッと見てそんなにだな、って思ったから買わなかったけど……そんなに楽しかったの?」

睦月「睦月も知ってるよー。なんだっけ、マイ、マイ……クラリネット、みたいな……。そんな感じの名前だよねっ」

夕立「そーそー! 夕立も興味本位で買ってみただけなんだけど、これが意外とはまるっぽい!
   みんなでインターネットにつないで、オンラインで出来るっぽいから。買ったら一緒にやろー!」

夕立「モンスターを倒したり、家を作ったり、田んぼを耕したり……意外とファンタジーっぽい!」

吹雪「へえ、そうだったんだ……なんだか、イメージとぜんぜん違うんだね。モンスターとか……」

睦月「睦月もレゴブロックみたいなゲームだと思ってたよぉ」

夕立「夕立も買うまではそう思ってたんだけど、ぜんぜん違ったっぽい!」

夕立「せっかく出撃がないんだし、いまのうちにたっくさん遊んでおこっかなって!
   村雨ちゃんと春雨ちゃんも、積んであるゲームを早く消化しないとって急いでたっぽい!」

吹雪「たしかにそうだよね。わたしも読んでない本とかゲームとかやっておかないと……」

吹雪「しばらくは出撃がないみたいだけど。また、いつスクランブル出撃がかかるかわからないもんね」

睦月「でもでも、今度からはあんまり夜更かししないよーに! 今回は舞台が終わってからどっときたみたいだけど……」

睦月「アニメのイベントだって、もしかしたらまた行かなくっちゃいけないかもしれないんだからねぇ?」

吹雪「(うげぇっ)」

睦月「あんまりひどいようだと、また長門さんに怒られちゃうよぉ?」

夕立「はぁーい、わかってまーす!」

睦月「もおっ!」

吹雪「あはは…………」


321: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:14:27.91 ID:ca5m1spWo

吹雪「――あ。……えっと、着替えは並べて置いておくんだっけ?」

睦月「うんっ。榛名さんが洗濯しておいてくれるみたいだから、カゴに入れて任せちゃいましょー」

夕立「へへ、自分で洗い物しなくっていいってステキっぽい~っ!」

吹雪「そういや夕立ちゃんは家が厳しくて、炊事洗濯が役割分担されてたんだっけ?」

夕立「ぽい! 村雨ちゃんがお料理でー、春雨ちゃんがお掃除でー、夕立がお洗濯っ」

夕立「おかげで寒いときなんかは手がカサカサになってたいへんだったっぽい……」

吹雪「あー。この時期の水場はつらいもんね……。ウチも最低限の家事はやらされてたから、気持ちはわかるよ」

吹雪「洗い物なんかやってると指の皮がパックリ裂けちゃったりね。絆創膏だと痛いままだから包帯で締めつけたり……」

夕立「わかるわかるー! 絆創膏だと水っ気をためちゃうから、巻いてるところがふやけちゃうんだよね~」

夕立「それで、寒いとそのふやけた部分がそのまま固まるから……おばあちゃんみたいな指になっちゃってすっごく痛いっぽい!」

吹雪「あああ! あるそれぇー!! そうならないように、まめに絆創膏を替えて、指を患部をマッサージしたりするけど……」

吹雪「絆創膏の消費がヒドいもんねぇ。それに、みんなそんな感じだから、家じゅうに絆創膏のゴミが転がってたりするしさぁ~」

夕立「そうそう! お風呂場の排水溝に、絆創膏のゴミが詰まってたりするよね~!

夕立「オマケに、その詰まった上に髪の毛とかがもううじゃうじゃと…………」

吹雪「ひゃーっ! 思い出しただけで気持ち悪くて震えがあ~~っ」ブルブル

夕立「すっ……ごく気持ち悪いもんね! 水場のお掃除はきもちわるいのいっぱいっぽい~っ」

322: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:15:08.18 ID:ca5m1spWo


睦月「…………睦月、ぽつーん」


睦月「(睦月、いつも如月ちゃんがやってくれてたから、そういえば家事とかあんまりやったことなかったなぁ……)」

睦月「(たまにはお料理しようと思ってレシピ調べてたら。
    それを見た如月ちゃんが“睦月ちゃん、これ食べたいの? じゃあ如月、頑張っちゃうわよ!”って張り切って作っちゃうし)」

睦月「(せめて洗い物くらいは、と思って水場に立っても。
    “睦月ちゃんは可愛い女の子なんだから、冬の水場はお肌に危険よ?”なんて言って無理やりどかされちゃうし!)」

睦月「(如月ちゃん、あなたも女の子でしょーが!)」

睦月「(……そう返したら、“子役タレントがいきなり指に絆創膏まいてきたら変じゃない”と笑われたんだっけぇ)」


睦月「(…………よく考えてみたら、ガッコに通ってたときに持っていったお弁当も、如月ちゃんがつくったやつだ)」

睦月「(着てた制服のお洗濯、アイロンがけも如月ちゃん。お弁当を包む巾着を縫ったのも如月ちゃん)」

睦月「(授業に使ったノートや筆箱、ペンや消しゴムを作ったのも如月ちゃん)」

睦月「(学校に置いてある黒板や机なんかを作ったのも、如月ちゃん――というか、わたしたちのお父さんの会社)」

睦月「(あ…………あれ…………? もしかして睦月ちゃん、女子力低い、っぽい……?)」

睦月「(うわっ、睦月の女子力、低すぎ…………?)」

323: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:16:14.68 ID:ca5m1spWo

吹雪「……――睦月ちゃん、どうかした?」

睦月「ひゃいっ!? いえいえいえいえ、なんでもありまっせんよぉ~!!」

夕立「だいじょーぶ? 睦月ちゃんも眠くなっちゃったっぽい?」

睦月「そ、そんなことないよー! え、ええっと! それじゃあ洗濯物、このカゴの隣に並べておけばいいのかなぁ!?」

睦月「もう誰かの服が置いてあるみたいだけどぉっ!?」

吹雪「かな? ――あれ、でもこの服って提督の服、かな? 左隣には榛名さんの着替えが入ったカゴがあるけど」

夕立「あ、てーとくさんと榛名さんは、朝出かける前にお風呂入ったっぽい?」

夕立「だからそのときの服っぽい。でもこの服、明日着るみたいだから、今日洗ってすぐに乾かしちゃうって言ってたっぽい!」

吹雪「ああ、だから“まとめて洗う”って言ってたんだね」

夕立「むふ、せっかくだからこの際、てーとくさんのぱんつをお持ちかえりぃ――」

睦月「やめなさいったら」ペチン

夕立「きゃふんっ」

吹雪「あはは、大井さんみたいにはならないように気をつけようね。北上さんも苦労してるなぁ……」

睦月「あっ、大井さんなら、北上さんの下着をこっそり盗っていく裏で、新しい下着を購入してすり替えてるらしいよぉ?」

睦月「夜遅くにその場面を目撃した加賀さんが、こっそり北上さんに耳打ちしてるの見たもん」

吹雪「うわぁ…………でもあの人、べつに、その……同性愛者ってワケじゃない……よね?」 

睦月「本人はそう言ってるみたいだけどねぇ……」

夕立「――愛ゆえに、っぽい」

324: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:16:50.93 ID:ca5m1spWo

吹雪「ええっと、じゃあこの……司令官のカゴを、榛名さんのカゴとで挟む形で置けばいいのかな?」

睦月「そう、かな? その場合だと、“左から”榛名さん、提督、吹雪ちゃんの順番になるの、かなぁ?」

夕立「じゃあ夕立はその吹雪ちゃんのとっなりっぽいー!」グイグイ

睦月「きゃっ! ……もう夕立ちゃん、せっかちなんだからぁ」

吹雪「足元濡れて滑りやすいんだから、あんまり暴れないでよ! もう……」

325: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:18:24.93 ID:ca5m1spWo

夕立「あ……でも、吹雪ちゃんの隣に並べちゃうと、扉の前を邪魔しちゃうっぽい……」

睦月「しょうがないから、ちょっと離れたところに置いちゃいましょ? 扉を遮るのはよくないからねぇ」

夕立「はーい…………それじゃ吹雪ちゃん、またね」

吹雪「あはは、カゴを離すだけなのにまたねって!」

吹雪「……でも、男の人と一緒に服を洗うって、なんだか慣れちゃったね。
   子どものころは、お父さんと一緒に服を洗わないでとか、お風呂の水ちゃんと分けてとか、ヒドいこと言ってたけどなぁ……」

睦月「まぁ、いろんな人がいる鎮守府で、誰かと一緒に洗わないでっていうのは難しいもんねぇ」

夕立「でもでも。てーとくさんも、出来るだけ自分の服は自分で洗おうとしてるっぽい?」

夕立「最近はお仕事ばーっかりでたいへんみたいだから、榛名さんがやってるっぽいけどぉ……」

吹雪「あぁー。なんかこの間もたっくさん人が来てたけど、その事後処理? で忙しいみたいだもんね」

睦月「あっ、それってこの間の放送のときのだよね? あれって、結局いったいなんだったのかなぁ」

睦月「なんだか提督執務室のほうじゃ、たいへんなことになってたみたいだけど……」

吹雪「あーあれね、なんだか聞いた話によると……オバケって言うウワサもあるみたい」

吹雪「司令官は昔から、そういうのを引き寄せる体質みたいで……夜な夜な街中を徘徊しては、専用掃除機でオバケを吸い込んで回ってるっていうウワサも……」

夕立「ひぃっ」

睦月「こ、怖いこと言わないでよ、もう吹雪ちゃんっ!」

吹雪「あはは……でも司令官、学生のころはそんな感じのアルバイトをやってたって誰かが言ってたから、本当なんじゃないかなあ?」

睦月「あの人、いったい何者なのさぁ…………」


夕立「…………とりあえず、オバケの話はここまでっぽい! 吹雪ちゃんも睦月ちゃんも、せっかくだから遊戯室で一緒にゲームしよ?」

夕立「新しい筐体が入ったみたいだから、三人で一緒にプレイしたいっぽい!」

夕立「てーとくさんがご飯を用意してくれてるって言ってたから、そのあとでもよかったらだけど、どうかなぁ?」

睦月「睦月ちゃんはオッケーなのです!」

吹雪「いいねぇそれ! どんなのが入ったの?」

夕立「むふふ、明石さんの情報を先取りしたところ、関西弁を喋るタコを操作して、宇宙を救っていくゲームみたいっぽい?」

睦月「あは、タコって! しかも喋るんだ!」

吹雪「あ、明石さんのラインナップはときどき変なのを持ってくるね……」

夕立「でも難しいみたいだから、夕立一人じゃちょっと攻略できなさそうっぽい……」

夕立「だから、三人で頑張るっぽい!」

吹雪「…………うん、わかった! ちょっと変わったゲームもたまにはいいよね!」

睦月「さぁさぁ、張り切っていきましょー!」

夕立「おー!!」
吹雪「おー!!」



326: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:19:10.51 ID:ca5m1spWo



――――

――


 コソコソ


「…………」

「…………」


 コソコソ


「…………“これ”が、司令官の着替えかしら」

「…………そのはずっぴょん」

「まったく……みんなの前で人に恥をかかせておいて、自分はのうのうと放送を楽しむなんて……」

「フェアじゃないっぴょん!」

「許しがたい行為よ。まったく…………誰が天から舞い降りた、て……天女よ。もうっ」

「…………顔赤いけど、だいじょぶ?」

「ええ、気にしないで。――さて、あのバカには、ちょーっとばかしお灸を据えてやらなくっちゃね」

「うひひひっ、パパの手紙をみんなの前で読み上げた罪、万死に値するっぴょん!」

「そういえば、あなたが最初にやられたんだったわね。気の毒に……」

「そうっぴょん! パイオニアうーぴょん侍って呼んでもいいっぴょんよ?」

「…………遠慮しておくわ」

「…………そっか」

「ふふ、なんでちょっと本気で落ち込んでるのよ。――さ、偉大なる先駆者さん、ここはどういった手を打つのかしら?」



327: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/27(火) 00:20:13.80 ID:ca5m1spWo

「ふひひ……ここに三つのカゴがあるじゃろ?」

「ええ。右から…………ええっと、誰かしら? 私服だからわかりづらいわね」

「ふっふっふ…………心配ご無用、っぴょん!
 実はうーちゃん、今日の朝、司令官と榛名さんが順番にシャワー浴びてるのを目撃したっぴょん! 朝シャンっぴょん!」

「え…………ええっ!? そ、それって、二人一緒ってこと!?」

「んーん。残念だけど、一人が出たらもう一人が入るって感じで、ちゃんと分けてたっぴょん」

「そ……そうなの。いえ、ちょっと驚いただけなんだけどね」

「むふふ。――だからきっと、扉に近い“右のカゴから”順番に、榛名さん、司令官、あと……誰かの着替え? の順番なはずっぴょん!」

「なるほどね」

「むふ。だからこの一番右の、榛名さんの下着を――」

 グイッ

「――こうやって、司令官のズボンポケットにねじ込んでおくっぴょん!」

「な、なかなかダイタンなことするわね。……でも、大丈夫かしら? 着替えを干すときに気付かれちゃうんじゃない?」

「むふふ、そこもリサーチ済みっぴょん! 司令官、この洗濯物を明日着るらしくって、今日の晩に急いで乾かすみたいっぴょん!」

「それなら乾燥機を使うはずだし、服を干すために広げたら――パサリ。なんてことも無いはずっぴょん!」

「…………へえ、意外と考えているのね。正直、ちょっと見直したわ」

「ふふーん! もっと褒めてもいいっぴょんよ?」

「あなたはただでさえ個性が強いんだから、よそ様の持ち味まで吸収するのはよしなさい」

「へへへ。…………でもこれで、ささやかな復讐完了っぴょん!」

「あの二人、いつも見てたらむずむずするっぴょん! 司令官の手助けにもなるだろうし、うーちゃんたちはなにも悪くないっぴょん!」

「ふふ、なんだかんだで、あなたもずいぶんお人よしね。
 ……でも、そうね。ポケットから榛名さんの下着が出てくれば、あの人もずいぶん焦りそうね」

「そのときは、うーぴょんとむーぴょんで思いっきり冷かしてやるっぴょん!」

「…………むーぴょんはやめなさい」


――――

――

333: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:38:22.10 ID:0QsQOzUro



明石「そろそろ放送一分前です! 各自、お手元にあります台本の再確認をお願いいたします!」

明石「トイレや忘れ物等、行きたい方がいらっしゃればこちらで間を繋ぎますので、今のうちに進み出てください!」


睦月「…………うう、ちょっと緊張してきちゃったぁ」

夕立「睦月ちゃんだいじょーぶ? でも睦月ちゃんって、こういうラジオのゲストって経験あるんじゃなかった?」

睦月「そうなんだけどぉ、あっちは顔の見えない、知らない人ばっかりのラジオだったからぁ……」

睦月「ここのラジオはお父さんとかお母さんも聴いてるし、鎮守府のみんなも聴いてるからすっごく緊張するよぉ~~っ!」

睦月「変なこと言って、みんなにからかわれたらどうしよぉ……」

提督「はは、まあお前たちならいつも通りに振る舞ってくれたら大丈夫だ。とくに問題のあるメンバーじゃないしな」

睦月「そ、そうは言われてもぉ~……」

夕立「あははっ! 睦月ちゃん、昨日の吹雪ちゃんみたくなってるっぽい!」


提督「……その吹雪だが、大丈夫か? なんだか暗いじゃないか」

吹雪「ぃえっ!? いや、えっと……あはは。その、ちょっと緊張しちゃって……」

夕立「吹雪ちゃんもだいじょーぶ? そわそわしてるけど、忘れ物とかだったら今のうちっぽい?」

吹雪「忘れもの、っていうかぁ、そのぉ……――ううん、なんでもない。気にしないで」

吹雪「司令官さんも、気にしないでください。番組に支障が出ないようにはしますので」

提督「…………そうか? まあ、本人がそう言うなら追及はしないが……なにかあったらすぐ言えよ」

提督「幸い、今日はたくさんゲストがいるんだし。途中抜けしても気づかれないよう、うまくやるからさ」

吹雪「はい、すみません。ありがとうございます」

334: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:39:30.09 ID:0QsQOzUro


明石「放送開始三十秒前です! みなさん、心の準備はよろしいでしょうかー!?」


提督「うし。みんな、マイク音源のオンオフくらいは把握しているよな?
   あとフリーのお便り用の箱がこの色、お悩み相談のお便りが入った箱はこっちの色だ。間違えないように」

提督「放送中にトイレとか行きたくなったらマイク切って言ってくれ。
   さっきも言ったが、これだけの人数がいれば、途中抜けしても気づかれないよう誤魔化すのは難しくないからな」

睦月「はーいっ! 睦月、気合入れていっきまーすっ!」

夕立「てーとくさん! 夕立、ピザとかパスタとかお腹いーっぱいに食べたいっぽい!」

提督「はは、それは放送の後でな。イタリアンか……ほかの二人も希望がなければ、イタリアンで良いか?」

睦月「はいっ、チーズはのび~るやつでお願いします!!」

夕立「いいよねぇ、おもちみたいにぶいーんって伸びるピザぁ……最高にステキっぽい!」

提督「吹雪もそれで構わないか? いや、ほかに希望したい食べ物があれば、個別に用意できるが」

吹雪「…………」

提督「……吹雪?」

吹雪「――ぁ、はいっ! わたしもそれで大丈夫ですっ!」

提督「おいおい、本当に大丈夫かよ…………」


明石「それでは久々の放送、開始いたします! 準備の方お願いします!」

明石「放送開始五秒前! さん、に――」

明石「(――いちっ! みなさん、頑張ってください!)」

提督「(よし、そんじゃやるとしますかっ!)」

夕立「(ぽいっ!)」

睦月「(睦月、がんばりまーすっ!)」

吹雪「…………」


――ちゃーらら ららら~

335: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:40:30.89 ID:0QsQOzUro



――ちゃるめら ちゃらら~


 『ラジオの前にお座りのみなさま、こんばんは! 本日の時刻、フタマルマルマルの訪れをお知らせいたします!』


陸奥「おっ、しっかり始まったわね」

長門「ああ。いっときはどうなるかと思ったが……無事に再開できて何よりだ」

霧島「けっきょくあのお祓いってなんだったんでしょうね。お祓い中に、霊の妨害を受けなかったのはあれが初めてでしたけど……」

比叡「んー。お祓いの直前に力尽きたか、それとも甘んじてお祓いを受けたか、どっちかかもね」

比叡「怨霊化するくらい意識が強いのに、お祓いをおとなしく受けるっていうのもあんまりない話だけど」

金剛「優しいゴーストさんだったのかもしれないネー」


伊勢「(…………あの騒動って結局、まだみんなには話していないの?)」

日向「(――ん? ……ああ、そうみたいだな。まあ、近いうちに提督の口から、然るべきタイミングで語られるだろう)」

日向「…………」

伊勢「――? ……どしたのさ日向。そわそわして……珍しいじゃん」

日向「いや……気にするな。なんでもない」


 『何日かぶりの再会となりますね。みなさん、お久しぶりです! あなたの提督が帰ってきました!』


飛鷹「まーたワケのわからないことを言って……」

龍驤「いつもの発作みたいなモンやろ」

祥鳳「うふふ。みなさん、なかなか辛辣ですね」

千歳「ま、普段あれだけおちゃらけてるからねぇ。いちいち相手に取ってたら疲れちゃうわよ」

龍驤「せや言うことや。…………どしたん瑞鳳。えっらいきょろきょろしとるけど、どないしたん?」

瑞鳳「えっ? いや…………なんだか、視線を感じるなって。気のせいかなぁ?」

千代田「今日はみーんなこの食堂に集まってるからね。これだけ賑わってたら勘違いしちゃってもおかしくないんじゃないかな」

隼鷹「なんか、間宮さんと鳳翔さんから催しがあるから集まってーって聞いたからねぇ。みんな期待してるんさ」

飛鷹「あの二人からってなるともう、おいしいものって相場が決まってるからね。太っちゃいそう……」

祥鳳「お正月シーズンはたくさん食べますからね。そのうえ出撃もなし、となると身体にお肉が……」

瑞鳳「勘違い、かなぁ……うぅん。そうかもね。ごめんね、なんでもない、かな?」

龍驤「瑞鳳は気にしぃやからなぁ~」


336: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:42:05.75 ID:0QsQOzUro


 『安否を気遣うご心配のメールやお葉書、たくさん届きました。ありがとうございます』

 『今回が三回目の放送だーっていうのに、あは。前回はたいへん失礼いたしました。ただの霊障でしたので、お気になさらないでください』


五十鈴「“ただの霊障”っていうのも、たいがいおかしいでしょ……」

由良「この鎮守府にいると、トンデモな事態に耐性が出来てくるよねぇ」

天龍「…………え!? 幽霊って本当にいんのか!? マジでっ!?」

龍田「そうよぉ天龍ちゃん。幽霊なんてもう、そこらじゅうにわんさか漂っているんだから」

龍田「ほぉら天龍ちゃん、いま……天龍ちゃんの後ろにも――ああ、振り返らないようにねぇ。目と目が合っちゃうと、連れていかれてしまうから……」

天龍「つ、連れていかれる!? どこにだ!? えっうしろ!?」

龍田「この世はわからないことがたくさんあるわぁ。……どんな風が吹いても、負けない人になりましょう?」

天龍「意味深なこと言うなあああ~~っっ!!」

長良「(うわぁ、龍田さん楽しそうだなぁ…………)」


 『霊障って言ってもアレですけどね。よくあるポルターガイストというか……危害が及ばない範囲のものでしたけどね』

 『それでも、あまりないことだと驚かれるかもしれませんが。実は僕、むかしからけっこうこういうことあるんですよ』

 『家――といっても居候先ですが――に帰って、着替えてシャワーを浴びていたら、その間に脱いだ衣類がなくなっているだとか』

 『日替わりで、使っていた歯ブラシやお箸がなくなっていたりだとか。極め付けは、着ていないはずの服がぐっしょり濡れていたときもありました』

 『一日中、妙に肌にねばりつく視線を感じたりもしましたしね。さっと振り返っても誰もいないことばかりでしたし』

 『こういうの、霊媒体質って言うんでしたっけ? はは、神職の家に居候していたから、それのせいかもわかりませんね』


扶桑「(…………ちらっ)」

霧島「(さっ)」

比叡「(さっ)」

金剛「フン、フフ~ン」

山城「…………馬鹿は見つかったようですね」

陸奥「なーにやってんだか…………」


337: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:43:08.93 ID:0QsQOzUro

 提督『みなさんも、こういった心霊現象に出くわしたら、迷わず近場のお寺か神社に駆け込みましょう。駆け込み寺とかって言うでしょう?』

 提督『正確には、お寺だと厄除け、神社だと厄払いって言うんですけどね。
    霊能力に長けた住職さんや神主さんでない限り、形式的なもので済まされてしまいますが――』

 提督『それでも、その“お祓いを受けた”というカタチが重要なのです。
    心霊現象というものは、弱った心の隙間を突いて攻めるように現れますから――』

 提督『一度“お祓いを受けた”という自信、安心がつけば、その隙間が埋まっていくんです。
    お値段としてはだいたい、数千円から数万円……まちまちですね? でも、それだけの価値はあると思います』

 提督『よく霊能力者だとかが、個人的にお祓いをやっているところもありますが――あちらはあまりオススメできません』

 提督『個人のところだと、除霊は身体に負担がかかるから、といった理由で法外な金銭価格を要求してくる人が多いんですよ』

 提督『そうですねぇ。この間テレビに出ていた人ですと……たしか数十万円から、でしたっけ?
    相手によっては、数百万の額を叩きつけてくる霊能者のかたも、決して少なくはないんですよ』

 提督『しかもそれも、一度ではなく何度も除霊が必要と言って、繰り返し要求してくることも多いです』


陸奥「あー、あるわね。テレビとかでよくやってるでしょ、霊能者特集みたいなやつ」

金剛「ありますネー」

比叡「夏場なんかによく特集組まれてますよね」

陸奥「あれね、友達が一回信じて訪ねたんだけど、見事に騙されたって。
   室内に招いたら、“人払いが必要になりますので、ちょっと出ていてもらえませんか”って言われて、テレビの人が言うならーって信用して席を外したんだけど」

陸奥「あんまりにも時間がかかるもんだから、窓からこっそり確認すると――。
   部屋中がひっくり返されてて、金品や金目のものをまるまる盗られて、忽然と消えてたらしいわよ」

霧島「あー、それは気の毒に……」

長門「メディア・リテラシーということだろうな。ウソは、ウソであると見抜ける人でなければ難しい」

陸奥「被害届も出したみたいだけど、もうパッタリ。巧妙に舌先三寸で騙くらかすものねぇ」


 提督『それで終わるなら、いいんですが――最悪、頼った霊能者が、ただのインチキ。詐欺師であることもまた、決して珍しい話ではありません』

 提督『ウェブ上で除霊を受け付けている霊能者に依頼するなら、まず金額を確認してください。
    しっかり金額を明示していないところは、こちらの懐具合を探って金額を設定してきます』

 提督『あらかじめ、きちんと金額を確認しておかなければ、あとになって馬鹿げた額に目を回す――なんてこともありますから』


 提督『その点、仏閣や社を構えているところは安全ですよ! なんてったって、ホンモノですからね!』

 提督『僕個人のオススメは、金剛大社です! ――あ、聞いてない? ……そうですか。でも喋りますよおっ!』

 提督『なんといっても金剛大社、超美人姉妹が巫女をやっていることがあるんですよ』

 提督『最近は忙しくって、あまり顔を出せていないみたいですけど――うふひひ、カワイーですよぉ。見てるだけで目の保養に――』


 提督『――あっ、やめて明石さん! ものを投げないで! ちょ、それ水入ってるからあっ!!』

 『――――』ガタゴト


能代「自業自得ね」

矢矧「ええ」

阿賀野「むー、金剛さんたちばーっかり褒めて。阿賀野たちだって頑張ってるのにー!」

酒匂「ぴゃあーっ!」



338: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:44:02.28 ID:0QsQOzUro


 提督『えー、先ほどの不適切な発言、たいへん失礼いたしました。心よりお詫び申し上げ奉り候』


天津風「おかしくなるのが早すぎる!」

島風「提督もはやいのっ!?」

時津風「ゼッタイ反省してねーでしょ、あれ」

初風「まったく。一度痛い目を見た方がいいんじゃないかしら」


 提督『…………まあでも、困ったら神域に駆け込むことは本当にオススメです。ぬるりと変わりますからね』

 提督『お祓いっていうのは、“マイナスをゼロに戻す”行為なんですよ。
    マイナスを祓ってゼロに戻すワケなので、お祓いしたあとはマイナスが近づいてこない――』

 提督『つまり、プラスがよく舞いこんでくるわけです。
    物事がプラスに運ばれていくので、考えもポジティヴになっていきますし。いいことずくめですよ』

 提督『……でもま、幽霊談義はここまでにしておきましょうか。本日は新規の視聴者さまも多数おられるとのことで、ちょっと緊張してるんですよね』

 提督『横で見ているゲストの艦娘たちも、目を丸くしてこちらを見つめています。あはは』

 提督『みなさん、知ってました? 僕って喋るの、あんまり得意なほうではないんですよ。
    この放送のMCを勤めていられるのも、昔とった杵柄のおかげ――というカンジで。けっこう大変なんですよ、これ』


磯風「――ほう、そうだったのか?」

陽炎「ん、まあね。いまとなっては元帥だけど、叔父提督っているでしょ?」

磯風「うむ、よく知っている」

陽炎「ん。んでその人がもともとこの鎮守府を動かしていたんだけど。
   そのときに人手不足で、事情があって人員の補充が難しいときに、血縁者だから信用できるってことで入ってきたのがいまの司令なの」

黒潮「最初に会うたときなんかもうえらかったなぁ。目ェ合わせんし、妙に距離取ろうとしよるしでや……」

磯風「そうなのか? いまの軟派な彼を見ていると、想像もつきにくいものだが……」

陽炎「それがそうなのよぉ。後になってからわかったんだけどね、金剛さんたちが常に傍にいたせいで、ほかの女の子に対する耐性がなかったみたい」

黒潮「逆になぁ?」

磯風「ほう?」

陽炎「おっかしいよねぇ? 美少女を常にはべらせてるのに、他の女の子はてんで無理って言うんだから傑作だったわよっ」

不知火「今となっては昔の話ですが。当時は意思疎通を図るのが大変でした」

不知火「はじめは金剛さんたちも艦娘ではありませんでしたから。ずっといるというわけでもありませんでしたし」

浦風「へえ……そやったんか。なんやもう、後になって入ってきたんがもったいのう感じるなぁ」

陽炎「あははっ、そこは古株である、わたしたちの特権かな?」

黒潮「今やもう、名の知れた一提督やからなぁ。いまはもー麒麟児かっちゅーくらい言われとるし」

339: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:45:46.66 ID:0QsQOzUro


提督『――あっと、CMですか? ……すみません、まだ始まったばかりですけど、ちょっとしたCMを挟みますね。では』


 ガラリ

鳳翔「みなさん、お待たせいたしました」

間宮「おやつの時間でーす! 間宮&鳳翔特製ドーナツですよ~」


文月「やったぁ! どぉなっつだあ!」

響「ハラショーー」

長月「ほう、ドーナツとはまた久しいな……いただいても、いいのか?」

間宮「ちょぉーっと待ってくださいね~、いまテーブルに並べますから……」

鳳翔「みなさん、ちょっとだけ道を空けてくださいね」

望月「わ、わ、わ、バスケットに山盛りになったドーナツに、種類ごとにわかれたお皿に…………」

暁「ど、どんどん運んできてるわっ! こ、これ……ぜんぶ、食べていいのっ?」

天龍「えっ! 今日は全員お菓子食べてもいいのか!?」

鳳翔「はい。しっかり食べてください」

間宮「おかわりもありますよ」

鈴谷「い、いつもはこういうの、駆逐艦の子たちばっかりなのに……鈴谷たちも?」

熊野「こ、これは……ものすごく上品なドーナッツですわ。有名店に勝るとも劣らない、この品質……っ」

鳳翔「ええ、遠慮しないでください。今までのぶんも、たっくさん食べてくださいね?」

雷「やったぁ! ねね、電! 早く取りに行きましょっ!」

電「わ、わかったのです!」

深雪「うめ…………うめ…………」


鳳翔「…………ふふふ」

間宮「ふふふふ…………」


340: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:46:52.83 ID:0QsQOzUro

間宮「ええっと、各お皿にトングを配置いたしましたので、お食べの際にはこちらを使用して取り分けてくださいね」

間宮「ピンク色の大皿と、木で編んだバスケットに盛られているのは、このわたし、間宮特製のスイートドーナツです!」

間宮「間宮ドーナツは、間宮の技術を余すところなく使った、とぉ~ってもあまいドーナッツになっています!
   駆逐艦や軽巡洋艦のみんなには、大人気間違いナシの味になっているはずですよ! 自信作です、一度口に運んでみてくださいっ」

鳳翔「白色の大皿と、桐の木箱に入っているものは、ささやかながら、わたしが協力させていただきました」

鳳翔「ちょっとした大人の女性向けの、甘みをおさえたドーナツになっています。
   コーヒーや渋いお茶に合う、しっとりとしたドーナツです。風味や香りも楽しめる、素敵なおやつですよ」

間宮「もし残っても、冷蔵庫に保存しておけば日持ちいたしますので、お持ち帰りなんかにどうぞ!」

鳳翔「持ち帰り用のタッパーや包み紙はこちらに用意してありますので、よければどうぞ」


加賀「さすがに気分が高揚します」

赤城「ああ…………ここが地平線の最果て。唯一無二の桃源郷――ユートピアなのね。まさに、シャングリ・ラ…………」

蒼龍「ト、トリップしてる……」

龍鳳「(――――シャングリラ?)」ピクッ

飛龍「蒼龍、早く行かないとなくなっちゃうよ! 置いてくからねっ」

蒼龍「あっ、待ってよ飛龍っ!」

翔鶴「瑞鶴はなにがいい? わたしが取ってきてあげようか?」

瑞鶴「翔鶴姉ぇは座ってゆっくりしてて! わたしがあの乱気流をくぐり抜けて、良さげなものを選んできてあげるからっ」

雲龍「ど、どおなつ…………こんなに贅沢をしてしまってもいいのでしょうか。不安になってしまいます……」

雲龍「こうして眺めているだけで、幸せというか……」

大鳳「これ……大丈夫かしら。今日とったカロリー、トレーニングで消化しきれるのかしら……」

大鳳「ああ、でもこの色合い、この香り、この艶やかさ――どこを見ても一航戦。でも、ちょっとした油断が命取りになることも……」

加賀「カロリーやエンゲル係数に牙を剥かなければ、楽しく生きていけませんよ」

赤城「さあ大鳳さん! 風の吹く丘に目を凝らしなさい! 舞い上がった砂の中に、あなたの本当の体重計がまってる!」

大鳳「焚きつけてるのか引き止めてるのかどっちなんですかあ~~っ!!」


蒼龍「赤城さんも、あんまり食べすぎたら翌朝に響きますよ。
   産まれるときの命名候補だった“大鯨”みたいに、大きなクジラになっちゃいますから気をつけてくださいね」

赤城「わたしは今を生きるオンナですっ! 過去は振り返りませんっ!!」

飛龍「慢心でしょ。勇ましすぎる…………」

341: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:47:33.94 ID:0QsQOzUro

夕張「…………」

神通「……夕張さん? どうされましたか?」

川内「さっきからみょーにぼーっとしてるじゃん。ずっと同じトコ睨んでるっていうか……」

那珂「早く食べないと、ドーナツなくなっちゃうよぉ?」

夕張「――え? あ、いや、あはは! ちょっと考え事です! でもこれ、すっごいですね!」

夕張「年越しパーティのときもすっごかったですけど、花畑みたいなドーナツ平野!」

阿賀野「このときばっかりは、艦娘やっててよかったぁって思うよねっ」

能代「阿賀野姉ぇ、そんなにたくさん食べてだいじょうぶ? お腹痛くならない?」

川内「夜戦がないのはすっごい退屈だけど、こういうのも悪くないよね」

神通「甘いものを食べた夜は、ぐっすり幸せに眠れますからね」


矢矧「ただ、食べたぶんそのまま返ってくるっていうのが怖いけどね。余計なバルジがついちゃわないか不安だわ……」

酒匂「ぴゃあっ」

能代「あ、バカ矢矧っ!」

矢矧「え? ――――あっ」

阿賀野「」ピシッ

那珂「わっ、阿賀野ちゃんが石みたいになっちゃった!」

川内「……矢矧あんた、なかなかえげつないことするね。脱帽よ」

神通「阿賀野さんは体型を非常に気にしていらっしゃいますからね。非情です」

矢矧「ち、ちがっ……べ、べつにっ、阿賀野姉さんのことを言ったわけじゃないから!!」

矢矧「阿賀野姉さんが太ってるとかそんな、考えてたワケじゃないから!」

矢矧「たしかにちょーっと普段から間食が多いなーとは思ってたけどぜんぜん関係ないしっ」

阿賀野「」ピシシ

能代「こ、これは…………」

神通「完全に石化してしまっていますね。メデューサ矢矧の称号を授けましょう」

メデューサ矢矧「」

酒匂「ぴゃあ~っ!」


342: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:48:33.78 ID:0QsQOzUro

日向「(もぐもぐ)」チラッ

伊勢「んん……っ! ――くはぁっ。鳳翔さんの作ったしっとりドーナツ、すっごく美味しいわねぇ……」

扶桑「そうね……。間宮さんのも甘くって美味しいけれど。わたしたちみたいな年長組には、こちらのほうが舌に合うかも……」


山城「ヘイ“えせ”巫女ガール! お味のほどはいかがですかあっ!?」

金剛「Wrap it up! ティータイムを妨げることは、何人たりとも許しまセーン!」

比叡「……山城さん、申し訳ないですけど、今日のところは……」

霧島「お姉さまにとって、紅茶のお時間はなにものにも代えがたいものですから……。すみません」

山城「……あ、あら、そう? な、なんだか悪かったですね。お邪魔しちゃったみたいで」

伊勢「(このとき山城、意外に素直)」

日向「(まあ、もともと嫌っているわけでもないようだからな)」


長門「…………ふむ。鳳翔のドーナツは、コーヒーというより、抹茶のお茶が合う気がするな」

陸奥「そうねぇ、コクが深いというか、しっとり沁みてくるような、落ち着いた味だから……。でも、抹茶ってあったかしら?」

比叡「もちろん、用意してありますよ~。抹茶をお二つですか? ちょっと待っててくださいね~」パタパタ

長門「すまないな、頼む。…………ずいぶん活き活きしていたな」

金剛「ヒエーは学生時代、高級喫茶店でアルバイトしていたからデース。給仕を楽しんでいるみたいだから、気にしないでくだサーイ」

陸奥「そう? なんだか悪いわね。…………そういえば、榛名さんの姿が見えないようだけど」

霧島「ああ、榛名でしたら…………あちらに」サッ

陸奥「あっち?」チラッ


榛名「…………」

龍鳳「…………」


榛名「おいしいですね、龍鳳さん」

龍鳳「はい。とてもおいしいですね、榛名さん」

榛名「(もぐもぐ)」

龍鳳「(もぐもぐ)」


霧島「…………なんでしたら、お呼びしましょうか?」

陸奥「…………いや。めんどくさいのはヤよ。見なかったことにしましょう」

霧島「賢明な判断かと」

343: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:49:21.94 ID:0QsQOzUro


提督「そろそろ、食堂のほうでは間宮さんのドーナツが運ばれている最中ですかね」

明石「ええ、その頃合いかと。……――とはいっても、こちらもそうなんですけどね」


夕立「さぁ、素敵なドーナッツパーティしましょ! どーなっつ~ど~なっつ~っ」ルンルン

提督「そういや夕立、親戚のドーナツ屋でアルバイトしてたこともあったんだっけ」

夕立「うん! だからドーナッツはね~、すっごく大好きっ! はむっ」

睦月「ふわぁっ、このドーナッツ、すっごく美味しい……撮影で食べたパフェも美味しかったけど、睦月はこっちの方が好き、かもぉ……」

夕立「ほら、てーとくさんも! あ~ん?」

提督「ん、あ~ん――――はむ」

夕立「ふふ、お味のほうはいかがっぽい?」

提督「んぐんぐ……。――うまひな」

睦月「にゃは。喋るときはちゃあんとおくち隠すんですね」

吹雪「(もぐもぐ)」ムズムズ


提督「むぐぐ。……ああ、そういや撮影で丼パフェ食ってたな。美味かったか?」

睦月「はい! あれだけおっきなパフェなのに、食べててもぜんっぜん飽きないんですっ!」

夕立「吹雪ちゃんが何回かリテイクだしたけど、それでもずっと食べていられたっぽい!」

睦月「リテイク出しちゃったら新しいものと取りかえるんですけどね。スタッフのみんなが“自分たちも食べられる”って大喜びだったにゃーん」

夕立「リテイク多すぎて、最終的にはみんな胸焼けしてたっぽい」

吹雪「う、うるさいなあ! もういいでしょったらぁっ!」

提督「はは、あのシーンはなかなか難しかったろ。本当に美味そうな表情だったからなあ……今度、グルメドラマのオファーとか来るかもな」

睦月「ふふ、吹雪ちゃんのモノローグだけで半時間進むドラマかぁ、ちょっと楽しそうだにゃ~」

睦月「“しまったな、ご飯とカレーライスで、ライスがかぶってしまった……”――とかやってほしいっ」

提督「はは、それは見ごたえがありそうだ。――そんで、向こうの甘味はどうだった?」

提督「ずいぶん気合入ってたけど、資生堂パーラーのやつだろ?
   協賛で陽炎と黒潮ん家のお菓子も出てたし。間宮さんも協力したって言うから、日本の甘味王が一堂に会した瞬間だったよな」

明石「かかった予算がすさまじいですよね。デザートの代金と、ドラマに出す権利だけでビルが一棟買えるくらいですから」

344: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:49:50.29 ID:0QsQOzUro

提督「すさまじいよなぁ。……――あ、明石さん。座布団とかってありますか? ちょっと使いたいんですけど」

明石「座布団ですか? もちろん用意してありますけど……珍しいですね。普段はあまり座布団とかクッション使わないのに」

提督「はは。ええ、まあ。なんだか今日は妙にすわり心地に違和感があるんですよね」

提督「普段からこの服に袖を通してるんですけど、今日に限って。……昨日一日中座ってたし、お尻に“おでき”でもできたのかな?」

夕立「……もー提督さん! ドーナッツ食べてるときにおしりの話なんてしないでほしいっぽい!」

睦月「そーです! 提督はそういうところ、デリカシーないんだからっ」

提督「おっと、悪いな。……あ、明石さんありがとうございます。助かります」

明石「いえいえ。――そろそろ、CM明けますね。三十秒後あたりで間宮ドーナツのCMが終わりますので、準備をお願いします」

提督「はいよ。オープニングトークもひと段落、かな。気合入れてやるぞおーっ!」

夕立「ふがーっ!」モグモグ

睦月「ふぐふぐっ!」モグモグ

吹雪「(もぐもぐ)」モゾモゾ

提督「…………お前らはまだ食ってていいぞ。間は繋いでおくからさ」


345: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:50:21.04 ID:0QsQOzUro


 提督『さてさてみなさん、さっきぶりです! ――ふふ、さっきぶりってなんだよ』

 提督『いま流れていたCM、お聴きになられたでしょうか? 我が鎮守府が誇る給糧艦、間宮さんの新作情報でした!』

 提督『間宮と言えば、みなさんも名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか?
    様々なドラマに出ているお菓子やスイーツ、あれらの半分くらいは間宮さんの実家が出しているお菓子なのです』

 提督『いま流れたのはドーナツのCMでしたか? もしそれで興味が湧いたなら、次回の観艦式、ぜひ提督鎮守府へ足をお運び下さい!』

 提督『観艦式にお越しいただいたゲストのみなさまには、間宮のスイーツパラダイスに参加できますからね!
    業界人も唸らせる間宮の実力。ぜひご堪能いただけたらな、と。僕はそう思っております』

 提督『ちょうど今ごろ、うちの食堂では間宮さんや鳳翔さんが、艦娘のみんなに甘味を振る舞っているころと思います』

 提督『娘が食べた基地(吉)の味、今日(凶)のみなさまに食べていただける日を、待ち遠しく感じています!』

 提督『きっと、忘れられない一日になる。――そう信じています』


 提督『――さて、宣伝もここまでといたしましょう。ふふ、広報のつらいところです』


 提督『大地の影が空に溶け、地上の星が真冬の花火を描きます今日のこの時間』

 提督「さあさあやってまいりましたがお待ちかね!』


 提督『――――宵闇照らす、一筋の軌跡』


 提督『“ちんじふ裏らじお”、はじまります!』

346: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:50:54.79 ID:0QsQOzUro

 提督『無事に始まりました“ちんじふ裏らじお”。本日これが三度目の放送となります』

 提督『ふふ、これで三度目ですよ!? いろいろハプニングが起こりすぎなんですよ。ちょっとだいじょうぶなんですかこの番組っ』

 提督『みなさんにおきましては、これが三日――いや、二日ぶりですかね。ちょっとしたお休みをいただいておりました』

 提督『お休みをいただいたとはいえ、色んなことがありすぎて……いまだ僕の頭の中では、除夜の鐘が鳴っております』

 提督『煩悩が入る隙間もありません。福男かな? あはは。ドーンッ!! みたいなね』


 提督『さてさて、そんなめでたき福男とともに走ってくれるのはこの三人!』

 提督『僕の左隣から順番に説明していきまっしょう!』

 提督『左から順番に、千葉、滋賀、佐賀さんでーす!!』

 夕立『みなさんこんばんは! 千葉だよ――って! てーとくさん!!』

 提督『だってお前千葉っぽい顔してんじゃん』

 夕立『どういうことなの……』

 睦月『その理屈で言うと、睦月ちゃんは佐賀なのかなぁ? ……なんだか、ムエタイやってそうなカンジぃ』

 吹雪『わたしなんて滋賀だよぉ。……シガリータ・フブキなり! えいえいっ』

347: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:52:42.85 ID:0QsQOzUro

 提督『あは、悪い悪い。――さ、今度はちゃあんと紹介していきたいと思います!』

 提督『一部のかたはつい昨日のことのように思い出せるのではないでしょうか』
 
 提督『特型一等駆逐艦、ネームシップを務めております。――吹雪先生です!』

 吹雪『みなさんっ、吹雪です! よ、よろしくお願いしますぅっ!』

 提督『元気があってたいへんよろしい。然る場所では主人公とも言われるこの吹雪。威風堂々といった雰囲気を醸しています』

 提督『――お次はこのかた。睦月型駆逐艦ネームシップ、睦月先生です!』

 睦月『みんなー! 睦月だよぉーっ! 準備はいいかにゃ~ん?』

 提督『心構えは十分といった佇まい。有名子役タレントとして、場数を踏んでいる彼女は違いますね。一部のパパさんママさんには熱狂的ファンもいるとのウワサ』

 提督『――そして三人目はこのかた! 白露型駆逐艦の四番艦、夕立先生っぽい!』

 夕立『ぽいィィィッッ!!』

 提督『うわっ! …………ハハ、いきなり気合の入ったシャウトから入りましたね。もう夜だぞ?』

 夕立『こんばんは! 白露型駆逐艦の夕立よ! みんな、よろしくっぽい!』

 提督『はい、元気いっぱい夢いっぱい。ぽいぽい響くは誰が嘆きか。――ソロモンの悪夢こと夕立先輩です」

 提督『みんな、怒らせると怖いぞ~?』

 夕立『こわくなーいよっ! 夕立ちゃんはいつでも優しいっぽい! てーとくさん、変なこと言わないよーに!』

 睦月『えぇ~? でも夕立ちゃん、睦月がこっそりお菓子食べちゃったときはもうスッゴかったよぉ~?』

 吹雪『あ……鎮守府が揺れてたもんね、声で。核かなにかが落ちてきたのかと思ったもん』

 吹雪『あの叫びだけで、れんぽ――連合艦隊の半数以上が壊滅しそうだったよねぇ』

 睦月『だよにぇ~』

 夕立『そんなことないっぽいぃ! もー、あんまりヘンなことばっかり言うと、パパたちが心配しちゃうっぽい!』


 提督『三人寄らばなんとやら。悖らず、恥じず、憾まず! の三人ですね。水雷魂が揃った瞬間でもあります』

 提督『この三人のなかに、いつもの僕を加えた四人――と、さらにもう一人。で、今日は放送していこうと思います』

 提督『夜のから騒ぎ然としたこの放送。みなさんにも完走していただけると幸いです』


348: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:54:01.65 ID:0QsQOzUro


 提督『知らない人のために、彼女らをご紹介――と、思いましたけれど。
    おそらく、この番組を聴取していただいているみなさまのお手元には、彼女らの資料がきっと置かれてあるのではないのでしょうか』

 提督『今宵の放送。新たな視聴者さまも多数いらっしゃるなかで、なぜ三人も。それもさらに、毛色の違う彼女たちなのは――』

 提督『実はですねえ、みなさんご存じでしょうか。おそらくご存じのことと思われますが――なんと!』

 提督『艦娘の日常が、アニメ化されることになったんです!』

 睦月『そうでーっす! 睦月たちをモチーフにしたアニメが始まることになりましたぁっ』

 夕立『ていっても、みんな知ってるっぽい? CGモーションの撮影現場に直接呼ばれた人もたくさんいたし……』

 吹雪『二人とも、これ放送だから! お父さんたちも聴いてるんだし、そっち向けだよ!』

 提督『この三人はなんとその主役! 実際に、“吹雪、夕立、睦月”という役で演じた三人なのです!
    決して第三回の放送だから、三の数字にちなんだ。というワケではありません!』

 提督『そしてそのアニメ。昨日がその先行試写会当日だったんですよ! この放送を聴いていただいているみなさまにも、何名か会場でご挨拶させていただきました』


龍鳳「――――そうだったんですか?」

榛名「はい。昨日は提督と“いつものように”、二人で街へ出かけました」

龍鳳「…………ああ、見ましたよ。公の場で、なにやらハレ  な行為に及んだと聞きました」

榛名「あら、ご存じだったのですね」

龍鳳「はい、風のウワサで。…………でも、提督も災難ですね。あのかたは、人前でそういった行為に及ぶこと。あまり好みませんから」

龍鳳「時間と場所を弁えた、誠実なお人です。やはりその相方は、相応の人間でなければ務まらないものと思います」

榛名「…………」

榛名「……あら、お褒めにあずかり光栄です。まさか龍鳳さんそのもののお口から、認めていただけるだなんて……感激です」

龍鳳「…………」

龍鳳「……認める? すみません、なにか勘違いをなさっていませんか?」

榛名「…………いいえ? 勘違いではないと、そう言い切れます」

龍鳳「…………へえ?」

榛名「たしかに提督は、あまり人前でくっつくのは喜びませんけれど――あくまでそれは、“榛名から”寄った場合です」

榛名「もし、昨日のように“提督から求められた”のならば、応えるのが榛名の役割ですから。――いえ、榛名の意思、ですけれど」

龍鳳「…………」


349: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:54:49.96 ID:0QsQOzUro

榛名「衆人環視の中なのにも関わらず、榛名の背後から、激しく――ああ。恥ずかしくも、満たされた瞬間でした」

榛名「まるで、こっ――行為中の男女の営みのように、夢中になって求められて……これ以上の悦び、ほかにありません」

龍鳳「………………」

榛名「それに、いま放送で流れたアニメの話だって。提督の強い要望で、榛名が冒頭を飾って――」

榛名「本来は出演する予定はなかったのですけど、“榛名がいなきゃ始まんないだろ”と。ああ、やはり榛名にとって、提督は――」

龍鳳「…………」

龍鳳「……知っていますか榛名さん。有名人がテレビで紹介する物件って、本当はオススメしたくないものなんですよ?」

榛名「…………はい?」

龍鳳「本当に好きな物件は。胸のうちに秘めて、しっとりと悦しみたいから」

龍鳳「たくさんの人の目に触れたら、ねぶるように視られて。手垢で埋めつくされて、ヨゴれてしまいますから――」

榛名「………………」


霧島「…………このお祭りムードのなか、あそこだけ温度が違うんですけど。魚群のなかに、一匹だけ深海魚が潜んでいるかのような――」

比叡「シッ! 見ちゃいけませんっ!!」

金剛「むかしはワタシもああだったんですネー……」ズズズ

陸奥「良かったわね。早めに踏ん切りがついて」


350: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:55:22.75 ID:0QsQOzUro

明石「あ、提督。そのままでいいから聞いていてくださいね」

明石「えと、マイク音源のオンオフボタンありますよね? その隣に、青色のボタンが増えていると思います」

提督「(ちらっ)」

明石「そちらのボタンを押していただけると、“ラジオを聴いている艦娘のナマの声”がこちらに届くようになっています。
   ただ、この“ナマの声”は、“ラジオ放送にも流れる”ようになっているので、ちょっと気をつけてくださいね」

明石「タイミングとしてはそう……お悩み相談のコーナーとかで、明らかにうちの艦娘からのお便りだなーって思ったら入れてください」

明石「そうすれば、この放送を聴いている家庭や大本営も満足いただけるのではないかな、と」

吹雪「(なにその技術……)」

夕立「(ただなんとなく……いまボタンを押したら、とんでもないことになりそうなのはわかったっぽい)」

明石「この放送の本来の目的は、あくまで“艦娘の日常”ですからね。あまり提督ばかりに偏るのもよくないですし……」

明石「お話は以上ですので、意識を戻していただいてけっこうです」

大淀「頃合いを見て、わたしも参加しますね。上手な誘導を期待しています」

提督「(まる)」


 提督『僕もその先行試写会、楽しんで見させていただきました。非常に丁寧なつくりになっていて、きっとみなさんも楽しめること請け合いです』

 提督『会場には、あのしばふ先生をはじめとした有名画家集団に、女優業でも知られる天城さん。
    それと有名モデラーのアドンさん、サムソンさん。前線で戦っている轟提督に、マスコットとしても知られている犬提督――』

 提督『各界の著名人が集まって、異様な熱気に包まれていました! どれだけこのアニメに期待が寄せられているか、ということですね』

 夕立『……その熱気って、もしかしたらアドンさんとサムソンさんが出してたものかもしれないっぽい』

 吹雪『あー…………』

 睦月『ナイと言い切れないのが、あの二人のスッゴいところだよぉ……』

 提督『…………たしかに』

 吹雪『あの二人のそばに生肉持っていったら焼けるからね。ジューシィに』

 睦月『蒸すんじゃなくって焼けちゃうんだぁ……』

 夕立『どういう現象なの……』

 提督『でもあの二人、あんなナリ――ナリっつっちゃったら悪いけど。あんなカッコで一国の王子だからな。驚きだわ』

351: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:57:03.38 ID:0QsQOzUro

筑摩「ん~~っ……すっごく甘くて、おいしいわねぇ……。こんな時間に甘いものなんて、ほっぺたが落ちそう――」ズルッ

利根「お、おおぉちちちち、ちくまっ! 頬どころかお面がまるごと剥がれかけておるぞ!!」

筑摩「――え? あら、本当。利根姉さん、ありがとうございます」スッ

利根「い、いや……。しかしいつ見ても、顔が剥がれる……というのは、見慣れぬものじゃな……」ドキドキ

足柄「あら。なーに? まだその罰ゲームやってたの?」

那智「お前が決めたんだろう、まったく……」

妙高「一日中、“妖精さんがつくった精巧なお面”をつけて生活する、なんて怖いわよね。蒸れてお肌に悪そう……」

那智「そもそもが、開発資材の無駄遣いだと思うがな」

羽黒「で、でも、足柄姉さんにしてはかなり良心的な罰ゲームですよね。裸踊りとかじゃなくって……」

足柄「なあに? 羽黒って裸踊りがシュミなの? ひくわー」

羽黒「ちっ、ちがっ!」


利根「しっかし、緻密なつくりのお面じゃな。これ本当に作りものなのか?」ペタペタ

筑摩「うふふ。姉さん…………あんまり触らないでください。顔が崩れてしまいますから……」

利根「――え?」

筑摩「ふふふ、姉さん…………これ、作りものじゃなくって――ほ、ん、と、うのお顔なのおおぉぉぉ~~っっ!!」ズルッ

利根「ひえええええ~~っ!!!」

筑摩「とおおおぉぉぉう!!」シュババ

利根「うわああぁぁっ! くんなぁー!!」ダダダ


摩耶「アッハッハッハッハ!! なにあれエクソシストみてぇ!!」

高雄「なにをやっているんだか……」

鳥海「じ、冗談だと思っていてもどきどきしますね…………」ドキドキ

352: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:58:03.15 ID:0QsQOzUro

熊野「…………なんだかどこかで、わたくしのアイデンティティが失われたような気がしますわ」

鈴谷「そーお? ――はむっ。んん~っ! おいひぃーっ!!」

三隈「これは……、うちの職人さんたちにも、まったく引けを取っていない味です」

最上「三隈をしてそう言わせるなんて。やっぱりあの二人って凄いんだね」

三隈「利根さんと筑摩さんですか?」

最上「そっちもある意味すごいけど。いま言ったのは、間宮さんと鳳翔さんのことかな」


瑞鶴「翔鶴姉ぇ~、おかわり取ってきてあげよっか?」

翔鶴「えっ、まだ食べるの? 瑞鶴、だいじょうぶ?」

瑞鶴「これぐらいへーきへーき! ……翔鶴姉ぇは、また今日も書いてるの、それ?

翔鶴「あ、これのこと?」サッ

瑞鶴「うん。こんなときくらいさ、日誌なんて書かなくってもいいんじゃない?」

瑞鶴「みんなワイワイ食べてるしさー、そういうのは寝る前に書いて、いまは目の前のおやつに集中しようよっ」

翔鶴「うーん、でも提督から“記録として残したいから”って頼まれてもいるし……」

翔鶴「もともと、このラジオ放送だって、わたしたちの生活を記録するために始めたものでしょう?」

翔鶴「だから今みたいに、みんながこうやって盛り上がってる……そんな様子こそ、書き記しておくべきじゃないかなぁって」

瑞鶴「翔鶴姉ぇはマジメだなぁ、もお……」

353: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:58:49.03 ID:0QsQOzUro

 提督『アドンさんとサムソンさんで思い出したけど。お前ら、撮影はどうだった?』

 提督『睦月はそれなりに慣れているから問題ないかもしれないが、吹雪と夕立ははじめての世界だろ。
    吹雪なんかはアガリ症だしさ、それで問題なんか起こしたり……。夕立は別の意味で問題起こしてそうだが』

 提督『テレビの裏側は見えないからさ。そこんとこ興味ある人も多いと思うんだが』

 睦月「あーたしかにぃ。睦月も最初は戸惑うコト多かったからにゃー……』

 睦月『にしし。吹雪ちゃんはどーだった?』

 吹雪『えっ、わたし!? え、えっとねー……。……ど、どうしよ、色んなことがあったのに、思い出そうとしたらなにも出てこないよぅ!』

 睦月『あは、あるよねぇ、それ』

 睦月『それじゃ夕立ちゃんはどーだったの? 夕立ちゃんはなんだかんだ、最後のほうには適応してきたケド』

 夕立『はいはーい! 夕立はねー……。んにゅぅ――あ、そうそう!』

 夕立『天城さんがね、撮影の合間合間に持ってきてくれたお菓子が、とーってもおいしかったっぽい!』


 夕立『わふー? っていうのかなぁ? 色のついた餡子で、綺麗な形のお菓子! すーっごく甘いのです!』

 吹雪『ああ、あれキレイだったよね~! ガラス細工みたいでさ、なんだか食べるのがもったいなくって……』

 夕立『わふーっ!』

 提督『お、おう。……お前、さっきまでドーナツ食ってたのに、さらにお菓子の話するか』

 睦月「アハ。ある意味夕立ちゃんらしいと言えばそうかもぉ……』

 夕立『だって美味しかったんだもーん! こっちだとあんまり見ないお菓子だったから、持って帰ろうか悩んじゃったくらい……』

 夕立『色とりどりで鮮やかで、見た目もすっごく楽しくって……』

 提督『――ってぇ言うと……煉切(ねりきり)かな? 春霞とか、乙女椿とかそのへんだろう』

 夕立『はる……? つばき?』

 提督『ん、ああ、悪い悪い。そのお菓子の種類……かな?
    ピンクのお花の形のやつとか、オレンジ色の葉っぱで包んだみたいな形のやつがあったろ?』

 夕立『えーっと……――おおお!! たしかにあったっぽい!! てーとくさん、すごいすごいっ』

 吹雪『……たしかにそんなものが多かった気がします』

 睦月『あー、たしかにぃ! ちょっと弾力があって、噛むとぷちゅってなるお饅頭だよね?』

 提督『うんうん』

354: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 00:59:36.37 ID:0QsQOzUro

 提督『さっきさ、天城さんが持ってきてくれたって言ったろ?』

 提督『たぶんそれな、陽炎ん家のお菓子だわ。“舞鶴陽炎総本舗”って聞いたことないか?』

 睦月『あっ聞いたことあります! アニメのスポンサーリストにも載ってましたよねっ』

 吹雪『あ……たしかにわたしも、テレビとかで観たことあるかも。グルメリポーターの人とかがやってる番組とかで……』

 提督『そうそう。あそこ練り物がすっげぇウマくってな。その分野だと割とかなり歴史の深いお店だぞ』


朝潮「……それは初めて聞きました。そうだったんですか?」

陽炎「ん、なにが?」

朝潮「いえ、陽炎さんの実家が、あの陽炎総本舗というのは……」

陽炎「あ、ああー…………」

黒潮「うん、せやで。だから陽炎なんかは、地元やとお嬢お嬢言われとったんよ」

大潮「お、おおー。そうだったんですか! ……なんだか普段の陽炎さんを見てると、そんな感じは全然しないのにっ」

満潮「こーら。その言い方は陽炎に失礼でしょ」

霞「……陽炎には悪いけど、たしかにそうね。あんまり“お嬢様”って感じには見えないわ」

霞「そもそも、歴史ある店舗の跡継ぎが艦娘なんかやってるのも意外だし。なんでやってるのさ」

陽炎「あ、あはは…………」

不知火「……そういった家庭の子でも、艦娘になっている人はたくさんいますよ。
    赤城さんも、父親が世界規模で有名な画家だったり、母親が有名老舗旅館の支配人をやっていますし」

不知火「あちらで空皿を回収している鳳翔さんも、実家は横浜の高級料亭ですし。そう珍しい話でもないかと」

黒潮「そ。だからそんな家庭の娘が艦娘やっとっても、なんらおかしくないってこと!」

霞「……言われてみれば。ちょっと偏見だったかしら? 悪かったわね陽炎」

陽炎「い、いや、だいじょうぶよぉお~?」

霞「…………なんで上ずってんのよ」

355: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:00:44.45 ID:0QsQOzUro

 提督『でもそのぶん、陽炎が家出して鎮守府に本格所属したときはヤバかったな。
    もともと見学に来てたくらいのときでも圧力かかってたのに、家出してきて開口一番“艦娘になります!”だったもんよ』

 提督『幼馴染の黒潮と、まさかの不知火も、おんなじバカ言ってたしなぁ……』

 吹雪『え――ええっ! 陽炎ちゃん、家出して艦娘になったんですか!?』

 夕立『駆け落ちってやつっぽい!?』

 睦月『それはちょっと、違うような気もするにゃーん……』

 提督『俺はどうかと思ったよ? だって陽炎みたいな権力ある家の子がさ、当時シケた鎮守府だったここに来たりなんかしたら……』

 提督『もうどうにかなっちゃうと思ったもん。……いや、陽炎じゃなくて、この鎮守府がね。
    物理的にペシャるんじゃないかって、毎日怯えながら仕事してたんだからな』


霞「あ…………あんた、家出少女だったの?」

満潮「え、それってホントにヤバくない? 艦娘って、保護者がいた場合、許可とってないといろいろ問題があったんじゃ……」

大潮「あー、どおりで様子が変だと思ったぁ。放送初日も、なんかおかしかったもんね」

陽炎「う…………うん」

不知火「そこはご心配なく。当時、叔父元帥さんが内密に処理してくれたようですから」

霞「あ、そうなの? じゃあ今すぐに憲兵団が突っ込んでくることもないわけね」


356: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:01:22.23 ID:0QsQOzUro

 吹雪『ああ。そういえば昔、家出少女絡みで問題になった鎮守府がありましたね』

 吹雪『公式に届出を出さずに艦娘用訓練を受けさせて、艦娘に仕立てあげたことで摘発されたって聞いたことが……』

 夕立『あっ、それニュースで見たことあるっぽい』

 睦月『それ芸能界でもウワサになってたにゃー。身寄りのない人間を好きにするなんて、どこの業界も変わらないなって話をしてた、かにゃぁ』

 睦月『保護者の存在が見えない児童は、独り身の大人と合わせて“感動の再会”ドキュメンタリーを捏造したりなんかとか――』

 提督『ちょ待って、それ言っちゃヤバいやつじゃない?』

 睦月『あっ――えっと、…………にゃはっ?』

 提督『笑ってごまかさない!』


 夕立『えぇ……アレって作り話だったっぽいぃ……? 夕立もう次からゼッタイ泣けないしぃ……』

 吹雪『うわぁ、そういう番組の裏話とか聞きたくなかった……』

 睦月『だ、だいじょうぶだよぉっ! 何割かは本当のコトだしぃ……』


357: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:06:52.12 ID:0QsQOzUro

 提督『…………ちなみにその“何割”。いくつぐらいなんだ』

 夕立『……さすがに八割くらいはホンモノっぽい? 二割もウソなんて信じられないけど……』

 吹雪『いや……六割くらいでしょ? お涙頂戴番組って、なんかウソくさい雰囲気あるし……』

 睦月『そ、そんなコトないよぉ~。仮にも番組作りのプロばっかりなんだからっ!』

 夕立『……よぉく考えてみたら、たしかによそよそしい雰囲気の親子ばっかりだったっぽぃぃ~……』

 吹雪『感動の再会なのに、抱き合う手に力が入ってないんだよねぇ。微妙に身体浮いてたりしたし……』

 提督『…………で、肝心のところは何割なんだ。何割が本当の親子だったんだ?』

 睦月『…………』

 睦月『え、本当のこと言っちゃっても大丈夫なんですか? これ(マイク)、入ってますよね?』

 提督『構わん。むしろここで切った方が生殺しだ』

 夕立『じゃあ吹雪ちゃんと間を取って七割! これなら勝てるっぽい!』

 吹雪『えぇ……七割もないでしょぉ……』

 睦月『ほ……ほら提督? 吹雪ちゃんも、あんまりいい気じゃないみたいですしぃ……』

 提督『いいから』

 睦月『い、いいからじゃなくってぇ! ほら吹雪ちゃん! 吹雪ちゃんだって、これ以上聞きたくないよねっ!?』

 吹雪『…………もうこの際だから、ぜんぶ聞きたい。わたし、一緒にたたかうっ!!』

 夕立『おお、名ゼリフっぽい』

 睦月『なんでそこだけ気合十分なのにゃ~~っ!!』


 提督『吹雪もこう言っているではないか……。言え』

 睦月『で、でも、ほかの業界に影響を与えるようなこと言うと、提督もこの放送も、ヤバいんじゃ――』

 提督『関係ない。行け』

 睦月『は、はいィィィっ!』


 睦月『…………え、ええっとね? 睦月も、あんまり詳しくはないんだけど』

 睦月『毎週やってる番組のプロデューサーが話してるところを聞いただけだから、本当かどうかはわからないよぅ?』

 提督『もったいぶらなくても、さあ! 来い!』

 睦月『え、えっと…………』



 睦月『…………さ――三割ない、くらいかにゃー?』

 吹雪『半分ですらなかった!?』

 夕立『もおおおおおぉぉぉ~~っ!! もうこれからゼッタイ泣けないじゃんかぁぁっ!!』

 提督『うわぁ……俺もときどき観てたのに……』

 睦月『む、むつきわるくないもーんっ!』


358: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:07:25.51 ID:0QsQOzUro

 提督『……ちなみにそのさ、“ウソ同士”で固められた親子は番組終了後どうなんの? そのまま解散?』

 提督『オツカレっしたーみたいな感じになんの? 教えて睦月先生ねえ教えて』

 睦月『ちょっ近っ――え、ええっとですね?』

 睦月『番組としてウソがバレるとよくないからって、放送前に戸籍の証明書に書いて、いちおう申請を出しておくんです』

 提督『あ、いちおう形式上は家族になってんだ』

 吹雪『うわぁ、コッスい……』

 睦月『でも、番組が終わったら必要なくなるからぁ……取り消しの申請を送って、はいサヨナラみたいな……?』

 提督『ひでぇな!?』

 吹雪『一時間ファミリー……』

 夕立『インスタント家族計画っぽいぃ……』

 睦月『というより、申請出してすぐに取り止めるわけだから、家族にすらなってないかなぁ。ファミリーカッコカリってとこかにゃー?』

 提督『やかましいわ』

 吹雪『ああ、睦月ちゃんがどんどんおかしく……』

 夕立『芸能界の闇は深いっぽい。こんな睦月に誰がした!』

 睦月『むしろ感動の再会どころか、家族になって即お別れなので、“勘当の再開”といったところですねっ!』

 吹雪『ブラックジョークすぎる!!』

 提督『ちょもう黙って! 明石さんマイク切ってぇっ!!』


 『――――』ドタバタ

359: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:08:38.28 ID:0QsQOzUro
 

 『――――』ドタバタ


摩耶「あの放送いっつも事故ってんな」

青葉「メディアの裏側、そんなに闇が深かったなんて……青葉も、もっともっと頑張らないと!」

衣笠「いや、それはやめて。ちょっと煤けたままの青葉でいて」


木曾「…………あいつ、大丈夫なのか? 今日寝て起きたら、口封じに消されてるとかないよな?」

北上「いやぁ、だいじょーぶでしょー。これくらいならへーきへーき」

大井「そうね。それにあの人なら、刺客にヤられたところで問題ないはずよ。地面に植えて水でも撒いてれば勝手に生えてきます」

木曾「……あいつは作物かなにか?」

球磨「似たようなものクマ」パクパク

多摩「おいしーニャ」モグモグ


千歳「あら? 二人は知ってたみたいな顔してるじゃない。いまの話、興味なかった?」

龍驤「メディアはウチらも切っては離せん関係やしなー。腹ン中探るには興味深い話やったと思うけど」

隼鷹「ん? んー……まあ、メディアの人間が横柄なのは今に始まったことじゃないしねぇ」

飛鷹「ええ。どうしても自分本位で考えがちな人たちだから……。
   視聴者の需要は調べるくせに、放送内容は自分本位っていうのがオカシイ話だけどね」

千歳「ああ、そういや元商船……」

隼鷹「そーいうコト」


日向「瑞鳳、隣いいかな?」

瑞鳳「ひゃっ、日向さんっ!?」ビクッ

日向「やあ、今日は寒いな。もっとも、これだけの人口密度ならば暖房要らず、だが」ストン

夕張「ええ、そうですねぇ。ずっとこれくらいの気候が続けばいいんですけど」

瑞鳳「ゆ…………夕張さんも? い、いつの間に?」ビクッ

夕張「ひどいですねぇ。わたしはずーっとここに座ってましたよ?」

瑞鳳「え、え、え、え。でも、さっきは軽巡の人たちと一緒にいた気が……?」

夕張「イヤですねぇ。阿武隈ちゃんじゃないんだから、見間違いなんてしないでくださいよ」

瑞鳳「え、え、えぇ……?」

夕張「わたしは、最初から、ずっと、ここに、いました。ね、日向先生」

日向「ああ、そうだな。――瑞鳳よ、ちょっとばかり、疲れが溜まっているのではないか?」

日向「どれ、ここはひとつわたしがマッサージしてやろう。直々にな……」

瑞鳳「ひぃっ! いいいいえ、大丈夫ですけっこうです間に合ってます!」

瑞鳳「わ、わたしちょっと、どーなっつを取ってくるから、またあとでねっ」ピュッ


夕張「…………」

日向「…………追うぞ」

夕張「……ええ。瑞鳳さんの後方にわたしの座標を“つけて”おきます。いざとなったら座標移動しますから、そのつもりで」

日向「その折には期待している」

夕張「いえいえ。――蒼き、広大なる大空のために」

日向「蒼き広大なる大空のために」


360: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:09:28.27 ID:0QsQOzUro


 提督『もうさっきから全然艦娘の話してねえじゃんよぉ……』

 睦月『提督がそう誘導するからだにゃー……』

 吹雪『あ、あはは……』

 提督『あ、吹雪復活してたのか。考え事みたいだったが、解決したのか?』

 吹雪『解決したってワケじゃないんですけど、あんまり考えててもどうしようもないかなって。
    この放送が終わったあとにでも解決しようかなって、そう考えてます』

 提督『そうか。それなら俺も手を貸すから、吹雪の指示通りに動こう』

 吹雪『ぃえっ!? い、いえ、大丈夫です! わたし個人の問題ですから、司令官はお気になさらず!』


大淀「(……ちょっと、本筋から逸れすぎじゃないかしら? 軌道修正したほうがいいかもしれないわね)」

明石「(そう、ですね)」

明石「提督、そろそろ艦娘の話題に戻ってください!」

提督「あ、了解です。すみませんね、長々と無駄話しちゃって……」マイクオフ


 夕立『それより大淀さんは、いつ喋るっぽい? 夕立、ずぅっと待ってるんだけど』

 吹雪『あっちょっと夕立ちゃん! マイク入ったままだよっ!』

 夕立『あっ』


提督「…………大淀さん、ちょっと早いけど出番のようですよ」

大淀「うわぁ、よりにもよって一番難しいタイミングで……」

明石「こうなった以上しかたないです! 大淀、お願いね」

大淀「了解。まあ、こういうのには慣れているし、ね」


361: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:10:41.11 ID:0QsQOzUro

 提督『アハハ……本当はもうちょっと後に登場する予定だったんだけどな。でも、こうなった以上紹介しちゃいますっ』

 提督『本日お呼び立てしている、四人目のゲスト! 鎮守府の台所番、兼、通信担当の大淀先生ですっ!』

 大淀『――みなさんこんばんは。大淀型二等軽巡洋艦、大淀と申します。
    当番組の司会進行アシスタントとして招かれました。ぜひとも、よろしくお願いします』

 吹雪『はい、よろしくお願いします!』

 睦月『よっろしくぅーっ!』

 提督『はは、大淀さんカタいカタい。もっと軽い感じの放送なんですから、フランクにいきましょう!』

 提督『公の場とはいえ、あくまで内輪。対外的なことは考えずいきましょう!』


提督「(――つっても、電波は電波。そこそこ重要度が高い情報は、漏らさないっていうのは――)」

大淀「(ぱちっ)」ウィンク

提督「(……問題ないみたいだな)」

提督「(というか今のウィンク、ずいぶんキマってたなぁ。いつも練習とかしてるんだろうか)」

大淀「(…………慣れないことはするものじゃないですね)」カァァ

提督「(……自分でやっといて照れないでくださいよ)」

夕立「ぅ?」


 大淀『…………あら、そうでしたか。ではお言葉に甘えさせていただきますね』

 夕立『大淀さん、ごめんなさいっぽいぃ……』

 大淀『いいんですよ夕立ちゃん。どちらにせよ、収拾がつかなくなってきたみたいだし、むしろちょうどよかったです』

 大淀『みなさんとは“長い付き合い”ですから。あんまり遠慮しないでくださいねっ』チラッ

 提督『――――! ……そうだな、遠慮することもないだろう』

 提督『考えてみれば、ここに集まっているメンバーはかなり初期からの付き合いだなぁ』

 提督『大淀さんと吹雪に関しては自分よりも先輩だし、夕立と睦月は……たしか、俺が提督になったのとほぼ同じタイミングで、うちに所属したんだっけ?』

 大淀『そうですね。たしか……わたしと吹雪ちゃんが、そんなに離れてないんでしたっけ』

 大淀『さきにわたしが叔父元帥さんの補佐艦として配属されて、ちょっとしてから吹雪ちゃんが来たんですよね』

 吹雪『あ、そうだったんですか? 大淀さん手馴れてるみたいだったから、もっと昔からいるものかと……』

 大淀『ふふ、あれは新しく配属された艦娘に対して、焦りを見せないよう、気丈に振る舞っていただけですよ』
 
 大淀『はじめて所属した鎮守府の人間があたふたしていたら、第一印象から不安になるでしょう?』

 吹雪『……たしかにそうかも、です。あのときは期待と不安が入り混じってたから……』

 夕立『おぉ~、そんなコトまで考えてたなんて!』

362: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:11:41.34 ID:0QsQOzUro

 睦月『…………そういう意味では、睦月の第一印象は最悪だったなぁ。まるでストーカーみたいだったもん』

 提督『おいおい、そこまで言うこたぁねーだろうよ』

 吹雪『司令官さんと睦月ちゃんも、変わったエピソードがあるんですか?』

 夕立『夕立も気になるっぽい! 睦月ちゃんとは同期だもんね~』

 提督『変わった、っていうか…………なぁ?』

 睦月「う、ううーん…………』

 大淀『…………睦月ちゃんは、提督がスカウトして艦娘になったんですよね。民間からのヘッドハンティングなんて、普通はしないことですけれど……』

 大淀『睦月ちゃんはたしか、艦娘になる前は俳優として活躍していたんですよね。
    そこから艦娘になるだなんて、ずいぶん思い切った決断をしたものです。どうして、艦娘という道を選んだのですか?』チラッ


提督「(うわっ、大淀さんもうまいなー。さすが、なんでもこなすってカンジだ)」

明石「(マルチな才能を持っていますからねぇ。最初は大淀にMCを任せるのもアリかと思ったんですけど……)」

吹雪「(ですけど?)」

明石「(……あの子真面目ですから、お通夜みたいになりそうで)」

提督「(お通夜って)」

363: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:12:35.85 ID:0QsQOzUro

 睦月『うーん、決断って言うほどじゃなかったんだけどねぇ~……』

 睦月『えーっと。順番に話していくね? 最初に提督と会ったのは、CM撮影の日だったかにゃぁ』

 睦月『あの、スポーツドリンクのCMってあるじゃないですかぁ? スポーツ選手のカッコしてなりきるっていうか、なんと言えばいいかにゃーん……』

 提督『あー。サッカー選手のPK風に、一対一でゴールをキメて――』

 提督『――“流れる汗。みなぎるパワー!”――ゴクッ。……みたいな、CMの最後にキャッチフレーズ入れたりする、アレか?』

 大淀『ああ、ありますね』

 夕立『スポーツ選手とかがやってるやつだよねっ! カッコいいやつっ』

 睦月『そそそっ! 睦月、そんな感じのCMに出演する予定でねぇ?
    それで、そのCMの内容が、“艦娘が海上を優雅に駆け回り、颯爽と敵を倒していく”って内容だったのにゃーん』


 睦月『睦月、そのときはまだ艦娘じゃなかったから、氷を張った上でハリボテ背負ってそれっぽく動くだけだったけどぉ……』

 大淀『CG加工とかありますもんね。よく出来ていたと思いますよ』

 吹雪『――あっ!! みたことありますそれっ!! わっ、スゴい! あれ睦月ちゃんだったんだ!!』

 吹雪『えっえっスゴい!! 月九ドラマの合間合間とかに流れてたコマーシャルだよね!? えっ、本当!? ウソじゃない!?』

 睦月『えっ、え、うん! ホントだけどぉ……?』

 吹雪『わわわわっ、スゴい!! わたしアレ観て、艦娘ってこんなにカッコいいんだーって!! すごっ、すごい!! 睦月ちゃんだったんだぁ!!』

 吹雪『た、たしかに思い出してみれば睦月ちゃんみたいな見た目だったかも! すごいすごいすごーいっ!!』ギュ

 睦月『ふ、ふぶきちゃ、はなれ、て……くるし…………』ギュウウ

 夕立『吹雪ちゃんっ、睦月ちゃんがオチちゃうからっ』

 提督『はは。まさかのファンだったみたいだなぁ』

 大淀『あの夜の時間帯は楽しいドラマが多いですからねぇ。わたしも事務作業を進めながらよく流していましたし』


明石「(ぷるぷるぷるぷる)」

提督「(あっ、明石さんも興奮してる)」

明石「(い、いま、曇ってた記憶がようやく晴れました! 昔やってた朝ドラの子役、睦月ちゃんだったんですねっ!)」

明石「(あのドラマずっと観てたんですよぉ! あとでサインもらわなくっちゃ! すごいぃぃ~~っ!!)」

大淀「(ここにも熱狂的ファンがもう一名…………)」

提督「(自分はあまり朝ドラは観ませんでしたから、よく知らなかったんですけど。そんなにすごいんですか?)」

明石「(スゴいなんてもんじゃないですよっ! 朝のあの時間から、視聴率三十を超えたドラマなんてそうそうないんですからっ!)」

明石「(夜ならともかく朝ですよ!? これはもうドラマ界に震撼を巻き起こしたと言っても――)」

大淀「(はいはい、あんまり騒ぐと聞こえちゃうから。話ならあとで聞いてあげます)」

夕立「(あー。だから撮影現場のみんな、睦月ちゃんだけうやうやしく扱ってたんだね)」

提督「(よくわかんないけど、とにかくすごいのは理解しました)」


364: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:13:47.97 ID:0QsQOzUro


 睦月『――――ふはぁっ! ……それでね、えっとぉ……』

 睦月『そのCMの撮影、提督も監修で見に来てたんだぁ』

 提督『そうだな。本当は叔父元帥どのが向かう予定だったんだが、急な都合で、副官だった俺がな』

 大淀『ありましたねそんなこと。どんな服を着て行けばいいのか相談を受けた記憶があります』

 大淀『最終的にはスーツで落ち着きましたけど、タキシードとかウェディングドレスとか言い出して大変だったんですから』

 提督『い、いいでしょう今その話は!』


龍鳳「――――ウェディング、ドレス?」


伊勢「なんか反応し始めたわよ、あっちのほう」

長門「目を合わせるな」

陸奥「精神をやられるわよ」

霧島「“くねくね”かなにか?」


榛名「…………龍鳳さんは、ウェディングドレスをご所望ですか?」

龍鳳「……ええ、まあ。ウェディングドレスに身を包むというのは、女の子のひとつの夢でもありますから」

龍鳳「――でも、それがなにか?」

榛名「いえ。…………そうですか。その際には惜しみなく参列しますので、ぜひ呼んでくださいね」

龍鳳「…………」

龍鳳「はい、それはもちろんです。――でも、意外ですね? てっきり、もっと張り合ってくるものかと思っていましたけれど」

榛名「……張り合う? なぜでしょうか?」

龍鳳「え、なぜって……。――ふふ。まぁ、応援してくださるならなんでも。身を引いてくださるというのなら、これ以上はありませんから」

榛名「…………はい。“ウェディングドレス”を着たいというのなら、榛名に止める理由はありませんから」

龍鳳「…………」

龍鳳「……なんだか、ずいぶん含みのある言い方をするじゃないですか」

榛名「…………いえ、そのような」


365: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:14:54.59 ID:0QsQOzUro

榛名「ただ。龍鳳さんは以前、金剛大社で式を挙げたい――と、そうおっしゃっていましたよね」

龍鳳「…………はい、そうですけど。それが、なにか?」

榛名「いえ。――金剛大社で挙げられる挙式の中には、キリスト教式が含まれていません」

榛名「それはもちろん、教会ではなく神社ですからね。当然のことと言えば当然のことです」

榛名「神社で行う結婚式は、主に神前式です。まあ、神社の式はそうでなければならない、というわけではありませんが……」


龍鳳「…………すみません。話が見えませんので、もうちょっと砕いてお願いします」

榛名「わかりました。――つまり、金剛大社ではキリスト教式の結婚式は挙げられませんから、ウェディングドレスは着られません」

龍鳳「……――え?」

榛名「ウェディングドレスを着たいというのなら、チャペルや教会で。……金剛大社で着られるものは、白無垢だけです」

榛名「ドレスを着たいというのなら、金剛大社以外で。ということになります」

龍鳳「…………」


榛名「…………提督も、むかし。結婚式を挙げるならここ(金剛大社)がいいな、と。そうおっしゃっていました」

榛名「提督も榛名も、金剛大社で、式場設営のお手伝いをしていたことがありますからね」

榛名「龍鳳さんが、提督ではなく――よその男性のかたと、教会で挙式されるというのならば、榛名に張り合う理由なんて、ありません」

龍鳳「………………」

榛名「もちろん榛名は、式を挙げるならどこでも構いません。提督のお好きなように、提督の思うがままま――」

榛名「榛名にとって、それが一番のしあわせですから」

榛名「どうぞ龍鳳さんは、“どこかの男性とご一緒に”ブーケを投げてくださいね。榛名は、“提督と一緒に”祝福させていただきますから」

龍鳳「………………」

榛名「ふふ」



叢雲「(ずいぶん気が立っているわね。あそこ)」

卯月「(うしししっ、下着がなくなって焦ってるはずっぴょん!)」

叢雲「(でもアナタ、本当にそれで苛立っているとしたら……原因があなただと知れば、挽き肉にされるかもしれないわよ)」

卯月「(…………)」

卯月「(む、むーちゃんと二人だから、はんぶんこ! それならだいじょうぶっぴょん!)」

叢雲「(…………わたしは直接手を貸したわけじゃなくって、その場に居合わせただけだから。しらないわ)」

卯月「(突然の裏切りっ!?)」

叢雲「(さよなら。ミンチうーぴょん)」

366: ◆oMS.oR7QexOG 2015/01/31(土) 01:15:37.57 ID:0QsQOzUro


大淀「(睦月ちゃん、あんまり長くなるとあとのほうに影響出るから、できるだけ端折ってお願いね)」

睦月「(あ、わっかりましたっ)」

提督「(たくさんいると、時間の調整が難しいな……これからの課題、ですかね)」

明石「(詳しい話は、つぎに招待されたときにお話しできるといいですね)」


 睦月『えぇっと、撮影を見にきた提督が、そこで艦娘になってみないかって誘ってくれたんだにゃ~んっ』

 睦月『睦月、俳優も楽しくって、みんなからもすっごく反対されたんだけどぉ……』

 睦月『いまじゃ、なってよかったって思うっ! すっごく充実してるし、心まで満たされてるような……そんな感じかにゃーんっ』

 提督『それは本当に良かった。世界に羽ばたく女優の芽を摘んじゃったんじゃないかって、ちょっと心配してたんだ』

 大淀『実際、ファンの方からのお手紙が凄かったですからね。艦娘をやりながら、一部メディアにも出演するということで手を打ってくれたようでしたが』

 大淀『さすがに連続ドラマなどへの出演は難しいですからね。大本営が関わっているものなら、援助を受けられるのですが……』

 提督『それが今回の“艦これ”アニメ、ですもんね』


 夕立『む…………てーとくさんたち、さっきから難しい話ばっかしすぎっぽい~……』

 吹雪『ああっ! 夕立ちゃんが目を回してますっ!』

 提督『あは、悪かったな夕立。――ちょっと、ラジオ放送らしからぬ感じになってきちゃったから、そろそろ戻ろうか』

 吹雪『了解しましたっ』

 夕立『まーってましたぁ! もう座りっぱなしでお尻が……』

 睦月『にゃは。ごめんにゃ~?』


 提督『――それでは最初のコーナー! 入っていきまっしょう!』サッ

 吹雪『フリーのおてが――』


 夕立『フリーのお手紙しょーかあああいっ!! わふーっ!!』


 吹雪『…………』

 睦月『あはっ、…………くすくす』

 吹雪『みないでぇっ!』