【コマーシャル①】



378: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:44:22.04 ID:32C4IS8oo



かんたいこれくしょん! かんこれ! はじまりま――――

 ぴっ

じゃーぱねっとじゃーぱねっと~ ゆめのじゃぱねっとちよだぁ…………

 ぴっ

まほうしょうじょ、やはぎちゃん! ふらせんだっていちころよ!

 ぴっ

まいんくらふとだと? このかんたいのびっぐせぶんが――――

 ぴっ

MoneyさえあればCan do anythingと思ったらBig mistakeネー! Look at MEEEEEEEAAAAAAHHHHH!!

 ぴっ



379: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:46:01.58 ID:32C4IS8oo

 ぴっ

熊野「…………はぁ。年末年始のこの季節…………同じような番組ばかりでイヤになってしまいますわ」

鈴谷「そだネー。どの番組も赤・白・金! おんなじような色合いだから見ててつまんなーい」ポイッ

三隈「――――あ、お二人とも。テレビのほうご覧になられないのなら、三隈が自由にしてもよいでしょうか?」

鈴谷「ん? んー…………」スッ

三隈「ありがとうございます。ええと、たしか…………」ピッピッピッ

最上「珍しいね。三隈がリモコン弄る姿、久しぶりに見たかも」

熊野「残念ながら、三隈さんが期待するような番組はないと思いますわよ。どこを観てもお下品な芸人ばーっかりで…………」


三隈「実はわたし、明石さんが新しい電波を受信するようにしたと耳にしまして…………」ピッピ

三隈「特別な手順を踏まないと見ることのできないよう、保護をかけているそうなんです。
   もしかすると、場末の宿泊施設でしか見られないような、いかがわしい映像が見られるかも…………!」ギエピッピ

熊野「い、いかがわっ…………」

最上「またくだらないことを…………」

鈴谷「くまりんこって、そーいう俗なことには全力を傾けるよねぇ…………」

三隈「なにを言いますか! この停滞した季節のなかで、ひとすじの煌めきを見つけ出すことは――」ピッピ


 『ざ――――ざざ――――ざざざ』


三隈「あっ、映りましたよ!」

最上「どーせくだらないことだろうけど。三隈が信じたひとすじの煌めきとやら、みてあげるよ…………」ムクリ

鈴谷「えーこの状態だとこたつが邪魔で見えないんだけどぉ~! くまのん起こしてぇぇ~~…………」

熊野「自分で起きなさいっ」

三隈「みなさんお静かに。映像が安定してきました…………」



――――

――

380: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:46:32.83 ID:32C4IS8oo

 【面倒くさい榛名に愛されて夜も眠れない】

381: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:47:55.76 ID:32C4IS8oo





「提督くんっ、今日の放課後なんだけど、また…………」

提督「ああ、図書室で勉強会か?」

「うん。今日もわたしが担当だから、裏でお勉強教えてほしいなって…………」

提督「おーいいよ。でも最近ずっと裏で勉強会してるけど、ちゃんと図書委員の仕事しなさいよ」

「い、いいのべつに。どうせみんな勝手に図書カードにハンコ押して借りてくし」

提督「悪い子だねえ。…………そんでさ、今日も俺一人だけの方が良いか? 榛名とか、俺よりもっと勉強できる人を呼んだほうが――」

「い、いい、いいっ! 受付裏の部屋もそんなに広くないし、たくさんいると緊張するしっ!」

「今日もできれば、その、提督くんだけがいいかなあ、って…………」

提督「ふうん。わかった、それじゃ榛名には先に帰ってもらうように伝えておくか。そんで、例のごとく?」

「う、うん。できればその、わたしのことはその、榛名さんには秘密に…………」

提督「変なこと秘密にすんだねぇ。ぴ、ぴ、ぴっと」

382: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:48:32.03 ID:32C4IS8oo

 ぴりりり

榛名「(メール? 提督から、ですか)」

榛名「…………」

榛名「(しゅん)」

榛名「(きょうも、ですか…………)」


383: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:48:58.70 ID:32C4IS8oo



提督「あ、翔鶴さん! 教職員と全校生徒からのアンケート、収集してまとめておきましたのでチェックお願いします!」

翔鶴「あら、もうなの? ずいぶん手際が良いのね。えらいえらい」ナデナデ

提督「ちょっ…………撫でないでくださいよ! ここ廊下ですよっ」

翔鶴「かーんけーいなーいのっ。いつもありがとうございます」ナデナデ

提督「むぐぐ」

榛名「…………」コソッ



384: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:49:38.19 ID:32C4IS8oo



提督「翔鶴さん、ちょっといいですか?」

翔鶴「ん、なあに? ――あ、ごめんねみんな。先行っててくれる?」

「おっ、そちらがウワサのカレですかぁ?」 「へぇ、二年生? 翔鶴ちゃんも意外とやることやってんのね」

翔鶴「ちーがーいーまーすっ! ほらほら、移動教室なんだからさっさと行く!」

「はいはーい」 「翔鶴ちゃんも遅れないようにね」 「遅れたら不純異性交遊でチクるからね!」

翔鶴「不純じゃありません!」

提督「………………お邪魔でしたか?」

翔鶴「ううん、ごめんね。……それで、なにかご用ですか?」

提督「はい。昨晩のメール内容に関してなんですけど、やっぱりこっちの方が良いんじゃないかなあって思って…………」

翔鶴「あら…………大丈夫なの?」

提督「はい。それとなーく聞いてみたんですけど、なんとなーく雰囲気的にこっちの方が良さげかなって」

翔鶴「ふふ、なんとなーくって! …………わかりました。ではこちらもそれで当たってみますね」

提督「はい、お世話をかけますが」

翔鶴「いいんですよ。わたしも協力するって言った以上、全力で当たらせていただきますから」

翔鶴「提督くんは余計なことは気にしなくていーの。心配しぃなんだから」ナデリ

提督「むぐぐぐ」


榛名「…………」コソコソ



385: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:50:12.11 ID:32C4IS8oo



榛名「(さいきん、提督と一緒の時間が少ない気がして、ちょっと寂しいです…………)」

榛名「(でも、提督もお忙しいみたいですし、榛名なんかにお時間を割いていただくわけにも…………)」

榛名「………………」

榛名「(…………翔鶴さんや、そのほかの子たちとの時間が、榛名との時間より大切ということ、でしょうか)」


榛名「(――――それ、って)」


榛名「(それって)」


榛名「………………」

榛名「(…………考えすぎ、でしょうか)」



386: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:51:25.66 ID:32C4IS8oo



 きーんこーんかーんこーん

キリーツ レイ アリガトウゴザイマシター

榛名「あの、提督っ! 放課後なんですけど、ちょっとお時間よろしいですかっ」

提督「ん、榛名か…………悪いけど、これから用事があってな。すぐに行かなくちゃならん」

榛名「…………そうですか。わかりました」

提督「悪いな。今日も夕飯ぐらいには帰るからさ、なにかあったらケータイの方に連絡頼む」

榛名「はい。…………あの、そのご用事、もしよければ榛名も――――」

提督「お、おっと! そろそろ行くわ! そんじゃな!」ピューッ

榛名「あっ…………。…………お気を、つけて」




 たたたっ

提督「すみませんすみません。お待たせしました」

翔鶴「ううん、そんなに待ってないから気にしないで。それでは行きましょうか」

提督「はい! …………でも、今日は委員会活動の日でしたよね? 自分はともかく、委員長の翔鶴さんがいなくっても大丈夫なんですか?」

翔鶴「ふふ、大丈夫ですよ。わたしの代わりに瑞鶴を置いてきましたから」

提督「うわっ、ひでぇ」

翔鶴「あの子もたまにはああいう活動に参加しないと。大学に入ったときに困ってしまいます」

提督「おーさすが翔鶴さん。瑞鶴のことはよおく考えてるんですねえ…………」

翔鶴「もちろんです。…………ふふ、もちろん提督くんのことも――」ツンッ

提督「むぐっ」

翔鶴「――よお~く考えていますから。ね」

提督「じ、自分のことはいいんですよ、もうっ!」

提督「それよりっ! 校門前だと人目もありますから…………早く行きましょう!」

翔鶴「はいはい、わかりました。ふふ」

提督「なんですかっ」

翔鶴「んーん。なーんにも? べつにテレなくってもいいのにっ」

提督「テレてませんっ」

387: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:52:22.03 ID:32C4IS8oo



榛名「………………」



「榛名ちゃーん? そろそろ教室しめちゃうわよー?」

「なにかわすれもの?」

榛名「……――あ、すみません! すぐに準備して出ます!」

「忘れ物がないようにねー。先生外で待ってるから」

榛名「はいっ」



榛名「…………」ガサゴソ

榛名「………………」チラッ


 翔鶴『――――』キャッキャ

 提督『――――』ワイワイ


榛名「…………」


榛名「………………」ギリッ

388: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:52:47.60 ID:32C4IS8oo

そのひのよる

389: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:54:15.54 ID:32C4IS8oo


 とんとん


榛名「提督。…………まだ起きていますか?」

提督「…………榛名か? ちょっと待ってくれ」ガサゴソ

提督「うん、おっけ。入っていいぞ」

 がちゃんっ

榛名「すみません。こんなお時間に」

提督「おう。どうしたこんな夜更けに」

榛名「えと。…………今日のこと、謝ろうと思って」

提督「今日のこと?」

榛名「はい。どうしても外せない用事があって」

榛名「提督に美味しいご飯、作ってあげられなくって…………本当にごめんなさい。今晩は霧島も友達のおうちに泊まるみたいですし…………」

提督「なんだ、そんなことか。わざわざ畏まって言うから何事かと思ったぞ!」

提督「榛名だって都合があるんだし気にすんな。むしろ、いつも榛名にメシ作ってもらってるこっちが申し訳ないくらいだ」

榛名「そうは言われても、やっぱり…………」

榛名「だって提督、わたしがつくる晩ごはん、いつも楽しみにしてくれていましたし」

提督「はは、まあな」

榛名「作り置きも考えたんですけど、提督にはやっぱり作りたてのお料理を食べてもらいたかったから…………」

榛名「でも、榛名は大丈夫です! 明日からはちゃんと作りますから!」
   べっ、べつにそのっ! …………提督のコト、嫌いになったとか、そういうのでは……そういうわけではありませんからっ」ズイッ

提督「わ、わかってるわかってる! ち、近ぇから!」

榛名「ほんとうですよっ」

提督「わかってるってば。榛名はときどきアツくなんだからなあ」ナデリ

榛名「んぅ」


榛名「…………それに、どちらかと言うと…………」

提督「…………ん? なんか言ったか?」ナデナデ

榛名「……ふふふっ。なんでもありません!」

榛名「ほんとうに、なんでもありませんから…………」

提督「………………ふうん、ならいいけど。変な榛名だな」ナデリ

390: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:54:57.88 ID:32C4IS8oo

榛名「――――あっ、そうだっ」

榛名「あの、提督? お昼のお弁当、いかがでしたか? いつもと味付けを変えてみたのですけど…………」

提督「弁当? …………ああ、そういや確かにいつもとなんか違うなーって思ったんだ」

榛名「お口に…………合いませんでしたか?」

提督「いや、いつもと違った味わいで美味かったぞ。明日からもときどき頼むわ」

榛名「…………そうですか、よかったぁ。お口に合わなかったらどうしようってずうっと思っていたんですけど、これでひと安心です」

提督「でも本当に良いのか? その、炊事とか洗濯とか、家事の一切を任せてしまって…………」

提督「俺にだって手伝えることがあったらなんでも――――」

榛名「もうっ、そんなの気にしなくたって良いんです! その、幼馴染なんですから!」

榛名「お父さまやお母さま、お姉さまたちが旅行に行っている間くらい、榛名にお世話させてくださいっ」

提督「いや、おじさんたちがいようがいなかろうが世話にはなってるんだが……」

榛名「それに、料理とか洗濯とかって、榛名の取り柄と言ったらそれくらいしか…………」

榛名「それに提督はいつも、榛名のつくったお料理を美味しそうに食べてくれますから! 榛名だって、うんと頑張っちゃいます」

提督「……まったく。榛名は謙遜しすぎだーっていつも言ってんのに」


391: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:55:46.65 ID:32C4IS8oo


榛名「――――ところで、提督」


榛名「さっき洗濯しようとして見つけたのですけど…………」

榛名「このハンカチ」

榛名「提督のものでは、ありませんよね」


榛名「どちらのですか」


提督「…………ハンカチ? あっそれ――」

榛名「あっ、わかりました! 翔鶴さんのハンカチですよね!」

提督「え、あ…………おう。よくわかったな」

榛名「…………」

榛名「(…………匂いで、わかりますから)」

榛名「それで、なぜ提督がこちらを?」

提督「あ、ああ。実はだな…………」

――――

――

392: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:56:35.20 ID:32C4IS8oo

――

――――

榛名「ええっ!? 提督、お怪我をなされたのですか!? 榛名、気づきませんでした…………」

榛名「そのときに借りたハンカチだって――お怪我は、大丈夫なのですか!?」

提督「ああだいじょうぶだいじょうぶ、そんなベタベタしなくっても。ちょっと擦りむいただけだから……」

榛名「うん、うんっ。……そうですか。大したことがなくって、本当によかったです」

榛名「もし提督になにかあれば、榛名は…………」


榛名「(――――あのハンカチに付いていた血、提督のものだったのですね。ちょっと、もったいないことをした、かな)」

榛名「(こんなことでしたら、血の付いた部分だけ切り取って処分してしまうべきでした…………)」

提督「…………榛名? なんか言ったか?」

榛名「あっ、いえっ、なんでもありませんっ! ただの独り言ですから…………」


榛名「そういえば最近の提督、お帰りがずいぶん遅いですが…………」

榛名「一緒に帰ろうと言っても、先に帰っていてくれとおっしゃることが多いですし。
   榛名、知らないうちに余計なことをしてしまっていましたか? でしたらすぐにでもおっしゃってください。すぐに直しますから……」

提督「ああちがう違うっ、榛名はなんも悪くない」

提督「実は最近な、図書室で勉強していかないかって誘われることが多くってさ…………」

榛名「図書室でお勉強ですか? でしたら、榛名も――」

提督「いや、なんつうか…………人見知りして緊張するから、あんまり人は呼ばないでいてくれって頼まれてさ」

提督「俺くらいしかまともに話せる人がいないし、お互い成績いいしってことで、さ」

榛名「…………ああ、あの大人しくって綺麗な子のことでしょうか。図書委員のかたですよね」

提督「ああ、知ってたか…………というか当たり前か。同じクラスだもんな」

榛名「はい。…………でも、あの方はべつに、人見知りというわけではないと思っていますが」

榛名「体育の時間中もみんなと楽しくプレイしていますし、女子グループ内での活動も率先して行っているようですし」

提督「え、そうなのか? 俺はあんまり馴染めてないって聞いていたんだが……」

榛名「はい。榛名も何度かご一緒したこともありましたが、人見知りというよりはむしろ、相手を気遣える温厚なお方だと感じました」


榛名「ですから榛名も、決して邪魔立てはいたしませんから…………次回以降は誘っていただけると嬉しいです」

提督「んー…………そうしたいのは俺もなんだが、本人はやっぱり緊張するっつってるからなぁ」

提督「どんな裏があろうと、俺はその人の意思を尊重したいし」

提督「だから、悪いな」

榛名「………………わかり、ました」

393: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:57:09.32 ID:32C4IS8oo

提督「…………はるな?」

榛名「………………ていとく」

提督「ん」

榛名「ていとく、むかしはわたしと一緒にいてくれましたけど、最近は、あまり…………」

榛名「榛名と過ごす時間も、どんどん短くなっていってしまって…………」

榛名「学校に行くのも、翔鶴さんたちと一緒に行く、って、おっしゃいます、し。
   この前だって、一緒にお買いものに行こうとお誘いしましたのに、翔鶴さんと用事があるって…………」

提督「たまたまだって。ずうっとそうなるわけじゃない」

提督「俺だってあの人に用があるから、そうして行動を一緒にしてるってだけだ」

提督「忙しい人たちだから、個別に時間取ってもらうわけにもいかないし」

榛名「その、用というのは…………」

提督「あー、それは…………ちょっと、言えない。すまん」

榛名「そう、ですか。…………忙しいわりには、腕を組んで楽しそうにしていましたけれど」


榛名「…………」

提督「榛名は気にしすぎなんだってば。なんでもないんだって」

榛名「…………」

提督「確かにべたべたしてくるけど、単純にからかってるだけだろうし」

榛名「………………」


榛名「………………あんな、ひと」


榛名「…………っ」

394: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:57:59.59 ID:32C4IS8oo


榛名「あんなひとっ! どうせっ、どうせ提督のことっ、なんにもわかってないんですからっ!!」


榛名「提督のことを世界で一番わかっているのは榛名ですっ!! ほかの誰でもない、わたしっ!!」


榛名「たまたま委員会が一緒だったからって! 榛名はずっとっ、ずうっと…………っ!」

提督「は、は、はるなっ!?」

榛名「――――っ」

榛名「…………すみません、怒鳴ってしまって…………」

提督「い、いや…………なんだか俺も無神経だったみたいだ。悪い」

提督「ただもう夜も更けてるからさ、ちょっと声のボリューム落として。な?」

榛名「はい…………」


榛名「(提督がそういうところで鈍いのは昔からでしたし、ね。わかっていたことなのに…………)」

榛名「…………えと。それはそうと、なんですけど」

榛名「今日のお夕飯、どうされたのですか? 夕食ごろに帰るはずと、ケータイで連絡を受けましたけど」

提督「ああ。…………えっと、用事が長引いたもんだから、外で済ませちまってな」

提督「ほら、俺もついさっきまで外だったろ? ついでにな」

榛名「外食…………そうですか。家から食費として、お渡ししておけばよかったですね」

提督「あー、いや、さすがに個人的な用事で外食したんだから、そこはさすがにな」


榛名「それで、おひとりで行かれたのですか?」


提督「ん………………まあな」

榛名「その“個人的な用事”というのも、おひとりで?」

提督「あー…………うん」

榛名「………………」

榛名「そうですか。おひとりで…………」


395: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 00:59:02.54 ID:32C4IS8oo


 がばっ

榛名「――――失礼します」ギュッ

提督「わっ!? ちょ、おい榛名なんだいきなりっ」

榛名「じっとしていてください…………」

榛名「…………すん、すん…………」

榛名「…………っ」


榛名「――――やっぱり、あのひとのニオイがします」スッ


提督「…………えっ?」

榛名「…………」

榛名「…………ていとくの」


榛名「ていとくの、うそつき」


榛名「提督の、うそつきっ!!!」


提督「…………な、あ」

榛名「うそつきウソ吐きです! どうしてそんなウソをつくんですか!?」

榛名「提督、いままで榛名に嘘をついたこと一度もなかったのにっ!!!」

榛名「どうしてこんなっ! なにか後ろめたいことでもあるのですかっ!!」

提督「なっ…………ウソっつったってお前、どこにそんな根拠があるんだよっ」

提督「さっきから榛名、ちょっとおかしいぞ! いきなり黙り込んだり怒ったり…………なにか証拠はあるのかよっ」

396: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 01:00:57.76 ID:32C4IS8oo

榛名「…………証拠なら、あります」

榛名「提督はまだ、帰ってからお風呂に入っていませんよね?」

提督「…………それはいま関係があるのか?」

榛名「お答えください」

提督「…………まあ、そうだが」

榛名「やっぱりっ……」


榛名「先ほど提督を抱きしめて首に手を回した際に、こういったものを見つけまして」スッ

提督「そ、それは…………」

榛名「提督もご存じですよね。この“随伴艦くんシール”」

榛名「翔鶴さんが、自らの私物だと主張するようによく貼るシールです。
   このシールが、提督の首後ろに貼ってありました。今日の放課後の段階ではなかったものです」

榛名「このシールが貼ってあるということは、提督自ら身を差し出して貼ってもらったか――」

榛名「翔鶴さんがこっそり貼ったことに気付かないくらい、提督と翔鶴さんが密着していたか…………の、どちらかでしょうか」

提督「密着って! さっきも言ったが、確かにべたべたされることはあったけど、すぐにやめてもらったぞ!」

提督「さっきまでだって、ちゃんと距離を保って行動――――あっ」


榛名「…………」


榛名「ふうん。やっぱり、翔鶴さんとご一緒していたのですね。ついさっきは、ひとりでいたとおっしゃっていたのに」

榛名「榛名に隠し事をするくらい、後ろめたいことをしていたのですか」

提督「なっ、榛名っ、それは違うぞ! べつに俺と翔鶴さんは、そんな関係じゃ――」

榛名「ということは、さきほどおっしゃっていた“外食”というのは、翔鶴さんと二人きりで召されたのですね」

榛名「榛名の手料理を要らないと言ってまで、翔鶴さんとのお食事を楽しみたかったのですか」

榛名「…………へえぇぇ、お夕食はパスタでしたか。提督の吐息、イタリアンな香りがします」ズイッ

提督「あ、あ、榛名――」

榛名「イタリアンということは、最近駅前にできたあそこですね? この間までずいぶん熱心にチラシを見ていましたから」

榛名「夜になると街の煌めきが星々のように瞬いて、暗闇のキャンパスに光の絵を描くとも言われる、夜景の綺麗なイタリアンですね」

榛名「そんな高層レストランで、翔鶴さんと二人っきりの夜ですか――――」


榛名「それは良かったですねッ!!!」ガバッ


提督「ぐっ――――」ドサッ

397: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 01:01:40.94 ID:32C4IS8oo

榛名「提督はやさしくて、かっこよくって…………でもちょっぴり鈍感で。雰囲気に流されやすいところはわかっています」

提督「榛名、その、落ち着いて、どいてくれると……」

榛名「でも提督、きっといつかは榛名の気持ちをわかってくれるって。ずっと一緒にいてくれるって。
   子どものころに言ってくれたように、ずうっと大切にしてくれるって思っていたから、これまで我慢してきました――――」

榛名「それなのに、わたしにうそをついてまで――――隠れて浮気ってどういうことですか!?」ググッ

提督「浮気って言っても、俺たち付き合っているわけじゃ――が、ぁっ」

榛名「付き合っているわけではない。そうですね、榛名と提督はお付き合いしているわけではありません。非常に残念なことではありますが」

榛名「ですが榛名は、たとえお付き合いしていなくっとも通じ合うものがあると信じていました。
   榛名は何よりもあなたのことを第一に考え、あなたのことを想って行動してきました。ですが、あなたは……」

榛名「榛名が悪かったのですか? 榛名はいままであなたに尽くしてきて、それでもまだまだ足りませんか?」

榛名「榛名がどれだけ愛しても、あなたはわたしだけに微笑みかけてはくれないのですか?
   翔鶴さんとの語らいは、わたしに秘するほどの美しい時間だとでも言うのですか? 翔鶴さんの前では、榛名に見せない色んな表情を見せるのですか? 翔鶴さんは、わたしが知らない提督をたくさん知っているのですか?」

榛名「わたしは、こんなにおかしくなるくらい、あなたのことを愛しているというのに。
   それなのに、なぜあなたは榛名だけを見ていてくれないのですか? なぜその瞳に、わたしを映してくれないのですか?」ググ

提督「くっ、はっ――――」

榛名「それに、随伴艦くんシール。…………提督は翔鶴さんのものだと、そう言っているようで不愉快ですっ!!」

398: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 01:02:32.92 ID:32C4IS8oo

榛名「やっぱり、あのひとたちがいけないんですね」

榛名「委員長だか図書委員だかなんだか知りませんけど、結局は提督の表面だけしか見ていない人たちじゃないですか」

榛名「あんなひとたちに、提督は渡せない。渡してなるものですか…………」

榛名「提督を守れるのは、わたしだけ。提督は榛名だけを見ていれば良いんです。それが、きっと最高の幸せなのですから…………」グググ

提督「ちっ――――くしょ! はやっ、はなせこらっ!」グオッ

榛名「きゃっ――――」ドタン


提督「っきから言いたいこと言わせていればズラズラと…………!」

提督「ちょっとは落ち着けってお前! いつもの榛名らしくないぞ!」

榛名「――――して」

提督「………………あん?」


榛名「――――うして」

榛名「…………どうして」


榛名「どうして…………どうして、どうしてっ!! どうしてそんなこと言うんですかっ! 榛名は榛名ですッ!!」

榛名「提督はそんなこと言いませんっ!! 榛名を突き放すようなこと、絶対にしないはずですッ!!」


榛名「――――ああ、そっか。翔鶴さんと一緒にお夕食をとられたと言っていましたから、毒されてしまったのですね」

提督「どくっ…………」

榛名「あ…………でも、料理を食べたってことは、お口の中も毒されているんですね。唇も、舌も、歯の隙間ひとつひとつまでも――――」

榛名「じゃあ…………はるなのおくちで、きれいにしてあげなくっちゃ…………」ガバッ

提督「んむっ――――」

 ぎしっ






――――

――


399: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 01:02:58.47 ID:32C4IS8oo





 ぴりりり

携帯電話『やっほー提督! こっちは集まった若い子たちと金剛お姉さまたちとで、夜のお散歩ちゅーです!』

携帯電話『榛名へのプレゼント選び、どうでしたか?』

携帯電話『翔鶴ちゃんならパーフェクトだって金剛お姉さまからも太鼓判でしたし、大丈夫かな?』

携帯電話『それじゃまた連絡します! 霧島にも元気に言っておいてね! おやすみなさいっ!』

 ぴっ


400: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 01:13:04.54 ID:32C4IS8oo

――

――――


熊野「お、おぉぉう…………」

最上「な、なんだかすごく凄絶なドラマ、だったね…………」

三隈「さっ、さいごのはやはりっ、やはりわたしたち未成年には見せられないようなっふんっふんっ」フンフン

鈴谷「…………」


鈴谷「(え、なに。みんな触れてないけど、登場人物の人がどことなく知り合いに似てるんだケド?)」

鈴谷「(え、実話じゃないよね? てゆーかドラマでもヤバいんだけど? R指定ついてなかったよね、これ?)」

鈴谷「(そりゃ特別な保護かけるわ……まかり違って駆逐艦の子たちが見たらトラウマ確定じゃん)」

鈴谷「(…………コレ、見なかったことにしたほうが…………)」


鈴谷「ね、ねぇ。みんなその、これは――――」

三隈「お、おぉぉぉぉ…………これはこれは、素晴らしいものです…………」ゴクリ

最上「へ、へぇ~…………」ゴクリ

熊野「…………ま、まぁ? 退屈な生活にメスを入れるような、しっ、刺激的な番組ではありますわね」ゴクリ

鈴谷「…………」


三隈「…………無事、終わりましたわね。鈴谷さん、先ほどから食い入るように画面を見つめていますけれど、お次の希望はなにかありますか?」

熊野「あ、あら鈴谷。ずいぶん   なんですねアナタ」

鈴谷「ちっ、ちがっ! ――――っていうかまだ見んのこれ!?」

三隈「当たり前です!!!!」

最上「こ、こうなったらボクも最後まで付き合うよっ!」

三隈「モッガミーマン…………」

熊野「あなたたちだけに、いいカッコはさせられませんわ!」

三隈「クマッノンジュニア…………」


鈴谷「う、うそでしょ…………普通気づくでしょ異質さに…………」

三隈「さささっ、鈴谷さん! 番組のリモコンは貴女に委ねられましたっ! 欲望の赴くままに、さあ開放するのです!!!」


鈴谷「ひ、ひえええええぇぇぇ~~っ!!」



 おわり

408: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:15:44.69 ID:TRzFfbMmo


 夕立『フリーのお手紙しょーかあああいっ!! わふーっ!!』


 睦月『このコーナーでは、視聴者のみんなからいただいたお手紙を紹介するにゃーんっ!』

 夕立『司会者のてーとくさんと、夕立たちで答えていくコーナーっぽい!』

 提督『きみとぼくとのナゾラーランド。第三回目のお便りはいかほどでっしょうか! さっそく一つ目のお便り、入っていきたいと思います!』

 吹雪『えっとじゃあ…………誰から順番に読んでいく?』

 夕立『それじゃあ、じゃんけん! じゃんけんで決めよっか!』

 睦月『おぉ、名案だねぇ。にししっ! それじゃ、じゃんけんポイの、ポイで勝負ですっ!』

 吹雪『わかった! それじゃあ、じゃーんけーん――』

 夕立『ぽいっ!!』


 睦月『やったぁ、いっちばーんっ! それじゃそれじゃ、さっそく一つ目のお手紙、紹介していっちゃうねぇ?』

 夕立『うう、負けたっぽいぃ……』

 吹雪『ま、まあまあ夕立ちゃん。どうせみんな読むんだから、元気出して……』

 夕立『でもどうせだったら一番がよかったっぽい!』

 提督『お、決まったか。一番槍で貫いてくれる子はどちらかな?』

 睦月『はいっ! 睦月ですむつきちゃんですっ!』ピッ

 提督『おお、この冬株価急上昇の睦月センセイ。で、その様子だと吹雪が最下位みたいだな』

 吹雪『うぅぅ、落ち着かないしあんまり喋ってないしぃ……わたし座ってるだけになってて気まずいですぅ……』

 提督『この世に主人公補正はないんだよなあ…………』


 提督『さ、アニメでは無事猫をかぶりきってみせた睦月先生。バトンを繋いでくださいね』

 睦月『猫かぶりじゃないんだけどぉ! ただ、ちょ~っとだけ頑張っちゃっただけにゃしぃ! いひひひひっ』

 夕立『睦月ちゃんのせいで吹雪ちゃんが撮影中に吹き出すから、なんども撮り直しになってたっぽい~』

 吹雪『睦月ちゃんだけじゃないよっ! 夕立ちゃんだっていつもと違ってぽいぽい魔人になってたじゃーん!!』

 夕立『ぽいぽいぽい~っ!』

 吹雪『ふひっ、ホントにもうそれ意味わかんなかったからっ』
 

 睦月『…………それじゃ、ぴゃぴゃーっと読んでいっちゃうネ!』

 提督『おお、この喧噪のなか読み上げる覚悟があるとは』

 大淀『王者の風格ですね』

409: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:17:43.09 ID:TRzFfbMmo

 睦月『ええっと……“ジーク・フソー”さんからのお手紙にゃ~ん』

 夕立『ふそ……あっ……』

 吹雪『たはは……。どうも、こんばんは、です!』

 提督『山城さん、もっと擬態しましょうね』


『なぜですか! わたし関係ないでしょう!』 『あれで気づかれないと思っているほうがヤバいわよ』
  『ヤマシロは本当にフソーのことが大好きネー』 『……当たり前でしょう! あれを書いたのはわたしですから!!』 『もうちょい粘れや』


 “こんばんは。といっても、この手紙を書いているのは昼間だから、ちょっと気持ち悪いですね”

 “今回のゲストは事前に言っていたとおり、吹雪ちゃん、睦月ちゃん、夕立ちゃんで合ってますよね?”

 “アニメの試写会に合わせてのゲスト、と聞きました。扶桑おね――扶桑、さん。でないのは、あまり納得がいかないところですけど”


 提督『もう隠す気ゼロですね』

 吹雪『わ、わたしは誰だかわかんないかなァ~?』

 夕立『声が裏返ってなければまだ納得できたっぽい』

 大淀『みなさん、意外とわかりやすい性格をしていますね』


 “ですが、不幸とは思いません”

 “なぜなら、事前に聞いた情報だと――アニメ吹雪ちゃんの憧れの先輩欄には、扶桑お姉さまのお名前があったからです!”

 “わたしたちは制作協力には呼ばれませんでしたけど、これはもう! 凛々しい扶桑お姉さまの姿が、アニメで観られるというのは当確です!”

 “Vやねん! 扶桑お姉さま!”

 “嬉しくてたまりません! 胴上げ待ったなしです!”

 “これで欠陥戦艦とは言わせません! ――ですがわたし、試写会の抽選、落ちてしまって……”

 “イラストとして動く扶桑お姉さま。わたし、気になります。扶桑お姉さまの勇猛さ、可憐さ、淑やかさを表現しきれているのでしょうか”

 “アニメの感想について。先行試写会に赴いたというみなさんがたに、お伺いしたいと思います”


 吹雪『憧れの、せんぱい?』

 提督『あっ』

 大淀『あっ…………』


410: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:18:22.20 ID:TRzFfbMmo

 夕立『あれ? でもでも吹雪ちゃんの憧れの先輩って、たしかあか――』

 提督『えええええっとぉ!! アニメの感想について、ですよね!?』

 提督『いやぁまいったな! まだ一般には公開されていませんから、ネタバレになっちゃうんじゃないかなー!!』

 提督『テレビアニメの放送、楽しみに待ってくれてる人もたくさんいるだろうからな~!!』

 大淀『そ、その通りです!』

 睦月『あ、ごめんなさい! 追伸ありました!』


 “もしもの話ですが。もし、もしもですよ”

 “もしも、扶桑お姉さまの、憧れの先輩。その肩書きが、奪われて”

 “べつの艦娘に与えられた、となったら”

 “わたし、なにをしでかすかわかりません”

 “物騒な話をしてしまってすみません。まあ、そんなことはないと思いますけどね。設定には、ちゃあんと扶桑お姉さまの名が連なっていましたから!”


 提督『…………』

 大淀『…………』

 吹雪『…………』
 
 夕立『ぽい?』


411: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:21:43.54 ID:TRzFfbMmo

 提督『…………えーっと。アニメの感想について、ですね、はい。ネタバレにならない範囲で触れていきましょうかね』

 提督『一部のみなさま……えーっと、一部のみなさま。については、いまさら一話の感想かよと思うかたもいらっしゃると思いますが』

 提督『まず最初に思ったのは、大抜擢だったなあと。てっきり、こういった映像化の際には、知名度の高い長門や大和あたりにスポットが当たると思ってました』

 吹雪『それ、わたしも思いました! まさかまさかで、オファーが来たときはホントもう間違えたんじゃないかって……』

 睦月『しかもわたしたち、主役だもんね』

 大淀『“艦これ”のメディア展開の嚆矢ですからね。一味もふた味も違います』

 吹雪『監督のかたが、“吹雪ちゃんの姿を夢で見てねぇ”って言ってくれましたけど、きっと冗談ですよね』

 夕立『あたしたちが緊張しないよーに、気を遣ってくれたんじゃないかなあ?』

 大淀『そうでしょうね。まさか夢で見たからって……』

 提督『まあおおかた、一般への知名度的に使っておきたい睦月を中心に、同年代の子たちをピックアップしていったカタチなんでしょうが――』

 提督『でも、主役がうちの子たちでよかったですね。軽巡なんかはよその鎮守府の子たちでしたけど……。
    ほかの鎮守府だと、ああいった教室とか、たくさんの人が入れる甘味処とかは、あんまりないんですよね?』

 大淀『ええ、そうですね。この鎮守府は異色といいますか……』

 夕立『それ監督さんたちも言ってたっぽい! 変な鎮守府だから、アニメの設定でいろいろ使いやすいんだって!』


 提督『ああ…………でも、ビジュアルが公開されたときはひと騒動あったよな』

 提督『たしか誰だったかな。加賀、かな? 赤城とか加賀とかがやってる和弓の構えがおかしいとかなんとか……』

 大淀『ああ、あれですか』

 睦月『みんな苦労してたにゃー……。弓道じゃなくって、空母道独特の構えだもんね』

 睦月『監督も、弓道の構えにしておくべきか悩んでたみたいだけど、リアリティ優先で空母道の構えにしたみたいだケド』

 吹雪『赤城さんとかも、3Dモデリングのときにわざわざ来てくれてたもんね。天城さんも喜んでた』

 夕立『終わったあと、みーんなでたっくさんご飯食べたっぽい! 監督が赤城さんたちのぶんまで出すって張り切ってた!』

 大淀『えっ』

 提督『…………あとで監督にお礼言ってこなくっちゃな』

 提督『な?』


 『むしろご飯のほうがメインやったんとちゃうか』 『そ、そんなわけないじゃないですか』 『心外ですね。頭にきました』
   『ホンマかいな』 『ちゃんと時間制限食べ放題のお店にしてもらいました』 『節度ある範囲でいただきました』 『監督干からびてそうやな』


412: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:22:20.94 ID:TRzFfbMmo

 大淀『場内弓道場ではしっかり弓道の構えをとっていますが、出撃のときは違いますものね』

 睦月『みーんな、訓練のときはしっかり自分の構えがあるモンね。出撃したらバラバラになっちゃうけどぉ』

 提督『鳳翔さんも、状況に適した型を取るのが一番だーって言ってたからな。瑞鶴あたりは、加賀さんあたりにいろいろうるさく言われてるみたいだが……』

 提督『そもそもが。弓どころかボウガン、式神術の艦娘もいるくらいだから、構え一つでどうってことないよな』

 夕立『夕立も龍驤さんにひとつもらったっぽい! ゼロ戦さんったらカワイイんだ~!』

 夕立『飛ばそうと思ったら資材を使うからやんないけど、手に持って走るだけでも音がカッコイイっぽい!』

 吹雪『ああ、音いいよねぇ……。重量感あるっていうか、ロマンがあるよね!』

 夕立『そーそー!』


 夕立『でも、どうせだったらみんなと一緒がよかったなぁ~。夕立たちと、一部の人しかウチからは出てないっぽいしぃ……』

 吹雪『さすがにうちの鎮守府を空けるわけにはいかないからね』

 提督『その間ずっと手薄っていうわけにもなぁ。任務もあるし』

 夕立『わかってるケドぉ~』

 大淀『……あ。そういえば提督、年末に行った演劇を録画した映像が届きましたけど。せっかくですし、みんな集めて観ましょうか?』

 提督『いや、それはまた今度のお楽しみにしておきましょう。最近はテレビばっかりでみんな退屈してますからね』

 大淀『了解です』


 提督『…………えーっと、ここまでですかね。“ジーク・フソー”さん、ありがとうござ――』

 吹雪『あの、憧れの先輩の件に関しては大丈夫なんでしょうか?』

 睦月『にゃはは……』

 大淀『……どうせ後になったらわかることですから。いま言ってしまったほうが楽ではないかと』

 提督『…………』


明石「(提督! ごーごごーです!)」

提督「(他人事だと思って!)」


413: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:22:55.01 ID:TRzFfbMmo

 提督『えー、さきほど“ジーク・フソー”さんは、主人公である吹雪の、憧れの先輩は扶桑さん――と、そうおっしゃいましたね』

 『え? え、ええ。そうですけど……』 『ラジオと会話しとるで』

 提督『事実、そうでした。たしかに初期の設定では、吹雪の憧れは戦艦扶桑――そういう話でした』

 提督『淑やかな佇まいに、大きな砲塔。そのアンバランスさは、たしかに見る者を惹きつける魅力があったと思います』

 『…………なんですか?』

 提督『なるほど、たしかに憧れの対象としては十分――』

 提督『妹の山城さんにおきましては、感無量の次第であったと存じます』

 『ええ、当たり前のことです』

 提督『…………』

 提督『そんな扶桑さんの姿、僕も見てみたかったです』

 提督『アニメ“艦これ”において、主人公である吹雪の、憧れの先輩は』


 提督『――――“赤城”です』

 提督『赤城です』


 『…………え』

 提督『もう一度言います。主人公の憧れは、航空母艦、一航戦の赤城です』

 提督『赤城です』

 提督『扶桑さんじゃない! 赤城さんなんですよっ!!』

 提督『憧れの先輩ィ? なにそれぇ! それ、赤城! 鈍いなぁ、赤城が先輩なんだよ!』

 提督『ジャンジャジャーン! いま明かされる衝撃の真実ゥ!』

 提督『いやぁ本当に苦労しましたよ、キャストが変更になったのをわざわざ隠し――』

 大淀『ふんっ!』

 提督『おごぉっ』メコォ


 夕立『わわっ、てーとくさん!?』

 吹雪『だだだだ大丈夫ですかあ~~っ!?』

414: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:23:21.14 ID:TRzFfbMmo


 『ててて提督っ!? だいじょうぶですかあ~~っ!?』


山城「赤城さん。お隣いいですか」

赤城「えっ!? やまっ、やまやま山城さん!?」ビクッ

山城「はい、やまやま山城です」

赤城「こ、こんなところに、いったいなんの用が……? ど、どーなつならあっちにありますけど…………?」

山城「――ちょっと、お話がありまして」

赤城「お、おはなし…………?」


加賀「…………赤城さん。わたしは少し席を外します」

翔鶴「わ、わたしもドーナツを取ってこなくっちゃ」

瑞鶴「あっ、わたしも! もう少しでなくなっちゃうしっ」

赤城「あっ待ってっ」

山城「…………とくに返事がありませんでしたので、了承として受け取らせていただきますね。では」ドスッ

赤城「あ…………えへ。こんばんは……?」

山城「こんばんは。今日は、憧れの先輩ポジションを見事射抜いた赤城さんに、チョメチョメしたいと思います」

赤城「ちょ、ちょめ…………? あ、あの、痛いのは、やめてください、ね…………?」

雲龍「(…………それ、違う山城さんじゃないかな)」


415: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:24:56.24 ID:TRzFfbMmo

陸奥「空母組のテーブルに突撃していったわね」

比叡「うわっ、無表情で赤城さんのお腹つまんでぐにぐにしてる!」

金剛「oh...あれはシリアスですネー」

扶桑「もう、山城ったら……わたしは気にしていないのに……」

霧島「わたしはどっちかっていうと、提督のほうがイラッときましたけどね」

伊勢「まあ、大淀ちゃんが制裁加えてくれたから溜飲をさげましょう。提督のああいうところ困っちゃうわよね。ね、日向――」

伊勢「――あれ、いない? どこいったのかしら?」

比叡「あ、日向さんでしたらさきほどどちらかへ行かれましたよ。急ぎのようでしたし、用事でもあったんじゃないですか?」

伊勢「……ふうん、そう」


 大淀『アニメの感想ですね。わたし個人としてはたいへん良い出来だと思います。CGとは思えない美麗なデザインですし、さすがは映像のプロですね』

 大淀『物語部分に関しては今後の演出に期待、といったところでしょうか。二転三転していくようですから、展開から目を離せません』

 大淀『如月ちゃんの動きにも期待ですね。“ジーク・フソー”さん、お手紙ありがとうございました』

 夕立『ありがと~!』


如月「…………あら。なんでわたしなのかしらぁ?」

皐月「はへ?」モグモグ

望月「さぁ……」モグモグ

菊月「睦月が主演なのだから、同じ睦月型としてスポットを当てられるのではないか」

長月「如月は睦月ととくに仲が良いからな。そのようなところだろう」

如月「あらあら……ふふ。そんなコト言われちゃったら、期待しちゃうわぁ」

如月「アニメの如月、いったいどんな活躍を見せてくれるのでしょう。睦月ちゃんの相棒として、準主役級になっちゃうのかしら?」

菊月「ああ、それは良いな。国民のみんなも、如月の勇姿を観ていてくれるだろう」

長月「創作とはいえ、少し羨ましいものもあるな……」

長月「だが、それと同時に誇らしくもある。わたしたち睦月型が注目を浴びるときが来るとはな」

菊月「ああ。威張れることじゃあないが、胸を張っても良いだろう」

皐月「アニメ、ボクも出てみたかったんだけどなー」

如月「ふふ、ごめんね? 如月はみーんなを背負って頑張っちゃうから、ね?」

望月「くぅ、言ってくれるなぁ」

菊月「そこまで言うのなら、お手並み拝見といこうか。あっさり沈んだりしたら承知しないぞ」

皐月「ほのぼのベースの日常アニメって言ってたし、そういうのはナイと思うけどなぁ」

文月「アニメ、たのしみだねぇ~」

望月「ふみぃ」

如月「…………うんっ!」


416: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:25:50.73 ID:TRzFfbMmo

 提督『しかしアニメですか。今さら艦これ一話の感想なんて…………いや、やめとこう』

 吹雪『ぅ? どうかしましたか?』

 提督『いや…………遅くなって申し訳ない、としか言えない。すまぬ……すまぬ……』


鳳翔「みなさん、食後のお茶をお持ちいたしました。渋みの効いたおいしい抹茶ですよ」

祥鳳「わ、ありがとうございます」

龍驤「おお、なんや悪いな。そんな気ィ遣わんくてもええっちゅーのに」

千歳「鳳翔さんもゆっくりなさってはどうです? さっきからずっと立ちっぱなしみたいだし」

飛鷹「今さらだけど、お給仕さんみたいに動いてもらうのも申し訳ないしね」

龍驤「せや。みーんな一息ついたみたいやし、鳳翔も一つふたつ摘まんだらどうや? ここ空いとるで」チョイチョイ

鳳翔「……そうですね。それではお隣、失礼しますね」

龍驤「おー」


龍驤「いつも悪いね」

鳳翔「いえ、わたしも楽しくさせていただいていますから。それにやっぱり、こうしてお料理をしていると昔を思い出しますし」

飛鷹「横浜のトコよね。わたしも子どものころ、隼鷹と一緒に何度か連れて行ってもらったことあったなぁ」

飛鷹「ね、隼鷹?」

鳳翔「あら…………そうだったのですか?」

隼鷹「ん? おーあるある! 横浜だろ? ありゃあヤバかったなぁ」

隼鷹「親父の会社と飛鷹んトコので会談するとき、いつも鳳翔さんトコに予約取んだけど、ぜんっぜん予約取れなくってさあ」

飛鷹「会談のためにわざわざ数か月前から予約取っておいたりしたのよね。懐かしいわ」


417: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:26:49.58 ID:TRzFfbMmo

祥鳳「あ、それわたしも知ってるかも。老舗の料亭ですよね?」

祥鳳「料理だけじゃなくって器とか接客にも拘ってて、一度行ってみたいお店として有名よね」

飛鷹「うんうん。一回行った人はまたその料亭の雰囲気を感じたいって思うから、ずうっと満席なのよね~」

龍驤「マジか。えらいカネかけとったんやなぁ」

隼鷹「知ってるかぁ? あの店で使われてる器、一つ一つがウン十万する代物なんだってさぁ~?」

隼鷹「出てくる酒もすっげぇ上等なヤツばっかだしなぁ。あたしも自分の金で行ってみたいんだけど……コレが、なぁ」マル

鳳翔「あ……なんというか、その……申し訳ありません。仕入れ先との関係もありますし、父の方針で…………」

鳳翔「それに、皆さんなら…………大切なお友達としてお通しすることも出来ますけれど」

隼鷹「あはっ、いーよいーよ気ィ遣わなくたって! ちょっと言ってみただけだしさ!」

飛鷹「隼鷹も困らせるようなこと言ーわーなーいーの。ごめんね鳳翔さん」

龍驤「せや。高級料亭っちゅーのは、自分の金で通ってはじめてハクがつくんや」


龍驤「ウチも小っさいころは世話ンなったしなぁ。あそこ、昼の間は小奇麗な食堂として比較的安ぅご飯も食べられるから、今度時間あるときにでも行こか」

龍驤「久しぶりにオバちゃんの顔も見てみたいしね」

鳳翔「ふふふ。お姉さんと呼ばないと怒られてしまいますよ」

龍驤「いやぁ、言うてもう四、五十やろ? それはキツい――」


 夕立『あれ? なんかいきなり届いたっぽい』

 “龍驤ちゃん、煙突げんこつ”

 夕立『ペンネームは…………書いてないっぽい? わすれちゃった?』


鳳翔「…………あらあら」

龍驤「ウソでしょ…………」

418: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:27:24.97 ID:TRzFfbMmo


 提督『この放送自体はリアルタイムで配信されてるから、こういうふうにお悩みに対して聴者の方々からレスポンスが返ってくることもあるんですよ』

 提督『今のはちょっとよくわかんなかったですけどね。はは』

 大淀『艦娘にとってはより恐ろしい配信へと近づいていきますね』


明石「…………ふと思ったんですけど、これわたしたちも被害を受ける可能性、あるんでしょうか」

大淀「…………そりゃもちろんよ。いままで部外者だとでも思ってたの?」

大淀「あなたちゃんと実家に連絡入れてるの?」

明石「…………いれてない、かもぉぉぉ~~…………」

大淀「うふふ、ご愁傷さま。次の犠牲者は明石になるかもしれないわね」

明石「ここで大淀が選ばれたら面白いのにぃっ」

大淀「わたしはいつ来ても困らないように心構えしてるからいーの」

419: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:27:57.24 ID:TRzFfbMmo

 夕立『てーとくさんっ! もうお手紙読んじゃってもいいっぽい!?』

 提督『うおっ! ずいぶん急くな夕立。だいじょうぶか? 漢字読めるか? わからないところがあったらすぐ言えよ』

 夕立『ばかにしないでっ! これでも夕立、むかしはそろばんの悪夢とも言われたことがあるんだからっ!』

 提督『蔑称じゃねーか』

 夕立『夕立の手にかかればこんな紙切れ一枚、ぽいぽいぽい~! なんだからっ』

 吹雪『ぶひゅっ』

 睦月『ぅにゃああっ!? ななな、なんかかかったっぽい!!』

 大淀『睦月ちゃん、ほらティッシュ。拭いて拭いて』

 夕立『吹雪ちゃんのお口と鼻から謎の液体が…………』

 睦月『ぅやぁ…………なんかべたべたするっぽいにゃしぃ…………』

 睦月『…………ぽい?』

 提督『ぽいぽい伝染病かな?』

 大淀『吹雪ちゃんはぽいぽい病原菌のキャリアーだった…………?』

 夕立『もー吹雪ちゃんやめてよー! あとで食べようと思ってたドーナツにもかかっちゃったじゃんかぁ!』

 吹雪『くひっ、ごめ、ゆうだちちゃ…………くへへっ! ぽいぽい菌ってっ…………なんかそれ、いじめっぽいっ…………』

 提督『やーっぱぽいぽい言ってんじゃねえか』

 夕立『てゆーか、ばい菌扱いされるのはビミョーにイヤっぽい…………』

 大淀『ほらほら、微妙な表情してないでさっさと読む。今日もたくさんお手紙来てるんですから』

 夕立『ぽ~い…………』


 吹雪『ぶひゅるっ』

 睦月『わぎゃああああぁぁぁっ!! 髪が傷んじゃううぅぅっ!!』

 提督『ガチの悲鳴じゃねーか!!』

420: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:28:24.74 ID:TRzFfbMmo


 夕立『えーっとぉ、えっと…………ラジオネーム“みにみにりゅーじょー”さんからっぽい』

 提督『おっ、まさかの実名投稿か?』


 “やっ、こんばんは。最近あんま顔見ること減ったけど元気してるかい?”

 “ラジオネームに龍驤って入れてもうたけど問題ないかな? どーもウチ、匿名っちゅーんは好きじゃなくってね”

 “もしアレやったら勝手に適当なラジオネームでも付けといたってぇや。”


 大淀『まあ、こちらから明かすならともかくとして、投稿者側から自分で言うぶんには問題ありませんね』

 提督『だ、そうです。みんなからの実名投稿、待ってるぜ!』


飛鷹「死んでもお断りね」

隼鷹「龍驤さんも肝っ玉座ってンなぁ~っ! なんかあーゆーの、作文読み上げられてる感じがして恥ずかしくねーか!?」

千歳「まぁ、ねえ。この歳にもなって手紙を読み上げられるのはその、なんていうか……」

千代田「あの放送。うちだけじゃなくって、みんなの家までぜーんぶ広がってますしね。あっでも、千歳お姉の手紙ならちょっと読んでみたいカモ」

千歳「やめなさい」

龍驤「んー…………」ポリポリ

龍驤「なんちゅーか、読まれて困ることは書いとらんしなぁ。ガッコ行っとったときにも何回かあったけど、べつに恥ずかしくもなんともなかったし」

龍驤「読まれて照れるっちゅーんは、こう、胸を張ってないってことや! 背中丸めとらんで、堂々と胸張ってれば困ることなんてないんやで!」

隼鷹「おお、含蓄あるお言葉!」

飛鷹「茶化してないであんたも見習いなさい。あーんた困るとすーぐウソついて逃げようとするんだから」


421: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:29:01.27 ID:TRzFfbMmo

鳳翔「ふふ、龍驤さん。ウソはいけませんよ」

龍驤「げっ」

鳳翔「龍驤さんが頬を掻くときはいつも照れているときです。昔と違って、表情は上手に隠せるようになったみたいですけどね」

千歳「あら、そうなんだ? …………ふーん、龍驤さんやーっぱテレてるんだぁ」

隼鷹「なあんだ。途端にさっきのセリフがカッコ悪く思えてきたなぁ」

飛鷹「さーっきはあんなにカッコつけてたくせに、心の底ではテレてるんですねぇ」

龍驤「う、うるさいなっ! 鳳翔かて余計なこと言わんと黙っとったらええねん!」


隼鷹「でもさ、なんだっけ? 読まれて困ることはない。読まれて照れるっちゅーんは、胸を張ってないってことや――だっけ?」

飛鷹「んひゅっ! や、やめなさい隼鷹!」

隼鷹「くははっ! いやだってさぁ~っ!」

鳳翔「背中を丸めていないで、堂々と胸を張っていれば困ることなんてないんやで――ですよ」

隼鷹「んはっ! それそれっ!」

飛鷹「んふふふへへへへっ…………ご、ごめんなさ、龍驤さっ…………」

龍驤「やめんかキミたちィ!!!」

龍驤「鳳翔! キミもキミや! なんでキミはいっつもいっつもニコニコして黙っとるくせに、ウチが弱みを見せたときにはすぐいじってくるんや!!」

鳳翔「ふふふ、ごめんなさいね。つい」

龍驤「ついとちゃう!! ほんまキミいい加減にしときぃや!」

龍驤「そんなウチばっかイジっとったらや、今に見とき! ウチかて仕返しくらいするんやからなっ! 笑っとられるんも今のうちだけやで!」

鳳翔「あら、ウチは宵越しの恨みなど持たんのや――と、むかし語っていたのはウソだったのですか?」

飛鷹「んひっ! そんなカッコいいことまで言ってたんですかっ」

隼鷹「格言のバーゲンセールっ」

龍驤「じゃかあしぃっ!!」

422: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:29:30.71 ID:TRzFfbMmo

 “これフリー宛てやから、適当になんでも書いていいんだよね? じゃあ好き放題書かせてもらうわ。にしし”

 “そもそもや、キミらいっつも突発的に色んなことやりすぎやて。なんや今回のラジオっちゅーんは…………。
  ウチらの実家とか関係先にまでぜーんぶ届いてんねやろ? 聴いとるかどうかは知らんけど、たぶん聴いとるんやろなあ…………”

 “こういうんはな、ちゃーんと艦娘一人ひとりに確認をとってからやらなあかん。
  ウチはそんなに困ってないからいいものの、こういった個人に関係するものはな、心の準備が必要なんや。ウチは大丈夫やけどな”

 “親からしたら気にも留めんよーなことでも、その娘からしたら人に聞かれたくないことかもしれないからね”

 “つぎからはちゃーんと気をつけるよーに!”


 提督『小姑か!』

 吹雪『ほえ~……龍驤さんっていっつもあっけらかんとしてるから、イベントのこと全然気にしてないのかと思ってました』

 大淀『こーら。その言い方は失礼ですよ』

 睦月『でもなんだかんだ許してくれるにゃーん』


 “ま、小うるさいおばちゃんみたいなことはここまでにしとこか。こういうのは鳳翔のお役目やしね”


鳳翔「…………龍驤さん。これはどういう意味なのでしょうか」

龍驤「べっつにぃ~? とくになーんにも意味はないで~」

龍驤「ウチはべつに口うるさいオカンとちゃうしなぁ~?」

鳳翔「こら、龍驤さんっ!」

龍驤「ひゃー! オカンが怒ったで! 怒カンや!」


千歳「西のオカンと東のオカンで争いが始まったわね」

祥鳳「どちらも横浜出身のオカンだけどね」


423: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:30:11.36 ID:TRzFfbMmo

 “そんでや、悩みっちゅーほどではないからこっちに送ったんやけど、ちょーっち相談があってね”

 “なんや、その…………なんや。ウチってさ、ほかの航空母艦の子たちと比べるとさ、その…………”

 “あーんまり、さ、その…………アレや。あの、アレ。――そう! 肉付きがあんまりよくないやんか!
  いや別にその、ほかの子たちが太ってるとかそういうんじゃなくってね。その、胸回りが、さ、ちょーっち薄いっていうか…………”

 “そのなんや。こう……おっきな子やとさ、構えをとるときに邪魔になったりするし、潰したり、弦との接触を抑える役割でさ、胸当てって着けるやんか?”

 “ウチはさ、射出やなくて式神召喚術式やし、この通り身体もおっきくないから。
  今まで胸当てとか防具とか、あんまり気にしたことがなくってや…………”

 
 “最近さ、深海棲艦側も制空権を意識し始めたんか、制空争いが苛烈になってきたやんか。
  どうしても空のほうに意識を取られがちになって、被弾する機会もちらほら増えてきたんよ”

 “ほんでさ、そんときに…………アレや。こう、いくらさ、艤装の保護が働いてもや、服とかはその、被弾の衝撃で破けてまうわけやし”

 “胸当て着けとる子やとさ、そんなアレやけど…………ウチみたいに軽装やとさ、こうガバッと見えてまうこともあるわけよ”


飛龍「あー」

赤城「たしかに、胸当てに助けられた場面は多々ありますね。胸元を開けっぴろげにして帰投するのはさすがに恥ずかしいですし」マフマフ

加賀「艦娘といえど、淑女としての誇りがありますからね。さすがは赤城さんです」マフマフ

瑞鶴「…………まだ食べてる」

蒼龍「ひ、一口あたりの量が少ないだけだから」

赤城「おいしいから大丈夫ですよ」モフモフ


424: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:31:48.39 ID:TRzFfbMmo

 “そんでさ、格納庫で胸当て弄ったりしとるんやけど、どーもウチに合う規格のものがないみたいでね”

 “ウチは一般の子たちと比べると背丈かて低いしさ、フラットなスタイルに対応した胸当てがあっても、身体に合わんことが多いんや”

 “明石と提督双方の許可を得んと勝手に入荷するわけにもいかんし。せっかくやから放送で一気にってね”


 提督『あー…………。だからこの間、格納庫でばったり会ったんですね』

 大淀『小さめの胸当ては誰も使用しないから、さげちゃったんですよね。格納庫だっていっぱいいっぱいですし』チラッ

 明石『そうですね。ご希望とあらば、明日にでも採寸に伺いたいと思います。
    デザインのカタログも持っていきますので、そこから複数の候補をチョイスしていく感じで』

 明石『龍驤さんに限らずほかの航空母艦の方々も、なにかあったらすぐに言ってくださいね。
    最近のわたしはだいたいここ執務室か機械室、酒保のどこかにいると思いますので、気兼ねなくどうぞ』


隼鷹「胸当てとかっさぁー、ぶっちゃけ邪魔じゃねー? そうそう被弾することなんてないんだしさぁ」

飛鷹「バカ隼鷹! あんたこの間そう言って全裸に剥かれてたじゃないのっ! さんざん着けなさいって言ったのに!」

飛鷹「恥ずかしがって色んなところ隠すくらいならもっと防具を着込みなさい!」

隼鷹「つってもさぁ…………」

祥鳳「まあそうよねぇ。わたしは弓術射式だけど、不便に思ったことは特にないわね」

隼鷹「だよなあ?」

飛鷹「隼鷹バカ!  女の意見に耳を傾けないのっ!」


千代田「そういや鳳翔さんも弓術なのに胸当て着けませんよね。赤城さんたちは着けてますけど」

鳳翔「ええ。わたしは皆さんのようにスタイルが良いわけではありませんから……」

千歳「あー、たしかに鳳翔さんはスレンダーなモデル体型ですもんね」

龍驤「…………ほお~ん」

鳳翔「…………なんですか?」

龍驤「いや、べつにね」


425: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:32:16.45 ID:TRzFfbMmo

鳳翔「…………とりあえずわたしは裏に戻りますね。洗い物をしなくてはいけませんから」

鳳翔「みなさんも空き皿のほう、お下げいたしますね。それでは――――」

龍驤「ちょい待ち」ガシッ

鳳翔「は、はい? なんでしょうか?」

龍驤「もうちょっといとけ、な?」

鳳翔「そうは言われましても、間宮さんたちに洗い物を任せっきりにしてしまうのも心苦しいですし…………」

千歳「あ、それなら大丈夫みたいですよ。さっき榛名さんと龍鳳ちゃんが勝負だーって叫びながら洗い場に向かってましたから」

千歳「水で皿を洗う主婦力合戦を繰り広げているんじゃないですか?」

鳳翔「…………」

龍驤「……ま、まあそういうことや。まだゆっくり座っとき。ゆっくりと…………な」


 夕立『胸当てってなんかいいなぁ。かんむす! って感じがしてすっごくオシャレっぽい!』

 提督『オシャレ…………そうかぁ? ただの防具って感じしかしないが』

 睦月『…………まったくぅ、われらが司令官どのはダメダメだにゃ~ん』

 吹雪『しれーかん? いくら艦娘っていっても、中身はちゃーんと女の子なんですから! おしゃれできるところではやりたいんですよ?』

 大淀『そうですねぇ。提督に身近なところで言えば、霧島さんのメガネとかだってそうじゃないですか。
    電探仕様のメガネになっていても、その柄や装飾にも気を遣われているようですし』

 大淀『みんな意外とお洒落に気を遣っているものですよ?』

 提督『ああ、たしかについ最近同じことを誰かに言われたような…………』

 提督『あ、じゃあその   スカートもオシャレのうちなんですか?』

 大淀『黙りなさい』

 明石『しばきますよ』

 提督『え、ひどくない?』

426: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:32:57.75 ID:TRzFfbMmo

 “しかしや、ウチくらいのサイズの胸当てが置いてないんも、なんもかんもほかの子たちがアカンと思うんよ”

 “背丈が近い瑞鳳に貸してもらおうと思っても微妙に合わんし。
  そのほかの子たちはみーんなボンッ・キュッ・ボンッの三拍子か、そもそも胸当て着けとらん子のどっちかや”

龍驤「ウチみたいな起伏の少ない感じやったら無くてもええっちゃええんやけどなぁ。な、鳳翔」

鳳翔「え? …………そうですね。あるに越したことはありませんけれど」

龍驤「ホンマ、弦が胸に当たって痛いとか体験してみたいわぁ。な、鳳翔」

鳳翔「そう、ですか? あまり体験したくはないような気もしますけれど…………」

龍驤「…………ふうん」ニヤニヤ

鳳翔「…………なんですか?」

龍驤「いや、べつにぃ? ただえっらい白々しいなー思うてなぁ」

鳳翔「白々しい……?」

龍驤「持たざる者の気持ちはな、持てる者にはわからんものなんやで…………」


 “知っとるか? 鳳翔とかも控えめな感じかと思ったら違うんやで”


鳳翔「えっ」

千歳「そういや鳳翔さんとはお風呂入ったことないかもですね。いつも時間が合わないですし」

龍驤「おう。今度一緒に入ってみるとええで。なかなかほかに比べて負けず劣らずの甲乙つけがたい肉体しとるからや」

祥鳳「そうなの?」

鳳翔「ちょ、ちょっと龍驤さんっ…………」


427: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:33:35.30 ID:TRzFfbMmo

 提督『くわしく』

 “あいつ、意外と脱いだらスゴいんよ。普段どこに隠しとるんやって思うくらい  い身体つきしとってな”

 “一回揉んでみよー思たらもうアレがヤバくってね、ウチのちっこい手のひらじゃおさまりきらないくらい――”

 吹雪『ちょっ夕立ちゃんストップストップそこまで!』

 夕立『えー、ここからが面白いところなのにぃ~』

 提督『そうだぞ』

 睦月『ちょっと見せてね。…………うひっ! これ電波に乗せたら規制受けちゃうやつだよおっ!』

 明石『ちょ、ちょっとわたしも拝見。…………うっわ、写真付き……すっご、驚くほど艶めかしいですね、出るとこしっかり出て、くびれとかも…………』

 吹雪『うわっ! こんな写真どうやって撮ったんですか! 気づかれてないはずなのにこんな大胆な角度から…………』

 夕立『ゆ、夕立も最近イイカンジになってきたと思ったけどぉ……』

 睦月『さすがにこの鳳翔さんには勝てないにゃーん……』

 吹雪『プロポーション界のビッグセブン、って感じだね!』


鳳翔「…………あ、ぅ」カァッ


 提督『へえそうなんだ。ちょっと僕にも見せてくれないかな』

 大淀『ドラァッ!!』


428: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:34:17.58 ID:TRzFfbMmo


陸奥「龍驤さん、鳳翔さんの写真持ってるってホント?」

龍驤「ん、陸奥か? あるであるで、ほらこれ」ドバッ

鳳翔「ちょ、ちょっと龍驤さん…………!?」アタフタ

陸奥「わ、すごいたくさん…………。ちょっと借りてっていい? みんな鳳翔さんの肉付きに興味津々みたいで」チラッ


 「わ、わたしはただ、ビッグセブンというのが気になるだけだ!」 「あの方の居住性は、ほかの方とは一味違いますから」 「山城が帰ってこないわ……」


陸奥「かくいうわたしもその一人でねぇ。鳳翔さんのスタイルの秘密に迫りたくって」ウィンク

龍驤「ハハハ…………ええよええよ。汚さん程度にちゃーんと返してな」

陸奥「オッケーありがと。そんじゃ借りてくわねっ」タタッ

「借りてきたわよっ」 「なんだこの束ァ!?」 「oh...steamy...これが年の功というヤツですカー……HOSHO HOT!」
 「あれ? でも金剛お姉さまってたしか鳳翔さんとそんなに……」 「ん?」 「…………いえ」

龍驤「ウチもいつかはRYUJO HOTと呼ばれるくらいに“持てる者”になりたいもんや…………」トオイメ

鳳翔「…………り、りゅ、りゅ、りゅりゅりゅ龍驤さん!?」

龍驤「…………なんやいま現在持てる者よ。ずいぶん慌てとるみたいやなあ」

龍驤「なんや? さっきまで――」

龍驤「“わたしは皆さんのようにスタイルが良くないですから……”」クネッ

龍驤「――とか言って澄ました顔しとったやろぉ?」

龍驤「そんな真っ赤な顔して風邪でもひいたかぁ? ん? ん? んんん~? いけませんなあ艦隊の母が不養生はぁぁ~ん?」

鳳翔「ちょ、ちょっと近いですから…………」

429: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:35:29.04 ID:TRzFfbMmo

龍驤「あのさ……いくら恥ずかしい言うたってや、誤魔化したらあかんやろ」

鳳翔「す、すみません…………?」

龍驤「でもな、わかるでその気持ち。へんにプロポーション良いの知られたらさ……風呂場でな――」

龍驤「キャッ! 鳳翔さんすごいキレー! ちょっと触ってもいーい? えっ、ちょっと……! ほらほら~! いやぁ~ん!!」

龍驤「――みたいなこともあるわけやろ!!!」

鳳翔「な、なんで怒っているのでしょう……?」

龍驤「でもウチが言うたった。これからいくら誤魔化してもや、みんな目を皿にしてキミのその引き締まったボデーを舐め回すことになるんや。豪熱マシンガンや」

龍驤「キミが手塩にかけた提督も、きっと上から下までねっとり見てくるんやろなあ~?」

鳳翔「ちょっと、やめてくださいっ」

龍驤「これからな、こういうこといくらでもあんねん……慣れていかんとアカンでこういうの。これくらいの告発ならまだまだ大丈夫や」

龍驤「なあ? キミの身体はいくら誤魔化しても、ボンッ・キュッ・ボンッとは言わんとまでも、ぽよん・しゅっ・ぽよんくらいはあるわけや」

龍驤「でもウチにはないんやで? わかる? この罪の重さ」

鳳翔「あ、あはは…………」


飛鷹「あれでキレないのが艦隊の母たる所以よね」

隼鷹「対する龍驤さんは完全にクレーマーだな。あっちは艦隊のオバハンってところだろ」

龍驤「聞こえとるでそこぉっ!!」

430: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:36:57.55 ID:TRzFfbMmo


 夕立『お手紙はここまでっぽい! “みにみにりゅーじょー”さん、ありがとうございました~!』

 睦月『あっりがっとにゃ~ん!』


 吹雪『でもビックリしたねー。まさかあの鳳翔さんがこんなにスタイル良かったなんて』

 睦月『きれいな人とは思ってたけど、まさかダイナマイトボディだとはにゃーん…………』

 夕立『夕立も、もっともーっと頑張らなくっちゃ!』

 吹雪『……夕立ちゃんはもう歳のわりにおっきいと思うんだけどなぁ』

 睦月『高望みしすぎだよぉ。睦月なんてまだまだぜーんぜんなのに…………なにか良い方法ないかなぁ』フニフニ

 吹雪『お豆腐とかキャベツとか、鶏肉とかも良いらしいねー。正直気休め程度だとは思うんだけど……』

 睦月『それならお鍋とかが良いかもねん。みんなでつつけば楽しいし、今度みんなで集まってお鍋にしましょー!』

 吹雪『あっ、それいいね! 白雪ちゃんとかも呼んでこたつを占拠しちゃおうっ』

 夕立『こたつにお鍋パーティー!? なにそれすっごくステキっぽい! 冬っぽい!』


 吹雪『んふっ! ぽいぽい言いすぎでしょっ……』ビーッ

 吹雪『――あ、新しいお便りが届きましたね。これ読んじゃっても良いのかな。司令官、どうでしょうか?』

 吹雪『…………司令官?』 

 睦月『提督ならあっちでほら、大淀さんと明石さんに矯正されてるにゃーん』

 吹雪『あっち?』

 夕立『うわっ、えげつない』

 吹雪『夕立ちゃん、キャラ崩れてるっ! …………うーん、わたしたちだけで間を繋ぐのもあれだし、勝手に読んじゃえっ』


 睦月『ラジオネームはー?』

 吹雪『二通ともネームなしっぽい? ぽい…………走り書きで書かれたみたいな感じ。えーっと…………』


 “榛名もスタイルには気を付けているようですよ。じかに触れて確かめてみてはいかがですか”

 “龍鳳さんも小柄なわりにちゃーんと育っているみたいです。触ってください”


 夕立『…………』

 睦月『触るのはまずいでしょ…………』

 吹雪『なんで確かめる必要があるんですか』


431: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:38:05.33 ID:TRzFfbMmo

 提督『…………けほっ、けほっ』

 吹雪『あ、司令官。ご無事だったんですね』

 夕立『おかえりなさーい!』

 提督『お前らずいぶんドライだな。もっと俺の身を案じろよ……そ、それで、さっきのお便りはどこ行った?』

 吹雪『それだったらもうボックスに入れちゃいましたよ。ほらこれ』シャカシャカ

 明石『ボックスはわたしが責任を持って処理しますので、提督は触らないでくださいね』

 提督『ああ………………そうですか』

 睦月『どうかしました?』

 提督『いや……天に触れども天を掴めず、といった感じだ。気にするな』


 吹雪『どういう意味ですか?』

 提督『いや…………。それより大丈夫なんですか? 艦娘が匿名で恥部を晒しあう放送になっている気がするんですが』

 大淀『…………ま、まあこれくらいなら。直接的なワードは出てきていませんし、いくらでもごまかしが効きます』

 大淀『匿名性もほぼ意味を為していませんしね』

 明石『さすがにピーがピーするピーピーピーとかはまずいですけどね』

 大淀『こら、言ったそばから!』

 提督『いえ、そういうことではなく……艦娘がお互いの秘密を暴露することで、ヘイトが溜まったりとかしないかなって』

 提督『自分がやってる放送のせいで友情に亀裂が入ったとかだと、こっちも気苦しいですし』


 明石『うーん、そうですねえ……――あっ、こういうときのアレですよ! ほら、マイクの青色ボタンです!』

 提督『あ、お、い、ろ…………あっこれですね。…………ああー!』

 明石『はい! たとえ艦娘間で問題になりそうなお便りを読んでしまったとしても、こちらでナマの声を入れてしまえばいいんです!
    雰囲気が悪くなければそのままで。もし険悪な雰囲気が漂っていればこちらからフォローを入れることもできますし!』

 明石『ただ注意してほしいのが、“ナマの声”は、“ラジオ放送にも流れる”ようになっているので、お気をつけください』

432: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:38:41.68 ID:TRzFfbMmo

 提督『…………なーんか、うんともすんとも返しづらいですねえ』

 明石『いいんですよ細かいことは! 物は試しです、一度使ってみてはいかがですか?』

 提督『いま回線を開いても龍驤さんが鳳翔さんをイジってる場面しか想像できませんけどねえ……』

 明石『それならそれでいいじゃないですか。それじゃ食堂にいると思いますから、マイクの……吹雪ちゃんのマイクですね』

 明石『吹雪ちゃん、マイクの音源ボタンわかりますか? その隣に青いボタンがあると思いますので、押してみてください』

 吹雪『わっ、わたしですかぁ!? ……わ、わかりましたっ』

 吹雪『――――えいっ!』ポチ




 『――――なんでわたし――』 『ざわざわ』 『夢で見たから――――』

 大淀『無事機能したようですね。したよう、ですが…………』

 夕立『…………ごちゃごちゃしててよくわからないっぽい』

 提督『ちょっとぼやけすぎですね。音声をズームすることは出来ないんですか?』

 明石『もちろん可能ですよ。ええっとですね――』ポチポチ

433: ◆oMS.oR7QexOG 2015/03/28(土) 16:40:55.78 ID:TRzFfbMmo




龍鳳『…………こうして洗い物をしていると、あの人が隣に立っているような感覚を持ちます』

龍鳳『わたしのおうちでお夕飯を食べていく機会が幾度かあったんですけど、いっつも食後は二人隣り合わせで一緒に楽しく洗い物ですから』

龍鳳『まるで新婚の夫婦みたいな、とってもあまい時間だったなぁ…………』カチャカチャ

榛名『…………そうなのですか』カチャカチャ

龍鳳『一緒に洗い物をしながら学校の話とか、勉強の話とか、将来のお話とか…………』

龍鳳『ふふ、こんなこと言っても仕方ないですよね。榛名さんだって一緒に住んでいたんだから、これくらいは毎日やっていましたよね?』

榛名『…………』カチャカチャ

榛名『いえ、毎日ではありません。それどころか、一緒に洗い物をする機会もそこまでありませんでしたね』

榛名『家事は提督を含め、金剛お姉さまたちと分担していましたし。いまこのように、誰かと一緒に洗ういった機会は、あまり』カチャカチャ

龍鳳『…………あら、そうだったんですか。それはたいへん失礼しました。わたしったら早とちりしちゃって……』

龍鳳『なんだかすみません。一緒に住んでいたからこそ、役割等で線引きはしっかり行っていたということですね』

榛名『そうですね。たまに誰かとご一緒することはありましたけれど、それくらいで』

龍鳳『そうなんですか。わたしの方はですけど、提督が隣に立っていることが多くって…………』

龍鳳『なんだか身も心も舞い上がっちゃって。肩が触れない程度に寄り添ってみたりなんかしちゃったりしましたけど』

龍鳳『意外とドライな関係だったんですね。わたしはいつもふたりでやっていたのに、榛名さんは独りだなんて……』

榛名『…………』カチャカチャ

榛名『そうですね。任せていただけるというのは、たいへん光栄なことです』

龍鳳『…………まかせる?』

榛名『はい。あの方は自分のことは出来うる限り自身で行おうとする方ですから。洗い物ひとつ取っても例外ではありません』

榛名『あの方は意外と、“他人”を信用しませんから』

榛名『それなのに、信頼して預けていただけるということは、非常に嬉しいお話です。
   とくに衣食住。食後の食器なんてものは、本当に信頼している相手にしか託せないものですから』

龍鳳『信頼…………そうでしょうか? 単純に“何とも想われて”いないから、無関心なだけなのでは?』

榛名『そうかもしれませんね。でも、“わたしと提督”は“家族”ですから』

龍鳳『…………なにをおっしゃいたいのですか?』

榛名『いえ、深い意味はとくに』


龍鳳『…………』カチャカチャ

榛名『…………』カチャカチャ

間宮『あ、あの……洗い物もう終わってますよ……?』

440: ◆oMS.oR7QexOG 2015/05/04(月) 03:35:07.44 ID:EFruZ/tko


 提督『なんですか今の』

 明石『なかったことにしましょう。ええっと、もっと和やかな場所は…………』キュルキュル


『――――』ザザ

日向『ほう、胸当てか……』


 明石『あっ、日向さんですね! 日向さんなら大丈夫そうです!』

 吹雪『…………大丈夫は置いといてですけど。この放送ってたしかみんな聞こえてるんですよね?』

 吹雪『それじゃあ、自分の会話がラジオに流れてるって気づいちゃって、恥ずかしくなって途中で会話を止めちゃうみたいなことも……』

 明石『問題ナッシンです! 音を拾っているエリアには違和感のない程度にコマーシャルが流れるようにしていますから!』

 明石『そのあたりの細かい調整に関してはお任せください!』

 睦月『ご都合的だにゃ~ん……』


日向『ふむ。水上機運用の際にはこれといった障害もなかったが…………』

日向『艦上機の発着操作ともなると、やはり胸当てといった防具の類が必要になってくるのか?』

夕張『弓術射式なら胸が邪魔になることもありますしね。サラシでつぶした上に胸当てで保護するのでしょう』

日向『なるほど。たしかに水上機と艦上機だとそもそものやり方が異なるから、か』

日向『むかし一度、龍驤に彗星を借りたことがあったが、龍驤側で召喚したものを借りただけに過ぎないからな』

夕張『本来は彗星や流星も積めたはずなんですけどね。先生に対応する彗星や流星の開発がなかなか進まなくって、ついには打ち切りになってしまいましたから』

夕張『それに応じて先生たちの艤装も水上機専用に改装されてしまいましたし』


441: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:36:33.46 ID:EFruZ/tko

日向『残念なことだ。借り物などではなく、自分のものとして艦上機を扱いたいものだ』

日向『胸当ては航空母艦である証のようにも見えるからな。着用している姿がとても眩しく映るんだ…………』

夕張『そうですね。日向先生のスタイルなら、きっとよくお似合いだと思います』

夕張『…………先生ならともかく、わたしみたいな体型だとそういうのが似合うかどうかはわかりませんけどね』

日向『なに、そう卑下することもないだろう。きみは未だ成長期の只中にいるのだから、まだまだこれからさ』

夕張『あ、ありがとうございます……でも、成人してもスタイルが変わらない人もいますし。
   さっきのラジオの話でもそうですが、龍驤さんだったり、大鳳さんだったりだとか…………』

日向『そういうこともある。気に病みすぎることのほうが良くないさ。こころの状態はからだの成長にも強く影響するのだから』

日向『それに、女性の魅力は胸だけというわけでもあるまい』

夕張『それは、そうなんですが…………』

日向『それになんだ。きみの言う龍驤や大鳳は、きみから見て魅力的な女ではないということか?』

夕張『い、いえっ! そんなことは決して!』

日向『だろう? 彼女たちは胸だけでない、たくさんの魅力を持っている』

日向『きみも、もし身体が思うように育たなかったのならば、そういった魅力を磨いていけば良いだけの話さ』

夕張『せんせぇ…………!』


日向『いい顔だ。…………なあ、きみもそう思うだろう?』

日向『――――瑞鳳よ』

瑞鳳『…………あ、あははー』

夕張『瑞鳳さん……!』グスッ

瑞鳳『よ、よしよし。夕張ちゃんはまだまだこれからなんだから、ねっ』

夕張『ずいほうさん゛ん゛~~っ!!』

日向『うんうん。よきかなよきかな』

瑞鳳『あはは…………』

瑞鳳『(もうっ! なんでこの二人はさっきからずうっとついてくるの~~っ!!)』


442: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:37:03.48 ID:EFruZ/tko

日向『――――』チラ

夕張『――――』コクリ


夕張『ねえ、瑞鳳さぁん…………』グスグス

瑞鳳『な、なぁに?』

夕張『瑞鳳さんはさ、ほんっとーにわたしのこと慰めてくれようとしてますか……?』

瑞鳳『も、もちろん! 夕張ちゃんの魅力は、まだまだたーっくさんあるんだから!』

夕張『そう、ありがとう。…………でもね、本当に慰めてくれようとしているならさ』

夕張『もう一つだけ、お願いがあるんです』

瑞鳳『な、なにかなぁ…………?』


夕張『――――瑞鳳さん自慢の九九式艦爆、くれませんか』


瑞鳳『え…………?』

夕張『九九式艦爆くれませんか』

瑞鳳『九九式艦爆……? ち、ちょっとそれはムリかなぁ~って…………』

夕張『艦爆くださいよ! ねえ!』

夕張『艦爆ですよ! 九九式艦爆でしょう!? ねえ九九式艦爆欲しいんですよねえ!!』ガシッ

瑞鳳『やっ、ちょっ、離し…………!』

日向『抵抗することはない』スッ

瑞鳳『日向さん!? なにを――――』

日向『瑞鳳……大切に思う相手のために、我が身を差し出すのは罪ではない。話し合いが通用しない相手だっているんだ。
   精神を欲望のまま自由に開放してやれ……気持ちはわかるが、もうガマンすることはない……』

日向『きみの好きだった九九式艦爆や彗星たちを…………彼女に差し出してやってくれ…………』

瑞鳳『な、なにを…………ひゃんっ!』

夕張『うへへ…………』グニグニ

瑞鳳『ちょ……どこさわってっ』

443: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:37:39.04 ID:EFruZ/tko

日向『ほら、きみの九九式艦爆はこんなにも欲しがっているじゃあないか……』スルッ

瑞鳳『んぅっ!』

夕張『わたし、ずうっと考えていたんですよぉ……どうすれば艦載機を搭載することができるかなぁって……。
   やっぱり昨今の戦いですと、弾着観測射撃の安定した火力は非常に魅力的ですしぃ…………』イジイジ

夕張『明石さんに相談していろいろ実験してみてるんですけど、なかなかぁ……』

日向『やはり実機がなければ始まらないからな』

瑞鳳『そんなの……んっ! ぁ、はぁっ…………』ビクン

瑞鳳『べっ…………べつにっ! わたしのじゃなくってもいいんじゃない!? ほ、ほら、龍驤さんとか…………』

夕張『龍驤さんじゃだめなんです』

瑞鳳『なっ…………なん、でっ』

日向『度重なる厳正な審査の結果、瑞鳳が一番ちょろそうだと思ったのだ』

瑞鳳『ちょろっ!? ――――んんっ! ぅ、やらぁ…………』

夕張『さあ……ここからが追撃戦ですよ……』ワキワキ

日向『わたしたちの高速給油で、その小柄な格納庫を満たしてやろう…………』ワキワキ

瑞鳳『や…………』

瑞鳳『やああぁぁぁ~~~~~~っっ!!』






――――

――


444: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:38:52.69 ID:EFruZ/tko





 大淀『提督。新しいお便りが届きました』

 提督『どうぞ』


 “格納庫弄られるのが辛い”


 大淀『“duf0”さんからのお便りです』

 提督『…………えーっと。つまるところ、格納庫弄られるのが辛いということですね。頑張ってください』

 睦月『軽っ!!』


伊勢「あの子……いないと思ったらバカなことを……」

長門「気にするな。いつもの発作だ」ズズ

飛龍「瑞鳳ちゃんのあの声って、放送的にマズいんじゃ……それに提督も珍しく紳士になんなかったね。真摯な紳士というか」

蒼龍「ね。だいたいいつもあんなことが起こったら前かがみになってるけど……」

金剛「あれくらいならわたしたちで慣れてるネー」ズズ

比叡「そうですねー……」ズズ

瑞鶴「はあっ!?」


陸奥「ちょっとみんなこれ見てよ! 鳳翔さんが女豹のポーズしてる!! しかもマイクロビキニだしっ」

武蔵「興味深い」ガタッ

大和「高解像度でお願いします」ガタッ

赤城「こ…………これは…………」

暁「い……一人前のレディになるためには、こういうカッコもしなくちゃいけないの…………?」

雷「電は見ちゃだめなんだからっ!」

電「はわっ!?」

北上「これはこれは…………ハラショーかい?」

響「いいや。これはさすがにハラショわない」

祥鳳「これは……さすがにここまではわたしでも無理ね……」

鳳翔「やっ、やめてっ……やめなさーい!!」


千歳「すっごい集まってるね。あっちのほう」ズズ

飛鷹「そもそもアレどうやって撮ったの? 日頃の鳳翔さんを見てると信じられないんだけど」

龍驤「あいつ、酒に弱いトコあるからね」ズズ

隼鷹「あーね。酔わせたところをグワッといったわけかー」

龍驤「せやな」

鳳翔「せやなじゃありませーん!!!」

445: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:40:21.44 ID:EFruZ/tko


 提督『明石カモン』

 明石『…………え、えと。いまのもたまたま音を集めた場所が悪かっただけで』

 提督『カモン明石』

 明石『ひゃっ! ひゃいっ!!』


 提督『ねえマジでこういうのやめてねえ。ちゃんと事前に確認してから音とって? 俺の威信がかかってるからさあ。最悪俺が維新されちゃうからさあ』ペチン

 提督『なにが“日向さんなら大丈夫です”だ。ぜんぜんだいじょばないじゃねーか』ペチン

 明石『んぁっ……ちょ、やっ、やめてくださっ…………』

 提督『なに? 明石さんわざとだったの? わざとこういうふうに俺を困らせて喜んでるのねえねえ』ペチンペチン

 明石『こっ……こんにゃくでほっぺを叩くのはやめて…………んぅっ!?』ペチン

 提督『なにか言いました? 年下の提督いじめて楽しいですか? しばらく見ない間にいやらしくなったもんですねずいぶんとねえ』ペチペチ

 明石『ちょっ…………ま、やっ…………』

 提督『おまえちょっとウザい! クソがっ!』

 吹雪『それは摩耶さん』

 睦月『ちょっ吹雪ちゃっ――――』

446: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:41:30.15 ID:EFruZ/tko


  がさごそ ごとごと …………


 大淀『…………えーみなさん、提督鎮守府の赤裸々生活、いかがだったでしょうか。
    アニメ“艦隊これくしょん”に出演する三名、普段はもっとも~っと奔放に過ごしております』

 大淀『アニメでは、ちょっぴり素敵な艦娘たちが見られるかもしれません。
    かくいうわたしも、こっそり通信士として登場していたりなんてしちゃったり、なんて』

 大淀『ぜひぜひ、そちらの方も注目してくださいね!』

 大淀『それではいったんCMに入らさせていただきたく思います。CMのあとは、みなさまからのお悩みを解決するあのコーナーです!』

 大淀『今からでも問題なく間に合いますのでみなさまからのお便り、どんどんお待ちしております!』

 大淀『それでは、またあとで~!』


明石「…………は、はいっ! それでは五分ほどの休憩に入ります! ――ちょ、もうやめてください!」ペチペチ

明石「再開三十秒前から用意を始めますので、その時間までに戻っていただけるなら自由に行動していただいても大丈夫です!」ヌルヌル

明石「お飲み物はこちらで用意させていただきましたので、ご希望のかたはどうぞ!」ヌルヌル

睦月「あっ、じゃあ睦月ちゃんはオレンジジュースがいいのです!」

夕立「夕立もみかーん!」

提督「ん……俺はトイレ済ませとこうかな。コンニャク食べてぬるぬるしてますし。つってもあと少しくらいですよね?」

明石「あー、そうですね……」フキフキ

大淀「いずれにせよ提督は放送後の処理作業もありますし、今のうちに」

提督「そっすね。それじゃちょっと失礼しときます」ガタッ

447: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:42:35.49 ID:EFruZ/tko

  すたすたすた 

 …… ……

吹雪「(あれ? 司令官のポケットから、なにか…………)」

吹雪「(――――えっ、あれって……!)」

 …… ……


  がららっ ぴしゃっ

夕立「…………吹雪ちゃんだいじょーぶ? 具合悪いのもうなおった?」

睦月「そういやそうだね。放送始まる前は元気なかったみたいだけど……ナニかあった~?」

吹雪「あ――うぅ、思い出しちゃったよぉ…………」ムズムズ

大淀「大丈夫ですか? もしなにかあれば今のうちに済ませておいたほうが良いと思いますよ」

吹雪「そ、ですよね。それじゃちょっと、すぐに戻ってきますっ」ガタッ

吹雪「――わ、わわっと! ……しつれいしましたっ!」

夕立「…………なーんだか、おかしな吹雪ちゃーん……」

睦月「帰ってきたら聞いてみよっか。そっれよっりどーなっつの続きにゃーん!」

夕立「ドーナツにみかんジュースが備わり最強に見える」

大淀「ふたりとも、急がずゆっくりとね。のどに詰まらせたら大変ですから。それと明石、ほらハンカチ。ほっぺたがヌルヌルテカテカしてるわよ」

明石「ありがと。…………ぅー、乙女の柔肌になんてコトを……」


448: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:43:32.83 ID:EFruZ/tko


  どっぱーん


提督「ひー……」

提督「(さいきんトイレが近くなってきた気がすんなあ。頭より先に身体のほうが歳とってきたんかね――っと)」キュッキュッ

提督「(運動はそれなりにやってるつもりだけど、椅子に座ってる時間はそれ以上だからなあ。腰にクるわ……)」フキフキ

提督「(あんまり情けないと艦娘に対して示しがつかんからなあ。
    もし腰を痛めたりしてオッサンくさいところを見せてしまったらもう、艦娘にどんなことを言われるか……)」

提督「(とくに過激なメンバーなんかきっとこうだ――――)」


 満潮『腰が痛いィ? 知らないわそんなの。これだからオッサンは困るのよ! きっしょ近寄らないで加齢臭がクッサイのよ!!』

 曙『ほんっとクソ提督ね! こっち見んなセクハラで訴えるわよ!!』

 霞『こんなに太ってみじめよね。あたしたちが訓練してる間お菓子ばっかぼりぼり食べてるからそうなんのよ』

 響『デブショー』


提督「(…………)」

提督「(うわぁ頑張ろう。ビッグになろう。ピッグにはならないでおこう)」フキフキ

提督「(てかあいつらおかしくね? 演習とかでよその提督とかと会ってるだろ? 俺がいかにスリムか理解してるだろ?)」スッ

提督「(あいつらマジ辛辣だわ……もしあいつらがゲストに呼ばれた日にはもう凄惨だわ)」

提督「(そう考えたらいまのところ、榛名、しおい、吹雪睦月夕立って物凄く良心的なメンバーじゃねえか。
    ……あれ? ラジオ始めたのって数日前だよな? なんか気持ち数ヶ月経ってるみたいな感じがするわ。気のせいか……)」

提督「さて……そろそろ戻ろう」

提督「(そういや俺ハンカチ持ってたっけ。ついつい無意識に使っちまったけど……)」

提督「(座ってたときに思ってた違和感はコレだったのか。ケツポケットにハンカチ入れることなんてあんまりなかったからなぁ)」モゾモゾ

提督「(ま、いいや。そうとわかれば違和感なんて飛んでいっちまうからな)」

提督「(戻ろう戻ろう。水場のニオイって、どーやっても慣れないんだよなあ~……)」ガチャン


449: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:44:28.64 ID:EFruZ/tko

――

――――



吹雪「た、ただいま戻りました~……」ソローリ

夕立「あ、吹雪ちゃんおかえりなさーい」

明石「問題のほうは解決されましたか?」

吹雪「え、ええ、まあ……一時的にって感じですケド」

大淀「なにかあったの?」

睦月「一緒にゲームしてたときは元気だったケド……」

吹雪「う、うん。ちょっとね…………」

明石「なになに、デリケートな話ですか?」

大淀「それならちょうどいま提督もいませんし、相談に乗りますけれど」

睦月「カモッ! ブッキーガールカモッ! オールウェイズカモッ!」クイクイ

吹雪「なんで金剛さん風なの……えっと、じつはね――」



450: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:45:13.18 ID:EFruZ/tko






 『えぇ~~~~っ!!』


睦月「吹雪ちゃん下着なくなったの!?」

吹雪「ちょ、声大きいってばぁ!!」

夕立「だからそわそわしてたんだー……お昼ごろまでは普通だったけど、もしかしてお風呂に入ったときっぽい?」

吹雪「う、うん、たぶん……。カゴのなかに入れてあったはずの下着が、どこ探しても見つからなくって……」

明石「すでに洗濯物として処理されてしまった可能性はありませんか?」

夕立「榛名さんがまとめてぱぱーっと洗ってくれるって言ってなかったっけ?」

睦月「そうだにゃー……そもそもなーんで、吹雪ちゃんはぱんつがなくなってることに気付けたの?
   どちらかといえば、洗濯物を洗ってくれる榛名さんが気づくことな気もするにゃーん」

吹雪「う、うん、それなんだけどね…………」

吹雪「このあいだ、執務室に変なおばけが出たーって日があったじゃん。
   ちょうどその日にね、洗濯物を思って脱衣所に置いてたんだ。その次の日の朝にまとめて洗っちゃおうと思って……」

吹雪「そしたらその翌日そのカゴを見たらね、なーんかヘンなヌメヌメしたものがベチャってついてて……」

大淀「(…………あー)」

明石「(…………ふんふむ。なるほどなるほどなるほど~)」

吹雪「洗ってもぜんっぜん落ちないし、まとめてクリーニングに出しちゃったんだ。
   だからいま手元に替えの下着がほとんどなくって、一日の途中で履き替えるとすぐに予備がなくなっちゃうから…………」

大淀「お昼にさっと流す程度なら、替えないままで良いと判断したんですね」

吹雪「そ、そうですぅ…………」カァ

451: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:46:15.17 ID:EFruZ/tko

吹雪「そ、それでさっきようやく穿き替えたというか、穿いてきたというか……」

睦月「睦月たちのはそのままちゃーんと置いてあったし、榛名さんがまとめて洗ったにしては不自然だにゃー……」

夕立「そもそも洗うにしても、ぱんつ一枚だけ洗うなんて面倒臭すぎ! だいたいシャツとかと一緒にまとめて洗うっぽい!」

明石「…………と、なると。自然と一つの言葉が脳裏に浮かびあがってきますね」

大淀「――盗難、ですか。北上さん以外が下着泥棒に遭うなんて初めてですね」

吹雪「で、でも! 下着泥棒なんて言ったって、まずする人がいないじゃないですか! お風呂だってわたしたちが普段使わないお風呂でしたし!」

吹雪「下着泥棒なんて、男の人がやるような……でも、鎮守府に立ち入る人はみんな持ち物をチェックされてますし……」

明石「たしかに、そう言われてみればそうですねぇ」


睦月「そもそも睦月たちがそこのお風呂場に入ったことだって、知ってる人自体がほとんどいないにゃーん」

大淀「誰が知っているんですか?」

夕立「えっとぉー。まず夕立でしょ? 睦月ちゃんでしょ、吹雪ちゃんにー」

睦月「あと、榛名さんと」

吹雪「――――司令官、です」

大淀「ああ……執務室そばのお風呂場ですか? けさ提督と榛名さんがシャワーを浴びた場所ですね」

明石「それなら自然と絞り込まれてきますねぇ。榛名さんは当然として、提督だってあまり考えられませんし……」チラッ

夕立「ぴっ!?」

睦月「むむむむむ睦月たちじゃないよ!? だって三人ずーっと一緒に行動してたもん! ねぇ吹雪ちゃん!?」

吹雪「は、はい! 睦月ちゃんと夕立ちゃんはわたしとずっと一緒で、お風呂あがったあとも一緒で……」

大淀「お風呂上り、途中で誰かに遭遇したとかは?」

吹雪「叢雲ちゃんには会いましたけど、それ以外はとくに…………」

大淀「ふうん…………」


明石「提督が、榛名さんの下着目当てで忍び込んだっていうセンはどうですか? それでついでに、みたいな」

吹雪「つ、ついでって…………」

大淀「提督が欲しいって言えば進んで差し出すでしょ。わざわざ盗むようなことはしないと思うわ」

明石「それもそっか」

夕立「(なにかがおかしい!?)」


452: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:47:00.51 ID:EFruZ/tko

大淀「…………ねえ、あなたたち。今日なんだけど、提督の様子でおかしいなーって思ったこととか、ありませんか?」

大淀「そ、その。提督も街に出てお疲れの様子でしたし、ちょっとした気の綻びとかが見えてきたりなんか…………」

明石「(お、お疲れ…………も、もももしやそれは疲れマラとかいうヤツですか!? むっはああーっ!!)」ブルブル

明石「(大淀! やっぱアンタってばド  だわ! ド  酒保祭りですわ!!)」

大淀「(あなたは黙ってなさい!!!)」

吹雪「提督の様子で、変なところですか…………うーん」

夕立「そう言われてもあんまし覚えてないっぽい……いつも通りの提督さんだったってゆーか…………」

大淀「そこをなんとか。艦娘の生活の保護はなにより大切な案件ですから。すぐに原因を突き止めなければなりません」

睦月「んー…………そういえば、だけどぉ」

吹雪「睦月ちゃん?」

睦月「ふたりも覚えてるかにゃー? 街から帰ってきて、車から降りたときのコトだけどぉ」

吹雪「…………? うん、覚えてるけど……」

夕立「ぅー……?」

睦月「夕立ちゃんは爆睡だったから覚えててないカモかも?」

吹雪「たしか、うとうとしてる夕立ちゃんを榛名さんがおんぶしてたんだっけ? もうヨダレなんてドバーッと流しちゃって」

睦月「そうそう! それでね、そのヨダレで榛名さんの着てた服がどんどん透けちゃって……」

吹雪「前かがみになった司令官が逃げるように帰っちゃったんだっけ?」

明石「ま、まえかがみ…………ッ!!」

大淀「…………なるほど、尻尾が見えましたね」


453: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:48:00.53 ID:EFruZ/tko

大淀「そのあと、提督がどこへ行ったかはわかりますか?」

睦月「ううん、そこまではさすがに……」

吹雪「わたしたちもあのあとすぐにお風呂行きましたし……」

明石「ああ……そういやそのあとですかね。わたし提督に会いましたよ」

大淀「ほんとう?」

明石「ウソついてもしょうがないでしょ。たしかトイレの前で会ったんだったかな……」

明石「放送機器の調整をしようと思って提督を探し回ってたんです。そしたらお手洗い近くの廊下を歩いた提督を見かけまして。
   いまからお手洗いですかって尋ねたら、“もう用は済んだところですから”お気になさらず、って」

明石「しかも変な敬語まで使って。いま考えれば慌てていたのを隠すために……!?」

大淀「よ、用は済んだ……つまり、目的を達成したということね」

夕立「なくなった吹雪ちゃんのぱんつ、目的を達成したてーとくさん…………」

吹雪「も、目的って、そんなまさか」

明石「それもただの目的ではありません。トイレの前で“用は済んだ”……と言ってました」

明石「トイレ、異性の下着、用は済んだ――これの指すところは、つまり」

睦月「みゃっ、みゃさかっ!?」カァ

大淀「ま、まさかそんな、まさか……!」カァ

吹雪「…………っ」カァ

夕立「…………ぅー?」


454: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:49:24.66 ID:EFruZ/tko

夕立「よくわかんないけどぉ~……てーとくさん、トイレだったらさっきも行ったっぽい?」

大淀「…………!!」ハッ

明石「まさか……セカンドハッスル!?」

吹雪「あっ、そうです! さっき立ち上がった司令官のポケットから、見たことのあるガラの布がちらちら見えてて……。
   わ、わたし、それと同じガラのぱんつ。それが無くなったんですっ!!」

睦月「にゃしっ!?」

大淀「ぬかりました……! 榛名さんのあられもない姿に劣情を“催した”提督が、たった一度のふんもっふで終わるわけがありません……!」

大淀「時に、閉鎖空間においての彼は過激になるはずです……!
   後ろめたくないくらい愉しみを感じるのは、ちょっとしたスペクタクルのはず……!」

明石「女の園と化した鎮守府において、ひとりの時間は刹那の夢――。
   手当たり次第に掴み取って、無造作に使い捨てるなんて、欲に駆られた男性ならよくあると聞きました」

明石「わたしたちは忘れていました。彼がひとりの男性だということを……」

大淀「吹雪ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい……っ! あなたの下着を、まもれなかった…………!」

吹雪「え、え、え、ええっ!?」

睦月「ちょ、ちょーっとお二人とも、想像が先行しすぎてるにゃーん? 本当に提督がやったっていう証拠はまだないんだからっ」

明石「睦月ちゃん、提督を信じているんですね……なんていい子なのっ……」ホロリ

睦月「や、やっ、二人がヒートアップしすぎなだけだからっ! 顔まっかっかだしっ!」

大淀「ううん、提督が不審で怪しいのは確定的に明らかです。わたしが思うに提督と艦娘の信頼度は違いすぎた。提督が帰ってきたらハイスラでボコりましょう」

睦月「なんか言葉づかいも変になってるしいいーっ!!!」


455: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:52:47.08 ID:EFruZ/tko

――――

――



  がちゃっ

提督「ただいま戻りま――」

吹雪「」バッ

明石「」バッ

大淀「」ギロッ

提督「…………なんの遊びですか? 俺が戻ってきたら一斉に振り返る練習ですか?」

提督「そんなにじろじろ見て……あ、髪とかはねちゃったりしてます? 鏡あったかな」

吹雪「い、いえいえいえ! そんなこととくには!」

明石「いつも通りカッコイイですよ! なんかもう振りきっちゃってるカンジで!」

夕立「ぽっぽい!」

提督「なんスかその反応……まあいいや、放送開始まであと二分もないくらいですよね? そろそろ段取りさっと済ませた方がいいんじゃないですか」

明石「それもそうですね! そう、ですが…………」

大淀「提督。その前にボディチェックをさせていただきます」

提督「えっ? ボディチェック?」

明石「吹雪ちゃん、睦月ちゃん、夕立ちゃん。提督を中心に輪形陣」

吹雪「は、はい!」

睦月「悪く思うな……にゃし。これも提督のため……」

明石「夕立ちゃん、どう? イカくさくない?」

夕立「くんくん……イカっぽくはない、けどぉ……」

提督「はっ、いやちょっと待ってくださいよ! なんでボディチェックですか!」

明石「いやぁ、そのぉ…………」

大淀「…………ここ執務室には精密機器も複数設置されておりますし、危険物を持ちこまれてしまうと問題ですから。
   たとえ提督であろうとボディチェックを敢行させていただこうかと」

提督「いやいや外出したあとならともかくとして、トイレのあとですよ!?」

吹雪「や、やっぱり…………!?」

夕立「うわぁ」

提督「……なんだその反応。ちゃんとトイレ行くって言ってたろ」


456: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:53:36.56 ID:EFruZ/tko

大淀「トイレでいったいなにをしたんですか。正直に言いなさい」

明石「いやいやいや言わなくてもいいです聞きたくない! 大淀あなたナニを聞いてんのよ!!」

大淀「ナニっていうか  っていうか――――」

明石「やめてぇ聞きたくないぃぃぃ~~っ!!」ブンブン

提督「どっちなんですか…………トイレで何っていうか、生物として当たり前のことをしたというか。……というか何言わせてんですか恥ずかしい」

大淀「あっ、当たり前のナニを!? 生物の!?」カァ

明石「なんちゅーモン流してくれるんですか! トイレが詰まったらどうしてくれるんですか!!」カァ

提督「詰まるわけないじゃないですか……」

明石「詰まるに決まっているでしょう! お、お風呂場とかでされると排水溝に詰まるってよく聞きますし!!」

提督「お風呂場で!? そりゃ詰まるに決まってるでしょう!!」

提督「(お風呂場で小用どころか大用!? それ何のxxxだよはじめて聞いたぞ!!)」

明石「ほぉらやっぱり詰まるんだぁー!!」

提督「当たり前でしょうが! そもそも浴室はそういう場所じゃないでしょう! そんな汚い…………!」

明石「トイレだって“そういう”場所じゃないですよ!!」

提督「トイレはそういう場所だろ!!!」

睦月「トイレで使ったもの、正直に言えば許してあげなくもないにゃ?」

提督「使うってなんだ」

吹雪「わ、わたしはちょっと複雑かも…………」


457: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:54:54.42 ID:EFruZ/tko

大淀「と、トイレこそ大問題です。わたしは提督が取り返しのつかないあやまちを犯してしまう前に食い止める責務があります」

大淀「さあ、観念して危険物を差し出しなさい。いまならまだ情状酌量の余地があります」

提督「だから危険物ってなんなんですか!」

大淀「……そ、そんなコト……女の子に言わせるつもりですかっ」テレテレ

提督「なに照れてんだオイ」

明石「と、トイレと、その……ブツって言ったら…………ほら、心当たりありませんか?」テレテレ

提督「…………下品ですね。その危険ブツならちゃんと流しましたよ」

明石「きったねェ!! それなわけねえだろうが!!!」

提督「じゃあなんなんですかさっきからもう!」


大淀「…………らちがあきませんね。吹雪ちゃん、夕立ちゃん、睦月ちゃん、提督を押さえて」

夕立「がってん!」ガシッ

睦月「てーとく、心の準備はいいかにゃ~ん?」ガシッ

吹雪「し、しれいかん」ガシッ

提督「なっ、お前ら……はやっ、離せコラ! 俺がなにしたっていうんだ!」

吹雪「わわっ、暴れないでください!」

睦月「三人に勝てるわけないだろ!」

提督「バカ野郎俺は勝つぞお前ら!」

夕立「その慌てっぷり、逆になんかあやしいっぽい…………」

大淀「やましいところがないなら、素直にボディチェックを受けることですね」

提督「痛くもない肚でも探られたら面倒なんだよ!」


458: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:55:22.69 ID:EFruZ/tko

大淀「………………さて」グイッ

提督「…………くっ、殺せ!」

大淀「提督、お覚悟のほどは――――」


明石「…………!」

明石「みなさん、至急席のほうへ戻ってください! 放送が始まってすでに五分が経過しています!
   場繋ぎで新作ゲームのコマーシャルを流していましたが、それもそろそろ…………!」

大淀「ぁ――なんですってっ」ガバッ

大淀「提督、この話はまた後にします! せいぜい首を洗って待っていることですね!」タタッ

提督「おふっ………変な遊びやってるからこうなるんです! さっさと再開しますよ!」ガバッ

吹雪「あっ…………しれい、かん」

睦月「こらぁーっ、尋問はまだ終わってないぞぉーっ!」

提督「お前ら三人組もバカばっかやってないで、ちゃーんと放送やらないとと間宮券も夕食も抜きにするぞ!」

夕立「わ、それは困るっぽい!」タタッ

睦月「質をとるのはズルいよぉ~……」タタッ

吹雪「…………」ジトー



459: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:56:15.52 ID:EFruZ/tko




 『がたこと がたがた』


浦風「はむ、んむ…………んく、んっ――。……くふぅ、なんや磯風。今日はお茶ばっかじゃけどダイエット中なんか?」

磯風「いや……そういうわけではないが」

浦風「ふうん――ま、いいや。うちも最後のどおなつを…………あっ谷風こら! そのどおなつはうちのもんじゃっ」

谷風「へっへー。こーいうのは早い者勝ちだよーん! タッパに詰めて夜食にするのさ~!」

浦風「それはうちが最後にとっておこうと思ってだいじに大事にあたためとったやつや! 夜食になんてさせてたまるかぁっ」

谷風「おっと! ……あぶないあぶない。こー見えて谷風はすばしっこいのさ! そんじゃっ」ビューン

浦風「あっこらっ! …………もぅ」

浜風「ごめんね浦風。谷風が盗っていったのと同じもの、わたしのをあげるから……」

浦風「ん、いやいやええんじゃ。あんま気にしとらんし……自分のをとられたっていうんが気になっただけや」

浦風「それにドーナツやったらほかにもまだまだあるしな!
   磯風なんか大皿から自分の皿にドーナツ移して保持するだけ保持して食うとらんしな! うちが代わりに食べたるわっ」パッ

磯風「あっ、おい!」

浦風「んふんふ…………おいひぃ~っ! やっぱあん二人のどおなふは一味違うやぁ……」マフマフ

磯風「…………おまえ。ついさっき“自分のをとられたのが気になる”と自分で言ったばかりだろうが」

浦風「――ふ? だめやっはかの?」マフマフ

磯風「………………きちんと飲みこんでから話せ。まったく。
   それにしたって、よくもまあそれだけ食えるものだ…………間宮でパフェをいただいてからそう時間も経ってないというのに」

磯風「それにあの放送だってずいぶんな内容だしな」

浦風「甘いものは別腹ってゆーじゃろ? んふふ~」マフマフ


460: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:56:51.20 ID:EFruZ/tko

浜風「あ、新作間宮パフェ食べたんだ。どうだったの?」

浦風「んー? 新作パフェかぁ~、アレはええもんやでぇ……。
   砂糖菓子の飾り付けがいーっぱいあってな、カラメルソースがふわぁ……っとかかってあるんよ」

浦風「おーっきぃ透明な器の横から見てみるとな、クリームとチョコとイチゴジャムとカスタードが層になっててな?
   スプーンですくって食べても口のなかがダル~くならんようにな、ナッツとフレークがサクサクしとるんや」

浦風「表面のほうもな? 一面がパンケーキになってて……その上に生クリームとか、新鮮な果物とかが綺麗にカットされて盛り付けされてるんよ。
   おかげで甘ったるいだけやなくってな、果実の汁がじゅわ……と広がって噛むたんびにリフレッシュされるんやぁ……」

浜風「あ…………なるほどぉ」ゴクリ

浦風「んぅ。ほんで極めつけはな、羊の角の形したあの――なんじゃっけ? あのサクサクしたやつ」

磯風「ウエハースだ」

浦風「そうそれじゃ! ウエハースがまたおっきくてなぁ、これとパフェを交互に食べると毎っ回新鮮な気持ちで食べ続けられるんよ!」

浦風「今月までしか置いてないみたいじゃし、懐に余裕があったらぜひ食うてみるんがええと思うよ~」

磯風「…………お前は懐痛むことなく腹に入れたがな。この磯風の犠牲を以てな」

浦風「それはもうええゆーたじゃろ……」

461: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:58:31.71 ID:EFruZ/tko

磯風「ああ、あの味を思い出してしまったではないか。まったく……。
   目の前にはドーナツが並んでいるというのにこれでは……想像だけで胸焼けがしてしまう」

浜風「甘いものばかりだとどうしてもね。カロリーだってすごいし…………」

磯風「ああ。司令が言っていたように、パフェのカロリーはここ二日三日で調整しよう……と思っていたが、ドーナツまできてしまってはな。如何とも……」

浦風「カロリーなんか気にしとったら楽しゅう過ごせんじゃろぉ~? ちょっとくらい食べ過ぎたぐらいでどうにもならんて~」

磯風「ダメだダメだ! 気を抜くとヤツらは一瞬の隙を突いてやってくるぞ!」

浜風「とくに最近なんかは寒くてカロリー燃焼しにくいしね。注意しないと」

浦風「だいじょーぶじゃろ~。うち太らん体質やし~」マフマフ

磯風「ちっ!」

浜風「節分になったら磯風と一緒にお豆投げてあげますね」

浦風「ふふーん。どうせそん時になったら忘れとるじゃろ」マフマフ

磯風「(お前が一番忘れていそうだがな…………)」


磯風「夕食のあとだともいうのに。こんなにいいものをいただいてばかりでは、バルジが過ぎてドルジになってしまう…………」ムニムニ

浜風「ドルジって……力士のほう? それともこの間話してた――」

磯風「ネコのほうに決まっているだろう。金剛でもないぞ! うちのドルジを勝手に力士なんかにするんじゃあない!」

浦風「あー、あのでーっかいネコちゃんのこと?」

磯風「うむ。どうやら最近寂しそうにしているとのことで、そのうちこちらに移送されてくるらしい」

磯風「そう遠くない話だろうし、もしこっちに来たら仲良くしてやってくれ」

磯風「おっきくてもっふもふなんだぞ!」

浜風「おっけー」

浦風「ぬお~」

462: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:59:06.79 ID:EFruZ/tko

 提督『えー、たいへんお待たせいたしました! “ちんじふ裏らじお”再開します! その裏表をぜひご覧あれ! ……ご覧、あれ。とは言ったものの――』

 提督『えーっと……はは、なんの話をしていたんでしたっけ? ああ、そうだそうだ格納庫の話でしたね。
    もう終わったお便りですが。格納庫――というよりかは、艦娘間のコミュニケーションと言いますか。非常に良好ですよ』

 提督『さっきのはちょっと過激でしたけれど、艦娘間で声の掛け合いも活発ですし、ボディタッチに対する遠慮も特に見られません
    あ、ボディタッチといっても同性間での話ですよ! 僕が触ろうものならもう熱したヤカンのように燃え盛ること間違いナシです』

 提督『いじめとかはなく、良い環境がつくれているんじゃないかなあと思います! でも僕が言っても説得力が弱いですかね。はは。
    そこは保護者のみなさまから、此処“ちんじふ裏らじお”にお便りを宛てていただいて。本人に直接伺うのがベスト! そう思いますよ』

 提督『…………これ、前にも言いましたっけ? あんまり言いすぎると逆に不審を買ってしまいますしほどほどにしておきましょうか。
    さっ、良い時間になってきたところでお次はこちらっ!』

 『………………』

 提督『…………あの。お、大淀さん?』

 大淀『……さて、お次はこちらのコーナーへ入っていきたいと思います』スッ

 提督『あ、ああ……うん…………』


 夕立『“きいてよぽいぽい”のコーナーでーっす!! ぽいぽいぽい~っ!』


 大淀『始まりました“きいぽい”の時間です。視聴者さまのちょっとしたお悩みを、この夕立先生がぽいぽいと投げ捨てていくコーナーです』

 夕立『みんなのお悩み、夕立が解決してあげるっぽい!』

 睦月『睦月ちゃんもいるよ~ん!」

 吹雪『司令官は?』

 大淀『いません』

 提督『いるわバカ』


463: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 03:59:40.82 ID:EFruZ/tko


 大淀『――さ、一通目のお手紙になります。夕立ちゃん、お願いします』

 夕立『はーい! えーっと……んー…………これだっ!』


 “最近駆逐艦とケッコンしたが  コン呼ばわりされて辛い”


 吹雪『わー…………』

 夕立『ラジオネーム“バストサイズはA+まで”さんからのお手紙っぽい!』

 吹雪『わぁー!!』

 睦月『ガチだー!!』


漣「さすがの漣もそれはヒくわ」

曙「ほぼ自分で認めてるようなものじゃない」

潮「そういう人が提督さんだったら……ちょっと、コワいよね」

漣「ねー。ネット上だと自分で  コン名乗ってる人多いケド、実際いたらけっこーヒくっていうか……」

朧「あれ、本気じゃなかったの? ツイッターのプロフィールなんかに“  コンです”って入れてる人よく見かけるけど」

漣「当ったり前田のクラッカーだよ! ああいうのはネタでやってるところが強いんだから!
  そりゃたしかに小さい子――というか、赤ちゃんとか幼稚園児の子たちは可愛いなーって思うケド、さすがに恋愛対象にはなんないって!」


464: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:01:13.61 ID:EFruZ/tko

漣「あっちなみにね、ロリっていうのはちいさい女の子くらいのこたちを指してね、男の子のコトはショタって言うんだけど――」

曙「そういう余計な情報はいらないわ」

漣「あ、うん…………それでね、そういう子たちに恋愛感情というか、 的に欲 するのがその  コン? ……みたいな?」

朧「ふーん…………」

漣「ネットで書かれてることはあんまり信用しちゃダメだよ! アッー! とかキマシ! とかはネタで盛り上がってるだけっ」

漣「それをまるまる信じ込んじゃってリアルでやると大恥かくんだからっ!」

朧「あ、あっー……きまし…………?」

漣「漣だって、さざなみだってそうわかってたらあんなコトしなかったんだよぉ~~…………」

曙「うっわ、ひとりで自爆してんじゃないわよ……注目浴びてるから…………。
  むかしのアンタがナニしたかは知んないけど。ネットでのテンションを現実に持ち込むなんてバカがやることでしょ? 自業自得じゃない」

漣「うるさいうるさーい! 若さゆえのあやまちだったの! 認めたくないものなのー!!」

曙「わずらわしっ…………」

465: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:02:28.11 ID:EFruZ/tko

朧「…………でもさ、バストサイズはA+までって言うけど」

曙「ん?」

朧「駆逐艦やれるくらいの歳にもなるとさ、そろそろ成長してくるっていうか……」

朧「あたしたちの周りがおかしいのかもしれないけど。潮とか……あそこで盛り上がってる浦風たちとか。あのあたりはちょっと大きすぎるかな。
  いまラジオに出てる吹雪とか夕立とかもA+よりはぜんぜんあるでしょ」

朧「さすがにこのくらいの歳になったらA+っていう子はなかなかいないんじゃないかな」

漣「おっとその発言は不特定多数に突き刺さりますな」

曙「…………」フニフニ

潮「こ、これから成長していくって人も多いんじゃないかな?」

朧「ん……それはもちろんだけどね。でもさ、あたしたちより年下の春雨とかでもBくらいはあるみたいだし。さすがにそろそろ……ね」チラッ

曙「ぬっ!」ギラッ

朧「まさかあたしたちと同い年で、A+にすら満たないバストサイズの子なんて…………いないよね?」チラッ

漣「アッ」チラッ

曙「…………」バチッ

潮「わ、わっ」アタフタ


漣「…………いるワケないよネー。A-が許されるのは小学生までだよねー!」

朧「信じらんなーい!」

曙「…………おまえらー!!」ウガー

漣「わひゃー!!」ピュー

朧「あはっ、おこったおこった!」ピュー

曙「身体のことはタブーに決まってんでしょおおがあああああ!!!」ズドド

漣「ねぇ今どんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち? ホントのキモチ教えてちょーだい?」

朧「そんなんじゃだーめ! そんなんじゃほーら! こころは進化するーよ」

漣「ただし身体は進化しない」

曙「上ッ等ッよおおおおおおッッ!! ブチコロシ確定ね!!!」ドゴーン

潮「わひっ――――わ、み、みんっ、みんなっ、たすけてーっ!!」

466: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:03:31.65 ID:EFruZ/tko

 大淀『しかしそうですか、  コンですか…………救いようがありませんね』チラッ

 睦月『さすがの睦月も  コンはノーだにゃ~ん……』チラ

 吹雪『………………ぁぅ』カァ

 提督『なんでこっち見んすか。駆逐艦とケッコンしたのはお便りの主さんであって俺ではありませんから』

 睦月『…………そうだネ。それでも駆逐艦くらいの子とケッコンって…………』

 大淀『駆逐艦やってる子たちは、カッコカリが出来ても結婚は出来ない年頃の子たちばかりですからね。
    いまのうちにツバをつけておいて、たわわに実ったら収穫しようという肚でしょう。まさに光源氏計画そのものですね』


 提督『そ、それはさすがに飛躍しすぎでは……。
    それにケッコンしたって、おおかたアレでしょ? 駆逐艦が好きだからケッコンしたんじゃなくって、好きになった相手が駆逐艦だっただけなんじゃないですか?』
 
 提督『それなのに  コン呼ばわりっていうのはヒドい話だと思いますよ。思いませんか?』

 吹雪『まぁ、たしかにそうなら……ちょっとヒドいかもしれないですね』

 大淀『…………好きになった相手が駆逐艦という時点でなかなか危うい気もしますが』

 提督『それは……個々人の好みですから。あまり立ち入るべき事情でもない気が』

 大淀『…………そうですね、失礼いたしました。仲間同士通ずるものがあったんですね』

 提督『なんだその含みのある言い方コラ』


 夕立『…………うー! さっきからてーとくさんたちだけで盛り上がってるのズルいっぽい! 夕立もまぜてー!』

 吹雪『も、盛り上がってるかなあ?』

 睦月『夕立ちゃん、  コンってわかる?』

 夕立『わかんない!』

 提督『ほわあっ! …………やだなにこの子純朴。大淀さんたちも見習うべきでは』

 大淀『貴方はいちいち一言多いんです!』

    “たち”って言うけどわたしは違いますよね>

 提督『アンタもですよむっつり工作艦コラァ!』

467: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:04:19.68 ID:EFruZ/tko

 吹雪『えっとね夕立ちゃん、  コンっていうのは……そのぉ~……ええっとぉ~……』

 睦月『にゃはは……』

 大淀『…………たとえばね。提督が、夕立ちゃんみたいな“オトナじゃないコ”を好きになったら  コンなの』

 夕立『えっ!? ……てーとくさん、夕立のこと……すきじゃないっぽい…………?』

 明石『ああっ違いますっ! えっとね、もちろんその、提督さんは夕立ちゃんのことはだーいすきなんだけど、そうじゃなくってっ』

 吹雪『えー……っとね、夕立ちゃん! たとえば司令官がさ、夕立ちゃんに対してね?
    “キスしたい。愛してる、結婚してくれ”――って言ってきたらさ、どう思うかな?』

 大淀『そ、そうですね。そんな感じで――』

 明石『…………うはっ。やだもうそんなっ、みんなの前で……』テレテレ

 提督『…………きみらマイク入ってるの忘れてない? あと本人の前でそんな話やめてくれる? 怖いから』


 吹雪『どう? 夕立ちゃん?』

 夕立『んー…………?』




468: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:04:48.35 ID:EFruZ/tko




 …… ……

提督「夕立」

夕立「てーとくさん、どうしたの? 顔赤いけど……。
   あ、もしかして恋愛相談っぽい!? 夕立が力になれることなら、なんでも――」

提督「好きだ。愛してる」

夕立「…………すき?」

提督「夕立、いつもすまない。俺にとって君は、大切な人なんだと思う。本当だ」

夕立「て、てーとくさんっ!?」

提督「夕立、好きだ。愛してる。夕立、好きだ。愛してる。夕立、好きだ、愛してる。夕立、好きだ。愛してる」

夕立「え、やだっどうしようっ!?」

提督「夕立、好きだ。愛してる。夕立、好きだ。愛してる。夕立、好きだ、愛してる。夕立、好きだ。愛して――――」

夕立「そ…………そんな…………てーとくさんがいっぱい…………」

 …… ……





469: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:05:36.20 ID:EFruZ/tko


 夕立『夕立、こまるっぽいぃぃぃ~…………』

 提督『ぐさっ』

 吹雪『そ、そうだよね! 司令官はすごく良い人ですけど、そういうのじゃないっていうか!』

 睦月『一回りくらい離れてるし、あんまりそういう目では見れないよね~。それにもう、提督どのを巡る争いのなかには入っていけないでのですよー』

 提督『そ…………そうだよな! べつに俺が嫌いとかそういうんじゃなくって、単純にそういう関係を求めてないから困ってるんだよな!
    たとえばそう、親戚のお兄ちゃんと妹たちみたいなそんな感じで――』

 明石『でも提督はさっき自分で“ぐさっ”て言ってましたよね。拒否されてショックを受けてるってつまりそれは』

 大淀『その気があったんじゃないですか?   コンの化身ですね。お願いですから駆逐艦の子たちには手を出さないでくださいね』

 提督『追撃やめろお前ら!!』

 夕立『あっでもっ! キライとかそういうのじゃなくって! ふつうにすっごく嬉しいっぽい!』

 吹雪『え? で、でも夕立ちゃん、お手てを繋ぐとかそういうのじゃないよ?』

 睦月『その、提督にキスしようって言われてイヤじゃないの?』

 提督『なんて扱いなんだ俺は…………』

 夕立『うんっ! 夕立はいつでもばっち来いなんだからっ! さ、さあてーとくさん! 夕立とステキなパーティしましょおおう!?』

 提督『ほわあっ!?』


『ぱりーん』 『ぱりーん』 『ああっ! せっかく買い集めたお皿たちがっ!』



470: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:06:51.32 ID:EFruZ/tko

 提督『…………え、ええっと、それはまた今度にしておこうね。んふ。
    とりあえずお悩み相談に対しての返事をみんなで出しましょうよ。脱線ばっかりじゃダメですよ? んふふっ』

 明石『…………なに笑ってんですか』

 提督『いやね、なんかこう、素直に好意を示されるとくすぐったいというかなんというか』

 大淀『勘違いしないでくださいね。夕立ちゃんは単純に提督のことを悪しと思ってないと言っただけですから」

 大淀『恋愛感情とかそういうものではないはずです。ねー夕立ちゃん?』

 夕立『んぅ~……夕立、難しいことはあんまりよくわからないっぽい!』

 大淀『ほーら!』

 明石『いえーい!』

 提督『ハイタッチすんな!』


『すっ』 『すっ』 『あれ? お皿が直った?』 『どういう現象やねんそれー!!』


 大淀『早合点して犯罪行為に走らなくてよかったですね』

 提督『あ、ああ……そう……。――じゃなくって、それくらいわかってますよ! 俺だって思春期の学生じゃないんですから!』

 明石『どーだか』


471: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:07:54.09 ID:EFruZ/tko

 提督『どーだもあーだもないです! ……ええっと、“A+”さんは駆逐艦とケッコンしたが周囲から  コン呼ばわりで辛い――と』

 提督『“ケッコン”というのは最近大本営が発表した“ケッコンカッコカリ”ことで間違いないですね?
    特定の艦娘とより強い絆を結ぶことによって、艦娘の秘めたる力を開放せしめんとする――そういうシステムです。からくりの仔細はまた後日』

 提督『僕はまだカッコカリの相手を定めていませんけど、その辛いというお気持ちはよく理解できますよ』

 大淀『  コンの気持ちがわかるですって!?』

 明石『や、やはり…………』

 提督『違いますよもう! いちいち反応しないでください!』

 提督『そうじゃなくって。カッコカリっていうのはですね、非常に練度が高い艦娘と信頼関係を築けていないと行えない儀式なんです。
    そこは現実の結婚もそうですね。豊富な人生経験と、お互いの信頼関係。それらが整っていなければ成立しません』

 提督『もちろんそんな艦娘なんてそうそういません。これ以上ないほど絆を深めた艦娘です。そこへ至るまでに紆余曲折あったはず』

 提督『永き時を経て、災いかかる苦難を二人の力で超克し打ち倒した二人です。なみなみならぬ情があったでしょう』

 提督『受難の日々をともにした艦娘と仮とはいえ添い遂げてなお、外野から色々言われるのって…………ちょっと、寂しくないですか』

 吹雪『……たしかに、そうかも』

 睦月『いい雰囲気の関係を茶化されるのはちょっとヤだもんね~』

 吹雪『え? 経験あるの?』

 睦月『……………ないケド。ないケド!! しかたないじゃん! お仕事で忙しかったんだからあっ!!』


472: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:08:38.52 ID:EFruZ/tko

 大淀『…………ことのほかマジメで驚きました。提督、意外と考えてらっしゃるんですね』

 提督『意外とは余計です。人がせっかく真剣に答えを出しているってのに……』

 大淀『いえ、やはり提督は提督なんだなと思いました。さすが、やるときはやりますね』

 提督『へへ。見直しました?』

 大淀『ええ。そんな提督を一度でも疑ってしまった我が身が恥ずかしいです』

 吹雪『わたしもです……うう、司令官に対してなんてことを……。見間違いだったのかなぁ……』

 睦月『ごめんなさーい……』

     ちゃんと反省してくださいね>

 大淀『貴女もに決まっているでしょう!』

 
 提督『えーっと…………さっきから思ってたんですが。疑うとかなんとかって、なんですか?
    もしかして休憩開けから自分に対して妙に辛辣なのとなにか関係あるんですか』

 睦月『…………吹雪ちゃん、どうする?』

 吹雪『司令官は違うってわかったから……話しておかないと、申し訳ないかなって』

 夕立『で、でもどうやって話せば…………』

 提督『…………言いにくい話なのか?』

 大淀『そうですね。掻い摘んでお話いたしますと…………』


――――

――


473: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:09:08.98 ID:EFruZ/tko




 提督『――吹雪の衣服が、ですか?』

 大淀『はい。昨日のお昼過ぎ、シャワーを浴びたら――と』

 提督『ふうむ…………』


睦月「(あ、さすがにぱんつが無くなった――とは言わないんだネ)」

明石「(まあ、さすがに電波走ってますからね。下着を紛失したとご家庭に知られたとなると強制送還もあり得ますので)」

夕立「(家族の力ってすごいんだね~)」

睦月「(体裁ってゆーか、イメージっていうものがあるからにゃ~ん。デリケートな話だよ。にゃししっ)」

明石「(聞くところによれば、如月ちゃんのご家庭がこっそり鎮守府上空にドローンを飛ばしているというウワサもあります。
    …………警備はしっかり実施しているはずですが、あそこの技術力ならありうる話です)」

吹雪「(物騒すぎます…………)」

474: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:10:31.12 ID:EFruZ/tko


 提督『うーん……それは確かですか? 一着だけなんですよね?』サラサラ

【大井に確認はとりましたか?】


 大淀『はい。どこかに紛れ込んでしまったのでしょうね』カキカキ

【はい。北上さんのものでなければ価値がないそうです】


 提督『前にもありましたよねえ、これ。わりとよくあるんですよ。管理体制がガサツなもので……盗難とかは一度もないんですけどね。ははは』カキカキ

【万が一盗難だとすると問題ですね。鎮守府内での騒動ならまだしも、外部の人間が忍び込んでいる可能性も考慮しなければなりませんから】


 大淀『そうですねぇ。もうちょっとビシーっと厳しくしたほうが良いでしょうか』カキカキ

【人の出入り状況と各カメラは明石が確認しましたけれど、とくにこれといった問題もなく。といった感じです。
  思えば、誰がどうしたかもわからないからこそ、提督を疑うことで心の平静を保とうとしていたのかもしれません……】

 提督『あっ! まさか、俺が吹雪の服を盗ったとか考えてるんじゃないでしょうね!?』カキカキ

【わかりました。この放送が終わったらこちらで確認してみます】


『…………これは、裏でなにかやってますね』 『そうですね。いつもと違って少しだけ上の空ですから』 『なんでそんなんわかんねんヒくわ』
 『必要とあらばこちらで収集したデータがありますが。チェックされますか?』 『霧島ァ!? ……いや、やめとけやめとけ!』

『ヘイヘーイ! こっちにはbromideもあるネー!』 『さすがお姉さま! いまでも肌身離さずということですか!』
 『あ、これ学祭のときの写真ですか?』 『Yeah!』 『これはじめて見ました。焼き増しとか――』




『これ以上――ウチにィ――提督のよけいな情報を…………与えんといてやあああぁ~~~~!!』


475: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:11:09.39 ID:EFruZ/tko





瑞鶴「どしたの龍驤さん。そんな隅っこでうずくまって」

龍驤「アカン……アカンねん……ウチがいくら耳を塞いでもな、情報が向こうから入ってくるねん……」

瑞鶴「…………よくわかんない」

龍驤「地獄やでホンマ…………血液型から好きな色、趣味と特技までどんどん入ってくるんや……。
   なんやねん知らんわホンマに……キクラゲがキノコかクラゲかなんてどうでもいいじゃんか…………」

瑞鶴「え? キクラゲはクラゲでしょ?」

龍驤「…………」

瑞鶴「…………?」キョトン

龍驤「(……ま、まあ、これくらいはな……)」


龍驤「――――」サラサラ

龍驤「瑞鶴、コレなんて読むかわかるか」スッ


 【枕草子】


瑞鶴「え? まくらのくさこ」

龍驤「…………」

瑞鶴「まくらのくさこ…………な、なんかちょっと卑 よね! やだもう龍驤さんったら!」テレ





龍驤「(アカン)」


476: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:12:11.83 ID:EFruZ/tko

 提督『とりあえず、今後は鎮守府内の規律をもっと正していくという方向で。
    さ、夕立先生。この悩める新婚さんのお便りをぽいぽいとお願いします』

 夕立『はーい! そっれじゃっあね~…………』


_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 夕立『つらいことがあってもくじけないでがんばって!』 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^YY^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
    

 吹雪『(そんなんでいいんだ)』

 睦月『(小学生並みの感想…………)』

 提督『――というわけで、つらいことがあってもくじけないように頑張りましょう。笑う門には福来るとも言います。
    それに、からかわれているのも最初のうちだけですよ。からかいの言葉の裏には祝福が込められているということも忘れずに』

 提督『“バストサイズはA+まで”さん、ありがとうございました!』

 夕立『ありがとー! お手紙、どんどん、待ってるっぽい!』

 大淀『つぎはもうちょっと普通の……普通のラジオネームにしていただけると助かります。ありがとうございました』


 提督『でもちょっと独特なラジオネームの方でしたね。もう自分で  コンって認めてるようなもんじゃないですか』

 睦月『限りなくアウトに近いアウトだにゃーん。むしろよく紹介したね。明石さんがピー音とか編集してるの~?』

 大淀『どうなの? ――ああ、してないみたいですね。指でばってんつくってます』

 吹雪『だ、大丈夫なんですか? あんまりそのアレだと、ちょっと……』

 提督『うーん……そうだなぁ。強烈すぎるラジオネームのかたは、もしかするとお便りを紹介できないことがあるかもしれません。予めご了承くださいね』

 
大淀「(まあ、お便りはすべてわたしが目を通していますし、よっぽどのものはお便りボックスに入らないと思いますけどね)」

明石「(え、それであの  コン通したの?)」

大淀「(ええ。お便りの内容も相まって面白いかなって思って。今ごろ向こうの鎮守府では大わらわだと思うわ)」

明石「(…………ホントだ。ファックスめちゃめちゃ暴れてる)」

大淀「(どうせ提督がぜんぶ処理するからいいのよ)」

明石「(あんた鬼畜ね)」


477: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:13:20.61 ID:EFruZ/tko

 大淀『さ、次のお悩みを解決してしまいましょう。夕立ちゃん、お願い』スッ

 夕立『はぁ~い! えと…………“アッサ・シーモ”さんからのお手紙? っぽい!』


 “そっちの鎮守府に転属すればもっともっと暴れられるって聞いたぜ! 転属願い出してんだけど、なかなか受理されないんだよなぁ~”


 吹雪『おお、武闘派だね。武蔵さんとかと気が合いそう! ……でも、最近はもうしばらく出撃してないけどなぁ……』

 睦月『でも屋内演習場とかも充実してるし、ぼーっとしてるわけじゃないけどにゃーん』

 夕立『やっぱりみんな出撃しないと退屈っぽい?』

 吹雪『でもまぁ、年末年始だし仕方ないよね。いま年末年始だし』

 睦月『そうだね。いま年末年始だしね』


 吹雪『仕方ないよねー…………司令官さん? どうかしましたか?』

 夕立『ほかのふたりもさっきからずっと頭を抱えてるっぽい』

 大淀『い、いえ…………気にしないでください』

 提督『ああ…………なんだかすでにいるはずなんだが、なぜかいないんだよな。時間の進行――うっ頭が』

 大淀『あさ……しも…………? 香取――天城――うっ』

             うっ頭が>

 夕立『…………おかしな三人っぽい?』

 吹雪『ええっと、“アッサ・シーモ”さんかな? 最近はいろいろ事情で出撃がないんだけど、それでもうちの鎮守府は楽しいよ!
    屋内球技場だとか、グラウンドだとか、ゲームセンターとかもあるくらいだし、遊ぶ施設には事欠かないと思う!』

 吹雪『司令官の趣味なんだけどね……まあ、みんな楽しく過ごしてるから。いつでも待ってるよ!』

 夕立『もういーい? ……“アッサ・シーモ”ちゃん、ありがとー! 夕立も、会える日を楽しみに待ってるっぽい!』

 睦月『こっち来たら一緒にあそぼーねー! 案内もちゃーんとしてあげるからっ! にゃししっ』

478: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:14:21.16 ID:EFruZ/tko

 夕立『よおーっし、なんだかテンションあがってきたっぽい! どんどん読んでいっちゃいましょー!』

 睦月『おー!』
 吹雪『おー!』

 夕立『いーい返事っぽい! さてさて、お、つ、ぎ、は~…………』ガサゴソ

 吹雪『…………はっ! いつのまにか夕立ちゃんばっかり!』

 睦月『やられた!』

 夕立『――――ぽいっ!』バッ


 ――“妹に会いたい 雲龍”


 大淀『あふんっ』

 夕立『あっ、うんりゅーさんからのお便りっぽい! てーとくさん、読んで読んで~!』グイグイ

 提督『や……やめろっ……ちゃんと聞こえてたからっ……』

 夕立『さっき耳塞いでたの、夕立ちゃーんとみてました! さあ!』グイッ

 提督『や……やめ…………ニャメロン!』

 “天城…………葛城…………いまどこにいるのかしら”

 “もうしばらく声を聞いていないわ……会いたくて、会いたくて、震える”

 提督『ぬわーっっ!!!』


 夕立『ほら大淀さんもちゃーんと読んで!』グイッ

 ――“きみ想うほど遠く感じて。もう一度姉妹戻れたら……”

 大淀『ひぃぃぃぃぃいっっ!!』


 夕立『明石さんも雲龍さんからお手紙だよー!』タタタ

    なっまさかこっちにまで―― >

 ――“届かない想い my heart and feelings”

             メメタァ!>


 睦月『これは天然鬼畜の所業ですわ』

 吹雪『これ雲龍さんも恥ずかしいでしょ……』


479: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:15:52.13 ID:EFruZ/tko


 夕立『てーとくさんたち、さっきから変なのー。どーしちゃったんだろーね』

 吹雪『…………夕立ちゃんは怒らせないようにしなきゃ』

 睦月『争え…………もっと争え…………にゃ死屍累々』


飛龍「へぇ初耳。雲龍さんって妹がいたんだ。やっぱり会いたい?」

雲龍「そうね。みんな大人になったとはいえ、しばらく会っていませんから……。
   それにせっかく姉妹揃って雲龍型と呼ばれるまでになったのですから、やはり肩を並べて戦いたいという気持ちは強いですね」プルプル

飛龍「ふーん、そんなものなのね。…………ところで、なんでさっきからずっと震えてるの?」

雲龍「いえ、会いたくて震えているだけ」カナカナ

飛龍「………………ふ、ふーん。変わった趣味ね」


蒼龍「わたしたちはべつに実姉妹とかじゃないもんね。ねー飛龍」

飛龍「そうだねぇ。そーいうのはやっぱ、姉妹揃って航空母艦のふたりにしかわかんない気持ちかな?」

翔鶴「ええっと、“姉妹揃って航空母艦のふたりにしか――”」カキカキ

翔鶴「…………あ、わたしですか?」パッ

蒼龍「まだ書いてたんだそれ」アハハ

飛龍「そうそう。やっぱ姉妹離ればなれになるって寂しいもんなの? ――ああいや、なんとなーくはわかるんだけどね。
   でもやっぱり一緒に戦いたいとか、声を聞きたいとか、一緒に寝起きして生活したいなーって気持ちってあるもんなの?」

蒼龍「もちろん、あっちで龍驤さんにたかられてる瑞鶴のことね」

翔鶴「そう、ですね……わたしたちはこの鎮守府に配属されたのもほぼ同時期でしたし、あまり経験のないことですけど……」

翔鶴「それでもやっぱり、離ればなれになるというのはあまり想像したくないわね。
   瑞鶴のことだからきっとどこでも元気でやっていけるんでしょうけど、まわりの人に迷惑をかけないか心配で心配で……」

蒼龍「あは、まあとんがってるもんね~」

飛龍「はじめに会ったときなんてずいぶんぎこちなかったもんね。緊張してたっていうか」

翔鶴「はい。だから弾みで跳ねるような物言いをしてしまうことが昔から多くって。もうちょっと落ち着いてくれたらいいんだけど……」

480: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:16:53.65 ID:EFruZ/tko

加賀「…………だからあの子に、常日頃から周囲を敬って行動しなさいと言っているのです」

飛龍「あ、加賀さんやっほ。もうドーナツはいいの?」

加賀「ええ、堪能しました。やはり食後の甘味の時間とは素晴らしいものです」

飛龍「だからコーヒー片手にってワケね。言ってるわたしもそんなモンだけど」

蒼龍「一緒の赤城さんはどうしたの?」

加賀「赤城さんなら向こうで写真を囲んでます。なにやら時間がかかりそうなので、先にこちらへ戻らさせていただこうかと」

飛龍「ありゃ、珍しいね。加賀さんが赤城さんをほったらかしにしてるのって」

蒼龍「たしかにそうだねぇ」

加賀「座ってゆっくりしようと提案したんですが、どうやら貴重な写真集に目を奪われてしまったようで……」

加賀「“秘めた心は愛するために。高鳴る野望は欲望のために”――と、頑として動きませんでしたから。赤城さんを尊重しようと思いまして」

飛龍「…………赤城さんってときたまワケわかんなくなるよね」

蒼龍「ねー」

加賀「それこそが赤城さんそのものということです」ズズ


481: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:18:33.88 ID:EFruZ/tko


  どたどた だだだっ

龍驤「おい加賀! 加賀おらんか! なぁんや加賀おるやんけコラオイ返事せえやまったくもーホンマあかんでそんなんやったらや~!」

飛龍「うわっ! びっくりした!」

龍驤「あっ、悪い悪い、ちょっとテンションあがってしもた……加賀、ちょっと聞いてくれや」

加賀「…………なんでしょうか」

龍驤「加賀。キミさ、この漢字読めるか? 飛龍も蒼龍もや」

蒼龍「え? ――まくらのそうし、よね?」

飛龍「なんだっけ、清少納言の…………」

龍驤「いやーやっぱそうか! 加賀もわかっとったやんな!?」

加賀「はぁ。一般常識と心得ていますが…………それがなにか?」


龍驤「いやそれがや、聞いてくれや! 実はさっきや――」

瑞鶴「りゅーじょーさーん!! いきなりどしたのさ走り出してー!!」タタタ

蒼龍「あ、瑞鶴だ」

翔鶴「ずいかく? あ、ようやく戻ってきたんですね。……またずいぶんたくさん持って帰ってきたわね。ちゃんと全部たべられるの?」

瑞鶴「へへー、もっちろん! というか、そもそもさっきまであんまり食べられてなかったし!」

翔鶴「ちゃんと寝る前は歯磨きするのよ」

瑞鶴「わかってるーって!」


482: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:19:13.50 ID:EFruZ/tko

加賀「…………五航戦の。前に言ったことをもう忘れたの? こんな時間にたくさん食べたら明日に響くわ。いつも万全の状態でいたいのなら控えるべきよ」

瑞鶴「…………なによ? さっきまでガバガバ食べてた人がそれ言う? そっちこそ食べ過ぎでお腹が響くようになるんじゃない? 叩けばぼよんってさ?」

瑞鶴「よく考えたら加賀って名前のなかに“カロリー”の“カロ”が二個も入ってるじゃない。
   熱量の化身みたいな人ね? 艤装もすーぐヒートアップするみたいだし。カロカロしい」

翔鶴「あっこら瑞鶴! すみません加賀さん……こら、そんなこと言っちゃだめでしょっ!」

瑞鶴「だってさー」


龍驤「すまん、そういう確執はあとにしてくれんか。いまはこっちの件が先や」

加賀「…………龍驤さん」

龍驤「瑞鶴、さっきも言うたけどこの漢字なんて読むんや? ちょい忘れてしもたわ」

蒼龍「え? だからまくらの――」

龍驤「しっ!」


瑞鶴「え? さっきも言ったじゃん。まくらのくさこだって」


翔鶴「えっ…………?」

483: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:20:22.36 ID:EFruZ/tko

加賀「………………よく聞こえなかったのだけど。とりあえずあなたがバカだということは再認識できました」

瑞鶴「なにをっ! じゃあアンタはなんて読むってのさ!」

加賀「“まくらのそうし”、です。瑞バカさん」

瑞鶴「はあっ!? まくらのくさこに決まってんじゃんこのバ加賀さん!」

翔鶴「こら瑞か――――」

瑞鶴「カロカロしい人はまくらのくさこも読めないの? わたしったら今までそんな人に口うるさく礼儀がどうこうとか言われてたんだぁ~へぇ~っ」

加賀「頭にきました」ガタッ

瑞鶴「単細胞はすーぐ脳に直結すんだからバカよねー! まくらのくさこも読めないような大人にはなりたくないわっ」ガタッ

飛龍「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて!」

蒼龍「瑞鶴もすぐ煽らないの!」

瑞鶴「このバカが悪いんじゃない? まくらのくさこも読めないようなバカ――」

加賀「黙って聞いていればバカバカと同じことばかり……相変わらず程度の低いことね。それだから枕草子すら――」



翔鶴「瑞鶴」



瑞鶴「なぁに翔鶴ねェッ――――!?」ビクッ

加賀「(びくっ)」


484: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:21:13.63 ID:EFruZ/tko


翔鶴「どうやらアナタは、ひらがなのお勉強から始めなければならないようです」

翔鶴「ついでに目上の人間に対する敬意も叩き込んであげましょう」


瑞鶴「えっ、だってわたしなんにも――」

翔鶴「返事!」

瑞鶴「はいいぃっ!!」ビシッ

加賀「」ビシッ

翔鶴「…………加賀さんはいいんですよ?」


龍驤「…………ほ、ほなさいならっ」ドヒューン

飛龍「あっこら年長者!」

蒼龍「火種蒔くだけまいて逃げ去った!!」

雲龍「(ぷるぷる)」


485: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:22:21.77 ID:EFruZ/tko



 吹雪『…………でも思ったけどさ。鎮守府の転属ってそんな簡単にできるものなのかな?
    書類の申請とかもすごくあるみたいだし、戦力をそう気軽に移動させるわけにもいかないよね』

 睦月『……みたいだねぇ~。“アッサ・シーモ”ちゃんもなかなか受理されないって言ってるし。
    そもそも気軽に動けるならもっと人の出入りが激しいはずだにゃ~ん』

 大淀『う……大規模作戦が実施されている最中なら、戦力派遣の名目で転属願いを受理するようですけどね。
    平素からなんの理由もなしにそれ易々と艦娘を移動させるわけにはいきませんから』

 夕立『ふうん……』

 吹雪『訓練施設の同期の子たちとかとも会いたいんだけどなぁ。行き来できるようになれば簡単に会えるのにね』

 吹雪『雲龍さんだって、離ればなれになってる妹さんたちと気軽に会いに行けるのに……』

 睦月『施設かぁ。睦月はそんなに長く居なかったから、そんなに思い入れはないかなぁ……。――あ、でも、べつに同期の子たちがどうでもいいとかじゃなくって!』アタフタ

 吹雪『アハ、みんなわかってるよ。睦月ちゃんはすっごい才能あったからすぐに出ちゃったってわたしも聞いたことあるし!』

 夕立『夕立はあんまり思い出したくないっぽい~……すっごくすっごく怒られたもん……』


 大淀『ん? …………なに? ――え、そうなの? へえ……そんなのもあるんだ。うん』

 夕立『あかしさん? どうしたの?』

 大淀『あ、いえ……どうやら、施設の訓練風景を撮影したビデオが明石のところにあるようです。気になるかたは酒保へ足を運ぶと良いでしょう』

 吹雪『え゛っ』

 大淀『ちなみに対象は駆逐艦から軽巡洋艦、潜水艦の三艦種ぶんのようです。
    聴者のみなさまからもご希望があれば配信いたしますが、その場合身元証明書を添付のうえこちら“ちんじふ裏らじお”宛てまでお願いします』

 吹雪『おかしい! 機密のはずだって!!』

 大淀『もちろん機密に触れる部分は撮影しておりませんので、ホームビデオのようなものと思っていただけると幸いです。
    休憩時間に歓談する艦娘たちの姦しい姿や、授業中に机の影で携帯電話をいじっている夕立ちゃんの勇姿までバッチリです』

 夕立『いつ撮ってたの!? ――あ、ちがうちがうウソウソ! ケータイなんて触ってな――あたっ!』コツン

 提督『授業は真面目に受けましょう。……まさかウチでやってる一般教養の授業中にやってないだろうな?』

 夕立『うう…………』

486: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:22:58.15 ID:EFruZ/tko

 夕立『でもでもっ、夕立たちってば艦娘なんだからっ! お勉強なんてあんまり必要ないっぽい!』

 提督『ばかちん。必要ない知識なんて一個もないんだ。それに……深海棲艦を倒したあとの世界を考えもみろ』

 夕立『たおしたあと……?』

 提督『来る日も来る日も戦いばかり……たまの授業も寝てばかり。寮に帰ってはゲーム漬け。
    みんなが影でこっそり努力しているのにも気づかず、自分だけじゃない、みんな同じでダメなんだ――と思い込み』

 提督『いざめでたく討伐の日が終わり、お世話になった人々と離ればなれに。
    はじめこそは国のために尽力した英雄として歓迎されるが、鎮守府にいたころのように遊び続けているうちに、幸せな日々も程なく終わりを告げ――』

 夕立『おわりを…………?』

 提督『持ち上げてくれた人々の熱も冷め、やがて気づいたころにはひとりぼっちに。
    国から支給される補助金も底をつき、生きるために仕方なくアルバイトで生活を繋ぐのみ――』

 提督『助けを求めようとも、かつて仲間としてともに闘った友達はそれぞれ独自のコミュニティを築いていた。
    学友しかり、同僚しかり、恋人、家庭…………みんながみんな幸せそうにしているなか、自分だけが独りぼっち』

 夕立『…………ひっ』

 提督『艦娘だった仲間に会おうと声をかけても“仕事の打ち上げが”“ゼミの飲み会が”“彼氏と約束が”――』

 夕立『………………』

 提督『どこか一歩引いた位置から言葉を投げかけてくるかつての親友。それもそのはず、自分はいままで遊んでばかりで努力を怠り、なんの取り柄もなくって――』

487: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:23:27.23 ID:EFruZ/tko

 明石『――――くおらあっっ!!!』グワッ

 提督『わっ!! ……なんですかいきなり。話してる途中ですよ』

 明石『なんですかもクソもありません! なに怖い話してんですか!! あっち見てみなさい!!』


 大淀『夕立ちゃん大丈夫だからねっ!? 戦いが終わってもひとりぼっちにはならないからっ』

 夕立『……ひっ……ひぅっ…………』グス

 睦月『おーよしよしよしよし…………』ナデナデ

 吹雪『夕立ちゃん…………』ナデリ


 提督『あ…………悪い夕立! そういうつもりはなかったんだ! ただちょっと脅かしてやろうと……』


488: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:24:31.34 ID:EFruZ/tko


  がちゃっ すすすっ

「提督」

「司令官さん……」


 提督『あっ、お前たち! ちょうどいいところに来てくれた、一緒に夕立を――』


「きみには失望したよ」

「殺っちゃうからね」

「わ、わっ……おねーちゃん元気出してっ!」


 提督『なにか誤解があるようだから弁明させてくれ、実は』


「右舷ゲッツ!」

「左舷、確保したよ」


 提督『ちょっと待って俺の話を聞いて』


「よくぞ捕らえたっ! 提督、いまこそ己が不明を悔いるときだよっ!」バーン

 提督『お、お前はっ!?』

「時に残月。光冷やかに、白露は地に滋く。――夕立を泣かせた罪、しっかりと購っていただきます!」

 夕立『白露ちゃぁん…………!』

「白露ちゃん、やっちゃって!」

「提督。ぼくは提督のこと…………嫌いじゃなかったよ」

「ふたりともちゃーんと捕まえててね。…………さあっ!」ダッ



 提督『いやちょっと本気で待って。こんな部屋でそんな勢いつけたら――――』






      どげしっ!





489: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:24:57.40 ID:EFruZ/tko

――――

――

490: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:25:43.48 ID:EFruZ/tko





吹雪「あの日のことですか? ……しょ、正直っ、あんまり思い出したく、ないですぅ…………」

吹雪「え、資料の? 重要な? え、えっと、どうしても……ですか? 最初から最後まで……ですよね?」

吹雪「公式の資料として残るんですよね? うわぁヤだなぁもうぅ……」

吹雪「えと。……途中までの流れはあのラジオでわかる通りですが。白露ちゃんたちが執務室に押し寄せてきたあとのことですよね」


吹雪「夕立ちゃんを泣かせちゃった提督があたふたしてるうちに、両脇を時雨ちゃんと村雨ちゃんが固めたんです。
   あ、春雨ちゃんもいたっけ……たしか春雨ちゃんは夕立ちゃんをよしよししてたはずです。末妹ですしね」

吹雪「え、と。それで、最後に執務室へ入ってきた人――白露ちゃんが、口上を述べてから構えたんです。……くらうちんぐ、でしたっけ? 陸上の……そう、それです!」

吹雪「助走をつけて、提督のお腹に思いっっっきり力を込めてドロップキックしたんですよ!
   もうホント、見てるだけですごかったです。受けた司令官さんが数メートルくらい吹っ飛んでましたからね」

吹雪「司令官さんも、ふたりの拘束を振りほどこうと思ったらできたんでしょうけどね。やっぱり罪悪感があったみたいで……」

吹雪「白露ちゃんの脚力にも驚きましたけど、無傷の司令官も大概ですよ。人間が出しちゃいけない音鳴ってたのに、ケガ一つなくって……」

吹雪「…………あ、そうんですか? へえ……だからあんなにタフなんですね。
   痛いのには慣れてるってそういう意味だったんだ。てっきりヘン  的なものって――な、なんでもないですっ」

吹雪「…………えと、以上です。ホントですよっ!!」

吹雪「……ちゃんと言ったら間宮さんが? うう、でも一生語り継がれるのってヤだよぉ……」

吹雪「――あ、一般には公開しない? ホントですか? …………なんですか、悪い顔して! ウソっぽくて信じられないですよぅっ!」

吹雪「…………随伴艦くんシール? いらないですっ!」


491: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:26:35.56 ID:EFruZ/tko

吹雪「うう、そんな顔しなくっても……。――わかりました、わかりましたってば! 言います言えばいいんでしょお~~っ!!」

吹雪「うううう…………」

吹雪「……えと、実は、吹っ飛んだ司令官さんのポケットから…………その、ポロリと…………布が」

吹雪「…………その、一番下に穿く布というか。その、えと…………」

吹雪「――ぱんつ。ぱんつですっ!! もお、なにニヤニヤしてるんですかっ!!」


吹雪「これ、ホントにオフレコなんですか? “一般の家庭には公開されない”って……」

吹雪「心配しすぎって……当たり前ですよっ! 司令官さんのポケットから、わ、わ、わ、わたしのぱんつが出てきたんですからっ!!!」

吹雪「白露ちゃんがバシッと蹴ったら、司令官さんのポケットから、その、ぱんつがポロッとダンケダンケしてたんです!!」

吹雪「わたしの大切なアドミラルパンツがダンケしてたんです!!」

吹雪「ネットで調べたら、ダンケって   な意味も含まれてるっぽいですし…………あ、違う?」

吹雪「でもこれってやっぱりその、えと、あのっ! …………“そういう”コト、なんでしょうか」

吹雪「……え? あ、そういえば休憩中の話でしたっけ。実は司令官さん、そのぱんつを持ったまま前かがみでトイレに――」


492: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:27:13.41 ID:EFruZ/tko

吹雪「――――っていうワケなんです。あの司令官さんが、って思いましたけど……。
   よく考えたら、たくさんの女の子のなかに一人ですもんね。ほかの男の人もときどき仕事で来ますけど、勤めてるのは司令官さんだけだし……」

吹雪「や、やっぱりその、おとこの人って……その、  ったり…………するんでしょうか」

吹雪「わ、笑わないでくださいっ!! その、やっぱり気になりますし……ややややっぱりその、発散とか…………にゅふっ」

吹雪「あっえっあっあっ、そのっ! …………司令官さんと付き合い長いですし、しょっ……しょしょ翔鶴さんだって気になるでしょ!? 」


吹雪「…………」

吹雪「………………」


吹雪「むししないでくださいよー!!」





493: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:28:17.73 ID:EFruZ/tko





磯風「…………ほお、あの裏ではこのようなことになっていたのか」

浦風「やっぱ  コンなんじゃな~。朝潮とかも気ぃつけたほうがええんと違うんかな」

朝潮「は、はい!」エース

満潮「…………いやでも、下着泥とかガチでヤバいでしょ。免職ありえるんじゃないの」


叢雲「(がたがたがたがた)」

卯月「(がたがたがたがた)」

望月「……どしたの二人とも。マナーモード?」

叢雲「(どどどどどどうすんのよアンタ! 司令官辞めちゃったらわたしたち……っ)」

卯月「(ちょ、ちょっと待って本当に待って! いま考えてるから……)」

叢雲「(やっ……ヤダよ、わたしっ! 司令官がっ……しれーかんがっ!)」

卯月「(だから落ち着くっぴょん!!)」

494: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:29:51.93 ID:EFruZ/tko

青葉「んふふ、そこはご心配なく! これは鎮守府内のネットワークにしか流していない情報ですから!」

青葉「外部にリークされない限りは、この鎮守府より外に漏れることはないですよ!」

満潮「……べつに、心配なんてしてないけどね。あーキモっ」

叢雲「…………ふぇ?」

卯月「(ほっ)」

荒潮「あらあら~」

白雪「吹雪ちゃん大丈夫だった? イヤなことがあったらすぐに相談してね」

深雪「アタシら友達だからさっ。司令官にヤなコトされそうになったらすぐ呼べよぉ~? すぐに駆けつけてあげるからさっ」

初雪「しょうがないにゃぁ…………」

吹雪「………………」


吹雪「………………」プルプル

翔鶴「(てへっ)」バチコーン






 吹雪「翔鶴さんンンンンンン!!!!」


――――

――

495: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 04:32:16.13 ID:EFruZ/tko


  ☆『吹雪のぱんつ』を入手しました!

  ☆『九九式艦爆(瑞鳳)』を入手しました!

500: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:32:38.21 ID:Xoyr5Nj8o



イク「ぬわああああああん疲れたもおおおおん」

ゴーヤ「ねー。今日はもうホンっトキツかったねー」

はっちゃん「本当にね…………」

イク「まだまだ寒い時期だから身体にこたえるのね……やめたくなるのね~オリョクル~……」

ゴーヤ「髪がもうギッシギシでち。やー傷んだりしないかなぁ……」クルクル

はっちゃん「うふふっ」

イク「早くお風呂入ってさっぱりするのね。はやくはやく!」

ゴーヤ「ふー……あ、待つでちっ! ゴーヤも行くからっ!」

イク「待っててあげるから早くするのね! はっちゃんもはやくー!」

はっちゃん「おっとすみません、すぐに準備を……」


  がちゃっ

イムヤ「あー良いお湯…………あ、みんな帰ってきてたんだ。おつかれ」ホカホカ

ゴーヤ「…………誰かと思ったら、今日非番のイムヤじゃん。ずいぶんホカホカしてますねぇ?」

イク「イクたちが大変な目に遭っている間にのんびりしてたなんて許せないの。今度艤装なしで海に沈めてあげるのね」

イムヤ「海水浴にはまだ早いわね。…………なんかあったの?」

ゴーヤ「なんかもなにも! 今日オリョクルしてたら移動中のタコの群れに遭遇してっ!」

イク「身体じゅういたるところを吸い付かれたのねー!! おかげでもーミミズ腫れがひどくてチョーウザいのね!!」

ゴーヤ「タコ公のくせに生意気でち! 今度見かけたらとっちめてやるんだから!」

はっちゃん「はたこうとするんですね。タコだけに」

ゴーヤ「…………」

イク「痕が残ったらゼーッタイに許さないのね! イクの商品価値が下がるのねー!!」

はっちゃん「多恨を残してますね。タコだけに」

イク「…………」

ゴーヤ「…………」

はっちゃん「なにか?」


501: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:34:39.59 ID:Xoyr5Nj8o

イムヤ「…………へ、へえ、タコの群れに……あれ、タコって群れたっけ?」

はっちゃん「基本は群れませんね。よほどのことが無い限りは大規模な移動もしませんし」

イムヤ「ふうん」

イク「“ふうん”……じゃないのね! ゴーヤちゃんなんか顔面に貼りつかれてチョー面白いことになってたのね!」

はっちゃん「そうですね。艤装にカメラ機能がないことだけが心残りでした」

イク「危うく呼吸困難で轟沈するところだったのね! ぷんぷん!」

ゴーヤ「二人とも畜生でち! 引っ張ってってお願いしてるのにぜんっぜん助けてくれなかったし!」

はっちゃん「いざ引っ張ったら引っ張ったで顔が更に面白いことになってましたけどね」

イク「ただでさえ面白いのにそれ以上面白くなってどうするつもりなのね」

ゴーヤ「だーれの顔が地中海だって!?」

イク「意味わかんないのね」


イムヤ「海中で呼吸困難って面白い表現ねぇ。……ま、ゴーヤの頭はタコみたいに見えるもんね。仲間だと誤認されてもおかしくないんじゃない?」

ゴーヤ「誰がタコっ…………えっそれ本当?」

イムヤ「あーそうそう、そういや今日も龍鳳ちゃんが晩ごはん作ってくれてるからさ、お風呂あがったらそっち寄ったげてよ。今日は濃い口の煮物がメインだってさ」

はっちゃん「龍鳳さんですか? いつも助かりますね」

イク「それはいいことを聞いたのね! さっさとお風呂あがって突撃するのね!」

イムヤ「急がなくてもまだ作ってる途中よ。湯冷めされるとこっちも困るんだから、ゆっくり浸かってね」

イムヤ「わたしも今からちょっとだけ摘まみにいく予定。そんじゃね~」フリフリ

ゴーヤ「ちょっと待ってタコって本当?」ガシッ

イムヤ「しおいはもう寝ちゃったみたいだから、潜水寮に戻ってくるときは出来るだけ静かにお願い。それじゃ」スルッ

はっちゃん「おっけーです」

ゴーヤ「いくちゃんはっちゃん、わたしってタコみたいに見える? 本当?」

イク「さー、さっさとお風呂入ってご飯なのね!」

はっちゃん「おーです」


ゴーヤ「」

502: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:35:57.57 ID:Xoyr5Nj8o





  がちゃんっ
           ぐつぐつ……

イムヤ「おっすー」

龍鳳「あ、いむやちゃんお帰りなさい。みんなはどうだった?」

イムヤ「さっき帰ってきたばっかみたい。いまからお風呂だからー……だいたい三十分後くらいかな?」

龍鳳「しおいちゃんはおねむですしね。わかりました」

イムヤ「わたしもちょっと摘まんでいーい? なんかお腹すいちゃってさ」

龍鳳「あらまあ、まだ夕食から少ししか経ってないのにですか?」

イムヤ「やははー……実は最近さ、ビッミョーに寝つき悪いんだよねー。だから寝る前に満腹にしてから寝よっかなってさ……だめかな?」

龍鳳「それはもちろんいいけど……大丈夫? こんな時間に食べてお腹こわさない?」

イムヤ「あはは、司令官じゃないんだから大丈夫だって! それにさ、最近よく運動するからカロリーも問題ないし!」

イムヤ「がっつり食べるんじゃなくって、ちょっとした一品でいいからさ。余ってるやつでなんかないかな?」

龍鳳「そう? …………えっと、それじゃ……ちょっと重たいけど、小ぶりのお握りとちくわと馬鈴薯の煮物でいいかな?」

龍鳳「オリョール帰りのみんなに作っておいたものだから、味付けも濃いめだけど」

イムヤ「大歓迎! むしろこんな時間に食べていいご馳走じゃないね! ――あ、煮汁多めで!」

龍鳳「はいはい、わかってますよ~……」グツグツ

503: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:36:39.31 ID:Xoyr5Nj8o

イムヤ「ふーよっこいしょっ…………あたた、腰が……」

龍鳳「どうかしたの?」

イムヤ「いやー、さいきん腰が痛くってさぁ。実はこの間、ペット――みたいなものを飼うことになってさ、その相手で振り回されてるんだ」

龍鳳「へえ、そうなんだ」

イムヤ「はじめは大人しかったのに、声をかけたらずいぶん昂奮しちゃって。今日もその相手。
    もーくたくた……困っちゃう。あんなに動き回らされたのって艦娘訓練施設以来かなぁ」

龍鳳「だからお風呂に入ってたんだね……。……それって、水槽展示室の?」

イムヤ「あ、知ってた? そーそー、あの“駆逐イ級?”のことね。世話してるわたしたちは“きゅーちゃん”って呼んでるんだけど」

龍鳳「ふふ、きゅーちゃんだとル級もヌ級も“きゅーちゃん”になっちゃうね」

イムヤ「そう! それでわたしは最初“イキュー”ちゃんがいいって言ったんだけどさ! イクのやつが――」

 イク『それだとイクとかぶるのね! 断固拒否するのね! ストライキなのね!』

イムヤ「――って聞かなくってさ。しぶしぶきゅーちゃんになったワケ。イクとイ級、どっちも似たようなものよねぇ?」

龍鳳「あはっ、それはひどくない? ……でも、たしかにあの子元気だよね。水槽展示室に入ったらびゅーってガラスまで近づいてくるし」

イムヤ「あれ、そうなの?」

龍鳳「うん。わたしも遊んであげたいけど、いむやちゃんたちみたいに潜れないから……」

イムヤ「へえ~…………」

龍鳳「…………どしたの? ――あ、できた出来た! お皿によそって……と、はいっ」コトッ

イムヤ「ありがとう、いっただっきまーす! ――んん~、いつもおいしい!」

龍鳳「味付けのほうは大丈夫?」

イムヤ「バッチシ! 夜になると濃いめの味付けがしみるよねぇ~……」

504: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:37:13.25 ID:Xoyr5Nj8o

龍鳳「とくに海あがりになるとハッキリした口当たりのものが欲しくなるしね」

イムヤ「うんうん。よっ! さっすが元給糧艦志望! わかってるぅ!」

龍鳳「もー…………はい、お茶。麦茶でいいよね?」コポポ

イムヤ「ありがとっ! ごくっ、ごくっ…………くっはぁ! おかわりっ!」

龍鳳「そんな足柄さんみたいな……はい、おかわり」

イムヤ「いやー、至れり尽くせりって感じだねぇ。……っていうか、いつもこんなことさせちゃってるけど、迷惑じゃない?」

龍鳳「こんなこと?」

イムヤ「ええっとほら、料理作ってもらったりさ、たまに部屋の掃除とかも…………」

龍鳳「ああ……いいよ別に。わたしが好きでやってることだし。それにわたし自身もお料理楽しいしね」

イムヤ「そ、そう? …………うーんと、なにかお返ししたいけど、なにかない?」

龍鳳「お返しって、気にしなくていいよ」

イムヤ「や、そういうわけにもね。……えーっと、間宮さんのところでなんでも好きなもの奢るっていうのは!」

龍鳳「わたしは大丈夫だけど……イムヤちゃんが帰ってくる時間帯って間宮さん空いてないんじゃないかな?
   それに、非番の日にしようと思ってもわたしとイムヤちゃんってなかなか時間合わないし……」

イムヤ「そうだった…………じゃあ、今度珍しいお魚たくさんとってくるから、それを食べてもらうとか!」

龍鳳「ふふ、結局わたしがお料理するんじゃないんですか」

イムヤ「あ、そっか! …………むむむ!」

龍鳳「ほんとうにいいの。それにお料理自体はね、わたしがやろうと思ってやってることなんだから」

505: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:37:42.66 ID:Xoyr5Nj8o

イムヤ「むー……そこまで言うなら……でも、なにか理由とかあるの?」

龍鳳「うん。実はね、むかしの友達と約束してるんだ。“いまは離ればなれになるけど、いつか美味しい料理を作ってわたしを驚かせてみな”――って」

イムヤ「ず、ずいぶん挑戦的? 龍鳳ちゃんのご飯、わたしすっごい美味しいと思うけどなぁ」

龍鳳「ふふ、ありがと。……でもね、むかしのわたしって、そんなにお料理って好きじゃなかったんだ。
   家のお手伝いで作ったりするくらいで、お料理自体は面倒臭いと思ってたし…………」

龍鳳「本格的なお料理を勉強し始めたのは、中学校を卒業する前くらいのときだったかな……クラスメイトにね、すっごくお料理上手な子がいたんだ」

龍鳳「もう何でも作れちゃう子でね。中華からトルコ料理、イタリアからドイツ……なんでもアリだったなぁ」

イムヤ「へー、間宮さんみたいな?」

龍鳳「間宮さんほどじゃないかもだけど、そんな感じ」

イムヤ「おー……中学生でそれって凄いね。プロの料理人でもなかなかいないんじゃない?」

龍鳳「はじめはその人のこと苦手だったけど、いろいろあって仲良くなって……。
   中学を卒業するときにね、その子と約束したんだ。さっきの“わたしを驚かせて――”ってやつ」

龍鳳「中学卒業と同時に引っ越しちゃったから、いまどこに住んでるのかは知らないんだけどね」

イムヤ「ふーん……でも艦娘やってるとなかなかそんな機会ないよね。いまならその人もびっくりするのに! こーんなにおいしいお料理作れるんだーってさ!」

龍鳳「ふふ、そうかもしれないね。提督さんたちと、あの子たちと……みんなで楽しくピクニックなんかしちゃったり……」

龍鳳「むかしコテンパンにやられちゃったゲームだって、たくさん練習したし。お勉強だって、スポーツだって……」

イムヤ「……どしたの? ――もしかして、そのひと」

龍鳳「あっ、いやっ! その子ね、鎮守府でお仕事がしたいって言って訓練施設に入ったらしくてっ」

龍鳳「住んでるところも違うしあんまり連絡とれなくってっ」

イムヤ「もーびっくりさせないでよね! やらかしちゃったかと思ってドキッとしちゃった!」

龍鳳「えへへ、ごめんね……」

506: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:38:19.18 ID:Xoyr5Nj8o

イムヤ「しっかし、それだけ料理が出来るのに料理人にならないなんてもったいないなぁ。
    鎮守府でお仕事って言ってたけど……なにかあったっけ? ――まさか艦娘?」

龍鳳「ちがうちがう、通信士だって。はじめは艦娘になるつもりだったみたいだけど、色々あってやめたみたい」

イムヤ「ふーん……通信士かー。通信士って忙しいみたいだね。あの大淀さんですら普段は通信士の業務だけでてんやわんやみたいだし」

龍鳳「……そうみたいだね。わたしはあんまり、そのあたりは詳しくないんだけど」

イムヤ「あ、そうなんだ? てっきりなんでも知ってるもんだと思ってたケド」

龍鳳「うん。給糧艦になろうって決めたのもいきなりだったから。ほかのことはあんまり調べてないんだ」

イムヤ「へぇー、龍鳳ちゃんにしては珍しいね。いつも下調べバッチリなのに。……あれ、それじゃなんでいきなり給糧艦を目指そうと思ったの?
    わたしが言うのもなんだけど、そんな気軽に入ろうと思う世界じゃないよね。痛いし、つらいし――ううっ! ヤなこと思い出しちゃった!」

イムヤ「…………カッとなって入った人も多いけど。龍鳳ちゃんもそのクチだったり?」

龍鳳「う、うん、ちょっとね! ――それよりっ、通信士のこともうちょっと聞かせてよっ」

イムヤ「わっ、いつになく前のめり。…………いや、わたしもあんまり詳しくないんだけどね?」


イムヤ「深海棲艦ってさ、海上に現れる前に――予兆みたいなのあるじゃん? 艦娘専用の電探がさ、ノイズ拾うじゃない?」

龍鳳「わかります。変に乱れるんですよね。艦娘のものは鎮守府に置いてあるものより範囲が絞られていますけど」

イムヤ「敵の強大さによってノイズが大きくなったりするから、遠い泊地でもその存在を感知できたりしてね。
    通信士はいつ現れるかもわからない深海棲艦のために、ヘッドフォンかぶってパソコンの画面をずう~~っと見てるんだってさ」

イムヤ「いつよその鎮守府から連絡が入るかもわからないしね。それに加えて総員起こしから情報収集までやるから凄いみたい」

龍鳳「わぁ……大変なんだ」

イムヤ「そーそー。だから艦娘訓練施設で一緒になった通信科の子もぼやいてたよ。“いまでさえしんどいのに配属されたらもっと休みがなくなる”――ってさ」

龍鳳「あ、イムヤちゃんの施設は通信科あったんだ?」

イムヤ「うん、わりとおっきな施設だったからね。その代わり給糧科はなかったみたいだけど」


イムヤ「本当はそういうの、情報士とか深探士(しんたんし)の仕事だけどね。
    最近は若い人材にいろんな業務を経験させてマルチな才能を――ってことで、通信士の業務だけじゃなくてそれ以外の仕事もさせるようになってるみたい」

龍鳳「へぇ……わたしたち艦娘が炊事洗濯の当番を入れ替えるようなものかな?」

イムヤ「そんなカンジ。女の子のたしなみとして、最低限の家事炊事くらいはね。艦娘になる以前から家事に触れたことがない子も多いみたいだし」

龍鳳「そうだね。わたしはもともと触りくらいなら一通りやってはいたけど……」

イムヤ「でも……さすがの通信士でも、艦娘のお仕事までやらされたりしないけどネっ!
    艦娘だって適性があって、かつそこから過酷な訓練を乗り越えなくちゃできないんだから! 一朝一夕の付け焼刃じゃ深海棲艦には太刀打ちできないしね!」

龍鳳「………………そうですよね。うふふっ」

イムヤ「まさかねっ! あはははっ! まさか訓練も十分にさせてもらえない子が海域まで出るわけないしっ」

龍鳳「ふふふふっ…………」

イムヤ「あはは…………ははっ…………」


507: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:38:52.64 ID:Xoyr5Nj8o


――――

――


イムヤ「はぁ…………ごちそうさま。美味しかったよ」

龍鳳「お粗末さまです。じゃあお皿さげちゃうね」

イムヤ「ごめんねいつも。ゴーヤたちが来るまでここ座ってていーい?」

龍鳳「はい。遠慮しないでゆっくりしてね――あっ、クッキー食べる? いまならコーヒーもついてきますよ」

イムヤ「くっきー?」

龍鳳「うん。この間焼いたんだけどまだ残ってるんだ。お腹周りが気にならないなら、どうかなって」

イムヤ「う゛っ……濃いめの味付けのあとには爽やかな甘味が欲しくなると知っての狼藉ね! いやらしい!」

龍鳳「ふふ、いらないならいいんですよ~」

イムヤ「…………いるし! いりますし! てゆーかいらないなんて言ってないし!」

龍鳳「はいはい、わかりましたよー。たくさんあるから、提督指定の水着が入らなくなるくらい食べていってね」

イムヤ「やめて!? わたしはまだまだピチピチギャルなんだから!」

龍鳳「ピチピチ? ウエスト周りの話ですか?」

イムヤ「鮮度的な話ですぅ~」



508: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:39:23.60 ID:Xoyr5Nj8o

龍鳳「……あ、そうだ。いきなりだけどわたし、一からラーメンを作ってみたいなって思ってるんだ」

イムヤ「お、ラーメンいいねぇ。あったまる食べ物は心地いいよね。一息つけるっていうか」

龍鳳「うん。でも一から作ろうと思ったら、出汁が問題で……麺はどうにかなるんだけど」

イムヤ「どうにかなるんだ…………」

龍鳳「麺はね。出汁だけ市販のものを買って済ませるのも気が済まないし、自作しようと思って」

龍鳳「だから太ったらすぐに言ってね」

イムヤ「……豚骨か? 豚骨って言いたいのか?」

龍鳳「ラーメンには少しだけ思い入れがあってね。半端なもので済ませたくないし……それでイムヤちゃんに協力してもらいたくて」

イムヤ「はん? わたしをダシにしてもラズベリーの香りしか得られないから却下ね」

龍鳳「でも豚骨のお出汁ってあんまりとったことないから……イムヤちゃんならなんとかなるかなって」

龍鳳「魚介豚骨になってちょうどよさそうだし」

イムヤ「さすがにそろそろ泣くよ? ないちゃうぞ?」

509: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:40:32.40 ID:Xoyr5Nj8o

龍鳳「冗談ですよ。いむやちゃんはいつ見ても羨ましくなるくらいスタイル抜群だから安心してね」

イムヤ「…………なーんか、龍鳳ちゃんに言われるとイヤミっぽい」

龍鳳「本当ですってば! もう……でも、ラーメンを作りたいっていうのも本当。だから、もしよかったら試作中にいろいろアドバイスしてくれると嬉しいなあって」

龍鳳「あんまり食べたことないから、どういうものが口に合うのかわからないし……」

イムヤ「……言っとくけど、出汁作りには協力しないからね?」

龍鳳「もー、ごめんったら! いくつか候補を作ってみて、そのなかからイムヤちゃんに美味しいと思ってもらえたものを選ぼうかなってね。
   完成したら、たぶん潜水艦の子たちに振る舞う機会が多いと思うし」

イムヤ「ふうん……。わたしはいいんだけどさぁ…………」

龍鳳「なにか問題ありました?」

イムヤ「いや、問題ってほどじゃないんだケド。その試食の役目、司令官じゃなくっていいの?」

イムヤ「どうせ一番食べさせたい相手は司令官だーって思ってるんでしょ? わたしと司令官、食の好みが近いもんね~」

龍鳳「う゛っ……」

イムヤ「図星か。まったく……遠まわしに面倒なことしないで、最初っから司令官に食べさせてあげればいいじゃん? そっちのほうがもっともっと正確な味付けに出来るしさ」

イムヤ「なんだったらいっそ、あなたのためを想って作りました――とでも言えばいいのに」

龍鳳「…………そっ、そそそんな言えるワケないじゃん! そんなっ、告白みたいなっ」

龍鳳「だいたいっ、提督だっていきなりそんなこと言われたら困るしっ! へんに意識されちゃったりなんかすると、これから気まずくなったりっ」

イムヤ「いまさらなーに言ってんだか。……ま、いいよ。いつも良くしてもらってるしそれくらいはね。
    よっぽど変なものを出されない限りはきちんと飲み干してあげるんだから。……あ、でもなるべくカロリーは控えめで…………」

龍鳳「あ、ありがとう。もぉ、へんなことばっかり言うからビックリしちゃった! あぅ、あつい……」パタパタ


イムヤ「(はぁ~あ。…………わたしもお人よしだなぁ)」

510: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:42:25.11 ID:Xoyr5Nj8o

イムヤ「ま、おおむねの事情は理解したわよ。どーせその“思い入れ”っていうのも司令官絡みでしょ?」

龍鳳「…………べつに、そんなコト」ドキッ

イムヤ「いかにも“あります”って顔してるわねぇ。――よしわかった! どうせならさ、もう一から話しちゃおう!」

イムヤ「いままで頑なに話そうとしなかった、司令官との慣れ初め。このいむやお姉さまがドーンと受け止めてあげるんだから! さあさあ」グイグイ

龍鳳「わふっ…………お、お姉さまって言ったって! わたしのほうが年上だしっ!」

イムヤ「言ってもたった一つでしょお~? 対して変わんないじゃーん!」

龍鳳「そそそんなことないですっ。ちゃんと年功序列というものをですね……っ」

イムヤ「細かいこと言ーわなーいのっ。だいたい艦娘ってば年功序列じゃないし。…………誤魔化そうったって、そうはいかないわよ!」

龍鳳「…………べつにそのっ誤魔化すつもりなんて! だいたい、思い入れったってべつにたいしたことないし! べつにあの人が関係してるわけじゃあ……」


イムヤ「べつにべつにばーっかで動揺してるのが丸わかり……相変わらずウソつくのがヘタなんだから。なにもそこまで隠すことなくない?」

龍鳳「べつに、隠してるとかそういうのじゃ……」

イムヤ「榛名さんたちだって昔の話ぜんぜんしないしさぁー。言いたくないならへんに誤魔化さないでそう言えばいいのに」
    みんな不思議がってるよ? 司令官は確かにいい人だけど、なんでそこまで司令官にこだわるんだろう――ってね」

龍鳳「え、みんなって……えっみんなわかってるんですか!?」

イムヤ「逆にあれだけキュンキュンしててバレないと思ってるほうがすごいわよ。もーバレのモロバレモーレイ海」

龍鳳「なんてことなの……」

イムヤ「かくいうわたしもそのひとり。榛名さんたちとか龍鳳ちゃんがそんだけお熱なの、見てていつも疑問に思ってたんだ」

511: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:43:51.75 ID:Xoyr5Nj8o

イムヤ「司令官ってばさ、わりとおちゃらけてる風に見えて、決めるところバシッと決めにくるからしっかり者のように思うけど。
    生活リズムはガタガタ、食生活もわたしたちが世話しなけりゃ即席ごはん。自室は散らかしっぱなしだし掃除もしない――」

イムヤ「まあ、仕事に追われてるみたいだし仕方ないけど……よく見てみるとけっこーだらしないしさ?」

龍鳳「あ……そうですね、たしかに」

イムヤ「知ってる? この間なんかあの人、夜食にひっどい納豆丼食べてたのよ?
    納豆ごはんに豆腐ときゅうりを乗せて、海苔をまぶしてめんつゆぶっかけてぐちゃぐちゃにしたやつ。ヤバくない?」

龍鳳「わー……だいぶ豪快だね」

イムヤ「ヒいちゃうでしょ。ビジュアルがもーひどくってひどくって……一口食べさせてもらったから、味は問題ないってわかるんだケド。
    もーあの見た目は食材に対しての冒涜よねぇ。贖罪するべきだわホント」

龍鳳「…………よく見てるんだね」

イムヤ「――え? あ、アハハっ! たまたまね、たまたま! ほらこれでもそれなりに付き合いあるしさ~」


龍鳳「いむやちゃんって、実は、あの人のこと……?」

イムヤ「まーたその質問か。よく言われるんだよね……どの子もどの子も司令官と仲良さそうにするだけですーぐ恋愛に絡めたがるんだから」

龍鳳「年頃ですものね…………それで、えっと」

イムヤ「答えとしては――のんのん。司令官とは付き合いも長いし気も合うけど、恋愛とかそういうんじゃないんだよね~」

イムヤ「……龍鳳ちゃんとしてはホッとしたかな?」

龍鳳「え、そうなの? わたしてっきり…………」

イムヤ「……ときどきよくわかんなくなるけど。少なくとも、今このときはそうじゃないって言えるよ。
    仕事もする。遊びもする。命も身体も預けちゃう。……だけど恋はしない」

イムヤ「なんかカッコよくない? 相棒的立ち位置みたいで。男女の友情は成り立たないとかって言うけどさ、それって――」

龍鳳「(…………でも、いむやちゃんの視線って、明らかに)」

512: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:44:48.94 ID:Xoyr5Nj8o

イムヤ「…………まあ、付き合いが長いって言ってもあなたたちほどじゃないですけど?
    龍鳳ちゃんからしたら、この程度で長い付き合いを自称するだなんて片腹痛いわってカンジ?」

龍鳳「そ、そんなことっ! …………付き合いの長さと、関係の深さは比例しませんからっ!!」

イムヤ「わお、力強い」


  ――がちゃっ


イク「たっだいまなのね~っ!!」

はっちゃん「ただいま戻りました。……お待たせしました」

龍鳳「あ、二人ともおかえりなさいっ」

イムヤ「おー綺麗さっぱりね。ごーやはどうしたの?」

イク「ごーやちゃんはなんか“うわへへ”って叫んでどっか行ったのね。どーでもいいのね」

はっちゃん「さっき大きな声が漏れ出てきましたけど、なにかあったんですか?」

イムヤ「ああ、それならね――」

龍鳳「――さっ! お夕飯の準備はできてますからっ! いまお皿を並べますねっ!!」

イク「もーお腹ぺこぺこりんなの! さっそくいただきまーす!」

龍鳳「はい、めしあがれ!」

はっちゃん「あら……いただきますね」

イムヤ「…………ま、いいケド」


イク「うましうまし」

龍鳳「ああっ、こぼしてますよもうっ……ちゃんと噛んで食べないと消化に悪いよ」フキフキ

イムヤ「さっきまでまったりしてたのに、イクひとりでずいぶん騒がしくなったものねぇ」

はっちゃん「ごーやさんがいないから半減ですけどね。いむやさんもいかがですか?」

イムヤ「にゃ、わたしはもう済ませちゃった。気にしないで食べていーよ、てきとーに本でも読んでるから」

はっちゃん「そうですか。わかりました、それでははっちゃんも――いただきます」

イムヤ「はい、めしあがれ」


――――

――

513: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:45:36.03 ID:Xoyr5Nj8o





「うわへへ!」

「あ、帰ってきましたね」

「ごーやお帰り。いまきたところ悪いけど、龍鳳ちゃんもう後片付けして寝るところだから、ゆーちゃ――Uターンして帰りましょ」

「変な噛み方なのね」

「えっ……それじゃごーやの、晩ごはん……」

「それならタッパーに入れてもらったのね! ほらっ」

「あっ…………よかったでち」

「タッパーは明日の朝にでも返してくれたら嬉しいかな。いろいろ仕込みもあるから」

「龍鳳ちゃんもごめんね、こんな時間までたむろしちゃって。司令官の話はまた今度ってことで」

「うっ……両方とも気にしないでください」

「そーゆーわけにはいきません。さっ、みんなかえろっか!」

「ヤー」

「みんな、おやすみなさい」

「おやすみなのねー!」

「龍鳳さんも、あまり無理しないように」

「ゴハンありがとね! タッパーは明日の朝いちばんに持ってくるから!」

「あはは、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」

「いつもありがと。それじゃおやすみ」

「はい、おやすみなさい」

514: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:47:43.69 ID:Xoyr5Nj8o



 …… ……

「あ……そういえば、きょう見つけた残骸はどうしたの? てーとくのところ?」

「いえ、それは明石さんの工廠まで。おそらく提督はいまごろファックスの応対に追われているでしょうし」

「ああ見つかったんだ。そういやそろそろ集まってきたころね」

「はい。そろそろ一つくらいなら建造できる頃合いではないでしょうか。明石さん曰く、もう少しあれば建造まで踏み切れるとのことでしたが」

「まあ、あんまり持ち帰ってないものねえ……」

「どうせいつもみたいに造ったはいいものの誰も使わないで解体コースなのね」

「わたしたちが鎮守府近海の警備を担当することはありませんしね。基本は駆逐艦の子たちですから」

「潜水艦、増えたらいいなぁ。…………増えたら、もっと休みが増えるでち。ぐふふ」

「ワルい顔してるなぁ……言っておくけど、増えたら増えたで新人研修があるの忘れてない? その世話、どうせわたしたち二人がやんのよ」

「ゲッ――」

「ああ、そういえばしおいさんが来たときもお二人が指導されてましたね」

「指導計画表の作成から実施テストまで。デスクワークと肉体労働の両立よ……そろそろはっちゃんたちもやってみない?」

「そ、そうでち! そろそろ二人とも先輩の立場に立ってみるのも――」

「お断りします」

「お断りなのねええェェーッッ!!」

「ぬわーっっ!!」

「その顔とポーズむかつくなぁ…………ま、どうせ新しい子なんてこないでしょ。杞憂よ杞憂……ごーやもその断末魔やめなさい。もう夜中よ」

「だったらいいけど……なんかヤな予感がするでち。主にドイツあたりから」

「なにそれ?」

「なんとなくでち!」

 …… ……



515: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:48:46.85 ID:Xoyr5Nj8o


  きぃ……ばたんっ


龍鳳「(…………みんな、いったかな?)」

龍鳳「(……みたいかな。いつもお疲れさま。あの人が元気に鎮守府を動かせるのも、みんなのおかげなんだから)」

龍鳳「(だから、適性に劣るわたしが、これくらい――)」


龍鳳「はふ――ふぅ……。……いっけない、ちょっとうとうとしちゃった……」

龍鳳「(みんなが食べてる間に洗い物を済ませててよかった。今日は早く寝られる……水に漬けて朝まで放っておくとばい菌がすごい残るっていうし)」

龍鳳「それじゃ、あとは乾拭きして…………うん、おっけーかな。ナプキンを上にかぶせておいて……っと」

龍鳳「んん~~…………っ。――はぁ……わたしもちょっと、肩がこって……やっぱりちょっと、前よりおっきくなったかなぁ」

龍鳳「(それにしても、みんな気づいてるって言ってたけど……冗談だよね? だってそんな、みんな知ってたら、きっとあの人だって気づくに違いないし……)」

龍鳳「(……や、ちょっと顔あつくなってきちゃった。もぉ……)」

龍鳳「(いむやちゃんも困ったなぁ……どうやって誤魔化そうかなぁ。べつに、言って恥ずかしいことなんてないけど……)」

龍鳳「(――やっぱり、あのきらきらした毎日は、わたしだけのものであってほしくって)」

龍鳳「(でも、きっと問い詰められたら言っちゃうんだろうなぁ。……わたし、誤魔化すのヘタってよく言われるし……うぅぅぅ)」

516: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/12(火) 03:51:40.84 ID:Xoyr5Nj8o

龍鳳「(――机の引き出しの隅。両手ほどの小さな小箱に……わたしの思い出が詰まってる)」

龍鳳「(いまではすっかり色あせてしまった宝箱だけど、その中身はいつまで経っても色あせない)」

龍鳳「(こうして表紙を撫でているだけでも、記した記憶が脳裏に浮かびあがってくる)」

龍鳳「(つらいこと、かなしいこと――うれしいこと、たのしいこと)」

龍鳳「(はじめはつらいことばっかりで。それを一人で溜め込むのが怖くって。でも……人にはとても、言えなくって)」

龍鳳「(ふっ――と、まっさらなこの日記帳を手に取って……閉じこもるように、逃げ込むように。後ろ向きで書き始めたのがきっかけだった)」

龍鳳「(こうしてぱらぱらとめくってみても、恨みつらみばかりでとってもつまらない日記帳)」

龍鳳「(だけど、ずっとじゃない。そんな冬の日はいつか終わりを告げ、花芽吹く櫻の季節がやってくる――)」


龍鳳「…………また、ちょこっとだけ読み返してみようかな。今日はちょっとだけ時間あるし」


龍鳳「(それに、日記帳を読んだその夜は、すごく幸せな夢を見られる気がして――)」


龍鳳「ええっと、どこからだっけ。もぉ、分厚いなぁ……むかしのわたし、いろいろ書き込みすぎっ」


龍鳳「(誰に照れているかもわからず、緩んだ頬を――ぐしぐし。もみ消すように手でこねる)」


龍鳳「(けど、不思議と消えない微笑み。…………日記帳読みながらニヤつくって、なんかへん  みたい)」


龍鳳「――あ、あったあった。このあたりからがいいかな……あんまり昔からだと長くなるし」




龍鳳「(さ、がんばれわたし! もう一度、あのひとに会ってくるんだ!)」




――――――

――――

――

523: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:24:00.58 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(中学にあがってしばらくしたころに、わたしはいじめの被害に遭った)」

524: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:24:45.52 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(いじめと言っても別段嫌われていたわけではなく、それは交通事故のようなもので。きっかけも些細なことだった)」

龍鳳「(その理由は――“見ず知らずの男の子からの告白を断った”こと)」

龍鳳「(当時まだ十二歳だったわたしは恋愛についてあまり考えてなくって、なんとなくの理由で交際を断った)」

龍鳳「(断られたはずの少年も食い下がる様子もなく、すこし残念そうに眉根を下げただけだった。
    去年までランドセルを背負っていたこころだから。執着もなく、その件はそれで終わりを告げたかに思えた)」

龍鳳「(…………だけど)」

龍鳳「(当事者がよくても、周りがそれを許してくれない)」

龍鳳「(告白の件があってから数日後。いつものように教室へ辿り着いたわたしを出迎えたものは――)」

龍鳳「(台風の目のようにぽっかりと空いた空間の中心に、花瓶の置かれた学習机)」

龍鳳「(数多の罵詈雑言が書き込まれた教科書。びしょびしょに濡れた文房具)」

龍鳳「(それらとともに出迎えた――ガラの悪い女生徒たちの、悪趣味なニヤけ面だった)」

525: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:25:27.16 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(どうやらあの告白を目撃した学生がいたらしく、それが噂話へと変わり、尾ひれがついてクラス中へ広まっていったらしい)」

龍鳳「(新しい学び舎。新しい環境、新しい教室に新しいクラスメイト――。
    思春期の訪れ、異性関係に敏感な年ごろ。みんなが浮ついた状況で、わたしという突出した存在は見事に的にされてしまった)」

龍鳳「(クラスのなかでも特別“ませた”集団に、標的にされただけで、みんながみんな悪意をもって接してきていたわけじゃない)」

龍鳳「(けれど彼らの過激な振る舞いは、幼いわたしを傷つけるだけには十分のことで)」

龍鳳「(はじめは、使っているノートに悪口を書き込まれたり、机の上に花瓶を置かれていただけだったが――)」

龍鳳「(健気に耐えていたわたしを面白がって、次々にその行いがエスカレートしていった。
    教科書がズタズタに破かれていたり。体操着が隠されていたり。文房具や靴が捨てられていたり)」

龍鳳「(わざとぶつかってきて、報復と称した肉体言語――そんな当たり屋紛いのことまで、やりはじめた)」

龍鳳「(跡が残らないような薄い傷であったけれど、被害はわたしの身体にまで及び始めた)」

龍鳳「(ちょっとではあるけど、血だって出た。見えないところではあるけど、絆創膏だって増えていった)」

龍鳳「(初めて血が出たときは、さすがに相手の子も怯んだみたいだけど。もうあとに引けないところまで来ていると思ったのか、その行いはむしろ過激になっていった)」

526: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:26:04.27 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(告白してきた男の子は別のクラスの子だったから、その子にまではなにも及んでいないようだけれど)」

龍鳳「(……いじめてきた相手も中学生なりに、相手を選んで行っていたんだろう。
    一切の抵抗もしないわたしに対して、まるで新しいおもちゃを手に入れた子どもみたいに。嬉々として嫌がらせを続けてきた)」

龍鳳「(それも、巧妙に。人影になって見えないようなところで、すれ違いざまに攻撃を受けることなんて少なくなかった)」

龍鳳「(けれどわたしは耐え忍んだ。大っぴらに行われていることではなかったから、たくさんの人の前や先生の目の届くところだと何もされなかったし)」

龍鳳「(インターネットで映った世界には、わたしがされていることなんかより、もっと恐ろしい世界が広がっていたから)」

龍鳳「(よくあるうちの一人……そう理解していても、辛かった。けれど耐えるしかないと思ったから)」

龍鳳「(言葉ですらやり返す勇気もなく、ただ我慢するしか出来なかった。……きっと、立ち向かえばきっとどうにかなったのかもしれないけれど)」


龍鳳「(――だけど、わたしがなによりつらかったことは)」

龍鳳「(わたしが嫌がらせを受けている間、誰も止めずに、誰も慰めてくれずに)」

龍鳳「(見て見ぬふり)」

龍鳳「(だれも)」

龍鳳「(一緒にいてくれなかったことが、かなしかった)」

527: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:26:35.91 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(いじめられているなんて情けないこと。学校の先生になんて言えなかったし。教師をやっているお母さんになんて、もっと言えなかった)」

龍鳳「(その年お母さんはちょうど高等学校の新一年生を受け持つことになっていて。
    毎日朝早くから出ていって、夜遅くに帰ってくる。そんな忙しい毎日を過ごしていた)」

龍鳳「(そんなお母さんに対して泣きつくことは、すごく迷惑で身勝手なことのように思えて。みっともないことのように思えて)」

龍鳳「(そうやって、ひとりでこらえていると……)」

龍鳳「(お母さんの仕事がひと段落したみたいで、いつもの早い時間に帰宅するようになった)」

龍鳳「(わたしはこんなに変わってしまったのに。いつもと変わらない元気で、いつもと変わらない笑顔で帰ってきた母の顔を見て)」

龍鳳「(ふしぎと――張りつめていた糸が、ついにちぎれてしまった)」


龍鳳「おかあさん」

龍鳳「わたし、もうやだよ」

龍鳳「やなんだよぉ…………っ」


龍鳳「(そうして唐突に涙を流し始めたわたしを)」

龍鳳「(なにがあったか追及することなく、優しく抱きしめてくれた)」

龍鳳「(そうして、その優しさに甘えるかのように、ずるずると――――)」




528: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:27:05.42 ID:LSNgq8dmo



――――

――



529: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:27:52.23 ID:LSNgq8dmo

「こーら、起きなさい。もうお昼過ぎよ」

「もーこんなに部屋暗くして……お部屋も全っ然お掃除してないし、だらしない……」

龍鳳「………………んぅぅ……」スヤァ

「もうこの子ったら……。こら、起きなさいっ! お、ひ、る、で、す、よっ!!」ペシペシ

龍鳳「んぐぅ~……」

「んぐぅじゃないです。もう午前は終わったのよ。起きなさい!」

龍鳳「…………もー。なーにお母さん……勝手に部屋入って来ないでったら……」

「あんた昨日夜中すぎまでパソコンしてたでしょう! あんまり昼夜逆転した生活してると美容にも悪いよ!」

「それに人間、朝に起きて夜に寝るような仕組みになってるんだからね!」

龍鳳「んもぉ~……うるさいなぁ! そんなのただのこじつけでしょお~……」ゴロゴロ

龍鳳「だいたいさぁ、美容に悪いとかって言ってるけど今日の今日まで対して変わってないしぃ~……」ゴロゴロ

「…………」

龍鳳「それにさぁ、夜更かししたくらいでお肌にくるような歳でもないしさぁ~……」ゴロゴロ

龍鳳「そもそもわたしが夜更かししてるっていう証拠はあるの? ないよね? あるはずないよね~……」ゴロゴロ

「…………夜中にトイレ行こうとしたら、あんたの部屋の扉の隙間から光が漏れてたんだけど」

龍鳳「あーそれね~……それはわたしもちょーどトイレに行こうとしてたまたま目が覚めただけだからぁ~……」

龍鳳「ホントね、たまたまなんだけどね、いやー奇遇だねお母さ~ん……」

龍鳳「てゆーかお母さんなんでいるの……? きょお何曜日だっけぇ……」

「…………今日は土曜日。そんでついでにお母さんはお休み」

龍鳳「あ、そうだったんだぁ……きょーどよーびかぁ~……」

「…………とりあえずさっさと起きて歯ぁ磨きなさい。そんで髪もぼさぼさだからクシ入れて、あと顔も洗いなさい。十歳以上は老けて見えるよ」

龍鳳「あーうんわかったわかった……もうちょっとで起きるから……」

「本当に?」

龍鳳「ほんとーだってば~……」

「……わかった。それじゃあね」


  ばたんっ

530: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:28:58.77 ID:LSNgq8dmo


  がちゃっ


「龍鳳起きてる? ちょっとおつかいを頼みたいんだけど――って」

龍鳳「…………すぅ…………すぅ…………」

「…………」

龍鳳「んんっ…………すやぁ…………」

「…………あんた、すぐ起きるって言ってたわよね」

龍鳳「(すやぁ)」

「…………」

龍鳳「(すやすやりん)」

「………………」



「あんたって子はー!!!」ガッツーン

龍鳳「――――ぁ痛いっ!!」



531: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:29:58.67 ID:LSNgq8dmo



 ざわ・・・      ざわ・・・


   ざわ・・・         ざわ・・・



龍鳳「(もーお母さんったら……ちょっと目をつぶってただけなのにさー……ぶつとかありえないし……)」

龍鳳「(おつかいとか自分で行けばいいじゃんさー……あっちは車だってあるんだし……)」

龍鳳「(わざわざわたしが行く意味とかないでしょ……なによ準備があるって……)」

532: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:30:28.37 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(それに…………)」チラッ


「海の見える良いレストランを知ってな――」 「本当ですか!? わたし、司令と一緒なら――」

 「シャンプーとかどれも一緒だし百均ので――」 「安物ったって限度が――」

「お兄ちゃーん! こっちこっち!」 「おい、引っ張るな」

 「スリや置き引きには注意しろ。くれぐれもはぐれるな」 「じゃ、あ、あの……じゃあ、手を……」


龍鳳「………………」

龍鳳「(はあぁぁ……なんでよりにもよって街におつかい行かせるのさ……)」

龍鳳「(人多いし……つかれるし…………なんかわたしによく似た声まで聞こえてきたし……)」

龍鳳「(それに――ううっ、人目が気になるぅ……! みんながみんな、わたしのことを見てる気がする……)」

龍鳳「(髪とかはねてないかな? ああ気になる! でもいきなり頭に手を伸ばしたら目立っちゃって注目されるかも……おかしな人だと思われちゃうかも)」

龍鳳「(猫背とかになってないかな? だいじょうぶかな? 変なカッコしてたら笑われちゃ――いまあそこのカップル、わたしを指さしてなかった!?)」

龍鳳「(あ、気のせいか……本当に気のせいかな? 気のせいだと信じたい……うぅぅぅ~……)」


533: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:31:20.39 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(も、もう、さっさと買い物して帰ろう! こんな若い人ばっかりの街とか怖くていてられないし!)」

 くすくすっ あははーっ

龍鳳「(――わたしっ!?)」ビクッ


 「あのアベックちょーヤバくなーい? マジチョベリバっていうかアンタッチャブルっていうかぁ~」

  「あーわかるー! なんつーかバリバリウケるんですけど! オンナのほうはゲキマブだよね~ちょーナウい~」

 「えーマジ? トシ食ってオバタリアンにしか見えないんですけど~!」

  「まじイエス・ウィー・キャンなんだけど~」

 「それはバマオ~!」


龍鳳「(ぁ……違った。よかった)」

龍鳳「(……てゆっか! 人間観察で盛り上がらないでよ! そんな街のど真ん中でさぁ! オシシ仮面みたいな見た目してるくせに!!)」

龍鳳「(わたしが言われたのかと思ってマジ気になるってゆうかぁ!)」

龍鳳「(…………言葉づかいがうつったー!!)」


 「――あ? なんかアイツ、ウチらのこと見てね? ガン見じゃね? チョベリガンじゃね?」

  「え、マジ? どれどれ?」


龍鳳「(やばっ…………!)」サッ

 「…………あー? なんか違ったわメンゴメンゴ。アウトオブ眼中だったわ」

  「なにそれウケる。マジわけわかめなんだけど」

龍鳳「(絡まれなくてよかった……もうこんなトコ怖いからさっさと行っちゃお! 街の中心とかギャルばっかだし……。
    ギャルとかホント思い出すからあんまり見たくない……みんなおんなじような顔してるしさ……)」

龍鳳「(えっと本屋……はあっちかな。…………もお! 本くらいならアマゾンでポチればいいのに!!)」

534: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:32:30.81 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(…………ふう、本棚と本棚の間の通路って狭くて落ち着く……人も少ないし……)」

龍鳳「(路上は車と人のにおいでいっぱいだったけど、やっぱこういうのじゃなくっちゃね~……。
    こっちは排気ガスもなくって冷房効いてて涼しいし……ああ気持ちいい……)」

龍鳳「(――っとと、こんなにまったりしてちゃダメだ。ここだって街の中央に突っ立ってる大型書店。誰に出くわすかわからないんだから)」

龍鳳「(とりあえずお母さんに頼まれた本は……っと。……あれ、メモ書きどこいって――あ、あった。これこれ)」

龍鳳「(んー……? これは……学術書とか専門書……上の階かな? はやく行こっと)」

龍鳳「(ていうか、勉強関係の本なら適当に学校で取り寄せればいいじゃん! もうっ!)」


龍鳳「(ぅー……エスカレーター乗ってる間って妙にそわそわする……でも変な動きしたら後ろの人に何事かと思われるしぃ……)」

龍鳳「(とりあえずそれとなくプラスチックの反射で……よし、髪は乱れてない。背中に値札も貼られてない。だいじょうぶ)」

龍鳳「(あ、五階……学術書、専門書のフロア――うん、合ってる。ここだね。
    ええっと……学術書は奥のほうかな? エスカレーターの近くは……レジと……文具とか趣味書のエリアみたいだし)」

龍鳳「(と、とりあえずっ! あんまりキョロキョロしてるとレジの人に裏で笑いものにされちゃうから……自然に、自然に……)」

龍鳳「(……とりあえず奥かな。本棚の隙間を縫うようにして……できるだけ人とすれ違わないように――)」


 お母さん! お母さん! そんなのってないよぉ!>

 黙りなさい! あなたはおとなしくスポンジボブだけを作っていればいいの!>


龍鳳「(――えっ!? なにっ!? だれっ!? なんの音!?)」キョロキョロ


 ――すれ違う絆。薄れゆく家族の想い。めくるめく世界のなかで、ただひとり夢を見る>

 涙をたたえるその瞳に、睦月はなにをのぞむのか。――“華麗なるにゃしぃ”毎週金曜朝七時より!>


535: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:33:37.29 ID:LSNgq8dmo

 モッチー堂では、ドラマ“華麗なるにゃしぃ”の原作小説を10%引きでご提供しております!>

 これを機に睦月ちゃんの織り成す世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか!>


龍鳳「(…………あ、店内放送か……真上で響くからびっくりしちゃった)」

龍鳳「(ドラマなんてもう何日も見てないなぁ……。わたしの部屋にテレビなんてないし、パソコンにもワンセグ機能なんてついてないし……)」


 また同時に、アニメ“孤島の姫”も応援しております!>


龍鳳「(ああこれは聞いたことあるかも。ラノベ原作でアニメ化したやつなんだっけ。シリアスっぽいからあんまり興味なかったけど…………って)」

龍鳳「(あったあった。やっぱり念のため店内端末で場所調べておいてよかったぁ。
    あんまり探し回ってると店員さんに“なにをお求めですか?”って聞かれちゃうところだった。もーあれホント嫌で……)」

龍鳳「(端末使ってるときに後ろに並んでた人の視線もヤだったけど……店員さんと会話するよりはマシだよね。冷や汗すっごい出てくるし)」

龍鳳「(……お腹痛くなってきたし早く買って帰ろ。端末で見た表紙は――これかな。あとこれと、これと……)」

龍鳳「(う、ちょっと重いかも……たった数冊なのにどっしり感じるってどんだけ……)」

龍鳳「(あ、でもなんかこういうふうに参考書いっぱい持ってるのってなんか受験生っぽくていいカモ? なんかすっごい勉強できそうな感じ? んふふっ)」

龍鳳「(きょろきょろ)」

龍鳳「(……よし、誰もいない。目立ちやすい鏡の前に立つのは今しかない!)」

龍鳳「(鏡よ鏡よかがみさーん! どんなインテリジェンスを照らしだしてくれるのかなっ?)」


龍鳳「(ばちこーん!)」ウィンク


龍鳳「(ふーかでんっ!)」バチコーン


龍鳳「(ばれーいしお!)」クネッ


龍鳳「…………」

龍鳳「(……ちがった。ただのコミケ帰りのガリ勉中学生にしか見えなかった。もーサイアク……見なきゃよかった……めっちゃ恥ずかしい……)」

龍鳳「(バカなことやってる間に人増えてきたし……混む前にレジ済ませちゃおう。後ろに立たれると視線が気になるし……)」


536: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:35:13.38 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(ああっ、しまった! さっき鏡見たときに髪整えておくべきだったかなぁ!? 見ておけばよかったー!!)」

「つぎのかたっどうぞォ~」

龍鳳「(見ようにももうレジ立ってるし手遅れだしぃー!!)」

「――お会計全部でこちらになりまっさァァァン」

龍鳳「……ぁ…………これで……」

「ウィ! お預かりしァッス!! それではこちらお釣りでございます。先に大きい方をお返しいたします」

龍鳳「…………ぁ……は、ぃ……」

「こちら細かい方お確かめください。それでは商品のほうお渡しいたします」

龍鳳「ぁ……ぁりがと、ござ……ま……」

「このたびはモッチー堂をご利用いただきまことにありがとうございました。またのご利用お待ちしております」

龍鳳「…………」ススッ

「…………それっさァ次のッたァどうぞォォォシャシャシャシャーイ!!」

「なんですかこの店員。すごくぶん殴りたいです」

「やーめーなーさーい。余計な面倒を起こすとお姉さまが悲しむよ」

「ウィッスアリシャスアンビシャス。それではブックカバーが四点と――」


龍鳳「…………」スタスタ

龍鳳「…………」タタタッ

龍鳳「(もー!)」

龍鳳「(もぉー!!)」

龍鳳「(声でないしー!! めっちゃ恥ずかしい! めっちゃ恥ずかしい!! すっごい掠れ声だったし!!)」

龍鳳「(へんな声の客がきたって覚えられてたらヤだなぁ……街の本屋さんだとここが一番使いやすいし……今度から遠くの本屋さん行くべきかなぁ……)」


龍鳳「……はぁっ…………はぁっ……」

龍鳳「(て、ていうか、勢いでお会計しちゃったけど……おかーさんが言ってたこと忘れてたっ)」



537: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:35:44.07 ID:LSNgq8dmo


   …… ……

「それじゃこれお金ね。たぶん半分くらい残るだろうから、残りはお小遣いとして自由に使っていいよ」

「でも無駄遣いはしないように。それと今日はお客さん来る予定あるから、出来るだけ早めに帰ってくるようにね」

「わかってると思うけど、お昼とはいっても街には危ない人たちがいっぱいいるんだから、寄り道しないように」

「それじゃ、あでゅー!」

   …… ……



538: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:36:33.98 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(…………お小遣い、かぁ)」チャリン

龍鳳「(わたしを積極的に外に出させるためか、定期的にもらってるけど……そういえばあんまり使ったことなかったな。
    というより、そもそも外に出ることがあんまりないから使う機会がないっていうだけなんだけど)」

龍鳳「(お母さんにはいつも“なんでもいいから趣味を見つけろ”って言われてたんだっけ。でも、趣味かあ……そんなのいきなり言われても困るよね)」

龍鳳「(だってさ、こうやって見回してるだけでも……いっぱい本があって、たくさんの種類があって、色とりどりの内容があるわけで……)」

龍鳳「(スポーツ――はあんまりやる気にならないし、そもそもアウトドア的な趣味ってわたしに合ってない気がする。
    かと言ってインドアかあ……アクアテラリウムとか? うーん、水族館とかキライじゃないけど、なんか違う気が……)」

龍鳳「(ネットサーフィンとかも趣味じゃなくてただの暇つぶしだし……)」

龍鳳「(立ち読みとか……大丈夫だよね? ほかにもやってる人いるし……わたしだけ肩ポンってされたりしないよね?)」

龍鳳「(だ、だいじょうぶかな……)」ソローリ


龍鳳「うーん…………)」パラパラ

龍鳳「(やっぱり、手に取って見てもしっくりこないなあ……屋内競技だとか、室内で出来るガーデニングだとか……。
    それがダメだってワケじゃないんだけど、なんとなーくしっくりこないんだよねぇ……)」ペラペラ

龍鳳「(なんていうか、あくまでこれらは写真の向こうのものであって現実味を帯びてないというか……わたしに近しいものではないというのか……)」ペラペラ

龍鳳「…………うん」パタリ

龍鳳「(今すぐどうこうしなきゃいけないってワケじゃないし、また今度考えよう。趣味ってわざわざ見つけなきゃいけないものでもないだろうし)」

龍鳳「(お釣りは全部お母さんに返そう。……わたしが持ってても仕方ないものだしね)」

539: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:37:43.05 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(てゆっか、いろいろ見て回ってるうちに混んできたし……ぽんぽんいたくなる前に早くかえろぉ……)」

龍鳳「(いまから帰るってお母さんにメールして――)」

   どんっ! がちゃんっ……

龍鳳「あうっ……」ドテッ


「あっと……ごめんなさい」


龍鳳「……ぁ…………ぇ、と……」

「ええっと…………大丈夫ですか?」

龍鳳「ぃひゃっ……! す、すすすみませんすみません! だいじょっだいじょぶです! ホントにすみません!」

「お、おお……なにもそこまで謝らなくても……立てますか?」スッ

龍鳳「だだだだ大丈夫です立てます大丈夫です! それっそれじゃっ、失礼しましたっっ」バヒューン

「あっ……! 目ぇすら合わせてもらえないとは……俺、なにか変なことしたかな?」


「――ん? あれ、これ…………」

540: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:38:51.01 ID:LSNgq8dmo



 たたたたたっ


龍鳳「はっ――はっ――はっ――!」

龍鳳「(失敗した失敗した失敗した! 携帯電話ばっかり見てたから隣に人が立ってるのに気づかなかった!)」

龍鳳「(おまけにぶつかってコケちゃうとかどんだけダサいのさ! すっごい周りの人に注目されてたし! たぶんぶつかった相手も変な目して見てただろうし!)」

龍鳳「(“えぇ……勝手にぶつかってきて自分でコケてんのかよ。勘弁してくれよ”っていう想いが声色に出てたし!)」

龍鳳「(もお、これだから街はイヤなの! ぜったいおかしな風に笑われてるだろうし! 楽しいところなんてひとつもない!)」

龍鳳「(早く帰ろう! クラスの人に会っちゃう可能性だってあるんだし、誰かに見つかる前に帰らなきゃ!
    駅まで駆けこんだら楽になる! 休日の昼間だって言っても、うちの方面に向かう電車に乗る人少ないし!)」

龍鳳「(切符は買ったしあとは改札を――)」


「…………お? あそこで走ってんのって」

 「龍鳳じゃね? すっげ走ってっけどチョーウケる。ちょっと行ってみようよ」

「マーリンの髭だわマジ。――おーうい! そこのりゅーうほーうちゃーん!!」


龍鳳「――――ッ!!」

龍鳳「(こ、こ……この声って……もしかして……)」ピタッ


「あり? 聞こえてねえのかな」

 「あんたマジウケる。ムシされてやんの~ざまあ味噌漬け~」

「めんごめんご。今度はちゃんとやるからさあ……ちょっと遊んでこーぜ」

 「レッツらゴー!」


龍鳳「あ、あああ…………」

龍鳳「(やっぱりそうだ! 忘れもしない……忘れたいのに忘れられない……この脳を揺らすような声は……)」ガタガタ

541: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:39:53.50 ID:LSNgq8dmo


「ンだよ聞こえてんじゃねえかよ、おい返事くらいしろや」

 「もしかして無視してる系? あんた見ない間にずいぶん偉くなったもんだねぇ?」

「インド人もビックリマンだわマジ」


龍鳳「(わたしを虐めた……クラスメイト)」

龍鳳「(今日は二人しかいないみたいだけど……まさかこんなところで出くわすなんて……!)」

龍鳳「(わたしは逃げたはずなのに! それでもなんで……なんでこんな……っ)」


龍鳳「ぁ……や…………ちがっ……」

 「なぁ~にが違ェよ。ウチらが呼んでんだからマジちょっぱやで来いやってカンジなんだけど」

「もしかしてウチらが寄ってくる前にドロンしようとしてたん? そりゃ~イカンよ困ったちゃんだなあ~」

龍鳳「ご、ごめ……な…………」

 「あ? なに? 聞こえねンだけど」グイッ

「お口チャックしてねえでさあ~もっとハキハキ喋ってくれや~」ガシッ

龍鳳「あッ――! くる、し……っ」

 「苦しかねーよ。むしろあんたがバックレるようになってからのウチらのほうが万倍苦しかったんだケド」

「あーそれな。ウチらマブダチなのにヒドくない? 遊び相手がいなくなってチョー寂しかったんだけど?」

 「マジそれ。……てゆーかさ、ウチらに会ってなんか言うことないの?」

龍鳳「くっ……や、やめっ…………」

 「ンなん聞いてねーよ。ウチらが言ってるのは」

「アイサツだよア・イ・サ・ツ! 道端でトモダチに会ったら挨拶すんのは基本だっろお~? 古事記にもそう書いてあっべ。なあ~?」

 「モチのロンだわ。てめえみたいなオカチメンコは挨拶でもして愛嬌振りまかなきゃモテねーべ」


542: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:40:20.43 ID:LSNgq8dmo


龍鳳「(道行く人たちはみんな、わたしたちの様子をちらっと遠巻きに見ているだけ)」

龍鳳「(明らかにわたしが因縁をつけられている状況なのに、誰も……だれも……)」ギュッ


 「だからよ、ウチらがチョーイケイケな挨拶教えてやっから安心しろってえ~」

龍鳳「……な、なに…………?」

「プリーズアフターミー。“オッハー”」

 「オッハーだろオッハー。挨拶っつったらマジコレしかねえから」

「それともなに? あんた挨拶って知らないの? マジ驚き桃の木山椒の木だわコレ」

 「マヨチュッチュすんぞゴルァ」

龍鳳「……ぁ…………ぁはは」

「……なに笑ってんだよ。気持ち悪い愛想笑いしてんじゃねーよ」

 「つか目が腐るからやめろ。てか挨拶はよ。大声でな」

龍鳳「ぅ……」

「あ?」

 「はよ言えや」

龍鳳「…………ぉ、は…………」

「だから聞こえねっつってんだろ」ガッ

龍鳳「あぐっ……!」

「ンだその声。マジウケる」

543: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:40:46.61 ID:LSNgq8dmo

 「……あーわかった。なんだウチらが手伝ってやりゃいいのか。そりゃ悪いことしたね」

龍鳳「…………え?」

「あーなるなる。よおく考えてみたらウチらも挨拶してなかったもんね」

 「めんごめんご。そんじゃさ、いちにのさんで一緒に挨拶しよう。やってみようそうしよう」

「イイネ! ……てめえさぁ、もしトゥギャザーしなかったら……ワカルよね?」

龍鳳「…………っ」ギュッ

「返事」

龍鳳「……わ、か…………った……」

 「わかりました、だろスカポンタン」

「まあそれくらいならチョンマゲしなくても許してやんよ。それじゃいくよ~!」

龍鳳「っ!」

「はい! いーちにーの!」

 「さーん!」


龍鳳「…………ぉ、っはー…………」


「…………」

 「…………」

龍鳳「…………っ」

544: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:41:26.23 ID:LSNgq8dmo

「え、なに? くふっ、コイツマジで言ってやがんの?」

 「くひひひひひっ!! こいつ真に受けてるし! こんな駅前でおっはーとか正気の沙汰じゃないんだけど!」

「エヒャッヒヒヒヒヒッ! マジダッサ! てかキッショ! 挨拶とかうっそぴょーん!!」

龍鳳「…………」フルフル

 「はーやっぱコイツ頭おかしいわ。マジクソウケる」

「あ、そだ! そおんなゾウが踏んでも壊れない精神力の龍鳳ちゃんにさ~、チョーオススメの遊び場があんだケド」

 「ウチらがいまから行こーと思ってたトコなんだケドさ、特別に連れてってやんよ」

「その勇気に免じてな!」

龍鳳「…………ぁ、ぇ……?」

 「ま、ちょーっとばっかオトコの人が多かったりすっけど……あんたならカンケーないよね」

龍鳳「え、え、え…………?」

 「ほら、さっさ行くよ」

「はじめはちょーっとばっかイタいかもしんねっけど、後々クセになっから」ガシッ

龍鳳「ぁ…………やだ、離してっ」

 「ひっでえな。ウチら親友じゃん? いいから来いよめんどくせぇな!」

545: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:42:00.96 ID:LSNgq8dmo


「そんじゃ新規一名様ごあんなーい!」

龍鳳「や――っ」

龍鳳「(だれか…………だれかっ!)」ギュッ

龍鳳「(助けを求めて天へ祈るも、その声は届かないと“解って”いる。こういった場において、女性の声が強い時代だから。
    義侠心を働かせて割って入っても、女性が痴漢扱いすればそれに決まる。どれだけ明らかなものでもそうなってしまう)」

龍鳳「(だから、こうしてわたしが助けを希っていても。みんながみんな、遠目に眺めているだけで)」

龍鳳「(わたしには、誰も救いを与えず)」

龍鳳「(また誰も寄り添ってくれず)」

龍鳳「(誰も――わたしが差し伸べた手を握ってくれないんだ)」

龍鳳「(そうしてわたしは、脇を固める彼女らの“手”によって、くらいくらいところへ追い落とされていくんだ)」

龍鳳「(わかってる……わかってるけれどっ)」

龍鳳「(わたしは、これ以上堕ちたくない――堕ちたくないんだ!)」

龍鳳「(だれか――――!)」


546: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:43:02.83 ID:LSNgq8dmo


提督「おーいたいた! なんかやたらとデカい声すっからなんだと思ったらここだったのか!」


龍鳳「――――ぁ」

提督「いやあ探したんだぜ。あっちこっちの停留所から君くらいの子が出入りするお店から色んなところまで行ったんだからな!」


龍鳳「(…………きこえた)」


提督「その先で知り合いとばったり出くわしたりして……ああ思い出したくない……」


龍鳳「(たしかに、きこえた)」


龍鳳「ぁ…………ぇ、と」

提督「…………あーっと、お取込み中でしたか?」

「…………なぁにおにーさん。ウチらになんか用~?」

 「ウチらいまこの子と遊びに行くところでさぁ、用事ならあとにしてくんない?」

提督「ああ、そうなんですか? それはたいへん失礼いたしまして。…………ところで、えーっと……そこの君」

龍鳳「ぁ…………はぃ」

提督「ずいぶんタイプが違うみたいだけれど……両脇を固めているそちらのお二方は、君のご友人ということ相違ないかな?」

「だからさっきも言ったっしょ。ウチら友達だから」

 「てめえもなに震えてんだよバーカ」ガシッ

龍鳳「…………ぁ……っ」


龍鳳「(わたしに差し込む光。閉じきった、くらいくらい世界にヒビが入った)」


547: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:43:38.38 ID:LSNgq8dmo

 「…………なに黙ってんだよ。なんか言えよ」

「ごめんねおにーさーん。この子ちょっと緊張しちゃってるみたいでさぁ」

 「せやな。悪いけどナンパならまた今度にしてくんない? この子ちょっと休ませてあげたいからさ~」

「あ、なんならお兄さんも来るぅ? お兄さんイケイケだしさぁ、イイ思いはできると思うケドぉ~?」

 「龍鳳ちゃ~んもそれでいいよねぇ~?」

提督「…………」チラッ

龍鳳「ぁ、ぁ…………っ」

龍鳳「(流されるな。ここで流されたら、またいつもの淀みのなかだ。時間が止まっていて……世界が濁っていて……つらくて……息苦しくて……)」

龍鳳「(この世界から抜け出したい。たったひとつの蜘蛛の糸にも縋りたい。だけど、だけど――)」


「おまえ……“わかってる”よな?」

 「ウェヒヒッ」


龍鳳「(――“わかってる”……目の前の男の人は、あくまで一時的な救済。ずうっと傍に立ってくれるわけではない)」

龍鳳「(けれど隣の彼女たちは、少なくともあと一年から二年は付け回してくるだろう。
    一時的な平穏を求めるばかりに、これから何年もの生活を棒に振るわけにはいかない)」

龍鳳「(…………たとえもう通っていなくとも。わたしはあそこの生徒であって、彼女たちは同級生なのだ)」

龍鳳「(だからこそ“解って”いる。ここでわたしの口から救いを求めることは、それは即ち彼女たちへの明確な背信行為となるのだ)」

龍鳳「(もし仮にここで彼に縋り付いたとして、彼女たちは矛を収めてくれるだろうか。
    ――答えは否だろう。彼女たちに背を向ければ、すぐさま刃で貫いてくる。彼女たちはそういう人間なんだ)」

龍鳳「(いまはまだ、街で会うたびに嫌がらせを受けるだけだが――最悪、家を特定され、その攻撃は家族にまで及ぶかもしれない)」

龍鳳「(あのお母さんなら、嫌がらせを受けたらすぐさま被害届を出し事なきを得るだろうが……。
    もし万が一、嫌がらせの範疇を超えた行為に及び始めたら? そしてその魔の手が、お母さんにまで伸ばされたとしたら?)」

龍鳳「(わたしが学校に通っていたときは、中学生らしく細々とした嫌がらせだったが……。つい先ほどの様子だと、ついにそこを振り切ってしまったみたいだし。生易しいもので済まされない可能性も大いにある)」

龍鳳「(…………一度考えてしまうと、それは蛇の毒のようにわたしを縛る。じわじわと、指先から腐るように色が落ちてゆき、毛先の一つまで呪い尽くされてしまう)」


「そーそー、そういうんはチョベリグだわ」

 「バッチグ~だわマジ。エドはるみエドはるみ」


龍鳳「(牙をもたげる幼き悪魔たち。わたしはその笑顔を……今後数年間に及んで見続けなければならないのか? 逃げ続けなければならないのか?)」

龍鳳「(そんなの――ヤだ。ヤなんだったら……ヤなんだよぉ……っ)」


548: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:44:19.69 ID:LSNgq8dmo


提督「――なるほど。ちょっと失礼」グイッ

龍鳳「あっ――」ポフン


龍鳳「(常闇の森で迷い続けるわたしの腕を掴んで、力任せに引き寄せる――視界いっぱいの彼)」

龍鳳「(抱き寄せられた混乱でもなく、救い出された安心でもなく、ただわたしを包んでいたものは――)」

龍鳳「(…………あったかい)」

龍鳳「(なぜか、それだけが胸を占めていた)」


「ちょっ」

 「なにしてっだよ!」

提督「や。俺はこの子のお連れ様だからさ、返してもらおうと思って。同じ友達なら先着順だろ?」

「は?」

 「ちょーっとわけわかめなんだけど」

提督「つーわけでちょっと借りていきますんで。それではー」グイ

龍鳳「……ぁ…………あれぇ~?」ズルズル

「あっ…………おい、ちょ待てよ!」

 「ちっ…………HERO気取りやがって」



549: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:44:51.19 ID:LSNgq8dmo



龍鳳「(引きずられながらも、わたしは)」

龍鳳「(うっそうと生い茂り、わたしを阻んでいた木々が拓かれ)」

龍鳳「(わたしを縛っていたツタが、引きちぎれていく音を聴いた気がしたんだ)」




――――

――





550: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:45:33.74 ID:LSNgq8dmo






龍鳳「(不肖わたくしこと龍鳳は、改札をくぐり、駅構内を練り歩くこと数分)」

龍鳳「(売店のオバちゃんや、休日出勤のサラリーマンたちからの奇異の目を集めながら引きずられております)」

龍鳳「(腕(かいな)に抱かれること僅か数秒。得られた温もりも些か寂しく、いまは仲良く手と手を繋いで――引きずられております)」


龍鳳「(どなどな~)」


龍鳳「(というかなんなのこの人。わたし知り合いだったっけ? なんでこんなズルズル行くわけ?
    あの人たちから救い出してくれたもんだから、一瞬は良い人かと思ったけど……もしかして誘拐犯!? それはまっこと不愉快ゆーか違反といいますか!)」

龍鳳「(歳は――見たところわたしのちょっと上。背丈に限ればもっと上。腕力まで至れば天井破りの型破り。
    引きこもりのわたしに解くことなど出来やしませんや。というかそんなにゴツくもないのになんでこんなに……)」

龍鳳「(こうして引きずられている間にも、わたしを運ぶはずだった電車が過ぎ去っていく。時間を残して去って往く。嗚呼、世はかくも無情なり――)」

551: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:46:19.15 ID:LSNgq8dmo



提督「…………ふうっ」

龍鳳「(遠い目をしたわたしを牽引する彼は、周囲を見回して一息ついた)」

龍鳳「(足を止め振り返り、わたしが無事追従してきていることを確認し、ゆっくりと手を離す彼)」

龍鳳「(…………とりあえず、気づかれないように拭いておこう。わたし手汗すごかったし、不快な想いをさせてなければいいんだけど……)」

龍鳳「(そわそわするわたしを目の前に、対話のときは来る――)」


提督「…………ここまで来れば問題なしかな。悪いね君、いきなり引っ張ったりしてさ」

龍鳳「ぁ…………ぇ、とっ……」

提督「あんな駅前で騒ぐなんてなあ。ちょっとした注目の的になってたぞ? ……念のため聞いておくけど、さっきの二人は本当に友達か?」

龍鳳「(なにが念のためなんだろうか。目の前に立つ彼は訊ねた)」

龍鳳「(……あんな、あんな人たちが、わたしの友達であるはずがないし、あってたまるわけもない。彼女らが友達かどうかなどと、訊かれるだけでもおぞましい)」

龍鳳「や…………ちがう、ます……」フルフル

龍鳳「(しかしわたしの口から飛び出すものは、掠れた気配の青息吐息も虫の息。…………引きこもるようになってからか、然るべく退化した声帯が今日ほど恨めしいことはない)」

龍鳳「(普通の人なら聞き返してくるような声量だったが、目の前の男には届いたようだ。安堵の笑みを浮かべて頷く彼)」

提督「そっか、余計なお節介だったかと思ってヒヤヒヤしたぜ」

龍鳳「お、おせ、っか…………?」

提督「おう。だってよー、もし君があれらと友達だったらよー、俺がまるで誘拐犯みたいな扱いになるじゃんよー」


552: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:47:25.94 ID:LSNgq8dmo

提督「もし本当に友達だったらさ、あの二人が攫われた君を追ってこっちにやってくるわけじゃん? そんでちょっとした騒ぎになるじゃん?」

提督「そしたら駅近の交番から警察官が派出されてくるワケよ。そったら無事事情聴取じゃん? 最悪略取扱いされるじゃん? 俺もめでたく前歴持ちですわ」

提督「いちおう君が切符持ってるのを見たから、君がこれから電車に乗るところなのはわかったんだけどね。
   あの子たちは切符持ってなかったから降りた直後なのか、それとも切符を買っていないのかはわからなかったし……」

提督「だからどうしても友達かどうかの判別がつけづらくてね。
   君はさっき街で見かけたし、今から乗るところだろうっていう確信を得たから、とりあえずこうして駅まで連れ込んだんだけど」

龍鳳「(安心を得たからか、次から次へと飛び出す軽口。見た目に反してずいぶんと軽快なようだ)」

龍鳳「(しかし、人に慣れていないわたしからすれば弾丸マシンガン。受け止めることも難く、ただただ流されるがまま)」


龍鳳「あ、あの…………ぇ、と…………」

提督「そもそもあの子らも肝っ玉座りすぎな。近くに交番あるってトコで絡むとか正気の沙汰かって」

提督「俺が割って入らずとも警察官が駆けつけてきたとは思うんだけどな。何人かこっち見ながら電話してる人いたし」

龍鳳「(…………そうだったのか)」

龍鳳「(いや、何者かが通報してくれようとしていたことではなく、交番が近いということに対して、だ。
    いままでも何度かあの場所で彼女たちに出くわしたことがあるが、一度として公僕が駆けつけてくれたことはなかった)」


龍鳳「(きょう、目の前の彼が、わたしに初めて声をかけてくれた)」


龍鳳「(もちろん、わたしの身を案じて通報してくれることは凄く嬉しい。……だけど今日のように、どこかへ連れ去られそうになってからでは遅いのだ)」

龍鳳「(たとえ警察官とて、被害者が消えた現場では意味がない。連れ去る側も万が一通報されたことを考えた退路をとっているだろうし)」

龍鳳「(……もし、もしも、もしも今日。目の前の彼が現れず、あのまま連れ去られていたら…………)」

龍鳳「…………ぐすっ」

龍鳳「(わたしの身体に、消えない傷跡が残されていたことだろう。“それ”を考えると、自然と涙が――)」


553: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:48:25.06 ID:LSNgq8dmo

提督「わ、あ……っと安心しろ! 俺はべつに君のことを取って食おうとしているわけじゃないから!」

龍鳳「(わたしの目尻に光るものを見て取ったのか、いきなり慌てふためく彼。どうやらなにか勘違いをしているらしい)」

提督「ああ、くそっ……これがあいつらなら撫でて一発なんだが、そうもいかんし……」ゴソゴソ

提督「と、とりあえずだな。これっ」

龍鳳「(視線を斜め下に投げながら突き出したその手には――)」

龍鳳「…………け、けーたい…………?」

龍鳳「(どこかで見たような装飾の携帯電話が乗っていた。……というか、これって)」

龍鳳「わ、わたしの、です、か……?」

龍鳳「(ポケットをまさぐるも――たしかに感触が無い。え? じゃあこの人が持ってるのが――えっ)」

提督「君は覚えてるかどうかわからないけど、君たしかモッチー堂で立ち読みしてた子でしょ。そんときに落としたんだよ」

龍鳳「モッチー堂…………? ――あっ!」



 …… ……

龍鳳「(いまから帰るってお母さんにメールして――)」

   どんっ! がちゃんっ……

龍鳳「あうっ……」ドタッ

「あっと……ごめんなさい」

 …… ……



龍鳳「(あのときかー!!)」


554: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:49:10.31 ID:LSNgq8dmo

提督「あ、気づいた? あのときはごめんね、俺もちょっと探し物があったから周りが見えてなくて……とりあえず、これ」スッ

龍鳳「あ、えとっ! …………ありがと、ございます」キュッ

提督「ん。君もケータイも何事もなく……ってワケじゃないけど、無事でよかった」

龍鳳「ぁ――えとっお礼とかっ」

提督「いーよいーよ気にしなくて。むしろ……年下? にたかるのも情けない話だしさ、受け取るわけにはいかない。
   お互い大人くらいの歳なら年下とか年上とか気にしないで受け取ってたんだけどね。君くらいの子はお礼とか考えなくていいんだよ」

提督「それにさー、あんだけ揉めてるときにケータイだけ渡して帰るのもなんかなって感じだろ?」

龍鳳「(え、え、え…………?)」

提督「そんじゃ俺も電車乗って帰るから。――あ、そうそう、今度は変な人に絡まれたら大声で呼ぶのが良いと思うぞ。
   俺が近くにいれば助けるし、そうじゃなくても、普段傍観している人も大声で叫ばれたら放っておくわけにもいかないからね」


龍鳳「(ちょ……ちょっと待って。ってことは……この人、もしかして)」


龍鳳「あ、あのっ!」

提督「ん」

龍鳳「(思わず発してしまった声の大きさに、誰より自分自身が一番驚いた。……わたし、こんな大きな声出るんだ)」

555: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:50:27.03 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「あの、えとっ……それじゃ、あの、あなたは」

龍鳳「こんな、ケータイひとつを渡すためだけに……わたしを助けてくれたんですか」


龍鳳「(…………なに言ってんだろう。そんなこと、普通あるはずないのに)」

龍鳳「(わたしに絡んでいた相手が、いくらわたしと同じ年の子だからといって、問題になればそこだけでは収まりきらない可能性だってでてくる)」

龍鳳「(強きを挫き弱きを助ける――言葉だけでは簡単だけれど、実際は色々なものが絡まっている。
    強きものは強い背景があるからこそ強い。だが逆に、弱きものはなにもないから弱いのだ)」

龍鳳「(あの場でわたしを助けたことは、少なくとも彼女たちには快く思われない行為であって――)」

龍鳳「(いつかそこからか、他の問題に発展していく可能性だってある。たとえば……彼女たちが仲良くしている、年上の不良集団だ、とか)」

龍鳳「(彼女たちと同じく、非常に気性の荒い軍団だと聞いている。もちろん目の前の彼はそのようなことは露ほども知らないだろうけど……。
    でも、ああして駅前で堂々と絡むくらいだ。なにかしらが裏についている可能性は否定できない。報復だってあるかもしれない)」

龍鳳「(まさか、まさかそれらをすべて無視して、わたしのことを…………?)」


556: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:51:22.13 ID:LSNgq8dmo

提督「そのためだけに助けた――っていうのは、まあ、なんというか……すこし違うかな」

龍鳳「え…………?」

提督「なんというかな……あのとき、君の心に抗おうとする意志が見えたんだ。
   目の前の彼女たちもそうだし、もっとほかのなにか――たとえば現況だとか。それらに対して抵抗するものが見えた」

提督「苦境のなかでも挫けないそれは、物凄く高貴なもの。それが君の心の奥底に見えたから、かな」

龍鳳「…………?」

龍鳳「(なにを、言って)」

提督「…………ま、気にしなくていいさ。平たく言えばそうだな……“伸ばされた手があれば掴む”、ただそれだけのことかな」

提督「まあ……極悪人でなければだけどな」

龍鳳「――――」

提督「……というかあれで助けたつもりなんてないけどな。余計なお節介焼いただけだし、そんな助けるだなん畏まられると変な感じだ」

龍鳳「(ああ)」

提督「あんな場所で陣取られると迷惑だし、あそこだけちょっと浮いてたしな。厄介ごとになるのは向こうだって――」

龍鳳「(ああ……)」

龍鳳「…………あのっ、変な……変なこと、言いますけど…………聞いてくれますか」

提督「ん?」

龍鳳「(テレビやアニメで聞くような、安っぽいセリフだったけれど)」

龍鳳「すー…………はーっ…………」

龍鳳「(彼の言葉は、不思議と澄み渡っていった)」


557: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:52:36.94 ID:LSNgq8dmo


龍鳳「もしそのっ……仮にまた、わたしがあなたに対して手を伸ばしたら……あなたは、わたしを……助けてくれますか――」


龍鳳「(その問いかけは、熱で溶かされた鉄のようで)」

提督「ん。さっきも言ったろ」

龍鳳「(わたしの心を、掴んで離さない)」

提督「呼んでくれたらいつでも駆けつける。そんで手助けする。君の思うようにな」

龍鳳「(この人はなんて眩しいんだろう)」

提督「なーんて……ちょっとカッコつけすぎかな? やべ、猛烈に恥ずかしくなってきたんだけど」

龍鳳「(こんな人が、こんなわたしを一度でも助けてくれたことが。助けてくれると言ってくれたことが)」

提督「……お、おいおい、黙ってないでなんか言ってくれよっ」

龍鳳「(とてもうれしい)」

龍鳳「(こんなどうしようもないわたしでも……こういう人と関わってていいんだ)」


龍鳳「(わたしは、すべての人と関わってはいけないくらい、ダメな人間だと思っていたから――)」

提督「あ……おい、どうしたっ」

龍鳳「(その答えはまるで、わたしはおかしくないんだと、ひとりの人間なんだと、そう認めてくれたみたいで――)」

龍鳳「ぁ…………う…………」ツツー

龍鳳「(――とても、とても、あたたかかった)」


提督「おい、俺なんか悪いこと言ったか!? そんな泣かせるようなこと言ったか!?」


龍鳳「(わたしの異変に、思わず慌てふためく彼。…………ふふ、おかしいよね)」

龍鳳「(だって……あなたはただ、手を引いてくれただけだもの)」

龍鳳「(いじめが解消されたわけでもないし、あの子たちと和解したわけでもない)」

龍鳳「(それでもなんだか……うれしかったんだ)」


龍鳳「す、すみませっ……なんかっ、なんか安心しちゃって…………っ」

提督「あ…………そうだよな。どこかへ連れ去られそうな雰囲気だったもんな」

龍鳳「ふ、ふふっ……きに、気にしないでください。よくある……よくあることですからっ」

提督「…………よくある? すまん、ちょっとその辺りの話を――」


558: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:53:06.39 ID:LSNgq8dmo


「あー、きみたち、ちょっと良いかな」


559: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:53:38.25 ID:LSNgq8dmo


龍鳳「(ぐしぐし)」

提督「…………はい?」

「先ほど駅前のほうから通報を受けましてねえ。なにやら“高校生ぐらいの男が中学生くらいの女の子を駅に連れ込んだ”――とね」

龍鳳「えっ……?」

提督「」

「ああごめんね、これ見せてなかったね」

提督「けい…………さつかん……?」

警察官「さっき見たって言う人がいるんだよねえ。きみがその子を無理やり駅内に連れ込む姿」

提督「えっ…………ちょっ待っ」

560: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:54:23.38 ID:LSNgq8dmo

警察官「ああ大丈夫、ちょっと事情を伺うだけだからねー。交番まで来てもらわなくても結構だから」

警察官「ああでも、こんな場所だと人の迷惑になるから場所変えようね。……逃げてもいいけど、そのときは地獄の淵まで追い詰めるからねー」

提督「ちがっ……違うんです! 俺はただ、この子を助けただけで……」

警察官「助けた? この子泣いてるけど? ……もしかして、カルト的な用語でいうところの“助けた”かな? この世に魂を縛り付ける肉体からのカタルシスみたいな?」

警察官「いかんなあ。そういうエクトプラズム、本官は非常に興味があるよ」

提督「や、違くて――」

警察官「おっと抵抗すればどうなるかわかるね? 任意同行とはいえ抵抗の姿勢を見せた瞬間、本官のカタパルトタートルで交番にダストシュートしちゃうからねえ」

提督「そういうんじゃ……ああもう! 君からもなにか言ってやってくれっ」

龍鳳「う、あぅ……ぇと、えとっ…………」

警察官「おーっと、さすがに本官の目の前で脅しをかけるのは見逃せんなあ。とりあえず駅前の噴水まで移動ね。
    ああ、とりあえずご家族の方にも連絡を取りたいから、お名前と住所、電話番号もお願いね」

提督「…………ちなみにこれ補導歴つきます?」

警察官「ああ、ハタチになったら消えるから安心してねー」

提督「…………つくのかー」

警察官「とりあえず確保。それじゃ出発連行~」ガシッ

提督「どなどな~…………」

龍鳳「(わたわた)」





――――

――

561: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:55:25.67 ID:LSNgq8dmo





  ばたんっ ぶろろろろろろろろろろん

 
「…………で、なにかわたしに言うことは?」

提督「ずびばぜんでした」

龍鳳「(あたふた)」

「たいへんお騒がせして、ね。……警察官のかたからお電話いただいたときは何事かと思ったんだから」

「“おたくの娘さんが怪しげな男に絡まれているところを保護しました”なーんて言われたもんだから血相変えて飛び出してきちゃったわよ」

提督「あい…………」

「そんで車飛ばして噴水前着いたら見覚えのある顔が並んでるでしょ? そんで警察官の隣に立ってた人がいきなりわたしに頭下げるでしょ?
 “この度は、こちらの者がご迷惑をおかけしてまことに申し訳ありませんでした!”って。頭上げてもらったら見覚えのあるメガ――霧ちゃんがいるでしょ?」

提督「あい…………」

「はじめはわたしも霧ちゃんもさ、あんたがウチの子に粉ふっかけたのかと思って構えてたんだけどね。詳しく話を聞いてみるとどうやら違ったみたいだし」

提督「あい…………」

「そんであんた大丈夫だったの? 霧ちゃんに蹴られてゴムボールみたいに跳ねてたけど」

提督「あい」

「だいぶだいじょばないわね」

提督「あいお」

「先生は大丈夫です!」

提督「は?」

「あ?」

提督「超えちゃいけないライン考えろよババア」

「よくぞ言った小僧。稽古をつけてやろう」

562: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:56:18.23 ID:LSNgq8dmo


龍鳳「(いまはお母さんの車のなか。わたしとお母さんと、あとは件の彼で三人)」

龍鳳「(お巡りさんに連れられて噴水前に立つこと数分。お説教を聞きながら待っていると、メガネをかけた綺麗な女の人が駆け寄ってきた)」

龍鳳「(はじめはお姉さんか誰かかな、と思ったけど違ったみたい。話してる感じだと彼と同い年というか、少なくとも同世代くらいの印象を受けた。あれ? でもご家族のかたって……?)」

龍鳳「(駆け寄ってきて、まずは警察官のかたに頭を下げた。どうにも手慣れた様子で、警察官の人ともお知り合いだったみたい)」

龍鳳「(次にわたしに向かって頭を下げた。わたしは頭を下げられるようなことはされていなかったからついついテンパっちゃった)」

龍鳳「(彼になにをされたのか。彼になにを言われたのか。色々聞かれたことは覚えているけれど、わたしの頭はぐるぐるしていてどう返事をしたかは覚えていない)」

龍鳳「(そしてわたしの話を聞き終えた彼女は、レンズを光らせて彼へと向き直った。彼もなにやら弁解していたが、聞き届けられることもなく吹き飛ばされていた)」

龍鳳「(というか、人間ってあれだけ吹っ飛ぶんだなって思った。ゲームとかアニメだとよくあるけど直に見たのは初めてだった。着弾エフェクトみたいなのも出てたし)」


「どうしたジャパニーズ。この程度でジ・エンドか」

提督「ガッデム! ちゃんと前見て運転してください! うおおおおおおおん!!」


龍鳳「(慌てて介抱したけれど、彼も彼でケガ一つなくて驚いた。蹴鞠みたいになっていたのに身体はまさに平安そのもの)」

龍鳳「(そしてメガネの君が警察官のかたから事情を伺っている間に、見慣れたナンバーの車が不機嫌な様子で駅前に駐車したのが見えた)」

龍鳳「(そこから飛び出してきたお母さんは噴水前でじゃれるわたしたちを見て、一目散に走り寄ってきた。
    わたしも驚いちゃった。“どちらですか。わたしの娘に不埒な行いをした者は”って、血相変えて言うもんだからさ)」

龍鳳「(いつもあれこれ小言ばっかりうるさいお母さんだけど、あれだけ真剣になって言ってるのは初めて見たから……)」

龍鳳「(そしてわたしが抱えてる彼の顔を見て――きりりと引き締まった表情が一気にだるんだるんに変わった。簡潔に言うと、ものすごく面倒臭そうな顔になった)」

龍鳳「(諦め顔で警察官のほうから一言二言聞き取ると、頭を抱えてため息を吐いていた。
    この様子と、彼やメガネの美人さんに対しての態度から見るに、お母さんと彼らは知り合い以上関係にあるということがわかった)」

龍鳳「(警察官のかたに何度も何度もお辞儀を繰り返しながら、わたしたちは車の方向へと誘導される。どうやら無事に解決したらしい)」

龍鳳「(メガネの人はなんだか“お姉さまが待っているから”って言って街の方へと戻っていった。けっきょくあの人は誰だったんだろう……)」

龍鳳「(面倒事は起こさないように……と、去り際に釘を刺されていた彼と共に、お母さんが運転する車へと乗り込んで――いまにいたる)」

龍鳳「(というか危ないから暴れないでー!!)」


563: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:57:12.91 ID:LSNgq8dmo

「…………んまぁ、とりあえずあんたには礼を言っておくわ。この子が危なかったところを助けてくれたんでしょ? ありがとね」

提督「まあ……通りすがりですよ」

「この子もわりかし危なっかしいところがあってねぇ。大丈夫だろうと思ってたんだけど……迂闊だったわ」

龍鳳「むぅ」

提督「あ、それなんですけどね…………あー」チラッ

龍鳳「(…………う?)」

「どしたの?」

提督「や、なんでもないです。それよりも……せっかくなんで今日はこのままお邪魔しても良いですか? こっちの用事も済みましたんで」

龍鳳「(えっ?)」

「ああそうねぇ……こっちも準備は済ませてあるし……ちょっと早いけどいいわよ。それじゃこのままおうちへご案内~」

提督「いえーい」


龍鳳「ぁ、ぅ、ぇ、えっと……」

提督「ん?」

龍鳳「あのっ! えとっ……どういう……?」

提督「あ、聞いてなかった? 実は俺ね、君のお母さんの担当するクラスの生徒なんだ。俺からすれば担任の教師、つまりは先生でね」

提督「生徒は生徒らしく、先生と一緒に進路相談とか勉強会やらいろいろやってもらってんだ。
   今日は週末だからーってことで先生も休みだし、せっかくだしこの機会にじっくり話し込んでおこうかなって」


564: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:58:17.14 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「そ、なんですか」

提督「そ。いつもは放課後とか昼休みの空いた時間にちょちょいっと話すだけなんだけどね。今日は先生がうるさくって」

先生「さすがに君の関係に進む子は過去にもいなかったからねぇ。そっちの方面に進む子は何人かはいたみたいだけど、その上ともなるとわたしもどうしていいかわからないし」

提督「そんな言うほどだと思いますけどねぇ。まだ一年なのに気が早いというか……」

先生「あんたは甘く見過ぎなの。ちゃんとお話して今後の指導の方向性とかも決めていかなくっちゃね」

龍鳳「…………う?」

先生「というか龍鳳……あんたやーっぱり聞いてなかったのね。言ってたでしょ? “今日はお客さんくるから”ってさ」

龍鳳「…………? ――あっ」

先生「ようやく思い出しましたか? まったく……ねえ提督くんさあ、どう思う?」ニヤ

提督「ん、なんですか?」

先生「この子ねぇ、いーっつも昼過ぎぐらいまでぐでーっと寝てんのよ」

龍鳳「ちょっ」

提督「ほお」

先生「そんで服は脱ぎっ散らかしで掃除はしない、整理整頓なんかもぜんぜんしなくて――」

龍鳳「わー!! わーっ!!!」

先生「なに龍鳳」

龍鳳「もーおかーさん!! そんなの言わなくてもいいでしょ!!!」

先生「そんでコレよ。まったく……」

提督「ははは……まあ、なんというか元気があっていいじゃないですか」

565: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:59:06.75 ID:LSNgq8dmo

先生「そうなんだけどね。この子寝るときとか服脱ぎ捨てて寝るもんだからもー服がしわくちゃに――」

龍鳳「おかあさんっ!!!」カアッ

 ききーっ

先生「はいはい、そんな怒ることないでしょうが…………さ、着きましたよ。我が家へようこそ、歓迎はしませんがお茶くらいは出しますよ」

提督「そこは歓迎してくださいよ。…………お邪魔します」

先生「はいどーぞ。足元にお気をつけくださいね。龍鳳も手洗いうがいはきちんとするのよ~」

龍鳳「わかってますっ!!」タタタッ


提督「…………元気な子ですね。はじめに見たときはずいぶん縮こまってましたが」

先生「人見知りするからねえ。いろいろあったし……ま、とりあえず入りましょう」

提督「うい」


566: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 03:59:36.68 ID:LSNgq8dmo





提督「ここがあのババアのハウスね」

先生「ぶち転がされたくなければ黙って適当なところにかけてください」

提督「あ、はい。失礼します」

先生「よろしい。……それじゃわたしは冷たいお茶を持ってきますから、適当にくつろいでくださいね。龍鳳はもうお部屋のほう戻ってても大丈夫――」

龍鳳「あっ、わたしっ! わたしお茶持ってくるからっ、お母さんはそのっ……そのままっ!」タタタッ

 ばたんっ

提督「…………らしいですよ?」

先生「……ああして自発的に手伝ってくれることなんてなかったのにねえ……どういう風の吹き回しかしら」

提督「まあまあ、せっかくお子さんが腰をあげてくれたんですからご厚意に甘えましょう。…………それでは早速ですけど、先日の続きからで良いですか?」

先生「ええ、そうしましょうか。その件に関してはわたしのほうで資料を集めてみたんだけれど――」


567: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 04:00:41.52 ID:LSNgq8dmo



龍鳳「えと、おちゃ、おちゃっ! 冷たいの……でいいんだっけ。コップ! コップどこだっけ!」ガサガサ

龍鳳「お菓子とかいるかな……あ、でもそういうのはお母さんが準備してたんだっけっ」

龍鳳「あ、せっかくだし鏡――うん、ばっちし! ……後ろのほうとかはねてないかな、大丈夫かな」


龍鳳「(しばらく見てない間にずいぶん様変わりしていた台所を駆けずり回る。ちんまりわちゃわちゃと)」

龍鳳「(なんとなくあのまま自室に戻るのは憚られたし、かといってお母さんがお茶用意してる間二人っきりっていうのも……なんだか、手持ちぶたさんな気がして)」

龍鳳「(………………)」

龍鳳「(あ、あれ? 手持ち無沙汰、だよね。頭のなかでなにかが……ひとつなぎの財宝――うっ頭が)」


龍鳳「お盆は……あったけど、なんかヌメヌメするぅ! なにこの――くさい! ていうかなんでわたし匂い嗅いだのさ!!」ベシーン

龍鳳「ああっ! セルフツッコミで……と、とりあえずこのお盆はダメ。わたしが気持ち悪いからっ」

龍鳳「もうこのさい直接手で運んじゃうのも――あれ?」ハッ

 おぼ~ん>

龍鳳「あるじゃん!!!」

568: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 04:02:01.71 ID:LSNgq8dmo

龍鳳「(ここだけ切り取ればずいぶん奉仕的な活動に見えるけれど、決して浮ついた感情がわたしの内にあるわけではない)」

龍鳳「(彼はお礼など要らないと言ったが、わたしとしてはそうはいかない。どんな形であれ、恩を返すというその行動が肝要だから)」

龍鳳「(…………なんとなく思ったんだ。彼とは会って一刻ほども経っていないが、お母さんと……たまにわたしと。話している彼を見ていて、その人となりがわかってきた)」

龍鳳「(明るい場所に立つ――いや、おそらく彼そのものが光を発しているんだろう。他人と触れ合うのが苦手なわたしでも、その屈託のない笑みを向けられると絆されてしまうほどに)」

龍鳳「(短い時間だったけど、それだけでわたしの対極に立っている人間だとわかった。周りにいる人々すべてを優しい光で包み込む、そういったあたたかさを感じた)」

龍鳳「(光に照らされると同時に――やはり、わたしがいま、どんな暗い闇につつまれているかを再認識させられた)」

龍鳳「(人が怖い。ギラついた目が怖い。歪んだ口元が怖い。嘲り罵るその声が怖い。その奥底で蠢く悪魔のような魂が恐ろしい――)」

龍鳳「(おそらくほとんどはわたしの思い込みなんだろう。悪意を振りまく人間なんてほんの少ししかいなくて、ほとんどの人は他人に興味がないってことは知ってる)」

龍鳳「(だけどわたしは、双眸を向けられるたびに思うんだ。この人はわたしを悪しと思っているんじゃないか、不愉快にさせてしまったんじゃないか――)」


龍鳳「まあ……いいや……とりあえずこれに乗せよう。…………でも、また入るの気まずいなぁ」

龍鳳「部屋の前に置いとくのは……だめだよね……」ガックリ


569: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 04:03:08.66 ID:LSNgq8dmo


龍鳳「(いつの間にか、いじめっ子のあの子たち以外の人まで怖くなってしまった。街中なんて針のむしろになっているようなものだ。ひとときも心休まるときがない)」

龍鳳「(…………眩しい彼は、おそらくこういった被害妄想なんかは抱かないんだろう。毎日を楽しく過ごしていて、幸せのなかで生きているんだろう)」

龍鳳「(彼とわたしは違う。…………だって)」


龍鳳「わたしは、たぶん――あんな風には、わらえないから」

龍鳳「だから、だから早く負い目をなくして、おさらばしてやるんだ」


龍鳳「(助けてくれたことは感謝しているし、木漏れ日のようなあたたかさをくれたことにも感謝している)」

龍鳳「(だけど、わたしみたいな人間は、彼のような人間のそばにいてはいけないから)」

龍鳳「(グズでノロマなわたしに足をとられて、もつれあって崩れてしまう。わたしはそんな足手まといにはなりたくない)」


龍鳳「――よしっ、覚悟決めた! い、い、いいい、いきますよぉ~…………」ソローリ


龍鳳「(だから、さっさと恩を返して終わりにしよう)」


龍鳳「ししししっ! しつれいしまひゃあああ~っ!!」

  うおおっ!? なんだなんだ!?>

  あんたどっから声出してんの!?>






――――

――

570: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 04:04:00.74 ID:LSNgq8dmo





  かち こち かち こち


龍鳳「…………う、わ…………」

龍鳳「なんだか見返してるだけで顔が熱く……。……このころのわたしって、変に諦めちゃってたんだよね」ペラ

龍鳳「というか出来る限りのことを書いてたはずだけど、ところどころ書いてない出来事とかあるし……」ペラリ

龍鳳「…………と、それはそうか。だってこのころは……あんまりすきじゃなかったしなぁ。むしろちょっと怖く思ってたし……」ペラ

龍鳳「顔見知り程度なのにグイグイくるから、イヤな意味で胸がどきどきしたし…………」ペラリ


  かち こち かち こち


龍鳳「――ととっ、もうこんな時間! はやく寝る準備しなくっちゃ……明日の仕込みもあるしね」パタン

龍鳳「あーあ、ここからがいいトコだったのになぁ……なんかヤな部分しか読んでないし! もやもやするー!」

龍鳳「…………も、もちょっとだけ読んじゃおっかな。このままじゃ夢に出てきそうでヤだしねっ」スッ

龍鳳「えっとえっと、どこまで読んだんだっけ――」


571: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 04:05:38.49 ID:LSNgq8dmo


 ばたんっ!


龍鳳「ひぇっ――!?」


イムヤ「おっすー! 夜分遅くに申し訳ございませんが! わたくしの携帯電話をご存知ないでしょうか!」


イムヤ「やーごめんね? なんかっさー部屋中探しても出てこなくってさー、たぶんこの部屋にあるんじゃないかって…………ん?」

龍鳳「い、いむいむ、いむらやちゃん……?」ダラダラ

イムヤ「どうも井村屋型潜水艦あずきバーです。装甲には自信が――じゃなくって! どしたのそんなビックリした顔して。オバケでも見ちゃった?」

龍鳳「や、な、なっ……なんでもないからっ」ササッ

イムヤ「あっ、なんかいま隠したな~? ……もしかして、わたしのケータイじゃあるまいなぁ~?」

龍鳳「ちが、ちがうからっ! なんでもないし! なにかあるわけではござらんっ!」

イムヤ「あからさまに怪しい! …………わーかった、こっそりわたしのメール履歴とか覗いてたんでしょ!?」

龍鳳「や……その…………ちがくて……」

イムヤ「なーにが違うって――あ、こらっ! ダンゴムシみたいにならないの!」

龍鳳「ちがいます……ほんとうにちがうんですぅ……」ダンゴムシ

イムヤ「わたしにだって見られたくないものの一つや二つあるんだからね! こら、返しなさい!」グイグイ

龍鳳「ちがうんだってばぁ…………ころがさないでぇ~…………」ゴロゴロ


572: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 04:07:13.20 ID:LSNgq8dmo

イムヤ「ほおお…………どうあっても返さない腹積もりね。それならこっちにも……考えがあるってばよ……」ワキワキ

龍鳳「…………え、えと……なんなんでしょう……?」

イムヤ「なんでってねぇ――こうするのよっ! こぉ~ちょこちょこちょ~っ!!」

龍鳳「わひっ! ひ、ぁっ! ぃひっ! ふぎゅ、ぎゅっ――だめっ、わきだめ、だからっ!!」

イムヤ「どぉーした龍鳳! それでも女か! みっともない笑い声をあげてぇ……!」コチョコチョ

龍鳳「みひっ、みっとほぉ、みっともなぁっ……やめ、ふふ、ひぃっ!!」

龍鳳「いむやちゃっ……も、ほっ、ほんとにひぃっ、だめ、わた、ひっ――」ビクビク


龍鳳「あはっ! あっははははははは!! もだめ! もおだめ!! あはっ、あはははっ!!」ポテッ

イムヤ「…………なんかドロップした」

龍鳳「ひ、ひぃ、ひぃぃ……っ、はぁ、はぁっ」ビクンビクン

イムヤ「わたしがやっておきながらなんだけど、見るも無残な姿すぎない? ……まあいいや、戦利品は――」

イムヤ「――本? 日記帳、かな?」

龍鳳「ぁひ、ぅひひ…………」

イムヤ「…………あー、携帯電話隠してたわけじゃないんね、めんごめんご。……帰ります、それじゃ――」


 がしっ


龍鳳「――――」

イムヤ「あ…………あはは…………? ほら、かわいい年下の勘違いだったってことでさ、ここはおひとつまぁるく……」

龍鳳「――――」

イムヤ「あは、そ、そもそもさ? 龍鳳ちゃんが最初っからこれ見せてくれたら一発だったからさ? むしろわたし悪くないっていうか徳政令カードっていうか」

龍鳳「――――」

イムヤ「………………だめ、ですかね?」



龍鳳「――エヒッ」ニマァ

イムヤ「」


573: ◆oMS.oR7QexOG 2015/07/13(月) 04:08:04.91 ID:LSNgq8dmo





おっひょひょひょひょひょ!! あひっ! あしのうりゃ、あしははんしょくだぁ……!>

ぁはぁっ、つ、ちゅみゃっ、つましゃきでこちょこちょだめぇっ! ずるいからあああっ!>

ぅにゃあああぁぁっっ!! おっひひひひひっ、はなしっはなひてっ! あしが――んひひひひははははっっ!!>

げほっ! けほっ! ごふっ――あひゃははははっ! ごへっ、げふっ!!>

いきがっ! いきだめっ! くるし――んふふふふふっ、あふっ、けっひひひっっ>

なっ、なんでっ、わたしこんなにっ、こんにゃに長くやってなっ! うひひ、はひぃっ、あしだめっ! あしほんとだめ!>

んふっ――ずるいから……はひゃっ、ずるひゃははははっ>


ゴーヤ「…………うるせぇ…………」モグモグ



引用元: 【艦これ】提督「ちんじふ裏らじお」【安価】