2: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/11(日) 05:00:21.34 ID:JkMVH0Dwo
―第一章 リア充爆発しろ―

●だって俺はシングルベル

色取り取りのネオンやライトが街を彩り、わざとらしさ全開のツリーが歩行者天国の中央に聳え立ち…

ありとあらゆる店からは同じようなミュージックが流れ………それらの全てが俺の吐き気を掻き立てる。


そう…今日はクリスマスイヴ。

本来ならば家族と過ごし、イエスキリストの生誕を祝いサンニコラウスの到来に胸躍らせる筈の夜。


だが………何だこの惨状は。

その聖なる夜の意味を深く考えもせず、この後の営みに胸躍らせる不謹慎な男女共。

聖なる夜を冒涜し、性なる夜に貶める背信者達…悲しくもこれがこの日本における間違った常識である。


そう…そんな罪深き罪人達は一体どうすれば贖罪する事が出来るのか。

答えは至って簡単だ


俺「リア充爆発しろ」

俺はマフラーで口元を隠し、そう呟く。

気のせいか、通行人の視線が俺に向いたように見える。呟きを聞かれたのだろうか?そんな事を考えるも、それは直ぐに脳内で否定出来た。

………そう、呟きよりも何よりも、男一人でこんな所を歩いて居る事自体が目立って居るのだろう。


そもそも俺は、何でこんな所を歩いているのか…

コマの外枠が黒くなって申し訳無いが、回想シーンに入らせて貰う。




3: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/11(日) 05:22:06.50 ID:JkMVH0Dwo
●ほんのちょっとの自尊心

俺「今日はクリスマスイヴか…」

自分の部屋…同じく独り身のネトゲ仲間達とチャットをしながら、独り言を発言する俺。


kuraudo「あー、そんな日あったなぁw」

hasewo「おいおい、折角のBOSS大量発生イベントなのに忘れんなよ」

kuraudo「わざとだよ、わざとw」


†キリト†「お前達、彼女居ないのかよ」

俺「そういうお前はどうなんだよwまさか現在進行形で彼女同伴でネトゲとか言うなよww」

†キリト†「よく判ったなwその通りww」

俺「いや、バレバレだからそれw」

hasewo「このシングルどもめー(AAry」


kuraudo「そう言えば…俺さんってあのタワーの近所だったよな……確か今日は、あそこでイベントあるんじゃ?」

俺「何故それを…」

kuraudo「ギルメンの身辺調査もマスターの役目だからな(キラッ)」

俺「いや、どうせ出会い系漁ってたついでに見つけたんだろ」


kuraudo「 」

kuraudo「 」

kuraudo「 」


†キリト†「ログ流すなwってか、発言禁止アイコン出ちゃってるしww」

俺「wwwwwwwwwwwww」

hasewo「おま………イベントどーすんだよ!!w」

†キリト†「しょうがないから野良で探すか…hasewoは強制参加として、俺さんは?」


俺「あー…どーしよっかな。今は亡きkuraudoさんの意思を継いで、ちょっとリアルイベントでテロでもしてくるかw」

†キリト†「おk、終わったら報告よろw」

俺「じゃぁ、ちょっとイベント行って来る!」

4: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/11(日) 05:37:51.14 ID:JkMVH0Dwo
●先に立たないから後悔と言う

……………と言う訳で…勢いに乗って飛び出し、今に到る訳だが

その選択は明らかに失敗だった…という事を痛感させられている。


当然ながら家の外は寒く、厚着をしてきたつもりでもまだ足りない。

そして何より………心の寒さがハンパ無い。


もし隣に恋人でも居れば、こんな寒さなんて気にもならないんだろうが……あぁダメだ、そんな事を考えたら更に寒くなってきた。

引き返すべきか…いや、もう街中まで来てしまっているんだ

このまま何も無く戻ってしまったのでは、それこそ貴重なイヴの時間を無駄にした事にしかならない。


何か…何か理由が欲しい。イヴの時間を無駄に使ったと思わないだけの時間が欲しい!助けてアドラー先生!!

と、心の中で叫んでは見た物の…その実、もう答えは見えていた。

駅前のタワーの最上階で行われるイベント…クリスマスパーティーに参加する事だ。


クリスマスパーティー…本来ならば地雷原に踏み込むだけの命知らずな行為でしか無いそれ…だが俺は、その死中に活を見出していた。

男性:参加費8000円…学生には手痛い出費だが、問題はそこでは無い。

男女一組:参加費5000円…一人の時よりも安い事に納得は行かないが、そこが引っかかった。そして、その答えは次にある。

女性:参加費1000円…そう、ここだ。ここに活がある。


イベントの性質上、当然ながら一人でも参加する女性は少なく無い。そしてそれは…独り身女性の参加者が沢山来ると言う事で…

「参加費持つから、一緒に組んでくれない?その方がお得だし」

なんて口実で、参加会場に付く前に二人組を作る口実にもなると言う事だ!


勝てる…この勝負勝てる!そう確信してエレベーターのボタンを押す俺。

そして案の定、入場待ちの来客の中には女性一人の参加も多数………


ここに到るまでの全てが俺の計画通り…後は実行に移すのみだ!

5: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/11(日) 05:51:07.92 ID:JkMVH0Dwo
●まぁそもそも判りきっては居たんだけど

………………うん

そうだよな、その実行に移すってのが出来ないから今の俺が在る訳で…

結局参加費8000円を払ってパーティー会場で食事をしている俺が居る。

横目で周囲を見渡すと…

どこもかしこもカップルだらけ、蹲って泣いてても始まらないから…と、そんな歌詞が頭が過ぎる。


会場に入る前からカップルだった者達…入場前は一人だったはずなのに、今ではカップルが成立している者達…

………あれ?もしかして一人で寂しい思いをしてるのって俺だけ?

いや…多分他にも独り身のままカップルになれなかった奴が居たのだろうが…恐らくそいつらは、挫折して逃げ帰ったんだろう。


………って、それなら会場に入る前に立ち去ってるじゃん!

独り身なのにわざわざ参加費払ってここに居る俺って何なの!?

ヤバい…何て言ったら良いのか判らないけどテンションがおかしな方向にヤバい。


カップルを組んでる奴等が憎らしい…この世の全てを恨まずに居られない。

リア充爆発しろ…

リア充爆発しろ…


爆発しろ…

爆発しろ…

爆発しろ!

爆発しろ!

精神を安定させるため…心の中で何度も復唱しながら、出口に向けて足を進める俺。


途中で何度か人に肩をぶつけてしまったが、そんな事を気にしては居られない。

そして、その逃避行動も間違いだった…いや、間違いが結果的に良かったと言うべきなんだろうか?


肩どころか、身体全体…目の前に居た誰かに正面衝突してしまった俺。

当然ながら俺の身体はよろめき…相手は後ろに倒れかける。

となれば当然相手は倒れてしまう訳で…こんな公の場で人身事故でも起こしてしまえば、それこそ大問題だ。


ほぼ一瞬の内に思考を終え、反射的に手を伸ばす俺。

相手の背中に手を回して抱き止め………

俺「す、すいません!怪我は………」


絶句した。

ぶつかった相手は物凄い美人…いや、美少女?どこぞの国のお姫さまと言われても信じてしまいそうな可愛い子だった。

歳相応のカジュアルな服装ながら、サラサラで長い金色の髪が明らかにレベルの違う次元の魅力を撒き散らしている。

そして翠色の瞳は、エメラルドのように鋭い光沢に彩られ………

あぁもうダメだ、言葉で表現する事に限界を感じた。そう、あえて単刀直入に言うなら………


俺はこの子に恋をした。

6: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/11(日) 06:09:35.93 ID:JkMVH0Dwo
●言 葉に 出来ない

俺「あ……あ、あ、あの!!」

美少女「あ、お陰様で大事はありません。ご心配なさらずに」

そうだ…まずは安否を確認していたんだ。失礼な話しだが、正直忘れていた。

と言うか、それも聞いては置きたかったんだが、そうじゃない。


唾を飲み込む俺……なけなしの勇気を振り絞り、頭の中で紡ぐべき言葉を整える。

俺「こ……こんな事を聞くのも何ですが!お一人ですか!?」

美少女「…あ…えっと」


困惑する美少女……あぁぁぁ、しまった!大失敗だ!

そもそも、ぶつかっておいていきなりこんな事を聞く俺って何者!?

失礼とか通り越して、不審者レベルじゃないか!?

だが………どうする?どうするべきだ?


訂正するか?いや、訂正してどうする?

聞かなかった事にして貰って、この場は事無きを得るのか?その結果何が残る?

だったら…多少の傷を負ってでも彼女にもう少し踏み込んでみるべきなんじゃないだろうか?


成功すれば御の字…もし失敗して泥沼に嵌っても、今と殆ど変わり無し。

彼女にしても、言い寄る男の一人をあしらうだけでダメージは無い筈。


よし……決めた!!

7: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/11(日) 06:34:18.20 ID:JkMVH0Dwo
●それでも無理矢理言葉にした結果

俺「もし一人なら、俺と―――」

金髪の男「おっと、どうした?」

俺「…………」

クロスカウンタァァァーーー!!!


あぁうん…よくよく考えてみれば予想は出来た事だよな。

こんな可愛い子が独り身な訳が無い。男連れで来ているに決まってるだろJK。

サングラスをかけた金髪の男…彼女の相手であろう男が現れた。

………さらば俺の恋心。


美少女「あの…そういう事なので……」

俺「………ですよねー…」

そして追い討ちとばかりに彼女の一言…俺はそれ以上は何も考える事が出来ずに逃げ出した。


あんな事があった手前、走って逃げる事も出来ず…背を向ける事も出来ずに後退り。

彼女の姿が人ごみに隠れて見えなくなるまで離れ…

そこで一息。


前向きに考えよう…何も悪い事ばっかりって訳じゃ無い…

可愛い子に会えて、仲間内での話しのネタが増えた…それで良いじゃないか。

そう心の中で呟き、自分に言い訳する俺。そしてその心の中を見透かされでもしたのだろうか…


こちらを見てあざけ笑うイケメン男。そいつも当然ながら彼女連れのリア充。

性格の悪さを隠そうともしない嫌なイケメンだ。

見たくも無いその姿が瞳の中に焼き付き……俺の胸の中に、再びあの言葉が浮んでくる。


リア充爆発しろ…

リア充爆発しろ…

いや、爆発だけじゃ生温い

もう1ランク上げても良いんじゃないか?

爆発の1ランク上って何だ?大爆発?核爆発?何かそれだとベクトル自体が変わってる気がする。

そうだ………

爆散しろ………


リア充爆散しろ!!


俺をあざけ笑う男を見て、心の底からそう叫ぶ。


すると―――――

11: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/12(月) 05:08:07.92 ID:bLLNr6kOo
●下痢だっていつも突然だ

結論から言おう。

俺の願いが叶った。

サンタクロースからの素敵な贈り物が届いたようだ。


具体的に言うと、そう………

まずイケメン男の体が不自然に膨らみ、爆発…と言うよりも爆散。

飛び散った肉片と血液が、周囲のカップル共の服や顔を赤く染め上げ…

1テンポ遅れて悲鳴が周囲に響き渡る。


文字通り蜘蛛の子を散らすように逃げ出す参加者達。

そこから更に1テンポ遅れて事態に気付く俺。


参加者「逃げろーーー!!爆弾だ!!!」


そう…冷静に考えれば俺の願い一つで人間が爆発する筈が無い。

となればつまり……


爆弾テロ!?


俺がネトゲで冗談混じりに言った言葉が、現実の物になったのか!?

こればかりは幾ら考えても答えが見つけ出せる筈が無い。


俺も他の参加者に混じり、脱兎の如く逃げ出した。

12: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/12(月) 05:15:27.26 ID:bLLNr6kOo
●一人の夜

逃げ帰った先…気が付けば何時の間にか辿り着いている、自分の部屋。

起きた出来事が出来事なだけに意識が錯乱し、そうやってここまで辿り付いたのかさえ…

あぁ、いや、そこは覚えてる。確かタクシーを拾ってここまで帰って来たんだ。

確か3240円…いや、料金はこの際どうでも良いか。


何があった?俺は一体何に遭遇した?


まず、ネトゲのギルメンに聞いたイベントに参加して…

そこからカップル達が爆発するように願って…

その願いが叶ってイケメンが爆発…と思ったけども、実際は爆発テロ?


訳が判らない………多分、今ここで何を考えても答えには辿り付けない。

ただ判るのは、どうしようも無いくらいの緊張感と疲労感が俺を襲っている事と…


その緊張が切れれば、意識もついでに途切れる事くらいだった。

13: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/12(月) 05:27:48.44 ID:bLLNr6kOo
●正直夢オチなら良いと思う

翌朝…寝冷えにより発されたクシャミによって目を覚ます俺。

起動したままのPC画面に映し出された日付を確認する。


12月25日…クリスマス。当然ながらクリスマスイヴの次の日だ。


つまり、推測は二つ。一つは昨日のあれは俺の妄想か夢…もう一つは、全て現実。

現実離れした出来事を認める事が出来ないが、同時にそれらが現実だった場合の…これからの事も頭に浮んでくる。


現実ならば、俺はどうするべきか…常識的に考えれば、あの場に居た被害者として警察に連絡するべきだろう。

だが、もし夢だったのなら…俺はただの頭がおかしな奴だ。

いやそもそも…うん、まず第一にすべきは事実確認だろう。


一階に下りてテレビを点ける俺…だが不幸な事に時間が悪く、ニュースはやっていない。

続いて新聞を確認…するも、載っては居ない。

この時点で夢オチだと安堵してしまっても良いのだが…情報規制がされている可能性も捨て切れない。


となれば、後の確認手段は………

14: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/12(月) 05:57:26.10 ID:bLLNr6kOo
●犯人は現場に戻ると言うが

現場確認…と言う事になるのだが…

正直、来なければ良かったと思わざるを得ない。


黄色いテープで遮られた入り口…立ち入り禁止の意味を持ったそれ。

理由等は書かれて居ない物の、何かがあった事は一目瞭然の風景。

俺は勇気を振り絞り、近くに居る警官に向けて足を進めるのだが………そこで思わぬ出来事に遭遇した。


いや…再会したと言うべきだろうか?

美少女「………」

昨夜、ぶつかり…一目惚れしたあの美少女だ。

あちらも俺の事に気付いたのか、こちらをじっと見ている。


周囲には昨日の男は居ない。

不謹慎だが、これは何かのチャンスなんじゃ無いか…俺の心の奥底の何かがそう告げる。

そして俺は、足の向かう先を警官からその美少女へと変え…


俺「えっと………昨日のパーティー会場で会った子だよね?確か名前は…」

美少女「カレン…昨日は教えて無いわ」

俺「カレンか…良い名前だね」


思ったままの言葉を口にした。

カレン…カレン…日本語にしたら可憐…たしかに彼女に似合う名前だ。


カレン「ありがとう…でも」

俺「でも?」

カレン「爆弾魔に褒められても嬉しく無いの」


そう言って俺に銃口を向けるカレン。

…………………は?

銃口?俺は今、銃口って言ったか?

いや、でもそれ以外に言いようは無い。彼女の手には拳銃が握られていて………


その銃口は今―――俺に向けられている。

16: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/13(火) 04:29:46.94 ID:zqXa/ZJBo
●俺の知ってる常識と違う

俺「………え?何それ?モデルガン?って言うか俺が爆弾魔?え?新手のドッキリ?」

カレン「冗談に聞こえているならそれで良いわ。しらばっくれてるとしてもね」

俺「いや、だって…」

と言いかけた所で一つの可能性に突き当たる。


彼女の髪…瞳…よくよく考えてみれば日本人では無い事が判る。つまり…

何らかの伝手があり、外国から密輸したのならば……銃が本物という可能性も大いにあり得る。

では彼女の銃が本物だと仮定して…どうすれば良いのだろう?

そうだ、警官…警察官ならこの事態を見て見ぬ振りはできないだろう。そう思って警官が居た筈の場所を見るのだが…


今は不在。

こんな大事な時に限って何で居ないんだ!

他人をあてには出来ない。となれば後の選択肢は自然と絞られて行き…自力で何とかしなければいけないと言う結論に辿り着く。


俺「えっと…落ち着いて話し合わないか?」

カレン「元からそのつもりよ」

いやいや、どう考えてもそんな状況じゃ無いんだが…言葉に出したら面倒な事になりそうなので、黙っておく。


俺「だったら…どうすれば良いのかな?とりあえず近くの喫茶店にでも…」

そう…せめて人目の多い所に、そう思って提案するのだが…

カレン「寝ぼけた事は言わないで。これから対策本部に来て貰うわよ」

俺「え………」

却下された。そして更に不可解な単語まで飛び出して来た。


対策本部…その言葉を聞いてまず最初に浮ぶのは警察なのだが…事態が事態なために、その言葉を鵜呑みには出来ない。

しかもこのまま連行されると言う事は…もしかしたら、最悪そのまま誘拐される可能性だってありえる。

カレンの目的が何なのか…勘違いをしているのか、意図して嘘で翻弄しようとしているのか………

躊躇する俺。だが、そんな俺を迷いから押し出し、行動に向けて後押したのは………思わぬ伏兵だった。


金髪の男「ってー訳で…大人しくついて来てくんねぇかな?…手足を不自由にしてからだと、運ぶのが面倒なんだ」

カレン「黄色先輩…来るのが遅いですよ」

黄色と呼ばれた男…昨晩カレンと一緒に居た男…その男の登場で俺の選択肢は完全に無くなった。

銃を持ったカレンだけでも勝ち目があるかどうか判らないと言うのに、二人がかりに勝てる筈が無い。


俺「………はい」

17: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/13(火) 05:29:19.26 ID:zqXa/ZJBo
●取調べのカツ丼は自腹らしい

女「それで…この子が重要参考人な訳ね?」

カレン「十中八九間違いありません」


目隠しをされて連れて来られた先…恐らくは何らかの力を持った組織の、取調室と思われる場所に…俺は居た。

不幸中の幸いなのは、カレンと違って審問官の女性が最初から俺を犯人とは決め付けて居ない事くらいだろう

いぶかしげに眉を顰め、信じられない物を見るかのような視線を俺に向けて来ている。


女「私の名前は伊吹零那…零那で良いわ。それで…木戸譲二が死亡した時の状況を詳しく教えて貰えるかしら?」

俺「きど…じょうじ?」

零那「あぁ、聞いて居ないのね。木戸譲二と言うのは、昨日あのパーティー会場で爆死した人物の事よ」


当然ながら初めて聞く名前に、状況の理解が追い付かない俺。

そしてそれを察してくれたのか、女性…零那は写真を出して来た。

見覚えがある顔…忘れもしない。俺をあざけり笑い、そのまま爆死した男に間違い無い。


とりあえず、話しだけならば…しても問題無いのでは無いだろうか?そう考え…当時の状態を思い出す。


俺「あの時は…一人であのパーティーに参加して、そこの…カレンにぶつかって…」

零那「何故一人で参加をしたのかしら?」

俺「相手になる女性が居なかったからです」

零那「言っている事に相違点は?」

カレン「無いようですね」


いつの間にか俺の肩に手を乗せているカレン。これはどう言う状況だ?

何故カレンが断言しているのかは判らないが、これは味方をしてくれているのだろうか?


零那「では次に…木戸譲二の存在を知って居たのかしら?彼があそこに居る事を知っていたの?」

俺「知りませんでした」

カレン「相違有りません。その時点では、木戸譲二の存在に関して完全に無知でした」


零那「では、彼を殺した理由は?誰でも良くて、たまたま彼が標的になったの?」

俺「いや、待ってくれ。そもそも俺はその譲二って男を殺してなんて…って言うか、殺そうとすら思ってないぞ」


いや、正確には木戸譲二と言う男の死を…爆発を願いはしたが、実際に殺害に及ぼうとまではして無い。

思っただけで犯人扱いされるなんて、冗談じゃない。


カレン「それは嘘。それに第三者の視点から見ても、木戸譲二を見る視線にはただ並ならぬ殺意が篭って居たわ」

おい…一体どっちの味方なんだ。第一、何で俺が殺したのが前提なんだ?


いや…まずはそこから突っ込むべきだろう

俺「そもそも、何で俺が殺人犯扱いされてるんですか?根拠も無いし、状況的にもどう考えたって不可能でしょ!?」

カレン「………そう考えれば全て辻褄が合うからよ」


………ダメだ話にならない。

18: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/14(水) 06:21:37.95 ID:EzhUooKno
●他人の 癖を笑うな

鋭い眼差しで俺を見据えるカレン。初めてあのパーティー会場で会った時とはまるで別人の、キッツい性格を隠そうともせず向けて来る女。

くそっ…この本性を知っていれば恋なんてしなかったのに………いや、本当にそうだろうか?

中身はともかく、見た目はどストライク…いや、中身に至ってもツンデレだと考えれば可愛げも見えてくる。


ルート次第では、デレた後にもギャップで萌える事が出来て二度美味しい…そういう考えもできる。

と言うか、こういう性格なら性格で…知って居たらどう扱うべきだったのだろう?

ありえない事だが…もしこのカレンと、あの時の出会いで良い仲になれていたのだとしたら…


どうするか…どう自分色に調 するかを考えてみた。


ツンデレも良い…だがここはあえて、強気な部分を折って…屈辱を味わわせながら辱めるのも良いんじゃないだろうか?

そうだな…まずはこの反抗的な性格を矯正するためにも、行動だけでも従順にさせる必要があって…そのためには、まず―――

大分脇道に逸れるが、そんな調 の妄想を膨らませる俺。そう…理不尽な疑惑をかけられている状況では、こんな事でも考えなければやって居られない。


エスカレートして行く妄想の内容。

始めはゲームで得た知識を応用し…そこから先は俺の趣味全開のとても口に出す事は出来ない内容。

そうして思い付く限りの方法でカレンの尊厳を失わせ、辱めて行き……………


………気が付けば、カレンの手が乗っていた肩にズキン!と走る大きな痛み。

と言うよりも、俺の肩がカレンに握り潰されかけている。


何故こんな事になっているのか…それを確かめるため、振り向いて見上げた先には…

顔を真っ赤にして、恥辱と怒りの表情を浮べるカレンの姿があった。


これはどう言う事だろう?

あぁ………気付かない内に妄想の内容を口にしてしまっていたのかも知れない。

と憶測を浮べるも、それに確信を持つ事は出来なかった。と言うか、確信を持つための確認も考察もさせて貰えなかった。


カレン「……のっ…!死ね!死になさい!死んで生き返ってまた死になさい!!」

カレンの殴打…そしてトドメの一撃により壁まで吹き飛ばされる俺…


そこから先は記憶が残って居ない。

20: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/14(水) 06:50:32.59 ID:EzhUooKno
●説明に入ってくれても良いんじゃないか?

零那「目は覚めたかしら?しかしまぁ…人間の暗部にも慣れている筈の彼女の心を、あれだけ揺さぶるなんて…一体どんな事を考えていたのかしら」

零那には聞こえて居なかったのだろうか?…まぁ、あんな内容を聞かれなくて良かったんだけど。

と、心配を終えた所で気付く異変。先程までの取調室とは異なり、白いカーテンに囲まれたベッドの上…どうやら、気を失っている間に移動させられて居たらしい。


零那「あぁ、そうそう…最悪の事態を考えて、勝手だけど精密検査をさせて貰ったわよ」

それはまた勝手な…と思いながらも、状況が状況なだけに仕方が無い事かと納得をしておく。


零那「それで…検査のついでに、ある程度の確証を持つ事が出来たから……もう少し踏み込んだ話をさせて貰おうと思うの」

俺「確証って…何度も言うけど。何を勘違いしているのかは知らないけど、俺は人殺しなんて…」

カレン「残念ながら、確証って言うのはそっちの事じゃ無いの」

カーテンの向うから現れる………カレン。俺をこんな風にした張本人。


俺「んじゃぁ、何の確証なんだよ」

カレン「貴方も私達と同じ………超能力を使えるって言う確信よ」


俺「……………………」

カレン「………………………」


俺「えっ?」


カレン「聞こえなかったらもう一度言うわよ?」

俺「いや、聞こえてはいたけど…何?超能力?」

カレン「そうよ」


俺「…………………」


正直…超展開過ぎて頭がついて行けない。

21: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/14(水) 07:26:50.51 ID:EzhUooKno
俺「超能力ってあれか?テレパシーとかサイコキネシスとか…」

カレン「そうよ」

え?何?電波?実はこの子って可哀想な子?


どうすれば良いのだろうか…

頭がちょっとアレな事が判る分、下手に反論すれば先程のように身に危険が及ぶ事も判るのだが…このまま犯人扱いされたままで良い訳も無い。

俺は困惑する頭をフル回転で動かし…そこで、一つの仮説を展開してみた。


俺「つまり…俺は超能力者で、あの木戸譲二って男を爆発させた犯人………お前はそう思ってる訳だよな?」

カレン「そうよ、やっと理解が追い付いて来た?」


俺「と言う事は………あの状況で俺を犯人として疑うだけの超能力を想定をしてて…その超能力は、相手を遠くから爆発させられる物…そう考えて居るのか?」

カレン「そう…念じる事で発生する、サイコキネシスでの内側からの爆破…私はそう考えて居るわ」

俺「なるほど…ねえ」


予想通り…カレンの考えはそれを前提としていた事が確認できた。しかしこうなると…反論の手段が限られてくる。

それどころか、その前提が本当に『在り得る』のだとしたら…その存在を俺自信が否定する事すら出来ない。

いや…そうだな……だったらこういうのはどうだろう?


カレン「……って、え!?な、何を考えてるの!?ま、まさか………」

カレンに向けて手を向け、不敵な笑みを浮べる俺…そしてその手を掴むカレン。


正直、それを行ったからと言って悪魔の証明にしかならないのだが…少なくとも俺だけは確信を持って否定する事が出来るようになる。

それに、試す事自体には何も問題は無い。ただ手を向けているだけ…何も起きなければ、何も責められるような事は無いのだから…

だから…念じる。


カレン………爆発しろ!!!

23: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/15(木) 06:23:55.57 ID:3v4tAxjTo
●そろそろ収束に向かうべきだと思う

カレン「ヒッ―――!?」

掠れた声の悲鳴を上げ、大きく目を見開くカレン。

死を宣告された囚人のように、歯をガチガチと鳴らしながら足を震わせ……その場にへたれ込む。


が………当然ながら何も起こらない。のだが………

いつの間にか、俺を囲むように現れていた兵隊のような服装の男達。

その幾つもの銃口が俺に向けられ…


俺「ヒッ!?」

今度は俺が悲鳴を上げる。


零那「キミ………潔白を証明したい気持ちは判らないでも無いけど、少々先走りが過ぎるわよ」

俺「えっ…ちょっ……これ、どういう…」

零那「カレンの反応を見る限り…超能力を行使しようとしたのね。不発に終わったようだから良かった物の…発動していたら死体が二つここに転がる所だったわよ」


俺「………………え?超能力って…ガチ?カレンの戯言とかじゃなくて、ここの皆信じてるって事?」

零那と兵隊…その全員がうんうんと何度も頷き、肯定を返してくる。

………ダメだ、正直理解出来ない。俺はまた困惑の中に落ちて行く


が…そんな俺の事情等お構い無しに、立ち上がって拳を握るカレン。うん………正直何をしようとしているのかは予想がつく。

その握り拳を俺に放つべく、踏み込み………何故か踏み留まる。そして急に顔を真っ赤にしたかと思えば、カーテンも向うに消え去ってしまう。

………一体どうしたと言うんだ。


零那「まあ、カレンが先走ったせいで説明が出来なかったけど…順を追って説明するから聞いてくれる?」

何だかんだで…仕切り直して会話を再開する零那。

俺「…はい」

と、空返事をする俺。すると、何故かカーテンの向うから金髪の男…パーティーでカレンと一緒だった男…黄色と呼ばれてた男が現れた。


あの時はサングラスで判らなかったが、髪だけでなく瞳も金色…そして恐らくはファンデで隠していたのだろうか、頬にはトライバル模様のタトゥー。

そして続けて、ネコミミの付いた帽子を被った女の子が現れ…


黄色「ぁー、ダメだダメだ。この手のヤツぁ言って聞かせるより実際に見せた方が早ぇ。俺とニヤで実践すっから、ちょっと待ってな」

零那「そう?じゃぁよろしく頼むわね」

ニヤ「全く…いえ、言っても無駄なんでしょうね黄色先輩のこれは」


黄色と呼ばれた男…そして、ニヤと呼ばれた少女の登場により、更に事態が掻き回されて行く。


と思っていたのだが…

25: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/15(木) 07:01:53.43 ID:3v4tAxjTo
●百聞は一見にしてならず

意外な程にアッサリと……これでもかと言うくらいに完膚無きまでに納得させられた。


まず、黄色が取り出したのは缶コーヒー。そしてその蓋を開けて、中身を飲み干した…かと思えば

それは黄色の掌の上で…捻られ…見る見る内にパチンコ玉のような球状に変形させられて行く。

その光景を前にして、俺は…


俺「……え?何かのマジック?と言うか…?え?ガチ?」


黄色「そうだな。仮にこれがマジックだったとしてだ…そのマジックを実行すんのに、どんくれーのコストがかかる?んで、そこまでしてどんなリータンがある?」

俺「えっと例えば…………ここがカルト集団だった場合…騙して信者にする…とか?」

黄色「んでも、これがトリックだってんなら…嘘だって前提で見てるんなら、騙される事も無ぇよなぁ?」


俺「だったら、騙されない事を前提で見せている以上………え?って事は…」

黄色「そんな無駄な事が出来んのは、そこに大したコストがかかって無ぇからだ。んでもって、コストがかからねぇ方法ってなると…」


そう言って今度は俺の背後…兵隊が持っていた銃を指差す黄色。そしてその銃は不意に空中へと引き寄せられ…コーヒー缶と同じ様に変形して行く。

どんな仕掛けなのか看破出来ない…超能力以外の説明が出来ない。悪魔の証明で悪魔を見せられ、今度はそれが悪魔で無い事を証明しなければ行けないという状態だ。

女「ちなみにその銃の弁償代…黄色君の給料から引いておくからね?」

黄色「マジか!?」


にわかに信じる事は出来ないが、否定する事も出来ない。と言うよりも、ただ納得する事が出来ないだけで…その事実すらも認めたく無いだけだ。

…俺は一体どうすれば良いのだろう?そんな苦悩を抱える中。ニヤと呼ばれた少女が俺の手を握り…


ニヤ「成る程………爆発しろ爆発しろと心の中で叫んでは居たけれど、まさかそれが本当に爆発するとは思って居なくて、困惑してた…って訳ッスね」

俺「……………」

ニヤ「そして今は、証明された悪魔の否定方法に苦悩中…納得出来ないけれど……あぁ、今ちょっと観念したッスね」


もう絶句するしか無い。そしてニヤの言う通り、俺は観念して…超能力の存在を認めるしか無かった。

26: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/16(金) 05:17:52.90 ID:Fq53GIN7o
●いい加減本題に入って良いんだぜ

零那「…と言う事で理解して貰えたとは思うのだけど…我々は超能力者の組織なの」

俺「そして俺も超能力者である…と。でも、それを裏付ける根拠って何なんですか?」

零那「そう、そこから。まず超能力者と一般人の違いなんだけど…簡単に言うと、それは脳にあるの」


俺「脳?頭の中?」

零那「そう…超能力を有する人間は、脳の中心…右脳と左脳の間に、一般人には無い器官が存在しているの」

俺「………具体的にはどんな器官何ですかそれ」

零那「脳に流れる神経電流を、拡張伝達する器官…って所ね。それによって超能力を使うチャンネルに接続したり、他人の神経に干渉出来たりするんだけど…」


俺「漫画で言う所の、特殊能力を使うための条件って事で…それを俺も持って居る…と」

零那「ちょっと偏ってるけどそんな所。ちなみに、一番多いのがテレパスやサイコメトリーとかの読み取り系で…サイコキネシスやパイロキネシスなんかは少ないわね」

俺「で………俺の使える超能力って何なんですか?カレンが予想してた、念じた相手を爆発させる能力なんて無かった訳でしょ?」

零那「まぁうん…問題はそこなのよね…」


俺「って言うと?」

零那「好きな時に好きなように使える…って程簡単な物じゃ無いのよね、超能力って。あ、黄色君は特殊なパターンだから気にしないで」

俺「えっ……それてつまり…下手したらさっきカレンが爆発してた可能性があって…ついでに言うと、まだ俺の容疑が晴れた訳じゃ無いって事?」


零那「そう言う事…カレンの件は条件を満たして無かっただけかも知れ無いし。ついでに言うなら、検査でもどんな種類の超能力を使えるのかまでは特定出来ないから…」

俺「無実の証明にはならない…と」


零那「うん。だから無闇矢鱈に使っちゃいけないのは勿論………これからある程度の検証に参加して貰う事になると思うの」

零那のその言葉を聞き、全員から嫌な汗が噴き出る。

超能力の検証……それはつまり………嫌な予感がと予想が頭の中を駆け巡る。


零那「あ、でも心配しないで。非人道的な事とかはしないし、手荒な真似もする気は無いから」

が、その懸念を少しは和らげてくれた。しかし…

俺「手荒な真似………」


ガーゼの下…カレンに殴られた場所を指差す俺。零那は視線を逸らし、空笑いを浮べていた。

27: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/16(金) 05:48:45.71 ID:Fq53GIN7o
●自分の立場を把握しないと

俺「で………聞き辛いんですが、その検証なり何なりを拒否した場合はどうなるんですか?」

零那「とりあえず…暫くは監視を行わせてもらうわね」

俺「それだけ?一応俺って…その、木戸譲二って男を爆発させた殺人犯…容疑者って事になってるんですよね?」


零那「まぁ、その辺りはまた複雑な事情になって来るんだけど…」

どういう事だろうか…女性は言葉に詰まり、考え込み始めた。


すると今度は、代わりに黄色が口を開き…

黄色「まぁ、ぶっちゃけて言うとあの譲二ってヤツはテロリストだったんだわ」

俺「………は?」

またもや超展開である。


黄色「俺とカレンがあそこに居たのも、その関係でな?お前がやらなけりゃ、俺がアイツを殺る筈だったんだが…」

ニヤ「思わぬ伏兵により、奇襲発生…戦闘による被害を出す事無く、事態を収束出来た…と言う訳ッス」

俺「………え?ちょっと待って?何それ、俺ってどういう立ち位置?」


零那「悪意的に見れば…偶然テロリストを殺した通り魔。好意的に見れば…偶然にも自衛を行う事が出来た、被害予定者…って言う微妙な立場」

俺「………」

零那「だから、組織としては…貴方に敵意があるのか否か、危険分子なのか否かを判断している最中なんだけど…」


俺「つまりそれって……え?カレンにしようとした事って、かなりマズイ?」

黄色「かなりマイナスに傾いたな」

ニヤ「無自覚な一般人から、軽率な要注意人物にランクアップしてるッス」


何てこった…

32: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/17(土) 06:13:30.88 ID:IzUMoMSOo
●身の振り方を決める時

俺「………え、ちょっと待って?そうなってくると、俺ってどうなの?どうすれば一番ベターなの?」

こんな事を相手側に聞くのもおかしいが、今の状況ではそうするしか無い。

正直今の判断材料だけで決める事は出来ない。


俺「俺ってまだ未成年だし…ほら、学校もあるしバイトだって始めるつもりで…時間は色々使うから…そういうので拘束されるのは…」

あぁ、何を言っているのだろうか…かなり苦しい言い訳をしているのが自分でも判る。だが…思わぬ所から意外な打開策が現れた

黄色「んじゃ、超能力検査のバイトすりゃ良いじゃねーか」


俺「はぃ?」


黄色「組織はお前の超能力の検査をしたい…そしてお前はバイトがしたくて、その時間が無ぇ…だったらそういうバイトって事にすりゃ良いだろ」

零那「成る程…そういう事なら彼に不利益ばかりを押し付けずに事を進められるけど…」

俺「でも…ほら、バイトって言っても給料の割とか良く無いと…」


本当に何を言っているんだ俺。往生際が悪く食い下がるにしても、もっと良い言い訳があるだろう?良いから黙れ。


零那「1日2時間の時間拘束で、日給4000円…この辺りでどうかしら?」

俺「なにぃ…!?」

あぁ…やばい、心が揺れてしまう。桁違いの額を提示されていたらそれこそ即決で断る事も出来たのだけれど…地味に美味しい数字なだけに逆に迷いが生まれてしまう。


そして、その心の迷いを後押しするかのように…

黄色「ついでに…俺の手伝いもしてくれんなら、カレンとの仲が上手く行くよーにお膳立てしてやっても良いんだぜ?」

俺「なん……だとっ!?」


ニヤ「何だかんだ…あの性格を見ても諦め切れて無い見たいですし…カレンちゃんのフラグは立ってるッスからね」

俺「つまりは………どういう事だってばよ!?」

ニヤ「上手く事が運べば、勝算はアリって事ッスよ。黄色先輩の毒牙にかかるのも防げますし」

俺「逆を言えば…俺が攻略しなければ、カレンの純潔が毒牙に晒されてピンチが危ない!?」


黄色「いや、落ち着け」

33: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/17(土) 06:35:50.09 ID:IzUMoMSOo
●乗せられた船も乗り掛かった船

カレン「何か私の名前が聞こえた気がするんだけど…また何か変な事企んでるんじゃ無いでしょうね?」

何故かジャージ姿で再び現れるカレン。

周囲の人物に視線を向けながら、手近な人間に手を伸ばし。伸ばされた先の人物はそれを避けるの…繰り返し。


そしてその手が、俺に向けて伸ばされると同時に…黄色が襟首を掴んで、その魔の手から俺を救い出す。

黄色「因みに…カレンの超能力は接触型のテレパスで、その時考えている内容を読まれちまう」

あぁ、そういう事か…しかし、タネさえ判れば対処は可能だろう。


俺「それってつまり…」

黄色「そう…他の事を考えていれば心を読まれる心配は無ぇ。むしろ、ダメージを与え返す事だって出来るぜ」


カレン「ちょっ…黄色先輩!部外者に何をバラしてるんですか!」

黄色「あぁ、その点なら気にすんな。こいつもう部外者じゃ無ぇから」

カレン「えっ」


零那「彼には今日からここでバイトをして貰う事になったのよ」

カレン「はぁっ!?そんな…こんな危険人物を!」

俺「いや、だから本当に危険かどうかを調べるための検査なんだって!」

カレン「………っ!」


可哀想に…ぐうの音も出なくなるカレン。

だが、それに少しでも同情してしまったのが間違いだった。

その隙を突き、再び俺の頭へと伸びるカレンの魔の手…


つい先程逃れたばかりの危機に再び晒される俺。しかし…黄色に聞いたばかりの対処法が脳裏を過ぎる。

ダメージを与え返すような思考…それを探し、彷徨う俺の頭脳。

そして、ふとある事に気付く。


何故カレンはジャージに着替えたのか…その直前には何があったのか。

そう………俺はその憶測を元に思考を巡らせ………

36: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/18(日) 05:58:28.84 ID:U5ipsUpto
●だから後悔と言うのは(ry

到った結論を元に、脳内でカレンを思う存分辱める!!

カレン「―――――ッ!?」

みるみる内に顔を赤くし、茹蛸のように頭から湯気を上げ始めるカレン。


だが俺は反撃の手を緩める事無く、カレンの手を握って退路を断ち…更に追い討ちをかけて行く。

事実を突き付け、それを誇張するだけではダメだ…更にそれを装飾するだけのシチュエーションと…そうだ、アクセサリーだ!

俺「よぉし!犬耳だ!そして首……うぉぁ!?」


が……しかし、それは明らかにやり過ぎだった。

気付いた時には既に遅く…俺の顔面へと沈み込むカレンの拳。

俺の身体はベッドを離れて宙を舞い…重力に引っ張られるまま、隣のベッドまで殴り飛ばされて…その足に頭を打ち付ける。


カレン「だ……だだ、誰が犬よ!盛りの付いた犬はアンタの方でしょ!この変 !屑!畜生!何で人間に生まれ変われたのよ!」

後頭部の痛みと、罵倒による心の痛みのダブルパンチである……


黄色「なぁ……あぁは言った物の…俺達がフォロー出来ねぇレベルの事されっと、どーしよーも無ぇぞ…」

ニヤ「カレンちゃんの中での好感度が、糞蟲以下になってるっすね…」

訂正…トリプル…いや、カルテットパンチだった。


とまぁ…なんやかんやで………俺の、謎の超能力組織でのバイトと…カレン攻略への道が始まった。

37: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/18(日) 06:31:17.93 ID:U5ipsUpto
○面接の替わりに身辺調査はあったらしい

零那「では…彼の身辺調査の結果を報告させて頂きます」

総統「うむ、始めてくれ給え」

零那「まず彼の通う学校…此方においての、彼の在学を確認。写真による照合も取れました」

総統「そうか、続けてくれ」


零那「そして次に、住所と家族構成…住所も申請された物で間違い無く、現在はアパートに一人暮らしでした」

零那「両親からの仕送りにより家賃を支払っているようなので、其方も確認しましたが…彼自身の口座も振込みを行った両親の口座にも、不穏な動きはありませんでした」

総統「両親…または片方の祖父母が超能力を保有していると言った関連の情報はあるかね?」


零那「その件に関してはニヤさんに直接確認を行って貰いましたが…これも該当は無し。至って普通の家族でした」

総統「となると、彼自身が覚醒世代で…複合型超能力の可能性は少ないと言う事だね」

零那「はい。ですので、現状で明らかになっている特徴から解析を進めて行く方向になるかと」


総統「成る程………しかし、未知数の部分が大半を占めている状態か。果たして彼の能力は、我々にとって吉と出るか凶と出るのか…」

零那「総統は彼の事を大分気にかけられて居るようですが…懸念されるくらいでしたら、能力の行使を制限すれば良いだけでは?」

総統「それは尤もなのだけど…ね。そうとも言っては居られない状況が来るかも知れない、そんな気がするのだよ」


零那「お止め下さい………総統の嫌な予感は的中するんですから」


     ―明日から本気出す― に続く

40: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/20(火) 05:25:36.83 ID:jdwTS3CRo
―明日から本気出す―

●一つ屋根の下で

―――前略。俺は今、カレンと共に一つ屋根の下で寝食を共にしている。

と言えば、聞こえは言いのだが…


カレン「ほら…次は貴方の時間よ」

俺「あぁ、もうそんな時間か。んじゃ…」

カレン「…って、どこに当たってんのよ!」

俺「いや、望遠鏡が固定されてるんだからしょうがないだろ!?」


実際はただの張り込みである。


ちなみに………本来ならば男女…それも学生のペアなど、若さ故の過ちを防ぐと言う理由で組まされる事無いらしいのだが…

カレン「いい…?次また変な所に触ったら、当たった箇所の骨を砕くわよ?」

俺「…肝に命じマス」


俺達に至っては『あの二人ならば、問題も起こらないだろう』との判断で組まされたらしい。

それは多分、カレンの自衛能力のみならず…俺にそれだけの気概も甲斐性も無いと判断されたからなんだろうけど…


いや………別の意味で問題が今すぐにでも起きそうな気がしてならない。貞操よりも命の危険を考慮して欲しかったなぁ!


おっと…そう言えばここに到るまでの説明を忘れていた。

経緯はこんな感じだ

41: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/20(火) 05:48:04.65 ID:jdwTS3CRo
●時間外手当が出るから良いかなって

黄色「って訳で…俺とニヤは別件でチョイとばかし持ち場を離れなけりゃいけねぇ状態になっちまってな」

俺「で…俺達がその間、代わりに張り込みをしておけ…と。でも、何か有事が起きたらどうするんですか?」

黄色「心配すんな。そん時は援護部隊の別の奴が応援に来るようになってっし…こっちから何かしなけりゃ、まず向うから仕掛けて来る事は無ぇ筈だ」


カレン「それで…何で私までこの人と一緒に張り込みしないといけないんですか?」

ニヤ「それは…ここ最近のカレンちゃん自身の行動を振り返ってみると良いッスね。同じ班になった彼との仲に、問題があると判断されたからッスよ」

カレン「だって、それはこの人が!」


ニヤ「生理的に受け付け無いのは仕方無いとして………でも…彼の方はカレンちゃんを嫌ってるって訳じゃ無いッスよね?」

俺「勿論、仲良くしたいと思ってますよ」

何だか物凄く失礼な事を言われた気がするぞ。でもまぁ、腰を折ってはいけないからスルーしとこう。


ニヤ「だったらここは、先輩であるカレンちゃんが折れるべきかと思うんッスけど…どうッスか?」

カレン「それはっ……それに、こんなケダモノと一つ屋根の下なんて…」


ニヤ「それに関しては…別に問題無いんじゃ無いッスか?」

黄色「カレンだったら、余裕で自衛くれー出来んだろ。それとも、一般人に毛が生えた程度の相手に負ける可能性があんのか?」

ニヤ「そうそう、もし彼が本能に負けて襲い掛かってきても…不測の事態で暴漢に襲われた際の訓練、そう思って臨めば良いんじゃ無いッスか?」

カレン「っ……」


だから何で俺をそんな立ち位置に持って行こうとするんだ…

この人達は、本当に俺とカレンをくっ付ける気があるのだろうか?と…疑う俺


しかしながらも、それを頼る他に術が無いのもまた事実

……故に、俺はその意図を疑るよりも先ず信用する事にした。

42: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/20(火) 06:12:55.22 ID:jdwTS3CRo
●そうして俺はここに居る

と言った感じの流れの末、今ではこうして同じ部屋に居るのだが………

悔しい事に、先輩二人の予想はあながち間違いでも無かったようだ。


正直理性が危険でピンチです


だってそうだろう!?健康な男子が気になる女の子とこんなに近くに居て…聖人君子で居ろと言う方が無理だろう!!

視覚効果もさる事ながら…密室の中に漂う、女の子の良い匂いが俺の頭の中の何かをチクチクと刺激して昂ぶらせて来る。

が、しかし…悲しいかな、その煩悩が生命の危機に直結している。

もし万が一、いかがわしい妄想をしている最中にカレンに触れよう物なら…恐らく俺の命は無い。


そして、男にとっての切り札…賢者になろうにも、持ち場を離れる事など出来ず…正に絶体絶命。

こうして張り込みとは別の原因で神経をすり減らし、永遠にも感じる一秒を繰り返しながら…


夕暮れ時が訪れた。と言うよりも、辛うじてここまで耐える事ができた。


夜の張り込みに備え、仮眠に入るカレン。これにより心を読まれる心配が無くなり、先ずは一安心。

望遠鏡からターゲットの部屋を覗き、時折横目で見るカレンの寝姿。

俺はゴクリと生唾を飲み込み、着崩れた寝巻きの隙間に視線を奪われる…が、そんなタイミングにこそ邪魔者は現れる。


ターゲットの部屋に訪れる来訪者…二十代前半であろう、綺麗な女性。

訪れた変化…その事で連絡を行うか迷う俺。それを余所に、進み始めて行く事態…いや、情事。

あろう事か、青少年の目の前で…いや、実際には目の前という訳では無いのだが、見ている先で……不健全な行為を始めてしまったではないか。


当然ながら、食い入るようにそれをデバガメ…否、監視する俺。

肝心な所はカーテンや窓枠に隠れて見えないが、劣情を煽るには十分過ぎるそれ。

そして何故か………いや必然か、俺の視線は…ふとカレンの下へと向かい………気が付けば、また生唾を飲み込んでいた。


そもそもあれだ…こんな閉鎖空間に男女一組を配置する方が間違っている。

もし何か問題があっても、それは配置を行った人物の責任。そんな言い訳を自分に聞かせながら、カレンの襟首に向けて手を伸ばす…

が…


ヒュン…と、小さく風を切る音と共に俺の顔面間近へと迫るカレンの拳。

改めて寝顔を見るが、その顔は至って平然。恐らくは反射的な防衛本能なのだろう事が伺えた。


俺「よし…真面目にお仕事お仕事っと…」

俺は………夜まで真面目な勤労青年で居る事を誓った。


くそっ!明日こそは…いや、明日から本気出す!

43: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/20(火) 06:31:36.55 ID:jdwTS3CRo
○夢の中へ…夢の中へ…行ってみたいと思いませんか?

正直な所…私はこの男の事が嫌いと言う訳では無い。

確かに、私に見せてくる妄想の数々は軽蔑に値するだけの物ばかりなのだけれど…

ただ、それを理由に嫌いだと断言できるかと言えば、また別問題になって来るだろう。


その原因は恐らく…いや、ほぼ確実に私の事情と感情にある。

恐らく彼はその事を知らず、私としてもそれを話す気は無い。

そう考えると…私の都合により一方的に彼に不愉快な思いをさせているのかも知れない…そんな考えも浮んでくる。


だが…もしそうなのだとしたら、私は一体どうすれば良いのだろう?

彼に全てを話す…いや、都合を加味してもそれ程までの仲では無い。

表面上だけでも仲良くする…いや、それもどうせすぐにボロが出る。


そもそも…彼の言動や思想は、一体どこからどこまでが本当なのだろうか?

良く良く考えてみれば、私が彼の心を読んだのは特殊な状況でばかり…本来の彼の心を見た事が無い。

彼の寝顔を視界に入れ…私の中の悪魔がチクリと胸を刺激する。


ターゲットは就寝中…もし何かの動きがあるようなら、そこで止めれば良い。

そんな逃げ道を用意する事で、私は心の枷を解き………彼の頭へと向けて手を伸ばす。


睡眠中…取り繕い様の無い夢の中を覗けば、彼の事を知る事が出来る…

例えそれが理性により形作られて居ない混沌とした世界であっても、その断片は彼の記憶その物。


本来ならば…会話の通じない相手から、一方的に断片を引き出す手法なのだが………私はその行使を抑える事が出来なかった。

46: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/21(水) 05:18:47.23 ID:enZwq0jYo
●朝チュンとかだったら良いのにな

夢は…朝起きた時に覚えている夢と、覚えて居ない夢がある。

そして今朝の夢は後者に当たり、何か良い夢を見ていた筈なのに覚えて居ない。


俺「ふぁ…おはよ………」

カレンに目覚めの挨拶を向け、瞼を擦る俺。

カレンは相変わらず望遠鏡を覗き込み、こちらを振り向こうともしない。

まぁ、仕事熱心なのだから仕方の無い事なのだろう…と、色々諦めた所で


カレン「おはよう…」

と、返される一言。俺はその言葉に自然と頬が緩む。

そして、調子に乗って朝のスキンシップでも嗜もうと画策するのだが………俺自身がそれどころでは無い事に気付く

ちなみに俺自身とは、正に俺自身の事なんだが…これ以上言わせんなよ恥ずかしい。


危ない危ない…もしもこんな状態でカレンに近付こう物なら、確実に殺される…あるいは潰される。

俺は事態を収拾すべく、四つん這いになりながらトイレへと向かうのだが…

カレン「5分で出てこなかったら殺すから」


と、何故か死の宣告をされてしまった。

47: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/21(水) 05:48:00.55 ID:enZwq0jYo
●仕切り直さないと命が危険

何故か続く重苦しい沈黙…

俺が何かしてしまったのかと不安にもなるが、寝て居たのだからそんな事しようが無い。

監視役をカレンと代わり…沈黙に耐え切れなくなった俺は、思い出したようにとあるファイルを開く。


要注意人物ファイル………組織の情報網により作成された、読んで字の如くの要注意人物達が記されたファイルだ。


俺「今監視してるのって…この、和褄池流ってヤツなんだよな?」

カレン「そうよ」

俺「この…能力欄に書いてある、複合型超能力ってどういう事なんだ?」

カレン「下の方に詳細が書いてある筈よ、良く見なさい」


促されるままに視線を下ろす俺…また会話が途切れてしまったのが口惜しいが、見ない訳には行かないのでその項目を読む。

『サイコメトリーの空間把握能力に加え、サイコキネシスによる直接干渉…半径5メートル以内の敵性反応は駆逐対象とみなされ迎撃される』

『通称パトリオット………接近の際は細心の注意を払う事』


俺「成る程…だからこうして遠距離から監視をしてる訳か…」

別に声に出す必要は無いのだが、あえてその独り言を口にする。

が…カレンからの反応は無し。いつにも増して冷たい対応のようだ。


そし更にページを進める俺………するとそこで一枚、気になるページを見付ける。

俺「なぁ…これって、要注意人物のファイルだよな?」

カレン「そうよ、何でそんな事をわざわざ聞くのよ…」

あからさまに億劫そうに答えるカレン。だが、それでも俺は質問を止められない。


俺「これ………名前は違うけど、黄色先輩だよな?」

カレン「そうよ」

ファイルを確認する事も無く肯定するカレン。恐らくは既に承知の上のだったのだろう。


俺「何で組織内部のあの人が要注意人物になってるんだ?」

カレン「要注意人物だからに決まってるじゃない」

凄く当たり前で至極当然な返答が返って来た。この事についてはこれ以上突っ込めそうに無い。


しかし、まだ疑問は尽きない

俺「何であの人、本名じゃなくて黄色なんて呼ばれてんだ?」


俺が向けた質問に対し、ため息を一つつくカレン。そして一呼吸置いた後、再び口を開き…

48: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/21(水) 06:18:57.47 ID:enZwq0jYo
●人生観が変わるようなエピソード

カレン「あの人ね…昔、人質を取って女子高生をxxxしようとしたのよ」

俺「はぁっ!?」

カレン「で…その時に助けに来た、別の…名前が似た男子高生にボコボコに叩きのめされたのよね。その人もリストを見れば載ってる筈よ」

ページを捲る俺…すると、確かに似た名前の人物が載っていた。


カレン「それでその後に…その男子高生の仲間が、黄色先輩の名前を聞いてこう言ったらしいのよ『紛らわしい、貴方なんて黄色で十分よ』…って」

俺「成る程…んでも、何で黄色?」

カレン「黄色先輩って、髪も目も地で金色でしょ?」

俺「あぁ…そこからランクダウンして黄色って事か…と言うか、何で組織内でものその呼び方が流通してるんだ?」


カレン「この話を聞いた上で…まだ黄色先輩の呼び方を本名にしたいと思う?」

俺「………黄色先輩は黄色先輩だな」

先輩と言う敬称が付いているだけでも御の字…と言った所だろう。


話しのテンポも手伝ってか、次第に口数が増えて行くカレン。

黄色先輩には悪いが、お陰でこの場の空気も大分和んで来た。

…和んで来た?まぁ微妙に違う気もするが、殺伐感が無くなったのは大きな進展だろう。


俺「それで…後は、この前の木戸譲二……名前以外が一切不明のシグマ。それと………ん?この、能力欄に魔術って書いてあるのは?」

カレン「その名の通り、魔術よ。私達みたいな超能力者とはまた異なる、魔術師達が使う能力や技術の事ね」

俺「……って、超能力の次は魔術かよ。この調子だと、魔法少女とか変身ヒーローとかも居そうだな」


カレン「76ページと、113ページ」

カレンに促されるままページを捲る…と

俺「…………本当にいらっしゃいましたか」


思わず敬語になってしまいました。

49: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/21(水) 06:47:16.14 ID:enZwq0jYo
●一応仕入れられる情報は仕入れて置おこう

カレン「ファイルを見て行けば判ると思うけど…細分化したらきりが無いくらい、他にも沢山居るわよ」

俺「みたいだな…元素記号を覚えた時よりも難航しそうだ」

カレン「ただ、その中でも注意しないといけないのが…特殊能力って書かれてる人達」


俺「何だよ特殊能力って…言ってみれば、超能力とかも全部特殊能力じゃないのか?」

カレン「それはそうなんだけど…言ってみれば、私達のそれとは一線を画した能力…って所かしら」


俺「漠然としてるな…」

カレン「そうとしか言い様が無いのよ」

俺「例えばその…どんなのがあるんだ?」

カレン「黄色先輩の項目を見てみなさい」


言われるままにページを戻し、黄色先輩の能力の項目を見る俺。確かにそこには、特殊能力と書かれて居たのだが…

俺「あれって、サイコキネシスじゃないのか?」

カレン「まぁ、そう思うわよね…でもその実、サイコキネシスとは次元が違う能力らしいのよ。詳細は…」

俺「皆まで言うな…読んでみる」


『自身が認識している空間を、螺旋状に捻じ曲げる特殊能力』

『力場を発生させる通常のサイコキネシスとは異なり、空間その物を歪曲させる。そのため阻害は実質上不可能』

『出力及び範囲の限界に至っては未だ不明。発生条件や動力源も不明。能力の通称も未だ無し』


俺「悪い、違いがよく判らない」

カレン「その辺りはまぁ…同じような結果を出して居るからよね。でも、根本的に発生している力の種類が別物で…」

別物…その言葉を聞いてある事に気付き、ページを捲って行く俺。


そして、幾つかの能力詳細を見て…とある事に気付く。

俺「あぁ……そうか、何となく仕分け方が判って来たかも知れない。確認して貰っても良いか?」

カレン「良いわよ」


俺「超能力だったり魔術だったり…要は、仕組みや動力源みたいな原理が判っている物は区分出来て…」

カレン「うん」

俺「それ以外の、不可解な物は全部特殊能力…って事か?」

カレン「その通りよ。大体合ってるわ」

俺「………」


何てアバウトな基準だ…そう思うも黙っておく事にした。

50: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/21(水) 07:04:54.20 ID:enZwq0jYo
●無駄話はそろそろ終わりになりそうだ

カレン「さて…もうそろそろ黄色先輩が戻ってくる筈の時間なんだけど…結局ターゲットに動きは無かったわね」

俺「そうだな…変わった事と言えば、女がやって来てそのままベッドインした事くらいで…」

カレン「なっ……そっか…それであんな………って、え?それ何時の話し!?」

俺「昨日の夜…カレンが起きる前くらいだったかな。で、そのまま二人とも眠ったみたいだからカレンと交代したんだけれど…」


カレン「このっ…バカ!何でそんな大事な事を言わないのよ!!」

俺「えっ?いや…ただのデリかも知れないし……関係者かどうかも…」

カレン「それもだけど……っ…」

何だ?一体どうした?


カレン「そんな女、私は一度も見てないのよ!!」


俺「………え?」

可能性は幾つも考えられる…だが、そのいずれも明るい物では無い。

カレン「大きく分けたら…可能性は二つよね。ターゲットにより抹消されたか、見えない場所に監禁されているかのそっちの可能性…あるいは」

俺「俺達の存在に気付いて、自ら姿を晦ませ……」


「そう………逆に貴方達を監視していた可能性」


俺「なっ!?」

突如…ドアの向こう側から聞こえる女の声。

状況が状況なだけに、確認しなくても想像は付くが………恐らくは、ターゲットとベッドインしていた女だ


女「他人の情事を盗み見するような悪ぅい子には…ちょぉっと、オシオキをしないといけないわよねぇ?」

俺「おい……どうする?!」

カレン「っ………不味いわ!ターゲットの姿も消えた!」

俺「何っ!?」


そう………考えられるのは最悪の展開だ

53: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/22(木) 05:38:34.28 ID:iA/5vg92o
●絶体絶命のピンチは…まだ絶命じゃ無い

女「まず私の方から自己紹介をして置こうかしら…あ、まずはドアを開けてくれる?」

そもそも、ターゲットが来てからでは鍵の意味など無いのだろう…ここは下手に逆らわない方が得策。

カレンもその事は承知しているのか、無言で頷き………俺は、ゆっくりと鍵を外してドアを開ける。


現れたのは予想通りの人物………ターゲットと一緒に居た女。

くそっ…こっちから仕掛けなければ何もして来ないんじゃ無かったのかよ!

心の中で黄色先輩を恨む俺を尻目に、女は玄関へと侵入して来る。


女「はじめまして…私はクレアボヤントの美由」

そして………その口から発せられた言葉に、俺は耳を疑った。恐らくカレンも同じだろう。


俺「おい…今」

カレン「確かに聞いたわ。この相手…自分の能力を明かしたんだけど…」

俺「さすがにブラフ………じゃなければ…」


美由「そうそう…デバガメのお返しにこっちも覗かせて貰ったけど…若いって良いわねぇ。一人で欲望を抱え込んじゃって慰めるなんて初々しいわぁ」

俺「―――っ!!」

カレン「―――!!!」


美由と名乗った女の発言からは、それがブラフでは無い事が確認出来た…いや、出来てしまった。

つまり………事態は先刻まで予想していたよりも更に深刻な状態と言う事だ。


俺「こいつ等…俺達を生かして返してくれる気は無いみたいだな。しかも…」

カレン「連絡系統は封鎖されている…と考えるべきよね」

美由「だぁいせいかぃ。此処に在る通信機も盗聴器も全部無効化済みよ」

ヤバい………外部との連絡が断たれた状態での袋小路…更にターゲットも恐らくは此方に向かって来ている筈。


文字通り袋の鼠状態だ。


池流「美由…お喋りが過ぎるぞ」

そして案の定、俺達の前に現れるターゲット…和褄池流。


美由と二人がかりで入り口を塞ぎ、俺達を閉じ込めてしまった。

54: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/22(木) 06:00:09.22 ID:iA/5vg92o
●生存フラグに飛び付くのは間違いなのか

しかし、この絶対的な危機の中…目の前の脅威から放たれた言葉は、俺達の予想を覆す物だった。

池流「心配するな…美由はあぁ言ったが、お前達を殺す気は無い」

池流が俺の頭を掴み…瞳を見据えて、そう言い放つ。


美由「えぇー…久しぶりだから楽しみにしてたのにぃ……」

池流「目的を間違えるな。俺達の目的は金色の竜を手中に収める事…そのための切り札は在るに越した事は無い。それに無益な殺生はするなと言った筈だ」

美由「判ったわよぅ…じゃぁ、また彼を呼ぶのね?」


池流「美由」

美由「あっ…と」


不可解な会話…だが、同時にそこに見出す事が出来た生存の可能性。

それに縋るように、俺は問いの言葉を紡ぎ出す。


俺「あ、じゃぁその…金色の竜って言う物の事を教えて貰っても良いですか?もしかしたら力になれるかも…」

カレン「なっ…!?」

俺の言葉に驚愕するカレン。まぁ…ストックホルム症候群ばりに寝返る姿勢の俺を見たのだから当然と言えば当然だろう。

だが俺はそんなカレンの反応を意にも介さず、更に会話を続けていく。


池流「その必要は無い………金色の竜とは、お前達の前にこの部屋に居た男の事だ」

俺「黄色先輩の事?あぁ…金色で竜ってのは、あの見た目と苗字から来た二つ名か。と言う事は………」

池流「理解できたようだな。故に…お前達はそこに居るだけで良い。それだけで人質足り得るのだからな」


俺「だったら…こっちの女の子の方は解放しませんか?」

美由「あぁら、ナイト気取り?中々可愛い事するじゃない」

俺「いやぁ…どっちかと言うと提案なんですけどね。この女、こう見えて結構凶暴で腕っ節が強いし…どうせなら、大人しい俺だけの方が安心かなって」


池流「確かに…その女を捕らえておくよりはお前のだけの方がリスクが少ない」

俺「でしょ?正直この女が一緒だと、寝返った事を責められてそのまま心中されないか気が気じゃないんですよ!」

池流「だが…リスクを冒してでも切り札を持っておくべきと言う場合もあるかなら。その提案は却下する」


俺「………ですよねー……」

55: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/22(木) 06:20:06.36 ID:iA/5vg92o
●繋がる心と心ってやつ

カレン「貴方………」

俺「皆まで言うな…浅はかだったのは判ってるって」

カレン「そうじゃなくて……いえ、もう良いわ」


諦めて目を伏せ…俺の手を握るカレン。

心細いのか、意外にも可愛い所があるじゃないか……

そんな事を考えて居ると…今度は、潰されんばかりの勢いで…その手を強く握って来る。


何か気に障る事でもしてしまったのだろうか…そんな事を考えると、また手を強く握るカレン。

正直心当たりは無く、何か手掛かりでも無い物かと過去を振り返る俺。


そして………気付いた。そうか、俺の手を握ったのはテレパシーで連絡を取るためか。

正解に辿り付いたのか、今度は手を緩めるカレン。


微かながらも現状打破の光明は見えた。


肯定なら人差し指…否定なら小指に力を入れてくれ。

握った手の人差し指に力を入れるカレン。よし…コミュニケーション手段は確保した。


まずは現状の確認…池流はサイコメトリーとサイコキネシスの複合能力保有者。俺達はその範囲内に居て、まな板の上の鯉だ。

次に、美由はクレアボヤント能力者…目立った行動を起こせば、すぐにばれてしまう。

そして最後に…この二人の目的は黄色先輩。文脈からして、俺達を人質にして黄色先輩を捕らえるつもりだろう。


それらをふまえた上で、俺達に何が出来るか…

主にカレンの生存を優先した上で、あわ良くば目的の阻害…この状況からの脱出となる訳だが………

正直な所、この絶望的な状況で打てる手は思い浮ばない。と言うか…ここに来て、想定しうる最悪の事態に気付いてしまった。


黄色先輩に対して…俺達が人質として有効なのだろうか?

カレンから聞いた話では、むしろ人質を取る側だった経験のある黄色先輩…当然ながらその利点と欠点は把握している筈。つまり………

俺達の事など気にせず、好き放題する可能性が高いんじゃないだろうか?

その考えを肯定するかのように、カレンは人差し指に力を込める。正直な所…して欲しく無かった肯定だ


しかしそうなると…相手が油断してくれている今の内に、自力でこの事態を打開しなければ行けない訳だが…

やはり良い案は浮ばない。

が………一つだけ疑問を感じる事があった。


この、和褄池流という男…本当にファイルに書いてあった通りの超能力者なのだろうか?

57: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/23(金) 05:04:15.37 ID:OB8+oX1yo
●小さい穴小さい穴小さい穴見つけた

効果範囲なんかに関しては、恐らく裏付けのある検証に基いた物なのだろうが……

もし…黄色先輩のように、似たような結果を齎すだけで別の能力なのだとしたら?

その仮説を元に、様々な可能性が頭の中に浮んでは消えて行く。そして……二人の言動や行動と一致する物が見付かった。


あくまで可能性なだけで、証拠も確信も無い…そして、希望的観測でしか無い。しかし現状を打開するにはその可能性に賭けるしか無い。

作戦を伝える俺…カレンから返って来るのは、小指の力ばかり。

だが…俺はそれを決行する。


俺「あの…池流さん。目的は黄色先輩を捕らえる事なんですよね?だったら、良い方法を思い付いたんですけど…」

池流「良いだろう。話してみろ」

俺「あ、でも…多分こいつが聞くと死に物狂いで邪魔してくると思うんで…ちょっと拘束してて貰えませんか?」

今まで生きて来た中で最もゲスだと言い切れるだけの顔を作って提案する俺。


池流「良いだろう…美由、その女を捕まえておけ」

美由「私がぁ?」

池流「いざとなれば俺の力で何とでもなる。それを知っている以上抵抗は無い筈だ」


と言った感じで話しが纏まり、俺からカレンを引き離す美由。それを確認すると、俺は池流に近付き………

俺「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

その顔面に向けて殴りかかる!


が、しかし…その腕は顔面に届く事なくひしゃげ、折れ曲がってしまった。

あまりの激痛に、声は言葉になる事無く奇怪な音となって鳴り響き…


池流「馬鹿が………何故無駄と判って居てそんな事をする」

俺を見下ろしながら言い捨てる池流。

俺は余りの痛みにその場に蹲り、嗚咽と鼻水と涙と唾液を垂れ流す。…………が、それも想定の範囲内だ。


池流「美由…そっちの女を―――」

指示を出す池流…

だが、美由は返事の言葉を紡ぐ事無く…先よりも離れた場所で地に伏して居る。


池流「―――美由!?」

58: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/23(金) 05:25:29.04 ID:OB8+oX1yo
●ザコだと思って甘く見てるからこういう事になるんだぜ

恐らくこれは、相手にとって想定外の事態…それはわざわざ確認を取らなくても判る。

相手の油断…美由が自分の能力を暴露した事と、池流の能力がばれて居ないとの思い込み…俺達がパトリオットと言う能力の存在を信じて居るとの思い込み。

それらの失策と俺の仮定が噛み合わさり、起死回生の一手に繋がった。


美由の拘束から逃れ、池流の能力の範囲外…窓際へと逃げるカレン。

幸いな事に、望遠鏡用に窓を少し開けてあり…そこから一瞬で開け広げる事に成功。更にそのまま部屋の外へと飛び降り………見事脱出を果たす。

これで後は増援を呼び…遅刻気味な黄色先輩を急かしてさえくれれば、作戦完了だ。


池流「貴様………どういうつもりだ?いや、それよりも…」

俺「何でアンタの能力のカラクリが判ったか…だろ?それは至って簡単さ。そこの美由さんが余りにもお喋り過ぎたせいだよ」

池流「………」


俺「パトリオットと呼ばれている複合能力は…実はあんた個人の能力じゃ無い…あんたは…ただのって言うのもあれだけど、サイコキネシス単品使いだろ?」

池流「そこに到った理由は何だ?」

俺「俺の相方もテレパス使いでね…もしかしたらって思い付いたんだ」

池流「………」


俺「美由は…クレアボヤント能力だけじゃなくて、テレパスも持って居るんじゃないか。それも、送信に特化したテパス能力を…ってね」

美由「なん…でっ…そこまで………」

俺「最初に言っただろ…喋りすぎたって。クレアボヤントを暴露した事自体もそうだけど…」

美由「他にも…あるって言うの?」


俺「咎められるような不味い情報も、あえて言葉にして伝えたのは明らかに不自然だった」

池流「彼を呼ぶ…つまり、彼の存在を臭わせた部分だな」

俺「ご名答…あの発言に必要性は無く、失言だったのはすぐに判った。でもそれを行った事により生まれた疑問が、この解答に繋がったのさ」


池流「…言ってみろ」

俺「何故あんな明らかな失言をしたのか…それは、もう一つの能力…テレパスを隠すために、あえて言葉にし過ぎたんじゃないか…ってね」


池流「つまり、その前提に基き…あのテレフォンパンチにより美由の注意を引き、その隙にあの女が美由を攻撃。気を失わせて一時的に能力を阻害し…」

俺「そう…逃げるに足るだけの条件を作り出したのさ」


池流「幾多の可能性の中から、奇跡に近いような確率に己の命を賭けて女を逃がすとは…敵とは言え賞賛に値する」

俺「お褒めに預かり光栄ですね」

池流「だが少々博打が過ぎたようだな。配当はあっても。賭け金は徴収される物と知れ」


俺「ですよねー…」

61: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/24(土) 04:53:01.03 ID:OGm78zYio
●サバイバルユーゴットトゥムーブ

あらぬ方向へと折り曲げられる全身の骨…

辛うじて致命傷こそ避けては居る物の、息をする事さえ儘ならない瀕死の状態。

正に、死んでいないだけ…と言う言葉が相応しい


だが、これで良い…カレンが無事ならば、俺はそれで…


「とか思ってるんでしょうけど…そうは問屋が下ろさないのよね」


突如…耳に届くのは、聞いた事の無い声。

美由「美代…おそぉぃ…」

美代と呼ばれた女の存在……一転二転する展開に追い付くべく、俺は残った力を振り絞って首を動かし…


その姿を見る。

が……そこでは、悪い方向に俺の予想を裏切る事態が進行していた。


美代と呼ばれた女の肩に担がれたカレン………

脱出に成功したにも関わらず、その先で伏兵である美代に囚われてしまった…恐らくはそんな所だろう。


俺の全身から力が抜け落ち、痛みさえも緩慢な電気信号となって通り抜ける。

あぁ……くそっ…文字通り無駄骨を追っただけかよ。


詰んだ……この状態では、どう転んでも死亡フラグの消化にしか向かわない。


と言うか、何だよ………三人目の登場って…卑怯にも程があるだろ?

ってか、この流れはアレだろう?どうせこの美代も池流の女なんだろ?

両手に花か?大回転か?あぁくそっ!


心も体も折られ、生存に未練が無くなったからこそ回る思考。


リア充爆発しろ。

62: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/24(土) 05:04:17.88 ID:OGm78zYio
●自分自身が思いもしなかった事

いや、爆発だけじゃ足りない。

こいつもあの譲二ってヤツと同じように爆散すれば良い!

こうやって勝利に酔いながら女二人の間で余韻に浸ってるようなリア充は、爆散するべきだ!


そうだ


リ ア 充 爆 散 し ろ ! !


最後の力を振り絞り、心の底からその叫びを上げる俺………

そして、力尽きて闇の中へと落ちて行く俺の意識。


最後に耳に届くのは、声にならない二種類の悲鳴………

そして、どこからとも無く聞こえる呟き


『あぁ、面倒だ…また…●●を●●しなければいけない…』

64: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/24(土) 05:18:28.10 ID:OGm78zYio
○俺の知らない所で明らかになる俺の秘密

ニヤ「以上が、今回の件で彼及びカレンちゃんの記憶から提供された状況報告ッス」

総統「成る程…では、和褄池流は彼の能力により爆死した可能性が極めて高い…と?」

ニヤ「そうッスね…飛び散った肉片や血液からは和褄池流のDNAが検出されてますし、爆死に関しては間違い無さそうッス。でも…」


総統「それが彼の能力による物かどうか…までは確証が持てないかね」

ニヤ「そうッスね」


総統「それでは、美由と美代という二人の行方は?」

ニヤ「黄色先輩が辿り付いた時にはもう姿が無かったらしくて…現在では捜索班が動いているッス」


総統「では…彼とカレンの容態は?」

ニヤ「彼に至っては集中治療室で施術中…カレンちゃんはさっき目を覚ましたらしいッス」

総統「そうか………」


ニヤ「それにしても…彼の能力。木戸譲二爆殺の件は、今回の件から見ても彼の仕業で間違い無そうッスね」

総統「しかし、状況から判断するに、発動条件が…」

ニヤ「とてつもなく運用に困る条件ッスけど。でもまぁ、運用手段が無い訳でも無いんッスよね…」

総統「ふむ…聞かせて貰おうか?」


ニヤ「カレンちゃんに一肌脱いで貰うんッスよ。まぁ、一時的にッスけど……」

  ―チャーハン作るよ― に続く

71: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/08(日) 04:39:33.99 ID:QiwU97dso
作品の内容以外でご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません。
仕事のシフトが増えて魔法少女の方しか更新しなかったり、咽頭から肺にかけて炎症起こしたりしてダウンしていました…

ちなみに今回は警察のお世話になっていた訳でも、国の幹部に呼び出されていた訳でも、家族バレして止めるか止めないかの瀬戸際に居た訳でもありません
断じてありません。

あと………


「この世界はネトゲである」

ある日、主人公と同じネットゲームを始めたヒロイン。だがその次の日、ヒロインは主人公の目の前で交通事故に遭ってしまう。
幼馴染を亡くした悲しみに暮れる中、その事実を仲間達に告げるべく主人公はネットゲームにログインするのだが…
その先で待っていたのは、死んだ筈のヒロインのキャラクターだった。


「竜胆学園帰宅同好会」

どこにでもある学園七不思議、都市伝説、連続殺人犯。
生徒達の帰宅を邪魔する存在を排除するため
どこにでも居るような二人の小学生…委員長と螺旋が立ち向かう。


「魔法少女神風―少女白虎隊―」

時は西暦1945年…第二次世界大戦の真っ只中。
人の命が水泡の如く沸いては消える中、運命に導かれて魔法少女となった少女達…
ハナ達の命と魂を賭けた戦いが始まる。


「アプリテイカー」

地図上に表示された「アプリ」を争奪するソーシャルゲーム「アプリテイカー」
手に入れたアプリで争奪戦を有利にするもよし、アプリでリアルを充実させるもよし
そんなアプリテイカーを始めたばかりの主人公が、偶然手にしたのは…超レアアプリ。
そのアプリを狙うプレイヤー達の歪んだ欲望の中に、主人公は巻き込まれて行く。


「三代目☆彼女」

世界には自分と同じ顔の人物が三人居ると言うが…実は声に至ってはその比では無い程に同じ声の人間が居る。
そしてそれが、有名な人物と同じ声ならば…演技次第で、影武者…先には二代目にさえなる事がある。
そう…そんな事情の中で有名声優の名前を継いだ、彼女と俺との甘くて酸っぱくて渋くて苦くて辛いラブストーリである。


「聖闘士☆お兄さん」

南十字星の聖闘士クライスト、乙女座の聖闘士シャカ。
作品が違えば天界でツートップの筈の二人が、現代日本で織り成す日常コメディ。
初のパロディ作品に挑戦!


と言った電波に浮気していた訳でもありませんので悪しからず!

74: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/10(火) 04:36:56.07 ID:bgAFw4qXo
―チャーハン作るよ―

●見知った天井

カレン「馬鹿…」

目覚めたばかりの俺を出迎えたのは、カレンの口から放たれた罵倒の言葉だった。

窓の外を見ると、夜。

…一体どれだけの間、こうして寝ていたのだろうか


個人的には、45日くらい寝てたような感覚さえあるのだけれど…


カレン「馬鹿…馬鹿…馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」


その疑問を投げ掛けるよりも先に、連投されて来るカレンの言葉。

誰かが止めない限りはいつまでも続くであろうそれ…を遮るため、俺はやっと重い口を開く。

俺「馬鹿馬鹿言い過ぎだろう…」


ちなみに、重いと言うのは比喩では無く…実際に口にかかっている負荷が半端無く重い訳なんだが…

自分でもよく判らないその原因を、別の方から解説してくれる人物が現れてくれた。

零那「無理しちゃ駄目よ、1週間もずっと寝たきりだったんだから」


成る程…1週間も口を動かして居ないのならばこの負荷も納得出来る。

…と言うか、45日とは言わないまでも結構な期間寝たきりだったらしい事は判った……のだが…

俺「まぁ…あれだけの事があって、一週間の昏睡で済んだってのは不幸中の幸いか。それに…」


零那「だけって訳じゃないんだけど……それに?」

俺「目覚めた瞬間にカレンが居てくれたってのは、ちょっとラッキーかなって…な」

カレン「なっ………!」


そう…正直な所、一人で目覚める孤独を味わわずに済んだ事はこの上無く嬉しい。

俺は自分で言ったその言葉を頭の中で反芻しながら、カレンの方を見る。

と…そこには、顔を真っ赤にして拳を構えるカレンの姿があった。


俺「………骨折してない場所に頼むよ?」


俺怪我人、無事じゃない。何も変な事考えて無い。これ凄く理不尽じゃない?YO!

思わずラップ調で考えながら、妥協案を打ち出して口に出す俺。

そしてそんな俺とカレンの間に、零那が割って入り…


零那「骨折してない場所が無いから無理じゃないかしら?それに、さっきは言いそびれたんだけど…」

あまりよろしく無い様子の顔で呟く零那。何だ?まだ何かあるのか?

零那「彼…今、カレンの拳を受けたら確実に死ぬわよ?と言うよりも…そもそも完治は無理。現時点でも11個の後遺症が確定してるくらいだもの」


と…あまりよろしく無い事実を突き付けて来た。

77: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/11(水) 04:48:06.11 ID:zhhIK7DMo
●死の淵から蘇っても強くならない。

俺「………は?」

ご丁寧に解説を続ける零那に対し、思わず声に出して疑問符を浮べる俺。

だがすぐにその言葉を飲み込み、意識を失う前の事を思い出す。


自分の力量も省みず、格上の相手を出し抜いた代償…決して安くは無かったが、そう考えるとむしろ命があるだけでも儲け物だ。

俺「ま、そうだよな…」

幾ら無茶をしても大怪我をしても、次のシーズンには完治して更にパワーアップ…なんてのはあくまで物語の中の話。


現実の人間はこうして怪我をすれば普通に壊れるし、取り返しの付かない怪我になる事もある。

超能力と言う常識外れの医療技術に期待していた面が無いと言えば嘘になるが…

まぁ…だからと言って、ボロボロになったこの結果を後悔している訳でも無い。


俺は自分が望む結末に命を賭け、その結果…こうしてカレンが生き残り、ついでに俺の命まで助かって居る。

100点満点で言えば90点くらいは取れている結果じゃないか。

と、そんな事を考えて居ると………今度はカレンが顔を近付けて来る。


気が付けばカレンの手は俺の肩に乗って居て…ついでに言うと、いつの間に立ち去ったのか零那の姿は無し…

俺とカレンがとても近い位置に居て、他には誰も居ない…つまり……

その意味を考えて、二重の意味で心臓がドクドクと高鳴る。


カレンと二人っきり!?まさかの恋人フラグ!?

いや待て考えろ?逆にこれは死亡フラグなんじゃないのか!?カレンが暴走したら誰が止めてくれるんだ!?


カレン「馬鹿…でもまぁ、確かに暴走はするかもね」

そして焦りまくる俺を余所に、またもカレンの口から零れるその言葉…


しまった、テレパシーで俺の心を読んでるんだから、当然この考えも読まれているに決まっている。

死亡フラグが確定。その覚悟をした次の瞬間…


カレン「良い?これは今回だけの暴走だからね?」

何故か念を押して宣言するカレン。俺はその言葉とカレンを前にして、ただだた頷き…

更にその次の瞬間には、信じられない言葉を耳にした。


カレン「貴方の言う事…なんでも一つだけ聞いてあげる」

79: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/13(金) 03:59:39.38 ID:hfMYkwlLo
●これ何て  ゲ?

俺「…はっ…!?」

カレン「だから…このまま貴方に貸しを作ったままにしておく訳にはいかないから、何でも一つだけ言う事を聞いてあげるって言ってるのよ!」

カレンの言葉を、もう一度頭の中で整理する。


カレンが俺の言う事を何でも一つだけ聞いてくれると言っている。

その理由は恐らく、前回の件で…プライドの高いカレンが、借りを清算するための手段だという事。

だが問題なのは、その内容………何でもとは言っても、さすがに限度はある。

考えるまでも無く、俺の想像とカレンの想像は異なり…当然想定も違ってくる訳で…


ぶっちゃけ、俺の基準で 何でも なんて言われたら、  い事しか思い浮んで来ない。

例えるならば…丸々一日、俺の言う事に従順で何でもしてしまう  メイドを差し出されるに近い発言でしか無いだろう!?

だが、カレンの想定はもっと違う筈だ。


きっとカレンの事だから、サンドバックにされるだのパシリにされるだの、そう言った方向で考えているんじゃないだろうか?

となれば、俺の思考だけでの先走りは禁物。なるべくカレンの意図に添った―――

と考えた所で、再び思い出す事実。この思考もカレンに読まれている…即ち、俺自身の欲望も読まれてしまった訳で…


カレン「…馬鹿」

本日何度目かのカレンのその単語と共に、死を覚悟する俺。

だがその覚悟の後に続く物は…


カレン「良いのよ…私に合わせ無くっても、貴方の望みをそのまま言えば良いじゃない」

またも予想外の言葉だった。


俺「いやそれ…本気で言ってるのか?俺が考えてるのって、物凄い内容だぞ!?」

カレン「わ…判ってるわよ!」

俺「何かもう色々後戻りできなくなるような凄い事をカレンにしたいって考えてるんだぞ!?」

カレン「だから!わざわざ言わなくても心は読んでるから判ってるって言ってるでしょ!?」


顔を真っ赤にして、声を荒げながら言葉を交わす俺とカレン。

そして、言葉に乗せたお互いの思いを確認した後……


俺は、自分の心に正直になった。

84: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/14(土) 05:08:49.87 ID:exZgyMqao
●俺が最後の希望だ(30)

俺「それ…じゃぁなぁ……あー……えと、ダメだ。うん、  いのはとりあえず無しだ」

カレン「はひっ!?え?な…な、何で!?私は大丈夫だって…」

俺「まぁうん…そこなんだよな。カレンは俺の心が読めるけど、俺はカレンの心が読め無いんだわ」


カレン「そ、それはそうだけど…」

俺「で…な?何て言うか、こう言うのは違うんだよな」

カレン「な…何が違うって言うの!?私にそういう   な事したくないの?」


俺「したく無い訳あるかぁ!!そりゃぁもう、あんなこんな    な事をしたいに決まってるだろ!!」

カレン「ちょっ…声大きいって!って言うか、したいなら何でしないのよ!?」

俺「したいけれど、こういう形でそういう事するのは違うんだよ!」

カレン「ど、どういう事…?」


俺「上手くは説明できないけど…な。カレンとは、こういう義務感とか制約じゃなくて…ちゃんとそういう仲になってから…って、これ以上言わせんな!」

カレン「……………」

それ以上はあえて言葉にせず、心を開け広げてカレンに伝える。そして……


カレン「…馬鹿ね」

俺「……はい、馬鹿です。千載一遇の機会を逃してでも自分の拘りに生きる、ただの馬鹿です」

カレン「………はぁ」


深くため息を付き、今まで溜め込んだ力を抜き去るカレン。

つられるように俺も肩の力を抜き、改めてカレンの方を見る。

カレン「じゃぁ…それは良いとして、どんな言う事を聞かせるの?引っ込み付かないんだから、そこはちゃんと決めてよね?」


自分自身の望みでやった事なのだから、勝手に貸し借りを感じられても困るのだが…それでも、何か言わなければ終わりそうに無いこの空気。

何を望むか…それを考えた結果、一つの願いが浮かんで来た。

俺「そうだな…じゃぁ…」


カレン「決まった?」


俺「何か手料理作ってくれよ。腹の中に何も入って無いもんだから、空腹で死にそうなんだ」

86: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/15(日) 03:12:25.53 ID:5r+dMuPgo
●蟲毒のグルメ

カレン「料理なんて初めてだから…あんまり美味しく無いかも知れないけど」

そんなこんなで、厨房を借りてカレンが作って来てくれた料理…

底の深い皿に盛られた、広い円柱状の黒い色の何か…


その姿以上の情報は無いに等しく、俺はその少ない情報の中から正体を推測して行く。

円柱状…丁度ケーキ6号分と同じくらいのサイズ。色も黒な事を考えると…

恐らくはチョコレートケーキ!


俺「にしても、一番最初の料理がケーキだなんて…中々チャレンジャーだなぁ」

カレン「ケーキ?もう、そんなに褒めても何も出ないわよ?」

まんざらでは無い様子で否定するカレン。


褒める?見た目がケーキのようだと言う意味で取られたのだろうが、それにより、更に謎は深まって行く。

では一体何なんだろうか…次なるヒントを探す俺。

深い器に…あれはレンゲ?


スプーンではなくレンゲな辺り、普通に考えれば和か中華の可能性が高い…が、カレンがそこまで気にしていない可能性もある。

いくら考えてもこのままでは切りが無い…こうなれば残された手段は、実際に食する他無いのだが…

ここに来て次の難問が襲い来る。


レンゲでどうやって食べれば良い?

天井からか?角から?あるいは側面か?

その選択の時点で足踏みをする中、カレンがレンゲを手にする。


カレン「あ、手もまだ動かせないのね…良いわ、今回だけ食べさせてあげる」

そして円柱の角にレンゲを入れるカレン。

サクッサクッっと音を立てながら、レンゲの上にその料理を乗せて行き…俺の口元まで運んでくれた。


だが、その時点で俺の頭の中に生まれる違和感。

その可能性に気付きながらも、あえて思考から外していた内容

口の中に運ぶ今この瞬間にもその可能性を否定し続けるのだが………それは無駄な努力だった。


口全体に広がる濃厚なビターと、サクサクの食感………間違い無い、これは消し炭だ。

辛うじて焦げ切って居ない部分も、パフのような食感しか舌に届かず…その正体の究明には到らない。

そう…問題はそこである。


消し炭を食べさせられる事までは想定内…正直予想以上の不味さだが、それはそれ。

例え不味い料理であろうと、折角カレンが俺のために作ってくれた料理。最後まで食べ切って美味しかったと言うのが、男の絶対条件。


そしてその言葉を放つには、最低でも知らなければいけないのが…料理の正体な訳だが…

88: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/16(月) 04:36:24.68 ID:lZ3n4jzoo
●たった一つの真実見抜きしていいですか?

俺「中々変わった調理法…だな」

カレン「そう?強火でパラパラにするのが基本って聞いたんだけど」


いや、パラパラの消し炭になるまで強火で調理する料理って何ですか?


強火でパラパラにする料理…とりあえずそれだけは判ったが、あまりにも情報が少な過ぎる。

強火でパラパラにする料理など、この世には山ほどあり…それこそ、中華などは強火が基本……

いや、待てよ?…そうか!


料理の正体を難しく考えるからいけなかったんだ。

料理初心者のカレンが作れる料理と言えば当然バリエーションなど無く、それこそ簡単な物に限られる。

そして強火でパラパラ…焦げたパフのような食感…それらのピースを繋ぎ合わせれば、自然とその答えが導き出されて行く。


さぁ…答えさえ判ってしまえば、後は完食するだけだ。


一口…また一口と口に運ばれて来る、消し炭。

口の中に広がる何とも言えない苦味とえぐ味を堪えながらも、辛うじてその奥に眠る調味料と素材の味を探りつつ食べる。

自分のペースで食べられない事にもどかしさを感じながらも、カレンの笑顔を見る事で挫けそうな心を滾らせる。


そして……俺はついに食べ切った。

やった…俺はやったぞ。

さぁ、後はその料理の名前を口にするだけだ。


俺「ありがとう。このチャーハン、凄く美味かった」


やり終えた…ここまで来ればもう、真っ白に燃え尽きてゴールして良いだろう。

さも満腹から来た眠気に襲われてるかのような船漕ぎを装い、瞼を落として行く俺。

だが…そこで終わってはくれなかった。


カレン「お粗末様でした。でもね…これ、チャーハンじゃなくてパエリアって言うのよ」

クスリと天使のような笑みを浮べながら自身満々で言い切るカレン。

ここまで来ると、もういっそドヤ顔の方がスッキリとするレベルである。


俺「そ、そっか…パエリヤって言うのか。知らなかった」

突っ込みたい…物凄く突っ込みたいという思いを抑えながら平然と答える俺。

当然ながらパエリヤが何なのかは知っているが、それを突っ込んだ所で得られる物など無い。


ぐるぐると頭の中を巡る、もどかしさと意味不明な混濁感。

そしてその後者の理由に気付いた時には、もう遅く…


俺は再び意識を失った。

92: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/17(火) 04:55:02.31 ID:2XyR/RMeo
●くぎゅボイスの新キャラ登場

黄色「んっ当………ここが病院で良かったよな」

少年「病院でも病院を呼ぶ事を出来るんだっけ?」

黄色「いや、病院は呼べねぇからこの場合呼ぶのは救急車だろ」

救急車も呼ばなくて良いんで、とりあえず医者かナースを呼んで下さい。


再び意識を取り戻した俺…そして、今回の目覚めに立ち会ってくれたのは、黄色先輩と見知らぬ少年だった。


俺「俺…あれから…」

黄色「あれから4時間って所だな。まぁ安心しろ…カレンには本当の事は伝えて無ぇ」

俺「そっか…良かっ……た…」


話から察するに、黄色先輩の機転で誤魔化しに成功…どうやらカレンを傷つける結果にはならなかったらしい。

黄色先輩の言葉に安堵し、また意識を失いかける俺。

が………中途半端に回っている頭のせいで、自分で自分の理性を繋ぎ止めてしまう。


俺「………って、そうだ!元はと言えば俺がこんな目に遭ってるのも黄色先輩が原因じゃないですか!」

そう、元を辿れば黄色先輩の代理行動と誤情報が原因だ。

俺「何が遠くから見てる分には大丈夫で、身の危険は無い仕事ですか!思いっきり襲われたんですけど!?」


少年「黄色…また適当な事言って他の人を困らせたの?」

黄色「あー…それな。まぁ、ちょっと下調べが甘かったってーか…こっちの情報が予想以上に漏れてたってーか…」

少年「って…もしかして、あの建物の件を引き継いだのが彼なの?!あーもう!黄色があんな事するから監視がばれたんだよ!」


と、ここで一つ感じる違和感。黄色先輩と一緒に居る人物。俺は一見してこの人物を少年と判断した訳だが…

よくよく見てみると、履いているのは半ズボンでは無くキュロット。キュロット以外でも、男性用では無く女性用の服を着込んでいるではないか。

そう…パっと見だけではすぐには判らないが、この少年は女性の服を着て居る。そしてその事実を確認した後…俺は、導き出された答えを口に出す。


俺「あの…もしかしてそっちの人………男の娘ってヤツですか?」

少年「……………」

黄色「だってよ、アウィスくん。アウィス く ん」


プルプル肩を震わせた後、深呼吸して笑顔を作る少年…アウィスと呼ばれた人物。

片や黄色先輩は口元を抑えたまま背を向けて…


アウィス「はじめまして。ボクの名前はアウィス……ちなみにこんな恰好してるのは黄色の趣味で、ボクはれっきとした女だから」

女…の部分を強調して言うアウィス。額に物凄い血管マークを浮かべてる辺り、相当な怒りと………コンプレックスを持って居る事が見て取れる。


俺「ゴメンナサイ、そんな恰好なんで思いっきり勘違いしてしまいました」

ので…唯一の逃げ道であるそこに同意しつつ、謝っておく事にした。

黄色先輩には悪いが、ここは共通の敵に………いや、もしかしたら勘違いする事を判って居て…あえてこの服をチョイスしたのでは無いだろうか?


そう考えると中々侮れない。黄色先輩…底が知れぬ男よ。

94: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/18(水) 04:47:36.23 ID:Slrz76sCo
●そんなヤツじゃないって解ってるじゃんよ

俺「で…一体何の用ですか?ただお見舞いに来たって訳じゃ無いんですよね?」

そして、底が知れぬとは言ってもある程度の思惑は勝手知ったる何とやら。わざわざ男の見舞いに来るような人物では無い事くらいはお見通しな訳で……

終わり無きコントが続く前に、本題に切り込んで行く事にする。


黄色「よーく判ってんじゃねぇか。んじゃ確認しとくが…例のファイルはもう見たな?」

俺「一通りは流し読みしましたけど…」

黄色「76ページ目のヤツは覚えてるか?」


促されて思い出すそのページ…確か、俺の質問に対してカレンが返して来たページだ。

俺「覚えてますけど、それが何が?」

黄色「んじゃ、話は早いな。退院手続きはもうしてあるから準備しな」


見えない所で進み始める話…

正直月単位の入院を覚悟した所で、突然に突き付けられた退院。

当然ながらその流れを、素直に受け入れられるはずも無く…


俺「え?いや、ちょっと待って下さいよ。退院ってどういう事ですか?何かしようにも、こんな身体じゃ…」

黄色「だから、そんな身体をどうにかするためにソイツの所に行くんだっての」

ソイツ…つまりは要注意人物リスト76ページの人物の所に行くと言う事までは理解した。


俺「って…要注意人物に会いに行くんですか!?第一、自分からの接触は禁止だって注意事項に…」

黄色「それを言うなら、俺だって要注意人物だぞ?」

ご尤も。でもそれを自分で言ってしまうのは如何な物だろうか。


黄色「それに…そのために今回はアウィスを呼んどいたんだ。まさか笑いのネタにするためだけに、初対面のコイツをわざわざ呼んだとでも思ったのか?」

アウィス「えっ…違ったの?」

ショタ面に聞こえた、と言うのは置いといて…当の本人にも初耳の様子。


本当に大丈夫なのだろうか…そんな疑念が絶えない中、着々かつ強制的に薦められて行く退院準備。

気が付けば俺は、アウィスさんの押す車椅子に乗せられ………

アパートの近所の大学の正門前に居た。


さぁ、いよいよもって何だか先が見えなくなって来ちゃったぞ。

96: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/19(木) 04:04:20.37 ID:3X2IwwhZo
●魔法も魔術もあるんだよ?

カライモン「おや、これは珍しいお客さんだね。まぁ良い、魔女の茶会へようこそ」

大学の敷地内…小さな建物の中でそれは開かれていた。


近代的な概観とは正反対の、幻想的且つオカルティックな装飾に彩られた部屋。

その部屋でまず最初に俺達を出迎えてくれたのは、先にも話題に上った人物……

要注意人物ナンバー76…魔法少女カライモンだった。


そして、部屋の中にはもう後三人…

一人はカライモンと同じく、目隠しをした…昆虫の触覚のような二本のアホ毛の黒髪の少女。

一人はアホ毛とバッテン前髪が特徴的な超ロングな銀髪の少女。

一人は、シャギーの入った前髪とツインテールの黒髪の女の子。


アウィス「あ、リーゼも来てたんだ?知ってればお菓子を作って来たのに…」

アウィスの言葉を聞き、アホ毛をピクリと動かす…リーゼと呼ばれた少女。

ちなみに服装は…ゴシックパンク調のシャツとミニスカートの上に、軍服のようなジャケットを羽織っている。


黄色「って…ベリル、お前も来てたのかよ。だったらアウィスに仲介して貰う必要無かったなぁ」

ベリル「あら。どこかの誰かさんがもっとこまめに報告してくださってたら、ちゃあんとお伝えできましたのに」

黄色「………」


続いて、ベリルと呼ばれた少女…服装は定番とも言えるようなゴシックドレスとミニハット。

アウィス「あれ…? あのベリルって人、どこかで…」

黄色「いや、気のせいだから気にすんな」


二人と何かしらの関係がある人物のようだが、きっと今は触れ無い方が良さそうだ。


そして最後に…… 最後に………

俺「あの…そっちの人は?」

誰も触れないようなので、触覚アホ毛少女の事を聞いて見る事にした。

ちなみに服装は、黒い鳥の羽があしらわれたドレス。前が大きく開いていて、辛うじて大事な箇所が羽で隠れているデザインの痴女服だ。


カライモン「あぁ、彼女はGだ」

G「誰がGじゃ!!わらわの名は鴉姫!傲慢の大罪をその身に宿す悪魔、鴉姫じゃ!」

ベリル「悪魔になりたての、まだまだばろっとですけれど」


ひよっこ通り越して、生まれる前に死んでるけど良いのかそれは。

まぁともあれ、毎度ながらのご丁寧な説明ありがとうございます。


ただ…その中二設定よりも、見た目と触覚のせいでGの方が定着してしまいそうです。

102: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/21(土) 05:07:26.84 ID:xJ0xAawRo
●秘密結社の改造人間になんてなりたいとは思わない。

俺「で…話は大分逸れてしまったんですが、一体これからどうするんですか?」

そして、一段落した所でいつものように方向修正して黄色先輩に問いかける俺。

黄色「っと、そーそー…危なく忘れちまう所だったぜ。そもそもお前の件でここに来たんだったな」


その思惑を知っている唯一の人間に忘れられたら、俺はただの退院損だ。


アウィス「確か、カライモンさんに用があったんだよね?」

黄色「…の予定だったんだが。こんだけの面子が揃ってんなら、別の選択肢も出て来そーだなぁ」

カライモン「ふむ。君達が私を頼ってきた時点で、ある程度目的の予想は付いてはいるが………その理由を聞くまでは返答し兼ねるね」


だから、俺を置いたまま話を進めないで下さい。


黄色「あー…そうだった。まずコイツ…組織内での俺の後輩なんだが、キングダムの連中との戦いで見ての通りのボロボロになっちまってな」

カライモン「キングダム…確かここ最近名を上げているテロ組織だったね。しかし、その件と私との関係は…」

アウィス「彼、カレンちゃんを助けてこんな身体になっちゃったらしいんだよ」

カライモン「ほう………そう言う事かね」


アウィスがカレンの名前を出した途端、判り易い程に態度を変えるカライモン。


カライモン「ではその口ぶりから察するに、カレン君に関しても…いや、カレン君の目的その物が…」

黄色「察しが良くて助かるぜ」

カライモン「となると、そこの彼に至っては…」


意味深な伏線じみた単語をちりばめながら会話を進める黄色先輩とカライモン。

そしてその会話に区切りが来たのか、二人はじっと俺を見据え…


黄色「あぁ…コイツの身体を、もうちっとばかし戦えるように改造して欲しいんだわ」


予想の斜め上を行く発言をしてくれた。

105: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/24(火) 04:53:43.60 ID:iOBo0Msbo
●少しだけで良い、落ち着く時間が欲しい。

俺「いやいやいやいやいや!改造って何なんですか!?何かもう色々突っ込みたい事ばっかだけど、とりあえずお断りしますからね!?」

黄色「ま、そう言うだろうと思ったぜ」

しれっと言う黄色先輩。だがその言葉は終わる事無く、俺の言葉を遮りながら続きを紡いで行く。


黄色「俺だって最初は、ここまで深入りさせるつもりじゃ無かった。適当な所で適当にカレンと仲良くやらせて、適当な所で落とし所を見つけるつもりだったさ」

俺「いや…だから何でそこでカレンの………ん?」

と、自分で言った所で見つける一本の糸。さっきからちょくちょく出て来るカレンの名前と、その延長上に改造なんて言葉が出てくる理由…


黄色「っと…その様子だと、幾らかは察しが付いたみてーだな。まぁつまり…」

俺「カレンと一緒に居る事で、これから先も危険な戦いに巻き込まれる可能性がある…いや、高いって事…?」

黄色「ま、その通りだ」


黄色先輩の言葉により、頭を横殴りにされたような衝撃で思考を塗り潰される。


俺「じゃぁ…えっと、そうだ。その理由を聞かせて貰えませんか?ほら、第一俺が危ない目に遭うんなら、カレンだって…」

黄色「まぁ簡単に言えば、その理由がカレンにあっから…かねぇ」

俺「あー…カレンって実は、どこかのお姫さまとか重要人物で…命を狙われてるとか?」


黄色「いや…ってーかむしろ、カレンが命を狙ってる側だからな」

俺「………は?命を狙ってるって、どこの誰の!?」

黄色「例のテロ組織…キングダムってーんだが、そのトップの命を狙ってんだわ」


次から次に訪れる新事実に、俺の頭は破裂寸前だ。


俺「は?!何でそんな事を!?」

黄色「両親の仇だから、だろーなぁ。ちなみに、実行犯でカレンの両親を殺したのは木戸譲二な」


俺「…………………はっ?」


あ、ダメだ…訂正、破裂した。

106: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/24(火) 05:27:47.80 ID:iOBo0Msbo
●だんだん気になる心

黄色「あぁ、そだ。ついでに一つ…お前、カレンの料理を食って何か思った事無ぇか?」

俺「いや、そんな事今何で…」

黄色「良いから答えろ」


内容とは裏腹に真剣な顔で問う黄色先輩。俺はその勢いに押され…

俺「えと、何って言うか…正直、物凄く不味くて………どういう調理法方すれば…ん?あれ?そう言えば…」

そこで違和感に気付く


俺「カレンは…あれが、初めての料理だって………」

そう…幾つかの可能性は浮んだが、そこから生まれる違和感が拭えない。

両親が殺された時期が何時かは判らないが、少なくとも一人になってから自炊の一つもした事が無いと言うのは極端過ぎる。


俺「今まで作らなかった…いや、料理を作る事が出来なかったか作る必要が無かった?」

黄色「で、後者二つだった場合に考えられる原因は何だ?」

俺「それは…出来ないって事は、必要な物が無い訳で…料理に必要な器具なんかはどうとでもなるから、カレン本人の………」


…思考の中で見つけ出してしまった答え。

俺がいかに無知で無頓着で無神経で…カレンの事を知らなかったのか、それを痛感させられた。


俺「もしかして…カレンには味覚が…」

そう…味覚が無いとなれば…味見すら出来なかくて…非常識とも思える事に違和感を感じる事すら出来ないのも納得できる。


黄色「詳しい説明は置いとくが…正確に言やぁ、ちょっと前まで味覚以外も殆どの感覚が無かった訳だがな」

俺「…えっ?」

カライモン「まぁその辺りは、ここに来た時点である程度の察しも付くだろう」


俺「そっか…カレンもここで治療を受けて…」

カライモン「受けたと言うよりは、受けている途中で抜け出してしまったと言うのが正しいけれどね」

俺「え?あ………いや、カレンの事だから…もしかして、味覚は復讐に必要無いとか言って出てったんじゃ…」


カライモン「ご名答」


次々と当たって行く、当たって欲しく無い予想。

胸の鼓動が自分でも気付かない内に激しくなり、鼓膜を殴打していた。

109: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/25(水) 07:07:05.44 ID:rmhb5RCWo
●決めない事もまた勇気

黄色「と言った感じの事情がある訳で…だ。もしアレなら、折角良い感じになってきた所を悪ぃが、カレンとは別れて元の生活に戻るってー選択肢も…」

俺「それは嫌だ!」


そう…自分でも驚いた事だが、思考を巡らせる事も無く…反射的にその言葉が飛び出した。


カライモン「参考までに聞くが、その結論に到った理由は何だね?聞いていて判るとは思うが、これからも命の危険が伴って来るのだよ?」

俺「その…何て言ったら良いか上手く言葉には出来ないんですけど…俺、カレンの事が好きで…そんな話聞いたら、もう絶対放っておけなくて…」

カライモン「ふむ………」


黄色「若ぇって良いよなぁ」

カライモン「まだ30代にもなって居ないキミがそれを言うのかね?それに…私としては、若さよりもどこか彼に似た物を感じるね」

アウィス「彼って誰の事ですか?」

カライモン「こちらの話だ、気にせず流してくれ給え」


黄色「で、どーする?これからもカレンに付き合ってくってーんなら、お前自身のパワーアップが必要になってくる訳だが…」

カライモン「そういう意味ではこの茶会に同席出来た事はかなりの幸運だろうね。此処に居る彼女達は、癖が強い物の大きな力になれるだろう」

黄色「あぁ、そだ。ついでだから自己紹介もして貰えっか?コイツもだが、俺も何人かは初対面なんだわ」


と…こうして魔女の茶会のメンバー…正確には魔女で無いにしろ縁のある面子の自己紹介が始まった。


ベリル「私の名はベリル。今回は、遺伝子の改造や改良…魔改造や呪いによる底上げを行えますの。カレンさんのためらしいので、力をお貸し出来ますわ」

G「わらわ名は鴉姫…悪魔じゃ。主に薬物を使った強化を得意としておる。面白そうなので助けてやろう」

リーゼ「ドラゴンクォーター、リーゼ。色々出来る…報酬はアウィスの作ったお菓子」


カライモン「そして私が主催のカライモンだ。医学を基礎とし、魔法により施術を行う形式を主としている」

と、参加者の方々に自己紹介を頂く。

だが俺の中では、その答えが既に出ていた。


いやまぁ、その答えを出すまで自分の中では結構悩んだり迷ったりしたんだけどな!

112: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/26(木) 05:36:55.23 ID:MLdUYhhpo
●ありのままの俺を見せるのよ

俺「えっと…その、皆さんの気持ちは物凄く嬉しいんですけど…」

カライモン「ほう…その口ぶり、私達の力が要らないとでも言い出しそうだね?」

ニヤニヤと面白そうに笑いながら俺を分析するカライモン。


アウィス「えっ…でも、キミ…そのままじゃ…」

カライモン「そうだね、こんなチャンスを前にして…その上でリスクを背負い続ける理由を聞かせて貰えるかね?」

俺「あ、いや…別に身体を治したく無いって訳じゃ無いですよ?ちゃんとリハビリ何かはやって、ある程度動けるようにはなりたいと思ってますし」


カライモン「ならば…あぁ、いや…少し見えてきたかもしれない。続けてくれ給え」

俺「ぶっちゃけ言っちゃうと、俺の意地…って言うんですかね。ここで誰かの力を借りたら、俺がした事が無かった事になるみたいで…」

黄色「傷は男の勲章…って事か?にしたって、こっから先はどーすんだ?意地だけでカレンを助けられんのか?」


俺「正直、俺の力だけではすぐ限界も来ると思います。でも…それでも」

黄色「それでも、何だ?」

俺「誰かの力を頼ってカレンを助けるのは、俺が助けた事にはならないと思うんです。だから…本当我儘だけど…」


黄色「んじゃぁ………改めて確認するぜ?」

俺「…はい」


黄色「カレンを助けるための最善策は取らねぇ…あくまで自分のエゴだけでやりたい事をやる…って事で良いんだよな?」

俺「はい」


黄色「で、その身体も魔法で治さねぇ…自分の意地でカレンの足を引っ張ったり、心配をかけっ放しにしても構わねぇ…って事だな?」

俺「心配をかけるのは不本意ですけど…足は引っ張らないように頑張ります」


黄色先輩の問いに、間を空ける事無く思ったままを答える俺。

対する黄色先輩は、その返答に大きくため息をつき………その後…


黄色「だったら俺からは何も言わねぇ。お前の思うようにやってみな。ただし!自己責任で動く以上は俺も助けてやらねぇから腹括れよ?」

俺「はい!!」


渋々ながらも折れてくれた。

118: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/27(金) 08:18:13.99 ID:CI7ds8EFo
●それでも台無しにする要因はゼロじゃない

俺「…と言う訳ですみません、折角の皆さんのご厚意なんですが…」

カライモン「気にしないでくれ給え。私もそう言うノリは嫌いでは無い」

ベリル「私も、無理に手出しをする程野暮では御座いませんもの」


G「わらわは大いに不満じゃがな。このわらわを前にして、その力を拒むなど…」

ベリル「あら、そんな事を仰っているから小物臭が抜けませんのよ?小物臭が抜けても、まだ別の匂いが残っていそうですけれど」

G「――――っ!!減らず口を!今日こそ決着を付けてくれようでは無いか!」


大分失礼な事をしてしまった手前、皆の気分を害する事を懸念していた…が、それも無く無事に話は纏まった様子。

カレンの過去を…そして現在を知り、改めてきを引き締める…そんな中、ふとある事に気付く。


俺「えっと、リーゼ…さん?さっきからずっとそっぽを向いているみたいですけど…何か気に障るような事でも…」

リーゼ「………」

アウィス「あれ?どうしたのリーゼ?」


そしてその様子は、知人であるアウィスから見ても異常なようで…心配したのか、それに関して伺いが入るのだが…

リーゼ「……………ごめんなさい」

長い沈黙の後。視線を逸らしたまま、何故か謝罪の言葉が発せられた。


俺「え?一体何が?どっちかって言うと俺の方が謝ってる立場なんですけど…」

謝罪の意図を汲み取る事が出来ず、困惑する俺達。

俺は顎に手を充てて、首を傾げながら考えるのだが…一向に答えが…………ん?


俺「あれ?何で俺、普通に手とか首とか…」

普通に動いている事に疑問を拭えない俺。そして更に、そこから試みた内容により…疑問は確信へと変わった。


俺「えっと………これはどの時点で?」

リーゼ「この部屋に入って来た時………アウィスの知り合いが怪我しているのが判ったから…とりあえずそれだけをって」

顔を両手で隠しながら、更に身体を捻るリーゼ。そして事態を察したのか、黄色先輩とカイラモンが俺の方を向く


黄色「ぁー………折角恰好付けたのに台無しだな」

カライモン「まぁ、人生何事も上手く行くとは限らないものな」

リーゼ「………ごめんなさい」


俺「いや……ははは、厚意でして貰った事ですからね!それに、俺の意地よりカレンへの実益の方が大事でしょ!?」


俺は全快していた。

121: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/28(土) 04:15:59.74 ID:DnxuQD0ro
●一つの終わりは一つの始まりであり、始まりは終わらない

俺「それでは、お世話になりました」

カライモン「と言っても、私は何もして居ないがね。まぁ、もし私達の力を借りたくなったら、今度は…」

俺「今度はマイさんの方を尋ねさせて貰います」

カライモン「ほぅ………」


G「で、戦とは関係無い所で干渉を受けるのは良いのじゃろう?」

そしてカライモンとの会話の途中…横槍の言葉と共に謎の錠剤を投げて渡すG

俺「これは?」


G「使ってみてのお楽しみじゃ、カレンとやらに飲ませて見るが良い」

邪悪な笑みを浮べて言葉を濁す…ので、それ以上はあえて突っ込まずにおく事にした。


ベリル「では私からは…私を召還出来る魔方陣をお渡ししておきますわね」

続けてベリルからは、折り畳まれた古紙。

なるべくそういう事態が起きなければ良のだけれど…とりあえずこれも受け取っておく。


そして最後に…俺の身体を治してくれたリーゼが、何かを言いたそうに俺を見上げている。

ので…リーゼの方に向き直り、その話を聞く事にした。

リーゼ「私からも…一つだけ伝えておく事がある」


俺「伝えておく事って言うのは、一体何関連の話ですか?」

この短時間であまりにも多くの新事実が語られ、何の事なのか見当が付かない。

リーゼの言葉をこのまま待って居ても良いのだが、好奇心に押されて質問が飛び出した。


リーゼ「貴方の能力の事………貴方の能力の根幹は一つ」

俺「それは一体どういう………」

リーゼ「………後々判る」


が、しかし…謎の言葉を残して、それ以上は語る事無くアウィスの方へと歩いて行くリーゼ。


こうして…魔女の茶会で、不思議なアイテムやら意味深な言葉を貰い…ついでに後遺症の無い健康な身体を得た俺。


最後にもう一度皆に頭を下げ、今度は自分の足でその場を去る事になったのだが…

126: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/30(月) 05:39:09.00 ID:LyFeunVro
●繋がらなくても伝わるビート

カレン「馬鹿」

戻った俺を出迎えた、カレンの第一声は…またも、聞き慣れたその言葉だった。

カレン「急に病室から居なくなるなんて、何考えてるのよ!」


俺を罵倒するカレンの声…ほんの数時間聞いて居なかっただけなのに、それが何故か懐かしく聞こえる。

で…その懐かしさついでにカレンを見て居て気付く事が一つ。


カレン「また何かに巻き込まれて…もしかしたら今度こそって考えて…」

泣き腫らしたカレンの目…その姿から、俺がどれだけカレンに心配をかけたかが伺えた。

カレン「大体、あんな重体で外を出歩くなんて…出歩く……あれ?」


そして、俺の身体に起きた異変に気付くカレン。


俺「あー…っとな、黄色先輩に連れられてマイ先生の所に行ってたんだ。それで…」

カレンの疑問に答えるべく、俺は事情を掻い摘んで話す…が、同時にそこで失態に気付く。

俺「あ、いや。治療はマイ先生じゃなくて、そこに居合わせたリーゼって子が―――」


慌ててフォローを入れる俺…だが、それさえも更なる失敗となってしまった。

そう………当然のようにマイさんの名前を出す事も失敗で、マイさんに治療を受けて居ないと宣言した事も失敗。

これらの言葉は、カレンが能力を使わなくても事情を理解にするために十分な情報を持って居て…


カレン「………………そっか、知っちゃったのね」

訪れたのは重苦しい沈黙………そしてその後、当然のように理解したカレンが呟く。


俺「………」

そんなカレンの言葉に、無言による肯定で返す俺。

カレン「どこまで…って聞くのも変よね。あぁでもダメ…ゴメン。私からじゃ、何て言えば言いのか判らない」


だが、無言だからと行ってそこで終わらせるつもりは無い。


俺はカレンの手を握り…魔女の茶会であった事の…ありの侭の全てを、記憶で以って伝える。そして…


俺「言いたくなったら、その時に言ってくれれば良い。カレンが言いたく無い事は言うな!」

あえて言葉にして、その想いを伝えた

128: ◆TPk5R1h7Ng 2015/03/31(火) 05:28:27.96 ID:Mi6GObfpo
●ここから始まる強火のヒート

カレン「馬鹿…何でそんな男らしい事言ってるのよ。そんなキャラじゃないでしょ?」

俺「カレンの前でくらい、恰好付けたって良いだろ?」

カレン「本当もう…馬鹿」


そう呟くカレンの言葉は、文面とは裏腹にどこから嬉しそうだった。

と…そんな中。テレパシーで意思を伝えた事で、思い付いた事が一つ。


俺「なぁ…カレンのこの能力って、読めるのは心の声だけなのか?」

カレン「えっと…心の声以外を、意図的に読んだ事はあんまり無いけど…あっ………そう言えば夢では…」

俺「夢?」

カレン「な………なななななな、何でも無いわよ!!?」


何故か真っ赤になって誤魔化すカレン。しかしその様子からは、俺の求める可能性を見出せた。


俺「じゃぁ…試してみるか」

カレン「試すって………」

何を…という言葉は続く事無く、俺の心の声がそれを止める。


もしもカレンのテレパシーが、思考以外の物を読み取れるなら…


カレンに欠けている物を、俺が補う事が出来るなら…


それは俺にとって嬉しい事だから。


カレン「でも…何を食べるの?」

俺「そうだな…とりあえず、カレンが好きな物にしようと思うんだが……」

と、そこで俺が思い出したのは、カレンの作った手料理…自称パエリヤ。


カレン「自称も何もパエリアだってば…って、そう言えば私はパエリアって教えたのにパエリヤって言ってたわよね」

あぁ、そうだ…あの時はそこまで気が回らず、元から知っていたパエリヤの方で呼んでしまっていた

…と言うか、この回想もカレンに伝わってるじゃん!何してる俺!?


カレン「もう…私を気遣ってくれた上での事なんだから、別に怒らないわよ。それより話を戻しましょう?」

俺「っと、悪い。余計な事考えてた。じゃぁ…カレンの好きなパエリヤで…」

カレン「ううん」


俺「じゃぁ、何にするんだ?」

カレン「貴方はパエリアよりチャーハンの方が得意なんでしょ?だったら………」

それ以上は言葉にされなかったが、言いたい事は伝わった。


そうと決まれば、腕によりをかけて…最高の


俺「チャーハン 作るよ」

130: ◆TPk5R1h7Ng 2015/04/02(木) 01:49:55.45 ID:UjeFj59ko
○暗躍の手がどこに伸びるのか?

総統「それで…その後の、彼の件はどうなっているんだね?」

零那「カレンの了承も得て、着々と進行しています」


総統「ふむ…そうか。しかしこんな内容だと言うのに、よく了承が取れたね」

零那「恐らくですが…これも全て彼女の復讐心の成せる業かと」


総統「そうか…とは言え我々も、その点に関してはカレン君の事をどうこう言える立場では無いか」

零那「全くですね。目的のためとは言え、まだうら若い男女達の心を弄んで要るのですから」

総統「また人聞きの悪い文面で言ってくれるね。それが事実な分、否定は出来ないのだけれど…まぁ、それも」


零那「いずれその報いを受ける日は来るだろう…ですよね?」

総統「その通り…そう言う意味では、君には損な役回りばかりさせてしまってすまないね」

零那「いえ…これも私が望んでしている事ですから」


総統「そうか………」

零那「はい…」


総統「ところで……何故君はフォークを持って居るんだい?」

零那「そこは気にしないで下さい。それより、大事な報告を一つ忘れて居ました」

総統「わ、判った……で、大事な報告とは?」


零那「木戸譲二の能力による被害者達の中で、一名…脳に器官を有する者が居ました」

総統「それは…ふむ。現状ではどのような措置を取って居るのだね?」

零那「万が一に備えて直接干渉を避け、機械を中継した検査のみを行っている最中です」


総統「懸命だね。その後の予定は?」

零那「危険性が有りと判断されれば相応の措置を…無しと判断されれば、通常通りの手続きを取る事になって居ます」

総統「了解した。では引き続きその方向で頼むよ」


零那「―――畏まりました」


     ―くそっ…壁殴っちまった…― に続く

135: ◆TPk5R1h7Ng 2015/04/29(水) 05:32:04.94 ID:vj0FEoNzo
―くそっ…壁殴っちまった…―

●社員食堂24時

ニヤ「で…公衆の面前で恋人繋ぎッスか」

食堂で昼食を取る俺とカレン…そして、そんな俺達に声をかけて来たのはニヤ先輩だった。


まず俺達の状況を補足すると……俺とカレンは隣同士の席に座り、手を握ったまま俺が食事を取って居る。

何故手を握っているかって?あぁ…どこから話して行こうか………とりあえず、カレンと味覚を共有する試みの所からだろうか?


魔女の茶会で身体を治してもらったその帰り、俺とカレンは俺の部屋でチャーハンを食べる事になった。


そしてその際に…あぁいや、誤解を生むのもアレだし、ここからは変に略さずありのままを語っておくか。

137: ◆TPk5R1h7Ng 2015/04/29(水) 05:56:58.48 ID:vj0FEoNzo
●1時間待ってくれ、本当のチャーハンって物を食べさせてやるぜ

俺「……って事でだな、とりあえずチャーハンを作ろうと思うんだが…何でそんなにソワソワしてるんだ?」

俺が借りているアパートの部屋…そのキッチンで俺がチャーハンを作っている最中の出来事である。


テーブルに着いた…不審者さながらに挙動不審なカレンに、問いかける俺。

カレン「だ…だって、その。ひ、一人暮らしの…お、男の部屋に上がるのって…初めてだから」

俺「………」


そして、カレンの言葉によって、今更ながらその事実に気付く俺。

そうだ…成り行きでカレンに食事をご馳走する、という建前になっていたため失念したが…

これはつまり、女の子を自分の部屋に連れ込んで居るという事実に他ならない。


実感して鼓動が早くなるのを感じ、慌てて顔を背ける。

しかし、そうして事実から目を逸らした所で、何も解決はせず…むしろ気まずい沈黙が場に広がっていくばかり。

そしてそんな空気に耐えられなくなった俺は、逃げ道となる話題を探し…


俺「そ…そう言えばカレンのテレパシーってさ。本当は、ニヤさんと違って直接触れなくても良いんだな」

思い出したようにその話題をカレンに投げる。


カレン「え?あ、うん…気付いてたのね。精度は大分落ちるけど、服何枚か分なら通過出来るわよ」

俺「だったら…やっぱ直接触れた方が精度が高いって事なんだよな?でも、そっちの方で積極的にテレパシーを使ってないよな?」

カレン「何て言ったら言いのかしら…心を読むくらいなら、むしろフィルターがかかってるくらいが丁度良いって言うか…」


俺「あぁ…直接だと強すぎるって事か。スピーカーの音量を最大にしてラジオを聞くような感じ?」

カレン「あぁ、そうね…そんな感じ。他の感覚が鈍い分、テレパシーでの受信が結構強いみたいだから」

俺「あと、いつも手で触れてるけど…テレパシーを受信し易い場所とかそういうのは?」

カレン「そうね…皮膚が薄い所とか、神経がより近かったり密集してる場所の方が受信し易いわね」


と、その言葉を聞いて想像する。皮膚が薄い場所…神経が密集している場所と言えば顔か指先…あとは…………

俺「―――痛っ!!!」

食材を切りながら考え事…それも邪な事を考えていた罰が当たってしまったようで、話題の指先を切ってしまった。


カレン「―――大丈夫?傷は…薄皮を切っただけだから、見た目ほど酷くは無いわね」

俺を心配して駆け付けるカレン。慣れた手付きで俺の傷を看て……その指先をペロリと舐める。

カレン「唾液には殺菌成分が含まれてるからね。後は絆創膏でも…………って――――」


と、そこまでは良かった…良かったんだが、どうしてもその先の回避する事が出来ない事態を招いてしまった。

どんな事態かと言うと…カレンはテレパシー使いで、神経云々で邪な妄想の残響あり。ついでに言うなら…


女の子に指を舐められて、更に邪な感情を抱かない男は居ないって事だ。あぁもう察してくれ!!

138: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/01(金) 07:17:28.24 ID:PHKo8DzCo
●チョロインの定義について考える

カレン「あ………ぅ…ぁ…………」

蒸気でも噴き出しそうな勢いで、顔を耳まで真っ赤に染めるカレン。

その様子を見る俺の顔も多分真っ赤っかだ。


カレン「ど…どうしてもって言うなら……その………食事の、後…で……」

俺「いやいやいやいや!ストップ!早まるな!!!」

暴走しかけるカレンを慌てて制止する俺。そう言えば話は変わるが、カレンとの距離が縮まった事で判った事が一つある。


カレンは、一般的な常識や道徳…情緒等と言った物に酷く疎い。


いや、日常生活に措いてはその限りでは無いのだが、そのラインを超えると途端に露見すると言った方が正しいだろう。

普通なら少し考えれば正解が判る事も、カレンは感情で結論を出す…あるいは、偏った他者の結論を鵜呑みにしている部分もある。


普段の印象が邪魔をして気付き難いが……………ぶっちゃけ、チョロイン気質なのだ。


不信感を抱かれていたり、敵対している相手ならその限りでは無いが…ある程度親しい相手となると、それが手に取るように判る。

多分俺が無理矢理押し倒しても、カレンは受け入れてくれるだろう…が、それではダメだ。

前にも言ったが、そんな勢いだけでカレンと繋がるような事は避けなければいけない。


カレン「………私、チョロインじゃ無いわよ。誰にでもって訳じゃ無いんだから」

俺「あ…しまった、手に触れたままだった」

カレン「声に出てる…でもまぁ良いわ、それだけ私の事を大事に考えてくれてるって事だし…」

俺「………」


そして俺は、声も出せないまま真っ赤になる。

あぁ…むしろ俺の方がカレンにとってはチョロインなのかも知れない。いや、ヒロインじゃなくてヒーローだからチョーローか?

カレン「何それ、長老みたい。もう…本当馬鹿……二つの意味…うぅん、三つの意味で馬鹿」


いや、最後の一つに心当たりが無いんだが……それを聞くにはハードルがとてつもなく高い空気のようだ

141: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/07(木) 06:54:12.10 ID:10qvtZoAo
●探し物は何ですか見つけ難い物ですか

俺「さて……それじゃぁ、出来上がった所で試食に入ろうと思うんだが…どうする?」

どうする…と言うのは、勿論味覚を共有する方法の事だ。

俺のよからぬ妄想のせいで話しが逸れてしまったが、そろそろ本題に戻さなければいけないだろう。


カレン「服越しに触れただけだと、そこまでは共感出来ないから…まずは直接……えっと、手を繋いでみるのはどう?」

俺「まぁ、無難にその辺りだよな…」

あわよくば…と言う考えが無い訳でも無いが、そんな事を考えていたらまた先に巻き戻ってしまうだろう。


俺は溢れる邪念を振り切り、そっとカレンに左手を伸ばす。

そして今度は、その手にカレンの右手が触れ………握る。


何だろう…別に初めて手を握る訳でも無いのに、変に意識してしまう。

カレン………俺が好きな女の子の手。

細く柔らかで、暖かい手の感触と…微かな脈動が俺の手まで伝わってくる。


自然と早く強くなる鼓動…それにつられて高まる体温。

聴覚で感じ取れるまでに高まった脈動を自覚しながら、カレンの方を向く…と

カレンもまた、耳まで顔を真っ赤にして俺を見ていた。


うん…俺もつくづく学習しない奴だな。手を繋いでいるんだから、カレンに心を読まれてるに決まってるじゃないか。


俺「えっと…じゃぁ、とりあえずこのまま食うか」

誤魔化しながらレンゲを手に取り、一口目を自分の口に運ぶ俺。

胸を張って言う事でも無いが、今回のチャーハンは中々の力作に仕上がっている。

これならカレンも気に入ってくれるかも知れない。そう思ってカレンの方を見るのだが………


カレン「……………」

反応は薄く、何かを考え込みながら言葉に詰まっているようだった。

142: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/08(金) 04:49:33.83 ID:USCmaapSo
●気が付けばそこにある物

俺「その…あんまり美味く無かったか?」

カレン「そうじゃないんだけど…あのね、少しだけなら判るんだけど………」

その言葉から察するに、味がしない訳では無い…しかしそれが本来の物に足りていないと言った所だろう。


カレン「うん…特別薄味…って訳じゃ無いみたいだし。手を繋いだだけじゃ駄目なのかも」

しかし、手を繋ぐ以上の繋がりとなると…さすがにそれ以上事をしながらでは食事にならない。

と言うか、まだそんな段階に進むような状態では無い。


もどかしさと焦りが交じり合い、握った手の間に汗が滲み出る。

そして、カレンの手を握る俺の手には自然と力が入り…それに気付いて、今度は緩める。

僅かに滑る二人の手…それを組み直すべく指を動かし……ふと、それを思い付く。


俺「で…ちょっと試してみようと思うんだが…」

カレン「べ…別にそのくらいの事、許可取らなくたって良いわよ!?」

真っ赤になった顔を向け合う俺とカレン。


ゴクンと唾を飲み込み、一旦握った手を緩めて指を伸ばす。

続けてお互いの掌を合わせた後、お互いの指の間に指を滑り込ませ……


そう……いわゆる恋人繋ぎをする事になったのだが…


俺「うわ…何だこれ……手を繋いでるだけなのに滅茶苦茶ドキドキする…」

さっきまでも手を繋いでいただけなのにドキドキしていただろう言う突っ込みは無しで

それとは比にならない程に心臓がバクバクと脈打っている。


カレン「だから、わざわざ口に出さなくても…って言うか、もう…私も同じ感覚共有してるんだから」

俺「じゃ…じゃぁ…それは置いといて…改めて試食って事で」

カレン「そ、そうね…!」


お互いにごまかしを交え、二人とも挙動不審のまま…震えるおぼつかない手でチャーハンを口へと運ぶ俺。

正直な所、味わう余裕があるか判らない…だが、味わうという目的を忘れてはいけない。


ぐるぐると目的と現実の中を回りながら、レンゲに乗ったチャーハンを口に入れ―――

145: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/09(土) 05:53:41.65 ID:lweddFDKo
●ありがとう言わないよ

気が付けば、カレンは涙を流していた。


カレン「おかしいな……不要な物だからって、自分で置きっ放しにしてきた筈なのに…何で、何でこんなに………」

カレンの内心は判らない…でもそれはきっと多分、置き去りにしてきた物が大切な意味を持って居てそれに気付いたからなんだと思う。


そして…俺は、本当の意味でまだカレンの事を知らない。


大切な物を置き去りにしてでも、果たすべきだと思い詰めた…カレンの復讐。

その真意と真相と深淵を、俺はまだ知らない。しかし、それを俺からカレンに問い…土足で踏み込む訳には行かない。


もどかしさと歯がゆさの中、俺の視界の中でカレンがこちらを向く。


カレン「本当はね…話すつもりは無かったのよ。話しちゃったら、貴方の事だからきっと深く思い詰めてのめり込むから…今より巻き込むから」

そして語り始めるカレン。あぁもう…俺ってやつはいつもこうだ、隠し事の才能が皆無にも程が有る。


俺「話したく無いなら、無理には…」

カレン「私は…正直な所、貴方に話したい。話して楽になりたい、理解されたい。でも、話すのはずるいから話したくない…だけど……」

俺「だったら………話せよ。ちょっとくらいのズルくらい許すから、カレンが話したいなら話すべきだ。いや、話さないと今度は俺が納得しない」


カレン「何よそれ…頭の中で理論が纏まって無くて、感情だけで喋ってるじゃない」

俺「駄目か?」

カレン「駄目じゃないけど…馬鹿。でもありがとう」


俺「どういたしまして…と。じゃぁ………」

カレン「話すわ…私の過去……私の家族に何があったのか、どうして今の私が居るのか」


そうして…カレンの話しが始まった。

146: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/20(水) 05:52:08.74 ID:nhD6Z987o
○この胸の中の思いだけは

「紹介しよう、彼が新しいボディガードのジョージだ。こう見えて武術の心得があって……」

父が紹介したのは、私より少し年上くらいの東洋人の青年。

人種特有のその容姿に似合わない名前…それがジョージ…木戸譲二の第一印象だった。


ジョージ「知っているかい?虫はフェロモンと言う物質を出して異性を引きつけるんだよ」

ジョージは物知りで、私の知らない事を幾つも知っていて…私はその一つ一つに感嘆した。


カレン「ねぇ、今日はお父様は何時に帰ってくるの?」

ジョージ「まだまだ時間があるから…今日はお忍びで古書堂に行こうか」

家柄のせいで学校では浮きがちな私には、同年代の友達が居なくて…ジョージがそれを埋める友人になるのまで、そう時間はかからなかった。


ジョージ「そう言えばカレンは、人の心が判るんだって?」

カレン「判ると言っても、ほんのちょっとだけ…漠然と、どんな感情を持って居るのかとか…あと、嘘を吐いてるかどうかが判るだけ」

ジョージ「それは怖いね。僕が悪企みなんかしてたら、すぐにばれちゃうのか」

カレン「何言ってるの。そんな事しない人だって事くらい判ってるわよ。ほら、今だって」


幼い頃の私は、今程テレパシーを扱う事が出来ず、漠然としかその能力を行使出来なかった。

ただ…それでもジョージが嘘を吐いて居ない事が判り、私にとってそれは彼が信頼を寄せるに相応しい相手だと思うには充分だった。

そして………あの事件が起きた。


違う…始まった。


ジョージ「お嬢様!無事ですか!?」

学校を終え…車を降りて庭を進む私に、血相を変えながら駆け寄るジョージ。

二人切りの時のよくに崩れた口調ではなく、仕事に没頭している時の口調…加えてその表情は珍しく焦りと驚愕に染まり、額に汗を滲ませて居た。


カレン「どうしたの?ジョージ、そんなに慌てて…」

ジョージ「旦那様が…旦那様と奥様が、殺されました!!」


カレン「………え?」


屋敷に向けて駈け出す私…それを追うジョージ。

そして屋敷の中で見た物は…無残に切り刻まれ、バラバラに解体された両親の死体だった。

148: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/21(木) 04:43:28.18 ID:95MqugFTo
○追っているのか追われてるのか判らなくなるまで

カレン「――――――――!!!!!」

言葉にならない声を上げる私


カレン「嘘よ…嘘!嘘!こんなの嘘よ!!誰が!?どうして!?そうよどうして?どうしてジョージはお父様を守らなかったの!?」

ジョージ「迂闊だった…等と言う言葉で済ませられるとは思って居ませんが、完全に出し抜かれました」

カレン「どういう事なのよ!ちゃんと説明して!?」


ジョージ「犯人は、男女の二人組…しかも、恐らくはどちらかが記憶操作能力を持って居ます」

記憶操作能力…自分の力のせいで幾らかの予備知識があった私は、すぐにその意味を理解し…同時に驚愕した。


ジョージ「その能力により私の中の彼等の存在は書き換えられ、彼等をただの使用人としてしか認識できず…」

カレン「お父様も、無防備なまま招き入れてしまった…と言う事なのね」

ジョージ「はい…そして今もまだ彼等は屋敷の中に居ます。彼等に気付かれない内に、早く逃げなければ……」


逃走を促すジョージ…しかし私はその意思に反し、一つの目的が浮んでいた。


カレン「お父様とお母様の仇は…私が知っている使用人?」

ジョージ「いえ…今まで内部に潜んでいた者では無く、今日初めて襲来して周囲の記憶を改竄したようです」

カレン「それって、他の使用人の記憶も…」

ジョージ「恐らく改竄されているでしょう」


カレン「だったら…ジョージ以外では、私にしか仇の正体が判らない…そういう事よね」

ジョージ「何を考えているんですか!そんな事をして、返り討ちに遭いでもしたら!」

カレン「それでも…自分が死ぬかも知れなくても、仇を討たないといけない。お父様とお母様と同じ目に遭わせないと…!」


ジョージ「どうしても…やるおつもりですか?」

カレン「止めても無駄よ…」


ジョージ「判りました。ただし、条件があります」

カレン「何?」

ジョージ「私の能力で援護はしますが、危ないと感じたら必ず退いて下さい。そしていずれ訪れるであろう次の機会に備え、生き延びて下さい」


カレン「ありがとう…ジョージ」

涙を拭い…ジョージから渡されたナイフを握る私。


悲劇の舞台は、まだ幕を下ろして居なかった……

150: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/22(金) 05:54:03.58 ID:LO1629y+o
○その大空に両手を広げ


玄関…


男と女の二人組、私の知らない顔の使用人……即ち、お父様とお母様を殺した犯人がそこに居た。

私の両親を殺した後だと言うにも関わらず、悠々とした足取りで外への道を歩んで行くその二人。

怒りと憎悪が交じり合い、形容し難い感情が私の中に渦巻いて行く。


カレン「ジョージ…あの二人が犯人で間違い無い?」

ジョージ「私の記憶が再び改竄されて居なければ…いえ、何よりお嬢様に見覚えが無いのなら確実でしょう」

草むらの影の中で…その言葉を聞いて私の決意が確固たる物に変わり、ナイフの柄を強く握り絞める。


ジョージ「お嬢様…落ち着いて下さい、相手は恐らくプロの殺し屋です。正面から突撃して勝てる見込みは、まずありません」

カレン「だったら……」

ジョージ「以前話したトロイの木馬の事は覚えて居ますか?」

カレン「覚えているわ。確か、贈り物の木馬の中に兵士が潜んで居た話でしょう?」


ジョージ「そう…兵士はナイフ、木馬はお嬢様。判りますね?いざと言う時は私の能力でお嬢様をお守りしますので…」

カレン「判ったわ…」

そうして私はナイフを後ろに隠し、草むらの影から姿を現す。


あれだけ嫌がっていた社交界で得た特技が、こんな事に役に立つとは思って居なかった。

二人組に私の殺意を気付かれないように…何も知らない、惨劇になど気付いても居ない、無垢な笑顔を向けながら歩み寄るのだけれど…

一歩…あと一歩…もう少しでナイフの間合いに入ると言う所でそれは起こった。


消していた筈の殺意に気付いたのか、男が両手を広げて私を掴みにかかって来る。

捕まればそこで終わりの、死の抱擁…しかし私はそれを避けず、あえて飛び込む。

そして、手を広げた事でガラ空きになった胸に………ナイフを付き立てた。


途中で肋骨を掠めながらも、分厚い筋肉の層を突き抜ける手応え。

幼いながらも、それが心臓への一撃…致命傷である事を悟り、達成感と共にナイフを引き抜く。

だけど、まだ終わっては居ない。女の方が残っている。

154: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/23(土) 04:51:40.45 ID:+0krtV7Go
○飛んで行きたいな

突然の…予想外であろう出来事を前にして立ち竦む女。

私はその隙を見逃す事無く、女の胸にもナイフを突き立てる。


しかし…切れ味が鈍ったのか、先程よりも細い体躯の相手にも関わらず、大きな抵抗を感じながら中々沈み切らない切っ先。

更に、今度のそれは心臓に届く事無く…女が後ずさった事でナイフが抜けてしまった。

私に背を向け、逃げ去ろうとする女。しかし私は女の足を斬り付け、それを止める。


女はうつ伏せに倒れ込み、私はそれを逃すまいと馬乗りになる。

そして、その体制のままナイフを逆手に持ち…

何度も…何度も…何度も何度も。その命が絶えるまで…いや、絶えても尚、怒りを乗せて刺し続けた。


そして…

ジョージ「そこまでです、お嬢様」

ジョージの言葉で、私は我に帰った。


カレン「ジョージ…やったわ。私、やったわよ。この手でお父様とお母様の仇を……」

押し留めて居た涙を流しながら、その言葉を絞り出す私。

ジョージはそんな私を見て、静かに微笑み………


ジョージ「いえ、それは違いますよ。お嬢様」

予想すらしなかった言葉を投げ付けて来た。


カレン「………どういう事?だって、この二人組がお父様とお母様の仇じゃないの?」

ジョージ「はい、違います」


カレン「何…?それ、どう言う……」


男「お前は…何者だ………何故カレンが……」

ジョージ「おやおやぁ?まだ息がありましたか、と言うかお嬢様の前でそれを聞いてしまいますかぁ?」

致命傷を負い、死を待つだけの男と…ジョージの間に交わされるやりとり。


双方の言葉に不可解な物があるが、より気になったのはジョージの言葉の方。

ジョージの能力は、物質透過…分子と分子の隙間を意図的に作り出し、トンネル効果を発生させる能力で

実際に何度もその能力を見ているし、偽装でない事も私の能力で確認している。


判らない………私が理解出来ない所で話しが進んでいる。

155: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/25(月) 05:01:44.79 ID:5seoE0wyo
○悲しみの無い自由なソラへ

ジョージ「はじめまして、僕の名前は木戸譲二…キングダムからの差し金です。あ、親しみを込めてジョージとお呼び下さい」

男「何故……」

ジョージ「それは、貴方がこうして死に行く理由ですか?それとも何故お嬢様がこんな事をしたかですか?」


ジョージ「狙われた理由は簡単。その動かない胸に手を当てて思い出して下さい、キングダムと旦那様の関係を」

ジョージ「そしてお嬢様がこんな事をした理由は至って単純明快。私の能力でお嬢様を誘導したからです」

ジョージ「さぁ、ここまで聞ければ冥土の土産としては充分でしょう。このまま夜空に輝く綺羅星とおなり下さい」

ジョージ「あぁ…我等が王から授かりし力で、王の命を果す事が出来た…。何と素晴らしき事でしょう」


ジョージの言葉の終わりを待つ事無く、男は息絶えた。

終わった筈…これで終わった筈なのに、私は何一つ訳が判らなかった。


カレン「え……何?キングダムって何なの?王って誰?」


ジョージ「いやぁ、お嬢様のお陰で事が上手く運んでくれて助かりましたよ。最高の結末です」

カレン「何?何なの?何を言ってるのジョージ」


ジョージ「キングダムの敵をただ殺してしまっただけではつまらない。悲劇と屈辱を与えてこその制裁!あぁ素晴らしい!」

カレン「じょう……じ?」

ジョージ「まだ判りませんか?では簡単な言葉でお伝えしましょう。お嬢様のご両親、つまり旦那様と奥様の仇は………お嬢様です」


カレン「………え?」

ジョージ「ほら、よくご覧下さい。お嬢様が殺した二人を」


そうして、促されるまま見下ろした先にあったのは……


カレン「………………―――」


カレン「―――嫌ああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!」


私の手により無惨な肉塊へと変わり果ててしまった…お父様とお母様の………死体だった。


何故忘れてしまっていたのだろう、お父様とお母様の顔を…

あの時もそう、いつものお父様の笑顔を見ていた筈なのに……

それを、私がこの手で………


何故?

いや、理由があれば許されるような事では無い。

私はどうすれば良い?この先どんな事をすれば心を保てる?


考えられない

考えたく無い


そして………私は自ら、意識を心の奥深くへと閉じ込めた。

157: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/26(火) 06:13:40.46 ID:H0iPXsj/o
●いきたい

俺「くそっ!!!」

気が付けば俺は壁を殴り付けて居た。


カレン「それから先は…まぁ、貴方が知っている通りの有様よ」

カレン「ちなみに、私の超能力が今の状態まで開花したのもそうやって閉じ篭ってる時」

カレン「ニヤさんに助けて貰って…マイさんに治療して貰ったり、リミッターの外し方を教えて貰ったりして…今の私になった」


カレン「で…後から知ったんだけど、木戸譲二の超能力は介入型テレパスの記憶改竄」

カレン「私はまんまとその餌食になっていたらしくて…まぁ、操り人形にされた被害者って事で罪に問われる事は無かったわ」


俺「………」

慰めも激励も…ましてや同意の言葉も出ては来なかった。


カレン「で………その関係の事で、今の今までずっと悩んでた事があるんだけど…」

俺「悩んでたってのは…何にだ?」

カレン「両親の仇…木戸譲二を、貴方が通り魔的な犯行で殺した事について」


俺「………」

先程までとは違う気まずさで声が出せなかった。


カレン「本当はもっと苦しめてから私の手で殺したかった…とか。私の標的を横取りした相手が許せないとか…恨みが無かったって言ったら嘘になるわ」

俺「………」

カレン「でも、それだけの感情で愚直に生きる事も出来なかった」


カレン「私がやらなくても、他の誰かが怨恨や復讐復讐で木戸譲二を殺していたかも知れないし…」

カレン「本当に私の力で木戸譲二を殺す事が出来たのか…そもそも、その時点でも怪しかったのよね」

カレン「で………その事にも答えは出たの」


俺「その答えってのは?」

カレン「逆恨みするのは止めにした。むしろ、無自覚とは言え私の替わりに仇を討ってくれたんだから感謝する事にしたわ。それに何より…」

俺「何より?」


カレン「貴方のお陰で、木戸譲二が起こす悲劇に終止符を打つ事が出来た…それが一番大事だって判ったの」


復讐をいう憑き物が落ちた…そんな表現が相応しいのかも知れない。

カレンは俺に微笑みながら、そう言った。


カレン「とは言え…木戸譲二に命令した、王と呼ばれる存在に関しては何も解決してないし…その問題も残ってるのよね」

俺「そう言えばそうだな…その王って奴を倒さなければ、本当の意味で悲劇を終わらせられないよな」

カレン「だから、私はいずれその王も倒すつもり。協力して欲しいとまでは言わないけど…その………」


俺「その…何だ?」

カレン「依存させてとまでは言わないわ。私の支えに…なってくれたら…嬉しいなって………ダメ?」


それを断る理由がこの世界のどこにある?

と思いつつも…恥ずかしくて、それを言葉にして返す事が出来ない俺であった。

159: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/27(水) 05:20:13.46 ID:Ro6RN0Qdo
●長くなった前置きから冒頭に戻る

俺「…と言う訳で、味覚共有に一番最適なのがこの繋ぎ方だって判ったんですよ」

ニヤ「あー………それはまた、うん。お熱い事っすね」

黄色「いや、説明長ぇよ」


いつから聞いていたのか、黄色先輩からも突っ込みが入って来た。


黄色「ってーか、イチャついてる所を悪ぃが…お前達二人とも、零那が呼んでたぞ」

俺「零那さんが?場所はどこですか?」

黄色「ミーティングルームだ。あと、カレンは途中でコピー室で次の作戦の資料を持って来てくれとも言ってたな」

カレン「判りました。では途中で寄って行きますね」


そうして、食事の途中で席を立った俺達。

カレンとはコピー室の前で別れ、俺は一足先にミーティングルームの前まで辿り着いたのだが…

ふと、気付く。


次回の作戦の資料と言うのは、そもそもどのくらいの量があるのだろうか?

余計な心配かも知れないが、俺も一緒の方が手助けになったのでは無いだろうか?

と言うか、資料を探す時点で手間取っているかも知れない。


気が回らず、カレンをコピー室に残して来た事を少し後悔する俺。


早足で来た道を戻り、辿り付いた先はコピー室の前。

ここまでカレンと鉢合わせなかった事から、カレンは恐らくまだ室内に居る。

俺はとりあえず、カレンの所在を確かめるべく、ドアに手を伸ばすのだが…その瞬間


カレン「はい……彼の件に関しては……」


室内から漏れ出て来た、カレンの話声に気付く。

その際にドアに触れてしまい、ガタリと音を立てるのだが…どうやらカレンはそれに気付いて居ない様子。


どうするべきか…散々迷いはした物の、好奇心に勝つ事は出来なかった。


俺はドアに耳を付け、聞き耳を立ててその内容に意識を向けるのだが……

161: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/28(木) 04:31:32.97 ID:4widjXgto
●幸せな一生を送りたいのならば、幸せな瞬間に死ぬべきだ。By…誰だっけかな

カレン「コホン。はい、私です…………はい、彼の件に関しては問題ありません。計画通り、順調に好意を寄せられて居ます」

………

…………は?


カレン「私の過去を話し、着実に距離が縮んでいる事も確認しました」

計画?一体何を言っているんだ?

とりあえず…話相手の声が聞こえない事から、恐らくは携帯で話しているであろう事が伺えるんだが…それよりも

察する事が出来る内容が内容なだけに、聞き流せない。


カレン「はい、勿論組織内の他のメンバーには知られていません。これも能力で確認済みです」

カレン「このまま行けば、いずれ彼は私の傀儡…キングダムの王を倒すための手段になってくれる筈です」


心臓が嫌な音を立てて高鳴り、全身の毛穴と言う毛穴から汗が噴き出る。

聞きたくない…聞きたくない言葉の筈なのに、鼓膜がそれを捉えて離さない。


カレン「私…ですか?いえ、私の方は別段支障ありません。ただ……」

カレン「目的のためとは言え………正直、吐き気がするくらいに気持ち悪くはなります」


俺「――――――――ッ!!!」

脚はガクガクと震え、視界がぐるぐると回り出す。

手放しそうになる思考を繋ぎ止めるかのように…俺は壁を殴り付けて居た。


もう何もかもが判らなくなった。

いや、本当はカレンの口から紡がれた言葉の意味を理解出来る筈だった…

しかしそれを、他でも無い俺自身が理解する事を拒否しているだけだった。


俺は震える足を無理矢理に動かし…コピー室の前から駆け出した。

カレンに声をかける勇気も無く、真実を釈明して貰う勇気も無く、ただ………


一分一秒でも早く、その場から逃げ出したくて………脚を動かした。

162: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/29(金) 04:39:23.40 ID:McQUVFUCo
●知らないフリしてあの子、ちょいとやるもんだね…と

零那「それで…食事時に呼び出して申し訳無いんだけど、まずは二人に来て貰った理由を説明させて貰うわね」

あれ程激しかった動悸も一回りして、今では至って冷静…と言うよりも、感情が動かないまま零那さんの説明を聞く俺

…と、その隣に座るカレン。


机の上には、カレンが持って来た物を始め様々な書類が置かれ…その机の向かい側に零那さんともう一人。

ここでは見慣れない、それでいてどこかで見た事があるような気がする女の子が座っていた。


長い黒髪をツインテールにしている、中学生くらいの女の子。

どこか暗い雰囲気で、常に伏目がちにしている。


零那「この子の名前は、理央ちゃん。例のハーモニカタワーでの…木戸譲二のテロ未遂の時に同伴していた女の子の一人って言えば判るかしら?」

俺「それって……あぁ、言われてみれば確かにあの時居たような…」

先の既視感の正体が判り、次第に記憶に輪郭が付き始めて行く。


俺「確かあの時…俺から見て木戸譲二の左側に居た子ですよね?」

理央「………はい」

理央は小さな声でそう答え、そこで会話が止まる。


内容が内容なだけに、カレンは軽口を叩く事も無く黙して居て…零那さんに至っても、そこから進展させようという素振りは見られない。

いっそ俺も黙り込んでしまおうかとも思ったが、それは話しが進まない。

とりあえずは、何か話題になりそうな事を探し…


俺「あの時はその…ゴメン。思いっきり浴びてたと思うんだけど…」

理央「いえ、謝らないで下さい…その件に関してはむしろ感謝していますから。あれが無ければ、私はきっと今もまだ…」

と言いかけ、言葉を止める理央。

俺も言いたい事に察しは付くので、それ以上の言及はあえて避ける。


俺「それで…今回の件は、この子とどう関係があるんですか?」

零那「それなんだけど…午後からこの子の案内と、研修を頼まれて欲しいの。貴方達もやったのと同じ内容で良いから」

俺「………え?それってつまり…」


零那「そう…理央ちゃんも組織の一員として加わる事になったの。貴方達の後輩になるから色々教えてあげてね」

163: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/01(月) 06:32:47.41 ID:lWI5YET/o
○毎回お馴染み、総統と零那のターン

総統「それで…彼の件はどうなっている?」

零那「万時滞りなく、計画通りに進行しています」


総統「カレンくんの方はどうだね?聞いた話では、精神面に大分負荷がかかっているようだが…」

零那「その件に関しましては…遺憾ながら、事態が収束するまで暫く耐えて貰う事になるかと思います」

総統「そうか…」


総統「では、例の木戸譲二の被害者…理央くんの方のその後は?」

零那「幾つかの計測と調査の結果、複合型超能力を保有している事が判りました」

総統「ふむ…では、彼女の両親は…」


零那「両親の父親が分岐前に該当する超能力を使えて居たようですね。両親は死去しているため確認できませんでした。詳細は資料をご覧下さい」

総統「ふむ…これはまた珍しい形式に分岐した超能力だね」

零那「更に特筆すべきは、P器官のみならずD器官にも微量ながら干渉を行えると言う点です」


総統「成程…だから木戸譲二はあの時、黄色くんの接近を察知しながらも表舞台に出て来た…と言う訳か」

零那「恐らくは」

総統「それで、理央くんに関してはどのような対応を?」


零那「系統の近い…カレンと同じ班に所属させて、研修を受けさせて居ます」

総統「………それはつまり、彼とカレンくんと理央くんの三人で班を組んでいると言う事だね?」

零那「その通りです。と良いますか、そんな当たり前の事を復唱させないで下さい」


総統「それは…いや、しかし…うん」

零那「何ですか、言葉を濁さず言って下さい」

総統「何となく…何と無くなのだが、あまり良く無い事が―――」


零那「訂正します。やっぱりお黙り下さい」


総統「えぇ…っ」


     ―とりあえず落ち着け― に続く

166: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 05:19:50.28 ID:5hxIfADko
―とりあえず落ち着け―

●ありったけの夢をかき集め、正社員に俺はなる

リア充…爆散しろ!

双眼鏡越しに見た男に向けて、そう念じる。


―――男はキングダムの構成員。

女連れで人質を取ってコンビニに立て篭もり、組織がそれを打破すべく人員を召集し…今に到る。


「対象の爆散を確認。作戦終了です」


カレンとの一件以来…俺は自分でも判るくらいに色々な物が変わってしまった。

この能力に関してもそうだ。


自分の能力を自覚して、自分の意思でそれを行使したのはこれが初めてと言う訳ではない。

最初は、正直…抵抗があった。

だがその僅かな抵抗で踏み止まる事無く、最初の一歩を踏み出す事が出来たのは…多分ここ最近で起こった出来事が関係しているだろう。


コピー室の前で聞いた、カレンの言葉…

俺を利用していた事を知ったときはかなりショックだったが、よくよく考えて見ればそれも納得出来る事…

利用価値でも無ければ、例え表面上だけでも…カレンみたいな美少女が俺なんかと良い仲になる筈が無かったんだ。


ちなみに、あの後カレンとの仲はと言うと…

お互いに多忙な事を理由にして、食事どころか顔すらまともに合わせては居ない。


正直、顔を合わせて俺が事実を知っている事を知られるのも気まずいし…何より俺がカレンにどんな態度を取れば良いのかも判らない。

と言う心配の下に、逃げに逃げ…積極的に仕事を回して貰って、今も逃げ回っている真っ最中と言う訳だ。


そうそう、仕事と言えば…俺は正式に組織の構成員になった。


仕事を増やして貰うに辺り、それに伴って昇進や昇給…実質上正社員のような待遇で組織に所属している。

今までとは異なる装備を支給されたり、より詳細が記載された要注意人物ファイルを渡されたり…同時に様々な制約を課せられたり………

勿論、仕事にかかる重圧は今までの比では無いが…不思議とそこに不満や抑圧を感じる事は無かった。


多分、仕事に没頭する事でカレンの事を考えずに済むからだろうな………

そんな事を考えて居ると、携帯からメールの着信音が流れ出す。


差出人は理央…件名は『明日の研修について』

167: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 05:25:01.05 ID:5hxIfADko
●ミラクルエピソード一番目のエピソード

ロアン「がるるのるー 食べちゃうぞー」

kuraudo「がるるのるー」

hasewo「がるるのるー」


Ginrei「いや、一体何年前のネタを…」

ロアン「DVDが安く売ってたので、ついカっとなって買った。後悔はしている」

Ginrei「してるのかよ!」


ロアン「と言う訳で、運営にパクられ乙!」

Ginrei「だから何を今更…って言うかあれの話をするなら、むしろブラックの外見がまんま2ndな方にふいたわ!」

俺「にしてもあれ、サービス停止したって話すら聞かないくらいに水面下に沈んだよなぁ…」


久しぶりにログインしたネトゲ…狩りに行くでも無くダラダラとチャットをして過ごす俺…と他のギルメン達。


俺は懐かしさと安心感にどっぷりつと浸かりながら、カタカタと小気味の良い音を鳴らしてキーボードを打つ。


俺「ところでさ…全然関係無い話なんだけど、皆は超能力とか信じる?」

kuraudo「いきなりだなー。定義にもよるんじゃないか?昆虫の能力とか、それっぽいのはあるし」

hasewo「無いと思って諦めるより、あると思って探す方が面白い」


俺「いや、だからもうパクリネタは良いってのw何て言うのか、漫画とかに出てくるようなサイキックみたいなヤツ。どう思う?」


ロアン「どう思うも何も…あったら面白いとは思うけど、現実にあるかどうかって言われたら無いだろ。質問の意図が見えないぞ」

俺「そうだよな…じゃぁ、悪魔とかって居ると思う?」

kuraudo「それは居る!俺の上司は絶対に悪魔だ!」


脱線して行く会話…一般人としては当然の反応と返答が返ってくる。

懐かしいながらも、以前と変わらないいつもの面子のやり取り…にも関わらずどこか距離を感じてしまうのは、俺が一般人では無くなってしまったからだろうか


ロアン「がるるのるー!」

168: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 05:32:49.88 ID:5hxIfADko
●夢から覚めてもこの手を伸ばすよ

と…一人黄昏ていると、ウィースパーチャットが届く。

ちなみにウィスパーチャットと言うのは、一対一で外部には見えない会話が出来るチャットの事だ。

hasewo「(あ、そう言えばクリスマスの件どうなった?例のタワーで何か起きたって聞いたけど…確か休止始めたのもあの後だよな?)」


クリスマス…タワー最上階で起きた木戸譲二の件は、組織による情報統制が行われていた筈だが…やはり漏れる所からは漏れているらしい。

俺「(あぁ、それ…実は途中で逃げ帰ったwんで、その帰りにバイト見付けて暫く拘束されてたんだわ。心配かけて悪いね)」

hasewo「(そう言う事だったのか。いや、何も無かったなら良いんだ。あ、そうそう。今出張で近くに来てるんだけど、オフしないか?)」


俺「(あんまり長く時間は取れないけど、それでも良いなら。日時は?)」

hasewo「(今度の日曜…って言うか明日の、午後6時から。場所はZ∀Z∀シティ前でOK?)」

俺「(OK、それじゃよろしく)」


明日は…朝6時から理央の研修だが、終了時間は夕方3時の予定。

移動時間と距離を考えても、余裕で間に合うだけの時間はある。

ネット上とは言え知らない仲では無いし、研修の後の予定も特には無い…ので、俺はその誘いに乗る事にした。


Ginrei「しかし、超能力ねぇ…僕はそんなの無くても良いと思うけどなー」

と、通常の会話に視線を戻した所で、丁度目に入る発言。

俺「そう言えば、Ginrei見るの久しぶりだよなー。人の事言えないけど」


Ginrei「こっちも同じく仕事で大忙しっすよ。はぁ…」

俺「お互い大変だよなー…まぁ、ネトゲの中でくらいゆっくりしようぜ」

Ginrei「そうだねぇ…ネトゲの中なら、上辺見るだけで済むし」


俺「上辺?そりゃまぁネットなんて、上辺だけって言えば上辺だけだけど…」

Ginrei「あぁいや、悪い意味で取らないで。ほら、リアルって上辺で本音を隠して、それを探り合って…正直面倒くさいでしょ?」

俺「まぁうん…」


それに関しては痛いほど良く判る。

俺もカレンの件でそれを痛い程思い知らされた。


Ginrei「それに対してネットって、上辺だけ…って言うか、上辺で接するのが前提だから」

俺「あぁ…そう言う事ね。何となく判るよ、重くも深くも無く…軽い感じで付き合えるのが、結局心地良いんだよな」


Ginrei「そう…ま、そういう事」

169: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 05:36:52.67 ID:5hxIfADko
●この声が聞こえたらアクセスして欲しい

理央「…………」

俺「………」

カレン「………」


そして理央の研修当日……場所は駅から少し離れた建物の、空中公園。

まずは改めて、お互いの自己紹介をする…と言う流れの筈なのだが………


俺「えーっと…理央………さん?とりあえず自己紹介を……」

理央「あ…あ、あの……わ、わた…私………」

理央「私……今日から研修で…あ、いえ。それより先に…組織に所属して、新人として……その、えっと…」


物凄い勢いでキョドってしまっている。


俺「よし、とりあえず落ち着け」


初めて顔を合わせた時も、少々言葉に拙い所が見て取れたが…今日はそれに輪をかけて言葉を詰まらせているようだ。

どうした物か…このままでは、先に進む事も侭ならない…と考えながら、携帯でスケジュールを確認した所で思い付く。


俺「『言葉が纏まらないなら、無理に流暢に喋ろうとしなくても大丈夫。まずは要点を箇条書きにして、順番に言葉にして』」

と、メールにして理央に送信する。

理央はそのメールを確認後、じっくりと読み始め…


理央「『ありがとうございます。まず私は理央、14歳です。次に組織に入ったばかりの新人です、今日からの研修を宜しくお願いします』」

すぐにその返信が俺の元に届いた。


俺「そうそう…じゃぁ今度はそれを見ながらでも良いから、ゆっくり声に出してみて」

カレン「え?何?どうなってるの?」

そして事態を飲み込む事が出来ないまま取り残されたカレンが、俺達に追い付くべく尋ねてくる。


俺「あぁ、理央が喋り易いように…」

と説明しようとする俺。だがそれを終えるよりも早く、理央が自分の携帯をカレンに見せ…

カレン「あ、成程…そう言う事ね」


判り易く事情を把握させてくれたようだ

170: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 05:41:25.70 ID:5hxIfADko
●多分同じだろうでも言葉にしよう物なら稚拙が極まれり

カレン「それにしても…よくこんな方法を考えたわね」

俺「考えたって言うか、昔やってた方法の応用かな」

カレン「どゆ事?」


俺「俺も…前は人と話するのが結構苦手でさ、言葉に詰まって中々上手く喋れなかったんだ」

カレン「あぁうん…コミュ障な所は初対面の頃もあったわね。会話が噛みあわなくてキャッチボールにならない事もあったし…」

俺「ズバっと言ってくれるなおい…んでもまぁ、あれでも結構改善した後なんだぞ」

カレン「そうなの?」


俺「前はもっと…それこそ今の理央よりも喋れなくて、必死に考えたんだ」

俺「何で上手く喋れないのか、言葉が纏まらないのか……んで自分なりの答えが、経験不足と焦り過ぎ」

俺「喋る内容よりも、まずとにかく喋って伝えないといけないって思いが先走って、相手に伝わる言葉にならなかったんだ」


カレン「あぁ…だから、まずは相手に伝え易いように、一旦言葉を書き留めて。そこから必要な事だけを喋るようにしたのね」

俺「そう言う事。書き留めとかないと、次の思考で前の言葉が塗り潰されて、どんどん斜め方向に会話が突っ走った物さ…」


遠い目をして、過ぎ去りし日を思い出す俺…と、それを見ながら携帯を操作する理央。


理央「えっと、私も…慣れれば……もっと、普通に喋れるように、なれますか?」

俺「あぁ、言葉の順番とか…何が重要で何が必要じゃ無いかに馴れてくればな」

理央の小さな口から紡がれる言葉は弱々しく、俺を見上げる瞳にも不安の色を残している。


俺はそんな理央を元気付けるべく、そっと頭に手を乗せ…ポンポンと、軽くその頭を撫でる。


理央「ぁ………」

瞼を伏せがちにしながらも、身体の強張りを解いて肩の力を抜く理央。

そして暫く携帯を見た後、また文字を打ち始め…


理央「ありがとうございました。お時間を取らせてしまい申し訳ありません。ですがもう大丈夫なので、研修を続けて下さい」


拙さを残しながらも、先のそれよりも大きな声で…理央が言葉を紡ぐ。

171: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 05:48:27.64 ID:5hxIfADko
●ぐるぐる今日も目が回るいつもの事気にして無いけど

ちなみに…研修と言うのは、主に要注意人物の把握と、対処法。街中に設置された組織の施設や機能の説明である。

時間の大半を移動や説明に費やしたので、そこは省略させて貰う。


俺「さて…予定よりも順調に進んだな。この分なら30分くらい早めに終わりそうだけど…」

携帯の時計を見ると、表示は14:15。後は空中公園に戻って解散するだけなのだが


俺「二人はこの後どうするんだ?俺はネトゲのギルメンとオフ会の予定だけど…」

…何となく気になったので、二人に今後の事を聞いてみた。


カレン「私はこの後また本部に戻って、溜まってた仕事をしようと思うわ」

理央「わ、私は…今日から借りる予定の、部屋に…」

携帯に手をかけるも、文字を打つ事無く返答する理央。その様子から、この短時間でかなりの進歩をした事が見て取れる。


俺「あぁ、そうか。理央は居住先が…」

理央はクリスマスの事件まで木戸譲二に操られて居た。


多分その間に使っていた住居もあったのだろうが、キングダムの息がかかっているかも知れない場所に置いておくのは得策では無い

…との理由から、組織の方で居住先を確保して、そこに住まう事になった…と言う事になっているのを思い出す。

そしてその入居予定日も今日、研修後と言う事になっていたのだろう。


カレン「私と同じマンションの予定だったわよね?ちゃんとカードキーは持って来てる?あれが無いと、入り口も部屋のドアも開かないわよ」

理央「は、はい…ちゃんとお財布の中に―――」

と、その財布を取り出そうとポケットに手を入れた所で固まる理央。


これは……


カレン「もしかして…財布落としたとか?」

理央「あ、はい………あ、でも大丈夫です。すぐに見付けられますから」

俺「見つけられるって…あぁ、もしかして理央の超能力でか?」


探し物を見つける方法として…普通に考えるのなら、発信機なりを連想する所なのだろうが…先ず最初に思い付いたのはそれだった。

うん、超能力のある日常に馴れてしまった自分がちょっと怖い。


理央「はい。あ、だったら…丁度良い機会なので説明と一緒にお見せします。その…目を閉じていて下さい」

理央から肯定の言葉を受け、促されるまま目を閉じる俺…と、恐らくだがカレン。


そして…次の瞬間。俺の手に何か、多分理央の手が触れ…閉じている筈の目に、筈かな光が映り始めた

172: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 05:55:46.62 ID:5hxIfADko
●瞳閉じれば君の謡うメロディ聞こえるはず

まず視界に現れたのは、理央のポケット。

ガサガサと紙が擦れるような音が響く中、ビデオの逆再生のように巻き戻って行くその光景。


空中公園に来る前…建物に来る直前の歩道橋。

俺達との会話の最中で、携帯を取り出す場面……

俺「あ…サイフがポケットに戻った。いや、逆再生だからここで落ちたのか」


と、呟いた所で…今度は歩道橋へと移る視界。

理央のポケットから落ちたサイフが、そのまま歩道橋の手すりにぶつかり…落下して行く

どうやら逆再生から通常再生へと戻ったらしい。


そして落下したサイフはと言うと………

理央「え…そんな……」

運悪く…木材を積んだトラックの荷台に落下する、理央のサイフ。


そこで視界は橋視点からサイフに視点に変わり…サイフからトラックに。

トラックは環状線へと入る道に進み………更に向かう先は、恐らく高速道路。


俺「参ったな…高速に入られたら追跡は容易じゃ無いぞ。理央の超能力は…」

理央「わ…私の超能力でも…離れすぎると………」

だ、そうだ。困ったな…遺憾な事ながら、お手上げのようだ。


カレン「仕方ないわね、今日の所は私の部屋に泊めてあげるわ。カードキーは再発行して貰いましょう?」

理央「あ………はい…………」

力無くカレンの言葉に答える理央。そりゃぁサイフを無くしたのだから当然と言えば当然なのだが…何故かその表情が気にかかる。


ちなみにカレンも俺と同じ感想を抱いたようで…俺に目配せして来た。


俺「なぁ…理央、もしかして、俺達に何か隠して無いか?」

示し合わせた訳では無いが、こう言う時に俺が使うようになった常套句。反射的に隠し事を思い描いてしまう、最大公倍数の質問を投げる俺。

そして間髪入れずに理央の肩に触れ、心を読むカレン。


………だが、その先に待っていたのは、俺もカレンも予想して居ない出来事だった。


理央「あ…駄目です!!」

173: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 06:02:41.16 ID:5hxIfADko
●止めて止して触らないでベイビー

カレン「――――――ッ……ッハ」

肺から空気を絞り出すような声と共に、勢い良く体を仰け反らすカレン。

膝が崩れて後頭部から地面に転がりそうになる所を、俺は慌てて受け止める。


俺「何だ!?一体何が起きた!?」

理央に悪意が無い事は判っている…だが声を抑え切れず、荒げてしまいながら問いかける。

理央「わ…わた…私の心を……読んだ…から………厳選…ろ過してない情報を読み取ったから…」


ガチガチと歯を鳴らし、身体中が痙攣するカレン。俺は右手でカレンの手を握り、左手は舌を噛まないようカレンに噛ませる。

カレンの歯は皮膚を破り、肉に食い込む。痛みが無いと言えば嘘になるが、痛みなんかよりもカレンの安否の方が気になる。

カレンの身に何があったのか…下手に何もしない方が良いのだろうか?どうすれば良いのだろうか?


様々な思案や憶測が駆け巡る中、ふと左手から離れるカレンの歯。

小さく開いた口からは弱々しい呼吸が零れ…虚ろだった瞳が俺の方を向く。


俺「大丈夫か?痛い所とか無いか?」

カレン「ゴメン…迷惑………かけ…ちゃって…でも…今はそれより…」

心配する俺を余所に、理央を睨み付けるカレン。


あんな目に逢わされたのだから、恨んで当然だろう…と一瞬考えるも、カレンの性格を考えてその可能性はすぐに消えた。

では何故こんな態度を取って居るのか…それを深く考えるよりも先に、カレンの口から言葉が飛び出した。


カレン「何で…諦めちゃってるのよ!」

理央「ひっ……そ、それは………私…の、不注意で……迷惑かける訳には…行かないから……」

カレン「他人への迷惑とか…気にして、諦められるような物じゃ……無いでしょ!?」


俺「えっと…状況が判らないから、説明して貰っても良いか?」

理央「それは…………」

カレン「理央が落とした財布の中に…カードキーよりも…もっとずっと大切な物が入っていたのよ。この世に一枚しか無い…お母さんの写真」


大分端折られては居るが、事態の深刻さを把握するには充分な単語だらけだった。

174: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 06:07:40.20 ID:5hxIfADko
●走れ走れコータロー本命穴馬掻き分けて

俺「成程な…んじゃぁ、絶対取り戻さないとな!理央、カレンの事は頼んだぞ!」

空中庭園の手すりに足をかけ、携帯を取り出しながら飛び降りる俺。

ちなみに…空中公園の丁度その下には駐輪場があり、ここに来るために使った俺の自転車が置いてある。


俺は鍵を外してペダルに足をかけながら…組織の担当に電話をかける。

俺「えっと…ちょっと特殊な状態で、車を一台…トラックを停車させたいんですけど、出来ますか?」

「状況次第で方法は変わりますが、可能です」


俺「よしっ!じゃぁ、ナンバーは………」

信号を無視して十字路を突っ切り、トラックの通った道をなぞるように駆け抜ける。

「対象車両の場所を確認しました、環状線を走行中です」


俺「じゃぁ…どうにかして、足止めをっ!」

「理由によって取れる手段が異なります。優先度は?」

俺「優先度は………A!!」


「優先度Aの作戦行動には実行コードが必要ですが…」

俺「あぁぁ、そうだった!じゃぁ優先度B!」

「優先度Bを単独で指示出来る権限が、貴方にはありません」


俺「じゃぁCで良いから頼むよ!!」

「優先度Cの場合、余り長い時間拘束する事は出来ませんが、宜しいですね?」

俺「何も無いよりずっとマシ!それじゃよろしく!!」


その叫び声を残して電話を切り、全力で自転車を漕ぐ。

足は痙攣を起こしかけ、肺の奥からは血の匂いがする…だが、休んでいる暇は無い。

事が起きてから、既に短くない時間が経過していて…その間に開いた距離を詰めるのは容易では無い。


漕いで…漕いで…漕いで………

ただひたすらに、間に合う事だけを祈りながら全力で突き進み―――

175: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 06:12:23.07 ID:5hxIfADko
●傷を負ってもライオンは強い

俺「そら…もう落とすなよ?」

理央「あ、ありがとう…ございます………で、でも…私、のせいで…こんな迷惑…」

俺「んー…まぁ。さすがに迷惑じゃぁ無いって行ったら嘘になるが…なぁ、カレン?」


カレン「良いのよ別に…迷惑かけたって。私達だって迷惑かける事あるんだから」

理央「でも…絶対私の方が…迷惑かける事が多くなるから」

カレン「だから…多いとか少ないとかじゃなくて…っ…!」


頭にアイスノンを乗せながら喋り、まだ収まらない頭痛に言葉を遮られるカレン。

美味しい所を持って行くようで悪いが、ここは俺が代弁させて貰う。


俺「回数なんか関係無しに、何か困って居たら助ける。助けて貰う…仲間だからそれで良いんだよ」

理央「ぁ………」


仲間…と言う言葉の所で声を漏らし、ボロボロと涙を零し始める理央。


とりあえず胸を貸して頭を撫でてやるが、理央の感情は暫く収まりそうには無い。

何とかしてこの空気を変えようと、話題を探す俺。

そして…真っ先に見付かったそれに言葉を向ける。


俺「そう言えば…理央の心を読んだ時、一体何があったんだ?」

カレン「私が知覚したのは、大きく分けで二つ…まず片方は理央のお母さんの写真」

俺「端折って伝えてくれたあれだよな?」

カレン「そう…で、問題はもう片方。あれは何て表現すれば良いのかしら……混沌?カオス?ケイオス?」


俺「いやそれ全部同じ意味だから。ってか、それじゃ全然判らないっての」

カレン「でも、そうとしか言いようが無いのよ。色んな声とか景色とか匂いとか味とか思考とか入り混じって…」

理央「わ、私も…上手く説明できませんけど……それ、私の能力です」


目尻に残った涙を拭いながら、辛うじてだが会話の輪に戻る理央。


カレン「原理は多分…テレパシーとサイコメトリーの複合。周囲の情報を無差別に収集してるんだと思うけど…」

理央「あ、はい。多分それです」

カレン「もしかして…四六時中ずっとあの状態なの?」

理央「………はい」


そしてカレンは理央の言葉に絶句し……再び頭を抱えるのであった。

176: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 06:15:16.22 ID:5hxIfADko
●限りない過ちを打ち砕くそれが使命さ

カレン「ゴメン…私、理央の事ADHDだと思ってた。でも実際は…あんな、あんなの生半可な精神じゃ無理…」

理央「え…そ、そんな。謝らないで下さい。あ…そうだ、仲間だったら気にしたり謝るような事じゃないですよね?」

カレン「理央……」


俺「一本取られたな、それじゃお互いに自虐タイムはここまでだ」

カレン「って、何でそこで貴方が仕切るのよ」


カレンの突っ込みに笑みを零す理央。

俺とカレンもその笑みが感染して、笑い合う。

と、そこで思い出す事が一つ


俺「あ、そう言えば…カードキーと写真は大丈夫か?取り戻す時にちょっと荒っぽい事になっちゃったから心配なんだが…」

理央「そ、そうですね…確認してみます」

カレン「まぁ、ちょっとくらい欠けてても、テープ部分が破損してなければ使えるわよ」


そしてサイフを開き…何だかんだで気になっていたのか、写真の方を取り出して確認する理央。

その笑顔から無事を確認出来て、俺からも安堵のため息が零れる。

だが、続いてカードーキーを取り出すと…


理央「………」

カレン「どうしたの?……あー……さすがにこれは無理ね」

俺「すまん」


カードキーは真っ二つに割れ、テープも切れていた。言うまでも無いが、これでは使い物にならない。


カレン「それじゃぁ、カードキーは再発行して貰うとして…今日の宿泊先は……」

理央「そ、そうですね…手持ちも心許ないので、ネットカフェにでも……」


俺「それは駄目だ!」

カレン「それはダメ!」

理央「えっ………」

177: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/25(木) 06:21:02.41 ID:5hxIfADko
●何でも一人で出来るって強がるだけ強がってもね

カレン「ちゃんとベッドで寝ないと疲れも取れないし、お風呂も入れないじゃない」

理央「あ、でも最近のネットカフェはシャワーも……」

俺「と言うか…ネカフェ泊なんてのは、危険を物ともしない野郎だから出来る蛮行なんだ。理央みたいな可愛い子がネカフェ泊なんかしたら危ないだろう」


カレン「悪い男に捕まったら、そのままお持ち帰りされ兼ねないわね…」

俺「そう…通りすがりのxxx犯なんかが、偶然を装って甘い言葉で近付いてきたりしたら…」

ちなみにこの会話は特定の人物の事を指しているが、プライバシー保護ためあえて名前を伏せさせて貰う。


理央「え?…え?」

カレン「と言う訳で…カードキーを壊した罰として、コイツの部屋に理央を泊めるのが順当な所なんだろうけど…」

理央「は、はひっ!?」


カレン「さすがにそれは、猛獣の檻の中に子兎を放り込むような物だから無しね」

理央「え、えっと…」

カレン「コイツの事だから…そうね。理央にネコミミでも付けさせて、お兄ちゃんとか呼ばせかねないわ」

俺「いや、確かにそれはさせてみたいけど。実行するだけの勇気は無い!」


カレン「…………」

理央「…………」

しまった、声に出してしまった。カレンから突き刺さる視線と、理央から向けられる心配の視線が物凄く痛い。


カレン「と言う訳でやっぱり…最初に言った通り。理央は今夜、私の部屋に泊まって貰うわね」

理央「え、あ…でも………」

俺「気を付けろ理央…カレンはお前を取って食う気だ!」


仕返しとばかりに放った冗談に対し、カウンターで顔面に打ち込まれるカレンの拳。


カレン「この馬鹿のセリフはスルーして。あと、遠慮は無し。私達は仲間でしょ?」

理央「ずるいです…そう言われたら断れません」


俺の身を挺したジョークのおかげもあり、一件落着………そう思い、気を緩める。

だが俺は忘れて居た………俺の役目はまだ終わって居なかった事を、この先に待っている出来事の事を。


理央「あ、そう言えば………その、オフ会…ネットゲームの………」


そう、すっかり忘れていた。オフ会の待ち合わせを!


俺「……やべぇ!んじゃ解散!俺は先に帰るから、二人共気を付けて帰るんだぞ!?」

時間は既に18:15…現時点でも15分の遅刻。


俺はまた、慌てて空中公園から飛び降り…待ち合わせ場所へと向かうのだった。

185: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/30(火) 05:39:05.53 ID:p4PQhL0Bo
●そこの誰かさん準備そろそろOK?

Z∀Z∀シティ前駐輪所……オフ会の集まりと思われるような人だかりは無く、携帯を弄る独り身の男女が数人居るだけ。

俺は思い出したようにhasewoにメールを送り、返信を待つ…が、返信は無い。

携帯の時計を見ると、時間は18:30。現時点で30分の遅刻…待っていると考える方が難しいだろう。


…もう帰るべきか、後でログインして侘びを入れないとな。そんな事を考えて居ると……


「あー、違ってたら悪いんだけど…」

後ろから、聞き覚えない声をかけられた。


相手は…野球帽を被り、上半身はオレンジのパーカー、下半身はブラウンのジーンズという恰好の青年。

声は高く、身長は俺よりも少し低い…何と言うか、微妙に不審者っぽい感じの男だった。

警戒する俺…だがそれと同時に沸き出た心当たりを、言葉にして相手に放つ。


俺「ん?あー…もしかして、hasewo?」

hasewo「そうそう俺俺、やっぱお前か。いやぁ、辺りを見回して何か探してる不審者が居たから、まさかって思ってな」

俺「いや、不審者って件ではお前にとやかく言われる筋合いは無い。ってか、何で返信くれなかったんだよ」


hasewo「悪ぃ悪ぃ、携帯のバッテリー切れちまって。って言うかお前こそ無断で30分も遅刻してんじゃねーよ。ま、遅刻の連絡あっても見れなかったけどな」

と言って帽子をずらし、不機嫌そうに頬を膨らませて見せるhasewo

俺「あー…その件は悪い。ちょっと急用が入ってな…それ終わらせてたら遅れちまった。hasewoは何時から待ってたんだ?ってか他の皆は?」


hasewo「俺はきっかり6時から。あとリアルでその名前で呼ばれるのはアレだし、空って呼んでくれ。ってか、他の皆って何の事だ?」

俺「えっと、じゃぁ…そ、空…いやほら、オフ会の他の面子も来てるんじゃないのか?」

空「いや、オフ会参加者は俺とお前だけだぞ?」


俺「………って、サシオフかよ!皆に迷惑かけてるんじゃないかって心配してた俺の心配を返せ!」

空「あぁうん、サシオフとも言う。ってか、実際に俺に迷惑かけてるんだからそこは返す必要無いだろ!」

俺「一理在る」

空「いや、一理どころか全部だ!!くっそ、こうなったら埋め合わせでオールナイトで付き合って貰うぞ」


と…言い合いにも似たやり取りを交わしながらも、あれやこれやでサクサクと進む会話。

俺達はそのまま歩き出し、ネトゲの他愛無い話に花を咲かせて行く。


俺「なっ…マジか!?エクスカリバー拾ったのか!?あのHPSP回復二倍の聖属性最強の剣を!?」

空「マジでマジ。何なら今度貸してやろうか?」

俺「うおぉぉぉぉ、テンション上がってきた!!!」


ちなみにオフ会の内容は…

ゲーセンに行ったりショートカラオケをしたり、飯を食いに行ったりと至って普通の物だった。


そして…・・・街中をネオンやら街灯やらの明かりが照らし出し、人通りも少なくなって来た頃…俺は、空の事で一つの疑問が浮びかけていた。

186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/30(火) 05:41:36.95 ID:p4PQhL0Bo
●偶然が幾つも重なり合って貴方と出会って

まず考えるべきは、確率論だろうか…それとも、フラグ理論だろうか?

物語があれば、一人は登場するだろうというお約束キャラ…

ただそのキャラクターの登場は既に果たしており、言わば消化済みの状態だ。


そう…俺の予感が当たるのならば、消化後に再びそれを味わわせ、暴満感を与える結果にしかならない筈。

俺は、空に向かって恐る恐るながらもそれを切り出す。


俺「なぁ空…俺、確認しときたい事があるんだが」

空「奇遇だな、俺もお前に確認しときたい事があったんだ」


そう言って俺達は立ち止まり、互いの顔を見合わせる。


空「まぁ…ここだと人目もあるし、ちょっとあっちで話すか」

そして促された先は、照明が一つも無い路地裏。大通りから漏れた光が、辛うじて俺達二人の存在を照らしている。


空「んじゃ、お前から。確認しときたい事って何だ?」

俺「それは……言い辛い事なんだが」

空「何だよ、遠慮するような仲じゃ無ぇだろ?」


俺「じゃぁ聞くけどよ…お前…男だよな?」

空「…………」

そして訪れる沈黙。


沈黙……それを破るように空が俺の手を取り、引き寄せる。

空「お前なぁ………いや、何ってーか…ずっとそんな疑問を持たれてたかと思うと、もの凄い腹が立つな」

そして俺の手を、空は…自分の胸に押し当てる。


掌に伝わる、柔らかい感触…僅かに膨らみと感じられるそれを理解すると同時に、俺の体が強張る。

空「あ!あるのか無いのか判らないから判別し辛いって思ってるだろ。だったらこれでどうだ?」

パーカーを捲くり上げ、今度はその中へと誘われる俺の手。


そして俺の手に吸い付いて来るのは、マウスパッドのような柔らかい感触。

空「おい………何で未だにノーリアクションなんだよ。お前がそんな態度取るんなら、こっちにだって考えがあるぞ?」


ちなみにノーリアクションなのは、初めての  に思考がフリーズしているからである。

しかし空はそんな俺を余所に、ベルトを外し…俺の手をジーンズの………

俺「って、それはさすがにダメだろ!?」


中に入れようとした所で、空の手を跳ね退ける。

188: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/30(火) 05:47:32.27 ID:p4PQhL0Bo
●欲張りな愛と夢を叶えよう

空「何だよ…お前が変な事言うから、それを確認させてやろうって言ってるだけだってのによぉ」

俺「俺が悪かった!もう確認は充分だから落ち着け!!」

空「んー……そいつは無理だな、スイッチ入った。俺…普段はレ 専なんだけど、お前なら………」


俺なら何だって言うんだよ!いや…聞いてみたい気もするけど、聞くのが怖い。

と、戸惑っている内に…ジッパーへと掛かる空の指。


バクバクと騒音を奏でる心臓に意識を乱される中…不意に空が顔を近付け

空「そうそう…俺からお前に確認しときたい事…まだ聞いてなかったよな」

俺「そ…そうだ!一体何なんだ!?」


キョドってどもってしどろもどろで質問を返す俺。だが…その意識は、空の次の一言でクリアかつ鮮明になって引き戻される。


空「なぁ…お前、こっち…キングダム側に来る気無いか?」


俺「………は?」


空「大丈夫…お前は絶対こっち側の人間だって、こっちに居る方がお前にとっても居心地良と思うぜ?」


俺「いや…空、お前一体何を言って………え?キングダム?お前が?」

空「そう、俺はキングダムのミラ・イソラ…安心しな、お前を取って食おうって訳じゃねぇよ。ただ勧誘してるだけだからよ」


いや、別の意味で食われそうではあるんだが…と、突っ込みを入れている暇は無い。

長年ギルメンとして連れ添ったhasewoが実は女で…更にキングダムの構成員?もう突っ込みするどころか理解が追い付かない。

だが…一つだけ確実に返せる言葉がある。


俺「それは無理だ…カレンの両親を殺した組織に入る事なんて出来ない!」

空「あー…あの件な、まぁあの件は仕方ない。不幸な事故と方向性の不一致だ」

俺「仕方ないなんかで済ませられるのかよ!人を殺したんだぞ!?」


事も無げに言う空に対し、段々と怒りの感情が込み上げて来る。そしてそれを爆発させ、空に向けて放つのだが…

189: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/30(火) 05:53:05.68 ID:p4PQhL0Bo
●止まらない未来を目指してゆずれない願いを抱きしめて

空「いや、それ言うならお前だって殺してんじゃんか」

俺「…え?」

空「仕方なくだったんだろ?自分の命を守るためだったり、誰かを守るためだったり…自分の地位や利益を守るために仕方無く俺達の仲間を殺したんだろ?」


嫌な感覚と共に、心臓が跳ねるように脈動する


空「なぁ…もしかして、敵は人間じゃ無いとか思ってるんじゃ無いだろうなぁ?あいつらにだって家族や仲間が居た…ちゃんと人間だったんだぜ?」

俺「そ…それは……」

何か言い返さなければいけない…言い返さなければ飲み込まれてしまう。それを理解しながらも、言葉が出て来ない。


空「言われて気付いて…いや、改めて言及されて怖くなったか?でもな、それで良いんだ…そうやって怯えられる心があるなら、俺達の仲間に相応しい」

俺「何だよそれ…どう言う……」

空「組織から聞いて無いのか?簡単に言うと…俺達は弱者の集団だ。弱者の弱者による弱者のための世界を作るための革命軍だ。なぁ…お前なら理解出来るだろ?」


理解出来ないと言えば大嘘になる。弱者である事は嫌と言う程身に染みて理解している。

だが…だからこそ、その考えが破綻している事も判る。


俺「悪い…やっぱキングダム側にはなれない」

空「そっか…まぁ、気が変わったら言ってくれ。俺達はいつでもお前を歓迎するぜ」


拒絶を受け入れ、一旦は諦めを見せる空。だが…俺の中に湧き上がる警戒心は、緊張を解こうとしない。


俺「ってかよ………お前達、キングダムの奴等ってどうしてそうお喋りなんだ?そんなにホイホイ情報を出して、口止めとか考えないのか?」

空「あぁ、それな?構成員の中に、便利な超能力を使える奴が居て…そいつの力があれば、部分的に………」

俺「いや、そいつは…もしかして木戸譲二か?」


空「あぁ、やっぱり知ってるんだな。途中で逃げ帰ったってのは嘘か…いや、カレンって子から聞いた可能性もあるか」

俺「でも、木戸譲二はもう死んでるんだぞ?どうやって……」

と…零した所で失言に気付く俺。


俺の言葉を聞いた空も呆気に取られ、信じられない物を見るような目で俺を見る。

空「…………はぁっ!?死んだ!?あのジョージが!?」

あぁ……これは完全に失敗だ。多分致命的な選択肢間違いをしてしまったらしい。

190: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/30(火) 05:55:42.33 ID:p4PQhL0Bo
●ハテナのブーメラン飛んで行け

空「あのジョージだぞ!?のらりくらりと危機を避けて、殺しても殺しきれずに後でひょっこり現れるジョージだぞ?!」

俺「いや、俺はその辺り良く知らないんだが…」

空「いやでも待てよ?それが本当なら…ジョージを殺せるだけの能力を持ってるヤツが居て………」


何かに気付いたように目を見開き、俺を直視する空。

そしてその視線の意味を理解した俺は、次の瞬間には危機を察知する。


空「あーあ…くっそ………もうちょっと考える時間やって、じっくり和解したかったんだけどなぁ」

俺「いや…その、何だ。とりあえず落ち着け」

空「心配すんな、落ち着いてるよ。それより…急で悪いが今決断してくれ。俺達の仲間になるか、今ここで死ぬか…」

パーカーのジッパーを下ろし、素肌を晒しながら問う空。


俺「いやいやいや、他にも選択肢はあるだろ!?お互い情報を漏らして痛み分けとか!お互い報告せずに黙っとくとか!」

空「悪いがそれは出来ねぇなぁ。そっちの組織にも居るだろ?記憶を読む奴」

ヒュン…ヒュン…と、どこからとも無く、風を切るような音が聞こえ始める。


俺「だったら…お互い報告に戻らず、どっかに隠れるとか!殺さないにしても行動不能にして時間を稼ぐとか……」

迂闊!言い終えた所で、またも自らの失言に気付く。


空「あぁ…それならまぁアリっちゃぁアリか。んじゃぁ…ちょっと痛くするけど我慢してくれよ?」

ヒュンヒュンヒュンヒュンと、ヘリコプターのような音と共に吹き荒れる風。

そして空の近くにあった壁が、ジッ!と削がれるような音と共に削り取られる。


何が起きているのか判らない…だがとてつもなく危険な物が俺に迫っている。


空「あぁ…ついでだから教えといてやるよ。俺の能力名はソーサー=ソーサ…皿状の金属をサイコキネシスで飛び回らせる超能力だ」

俺「いやいや、聞きたく無いから!これ以上背水の陣になるのやめようぜ!?」

空「おっと動くなよ?うっかり直撃しちまったら、怪我程度じゃ済まねぇぞ」


駄目だ、全然聞いて居ない。ヤバい…とてつも無くヤバい。

191: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/30(火) 05:58:53.44 ID:p4PQhL0Bo
●目覚めた瞬間廻りはじめるプリズム

空「あー…そうそう…護衛の奴等なら来られ無ぇからな?金色の竜も今は手が離せ無ぇ筈だぜ?」

空の言葉はもう滅茶苦茶で支離滅裂で意味不明…前後の脈絡も無く、何を言っているのか訳が判らない。

更には、唐突に駅の方を指差し………


俺「―――!?」

空の指差した方角…駅ビルの周辺。間に聳え立つビルの隙間から覗く爆炎…それに続いて響き渡る爆発音。

何が起きているのか………いや、原因やら経緯やらを考えるよりも、結果を見ればそれは単純明快だ。


俺「爆破テロ…だとっ?まさか…俺を引き込むために…」


空「いや、それは流石に無ぇよ。どっちかってーと、俺があっちの作戦に乗っかっただけ」

俺「ありゃ?…そうなのか」

少し恥ずかしい勘違いをしてしまったようだ………って、そう言う問題じゃ無い!


俺「俺も早く行―――」

空「行かせると思うか?」

俺「………だよなぁ!!!」


空「おぉ?ヤる気になって来たみたいじゃねぇか!!良いねぇ良いねぇ、無抵抗の奴をヤるより興奮するぜ!」

俺「滾ってる所を悪いが、タラタラしてもいられ無いんでな。速攻で決着つけさせて貰うぞ!!」


お互いの視線が交差し、火花が散る。


空は腕を大きく広げ、金属盤で周囲のありとあらゆる物を削りながら突進してくる。

対する俺は、ゆっくりと瞼を閉じ…額を手に宛てながら、目を見開く。


指の隙間から捕らえるのは空の姿。


勝負は一瞬……


―――そう……一瞬で決着がついた

192: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/30(火) 06:05:27.71 ID:p4PQhL0Bo
●すぐヒビ割れる未来のために

空「いやまぁ………そもそも誘った理由が、弱者仲間だったからって事で…判っちゃぁ居たんだが………流石に弱すぎじゃね?」

俺「……………」

情けなく地面に突っ伏す俺…一瞬の間に何があったか説明しよう。


まず空の金属盤が俺の足を掠め、大腿骨骨折と同時に重度の打撲傷。

慌てて空が勢いを殺すも、金属盤はそのまま俺の全身をボコボコに打ちのめし……今に到る。

ちなみに………女の子は爆散させられなかったよ。空には勝てなかったよ………


空「俺はてっきり、お前がジョージを殺した張本人じゃ無いかって思ったんだが…とんだ的外れだったか」

俺「………」

命中しているけれども、下手な事は言わないで置こう。どう転んでも良い方向には行かない気がする。


空「あー…その何だ、安心しな。さっきの爆発はほんのデモンストレーションだ。金色の竜がちゃんと仕事してりゃぁ、何も問題無ぇから」

俺「………は?」

空「今な、色んな所に仕掛けた爆弾をあんな感じで爆破して組織の奴等を誘き出してんだわ。んで…正規の処理班は他の所に優先で出払ってる筈だから…」


俺「黄色先輩がそこに駆り出されてる筈…って訳か。わざわざそんな事して、一体何が目的なんだ!」

空「そりゃぁ勿論………っと…いけねぇ、さすがにこれは喋る訳にはいかねぇな」


あれだけお喋りだった空が、その口を噤む程の内容。底知れぬ物を感じながらも、言及する事すら出来ない事に歯痒さを感じすには居られない。


空「さて……それじゃぁ約束通り拉致らせて貰うとすっか。なぁに心配すんな、優しくしてやっからよ」

そう宣言して俺に歩み寄る空………逃げようにも、俺の身体はまともに動かない。

とりえず今この場所で殺される事は無さそうだが、身の安全まで保障されている訳では無い…つまり、実質上の詰みだ。


何か出来る事が無いか…電話で…駄目だ指の一本も動かない。

焦りと恐怖心が入り混じる俺を余所に、空の手が俺の襟へと伸び………


何故かその手を引っ込めた。

193: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/30(火) 06:12:15.42 ID:p4PQhL0Bo
●いまのボクたちマニュアルどおりにゃいかないぜ

一体何が起こったのだろうか?それを確認すべく顔を上げると……

空の視線は俺では無く別の方に向いている。


空「おいおい冗談だろ…爆弾放ったらかしにしてこっちに来たってのか?」

俺の遥か後方…闇夜の中に向けて語りかける空


「いいや、ちゃぁんと全部ぶっ潰してから来たぜ」

虚空から聞こえるのは。どこか覚えのある声。


空「は?嘘だろ?あれだけの数の爆弾を、全部見つけ出して処理して来たってのか?この短時間でそんな事出来る筈が…!」

「まぁ、一つ一つ一々駆除してたら日が暮れちまうわなぁ」

いや、もうとっくに暮れている…と言う突っ込みは野暮だろうか?


空「だったら……」

黄色「だから…ビルごとまとめてぶっ潰して来た!」

空「なっ―――」


そして…万を持して登場とばかりに姿を現す黄色先輩。正直勿体を付け過ぎな気もするが、そんな贅沢を言える立場では無いのが悲しい所。


俺「………って、ビルごとっ!?」

黄色「あー…勿論客が全員非難してからだぞ?」

俺「あぁ、それなら…って良いのか?本当にそれで良いんだろうか…?」


空「さすがは金色の竜……常識が通じねぇなぁオイ」

全く以って同感である。


黄色「ってか…そこの手前ぇ。手前ぇに一言、言っとく事がある。重要な事だから耳の穴かっぽじってよぉく聞きやがれ」

空「ほう…金色の竜から俺にか。そりゃぁ光栄だな……んで、一体何だ?」


黄色「手前ぇ、喋り方が俺と被ってんだよ!今すぐ変えやがれ!」

―――今更突っ込むのも何だが、何とも理不尽な言いがかりである。

197: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/02(木) 05:41:17.76 ID:z7oZ/Q8Wo
●ダダダダダーンと弾が降るババババーンと破裂する

空「生憎と…生まれてこの方、この喋り方以外は知らないんでね。そりゃぁ聞けねぇ話だ」

黄色「だったら…今すぐ俺の目の前から消えて無くなりな。いや…今回に関しては、大人しく捕まれって言っとく所か?」

空「はっ、捕まえたけりゃぁ俺を倒して力づくで捕まえてみな」


空は強気な口調で啖呵を切るも、表情には余裕が無い。

味方として一緒に居る時はピンと来ないが、実は黄色先輩は凄い人なんじゃないだろうか?という錯覚さえ感じてしまう。


黄色「教えといてやんよ…その台詞を吐いて、俺に捕まらなかった女は居ねぇ!そら、レディーファーストだ。先に仕掛けて来な」

空「はん、大した余裕じゃねぇか…吠え面かいても知らねぇぞ!」

売り言葉に買い言葉…そして支払われたのは空の金属盤。

ものの数秒の間に加速を終えたそれは、弧を描いて頭上から黄色先輩に襲いかかる。


俺「避け―――」

反射的に声を上げる俺。だが…俺の言葉など必要とされては無かった。

一瞬だけ周囲を照らす程の閃光を放ち、弾き飛ばされる金属盤。


黄色先輩の能力だろうか…一瞬だけそう考えるも、その愚考はすぐに目の前の光景に否定された。


左手に逆手でナイフを持つ黄色先輩………その光景はこう語っている。

俺「なっ……まさかっ……あれを…」

空「弾いた…ってのか…!?」


黄色「別に驚くよーな事じゃぇ無ぇだろ。ってか、まさかこれで終わりじゃ無ぇだろーなぁ?」


空「っ……だったら、これでどうだぁぁぁぁ!!!」

肌蹴たパーカーの下から次々に現れる金属盤。それらの全てが別々の角度で円を描き、空を包み込む。


空「これだけの数のソーサーを…果たして……」


が……その言葉を最後まで語る事すら待たず、今度は右手に銃を持って発砲する黄色先輩。

バァン!とお決まりの銃声が聞こえたかと思えば、今度はガガガガと何か硬い物が連続してぶつかる音。

………跳弾だ。


何と言う事だろう、あれだけ在った空の金属盤が、黄色先輩の鉛球一発により全て撃ち落されてしまったではないか。

198: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/02(木) 05:43:33.31 ID:z7oZ/Q8Wo
●今君の目にいっぱいの未来

空「な…何なんだこのバケモノは!?これが金色の竜の能力なのか?!」

黄色「いや…勘違いしてるみてーだが、俺は能力なんざ使って無ぇぞ?こんくれーなら、使うまでも無ぇよ」

空「は………?」


空の顔に浮ぶ絶望の表情…まぁ無理は無い、俺も同じ立場だったら絶望していただろう。


黄色「んじゃ……そろそろ力付くを執行させて貰うとすっかなぁ?」

もの凄く下衆じみた笑みを浮べながら宣言する黄色先輩…

対する空は、何とかしてそれに抗おうと…恐らくは最後の一つであろう金属盤を黄色先輩に向けて放つ。


が…案の定、その金属盤もあしらわれてしまう。


黄色先輩のナイフに弾かれ、流線型の曲線を描きながら後方へ…

後方?

そう………黄色先輩の後方と言えば、その先にある物は言うまでも無い。


あ、ヤバい………これは死ぬ。

スローモーションになった景色の中、俺に向けて迫り来る金属盤。


空も黄色先輩も、この事に気付いている様子は無い。おまけに周囲に人の気配も無い………

即ち…俺を助けてくれる存在は今この場に存在しない。


回避…身体中が満身創痍で動かない。尤も、動けたとして回避出来る気がしない。

爆散…いや、こんな物をどうやって爆散させる?

我ながら、何て応用の効かないピーキーな超能力を持って居るのやら…


黄色先輩並の反則的な能力じゃなくても良い、せめてもっとこう…例えばあいつの―――


と………考えている内に、もう金属盤はすぐ目の前に来て居る。


俺は死ぬのか?


嫌だ!死にたくない!!


心の中でそう叫んだ、次の瞬間―――

199: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/02(木) 05:45:47.09 ID:z7oZ/Q8Wo
●悔しさを堪えて蹴り上げた石ころ跳ね返ればダイヤモンドにもなる

ガキンッ!! ―――と、鈍く硬い音が周囲に響き渡り、俺を撃ち抜く筈だった金属盤が弾き返される。

そして、その金属盤の向かった先に目を向けると………

空「ぐっ……がっ………!!」


その先にあったのは、腹部を赤く染めた空の姿だった。


空「はぁ…っ!?…ちょっ…おま、それ………マイケルの……」

空は言葉を紡ぎ終えるよりも先に体勢を崩し、前のめりになって地面に倒れ込む。

そして口からは、言葉の替わりに血反吐を吐き出し…


空「…―――!!」

それはもはや言葉どころか声にすらなって居なかった。


黄色「お前………」

何か聞きたそうに問いを紡ぐも、俺の様子を見てそれを止める黄色先輩。

俺自身にも何が起きたのかサッパリ訳が判らないし、それが顔にも出ているようだ。


俺はその困惑の解を求め、黄色先輩に顔を向けるが…

黄色「いや、俺に聞かれても判る訳無ぇだろ」

案の定…予想通りの言葉が返って来るだけだった。


あぁ…ここでこれ以上考えても仕方が無い。次に何をするべきなのかを考えなければいけない。

と…思考の志向を整えると、視線は自然と空の方へと吸い寄せられて行く。


腹部と口…その双方から流れ出した血の量は、決して少なくは無く…

このまま誰かが何もしなくても、その命の灯火はじきに消え去ってしまう…そんな状態だと言う事が見て判る。


黄色「さぁて…コイツはどーする?何なら俺が一思いに…」


俺「……いえ、その。すみません……コイツ…空は俺の友達なんです。だから………」

黄色「そっか…んなら俺はこれ以上口出ししねーわ」

と言って、アスファルトの地面にナイフを突き刺す黄色先輩。


俺「………ありがとうございます」


黄色「んじゃ、俺はここでもう帰る。組織の方には俺から上手く言っといてやるよ」

俺「はい…お手数おかけしました」

黄色「あぁ…そーそー…」

俺「どうしました?」


黄色「お前がどう転ぶにしても…顔だけは、また見せに来いよ?」

201: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/13(月) 05:50:44.32 ID:0LtRqCHUo
○どうしようも無く落ち着かない夜何もかも投げ出したくなる

総統「それで…今回の被害は?」

零那「負傷者24名、行方不明者3名、死者1名。Lv4データファイルの一部と、Lv3データファイルがキングダムの手に渡りました」

総統「被害甚大だな………召集されなかった非戦闘要員に被害は?」


零那「ありません。略式ではありますが被害と安否の確認も完了しています」

総統「さすがのお手並みだね」

零那「お褒めに預かり光栄です」


総統「さて…Lv4データファイルは一部と言って居たけれど、具体的には?」

零那「キングダムに関して我々が持って居る情報と、現日本政府のシ-クレットファイル。それと…」

総統「それと?」


零那「つい先日、Lv3から移動したばかりの…リア充爆散能力者のファイルです」


総統「…………何て事だ…キングダムの連中が、彼の事を嗅ぎ付けてしまったか」

零那「むしろ、そのファイルが囮となったお陰で、Lv5データファイルにまで手が回らなかった。そう考えれば宜しいかと…」

総統「…ポジティブだね」


零那「しかし、Lv5データファイルの中身とは一体何なのですか?」

総統「おっと、それはいくら君にも教える事は出来ない」

零那「そこまでひた隠しにする情報…むしろ興味が湧いて来ますね」


総統「君はパンドラの箱と言う物を…まぁ、知っているだろうね」

零那「当然です。一般教養レベルのトリビアでドヤ顔が出来ると思わないで下さい」

総統「ま、まぁつまり……そう言う類の代物なんだよ。あれが開かれれば、私も君も…全ての存在が危ぶまれる程のね」


零那「………そこまで行くと、逆に胡散臭いですね」

202: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/13(月) 06:02:12.26 ID:0LtRqCHUo
○暗闇はパラダイス毒入りバケーション

「成程…これが今回の襲撃の成果って訳だ。って、おぉ!?なぁマリオ、見てみろよ。面白い物が載ってるぜ?」

マリオ「………」

「ケッ、相変わらず愛想の無い奴だ」


「あらぁん、彼はそこが魅力的なんだから良いじゃなぁい。マークも見習ったら?」

マーク「エリー!何時から居やがった!?はん、そんなのまっぴらゴメンだな。俺は俺でこのスタイルを貫くぜ」

エリー「ところで何それ?あぁら、組織の新人の子のデータファイル?見た所普通の子っぽいけど…」

マーク「…ところがどっこい、能力欄の所を見てみな?」

エリー「どぉれどれ?って…えぇっ!?リア充爆散って……嘘でしょう!?」


マーク「まぁ、信じられ無いよな。それでも、それだけなら単なる偶然とも考えられたんだが…これも見てみろよ」

エリー「無関係…ってぇ訳じゃぁ無さそうねぇ」

マーク「あぁ…」


エリー「組織に入った、リア充爆散能力の子と…」

マーク「2年前に殺された、俺達の仲間…リア充爆散能力の、アシッド…」


エリー「組織内でも一括りに考えられて、同じファイルに纏められて居た訳だからぁ、まず無関係とは考えられないわよねぇ?」

マーク「しかもこれがLv4データファイルの中身となれば…」

エリー「なぁにそれ、真っ黒じゃない。ブラックじゃない」


マーク「断言するぜ…コイツは間違い無く、でっかい秘密の鍵を握ってやがる」

203: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/13(月) 06:09:22.31 ID:0LtRqCHUo
○新しいステップで素直になればいい

カレン「はい、判りました。一応私達も警戒しておきます」

理央「組織からの…通達…ですよね?何でした?」

カレン「この付近でテロがあって、組織と幾つかの建物が襲われたみたい」


理央「えっ…それなら私達も応援に………」

カレン「行ってもあまり意味は無いわよ。足手まといになるだけだし、第一連絡もただの事後報告だもの」


理央「……」

カレン「………」


理央「それじゃ…先輩は…?」

カレン「黄色先輩?あぁ…じゃなくて、アイツの事ね。骨折と打撲だけで、命に別状は無いらしいわよ」

理央「骨折と打撲で…だけ、だけって…大丈夫なん…ですか?」


カレン「アイツにしてみれば日常茶飯事みたいな物だもの、心配するだけ気遣いの無駄よ」

理央「カレン先輩…先輩の事、よく判ってるんですね」

カレン「え?そんな…………いえ、えぇ、そうね」


理央「………」

カレン「………」


理央「カレン先輩」

カレン「何?」


理央「私…カレン先輩達が先輩にしてる事………反対ですから」

カレン「それをどこで…って言うのもまぁ、今更ね」


理央「カレン先輩は間違っています」

カレン「そんな事、私が一番判ってるわよ」

理央「いいえ、判っている振りをしているだけで判って居ません」


カレン「そんな事………」

理央「とにかく…私は反対です。それでは、お休みなさい」

204: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/13(月) 06:10:23.59 ID:0LtRqCHUo
◎誰かが捨ててしまった昨日を拾い上げ


こうして…其々の夜は明け、次の朝へと旅立って行く。

ある者は希望を…ある者は絶望を目指し


昨日に………背を向けて


  リア充爆散しろ シーズン1 ―完―

206: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/13(月) 06:26:59.70 ID:0LtRqCHUo
―はっ夢か―

●―――

『さ~ゆけ われら~♪ニンニン――』

空「なぁ、ボンバーマンの単行本取ってくれよ」

テレビから流れる歌をBGMにして…遠慮のえの時も無く、俺に指示を飛ばす空


俺「爆外伝か?それならそこのRPGマガジンの下に…」

空「いや、これこれ」

『おのれ…だが貴様らの命運もここまでだ!今日は助っ人を呼んである!出でよ、ニンニンジャースレイヤーさん』


そう言って空が開いて見せた単行本は…

俺「って、それはボンバーマンじゃねぇ!!!ダイナマンだ!!」

『ドーモ、ニンニンジャー=サン、ニンニンジャースレイヤーです』


空「ダイナマンはスーパーヒーロー戦隊だろ?ってかこれ爆弾持ってるしどう見ても…」

俺「今更遅いが、そこは大人の事情だ!深く突っ込むな!ってか、表紙にも書いてあるだろ!」

空「いや…そもそも表紙にはパッパラ隊って書いてあるぞ?さっきは惑星のさみだれだと思ったらジパングが入ってたし…」


と言って一旦単行本を閉じ、表紙を見せる空。

迂闊…俺とした事が、カバーを間違えて付けて居たようだ。追求する空の瞳に慈悲は無い!

あぁ…そう言えば以前にも、ヤプーにアランイヤンナイトのカバーを付けてしまっていた事があったな…なんて事を思い出す。


空「っと…そー言や、今日ってHEROSの返却日じゃ無ぇのか?」

俺「ぜんっぜん関係無い思い出し方したな、今」

空「良いだろ別に。あ、勿論続き借りて来るんだろうな?一気に見れそうだから、残り全部借りて来てくれよ」


俺「お前なぁ………たまには外に出て自分で―――」

空「いや、俺って表向きは死んだ事になってんだろ?ウッカリどっちかの知り合いに見付かっても良いのか?」

その確率は極めて低いが、無いと言いきれない以上は反論出来ない。と言うかウッカリマンの単行本を持ちながら言うな。


ともあれ…伝家の宝刀を抜かれた俺は、渋々ながらもDVDを返却袋に詰め始める。


空「それで………な?今更なんだがよ」

俺「どうした?」

空「その………あ――――――――――――」

『『『『『『『ワッショイ!!』』』』』』』


テレビの大音量に食われる空の言葉…だがその言葉は、確かに俺の耳に届いた


俺「気にすんな、俺がそうしたくてやった事だからな」

207: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/13(月) 06:39:24.36 ID:0LtRqCHUo
●×××

俺「さて…後は空に頼まれた散人左道とエンジュエルお悩み相談所とぴよぴよとげこげことでろでろと………」

ビデオ返却&レンタルを終え、その帰りに訪れた何軒目かの書店。

最近、本屋が少なくなったな…何て事を考えながら、先に言葉にした通り、空に頼まれた本の在り処を探す俺。


新刊では無いから、本屋には余り置いて居ない。大人しく古本屋に行けばまず置いてあるし、新品よりも幾らか安く手に入る…そんな分類の本。

だが…中古で買ってしまえば作者に印税が入らず、作者への対価が支払われない………と、くどい能書きはこの辺りで止めておこう。

まぁ平たく言えば俺は中古派では無く新品派な訳だ。


そんな理由から書店をハシゴし、この書店に来て目当ての本を遂に見つけ出すに到った訳だが―――


げこげこに向けて伸ばした手に、割って入る手が一つ。


これが可愛い女の子なら、運命の出会い…何て事もあったんだろうが、世の中そう上手くは出来ていない。

「あ、もしかしてキミもこの本が目当てだったりする?」

先に本を取ったのは、俺と同い歳くらいの青年だった。


「ゴメン、割り込んじゃったりして。それじゃこれはキミのだね」

俺「いや、良いよ。先に取ったのは君なんだから」

背丈は170後半くらいで、細身。顔は間違い無く美形で…間違い無くリア充だ。


「良くないよ。あ…じゃぁ、こうしよう、最初はグー、ジャンケン…ポン!」

その青年につられるまま、グーを出す俺。咄嗟の事で強張ってしまっていたためか、次の手もグーで出してしまったのだが…

「あー…僕の負けかぁ。じゃ、お互いこれで恨みっこ無しって事で☆」

青年はチョキを出し、何やら決着がついたらしい。だが…


俺「あ…………えっと、この本、持ち帰りたい方?それとも読みたい方?」

それでも何となく蟠りが残ったので、打開策を切り出す。微妙に質問がおかしいのは気にしないでくれ。


「読みたい方だけど…え?何?読ませてくれるの?」

俺「友達への土産で欲しいだけだからね。急いで無いし、俺はもうリアルタイムで読んだから」

「わぁ、ありがとう!あ、そうだ。自己紹介しとくね?ボクはショウ、小さいと書いてショウさ☆」


俺「よろしく、ショウ。俺は―――」

208: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/13(月) 06:49:48.11 ID:0LtRqCHUo
●□□□

ショウ「はぁー…やっぱり水上先生の作品は面白いなぁ」

俺「その口ぶりだと、他の作品も読んでるんだな。どっから入ったんだ?」

ショウ「ボクはトライガン経由でアワーズに入って、さみだれから。で、そこから過去作品を見てる最中かな」


俺「俺は散人左道から。やっぱ最初に見た作品の補正は強いけど、さみだれはそれも押し退けるくらいに勢いあったよなー」

ショウ「だよねー」

俺「だよなー」


何が嫌いかより何が好きかで自分を語り合える相手…同好の志と言う物だろうか

お互いに何か引かれあう物があるのか、理解出来る故の安心感か…

漫画の話に華を咲かせる俺達。


リア充的な外見のせいで最初はシュウに対して抱いていた警戒心…話している内に、いつの間にかそんな物は消え去り…


ショウ「あのさ、いきなりこんな事聞くのも変かも知れないんだけど…キミは今の自分に満足しているかい?」

俺「…………あぁうん、確かに変だな。一体何だよ、藪から棒に」

そう…消えた所で、また別の警戒心が湧き出るような言葉が飛び出して来た。


ショウ「今のキミを見て、気になってね。今までの自分に後悔していないか…もっと別の道を進んで居た方が良かったんじゃないか、って後悔してないか…」

俺「………宗教とか怪しい団体への勧誘とかだったらお断りだぞ?」

オブラートに包み、その上からラップをかけて問い返す。


ショウ「そう言うんじゃ無いよ。ただ単純に気になっただけさ☆それで…答えて貰えるかい?」

俺「俺は………いや、悪い、判らない。もしもの話をしても、答えは出て来そうに無い」

ショウ「そっか……じゃぁ…」


俺「…ショウ?」


急に立ち上がるショウ。そしてそのまま明後日の方向を見たかと思えば…


ショウ「>>210 くん! 今のこの世界は、あるべき姿だと思うかい?」

訳の判らない事を口走り始めた


ショウ「さぁ…過去と未来を天秤にかけて、捏造を始めようじゃないか☆」

211: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/14(火) 04:37:58.30 ID:3ZQNgikLo
●△△△

ショウ「>>209 くん。ぁー、うん。あんまり遠すぎると声が空しく木霊しそうだったからさ」

いや、空しく木霊しているぞ。見えない誰かと喋ってる可哀想な人みたいだ


ショウ「>>210 くん。ちょぉっと誤解もあるみたいだけど、選択は確かに貰ったよ。さぁ、それじゃぁ本来あるべき姿に進もうじゃないか!」

高らかに声を上げ、両手を広げるショウ。

そしてクルリと体を回せば、真っ直ぐに俺を見据え…


ショウ「ところで…もう一つ聞きたいんだけどさ、今日は西暦何年の何月何日だっけ?」


まるでどこかの時代からタイムスリップして来たかのような台詞を叩き込んで来た


俺「西暦2010の7月1日だ。いい加減ボケに対応出来なくなって来たんだけど、どうすりゃ良いんだ俺…」

ショウ「なるほどぉ…2010年の7月1日か。あ、別に今突っ込まなくても良いよ?後々明らかになる伏線だから」

俺「いや、伏線とか言うな。ってか何の話だよ」


ショウ「きみのお話…かな?まぁどちらにしても、ボクからキミへの質問はこれでお終い。時間的にもこれでお開きかな?」

と…促されて時計を見ると、時間は既に午後5時。

空を待たせている手前、長居は出来ない…ので、納得行かない物を残しながらも俺はショウの提案に乗る事にした。


ショウ「それじゃ、漫画読ませてくれてありがとねー。また一緒に語り合おうよ☆」

俺「お前が途中から暴走して自分の世界に入らなければな?」


別れの言葉を交わし、互いに帰路へと向かう俺とショウ。


ふと夕焼け色に染まりかけた空を見上げ、家で待つ空を思い出し…

ショウ「それでも彼女だけが居ない町は廻っている」

俺「タイトル混ぜんな!」


不意に呟いたショウの言葉に突っ込みを入れてしまう。

そう…聞いた言葉に対しそのままの突っ込みを。


だってそうだろう。電波な発言に対して、深く考えるのも馬鹿馬鹿しい。

212: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/14(火) 04:40:06.09 ID:3ZQNgikLo
●▼▲▼

俺「だいまー…っと。悪いな空、途中でちょっと色々あって遅れた」

自室に戻り、空に謝る俺


俺「ショウって言う変な奴でと出会って…そこで単行本を読ませて………あ、勿論単行本は全部買って来たから安心しろ」

そして今に到るまでの経緯を話しながら…頭の中にちくりと刺さるような、妙な違和感を覚えた。

213: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/14(火) 04:41:09.50 ID:3ZQNgikLo
○☆☆☆

ショウ「さて…彼も帰った所で、本当に今回最後の質問をさせて貰おうか」


ショウ「A…カレンルート」

ショウ「B…理央ルート」

ショウ「C…空ルート」


ショウ「選択は…じゃぁちょっと遠くして、>>218 くん!お願いしちゃおう」

ショウ「あ、別に一度っきりの選択じゃ無いから気楽に考えてくれて良いよ?」


ショウ「それじゃ、またいずれ…ね☆」

219: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/20(月) 05:52:20.69 ID:IpCBU/hOo
―彼とカレンと彼女の恋愛経路R―

○Not So Long Ago

私「はい、私です…………はい、彼の件に関しては問題ありません。計画通り、順調に好意を寄せられて居ます」

コピー室の中…

次の作戦で使う資料を取って来る…と言う名目で、私はここに居る。


私「はい、私です………はい、彼の件に関しては問題ありません。計画通り、順調に好意を寄せられて居ます」

壊れたドーナッツ盤レコードのように、私は間を空けて何度も同じ言葉を繰り返す。


私「はい、私です…………はい、彼の件に関しては問題ありません。計画通り、順調に好意を寄せられて居ます」

彼が思い当たるまでの時間までは判らない…けれども、必ず彼が来ると確信してまた繰り返す。


そんな時………不意に、ガタリと音を立てて揺れるドア。

僅かに動いたそれは、それ以上開く事無く、やや内側に向けて押されているのが見て取れる。

恐らくは聞き耳を立ててドアに耳を押し当てているのだろう…音の主が部屋に入って来る事は無さそうだ。


それが彼だと言う保障は無いが、別に他人に聞かれたとしても不都合は無い。故に私はまた同じ言葉を繰り返す。

私「コホン。はい、私です…………はい、彼の件に関しては問題ありません。計画通り、順調に好意を寄せられて居ます」


そして…その続きに入る。

220: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/20(月) 05:54:14.55 ID:IpCBU/hOo
●顔に出るタイプなら出さないよう我慢

作戦後の報告室…並べられたテーブルに着き、顔を突き合わせる俺と総統…そして黄色先輩

普段ならば総統自らが報告を受ける…と言った事など無く、ニヤ先輩か他の担当が記憶を読み取って終了となって居たのだが…

どうも今回は様子がおかしいようだ。


俺「あの…ニヤ先輩は?と言うか、何で総統が?」


そして、堪らずそれを言葉にして問う俺。

総統は一度黄色先輩に目配せをして、それを受けた黄色先輩が立ち上がる。

黄色「あー…っとだな、爆破テロがあった日の事なんだが…別の問題が発覚したんだ」


俺「問題…ですか?」


黄色「あぁ…実はあの騒ぎの前、キングダムのエリーが目撃された」

俺「エリーって確か、おネエの…えっと、テレパストラップ使いでしたっけ?」

テレパストラップ…確か、対象の精神にトラップを仕掛け、それを読み取った者の精神を破壊するトラップだ。


黄色「そうだ…だから今回の報告でテレパシー使いの奴等を使うのは危険…って事で、他の手段で報告して貰う事になったんだが…」

総統「こう言う場合に備えて設置しておいた機器が、先日の襲撃で破壊されてしまってね…止む無く、口頭での報告と報告書の作成をして貰っているんだよ」

俺「あぁ……成程」


こう言ってしまうのも何だが、正直俺にとってこの事態は願っても居ない事だった。


あの日…爆破テロが起きた日。俺はネットゲームの友人であり、キングダムの構成員であった空と対峙した。

その結果空は瀕死の重傷を負い、今では自分の部屋で匿っている

のだが………さすがに、敵対する組織の人間を匿っているなどと、正直に報告出来る筈が無い。


おまけに、あの時発揮された俺の超能力…和褄池流と同じサイコキネシス、パトリオット。

自分でも訳が判らないあの出来事を、知られる事に対し…何故か警戒心がざわつきを起こして居た。

221: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/20(月) 06:10:11.83 ID:IpCBU/hOo
●手放しで全てを丸投げに出来ない

総統「ふむ…爆破テロに便乗して君を勧誘に来た少女か…それで、どう言った方法で彼女を撃退したんだい?」

俺「それは…」

話難い事は省き、要点だけを報告した俺。だが総統はそこに存在する空白を見逃す事無く、痛い所を突いて来る。


黄色「いやぁ…俺がチョチョイっと相手してたんだが、ちょっくら手元が滑ってなぁ」

が、それに対して助け船を出してくれる黄色先輩。

今まで見損なっていた分を訂正したいぐらいの感謝を抱くが…そこで俺は戸惑った。


折角黄色先輩が庇ってくれたが、果たして俺がそれを隠し通す事が出来るのか…

もし俺がその事を喋らなかった事で、もっと重大な事態を引き起こしてしまったら………

そう考えると、総統や皆を欺く事への罪悪感…いや、危機感が溢れ出す。


俺「いえ……黄色先輩では無く、俺が止めの一撃を放って、彼女を倒しました」

黄色「おまっ……まぁ良い、話すんなら任せるわ」

総統「ふむ…何か事情があるようだね。ではまずこれを聞いておきたいんだが…それは、女性に対しても君の爆散の能力を発揮する事が出来たと言う事かい?」


俺「いえ、違います。何故か発動する事が出来た………パトリオットで、彼女のソーサーを反射しました」

総統「………ふむ」

そして俺の言葉を聞き…両手を口元に沿え、瞼を閉じて考え込み始める総統。


黄色「黒き森の賢者モードか…久々に見たな」

俺「賢者モード?」

黄色「そこで区切んなよ。まぁともかく、もの凄く深く考え込んでる状態って事だ」


と、何度か言葉を交わした所で瞼を開く総統。その瞳はじっと俺を見据え…

総統「ではもう一つ確認して起きたいのだが…彼女の遺体はどこに?」

ここに来て、一番答え辛い核心を突いてきた。

222: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/23(木) 05:43:01.45 ID:q6SPpnmjo
●金色の竜だの黒き森の賢者だの…

真実をありのままに伝えるべきか…隠すべきか…

本来は前者で即決しなければいけないのだが……どうして、俺の部屋に居る空の顔が頭の中を過ぎる。


俺「判りません………」


そう答えるのが精一杯だった


総統「君の方では…」

黄色「いや、俺は二人を残して先に帰ったからなぁ…マジで判らねぇ。ただ、心臓も肺も潰れちまってて、あの状態から生きて帰れる筈は無ぇと思う」

総統「ふむ…では、キングダム側の何者かが回収した…という可能性が有力か」


と、総統の憶測により収束していく詰問。

気付いた時には俺の心臓がバクバクと嫌な鼓動を奏で、手には滝のような汗を握って居た。


総統「では今回の報告も含め、何か思い出した事もあればそれも追記した上で、後日報告書を提出してくれ」

安堵のため息の中、定型文通りに進められる手続き。

やるべき事をやり、やるべきでは無い事を全力で避けた…そんな実感を得ながら、瞼を軽く閉じ…テーブルに突っ伏した。


総統「すまないね、いつもとは勝手が違って疲れただろう?」

俺「あ、いえ…そんな事は…」

総統「無理に取り繕わなくても良いよ。さぁ、尋問…もとい君達からの報告はこれで終了だ、次の人と変わってくれ」


冗談めかして言う総統。


しかし俺はそんな冗談を受け流す余裕さえ持てないまま、黄色先輩と共に部屋を出た。

227: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/24(月) 03:56:00.63 ID:pXIJZcIio
●僅かな綻びさえ警戒して張り詰める神経

黄色「その…何だ、辛い事だったろうが、よく頑張ったな」

部屋を出て…突然、黄色先輩からかけられた言葉。


俺「え?と、それは一体どの…」

黄色「お前のダチの件だ。自分の手ぇ汚して楽にしてやんのは、キツかっただろ」

そしてその内容を確認した所で…周囲の視線に気付く。


黄色先輩が何を言いたいのか、何をしたいのかを理解して、俺は口裏を合わせる事にする


俺「はい…だけど、やっぱり俺がやらないと…いえ、やるべきだと思ったんで」

視線の主は、廊下で報告の順番待ちをする他の構成員達。

少々わざとらしい気がしないでも無いが…部分的ながらもここで情報を開け放しにする事で、後々の要らぬ追求を幾らかは減らせる筈だ。


廊下を進み、人が少なくなるに連れて少なくなる口数。

後は自然と無言が二人の間に出来上がり、先に待つ出来事が二人の進む道を分ける。


黄色「んじゃ、俺はこの後ニヤと」

俺「あ、はい。俺はこの後、カレンや理央と」


黄色先輩はニヤ先輩とミーティング。

俺はカレンと一緒に理央の研修の続きが待って居た。


今はまだ話すまでの踏ん切りが付いていないが、皆にもいずれ空の事を明かさなければいけない…いや、明かすべきだろう。


そんな事を考えながら、俺は足を進めた。

228: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/24(月) 03:59:21.00 ID:pXIJZcIio
●後に響く意味深な事件

カレン「ねぇ…貴方、私の部屋に書き置き残した?」

邂逅に開口一番。カレンの口から飛び出した言葉は、身に覚えの無い事だった。

俺「いや、書き置きどころかカレンの部屋にすらここ最近は行って無いんだが…」


カレン「そうよね…」

俺「理央は?ってか、どんな内容の書き置きなんだ?」

カレン「理央にはもう確認済み。それで、内容の方なんだけど…意図が全然掴めないのよ、ただ『3日後、お迎えに上がります』って書いてあるだけ」


俺「何だそれ?3日後にイベントか何かの心当たりは?」

カレン「それがさっぱり心当たりが無いから困ってるのよ。まぁ…最悪の事態も考えて、一応鑑識に回して調べて貰っても居るんだけど」

俺「最悪の事態…キングダムのメンバーがカレンの部屋に忍び込んだ可能性か」


カレン「そう…だとしても、それはそれで訳が判らないのよね」

俺「だよなぁ…そんな事が出来るなら、わざわざ書き置きだけ残して帰る意味が判らないし…」

カレン「結局、今考えても仕方が無い…って結論になっちゃうのよね」


俺「果報は寝て待て…って所か」

カレン「その果報が悲報じゃない事を祈るばかりね。さて、いつまでも立ち話してないで理央を迎えに行かないと」


思い出したように切り出し、歩き始めるカレン。

それに続いて歩き出す俺。


そう………

この時は、あんな結末になるなんて予想すら出来なかった。

もしかしたら…せめてほんのあと少し、違和感を持って突っ込んでいれば…もっと違う結末を迎えられたのかも知れ無い。


…先に悔やむ事が出来無いからこそ、後悔と言うのだけど。

229: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/24(月) 04:03:29.13 ID:pXIJZcIio
●刻一刻と迫る崩壊の序曲

次の日…………

理央に呼び出されて、以前訪れた空中庭園へと向かう俺とカレン。

何でも…人目がある所では話し難い事で、俺とカレンに話があるとの事。


俺「話って何だろうな?例の書き置きの件で、実は理央が関係してたとか…か?」

カレン「それは無いと思うわ。あ、さっき鑑識の結果が出たんだけど……」

俺「って、早いな。何か判ったのか?」


カレン「書き置きに使われたメモ帳もペンも私の私物で、私以外の指紋もDNAも検出されなかったって事だけ。後は…」

俺「後は?」

カレン「念のため侵入者の形跡が無いか部屋も調べて貰ったんだけど、そっちもシロ」


俺「何だよそれ…それじゃまるで……」

と…言葉を紡ぎかけた所で、空中庭園に続く階段にさしかかる俺達。


この先で理央が待っている…それをお互いが思い出した所で無駄話はピタリと終わり、一時の静寂が訪れた…のだが

カレン「………そう言えば、テレパストラップ対策の件、聞いた?」

俺「急遽、海外から専門スタッフが来る事になったんだってな」


無言の空気は想像以上に重苦しく、沈黙は長くは続かなかった。


カレン「昨日の今日だって言うのに、相変わらず手際が良いわよね、うちの組織って」

俺「と言うかそもそも、本当ならそう言うスタッフも必要無かったくらいの設備があったらしいんだよな」


階段の終わり近くで、ほんの数言の会話を交わす俺達。

そして階段を上りきった先では………


今まで見た事が無いような、真剣な顔付きの理央が待っていた

230: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/24(月) 04:07:44.37 ID:pXIJZcIio
●序曲は足音となり足跡を残しながら迫り来る

理央「きょっ……今日は、ご、ご足労頂き…あ、ありがとうございます」

拙いながらも力の篭った声で俺達を向かえる理央

理央「お二人を…よ、呼び出した用件は他でもありません。この茶番についてです」


カレン「―――っ!?」

茶番………理央の口から飛び出すにはどこか不釣合いな感じのあるその言葉を耳にして、何故か体を強張らせるカレン。


…………何故か?


いや、ダメだろ。俺までしらばっくれていたら多分話は進まない。

何故かじゃない、俺はその言葉の意味を知っている。


理央の能力からすれば、真実を知る事など児戯に等しい…そして

その理央がこの面子で茶番と言い切るような事など、他には思い浮かばない。


俺が向き合う事から散々逃げてきたあの事を、正面から突き付けようとしている。

そう…俺とカレン……二人に向けて、理央が突き付けようとしているのは………


俺「………俺とカレンの…関係の事だろ?」


理央「その通りです。せ…先輩が知らない真実を、今この場で明らかにさせて貰います」

カレン「…………」

拳を握り唇を噛み締めながらも、横槍を入れる事無く黙するカレン。


カレンに代わり…そして理央が言葉を紡ぐよりも早く、俺は重苦しい口を抉じ開ける。


俺「まぁ……知ってたけどな。だって、俺の能力を利用するって理由でも無ければ、カレンみたいな美少女が俺なんかと付き合ってくれる訳無いからなぁ」

231: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/25(火) 05:37:11.17 ID:zRLUYU5eo
●十字路を越えて俺のすぐ真後ろに居る其れ

カレン「違うの!そうじゃ無いの!」

俺「あー…いやな、実はコピー室での話…聞いちまったんだよ。だからもう取り繕わなくても良いんだって」

カレン「だから……」


俺「あ、安心してくれ。何だかんだで俺はカレンに力を貸す事に決めてるからな…まぁ、今まで通りとは行かないにしても………」

カレン「だから、そうじゃなくて―――」

理央「あ……あの、先輩。私はその事で……先輩が」


各々の言葉が区切られるよりも先に、互いの言葉が横槍を入れる中…空気を読まずに鳴り出す俺の携帯。

相手は…………ニヤ先輩だ。

さすがに修羅場じみたこの状況で、電話に出る程空気の読めない俺では無い


………が、一向に鳴り止む気配の無い呼び出し音が、二人の言葉を鎮めて沈黙へと導いてしまった。

俺「……………ぁー……」

理央「………良いですよ、先に其方の用件を済ませて下さい。此方の用件はその後でじっくりと決着をつけましょう。カレン先輩もそれで良いですよね?」


理央に促され、カレンに視線を向ける俺。

カレンに至っても理央と同じ意見のようで、ただ小さく頷いて肯定の意を返す。


そうして…3分近く鳴り続ける呼び出し音に応えるべく、俺は電話に出る事になったのだが


ニヤ『お取り込み中の所悪いんッスけど、緊急任務ッス!』

俺「………はぁっ!?緊急任務って………マジですか?」


何とも間の悪い問題が発生しているようだった

232: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/25(火) 05:38:06.06 ID:zRLUYU5eo
●振り向いて来た道を駆け下りる

ニヤ『例のテレパストラップの件、専門のエージェントが来るって事は聞いてるッスよね?』

俺「えぇまぁ…予定だと明日でしたっけ?」

ニヤ『それが、物凄く繰り上がったみたいで、もう来てるんッスよ』


俺「はぁっ!?」


俺「いや、俺今取り込み中で…明日………いや、せめて1時間…30分後って訳には…」

ニヤ『いかないからこうして急かしてるんッス。そんなに時間はかからない筈だから、カレンちゃんと理央ちゃんには待ってて貰って欲しいッス』

俺「いや、そんな事一方的に言われても……」

ニヤ『それじゃ、用件は伝えたからすぐ来るッスよ!』


と、反論し切る前に切られてしまう通話。

文句を向けるべき相手は既にマイクの先に居らず、ツーツーと通話終了の音が聞こえるだけだった。


俺「………」

カレン「………」


理央「………判りました、では先に緊急任務を片付けて来て下さい。私もカレン先輩も、先輩が戻ってくるまで待って居ます」


そして、気まずい沈黙が周囲を支配する中…妥協案を切り出したのは理央だった。


俺「その………悪い。カレンの方は時間大丈夫か?」


カレン「私も…こんな中途半端な所で中断にはしたく無いから、待ってる」

消え入るような声でカレンが答え、それを合図に頭を下げて…俺は走り出す。


俺「すぐ終わらせて戻って来る…!だから、少しだけ待っててくれ!」

233: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/25(火) 05:38:51.96 ID:zRLUYU5eo
●逃げても逃げても追いかけてくる非情な物

「次、吉祥寺 彰人。森本 幸一」

次々と名前が呼ばれ、入れ替わり立ち代わりに報告室を出入りする構成員達。

順番待ちの席が減り、自分の番が近付いて来る。


早く終わらせてカレンと理央の所に戻らなければ…

専門のエージェントと言うのは一体どんな能力者なのか…

そもそも、どんな人物なのだろうか……


そんな事を考えながら、順番を待つ…が、そこで新たな問題が不意打ちが飛んでくる


「では、テレパストラップ検査を済ませた人から順番に、隣の部屋で改めて報告を行って下さい」

開かれた報告室のドアの、その向こう側から聞こえて来る声。


何て言った?報告?つまりはあれか?

テレパストラップの脅威が無くなったから、改めてテレパシーを用いた報告を行うと言う事か?


全身の毛穴という毛穴から、ドっと嫌な汗が溢れ出す。


カレンとの関係の件で頭がいっぱいになっていたが、よくよく考えてみれば当然の事。

そのためにわざわざ専門のエージェントまで呼んだのだから、情報の収集と統合をしない筈が無い。


不味い………このままでは空の事がばれてしまう。

どうすれば回避出来る?逃げ出すか?いや、そんな事をすれば後ろめたい事があると宣言しているような物だ

最悪、離反行為とも取られかねない。


焦りを抑えながら思考を巡らせ、活路を見出すべく疾走する脳内電気信号。

だがそんな努力は空しく、俺のすぐ直前…一人前の構成員が呼ばれ…………

234: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/25(火) 05:41:24.83 ID:zRLUYU5eo
●破滅の音色を刻むタップダンス

タタタッ…タタタタタッ………

突如、マシンガンの乾いた銃声が鳴り響いた。


何が起きたのか…それを理解するよりも先に目の前に飛び込んで来たのは、血の海だった。


俺「なっ………」

目の前には、サブマシンガンを手にした構成員。

冷たく沈んだ瞳をヘルメットの下から覗かせながら、その銃口を今度は俺へと向けて来る。


「………」

俺「………」


事は一瞬で済んだ。


構成員の放った銃弾計12発を、俺がサイコキネシス…パトリオットで跳ね返し、死と言う名の沈黙を射手に送り返した。


何が起きた?何故こいつはこんな事を?

いや…

何が起きている?


タタタタッ…タタタ……

周囲から響き渡る銃声。


恐らくはこの建物のいたる所で銃撃戦が繰り広げられている。

何故だ?


俺はまずキングダムの襲撃に思い当たる…が、返り討ちにした構成員の顔を見下ろし、確認した所でその可能性を除外する。

見知った顔の構成員…名前は確か、秋山 陸斗

キングダムのスパイで無い事は、前回までのテレパスによる報告で明らかになっている筈だ。


ならば何故こんな事を…

ピースの揃わないパズルを並べるように、思考を組み変えて行く俺。

だが肝心の状況の方は、それが終わるまで待ってくれる程甘くは無いようだ。

235: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/25(火) 05:44:40.10 ID:zRLUYU5eo
●後ろ向きに進んでただひたすらに

ドアを蹴破り、新たに侵入してくる構成員達。

鎮圧用の増援である事を期待するも、警告無しに発砲される事でその期待は泡のように消え去る。


俺「あー…くそっ!どうなってるってんだよ!」

「どうなっている!?奴の能力は………」


銃弾を反射し、暴徒と化した構成員を蹴散らしながら出口へと駆け抜ける俺。

案の定シャッターが下ろされているが、知った事では無い。


パトリオットで強引にシャッターをぶち破り、やっとの思いで外へと逃げ出す事に成功。

未だ銃声の鳴り響く建物を背に、俺は息を整える時間も惜しんで駆け出す。


周囲を見渡し、状況確認…

幸いな事に、外では目立って事を起こしては居ない様子…となれば、まず確認すべきは……


俺「カレン!理央!そっちは無事か!?」

カレン『無事って…どういう事?テレパストラップの件で何かあったの?』

俺「詳細は判らないんだが、銃撃戦が起きた!」


カレン『銃撃戦って…え?もしかして組織の建物内で?相手は?』

俺「どう言う訳か、構成員が発砲しきて…って言うか、もしかしたらカレン達も危ないかも知れ無い!念のために身を…」

カレン『ちょっと待って、それって内部の犯行って事よね?だとしたら、避難シェルターも安全とは言えないんじゃ…』


俺「あぁ…くそっ、そう言やそうだ!んじゃぁとにかく合流で…そこから真っ直ぐ俺の部屋に向かってくれ!」

カレン『貴方の部屋って…どうして?』

俺「理由は後で話す!多分半径1kmくらいに入れば大丈夫の筈だから、理央の事も頼んだぞ!」

237: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/28(金) 09:16:42.02 ID:sK6qKSjGo
●ただ一時だけ足を止めて進む道を考える

カレン「本部どころか、黄色先輩やニヤ先輩にも繋がらない…本当に切迫した事態みたいね」

アパートの前…無事に合流を果たし、情報交換と考察を行う俺達。


カレン「と言うか…どうしてここは安全だって言い切れるの?」

俺「あぁ、それはだな…」

マイ「この周辺は特に規制が厳しいからね。と言っても…こう言う事態では、手放しで安心されても困るよ」


そして、当然のように突然に沸いて出てくるマイさん。


俺「おわっ!?…って、居るなら居るで一声かけて下さいよ!」

カレン「え?マイさん?何でこんな所に?」

マイ「私の実家はこのアパートのすぐ向かい側なのだよ」


はい、ご丁寧に説明ありがとうございます。


俺「あ、マヤさんは?」

マイ「今日は少し野暮用で出かけているが、何か用かね?」

俺「あ、じゃぁ。この前頂いた干し柿、凄く美味しかったって伝えておいて貰えますか?」


理央「あ、あの…其方の方は…?」

俺「あぁ、理央は初対面だったな。この人は亜門舞さん、聞いての通り俺の住んでるアパートのお向かいさんで…」

カレン「私の主治医だった人…それと」


俺「魔法少女カライモンの正体で、大学教授。元総理でライトノベル作家で声優で演歌歌手。今は学校の保険医もやってた筈だな」

カレン「…………」

理央「………」


カレン「…って、えぇぇ!?マイさんが魔法少女カライモンの正体!?」

理央「そ、そんな人が何で先輩と知り合いなんですか!?」


あぁうん、ちょっと落ち着いてくれ

238: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/28(金) 09:19:42.37 ID:sK6qKSjGo
●一歩進んで二歩下がる

マイ「先に彼が言った通り、単にお向かいだからだよ。劇的な出会いやそれに纏わる逸話は無いので期待しないでくれ給え」

俺「あ、んでも流石に魔法少女姿で会った時は驚いたなぁ」

マイ「そう言えばあの時は…よく私の正体が判ったね」


俺「いや、目元だけ隠しても…声も喋り方も、ちょっと若返ってたけど顔立ちだってそのまんまだったじゃないですか。知人だったらあれはモロバレですよ」

マイ「ふむ…ボンクラに馴れすぎていたが、やはり判る者には判ってしまうか」

と言って考え込むマイさん。


こうして紹介に一区切り付いた所で、俺はカレンと理央の方に視線を向ける。


俺「カレンの方は説明は要らないと思いますけど…えっと、こっちの子は…」

マイ「知っているよ、あの娘の従姉妹の理央君だろう?」

理央「えっ………」


俺「いや、そのあの娘って方を俺は知らないんですけど…」

マイ「しかし…あの娘の関係者だからと言って、特別扱いする訳にはいかない。ここから先は指示に従って貰うよ」

理央「え?あの……指示って………」


そして…俺の疑問は置き去りにされたまま進む会話。


マイ「ここ…このアパートを中心にした半径1kmは、不可侵条約により保護された非干渉地帯なのだよ。上の者から聞いていないかね?」

カレン「彼の住むアパートが?どうして…あ、でも……考えてみれば意図的に干渉しないよう仕向けられてた節も…でも、身辺調査の時は…」

マイ「その辺りはまた複雑な事情になるが…とりあえず身辺調査の件に関しては、条約の適用外だったのだよ」


俺「まぁ…うん。俺自身もあのファイルを渡されるまではここがこんなワケあり物件だとは知らなかったしなぁ」

理央「え?え?え?一体何が…」


事態が把握できず、頭の上に幾つものハテナマークを浮かべてうろたえる理央。

俺も最初はこんな感じだったなぁ…と思い出しながら、ポンポンと軽く理央の頭を撫でてやる。

と同時に…理央だけでなくカレンの頭の上にもハテナマークが現れる。


カレン「あれ?でも理央なら、知ろうと思えばその辺りの事情は幾らでも探れるんじゃ…」

マイ「あぁ、それは無理だ。この周辺での観測行為は過度なまでに制限されているからね」

俺「先に言った俺の身辺調査みたいに、本人が許可や容認した内容以外…まぁ、盗み見みたいな事は一切出来無いんだ」

239: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/28(金) 09:36:49.06 ID:sK6qKSjGo
●振り返って瞼を閉じて

カレン「あ…そっか。チャーハン…前に来た時は容認されてたから…でも、一体どうやってそんな事」

俺「俺も良く知らないんだが…そいう特殊能力を使える人が居るらしいんだ」


マイ「とまぁ、そう言った感じでここの特異性を理解して貰えた所で……改めて説明を続けさせて貰おうか」

俺「お願いします」

カレン「…はい」

理央「………」


マイ「先にも説明した通り、ここは非干渉地帯だ。多少のいざこざが飛び火する程度なら目を瞑る事も出来るが…今回ばかりはそうも行かない」

俺「それってやっぱり…俺がここに二人を呼んだからですか?」

マイ「その通り…今回の君は巻き込まれた側では無く、全て判った上で自らここに問題を持ち込んで来た」


俺「…はい」

マイ「この領域に本来干渉しない筈の領域の者を、意図的に巻き込みんだ。故に…即刻退去を勧告させて貰う」


カレン「え…ちょっ、ちょっと待って!彼は私達を助けようとしたのよ!?そんな追放みたいな真似…だったら、私達が出て行けば―――」

マイ「君達も勿論だが、これは彼自身の起こした問題でもあるからね。いや………そうか、この場合君達は…そう言う事か」


カレン「…え?何?」

理央「もしかして……先輩が巻き込んだ側で………私達は巻き込まれたとか……」

カレン「えっと……ゴメン、意味が判らない。どう言う事?」


マイ「説明しよう。まず第一に…ここは特殊なルールによって守れている地域だと言う事は判っているね?」

カレン「…はい」


マイ「そして次に、そのルールを知った上で彼はここを避難所代わりに利用した」

カレン「そうみたい…ですね。その結果、キングダムとの抗争と言う問題をここに持ち込んでしまって…退去しなければいけなくなって」

マイ「…だが、こうも考えられる。問題を持ち込んだのは彼で…君達は意図せず彼に巻き込まれたに過ぎない。むしろ保護対象であり、つまりは……」


理央「結論は……先輩だけが全責任を負って出て行けば、私達はこの安全地帯に残る事が出来る…そう言う事ですか?」


俺「あー……うん。ま、そう言う事だ」

240: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/28(金) 09:43:50.35 ID:sK6qKSjGo
●喧騒に耳を澄ませてみれば

カレン「ふっ…ふっざけないで!!!何なのよそれ!?ルールって何なの!?意味判らないし内容だって何も聞いて無いわよ!!」

理央「私も納得できません。そのルールの…内容を知らなかった事もですが…それ以前に、知っていても反対します」

マイ「知らなかったからこそ、被害者側に周れるのだけどね」


俺「いや、だからな?とりあえずここは安全地帯だから、二人にはここに居て欲しいんだって!ここに居ればキングダムにも見つからないし…」


カレン「だからそれが嫌だって言ってるのよ!貴方を巻き込んだのは私なのよ!?それなのに何でのうのうと安全な場所で…!」

俺「俺がそうして欲しいからに決まってるだろ!?カレンを危ない目に逢わせたく無いんだよ!」


理央「わ…私もです!だって私達は…チームなんですから!!そう言ってくれたのは先輩じゃないですか!」

俺「っ………」


マイ「どうやら…身を挺した君の策略は、脆くも崩れ去ってしまったようだね」


俺「くっ……くそっ!!どんな危険が待ち構えてるかも判らないんだぞ!?」

カレン「臨む所よ」

理央「カレン先輩に同じくです」


あぁくそっ、二人共折れる気配が全く無い。

こうなると…


俺「あぁもう判った!俺は止めたからな!どうなっても知らないぞ!?」


結局…俺が折れるしか無かった。

241: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/28(金) 09:46:53.92 ID:sK6qKSjGo
●今まで知る事が無かった世界の旋律

理央「それで…順番は逆になってしまいましたけど、ルールって何ですか?何でここにだけそんな物が…」

マイ「別にここだけと言う訳では無く、他にもあるが…まぁ、それはさておき概要だけは説明しておこうか」

理央「…お願いします」


マイ「まずこの世界の事情なのだが…この世界のルールを決めているのは誰だと思う?」

カレン「各国の首脳…ですか?」

マイ「それはあくまで一般人社会の法律を決めている者達だ」


理央「ならもっと広域の…もしかして、物理法則とかそう言うレベルの話ですか?」

マイ「その通り。答えを言ってしまえば、最終的にルールを決めているのは世界その物な訳だが…そこから少し細分化出来るのだよ」

理央「世界の細分化………まさかそれって、世界の法則に干渉する特殊能力者……D器官保有者…」


マイ「それも要素の一つではあるね」

理央「それすらも要素の一つでしか無い…ですか」


マイ「そしてまぁ、現在の世界を構成する要素達が絶妙なバランスで均衡を保った結果…維持されているのがこの世界…」

理央「………」

マイ「特殊な能力にその存在を大きく左右されない普通の世界…と言う訳だ。まぁ、表向きだけだがね」


理央「でも…それって矛盾して居ませんか?普通の世界を維持しようとしているのなら、キングダムや組織は邪魔になる筈…」

マイ「良い質問だ。さっきも言ったがその辺りは絶妙なバランスでね…異質な力で世界を変えようとする存在に対しては、それに対抗する力も発生するのだよ」

理央「予定調和…いえ、対抗勢力が発生する事自体がこの世界の仕組みと言う訳ですか」


マイ「中々物分りが良いね…そしてもう一つ、その仕組みの中にもルールが存在する」

理央「不可侵条約…非干渉のルールですね」


マイ「………その通り」

242: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/28(金) 10:05:13.92 ID:sK6qKSjGo
●旋律と足跡は螺旋を描いて

マイ「原則として、一つの領域に括られた問題に対して他の領域の…部外者が干渉してはいけない…と言うルールが存在するのだよ」

理央「でも、それもおかしくはありませんか?現にマイさんはカレン先輩と先輩の治療に関わったんですよね?…それに今もこうして…」

マイ「あくまで原則だよ。しゃしゃり出てその領域の核心を脅かすような干渉で無ければ、多少は見逃して貰える場合がある」


理央「逆に…核心を脅かすような干渉は出来ないと言う事ですよね?例えそれが知人の命に関わるような事でも…」

マイ「その程度の理由では干渉出来ないね。まぁ、干渉に関して例外が無い訳でも無いが…」

理央「その例外と言うのは?」


マイ「本人が意図しないまま、別の領域からの干渉により巻き込まれてしまった場合…それと」

マイ「その領域の関係者が全滅し、発生した問題の解決が不可能になった場合…それらの場合のみ、部外者の手による解決が許可される場合がある」


理央「場合がある…ですか。仮定ですが、今回のような場合…もしキングダムが組織を破り、その活動を止める事が不可能になった場合は?」


マイ「誤解があるようだが…まぁ、キングダム側の出方次第だね」

マイ「おおっぴらに能力を使って世界を捻じ伏せるならば、他の領域からも干渉するが…節度を守って世界征服するくらいならば放置する事になる」


理央「世界征服も、節度を守れば容認するんですか…?」

マイ「彼らの思想その物が絶対悪では無い以上。表向き、テロリストが革命に成功した…と言う体面ならね。似たような事ならば私も以前行ったよ」


理央「場合によっては、逆に組織の方が粛清対象になると言う事ですね……。その境界線を決める、絶対的な基準は何なんですか?」

マイ「この世界を構成する存在達の主観…としか言いようが無いね」

理央「厳しい割に、凄く曖昧なんですね」


マイ「肯定するよ」

理央「つまり…曖昧で理不尽なルールに踊らされた挙句に、そのルールから外れたから、先輩を追放する。そう言う事ですよね」

マイ「身も蓋も無い言い方だが、否定はしないよ」


理央「判りました…では行きましょうか」

カレン「…そうね」

俺「あぁ…そうだな。まぁ、出来れば最後に一つだけやって起きたい事があったんだが…」


マイ「勘弁してくれ給え、私としてもさすがにこれ以上の滞在を見過ごす訳には…」

と、マイさんが言いかけた所で…不意に近付いてくる足音。

コツ…コツ…と乾いた軽い靴音と共に、全身…髪の毛の先から靴の爪先に至るまで真っ白な少女が現れ……


「3時間………3時間だけ時間をあげるの」


と、呟いた

243: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/28(金) 10:20:41.54 ID:sK6qKSjGo
●再び足音が進み始める

カレン「さっきの真っ白な女の子…朱桜ちゃんだっけ?…一体何だったのかしら?貴方は何か知ってる?」

俺「いや、俺もサッパリ…初めて見る子だった。様子からして、マイさんよりも上の権限を持ってる感じだったけど…」


カレン「さすがに全部不問…にはして貰えなかったわね」

理央「で、ですけど…こうして身支度が出来るだけでも御の字ですよね…」


俺の部屋…3時間の猶予を与えられ、これから起こりうる事態に備えて出来る限りの身支度を進める俺達。


俺はまずは、空に今の事態を伝えておこうと思っていたのだが…戻った時には既にその姿は無く…缶バッヂっと書置きが残されているだけだった。

『厄介な事になりそうだから、俺は身を隠しつつ色々動いてみる。オキニのバッヂを置いとくから、俺だと思って使ってくれ』

…との事。相変わらずのマイペースっぷりだが、そのおかげでカレン達と鉢合わせしないで済んだ事に安堵する。


カレン「…あれ?開かない」

と、そんな折…目に入るのは、バスルームのドアノブに手をかけながら苦闘するカレンの姿。

カレンの馬鹿力によりギシギシと悲鳴を上げ、今にも取れそうになるドアノブ。

だが…それに気付いた理央が、俺より早くカレンの手を持ってそれを制止する。


俺「あ、バスルームのドアは今壊れて入れないんだが…えっと、今すぐ入りたいのか?」

カレン「……………………あ、うぅん。そっちじゃなくて…ちょっとお手洗いの方を…」

俺「あぁ、だったら部屋を出て右側に共有のがあるから使ってくれ」


青ざめた…と言うよりも蒼白に近い顔のカレン。

俺の問いに対しても答えるまでに間を要し、調子の悪さが見て取れる。そして、それに気付いた俺はカレンに外の共有トイレへの道を教え…

慌てた様子で部屋を出るカレン…残された俺と理央。


ふと気付けば、理央の顔もカレン同様にどこか青ざめていて…


俺「理央は…良いのか?」

理央「…え? あ…はい………私は、平気です」


…我ながらデリカシーの無い事だと自覚しては居るが……念のため、それを聞いておいた

244: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/28(金) 10:27:22.43 ID:sK6qKSjGo
●歩みから旅立ちへの境界線

理央「あの………さっき一時的に…あれって…」

朱桜「そうなの」

カレン「どうしてあんな…」

朱桜「必要な事だったからなの」


最低限の準備を終え…アパートの前で再び落ち合う、俺達と…マイさんと朱桜。


マイ「それで…君達は一体これからどうするつもりだね?」

俺「とりあえずは…状況の再確認ですね。幸い理央も一緒だし、自分達の立場を把握してから身の振り方を決めようと思います」

マイ「そうか、では最後に一つだけ…知人として言わせて貰おう」


俺「何ですか?」


マイ「問題を片付けて、さっさと戻って来給えよ」


俺「………はい!」


マイさんからのエールを受け、安全地帯…世話になったアパートを離れて行く俺達。

これから先に何が待ち構えているのか判らない…

だけど…俺達は前に進む以外の道は残って無い。


進んだ先…まだここに戻って来られる道がある事を信じて、俺達は歩き出した。


………


マイ「それで…朱桜さん」

朱桜「朱桜ちゃんなの」

マイ「朱桜…ちゃん。彼らは…」


朱桜「多分今回はダメなの」

245: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 04:43:23.69 ID:+nw2yrERo
二つの歩みがぶつかり正面衝突

マーク「んで…本当にこいつらに出くわすたぁなぁ…」

俺「それはこっちのセリフだ…っての」


安全地帯を離れ、町外れを歩いていた俺達…だがそこで待ち構えて居たのは、異様な様相の三人組

一人は、先の事件でも名前が挙がったエリー…もう一人は、筋骨隆々のいかにもな感じのごろつき…最後の一人は、フードとマントを羽織った…恐らくは男

理央がその存在を察知した時にはもう遅く、逃げられない位置にまで追い詰められていた。


理央「すみません…私がもっと早く探知出来ていれば…」

俺「いや…直前に気付けただけでも上出来だ。不意打ちで全滅なんていう最悪の事態は避けられたからな」


マーク「はん、不意打ちなんざするかってーの」

理央「狙撃手を配 置しておいて、どの口が言うんですか」

マーク「あれは上の奴らの指示だ。俺の本意じゃ無ぇ。どの道手出しはさせねぇか安心しな」


俺「だったら…アンタ個人としては正々堂々正面から勝負のつもり、って考えて良いんだよなぁ?」

マーク「ハハッ、威勢が良いなぁ!手前ぇみてぇなヤツぁ嫌いじゃねぇぜ!!………当然…っ!と言いてぇ所だが……」

俺「何だよ…ここまで啖呵切っといて引っ込める気じゃ無いだろうなぁ?」


マーク「お前らじゃぁ、全員束になっても役者不足なんだよな…なぁ?リミットブレイカーに…リア充爆散!」


マークの言葉に一瞬固まる俺達。

…俺達の情報が奴らに洩れている。理央の事には触れて居ないが、恐らくは能力を把握されている…つまり

カレン「不味いわね…これって多分…」

俺「あぁ…十中八九、俺達の能力への対応策を持ってるって事だよな」


エリー「ご名答ぅん。私の能力でそこのお姫様のテレパシーは封じられて、ナイトくんの能力も、私がどちらの恋人か判らなければ使えないわよねぇん?」

マーク「いや、そもそも全員男だから通じねぇんだよ、コイツの能力は。アシッドの時もそうだっただろうが」

エリー「あらぁん、身体は男でも心は乙女よぉ?マークってば、マリオと違って何時までたっても女性扱いしてくれないのよね。悲しいっ!」


俺「って事は…そこのマントの大男は、理央対策の能力持ちか…」

エリー「勿論ぉん、マリオにはそこの小さなお嬢さんの能力が通じないの。二つとも…ね」


俺「理央…」

理央「…試してみなければ判りませんが…リーディングの方は確実に駄目です。全く心が読めません」

246: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 04:45:50.23 ID:+nw2yrERo

●鍔迫り合いながら進める足並み

………毎度の事ながら、自慢げに自分達の能力をペラペラと解説してくれるキングダムのメンバー達。

こいつらの思惑通りに戦う事になれば、敗北は必至…だが逆に、こいつらを出し抜くことさえ出来れば活路が開く筈。


…な訳だが。


マーク「あぁ、何ならスイッチしても良いんだぜぇ?尤も…誰が誰の相手をしても勝てる見込みは無いと思うがなぁ!」

カレンは、エリーのせいでテレパスと併用した接近戦が使えない以上…どの相手と戦っても不利。

理央に至っては、戦闘になる事その物が問題外だ。

マークの言う通り、相手の意図を外したとしても勝てる見込みは無い。


俺「だったら、いっそ勝ち抜き戦にでも…」

マーク「自分が戦ってる間に他の二人を逃がしそうだからダメだな」


読まれている…と同時に、俺一人でどうにかするという選択肢も無くなってしまった。

となれば後は…


俺「とりあえず…リーダー格っぽいマークは俺が倒す。二人は俺が助けに入るまで何とか逃げ延びてくれ」

マーク「良いねぇ良いねぇ!言ってくれるねぇ!だが作戦としちゃぁ実現不能の下の下だ!その甘さ…たっぷり後悔させてやんよ!」


マークが幾つもの硬貨を宙に放り投げ、それを合図にエリーとマリオが動き出す。


こうして…戦いの火蓋は切って落とされた。

247: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 04:49:16.38 ID:+nw2yrERo
●逃げて回り込んでまたぶつかって

その体躯からは想像も付かないような俊敏さで理央に詰め寄るマリオ。

対して理央は、その小柄な体躯を活かして狭い道や障害物を使って紙一重の所でマリオの猛攻を掻い潜る。


優雅に日傘を差し、カレンと対峙するエリー。

相手の意図を読む事が出来ず、警戒したまま動けない動く事が出来ないカレン。


辛うじてだが、瞬殺を免れた二人の安否を確認し、一安心する俺。

…だが、安心したからと言って気を緩めている訳では無い。


マーク「俺を相手に余所見たぁ、随分と余裕かましてくれるじゃねぇか!!」

宙に舞わせた硬貨を両手に一枚ずつ掴み、その拳で俺に殴りかかるマーク。

踏み込みで要した距離を見れば、後ろに軽く跳ぶだけでもその拳が届かない事が判る


…が、そこで思考を止める訳には行かない。


何故…回避されるのを前提にしたテレフォンパンチなんかを放つのか。

自信過剰なキングダムの面子特有の、能力の実践説明か?

いや………違う


エリーがあれだけペラペラと能力を明かしていたのに対し、マークは自分の能力に関しては一切喋っても喋らせても居ない。

と言う事は…これは罠だ!


俺は後ろに跳ぶ事無く、身を屈めてマークの拳を避ける。

と………案の定マークの拳は、轟音と共に俺の頭上を飛び越えて行く。


予想通り…マークは何らかの方法で加速し、踏み込みの飛距離を伸ばした。


だが、それでけでは終わらない…この一手をここで終わらせてはいけない…何故かそんな気がして、俺は前へと踏み込む。

頭から腰までの…上半身の筋肉に力を込め、ガラ空きになったマークの胴体に…渾身の頭突きをカウンターでお見舞いする。

248: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 04:52:32.84 ID:+nw2yrERo
●吹き飛んで吹き飛ばされて粉々に

俺の渾身の一撃により、後ろに倒れこんで尻餅を付くマーク…

俺は…マークの上に倒れ込まないよう、もつれる足で斜め前へと踏み込む。そして………


ガガガガガガッ!!と言う轟音と共に抉られる…ついさっきまで俺が居た場所。


何が起こったのか、一瞬理解出来なかった…が、次の瞬間にはそれが追い付いた。

一つ残らず空中から消え去った硬貨…先刻のマークの行動…


俺「テレフォンパンチどころか、パンチその物が囮かよ………見た目に似合わず、策士的な事してくれじゃないか」

マーク「卑怯って言ってくれても良いんだぜ?ってーか…それを避けるお前も中々良い読みしてくれるじゃねぇか」

俺「臆病って言ってくれても良いんだぜ?些細な事でも警戒せずにはいられくてね…」


そして俺の予想に応えるかのように、抉られた地面から次々と姿を現す無数の硬貨。


俺「やっぱりな…空と同じような金属盤操作か。さっきのパンチも、握った硬貨で引っ張ってたって訳だな」

マーク「空…ミラの事を知ってるって事ぁ…あぁそうか、お前がアイツのお気に入りか。丁度良い、お前には聞きたい事があんだよなぁ」

俺「空の居場所の事なら聞いても無駄だぜ。俺も今はあいつがどこに居るか知らないからな」


マーク「ハハッ!ほざけ。話したく無ぇなら話したくようようにしてやんよ!」

先程までも十分感情的だったが、更にそこに怒りを加えて叫ぶマーク。


振り上げられた両拳に煽られるように、無数の硬貨が宙に飛び上がる。

249: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 04:54:05.15 ID:+nw2yrERo
●踏み鳴らすだけで留まる事もまた

エリー「ふふっ…男同士の戦いって良いわよねぇ…」

カレン「で…そう言う貴方は戦わないのかしら?」

エリー「私は肉体派じゃないから、荒っぽい事はしたく無ぁいの。今はただこうやって対峙だけしておけば、それ以上は必要無いでしょぉう?」


カレン「…どう言う意味?」

エリー「だぁってぇ、マーク勝てば私が戦わなくてもお姫様を確保出来るじゃなぁい?ナイトくんを置いて逃げるお姫様には見えないもの」

カレン「そうね…逆に彼がマークに勝てば、私と二人がかりで貴方を倒せる…無理に今戦う必要な無いわね…っ」


エリー「あらあらぁ?言葉と心が裏腹ねぇ…お姫様は戦いたくて仕方ない感じ。いいえ…ナイトくんを助けに行きたいのね」

カレン「っ………」

エリー「図星…みたいねぇ。そんな健気さを見せられたら行かせてあげたくなっちゃうわぁん」


カレン「だったら…そこをどいてくれないかしら?」

エリー「だぁー…め。行かせてあげたいけど、行かせてあげるかは別問題。第一…」

カレン「第一…何なのよ」


エリー「お姫様が戦場に行っても、足手まといになるだけよ」

250: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 04:57:32.44 ID:+nw2yrERo
●喧騒と雑踏が入り混じってぶつかって

降り注ぐ無数の硬貨…字面だけ見れば何とも豪華なだけの技に見えるが、現実はそう甘く無い。

一つ一つが銃弾と同等の質量と速度を有し、俺に向けて迫り来るんだが…

威力もさる事ながら、速度に至っては空のソーサーよりも数倍早い。


何が聞きたい事だ!こんな物くらったら即死じゃないか!!


どうする…どうすれば良い?

………まぁ、選択肢はそう多くは無いか。


マーク「急所は外すつもりなんだが…うっかり殺しちまったら悪ぃな」


地面に突き刺さる無数の硬貨。

粉々に砕けた石片と土煙が撒き上がり、爆風と共に周囲を包み込む。


マーク「ちっ…やりすぎちまったか。粉々に…」

俺「いや、心配要らねえよ。俺ならこうしてピンピンしてるからな」


土煙の中から飛び出し、拳を大きく振りかぶりながらマークに向かって飛び込む俺。

背後からは、当然のように無数の硬貨が俺に襲いかかる…が、みすみすそれを受けるような事はしない。


マーク「なっ…!?お前…そりゃぁ……っ!」


今更説明の必要も無い…俺の奥の手、サイコキネシス…パトリオットだ。

俺はマークの放った硬貨を全て叩き落とし、マークの右腕…肩…脇腹の三箇所にそれを叩き込む。

251: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 05:01:39.05 ID:+nw2yrERo
●繋がった道で怒り嘆く者達

あと一歩…あと一歩踏み込んで頭を叩けば意識を刈り取れる。

俺はその最後の一手を打つべく、マークに向けて更に踏み込む

……が、その意図を察したのか、マークは後ろに跳んで距離を取る。


文字通り、後一歩の所で決着には至らなかった…が、今はこれで充分だ

形勢は逆転した。


エリー「…ど…どう言う事?彼の能力って、リア充爆散じゃなかったの!?」

カレン「………え?何…?何なの……これ、え?…嘘………」


マーク「アシッドのリア充爆散に、マイケルのパトリオット…そうか…そーいう事かよ。それが手前ぇの本当の能力ってぇ事か!」

俺「悪いが、その質問には俺も答えられない。俺自身、何でこれが使えるのか判って無いからな」

マーク「ハッ…!どの口がほざきやがるんだか!まぁ良い…聞きたい事は山ほどあるが、事情が変わった。手前ぇだけはこの場で…殺す!!」


マークから放たれる、先程までとは比べ物にならないような殺気。

俺はそれに恐怖と危機を覚える…が、屈する事無く見据えて返す。


エリー「ってまさか…マーク、貴方ここでアレをやるってんじゃ無いでしょうねぇ!?」

マーク「あぁん?やるに決まってんだろぉがよぉ!!」

エリー「ちょっと…正気!?あぁんもぅ!お姫様!なるべくここから離れて物陰に隠れるわよ!」


カレン「…え?何で…え?」

俺「何だか判らないが、相当にヤバそうだ!今はエリーに従ってくれ!」

カレン「っ………!わ、判ったわ」


異様な空気が周囲を取り巻き始める中、エリーに手を引かれてこの場を離れるカレン。

俺はそれを確認した後、改めてマークに向き直る。


そして…そこで目にしたのは…

252: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 05:05:18.10 ID:+nw2yrERo
●嵐で道が見えなくなっても

マークの上着の中から姿を見せる、大量の硬貨。そして、それに伴う既視感。

俺「………って、それ…空の奥の手とまんま同じじゃ無いかよ」

既視感の正体を突き止め、それを言葉にしてマークに投げる。


マーク「あぁ…そーか、ミラが俺と同じ奥の手をなぁ…嬉しい事してくれるじゃねぇか」


マークの言葉…そして今までの空に関する反応からしても、親しい仲な事は判る。

詳細に至っては本人に聞くのが一番なのだろうが………どうも今は、そんな事を言ってられる状態ではない。


マーク「なぁお前…一つだけ聞くが、ミラは生きてんのか?」

俺「はぁ?何言ってんだ!?生きてるに決まって……あぁ、そうか、組織にもキングダムにも死んだ事にしてあるから…」

マーク「そうか…本当か嘘かは判らねぇが、それを聞いてとりあえず安心したぜ」


俺「だったら、そんな危なそうな技は止めて殴り合いに戻らないか?」

マーク「だから死ね」


成り立たない会話のキャッチボール。

ついでにそこに一つ付け加えると…投げられたのは、言葉だけでなく無数の…いや、とんでもない数の硬貨だ。


マークの周囲を衛星の如く飛び回る硬貨…それは銀色の球体のような形状を作り出し、周囲に竜巻を巻き起こす。

飛び交う土やら木片やらコンクリート片…まるで大型台風をこの範囲に凝縮したような被害を撒き散らしながら、その中心が近付いてくる。


どうする?逃げるか?

駄目だ、逃げたところであれを止めてくれる保障が無いし…むしろカレン達に被害が及びかねない。

だったらどうする?あれを止めるのか?どうやって?


何とかの考え休むに似たり…と言った所か

どうするもこうするも、結論は一つしか無いじゃないか。


今ここで俺が止めるしか無い…


俺が出来る全てを用いてな

253: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 05:08:42.99 ID:+nw2yrERo
●風の生まれる場所

リア充爆散…ダメだな、マークをリア充として見る事が出来ない。

パトリオット…これにばかり頼るのも何だが、現状であれに対抗できるのはこの能力くらいか…

しかし、どうやってマークを倒す?


さすがにあれだけの数の硬貨をパトリオットで一つ一つ打ち落とすのは無理だ

かと言って一纏めで打ち落とすには威力がありすぎる。

上手く叩き落せたとしても、その後の硬貨にやられるのが目に見えてる。


となると……


俺「回転技の定番の弱点…か、通じてくれれば良いんだがなぁ」


一歩…また一歩、俺へとにじり寄るマーク…そして、マークに向けて足を進める俺。

温存しておくため、飛び交う欠片にはパトリオットを使わない。多少の怪我を負ってもここは我慢だ。


マークの作り出した球状の硬貨の壁は、半径7m程。対して、俺が使えるパトリオットの範囲は5m。

リーチの差は大きく、壁の向こうに直接パトリオットを当てる事は不可能。

結局、硬貨の壁を破らなければいけないようだ。


俺は覚悟を決め、マークに向けて飛び込む。


目の前には硬貨の壁。

跳躍の頂点を過ぎれば、自ずと自由落下が始まり、鼻先と額を硬貨が掠める…が、当然そのまま壁に飲み込まれるような真似もしない。


俺は、俺自身の脚の裏にパトリオットを使う。変則型の二段跳躍だ。

二度…三度と連続して跳躍を行い、辿り着いた先は………球体の上空。


そう…狙うは回転の最も弱い部分、回転の中心。

254: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 05:16:04.20 ID:+nw2yrERo
●足音風音にて塗り潰されここに降りる

球体の天井に打ち込むパトリオット…

最も弱い部分にも関わらず、充分過ぎる程に強固な守りを残すそこ。

パトリオットを打ち込む度に弾き飛ばされた硬貨が宙を舞い……


7発目にして、遂にその壁を打ち破る!


が…それは決着の一手にはならなかった。

打ち破った壁の奥から姿を見せたのは…マークでは無く、二枚目の壁だった。


一枚目の壁とは異なり…帯状に形成されたその壁は、自在に角度を変えるアクティブシールド型。

こんな物で二重に守られていたら、突破する事など出来はしない。二枚目の壁を崩している内に、一枚絵を再生されるのが目に見えている。

体制を立て直すべく、更に上空へと自分自身をパトリオットで打ち上げる俺。…だが、そのまま逃がしてくれる程相手は甘くなかった。


俺「……なっ!?」


一枚目の壁が、文字通りの竜巻となって俺を取り囲む。

外界から隔絶された、歪んだ円柱…外壁に刃が付いたミキサーだ。

そしてそれは、みるみる内に俺へと向けて収縮を始め………


視界を…死が支配した。

死ぬ…このままでは俺は確実に死ぬ。

逃げる隙間すら無く、ほんの数秒で俺はこのミキサーに削り潰される。


死ぬのは嫌だ…勿論嫌だ。だが何故か、浮かんで来るのは他人の事ばかり…あぁ、走馬灯にまで自分の出番が無いのか……

俺が死んだらカレンはどうなるんだろうな…良くても捕虜で…最悪これに巻き込まれて………


伝えたい事…聞きたい事…色々あったってのになぁ…もう二度と、あんなのはゴメンだってのになぁ…


浮かんでくる皆の顔…色あせて行く思い出の中の情景……

そして………それは不意に飛び出した。


『俺だと思って使ってくれ』

255: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 05:20:14.45 ID:+nw2yrERo
●風に吹かれぬよう地に足を付けて

マーク「な………手前ぇ……やっぱ……り…ぁが………っ…!」


内側に向けて抑え付ける力が失われ、遠心力に引き摺られるようにして散開する硬貨達…

手元には、ピンの付いた円状のカバー


俺「あれ……?俺……え?これ…空の缶バッヂの…カバー?」


そして…足元には、カバーの中に入っていた缶バッヂ…いや、金属盤が突き刺さって居た


俺「一体…何がどうなって…」

状況を確認するべく、周囲に視線を巡らせる俺、

周辺の景色はマークの能力のせいで荒れ果て…その荒地の中、少し離れた場所に倒れこんでいるマークの姿が見える。


出血と共にの首元が大きく抉り取られ、蹲ったまま痙攣をしている。そう……遠目に見ても判る、ショック状態に陥っているようだ。

恐らく、硬貨の渦が止まったのもその影響だろう。


何故?

何がどうなって?

誰がマークを?


頭の中に渦巻く疑問。だが…その疑問の答えはすぐ手の届く場所にあった。


俺「俺以外に居ない…よな」


俺は空の金属盤を拾い上げ、カバーに嵌め直しながら呟いた。

256: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 05:24:05.27 ID:+nw2yrERo
●動き出す足は誰がために

エリー「まさか…マークがやらちゃうなんてねぇ…」

瓦礫の中からカレンと共に這い出し、改めてその姿を晒すエリー。

服に付いた土埃をポンポンと叩き落とし…何を思ったのか、今度はその服を破り始める。


エリー「ねぇ貴方達…ボールペンとか持って無ぁい?」

カレン「そんな物、いきなり言われても…」

俺「あ、俺持ってる。さっきの戦いで折れたかも知れないけど…」


エリー「ちょっと見せて?うん…これなら何とか使えそうね」

カレン「使うって、一体何に…」


カレンが言い終わるよりも先に、マークの喉へとボールペンを突き刺すエリー。

かと思えば今度は芯を抜き出し…半ばの辺りで芯を噛み折って………


カレン「な…何?何をしてるの!?」

エリー「お願い、集中するから黙ってて頂戴」

カレン「………」


芯の残ったインクを吸い出し、出来上がったのはプラスチックの管。

手の影になっているせいで、よくは見えないが…今度はその管をマークの傷口付近に持って行き…

エリー「完璧…とは行かないけど、外れないように血管を押さえておけば、これで少しは時間稼ぎになるでしょう」


カレン「え……ぁ………」

やっとの事で何が起きていたのか理解するカレン。

ちなみに…俺も、余りの手際の良さに見入ってしまっていた。


俺「なぁ…とりあえずは、俺達の勝ちって事で良いんだよな?」

エリー「そうねぇ…今は作戦よりもマークの命の方が大事。だから私達の試合放棄って所かしら」

俺「なら救急車を…」

エリー「それには及ばないわ、もうキングダムの息がかかったのが向かって来てる筈。どうにかなるわよ、ここから消えて無くならない限り…ねぇ」


俺「…じゃぁ理央の方を…」

エリー「それももう大丈夫、マークが暴走した時点で作戦の中止をマリオや狙撃手達にも伝えてあるわ」

俺「そっか………なら―――」


俺の質問に対し、先手を打って答えるエリー。

殆ど予定調和のような、これまた手際の良い会話の中で、俺が次の言葉を向ける途中……


タ―――ン……


と、乾いた銃声が鳴り響いた。

257: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/29(土) 05:26:47.03 ID:+nw2yrERo
●例え間に合わずとも走るしか無い時がある


嫌な予感がする。


俺「おい!狙撃手も止めてあるんじゃないのかよ!?」

エリー「勿論止めてあるわよ!………ほら、確認したけど誰も発砲してないわ!」


俺「だったら……いや、こんな事行ってる場合じゃ無い。カレン行くぞ!」

カレン「ぁ…う、うん」


銃声のした方角へと走り出す俺達…

その場所が近付くにつれて増して行く、嫌な予感。


俺「確か…こっちの方だったよな!?」

カレン「間違い無いわ、方角的には次の角を左!」


俺達は倉庫の角を曲がり、遂にその場所へと辿り着く。


………

…………

……………


そこで見付けた姿は三つ…


拳銃を握り締めた、キングダムのメンバーとおぼしき男。

壁にもたれかかって、微動だにしないマリオ。

そして………


側頭部を撃ち抜かれた、理央の死体だった。


「ハ…ハハ…おまけに二匹か!マークもエリーもしくじったな!全部俺が頂きだ!!」


男の目を見た瞬間、金縛りに遭ったかのように動かなくなる俺の身体。恐らくこの男の能力だろう。

………………いや、そんな事はどうでも良いか。わざわざ説明するような事でも無い。


とりあず   お前は死ね