リア充爆散しろ 前編

259: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/03(木) 07:55:32.04 ID:pOWbvrfjo
○立ち止まって見下ろす原点

この世界には、無数の力が溢れている。

…財力や暴力を始め、魔力…超能力…特殊能力…様々な名称と様相を持つ力の数々。


中でも私達の持つ能力は、超能力…と呼ばれる類の物。


では、超能力とは何か?…他の力との明確な境界線は在るのか?超能力を超能力たらしめる物的証拠…超能力の定義となる物は存在するのだろうか?

超能力を語る上で必要不可欠となる、その答えは…存在する。

私達の脳の…やや前頭葉に近い位置で、右脳と左脳の間に形成された…P器官という物の存在だ。


このP器官を用いる事で私達は超能力を行使する事が可能になるのだけど…今回はそれを説明させて貰う


P器官の構造と、保有者のニューロンネットワークの形状…この双方に一致する箇所が存在した場合

それに伴った範囲の物理干渉や知覚範囲の延長を行使出来る…簡単な説明で申し訳無いけど、これが超能力と呼ばれる力の仕組みだ。


しかし…当然ながら、P器官を有していてもニューロンネットワークがそれに伴わなければ超能力を行使する事は叶わず

逆に…人為的な交配等の手段により特殊なP器官を持った者が、複数の超能力を所持する事に成功した…と言う事例もあるらしい。

ただし、その辺りの情報の殆どは開示されて居ないため、詳細は不明。


存在や条件こそ解明されては居る物の、超能力と言うのは正直まだまだ謎の多い力だ。


また…これはごく一部の人間にしか知られて居ない事だけれど…

P器官の上位存在………物理では無く法則に干渉する、D器官と呼ばれる器官を持つ者が存在する。


が…その件に関して現存する資料は極めて少なく、研究者達の間でさえ都市伝説のような物として扱われている。

260: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/03(木) 08:05:06.13 ID:pOWbvrfjo
●道標は足元に

ゴウンゴウンと重い機械音が響き渡る中、物陰に身を隠す俺とカレン。

とある豪華客船…その貨物室に、俺達は密航していた。


何故こんな事になっているかと言うと………


カレン「ねぇ………王は、本当にこの船に乗ってるの?」

俺「あぁ……理央が残してくれた情報が確かなら、この船で間違い無い筈だ」


そう言って俺は理央の携帯を取り出し、未送信メールを開いてカレンに見せる。


…概要はこうだ


マーク達から…テレパシーを用いる事無く、サイコメトリーを駆使して情報を読み取った結果

王が日本に来ていると言う事…そして、王の滞在先がここ…この豪華客船の中だと言う事が判った。


相手の戦力は、護衛が5人…側近が一人。最低限の人数しか居ない上に、場所の特性上増援をが来る可能性は低く…王を倒すならこれ以上の機会は無い。


………という内容に基き、俺達は今ここに居る。


因みにそれ以降は、この文章を打ちながら戦っていた相手…マーク達の能力や戦力、狙撃手が二人居る事。

そして最後に…『二人とも、真実を知って下さい。私も本当の』

と…最後まで打たれる事無く、文章の途中で途切れている。


カレン「せめて…銃の一丁のでも持ってたら…」

俺「カレン達は通常業務中だっただろ……それを言ったら俺の方が、脱出の時にチャンスがあった訳だし…」

カレン「貴方は生きるか死ぬかの瀬戸際だったじゃない。そこまでの余裕なんて無かったでしょ」

俺「………ってか、そもそも…持ってても、理央は撃つ暇さえ無かったんだろうな」


狙撃手の二人は別の場所で確認して、警戒していた形跡もある。恐らく理央を撃った奴は、不測の乱入者だったのだろう。

予期せぬ相手との遭遇で、不意打ちを受け…その銃弾により理央は倒れた。

そして俺達は、理央の遺してくれた情報を頼りに………王との最終決戦に向かっている訳だが…


カレン「でも…本来のスケジュールだと、もうとっくに出航している筈よね?」

時計を見ると、いつの間にか日付が変わっていて…午前1時23分。本来の出航時間よりも、現時点で23分の遅れが出てている。

俺「何か不測の事態でも起きたのか…いや、さすがに全部が全部予定通りになるなんて虫の良い考えは流石にしてないだろうし…」


多分、ここで幾ら考えても答えは出無い。


俺達は、もう少しだけ待機して様子を見る事にした。

261: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/03(木) 08:07:09.52 ID:pOWbvrfjo
●戯れに踊る道化の輪舞

カレン「ねぇ………」

俺「……何だ?」

カレン「貴方の能力って…一体何なの?」


俺「何なのって聞かれてもなぁ…正直、俺にもよく判らないんだ」

カレン「じゃぁ…聞き方を変えるわね。貴方の能力って、リア充爆散の超能力だけじゃなかったの?」

俺「俺も途中まではそうだと思ってたんだが…どうやらそう言う訳じゃ無いらしい」


カレン「そう…じゃぁ、パトリオットを使えるようになったのはいつから?」

俺「テロと同時に組織が襲撃された時……場所は違うんだが、空…キングダムのメンバーと戦った時だ」


カレン「リア充爆散以外の能力が使えるようになってたのは、いつ頃からか…それは判る?」

俺「判らない。もしかしたら最初からなのかも知れ無いが…機会が無ければ、死ぬまで知らなかったのかも知れない」


カレン「…………そう…」

俺「………」

カレン「………」

俺「………」


カレン「アハ…ハハ……何なんだろうね…無意味だったんだ。下手してたら全部裏目に出て…だだ足を引っ張ってただけかも知れないのね……」

俺「カレン……」


カレン「…………ゴメン。もう…何て言ったら良いのか判らない、本当…ゴメン」


俺「……………なぁ、俺達が初めて出会った時の事覚えてるか?」

カレン「木戸譲二の事件の時…クリスマスパーティーの時の事よね?貴方は一人でパーティーに来て居て…」

俺「そう…そこでカレンにぶつかって………って、そう言えば、あの時のカレンはすっごい猫被ってたよな」


カレン「………それは貴方もでしょう?今じゃあの時みたいな敬語の欠片も無いじゃない」

俺「敬語の方が良いのか?」

カレン「…うぅん。貴方こそ、猫被ってる方が良いの?」


俺「いや、いつも通りのカレンが一番だ」

カレン「…………………馬鹿」


俺「そうそう、それでこそカレン………っと、どうやお喋りはここまでみたいだ」

262: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/03(木) 08:10:27.07 ID:pOWbvrfjo
●忍び足で進む終局への迷路

壁を二枚隔てた向こう側…非常用の通路を何者かが歩いて来る。

俺はその存在を、パトリオットの片割れ…クレアボヤントで感知し、臨戦態勢に入る。


余程腕に自信があるのか、相手は一人…いかにもと言った感じの黒いスーツとサングラスの男。護衛の一人と見て間違いは無さそうだ。

やりすごすか?

ここで倒しておくか?


自分達の存在を隠しておきたいならば、やりすごすべき…

発見されるリスクを侵してでも敵の戦力を削っておきたいならば、ここで倒しておくべき。

後は…発見されてしまった場合にも倒す他無くなるが、それはまだ考えなくても良い筈。



手に汗を握り、刻一刻と迫られる選択。

しかし…俺がそれを決断するよりも先に、事態は急変した。


ガコン!ガコン!と、けたたましい音を鳴り響かせ…グラリと大きく揺れる船内。

波に揺られた訳では無い…察するに、出航を始めたようだ。

これでもう後戻りはできなくなった訳だが…それも、俺にとって悪い事ばかりでは無いようだ。


揺れに足を取られて体制を崩し…意識をそっちに持って行かれている、護衛。

俺はその隙を突き………


「ごぁ…っ!?」


パトリオットによる不意打ちに成功。

見事に顎を捉え、護衛の意識を刈り取る事がに成功した。


これで………残るは、護衛4人と側近1人

…………そして王だ。

263: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/03(木) 08:16:21.86 ID:pOWbvrfjo
●踏み鳴らし踏み荒らし踏み潰し

「なっ……そうか、お前達が…ぐぁ!!」

一人目の護衛と同様に、二人目の護衛の頭を捕らえて気絶させる事に成功。


「………私は索敵担当。戦闘力は無いから、お手柔らかに頼むわよ」

カレン「じゃぁ…救助用の浮き輪とロープがあるみたいだから、あれで縛っておきましょうか」


「ぐはっ!そんな…この俺が、こうも……」

「不意打ちとは言え、リックがやられるなんて…くそっ本気を出す事さえ出来ればっ!!」


一人…また一人と、最後に二人。俺達は護衛を片付け、その先に足を進めて行く。

残るは王と側近のみ…目指すはその二人が居る筈の、最上階VIPフロア


俺達は、逸る気持ちを抑えながら…一歩…また一歩階段を昇り……


「お待ちしておりました、お二方。中で王がお待ちです」


階段を登りきった先…VIPフロアの扉の前で待ち受けていたのは、落ち着いた物腰の男

そして、続いてその口から飛び出したのは…俺の予想とはかけ離れた物だった。


俺「王がお待ち…と来たか。まるで俺達が来る事が判ってたみたいじゃないか」


「はい、勿論」

道中あれだけ暴れたのだから、隠れきれて居ないだろうという可能性も考えては居た…

俺達の潜入がばれているのならば、それはそれで仕方が無い。だが…


俺「で…その刺客をすんなり通すってのはどう言う了見だ?王を差し出すから自分は見逃してくれって事か?」

「滅相も御座いません…私はただ、王の命に従うのみ。王が自らの身に危険が及ばないと判断した上での事でしょう」

嘘を吐いている感じはしない…だが、どこか胡散臭い喋りをする男。俺はその男がどうしても気になり…更に問いを投げる事にした。


俺「まぁ………そうならそうでお言葉に甘えさせて貰うが…一つ忘れて無いか?」

「と、言いますと?」

俺「俺達みたいな狼藉者ならまだしも、あんたみたいなタイプは、まず自己紹介をするべきだと思うんだがなぁ?」


「確かに…失礼致しました。始めまして、私の名は木戸譲二…以後お見知り置きを」


俺「なっ………」

カレン「―――ッ!?」

264: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/04(金) 02:28:40.16 ID:e6zxGcPio
●心を踏み躙られても立ち上がってここに居る

俺「何が始めましてだ。ほんの一目だけだが、俺達は会ってた筈だよなぁ?ってか、その時俺が殺した筈だよなぁ!?」

そう…無自覚だったとは言え、木戸譲二は確かにあのクリスマスパーティーで俺が殺した。

その木戸譲二が生きている筈が無い。男の言葉の真偽を確かめるため、俺は目の前の男…譲二と名乗る男に更なる問いを向ける。


譲二「はい、その通りです。ですが私が初対面と言うのも間違いではありません」

俺「…どういう意味だ」

譲二「私は、オリジナルの木戸譲二の予備…この体に記憶と人格をコピーしただけの存在です。なので…」


俺「それ以降のオリジナルの記憶は持って無い…そう言いたいのか?」

譲二「勿論、その通りです。あと、オリジナルの持っていた記憶改竄能力も持ち合わせておりませんのでご心配無く。確認しますか?」

譲二の言葉を聞き…反射的にその腕を掴むカレン。警戒心は張り詰めたままながらも、少し間を置いてから小さくため息を零し…


カレン「大丈夫、嘘は吐いていないみたい」

と、結論を口にした。


譲二「相変わらずだなぁ、カレンは。どうしてそんなに擦れた性格になっちゃったんだろうねぇ?」

カレン「…黙って!それ以上喋ると殺すわよ!」

目を尖らせ、今にも襲いかかりそうな剣幕で叫ぶカレン。


だが譲二はそれに臆する事無く、扉に手を伸ばし…


譲二「殺されるのは困るけど…案内も僕の役目だからねぇ。ささっ、王を待たせちゃいけないから、早く入ってよ」

歯軋りをして、拳を握り締めるカレン。だが、さすがにこの時点で厄介事を増やす事が好ましく無い…と理解する程度の理性は残っていた様子。

怒りを抑えながら、譲二の開いた扉へと歩き出し…俺もそれに続く。


と………そうして辿り着いた先が、このVIPフロア。

一目で判る程高価な装飾や施設が揃えられた…まさにVIPのためと言える大広間。

そして、その一番奥…玉座のようなデザインの椅子に座っている男が居た。


俺「さて………ついにラスボスとご対面…って訳だな」

カレン「……………」

俺「………気圧されるなカレン。気を引き締めないと…」


カレン「違うの……そうじゃ無いの…」

俺「なら……一体どうした?…」

カレン「どうして……?何で?何でそこに居るの?」


カレン「―――お父様!!」

265: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/04(金) 02:40:03.76 ID:e6zxGcPio
●靴を脱いで裸足で歩き出す

俺「………………は?」


王「よく私の元に戻って来てくれたね、カレン。待って居てくれれば、迎えを行かせたのに」

カレン「………え?」


王「詳細は無くとも、書き置きがあっただろう?まぁ、結果的に乗り込んでくれたから良いのだけど…」

王「あぁ、そうそう…一応船内の彼等には伝えておいたけど、船内では乱暴されなかったかい?」

俺「そう言う事かよ…くそっ、全部掌の上だったって事か」


カレン「何?…どう言う事?お父様は死んだ筈で…そのお父様がキングダムの王として目の前に居て……」

俺「落ち着けカレン。目の前の王がカレンの親父さんで間違い無いなら…とりあえず親父さんは死んで無いって事だろ?って事は……」


言い終えると同時に、俺は譲二を睨み付ける。


譲二「正解。お嬢様…いや、お姫様が王を殺した記憶は、僕に作られた偽者の記憶さ。僕がお姫様を生かしておいた時点で不思議に思わなかった?」

俺「やっぱりそう言う事かよ。でも腑に落ち無いな、何でわざわざそんな事をした?」


譲二「それに関しては、僕の口から説明するよりも王から直々にお言葉を賜るべき…かな」


王「あぁ…そうだね。その件に関しては私の方から説明しよう。カレンも聞いてくれるかい?」

カレン「…………はい」


王「当時…私はとても危うい立場に居た」

…語り始める王


カレン「危うい立場?」

王「そう…そうだね、どこから話そう。そう…まず、私は組織の研究者だった」

カレン「…え?だって、そんな事、組織の誰からも…何も…」


王「私の行っていた研究は、当時の組織の中でも極秘の物だったからね…組織側としても、カレンから悪戯に情報が拡散しないよう警戒しての事だろう」

カレン「で…でも………どうして、組織の研究者であるお父様が、キングダムの王に…?」

王「それはもう少し後に話す事になるから、順を追って話そう。良いかい?」


カレン「…はい」

266: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/04(金) 02:51:49.41 ID:e6zxGcPio
●裸足に茨が刺さっても歩く事を止められない

王「では続けよう。私の行っていた研究…それは、人為的にP器官…超能力の根源となる器官を生成する研究だ」

俺「なっ!?」

王「驚くのも無理は無いか。あの研究は、言うなれば生命の改変…数多の倫理観の中でも禁忌とされる行為だからね」


俺「って言うか、そんな事が可能………いや、可能だったから今のキングダムが存在してるのか?」

王「察しが良くて助かるよ。カレンはどこまで理解できてるかな?」

カレン「え…と、もしかして…お父様の研究が原因で、組織に狙われてた…と言う事…?」


王「その通り。組織の人間達はその技術を独占しようとして…私はそれに反発した。組織から追われる身になるのも時間の問題…そんな状態に陥ったのだけど」

俺「そこで登場するのがキングダム…って事か。いや…違う、組織に対抗するためにキングダムを作ったのか!」

王「惜しい…そこは少し違う。私が作った訳では無く、彼らが私の元に集ってくれたんだ」


譲二「そう…僕らは自らの意思で王の元に集ったのさぁ。銀河に遍く綺羅星が星座になるが如くねっ!」

俺「判った…その辺りは後で聞かせて貰うから続けてくれ」


王「私は彼等と言う心強い味方を得て、組織に対抗する手段を手に入れた。だが…所詮は私も一人の人間。矢面に立てば真っ先に討たれてしまうだろう」

俺「だからあんたは…キングダムに研究を奪われ殺された…と言う体面にして、表舞台から姿を消したって事か」


王「その通り」


俺「カレンの記憶を改竄して、組織の手に渡るように仕向けた理由は?あんたの死に信憑性を持たせるためか?」

王「それもある…けれども、その方がカレンが安全だと踏んだからだよ。キングダム側で保護していたら、争いに巻き込まれてしまう危険があった。それに…」

俺「組織側なら、貴重な情報源に対して手荒な事は出来無い筈……って訳か」


俺「でも納得出来無えな。カレンの記憶を書き変えて安全にするにしたって、もっと別の記憶を用意する事だって出来ただろ!」


王「それについては…また別の意図もあったからね。大筋を語り終えた事だし、ではその辺りにも入らせて貰おうか」


俺「………」

267: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/04(金) 03:03:08.42 ID:e6zxGcPio
●裸足で踊れば傷だらけの足が残る

王「私がキングダムを率いる事になった理由…それ以前に、研究を始める事になったきっかけ…それは何だと思う?」

俺「そんな事、いきなり言われても………いや、待てよ。確か…」


王の言葉を聞き、脳裏を過ぎるのは空の言葉。そう…空はこう言っていた筈だ


俺「弱者のため…か?」

王「その通り…私はそれまで見てきた。弱き者…強者に虐げられる弱者の存在をね。君も聞きかじる程度には知っているだろう?」

俺「それって…あれだよな?外国の貧困地域の子供達とか……募金なんかの謳い文句の、恵まれない子供達とか言う…いや、これで合ってるのか?」


王「合っているよ。そう…正にそう言う弱者達のために私は研究を続けてきた。実際に、可能な限りの弱者を救うべく奮闘してきたつもりだ」

俺「………そうか、その弱者だった奴らが…キングダムのメンバーか!」

譲二「そう…僕達は王に力を与えられ、救われた者達の集まりなのさ」


俺「いや、待てよ…俺が知ってるキングダムのメンバーは、外人の名前を名乗ってたけど、殆どが日本人だったぞ?」

譲二「それが何か?あ、ちなみに僕も生まれは日本だよ」

俺「世界中の弱者って存在を持ち出しといて、今更日本人が弱者に分類されるってのは無理が無いか?」


王「確かに…君達日本人は、他国の弱者に比べれば比較的裕福で、食事にも困らない者ばかりだ。だが…逆に聞こう、弱者とは一体何だと思う?」

俺「はぁっ!?俺が答えるのかよ!まぁ………弱者って言う以上は弱い者だよな。強者じゃ無ければ弱者って事になるのか?」


王「半分正解で半分不正解だね。弱者とは…弱さを持つ物、弱さの本質を理解出来る物の事だ。強者で無くとも、弱さを持たない者は弱者では無い!」


俺「何だよその理屈………そんな理屈が通るんだったら、俺だって……」

…と、言いかけた所で言葉が止まる。そして、またも空の言葉が脳裏を過ぎる

王「そう…弱さを知る者ならば、それは弱者足りえる資格を持っていると言う事だ。そして…弱さこそが強者を打ち破る力となる。違うかい?」


劣等感…反骨精神…下克上…リア充…妬み……勝ち組…負け組……社会格差…ヒエラルキー…底辺……そんな言葉が次々に浮かんで来る。

そして………俺の中で息を潜めていたドス黒い物が溢れ出す。


そうだ…俺は……


    リア充を…憎む側に居た………


少しの間恵まれた環境に居ただけで、有頂天になって忘れて居た…そう、俺は弱者じゃないか!

悔しさと悲しさと情けなさが入り混じった感情がこみ上げ、強烈な吐き気となって襲いかかる。

ダメだ…この感情に負けてはいけない。何か反論しなければ…


俺「あ………いや、あんたの理念やキングダムの事も判った…でもそれ、質問への答えになってないよな?」

王「本当にそう思うのかい?」


あ………これは多分勝てない。

268: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/04(金) 03:15:15.45 ID:e6zxGcPio
●そして足が無くなっても…

俺「あ…あれか?わざとカレンに辛い思いをさせて……弱さを身に付かせたとか言うんじゃないだろうな!?そもそも研究だってカレンを実験に――」

王「その通り、そう言わせて貰う。カレンまで…あの子の母のように、組織に消されるくらいなら……私は…悪魔にでもなる!」

必至なって先手を打ったつもりでも、それを真正面から打ち返される。


俺「で、でもよ!カレンはそれで…!」

王「…と、彼は言っているが、実際の所カレンはどう思っている?辛い目に遭わせた私の事を恨んでいるかい?憎んでいるかい?」

カレン「私は…私は………お父様が生きて居てくれるのならば、それで充分…辛かった事だって、全部許せるからっ……」


俺「カレン…」


カレンの瞳から毀れる大粒の涙…

今まで我慢してきたであろう涙を、俺の前で溢れ出させている。


そうだ…幾ら強気を装って居ても、カレンは年頃の女の子なんだ。俺は、一瞬でもカレンを言い訳にしようとした自分自身に怒りを覚えた。

そして……そんなカレンを見て、考えるよりも先に感情で動き……俺はカレンを抱き締める。


正直………今は何が正しく何が間違ってるのか判らない。


キングダムに対する恨みや憎しみを消す事は出来ないが、その感情に任せて王を…カレンの父親を殺す事なんて出来ない

…死んでいたと思っていた父親の生存……それだけが、今のカレンに残された唯一の救いだからだ。


俺「なぁ…だったら聞かせてくれよ。カレンはこの後どうなるんだ?アンタの代わりにキングダムの頭に据えるつもりじゃ無いだろうな?」

王「それは私が決める事では無い、カレン自信が決める事だ。ただ…少なくとも組織との抗争が終結するまでは、その答えを求めるつもりは無い」


俺「くっそ………少しくらい横暴な所を見せろよ。反論の余地すら無いじゃないか」


カレン「お父様……私からも一つ聞かせて」

王「何だい?カレン」

カレン「もし私が…このままキングダムの後継者になる事を選んだとしたら…彼はどうなるの?彼は組織の人間だけど…」


王「そうだね、彼の持つ弱さを考えれば…恐らくはすぐに解り合えるだろう。それに組織に所属していたからと言って、それを枷にするつもりは無いよ」

カレン「……じゃぁ…」

心底嬉しそうな笑顔を浮かべるカレン


王「だがね……」

だが…その笑顔を遮るかのように険しい表情を浮かべ、俺の背後…譲二へと目配せする王。


そして、次の瞬間には…


俺の胸部から………


真っ赤に染まった刃が突き出ていた。

269: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/04(金) 03:19:47.16 ID:e6zxGcPio
○ひたすらに歩き続けるしか無い…それが

カレン「嫌あぁぁぁァァぁ―――!!!」


譲二に背後から胸を貫かれ…身体を赤く染める彼。

私は慌てて彼に駆け寄るが、彼に何かしてあげる事も出来ない…彼を助ける術を何も持って居ない。


カレン「どうして…どうしてこんな事を!?」

全身を真紅に染めながら、更に…私の腕の中で、口から大量の血を吐き出す彼。


王「彼の能力は余りにも危険過ぎる」


カレン「そんな…そんな理由で!!」

虚ろな瞳を私に向ける…彼。


どんな意図を…どんな感情を混めたのか判らない。

自分が今にも死んでしまいそうな時だと言うのに…私が悲しみの中に沈み込んでしまいそうな時だと言うのに…


    彼は…私に向けて微笑んだ


譲二「おっと、まだそんな余裕がありましたか」

彼の背中から剣を引き抜き…彼の首筋へと添える譲二。

それが何を意図しているのか…私にも判る。


カレン「止めッ―――」

刃が彼の首筋を走り、そこから噴き出す鮮血。


熱い…彼の命その物が私に降り注ぐ。

270: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/04(金) 03:25:13.99 ID:e6zxGcPio
○彼とカレンと彼女の恋愛経路

カレン「あ……あぁぁ…ぁあ゛ぁぁぁぁ!!!!」

理性…と言う物が何なのかにもよるけど…多分それは私の中には残って居なかった。

身体のみならず精神からもリミッターが外れ、私の身体は考えるよりも先に動き出す。


まず譲二の手から…彼を殺した剣を奪い、その剣で以って譲二の首を撥ね飛ばした。


王「判ってくれ…カレン。いずれ彼は…彼の能力は、己の空白を満たすために内側からキングダムを食い破ってしまうだろう」

お父様の声が聞こえる…でも、その声が何を言っているのか判らない。


判らない…

判らない…

ワカラナイ…


カレン「判らない…判らない判らない判らない!!何なの!?私は何なの!?誰が一番大切で…誰のために生きてたの!?」


意味不明の雑音…その雑音を発する何かに、剣を突き立てる私。

王「カレン…お前………っ…は……」

それでも止まらない…だから私は、何度も何度もナンドモ何度も剣を突き立てる。


乾いたオトを立てて、手から滑り落ちる剣…


静寂に満ちた世界が見せるのは、真っ赤な海。


何が起きたのか…何をしたのか………

判らない…判りたくも無い。

何も無い…空っぽの何かが私を飲み込もうとしている。


カレン「あ…そうだ…私……彼に言わなきゃいけない事があったんだ……謝らないと…」


この感情から逃れるには、どうすれば良いのだろう…

そうだ……

私は………


―――私と言う存在を手放した。

271: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/04(金) 03:34:14.80 ID:e6zxGcPio
◎R

血の海の中…糸が切れた人形のように、後ろに倒れ込むカレンの身体。

カレンはまるで呼吸すらも忘れてしまった人形のように動きを止め、瞳は見開かれたまま宙に向いている。

永遠に続くかに思えるように停滞した死の空間で…時計の秒針だけが時を刻み続けていた。


生きる者はその場に存在しない。


ただ…

死を向かえて生を手放した者と

死を向かえずとも、生を手放した者


その二種類の存在だけが無造作に転がっているだけだった。


………

………

………


が…そんな中、不意に動きを見せる影が一つ。

カレンと呼ばれていた少女が力なく起き上がり、焦点の揺れる目で周囲に視線を巡らせた。


「やれやれ…愛故に、二度も両親をこの手にかけますか。さて仕方が無い、こうなったら僕が代理を務めるとしよう」


そして…カレンと呼ばれて居た存在は、その言葉だけを残してフロアの外へと消えて行った。



     ―BAD END―

 

273: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/04(金) 03:55:35.23 ID:e6zxGcPio
―美少女かと思った?残念ショウくんでした―

●≠≠≠

ショウ「おっつかれさまー☆」

ショウ「いやぁ、見事に報われなかったねー、糞悪かったねー、やり直し前提ならではだよねー」


ショウ「さて…それじゃぁまず、二週目のルート選択行ってみようかぁー」


ショウ「A…カレンルート」

ショウ「B…理央ルート」

ショウ「C…空ルート」


ショウ「ルート選択は >>278 くんにお願いしちゃうよ☆」

278: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/05(土) 14:04:35.46 ID:3An+TIdkO
とりまカレンで

279: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/06(日) 07:28:21.94 ID:bvRMSZRSo
ショウ「はい、それじゃぁ再びカレンルートにけってーい☆」

ショウ「前回と同じだとつまらないから、自動的に本物の世界で進ませてもらうよっ」

280: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/06(日) 07:33:29.70 ID:bvRMSZRSo
―彼とカレンと彼女の恋愛経路RR―

○Not So Long Ago Zero

ニヤ「―――と言うのが、過去に存在したリア充爆散能力の概要。照らし合わせても、彼の能力はこれと同じと見て間違い無いッスね」

カレン「つまり…彼が能力を行使するためには、私の存在が邪魔になると言う事ですか?」

ニヤ「そう言うと語弊があるッスね。あくまで恋人…とまで行かなくても、彼女のような立場の女性が居る事が問題ッス」


カレン「………」


ニヤ「彼が能力を行使する相手は、リア充限定…彼の基準で妬ましく思う事が出来る相手のみッス」

ニヤ「だからもし自分がリア充になってしまったら、その能力の対象範囲は狭まり…実質上行使不可能になって…」


カレン「組織の戦力を失うどころか、唯一の自衛手段を失ってしまう…ですよね」

ニヤ「情報が漏れてなければ良いんッスけどね…キングダムからすれば、彼は幹部の木戸譲二を倒した存在で…」

カレン「それを知られれば、いつ命を狙われるようになるか判らない…それどころか」


ニヤ「彼はカレンちゃんの力になって、キングダムと戦おうとしているッスからね…」

カレン「正直…私の復讐に彼を巻き込みたくは無いです。ついこの間だって…治しては貰えた物の、本当だったら後遺症が残るような大怪我をして…」


ニヤ「でも、カレンちゃんの過去…話しちゃったんッスよね?」

カレン「…………はい」


ニヤ「となれば、取れる手段は多くは無い訳ッスね。全部が全部上手く行くとは限らないけど、当面の事態を解決する方法なら在るッス」


カレン「…本当…ですか?」

ニヤ「ただ、そのためには…けしかけた身で悪いんッスけど、カレンちゃんには悪役になって貰う必要があるんッスよ」

カレン「………解りました、やります。例え彼に嫌われ、憎まれる事になったとしても…それが彼のためになるならっ」


ニヤ「カレンちゃん…本当に良いんッスね?」

カレン「…はい」


ニヤ「チャーハン…しばらくは味わえないッスよ?彼の手も握れなくなるッスよ?」

カレン「………はい」

281: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/06(日) 07:37:05.95 ID:bvRMSZRSo
○魔女×魔法少女×魔法幼女ッョィ

「それで…朱桜おねーさんは何をしてるの?」

朱桜「誰かさんが頼りないから、ちょっとしたテコ入れをしてるの」

カライモン「いや…せめてその誰かさんの前で直接言うのは勘弁してくれないかね…」


朱桜「もし私達の力を借りたくなったら…何て言っておきながら、ルールに屈して追い返して…どの口でそれを言えるのか不思議なの」

カライモン「いやいや、そもそもあのルールを作ったのは貴方達だろう!?」

朱桜「貴方じゃなくて…朱桜ちゃんなの」

カライモン「………っ」


朱桜「ルールの一つや二つくらい無視して助けるくらいの男らしさは見せて欲しかったの」

カライモン「男らしさも何も、私は女だがね!?」


「朱桜おねーさん、何で今回はそんなに積極的なのかな?イクシオちゃんも不思議がってるよ?」

朱桜「ちょっと出過ぎた真似をしようとする可能性がある人が居るから、お灸を据えようと思ってるの」

カライモン「あぁ…それは例の―――もがっ!?」


「うわ…マイおねーさんの口にシュークリームがストライク…」


朱桜「ネタバレ禁止…お喋りは嫌われるの」

カライモン「…………ブフッ!!…ゲホッ!ゴフッ!!」

「食べ物を粗末にする人も嫌われちゃうよ…」

朱桜「スタッフが美味しく頂いたからセーフなの」


カライモン「ゴホッ!ゴホッ!!と言うかだね…ゴホッ!部外者が直接関わるのは…ゴホッ…禁止事項では…」

朱桜「そんな事だから、ゴリライモンちゃんはサクヤちゃんの劣化コピーの域から抜け出せないの…」


カライモン「誰のせいでゴリラみたいな声が出ていると!?第一クレーバー教授の事は今は関係無いだろう!?」

朱桜「…直接関わらなくても、やり方はいくらでもあるの。それに今回は二周目だから丁度良いの」


「お手並み拝見?イクシオちゃん、難しい言葉知ってるんだね」

282: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/06(日) 07:42:44.17 ID:bvRMSZRSo
●修羅場修羅修羅修羅シュシュシュ

カレン「………それで、これは一体どう言う事なのか説明して貰おうかしら?」

俺「…………」

俺の部屋…そこでカレンに正座させられている、俺………と、空。


空「………」


俺「…何で部屋から出たんだよ」

空「いやな?返却頼んでたDVDあるだろ?あれな?」

と言って空が視線を向けた先は、星のカービィのDVDケース。


俺「まさか…中身間違えてたとか言うなよ?」

空「悪ぃ、そのまさか。んで、それを届けようとしたら、丁度アパートの前でコイツに…」

カレン「コイツじゃ無くて…私の名前はカレンよ。それより、口裏合わせは終わったかしら?」


俺「いや、カレンを相手に口裏合わせなんてしたって…」

と、ここで失言一つ。


カレン「貴方ね…っ、その事は部外者には………え?まさか…」

カレンが俺の言葉を遮り、空の手を握る。

カレン「答えて、貴方は一体何者?彼とはどうやって知り合ったの?」


俺は慌ててカレンを引き離そうとするが、もう遅い。


カレン「………嘘……貴女…」

空「え?何だ?俺まだ何も言ってねぇぞ?」


俺「えーっと………な?まぁ…ここまでやったらどっちも隠してもしょうがないよな…」


俺「カレンは、組織の構成員でテレパシー使い…」

俺「空は、キングダムのメンバーでサイコキネシス使いだ」


俺は、今更ながら二人の紹介を行った。


当然…カレンはそれをすんなりと受け入れてはくれなさそうだけど…

283: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/06(日) 07:45:43.92 ID:bvRMSZRSo
●ガミガミのちギスギスところによりジットリ

カレン「………ゴメン、ちょっと頭の中を整理させて」

俺「ってか、どこまで見たんだ?」


カレン「黄色先輩に弾かれた金属盤が貴方の方に向かって、次の瞬間には彼女に風穴が空いてたって所…多分これは黄色先輩の能力ね」

空「んでその後は…」

カレン「言葉にしなくても良いわ、直接読ませて貰うから」


俺「………」


カレン「………え?何これ、気が付いたら彼の部屋で…傷も完治って…一体途中でどんな…」

俺「あ、それな。悪魔と契約して治して貰った」


カレン「………はっ?」

空「悪魔…?いや、どうやって治したのか…いつか聞こうとは思ってたが、それは無いだろ」


俺「いや、な。ベリルって言って、カライモンの知り合いの悪魔が居てその悪魔と…」


カレン「ちょっと待って、カライモンって…あの魔法少女カライモン?何でそんな人と…」

俺「あぁうん、カライモンってマイ先生の事な。以前俺の身体を治して貰った事があったろ?その時に召喚魔方陣を貰ったんだ」

カレン「え?え?カライモンの正体がマイ先生?あ、でも…だったら悪魔なんて存在が実在しても…え?」


空「…え?マジか?今の話マジなのか?」


カレンと空…二人とも仲良く頭にクエスチョンマークを浮かべている。

俺の口下手が原因なのでは無く、隠されて居た真実が複雑だったのだろう…うん。

284: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/06(日) 07:54:44.41 ID:bvRMSZRSo
●雨々降れ降れユカイ

カレン「それで………彼の迷惑をかけないようにするため、組織には戻らずここで同居してる訳ね」

空「同居って言うか居候?まぁ、結局コイツもコイツで組織には黙ってるみたいだけどな」


カレン「黙ってるって…ニヤさんのテレパシーで読み取られたら一発でアウトじゃないの」

俺「あぁ、それは何とかなってる。キングダムのエリーって奴の件、聞いただろ?」

カレン「テレパストラップのエリーね?あぁ、口頭報告だけなら…でも、その場合一緒に居た黄色先輩も………え?何?黄色先輩もグルなの!?」


ご名答


俺「ちなみに、空死亡の情報流布も済んでるぜ」

カレン「二人して親指立てながら、誇らしげに言わないで!何したか解ってるの!?」

俺「まぁ…結構不味い事してるってくらいには…な。んでも、友達を守るためだからなぁ…カレンは同じ立ち場だったらどうする?」


カレン「………そういう質問の仕方は卑怯よ」

俺「悪いな、こういう性分なんだ」


カレン「まぁ……事情の方は解ったわ。でも、現状のままじゃ良く無いのは解ってるわよね?」

俺「あぁ…いつまでもこうしてる訳にはいかないよな。隠し通せるのもいつまでか…」

カレン「その件は私の方でも何とかしてみる…けど、もう一つ。部屋の問題はどうするのよ」


俺「部屋?いや、別に今のままでも俺は不自由してないし、別に良いんだが…」

285: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/06(日) 07:56:59.51 ID:bvRMSZRSo
●笑顔ニコニコニヨニヨ動画

カレン「そうじゃなくて!…同じ部屋に男女が一緒に暮らしてるのが問題だって言ってるの!」

俺「え?」


空「ぁー…あぁ、なるほど、なるほどねぇ…そー言う事か…」

カレン「そう言う事よ!」


俺を置いてきぼりにして、話を進める二人


空「まぁまぁ安心しろよ、今ん所はまだ男女の関係でも無ぇし問題も起きて無ぇから」

カレン「そっ…その言い方だと、この先起こす気満々みたいじゃない!」

空「いっやぁ、解んねぇぜ?んでも、この先何があってどうなるかも解らねぇしなぁ?」


と、二人の会話でやっと意味を理解する俺


俺「こら、茶化すな。あぁ、いや。空そはそー言うんじゃ無いから安心してくれよ。第一カレンだって、俺と二人で寝起きしてた時は…」

空「………はぁっ!?何だそりゃ!?初耳だぞ!?」

カレン「あ……あ、ああ、あの時は!!」


カレンをなだめたつもりが、今度は何故か空からクレームが飛んで来た。何を言っているか以下略…

と言うか、何でカレンは真っ赤になってるんだ?やれやれ、全く訳が判らないよ…

286: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/06(日) 08:05:55.12 ID:bvRMSZRSo
●二人仲良く狐と狸のロンド

カレン「とにかく………組織内での空の件は、私の方でも何かしてみる。確約は出来ないけど、一人で何かするよりはマシな事が出来ると思うわ」

空「悪ぃな」

俺「悪い、巻き込んじまって」


カレン「それは良いの…今回は私が踏み込んだような物なんだから」

俺「そう言えば…何でカレンは俺の部屋に?」


カレン「あ、そうそう…これなんだけど………貴方、この書置き…私の部屋に残して無いわよね?」

そう言ってカレンが取り出したのは『3日後、お迎えに上がります』と書かれたメモ用紙。

俺「いや、俺は知らない。その様子だと、カレンにも心当たりが無いんだよな?」


カレン「侵入者の形跡は無し…今の所、誰も心当たりが無し…正直気味が悪いわ」

空「書き置き?どれどれ…………ん?」

カレンの持って来たメモ用紙を覗き見て、首を傾げる空


俺「知っているのか、空」

空「いや…もしかしたらなんだけどな?この手口、俺の知ってる奴かも知れねぇ」

カレン「…えっ?」


空「さすがにこんな状況だから、直接聞く事は出来ねぇんだが…ちょっと遠回りな方法で確認してみらぁ」

カレン「でも…こんな事を初対面の貴女に…」

空「おいおい、そー言うのは言いっこ無しだぜ。ま、元キングダムのメンバーだから信用出来ねぇってんなら仕方無ぇけどな」


カレン「そ…そう言う意味じゃ無いわよ!」

空「だったらお互い様だ。俺の件で手間かけさせちまうんだから、そのお返しってとこだな」


カレン「それは、貴女のためじゃなくて彼の負担を………っ」

空「………な?お互い様だろ?」


カレン「――――っ…!!」


あれ?また俺の判らない所で話が纏まってないか?

288: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/07(月) 05:05:42.13 ID:d34gRwxTo
●偽りペルソナ壊してハリハリー

理央「で、では…来て貰って早々ですが…本題に入らせて貰い…ます」

空中庭園…急遽理央に呼び出され、俺とカレンはこの場所に来て居る。


俺「本題って言っても…一体何の話なんだ?」

理央「お二人を…よ、呼び出した用件は他でもありません。この茶番についてです」


茶番…理央が口にするには、なんと言うか…らしくないその言葉を耳にして、身体を強張らせる俺とカレン。

茶番と言うからには、演技をしている事…演技をして隠している事と考えて間違い無い筈。

となれば、先ず最初に浮かんで来るのは空を匿っている件なのだが…


理央「そ、空さんの事ではありません。あ…で、でも。空さんも無関係ではありません…」

俺の予想が外れた事を、理央の口から告げられた。


理央「先輩も…カレン先輩も……隠し事をしているせいで、お互いにすれ違って居ます。だから…そこから正します」

俺「隠し事?………あぁ、そうか…理央が言ってるのは…」


理央「コピー室前で先輩が聞いた会話…いえ、言葉の内容ではありませんよ」

俺「…えっ?」

カレン「………」


理央「あ、あの言葉は…元々先輩に聞かせるためにカレン先輩が連呼してたんですよ」

俺「………はぁっ!?いやいや、おかしいだろ!騙してる相手にその内容を聞かせて何の得があるんだ!?」

理央「…利益が無いと思い込んでいるからこそ、その可能性に目を向けようとはしない…それは間違いです」


俺「いや、訳が判らねえよ!ってか、第一俺がカレンを手伝いに行くかどうかなんて…」

カレン「…解るわよ。貴方なら、待ってればきっと手伝いに来てくれるって……」


俺「っ………」

理央「そ、それに…その時来なかったとしても、別の機会に改めてやり直せば良いだけの事ですから」


俺「で、でもよ。俺じゃなくて他の誰かだったら…」

理央「他に誰も通らない事は確認済みでしたし、カレン先輩なら先輩の足音くらい解ります」


俺「いやいやいや、待ってくれ」

理央「では次に…先に先輩の方の隠し事を明かします」


一体どうしたと言うのだろうか…今日の理央は止まらない。

289: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/07(月) 05:09:13.17 ID:d34gRwxTo
●気付かないふりして愚鈍はノーノー

理央「先輩の能力は、リア充爆散だけではありません」

カレン「………え?」

理央「と言うかカレン先輩も、この件に関してはわざと見ない振りしましたよね?空さんの記憶を読んで、見ましたよね?」


カレン「え…だ………だってあれは、彼女の勘違いで…本当は、黄色先輩の能力でしょう?」

理央「それはカレン先輩がそう思い込みたいから、そう思っただけです。現実から目を逸らしています、先輩はパトリオットを使いました」

カレン「そ…そんな…じゃぁ…私が彼にした事って間違ってて…全部無駄で……彼を傷付けただけ…」


理央「間違って居たとは言いません、あの時点ではあれが最善策でした。ただ…結果的に無駄だった事も否定はしません」


俺「……………え?一体どう言う事だ?いや、何となく行き違いが発生してるって感じはあるんだが…」


理央「では、順を追って話します」

俺「…頼む」


理央「先輩の能力は対象を爆散させる能力…そう思われて居ました。これは組織のみならず、先輩自身もそう思っていましたね?」

俺「あぁ、そうだ」

理央「そんな中、幾つもの困難を越えてカレン先輩が先輩に惹かれ…皮肉にも先輩の能力がリア充爆散能力だと判明しました」


俺「え?そうなのか?」

カレン「………」


理央「そしてリア充爆散能力を維持するためには…カレン先輩が恋人になるイコール先輩がリア充になる、と言う事態を防がなければいけませんでした」

俺「何でそんな…いや、確かに組織としては能力者が減るの困るだろうけど」

理央「それ以前に、先輩の安全のためです。どこかの先輩が自分から危険に飛び込もうとするから、その手段を取らざるを得なくなったんです」


俺「そんな大袈裟な…」

理央「大袈裟ではありません。能力一つで戦略がどれだけ大きく変わると思っているんですか?どれだけの生死に関わると思っているんですか!?」

理央「それに…それ次第で、先輩にどれだけの護衛を付ける余裕が出来るかも変わるんですよ。先輩は気付いて無いようですけど」


俺「………え?」


と、そこで初めて気付く…いや、初めて考えるという地点に至った

290: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/07(月) 05:14:58.50 ID:d34gRwxTo
●水面下のドントゥノウ

『あー…そうそう…護衛の奴等なら来られ無ぇからな?』

あの時…俺に護衛が付いていた?俺のために人員が裂かれていた?

理央「解りましたか?先輩一人で戦って自分勝手出来る訳では無くて…そういう土台があるから、先輩がこうやって今も生きてるんです」


俺「だったら、今の俺なら…………………」

理央「………」


俺「………………ああああああぁぁぁぁぁ!!!そう言う事か!!!」


理央「そう言う事です」

ドヤ顔…いや、ドヤ顔を作ろうとして震えた笑顔になってしまっている理央。

そこはせめてキメてくれ。


俺「悪いカレン!俺がパトリオットを使えるようになってた事を言って無かったから、カレンにずっと辛い思いをさせっ放しに…!」

カレン「え?ちょっ…ちょっと待って!謝るのは私の方よ!?貴方の気持ちを知ってて、ずっと騙してたんだから!そのくらい…」


俺「だってそれは俺のためだろ?だったら結局俺が原因で俺が悪いんじゃ無いか!」

カレン「違うわよ!だって私が勝手にやった事なのよ!?貴方が悪い訳無いじゃない!」


理央「………本当、悔しいくらいにお互い様じゃないですか…」


俺「ん?何か言ったか?悪い、よく聞こえなかった」

理央「何も言っていませんよ。何ですか?難聴設定アピールですか?」


俺「いやそれ、どこの―――」


理央「……と、言う訳で…お互いの誤解と隠し事が解消された所で……つ、次…い、行きましょうか」

落ち着いた所で、何故かまたたどたどしい口調に戻る理央。


カレン「次って……何?何処?」

理央「せ…先輩の家です。空さんにも会って話を聞いてみましょう、き…気になる事があるんです」


こうして…カレンと理央が俺の部屋に来る事になった

291: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/07(月) 05:21:46.05 ID:d34gRwxTo
●暴露続ける事情のアンマスク

俺「なぁ…理央の能力の範囲ってどのくらいなんだ?」

理央「凡そ半径200メートルくらいです。それ以上の範囲も多少は読み取れますけど、不鮮明になります」


俺「空の事はどうやって知ったんだ?この辺りって確か、そういうの出来ない筈なんだが…」

理央「空中庭園でお二人が思い浮かべた時点で知りました。なので今はこうして直接お会いしに来て居ます」


カレン「出来ないって…どう言う区分のどの範囲?」

俺「テレパシーとかサイコメトリーとか…容認されていない覗き見行為全般にジャマーが掛かってるみたいな物と思ってくれ」

カレン「何その出鱈目な……あ、でも。彼女の心は読めたわよ?」


空「あー……そりゃ多分あれだな…ってか、あれでも容認したって事になんのか…」

俺「説明plz」


空「コイツ…カレンと最初に会った時。二人して正座させられた時があっただろ?」

俺「あぁ、あったな。DVDの返却に行って、本屋巡りして…そこから総統に呼び出されて報告して、やっとの事で戻って来た所であれだったな…」

空「んであの時な…お前が戻ってくるちょっと前に、こう思ったんだ」


空「もしかして…コイツがカレンか?ならどうやって説明するか…下手な嘘吐く自信も無ぇし…いっそ頭ん中全部ぶちまけられたらなぁ…ってな」


俺「少しは誤魔化そうとしろよ………ってかまぁ、多分それが原因だな」

空「あ、でもよ…容認しなけりゃ読まれないんなら、組織の方に俺の事黙っとくのも…」

カレン「それは無理よ。まず正規職員の大前提として、全ての情報提供を要請されて…それを許可する事に同意してる筈だもの」


空「…マジか。お前等ん所の組織、滅茶苦茶ブラックだな」


俺「テロ組織に言われたく無ぇよ!?」

カレン「テロ組織に言われたく無いわよ!?」


同時にツッコミを入れてしまった


理央「それ以前に…空さんと事を起こしたのは別の場所ですから、足取りが掴めた今なら私の能力でも遡れますよ」

292: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/07(月) 05:24:29.09 ID:d34gRwxTo
●常識に創られた今この時ブレイクアゥッ

俺「にしても…カレンは俺が来るまでの間に、空の思考を読もうとは思わなかったのか?」

カレン「その時点で白か黒かも判らない相手に、そう簡単に超能力は使えないわよ…」


俺「あぁ…その辺りは意外としっかりしてるんだなぁ」

カレン「ちょっと、意外って何!?私を何だと思ってるの!?」


直情脳筋少女…なんて単語が頭に浮かんだ。

しかし、さすがにそれを口に出す事など出来る訳が無い。俺はこのまま胸の奥にその言葉を仕舞っておく事にした

………のだが


カレン「へぇー…ふぅーー…ん………」

何時の間にか掴まれている俺の腕…それはつまり…

カレン「じゃぁ…その期待に応えてあげないと駄目よね?」


俺「落ち着けカレン…落ち着いて話し合おう、な?」

カレン「あら…落ち着いてるわよ?それに本音はちゃんと聞かせて貰ったもの、これ以上は…あぁ、言葉じゃなくて拳で語り合いたいのね?」

俺「いやいや…同じ肉体言語なら、拳じゃなくて………はっ!?」


冗談交じりながらも、頭の片隅にその思考を浮かべた事を俺は後悔した。


カレン「っ……!!あ…貴方って人は!!!」

俺「いや、今のはあくまで冗談……おぶふぅっ!?」


久々に受ける、カレンのセクハラ制裁リミッターブレイクパンチ。

俺の身体は、きりもみ回転とムーンサルトを同時に行いながら天井へと飛び上がり……


俺の意識は…そこで途切れた


       DEAD END

295: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/08(火) 01:53:18.72 ID:OzNJN/mHo
●まだ眠るには早いデイドリーム

国王「おぉ勇者よ、死んでしまうとは情け無い」

俺「え?あんた誰!?」


帝王「死んじまうたぁ情けねぇなぁ」

俺「って、黄色先輩何やってるんですか!?」

姫「やれやれ、情け無いね」

俺「アウィスさんまで何を!?」


大統領「情け無い…あぁ情け無い、情け無い」

俺「いや、だからあんたも誰!?ってか5・7・5!?」


魔王「ナサーケナイ♪ ナサーケナァィッ♪」

俺「いやそれもうとっくに旬過ぎてるネタだからな!?」


………………………


俺「ハッ…夢か」


目を開けると、そこには理央の顔。後頭部に当たる柔らかい感触…うん、どうやら膝枕をされているらしい。

カレン「迂闊だったわ…心を読まれてなければ勝てると思ったのに…」

空「くそっ…目の前の相手を警戒しすぎたかっ…」


部屋の隅で空とカレンが何か言っている…が、とりあえずそれは置いておこう


俺「酷い夢だった…俺がカレンに殴り飛ばされて…」

理央「あ…そこは夢じゃなくて現実です」


Oh…

296: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/08(火) 01:58:10.84 ID:OzNJN/mHo
●二人の世界を二人が許さないザワールド

カレン「あ…あのね」

俺「ん?何だ?」

しゃがみ込んで床に手を突き…理央との間に割って入ってくるカレン


カレン「やり過ぎたとは思ってるけど…謝らないわよ?でもその代わり…貴方が黙ってた事はこれで無し、チャラよ」

俺「いや、だからそれは…」

カレン「だ…だから………あ、貴方からも私に好きな事して、それで本当におあいこ。二人とも全部許すって事で良いわよね?決定」


俺「お…おう?んでもそれって………」

顔を赤らめるカレン…それに気付いて心臓が高鳴り、多分俺の顔も赤くなっている。

俺は思わず、ゴクリと音を立てて唾を飲み込む……が


理央「コホン」

理央の咳払いが、俺とカレンを正気に引き戻してくれた。


空「ってかよぉ…そもそも俺に用があって来たんじゃ無ぇのかよ」

理央「そうですよ、現状で可能な限りの情報を得るために、空さんに話を聞きに来たんですから」

俺「あぁ、そう言えばそうだったな…と言うか、空から一体何を聞くつもりなんだ?カレンの部屋の書き置きの事なら…」


理央「それもありますが…まずは、カレンさんのご両親の事です」


カレン「…………」


そして…理央の一言により、その場の空気が一瞬にして張り詰めた

297: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/08(火) 02:01:22.10 ID:OzNJN/mHo
●まだ夏には早い七月のフール

理央「先輩とのやり取りでは、こう言っていましたよね?『あの件は仕方ない。不幸な事故と方向性の不一致だ』って。その辺りの事を教えて下さい」

空「教える…って言っても、俺も他のメンバーからまた聞きしただけだぜ?」

理央「それで構いません」


空「んじゃぁまぁ…俺が知ってる概要はこうだ」

俺に理央…そしてカレンが空の言葉に聞き入る


空「まず…キングダムの研究者の一人が造反を起こして、組織に技術を売り渡そうとした。これが多分、カレンの父親の事だな」

カレン「お父様が…キングダム構成員…?そんな…まさかそんな事……」

動揺を隠し切れず、身を震わせるカレン。俺はそんなカレンの手を取り、強く握り締める。


空「で…その事をいち早く察知した幹部が、それを止めさせるために説得に向かったんだが…どうも、話が平行線になって止められなかったらしい」

理央「方向性の不一致と言うのはその事ですね。では不幸な事故と言うのは?」

カレン「説得に向かったはずの幹部が…誤って、その研究者を殺してしまった…そんな所になってるんでしょうね」


空「は?何だそれ?」

カレン「え…?」


空「俺が聞いた話だと…こうだ。研究員は、キングダムを去る際に研究中の実験体を持ち出そうとしたらしいんだが…これが不幸な事故の始まりだ」

俺「………」

空「実験体…シグマって名前なんだが、それが逃げ出して暴走。更には実験体による研究者の殺害と同時に、組織の部隊が攻め込んで来た」


空「幹部は辛うじてそこから逃げ出すが、研究者の遺体も実験体も回収出来ず終い。実験体は組織に回収されたんじゃないか…って言われてる」

カレン「何…?何なの?実験体って何?そんなの私知らないわよ!?ジョージがお父様を殺した事を隠すために創った、作り話じゃないの!?」

空「いや、いくらジョージでもそんな作り話して内部を掻き回したりはしねぇよ。第一、裏切り者を粛清したからって隠す必要無ぇだろ」

理央「むしろ、問題を起こした事の方が、他人に知られて不都合な筈。それをあえて報告した以上…真実である可能性の方が高いですね」


俺「いや、待てよ?だったらカレンの記憶はどうなる?間違ってるのか?カレンは木戸譲二に操られて、両親をその手で……」

298: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/08(火) 02:09:15.68 ID:OzNJN/mHo
●絶対不変そんな物はナッシング

理央「そうですね、現時点で考えられるのは……自分の功績では無く実験体のせいにする事で、何らかの別の利益を得た…と言う可能性ですが」

俺「別?あぁ…そう言えば、カレンが木戸譲二に操られた時は実験体なんて全く関与してないんだよなぁ?」

カレン「えぇ…今の今までその存在すら知らなかったわよ」


俺「って事は…カレンの両親殺害は……実験体の暴走よりも前か、それよりも後の可能性が出て来るな」

空「後は………カレンのその記憶その物がジョージによって作られた物……なんてな、いや、まさかな」


カレン「…………」

俺「理由が無ければそんな事はしないだろうが…逆に理由があるならその可能性も捨てきれ無い…よな」


空「あ、そー言やぁそっちのちっこいの。お前はどうなんだ?一時期ジョージと一緒に居たんだろ?何か知らねぇのか?」

理央「ちっこいのでは無く理央です。それは、木戸譲二に操られていた時期の事ですよね?」

俺「あぁ、そうか…理央の無差別なリーディングなら、もしかしたらその辺りの木戸譲二の記憶も…」


理央「遺憾ですが、当時は超能力その物に制限をかけられて居たので…木戸譲二の情報はほぼ全くありません」

俺「超能力その物に制限って…そんな事が出来るのか?いや、理央の能力なら、使えばすぐに記憶操作がばれるんだから…出来てたんだよなぁ?」

理央「木戸譲二だからこそ出来た芸当ですけどね。原理は簡単です」


空「超能力が使えると言う記憶を消しておいて、利用したい時にだけ戻してまた消した…そんな所か」

理央「それもありますが…私の場合は、人格その物を変質させられて居ました」

カレン「人格の変質…そう言う事ね…」


俺「悪い、俺だけ解って無いみたいだから説明してくれ」


空「んー………それを説明するとなると」


カレン「超能力の仕組み…そこから説明しないと駄目みたいね」

299: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/08(火) 02:16:30.52 ID:OzNJN/mHo
●彼と彼女繋ぐサイキック

カレン「それじゃぁまず、P器官…超能力を行使するための器官の事から始めましょうか」

俺「確か…脳に流れる神経電流を、拡張伝達する器官…だよな?」

カレン「そう…それにより超能力を行使するチャンネルに接続、他人の神経への干渉。例えば…」


空「サイコキネシス…俺のソーサー=ソーサみたいな物理干渉」

理央「カレン先輩の受信型テレパス…私の複合リーディングのような感覚拡張を行使する事が出来ます」


カレン「でも…これらの超能力を行使するためには条件があるの。それは…P器官の構造と、ニューロンネットワーク…人格が一致する事」

俺「一致って…完全一致か?部分的でも良いのか?」

カレン「部分的…と言うか、言葉が悪かったわね。人格とP器官の構造が重なり合った部分…それがその人が使える超能力だと考えて」


空「そうだな…例えば俺は、本当はもっと凄いサイコキネシスを使えるP器官を持っているとする」

俺「でも人格が残念だから、P器官のほんの一部分しか使えなくて…ソーサー=ソーサが精一杯…って事か」

空「そうそう…って誰の人格が残念だ!!」


理央「逆に私は…全てを使える人格を持っているので、私のP器官が保有している構造の全て…複合リーディングと送信型テレパスが使えます」

俺「成る程…つまり木戸譲二は、記憶改竄で理央の人格を空くらい残念にして…その超能力に制限をかけた訳か」

空「ま、そう言う…って、だから人の人格を残念とか言うな!!」


カレン「と言うかこれ…研修の時点で教わった筈なんだけど」

俺「悪い、カレンの事で頭がいっぱいで聞き流してた」

カレン「………馬鹿」


俺「しかしそうなると…実際の所は、当事者である木戸譲二のみ知る所か」

カレン「死人に口無し…闇から闇へ…と言う事よね」


手詰まりになり、黙り込む俺達。

だが…糸口は思わぬ所から現れた


空「あぁ、そうそう…ジョージで思い出した。カレンの部屋にあった書き置き…あれ、やっぱりジョージの手口だったわ」


カレン「……え?」

俺「はぁっ!?」

300: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/09(水) 00:08:24.33 ID:Jn3aqklho
●迷走するアンビエントハート

俺「で………どうしてこうなった!?」


次の日…空の呼び出しで改めて集合した俺達。

場所は街外れの廃工場…

面子は………俺、カレン、理央、空………


そして…キングダムの、マーク、エリー、マリオ

当然ながら…俺達組織側とキングダム側との間には、張り詰めた空気が漂っている。


マーク「そりゃぁこっちの台詞だ!死んだと思ってたミラから連絡が来たかと思やぁ、何なんだこの面子はよぉ!」

エリー「何て言うかこう…運命的な何かを通り越して、作為的な物を感じちゃうわよねぇん」

空「いやぁ…そっちの事情もあるみてぇで悪ぃんだが、今回は一応俺の顔を立ててくれよ。な?オジキにエリー…それと…」


エリー「彼の名前はマリオ。貴女の代わりに配属された、無口なクールガイよぉん」

空「んじゃマリオ、アンタも頼むよ」

マリオ「………」


マリオと呼ばれた…黒いマントに身を包んだ大男は、無言のまま頷いた。


俺「まぁ…空の仲間…キングダムって広い区分じゃなくて、チーム的な仲間だってのは判った。んでも…」

カレン「手放しで信用出来る…って空気でも無さそうよね」

マーク「おぉっ?良いねぇ良いねぇ…一発やらかすか?」


互いに構える俺達とマーク。だがそんな状況さえ気にした様子も無く、エリーが双方の間に割って入る。


エリー「んもぅ、三人とも…今日は喧嘩じゃなくて話し合い、と言うか情報交換に来たんでしょう?火花なんて散らさないのぉん」


俺「情報交換…? いや、そんなの今初めて聞いたぞ?」

空「あ、悪ぃ。言うの忘れてた☆」

俺「おまっ……」


テヘペロ顔で言う空。いや、そんな顔をしても許さない!

301: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/09(水) 00:26:53.07 ID:Jn3aqklho
●頑固親父と青年のヴァーサス

空「いやな?例の書き置き…ジョージの手口の件でオジキ達に色々確認して貰ったんだがよぉ」

エリー「ど~ぉぉぅも、キナ臭い匂いが鼻から離れないのよね。私達の知らない所で何かが動いてる感じぃ?」

マーク「俺達に下ってる指令にしたってそうだ。元々気乗りはしてなかったが、ここに来て一気にやる気が無くなったぜ」


俺「いや、その辺りの事情も全く聞いて無いから説明して欲しいんだが…てか、俺達から提供出来る情報なんてあるのか?」


マーク「まぁぶっちゃけた話、俺は姪っ子の顔を見に来るついでだったから…そっちの事情や情報はどーでも良かったんだが…」

俺「んじゃぁ…」

マーク「手前ぇの顔を見て、気が変わった…ってか形式を変える。小僧、お前が俺に勝てたら洗い浚い全部話してやんよ」


俺「はっ…?」

エリー「あぁんもう…結局こうなっちゃうのね」


俺「いやいやいや、何でそうなる!?ってか、逆に俺が負けたらどーすんだよ!?」

マーク「男が…負けた時の事を考えてんじゃ無ぇよ!」

懐から幾つ物硬貨を取り出し、それを宙に放り投げるマーク


俺「ついさっきアンタがそれ言ったばかりだよなぁ!?そもそも、やられた方が喋れ無くなったらどーすんだよ!」

マーク「こっちの情報は全部エリーから聞けるようになってるぜ!」

俺「だったら…えっと、理央!こっちはお前が頼む!」

理央「え?えっ!?は、はい…わ、判りましたっ」


俺「あぁもう…自分もノっといて何だが、何なんだよこの会話!!」


納得しては居ないが、退く訳にも行かない。

双方の合意が半ば無理やりに成され…開始のゴングも無いまま、マークとの闘いが始まった。

302: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/09(水) 00:39:04.23 ID:Jn3aqklho
●漢の意地はアンブレイク

まず、先手を打ったのはマーク

大分離れた場所から俺に向かって踏み込み、その拳を振り下ろして来る。


後か横にろに跳べば、余裕で回避可能…懐に飛び込んでカウンターも狙える…が、俺はあえてそのどちらも選ばない。


マーク「正面から受け止めた…だと?中々骨があるじゃねぇか!だが…それは迂闊過ぎるにも程があるぜ!」

両掌を額の前に構え、マークの拳を受け止める俺。


しかしマークの一手はそこで終わらず、追撃が俺に襲いかかる。


斜め前の上方…マークの放り投げた硬貨。その硬貨の一つ一つが、マークの動きに続くように豪雨となって俺に降り注ぐ

一つでも直撃すれば致命傷になりかねない攻撃…だが、当然ながらそれを黙って受ける俺では無い。


マーク「な……にぃ!?」

パトリオットで硬貨を撃ち落され、絶句するマーク。

エリー「ちょぉっとぉ!それって…パ…パトリオットじゃないの!!」


俺「後で騙し打ちに使うのもアレだからな…先にお披露目させて貰ったぜ」


マーク「リア充爆散だけじゃなくパトリオットまで…手前ぇ……一体何者だ!」

俺「勝った方が負けた方の情報を聞けるんじゃ無かったのか?」

マーク「ぁー…そーだったなぁ、くっそ、まどろっこしいルールだなぁくそっ!」

俺「だから、そのルール決めたのアンタだろ!!?」


マーク「くそっ…ミラのために、隙を見てわざと負けてやる作戦は無しだ!こうなったら本気で行くぜ!!」

俺「さりげなくネタバラシしてるけど、それなら最初から素直に話してくれてれば良かったんじゃないか!?」

マーク「るっせぇ!男にはメンツって物があんだよ!」


懐から大量の硬貨を取り出し、宙に舞わせるマーク。

エリー「って…ちょっとマーク!こんな所でアレをやるつもりぃ!?」


何をするつもりか…出し惜しみにしていたマークには悪いが、大体予想はついている。

303: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/09(水) 00:58:37.53 ID:Jn3aqklho
●正面突破のスピナー

恐らくだが…マークは、空の時のように自分の周囲に硬貨を廻して攻防一体のフィールドを作り出す筈。

あれは厄介なんて物じゃない。パトリオットの射程距離以上のフィールド形成されてしまったら、勝ちの目が殆ど無くなってしまう。

しかも、宙に舞っている硬貨の量は空の時の金属盤の比では無い………となれば


俺「悪ぃが…完成する前に決めさせて貰う!!」


これは戦ってみて気付いた事だが…空もマークもサイコキネシスに瞬発力が無く、対象の金属を急加速する事が出来ない。

現に先の硬貨の雨も、充分な加速が付いていなかったためパトリオットで弾くのは余裕だった。

…いや、それでも当たったら大怪我してたんだろうけどな。


あのフィールドは…円を描いて充分に加速して…そこで初めて完了する筈。だから、それの形成前に勝負を着ければ良い訳だが…

問題は、その方法だ


俺の足では、形成前に距離を詰めるのはほぼ不可能…恐らくマークもそう踏んでいる筈。

裏をかくには………くそっ!手段を選んでは要られないか!


俺はマークに向かって大きく跳ぶ


マーク「遅ぇよ!蝿が止ま―――何!?」

そして、自分自身にパトリオットを放って、空中で急加速。

一度の加速では足りなそうだから、追加で二回…背骨や肋骨が悲鳴を上げているが、構っては居られない。


充分では無いながらも、かなりの加速が付いた硬貨が横から俺に迫り来る。だが…このくらいなら致命傷にはならない筈

俺はそれに余力を向けず…狙うはマークの頭部、顔面。


両者の決着へと続く一撃…男と男の意地がぶつかり合う…そう思った瞬間


俺「な…っ!?」

マーク「なにぃ…!?」


マリオが俺達の間に割って入り…


俺の拳…マークの硬貨…その双方の攻撃を遮った。


マリオのマントが大きく肌蹴て、その下から覗くのは西洋甲冑のような全身鎧。

関節にさえ隙間の無い構造が、その鎧の強固さを物語っている…が、鎧の上からとは言え衝撃すら無い筈が無い

…にも関わらず、マリオは一切の声を上げず…何も無かったかのように手を下ろして、元の位置へと戻って行った。

304: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/09(水) 01:12:50.82 ID:Jn3aqklho
●叔父と姪の行き違いカオス

理央「二人とも…いい加減にして下さい!特に先輩!」

俺「え?俺!?」

理央「カレン先輩との件で、情報の行き違いに懲りて無いんですか!?」


俺「いや、だってなぁ?さすがにあの状況から…」


理央「言い訳は聞きません!それと…エリーさんだって、どちらかが一方的に情報を得る状況は好ましく無いと思っている筈ですよね?」

エリー「あらぁん…心は読まれて無い筈なのに、よぉく判ったじゃない」

理央「読まなくても、予想は出来ますから」


俺「………って流れになってるみたいなんだが…」

マーク「あぁん?こんなスッキリしねぇカタの付き方で納得出来っかよ?」

エリー「マーク、我慢なさいな…我侭を通せる時間は終わりよ?あのお嬢さんの言う通りにしましょう」


マーク「ちっ……んじゃ、これだけは先に聞いとく。手前ぇ…うちのミラに手ぇ出して無ぇだろーなぁ?」

俺「はぁっ!?いきなり何言い出すんだオッサン!!」

マーク「キズモノにしてねーだろーなって言ってんだよ!アイツは姉貴と義兄貴の忘れ形見だ、下手な事したら許さねぇぞ!!」


エリー「………って、それよりも先に聞くべき事あるじゃないのよぅ…気が変わった振りして…最初からそれを聞くのが目的だったんじゃない?」

マーク「るっせぇ!!」


空「あ、それもう手遅れだわ。俺、穴空けられてキズモノにされちまった後だし」

エリー「あらまっ」

カレン「…………え゛?」


俺「はっ!?何を…いや、あれの事か…?」

マーク「な…ん…………だ……………とぉ!?」


俺「違う!あれはそー言う事じゃなくて!」

マーク「あぁん?んじゃぁミラが嘘吐いてるってぇ言うってのか!?」

俺「いや、嘘は吐いて無いんだが…誤解だ!」


マーク「やっぱり  ちまってんじゃねぇかぁぁぁぁ!!!!しかも五回もだとぉ!?殺す!手前ェ!今すぐここで殺す!!!」

俺「あぁぁぁぁもう面倒くせぇ!!空!お前も何とか止めろ!!」


この後…マトモに話が出来るように落ち着かせるまで、更に一苦労あった事は言うまでも無い。

307: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/10(木) 02:07:24.61 ID:+lXIJRZlo
●不穏心音エトセトラ

エリー「さぁて…何から紐解いて行こうかしらねぇ」

理央「まず…お互いの知りたい情報を項目に分けて挙げてみませんか?あと、テレパストラップの解除をお願いします」

エリー「テレパストラップは最初から仕込んで無いわよ。ま、後から仕込ませて貰うけどねぇん」


理央「…確認しました、では私が貴女方の内容の真偽を確認をさせて貰います」

エリー「了解ぃん…じゃぁ、お互いの知りたい情報を言いましょうか」


理央「私達が知りたいのは…まず、カレン先輩の部屋に残された書き置きの件と、貴方達がキナ臭いと言う任務の内容」

カレン「それと…お父様。キングダムの研究者だったと言う、お父様の事。お父様が研究していた内容も判るなら…」

俺「あ、あと…出来るんなら王の正体と、あんた達がキングダムに所属する事になったきっかけ。これはついでで良いんだがな」


マーク「俺からは…そっちの小僧の能力の仕組みだ。どーしてアシッドとマイケルの超能力を使えんのか、ハッキリさせときてぇ」

エリー「そこのお姫様の正体の方が先でしょうん?ま、あっちの質問で大体判ったけどぉん…」


俺「………」

エリー「………と、挙げてはみた物の…こうして並べると、本当に奇妙に繋がってるわよねぇ…」


理央「その辺りの繋がりが私達にはまだ判らないので、説明して貰えますか?」

エリー「それじゃぁん…時系列順よりも、考察順の方が良いわね。まずは、私達が受けた任務から…それで良い?」

理央「お願いします」


こうして…エリー達の口から、俺達の知らない事実が語られる事になった。

308: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/10(木) 02:26:57.03 ID:+lXIJRZlo

●無限連鎖のラビリンス

エリー「私達が受けた任務は…そこのお姫様、カレンちゃんを迎えに行く事。その書き置きの日…二日後にね」

カレン「…じゃぁ…やっぱりあれはキングダム絡み…」

マーク「んでもな?この任務ってのがまたおかしな任務で…王からの命令だってんだ」


俺「ん?それの何がおかしいんだ?王からその配下に命令なんて、普通の事だろ?」

マーク「俺達にとっちゃ普通じゃ無ぇんだよ。王は…今の今まで命令なんて一度も出した事が無ぇんだ」

俺「…………は?!何だそれ!?いや…それ居る意味あるのか?ってか………そもそも…王って本当に実在してるのか?」


マーク「んじゃ次に…お前の質問。キングダムと王の事を挟むとすっか」


エリー「そうねぇ…まず結論から言うと、王はちゃぁんと存在してるわよ?でもぉん…」

マーク「その正体は誰も知らねぇ」

俺「いやいやいや、それはおかしいだろ!?どこの誰かも判らねぇ相手に従ってんのか!?」


マーク「正確には、従って無ぇよ」

俺「…は?は?はぁ!?」

エリー「何て説明すれば良いかしらねぇ…あ、じゃぁお姫様達。ちょっと私の心を読んで貰えるぅ?」


エリーの促され、その腕を掴むカレン。


カレン「………え?何これ……」

俺「…一体何を見たんだ?」


カレン「王って言う存在の…個人情報になりそうな物が、全部空白…でも、王がした事だけはハッキリと記憶に残ってる…」

エリー「そう…私達キングダムのメンバーは、その殆どが王から力を頂いて…それを覚えてる。でも…王自身の事は何も覚えて無いのよ」

俺「そんな相手に従う…って、これじゃ話が撒き戻っちまうか」


エリー「でぇ…ここからが重要。そんな相手だから、忠誠を誓ってる訳でも無いんだけど…誓う必要も無いし、誓えとも言われて無いのよ」

俺「…………は?」

カレン「………じゃぁ何?誰に言われた訳でも無く、貴方達一人一人の意思による行動の結果が…今までのキングダムのテロだったって言うの!?」


エリー「その言い方もまた語弊があるけど…そうね、テロなんかは、起こしたかったメンバー達が起こした結果で間違い無いわねぇ」

309: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/10(木) 02:35:16.98 ID:+lXIJRZlo
●不審増幅ルネッサンス

俺「まるで自分達はテロとは無関係みたいな言い方だな」

エリー「乗っかってる以上は無関係とまでは言わないけどぉん…当事者かって言われたら素直に頷けない、そんな所よぅ」

俺「何だよそれ………同じキングダムのメンバーだってのに、一貫性は無いのかよ」


エリー「そんな事、どこの国だって同じでしょう?あ、誤解が無いように言っておくけど指揮系統はちゃんとあるのよ?」

俺「ただ居るだけの王が指揮なんて…いや、そうか。王以外のメンバーが統制を取ってるって事か?」

エリー「ご名答ん。日本のナニナニ党ナントカ党みたいに、一枚岩じゃなくて烏合の衆だけどねぇ」


俺「だったら、平和的解決を望む党みたいなのは無いのか?」

エリー「無くは無いけど…極々少数派ねぇ。そもそも私達って、虐げられて来た弱者の集団だものぉん」


マーク「んで、話を戻すが…そーいう指揮系統の上の奴等にしたって、絶対的権力を持ってる訳じゃ無ぇ」

エリー「配下であっても、納得できない事はしなくても良いし…最終的にそれをやるかどうかは自分次第」

マーク「反感買うよーな命令ばっか出す奴は、すぐ下ろされて干されちまうから、高い立場に居座ったりも出来無ぇしな」


カレン「キングダムという名前のくせに………民主主義を通り越して、個人主義なのね」


エリー「そう…皆、王に恩義を感じたり信奉したりはしてるけど、結局は自分達個人の意思でそこに居る…こうしてキングダムが成り立ってるの」

俺「能力を貰うだけ貰って、キングダムから去るような恩知らずな奴等は居ないのか?」

エリー「勿論居るわよぉん。少数だけどねぇ」


マーク「って事で、俺達の常識…物差しを判って貰えたと思うんだが…」

俺「その状態での………王…からの命令…か。キナ臭いどころか、むしろ………」

理央「命令を下した者が、王の名を騙っている…そんな可能性も邪推したくなりますね」


マーク「そう…もしそうなら、そりゃぁ間違い無く反逆行為だ。放置しとく訳には行かねぇ…って俺達は考えてる訳なんだが…」

俺「それに加えて、命令の内容が内容…か」


エリー「だから知っておきたかったのよ…王を騙る存在が狙う、お姫様…そのお姫様が一体どんな存在なのか…」

マーク「もし本当に王からの指令だとしたら…何で嬢ちゃんを狙うのかを、な」

310: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/10(木) 03:11:30.29 ID:+lXIJRZlo
●娘と父の不定形プリズン

カレン「私は………私が何者なのか判らない」

俺「………」

カレン「私は…ずっと、お父様の仇を討つ事ばかり考えて生きて来た…」


カレン「討つべき相手のジョージが死んで…一度は生きる目的を見失って…」

理央「………」

カレン「テロの元凶である王を倒して、キングダムを崩壊させる事を目的にしてた…」


マーク「おいおい…物騒な事を考える嬢ちゃんだな」


カレン「でも…その目的も間違ってて…王を倒しても変わらない事が、今判った」

エリー「………」

カレン「だから………私は自分が判らない。何をすれば良いのか、どうしたいのかも判らない」


俺「だから…教えてくれ。カレンの親父さんの事、判る範囲で良いから全部教えてくれ!」

俺はカレンの手を握り、力強く声を出した。


エリー「成る程ねぇん………ただ、悪いんだけどその辺りの事はミラちゃんが説明したのと同程度しか知らないのよぅ…後は…」

俺「後は?」

エリー「お姫様のお父様の研究が…人為的にP器官を形成する研究だった事。実験体は完全なP器官を持っていた…そんな噂くらいかしら」


俺「人為的にP器官を形成……?それって、超能力を使えるようにするって事だよな?…ってことは」

マーク「王と無関係では無さそう…って事だ」


理央「そうなると…今回、事の経緯を知る人物にしてキナ臭い匂いの元凶が浮かび上がって来る訳ですが…」


俺「木戸………譲二か……!」


俺はその名を口にした

311: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/10(木) 03:35:50.90 ID:+lXIJRZlo
●脅威生存確定アライブ

エリー「そう…お姫様宛の書き置き、あれがジョージの手口なのはもう知ってるわよねぇ?」

俺「あぁ、空から聞いた」

エリー「じゃぁ確認しておくけど…最近、ジョージと接触した?具体的には、ジョージに触られた?」


エリー「お父様が殺された日からは一度も…クリスマスに遭遇する事はあったけど、遠巻きに見てただけで…」

俺「その時…俺が木戸譲二を殺した。偶然だけど、リア充爆散の能力で殺したんだ」


エリー「そうなると………これは中々厄介な問題ね」

空「当の本人…ジョージが死んでるからか?」

エリー「いえ、その可能性は低いんだけど…あ、これはまた後で話すわね。問題は、最後にお姫様が接触した時期なのよ」


俺「ジョージが生きてる可能性が?ってか、問題がそこって事は……そうか……」

エリー「仕組みは判らないけど…お姫様が自分で書き置きを残すように仕組まれてた訳よ。その行動をジョージが最後に仕込む機会があったのが…」

俺「カレンの親父さんが殺された日…つまり……この事は、当時から計画されてた…って事か」


エリー「大正解…嫌ねぇ、一致して欲しく無い事ばっかりぃ…」


俺「で…話を戻すが、ジョージが生きてる可能性ってのは?」

エリー「彼ね…自分の能力を使ってバックアップやら替え玉を沢山作ってるみたいなのよぉ…」

マーク「さすがにキングダム内にゃぁ作って無いらしいが…どこまで信じられるか怪しい物だ」


俺「………え?って事はつまり…俺が殺した木戸譲二は…」


エリー「偽者の可能性もあるし、本物の可能性もある……ただそのどちらにしても、ジョージの意思を持った者はまだ存在してるわよぉ」

カレン「ジョージが…生きて…る?じゃ、じゃぁ…本物と偽者を見分ける方法は!?」

マーク「そりゃぁ、使ってくる超能力で判断すりゃぁ良い」


俺「そうか…記憶改竄以外の超能力を使ってきたら偽者確定…記憶改竄で本物確定…って事だな。となると俺達の当面の目的は…」


カレン「ジョージを探し出して、問い詰める事…ね」

312: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/11(金) 01:00:22.03 ID:IvAUbdIYo
●正体不明のアビリティ

マーク「…って訳で、そちらさんの知りたい事は全部判ったな?んじゃ最後にこっちからの質問だ」

俺「あぁ…後、残ってるのは…」


マーク「小僧…お前の能力だ。お前の能力は一体何だ?」


俺「悪いんだが、その質問には答えられない…と言うよりも、俺自身がこの能力の事を把握し切れてる訳じゃ無いんだ」

マーク「だったら俺達の質問に答えろ。まずはそうだな…2年前の地下鉄崩落事故の時、お前はどこに居た?」

俺「地下鉄崩落事故?ぁー……確かニュースで見たような気はするんだが、当時どこに居たかとかは覚えて無い」


マーク「んじゃぁ質問のし方を変えるか。お前、アシッドとはどう言う関係だ?足土 令っつった方が判り易いか?」

俺「アシッド…あしど……れい?聞いた事があるような、無いような…」

マーク「なら更に直球で聞くぜ?お前…2年前にアシッドを殺したか?」


俺「…………は?」


マーク「その様子だと…無自覚か、俺のアテが外れた…か。そーだな、まずはこれを見てみな」

そう言って、マークは何かのファイルをエリーから受け取り…俺に投げて寄越す。

カレン「……って、これ、強奪されたLv4データファイルじゃない!貴方達が実行犯だったの!?」


マーク「いやぁ…あん時は大変だったぜ。一人も殺さずにこのファイルを奪って来なけりゃぁいけなかったからな…」

エリー「マーク、わき道に反れないで。話の続き続きよぉん」

マーク「っと、そーだったそーだった…そん中の、小僧のデータとアシッドのデータを見てみな?」


俺「な……え?これって……」

カレン「二人とも同じ能力…リア充爆散能力なんて言う特異な能力を持った人間が、二人も居たって事」

マーク「あらぁん?そっちのお姫様は予め知ってたみたいねぇ…」


理央「この件で…一悶着ありましたから」

俺「って……そうか、俺の能力の詳細まで判ってたのは、この前例があったからか…」


少しだけ…少しだけだが、俺は自分自身の能力の事が判って安堵した。

だがその反面…未だ理解できない部分が、俺の中で燻るような感覚に気付きもした。

313: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/11(金) 01:13:07.76 ID:IvAUbdIYo
●疑念深まるサクリファイス

マーク「んじゃぁ、続けるぜ?次にマイケル…和褄 池流のパトリオットだが……」

俺「和褄 池流は…俺が殺した……かも知れない。あの時は意識が朦朧としてて、確証は持てないんだが…多分」

マーク「らしい…な。って事はだ…確実な事が一つある訳だが…」


俺「俺が使える超能力…それを持ってた奴等が死んでる…って事だよな」


空「しかも……アシッドの能力を考えっと、その身に食らって覚えたなんて訳じゃぁ無さそう…と来てる」

エリー「発動条件にしたって、ただの模倣ならそんな所まで真似する必要無いものねぇ…」


エリー「まぁ…ナイトくんが殺した他のメンバーの能力は使えないみたいだし、サイコキネシス限定とか、何かしらの特殊な条件はあるんでしょうけど」

マーク「現状を見た限りじゃぁ、能力その物を危険視せざるを得ねぇわなぁ」


エリー「さて…ここまでの話もナイトくんが嘘を吐いて無いのが前提なんだけど…その様子だと、それも無さそうね」

理央「信じて貰えないかも知れませんが、それは私が保証します」


俺「あ、そうだ…ニヤ先輩や理央の能力で、俺の能力の事が判らないか?」


カレン「ニヤ先輩が読めるのは、はあくまで記憶…貴方が覚えて無い事までは無理って言ってたわ」

理央「私の能力でも…先輩からは、使えるようになった原因は不明で、当たり前のようにその能力を使っている…と言う事しか…」

俺「…そっか」


マーク「結局は解明には至らず…か。まぁ、進展しただけでも良いとするか」

エリー「それじゃ、今日の所はこれでお開きにしましょうかぁ。組織の皆、準備は良い?」


俺「準備って…何のだ?」


エリー「テレパストラップよぉ、最初に言ったでしょぅ?」

314: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/11(金) 01:16:32.91 ID:IvAUbdIYo
●仕込み上々クッキング

エリー「はい、お終い。上手くそれっぽく録れてるから、そっちの携帯に送っておくわねぇ?」

俺「悪いな、こんな事まで手間かけさせちまって」

エリー「良いのよ良いのよぉん。ミラちゃんの安全のためでもあるんだもの」


カレン「テレパストラップを仕掛けて…あえてそれを知らしめる事でテレパスを防ぐなんて」

俺「自分の能力を把握してるからこそ、考え付く芸当だよな…」

エリー「あらぁん?褒めても何も出無いわよぉ」


俺「あ、でも…理央はともかく、カレンが心を読めないのは少し問題が…」

エリー「あ、その辺りは大丈夫よ。起爆範囲は私達と王…それとこの後の計画に関係する情報の部分だけにしたから」

俺「そんな細かい指定まで出来るのかよ…って、待てよ?範囲を指定…それ以前に確認出来たって事は…お前!受信型テレパスも持ってるって事かよ!」


エリー「あら、ばれちゃったぁん?ほら、一応貴方達の証言を確認する役が居ないと駄目でしょう?」

俺「そりゃばれるっての!…ってか、カレンと理央は気付いてたのか!?」


カレン「ゴメン、私は………」

エリー「お姫様は気付かなかったでしょうねぇ…私、この事は考えないようにしてたものぉ。でも…そこのお嬢さんは…」

理央「気付いては居ましたが、出方を見ていました」


エリー「本当…抜け目のないお嬢さんだことぉ」


俺「そう言う事かよ………くそっ、何だこの敗北感」

エリー「若いって事よ」


マーク「さて…無駄話はそこまでだ。んじゃ手前ぇら、また二日後な」

俺「あぁ…また二日後」


マーク「ミラ!もしその小僧に襲われそうになったら、返り討ちにしちまえよ!」

俺「だから、襲わねぇっての!!」


そんな言葉を交わした後、キングダムの面子…マークとエリーとマリオは、廃工場を去って行った。

315: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/11(金) 01:18:05.68 ID:IvAUbdIYo
●継続黄昏カタルシス

俺「マリオって奴…結局最後まで一言も喋らなかったな」

カレン「………そうね」


俺「しっかし…解決するどころか、どんどん謎が深まるばかりか」

カレン「………………そうね」

理央「ここから先は多分…理解する事が、知る事その物が命懸けになって来ると思います」


俺「…そうだな」


理央「せ、先輩も…カレン先輩も…後悔はして居ませんか?進み続けますか?」

俺「判り切ってるくせに、そんな事聞くなよ」

カレン「一人だけ確信を持てない誰かのために、あえて言葉にするために聞いてるのよ。勿論私は後悔してないし、進み続けるつもり」


俺「…………って、誰かって俺か!?…あぁもう…気を遣わせてばっかだな」


理央「そ、そう言えば…カレン先輩」

カレン「何?」


理央「さっきの話…一つだけ訂正させて貰います。カレン先輩の生き甲斐、もう一つあるじゃないですか」

カレン「…え?」


そう言って俺の方を向き、同意を求める理央。だが、俺には心当たりが無く慌てるばかり

………にも関わらず、何故かカレンは戸惑いを落として、落ち着き…俺に笑顔を向けて来た。


そして…

俺は、そんなカレンの笑顔に…ドキッ…と胸が高鳴るのを感じた。

317: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/12(土) 02:22:41.33 ID:Y8MA3lzUo
●境界無用のパントマイム

エリー『不味いわねぇ…明後日の計画の事、聞かれたんじゃない?始末するぅ?』

俺『止めろ!やるなら俺だけにしろ!』

マーク『いや…そこまでする必要は無ぇ。ってか下手な仕掛けがありゃぁ、殺した方が面倒な事になり兼ねねぇ』


エリー『じゃぁ…とりあえず拘束して倉庫にでも監禁しとくぅ?』

マーク『そうだな…いや、念のためにそいつら全員にテレパストラップを仕掛けとけ』

理央『マーク…エリー…貴方達は一体何を…』


マーク『そりゃぁ、当日になってのお楽しみって奴だ。ま…組織が無くなっても誰かが助けに来てくれたら…の話だがな』


総統「…以上が、理央くんが録音した内容なのだが…この内容に間違いは無いんだね?」

俺「はい、間違いありません」

理央「本当は通話でリアルタイムでお伝えしたかったんですが…電波が届かない場所でしたので、止む無く録音にしました」


総統「この直後にテレパストラップを施され…監禁された倉庫の鍵が、壊れていたお陰で脱出する事が出来た…と言っていたね」

俺「はい」

総統「この録音に入って居ない範囲で、何かしらの情報は掴んでいるかい?」


俺「いえ、この会話が始まる前は世間話でした。朝食が不味かったとか、髪型が乱れたとかそんな程度の…」

総統「そうか………命懸けの情報収集に感謝する。だが、もう二度と独断で危険な行動はしないでくれたまえ」

俺「はい…すみませんでした」


総統「………」

俺「………」


総統「君達に…これを渡しておく」

カレン「………え?これって…」

総統「持って行きたまえ…私に出来る事は、このくらいしか無いんだよ」


俺「…え?だって、特殊任務以外での銃の持ち出しは禁止で…下手したら総統の立場が…」

総統「持って行きたまえ」


俺「………はい………ありがとうございます」

318: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/12(土) 02:25:57.19 ID:Y8MA3lzUo
●希少日常ファイナル

俺「なぁ理央………総統に、どこまでばれてた?」

理央「私達が総統…組織に対して隠し事をしている事。何かを計画している事までは確信していました」

俺「マジか…」


理央「後は…鍵が壊れたと言う証言にも、先輩が何かしらを隠し持っている可能性を考慮していました。逆にそのお陰で信憑性が増したようですが…」

俺「そんな所までか!?」


理央「そして……最初から最後まで、総統は私達の事を心配していました」

カレン「その結果が…ルールを破るリスクを負ってまで、持たせてくれた銃…ね」


俺「そう言えば…今は護衛は?ってか昨日の密会の時は?」

理央「昨日は撒きました。今日は、つけずにいてくれているみたいです」

俺「……そっか」


カレン「明日…ジョージは動くのかしら」

俺「判らないが…その可能性も考えて、オッサンはあんな言い方して注意を煽ったんだろうな」


理央「それで…今夜はどうしますか?」

カレン「念のため…全員固まって行動した方が良さそうね」

理央「では、明日以降の事も考えて荷物も纏めた方が良いですね。場所的に、私の家からで良いですか?」


カレン「じゃぁ、その次が私の部屋ね」

俺「って事は…って、え?もしかして、二人とも俺の部屋に泊まる流れ?」

理央「そうですよ?一番安全な場所ですし、空さんを私達どちらかの部屋まで連れ出すのも難しいですからね」


俺「あ、あぁ…そ、そう言う。まぁうん、そうだよな」

カレン「何?もしかして…また変な事考えてたんじゃないでしょうね?」

俺「は!?い、いや、そんな事…」


理央「考えてました…口にするのも憚られるので、詳細は言えませんが」

俺「いやいやいや!そこまでマニアックなのは考えて無いぞ!?」

カレン「へぇ…そこまでじゃないのは考えて居たのね……」


俺「…………くっ、はめられた…」

理央「………どやぁ」


いや…だから、理央のドヤ顔はドヤ顔になってない。

そんな事を考えながら………俺は、夕焼けに染まる空を舞っていた

319: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/12(土) 02:35:37.89 ID:Y8MA3lzUo
●最終出撃プレリュード

「おい、これはどう言う事だ!」

マーク「見て判らねぇか?ウォリック。命令通りターゲットのカレンを連れて来たんだよ」

ウォリック「そうじゃない!何故、他にも組織の構成員が付いて来て居るのか聞いて居るんだ!!」


古びた波止場………そこに停船する豪華客船の前で口論を展開する、マークと…キングダムのメンバーと思わしき男。


マーク「おいおい…どんな手段を使ってでも連れて来いって言ったのはどこのどいつだ?」

ウォリック「そうは言ったが…だからと言って、常識的に考えれば判るだろ!?」

マーク「はっ、笑わせんな。常識なんかを後生大事抱えてる奴が俺等の中に居るってのか?」

ウォリック「この……屁理屈ばかりを…っ」


いつ終わるかも知れぬ口論の中…船から降りた階段に、誰かが居る事にふと気付く。

白いスーツ姿の、オールバックの茶髪の男…

その男がマークとウォリックの間に割って入って行く。


「二人とも、一体どうしたんだい?もう出航の時間は迫っているよ」


ウォリック「いや、これは…」

マーク「ジョージ…やっぱり手前ぇが一枚噛んでやがったか」

ジョージ……その名を聞き、身構える俺達。


ジョージ「おや?ちゃんと連れて来てくれてるじゃないか。ダメだよ、早く船に乗せてあげないと」

そして…そんな俺達を事も無げに一瞥し、ジョージは言い放つ。

ウォリック「いや、でもな…ターゲットだけじゃなく、余分な奴等まで…」


ジョージ「穏便に連れて来るために必要な条件だったんだろう?なら彼等もゲストだ、一緒に来て貰えば良い」

ウォリック「なっ……」


俺「ジョ-ジ…お前、一体何を考えてる?」

ジョージ「これから長い船旅…時間は充分にあるし、理央が居るんだ。覗いてみれば良いんじゃないかな?」


そう言い放って、ジョージは船内へと続く階段を昇り…俺達はその後を追うように階段を昇って行く。

320: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/12(土) 02:47:15.30 ID:Y8MA3lzUo
●閉鎖空間クローズドサークル

俺「ここがVIPフロアか…」

理央「物凄く豪華でお金がかかってそうですね…」

カレン「そう?」


俺『まさか…いきなりジョージが出てくるとはな…』


盗聴を警戒し、俺達は理央を中継してテレパシーで会話を行う。


理央『あえて捕まって、可能な限り内側からの情報を集める…と言う作戦でしたが、大分予定が狂って来ましたね』

俺『シージャックする必要が無くなったのは良いんだが、あれだけすんなりと俺達の同行を認めるとなると…』


カレン『罠…の可能性が高いわね。理央はジョージから何か読み取れなかった?』

理央『カレン先輩をキングダムの本拠地に連れて行く…と言う目的以外は何も。多分、最低限の情報だけコピーされた偽者です』

俺『んじゃぁ…ジョージ以外の船内の奴等は?そいつらが罠を仕掛けてる可能性はあるか?』


理央『船員とマークさん達以外のキングダムメンバーは…5人。そのいずれも、ジョージと同程度の情報と目的を持っているだけです』

俺『不意打ちで、仲間ごとこの船ごと沈める…とかじゃぁ無い限りは、一先ず安心って事だよな』

カレン『食事とか、鎮圧用設備とかは?私達を毒とかで動けなくしてくる可能性は?』


理央『その辺りも、私達が大人しくしている内は実行するつもりは無いようです』

カレン『大人しくしている内は…ね』


俺『盗聴や盗撮の類は?』

理央『盗聴はされていますが、盗撮は無いようです』

俺『そっか…盗撮されてないのはかなり助かるな』


カレン『って…何でこんな時にまでいやらしい事考えてるのよ!!』

俺『いや、それは連想するんだから仕方ないだろ!?ってか、いきなり暴力とか振るったら怪しまれるぞ!?』

カレン『くっ………』


俺『しっかし…当面は安全、それは良い事だってのに、そのせいで逆に落ち着かないってのも変な話だよな』

理央『拍子抜け…と言うよりは、違和感に近い物がありますね』


俺『これも…理央が居るから、暗躍は無駄だって判った上での対応なのかもな。理央さまさまだ』

理央『そんな事…あ、でもその心の緩みを狙っているのかも知れません。油断だけはしないで下さい』


俺『あぁ、そうだな…』


眼前に危険は無いが、一時の油断すら許されない…俺達にとって厳しく長い…長い船旅が始まろうとしていた。

321: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/14(月) 04:09:42.41 ID:pviPU2Q9o
●崩壊必然エリュシオン

俺「俺…ロブスターなんて、初めて食った」

理央「私も…キャビアとかフォアグラとか、一生食べる機会が無いと思ってました」


俺「ベッドにしたって、あれ…明らかに材質が別物だったよな」

理央「多分…値段を気にしたら負けとか、そう言うレベルだと思います」


そう…俺達は厳しく長い船旅を覚悟していた……訳だが………

待ち受けていたのは、予想を裏切る程に快適な船旅だった。


理央「着替え…持って来なくても用意してありましたね」

俺「いや、持って来て正解だっただろ。着心地は良くても、絶対落ち着け無いぞ」

理央「………そうですね」


俺「いや、駄目だ…こうやって俺達を籠絡するのが目的かも知れない」

理央「そうですね…それなら、船内のメンバーが知らなくても実行可能ですから…」

カレン「え?籠絡って、どの辺りで?」


俺「えっ」

理央「えっ」


俺「あぁ………そう言えばカレンってお嬢様だったよな…」

カレン「え?何?ちょっと止めてよ。私だけ変みたいに言わないで!?」


理央「あ…目的地が見えて来ました」

窓の外を見て、声を上げる理央。そして、理央に続いて窓の外に視線を向ける俺とカレン。

俺「あれが…キングダムの本拠地…か」


大きく切り立った崖を内壁に持ち、外側に町並みのような建物が並ぶ、三日月型の島…キングダムの本拠地。


俺達は緩み切った心を引き締め直し、その島の姿を目に焼き付けた。

322: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/14(月) 04:21:14.80 ID:pviPU2Q9o
●踏み込む先エンドレスアビス

ジョージ「さて…皆、船旅はどうだった?不自由は無かったかな?」

俺「お陰様で、今の所は…な」


目的地…三日月型の島の港に着き、船を降りた俺達。

ジョージは誰かと携帯での連絡を取り…それを終えた後、俺達を一瞥しながら問いかける。


俺「それで…この後、俺達をどうするつもりだ?」

ジョージ「どうするもこうするも…この後二人には、王に会って貰う予定だよ?」

俺「その言葉をどこまで………ん?」


俺「…………二人?」


ジョージ「そう…王に会えるのは君とカレンお嬢様の二人だけ。理央は勿論、マーク達も………ここまでだ」


マーク「ちっ…さすがに最後まで羊の皮被り続けられやしねぇか。だがな………」

ジョージ「ん?あぁ、違う違う」


マーク「何が違うってんだ、大人しくやられる俺達じゃ無ぇぜ!」

ジョージ「だから、そう言う意味じゃ無いんだって。ここで始末とかじゃなくて、ここから先は立ち入り禁止、キープアウト。判る?」

マーク「今更そんな戯言を………おい、嬢ちゃん。ジョージは…」


理央「嘘は…吐いていません。言葉通り、私達をここで待機させるよう指示されたみたいです」

マーク「……はぁっ?マジか?」

理央「はい……でも、逆にどんな裏があるのかも………」


ジョージ「ま、その辺りまでは覗けなくても仕方ないよ。僕が知っている情報も指令もここまでみたいだからね」

俺「…自分の事のくせに、他人事みたいに言ってくれるじゃないか…」

ジョージ「そりゃぁ当然、僕は僕であって僕じゃ無いんだもの」


くそっ…とことん食えない男だ。

323: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/14(月) 04:40:28.54 ID:pviPU2Q9o
●進み行く先ゴートゥーヘル

俺「それで…もしそれを断るって言ったら?」

正直な所、情報収集能力の面で筆頭の理央と別行動になるのはかなり手痛い。

少しでも付け入る余地があるならば…と、探りを入れるが…


ジョージ「残念だけど、君達に拒否権は無い。忘れてるかも知れないけど、ここはキングダムの本拠地だよ?」

付け入る余地どころか、交渉の余地すら無いようだ。


俺「なら…一つだけ約束してくれ。理央達の安全だけは…」

ジョージ「だからそれは大丈夫だって…本当、僕って信用無いんだなぁ」

カレン「貴方のどの口が信用なんて言葉を吐くのよ…」


と…不毛な会話をしてる最中、とある物に気付く。

こちらに向かって来る、一台の黒塗りの車………

法定速度という概念など無視して、減速の気配も見せぬまま突き進んで来るその車。


このまま直進すれば、俺達にぶつかる。

俺はカレンと理央を守るべく、手を伸ばす……のだが

車は直前で急激な方向転換を行い、盛大にU字のブレーキ痕を残しながらジョージの背後に停車した。


ジョージ「おっと、そうこうしている間にお迎えが来たようだ。さぁ、二人とも乗っておくれ」


あれだけの危険な運転を披露した車に搭乗すると言うのも気が気では無い…が、それ以上にジョージの言う事に素直に従う事に危機感を覚えずには居られない。

しかし…そんな状況を打開するだけの選択肢を持ち合わせていないのもまた事実。

虎穴に入らずんば虎子を得ず…車の件はさて置いても、ここから先は安全とは無縁の道。自分達で決めた作戦ながら、今更になって怖気付いてしまっているようだ。


俺は震える足を抑えながら車の後部座席に乗り、それにカレンが続く。


走り出す車………先程の無茶な運転とは打って変わり、運転手は無表情で、まるで機械のように車を運転する。


そして道中………俺は車に揺られて落ち着きを取り戻し、余裕が出てきた所で窓の外を見る。

道があり…家があり…店があり、人が居る。端から見れば普通の町並み………そして


カレン「え?……ここ…そんな……どうして…?」


街から少し離れた山の中。屋敷の前で車が停まり、カレンの口からそんな言葉が零れる。

だが…その言葉の意味を確かめる暇すら与えられないまま、それは現れた


ジョージ「予定より遅れたみたいだけど、何かトラブルでもあったのかな?さぁ、王がお持ちかねだよ」

俺「またジョージ…かよ」


黒い執事服に黒い髪…線のような細い目、白い手袋にモノクル。

見た目こそ違うが、喋り方で判る。先程まで一緒に居たジョージとはまた別人の、ジョージが俺達の前に現れた。

324: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/14(月) 04:43:48.06 ID:pviPU2Q9o
●予想不可能アンブッシュ

俺「で…この場面でこうしてまた別のお前が出てきたって事は、今度こそお前が本物か?」

ジョージ「さぁ?どうだろう?確認してみたらどうだい?」

俺「誰がその手に乗るか。いや、その手に触るか」


屋敷の中を、ジョージの案内で進む俺達。


ジョージ「あ、もしかして僕の超能力の発動条件知ってる?聞いちゃった?ざーんねん」

俺「白々しいな…そのために理央達と分断したくせに」

ジョージ「分断?あぁ違う違う。あれも言葉の通りだよ?君達だけが招待されてるのさ。ひねくれた考え方をしないでよ、心外だなぁ」


俺「ひねくれたのは誰のせいだ、誰の!大体、こうやって疑われんのも、全部お前の自業自得だろうが!」

ジョージ「んー………僕ってそんなに君にちょっかいかけてたっけ?確か初対面だよね?」

俺「俺の目の前に居るお前はな!だが生憎俺自身はお前と初対面じゃ無いんだよ!」


ジョージ「あれー?………っと、お喋りはここまでみたいだ」


ジョージが扉の前で足を止め、それに続くように俺とカレンも立ち止まる。

俺「そう言えば…カレン。この屋敷に来てから、ずっと黙ったままだよな?どうかしたのか?」

カレン「あ、ゴメン…大丈夫。多分私の記憶違い…気のせいだから」


ジョージ「あぁそれ…多分記憶違いでも気のせいでも無いよ」

扉を開きながら言い放つジョージ。その先…扉の向こうに広がるのは、豪華な作りの大広間

そして………テーブルを挟んだ向かい側の席に座った、一人の男。


察するに、この男こそが……王。


俺は、身構えながら王を見据える………が


王「よく戻って来てくれたね…カレン」

カレン「お父……様……っ……」


予想すらしなかった言葉が目の前で交わされ、俺の思考を真っ白に塗り潰して行った。

325: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/15(火) 08:08:18.99 ID:Hpo/GBSpo
●明鏡止水黒く染めるインク

俺「王が…カレンの親父さん…?」

反復し、思考の中へと沈めるその言葉と事実。

それは水の中に落ちた墨汁のように拡がり、俺の中に溶けて行く。


そして………仄暗く染まった思考の中を、稲妻のような電気信号が走り抜けた


俺「そうか………カレンの記憶は、親父さんの生存を隠すためにジョージが改竄した物…偽装工作か」

ジョージ「ご名答。君、意外と物分りが良いんだねぇ」

カレン「………え?」


俺「だが、それはそれで腑に落ちないな。何で、カレンをみすみす組織に渡した?記憶を改竄してる暇があって、助ける時間が無かったとは言わせねぇぞ!」

ジョージ「あぁ、それね。それに関しての説明は僕より適任が居るよ」

と言って王の方を向くジョージ。それに応えるように、王が俺とカレンを見据える。


王「カレンには…弱者の持つ弱さを知り、生き抜くための力と意思を身に付けて貰う必要があったのだよ」

俺「そのために…そのために、死ぬほど苦しんで辛い目に遭っても良かったってのかよ!」

王「何と罵られようと構わない…カレンが…カレンまで、あの子の母のように、組織に消されるくらいなら……私は…悪魔にでもなる!」


 俺「………ふざけんな!!」


王「何…?」

俺「カレンのためだぁ?笑わせんな!アンタの言葉は破綻してるじゃねぇか!」

ジョージ「へぇ…」


俺「カレンのためだってのが前提なら、カレンを悲しませてんじゃねぇよ!苦しませてんじゃねぇよ!楽しませてやれよ!幸せにしてやれよ!」

王「それが出来ればしている…出来なかったからこその苦肉の策だ。それを判っては貰えないか?」

俺「判らねぇし、判りたくも無ぇ!アンタは諦めてただけじゃねぇか!」


王「…………」

326: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/15(火) 08:14:07.95 ID:Hpo/GBSpo
●戯言決壊ダークネス

俺「カレンを大事にしたい…その気持ちは俺だって判る!あぁ、痛いほど判るさ!でもそれだけじゃ駄目なんだよ!」

王「ならば…何が間違っていると言うのだね?」

俺「そこにカレンの願い…気持ちが、心が無ぇ!カレンの心を置き去りにして、自分の願いを押し付けてるだけじゃねぇか!」


王「………」

ジョージ「プッ……クク……クハハ…ッ…」


俺「俺は違う…俺はカレンと一緒に居る!これからも一緒に居る!カレンのしたい事に、とことん付き合う!」

王「その結果、カレンの身を危険に晒す事になってもかね?」

俺「カレンが望んだ道なら、それも受け入れる。だがな…そうならないように俺がカレンを守る!そう決めた!」


王「………」

ジョージ「ククッ…ハハハ!駄目だよ、もう駄目。彼の方が一枚上手だ、勝てないよ」


カレン「……………馬鹿。もう…何でそんな恥ずかしい事言えるのよ。そんな事言われたら…私、悩む余裕すら無くなっちゃうじゃない」

俺「悪い。でも…悩んでるカレンより、そうやって振り回されて困ってるカレンの方が…何て言うか、らしいしな」

カレン「…馬鹿。振り回してる本人が言うセリフじゃ無いわよ」


ジョージ「ま、これはこれでしょうがないか…嘘で固めた言葉の重みなんて、所詮はこんな物だよね」

俺「嘘…だって?」

王「ジョージ…貴様…っ!」


ジョージ「とりあえず、本当の事だけ教えておいてあげようか?」

王「それ以上喋るな!それ以上は王への反逆だぞ!」


ジョージ「やーだね。とりあえず…目の前の、カレンお嬢様のお父上が王と呼ばれている事、超能力を与える存在で居る事。これは本当」

いつの間に奪ったのか、カレンがホルスターに仕舞っていた銃を片手に持ち…その銃を回しながら語り出すジョージ。

ジョージ「組織が襲撃してきた際…お父上の指示で、僕がカレンお嬢様の記憶を改竄したのも本当。ただし………」


王「ジョー……ジィッ!!」

ジョージの言葉を遮るべく跳びかかる王。


……だが


カレン「お父様―――」


 王の額を、ジョージの放った凶弾が貫いた。


ジョージ「お嬢様の安全のため?お嬢様に弱さを知って貰うため?そんなのはデタラメの嘘っぱちさ!」

327: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/15(火) 08:44:47.38 ID:Hpo/GBSpo
●残虐無慈悲のパラベラム

カレン「嫌あぁぁぁァァぁ―――!!!」


ジョージ「あぁ…そうそう、こんな僕でも、お父上に一つだけ感謝してるよ。お嬢様と言う存在をこの世界に生み出した事をね」

ジョージ「ありがとう…って言っても、聞こえてないか」


俺「ジョージ…手前ぇぇぇ!!!」

ジョージ「怒ってるのかい?変だな…君達の目標だったよね?打倒キングダム、王の殺害。あぁ…君達自身の手でやりたかった?ゴメンね、気が利かなくて」


カレン「お父様…お父様っ!!」

指一つ動かぬ亡骸となった王…そしてそれを抱きかかえるカレン。

何時、どのタイミングからだろうか…俺の中の怒りは、頂点に達していた。


俺「ジョージ…手前ぇだけは絶対に許さねぇ!!」

ジョージ「おかしいなぁ…あぁ、もしかしてまだ気付いて無いのかい?駄目だよ、ちゃんと落ち着いて考えないと」

俺「どの口が…ほざきやがる!」


俺が放ったパトリオットを、ギリギリの距離まで逃げて避けるジョージ。

パトリオットによる攻撃を止め、銃を構える俺。


ジョージ「マーク達から聞いて居ないのかい?カレンお嬢様のピースは全部揃ってる筈なんだけどなぁ?」

銃撃戦ならば、パトリオットを使える俺が有利。だが…その事はジョージも把握している様子。

ジョージは、一定の距離を保ちながらカレンの後方へと回り込み…


ジョージ「まぁ良いか…届かないなら届かないでそれでも良い。気になるなら、ここから追い上げて追い付いてご覧よ」

カレンの頭を掴み…俺の持つ銃に向けて突き付け、盾にして来た。

そして…………あろう事か、ジョージが持つ銃の銃口を、カレンのこめかみに突き付け………


俺「……ジョージィィィッッ!!!」


ジョージ「撃つな!動くな!撃ち落すな!避けても殺す!!」

俺「ッ―――」


ジョージの言葉に俺が怯んだ瞬間………俺に向けて放たれる2発の弾丸。


衝撃と共に、その弾丸が俺の胸へと突き刺さり…心臓を突きぬけ、肋骨をへし折りながら背中から飛び出て行った。

329: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/15(火) 09:07:59.12 ID:Hpo/GBSpo
●無限飽和のリザレクト

カレン「嫌…いや……そんな…嘘……いや……」

子供のように泣きじゃくり、ぼろぼろと大粒の涙を零すカレン。


ジョージ「おやおや、君がカレンお嬢様を守るんじゃ無かったのかい?そう決めたんだろう?」

俺を貫いた銃弾が、心臓と一緒に肺の一部を抉り取り…溢れ出た血液が気道を塞いでいる。

悔しいが…反論の言葉を搾り出す事も、銃の引き金を引く事も出来ない。


ジョージ「しかし残念だね…もう少し我慢して大人しく出来て居れば、君も世紀の瞬間に立ち会えたって言うのに」


カレン「離して…離してっ!死んじゃう!彼が死んじゃう!!」


カレンが俺を見ている。

…駄目だろ、カレンにそんな悲しそうな顔は似合わない。


ジョージ「さぁ…新たなる王の誕生だ。いや………王の帰還?復活かと言うべきかな?」


カレン「死なないで!死なないで!お願い!お願いだからっ!!」


でも、俺から何か言ってやる事も出来ない。


ジョージ「さぁ…目覚めるんだ。その偽りの仮面を壊し、本当の…………」


俺が出来る事と言ったら………あぁ、そうだ、このくらいなら出来るかも知れない。


  俺は………カレンに、精一杯の笑顔を向けた。


ジョージ「なっ………これ…は……リーの…………レパ………………」


耳の隅に雑音が入ってくるが、それが何を言っているのか判らない。


   俺の意識は…深淵の中へと落ち、消えて行った―――



     ―NEVER END―

331: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/15(火) 09:20:05.49 ID:Hpo/GBSpo
―ねぇねぇ今どんな気持ち?ねぇねぇ?―

●∥∥∥

ショウ「はいはい、おつかれさまー☆」

ショウ「いやぁ残念。今回も、BAD ENDだったねー」


ショウ「それじゃぁ改めて、三周目のルート選択行ってみようか☆」


ショウ「Aのカレンルート…は、どっちも終わったから」


ショウ「B…理央ルート」

ショウ「C…空ルート………」



ショウ「…………あれ?」



ショウ「あれあれ?………BAD END…じゃ、無かった?」

ショウ「ふぅん………そう言う事か、やってくれるね。じゃぁ、僕もそれに合わせようじゃないか」



ショウ「じゃ、改めて…」


ショウ「どうやら今回、新たな可能性が開かれたようだ。新たなルートを捏造できるようになったよ」


ショウ「B…理央ルート」

ショウ「C…空ルート」

ショウ「D…黄色ルート」

ショウ「Σ…シグマルート」


ショウ「ルート選択は >>336 くんにお願いしちゃおうか☆」

341: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/18(金) 08:21:20.72 ID:39QucyEEo
―操り人形は電気執事の夢を見るのか?―

○人形姫と人形館

私「あれが…ミュー?まるでフランケンシュタインの怪物みたいですね」

ガラス張りの壁の向こう側…寝台の上に横たわった一人の男性を見ながら、私は呟いた。


ジョージ「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス…そうだね、うん。フフフ…」

私「お兄様、一体何が可笑しいんですか?」

ジョージ「いや、こちらの話さ。そう言えば…今日の実験の事は何も聞いて居ないんだよね?」

私「はい。私の能力…送信型テレパスの研究に関する実験とだけしか」


「あぁ、そちらのお嬢さんが今回のコンダクターですね?」

研究衣を来た男が、私とお兄様に話しかけて来る


私「コンダクターとは?それと、貴方は?」

「失礼しました。私の名前はティム・フランケンシュタイン、皆からはヴィクターと呼ばれて居ます」

フランケンシュタインに、怪物。成る程、確かにここまで符合すれば、ヴィクターなんてニックネームを付けたくなるのも頷ける。

お兄様が先程笑っていたのもこれが理由だろう。


ヴィクター「そしてコンダクターと言うのは、言葉の通り彼の…」

怪物の方を向き、そこで意味深に言葉を止めるヴィクター


私「フランケンシュタインの怪物の…花嫁?まさか、私が…?」


どこまで物語になぞらえているのか、どこまで本気なのか…

えもしれぬ不安が心臓を早鐘と変える中、私はその言葉を搾り出した。

342: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/18(金) 08:24:59.47 ID:39QucyEEo
○私の住むべき新たな家

ピピピピ…ピピピピ………

まどろみの中から、私を引き摺り出す電子音。

私は目覚まし時計のアラームを切り、寝ぼけた眼を指で擦る。


私「またあの夢……」

そう…ずっと前、私がキングダムに居た頃の記憶。

最近はあの時の事を…夢に見る日が多い気がする。


洗面所…あの頃のように髪を下ろしている私の姿。

私はこの姿が好きでは無いので、髪を整えてからいつものようにツインテールに束ねる。


台所…今日は目覚めが良く無いので、目玉焼きとフレンチトーストで簡単に済ませる。

テレビから流れる映像と音声に混じり、私の頭の中に飛び込んでくる雑音と喧騒

私はようやく目が覚めた事を自覚しながら、朝食の片付けに入る。


再び洗面所…歯を磨き、先輩から貰った怪獣型の歯ブラシホルダーに歯ブラシを置く。

余談ながら、この怪獣はロブスターだか海老だかの味がするらしい


私「ロブスター…一度食べてみたいかも」

勿論、怪獣の話では無く本物のロブスターの話。


私「後は…」

郵便受けの中身を取り出し、確認する。

スーパーのチラシに、どうでも良いようなプリント…その中でも一際目立っているのは、和紙の封筒


私「お爺様から………」

343: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/18(金) 08:43:53.94 ID:39QucyEEo
●始まった場所は判らない

俺「……………」

理央「あ、あの……先輩。何か…?」

俺「ちょっと待ってくれ。あとちょっと………こう…」


いつもの昼休み…いつもの社員食堂…いつもの理央…にも関わらず、何故か違和感を覚え…理央を観察する俺

化粧…と言う訳でも無く、異変があるようにも見えない。

瞳の奥を覗き込むくらいまで近付いても判らないので、今度は遠ざかって見てもみる


理央「え?え?あの、先輩…近っ………」

俺「あぁ、そうか。今日はツインテの位置がちょっと上…ついでに少し後ろなのか。ツンデレ…いや、ちょっと強気キャラ風味か?」

理央「え………さっきからずっと見てたのって、その事ですか?」


そして、やっとの事でその違和感の正体に気付く。


俺「ん?そうだけど、どうかしたか?」

喉の奥に刺さった小骨が取れたような…そんな感じだろうか

俺は理央に言葉を返すが、理央は何故か納得いかない様子。


理央「…………なっ…何でもありません」

おまけに、何故か臍を曲げてしまっている。


俺「え?俺、何か気に障るような事言ったか?したか?」

理央「…知りません」

そっぽを向き、そのまま立ち上がる理央。


食べ終えて空になったトレイを持ち、最後に一度だけ俺を見る。


理央「そ、それよりも…退勤した後の事、覚えてますよね」

俺「あ、あぁ…カレンと一緒に、猫カフェだったよな?」

理央「では、お願いします」


そしてトレイを片付け、食堂を去る理央

乙女心と秋の空とは言うが、初夏の空でもサッパリ訳が判らない。

用法が合っているかどうか判らない、そんな言葉を用いて達観しながら…


俺は一人とり残されたまま、食事を続けた。

344: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/18(金) 08:50:28.66 ID:39QucyEEo
●始めるべき場所は判っている

カレン「それで…どうしたの?」

俺「いや、俺も理央から何も聞いて無いんだ」


猫カフェ…と行っても猫が居る喫茶点と言う訳では無く、ただの店名

それも、ちゃんとした名前があるのだが…あえてこの通称で俺達は呼んでいる。


あと…閑古鳥が鳴くような日時では無い筈なんだが、店内に客の姿が殆ど無く

…ここからは死角の反対側の席から、言い争いのような声が聞こえて来るだけだった。


理央「予め内容を言ってしまうと尻込みしてしまいそうだったので、あえて伏せさせて貰いました」

俺「………え?俺が尻込みするような内容?俺、また何かやらかしたか?」

理央「いえ、先輩では無くカレン先輩が尻込みするような内容です」


理央の言葉を聞き、身を強張らせるカレン

だが、それならそれで俺がするべき事が一つある。


俺「あー……カレンに用なら、俺は席を外しとくか?」

伝票を持って立ち上がる俺…だが、それに対して理央は手を付き出して

理央「いえ、先輩にも関係がある事です」


話に関係の無い邪魔者は、ここで退散…しようとしたのだが、理央により引き止められた。


理央の超能力は、広域リーディングと送信型テレパス

テレパス傾向の強いP器官に加え、許容範囲の広い人格を持った理央だから持てる…ぶっちゃけチートに近い情報収集能力だ。

そんな理央の前では俺達の隠し事など丸裸同然…現にこうして意味深な事を言われてもそれが……どれの事なのか……と考えるばかりで、特定など叶わない。

結局の所、真意を知るには理央の発言を待つ以外の手段が無く、切り出されるのを待つだけのまな板の上の鯉状態である。


俺「で…一体何の話だ?」

理央「私がチームに加わる事になった日の事ですが。先輩がコピー室の前で聞いたカレン先輩の言葉…覚えてますよね?」

俺「………」

カレン「…………」


そして理央は…よりにもよって、俺にとってもカレンに取っても触れられたく無い急所を抉って来た。

345: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/20(日) 06:17:30.97 ID:CYVo7n6xo
●更地にする所から始める

理央「あれ、先輩の能力を維持するための…先輩がリア充で無いと錯覚させるための嘘です」

俺「…………は?」

カレン「なっ…ちょっと理央!貴女、何を言ってるか判ってるの!?」


理央「それと…先輩は先輩で、空さんとの一件でパトリオットを使えるようになっています」

カレン「………え?ちょっ…ちょっと待って!?パトリオットって、和褄 池流の…!?」

理央「正確には、和褄 池流のサイコキネシスと炭徒 美由のクレアボヤント…その両方で形成されるパトリットですけどね」


俺「いや、待て………何で今そんな事を言うんだ!?」

理央「今の状態が…私が嫌だったからです」

俺「………はぁ!?」


理央「ぶっちゃけた話、カレン先輩は先輩の事が好きです。先輩のために自ら泥を被るくらいにらぶらぶです」

カレン「ちょっ……ちょっと理央!!」

顔を真っ赤にして理央の口を塞ぎにかかるカレン。だが理央はそんなカレンの手を避け、更に言葉を続ける。


理央「そして…先輩は先輩で、当然のようにカレン先輩の事が好きです」

俺「おまっ………」

理央「裏切られても、利用されても…それでも好きで好きで、カレン先輩の力になろうとしてます。ほら、図星を突かれて赤くなっています」

俺「っ………」


俺「で……でだ!今それをここで暴露しといて、理央は一体何がしたいんだ!?」

理央「先輩」

俺「な…何だ?」


理央「好きです」


カレン「…………えっ?」

俺「………………………は?」


理央「判って居ないようなのでもう一度…私は先輩が好きです。でも…今の関係のまま先輩に迫るのは嫌だったので、関係を清算しました」

俺「……………」


驚きの余り…俺は絶句し、パクパクと口を動かすしか無かった。

346: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/20(日) 06:32:32.20 ID:CYVo7n6xo
●石橋を叩いて崩すところから

理央「カレン先輩だけでも強敵だって言うのに…空さんだなんて言う強力なライバルまで現れて………どうしろって言うんですか、本当」

俺「いや待て、そこで何で空の名前が!?ってか、理央が俺の事を!?え?え!?」

理央「理解してくれるまで何度でも言いますよ。私…播磨 理央は先輩の事が好きです。あと、空さんも先輩の事が好きです」


俺「いやいやいやいやいや!無い!色々と無い!俺に限ってそれは無い!」

理央「自覚して下さい。先輩は今や、非リア充では無くリア充です!」

俺「無い!それは無い!カレンからも何か―――」


と、カレンに助け舟を求めるが…カレンは完全に固まってフリーズしてしまっている。


理央「これが横恋慕だと言う事は判って居ます。でも…私の気持ちに嘘を吐く事は出来ません」


今までに見せた事無い程真剣な表情で告げる理央…

はぐらかす事なんて出来ない。俺は覚悟を決め…呼吸を落ち着ける。


俺「気持ちは嬉しい…でも、正直色んな事を一度に言われて心の整理すらまだ付いて無いんだ。だから、理央の気持ちに返す言葉すら見つからない」

理央「今はその言葉だけでも充分です。また後日…先輩が全部飲み込んでから返事を下さい」

俺「悪い…済まねぇな」


カレン「………あ、あの……ゴメン。私からも…質問して良い?」

そして、やっとの事で再起動を果たしたカレン。

自身を置いてきぼりにして進行した事態を把握すべく、その声を上げた。


俺「あー………っと、そうだよな。カレンもすぐには追い付けないよな…んで、何を聞きたいんだ?」

カレン「空って………誰?」


………………そこからか

347: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/20(日) 06:36:04.13 ID:CYVo7n6xo
●隣のお宅へ視察に向かう

理央「未来 空、17歳女性…キングダム所属。ヴァルハラオンライン上での名前はhasewo。三年前に先輩と知り合って、同じギルドに所属」

理央「版権名の男性キャラのため、先輩は彼女の事を男性と思い込んで居ましたが…リアルでオフ会をした事により女性だと判明」


空「何だよこのちびっ娘…ってか、俺の事喋ったのか?」

理央「ちなみに本人は…レ の 癖を持ち、ネット上ではネナベをして女性を釣っていた…と証言して居ますがこれは嘘で、 経験皆無の上に●●です」


俺「………」

空「な…何でそんな事まで!?いや、そこで黙んなよ!ってか余計な事言ってんじゃねぇよ!」

俺「あー…っとな、その子の名前は理央。複合リーディング能力持ちで、相手の事を何でも読んじまうんだ」


俺に呼び出されてカフェに訪れ…理央の手による丸裸にされて行く空。

売り渡した身で申し訳無いのだが、俺は理央を止める手立てなど持ち合わせいない。

そのため…ただただ成り行きを見ているしか無かった……


理央「………そして現在は、空さんを匿うと言う名目で先輩と同棲中」

俺「いや、同棲じゃなくて同居な!?ってか、居候だよな!?」

が…理央のその言葉で空気は一転。


俺は慌ててフォローを入れるが、カレンは尋常では無い気配を纏いながらこっちを見ている。


空「いや…ってか何だ?これは一体どー言う事だ?コイツ等は組織の人間だろ!?」

理央「あ、その点は心配無用です。組織側に貴女を引き渡すつもりはありません」

空「だったら、何でわざわざ俺をこんな所に…」


理央「宣戦布告をするためです」


空「………は?」

理央「先輩の恋人…その立場を勝ち取る戦いに、私も参加します。そして負けるつもりも無い事を、ここに宣言させて貰います」

空「…………へぇ、そう言う事かい。良いぜ、受けて立ってやんよ!」


空と理央が、山猫と兎のオーラを纏いながら火花を散らす中…

ふと気付けば、ジト目で俺を見据えるカレンの姿。


嗚呼………俺は一体どうすれば良い?どうなってしまうんだ?

348: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/20(日) 07:01:08.35 ID:CYVo7n6xo
●そうだ石橋の亡骸で塀を作ろう

空「………で、何がどうしてこうなった!?」


次の日…再び猫カフェで落ち合った俺達だが…そこで待って居たのは、キングダムのメンバー…

マーク、エリー、マリオの三人だった。


マーク「そりゃぁこっちのセリフだ!ミラ、お前が行方不明になってどんだけ……い、いや何でも無ぇ!とにかく…っ」

エリー「あらあぁん、素直じゃ無いわねぇ。あれだけ心配してたくせにぃん」

マーク「だ、黙りやがれ!!!」


俺「で…俺も聞くが、どうしてこうなってる?」

カレン「それは、えっと……まず貴方が来る前に、私達が先に集まってたんだけど。そこに彼等が来店して来て…」

俺「不運にも、遭遇しちまった…か」


カレン「しかも、見ての通り彼女の知り合いだったみたいで…」

俺「誤魔化しも出来無い、逃げられない…って訳だよな」

理央「…と言う訳で」


理央「丁度良い機会なので、親睦を深めつつ情報交換を行いましょう」

「「「「「何でそうなる!?」」」」」


理央「カレン先輩の書き置きと拉致の件…お互いに気になって居ますよね?」

カレン「え?拉致って何?どう言う事?」

マーク「書き置き…だと?いや、ってか待て!何でその事を知ってんだ!?」


理央「ほら、情報交換…したくなったんじゃ無いですか?」

349: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/20(日) 07:18:16.75 ID:CYVo7n6xo
●崩落地帯にご用心

マーク「元々乗り気の指令じゃぁ無かったが…こりゃぁ、ジョージの腹ん中を探らにゃぁいけねぇみてぇだな」

俺「それじゃ…オッサン達は木戸譲二の方を調べるとして、俺達はどうする?」

理央「話を聞いた感じでは、他にも何か仕組まれて居そうですから…組織の方を調べてみようと思います」


情報交換を終え、陰に隠れたジョージの存在に辿り着く俺達。

空の仲介もあってか、マーク達とは目的や利害が一致する結果となり

この場の騒動は収束へと向かい始めた………恐らくは皆がそう思っていたのだが…


新たな騒動の火種は、唐突にその頭角を現した


理央「………………そんな…まさか、ヴィクター………?」

店の外…明後日の方向を向いたま大きく目を見開き、驚愕の表情を浮かべながら…理央が呟いた。


俺「ヴィクター?何だそれ?」

理央「あ、いえ………何でもありません」

俺「いや…明らかに、何でも無いって様子じゃ無いだろ」


理央の様子を案じ、俺は更に問い詰める


理央「………………」

だが、理央の方は一向にそれ以上の事を口に出そうとはしない


まぁ…誰しも喋りたく無い事の一つや二つあるだろうし、俺達に関係のある事なら理央の方から話してくれる筈か。

こうなってしまっては、無理に聞き出すのはただの無神経だろう…

そう思い、俺はそれ以上の詮索はしない事にした。

350: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/21(月) 05:15:27.13 ID:xTatMi0eo
○足跡探す路地裏

猫カフェでの一件を片付け、解散した私達。

各々が自らの事情に奔走する中、私は店から200m程離れた路地裏に訪れて居た。

この場所で私が探しているのは―――


知覚範囲ギリギリの場所を掠めて行った存在………

キングダムに居た頃、研究所で出会った………


   悪魔のような男


私は周辺の記憶を遡り、ヴィクターを探す…けれども、読み取れるのはヴィクターの乗った車がこの道を通り過ぎたと言う事だけ。

せめて何か落とし物でもしていてくれれば、そこから情報を引き出す事も出来たのだろうけど…それも無し。


理央「あの…すみません、理央です。今から言うナンバーの車について調べて欲しいんですけど………あ、はい。事情は確信を得てから話します」

私は組織に電話をかけ、ヴィクターの乗っていた車のナンバーを告げる。


何故あの男が生きているのか。その上、日本…しかもこの地区に何の目的で来て居るのか

今はその片鱗すら知る事も出来ないけれど…どう考えても悪い方向に転がる未来しか浮かんで来ない。


あの男はそう言う男だ

私はあの男の行為を許す事は出来ないし、するつもりも無い。

そして…あの光景を忘れる事など出来ない。


思い出しただけで私の心臓はバクバクと嫌な音を立てて高鳴り、全身の毛穴から汗が噴き出て行く。

何とかしなければ…きっと、事が起こる前に何とかしなければ…取り返しの付かない事になってしまう。


私が…私が止める


では、どうすれば良い?どうするべき?

そうだ…せめて先輩達に、身の危険が迫ってるかも知れない事だけでも伝えないと―――


振るえる手で携帯を持って、電話帳を開き

先輩の番号を選び、指先に力を込める。


しかし…限界まで張り詰めた私の意識は、そこで途切れてしまった。

351: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/21(月) 05:17:22.49 ID:xTatMi0eo
○人形姫と怪物

私「ぁ…………ゃ………いやっ……来ないで……」


ジャラジャラと金属が擦れ合う音が響く、明かり一つ無い室内

暗がりの中で蠢く影が、不気味に光る目を私に向ける。


金属に覆われた指が私の頬に触れ、そこから全身に向けて寒気が駆け巡る

私は喉の奥から掠れた声を絞り出すが、身体は震えに支配されて指一本動かす事が出来無い。


私「た……たす……助け………ヒッ―――」


触れた指先が私の頬を傷つけ、熱く赤い雫を滴らせる。

暗がりの中から顔を近付ける、其れ…ヴィクター・フランケンシュタインに創られた、名前を持たない怪物。

幾つもの人間の顔をツギハギにして作られれ、飛び出した金属を隠そうともしない醜悪な顔


その口元から伸びた舌が、私の血を舐め取り…今度は首元へと指先が伸びて行く。


私の中を駆け巡る感情は恐怖

怪物に対してか、死に対してなのか…その正体すら判らない恐怖の渦が私を支配する。


引き裂かれる服…

怪物の口から滴り落ちる唾液…


そして―――

352: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/21(月) 05:27:40.05 ID:xTatMi0eo
●目覚めた場所は部屋の中

理央「――――――――ッ!?」

俺「――のわっ!?」


奇声と共に跳ね上がる理央の上体。その行動の結果、ぶつかりあう俺の額と理央の額。

奇襲とも言える一撃に対し、防御行動などと言う物が間に合う筈も無く…拳よりも重たい一撃により、俺の脳は大きく揺さ振られた

が……それは一撃を繰り出した理央の方も同じ様子。額を押さえながら、蹲ってふるふると震えて居る。


俺「っ……たた……理央…大丈夫か?」

理央「……っ…は、はい…すみません……」


言葉を交わし、互いの無事を確認した所で再び沈黙…いや、悶絶する俺達。


やっとの事で痛みが引き、俺は理央の様子を伺うべく視線を落とすのだが……

理央「………………」

何故か、今度は真っ赤になって震えている。


理央「あ……ああああ、あの…こ、この。この服っ…服っ!!」

あぁ…そう言う事か

俺「いや、さすがに寝かせるのにあの格好のままだと………」


って、違う!俺の予想が甘かった!今度こそ言うぞ

  そ う 言 う 事 か!


理央「し………下着が……な…なな、無くて…え?え??」

俺「ち、違う!あの格好のままだといけないと思ったのは俺だが、実際に着替えさせたのは空だ!!」


理央「………………え?…あ、そう…ですよね。まさか先輩が直接着替えさたなんて訳…」

そして…ギリギリ間に合った弁明の甲斐あり、何とか落ち着きを取り戻した理央。

落ち着きを取り戻し、微動だに…ん?何か様子がおかしい。落ち着くどころか、とある方向を向きながら完全に固まって居る。


俺は理央の視線の向かう先を追い………その原因と経過と結果の全てを理解した。

理央の視線の先にあるのはベランダ…更に細かく言えば、ベランダの物干し竿。

正確に言うならば、物干し竿に引っかかっているハンガーに干された……


  兎プリントのショーツ

353: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/21(月) 05:40:18.53 ID:xTatMi0eo
●もしも室内でラッキー   が起こったら

理央「@#&%*―――!!!!」

再び真っ赤になり、涙目+渦巻き目になりながらベランダへ飛び出ようとする理央

しかし窓は閉まったままで、おまけに理央は明らかに冷静さを欠いている。


もしこのまま突き進めば、ガラスに激突…下手をすれば割れたガラスで大怪我なんて事にもなり兼ねない。

俺は慌てて理央のパジャマを掴むのだが………


倒れる勢いで地面を離れ、不運にも的確に俺の顎を捉える…理央の踵。

更に交差する脚が俺の頭を掴み、身体を捻りながら壁へと打ち付ける

何と言えば良いのだろうか…変則式きりもみフランケンシュタイナーとでも名付けておくべきか。


結果的に理央が窓ガラスに激突するという最悪の事態は防ぐ事が出来た訳だが…

俺の方は無事では済まなかった。


ぐらぐらとゆらめく世界…中々ピントが合わず、鮮明になったりぼやけたりする景色…

俺はもうダメかも知れない…そんな事を考えるも、理央の安否を確認するまではくたばれないと思い直し、その姿を探す


が……視界を覆う景色がそれを遮り、邪魔をする。

俺はその景色を振り払うべく、手を伸ばし


理央「――――ひゃっ!?」

まず、理央の声でその安否を確認した。

そして、視界のピントを合わせて確認すると………


遠くから順番に言おう。まずは真っ赤になった理央の顔…続いて、パジャマが肌蹴て露になった肩

平坦では無いと主張する程度に膨らんだ胸と、その先端にかかる薄紅色

薄い腹部から更にへこんだ臍………下腹部はうっすらとついた筋肉がカーブを作り…そこからは、歳相応ならば在っておかしく無い筈の………


俺は、見てはいけない物を見てしまったんだと思う。


即頭部に向けて、両側から迫り来る理央の膝………

それに挟まれ、鈍い打撃音と共に意識を刈り取られた。

355: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/22(火) 05:24:14.99 ID:1eyIlqM1o
○人形姫と悪い魔法使い

「ひっ……ぁ……あがっ…!……あ………」

「……ぅ…ぁ…………ぁ………」

ガラガラとけたたましい音を立て、寝台ごと治療室へと運ばれて行く少女達。


私がこの研究所に来てから、もう何度も見ている光景。だけど…その意味が判ったのは、つい最近の事だった。


私「何故…まだあれを続けて居るんですか?私が成功した以上は、不要な事でしょう?」

ヴィクター「ん?いやいや、何を言うんですか?まだまだ予備が必要に決まってるじゃないですか」

私「っ…予備…ですか……そうでしょうね。他者を簡単に使い捨てる貴方では、マトモに何かを残せるとは思えませんし…」


ヴィクター「おや、もしかして先日の件でご立腹ですか?」

私「言わなくても判る事でしょう。一歩間違えれば私は命を落としていました………それを簡単に水に流せと?」

ヴィクター「やれやれ、大きな誤解があるようですが…さすがに命を落としそうな状況になったら、途中で中止していましたよ?」


私「命さえ落とさなければ、それ以外はどうなっても良い…そう言っているようにも聞こえますが?」

ヴィクター「どこか間違って居ますか?」

私「………やはり、貴方は貴方ですね。それに…成功の目が無いと判断すれば、命さえ切り捨てて居たでしょうに」


ヴィクター「成功の目さえあれば切り捨てませんよ?」

私「……………」


これ以上は話すだけ無駄…と言うよりも、話しているとストレスが溜まる一方

言い放ってしまいたい事は山ほどあるけれど、私はそれを飲み込んで口を噤んだ。


ヴィクター「あぁ、そうそう…これ、頼まれて居た彼のファイルです」

私「………」

ヴィクター「少しでも多く実験の事を知り、自発的に協力する…とても良い心意気ですね」

356: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/22(火) 05:34:35.55 ID:1eyIlqM1o
●深刻な部屋へようこそ

覚醒を促したのは…鈍い痛みだった。

脳天…側頭部…顎…首…見事なまでに頭全体を痛みが覆う中、俺は引き摺り出されるように意識を取り戻す。


瞼を上げて最初に飛び込んできたのは、夕焼け色に染まった理央の寝顔。

どうやら、俺の頭を膝に乗せたまま…壁に背を預けて眠ってしまったらしい


俺「………」

声をかけようとする…が、起こしてしまうのも悪いと思い直し、それを止める。


俺「あ…」

そして…顎に湿布が貼られていて、他の部位にも包帯が撒かれている事に気付く。

不器用ながらも手当てをしてくれていたようだ。感謝の気持ちと…申し訳無さが溢れ出て来る


俺「この怪我にしたって、俺の無神経さが原因なのにな…って言うか、確かあの時…」

脳裏に浮かぶのは、気を失う直後に目にした光景


そう………今まで完全に失念していたが、俺は今、理央に膝枕をされている。つまり…俺の頭のすぐ下にはあの―――


理央「言っておきますけど…もう履いていますからね?」

俺「――――――ッ!!??ゴフッ!?ゲホッ!!!」

突然の理央の言葉により、勢い良くコースアウトする思考。俺は盛大に咳き込みながら、理央の顔を見上げる。


俺「お、起きてたのか…」

理央「はい…先輩が私の脚をしきりに気にし始めた辺りから」


俺「………………死にたい。せめて穴があったら入りたい」


理央に悟られた居た事に対する羞恥心が溢れ出る…にも関わらず、そこから更に脱線して行く思考

そして脱線に脱線を繰り返した後、戻らなくても良いコース…気を失う直前に見た光景の辺りにまで巻き戻る。


我ながら下衆い思考の持ち主だとは自覚しているのだが…思わず視線は頭の下へと向かう

そしてその意図に気付いた理央は、真っ赤になりながら物凄い勢いで立ち上がり……


俺の頭部は急上昇


後の自由落下により、とどめの一撃を受ける事となった。

357: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/22(火) 05:43:17.25 ID:1eyIlqM1o
●重態な部屋へようこそ

理央「あ、す…すみません!先輩、大丈夫ですか!?」

俺「何か二回くらいデッドエンドって文字が見えたけど、多分大丈夫だ……ってかうん、自業自得だから放置してくれても良かったんだけどな…」

口の端から8割くらい魂が抜け出している状態で、何とか理央に返答する俺。


しかし、訪れる沈黙…理央からはそれ以上の返答が無し。言葉通りに放置した可能性も無いでは無いが、それはそれで理央にしては不自然。

心配になった俺は、視線を上へと向ける。すると…

理央「そ…………そ、そそその…不意打ちとか…無理やりは…い、嫌ですけど………せ、せせせせ先輩がどうしてもと言うなら……」

視界に飛び込んできたのは…顔を真っ赤にして暴走状態になった理央が、パジャマを脱ぎかけている場面だった。


俺「って、ストーーーーーップ!!!」


俺「そ…そう言うのは好きな相手以外にする物じゃ無―――」

理央「わ、私!先輩の事好きですから!!」

俺「そ、そうだったー!って、そう言う事じゃなくてだな!!」


完全にテンパる俺と理央…心臓はバクバクと激しく脈動しているくせに、脳は酸素を使いすぎて酸欠寸前の状態に陥っている。

もうどうする事も出来ない…抗えない本能の赴くままに暴走してしまいそうになった、その瞬間……

「困った待って 待って♪ちょっぴり待って 待ってて♪既に充分 う ろ たーえてる♪」

理央の携帯から鳴り響く着信音が、辛うじて残っていた俺の理性を引き戻した。


俺「…………」

理央「…………」


俺「携帯…出なくて良いのか?この着信音、組織からだろ?」

理央「あ…は、はい。そ、そうですね!」


辛うじて…本当に辛うじての所で、色んな意味で踏み止まる事が出来た俺と理央。

少々…いや、かなり勿体無い事をした気がしないでも無いが、そんな後悔さえ上回る程の安心感が俺を包み込む。


理央「はい…はい………ありがとうございました」

そして…俺が普段通りの落ち着きを取り戻した辺りで、理央も通話を終えた様子。

改めて事態を整理するべく、理央に声をかけようとするのだが…


理央「せ………先輩」

俺「あ…あぁ、どうした?」


理央「帰る部屋……無くなってしまいました」

俺「………………はぁっ!?」

358: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/22(火) 05:56:22.06 ID:1eyIlqM1o
●車もある意味一つの部屋

俺「えっと……じゃぁ、詳しい事はまだ何も判って無いんですね?」

黄色「あぁ、メトリー系の能力者が出払っててな。お前、理央が今どこに居っか判るか?」

理央「あ、わ、私なら…せ…先輩と一緒に、先輩の部屋に居ます!」


黄色「……お前等、何時の間にそう言う…お前はてっきりカレンと……いや…まぁ、何にせよ現場に居なかったのは不幸中の幸いだな。今そっちに行く」

理央「あ、ち…違います!そう言うのじゃなくて!あ…と、とりあえず合流後に説明しますから!」


黄色先輩との通話を終え、荒いだ息を整えるため深呼吸をする理央。

ちなみに…今の俺達が置かれている状況はと言うと……


まず…組織からの連絡により、理央の部屋が襲撃された事を知った俺と理央。

たまたま現場の近くに居た黄色先輩達とも連絡を取り、事態の把握と収束に勤める事になったのだが…

今は、その黄色先輩の到着を待っている…と言う訳だ


俺「襲撃…か。カレンの件絡みで間違えて襲われたか?んでも、だとしてもまだ予告の日付には早い気がするよなぁ」

理央「あ、その件…いえ、多分今回の件で心当たりがあります。本当なら、目覚めてすぐに伝えなければいけなかったんですが…」

俺「ぁー………まぁ、目覚めてすぐはアレだったから仕方無いだろ」


黄色先輩を待つ間に、俺達は可能な限りの確認を行う事にした。

ちなみに、あまり鮮明に思い出させるとまた暴走しそうなので…起き抜けの辺りはあえてぼかしておく。


理央「あ、そう言えば…私、起きてから能力が全然………えっと、このままだと私の部屋に戻っても………」

俺「ん?あぁ、それは多分この地区のルールに阻害されてるからだろ。ってか随分落ち着いてるが、その様子だと前にも同じような事があったのか?」

理央「前にも…と言うか、起き抜けはいつも…能力で読める情報が不鮮明になってるんです。それで…ルールと言うのは?」


俺「あぁ、そう言う事か…っと、そうそうルールってのはだな…簡単に言うと、ここから半径1kmくらいの地区では覗き見能力全般に制限がかかってんだ」

理央「それで…以前私の能力で先輩のプライベートを覗こうとした時も、何も見れなかったんですね」

俺「本人が許可した場合に限り、部分的に見る事は可能になるんだが…って、そんな事しようとしてたのか!?」


俺がツッコミを入れると共に理央は視線を逸らし、そのまま黙秘権を行使

どうにかして白状させるべきか…そんな事を考えていると、不意に外でクラクションが鳴り響く。


俺達はその音の主を確認すべく、窓から外を見る…と、道端に停まっている金色のNSX-Rが目に停まる

俺達が話している間に、黄色先輩が到着していたようだ。


俺「んじゃぁ…襲撃の件の続きは、車ん中で良いよな?」

理央「………はい」


俺達は無駄話を切り上げ、直面している事態へと頭を切り替えた。

360: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/23(水) 05:56:39.74 ID:yD8cIDnro
●ライドオン出来る部屋のような物

黄色「よりによって、ベリルと契約しちまったか……お前、地毛が金髪で黒に染めてるとかじゃぁ無ぇよなぁ?いや…カレンの方か?」

俺「金髪?違いますけど、それってどう言う…」

黄色「ぁー…んじゃ気にすんな。とりあえずカレンの書き置きの方はどーなってる?」


理央の部屋へと向かう途中…俺達は黄色先輩に今までの経緯をかいつまんで話していた。


理央「利害が一致したキングダムのメンバーと、共同で情報収集をしている最中です。あと、今回の件ですが…」

黄色「何か心当たりがあんのか?」

理央「はい……私が記憶を改竄されてキングダムに所属して居た頃、ある研究所で知り合った男が居るんですが…今日、その男を観ました」


俺「その男ってのは…もしかして、猫カフェで言ってた…」

理央「そうです。本名ティム・フランケンシュタイン、通称ヴィクター…研究所に所属していた研究員で………悪魔のような男です」


黄色「その辺りの所…突っ込んで聞いても良いか?」

理央「…はい」


理央「ティム…ヴィクターが研究していたのは、人体改造…いえ、人造人間と言うべきでしょうか」

理央「人体のパーツや超能力者の脳…複数のP器官を接続して、全く新しい別の人間を創り出す研究をしていました」

俺「それでヴィクター…ヴィクター・フランケンシュタインか」


黄色「いや、何でヴィクターなんだ?」

俺「………日本ではフランケンと呼ばれてる怪物が居るでしょう?あれの創造主の名前が、ヴィクター・フランケンシュタインなんですよ」

黄色「だったら、フランケンの本名は一体何ってーんだ?」


俺「ありません。フランケンシュタインの怪物が略されたり、創造主の苗字を取ってフランケンって呼ばれたりしてるんです」

黄色「へーへーへーへーへー」

俺「トリビア!?」


黄色「…っと、そうこう言ってる内に理央の部屋が見えて来たな。続きは降りてからにするか」

と言うか否か…ブレーキを殆どかける事無くハンドルを切り、瞬く間に車体を半回転させて駐車する黄色先輩。


理央「え……きゃっ!?」

俺は、急旋回の勢いで倒れ込んでくる理央を受け止め……

車体の揺れが落ち着いた所で、改めて窓越しにマンションを見上げる。


まるで巨大なハンマーで打ち付けたかのような、破壊の痕を残したマンション……理央の済んでいた場所。


もしあの現場に理央が居たら…そんな最悪の事態を考えると、自然と理央を抱き止める手に力が篭った。

361: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/23(水) 07:07:39.00 ID:yD8cIDnro
●壊れた部屋に残った物

黄色「おい、イチャイチャしてねーでとっとと出て来いよ」

俺「してません!と言うか、誰のせいでこの状況になってると思ってるんですか!?」


車の外から呼ぶ声に応え、後部座席のドアを開く俺と理央

襲撃された部屋を改めて見上げてから、俺は理央に視線を向ける。


俺「…大丈夫か?」

理央「はい………目を背けてはいられませんから。それに…能力を使うまでも無く、目視だけで判りました。あれは間違い無く…」

俺「ヴィクター・フランケンシュタインの…名前を持たない怪物の仕業……か」


理央は無言で頷き、俺の言葉を肯定した。


そして瞼を閉じ、恐らくは能力…複合リーディングの展開

額に汗するその様子から、深刻な事態を読み取っている事は傍目にも判る。

…が、リーディングに集中していた筈の理央が、不意に目を開き…


路地の暗がりの方へと向き直る。


俺「どうした?………まさか、怪物がまだここに居るのか!?」

理央「いえ、そうではありません。でも………」


警戒心を露にして身体を強張らせる理央…それに続いて俺も身構える。

そして、理央の見据える先から姿を現したのは………


黒い執事服に黒い髪…線のような細い目、白い手袋にモノクルの男。


ジョージ「やぁ皆、はじめまして」

理央「……………ジョージ…」

俺「…はっ!?」

黄色「ほぅ…死に切れて無かったって訳か」


木戸 譲二…通称ジョージ

クリスマスのイベントで、能力の覚醒と共に殺した筈の男…その名前を持つ男だった。

362: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/23(水) 07:13:10.18 ID:yD8cIDnro
●部屋の前で織り成す喧騒

懐から銃を取り出し、ジョージと呼ばれた男…いや、ジョージへと向ける黄色先輩。

ちなみに黄色先輩の銃は…実銃使用許可が出ている場合には、トゥルスキー・トカレヴァを

それ以外では、AMTハードボーラーロングバレルのイミテーション…ただのモデルガンを持ち歩いている。


そして今回、黄色先輩が構えたのは………見覚えのある、50AEデザートイーグルフルオート


俺「ってそれ、カレンの銃じゃないですか!!」

黄色「安心しな、ちゃんとカレンに言って借りて来てっからよ」

俺「いや、そうじゃなくて!…そんな物、カレン以外が撃ったら……」


ジョージ「あー……コホン。ちょっと良いかな?戦う気満々の所を悪いんだけど、今回は争いに来た訳じゃ無いんだ」

黄色「はぁ?一体どの口がほざきやがる」

ジョージ「信用無いなぁ…じゃぁ、理央が居るんだから確認してみたらどうだい?」


ジョージの言葉に促され…横目で理央を見る、俺と黄色先輩。


理央「ジョージが言っている事は本当です。怪物や実験体を持ち出して逃走したヴィクターを追い掛け、私達に協力を求めに来たようです」

理央「それと…このジョージはオリジナルで。カレン先輩を拉致する計画は当分凍結……ただ拉致その物の目的は、意図的に記憶を改竄して消しています」


ジョージから次々と情報を引き出す理央。


理央「そう言う事ですか…私達をあえて泳がせていたのは、このため…だったと」

ジョージ「理解して貰えたかな?…と言う訳で、理央に裏を取って貰った所で説明に入らせて貰おうか」


そして…理央があらかたの情報を読み終え、落ち着きを見せ始めた頃

ジョージは唐突に宣言を行い、俺達の確認も待たずに語り始めた。

363: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/23(水) 07:20:14.64 ID:yD8cIDnro

●情報の隔離部屋

ジョージ「まず…理央が言ってくれた通りなんだけど、ヴィクターが勝手に実験体を持ち出して困っているんだ」

俺「だからって俺達がお前等キングダムに力を貸す義理は無いよな?」

ジョージ「義理は無くても、必然性はあるんだよねぇ、これが。ほら、この惨状を見て判る通り…理央が無関係だとは思わないだろう?」


当たって欲しく無い予想の的中…それをサラリと事も無げに証明してくれやがった。


俺「だとしても、お前等の不手際が起こした事だろ?理央を巻き込まず、そっちで処理しやがれよ」

ジョージ「それこそ、そんな義理は無いよね?でも利害が一致する以上は、協力する事で円滑に進む…そう思ってるんだけど、違うかな?」

俺「この野郎……理央を盾に、尻拭いを手伝わせようとしてるだけじゃ無えか!」


ジョージ「悪いかい?と言うか、僕達は手出しせずに君達に丸投げする事だって出来るんだけど…」

理央「失敗した場合のリスクを省みた場合、一時的にでも手を組んだ方が得策…そう考えた訳ですよね。良いでしょう、乗ってあげますよ」

俺「いや、待てよ!!こいつは理央を―――」


理央「勝手な事を言ってすみません。でも安心して下さい…これは私の問題なので、先輩方を巻き込むつもりはありませんから」

俺「そうじゃ無い!ヴィクターが理央を狙ってるって事は、囮にされるって事だろ?理央をそんな危ない目に遭わせられるかよ!」

理央「先輩………あ、でも違うんです。囮…と言うよりも、今は私がヴィクター達を追い掛けないと…」


俺「………ん?どう言う事だ?」


ジョージ「ヴィクターと怪物が、理央の部屋を強襲したのは…理央本人だけじゃ無く、別の目的もあったからさ」

理央「怪物の暴走…研究所の崩壊に伴い、私が持ち出したフロッピーディスク…むしろそちらの方が本来の目的だったようです」

俺「………ん?じゃぁ、もう、理央に危険は無いんじゃないのか?」


ジョージ「いや…そっちの目的を果たしたら、また戻って来て理央を襲いに来るんじゃないかなぁ?と言うよりも…そうなったらかなり不味いよね」

俺「何でだよ」

理央「データディスクに記されて居たのは、怪物に更なる力を与える存在の在処だったようです…ですから」


俺「それを手に入れる前にヴィクターを止めないと、怪物を止められなくなる…って事かよ」

ジョージ「大方、キングダムとの交渉材料になると思ってディスクを持って居たんだろうけど…早めに処分しておくべきだったね」

理央「…………」


俺「元凶は黙ってろ!」

364: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/23(水) 07:26:28.97 ID:yD8cIDnro
●走り出す金色の小部屋

黄色「飛び飛びな情報だが、大体判った。要は、ヴィクターって奴と怪物に追い付いて倒しちまえば良いんだろ?」

ジョージ「そうそう、物分りが良くて助かるよ。ただ…今回、金色の竜には他にやって貰いたい事があるんだよねぇ」

黄色「はっ冗談言うな、誰が手前ぇなんかの思い通りに動いてやっかよ」


ジョージ「それは残念…ヴィクターが持ち出した実験体の中には、DCDCも入っていたんだけど…」

黄色「DCDC…だと?……んな馬鹿な……いや、まさか…………マジか?」


ジョージ「金色の竜としては見過ごせない事態だろう?って言うかぁ…既にもうこの近辺に放たれちゃってたりするんだよね…これが」


黄色「はぁぁぁ!?っざけんなよ!!あぁくそっ…俺は一緒に行けなそうだ、野暮用が出来ちまった!」

ジョージの言葉を聞き、瞬く間に車に乗り込む黄色先輩。

更にそのまま発車したかと思えば………あっと言う間に、夜の闇の中へと消え去って行ってしまった


俺「……なぁ理央、今の話…陽動の可能性は…」

理央「いえ、事実のようです。詳細までは判りませんでしたが、黄色先輩のはそちらで手一杯のようです」


ジョージ「さて…そんな訳で、この後理央にはヴィクター達を追いかけて貰う事になる訳だけど…君はどうする?」

俺「………一緒に行くに決まってんだろ!理央だけを危険な目に遭わせられっかよ!」

ジョージ「決まりだね。あぁ、そうそう…カレンお嬢様は、その危険な目に遭わせる訳には行かないから…留守番して貰うよ」


俺「はっ?…そうか…カレンを孤立させて、そこを攫うつもり…」

ジョージ「なんて事が出来たら楽なんだけどねぇ…さっきも理央が行った通り、それどころじゃないから、その計画は凍結中さ」

理央「嘘は吐いていません…ですが、念のためにカレン先輩を警護して貰うよう組織に…あと空さんにも連絡しておきました」


俺「さすがは理央………仕事が速いな。んじゃ、次の問題はヴィクターの追跡手段だが…」

ジョージ「ご心配無く。それはキングダム側で手配してあるよ」


そう言ってジョージは手を挙げ………しばらくしてから近付いて来る、けたたましいまでのプロペラ音。


夜空に溶け込むような黒塗りのヘリコプターが、俺達の上空に現れた。

365: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/24(木) 09:23:49.14 ID:u9tLfj6Do
●空飛ぶ部屋での合流

俺「オッサン達も来てたのか…ってか、オッサン達 が キングダム側の追跡メンバーって事か」

マーク「そう言うお前等こそ、今回の当事者たぁ…どーいう星の巡り合わせだ?」

エリー「やぁねぇん…もしかして、ここで不穏分子を始末するつもりじゃ無いわよねぇ?」


理央「確認しましたが、罠ではありません………一応」

俺「そう言えば、マリオの姿が見えないけど…」


ジョージ「彼なら先に乗船しているよ。と言うか…そう言う話はせめて本人の居ない所でして欲しいなぁ」

俺「乗船?このままヘリでヴィクターの所に行くんじゃ無いのか?」

ジョージ「ヘリで追うには距離が離れすぎちゃったからね。今ある手段…船で追うしか無いのさ。あ、目的地は判ってるから大丈夫だよ」


俺「離れすぎたって…ちゃんと間に合うんだろうなぁ?」

ジョージ「目的の物を手に入れたとしても、それが馴染むまでには日数がかかるからね。何事も無ければそれまでに到着する予定さ」

俺「いや待て、日数って何だよ。どんだけ遠くに…ってか、目的地は一体どこだ!?」


ジョージ「あれ、言って無かったっけ?」

俺「欠片も聞いて無ぇよ!」


ジョージ「北極だよ」


俺「…………は?」

ジョージ「正確には、北極海にある一般的には知られていない島の一つ。そこにある研究施設が、ヴィクター達の…そして僕達の目的地さ」

俺「フランケンシュタインが逃げ込んだ先が北極とか…冗談キツ過ぎんだろ…」


ジョージ「それを僕に言われても困るなぁ。あ、船が見えて来たから降りる準備をしておくれ」

そう言われて外を見る…と、波止場に停まった豪華客船が一艘。ヘリポートが一箇所空いているが…

俺「まさか…なぁ…」


ジョージ「あの船だよ?」

366: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/24(木) 09:33:12.66 ID:u9tLfj6Do
●一人一人の部屋の中

船内に案内され、宛がわれた個室で休憩を取る俺。

部屋の隅に備えられたベッドに横たわり、ぐるりと部屋を見回してみる

見た限りでは監視カメラの類は無し…鏡に触れてみるも、マジックミラーでは無い。盗聴器の類は…調べていたらキリが無いので保留。


くつろぐとまでは行かないが…最低限の休息を取るだけの余裕は持てそうだ。


俺は椅子に座り、テーブルの上に置かれた食事に手を付ける。

毒は入って居ない…まぁさすがに今毒を盛るメリットは無い筈だから、当然と言えば当然か

普段は口にする機会も無いような豪華な食事にも関わらず、警戒心のせいで肝心の味が頭まで届かない。


俺「ってか…下着やスーツはともかく、何で組織の制服まで揃ってんだよ」

クローゼットの中身を確認して、ぼやくように呟く……と、それとほぼ同時に鳴り響くノックの音。


理央「あ、あの…先輩。お邪魔しても…良いですか?」

そして、続くは理央の声。俺はその主を確かめてから、ドアの鍵を開け…理央を招き入れる。


俺「どうした?」

理央「……その、ご一緒しても良いでしょうか?」

俺「あぁ、理央もか。協力してるとは言え、やっぱり敵の船で分断されてたら不安だしなぁ…俺も合流しとこうかと考えてた所なんだ」


理央「…え?あ、そ…そうですよね」

と、言い終え…理央が予想外の反応を見せた所で気付く。

俺「あ…………いや、もしかして……単純に一人だと寂しかったとか、そう言う…?」


理央「…………」

赤面の後、無言で頷く理央。


俺「………」

勘違い…早とちりした恥ずかしさから、理央同様に俺まで赤面する事になった。

367: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/24(木) 09:38:30.09 ID:u9tLfj6Do
●二人が居る一つの部屋

俺「なぁ…理央は、俺と一緒の部屋で良いのか?平気か?」

理央「はい…先輩ですから」

俺「よっぽど信用されてんのか、安全牌だと思われてんのか…」


理央「先輩」

俺「ん?何だ?」

理央「先輩は、自分の事を卑下し過ぎです」


俺「そ…そうか?」

理央「はい。先輩は…もっと自信を持って良いと思います」

俺「そうは言ってもなぁ…」


理央「自信を持って下さい。その………私は、先輩の事が好きなんですから」

俺「…………」

改めて言われると恥ずかしくなるその言葉。

俺は、赤くなった頬をポリポリと掻きながら視線を逸らす。


俺「なぁ………理央は俺なんかの…俺の、どんな所を好きになってくれたんだ?」

理央「それはまた…答え辛い事を聞いてくれますね」

俺「お互い様だろ。まぁ、答え難い事なら…」


理央「…いえ。でも、答えるには…まず、私の事から話す事になりますけど…聞いてくれますか?」

俺「あ、あぁ…聞かせてくれ」

368: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/24(木) 09:49:44.29 ID:u9tLfj6Do
●二人の思い出を交わす部屋

理央「私には…家族が居ません。父と…いえ、父は物心付く前に行方不明になり、母は…私が幼い頃に死にました」

俺は、理央が持って居た母親の写真の事を思い出す。

理央「祖母は私が生まれる以前に他界していて………祖父とも…私の能力のせいで疎遠になり…」


理央「そのせいか…決して取り戻す事の出来ない、家族と言う存在に飢えて……そこに付け込まれたんだと思います」

俺「付け込まれた…ジョージの記憶改竄の件…か」


理央「はい…ジョージは私の兄に成り代る形で、私の記憶を改竄しました」

理央「その後は、先輩達に話した通り………非人道的な研究に参加させられたり、ジョージの手駒として作戦に組み込まれたり……」

理央「そして、クリスマス…金色の竜と呼ばれる存在、黄色先輩の捕獲作戦の日…」


俺「………クリスマス…あの日の事か。俺が能力を使って…木戸譲二を殺した日」


理央「そうです…先輩は覚えて居ないでしょうけど、私が初めて先輩に会った日…そして、ジョージの手から解放された日…です」

理央「こう言うと変に思われるかも知れませんけど…先輩は、私にとって白馬の王子様だったんですよ」

俺「白馬の王子様って…さすがにそんな柄じゃ無いだろ。第一、あれは偶然だったし…実感が無いからなぁ」


理央「でも、私にとってはそうだったんです。先輩は、悪い魔法使い達から私を助け出してくれた…誰よりも格好良い王子様です」

俺「いや………ハードル上がってるぞ!?」


理央「あと…研修期間が始まったばかりの頃。本来の能力を取り戻したせいで会話もままならなかった私を、助けてくれましたし」

俺「あれは…俺も同じような経験があったし、何ってーか、放っとけ無かったからで…」

理央「…判って居ます。そうやって照れ隠しする所も、好きですよ」


全てを悟ったように…いや、悟った上で向けられる、理央の笑顔。

俺は、不覚にもその笑顔に動揺させられる。

369: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/24(木) 09:57:58.38 ID:u9tLfj6Do
●秘めた思いを明かす部屋

理央「因みに…もうご存知とは思いますけど、改めて再会した時点でカレン先輩と先輩の偽りの関係には気付いていたんですが…」

俺「あぁ…そう言えばそう言ってたな」

理央「あの時点では、カレン先輩を押し退けてでも先輩を強奪する気満々でした」

俺「おま………」


理央「でも、その後…カレン先輩は……知らずにやった事とは言え、危ない目に遭ったのに…それを責めるどころか、私のために…」

理央「先輩だって…たった一枚の写真ために、生傷だらけになりながら奔走してくれて……」

俺「たった一枚はたった一枚でも……たった一枚しか無い写真だからな」


理央「あの時は……結構悩んだんですよ」

俺「………」


理央「本当にこのままカレン先輩と先輩の間に割って入っても良い物か…横恋慕なんて止めた方が良いんじゃないか…」

理央「でも、私の方が先に先輩の事を好きになったのに…私が居ない間に、二人の気持ちが近付いて居た事が悔しくて…でも、それでも」

理央「カレン先輩も凄く良い人で、傷付けたく無い…そんな事も考えて…悩んで…」


理央「でも…それでもこの気持ちを、胸の中だけに押し留めて置く事なんて出来ませんでした」


俺「で………その矢先に、空の登場…か」

理央「そうです」


理央「千載一遇の、またと無いチャンスだと思いました。後は、先輩もご存知の通り…」

俺「宣戦布告…空を呼び出してのあの騒動…か。そう言えば…あの時のツインテールって、今思えば…」

理央「はい…私なりの決意が、無意識の内に表に現れていたんだと思います。と言うか…私自身でも気付かなかった所に気付くとか、ずるいです」


俺「何だそれ、理不尽」

理央「でも…あの時は先輩が顔を近付けて来たせいで動揺してたのに、それに気付かなかったのは減点でした」

俺「と思ったら、更に理不尽な減点来た!?」


理央「冗談ですよ。私にとっては、いつも先輩は100点満点です」

はにかんで笑顔を向ける理央…その笑顔に動揺しながら、今度は俺が悟った。


  多分…理央の笑顔には勝てそうに無い

370: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/24(木) 10:05:14.20 ID:u9tLfj6Do
●葛藤と異変の部屋

理央「今…こうやって二人っきりで居る事。抜け駆けしてるみたいで、カレン先輩や空さんに申し訳無い気持ちもあります。でも…」

俺「…でも?」

理央「例え卑怯でも…ずるくても、先輩と一緒に居たい………出来るなら、先輩の恋人になりたいです」


理央は俺の手を握り、体温と脈動を伝えてくる。

そして俺の方も、理央の熱が伝染したかのように胸がドクドクと早鐘を打ち始める。


俺「いや…でも、俺………カレンとも、まだちゃんと話しもしてなくて…」

理央「判って居ます…ですから、今これから何があってもノーカウントです。私が勝手にするだけで、先輩がカレン先輩に負い目を感じる事はありません」


真っ赤になりながら俺に跨り、両掌を俺の掌に重ねて指を絡める理央

本気になれば逃げられるような体格差にも関わらず、俺の手は理央を振り払おうとさえしない。いや…出来ない。


理央「もし……せ、先輩が…嫌だったら…止めるなり逃げるなり…して下さい」

俺「いや…嫌な訳無いだろ。でも…」


理央「でも…じゃ、止められません」


理央の手から伝わって来る震え…

テレパシーが無くても、この行動を起こすために理央が勇気を振り絞っている事くらい判る。


理央の気持ちに応えるべきか…?


でも、それで良いのか?逆に、突き離すのが正解なのか?

幾ら考えても、堂々巡りになるだけで答えに辿り着けない。


少し…また少しずつ近付く理央の顔…

逃げる事も止める事も出来ないまま、俺の唇に理央の唇が…僅かに触れたその瞬間


ビ――――!! ビ――――!! ビ―――――!!


と、けたたましい警報音が鳴り響いた。

371: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/24(木) 10:18:02.47 ID:u9tLfj6Do

●部屋から出たら…

正直な所、心臓が止まるかと思った。


突然の警報により、否が応でも警戒態勢を取る事になる俺達。

左手は理央の手を握ったまま、状況を確認すべく廊下へと飛び出す。


マーク「おいおい、こりゃぁ一体何の騒ぎだ!?」

そして、廊下でマークとエリーと合流。向こうも事態を把握しては居ない様子。

とにかく情報が欲しい…そう考えた矢先、不意に周囲にノイズが響き渡り……船内放送が始まった


ジョージ「非常事態発生、非常事態発生。当船内に正体不明の侵入者の形跡あり。情報収集のため、可能な者は最上階のVIPフロアに集合せよ」


マーク「正体不明の侵入者…だぁ?」

俺「いや…今の指示、明らかにおかしいだろ。管制や駆動系の防衛をそっち除けで集合させるって事は…」

エリー「少なくとも…侵入者の正体に確信…そこまで行かなくても、心当たりはあるって事よねぇん」


意見を交わす…と言うよりは、満場一致である事を確認。

少々癪ではあるが、俺達はジョージの指示する通りに最上階へと向かう事になった…のだが…


俺「理央、大丈夫か?顔色が悪いぞ?」

顔面蒼白になり、立ち止まる理央。それに合わせて俺達も足を止め、理央の様子を伺い…


理央「何………これ……こんな物…今まで見た事―――」

理央が侵入者の存在を探知していた事を把握。と同時に、理央の様子から伺えるその存在の異常性に戦慄する。


そして………覚悟どころか、心の準備すらする暇も無い内に訪れる…突然の遭遇。


T字路の角から覗く………真っ黒な、煙のような霧のような物

そして、それを纏った…俺よりも一回りも二回りも大きな、巨大な身体の…犬のような形の………四つの目の化け物が現れた

372: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/25(金) 08:08:42.93 ID:aBaNR9ffo
●部屋の中より出ずるモノ

マーク「何だよ…あの見るからに化け物って感じのヤツは…」

エリー「化け物以外に表現する言葉が無いわよねぇん…と言うよりも、問題はあれの正体が一体何なのかだけどぉ…」

俺「超能力で形成されたまやかしか…それとも、ヴィクターの……」


と、言葉を紡ぎながら理央の様子を伺う俺

しかし理央は首を横に振るばかり。先の反応と同じく、未だその正体を掴めずに居るらしい。

正体不明の敵…少なくとも友好的な相手では無い以上、やるべき事は一つ。


先制攻撃


化け物が俺の射程範囲に入ってきた所で、その頭部にパトリオットをお見舞いする

………が、有効打にはならず。いや…それどころか、全くダメージを与えていないようにすら見える。


俺「嘘だろ………」


マーク「まぁ、パトリオットじゃぁあの変な質感とは相性が悪ぃのかも知れねぇなぁ。そんじゃ、次は俺が行かせて貰うぜ!」

俺からの攻撃が無駄に終わり、続いて名乗りを挙げるマーク。その周囲には、いつの間にか大量の硬貨が円を描きながら舞っている。

恐らく、空の能力と同系統の能力………そしてその予想に対する答えは、次の瞬間の攻撃によりもたらされた。


化け物に対して降り注ぐ大量の硬貨…恐らく一つ一つがマシンガンの弾丸相当の威力を持っているであろうそれが、化け物の巨躯に余す事無く突き刺さる

………にも関わらず、化け物は平然と歩みを進めて来る。

化け物の肉質に押し戻され、床に落ちる硬貨。俺達の全力攻撃ですら足止め程度にしかならず…絶望と言う名前の足音と共に迫り来る。


危機感に駆られ、俺達は後退して距離を稼ぐ…が、それもすぐ追い付かれて壁際へと追い詰められる。


絶体絶命………この化け物がどんな攻撃手段を持っているのかは判らないが、確実に仕留められてしまう状況と言う事だけは容易に理解できる。

そんな中…理央が俺の腕を掴み、身を預けて来て………


理央「先輩………余裕が無くて…動けないので、お願いします」

言い終えると共に、力無く倒れる理央。俺は慌てながらもその身体を抱き止める、と…ほぼ同時にそれは起こった。


化け物の側面に位置する部屋…その部屋のドアが内側から勢い良く蹴破られ、化け物を窓側へと吹き飛ばす。

そして…その奥。部屋の中から姿を現す、黒い影。

俺は、見覚えのあるその姿を目の当たりにして…そいつの名前を呟いた。


俺「……マリ…オ?」

373: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/25(金) 08:10:53.30 ID:aBaNR9ffo
●退室の時

理央「このまま…力づくで船の外に押し出します。先輩は壁を壊して…マークさんは、押し出した後、海に叩き落として下さい」

俺「え?何で理央が………いや、判った。オッサンも理央の手筈通りに頼む!」

マーク「何がどーなってんのか判らねぇが…今はそれっきゃ無ぇか!後でちゃぁんと説明して貰っかんな!?」


理央に指示された通り、まずは俺が船の壁を破壊……と言っても、化け物を放り出せる程の穴をすぐに空ける事は出来ない。

強固な断熱材を含めて何層にも重なった壁に、何度も何度もパトリオットを撃ち込み…何とかして拳大の穴を空け

その断面にパトリオットを撃ち込む事で、穴を拡げて行く。


そして…穴の大きさが化け物と同等になるとほぼ同時に、マリオが掴んでいた化け物を蹴り飛ばし…タックルによる追撃で押し出しにかかる。

が………化け物は壁と床、加えて天井に爪を立ててそれに耐える。それを見た俺は考える間も惜しむまま、反射的にパトリオットを放ち…


俺達の連携により、化け物は遂に船から弾き出される。


そして更に…マークが放った硬貨が、追い討ちとばかりに次々と降り注ぎ…

堪える足場すら持たない怪物は…………海の中へと墜ちて行った。


マーク「やった………のか?」

俺「いや…やれて無いフラグ立てんなよ…」

マーク「今のでトドメを刺せてるたぁ思え無ぇだろ、作戦成功かって意味だ。ってか、お嬢ちゃんは無事か?聞きてぇ事が山ほど出来たんだが…」


俺「怪我は負って無いみたいだが…気を失ってる。とりあえず、今の内に最上階のVIPフロアに移動しとかないか?」

マーク「チッ…しゃぁねぇか」


俺は理央を抱き上げ、マークとエリーはマリオを担ぎ……最上階へと続く階段を歩き出した。

374: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/25(金) 08:14:04.45 ID:aBaNR9ffo
○人形姫と操り人形

ヴィクター「この短期間でミューをここまで使いこなすとは…うん、実に素晴らしい。しかしこれは…燕尾服まで着せて、執事の真似事かい?」

理央「コンダクターとしてのリンクが成功した以上、彼は私の物…どう扱おうと私の勝手でしょう?」


ヴィクター「ん?んんん?もしかして……彼を人間として扱おうとしているのかい?」

理央「答える義務はありません。貴方にしても、彼の過去なんて興味の無い事でしょうしね」


ヴィクター「んー…重々承知しているとは思うんだけど…彼個人の人格や意思なんて物はもう存在していないんだよ?」

理央「それを奪った張本人のくせに…」

ヴィクター「おいおい、実験のために仕方無くやった事だよ?」


理央「それを楽しんで居なかったと断言出来ますか?」

ヴィクター「断言するのは…うん、難しいね」

理央「……………」


理央「それと…一つ訂正させて貰います」

ヴィクター「何かな?」

理央「彼はもう、ミューではありません。今の彼の名前は………マリオです」


ヴィクター「マリオ…か。君も中々皮肉が利いたネーミングセンスを持っているじゃないか」

理央「………………」

ヴィクター「そうかそうか、マリオか…それじゃぁ新しいミューを用意しないといけないね」


そう言い残し、ヴィクターは私の前から去って行った


ヴィクター「操り人形が、自分の操り人形に操り人形と名付けるとか…面白いよね本当」

375: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/25(金) 08:18:49.18 ID:aBaNR9ffo
●部屋の中での作戦会議

理央「………―――ッ!」

俺の腕の中で跳ね起きる理央。さすがに二度目は無く…俺は理央の頭をかわして、抱き直す

俺「大丈夫か?」


理央「先っぱ…い……私、どれくらい…」

俺「5分くらいかな。今丁度、集合した所だ」


最上階、VIPフロア…俺はそこに集まった面子を一望した後、理央の問いに答える。


ジョージ「まったく…無茶をしてくれるねぇ。ま、あの状況では他に選択肢が無かったから仕方ないけど…」

俺「見て来たように言ってくれるじゃ無いか……と言うか、一体何だったんだよあの化け物は!」

ジョージ「あの化け物に関する説明は追々するとして…まぁ、間接的に見はしたからね。こうやってマリオの記憶を読んで…」


部分的に装甲を外したマリオの手を持ち、その腕に触れながら解説するジョージ。

いや…解説するだけならばそれで良いんだが、その行動は俺の警戒心を一気に高めてしまった。


俺「お前は他人に触れんな!記憶を改竄するお前の能力…誰にも使わせ無ぇぞ!!」

声を張り上げ、俺はジョージに怒鳴り付ける…が、ジョージはそれを事も無げに笑い飛ばし、やれやれと首を横に振る。

ジョージ「心配には及ばないよ。彼にはそもそも、自我も人格も存在しないんだ。仮に記憶を書き換えたとしても、理央の操り人形に変わり無いさ」


俺「操り人形?…そうだ、マリオが理央の操り人形って、どういう事だ!?さっきも何で…」

ジョージ「その辺りは理央に聞いた方が良いんじゃないかなぁ…ねぇ?君も直接話しておいた方が良いと思うだろう?」

理央「………そう…ですね。貴方に言われて明かすのも癪ですが、いずれは話さなければいけない事ですから」


そう言って理央は俺の腕から降り…語り始めた


理央「マリオは…ヴィクターの作り出した人造人間…いえ、私と同じ被害者なんです」

376: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/25(金) 08:27:13.43 ID:aBaNR9ffo
●開かれる秘密の小部屋

理央「彼は、名前を持たない怪物と同様…複数の人間の身体やP器官を繋ぎ合わせて作られた存在で、当時の研究所ではミューと呼ばれていました」

マーク「繋ぎ合わせてって…胸糞悪くなる話だなぁおい…」

理央「私はそんな彼のコンダクター候補として、研究所に召喚されたのですが…そこで行われていたのは、起動実験の名目で行われる非人道的な行為でした」


エリー「ちょぉっと良いかしら、コンダクターってなぁに?」

理央「彼の超能力に適合する事の出来る者の名称です。そうですね…では、先に彼の超能力の説明をさせて貰いますね」

エリー「横槍入れたみたいで悪いけどぉ、お願いするわねぇん」


理央「彼の主な能力は、限定対象への広域テレパシー。適合に成功した相手…コンダクターに対してのみ、地球の裏側に居ても送受信する事が可能…」

理央「他にも、限定的なサイコキネシスによる筋力補助…自身を中心とした斥力式防壁も形成出来ます」

エリー「でもぉん…コンダクターなんて言う以上、役割はそれだけじゃ無さそうよねぇ」


理央「はい…外科的処置により、彼からは人格や意思…思想と言う類の物は取り除かれていて…その行動は適合者の意思を完全に反映………」

マーク「文字通り…コンダクターの操り人形って事か」

理央「…………その通りです」


エリー「って事はぁ…なぁにぃ?今まで私達がマリオだと思って接して居た相手は、実は貴女だった…って事ぉん?」

理央「…………はい」

マーク「んじゃぁ…喫茶店で偶然小僧達に遭遇したのも……」


理央「すみません…マリオで誘導しました」

マーク「あー…くそっ!やっぱりかよ!!」


俺「ん?でもちょっと待ってくれ。そもそも超能力って、P器官と人格の適合部分に応じた物が使えるようになるんだよな?」

マーク「何を今更言ってんだ。んな物は初歩の初歩……ん?いや、そうだよな…」

俺「マリオには人格が無いんだろ?それなのに、超能力が使えないどころか複数使えるってのはどう言う事だ?」


理央「その辺りは…確信を持って答える事は出来ませんが、恐らく…何も無いと言う事が、全てを許容しているのでは無いかと思います」

エリー「あるいは、何も無いのでは無く…空っぽの器がそこに在る。そうなると…超能力の基本も、逆に考えないといけなくなりそうねぇん」

377: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/25(金) 08:37:17.06 ID:aBaNR9ffo
●壊れた玩具の部屋

エリー「ところで…さっきは遮っちゃったんだけどぉん、非人道的な行為って具体的にはどんなのだったのかしら?」

理央「私達…コンダクター候補の少女達は、適正を確認するため段階的に適性検査…起動実験を行わされました」

理央「初は彼に話しかけたり、触れたりと言った簡単な物…次に、直接テレパシーを送り込んでの反応検査………そして」


理央「危機的状況下における、潜在能力の強制覚醒。それにより能力が拡張された状態での適正確認」


エリー「危機的状況下…ねぇん。ごめんなさい、その辺りの詳細を聞いても良いかしら?」

理央「…はい」


理央「まず私達には番号が割り振られ…その順番に従い、一人ずつ…とある部屋に入れられました」

俺「その部屋ってのは………まさか…」

理央「そう………名前を持たない怪物の居る部屋です」


理央「怪物は体中の拘束具や鎖により動きを制限されていました…が、それは所詮脱走を防ぐためだけの物。室内での行動を制限するには至りませんでした」

理央「結果は…火を見るよりも明らか。ある者は身体の一部を切り刻まれ、ある者は  れ、ある者はその命を奪われ…」


理央「私は…適正があったらしく、辛うじてマリオの起動に成功。その能力を以って名前を持たない怪物を退け、一命を取り止める事が出来ました」

理央「……私は幸運な方でした。私以外に生き残る事が出来た少女達も居ましたが、彼女達は適正が見られなかったため、次の実験に連れ出されて…」


理央「知っている限りでも…薬物投与。外的刺激による覚醒の促進。脳に電極を挿し込んでの、神経への強制介入」

理央「更に…それでも適正皆無と判断された者は………」

エリー「その先は…聞くのも憚られるような内容…って事になりそうねぇん。それで、そこから今に至るまでの貴女の経緯はぁん?」


理央「彼…マリオとの実験と経過観察の日々の中。突如、名前を持たない怪物が暴走。研究員を皆殺しにして、施設その物を破壊」

理央「私はその騒動に乗じて研究所から逃走。その際に、機密データを持ち出し…当時、兄と思い込まされて居たジョージの元へと逃げ込みました」

理央「ジョージは、私の受けた待遇に対して上層部に異議を申し立て…その合間に、怪物の遺体を発見したという話も聞いたのですが…」


俺「どっちも嘘だった…か」


理央「後は、極めて淡々とした展開です。私はマリオの名義と姿でキングダムに参加…マリオと自分を使い分けて任務を遂行する日々でした」

理央「ですが…ある任務の最中。ジョージの死をきっかけに、私は本当の自分を取り戻し…復讐のため、組織に転身」

理央「幸いな事に、当時私の存在を知っていたのは死去したジョージだけ。マリオはキングダムに所属したまま、スパイとして活動していたのですが」


ジョージ「実は泳がされていただけ…生きていたヴィクターと怪物に対する、餌に使われていた…って訳だ」

俺「お前は黙ってろ!!」


ジョージ「冷たいなぁ…まぁ良いか。それで…彼、マリオの説明は全部かい?」

理央「はい…私からの説明は終わりました。次の話に進んで下さい」


ジョージ「ふぅん…まぁ良いか。じゃ、リクエストに応えて、今度は僕から話をさせて貰おう。君達がさっき撃退した、DCDCに関する事だ」

379: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/29(火) 07:13:26.33 ID:/JSUq7tdo
●黒き獣を語る部屋

DCDC………俺はその言葉を、ごく最近聞いた気がする。


そうだ………


俺「DCDCって…確か、黄色先輩が相手してる筈のヤツだろ?何でこんな所に居るんだよ」

ジョージ「その筈…だったんだけどねぇ。ヴィクターに出し抜かれたみたいで、船内に一体潜んで居たらしい」


俺「潜んで…居た?……この船全域は理央の知覚範囲内だろ。あんな異質な存在が潜んでいて気付かない筈が…」

ジョージ「事が起こるまでは休眠状態だったんだろうね。逆に外部から侵入してきた形跡も無かっただろう?」

俺「そう言えば、窓じゃなくて中央の通路の方から現れたよな………いや、そもそもDCDCって一体何なんだ?」


ジョージ「僕等が知る限りの科学や超能力とは全く異なる、未知の技術で作られた生物兵器。正直、僕も知っている事は余り多くは無いんだ」

マーク「んじゃ、その判ってる範囲の事を全部吐いて貰おうじゃ無ぇか」


マークが促し、ジョージが更に言葉を連ねる

ジョージ「まず…さっきも言った通り、休眠状態の奴等は超能力でも知覚不能。戦って判ったと思うけど、物理攻撃は殆ど効果無し」

ジョージ「周囲に存在する生命に対して、無差別に襲い係り…防御手段を持たない物は、触れただけでも瘴気に侵食されてしまう」


俺「…他には?」


ジョージ「特例を除き、奴等を滅する手段は無し」

俺「特例…黄色先輩の事か。で、その他には?」

ジョージ「それだけだよ?あぁ、そうそう…もう一つあったか。君達が撃退したあのDCDC……現在進行形でこの船に迫って来てるよ」

俺「……………は?」


エリー「やっぱりねぇん…事が終わってるなら、わざわざ説明する必要は無いとは思ってたんだけどぉ………どうするのかしらぁ、策はあるの?」

ジョージ「その点はぬかり無いよ。ほら、君達が乗ってきたヘリは覚えているだろう?あれが他にも二機…合計三機あるんだけど…」

俺「ちょっと待て………まさか」


ジョージ「丁度、船員の中にもヘリの運転が出来る人達が居る。航行速度から考えて…上手く引き離せば、目的地に到着するま追い付かれずに済む筈さ」


俺「ふっ……ざけてんじゃ…無ぇぞ!!!!」

380: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/29(火) 07:18:09.08 ID:/JSUq7tdo
●生贄を乗せた空飛ぶ部屋

俺「それはつまり、ヘリのパイロットを囮にするって事じゃ無ぇかよ!」


ジョージ「ふざけてなんか居ないさ、僕は至って大真面目だよ。じゃぁ逆に聞くけど、他に良い案があるのかな?」


ジョージの言葉に反論する事が出来ず、口を噤むしか無い俺達。

しかし、そんな静寂すら長くは続かず…新たな激動が襲い来る。


ジョージ「おっと…長話をし過ぎてしまったみたいだね。招かざる客のお帰りのようだ」

ジョージが船尾側の窓に目を向け…それを追い掛けて視線を向ける俺達。

闇夜に浮かぶ雲………その中に見える、黒い点。


目視出来る範囲ではその姿形を捉える事は出来ないが…それが何を意味しているか…何者なのかはすぐに理解出来た。


ジョージ「腹案は………無さそうだね。それじゃ仕方が無い、作戦決行だ」


ジョージの合図により、甲板に備えられたヘリポートから飛び立つ三機のヘリ

ある者は窓越しにその姿を見送り、ある者は顔を伏せて目を逸らす。


俺「武器は………何か、武器は無いのかよ。こんだけの船なんだ、ミサイルか何か…」

ジョージ「また無茶を…この船は戦艦じゃなくて客船なんだよ?銃火器にしたって、君達の能力よりも威力が低い物…あれに効果が見込めない物ばかりさ」


ジョージ「と言うかさ…この船の船員は皆、キングダムのメンバーだよ?敵である組織の君達が気を病む事は無いだろう?」

俺「そうじゃない……理屈じゃ無いんだよ…」

ジョージ「今更だねぇ…今までキングダムのメンバーを何人もその手にかけて来たって言うのに」


返す言葉も無く…沈黙を以って意を返す事しか出来ない。

今まで考えようともしなかった事…犠牲の上に何かを成り立たせる事…仕組みその物に対する疑念が俺の中で渦を巻く

そんな最中……………


三つ……船尾の方向から響き渡る、小さな爆発音を耳にした

381: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/29(火) 07:23:11.41 ID:/JSUq7tdo
●壊れた部屋が遺したモノ

爆発音が意味する物…そんな物は考えるまでも無い。

やりきれない思いが俺を押し潰しかけた時………違和感、いや…違和感を飛び越して疑問が生まれた。


爆発音が三つ……続いた?


ヘリが飛び立ったのは何のためだ?

DCDCを俺達から引き離すため、囮になるための筈。


ならば、相応の間隔……少なくとも一度にやられてしまわない距離を取って居た筈…でなければ複数で囮になった意味が無い。

にも関わらず、こんなにも早く…しかも連続して迎撃された?

更に、爆発音?爆発したって事は、燃料タンクに至る程の攻撃を受けたと言う事。


つまり………


俺「おい、どう言う事だ!?何が起きた!?」

嫌な予感…嫌な可能性ばかりが脳裏を過ぎる。

そして……皮肉かつご丁寧に、目の前の光景がその可能性の証明を行ってくれた。


ジョージ「彼等は無駄死にか………さすがにあの作戦の失敗は堪えるなぁ」


帰還する筈のヘリを失ったヘリポートに、降り立つ黒い影…

巨大な犬の体に蝙蝠のような翼を生やし………ヘリを撃ち落したと思われる、何百メートルにも及ぶであろう尻尾を宙でしならせる…


化け物…DCDCの姿がそこにあった。


マーク「………おいおい、冗談だろ。ただ追い付いて来るだけじゃなく、所々パワーアップしてんじゃねぇか」

エリー「ねぇジョージぃ…こんな事態に陥った時の対策は無いのかしらぁん?」

ジョージ「あるけど…余りお勧めできないよ?」


マーク「遠慮知らずの手前ぇらしく無ぇなぁ。言って見ろよ」


ジョージ「至って単純な戦法なんだけど………まず撃退するだろう?」

マーク「簡単に言ってくれやがるなぁ。んで…その後は?」

ジョージ「次に…また追い付かれたら、また撃退……」


マーク「………それをいつまで続けりゃぁ良い?」

ジョージ「DCDCが諦めるまで………ちなみに、目的地に到着するまでに諦めて貰えなければヴィクターとの挟み撃ち確定だね」


マーク「最悪の作戦だなぁおい。んでも…そんな作戦でもやらなけりゃぁいけねぇってのが、もっと最悪だ」

382: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/29(火) 07:33:34.68 ID:/JSUq7tdo
●諍いは部屋の外

エリー「ちょぉっとぉ!全然歯が立たないじゃないのぉ!!」

アサルトライフルを手にしたエリーが、嘆きに近い叫びを上げる。


マーク「無駄口叩いて無ぇで、とくかく撃て!撃って撃って撃ちまくれ!!」

事態は最悪…いや、最悪と言う言葉さえ生温い程の絶望的状況。


対峙しているのが、先の戦闘の時と同じ状態のDCDCであったとしても…苦戦は必至

にも関わらず…今こうして俺達の目の前に居るDCDCは、更にそこから強化された規格外のモノ。

勝算なんて言葉を浮かべるだけでも虚しくなってくる。


マーク「くそっ…!何なんだよこの尻尾はよぉ!!俺のジャックポットでも間に合わねぇ!」

俺「もっと弾幕を…油断してたらヘリみたいに微塵切りにされるぞ!」

枝分かれして襲い来る尻尾を前に、マークの硬貨操作…ジャックポットと、俺のパトリオットを合わせても手数が足りず…防戦一方。


マリオも攻撃に回る余裕など無く、少しでも前に出ればその隙に尻尾の餌食になる事が目に見えている。

戦闘型能力を持たないエリーやジョージさえも、銃を片手にサポートに回るが…それでも焼け石に水。


マーク「なぁ…こいつ、今度はどうやって撃退すんだ?あの羽根と尻尾じゃぁ、落としてもすぐ戻って来ちまうだろ」

マークの言う通り、今のこの状態のDCDCを撃退する事は至難の業…いや、撃退どころか今この瞬間を耐えきる事さえ危うい。


それにもし…例え今を耐えても、次…その次…耐えられなくなった所でやられるのは確実

生き延びるためには、殺られる前に殺るしか無いが…当然ながら、そんな手段は無い。


追い詰められる俺達……


エリーやジョージの銃弾は勿論の事、マークの硬貨も無尽蔵では無い。

硬貨を失ったマークは、弾丸や薬莢…果てには瓦礫まで持ち出して防御に回すが、不慣れなためか操作がおぼつかない。

マリオに至っては…いくら斥力式防壁を持って居ても、肉弾戦を行っている以上確実にダメージが蓄積する。と言うか現に動きが鈍っている。


俺にしても…消耗品も肉体を使っていないとは言え、集中力を持続させるにも限度があり…

戦闘が長引くに連れて、パトリオットの制度は落ち…今では、尾撃を弾き返すどころか逸らすだけでも精一杯と言う有様。


勝ち目の無い戦い…無駄な足掻き………絶望…そんな言葉が次々に脳裏を過ぎる。

諦めれば楽になる…犬に負けて負け犬になるなんて冗談はお呼びじゃ無いが、そうなってしまえば…何もかも捨ててしまえる。


そんな弱気が俺の中で膨張を始めた時………俺は気付いた。

383: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/29(火) 07:42:38.39 ID:/JSUq7tdo
●開かれる禁断の箱

俺「…おい、ジョージ!」

ジョージ「何だい?」

マズルフラッシュと発砲音…そしてDCDCの尻尾をパトリオットで弾く際の空気の破裂音が響く中、ジョージは俺の声に応える。


俺「―――――――――――って事…出来るか?」

ジョージ「出来なくは無いけど、本当に良いのかい?」

多分、今打つ事が出来る唯一の手段。それをジョージに確認した後、俺はパトリオットを止めて理央に視線を向ける。


俺「………俺、優柔不断だから、誰が一番好きかとか答えが出せないんだと思う」

理央「……え?」

マリオを操作しながらも、回避行動を取って尻尾を避ける理央


俺「でもな…これだけは言えるんだ」

マーク「何無駄口叩いてやがる!そんな暇ぁ無ぇぞ!!」

一歩も動く事が出来ず、瓦礫と薬莢の竜巻をひたすらDCDC尻尾にぶつけるマーク


俺「俺はカレンが好きだ…」

エリー「あらぁん…お姫様が居ない所でまさかの告白ぅ?」

尻尾を避けながらカートリッジを交換…どこに隠し持って居たのか、手榴弾の安全ピンを抜いて投げ付けるエリー


俺「でも………優劣なんて付けられない程、理央の事も好きだ!!」

理央「先輩…何で…今……そんな事を……っ」


俺「だから…」


上手く行っても、俺自身どうなるか判らない………

もしかしたら不発に終わるかも知れない………

それでも………やらなければ後悔する…いや、後悔する事すら出来なくなる。


俺「ジョージ………やれ!!!」


掛け声を合図に、俺の手を握るジョージ。

やるべき事は打ち合わせてある。

欠片ほども信用出来ない相手だが、例え砂粒であっても信用しなければこの状況を打破する事なんて出来ない。


ジョージが手を離し、俺は目の前の敵に向けて駆け出す

腹の底から声を張り上げて……叫ぶ



   俺「リア充………………爆散しろ!!!」



385: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/30(水) 00:42:29.79 ID:/wixNK/Ro
○閉ざされた部屋の中で狂う何か

………俺は誰だ?

『お前は誰でも無い。虚像だ』


俺は何だ?

『お前は何者でも無い。虚構だ』


俺は何を持っている?

『お前は何も持って居ない。虚無だ』


俺には何が出来る?

『お前は何も出来ない。無力だ』


俺はどこに居る?

『お前はここに居る。だがそれ以外のどこにも居ない』


そうか………俺は存在以外、何も持って居ないのか。


目の前のあれは何だ?


『DCデッドコピー…現時点でのお前の敵だ』

敵か…そうだな、確かにそんな感じの見た目してるよな。


俺より強そうだし、俺より格好良いし、俺より賢そうだし、俺より頼りにされそうだし、俺より必要とされてそうだし

俺より性格良いだろうし、俺より世渡り上手だろうし、俺より人気あるだろうし、俺よりモテそうだし!!!


こう言うの…何て言うんだっけ?いや、俺の方じゃ無くて、DCナントカ…アイツの方…

あぁ、そうだ…


リア充だ…


羨ましいな…妬ましいな…憎らしいな…腹立たしいな…

リア充なんか爆発すればいい。いや、するべきだ。しなけりゃおかしい。いや…爆発なんかじゃ足りない。

もっと花火みたいにド派手に…欠片も残らず、跡形も無くなるくらいに……


そうだ…高らかに叫ぼう


俺「リア充………………爆散しろ!!!」

386: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/30(水) 00:45:27.04 ID:/wixNK/Ro
●目覚めた部屋は何処かがおかしくて

俺「――――ッッッッ!!!!??」

―――頭の中を駆け巡る頭痛が痛い

世界がグルグルグルグル回ッテ、気持ちワルくなって、ハラワタガ鼻から飛び出ス


「せ…ぱい………先輩っ!!」

首筋が痛くナル声が妬ましく響いて回って転ゲて一回転スル

妬ましい、羨ましい…この声の主はきっと美形だ。確認シてみよう、どうすれば良い?そうだ、目をあけよう


理央「先輩!しっかりして下さい!」

あぁ…この美声はやっぱり美形だ。髪も目も肌も綺麗で……俺なんかよりも、ずっと異性から好かれてるに間違い無い。妬ましい。

リア充だ…リア充は敵…リア充は…リア……リア……リ…リ……?


俺「あ……れ?………理……央…?」

理央「何で……何であんな無茶をしたんですか!!」

俺「何でって、あぁでもしないと………ッ…あ…れ?俺…どうやって…あれから…どうなったんだ?DCDCは!?」


理央「先輩が…先輩が倒したんですよ…」

エリー「それも…リア充爆散の能力でねぇ……」

俺「俺が…リア充爆散…で?いや…そうだ……ジョージに記憶を改竄させて…」


マーク「DCDCの野郎を爆散…おまけに、俺等に瘴気がかからねぇように。体当たりで吹っ飛ばして…」

俺「そうか…俺、瘴気にやられて…そのせいで…」

理央「そのせいだけじゃありません!あんな無茶な記憶改竄…!一歩間違えたら、戻って来れなかったんですよ!?」


理央の声が頭の奥まで響いてくる。けれど…多分それは頭痛だけが原因では無いのだろう。


俺「悪い…控えるようにする」

理央「控えるじゃありません!もう二度としないで下さい!それ以前に、先輩はもう同じような事なんて出来ないんですからっ!」

理央「それに…どれだけ…どれだけ心配したと思ってるんですか!先輩が…先輩まで居なくなってしまったら…私…っ!!」


理央の瞳からボロボロと零れる涙…その涙が、俺の頬に落ちる。

そこで初めて…俺は罪悪感と言う物を思い出した。

387: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/30(水) 00:51:14.56 ID:/wixNK/Ro

●制約の部屋

俺「悪い…理央。もう二度とやらない。それと…心配かけて悪かった」

理央の頭を抱き寄せ、そのまま抱き締める。

罪滅ぼし…と言う訳では無い。そうしたいと感じて、感情のままに体が動いた。


俺「それで…もう出来ないってのは、どう言う意味だ?」

理央「それは………」


ジョージ「最初に言っておくけど、僕のせいじゃ無いよ?」

呼んでも居ないのに現れる…ジョージ

ジョージ「君の希望通り…能力が使用可能な範囲内で記憶を改竄して…更に、元の記憶に改竄し直す。僕は全て完璧にこなしたからね」


俺「だったら、言い訳だけしてないで説明しろよ」

ジョージ「仕方が無いなぁ…まぁ、簡潔に説明すると………君のP器官が壊死してしまってる。それが原因だね」

俺「俺のP器官が…壊死…?」


ジョージ「無茶な運用で負荷がかかり過ぎたのか、はたまたDCDCの瘴気の影響か…全体では無いけれど、大半が壊死しているみたいだよ」

俺「んでも…壊死してる部分がリア充爆散で使ってる部分かどうかってのは…」

理央「それは…私が確認しました。壊死部分から外れているどころか…壊死の中心がそこです」


俺「んじゃぁ…パトリオットの方は?いや、こっちは使ってみれば判るか」

俺は自問自答し、天井付近の何も無い空間に対してパトリオットを放つ

俺「――――ッ!?」

と…同時に、脳の奥から全体へと電撃のように走り抜ける痛み。


理央「駄目です!パトリオットの部分も壊死しかかっているんですから!」

俺「成る程…使えない訳じゃぁ無いけど、連射は出来ない。使えても頭痛が走るって訳か」

理央「使わないで下さい…壊死が広がるどころか、先輩の命に関わるかも知れないんですから…」


俺「………そうだな…悪い。さっき約束したばっかりだってのに、またやっちまいそうになってた」

理央「判って貰えれば…それで良いんです」


……とは言った物の、この二つの能力が使えないと言うのはかなりの痛手

今の俺は…実質上お荷物でしか無い。


目的地に辿り着くまでに、解決しなければいけない課題が出来てしまったようだ


いつの間にか夕暮れになっている空を、窓越しに見上げ…俺はそんな事を考えた

388: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/30(水) 00:59:04.78 ID:/wixNK/Ro
●動かす部屋で思ふ事

出航から5日目…


目的地…北極の施設へと向かう旅路の途中…窓の外にはちらほらと氷塊が見え始めて来る。

DCDCの襲来以降、特にこれと言った問題も起こる事無く…順調と言って良い経過。


そんな折…進行状況の確認がてらに訪れた操縦室で、ジョージに出くわす。


俺「ずっと気になってたんだが…こんだけ時間がかかるんだったら、多少待ってでも空路で来た方が良かったんじゃないのか?」

俺「そうすれば、DCDCに襲われる事も無かっただろうし。先回りする事も出来たって思うんだが?」


ジョージ「まぁ、当然の疑問だね。でも…目的値には滑走路もヘリポートも無いからそれは無理」

俺「だからって…海路で直行しなくたって、途中まで空路で移動してそこから海路に切り替えれば良かったんじゃ無いのか?」


ジョージ「……………」

俺「………何だよ」


ジョージ「いや、ちゃんとその辺りを考える事も出来るんだなぁ…って」

俺「……………喧嘩売ってんのか?蹴るぞ?」


ジョージ「冗談だよ。でも、残念ながらそれは無理。航空手段が無いし、民間の飛行機を使ったとしても、そこからの船が無い」

俺「意外だな…キングダムって、どこにでも潜んでていつでも行動に移れる…そんなイメージがあるんだがなぁ」

ジョージ「いや…準備期間があればまだしも、いきなり船を用意するなんて人数が沢山居ても無理だからね?」


俺「民間の船を買うなり借りるなり出来ないのかよ」

ジョージ「北極に行けるだけの装備が整っていて、キングダムの極秘施設まで乗って行けて、おまけに施設のドックの規格に収まる船を?」

俺「…………」

悔しい事だが、俺はジョージの言葉に納得してしまう。


ジョージ「まぁ…君は目的地に着くまでの心配よりも、着いてからの心配をした方が良いんじゃないかな?」

俺「どう言う意味だよ」

ジョージ「しらばっくれたって意味無いって。わざわざ指摘されなくたって、君が一番判ってる筈だろう?」


俺「………」

大きすぎる心当たりがあるため、反論できず…俺は口篭るしか無かった。

389: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/30(水) 01:03:38.54 ID:/wixNK/Ro
●部屋の中に詰め込んで

瘴気によるダメージは残っているが、行動を阻害する程深刻な物では無し


そう…むしろ問題は超能力の方


俺はあの一件以来、マトモに超能力を使えない状態に陥っており…このままでは戦力にはなれない。

一応の武装として幾つかの銃火器を借り受けているが、もし戦闘になった場合はこれがどこまで通用するのか怪しい所

戦闘を行う事無く事態を収拾する事が出来ればそれが一番なんだが………どこまで期待できるのかも判らない。


俺「なぁ………俺達の目的…名前を持たない怪物の件なんだが…」

ジョージ何かな?


俺「北極にある何か…それに馴染むまでには日数がかかる…上手く行けばそれまでに到着する…って言ってたよな?戦闘にならずに済む可能性はあるのか?」

ジョージ「そうだね…ヴィクターが施設に到着してすぐに施術するのを前提とした場合、僕達の到着は定着前の無防備な状態の可能性が高い」

俺「その状態での奇襲に成功すれば、戦闘にすらならず、一方的に制圧出来る…って事だよな」


ジョージ「逆に…僕達に備えて施術を後回し、待ち伏せをしている可能性もあるけど………その可能性は低いだろうね」

俺「どうしてそう断言出来る?」

ジョージ「DCDCさ。ヴィクターからしても、僕達がDCDCを倒す事が出来たのは計算外の筈だよ」


ジョージ「定着完了までの時間稼ぎには充分…上手く行けば船ごと撃沈して脅威を排除…そう考えていると見て間違い無いと思う」

俺「………だと…良いんだがな」


楽観視は出来ない状況…

戦闘が起こるか起こらないか…今考えた所で仕方の無い事なのは判っているが、やはりそれを考えずには居られない。


だがまぁ…結局の所、俺がやるべき事は決まっている。


戦闘を行わなければいけない場面に備え、一つでも多くの付け焼刃を焼き付けておく事…

残りの時間で、どんな付け焼刃をどれだけ用意できるか考える事…それだけだった。

390: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/30(水) 01:30:28.81 ID:/wixNK/Ro
●やがて部屋は辿り着く

出航から7日目……


俺達は、遂に目的地へと辿り着いた。


傍目にはそれと判らないよう、氷山でカモフラージュされた研究施設。

船は入り組んだ氷塊の隙間を縫って進み、外からは見えない位置に備えられた港湾ドックに停船する。


防寒具を着込んで船を降り…ジョージが先頭に立って、ゲートに暗証番号を入力。

程なくして、重厚な駆動音と共に扉が開き…そこから先に待ち受けていたのは第二の門

第一の門を全員が通過した所で、ジョージが今度はカードキーを取り出し…門に供え付けられたスキャナーにそれを通す。


まず先に第一の門が閉じ、続くように開く第二の門が開門。再び全員が通過した所で、第二の門は閉ざされ…


ジョージ「防寒具はここまでで大丈夫。さぁ、行こうか」

と…ジョージが、施設内への先導を始める。


施設内の廊下を歩く俺達……

廊下の側面に面した部屋は、理央の広域リーディングで内部を確認するため…ゆっくりと素通りするだけで事足りる。

理央から何の警告も無いのは、便りが無いのは良い便り……と言った所な訳だが


時折聞こえる機械音以外は、物音一つ無し。不気味なまでの静寂が施設内を支配している事に、俺は違和感を覚えずには居られない。


俺「なぁ…随分広い施設みたいだが、誰も居ないのか?」

沈黙に耐え切れなくなり、ジョージに対して質問する。勿論ヴィクター達の事も含んで居るが、本当に聞きたい所はもう片方…

ジョージ「研究員も施設管理要員も居る筈なんだけどねぇ…抵抗して片付けられちゃったんじゃないかな」


皆殺しにされている可能性…懸念していた内容を、ジョージは濁す事無く言って除けた。


俺「にしては…抵抗の跡も血痕も、死体の一つも無いよな」

ジョージの予想に反抗すべく、子供じみた反論を投げ付ける俺

だが…ジョージの返答が来る前に………いや、備えるかのように…理央が俺の袖を摘んで来る。


ジョージ「抵抗の跡が無いのは気になるけど…血痕はスプリンクラーで流されて排水溝の先なんじゃないかなぁ?」

そう言ってジョージが指差したのは、大きめのスプリンクラーと目の細かい排水溝。

俺「スプリンクラーって普通、火事が起きた時に起動する物だろ?火事の跡なんかどこにも…」

と言いかけた所で、その意味に気付く。


エリー「最初から、火事以外で使うのが前提。ガスとか菌とかもあるんでしょうけど、壁の材質を見る限り・・・血を洗い流すのが前提みたいねぇん」

理央「……………」

理央の沈黙は、恐らく肯定の意。


その事について、これ以上の詮索をする者は居なかった。

392: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/30(水) 22:55:26.36 ID:/wixNK/Ro
●静寂の中に並ぶ部屋

俺「ところで理央…今の所どうだ?何か確認出来ないか?」

理央「知覚可能な範囲では…まだこれと言った物は何も」

申し訳無さそうに呟き、首を横に振る理央。


交わす言葉を失い、再び訪れる沈黙。そんな中……今まで一本道だった通路がT字路になって別れ、皆が立ち止まる。


ジョージ「それじゃ…ここから先は一旦二手に別れて、手分けして探そうか」

マーク「一旦…か。ちゃんと合流出来るんだろうなぁ?」

ジョージ「目の前の壁…と言うか柱を囲む形で通路が作られているだけだからね。反対側で合流出来る筈さ」


俺「だからって、わざわざ分散して探す必要も無いだろ?もし別々に居る所を襲われたらどうするんだ?」

エリー「なぁんか…裏がありそうよねぇ」

ジョージ「やれやれ…どうして皆こんなに疑い深いんだろうねぇ。まぁ裏があるのは本当なんだけどね」


俺「あるのかよ!」


ジョージ「右側の通路…丁度半ば辺りの部屋には、理央に見せたく無い物がある…残ってる可能性があるんだよ」

俺「………それを口にしてる時点で、見せてるも同然じゃねぇかよ!いや…そもそも理央もその辺りは読んでる筈か?」

ジョージ「事前に知るのと実際に見るのとでは大違いだからねぇ……ま、万が一に備えてさ」


俺「にしたって、合流時に理央が俺達の記憶を読んだら…」

ジョージ「いや、間接的に見られる分には大丈夫だと思うよ」

マーク「そう言う物なのか?」

ジョージ「僕達の記憶限界が丁度良いフィルターになるだろうしね。後は念のため、意図的にリーディングから外せば問題無いんじゃないかい?」


俺「じゃぁ話を戻すが、別々の所をヴィクター達に襲われたらどうする?」

歩き出そうとするジョージの腕を掴み、確認のため詰問する。

ジョージ「理央に関しては、複合リーディングの広域知覚…おまけにマリオと言う護衛が居る以上、余程の事が無い限り心配は無い筈だろう」


俺「お前の方のグループが襲われた場合は?」

ジョージ「頑張って合流地点まで逃げて、合流して戦うしか無い」

ジョージ「まぁ…理央の方が先に探索を終えるだろうから、実際はもう少し先の地点で合流出来るだろうけどね」


嘘を吐いている様子は無し……

と言うかそれ以前に、襲撃という事態さえ俺の杞憂に過ぎないかも知れない。


結局…反論の言葉を失った俺達は、二手に分かれ

理央にはエリーが付き添って、左側。ジョージには俺とマークが監視として付き、右側。それぞれの通路に進む事になった。

393: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/30(水) 23:09:14.70 ID:/wixNK/Ro
●禁断の部屋

そうして辿り着いた部屋…………


この部屋をどう表現すれば良いだろう………

悪趣味…狂気…異常…どんな言葉を用いても、一言で言い現す事は出来そうに無い。


ただ、ありのままの光景を言葉にすると………


水槽に入った…氷漬けの脳が壁一面を覆い尽くしていた

いや、厳密には違う。脳だけでは無く…

赤黒い宝石のような球体…その球体に灰色の肉片のような物がこびり付いた物が試験管に入り、ケージの中に保管されている。


しかも…それをよく見ると、一つ一つにネームプレートが貼られていて…


俺「ジェリー・サイオン…エスケーパー。トム・イカルガツ…ハンティング。レナード・ホプキンス…トリックポックス」

俺「ダニエル・ウェーバー…イリュージョン。クロウ・レベッカ…アムネジアフィールド。リー・ユーチェン………」


中には、ネームプレートだけが残され、持ち出された形跡がある物が幾つか。


俺「何だ………これ…まさか…………」


ジョージ「そう…そのまさか。超能力者の脳とPSI器官、P器官と呼ばれる物さ。それと如意宝珠、D器官は……不味いな、持ち出されているようだ」

その正体を耳にして、胃の奥底から吐き気が込み上げる…が、辛うじて堪え…再びケージの中を再び覗き込む。

俺「あぁ…くそっ!………これは…多分…いや、絶対理央に見せられねぇ………!!」


そして…目に焼きついて離れない それ を再び見て、言葉を吐き出す。


ジョージ「その通り。これだけの量のP器官が持つ情報を視るのは、いくら理央でも精神に支障を来たしかねない」

予想通りと言えば予想通りだが…ジョージからは、俺の考えは正反対の理由が返って来た。


俺「そっちじゃ無ぇ………この、ネームプレートだけ残った所…理央の…………」

ジョージ「あぁ…確かに、よく気付いたね。うん…情緒面でのマイナス要因になるだろうから、なるべく隠しておこう」

マーク「おいおい、お前等だけで納得してんじゃ無ぇよ。一体どう言う…」


マークは俺達に会話について来れず、その意図を探るべくケージを覗き込む。そして………そこで理解する。


マーク「…………おい、もしかしてコイツは、あのお嬢ちゃんの………」

マークが言い終えるより先に頷き、俺はその言葉を遮る。

俺自身…確信を持って居た訳では無いが、憶測とジョージの反応だけでも懸念するには充分過ぎる。


湧き上がってくる、怒りと憎しみ…そして悲しみ。


気が付くと俺は…銃を構えて居た

394: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/30(水) 23:24:17.50 ID:/wixNK/Ro
●崩壊の部屋

マーク「………なぁ…止めなくても良いのか?あれもキングダムの財産じゃぁ無ぇのか?」

引き金を引く度…水槽が一つ割れて、中身が弾け飛ぶ。

ジョージ「元々、事が終わったら施設諸共廃棄する予定だった物だからねぇ…下手に止めて機嫌を損ねるよりは良いんじゃないかい?」


吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする


ドラマ…アニメ…漫画…フィクションの世界ではたまに目にする光景ではあるが、実際に見てみるとその衝撃に耐えられそうに無い。

こんな物は、生への冒涜であり死への冒涜だ

こんな事をするヤツは頭がいかれている。こんな事をするヤツを生かしておいてはいけない。


キングダムは危険だ…危険なヤツ等の巣窟だ。

そうだ…今は利害関係の一致で同行しているが、元々コイツは許せない存在…生かしておけない存在じゃないか

コイツ等は…こんな事を出来るコイツ等は人間なのか?人間じゃ無いなら処分してしまっても良いだろう?


全ての水槽を破壊し終えた俺は、ジョージに向き直って銃口を向ける。


マーク「おい、小僧!そこまでだ!!」


マークの声により我に返る俺。

銃を握った手から力が抜け、乾いた音と共に銃が床に落ちる。


マーク「コイツを殺してぇって気持ちは痛い程判るが、今はまだ我慢しとけ」

ジョージ「あれあれ?何か僕、酷い事言われてない?」

俺「あぁ…そうだな、ちょっと頭に血が昇ってた。悪いんだが………ちょっと一人にしてくれないか?」


俺は気持ちを落ち着かせるべく、小さく深い息をして…

落ちた銃を拾い上げ、ホルスターに戻しながらマークに返答。


同じキングダム所属でありながらも、マークのような裏の無いタイプも居る事を思い出す。


マーク「それは良いんだが…大丈夫か?」

ジョージ「彼もしょ………おっと、焦燥から抜け出すのに時間がかかるだろうし、ここは素直に聞いておこうよ」


察した上で従うジョージ…コイツに対する怒りも苛立ちも、遺憾ながらもう馴れて来た。


マークとジョージが室外に出たのを確認してから、俺はもう一度室内を一望

心の整理………

それと…やり残した事、やるべき事を実行する。

395: ◆TPk5R1h7Ng 2015/09/30(水) 23:36:45.00 ID:/wixNK/Ro
●部屋から出てきた三人と

理央「先輩…大丈夫でしたか?その…銃声が聞こえましたけど…」

ジョージとマーク…そして、様子見で寄越されたマリオと途中で合流してから、理央とエリーの元に辿り着く。


分断前にジョージから読み取った内容が、結果的に功を奏して抑止力になっているのか…

理央は心配そうに俺を見詰めるが、その真相を読み解こうとはしない。


俺「心配かけて悪かった。もう大丈夫だ」

なるべく簡潔に…理央の意思を押し除けないようにしつつ、多くを語らず話を切り上げる

幸いな事に理央の俺の言葉の裏側を察し、表でも裏でもそれ以上の追求を諦めてくれたらしい。


後は俺が、自分の言葉通り平静を保てば良い…それで良い。


そんな俺達のやりとりが終わるのを待っていたのか、踵を返して歩き出すジョージ。

俺達は無言のままその後を追い…真っ直ぐに伸びる廊下を歩き続ける


そして………異変は、突然訪れた。


理央「……………え…?」

俺「どうした?何か見つけたのか?」

理央「いえ…その逆です。何も…何も見えない…何も読み取れないんです」


理央のその言葉を聞いた瞬間…俺は体中の毛穴が開き、嫌な汗が噴き出した。


俺「それは…特定の範囲か?それとも…」

理央「特定の範囲…十字路の先、正面に見えているあのドアの先が全く視えません」


話を聞く限りでは、阻害系の能力。

理央の能力が無効化された訳では無い…その事に安堵するも…それが示す意味を理解する事で、俺の心臓は嫌な音を立て始める。


俺「ヴィクターと怪物…これはどっちの能力だ?」

理央「ヴィクターの超能力は、自分自身の腕力と同程度の威力しか持たないサイコキネシス…なので」

ジョージ「怪物か第三者……あるいは第四第五と考えるべきだろうね」


確認の言葉を交わすに連れて、天井知らずに脈動を早めて行く心臓

やはり希望的観測なんて物はするべきじゃ無い。嫌な方向に想定して居た事態を、現実は律儀に踏襲してくれているようだ。


ジョージ「危険だと思うなら、君達組織グループはここで待っていてくれて良いんだよ?」

俺「馬鹿言え…お前達が負けたら尻拭いするのは俺達なんだ。少しでも勝率を上げるためにも、同行する方が良いに決まってんだろ」


話している間に十字路を越え、問題のドアの前へと辿り着く俺達。

罠の可能性を考えれば、戦力になる人間が開けるべきでは無い……となれば必然的に適任者は…


との自問自答の末…俺は真っ先にドアノブを掴み、そのドアを引き開いた。

396: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/01(木) 00:45:30.19 ID:BrsVhQXqo
●棄てられた物の部屋

まず俺に襲いかかってきたのは、鼻の曲がるような異臭…いや、死臭だった。

狭い部屋の中に押し込まれた、大量のバラバラ死体。

ざっと見た限りでも、10から20。一番上の死体以外は、皆同じ白衣を着用している。


俺は喉の奥から溢れ出しそうな吐き気を堪えるも、よろけて一歩後ろに後ずさる。


マーク「どーした?何が……………って…何だこりゃ、酷ぇ有様じゃねぇか」

エリー「本当ぉん…あら?一人だけ服装が違うわねぇ」


そう言ってエリーが指摘したのは、例の一番上の死体…腹部から下と頭が無い死体

白衣には代わり無いが、袖の刺繍やポケットの数などが明らかに別物の白衣…その白衣を着込んだ死体だった。


そして…俺達のやりとりを把握すべく、室内を覗き込む理央。

惨状を目の当たりにして一瞬だけ顔を顰めるも、またいつもの顔に戻り…

理央「この死体は………ヴィクターです」


そう断言する


俺「根拠は?幾ら昔の知り合いとは言え、顔も見ずに判るのか?」

理央「指…指紋で判ります。忘れたくても忘れられない…赤い跡を幾つも残して来た手ですから」

強い確信を持ってその言葉を紡ぐ理央……そこに疑う余地は微塵も無い。


マーク「…ってー事は……だ。ヴィクターは殺された…誰に殺されたかって言やぁ…」

俺「名前を持たない怪物…か。北極まで逃げてきたフランケンシュタイン博士が怪物に殺されるとか、冗談が過ぎるぜ」

それも、第三者が居なければ…の場合だが、皆も判っていると思うので、あえてそこの所は口にしないでおく。


俺「で、そうなって来ると次の問題は…その怪物が今どこに居て、どんな状態…どの段階かって話になって来る訳だが…」


エリー「少なくともぉ…この施設の中からは出て無いわよねぇん?こんな極寒の地で外に出るとは思えないしぃ…」

マーク「んで、判ってるのは…お嬢ちゃんの探知能力を阻害する能力を持ってるって事と…」

ジョージ「この施設に来る前に、予め阻害能力を移植されて居たか…この施設に来てからで…今はまだ能力定着の最中か…」


俺「まだまだ、大事な所が判らない事ばかりって事か。ってか、思ったんだが…」

ジョージ「何かな?」

俺「最初っから施設を廃棄する予定だったなら…施設ごとヴィクターと怪物を爆破するなり閉じ込めるなり出来たんじゃ無いのか?」


ジョージ「そのどちらも内部にスタッフが居たら止められるから、確実じゃ無かったんだよ」

俺「今は怪物しか居ないんだし……」

ジョージ「第三者が存在する可能性が消えて居ない以上、それは無理。爆破に乗じて脱出なんかされたら、文字通り野に放つ事になるよね」


俺「結局…怪物を倒す以外の選択肢は無しか」

397: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/01(木) 00:59:14.85 ID:BrsVhQXqo
●部屋の奥に潜む扉

ジョージ「さて…さすがにこれ以上こんな場所に居るのも何だし、先に進もうか」

他の皆が立ち竦む中、死体の山を掻き分けるジョージ。

バラバラになった部位が転がり落ち、残った血が周囲に跳ねる…そんな中。

掻き分けられた死体の陰から、血で真っ赤に染まったドアが姿を現す。


ドアノブに手をかけ、ドアを押し開くジョージ。


そして奥の部屋に踏み込むのとほぼ同時に、暗闇の中で微かにゆらめく………何か

俺は反射的にジョージの襟首を掴み、元の部屋へと引き戻す。


弧を描いて宙を舞う、二つの血飛沫

つい先程までジョージが立っていた床には、斜めに走った残痕

そして………鈍い音を立て落ちる、二つの手。


ジョージ「……………え?」

ジョージは糸のような目を見開き、目の前の自分の手を凝視する。


俺「怪物………こんな所に潜んでやがったか!」


俺はジョージの脇を擦り抜け…ドアのすぐ手前で、部屋の中央に向けて発砲。

弾丸は当然のように壁に当たり、何度も跳弾してから床に落ちる…


が…俺の目的はそこでは無い。

マズルフラシュにより一瞬だけ照らし出された室内

その天井に張り付く、フルプレート姿の巨体……怪物の姿を捉え、その怪物に向けて銃弾を放つ。


その巨体からは想像も付かない程の俊敏さで弾丸を避け、部屋の奥へと駆け抜ける怪物

俺はその隙に室内に踏み込み、手探りで探したスイッチを入れる。


怪物が逃げた先…部屋の隅へには、別の部屋へと続く廊下

他に隠れる場所が無い以上、その先に進んだと考えるべきだろう

流石にそれ以上の独断先行は控え、俺は皆の足並みが揃うのを待つ。


ジョージ「ククッ…ははは……そうか…そう言う事か。中々やってくれるじゃないか!」

が、そんな中…両腕を失ったにも関わらず、余裕の笑い声を上げるジョージ。


今はこいつに構っている余裕は無いし、構いたくも無いが…かと言ってこのまま放置して置く訳にもいかない。

室内の薬品に関しては、どれがどんな物なのかも判らないので手を付けず…


ジョージには最低限の止血だけ施して、エリーが担いで先に進む事になった。

398: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/01(木) 01:30:38.34 ID:BrsVhQXqo
●部屋の奥の更に奥

俺「さっきの…って言っても、見えてたか判らないんだが…あれが例の怪物か?」

理央「間違いありません。あれが…名前を持たない怪物…です」

俺は銃のカートリッジを取り替えながら問い、それに答える理央。


俺「そっか…んじゃ、怪物の持ってる超能力は判るか?」

理央「今はまだリーディングが出来なくて…研究施設に居た時に見たのは、金属を高速で震わせて高周波ブレードのようにする能力だけです」

ジョージ「それと…サイコメトリー。ある程度近くの物の記憶を読み取る事が出来る筈だよ」


俺「って事は…さっきから理央のリーディングを阻害してる能力は、怪物に新たに移植された能力の可能性が高いって訳だよな」

マーク「にしたって、おかしく無ぇか?移植したってんなら、まだ定着してない筈だろ?」

俺「それに関しちゃぁ、意外と簡単な答えなのかもな」


ジョージ「…と言うと?」


俺「希望的観測なら、施設の頃から理央やジョージに秘密にしていた…あるいは、この施設に来る前に予め移植してあったって事だろう」

マーク「あぁ…だったらまだ怪物の野郎は、目的の能力の移植を受けて無ぇって事だよな」

俺「んでも、逆に絶望的観測をすると………あの怪物は、もう能力の移植が終わっている。本来の目的を果たした状態にある」


ジョージ「………その根拠は?」


俺「まず最初に、P器官が持ち出された後だって事だ。ここまでヴィクターについて来ておいて、いざ移植って時より前にヴィクターを殺すのはおかしい」

エリー「目的を果たした事で、不要になったヴィクターを殺害…って訳よねぇん」

俺「次に…大前提である、定着までに必要な日数。これがジョージの想定とは異なっている場合…あるいは意図的に偽っていた可能性がある」


ジョージ「それはまた大胆な推理だけど…そう考える根拠は?」


俺「元々お前の言葉は信じられなかったが…明らかにおかし過ぎたんだよ。ここに来るまでの渡航手段も日数も…その他も」

理央「でも、ジョージの記憶は事前に確認してましたけど…」

俺「意図的に消されてた部分があった…だろ?」


ジョージ「いくら協力が必要な事態とは言え、外部に漏らせない機密があるからねぇ。理央に視られないためには必要な事さ」


俺「俺も最初はそう思ったんだが…さっき腕を落とされたお前の反応を見て、考えが変わった」

ジョージ「………」

俺「こっからは完全に憶測なんだが…お前、理央の能力が阻害され始めた辺りから、消してた記憶が戻ってるんじゃないのか?」


ジョージ「………良いよ、続けて」


俺「多分、本来の計画ではお前がヴィクター達…あるいは怪物と合流して、俺達を差し出す予定だった」

俺「だが、裏切りか予定外の事態か…お前自身が怪物に襲われ…」


ジョージ「その結果…口から出た言葉があれだった…という事か。成程、面白い推理だね。でも、間違っている所があるよ」

399: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/01(木) 01:39:25.85 ID:BrsVhQXqo
●閉ざされた部屋の中から

ジョージ「悪いけど、僕の記憶は消去されたままだ」

俺「だったら、さっきの言葉は何だ。辻褄が合わないだろ」

ジョージ「その事だけど…本当に面白い事に、僕も君と全く同じ推理をしたんだ」


俺「はぁ?おかしいだろ。どこでそんな…」

ジョージ「この腕を切り落とされた時…実は、君のお陰で一撃目は当たらなかった…掠りもしなかったんだけど。その直後の二撃目で腕を持ってかれてた」

エリー「それってぇ…」

ジョージ「一撃目で命を…二撃目で妥協して能力を狙って来た…そう取れるよね。だから、そこで思い当たった」


ジョージ「怪物は僕の能力と発動条件を把握している…そして、それは多分僕が教えた」

ジョージ「では何故教えたか…協力関係にあったから。内容は多分、君が推測した通り」

ジョージ「僕は僕での思惑があったんだろうけど…出し抜かれてこの有様…って事なんだと思う」


俺「って、結局俺達を裏切ってた事に変わり無いじゃないか!」

ジョージ「嫌だなぁ、そこは最初から否定してないだろう?」


俺「つくづく思うぜ………何でもっと早く、お前を始末しとかなかったんだろうか…ってな」

マーク「右に同じく」

理央「…私もです」

エリー「本当…いいかげん疲れて来るわよねぇ」


悪びれた様子も無く、いけしゃぁしゃぁと述べるジョージに対し…意見は図らずも満場一致

変なタイミングで、俺達の結束が固まる結果となった。


俺「そう言えば…マリオの方は大丈夫なのか?」

理央「遠隔操作は出来ませんが…接触した状態のテレパスでの操作なら可能です」

マリオの左腕の上に、抱えられるような形で座る理央

利便性は大幅に削がれるが、致命的な戦力低下は逃れた事を確認出来て…少しだけ安堵する。


ジョージ「しかし本当…君は他人とは思えないよ。もし違う出会い方をしてたら、僕達は友達になれていたかもね」

俺「寝言は墓ん中で言ってろ」

ジョージ「いや、本気本気。保障するって」


にも関わらず…そんな空気さえも的確に濁す、ジョージの存在。

両手を失っているにも関わらず、呑気にそんな会話を続けようとするのだが…


言葉の代わりに…目の前に立ち塞がるドアと後方で降りる防火シャッター。それが会話を打ち切った。

400: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/03(土) 03:42:37.93 ID:bmbxe+OTo
●怪物の待つ部屋

エリー「退路は塞がれた…って事よねぇ」

マーク「脱出…ってーか、帰り道はどーすんだ?」


ジョージ「この先右手にある制御室で、シャッターを上げるか…この先左手にある非常口から外に出るかだけど…」

俺「防寒具も無しに外に出るのは、ただの自殺行為だよな」

ジョージ「そして、その防寒具も…この先で置いてあるのは、制御室のみ」


俺「どっちにしても制御室か…ならまず間違い無く、そこかその前で…怪物が待ち構えてるんだろうなぁ」


進むべき道が決まり…警戒を怠らないようにしながら、ドアを押し開く。


正面には………氷山と氷海…外の景色が一望できる、分厚いガラス張りの壁。大半が外に向いた椅子と、テーブル。

右手には制御室の入り口と思わしきドアと、食事用カウンター…左手には、非常口のマークが描かれた出入り口。


そして………天井のシャンデリアから降り立ち、俺達の正面に対峙する…フルプレートを纏った、名前を持たない怪物。


意外な程静かで落ち着き払った出で立ちに、少々肩透かしをくらう…が、それもすぐに警戒へと変わる。


床を踏み締め…先にも見せた俊敏さで、一瞬の内に俺達の懐へと飛び込んで来る…怪物

その鋭い爪の切っ先が、俺の腕を浅く裂いて血飛沫を舞わせ………


返しの刃が、俺の喉元へと迫り来る。が…寸での所でマリオの手がそれを止める。


本来ならばどんな物でも切り裂くような、怪物の高周波ブレード。

しかしそれも、マリオの斥力場により遮られてしまえば…本領を発揮する以前の問題。能力その物が何の意味も持たない。


理央を抱えているため右手しか使う事が出来ないが、それでも現時点では圧倒的優勢

加えて、マリオの拳には一切の慢心も油断も無く…優勢を勝利へと繰り上げるべく、猛攻が続く。


防御の上から胸部に…ガラ空きになったボディへと打ち込まれるマリオ拳

そこから怪物の両腕を跳ね上げ、パイルバンカーのような勢いで怪物の頭部へと放たれ…

その時点で、この場に居る者の殆どがマリオの勝利を確信するのだが………


優勢は、瞬く間に劣勢へと裏返った。

401: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/03(土) 03:45:22.17 ID:bmbxe+OTo
●分解霧散暴露の部屋

マリオの拳に砕かれ、四散する怪物のヘルム

だが………それと同時に、壊れたブラウン管テレビのように歪む…マリオの腕。


ほんの一瞬…自分の目を疑い、一度瞬きをしてから改めてその光景を凝視する

幻覚…見間違え…そんな物を期待するが、現実はそんな楽観を許さない。

歪んだマリオの腕は、硬度と言う物を感じさせない奇妙な動きと共に、四方八方に引き伸ばされ…


砂…いや、霧のように…分解されて、文字通り周囲に霧散した。


何が起きたのか判らなかった…だが、結果だけは嘘偽り無く目の前にある。


右腕を失い、ボトボトと血を滴り落としながら後方に跳ぶマリオ

ヘルムを失い、その素顔を晒す怪物……………いや、あれを素顔と呼ぶべきかどうか


壊れたヘルムの下から現れたのは…本来首があるべき場所に、ツギハギのように縫い付けられた幾つもの顔のパーツと…

その上に据えられた、左半分の顔。

想像していた怪物の顔とは大きく異なるが、怪物と言う名称に相応し過ぎる姿がそこにはあった。


そして…


理央「………え?…ヴィク…ター……?」

理央の口からその名前が紡がれ…俺の思考が、嫌なルートへと走り出す。


俺はヴィクターの顔を見た事が無いが、理央の言葉や反応でそれが本人だと言う事が判る。

なら、何故…こうして明かされた怪物の正体が、ヴィクター…その人物なのか…

短絡的な思考で答えに辿り着くのは好きじゃないが…どうもそれが正解のようだから仕方ない。


俺「現代のプロメテウスを気取ってるかと思えば…その実、現代のピグマリオンだったってオチかよ…」


頭の中に真っ先に浮かんだ皮肉を込め、怪物…いや、ヴィクターに向けて言い放つ。


ヴィクター「アフロディーテも兼任してたから、一人三役かな。キミ…中々良いセンスしてるね」

が…ヴィクターは、首に付いた口から減らず口を叩いて返して来る


俺「ジョージと言いお前と言い…キングダムの…いや、キングダムでも指折りの悪者に褒められても嬉しく無いなぁ!」

402: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/04(日) 07:20:06.79 ID:JsAxR98bo
●禁忌眠る部屋

俺は銃を構え…挨拶代わりの一発。グロック18の銃口から放たれた弾丸がヴィクターに襲いかかり…

更に排莢された薬莢を、マークの能力が空中で拾い上げて放つ…二連撃。


しかしそのどちらも…先のマリオの腕のように、歪められて引き伸ばされて…霧散してしまう


俺「なぁ…お前もキングダムのメンバーだったんよなぁ?多分に漏れず、能力の説明とかしてくるんだろ?」

ヴィクター「ハハハハ…自分の手の内を明かすのは、三流だけ…と言いたい所だけど、実はもう一つだけ例外がある。判るかい?」

俺「自分を全能と信じて疑わない奴…能力を知られようとも、必ず勝てると確信を持ってる奴…って所か?」


ヴィクター「その通り…よく判っているじゃないか。それじゃぁまず、ご褒美も兼ねて僕の能力の秘密を一つ教えてあげよう」

言い放って、周囲を一瞥するヴィクター。そしてその視線は、理央に向いた所で止まり…


ヴィクター「僕がサイコメトリーを使える事はご存知かな?これは、とある人物の脳の一部とP器官を移植して使えるようになったん物なんだけど…」

俺「いや、そんな事はもう知ってる」

ヴィクター「まぁまぁ落ち着いて最後まで聞こう。実はこのP器官の持ち主、理央の良く知ってる…ようで良く知らない人物なのさ」


マーク「っん当…に、ジョージみてぇな野郎だな。言いたい事があるなら、ハッキリ言いやがれ!」

ジョージ「知ってるようで知らない人物。更にサイコメトリーって事は………あぁ」


思い当たる人物を見つけた様子のジョージ。そして…そのジョージを見て、理央は何かに気付き…

みるみる内に顔が青ざめ、見開いた目が震えるように小刻みに動き始める。


理央「そんな…まさか………あの時…私を襲おうとしていたのは…」

ヴィクター「そう…彼ってば幾人もの少女を  て殺し、理央さえもその手にかけようとしてたんだよね……自分の娘とも知らずに!!」


理央「ヴィク…ター………………ヴィクタアァァァァァァ!!!!」

怒りに駆られ…マリオの残った左腕でヴィクターに殴りかかる理央。しかしその左腕さえも、触れる直前でヴィクターに霧散されてしまい…

ヴィクター「あぁでも安心しておくれよ!!そんな彼も今はこうして愛しの妹と一緒に僕の中に居るんだからねぇ!!」


理央は我を失い、終いには自らの拳でヴィクターに殴り掛かろうとする。


だが、それはあまりにも無謀な自殺行為。俺は理央の身体を後ろから抱え込み…寸での所でそれを止める。

ヴィクター「ほらほら!君達も来たまえよ!!家族水仲良く、僕の中で僕のために存在して良いんだよ!!」

理央「あ…あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁ!!!!許さない!!絶対に許さない!返して!!返して!!!お父さんとお母さんを返して!!!」


室内に響き渡る理央の悲痛な叫び。

渾身の力で飛びかかろうとする所を俺が抑えると…理央はそのまま力無く倒れ込んだ。


ヴィクター「おやおやぁ?もう戦意喪失かい!?残念だなぁ!もっと僕を楽しませてくれよ!もっとこの力を実感させてくれよ!!」

あぁ、そうそう………言い忘れていた事が一つあった



  俺はもうとっくにブチ切れている。



俺「安心しろよ…理央の代わりに俺が相手になってやる。それと理央…安心しろ、止めはお前に刺させてやるからな」

403: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/04(日) 07:36:26.74 ID:JsAxR98bo
●逆転制裁の部屋

ヴィクター「らしくない…らしくないなぁ!君はそんな冗談や強がりを言うようなキャラじゃぁ無いだろぉ!?」

俺「御託は良いからかかって来いよ…第一お前、俺の事を何も知らないだろ?」

ヴィクター「知っているさ。アシッドのリア充爆散とマイケルのパトリオットをその身に取り込んだんだっけ?でも、そんな能力で…」


俺「いや、リア充爆散は完全に使えなくなっちまったし、パトリオットも無理…使えてあと1、2発だけだ」

ヴィクター「んんー?ブラフかい?もし本当だとしたら、それこそ勝ち目なんて無いしさっきの発言と矛盾してるだろう?」

俺「俺の切り札がそれだけなら…な」


ヴィクター「あぁ、そうか…他にも幾つもの超能力を隠し持っているんだね?そして、それを駆使して戦おうって訳か」

俺「あぁ…そうだな、二つと二つで四つ…いや、とりあえずお前の相手だけなら………二つで充分だ」


ヴィクター「………へぇ、舐めてくれるじゃないか…今のはちょっと頭に来たねぇ。良いとも、相手になってあげようじゃないか!」

挑発に乗ってか…口元を歪めながら俺を凝視するヴィクター。

戦闘開始………無言のゴングを聞きながら、俺は付け焼刃の一本を鞘から抜く。


チリチリと脳の奥が焼け焦げるような痛み…

あまり長くはもたない事は百も承知…だが、その限界までに勝負を付ければ良いだけの事


ヴィクター「簡単には殺さないよ…僕を侮った事を後悔させながらゆっくり殺してあげるからね!」

ヴィクターの言葉と共に、俺の右足を狙って発生するそれ………ヴィクターがD器官を持った事で得た能力、分解空間。

俺はその発生に先駆けて飛び上がり、難なく回避して見せる。


ヴィクター「…へぇ良く避けたねぇ…だけどこれはどうだい?」

余裕綽々の文面とは裏腹に、苛立ちの色を隠しきれない声色のヴィクター。

俺に回避された事が余程頭に来たのか、今度は俺を丸々飲み込む程の特大の分解空間を…それも滞空中に発生させてくる。


普通に考えれば回避不能…ここでお終い。だが、今の俺には通じない。


ヴィクター「―――な…!?」

両足の裏を基軸にして、半回転。更にそこから、分解空間の周囲を回りながらスカイボードのように滑空し…着地して見せる

ジョージ「ジェリーの…エスケーパーか………面白いね。彼はまるで、能力を回収しているみたいじゃないか」


ヴィクター「そうか、保管庫で………いや、例えあの中のどの能力を取り込んだとしても僕の攻撃を避けた理由には…」

俺「そーやって定番な驕りに浸ってっから足元掬われるんだっての。良いぜ、今度は俺が教えてやるよ」

ヴィクター「…………」


あれだけ饒舌だったヴィクターが押し黙り、俺の言葉に聞き入る。

これだけでも相当な屈辱なんだろうが…ここで終わらせるつもりは毛頭無い。

404: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/04(日) 07:54:06.58 ID:JsAxR98bo
●詰み手は部屋の中

俺「さっきから展開してるこのリーディング阻害………あくまで阻害できるのは遠隔リーディングだけだろ?」

ヴィクター「……………」


俺「ジョージの腕を奪ったのは、直接接触による記憶改竄を恐れたから……それに、理央も遠隔じゃなくて直接ならマリオを動かせてた」

ヴィクター「それがどうしたって言うんだ。少し考えれば判る事じゃないか!」


俺「で…遠隔だとしても、自分の体の一部なら中継可能。ジョージが出てきたタイミングで襲い掛かれたのはそう言う事だろ?」

ヴィクター「そうだ!だが、仕組みが判ったところどうにか出来る筈が無い!」

いい感じに頭に血が昇って来ているヴィクター。だが…当然ながら、まだまだ追撃の手は緩めない。


俺「一つ教えておいてやるよ………古典SFじゃぁどうか知らないが…現代能力バトルじゃ、相手の返り血に警戒するのは常識なんだぜ?」

ヴィクター「返り血……まさか…あの時の!?」

俺「そう…この部屋に入ってすぐに食らったあの一撃…あの時の血が、今もお前の手にべったりとくっ付いてるぜ」


ヴィクター「だが…だとしても!何故君がそんな超能力を使える!どこで取り込んだと言うんだ!」

俺「お前の知らない所でに決まってるだろ。そうやって自分の視野と価値観でしか物事を見られ無いから、こういう結果になるんだろうよ」

ジョージ「接触型テレパス……そうか…彼女の能力か」


ヴィクターに手を翳し…抜いた付け焼き刃を見せ付ける。

徹底的に屈辱を与え、鼻を明かし…後は最後の一手を残すのみとなった訳だが………


俺「――――――――ッツ!!!」


突如…頭の中で何かが皹割れ、爆ぜるような激痛がつき抜ける。

どうやら、俺のP器官に限界が訪れたらしい


ヴィクター「フ……フハハハ!ハハハハ!!何だい何だい?こけ脅しかい!?顔色が良く無いねぇ!?」

限界を向かえた俺…それを察したのか、形勢を建て直し…余裕を取り戻すヴィクター。

ヴィクター「まずは…よくやったと褒めてあげるよ。でもね…僕をこけにしてくれた罪は万死に値するんだよ!!」


視界に俺を捉え、大規模な分解空間の形成を始めるヴィクター

エスケーパーすら使えない今の状態では回避不可、走って逃げても間違い無く呑み込まれて分解される。


絶体絶命


………と言ってやりたい所なんだが……


俺「悪いな………王手…いや、チェックメイトだ!」

405: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/04(日) 08:11:41.67 ID:JsAxR98bo
●終演の部屋

ヴァイクター「はぁ?何を言っているんだい?そんな事を言って時間稼ぎにでもなると―――」

俺の宣言を受け…それを受け入れずに否定を続けるヴィクター

だがそんな減らず口も、途中で途切れ………自身に起きた事すら理解できないまま、前のめりに倒れ込む。


恐らくは、まともに歩くどころか喋る事すら儘ならない…

そんな中で、ヴィクターは最後の力を振り絞り…己に止めを刺した存在を、汚れ濁った瞳に映す。


ヴィクター「リ……オ…?な………なな…何…一体…何をを…をををををを!?」

理央「オーバークロック………広域リーディングで収集した膨大な量の情報を、相手の脳に直接送り込んで精神を破壊する能力です」


ヴィクター「な…ななななななななななな…」


理央「と言っても、今回は周囲から読み取る事が出来なかったので…貴方に取り込まれた人達の記憶を…思い出を叩き込ませて貰いました」


研修の時に、うっかり理央の心を読んでしまったカレンが陥ったのと同じ状態…

いや、意図的にその何倍もの量の情報を叩き込まれたのだから…あの時の比では無い程の負荷が襲い掛かっている事だろう。


ヴィクター「そ…ん……なななななななな……こ………なななななな何故…僕ががががががががが」

俺「理解する余裕なんて無いんだろうが……教えてといてやるよ。お前の敗因は、全部お前自身が撒いた種…つまりこれは、因果応報だ」


理央「ヴィクター………今まで貴方が踏み躙って来た人達の思いに押し潰されて………」

ヴィクター「いや……やややややややや…やだっ!!!ぼ…ぼぼぼぼぼ…僕は!!!」


理央「………消えなさい」


ヴィクター「―――――――!!!!」


発狂し…意識の波に押し潰されて事切れるヴィクター

長い…長い、俺達の………いや、理央の戦いがここで終わった。

406: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/04(日) 08:16:25.13 ID:JsAxR98bo
○人形姫と電気執事

理央「話には聞いていたけど…貴方、本当に何も喋らないのね」

理央「と言うよりも…何考えて居ない……空っぽ…」

理央「過去を失い、あるのは今この時だけ…ミューと言う名前だけ…」


ヴィクターから貰ったファイルに記されていたのは、私の知らない名前と知らない情報ばかり…

今ここに居る、ミューと言う存在への繋がりが実感出来ない物ばかり。


理央「でも…その名前自体、ただの記号として与えられた物に過ぎない」

理央「貴方を貴方として定義する物では無く、予め存在していた定義に貴方を当て嵌めただけ」


理央「そうだ…私が名前を付けよう」


理央「貴方の元の名前はミュー…ギリシャ文字のΜ」

理央「私と貴方は今では一心同体…一蓮托生…運命共同体。なら…」


理央「Μ………リオ………M…リオ………」

理央「そう…マリオにしましょう。貴方はどう思う?」


問いかけても、当然のように答えは無い。


操り人形に選択肢など存在しない…

操り人形に自由意志など存在しない…

操り人形にそれを求める方が間違っている。


理央「私…何を言ってるんだろう」


理央「まぁ良いわ、そう言えば…貴方って、以前は執事をやっていたのよね…」

理央「記憶の中にあるそれを反復行動させたら…もしかしたら…」

407: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/04(日) 08:23:14.53 ID:JsAxR98bo
●脱出へと続く部屋

マーク「何ってーか…俺達、結局何も出来なかったな」

エリー「新たな世代が負の遺物に終止符を打った…そんな風に考えれば良いんじゃ無いかしらねぇん」


俺「いや…まだ終わって無いからな?帰るまでが遠足だからな?」


マーク「ん?」

俺「いや、頭にハテナマーク浮かべて無いで、とっとと制御室に行って来いよ!防火シャッター閉じたまんまだろ!?」


マーク「あぁ、そーだったそーだった…おいジョージ、生きてっか?ここの操作が判んのはお前だけだ。勝手にくたばんじゃぁ無ぇぞ」

ジョージ「うーん…一応怪我人なんだから、もうちょっと丁寧に扱って欲しいなぁー」

エリー「黙りなさいよぉ、裏切り者のくせに贅沢言わないのっ!」

漫才のようなやりとりを交わしながら制御室へと向かう、マークとジョージとエリー。


俺は…一息つきながら、膝の上で眠る理央の頭に手を乗せる。


激戦の跡…倒れた椅子やテーブルに、抉られた床…落ちたシャンデリア

時折見せる痙攣以外、動きと呼べるような動きを見せないヴィクター。

応急処置を終え、倒れたテーブルを背にして…眠ったように座り込むマリオ。


俺「お前も…いや、あんたも…理央のために今までありがとな」

途中まで紡ぐが、元の体格も年齢も判らないので言い直す…労いの言葉。


今まで考える余裕は無かったが、マリオは今まで理央の事を…時には近くで、時には遠くから守ってくれて居た。


それが果たしてマリオ本人の本来の望み…あるべきだった人格が、選択していた行動だったかまでは判らない

もしかしたら、本人としては不本意極まりない行動を無理強いされていただけかも知れない

でも…それでも、俺は感謝を込めずには居られなかった。


終わった………いや、まだやるべき事は山程残っているけど、ヴィクターとの決着はついた。

その余韻に浸りながら…まどろみの中に意識を落とそうとした………その瞬間


      ドクン!!!


と…まるで脈動なような音が周囲に響き渡った。


全身の毛穴と言う毛穴から噴き出る汗…喉の奥から溶岩が溢れ出るような悪寒

理屈では無く本能で感じ取る事が出来る程の………絶望


何が起きているのか…その原因を突き止めるため、俺の視線は周囲を駆け巡り

幸か不幸か、探していたそれはすぐに見つかるのだが………


それは、新たな絶望の始まりでしか無かった。

408: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/04(日) 08:49:38.91 ID:JsAxR98bo
●絶望覚醒の部屋

物理法則を無視して質量が増し、各所が膨れ上がるヴィクターの身体………

体組織の表面から棘のような鱗が飛び出し…外骨格のように分厚い装甲へと変質する。


そして…繋ぎ合わされた各部位から生え出でる小さな手足…翼

幾つもの顔の部位を連ねた首元は、その一つ一つから新たな顔や角が生え……


ヴィクター…いや、ヴィクターであった物は、多足多翼…多頭の怪物へと変貌を遂げた。


俺「何だよあれ………」

喉の奥から飛び出した言葉…慌ててそれを飲み込むも、時既に遅し。

怪物は俺に気付いて視線を向け……一歩、その足を踏み出して来る。


一歩…たった一歩動いただけだと言うにも関わらず、俺の中から溢れ出す恐怖。

どうすればあの怪物を倒せる?どうすればあの怪物を退ける事が出来る?どうすれば逃げられる?


一瞬で頭の中を駆け抜け、妥協を繰り返しながらも行き詰るその思考。


そうしている間にも、一歩…また一歩と怪物は俺達に迫り…

俺は、限界を超えて振り絞ったパトリオットを…焼け石に水と判っていても、怪物に叩き込む

が……当然のように、いや当然ながら…全くと言って良い程に効果が無く、無駄な抵抗で終わってしまう。


死ぬ……殺される…確実に殺される…

せめて理央だけでも逃がす事は出来ないか…でも、どうやって?

理央を起こす?いや、駄目だ…起きたばかりの理央は超能力をまともに使えない。


俺が囮になって、理央に逃げて貰う?…どこに?

来た道は未だシャッターに遮られたまま…制御室は多分袋小路…非常口は防寒具無しでは使えない。

俺の超能力は、さっきのパトリオットで完全に打ち止め…残っていたとしても、打開策になるような物は無し。


絶体絶命…万策尽きた…

そして、絶望の先にある…死…を目の当たりにした…その時……


マリオ「おお゛お゛……ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


喉の奥から搾り出したような叫び声と共に、怪物の横腹へと体当たりする………マリオ

マリオの突撃は留まる事を知らず……ガラスの壁にぶつかっても、その勢いを止めるどころか更に増し…


乾いた音と共にガラスの壁が砕け、砕けたガラス片と共に、怪物とマリオが宙へと放り出される。


そしてそれらは、引力と言う抗いようの無い力に引き寄せられ………氷海へと落ちて行き………


気のせいかも知れない…それどころか、俺の思い込みかも知れないんだが…

化け物と共に落ちて行くマリオ…その、砕けたヘルムの下から覗いた顔は……


俺と理央に向けて微笑んでいた………そんな風に見えた。

409: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/04(日) 08:52:02.70 ID:JsAxR98bo
○操り人形は電気執事の夢を見るのか?

―――――夢を見た。

――――――これは多分、マリオの夢


ジョージ「おーい…おーい、そこの。そこのレオ、お嬢様を見てないかい?」

レオ「何だ何だ、お前またお嬢様に逃げられたのか?あんまりヘマばっかりしてるとクビになるぞ」

ジョージ「怖い事を言わないでおくれよ。第一…お嬢様が脱走する度に誰かクビになるなら、誰もここに残れないんじゃないかい?」


レオ「違い無いな。ま、あのじゃじゃ馬お嬢様のお目付け役を出来るのはお前くらいな物だから、当分は安泰だな」

ジョージ「それは喜ぶべき所なのか…悲しむべき所なのか…」


「………聞こえているわよ」


レオ「おっと、これは失礼。居る事に気付きませんでした」

「…匿った本人が言う言葉では無いわね…お父様に言って解雇して貰うわよ」

ジョージ「レオ………君はまた…そんなに僕を困らせるのが楽しいのかい?」


レオ「楽しく無いと言えば嘘になるな…でもまぁ、楽しさ目的は半分だけだ」

ジョージ「残りの半分は?優しさとか言わないでおくれよ?」

レオ「もう半分は………楽しさ目的だ!」


「…………結局全部楽しさ目的じゃない」


ジョージ「………君に聞いた僕が馬鹿だった」

レオ「おいおい、落ち込むなよ。そんな調子で、俺が居ない間も大丈夫なのか?」

ジョージ「あぁ…そう言えば今週だったっけ?日本に帰るのは…確かお父上も一緒に帰国するんだったかな?」


「レオ………日本に帰ってしまうの?」


レオ「おいおい、二人ともそんなに心配するなよ。生まれたばっかの妹の顔を見に行くだけだ、一週間ちょっとで帰って来るって」

「………本当?」

レオ「いや、ここで嘘吐く必要あるのか?」


「今まで何人も………帰って来るって言って、帰って来なかったから」

ジョージ「……………」

レオ「そりゃきっと、お嬢様が苛め過ぎたからだろ。大丈夫だ、お嬢様が良い子にしてれば絶対帰って来るからよ」


「………本当に?良い子にしてたら帰って来る?約束?」

レオ「あぁ、約束だ」


ジョージ「………レオ」

レオ「ん?何だ?」


ジョージ「いや…何でも無い。帰ってきたらまた会おう」

410: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/04(日) 08:58:27.19 ID:JsAxR98bo
●操り人形は部屋を飛び出し…今を夢見て…生きた

マーク「おい!一体何があった!?…って、ガラスが丸々割れてんじゃ無ぇか!凍える前にシャッターを…」

制御室から戻り、惨状を目の当たりにして叫ぶマーク。

マーク「ってか、マリオはどこに行った?ヴィクターの野郎の姿も消えちまってんじゃ無ぇかよ!!」


エリー「何だったのよ、さっきの重圧……もう収まったみたいだけど…」

マークに続いて制御室から出てくるエリーとジョージ。こちらも惨状を見て驚愕するが、それを言葉には出さない

ジョージ「………」


俺「ヴィクターは…D器官に呑まれた」


マーク「はぁっ!?何だそりゃぁ!?………ってか」

ジョージ「マリオは………マリオの最期は?」

マーク「てんめっ…俺のセリフ……って、最期ってどう言う……」


俺「マリオは………」

言葉の途中…俺は理央を見下ろし、そっと頭を撫でる


それから理央は、少しだけ身動ぎして………

理央「兄……さん」

小さく…そして短く、寝言を呟いた。



  俺「マリオは………生きたんだと思う」



ジョージ「………そっか」


マーク「いや、何お前等だけ納得してんだよ!意味判んねえぇよ!」

エリー「んもう…野暮な水の差し方してるんじゃないわよぅ!少し黙ってなさい!」



  そう…


  マリオは…操り糸が切れても尚、自分の意思で理央を守り抜いた…


  少なくとも、俺はそう信じたい。



     ―理央ルート END―

 

412: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/04(日) 09:12:14.35 ID:JsAxR98bo
―…と言ったけどあれは嘘だよ―

●‡‡‡

ショウ「理央ルートENDおつかれさまーっ☆」

ショウ「メインシナリオとはあまり関わり無いルートだったけど、各キャラクター達の隠された一面も結構見れたんじゃないかな?」

ショウ「あ、ボクのそういうのは気にしないでね?明かして面白いような正体は持ってないから☆」


ショウ「と言う訳で…それじゃ引き続き、四周目のルート選択行ってみようかぁ!」



ショウ「B…理央ルート」

ショウ「C…空ルート」

ショウ「D…黄色ルート」

ショウ「Σ…シグマルート」



ショウ「…彼のルートは未だ出ず…か」

ベリル「あらあら…私、ルート次第では次が最後の活躍になってしまいますのね」

ショウ「って、いつの間に!?いや…呼んで無いのに勝手にここに入って来ないでくれるかなぁ?さぁ、帰った帰った!」


(しばらくお待ち下さい)


ショウ「さて、気を取り直して…ルート選択は >>417 くんにお願いしちゃおう!」

418: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/06(火) 06:26:30.24 ID:NQ/Qqoywo
ショウ「理央ル-トだね?」

ショウ「それじゃカレンルートの時と同じく、自動的に偽者の世界で進ませてもらおうかな」

419: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/06(火) 06:33:10.09 ID:NQ/Qqoywo
―死霊の行進 生者の懺悔―

○前途多難のグレイブディガー

総統「―――………以上が今回の任務内容になる訳だけれど…引き受けて貰えるかい?」

理央「は…はい、問題ありません。引き受けさせて貰います」

総統「そうか、すまないね。もし途中で危険を感じたり、辞退したくなったら…」


理央「いえ、大丈夫です。そ、そろそろ祖父とは直接会って話さなければいけないと思っていましたから」


総統「では、先にこれを渡しておこう」

ニヤ「P器官活動抑制剤……思ったよりも早く実用にこぎ付けたッスね」


総統「それも全て君達のお陰だよ。と言っても…まだまだ副作用を完全に取り除くには至って居ないけれどね」


理央「副作用は睡眠導入…抑制効果の開始から30分程で発生…ですか」

総統「今更言うまでも無い事だろうけど…使用時には充分気を付けてくれ給えよ?」

ニヤ「睡眠導入ッスか…そうなると誰を護衛に付けるかが問題になる所ッスけど…」


総統「一人は彼を…もう一人は、本来カレン君にしたかったんだが…」

理央「例の、犯行予告とも取れる書き置きがありますから……離れるのは、得策ではありませんね」

ニヤ「それに加えて、キングダムの船が日本に向かって来ているって言う情報もあるッスから…下手に人員は割けないんッスよねぇ」


総統「と言う訳で…君の方の伝で誰か外部からの協力をお願いしたいのだが。心当たりは無いかね?」


黄色「んー………っと、ちょっと待ってくれ。まず…アウィスは近隣のモンスター討伐で…リーゼもそれに同行か」

ニヤ「あー、リーゼちゃんが来てくれたら心強かったんッスけどね…」

黄色「あぁ、そーだ。ユーキに頼んでみっか?」


総統「ぶふっ!げほっ!ごほっ!…!い、いや!さすがに彼に助力を求める程の事では無いだろう?!」


黄色「だったら…朱桜姐さんか、紫杏姐さんに」

総統「いやいやいやいや………君は私を心労で殺す気かい!?」

黄色「つってもなぁ………丁度良さげな按配のヤツが………あぁ、そー言やぁ一人こっちに来てたな」


ニヤ「こっちに来てるって………まさか、シヴィトちゃんにお願いする気ッスか!?」

420: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/08(木) 07:15:57.71 ID:fWdByXt2o
●残響デッドスメル

俺「それで……えっと、貴方が…シヴィト…さん………ですか?」

ゴシックドレスに身を包んだ女性………女性?

年上と聞いていたが、どう見ても俺…いや、理央よりも年下にしか見えない少女に向けて問う。


シヴィト「……そう、シヴィトと呼び捨てで構わないわ。…君達が、彼の言っていた後輩?」

そして、肯定の言葉と共にシヴィトは俺に近付き…おもむろに匂いを嗅ぎ始める。


俺「え?えっと…何か変な匂いでも?」

シヴィト「変な匂いでは無いけれど…死臭がする」


俺「――――!!?」


死臭…その言葉を聞き、不穏な心音と共に何故か全身から嫌な汗が吹き出る。

俺「は?…え?それってどう言う……」

シヴィト「…心当たりが無いのなら、多分知らない間に触れてしまっただけだと思う。気にしなくても大丈夫」


俺「…………」


気にしなくても良い…と言われても、否…気にしなくて良いと言われたからこそ気になってしまうのが人の常。

出だしから不安を煽られるような事を言われ、気が気では無い中…


組織の護送車らしき車が、俺達の近くで停車した。


俺「あぁ、そだ。今回の任務は…確か輸送だったよな?目的地と物はどうなってるんだ?」

理央「あ、はい…では、その辺りの説明は車内で行いますので…ま、まずは乗って下さい」


理央に促されるまま、護送車に乗り込む俺とシヴィト。

そして最後に理央が乗り込んだ所で…


目的地に向けて、護送車は走り出した。

421: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/08(木) 07:32:15.16 ID:fWdByXt2o
●直結タブレット

シヴィト「護送任務と聞いていたけれど……それ?」

目的地へと向かう途中…俺の懐を指差し、シヴィトが問う。


と言っても、俺の懐にあるのは…内ポケットの中の財布くらいの物

質問の意図が掴めないため、俺は聞き返す事にした。

俺「いや、この中には俺の私物しか無いんですけど…何か気になる物でも?」


シヴィト「悪魔の薬…ここに存在する物の中では、それが一番異質だったから」

言われて初めて思い出す、その存在。以前、魔女の茶会で鴉姫から貰った薬。

用法も用量も聞かず終いだったため、とりあえずタブレットケースに入れて、財布の中にしまっておいたのだが…正直、完璧に忘れていた。


理央「そう言えば、そんな物もありましたね…でも、今回はこちらの文献です…」

と言って示すは、理央が両手で持ったジェラルミンケース。

明らかに入れ物の方が重くて頑丈な事から、中身は相当に貴重な事だと予想出来る

…と言うか、護送任務にするくらいなのだから今更か。


俺「………って、この薬の事まで知ってるのか!?あ…もしかして、この薬の効果も理央の能力で判ったりもするか?」

理央「先輩が持ち歩いている物ですから、半自動的に把握しています。でも…聞いたら多分、先輩はダメージを受けると思いますよ?」

俺「聞くだけでダメージを受けるような効果って何だよ…平気だから教えてくれないか?」


理央「 薬です」

俺「……………はぃ?」


理央「知らなかった事とは言え…先輩は、女性との行為に及ぶための道具を財布に入れて持ち歩いて居た訳です」

理央の言葉を聞き、体中からダラダラと汗が溢れ出る。


俺「え?何?それってつまり…サイフの中にゴム入れて持ち歩いてるあれ系と同じって事?」

理央「…と言うよりも…クスリを使って無理矢理にでも出来てしまう分、それらよりもずっと性質が悪いですね」

容赦無く突き刺さる理央の言葉により、崩壊寸前のガラスハ-ト。


何?何なのこの状態!?公開処刑!?

俺が意図した事でも無いのに、女性二人に挟まれて晒し者になるって何の罰ゲーム!?

もしかして鴉姫はこういう事態を想定して、わざと渡したんじゃ無いのか!?

何て事をしてくれるんだ!鬼!悪魔!!……いや、うん…落ち着こう。そもそもアイツは悪魔その物じゃないか


………って、悪魔だからって納得しちゃダメだろ!?


シヴィト「大丈夫………彼も、そういう道具は常に持ち歩いてるから…」

俺「って、黄色先輩と同レベル!?」

因みにこの場合、黄色先輩と書いてxxxxと読む。


色んな意味で打ちのめされた俺のハートは、もう完全に粉々に砕けて居た。

423: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/10(土) 06:22:36.18 ID:0pJJDU6po
●黄昏時のタクティクス

そして…車で走る事4時間半。

シヴィトの黄色先輩との惚気話や、理央による暴露話に花が咲き…外の景色はもう夕暮れ。

俺の精神が限界まで磨り減った所で、ようやく目的地へと辿り着いた。


俺「しっかしまぁ…随分と山奥に来たもんだよなぁ。ってかこの屋敷…何ヘクタールあるんだ?」

理央「能力の関係上、人里から離れた場所に住んでいる方が都合良いので。あと…住人同士でも出来るだけ離れるために、わざと大きな家にしているんです」

俺「へぇ………」


詳しいんだな…と言いかけた所で、ふと視界の端に入る表札

改めてその表札を見る事で、俺の中に一つの可能性が浮かび上がった。


俺「なぁ…間違ってたら悪いんだが…ここって」

理央「はい、私の実家です」


的中した予感…だからどうしたと言えばそこまでだが、どうにも野次馬根性が疼いてしまう


俺「んじゃぁ、今回の任務の相手って…」

理央「私の祖父です」


次から次に湧き上がる疑問………

両親は?兄弟は?何故理央だけ一人で組織に?そもそも、操られてキングダムに居た時、家族は何を?


だが素っ気無く答える理央の言葉の裏には、触れるをよしとしない部分も見て取れる。

なので…俺は言葉を飲み込み、それ以上の質問を堪える事にした。


理央「ありがとうございます。でも………先輩がどうしても知りたくなったなら聞いて下さい。答えますから」

が………それも、理央には言葉通り読まれて居たらしい。


そして沈黙が生まれた所で、理央はタブレットケースを取り出し……その中の錠剤を一つ飲み込む。

俺「ん?何だその薬」

理央「P器官活動抑制剤です。私と祖父の超能力は相互干渉で大きな問題が発生してしまうので…」


俺「そのための予防策…か」

理央「ただこの薬には副作用があり、30分後には眠ってしまいます。効果が出るまでに10分かかってしまうので…」

俺「実質上の効果時間は20分だけか。んで…眠った後は俺とシヴィトでサポートって事だな」


理央「はい…お手数をおかけします」

俺「チームなんだから気にすんなって」


そんなやり取りを交わした後、改めて理央がインターホンを押し…

家政婦らしき人物に話を通して、屋敷の中へお邪魔する運びとなった。

424: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/10(土) 06:27:49.63 ID:0pJJDU6po
●曲がり角のミステイク

俺「あれ?春風さん、何でこんな所に?」

廊下を進む途中…曲がり角で出会ったのは、見知った顔。


春風「あら、こんにちわ。ちょっと祖母の遺品を届けに来て居たんですけど…。其方は可愛らしい恋人さんを二人も連れて…あぁ、お孫さんを下さいってお願いに…」

俺「違います!!」

春風「フフッ冗談ですよ。それじゃ…私は失礼しますね」


シヴィト「今のは…誰?」

俺「同じアパートの春風さん。あぁ、そう言えば旧姓が………そっか、理央の親戚だったのか」

理央「はい…祖父の姉のお孫さんに当たる人です」


何故か…不機嫌そうな顔を赤く染めながら返す理央。

春風さんと何かあったのだろうか?…と勘繰ってしまうが、それを口に出す程の無遠慮さは持ち合わせて居なかった。


そう………そうで無くても今日は、理央に質問したい事ばかり

聞く事だけでなく、聞かない事さえも躊躇してしまう。


この空気は苦手だ。


早く任務を終わらせてしまいたい。

帰ってからいつもの日常に戻りたい。

そして、ほんの些細なきっかけから、少しずつ聞き出せて行ければそれで良い…

そんな想いを胸に秘めていたのだが………


この後…その願いの内一つが叶う事になって尚、愚痴を零す破目になるのだった。

425: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/10(土) 06:36:18.96 ID:0pJJDU6po
●不満炸裂ヒュプノシス

理央「………以上が、組織から返却させて頂く文献の全てです。検め下さい」

源十郎「うむ…………確かに」

理央がジェラルミンケースを差し出し、その持ち主である理央の祖父…源十郎氏が受け取って中身を確認


理央「では、これにて失礼させて頂きます」

源十郎「ご苦労だった」

万事滞りなく、これで任務は完了。


となったのだが………何故かそれが腑に落ちない俺が居る。


俺「あの…ちょっと良いですか?」

源十郎「何だ?」

俺「源十郎さんって、理央の祖父…お爺さんなんですよね?」

源十郎「いかにも」


俺「だったら…もうちょっとこう………」

理央「………」

源十郎「言いたい事は判らぬでも無い。だが…身内と言えど、今は業務の最中。特別扱いする訳にはいかぬ」


余分な言葉を発っする事無く…いや、揚げ足を取られる言葉を発する事無く切り返し、反論の余地を与えない源十郎氏。

至極当然の文面で丸め込もうとして来ては居るが、だからこそ…それが不審でならない。

我ながら短気な事この上無いと自覚はしているのだが…ついつい、我慢しきれず切り返してしまう。


俺「じゃぁ聞きますけど…仕事以外のプライベートでは特別扱いしてるんですか?」

源十郎「………」

言葉を詰まらせ、黙り込む源十郎氏。

しかし納得の行く言葉が返って来ない以上、俺も手を緩める訳には行かない。


音を上げさせるための追い討ちとして、更なる言葉を放とうとした…その時

理央「…………先輩」

理央が俺の袖を摘み、何かを訴え掛けて来た。


そしてその手が離れ、理央の体が倒れ込んで来た所で…気付く

源十郎氏との口論に没頭する余り、失念していた……抑制剤の副作用だ。


源十郎「理央を蚊帳の外にやったまま、まだ話を続けるか?」

遠回し…いや、直接言って居ないだけで、源十郎氏は限りなく直球で帰れと言っている。

圧されて退くのは癪だが、ここに居残るだけの大義名分も俺には無い。


渋々ながらも、理央を抱き上げてその場を去ろうとした…その時。


それは起きた

426: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/12(月) 13:44:29.56 ID:wKdW/nIIo
●進撃のドラゴントゥース

源十郎「…………」

シヴィト「……………」

突如、示し合わせたかのように庭の方……いや、その更に先へと視線を向ける二人。


俺も慌ててそちらを見るが、何も確認出来ず……いや

庭の木々を超えた遥か向こう…山奥の木々の間で光る何かが見える。

そしてその何かは、俺が突き止めるよりも先に…実力行使で存在を誇示して来た。


パトリオットにより弾き返され、庭先へと沈み込む弾丸。


そう…先の光の正体はスコープの反射光。そして今この瞬間も、狙撃手が俺達を狙っている。


俺「伏せろ!狙撃手だ!」

俺がそう叫ぶも、二人は従おうとはしない

いや…それどころかシヴィトに至っては、何故か立ち上がって狙撃手の方を向いている。


シヴィト「さっきの…君の能力?防御は任せても大丈夫?」

俺「え?あ、あぁ…5メートル以内に居てくれれば…」

シヴィト「じゃぁよろしく…攻撃は私がする」


一方的に言い切り、パトリオットの効果範囲ギリギリまで歩いて行くシヴィト。

そこから、おもむろに口の中の中に指を入れたかと思えば………

ゴキッ!ゴキッ!……と、何かを折るような音が二回。


俺「おい、一体何………」

問いを向けるが…それを終えるより先に、行動によって答えが明かされる。

シヴィトの手の上に乗っている、二本の歯…いや、牙。


そしてシヴィトが、その牙を庭先に放り投げると………今度は、牙が落ちた場所に異変が起きる。


枯れ行く木々…カラカラに干からびる地面。かと思えば今度はその地面が盛り上がり…


二体の……角の生えた巨人が、その姿を現した。

427: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/12(月) 13:51:05.35 ID:wKdW/nIIo

●偽装崩壊アムネシア

人間の…いや、生物のそれとは思えない程の俊敏さで山の中に消え、木々を薙ぎ倒しながら突き進む…巨人の内の一体。

これでもかと言う痕跡を残しながら、巨人達は狙撃手の居た場所…いや、そこから少し進んだ場所…逃げ込んだと思われる場所に辿り着き…

轟音と共に、巨大な土煙が噴き上がる。


そうして…後に訪れる静寂が決着の狼煙替わになり、事態の収集を告げる事になったのだが…

圧倒的な戦力差とでも言うべきか…そんな感じの物を味方に見せ付けられた気がする。


俺「何だったんだあれ…物凄い戦闘力だったよな」

シヴィト「あれは私の特殊能力…ドラゴントゥースウォーリアー。新鮮な歯と土地の力で、今回はスパルトイ級を作り出せた」

問い…返される答え。


俺は安堵のため息をつき、肩の力を抜くのだが……それも束の間。

新たな敵…フルプレートを身に纏った大男が、天井を突き破って現れる。


俺は新たな敵に向けてパトリオットを放つ…が、その巨大な体躯に対しては余り効果が無し。

畳を突き破りながら着地して…大男が。まず始めに定める狙いは………不味い、理央だ。


何度も何度も何度も……1秒間の間に数え切れない程のパトリオットを撃ち込んでも、大男の足は止まらない。

シヴィトが作り出したドラゴントゥースウォーリアーも、大男と理央との間に向かうが…間に合いそうにも無い。


駄目だ…………間に合わない…理央が襲われる。

理央が襲われる……理央が…………死ぬ

理央が死ぬ 理央が死ぬ 理央が死ぬ 理央が死ぬ 理央が……死ぬ?


駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ

許容出来ない 許せない いや違う 嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

もう二度とあんな想いはしたく無い あんな悲しみは沢山だ あんな苦しみは沢山だ


………あんな苦しみ? あんな悲しみ? あんな想い? 何の事だ? 俺は何を言っている?

俺は………嫌だ…何を…嫌だ…思い出そうと…嫌だ…している…?


俺「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

428: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/12(月) 13:53:54.30 ID:wKdW/nIIo
●極限ハートブレイク





俺「ハァッ…ハァッ……ハァッ…!!」

シヴィト「君…一体幾つの能力を持ってるの?」

俺「理央は…理央は……理央は!?」


叫びながら周囲を見回し、理央の安否を確認する。

俺の後方…木片や瓦の欠片などは被ってしまっているが、辛うじて理央は無傷

大男は……ドラゴントゥースウォーリアーに頭を叩き潰されて死んでいる。


良かった………理央は無事だ


安堵の溜息…

それと共に胸に走る、突き刺さるような痛み………

いや、違う……突き刺さるようなじゃ無い。


見下ろして初めて気付いた

胸に突き刺さった金属片

大男の爪を形成していた金属の破片。


胸元の傷からは血が流れ出し

触れた手を赤く染めていた。


やばい…俺はこのまま………死―――

429: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/12(月) 14:05:00.44 ID:wKdW/nIIo
●喧騒ホリディ

シヴィト「死の恐怖に染まった顔をしているけど…その傷では死なないわよ?」

俺「…え?」

シヴィト「財布…見てみると良い」


シヴィトに言われた通り、懐に入れた財布に手を伸ばす…と、そこから痛みが駆け巡る。

いい加減痛みに苛まれるのも馬鹿馬鹿しいので、俺は金属片を引き抜こうとする……と、そこで気付く。


俺「え?もしかして………懐のこれ…財布のお陰で致命傷を避けたとか…そんなお約束なオチ…?」

シヴィト「お約束なオチ…らしい」


張り詰めていた糸が切れ、俺はその場にへたり込む。

引き抜いた金属片を床に起き、まずは傷の確認。ほんの数センチ刺さっていただけで、命に別状は無し…

財布を取り出すと、切り口から小銭やら割れたカードやらの中身が飛び出すが…わざわざそれを拾うような気力も残っては居なかった。


源十郎「では…今後の事について話しておこう」

俺「え?今後ってどう言う…」

源十郎「先の大男の記憶を読んだのだが…奴等の狙いは儂と理央らしい」


俺「複数形なのは…狙撃手と大男の事だけじゃ無いんだよなぁ?」

源十郎「左様、残りは二人…主犯の男と怪物が一体」

俺「怪物って何だ…さっきの大男よりもエグいのが居るってのかよ」


シヴィト「因みに…今は匂いが届かない程遠くに居る」

俺「って事はあれか?目的はハッキリしてても、いつ襲われるか判らない…と」

源十郎「そうなる。まぁ、そのお嬢さんでは探知出来ずとも…今は儂の能力で行動を把握してはいるがな」


俺「どうする?組織に増援を要請するか、安全な場所に移るか…」

源十郎「人の多い場所では、探知に支障が出る上に被害が拡大する恐れがある。待ち受けるのならばここに居た方が都合が良いだろう」

シヴィト「増援に関しても、多分人員は裂けない筈…それに、私が居るから戦力だけなら問題は無い」


俺「んじゃ現状維持として…日帰りで終わる筈の任務が、とんだ延長だな。ってか…俺と理央は良いとしても、シヴィトは良いのか?」

シヴィト「本来はすぐ帰る筈だったから、余り良くは無い。でも………」

俺「でも?」


シヴィト「頑張れば頑張っただけ彼に愛してもらえる…だから残るわ」

そう言って怪しげな笑みを浮かべる。


出会った時から薄々感づいてはいたが、今確信した。

この人、ヤンデレだ。

431: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/13(火) 15:30:29.15 ID:n2yrzdAvo
●無意識下のデジャヴュ

シヴィト「それじゃ…篭城のプランだけど、理央とお爺さんは近くに居られないんだよね?」

源十郎「左様…だが、理央が離れに居れば相互干渉を避けられる」

シヴィト「なら…私が理央の方に居て」

俺「俺が爺さんの方。片方が襲われるようなら、もう片方が救援に向かう…そんな感じで良いな?」


と言った流れで割り振りが決まり、それぞれの持ち場へと向かう途中

理央を背負ったシヴィトが振り返る。


シヴィト「そう言えばさっきの事だけど…何故君は他人のためにあそこまで感情的になったの?」

俺「さっきって…理央が襲われた時の事か?あの時は無我夢中で…」

シヴィト「うぅん…そっちじゃなくて、お爺さんと話してた時」


俺「あれは………何でだろうな。何て言うか………イライラしたから…かな」

我ながらお粗末な答えになってしまったが、何故かシヴィトは満足した様子

シヴィト「やっぱり君は…どこか彼に似てる」


俺「って、またそれか!?それって褒められてるんだろうか、貶されてるんだろうか…」

シヴィト「大丈夫…褒めているから」


そして最後に意味深な笑みを浮かべ…シヴィトは離れへと歩いて行った。

432: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/13(火) 15:35:07.63 ID:n2yrzdAvo
●黒塗りのブランク

警戒態勢は二交代制…源十郎氏が起きている時間帯はそちらがメインで、屋敷周辺を索敵待機。

逆に寝ている時間帯には理央が母屋に赴き、最低限の範囲を索敵と言う手順。


最初の打ち合わせ通り、俺は源十郎氏…シヴィトは理央のに付いて護衛

ちなみに今はまだ理央が目覚めないため、源十郎氏と俺が待機状態で母屋に居る。


源十郎「ときに…一つ聞いておきたいのだが、お主は一体何者だ?」

俺「は?」

唐突に…そして予想外な内容の問いを向けられ、俺は戸惑う


俺「いや、理央と同じ…それ以上のリーディング能力を持ってるんだろ?だったら、俺本人よりも俺の事知ってるんじゃ?」

源十郎「儂もそう思っていた…いや、実際にそうなのかも知れぬが、それでも不可解な事があるのでな」

俺「何だそれ…判るように…と言うか具体的に説明して欲しいんだけど」


源十郎「お主の過去…お主が自分自身を構築する記憶以外の物が見えんのだ」

俺「…え?それってどう言う事だ?…当たり前の事じゃ無いのか?」

源十郎「お主がお主であるために必要な記憶はそこにある…が、それとは異なるお主の記録は何も無い」


源十郎氏の言葉を聞き、何故か背筋に寒気が走る


俺「あ、それってもしかして…住んでる所が原因じゃないかな?あそこって、リーディング全般が阻害されるから…」

源十郎「それもあるかも知れぬ…が、それだけでは説明の付かぬ部分もある。もし場所が原因ならば、それ以前の―――ん?」

途中で途切れる源十郎氏の言葉。


源十郎「無粋な奴等よ……来おったな?」

そして途切れた言葉に続くのは、他でもない……敵襲の合図。


俺は立ち上がり、臨戦態勢を取る。

引用元: リア充爆散しろ