【咲SS】京太郎「神の一手は俺が決める!」アカギ「クク……やってみろ」【アカギ】 前編 

【咲SS】京太郎「神の一手は俺が決める!」アカギ「クク……やってみろ」【アカギ】 中編

406: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/13(火) 23:13:37.27 ID:4BCZh551o


 鶴賀での運命の対局から明けた翌日
 勝負に敗北した原村和は、実に晴れ晴れしい表情で部室に顔を出していた

 今までの憑き物が取れたような顔つきに
 誰もが――彼女の身に何かがあったことを悟る

久「結果は満足だったようね、和」

和「……はい。私の完敗でした」

 牌を整理しながら、朝練に没頭する和
 同じく朝早くから来ていた久とまこに、昨日の出来事を話す

和「私は、全国での優勝で目的を無くしていました」

 加えてあの出来事――
 和の心は拠り所もなく、ただ虚空の中を漂うばかりだった

和「でも、今は須賀君は私の目標です。彼に追いつく為に、私はやれることをやりたいんです」

久「ふふっ、それは麻雀のこと? それとも別の意味かしら」

和「両方です」

まこ「おぅ? 和が馬鹿正直に答えるとは驚いたのぅ」

和「私は須賀君のことが好きです。胸を張って、そう言い切れますよ」

久「あらあら、優希が聞いたら大変よ?」

 親友同士で男を取り合うなど、フィクションの中だけで十分だ
 しかし和は意に返すことなくこれまた平然と

和「ゆーきにはもう伝えました」

久「えっ?」

和「フェアに勝負したいので」

 あっけらかんとした物言いだ
 呆れてものも言えないのは、久とまこの二人である

まこ「ベタ惚れじゃのぅ」

久「ベタ惚れねぇ」

和「ベタ惚れです」クスッ

 あの堅物の後輩が、こうも柔軟になったことは喜ばしいことではある
 だが同様に、どうしても懸念しなければならないことも

 それは――

久「あの馬鹿ども、ね」

 原村和親衛隊
 彼らがこの事実を知れば――京太郎は無事では済まない

久「くれぐれも、他で口外しないようにね」

和「はい。勿論です」

 少女達は気付かない

 仲間内だけで共有する秘密
 それは鉄のように硬く守られるものだと、愚かな勘違いをしている

 なぜならその鉄の絆さえも


優希「……」コソッ


 内側から徐々に錆び付いていることに
 気づけていないのだから


407: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/13(火) 23:26:25.44 ID:4BCZh551o


【清澄 校舎裏】

 和の対局後
 一体どこから情報が漏れたのか、清澄高校ではとある噂が立っていた

 それは須賀京太郎が原村和を制し、正式に大会への出場権を手にいたこと
 そしてもう一つ
 

 勝利した京太郎に対し、原村和が好意を抱いている――


 そんなこと、当然彼女の親衛隊が見過ごす筈もなく
 京太郎は朝早くから、学校の校舎裏に呼び出しを受けていた


男子A「……!」

京太郎「……」ザッ

男子A「ふーん。本当に来るとは驚いたな……」

男子B「へへっ」

男子C「よし、ついてきな」

 
 原村和親衛隊
 勝手にそう名乗り、彼女に近づく男子生徒を排除するゴミ共

 以前までは某教師の後ろ盾もあり、息巻いていられたが
 竹井久の  トゥーキックを受けて、教師Aは一名を取り留めたものの

   を摘出し、彼はオカマとなってしまった

 今日はその報復も兼ねている


男子A「おらぁ!」ベキッ

京太郎「っ!?」ドサッ

男子B「よく来た……えっ……? よく来たよ……」

 キンッ!

京太郎「ぐっ……」ッ…ツツ……

男子C「おい、頭はやめろ! 死んじまうぞっ…!」

男子A「ふん。かまうこたぁねぇよ。こんなガキいつくたばろうと……」

 ヒュッ カッ!

京太郎「……」ドッ 
 
 ガクッ…

男子A「フフ…悪いがオレはまだ未成年だ。人ひとりころしたってどうってこたぁねぇ」

男子B「ガキどうしのケンカのもつれだ…」

414: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/13(火) 23:39:17.89 ID:4BCZh551o

 
男子B「どうした須賀、戦わなきゃ自分の身は守れねえぞ……!」

男子A「テメェをぶっ殺してやる」

京太郎「へぇ……」

 すると、今まで殴られる一方だった京太郎がゆっくりと立ち上がる
 鋭い眼光に狂気を孕んだ表情

 しかし、目が曇っている彼らに
 それを見極める術はない――

京太郎「クク……まだ……足りねぇよ」

男子C「あ?」

京太郎「いくら未成年でも、三人も殺したらマズイだろ?」

 平然と
 まるでファミレスでメニューを注文する時のようにスラスラと

京太郎「なんとか正当防衛だって言い訳が通用するレベルに傷を負わないとな」

 ざわ……
   ざわ……

男子C「は、はぁ?」

男子B「調子づいてんじゃねぇぞ!!」

男子A「くく……なんて言った? え……?」

 バキッ!!

男子A「えっ…? なんて言った? ……なんて言ったんだ……?」ドカッ
 
 ビシッ バキッ

男子A「このガキ……!」

男子C「おいっ、やめろよっ!」

男子B「やめろっ……!」

 殴られ、叩かれ、蹴られ
 血反吐を吐きながら、京太郎は耐える

京太郎「……」フラ

男子C「やめろっ……て……」

男子B「お前も謝れっ…! こいつ切れると何をするかわからねぇ!  謝れっ……!」
 
京太郎「……イラつくんだよ、テメェら」ボソッ

男子A「このぉっ……!」







警官A「警察だ!」

警官B「取り押さえろ!」


男子A「え?」

男子B「……?」

男子「は?」

421: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/13(火) 23:45:38.85 ID:4BCZh551o


男子A「うわぁ!?」

男子B「なんでこんなところに!?」

警察A「なんだこの鉄パイプは? 証拠物件として押収するからなぁ~?」ネットリ

警察B「君、大丈夫か?」

京太郎「ええ。ありがとうございます」

男子C「て、テメェ! どういうことだ!?」

京太郎「馬鹿じゃねぇの。昭和じゃねぇんだから、今はケータイってのがあるんだよ」 プラプラ

 京太郎がポケットに忍ばせていたのは通話中の携帯電話
 これでずっと、会話を流していたのだ

男子A「このガキ!!」

警察A「おとなしくしろ!!」

男子A「ぐぅっ! ひぃっ!」

京太郎「クク、切れたセンは繋がったかい?」

 警察に取り押さえられ、子供のように怯える親衛隊達
 彼らはこれから、未成年を強制する施設

 【人間学園】に送られ、真っ当な好青年に育てられることであろう

京太郎「こんなヤロー殺しちまえってことは、自分もおなじ目にあっても構わないだろ?」

 もっとも
 死ぬよりも辛い目に合わせた方が、いい場合もある

 これから先
 前科者として、学歴も中退どまりで生きていく哀れな人生を思えば

 哀れみすら覚える、愚かな男たち

京太郎「そうだろ? そういう意味なんだろ…?」

男子A「ひっ! 許してくれ! こんなつもりじゃ……!!」

426: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/13(火) 23:54:20.30 ID:4BCZh551o

>>423
 そうだよ(震え声)




京太郎「フフ……オレがまだ中学の頃……」

 アレは電車に乗っていた時のことだ
 朝練の為にいつもより早く出て、通勤ラッシュの時間にモロかぶりした

京太郎「痴漢を取り押さえたことがある。躊躇したこともある」

 だが、泣いて震える少女を見過ごせなかった
 たとえ取り押さえた男が、妻子を持つであろう中年の男でも

 社会的地位を数十年かけて気づいてきたであろう
 幸せを享受すべき人間であろうと

京太郎「…今…そんな気分だよ……」

男子A「た、助けっ!」

男子B「いやだぁぁぁっ!!」

男子C「ママァァァァ!!」

警察A「で、では署まで連れて行きますので」

警察B「追って連絡します」

京太郎「どうも、お疲れさんっす」


 こうして、原村和親衛隊なる馬鹿な組織は終わりを迎えた
 これで和の肩の荷もいくらか降りるだろう


アカギ「クク……優しいこった」

京太郎「あら、見てたんですかアカギさん」

アカギ「オレならもっとスマートにやるよ」

京太郎「スマート(物理)じゃ、ちょっと動きにくい時代なんすよ」

 昔と違い、今は色々と厄介事が多い
 それに、ただボコリ返しただけでは、和の身の安全は確保できないから
 
アカギ「ま、そういうところはおいおい教えてやるよ」

京太郎「アカギさんが言うとすごく頼もしいですね」

 滴る血を拭い、京太郎は校舎裏から出る
 このまま授業に出てもいいが、この一連の騒ぎの後ではどうも居づらい

 ここはサボるに限る

431: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/14(水) 00:04:18.95 ID:0b0GEMxQo


 校庭では引きづられて、連行されている親衛隊が多くの生徒に囲まれていた

 彼らの横暴さには周囲の人間も思うところがあったのか
 誰もが口々に馬鹿にした声をあげ、笑い声を抑えようともしない

京太郎「そんじゃ、燃料投下っと」ポチッ

 最後の仕上げとして
 先ほどの親衛隊の音声をアップして拡散する

 当然、自分の都合の悪いところは録音していない

京太郎「これで俺に対する風当たりも少しはマシになるか」

 殴り返しては悪いイメージが更に広がるだけだ
 あくまでこちらは一方的な被害者

 そうすることで、京太郎の印象はよくなり
 引いては麻雀部での噂も、落ち着いていくことだろう

京太郎「新しい機種は使いやすいな、このスマホ」スイツィー

アカギ「なぁ京太郎。すまほってなんだ?」

京太郎「スマートなフォンですよ。画面をこうやってタップするんです」

アカギ「へぇ、そいつは初耳だ」

 まるでおじいちゃんに物を教える孫である
 けれど、こんな関係が妙に心地いい




優希「……」

 と、ここで京太郎を物陰から見つめる少女の姿があった

 片岡優希
 彼女もまた、須賀京太郎に想いを寄せる少女である

優希「こんな筈じゃなかったじぇ」

 
 なぜ、原村和が須賀京太郎に好意を抱いていることが噂になったのか
 どうして京太郎があの三人に襲われることになったのか

 それは一人の少女の 
 

優希「私が、私だけが味方だって……証明するつもりだったのに」


 欲に満ちた思い込みによるものだ

434: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/14(水) 00:15:37.24 ID:0b0GEMxQo


 そんな裏切りを知ってか知らずか
 京太郎は騒然とした校庭の脇を抜けて、校外へ出る

京太郎「さーてと。どうすっかな」

アカギ「……フフ。暇か?」

京太郎「なんですかその顔。何かロクでもないこと考えてません?」

 何やら含みを帯びたアカギの表情に、京太郎は一歩引いて構える

アカギ「そう構えるな。お前にいい場所を教えてやるよ」

京太郎「いい場所?」

アカギ「ああ。それは――」

 言いかけるアカギ
 しかし、それを遮るように……

咲「京ちゃん!!」

 京太郎の旧知の友が、姿を見せた

京太郎「咲?」

咲「はぁ、はぁ、どうしたの? ケンカしたって聞いたよ!?」

京太郎「ケンカなんてしてねぇよ。一方的に殴られただけだ」

 肩で息をする咲を見るに、どうやら血相を変えて駆けつけたらしい
 何も知らず、ちやほやされていただけの咲には

 この事実は受け止められないだろう

咲「酷い。すぐに病院に行かないと」

京太郎「いいってこれくらい。屁でもねぇよ」

咲「だ、だったら学校に行こうよ。どこに行くつもりだったの?」

京太郎「どこでもいいだろ。この状況で教室に行けるわけないだろ?」

咲「でも! なんか最近の京ちゃん、変だよ!」

京太郎「!」

 自分が変?
 それはどういう意味なのか?

咲「麻雀が強くなってから、京ちゃんが京ちゃんじゃないっていうか」

京太郎「……」

咲「こんなのおかしいよ。クラスメイトと喧嘩して、怪我して、こんなの京ちゃんじゃないよ!」

 京ちゃんじゃない
 それは、何も知らない咲だからこそ言えるセリフだ

 虐げられ、悩み、苦しんできた京太郎のことなど考えない
 身勝手なセリフ

 つまり彼女はこう言いたいのだ

咲「私は! 前の京ちゃんの方がよかった!」

 弱い頃のアナタに戻って、と



 ブチッ



京太郎「ふ、ふはは……あはははっ!」

441: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/14(水) 00:21:47.50 ID:0b0GEMxQo

咲「京、ちゃん……?」

アカギ「あらら」

 何もかもが壊れたように感じた

 自分がこれまで必死に守ろうとしていた絆が、友情が
 こんなカタチで裏切られるとは思ってもいなかった

京太郎「俺は、お前にとってそういう扱いなんだな」

 弱くて、情けなくて、いつも優しい友達
 優越感を感じつつ、不快感も無い……そんな友達

咲「ちがっ、そうじゃないよ。ただ、前の京ちゃんはもっと!」

京太郎「咲」

 一言
 ただ――名前を呼んだだけ

 それなのに、以前とはまるで違う
 威圧感と、重みを含んだ声

京太郎「俺はもう、お前の知っている奴じゃない」

咲「……」ゾクッ

 黒く濁ったように思える瞳は
 よく見れば濁ってなどいない

 ただ純粋に黒いのだ

 闇を見通し、染まってしまった黒

 彼は今まさに、決意を固め――

京太郎「立ってる場所も、価値観も、目指す場所も」



 羽化を迎えたのだ


京太郎「お前とは違う」

咲「っ!」

アカギ「……」ニィッ


444: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/14(水) 00:30:26.21 ID:0b0GEMxQo


咲「京ちゃん……?」

京太郎「じゃあな咲。それと、大会は俺と出るんだぞ」

 背を向け、足を進める
 振り返りはしない

 もうそこに、彼の求める光は無いから

咲「大会? 待って! どういうことなの!?」

京太郎「……」

 答える必要も無いこと
 今の京太郎にとって、居心地がいいのは闇の世界

アカギ「クク……いいのか京太郎?」

京太郎「ええ。覚悟決めましたよ」

 だから

京太郎「行きましょうかアカギさん」

アカギ「行く? まだどこかも教えてないぞ」

京太郎「構いませんよ。アナタが導いてくれる場所なら、そこは面白いに決まってる」

 それはいつからだろうか?


 一人で久達三人と戦った時

 藤田靖子を下した時

 原村和を倒した時


 それとも、目の前の男に出会った瞬間からだろうか

京太郎「勝負したいんです。もっと、胸の奥が焼け付くような」

 チリチリと身を焦がす勝負
 それを求めている自分がいる

 ただの麻雀ではなく、もっと

 もっともっと、地獄に歩み寄った戦いを

アカギ「フフ……いい顔だ」

 アカギは笑う

 それは自分が楽しいからなのか
 それともまた、違う意味なのか 

 わからない
 自分自身でもきっと、彼は理解していない

アカギ「後悔するなよ?」

 ただ、確信めいていることがあるとすれば

京太郎「勿論です」

 須賀京太郎という男は紛れもなく
 

 強くなる


449: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/14(水) 00:43:57.09 ID:0b0GEMxQo


【都内 某所】


智葉「……終わりだ」

黒服「お見事ですお嬢」

 裏麻雀
 組同士のゴタゴタや、揉め事に使われる勝負は日夜行われている

 これはその勝負の中の一つだった

智葉「弱すぎる。もっとマシな相手が欲しい」

黒服「申し訳ありません。マッチメイクしたいのは山々なのですが――」

 数多くの代打ちと勝負してきた辻垣内智葉だが、これまで一度も負け無し
 今宵もまた、彼女の勝利で終わったのである

黒服「オヤジから、一流の相手との勝負は禁じられておりまして」

智葉「なんだと?」

黒服「失礼ながら、お嬢でも勝てる見込みが薄い相手ばかり。組の損失を防ぐ為にもと」

智葉「……」

 この忠実な男が、ここまで言うのだ
 恐らく事実だろう
 
 それほどの実力差が、彼女と一流の裏プロの間にある

 そのことが、何よりも悔しい

智葉「一流ですらそれほどの高見とは。なら【神域】とはどのようなレベルなのか」

黒服「私はよく覚えています。あの華麗な打ち筋、他を寄せ付けない圧倒的なセンス」

智葉「……」

黒服「誰もがアカギさんに憧れました。まして、あの東西の決戦においては……」

智葉「その話はもう聞き飽きた。それより、例の噂は調べてくれたか?」

黒服「あ、はい。どうやら、本当のようですね」

智葉「……本当、なのか」

 近頃、裏に顔を見せ始めたという若い少年がいる
 その少年、最初はパっとしない打ち筋なのだが、妙に粘り強さがあるという

 ここまではただの肝の据わった少年なのだが、局が進むとそれは一変する

智葉「あの【神域】を思わせる打ち筋を見せるらしいな」

黒服「そのようで。実際に居合わせた者の話では、まさにアカギさんそのものであったと」

 鬼神の如き強さで勝負を納め
 いつしか彼はこう呼ばれるようになっていた

智葉「【神域の再来】……か。面白い」

 自分とそう変わらぬ歳の少年
 彼がどれほどの強さか、肌で感じてみたい

智葉「私が言いたいことはわかるな?」

黒服「はい。これなら組とは無関係なので、用意出来るかと」

智葉「……楽しみだ」


 【神域の再来】
 その実力、果たして本物か否か――




454: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/14(水) 00:58:40.55 ID:0b0GEMxQo


【某県 裏雀荘】

 ざわ……
   ざわ……

京太郎「ふぅ、危なかったぁ」

アカギ「クク……ギリギリもいいとこじゃない」

 あの揉め事より数日後
 京太郎はまともに学校に顔を出さず、雀荘での勝負に明け暮れていた

 アカギの見極める目がいいのか、これまで相手してきた連中はみな京太郎が倒してきた
 ひとり、またひとりと倒すたび
 
 京太郎は確実に強く成長していった

 そして、たまにアカギが自分で打つと言い出し裏プロを指名する
 その場合は最初に京太郎が打ち、経験を積んでからアカギに交代

 文字通り、【神域の再来】である
 
京太郎「しっかし、なんか異常に金ばっかり溜まっていくんすけど」

アカギ「金なんてどうでもいいだろ」

京太郎「買いたかったもんなんでも買えますねこりゃ」

アカギ「フグ刺しでも頼め」

京太郎「毒が怖いです」ガタガタ

アカギ「おいおい、何言ってんだか」

 余裕の表情で談笑にふける二人
 そこへ、一人の客が顔を出した

 カランカラーン

?「……」

 その女は些か性格がキツそうに見えるが、大層な美人だ 
 ただ一つ、普通と違う点があるとすれば

 それは彼女が車椅子を押しているということであろう

アカギ「……!」

?「あら、大層強い男がいると聞いてきたんだけど」

京太郎「?」

?「どうやら人違いだったわ。私が探してる男じゃない」

 そんな言葉を残し、女性はすぐに店を出て行った
 残ったのは疑問だけである

京太郎「なんなんすかね今の人」

アカギ「運がよかったな京太郎」

京太郎「え?」

アカギ「アレとやってたら、お前は負けてたな」

京太郎「マジっすか」

アカギ「ああ。間違いない」

 アカギが出れば話は別だが
 今の京太郎では手も足も出ない相手であることは間違いないかった


455: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/14(水) 01:06:09.60 ID:0b0GEMxQo

 ピピピピ

?「……もしもし?」ピッ

智葉『お久しぶりです」

?「あら、智葉。また稽古を付けて欲しい?」

智葉『いえ、そうではなく。例の噂のことなんですが』

?「ああ、【神域の再来】ね。今ちょうど会ったところ」

智葉『!」

?「●●という店にいるから、会いたければ急ぐのね」

智葉『……師匠は戦わなかったんですか?』

?「私が興味あるのはあの男だけ。他は眼中に無いもの」

智葉『いずれ……そちらも手合わせしたいです』

?「妬いちゃうから、遠慮願いたいけど」クスッ

 だが、この時
 この車椅子の女性はかすかに感じ取っていた

 恐らく、教え子はあの男を追うことにはならないだろう
 なぜなら

?「アナタにはお似合いの相手がいるわ」ピッ

 この子はあの金髪の子と戦うから
 そうすればきっと、あの日の自分とおなじ末路を辿るに違いない


?「……つぅ。私も早く会いたいものね」

 
 あの男――人鬼に


 

599: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 13:49:21.84 ID:hrfo1Orzo

【都内 某所】

靖子「……」

 あの日――

 全てはあの日から狂った
 知り合いの子に頼まれて、学生と卓を囲んだ、

 だが――
 ただの初心者だと聞かされ、油断して挑んだ相手は化物


 天江衣?
 宮永照?


 そんなレベルではない
 もしかすると、あの人を上回る実力を持った――

?「靖子ちゃん?」

靖子「あっ……小鍛治さん」

健夜「久しぶり。最近試合に出てないけど、何かあった?」

 自分の知る限り、もっとも強いだろうと尊敬していた人
 そんな人が目の前にいるのに、靖子の心情は微塵も揺らぐことはない

靖子「噂……知ってますよね?」

健夜「う、うん。靖子ちゃんが子供に敗けたとかなんとか」

靖子「事実ですよ」

 嘘偽りなく言ってのける
 隠す必要なんてない

 それほどまでにあの勝負は――

健夜「で、でも子供相手だから手加減を……」オロオロ

靖子「全力でした。全てを出し切った上で、私は敗けたんですよ」

 完敗だった

 

600: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 13:50:49.33 ID:hrfo1Orzo

健夜「そうなんだ。す、凄いねその子」
 
靖子「……これは、あくまで私の見立てですけど」

健夜「?」

靖子「あの子は小鍛治さんより強いですよ」

健夜「!」

靖子「では、私は調べたいことがあるので」

 健夜を置いて、靖子は歩き出す
 あてなどない

 しかし、知らなければならない

 あの少年の正体――
 その力の源流を

靖子「このまま……終わると思うな」ギリッ






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           ,. -‐ァ{                `¨''┬<_
        rく´ / / \                  /ヽ ヽ¨ヽ、




健夜「私より強い……かぁ」

 

601: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 13:51:38.63 ID:hrfo1Orzo

   第五話
 ――エモノ――

【夕暮れ 某雀荘】


京太郎「よし、ロン!」

おっさんA「いやぁこれで和了られるとはなぁ」

おっさんB「兄ちゃんやるじゃねぇか」

 車椅子の女性が立ち去ってから数時間後
 京太郎はなおも快勝――勝負の流れは完全に掴んでいた

京太郎「これでひーふーみー……おぉ、200万行った!」

アカギ「……」タバコスパー

京太郎「ねね! アカギさん! これタネ銭にして、どでかい勝負やりましょうよ!」

アカギ「へぇ、例えば?」

京太郎「丁半博打とかやってみたいんですけど!」キラキラ

 目を輝かせる京太郎
 彼はもはやギャンブルの虜だった

 あるいは、ギャンブラーに憧れる少年そのものか

アカギ「……いや、やめておけ」

京太郎「え?」

アカギ「クク、ろくな思い出がないんでね」

 どこか含みを帯びた笑いを見せるアカギ
 昔、何かあったのだろうか――

京太郎「でも、ここいらの人はみんな倒しましたし」

 この近辺でまともな雀荘はここしかない
 田舎雀荘の打ち手では既に京太郎のレベルには届かないのだ

アカギ「焦るな京太郎。お前は確かに強くなったが、まだまだ三流だ」

京太郎「いや、そりゃあアカギさんに比べれば俺なんて……」

アカギ「なに?」

京太郎「でも、こんな俺でもアカギさんみたいになりたいんですよ」

 卑下するように自嘲を浮かべる京太郎
 だがそれを一喝するように、アカギが声を挙げる

アカギ「アホか? 誰に比べてだとか、今の実力が、なんて話じゃねぇ」

京太郎「え? それってどういう意味ですか?」

アカギ「ま、知りたければ自分で考えろ」

京太郎「そうですね。頑張ります」

 この頃アカギの京太郎に対する態度がいささか厳しい
 それは、彼の成長を見越してのことなのだろうが

京太郎「(アカギさん、俺のこと嫌いなのかなぁ)」

 当の本人は見当違いも甚だしいことを考えていた
 憧れを抱き、理想と仰ぎ見る男――アカギ

 彼に対する京太郎の想いが、どこかズレてしまっていることを
 アカギは既に感じ始めていた


602: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 13:52:35.20 ID:hrfo1Orzo


アカギ「根元は悪く無いんだが、枝が間違って伸びちまったらしい」

京太郎「え? 枝ですか?」

アカギ「しょうのない奴だ」ハァ

 どこか落胆した様子のアカギに京太郎はショックを受ける
 こんなにも勝利し、成長し

 徐々にアカギに近づいているというのに、何がいけないのだろうか

アカギ「どうしたもんか……」

 周囲を見回すアカギ
 しかし、この男に灸を据えられそうな相手はいない

 かくなる上はと、アカギが腹を決めようとした――ちょうどその時である


 カランカラーン

 ゾロゾロゾロゾロゾロゾロ

京太郎「!!」

黒服A「いたぞ! アイツだ!」

 黒服に身を包んだ、どう見てもカタギではない男達
 それが十人ばかりで一斉に雀荘に踏み込んでくる

 周囲を騒然とし、誰もが怯えるように部屋の隅へと逃げ出した

京太郎「あ、あの?」

アカギ「クク……面白くなりそうだ」

 この二人を除いては


603: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 13:53:45.76 ID:hrfo1Orzo

京太郎「あ、あの? 一体なんですか?」

黒服B「我々に付いてきてもらおう。嫌とは言わせない」

京太郎「え、でも」

 突然のことに狼狽えるしかない京太郎
 もしかすると、この雀荘で勝ちすぎたのが問題だったのか――

黒服C「大人しく付いてくれば問題ない。さぁ、どうする?」

京太郎「……どうしますアカギさん?」ヒソヒソ

アカギ「ついて行け。これも社会勉強だ」

京太郎「どう見ても裏社会勉強ですよこれ」ヒソヒソ

 しかし他に選択出来る筈もなく
 京太郎は渋々と男達について行った

 これから何をされるのか、一抹の不安はあるものの

京太郎「(本物の、ヤクザ――か)」

 この危機的状況とは裏腹に、どこか興奮している自分がいる
 それはアカギも同様なのか
 
 普段とは違い、どこか機嫌がいいようにも見える


黒服A「さぁ乗れ。あの方がお待ちだ」

京太郎「あの方?」

 訳がわからないまま、黒いジャガーに乗せられる京太郎
 中は思ったより快適である

黒服N「じきに到着する。少しの間辛抱してもらおう」

京太郎「はい」

 素直に同意し、外の景色に視線を移す
 果たしてどこへ連れて行かれるのか――
 
アカギ「……」


604: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 13:54:31.41 ID:hrfo1Orzo


【東京 某料亭】


黒服A「ここだ」

京太郎「はぇ……」

 夜になり、到着したのは東京のとある料亭前だった
 とても高そうな店で、普通なら京太郎が足を踏み入れる機会すら無かっただろう

黒服B「中でお嬢がお待ちだ。失礼の無いようにしろ」

京太郎「お嬢?」

 ヤクザのお嬢、と聞いて一人の女性が思い浮かぶ
 全国大会にて、少しだけ話したことがあるあの人だ

京太郎「まさか、な」

アカギ「行くぞ京太郎」

 頭を抱える京太郎を置いて、アカギは悠々と料亭の中へ入っていく
 それに続き、慌てて京太郎も入る

京太郎「うわぁ、すげぇ」

 豪華な日本庭園に面食らいながらも、そのまま廊下を進む
 他に客はいないのか、会話の一つも聞こえない
 
 怪訝な面持ちで歩いていると、案内の黒服が立ち止まる
 どうやら、この部屋にお嬢とやらがいるらしい

京太郎「……」ブルッ

アカギ「クク、緊張しているのか?」

京太郎「いえ……武者震いですよ」

 ガキでも分かる
 この先にいる人が自分をわざわざここへ連れて来た理由

 襖を隔てた先から感じる、殺気にも似た敵意

京太郎「俺と、勝負したがってる人がいる」

 ガラッ

 ゾクリッと
 喉元に刃を突きつけられたような感覚

 京太郎を見据える二つの眼が
 
智葉「裏の世界へよく来たな」

 今、ゆっくりと開かれた


605: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 13:55:15.83 ID:hrfo1Orzo


京太郎「……アナタが相手でしたか、辻垣内さん」

 辻垣内智葉
 以前、全国の会場で迷った時に――少しだけ話したことがある人だ

智葉「ああ。こちらも驚いている。まさか、君が【神域の再来】だったとは」

京太郎「【神域の再来】?」

智葉「知らなかったのか。今、裏で有名になっている噂だ」

 座敷に用意された卓
 京太郎は智葉の対面に腰をおろし、じっと彼女を見つめる

智葉「あの赤木しげるが現代に蘇ったと、人々は噂している」

 ドクンと、胸の鼓動が高鳴る
 派手にやりすぎたのか、自分がそんな風に有名になっていたとは

智葉「以前話した時には素人レベルだと話していたが?」

京太郎「ええ。でも、今は違いますよ」

 だが、どんな状況であれ、やる事は変わらない
 京太郎は既に臨戦態勢で望んでいた

 アカギの名を背負う以上、負けられぬ戦いだ

智葉「ふっ、いい闘志だ。しかし解せないこともある」

 メガネを外し、美しい黒髪を解く
 流れるような美の光景に、思わず京太郎はハッと息を飲む

智葉「私の見立てでは、せいぜいマシな打ち手程度。とても【神域】には及ばない」

京太郎「っ」

 それは紛れもない事実だった
 京太郎はアカギに憧れ、模倣し、成長しているとはいえ

 まだまだ一流とは程遠い



606: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 13:55:49.70 ID:hrfo1Orzo

智葉「違うか?」

京太郎「試してみますか?」
 
 図星を言い当てられ、わずかな怒気を含んで京太郎が睨み返す
 しかし、智葉はどこ吹く風でそれを受け流している

智葉「私は赤木しげるに憧れ、勝負したいと思っている」

京太郎「え?」

智葉「無論、故人だから直接の対決は不可能だ。でも、その再来と呼ばれるお前ならあるいはと思った」

 ガッカリだと、智葉は呟く
 その視線は、まるで軽蔑するように京太郎を見下していた

智葉「私が用があるのは赤木しげるだ。呼んでおいて悪いが、帰ってもらおう」

京太郎「待ってください。俺はまだ――」

智葉「なんだ?」

京太郎「戦ってないのに、勝手に俺を値踏みしないで貰えますか?」

 確かにアカギには遠く及ばないかもしれない
 だが、自分とてここまで何もしてこなかったわけじゃない

京太郎「やりましょうよ。俺は、必ずアナタに勝つ」

智葉「……」

 交差する視線
 今まさに、勝負の火蓋が切って落とされるのか?

 そう、思われた瞬間である


アカギ「クク……的が外れてやがる」


 唐突に、アカギが口を挟んだ 
 

607: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 13:57:13.48 ID:hrfo1Orzo

京太郎「(アカギさん?)」

アカギ「黙って聞いていれば、アカギがどうだの、実力がどうだの」

 まるで見当違いだと
 アカギは鼻で笑う

アカギ「お前もだ京太郎。さっき俺が言ったことを、よく考えろ」

京太郎「(さっき言ったこと?)」

 誰に比べてだとか今の実力が、なんて問題じゃない
 確かアカギはこう言った

アカギ「何を頼ってる? 自分に自信が無いから、人を言い訳に使うのか?」

京太郎「!」

 と、ここで気づく

 京太郎自身が陥っていた

 否、京太郎だけでなく――辻垣内智葉や
 あの井川ひろゆきさえも陥っていたことに

京太郎「……あぁ、そうか」

 カチリ、と
 頭の中で何かが噛み合う

 それは――今まで須賀京太郎をアカギに寄せていた何かが
 別の【ナニカ】と繋がった瞬間


608: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 13:57:55.08 ID:hrfo1Orzo

京太郎「……」

智葉「どうした? 何をボソボソと言っている?」

京太郎「辻垣内さん。ありがとう」

智葉「何?」

 危うく自分もおなじようになるところだった
 アカギに憧れ、アカギを模倣し、アカギになることを望んだ

 でも、それじゃダメなのだ

京太郎「……」 

 脈打つ鼓動か?
 或いは胸に宿った新たな決意の片鱗か?


 引き寄せる


京太郎「(俺は【アカギさん】になりたいんじゃない)」
 

 圧倒的なオーラ
 先ほどまでの、並の雀士レベルではない

京太郎「(俺が目指すのは【神域】のその先にある)」

智葉「(別人のように、雰囲気が変わった。まさか、コイツ)」

 何もかもが数分前とは違う
 ザワザワと髪がたなびき、京太郎は険を孕んだ人相で笑う

京太郎「……打てますか?」ニィ

智葉「噂の実力……試させて貰おう」

京太郎「……」


609: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/15(木) 14:03:01.22 ID:hrfo1Orzo


 京太郎とアカギ以外、この場には智葉と黒服しかいない
 だというのに、不思議なことにたった一人だけ


 誰からも見られず、気にも止められず


 ただただ、部屋の角で腰掛けて――卓を見つめる影がある


アカギ「……」


 気づいているのはこの男だけ
 自分と同じく、この世の理から離れ――生きるナニモノか

 その化物が今、一人の少年に目をつけたのだ

         |                               \
         |                           \     \
         |                /\ \ \    \\ \\.  ヘ
         |       /  /|   /  .\ \ \|\  ヽ \ ヽ \ ∧
         |     / / ./ / /     ∨ .ヘ \|ヽ ! .! !   !  ∨ |
         | γ´|  |//  //‐-、    /ヘ .|\∧ |ル | |ヽ .|   ∨
         | |  ∨ .|  -ニ/____ ヽ   /ィャ,ヽ|´|| | |  レハ.! | !
         | ‘、 ヽ .|  ` 、_ゞソノ` )  K  `´  !! レ    | .|/
       ,_´∨ ヽ | |        / `、`、   .||`ヽ、__
      /´ `ヽ  `¨ .!             、 、  //:::::::::::::::::::::::::ト......、
   /::::!`¨ i   i   >ヽ             、 、 /レ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
  /:::::::::ト -'.   ト、/  ヾ          r_.    ∨::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ト
/ィ´ ヽ:!     |:::ヘ 〆 ヽ  _ ____ ‐ -、 `、:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
/      .|    |:::::::y    Y  ヽ        〉-´:∧:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
`ー、   リ    |:::::/     リ   ├- 、:::::::  /::::::::::::∧::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
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アカギ「クク……アンタも俺と同じか?」


                 -──-
             イ:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:>x
           /:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i\__.,,イ
         ≧:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i;i:i:i:i:i:i乂__
        {乂:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i<
       __艾:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:/
       ≧_:i:i:i:イ:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:卞:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i(
        ∠:i:i:i乂彡イ:i:i:i:ii从乂乂`寸:ハi乂八:i:i:i:i卞≧
        //:i:i八_小)八{    艾tテァ乂ハ}乂:i:i:i:i:i彡⌒
         { (ハ:iハ八{          /tテァ八}:i:i匕
         /ニ寸     r      | /:i:i:i:i:i:iく
        /ニニニニ寸     \     |./:i:i:i≦⌒
     -<二二二二ニ       ミ=ー¨´寸乂
 -=ニ二二二二二二二ニ\\   `¨¨/
二二二二二二二二二二二>\ __ /    _Tニ1          _
二二二二二二二二二二二二>匕{    ) | Y/`ヽ       ___
二二二二二二二二二二二二二二二≧ .//   ム匕7     ー┼ァ
二二二二二二二二二二二二二二二二//       <ヽ.      │
二二二二二二二二二二二二二ニニニニイ {      .八|     | |
二二二二二二二二二二二二二二ニニ∧      /          ノ
二二二二二二二二二二二二二二二二}       /ニ
二二二二二二二二二二二二二ニニニニ/     /二二ニ-
二二二二二二二二二二二二二二二ニニ=-  /く二二二二ニ-
二二二二二二二二二二二二二二二二二二ニ/二二二二二二ニ
二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二ニ-

傀「……」


 須賀京太郎
 彼に芽吹く、新たな力

 それは果たして、彼をどのように導いていくだろうか――


659: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/16(金) 20:35:43.24 ID:KYinV0M3o


【都内 某料亭】

 月灯りを暑い雲が隠す夜
 今、一つの勝負の火蓋が切って下ろされようとしていた

京太郎「……」

 【神域の再来】と噂される須賀京太郎

智葉「……」
 
 そして、某組織のお嬢と呼ばれる辻垣内智葉
 
黒服A「……」ゴクッ

 見守るのは智葉の部下にあたる黒服達
 さらに、京太郎以外知ることの出来ないモノが一人

アカギ「クク……」

 そして残るは一人
 アカギの他、京太郎すらも気づいていないかもしれない

 謎の男

傀「……」

 この勝負の行方――
 鍵を握るのは誰なのか


660: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/16(金) 20:37:17.51 ID:KYinV0M3o

智葉「では、まずはルールの確認だ」

京太郎「……」

智葉「東風五回戦。異論はあるか?」

京太郎「いえ、それで結構です」

智葉「そうか。それで肝心の面子だが……」

 京太郎の他で、この場にいるのは辻垣内智葉の身内だけ
 それでは実質三体一となってしまう恐れがある
  
智葉「公平になるかどうかは分からないが、この手の勝負を好む打ち手を用意した」

 そう言って智葉が指を鳴らすと
 襖を開けて二人の男が入ってくる

 見た目は中年そのもの
 どうやら、野良の雀ゴロのようだった

智葉「どうだ? 誓って私の息はかかっていない相手だが?」

京太郎「……相手に問題はありません。ただ、一つ条件があります」

智葉「条件?」

 京太郎は智葉の質問に答えるように
 懐から200万円を取り出した

京太郎「一回戦につき、ビンタ10万の勝負……いかかですか?」

アカギ「へぇ」

傀「……」

智葉「何!?」

雀士A「ビンタ10万だと!?」


※ビンタとは
 
 終局時、特定の点数(25000点がポピュラー)未満の者が、それ以上の者に倍額払う特殊な差し馬

 10万円の配原ビンタの場合、4着が配原未満、3着が配原未満、2着が配原以上、1着が配原以上の場合
 4着は3着に10万円、2着とトップに20万ずつ
 3着は2着とトップに20万ずつ 
 2着は1着に10万支払うことになる


雀士B「それを俺達にもやれっていうのか?」

雀士A「そんな話聞いてないぞ!」

智葉「少し、静かにしてもらえませんか?」

雀士AB「「!」」


661: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/16(金) 20:38:38.44 ID:KYinV0M3o

 ヤクザに囲まれた状況で
 一人の少年から飛び出した賭けの条件

智葉「須賀、それは本気で言ってるのか?」

 それは、ヘタをすれば京太郎の命にも関わりかねない問題である

京太郎「ええ。アナタが乗ってくれるのであれば」

黒服A「貴様! 調子に乗るなよ!」

智葉「待て」

黒服B「!」

智葉「分かった。受けよう」

 智葉、意外にもこれを了承 
  
智葉「ビンタとは考えたな。これならそこの二人も、自分の勝ちを狙いにいかざるを得ない」

 つまり、仮に二人が智葉の差金だとしても
 ビンタが絡んだことで、手を抜くことが出来なくなるというわけだ

雀士A「だ、だけど待ってくださいよ。あんたらみたいな組もんとビンタなんて」

雀士B「金はともかく。命がいくつあっても足りねぇよ」

 そして当然この二人は渋る
 しかし、智葉は促すように続ける

智葉「誓って、約束を反故にはしない。敗けた分もきっちり払おう。なんなら、誓約書を書いたっていい」

雀士A「!」

智葉「どうだ? 子供二人相手にビンタ勝負……儲けどきだと思わないか?」

雀士B「そ、そういうことなら」

雀士A「まぁ、いいけどよ」

 智葉と京太郎
 二人を侮っているのか、雀士達は下卑た笑みを浮かべる

 頭の中では既に勝利の光景が浮かんでいるのかもしれない

京太郎「では10ビンタで」

アカギ「……」

 東風五回戦
 ビンタ10万の勝負

 二人の意地を賭けた戦いとは別に、金の匂いも絡むものとなった

 なぜ京太郎はそんな勝負を持ちかけたのか
 それは――彼自身気づいていない心の内で

傀「……」クス

 この男の影響を受け始めているからに他ならない

662:  ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 20:40:51.59 ID:KYinV0M3o


智葉「では席順はこうだな」

 東 雀士A
 南 京太郎
 西 雀士B
 北 智葉

京太郎「……」

雀士A「じゃあ始めるぞ」

 こうして始まる東一局
 まずは雀士Aが牌を切る

アカギ「流れを掴んでるな、京太郎」

 アカギの言う通り、京太郎は絶好の配牌
 他の面子も手が早いが京太郎はそれ以上に良ツモを重ねるのだ

京太郎「……」タンッ

雀士B「……」タンッ

智葉「……」チャッ

 不思議な静けさが場を包む
 そして、動きが見えたのは5巡目

智葉「(いいツモだ)」 

【智葉の手牌】 ツモ5p  ※ドラ8m

 34588m 24678p 34s 

黒服A「(流石はお嬢。手も速く、打点も高い)」

 僅か5巡目でこの手牌
 裏で研磨されてきた腕は、恐らく全国大会の頃よりも遥か高見に登っているだろう

智葉「……」タンッ

 2p

京太郎「ロン。1300」

 11666m 13556677p

智葉「!」

 だが、それよりも速く京太郎が手を作る
 運の成せる技か、それともまた別のなにかか

黒服A「(惜しい! もう一手早ければお嬢が!)」

智葉「……」チャラッ

アカギ「アンタはどう見る?」

傀「さぁ……」


京太郎 26300

智葉 23700

雀士A 25000

雀士B 25000


664: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 20:47:59.86 ID:KYinV0M3o
 

智葉「では席順はこうだな」

 東 雀士A
 南 京太郎
 西 雀士B
 北 智葉

京太郎「……」

雀士A「じゃあ始めるぞ」

 こうして始まる東一局
 まずは雀士Aが牌を切る

アカギ「流れを掴んでるな、京太郎」

 アカギの言う通り、京太郎は絶好の配牌
 他の面子も手が早いが京太郎はそれ以上に良ツモを重ねるのだ

京太郎「……」タンッ

雀士B「……」タンッ

智葉「……」チャッ

 不思議な静けさが場を包む
 そして、動きが見えたのは5巡目

智葉「(いいツモだ)」 

【智葉の手牌】 ツモ5p  ※ドラ8m

 34588m 246678p 34s 

黒服A「(流石はお嬢。手も速く、打点も高い)」

 僅か5巡目でこの手牌
 裏で研磨されてきた腕は、恐らく全国大会の頃よりも遥か高見に登っているだろう

智葉「……」タンッ

 2p

京太郎「ロン。1300」

 11666m 13556677p

智葉「!」

 だが、それよりも速く京太郎が手を作る
 運の成せる技か、それともまた別のなにかか

黒服A「(惜しい! もう一手早ければお嬢が!)」

智葉「……」チャラッ

アカギ「アンタはどう見る?」

傀「さぁ……」


京太郎 26300

智葉 23700

雀士A 25000

雀士B 25000

665: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 20:50:54.83 ID:KYinV0M3o


 まず東一局を京太郎が制す
 そして続く東二局は――京太郎の親

京太郎「……」チャッ

 相も変わらず好調の京太郎

黒服B「(なんて手が早い。いや、流れそのものがコイツに!?)」

智葉「……ふむ」

 決して智葉も手が悪いわけではない
 ただ、どうしても京太郎よりも一手遅れてしまう

 後ろで見ている黒服達はもどかしそうに、二人の対局を見守る

智葉「……(来たか」チャッ

 西家 智葉の7巡目
 
【智葉の手牌】 ドラ3m

ツモ3m

22466678m 34567p  

黒服A「(うまい! なんという絶好のツモ! これを和了れれば……!)」

智葉「……」タンッ

 2m

 智葉は当然のように2mを切る
 だがしかし、それすらも――

京太郎「ロン。3900点」バタッ


 34678m 22888p 456s


 京太郎が一手先を行く


黒服A「(ダメだ、完全に悪い流れ。二連続打ち込みとは!)」

 辻垣内智葉の強さを、彼はよく知っている
 それだけに、この連続の放銃が気にかかる

黒服A「(初めのうちは流れを見ているのか? それとも……)」

アカギ「様子見ってところだ。どうする京太郎?」

京太郎「……いつものように打つだけですよ」

 揺らがない京太郎
 先日までの、どこか浮ついた感覚は既に無い

 勝負に対する思い
 信念のようなものが、京太郎の中で新たなカタチとして形成されているのだ


京太郎 30200

智葉 19800

雀士A 25000

雀士B 25000

667: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 21:00:25.67 ID:KYinV0M3o


 東一局、二局と
 京太郎に先手を打たれ続けた智葉

智葉「……」
 
 しかしこの時の彼女は微塵も自分が負けるなどとは思っていない
 むしろその逆

 京太郎に対する、勝ちの目
 それを見出そうとしていた

京太郎「では……」キュッ

 続く東二局一本場
 相変わらず京太郎の配牌はよく、流れに乗ったまま京太郎は独走
 
 僅か7巡目にて

京太郎「リーチ」ツツーッ

黒服A「(来た! この流れではまたお嬢が……!)」

 嫌な予感を感じる
 それは他の者も同様なのか、一種の緊張が場を包む

雀士B「冗談じゃねぇ。ここは現物だ」トッ

 3p

黒服A「(これは!?)」バッ

 慌てて智葉の牌を覗く
 3pはまさに、喉から手が出るほど欲しい

【智葉の手牌】
 5699m 24p 789s 発発発南

黒服A「(一発消しと同時にカンチャンを埋めるチー! ここは!)」

 しかしこの時智葉の中には

智葉「……」チャッ

 全く別の思惑が渦巻いていた

智葉「……」つ西

黒服A「(!? なぜ聴牌にしないのですか!?)」

 それだけではない
 智葉はなんとその西を抱え入れ、ここでなんと――

智葉「……」トッ

 発

アカギ「へぇ」ニヤリ

黒服A「(馬鹿な!? オリるのですかお嬢!?)」

 後ろで見ていた黒服が唖然とする
 こんなにもあっさりと勝負を降りるなど、とても普段の智葉らしくはない

 一体どういうつもりなのか



669: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 21:13:47.66 ID:KYinV0M3o


 黒服の疑念はとても理解しがたいものではあったが
 それはすぐに覆ることとなる

 それも

雀士A「ちっ。通るなら俺も切るか」トッ

 発

智葉「……ポン」

黒服A「!?!」

傀「!!」ピクッ

京太郎「……!」

アカギ「クク、やるな嬢ちゃん」

 気づいたのは京太郎、アカギ、傀の三人だけ
 他の者はこの行動を愚行としか思えなかった

雀士A「おいおい、自分で切って鳴くのか……(困惑)」

雀士B「どういうつもりだよ。素人かい?」

 嘲笑う雀士達
 事情を知らぬ黒服達も、内心では同じ気持ちだろう

 だが

アカギ「見ろ京太郎。お前に行っていた流れが変わったぞ」

京太郎「……」

雀士A「ちっ、またかよ」ボソッ

 トッ 5s

黒服A「!」バッ

 智葉の奇行の意味を知るべく、黒服は雀士Aの背後に回る
 見ると、黒服Aは二度連続で5sをツモった様子

 つまり、智葉が鳴かなければ京太郎のツモは5s
 3pをチーしていても、京太郎のツモは5sだったということになる

黒服A「(まさか、奴の手は!?)」

 345m 345777p 3488s

黒服A「(2-5m待ち!?)」ゾクッ

 京太郎の和了を阻止するには、あの発切りからの発鳴きしかなかった
 智葉はそれを察知し、事前に食い止めたことになる

黒服A「(だが、下家が発を持っていると――どうして察せるんだ!?)」
 
 そんなことは到底不可能
 捨て牌から読むことも叶わない字牌である 

 それすらも読めるとすれば、智葉の実力は一線級

黒服A「(神域にだって、劣らないレベル!)」ゾクゾク

雀士B「どうだ!」タン

 3p

智葉「ロン。2000だ」

 56799m 234p 789s 【発発発】

傀「……」

 

670: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 21:24:07.50 ID:KYinV0M3o

 
 京太郎の和了牌を完全に殺し
 強引に流れを捻じ曲げて和了

智葉「分かるようだな。流れが変わったのを」

京太郎「……」
 
 卓に渦巻く【流れ】
 最初は京太郎に流れ込んでいたそれが、今の一局で完全に入れ替わる

智葉「では次だ」

 続く三局目
 先ほどまでとは打ってかわり――

京太郎「ふぅ」

 酷い配牌
 それに対し、智葉初期手牌はというと

黒服A「(なんと、流石はお嬢)」

【智葉の手牌】 ドラ9p

 23566m 7899p 東東南 

智葉「……」

 この好スタートを活かし
 智葉はすぐに聴牌まで持ち込む

智葉「ポン」

 【東東東】カッ

智葉「チー!」

 【234m】

智葉「ツモ、2000・4000」

 666m 67899p 【東東東 234m】

 数えてみれば僅か7巡目での満貫和了
 牌の流れは完全に、智葉のものとなっていた


672: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 21:34:34.36 ID:KYinV0M3o

 そしてオーラス
 智葉の親

 8巡目にて

【智葉の手牌】 ドラ5s

 567m 13567p 45699s 発

智葉「さて、実力を見ると言ったが……」

 チャッ

智葉「リーチ」トッ

 発

智葉「先ほどから動く気配が無いが?」

京太郎「そう見えますか?」

智葉「ああ。まるで死人のようだ。身にまとう空気そのものが」

アカギ「おい、死人だとよ」タバコスパー

傀「無礼」タバコスパー

京太郎「死人、か」

智葉「……そうだ。だからこんなにも簡単に」チャッ

 タンッ
  
 2p

智葉「首を取れる。一発ツモ! 4000オール……終了だな」

 勝負の第一回戦
 制したのは辻垣内智葉

智葉「身の程を知るがいい、偽物」

 余裕の表情でそう告げる智葉
 一方で、完全に上回られた結果となる京太郎は――

京太郎「では、こんなのはどうです?」

智葉「なんだ?」

京太郎「二回戦からは50ビンタにする、というのは」

黒服A「なっ!?  50ビンだと!?」

京太郎「……」

 京太郎が用意したのは200万
 仮に50ビンでラスを引けば……支払いは余裕で200万を超えかねない

雀士A「おい! 50ビンなんて無理に決まってるだろ!」

雀士B「そうだ!」

京太郎「……では、俺と智葉だけでも構いません」

黒服A「てめぇ! ふざけるなよ!」

 怒りが限界に達したか
 黒服が京太郎へ掴みかかる

智葉「やめないかっ!!!!!!!!!」

 ダンッ

黒服A「!?」 ビクッ

智葉「みっともないことをするな……」ギロリ

黒服A「ひ、ひぃっ?!」ビクッ

673: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 21:41:28.23 ID:KYinV0M3o

 大の大人ヤクザをも退かせる胆力
 これが辻垣内智葉である

智葉「すまなかった須賀君」

京太郎「……いえ、気にしてませんよ」

アカギ「クク……」

傀「フッ」

 この時京太郎、実は少し漏らしている
 気づいているのはアカギと傀だけ

京太郎「何も問題ありません」


 圧倒的尿漏れっ……! 

 でもっ……!!

 ボクサーブリーフだからっ……!!

 大丈夫っ……!!

 ノーカンッ……!!

 圧倒的ノーカンッ……!!


智葉「私は構わない。その50ビン勝負に乗ろう」

京太郎「……」ニッ

黒服B「よろしいのですか?」

智葉「負けなければいい。それに、それくらいの蓄えならある」

 これまで数多く裏の打ち手をしてきた
 そのかいもあって、智葉にかなりの額の貯金があった

智葉「ただし、君がパンクしても私は責任を負わない」

京太郎「はい」

智葉「最悪の場合、地下行きになるが?」

京太郎「問題ありません」

 やけに自信を持って答える京太郎に
 智葉少し苛立ちを覚える

 面白い
 ならば、この男のプライドを粉々にへし折ってやろう

智葉「覚悟するんだな。後で取り消そうとしても遅いぞ」

京太郎「……」クスッ



677: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 21:53:46.53 ID:KYinV0M3o

 こうして京太郎と智葉の50ビンタ勝負が始まった ※他は10万
 一回戦は智葉が勝利を納めたが、果たして二回戦はどうなるのか

京太郎「では始めましょうか」

智葉「(全く、裏の麻雀は面白い)」

 智葉は、自分に裏の道を教えてくれた人を思い返していた
 自力で相手を負ける流れに嵌め、勝利を掴む戦い

 女である自分を舐めてかかる相手のプライドを砕き
 敗者の顔を見て優越に浸る

 その師匠は以前、そんなことを話してくれた

智葉「(私も同じなのかもしれないな)」

 あの井川ひろゆきという男も
 アカギという伝説さえも

 自分が優越感を覚える為だけに戦いたいのかもしれない

 表の競技麻雀では味わえないスリルと達成感

 生死を分かつ勝負を、女の自分が制する充足感

智葉「(それを味わいたい。だというのに、この男は――)」

 実力の違いを見せてやった
 負ける流れに嵌めてやった

 だというのに、笑って賭け金を釣り上げてきた

智葉「(こんな屈辱、始めてだ)」ギリッ

 だからこそ決意する
 この男だけは自分の手で破滅へ導くと



 二回戦



 南家 

 智葉5巡目
 34567m 3457p 45688s

智葉「リーチ」

 やはり流れに乗っているのか
 智葉の手は好調

 そして次巡

智葉「一発ツモ。3000・6000」パタッ

雀士A「うぅ……」

雀士B「こりゃ参ったな」

 分かりきっていた結末
 少しの抵抗も出来ない京太郎

智葉「(さぁ、少しは抗ってみろ。それとも、噂はやはり噂に過ぎないのか?)」

 勝敗は決したかに思われた
 だが、それはただのまやかし

 本当の勝負は――

京太郎「では」ズズッ

傀「行きましょうか」

 これからなのだから

 

681: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 22:03:44.21 ID:KYinV0M3o


 東二局
 智葉の親である

 案の定、祝福されたように流れを掴む
 配牌の時点で

智葉「(もらったな)」クスッ

【智葉の手牌】 ドラ8m
 22678m 3468p 467s 東中

京太郎「……」

智葉「(いつまでも動かずにいれば、私の勝ちは揺らがないぞ須賀)」タンッ

 中

 智葉の第一打
 それを、京太郎は見逃さない

京太郎・傀「カン」

智葉「!」ドキッ

 チャッ  新ドラ 9s

【中中中中】

黒服A「(親の第一打をカンだと!?)」

智葉「(私に傾いた流れを、無理に歪ませる気か)」ドキドキ

 引いたのは――

 北

智葉「(やはりな。これは本来奴が引くもの)」トッ

 そして京太郎には智葉が引く筈だった牌が行く

京太郎「……」

 チャッ

 8s 

 チャッ

 7p 

智葉「(私の必要牌を喰いとったか。だが、使えなくては意味が無い)」チャッ

 西

黒服A「(これは一体どうなってるんだ?)」バッ

智葉「(須賀の手牌が気になるのか? ふっ、私もだ)」

黒服A「……?  ん????」チラッ

智葉「(ガッカリしてるのか? やはりただの無駄ヅモの連続か)」

雀士A「ほいさっと」トッ

 1m

京太郎・傀「チー」

黒服A「っ!」ビクッ

智葉「!? (なんだ、今の反応は?!)」

京太郎「……」スッ
 
【123m】カシャッ


685: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 22:14:14.32 ID:KYinV0M3o



智葉「(一体何をしたんだ須賀?!)」

京太郎「……」チャッ トッ

 4m

智葉「(手出しの4m!? つまり、さっきの123mチーは234mからのチー!)」

 不可解な行動
 だが、その不可解な行動とは裏腹に
 
京太郎「ツモ。2000・4000」スッ

 789m 2349s 【123m 中中中中】

智葉「(親の私の流れを変えたばかりか、出来面子でチーして、強引な和了)」ギリッ

黒服B「(一体何を見てるんだ、コイツは!?)」

智葉「(やってくれる。やはりこの男も、場の流れが見えるのか……?)」

 だとすると厄介なことになる
 この戦いは流れの取り合いになることが明白だからだ

 しかし、智葉には秘策もある

 仮に流れを取れなくても戦う術を、彼女は既に持っていた

京太郎「では東三局を」

アカギ「いい顔になってきたな、京太郎」クク


 東三局 
 ドラは字牌の発

 先ほどまで好調だった智葉の手牌はというと

【智葉の手牌】
 28m 12499p 469s 白発中

智葉「(やはりな。恐らく、オーラスまではこの調子だろう)」

 かといって降りるつもりはない
 流れを得られぬなら、相手を動かせばいい

智葉「ポン!」

 【999p】カッ!

雀士A「なんてところで鳴くんだよ」

雀士B「(発がドラか、字牌が切れねぇ)」

京太郎「……」

智葉「(さぁ、全員揃って字牌を抱えて溺死しろ)」

 智葉の考えは概ね正しい
 並の相手なら、雀士ABのように身動きがとれなくなるだろう

 だが――

京太郎「……」キュッ

 カッ  タンッ!!!

 発

智葉「!?」

 京太郎はけして、並の相手ではなかった


686: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 22:23:01.36 ID:KYinV0M3o

雀士B「と、通るのか? なら早いとこ片付けるか」チャッ

 発

智葉「(くそ、お陰で他も勢いづいた。それほどまでに須賀のドラ打ちは強い)」

 手が早いのか?
 不安を感じながら、智葉はなおもブラフを続ける

【智葉の手牌】
 
 28m 1248p 68s 白発中 【999p】

智葉「(どうだ! これなら!)」タンッ

 6p

智葉「(字牌を警戒しろ! さぁ!)」

京太郎・傀「……」ニィッ

 タンッ

 中  
 
 タンッ

 東

 タンッ

 白

 タンッ

 北

智葉「(馬鹿な!? わざと字牌ばかり!? 私のブラフを見抜いたとでも言いたいのか!?)」ゾワッ

 揺るがない京太郎に旋律を覚える智葉
 そして、驚くべきはもう一つ

雀士B「おっ、リーチ!」

智葉「え?」

雀士B「リーチだよ、リーチ」

 思わぬ側面攻撃
 完全に意表を突かれたカタチである

アカギ「麻雀は一体一じゃない。必要になれば、他家も駒として使うのさ」

 先ほどの京太郎の字牌連打は何も自分の為ではない
 智葉の行動がブラフに過ぎないことを他家にも教え、手助けする為の策

智葉「(どういう、ことだ?)」

アカギ「お嬢ちゃんは気づいたか? 二人の策に」ククッ

雀士B「よっしゃ一発ツモ! 兄ちゃんに助けられたぜ!」

 バラッ

 234567m 345p 23488s 
 
雀士B「裏も乗って3000・6000だ!」

智葉「くっ」

京太郎「……」チャリッ

687: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 22:33:46.77 ID:KYinV0M3o

京太郎 27000
雀士B 29000
智葉 30000
雀士A 14000

智葉「(焦るな。まだ私がトップなんだ)」スーハー

 確かに意表を突かれたが、ここは逃げ切るだけでいい
 無理に勝負さえしなければ――

 そう考える智葉だが

黒服A「(流れが最悪だ)」

【智葉の手牌】ドラ1m

4568m 334p 2345678s

智葉「(なぜだ、なぜこのイーシャンテンが動かない)」ギリッ

 トンッ

 8m

京太郎「リーチ」タンッ

 ざわっ……
   ざわっ……

智葉「(この感じ、流れがまた――)」

京太郎「……」チャッ


´//////////// l| ,∧             _    ∧  ||///////////>
/////////////从 {   、         _  ィ -vノ    ' } /'/////////////
/////////////{/∧   l\   ー=≦__ ,   ´   /' / イ∧/////////////
/////////////|//∧  :. \               / / /'////}/////////////

智葉「!」

京太郎・傀「御無礼」

 1122m 557788p 55s 東東

京太郎「ツモです。6000オール……」

智葉「!」

 やられた
 智葉がそう思ったのも束の間

 次の京太郎の言葉が――智葉を大きく揺るがす


京太郎「これで皆さん、クビが切れて終了ですよね?」ニッ

智葉「なに?!」

黒服A「皆さん!?」

 最初に智葉が
 そして次第に、周囲を取り囲む黒服達にもその意味が分かってくる

689: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 22:37:58.10 ID:KYinV0M3o




黒服A「(まさか、さっき他家に和了らせたのは、次局で自分がツモ和了する為?」

黒服B「(そうすれば全員のクビを飛ばし、ビンタは倍になる。だが、なぜだ?)」

黒服C「(お嬢と50ビンの一体一をやっていたというのに、これではまるで――)」

 京太郎は全員を相手に戦っている
 つまり、智葉だけを特別視することなく
 
 ただ、全員を同時に堕とすことだけを考えているのだ

 それに比べて、智葉の方は――

智葉「(み、皆さん……だと!?)」ギリッ

 自分をこんな連中と同格に扱っている

雀士A「くそー」

雀士B「次こそ巻き返してやる」

 先ほどの字牌連打といい
 今の発言といい

 京太郎はまるで……

智葉「(私を相手にしないつもりか!?)」

京太郎「では、お次は三回戦ですね」

智葉「……」プルプル

アカギ「あらら」

傀「……」

 怒りに顔を赤くし、唇をキツく噛む智葉
 これほどの屈辱は生まれて初めてのこと

 内情を駆け巡る怒りの業火に焼かれながら、智葉は気丈に振舞っていた

智葉「ああ、始めよう」


694: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 22:48:22.29 ID:KYinV0M3o
 


 三回戦 東一局

 北家の京太郎7巡目

京太郎「リーチ」チャッ

 流れを取り戻した京太郎の先制リーチ
 それに対し、智葉の方はというと

【智葉の手牌】 ドラ8m

 23444m 3478p 2345s

智葉「(須賀の捨て牌は……)」チラッ

 9s 西 南 1m 発 中 9p

智葉「(安牌が無い。4mの壁に賭けるしかないか……)」トンッ


 2m
 
 らしくない、弱気な打牌
 それは――確実に智葉の中で、何かが崩れ去っていることの証明に他ならない

京太郎「……」チャッ

 スッ

京太郎・傀「御無礼、ツモです」

 バラッ

 234678m 22345567p

京太郎「3000・6000」

智葉「なんだとっ!?」ガタンッ

 京太郎は智葉の2mをスルーし
 ツモ和了を選んだ

 50ビンの差し勝負をしている中で
 その相手である智葉を無視し、あくまでツモ和了にこだわる

智葉「(なぜだ、なぜ私を無視する――!?)」

 智葉には到底分からない

 京太郎の行動が
 そして、その強さの源流さえも

京太郎「その牌に当たる価値は無い」

アカギ「フフ」


      /            `ヽ、
     /  /  、          ヽ
    ,/  "  / /( ..     ミ  ヽ
   '''゙、   、 | | \ミ 彡  ヽ_ 彡  し
  ー'''"  `'''"` ., ゝヽ  M//.、 、"く彡 <ニ、
 "≧    .彡》》彡川》》 lく巛巛 ヽ,,ヽ  ―ー、
  =¬   .,/ノノ代=モェ-,}.| ぇtチ-ヲ》》》)ゝ =ー、
  '"ニニ,ッ"ヽ∬   ̄"リ |  ̄  .シソノ ゞ-
    (,-ニ,, l         l    / }゙l /
       ( (ヽ、 、 ニニ  ,  /ノ.ノ
        ./.゙l ヽ  ̄ニニ ̄ /|
      /   \\     /  |

傀「……」ニィ

697: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 22:58:12.77 ID:KYinV0M3o

雀士B「お、おい! 何やってんだお前!?」

京太郎「はい?」

雀士B「この嬢ちゃんの2mでリーチ一発じゃねーか!」

智葉「静かにしてください。流れを読んだだけのことです」

雀士B「ふざけんな! 親カブリは俺だぞ!? 50ビンでやってんのはお前達だろうが!」

 雀士Bの言い分はもっとも
 だがそれは、当の本人である智葉が一番分かっている

黒服A「お、お嬢?」

智葉「分かっている。絶対に許さない。倍にして思い知らせてやろう」

京太郎「どうぞ。次は辻垣内さんの親ですから」ニコッ

智葉「~~~~っ!!!」ギリギリギリ

アカギ「ククク、煽るねぇ」

 自分とは根本的に違うスタイルで打つ京太郎に
 アカギは少しばかり感動を覚えていた

 そこにいる男の影響なのは間違いないが、これで京太郎は以前より前に進む
 自分の模倣品ではダメなのだ

 あらゆるものを喰らい、我が糧とした男でなければ

アカギ「アンタもそう思うだろ?」

傀「ええ」ニィ


 東二局 智葉の親
  

智葉「(今の私に流れが来ていないのは承知の上。このまま進めても奴には追いつけない)」

【智葉の手牌】

 2789m 148p 668s 南北白発 

智葉「(だからここは!)」

雀士B「くそっ!」タンッ

智葉「チー!!」カッ

 【789m】カッ

智葉「(もう一度、須賀への流れを歪める!)」

 智葉の起死回生を賭けた鳴き
 その効果は――

智葉「……」ニッ

 白 3p 発 

智葉「(きたか!)」

 僅か7巡目にて

【智葉の手牌】

 34p 6668s 白白発発東 【789m】


智葉「(どうだ! これで貴様への流れは絶たれた!)」

京太郎「……」


699: ◆Loo57kW1FeTN 2015/01/16(金) 23:06:33.93 ID:KYinV0M3o


黒服A「(流石だお嬢。出来面子チーで流れを再びこちらへ)」

 先ほどの京太郎と同じ手
 京太郎に出来て、自分に出来ないわけがない

智葉「(この牌勢なら勝てる!)」

京太郎「リーチです」チャッ

 白

智葉「! ポン!」

 思わず反応してしまう智葉
 だが、次の瞬間には後悔もある

智葉「(しまった! この白は鳴いていいのか?)」

 京太郎の捨て牌を確認する
 
 南 724s 東 7m

智葉「(なるほど、これなら通る)」つ8s

 タンッ

 8s

智葉「(これで追いついた! ようやく一騎打ちに……)」

京太郎「……」チャッ 

 バラッ

京太郎「ツモ」

 8s

京太郎「1300・2600」

 123m 34578p 67s 北北

智葉「(ま、まただと!?)」ガタンッ

雀士A「お、おい兄ちゃん!」

雀士B「いい加減に嬢ちゃんから当たったらどうだ?」

京太郎「すみません。でも、流れを読んだらこうなったんですよ」

智葉「流れだと!? 馬鹿にする気か!?」

 とうとうこらえきれず声を荒げる智葉
 自分のことも、50ビンすらも眼中に無い様子の京太郎に我慢の限界を迎えたのだろう

京太郎「なら、やめますか?」

智葉「!」

京太郎「俺は構いませんよ」ニコッ

智葉「ぐ、くぅっ」

黒服B「お、お嬢」

智葉「……何も言うな。何も」ストン


 

701: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/16(金) 23:13:38.11 ID:KYinV0M3o


 第三回戦 東三局
 
 京太郎の行動に苛立ちを覚えても、成す術も無い智葉
 こうなった以上、方法は一つしかない

智葉「……(何がなんでも、奴を振り向かせる)」

 それは、勝負師としてのプライドの為か
 あるいは自分を相手にしてもらえない女の意地か

智葉「ポン!」

 5s 

【999m】カッ

智葉「チー!」

 8s

【123m】カカッ

智葉「(これならどうだ!)」

雀士A「げっ」

雀士B「まずいな」

智葉「ポン!」

 発

【888m】カカッ

智葉「(こっちを見ろ、須賀京太郎!)」

【智葉の手牌】

 56m 68p 【999m 123m 888m】

智葉「(この露骨なまでの清一色気配。これなら無視は――)」

京太郎「……」チャッ

 タンッ

智葉「うっ!?」

 8m  バァーン

智葉「なっ、なぁ……っ!?」グニャァァァァア

 ざわ……
   ざわ……

703: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/16(金) 23:21:56.78 ID:KYinV0M3o



 飛び出したのは萬子
 そして、続く次巡の京太郎の捨て牌もまた

京太郎「リーチです」ツーッ

 5m

智葉「(また萬子! ゆ、許せん……絶対に!)」ジワッ

黒服A「! (馬鹿な、あのいつも気丈なお嬢が!?)」

黒服B「(目に涙を……)」

智葉「……」チャッ

【智葉の手牌】 ドラ6p

 356m 68p 【999m 123m 888m】

智葉「……!」タンッ

 6p

黒服A「なっ! (現物があるのにドラから!?)」

アカギ「クク……ご指名だぞ京太郎」ニヤニヤ

京太郎「……」

 がっ……ダメ!

京太郎・傀「御無礼」カッ!

 6p

 234m 45p 33356788s 

京太郎「一発ツモ、2000・4000っすね」

雀士A「……あっ」

雀士B「おいおい……」

智葉「ふ、ぅっ……ふぇっ……こ、こんなぁ、くっ、うぅ」ジワッ

 ガシャッ

 牌を崩し、怒りとやるせなさに身を包まれながら――
 智葉はその頬を濡らす

 侮っていた相手
 それも、あれだけ言い切った相手に言いようにされる始末

 恥ずかしかった
 
 でもそれ以上に、悔しかった

 負けていることがじゃない
 自分が届かないことじゃない

 相手にとって、自分が取るに足らない人間だと

 女だと

 そう思われていることが、悔しい

黒服A「お嬢、もう……」

智葉「だ、黙れ……ヒック、つ、続けるぞ……何が、あっても」プルプル

713: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/16(金) 23:34:52.68 ID:KYinV0M3o

 そうして迎えた三回戦オーラス

東家 京太郎 50200
南家 雀士B 16700
西家 智葉 17400
北家 雀士A 15700

智葉「(もし、君と一対一なら――もっと楽しめただろうに。残念だ)」

 自分が何を仕掛けても、無視される
 それなら、自分も相手を無視するしかない

智葉「(もう惑わされない。対局に集中して、流れだけに身を投じる)」スッ

【智葉の手牌】 ドラ5m

 134m 122668p 68s 東発

智葉「……ポン」

 4m

【222p】カッ


アカギ「(京太郎の方を見るのをやめた……諦めたのか?)」

智葉「……」

 そして5巡目
 智葉は打ち方を帰る

智葉「カン」つ6s

 1p タンッ

【6666p】※暗

智葉「さらにもう一つ――カン」つ8s
 
【2222p】

京太郎「!」ピクッ

 この時点で智葉の手牌は――

【智葉の手牌】 ドラ 5m 6p 6s 

 666888s 東北 【暗6666p 2222p】

 対々三暗刻ドラ7
 既に三倍満確定の怪物手

黒服A「(凄い! これでまたお嬢に流れが……」

智葉「……」トッ

 東 タンッ

京太郎「……カン」

智葉「……えっ?」

京太郎「カンです」パタッ

【東東東東】カッ

黒服A「(お嬢の仕掛けに対してカンだと!? 奴も聴牌か!?)」ダダッ

【京太郎の手牌】

 23m 2345678s 発発 【東東東東】

京太郎「……」スッ

 3m タンッ


717: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/16(金) 23:44:47.37 ID:KYinV0M3o

黒服A「(なぜ聴牌に取らない!?)」

 智葉が張っていることは周知の事実
 ここは3m切りではなく5s切りにするべきだ

京太郎「新ドラは――」カシャッ

 新ドラ 東

黒服A「(ほら見ろ! 勿体無い!)」

智葉「……」ドキドキ

 2s タンッ

京太郎「……」チャッ つ6s

【京太郎の手牌】

 2m 23456789s 発発 【東東東東】

黒服A「(張替えした!?)」

アカギ「クク、しかもそれだけじゃねぇ」

 今引いた6sは智葉の暗刻
 それを京太郎がカンをしなければ智葉は6sをツモっていた

 つまり、智葉は四槓子だったのだ

アカギ「これがそこの男や嬢ちゃんが奪い合ってる流れってヤツだ」ククク

傀「お分かりですか……?」

アカギ「一応な」

智葉「……」ドクンドクン

 ここで、智葉が引いたのは

 1s

智葉「……」ジッ

京太郎「……」

智葉「フッ」

 その数秒――
 彼女が何を考えていたのかは分からない

 だが、彼女は決めた

智葉「……」トンッ

 1s

 妙に晴れ晴れしい、まるで憑き物が落ちたような顔で
 とても美しい――微笑を浮かべていた

京太郎「……」


718: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/16(金) 23:50:06.25 ID:KYinV0M3o


          /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |
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京太郎「御無礼。24000点」

 123456789s 発発 【東東東東】

京太郎「トビ、ですね」ニッ

智葉「ふ、ふふっ……(やっと……!)」ニヘラッ

黒服A「お、お嬢?」

黒服B「(お嬢が、笑った……?)」

アカギ「あらら、どうやら堕ちちまったらしい」

傀「そのようですね」

 アカギと傀が見越したように
 智葉は京太郎に当てられて笑顔を見せた

 それは――やっと自分を見てもらえたという喜び

722: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/16(金) 23:57:11.29 ID:KYinV0M3o



黒服A「(お嬢は和了られて喜んでいる!?)」

黒服B「(あのガードの堅いお嬢が、まるで恋す乙女のように――)」

 唖然とする黒服達を他所に
 当の本人たちは――

京太郎「このまま50ビンで続けますか?」

智葉「ああ、勿論だ」

アカギ「気づいたか京太郎? ヤツの匂いが変わったのが」

 あれだけ強く
 鉄の意志を持って、勝負に挑んでいた辻垣内智葉が

アカギ「残りの二回戦。もうお前には敵わないだろう」

傀「フッ……」

 もはや見る影もなく

京太郎「ロンです」

智葉「っ……//」モジモジ

 今の智葉もう
 男に惚れたことに気づいていないだけの――

京太郎「御無礼、12000点っす」

智葉「……」クスッ


           エモノ
ただの美しい―― 女 だ……! 

 


727: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/17(土) 00:03:08.07 ID:9JpDJFADo


【次回予告】

 辻垣内智葉との対局で新たな何かを掴んだ京太郎
 だがしかし、強すぎる力は新たに京太郎を蝕み始める

京太郎「あの、誰ですか?」

傀「傀と、呼ばれています」

アカギ「クク。よろしくな新入り」

 強くなる一方――
 アカギと傀、二人の男に影響を受け始めた京太郎は

咲「京ちゃんが変わったのはきっと、何かよくないもののせいなんです! だから!」

小蒔「分かりました。私達が責任を持って!」

霞「その悪霊を祓いましょう」

 新たなる戦いに巻き込まれてゆく
 そして――京太郎を巡る女性達にも


和「須賀君は私のモノです」バチバチ

智葉「何を言っているのか分からんな」バチバチ


 新たな局面を迎えようとしていた

 

   次回

――ジョウカ――



和「誰にも真似出来ない華麗な打ち方の須賀君が好きなんですっ!!」

智葉「違う! 流れに乗る勢いのある打ち方の須賀君が好きなんだっ!!」

睦月「どっちも好きでよくないか?」


 つ づ く


786: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 20:53:16.10 ID:FLvphjPdo

【数年前 長野】

 ガタンガタンと、揺れる電車
 狭い密室の空間――

 普段は決して満員電車とは呼べないその区間
 それが、ここまでの乗客数になったのはただの偶然だったのか

 なんにしても、通常の倍以上の乗客でごった返す電車内で
 【ソレ】が起こるのはある意味、必然だったのかもしれない

?「……っ」ビクンッ

 そこにいたのは中学生の少女
 どこにでもいるような、至って平凡な女子学生だと自分では思っていた

 色気も無い 胸も無い
 それは決して謙遜ではなく、彼女を見る大半の人間はそう感じる事実であった

 だからこそ

 彼女は標的にされた

教師A「……フフフ」サワサワ

?「ぁっ……」

 まずは太もも
 そして次は――大腿部
 
 だんだんと触る手が上に上がっていく

?「ひっ……」ガクガク

 震える
 誰も助けてくれなどしない

 自分でどうにかしなければ、きっとこのまま

?「ぁっ、いやぁ……」

 しかし、少女には勇気が無かった
 ここ一番で身を守る、その覚悟を持てなかったのだろう

教師A「……グフフ」

?「(誰か、助けてっ……!)」

 祈るっ……!
 圧倒的っ……! 他人頼みっ……!

 本来なら、誰も見て見ぬフリをする現実

 だが、これまた偶然か
 あるいは必然か

 この日――少女は運良くも

京太郎「おい、おっさん」ガシッ

教師A「ひょっ?」

?「あっ……」ドキッ

京太郎「ダセェことしてんなよ」ギリギリギリ

教師A「ぐ、ぐあぁぁぁぁっ!?」

 彼と、出会うことが出来た




【現在】


睦月「……また、あの日の夢だ」ギュッ

  

787: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 21:02:13.41 ID:FLvphjPdo


   第六話
――ジョウカ――


【長野】
 

 キキーッ

黒服A「……さぁ、着いたぞ」

京太郎「あ……はい」

黒服B「お嬢から無事に送り届けろと言われたからな」

黒服C「全く、この化物め」

 バタンッ ブーンッ

京太郎「……」

 辻垣内智葉との五回戦
 その勝敗の行方は当然、京太郎の勝利

 計500万近い金を巻き上げ、現在の京太郎の所持金は700万

 それだけでも驚愕だが、何よりも注目すべきはその勝利方法
 まるで鬼を思わせる打ち筋に――あの場に居た者全てが鳥肌を覚えたものだ

アカギ「クク……なんて顔してやがる」

京太郎「いや、だって。自分でもどうやって打っていたのか」

 途中までの記憶はある
 けれども、いつの間にか自分ではない何かの力が働いたかのように
 京太郎は打たされていた

 それは一体――

アカギ「ま、そりゃアイツだろ」

京太郎「アイツ?」

 アカギの言葉の意味が分からず、きょとんとする京太郎

 と、ここでふと
 京太郎は何かの気配を感じ、振り返る

傀「……」ニィッ

京太郎「おわっ!?」

 幽鬼のごとく現れた男に、京太郎は驚く
 しかもこの男、アカギと同じようにどこか人間離れしたものを感じる

京太郎「あの、誰ですか?」

 恐る恐る尋ねる京太郎
 それに対し、男は眉一つ動かさずに答える

傀「傀と、呼ばれています」

京太郎「傀さん?」

傀「……」

アカギ「クク。よろしくな新入り」



 

791: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 21:16:09.42 ID:FLvphjPdo

 


京太郎「新入り?」

 その言葉の意味が分からず、首を傾げる京太郎
 
アカギ「フフ……コイツもオレと同じ。この世の者じゃねぇってことだ」

 意地悪く笑うアカギ
 それに対し、京太郎は失禁寸前である

京太郎「ゆ、ゆゆゆ幽霊ですかぁああああああ!?」ジョバババッバババババババッ

傀「……」

アカギ「ククッ、な? おもしれぇ奴だろ?」ニヤリ

傀「ええ、そのようですね」

京太郎「あひぃぃぃ! 幽霊同士で仲良くやってるぅぅ!」

 先刻までの威勢はどこへやら
 すっかり怯えきっている京太郎

傀「……」

京太郎「あ、あれ? でも変ですね」ペタ

傀「……何か?」

京太郎「アカギさんは半透明なのに、傀さんは触れます」ペタペタ

傀「……」

アカギ「そりゃ生きてるからな」

京太郎「えっ!? 幽霊なのに生きてるんですか?」

傀「……御無礼」ペチッ

京太郎「あだっ!?」

アカギ「コイツは俺とは違う。どちらかというと……妖怪か何かってところか?」

傀「さぁ? ご自身で確認されますか?」
 
 挑発するように微笑を浮かべる傀
 これを見逃すほど、アカギが大人しいわけもなく

アカギ「面白い。生き血を求める妖怪みてぇなジジイとやりあったような気もするが……」

 ゴゴゴゴゴ

アカギ「本物の妖怪とヤるのは、きっと初めてだろう」ニヤリ

傀「……その言葉、そのままお返ししましょう」ニィ

 ズゴゴゴゴ

京太郎「」ジョババババババ


794: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 21:22:56.50 ID:FLvphjPdo

 二人の醸し出すオーラに当てられ、京太郎はビビることしかできない

 この時の京太郎は知る由も無いが
 【神域】と【人鬼】という、二つの伝説があいまみえた瞬間なのだ

 ではその二つの伝説とは何か?
 
 一つ、【神域】は闇社会の打ち手の伝説である
 一局数億がかかった戦いや、この日本の覇権をかけた勝負を制してきた証なのだ

 一方で【人鬼】の伝説はあくまで高レートの雀荘での伝説
 数多くの裏プロを食いつぶし、何人をも破滅へと導いていった
 派手さこそないが、裏の打ち手達の間では語り継がれる伝説である
 
 ならば、この二人のどちらが上か?

 そう考えた者も多いだろう

傀「……名は?」

アカギ「赤木。赤木しげる」

傀「……」

 睨み合う両者
 卓を囲まずとも、二人の間では火花が散っている

 むしろ、既に戦いは始まっているのかもしれない

京太郎「??」

アカギ「ロン。裏も乗って12000だ」

傀「……」クスッ

アカギ「……チッ」

傀「ツモ、8000」

アカギ「……ツモ。3900」

傀「ロン。1300」

京太郎「???」

 二人は一体何をしているのか
 京太郎には見えない

 だが、なんとなく

 どことなくだが

京太郎「いや、これは――」

 見える
 二人の間にある卓

 そして牌

 しかもこれは――

 一対一ではなく

京太郎「(俺も、メンツに入ってる)」ドクン

 

795: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 21:31:23.03 ID:FLvphjPdo

 エア麻雀
 今まさに目の前で繰り広げられているのは空想そのもの

 でも、不思議と京太郎にはこれが極自然なことに思えた

 だからこそ
 京太郎も知らず知らずのうちにそれに乗った

京太郎「……」スッ

 タンッ

アカギ「!」

傀「!」

京太郎「リーチ……!」

 何も知らない人間が通りかかれば、きっと馬鹿に見えるだろう
 しかし、京太郎は手を止めない

アカギ「……クク」スッ

傀「……」スッ

京太郎「……!」スッ

 見えない牌
 口で言えば、なんでも和了れるような勝負
 
 でも、この三人はしっかりと見えていた

 自動で割り振られた牌
 引く牌すらもランダム

 その上で
 彼は引いた――

京太郎「ツモ!! タンヤオ三色、三暗刻、ドラドラドラ! 24000!」

アカギ「あらら」

傀「……一回戦は終わりですね」

アカギ「クク、喜べ京太郎」

傀「……」ニィ

 パタンと、それぞれ手牌を崩すアカギと傀

 今のは東四局

 京太郎にはそこまでは分からなかったが
 どうやら土壇場でまくることに成功したらしい

京太郎「あ、あれ? でも今のは本物の……」

 既に霧散してしまった空想の卓
 今のは幻か、それとも現実か

京太郎「……?」

 いずれにしても

傀「……須賀京太郎」

京太郎「!」


傀「いい名ですね」クス


 実力を示すことはできたらしい


808: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 22:09:09.51 ID:FLvphjPdo


 京太郎がアカギ達とエア麻雀を終える頃
 彼の腐れ縁とも言える少女は、長野に遊びに来ている永水女子の元を訪れていた

 長野のホテルに滞在する永水御一行
 彼女達は少女の訪れに嫌な顔一つせず、快く迎え入れてくれた

 そして、彼女の話し出した話に
 きちんと耳を傾けてくれたのだ

咲「それで、優しかった京ちゃんが急に……」

霞「まぁ、それは大変ね」

咲「はい。しかも、私のことを避けてるようで……」ジワッ

初美「元気出すんですよー」

咲「でも私、どうしたらいいのか……優希ちゃんは、京ちゃんが私のせいで怒ってるって」

小蒔「そんな! 宮永さんの何がいけないのでしょうか?」

巴「嫉妬、ですかね?」

春「ありえそう」ポリポリ

咲「京ちゃんが私に嫉妬なんて!」

霞「可能性の一つよ。けど、とてもそれだけには思えないわね」

 霞には一つの予感があった
 何か底知れない、胸中を巡る不吉な何か

咲「それだけじゃない?」

霞「……ええ。何か心当たりは無い?」

咲「……」

 咲の脳裏をよぎるのは鬼神の如き強さを見せた京太郎
 あんなの自分の知る京太郎の打ち方ではない

 自分の知る須賀京太郎

 弱くて、情けなくて、●●●だけど
 でも自分のことを大切にしてくれる、私だけの王子様……

咲「そうです」

 そんな彼女の驕りが 
 
咲「京ちゃんが変わったのはきっと、何かよくないもののせいなんです! だから!」

 全ての歯車を狂わせる

小蒔「やっぱり」

咲「京ちゃんには悪霊が憑いてるに違いないんです!」

小蒔「分かりました。私達が責任を持って!」

霞「その悪霊を祓いましょう」

 傍から見れば、悪霊のせいで想い人を失った可哀想な少女
 しかしその実際は――

咲「(京ちゃんが私を裏切るわけがないよね。だって、京ちゃんは私の……)」ブツブツ


 決して、そう綺麗なものじゃない


小蒔「あ、悪霊退治です!」ビシッ

霞「(悪霊はともかく、それだけ強い雀士なら小蒔ちゃんと……)」ニヤリ


818: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 22:20:47.36 ID:FLvphjPdo


【須賀家】

 チュンチュン

京太郎「……ふわぁ」

アカギ「よく眠れたか?」

 ベッドから目を覚ますと、脇の椅子でアカギがこちらを見ている
 先に起きていたのだろう

京太郎「あ、アカギさん。早いですね」

アカギ「クク、でもオレより早い奴がいるけどな」

京太郎「え?」

 アカギの視線の先
 見ると、タバコを咥えた傀が何やら新聞を読んでいる

 しかも英語新聞ではないか

京太郎「お、おはようございます傀さん」

傀「……よく眠れたようですね」

京太郎「はい。おかげさまで」

 ガチャッ

須賀母「傀さーん、朝食はいかがですかー?」

傀「いえ、結構です」

須賀母「あらそう。じゃあ、ここにフランス新聞置いとくわね」

傀「恐れいります」ニヤリ

須賀母「ンフフ、あのクールな目がたまんないわー!」キャー!

京太郎「なにやってんの母さん」

須賀母「あら京太郎。休みだからっていつまでグタグタしてんの?」

京太郎「……朝飯は?」

須賀母「ちゃんと作ってあるわよ」

京太郎「わーい」

アカギ「飯はいいのか?」タバコスパー

傀「……ええ」スパー

 なんだかんだで京太郎の家に居候してる傀
 アカギと違い、普通の人にも見える為に隠しだてはできなかったのである

 しかし居候とは言っても、夜にはフラフラと出かけ
 明け方に戻ってきては紙袋一杯に万札の束を詰め込んで帰ってくるだけ

 別に寝食をともにしているわけではなかった

 ならばなぜ、わざわざここに戻ってくるのか

京太郎「(俺、なのか?)」

傀「……」ニィ

826: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 22:33:27.60 ID:FLvphjPdo


 アカギといい、傀といい
 なぜ自分にこだわるのか

 アカギはともかく
 傀の場合は他人に見えるし、自分で打つことも出来る

 だったら京太郎に付きまとう必要は無い筈だ

京太郎「あの、もしかして俺の700万狙ってます?」

傀「……打ちますか?」

 それは無言の肯定と見るべきか
 いずれにせよ、戦いは避けがたい

京太郎「俺も是非に、と言いたいんですけど」

 戦わなくても分かる
 今の自分ではまともに戦うことは敵わないだろう

京太郎「もう少し待ってください。すぐに追いついてみせますから」

傀「では……アナタのその金は――預けておきましょう」

アカギ「お前こそ、足元すくわれねぇようにな」 

傀「……」クス

 またまたピリピリと張り詰める空気
 やれやれと思いながらも、京太郎は今日の予定をどうするか考えていた



 その頃
 京太郎の家の前には


和「ふふっ、来ちゃいました」クスクス

 
 須賀京太郎のフェイバリットエンジェル、和が訪れていた

 最近はすっかり身を潜めていた露出度の高い服装に
 朝早くから起きて用意した手作り弁当
 財布に忍ばせるのは……薬局で赤面しながらかったあるモノ

 これら全て、和自身が京太郎の為に用意したのだ


和「須賀君……//」ドキドキ


 原村和
 恋する乙女の登場である


833: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 22:44:22.16 ID:FLvphjPdo


和「……緊張してきました」スーハー

 胸に手を当て、動悸を落ち着ける
 髪が乱れていないかチェックし、笑顔チェック

 全てが完璧
 これで今度こそ京太郎を堕としてみせる

和「は、原村和! イきます!」ドキドキ

 はやる気持ちを抑え、インターホンに手を伸ばす
 その時――

智葉「……待て」

和「え?」

 背後から声がして、和は振り向く
 そこにいたのは――あの臨海女子の辻垣内智葉

 それも普段の姿ではなく

智葉「……君は、原村和か」キラキラキラキラ

和「!?」

 下ろされた髪に、メガネではなくコンタクト
 さらに普段とは違う、花柄の髪留め

 服装は露出の高い肩出しのパーカーと
 絶対領域を輝かせるフレアスカート 

 察しのいい和はすぐに気づく

和「(この人、まさか!?)」ゾクッ

智葉「(……ここが、彼の家か)」ドキドキ

通りすがりのおせっかい焼きの隣人「こいつはくせぇー! 恋するメスの匂いがプンプンするぜ! 」

 辻垣内智葉は須賀京太郎に恋している
 同じく恋心を抱く和が、それに気づかぬ筈がない

和「っ!」ギリッ

智葉「……(コイツもか)」

 それは勿論、智葉も同じである
 

 

838: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 22:51:56.98 ID:FLvphjPdo


智葉「……そこを退いて貰おうか」ズイッ

和「なぜですか?」ギロリ

智葉「私は彼に用がある」

和「私だってあります」

智葉「どうせ大した用じゃないんだろう?」

和「そんなことはありません!」

 両者一歩も引き下がらない
 そこで智葉は、奥の手を使う

和「そもそも私は彼の部活仲間です。アナタは敵じゃないですか!」

智葉「ふぅ、分からないか? 私と須賀は……」

和「え?」

智葉「昨晩、熱く、激しく……燃え上がったんだ」ゾクゾク

和「」ガーーーーーーン

 ガクッ

和「あ、あぁ……」ブルブル

智葉「これで分かっただろう? さあ、そこを……」

和「わ、私だって!」

智葉「なに?」

和「私の胸は既に須賀君のモノなんです!」

智葉「」ガーーーーン

 ガクッ

 両者ダウン
 片膝を付き、肩で息をしている

智葉「ぐっ……」ハァハァ

和「……」ハァハァ

 お互いがお互いを羨ましく思う

 自分だって京太郎と熱く燃え上がりたい
 自分だって京太郎に を弄ばれたい

 自分だって
 
 そう思う気持ちが二人の興奮を高めていた
 


840: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 22:58:01.40 ID:FLvphjPdo



 現状では二人の力関係は五分と五分
 ならば、ここは相手を下した方が京太郎を手に入れることになる

和「須賀君は私のモノです」バチバチ

智葉「何を言っているのか分からんな」バチバチ

 和の先制攻撃
 しかし智葉はどこ吹く風

和「大体、須賀君のことをよく知らないくせになんなんですか!?」

智葉「恋に時間が関係あるものか! そういうお前こそどうなんだ!?」

和「私は須賀君が大好きです!!」

智葉「私だってそうだ!!」

和「カッコイイんです!」

智葉「強いんだ!」

和「麻雀ですか!?」

智葉「麻雀 も だ!」

和「私は!」

智葉「なんだ!?」

和「誰にも真似出来ない華麗な打ち方の須賀君が好きなんですっ!!」

智葉「違う! 流れに乗る勢いのある打ち方の須賀君が好きなんだっ!!」

和「いいえ! 彼のことが好きなら、彼の個性を好きになるべきです!」

智葉「何を言っている? 彼の根底にある流れそのものを愛すべきだ!」

 荒れる討論
 白熱する須賀家前での攻防

 だがそこへ突然
 
 乱入者が現れる


睦月「どっちも好きでよくないか?」


智葉「!」

和「!?」


睦月「少なくとも、私は須賀君の全てが好きだ!!!!!!!!!!!!!!!」バーン



843: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 23:07:04.31 ID:FLvphjPdo


 張り裂けんばかりの大声で宣言する睦月
 その心意気に、二人は感動し……胸打たれる

智葉「ああ、そうだな」

和「……はい」

睦月「うむ」

 好きになった切っ掛けは違えど
 好きであることに変わりない

 自分を本当の意味で見てくれたこと
 背中を追う楽しさを教えてくれたこと
 危機から救い、手を差し伸べてくれたこと

 理由や建前なんてどうでもいい

 今、好きなのだから

 その想いを育てればいい
 その想いを大切にすればいい
 その想いを伝えればいい

 そんな単純な話なのだ

智葉「ふっ、なら……やることは決まってる」

和「ええ、そうですね」

睦月「うむ!」

 三人は意を決し、玄関に並ぶ
 インターホンを押して、彼が出てきたら言おう

 ただ好き、だと

智葉「では押……」


京太郎「あのー」


和「え?」

 三人が頭上を見上げると
 そこには二階の窓から顔を出す京太郎

和・智葉・睦月「「「」」」きゅんっ

 ドキッと心臓が跳ねるのも束の間
 



京太郎「近所迷惑なんで……もっと静かにしてくださいね」




和・智葉・睦月「「「」」」



 思いっきり迷惑そうな顔をされていた




846: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/21(水) 23:33:27.59 ID:FLvphjPdo


【雀連】

 京太郎が自分に好意を寄せる少女達に呆れているその頃
 麻雀連盟の本部では、珍しい顔合わせが起きていた

健夜「あ、どうも安さん」

萬「おー、健夜ちゃん。見ない内に綺麗になったな」

 ご存知、アラサー小鍛治健夜と
 安永萬六段である

健夜「えへへ、そうでもないです」

萬「実業団で活躍する選手が、雀連に何か用かい?」

健夜「えっと、少し噂を耳にしまして」

萬「うん?」

 久しぶりにあったということもあり
 若干上機嫌の萬

 それに対し、健夜はどこか様子がおかしい

健夜「安さんはアカギを、知ってますか?」

萬「アカギ? ああ、あの【神域】な」

 打ったことはないが有名だ
 当然雀士なら知っている

健夜「じゃあ、もうひとり」

萬「?」

健夜「傀も、ご存知ですよね?」

萬「!」

 知ってるもなにも、昨晩も打ったばかりだ
 しかも何やら上機嫌だったせいで、自分すらもクビを切られてしまった

 長いこと傀と打っているが、ああも見境なく暴れた傀を見たのは初めてだ

萬「おいおい、実業団の選手がこっちに来ちゃダメだぜ?」

 先輩として助言をする萬
 それも当然だ、傀に関わった女は全てろくな結果にならない

 彼女もそうなって欲しくない
 優秀なら尚更だ

 だが、その萬の気遣いは

健夜「……やっぱり、私より強いんですね」

萬「っ!」
 
 しまったという萬の顔
 それも当然だ

 なぜならこの目は

 この瞳は――


健夜「……傀も、アカギも、戦いたいなぁ」ニヤァ


 狂気に取り憑かれた、勝負師のモノ――





909: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/27(火) 22:21:56.27 ID:2pWHUKwHo


【京太郎の部屋】


京太郎「……」

和「えっと……」

智葉「その、だな」

睦月「うむ……」

 あれだけ家の前で騒いでいた手前、どこか後ろめたい三人娘
 それに対し、京太郎はすんなりと部屋に通してくれた

 だが逆に、それが怖い

京太郎「来るなら来るって連絡くらいくださいよ」

 椅子に腰掛け、少しだけ機嫌悪く言う京太郎

アカギ「クク、モテモテでいいじゃねぇか」

京太郎「(前の俺ならそうでしょうけどね)」

 ちなみに今、傀はこの場にいない
 京太郎が三人を部屋に通した時には、既にどこかへ姿を消していた

アカギ「意外にシャイな奴だな」

京太郎「そういう問題じゃないですよ」

和「え?」

京太郎「いや、こっちの話」

 くるりと椅子を回し、向き直る

 和に智葉に睦月
 三種三様の美少女に囲まれて、悪い気はしないものだ

京太郎「それで、何の用? リベンジ?」

和「はいっ。今日こそは私が勝って、須賀君に抱いてもらいます!」

睦月「げほぉっ!?」

智葉「……チッ」

 満面の笑顔で話す和
 こんな言葉を彼女の父親が聞けば、どうなるのか見てみたいね?

アカギ「~~~~っ!!」ダンダンッ

京太郎「(アカギさんが腹を抱えて笑ってる)」

 もっとも、今の京太郎にとってはこっちの方が衝撃的だったが
  

912: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/27(火) 22:28:40.87 ID:2pWHUKwHo

睦月「な、ななっ!? 何を!?」カァァ

和「そういう約束ですから」

京太郎「いやまぁ、そうだけど」

 実際に言い寄っているのは和の方なのだが
 傍から見れば京太郎が悪いような気がする

 つーかもげろ

智葉「……ふっ、くだらんな」

和「!」

智葉「体でしか勝負出来ないとは、親が泣くぞ」

京太郎「(ヤ●ザがそれ言っていいのか?)」

和「だったらアナタはどうなんですか!?」クワッ

智葉「私か? そうだな、私なら……」

 智葉はどこから取り出したのか
 黒いアタッシュケースを床に置く
 
 そして、それを開くと……

智葉「ここに一億ある。どうだ? ウチの組の代打ちにならないか?」

睦月「げぼぉぁぁっ!?」

和「」

 ガラッ

傀「打ちますか?」ニィッ

京太郎「わぁぁぁ!」ピシャッ

智葉「ん? 今押入れから何か……?」

京太郎「あ、いえ。なんでもないです」

アカギ「押し入れにいたのか、アイツ」


和「というより待ってください! アナタも似たようなものじゃないですか!?」

智葉「そうか?」

和「そうです! 体とお金じゃ違いがありません」

智葉「これは私が代打ちとして稼いだ金だ。親に与えられた体を邪に使うお前とは……」

和「私だってこの体を維持する為に頑張ってるんです!」



睦月「……体も、金も無い」ズゥーン




917: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/27(火) 22:39:35.99 ID:2pWHUKwHo

智葉「大体お前にどうこう言われる筋合いは無いぞ、原村」

和「それはこちらのセリフです。余所者は早く帰ったらどうですか?」

智葉「なんだと?」

和「なんですか?」

 ギャーギャー! ワーワー!

京太郎「……はぁ」

 自分を巡っての争いだということは、鈍い京太郎にも分かる
 昔の自分なら泣いて喜ぶだろうが、今となってはもう遅い

京太郎「(本当に俺、変わっちまったんだなぁ)」

 一日数十回のxxxx
 それもこの数日感、まったくの手付かず

 何より求めるのは勝負
 胸を焦がす、熱い何か……

京太郎「……」

睦月「あ、あの、須賀君」オズオズ

京太郎「はい?」

睦月「その、大したものじゃないんだけど……えっと」ガサゴソ

 隣で行われるキャットファイトを尻目に
 睦月はカバンから小さな包装紙を取り出す

 仄かに感じる甘い香り……

京太郎「これ、津山さんが?」

睦月「うむ。クッキー☆を焼いてみたんだが……」

京太郎「……」ガサッ

 開いてみる
 とても不格好で、色も黒々とした焦げ目跡が残っている

アカギ「クク、【見た目】はまずそうだな」

京太郎「……そうですね」

 今時子供だってもっとマシに作れるだろう
 作れないにしても、こんな失敗作のようなものを手渡す筈がない

 それはおそらく、睦月自身も理解していた

 でも、それでも

睦月「……食べて、欲しかったんだ」


 自分の気持ちに、嘘はつけなかった


京太郎「……」ひょいっ

睦月「あ、あははっ! やっぱりダメだ、こんなものとっとと捨てた方が――」アセアセ

京太郎「……」カリッ

睦月「え?」

京太郎「んっ……」ガリッボリッバキャッジュゥゥウゥゥグチョネチョォォォバリバリドゴオォォン

和「!?」

智葉「なんだこの音は!?」

 もはやこの世のものとは思えない音を立て、京太郎はクッキー☆を食べていた
 

919: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/27(火) 22:47:15.75 ID:2pWHUKwHo

京太郎「……うぇっ」

睦月「だ、大丈夫か!? どうしてそんな無茶を!」

京太郎「自分で作っておいてよく言いますよ」

和「み、水を!」

智葉「バケツを用意するか!?」

 パニック気味の三人を京太郎は片手で制し
 どこか妙に晴れやかな表情で

 告げる

京太郎「その必要はありませんよ」

睦月「え?」

京太郎「少々、刺激的な食感と味付けでしたけどね」

和「でも……」

智葉「とても人間の食べ物だとは思えないが」

 それもそうだろう
 包装紙からは今も邪悪なオーラが立ち込めている

 だが、京太郎はそれを否定する

京太郎「そりゃ、和や辻垣内さんが食べればそうでしょうね」

アカギ「フフ」

和「それって、どういう意味ですか?」

京太郎「簡単なことですよ、これには世界で一番美味い隠し味がある」

 前はまるで答えが分からなかった
 でも今は違う
 
 あの時のアカギの言葉が、京太郎には痛いほど分かっていた

京太郎「三人は、世界で一番美味い食い物を知っていますか?」ニッ

和「?」

智葉「?」

睦月「????」



 ソロー

傀「……ツキの女神の正体、ですか」スッ

アカギ「クク……睦月だけにな」ニヤリ

傀「……御無礼」

アカギ「あらら」


921: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/27(火) 23:00:05.68 ID:2pWHUKwHo

 三人娘の襲撃はやけにあっさりと終幕を迎えた
 というのも、京太郎が対局を提案し速攻でトばしたからである

 当然打ったのはアカギ
 京太郎が打ったのは最初の数局だけであった

和「最初の打ち筋、今まで見たことも無いような……」

智葉「こんな打ち方も、まるで別人だ……」

睦月「えへへっ、須賀君に振り込んじゃったなぁ」デレデレ


 バタン

京太郎「ふぅ、やっと帰りましたね」

アカギ「つれないこと言うなよ。みんなお前を好いてくれてるんだ」クク

京太郎「今の俺は強くなることしか興味ありませんし」

アカギ「ふーん?」

 アカギと軽口を叩き合いながら部屋に戻ると
 傀が何やらPCの前で操作している

傀「……」カタカタ

京太郎「傀さん? 何やってんですか?」

傀「……ネット麻雀を」

京太郎「あ、いつの間に」

 画面を見ると、京太郎のIDで傀がログインしている
 
アカギ「離れていても麻雀とは、便利な時代になったもんだ」

京太郎「アカギさんが打ちたいでゴネるから、俺が付き合ったんですよ?」

 京太郎が雀荘破りを始める前は、夜な夜なこのネト麻を繰り返していた
 最初はよかったのだが、アカギが強すぎてネト麻界に妙な噂が広がってしまい
 泣く泣くやめるハメになった

京太郎「アカギの再来って、これがこっちが先だったらしいっすね」

 京太郎が雀荘破りをする以前に、既にインターネット上では神域の噂だらけ
 kyouというプレイヤーネームがあまりにも有名になるほどには――

京太郎「そのIDでログインしちゃうと、少しヤバイんじゃ」

 最後に勝負した時は閲覧者が数千人近いお祭り状態だった
 目立つのは嫌だったので、スッパリそれ以来ログインしていなかったというのに
 これでは復帰したと捉えられかねない





924: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/27(火) 23:07:46.99 ID:2pWHUKwHo

傀「……」カチカチ

京太郎「しかも傀さんってことは」

 見ると案の定、対局者全員がクビを切られて終了
 これがビンタ勝負なら、三人ともご愁傷様といったところか

京太郎「うわっ、もう既に閲覧者が千人近い!?」

アカギ「ククク、人気者だな」

 それはアナタですよ、とは言わない
 だけどその一方で、京太郎は感心していた

 傀の強さもそうだが、やはりアカギの名は凄い

 誰もが彼の強さに憧れ、こうして伝説の足跡に縋り付いているのだから

アカギ「だけどどうした? お前が金の絡まない勝負をするとは思えねぇが?」ニヤニヤ

傀「……」

 アカギの言う通り、傀は無償の戦いを滅多にしない
 だとすれば、この勝負には何か裏がある

京太郎「何を、待っているんですか?」

傀「……」ニィ


 ピコン


<対局を申し込まれました>

京太郎「誰だろう? このネト麻、同ランクにしか申請出来ない筈だけど」

 フリーでランダム対戦は出来るが
 完全指名となると、同程度のレート出ないと不可能だ
 
 だとすると、少なくとも相手はアカギや傀と同レベルの勝利数だということ

京太郎「対戦相手は――」


 ドクンッ


京太郎「SukoyaーKokaji?」

アカギ「知ってるのか?」

京太郎「多分ですけど……いや、でも本人では無いハズ」



 あのプロが
 日本一、いやおそらく世界でもトップクラスのあの人が

 こんな場所にいるわけがない




 

927: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/27(火) 23:19:25.40 ID:2pWHUKwHo


 【神域VS】kyoの正体についてpart114514【アラフォー】


15 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:YAnTeruru
 これマジ?

16 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:kIkaNjYuU
 本物なわけあらへんよな?

 なっ?

17 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:CharginG0
 充電不可避

18 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:iKeDaAcaT
 kyoなんで雑魚だし!!!

19 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:TAMAnnee0
 あらあら、まさかこんな大物まで出てくるなんてね

20 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:koSI+MIZU
 のどっちのことも忘れないであげてください……

21 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:iKeDaAcaT
 こんな奴の何がいいのか分からないんだし!
 ぶっ倒してやるんだし!!!

22 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:NekiYadEE
 これある意味頂上決戦とちゃう?

23 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:ATGsisteR
 鳥肌もんやわ!

24 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:kIkaNjYuU
 早く早く!! 勝負してぇな!

25 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:HayariN28
 可愛いはやりんとも対局して欲しいなっ☆

26 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:FraGariA0
 こんなん考慮しとらんよ……

27 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:NekiYadEE
 うちはkyoに賭けるで!!!
 もしkyoが負けたら妹のメガネかち割ったるわ!
 
28 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:ATGsisteR
 ↑堪忍してぇな

29 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:TeMpTress
 これは見ものだな

30 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:hizamakur
 勘やけどkyoはアイドルに向いてると思うんよ

31 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:TokiTokii
 この勝負を見届けるまでは死ねへんわ

32 名前:VIPにかわりまして雀士がお送りします[sage] 投稿日:??? ?:?:?.? ID:MaSaEATG
 すこやちゃん、最近飢えとったしなぁ
 これ分からんで


936: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/27(火) 23:32:06.31 ID:2pWHUKwHo

 既にネットは興奮の渦に巻き込まれていた
 それもそのハズ

 この勝率を見れば、このKokajiが本人であることは明白
 そしてそれは、kyoにも当てはまること

アカギ「クク、コイツを引っ張り出す為か?」

傀「……打ちますか?」

アカギ「いいのか? お前が誘い出した相手だろ?」

傀「元はアナタのものですから」

アカギ「何を企んでるんだか」

京太郎「い、いやいや!! 待ってくださいよ!」

 京太郎からすれば、雲の上の出来事すぎる
 いきなりあの小鍛治健夜と戦う?

 そんなの全く想定の無いことだった

アカギ「ガタガタ言うな京太郎。俺がヤる」

京太郎「でも、いくらアカギさんでも」

アカギ「京太郎」

京太郎「っ!」

 ざわ……
  ざわ……

アカギ「こんなものは遊びだ。所詮、命のやり取りじゃない……ただの遊戯」

京太郎「それは、そうですけど」

アカギ「オレも傀も、これでコイツと戦いわけじゃねぇんだ」

 そう言って指差すのはパソコン
 では、アカギは何のために戦うのか?

 それは、決まっている

アカギ「コイツがオレ達の餌になるかどうか」ニィ

傀「それだけです」ニィ

京太郎「~~~~~~~~ッッッッ!!???」

 今や日本の頂点
 永世八冠、国内無敗のトッププロを相手にしながら

 これだけの傲慢!!
 なんという自信!!!

京太郎「は、ははっ……参ったなこりゃ」

 京太郎は肩に張っていた力が徐々に抜けていくのを感じ取っていた
 そうだ

 自分が目指す領域では、このくらい当然なのだ
 
京太郎「俺はまだどこか、腑抜けていたってか?」

 

943: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/27(火) 23:40:16.90 ID:2pWHUKwHo

京太郎「分かりました。やりましょう」

 震えは止まっていた
 胸打つ鼓動がやけに早い

 それもそのハズ
 
 自分はまだまだ強くなれる

アカギ「行くぞ、京太郎」

京太郎「はい。アカギさん」

傀「フッ」

京太郎「それと、傀さんも一緒に」

傀「……ええ」

      _ x <        > x、
ヽ|,J|,J|,J´                `ヽ、
ミミししし                    \
ミミ三三ニ=                    ヽ
ミミ三三ニ=     ,r ,r,r,r      ヽヽ     \                  __    .,r-―=一
ー---===--.    / ///               `ー-y         ー==ニ´   `ヽ,/  /ー―- 、
//f//       / ///     /r  ノノノ     `ーy        ./              ≦、 ⌒
//   ー三三ノノノ  //  { { i } /      `ー一フ     ./ _                `ヽ、
/ /   // ,r-一y  /   {{{ツ,}  ilililil}    r一 ’.     / ,//               \⌒`
 / /  .{ { /.ー-/,,,ノー--一' ノ /ilililiシ    .}       .///                    rヽ、
/ /   / ,/_, -' _,,r,ー--===彡,/{ililil/     .}        ′./                    }
./   /l r--―フ./、_ノノ/}:/r‐..,-r彡ヽ} il       l        / ./i       ,  ∧  r、ヽ、     ',
   /゙} ゞi    ´  ′ ノ ′/.} .i-=彡   }.    l         .///       /i  / .\| \,__ .r-、',
     ',              l l .l}-=彡  /    l         /  .,   /i / .{ ./  / ` ,'´  ヽ }  }',
      ',               .{フi j//ノ ノ   i ゝ、       .{  /{   / レ`ヽリ   ,r=a=― ,リf´ l ',
      ',               ,r'-≦< iヽ  ヽー--      .l ./ l  ./ー=a=   ` ̄´   リ}ノノ ',
      ',       i       ,イl ヽ  lヽl .\ \        l/  .l ∧  ` ̄´/         }-< ',
       l.       il     /.l人| ヽ ゝ,′  `~ ̄`       ′ .l,/  \  ./  _j         ヽ ',
       \   f ,}  )  ./     .\l                     ヽ,./ /´              ヽ}
         \,.r┴ '` ̄ヽ/  rニl .r-、 `                      `´ー---―'
          \  r.、    /  }/ .iツ                            \  :::    ./
            `V .Yヽ .に}.  lニニニニ)                       \     /     /
             \.{ ヽ l  l /                           /\ _ ノ   .,r'´
               \ .V  r}../                           //    }   .//
                ヽ ヽ l /                         / /    /   /_./  ./
                 ヽ丶l/                        /  ./    /  f ̄. /  //  /
                  `V′                      /   /    /   .} /iフ/./-、/
                   ∧                      /   /__  .{    ', . ̄´ .`¨´
                   ∧                    .∧     /  .l    ',
                     ヽ                        / ∨   /    .l     l
                      ヽ                   /   ∨  ヽ    l      l
                       ヽ                   /    ∨  \.   ',     .l
京太郎「……」スッ

<Yes>

京太郎「勝負」カチッ

 ピコン

京太郎「小鍛治健夜」

 貴女の強さ――量らせてもらいますよ

 アカギさんの
 傀さんの
 

 そして何より


京太郎「俺の強さの、糧になるかどうかをね」ニィ


 闇は今静かに――
 動き出す
 

955: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/28(水) 00:00:09.00 ID:lsZJ7bZlo
 
【都内 某所】

 都内に位置する某ビル
 そこにある一つのフロアは本日、とあるグループが貸し切っており

 パソコンと僅かな食料のみを持って、彼女達はまるで卓を囲むように
 机を向かい合わせにして座っていた 
 
 それは勿論

 ある人物と戦う為に

健夜「……ふぅ」カタカタ

 カチッ カチカチ

 ブブー

<第二位>

 ピッピッピッ

健夜「……」クスッ

 ガチャッ

咏「なーにをニヤニヤしてんのかねー」スタスタ

健夜「あ、咏ちゃん。お帰り」ニコニコ

咏「うげっ、本当に負けてんじゃん。マジでコイツ人間じゃねー」フリフリ

健夜「そうかな? 戦って分かったけど、すごく人間らしかった」

良子「付き合わされた私の意見も同様ですねー」

理沙「人使い荒い!」プンスコプップー

健夜「あはは、ごめんね」 

咏「何? どういうこと?」

 自分は参加せず、トイレに行っていた
 所詮この三人の相手になるわけがない

 咏はそう見積もっていた

 だが、実際に戦った三人の意見はまるで違う

咏「敗けたって言っても、所詮こっちは能力無しじゃん。力使えばこっちも……」

健夜「確かに、私達三人は素で打ったし……特に示し合わすこともなく、対等に打ち合ったよ」

 それだけ見れば完全に実力を出しきれない健夜達の方が不利
 一見そう見える

 だが

健夜「Kyoさんね、様子見で打ってたんだ」

咏「は?」

良子「ノーウェイ、と言いたいところですが……」

理沙「本気!!」プンプクプー


958: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/28(水) 00:12:16.18 ID:lsZJ7bZlo

健夜「このネト麻ね。終戦後に相手の配牌とかを俯瞰で見れる機能があるんだ」

咏「!!」ガバッ

 カチカチ コロコロ

咏「なっ……?」

健夜「ね? おかしいでしょ?」

 和了れる時に和了らない
 相手の出方を見る、あえて振込を入れて揺さぶる

健夜「だからこっちも、Kyoさんが和了放棄した時は和了らない」

良子「向こうがわざと振り込んだ時には和了らない」

健夜「そうしたらね。ほら、これくれたの」カチカチ

 過去ログに残る一つのメッセージ
 これまでKyoはどの対局においても一言もチャットすることは無かった

 これが唯一、彼が発した言葉である

咏「なっ……」


【大会ではお互いに本気でやれそうですね】


健夜「Kyoからのテストは合格ってとこかな?」

咏「大会って、まさかあの……」

健夜「うん。近いのは一つしかないね」

理沙「プロアマ合同大会!!」プンプクリー

 全国大会出場校から二名代表を出し
 プロの代表と雌雄を決する大会

 Kyoはその大会に出る
 そして、自分達と直接戦うと言っているのだ

咏「……正気とは思えないねぃ」

健夜「ふふ、そうだね」

 これはあくまでゲーム
 実際の卓とはまるで違う

 能力も、流れも、何も存在しないデジタルには
 なんの価値もない

 彼女が求めるのはただ一つ

健夜「ねぇ、みんな」ニッコリ

咏・良子・理沙「っ!」ゾクッ

健夜「私ね、やっと。やっと……」クスクス


 ざわ……
   ざわ……


:ニニニ/⌒)      \/     〃  |:.:|.:.:.:.|ハ   :::::::::::::::::::::::::::::    ハ|:.:.:.:.:.| ./    /ニニニニニニニ〉    /
=ニ/   _}ヽ   ー=彡'´    |:.:|.:.:.:.lヽ{        '         }ノ|:.:.:.:.:.| | __/===ニニニニ/⌒\/
/   __)   }          |:.:|.:.:.:.|:.人     __       人 |:.:.:.|: | | |=====ニニニ/O  Y
  /  / \/  ___________}\ |:.:|.:.:.:.l: :|:.:|:...    ̄ ̄    イ:l:.: :|:.:.:.|: | | |===ニニニ/ `¨´ /|
/ニニニ〉    Y  {ニニニニニニニニY.|八:.:.:.ト、|:.:|:.:.r‐}` ー--‐  {‐ァ: |:.|: : |:.:.:.|: | ∨ニニニニ/     / :|
\===/     |   〉ニニニニニニニニ   \l:_:|-‐'{厂         ア}ー- .:_:|:.: 八|===ニニ/       /  ヽ___/
  \/    /  /====ニニニニニ_ ,. <     |        |    ノ/=ー-、ニニ〈    〃   /ニニニニニニニニニニ


健夜「本気でヤレそうなの」


964: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/28(水) 00:23:27.90 ID:lsZJ7bZlo


【京太郎の部屋】


京太郎「……テストは終わり、ですか?」

アカギ「ああ。どうやらただのお山の大将じゃなさそうだ」

傀「……」

 ネト麻での半荘が終わり、一息つく京太郎達
 一応の勝利
 
 とは言っても、お互いに探り探りのもので
 とても力のねじ伏せ合いなのではない

京太郎「あーあ、目の前にいたらなぁ」

アカギ「ま、同感だな」

傀「……オカルト、ですか?」

京太郎「はい。きっとこの程度じゃないですよ、三人とも」

アカギ「気づいてたのか?」

京太郎「はい。Kokajiさん以外ののーうぇいさんとぷんぷんさんも」

 おそらくはプロクラス
 それも、とびっきり上位……間違いない

 だけど、今はもうそんなことはどうだっていい

京太郎「アカギさん。傀さん」

 京太郎の目に映るのは小鍛治健夜でも、上位のプロでもない

アカギ「なんだ?」

京太郎「前にも言いましたが、今の俺は二人には遠く及びません」

アカギ「それがどうした?」

京太郎「でも、俺の目標は貴方達を抜けた先にある」

 その先に行くには越えなければいけない壁がある

 アカギと傀
 この二人を乗り越えずして、京太郎は胸を張れない

 だから――

京太郎「お願いがあるんです」

傀「……」

アカギ「奇遇だな、オレも言おうと思っていた」


 それは、京太郎にとっても
 アカギにとっても
 傀にとっても

 揺らぐことの無い信念の元に


京太郎「この大会が終わったら、俺と」

アカギ「オレ達と」

京太郎「命を賭けて、やりませんか?」

  

967: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/28(水) 00:29:53.73 ID:lsZJ7bZlo


 金がある
 意地がある
 誇りがある
 
 人は何かを守る為に、何かを差し出そうとする
 それは誰だって同じ
 
 しかし稀にそこに例外が混ざる

 何も考えず
 なんの打算も、計画も無く

 ただ純粋に――戦おうとする

アカギ「ククク……」

京太郎「俺が負けたら自殺でもします」

アカギ「オレは成仏か。なら、コイツは?」

傀「……さぁ、どうでしょうか」ニイ

京太郎「……」

 分からない
 何が自分を駆り立てるのか
 
 この戦いの果てに、何が待っているのか?

 分からない
 でも、もう止められない

 動き出した彼の鼓動が

 魂が

 心が

京太郎「決まり、ですね」

 ソレを求める限り
 留まることは無い


971: ◆RwzBVKdQPM 2015/01/28(水) 00:43:04.80 ID:lsZJ7bZlo


【次章予告】


 時は流れ、遂に始まる大会
 参加する全国からの手練達――

智葉「あの時の借りだ。受け取ってもらうぞ」

怜「不思議やな、悪い気せーへんもん」

玄「ぶっ殺してやるのです!」

洋榎「覚悟せぇや神域ぃぃぃぃぃっ!!」

小蒔「アナタは生きていてはいけないんです!!」

豊音「ちょーかっこいいよー! サイン欲しいよー!」

照「変わったね、京ちゃん」

淡「むかつくむかつくむかつくっ!!」

爽「参ったねぇーどうも。こりゃやりにくいって」

 そして、彼女達を迎え討たんと
 静かに牙を光らせるトッププロ達――

 彼女達の目的は、ただ1人

靖子「待っていたぞォ――!! 須賀ァ――!!!」

良子「フィアー……この私が、おびえている?」

はやり「はやりんキッスあげちゃうぞっ☆」

理沙「勝負っ!!」プンプーン

咏「たくっ、嫌になるねぃ」

健夜「あっはぁ!! もっと! もっともっともっともっと!!!!! 楽しもうよっ!!!!」


 そして、京太郎の前に立ちふさがるのは


咲「ねぇ、京ちゃん。麻雀って――楽しい?」

京太郎「……」


 幕を下ろす大会
 そしてその行く先に待つ、一つの物語の終焉


――第三部――


 【伝説の欠片】

京太郎「神の一手は俺が決める!」

アカギ「クク……やってみろ」

傀「……」




 かみんぐすーん


引用元: 【咲SS】京太郎「神の一手は俺が決める!」アカギ「クク……やってみろ」【アカギ】