院長「あなたが幼女ちゃん?」幼女「むい!!」 前編 

院長「あなたが幼女ちゃん?」幼女「むい!!」 後編

2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/16(月) 21:00:41.76 ID:BI9wz96C0

――???――




女「………」

男「お・ん・な・ちゃん!」

女「………なによ?」

男「難しい顔しちゃってどうしたの?」ニヤニヤ

女「………あんたには関係ないでしょ」

男「なんだよー、どうせ暇なんだからさーお互いの悩みとかおもしろい話題とか共有したっていいんじゃないのー」ニヨッニヨッ

女「ああ、鬱陶しいわね! あとあんたどんな動きしてんのよ! 気持ち悪い!」

男「それは企業秘密なのです! はい!」ペカー

女「相変わらず人の神経を逆なでするのが得意なようね……!!」ギリッ

男「それはまぁ、育ってきた環境がそうさせるんですなぁ……悲しいことに」シミジミ

女「バカじゃないの?」

男「なんでそんなに攻撃的なのかな!? 俺、なにかした!?」

女「なにもしなくても私はあんたのことが嫌いなの!」

男「その……具体的に僕ちんのどこが……」

女「存在?」

男「全否定かよ……」

女「特にその真っ黒な髪を見てると色々と思い出して殺したくなるわ」


3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/16(月) 21:02:40.24 ID:BI9wz96C0

男「えー、この髪はしょうがないでしょ。自然とこうなっちゃったんだから」

女「もう全部剃れば? そうしたらいつまでも嫌いでいてあげるわ」

男「どっちに転んでもダメなのか……」

女「あとなんかイカ臭い」

男「んなわけねぇだろ! いくら君でも言っていいことと悪いことってのが!!」

女「ちょ、本当ごめん。これ以上近づかないでくれる?」

男「あ、ダメだ。これマジなやつだ」

女「私は最初からずっと本気よ」

男「もうそんなカリカリしないでなにがあったのかお兄さんに理由を話してみなさい?」

女「不本意ながらこの空間を共有しなければならなくなった変 をただただ殺したくてしょうがないんですがこれってどうしたらいいんでしょうか? 教えてください」

男「………あれだね、歩み寄る余地さえ俺には残されてないわけだね……」

女「あると思ってたの?」


5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/16(月) 21:03:45.71 ID:BI9wz96C0

男「みなさーん、これが『聖女』様の本性ですよー、慈悲の心なんてあったもんじゃないですよー」

女「うるさいわね! ちょっと色々と考え事してるんだから静かにして!」

男「考え事?」

女「どうせあんたに聞いても意味無いわよ」

男「そんなのわかんないじゃなーい」ニヨッニヨッ

女「その気持ち悪い動きを今すぐやめなさい」

男「教えてくれたらやめる」

女「………あの『参謀』とかいう男のことよ」

男「ああ……彼のことか」

女「あの男は何者なのか、その目的はなんなのか……それをちょっと考えていたのよ。あんたはあの男についてなにか知ってる?」

男「ん? なにも?」

女「そう……期待通り役立たずね、逆に安心したわ。さっさと私の視界から消えてちょうだい」


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/16(月) 21:04:57.28 ID:BI9wz96C0

男「ちょっとは優しくしてくれたっていいんじゃないですか! 俺にだってねぇ、心ってものがあるんだよ!?」

女「そんなの知ったこっちゃないわよ。私はあんたと馴れ合う気なんてさらさら無いから」

男「最初の頃の君はそんなんじゃなかったと思うんだけど……前の君はそれこそ清楚で丁寧でまさに聖女様って感じで……」

女「死んだと思ったら究極の変 と永久にここにいろなんて事実突きつけられたら性格も捻じ曲がるに決まってるじゃない」ハハッ

男(随分と濁った目をしていらっしゃる……)

男「でも参謀のことを知ってどうするって言うんだい?」

女「それは……」

男「まさか……幼女を通して愛しの勇者様に知らせようっていうのか?」

女「……悪い?」

男「………俺の言いたいことはもうわかっているだろ?」

女「でもこのまま放っておいたらまた誰かが傷つく……そんなの許しておけないわ」

男「それも世界の選択だ。俺達が口出ししていいことじゃない。俺達は……」

女「傍観者! 何度も言わないで! そんなこともう十分わかってるわよ!!」

男「だったらそんなこと考えても無駄だ。そうだろう?」


7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/16(月) 21:10:08.25 ID:BI9wz96C0

女「………誰のせいでこんな目にあってると……!!!」

男「おいおい、今更俺に八つ当たりか? それはお門違いってもんだろ? 過程はどうあれ、俺達がここにいるのはどちらかのせいじゃない。あんたがその場の雰囲気に流されてあんなことしたからだ。言うなれば『俺達二人』の責任だろう? 勘違いしてんじゃねぇぞ?」ギロッ

女「……できることなら今すぐあんたをぶっ殺してやりたいわ……!!」

男「すぐにでもお願いしたいもんだ。もっとも、できるならの話だが。俺だってこんな空間、飽き飽きしているんだから」

男「でもそんなことはここに来た時から何回も試したじゃないか? お互いにさ?」

女「……くっ……」ギリッ

男「おいおい……そんな難しい顔してちゃ、せっかくの美人さんが台無しだぜ?」ニシシッ

女「なんでだろう……あんたに言われてもこれっぽっちも嬉しくない。むしろ今すぐあんたを殴りたい」

男「ああ、悪い悪い。やっぱりこういうのは愛しの愛しの勇者様に言って欲しかったよな? ごめんな、俺なんかで」

女「ユーシャは今は関係ないでしょ!」

男「関係あるさ、俺たちがここでいがみ合ってるのも、幼女がああなったのも、地上で起こっているゴタゴタの数々の中心にいるのは……いつだって勇者だ」

女「………」


8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/16(月) 21:10:59.36 ID:BI9wz96C0

男「あいつはそういう運命の下に生まれてきてるんだよ。自分をニートだと称してひっそりと生活しようとしても世界がそれを許さない。あいつは死ぬまで騒動の中心に配置される。それが勇者って生き物なんだから」カッカッカ

女「私は……そんなユーシャの運命をこの手で救いたくて……!!」

男「思い上がるなよ? 聖女風情が1人で抗ったところで、運命って奴はそう簡単に変えられられない」

女「………まだ世界がユーシャを望んでいるっていうこと?」

男「その通り。いくら嫌がっても事件のその場にいてしまう。世界を救うチャンスがあっちから転がってくる。知らないうちに皆の注目を浴びてしまう」

男「だから彼は表舞台に降りたくても降りられない。主人公は物語が終わるまで滑稽なダンスを観客に見せ続けなきゃならないんだよ。それが主役の責任というやつさ」

男「そして俺達はすでに舞台を降りた人間だ。わかるだろ?」

女「………わかったわよ」

男「わかったら俺達も自分の立場をわきまえて、傍観者を決め込んであっちの世界には関わらない。それが正しい選択なんじゃないか?」

女「……でも」

男「でも?」











女「でも最近ユーシャ全然目立ってないじゃない」


9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/16(月) 21:11:44.74 ID:BI9wz96C0

男「あ……それは……そのなんだ? 目立たない主人公っていうのがあってもいいんじゃないないか?」

女「それどころか、私の目から見ても最近めっきり影が薄くなってきたような気がするんだけど?」

男「あー……」

女「むしろ最近は幼女ちゃんとかあの蒼騎士とかいう騎士の方がよっぽど……」

男「はいはいはい!! この話やめやめ! 終―了―でーす!!」

女「いやでも………」

男「これ以上はお互いのためにならないから、ね?」

女「……わかったわ」

男「君、本当に勇者のことが好きなの?」ハァ

女「自分の命を投げ出すくらいは好きよ?」

男「………そうですか」



16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:02:27.07 ID:y0A3Bkmh0





夜になって……


――孤児院 海が見える岬――


剣士「結局あの後、日が暮れるまで勇者と殴り合ってしまった……」ボロッ

剣士「だが、勇者のあの動き……鍛錬していない人間の動きとは到底考えられない……魔法も幾分か使えるようになっていたようだし……」

剣士「あいつ、口でああは言っておきながら、訓練は怠ってなかったようだな……」フフッ




「あの、大丈夫ですか?」


17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:04:23.13 ID:y0A3Bkmh0

剣士「……!!」チャキッ

院長「ああ、ごめんなさい。私です」

剣士「なんだ君か……」

院長「驚かせちゃってすみません、つい癖で」アハハ

剣士「いや大丈夫だ。それにしても私が簡単に背後を取られるなんて……私もまだまだ訓練が足りないらしい」フフッ

院長「そんな、人を普通じゃないみたいに言わないでください。そういう反応、結構傷つくんですよ?」ハァ

剣士「ん? 私は君の技術を正当に評価しているつもりだったんだが……相変わらず、君の技術は洗練されていて美しい。一種の芸術品だ」

院長「なにを言ってるんです、こんな能力、あってもしょうがないです。それに昔のようにはどうしても……私も随分と衰えてしまいました」

剣士「そうか? そのようなことは無いと思うのだが……」

院長「今の私は孤児院の院長です。人に気づかれないように背後に立つ能力なんていりません」キッパリ

剣士「う、うむ……」


18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:06:24.26 ID:y0A3Bkmh0





院長「………今日はわざわざ遠い所からありがとうございました。大変だったでしょう?」

剣士「そうでもないさ」

院長「子供達もとても喜んでいましたよ。ここには大人は私ぐらいしかいないから、新鮮だったみたいで………私の無茶なお願いを聞いてくれて皆さんには感謝しています」

剣士「い、いや、こちらこそみっともないところを見せた……こんな予定では無かったんだが……」

院長「そうですか?」

剣士「そうだ……本来ならば未来ある子供たちに正しき道とはなんたるかを示すつもりだったんだが……あんなことになってしまい、本当に申し訳ない」ガバッ

院長「そんな、顔を上げてくださいよ、剣士さん……私は楽しかったですよ。なんか昔に戻ったみたいで……」

剣士「……そうか」

院長「はい。剣士さんと勇者さんがいつも喧嘩してて、それを僧侶さんが止めに入って、魔法使いちゃんがオロオロしてて……そんな、大変だったけど楽しかった冒険の毎日です」

剣士「そんなに頻繁に喧嘩してたかな?」

院長「はい。それでいつも僧侶さんに怒鳴られて喧嘩がピタッっと止まるんです」クスクス

剣士「そんなこともあったな……そうだ、あいつとは出会った時から喧嘩ばかりだった。私はどうも勇者とは馬が合わないらしい」

院長「あら、私はいいコンビだと思ってましたよ? まるで昔から一緒に暮らしていた親友みたいだなって」

剣士「冗談はよしてくれ」


19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:06:50.34 ID:y0A3Bkmh0

院長「あれから……もう2年以上前の話になるんですね……」

剣士「そうだな……ついこの間のことのように思えるがもう2年か……」

院長「英霊祭、行けなくてすみませんでした」

剣士「構わないさ。君も忙しかったんだろう?」

院長「ここには大人は私しかいないから……子供達だけ置いて王都に行くわけには行かなかったんです。ましてや子供達を連れて行く旅費を捻出できるほど……そのお金が……」モジモジ

剣士「……ここの経営はどうしているんだ?」

院長「私が……その……昔稼いだ資産と、慈善団体の助成金で成り立ってます。子供たちには満足におもちゃも買ってあげられないですけど……」

剣士「そうか……でも初めて聞いた時は驚いたよ。君がこんなところで孤児院を開いているなんて」

院長「どうしても放っておけなかったんですよあの子達のこと」

剣士「……しかしなぜこんな場所に? 王都から随分と離れているだろう? なにもこんな辺鄙なところで無くても……」

院長「………剣士さんも薄々は勘付いているんじゃありませんか?」

剣士「……やはり、魔族少女のことか?」


20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:07:17.02 ID:y0A3Bkmh0

院長「はい。悲しいことですけど、未だに人間と魔族との確執は消えていません。彼女のようなタイプの人型魔族は見た目もほとんど人間と変わらない、だけど……」

剣士「世間はそうは思ってくれない」

院長「はい。彼女は子供たちの中でも誰よりも優しく、他者を思いやることが出来る子です。でも、周りはそれだけじゃわかってもらえなくて……」

院長「ここなら人の目に触れることはありません。ここでなら私のか細い腕でもあの子達を守っていける……そう思ったから……ここに」

剣士「か細い腕? 冗談だろう? 君はその腕で世界を救ったんじゃないか」

院長「も、もう! あんまりそういうことを口に出さないでください剣士さん! 私の過去は子供達には内緒なんですから!」

剣士「何故だ? 話してあげればいいじゃないか」

院長「絶対ダメです! こんなこと、あの子達に知られたら……」ガタガタ

剣士「そういうものだろうか? 君は今の平和に貢献した立派な人だ。それを無かったことにするのは……」

院長「私にはそういう生き方しかできなかったからです。そういう技術を学ぶしか方法が無かったから……あの子達にはそんな生き方、して欲しくないんですよ。だからお願いします……くれぐれも私の昔の話は……」

剣士「あ、ああわかった。勇者にも言っておく」

院長「ありがとうございます、剣士さん」ニコッ

剣士「あ、ああ///」


21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:07:51.60 ID:y0A3Bkmh0



サラサラサラサラ………



院長「……風が気持ちいいですねー」ウーン

剣士「あ、ああそうだな」

院長「私、この景色とても好きなんですよ」

剣士「確かに素晴らしい景色だ」

院長「ほら、水面に映った月が綺麗でしょう? 夏にはここで子供たちと花火をするんです」

剣士「あ、ああ」

院長「……剣士さん?」

剣士「あ、ああ…………あ、いやなんだろうか!?」

院長「ふふっ、変な剣士さん」

剣士「す、すまない……」

院長「……ところで昼間の話なんですけど」

剣士「ひ、昼間の話?」

院長「剣士さんって……本当に彼女とかいないんですか?」


22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:08:29.07 ID:y0A3Bkmh0

剣士「な、なななな……なぜそのようなことを……聞くんだ!?」アタフタ

院長「えへへ、こういう所に住んでいてるとそういう話にどうしても疎くなっちゃうんですよ」

剣士「そうかもしれないがしかし!」

院長「この仕事も楽しいし、子供たちも大好きですが、たまにはそういう話も聞きたいなーって………最近、自分でもなんだか枯れてきているような気がするんですよね……昔ほど身だしなみも気にしなくなりましたし……」アハハ

剣士「いや、君は以前と変わらず美しいままだ。私が保証する」

院長「もう! 剣士さん、相変わらず女性の扱いがお上手ですね、お世辞でも嬉しいじゃないですか」

剣士「そんなことは決して……」

院長「私のことはいいんです。 そんなことより今は剣士さんの恋バナです」

剣士「恋バナ!?」

院長「子供たちの手前、あれ以上は聞けませんでしたけど……昔から剣士さんは女性に人気でしたし、そういう話ひとつくらいはあるんじゃないですか? 子供には言えないような危険な大人の恋とかが……」ワクワク

剣士「そ、そんなものは無い!」

院長「……そうですか、残念です」ムゥ

剣士「き、期待に添えず申し訳ないが……」ズーン

院長「剣士さんが気にする必要なんてないです。私も、変なこと聞いちゃってすみませんでした。気を悪くしちゃいました?」

剣士「いや、久々に君とこうして話すことができて楽しいよ」

院長「そうですか、よかった」ニコッ

剣士「………う」カァァァァ


23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/17(火) 21:12:15.38 ID:y0A3Bkmh0

院長「……!」ピクッ

剣士「どうかしたのか?」

院長「……私、ちょっとあの子達見てきますね? どうやらベッドから抜け出してるようなので」

剣士「ここからでもわかるのか? 流石だな」

院長「はい。油断すると夜でもすぐどっか行っちゃって困ったものです」ハァ

剣士「確かに夜に子供たちがこの辺りをうろつくのは危ないな……」

院長「ベッドは用意しておきましたので皆さんと相談して使ってください。二部屋しか用意できなくて申し訳ないんですけど……」

剣士「ありがとう。そうさせてもらう」

院長「それじゃあ、おやすみなさい。剣士さん」ヒラヒラ

剣士「お、おやすみ………」ヒラヒラ


スタスタスタ







剣士「…………これでいいんだ、これで……必要以上に近づいて、彼女の邪魔をしてはいけない……そうだろ、剣士」ギュッ

剣士「……はぁ……」ガックシ


30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/19(木) 21:06:26.78 ID:mleDFU1S0





勇者「……恋の季節ですねぇ……」ニヤニヤ

幼女「……ですね!!」ピョンピョン

剣士「ゆ、勇者!? それに幼女!? どうしてここに?」

勇者「いやー、まさか堅物のお前がねぇー? ほほう……ふむふむ」ニヤニヤ

剣士「な、なんのことだか私にはわからないな」

勇者「なにやら二人きりでいい感じだったじゃないですかー、剣士さん」ニヤニヤ

幼女「……ですかー!」

剣士「お前達には関係ないことだ!」

勇者「関係ない~? あんな甘酸っぱい空気出しておいて関係ないっておっしゃいますか~?」

剣士「何が言いたい?」

勇者「お前、慰問とか上手いこと言ってあいつに会いに来ただけだろ?」


31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/19(木) 21:06:58.61 ID:mleDFU1S0

剣士「違う! 断じて違う! 私は彼女に頼まれて子供たちのために……!!」

勇者「まぁまぁ…そこらへんはあくまでも名目上だから。実際のところはどうなのよ?」

剣士「慰問だ! 善意だ! 無関係だ!! 私は彼女に会いたかったからといった理由で自分の下心のために肩書きを利用する様なそんな卑劣な男ではない!!」

勇者「って言ってるけど? 幼女?」

幼女「ケンシ………嘘くさい……」

勇者「だよなー! 幼女の目は誤魔化せないぞ、剣士!」


32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/19(木) 21:21:03.55 ID:mleDFU1S0

剣士「違うんだ。2人とも、よく聞いてくれ。私はここの孤児院の子供たちの少しでも力になればと……」

勇者「もうそういうのはいいから、いい加減素直になれよ~。そんなんだったら最初から俺なんか呼ばないで二人でしっぽりやってればよかったのにぃ!」ニヤニヤ

剣士「だから……」

勇者「なに? やっぱり一人じゃ不安だった? 俺にフォローとか頼むつもりだった? ごめーん、力になれなくて! でももう大丈夫だから! 今からはもうお兄さん全力で剣士のこと応援するから!」ニョホホホホ

幼女「………するから!」ニョホホホホ

剣士「やめろ! 何だその顔!?」

勇者「そうかー、君はあの頃から浮いた話が無かったから、てっきりそういう趣味の人なのかと思ってたけど違ったんだな! 浮いた話っていうか、最初から常時浮きっぱなしだったんだな!!」プークスクス

剣士「私を馬鹿にしてるのかお前は!?」

幼女「応援……するよ! ケンシ!!」

剣士「幼女まで……もう勘弁してくれ……」

勇者「どうせ二、三日は滞在する予定だったんだろ? 幼女も友達できたみたいだし、しばらくはお前の恋路に付き合ってやるよ」ニシシ

剣士「結構だ!」ザッ

勇者「おい、どこ行くんだよ?」

剣士「素振りしてくる!」

勇者「ああ、せいぜい自分の剣を鍛えておけよ。院長を口説き落としたら使うかもしれないからな……主に夜に」ウケケケケ

剣士「貴様! 私だけでなく彼女のことまで馬鹿にするつもりか!?」チャキッ

勇者「冗談だって! 幼女の前で剣抜くんじゃねぇよ」

剣士「む、それはすまない……」

幼女「……夜?」


33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/19(木) 21:22:23.12 ID:mleDFU1S0

勇者「ああ、幼女はまだ知らなくていいんだぞー……ってあれ? やっぱり幼女にもいつかそういう日が来るのか……? お、お父さんは許しませんよ!!」ギャース

幼女「むう?」

剣士「お前は子供になにを言っているんだ……」ハァ

勇者「いやでもしかし……幼女が好きになった男はどんな奴かちゃんとチェックしておきたい……」

剣士「お前、頭大丈夫か?」

勇者「もしチャラチャラしてる奴だったらどうしよう……」モヤモヤモヤ



幼女?『ユーシャ! 私……この人と結婚……する!!』

チャラ男『ッス、 お父さん。なんてつーかぁ、幼女ちゃんとはフィーリングつーかぁ、 そんな感じのがビッタンコにマッチしちまったつーかぁ……もう俺たち結婚するしか無くね?ってな感じになってぇ……なんつーか、娘さんをもらいにきましたぁー』チャラチャラ




幼女「ユーシャ?」

勇者「これは一度生まれてきたことを後悔させてやらなければなりませんなぁ……!!!」ゴゴゴゴゴゴ

剣士「勇者! いい加減帰ってこい!」


34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/19(木) 21:24:25.18 ID:mleDFU1S0

勇者「剣士ぃ……幼女がダメ男を好きになったらどうしよう……」オロオロ

剣士「あのな……」

勇者「定職にもつかないで毎日ぶらぶらしてるような人間だったら俺……そいつのこと殺してしまうかもしれない……」グスッ

剣士「それほぼ今のお前だからな!?」

勇者「幼女……もし仮に万が一、いや億が一、好きな人ができたら、ちゃんと俺に見せに来るんだぞ……?」

幼女「好きな……人……ユーシャ!」ビシッ

勇者「そうかぁ、ありがとうな……」ナデナデ

幼女「むふー」

剣士「いい大人が泣くなよ、情けない……」

勇者「この気持ちはお前にはわかんねぇよ……」ズビッ

剣士「………素振りしてくる」

幼女「いってら……しゃい! ケンシ!!」

勇者「ああ、いつか幼女も誰かのものにぃぃぃぃ!!」オイオイオイ……

幼女「ユーシャ! 泣かない……で!」ビシッ

剣士「……もうすっかり父親だな、あいつ……」




44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/20(金) 21:09:04.63 ID:gxdUJn8P0

―――――



悪ガキ「廊下には……誰もいないな? よし!」

魔族少女「……ねぇ、本当に行くの?」ヒソッ

悪ガキ「ああ、このまま馬鹿にされたまま終われないって!」

魔族少女「見つかったら先生に怒られるちゃうよ……それに夜の森なんて危ないし、また熊が襲ってきたら……」ガタガタ

悪ガキ「そうしたら今度こそ俺がぶっ飛ばす!」

魔族少女「ええ?」

悪ガキ「大丈夫だって!………少年魔法使い。先生は今どこにいる?」

少年魔法使い「……先生と剣士様の魔力を感知した。岬にいる」

悪ガキ「じゃあ、すぐには戻ってこれないな……よし! 門の鍵もくすねておいたし、これで外に出れるはず」

侍少女「いつの間にそんなことしてたんでござるか……?」

悪ガキ「帰ってきた時にちょっとな……」ヘヘヘ

侍少女「相変わらずの手癖が悪いでござるよ……」ヤレヤレ

悪ガキ「別にお前らは付いて来なくていいんだぞ? これは俺と幼女の戦いなんだ」


45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/20(金) 21:09:53.31 ID:gxdUJn8P0

少年魔法使い「僕は妖精の生態に興味があるだけだ。お前と幼女の勝負なんて知らん」

侍少女「……本当にどうなっても知らないでござるよ? 拙者はこれ以上オシオキを受けるのは嫌でござるからな!」

少年魔法使い「ならお前はベッドに戻って大人しく寝てるんだな」

侍少女「べ、別に行かないとは行ってないでござるよ! それに拙者がいなかったらなにかと大変でござろう?」

少年魔法使い「別に馬鹿はいらん」

侍少女「……そういう態度をとってるから嫌われるんでござる」ボソッ

少年魔法使い「馬鹿に嫌われても僕の人生にはなんの影響も無いな」

侍少女「拙者が馬鹿と……そう申すでござるか……!」ワナワナ

少年魔法使い「驚いた、自覚があるのか」

侍少女「ムッキー!!!」

少年魔法使い「今度は猿の真似か? 中々似ているじゃないか」

侍少女「またしても拙者を馬鹿にして……!! なんでそんな意地に悪するのでござるか!?」

少年魔法使い「年がら年中ござるござる隣で言われたら少しは文句を言いたくなってもおかしくないだろう!?」

侍少女「だからこれは由緒ある侍の誇りであって!!」

少年魔法使い「そんな誇りがなんの役に立つって言うんだ!!」



ギャーギャー


悪ガキ「もう俺、行っていいか!?」

魔族少女「……悪ガキくん、やっぱりやめた方がいいよ。ほら、明日の朝から探せばいいじゃない」

悪ガキ「嫌だ! もたもたしてたら、幼女に先を越されちゃうかもしれないだろ!? 俺は絶対に幼女より先に目的を果たすんだ!!」

悪ガキ「そんでもって絶対にあのじいさんを見返しやるんだよ!!!」ウガー


46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/20(金) 21:10:30.52 ID:gxdUJn8P0







――妖精の里――



妖精長「……さて、なにから話せば良いものか……」

幼女「お爺ちゃん。私になんの……用?」

妖精長「なに、ちょっとした頼みごとじゃよ」ホホホ

魔族少女「あの……お爺さんはなんで幼女ちゃんをここに呼んだんですか?」

妖精長「これこれ……今からそれを話すところじゃ。慌ててはいかんぞ、魔族のお嬢さん」

魔族少女「は、はい……」

悪ガキ「なんだよ! 勿体つけてないで困ってることがあるならさっさと俺に言えよ、爺さん!」

妖精長「お主は……なんじゃ?」

悪ガキ「俺はいずれ勇者になる男! よーく覚えておけ!」ヘヘン

妖精長「ほう……勇者に……」フヨフヨ

悪ガキ「そうだ! あんな不甲斐ない勇者とは違う! 1人で世界を守る、そんな立派な勇者に俺はなるんだ!」

幼女「またユーシャ馬鹿に……した!!」プンスカ

悪ガキ「事実だから仕方ねぇだろ!」

妖精長「ふむふむ……」ジー

悪ガキ「な、なんだよ? そんなジロジロ見て……」ドギマギ

妖精長「……勇者にねぇ……」ジー

悪ガキ「そうだよ! 文句あるか!?」

妖精長「話にならんわい」ケッ

悪ガキ「なっ!?」


47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/20(金) 21:11:47.10 ID:gxdUJn8P0

妖精長「魔力、身体能力、どれをとっても平均レベル。そんなお主が勇者じゃと? 無理じゃ無理じゃ、全くもってこれっぽっちも話にならん! 主に頼むくらいなら、熊に頼んだ方がいくらかマシじゃ」

悪ガキ「……熊の方が……」プルプル

妖精長(まぁ、完全に芽がないわけではないようじゃが……)

妖精長「お主のような小僧に用は無い。さっさと帰ってクソして寝ろ。以上!」

悪ガキ「この……!! なんと言われようと俺は勇者になるんだ! 絶対に!!」ガー

妖精長「うるさい小僧じゃのう……ならばお主に問おう。お主に『世界を背負う覚悟があるか?』」


悪ガキ「そんなの……あるに決まってるだろ!! 馬鹿にしてんのか!?」

妖精長「だーかーら話にならんと言っておるのじゃ小童が。軽々しく世界などと口にするでない」ペシッ

悪ガキ「じゃあなんて答えればいいってんだよ!!」ウガー

妖精長「そんなもの、自分で考えろ。少しは頭を使わんか。愚か者」

悪ガキ「ムカつく……!!」

幼女「話に……ならない……」クスクス

悪ガキ「笑うな!!」

妖精長「ワシが用があるのはこの子だけじゃ。お前ら人間と魔族に用は無い。さぁ、帰った帰った!」パァァァ

侍少女「な、何をする気でござる!?」

妖精長「無論、無関係な者を追い返すだけじゃ」

侍少女「い、痛いのは嫌でござるよ!?」

妖精長「安心せい、湖の外へ吹っ飛ばすだけじゃよ」


48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/20(金) 21:12:16.71 ID:gxdUJn8P0

少年魔法使い「ちょっと待ってくれ」

妖精長「……なんじゃ?」シュゥゥゥ

少年魔法使い「俺たちはこの森に迷い込んだ幼女を連れ帰るためにここに来たんだ。このまま幼女を置いて外にはいけない。話が終わるまでここにいさせてくれ」ガバッ

妖精長「ふむ……」

悪ガキ「なんでだよ!? こんなやつ放っておけば……!」

少年魔法使い「……ここは我慢しておけ。幼女が帰ってこなかったら勇者も先生も困るだろ?」

悪ガキ「そ、そうだけどよ……」

少年魔法使い「それに幼女がさっき見せた力……個人的に興味がある。あのじいさんはなにか知っているみたいだ、詳しく話を聞きたい」

魔族少女「あの熊を追い払った力だね」ヒソッ

悪ガキ「それは勉強熱心なことですね!」ケッ

少年魔法使い「どうだろうか、妖精の長よ?」

妖精長「……お嬢ちゃん」

幼女「むい?」

妖精長「ちと大事な話も交えて話すことになるが……こやつらも一緒でいいかの?」

幼女「大丈……夫! みんな……ともだち!!」ニコッ


49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/20(金) 21:13:05.10 ID:gxdUJn8P0

魔族少女「ふふっ、ありがとう。幼女ちゃん」

侍少女「そうでござる! 我々は幼女殿の友達でござるよ!」ニカッ

幼女「うん! ともだち!!

少年魔法使い「………」フッ

悪ガキ「幼女……」

妖精長「ほう……魔族と人間を友達と呼ぶか……これはまた面白い!」

幼女「おじいちゃん」

妖精長「なにかな?」






幼女「こいつは……別!」ビシッ

悪ガキ「あ、てめぇ!!」

妖精長「そうか、あいわかった!」パァァァ

悪ガキ「ちょ、ちょっと!?」フワッ

侍少女「悪ガキ殿!?」

魔族少女「幼女ちゃん!? 悪ガキ君も友達だよね?」ワタワタ

幼女「あいつとは相容れぬ……存在!!」キシャー


50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/20(金) 21:13:33.39 ID:gxdUJn8P0

魔族少女「そんなこと言わないで……ね?」

悪ガキ「てめぇこら幼女! ふざけんなよ!?」

幼女「むぅ……今謝れば許してやらないことも……ない!」

悪ガキ「誰が謝るか!」

少年魔法使い「幼女、子供のやったことだ。大目に見てやってくれ」

悪ガキ「お前らだって子供だろうが!!」

幼女「むぅぅぅぅ……しょうが……ない」

妖精長「なんじゃ、いいのか? お嬢ちゃん」シュンッ

悪ガキ「ぐえっ」ベシャッ

侍少女(悪ガキ殿はこんなのばっかりでござるな……)

幼女「ヨージョは心が広い……のです!」フンス

悪ガキ「後で覚えてろよ……」プルプル


57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 20:46:42.13 ID:QmvBtqeO0

妖精長「まったく、騒がしい小僧じゃのう……」ヤレヤレ



妖精兵長「長老―!!!」

妖精長「おお、妖精兵長。如何したか?」

妖精兵長「如何したかではありません! 侵入者です! 今すぐ村にお戻りください!!」

妖精長「それなら大丈夫じゃ。お前さんが言っている侵入者とはこの子たちのことじゃろう?」

魔族少女「今度は小さいおじさん……?」

侍少女「厳つい顔に可愛らしい羽がなんともシュールでござるな……」

妖精兵長「お、お前らは人間の子供!? それに魔族の子供まで!? どうやって入った!? ここは我々妖精族しか入ることができないはずだぞ!!」

妖精長「そんなもん、ワシが呼んだからに決まっておるじゃろう」

妖精兵長「なんですって? この子達を……ですか?」

妖精長「その通り、ワシが呼んだんじゃ」

妖精兵長「なぜそのようなことを!? 長老、この里の非常事態に子供とはいえ人間を呼び込むなんて……何を考えているのですか!?」

妖精長「もちろん、この非常事態の解決策じゃよ」

妖精兵長「解決策……?」

妖精長「そうじゃ。ワシらの命運を託すにはこのお嬢ちゃんしかおらん。この子が持つ龍王様の力を借りる他、我らに残された道は無いのじゃ」

妖精兵「龍王様の……それは真ですか!?」


58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 20:47:19.46 ID:QmvBtqeO0

悪ガキ「なんだ? その龍王様って?」

妖精長「かつて大地に生きる生命を守護していた龍族……その龍族の王じゃよ」

妖精兵長「我ら妖精族は龍族と協力し合ってこの世界を守ってきた……それをお前たち人間と魔族が……!!」

妖精長「これ、この子達に罪は無い。責めてはならん」

妖精兵長「ですが……」

魔族少女「えっと……その龍王様の力を幼女ちゃんが持っているということですか?」

妖精長「ああ、その通り。お主らも見たじゃろう? あの神々しい力を」

少年魔法使い「じゃあ、あれが……」

妖精長「そうじゃ。あの光のブレスこそ、龍王様のみが使うことを許された闇を払う希望の光」

侍少女「闇を払う……光でござるか! なんかカッコイイでござるな!」

少年魔法使い「なぜ幼女にそんな力が……」

妖精長「理由はワシにもわからん。最初にお嬢ちゃんの魔力を感じた時は本当に龍王様がこの世に蘇ったと思ったくらいじゃからの」

妖精兵長「しかし俄かに信じられません。まさかこのような幼子が龍王様の力を……」

妖精長「お主も実際に見ればわかる。あれはまごう事なく龍王様の力じゃ」

侍少女「へぇ……すごいんだね、幼女ちゃんって!」

幼女「えへへ……それほどでもない……よ?」テレテレ

悪ガキ「まぁ、俺にはただの殺人破壊光線にしか見えなかったけどな」ケッ

幼女「……」ムッ

侍少女「コラ、ダメじゃない悪ガキ君。さっき幼女ちゃんに助けてもらったでしょう?」

悪ガキ「へんだ! あいつの助けなんて借りなくても俺一人でなんとかなったっつーの!!」



幼女「……むい!!」カッ


ドゴォォォォン!!!


悪ガキ「あんぎゃぁぁぁあああああ!!!!」

魔族少女「悪ガキくぅぅぅぅぅんん!!!」


59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 20:47:47.85 ID:QmvBtqeO0

妖精兵長「おお! あれぞまさしく!」

少年魔法使い「魔法とも魔術とも分類されない……こんな力があったのか……」

侍少女「いや、感心してる場合じゃないでござるよ!?」

魔族少女「悪ガキ君! 大丈夫!?」ポワァ

悪ガキ「お前……不意打ちなんて……卑怯だぞ……」プスプス

幼女「……」ツーン

妖精長「……すまんが、そろそろ本題に入ってもいいかの?」

少年魔法使い「ああ、あいつのことは放っておいていい」

幼女「いてもいなくても……変わらない!」ムスッ

妖精長「では改めて……龍王の力を受け継ぎし我らが救世主よ。慈悲の心を持って、我らの頼みを聞いてはくれぬか?」

幼女「あたぼう……よ!!」ムイッ

妖精長「ホホッ、それは頼もしいの」

悪ガキ「……俺もやるぜ、じいさん」ボロッ

魔族少女「悪ガキ君! まだ回復し終わってないよ!?」


60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 21:04:41.18 ID:QmvBtqeO0

妖精長「ほう? 根性だけは一丁前のようじゃのう」

悪ガキ「このままじいさんにも幼女にも馬鹿にされたまま引けるかってんだ!」

幼女「………」ムスッ

妖精長「まぁ、いいじゃろ」ハァ

悪ガキ「それで、その頼みってなんなんだ?」

妖精長「まぁまぁ、そう急くな。我々が抱える問題は単純であるように見えて、中々複雑でのう……」

少年魔法使い「どういうことだ?」



妖精長「事の発端はそう二ヶ月以上前、妖精族の少女が行方不明になったことから始まるのじゃ」

魔族少女「行方不明……ですか?」

妖精長「我々はテレパシーを使って遠くの同胞と連絡をとることができるのじゃが……どうやら彼女はとある男に捕まってしもうたらしい」

侍少女「それは大変でござる!!」

妖精長「彼女はその男の手から、次に商人貴族と呼ばれる男の手に渡ったのじゃ」

魔族少女「商人貴族……って」

少年魔法使い「王都を牛耳る巨大マーケットを取り仕切る貴族だったはず」

悪ガキ「要はなんか偉い人ってことだろ?」


61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/22(日) 21:06:59.50 ID:QmvBtqeO0

魔族少女「その妖精さんは商人貴族という人に売られたということですか?」

妖精長「そうなるの」

妖精兵長「あれ程外の世界には出るなときつく言っておいたのに……!」

妖精長「よさぬか、あの年頃の子はすべからく興味を持つこと。それを責めるのは筋違いじゃよ」

魔族少女「助けには行かなかったんですか?」

妖精長「当然、里の中でも彼女を救うことを提案する声が大多数じゃった……しかしのう……」

少年魔法使い「なにか問題でもあったのか?」

妖精長「我ら妖精族は本来、自然と共に生きる種族。人間や魔族が荒らした大地の中では本来の力の半分も出すことができぬ。無策で助けに行ったところで返り討ちに遭うことなど目に見えておる」

妖精兵長「悔しいが……外の世界で戦っても我々には勝ち目が無い……」

悪ガキ「そうだったのか……」

妖精長「そうこうしている内に時間が過ぎ、我々はあの子が報告してくれる内容から商人貴族の恐ろしい目的を知ってしまったんじゃよ」

少年魔法使い「恐ろしい目的?」

妖精長「……この里はかつてないほどの危機にさらされている、またしても人間どもの手によって」

幼女「むう?」




妖精長「商人貴族はこの里を探し出し、我ら妖精族を狩り尽くそうとしておるのじゃ」

悪ガキ「なんだって!?」


70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/24(火) 21:03:44.72 ID:Hygz4v9h0

侍少女「なんの恨みがあってそんな酷いことをしようとしているのでござるか!?」

妖精兵長「前の時と同じ。我々の力を狙っているのだろう」

少年魔法使い「力? 妖精にはそんな特殊な力があるというのか?」

妖精兵長「本当になにも知らないのだな、お前たちは! お前たち人間のエゴのせいでどれだけの同胞が死んだと思っている!?」

侍少女「そんなに怒らなくても……知らないものはしょうがないでござるよ!」

妖精長「よさぬか! 妖精兵長! ……もう昔の話じゃ」

妖精兵長「……はい」

悪ガキ「なぁ、それでなんなんだよ、その力って?」

妖精長「まぁ、その件については今はいいじゃろ。先に話を進めるぞい」

悪ガキ「いや教えてよ!?」ガーン

妖精長「うるさいわい……お嬢ちゃんに頼みたいことはただ一つ。商人貴族がこの里を見つけ出す前にあの子を助けてあげてほしいのじゃ」

妖精長「こんなこと、お嬢ちゃんにしか頼めないのじゃよ。それに我々に残された時間も残り少ない」

悪ガキ「どういう意味だ?」

妖精兵長「最近、里の入口がある森の周辺を怪しい人間が頻繁にうろついていると見張りの妖精たちが答えている」

妖精長「恐らく商人貴族は里の大まかな位置を把握しておるはずじゃ。あとはこの里の入り方をあの子から聞き出すだけといったところじゃろう」

悪ガキ「俺達が知らないところでそんなことが……」


71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/24(火) 21:04:19.44 ID:Hygz4v9h0

侍少女「それってつまり……ものすごくまずい状況ということでござる?」

魔族少女「で、でもここへはそう簡単に入れないんですよね?」

妖精長「確かに、里の入口には特殊な結界を張り、我ら妖精族以外は見ることも感じることもできないようになってはいる。だがそれも絶対ではない。それに……」

悪ガキ「それに?」

妖精兵長「あの子から強引にこの場所の入り方を聞き出す可能性も十分考えられる……」

少年魔法使い「薬に拷問に脅迫……それくらいのことなら平気でやるだろうな」

魔族少女「そんな……!!」

妖精長「奴らが里に乗り込んで来たらいくら我々が全力で抵抗したとしても圧倒的な数の前には為すすべもないじゃろう」

妖精長「里の場所が判明する前に一刻も早くあの子を助ける必要があるが、かといって我々があの子を助けに姿を表せば商人貴族の思う壺じゃ」

魔族少女「そんなに大きな話だったら幼女ちゃんじゃなくてもっと他の人とかに……それこそ勇者様に頼めばいいんじゃないですか?」

妖精長「……その勇者とやらは己の欲に目がくらむような男ではないと断言できるか?」


勇者(働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!!)ニョホホホホホ


侍少女「あー……」

少年魔法使い「無理……だな」

悪ガキ「絶対にありえねぇ」

魔族少女「あはは……」

幼女「……むぅ……さすがに擁護……できない……ごめん、ユーシャ……」ウツムキ


72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/24(火) 21:05:00.85 ID:Hygz4v9h0

魔族少女「じゃ、じゃあ先生に頼めばいいんじゃないかな? 先生ならきっと……」

侍少女「だ、ダメでござる! そんなことしたら……」ガタガタ


院長(先生は森に入ってはいけないと教えたはずですよ?)ガシィ!!


悪ガキ「うわぁ……」

侍少女「ひぃぃぃぃ!!!」ガタガタ

魔族少女「……やめよう。うん、なんかごめんね、侍少女ちゃん……」ガタガタ

侍少女「今、首と胴体がお別れするところまで容易に想像できたでござるよ……」ズーン

妖精長「じゃろう? ならば我々に残された道は一つじゃ」

妖精長「龍王様の力を受け継ぐ者よ。どうかその力であの子を……そして我ら妖精族の未来を救って欲しい」

幼女「まか……せて!!」ムイッ

悪ガキ「………」ギュッ

魔族少女「悪ガキくん……?」

妖精長「ホホホ、お嬢ちゃんならそう言ってくれると思っていたよ」

幼女「ユーシャは困ってる人の味方……なのです!!」ムフー

悪ガキ「ケッ、なにがユーシャだよ。お前ただの幼女じゃんか!」フンッ

幼女「……むぅ」プクー

73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/24(火) 21:05:28.83 ID:Hygz4v9h0

魔族少女「もう、悪ガキくん! さっきから変だよ?」

悪ガキ「俺はいつも通りだよ!」

魔族少女「もう……」

妖精兵長「くっ……いくら龍王様の力を受け継いでいたとしても、人間の、しかも子供の力を借りなければならないなんて……」

妖精長「まだそのような事を言うのか、妖精兵長。今は龍王様の力を信じるしかあるまい」

妖精長「古来より我々が危機に陥ったとき、必ず龍王様が助けに来てくださった。そして今回も龍王様の力を受け継ぐこの子が我々をきっと救ってくださるに違いない」

妖精兵長「ならばなぜあの時、龍王様は我々を救ってくださらなかったのですか……!!」

妖精長「……言うてくれるな、もうこうするしかないことはお主も十分にわかっているはず……そうじゃろう?」

悪ガキ「……!! そうか……いいこと思いついた……」ピーン

妖精兵長「くそ……」

悪ガキ「……なぁ、じいさん。お取込み中のところ悪いけどよ」ヘヘッ

妖精長「なんじゃ? 小僧?」

悪ガキ「もしさ、俺が幼女より早くその妖精を商人貴族から助け出したとしたらどうする?」ニヤッ

妖精長「なんじゃと?」


74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/24(火) 21:06:01.29 ID:Hygz4v9h0

悪ガキ「そうなったら当然、俺の方がその龍王の力を持つっていうこいつより優れてるってことだよな?」

侍少女「そういうことになるので……ござる?」

少年魔法使い「僕に聞くな」

悪ガキ「なるんだよ! よーし、そうと決まれば勝負だ幼女! どっちが先に妖精を救い出すか、俺と勝負しろ!」

妖精長「なにを馬鹿なことを……これは遊びではないのじゃぞ!」

悪ガキ「そんなのわかってるって! だけど俺だってこのまま馬鹿にされたまま終われない! どうだ、幼女!?」

幼女「……そんなの意味が……ない」ムッスー

悪ガキ「あるだろ!? 俺とお前、どっちが勇者になるのに相応しいか勝負しろって言ってんだよ!」

幼女「……違う」フイッ

悪ガキ「なにが違うって言うんだよ!? いいから勝負しろって!」

幼女「ユーシャは……そんなことしない」

悪ガキ「!!! チッ、ああそうだろうな。確かにあの勇者様はそんなことしないだろうな! なんせ、お前の大好きな勇者様とやらは人の金を食物にして生きているどうしようもない腰抜け野郎なんだからな!!」ケラケラケラ

幼女「……腰抜けなんかじゃない……もん!!」ズォッ……


75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/24(火) 21:09:19.66 ID:Hygz4v9h0

魔族少女「え? 幼女ちゃん?」

悪ガキ「腰抜けだよ! それにあいつ、俺の蹴りをくらって動けなくなってるんだぜ? もし本当にあいつが勇者だったら俺みたいな子供の攻撃なんて避けて当然のはずだろ?」

幼女「む、むぅ……!!」

悪ガキ「もっとも、本当にあいつが勇者だったらの話だけどな! お前騙されてんだよ、あんなのが勇者なわけないって!!」

幼女「ちがう……もん!! ユーシャはユーシャだ……もん!!」ズズズズズ

侍少女「……なんか幼女殿の周りが心なしかおかしな感じがするのでござるが……」

少年魔法使い「なんだ? この心臓を鷲掴みにされたような悪寒は……」ブルッ

魔族少女「う、うん……なんか懐かしいような……そうでないような……なんだろう?」

妖精長「これは……」

悪ガキ「絶対嘘だ! あんな奴が勇者なんて俺が認めない!!」

幼女「ううううう……!!!」ズズズズズズズ

悪ガキ「悔しかったらあいつが勇者だって証拠、俺に見せてみろよ!!」

幼女「うううううう!!!!」ズズズズズズ

悪ガキ「無理だろ? やっぱりあいつは勇者じゃないんだ!」



妖精長「秘術『制裁の雷』!!」ピカッ


悪ガキ「へ?」


ドゴォォォォン


悪ガキ「ぎゃぁぁぁあああああ!!」ビリビリ


76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/24(火) 21:12:11.61 ID:Hygz4v9h0

幼女「!!!」シュゥゥゥゥ

妖精長「いい加減身の程をわきまえんかこのバカちんが!!」

悪ガキ「な、なにすんだよ……じいさん……」プスプス

妖精長「すまんの、お嬢ちゃん。ワシの方が先に手が出てしまったようじゃ」

幼女「………」フルフル

妖精長「小僧。お主が勇者にどんな感情を抱いているかは知らん。じゃがの、人を蔑み、あまつさえ人を傷つけることを是とするようなそんな魂を持つ者が勇者になぞ絶対になれるわけがない。断言しよう。お主には無理じゃ!」

悪ガキ「また言った!!……そんなの! やってみなきゃわかんねぇだろ!?」

妖精長「やらなくてもわかるわい。今のお主は勇者というものを何もかも履き違えておる。お前が考えているほど、世界を背負うということは簡単なことではないのじゃ」

悪ガキ「そんなことない!! じいさん! だったら俺と約束しろ! もし俺がこいつより先に妖精を助け出したら今の言葉を取り消すって!!」

妖精長「なんじゃと?」

悪ガキ「俺が勇者になれないって言ったことを間違いだったって認めて謝れって言ってんだよ!」

少年魔法使い「おい、悪ガキ。やっぱりお前さっきからおかしいぞ! なにをそんなにムキになってるんだ!」

悪ガキ「ムキになんかなってない! 俺は勇者になる男なんだ! それをこんな幼女とじいさんに否定なんてされたままなんて嫌なんだよ!」

妖精長「……よかろう。できたらの話じゃがな」

悪ガキ「絶対だからな!」

妖精長「まぁ、今のお前には到底無理な話だがの」


77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/24(火) 21:13:01.40 ID:Hygz4v9h0

悪ガキ「見てろよ、じいさん。俺がこいつなんかより勇者に相応しいってところを嫌というほど見せつけてやる!!」

妖精長「勝手にせい、この愚か者めが……」

悪ガキ「そうと決まればこうしちゃいられない! 俺は帰るぞ!」スタスタスタ

魔族少女「えっと、回復魔法は……」

悪ガキ「そんなものいらねぇよ!」

魔族少女「う、うん……」

悪ガキ「幼女! 俺はお前なんかに絶対に負けねぇからな!」

幼女「………」







悪ガキ「馬鹿にしやがって……幼女の奴、俺のことなんて眼中に無いっていうのかよ?」

妖精長(今のお主には絶対に無理じゃ!!)

悪ガキ「そんなことなんかない……絶対に俺は勇者になるんだ! あのじいさんと幼女にそれを認めさせてやる!」

魔族少女「悪ガキくん……」


78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/24(火) 21:14:07.46 ID:Hygz4v9h0

侍少女「なにがお主をそこまで駆り立てるんでござるか……」ハァ

悪ガキ「何度も言うけど、これは俺一人のプライドの問題だからな、少年魔法使いはともかく、お前達まで付いてくる必要なんてない」

魔族少女「で、でも……」

悪ガキ「まずは森でうろついているって言ってた怪しいやつらをぶっ飛ばして、商人貴族って奴がいる場所を聞き出す! んでもって商人貴族をぶっ飛ばして妖精を助けたらそれで終わり!」

悪ガキ「なんだよ、すげー簡単じゃん!」ハハッ

少年魔法使い「そんな単純なわけあるか」ハァ

魔族少女「ええ! ぶっ飛ばすって……そんなことするの? ダメだよ悪ガキくん、危ないよ」

悪ガキ「大丈夫だって! お前らだって見ただろう? 俺は勇者にも勝ったんだぜ?」

少年魔法使い「不意打ちだけどな」

悪ガキ「勝ちは勝ちだろ!」

魔族少女「やっぱりやめよう? 危ないし、先生も心配するよ」

悪ガキ「大丈夫、大丈夫! 先生にはバレたりしないって!」


院長「いえ、もう十分バレていますけど?」シュンッ


悪ガキ「げっ! 先生!?」

院長「それで? こんな時間にベッドへ抜け出してどこへ行く気ですか?」

侍少女「え、えーっとこ、これはその……」ワタワタ

少年魔法使い「馬鹿な……確かに先生の魔力は岬の方に……」

院長「少年魔法使い君、物事を自分の常識で測ってはいけませんよ?」

少年魔法使い「改めて何者なんですか、先生……」

院長「私は皆さんの先生です。そして先生である以上、悪さをする子供達を野放しにするわけには行きません。皆さん、悪いことをしたらどうなるか、わかっていますよね?」ゴゴゴゴゴ!!!

魔族少女「ひ、ひぃぃぃぃ!!」


87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 20:57:39.56 ID:JNGRrWDz0

悪ガキ「先生、違うんだ! こいつらは関係ない」

侍少女「そ、そうでござるよ! 拙者はちゃんと悪ガキ殿を止めたんでござるよ!?」

侍少女「でも悪ガキ殿がどうしても行くと言うから仕方なく……拙者は悪くないでござる!!」

院長「そうですか、侍少女ちゃん。あなたの言い分は良くわかりました」ニコッ

侍少女「……ホッ」

少年魔法使い「お前、最低だな」

侍少女「背に腹は変えられないでござる……オシオキは1日に1回で十二分でござるよ!」








院長「ではまず、侍少女ちゃんからですね」シュンッ




侍少女「へ?」


88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 20:58:11.89 ID:JNGRrWDz0


ゴチィィィィィンン!!


侍少女「ぐべっ!!」

悪ガキ「侍少女!!」

侍少女「そんにゃ……どうして……?」チーン

魔族少女「か、回復魔法!!」ポワァ

院長「先生は自分の身を守るために友達を差し出せと教えましたか?」

院長「理由はどうあれ、友達はあなたの宝です。それを簡単に差し出してはいけません。そんな侍少女ちゃんには当然オシオキです」ユラァ

侍少女「す、すみませんでした……」


89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 20:58:45.04 ID:JNGRrWDz0

悪ガキ「先生、勝手にベッドを抜け出したことは謝るよ。だけど邪魔しないでくれ」

院長「それはどうしてですか?」

悪ガキ「理由は言えない。でもこのまま馬鹿にされたまま黙ってちゃ、勇者になんてなれねぇよ!!」チャキッ

院長「そうですか……悪ガキくん、あなたは勇者になりたかったのですね。あなたの口から将来の夢を聞くのは初めてです。先生、嬉しいです」

悪ガキ「知ってたからわざわざ勇者を呼んだんだろ?」

院長「まぁ、それもそうなのですが……」モニョモニョ

悪ガキ「ありがとな、先生。先生のお陰でわかったよ」

院長「喜んでもらえたみたいでなによりです」フフッ

悪ガキ「ああ、今の勇者はポンコツの腰抜けだってわかったんだ。あんな奴に勇者をやらせてちゃダメだ」

魔族少女「悪ガキ君!?」

院長「……そうですか……」

悪ガキ「あいつの代わりに俺が勇者になる!……そのためには幼女になんか負けてられない!!」

院長「……話は見えませんが、どうやら本気のようですね……いいでしょう」


90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 21:00:36.61 ID:JNGRrWDz0

悪ガキ「見逃してくれるのか!?」

院長「なにを言っているのです? そんなわけないでしょう? 私はあなた達を全力で止めます。どうしてもここから先に行きたければ私を倒すことですね」ゴゴゴゴゴ

少年魔法使い「先生、それは本気ですか……?」

院長「もちろん本気です。悪ガキ君は勇者になるのでしょう? 少なくとも勇者さんは私なんかよりずっと強いですよ?」

悪ガキ「上等だ!! 俺は勇者にも勝った男! 先生にだって負けるつもりはないぜ!」

院長「3人とも、あなた達もまとめて相手をしてあげます。今日までの間にあなた達がどれだけ強くなったのか、見せてもらいましょう。先生に負けたらもちろん、スペシャルなオシオキが待っていますからそのつもりで」ウフフ

侍少女「……なぜ、こんなことに……」フラッ

魔族少女「大丈夫?」ポワァ

少年魔法使い「どうやらやるしかないみたいだな……」

悪ガキ「ヘヘッ、俺は勇者にも勝った男だぜ? もう先生よりも強くなっちゃってるかもよ?」チャキッ

院長「初めに言っておきます。四人とも、『私を殺す気で来なさい』」ビュンッ

悪ガキ「いくぜ! 先生!!」

院長「見せてもらいますよ! あなた達の実力を!!」シュンッ



91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 21:01:28.33 ID:JNGRrWDz0


―――――



ドォォォォン!!!

ドガァァァアアアアン!!!


勇者「なんだか、あっちの方が騒がしいな……」

幼女「むう?」

勇者「ま、俺が行ってもしょうがないか、どうせあいつと剣士がなんとかするだろうし」

幼女「いい……の?」

勇者「いいんだよ……そんなことより幼女、ろくに説明もしないでこんなところに連れて来ちまってごめんな? 疲れただろ?」

幼女「大丈……夫!! ユーシャと一緒ならどこでも楽……しい!」グッ

勇者「すまんな幼女。俺も支給金を盾に迫られると断れないのだ……」

幼女「お金、大切!!」ピョンピョン

勇者「そうだ、お金は大切なのだー」クシャクシャ

幼女「くすぐったい……よ! ユーシャ!」キャッキャ


92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 21:03:32.36 ID:JNGRrWDz0

勇者「そう言えば、お前夕飯前までどこ行ってたんだ?」

幼女「えーっとねぇ……秘密なのです!」キャルン

勇者「またそれか?……それと孤児院の子達とは仲良くなれたか?」

幼女「うん!! ショーネンマホウツカイとサムライショージョにマゾクショージョ……みんなともだち!!」エヘヘ

勇者「あれ? 悪ガキは? 遊ばなかったのか?」

幼女「………」ウツムキ

勇者「どうした幼女?」

幼女「……ケンカ……した」

勇者「喧嘩? お前が? どうして?」

幼女「あいつとは……分かり合えない……のです!」ツーン

勇者「分かり合えないって……なにがあったんだ、幼女?」

幼女「あいつユーシャ……馬鹿にした!!」プンプン

勇者「俺を?」


93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 21:04:44.11 ID:JNGRrWDz0

幼女「ユーシャは腰抜けだって……そんなことないの……に」ウツムキ

勇者「あー……でもしょうがないんじゃないか?」

幼女「どうし……て!?」

勇者「だって間違ってないし」アハハ

幼女「そんなことない……もん!!」

勇者「いや、俺をよく見てみろって、ニートだしやる気無いし……腰抜けってのもあながち間違いじゃないと思うぞ?」

勇者「それに、そう思う悪ガキの気持ちもわかる気するし」

幼女「気持ち?」

勇者「そう、気持ち。俺があいつの立場だったら同じようにガッカリすると思うから」

幼女「むい!?」

勇者「ほら、幼女は知らないかも知れないけど、おとぎ話に出てくる勇者っていうのはさ、みんなカッコいいんだよ。悪い奴にたった一人で立ち向かう! ……俺だって小さい頃はそんな勇者って存在に憧れてたんだ。だから俺は勇者になったようなものだし」


94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 21:05:47.72 ID:JNGRrWDz0

勇者「あの頃の俺と同じように、あいつも本物の勇者ってやつをちょっとは期待してたんだろうな……でも現実はこのザマってわけ。ガッカリするのも無理は無いさ。こんなカッコ悪いやつが勇者? 笑わせんなよってな」ハハッ

幼女「そんなこと……ない! ユーシャは……すごい!!」

勇者「だが俺のような人間は世間一般ではクズと呼ぶ」

幼女「世知辛い世の中……ですな!」

勇者「本当にどこで覚えてくるんだよ……そんな言葉」ハァ

勇者「とにかく、俺なんか庇ったってなんの意味も無いぞ? 俺は見ての通りやる気の無いニート様だ。変に庇ってもお前が傷つくだけだって! な? わかるだろ? 幼女」アハハ





幼女「……でも」

勇者「ん?」

幼女「ユーシャ、ヨージョに優しくしてくれ……た」

勇者「そうか? そんなつもりなんか無いけどなぁ……」

幼女「マホウツカイが言って……た……ヨージョは……魔導人形……」ギュッ

幼女「人間でも……魔族でもない……みんなとも……ユーシャとも……違う」

勇者「幼女……」


95: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 21:06:35.10 ID:JNGRrWDz0

幼女「それでもユーシャ、優しくして……くれる。一緒にいてくれ……て、チャーハン作って……くれる!」

幼女「ヨージョは、ユーシャが大好き……なのです!」

幼女「……だから……だから……」

幼女「どうしても……許せなかった……の」ウツムキ

勇者「そっか……」

幼女「腰抜けなんかじゃ……ないもん……」

幼女「ユーシャは……お金に汚くて……面倒くさがりで……仕事もしない……けど、あったかくて……やさしくて……カッコイイんだ……もん!」

勇者「そんな風に思ってたのか、お前……この場合、どう反応したらいいんだ?」アハハ

幼女「……カッコイイんだ……もん」ウツムキ

勇者「ありがとな、幼女。俺はお前がそう言ってくれるだけで十分だよ」ナデナデ

幼女「むぅぅ……こっちは納得いか……ない!!」プンプン


96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/25(水) 21:07:02.18 ID:JNGRrWDz0

勇者「……いいか、幼女。この世なんて納得いかないことばっかりだ。それでも前に進んでかなきゃいけないんだよ」

幼女「……前に?」

勇者「そうだ、前に進むんだ。納得いかないって考え込むんじゃなくて、実際に自分が動いてみるんだよ! 頭で考えてたって現実はなんにも変わらないんだぞ?」

幼女「そう……なの?」

勇者「悲しいけどこの世界は間違ったままだ。だけどそんな間違った世界に俺達はこうして生きている。それでもなにかを変えたくて、必死になって生きてるんだよ。いつか自分たちが間違ってないって胸を張って言える世界にするためにな」フッ

幼女「ユーシャ……」

勇者「だから俺は積極的に働かない! 魔王を倒した俺を無理やり働かせる世界なんて間違ってると思うから!! そんな世界を変えるためにやっぱり俺は今日も働かないのだ!!」 ガハハハハ

幼女「むぅぅ……」ウーン

勇者「お前にはまだちょっと難しかったかな?」ハハッ

幼女「子供扱い……しないで!!」

勇者「まんま子供だろう……が!!」ウリウリウリ

幼女「ユーシャ! くすぐったい!」キャッキャッキャ


115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/28(土) 20:57:48.68 ID:mYvr1pn10

「お取込み中のところ、申し訳ありません」

勇者「ん? あんたは……?」

「お初にお目にかかります、勇者様。私、王都を中心に小規模ながら商いをさせてもらっています、名を商人貴族と申します。以後お見知りおきを……」ペコリ

幼女「ショーニン……キゾク……!!」

商人貴族「風の噂でこの辺りに勇者様がいらしていると耳にしましてね、これは是非ともご挨拶をと思い、こうして馳せ参じたという次第です」

勇者「ああ、これはご親切にどうも……」ペコッ

商人貴族「世界を救った勇者様とこうして対面できるとは……この商人貴族、光栄の至りですよ」フフッ

勇者「いや、別にそんな大したもんじゃないっすよ。俺なんて今はただの税金暮らしのニートだし」アハハ

商人貴族「またまたご謙遜を……勇者様のご活躍はかねがね……西の村の火竜事件に王都の魔族襲撃事件。その2つの事件の解決に尽力されたとか……」

勇者「あはは……」

勇者(結果的に火竜は幼女が追っ払ったし、暗黒魔人の時は暴れまわってただけなんだよな、俺……)ズーン


116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/28(土) 20:58:20.90 ID:mYvr1pn10

商人貴族「勇者様? どうなさいました?」

勇者「あ、いや……なんでも無いっすよ!?」

商人貴族「しかし勇者様も何故この様な辺鄙な場所に? 見ての通りここは自然は美しいですが、何もないところです」

勇者「ああ、俺はあそこの……」

商人貴族「やはりあなたも『妖精』を探しに?」

勇者「妖精?」

幼女「!!!」ドキッ

商人貴族「いやー、やはりそうでしたか勇者様。さすがにお耳が早い! この情報は私どもが独占していたつもりだったんですがね……やはり来る災いのために妖精を?」

勇者「ちょっと待ってくれ。妖精って……なんだ?」

商人貴族「……もしかして……ご存知ないのですか?」

勇者「なんのことかさっぱり」

商人貴族「……おっと、どうやら私の早合点だったみたいですね。これはしまったな……今言ったことは忘れてください」ニコッ

勇者「いや、そんなの無理に決まってるでしょ!?」

商人貴族「いえいえ、大したことじゃありませんから」フフッ


117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/28(土) 20:59:41.94 ID:mYvr1pn10

勇者「大したことないなら言ってくださいよ! そういうの気になるんですから!」

商人貴族「……勇者様にそう言われてしまったら困りましたね……特別ですよ?」

勇者「なんかよくわからないけど……はい」

商人貴族「では、これを見てください」スッ

勇者「箱?」

商人貴族「ああ、少々お待ちくださいね、今鍵を開けますので……大変貴重なものですから、こうして厳重に保管していないと私も気が気じゃなくて……」アハハ

幼女「……妖精……」ボソッ

商人貴族「さぁ、勇者様、これが妖精です」ガチャリ




妖精「やっと開けやがったな! あたいをこんな暗いところに閉じ込めやがって! 妖精はな! 日光を定期的に浴びないと死んじゃうかもしれないんだぞ!」プンプン




幼女「むぅ……」

勇者「へぇ……これが妖精なのか……初めて見た」


118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/28(土) 21:00:36.12 ID:mYvr1pn10

商人貴族「少々品位に欠けているのが玉に瑕ですが間違いなく本物の妖精です」

勇者「妖精って……珍しいの?」

商人貴族「もちろん。そうですね、今の市場価値にして一匹で10億といったところでしょうか?」

勇者「へ?」

商人貴族「それも納得の価格です。なにせ妖精族はとうの昔に絶滅したとされているのですから」


勇者「10億ぅぅぅぅぅぅ!!!!???」


幼女「ユ、ユーシャ!?」ビクッ

勇者「じゅ、10億って言ったらあのその1億の……」

商人貴族「10倍です」

勇者「10の?」

商人貴族「1億倍ですね」

勇者「そそそそそ、それがその羽の生えたちんちくりんに……」

妖精「誰がちんちくりんだ!」

商人貴族「ええ、そしてこれはまだほとんどの人間が知らないことなのですが……その妖精の住処がこの辺りにあるらしいのですよ」ヒソッ

勇者「マジかよ……」

商人貴族「我々はその情報を元に、この地域一帯を買い占めています。国一番のリゾートを作るという名目でね。もちろんリゾートの開発も推し進めたいところですが……私の本命はもちろんこちらです」ニコッ

妖精「おい、お前ら! あたいを助けてくれ! こいつ、あたいらのことを皆殺しに……」

幼女「皆殺……し?」

商人貴族「おっと」ガチャッ

妖精「あ! こら! 閉め……」ガチャン

商人貴族「放っておくとあること無いことを勝手に話し出すから困ります。どうかお気になさらずに」ハァ


119: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/28(土) 21:01:04.56 ID:mYvr1pn10

勇者「なんか今、皆殺しとか物騒な言葉が聞こえたんだけど……」

商人貴族「勇者様もお人が悪い……私がまさかそのようなことするわけがないでしょう?」フフッ

幼女「………」

勇者「そ、そうだよな。悪いな、変なこと言っちゃって。あれだろ? 犬とか猫みたいにペットとしてってそういう感じだよな?」アハハ

商人貴族「ペットと言うか……人間のパートナーとして提供するといった形でしょうか」

勇者「パートナー?」

商人貴族「ええ、パートナーです。ちょうど人間と犬がお互いの損得を補填し合うような関係性になればと……昔の文献によりますと妖精族は人間と寄り添い、助け合い、立派なパートナーとしてお互いを支えあってきたとあります。私はもう一度その姿を取り戻すべきだと思っているのですよ」

勇者「なるほど……」フムフム

幼女「……ウソ……くさい……」ボソッ

商人貴族「もっとも、その際にはお客様からそれなりの金額をいただくことになるのですけども、その点に関してはご勘弁を。私は腐っても商人。慈善事業家ではありませんから……」アハハ

勇者「確か……売れば10億だったよな?」

商人貴族「一概にはなんとも言えませんが……それだけの価値はもちろん」ニヤッ

幼女「ユーシャ?」ツンツン

勇者(10億あれば支給金に頼らなくても一生遊んで暮らせる! そしたら毎月、あの受付に頭下げないで済むし……いやそれどころか!!)モワモワモワ


120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/28(土) 21:01:47.28 ID:mYvr1pn10











受付「勇者様……」

勇者「なんですか? 受付さん?」

受付「私どもにどうかお金を……あなたの持っている10億で私どもに融資していただけないでしょうか……?」

勇者「ほう? 今まで散々私をコケにしてきてよくもまぁ、そんなことが言えたものですねぇ……?」ニタァ

受付「それは……」

勇者「あなたは『働きたくても働けない』私のような人間を虐げ! 罵り! あまつさえ暴行を加え! 今日まで散々私を傷つけてきた! そんなあなたが私に金をせびると言うのですか?」


121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/28(土) 21:02:32.27 ID:mYvr1pn10

受付「今まで……申し訳ありませんでした……」

勇者「そんな安っぽい言葉を聞きたいのではない!!」ガンッ

受付「ひっ!」ビクッ

勇者「あなたは、私のことを常日頃からなんと呼んでいましたか?」

受付「それはもちろん、勇者様と……」

勇者「そうじゃないでしょう? ん? なんと呼んでいましたか?」

受付「あ、あう……」フルフル

勇者「なんと呼んでいたかと聞いているんだ!」ガンッ

受付「………生産性の無い……ゴミ虫と……」

勇者「そう。ゴミ虫だ。あなた達公務員は……私たちニートをゴミと侮辱し続けてきたのです。私たちだって人間だ! ゴミなんかじゃない!! なのに!!」

受付「すみません……すみません……」

勇者「ゴミ虫に金を集るとは、国家の犬はそこまで堕ちたんですか? ええ?」

受付「本当に……今まで……申し訳……ありませんでした……」




勇者「土下座してください」


122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/28(土) 21:06:38.30 ID:mYvr1pn10

受付「え?」

勇者「今までの俺や俺の仲間たちに対する無礼な行いの全てを間違いだったと認め、ここで土下座してください……」

受付「そ、それは……」

勇者「土下座をするんだ! 今! ここで!!」

受付「ここで……ですか……?」

勇者「そうだ! 今ここでするんだ! お前達公務員が自分達の過ちを認めるだけでいくらでも金はくれてやる!! だから土下座しろ!! 受付!!」

受付「あ……ううう……!!」ポタポタ

勇者「そうか、泣くほど悔しいか! ニートの俺に頭を下げることが! あんたの中にあるチンケなプライドが邪魔するのか!!」


123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/28(土) 21:08:12.22 ID:mYvr1pn10

受付「あなたと……いう人は……!!」グスッ

勇者「早く謝るんだ! 俺に……そして俺の仲間たちに!!」

受付「ううううう!! ああああああ!!!!」グググググ

勇者「やれぇぇぇえええ!! 受付ぇぇぇ!!!」

受付「うううう……くぅぅぅぅぅ!!!」グググググ

勇者「どうした!? 土下座だ!! 土下座をするんだぁぁぁぁ!!!」

受付「も、申し訳……申し訳……ありま……でした……」ドゲザッ


勇者「はっはっはっはっは!! 見たか受付!! やられたらやり返す……倍が……」





幼女「ユーシャ! 帰ってき……て!!」ユサユサユサ

勇者「ふふふふふ……」ニタニタニタ

幼女「む、むい!?」

勇者「いい、実にいいぞぉ!!!」ヘッヘッヘ


124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/28(土) 21:09:55.17 ID:mYvr1pn10

商人貴族(ここまで邪悪な顔をしている人……見たことがない……!!)

勇者「確か……商人貴族君と言ったね?」

商人貴族「は、はい……」

勇者「一つ貴君に訪ねたいことがあるのだが……構わないかね?」

商人貴族「ええ……なんなりと」






勇者「その妖精とやら……私が捕まえてもよろしいか?」ゴゴゴゴゴ



135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/29(日) 20:38:15.82 ID:1yaIK4is0

幼女「ユーシャ! ダメ!! 絶対!!」

勇者「……少し静かにしてくれないか、幼女? 大人の会話に口を挟むなんて、無粋な真似をしてはいけない」ゴゴゴゴ

幼女「むい!?」

商人貴族「勇者様も妖精にご興味が?」

勇者「いや、興味というよりも貴君の話を聞いてまるで自分が雷にでも打たれたような強い衝撃と感銘を受けた。私も貴君と同じように人間と妖精族は昔の関係を取り戻すべきだと思うのだ」

勇者「別に断じてこれっぽっちも10億に目がくらんでいるということは少しも全く無い!」ドーン

商人貴族「そうでございますか、ただ……ですね」

勇者「なにか問題でもあるのかね?」ゴゴゴゴゴ

商人貴族「……ええ。その肝心の妖精がどこに隠れているのか、わからないのですよ」

勇者「なんだと?」クワッ

幼女「ねえ……本当にユーシャ……だよね?」ツンツン

勇者「愚問だぞ、幼女よ。私の顔を忘れたのか?」クワワッ

幼女「さっきと……ちがう……」

商人貴族「お恥ずかしい限りですが……私どもも情報を得てからの数ヶ月間、必死に探し続けましたが結果の方は……妖精に聞いても答えてくれませんし……」

幼女「そんなの……当たり……前!」ビシッ

勇者「そうか……それは困ったことだな」ムゥ


136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/29(日) 20:38:42.67 ID:1yaIK4is0

商人貴族「ええ。確かにこのあたりにいるはずなのですが……」

勇者「……ならば私が片っ端からこの一帯を探索しつくしてやろうではないか!」フッ

商人貴族「それは……私どもに協力していただけるということですか!?」

勇者「もちろんだ!」ムン

幼女「ユーシャ! ダメだって……ば!!」グイグイ

勇者「おいおい、何言ってんだよ幼女。妖精一匹10億だぞ? 10億もあったらお前、毎日チャーハン食べ放題じゃないか!」ヒソッ

幼女「チャーハン………食べ放題?」キラキラキラ

勇者「俺も毎月、あの鬼女に頭を下げなくても済むし……いいことばかりだろ?」

幼女「チャーハン……食べ放題……エビチャーハン……カニチャーハン……フカヒレチャーハン……それは魅力的…・…!!」ゴクッ

勇者(正直、幼女の食費も馬鹿にならないしなぁ……これがまたよく食うんだこいつ……)ナミダメ

幼女「夢の……チャーハンライフ……いい……実にいい……」ジュルッ



妖精長(龍王様の力を受け継ぐ者よ。どうかその力であの子を……そして我ら妖精族の未来を救って欲しい)

幼女(まか……せて!!)ムイッ



幼女「!!!」ブンブンブン

幼女「やっぱり……ダメ!!! そんなの……間違って……る!!」


137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/29(日) 20:39:15.92 ID:1yaIK4is0

幼女「やっぱり……ダメ!!! そんなの……間違って……る!!」

勇者「……幼女、さっき言ったろ? この世には間違ったこともあるって」

幼女「言ったけど……それとこれとはなんか違う……気がする!!」ビシッ

勇者「違わないって! 固いこと言わないで幼女も協力してくれよ!」

幼女「むぅぅぅぅ……」

勇者「ほら、妖精のことについてなんか知ってることとかないか?」

妖精「妖精の……こと!? え、えっと……」



妖精長(……その勇者とやらは己の欲に目がくらむような男ではないと断言できるか?)



勇者「ん? どうした? なにか知ってるのか?」

幼女「しししし知ら……ない!!」オロオロオロ


138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/29(日) 20:39:45.17 ID:1yaIK4is0

勇者「どうした幼女!? なんかお前おかしいぞ!?」

商人貴族(ほう……?)

幼女「よよよよ……妖精のことなんて……知らない!!」ブンブンブンブン

商人貴族(……もしやと思って勇者の方に接近してみたが……まさかこっちの方だったか……)クックック

勇者「そうかぁ……やっぱり地道に探すしかないのかぁ……面倒くさいなぁ……でも10億欲しいしなぁ……」

幼女「むぅ……」



商人貴族「あの……先ほどから気になっていたのですがこのお嬢さんは勇者様とどういったご関係で?」

勇者「ああ、こいつ? こいつは幼女。訳あって一緒に住んでるんだ。ほら、挨拶しな?」

幼女「……」ツーン

商人貴族「私は商人貴族と申します。よろしくお願いしますね、お嬢さん?」ズイッ

幼女「む、むい!?」ドキィッ

商人貴族「………これは驚いた」

勇者「どうした?」

商人貴族「私も長年商いをやっているから分かります。『これ』は魔道人形ですね?」


139: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/29(日) 20:40:53.91 ID:1yaIK4is0

勇者「……ああ一応そうだけど……」

商人貴族「実に精巧な作りだ。それにちゃんと私の言っていることを理解し、コミュニケーションをとっている。まるで人間のように……素晴らしい。こんな魔導人形見たことがない!」

幼女「まるで……人間……」ギュッ

商人貴族「これをどこで?」

勇者「い、いやどこっていうかなんていうか……」アハハ

商人貴族「今までの魔道人形のそれとは次元が違う。それなりの知識が無ければ誰もこれが人形だと気がつかないでしょう……それだけこれは人間の真似事が上手い」

幼女「人間の……真似事……」フルフル

勇者「いやまぁ、幼女はちょっと俺たちと違うってだけで人形とかそういうもんじゃ……」

商人貴族「気に入りました。勇者様、よろしければこの魔道人形、私に売っていただけませんか?」

幼女「むいっ!?」ビクッ

勇者「売る?」

商人貴族「私も職業柄、珍しいものに目が無くてですね……このような素晴らしい魔道人形他に無い。是非手元に置いておきたいと思うのですが……どうですか? 譲って頂けませんかね?」

勇者「いや、こいつを売って欲しいって……商人貴族さん、あんたって実は  コン?」

商人貴族「勇者様、私は本気ですよ」


140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/29(日) 20:41:21.55 ID:1yaIK4is0

勇者「だからこいつはそういうんじゃ……」

幼女「ゆ、ユーシャ……」

商人貴族「言い値で買いましょう。いくらですか?」

勇者「いやいくらって……値段なんかつけられるわけないって」

商人貴族「今まで一緒に過ごしてきた魔導人形を手放すというのは流石に良心も咎める……というやつですか?」

勇者「いや……だから……!!」

商人貴族「……もし仮に私が持っているこの妖精と交換してでもその魔導人形が欲しいと言ったらどうします?」

勇者「!!! 交換……ねぇ」

幼女「ユーシャ!?」

商人貴族「はい。10億の価値がある妖精と交換です」

勇者「そうかぁ……」

幼女「………」オロオロ


148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/30(月) 21:06:00.04 ID:rUC70f9K0

幼女「………」オロオロ

勇者「……ありえないな」

商人貴族「ありえない?」

幼女「ユーシャ……」ホッ

勇者「だって幼女がいなくなったら俺のイメージ悪くなるだろ?」

商人貴族「イメージ……ですか?」

勇者「いや、考えてもみろよ? 俺単体だったら『日がな一日ゴロゴロしてるだけのクソニート』だぞ?」

商人貴族「いや、世界を救った英雄にそのようなことは……」

勇者「甘いなぁ、商人貴族くんは……実に甘い! ニートの称号は世界を救った程度じゃ消えないんだよ?」

商人貴族「そういうものなのですか?」

勇者「そういうものなんです! 俺はこの2年でそれを身を持って経験させていただきました!」

商人貴族「は、はぁ……」

勇者「ところが……だ!! ここに幼女が加わると……どうだ?」ヒョイッ


149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/30(月) 21:07:03.57 ID:rUC70f9K0

幼女「むいっ!?」

商人貴族「どうだ? と言われましても」ハハッ

勇者「この絵面を見てなにか感じるものはないか?」

商人貴族「ん?」

勇者「『預かった子供の子育てに奮闘する元英雄』って感じがして……なんていうかこう、微笑ましくないか? 」

商人貴族「あー、言われてみれば……なんとなく、微笑ましいですね」

勇者「だろ?」

商人貴族「そんなこと気にしているんですか?」

勇者「気にするよ! だって俺、勇者だもん!! ……それに」

商人貴族「それに?」

勇者「もし、幼女を金に目がくらんで売り払ったなんて知られてみろ……俺はあの鬼女に殺される……」ガタガタガタ

商人貴族「そんな馬鹿な……あなたほどの英雄がなにを恐れているのです?」

勇者「商人貴族くん、俺にだって怖いものくらいあるんだよ?」

商人貴族「そうですか……」





勇者「とまぁ、くだらない茶番はこれくらいにして……ぶっちゃけ俺の本音を言うとね」ジッ


150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/30(月) 21:08:03.72 ID:rUC70f9K0

幼女「ユーシャ?」



勇者「幼女のことを『これ』呼ばわりする男なんかに幼女を任せることはできん! お前みたいな男、お父さんは許しませんよ!」ビシッ



幼女「!!!」ピョンピョン

商人貴族「それが理由ですか?」

勇者「それ以外に理由なんてあるか?」

商人貴族「……あなたも面白いことを言いますね。どこまで人間の真似をしても、魔導人形は魔導人形でしょう? 言わば『モノ』ですよ?」

勇者「俺はこいつを『モノ』だなんて思ったことなんてない。幼女がどうするかは幼女自身が決めることで、俺やあんたが口を挟んでいいことじゃない」

商人貴族「魔導人形が自ら意思を持っているというのですか?」

勇者「幼女は幼女だ。こいつがいたいと思う場所がこいつの居場所なんだよ」

勇者「そしてその居場所を守るのが……今の俺の役割だ」

幼女「ユーシャ……」


151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/30(月) 21:08:33.17 ID:rUC70f9K0

勇者「えっと……一応、保護者としてはそんなスタンスで行く感じだけど……お前はどう思ってるんだ? 幼女?」

幼女「ユーシャと……ずっと一緒!!」ムイッ

勇者「……だそうだ。というわけで幼女を売るなんて選択肢はありえませんのでごめんなさい」

商人貴族「どうしても……ですか? 金ならいくらでも出してもいいと思っているのですが」

勇者「あーしぃ、自分の魅力が何かって聞かれて真っ先に『金』とか言っちゃう男ぉ……つまんないって思うんすよねぇ……そんな男にぃ、幼女ちゃんを任せるとかぁ、マジウケるwww」

幼女「ユーシャ、さっきからキャラが……おかしい……」

勇者「これでも色々と必死に我慢してるんだから理解してくれ……シリアスモードはあんまり好きじゃない」ヒソッ

商人貴族「そこまで言われてしまっては仕方ありませんね……今回は諦めるとしましょう。勇者様、無礼をお許し下さい」

勇者「謝るなら幼女に謝ってやれよ」

商人貴族「そうですね、申し訳ありませんでした。お嬢さん」

幼女「………むぅ」


152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/30(月) 21:09:02.00 ID:rUC70f9K0

商人貴族「しかし実に残念です。これだけの魔導人形、中々手に入れる機会も無いというのに……」ハァ

幼女「エヘヘ……ユーシャ♪」ダキッ

勇者「こら! 抱きつくなっつーの!!」

商人貴族「………おっと、もうこんな時間になってしまった。私もそろそろ次の予定があるのでこれで失礼します」

勇者「おう、色々と話に付き合ってもらって悪かったな、まぁそういうわけだから」

商人貴族「いえいえ、私の方こそこんな夜に長々と申し訳ありませんでした。しばらくは森の近くの海岸にキャンプを構えています。妖精のことでなにか分かりましたらご連絡いただけると助かりますよ」フフッ

勇者「ああ、なんかあったら必ず寄らせて……」


幼女「むぃぃ……」ジトッ

勇者(ものすごく冷たい目をしていらっしゃる……!!)

勇者「もらわないこともないかなぁ……なんつって!」アハハ

幼女「ユーシャ! 妖精とっちゃ……ダメだよ!!」プンスカ

勇者「でもさ、10億だぜ、10億」ヒソッ

幼女「ダ・メ!!!」

商人貴族「……それでは、私はこの辺で失礼します。またいずれ」フフッ



ザッザッザッザッ


幼女「ベー……だ!!」




160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 20:43:25.43 ID:9rLQ1DzB0

勇者「そんなに怒るなよ、幼女。あいつも謝ってただろ?」

幼女「ショーニンキゾク……悪い奴!!」フンス

勇者「あはは………ところで幼女」

幼女「なーに?」

勇者「俺になんか隠し事してるだろ?」

幼女「し、してない……」フルフル

勇者「お前、わかりやすいな!」クシャクシャ

幼女「む、むぅ……」

勇者「まぁ、いいけどなー、言いたくないなら別にさ」ヘラヘラ

幼女「……ユーシャ」

勇者「ん?」

幼女「困ってる人を助けるのは……ユーシャの仕事……だよね?」

勇者「そうだぞー……といっても俺はもうそういうのは卒業したけどな!」ケラケラケラ


161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 20:45:10.28 ID:9rLQ1DzB0

幼女「どう……して?」

勇者「だって勇者の仕事なんて無い方がいいだろ?」

幼女「むい!?」

勇者「あれ? 俺なんか変なこと言った?」

幼女「ユーシャはいらなくなんかないよ!? 必要だ……よ!?」

勇者「あれ? やっぱり変かな? 変じゃないと思うけどなー」

幼女「どうしてそんなこと……言うの?」

勇者「……まぁ、別にいいだろ? そんなことより今日はそろそろ寝ないとな?」

幼女「ユーシャ、いらなくなんか……ないよ!」ピョンピョン

勇者「わかった、わかった。話なら帰ってから聞いてやるから……ほら、さっさと帰るぞー」スタスタスタ

幼女「むぅ……待ってよ、ユーシャ!!」


162: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 20:45:55.69 ID:9rLQ1DzB0

――海岸近くのキャンプ――



シュンッ



商人貴族「……ふぅ」シュタッ

部下「商人貴族様!」

商人貴族「ご苦労様です、部下」

部下「てっきり明日の朝にでもご到着されるものだとばかり……」

商人貴族「迅速な行動は商売の基本ですからね、せっかくのチャンスを逃してしまっては悔やんでも悔やみきれません。この転移魔法も無理して覚えたんですよ?」

部下「そうですか……」

商人貴族「それに、結果的に早く来て正解でした。ここに来るついでに勇者様に会えたのですから」

部下「もう会ってきたのですか?」

商人貴族「ええ、一応挨拶だけでもと思ったのですが……思わぬ収穫を得ることができました」フフッ

部下「収穫?」

商人貴族「妖精の居場所の手がかりです」


163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 20:49:52.13 ID:9rLQ1DzB0

部下「それは本当ですか!?」

商人貴族「ええ……勇者の隣にいるあの幼女とかいう魔導人形……おそらくあれが妖精達の居場所を知っています」

商人貴族「そこであの人形を手に入れて場所を吐かせようと思ったのですが……失敗してしまいました」

部下「失敗……ですか?」

商人貴族「勇者様に妖精と魔導人形との交換を持ちかけたのですけどね、断られてしまいましたよ」アハハ

部下「そんな、その魔導人形とやらが妖精の居場所を確実に知っているなどという確証も無いのに、唯一の手がかりである妖精を手放そうなんて……」

商人貴族「無謀と笑いますか?」

部下「笑うだなんて……ですがいささか危険ではなかったのかと思っただけです……」

商人貴族「なに、もし仮にあの人形が妖精の居場所を知らなくても、あれを王都の工房に持ち帰り、徹底的に分解、研究を繰り返して我々の手で商品化すればいい金になると思っていましたから……どっちにせよビジネスチャンスだったんですよ」フフッ

部下「そこまで考えていらしたのですか!?」

商人貴族「いいですか、部下。商売は常に危機的状況の連続です。ですがそれ故にチャンスも多い。踏み込む時はとことんまで……ですよ?」

部下「……勉強になります」

商人貴族「まぁ、結果的には一番実りが少ない結果にはなってしまいましたが……それもいいでしょう。我々は確実に一歩前進しました」

部下「ということは……」

商人貴族「ええ、我々のビジネスもいよいよ正念場ということですよ」

部下「おお!!」



164: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 20:50:27.14 ID:9rLQ1DzB0






商人貴族「……それで頼んでいた戦力の方はどうですか?」

部下「ええ、こんなこともあろうかと事前に傭兵団と連絡をとっておいていましたので……」

商人貴族「流石、あなたは優秀ですね」

部下「もったいないお言葉です。最初は傭兵団の中から何人かをということで話をしていたのですが……流石に1000人となると……結局傭兵団丸ごと雇うといった形に……」

商人貴族「その規模の傭兵団となると……一つしかありませんね」

部下「ええ、傭兵団最大勢力……『黒獅子傭兵団』です」


ザッザッザッザッザ





「久しぶりだな。商人貴族! 『黒獅子傭兵団』丸ごと貸し出せって無茶な依頼を出したのはあんたかよ?」ヘッヘッヘ


165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 20:53:44.44 ID:9rLQ1DzB0

商人貴族「これはこれは戦士さん。お久しぶりです。あなた達傭兵団のご活躍は王都にいる私の耳まで届いています……また一緒にお仕事ができるだなんて光栄ですよ」フフフッ

戦士「ケッ、相変わらず貼り付けたような気持ち悪りぃ笑い方しやがるな、お前は……俺はお前のそういう笑い方が嫌いなんだよ」

商人貴族「おっとこれは手厳しい」

賢者「ちょっと、戦士! 依頼主に失礼よ! すみませぇん商人貴族様ぁ! いつもお世話になっておりますぅ!! うちの筋肉ダルマがご無礼を!!」ペコリ

商人貴族「いえ、これが戦士さんの挨拶だと重々理解しておりますよ。賢者さんもご無沙汰しております。相変わらずお美しい」

賢者「嫌だわ、商人貴族様ったら! 相変わらずお世辞が上手なんだから!」

戦士「おいこら! 誰が筋肉ダルマだ、誰が!!」

呪術士「戦士さん以外誰がいるって言うんですか?」クスクス

暗殺者「………」ザッ

商人貴族「ああ、呪術士さんに……そちらの方は?」

賢者「ああ、こいつ? 最近うちに入った暗殺者って言うのよ。まぁ、そこそこ腕は立つみたいだけどね」

戦士「ただ、少しばかり無口な奴だがな!」ガハハハ

商人貴族「よろしくお願いしますね、暗殺者さん?」

暗殺者「………」ペコリ


166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 21:00:17.55 ID:9rLQ1DzB0

呪術士「本当に陰気な奴ですね。一緒にいるこっちの気が滅入ります……」ハァ

暗殺者「………」シュ-ン

戦士「呪い使いのお前が他人を陰気って……こりゃなんの冗談だ?」ガハハハ

呪術士「こんなのと一緒にしないでください! 僕の呪いは芸術なんですよ!」フンス

賢者「はいはい、さっさと仕事の話するわよ。今日は早く終わらせて寝ないとお肌が荒れちゃうんだから! 美容に夜ふかしは厳禁なのよ!」

呪術士「………いくら美容に気を使っても年齢は誤魔化せないと思いますけどね」ボソッ

賢者「聞こえたわよ、貧 ボクっ娘? 随分な言い草じゃない」

呪術士「流石におばさんは地獄耳ですねぇ?」

賢者「おば……!! あー、やだやだ! 胸が貧しいと心まで貧しくなっちゃうのかしら?」ドタプーン

呪術士「ハッ、あんな脂肪の塊のなにがいいって言うんですか? ウシ ババアが調子乗ってんじゃないですよ」ストーン

賢者「粉微塵にするわよ?」

呪術士「呪い殺しますよ?」

賢者「ああん?」ジリッ

呪術士「おお?」ジリッ

暗殺者「………」オロオロ

商人貴族「皆さん、相変わらず仲のよろしいことで……」フフッ

部下(自分の周りはなんでこうも濃い人ばかりなんだろう……)









剣士「そこまでだ、お前たち」チャキッ



174: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 23:18:18.25 ID:TezKcwzp0

商人貴族「おっと……これは中々穏やかじゃないですね……」

部下「どこから現れたのですか……!?」

剣士「こんなところでなにをしている? ここは孤児院。お前のような金の亡者とは関係の無い場所のはずだが?」

商人貴族「少々、慈善事業に興味がありまして……といって信じていただけますか?」

剣士「そんなわけないだろう、本当のことを答えてもらおうか?」




賢者「キャー!! 本物の剣士様よ! 本物のイケメンよぉぉぉぉ!!!」キャッキャッ

呪術士「賢者、うるさいですよ」

剣士「ん? 君達は確か……」

戦士「剣士……!! どうしてお前がここにいやがる!?」

剣士「お前……戦士か? お前の方こそどうしてここに……!!」

戦士「へへ……ここで会ったが百年目! 今日こそ俺がお前より強いってことを証明してやるよ!!」ジャキンッ


175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 23:19:31.95 ID:TezKcwzp0

剣士「剣を納めろ戦士。私は無駄な争いをする気は無い。今はただこいつの目的を聞いているだけだ」

戦士「うるせぇ! てめぇの都合なんて知ったことかよ! 言っとくがあの頃の俺とは違うぜ? 今度こそお前をぶった切ってやるよ」ニヤニヤニヤ

剣士「戦士……」

商人貴族「これは面白いですね、では早速戦ってもらいましょうか」

剣士「なんだと!?」

商人貴族「戦士さん達は私の護衛として雇っているんです。ですから、私に危害を加えると言うのであれば彼らは与えられた仕事を遂行するのみです。違いますか?」

戦士「へへ……中々わかってるじゃねぇか、商人貴族様よ! 剣士! そういうこった、俺と勝負だ!!」

呪術士「いえ、僕が相手をしましょう。丁度、完璧な僕が新たに生み出した呪いがあるんです。それの実験台が欲しかったんです」フフッ

暗殺者「………」シャキンッ

賢者「ええ!? ダメよ、剣士様を傷つけたりなんかしちゃ! 私が嫌われたらどうするの!?」

呪術士「嫌われるもなにも視界に眼中に無いでしょ、あんたみたいなおばさん……」

賢者「あんだとコラァァァ!!!」

商人貴族「……ちなみに特に活躍した者には特別に私からボーナスとして金一封を差し上げましょう」

賢者「え? それって本当!?」

商人貴族「ええ、私にあなた方の全力を見せてください。あなた達『黒獅子傭兵団』の力を!!」フフッ

賢者「そんなこと言われたらいくら剣士様でも……全力で殺したくなっちゃうじゃない!」ゴゴゴ!!


176: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 23:19:58.73 ID:TezKcwzp0

呪術士「出た、守銭奴」

戦士「おい! 剣士は俺の獲物だ! 手出すんじゃねぇ!!」

賢者「うっさいわね! あんたのプライドなんて知ったこっちゃないわよ! 目の前のボーナスの方が大事だわ!!」

商人貴族「さぁ、どうしますか? 剣士様。いくらあなたでもこの4人を同時に相手するのはいささか厳しいような気がしますが……」

剣士「……くっ」

商人貴族「ご安心ください、なにも私はあなた方に危害を加えたい訳ではないのです……今のところは」

剣士「……昼間の『笑う赤鬼』とかいう連中、あれもお前の仕業か?」

商人貴族「さぁ、なんのことでしょう?」

剣士「とぼけるな!」

商人貴族「私はただ……合法的にあの孤児院に場所を譲っていただきたいと交渉しているだけです。あなたが考えているようなことは決してありません」

剣士「場所を……?」

商人貴族「ええ、あの岬を是非私が作り出すリゾートの目玉にしたいのですよ。ですからあの孤児院に移動をお願いしているというわけです。まぁ、断られてしまいましたがね」

剣士「だから今度は力づくでいこうというわけか……」

商人貴族「まさか……そんな」フフフッ

剣士「ならなぜ戦士やあの地上げ屋までここに呼んだ?」

商人貴族「恥ずかしながら私は元来の臆病者でしてね、これくらいの戦力を側に置いておかないと安心して夜も眠れないのです」

剣士「あくまでとぼけるつもりか……!!」

商人貴族「とぼけるもなにも、私は事実を言ったまでです………それに」

剣士「それに?」

商人貴族「私のことばかり構ってていいのですか? 彼はもうやる気のようですよ?」


177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 23:20:31.32 ID:TezKcwzp0

剣士「なに!?」



戦士「はぁぁあああああ!!!」ブォッ



剣士「くっ!!」サッ


ズダァァァアアアン!!!


戦士「チッ、外したか……いつまで俺を無視し続ける気だ? ええ? 剣士さんよぉぉ!!」

剣士「戦士……!!」シュタッ

戦士「今日こそお前をこの剣で叩っ斬ってやるよ!!」

剣士「やめろ、戦士! 俺とお前が争う意味がどこにある!?」

戦士「意味ならあるさ、お前より俺の方が強いってことを証明できるんだからなぁ!!」ブンッ

剣士「そんなことしてなんになると聞いてるんだ!」ヒラッ

戦士「本当だったら俺が勇者の仲間になるはずだったんだ! それをお前は……!!」


178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 23:24:48.73 ID:TezKcwzp0

剣士「……どうやらやるしかないみたいだな……」チャキッ

戦士「やっとやる気になったか……それでいい!! さぁ、楽しもうぜ! 剣士ぃ!!」

呪術士「……『停滞』」ズォッ

剣士「なに!?」ズズズズ

呪術士「ねぇ、剣士様……僕の完璧な呪いの味は如何ですか?」ニタァ

剣士「足が!? 動かない……」ググググ

戦士「馬鹿野郎! 手出しするんじゃねぇよ!」

呪術士「やかましいですね……今から僕の新作を披露するんですから黙っててくださいよ」

戦士「剣士は俺の獲物だぞ!」

呪術士「知ったこっちゃありません……剣士さん、覚悟はいいですね?」ズズズズ

剣士「く、くそ!!」グイグイ




賢者「お待ちなさい! 呪術士!!」ゴゴゴゴ


179: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 23:28:20.76 ID:TezKcwzp0

呪術士「……賢者……今度はなんです?」

賢者「オーホッホッホッホ!! 呪術士、お膳立てご苦労様。あなたは私が仕留めてあ・げ・る!!」



剣士「宙に……浮いて……?」

賢者「私くらいのエキスパートならこんなこともできちゃうのよ! どう、すごいでしょう? 私のこと、愛してくれてもいいのよ?」ウッフン

呪術士「僕の邪魔をする気ですか!?」

賢者「あんたの呪いじゃ埒があかないわ。止めはお姉さんに任せなさい!」

呪術士「このアラサー女は……」ギリギリ

賢者「うっさいわね! 誰がアラサーよ、誰が!!」

戦士「だからこいつは俺の獲物……」

賢者「あんたは黙ってて!!」
呪術士「戦士さんは黙っててください!!」

戦士「……はい」

賢者「それじゃあ、剣士様。あなたに恨みはこれっぽっちも無いけど、ごめんなさいね?」ゴゴゴゴゴ

剣士「この魔力は……まずい!!」



賢者「これで剣士様は木っ端微塵よ!! 極大爆発魔法!!」カッ


ドガァァァァアアアアアン!!!


戦士「ぬぉぉぉぉぉ!!!」

呪術士「ふぁぁああああああ!!!」


187: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:07:47.35 ID:wZqF0SEg0




パラパラパラ……



賢者「オーホッホッホッホ!! 私にかかれば剣士様だってこの通り!! ボーナスは私がもらったも同然ね!!」

呪術士「賢者のくせに馬鹿ですか! 私たちまで殺す気ですか!!」

賢者「あら、生きてたの根暗女」

呪術士「これだから魔法を使う奴は品が無くて嫌いなんです!」

商人貴族「いやいや……これはこれは……随分と派手なことで……」ゲホッゴホッ

賢者「どうです? 商人貴族様! これが私の実力ですわ!」

商人貴族「ええ、凄まじいまでの爆発魔法。拝見させていただきました。まぁ、この場合は凄まじ過ぎたと言わざるを得ないですが……」フフフッ

部下「巻き上がった砂で周りが全然見えないのですが……」キョロキョロ

賢者「細かいことは気にしない気にしない♪ 私の持ってる最強の魔法をぶつけたんだもん、いくら剣士様でもただじゃすまないわよ」

呪術士「そんなにボーナスとやらが大事ですか? さっきまであんだけキャーキャー騒いでたくせに……」

賢者「男は裏切ってもお金は裏切らないからね……天秤にかけたら私は迷わずお金をとるわ……」ズーン

商人貴族「おや、あなたとは気が合いそうですね」

部下(意味が違うと思う……)


188: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:09:13.85 ID:wZqF0SEg0

戦士「………」プルプルプル

賢者「……戦士もこれでわかったでしょ? あんたが固執してた剣士様も蓋を開けてみたらこんなもんなのよ」

戦士「……違う」

賢者「違わないわ。事実、私たちの攻撃に手も足も出なかったじゃない。魔王を倒して平和ボケしちゃったんでしょうねぇ、騎士団なんて実際の戦闘行為なんか全然しないだろうし、それに比べたら私たち傭兵団は毎日が食うか食われるかだから」オホホホ

戦士「………あいつは俺が倒すんだよ」

賢者「だーかーら! 今目の前であたしが木っ端微塵にしちゃったの見たでしょう? いい加減事実を理解しなさい! あんたが追いかけ続けた剣士ってのは最早幻想なのよ!」

賢者「いい加減、目を覚ましなさい。あんたはうちの団長でしょうが! あんたのそういうの……私、見てられないのよ……」ギリッ

呪術士「……金だ、男だって言いながら、最終的には団長なんですよねぇ……あんな筋肉ダルマなにがいいんだか……」ボソッ

賢者「なにか言った!?」

呪術士「いえ、なにも~」ピューピュピュー




戦士「おい! 剣士ぃぃぃぃぃ!!!」ビリビリビリ




賢者「な、なによ、急に大声出しちゃって……無駄よ、剣士様なら少なくとも会話できる状態じゃないはずだから」


189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:10:03.02 ID:wZqF0SEg0

戦士「お前はこんなんじゃしなねぇよなぁ! そうだよな!! お前を倒すのは俺なんだ! さっさとかかってこいよぉぉぉぉ!!!」

賢者「だから……!!」

商人貴族「………どうやら、無駄じゃないみたいですね」

賢者「………え?」

商人貴族「見てください、砂埃が晴れていきますよ……」スッ





助手「まったく……こんな月が綺麗な夜に穏やかじゃないわね、あんたたち」





190: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:12:11.48 ID:wZqF0SEg0


――孤児院――

院長「……これで決着…といったところでしょうか?」ニコッ

少年魔法使い「ここまで差があるものか……」ゼェゼェ

侍少女「化け物で……ござる……」ゼーハーゼーハー

魔族少女「………うう」グッタリ

悪ガキ「くそ……俺はまだ……!!」


院長「ではここで先ほどの戦闘から先生なりにみなさんの問題点を指摘させていただきますね」

侍少女「あの……人をボコボコにしておいて最初にやるのがそれでござるか?」

院長「ボコボコだなんて人聞きの悪い……過程はどうあれ先生はあなた方の実力をテストさせてもらっているだけです。テストを受けたらすぐに答え合わせをし、問題点を見つけ次に活かす……勉強とはそういうものですよ?」

魔族少女「そういうものなのかな……?」


191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:14:09.27 ID:wZqF0SEg0

院長「では早速……少年魔法使い君、あなたの魔法は見事です。この歳でそれだけの魔法を扱える子は中々いないでしょう」

少年魔法使い「あ、ありがとうございます……」

院長「ですが、魔法の発動までに時間がかかり過ぎです。それでは実戦でまったく使えません。勉強のし過ぎで実技が全然できないこのパターンですね。先生心配です」

少年魔法使い「僕の魔法が……使い物……にならない……」ズーン

院長「続いて侍少女ちゃん、先生の初撃を避ける戦闘センスには先生も驚きました。先生、はなまるあげちゃいます」

侍少女「め、珍しく褒められたでござる!!」

院長「ただ」

院長「その抜けない剣……確か『刀』と言いましたか? それにいつまでこだわっているというのです?」

侍少女「で、でもこれは父上が遺してくれた大切な……」

院長「使えない武器など捨てなさい。あなたが一番に守らなければならないのは過去ではなく自分の命です」

侍少女「うう……」

院長「魔族少女ちゃん、確かにあなたの回復魔法は珍しく、優秀です」

魔族少女「そんな、私はただ……」

院長「ですが、あなたの真の良いところはそこではありません。後ろで震えているくらいなら戦わなくてよろしい。さっさと逃げることをおすすめします」

魔族少女「………はい」






悪ガキ「なに勝手に終わらせようとしてんだよ……まだ終わってねぇぞ!!」ダッ


192: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:15:30.97 ID:wZqF0SEg0

魔族少女「悪ガキくん! もう動いちゃダメだよ!!」

悪ガキ「うるせぇ! 俺はまだ戦えるんだ! むしろこっからが本番だってーの!!」

院長「最後に……悪ガキくんですか……」

悪ガキ「くらえ! 俺の渾身の一撃!!」ブンッ

院長「まず、戦闘面に関してですが無駄な動きが多すぎます」ヒラッ

悪ガキ「このっ!!」ブンッ

院長「最後まで向かってくる精神力は評価しなくもないのですが……」ヒラッ

悪ガキ「まだまだ!!」ブンッ

院長「それは勇気ではなくただの無謀です。褒められたものではありません」フゥ

悪ガキ「ふざけんな!!」グワッ

院長「ふざけてません」ヒュンッ

悪ガキ「消え……!?」

院長「後ろです」ニコッ

悪ガキ「くっ……!!」

院長「えい☆」ヒュゴォォォォ

悪ガキ「うわぁぁぁぁぁ!!!」ヒューン

魔族少女「悪ガキくん!!」

悪ガキ「……ぐはっ!」

院長「先生が話している最中は大人しく聞きましょう。次からは気をつけるように」ニコッ


193: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:16:01.44 ID:wZqF0SEg0

悪ガキ「まだだ……まだ俺は……!!」

院長「そして……悪ガキくん……この際ですからはっきりと言いましょう」

院長「残念ながらあなたでは勇者になることは無理です……」

魔族少女「先生!? なんで悪ガキくんにそんな酷いことを言うんですか!?」

院長「いずれ分かることです。誰かが言わなければなりません」

悪ガキ「………先生まで俺にそんなこと言うのかよ……」ギリッ

院長「あなたには勇者になるだけの資質が無いのです……残念ながら」

悪ガキ「そんなもの! 努力でなんとかすれば……!!」

院長「現段階で!」

悪ガキ「……」ビクッ

院長「あなたは戦闘のセンスでは侍少女ちゃん、魔力では少年魔法使いくん、後方支援能力では魔族少女ちゃんに劣っています」

悪ガキ「……劣っている……だと……」ギリッ

院長「そんなあなたが勇者になれると本気で思っているのですか?」

悪ガキ「………!!!」


194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:16:32.98 ID:wZqF0SEg0

院長「そして、そんなあなたを勇者にしたいと、世界を託したいと誰が思うでしょうか?」

悪ガキ「だから努力すれば……!!」

院長「あなたの努力した結果が今のこの有様です」

悪ガキ「!!!」

院長「四人がかりで私に手も足も出ない……それがあなたの努力の成果なんです」

悪ガキ「……ち、違う……」

院長「そんなあなたがどうやって世界を救うというのですか? 」

悪ガキ「俺は勇者になるんだ!」

院長「勇者になることはそんな甘いものではないのです!」

悪ガキ「とーちゃんと約束したんだ! 勇者になるって! あんな腰抜けでいつもヘラヘラしてるような奴とは違う、本物の勇者に俺はなるんだよ!!」

院長「今……なんと言いましたか?」


195: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:22:00.47 ID:wZqF0SEg0

悪ガキ「腰抜けって言ったんだよ!! 大体おかしいじゃんか! あんな腰抜けに勇者が出来て俺にできないはずない!! あいつでも救える世界だったんだろ? だったら俺なんか片手間で救ってやるってーの!!」



バシン!!



悪ガキ「……あ……」ヒリヒリ

魔族少女「先生が……叩いた」

侍少女「いつものゲンコツじゃないでござる」

院長「あなたは……本気でそう思っているのですか……?」フルフル

悪ガキ「先生……?」

院長「勇者さんが腰抜けだと……勇者さんが片手間で世界を救ったと……本気で思っているのですか!?」

悪ガキ「なんだよ……先生まであいつを庇うのかよ……!!腰抜けだろ! あんな奴!!」

院長「勇者さんは腰抜けなんかじゃありません! 勇者さんがどれだけの犠牲を払ってこの世界を……!!」







勇者「ん? 俺のこと呼んだ?」ヘラヘラ

幼女「ただいま、センセ!」


196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:23:39.54 ID:wZqF0SEg0

院長「勇者さん……」

悪ガキ「勇者……!!」

勇者「げっ、なにこの惨状!? さっきの爆発音ってこれ?」

幼女「みんな……大丈……夫!?」ハラハラ

魔族少女「うん、大丈夫だよ幼女ちゃん」

侍少女「拙者も大丈夫でござるよ」イテテ

少年魔法使い「使い物に……ならない……」ズーン

侍少女「あああ!! いつまで落ち込んでるんでござるか!」バシッ

少年魔法使い「べ、別に落ち込んでなどいない!」

幼女「センセと喧嘩した……の?」

勇者「いやこれ、喧嘩って規模じゃないだろ……」

院長「まぁ、そんなところです」

勇者「そうなの!?」


197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:25:35.17 ID:wZqF0SEg0

院長「この子たちが外に出たいと言うので、どうしても出たかったら私の屍を越えていきなさい! といった感じでですね……」

勇者「おいおい……子供相手に何考えてんだお前は……」

院長「あら、少なくとも悪ガキくんは私に勝つ気だったみたいですよ?」

勇者「それでこのざまって訳か……なんだカッコ悪りぃなぁ、悪ガキ」ニヤニヤ

悪ガキ「……うるせぇよ……」グスッ

勇者「お? もしかして泣いてんのか?」

悪ガキ「泣いてなんかない!!」

勇者「あいつに勝つのは無理だって。俺だって多分勝てねぇもん」

院長「なに言ってるんですか!? 勇者さん! そんなことないですよ!?」

勇者「いやいや、これは冗談抜きで本当だって。だって俺は税金暮らしのニートですよ? お前の動きにはついていけねぇよ。現役時代でも辛うじて見えるか見えないかって感じだったんだぜ? 今じゃ絶対無理だって!」

院長「もう! 勇者さんまで人を化け物扱いして!!」プンプン


198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:26:07.00 ID:wZqF0SEg0

勇者「もう化け物みたいなもんだろ?」

院長「違います! 私はただの孤児院の院長です!」


ギャーギャー


悪ガキ「………だよ」

勇者「どうした悪ガキ? 腹でも痛いのか?」

悪ガキ「なんでそんな簡単に『勝てない』って言っちゃうんだよ……!!」

勇者「………」

悪ガキ「あんた勇者なんだろ!? 世界を救った英雄なんだろ!? なんでそんな簡単に負けを認めちゃうんだよ!?」

勇者「んなこと言ってもなぁ……」アハハ

悪ガキ「勇者って強いんじゃなかったのかよ! 魔王を倒したってのは嘘だったのか!?」

勇者「嘘ではないけどさ……なんて説明すればいいんだ? この場合……」ウーン


199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 21:27:24.15 ID:wZqF0SEg0

悪ガキ「俺はお前みたいな腰抜けが勇者だなんて認めない! 俺がお前の代わりに本物の勇者になってやるんだ!!」

勇者の「……お前も勇者になりたいのか?」

悪ガキ「そうだ! それが俺ととーちゃんの約束だから!! あんたより強くて立派な勇者に俺はなるんだよ!!」

勇者「その有様でカッコつけられてもなぁ……」ケラケラ

悪ガキ「う、うるさい!!」

勇者「いやぁ……でも……」

悪ガキ「なんだよ!? あんたも俺には無理だって言うのか!?」

勇者「俺も『あの事件』以降考えるようになったことだからさ、あんまり自信ないんだけどよ……」




勇者「……そもそも必要か? 勇者って?」




209: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:53:11.31 ID:b7whjEhq0

院長「勇者さん……」

幼女「ユーシャ……」

悪ガキ「ど、どういう意味だよ! 勇者がいらないって!!」

勇者「じゃあ聞くけど、お前は勇者になって誰と戦うって言うんだよ?」

悪ガキ「それは……悪い奴に決まってるだろ!」

勇者「だったら騎士団に入ればいいんじゃね?」

悪ガキ「それは……そうかもしれないけど……」

勇者「折角魔王がいない世界になったのによ……なんか違うっていうか……あれ? 俺間違ってる?」


210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:53:47.82 ID:b7whjEhq0

悪ガキ「そんなこと言って誤魔化したって無駄だぞ!!」

勇者「誤魔化してるつもりなんかないんだけど……」

悪ガキ「誤魔化してるだろ! そうやって俺に勇者になるのを諦めさせようって魂胆なんだ!」

勇者「そんなんじゃねぇって。ただ、俺はもうこれ以上、勇者なんて存在、生まれない方がいいんじゃないかなぁって思ってるだけで……」

悪ガキ「……どうせ支給金とかが減るとかって考えてるんだろ! わかってるんだぞ!?」

勇者「ああ、その発想は無かった!」


211: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:54:25.62 ID:b7whjEhq0

悪ガキ「―――――!!! くそ……皆して俺のこと馬鹿にしやがって!! 俺は兄ちゃんなんかと違って誰にも負けない強い勇者になるんだからな!!」

勇者「おいおい……流石にニートの勇者さんも、お前みたいな子供に負けるわけにはいきませんよ?」

悪ガキ「……俺に蹴られて悶絶してたくせに!!」

勇者「してねぇっつーの!!」

少年魔法使い「いや、してたな」

侍少女「してたでござる」

院長「してましたね……」フフッ

魔族少女「アハハ……」

幼女「ユーシャ……」

勇者「や、やめろ幼女! そんな哀れむような目で俺を見るな!」


212: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:55:37.84 ID:b7whjEhq0

悪ガキ「……ってたのに……」グスッ

勇者「お? どうした?」

悪ガキ「ずっと憧れてたのに!! 兄ちゃんのバカヤロぉぉぉぉ!!!」


パチコォォォン!!


勇者「はびょわ!!」ズターン

幼女「ユーシャ!!」

院長「悪ガキくん、なんてことを!! 謝りなさい!!」

悪ガキ「うるさいうるさい!! 兄ちゃんなんか嫌いだ! 先生なんか嫌いだ!! みんな大っ嫌いだぁぁぁ!!」ダッ




勇者「あ、おい!!」

院長「悪ガキくん! 戻りなさい! どこへ行くつもりですか!!」

悪ガキ「そんなのどこだっていいだろ!!」

院長「待ちなさい! 悪ガキくん!!」


213: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:58:44.00 ID:b7whjEhq0

侍少女「放っておくでござるよ、先生」

院長「ですが……・!!」

少年魔法使い「俺も放っておいた方がいいと思います、今適当に慰められても傷つくだけでしょうし」

院長「そうでしょうか……?」

幼女「…………」コォォォォ

魔族少女「幼女ちゃん? なにしてるの?」

幼女「……やつに制裁を……加え……ます!!」コォォォォォ

魔族少女「え!?」

勇者「おい……幼女、やめとけよ……いくらなんでもあいつ子供だぞ……?」

幼女「むぃぃぃぃぃぃ………!!!!」ゴゴゴゴゴ

少年魔法使い「なんだこの魔力は……昼間の時よりも遥かに大きい……」

勇者「おい、幼女!」

幼女「ユーシャは黙って……て!!」

勇者「いやでも!!」

幼女「黙ってて!!」

勇者「……はい」


214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 21:02:17.03 ID:b7whjEhq0

侍少女「どんだけ立場弱いんでござるか……」ハァ

幼女「もう……絶対許さない……んだから!!」




悪ガキ「くそ! くそ! くそぉぉぉ!! 俺は! 俺は勇者になるんだ! 絶対になるんだ!! 無理なんかじゃないんだ!! 絶対に俺が……!!!」ダダダダダダダ




幼女「むい!!」カッ


悪ガキ「え?」クルッ


ドッカァァァァァァン!!!



悪ガキ「んぎゃぁぁぁぁあああああ!!!」

魔族少女「悪ガキくぅぅぅぅん!!」

侍少女「今日何度目でござるかぁぁぁああ!?」

勇者「おいぃぃぃ!! 手加減しろって言っただろうがぁぁぁあああ!!!」

幼女「むふぅ……」

勇者「なにしてくれてんだよ、幼女!! やっちゃたよ、これ完全に何一つ残らないパターンだよ! お前マジで悪ガキ殺す気か!?」

幼女「奴は重罪を犯しました……それも……やむなしでござん……す!」フッ

勇者「馬鹿なの!? お前馬鹿なの!?」


215: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 21:02:51.02 ID:b7whjEhq0

幼女「……馬鹿じゃない……もん!!」

勇者「どうすんだよ、おい! 取り返しのつかないことやっちゃったよ! なに? 俺の教育方針のせい? あれ、俺どうしたらいいかわかんない!!」

院長「落ち着いてください! 勇者さん! 悪ガキ君なら大丈夫ですから!!」

勇者「大丈夫なわけないでしょうが! 龍族のブレスなめんなよ! こいつうちに来てから山二つほど消し飛ばしてんだぞ!!」

侍少女「山二つって……」

院長「よく見てください、悪ガキ君ならあそこに」スッ


悪ガキ「………」ピクピク



216: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 21:03:35.44 ID:b7whjEhq0


勇者「あ……生きてる……よかった……」ヘタッ



院長「………魔族少女ちゃん。すぐに回復魔法を」

魔族少女「は、はい!!」ダッ

幼女「……惜しかった」チッ

勇者「惜しかったじゃねぇだろ……!!」グニー

幼女「ゆ、フューヒャ……いふぁいよ……」ビヨンビヨン

勇者「人前でブレス使っちゃダメだって教えたよな?」グニー

幼女「でもあいつ……ユーシャ、殴った!!」

勇者「それでも今のはやり過ぎだ。子供の喧嘩に最終兵器を持ち出す馬鹿がどこにいる?」

幼女「悪いことしたの……あいつ……だよ!?」

勇者「それでもです! 次からはしないように! わかったか?」

幼女「むぅ……ごめんな……さい」シューン


217: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 21:06:47.27 ID:b7whjEhq0

勇者(それにしてもあいつもよくあれ食らって生きてるよなぁ……)

侍少女「いやー、ド派手な技でござったなぁ……」

勇者「ったく……」

侍少女「でも見た目ほど威力が無いんでござるね? 幼女殿のブレスは」

勇者「え? なんだって?」

少年魔法使い「ああ、確かに……あれだけの魔力反応の割には……威力が無い気がするな」

勇者「おい、ちょっと待て……そりゃどういうことだ? 幼女のブレスが弱い?」

侍少女「? だってそうでござろう? 悪ガキ殿はあのブレスを昼間も散々受け続けてたでござるよ?」

少年魔法使い「それこそ勇者様を馬鹿にする度に」

勇者「………幼女、お前、手加減は……するわけないよな?」アハハ

幼女「……ヨージョは常に全力なの……です!!」ムイッ

勇者「………」

幼女「でも……あいつ何度も立ち上がってくる……不思議……だからヨージョもつい……」エヘヘ

勇者「……とりあえずお前は今からしばらくブレス禁止」

幼女「なぜなの……です!?」ガビーン


218: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 21:08:38.64 ID:b7whjEhq0

勇者「当たり前だ! そんなにポンポン最終兵器撃つもんじゃありません! 俺がいいって言うまで絶対に使うなよ!?」

幼女「それは……フリというやつです……か?」

勇者「フリじゃありません! 使ったらチャーハン抜きの刑に処します!」

幼女「そ、そん……にゃ……」ガクーン

侍少女「そこまででござるか!?」

勇者「まったく……」


219: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 21:09:07.06 ID:b7whjEhq0




魔族少女「悪ガキくん、しっかりして!!」パァァァ

勇者「ああごめんな、幼女が勝手に暴走しちゃって……」

院長「いえ、気を失っているだけですから気にしないでください」

勇者「気を失ってるだけ? マジか?」

院長「ええ、そうですけど……

勇者「………」

院長「勇者様?」

勇者「あ、いやなんでもない」

院長「しかし驚きました……悪ガキくんがまさかあそこまで勇者さんに対して感情をむき出しにするなんて ……」

勇者「うーん、やっぱりなんか俺、あいつの癇に障ること言っちゃったみたいだな……」

少年魔法使い「少なくとも傷口に塩を塗りたくってましたね」

勇者「あー、やっぱり?」


220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 21:10:14.90 ID:b7whjEhq0

侍少女「先生に『勇者になるなんて無理!』なんて言われたら後でござったからなぁ……」

勇者「なんだお前? そんなこと言ったのか?」

院長「はい……いずれ分かることですから……知るなら早いほうがいいかと思いまして……」

勇者「ああ、そういう教育方針なの?」

院長「……と言いますと?」

勇者「ほら、獅子は子供を谷に突き落としてパーリナイ!! みたいなやつ」

少年魔法使い「いや、全く意味がわかりませんけど……」

幼女「パーリナイ!!」ビシッ

侍少女「幼女殿も乗っちゃダメでござる!」

幼女「パーリナイ!!」

勇者「ま、そういうことなら別にいいけどな……悪い、院長。悪ガキのこと頼むな。こいつには明日ちゃんと謝りに行かせるから」

221: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 21:10:51.40 ID:b7whjEhq0

幼女「ヨージョ、謝らないよ!!」

勇者「ダメです。ちゃんと謝りなさい」

幼女「絶対嫌だから……ね!」

勇者「じゃあ、二度とチャーハン作ってやらない」

幼女「ぐぬぬぬ……」

勇者「というわけだから、悪いけど先に部屋に戻って休んでるな。こいつも多分今までにないくらい夜更かしして変なテンションになっちまってるみたいだから早く寝かせないと……」

院長「はい、わかりました。おやすみなさい。勇者さん」

勇者「ああ、おやすみ。ほら、行くぞ幼女」

幼女「絶対謝らない……からね! ヨージョ悪くないもん!!」

勇者「ダメです。ちゃんと謝りなさい」

幼女「むぅぅぅ」プクー



229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:43:51.54 ID:B5HiLO4G0

――海岸近くのキャンプ――


剣士「助手さん……どうしてここに?」

助手「もう剣士様、いい加減ちゃんと戦えるところ見せないとまたあの子に笑われますよ?」

剣士「うぐっ……それを言わないでください……気にしてるんです……」

賢者「ちょ、ちょっと!? どうなってんのよ!? 私の魔法は確かに直撃したはずでしょ!? なんで生きてんの!?」

呪術士「……僕の呪いも確かに機能してるはずです!」

助手「過程から物事を見て結果を否定する前にやるべきことがあるでしょ? まずは観察、そして仮説を立て、実験に移る……それぐらい魔を極めようっていう人間なら当然のことだと思うけど?」

賢者「私の魔法が撃ち負けるなんて……そんなことありえないわ!!」

助手「ありえない……? 誰が決めたのかしら?」フフッ


230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:44:19.91 ID:B5HiLO4G0

賢者「この……!! ならこれでどう?」コォォォォ

賢者「豪炎魔法!!」

ゴォォォォォ!!!

助手「……剣士様、動けますか?」ヒソッ

剣士「すみません。この魔法のようなもののせいで上手く動けないんです……」グイグイ

助手「もう! それ位自分でなんとか外せないんですか?」

剣士「……自分は魔法耐性が無くて……面目ない……」

助手「しょうがないな……あんまりポンポン使いたくないんだけど……」

賢者「なにをごちゃごちゃと!! 剣士様共々焼け死になさい!!」


231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:45:25.09 ID:B5HiLO4G0


助手「……お願い」スッ


バチィィィィィン!!


賢者「なっ!?」

助手「あら思ったより簡単に消えてくれたみたいね。あの子に比べたら魔力の練り方が甘いのかしら?」

賢者「さっきからあんたなんなのよ!?」



戦士「うぉぉぉぉぉ!!!」ダッ

賢者「戦士!?」

戦士「へへへ……やっぱり生きてたな! 嬉しいぜ剣士ぃ!!!」

賢者「待ちなさい! なにが起こってるのかまだわからってないのに……突っ込んだら危険よ!」

戦士「うるせぇ! なにが待ち構えていようが突っ込んでぶった切るだけだ!!」ダダダダダ

賢者「あの馬鹿筋肉!!」


232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:45:55.26 ID:B5HiLO4G0


戦士「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」バッ


助手「……お願い」ズォッ


戦士「剣士ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


ガキィィィィン!!


戦士「なにぃ!?」

剣士「戦士の大剣が空中で止まった!?」

呪術士「どうなってるんですかぁ!?」

助手「……やりなさい!!」バッ


バァァァアアアン!!


戦士「ぐぁぁぁぁぁ!!!」

賢者「戦士!!」


233: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:48:00.69 ID:B5HiLO4G0

助手「あー、しんど……でもまぁ、こんなものかしらね」

剣士「君は一体何者なんだ……?」

助手「あら、今更ですか? 剣士様?」

助手「私はただのしがない助手ですよ?」フフッ

助手「……中々、この台詞癖になるわね……!!」


呪術士「『停滞』!!」


助手「!!!」ズズズズ

呪術士「ふふ……油断しましたね!! なにをやってるのかはわかりませんが、あなたの動きを止めてしまえば、さっきの妙な技も使えないでしょう?!」

剣士「しまった! あの子、私と同じ呪文を……!!」


234: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:48:31.90 ID:B5HiLO4G0

呪術士「さらに……!!」ズォッ

助手「……くっ」ギリギリ

呪術士「あなたはなにをするかわかりませんからね! 全身を拘束させてもらいますよ!!」

呪術士「どうです? 僕の完璧な呪いの力は!?」

助手「……60点」

呪術士「なんですって!?」

助手「60点よ、その考察は」

呪術士「完璧な僕に対して……60点ですって!?」

助手「ちゃんと観察しなさい。手足よりも先に私の口を塞いでおけば勝てたのに……」

助手「あなたの完璧……ちょっと欠陥が多すぎるわね」

呪術士「くっ!! なら!!」

助手「もう遅いわ……お願い」


パリィィィン!!!


呪術士「そんな! 僕の呪いが……!!」


235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:49:13.65 ID:B5HiLO4G0

助手「もう少しマシなものはないの?」

呪術士「嘘だ……」

助手「ああ……ついでに剣士様もお願いね」


パリィィィン!!


剣士「……すまない、ありがとう」

助手「貸しですからね、王都に戻ったら返してもらいます」フフッ


236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:50:00.66 ID:B5HiLO4G0





呪術士「この……!! よくも僕の芸術を!!」

助手「まぁ、原理は同じ様なものだからねぇ、『呪い』も私の『本業』も」

呪術士「ならばこれはどうです!?」ズォッ

呪術士「『悶え苦しめ』!!」ズズズ……

助手「だから無駄だって」パキィィン

呪術士「ぬぁ!?」

助手「あんたみたいに大した覚悟も無い人間が興味本位で突っ込んでいい世界じゃないのよ……わかったら呪いなんて怪しいもの、さっさと手放しなさい? 取り返しがつかなくなるわよ?」

呪術士「上から目線でごちゃごちゃと……そういうのが一番ムカつくんですよ!」

助手「……そう、一応警告はしたからね」


237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:51:48.61 ID:B5HiLO4G0


助手「それはそうと……商人貴族さん」

商人貴族「お世話になっています、助手様。お会いしたのは先日の英霊祭の時以来でしょうか? 相変わらずお美しい……」

助手「くだらないお世辞はいいわ。どうせ誰にでも言ってるんでしょう?」

商人貴族「いえ、決してそのようなことは……」フフッ

助手「……随分と好き勝手やってくれてるみたいじゃない、商人貴族さん。あんたの身勝手にうちの所長も随分とご立腹よ?」

商人貴族「おかしいですね、私は王立研究所とは随分と懇意にさせてもらっているはずですが……感謝はされても怒られる理由はまったくおもいあたりません」

助手「とぼけないで、あんたが狙っているのは妖精……そうでしょ?」

剣士「妖精!?」

商人貴族「なんのことやら私にはさっぱりですねぇ……」

助手「勇者様との会話は全て聞かせてもらったわ」

商人貴族「妙ですね……あの時私は他に人がいないか十分に警戒してから勇者様に近づいたはずですが……」


238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:53:12.40 ID:B5HiLO4G0

助手「認識できなかっただけでしょう、ほら、私ってあくまで助手だから……影が薄いのよ」

商人貴族「……今はあなた方にお話することはありません。私はただ、自らの利益を最優先しているだけですから」

助手「……『妖精』がこの世界にどんな影響を与えるかくらいわかってるはず……あんた、戦争でも起こす気?」

商人貴族「まさか! そんなことありえません。私は商人。戦争屋ではありませんよ」フフッ

助手「あれを世に放ったらどうなるかくらい、あなた理解してるでしょう!?」

商人貴族「世界が2つに分断される。『妖精を持っている者』と『そうでない者』に……」

助手「そこまでわかっていながら何故!?」

商人貴族「何故? 単純です。私は商人だ。商人は商品を売るだけです。代価をいただいた後のことなんて知りませんよ。」

助手「あんたみたいな奴がいるから……!!」

商人貴族「これが私の生き方です。変えるつもりなど無い」


239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:54:48.41 ID:B5HiLO4G0

助手「なら……ここで……!!」ズズズズ

商人貴族「おや、それ以上『それ』を使っていいのですか? いくら満月の夜でもあなたの体はもう限界ではあるませんか?」

助手「それでもいいわ。あんたをこのまま野放しにしておけない……あの子が必死で掴んだ世界だもの!!」グッ

商人貴族「その覚悟大いに結構。ですがそろそろお時間です」


シュンッ!!


助手「なにを言っ……」ドサッ

暗殺者「………」シュタッ


240: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:55:23.96 ID:B5HiLO4G0

剣士「助手さん!」

商人貴族「よくやりました。暗殺者さん。こちらの要求通り、実に素晴らしい」

剣士「この……!!」チャキッ

商人貴族「さて、剣士さん……そろそろお引き取りを願えますか?」

剣士「お前の目的はなんだ!? 妖精にはどんな力がある!?」

商人貴族「それは教えられませんね……賢者さん」

賢者「は、はい!!」

商人貴族「もう十分です。この人たちをどこか遠いところへ……そうですねぇ、しばらくここに戻ってこれないように北にでも飛ばしてください。できますね?」

賢者「も、もちろんです!」

剣士「くそっ……」シュンッ

呪術士「……『跪け』」グワン

剣士「がっ……」ベシャッ


241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:56:33.68 ID:B5HiLO4G0

呪術士「逃がしませんよ……ここで逃げられれば僕の誇りに傷がつく!!」ググッ

剣士「くぅ……!!」

賢者「強制転移魔法展開……座標を北に……!!」シュンシュンシュンッ

剣士「お前がやろうとしていることは戦争を煽動する行為だ……騎士団として、お前を放ってはおけない!!」グググッ

商人貴族「騎士団として? ふふふ……はっはっはっはっは!!」

剣士「なにがおかしい!」

商人貴族「いえ、これは失礼……あなたも彼の脚本通りに動いている役者だと思うと滑稽でして……」

剣士「なんの話だ!」

商人貴族「あなたは知らなくていいことです。防寒装備は持っていますか? 北はとても寒い。なんならお売りしますが?」

剣士「ふざけたことを……!!」

商人貴族「賢者さん。やりなさい」

賢者「強制転移魔法……発動!!」



カッ


商人貴族「御機嫌よう……剣士様」フフフッ


250: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/10(金) 21:53:33.77 ID:kgFInXb90

これまでの冒険を記録しますか?

はい
→いいえ

251: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/10(金) 21:54:04.59 ID:kgFInXb90

えー、本当にいいの? 

→はい
 いいえ

夜が明けたらもう記録できなくなっちゃうよ……本当に大丈夫?

→はい
 いいえ


252: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/10(金) 21:55:17.37 ID:kgFInXb90

後悔しない?

→はい
 いいえ

本当に?

→はい
 いいえ




男「もう、頑ななんだからぁ♪」

女「誰と話してんのよ」スパーン

男「………ちょっと最終確認をしとかないと不公平かなと思って」フフッ

女「はぁ?」

男「ほら、夜が明けるよ」フフフ

女「なによ、気持ち悪いわね……」


253: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/10(金) 21:55:49.94 ID:kgFInXb90

――役所――


受付「おはようございまーす!」

同僚「おはよう……」

受付「あれ? どうしたんですか? 元気無いですね?」

同僚「……仕事が終わんなかったのよ……徹夜よ、徹夜……」ボロッ

受付「それは大変ですね」

同僚「1人困ったのがいるせいでね……」

受付「ああ、彼ですか」


254: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/10(金) 21:56:27.04 ID:kgFInXb90

同僚「本人に悪気が無いから余計に……」




「あなた! 離れの村に奴隷を所持している人間がいると情報がありました! すぐに行きますよ!!」

「いや、俺まだ昨日の分の仕事が……」

「徹底的に付き合うと言ったのはあなたです! そんなものは後にしなさい!」

「いやちょっと!?」





同僚「……1人働けないのは別にいいんだけど、あれを見せられる他の人間がね……」

受付「仕事に身が入らないというわけですね」

同僚「みんな死んだ目をしてるんだもの……仕事にならないわよ」

受付「それは災難です」


255: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/10(金) 21:57:12.15 ID:kgFInXb90

同僚「色々あっただけにこっちも口出しし辛いし……」

受付「詳しくは番外編『山賊とお嬢様』を見てね! 無駄に長いよ!」

同僚「何の話?」

受付「企業秘密です」

同僚「なにそれ?……あー、私も恋愛したいなー……」

受付「私たちにそんな時間、どこにあるんだって話ですけどね」

同僚「うう……私だってそろそろ余裕無くなってくる年頃なのよ……お母さんもそろそろ結婚しなさいってうるさいし……でもお見合いとかは違うじゃない?」ハァ

受付「アハハ……」

同僚「そういえば……あんたっていくつなの?」

受付「えっと……それも企業秘密です」

同僚「なによそれ!?」

受付「まぁまぁ、いいじゃないですか。そんなことより、私コーヒー入れてきますね!」

同僚「コーヒーなんかより恋人が欲しいわよ!!」ギャース


256: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/10(金) 21:57:38.23 ID:kgFInXb90

受付「そんなこと言わずに……ほら、苦~いコーヒー飲んで色々とリセットしましょ?」

同僚「……朝から口が甘ったるくてしょうがなかったし……お願いできる?」

受付「……思えば私、初めて受付っぽい仕事してませんか?」

同僚「そう……だっけ?」

受付「まぁ、いいです。マグカップ借りますね……ってあれ?」

同僚「……どうかした?」

受付「私のマグカップにヒビが入っちゃってます……」

同僚「……なんか不吉ね」

受付「このカップ気に入ってたのになぁ……」

同僚「ああもう!! 朝っぱらから暗くなるわね!!」

受付「そうですねぇ……なんか嫌な感じです」


257: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/10(金) 22:00:41.79 ID:kgFInXb90

同僚「くぅ……神様にまで馬鹿にされてる気分だわ……」

受付「アハハ……まぁ、こういう日もありますって」

同僚「あー、私の前に金持ちでイケメンの白馬の王子様が現れたりしないかなぁ……」

受付(仮面つけた王女様ならここにいるけどね……)
フフッ

同僚「なに笑ってるのよ?」

受付「いえ、なんでもありません。コーヒー入れてきまーす」

同僚「お願いね」






265: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 20:40:58.55 ID:82Fw5CYG0


――秘密基地――



魔族少女「あ、やっぱりここにいたんだ」

悪ガキ「………」

魔族少女「もう、探したんだよ? 朝起きたらベッドにいないんだもん」

悪ガキ「………」フイッ

魔族少女「先生も悪ガキくんのこと心配してるか……さ、帰ろ?」

悪ガキ「………」

魔族少女「えっと……なにか喋ってほしいなーって……」アハハ

悪ガキ「………」

魔族少女「怪我……大丈夫?」

悪ガキ「………」

魔族少女「い、痛いならさ、回復魔法、使おうか?」

悪ガキ「……いらない」

266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 20:49:56.15 ID:82Fw5CYG0

魔族少女「……じゃ、じゃあ、そろそろみんなのところに帰ろうか、お腹すいてるでしょ? 今日の朝ごはんは私も手伝ったんだ。帰ってみんなで食べよう?」

悪ガキ「……嫌だ」

魔族少女「い、嫌だって……どうしてかな?」

悪ガキ「……お前らなんかみんな嫌いだ」

魔族少女「悪ガキくん……」

悪ガキ「どうせ俺のこと影で馬鹿にしてたんだろ?」

魔族少女「そんなこと思ってないよ!」

悪ガキ「嘘だ! 馬鹿にしてたに決まってる!! お前らも先生と同じこと前から思ってたんだろ!!」

魔族少女「違うよ! ほ、ほら! 先生だってきっとなにか考えがあるんだって。嫌だな、先生が理由もなくあんなひどいことを言う人じゃないってことくらい、悪ガキくんだってわかってるはずでしょ?」アハハ

悪ガキ「そんなのわかんねぇよ!!」

魔族少女「悪ガキくん……」


267: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 20:55:19.12 ID:82Fw5CYG0

悪ガキ「俺……とーちゃんと約束したんだ……勇者になるって」

魔族少女「え?」

悪ガキ「大きくなったら勇者になるって……勇者になってとーちゃんと一緒に世界のために戦うって約束したんだ!! ……だから俺は……勇者に憧れて……なのに……」グスッ

魔族少女「だったら簡単に諦めちゃダメだよ! 悪ガキくん、昨日私に言ってくれたじゃない。『誰も悲しまない、優しい世界を作る』って! だからさ……」

悪ガキ「うるさいうるさい!! どうせ俺には無理なんだろ! そうなんだろ!?」

魔族少女「だからそんなことないってば!」

悪ガキ「だったらなんでだよ……? なんで俺だけ……俺だけ才能……無いって……」

悪ガキ「お前らと違って俺だけ才能無いって……努力しても無駄だって……言われるんだよ……?」グスッ

悪ガキ「先生にも……妖精のおっさんにも……幼女にも無理だって言われてさ……」

悪ガキ「なんだよ……力が無いやつは夢も見ちゃいけねぇのかよ……努力しちゃいけねぇのかよ……!!」ググッ

悪ガキ「なんでダメなんだよ……!!」ウツムキ


268: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 20:57:24.13 ID:82Fw5CYG0

魔族少女「あ、あはは……考えすぎだよ、悪ガキくん! 誰もそんなこと思ってないって! もちろん私も悪ガキくんがきっと勇者になるって信じてるから! だからほら……」アハハ

悪ガキ「……もういい」

魔族少女「もういいって……どういうことかな」

悪ガキ「そんな目で俺を見るな。お前のそういうところがイライラするんだ……」ギンッ

魔族少女「悪ガキくん……?」

悪ガキ「わかってるような振りして、優しいような振りして、そうやって俺のこと下に見てるんだろ?」

魔族少女「え?」

悪ガキ「いいよなぁ……お前は回復魔法なんて珍しい魔法が使えて! それだけでお前は『価値がある』んだ! 俺みたいな雑草とは違うんだよな!!」

魔族少女「ど、どうしちゃったの悪ガキくん? 昨日からなんかおかしいよ? 体調悪いのかな?」アハハ

悪ガキ「そうやって愛想笑い貼り付けて本心隠して……自分は高みの見物のつもりかよ?」

魔族少女「おかしいよ……こんなこと言うなんて全然悪ガキくんらしくないよ……」アハハ


269: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 20:57:51.02 ID:82Fw5CYG0

悪ガキ「おかしくなんかない……これが俺の本心だよ! お前らなんか大っきらいだっていうこの気持ちが俺の本心なんだ!!」

魔族少女「嘘だよ……悪ガキくんはそんな人じゃない……ちょっと色々あってイライラしてるだけだよね? そうだよね?」アハハ



悪ガキ「ヘラヘラ笑うな、気持ちわるいんだよ。魔族のくせに」



魔族少女「!!!」

悪ガキ「『魔族』のお前が……『価値のある』お前が……『価値の無い』『人間』の俺のなにがわかるって言うんだよ?」


270: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 20:59:29.80 ID:82Fw5CYG0

魔族少女「……私は悪ガキくんを『価値がない』なんて思ったことなんかないよ……本当だよ?」ウツムキ

悪ガキ「もういいよ……お前の顔なんて見たくもない……!!」ザッ

魔族少女「どこ行くの悪ガキくん!」

悪ガキ「うるさいな!! どこだっていいだろ!!!」ザッザッザッザッザ

魔族少女「待って! だったら私も……」

悪ガキ「言っただろ! お前の顔なんて見たくもないんだよ! ついてくんな!!」ザッザッザッザッザ





魔族少女「悪ガキくん……」





271: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 21:00:04.17 ID:82Fw5CYG0


―――――




院長「……はぁ」

幼女「どうした……の? センセ!」

院長「ああ、幼女ちゃん。おはようございます」

幼女「おはようございま……す!」ガルーン

院長「うん、元気があってよろしい!」

幼女「センセは元気……ない?」


272: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 21:00:53.20 ID:82Fw5CYG0

院長「そんなことないですよ? 先生はいつでも元気いっぱいです!」

幼女「でもセンセ、お金もらいに行く時のユーシャと同じ顔して……る」

院長「それはどういうことなのかしら……?」アハハ

幼女「わかんない!」ムイッ

院長「ところで幼女ちゃん。なにか私に用事ですか?」

幼女「……あいつを……探してるのです……早く用事を終わらせないといけないの……に」ムゥゥゥ

院長(苦虫を噛み潰すってこんな顔のことをいうのですね……)アハハ

院長「あいつって悪ガキくんのことかしら?」

幼女「そう」クワッ

院長「幼女ちゃん、そんな顔しちゃダメよ?」


273: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 21:01:56.30 ID:82Fw5CYG0

幼女「むぅぅぅ……」クワッ

院長「悪ガキくんはちょっと今いないのよ」

幼女「いな……い?」

院長「ええ、起きたらすぐにベッドから抜け出しちゃったみたいでね……先生も今探しているところなの」

幼女「どこまで……どこまで邪魔する気……なの……」ンギギギギ

院長「だからごめんなさい。もうちょっと待っててくれる?」

幼女「いい……自分で探……す! センセがそこまでやる必要……ない!」

院長「手伝ってくれるってこと?」

幼女「あいつのためじゃない……チャーハンのため!」

院長「チャーハン?」

274: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 21:02:34.39 ID:82Fw5CYG0

幼女「あいつに謝るまで……チャーハン禁止……なの」

院長「よくわからないんだけど、それは幼女ちゃんにとってとっても大変なことなのね」

幼女「死ぬよりも辛い」

院長「そこまで……」

幼女「それに……みんなにも手伝って欲しいこと……あるから……ついで!」

院長「もうみんなとお友達になってくれたのね。ありがとう。幼女ちゃん」

幼女「いいってこと……よ!」

院長「こら! そんな野蛮な言葉を使ってはいけません。ありがとうと言われたら『どういたしまして』って返すんですよ?」

幼女「どう……いたしまして!」

院長「よくできました」ナデナデ

幼女「えへへ……」


275: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 21:03:02.13 ID:82Fw5CYG0



院長「ねぇ、幼女ちゃん」

幼女「なーに?」

院長「勇者さんとの生活は楽しいですか?」

幼女「楽しい……よ! ユーシャ、優しくてあったかい!」

幼女「時々、カッコ悪い……けどね」ボソッ

院長「そう」クスクス

幼女「センセはみんなといるの楽しくない……の?」

院長「そんなことないです!! 私はみんなのことが大好きだし、毎日とても充実してて楽しいですよ。でもね……」

幼女「でも?」

院長「……時々わからなくなってしまうんです」

幼女「むい?」

院長「私は本当にあの子たちの先生でいていいのでしょうか?」


285: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:26:15.33 ID:UM0oox0P0

院長「いくらあの子たちの前で先生の振りをしたって私はあの子たちになにも教えてあげられない」

幼女「そんなこと……ないよ! センセ!!」ピョンピョン

院長「でも実際のところ、私は魔法も、刀の扱い方も、回復魔法も教えてあげられないんです……私が使えるのはこの忌々しい『技』だけ……そんなことで私はあの子たちの先生を名乗って本当にいいのか……わからなくなってしまうんですよ」

幼女「むぅぅ……」

院長「それに昨日のことも……本当はあんなこと悪ガキくんに言うべきではなかったんです。彼の夢を否定するようなこと絶対に言ってはいけなかったはずなのに私は言ってしまった」

院長「私は悪ガキくんを勇者になって欲しくなかったから……」

幼女「………むい?」キィィィン




院長「あれは幼女ちゃんと勇者さんが来る少し前のことです………」


286: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:27:08.47 ID:UM0oox0P0




院長「では、いきますよ!」シュンッ

悪ガキ「消えた!?」

少年魔法使い「いつものことだ! 惑わされるな!」

侍少女「そ、そうでござる! こういう時は心の目で相手を捉えるのでござるよ!!」


院長「そう簡単にいきますかね?」シュタッ


魔族少女「侍少女ちゃん! 後ろ!!」

侍少女「む?」ピーン

院長「遅い!」ビュォッ

侍少女「ふんっ!!」ヒラッ

魔族少女「避けた!?」

侍少女「こ、これが心の目というやつでござるよ!」ガタガタ

少年魔法使い「震えながら言ってる場合か!」


287: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:27:36.16 ID:UM0oox0P0

院長「なるほど、今のはいい動きでした。ですが……」

侍少女「さぁ、今こそ反撃の時でござる! 今日こそこの刀で先生の首を頂戴つかまつ……あれ、やっぱり抜けない……」ガチャガチャ

少年魔法使い「なにもたもたしてるんだ!」

侍少女「ちょっと待つでござるよ、今……」

院長「一瞬の判断ミスが死を招くことになります」コォォォォ

悪ガキ「侍少女! 前! 前!!」

侍少女「え?」

院長「はぁぁぁ!!」カッ


侍少女「ござるぅぅぅぅうううううう!!!」ヒューン


ドカァァァァン!!!


院長「次」クルッ

魔族少女「ひぃぃ!」ガタガタ


288: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:28:32.05 ID:UM0oox0P0

少年魔法使い「あの馬鹿! せっかくのチャンスを……仕方ない、今度は僕がやる!」

悪ガキ「やるって……どうする気だ?」

少年魔法使い「僕のとっておきをみせてやる……」コォォォォ

悪ガキ「おお……」

少年魔法使い「右手に炎魔法……」ボッ

少年魔法使い「左手に氷結魔法……」ピキーン

少年魔法使い「相反する二つの魔法を魔力の制御で一つに抑えこむ……!!」ゴゴゴゴゴ

少年魔法使い「二つの魔力は混ざり合い強大な魔力反応を起こす……!!!!」

少年魔法使い「これが僕が開発した合体魔法!! 名づけて……!!」


院長「長いです」ドカッ


少年魔法使い「ぐはっ!!」ヒューン


289: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:28:57.73 ID:UM0oox0P0

院長「先生、そういうの待ちきれないタイプなので」フフッ

魔族少女「……最後まで待ってあげてもよかったのに!!」

院長「付き合う義理などどこにもありません。先生も本気で戦っていますので………さて、次は魔族少女ちゃん、あなたですか?」

魔族少女「え、えっと……」アハハ

院長「来ないのならこちらから行かせてもらいますよ!」

魔族少女「ううう……」ギュッ


悪ガキ「はぁぁぁぁあああああ!!!」バッ


魔族少女「悪ガキくん!!」

悪ガキ「もらったぁぁあああああ!!!」ブンッ

院長「いいえ、全然ダメです」ヒラッ


290: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:29:46.26 ID:UM0oox0P0

悪ガキ「うわっとっとっと……」フラッ

院長「あなたもまだまだですね!!」ドカッ

悪ガキ「うわぁぁぁ!!」ヒューン

院長「さ、残るは魔族少女ちゃん、あなた1人です。先生に勝とうなんて100年早いことがわかりましたか?」

魔族少女「ひぃぃ!!」ガタガタ

院長「……流石に私も無抵抗な子を攻撃するのは気が引けますね」フフフッ

魔族少女(全然そんな風には見えないよ!!)

悪ガキ「待て!!!」ダッ

院長「ほう? まだやりますか?」

悪ガキ「当たり前だろ! 俺は勇者になるんだ! 先生にだって負けてられないぜ!!」バッ

院長「あら、そんなこと言われたら先生も……」ゴゴゴ

院長「手加減するのを忘れてしまうかもしれないじゃないですか☆」バコォッ

悪ガキ「ぐわぁぁぁ!!」

院長「まぁ、こんなもんでしょう……さて」

悪ガキ「まだまだぁ!!」スクッ

291: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:30:25.23 ID:UM0oox0P0

院長「まだ立ちますか? もうやめておいた方がいいと思いますけど!」

悪ガキ「まだだ! まだ俺は負けてない!!」

院長「しつこい男の子は嫌われてしまいますよ?」

悪ガキ「うるさい!!」ダッ

院長「えい☆」ドゴシャァ

悪ガキ「ぐわぁぁぁ!!」

魔族少女「ああ……!!」

悪ガキ「まだだ!! まだまだ……!!」グググ

院長「………」


292: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:33:50.91 ID:UM0oox0P0

悪ガキ「うぉぉぉぉぉ!!」

院長「っ!!」ドカァン

悪ガキ「ぐぅぅ!! まだだ……俺は……俺は絶対に勇者になるんだ……ここで負けたらダメなんだ……ダメなんだ……!!」グググ

悪ガキ「絶対に倒れるもんか!! 俺は勇者になるんだ!!」ボロッ

院長「………!!」







院長「結局、他の二人が回復するまで悪ガキくんは私の攻撃を受け続けました」

院長「まるで呪文のように『勇者になるんだ』と繰り返しながら……私に向かってくるんです」


293: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:36:35.55 ID:UM0oox0P0

院長「そんな姿を見て私は急に怖くなりました」

幼女「………」

院長「彼も勇者さんのようになってしまうのではないかと思ったんです」

幼女「………」

院長「本当は私だって夢に向かってひたすら頑張っていく彼を心の底から応援したい……でも勇者という過酷な運命をあの子に背負わせるなんて私にはできません……!!」ギュゥゥ

院長「……幼女ちゃんは勇者さんの目をちゃんと見たことがありますか?」

幼女「………」フルフル

院長「勇者さんの目はとても悲しそうな目をしています。まるで世界に絶望してしまったかのような、そんな目です……きっと今までの戦いが彼を変えてしまったんでしょう」

幼女「………」

院長「あの子もいつか、全てに絶望してしまうのではないかと……そう思うと私は怖くなった。あの子も全てを投げ出して世界を救ってしまうのではないかと思うと……それが私はたまらなく怖いんです」ガタガタ

院長「……私はただあの子に平凡でもいいから幸せに生きて欲しいだけなんです。勇者になんかならなくてもいい、生きて自分の生を全うしてくれればそれだけでいい」

院長「幸い、今の彼は特別な才能も能力もありません。夢を壊すなら、彼を止めるのならば今だと私は思ったんです。だから……」

院長「私は先生としても……親としても最低です……」


294: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:37:55.09 ID:UM0oox0P0

院長「……ごめんなさい。私ったら……幼女ちゃんにこんなこと話すなんて……どうしちゃったんでしょう?」

院長「幼女ちゃんといるとなんだか懐かしい気持ちになっちゃって……おかしいですよね!」アハハ




幼女「……おかしくなんかないわ。そうやって迷い苦しむのなんて人間なら当然のことじゃない」



院長「え?」

幼女「職業柄、懺悔はちゃんと聞いてあげるけどね……そうやって1人で抱え込んでウジウジウジウジしてても体に悪いわよ?」ハァ

幼女「あなたはその優秀な『眼』に頼りすぎ。物事をちゃんと最後までしっかりみなさい」

院長「よ、幼女ちゃん?」


295: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:38:35.55 ID:UM0oox0P0

幼女「ユーシャは別に全てに絶望してるわけじゃないわ。普段のユーシャなんてあんなものなのよ、金に汚くてめんどくさがりで情けなくって……でも決めるときは決める……そこがカッコイイんじゃない」

院長「ど、どうしちゃったんですか……?」

幼女「久々に見たら変貌ぶりにびっくりすると思うけど、あれは誰かさんとの馬鹿な約束をきっちり果たそうとしてるだけで……根っこの部分は何一つ変わってないから、安心して……それと」

院長「……はい?」

幼女「大丈夫。あなたはしっかりやってるわ」

院長「あ、ありがとうございます……」

幼女「不安かもしれないけど、あの子たちにとっての親はあなただけなんだから。思うまま、ありのままあの子たちの道標になればいいのよ」

院長「……思うまま……ですか?」

幼女「そうよー、子供は親を選べないとはよく言ったものだけど、親だって子供を選べないわ。意見がぶつかり合うのは当たり前、喧嘩をするのも当たり前……でもね」

幼女「最後まであの子たちの側にいてあげて。それが親の務めだと思うから」

院長「親の……務め……」


296: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:41:48.66 ID:UM0oox0P0

幼女「今は院長……だったかしら? ……ユーシャを気にかけてくれてありがとね、あと勝手いなくなっちゃってごめんなさい」ペコリ

院長「……やっぱりあなたは……そうなんですか?」

幼女「詳しい事情は聞かないで、説明してる時間もあんまりないからさ」

院長「……勇者さんはこのこと知ってるんですか!?」

幼女「知らないわ。私から言うつもりもないし」

院長「なぜです!? だって勇者さんにとってあなたは……!!」

幼女「私がもうこの世界の人間じゃ無いからよ」

院長「でも……!!」

幼女「それに……ユーシャには幼女ちゃんがいるからね。安心して任せられるし……」

院長「そんな……」

幼女「もう! 今はユーシャのことよりあなたのことが最優先! わかってる?」

院長「はい……」


297: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:42:51.26 ID:UM0oox0P0

幼女「私があなたにアドバイスできることなんて限られてるけど……これだけは言わせて」

院長「なんですか?」

幼女「悪ガキくんを……あの子の力を最後まで信じてあげて。どんなことが起こっても、彼のことを信じる……それが親ってもんでしょ?」

院長「………わかりました」

幼女「うん。よろしい!」

院長「ありがとうございます。あなたに再会できるなんて……こんな嬉しいことはありません」

幼女「私もあなたに会えてよかったわ……あ、でもそろそろ時間切れみたい、私、そろそろ行かないと……」

院長「待ってください! あの時……あの時勇者さんと魔王の間でなにがあったんですか!?」

幼女「ごめん……今は教えられない……」シュゥゥゥ

院長「教えられない? どういうことですか?」

幼女「いずれわかることだから……その時は勇者のこと……お願いね?」

院長「お願いって……どういう意味ですか、教えてください僧侶さん!!」





幼女「………むい?」キョロキョロ


298: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/13(月) 21:43:49.90 ID:UM0oox0P0

院長「あ……幼女ちゃん……」

幼女「……あれ? 何の話……だっけ?」ムゥゥゥ

院長「……覚えてないの?」

幼女「センセが悲しそうにしてた……から、なんとかしなきゃ……って思ったらきゅいーんってなって、グニャーってして……むい?」

院長「そう……」

幼女「むぅぅぅ……思い出せな……い」

院長「……悪ガキくんを探しているって話じゃないかしら?」

幼女「そうだった……! 早く見つけて謝らないと! チャーハンのために!」

院長「だったら早く見つけなければいけませんね」

幼女「じょあ、ちょっと探してくる……ね!」

院長「気をつけるんですよ? 森は危ないですから」

幼女「うん! いってきま……す!」ダッ

院長「いってらっしゃい、幼女ちゃん」

幼女「センセ、元気出して……ね?」

院長「……ありがとう」

幼女「じゃあね!!」タッタッタッタ




院長「僧侶さん……あなたはなぜ幼女ちゃんの中にいるのですか? それに……」


幼女(ごめん……今は教えられない……)

幼女(いずれわかることだから……その時は勇者のこと……お願いね?)



院長「まだ……戦いは終わっていないということですか……?」

院長「まだ世界は……勇者を必要としているというのですか?」


304: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/15(水) 23:24:24.81 ID:jv9wNIXW0

――海岸沿いのキャンプ――



地上げ屋「朝だ!」

舎弟「朝っす!」

地上げ屋「気持ちいいなぁ!! 兄弟!!」

舎弟「そうっすね!!」

地上げ屋「いやーそれにしても昨日は酷い目にあったな!」

舎弟「喧嘩売った相手がまさか勇者と剣士だったなんて……」

地上げ屋「つくづく俺達も運がない!」

舎弟「そうっすね!!」

地上げ屋「お、今日もお前は元気いっぱいだなーお前は~!!」ウリウリ

舎弟「元気いっぱいっす!!」


305: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/15(水) 23:24:50.43 ID:jv9wNIXW0

地上げ屋「お前みたいな奴見てるとこっちの気分までよくなるよ!! ほら、ビーフジャーキーをやろう」スッ

舎弟「あざーっす!!」

地上げ屋「さぁ、今日もいっぱい人を脅して元気に地上げ屋稼業を盛り上げていきましょう!!」

舎弟「うーっす!!」

地上げ屋「よーし、いい返事だ! さらにビーフジャーキーをやろう」

舎弟「あざーっす!!」


「爆発魔法」


地上げ屋「ん?」カッ


ドゴォォォオオン!!


地上げ屋「んぎゃぁぁぁ!!」


306: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/15(水) 23:27:05.41 ID:jv9wNIXW0

舎弟「兄貴ぃぃぃぃ!!」

賢者「……うっさいわね!! 朝っぱらから人のキャンプの前ではしゃいでんじゃないわよ!! 迷惑よ! 迷惑!!」

舎弟「おいおばさん! 兄貴になんてことしやがるんだ!! いくら兄貴が丈夫だからって『とりあえず爆破させとけばいいや』的な行為は控えて欲しいっす! たたでさえこのパターンマンネリ化してきてるのに!!」

賢者「誰がおばさんよ! 誰が!! 私はまだ20代なんだからね!」

舎弟「え!?」ギョッ

賢者「な、なによ……?」

舎弟「20年しか生きてないくせにそれっすか!?」

賢者「ちょっと!! どういう意味よそれ!?」

舎弟「……しんどいね」ヘッ

賢者「決めた……このクソガキ殺す……!!!」

舎弟「お、やるっすか!?」

307: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/15(水) 23:28:01.05 ID:jv9wNIXW0


地上げ屋「やめろ、兄弟!!」ガバッ

舎弟「兄貴!! 大丈夫なんすか!?」

地上げ屋「安心しろ! 無敵の俺様にはあんな魔法なんの影響もない!!」プルプル

舎弟「さっすが兄貴ぃ!!」

賢者「いや、ふらふらじゃない……」

地上げ屋「兄弟。教えただろう? 女性に年齢の話をしちゃダメだ。特にあれくらいの妙齢の女性は特にそういうのを気にするものだ!」

舎弟「そういうもんなんすか?」

地上げ屋「そういうもんだ!!」

賢者「あんた達……私を馬鹿にしてるの……?」プルプル

地上げ屋「それにな……」

舎弟「それに……なんっすか!?」

地上げ屋「女はあれくらい熟れてる方が1番うまいんだ!!」バーン


308: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/15(水) 23:28:51.52 ID:jv9wNIXW0

賢者「熟れてるってどういうことよ!! 私はまだピチピチよ!」

舎弟「兄貴!? 女って食えるんすか!? まるかじりっすか? それとも焼いたほうがいいのんすか?」

地上げ屋「いや、そういう意味ではなくてだな……」

舎弟「俺、食ってみたいっす!!」

地上げ屋「馬鹿、お前にはまだ早い!」

舎弟「なんでっすか?」

地上げ屋「女性というものは俺のようなダンディな大人じゃなければ食べてはいけないものだからだ!!」

舎弟「おお!! かっけぇぇぇ!!」


アッハッハッハッハ!!!


賢者「こいつらまとめて灰にしたいんだけど……!!」


309: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/15(水) 23:29:22.75 ID:jv9wNIXW0

商人貴族「ダメですよ、そんな荒っぽいことをしては。彼らも私が呼んだ優秀な人材なのですから」

賢者「商人貴族様!」

地上げ屋「お! 先生! おはようございます! 今日もご立派で!!」

舎弟「おざまーっす!!」ビシッ

商人貴族「今日もよろしくお願いしますよ? あなた方には期待しているのですから」

地上げ屋「へい! この『笑う赤鬼』、誠心誠意ご依頼に答えてみせましょう! まずはあそこの孤児院のガキを2、3人かっぱらってですねそれを盾に土地の権利書を奪い取ってやろうと思うんですかどうですかね?」

商人貴族「それは素晴らしい考えですね」

舎弟「さっすが兄貴! やることが汚いっす!!」

地上げ屋「そんなに褒めるなよ……照れるじゃねぇか!!」


アッハッハッハッハ!!


商人貴族「……ですがあなた方にはもっと相応しい仕事を頼みたいのです」


310: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/15(水) 23:35:19.55 ID:jv9wNIXW0

地上げ屋「ん? 相応しい仕事ですかい?」

商人貴族「これを……」スッ

舎弟「これは……女の子っすか?」

商人貴族「専門の者に書かせました似顔絵です。この子のことを監視して欲しいのです」

地上げ屋「あー、土地の権利書の方はいいんですかい?」

商人貴族「こちら側も事情が変わりまして……今優先すべきはこの子です」

舎弟「じゃあ、このガキを掻っ攫ってくればいいんすね!」

商人貴族「誘拐する必要はありません、あくまで監視です。今はあの孤児院にいるはずです。お願いできますか?」

地上げ屋「……先生、悪いがそんな依頼なら他をあたってくんな」


311: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/15(水) 23:36:14.31 ID:jv9wNIXW0

舎弟「兄貴!? 断っちゃうんすか!?」

地上げ屋「俺もこの地上げ屋稼業に誇り持ってるんでね、こんなガキの監視なんて誰でもできるような仕事を受けるわけにはいかねえのさ!」

舎弟「兄貴……かっこいいっす!!」

地上げ屋「俺は根っからの地上げ屋! 一度受けた依頼はなんとしてでも成功させる! あの孤児院の権利書を奪うまで他の仕事なんか……」

商人貴族「……ならばいつもの報酬の五倍出しましょう」

地上げ屋「このガキ監視してりゃいいんですね!? はい、喜んでー!!」ビシッ

舎弟「兄貴!? 地上げ屋稼業の誇りはどうしたんっすか!?」

地上げ屋「いや、いつもの五倍なんて言ったらそりゃ引き受けるでしょうよ!」

舎弟「兄貴……カッコ悪いっす……」

地上げ屋「バカ野郎、見栄なんか張っても財布は温まらねぇぞ?」

舎弟「それもそうっすね!!」


アッハッハッハッハ!!


賢者「商人貴族様……こいつら本当にウザいんですけど……」

商人貴族「ですが優秀ですよ?」フフッ


312: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/15(水) 23:36:42.64 ID:jv9wNIXW0

賢者「こいつらがですかぁ?」

商人貴族「くれぐれも喧嘩をしないように……私の目的達成のためにはあなた方どちらとも失うわけにはいかないのですから」

賢者「は、はぁ……」

商人貴族「では、皆さん今日もよろしくお願いしますよ……」スタスタスタ

地上げ屋「はい喜んでー!!」

賢者「商人貴族様、こんな朝早くにどちらへ?」

商人貴族「私はお客様とビジネスの話を……」

賢者「こんな朝早くにですか?」

商人貴族「商いは場所も時間も選ばないものです……私が戻るまでの間、留守をたのみますよ?」

賢者「正直、こいつらと一緒にいたくないんですけど……」


313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/15(水) 23:42:23.18 ID:jv9wNIXW0

商人貴族「話してみると案外愉快な人たちです……では失礼」スタスタスタ

賢者(……できれば私一人にしないで欲しいのだけど……他の連中はなんで起きてこないのよ……!!)イライラ





舎弟「なぁなぁ、おばさん」

賢者「誰がおばさんよ! あんたこれ以上それ言ったらぶっ飛ばすわよ!!」

舎弟「この幼女は食ったらうまいんか?」

賢者「なっ!? あんたそういう趣味なの!?」

舎弟「やっぱりまずいんか!?」

賢者「まずいに決まってるでしょう!? 色々とアウトよ!!」


舎弟「やっぱりそうか……やっぱり兄貴の言ったとおりおばさんみたいに熟れてないとまずいのかー」

賢者「……本当にあんた粉微塵にするわよ……!!」プルプル

舎弟「でもなー」

賢者「でもなによ?」

舎弟「こいつの髪の色、どっかで見たことあるんだよなー」

賢者「そうなの? 金色の髪なんて中々ないと思うけど……知り合いかなにか?」

舎弟「いや違う。でもなー、どっかで……どこだったかなー、わかる?」ウーン

賢者「そんなの知らないわよ……」ハァ

舎弟「だよなー、どこだったかなー」ウーン

319: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/18(土) 00:06:32.29 ID:zvmyj/Y+0

―――――




「とーちゃん」

「ん? どうした息子」

「俺、勇者になりたい」

「ほう、さすが俺の息子! やっぱり血は争えないか!!」バシッ

「痛ぇよ、とーちゃん!」

「何を隠そう、このとーちゃんも昔は勇者だったんだぞ?」

「嘘だー」

「なぜわかった!?」ガビーン

「かーちゃんに聞いた。あともうちょっとで勇者になれたのにダメだったって」

「そうなんだよなぁ……あともうちょっとだったんだよなぁ……」ズーン


320: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/18(土) 00:07:00.33 ID:zvmyj/Y+0

「とーちゃん?」

「やっぱりなぁ……あの時もうちょっと上手くやってたら今頃俺も勇者にやれてたのかなぁ……」ズズーン

「元気出せよとーちゃん!」

「……よし、復活!!」ビシッ

「おお!!」

「まぁ、勇者にはなれなかったけど代わりにかーちゃんと結婚できたし、お前も産まれてくれた。それだけでとーちゃんは十分幸せだから結果オーライだ!!」ナハハハハ

「結果オーライか!」

「ああ、結果オーライだ!!」ナハハハハ

「じゃあ、俺が代わりに勇者になってやるよ!」

「ははっ……そんな簡単になれるわけねぇだろ、このバカ息子が!!」ウリウリ

「なるよ! 絶対になる!!」


321: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/18(土) 00:07:36.04 ID:zvmyj/Y+0

「勇者なめんな~? ピーマンも食べれないお子ちゃまなお前じゃ無理だ」

「た、食べれるよ! ピーマンくらい!!」

「じゃあ、なんでさっきかーちゃんに怒られてたんだ?」

「あれは……その……今日は体調が悪くて……」

「勇者は言い訳なんてしないと思うけどなー」

「うう……だって苦いんだもんあれ」

「みんなの希望になる男がそんなことじゃダメだろ?」

「希望?」

「そう、みんながこう『やるぞー』って気持ちになるような、そんな人じゃないと勇者にはなれないんだ」

「うーん、よくわかんない」

「ナッハッハッハ! お前みたいなガキにはまだわかんねぇだろうな!」

「ガキじゃないやい! 俺本気だぞ!!」


322: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/18(土) 00:11:52.36 ID:zvmyj/Y+0

「そうか……本気か」

「うん、本気!! 勇者になってみんなを守るんだ! とーちゃんだって守ってやるよ!」

「とーちゃん、なめんな!」ビシッ

「痛っ!」

「お前とかーちゃんを守るのがとーちゃんの役目なんだ。それだけは譲れません!」

「叩くことないだろ!」

「勇者になりたいならそれくらい避けろ!」

「ううー、理不尽だ……」


323: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/18(土) 00:12:38.95 ID:zvmyj/Y+0

「しっかしなんでまた急に勇者になりたいなんて言い出したんだ? なんかあったのか?」

「これ!!」スッ

「……これは……先代の勇者の英雄譚……これ読んだのか?」

「すげぇんだぜ! この本に載ってる勇者! 最高にカッコいいんだ!!」

「…………それでも魔王は倒せなかったんだけどな」ボソッ

「俺もいつかこんな勇者になりたい! とーちゃんも俺が勇者になったら嬉しいだろ?」

「どうだろうなぁ……お前が勇者になってみないととーちゃんわからないよ」

「じゃあ、早く勇者にならないと!」

「おいおい、なんでそんなに焦る必要があるんだ? お前まだ子供だろ?」

「どうせとーちゃん魔物と戦ってもすぐ死んじゃうだろ。すっげぇ弱いから!」

「誰が弱いんだって……?」グニニニニ

「いふぁいふぁい……」

「生意気な口利きやがって……」

「でも本当のことだろ?」


324: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/18(土) 00:13:35.10 ID:zvmyj/Y+0

「………なぁ」

「なに? とーちゃん」

「お前、本気で勇者になりたいのか?」

「うん! 俺絶対勇者になる!!」

「ものすっごく大変だぞ?」

「それでもなるんだ!」

「ちょっとどれくらい大変か想像してみな?」

「えっと……これくらい……かな?」

「それよりもっともっともっと大変だ!」

「え………」

「それでも勇者になりたいか?」

「う……なりたいよ! 勇者になりたい!」

「あ、今ちょっと間があったな!」


325: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/18(土) 00:14:29.32 ID:zvmyj/Y+0

「わぁぁぁ!! そんことない! そんなことないって!! 俺、勇者になりたい! 絶対になるんだ!」

「………そうか、よしわかった! それじゃあ勇者を目指すバカ息子にとーちゃんからいいものをあげよう!」

「本当か!?」

「ああ、もちろんだ! これは勇者を目指すやつなら誰もが持っていなきゃならない大切なものなんだ。ありがたく思えよ?」

「うわぁ……ありがと! とーちゃん!!」

「よーし、バカ息子。そこ動くなよ?」

「なんで?」

「いいからじっとしてろ……はぁぁぁぁあああああああ!!!」ゴゴゴゴゴ

「おおお!! なんだなんだ!?」


326: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/18(土) 00:15:54.21 ID:zvmyj/Y+0



「うぉぉぉぉぉ!!! 受け取れ息子ぉぉぉぉぉ!!!」バシュッ


パァァァァァァ!!!


「おおおおおおおお!!!!」


シーン


「ん? これで終わり?」

「終わりだ!」

「なんともないぞ?」

「実のところあんまり大したことはしてない!」バーン


ズコッ!


「なんだよそれ!?」

「こういうのは演出が肝心なんだ! とーちゃんの貴重な見せ場だからな!」


327: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/18(土) 00:16:22.37 ID:zvmyj/Y+0

「よくわかんないよ!」

「………我が息子よ!」

「な、なに?」ビクッ

「今、とーちゃんはお前にとーちゃんの中の『勇者』を分け与えた!!」

「勇者?」

「そうだ、勇者だ。これからお前が迷った時、お前の心の中の『勇者』がどうすればいいか教えてくれるはずだ!!」

「それは……どういうことだ?」

「いいか、息子」

「なに?」

「もしお前がどうすればいいか迷ったら……お前自身を信じちゃダメだ」

「ん?」

「お前が信じるのはお前自身じゃない。お前の中の『勇者』を信じるんだ」

「俺の中の勇者?」


328: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/18(土) 00:21:08.42 ID:zvmyj/Y+0

「お前の憧れる勇者ならどうするか、その行動は勇者にとって相応しいものなのか……それさえ間違わなければ、お前はきっと立派な勇者になれる」

「本当か!?」

「ああ、わかっててもとーちゃんにはそれができなかった。だけどお前なら出来るよな?」

「あったり前だろ! 俺は勇者になる男だぞ!」

「よし、だったらとーちゃんと約束だ!」

「うん! 俺、絶対に勇者になる!!」

「しっかり頑張れよ! バカ息子!!」

「よーし、早速特訓だ!」

「まずは好き嫌い無くさなきゃな!」ナハハ

「えっと……それは後回し……」フイッ

「んー? とーちゃんの中の勇者は後回しはダメだって言ってるけどなぁ? お前の勇者はどうかな?」

「うう……勇者ならそんなことしない……かも」

「じゃあどうするんだ?」

「わかったよ……もう好き嫌いしない」

「はは……偉いぞ!」ワシワシ

「うう……子供扱いするなー!!」

「………お前ならきっと勇者になれるさ、なんせお前は俺の……」ボソッ

「なんか言ったか? とーちゃん?」

「ああ? あとおねしょも早く治さなきゃなーってな!」ワシャワシャ

「わぁぁ!! なんでそんなことまで知ってんだよ! ちゃんとシーツは押し入れに隠し……」ハッ

「ほう? これはいいことを聞きましたなぁ?」ニヤニヤ

「い、今のなし!!」

「聞いてくれよかーちゃん! こいつおねしょした挙句、証拠隠滅しようとしてますぜー!」

「言うなぁぁぁぁぁぁ!!!」

335: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 20:47:00.92 ID:SIe8agoy0




ダダダダダダダ………



「君はあんなこと言うべきじゃなかった」

悪ガキ「うるさい!」ダダダダダ

「さぁ、今すぐ魔族少女さんに謝りに行こう」

悪ガキ「うるさいうるさい!!」

「君のなりたい勇者はそんな人じゃないだろう? お父さんとの約束を果たすんじゃなかったのか?」

悪ガキ「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……」

「今のままではダメだ。もっと頑張るんだ」

悪ガキ「俺には才能が無いから頑張ったって無駄なんだろ!!」


336: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 20:47:32.26 ID:SIe8agoy0

「無駄なもんか! 努力は必ず報われる。夢のためにもう一度頑張ろうじゃないか!」

悪ガキ「なんだよ……勇者を信じれば勇者になれるって言ったのに……とーちゃんの嘘つき」ウツムキ

「自分のお父さんを悪く言ってはいけない。そんなの勇者じゃない。そんなことでは勇者にはなれないぞ?」

悪ガキ「黙れよ! 結局は勇者なんて才能がある奴だけしかなれないんだろ!! とーちゃんだって才能がなかったからなれなかったんだ!!」

「そうじゃない。勇者には人を思いやる温かい心こそがもっとも必要なんだ」

悪ガキ「だったら……だったらなんであんな奴が勇者なんだよ!!」

「……それは……」

悪ガキ「要は力なんだろ! 強い力!! そして才能!! それがあれば心なんていらない……違うのかよ!!」

「違う! 勇者は決してそんなものじゃ……」

悪ガキ「もう消えろよ! お前なんていらない!! 俺の中から出ていけ!!!」

「もう一度考え直すんだ。そしてみんなに謝りにいこう。今ならまだ取り返しがつく」


337: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 20:48:53.88 ID:SIe8agoy0

悪ガキ「そうやってみんなに馬鹿にされて惨めに生きろってのか! 俺はそんなの嫌だ!」

「しかし!」

悪ガキ「……力が……欲しい……誰にも負けない力が欲しい……先生にも……勇者にも負けない力が……!!」

悪ガキ「そしたら俺を馬鹿にした連中をこの手で全部やっつけられるのに!!」

「ダメだ! そんな暗い感情に心を委ねては! 勇者は人々の心を明るくする存在で……」

悪ガキ「うるさいうるさいうるさい!! みんなみんな大っ嫌いだ! お前も! 勇者も! 幼女も魔族少女も……先生も!!」

悪ガキ「大っ嫌いだぁぁぁ!!!」




「やっとみつけましたよ」シュタッ


339: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 20:53:56.68 ID:SIe8agoy0

悪ガキ「誰だ!?」

「いやはやまさかこんなところで1人でいたとは……随分と探しました」

悪ガキ「探した? 俺を?」

「はい、私はあなたに用があるのですから……」フフッ

悪ガキ「どういうことだ!?」

「そう怒らないでください……見たところなにか大変なことでもあったとか。それもあなたの人生を左右するやもしれない大事件とか……」

悪ガキ「黙れ! 関係ないだろ! お前誰だよ!!」

商人貴族「私は商人貴族。ただのしがない商人です。そういうあなたは悪ガキさんでしたね?」フフッ

悪ガキ「商人貴族……ってあの妖精を狙ってる悪い奴か!? なんで俺のことを知っている!?」

商人貴族「商談に入る際にはお客様の情報をできる限り入手しておく……商人にとって情報はこの上なく重要なものなのです。商品よりもずっとね」フフッ

悪ガキ「……なにをわけのわからないことを! お前も俺を馬鹿にするのか!?」

商人貴族「馬鹿にする? そんなつもりは微塵も……」

悪ガキ「嘘だ! お前らはみんな影で俺のこと馬鹿にしてんだろ! 知ってんだぞ!」

悪ガキ「……そうなんだ……絶対そうだ……みんな俺のこと馬鹿にしてるんだ……俺が弱いから……才能が無いから……」ブツブツ

商人貴族「随分な言い草ですね……私はあなたの様な素晴らしい人材をスカウトしにきただけだというのに……」フゥ


340: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 20:56:16.99 ID:SIe8agoy0

悪ガキ「スカウト……!?」

商人貴族「ええ、そうです。先程も申した通り、事前にあなたを調べさせていただきました。王都の外れで生まれ魔王軍の大侵攻を経験……両親を亡くし、現在はこの近くの孤児院で生活をしている。違いますか?」

悪ガキ「違くないけど……」

商人貴族「両親は大侵攻の防衛に参加。そのまま戦死された」

悪ガキ「………!!」ギュッ

商人貴族「亡くなった母親は東の魔法学校で教鞭を執っていた優秀な魔法使い。そして亡くなった父親は傭兵。通り名は………『雷狼』」

悪ガキ「あんた、とーちゃんのこと知ってんのか?」

商人貴族「誇り高き傭兵だったと聞いています」

悪ガキ「とーちゃんが? 嘘だ、とーちゃんは勇者になり損ねたって聞いたぞ?」

商人貴族「詳しいことは私にもわかりません……そんなことより、今はあなたのことです。あなた、なんでも勇者になりたいとか」

悪ガキ「なんでそんなことを……」

商人貴族「今日はそのことであなたにお話が……その夢、是非私に協力させてください」

悪ガキ「え?」

商人貴族「私が必ずやあなたを勇者にしてみせますよ」


341: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 20:57:38.85 ID:SIe8agoy0

悪ガキ「それは……本当か!?」

「ダメだ、そんな誘いに乗ってはいけない!」

商人貴族「ええ、私も今の勇者様の体たらくに呆れている次第でして……昨日直接勇者様に会って確信しました。あのような腑抜けに世界を任せておくことなどできません!」

悪ガキ「そうだよな……やっぱりそうだよ」

商人貴族「もちろんです! 勇者は先頭に立って強大な悪から全てを守る者! 誰よりも強くなければならない! あのような緩みきった勇者など不要です! もっと強大な力を持つものが勇者になるべきだと私は思います!」

悪ガキ「あ……」

商人貴族「どうしました?」

悪ガキ「だったら……俺じゃなくて他の奴にしなよ。俺……才能無いみたいだし……おっさんの言う強い勇者なんて……絶対なれないよ……」ウツムキ

商人貴族「なにを言うのです! 才能? そんなものクソくらえです!重要なのはなににも負けない力! そしてあなたのような強大な力を求める貪欲な姿勢! それこそが必要なのですよ!」

悪ガキ「そうなのか? でも俺にそんな力なんて……」

商人貴族「ご安心を……力なら私が授けて差し上げましょう……勇者をも圧倒する強大な力を……」


342: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 20:58:39.52 ID:SIe8agoy0

悪ガキ「勇者を圧倒する力!! それさえあれば……俺も!!」

商人貴族「あなたが勇者を倒し、新たな勇者を名乗ればいい……もう誰もあなたを馬鹿にしません。あなたにはそれを名乗るだけの資格があるのですから」

「この男の言葉を信用してはいけない! 強さとはすぐに手に入るものではないんだ!!」

悪ガキ「……本当に……俺、勇者になれるのか?」

商人貴族「はい……もちろんお代はいただきますがね」

悪ガキ「俺……お金持ってない……」

商人貴族「そんなもの後払いで構いませんよ。あなたが勇者になって全てを手に入れた後に返してくれればそれでいい……どうです?」

悪ガキ「じゃ、じゃあ……」フラッ

「待て! 考え直すんだ!!」

商人貴族「では……」スッ

悪ガキ「……ああ」

「待つんだ! 君は勇者になりたいんじゃないのか!?」

悪ガキ「なりたいさ……なりたいからこそじゃないか……!!」ボソッ

「今は辛い時かもしれない! だがそれを乗り越えてこそ勇者だろう!」

悪ガキ「消えろ……もうお前なんていらない。俺は……勇者になるんだ……」

「くぅ……」シュゥゥゥゥ


343: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 20:59:24.56 ID:SIe8agoy0

商人貴族「どうしました?」

悪ガキ「いや、なんでもない。おっさん、本当に俺を強くしてくれるんだよな?」

商人貴族「ええ、もちろん……強大な力をあなたに……あなたが新時代の勇者になるんです」

悪ガキ「なら、さっさと頼むよ! 俺を強く……誰にも負けない力をくれ!!」

商人貴族「ええ……それではこれを……」ニコッ

344: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 21:00:01.08 ID:SIe8agoy0

――妖精の里――



妖精長「お嬢ちゃん、その話は真か?」

幼女「………」コクコク

妖精長「それで商人貴族はどこに?」

幼女「この……近く」

侍少女「朝から急に呼び出されたと思ったら急展開でござるな」

少年魔法使い「こっちは話が早くて助かる……1番張り切ってた馬鹿はいないがな」

侍少女「本当に、悪ガキ殿はどこへ行ったでござるか? 朝起きたらベッドにはいないし……」

少年魔法使い「魔族少女、なにか知らないか?」

魔族少女「………」ボー

侍少女「どうしたでござる?」

魔族少女「え!? あ、なにかな!?」アセアセ


345: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 21:00:28.43 ID:SIe8agoy0

侍少女「なにをボーッとしてるのでござる? 悪ガキ殿がどこに行ったか知らないでござるか?」

魔族少女「あ、ああ……悪ガキくんならすぐに帰ってくるよ! だから……大丈夫だって!!」

少年魔法使い「まぁ、思い余って余計なことしなけりゃいいが……」

侍少女「どうせ腹が減ったらひょっこり帰ってくるでござろう」

魔族少女「うん……大丈夫だよ……きっと大丈夫」グッ

幼女「早く帰って……きて……」

魔族少女「幼女ちゃん……悪ガキくんを心配してくれるんだね……」

幼女「あいつのせいで……チャーハン……食べられない!」

魔族少女「幼女ちゃん……」アハハ



妖精長「兵長」

妖精兵長「はい」

妖精長「すぐに里の者達に通達を。里の者を絶対に外に出してはいかん」

妖精兵長「わかりました」


346: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 21:00:58.48 ID:SIe8agoy0

少年魔法使い「それで……問題の妖精はどこにいるんだ?」

幼女「箱の中に……入れられてた!」

妖精長「その箱は?」

幼女「あいつが……持ってる!」

少年魔法使い「となると……常に商人貴族と妖精は一緒ということか……」

妖精長「早く救出せねば……手遅れになる前に……!!」

侍少女「手遅れ? どういうことでござる?」

妖精長「そうか……お主達は知らなんだな……」

少年魔法使い「昨日言ってた『妖精族の特殊能力』のことか」

妖精長「そうじゃ……話しておかねばなるまい……妖精族の力について……」


347: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/19(日) 21:04:51.49 ID:SIe8agoy0


―――――



商人貴族「これを見てください」スッ

悪ガキ「箱?」

商人貴族「………少々お待ちを……」ガチャガチャガチャ

ガチャンッ

妖精「やっと開けやがったなおっさん!! 昨日も言ったけどなぁ! 妖精族は環境の変化に弱いんだぞ!! あたいを殺す気かい!?」

悪ガキ「うわ……なんだこいつ?」

商人貴族「これが妖精ですよ、お客様。そしてこれがあなたに力を与えてくれるのです」

悪ガキ「こいつが……?」

妖精「なに見てんだよ、クソガキ! その締まらないツラを引っ叩いてやろうか!!」シャー

商人貴族「その汚い言葉遣い、なんとかなりませんかね? お客様の前ですよ?」

妖精「そんなの知ったことか! いい加減あたいを解放しな! 竜王様の天罰が落ちるよ!」

商人貴族「そう言ってしばらく経ちますが一向にその天罰とやらは来ませんが?」

妖精「そ、そのうちだよ! そのうち!!」

悪ガキ「で? その妖精がどうやったら俺を強くしてくれるって言うんだよ?」

商人貴族「ああ、それは実に単純なことです……妖精を摂取すればそれでいい」

悪ガキ「摂取?」

商人貴族「ああ、すみません。もうちょっと簡単に言えばですね……」




商人貴族「食べるんですよ」フフッ

悪ガキ「食べる……だって!?」


355: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/21(火) 23:46:47.81 ID:SEoM2DuL0

妖精「……っ!! やっぱりそうかい、人間も魔族もやっぱりそうなんだな……!! まだ戦争がし足りないっていうのかい!? あんたたちは!!」

商人貴族「金になるのならばなんでもするのが商人です。初めて会った時に私はそう言ったはずですよ?」

妖精「魔王が死んで……もう戦わなくてもいい時代が来たんじゃなかったのかよ……? あたいたち妖精はいつまでこんな場所でビクビク怯えてなきゃいけないんだ……!!」

商人貴族「さぁ、決めるのはあなたです。もっともここでやめるのならその先に待っている未来は……わかってますね?」

妖精「出せ! こっから出せ!! あたいはこんなところで死ぬのは絶対にごめんだぞ! 絶対に嫌だからな!!」

悪ガキ「あう……」

商人貴族「なにを躊躇しているのです? 勇者になりたいんでしょう?」

悪ガキ「でも……」

商人貴族「良心が咎めますか? これはいけないことだと感じるのですか?」

悪ガキ「うう……」


356: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/21(火) 23:47:39.33 ID:SEoM2DuL0

商人貴族「だったらそんなくだらないもの捨ててしまいなさい。今重要なのは力を手に入れること……そして勇者を倒すこと。違いますか?」

悪ガキ「そう……だけど」

商人貴族「このまま弱いままでいいのですか? あなたは一生馬鹿にされ続けたままですよ?」

悪ガキ「馬鹿にされ続けたまま……」

商人貴族「それでいいのですか?」

悪ガキ「………」

商人貴族「決断するなら今です。さぁ、ご決断を」

妖精「考え直せ! クソガキ! 楽して強くなろうなんて甘い考え捨てちまいな! そんなんで強くなってもいいことなんてこれっぽっちも……」

商人貴族「黙りなさい!」ビシッ

妖精「きゃっ!」ドサッ

357: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/21(火) 23:48:43.81 ID:SEoM2DuL0

商人貴族「今までは我慢してきましたが、お客様のご決断を邪魔するようならば私も容赦はしません」

商人貴族「失礼しました。さぁ、ご決断を」

悪ガキ「……やるよ」

悪ガキ「それが……俺ととーちゃんの約束だから……!!」

商人貴族「では……あなたにこれを……」スッ

妖精「………うう」グッタリ

悪ガキ「本当にこいつを食えば強くなれるんだな?」

商人貴族「ええ……一部分でも体に取り込めば誰にも負けない力があなたのものに……」

悪ガキ「……その言葉……間違いないな」ギロッ

商人貴族「もし効果にご不満であればきちんとした手続きで返金等も受け付けます……では、私はこれで」

悪ガキ「おい、どこに行くんだ?」

商人貴族「強大な力が覚醒するのです。巻き込まれたらたいへんでしょう?……私はこの近くのキャンプにいます。終わりましたら一度顔を見せてください。ご武運を……転移魔法」シュンッ


358: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/21(火) 23:50:11.97 ID:SEoM2DuL0




悪ガキ「………」ギュッ

悪ガキ「……もう迷わない……勇者になるためだったらなんでもしてやる……たとえそれが勇者の道に外れることになったとしたとしても……」

妖精「………」グッタリ

悪ガキ「ごめんな……それでも俺は勇者になりたいんだ……!!」

359: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/21(火) 23:50:52.18 ID:SEoM2DuL0










魔族少女「そんな……」フルフル

少年魔法使い「………」

侍少女「うう……気分が……」ウップ

幼女「……おじいちゃんって……美味しいの?」

魔族少女「幼女ちゃん!?」

少年魔法使い「食べるなよ?」

妖精長「ホッホッホ……それは実際に食べてみないとわからんのう。わしはそんなことごめんじゃが」

侍少女「どうして昔の人はそんなグロテスクなこ……おえ」オロロロロ

少年魔法使い「おい、回復魔法でなんとかならないか? ものすごく鬱陶しい。それに臭う」

魔族少女「さすがにこれは……」アハハ


360: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/21(火) 23:52:28.28 ID:SEoM2DuL0

妖精長「そもそもの始まりはまだ龍王様がこの世界に君臨していた時のこと……1人の妖精がとある男を生かすために自らの身を差し出したことがきっかけじゃった……」

少年魔法使い「それが……妖精を食べるってことなのか?」

侍少女「だからって食べるなんてどうかして……うう」オエッ

魔族少女「大丈夫?」サスサス

妖精長「……実際にその時妖精と男の間でなにが行われていたのかを知る者はいない。昔の話じゃから確かめようもないしの。だがしかし……その男は妖精を体内に取り込むことで強大な力を手にした」

魔族少女「強大な力……ですか?」

妖精長「我々の中にあるエネルギーがどう人間や魔族の体に影響を及ぼすかは正確にはわかっておらん。しかし生きながらえた男はその力で天を割り、地を砕き、あらゆる魔法を操ったと聞く」

少年魔法使い「ありえない。そんなのでたらめに決まってる」

妖精長「そうじゃ、多くの者ならそう考える。だがしかし、一部の者はそう考えなかった」

魔族少女「それって……」

妖精長「自分たちもその力を手に入れたくなったというわけじゃ」

侍少女「ということは……」

少年魔法使い「妖精の乱獲……」

妖精長「左様」

幼女「むぅぅぅ……」


361: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/21(火) 23:53:52.93 ID:SEoM2DuL0
幼女「むぅぅぅ……」

妖精長「そして悲劇は起こる。捕らえられた同胞達に対して彼らはあの手この手で自分に力を与えるように迫ったのじゃ」

侍少女「馬鹿げたことを……力とは己が努力で掴み取るものでござるよ!」

妖精長「自分が死ぬと分かっていて誰がそのようなことをするものか……多くの同胞達は人間の要求を跳ね除けた」

妖精長「……そこでさらなる悲劇が起きてしまったのじゃ」

少年魔法使い「体内に入れれば……妖精の力が手に入る……」

妖精長「その通り。人間や魔族は無理やり我らが同胞を……」

幼女「食べ……た」

侍少女「おえええ!!」オロロロ

魔族少女「侍少女ちゃん!?」

妖精長「そしてさらに質の悪いことに……効果があったんじゃよ」

少年魔法使い「なんだって!?」

妖精長「最初の男の様にはいかなかったが少なくとも妖精を取り入れた者は膨大な力や魔力を手に入れ、正に一騎当千の力を手に入れた」

魔族少女「膨大な魔力……」

妖精長「そこから更に我々は追われ続ける身となる。妖精を手に入れた者はすべからく世界の覇者になり、世界は妖精を持つ者と持たざる者に分断された。そしてついには龍王様もその力の前に……」ウツムキ


362: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/21(火) 23:55:52.78 ID:SEoM2DuL0

少年魔法使い「それで魔王の時代が……」

妖精長「魔王も元々は妖精を食べて力を得たのではないかと言われておる。真実を知るものはおらんがの」

幼女「……皆……殺し……」

侍少女「皆殺し?」

幼女「あの子……言って……た! 皆殺し……って!」

妖精長「そうじゃ、このままわしらの居場所が知られれば妖精族は全滅……それだけでは無い……また世界が戦乱の世と化してしまう。それだけはなんとしてでも止めねばならん!!」

少年魔法使い「どんどん話がでかくなってきたな……」

侍少女「そんなこと言ったって拙者達ではもうどうにでもならないんじゃ……」

魔族少女「どうしよう……」



幼女「……大丈夫!」



「「「!!!」」」


363: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/21(火) 23:56:30.37 ID:SEoM2DuL0

幼女「なんとかなる……よ!!」

少年魔法使い「なにか考えでもあるのか?」

幼女「無い!」ムイッ


ズコッ


侍少女「無いんでござるか……」イテテ

幼女「あの子……助けてって言って……た!」

魔族少女「あの子って……妖精さんのこと?」

幼女「………」コクコク

364: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/21(火) 23:58:36.03 ID:SEoM2DuL0

幼女「困ってる人は助ける……それがユーシャのお仕事……なのです!」

少年魔法使い「そんなこと言ってもな……」

幼女「ヨージョはまだユーシャじゃないから……1人では……無理……」ウツムキ

幼女「だから……みんなに協力して……欲しいの!!」

幼女「1人じゃダメ……でも! みんなとなら……なんとかなると……思うから!!」

幼女「みんなであの子を……世界を……助けま……しょう!」ムイッ


魔族少女「幼女ちゃん……」

侍少女「幼女殿……」

少年魔法使い「………」

妖精長(龍王様。改めて感謝を……我々に希望の光をありがとうございます。あなたの力はちゃんと正しき者に受け継がれております……)


372: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/23(木) 22:23:25.28 ID:IFH2xKSa0




魔族少女「……そうだね、このまま妖精さんを放っておけないもん……それにまた戦争なんて私嫌だもん……うん、やろう!」

侍少女「幼女殿にそこまで頼まれたら仕方がないでござるな! 今からこの剣は悪を滅ぼす刃となでござるよ」チャキンッ

少年魔法使い「抜けないんじゃしょうがないだろ」ズビシッ

侍少女「抜けるもん!!」

少年魔法使い「……どうせお前らだけだと返り討ちにされるのがオチだ。作戦係が必要だろう?」フッ

幼女「ありが……と! みんな!」


妖精長「魔法使いに僧侶に剣士……それに勇者といったところか……これは面白い! まるで噂に聞く勇者のパーティではないか!!」カッカッカ

幼女「あと1人足りないけ……ど」


373: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/23(木) 22:24:38.21 ID:IFH2xKSa0

妖精長「そうじゃのう……確か勇者のパーティーは5人だったはずだが……そういえば昨日の生意気な小僧がいないのう」

魔族少女「悪ガキくん……」ギュッ

侍少女「こんな時にいないなんて、本当に悪ガキ殿は間が悪いというかなんというか……」ハァ

少年魔法使い「言うな、勝手にいじけてる奴などそうさせておけ。足手まといだ」

幼女「チャーハン……まだ……?」

魔族少女「ブレないね……幼女ちゃんは」

幼女「それほどでも……ない!」



妖精長「……む!」ピーン



「いきなり不意打ちくらえっす!! 魔術『鉄砲水』!!」バシャァァァ!

妖精長「秘術『守護の大地』!!」ゴゴゴゴゴ


ザッバーンッ!!


侍少女「何奴!」


374: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/23(木) 22:33:41.96 ID:IFH2xKSa0

舎弟「お! あれに反応するっすか……やるっすね」

妖精長「人間! ……いや違うな……お主、何者じゃ!」

舎弟「何者か聞かれちまったらしょうがないっすね……おうおうおう! 一度しか言わねぇから目ん玉かっぽじってよーく聞きやがれい!」

魔族少女「あれ? あの人どこかで……」

舎弟「俺は王都一の地上げ屋『笑う赤鬼』一の子分! 頭は悪いが器はでけぇ! 地上げ屋稼業の腕っ節担当! 『怒れる青鬼』とは俺のこと! メイドの土産に……あ、覚えておきやがれ!!」ダダンッ


侍少女「なんでござる? あの頭の悪そうな名乗りは……」ハァ

少年魔法使い「あいつ絶対に冥途の土産の意味を履き違えてるだろ」ハァ

妖精長「その青鬼とやらがこの里になんのようじゃ!」

舎弟「いやー、俺はそこの金髪のガキに用があったんすけどね……まさかこんなところに妖精の隠れ家があるとは予想外だったっす!」ナハハ

妖精長「くっ……」


375: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/23(木) 22:34:21.12 ID:IFH2xKSa0

幼女「むい!?」ビクッ

少年魔法使い「幼女になんの用だ?」

舎弟「え? あ、えーっと……」

少年魔法使い「なんだ? なにか言いづらいことでもあるっていうのか?」

舎弟「いや、そんなことないんすよ? えーっと……」

侍少女「なんでござるか! もったいぶってないでさっさというでござるよ!」

舎弟「俺、なんでこいつ追っかけてたんだっけ?」


ズコッ!


少年魔法使い「どうして僕の周りにはこうもバカばっかりなんだ……!!」

舎弟「うーん? 誰かに頼まれていたような……そうでないような……」

妖精長「どのみちここはお主の様な邪な者が来る場所ではない! 今すぐこの場所から出て行くのじゃ!」

舎弟「失敬な! 俺の心は水洗便所のように綺麗っすよ!!」プンスカ

376: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/23(木) 22:34:55.28 ID:IFH2xKSa0

妖精長「なにをわけのわからんことを!! さっさと出て行くのじゃ!!」パァァ

舎弟「出て行かないっす!!」パキーン

妖精長「なに!?」

舎弟「俺はこのガキに用があるんすよ! なんでかは忘れたっすけど!!」

侍少女「言ってることムチャクチャでござるよ!」



地上げ屋「おーい! 兄弟! 勝手に先行くんじゃねぇ!!」ゼェゼェ

舎弟「あ、兄貴!!」

侍少女「また一人増えたでござる……」

少年魔法使い「大方、さっき言っていた『笑う赤鬼』じゃないか? 馬鹿そうな顔してるだろ」

魔族少女「………」

幼女「どした……の?」

魔族少女「……えっと、気のせいだと思うんだけどあの人どこかで見たことあるような気がするの」

幼女「むい?」

魔族少女「どこだったっけなぁ……」


377: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/23(木) 22:35:28.45 ID:IFH2xKSa0



地上げ屋「勝手に飛び出して行きやがって! 俺たちは商人貴族様の旦那に言われて金髪のガキの監視をしている最中だろうが!」

舎弟「あ、そうっす! そうっす!! このガキを監視するんだったっす! 俺、すっかり忘れてたっすよ!」アハハー

地上げ屋「まったくお前はしょうがない奴だな……さぁ、仕事の続きをするぞ!」

舎弟「うっす!!」ビシッ

地上げ屋「あそこの木の陰なんか丁度いい感じに隠れられそうじゃないか?」

舎弟「いいっすねぇ! 姿を隠しつつしっかり監視できそうっす!」

地上げ屋「じゃああそこで金髪のガキを監視することに決定!」

舎弟「じゃあ! 俺先に行ってるっす!!」ダッ

地上げ屋「バカ野郎! 抜けがけはずるいぞ!」ダッ


アハハハハ!!


少年魔法使い「雷魔法! 強め!!」バリバリバリ

妖精長「秘術『制裁の雷』!!」カッ


地上げ屋「んぎゃぁぁぁぁああああ!!!」ビリビリビリ

舎弟「兄貴ぃぃぃいいいい!!」ビリビリビリ


378: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/23(木) 22:38:15.94 ID:IFH2xKSa0

少年魔法使い「本当にこいつらなんなんだよ……」ハァ

幼女「監……視?」

少年魔法使い「幼女、どうやらお前はずっと付けられてたみたいだな」

幼女「なんです……と!!」ガビーン

少年魔法使い「おそらく昨日の会話で商人貴族の方もお前が妖精の里を知ってると判断したんだろう。それにしては随分お粗末な監視役だが」

幼女「一生の……不覚」ムゥゥ

魔族少女「どうするの?」ヒソッ

幼女「仕方……ない」ハァ

侍少女「まぁ、ここはとりあえずとっ捕まえてふん縛るのが定策でござ……」




幼女「殺しま……しょう!」ムイッ


379: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/23(木) 22:38:49.95 ID:IFH2xKSa0

侍少女「あー……幼女殿? それは流石にやりすぎではないかと……」

幼女「どし……て? このままだとおじいちゃん達が……危ないよ?」キョトン

侍少女「確かにそうでござるが……なにも殺すことないというかなんというか……」

幼女「捕まえても逃げるかもしれ……ない! 殺した方が……確実!」

侍少女「……バトンタッチでござる」

魔族少女「え? 私!?」

侍少女「拙者には幼女殿を説得する自信が無いでござるよ」

魔族少女「ええ……?」

幼女「こっちの準備は……万端!!」コォォォォォ

魔族少女「ちょ!? ストップストップ幼女ちゃん!!

幼女「燃えかすにしてやり……ます!!」ゴゴゴゴゴ


380: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/23(木) 22:39:29.10 ID:IFH2xKSa0

魔族少女「勇者様にブレス禁止って言われてたでしょ! いいの? 約束破って!」

幼女「そ、それはダメ!! ユーシャに嫌われ……る!」

魔族少女「だったらブレスはダメだよね?」

幼女「むぅぅぅ……」シュゥゥゥ

魔族少女「いい? 幼女ちゃん。なんで勇者様が幼女ちゃんにそんなこと言ったかわかる?」

幼女「ヨージョが悪いことした……から?」

魔族少女「それもあるかも知れないけどそうじゃないよ」

幼女「じゃあどーし……て?」

魔族少女「きっと勇者様は幼女ちゃんに優しい女の子になって欲しいんだと思うな」

幼女「優しい女の……子?」

魔族少女「だからそうやって簡単に殺すとか言っちゃダメ。わかった?」

幼女「むぅぅぅ……わかっ……た!」

魔族少女「うん、幼女ちゃんはえらいね」ナデナデ

幼女「えへへ……」ムフー

388: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/25(土) 22:15:02.26 ID:IpV+GkP10



舎弟「もういい加減にして欲しいっす! 兄貴は今朝から色々と酷い目にあってるんすよ!!」

少年魔法使い「……ならお前はなぜそんなにピンピンしてるんだ?」

舎弟「兄貴がくれたビーフジャーキーのお陰っす!」フンスッ

魔族少女「ええ!? ビーフジャーキーにそんな効果が!」

地上げ屋「どうだ……俺のビーフジャーキーは凄いだろう? お嬢ちゃんも俺のビーフジャーキーを……」フラフラ

魔族少女「ひぃぃ!!」

地上げ屋「あれぇ? お嬢ちゃん中々可愛いねぇ……? どう? おじさんと一緒にお茶しない?」フラフラ

魔族少女「えっと……ごめんなさい! 私、心に決めた人がいるので!!」

地上げ屋「そんなのおじさん気にしないからさぁ!! ね? いいでしょう?」フラフラ

魔族少女「こ、来ないでください……」

地上げ屋「げへへへへ……」フラフラ

侍少女「この  コン!! 魔族少女から離れるでござる!!」バシーン

地上げ屋「あべしっ!!」ズサッ

舎弟「失敬な! 兄貴は  コンじゃないっす! 兄貴はただついてなきゃ誰でもいいだけなんす!」

389: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/25(土) 22:16:19.98 ID:IpV+GkP10

侍少女「ついてないって……『なに』がでござるか……?」カァァァ

舎弟「『なに』がっていうか『ナニ』がっす!」ビシッ

侍少女「そ、それはその一般的にいうその……」カァァァ

少年魔法使い「なにそんなことで赤くなってるんだ、敵の前だぞ」ハァ

侍少女「お、お主には関係ないでござろう!」

少年魔法使い「なんで僕に怒るんだよ!?」

幼女「やっぱりこいつら……危険!」コォォォ


390: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/25(土) 22:16:52.43 ID:IpV+GkP10

魔族少女「わぁぁ!! 私は大丈夫だからストップストップ!!」

妖精長「……これはもう捕まえて記憶を奪うとするしかあるまいな」

少年魔法使い「そんなこともできるのか?」

妖精長「もちろんじゃ。我らも伊達に隠れ続けてはおらんよ」パァァ





舎弟「おっと、そういうわけにはいかねーっす!! せっかくの獲物を前にここでおめおめと引き下がるわけにはいかないんすよ!! それに!!」ビシッ

妖精長「なんじゃ?」

舎弟「俺も一度食ってみたかったんすよ!! 妖精! なんでもものすっごく美味いらしいじゃないっすか!」ニシシッ

妖精長「やれやれ、お主もか……どいつもこいつも……わしらをなんだと思ってるんじゃ!」

幼女「やっぱりおいしい……の?」

少年魔法使い「何度も言うが食べるなよ、幼女」


391: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/25(土) 22:18:20.38 ID:IpV+GkP10

地上げ屋「こら、ダメだろ兄弟! あんな訳のわからないちっさいおじいちゃんなんか食べたらお腹壊しますよ!」

舎弟「でもでも! 美味いからみんなあんなに妖精狩りしてたわけでしょ? 俺も食べてみたいっすよ!」

地上げ屋「ダメです。弟分があれを丸かじりしてるグロシーンなんてお母さん見たくありません。ほら、さっさとガキの監視に戻るぞ?」

少年魔法使い「この状況でまだ監視とか言ってんのかこの馬鹿は……」

侍少女「ある意味プロでござるな」

舎弟「嫌だい! 嫌だい! 俺も魔王のにーちゃんみたいに妖精を食べるんだい!!」

地上げ屋「また訳のわからないこと言って……お母さんを困らせないの。ほら、ビーフジャーキーならあるから!」

舎弟「わぁ……ビーフジャーキーっす!! 兄貴……あざーっす!!」

魔族少女「えっと、なんなのかな? この状況……?」アハ

地上げ屋「皆さんごめんなさいね……うちの弟分がわがまま言っちゃって……これからもこの子と仲良くしてあげてくれるかしら?」

幼女「いい…よ!!」

少年魔法使い「幼女、あの空間に参加しちゃダメだ」

地上げ屋「ありがとうね……ほら、舎弟。金髪のガキにありがとうは?」

舎弟「……ビーフジャーキーうまうま!!」ガジガジ


392: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/25(土) 22:18:47.27 ID:IpV+GkP10

幼女「……そんなに美味しい……の?」

舎弟「あ、ダメっすよ! これは俺が兄貴にもらったもんなんすから!」

幼女「ちょー……だい!」

舎弟「嫌っす! これは俺のビーフジャーキーっす!」

幼女「むぅぅぅ!! ケチ!!」プンスカ

舎弟「そんなこと言っても無駄っす。あげないっすよーだ!」ベー

幼女「むぅぅぅ!! ヨージョも食べた……い!!」ブンブン

地上げ屋「ほらほら、喧嘩しないの! ちゃんと幼女ちゃんの分もあるからね? ほら!」スッ

幼女「これが……ビーフジャー……キー!!」キラキラキラ

地上げ屋「しっかり噛んで食べるのよ? わかった?」

幼女「おばさん! ありが……と!」ニパー

地上げ屋「どういたしまして」フフッ

393: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/25(土) 22:21:21.51 ID:IpV+GkP10


少年魔法使い「いや、なんなんだこの状況!?」

幼女「………」ガジガジガジ

侍少女「もうさっさと捕まえるでござるよ……このまま相手し続けてもこっちが疲れるだけでござる……」

魔族少女「気のせいかな? おじさんが割烹着着たおばさんに見えるんだけど……」

少年魔法使い「安心しろ、バッチリ気のせいだ」

魔族少女「だよね……」アハハ

幼女「あんまりおいしくない……ね、ビーフジャーキー……」ガジガジガジ



地上げ屋「もうこの子ったら……!! じゃあ私たち引き続き監視を続けますから……そういうことで」オホホ

侍少女「ちょ!? 待つでござるよ!?」

少年魔法使い「お前たちを逃がすわけにはいかない。大人しくしてもらうぞ!」チャキッ



394: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/25(土) 22:32:09.18 ID:IpV+GkP10



地上げ屋「あらあら……人が大人しくしてると思っていい気になりやがって……!!」ファサッ

魔族少女「やっぱり割烹着着てたんだ……」

地上げ屋「少し大人の怖さってやつを教えてやらねぇといけねぇみてぇだな!!」ゴゴゴゴ

舎弟「兄貴……」

地上げ屋「兄弟、お前はそこで見てろ……なぁに、心配するな、すぐに全員片付けてやる。なんせ相手はガキにちっこいジジイ……王都一の地上げ屋『笑う赤鬼』の敵じゃねぇ!!」

少年魔法使い「……あくまで抵抗すると言うのなら……本気でいかせてもらう」

侍少女「刀は抜けなくても脇差で戦えるでござる……日頃の修行の成果、とくと思い知るでござる!」

幼女「ブレス禁止……どうし……よう?」オロオロ

魔族少女「幼女ちゃんは私と一緒に見学してようね」

幼女「ヨージョも戦えるも……ん!」

地上げ屋「3分だ」

少年魔法使い「なんだと!?」

地上げ屋「3分で勝負がつく……そしてお前らは思い知るだろう……圧倒的な力の差をな」ヘヘヘ

侍少女「上等でござる! 行くでござるよ!」チャキッ

地上げ屋「さぁ! 全力でかかってきなさい!!」



400: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/27(月) 23:15:01.73 ID:PVAPR+zZ0

――王都 王立研究所 地下実験室(幼女が開けた穴を再利用)――





火竜「………冗談じゃねぇぞ……あの野郎……!!」

魔法使い「ほれ、次のパターンいくぞい!」

火竜「おい! いい加減休ませやがれ!」

魔法使い「まだじゃ。今日中に終わらせなければならん実験がまだ50と4通りある」

火竜「ごじゅ……!!」

魔法使い「ほれ、さっさと準備せぬか!」

火竜「ざっけんな!! なんで俺様がここまでしなきゃなんねぇんだよ!!」

魔法使い「黙れ羽無しドラゴン!! 今のお主などただのでかい赤トカゲではないか!!」

火竜「この……そこまで言うかこのクソガキ!!」

魔法使い「ガキじゃないもん! 大人なレディだもん!!」

401: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/27(月) 23:15:33.77 ID:PVAPR+zZ0

火竜「その割には随分慎ましいボディだな! あの助手とかいう女を見習ったらどうだよ!」

魔法使い「あんな牛乳女と一緒にするな! あれはもうなんていうか規格外じゃ!」

火竜「とにかく俺はもうこれ以上付き合わねぇからな! 冗談じゃねぇ! さっさとここから出せ!」

魔法使い「出れるものなら出てみるがよい! この実験場の周囲にはワシが編み出した魔術コーティングを前面に施してある! 貴様のブレスなど全て吸収してしまう特別製じゃ!!」

火竜「ほう……人間の浅知恵ごときでこの火竜を止められるとでも?」ニタァ

魔法使い「あったりまえじゃ! もう竜の時代は終わった! これからの時代は人間が貴様らを管理する番じゃよ!!」

火竜「おもしれぇ……その思い上がり……俺が叩き直してやんよ!!」

魔法使い「やってみろ! どうせ無駄なんじゃからの!!」

火竜「俺を……竜族をなめるなよ……!!」スゥゥゥ

魔法使い「む? なんじゃ? 魔力が先ほどの測定値よりも高く……!!」

火竜「見せてやるよ……これが本当の……」

魔法使い「な、なんじゃぁぁぁ!?」

火竜「火竜のブレスだぁぁぁぁぁああああああああ!!!」カッ


ドゴォォォォン!!!


パラパラパラ……


火竜「どうだ!! お望み通り壊してやったぞ!! これが龍族の力だ! 思い知ったかこのクソガキがぁぁぁ!!!」


402: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/27(月) 23:16:09.13 ID:PVAPR+zZ0

魔法使い「………」

火竜「短い間だったが世話になったな!! 一宿一飯の礼だ、今日のところは勘弁してやるよ。だが次会った時は灰にしてやる、覚悟しておけ!」ドシーンドシーン

魔法使い「………」

火竜「まったく……人間ごときがこの俺様をモルモット扱いしやがって……冗談じゃね……!!」ガチーン

火竜「あ痛ぁ!! なんだ!? これは!?」

魔法使い「実験No.264『龍族のブレスの破壊性能の計測実験』終了……数値は……なんじゃこんなもんか」フゥ

火竜「はぁ!? どういうことだよ!? つーか、この壁なんだよ!」

魔法使い「ん? ワシが魔力で張った結界じゃが?」

火竜「ああん!? じゃあ今俺が壊したこの壁は!? くそ、かってぇ!!」ガシーンガシーン

魔法使い「測定用の壁じゃ。廃材置き場に置いてあったものをちょっと改良した」

火竜「なんだとぉ!?」


403: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/27(月) 23:16:39.01 ID:PVAPR+zZ0

魔法使い「龍族の本気とやらを見てみたくてのう……一芝居打って挑発してみたんじゃが……そなた、あれが本気か?」

火竜「ああん!?」

魔法使い「幼女のブレスの8割程の威力しかないんじゃが……おかしいのう」

火竜「ふざけんな! んなわけねぇ!! 俺は龍族の戦士だった男だ!! あのガキのブレスいくら龍王様と同じだからってそんなことありえねぇ!!」

魔法使い「ま、データはデータじゃ。このまま保管しておくとして……ほれ、次の実験にいくぞい?」

火竜「ふざけんな! さっさとここから出せ!!」

魔法使い「えー、次の実験はNo.265『火竜のブレスは何分で水を沸騰させることができるか』じゃな。おーい、誰か水を持ってきてくれい!」

火竜「そんなの知ってなんになるっていうんだよおい!!」


404: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/27(月) 23:23:12.72 ID:PVAPR+zZ0

魔法使い「ほれ、早くお湯が沸けばそれだけ早くコーヒーが飲めるじゃろ?」

火竜「なめてんのかてめぇ!! 俺様をなんだと思ってやがる!!」

魔法使い「火を吹く赤トカゲ」

火竜「殺す……全力で殺してやる……!!」

魔法使い「おーい、誰かおらんかぁ! 時間が惜しい。水じゃ、水!!」





「悪いが……実験は後回しにしてくれるか?」

魔法使い「ん? なんじゃ?」

「急患だ。すぐに医療魔法使いを頼む」


405: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/27(月) 23:25:22.67 ID:PVAPR+zZ0

魔法使い「ん? 剣士? お主は勇者と孤児院に行ってたんじゃ……」

剣士「ちょっと気分転換にジョギングをね……」ボロッ

魔法使い「お、お主! なんじゃその格好は!? ボロボロではないか!」

剣士「色々あってね……気がついたら北の霊峰にいたんだよ」

魔法使い「霊峰!? 大聖堂があるあそこか?」

剣士「ああ、昔冒険しただろう?」

魔法使い「ここから200kmはあるはずじゃが……」

剣士「2時間もあれば十分な距離だ」

魔法使い「忘れがちじゃがつくづくお主も規格外じゃの……」

剣士「そんなことよりも魔法使い、早くこの人を」

魔法使い「ん?」


助手「………うう」ハァハァハァ

魔法使い「助手! なにがあった!? 」


406: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/27(月) 23:29:09.22 ID:PVAPR+zZ0

剣士「昨日からすごい熱なんだ。どうにかならないか?」

魔法使い「くっ……わしはそっちの専門ではないからのう……」

研究員E「しょちょー、お水持ってきましたよー。ミネラルウォーターでよかったですよね? あんまり飲み過ぎるとお腹壊しますから気をつけてくださいね? トイレ行くんだったら僕も一緒に行きますから」

魔法使い「馬鹿もん! 今はそれどころではないわい! 急患じゃ! さっさと治せ!」

研究員E「はい? あ、剣士様お久しぶりです。相変わらず無駄にイケメンですね」

剣士「あ、ああどうも……」

魔法使い「豪炎魔法!!」メラッ

研究員E「あっちぃぃぃぃ!! でも回復魔法があるからダイジョーブ!!」ビシッ

魔法使い「さっさとやれ!! 灰にされたいか!」

研究員E「はいはい……で患者は……」

助手「………うっ」ハァハァ

研究員E「これは……なにやってんの? 副所長」

助手「うる……さいわね……!! いけると思った……のよ……!」ゼーゼー

研究員E「しょちょー、僕  コンなんで、年増の治療はちょっと御免こうむりたいんですけど」


407: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/27(月) 23:29:45.47 ID:PVAPR+zZ0

魔法使い「そんなこと言うとる場合か!!」

研究員E「だって、僕この人に何回も『使っちゃダメ』ってお願いしてるんですよ? もうしょちょーが来る前からずっと! なのにねぇ……やっぱり年食うと脳細胞が死滅するんですかね」アハハ

助手「あんた……殺すわよ……?」ズォッ

研究員E「もうそういうのはいいから、それ以上やったら死ぬぞ?」パシッ

助手「………ぐっ」

研究員E「そんじゃま、このババ……副所長は僕が預かりますんでご安心を!」

助手「あんた……同い年……でしょうが…」

魔法使い「早急に治せ。でなければ貴様を灰にして庭に撒いてくれるわ」

研究員E「嫌だなー、そんなことしたら元気な  コンが庭から生えてきますよ?」

魔法使い「さっさとやれ!」


408: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/27(月) 23:30:35.21 ID:PVAPR+zZ0

研究員E「かしこまりー! ……おい、行くぞ」スッ

助手「おんぶって……担架とか……ないの……?」

研究員E「お前を運ぶのに機材なんか使えるか。嫌なら自分で歩け」

助手「あんたみたいな変 に……背負われる位なら……ここで死ぬわ……」

研究員E「俺はそれでも構わないが……お前の周りが許してくれないだろ? 特に『あいつ』が」

助手「………」モゾモゾ

研究員E「さっさとしろ。お前にかける時間が惜しい。俺はもっとしょちょーとイチャコラしたいんだ」

助手「………屈辱だわ」ゼェゼェ

研究員E「ったく……んじゃ、ちゃちゃっと治してきちゃいますねー!!」スタスタ

魔法使い「頼んだぞ」

413: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/29(水) 21:52:23.16 ID:AsCJTg9P0



剣士「………面目ない」


魔法使い「……お主が付いておきながら何故助手があんな目にあっておったんじゃ?」

剣士「………彼女に危ないところを助けてもらったんだ」

魔法使い「助けてもらった?………貴様の剣は飾りかなにかか?」

剣士「それは……」チャキッ

魔法使い「違う、そんななまくらのことではない。貴様の本当の剣はそうではないじゃろう? なぜ本気で戦わないんじゃ」


414: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/29(水) 21:53:26.17 ID:AsCJTg9P0

剣士「……あれは他者を傷つけ、殺す力。言わば『攻める力』だ。騎士の私にそんなものは必要ない」

魔法使い「ほう? 騎士に必要なのは外敵から皆を救う『守る力』であると、そう言いたいのか?」

剣士「そうだ。あれは多くの人を無用に傷つけてしまう。騎士として、そんなことはできない」

魔法使い「ふざけるな! ならばその『守る力』でなぜあのようなことになったのじゃ! えぇ!?」ガンッ

剣士「そ、それは私の鍛錬が及ばなかったからで……」

魔法使い「挙句の果てに助手に助けてもらったじゃと!? 世界を救った剣士様が聞いて呆れる! 貴様に勇者のことをとやかく言う資格があるのか!?」ガンッ

剣士「くっ………」

魔法使い「今度このようなことがあってみろ。剣士、わしはお前を殺してしまうやもしれぬ……」

剣士「………」

魔法使い「もう嫌なんじゃ……大事な人が目の前でいなくなってしまうのは……もう絶対に嫌なんじゃ……」

剣士「……すまない」


415: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/29(水) 21:55:51.98 ID:AsCJTg9P0

魔法使い「………こちらも急に怒鳴って悪かった。すまん、感情的になってしまったわい」

剣士「いや、確かに君の言うとおりだ」

魔法使い「………」

剣士「………」




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!




魔法使い「何事じゃ!?」

剣士「これは……地震!?」

火竜「この感じ……おいおい、マジかよ!?」


416: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/29(水) 21:56:42.80 ID:AsCJTg9P0


バタン!


研究員A「所長! 大変です! 『網』に高度の魔力反応を測定器が感知しました!!」

魔法使い「幼女のものか?」

研究員A「違います……これを見てください!」

剣士「網?」

魔法使い「暗黒魔人の一件以降、この国の防衛システムにわしが強引に突っ込んだものじゃ。王国内で異常な魔力反応を察知するようにしてある」

剣士「それが今の地震となにか関係があるのか?」

魔法使い「確証は持てん、じゃが……」

研究員A「十中八九、これが原因でしょう」

魔法使い「そうじゃな……」


417: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/29(水) 21:57:08.94 ID:AsCJTg9P0

研究員A「しかし、考えられません……幼女さん以外にこの数値を叩き出せる者がいるなんて……」

魔法使い「……この数字は!!」

剣士「どうした!? なにかわかったのか!?」

魔法使い「平均的な魔法使いのおよそ1000人分の魔力……これは真か?」

研究員A「はい、間違いありません。幼女さんには劣りますが……それでも危険です」

魔法使い「これは幼女が南の島ではしゃいでテンションが上がったとかそういう類のものでは……」

研究員A「いえ、幼女さんとはまったく違う種類の魔力です。魔力は人それぞれ波長が違う……所長なら当然ご存知でしょう?」


418: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/29(水) 21:57:52.38 ID:AsCJTg9P0

魔法使い「もちろん知ってるが……勘違いであってほしいんじゃよ……」ハァ

研究員A「それに……その魔力、今も出力を増加させ続けています」

剣士「それで……どこにいるんですか? その魔力の持ち主は?」

研究員A「この揺れの震源地は特定できています。場所は……」

魔法使い「南。孤児院がある辺りじゃ」

剣士「……!! じゃあ……!!」

魔法使い「悪いが後のことを頼む。わしはこれから原因究明のため、震源地へ向かう」

研究員A「わかりました」

魔法使い「まったく、面倒なことになったわい……」ハァ

剣士「なにが原因でこんなことに……」

魔法使い「……誰かが妖精を食べたのじゃろう」

剣士「なんだって?」


419: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/29(水) 21:59:46.13 ID:AsCJTg9P0

魔法使い「大方の事情は助手から報告を受けておる。妖精とそれを狙う商人貴族……しかし、ついに恐れていたことが起きてしまったか……」

剣士「もしかしてあの時彼女が言っていたことってそういうことだったのか? じゃあ……」

魔法使い「妖精は世界に戦乱を招く。なんとしてでも商人貴族に渡る前にこちらが確保したかったが……仕方あるまい!」

剣士「どこへ行くつもりだ?」

魔法使い「無論、妖精を取り込んだものを叩く。このまま野放しにはできんからの」

剣士「待ってくれ! 君一人では危険だ!」

魔法使い「わしをなめるなよ、剣士。わしは貴様と違って戦いで手を抜くつもりなど毛頭ない」

剣士「そういうことじゃない!」

魔法使い「なんじゃ? ではなにが問題だと言うんじゃ?」

剣士「『黒獅子傭兵団』」


420: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/29(水) 22:04:22.88 ID:AsCJTg9P0

魔法使い「………」

剣士「商人貴族は今回の仕事のために『黒獅子傭兵団』と呼ばれる傭兵達を雇って身辺を固めている」

魔法使い「……なるほど」

剣士「奴らは強い。一人ならまだしもあの数となるといくら君でも……」

魔法使い「……見たところ、どうやらそいつらにやられたようじゃのう、剣士」

剣士「ああ、お陰で北まで飛ばされてしまった」

魔法使い「北? なんじゃ、まさか強制転移魔法でもくらったか?」

剣士「そのまさかだ。久々に大聖堂まで行ってきたよ」

魔法使い「大聖堂って……あの霊峰の頂上にある?」

剣士「ああ。君も魔王討伐の際に立ち寄っただろう?」

魔法使い「どうやってここまで帰ってきたんじゃ? 転移魔法は使えないじゃろ?」

剣士「? 普通に走っただけだが? 彼女を背負って」

魔法使い「つくづく規格外じゃのう……お主も」


421: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/29(水) 22:04:49.91 ID:AsCJTg9P0

剣士「だから1人で行くのは危険だと言っているんだ。早まるな」

魔法使い「……一つ聞きたい」

剣士「なんだ?」

魔法使い「『黒獅子傭兵団』……その集団の中に黒フードに紫髪のわしくらいの年の女がいなかったか?」

剣士「……ああ、確かにいたな、名前は確か……」

魔法使い「呪術士」

剣士「そうだ、確かそういう名前だった……知り合いか?」

魔法使い「なるほど……奴もこの件に絡んでいるというのか……おもしろい!!」

剣士「魔法使い?」

魔法使い「……転移魔法!!」


シュンッ!!


剣士「お、おい!!」