幼女「おじいちゃん。なんの……用?」妖精長「なに、ちょっとした頼みごとじゃ」 前編

434: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:14:07.89 ID:So7kbtGz0




剣士「行ってしまった………しかし大丈夫なのか? 転移魔法なんか使って……」

研究員A「ああ、大丈夫だと思いますよ? あれでも毎日隠れて練習してるみたいですから」

剣士「そんなことしているのか?」

研究員A「はい。昨日も研究所の屋根から降りられなくなって研究員総出で救出したばっかりです」

剣士「猫かなにかか……」

研究員A「所長はいつでも自分の苦手を克服しようと一生懸命なんですよ」

剣士「………」


435: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:14:42.37 ID:So7kbtGz0

研究員A「そんな所長だからこそ、僕らもなんか放っておけないんですよね」

剣士「………私も震源地に向かう。孤児院のみんなが心配だ」

研究員A「ああでも、今ここには転移魔法が使える術士がいないんですよ……探してきましょうか?」

剣士「問題無い。全力で走れば2時間もかからない」

研究員A「は? 普通なら震源地まで馬車で3日はかかる距離ですよ?」

剣士「馬車の場合だろう? 私ならもっと早い」

研究員A(この人はなにを言ってるんだろう……?)

436: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:15:24.06 ID:So7kbtGz0


火竜「おい……そこのスカした人間」

剣士「!!! なんだこの生き物は!? いつからそこにいた!!」チャキッ

火竜「てめぇが入って来る前からずっと居たわ!! なめてんのかてめぇ!!」

剣士「そうなのか!? 気がつかなかった……」

研究員A「剣士様も中々天然ですね……」アハハ

剣士「これは……トカゲか?」

火竜「誰がトカゲだ! 誰が!!!」

研究員A「所長から聞いていませんか? あれが火竜です」

剣士「火竜……じゃあ、お前が勇者に追い払われたとかいう……」

火竜「追い払われてなんかいねぇよ! 寝起きで気乗りしなかったから見逃してやっただけだ!」

研究員A「本当は幼女さんのブレスで翼を焼かれちゃったんですけどね……」

剣士「なるほど……どうりで翼が無いわけか」

火竜「ばらすな!!」


437: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:17:08.48 ID:So7kbtGz0

研究員A「ちなみにもう片方の翼は所長が実験兵器で焼き払いました」

剣士「……その……災難だったな」

火竜「そんな目で俺を見るな!! んなことよりお前ら! さっさと俺をここから出せ!」

研究員A「なに言ってるんだ。お前が自分でここに入ったんだろう?」

火竜「違う! 俺はあのガキに騙されて無理矢理ここに押し込まれたんだ!」

研究員A「それに今のお前を外に出したらなにをするかわかったものじゃない! 所長が帰ってくるまで出すわけにはいかない」

火竜「ほう……いいのか? そんなこと言って?」

剣士「……どういう意味だ」

火竜「あのガキ……間違いなく死ぬぜ?」


438: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:19:22.75 ID:So7kbtGz0

研究員A「なにを馬鹿なことを! 所長は魔王とも戦った最強の魔法使いだぞ! そんなことありえない!」

火竜「お前があのガキをどう思っているのか、俺は知らない。だが妖精を取り込んだやつとなると話は別だ。奴は死ぬ。間違いなく」

剣士「……贔屓目で見てもあの子の強さは相当なものだ。魔王でない限り負けるとは思えない」

火竜「その魔王とやらも妖精を取り込んでいたとしたら?」

剣士「なんだと!?」

火竜「おっと……これ以上教えてやることもねぇな。出す気がねぇならさっさとどっかへ行きやがれ、クソ人間」

剣士「……外に出てなにをする気だ?」

火竜「……別にぃ? ただ単に面白そうだと思ったからだよ……それに」ケッ

剣士「なんだ?」

火竜「『妖精憑き』は世界の調和を壊す……龍王様は『妖精憑き』から世界を守るために死んだ!!俺は、あいつらの存在自体が気に食わねぇんだよ!!」ガルルル


439: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:29:41.70 ID:So7kbtGz0

剣士「………わかった」

研究員A「剣士様!?」

剣士「すまないがあいつを出してやってくれないか? 妖精のことについてなにか知っているかも知れない。それに今は協力関係にあるんだろう?」

研究員A「それはそうですけど……あんなのただの口約束ですし……でかいトカゲですし……」ボソッ

火竜「よーし、外に出たら真っ先にお前を灰にしてやる!!」

研究員A「ひぃぃ!!」ガタガタ

剣士「大丈夫だ。もしもの時は私が君を守る」

研究員A「でも剣士様まるで活躍してないじゃないですか! 本当に強いんですか!?」

剣士「君までそんなこと言うのか……!?」ゴゴゴゴ

研究員A「わぁぁぁ!! 冗談です冗談です!!」

剣士「……いいか、すぐにこいつを外に出してやってくれ」


440: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:30:12.51 ID:So7kbtGz0

研究員A「む、無理ですよ。所長がいない時にこんなの外に出してもし暴れでもしたら誰が止めるって言うんですか!」

剣士「その時は私がこいつを斬り伏せる。それで問題ないだろう?」

研究員A(問題あると思うから何度も止めてるんだけどな……)

剣士「君は今、私に対して失礼なことを考えなかったか?」

研究員A「いえ、滅相もありません!」

火竜「おうおう! 剣士がそう言ってるんだ! さっさとこの結界を解いたらどうなんだよ!? ガリ勉メガネ!!」

研究員A「……結界を解けるのは所長だけです。私たちではどうすることもできません」

剣士「……なら仕方がない」スタスタ

研究員A「なにをするつもりですか?」

剣士「悪いがこの結界、破らせてもらう」

研究員A「それはいくら剣士様でも……」

剣士「問題無い」



スッ


剣士「『壊すこと』は昔から得意なんだ」

剣士「術式展開……空間接続……!!」


ザンッ!!!




441: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:33:26.43 ID:So7kbtGz0

――妖精の里――





地上げ屋「ずびばぜんでじだ」ドゲザッ

少年魔法使い「まだ30秒しか経ってないが?」

侍少女「大の大人が情けないでござる……」フゥ

地上げ屋(なんなんだよ、このガキ共! 強すぎだろ!!)ウギギギ

幼女「むぅぅぅ……」

侍少女「幼女殿が出るまでも無かったでござるな」

少年魔法使い「妖精長、さっさと記憶の消去を頼む……多少馬鹿になっても構わない。思いっきりやってくれ」

妖精長「もちろんじゃ。自分の存在すらもきれいさっぱり消し去ってくれるわい」カッカッカッカ

442: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:34:20.09 ID:So7kbtGz0

地上げ屋「ちょ!? 勘弁してくれよ旦那! 俺はあの商人貴族の野郎に頼まれてそこのガキを付けてただけですぜ?」

少年魔法使い「それが問題なんだ。お前の雇い主は妖精の力を使って世界をまた戦乱の世に戻そうとしてる」

地上げ屋「戦乱の世って……ププ!! ファンタジーの読みすぎだぜ僕ちゃん!」

少年魔法使い「なにがおかしい!」

地上げ屋「おかしいもなにも、妖精ってそこにいるちっさいおっちゃんだろ? 俺にはこのおっさんにそんな力があるとは思えねぇよ」

地上げ屋「確かにこいつは珍しい。でも精々見世物としてしか使い道無いだろ? 違うか?」

魔族少女「見世物って……妖精さんをなんだと思ってるんですか!」

地上げ屋「そう怒るなよ、お嬢ちゃん。東の闇市場に行ってみろ、今じゃお嬢ちゃん位の魔族も見世物小屋に並べられてるんだぜ? それはもう色々な使い道があるってもんさ。それはそれは色々と……な?」ゲヘヘヘ

魔族少女「………!!」


443: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:35:15.81 ID:So7kbtGz0
幼女「よいしょ……っと!!」ゴソゴソ

地上げ屋「商人貴族の旦那もそういう目的で妖精を取っ捕まえようってんだろ? 別に戦争がどうとかそんなの考えてねぇって!! なぁ、兄弟、お前もそう思うだろ?」ケタケタ

舎弟「んあ?」

地上げ屋「こんなのが戦争の引き金になんかなるわけねぇよな?」

舎弟「妖精食べたらすんげー強くなるんすよ!」

地上げ屋「いや、だからそういうことじゃなくてな……食っただけで強くなるとかありえねぇだろ」

舎弟「マジっすよ! だって俺、見たことあるもん! 妖精を食べたにーちゃんがこうゴゴゴゴゴゴゴってなってシュピーンってなったとこ!」

地上げ屋「まだお前はそんなわけのわからないことを言ってんのか……」ハァ

舎弟「だから俺も妖精を食ってみたいんす! いいでしょ、兄貴ぃ~」

地上げ屋「ダメだって言ってるでしょうが!」

少年魔法使い「おい、侍少女、早くあいつらを止めろ……日が暮れる」

侍少女「なぜ拙者が!?」

少年魔法使い「馬鹿の相手は馬鹿が適任だ」

魔族少女「アハハ……」

幼女「……あれを……こーして……」ゴソゴソ


444: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/01(金) 23:36:52.89 ID:So7kbtGz0

舎弟「……兄貴」

地上げ屋「お母さんはお前が憎くてダメって言ってるんじゃないの。あなたのことが心配だからこうして心を鬼にして……」

舎弟「兄貴」

地上げ屋「なんだよ? 今お説教中だぞ!」

舎弟「ちょっと一歩後ろに下がってもらってもいいっすか?」

地上げ屋「なんで?」

舎弟「いいから」

地上げ屋「………こうか?」



ザクザクザクッ


地上げ屋「うひぃぃ!!」ドサッ

舎弟「……不意打ちとは随分となめた真似してくれるじゃないっすか」

地上げ屋「なんだ! な・ん・だ!? 地面になんか刺さってるんですけど!?」




妖精兵長「この里から即刻立ち去れ!! 汚れた者共め!!」




453: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/02(土) 22:31:48.19 ID:oh0U8Adv0



舎弟「ひどいっす! 俺、汚れてないっすよ! 三日前に風呂入ったもん!!」

侍少女「汚な!」

妖精兵長「各員、戦闘態勢のまま待機!」

妖精兵達「は!」

少年魔法使い「おい、あれはなんだ?」

妖精長「あれは妖精兵団。万一里に部外者が入ってきた時に里を守る兵士達じゃよ。騒ぎを聞きつけてやってきたか……」




妖精兵A「先ほどの攻撃は警告である! 次は無いと思え!」

地上げ屋「んだよ! 小さいおっさんどもが寄ってたかって! 俺達はそこにいる金髪のガキの監視に来ただけだっつーの!」

妖精兵B「嘘をつくな! 人間や魔族は我々を捕らえ、己のために食うことしか考えていない!


454: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/02(土) 22:32:38.37 ID:oh0U8Adv0

地上げ屋「誰がてめぇらみてぇなおっさん口に入れるか! こちとら生まれも育ちも王都のお膝元の立派なセレブリティでござりますことよ!? お前ら食うくらいなら飢え死にするね!」

妖精兵C「兵長……ああ言っていますが」

妖精兵長「間に受けるな! それもあいつらの手口だ。忘れたのか! それに生きてあいつらを返せばまた別の奴にこの場所を教えるかもしれない」

地上げ屋「教えるわけねぇだろ! 沢山のちっさいおっさんが沢山のテーマパークなんて悪趣味過ぎて誰にもおすすめできねぇわ! な! 兄弟もなんか言ってやれ!」

舎弟「お前らってどんな味がするんすか? 牛肉とどっちが美味いっすか?」

「「「「!!!!」」」」

地上げ屋「おい、馬鹿! そういうことを言えって言ってんじゃないだろ! 刺激してどうする!」

舎弟「いやでもこれって案外重要なことなんっすよ? 『食べてみて案外普通でガックリ。でもせっかく苦労したんだしでもやっぱり……うーん』みたいな微妙な心境になったらどうしてくれんっすか!」

地上げ屋「わかるけど! そういうのわかるけど! 今そういう状況じゃないってわかるだろ!」

舎弟「え? 目の前に食べ物があるのに!?」クワッ

地上げ屋「だーかーらー!!」


455: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/02(土) 22:33:55.16 ID:oh0U8Adv0

妖精兵A「兵長! やはりこいつら……!!」

妖精兵長「ああ……生かして帰すわけにはいかない!!」

幼女「待って……て! ヨージョがちゃちゃっとあいつら殺しちゃう……から!!」ゴソゴソ

魔族少女「幼女ちゃーん。さっき言ったこと忘れちゃったのかなー?」

幼女「でもでも……あいつ……危険!!」

魔族少女「いいから私と一緒に大人しくしていようね?」

幼女「むぅぅぅ……」



妖精兵長「各員、戦闘準備! 奴らをこの里から逃がすな! 確実に殺せ!」

妖精兵達「「「はっ!」」」

地上げ屋「だぁぁぁ!! 人の話をちゃんと聞きやがれ! 俺達はお前らをどうにかしようなんてこれっぽっちも……!!」

舎弟「兄貴」ツンツン

地上げ屋「な、なんだよ?」

舎弟「食物の話してたらなんだか腹減ってきたっす……ビーフジャーキー食いたいっす!」

地上げ屋「ごめん、ちょっと黙ってて」


456: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/02(土) 22:34:32.51 ID:oh0U8Adv0

妖精兵長「いいか! 森の中でなら我々の力を存分に発揮することができる! 遠慮するな! 侵入者を一気に叩き潰すんだ!!」

妖精兵達「うぉぉぉぉ!!!」


地上げ屋「なんかやばそうだ……おい、ここはひとまず逃げるぞ!」ダッ

舎弟「あ、兄貴! 待って欲しいっす!!」ダッ

地上げ屋「こんなところで殺されてなんかたまるかってんだ! 死んじまったらなにもかもおしまいよ!」ダダダダダダ

舎弟「兄貴! ビーフジャーキー!!」

地上げ屋「お前はもう、夕飯抜き!」

舎弟「なんでっすか!?」ガビーン



妖精兵長「逃がすか! 秘術『大地の檻』!!」


ゴゴゴゴゴゴゴ!!


地上げ屋「お、おい地面がせり上がって……」

舎弟「囲まれちゃったっすね……」

地上げ屋「おい! そこのちっちゃいおっさん! 誤解だ! 俺はあんたらに危害を加える気なんてないって何回言えばわかるんだよ! ほら、降参! 白旗上げるから……な!」ヒラヒラ

魔族少女(あれ、さっき着てた割烹着だ……)


457: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/02(土) 22:35:38.97 ID:oh0U8Adv0

妖精兵長「何度も言わせるな……私はお前ら人間など信用しない!! 同胞を守るため! 今ここで死んでもらう!!」

地上げ屋「てめぇ! こっちがこれだけ言ってんのにまだそんなこと言うのか! 同胞を守るだかなんだか知らねぇけどな、お前らみてぇなちみっこいのが何が出来るって言うんだよ!!」

妖精長「……お前らは妖精の本来の力を甘く見ている。その甘さを抱いたまま死ね! 汚れた者共!!」

妖精兵長「放てぇぇぇぇ!!!」


妖精兵「秘術『巨人の飛礫』!!」

妖精兵「秘術『霊峰の噴火』!!」

妖精兵「秘術『裁きの大津波』!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!



地上げ屋「ちょ!? マジかこれ!?」

舎弟「……おお! 隕石にマグマに大津波って……相変わらず妖精の魔法は派手っすね!」

少年魔法使い「なんて強力な魔法なんだ……妖精にはこんなことが……」


458: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/02(土) 22:36:18.80 ID:oh0U8Adv0

妖精兵長「汚れた者共よ! その行いを悔い、地獄へ落ちるんだな!!」

地上げ屋「どどどどどどうすんだよこれぇぇ!! このままじゃマジで死ぬって!」ガタガタ

舎弟「さ、兄貴! さっさとあいつらに兄貴の強さを見せつけてやってくださいっす!」

地上げ屋「馬鹿! この状況でどうやれって言うんだよ!!」

舎弟「兄貴ならこれくらいのピンチどうってことないっすよね!?」キラキラ

地上げ屋「そんな純粋な目で見るな! さっきの俺の醜態見てただろ!」

舎弟「はい! かっこよかったっす!」

地上げ屋「ちゃんと話聞いて!」

妖精兵長「はっはっは! 我々を食い物にしてきた罰だ! そのまま恐怖に怯えながら骨も残さずに死ね!」

地上げ屋「いやぁぁぁあああ!! まだ死にたくねぇ! 後生ですからお助けぇぇぇ!!」

舎弟「……あー、兄貴、『後生』ってどういう意味っすか?」

地上げ屋「ああん? お願いする時に使う言葉だよ!!」

舎弟「誰に?」

地上げ屋「そんなもん俺を助けてくれれば誰だっていいわ!!」

舎弟「……そうっすか……」 スッ

妖精兵長「なにをするつもりだ?」

舎弟「流石に兄貴も朝から連戦で疲れてるっすもんね。だったらさっさと言ってくれればいいのに……」スッ

地上げ屋「へ?」




舎弟「……魔術『絶対零度』!!」カッ



ピキィィィィイイイイイン!!



459: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/02(土) 22:40:40.75 ID:oh0U8Adv0


妖精長「なんだとぉ!?」

妖精兵A「私の秘術が……」

妖精兵B「全て……凍った!!」

妖精兵C「こんなこと……ありえない!!」

舎弟「………」

地上げ屋「兄弟……? お前……」




少年魔法使い「どうなっている……? あいつ、ただの子分じゃなかったのか?」

幼女「やっぱり……あいつ……危険!!」

魔族少女「ああ!!」

侍少女「急にどうしたでござるか!?」

魔族少女「思い出した……あの人、どこかで見たことあると思ったら……でもどうしてあの人がこんなところに……!!」

幼女「誰……なの? あいつ!!」ガルル

魔族少女「あの人は魔王軍幹部の1人……」

魔族少女「……氷結魔人様だよ!!」

「「「「えええええ!?」」」」」


470: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:42:17.27 ID:/tCI7kXO0



侍少女「そ、それは本当っすか!?」

少年魔法使い「移ってるぞ!」

魔族少女「うん……間違いないと思う。『絶対零度』は氷結魔人様の固有魔術だから……」

幼女「固有……魔術?」パァァァ

魔族少女「うん。魔王軍の幹部の人たちはみんな特別な魔術を扱えるの。その魔術のどれもが戦況を覆すほどの圧倒的な力を持っている……」


暗黒魔人(魔術『重力世界』!!)


幼女「……むぃぃ」ゴソゴソ


471: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:42:52.58 ID:/tCI7kXO0

魔族少女「……ところで幼女ちゃんはさっきからなにをしているのかな?」

幼女「企業秘密……なのです!」ポワァ

魔族少女「そ、そうなんだ」アハハ



地上げ屋「………」

少年魔法使い「おい、どういうことだ? アホ鬼! なぜお前がそんな奴と一緒に行動している!?」

侍少女「答えるでござるよ! まさかお主も魔王軍……!?」

地上げ屋「あいつが……氷結魔人……?」

地上げ屋「ええええええええ!!!!」ガビーン

侍少女・少年魔法使い「知らなかったんかい!!」

地上げ屋「いや、ありえねぇだろ! あいつが魔王軍幹部? ないない! だって魔王軍は勇者が全滅させたんだろ?」

魔族少女「……詳しいことはわからないです。魔王様が討ち取られたとき、魔王軍の方々は散り散りになったとしか聞いてませんから……」

地上げ屋「いや、確かに見た目ほとんど人間みたいな魔族はいるけどよ……さっきまでビーフジャーキー喜んで食ってた奴が魔王軍の幹部ってのは俺はどうも納得いかないっていうか……」

侍少女「確かに……」

地上げ屋「だろ?」


472: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:44:33.52 ID:/tCI7kXO0

魔族少女「その……舎弟さんとはどこで?」

地上げ屋「二年前、王都で魔王討伐記念とかのお祭りの帰りにさ、あいつが家の前で生き倒れになっててよ……放っておくのもなんだから飯食わせたら懐いたからなんか流れでそのまま……」

魔族少女「そんな、捨て犬じゃないんだから……」アハハ

地上げ屋「お、おい! お前本当に魔王軍の幹部だったのか!?」

舎弟「あれー? 言ってなかったっすか?」

侍少女「軽い! ものすごく軽いっす!!」ガビーン

地上げ屋「聞いてねぇよ! なんか妙に腕っ節強ええなと思ってたけど!」

舎弟「まぁ、細かいことはいいじゃないっすか!」

地上げ屋「それもそうだな!」バーン

侍少女「いいわけ無いでしょうが!!」ガビーン

魔族少女「侍少女ちゃん、落ち着いて……」

地上げ屋「おし! とりあえずここは逃げるぞ! 兄弟!!」

舎弟「えええ!!?? 俺まだ妖精食べてないっす!!」

地上げ屋「腹壊すからダメってさっきから言ってるでしょうが!! いいから逃げるぞ、ここにいたら殺される!」

舎弟「あんな奴ら兄貴なら瞬殺じゃないっすか!」

地上げ屋「殺しは俺のポリシーに反するの! ほら、行くぞ!!」

舎弟「嫌っす! 妖精食べて魔王のにーちゃんみたいにシュビーンってなるんすよ!!」

地上げ屋「ああもう面倒だ! 引きずってでも連れて行くからな!」ズリズリ

舎弟「あーん、兄貴のケチぃぃ……」ズリズリ


473: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:45:28.70 ID:/tCI7kXO0



カッ!!

地上げ屋「へ?」ビュンッ


ドゴォォォォォン!!!



地上げ屋「あっぶね!! なんだよ、さっきから!! 俺を殺す気か!!」

舎弟「今のは……」ジー




幼女「……あ、間違えちっ……た!」シュゥゥゥ


474: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:46:49.06 ID:/tCI7kXO0

魔族少女「よ、幼女ちゃん!? ブレスはダメだったんじゃなかったの?」

幼女「ブレスじゃない……よ!!」ビシッ

魔族少女「どういうこと?」

幼女「でも失敗しちゃった……の!」エヘヘ



舎弟「お前、今のどうやったっすか?」ビュンッ

魔族少女「ひっ!」ビクッ

地上げ屋「お、おい!!」

幼女「むい?」



舎弟「だってそれ、魔王のにーちゃんの技じゃないっすか」




475: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:47:32.63 ID:/tCI7kXO0

幼女「マオー……?」

魔族少女「あの……氷結魔人様?」ビクビク

舎弟「ちょっともう一回やってみて欲しいっす!」

幼女「む……むい?」オドオド

舎弟「ほらほら!! 早く!! もう一回!!」

地上げ屋「なにやってんだよ! 早くずらかるぞ!! 早くしないと次のが来るんだから!!」

舎弟「いいじゃないっすか! 見てみたいんすよ!!」

地上げ屋「兄弟!!」


476: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:48:11.06 ID:/tCI7kXO0


妖精兵長「総員! もう一度総攻撃だ! 偶然は二度は続かないはず!! 今度こそ侵入者を抹殺する!! 皆の者! 秘術の準備!!」

妖精兵「おおお!!」

地上げ屋「ほら言わんこっちゃない!!」

妖精兵長「目標! 侵入者!! 最大出力で殲滅する!!」

侍少女「ちょっ!? 拙者達もいるんでござるよ!」

少年魔法使い「このままじゃ巻き込まれる!!」

妖精兵長「構え!!」

妖精兵「………」ザッ


舎弟「うるさい」ギロッ


妖精兵「!!!」

舎弟「今俺はこのガキと話してるんっす。外野は黙ってて欲しいっす」ギンッ

妖精兵「「「うう……」」」ガタガタ

妖精兵長「ひ、怯むな! 我々の後ろには里の命運がかかっているのだぞ!!」

舎弟「……しょうがないっすね」スッ

舎弟「……魔術『氷像』」

妖精兵長「なに!?」


ピキィィィィン!!!


妖精兵長「」ゴトッ


477: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:49:20.99 ID:/tCI7kXO0

妖精兵A「兵長!!」

妖精兵C「一瞬で……氷漬けに……」

舎弟「そいつは後でカキ氷にでもして食ってやるっす……お前らもこうなりたくなかったら……」

舎弟「俺の邪魔をするな」ギンッ

妖精兵「「「………」」」

魔族少女「あれが……魔王軍幹部の力……」

少年魔法使い「……無茶苦茶だ……あんなの勝てるわけがない……」ガタガタ

舎弟「さてと……」クルリ

幼女「!!!」ビクッ

舎弟「もう一度さっきのをやるっすよ……今すぐ」

幼女「……え、えっと……」オドオド

舎弟「なに出し惜しみしてるんすか? そっちがそのつもりなら……」シュンッ

幼女「むい!?」

舎弟「無理矢理にでもやらせてやるっすよ!!」

魔族少女「幼女ちゃん! 後ろ!!」




舎弟「遅いっす!!」ガンッ

幼女「きゃう!!」ズザザザザザザ


478: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:50:44.47 ID:/tCI7kXO0

侍少女「幼女殿!!」

地上げ屋「バカ野郎!! 何やってんだよ兄弟! 俺たちはそこのガキを監視するだけだろ! 蹴り入れてどうすんだ!!」

舎弟「さぁ、早く見せてみろっす」ヘヘヘ

地上げ屋「おい、兄弟!」

幼女「むぅぅぅ……」スクッ

魔族少女「幼女ちゃん!! 大丈夫?」

幼女「大丈……夫!! どうってことない!!」

妖精長「秘術『制裁の雷』!!」カッ


ズドォォォォン!!


舎弟「………危ないっすね」シュゥゥゥ

妖精長「くっ……外したか!!」

舎弟「邪魔するなって言ったはずっすよ?」

妖精長「黙れ! この里は妖精族の安息の地! これ以上の勝手は許さん!!」

舎弟「じゃあ、あんたもカキ氷にしてやるしかないっすね……」スッ

妖精長「来い! わしの命に変えてもこの里を守ってみせる!!」

舎弟「黙って見てればよかったのに。魔術……」



侍少女「必殺!! 『空中一文字斬り』でござるぅぅぅぅううう!!!!」


ズバッ!!!


舎弟「……あ」ゴトッ

地上げ屋「兄弟!!」

侍少女「………」チャキンッ


479: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:53:04.57 ID:/tCI7kXO0

少年魔法使い「……あいつ、魔王軍幹部相手に……」ゴクッ

侍少女「うぎゃぁぁあああ!! 腕切っちゃったでござるよぉぉぉぉ!!!」ジタバタ

舎弟「ひどいことするっすね……」ハァ

地上げ屋「大丈夫か! 兄弟!!」

侍少女「………あ、いや……あの、拙者もまさかそんな腕なんか切れると思ってなくて、妖精長殿が危ないと思ったら体が勝手に動いて……あの、その……」



侍少女「……わざとじゃないでござるよ?」エヘヘ



480: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:53:56.41 ID:/tCI7kXO0



少年魔法使い「バカ女! のんきなこと言ってる場合か!!」

舎弟「………魔術『氷像』」スッ

侍少女「い!?」


ピキィィィィン!!


侍少女「」ゴトッ

少年魔法使い「侍少女ぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

幼女「!!!」

舎弟「別に腕くらいすぐに元に戻るから別にいいんっすけど、こんな風に」パキパキパキ

地上げ屋「お、おい……流石に……やりすぎだ……」

舎弟「ん? でも先に攻撃してきたのはあっちっすよ? 俺達はなんも悪いことしてないじゃないっすか!」ニヘヘ

地上げ屋「だけどよ……」

舎弟「……兄貴? どうしたんすか?」

地上げ屋「兄弟……」グググ




少年魔法使い「……おい、バカ女……なにしてるんだ……? さっさと動けよ……」ヒタッ

侍少女「」

少年魔法使い「おい!! バカ女!! ふざけるのも大概にしろ!!」


481: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:55:27.32 ID:/tCI7kXO0

舎弟「ああ、別に死んでないから安心して欲しいっす!」

少年魔法使い「……なんだと?」ギロッ

舎弟「瞬間冷凍しただけっすから。まぁ、この状態が続いたらどうなるかわからないっすけどね」ケラケラ

少年魔法使い「……さっさとこいつを元に戻せ!!」

舎弟「そんなことよりも先にやるべきことがあるっす! そこのガキの力を見せてもらうのが先っすよ!」ニヘヘ

少年魔法使い「ふざけるな!! さっさと治せ!!」

舎弟「聞き分けの無いガキっすねぇ……我慢てものを覚えた方がいいっすよ?」

少年魔法使い「……雷魔法……」バリバリバリ

舎弟「お前も向かってくるんすかぁ? 少しくらい待っててくれてもバチ当たんないと思うんだけどなぁ……」

少年魔法使い「……突風魔法……」ヒュゴォォォ

舎弟「お?」

少年魔法使い「異なる魔力を合体させることで強大な魔法を作り出す……!!」グワッ

舎弟「おおお!! やるっすね!!」

少年魔法使い「……くらえ……これが僕の……とっておきだ!!」

少年魔法使い「合体魔法『神風』!!」


グォォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!


少年魔法使い「……あいつを返せ……返せぇぇぇぇぇぇえええええ!!!」


482: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/04(月) 21:56:02.41 ID:/tCI7kXO0

舎弟「でも……」スッ

舎弟「魔術『絶対零度』!!」


ピキィィィィン!!


舎弟「無駄なんだなーこれが♪」ニシシッ

少年魔法使い「な!?」

魔族少女「そ……そんな……!!」

舎弟「絶対零度の前にはどんなものだってその動きを止める……たとえそれが魔法だったとしてもっす」ニヤッ

少年魔法使い「く……くそ……!!」プルプル

舎弟「そんじゃま、とりあえず……」スッ

魔族少女「や、やめてください!!」

舎弟「お疲れさん♪」コォォォ


ピキィィィィン!!


少年魔法使い「」ゴトッ

魔族少女「いやぁぁぁあああああ!!」


495: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 15:28:00.36 ID:n5W88SnS0


舎弟「なんでそんなに歯向かってくるんすかねぇ……俺はただあのガキに興味があるだけなのに」クルッ

魔族少女「あ……あ……」ガタガタ

舎弟「お前は……俺の邪魔しないっすよね?」ニタァ

魔族少女「ひっ……!!」ガタガタ

幼女「……サムライ……ショージョ……」

侍少女「」ピキーン

幼女「……ショーネン……マホーツカイ……」

少年魔法使い「」ピキーン

舎弟「さぁ、そいつらみたいになりたくなかったらさっさとさっきの技を見せるっすよ!」

幼女「……二人を……元に戻し……て!!」プルプル

496: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 15:28:38.71 ID:n5W88SnS0

舎弟「先に技を見せてもらってからっす……あの技は確かに魔王のにーちゃんの技だった……なんでお前が使えるんすか? お前何者なんすか? 俺はそれが知りたいだけなんすよ!」

幼女「二人を……元に戻し……て!!」

舎弟「だーかーらー、それは俺の言うことを聞いてからっす!!」

幼女「戻……して!!」ゴゴゴゴゴ

地上げ屋「……も、もういいんじゃねぇか、兄弟。元に戻してやれよ……このままじゃこいつら、死んじまうかもしれねぇんだろ?」

舎弟「こいつらが死のうが関係ないっす。俺は、ただこのガキが何者なのか知りたいだけなんすから」

地上げ屋「兄弟!! いい加減に……」

舎弟「兄貴も……俺の邪魔するんすか?」

地上げ屋「!!! そ、それは……」

舎弟「しないっすよね? だって兄貴は優しいんすから!!」エヘヘ

地上げ屋「………」ギュッ

舎弟「兄貴はにーちゃんと違って勝手にどっか消えたりなんかしないし、俺の言うこともちゃんとわかってくれる……そうでしょ?」

地上げ屋「お前……」


497: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 15:29:06.05 ID:n5W88SnS0

舎弟「さぁ……さっさとにーちゃんのことを教えるっす!!」

幼女「戻……せ!!」ダッ

舎弟「違う!!」ガンッ

幼女「あう!!」ズザザザザ

魔族少女「幼女ちゃん!!」

舎弟「それじゃないっす……俺が言ってるのはそれじゃないんすよ!!」

幼女「ううう……」スクッ

舎弟「まだ寝るには早いっすよ?」スタスタ

幼女「むぅぅぅ……」


魔族少女「もうやめてください!!」バッ



498: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 15:29:39.98 ID:n5W88SnS0

幼女「マゾク……ショージョ……」

舎弟「……お前もっすか」ハァ

魔族少女「……逃げて……幼女ちゃん……」ガタガタ

舎弟「ああもう!! 面倒っすね!! どうしてこんなに俺の邪魔をするんすか!?」

魔族少女「と、友達だから!!」

舎弟「あん?」

魔族少女「友達を助けるのは……当然です!!」ガタガタ

舎弟「………」


「友達を助けるのは当然だろ?」


舎弟「……ムカつくっす」

魔族少女「え?」

舎弟「もういいや、お前も邪魔っすよ」ゴゴゴゴゴ

魔族少女「幼女ちゃん! 逃げて!!」

幼女「やだ!!」


499: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 15:30:10.86 ID:n5W88SnS0

魔族少女「……お願い」

幼女「!!!」

舎弟「魔術……」

幼女「マゾクショージョ!!」

魔族少女「………」ギュッ




舎弟「『氷像』!!」

ピキィィィン!!!



504: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 20:11:56.81 ID:n5W88SnS0


――???――




「嫌だよ……僕……こんなの嫌だよ……!!」

「……悲しまないで……ください……坊ちゃん……」

「ずっと一緒にいてくれるって……約束したじゃないか……!!」

「ええ……ずっと……一緒ですよ……」

「私は……いつでも……あなたと共に……」







女「……っと!! ちょっと!!」


505: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 20:12:54.54 ID:n5W88SnS0

男「……ん?」

女「こんな時になにボケーっとしてんのよ!」

男「……ああ、ちょっと昔のこと思い出してて……」

女「このボケがぁ!!」ズビシッ

男「痛ぇよ!!」

女「そんなんで痛みなんて感じるわけないでしょ!? あんた自分のことなんだと思ってんのよ!?」

男「確かに痛みは感じねぇけどさ、なんていうか心は傷つくんだって!」

女「そんなことよりも説明しなさい!」

男「え、なにを?」

女「なんで今更になってあんなのが出てくるの?」

男「あんなのって……氷結魔人のこと?」

506: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 20:14:09.58 ID:n5W88SnS0

女「決まってるでしょ! 暗黒魔人の時といい! 今回の時といい!! なんで魔王軍の幹部がまだ生きてんのよ!? 確かに私たちがあの時倒したはずなのに!!」

男「……ああ、暗黒魔人はともかく、他の奴らには勇者がこっちに乗り込んで来る前に『適当に戦って適当に死んだフリしとけ』って言っといたんだよ」

女「……誰が?」

男「もちろん、俺が」

女「……なんのために?」

男「だって元はといえば俺の個人的なわがままからあんなことになってたわけだし……命懸けでやる必要なんてどこにも無いわけで……ねぇ?」

女「……じゃあ、なに? 私たちが戦った時の魔人共って……」

男「全然本気じゃなかったんじゃない?」

女「くっ……どうやら今回も私が行くしかないみたいね……!!」グッ

男「ああ、今回は俺が行くから女ちゃんは休んでてよ」

女「止めても無駄よ……なにがあっても私は幼女ちゃんを守るって決めたんだから!!」

男「いやだから、今回は俺が行くって」

女「あんたがなにを言ったって私は……なんですって?」

男「今回は俺が行くから君はお留守番。お分かり?」

女「はぁ?」


507: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 20:14:45.88 ID:n5W88SnS0

男「ソウルフレンドである幼女のピンチだ。見過ごすわけにはいかねぇだろ?」

女「散々、『それが世界の選択だ……』とかキメ顔でのたまってたあんたが今更なに言ってんの?」

男「悪意丸出しだねー、女ちゃん!」アハハ

女「あんたに対する感情なんて悪意以外の何物でもないわよ」

男「……安心してよ。今回は事情が違う」

女「事情?」

男「世界の意思とかそういうもんの前に……」



男「悪いことをしたらオシオキ……だろ?」ニヤッ




508: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 20:17:15.63 ID:n5W88SnS0

――妖精の里――




魔族少女「………あ、あれ?」

舎弟「おろ?」

魔族少女「なんともない……」

妖精長「大丈夫か! お嬢ちゃん!!」

魔族少女「え、ええ……大丈夫みたいです……でもどうして?」

舎弟「おかしいっすね……確かに発動させたつもりだったんすけど……」




地上げ屋「!? 兄弟!! 危ねぇ!!」

舎弟「なんすか兄貴?………げ」


ズバァァァァァァァン!!!!


魔族少女「きゃぁぁああああ!!」

地上げ屋「うぉぉぉぉおおおおお!!!」




509: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 20:30:07.94 ID:n5W88SnS0

幼女「はーい! あなた様のご期待にお応えして、必殺技の出血大サービスでござりますぅ!! これでご満足していただけましたか?」シュゥゥゥ

魔族少女「よ、幼女ちゃん?」

幼女「おお!! 飛んだ飛んだ……こりゃ新記録更新かぁ?」ニシシッ

魔族少女「どうしちゃったの……?」

幼女「……巻き込んじまって悪かったな」

魔族少女「え?」

幼女「君の両親を死なせちまったのは俺のせいだ……それなのに大事なところでトンズラしちまって……本当に悪いと思ってる」

魔族少女「あなた……誰なんですか? 幼女ちゃんはどうなったんです?」

幼女「へへ……この体じゃ、君の頭を撫でることもできねぇや……」スタスタ

魔族少女「ま、待って!!」


510: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 20:30:39.56 ID:n5W88SnS0

幼女「………」チラッ

侍少女「」ピキーン

少年魔法使い「」ピキーン

幼女「……あー、こういう時どうすりゃいいんだっけ? 魔術の解除なんて久々だしなぁ……」ガシガシ

魔族少女「あ、あの……」



幼女「めんどくせぇ、『なんかこう、うまくいい感じになれ』!!」パァァァ



魔族少女「きゃあ!? な、なに!?」

妖精長「この光は……」

魔族少女「すごく……暖かい」


スゥゥゥゥゥゥゥ………


511: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 20:31:24.52 ID:n5W88SnS0

侍少女「ぎゃぁああああ!! やばいでござる! 必殺技食らってめっちゃくちゃにされちゃうでござるぅぅぅ!!!」

少年魔法使い「……俺は一体……」

魔族少女「あ……ああ!!」ダッ

侍少女「……ってあれ?」

少年魔法使い「そうだ……俺はバカ女の仇を討とうとして……」

侍少女「仇って!? 縁起でもないこと言わないで欲しいでござる!! 拙者はこの通りピンピンとして……!!」

魔族少女「二人共!!」ガバッ

侍少女「うわっと!! ど、どうしたんでござるか!?」

少年魔法使い「バカ女!! 戻ったのか!?」

魔族少女「二人共よかった!! よかったよう……」グスッ


512: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 20:32:43.22 ID:n5W88SnS0

侍少女「なんか色々と記憶が抜けてるのでござるが……」

少年魔法使い「お前、今まで瞬間冷凍されてたんだよ」

侍少女「マジ!?」

少年魔法使い「本当だ。そして魔族少女の様子から察するにどうやら俺も……」

魔族少女「そうだよ! もう、みんな死んじゃったかと思って……私……」グスッ

侍少女「でもどうやって元に?」

魔族少女「それは幼女ちゃんが……」

少年魔法使い「幼女が?」



舎弟「痛てて……かー、今のは効いたっす!!」ガラガラ

幼女「甘えたこと言ってんじゃねぇ……さっさと立て」クイクイ

舎弟「やっぱり今のも……あんたにーちゃんのなんなんすか?」

幼女「おいおい……」ハァ

少年魔法使い「あいつ、なんか様子がおかしくないか?」


513: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/06(水) 20:33:40.67 ID:n5W88SnS0

魔族少女「うん。さっきからあんな感じで……」

幼女「おいおいおいおいおい……まさか忘れたとは言わせねぇぞ?」

舎弟「はぁ!? 俺はあんたに会ったことなんか……」

幼女「俺はお前に教えたよなぁ? 女子供には絶対に手を出すなって!!」ゴゴゴゴゴ

舎弟「お、女でガキのお前に言われたくないっす!!」

幼女「黙らっしゃい! 今日という今日はゆるしませんよ!!」

侍少女「……幼女殿ってあんなに流暢に喋れたでござるか?」

少年魔法使い「なんか気のせいか大分目つきが悪くなった気がする……」

舎弟「さっきからにーちゃんの技使ったり、いきなり別人みたいになったり……お前、なんなんすか!!」

幼女「氷結魔人。俺にそんな口聞いていいのか?」

舎弟「どういう意味っすか?」



幼女「お前、俺を誰だと思ってやがる!! 素敵で愉快なお兄さんだぞ?」バーン




少年魔法使い「幼女がいきなり馬鹿になった……」

魔族少女「馬鹿かどうかはともかく、さっきとは別人みたい……」

妖精長(魔族の嬢ちゃんが言うとおりさっきとはまるで別人じゃ……それになんじゃ? お嬢ちゃんから微かに邪悪ななにかを感じる……お嬢ちゃん……お主、まだなにか隠していると言うのか?)

舎弟「そのアホみたいな喋り方……」

幼女「今からてめぇにたっぷりとオシオキしてやる……覚悟はできてるな?」

舎弟「もしかして……にーちゃん?」

幼女「答えは聞いてねぇ!!」クワッ


521: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/08(金) 22:14:49.59 ID:mWTnBPGM0

幼女「さぁ、どうしてやろうか……? 骨の二三本は覚悟しておけよ?」クックック

舎弟「いや……そんなのありえないっす!!」スッ

舎弟「にーちゃんの名前を騙るなんていい度胸っすね! そんな化けの皮すぐに剥いでやるっすよ!!」

妖精長「いかん!!」

魔族少女「避けて!! 幼女ちゃん!!」

幼女「ああん?」

舎弟「魔術!! 『氷像』!!!」

舎弟「氷漬けになれっす!!」


ピキィィィィィン!!!


幼女「」ゴトッ

侍少女「幼女殿!!」

舎弟「ふふん!! あっけないっすね!!」フンスッ


バキィィィィン!!!

舎弟「え?」


522: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/08(金) 22:15:17.30 ID:mWTnBPGM0


幼女「もっと熱くなれよぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」ゴゴゴゴゴ


舎弟「げえ!!??」

少年魔法使い「どうやって……」

幼女「あー、気合?」

少年魔法使い「んな無茶苦茶な……」

幼女「『元気があればなんでもできる』んだぞ? 覚えておけ」

少年魔法使い「はぁ……」

幼女「それにしても大したことねぇなぁ……そんな氷じゃ俺の熱いハートは凍らねぇぞ?」フフン

舎弟「……どうやら本当ににーちゃんみたいっすね……」

幼女「さーて、なんのことかしらん? 幼女ちゃんまだ小さいからわかんなーい♪」キャルン


523: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/08(金) 22:17:45.64 ID:mWTnBPGM0

舎弟「とぼけても無駄っすよ!! あんな無茶苦茶なことできるの、にーちゃんくらいしかいないっす!!」

幼女「そんなことしてていいのか? 今度は俺の番だぜ?」スゥゥゥゥ

舎弟「!!!」

幼女「くらえ!」カッ

魔族少女「あれは……龍王のブレス!!」

舎弟「だったら……魔術『絶対零度』!!」


ピキィィィン


舎弟「どうっすか!!」

少年魔法使い「ブレスまで凍らせるのか、あの技は!?」

幼女「……だからどうした?」シュタッ

舎弟「え?」

幼女「漢なら拳で語りやがれぇぇぇ!!」カッ


ドゴォォォォン!!


舎弟「ぐわぁぁぁああああ!!!」ヒューン


524: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/08(金) 22:18:12.92 ID:mWTnBPGM0

少年魔法使い「いや、お前女だろ」

幼女「ガキが細かいこと気にすんなよ。そのうちハゲるぞ?」

少年魔法使い「なっ!?」

侍少女「は、はげ……」プルプル

少年魔法使い「笑うな!」



幼女「ったく……中途半端に力つけやがって」ハァ

舎弟「に、にーちゃん……」ボロッ

幼女「……そろそろ止めといこうかね。あ、安心しろ。しばらくベッドから出られなくなると思うけど、命だけは助けてやるよ」ニシシッ

舎弟「……どうして?」

幼女「………」スタスタスタ

舎弟「……どうして、俺たちを置いていったんっすか……?」グググ

幼女「……お前には関係ねぇことだ」スタスタスタ

舎弟「俺たちのこと……嫌いになっちゃったんすか?」

幼女「……そんなわけねぇだろ」ボソッ





地上げ屋「あいや、待たれぇぇぇええええい!!」バンッ

幼女「あん?」

地上げ屋「ここから先は! 泣く子も笑う王都一の地上げ屋!! この『笑う赤鬼』が通さねぇ!!」ババンッ

地上げ屋「これ以上、俺の弟分を傷つけようって言うのなら!! 俺が相手になってやるぅぅぅぜぇぇぇえええ!!」バババンッ

幼女「……なんだお前?」


533: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/10(日) 20:42:27.91 ID:4rFFqbDV0


地上げ屋「……俺はあいつの兄貴分だ」

幼女「そこをどけ。まだあいつのオシオキが残ってる」

地上げ屋「どかねぇよ。あんたが何者かはしらねぇが、こっちも兄弟がここまでボコボコにされてちゃ黙ってなんかいられるか!」

魔族少女「あの……やめておいた方が……死んじゃいますよ?」オロオロ

地上げ屋「止めてくれるな、お嬢ちゃん。男には引けねぇ時ってもんがあるんだよ……それが男の、男たる……」フッ

幼女「いや、だから邪魔だって」バキッ

地上げ屋「せめてちょっとは話くらい聞いてぇぇぇぇぇ!!!」ヒューン


キラッ☆


魔族少女「ああ……だから言ったのに……」


534: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/10(日) 20:44:28.82 ID:4rFFqbDV0
舎弟「兄貴ぃぃぃぃ!!」

幼女「あれ? やべ……ちょっとやり過ぎたかな?」

少年魔法使い「やりすぎたっておい……」ハァ

幼女「まさかこの状況で『普通の人間』が向かってくるとは思わなかったんだもの……」

少年魔法使い「完全に星になったな」

侍少女「今思えば悪い奴じゃなかったでござるよ」ウンウン

幼女「まぁ、多分死んでないんじゃねぇかな? うん、多分そうだ。ギャグで片付く感じだって」タハハ

魔族少女「だといいんだけど……大丈夫かな」

幼女「さ、そんなことよりもお説教の続きですよ、皆さん!! さっさとあのバカをコテンパンにしてだな……」

侍少女「あああああああ!!!」

少年魔法使い「どうした!?」

侍少女「いないでござる!!」

幼女「いないって……あ」

魔族少女「氷結魔人様が……消えた?」

幼女「あちゃー逃げられちった」ポリポリ


535: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/10(日) 20:45:37.04 ID:4rFFqbDV0

――孤児院――


院長「……これはどういうことですか?」

商人貴族「こうして対面するのは初めてですね。院長様」

院長「手紙の件でしたら昨日あなたの部下を名乗る方にお伝えしたはずですが……はて? あの人は偽物だったのでしょうか?」

商人貴族「そう固いことを言わないでください。私は交渉に来ただけですよ」

院長「ではなぜこの様な大勢で? まるで戦争でも始めようとしてるみたいですけど」

「へへ……」「おお!! こりゃまたべっぴんな姉ちゃんじゃねぇか!!」「どうだい? 俺と今晩!」「馬鹿、俺のもんだ!」

院長「……これはどういう意味なんでしょう?」

商人貴族「ああ、私なりのメッセージですよ」フフッ

院長「メッセージ?」

商人貴族「『どんなことをしてでもこの土地が欲しい』という私の気持ちをこうして形にしているだけのことですよ」フフッ

院長「……これはいわゆる脅しですか?」


536: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/10(日) 20:46:13.57 ID:4rFFqbDV0

商人貴族「勘違いしないでください。私はあくまで穏便に済ませたいのです。あくまで穏便に」

院長「帰ってください。なんと言われようと、私はここを譲る気はありません」

商人貴族「それは十分承知しております。ですが私も遥々王都からこうして足を運んでいるのです。彼らをここに呼ぶことだってタダではありません。どうか! どうか話だけでも聞いていただけませんか?」

院長「あなたの苦労など知りません。申し訳ありませんがお引き取りください。私は今忙しいんです」

商人貴族「忙しい? それはまたどうして?」

院長「あなたに答える必要なんてありません」

商人貴族「その様子だと、なにか探し物ですか?」ニヤッ

院長「………」

商人貴族「それはさぞお困りでしょう……協力しますよ?」

院長「探し物? さてなんの話でしょう?」ニコッ

商人貴族「私も商人の端くれ、お客様が真に求めているものがなにかくらいわかります」フフッ

院長「だとしたらあなたには商人としての才能が無いということになりますね。見当違いもいいところです」

商人貴族「これはこれは手厳しい……私に才能が無いですか」

院長「はい。私にはそう見えます」

商人貴族「では彼にもそんなひどいことを言ったんですか? 『君には才能が無いと』」

院長「!!!」


537: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/10(日) 20:47:31.69 ID:4rFFqbDV0

商人貴族「彼は哀れにも1人で泣いていました……その年で自分の価値を決定づけられる……これほど悲しいことがあるでしょうか?」

院長「……悪ガキくんは……どこですか?」

商人貴族「さぁ? どこでしょうかね?」

院長「答えなさい!!」

商人貴族「答えたところでどうするおつもりで?」フフッ

院長「それは……」

商人貴族「院長先生……私には理解ができないのです。理由はどうであれ、子供の夢を潰そうとするなど教育者の……親のすることでしょうか?」

院長「そんなことあなたに言われる筋合いなんて……」

商人貴族「ではなぜ彼は1人で泣いていたのですか? そしてなぜあなたは彼の悲しみをそのままにしておいたのです?」

院長「なにも知らないあなたが横から口出ししないでください!! 勇者になるってことはそんな生易しいものではないんです!!」


538: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/10(日) 20:49:22.81 ID:4rFFqbDV0

商人貴族「勇者様のことについて私は詳しくは知りません……ですがそうやってあなたは自分の考えをあの子に押し付けたのですか? あの子の持つ力を信用することすらしないまま?」

院長「わ、私はそんなつもりなんて……」

商人貴族「彼は深く傷ついていました。当然です。今までずっと胸に秘めていた夢を真正面から否定されたのですから」

院長「ですが、それは悪ガキくんの将来を思うからこそなんです!!」

商人貴族「それこそがあなたの、親の思い上がりなのです」

院長「!!!」

商人貴族「彼はとても純粋な子です。環境によって白にでも黒にでもなる。そしてそれ故に……」


商人貴族「……不相応な力を求めてしまう」ニタァ

院長「え?」


ゴゴゴゴゴゴゴ!!!


院長「じ、地震!?」


539: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/10(日) 20:56:38.23 ID:4rFFqbDV0

商人貴族「思ったよりも決心に時間がかかったようですね……ですがまぁ、いいでしょう」

院長「決心?」

「お、おいあれ!!」「なんだなんだ?」「森が光ってるぞ!!」「あれは……」

院長「光の……柱?」

商人貴族「しかし思った以上の成果だ……これは素晴らしい!!」

院長「あなたはさっきからなにを言っているのですか?」

商人貴族「院長さん、私はやはりこの土地が欲しくなりましたよ。できることなら今すぐにでもこの場所を独占したい! それだけの魅力がこの場所にはある!! なにせ私の『商品』はあなたが才能が無いと切って捨てた彼がここまでの力を手にしたのですから!!」

院長「あの柱を悪ガキくんが……?」

商人貴族「ええ、その通り」


540: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/10(日) 20:58:20.85 ID:4rFFqbDV0

院長「ありえません……悪ガキくんの持っている魔力であんな芸当ができるわけがない」

商人貴族「いえいえ……今の彼ならこんなこと容易いでしょう。それだけの力を彼は手に入れたのですよ!」

院長「……あなたは悪ガキくんになにをしたんですか!?」

商人貴族「私は少し背中を押してあげただけです。そしてその道を選んだのは彼だ」

院長「……!!」ダッ

商人貴族「どこへ行くつもりですか?」

院長「決まってます! 悪ガキくんのところへ行きます!!」

商人貴族「交渉はまだ終わってませんが?」

院長「子供の命よりも大事なことなんてこの世にあるわけがないでしょう!!」

商人貴族「困った人ですね」ハァ

傭兵A「おっと!! どこに行くつもりだい、姉ちゃんよう? まだ商人貴族様が喋ってる最中じゃねぇか!」

傭兵B「もうちょっとゆっくりしていけよ!」ゲヘヘ

院長「……あなた達の相手をしている暇などありません!!」シュバッ

傭兵A「え……」ドサッ

傭兵B「お、おい!!」

院長「邪魔をするなら……次は殺します」


541: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/10(日) 20:58:52.60 ID:4rFFqbDV0

傭兵B「こ、このアマ……!!」ジャキッ

商人貴族「やめなさい」

傭兵B「い、いいんですか?」

商人貴族「戦っても無駄です。あなたでは彼女には勝てない」

院長「懸命な判断です。もし私が戻ってきてもまだここにいるようでしたら、あなた方を皆殺しにしますからそのつもりで……では、失礼します」シュンッ

傭兵B「消えた……!!」





商人貴族「……さぁ、要件も済みましたし、キャンプの方に帰りましょうか」

傭兵B「ええ!? 今の内に土地の権利書を奪うなり、この孤児院をぶっ壊すなりしちまえば……」

商人貴族「そんなことしてもメリットなんてどこにもありませんよ。それにもう種は撒き終わっています」

傭兵B「へ?」

商人貴族「土地の権利書なんて奪わなくたっていいんです。この土地の所有者は可哀想なことに死んでしまうのですからね」フフッ

傭兵B「は、はぁ……」

商人貴族「ああ、あなた方は最後の詰めでちゃんと出番を用意していますのでちゃんと準備をしておくように。いいですね?」

傭兵B「……わかりました」

商人貴族「さぁ、悪ガキくん。あなたの力を存分に振るい、そして私に見せてください……滑稽な親殺しの物語をね」ニタァ


549: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/13(水) 00:49:11.67 ID:NutoIblL0

――海岸近くのキャンプ――

勇者「どういうことかねぇ……これは……」


ズラッ


勇者「すげぇテントの数……」

勇者「朝起きたら幼女はベッドにいないし、院長は院長で忙しそうだし、そういえば剣士も助手さんも見てねぇな……なんだ? 俺の知らないところでなんか始まってんのか?」

勇者「なーんか、最近の俺ってこういうポジションなのかな……ずっと蚊帳の外でさ……」ショボーン

勇者「ああ、勇者としてもてはやされてた頃が懐かし……くもねぇな」ケッ

勇者「いいもんねーだ、お前らが俺のこと無視するなら俺だってお前らのこと無視してやりますよ」ヘッヘッヘ

勇者「幼女にはダメだって言われたけどそんなこと知ったこっちゃないもんねー」スタスタ

勇者「商人貴族くーん!! 勇者さんが来てやりましたよー!! お金儲けの話しよー!!」



550: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/13(水) 00:50:08.60 ID:NutoIblL0

見張り「おい、お前!」

勇者「ん? 俺のこと?」

見張り「こんなところでなにをしている! ここは『黒獅子傭兵団』のキャンプ地だぞ!」

勇者「黒獅子傭兵団? なにそれ?」ホジホジ

見張り「お前……俺たちのことを知らないのか?」

勇者「知らないねぇ……お、でっけぇ!?」ガビーン

見張り「鼻くそをほじるな!!」

勇者「こんなでかいの、どこに入ってたんだ?」

見張り「知るかそんなこと!!」

勇者「とまぁ冗談はさておき」フキフキ

見張り「……なぜ俺の服で指を拭いたんだ?」プルプル


551: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/13(水) 00:50:45.10 ID:NutoIblL0

勇者「丁度いい布が無かったから」

見張り「よーし、そこに直れ。切り殺してやる」チャキッ

勇者「まぁまぁ、そんな怒るなって! それより、『黒獅子傭兵団』だっけ? なんでそんなのがここにキャンプ構えてんの? 戦争でもする気?」ヘラヘラ

見張り「……商人貴族様からの依頼だ」

勇者「依頼?」

見張り「ああ、『とにかく兵力が欲しい』んだそうだ。それで俺らに依頼が舞い込んだってわけ……ってなんで俺が見ず知らずのお前にそこまで話さなければならないんだ!!」

勇者「まぁまぁ、硬いこと言うなよ。そんで? その商人貴族様の目的は?」

見張り「わからん。詳しい情報なんて下っ端の俺には教えてくれやしないさ」

勇者「ああ……だからこんなところで見張りなんかやってるわけね」

見張り「うぐっ……放っておいてくれ」

勇者「大丈夫だって! 見張りか出世した奴二人くらい知ってるから! お前もいつか出世するよ!」

見張り「あ、ああ!! やってやるさ!! 俺もいつか『雷狼』の様な優秀な傭兵になるんだ!」

勇者「『雷狼』?」ピクッ


552: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/13(水) 00:52:47.47 ID:NutoIblL0

見張り「お前も名前くらいは聞いたことあるだろう? 伝説の傭兵だよ! 立てた戦功は数知れず! 数々の死線をくぐり抜けた傭兵の中の傭兵!!」

勇者「……まぁ、名前くらいは聞いたことある。そんなにすげぇのか?」

見張り「ああ! 俺の憧れさ! ……もっともその雷狼も2年前の王都侵攻の時に戦死しちまったんだけど」

勇者「……そうか、それは残念だ」

見張り「今はまだ下っ端だけどいつか絶対に『雷狼』の名を俺が継ぐんだ!! 知ってるか? あの人の得意技!」

勇者「……ああ知ってるよ」

見張り「かっこいいよなぁ……俺もいつか使ってみてぇ」

勇者「お前ならきっとできるさ」

見張り「ありがとな! 俺は絶対やるぜ!」

勇者「わりぃけど通っていいか? 俺、商人貴族に会いに来たんだよ。話はもうつけてある」

見張り「そうか、そういうことなら……あ、でも商人貴族様は出かけちまったぞ?」

勇者「出かけた?」

見張り「ああ、なんか朝早くから出て行った。なんか商談してくるんだと。他の連中はほとんどあの人の護衛だ」

勇者「まぁ、いいや。中で待たせてもらうよ」ヒラヒラ

見張り「物とか勝手に持っていくなよ? 見張りの俺がどやされるからな」

勇者「俺の顔見てみろ? そんなことするようなツラに見えるか?」

見張り「見える」

勇者「あ、そう。こいつは手厳しい」ハハッ

見張り「妙な真似したらすぐにとっ捕まえにいくからな?」

勇者「勘弁してくれよ、俺はお前らの依頼主が是非って言うから来たんだぞ?」

見張り「それでもだ」

勇者「はいはい」スタスタスタ

見張り「変なことするなよー!!」

勇者「だからしねぇって!!」


553: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/13(水) 00:54:36.37 ID:NutoIblL0



見張り「はぁ……なにやってんだろ、俺……本当なら戦場にでて手柄立てて……それが見張りであんなわけのわからない男の相手をしなきゃいけないだなんて……」ハァ

見張り「こんなことするために田舎から出てきたわけじゃないんだけどなぁ……俺は雷狼みたいにかっこよく戦場を渡り歩きたくて……」ハッ



見張り「………」キョロキョロ

見張り「必殺!!」ゴゴゴゴゴゴ

見張り「『雷装』!!!!」バーン


シーン………


見張り「……なんちって……」アハハ


シーン………


見張り「はぁ……見張りしよ」




554: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/13(水) 00:56:24.09 ID:NutoIblL0





勇者「ここが商人貴族のテント……だよな?」

勇者「正直どれがどれだかわからねぇけど……見た感じなんかデカいし多分これだろ」

勇者「お邪魔しまーすっと……おお!」ファサッ


デーン!!


勇者「わぁお……俺んちよりベッドでけぇ……なんだよこれ……」フカフカ

勇者「おお!! ベッドがフカフカだ!! すげぇ!!」ポヨンポヨン

勇者「なんだこれ? なんだこれ? なんか楽しくなってきた!!」

勇者「金持ちすげぇぇええええ!! 出先でこんなベッド使ってるなんてすげぇぇぇえええ!!」

勇者「フカフカだ! フヨフヨだ!! おおっと!! さらにテンション上がってきましたぞ!!」

勇者「こんなにデカイベッドだったら泳げるな!」スイスイ

勇者「あはははは!! あははははははははは!! なんだろう! なんかすげぇいい匂いする!! なんだろう!!」

勇者「深夜でもないのにこのテンション!! 俺を止められるもんなら止めてみろ! しばらく1人でしゃべり続けてやる! 誰も聞いてなくてもしゃべり続けてやる!!」

呪術士「………」

勇者「すげぇ!! 金持ちすげぇぇぇぇええええ!! ベッドすげぇぇぇえええ!! フカフカすげぇぇぇええええ!!!」

呪術士「………」

勇者「あははは!! あはははははは………あ」

呪術士「………」

勇者「………」



「「……………」」


勇者「………どうも、お邪魔してまーす………」アハハ

呪術士「……!!!」ズォッ


561: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/15(金) 01:08:29.27 ID:0ApPp6h40

勇者「……あのー、そろそろ解いてくれてもいんでない?」

呪術士「……」

勇者「なんていうの? この縄みたいなものが食い込んじゃってさ……痛いんだよね」

呪術士「………」

勇者「驚かせたのは謝るよ、見張りの奴がみんな出払っちゃったっていうからさちょっとくらいいいかなって……な? わかるだろ?」

呪術士「………」フイッ

勇者「……無視だもんなぁ……」

呪術士「……あなた、随分と余裕があるみたいですねぇ? あんなことしておいて……!!」ピクピク

勇者「いや、初めてじゃないからな、こういうこと……自慢になんないけど」

呪術士「ほう? 初犯ではないと」

勇者「初犯? まぁ、あの頃は日常茶飯事だったからなぁ……」

勇者(敵に捕まって拷問されたりとか。懐かしいなぁ……二度とごめんだけど)ハハッ

呪術士「日常茶飯事……!! 常習犯ということですか!!」


562: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/15(金) 01:09:05.02 ID:0ApPp6h40

勇者「まぁ、あの時の俺はまだまだ青かったってことだな」アハハ

呪術士「そうですか……これはもう殺すしかないようですね」

勇者「ちょっと待てお嬢さん、なぜその様な結論に至ったんだ?」

呪術士「あなたの様な変 、一分一秒でも生かしておけません。このまま殺します」

勇者「なんだよそれ!? 俺が何したって言うんだよ!?」

呪術士「あんた、さっきまで僕のベッドでクロールしながらはしゃいでたじゃないですかぁぁぁああああ!!」

勇者「ん? それがどうした?」

呪術士「更正の余地無し! 即刻死刑!!」

勇者「だからなんでだよ!?」

呪術士「ではど変 のあなたに聞きます! 僕のベッドでなにをしてたんですか!?」

勇者「なにをって……豪華なベッドだったんでつい……」

呪術士「どうせ僕のベッドで匂いを嗅ぎながら持て余した獣欲を発散させるつもりだったんでしょう!?」

勇者「なっ!? そんなことするか!!」

呪術士「ぎるてぃ!!」


ズドンッ!!


勇者「……て、てめっ……本の角で……!!」プルプル

呪術士「嘘をついた罰です!」


563: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/15(金) 01:12:25.37 ID:0ApPp6h40

勇者「おい! お前なにか勘違いしているだろ! 俺はただ単純に豪華なベッドの感触を楽しもうとしただけでそういった意味では断じて……」

呪術士「うるさいうるさい!! あなたにわかりますか? 二度寝しようと思ってテントに入ったら変 が僕のベッドを蹂躙しているのを発見した僕の気持ちが!!」

勇者「蹂躙って……」

呪術士「この変 ! カメムシ! 人間のクズ!!」

勇者「だから俺は変 じゃねぇ!! ていうかカメムシってなんだよ!?」

呪術士「あんたなんかカメムシで十分です! ふざけんじゃないですよ! あまりにびっくりしすぎて僕ちょっともらし……!!」ハッ

勇者「………え?」

呪術士「/// なんでもありません!!」

勇者「………漏らしたのか?」

呪術士「なんでもありません」フイッ

勇者「びっくりしすぎて漏らしっちゃったのか?」

呪術士「うるさい!!」ゲシッ

勇者「おうふ!! 蹴りはやめろよ蹴りは!!」

呪術士「僕は悪くありません!! あなたが全面的に悪いんです!! この変 野郎!!」

勇者「変 じゃねぇって言っておろうが!! 俺、勇者!! 知ってるでしょ? 世界を救った英雄!」


564: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/15(金) 01:13:51.22 ID:0ApPp6h40

呪術士「あなたの様なだらしなそうな変 が勇者様なわけがないでしょう!」

勇者「失礼しちゃうねぇ……この顔見ても俺が勇者じゃないって? ん?」キラッ

呪術士「そんなとってつけた様な作り笑いやめてもらっていいですか? 気持ち悪い」

勇者「どうして俺の周りにはこうキツイ女ばっかりなのかな……?」ハァ

呪術士「僕の知ってる勇者様というのはもっと上品で優雅で神々しい存在なのです! そう、まるで白馬に乗った王子様の様に……」キラキラキラ

勇者(誰だよそれ……)

呪術士「とにかくあなたを今から然るべきところに突き出します! 覚悟してください!」

勇者「ああっと、それは勘弁。俺はただ商人貴族に『妖精』のことについて聞きに来ただけなんだって!」

呪術士「『妖精』?」

勇者「そうそう、妖精!! なんでもすんごい珍しいんでしょ? 売れば10億だとか!」

呪術士「……あなた、どこでそれを?」

勇者「商人貴族に聞いたの! そんで色々と協力して欲しいって言うからこうしてここに来たんだって! わかる?」

呪術士「……なんだ、金の話を嗅ぎつけてきた亡者ですか……汚らわしい」フッ

勇者「……本気で泣いてもいいですか」グスッ

呪術士「残念ながらあなたの様な変 が簡単に手を出せる代物じゃないですよ、妖精というものは」

勇者「ん? 捕まえるのが難しいのか?」

呪術士「もちろんそれもありますがね……妖精は戦乱を生む」

勇者「たかだかペットごときでそんな……なんだ? 奪い合いで血の雨でも降るってか?」ケッケッケ

呪術士「僕も昨日の一件でクライアントの真意を聞きましてね……ちょっと調べさせてもらったんです。妖精の能力について」

勇者「聞かせろ」

呪術士「あなたはものを頼む時の態度というものを知らないんですか?」

勇者「言わないとお前がびっくりしすぎて   濡らしちゃったってここにいる奴全員に言いふらす」

呪術士「……それ脅迫じゃないですか」

勇者「うん!!」ニカッ


575: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/16(土) 22:35:19.07 ID:bSwbGCwa0
 

呪術士「その状態でよくそんなことが言えますね……馬鹿なんじゃないですか?」

勇者「呪術士タソはぁぁあああああああ!!!!」

呪術士「うわぁぁぁあああああ!!! ストップストップ!!」

勇者「   ちゅおおおおおおおおおお!!!!!」

呪術士「……『黙れ』」ズォッ

勇者「ムゴッ!!」ピタッ

呪術士「ふふっ、どうです!? 僕が開発した呪術の力は? あなたの口を塞ぐなんて簡単なんですよ」

勇者「ムー!! ムー!!」ジタバタ

呪術士「僕の呪術は『闇の力』! 対象の動きを制限し、支配する! 例えそれが誰であったとしてもです!」

勇者「………」

呪術士「このまま息の根止めてやりましょうかね」フッフッフ

呪術士「さぁ、この僕に恐れ慄き崇め奉りなさい!」

バキンッ

勇者「……やめておけよ、そんな覚悟もないくせに」

呪術士「なっ!? またしても僕の完璧な呪術が……どうして!?」

勇者「悪いことは言わねぇ。遊びで済んでいるうちにその力を手放せ」

呪術士「い、嫌です! 誰があんたの様な変 の言うことなんか!」

勇者「闇の力なんて簡単に手を出していいものじゃないんですよ。それも履いてるくまさん   におしっこ漏らしちゃうようなおこちゃまなお嬢ちゃんにはまだ早……」

呪術士「ぎ、ぎるてぃ!!」

ズドンッ

勇者「」プシュー

呪術士「誰がくまさんですか!! 殺しますよ!」






576: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/16(土) 22:36:12.80 ID:bSwbGCwa0

呪術士「まったく、口ではあんなこと言っておきながら結局は 欲の塊なんですね。僕はあなたの様なくだらない存在が大っきらいなんですよ。どうです? これからの世界のために僕が楽に殺してあげますよ?」フフンッ

勇者「」チーン

呪術士「あ、あれ?」

勇者「」チーン

呪術士「も、もしもし?」フリフリ

呪術士「あ、あの……」ペシペシ

勇者「」

呪術士「気絶……しちゃったんですかね? でもなんかその割に……」

勇者「」チーン

呪術士「ま、まさか今ので死ん……」ハッ

呪術士「い、いやいやそんなことありえません。たかだか本の角で叩いた位で人間死んだりなんか……! 人を殺すにはもっと鈍器のようなものでないと……」チラッ

呪術士「600ページの魔術書は……鈍器にカウントされるんでしょうか?」

勇者「」チーン

呪術士「あ、あの……いい加減冗談はよしてくださいよ! 本当に……ね?」

勇者「」

呪術士「お、起きてくださいよ……!! わ、私本当はそんなつもりじゃ……!!」ユサユサ

呪術士「ねぇってば!!」

勇者「」

呪術士「起きてくださいよぉ……殺すつもりなんかなかったんですよぅ……!!」

呪術士「ごめんなさい……ごめんなさいぃぃぃ!!」グスッ


577: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/16(土) 22:37:09.55 ID:bSwbGCwa0

勇者「どっせい!!!」ピラッ

呪術士「……え?」

勇者「おお! くまさんかと思ったらシマ  だ!」

呪術士「……は?」

勇者「くまさんだと思ったんだけどなぁ! まさか外すとは……魔法使いの時は百発百中だったのに! 俺も落ちたな……」フッ

呪術士「……し、死んだんじゃ……?」

勇者「一つ教えてやる! 『600ページの魔術書』は十分鈍器です!」

呪術士「……ふぇ?」

勇者「実際にやったら本当に死んじゃうから良い子のみんなはマネしないように! お兄さんとの約束だ!」

呪術士「………あ、あなたはなにを……」


578: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/16(土) 22:38:31.08 ID:bSwbGCwa0

勇者「人の死を悲しむことができる奴が『闇の力』を使っちゃダメだ」

呪術士「!!!」

勇者「今の君ならまだ引き返せる。すぐにその力を捨てるんだ。わかったな?」

呪術士「………」ウツムキ

勇者「………さて、商人貴族の奴も帰って来ないし、帰るとしようかな?」スクッ

呪術士「ちょっと!!」

勇者「いいか? その力を使い続ければ君はいつか必ず不幸になる。それだけは忘れないように……」スタスタ

呪術士「待ちなさい!!」

勇者「……あばよ」フッ

579: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/16(土) 22:39:10.20 ID:bSwbGCwa0






呪術士「……『停滞』」ズォッ

勇者「ぬほう!!」ビターン

勇者「ちょ、ちょっと!? 今せっかくかっこよく決まった所なのに!? しかもあんた俺の話聞いてました!?」

呪術士「んなことはどうでもいいんですよ!!」バチコーン

勇者「グハッ!! いやマジでそれは本当に生命を脅かすタイプのやばいやつだから!!」

呪術士「今更スカート   ってなんですか!! なに勝手に人の 着見て自分の力の衰えを感じ取ってるんですか! あんた馬鹿ですか!? じゃなかったら変 かなんかですか!?」

勇者「だから俺は変 じゃねぇって!!」

呪術士「うるさいうるさい!! 死ね! 一時間ごとに死ね! 24回死ね!!」バシッバシッ

勇者「無茶苦茶なこと言うなよ!」

呪術士「それくらい乙女の 着には価値があるんですよ! ろくでなしのクズ1人じゃ精算なんてでくるわけないでしょう!!」

勇者「その 着だってなんか意味深なシ……」

呪術士「きゃぁぁあああああ!! 変 !! 変 !! 細胞すら残さずにしねぇぇええええ!!!」

勇者「ああああ!! 今のは流石に言いすぎた! 悪かった! 悪かったからいい加減にゆるしてぇぇえええ!!!」


580: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/16(土) 22:39:47.32 ID:bSwbGCwa0



戦士「うるせぇぞ、呪術士! なにを騒いでやがる!!」

呪術士「団長! 聞いてください! この男、僕のベッドでクロールで死んだふりでシマパンなんです!!」

戦士「ああ? なんだそりゃ?」

勇者「おい! そんな言い方したら俺があたかも変 みたいだろ!」

呪術士「自分のやってきたこと考えろや! おんどれぇぇぇええええ!!!」

戦士「て、てめぇは!?」

勇者「ちょ、ちょっと! そこのお方! この暴走少女止めて! 俺、もうすでにこいつに何回も暴行をされてるの!!」

戦士「……ああ、そうだな」ジャキンッ

呪術士「止めないでください、団長! この変 は生かしいておくわけにはいかないんです!!」

勇者「うっせー! さっきまで無様に泣いてたくせに! このおもらしボクっ娘!」


581: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/16(土) 22:40:27.36 ID:bSwbGCwa0

呪術士「僕、漏らしてないです!!」

勇者「じゃあ、さっきのシマパンの『あれ』なんだよ!」

呪術士「うるさぁぁぁあああいい!!」

勇者「ちょ、ちょっと大人の人! 早くこの子止めてってば!! あの本、間違いなく凶器だか……」

戦士「ああ……止めてやる」


ズダァァンッ!!


呪術士「……だ、団長?」

勇者「ちょ、ちょっと……これは流石に冗談じゃない感じ?」パラパラ

戦士「ああん? 止めてやるさ。止めてやるよ……ただし」

戦士「てめぇの息の根の方をな!!」


582: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/16(土) 22:42:00.53 ID:bSwbGCwa0

勇者「あちゃー……もしかしてその子、おたくの娘さんとか? でも安心して! あなたの娘さんは俺に反応するかもしれないけど俺の息子はペタンコには反応しな……ゲフゥ!!」

呪術士「なんかよくわからないですけどものすごく馬鹿にされた気がします!!」

勇者「……純粋なのーね……」プスプス

戦士「てめぇ……なんで俺を選ばなかった?」

勇者「選ぶ? なんのこと?」

戦士「とぼけるな!! 俺はなぜあの時俺じゃなく、剣士を選んだのかを聞いてるんだ!!」

勇者「なんかそういう言い方されると俺がそういう趣味の人に見られるからやめてくんない!?」

呪術士「まさに 欲の権化ですね、人の形してればなんでもいいんですか? 空気が汚れるんでこれ以上呼吸しないでください」

勇者「てめぇ、後でもう一回泣かすからな!」

呪術士「僕は泣いてません!!」

戦士「違う! そういうことじゃねぇ!! 俺が聞いてるのはなんで俺を勇者のパーティに選ばなかったのかってことだ!!」

勇者「………勇者のパーティ?」ハテ?


587: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/17(日) 21:51:46.77 ID:7QZT2U1h0

戦士「忘れたとは言わせねぇぞ! てめぇは四年前に王都で行われた選考会で俺を選ばずに剣士を選んだんだ!」

勇者「ああ! あったねぇ……そんなこと!」

呪術士「そんなことって……」

戦士「何故だ!? なぜ俺ではなくあんな若造を選んだ!? 実力ならあの時でも俺の方があいつより数段上だったはずだぞ!!」

勇者「うーん、でも結局パーティの編成決めたのは俺じゃなくて『あいつ』だし……」

戦士「俺は勇者と共に冒険することが小さい頃からの夢だったんだ……なのに! お前は俺ではなく剣士の奴を選んだ!! こんなこと納得できるか? 理由を教えろ!!」

勇者「そんなこと言われてもなぁ……うーん……」

戦士「なんだ? 俺がお前の仲間になれなかった理由はなんなんだ?」


勇者「………顔じゃない?」


戦士「……あ?」

呪術士「一番ダメなタイミングで一番ダメなこと言っちゃいましたよこの変 ……」


588: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/17(日) 21:54:05.69 ID:7QZT2U1h0

勇者「勇者のパーティでしょ? ほら、世界を背負って魔王に立ち向かう訳で。いろんな人から注目されるわけよ。だったらやっぱり見た目って大事だと思うよ?」

勇者「ほら、俺と剣士が並んで戦ってたらそこそこ画になるじゃない? 方や『超絶イケメンの勇者様』だし、方や『顔だけはいいヘタレ解説係』だし」

呪術士「ちょっとその辺にしておいた方が……」

勇者「君、よーく考えてみな? この画に剣士じゃなくて君みたいな筋肉ゴリゴリの子が立ってたらどう思う?」

戦士「………」

勇者「どう思うって聞いてるんだけど?」

戦士「………勇ましく戦っているな、と」

勇者「いや、思わないよー、世間の人はそんな風に思ってくれないよー。良くて『ゴリラと調教師』だよー」

呪術士「ブフゥ!!」プルプル

勇者「確かに君は強いかもしれない。実際にあのヘタレよりも強かったんでしょう。だけど君を勇者のパーティにいれるとね、なんかそれだけでこっちが悪者みたいな感じになっちゃうのよ、わかる?」

勇者「その辺りを考えて『あいつ』は剣士を選んだんじゃないかなぁ?」

戦士「………」シューン

呪術士「傷口に塩をコークスクリューでねじ込みましたね……」


589: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/17(日) 21:54:36.64 ID:7QZT2U1h0

勇者「あれ? 俺さっきから『あいつ』って言ってるけど誰のこと言ってんだっけ?」

呪術士「そんなこと知りませんよ!」

勇者「あれぇ……あいつ……あいつ……うっ!!」ズキッ




銀髪の青年「やらなければならないことがある……そのために俺はこの剣を抜いた」

眼鏡の少女「わ、わわわわわたしししし……魔法学校にとともだちがいなくててて……!!」」

赤髪の女性「別にこの世界がどうなろうと知ったことではありません。明日野垂れ人でも文句は言えないんですから」




???「えへへ、また一緒に冒険できるね! ユーシャ!!」





590: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/17(日) 21:55:29.16 ID:7QZT2U1h0


勇者「うううう……ああああああ!!!」

呪術士「こ、今度はなんですか!? また私を驚かせようとしてるんですか!! もうその手には乗りませんよ!!」

勇者「あああああああああ!!!」

呪術士「え、あの……大丈夫です?」

勇者「ハァハァハァ………いや、ごめん大丈夫……ちょっと色々と思い出しただけだから

呪術士「それにしては尋常じゃない汗ですけど」

勇者「ああ、汗を拭いたいな。君の   を貸してくれな…」

ズドォォォン!!!

呪術士「心配したこっちが馬鹿でした!」

勇者「痛てて……ちょっとは優しくしなさいよ!」

呪術士「うっさい変 !!」

勇者「……とまぁ、理由をつけるならそんな感じじゃないの? 実際のところはどうか知らないけど。俺、この件に関してはノータッチだから。お分かり?」

戦士「なるほど……俺は剣士に比べて外面が劣るから勇者のパーティに入れなかったと……」

勇者「違う、『劣る』じゃなくて『圧倒的に劣る』だぞ」

戦士「そんなんで………納得できるかぁぁぁぁあああああああああああ!!!」

591: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/17(日) 21:56:27.05 ID:7QZT2U1h0

勇者「納得しろぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」ゴゴゴゴゴ

戦士「!!??」

勇者「お前はブサイクだ。もうそれはもうブサイクだ。ゴリラといい勝負だ、というかゴリラだお前は!」

戦士「て、てめぇ……」

勇者「お前みたいな自分のことをなんにもわかってないゴリラが町中を平然とさも『俺は美形ですよ?』的な顔で歩いてるの見るとイライラするんだよ! 俺は!!」

戦士「俺は別に自分のことをそんな風になんか思ってねぇ!!」

勇者「いいですか! あんたみたいなゴリラはさっさと森に帰りなさい! ほら、バナナあげるから!」スッ

戦士「そんなもんいるか!!」

勇者「ちょうどすぐ近くに森もあるんだから木に登ってドラミングでもしてきなさいよ!」

戦士「殺す!! こいつ今すぐ殺してやる!!」

勇者「ああん!? 人間様の力教えてやろうかこのクソゴリラ!!」

戦士「上等だ!!」

勇者「おら! かかってこいやおら!!」バキンッ

呪術士「またしても僕の完璧な呪術が簡単に……」シューン

戦士「行くぞ勇者!!」

勇者「来い! クソゴリラ!!」


592: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/17(日) 22:02:04.55 ID:7QZT2U1h0


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


勇者「なんだ?」

戦士「地震か!?」

呪術士「結構大きいですね……!!」

戦士「あれは……」

勇者「どうした? 森のある方角なんか見つめて、故郷に帰りたくなったのか……ってなんだあれ?」

呪術士「あれは高濃度の魔力が放出された時に出る『光の柱』? でもどうやって? 自然界ではもうほとんど見られない現象のはずなのに……」


ガチャッ!!


賢者「ちょっと!? どうなってんのよ今の地震!!」

勇者「うわぁ!? 化物!?」

賢者「誰が化物じゃコラァ!!」

呪術士「賢者さん……その顔に張り付いたものはなんですか?」

賢者「ああ……つけっぱなしで来ちゃったわ。お肌のお手入れ用品よ♪ 昨日は遅かったから今のうちにやっておこうと思ってね♪」ペリペリペリ

呪術士「そうですか……あんまり人前にそれで出ないでくださいね……びっくりするんで」


593: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/17(日) 22:03:52.00 ID:7QZT2U1h0


暗殺者「………」シュタッ


賢者「きゃぁ! いきなり出てこないでよ馬鹿!」

暗殺者「………」シューン

戦士「……暗殺者、なんか用か?」

暗殺者「………」スッ

戦士「森? あの光の柱のところになにかあんのか?」

暗殺者「………」コクコク

呪術士「もしかして……妖精ですか?」

賢者「ああ、昨日商人貴族様が言ってたやつのこと? なに、あそこに行けば妖精がいるの?」

暗殺者「……?」

賢者「はっきりしないわね……なんか喋りなさいよあんた!」ガンッ

暗殺者「……!!」ビクッ


594: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/17(日) 22:06:30.63 ID:7QZT2U1h0

戦士「よせ、とにかくクライアントは『妖精』を求めている。依頼を完遂するには妖精とやらが必要だ。行くぞ」

呪術士「依頼を完遂するのが傭兵の勤めってわけですね……わかりましたよ」ハァ

賢者「えー!! また働くのー! まだお手入れの途中なのに!」

呪術士「安心してください、手入れしたところでたかが知れてます」

賢者「むかっ! あら……あんたの方こそしっかり栄養取らないといけないんじゃなくって?」

呪術士「それはどういう意味ですか?」ストーン

賢者「別にー」

呪術士「………年増」ボソッ

賢者「……ペチャパイ」

呪術士「無駄な努力!」

賢者「絶壁!!」

呪術士「行きおくれ!!」

賢者「まな板!!」

呪術士・賢者「「ムッキー!!!」」ガシィ

戦士「行くって言ってんだろうが!!」

呪術士・賢者「「フンッ!!」」

戦士「……ったく、毎度毎度……!!」


595: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/17(日) 22:07:30.08 ID:7QZT2U1h0

呪術士「早く行きましょう、団長。これ以上待たせると賢者さんがさらに売れ残ってしまいます!」

賢者「そうね、時間は有効に使わないとねぇ? あんたが毎日やってるバストアップ体操はまったくもって時間の無駄だけど!」

呪術士「なぜそれを!?」

賢者「あら、その結果がこれ? 笑っちゃう!」オホホ

戦士「目標! 妖精の捕獲!! 行くぞ!!」

勇者「おおおおおおお!!!!」

戦士「ちょっと待て」ガシッ

勇者「おうふ!!」ビターン

賢者「……さっきから気になってたんだけど誰こいつ? 新入り?」

呪術士「それが……

勇者「あ、どうも! みんなのアイドル勇者さんです! よろしくー♪」

603: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/19(火) 21:35:42.16 ID:XteSgiYa0

呪術士「……とかのたまわってる変 野郎です」

賢者「……この人が世界を救った勇者様?」

勇者「そうでーす♪ ほらお前ら、早く俺を崇め奉れ!」

呪術士「調子にのるな!」


ズドンッ


勇者「……それ本当に死んじゃうからやめてくんない? 呪術士タソ……」

賢者「本当に勇者様なの? なんか前見た時よりも随分と印象が違うけど……」

戦士「間違いねぇ!! こいつが勇者だ!!」

賢者「だったら、もう直接聞いちゃえば? あんたがパーティに入れなかった理由。そうすりゃスッキリするでしょ?」

呪術士「ちょ!?」

勇者「だからー、そんなもん顔しかないだろ?」

戦士「……」ピクピク


604: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/19(火) 21:37:48.41 ID:XteSgiYa0

賢者「顔? あー、顔! もしかしてあんた……顔で落とされたの!?」

勇者「俺もよくわかんないんだけどねぇ~」ヘラヘラ

呪術士「今度は傷口に硫酸ですかね……」

賢者「ぷっ……あははははは!! なに!? あんだけ悩んでうじうじしてた挙句、勇者を認めさせるために傭兵団まで作ったって言うのに原因は実力じゃなくて顔!? 馬鹿じゃないの!」アハハハ

戦士「う、うるせぇよ!!」

賢者「よかったじゃない! これで剣士との勝負も勇者との因縁もすっきり解消したってことでしょう?」

戦士「俺はまだあいつとちゃんと戦ってねぇ!!」

勇者「ん? なに? 君達、剣士と戦ったの?」

賢者「ええ、そうよ。昨日の夜にね」

呪術士「剣士さんは僕の呪術になす術もなかったんです!」フンスッ

戦士「美味しい所は全部お前らが持っていきやがって……俺はまだちゃんとあいつと戦ってねぇんだぞ!」

賢者「はいはい」

呪術士「余計な邪魔が入りましたけどね……!!」

賢者「本当、あいつなんだったのかしら? 私の魔法が全然効かないなんて……!!」

呪術士「言うに事欠いてこの僕に説教ですよ! 大きなお世話って感じです!!」

勇者「あれ? 話についていけないんだけど……君達、剣士と戦ったんだよね?」

呪術士「はい」

勇者「剣士はどうなったの?」

賢者「北の方に適当に飛ばしたわ。私の強制転移魔法でね」

勇者「え、なに? あいつ負けたの?」


605: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/19(火) 21:38:20.02 ID:XteSgiYa0

呪術士「まぁ、僕の呪術にひれ伏したといったところでしょうか」フンスッ

戦士「まだ決着はついてねぇ! あんな結末俺は認めねぇ!」

勇者「それであいつ朝からいなかったのか……ぷぷっ、だっせぇ!」ケタケタ

戦士「ちっ、無駄な時間過ごしちまった。さっさと行くぞ」

勇者「へい、旦那!!」

戦士「………呪術士、やれ」

呪術士「……『捕縛』」


ピシッ!!


勇者「ちょ!? 旦那? どうして俺を縛るんです?」

戦士「てめぇは後で十分いたぶってから殺してやる」

勇者「嫌だな、冗談きついっすよー!」


606: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/19(火) 21:49:28.27 ID:XteSgiYa0

戦士「冗談なんかじゃねぇ」

勇者「そんなこと言わないで、俺にも妖精の捕獲、手伝わせてくださいよ! いい金になるんでしょ? 妖精って! みんなで山分けしましょうって!」

戦士「ダメだ。てめぇは後で俺が殺す」

勇者「え? 俺勇者なのに?」

戦士「だからだよ! そんなふざけた理由で俺の夢を潰しやがって……!!」

勇者「んなの知るかよ! てめぇが筋肉ゴリラだからだろ! そんなに夢を叶えたかったら筋トレする前に整形してこい!」

賢者「……!!」ピクッ

呪術士「本当にクズですね、あんた。生きていて恥ずかしくないんですか?」

勇者「黙れお漏らしシマ  !」

呪術士「うがぁぁぁあああああ!!! また言った!! 漏らしてないのに!!」ジタバタ

賢者「ちょっと!? 呪術士!?」

勇者「いーや、間違いなく漏らしてたね! だって俺見たもの!」

呪術士「漏らしてないもん! 僕、漏らしてないもん!!」

賢者「あんたキャラ変わってるわよ!!」

勇者「やーい、呪術士タソのおもらしシマパーン♪」ケラケラ

呪術士「違うもん! 違うんだもん!!」

戦士「うるせぇ!! おら! 行くぞ!!」スタスタ

呪術士「うわぁぁあああん!!」ダダダダダ

勇者「お、おい!! 待てよ! せめてこの呪い解いてから出てけって!!」ジタバタ


607: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/19(火) 21:50:08.97 ID:XteSgiYa0

賢者「さてと……私も行こうかしら」

勇者「ちょっと! そこのお姉さん! この呪い解いて!!」

賢者「ああ、すっかり忘れてたわ」スッ

勇者「ほら、早く!! 俺も妖精取っ捕まえたいんだよ! もちろん報酬は山分けってことでさ!!」

賢者「……フンッ!!」


バキィ!!


勇者「ガッ!!」

賢者「私が戦士を馬鹿にするのは別にいいけどね……」

賢者「なんにもわかってないあんたが戦士を馬鹿にするのは許さないわよ……!!」ゴゴゴゴゴ

勇者「……!!」

賢者「わかった?」

勇者「そんなことよりさ、俺にも教えてくれない? 妖精のこと。商人貴族の奴、何考えてんの? 戦争でもやる気?」

賢者「豪炎魔法!!」ゴォ

勇者「あああああああああ!!!」

賢者「まぁ続きは帰ってからたっぷりしてあげる……それじゃあ自称勇者様。私達が帰ってくるまで大人しくしているように♪」スタスタ


608: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/19(火) 21:50:46.93 ID:XteSgiYa0



勇者「痛ってぇ……至近距離であれはいかんよ……あれは」

勇者「動揺させたら重要な情報の一つでも喋ってくれるかと思って色々と挑発してみたけど、見事に失敗しましたな……でも!」ハァ


バキンッ


勇者「こんな呪いで足止めを食らう勇者様ではないのでしたー♪」テッテレー

勇者「さーて、待ってろ10億……!! 必ず手に入れて見せるぜ!!」


シュルシュルシュル……ビシィ!!


勇者「ってあれ? 今度はなんだよ!?」グイグイ

暗殺者「………」コクコク

勇者「ああ、いたねぇ……そう言えば、すっかり忘れてたけども」


609: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/19(火) 21:51:17.79 ID:XteSgiYa0

暗殺者「………」フルフル

勇者「なに? やっぱり俺、行っちゃダメなの?」

暗殺者「………」コクコク

勇者「……解いてくんない?」

暗殺者「………」フルフル

勇者「うぉぉぉぉおお!! 解け! 解けぇぇぇぇええ!!」ジタバタ

勇者「目の前に儲け話が転がってるのにこのまま引き下がれるかぁぁあああ!!」ジタバタ

勇者「ダメだ! 硬ってぇ!! ビクともしねぇ!!」



暗殺者「……はない」

勇者「え?」

暗殺者「………今はその時ではない」

勇者「その時?」

暗殺者「………ただ……黙して待て」


シュンッ

勇者「おい!! 待てよ!!」

勇者「……喋れたのか、あいつ」

勇者「いやそんなことより、え!? もしかしてしばらくこのまま!?」

勇者「………マジ?」タラリ



614: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/21(木) 21:56:27.39 ID:pyFMleSs0

――光の柱付近――





院長「……心配しましたよ」シュタッ

「………」

院長「随分と探しました。さぁ、帰りましょう。みんなが待っています」

「………」

院長「なにか喋ったらどうですか?」

「………」

院長「……では、私から聞きます。あなたがこれを全部やったのですか?………悪ガキくん」


悪ガキ「……ふふ……あはは……えへへ……あはははははははははははははははははははははははは!!!!!!」


院長「答えなさい! 悪ガキくん!!」

悪ガキ「ああ、そうだよ! 全部俺がやったんだ!! すごいだろ!!」

院長「これじゃまるで……!!」

悪ガキ「まるでなんだよ? 勇者みたい?」

院長「違います! あなた、自分のやったことがわかっているのですか!」

悪ガキ「わかってるさ。信じられないなら見せてあげるよ。面白いんだぜ! 俺がこうやってちょっと手を動かすだけでさ……」カッ


ドゴォォォォォン!!!


悪ガキ「こんな風に全部が吹き飛んじゃうんだ! 思わず調子乗ってやりすぎちゃったぜ!」ゲラゲラ


615: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/21(木) 21:57:28.50 ID:pyFMleSs0

悪ガキ「でも流石にやりすぎちゃったかな。もう壊せるもの残ってないや」

院長「商人貴族はあなたになにをしたというんですか……!!」

悪ガキ「あのおっさんは俺に力をくれたんだよ! 勇者になる……いや、勇者を越える強さを俺にくれたんだ!!」

院長「悪ガキくん……」

悪ガキ「どうだよ、先生!! 俺、強くなっただろ!! 侍少女よりも、少年魔法使いよりも魔族少女よりも幼女よりも……勇者よりも!!」

悪ガキ「これで俺も勇者になれるよな? そうだよな!」

院長「………」

悪ガキ「なんで黙ってるんだよ? 俺、強くなっただろ!」

院長「悪ガキくん……今すぐその力を手放しなさい。あなたは勇者という存在を履き違えている」

悪ガキ「またかよ……先生もあのじいさんと同じこと言うんだな」

院長「勇者というものはそういうものではないんです」

悪ガキ「……もういいよ、わかった」

院長「わかった? なにをですか?」

悪ガキ「先生は俺の力に嫉妬してるんだ。そうなんだろう?」


616: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/21(木) 21:58:03.49 ID:pyFMleSs0

院長「違います! 私があなたに言いたいことはそういうことではないのです!!」

悪ガキ「俺の方が先生より強くなっちゃったからそんな意地悪言うんだよ! そうに決まってる!!」

院長「私の話を聞いてください!!」

悪ガキ「もういい……先生なんか『いらねぇよ』」シュンッ

院長「え?」


ザシュッ!!


院長「ぐっ……!!」

悪ガキ「なんだ、いつもみたいに避けないんだ。それとも見えなかった?」グリグリ

院長「がぁぁぁ!!」ゴフッ

悪ガキ「すごいだろ!! 今の俺なら簡単にあんたを殺すことができるんだよ……」ニタァ

院長「……悪ガキ……くん……私の話を……」

悪ガキ「あんたの話なんか聞いたってなんになるんだ? また俺に偉そうに説教するのか?」

院長「もちろんです……人を刺してはいけないと……私は教えたはずですから……!!」

悪ガキ「なぁ、今どんな気持ちだ? 自ら才能が無いって切り捨てた教え子にこうやって刺されるなんて、中々体験できないだろ?」

院長「あまりいいもの……ではありませんね……くっ」

悪ガキ「そっかー、じゃあ早めに終わらせてあげよっかなーなんて」ケタケタ

院長「?」


617: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/21(木) 21:58:46.69 ID:pyFMleSs0

悪ガキ「ここで先生に問題です。今先生の腹部には僕の腕が刺さっています。魔力で斬れ味を高めた手刀です。妖精の力ってこんなこともできるんですねー」

院長「悪ガキくん……やはりあなた……妖精を!!」

悪ガキ「あーちょっと黙っててくれる? 問題出してるのこっちだからさ……さて、ここからが問題です! この手から『一気に魔力を流し込んだら人間はどうなってしまうでしょうか?』」

院長「あなた……なにを考えて……!!」

悪ガキ「シンキングターイム!!」

院長(やはりこの力は妖精を取り込んだという……商人貴族はこんなものを世に送り出そうと言うのですか?)

院長(ここまで人を歪めてしまうものを!!)

悪ガキ「わかんないかなー? やっぱりそうかなー?」

院長「……ふざけるのも……大概にしなさい……!! 子供の悪ふざけにしては趣味が悪すぎますよ?」

悪ガキ「だったら聞くけどさ……」

悪ガキ「大人だったら子供の夢を叩き壊してもいいわけ? 悪ふざけにしては随分と趣味が悪いと思うけど?」

院長「!!!」

悪ガキ「正解発表~!! 正解はこうなりまーす♪」ゴォッ

院長「悪ガキく……!!」ブォッ


ボンッ!!

ビチャビチャビチャ……



悪ガキ「正解は『破裂してしまう』でしたー!!」ビチャビチャビチャ


618: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/21(木) 21:59:59.36 ID:pyFMleSs0

悪ガキ「ククッ……うへへへへ……あははははははははは!!! 」

悪ガキ「すげぇ……これが『妖精憑き』の力……」チラッ

院長「」

悪ガキ「ちょっ……!! どうしちゃったの先生? なにか返事したら? それにしても情けないよ、先生! だって俺がちょっと魔力流し込んだら……ボンッって!! ボンッていったよ!! なんだよ! 随分と呆気ないじゃん!!」ゲラゲラゲラ

悪ガキ「なんだよ、先生! こんなもんかよ! 大したことねぇなぁ!! こんなんで! こんなんで俺に才能がないって決めつけたのか!? こんなんで俺のことを否定したのか!?」

悪ガキ「どうだよ! 俺はあんたに勝ったぞ!! 俺はあんたに勝ったんだ!! これでもまだ俺に才能が無いっていうのかよ!! 答えてみろよ!!」

院長「」

悪ガキ「ああ、そうか。その状態じゃ無理か!! 無理だよな!!」

悪ガキ「あはははははははははははははは!!」











院長「……盛り上がってるところ申し訳ないのですが」シュタッ

悪ガキ「え?」

院長「あなたは35点です。悪ガキくん」


632: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/25(月) 21:55:13.96 ID:QR7pxrAF0

悪ガキ「はぁ!? なんであんたがそこに……?」

院長「なにかおかしなことでも?」ハテ

悪ガキ「おかしいだろ!? だって今こうしてあんたは……!!」バッ

院長「先生をあんたと呼んではいけません。2点減点」

悪ガキ「死体が……無い」

院長「戦闘は最後まで気を抜いてはいけません。敵が明確に死んだとわかるまで油断しないこと……これも2点減点ですね」

悪ガキ「あんた俺になにをした!!」

院長「敵にそんなことを聞いて答えてくれると思いますか? さらに2点減点です」

悪ガキ「うぐ……」

院長「減点ですが先生は敵ではありませんので教えてあげましょう。簡単なことですよ。ちょっとした幻想魔法です」

悪ガキ「幻想魔法?」


633: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/25(月) 21:56:04.48 ID:QR7pxrAF0

院長「はい。『現役時代』によく使ったんですよ。追っ手から逃げるのにはこの魔法は最適です」

悪ガキ「俺はその幻想魔法ってのにかかってるっていうのか!」

院長「その通り。あなたがここで暴れだす前から……もちろん私を刺し、殺そうとしたことも私が見せた幻です」

悪ガキ「あれが……幻?」

院長「そう、あなたはただ勘違いしているだけなのですよ。『自分が妖精を取り込み、強くなった』と」

悪ガキ「じゃあ、俺がさっきまでやったことも全部……」

院長「ええ、私が見せた幻……」

悪ガキ「嘘だ……」

院長「嘘じゃありません。こうして二人で話しているこの時もあなたは私の術の影響下にいます……例えばこのように」


スゥ……


悪ガキ「増えた!?」

院長「「二人になることなど造作も無いこと……この空間では全て私の思い描いた通りになるのです」」

悪ガキ「そ、そんなことあってたまるかよ!!」


634: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/25(月) 21:56:43.70 ID:QR7pxrAF0


スゥ……


院長「「「あなたが妖精の力なんてありもしない力を手に入れたことも」」」

悪ガキ「全部……幻だっていうのかよ!!」


スゥ……


院長「「「「あなたがその力で辺りを更地に変えてしまったことも」」」」

悪ガキ「じゃあ……俺はなんのために……!!」


スゥ……


院長「「「「「私を刺し、殺そうとしたことも」」」」」

スゥ……

院長「「「「「全ては私の見せた夢、幻なのです」」」」」」

スゥ……

悪ガキ「これが……幻想魔法……!!」

院長「「「「「あら、そういえば結局悪ガキくんの点数は最終的に29点になってしまいましたね……残念ながら赤点です」」」」」

悪ガキ「赤点?」

院長「「「「「今回ばかりは少々キツめのオシオキを受けてもらうとしましょうか」」」」」


ワラワラワラワラワラ……


悪ガキ「く、来るな……!! 来るなよ!!!」

院長「「「「「悪い子にはオシオキをしなければなりません……覚悟はいいですか?」」」」」

悪ガキ「やだ……いやだ……俺は勇者になるんだ!! 絶対になるんだ!!!」


院長「やりなさい」

「「「「「「!!!」」」」」」


ドドドドドドドド……


悪ガキ「うわぁぁぁぁあああああ!!!」



635: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/25(月) 21:57:26.39 ID:QR7pxrAF0


院長「大丈夫……これは夢です。ただの夢」

院長「眠りなさい。全てが幻に変わるまで……全てが夢だと気づくまで」

院長「それでは悪ガキくん……いい夢を」

「先生もね?」

院長「え?」バッ


悪ガキ「うわぁぁぁあああああ!! やめろ!! やめてくれぇぇぇぇええええ!!!」



院長「気の……せいですか。いけませんね、心を乱しては……悪ガキくんの『夢』に悪影響が出てしまいます」

院長(そう、これは夢なんです。目が覚めればあなたは元の正しい道を進むあなたに戻っていると私は信じています……)

「正しい道ぃ? お前がそんなこと言うのかよ?」

院長「誰です!?」

勇者「自分が今までしてきたことを思い出してみろって……盗賊」スタスタスタ


636: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/25(月) 21:58:18.40 ID:QR7pxrAF0

院長「勇者さん!? 子供たちの前でその名前で呼ばないで欲しいとお願いしたでしょう?」

勇者「なんでだ? お前は昔も今も人のものをかっぱらう薄汚れた盗人だろ?」

院長「勇者さん?」

勇者「盗みはもちろん、恐喝、暴行、放火、なんでもござれの大悪党が今となっちゃガキ共の前で聖職者気取ってんだもんなぁ……これが笑わずにいられるか?」ケタケタ

院長「そんな! 確かに盗みはやりましたが放火なんてしたことないですよ!!」

勇者「どうだか? お前、自分のことほとんど俺たちに話さなかったろ? 信用しろって方が無理な話だ」

院長「誰にだって話したくないことくらいあるでしょう?」

剣士「では私たちと一緒に冒険したことも子供たちには話せないことだったのか?」

院長「剣士さん?」

剣士「そうだろう? だから君は子供たちの前で『正体不明の先生』というキャラクターを作り上げた。嘘で塗り固められたキャラクターをね。そして我々にも子供達と同じように自分自身のことを『先生』と呼ぶように言った」

剣士「……自分の正体を隠すために」ニタァ

院長「私は……そんなつもりはこれっぽっちも……」

剣士「魔族少女のためにここに孤児院を建てたなんてのも本当は嘘だろう?」

院長「嘘じゃありません! まだ魔族と人間との確執は続いていて……」

剣士「だが真実はそうじゃない! 君は自分の正体を子供達に知られたくなかっただけなんだ。王都にいればいくら隠しても君の正体はいつか子供達に知られる……そう」

剣士「勇者のパーティーの1人……『盗賊』。それが君の本当の顔だ」


637: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/25(月) 21:59:20.89 ID:QR7pxrAF0

勇者「あーあ、ガキを言い訳に利用するなんて最低だなぁ! 盗賊さんよ!!」

剣士「君は嘘つきだ。真実を全て隠し、偽りの仮面で子供たちをたぶらかす魔女だ」

勇者「誰にも真実を見せず、お前は嘘をつき続けた。子供たちを盾にして自分を守るために」

剣士「正直、君には失望したよ。そんな人だとは思わなかった……今の君は美しくない」

院長「そんな……違うんです!! 私は本当に子供達のために!!」

「子供達のため? 本当にそうかのう?」

院長「……魔法使いちゃん……どうして?」

魔法使い「本当に子供達のことを思うなら、なぜ商人貴族の申し出を断った? 彼らが望む環境を提供できたチャンスであろう?」

院長「それは……商人貴族が信用できなかったから……」

魔法使い「それも嘘じゃ」

院長「嘘じゃありません!!」

魔法使い「……じゃが嘘じゃ無くても本当の理由ではないじゃろう?」

院長「………」


「また1人に戻りたくなかったんでしょう?」


院長「そんな……あなたが……どうして?」

???「商人貴族の申し出を断れば子供達はあなたの手を離れてしまう。そうしたらまた昔の様にあなたはひとりぼっち。魔王との戦いで仲間のぬくもりを知ったあなたには昔のようにひとりに戻ることが耐えられなかったのよ」

院長「違います……そんなんじゃないんです……私は本当に……」

???「そんなことないのにね」

院長「え?」

???「嘘つきのあなたは永遠にひとりぼっちなのよ。こんな先生ごっこをしても無駄。あなたの心は盗賊時代のまま……ずっと孤独なまま」


638: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/25(月) 21:59:53.76 ID:QR7pxrAF0

院長「ち……違います……!! 私は孤独なんかじゃ……!! 私には子供たちが……」

???「いくら言い訳や理由を並べても無駄。私達は全部わかってる」

勇者「正直言って魔王倒したらお前みたいな犯罪者と連むのはごめんだしなー、仲間面されるのも迷惑だし」

院長「犯罪者……」

剣士「王国騎士団の団長として貴様の様な逆賊を許すわけにはいかないな」

魔法使い「お主は罪人じゃ」

院長「逆賊……罪人……」

???「それに嘘つきのあなたを見て、子供たちはどう思うのかしらね?」

院長「どうって……」ハッ

少年魔法使い「………」

侍少女「………」

魔族少女「………」

院長「みんな……」


639: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/25(月) 22:00:33.34 ID:QR7pxrAF0

侍少女「まさか先生が盗賊だったとは知らなかったでござる!!」

院長「待って! 違うのよ!! 私はそんなんじゃ……」

少年魔法使い「この後に及んでまだ言い訳ですか? 見苦しいですよ?」

院長「話を聞いて! お願い!!」

魔族少女「……先生」

院長「魔族少女ちゃん……お願い、信じて! 私はそんなんじゃ……」

魔族少女「罪人風情が気安く私達に喋りかけないでください。不愉快です」

院長「!!!」


勇者「よーし、みんな!! 課外授業だ! これからお前たちに勇者の仕事を体感させてやる!」

院長「勇者の仕事……?」


「「「わーい!!」」」


勇者「あそこにいる奴はなんだー?」


「「「悪い奴ー!!!」」」


勇者「勇者は悪い奴をー?」


「「「ぶっ殺すー!!!」」」


院長「ちょっと……待ってください……勇者さん……」

勇者「それじゃあみんなー、あいつをぶっ殺す準備はいいかー?」


「「「はーい!!」」」



640: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/25(月) 22:02:38.35 ID:QR7pxrAF0

院長「私はまだこの子たちになにも……」

魔法使い「盗賊、覚悟はいいか?」スッ

剣士「地獄で悔い改めろ……逆賊め!!」チャキッ

???「祈りの言葉くらいは手向けてあげる……安心して逝きなさい」スチャッ

院長「残せていないのに……」

侍少女「潔く死ぬでござる……それが武士というもの!」チャキッ

少年魔法使い「ここまでの恩はありますからね。せめて楽に死なせてあげますよ」

魔族少女「早く私の視界から消えてください……先生?」

院長「こんな終わり方……」

勇者「それがお前の……罪人の末路だよ。残念だったな」

院長「うううう……」ガクッ

勇者「じゃあな、盗賊。こんな幕引きがお前にはお似合いだよ」チャキッ


パリィィィィィン!!!!



646: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/27(水) 21:37:09.09 ID:XAsA5Ruo0

院長「……え?」ハッ

悪ガキ「へぇ、こうやってやるんだ。なんだ幻想魔法っての割と簡単じゃん」

院長「あ……あ……」ガタガタガタ

悪ガキ「へへっ、いい夢、見れた? 先生?」

院長「あなた……私の魔法を……」

悪ガキ「へへっ、名づけて! 必殺! 幻想魔法返し!! なんちってー!!」ケタケタ

悪ガキ「それにしてもビックリだぜ、先生が勇者のパーティーだったなんて!」

悪ガキ「あれ、ちょっと待てよ? そんな先生に勝っちゃう俺って……もしかして最強!?」

悪ガキ「すっげー! 妖精の力ってやっぱりすっげー!!」

院長「……まだです……私はまだ負けていません……!!!」スクッ

悪ガキ「無理しない方がいいんじゃない? 適当に先生のトラウマいじったけど、結構辛いと思うけど?」

院長「私のことはどうでもいい……でも今のあなたは……とても危険です……このまま放っておくわけにはいかない……!!」ガタガタ

悪ガキ「そんな震えながら言われてもなぁ……格好悪いぜ?」

院長「それでも……私は!!」シュンッ


悪ガキ「なに!?」

院長「あなたを正しい道に……導く!!」


647: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/27(水) 21:38:16.21 ID:XAsA5Ruo0

悪ガキ「くっ……どこだ!! どこにいる!?」

院長(とった!!)


ガキィィン!!


悪ガキ「なーんて♪」クルッ

院長「しまっ!?」


ズバッ!!


院長「ガッ……」


ドサッ


悪ガキ「今度こそちゃんと当たったよね? 先生?」

院長「私の動きに……合わせたというのですか……?」

悪ガキ「今の俺は『違うから』。先生の動きだってちゃんと見えるんだよ」ククク

院長「ここ……まで……とは……」バタッ

悪ガキ「俺、強くなっただろ? 勇者にだってなれるよね?」ガシッ

院長「きゃぅ……!!」

悪ガキ「もっと遊ぼうよ……先生?」フフッ


648: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/27(水) 21:38:52.47 ID:XAsA5Ruo0

院長「ううう………」

悪ガキ「ねぇ……もしかしてもう終わり?」ギリギリギリ

院長「ああああああああ!!!」

悪ガキ「なーんだ、つまんねぇの。じゃあもういいや」パァッ

院長「な、なにを……」

悪ガキ「今度こそ死んでよ……先生?」

院長「悪ガキ……く……」


「どわぁぁぁぁああああああ!!!」


悪ガキ「なんだ?」

地上げ屋「ご町内の皆様ー!! 今から『笑う赤鬼』がそちらに行きますので半径300メートルくらいは余裕をみて逃げてくだぶふぁんがんごごごごご!!!!」ズザーッ


シーン………



院長「人が……空から……?」


649: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/27(水) 21:40:46.59 ID:XAsA5Ruo0

地上げ屋「痛ててて……あ、よかった生きてる」スクッ

悪ガキ「あはははは!! なんだよそれ! 人が!! 人が空からって……!! んごごごごって!!!」

地上げ屋「母ちゃん、丈夫に産んでくれてありがとう!!」

悪ガキ「へへっ……」スッ

院長「あなた……なにをする気ですか?」

悪ガキ「ちょっと脅かしてやろうかなって……どんなリアクションするのか楽しみじゃん?」

院長「相手は一般人ですよ! やめなさい!!」

悪ガキ「うるさいなぁ……!!」


ドゴッ


院長「ガハッ!!」

悪ガキ「弱い癖に俺に口出しすんなよ」

地上げ屋「……ん? なんだ? あいつら?」

地上げ屋「おーい! ここどこですかー!! 見ての通り道に迷っちゃってー!!」

院長「早く逃げて!!」

地上げ屋「え?」


ビュンッ


地上げ屋「あれ、なんかデジャブ……」


ドゴォォォォン!!


地上げ屋「ははは……もう驚かねぇぞバッキャロウ……!!」ヒクヒク


650: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/27(水) 21:44:03.48 ID:XAsA5Ruo0

悪ガキ「あれー? 思ったより反応ないじゃん。もうちょっと慌てふためくかと思ったのに」

地上げ屋「昨日今日でびっくり人間は見尽くしてきたからな! 今さらガキの手からビームが出るくらい訳ないってんだよ!」

院長「そんなことはどうでもいいですから早く逃げて! ここは危険です!!」

地上げ屋「うるせぇ!! 俺は王都一の……」

院長「私の言うことが聞けないのですか!」

地上げ屋「ひ、人の名乗りくらいはちゃんと聞きやがれ! マナーがなってないぞマナーが!!」

悪ガキ「王都一?」

地上げ屋「なんだ坊主! 俺のこと知らねぇってのか? 知らねぇなら教えてやる! 耳の穴かっぽじってよーく聞き……」

院長「いいから逃げなさいと言っているでしょう!!」

地上げ屋「だから! 人の名乗りを邪魔するなってーの!! ここが俺の見せ場みたいなもんなんだから!!」

悪ガキ「なぁおっさん……王都一って本当か?」

地上げ屋「あ? 本当に決まってんだろ! 俺にかかればそりゃ、あれだよ! あれだ……うん! あれなんだよ!!」

悪ガキ「じゃあ、俺があんたに勝てば、俺が王都一ってことだよな?」

院長「!!!」

地上げ屋「誰がてめぇみたいなガキに負けるかよ! 大人なめんじゃねぇぞ!!」

地上げ屋(ここに来て既に3連敗ほどしてますが!!)


651: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/27(水) 21:46:49.86 ID:XAsA5Ruo0

悪ガキ「……そうか」ゴゴゴゴゴ

地上げ屋「お? おおお?」

悪ガキ「じゃあ、俺のために死んでよ。俺が勇者になるためにさ」

地上げ屋「へ?」

悪ガキ「あんたを殺して……俺は勇者になる!!」

院長「……くっ!!」シュンッ

地上げ屋「これはひょっとしてひょっとして……今までで一番ピンチな感じなのでは? あれ、今回は流石にギャグで済まない感じがする!!」

院長「だから先ほどから逃げてくださいと言っているでしょう!!」シュタッ

地上げ屋「なんだ!? またびっくり人間か!? 俺はもう腹いっぱいだぞ!?」

院長「逃げます! 手を!!」

地上げ屋「あ、ああ??」

院長「早く!」

悪ガキ「おっと! そんなことさせないぜ!!」バババババ

地上げ屋「よしてくれお嬢ちゃん。例え相手がガキだろうと実際は俺よりもはるかに強そうな相手でも喧嘩を売られたからには背中を見せちゃなんねぇ……それが男って生きも……」


ドゴンッ!!


地上げ屋「グハァ!!」

院長「御託はいいから掴まりなさい。殴りますよ?」

地上げ屋「も、もう殴ってるじゃない……」プルプル


652: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/27(水) 21:47:36.64 ID:XAsA5Ruo0

院長「さぁ、早く!」

地上げ屋「ちっ……わかったよ。なんだかよくわかんねぇけど捕まればいいんだな!!」パシッ

院長「行きます!!」シュンッ

地上げ屋「うお、はっえ!!」ギュンッ

悪ガキ「逃がすか!! これでもくらえ!!」

悪ガキ「オラララララララララ!!!!」


ビュビュビュビュビュン!!!


院長「当たる訳には……いきません!!」シュンッ

地上げ屋「う、腕が引きちぎれるぅぅぅう!!!」



悪ガキ「待て!! 逃げるのか! お前王都一強いんだろ!!」

地上げ屋「そんなこと言われましてもぉぉぉぉぉ!!!」




悪ガキ「ちっ……逃がしたか」

悪ガキ「……まぁいい。十分妖精の力は試せた。この力さえあれば俺は無敵だ」ククク

悪ガキ「せいぜい一生懸命逃げるんだな! すぐに見つけ出して先生共々俺がぶっ殺してやる!!」

悪ガキ「もう誰にも俺を馬鹿になんてさせない!! 俺は勇者になるんだ!! この力で!!」

悪ガキ「あはははははははははは!!!」


659: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/29(金) 23:57:57.69 ID:iF4AUcyq0


――森の中――



少年魔法使い「しかし、困ったな」

侍少女「完全に見失ったでござる」

魔族少女「どこに行ったんだろ、幼女ちゃん……」

妖精長「………」

侍少女「どうしたでござるか、妖精長殿? 先ほどから黙って……考え事でござるか?」

妖精長「う、うむ……」

少年魔法使い「なにか気になることでも?」

妖精長「……うむ、ひょっとしたらもう手遅れかもしれんと思うてな」

侍少女「なにを言ってるでござる! 我らが付いているでござるよ! 妖精長殿は大船に乗ったつもりでどっしりと構えているでござる!」

妖精長「ほほ……頼りにしておるよ」

魔族少女「でもどうして急にそんなことを?」


660: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/29(金) 23:59:34.88 ID:iF4AUcyq0

妖精長「うむ……先ほどからあの子と連絡が取れなくなっているのじゃよ」

少年魔法使い「テレパシーってやつか」

妖精長「その通り。そして先ほどから感じるこの強大な魔力……これはまさしく『妖精憑き』の……いや、弱気になってはいかんな。あの子ほどお転婆な子がタダで死ぬわけがない」

侍少女「そうでござるよ! やってりゃなんとかなるのでござる! 例え手遅れだったとしてもお腹を思いっきり殴れば出てくるかもしれないでござる!」

少年魔法使い「そんな強引な……」

侍少女「きっと妖精殿もお腹の中で『助けてー』と叫んでいるでござる! 望みを捨てちゃダメでござるよ!!」

少年魔法使い「いや、なんで食われてること前提なんだよ、縁起でもない」

侍少女「重要なのはどんな時でも諦めちゃいけないってことでござる!」

妖精長「そうじゃの。その通りじゃ!」

侍少女「その意気でござるよ!」


「……てー」


魔族少女「え?」バッ


661: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 00:00:08.98 ID:iF4AUcyq0

侍少女「どうしたでござる?」

魔族少女「ね、ねぇ…… 今、なにか聞こえなかった!?」

少年魔法使い「気のせいじゃないか?」

魔族少女「いや、でも今確かに……」


「助けてー」


魔族少女「ほ、ほら今! 助けてーって!!」

侍少女「お、早速妖精殿からのSOSでござるか!?」

妖精長「うむ、確かに聞こえたぞい」

魔族少女「な、なにかな? もしかして……お、オバケ?」

662: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 00:00:39.17 ID:/m39YwfJ0

少年魔法使い「そんなわけないだろ……とにかく声がする方に行ってみよう」

魔族少女「え!? い、行くの!?」


「た、助けてー」


少年魔法使い「放っておくわけにもいかないだろ。なんか声からして泣きそうだし」

侍少女「ぷぷっ、相変わらずのツンデレでござるな」

少年魔法使い「勘違いするなよ、妖精発見の手がかりになるかもしれないと思っただけだ」

侍少女「はい、いただきました~でござる!」

少年魔法使い「………」ゲシッ

侍少女「痛ぁ!! 無言で蹴らないで欲しいでござる!!」

663: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 00:01:08.35 ID:/m39YwfJ0

魔族少女「大丈夫かなー……罠だったりしないかな?」

妖精長「まぁ、その時はその時じゃな」



「助けてー」


侍少女「森の奥の方から『助けてー』『助けてー』って声がするんですねぇ……それを聞いた私もなんだか『怖いなー怖いなー』って……あ痛ぁ!!」

少年魔法使い「変な声を出すな」

魔族少女「だ、大丈夫かな……」ブルブル


「助けてくださーい……」


少年魔法使い「こっちみたいだ」

魔族少女「う、うん……」


ザッザッザッザッザ



664: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 00:02:09.41 ID:/m39YwfJ0


魔法使い「なんでこんなことになっちゃったのかな、あんなにいっぱい練習したのに……うう、これじゃ手伝ってくれた研究所のみんなに顔向けできないよ……」

魔法使い「どうして転移魔法だけ上手くできないんだろう……いっつも失敗しちゃうし、剣士さんの前であんな大見得切っておいて恥ずかしいよう……」

魔法使い「やっぱり言い過ぎちゃったかな、嫌われちゃったかな……嫌だよ、せっかく友達になれたのに……」

魔法使い「もしかしてもしかして私が一方的に友達って勘違いしてただけなのかな……そうだよ……私みたいなダメダメな子、友達になってくれる人なんて……いないもん」



少年魔法使い「あー……なんだあれは?」

侍少女「声のする方に行ったら地面に首が生えてたでござる」

魔族少女「く、首だけでしゃ、喋ってるよ! オバケだよ! 妖怪だよ!!」

妖精長「お嬢ちゃん、よく見るんじゃ。ありゃ妖の類ではないぞい。首から下が地面に埋まってるだけじゃ」

魔族少女「じゃあなんでそんなことになってるんですかぁ!?」

妖精長「そんなこと本人に聞くしかないじゃろう?」

少年魔法使い「……やっぱり先を急ごうか。なんかものすごく面倒臭そうだぞ」


魔法使い「誰かそこにいるの!?」グリンッ

魔族少女「ひぃぃぃ!!!」バターン

妖精長「お嬢ちゃん!?」

少年魔法使い「やれやれ……」ハァ

670: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 22:06:02.40 ID:/m39YwfJ0




院長「ここまで来れば大丈夫でしょう……」

地上げ屋「うおおお……体がバラバラになるかと……」ガタガタ

院長「あの、見た所全身ボロボロですけどなにかあったんですか?」

地上げ屋「聞かないでくれお姉ちゃん。男には説明できないことが山ほどあるってもんだぜ……」フッ

院長「あ、ここ、切れてますよ?」

地上げ屋「おいおい、よしてくれ。女に心配されるほど俺は落ちぶれちゃいねぇよ」

院長「ダメです。放っておくと膿んでしまいます」

地上げ屋「そんなこと言ったってこんなとこじゃ応急処置もなにも……」

院長「大丈夫です。こんな時のためにちゃんと道具は常備していますから」スチャッ

地上げ屋「……あ、そう」


671: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 22:06:54.47 ID:/m39YwfJ0

院長「動かないでください」

地上げ屋「お、おう……いっ!?」

院長「染みますよ?」

地上げ屋「だからそういうのは先に言えって……痛っ!」

院長「騒がないで、男の子でしょう?」

地上げ屋「ガキ扱いすんじゃねぇよ」

院長「……これでよし。できましたよ」

地上げ屋「お、おお……悪いな」

院長「いえ、気にしないでください。元はといえば私が強引に連れ回したのですから……」

地上げ屋「そうか……」

院長「ええ……」

地上げ屋「………」

院長「………」

672: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 22:07:33.91 ID:/m39YwfJ0

地上げ屋「な、なぁ!」

院長「なんでしょう?」

地上げ屋「なんでそんな道具いつも持って歩いてるんだ? 邪魔だろ?」

院長「ああ……これは子供たちが怪我した時用に常に持っているんです。やんちゃな子達ばかりですから」フフッ

地上げ屋「へぇ……その年でねぇ。苦労してんだな」

院長「……子供といっても私とは血の繋がりはありませんけどね」

地上げ屋「あ? んじゃあ、あんたは……」

院長「普段は岬の上の孤児院で子供たちと一緒に」

地上げ屋「げ」

地上げ屋(ってことは今回のターゲットのあの孤児院の人間ってことか!?)

院長「どうしました?」

地上げ屋「あ、いやなんでもねぇよ。ちょっと喉が渇いたと思っただけだ」ハッ

院長「ならこれをどうぞ。私の水筒ですが」スッ

地上げ屋「なんでも出てくるな!」

院長「これくらい当然です」

地上げ屋「そ、それじゃあ遠慮なく……」グビグビ

院長「………ということはやはりあなたも商人貴族の手の者なんですね」


ブフゥ!!!



673: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 22:08:33.89 ID:/m39YwfJ0

地上げ屋「ゲホッ!! ゴホッ!!」

院長「大丈夫ですか?」サスサス

地上げ屋「し、知ってたのか!? どうして!?」

院長「まぁ、あなたの服装を見ればなんとなくわかります」

地上げ屋「服装? なんでそんなことがわかるんだよ?」

院長「? 服の膨らみでどこになにが入ってるかくらい普通わかりませんか? あなたのジャケットにはナイフが2本入ってますよね? 腰には魔法道具が一式……どれも戦闘用というよりも脅迫用といったものでしょうか……あと右の内ポケットに魔導具を一つ隠し持ってますね? それも随分と珍しい物を」

地上げ屋「お、俺の魔導具のことまで……そ、それでどうして俺が商人貴族の手先だってわかるんだよ?」

院長「ナイフにしろ腰の魔法道具にしろ、あなたの持っている道具は殺傷力よりもあいてを痛めつけることに重点を置いています。魔法で強化された縄だとか、痛みを与える魔術符だとか」

院長「そこから察するに、あなたは私を殺すのではなく、脅すことを目的としてここにやって来たということになる……それはつまり」

地上げ屋「俺が商人貴族の旦那から依頼された人間ってことか」

院長「まぁ、そんなところですかね」

地上げ屋「察しが良すぎるだろ! 名探偵か!」ビシッ

院長「しょうがないじゃないですか、わかってしまうんですから」フフッ

地上げ屋「うわぁ……」


674: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 22:09:01.43 ID:/m39YwfJ0

院長「そうですね、少なくとも『王都一の地上げ屋』なんて嘘は見抜けますよ?」

地上げ屋「嘘じゃねぇよ! 俺は王都一の地上げ屋なの!!」

院長「はいはい、そういうことにしておきましょう」ハァ

地上げ屋「いくら俺でも今のは完全に馬鹿にされたってことくらいわかるぞ!」

院長「あら、わかったんですか?」

地上げ屋「ったく、あんた何者だよ?」

院長「私は……なんでしょうね?」

地上げ屋「あん?」

院長「私にもわからなくなってしまいました……自分が何者なのか」

地上げ屋「………」

院長「そうだ。話ついでにあなたに面白いものを見せてあげましょう」

地上げ屋「面白いもの?」



院長「………その左の懐にあるあなたの財布には今いくら入っていますか?」



675: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 22:09:33.57 ID:/m39YwfJ0

地上げ屋「なんだよ急に?」

院長「いくら入ってますか?」

地上げ屋「まぁ、地上げ屋稼業は儲かるからな! そりゃ俺様の財布も札束の嵐よ!」

院長「……嘘つき」

地上げ屋「う、嘘じゃねぇよ!!」

院長「だったらその財布の中を確認したらどうですか?」

地上げ屋「男ってのはいちいち自分がいくら持ってるかなんて女々しいこと考えて生きてねぇんだよ! お嬢ちゃんにはわかんねぇだろうけどな!」

院長「別に小銭しか入ってないことくらいでなんとも思ってませんよ」スッ


ジャラジャラジャラ………


地上げ屋「……おい、なんだその小銭? どっから出した?」

院長「あなたの財布の中からですけど?」

地上げ屋「はぁ? なに言っちゃってんだお前?」

院長「見ての通りあなたのお財布には小銭しか入ってませんでした」


ジャラジャラジャラ………



676: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/30(土) 22:11:52.21 ID:/m39YwfJ0

地上げ屋「おいおい、流石に冗談きついぜ! そんなのありえるわけねぇだろ? だって俺はこうして肌身離さずこうやって財布を懐に……」

院長「だったら自分の目で確かめたらどうですか? ……本当に小銭しかないですね」ジャラジャラジャラ

地上げ屋「馬鹿にしやがって……ってえええ!!!」

院長「………」ジャラジャラジャラ

地上げ屋「無い……財布の中身だけ何もない!!」

院長「ちなみに小銭の他にいかがわしいお店の名刺など色々なものもこのように……」スッ

地上げ屋「あああ!! か、返せよ!! お気に入りの子のなんだぞ!!!」

院長「はい。持っていてもしょうがないのでお返しします」スッ

地上げ屋「い、いつ俺の財布から中身を抜き取った!! 人のものとったらいけないってお母さんに教わらなかったのか!!」

院長「いつと言われましても……たった今としか」

地上げ屋「今って……じゃあなにか? お前は俺と話している間に俺の懐の財布から中身だけ綺麗に抜き出したっていうのか?」

院長「はい」

地上げ屋「こ、この短い間で?」

院長「はい」

地上げ屋「……ありえねぇだろ」

院長「……自分が必要なものを必要な分だけ相手から奪い取る……これが私の持つ忌まわしい『盗賊』の技術」

院長「私はこの技を使って人のものを奪い、それを糧に生きてきたどうしようもない……盗人です」

681: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/01(月) 21:19:29.23 ID:+ghgTvlX0



院長「だから私は……あの子達にも自分の正体を隠し、嘘をついて……」

地上げ屋「ん? ちょっと待て。その赤い髪にさっきの技ってことはあんた、『華麗なる緋』か?」

院長「はい? 『華麗なる緋』?」

地上げ屋「いや、ほら都市伝説だよ! 一時期王都を騒がせたっていう、狙った獲物はそれが王宮の厳重な警備の先であろうと確実に盗み出す女盗賊! 持ち主が例え獲物を肌身離さず持っていたとしてもものともせず、一瞬のうちに宝を奪うその技術はまさに芸術!」

院長「芸術だなんてそんなことは……」

地上げ屋「長い赤髪をたなびかせながら行う犯行は大胆にして華麗。持ち主は宝だけでなく心まで奪われたとか!」

院長「あ、あの実際はそんなことはないんですけど……」アハハ

地上げ屋「その可憐な姿からついた異名は数知れず!!」

院長「い、異名ですか?」

地上げ屋「『華麗なる緋』、『緋色の魔手』……」

院長「なんて名前をつけてくれてるんですかあなた達は……」ハァ

地上げ屋「極めつけは『マジカルシーフ☆プリティクリムゾン』!」

院長「なんですかそれ!!?? ぷ、プリティ!?」ガタッ

682: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/01(月) 21:20:25.42 ID:+ghgTvlX0

地上げ屋「そういえば最近はそんな噂とかも聞かなくなってたな」

院長「その前に、そのプリティなんとかの方についてできれば詳しく……」アタフタ

地上げ屋「孤児院始める前はなにしてたんだ?」

院長「いやだからそのプリティの方が私にとっては重大な問題なんですけど……」

地上げ屋「なにしてたんだ?」

院長「ちょっと世界を救ってました」

地上げ屋「……えっとどういうこと?」

院長「まぁ、ちょっとした縁があって勇者さんと一緒に魔王討伐の旅に出かけていたわけです」

地上げ屋「でもちょっと待てよ……勇者のパーティーっていったら勇者に剣士に僧侶、それと魔法使いの4人だったよな?」

院長「盗人の私が表舞台に立つわけにはいきませんから、陛下に頼んで情報操作の方を少しばかり……」

地上げ屋「もったいねぇ! 俺だったらその肩書きで一生飯食ってやろうと思うけどな!」

院長「そんなことよりプリティの方を……」

地上げ屋「そうか……伝説の女盗賊兼勇者の仲間……それだった商人貴族の旦那が俺達に依頼したのもわかる。あんたみたいなのを相手できるのはこの『笑う赤……』

院長「いやもうそういうのはいいですからプリティの方を詳しく!!」

地上げ屋「だから何度も俺の名乗りをじゃまするなよ!! このプリティクリムゾン!!」

院長「………二度とその名前で呼ぶな」チャキッ

地上げ屋「……はい」ガタガタ

院長「わかればいいのです」ニコッ


683: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/01(月) 21:21:21.66 ID:+ghgTvlX0

地上げ屋「だとしてもなんであんたみたいな人間が孤児院なんてやってんだ? もっと違う仕事でもあるだろ? それこそあんたの能力に合う仕事ってのが」

院長「……私、ずっと家族というものに憧れていたんです」

地上げ屋「家族?」

院長「はい、普通のどこにでもある家族の形……私にはそういう経験が一つもないから」

地上げ屋「いわゆる複雑なご家庭って感じか?」

院長「………」

地上げ屋「いや、言いたくなければいいけどよ」

院長「だから魔王との戦いで家族を失った子供達にほんの少しでも手助けしたいと思って……」

地上げ屋「なるほどねぇ……」

院長「苦労も多かったですけどあの子達との日々は楽しかった。勇者さんたちと出会って初めて仲間と呼べる人ができて、家族と呼べる子達もできて今までの自分とは比べられないくらい……幸せでした」

地上げ屋「でした?」

院長「ええ、でもそんな日々ももう終わりです」

地上げ屋「なんでだよ?」

院長「やっぱり私には向いていなかったんです。最初からあの子達の親代わりなんて無理だったんですよ」

地上げ屋「おっ、じゃああの孤児院を明け渡すってことだよな!?」

院長「こうなってしまった以上、私がここにこだわる理由はありません。全てが片付いたら、孤児院を閉めようと思います」

地上げ屋「お! そいつはいいこと聞いたぜ!! さすが俺様! 何もしなくても仕事が成功してしまう! 怖い! 自分の才能が怖いぜぇ!!」

院長「ただし、商人貴族の野望を全て打砕き、再起不能にしてからの話ですが」

地上げ屋「………それじゃあ意味ないんだけど」


684: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/01(月) 21:22:27.68 ID:+ghgTvlX0

院長「あのような力を世に拡散させるわけにはいきません……それこそ本当に戦争になってしまう。それだけはなんとしてでも回避しなければ」

地上げ屋「あのような力……あ、忘れてた! あのガキのことか!」

院長「はい、あの子がああなってしまったのは全て……私の責任です」

地上げ屋「お前があのガキをあんな風にしたってことか? お前なにしたんだよ?」

院長「直接はなにもしていません。ですが私の言葉が彼を追い込んでしまったことは事実です」

地上げ屋「なんかよくわかんねぇけど、そもそもあいつなんなんだ? どう考えても普通の人間じゃなかったが……」

院長「商人貴族の言うことが本当だとしたら、悪ガキくんは妖精の力を取り込んだということでしょう」

地上げ屋「妖精!? 妖精ってあの羽生えた小さいおっさんのことか?」

院長「知っているのですか?」

地上げ屋「知ってるもなにも、さっきまで俺はその妖精とやらに取り囲まれてたからな」

院長「取り囲まれてた?」

地上げ屋「おうともよ! そうかぁ、兄弟が言ってたこともあながち嘘じゃなかったんだなぁ……でもあれを食うってのはちょっとなぁ……絶対腹壊すし、というかどうやって食うんだ? 焼く? 煮る? オエェェ……」

院長「ちょ、ちょっと待ってください! あなたは妖精を見たと……?」

地上げ屋「あん? だからそうだって。んでそこで金髪のガキにぶん殴られてあそこまで飛んできたんだよ……嘘みてぇな話だけどよ」

院長「金髪のガキ……それってもしかしてこれくらいの身長の女の子ですか?」

地上げ屋「確かにそんな感じだな」

院長「喋り方にすごく特徴がある……」



ヒョコッ


地上げ屋「そうそう! ちょうどこんな感じのガキのことだな!!」ポンポン

幼女「よう、センセ!! 元気してるぅ!?」ビシィッ


685: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/01(月) 21:23:32.86 ID:+ghgTvlX0

地上げ屋「ってうわぁ!! 出たぁぁあ!!」

院長「幼女ちゃん!?」

地上げ屋「なんだこの野郎! まだやろうってのか!!」シュシュッ

幼女「はて、なんのことでござりましょうでござんすか?」ハテ

地上げ屋「とぼけんな! てめぇのせいで俺はダイナミックヘッドスライディングしたんだぞ!」

幼女「おおっ! それは是非とも拝見したかったものですなぁ!」

地上げ屋「ふざけんな!!」

院長「幼女ちゃん、なぜこんな所に?」

幼女「んー、麗しい女性を見るのに理由がいるかい?」

院長「は、はぁ……」

幼女「幼女としてはその豊満なバディに飛び込んでギュッとしてもらいたいんだが……ダメ?」ウワメヅカイ

院長「あなた……幼女ちゃんじゃないですね? それに僧侶さんでもない」

地上げ屋「あん? どういうことだ?」

幼女「あ、バレちった? そりゃそうか! いくらなんでもあんたには隠し通せねぇよなぁ?」ガッハッハ

院長「私の予想が正しければあなたは……」

幼女「おっと、それ以上はネタバレにつき厳禁だ。わかるよな?」ズォッ

686: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/01(月) 21:24:09.56 ID:+ghgTvlX0

院長「………」

幼女「それと……」クルッ

地上げ屋「な、なんだよ!? やるか!?」

幼女「さっきは悪かった」ペコリ

地上げ屋「ん?」

幼女「それと……ありがとうな」

地上げ屋「ありがとう?」

幼女「なんのことかわからなくていい。ただ今は言わせて欲しい」

地上げ屋「はぁ……」

幼女「よし、とりあえずはもう満足!」

院長「満足?」

幼女「そそ! そろそろ時間だし、後はお任せしますよー♪」

地上げ屋「待ちなさい! あなたは本当は何者なんですか!?」

幼女「ちょっと今回は干渉し過ぎた。後は俺のソウルフレンドの選ぶことだ」

幼女「……あとはお前に任せる。お前の人生だ……後悔はすんなよ、幼女」ニカッ

院長「待ちなさい!」


シュゥゥゥゥ……



幼女「………むい?」キョロキョロ

687: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/01(月) 21:30:35.69 ID:+ghgTvlX0

地上げ屋「ん? なんか雰囲気が変わったか?」

院長「幼女ちゃん……戻ったのね」


幼女「………!!!」キョロキョロ


幼女「見つけ……た!!」ビシッ

地上げ屋「俺ぇ!? ちょ、ちょっと待てよ! 俺は今お前をどうこうしようなんて考えて……!!」

院長「ダメよ、幼女ちゃん! 無闇に人を傷つけては!!」

幼女「返し……て!!」

地上げ屋「か、返すってなんだよ!? お前からなんもとってねぇぞ!?」

幼女「むぅぅぅ……」スゥゥ

地上げ屋「げぇ!? またあれか!? 今度こそ死ぬぞ俺!?」

院長「幼女ちゃん!!」

幼女「むい!!」カッ


ドゴォォォォン!!


地上げ屋「ぎぇぇぇえええええ……ってあれ?」

院長「外れた? いや、外したのですか?」

幼女「むぅぅぅぅ………」



悪ガキ「おっかしいなぁ? 気配は消したはずだけど? なんでバレた?」シュタッ


693: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/03(水) 20:31:14.37 ID:HdeSn0LJ0

――森の中――



魔法使い「いやー、助かったぞい! ワシも何度も死線を潜り抜けてはいるがここまで追い詰められたことはなかった!」パンパン

侍少女「はぁ……」

魔法使い「身動きが取れない上ここは王都に比べて暑いじゃろ? もう脱水症状で死ぬかと思ったわい」クピクピ

侍少女(魔法で作った水を飲んでるでござるよ……)ヒソッ

少年魔法使い(あんまり飲めたもんじゃないはずだが……よっぽど死にそうだったんだな)ヒソッ

魔族少女(なんかさっきと様子が違うね)ヒソッ

少年魔法使い(キャラ作りだろ、ござる女と一緒で)

侍少女「拙者のはキャラ作りではないでござるよ!?」ガビーン

魔法使い「おっと、いかんいかん。こんなことをしている場合ではない! 急がねば……」

魔族少女「急ぐってどこにですか?」

魔法使い「お主達もこんなところにいては危ないぞ。できるだけ遠くに逃げることをお勧めする。早急にの!」

少年魔法使い「おい、待て。なにかあったのか?」

魔法使い「……詳しいことは言えんが、少々この辺りでドンパチ騒ぎになるやもしれんでのう」

妖精長「……それは既に何者かが禁断の力を手にしたということか?」


694: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/03(水) 20:32:11.07 ID:HdeSn0LJ0
魔法使い「ぬ? その姿はもしや……?」

妖精長「うむ。わしは貴様ら人間が血眼に探している『妖精』じゃよ」

魔法使い「え、嘘? 本物!?」ガビーン

侍少女「素に戻ってる素に戻ってる!!」

妖精長「もちろんじゃ」

魔法使い「わぁ、本で見た通りだ……本当に背中の羽で飛んでる」キラキラ

妖精長「やはり貴様もその欲望のままに力を手にしようと言うのか?」

魔法使い「む……ゴホン」

妖精長「どうなんじゃ? 答えよ」

魔法使い「まぁ、ワシも研究者の端くれ……学術的興味は……無いと言ったら嘘になるのう」ニヤッ


「「「!!!」」」


少年魔法使い「ちっ、やっぱりこうなるのか!!」スッ

侍少女「妖精長殿は渡さないでござるよ!」チャキッ

魔法使い「な、なんじゃなんじゃ???」

魔族少女「ちょっと二人共落ち着いて!」

侍少女「落ち着いてなぞいられないでござる! 不届き者は早急にたたっ斬るに限るでござるよ!」

魔法使い「あ、阿呆! 冗談じゃ! わしがその様な無粋な真似をすると思うか!?」

少年魔法使い「さっきと見た目で判断したら酷い目にあったばかりだからな……油断はできない」

侍少女「そうでござる! もうちょっとで死ぬところだったでござる!」

魔法使い「だー!! わしは妖精を取り込んだ者を倒しに来ただけじゃ!!」

少年魔法使い「なに?」

695: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/03(水) 20:35:25.93 ID:HdeSn0LJ0

妖精長「やはり遅かったか……」

魔族少女「妖精長さん……大丈夫です。まだそうだって決まったわけじゃありません。諦めたらそれこそ全部おしまいです! ね?」

妖精長「……そうじゃの。わしが諦めるわけにはいかんのう」

魔族少女「はい!」

魔法使い「とある情報から妖精がこの辺りに生息していることを知った。そしてそれを狙う輩がいることもの。それを阻止しようとワシはこうして直接乗り込んだんじゃ!」

少年魔法使い「じゃあ、なぜこんなところで埋まっていた?」

魔法使い「……それは」

少年魔法使い「答えられないのか?」

魔法使い「………」ウツムキ

少年魔法使い「どうなんだ!」

魔法使い「………ぅぅ」ジワァ

少年魔法使い「なっ!?」

魔法使い「……私だって……ちゃんと転移魔法くらい……使いたいよ……」グスッ

少年魔法使い「な、なぜ泣く!?」

魔法使い「でも失敗しちゃったんだもん……気づいたら森の中で土の中だったんだもん!! 何度やったって失敗しちゃうんだもん!!」グシュッ


696: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/03(水) 20:36:40.95 ID:HdeSn0LJ0
侍少女「あー、泣かしたー」

少年魔法使い「ちょっと待て! 僕が悪いのか!?」

魔族少女「あはは……」

魔法使い「……そうだよね……こんなグズでノロマな私が出しゃばったところでなんになるっていうんだろ……どうせどうにもならないのにね……みんなに迷惑かけるだけだもんね……」ズーン

少年魔法使い「そこまで言ってないだろ!!」

魔法使い「いえ、もういいんです。身の程知らずでごめんなさい。助けてくれてありがとうございました……大人しく王都に帰ります」ペコリ

少年魔法使い「いやちょっと……」

魔法使い「それじゃあ本当にご迷惑をおかけしました。私はこれで失礼します……」

少年魔法使い「待て」ガシッ

魔法使い「まだなにか……?」

少年魔法使い「どうやって帰るつもりだ?」

魔法使い「もちろん転移魔法で……」

少年魔法使い「やめておけ」

魔法使い「どうして?」

少年魔法使い「言わなくてもわかるだろそれくらい」

魔法使い「……離してください」

少年魔法使い「断る」

魔法使い「離して!! 私王都に帰るの!!」

少年魔法使い「今のあんたをそのまま返すわけにはいかないだろ!?」

魔法使い「どうして!? 私のことは放っておいてくださいよ!!」

少年魔法使い「じゃあ、なにか!? 今度は王都で埋まるつもりか!?」

魔法使い「!!!」

魔族少女「あ……」

魔法使い「………ううう」グシュッ


魔法使い「うわぁぁぁああああああああああああんんん!!!!!」ビェェェェ


魔族少女「さすがに今のは言い過ぎじゃないかな……?」アハハ

侍少女「人格を疑うでござるよ……」

少年魔法使い「なんでこうなった……」ハァ



魔法使い「うえぇぇぇえええええええええええええんんん!!!」ビェェェ



697: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/03(水) 20:37:04.92 ID:HdeSn0LJ0

――――――



悪ガキ「よう、幼女。よくも昨日は色々とやってくれたな」

幼女「………」ムゥ

悪ガキ「それで? 今度はお前が俺の邪魔をするってのか?」

幼女「返し……て!!」

悪ガキ「返す?」

幼女「妖精さん返し……て!!」

悪ガキ「へぇ? やっぱりお前にもわかるのか……この妖精の力が!!」ゴゴゴゴゴ

幼女「返し……て!!」


698: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/03(水) 20:39:02.95 ID:HdeSn0LJ0

悪ガキ「けっ、誰が渡すかよ!! この力はもう俺のものだ!! 誰にも渡さない!! この力で俺は勇者になるんだ!!」

幼女「違……う!! そんなのユーシャじゃ……ない!!」

悪ガキ「そうだったな……お前は最初からそうだった」

悪ガキ「俺を馬鹿にして否定して……それでいてとびっきりの『特別』だ……ムカつくんだよ、お前」

幼女「妖精さん嫌がって……る!! 早くここから出してって言って……る!!」

悪ガキ「なに言ってんだお前? 妖精ならもう食っちまったよ!!」

幼女「でも聞こえ……る!! 助けてって言ってる!!」

院長「!!!」

悪ガキ「そんなのでまかせだ!! 俺は確かに妖精を取り込んだんだ!! この力を手に入れるために!!」

幼女「困ってる人は放っておかない……それがユーシャなので……す!!」

悪ガキ「なんだと……?」

幼女「だから助け……る!! ユーシャならそうすると思うか……ら!!」ムイッ

悪ガキ「ふざけるな!! お前が勇者を語るな!! 俺の夢を語るな!!」

幼女「妖精さんはあなたの物じゃな……い!! 返し……て!!」

悪ガキ「嫌だ」

幼女「返し……て!!」

悪ガキ「嫌だって言ってるだろ!!」

幼女「むぅぅぅぅぅ……」プクー

地上げ屋「まるでガキの喧嘩だな」

院長「ええ、ですがこの世でもっとも危険な子供の喧嘩です」



699: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/03(水) 20:40:15.00 ID:HdeSn0LJ0


幼女「交渉の余地……無し!!」ビシッ

悪ガキ「ああ、そうだよ。そんなもんはどこにもねぇ!!」

幼女「だったらやることはひと……つ!!」ググッ

悪ガキ「なんだよ? やるってのか? いいぜ、かかってこいよ?」

院長「やめなさい! 二人共!!」

悪ガキ「うるせぇ! 弱い奴は邪魔するんじゃねぇよ……殺すぞ?」キッ

院長「くっ……」

幼女「力づくで奪い……とる!!」

悪ガキ「やってみろよ! この力でお前も勇者も……俺を馬鹿にする奴は全部ぶっ殺してやる!!」




悪ガキ「いくぞ……幼女」グッ

幼女「どっからでもかかってきなさ……い!!」グッ



悪ガキ「うぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」シュバッ

幼女「むぃぃぃぃいいいいいいいい!!!」シュバッ


ドゴォォォォン!!!



709: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/05(金) 22:43:59.58 ID:t+J1Rwox0

――森の中――



魔法使い「グスッ……グスッ……」

「…………」

魔法使い「ど、どうしたのみんな?」

魔法使い「む、無視しないでよ!! そういうの……い、1番傷つくんだよ!!」

「…………」

魔法使い「ふぇぇぇ……」グスッ

魔族少女「違う……んですよ……無視とかそういうんじゃ……」ギギギギ

魔法使い「え?」

侍少女「か、身体が……動かないでござる……!!」ギギギギギ

少年魔法使い「なんだ……これは……!!」ギギギギ

妖精長「ぬぬぬ……」ギギギギ

魔法使い「これは……呪術!? ということは……」



ザッザッザッザッザ………


呪術師「ええ、僕ですよ。久しぶりですね、魔法使い」


魔法使い「……呪術師!!」


710: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/05(金) 22:48:00.99 ID:t+J1Rwox0

呪術師「やれやれ、あなたにも困ったものですね。僕の行く先々に現れて……暇なんですか?」

魔法使い「……今すぐ皆を元に戻すんじゃ」

呪術師「それはできません。僕はそこの妖精に用があるんですから」フフッ

妖精長「ぬぅ……」ギギギギ

魔法使い「お主も妖精を狙っていると言うのか!?」

呪術師「も? ということはあなたもですか?」

魔法使い「質問に答えろ」

呪術士「……別に僕個人としてはどうでもいいんですけどね。依頼人がどうしてもその妖精の力とかいうのを欲しいっていうので」

魔法使い「依頼人……商人貴族のことじゃな?」

呪術師「さぁ? 生憎、こちらにも守秘義務というものがあるので……諦めてください」

魔法使い「妖精の力が拡散したらどうなるか……それくらいわかるはずじゃろう!」

呪術士「そんなこと知ったこっちゃありませんよ。僕は傭兵です。与えられた仕事を忠実にこなすだけ。そこに個人の意思なんて関係ありません。それに、妖精憑きが万が一僕の邪魔をしようっていうのならこの力で屈服させればいい」ズォッ

魔法使い「闇の力……!! 貴様、まだその様な力を!!」ギリギリギリ

711: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/05(金) 22:50:19.47 ID:t+J1Rwox0
呪術師「ふふっ……そうですよ、完璧な僕に相応しい力じゃないですか!」

魔法使い「……今すぐその力を手放し、皆の拘束を解け。今すぐじゃ」

呪術師「はぁ……あなたは自分の立場がまるでわかってないみたいですね」

魔法使い「なんじゃと?」

呪術士「僕がこんなところ、1人でうろうろするわけないでしょう?」



賢者「あら、剣士様の次は魔法使い様? 冗談でしょ? ここは英雄たちの見本市ってとこかしら?」

戦士「おい、あのガキの横にいるの……妖精か?」

暗殺者「………」シュタッ



呪術士「ええ、そうですよ団長。あれが僕らのターゲットです」ニタァ

魔法使い「戦士に賢者……黒獅子騎士団のトップ共か!!」

賢者「こんな南の辺境に伝説の英雄達が二人も……ねぇ、呪術士。ひょっとしたらキャンプに置いてきた自称勇者って案外本物なんじゃない?」

呪術士「ありえません。勇者様は人のベッドでクロールなんかしません」

魔法使い(あの馬鹿はなにをやっておるんじゃ……この非常時に!!)


712: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/05(金) 22:58:25.41 ID:t+J1Rwox0

呪術士「さて、魔法使い。流石の伝説の英雄でもこの人数を相手にできますか? ちなみに、昨日はあなたのお仲間の剣士も我々の前に……」

魔法使い「本人から聞いておる。どうやらこっぴどくやられたようじゃの」

呪術師「本人から?」

魔法使い「一つ忠告じゃ。わしをあんなヘタれと一緒にするな。わしは手加減ができない質での。下手にわしに手を出せばばこの辺り一体を焦土に変えてしまうかもしれぬ」

呪術士「……だそうですけど?」

賢者「面白そうじゃない、やってもらいましょうよ」

戦士「へへっ、今度はしっかりと戦わせてくれよ? 伝説の英雄?」チャキッ

魔法使い「期待には応えなければのう!!」

呪術士「いいですか団長、あくまでも目的は妖精族です。わかってますね?」

戦士「ああん? そんなのどうでもいいだろ?」

賢者「いいわけないでしょうが!」

戦士「そういう面倒なことは賢者、お前の仕事だろ?」

賢者「この戦闘狂が……」

呪術士「そんなこと今に始まったことじゃないでしょう? あんまり考え込むとシワが増えますよ?」

賢者「あんたも相変わらず言ってくれるじゃない……!!」プルプル

呪術士「事実を言っただけです。それにただでさえこの辺は日差しが強い地域なんですから放っておくとお肌にシミができますよ?」フフッ

賢者「うん、決めた。魔法使いより先にまずあんたを殺すわ」

呪術士「やれるものならどうぞ?」

賢者「あんた本当に生意気ね!」

呪術士「すみませんね、生まれつきこういう性格なんで」

賢者「そう、それは随分と残念ねぇ……生まれつきそんなだなんて」チラッ

呪術士「今、どこを見ましたか?」

賢者「べっつにぃ……ただ、ちょっと可哀想だなって思っただけだから気にしないで」

呪術士「喧嘩売ってんですね?」

賢者「あら、頭だけは貧相じゃないみたいね」

呪術士「……売れ残り」

賢者「……まな板」

呪術士「……厚化粧」

賢者「……俎」

呪術士「小じわお化け」

賢者「………真魚板」

呪術士「なんで全部まな板なんですか!!」

賢者「あんたなんてまな板で十分よ!!」

呪術士「じゃあ、お望み通り三枚に下ろしてやろうじゃないですか!!」

賢者「うるさいわよまな板!!」




ギャーギャーギャー



719: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 21:36:56.36 ID:WO9RRX340

魔族少女「誰……かな? あの人たち?」ヒソッ

少年魔法使い「傭兵みたいだな……くそ、なんの力だ? これじゃあ全然身動きがとれないぞ」ヒソッ

魔族少女「傭兵!?」

侍少女「妖精族を狙っているって……言ってたでござるな……!!」ギギギギギ

妖精長「冗談じゃ……ないわい……あんな輩に好き勝手されてたまるか……!!」ギギギギ

侍少女「どうにかならないで……ござるか!? 少年魔法使い!!」ギギギギ

少年魔法使い「……騒ぐな! 今、これを解く方法を探してる……!!」

少年魔法使い「くそっ、こんな魔法見たことない……単純な魔力じゃない。なんだ? このドス黒い魔力は?」

魔法使い「お主たち、岬の上の孤児院の子供達じゃな?」ヒソッ

魔族少女「はい……でもどうしてそれを?」

魔法使い「お主らの先生とちょっと顔見知りでの。孤児院の様子はよく聞いている。随分と面倒なことに巻き込まれているようじゃの」

少年魔法使い「僕らはただ単純に巻き込まれただけだ。文句なら金髪の幼女と無鉄砲なうちのリーダー気取りに言ってくれ」

魔法使い「……幼女はお主らともうまくやっているようじゃのう……なによりじゃ」フッ


720: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 21:37:29.80 ID:WO9RRX340

侍少女「幼女殿のことも知ってるでござるか?」

魔法使い「……今は一から語っている時間はない。奴らの目的は妖精族の確保と生息地の情報を得ること。それはわかるな?」

魔族少女「ええ、その商人貴族とかいう人が妖精さん達を狙ってるって……」

妖精長「追い返しはしたが里に侵入までされたわい」

魔法使い「ううむ……事態は一刻を争うようじゃな。とにかくお主たちは逃げるのじゃ。わしが時間を稼ぐ」

魔族少女「そんな! 無茶ですよ! 4人もいるんですよ!?」

魔法使い「安心せい。伊達に伝説の英雄を名乗ってないわい」

少年魔法使い「伝説の……英雄? じゃあ、もしかしてあんたは!?」

魔法使い「わしのことなどどうでもいい。問題はこの世界の未来のことじゃ。妖精の出処が商人貴族に知られればこの世界はまた戦乱の世に逆戻りじゃ。そんなこと絶対にあってはならん。わかるな?」

魔族少女「で、でも……」

魔法使い「大丈夫じゃ。わしだってなにもあいつらを1人で相手しようなどと本気で思ってなどいない。わしの見立てが正しければもうすぐ助っ人がここに来る頃だしの」

侍少女「助っ人……でござる?」

魔法使い「話はここまでじゃ。合図をしたらわしがお主らにかかった術を解く。そうしたら妖精長を連れてここからできるだけ遠くへ逃げるんじゃ。そうじゃの……お主らの先生がいるところまでじゃ。わかったな?」

侍少女「信用できるんでござるか? もしかしたら罠の可能性も……」

魔族少女「でも先生の知り合いって言ってるし……」

魔法使い「慎重なのはいいことじゃがあまり時間は無いぞ?」

少年魔法使い「とりあえずここはこの人の言うとおりにするしかないみたいだな」

魔法使い「懸命な判断じゃ……頼んだぞ、この世界の命運はお主たちにかかっている」

侍少女「あああんもう!! 昨日から急展開過ぎて頭がパンクするでござるよ!!」

魔族少女「怖いけど……頑張ります!」

魔法使い「いい返事じゃ。行くぞ!」ニコッ

「「「はい!!」」」


721: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 21:38:37.13 ID:WO9RRX340



戦士「お前らいい加減にしろ! 毎回毎回よくそんなに口喧嘩ができるな!?」

暗殺者「………」コクコク

賢者「戦士! これは女の戦いなのよ! 邪魔しないで!」

呪術士「そうですよ! 完璧な僕がこんなところで引くなんてありえません!!」

戦士「先に仕事終わらせてからしろ!」

賢者「大体ねぇ! あんたスタイル気にしすぎている割に食べなさ過ぎなのよ! もっとしっかり食べなさい!」

呪術士「仕方ないでしょう! あんまりご飯食べられないんですよ!」

賢者「この間もなに? 昼食がパン一個って何考えてんの? 隣で見てる私はもう心配で心配で……」

呪術士「そ、それを言ったら賢者さんだって肌のシワを気にする割に遅くまで働きすぎなんですよ! もっと十分休んでください!」

賢者「しょうがないでしょ! 傭兵団の運営が大変なんだから!」

呪術士「一人で抱え込まないでくださいよ! 隣で見ている僕の身にもなってください!」

呪術士・賢者「「ぬぬぬぬぬ~」」ギギギギ

戦士「だからいい加減にしろっつーの!!」

呪術士「役立たずは黙っててください! あなたのせいで賢者さんは苦労してるんですから!」

戦士「なっ!?」

賢者「団員の体調管理くらいちゃんと気を配りなさいよね、戦闘馬鹿」

戦士「ぬぅぅぅうううううう!!!」ガァァァァ

722: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 21:39:57.97 ID:WO9RRX340





魔法使い「解呪!!」


バキンバキンバキンバキンッ!!



呪術士「しまった!! 呪いが!!

魔法使い「この様な完成度が低いもの、魔法を極めたわしに通用すると思うてか!」

呪術士「くっ……『跪……!」ズォッ

魔法使い「拘束魔法!!」ジャラジャラジャラジャラ

呪術士「くわっ!!」ガキーン

戦士「魔法の縄だと!?」ガキーン

暗殺者「……!!」ガキーン

侍少女「おお! 一瞬で……!!」

魔法使い「長くはもたん! 今のうちに逃げるんじゃ!!」

少年魔法使い「頼んだ!! 行くぞ!」ダッ

侍少女「わかったでござる!」ダッ

魔族少女「ま、待ってよ!!」

妖精長「!!! お嬢ちゃん、危ない!!」ドンッ

魔族少女「え?」


賢者「衝撃魔法!!」

魔法使い「しまった!!」


バァアアン!!


妖精長「ぐぁああああ!!」

魔族少女「妖精長さん!」


723: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 21:40:46.79 ID:WO9RRX340

賢者「あら、妖精の方に当たったのね。気絶させるつもりだったんだけど……まぁ、死んでないなら結果オーライとしておきましょうか」フフッ

魔法使い「貴様……!!」

賢者「魔法を極めたのはあなただけじゃないのよ? 魔法使いさん? こんな完成度の低い魔法で私を一瞬でも拘束できると思ったのかしら?」フフッ

魔法使い「思ったよりもできるようじゃの……」ゴクッ

魔族少女「そんな……私を庇って……い、今回復魔法を……」

妖精長「大丈夫じゃ……大したことではない……それよりも早く逃げんとな……悪いがお嬢ちゃん、ちょっと一人で飛ぶのはしんどいんでのう……手を貸してくれるか……?」

魔族少女「は、はい!!」ダキッ

妖精長「すまんの……」

少年魔法使い「相手はどうやら本気みたいだな」

侍少女「のんきに分析なんてしてる場合じゃないでござるよ! ここはさっさと逃げるでござる!」ダッ

魔族少女「うん! 魔法使いさん、あとはお願いします!!」ダッ

魔法使い「ああ、妖精を……世界の命運を頼んだぞ!!」



賢者「させると思う? 業炎魔法!!」ゴォォォ

魔法使い「なんの! 水龍魔法!!」ギュォォォ


バァァァン!!


魔法使い「ぬぅ……!!」


724: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 21:41:49.08 ID:WO9RRX340

賢者「ちっ……逃がしたか。ふふっ、流石伝説の英雄やるじゃない」

魔法使い「お主もやるのう……伊達に最大規模の傭兵団の幹部ではないということか」

賢者「幹部? そんな堅苦しいもんじゃないわよ。私はこの戦闘狂が放っておけないから一緒にいるだけ」

魔法使い「………それは愛故にか?」

賢者「ガキが無理してそんな知ったかぶりするんじゃないわよ、こういう感情は大人にしかわからないものなの」

魔法使い「……賢者殿。お主ほど聡明な人間ならわかるじゃろう? 商人貴族の考えていることの恐ろしさが」

賢者「そうね、大きすぎる力は更なる力を生み、それはやがて戦争へと繋がっていく……商人貴族は自らの利益のためにそんな世界を作り上げようとしている。それは決して褒められた行為じゃないわ」

魔法使い「ならばなぜじゃ!!」

賢者「じゃあ、逆に聞くけど……」


賢者「『強さを求めてなにが悪いの?』」


魔法使い「なんじゃと?」

賢者「人は誰しも強くありたいと願うものだわ。そしてその誰もが強くなれるとは限らない。そんな人たちにとって妖精の力はとても魅力的なものだと思わない?」

魔法使い「じゃが、その大きすぎる力はやがて多くの闇を……」

賢者「その年で数々の魔法を操り、勇者のパーティーとして伝説の英雄と讃えられていうあなたにはわからないでしょうね、持たざる者の辛さが」

魔法使い「!!!」

725: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 21:43:07.18 ID:WO9RRX340

賢者「あなた達は挫折する辛さを知らない。どうやっても叶わない夢があることをしらない。努力すればなにもかもがすべからく成功すると信じているあなた達にはわからないのよ」

魔法使い「だからといってそんなこと許されるわけが……」

賢者「はっ、そんなの持っている人間の理屈じゃない! あんたみたいな成功者の余裕じゃない!」

賢者「力を求めてなにが悪いのよ! 栄光を、名誉を求めてもがいてなにが悪いって言うのよ!」

賢者「私は知っているわ! 夢が叶わないことを知った人間が絶望し、狂っていった姿を!」

賢者「あんたが言ってるのは今を変えたい奴らへの冒涜だわ! 夢の力? いいじゃない、それを求めるのも人間の自由よ!」

賢者「あなたに彼らの思いを踏みにじる権利があるの!? 潰されて否定されて地べたに這いつくばる彼らの姿を見て世界のためって偉そうに言うことができるの!?」

魔法使い「それは……」

賢者「世界のためって……人間なんてそんな大きなことなんか考えてないわよ。今を変えたい、自分を変えたい、ちょっとでもいいから幸せになりたい……妖精の力はそんな虐げられた人たちの最後の希望なのよ? あなたにそれを奪う権利なんてあるの?」

魔法使い「ぬぅ……」

賢者「あなたの様な子供が世界のためとか偉そうなこと言わないで! あなたのその正論がどれだけ人を傷つけてきたか考えたことある?」

賢者「あなたの成功の裏にはどれだけの絶望と悲しみと虚しさがあるのかわかっているの!? あなたが今日こうしてここに立つのにどれだけの人の夢を食いつぶしてきたかわかっているの?」

賢者「力が無いだけで……才能が無いだけで……持たざる者はもがくことすら許されないっていうの? だとしたら私たちは何のために生きているのよ!!」

魔法使い「うぅぅ……私は……別にそんなつもりじゃ……」

賢者「誰にだって叶えたい夢があるのよ……そのためにはなにもかもを投げ出したって構わない……そんな夢があるのよ。それを否定する権利なんて何もない! その手段として妖精の力は素晴らしいものじゃない!」

魔法使い「で、でも……誰かの命を犠牲にしてまで力を得ることはその……間違っていて……それはやっぱり……」モジモジ

賢者「あら? 私たちだって生きるのに命を頂いているわ。それともあなた菜食主義者?」

魔法使い「それは……違います……けど……でもこういうのはおかしいっていうか……うまく言えないけど……うう」

賢者「………」

魔法使い「でもやっぱりだけどその……あの……でも……」モジモジ


726: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 21:45:04.05 ID:WO9RRX340

賢者「………ま、こんなもんかしらね」

魔法使い「え?」

賢者「ふふふ………うふふふ……あはははははは!!!」

魔法使い「な、なにがおかしい!?」

賢者「………どうだった? 私のお芝居?」

魔法使い「なに!?」

賢者「時間稼ぎに付き合ってくれてありがとうね、魔法使いちゃん? 思ったより乗ってくれるんですもの、お姉さんも演技に力が入っちゃったわ。でもね」


賢者「ちゃんと周りのことも気を配らないとダメよ?」


魔法使い「しまった!!」


ジャキンッジャキンッ


呪術士「これでよし! やっと解けましたよ!!」

戦士「おい! さっきの狂った人間って俺のこと言ってんのか!!」

賢者「他に誰がいるってのよ、戦闘狂が」

戦士「俺はそんなんじゃねぇ!」

暗殺者「………」プラプラ

賢者「遅いわよ、呪術士。あんまり面倒かけんじゃないの」

呪術士「……すみません」


727: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/07(日) 21:46:31.23 ID:WO9RRX340
賢者「あら、今回は随分と素直ね?」

呪術士「賢者さんて思ったより熱い人なんですね……ちょっと見直しました」

賢者「はぁ!? あんなもん時間稼ぎのための嘘に決まってるでしょ? 私は別に依頼人のことも世界のこともどうでもいいわ。私はお金とあと素敵な旦那様がいればそれでいいのよ……」ホゥ

呪術士「……どこまでも素直じゃない人ですね」

賢者「それじゃあ、魔法使いちゃん、私はお金稼ぎの方にに戻らせてもらうから」フワッ

魔法使い「待て!!」

呪術士「おっと! 『跪け』!!」

魔法使い「がっ!!」ドサッ

賢者「ばいばーい!!」

呪術士「……団長達も先にどうぞ」

戦士「……任せていいんだな?」

呪術士「こいつの相手は……僕にやらせてください」

戦士「てめぇも黒獅子騎士団の一員だ。しくじんじゃねぇぞ?」

呪術士「わかってます」

戦士「暗殺者、行くぞ」

暗殺者「……」コクコク

魔法使い「くぅ……豪炎魔法!!」ゴォォォ

暗殺者「!!!」バッ


カキンッ!!


魔法使い「なぁ!?」

暗殺者「………」チッチッチッチ


シュンッ!!!


魔法使い「くそっ!!」


737: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/09(火) 22:24:04.76 ID:v2sEVMg60


タッタッタッタッタ………



魔族少女「どこか痛みますか? 妖精長さん?」

妖精長「大丈夫じゃ……大したことはないが……歳には勝てんのう……上手く飛べんのじゃ……」

魔族少女「走りながらで申し訳ないですけど、回復魔法かけときますね」パァ

妖精長「すまんの……」

侍少女「魔法使い殿は大丈夫でござろうか?」

少年魔法使い「そんなの知るか! ただ、今は全力で逃げるしかないだろ!」

魔族少女「うん、そうだよね!」

侍少女「ああ!! こんな時に幼女殿と悪ガキ殿はなにをしているんでござるか! 世界のピンチでござるよ! 勇者の出番でござるよ!!」

少年魔法使い「わめくな、敵に気づかれる!」

魔族少女「そうだ! 勇者様に頼ればいいんじゃないかな! 勇者様ならなんとかしてくれるんじゃない!?」

侍少女「勇者殿に……」ポワポワポワ

少年魔法使い「勇者に……」ポワポワポワ



勇者「あ? 嫌だよ、面倒くさい」ケッ

勇者「どうしてもって言うなら金出しな! お前の持ってる有り金全部だ! ガッハッハッハッハッハ!! ヒィィィハッハッハッハッハ!! ………ゲホッゴホッグホッ!!」




少年魔法使い「無いな」

侍少女「無いでござる」

魔族少女「二人共酷い……」アハハ


738: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/09(火) 22:24:54.03 ID:v2sEVMg60

少年魔法使い「あの勇者なら逆に敵側に回りそうだしな」

侍少女「全くもってその通り!」

魔族少女「そんなにダメ……?」



「おぉぉぉぉっほっほっほっほ!!!」


侍少女「なんでござる!?」

賢者「見つけたわよ! 子供達!!」

少年魔法使い「くそ、思ってたよりも早いな……」

魔族少女「そ、空飛んでるよ!?」

少年魔法使い「風の魔法の応用だ。手強いぞ」

賢者「あら坊や、中々賢いじゃない」

少年魔法使い「そいつはどうも」

賢者「さ、お姉さんにその妖精さんを渡してもらえないかしら?」

侍少女「断る!!」

魔族少女「もうこれ以上戦争なんて起こさせません!」

賢者「あらそう、だったら強引に奪い取るけどそれでいいのね?」

少年魔法使い「そんな怖い顔してるとシワが増えるぞ? おばさん」

賢者「なっ!? おばさんじゃないわよ! 私まだ20代よ!!」

侍少女「十分おばさんでござる」


739: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/09(火) 22:25:44.32 ID:v2sEVMg60

賢者「むっきー!!! レディに向かってそんな口叩くガキどもにはちょっと教育が必要みたいね!」パァ

少年魔法使い「来るぞ!」

賢者「木っ端微塵になりなさい! 爆発魔法!!」パッ


ドゴォォォン!!!


魔族少女「きゃっ!」ドシャッ

侍少女「す、すごい威力でござるよ……」ゴクッ

少年魔法使い「立て、魔族少女。逃げるぞ!」スッ

魔族少女「う、うん……!!」スクッ

賢者「逃がさないわよ! あんた達!!」

賢者「今度こそ木っ端微塵に……」

侍少女「そんなこと拙者がさせないでござるよ!」ザッ

少年魔法使い「侍少女!?」

侍少女「これでもくらえ!」ポイッポイッポイッ

賢者「!?」


ベチャッベチャベチャ!!!


賢者「きゃあっ! なに!? なにこれ!!」ジタバタ

魔族少女「うわぁ……」ゾッ

侍少女「ふっふっふ……」ドヤッ

740: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/09(火) 22:28:04.46 ID:v2sEVMg60

賢者「もう! なんなの!! これ!!」 バッ

カエル1(よっ!)ゲコゲコ

カエル2(元気してる!?)ゲコゲコ

カエル3(姉ちゃん、きれいだねぃ!)ゲコゲコ



シーン………


賢者「きゃぁぁあああああああああ!!!」

侍少女「さっ! 今のうちに逃げるでござる!!」

少年魔法使い「あ、ああ! 行くぞ魔族少女!」

魔族少女「う、うん!!」


賢者「うわぁっ!!! ほわぁぁあああああ!!!」ジタバタ


侍少女「どうでござるか! 拙者のカエル爆弾の威力は!!」フフンッ

少年魔法使い「お前、野生児かなにかか……?」


741: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/09(火) 22:29:27.46 ID:v2sEVMg60

侍少女「さっき妖精の里にいたのを捕まえておいたんでござるよ」

魔族少女「な、なんのために?」

侍少女「飼ったら面白いかなぁって」アハハ

少年魔法使い「お前馬鹿だろ?」

侍少女「でも中々効果てきめんでござろう?」

少年魔法使い「それはそうだが……ああ、なんか釈然としない!!」

魔族少女「……侍少女ちゃん」

侍少女「なんでござる?」

魔族少女「……私には、『絶対』にやらないでね?」ニコッ

侍少女「……はい」


賢者「ふわぁぁあああああ!!! 服に!! 服に入ってきたぁぁああああ!!!」

賢者「だ、誰か!! とって!! とってぇぇええええええ!!!」ジタバタ


カエル1(ここは俺たちに任せな!)ゲーコ

カエル2(行きな、世界のためによ!)ゲコゲコ

カエル3(おねえちゃんの●●●●!!)ゲコッ

賢者「もういやぁぁぁあああああ!!!」


魔族少女「惨い、惨すぎるよ……」ゾッ

侍少女「なにしてるでござるか! さっさと逃げるでござるよ!!」

魔族少女「ま、待ってよう!!」ダッ

748: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/11(木) 22:10:36.25 ID:7RV3bZfF0

――――


呪術士「残念でしたねぇ……我々黒獅子騎士団にかかればあの子達を捕らえるのも時間の問題でしょう」クスクス

魔法使い「………」

呪術士「見ての通り、うちの団長なんかは特に手加減を知らない男です。もしかしたら誤って殺してしまうかもしれませんね」クスクス

魔法使い「豪炎魔法!!」

呪術士「おっと!」ヒラッ

魔法使い「水龍魔法!! 突風魔法!! 爆発魔法!!」

呪術士「少しは人の話を聞いたらどうです? 『歪め』」グニャッ

魔法使い「!!!」


ドカァァァアアアン!!


魔法使い「ちっ……」


749: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/11(木) 22:11:29.75 ID:7RV3bZfF0

呪術士「呪いにはこんな使い道もあるんですよ」フフンッ

魔法使い「……さっさとそこを退け。呪術士……次は手加減などせんわい……!!」

呪術士「そんなこと言っても無駄ですよ?」

魔法使い「わしは本気じゃ!!」

呪術士「どうかなぁ……?本当は僕のことが怖くて仕方ないんでしょ?」クスクス

魔法使い「誰がお主のことなど……!!」

呪術士「嘘ですね」

魔法使い「嘘じゃない!!」

呪術士「手、震えてますけど?」

魔法使い「!!!」バッ

呪術士「口でいくら否定しても無駄です。こうして2人きりでいると思い出すでしょう? 懐かしいあの日々を!!」

魔法使い「うぁ……!!」

呪術士「いやぁ、楽しかったなぁ……!! あなたもそうでしょう? 魔法使い!!」

魔法使い「この……どの口が言うんじゃ貴様!!」

呪術士「口調を変えて強くなったつもりですか? 違う自分になって強くなったと勘違いしてるんですか?」ズイッ

魔法使い「な、なにを……」ジリッ

呪術士「違いますよぅ……英雄になってもあなたはなにも変わらない。あなたは私に怯え続けるちっぽけな魔法使いちゃんのままです」


750: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/11(木) 22:12:30.79 ID:7RV3bZfF0

魔法使い「だ、黙れ! わしは変わった!! あの頃のわしとは違う!! 今のわしならお主なんぞ!!」

呪術士「そうやって違う自分を演じているのがいい証拠です。あなたはまだ僕が怖いんだ。怖くて怖くてたまらないんです」

魔法使い「黙れ! 黙れ!! 黙れぇぇぇえええ!!!」ゴォォォッ

呪術士「『消えろ』!!」


ジュッ!!


魔法使い「わしの豪炎魔法が一瞬で……!!」

呪術士「呪いというものは極めて異質な術でしてね……使う相手に対する思いが深ければ深いほど威力を増すんですよ」

呪術士「僕があなたに抱いている思い……この先は言わなくてもわかりますよね?」フフッ

魔法使い「ああ、安心せい! わしもお主のことなんか大っ嫌いじゃわい!!」

呪術士「……そうですか、それは良かった。だったら尚更あなたをいたぶりたくなりましたよ」ニコッ

魔法使い「あの頃のわしとは違う……わしは変わったんじゃ! 勇者と出会って、お姉ちゃんと出会って、助手たちと出会って変わったんじゃ!! お前など、もう怖くなどない!!」

呪術士「生意気ですねぇ! 僕が思い出させてあげますよ! あなたの身の程ってやつをね! 魔法使い!!」

魔法使い「こっちこそ貴様の思い上がりを否定させてもらうぞ! 呪術士!!」

751: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/11(木) 22:13:24.09 ID:7RV3bZfF0

―――――


勇者「妖精が一匹おりました~♪ 市場で売ったら10億で~♪ 贅沢三昧し放題~♪」ガッチャガッチャ

勇者「妖精が二匹おりました~♪ 市場で売ったら20億~♪ 贅沢三昧腹いっぱい~♪」ガッチャガッチャ

勇者「妖精が三匹おりました~♪ 市場で売ったら30億~♪ そんなことはないよ、夢ですよ! っておい!!」ガッチャガッチャ


商人貴族「………こんなところでなにをしているんですか?」ハァ

勇者「見ればわかるだろ? 縛られてんだよ」ガッチャガッチャ

商人貴族「私が聞いているのはそういうことではないのですが……」

勇者「この状況にこれ以上の説明が必要か? 困ってんだよ、助けろよ」

商人貴族「……外してやりなさい」

部下「はい。おい、手伝ってくれ」

見張り「じ、自分でありますか!?」

商人貴族「この際、誰でも構いませんよ。早く自由にさせてあげてください。世界を救った勇者が椅子に縛られている光景など誰も見たくはないでしょうから」

見張り「え!? じゃあこの嘘みたいな笑顔を貼り付けた死んだ目をしている人間のクズ予備軍みたいなこいつが勇者だと言うんですか!?」

勇者「お兄さん、随分とはっきり言うねぇ。初めて見る顔じゃないだろ?」タハハ

見張り「といってもさっきそこであったばっかりだけどな」


752: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/11(木) 22:14:01.57 ID:7RV3bZfF0

勇者「そんなことはいいからさ、さっさとこの鎖解いてくれよ。食い込んじゃって痛いんだよね」ガッチャガッチャ

見張り「あ、ああ。わかった。すぐに……」

部下「待て」

見張り「え?」

勇者「おい、どうしたんだよ?」

部下「勇者様、あなたに鎖をかけた人物は?」

勇者「……あんたらが雇った傭兵だよ。確か……暗殺者とか言ったっけな?」

商人貴族「それがどうかしたんですか?」

部下「……鎖に強力な魔力が施されています。恐らく無理に外せばこちらにも害が」

商人貴族「害とは?」

部下「わかりません。私も専門分野ではないので……一つ言えるのは私たちもただでは済まないということだけです」

勇者「え? なに? 解けないの? これ?」ガッチャガッチャ

部下「ええ、素人が下手に手を出すとどうなるかわかったもんじゃないので……」

商人貴族「それは困りましたねぇ……」

勇者「もしかして俺はこのまま椅子に縛り付けられたままなのか!?」

部下「それはわかりませんが今はとりあえずそのままの方が……」

勇者「えー? マジかー……」

商人貴族「仕方ありませんね、申し訳ないですが勇者様。暗殺者さんが戻るまでお待ちいただけますか?」

勇者「……なんとかなんないの?」

部下「……すみません」

勇者「……そう」


761: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/14(日) 21:20:41.51 ID:YDEKVwSK0

商人貴族「このようなことになってしまい、申し訳ありません。部下の失態は雇い主の失態です。心からお詫び申し上げます」

勇者「別にそこまで謝らなくてもいいけどさー」

商人貴族「しかし勇者様、なぜこのようなことに?」

勇者「んあ? いや適当なテントに入ったら置いてあったベッドがあまりに豪華だったもんでちょっと遊んでたら家主が来て変 扱いされた。失礼しちゃうよなー!」

部下(そりゃそうだろ……)

商人貴族「そういえばここは呪術士さんのテントでしたね、女性の部屋に無断で忍び込むのはいくら勇者様とはいえおふざけが過ぎたのでは?」

勇者「知らなかったんだよ、ろくに案内もされなかったから!」

見張り「なっ!? お、お前が勝手に入ったんだろ!」

勇者「えー? そうだったっけー?」

見張り「商人貴族様! 俺は確かに止めたんですよ? でも許可はとってあるからの一点張りで……」

商人貴族「安心しなさい。別にあなたの責任問題にしようとなんてしてませんよ」

見張り「はい……」

勇者「いや、お前が悪い! お前が悪いぞぉぉぉ!!」ガッチャガッチャ

見張り「こいつぅぅ!! 言わせておけばぁぁあああ!!」チャキッ

商人貴族「やめなさい。私の前でその様な無粋な真似は控えてもらいましょう」

見張り「くっ……」

 
763: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/14(日) 21:24:37.81 ID:YDEKVwSK0
 
商人貴族「勇者様、どうかお許しを」

勇者「うむ、許してやらないでもない!」フンスッ

見張り(こいつ……いつか殺す!!)


商人貴族「それでですね、この様な状況で頼むのもぶしつけで申し訳ないのですが一つよろしいですか?」

勇者「うむ、なんなりと申せ!」

商人貴族「暗殺者さんが戻るまで少々時間があります。勇者様もただ待っているというだけでは退屈でしょう?」

勇者「まぁ、確かになぁ……流石に長時間この椅子とお友達だとね……」

商人貴族「どうです? この機会に私共に勇者様の武勇伝などを話していただけないでしょうか?」

勇者「武勇伝?」

商人貴族「ええ! 天を駆け、地を渡り、この世界を脅かす魔王の恐怖から我らを開放してくださった勇者様の武勇伝です! 先代までは事細かに文書にまとめられていますが今の勇者様の冒険に関してはほとんどの人間が知り得ません。一個人として、私はいかにして勇者様がこの世界を救ったのか、その真実を知りたいのです!」

勇者「………でもいいのか? そんなことしてて? 今、あんたの商売の正念場ってところじゃないの?」

商人貴族「構いません。彼らは私の指示通りに動いてくれていますから。これで私の仕事はおしまいです。あとは結果が出るのをを待つだけ、私が優れた商人であれば結果は自ずとついてきますから」フフッ

勇者「……随分な自信だな。それでもし、あんたがそうでなかったら?」

商人貴族「その時は潔く表舞台から消えましょう」フフッ

勇者「へぇ……」

商人貴族「もちろんタダとは言いません。然るべきものには然るべき報酬を」ニコッ

勇者「お? マジ?」

商人貴族「もちろんでございます。それにみんな勇者様の武勇伝を聞きたがっています。この者達のように……」



「「「失礼しまーす♥」」」ゾロゾロゾロ……


勇者「おおおっ!!」


764: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/14(日) 21:25:19.74 ID:YDEKVwSK0

商人貴族「この者達が是非とも勇者様の武勇伝を聞きたいと利かなくてですね、困ったことに無理矢理王都からついてきてしまったのですよ……」アハハ


「もう、商人貴族様ぁ、そんなこと言ったら私たちがはしたない女みたいじゃない♥」バインッ

「うわぁ、本物の勇者様だ♥」ムチッ

「生勇者なの!? 初めて見るの!! やっぱり予想した通り女難の相が出ていやがるの!!」ピョンピョンッ

「きゃっ! 目が合っちゃった!! かっこいい♥」プリンッ

「……い、イケメン……?」ストーン



勇者「……商人貴族君」

商人貴族「なんでしょう?」

勇者「君はとても優秀な商人だね」ダバババババ

商人貴族「ありがたきお言葉」

勇者「いいだろう! なんなりと聞いてくれたまえ! 私が話せることならなんでも話そうではありませんか!」ダバダバダバ


「「「「きゃー! 勇者様ー♥」」」」


勇者「でっへっへっへっへ……」ダバダバダバ


765: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/14(日) 21:25:51.88 ID:YDEKVwSK0

見張り「お前、まずその鼻血なんとかしろよ」

勇者「可愛い子ちゃん達! この勇者の武勇伝が聞きたいか!!」

「「「おー♥」」」

「おー!! なの!!」

「……おー……」


商人貴族「ふふっ」

部下(頭が痛い……)ハァ


766: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/14(日) 21:26:34.75 ID:YDEKVwSK0

―――――




「ねぇ、勇者様はどうやって勇者になったの~?」

勇者「それはだねぇ~、俺様くらいになると生まれた時からもう既に勇者だったんだよ~!!」デヘヘ

「えー、嘘―!!」キャッキャッ

勇者「嘘じゃないよ、俺の目を見てごらん? これが嘘を言っている男の目かな?」

「私、わかんなーい!」

「勇者様は彼女とかいないんですかぁ~?」

「ちょっと抜けがけしないでよー!」

勇者「いないから絶賛募集中!!」ゲヘヘ

「私、立候補しちゃおっかなー!」

勇者「えー!! マジで!?」

「………うん!!」カァ

勇者「じゃあ、チューしてよ!! チュー!!!」

「えー……どうしよっかなー?」ウフフ

勇者「あ、ダメだ! こんな時に鎖が邪魔で近づけない!!」ガッチャガッチャ

「もう! 勇者様ってば肉食系なんだから―!!」

勇者「そうでも……あるかな!! だっはっはっはっはっはっは!!」


アッハッハッハッハッハッハ!!!!


部下(ダメだこいつ、早く何とかしないと……)

見張り「………」ジー

部下「……羨ましいのか?」

見張り「あ、いや別にそんなことは……」フイッ

部下「まぁ、男なら誰でも憧れる夢みたいなものだからな」

見張り「くそう、俺だっていつかあれくらい……」クゥ

767: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/14(日) 21:32:17.22 ID:YDEKVwSK0

商人貴族「勇者様、ひとつ私も聞いてもよろしいでしょうか?」

勇者「おうおう! なんでもいいぞ!! 俺は今とても気分がいいからな!!」ゲヘヘ

「「「きゃー!! 勇者様―!!」

勇者「ぬへへへへ……」

商人貴族「……では恐れながら」

勇者「なんだ? 村の娘に化けて魔王軍幹部を倒した話か? それとも荒野の決闘の話か?」

商人貴族「いえ、4年前の王都大侵攻の時の話です」

勇者「……あー」

商人貴族「王都が今まさに魔王軍の手によって落とされようとしている時に颯爽と現れる勇者一行! 勇者様と剣士様が戦場を駆け抜け、魔法使い様の魔法が魔王軍の頭上に降り注ぐ……そして極めつけは聖女様の『奇跡』」

商人貴族「いやー、その時私も王都にいたんですがねぇ、前線に立っていたわけではないのであの時のことはなにもわからなかったんですよ!」

勇者「あー、そんなこともあったっけなぁ!」

商人貴族「今日は是非ともあの日の真相を教えていただけないかと!」

見張り「あ、俺も聞きたい!」

「私もー♥」

「勇者様、話してー?」

勇者「あ、いや……うん、それはだな、子猫ちゃん達……」アセアセ


768: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/14(日) 21:32:58.65 ID:YDEKVwSK0

商人貴族「勇者様? どうかなさいましたか?」

勇者「え? ああ……いや、なんでもないよ?」

商人貴族「なにかご気分でも優れないのですか?」

勇者「そんなことない! そんなことないって!」

商人貴族「でしたらなにか……言い辛いことでも?」

勇者「それは……」

商人貴族「………『雷狼』」

勇者「え!?」

見張り「その名前……」

商人貴族「『爆炎の妖精』と呼ばれた魔女、異国の侍、そして王立研究所の魔法学者………」

勇者「………」

商人貴族「この名前に聞き覚えはありますか?」

勇者「………いや、無いなー、聞いたことないぞー? そんな雷狼なんて傭兵の名前」

商人貴族「なぜ、雷狼が傭兵の名前だと?」

勇者「……あ、いやなんていうか響きが傭兵っぽいなーって!!」アハハ

商人貴族「しかし、おかしいですねぇ、私が調べた情報によりますと勇者様はこの方たちに直接会っているはずなのですが……」

勇者「……ええ? そんなことあったっけなぁ? 覚えてないなぁ?」アセアセ


769: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/14(日) 21:33:42.84 ID:YDEKVwSK0

商人貴族「勇者様」

勇者「な、なにかな? 商人貴族君?」

商人貴族「私はどうしても知りたいのです、あの日の真実を」

勇者「………」

商人貴族「聖女様が奇跡を起こし魔王軍を王都から追い払ったあの日、あなたはこの人達を……」




商人貴族「殺していますよね?」




見張り「………え?」

勇者「………」ギリッ


770: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/14(日) 21:34:20.23 ID:YDEKVwSK0

商人貴族「そしてなんの因果か、あの人たちが残したものは全てここにある。剣士様に無理矢理連れて来られたなんて嘘です。あなたはそれを知っていたからわざわざここに訪れた。違いますか?」

勇者「商人貴族、あんた俺になにを言わせるつも……」


シャキンッシャキンッシャキンッ!!!


「動かないで勇者様♥」

「商人貴族様のいうこと素直に聞いて欲しいなーって♥ じゃないと私達……」

「あなたを殺さなきゃいけなくなっちゃう♥」


勇者「くっ……」


776: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/16(火) 21:51:58.91 ID:NaA7k5w60

商人貴族「話していただけませんか? 勇者様?」

勇者「……真実もなにも、その様子だとあんた全部知ってんじゃないの?」

商人貴族「ええ、知っています。ですが私はその答えがどうしても信じられないのです」

勇者「でも多分それが真実だぜ?」

商人貴族「勇者であるあなたが4人の裏切り者を粛清したということがですか」

勇者「そうそう」

見張り「しゅ、粛清ってあの伝説の傭兵が!?」

勇者「まぁ、公表はされてないけどな。お前の憧れ、雷狼とかいう傭兵は金で魔王軍に情報を売ってたんだよ。お陰でこっちの動きは筒抜け、防衛軍は多くの死者を出した」

商人貴族「……」

勇者「まったく、ひでぇ話だよな。金をちらつかせればなんだってするんだぜあいつら。味方を裏切ることも殺すこともなんとも思っちゃいないんだ。さすがの俺だってもうちょっと節操があるっつーの」

勇者「だから殺した。世界を守るために。当時の俺はそれが勇者の仕事だと思ったから。なにか問題でもあるか?」

見張り「そんな……雷狼がまさかそんな人だったなんて……」

勇者「所詮は金で動く傭兵ってことだよ、信念も誇りもありゃしねぇってわけ、あんたもこんなところで傭兵なんてやってないでさっさと剣を置いて田舎にでも帰った方がいいんじゃないの?」ガッハッハッハ


ガウンッ!!!


部下「商人貴族……様?」


777: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/16(火) 21:52:33.75 ID:NaA7k5w60

勇者「おっとびっくり……あんたでもそういう顔するんだ」

商人貴族「真実を……話しなさい!!」

勇者「だから嘘じゃねーって、これが真相だよ」ヒラヒラ

商人貴族「ならばあなたにお聞きしたい」

勇者「あん?」

商人貴族「今、あなたが言ったことをそのまま孤児院の子供達に言えますか?」

勇者「はぁ?」

商人貴族「どうなんですか?」

勇者「ば、馬鹿馬鹿しい! そ、そんなの言えるに決まってんだろ! むしろ自慢してやるね!!」

商人貴族「『雷狼とかいう裏切り者を見つけたからぶっ殺してやった。これが勇者の仕事だから』と? あなたは悪ガキ君の前で言えますか?」

勇者「なんで悪ガキの名前が……あいつは関係ないだろ」ケッ

商人貴族「言えますか? 勇者様?」

勇者「それは……なんていうか子供の教育上悪いというか? あんまりそういうのは言わない方が……」

商人貴族「やはりあなたでも言えませんか。お前の両親を殺したのは自分だとは!」

勇者「!!!」

商人貴族「あの孤児院にいる子供達はなぜ両親を失ったのか、あなたはそれを知っているからわざわざこんな誰もいない様な所までやってきた! 違いますか?」

勇者「ったく、なんの話だよ。あいつらが裏切り者の子供? そんなの初めて知ったぜ。へぇ、そうかい。だったら気をつけないとな。本当のことがバレたらあいつらに刺されるかもしれねぇ」ケッケッケ

見張り「お前、それでも勇者か!」

勇者「勇者だよ! なんか文句あんのか!」

見張り「このクズ!!」

勇者「クズで結構コケコッコー!!」ベロベロバー


778: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/16(火) 21:53:04.19 ID:NaA7k5w60

商人貴族「勇者様、あなたは何を隠しているのですか? あの日、本当はなにがあったんですか? なぜあなたは彼らを殺さなければならなかったのです?」

勇者「………俺は裏切り者を殺しただけだ」

商人貴族「あくまでとぼけるというのですね」

勇者「それ以上言うつもりはない」

商人貴族「やはりあなたは勇者を名乗るべきではない……」

勇者「よく言われるよ」ケッ

商人貴族「彼にあの力を渡して正解でした。雷狼の息子である彼ならば必ず立派な勇者になってくれるでしょう」フフッ

勇者「……なんの話だ?」

商人貴族「あなたの様な男は勇者に相応しくないということですよ」

勇者「あら。失礼しちゃう」プンプン

商人貴族「部下。あれを」

部下「はっ……どうぞ」スッ

商人貴族「ありがとう。勇者様、これを見てください」

勇者「なんだそれ? 小型の通信機?」


779: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/16(火) 21:53:53.50 ID:NaA7k5w60

商人貴族「魔力で動く魔導具です。これはとある場所の映像です。少々映像が荒いですが、今あの光の柱の下で起こっていることです」

勇者「光の柱で?」



悪ガキ「うぉぉぉおおおおおおおお!!!!」

幼女「むぃぃぃいいいいいいいい!!!!」



勇者「……幼女……それに悪ガキ……!! なんであいつら戦ってんだよ!?」

商人貴族「彼は勇者になりうる力を手に入れたのです」

勇者「てめぇ、悪ガキになにをした!?」

商人貴族「どうしたんですか勇者様、先ほどまでの余裕は一体どこにいったのです?」

勇者「うるせぇ! 早くこの戦いを止めろ! 今すぐにだ!!」ガチャガチャ

商人貴族「それはできませんねぇ……今の彼を止めることは私には不可能ですから」

勇者「だったらこの鎖をさっさと解け! 俺が行く!!」

商人貴族「そうですねぇ……あなたが真相を話せば私の転移魔法で暗殺者さんのところまで案内しましょう」

勇者「だから、真相なんて無いんだって!!」

商人貴族「そんなはず無い!! あの人達は金や己の利益のために動くような人では無かった!! だからこそ私は……!!」

勇者「そんなことどうでもいいだろ!!」

商人貴族「ならば真相を!! それが取引の条件です!!」

商人貴族「彼は殺しますよ? あの魔導人形も、あの孤児院の院長も……そしてあなたも」

商人貴族「彼は親の仇を討つと同時に自らの夢を叶えることができるのです! どうです、素晴らしい話ではありませんか?」

勇者「くっ……」




「必殺!! 山賊七つ道具の一つ!! 『煙玉』なの!!」


780: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/16(火) 21:54:29.18 ID:NaA7k5w60

バンッ モクモクモク……



勇者「なんだ? 煙玉!?」

元気過ぎる少女「さっ、さっさとずらかるの!」

無表情な少女「……りょーかい……」

勇者「お前ら……かわい子ちゃん達の中でもセクシーじゃ無い方!?」

無表情な少女「……失礼な……これでも18」

勇者「見えねぇ……」

元気過ぎる少女「お、お姉ちゃん! ふざけてる場合じゃ無いの! さっさと逃げるの!!」

「……わかった……」ズイッ

勇者「え? おっ……!?」

部下「貴様、なにをしている!?」

元気過ぎる少女「悪いけど勇者様はいただいていくとするの!」ムンッ

勇者「お、おい!? どうなってんだ!?」

無表情な少女「……ちょっと揺れる……ごめんなさい」

勇者「ええ!? ちょぉぉぉ!!!???」

商人貴族「追いなさい! 勇者を逃してはなりません!!」

部下「はい。お前達、勇者を捕らえろ!!」

「「「はっ!!」」」

見張り「おいおい……どうなってんだよ……」


788: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/18(木) 21:50:36.24 ID:Ma4ft/970

――――



勇者「あ、あの!! ちょっと!! 降ろしてくんない!?」

元気過ぎる少女「それはできない相談なの! 少しでも止まったら捕まっちゃうよ?」

勇者「そりゃわかるけど! 揺れが激しくて!! うっぷ……」

元気過ぎる少女「おわっと!! それはダメなの! 我慢するの!!」

勇者「わ、わかってるけども……おえっ……」

無表情な少女「……変な事したらあなたでも殺すから……」

勇者「りょ、りょーかい……それであんた達は?」

無表情な少女「……私達は……スパイ……」

勇者「スパイ?」

元気過ぎる少女「商人貴族のところに潜り込んで情報を探っているスパイなの! どう? かっこいいでしょー!!」フフンッ

勇者「そのスパイがなんで俺を? まさか某国に売り渡すつもりか!?」

無表情な少女「……ちがう。私達の目的はそんなんじゃない……」

元気過ぎる少女「ちょっと色々あって、私達、世界に喧嘩を売ってるの! それで商人貴族の元に潜入してるってわけ!」

勇者「……だったらいいのか? こんなところで正体バラしちゃって」

元気過ぎる少女「………あ」


789: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/18(木) 21:53:41.87 ID:Ma4ft/970

無表情な少女「……だからやめようって言ったのに……」

元気過ぎる少女「やっべーの! やっちまったの! なんてことしてくれたの!!」

勇者「なんで俺に言うんだよ!!」

元気過ぎる少女「だってだって!! 運命にこの光景が見えたからそういうもんだと思って……お姉ちゃんなんで止めてくれなかったの!?」ガクッ

無表情な少女「……やめようって言ったもん……」

元気過ぎる少女「お姉ちゃんの声は小さすぎて聞こえないんだよ! もっと腹から声を出すことを要求するの!」

無表情な少女「そんな……」ガーン

勇者「あのーちょっと? 話がまったく見えないんですけど!?」

元気過ぎる少女「!!! 一旦ストップなの!!」

無表情な少女「………」ピタッ

勇者「どわっ!!」



傭兵A「探せ! まだ遠くには行ってないはずだ!!」



勇者「ちっ、これじゃあ見つかっちまうな! くっそ! いつになったらこの鎖解けるんだよ!!」ガチャガチャ


790: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/18(木) 21:56:40.26 ID:Ma4ft/970

無表情な少女「……妹、知っててこっちの道を選んだの……?」

元気過ぎる少女「だってこっちを抜けた方が近道なんだもん。お姉ちゃんなら問題ないでしょ?」

無表情な少女「……そうだけど……」

勇者「お、おい! どうするんだよ!?」

無表情な少女「……どうするかの前にあなたに一つ聞きたいことがある……」

勇者「なんだよ!? こんな時に!」

無表情な少女「……商人貴族が言う『彼ら』は本当に裏切り者だったの……?」

元気過ぎる少女「お姉ちゃん! 今はそんな場合じゃ……」

無表情な少女「……黙って。これは商人貴族との交渉に有効なカードになるかもしれない。あいつは勇者の持ってる情報を欲している……」

元気過ぎる少女「でも……」

無表情な少女「……私だってあなたがあの時嘘をついてたことくらわかった……」

勇者「へぇ、それはなんで?」

無表情な少女「……あなたはあの時も今も、とても辛そうな顔をしている……顔は笑ってるけど……泣いてる」

勇者「そんなことないって! いやーモテる男は辛いなー! 俺様ってば元気100パーセントの笑顔満点で……」

元気過ぎる少女「勇者の作り笑いは気持ち悪りぃの」

勇者「どうも俺の笑顔は評判悪いんだよなー、なんでかな? こんなにイケメンなのに」

元気過ぎる少女「嘘っぽいから気持ち悪りぃの」

勇者「うっせぇ!」ガチャガチャ

無表情な少女「……妹、ふざけてる場合じゃない……」

元気過ぎる少女「むぅ、ごめんなさいなの」

無表情な少女「……勇者、それでどうだったの……?」

791: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/18(木) 21:59:01.78 ID:Ma4ft/970

勇者「俺がしゃべると本気で思ってるのか?」

無表情な少女「……勇者とはここでお別れ。戦いは止められないまま、多分死ぬ。なんなら私が苦しまない様に殺してあげてもいいよ……?」

勇者「……」

無表情な少女「……答えて、勇者」

勇者「あの日、俺たちになにがあったのかは俺の口からは言えない」

無表情な少女「……そう、思ってたより期待外れ。これだったらまだ『彼』の方がいくらか男らしかった……」

勇者「ただ、これだけは言わせてくれ」

無表情な少女「なに?」

勇者「……あの人は……『雷狼』は紛れもなく英雄だった。俺じゃ逆立ちしても勝てないくらい英雄で……勇者だったんだ」

勇者「あの人に比べたら俺なんか足元にも及ばない。そんな立派な……立派な人だった」

無表情な少女「……あなたはなにを隠しているの……?」

勇者「悪いがそれ以上は言えない。例えここで死ぬことになってもそれ以上は言えない。それが俺と雷狼との約束だから」

無表情な少女「……そう」

勇者「俺をここで捨てるか?」

無表情な少女「……今のでわかった。あなたを助けることにする……」

勇者「悪いな」

792: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/18(木) 22:01:50.95 ID:Ma4ft/970

元気過ぎる少女「それじゃあお姉ちゃん! ズババーンと行っちゃおっか!!」

無表情な少女「……合点承知の助……!!」バーン

勇者「……は?」

元気過ぎる少女「あんまり気にしないであげて欲しいの。お姉ちゃんはただ努力の方向を間違ってるだけなの」

無表情な少女「……合間に小粋なジョークを織り交ぜることが楽しい会話のテクニック……」

勇者「そ、そうなのか……」

無表情な少女「……これで『彼』との会話も楽しくなること間違いなし……!!」グッ

元気過ぎる少女「あー!! ずっこいの! 私も『お兄ちゃん』と遊ぶの!!」

無表情な少女「……妹はいつも『彼』にくっつき過ぎ……」

元気過ぎる少女「いいじゃん! 『お兄ちゃん』ギュッとするとアタフタして面白いんだもん!!」

勇者「おい! お前ら今の状況分かってる?」



傭兵A「いたぞ! 勇者だ!!」



勇者「ほら、見つかった!!」

無表情な少女「……どうしようか? 妹……?」

元気過ぎる少女「そんなのもっちろん強行突破なの!!」

793: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/18(木) 22:02:37.28 ID:Ma4ft/970

無表情な少女「……わかった……」ガシッ

勇者「え? お、おい? ちょっと!?」

無表情な少女「……大丈夫、問題ない……」

元気過ぎる少女「勇者は大船に乗ったつもりでいるの!!」

勇者「いや、もう既にこの段階で欠陥があちこちに見えてるんですけどこの船!?」

無表情な少女「……口は閉じておくことをおすすめする。舌を噛んだら大変……」

勇者「え!?」

無表情な少女「はぁぁぁあああああ!!!」ビュンッ

勇者「どっしぇぇぇぇぇえええええええええ!!!」

傭兵A「なんだ!? 椅子が勝手に空中に!?」

傭兵B「勝手にじゃねぇ! 誰かが勇者が縛られてる椅子ごとジャンプしたんだ!!」

傭兵A「そんな無茶苦茶な!」

傭兵B「逃げろ! こっちに落ちてくる!!」



勇者「あ、ああああああののののの……お嬢ちゃんんんん!?」ヒュゴォォォ

無表情な少女「……なに……?」ヒューン

勇者「なにするつもりりりりりり……」ゴゴゴゴゴゴ

無表情な少女「……見てのお楽しみ……」

勇者「やめて! 空中で俺のこと振り上げないで!! あんた俺のこと斧かなにかと勘違いしてない!!??」ゴゴゴゴゴ

無表情な少女「……長ければ全部武器……」

勇者「ばっかじゃないのぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」




無表情な少女「……全壊!!!」



ズドォォォォォォン!!!! バキィィィン!!


傭兵達「「「「「ぐわぁぁぁああああああ!!!」」」


勇者「んぎゃぁぁぁああああああああ!!!」

794: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/18(木) 22:03:45.82 ID:Ma4ft/970



元気すぎる少女「ひゅー♪ 相変わらずド派手なの!」

勇者「ふざけんなバカ野郎!!」

元気すぎる少女「おっ! 椅子は壊れたみたいだね! まだ鎖は解けてないけど!」

勇者「おかげさまで足だけ自由になりましたよ! ありがとうございます!!」

無表情な少女「……一石二鳥……」フンスッ

勇者「てめぇ……」

元気過ぎる少女「さっ! さっさとこんなとこおさらばするの!!」

勇者「……とんでもねぇのに捕まっちまった……」ゲッソリ

795: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/18(木) 22:12:21.24 ID:Ma4ft/970

――森の中――


戦士「先に行った賢者を追いかけてたはずだが……」

暗殺者「………」オロオロ


賢者「…………」ピクピク


カエル(イェア!! ミッションコンプリート!)

カエル(ざまぁみやがれこの野郎!)

カエル(………ふぅ)



暗殺者「………」スッ

カエル「ゲコッ!?」

暗殺者「……」ポイッポイッポイッ

「「「ゲコーッ!!!」」」

暗殺者「………」バイバイ


796: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/18(木) 22:13:43.30 ID:Ma4ft/970

戦士「おい、起きろ。賢者」ペシペシ

賢者「うう……カエル……ヌルヌル……嫌ぁ……」

戦士「なにうなされてんだ馬鹿」ベシッ

賢者「うぁ……あれ? 戦士?」

戦士「大丈夫か?」

賢者「………」グスッ

戦士「ん?」

賢者「うああああああ!! あうあうあうあう!!!」ダキッ

戦士「お、おい!」ビクッ

賢者「私の服の中をカエルが!! ヌメヌメで! ゲコゲコで!! ウニョウニョで!!!」

戦士「落ち着けって!!」

賢者「怖かった!!」

戦士「お、おう」

賢者「怖かったよー、戦士ぃ……」グスッ

戦士「そうか……」ダキッ

暗殺者「………」ニヨニヨ

戦士「てめぇ! なに見てやがる!!!」

暗殺者「♪♪♪」ピューピュピュー

戦士「……ムカつく……!!」

賢者「///」カァ

賢者「………もういい」グイッ

戦士「え?」

賢者「い、いつまでくっついてんのよ馬鹿!!」ドゲシッ

戦士「痛え! てめぇがくっついてきたんだろうが!!」

賢者「う、うるさいわね! ふざけんじゃないわよ!!」

戦士「お前からもなんとか言ってやれ! 暗殺者!!」

暗殺者「………」ジリッ

戦士「暗殺者?……!!」



剣士「………」




802: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/20(土) 22:09:02.27 ID:GdBwxi3V0

戦士「!!!」ダッ

賢者「ちょっと戦士!」


戦士「剣士ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」バッ

剣士「………」

戦士「昨日の決着!! 今日こそつけさせてもらうぜぇぇええええ!!」

剣士「………」スチャッ

戦士「うぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」



キンッ………


戦士「え?」


ズバァァァァァン!!!


賢者「きゃっ!?」

戦士「斬撃が……飛んだ!?」

剣士「……ふむ。やはり全力で振るとこうなってしまうのか」ボロッ


803: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/20(土) 22:10:12.11 ID:GdBwxi3V0

賢者「ちょっと!? どうなってんのよ! なんで私の後ろにある木が全部倒れてるの!?」

戦士「お前……もしかして斬ったのか? その位置から……」

剣士「剣士ならばこれくらいできて当然だ。もっとも私の場合これをやると剣がもたないのが悩みの種ではあるな」

賢者「……ねぇ暗殺者、剣って全力で振ったらあんなボロボロになるもの?」

暗殺者「………」フルフル

剣士「別に驚くことじゃない。これは私にかけられた呪いだ」

賢者「呪い……ですって?」

剣士「ああ。少々嫉妬深いものにとり憑かれてな、自分以外の剣を使うとすぐに機嫌を損ねてしまう。お陰で私は剣を扱うたびに折らないよう、折らないよう慎重に振っていた」

賢者「そ、そんな馬鹿な話があるわけ…・・・!!」

戦士「ははっ! 流石は伝説の英雄ってところか! おもしれぇ! それでこそ倒しがいがあるってものだぜ!!」

剣士「それで? お前達はこんなところでなにをしている? まさか三人で仲良くピクニックというわけではないはずだ」

戦士「そんなことはどうでもいいだろ剣士! 昨日の続きと行こうじゃねぇか!!」チャキッ

剣士「断る。私も斬る必要のない人間を斬りたくはない」

戦士「なら俺はあのガキ共を斬り殺すまでだ」

剣士「あのガキ共……?」

戦士「確かあの孤児院のガキ共だろう? あいつら商人貴族が依頼した物をもって逃げ回ってんのさ!」

剣士「それは妖精のことか!?」

戦士「さぁ、知らねぇな! いいのか? 俺たちは目的のためならなんだってする黒獅子騎士団だぜ?」

剣士「あの子達は関係ないだろう! まだ子供だぞ!!」

戦士「知ったことか! あいつらが余計なことに首を突っ込むからだろ!」

剣士「……なにが目的だ?」

戦士「俺と戦え。戦士!!」ニタァ

剣士「またそれか……戦士、なぜ私にそこまで執着するんだ!!」


804: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/20(土) 22:10:40.18 ID:GdBwxi3V0

戦士「俺はただ知りてぇんだよ。俺の夢を奪った奴がどれほど強ええのか。戦って確かめてぇんだ!」

剣士「………確かめる?」

戦士「俺はよう……剣士。勇者と一緒に戦うためだけに戦士になったんだ。強くなったんだ。いつか国を守る勇者と一緒に戦いたいって……俺はまだ自分の夢に踏ん切りがついてねぇんだよ」

戦士「お前が俺の代わりに勇者と旅をして魔王を倒した! その事実は変わらねぇ! だけどよ、俺の実力がお前及ばねぇとは思わねぇ! だったら一度ぶつかり合うしかねぇだろ!!」

戦士「俺はお前と戦うためだけに黒獅子騎士団を立ち上げた。いつかお前と剣を交わらせるためだけに、その機会を得るためだけに全てを犠牲にしてきた。お前と戦うためなら女子供だって容赦しねぇ! てめぇが妖精を求めてるっていうならその妖精を隠しているガキごと俺がぶっ殺してやる!!」

剣士「貴様……!!」

戦士「お前から見たら俺はただ昔の夢にすがりつくダメな野郎に見えるだろ? だけどよ、子供の頃から見続けてきた夢だったんだ。それがなくなったら俺は立ってられねぇ……だったら答えが欲しいじゃねぇか! 『やっぱり俺には無理だった』って答えでもいい!! なんでもいいんだ!! そうでなきゃ俺は終われない!!」

戦士「夢が破れたあの日から俺はいつまで経ってもなにも変われねぇんだよ!!」

剣士「その答えはどんなことをしてでも手に入れたいものなのか?」

戦士「ああ、もちろんだ。そのためだったら俺はなんだってする」

賢者「戦士……」

戦士「……悪いな、賢者こんな俺のわがままに今まで付き合ってもらってよ。お前の言うとおりだ。俺は狂ってる」

賢者「そんなの別にいいわよ……昨日はごめんなさい。私、あなたがそこまで思いつめてるなんて知らなかった……」

戦士「さぁ、どうなんだ剣士! 戦わなければ俺は容赦なくあのガキ共を捕らえて殺し、目的の物を商人貴族に差し出す!! それが嫌なら俺と戦え!!」

剣士「……わかった。お前がそれを望むのならばその夢の残骸ごとお前を斬ろう」チャキッ

戦士「へへっ……そうこなくっちゃな!! 行くぞ!!」

剣士「来い!!」

805: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/20(土) 22:11:59.19 ID:GdBwxi3V0



戦士「うぉぉぉぉ!!!」ググッ

剣士「はぁぁああああ!!」ザンッ


ズバァァァアアア!!!


戦士「どうした!? その飛ぶ斬撃も精度は高くないと見える!!」ダダダダダダッ

剣士「くっ……」パキンッ

賢者「剣士の剣が折れた!! 今よ!! 戦士!!」

戦士「おうともよ!! くらいやがれやぁぁぁあああああ!!!!」


ズダァァァアアアアン!!!


剣士「さすがの威力だな! 戦士!!」

戦士「ちっ、外したか!」

賢者「剣士! あんたの負けよ!! 剣が折れたらさすがの剣士様でも戦えないでしょう!!」

剣士「……空間接続……座標指定……ルート固定……」

戦士「なにをゴチャゴチャ言ってやがる!! まだ戦いは終わってねぇぞ!!」ブォッ

剣士「……使用者コード認証……召喚数最大設定……異空間干渉における次元軸の影響誤差修正範囲内……」

戦士「うぉぉぉぉぉ!!」ブンッブンッブンッ

剣士「……修正完了……最終認証……!!!」ヒラッヒラッ

戦士「ちぃ!! ちょこまかとぉぉ!!

賢者「あれは……魔法の詠唱?」




剣士「空間魔法!! 開け!! 『戦女神の宝物庫』!!」


シュンッ……パシッ!!



806: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/20(土) 22:12:56.90 ID:GdBwxi3V0

戦士「何もないところから剣が出てきただと!?」

剣士「私は剣士だ。どこまでいっても剣士だ。剣がなければなにもできない……だが、これで戦える」

戦士「使い捨ての剣ってわけか……おもしれぇ!!」

剣士「全ての剣を使い、貴様の夢ごと……斬る!!」

戦士「……だったらその腰の黒い鞘の剣は抜かないのかよ?」

剣士「これは腰に差しているだけでいい……抜いたらここにいる全員が死ぬ」

戦士「なんだそりゃ?」

剣士「私にこれを抜かせるなよ? 戦士?」ニヤッ

戦士「うるせぇぇえええええ!!!」

剣士「はぁぁあああああ!!」


ズバァァアアアン!!


戦士「当たらなければどうってことねぇ!!」ダダダダダッ

剣士「ならば接近戦といかせてもらう!!」ビュンッ

戦士「うぉぉぉぉおおお!!!」

剣士「はぁぁぁああああ!!!」


カキィィィィン!!!


賢者「くぅ……なんて衝撃なの! 二人の剣圧でこっちにまで衝撃が……!!」

戦士(いける! 剣士とも十分に戦えている!!)

戦士(俺は剣士よりも強い!! 負けてたまるかよ! 俺はお前よりも強えんだ!!)


戦士「剣士ぃぃぃ!!」

剣士「戦士ぃぃぃ!!!」


ガッ!! ズダァァァァァン!!!




807: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/20(土) 22:13:45.71 ID:GdBwxi3V0

――森の中――




侍少女「ござるるるる……!!!」ガタガタガタ

魔族少女「ああ……」クラッ

少年魔法使い「しっかりしろ、魔族少女!!」

魔族少女「ダメだよ……今回ばっかりはもう無理だよ……熊だって、氷結魔人様だって、傭兵団だってなんとかなったけどさ……今回ばかりはもう……」フフッ

少年魔法使い「だ、大丈夫だ! 今までだってなんとかなったんだ! 今回だってな、なんとかなるるる……!!」ガタガタガタ

魔族少女「無理だよ! だって……」


魔族少女「本物の龍だもん!!」


火竜「グォォォオオオオオオ!!!」



「「「うわぁぁあああああああ!!!!」」」



808: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/20(土) 22:14:42.56 ID:GdBwxi3V0

侍少女「もう! さっきからなんなんでござるか!! 私、家に帰る!!」

少年魔法使い「馬鹿! 落ち着け!!」

魔族少女「あ、お花畑!」ウフフ

少年魔法使い「ああああ!!! ツッコミが追いつかない !」

侍少女「心配しなくてももうすぐ龍の口に突っ込まれるでござるよ」アハハ

少年魔法使い「冗談でもそんなこと言わないでくれ……」



火龍「けっ、誰がお前みたいなガキを食うかよ。頼まれたってゴメンだぜ」


魔族少女「幻聴かな! 今、喋ったよ!? この赤トカゲ!!」ケラケラ

侍少女「気のせいでござる! 気のせいでござる!!」ケタケタ

少年魔法使い「……誰かなんとかしてくれ」ハァ


火竜「おい、お前」ギロッ


魔族少女「わ、私!?」

火竜「持ってるな?」

魔族少女「持ってる?」

火竜「来い」ズッ

魔族少女「きゃっ……!!」

侍少女「待つでござる!! 魔族少女をどうするつもりでござるか!!」


809: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/20(土) 22:15:25.68 ID:GdBwxi3V0

火竜「一緒に来てもらう」

魔族少女「な、なんでですか!?」

侍少女「この  コン!! フェミニスト!! 子供狙いのガチクズトカゲ!!」


カッ!!!


ドゴォォォォン!!!


侍少女「うひぃぃぃぃぃ!!!」

魔族少女「侍少女ちゃん!!」

火竜「なんか文句あんのかクソガキ?」

侍少女「くっ……あるに決まってるでござるよ!! 友を見捨てるは武士の恥!! 死んだってそんなことできないでござる!! それに……」

火竜「それになんだ?」


侍少女「女が目当てならなぜ拙者を選ばないでござるか!!」


火竜「……は?」

侍少女「拙者だって女でござる!! 納得のいく説明を要求するでござる!!」

少年魔法使い「忘れてた……こいつ馬鹿だった……と、とにかく魔族少女を離せ!」

火竜「ちっ、面倒くせえ……確かにこいつは預かったからな」バッ

侍少女「待て! 逃げるな!! ●でござるか!! 拙者の方がほんのちょっと小さいからでござるか!!」

魔族少女「何言ってるの魔族少女ちゃん!!」



バッサバッサバッサバッサ……!!!



魔族少女「うひゃぁぁぁぁぁ………」ヒューン……




810: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/20(土) 22:16:43.09 ID:GdBwxi3V0



侍少女「こらぁぁぁ!! 説明しろぉぉぉぉ!!!」

少年魔法使い「馬鹿!! 行くぞござる女!!」

侍少女「……やはりお主も大きいほうが好きでござるか?」

少年魔法使い「状況を考えろ!! 今魔族少女が……!!」

侍少女「大きいほうが好きでござるか!!」

少年魔法使い「せいっ!!」バシッ

侍少女「ぐへっ!! な、なにをするんでござるか!!」

少年魔法使い「今は非常事態だ……火竜を……追うぞ……!!」ゴゴゴゴゴ

侍少女「……はい」

少年魔法使い「……行くぞ」

侍少女「はいぃぃぃ!!」ビシッ

少年魔法使い(くっ、人の気も知らないで……!!)

816: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:05:36.40 ID:nVrxIYXv0

――上空――



ビシュゥゥゥウウウ………


魔族少女「は、離してください!! 私をさらってもなんの意味もありませんよ! 孤児だし!! 魔族だし!! 子供だし!!」ジタバタ

火竜「んなことはどうでもいいんだよ。俺はお前が持ってるそつに用があるんだ」

魔族少女「え?」

妖精長「……久しいのう、火竜の小僧。生きておったか」

魔族少女「妖精長さん……」

火竜「けっ、ジジイも相変わらずだな」

妖精長「すまんの、お嬢ちゃん。どうやらこいつはお主ではなく、わしに用があったようじゃ」

魔族少女「そ、そうなんですか?」

火竜「当たり前だ! 誰が好き好んでお前みたいな魔族のガキをさらうっつーんだ」

妖精長「これ、小僧。女性に対して失礼じゃぞ」

火竜「はんっ、俺は魔族と一緒にいるジジイの気が知れねぇよ」

妖精長「だから主は小僧のままなんじゃ! アホめが!!」

火竜「アホって言うな!!」

妖精長「……それにどうしたんじゃその翼は?」

火竜「これは……その俺の魔力で炎を翼代わりにだな……」ゴォォォォ

妖精長「元の翼は?」

火竜「それは……」

妖精長「大方、誰彼構わず喧嘩を売って返り討ちにされたんじゃろう。変わっておらんのう、小僧め。因果応報という言葉を知っておるか?」ククク

火竜「うるせぇ!!」

妖精長「それで? わしになんのようじゃ?」

火竜「……妖精憑きが生まれた」


817: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:06:49.92 ID:nVrxIYXv0

魔族少女「え?」

妖精長「やはり遅かったか……あの光の柱がそうなのじゃろう?」

火竜「ああ、膨大な魔力の放出に伴う自然現象……妖精憑きが生まれた時に起こるものだ」

妖精長「歴史は繰り返す……悲しいのう」

火竜「俺はこれからその妖精憑きをぶっ殺しに行く。ジジイも力を貸せ」

妖精長「小僧がわしに頼みごとじゃと? ほほほ……こりゃ明日はこの南国に雪が降るのう」

火竜「ふざけてる場合か、妖精憑きの力を忘れたか?」

妖精長「忘れるわけなどない……忘れるわけなどないわい……」

火竜「本来なら俺一人で十分なところだがな。妖精憑きのことになると万が一の事態も避けたい」

妖精長「そのことじゃがの……残念じゃがお主に力を貸すことはできん」

火竜「なんだと?」

妖精長「もうこの辺りでも我々妖精族は本来の力を発揮できなくなってしもうたのじゃ」

魔族少女「それって前に言っていた自然の力が衰えたって話ですよね?」

火竜「なんだよ、もうこの辺りもそんなことになってんのか!?」

妖精長「我らはか弱い生物じゃからのう……」

火竜「ちっ……ジジイの秘術があればと思ったんだが仕方ねぇ、一人でやり合うか。あいつら人間共の力は信用なんねぇ」

妖精長「希望ならまだあるぞい……龍王様の力じゃ」

魔族少女「幼女ちゃん……」

火竜「もしかしてあのクソガキもここに来てんのか!? あの金髪チビ!!」

魔族少女「え? あ、はい!!」

火竜「なんだよ、ぶっ殺す相手が増えちまったじゃねぇか!」

魔族少女「ぶっ殺……えええ!!!」

妖精長「馬鹿もん!! お主、なにを考えとるんじゃ!」


818: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:13:21.38 ID:nVrxIYXv0

火竜「うるせぇ! 黙ってねぇと振り落とすぞジジイ!!」

妖精長「あの力は混迷する世界に再び光をもたらそうとする龍王様の尊い意思じゃ! 貴様、かつての主人の思いを踏みにじる気か!!」

火竜「ジジイ。あれは偽物だ。龍王様の力じゃねぇ」

魔族少女「な、なんでそんなことが言えるんですか? 私、幼女ちゃんの『あれ』何回も見ましたよ?」

火竜「ガキが口出しすんじゃねぇよ! とにかく俺は認めねぇ!あんなが龍王様の力を受け継ぐ? そんなことあってたまるか!」

妖精長「じゃが、あれはわしの目から見ても確かに……」

火竜「だったらなんでただのガキのあいつが龍王様の力が使えるんだ!? 説明してみろ!!」

妖精長「それは……」

魔族少女「誰かに教えてもらったとか?」

火竜「竜族のブレスは個体によって決まる。まぁ、親の遺伝ってのが多いがな」

魔族少女「じゃ、じゃあ幼女ちゃんはその龍王様の子孫?」

妖精長「それは無い。龍王様が亡くなってからもう200年以上経つ」

火竜「それにあの方には子供はいなかった。故に龍王様の血を受け継ぐ者はいない。だからあいつは偽物なんだ」

魔族少女「幼女ちゃんは何者なんですか?」

妖精長「それはわしにもわからん。あの子には謎が多すぎるしのう……」

火竜「胡散臭い奴だってことは確かだ。だから殺す。この世に龍王様を騙る奴はこの火竜が許さねぇ」

火竜「妖精憑きも龍王様を騙るガキもついでに人間も魔族も……お前ら全部いつか俺が殺してやる……!!」

妖精長「小僧、お主はどれだけ……」

魔族少女「あの……」

火竜「なんだクソガキ、今ここでお前を殺してやろうか?」

魔族少女「全部殺してどうするんですか?」

火竜「あ?」

魔族少女「魔族も人間も幼女ちゃんも殺して……それでどうするんですか?」

火竜「そんなの……俺が知るかよ」

魔族少女「全部殺して、全部否定してそれであなたになにが残るんですか?」

火竜「なんだ? 魔族のガキがなにか俺に文句でもあんのか!?」

魔族少女「………」

火竜「ちっ……」

妖精長「小僧、恨みの力は強大じゃ。じゃがその力の行き着く先は闇と相場が決まっておる。そのことを忘れるな」

火竜「……うるせぇよ、ジジイ」

妖精長「………」

魔族少女「………」


819: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:14:40.08 ID:nVrxIYXv0



カッ!!!!


魔族少女「な、なに!? 今なにか光った!?」

火竜「しっかり掴まれ! 衝撃に備えろ!!」

魔族少女「え? え?」



ドゴォォォォォン!!!!



魔族少女「きゃぁぁぁあああ!!!」

火竜「あそこか……どうやら始まったみてぇだな!!」

妖精長「あれは龍王様のブレス……お嬢ちゃんか!!」

魔族少女「幼女ちゃんがあそこにいるんですか!」

妖精長「恐らく……そしてお嬢ちゃんがあの力を使うということは……」

火竜「妖精憑きがいるってことかよ! おもしれぇ!!」

妖精長「小僧、急ぐのじゃ! 全てが手遅れになる前に!!」

火竜「言われなくてもそうするつもりだ!」ビュォォォォ




820: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:15:30.81 ID:nVrxIYXv0

――森の中――



勇者「あああ!! 走り辛ぇなぁ!! もう!!」ガッチャガッチャ

元気過ぎる少女「いつになったらそれ解けるの?」

勇者「わっかんねぇよそんなもん!! これやった奴は『時が来るまで待て』としか言ってなかったんだよ!!」

無表情な少女「……とりあえず走ってるけどこの方角で大丈夫……?」

元気過ぎる少女「大丈夫だと思うの!!」

勇者「思うってなんだよ! こっちは急いでんだぞ!!」

元気過ぎる少女「大丈夫大丈夫! 勇者とその子がこの森の中で会うのは運命で決まってるから!」

勇者「運命? そんな胡散臭いもの信じろってのか!?」

無表情な少女「……この子は未来が見える……」

勇者「……嘘だー」

元気すぎる少女「本当なの! こうぽやぽやーっとだけどちゃんと見えるの!!」

勇者「じゃあとりあえず森の中をひたすら走ってれば幼女に会えるってことなのか!?」

元気すぎる少女「その通りなの!!」

勇者「んなもん信じられるか!!」

元気過ぎる少女「むぅ……本当なのに!! 『あなたが森の中で黒髪の女の子と出会う』場面が私には見えたの!!」

勇者「ん? ちょっと待て、黒髪の女の子?」ピタッ

元気すぎる少女「あれ? なんか違った?」

勇者「俺が探してるのは金髪の女の子だぞ? それと生意気そうなクソガキ」

元気過ぎる少女「……あり?」


821: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:17:16.56 ID:nVrxIYXv0

無表情な少女「……黒髪なんて珍しいね……」

勇者「おいおい! お前全然違う人間の元に俺を案内しようとしてんのか!?」

元気過ぎる少女「あれぇ?」

無表情な少女「……細かいことを気にしている場合じゃない。立ち止まったらすぐに見つかる……」

元気すぎる少女「そ、そうだね! とにかく行けるところまでめっちゃダッシュなの!!」

勇者「えええ……? 大丈夫なのかよ!」

元気すぎる少女「占い師は嘘は言わないの! ただ言ったことがたまに外れちゃうだけなの!!」

勇者「それじゃダメじゃねぇか!!」

無表情な少女「……口より先に足を動かす……」

勇者・元気すぎる少女「「動かし辛いんだよ!! この状態じゃ!!」」

勇者「あ?」

元気すぎる少女「ふふんっ! 今もあなたがこう言うと初めからわかってたの……そう、これが運命!」

勇者「胡散くせぇ……」シラー

無表情な少女「……運命なんてどうにでもなる。今はあなたがなすべきことをすればいい……」

元気過ぎる少女「そうなの! さぁ、きりきりと走りやがれなの!!」

勇者「ちなみにお前が見た運命ってのはどうだったんだ?」

元気すぎる少女「えーっとねぇ……確か……」



元気すぎる少女「にらみ合う黒髪の女の子と少年。それを止めようとする少女と赤い竜!」



勇者「へ?」

元気すぎる少女「なの!!」ビシッ


822: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:17:43.13 ID:nVrxIYXv0

勇者「決めた。俺、金輪際お前の言うこと信じない」

元気すぎる少女「なのぉ!?」ガーン

勇者「なんだその不思議ファンタジーは! 絵本の読みすぎですよ!」

元気すぎる少女「くぅ……私にはそれが予言なのか妄想なのかを証明する方法を持ち合わせていないの。故に反論ができないの! 悔しいの!!」

無表情な少女「……妹、あれ……」

勇者「ん?」



ビュォォォォォォ!!!!



無表情な少女「……赤い竜……?」

元気すぎる少女「おお!! すっげぇの!! マジもんなの! びっくりするの!!」

勇者「おいおいマジかよ!! つーかあれってあの時の火竜!? なんでこんなところにいるんだ!?」

無表情な少女「……あながち間違いでもない……?」

勇者「嘘であってほしいんですけど……え? 俺、もう一回あいつと戦うの?」

元気すぎる少女「勇者」

勇者「なに?」

元気すぎる少女「グッドラック!」ビシッ

勇者「……あい」



823: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:20:11.53 ID:nVrxIYXv0

――――



「お前、なんで一人でいるんだ?」

彼はそう言って私に声をかけてくれました。初めて彼に会った時のことです。

「私はあなた達とは一緒にいられないですから……」

孤児院に初めて連れて来られた日、私は部屋の隅で小さくなっていました。当然です。周りはみんな人間だったのですから。

「なんで?」

「私……魔族なんです」

自分の身の程くらい理解しているつもりでした。魔王様が勇者に倒されて、魔族と人間の戦争は終わりました。残された魔族達は当然、奴隷にされたり処刑されたりするのだろうと思っていました。だから私は最初、ここに連れて来られた時、ここの孤児院の奴隷として働くものだとばかり思っていたのです。

「へぇ、お前魔族なのか」

「……はい」

しかし、院長となのるその女性は私を部屋に通し、同じ境遇の子供達と引き合わせました。なぜそんなことをするのかはあの時の私にはわかりませんでした。ただいきなり違う場所に放り込まれて不安で、怖くてたまりませんでした。

「だから私はあなたとは一緒にいられません。あなただって私みたいな魔族と一緒にいたくないでしょう?」アハハ

「そうか……」

「………」

気まずい沈黙が続きました。私は今すぐここから消えてしまいたいという気持ちでいっぱいになりました。なぜ私がこんな目にあわなければならないのか。なぜ私はこんなところにいるのか。なぜ両親は死んでしまったのか。そんな考えが頭の中をぐるぐると巡り、私はある結論に達しました。


全て人間が悪いのだと。


お父さんとお母さんが死んだのも、私がここにいるのも、この気まずい沈黙も全て人間のせいです。人間が全部悪い、お父さんを殺したのも人間、お母さんを殺したのも人間!! 全部!! 全部人間が悪いんだ!!

気が付けば私は横で黙っている彼を睨んでいました。こいつらのせいで私はこんな目にあっていると思うと今すぐにでも彼をどうにかしてやろうと考えていました。

824: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:21:57.45 ID:nVrxIYXv0

「あああ!! やっぱりダメだ! こういうのなんかおかしい!!」

「……はい?」

彼の言葉に私は一瞬で我に返りました。自分を支配していた負の感情の存在にゾッとしたのを覚えています。

「俺たちが人間でお前が魔族だから一緒にいないってのはやっぱりおかしいよ! うん、おかしい! 俺の中の勇者がそう言っているから間違いない!!」

彼はなにを言っているのだろう? 俺の中の勇者?

「これから一緒にここで生活していくんだ。魔族とか人間とかそんなこと関係なく、仲良くしていこうぜ!!」

「え、えっと……?」

「俺は悪ガキ! いつか勇者になる男だ!」

「……魔族少女……です」

「よろしくな! 魔族少女!!」

「……よろしくお願いします……」

「ああ、もう固い固い! 俺たちはもう友達だろ?」

「と、友達!?」

「そう友達! ほら!」

そういうと彼は右手を出しました。

「これは?」

「ん? 握手だよ。あれ? 魔族にはそういうのないの?」

「ない……かな?」

「お互いに手を握り合うんだよ。こうやって……」

「あっ……」

彼は優しく、そして力強く私の手を握ってくれました。彼の手の温かさが私の手を通して伝わっていきます。まるでさっきまでの暗い気持ちを溶かすかの様にギュッと、力強く……

「うっ……うぁ……」

「え? お、おい……どうしたんだよ?」

「ああああああああああ!!! うわぁぁぁぁぁあああああ!!!」

「えええ!? そんなに嫌だったか!? な、泣くほど!!?」


825: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:22:43.26 ID:nVrxIYXv0

「こら悪ガキくん! 女の子をいじめてはいけませんよ!!」

「い、いや俺、そんなつもりじゃ……!!」

「どうやら悪ガキくんにはオシオキが必要なようですね……」

「うへぇ……」




その手は私を導いてくれる手でした。
その手は私を救ってくれた手でした。


そしてその手は今……










魔族少女「……悪ガキ……くん?」








血で真っ赤に染まっていたのでした



826: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:23:23.75 ID:nVrxIYXv0

悪ガキ「おう、魔族少女! こんなところでどうしたんだよ?」

魔族少女「なに……してるの……?」

悪ガキ「え? 見てわかんない?」
魔族少女「わかんないよ……!! そんなのわかんないよ!!」

院長「魔族少女ちゃん! これ以上彼に近づいてはいけません!! 彼はもう……!!」

魔族少女「答えてよ、悪ガキくん!! なんで!?」

悪ガキ「ったく、相変わらずお前は鈍臭いなぁ……いいか、俺はな」アハハ



悪ガキ「人を殺してんだよ」ケタケタ



魔族少女「え……?」

地上げ屋「……てめぇ……こんにゃろ……」ゴフッ

魔族少女「あなたは……妖精の里にいた……?」

地上げ屋「……おう、お嬢ちゃん……ちょっと待ってな……俺が今から……奇跡の大逆転劇を……!!」

魔族少女「やめて! 悪ガキくん!!」

悪ガキ「やめるかよ! こいつは俺の邪魔をした! だから殺すんだよ」ケラケラ


幼女「その人を……離せ!!」ビュンッ


魔族少女「幼女ちゃん!?」

悪ガキ「おっと!」ヒラッ

幼女「!!??」

悪ガキ「何度も向かってきやがって……お前じゃ俺には勝てねぇよ!!」ビシッ

幼女「きゃうっ!!!」


ヒューン……ドサッ!!


魔族少女「幼女ちゃん!!」


827: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:24:56.21 ID:nVrxIYXv0

地上げ屋「てめぇ……子供の……しかも女を蹴り飛ばすか……普通……?」

悪ガキ「向かってきたから蹴り飛ばした。俺はなにも悪くないよ」

地上げ屋「……悪いさ……今お前がやってることは悪いことだ……友達を蹴り飛ばすなんて悪いこと以外のなにがある?」グフッ

悪ガキ「悪いけど俺はあいつの友達なんかじゃないよ」

地上げ屋「すれた振りしていきがったって……お前が最低だってことには変わりねぇんだぞ……」



悪ガキ「おっさん、いい加減ウザイよ? 弱いくせにでしゃばんなよ」



ズリュッ!!


地上げ屋「がぁぁぁああああ!!!」ドサッ

院長「地上げ屋さん!!」

悪ガキ「ははは!! スゲーだろ、魔族少女! 俺もこれで特別になれたんだぜ! 昨日の約束もこれで果たせる!」

魔族少女「昨日の……約束……?」

悪ガキ「なんだよ、もう忘れちゃったのかよ? ほら人間と魔族、両方助ける勇者になるって約束しただろ?」

悪ガキ「今朝はちょっとイライラしてお前に酷いこと言っちゃってごめんな。でもこの力があれば大丈夫だから! 俺、きっと立派な勇者になれるからさ!」

悪ガキ「俺は絶対にお前との約束を果たす! この妖精の力で!!」ニカッ


魔族少女「……違うよ。そんなのおかしいよ……」


悪ガキ「なんだって?」

魔族少女「こんなのおかしいよ! 悪ガキくんはそんな人なんかじゃない!! 笑いながら人を殺そうとする人なんかじゃない!!」

院長「いけない! 魔族少女ちゃん! それ以上彼を刺激しては!!」

悪ガキ「うるさい」ビュンッ

院長「ぐあ……!!!」ドサッ

魔族少女「先生!!」

悪ガキ「妖精の力ってこんなこともできんだぜ。こうやって魔力の形を自由にコントロールできるんだ。ああやってエネルギー弾にもできるし、こうやって腕に纏わせて……」ブォンッ

悪ガキ「剣にもできるんだ! スゲーだろ!?」

魔族少女「先生! 待ってて!! 今、回復魔法を……!!」

悪ガキ「動くな!!」ビュンッ


828: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:25:35.46 ID:nVrxIYXv0

魔族少女「で…でも先生が怪我して……!!」

悪ガキ「あいつはもう俺の先生なんかじゃない。俺より弱い先生なんて俺の世界にいらない」

魔族少女「……いらないってどういうこと?」

悪ガキ「ああ、いらないんだ。俺のことを否定する奴なんか、俺の世界になんかいらない」

魔族少女「どうしちゃったの……? 戻ってよ! いつもの優しい悪ガキくんに戻ってよ!!」

悪ガキ「俺は変わったんだよ!! 勇者になるためにこうして強くなったんだ!!」

魔族少女「そんな……」グスッ





地上げ屋「……ふざけんなよ……このクソガキ……!!」グググググ




829: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:32:57.26 ID:nVrxIYXv0

悪ガキ「あれぇ? まだ生きてたんだ? 案外しぶといね、王都一!」

院長「地上げ屋さん……! 動いてはダメです……!! 傷が開いてしまいます!」

地上げ屋「構うもんか……俺はこのなんにもわかってねぇクソガキに一言言わなきゃ気がすまねぇ!!」

悪ガキ「なんだよこの死に損ない。すぐに殺してやるから大人しく待ってたら?」

地上げ屋「おいクソガキ……お前の先生はなぁ……お前がいらないって言ったこいつはなぁ……家族になりたいって言ってたぞ!!」

悪ガキ「なんだそれ?」

地上げ屋「家族というものに憧れてたって! お前らと一緒にいた日々は大変だったけど楽しかったって言ってたぞ!!」

悪ガキ「知るかよそんなこと!!」

地上げ屋「楽しかったって言いながらこいつは泣いてたんだぞ! お前が大事だから泣いてたんだ!!」

悪ガキ「そんなの嘘だ!! 先生は俺のことなんかなんとも思ってないんだよ! だからあんなこと言ったんだ!! そうだろう!!」

院長「地上げ屋さん! これ以上は本当に危険です! 私は大丈夫ですから……」

地上げ屋「お前には見えないのか! こいつの涙が!! 家族の涙が見えねぇのかよ!!」

悪ガキ「俺に家族なんていない! とーちゃんもかーちゃんも死んじゃったんだ! だから俺に家族なんていない!! 」

地上げ屋「うるせぇ!! ガタガタ抜かすな!! さっきから勇者勇者勇者念仏みたいに言いやがって!! いいか!?」

地上げ屋「勇者ってのは誰かを泣かせるためにいるんじゃない……泣いてる誰かの涙を拭ってやるためにいるんじゃねぇのか?」

悪ガキ「誰かの涙を拭ってやるために……で、でもそれには誰にも負けない力が必要でそのために俺は……」


830: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:33:33.71 ID:nVrxIYXv0

地上げ屋「そのためにお前は大事な人を傷つけたってのか!?」

悪ガキ「う、うるさい!! 先生なんか大事だなんて思ったことなんかないぞ!!」

地上げ屋「……いいかクソガキ。俺様がお前にいいこと教えてやるから耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれぃ!!」ダダンッ

悪ガキ「な、なんだよ!?」



地上げ屋「女を泣かすような男が!! 勇者になんかなれるかぁぁぁああああ!!」

悪ガキ「!!!」

地上げ屋「そんなこと!! 例えお天道様が許してもこの王都一の地上げ屋!! 『笑う赤鬼』が許しはしねぇ!!」ババンッ

地上げ屋「てめぇの腐ったその根性!! この俺様がバシっと直して……」フラッ

院長「地上げ屋さん!!」

地上げ屋「……あり?」バターン

地上げ屋「やべ……血、出しすぎた……」ピクピク……

悪ガキ「はっ……ははは!! なんだよ! 俺に大見得切っておいてそれかよ!! ダッセー!! おっさんめちゃくちゃダサいじゃん!!」

魔族少女「っ!!」ダッ

悪ガキ「あっ……おい!! 行くな、魔族少女!!」


831: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:34:03.45 ID:nVrxIYXv0



魔族少女「大丈夫ですか!?」

地上げ屋「へへっ……お嬢ちゃん……ビシッと言ってやったぜ……かっこよかっただろう……?」ピクピク……

魔族少女「すごい血……回復魔法!!」パァァ

院長「あなたはなぜあのような無茶を……!!」

地上げ屋「俺は漢だからな……体が勝手に動くんだよ……」ヘヘッ

院長「馬鹿ですか!!」

地上げ屋「……大切なものを失うくらいなら……俺は馬鹿であることを選ぶね……」ヘヘッ

魔族少女「喋らないでください!! これ以上出血すると死にますよ!?」




悪ガキ「なんだよ魔族少女……やっぱりお前もそっちの味方なのかよ……」

悪ガキ「もういいや……お前もいらない……」ビュオンッ

悪ガキ「俺の世界にお前らなんかいらない!!」

悪ガキ「全部ぶっ殺してや……」



ズォォォォォォォッ!!!


悪ガキ「なに!? ぐぁぁああああああ!!!」

魔族少女「悪ガキくん!?」


832: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:34:38.86 ID:nVrxIYXv0

院長「なにが起きたと言うのですか!?」

地上げ屋「おい……あれ……」スッ


幼女「………」ズズズズズズズズズ……



悪ガキ「くっ……お前がやったのか! 幼女!!」

幼女「マゾクショージョは……ともだ……ち!!」


ジリジリジリ……


魔族少女「……幼女ちゃんの様子、おかしくないですか!?」

院長「え、ええ……なにが起きているというのですか? それにさっきの技は……」


幼女「……センセも……ともだ……ち!!」

悪ガキ「安心しろよ……お前も含めてここにいる奴らはみんな殺してやる!! お前もだ幼女!!」

幼女「お前……悪い……奴!!」

悪ガキ「俺が……悪い奴だと!? そんなことあるもんか! 俺は勇者になる男だぞ!」



幼女「死んじゃえ……お前なんか……悪い奴なんか死んじゃえ!!」



ジリジリジリ……


魔族少女「先生! 幼女ちゃんの髪の毛が……」

地上げ屋「金から黒に変わってく!? どうなってんだおい!!」

院長「あの色は……じゃあ、あの時の幼女ちゃんはやっぱり……!!」


833: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:35:34.36 ID:nVrxIYXv0

院長「やめなさい幼女ちゃん! それ以上負の感情に飲み込まれてはダメです!! その力はあなたが使っていいものじゃない!!」

魔族少女「ど、どうしたんですか!? 先生!?」

院長「止めないと……誰かがこの2人を止めないと取り返しのつかないことになる!!」

地上げ屋「取り返しのつかないことってどういうことだよ!?」

院長「あれは『闇の力』……魔王の力です」

魔族少女・地上げ屋「ええええ!!??」


悪ガキ「……魔王の力? ふふふ……くくくく……あはははははははは!!!!」

悪ガキ「いいねいいね!! 俺が勇者でお前が魔王!! 最高だ!!」

幼女「……死んじゃえ……」

悪ガキ「さぁ、来い!! 魔王!! 勇者である俺がお前の野望を打ち砕くぜ!!」ビュンッ

悪ガキ「あはははははははははは!!!」

幼女「死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ……お前なんか死んじゃえぇえええええええ!!!」




ズズズズズズズズズズズ…………


魔族少女「やめて……二人ともやめてぇぇええええ!!!」




カッ!!


ドガァァァアン!!!








幼女「おじいちゃん、なんの……用?」妖精長「なに、ちょっとした頼みごとじゃ」 終わり



元気過ぎる少女「劇場版! 超時空魔導人形戦記!! なの!!」勇者「なにそれ!?」

に続く!!!


834: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/22(月) 21:37:33.87 ID:nVrxIYXv0

次回予告



受付「パンパカパーン! 本編で全く出番が無かった受付ちゃんですよ~!! あまりの出番の無さに次回予告をジャックです!!」フンスッ

同僚「いきなりなにどうしたのよ……」

受付「南の孤児院で起きたと妖精をめぐる戦い!! 妖精を手に入れた悪ガキ君と突如魔王の力に目覚めた幼女ちゃんとの戦いの行方は如何に!! ひょっとするとひょっとしてこれって世界の危機ですか!?」

同僚「魔王の力!?」

受付「夢を追い続ける者、夢と決別した者、そして夢を叶えた者……それぞれの思惑が交差し、戦いはさらに加速していく!!!」

同僚「うるっさいわね!! お客様がみてるでしょ!?」

受付「果たして勇者はこの戦いを止めることができるのか!? そして商人貴族の魔の手から妖精族を救うことができるのかぁぁ!!」

同僚「あの……受付。みんな見てるから……ね? いい加減にしないと私も怒るわよ?」

受付「勇者と仲間たちの過去の因縁が絡み合う!! 次回!! 元気過ぎる少女「劇場版! 超時空魔導人形戦記!! なの!!」勇者「なにそれ!?」に乞うご期待!!」

受付「お相手はあなたの心の窓口! 受付ちゃんでした!!!」

同僚「いい加減にしろ!!」パチコーン

受付「ぎゃんっ!!」


858: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/09(日) 18:39:34.67 ID:5iwJ/bvX0




ニート(英語: Not in Education, Employment or Training, NEET)は、就学、就労、職業訓練のいずれも行っていないことを意味する用語。一般的には15~34歳までの非労働力人口のうち、通学しておらず、家事を行っていない「若年無業者」を示す言葉。

偏った見方をするならば『人間のクズ』または『なにものにも縛られずに生きている自由な者』……






店主「わかる? 私はこんな寂れた喫茶店にいるよりもお日様の下でポカポカお昼寝してたいんだよ!」

友「ダメだ」

店主「友ちゃんのわからず屋! ニートは働いたら死んじゃうんだよ!?」

友「そんなんで死ぬか! いいから働け!!」

店主「働きたくないでござる! 拙者働きたくないでござる!!」

友「は・た・ら・け!」グググググ

店主「友ひゃん……いふぁいいふぁい……」

859: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/09(日) 18:40:03.59 ID:5iwJ/bvX0

店主「西の森の喫茶店」予告





店主「頑張ったって辛いだけでしょ? だったら頑張らない方が楽でいいと思うんだけど……違う?」

友「私はお前が本気を出せばおじさんだって超えることができる……そう信じてる」



赤髪「ニートってのは毎日笑って暮らせるのか?」

店主「もっちろーん! 見てよ私のこの百点満点のスマイルを!!」

赤髪「……五十点だな」

店主「なんでよ!」

赤髪「なんか嘘くさいんだよ、お前の笑顔」







参謀「よしてくれ、俺は団長なんて器じゃないさ」

剣士「まずは魔王に汚染された大地の復興。それが我々騎士団の急務だと考えます」

軍人貴族「待て! ひ、一人だけいる……いるにはいるのだが……だがしかし……」





兵士「民のことを考えないでなにが騎士ですか! 僕はそんなのおかしいと思います!」

老騎士「やはり下民の猿の相手は苦手です。言葉がまるで通じない」

貴族騎士「俺に逆らうことがどういうことか教えてやるよ。猿でもわかるように、じっくり、たっぷりとな」



幼女「……むい!!」




鋭意制作中!!




店主「別にそんなに頑張んなくてもいいんじゃないかな? 誰も期待なんかしてないよ?」

友「それもこれも全部お前が蒔いた種だろうが……!!」ゴゴゴゴ

店主「ぎゃああああ!! 友ちゃんがまるで般若のような顔に!!」

友「誰が般若だ! このバカが!!」

店主「バカって言った方がバカなんだよ! 友ちゃんのバーカ!」

友「働けバカ!」

店主「働かないもん! ニートは働いたら死んじゃうもん!」

友「まだ言うか!!」



ギャーギャーギャー



隠居婆「………」ズズズズ

隠居婆「まぁ、期待せずに待ってておくれな」ヒッヒッヒ



861: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/09(日) 18:56:15.23 ID:5iwJ/bvX0
参謀「日記?」 使用人「はいー」



――予告編――



参謀「僕の書斎にこれが?」

使用人「はいー、本棚の裏に挟まってたですよ」

参謀「名前は……僕の名前だね」

使用人「ええ、ですから当主様にお渡ししたわけです」

参謀「………」

使用人「あ、中は見てないですよ? 神に誓って!」

使用人「神に誓って!!」

参謀「なんで二回も言ったの?」

使用人「なんだったら悪魔にも誓いましょうか?」

参謀「いや、別にそこまではしなくていいのだけども……」



この世界はどうしようもなく、間違っている。




美少女「ニシシ! 引っかかった引っかかった!!」




なんとなくだけどいつもそう思ってきた。誰にも言わなかったけどそう思っていた。だけど『君』に出会って確信したんだ。この世界は間違ってるって




使用人「……待ってますからね」

使用人「ずーっとずーっと……待ってますから」





だから僕はここに記録しておこうと思う。この事実を忘れないために。




騎士団長「魔族は全て駆逐する! 一匹たりとも例外はない!!」

少年「父上! やめてください!! これ以上は!!」

騎士団長「黙れ! 魔族は悪だ! 悪は必ず滅びなければならない!!」

少年「違う! 彼らは違う!!」



僕が歩く道を間違えないために



魔族将軍「私を甘く見るな人間よ!! 今の私を焼くにはこの程度の炎など……ぬるすぎる!!」



そして、僕と君がいつかまた心の底から笑い合えるように



副官「私はあなたのことを本当に……」



僕は残していく。今の僕にはこれくらいのことしかできないと思うから。

862: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/09(日) 18:56:43.40 ID:5iwJ/bvX0






軍人貴族「貴様、正気か?」

参謀「ええ、もちろん」

軍人貴族「これほどまでに人間は残虐なことを考えることができるのか……」

参謀「恐れながら閣下。私は人間ではありません」

軍人貴族「どういうことだ?」

参謀「私はあなたの参謀です。あなたの利のためだけにあなたを補佐し、知恵を与え、手はずを整える……全てはあなたの利のために……」フフッ

参謀「人の心など……私には必要ありません」



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引用元: 幼女「おじいちゃん。なんの……用?」妖精長「なに、ちょっとした頼みごとじゃ」