1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 08:38:27.99 ID:57+0jY4s0
(……完ッ全に乗り遅れてるわ、私)



何に、かと言えば、巷に溢れる初々しいカップル達にだ。いつも利用する駅前はそれなりに栄えていて、人の往来も多い。

その中を行き交う、手を繋いだ、或いは腕を組んだ、また或いは抱き合うような、男女の多いこと。



(どうしよっかなー)



壁にもたれながら、さっき駅内の購買で買って来た紙パックのフルーツジュースをちびちびと飲む。

普段は少しだけ苦いと感じるグレープフルーツ味も、通り過ぎて行くカップル達を眺めながら飲む分にはちょうど良いのかもしれなかった。

ふと、駅を支えている柱を見れば、雛祭りの広告とホワイトディの広告が、何の矛盾もなく両立している。

自分の国ながら、相変わらず節操が無いものだ。まぁ、そういうゴチャゴチャ感というか、何でもありな部分は、暮らして行く上では何かと便利だから、否定はしないのだけれど。

とはいえ、たまにそういう部分に思い至ると、何ともいえない、強いて言えばある種やるせなさに近いような、そんな感覚を覚えてしまう。

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 08:40:15.91 ID:57+0jY4s0
(雛祭りより、ホワイトディより、今はWBCっしょ)



「……無いわね、それだけは」



自分で思ったことに、声を出してツッコミを入れるとは、我ながら寂しい人間だ。

下らない独り相撲をしている内に、ジュースが空になる。紙パックを律義に潰して、ゴミ箱に入れた。もうここに留まる用事は無い。

本当なら、今頃聖と合流して、適当に遊び歩く予定だったのだけれど、急に家の用事が入ったとかで、彼女が来れなくなってしまったのだ。

連絡が来た時、既に私は駅に着いてしまっていたから、こうして暇そうに往来を眺めていたのであった。

大学はもう休みに入っているから、普段付き合いのある友達は里帰りや旅行で捕まらないだろう。かといってこのまま家に直帰と言うのも癪だ。

しかし、企業の戦略に乗せられて浮かれている男女の群れに交じって歩く、というのも気分が悪い。

因みに、今や乙女の嗜みである友チョコは別としても、私はあくまで貰う側である。

生まれてこの方、身内以外でチョコを贈るような異性には縁が無い。



「……別に、私が気後れすること無いわよね」



しばらく悩んだ挙句、まぁ少しぶらぶらしてみようという結論に至った私は、自分に言い聞かせるように呟くと、独り身には少々寒い風の吹く駅前の通りを歩きだしたのだっ

た。

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 08:41:51.67 ID:57+0jY4s0
(こんな美少女が歩いてるっていうのに、声をかけて来る男一人いないなんて、つまんないの)



見られている感覚には慣れている。そして、それがすぐに別の視線に変わるのにも。

日本でも有数の巨大財閥の跡取り娘が、何を思ったかごく普通の大学に進学したということで、一時はちょっとした話題になったのだ。

その為この近辺では私の顔を知らない者の方が少ない。

最初の方こそ、興味本位で話しかけて来るような輩もいたのだけれど、今は全く無い。まぁ、こんなものだろう、と思う。

因みに、この近辺で買い食いをすれば、自動的におまけがついて来たりする。

「タチバナ」のネームバリューは、色々な意味で抜群なのであった。



別に、今の大学に進学したことを後悔しているわけではないけれど、正直な所期待し過ぎていた面はあったのだと思う。

聖は一緒だし、他に親しく付き合う友達も出来た。

勉強はそれなりに楽しいし、野球だって多少のトラブルに見舞われつつも何とかやっている。

でも、それでも私の中ではまだ物足りない。

うまく表現は出来ないのだけれど、ある種の刺激というか、ときめきというか、ワクワクというか。そういう類のものに、私は飢えているのだった。



「……あら?」



ふと、前の方に見覚えのある人影を見た気がして、少し目を凝らす。あの背の感じ、肩幅、色素の薄い髪。

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 08:44:12.91 ID:57+0jY4s0
(……友沢?)



友達、と呼ぶには少し考えさせられる部分があるものの、知り合いであることには間違いない。

どうせ暇なのだ、声くらいかけてやってもいいか、と思って近付く。

しかし、中途半端に人口密度のある歩道の中、男のアイツを追うというのは結構な苦労だ。



「……ったくもう……リア充とか……○んじゃえば、いいの、よ!」



奇異の目に晒されつつも、人込みをかき分けるように私は進む。

下品な言葉にぎょっとした通行人の顔がちらりと見えたりするが気にしない。

別にそういうキャラで売っているわけじゃないのだし、好きに思えばいい。私は私らしくありたいのだ。



「……意外ね、あの赤貧野郎がこんな所に用事なんて」



結局友沢らしき人影に追い付くことは出来なかったのだが、目の前のショッピングモールの中に入っていくのは辛うじて見えた。

私もインナーなんかを買うのによく利用する場所である。それなりに質が良く、値段もまぁまぁといった感じの、良くある風体のモールだ。

とはいえ、日夜バイトに勤しむ友沢が利用するには、少々高級な気がするし、第一ここは殆どの店舗が女性物を取り扱っているはずなのだが。



「……ふっふっふ、何か面白くなってきたじゃないの」



駅で突っ立っていた時の気だるい感じとは打って変わって、私は自分でも分かるくらい生き生きと友沢を探し始めるのであった。

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 08:45:43.38 ID:57+0jY4s0
あまり苦労もせずに友沢は見つかった。普段は女性ばかりの空間に、日常的にトレーニングをこなすような男が紛れた所で、一目で分かるというものだろう。

まぁ、取りあえず自分がいつも辿るルートから探したら、たまたま当たりだった、というのも大きいのだけれど。



(でも、こんな所にアイツが来る用事って何かしら?)



その時、たまたま前から歩いて来るカップルが目に付いた。仲が良さそうな、自分と同じ位の年齢の二人。男の子が友沢くらいの背で、女の子は私くらいの背だった。

荷物に目を向けると、私がよく利用するショップのものを二人して持っている。



(結構オシャレなのよね、あそこの袋。まぁ、だから使ってるんだけど)



別に今はそれはどうでもいい、どうでもいい、のだが。不意に、色々な事に思考が及んだ。

バレンタイン終了。カップル激増。ホワイトデー間近。デート。インナー。友沢。もう大学生。

一夜のアヤマチ?オトナの階段?ABC?ハツタイケン?



『ちょ、ちょっと。本当にこんなの着けさせるワケ?布少な過ぎないコレ?』



『あぁ、だから良いんじゃないか』

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 08:47:47.18 ID:57+0jY4s0
『も、もう何言ってんのよ、ス  !』



『……今夜は寝かせないぞ、橘』





「……っ!?」



一体どうしたというのだ、私。よりによって、あんな奴とアンナコトやソンナコトなんて。

頭をぶんぶんと振って、ピンクな思考を追い出す。



落ち着こう。そもそも、なんで私なのだ。あくまでも想像なのだからそこは別の女の子でいいじゃないか。

天下の帝王が誇る、将来有望なイケメン……うん、悔しいが格好良いのは認めてやろう。

ともかく、将来有望なイケメンスポーツマンだ。引く手は数多に決まっている。

当然バレンタインは沢山のチョコを貰ったに違いない。友チョコだけでもお腹一杯だった私の数倍は固いだろう。

その中で運良く、友沢の心を射止める事の出来た子が居たとする。大学生なんて、簡単に恋に落ちるものだ。周りを見回すと嫌というほど分かる。

野球部は遠征などで何かと忙しいこの季節、成立したてのカップルである友沢とどこぞの誰子さんは自制が利かず、一刻も早く一線を超えてしまおうとしてしまう……

ありがちな筋書きだ。

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 08:51:39.19 ID:57+0jY4s0
「……いや、でもいきなり彼氏同伴で勝負 着選びとか……レベル高過ぎでしょ……あっ」



お下品な思考が口をついて出てしまった。慌てて辺りを見回す。お淑やかなタイプじゃないが、アバ  だと思われるのは以ての外だ。幸い気付いた人はいないようだ。

友沢はというと、私の前の方で目線を色々動かしながら歩いている。上手く繕おうとしているみたいだが、私には慣れていなくてキョロキョロしているのが丸分かりだ。

無理もない。ここはドーテービンボー学生には縁のない場所だろうから。



(……で、今夜辺りに単なるビンボー学生にランクアップ、ってわけね)



「……ふん。良いわ、アイツを射止めたのがどこの誰なのか、この目で確かめてやるんだから……」



何だかよく分からないが、モヤモヤした気持ちのまま、私は友沢の後を尾行するのだった。

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 08:55:06.63 ID:57+0jY4s0
歩くこと数分、モールの中ほどのエリアに着いた。ここは各年代向けの女性物 着を取り扱う場所だ。男性の姿など殆ど無い。

さすがに雰囲気を察したのか、友沢の後ろ姿が分かりやすくぎこちなくなって来た。



(普段はすかしてる癖に、いざってなるとヘタレねぇ)



少し笑えるが、多分ああいうのが友沢の素の状態なのだろう。

私から言わせてもらえば、普段もカッコつけずに自然に振る舞えば良いのに、と思う。

まぁ、中学高校の時から、周囲の期待というプレッシャーに負けないように踏ん張っていたのだから、多少はひねくれてしまうのも理解は出来るのだが。



(……友沢の場合、自分自身からのプレッシャー、か)



厳しい自主トレを課し、過酷な帝王の練習に耐えるのは、プロに入って家族に楽をさせる為。

おまけにただでさえ少ない時間をアルバイトに費やし、現在進行形で家計をも支えている。並大抵のことじゃあない。

明らかに他の人間とは背負っている物の質が違う、と何となく思っていたのだけれど、ひょんなことから友沢の家庭の事情を知った時に、全て納得がいったのをよく覚えている。



(でも、それでアンタは良いの?友沢)



心の中で言った所で、本人に聞こえるわけも無い。

どこかビクビクした様子の情けない後ろ姿が、遠慮がちに前に進んで行くのを、私はしばらく立ち止まり、じっと見つめていた。

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:00:13.35 ID:57+0jY4s0
 



「……うわ、マジ?」



またしばらく歩くと、遂に友沢が立ち止まった。場所は私の良く知っている店舗の目の前。というか、入口の前に立ち尽くしている。呆然とした横顔だった。

いよいよありがちなシナリオが現実のものになろうとしている。携帯の画面を見ているようだが、少し角度が変わるとこちらに気付きかねないので、大きめの柱に身を隠す。



「……って、何で私が隠れないといけないのよ」



とは言いつつも、こっそりと柱の陰から様子を伺う。別にやましいことをしているつもりは無いけれど。



「あれ?」



おそるおそる覗くと、さっきまで立っていた場所に、友沢の姿は無かった。

別の場所に向かったのだろうか。さすがにそれは無いと思う。

携帯を見ていたということは、どこぞの誰子さんと店内で待ち合わせでもしていたのだろう。

おそらくさっきの様子は、男が一人で入って行けるような雰囲気では無いお店の前で躊躇していたということに違いない。

そして、もう友沢は店内にいるのだ。



「ふ、ふっふっふ。い、いよいよご対面ってわけね……」



一体どんな子だろう。アイツの女性の好みは知らないが、何となくレベルは高そうだ。私といい勝負くらいはしそうなものである。

変に緊張しつつも、好奇心には勝てず、私はお馴染みの店内へと向かう。

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:04:07.53 ID:57+0jY4s0
店に一歩入った時点でもう、友沢の存在がかなり浮いていることが分かった。

女性客向けの店内は、当然棚の高さなんかも女性に合わせてあるわけで。

そこまで高いというわけではないが、男子の平均よりは背丈のある友沢は、店内のどこからでも確認することが出来た。

こういう場所に男がいるとあまりよくは思われないものだが、周りの客は特に気にしていないようだ。

それどころか、うっとりとした目でアイツを見ている人さえいる。ただしイケメンに限る、とかいう一部で話題のあれだろう。



「……問題は、相手よね」



どこに何があるか大体把握しているとはいえ、友沢から見つからないようにこっそり進むのは案外難しい。

顔見知りの店員さんに妙な目で見られつつ、遠回りに遠回りを重ねて、友沢のいる棚の裏側に回り込んだ。

いかにも大人向けといった風体の、ちょっと過激な布達の棚の隙間から、アイツの胸元が見える。

因みに、友沢のいる方の棚は、私が好んで買うちょっと可愛めのスポーツブラのコーナーだ。



「お、俺は、だな……こ、こういうのにしといた方が良いと……」



「えー、そうかなぁ」

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:08:06.51 ID:57+0jY4s0
「!」



少し不服そうに答える女の子の声は、随分可愛らしく、高い。ほうほう、友沢君は  コン気質でしたか。

さぞロリロリな子を捕まえたのだろう。そんな子にスポーツブラとは、健全なようで逆に危ない趣味全開である。何て野郎だ、ぶん殴ってやりたい。



「……もう、お兄ちゃんちゃんとこっち見てよ!」



「い、いや、お前、俺だって男であってな……」



しかも、『お兄ちゃん』呼びとは。レベルが高いなんてもんじゃない。これは犯罪だ。すぐにでも警備の人を呼ばなくては。



「……ん?お兄ちゃん?」



「えっ?」



「な゛っ……たっ、橘!?」



「あ」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:12:06.54 ID:57+0jY4s0
壁も無いのだ、声を出してしまえば、当然気付かれるに決まっている。

棚の向こうから私を見下ろして来た友沢と目が合った。

この世の終わりのような表情、とでも言えばいいのだろうか。何やら絶望で顔が歪んでいる。



「……!ち、違う、これは朋恵にせがまれたからで仕方なくだな……」



「あー!みずきお姉ちゃんだ!」



棚の横から顔を出したのは、どこか友沢の面影のある、それでいて随分可愛らしい女の子。

野球場とかで何度か会った時のある、友沢の妹、朋恵ちゃんだった。



「あ、あは、あはは……げ、元気してるぅ?」



「っていうか、お前なんでこんな所にいるんだよ!?」



必死に見つかった事を誤魔化す言い訳を考えている私は、取りあえず愛想笑いと挨拶を返しておいた。

友沢が妹ちゃんを押し退けるように詰め寄って来る。その口の利き方に少しカチンと来た私は、つい口が悪くなる。

こいつと会話する時のお決まりのパターンだ。



「こ、こんな所って、私がここに居て悪いの!?えっと……そう、 着よ! 着買いに来たの!!」

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:16:03.34 ID:57+0jY4s0
「……あっ、い、いや……そ、そうか。そうなのか、うん」



「?何よ急に大人しくなって……」



「みずきお姉ちゃんオトナだなぁ、いいなぁ」



朋恵ちゃんの言葉にはっとして、今の自分がいる場所を思い出す。

いわゆる勝負 着という、斬新かつ過激な布切れのコーナー。

そこに立っていて、 着を買いに来た、ということは、つまり。



「……!?ち、違うわよ?私もさすがにこんなアダルティなのはまだ……ってちょっと!?友沢アンタ変な想像したでしょ!いやらしい!!フケツ!ヘン  !?」



「だ、誰が、お、お前みたいな幼児体型……」



「ぬわぁんですってえええ!?こっ、これでもBはあるのよ!?」



「何がだよ!?」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:21:07.27 ID:57+0jY4s0
…………





「全く……最初から付き添いだって言いなさいよねー?私まで恥かいちゃったじゃない」



「お前はどの面下げてそんなことを言いやがるんだ……?」



「お、お兄ちゃん、私はもう気にしてないから、みずきお姉ちゃんと喧嘩するのは止めよ?」



何てことは無い、妹にせがまれた兄が、仕方なく買い物に同行していたという話。

不毛な言い争いによってお店の人からこっぴどく怒られた私達は、その後ショッピングモールの中の適当なカフェでくつろいでいた。

まぁ、口では突き放してはいるが、さすがに私に原因があるのは理解しているので、ここは私持ちにしておこうと思う。



「……しっかし、妹ちゃんの付き添いとはいえ友沢が……ねぇ?」



「だー!?やめろ、頼むから忘れてくれ!」



そう言って平謝りして来る友沢の様子は、非常に情けない。普段は私を見下すように上から目線だというのに、そんな姿はどこへやら。



「えー、何でよ、別に減るもんじゃないじゃない……あ、言っとくけど言いふらさないわよ?」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:24:28.53 ID:57+0jY4s0
「……本当か?」



「何よその心底意外そうな目。あーあ、やっぱり聖とか……あ、ダメガネ辺りに教えると面白そうね」



「や、矢部は、矢部だけはやめろ!?謝るから!な?」



最初からそんな下衆な真似はしないと決めているのだが、少し揺さぶりをかけるだけで動揺する友沢がおかしくて、ついつい意地の悪いことを言いたくなる。

私はSだろうと自覚しているが、これほど愉悦に浸れる瞬間は無いのではないかと思う。



「……ふふふ、やっぱり仲良しさんだね、お兄ちゃんとお姉ちゃん」



「どこをどう見たらそうなるんだ……」



「……アンタに付き添い頼んだことといい、妹ちゃんってちょっと不思議ちゃんなのかしら?」



まだせいぜい小学校高学年そこらとはいえ、朋恵ちゃんはレディである。いくら仲が良いといっても、実の兄に 着を選ばせるというのは理解しかねるのだが。

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:27:32.83 ID:57+0jY4s0
「うーんと……私も、本当はちょっと恥ずかしかったけど……お兄ちゃんお洗濯とかもしてくれてるから、別に良いかなって」



「へぇ、そっか。考えてみればそうかも」



友沢のお母さんは、病気で入退院を繰り返している。お父さんも必死で働いているから、友沢が炊事洗濯を担当しなければならないのだろう。

普段から自分の 着を扱われているのであれば、今更兄に 着を見繕って貰った所で抵抗はあまり無いのかもしれない。



「こ、こら朋恵。あんまりそういうことは他の人には……」



「それにね?」



「?」



「ホワイトディ、お兄ちゃんいないし、一緒に居てくれるの今日くらいなんだ。せっかくだから、一杯甘えようと思って」



「……あ」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:30:40.59 ID:57+0jY4s0
「……遠征でな。当日朋恵にバレンタインのお返し出来ないから、今日だけバイト休み貰ったんだ。で、何でも言う事聞いてやる、ってな」



「だから、デートしてもらうことにしたの!」



「……そういうわけだ」



そうやってはにかむ朋恵ちゃんの顔は、穏やかながらもどこか寂しげだ。

出来る事なら、もっと兄に甘えたいのだろう。

しかし、現実には時間が限られていて、それは家族の為でもあるから、何も言えなくて。

本当に、友沢のことが大好きなのだ、この子は。



「……ごめん、私……家族水入らずだったのに……」



「怒られちゃったけど、私、ちょっとだけ楽しかったよ?だから大丈夫」



「そ、そう?」



「うん!あんなに慌ててるお兄ちゃん初めて見た!面白かったなぁ。翔太に自慢しちゃおうっと」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:33:24.03 ID:57+0jY4s0
そういえば弟の翔太君の姿が見えない。いつもは朋恵ちゃんと仲良く一緒に、兄の後をついて来るはずなのだけれど。

妹の様子を見て苦笑している友沢に聞いてみる。



「ちょっと、弟君はどうしたのよ」



「『今日は朋恵とお兄ちゃんの日!』って言って自分から留守番さ。全く、意地っ張りなもんだ」



「そっ、か……」



自分も兄には甘えたいだろうに、何て健気なのだろう。思うに、バレンタインのお返し、という名目が邪魔なのだ。

バレンタインなんて行事が大人のエゴにまみれているということに、この純粋な子供達は気付いていない。そう思うと、何だか無性に腹が立って来る。

友沢はどうでもいいが、妹ちゃんと弟君は私のお気に入りである。やっぱりバレンタインなぞくそくらえだ。



「……友沢、やっぱりアンタのこと言いふらすわ」

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:36:29.77 ID:57+0jY4s0
「なっ!?」



「お姉ちゃん?」



「あんな情けない様子を広めたくなければ、今から私が言うことを聞くこと!」



「……見損なったぞ、橘」



我ながら言い方が素直じゃないなぁ、とは思ったが、これからする提案は、こうでもしないと目の前の意地っ張り男が聞きそうに無いから仕方ないのだ。



「あーはいはい、そーゆーのはまずこっちの話聞いてからにしなさいよね」



「はぁ?」



「今から弟君連れて来なさい。今日一日、アンタらきょうだい3人、私の遊び相手に決定よ。異論は認めてやんない」



「……お前」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:39:29.07 ID:57+0jY4s0
友沢の顔が呆気に取られるのを見て気分を良くした私は、自分でも分かるくらいニコニコしながら朋恵ちゃんに話しかける。



「朋恵ちゃんはその間に私と一緒にもう一回あのお店行きましょっか。コイツよりは選ぶの手伝ってあげられると思うわよ?」



「え、でも……」



「私、あそこの店長さんと仲良しだから。さっき謝ったし、もう大丈夫よ」



「……本当にいいの?」



「勿論! 着は乙女の……あ、こういう話はアンタが聞いてるとやりづらいわね」



レディの何たるかを講義するのに、むさ苦しい男は邪魔でしか無いのだ。さっきからなかなか動きだそうとしない友沢を、強引に押し出す。



「いや、しかし……」

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:42:49.18 ID:57+0jY4s0
「金で釣ろうってわけじゃないけど、アンタ以外はかかる費用全部私が出してあげるわ。安心しなさい」



「……金持ちめ」



「それって褒め言葉かしら?」



「……分かったよ。今から一度戻るとなると……合流するまで一時間位か」



「あら、意外に素直に聞くじゃない」



実はもう少しばかりうだうだ何か言って来るかと思っていたのだが、案外簡単に納得したようだ。



「……俺は現金な奴だからな。それに――」



「?」



「――お前が異論は認めないって言うなら、俺が何を言おうが無駄さ。それ位は心得てるよ」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:45:50.91 ID:57+0jY4s0
そうやって鼻で笑う友沢は、私がよく知っている、いつものこいつだった。

あぁ、やっぱりこうじゃなきゃ。カッコつけ、無理してると評する割に、私は心のどこかで、こういう友沢を気に入っているのかもしれない。



「……分かってるじゃないの。ほら、話は決まったんだからさっさと行きなさい」



「ちょっと待て、その前に一応連絡先教えろ。何かあった時に困る」



「え、アンタ私の携帯知らないっけ?」



「聞く機会なんて無かったろうが」



何故だかとっくに知っているものと思っていた。そういえば、野球のこと以外で話したり、こうして一緒の空間に居るというのは今まであまり無かったかも。

友沢が取りだした携帯は、極々シンプルな、はっきり言って時代遅れも甚だしいデザインのものだった。

スマートフォン全盛のこのご時世においては、産廃を通り越して最早化石である。

赤外線機能は辛うじて備わっているようなので、こちらも携帯を取り出して近付けた。

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:49:32.41 ID:57+0jY4s0
「……ありがとうな、橘」



「!」



私より背の高い友沢は、少し屈んで携帯の画面をいじっているのだが、私の耳元にちょうど吐息が当たるくらいの距離で、ぼそりと、でも確かに、礼を言って来た。

男の子とこういう距離で会話することなんて、ほとんど私には経験がなくて、瞬間的にひきつってしまう。

しかし別に、嫌というわけじゃなかった。むしろ――



「……どうした?」



「な、何でも、無い……」



――ちょっとだけ。本当にちょっとだけ。



「悪く、無い、かな……」



「?」



「……ふふ、さぁ早いとこ連れてらっしゃい、時間は待ってくれないんだからね?」

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:54:01.08 ID:57+0jY4s0
…………



「連れて来たぞ」



「ハーイ、翔太君。久し振りね、ちょっと大きくなったかしら?」



「うん!背伸びたよ!」



「お兄ちゃん、お姉ちゃんもお兄ちゃんと同じ 着選んでくれたよ!お姉ちゃんも使って……」



「ぎゃー!?朋恵ちゃん、そういうのは言わないの!」



「……そ、そうか」



「友沢アンタ後で死刑」

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 09:57:24.83 ID:57+0jY4s0
…………



『すとらいくー!!』



「お兄ちゃんすごーい!」



「まぁこんなもんだろ」



「さすがにやるわねぇ……よーし、必殺、クレッセントムーン!」



「!?す、すげぇ、ボールがスクリュー回転を……」



『がーたー!どんまいどんまい!』



「……」



「ガーターだったね」



「そっとしといてやれ、翔太」

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:00:39.66 ID:57+0jY4s0
…………



「お兄ちゃん、私あのぬいぐるみ欲しい!」



「UFOキャッチャーか」



「こういうのは潤沢な資金力がものを言うのよ!」



「あー二人とも、こんなしっぽ女のようになっちゃいけないぞー」



「何とでも言えば良いわ!翔太君は何か欲しいのある?」



「じゃああれー」



「……1/1ゲドー君クッション……えらい大物選んだな」



「……ふ、ふふふ。お、お姉ちゃんに任せなさい」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:03:23.83 ID:57+0jY4s0
…………



昼前から遊び歩いたせいか、帰りの電車で朋恵ちゃんと翔太君は眠っていた。私と友沢は、二人を挟むように座席に座る。

もうすぐ帰宅ラッシュがやって来る車内は、夕陽が差し込んで来ていて暖かい。

油断すれば私も友沢も眠ってしまいそうだ。乗り過ごすと面倒なので、私達はどちらからともなく話し始めていた。



「いやー、遊んだわねぇ」



「いつもああいう風に遊んでるのか、お前。買い物にボーリングにゲーセンにバッセンに……」



「んー、まぁバッセンは聖と良く行くわね。普段の練習とは違って気持ちいいし」



「成程な、様になってたわけだ」



「そりゃどうも」



さすが帝王の次期主力と言うべきか、軽くギャラリーが出来るくらい、見事なバッティングを披露していた友沢から褒められて、悪い気はしない。

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:06:39.41 ID:57+0jY4s0
「そういうあんたはどうなの?こういう風に出歩くのは久し振りだったんじゃない?」



「そうだな……そもそも殆ど遊ばないしな、俺は。時間が無い」



「枯れてるわねぇ……ま、アンタの事情はそれなりに把握してるつもりだから、仕方ないと……」



「しっ……」



「?」



いきなり何かと思ったが、どうやら翔太君が寝ぼけているらしい。何か言いたげにもにゅもにゅと口を動かしている。

しかし、友沢の方に寄りかかるとそれで安心したのか、気持ち良さそうに寝息を立て始めた。

すると、今度は朋恵ちゃんが私の方に寄りかかって来た。

ぷにぷにした子ども特有のほっぺを私に惜しげも無く擦り当ててくる。あぁ、天使とはこういうものを言うのだろう。



「うふふ、二人ともかーわいーなー♪アンタが兄貴だっていうのが信じらんないわ」



「起こさないでくれよ」



「分かってるわよそのくらい」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:09:43.29 ID:57+0jY4s0
「……まぁ、なんだ」



「うん?」



朋恵ちゃんを起こさないよう、そっと頭を撫でてあげる。ふわふわとした髪が心地好い。



「色々、ありがとう、な」



「……私がやりたくてやった事よ。そこは勘違いしないでよね?」



「……そうか」



久し振りに大好きな兄と、思う存分遊んでくれたであろう、翔太君と朋恵ちゃんの満足そうな寝顔は、私にとっては何にも替え難い報酬だった。

別に素敵な相手がいなかろうが、バレンタインやホワイトディなんか関係無く、愉快に楽しく過ごしてやろう。

聖と達成するはずだった今日の目的を考えれば、お釣りが返って来るくらいのものである。

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:12:38.09 ID:57+0jY4s0
「……あんたは?」



「ん?」



「あんたはどうだったの、ってこと」



「……あぁ、楽しかった。本当に」



「ならよし!ふふふ♪」



「何か上機嫌だな」



「当然!いっつも張り詰めてるような奴に、楽しい、って言わせたんだもの。さすが私ね!って感じ。

 いい機会だし、これからはもう少し息抜きについて考えた方が良いわよ、アンタ」



「ふっ、そうなのかもな……」



そう言った友沢は、今まで見たことも無いような和らいだ表情を見せるのだった。

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:15:59.42 ID:57+0jY4s0
ほどなくして、友沢達が降りる駅に着いた。どうせならと思い、私も途中まで付いて行くことにする。

右手で翔太君、左手で朋恵ちゃん。それぞれと手をつないで、夕暮の街を歩く。

私達3人の少し後ろをついて歩く友沢の表情は複雑そうで、それでいてどこか穏やかな感じでもあった。

こいつ自身、妹ちゃんと弟君を本当に大切にしているのだろう。

ちょっと前まで姉にべったりだった私にとって、初めて見るはずのその表情は、何だか懐かしく思えた。



「お姉ちゃんの手、暖かいね!」



「あらそう?何かお姉ちゃん嬉しいなぁ♪」



「……心が冷たい奴はなんとやら、だっけか」



「うっわ……何でそういうこと言うのかしらこいつは。男の嫉妬はみっともないわよぉ?」



「わよぉ?」



妹ちゃんはすっかり私に懐いてくれたみたいだ。クスクス笑いながら、兄の方を振り返っている。友沢はと言うと、何か言いたげな憮然とした顔。



「なんとやら、って何?」



「う、うーんとな……」



追究に答えられないなら、最初からそういうのは言わなけりゃいいのだ。情けない声がおかしくて、私も吹き出してしまった。

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:18:34.32 ID:57+0jY4s0
「……み、みずきちゃん?」



「へっ?」



「あおいちゃんだ!」



兄同様野球少年の翔太君が嬉しそうな声をあげる。視線を向けると、いかにもトレーニング中です、という風体のあおいさんが、驚いた様子で立っていた。



「あおいさん!この近くに住んでるんですか?」



「え、えっと……うん、まぁね、あはは……」



「?どうしたんですか?」



立ち止まったので友沢が並ぶ。サインをねだろうとする弟君をたしなめている。

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:22:20.93 ID:57+0jY4s0
「みずきちゃんだよね?」



「はい、そうですよ?」



「で、そっちは、帝王の……友沢君、だよね」



「は、はい」



「……」



当たり前のことを聞いて来るあおいさんの様子は、何だかとても挙動不審だった。

私と友沢、翔太君と朋恵ちゃんをしきりに見比べ、真っ赤になったり青ざめたりしている。



「どうしたん……」



「み、みずきちゃん!?」



「ひょえ?!」

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:26:19.16 ID:57+0jY4s0
いきなり私の名前を叫んだあおいさんは、掴みかかってくるように私に近寄り、言った。



「い、いくら何でもまだ早過ぎるんじゃないかな!」



「えっ、何を……」



「ひ、人を好きになることは素晴らしいことだと思うけど!こっ、子供をキミくらいの年齢で作っちゃうのは……」



「!?」



突拍子もないことを言い放ったあおいさんに、思わず友沢がむせた。翔太君達はぽかんとした顔だ。何が起こっているのか分からないらしい。正直、私も分からない。



「とっ、友沢君も友沢君だよ!?キミはこれからの球界を背負っていける選手として期待されてるって言うのに、こ、こんな無責任な……」



「ちょ、ちょっとちょっと!?あおいさん落ち着いて下さい!」



「こ、こいつらは俺の家族で……」



「そりゃそうだろうね!自分の子供だもんねぇ!?」



「友沢アンタ馬鹿なの!?ちゃんと兄妹って……」



「みずきお姉ちゃん、私達の家族になるの?」



「お兄ちゃんの彼女さんだったの?」



「こらお前ら?!」



「あーもー朋恵ちゃんも翔太君もちょっと静かにしてー!?」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:31:59.30 ID:57+0jY4s0
 



「……はぁ、何かどっと疲れたわよ……」



「全くだ……」



あおいさんには、翔太君達が私と友沢の子供に見えたらしい。どんな勘違いだ。



「サインさいんー」



取り乱してしまったお詫びということで、翔太君のサインのおねだりに快く応えてくれたあおいさんは、恥ずかしそうにトレーニングに戻って行った。

ご機嫌な翔太君と、それにつられてよく分からないけれど嬉しそうな朋恵ちゃんの二人とは対照的に、私と友沢はぐったりとしている。

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:35:24.27 ID:57+0jY4s0
「そういえばお前、いつまで付いて来るんだ」



「あぁ、確かにそうね」



「次の交差点で右に行けば、駅前まで走ってるバス通るけど」



「えー!お姉ちゃん帰るの?お家来ないの?」



私が帰ろうとしているのに気付いて、朋恵ちゃんが残念そうな声を上げる。

翔太君も、サインから目を離してじっとこちらを見つめて来た。



「……ごめんね、お姉ちゃんそろそろ帰らなきゃ」



私自身、非常に後ろ髪を引かれる思いだ。出来る事なら、二人をお持ち帰りしたい。



「昼間あれだけ遊んでもらったんだ、ほら……」



友沢が促すと、朋恵ちゃんと翔太君は、お行儀よく並んで、ぺこりと頭を下げた。



「「ありがとうございました!」」



「……ぷっ、なぁにその野球部チックなお辞儀!あはは!」



「礼儀は大事だろ?」



「確かにそうだけど……何か、すっごい可愛いくてさ……ふふふ」



そんなこんなで、私は友沢達きょうだいに見送られつつ、家路についたのだった。

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:38:53.03 ID:57+0jY4s0
電車を乗り継ぎ、家の最寄り駅に降りる。ふと携帯を確認すると、見覚えのないアドレスからメールが来ていた。何気なく開く。



『改めて今日はありがとう。翔太も朋恵も、またお前と遊びたいってうるさくてかなわん』



絵文字も何も無い、極々シンプルなその内容は、何だかとっても友沢らしくて、クスクスと笑ってしまう。とその時、聖からの着信。



「もしもし?」



『おい、みずき。何だか変な噂が出回ってるんだが……』



「何それ?」



『まぁばっさり言えば、「あの橘みずきが男連れて歩いてた」と言う話だ。もうメールで広まっている。お前今日街に出たのか?』



「……なんでそれ位で……いやぁ、美人は辛いわねぇ」



『で?本当の所はどうなのだ?』

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/09(土) 10:41:48.67 ID:57+0jY4s0
「うーん……どうなのかしらね?」



『は?』



「私とアイツ……まぁ付き合いは長いんだけど……むぅ」



『ふむ……まぁいい、また会う時にでもじっくり聞かせて貰うさ』



その後次に会える日なんかを簡単に相談して、電話を切った。

何となく周りを見ると、朝ほどでは無いが、カップルがやはり目立つ。季節柄仕方ない。

とはいえ、あまりそれをストレスとは感じなくなっている自分がいる。



「……とりあえず、遠征の予定でも聞いてみようかしら?」



携帯をいじる手に冷たい風が吹きつける。独り身には辛いはずのその風も、不思議と今は何とも無いのであった。

引用元: みずき「バレンタインガン無視した結果wwwww」