4: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 00:09:16.22 ID:IGzZA01O0
せつ菜(24)「えっ。またですか?」

果林「仕事に行くのにタクシー代の持ち合わせが無くて困ってるのよ」

せつ菜「タクシー?でも大抵の場所なら電車やバスで…」

果林「私はモデルなのよ?厄介なファンに見つかったらどうするの?」

せつ菜「……そうですよね」

果林「別にいいでしょ?借りるだけなんだし」

せつ菜「でもこの前もそう言って…お金だって返してもらったこと…」

果林「……はぁ。そう、せつ菜は私のこと嫌いになっちゃったのね」


大袈裟にため息をつけば、せつ菜は弾かれたように顔を上げた。


せつ菜「い、いえ…!わかりましたっ!1万円で足りますか?」

果林「ありがと。好きよ、せつ菜」


彼女の頭を撫でて、腰を抱き寄せる。
これだけで大人しくなってくれるのだから、ありがたい。


せつ菜「あぅ…気にしないでください…//」

果林「じゃあ行ってくるわ。あなたも気をつけてね」

6: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 00:17:29.18 ID:IGzZA01O0
◆ ◇ ◆ ◇


果林「ふーっ……」

眼前にもくもくとあがる煙を眺めていると、嫌なことも忘れられる気がする。
仕事も無いのに嘘をついて外出するのも、昼間からこんな場所で酒を煽るのも、私にとっては日常になっていた。


店主「へぇ。煙草なんて珍しい」

果林「悪い?私だって吸いたくなる事くらいあるわよ」

店主「いいや、様になってると思ってね」

果林「あらそう。なら一杯サービスしてくれない?」

店主「こりゃ参ったなぁ。ま、お姉さんはお得意様だし…特別にこれをどうぞ」

テーブルに置かれたのはワイングラスだった。
ふわりと柑橘系の匂いがして、その透き通るような紺碧に吸い込まれそうになる。
その瞬間、彼女の姿が走馬灯のように頭に浮かんだ。


果林「……ない」

店主「ん?」

果林「いらない。それ嫌いなの」

店主「でも食い入るように見てたじゃないか。どうしたんだい急に」

果林「悪いけど、もう帰るわ」

店主「あぁ…わかったよ。何かすまないね」

果林「気にしないで。また来るわ」

あの香りと色は、ブルーキュラソー。
甘いカクテルだけど私の中では苦い思い出でしかない。

8: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 00:23:21.20 ID:IGzZA01O0
───


エマ『これ、美味しいよ。飲んでみない?』

果林『なぁに?いきなりね』

エマ『フルーティーな味がしてさっぱりするんだ〜』

果林『エマは好きなの?このカクテル』

エマ『うん!だって、色が綺麗だもん』

果林『色?エマは青が好きだったのね』

エマ『果林ちゃんの瞳の色と同じでしょ。だから私、このお酒が好きなんだ』

果林『っ……//ずるいわ。そんなの』

エマ『お誕生日おめでとう、果林ちゃん。今年も一緒にいれたら嬉しいなぁ』

果林『…バカね。ずっと一緒よ』

エマ『えへへ。大好きだよ、果林ちゃん』


───


彼女の姿が、声が、遠くなっていく。
胸にナイフを突き立てられたような、そんな感覚に襲われる。


果林「…なんで、私を置いていったのよ。エマ」


頭が割れるように痛い。
これ以上外を彷徨く気にもなれなくて、帰路に着くことにした。

9: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 00:28:50.66 ID:IGzZA01O0
◆ ◇ ◆ ◇


果林「ただいま〜…って、誰もいないわよね」


せつ菜から渡されている合鍵を使い、アパートの一室へと足を踏み入れる。
廊下にハンカチが落ちていて、今朝は珍しくドタバタしていたのかしら?なんて想像してしまう。


果林「うーん…いつもせつ菜に任せるのも悪いし、たまには私が…」

そうブツブツ言いながら、昨日からそのままになっている食器を洗っていく。
そういえば、私がここに来た時よりも皿やコップが増えたなと思う。


果林「これは…去年のクリスマスに買ったもので、こっちは……いつだったかしら」

せつ菜はペアの食器を好んだ。
私は特にこだわりなんて無かったから、彼女が買ってくるものを使ってた。
そのうちに数が増えて、新たに収納場所を作ったりもしたっけ。


果林「さ……次は洗濯ね。面倒だけど…」

カゴに入ったままの服やタオルを洗濯機へと放り込む。
洗剤と柔軟剤は目分量で。
後はスイッチを入れるのみ…だったのに、見慣れないものが目に止まった。


果林「……へぇ。これはあの子を問い詰めなきゃね」

11: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 00:34:00.20 ID:IGzZA01O0
◆ ◇ ◆ ◇


「…さん……果林さんっ」

果林「ん……?」

せつ菜「果林さん、こんなところで寝ていたら風邪をひきますよ」

果林「せつ菜…?あれ…今って」

せつ菜「もう夜ですよ」


彼女の背後にある時計に目を凝らすと、時刻は9時だった。
どうやら私はあれから眠ってしまっていたらしい。

果林「ふわぁ…おかえり、せつ菜。今帰ったの?」

せつ菜「はい」

果林「学校の先生ってのは本当に忙しいのね」

せつ菜「やりがいはありますけど、仕事はいつも山積みなんです」

果林「私もあなたが先生だったら、もう少し勉強が好きになれたかもしれないわね」

せつ菜「そ、そうですか…?えへへ。嬉しいです」


私の目の前で恥ずかしそうに微笑む彼女は、教育大学を卒業後、公立高校の先生になっていた。

12: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 00:43:57.43 ID:IGzZA01O0
国語科の教員免許をいくつか持っていて、今は主に現代文を教えているらしい。
もちろん中川菜々として。


果林「いつも思うんだけど…思春期真っ只中の生徒達は大変よね」

せつ菜「何がですか?」

果林「こんなに魅力的な先生がいたら、授業どころじゃないでしょう」

せつ菜「ひゃっ……///」


不意をついて抱き寄せ、改めてジロジロと彼女を観察する。

小柄な体格に、細身だけど豊満な身体。
髪は艶やかな黒髪で、眼鏡をかけている。
そんな、属性がこれでもかと詰め込まれた若い女教師。


果林「ねぇ、告白されたことくらいあるんじゃない?」

せつ菜「あ、ありません…よっ…//」

彼女を腕の中に閉じ込めたまま、眼鏡を取って、鼻先が触れるほど顔を近づける。


果林「ふぅん…でもこんな風に動けなくされたら、何をされても…」

せつ菜「んぁ……ぅ…」

薄い唇を強引に開かせて、熱っぽい口内を味わう。
歯列を舌でなぞってやるとびくんと肩が震えた。

13: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 00:51:00.39 ID:IGzZA01O0
その反応を楽しみつつ、舌と舌を絡ませて唾液を流し込めば、せつ菜はごくんと喉を鳴らしてそれを飲み込んだ。


果林「ふふっ…いい子ね」

せつ菜「んーっ…!」

蕩けそうな顔をしてるくせに、抗議のつもりなのか背中を叩かれる。
そんな満更でも無さそうな彼女をソファに押し倒した。


せつ菜「果林さ……今日はもう、」

果林「我慢できないって?」

素早く服の中に手を入れ、滑らかな肌の感触を楽しむ。
そして、膨らみに指先が触れた瞬間。

せつ菜「ダメですってば…!」

果林「へぶっ!」


クッションが顔にクリーンヒットした。
いつ投げられたのか全く見えなかった。
そういえば同好会で合宿をした時も、こんな事があったような気がする。

せつ菜「明日も仕事なんです…!早くお風呂に入りたいので!」

果林「でもせつ菜、気持ち良さそうだったじゃない」

せつ菜「ぅ……以前にもそうやって流されて、遅刻しそうになったんですからね!」

果林「はいはい悪かったわ」

15: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 00:56:21.44 ID:IGzZA01O0
せつ菜「もうっ。反省してませんよね」

果林「してるわよ、これでも」

あの時は彼女を強引にベッドに連れ込んで好き勝手した結果、丸一日口を聞いてもらえなかった。
それでも一日で済ませてくれる辺り、せつ菜は優しい。


果林「そういえば食器洗いと洗濯しておいたわ」

せつ菜「それはありがとうございます」

果林「でも洗濯しっぱなしで干すの忘れてた。いつの間にか寝落ちしてたから」

せつ菜「そうでしょうね。でも大丈夫です、さっき私がやっておいたので」

果林「本当は夕食も作ろうと思ってたのよ。だけど洗濯機のガコンガコンって音を聞いてると、まぶたが重くなって……あっ」

そこまで言って、唐突に思い出す。
彼女に問い詰めるべきことがあったと。


果林「…あの 着、なに?」

せつ菜「え?」

果林「洗濯カゴに入ってたセットアップの 着よ。それも、派手なレースが付いた真っ赤なやつ」

せつ菜「あ゙っ……」

果林「私のじゃないんだけど。何か知ってる?」

16: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 01:02:05.71 ID:IGzZA01O0
せつ菜「さ、さぁ…そんなものありましたか?」


せつ菜は昔から嘘をつくのが下手だ。
わかりやすく目が泳いでいるのに、シラを切るつもりらしい。
それならこっちにも考えがある。

果林「私、洗濯したって言ったわよね?その時には 着があって、今この部屋にはそれが干されてない」

せつ菜「………」

果林「つまり、洗濯物を干した人が怪しいと思わない?」

せつ菜「あぅ………あれは私のです…」

果林「ふーん…ねぇ、あのいやらしい 着は誰に貰ったの?」

せつ菜「それは…」


顔を赤らめてモジモジするせつ菜。

まさか親密な関係にある男から貰ったもの?
それとも同僚の女教師?
もしかして本当に生徒だったり?

どんな答えが飛び出してきてもいいように、少し身構える。

17: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 01:09:33.41 ID:IGzZA01O0
せつ菜「自分で、買いました……//」

果林「へぇ自分で……え?」

せつ菜「果林さんが、言ってくれたじゃないですか……///私にはこういうのが似合うって」

せつ菜「だから恥ずかしいのを我慢して、勢いで買ったんです」

果林「そ、そうだったの」

せつ菜「でも正直困っていて。着るタイミングが難しいというか、なんというか…」


今日洗濯カゴに例の 着が入っていたのは、おそらく彼女が昨日これを着ていたということになる。
そういえば昨日は祝日で、せつ菜は仕事が休みだった。

─と、いうことは?

果林「もしかして、私に 着を見てもらいたかったの?それが昨日だったってこと?」

せつ菜「うぅ……///」

果林「なるほど、襲われるのを期待してたわけね」

せつ菜「皆まで言わないでくださいよっ…///」

果林「でも私、昨日は体調悪くて寝込んでたわ…ごめんなさい」

せつ菜「謝らないでください…!虚しいので…」

果林「ふふっ。せつ菜って、可愛いところあるわよね」

せつ菜「もう…!私、お風呂に入ってきますからっ」


彼女の背中を見送ってから、私はもう一度横になった。
視界に入るのはすっかり見慣れてしまった白い天井。
この部屋に寝泊まりするようになって、早くも1年が経とうとしている。

19: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 01:13:23.28 ID:IGzZA01O0
◆ ◇ ◆ ◇


次の日。
目覚めると、いつものようにせつ菜の姿は無かった。


果林「まだ9時なのに…暑いわね」

気怠い身体を起こし、重い足取りでキッチンへと向かう。
そして冷蔵庫の中にある野菜スムージーをコップに注ぎ、だらだらとテレビを見ながらこれを飲む。
これが最近のルーティンになっていた。


アナウンサー『それでは、次の芸能ニュースです』

アナウンサー『女優の桜坂しずくさんが主演を務める映画、春情ロマンティックの舞台挨拶が昨日お台場シネマで行われました』

アナウンサー『会場には主題歌を担当する近江遥さんもサプライズ登壇し、来場者を熱狂させました。本日はその模様を一部お届けいたします』


果林『あ……』

知っている名前が二つも出てきたから、思わず息を飲む。
そこにはかつてスクールアイドルとして競い合った彼女たちがいた。

20: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 01:17:44.69 ID:IGzZA01O0
司会者『えー、まさかのサプライズでしたね!凄い大歓声でした!』

遥(23)『ありがとうございます!嬉しいですっ♡』

司会者『近江さんはソロアイドルとしてご活躍されてきて、今回初の映画主題歌を担当されるとのことですが、このお話をいただいた時の心境は?』

遥『えっと…まずはびっくりしました。小説家としてもご活躍されてる監督さんに、今をときめく女優の桜坂しずくさんが主演の映画だと聞いて、もうどうしようって』

司会者『あはは。それを近江さんが言っちゃいますか?』

監督『ほんとだよ!遥ちゃんもデビューからオリコン上位をキープしてるトップアイドルなのに』

司会者『今回の歌も、青春と恋愛がテーマの今作にピッタリですよね』

遥『そんな、ありがたいです…えへへ…』


近江遥は少し大人びてはいたが、高校生の時よりも可愛らしい顔立ちをしていた。
プロのメイクやスタイリストが付くとこんなにも変わるのかと思う。

21: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 01:22:50.00 ID:IGzZA01O0
司会者『えー聞くところによると、近江さんと桜坂さんはお知り合いだとか!少しお話いただけますか?』

しずく(23)『そうですね、私は高校時代にスクールアイドルもやっていたので。その時に何度かご一緒させてもらいました』

司会者『そうだったんですか!まさかの繋がりですね〜』

遥『ライバル校同士だったんですけど、私の姉がしずくさんと同じ学校で…本当に楽しい日々でしたね』

しずく『はい。またこうして同じ舞台に立つことができて、とても嬉しく思います』


対して桜坂しずくは別人だった。
といっても、外見が変わったわけじゃない。

立ち振る舞いや話し方から溢れ出るオーラが、全く異なったものになっていた。
私がよく知っている二つ歳下のあどけない少女は、もうどこにもいない。


果林「っ……」


これ以上、彼女の張り付いた笑みを見ていられなくてテレビの電源を落とす。
それでも胃のむかつきを抑えられなくて、味のしない野菜ジュースの残りを流し台に捨てた。


果林「みんな、変わってしまうのね」

23: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 01:28:47.79 ID:IGzZA01O0
虹ヶ咲学園を卒業してから7年が経過した。
地元の同級生の中にはもうすぐ結婚式を、なんて子もいる。


果林「っふう…」

煙草に火をつけ、肺を煙で満たす。
部屋で吸うなと後からせつ菜にとやかく言われるのはわかっていても、止められなかった。


『果林さんへ。朝食の残りがあるので良ければどうぞ。お仕事頑張ってくださいね。菜々』

冷蔵庫に貼ってあるメモには、彼女なりの思いやりがあった。

高校生の頃は独創的な作品を生み出していたせつ菜も、"余計なことをしない"と学習したらしく、人並みの料理の腕になっていた。
でも、それさえ今の私には毒でしかない。


果林「……」


ビリッ

半分に破いて、次はまたその半分。


ビリッ

それを繰り返すとメモはどんどん小さくなっていく。


細かくなったそれをゴミ箱に捨て、私は今日も行くあての無い旅に出かけた。

32: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 21:59:53.71 ID:IGzZA01O0
◆ ◇ ◆ ◇


果林「…ほんと、ついてないわ」

神様なんて信じてないけど実は本当にいるのかも。
局所的な大雨に見舞われ、頭のてっぺんから足先までずぶ濡れになってしまった。


果林「そういえば……あの時もこんな感じだったわね」

それは1年前の今日のような雨の日。
傘を無くした私は、建物の軒先で今みたいに雨宿りをしていた。


───

『果林さん…ですか?』

果林『えっ』

せつ菜『あ、あの…私です。中川……いいえ、優木せつ菜です』

名前を言われなければ誰かわからなかったと思う。
私の思い出の中にいる彼女は、優木せつ菜としての姿が強かったから。
傘の下にいる人物は、生徒会長の中川菜々を少し大人っぽくした女性だった。

果林『あぁ……せつ菜、なの』

せつ菜『驚きました。こんなところで再会できるなんて』

33: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 22:07:13.21 ID:IGzZA01O0
果林『…そうね。あなたたちの学年が成人式を迎えた時にした同窓会以来だもの』

せつ菜『私、あれから誰とも会えてないんですよ。皆さん忙しそうで』

果林『私もよ。高校の時はずっと一緒にいたのにね』

せつ菜『仕方ないですよ。それぞれの人生がありますから』

そう寂しそうに笑うせつ菜は、仕事帰りなのかスーツ姿だった。
それに比べて私は部屋着に近い服装で、おまけに雨でずぶ濡れ。

果林「久々に話せてよかったわ。じゃあ、私はこれで…」

恥ずかしさでいたたまれなくなり、適当に会話を切り上げて立ち去ろうと思った。


せつ菜『果林さん!』

果林『なによ、私急いでて…』

せつ菜『私の家ここから近いんですよ。良ければご飯食べていきませんか?』

果林『近いって…いや、でも』

せつ菜『あっ!!帰りを待つ人がいるなら大丈夫ですっ』

果林『………なんで?』

せつ菜『はい…?』

果林『なんで、私に優しくしてくれるの?』

34: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 22:21:41.35 ID:IGzZA01O0
せつ菜『そんなの…決まってますよ。果林さんのことが好きだからです』

果林『………』

せつ菜『ち、違いますよ…!?同好会の仲間として、大好きですから!』

赤面しつつ早口で捲り立てるせつ菜が何だか可笑しくて、私もつられて笑ってしまう。
─そして、私は彼女の手を取った。


───


果林「あーあ…もう走って帰ろうかしら」

毛先についた水滴を指で弾き、曇り空に悪態をついても雨があがる気配すらない。
かといって、このままずっと店の軒下で雨宿りをしていても仕方ない。
だから思い切って足を踏み出した、その時だった。


「そこのおねーさんっ!」

背後から、わざとらしい猫なで声。

果林「は…?」

「可愛いですねぇ。芸能界とか興味ないですかぁ〜?」

台詞だけでなく、フードとマスクで顔を隠しているのが最高に胡散臭い。
声の高さと背丈の低さからして、女性スカウトマンといったところか。

37: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 22:26:52.40 ID:IGzZA01O0
果林「お生憎様。私もう事務所に入ってるから」

「あれれ?そうだったんですか〜いやぁ残念ですねぇ〜!うちならもっと楽しいことできるのになぁ〜」

果林「ねぇ、腹が立つからそれやめてくれない?耳がキンキンするのよ」

「へっ?こんなに可愛い声なのにぃ!?…あ、じゃなくて」

果林「もうっ、あなた何なのよ!?いきなり声掛けてきて謝罪もないとか…どこの誰なの?」

「ひっ、ごめんなさい〜!そんなに怒らないで…!」

果林「…は??」

「ほら、私ですよぉ!よく見てくださいっ」

慌てた様子で目の前の人物が距離を詰めてきた。
愛らしい顔には未だに幼さが残っていて、月日の流れを微塵も感じさせない。


果林「かすみ、ちゃん…」

かすみ(23)「ひゃ〜怖かったぁ。果林先輩ってば、怒った時の迫力が昔より増してません?」

38: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 22:32:53.69 ID:IGzZA01O0
果林「悪いのはそっちじゃない。騙すようなことして」

かすみ「それは謝ります…ごめんなさい。たまたま見かけたから、嬉しくなっちゃって」

果林「…それで、何をしてたの?遊び?」

かすみ「うぐ…失礼ですねぇ!今から買い物ですよ、もう少し先に安いスーパーがあって」

果林「ふぅん。食事は全部かすみちゃんが作ってるの?」

かすみ「まぁ大体は…?向こうは忙しいですからね〜」

同窓会にて、付き合っていることを愛にバラされていた2人だったが、どうやら今でも仲良く同棲しているらしい。
──正直、羨ましいと思った。


果林「そういえばあなたの恋人、今朝テレビで見たわよ」

かすみ「あぁ舞台挨拶のやつですか…」

果林「どうして顔が暗いのよ」

かすみ「だって、かすみんが同じ舞台に立ちたかったですから!」

果林「…へぇ。遥ちゃんに嫉妬してるわけね」

39: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 22:39:05.70 ID:IGzZA01O0
かすみ「そりゃしますよ、同業者ですもん。悔しいけど人気では適わないし……」

果林「まだアイドル続けてたの?」

かすみ「バリバリ現役ですってば!そういう果林先輩こそ、モデル続けてるんですか?」

果林「まぁ……一応ね」

かすみ「あの、ここじゃなんですし…そこのお店入りませんか?」

果林「え?いや私は」

かすみ「行きましょうよぉ〜可愛い後輩がお願いしてるんですからぁ〜」

果林「後輩って何年前の話よっ」

駄々っ子のように粘るかすみちゃんに右腕を引かれ、ズルズルと店内へ連行される。
平日の昼間ということもあって、他の客は疎らだった。


店員「いらっしゃいませ。2名様ですね、お席の方が…」

かすみ「あ、個室とかあります?それも周りに人がいない所がいいんですけど」

店員「はい。ご案内いたしますね」

かすみ「空いてて良かったですね、先輩っ」

果林「あなたねぇ…」

40: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ adcf-0cVw) 2021/07/15(木) 22:45:33.57 ID:IGzZA01O0
かすみ「そういえば知ってますか?ここのビーフシチュー美味しいんですよ。テレビでもよく取り上げられてて…」

彼女に出会ってから始終ペースを乱されている私は、全てを諦めてソファに腰掛けた。

…もう疲れた。
こうなれば他愛もない話をして、さっさと別れよう。


かすみ「ビーフシチューのランチセット2つください!飲み物はカフェオレと?」

果林「…烏龍茶」

かすみ「で、お願いしま〜す♡」

店員「かしこまりました」

もはや突っ込む気すら起きなくて、窓の外を遠い目で見つめる。


かすみ「果林先輩、高校の時からずっとモデルのお仕事続けてるんですね」

果林「まぁね」

かすみ「エマ先輩はお元気ですか?」

果林「…さぁ、どうかしら」

かすみ「へっ?」

果林「元気だといいわね。スイスでも」

かすみ「うえぇぇぇっ!?!?」

50: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 00:16:44.94 ID:SFbHlim30
果林「ちょっと、静かにしてよ…」


個室だとしてもどこで誰が聞いているかわからない。
かすみちゃんは慌てて自身の口を抑え、周囲をキョロキョロ見渡してから顔を寄せてきた。

かすみ「エマ先輩スイスに帰っちゃったんですか…!?」

果林「そうよ」

かすみ「いつ!?」

果林「大学を卒業してすぐ、くらいね」

かすみ「ってことは3年前…!?かすみん何も聞いてませんよ!」

果林「他の子も知らないと思うわ」

かすみ「そんな……私たちは同好会の仲間じゃないですか」

果林「昔の話でしょ。いつまでも仲良しこよしじゃいられないのよ」

かすみ「でもっ…!」

果林「もう連絡さえ取り合ってないんだから、あなたみたいに気付かなくても無理ないわ。所詮はそんなものよ」


吐き捨てるようにそう言うと、かすみちゃんの目に悲しげな影が過ぎった。
…少し言い過ぎてしまったかもしれない。

51: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 00:29:20.77 ID:SFbHlim30
かすみ「じゃあ果林先輩は知ってるんですか…?エマ先輩が帰った理由を」

果林「知らないって言ったら?」

かすみ「えっと……エマ先輩と果林先輩は恋人同士なんですよね?」

果林「かすみちゃん、想像で物事を語るのは良くないわよ」

かすみ「確かに想像かもしれませんけど…距離感とか、触れ方とか、雰囲気を見れば、親友以上の関係なのかもって思いますよ」

果林「…あなたに何がわかるのよ」

かすみ「かすみんにも、大切な人がいますから」

嫌に真面目な顔をしたかすみちゃんがこちらを真っ直ぐ見据えてくるものだから、咄嗟に目を逸らす。
相手が歳下とはいえ、無言の圧力にさらされるのは耐え難い居心地の悪さを感じた。

そうして追い込まれた私は、諦めて事実を吐露する。


果林「………はぁ。そうよ、付き合ってるわ。今もね」

かすみ「今も?じゃあなんでエマ先輩は…」

果林「喧嘩したのよ。酔ってたからあまり覚えてないけど実家に帰るくらいだから、相当怒ってるんだと思うわ」

かすみ「うーん。あのエマ先輩が喧嘩くらいでそこまで怒りますかね…」

果林「あの日は確か……朝から頭が痛くて、気分も最悪だったの。だから私が酷いこと言ったんでしょうね」

かすみ「そうだったんですか…何かすみません」

52: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 00:36:54.62 ID:SFbHlim30
果林「別にいいわよ、そうだとしても恋人を放置して音信不通にする意味がわからないし。そこまでされる覚えはないわ」

果林「まぁ、エマから謝ってくるまで私は日本でのんびりするつもりだから」

かすみ「あー……なんて言えばいいか…」

果林「同情なんていらないわよ。進展があったら連絡してあげる、忘れてなければね」

かすみ「みんなそれぞれに事情があるんですね。かすみんも頑張らなきゃな…」

かすみちゃんがため息をついて机に突っ伏した。
現役アイドルの彼女にも色々と思うところがあるらしい。


店員「失礼します」

そうしていると、話のキリのいいところでビーフシチューが運ばれてきた。
食欲なんて無かったのに匂いを嗅ぐと美味しそうに思えてきて、しばらく無言でシチューを口に運ぶ。


かすみ「んー。おいひい」

果林「…かすみちゃんは仕事、順調なの?」

かすみ「そうですね〜…地方巡業も中々楽しいですよ。カーテン締め切ったバスにずーっと揺られたり、毎日コンビニ弁当を食べられたり」

かすみ「あと、たまに衣装が無くなるハプニングも起きますね。大体目星はついてるんで問い詰めてあげるんですけど」

53: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 00:43:03.57 ID:SFbHlim30
果林「あら、かすみちゃんも皮肉なんて言うのね」

かすみ「あはは…そのくらい性格悪くないとやっていけないので」

果林「芸能界なんてそんなものよね。ところで、しずくちゃんは元気?」

かすみ「元気ですよ〜。今は頑張り時だからって休みなく働いてますけど」

果林「彼女は大学の劇団でスカウトされたんでしょ?それが今は、次の主演女優賞候補って…人生には運も必要なんだって思うわね」

果林「かすみちゃんだって素質あるんだから、タイミングがあれば遥ちゃんのようなポジションにいたかもしれないのに」

かすみ「…褒めてくれるのは嬉しいですけど、かすみんは歌もダンスも飛び抜けて上手くはないですから。他に可愛い子もいっぱいいますし……」

かすみ「だからかすみんに運があっても、今とさほど変わらないような気がします。でもしず子は違うんですよ」

かすみ「あの子は才能があるのに努力家なんです。欠点がないんですよ。だから運というよりは必然じゃないかなって…」

果林「ふぅん…私には精神的な面で不安定に見えたけど、それも昔の話かしら。今の彼女には当てはまらなさそうね」

かすみ「事務所に入ってからの稽古で相当鍛えられたみたいです。弱音を吐くこともなくなったのはちょっと寂しいですけどね」

果林「…そう」


時間の流れというのは本当に恐ろしいものだと、再認識する。

54: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 00:50:21.96 ID:SFbHlim30
あんなに負けず嫌いだったかすみちゃんが、恋人とはいえ他人を高く評価していることに驚く。
それに、元から自己肯定感の低い子だとは思っていたけど、ここまで自分を卑下するような性格じゃなかったはずなのに。

それほどあの子に惹かれているのか、それとも絶対に敵わない相手だと認識しているのか。
もしくは自身の経験がそうさせているのか、酷く興味がわいた。


果林「ねぇ、あなたたちっていつから付き合ってるんだった?」

かすみ「うぐ…いきなりですね。ってか今聞きますか?シラフなんですけど」

果林「また愛に聞いてもいいんだけど、本人に確認するのが早いでしょ」

かすみ「もうっ……確か、高2の秋です。演劇部の出し物が終わったあと屋上に呼び出されて、そこで告白されました」

果林「向こうから?意外ね、てっきり逆だと思ってたから」

かすみ「しず子はああ見えて結構グイグイ系なので…ってそんな事はどうでもいいんですよ!」

かすみ「ちゃんと話したんですから、果林先輩たちの事も教えてください。お二人はいつですか?」

果林「私たちは……」

言葉に詰まる。
あれはいつだったんだろう。

色々な記憶が混在する中で、強く印象に残っているのはチョコレートだった。
学生時代にそれをもらう時といえば。

55: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 00:56:13.33 ID:SFbHlim30
果林「バレンタイデーだったわ。高3の時にエマからチョコを渡されてね」

かすみ「へー…やっぱり当時の噂は本当だったんですねぇ…」

果林「噂って?」

かすみ「果林先輩、下級生から結構人気あったんですよ?美人なのに気取らないしクールでカッコイイって」

かすみ「バレンタイデーの日もチョコを持ってる同級生が何人かいました。でも、エマ先輩と付き合ったらしいっていう噂が密かに流れてきて」

果林「…なによそれ」

かすみ「だからみんな諦めたんですよ。噂が本当でも嘘でも…いつも一緒にいるエマ先輩には敵わないよねって」

かすみ「あっ!噂といっても限定的なもので、ほとんどの生徒は知らなかったと思います。真相を直接聞くわけにもいかないし、かすみんもずっと黙ってました」

果林「そりゃどうも…って言いたいけど、そういうのに目敏そうなしずくちゃんや歩夢にはバレてたかもね」

かすみ「んー…そもそも数年前にやった同窓会で同好会メンバーはなんとなく察してるかもしれません」

かすみ「それで、聞いていいかわからないですけど……エマ先輩が帰った後はどうしてたんですか?」

果林「……色々あったのよ。そのアパートは取り壊しになったから、今は別の場所に住んでるわ」

本当は水道光熱費に家賃さえ払えなくて追い出されたんだけど。
苦し紛れについた適当な嘘だったが、かすみちゃんは疑う素振りをみせなかった。

58: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 01:02:39.55 ID:SFbHlim30
かすみ「そうですか…何か困ってたらうちに来てくださいね!しず子も家にいる時しかダメですけど、手料理くらいご馳走しますから」

果林「気を使ってもらわなくて大丈夫よ」

かすみ「だって家事スキル全く無さそ…苦手そうな果林先輩が一人暮らしなんて、大変じゃないですかぁ」

果林「ストレートに軽口が聞こえたから帰ろうかしら」

かすみ「あぅ…つい口が滑った」

果林「大体ね、今はせつ菜がやってくれるから困ってないのよ。そんなことより…」

かすみ「ふぇ?せつ…今なんて言いました?」

果林「ぁ、違っ」

かすみ「え!?せつ菜先輩と一緒に住んでるんですか!?」

果林「だから声が大きいのよ!」

かすみ「一緒にというかそれって同棲じゃ…」

果林「…ただのルームシェアよ。部屋を探してた時に、そういう流れになったの」

かすみ「なるほど〜…いや、なるほどで引き下がっていいのかわからないですけど」

果林「だからあなたが思ってるような関係じゃないってば」

かすみ「そっか、でもよりによってせつ菜先輩……」

果林「何よ?」

60: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 01:11:21.50 ID:SFbHlim30
かすみ「ふぇっ?えーと、その……あっ、ごめんなさい」

突然、ポップな曲調の音楽が鳴り響く。
どうやら発信源はかすみちゃんの携帯だったようで、彼女はペコりと頭を下げてから席を立った。

随分とタイミングの良い電話ね、と内心で毒づいておく。


果林「…はぁ」

先程のよりによってせつ菜だという言葉の先が気になって仕方ないが、今は大人しく彼女の帰りを待つ他なかった。
烏龍茶の底にある氷をストローでクルクル回しながら時間をつぶしていると、仕切りのカーテンが左右に開かれる。


かすみ「すみません遅くなって」

果林「仕事の電話?」

かすみ「だったらいいんですけど。しず子ですよ、今日の夕食の話とか…今何してる〜とか」

果林「えっと…あなたたち毎日会ってるのよね?」

かすみ「はい。仕事でどっちかが遠征してる時以外は」

果林「…そう、別に何も言わないけど」

かすみ「じゃあそろそろ買い物をして帰らないといけないので、またの機会に…」

果林「ちょっと」

61: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 01:19:24.13 ID:SFbHlim30
かすみ「ぐえっ」

首根っこを掴み、潰れたカエルみたいな鳴き声をあげたかすみちゃんを再びソファに座らせる。
何も言うことなく笑顔でアイコンタクトをすれば、バツの悪そうな顔をした彼女は渋々といった様子で口を開いた。


かすみ「さっきの話ですよね。せつ菜先輩の…」

果林「わかってるなら早く言いなさいよ」

かすみ「怒らないでくださいよ、絶対ですからね…!実は昔…その、りな子から聞いたんですよ」

かすみ「せつ菜先輩はエマ先輩の事が好きなんだって」

果林「…は?」

かすみ「りな子が!りな子が言うにはですけどね、せつ菜先輩はエマ先輩をよく目で追ってたらしいんです」

かすみ「もちろん、それだけじゃその感情がリスペクトなのかラブなのか判断つかないですよね?」

かすみ「ただ決定的だった出来事が、果林先輩たちが3年生だった時のバレンタイデーなんです。その日、りな子が目撃してるんですよ」

かすみ「せつ菜先輩が泣きながらチョコをゴミ箱に捨ててたのを…」

果林「それって……」

62: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 01:28:17.36 ID:SFbHlim30
あまりの衝撃に呼吸をすることさえ忘れそうだった。
昔の話とはいえ、出てきた名前が問題だった。

せつ菜はエマが好きだった?

嘘の可能性もあったけど、璃奈ちゃんの観察眼ならせつ菜がエマを目で追っていたのは確かだろう。

とするとせつ菜にとって私は恋敵で、邪魔な存在でしかなかったはず。
むしろ、恋を蔑ろにされた憎い相手である可能性も高い。

なら今の私へ向けられた感情は何?
あの日、私に声をかけたのも本当に偶然だった?

エマと私が良好な関係じゃない事を知っていて、何らかの形で復讐をするのが目的なのかもしれない。


かすみ「果林先輩…あの、また連絡しますねっ」

不穏な空気を感じたのか、かすみちゃんはテーブルにお札を置いて足早に去っていく。
私はすぐに立ち上がる気分にはなれなかった。


果林「…ダメね。なんでも悪い方に考えてしまう」


恋愛は、ましてやそれが初恋なら、叶わないことの方が多いとされている。
だからそういう事実があったとしても、それは過去の話で今の彼女には関係ない。
それか時の流れが彼女に全てを忘れさせたのかもしれない。

今は、そう思い込むしか他なかった。

63: 名無しで叶える物語(鮒寿司) (ワッチョイ b1cf-B5AW) 2021/07/18(日) 01:32:43.13 ID:SFbHlim30
キリがいいのでここまでにします

引用元: 果林(25)「せつ菜、お金貸してくれない?」