【艦これ】提督「…さて、と」 前編

460: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/21(土) 12:18:30.83 ID:dGSmV5lW0
翌日、執務室


提督「よし、不知火以外全員揃っているな。」

一同「はい!」

提督「さて。今回、私は本土に召喚される運びとなった。」

榛名「え…」

鳳翔「…本土?」

足柄「…はぁ?」

隼鷹「…マジ?」

雷「…なぜ?」

提督「それは機密事項だ。…さて、本土へと向かう私の随伴艦には、榛名と不知火を任命する。私の不在時には、代理監督官が派遣される予定だが…」チラッ

隼鷹・足柄「…」

461: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/21(土) 12:20:06.10 ID:dGSmV5lW0
提督「…頼むから問題を起こさないでくれよ…お前らの為なんだぞ…」

隼鷹・足柄「…」

隼鷹・足柄「…」ニヤリ

提督「…ハァ…雷、鳳翔。頼りにしている。」

雷「…むぅ…私、大丈夫かしら…」

鳳翔「…それよりも、提督は大丈夫、なのですか?」

隼鷹「…そうだよ!なんで急に本土へなんか…アタシら、問題起こしちゃったかな?」

提督「ああ、いや、心配するな。詳しくは言えないが、作戦会議の参考人として向こうに赴くだけだ。」

鳳翔「そう、ですか。」

提督「…よし、では連絡事項はここまで。正式な命令が下るのは数日後となる。その際にまた詳しい説明を行うが、出来るだけ早く伝えておきたかった。慣れない環境になるかもしれないが、よろしく頼む。以上、解散。」

榛名「榛名が…随伴…えへへ。」

462: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/21(土) 12:22:31.29 ID:dGSmV5lW0
………
……



執務室の外、廊下


一同「失礼します。」
ガチャ

雷「…提督と榛名は執務室に残ったわね。」

鳳翔「…」

足柄「…」

隼鷹「…なんか皆、不満そう?」

足柄「…本土行きたかったわ…」

隼鷹「え?そうなの?」

足柄「本土でなら、提督の監視下であれば外出が出来るのよ。ああああ…甘味に私服にエンターテイメント!榛名と不知火さんが羨ましい…」

463: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/21(土) 12:24:47.99 ID:dGSmV5lW0
鳳翔「あ、遊びに行ってる訳ではないのですから…」

雷「…そんな事より、私を差し置いて二人を選ぶとは…むぅぅ…」

鳳翔「…(…まぁ、私もお休みいただいてましたからね…)」

隼鷹「アハハ。誰も提督の心配してなくてちょっと笑える。」

足柄「少しはしてるわよ、そりゃね。でもあの人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫なんでしょ。信頼の裏返しよ。」

雷「しかし…左遷先から中央に参考人として召喚されるとは…提督って何者なのかしら…」

足柄「さぁ?…まぁ、あたし達とうまくやってるってだけでも、只者じゃない感じはするわね…今更過去なんてどうでもいいって思うけどね。」

鳳翔「…そうですね。」

隼鷹「…アタシはちょっと気になるなー。」

足柄「まぁまぁ。…あ、ちょっと。こっちも作戦会議しましょ。」

隼鷹「?」

足柄「お・み・や・げ。要求するわよ…!」

隼鷹「成る程な!」

鳳翔「もう…提督は遊びに行くんじゃないと何度…」

雷「私はプリンがいいわね!」

鳳翔「雷さん…ナマモノは…」

470: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/21(土) 21:21:05.31 ID:dGSmV5lW0
執務室、早朝


コンコン
不知火「不知火です。」

提督「入れ。」

ガチャ
不知火「失礼します。」

提督「本土へと向かう事になった。お前と榛名に随伴してもらう。」

不知火「榛名さん、ですか。」

提督「ああ。…心配は残るが、秘書艦を外すわけにはいかん。」

不知火「…いえ、逆に良い機会なのでは?」

提督「…ふむ。」

471: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/21(土) 21:21:53.76 ID:dGSmV5lW0
不知火「彼女は主張派の工廠で建造され、黒提督の所へと配属されたという事ですから、基礎訓練期間以外で本土には居なかったでしょう。向こうで新しい価値観に出会う可能性も有りますし…それに、彼女が居ます。」

提督「…金剛か。」

不知火「はい。金剛さんでしたら、榛名さんに良い影響を与えてくれるかも知れません。姉妹艦ですし。」

提督「…今、奴は本土に居るのか?」

不知火「確認しておきます。」

提督「頼む。」

472: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/21(土) 21:22:25.44 ID:dGSmV5lW0
不知火「…して、司令官の呼び出しの理由は一体?」

提督「北でな。大反攻戦で沈んだ艦娘の深海棲艦化が確認されたそうだ。」

不知火「…!誰ですか?」

提督「五十鈴だ。」

不知火「…知らない艦ですね。」

提督「…これまでに、同じ型番の艦娘が同時に二隻存在した事はないが…沈んでしまった艦娘については、再建造が可能である事が確認されているな。成功例はほんの数例しか無いが…」

不知火「はい。」

提督「それでも、莫大な資材をつぎ込んでやっと、記憶も全て失い、戦い方も知らぬ艦が出来ると。」

473: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/21(土) 21:23:00.72 ID:dGSmV5lW0
不知火「…しかし、これまでに確認されている、深海棲艦化した艦娘については、一隻も再建造が出来ていませんでしたよね。」

提督「…輪廻を信じる訳では無いが…恐らくは、魂、のようなものは一つしか存在できないのだろうな…。」

不知火「…魂。」

提督「死者の魂に鞭打ち、再び戦わせるなど、あまりに惨いが…この、再建造出来ると言う点こそ、人間が艦娘の命を軽視する大きな理由となっているんだろうな…」

不知火「…司令…」

提督「再建造した艦娘は、何もかもが違う、全く別の艦娘だと言うのに…!」

不知火「…」

474: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/21(土) 21:23:38.39 ID:dGSmV5lW0
提督「…話が逸れたな。五十鈴は主張派の艦娘では無かったが、艦娘の艦載機の攻撃に対し、私の考案した爆撃回避軌道をとったらしい。それで私を召喚、だと。」

不知火「理解しました。では、不肖、不知火。司令官にお供させて頂きます。」

提督「よろしく頼む。榛名の事もしっかり支えてやってくれ。戦闘は無い筈だから問題無いとは思うが…」

不知火「お任せ下さい。」

478: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:13:56.79 ID:zOerqgAl0
数日後、執務室


提督「不知火以外、全員揃ったか。」

一同「はい!」

提督「よし、では…こちらが代理提督だ。私が不在の間、お前たちの監督役となる。くれぐれも失礼の無いように。」

代理「よろしくお願いします。」

一同「はっ!」

479: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:16:22.17 ID:zOerqgAl0
………
……



食堂


足柄「…なーんか、代理、気の弱そうな男だったわね。」

隼鷹「なー。ま、見るからに面倒くさそうなのよりはイイけどさっ!」

雷「ちょっと!声が大きいわよ…」

鳳翔「見た目通り、艦娘と衝突なさらない方なら良いのですけれど…」

足柄「そこはなんとかなるでしょ。あたしが我慢したら。榛名も居ないし。」

隼鷹「…まぁ、以前の上司と問題起こしてたの足柄と榛名だったしな…榛名は悪気無かったけど…」

足柄「あん?」

隼鷹「なんでもございませーん。」

480: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:17:24.90 ID:zOerqgAl0
足柄「…はぁぁぁぁぁ。そう言われると、あたし代理とやってけるか不安になってきたわ。我慢できるかしら。」

雷「ちょ、しっかりしなさいよ…」

足柄「提督があたしを甘やかすからよ!提督が悪いわ!」

雷「ええ…」

足柄「代理にポロッとタメ口とか出て、喧嘩になったらどうしましょ。」

雷「本当に勘弁して…提督に迷惑がかかるわ…」

隼鷹「アッハッハ!全く、足柄は…あれ?これもしかしてアタシ酒飲めーー」

鳳翔「ませんよ?」

隼鷹「うっす!!」

481: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:17:58.20 ID:zOerqgAl0
雷「提督は明日発つのよね。うーん…他の二人も居なくなって…寂しくなるわねー。」

鳳翔「ほんの少しの間ですよ、雷さん。」

雷「そうね…よし、気合い入れていくわよ!」

鳳翔「その意気ですよ。」ニコニコ

足柄「(…提督達に弁当でも作ってやろうかしら。)」

482: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:18:30.89 ID:zOerqgAl0
翌日、夜明け、厨房


足柄「な、無い…全然量が無い…!」

足柄「何故沢山あったはずの、余剰食料がこんなに減ってるのかしら…」

足柄「…何とか余りで作るしかないわね…」

………
……


足柄「…何とか出来たけど…量が…全然無いわ…一人分くらいしか無いわね…見た目も悪いし…でも、仕方無いわよね…うーん。」

483: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:19:19.37 ID:zOerqgAl0
数時間後、港


提督「…総出で見送りなど、する必要は…」

雷「まぁまぁ!良いじゃないのよ!代理の許可も取ってあるわ!」

鳳翔「隼鷹さんは、哨戒シフト改変で、現在哨戒中ですけどね。」

足柄「そういう事よ。」

提督「…まぁ、ありがたいがな。」

484: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:20:10.39 ID:zOerqgAl0
鳳翔「…はい、これ。皆さんにお弁当、お作りしました。」スッ

雷「えっ」

足柄「(…あー…)」

提督「弁当か。それは嬉しいな。」

不知火「不知火達にも…ですか。」

榛名「ありがとうございます!」

雷「ちょ、鳳翔さん…私も作ったんだけど…」スッ

提督「お前達は打ち合わせをしないのか…まぁ、ありがとう。」

不知火・榛名「ありがとうございます!」

足柄「(そりゃー、鳳翔さんと雷ちゃんが合計6人分も弁当作ったら余剰食料も無くなるわよね…それくらい気づきなさいよ、あたし…はぁ)」

485: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:20:40.57 ID:zOerqgAl0
雷・鳳翔「…」

雷・鳳翔「…」チラッ

足柄「…何よ〜。あたしは何もないわよ?」

雷「あら、足柄さんの持ってる風呂敷、お弁当だと思ってたわ。」

足柄「残念ながら、中身はただのゴミよ…」

提督「何、見送りに来てくれただけで充分嬉しいさ。」

榛名「感激です!」

提督「さて、そろそろ高速艇を整備しないとな…榛名と不知火は工廠で艤装を装備してくれ。打ち合わせ通り、お前たちの護衛で中継地点まで行き、そこから先は軍の高速船で本土へ行く。いくら領海内とは言え、万が一もある。気を抜くなよ。」

486: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:22:49.35 ID:zOerqgAl0
不知火・榛名「はい!」

提督「よし、足柄と雷と鳳翔、榛名と不知火の艤装装着を手伝ってやってくれ。私は高速艇を確認した後、一度執務室に戻る。」

足柄「あ、あたしちょっとゴミ捨ててくるわね〜。四人は先に行ってて。」テクテク

提督「…(何故足柄は、ゴミを捨てると言いながら、ゴミ集積所ではなくて浜辺の方へ歩いて行くんだ…?)」

487: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:23:20.47 ID:zOerqgAl0
………
……



無人の浜辺


足柄「あーあ。あたし何やってんだか。そりゃー皆、同じ事考えるわよね…」テクテク

足柄「あの二人の料理には勝てないわ…あたしの弁当、残り物の寄せ集めだし…」

足柄「ほんと…ダサい。」

足柄「こうなったら、この弁当、思いっきり沖合いまで投げてやるわ!」スッ

足柄「…と・ん・で・kーー」

ガシッ。
足柄が自分の作った弁当を全力で投げようとしたその時。提督の手が足柄の腕を掴んで止めた。

488: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:34:11.72 ID:zOerqgAl0
足柄「…居たのね。」

提督「部下が自称ゴミを不法投棄しようとしてたんでな…」

足柄「…ゴミよ。」

提督「ゴミなら俺が回収しておこう。小さいしな。」ゴソゴソ

足柄「…もう、2つも貰ってんじゃないの。…それに、それ一応3人分なんだけど。」

提督「ふむ。なら榛名と不知火には秘密だな。」

足柄「…馬鹿じゃないのかしら。」

提督「悪いな。俺は大食らいなんだ。…ありがとう。」

そう上機嫌で言いながら、提督は足柄の頭にポン、と手を載せ、ワシャワシャと髪を揉んだ。

489: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 00:34:50.19 ID:zOerqgAl0
足柄「ーッ…」

提督「じゃあ、私は執務室に向かう。またな。」

足柄「…早い所帰って来なさいよ。」

提督「なんだ、寂しいのか?」

足柄「は、はぁ?!」

提督は振り向かず、笑いながら手をヒラヒラさせて去っていった。

足柄「…ああもう!ほんと、調子狂うわ、あの人…」

足柄は無意識に手で口元を覆っていた。それは、少し染まった頬を隠す為だろうか。

496: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 12:29:07.40 ID:zOerqgAl0
島の沖合、高速艇


提督「やっと出発出来たな…ああ、まずいことをしてしまった気がする…しかし、わかっていて捨てさせる訳にも…」

不知火『こちら不知火、高速艇の両舷に艦娘の配置が完了しました。』

提督「了解。引き続き警戒に当たってくれ。」

不知火『了解。』

提督「さて、このまま北西に進み、一先ずは南方物資集積島で降り、そこから軍の大型高速輸送船に乗って本土だ。」

提督「…気が重いな…」

497: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 12:29:49.60 ID:zOerqgAl0
物資集積島


提督「着いたか。」

榛名「お疲れ様です、提督。」

提督「ああ、護衛ご苦労。お前たちは艤装を装備したまま、3番ドックへ向かってくれ。そこで停留している高速輸送船内に、艤装収容設備がある。そこでまた会おう。」

不知火「了解です。行きましょう、榛名さん。」


………
……



高速輸送船内


提督「無事収容出来たようだな。」

榛名「はい!」

不知火「問題ありませんでした。」

提督「輸送船の出航出来る条件は、領海内では最低2名の艦娘の同行だからな。これで本土へ行ける。」

榛名「それにしても大きな船ですね…きちんとした艤装収容設備があってビックリしました。」

提督「今の時代は艦娘が居ないと安心して海に出れないからな。」

榛名「先程の高速艇では、本土までは難しいのですか?」

提督「高速艇は小型の水雷艇を武装解除して、エンジンを増設しただけだからな…一人で操縦出来る分、安定性、航続性に欠ける。」

榛名「成る程…」

提督「もうすぐ船が出るが…出航してからは、出撃要請には直ぐに答えねばならない。緩み切らないようにな。」

榛名「はい!」

498: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 12:30:32.85 ID:zOerqgAl0
………
……



出航から数時間後、真夜中


提督「…本土か…」

不知火「甲板にいらしたのですか。」

提督「…船内は…な。」

不知火「風邪をひきますよ。」

提督「…ああ。」

不知火「…金剛さん、今の時期はちょうど艤装の整備関係で、本土にいらっしゃるそうです。」

提督「…そうか。それは良かった。榛名を彼女に任せるか…」

不知火「あと、加賀さんと…川内さんも。」

提督「…そうか。加賀は北の所に居たからな…。川内は…弱ったな…夜戦隊が居るのか。」ハァ

不知火「…」

提督「…実は、金剛は…少し、苦手だ…」

不知火「!そうだったのですか。」

提督「嫌いではないんだが…少しな…困る。」

不知火「…とっても慕われてますよね…」

提督「…困る。」

499: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 12:31:23.44 ID:zOerqgAl0
不知火「…私や加賀さんは、苦手ですか?」

提督「…お前達は別だろう。」

不知火「…私は?」

提督「…何が言いたい。」

不知火「…私を側に置き、加賀さんを遠ざける、理由は…それは私がッ!」

提督「…」

不知火「…いえ…失言でした…忘れて下さい…失礼します…」フラフラ

提督「…」


船内、艦娘用部屋


ガチャ、バタン
不知火「…」ボロボロ

榛名「不知火さん、おかえりーー不知火さん?!どうして泣いてるんですか?!」

不知火「うう…ぐすっエグッ」

不知火「加賀さんが…羨ましい…!私の気持ちなんて何も知らずにッ…!うううう…」ボロボロ

榛名「し、不知火さん?大丈夫ですか?て、提督を呼んできますーー」

不知火「やめて!」ガシッ

榛名「っ」

不知火「良いの…」ぐすっ

榛名「…わかり、ました…」

不知火「…」しくしく

榛名「…(…提督、真夜中に何やったんですか…)」

508: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:07:12.90 ID:zOerqgAl0
提督「(…不知火…最近かなり情緒不安定だな…加賀の名前を出していたが…何か言われたのか?)」

提督「…本土に着く前からこれでは…不安材料が増えたな…あいつ、大丈夫か?…少し思い込みが激しいからな…」


翌日、船内


船内放送『間も無く、本土、中央鎮守府に到着。』

提督「いよいよか…不知火、榛名。」

不知火「はい。」

榛名「はい。」

提督「下船処理が終わり次第、お前達の艤装は鎮守府側が工廠まで移動させる。艤装を装備せず、私についてこい。入港手続きだ。」

榛名・不知火「了解。」

提督「…不知火、大丈夫か?昨日の事だが…」

不知火「大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。」

提督「…そうか。」

509: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:08:00.86 ID:zOerqgAl0
本土、到着ーー


船から舷梯を伝い、三つの影が本土の土を踏んだ。

提督「…よし、行くぞ。」

榛名「ここが、中央鎮守府…全てが大きい…」

不知火「榛名さんは初めてでしたか。」

榛名「はい、私は建造された、東の鎮守府から出た事がありませんでしたから…」

提督「…そろそろ港湾管理局だ。私語は慎め。」

510: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:09:02.03 ID:zOerqgAl0
港湾管理局


管理官「…はい、確かに。艦娘の本人確認、完了致しました。ようこそ、本土へ。」

提督「ありがとう。」


榛名「つ、疲れました…。」

不知火「乗船時も本人確認、ありましたよね…なんという二度手間…」

提督「艦娘については慎重なんだよ…この国はな。…さて、次は中央鎮守の長官にご挨拶だな…これより先は一切の私語を禁ずる。良いな。」

不知火・榛名「了解。」

提督「よし、付いて来い。」

511: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:09:31.31 ID:zOerqgAl0
中央鎮守府門


提督「私だ。中央長官に取り次いでくれ。」

受付「はっ!確認いたしますので少々お待ちください!」

受付「提督様ですね!お待ちしておりました!こちらの艦娘がご案内させていただきます!」

睦月「…」ぺこり

不知火「…」ぺこり

榛名「…」ぺこり

睦月「…?!」

512: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:10:31.84 ID:zOerqgAl0
提督「…どうかしたか?」

睦月「い、いえ!失礼しました…!」

提督「よろしく頼む。」

睦月「(…な、何でここに『魚雷』が居るの?!…怖い)」


執務室


コンコン
睦月「…提督様をお連れ致しました。」

中央長官「入れ。」

提督「失礼致します。私以下、2名の艦娘が本日付で中央鎮守府入り致しましたので、ご報告に上がりました。」

中央長官「うむ。ご苦労。…今回の招集理由はわかっているな?」

提督「はい。」

中央長官「しっかり頼むぞ、英雄。でなければ君を…軍部に残した意味が無い。」

提督「…はっ。精一杯努力させて頂く所存であります。」

榛名「(英雄…?)」

中央長官「励め。細かい予定等は追って通達する。もう行って構わん。」

提督「はい。失礼致します。」
バタン

中央長官「…しかし、連れていた艦娘…あの『魚雷』を手懐けたのか…流石と言わざるを得んな…」

513: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:11:39.76 ID:zOerqgAl0
………
……



鎮守府の外


提督「ふぅ〜…一度宿舎に帰るぞ。」

榛名「き、緊張しました…」

不知火「ですね…」

提督「各方面軍長官はまだ到着してないな…いや、確か南方長官は居らっしゃるな。…金剛もそこか。」

榛名「金剛さん、ですか?私の同型艦の?」

提督「そうだ。お前に是非会わせようと思ってな。」

榛名「同型、艦…姉妹、ですよね。」

提督「そうなるな。」

榛名「どんな方なんでしょう…楽しみです…」

提督「…電話もいただいたし、早速ご挨拶に伺うか…二人共、一時間後に宿舎門に来い。」

不知火・榛名「了解です!」

514: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:12:13.82 ID:zOerqgAl0
長官宿舎、夕方


榛名「長官宿舎…通常の物よりかなり大きいですね…」

提督「各方面軍長官はよく中央に招集されるからと、長官専用に建てたものらしいからな。」


「まさか…提督と不知火さん?」

提督「?…翔鶴か。久しいな。庭を掃除か?」

翔鶴「本当に、お久しぶりです。…手持ち無沙汰で、ついつい…」

不知火「翔鶴さん、お久しぶりです。」

翔鶴「ええ、とっても。」

提督「掃除中に悪いが、南方長官は今いらっしゃるか?」

翔鶴「はい。こちらにどうぞ。お連れしましょう。」

提督「ありがたい…」

翔鶴「…そういえば、あなたは榛名さん?」

榛名「は、はい!初めまして!」ぺこり

翔鶴「初めまして。」にこ

翔鶴「…」

翔鶴「…提督、少しお話が。ちょっとこちらへ。」

提督「ああ…不知火、榛名、少し待て。」

515: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:13:14.52 ID:zOerqgAl0
……


翔鶴「…あの娘、『魚雷』の榛名ですよね?」

提督「…そうだな。」

翔鶴「…大丈夫なのですか?」

提督「…ああ。」

翔鶴「…何故、彼女をここに?」

提督「金剛に、会わせてやってほしい。根は悪い艦娘では無い。」

翔鶴「…あなたが本土まで連れてきているくらいですから、大丈夫なのでしょうけど…うーん…」

提督「…南方長官とは私だけが面会する。榛名は長官と会わせる必要は無い…」

翔鶴「…わかりました。それでいきましょう。」


……

516: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:14:16.21 ID:zOerqgAl0
翔鶴「ここが、応接室になります。不知火さんと榛名さんはここでお待ち下さい。」

不知火・榛名「はい。」


南方長官の自室


コンコン
翔鶴「長官、提督をお連れ致しました。」

南「ぉんっ…?!ちょ、ちょっと待て…」

翔鶴「…」

ガチャ
翔鶴「南方長官〜?またお酒ですか〜?」

南「ち、違うんだ…今日は休みだし…ほら、提督くんが来ると言っていたからね、酒の確認だよ確認…な、提督くん?」タラー…

提督「…と言うことだ、翔鶴。」

翔鶴「ダメなものはダメです、南方長官!約束なさったではありませんか…」

南「ぬぅ…」

翔鶴「しっかりなさって下さい…我々は長官のお身体を心配しているのですから…」

南「すまん…」

翔鶴「…では、私は応接室へ戻りますね。くれぐれも、お酒はお止め下さい。」
バタン

517: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:15:21.35 ID:zOerqgAl0
南「…すまんな、どうも。」

提督「いえ、仲がよろしいようで、何よりです。」

南「…まぁ、君の影響だな。お陰で艦隊の士気も高い。…だが、やはり艦娘とはある程度の距離は置かねばならんだろうな…これがまた測りづらい。」

提督「心の距離は物差しで測れるものでは有りませんから。難しい所です。」

南「…息子がな。翔鶴に、少し、心を許し過ぎている。まるで嫁だ。そのせいで、翔鶴が私の世話も焼こうとする。」

提督「…」

南「…翔鶴が今ここに居るのはな、前線で大破したからだ。どうにも息子に良い所を見せようと無茶をしたらしいが。」

提督「それはまた…」

南「その結果、艤装が本土の工廠でないと修復不可能な段階まで破壊されてな…あわや轟沈する所だったと聞いて、肝を冷やした。」

提督「…翔鶴が無事で何よりです。」

南「全くだ。あれ程慌てたのは、大反攻戦以来だったよ。…あの時も、息子が世話になっていたな。親子共々、情けない話だが。」

提督「いえ、私の方こそ…」

南「まぁ、昔の話は良い。それよりも…今の話だ。」

提督「はい。」

518: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:15:50.03 ID:zOerqgAl0
南「明後日より始まる長官級会議、実際の戦闘記録と戦闘を行った艦娘の話を聴取し、それを軸に対応を検討する事となる。 まぁ、要するに、だ。」

提督「はい。」

南「今宵は飲もう。」

提督「…是非。」

南「よし、息子も呼んでこよう。アレも翔鶴と一緒に帰って来ている。一般宿舎だがな。」

提督「南方長官。その前に少し、金剛をお借りしても宜しいでしょうか。」

南「構わん。」

提督「ありがとうございます。」

519: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:16:34.28 ID:zOerqgAl0
長官宿舎、廊下


提督「ここが金剛の部屋か…」

コンコン
提督「金剛は居るか?」

ガチャ
金剛「…その声は…テートク?」

提督「久しいな、金剛。」

金剛「Oh my god...本物のテートクデース!」だきっ

提督「わかったから抱きつくな…」

金剛「でも、どうしてここに?」

提督「ちょっとした会議だ。」

金剛「I see. 丁度改装の時期に会えるとはgood luckデース!」

提督「金剛、早速で悪いんだが…頼みがある。」

金剛「Tell me!」

提督「榛名、わかるか。」

金剛「Hmm... the torpedo.」

提督「そうだ。…榛名は魚雷と呼ばれているかもしれないが、悪い子ではないんだ…少し、会ってやってくれないか。」

金剛「No problem!今どこにいるノー?」

提督「ここの応接室に居るはずだ。」

金剛「Ok, let's go!」

520: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:17:04.95 ID:zOerqgAl0
応接室


榛名「(な、なんだか翔鶴さんが私を睨んでる気がします…初対面ですよね…な、何故でしょう…不知火さんは無言ですし…空気が重い…)」

ガチャ!
金剛「Hey 榛名!Nice to meet you!」

榛名「な、ないすとぅ…?!こ、金剛さんですか?!」

金剛「あなたのお姉さん、金剛デース!」だきっ

榛名「は、榛名、感激です!」

金剛「Me, too!」ギュムー

榛名「わ、わ、わ。」

金剛「さ、さ!Sofaでお話しましょう!」

榛名「は、はい!」

提督「( 早速、金剛ワールドが炸裂しているな…あれで、もう少し落ち着けば可愛いんだがな…やれやれ。)」

521: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/22(日) 22:17:53.32 ID:zOerqgAl0
中央鎮守府、工廠裏


用務員「毎日毎日雑用ばかりだ…今日も整備か…くそ、こんなもの普通の人間にも出来るだろう…何故私が…」ガチャガチャ


睦月「ね、ね、聞いて?!」

如月「どうしたのよ〜?」


用務員「(…艦娘同士の会話か…)」カチャカチャ


睦月「魚雷が来たのよ!ここに!しかもあの提督と一緒に!」

如月「…魚雷?あの榛名?と、あの提督?…」

睦月「そうそう!」

如月「怖いわね…」

睦月「でしょ?!ほんともう、案内してる時後ろから殴られないか、気が気でなかったわ…」


用務員「…榛名と、あの、提督…だと?…」ガタッ

用務員「これは…確認する必要がある…」

532: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 11:52:55.30 ID:kR8k0Mwc0
応接室


金剛「私は中央で生まれた後、色んな所を渡り歩いて、最終的に南方鎮守府勤務になったヨ!」

榛名「そうだったのですね!羨ましいです……」

金剛「特に北方拡張作戦の時はヤバかったネー!あれは確か……」

提督「(結局金剛が延々と喋ってるな……まぁ、榛名も楽しそうだから良いか……)」

不知火「……そういえば、そろそろ太郎さんがいらすとかで、翔鶴さんが外へ出てましたよ。」

提督「そうか。(……太郎君。南方長官の息子さんだな。)」

ガチャ
太郎「……提督さん!お久しぶりです!」

提督「太郎君。久しぶりだな」

太郎「いえ、本当に!」

533: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 11:54:07.35 ID:kR8k0Mwc0
南方長官の自室


南「それでは、久方振りの再会に乾杯といこうか。まずはビールで良いだろう……乾杯!」

太郎・提督「乾杯!」

チン

南「あぁ……このために生きているな……」グビー

太郎「そういえば、南方長官」

南「プライベートだ。南方長官は止めてくれ」

太郎「……父さん、翔鶴が、あまり飲まないでくれと……」

南「……全く。それよりも自分の身を案じたらどうなんだ、あの世話焼きは……」

太郎「そう言わないでやってくれよ……」

提督「そういえば、太郎君の艦隊は最近、活躍していたそうだな。機関紙で君の姿をよく見かけたよ」

太郎「本当ですか!いやぁ……提督さんにそう言われると、こう……嬉しいですね」

提督「ははは。なんだそれは」

ワイワイ

534: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 11:54:52.55 ID:kR8k0Mwc0
コンコン
翔鶴「失礼します」

南「……酒を隠せっ」さっ

提督「……」さっ

太郎「……」さっ

南「……おほん。入ってくれ。」

ガチャ
翔鶴「失礼します。……隠さなくても、大丈夫ですよ。簡単な料理をお作りしました」コト

太郎「あ、ありがとう……」

翔鶴「……胃に何も入れずに飲むと、いけませんから……控えめにお願いしますね」

太郎「あ、ああ……」

翔鶴「では、私はこれで……」
バタン

南「……お見通し、か」

太郎「……美味い」パク

提督「……まるで良く出来た嫁だな」

太郎「自慢の艦娘です」

535: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 11:55:25.68 ID:kR8k0Mwc0
提督「そうか。……なぁ、太郎君」

太郎「はい?」

提督「翔鶴と恋仲にあるのなら、絶対に沈めるな」

太郎「……は、い」

提督「俺と同じ轍は踏むなよ」

太郎「……提督さんは、ミスをした訳では……!」

提督「何事も結果が全てだ。……慎重に慎重を重ねても、間違いは起こる。そこで、どう対処するかだ」

太郎「……っ」

南「……まぁ、折角の料理だ。今のうちに食おう!」

提督「はい」

536: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 11:56:27.16 ID:kR8k0Mwc0
応接室


ワイワイ

榛名「そういえば、提督は何故皆様とお知り合いに?」

金剛「もう!金剛で良いネ!姉妹なんだから!」

榛名「い、いえ、そんな……」

金剛「榛名は真面目ネー……テートクが南方長官の所に居候し始めたのは、大反攻戦の後からデース。家もなくなってしまったテートクを南方長官は拾ったのデース」

榛名「え……家が無くなってしまったのですか……?」

金剛「……テートクから何も聞いてないノー?」

榛名「……はい」

537: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 11:57:25.13 ID:kR8k0Mwc0
金剛「Oh……(これは……私が話しても良いものなのかしら)」

榛名「……やっぱり、私は信頼されていないのでしょうか……」

金剛「No, 榛名。私の考えが正しければ、テートクはあなたの事をとても考えてマース」

榛名「え……」

金剛「提督が過去をお話しにならないのには、それなりに理由がありますヨ。時期が来たらきっと、教えてくれるはずネ!」

榛名「そう、ですか」

金剛「(テートクは多分、今の不安定な榛名に自分の過去を語りたくないだけ。自己を確立してからなら、きっと教えてくれるはずよ。)……大丈夫、榛名!私にはわかりますヨ!あなたはテートクの大切デース!」

榛名「た、大切……」

538: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 11:58:08.11 ID:kR8k0Mwc0
不知火「そうですよ、榛名さん。あなたは大事にされ過ぎです!羨ましい!」グビー!

金剛「Oh……不知火がいつの間にか酒を飲んでマース……」

榛名「不知火さんまで……」

不知火「自信を持ちなさい、自信を!」

榛名「は、はい……えへへ」

不知火「……」グビー!

金剛「Um…… Are you ok……?」

不知火「不知火は大丈夫です!」グビー!

金剛「Oh……」

ガチャ
翔鶴「あら、こちらでも酒盛りをしていたのですね……私もよろしいですか?」

不知火「……どぞ」スッ

翔鶴「ありがとうございます」ニコリ

539: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 11:59:43.54 ID:kR8k0Mwc0
しばらく後、応接室


ガチャ
提督「おい、不知火、榛名。帰る……ぞ……」

不知火「良いですか!提督はとにかくかっこいいんです!」

榛名「そうです!」

金剛「Yes!」

翔鶴「た、太郎さんだってかっこいいんですっ!」

不知火「あんな若造……」フッ

翔鶴「て、提督だってお年はそんなに変わらないじゃないですかっ!」

榛名「提督はかっこいいんですー!」グビー!

金剛「Yes!」グビー!

翔鶴「金剛!何故あなたまで提督側に……!」

金剛「テートクは優しいしネー!太郎より大人ネ!忘れもしないあの夜……」

榛名「よ、夜?!何したんですか?!」

金剛「Oops 口が滑ったネ……」

540: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 12:00:35.42 ID:kR8k0Mwc0
翔鶴「金剛!じ、上官を呼び捨てとは!許せませんっ」

金剛「翔鶴が怒ったヨ!ひえー!」

翔鶴「待ちなさいっ!」

不知火「いけー!やれー!」

提督「……」ハァ……

太郎「あれ、ドアの前で何してるんですか、提督さん?……うわぁ……」

提督「早い所連れて帰る……おい、不知火、榛名、行くぞ!」

榛名「あ!提督です!えへへ〜」すりすり

不知火「ちょ、榛名さん!狡いですよ!」

金剛「私もテートクと帰るネ!」

翔鶴「金剛!いい加減になさい!」

太郎「まぁまぁ、翔鶴……落ち着いて」

翔鶴「た、太郎さん……!お恥ずかしいところを……」

金剛「ヒューヒュー」

翔鶴「〜〜……!!金剛ー!!」

金剛「おわぁ?!」

541: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 12:01:14.09 ID:kR8k0Mwc0
提督「バカばっかりだな……翔鶴、南方長官はお休みになった。後の事は頼む」

翔鶴「は、はい!お任せ下さい」

提督「……お前と太郎、悪くない組み合わせだと思うぞ」

翔鶴「ふぇ?!」

提督「……翔鶴。戦場からどんな手を使ってでも生きて帰ってこい。どんな手でもだ。太郎。それを受け入れてやれ。良いな」

翔鶴・太郎「……はい」

提督「よし、では俺はそろそろ帰る。おい、榛名と不知火と金剛!腕から離れろ!自分で歩け!」

榛名「やです!」

不知火「やです!」

金剛「やです!」

提督「……」ベリベリッ

榛名「ああっ!」

不知火「剥がされてしまいました……」

金剛「Noooo!」

提督「お前ら……飲み過ぎだ……ほら、行くぞ。金剛は着いてくるな!」

542: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/24(火) 12:04:44.28 ID:kR8k0Mwc0
宿舎の外


提督「一人で歩けんのか……」

榛名「えへへー」

不知火「不知火に何か落ち度でも?」

提督「全く……それはそうと榛名、随分と金剛と仲が良くなったようだな」

榛名「えへへ……本当に優しい方でした……お話も面白いし……」

提督「飲んでるとはいえ、ここまで上機嫌なお前も珍しいな。(……本土に連れてきた甲斐があったか?)」

榛名「また、お話したいです」

提督「そうだな。また、行こうか」

榛名「はい!」

………
……



茂みの中


用務員「やはり、あの榛名と提督……!」

用務員「……まずいのではないか……?早急に接触せねば……」

560: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/25(水) 15:20:57.01 ID:LSPF21ls0
翌日


北提「本土に到着して、やっと落ち着いた、ね」

日向「うむ……中々疲れたな……」

北提「中央への挨拶は済ませたし……皆には明日からの会議に備えて休んで貰いたいな」

龍驤「やたっ!」

響「……そいえば、中央って間宮羊羹とか食べれるんだっけ」

龍驤「ほんまかいな」

瑞鶴「……」グー

加賀「……ちょっと瑞鶴あなた、涎が……」

響「どこかにお店、あるかな……」

龍驤「行くか?」

北提「行っておいで。僕は方面軍長官に挨拶しないと」

日向「む、お供しよう」

加賀「では、私も。瑞鶴も来なさい」

瑞鶴「はいはい……お腹すいた……」

562: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/25(水) 15:24:26.63 ID:LSPF21ls0
中央鎮守府敷地内


響「ここどこだ……」

龍驤「飛び出してきたのは良いものの……あかん……迷った……」

響「さっき艦娘区画って書いてあったし、ここら辺にあると思うんだけど……」

天龍「おう、駆逐艦が二人、こんなとこで何やってんだ?」

響「……おお?」

龍驤「……駆逐艦が二人……?もしかしてウチらの事か?」

天龍「お前ら以外に誰も居ねえだろ」

龍驤「……ウチは軽空ーー響「そだね。ところで、あなたはこの鎮守府の艦娘?」

天龍「んー……まあ、そうなるな……なんだ、迷子か?別の所から来たのか?」

響「そんな感じなんだ。間宮さんのお店、探してて……」

天龍「甘味処か。確かレクリエーション地区にあった筈だ……俺が連れてってやろうか?」

響「良いのかい?」

天龍「おう、訓練上がりだからな。風呂に行くついでだ」

響「ありがとう」

天龍「良いってことよ」

龍驤「……」

563: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/25(水) 15:25:11.81 ID:LSPF21ls0
………
……



天龍「へぇ、じゃあお前らが北の!」

響「うん」

天龍「北提って優秀で優しくてイケメンなんだろ?中央でも噂になってたぜ」

響「へぇ、そうなんだ」

龍驤「(加賀さんの力も大きいねんけどな……)」

天龍「うちの提督はガサツだからなぁ……羨ましい」

響「天龍さんはどこの艦隊なの?」

天龍「今は……夜戦隊だな」

龍驤「いっ……?!夜戦隊て、あの、泣く子も黙るってやつ?」

天龍「巷じゃそう呼ばれることもあるみたいだな……残念だけどよ」

龍驤「や、なんかゴメンなさい……」

天龍「アハハ。いい、いい。夜戦隊は全員頭おかしいからな。仕方ねえよ」

龍驤「あ、あはは……(夜戦隊……川内を筆頭とする夜戦専門部隊……えげつないやり方で有名やけど……この人は良い人なんかな?)」

天龍「……ほら、ここがその店だ」

響「わ、ほんとだ。スパシーバ!」

天龍「あいよ。ここらへんのレクリエーション地区は他にも色々あるし、見て回ると楽しいかもな。じゃ、俺はこれで」バイバイ

龍驤「ありがとさーん!」

響「さ、入ろ入ろ!」

564: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/25(水) 15:26:06.70 ID:LSPF21ls0
長官宿舎


北提「さて、着いたね。北方長官もここに居るはずなんだけど……アポは取ってあるし、中に入ろうか」

日向「警備が緩いんだな」

北提「そうでもないよ。さっき入ってきた門以外に長官宿舎に入る道は無いし、そこは常に人が居るからね」

日向「そんなものか」

北提「うん……あと、ここには南方長官と東方長官もいらっしゃるから、失礼の無いようにね。ご挨拶するのは北方長官だけだけど」

瑞鶴「わかってるわよ」

北提「あと、これ以降は絶対に口を開かないでね。何があっても」

加賀「わかっているわ」

北提「よし、じゃあ行こうか」

565: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/25(水) 15:27:03.15 ID:LSPF21ls0
長官宿舎、廊下


翔鶴「〜♪」サッサッ

翔鶴「掃除は自分の心も洗われますね……」フキフキ

どたどた

翔鶴「あら?お客さんかしら……」

北提「……」ペコ

翔鶴「……(この人は確か北提……忌々しい北方長官の部下ね……ああ、道を譲らないと……)」ペコ

ゾロゾロ

瑞鶴「……!」

翔鶴「……(瑞鶴。姉妹艦ではあるけれど……艦娘としては、建造地もバラバラだったわね……特に接点も無かったし……)」ニコ

瑞鶴「……」ペコ

566: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/25(水) 15:27:57.36 ID:LSPF21ls0
北方長官の自室


コンコン
北提「失礼します。北提です」

北方長官「入りたまえ」

ガチャ
北提「ご無沙汰しております、長官」

日向・瑞鶴・加賀「……」ペコ

北方長官「よく来てくれた、北のエースとその艦娘達よ。君の活躍ぶりは私の耳にもよく入る」

北提「光栄です」

北方長官「今回はわざわざ本土まで戻してすまないね。ただ、深海棲艦化した艦娘はかなり大きな問題だ。会議ではしっかり頼むよ」

北提「心得ております」

北方長官「……今回は、主張派の生き残りが召喚されている。」

加賀「(ーー!)」

北方長官「そして、昔あのボンクラを庇った南の連中は主張派に傾きつつある。全く忌々しいな。何故過ちを繰り返そうとするのか」

北提「ごもっともです」

北方長官「……艦娘は武器だ。道具だ。決して人間では無い。何故それがわからんのか。主張派のお陰でどれ程の不利益を被る事になったか……君も、知っているだろう?」

北提「……はい」

北方長官「……南の連中には気をつけたまえ。明日の会議には遅れる事の無いようにな。……大丈夫だ、会議が君の不利益になるような事は無い。今日は休んで英気を養ってくれ」

北提「ありがとうございます。では、失礼致します」

日向・瑞鶴・加賀「……」ペコ
ガチャ、バタン

567: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/25(水) 15:29:04.15 ID:LSPF21ls0
………
……



長官宿舎、庭


北提「疲れた……」

日向「しかし、いつも思うが……あの方はよく、艦娘を前にして武器だの道具だの言えるもんだな」

加賀「艦娘の感情を抑圧しようという意図よ。保守派では良くあることよ。気にする事は無いわ」

瑞鶴「艦娘に抑圧的で、艦娘側は鬱憤たまらないのかしら……」

加賀「北方長官は少し……厳しい方ですから。前線に居る提督はもう少し艦娘との距離が近い筈よ。北提程ではないけれど。」

北提「……」

加賀「それに、艦娘のストレスの捌け口として、響や龍驤が行った甘味処を始めとした施設が幾つかあるわ。確かレクリエーション地区だったかしらね……」

瑞鶴「そうやってストレス解消するのかぁ」

瑞鶴「……と言うわけで、食堂に行きましょう!お腹空いたわ!」

北提「やれやれ、そうしようか」

加賀「(……しかし、さっきの北方長官の話……提督が、ここに居るのかしら?)」

北提「(加賀さん……)」

ゾロゾロ

568: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/25(水) 15:30:27.26 ID:LSPF21ls0
長官宿舎、門


北提「さて、長官宿舎の敷地から出たね……食堂はどっちだっけ……?」

川内「そっちだよ」

北提「……あ、ありがとう。君は……?」

川内「アンタが北提?」

北提「あ、ああ……」

日向「……貴様、口の利き方にーー」ムッ

加賀「待ちなさい、日向」

川内「アタシは夜戦隊の川内だ。ちょーっと加賀に用事があるんでね、門の前で待たせて貰ったよ」

加賀「川内……久しぶりね」

川内「うん。久しぶり、じゃじゃ馬」

加賀「……私をその名で呼ばないで欲しいのだけれど」

川内「あれ、怒んないんだ。随分と丸くなったもんだね。アハハ」

加賀「……何の用?」

川内「長官宿舎の中にさぁ、提督居なかった?」

加賀「……やはり、本土に提督が居るのね……」

川内「あれ?知らなかったんだ?あんなに提督提督言ってたのに。アハハ」

加賀「……自分で見に行けば良いんでないかしら?」

川内「あー。アタシさぁ、金剛と翔鶴に死ぬ程嫌われてて、長官宿舎に入れないんだよねー」

加賀「……自業自得ね」

川内「そうかな?アハッ♪……んで、どうなの?居たの?」

加賀「居たと言ったら?」

川内「ここで待つよ」

加賀「……そう。……恐らく居なかったわ」

川内「そっかぁ〜残念!また明日別のとこ当たろうかな!」

加賀「その方が建設的ね」

川内「ありがとーじゃじゃ馬!アタシはもう行くよ!ごめんね、北提。時間取らせて!じゃあね!」てこてこ

加賀「……」

瑞鶴「何あいつ!ムカつくー!」

日向「……随分と失礼な奴だったな。同僚か?加賀」

加賀「本当に昔の、ね」

日向「全く……忠告ぐらいさせてくれ、加賀」

加賀「目を付けられるような事はしない方が良いわ。アレは少し……頭がおかしいから」

日向「……」むすっ

北提「ま、まぁ、とりあえず、食堂に行こうか」

577: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/26(木) 01:40:14.42 ID:iJR7NUrMO
中央鎮守府敷地内


北提「参ったな……まさか食堂が艦娘と人間で全く違う場所にあるとは……」

加賀「ここには、艦娘は入る事が出来ないわね。入り口で、中の人間の秘書艦と思しき艦娘が数人待っている様だし」

北提「うーん……艦娘用の食堂に僕は入れないだろうし……ここで一旦解散しようか。皆は艦娘の食堂に行ってくれて構わないよ」

加賀「……あなたの体裁の為に、秘書艦は残った方が良いと思うのだけれど」

北提「僕は誰か一人を秘書艦に決めてないからなぁ……書類の類は時間があったから一人で処理してたし」

日向「ふむ、では私が残ろう。あまり腹も減っていないんだ」

瑞鶴「あ、あたしもーー」

ぐぅぅぅぅ

瑞鶴「あ、あうう……」

日向「はっはっは。加賀と飯にしてこい」

北提「気持ちだけ、受け取っておくよ。いっておいで、瑞鶴」

瑞鶴「はいぃ……」

578: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/26(木) 01:40:43.26 ID:iJR7NUrMO
………
……



甘味処『間宮』


瑞鶴「……で、何故甘味処なのかしら?」

加賀「ここは食事も出してくれるわ。値は張るけれど、味は確かよ。休暇も兼ねているのだから、たまには贅沢も良いと思うのだけれど。それに、響たちも居るはずよ」

瑞鶴「そ、そうね!なんでも良いわよもう!お腹が空いたの!」

加賀「入りましょう」

カランカラン

間宮「いらっしゃいませ〜」

響「あ、加賀さん。こっちおいでよ」

龍驤「ほんまや。おいーっす」もしゃもしゃ

瑞鶴「パフェ!パフェ!」

加賀「煩いわね……ご免下さい、間宮さん。注文を……」

579: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/26(木) 01:41:16.50 ID:iJR7NUrMO
………
……



瑞鶴「おいしい!おいしい!」パクパク

加賀「……」もぐもぐ

響「……二人とも凄い食べるなぁ……」

龍驤「……ビックリやで、ほんまに……値段もビックリやで……」チラッ

カランカラン
不知火「……」

間宮「いらっしゃいませ〜」

加賀「!……不知火」

不知火「あ……どうも」ペコ

加賀「あなたがここに居ると言う事は、やはり提督もいらっしゃるのね」

不知火「……そう、ですね。加賀さんは北の方と一緒ですか」

加賀「そうね」

不知火「……では」

響「加賀さんのお知り合いなら、ここで一緒にどうだい?」

不知火「え……いえ、不知火は……」

加賀「折角だし、どうかしら?」

不知火「……わかり、ました」

580: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/26(木) 01:41:51.04 ID:iJR7NUrMO
………
……



瑞鶴「……しあわせ……」

加賀「もう少し落ち着いたらどうなのかしら……」

瑞鶴「何よ、加賀さんだって浮ついてるじゃない」

加賀「なんのことかしら……」

響「何かあったのかい?」

瑞鶴「加賀さんの旦那さんが本土にいるんだって!」

加賀「……ちょっと……」てれ

龍驤「へぇ……ほな、会いに行くんか?」

加賀「旦那様では無いのだけれど……そのつもりよ」コホン

不知火「……」もぐもぐ

響「そいえば、不知火さんは今は?」

不知火「……その提督の元に居ます」

龍驤「おお?……加賀と不知火はもともと一緒やったんやんな?」

加賀「そうよ……」ハァ

不知火「……」

581: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/26(木) 01:42:27.39 ID:iJR7NUrMO
瑞鶴「……もーしかーしてー?加賀さんポイッてされちゃったのー?」

龍驤「うわこいつ言いよったわ……」

響「うわー……」

加賀「……」イラッ

瑞鶴「……ごめん……」

不知火「……そんな事は、ありませんよ」

加賀「どうかしらね……」

不知火「そんな事は無いですって」

加賀「……」

不知火「……」

龍驤「(瑞鶴のせいで険悪になったやんけ……なんやねんこの空気……)」

瑞鶴「(うう……)」

響「ほ、ほら!不知火さんが大丈夫と言ってるのだから、大丈夫だよ!ね、加賀さん!」

加賀「……」

不知火「私は加賀さんの方が、羨ましいくらいですよ」

加賀「……あら?ならば、変わってほしいのだけれど」

不知火「……」

加賀「……チッ」イライラ

582: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/26(木) 01:43:07.53 ID:iJR7NUrMO
瑞鶴「……ほんとごめん!私が不用意な発言をしました!だから、喧嘩、しないで……」

不知火「……いえ、私こそ軽率でした。……ここらで、失礼しますね。お代は置いておきます」ガタッ

加賀「……」

響「あ……ごめんね!」

不知火「いえ……では」
カランカラン

不知火「(おとなしくなったかと思ってましたが……相変わらず、気性の荒い人。いつもは隠しているけれど……あぁ、苛々する……)」

………
……



瑞鶴「ごめん!」

響「瑞鶴……」

瑞鶴「ほんと、ごめん……調子に乗ってた……」

加賀「……」

龍驤「まぁ、向こうさんもなんや雰囲気悪かったしな……」

瑞鶴「うん……加賀さん、ごめんなさい……」

加賀「……発言には気を付けなさい」

瑞鶴「はい……」

加賀「(……ああ、苛々する。川内と言い、不知火と言い……私が提督を慕っているのを知っている癖に……)」

カランカラン
日向「おーい、お前たち。迎えに来たぞ。北提が待ってる」

響「……ん、いこっか」

591: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 02:12:29.18 ID:IQlXdrvHO
同じ頃……中央鎮守府、機密資料室


管理官「……はい、乙種資料閲覧許可証の確認が完了致しました。一名の秘書艦のみ随伴が許可されています」

提督「承知している。行くぞ、榛名」

榛名「はい」

提督「(北提の戦闘記録を確認しておくか……)」

榛名「(機密資料室……!こ、これは……司令官が最も信頼する秘書艦のみを随伴させると言う場所……榛名なんかが付いて行って大丈夫でしょうか……)」

提督「榛名、5号ラックから北の作戦計画書を引っ張り出してきてくれ。北提の着任当初からで頼む。私は向こうで結果報告書を読む」

榛名「は、はい!」

592: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 02:13:05.49 ID:IQlXdrvHO
………
……



榛名「どうぞ。これで全てです」ドサ

提督「(五十鈴が出た戦闘の記録は無いな……もう一つ上、甲種機密に指定されているか……)」

提督「ありがとう、見ていくとする……榛名、次は作戦行動中の録画映像を取って来てくれるか」

榛名「お任せ下さい」

593: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 02:13:54.76 ID:IQlXdrvHO
………
……



提督「(指揮は教科書通りだな……想定外の事態も起こらず、安定しているように見えるが……)」パラパラ

提督「(所々計画書と報告書で食い違いがあるのは、艦娘の現場指揮か?)」

榛名「……提督!……も、持ってきました……」ドチャ!

提督「凄まじい重さだな……ご苦労。少し休んでくれ」

榛名「いえ、榛名は大丈夫です!」

提督「そうか……(相変わらず五十鈴の物はナシ、か。……とりあえず気になった部分から、確認していくか)」

594: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 02:14:31.95 ID:IQlXdrvHO
………
……



数時間後


提督「(特筆すべき点は無し、か。計画書や報告書、映像からは北提が艦娘といわゆる『不適切』な関係にあると露見はしないだろう……)」

提督「(それよりも……思ったより、加賀が過保護だ。艦隊の被害は出ていないが、北提の成長を阻害している様にも見える……)」うーむ

提督「(作戦は問題無いが、想定外の事態に、加賀が現場指揮で全て対応してしまっているな……友軍の轟沈を恐れての事だろうが)」

提督「(北提……提督としてのポテンシャル、艦隊への思いやりがあると思っての事だったが……余計な世話になったか)」

提督「……よし、北提のデータの把握は出来たな。ご苦労、榛名」

榛名「いえ、大丈夫です!」

提督「もう夕飯の時間だな……外に出るか」

榛名「はい!」

榛名「(……榛名、秘書艦出来てます、よね!)」

595: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 02:15:03.03 ID:IQlXdrvHO
………
……



中央鎮守府、資料室の外


提督「うーん……少し疲れたな……」

榛名「お疲れ様です」

提督「一度宿舎に戻る。お前は不知火と共に食堂へ行くと良い。私も飯にする」

榛名「はい、わかりました……でも、中央鎮守府では人間と艦娘が一緒に食事出来ないなんて……やっぱり少し、不思議です。いつも提督と一緒でしたから……」

提督「郷に入らば郷に従え。そう言うものだ」

榛名「……はい」

提督「お前が気を落とす必要は無いさ。私個人はお前を信用している。人間のしがらみだ。あまり深く考えるな」よしよし

榛名「はい!」

596: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 02:16:58.92 ID:IQlXdrvHO
金剛「それに、部屋に食事を頼めば一緒に食べられない訳では無いしネ!」

提督「おっと、金剛。お前はどこから……」

金剛「食堂に行く途中で偶然通りかかったネ!……榛名が羨ましいヨー。テートクは、大事な艦娘しか優しく頭を撫でてくれないネ……」

提督「……」

金剛「むー!ほら、私も撫でテ!」

提督「……」わしゃわしゃ

金剛「No!雑デース!」

597: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 02:17:27.73 ID:IQlXdrvHO
榛名「……ふふ」

提督「なんだ、何か面白かったか?」

榛名「いえ……なんだか、嬉しくて」

提督「……そうか」

金剛「……むむむ」

榛名「(……榛名は、大切にされている……本土に来る少し前から、ようやく気付けた気がします……その思いに応えられるように、榛名、頑張りますね)」

598: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 02:18:06.06 ID:IQlXdrvHO
金剛「……テートク!榛名はあげませんヨ!榛名は金剛の大事な妹デース!」

榛名「へ?」

金剛「このままでは榛名がテートクに取られそうデース!」

榛名「は、榛名は提督の物ですから!」

金剛「What?!」

榛名「い、いえ、その、変な意味では無くてですね……!」

提督「……ほら、お前達が漫才をしている間に宿舎に着いたぞ。不知火を呼んで、飯に行ってこい」

榛名「は、はい!呼んできます!(……そういえば、資料室は艦娘が1人しか入れないという事で、不知火さんはお昼の間、お一人でしたが……寂しそうでしたね……大丈夫でしょうか?)」トテテテ

599: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 02:19:22.12 ID:IQlXdrvHO
………
……



金剛「……She's gone. これで良かったノ?」

提督「助かる。まずは自己肯定感を強めて貰いたい所だ。自分が大切にされていると感じる事が、自己肯定への第一歩だと、俺は考える」

金剛「ん……how about my feeling?」

提督「……Got no idea」

金剛「Haha, such a liar……私はもう行くネ。Farewell!」ダダダ

提督「……」

605: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:35:47.76 ID:OhuUO2jIO
………
……



金剛「……こんなところで何してるノ」

川内「アハ、見つかってたんだ?」

金剛「最初からネ」

川内「って事は、アタシが提督と話すのを防ぐ為にわざわざ出てきたの?暇な人だなぁ」

金剛「……Be gone.」

川内「せっかく提督とお話出来ると思ったんだけどなぁ……今喧嘩したら提督とお話出来なくなるしなぁ……」

金剛「……あなたはテートクを苦しめる。消えなさい」

川内「アハハ。そんな事ないよ。提督はアタシを大事にしてくれた……してくれてる……。今一緒に居れないのは周りが悪いんだ……金剛みたいな奴がさぁ。邪魔しないでよ……」

金剛「……freak……」

606: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:36:54.06 ID:OhuUO2jIO
川内「……なんか、いつもよりウザいなぁ金剛……榛名と提督見て嫉妬しちゃったの?」

金剛「……」

川内「あ、図星だ図星だ!アハハ♪」

金剛「お前と一緒にするナ、クレイジーサイコ軽巡」

川内「アハハハ……うん……そろそろ殺すぞ色ボケ戦艦」

金剛「Ooh. You are sooooooo dead……!」

張り詰めた緊張の糸が切れる、その時。

神通「川内」

川内「……神通」

神通「帰りますよ」

川内「……わかった。……命拾いしたね、金剛」

金剛「Hell no.」

川内「……」ザッザッザッ……

神通「……姉がご迷惑をお掛けしました」ぺこり

金剛「なんとかしてヨ……そっちも大変じゃないノ?川内が提督を追い回してて」

神通「……さぁ、どうでしょうか。……私はここで失礼します」

金剛「……ほんと、夜戦隊って嫌いネ。……テートクに言うべきカナ……テートク、川内には特に甘いから……ウーン」

607: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:39:31.61 ID:OhuUO2jIO
………
……



川内「うーん……金剛もウザイけど、榛名もウザイなぁ……魚雷のくせに提督とイチャイチャだもんなぁ」

川内「……そういえば、用務員のアイツ……榛名と話がしたいって言ってたなぁ……」

川内「よし、川内様が引き合わせてあげよう……榛名がぶっ壊れて提督は悲しむだろうけど、そこをアタシが慰めてあげよっと!ついでに加賀と不知火もなんとかできたらいいなぁ」ケラケラ

608: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:44:23.39 ID:OhuUO2jIO
翌日、宿舎、提督の部屋


コンコン
榛名「提督、おはようございます。」

提督「ああ、おはよう。入れ」

ガチャ
榛名「失礼します」

不知火「おはようございます」

提督「不知火も榛名と一緒か。おはよう……さて、今日の話をしようか」

榛名「はい」

提督「この後、私は会議に出席する事になる。この会議は艦娘の参加は禁止のため、その間、不知火と榛名には共に行動してもらう。……と言っても、特に仕事は無い。恐らく明日からは忙しくなるが……二人で適当に過ごしてくれ」

榛名「はい!」

提督「それと……榛名、少し外してくれ」

榛名「わかりました」
ガチャ

提督「不知火。榛名から目を離さぬ様に。……特に何もないとは思うが、あまり長時間の外出は控えるようにな」

不知火「はい。お任せ下さい」

提督「……お前には苦労ばかりかけるな。すまない」

不知火「や、やめて下さい!不知火はそんな……」

提督「損な役回りばかりだが……なんとか、頼む」

不知火「……大丈夫です。不知火に、お任せ下さい」

提督「……助かる」

609: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:45:08.26 ID:OhuUO2jIO
………
……



宿舎、玄関


提督「では、行ってくる。休暇のようなものだ。ゆっくりしてくれ」

不知火「はい」

榛名「はい!」

不知火「さて、我々はどうしましょうか」

榛名「榛名は少し、不知火さんが行ったという甘味処が気になります」

不知火「もう少しでお昼ですし……行きましょうか。(甘味処くらいなら、大丈夫でしょう)」

榛名「はい!」

610: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:46:28.13 ID:OhuUO2jIO
艦娘区画、レクリエーション地区


榛名「艦娘専用地区……こんなところが有るんですね!」テクテク

不知火「遠隔監視はされていますが、少し気楽ですね。中央では数少ない、艦娘が自分の意思で動ける地区ですから。」テクテク

榛名「宿舎も提督と同じで、その提督の監視下に置かれなければならない、と言うのには驚きましたね」

不知火「基本的に大きい鎮守府は、そういうのに厳しいですから。あ、そこ曲がりましょう」

榛名「はい」

不知火「……最近、調子はどうですか」

榛名「えと……」

不知火「正直に。大丈夫ですよ」

榛名「……提督の思いが、やっとわかった気がします。今まで、周りが見えてなかったような……」

不知火「(……金剛さんの影響か、いたく前向きですね。いい傾向です。)」

不知火「それは良かったです!それに、秘書艦としての技能の方も、とても上達したと思いますよ」

榛名「そうですか?えへへ」

不知火「はい。(……今はまだ不安定でも、前向きに変わっていける。そんなあなたが羨ましいです)……あ、ここを左ですねーー」

611: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:49:12.66 ID:OhuUO2jIO
川内「やあ不知火」

不知火「ッーー!!」

川内「『魚雷』借りるね?」

榛名「ッ」

不知火「……!榛名さんに触れるな、川内……!」

川内「なんだよ、連れないなぁ……魚雷がダメなら、不知火でも良いや。提督について話が有るんだけど?」

榛名「(魚雷……私が、かつて、そう、呼ばれていた事は、知っています……)」

不知火「魚雷じゃない、榛名です!撤回しろ……!」

川内「あ、そ。ゴメンゴメン。……で、ちょっと良い?」

不知火「(ここで無視しても付きまとわれるだろう……こいつをこれ以上榛名さんに近づけたくない……)……向こうで、聞きましょう。榛名さん、ここから動かないで下さいね」

榛名「は、はい」

612: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:51:30.28 ID:OhuUO2jIO
………
……



川内「アハハ、魚雷、面白いくらい動揺してたね」

不知火「御託は要らない。要件だけを言って下さい!」

川内「うーん、じゃあ提督に会いたいんだけど、彼いついるの?」

不知火「教える訳がありますかっ!」

川内「どうして皆、アタシと提督を引き離したがるの?こんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにこんなに提督を愛してるのに!」

不知火「おぞましい……あなたは危険なんですよ、川内!」

川内「はぁ?」

不知火「提督に愛される為に周りを排除するような、危険な艦娘を提督の側に置けると?」

613: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:52:33.25 ID:OhuUO2jIO
川内「アハハ。ギャグ?」

不知火「何をーー」

川内「愛宕も赤城も死んだ。霧島も那智も死んだ。大反攻戦で提督と最後まで戦ってたのはアタシだけ。そして今加賀は飛ばされて、側に残ったのは、自分に自信のない駆逐艦一人。アタシがそいつらを排除?勝手に淘汰されてるじゃんか」

不知火「私が、役立たずでも……他は違う!あれは、皆が犠牲になって……!」

川内「違わないよ。あいつらは死んだんだ」

不知火「川内……お前はいつからそんな屑に……!」

川内「……まぁ、加賀。アレは強かな女だね。アタシ、あいつだけは怖いよ。お前と違ってね」

不知火「……私が役立たずだとしても、あなたが提督と会う理由にはならない!」

614: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:53:44.25 ID:OhuUO2jIO
川内「……そっか。とりあえず、会わせる気が無いのならもう良いや。時間の無駄だしね?」ケラケラ

不知火「……では、私は行きますから。この事は提督に報告させていただきます」

川内「どーぞどーぞ。そしたら提督が会ってくれるかもしれないしね。……てかさ、提督って、不知火が思ってるよりもずーっと計算高いと思うよ?なんで、不知火が提督と一緒に居られるか、もちょっと考えたら?」

不知火「……煩い……(……そんな事、自分でも思ってますよ……!……とにかく、ここを離れなければ……榛名さんの元へ戻らないと……)」



不知火「……え?」

不知火「榛名さんが、居ない」

615: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:54:51.97 ID:OhuUO2jIO
………
……



榛名は、怯えていた。
己の手を引く存在に。

「嘘です……嘘です……」

「黙れ、榛名。お前にはきちんと聞かねば為らぬ事がある」

己の手を引く存在は。
艤装整備の用務員の格好をしていた。

「嫌……離して……!」

少し前、不知火と川内が激しく口論しているのを遠巻きに心配しながら眺めていた時、榛名は突然腕を掴まれた。
そして、驚く榛名が見た顔は……罷免された筈の、黒提督の、それだった。

「……貴様。まさか今の上司にも、失礼な事をしているのではあるまいな……」

「してない……提督は榛名を大事にして下さいます!あなたとは違うんです!」

「貴様ぁ!」

榛名は、道端の空き倉庫に無理矢理連れ込まれた。
鍵を掛ける黒提督。

616: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:55:21.02 ID:OhuUO2jIO
「……提督?提督だと?!様をつけんかぁぁぁぁ!」

黒提督の容赦無い平手打ちが榛名を襲った。

「痛い……ううううう……痛いです……助けて、提督……」

「だから提督『様』だろうが!」

パン!と乾いた音を立てて、黒提督の手が再び榛名を叩いた。

「あああ……この役立たずめ……やはり、恐れていた事を……」

「うえええ……痛い、痛いです……ううううう……ひぐっ……えぐっ……提督……うううう……」

「……榛名……お前は……本当に愚図だな……。私は情けない……何故、魚雷のように突っ込むしか能のないお前が、提督様の元で秘書艦をしているのかと……」

「榛名は違います……えぐっ……役立たずじゃないって提督は……ひぐっ……言って下さいます……」

「この役立たずにそんな言葉を掛けるとは……やはり、なんと寛大な方なんだ……どうお詫びしたら良いか……糞が……!」

「ひぃっ……どうして、どうしてこんな事するんですか!もう、もう黒提督は私の上司じゃないのに!」

顔を鼻血と涙でぐしゃぐしゃにしながら、榛名は問うた。

「……何故、何故だと?そんなものは決まっているだろう?それは、お前の言う提督様がーー」

「ーーえ」

榛名の、時が止まった

617: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/28(土) 15:56:16.72 ID:OhuUO2jIO
一方ーー


同時刻、中央鎮守府、大会議室


会議室には7人の男が居た。
1人は中央長官。
1人は北方長官。
1人は南方長官。
1人は東方長官。
1人は西方長官。
1人は北提。
そして、最後は……提督。

中央長官「……時間だ、緊急作戦会議を始めようか」

中央長官「よろしく頼む、4方面軍長官、北提。そして……」


中央長官「英雄提督よ」


提督「……ご期待に添えるよう、努力致します」

最後は、英雄提督。

635: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/29(日) 20:09:37.45 ID:rOAMXgmA0
中央長官「では、議論に入ろうか。今回の問題は、深海棲艦化した五十鈴だ。まずは、作戦の詳細からだな。戦闘記録映像を部屋の中央のモニターに出すぞ。では、北提。説明を頼む」ポチ

北提「はい、まずは作戦指揮からーー」

………
……


加賀『目標、沈黙』

プツン

北提「以上となります」

提督「(……見終わった訳だが……加賀の舌打ちがしっかり録音されていたな……北提の顔が真っ青だ……ハァ……)」

636: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/29(日) 20:10:41.95 ID:rOAMXgmA0
東方長官「……最後、艦娘加賀の舌打ちが聞こえたような気がしますねぇ……」

北提「……あ、いえ、あれは私のーー」

提督「機材のノイズだと考えるのが妥当と存じ上げます」

東方長官「……はぁん……ノイズねぇ……まぁ、良いでしょう。まさか北提が艦娘に舌打ちをされる訳はないでしょうし……つまらない事で時間をとって申し訳ありません」

北提「っ……」

637: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/29(日) 20:11:16.36 ID:rOAMXgmA0
中央長官「よし、では前提となる話をしようか。まず、我々が深海棲艦化した艦娘について知っている事だが……」

中央長官「最も重要な物に、艦娘が強い未練を抱いて沈むと、深海棲艦化するという事があるな」

南方長官「これまで深海棲艦化が確認された艦娘の例だと……人間への敵意や、最も多いのが……」

西方長官「人間への愛情」

638: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/29(日) 20:11:42.78 ID:rOAMXgmA0
中央長官「うむ。……次は五十鈴についてだが。これはどうやら人間に対して強い敵意を持って深海棲艦化したらしいな。更に完全に記憶もあった。これは回避軌道からも明らかだろう」

中央長官「そしてもう一つ。まるで、深海棲艦化した艦娘が、他にも多数存在するかのような発言がある。これは、危険だ」

北方長官「つまり、大反攻戦で沈んだ五十鈴、その仲間が多数、敵として我々の前に立ちはだかる可能性があると」

中央長官「その可能性は高いと私は見るが、どうだ、主張派から見ると。英雄提督」

提督「私は元、主張派ですが……私も中央長官と同意見です。大反攻戦で沈んだ艦娘の多くは練度の高い主張派の艦であった為、多数の深海棲艦化した艦娘が発生してもおかしくないかと」

639: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/29(日) 20:14:00.96 ID:rOAMXgmA0
北方長官「ハッ!だから私は主張派が嫌いだったんだよ!艦娘を愛する派閥?ケッコンカッコカリ?艦娘を 婦か何かと勘違いしてるんじゃないかとね!そんな事をするから無駄な未練が生まれ、深海棲艦化するんだ!」

東方長官「その通り。艦娘は紛れもなく武器ですから。使い方を誤れば、自分が怪我をする。今回のようにね」

南方長官「……しかし、艦娘にも心情があり、戦意高揚が高い戦闘力に繋がるというのも事実だ」

北方長官「フン。わざわざ艦娘の心など、そんなものは考慮せずとも結果を出せると言っている!北提のようにな!」

北提「……!」

北方長官「なまじ人間への憧れを持たせるからこうなるんだ!」

提督「……人間への憎しみを持って深海棲艦化した艦娘も一定数存在します。一概に、艦娘の意思を尊重するという考えが誤っているとは思えません」

北方長官「笑わせるなよ、主張派!貴様ら主張派の指導者、旧東方長官がどれ程の損害を我々にもたらしたか……!」

提督「……それについて、艦娘に非はありません」

北方長官「ない訳がなかろう!」

640: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/29(日) 20:14:42.93 ID:rOAMXgmA0
中央長官「落ち着け。今はその議論をする時ではない」

北方長官「……失礼。つい、熱くなってしまいました」

中央長官「この、多数存在すると思われる深海棲艦化した艦娘に関して、どう対処すべきか。何か案はあるか」

北方長官「進軍ですな。万が一、深海棲艦が指揮系統を持つ事を阻止する為、早め早めに叩くべきです」

東方長官「同意見です。深海棲艦はもともと数では勝るものの、個々の能力は艦娘に勝らない。しかし、それが指揮系統を持てば甚大な被害が出る事は明らかです」

提督「深海棲艦の居る場所の目処は立っているのでしょうか?」

北方長官「そんなものは海域をシラミ潰しに捜査すれば良いことだ」

提督「万が一、敵が既に指揮系統能力を保持していた場合を考慮すると、それは悪手です。戦力をジリジリと削られる事になってしまいます」

北方長官「では、座して待てと言うのか?」

提督「私は艦娘への情報開示と、防衛線の強化を提案させていただきます」

北方長官「……情報開示だと?艦娘に、自分達が死ねば、深海棲艦に成ると、教えるのか?馬鹿な!」

提督「まずは敵を知るべきです。艦娘は意思のない銃では無いのですから、心構えで大きく戦局は傾きます」

北方長官「それこそ艦娘の戦意喪失に繋がるのではないか?」

提督「一時の戦意喪失より、その先を見据えるべきです。今回の五十鈴の件から、敵は話術で艦娘を揺さぶってくるであろう事が推測されます。戦いの時に知るよりは良いでしょう」

北方長官「……フン!」

南方長官「そして、防衛線の強化か……」

提督「方面軍間で連携を密にとり、機動打撃群の整備も必要かと」

東方長官「守りつつ攻めれば良いのでは?」

提督「それはーー」

中央長官「ーー?」

南方長官「ーー。ーーー」

北方長官「ーーーー!」

641: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/29(日) 20:16:53.96 ID:rOAMXgmA0
………
……



中央長官「一先ず、本日の結論は、艦娘への情報開示を検討する、という事だな。攻守や局地戦術・戦略の議論は明日行う。以上、解散とする」

一同「はっ!」

北提「(……全然、ダメだった。くそっ……英雄提督に助けられるとは……)」

提督「(……情報開示さえ決まれば後は自然と防衛の話になるだろう……問題は北方長官だな……)」

………
……



中央鎮守府、外


提督「(もう、夜か……随分と時間が経ったな……不知火と榛名は大丈夫だろうか?)」

南「ご苦労さん、提督くん」

提督「お疲れ様です、南方長官」

南「どうだ、この後一杯。君の所の艦娘も呼んで来ると良い」

提督「ありがとうございます。早速呼んで参ります」

南「うむ。では、また後でな」

654: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/31(火) 23:53:30.18 ID:kUd3fjoA0
宿舎


コンコン
提督「榛名、不知火。私だ」

ガチャ
榛名「!……提督!」抱きっ

提督「うおお……(なんだなんだ……)」

榛名「会議、お疲れ様でした!」

提督「あ、ああ。……?榛名?どうした、その顔の傷は。服も汚れて……」

榛名「あ、これですか?今日お昼に甘味処へ行った時に、酷いこけ方をしてしまって……えへへ」

提督「……手を見せてみろ」

榛名「ぁ……」

提督「……何故、手の甲をこんなに怪我してるんだ。何か、揉め事か?」

榛名「いえ!本当にこけただけですよ!榛名ってば本当にドジで……」

提督「……そうか。気をつけろ(……転倒で手の甲に傷が出来る物か?……不知火に聞くか)」

655: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/31(火) 23:54:11.85 ID:kUd3fjoA0
宿舎


コンコン
提督「榛名、不知火。私だ」

ガチャ
榛名「!……提督!」抱きっ

提督「うおお……(なんだなんだ……)」

榛名「会議、お疲れ様でした!」

提督「あ、ああ。……?榛名?どうした、その顔の傷は。服も汚れて……」

榛名「あ、これですか?今日お昼に甘味処へ行った時に、酷いこけ方をしてしまって……えへへ」

提督「……手を見せてみろ」

榛名「ぁ……」

提督「……何故、手の甲をこんなに怪我してるんだ。何か、揉め事か?」

榛名「いえ!本当にこけただけですよ!榛名ってば本当にドジで……」

提督「……そうか。気をつけろ(……転倒で手の甲に傷が出来る物か?……不知火に聞くか)」

656: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/31(火) 23:55:09.77 ID:kUd3fjoA0
榛名「!……ぁ」

提督「……どうした」

榛名「……あの、我儘を言ってもよろしいでしょうか」

提督「ほう」

榛名「撫でて、いただきたいです」

提督「……そうか」よしよし

榛名「えへへ……」

提督「……所で、不知火は居るか?」

不知火「……ここに」

提督「酷い顔色だな……」

不知火「大丈夫です。それよりも、幾つかご報告が……」

提督「ああ……榛名、少し外して欲しい」

榛名「むー。わかりました!」テトテト
バタン

提督「(どうしたんだ、榛名は……違和感がある)」

657: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/31(火) 23:55:49.05 ID:kUd3fjoA0
不知火「……私達は川内に、会いました」

提督「……お前達が会ったのか?川内は艦娘と会うのを嫌がった記憶があるが……」

不知火「……わかりませんが、提督を探しているようでした」

提督「……何か、言われたか」

不知火「……いえ」

提督「(これは何か言われてるな……俺が浅慮だったか……しかし、艦娘と接するのが苦手な川内が……予測出来なかった……)」

提督「なんだ。言ってみろ」

不知火「……川内は、赤城さん達を馬鹿にして……!」

提督「……そうか。……お前はあまり気にするな。川内は後先考えずに発言する癖がある。俺の方から厳しく言っておこう」

不知火「ダメです!川内に会ってはいけません」

提督「……どういう事だ?」

不知火「川内は……本当に……危険です」

提督「そうか。留意する。(……しかし、そう言われると益々会う必要が出てくるんだがな……)」

提督「……そして、榛名のアレはなんだ?」

不知火「……」

提督「……」

不知火「……実は、川内さんに会った時、榛名さんに川内の話を聞かせたくなくて、少し距離をとって話し合いを始めたのですが……」

提督「それで?」

不知火「……言い争いをしている間に、榛名さんを少しの間、見失いました」

658: ◆hsyiOEw8Kw 2015/03/31(火) 23:56:43.30 ID:kUd3fjoA0
提督「……」

不知火「その後しばらくして、1人でフラフラと戻って来たのですが……それからずっとあんな調子です。何があったかと聞くと、『御手洗を探していて、転倒しました』の一点張りで……」

提督「……そうか。榛名はどの程度一人だった?」

不知火「一時間にも満たない時間です……」

提督「お前が川内と言い争っていた時間は?」

不知火「それは5分程度であったと記憶しています」

提督「そうか。わかった」

提督「(榛名が何かトラブルに巻き込まれたと見て間違いは無いだろうが……一体何だ?何故上機嫌に見える?)」

提督「(艦娘同士での争いで、この時間まで発覚しないと言うことは無いだろう……かと言って、艦娘区画への人間の出入りは厳しく制限されている……)」

提督「(何れにせよ、タイミング的に川内が一枚噛んでると見て間違い無さそうだな……会って問い詰める必要があるか)」

提督「……とりあえず、私は南方長官の所に呼ばれている。お前と榛名も連れていくつもりだったが……」

不知火「私は問題ありませんが……」

提督「榛名は大丈夫だろうか……」

682: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:16:26.27 ID:c6XgIRrR0
長官宿舎前


提督「(ここに来る前に中央鎮守府に立ち寄って、艦娘区画管理局に問題が発生したか問い合わせてみたが……今の所何もなしか……)」

榛名「♪〜」

提督「(結局、榛名も『大丈夫です!』と言って着いて来たが、状況が不可解過ぎる……何よりも上機嫌なのが不気味だな……)」

金剛「Oh!ようこそテートク。南方長官がお待ちデース」

提督「ありがとう、金剛」

金剛「榛名と不知火もwelcomeネ!Please come in!」

提督「ありがとう。私は長官殿の部屋に向かう。お前たち二人は、応接室で金剛と一緒に居てくれ」

榛名・不知火「わかりました」

683: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:17:21.05 ID:c6XgIRrR0
南方長官の自室


コンコン
提督「失礼します」

南「ああ、待っていたよ。入ってくれ」

ガチャ
提督「お待たせして申し訳御座いません」

南「いやいや。疲れているところをすまないね」

提督「滅相も御座いません」

南「……さて、今日の会議の話だが……」

提督「情報開示ですか」

南「……ああ。やはり、太郎には時間がある時に話しておくべきだろう。会議で決定してからでは、太郎が作戦の為、本土に居ない可能性がある。……例え会議で情報開示しない事が決まったとしても、奴は知っておいた方が良いだろう」

提督「はい。それと、翔鶴にも……」

南「そうだ、な。……ほんの少し前まではこんな事は無かったんだが……半年も無い間に、あそこまで翔鶴と親密になっているとは……」

提督「……」

南「……艦娘と恋仲にあるなど、他の者に知られたらどうなるか……規則で過度な接近は禁じられていると言うのに……」

提督「左遷、でしょうね」

南「君に言われると現実的になるな……早速、2人を呼んでくるか」

684: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:18:20.84 ID:c6XgIRrR0
………
……



ガチャ
太郎・翔鶴「失礼します。お呼びでしょうか?」

南「ああ……二人ともそこに座ってくれ」

太郎・翔鶴「はい」

提督「……君達は……恋仲にあるな?」

太郎「……はい?」

提督「恋仲に、あるな?」

翔鶴「……いいえ」

提督「……正直に答えろ。私と長官殿以外誰も聞いていない。この話題は外にも出さん」

翔鶴「……いえ、私はーー」

太郎「恋仲に、有ります」

翔鶴「……太郎さん!」

太郎「……どうせ、バレている事さ」

685: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:19:02.67 ID:c6XgIRrR0
提督「……では、お前達に話しておく事がある。……宜しいですね、南方長官」

南「頼む」

提督「……数年前、東の前線基地で起きた騒ぎを覚えているか」

太郎「はい。主張派の艦娘同士の内紛ですよね。2名の艦娘とその提督が亡くなったという……あの事件から、艦娘関連の制限事項が増えたので、よく覚えています。……それこそ、艦娘との過度な接近禁止等……」

翔鶴「……お言葉ですが、まさか私が他の艦娘と太郎さんを巡って争うと……?」

提督「まぁ聞け。お前達も噂で、艦娘が沈めば深海棲艦となる事を聞いたことがあるだろう」

翔鶴「はい。しかし、それはただの噂だとばかり……」

提督「その噂は特定の条件下で事実になると言われている。……艦娘が未練を抱いて沈んだ時にな」

翔鶴「……未練」

提督「そうだ。例えば、慕情だな」

太郎「……それは、本当ですか?」

提督「冗談みたいな話だが、本当だ」

686: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:19:51.28 ID:c6XgIRrR0
翔鶴「……つまり、私が太郎さんを想って沈むと、深海棲艦化すると仰るのですね……」

提督「ああ。無論、必ずそうなると言う確証は無いが……これまで我々が戦った、深海棲艦化した艦娘は全て、艦娘時代の何らかの因縁を持ち続けていた」

太郎「……そんなに深海棲艦化した艦娘と戦う機会があったのですか?私は聞いたことがありませんが……」

提督「緘口令などが敷かれて、秘匿とされていた。しかし、火のないところに煙は立たん。噂ぐらいは聞いたことがあるだろう」

太郎「……」

提督「話を戻そう。 東の前線基地の事件だが……あれは艦娘同士の内紛等ではない。あれは、深海棲艦化した艦娘に、基地内に侵入された結果ああなった」

翔鶴「え……」

提督「詳しい状況は不明だがな。深海棲艦化した艦娘の見た目、言動は生前と酷似している。恐らくは、そういったものに惑わされて、基地に接近する段階での排除ができなかったのだろう」

翔鶴「……」

687: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:20:25.80 ID:c6XgIRrR0
提督「その結果、陸上での砲撃戦となったらしい。……艦娘が地上で機動性を確保するために、脚部の艤装を着用せずに、そのまま主砲を放ったらどうなるか、実証してしまった訳だ」

太郎「……吹き飛んだんですか」

南「基地はかなり、悲惨な事になっていた」

提督「……生き残りの証言から判明した、深海棲艦化した艦娘の存在。これに加えて凄惨な現場。これらによって、本部は過剰とも言える艦娘の締め付けに走った訳だ。表向きは、艦娘の同士討ち防止であるとしてな」

太郎「そんな事が……」

提督「……侵入した深海棲艦は元々、提督の寵愛を受けていたらしい。深海棲艦となっても、しきりに『提督に逢いたい』と連呼していた様だが……そういった者が、敵に回る可能性があるという事を知っておけ」

688: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:20:54.12 ID:c6XgIRrR0
太郎「……」

翔鶴「……私は、太郎さんから離れた方が良い、という事でしょうか?」

提督「お前が太郎くんから離れた所で事態は解決しない。そんな簡単に忘れられる関係なら、こんな話はしない」

翔鶴「……では、どうすれば……」

提督「前にも言ったが……生き伸びろ。汚くても良い。それをお前達には肝に銘じてもらう必要がある」

翔鶴「……」

提督「焦って戦果を出そうとするな、という事だ。なぜ自分が今本土に居るのか、よく考えろ」

翔鶴「……しかし、私は艦娘です。私は、戦わねば……」

提督「お前は高潔過ぎる。……生きる事を考えろ」

翔鶴「……」

提督「二人でゆっくり話し合うと良い。まぁ、なんだ。死ぬな。」

太郎「提督さんが仰ってた、自分と同じ轍を踏むなとは、この事ですか」

提督「さぁな。……それと、この話を絶対に外に出すなよ。自分の艦隊含めてな」

689: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:21:30.50 ID:c6XgIRrR0
………
……



長官宿舎、応接室


ワイワイ

金剛「そういえばネ、太郎さんは意外とお酒弱いんだよネー」

榛名「そうなんですか?意外です」

金剛「翔鶴は逆にザル過ぎてビックリするヨ」

榛名「ええ……榛名の同僚にもそんな方がいらっしゃいますが、もしかして空母は皆お酒に強いのでしょうか……?」

金剛「I dunno……ところで不知火、大丈夫ー?」

不知火「……はい。大丈夫です」

金剛「……Ok.(不知火が恐ろしく落ち込んでる……榛名は非常に上機嫌……修羅場の匂いがするわね……)」

ガチャ
提督「待たせてすまない、二人共。そろそろ戻ろうか」

金剛「もうお話は終わったノー?」

提督「一応」

金剛「残念。もう少し榛名達とお話してたかったヨ」

提督「明日もあるからな。また今度。行くぞ、榛名、不知火」

榛名「はい!」

不知火「……はい」

690: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:29:00.46 ID:c6XgIRrR0
宿舎前


提督「すっかり遅くなってしまったな……二人とも、ご苦労だった。部屋で休んでくれ」

不知火「はい」

榛名「……あの、提督。早めに見ていただきたい物が有るのですが……」

提督「ほう。今からか?」

榛名「はい……できるだけ早くに……二人で」

提督「……わかった。不知火、外してくれるか」

榛名「いえ、少し遠くにあるのです」

提督「……まさか、昼間居た艦娘区画か?」

榛名「はい」

提督「……あそこは人間の立ち入り禁止だが……中か?」

榛名「中ですが……人間の立ち入り禁止だったのですか?知りませんでした……」

提督「……管理局に掛け合ってみよう」

691: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:30:52.17 ID:c6XgIRrR0
………
……



艦娘区画


提督「拍子抜けする程簡単に許可が取れたな……」

榛名「こっちです!」

提督「はしゃぐな、はしゃぐな」

榛名「……夜に提督と二人で歩くの、気持ち良いです」

提督「……そうか」

榛名「えへへ……」

提督「しかし、倉庫街に来て何を見せるつもりなんだ?」

榛名「……うーん、ここら辺だった気がするのですが……」

川内「おーい、魚雷ー。探してる場所は此処じゃない?」

榛名「あら、あなたは昼間の……あ、そうですね!ここです。ありがとうございます!」

提督「川内……!」

川内「待ってたよ、提督!アタシに話が有るんじゃない?」

提督「……ああ、その通りだ」

榛名「……提督、少し荷物を取ってきますね!その倉庫の中なので……」

提督「(この倉庫は正面以外に出口は無い……入り口に居れば大丈夫か?)わかった。私は入り口で川内と話をしている」

榛名「はい!」

692: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:31:48.94 ID:c6XgIRrR0
メキメキ、バキ、ガラガラガラ……

提督「(扉一つ開けるのに、凄まじい音だな……ん?そもそも錠はどうした?……明かりはつけないのか?)」

川内「いやー早めに来て貰えて助かったよー」

提督「……何がだ」

川内「この倉庫、扉が変形してて開かなかったんだよね」

提督「……」

ズル……

川内「そういえば、今のお気に入りは榛名なんだね。愛宕とか赤城もそうだし……長髪が好みなの?伸ばそうかな?」

提督「何を馬鹿な事を……」

ズル……

川内「アハハ。……しっかし、嫌な予感がするなぁ。死んでなきゃ良いんだけどね」

提督「……死ぬ?何の話だ?」

ズル……

川内「いやほんと、予想外でさ。榛名が壊れると思ったんだけどね。回収にも失敗するし、不覚だよ。アハハ」

提督「なんなんだ……一体何を言っている!」

ズル……ズル……

川内「すぐにわかるよ」

提督「おい、榛名!中は大丈夫か!」

ズル……ズル……ズル……

川内「落ち着きなよ、提督……」

ズル……ズル……ズル……ズル……

川内「……ほら、もう出て来た」

693: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:33:03.72 ID:c6XgIRrR0
倉庫の暗い入り口から、まず現れたのは、闇の中で微笑みを浮かべる榛名。
提督がその姿を見て安堵しかけた、その次の瞬間。

ズルリズルリと。榛名に引き摺られて、闇の中より現れた大きな荷物。榛名が掴んでいた手を離すと、それはその場で崩れ落ちた。

「なんだ……?」

それは目を凝らすと人の形をしていて。微かに動いていて。

「……冗談だろ」

提督の呼吸が浅く、早くなる。心拍数が跳ね上がる。冷や汗が吹き出るのを感じる。

「ああ、クソ……クソ!」

耳を済ませば聞こえるのは、苦しげな呻き声。

「何故、ここに居る……!」

地に伏すは、顔の腫れ上がった黒提督。
その服は用務員の物であったが、どす黒く変色した血液が多量に付着しており、着ている者の状態を示唆していた。

694: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:35:04.37 ID:c6XgIRrR0
「えへへ。英雄提督?」

時折ピクピクと動き、小さく呻く黒提督に駆け寄り、呼吸や脈を確かめる提督。その提督へ、榛名は笑顔で、静かに、優しく語りかける。

「敵を、倒しました」

ゾクリ。
背筋を這う感覚に、提督は身震いした。
倉庫から出た時、提督に安堵を与えた榛名の微笑みは、今は酷く歪んで見える。

「うふふふ。この人が教えてくれたんです。うふふふふ!あなたが英雄提督だって。ふふふふ!」

榛名は黒提督を指差し、告げた。

「言われてみれば、思い当たる節もあるかなって。うふふ。普通、左遷された人間が、長官の出席するような会議に出れませんよね。ふふ。それとか、艦娘にとても甘かったり……」

「昔の写真もあるんですよ!この人が持ってました」

そう言って榛名が懐から取り出す一枚の集合写真には、今より少し若い提督と黒提督が他大勢と共に映っていた。『主張派決起会』と言う文字が写真内に見て取れる。

「えへへ。私嬉しくて。だって、知らず知らずのうちに、私は英雄提督の大切になっていたんですから。やっぱり私は英雄提督の為に生まれてきたんだって!えへ」

695: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:35:55.06 ID:c6XgIRrR0
「ふふふ。私が英雄提督に粗相をして無いかって、確かめに来たそうですよ?この人。私は英雄提督の艦娘であって、黒提督の艦娘では無いのに。不思議ですよね。うふふふふ!」

「あなたが『黒提督は過ちを犯した』と言っていたのを思い出して。ふふふ。英雄提督が間違ってるって言う人間なら、私に、英雄提督の艦娘に暴力を振るう人間なら、敵だから多少痛めつけても良いかなーって。ふふ」

「今まで一方的に殴ってたからでしょうか?反撃したら黒提督は腰抜かしちゃって。そのまま殴ったり蹴ったりしましたけど。えへへへ!」

「この人ったら鼻の骨折れたあたりから命乞いを始めて。ほら、鼻って折ると血が思ったより出るじゃないですか。ふふふ」

「それで、この人は怖くなったのかあなたの悪口を言ったんです!自分であんなに『英雄提督は凄い人だー』って言ってた癖に!」

「もう、私、許せなくって。半殺しにしてしまいました。うふふ。でも、殺すかどうか決め兼ねてしまって……それでお連れしました」

696: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:37:01.06 ID:c6XgIRrR0
「……何故、今まで黙っていた」

提督は黒提督が生きている事を確認し、榛名へと問うた。

「不知火さんがいらしたので。……提督は榛名の為に不知火さんを付けて下さったようでしたから、余計な心配をお掛けするかと」

「……そうか……おい、黒。しっかりしろ。おい」

提督がペチペチと黒提督の頬を叩く。

「……あ……英雄、提督殿……」

黒提督の腫れ上がった瞼が持ち上がり、虚ろな目がかつての上司を視界に捉えた。

「呼吸は出来ているな。意識もある。……一安心か……」

川内「あ、生きてた?良かったー」

提督「……どういう事か、説明して貰おうか、川内!」

川内「どうもこうもないよ。アタシが全部やったってわかってるんでしょ?アハハ」

提督「お前……」

川内「怒んないでよ。気持ちはわかるけどさ。提督と同じ事しただけじゃないか」

697: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/03(金) 09:37:57.60 ID:c6XgIRrR0
提督「……」

川内「提督は榛名をオトす為に金剛と不知火を使って。アタシは提督をオトす為に榛名と黒提督を使っただけだよ。」

榛名「榛名は元々オチてますよ!えへへ……」

川内「……チッ。提督だって、金剛や不知火の気持ちを知りながら、見て見ぬ振りしてるじゃん。不知火の事は都合のいい時だけ頼って、金剛なんて別の艦隊の女なのに!」

提督「……」

榛名「榛名は大事にしていただいて、感激です……」

川内「……あーあ、使えねぇなぁ黒提督……榛名はお釈迦になる筈だろぉ……」

提督「……黒提督は主張派解体の際に辺境の補佐要員に降格された筈だろう。こいつを中央に呼び込んだのもお前か?」

川内「そうだよ」

提督「(……俺が榛名を連れているとは知らなかった筈だ……)」

川内「別に榛名の為じゃないよ。アタシの目的はもっと、別にある」

提督「……何?」

川内「ねぇ、英雄提督。栄光の第四機動群、復活させよ?」

713: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/04(土) 22:14:06.61 ID:ehogOpVN0
提督「……何を、言っている」

川内「良いって、そういうの。アタシと提督の仲じゃん。わかるでしょ?アハハ」

提督「……」

川内「アタシは提督のやりたい事を知ってる。アタシはその手助けも出来る。アタシは、アタシが一番提督の側で上手くやれる!……だからさ、来て?」

提督「……」

川内「後始末、付けなきゃなんでしょ?……きっともうすぐ来るよ。提督が育てた敵が、海の底から」

提督「……そんな事は、わからんだろ」

川内「わかってるくせに。アハハ」

提督「……」

714: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/04(土) 22:14:58.24 ID:ehogOpVN0
川内「勝てるの?今の戦力で」

提督「……仮定の話をしても無駄だ」

川内「現実を見なよ。左遷島に居るので、戦力になりそうなのを調べたけど、足柄くらいだよね」

榛名「榛名も戦えますから」

川内「……うるさいなぁ。敵も知らない癖に……」

榛名「敵は深海棲艦では?」

川内「……あーもう!ややこしいからお前は黙ってて!」

榛名「……相手が誰であろうと、やってみねばわかりませんから」

川内「……ウザいなぁ……」

榛名「……はぁ?」

川内「……まぁいいや。とにかく、提督。アタシと来てよ。じゃじゃ馬の加賀くらいなら連れて来て良いからさ。最悪、榛名も一緒で良いよ」

715: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/04(土) 22:17:52.01 ID:ehogOpVN0
提督「……そんな中身もわからん話に、やすやすと乗れると思うのか」

川内「アタシが信用出来ないの?あなたの川内だよ?」

提督「……」

川内「まぁ、考えといて。何のために提督が皆に土下座して回ったのか、忘れてないよね」

提督「……」

川内「今度ゆっくり話そう。今日はもう時間が無いんだ。……この黒提督、貰ってくよ」

黒提督「う……」

川内「うーん、衰弱してるなぁ……そりゃ昼にボコられて夜まで放置されたらなぁ……」

716: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/04(土) 22:18:23.99 ID:ehogOpVN0
提督「そいつをどうするつもりだ」

川内「殺しはしないよ。足がついちゃうからね。でも、ま、もう会う事も無いかな……」

提督「……」

川内「ほいじゃ、またね。ちゃんと考えといてよ、提督。……おら、起きろ、黒提督……」

717: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/04(土) 22:19:40.89 ID:ehogOpVN0
黒提督「うう……英雄、提督殿……」

提督「……」

黒提督「ふ、ふ……やはり、あなたは……特別です……」

提督「……」

黒提督「私が……愚かでした……凡夫が……叶わぬ、夢を見ました……」

提督「……」

黒提督「……目が、醒めました……」

川内「……早くしてくんないと、艦娘区画にお前を入れたのが管理局にバレちゃうよ」

黒提督「……では、御達者で……ああ、それと……どうか、どうか榛名をーー」

川内「……ほら、早く」グイッ

黒提督「うっ……」ズルズル

718: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/04(土) 22:20:35.22 ID:ehogOpVN0
………
……



提督「行ったか……」

提督「……」

榛名「提督?大丈夫ですか?」

提督「ああ……すまない。お前は怪我はないか?」

榛名「はい!拳に傷がついただけです!」

提督「……(黒提督は、無抵抗に殴られていたのか……)」

提督「……(そして、川内の話に、検討の余地はあるのか……?)」

提督「……(ダメだ……会議もあるし、考える事が多すぎる……)」

提督「……(榛名の事も……)」

榛名「……提督?……榛名は、幸せですよ?」

719: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/04(土) 22:25:55.92 ID:ehogOpVN0
提督「……幸せ、か」

榛名「はい。苦痛も、苦悩も、この時の為に積み上げてきた物だと、そう思います。……榛名は、報われたのだと」

提督「……そうか」

榛名「うふふ。心が、踊ります。体を締め付けていた鎖が、全て落ちたような……そんな気分です」

提督「……」

榛名「榛名は今、幸せですよ。大丈夫です、提督。嫌な事は全部、あなたで上書きされてしまいましたから」

提督「……そう、か」

榛名「えへへ……帰りましょう、提督。黒提督も連れて行かれてしまいましたから」

提督「……(榛名の苦労も、苦悩も、体を締め付けていた鎖も、全て俺が原因だ……それが故意では無くともな……わかっていて俺は……)」

提督「ああ。そうしよう」

榛名「……あの」

提督「……ん?」

榛名「撫でて、いただけますか?」

提督「……」撫で

榛名「えへへへ……」

提督「……(……黒提督よ。愚かなのは、お前だけじゃない……俺もだ。特別?そうだな……俺は特別に、クズだ)」

729: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/06(月) 18:53:37.14 ID:SVTDIEc20
宿舎


不知火「……二人とも、遅いですね」

不知火「……何かあったのでしょうか?」

不知火「……何故、不知火は置いて行かれたのでしょう……」

不知火「……提督は……」

不知火「……」

コンコン
提督「すまない。今帰った」

不知火「……!お疲れ様です」ガチャ

提督「ああ……留守の間、問題は無かったか?」

不知火「はい」

提督「それは良かった……明日もある。そろそろ休もう」

不知火「はい……そちらも、大丈夫でしたか?」

提督「ああ。心配を掛けたな」

不知火「いえ、そんな……」

提督「ほら、榛名……あまりくっつくな……」

榛名「ん……ごめんなさい」

不知火「(……二人で一体何をしていたのですか……?)」

提督「では、また明日」

榛名「うふふ。はい。おやすみなさい、提督」

不知火「……おやすみなさい」

730: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/06(月) 18:54:18.22 ID:SVTDIEc20
翌朝


コンコン
榛名「提督、おはようございます」

提督「ああ、入ってくれ」

榛名・不知火「失礼します」

提督「おはよう。本日も私は会議に赴く。その間、二人には資料室の方で最近の戦闘記録の洗い出しを頼みたい。恐らく、そろそろ必要になる」

榛名・不知火「はい!」

提督「特に探して欲しい資料はーーとーーー関連だな……よし、それでは頼んだ。私はもう出る。休息は適当に取ってくれ」

榛名・不知火「お任せ下さい」

提督「(問題が山積しているな……先ずは会議だ。なんとか情報開示に漕ぎ着けたい。それ以外は川内の動きが気にかかるが……最早榛名と不知火を信じるしかあるまい)」

榛名「提督、お気を付けて!」

提督「ああ。(……榛名……榛名か……結果的には、問題なかった。寧ろ、良かった……そう思う自分がいるな……馬鹿な話だ。馬鹿な話だが……)」

提督「……では、いってくる」

不知火「……」

榛名「さ、不知火さん!私達も資料室へ行きましょうか」

731: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/06(月) 19:18:28.44 ID:SVTDIEc20
………
……



中央鎮守府、会議室前


提督「(……)」

龍驤「ウチこんなん聞いてないで……会議で証言せなあかんて……」

北提「……言った筈なんだけどな……」

龍驤「いやや……いやや……」

加賀「少しは落ち着きなさい……」

提督「(こいつらは会議室の前で何をやっているんだ……そして、何故俺は隠れて盗み聞きの様な真似を……)」

龍驤「あかんねんてウチ……緊張すんの苦手やねん……ほんまに胃が痛いんや……」

日向「心配しすぎだ」

龍驤「あああー……あああああー……」

響「ちょ、うるさいよ……」

龍驤「あ、あかん……胃が!胃が今取れた……出そうや……!」

瑞鶴「ちょ、ちょっと?」

北提「お、おい、大丈夫か?」

提督「(馬鹿なのかこいつらは……ここが何処かわかっているのか?それこそ北方長官に見つかったら……)」



732: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/06(月) 19:19:19.92 ID:SVTDIEc20
カツン……カツン……

提督「(……やれやれ……噂をすれば、か。……加賀、気付け……!)」

龍驤「おうえ……」

加賀「ああ……もう……しっかりして頂戴」

瑞鶴「うわぁ……」

北提「こ、困ったな……」

提督「(……誰も北方長官の接近に気付いて無い……仕方ないか……)」

733: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/06(月) 19:20:42.26 ID:SVTDIEc20
提督「……何を騒いでいる」

瑞鶴「いっ……」

加賀「ぁ……!」

提督「会議前だろう、北提。貴殿は艦娘の管理も出来んのか」

北提「申し訳、御座いません」

提督「遠足気分では困る。そこに整列しろ」

瑞鶴「……」イラッ

龍驤「うう……はい……」

提督「(耐えろよ龍驤……耐えてくれ……)」

龍驤「う……」フラッ

提督「(……)」はぁ

日向「!龍じょーー」

その時、提督は目眩からフラついて、崩れ落ちる龍驤を受け止めた

734: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/06(月) 19:21:31.08 ID:SVTDIEc20
瑞鶴「龍驤?!」

提督「静かにしろ。何度も言わせるな」

瑞鶴「仲間がーー」

提督「黙れと言っている。……お前もだ、日向。姿勢を崩すな」

瑞鶴「〜〜!」

日向「……!」

北提「提督殿……!」

提督「落ち着け。……一人で立て、龍驤」

龍驤「ふぁい……」フラフラ

提督「フラつくな。……良いか。お前は証言をする必要は無い。喋れないなら、黙って背筋を伸ばして立っていろ」

龍驤「は、はい……」

北提「……お言葉ですが、提督殿ーー」

735: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/06(月) 19:22:07.04 ID:SVTDIEc20
北方長官「おはよう、諸君」

北提「!……おはようございます、北方長官」

提督「おはようございます」

北方長官「うむ。して……これは何事だ?英雄提督殿が、我が配下の艦隊に何の御用かな?」

提督「……はっ。現在最も活躍している艦隊の様子を伺おうかと……」

北方長官「余計な事は止めて欲しいものだ。君には関係の無い事だろう」

提督「はっ……」

北方長官「己の立場を弁えたまえ」

提督「申し訳御座いません。……失礼致します」カツカツカツ……

提督「(北提……思っていたより……やはり、俺に人を見る目は無いのか……?)」

北方長官「フン、行ったか……大丈夫だったか、北提」

北提「はい、何も問題は御座いません」

北方長官「よし。今日の会議も期待している」

北提「はっ!」

北方長官「……あの落伍者と、その艦娘との接触は避けろ。皆、良いな」

一同「はっ!」

加賀「……」

736: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/06(月) 19:24:31.41 ID:SVTDIEc20
数時間後、艦娘区画


龍驤「はぁー……緊張した……会議から解放されてスッキリや……」

響「北提と長官達はまだ会議を続けるみたいだね」

瑞鶴「疲れたわねー……ご飯よご飯!」

日向「うむ」

龍驤「ほんま一言も喋らんで良かったな、アタシ……」

瑞鶴「……そういえば、朝のあの人が英雄提督だっけ?」

加賀「……そうね」

日向「……私は好かんな」

加賀「……」

響「きつい感じの人だったね……」

瑞鶴「他と変わんないじゃん!北提のがよっぽど優しいよ!」

加賀「……優しければ良いと言う物でもないわ。龍驤、北提の仰った事も忘れているのは弛み過ぎよ」

龍驤「はい……」

737: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/06(月) 19:28:01.89 ID:SVTDIEc20
瑞鶴「……英雄提督って昔からあんなだったの?」

加賀「それは……」

日向「大体加賀の事も無視じゃないか。昔同じだったなら他に何か……あるだろう」

加賀「……忙しい方、ですから……」

瑞鶴「……」

龍驤「ま、まぁ、でも助かったやん?北方長官にグラついてるとこ見られてたらヤバかったわ……整列させられたし」

響「……偶然だろう、流石に」

日向「怪我の功名、か」

加賀「……」

瑞鶴「……とりあえず、ご飯いきましょ。お腹空いたの!そこで話しましょうよ」

753: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:08:56.50 ID:XO780uaJ0
艦娘用食堂


不知火「……美味しそうに食べますね……」

榛名「美味しいですから!」もしゃもしゃ

不知火「うちの基地では、時間の都合上作り置きが多かったですからね……何時でも作りたてを食べれるというのは、確かに良いですね」

榛名「味は鳳翔さんが一番良い気がしますけど。ただ、揚げ豆腐とかは冷めたら食べられないですし……」

不知火「そして本土なら食材が豊富ですからね」もぐもぐ

榛名「はい!あ……アイスクリーム……も有るんですね」

不知火「後で頼みますか」クスクス

榛名「……はい」えへへ

754: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:10:11.38 ID:XO780uaJ0
不知火「……そういえば、昨晩は提督と何をしてらっしゃったのですか?」

榛名「何……何、ですか。うーん……」

榛名「デート、とか」

不知火「……デート」

榛名は不知火の表情の変化を見逃さなかった。
不知火の鋭角な目。それを僅かに揺るがす苛立ちを。

榛名「……」

榛名の双眸はほんの、ほんの少し薄められる。

755: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:10:53.49 ID:XO780uaJ0
榛名「なんて、冗談ですよ。えへへ」

不知火「……吃驚しました」

榛名「少し、提督にご相談をしていました」

不知火「……それは、昨日のお昼の事ですか?」

榛名「……はい」

不知火「……良ければ、不知火にも教えて頂けますか?」

榛名「……わかりました。実は……」

不知火「はい」

榛名「こけた時に、衣服を傷つけてしまって。補修に回すべきか、少し……」

不知火「そう、だったのですか」

榛名「はい……不知火さんにはご心配をお掛けしたくなくて……」

不知火「そんな気遣い、不要ですよ。同じ艦隊じゃないですか」

榛名「不知火さん……」

不知火「(もう少し、上手い嘘があるでしょうに……これではまるで、『お前には教えない』と言われているようで……いえ、事実そうなってますか)」

不知火「困った事があったら、ちゃんと言って下さいね?」

榛名「……はい。ありがとうございます」

756: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:11:27.97 ID:XO780uaJ0
ガチャ
龍驤「食ったるで!」

瑞鶴「食ってやるわ!」

日向「煩いぞお前達……」

加賀「……情けない。静かになさい」

瑞鶴「腹が減っては戦は出来ぬわ!恥ずかしくなんて」

ぐぅうー

瑞鶴「……」ぐー

龍驤「……」

加賀「……恥ずかしくなんて、何かしら」

瑞鶴「今すぐに海の底に沈んでしまいたい……」

日向「はっはっは。とりあえず、カウンターで食事を受け取ろう」

757: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:12:13.24 ID:XO780uaJ0
不知火「……騒がしいのが来ましたね」

榛名「楽しそうですねぇ……足柄さんとか居たら、こっちも賑やかなんでしょうねぇ……」もぐもぐ

不知火「大変な事になりそうですけどね……左遷島の皆は大丈夫なのでしょうか?」

榛名「さぁ……提督にお聞きすればわかるかもしれません」もぐもぐ

不知火「ですね……」

榛名「あ、食事を持ってこっちに来ますね」

758: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:12:54.60 ID:XO780uaJ0
日向「ここに座ろうか」

瑞鶴「いただきまーす!」

龍驤「うう……胃が喜んでる……こんな美味い飯は初めてや……」

響「大袈裟だなぁ……」

加賀「(朝の北方長官の接近……それに私が気付けていれば、恐らく提督は出てこなかったでしょう……あの人が居なければ、北方長官に睨まれていたのは私達。助けられてしまいました……不覚です……)」

加賀「(……それに、私が気付いていれば、必要以上に提督との接触を禁じられることも無かった……自分に、腹が立つ……)」

瑞鶴「……おーい、加賀さん?」

加賀「……ごめんなさい。少し考え事をしていたわ」

瑞鶴「どうせそうだろうと思ったわ……英雄提督でしょ?」

加賀「……」

瑞鶴「会いに行けば?」

加賀「いえ……」

龍驤「なんや気の無い返事やなぁ」もぐもぐ

加賀「……」

759: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:13:41.71 ID:XO780uaJ0
瑞鶴「待ってちゃダメよ。会いたかったら会いに行かないと」

日向「瑞鶴。そういう事では無いだろう。北提が許可しない。北方長官が英雄提督とは接触するなと仰っていただろ」

加賀「……この状況下で会うわけにはいきません。北提の不利益となります。瑞鶴、もう少し考えてから口を開きなさい。先日、不知火さんと私を怒らせたばかりでしょう」

瑞鶴「う……ごめんなさい」

加賀「……あなた、素直なのは良い事だけれど。素直過ぎるわ」

瑞鶴「……はい」

加賀「(……瑞鶴に当たってしまった……図星ね。私は、あの人に会えば、向こうから求められると思っていた。思っていたのに……)」

加賀「(……どうして、提督は私を見て下さらないのかしら。会議にいらっしゃるという事は、私がここにいる事はご存知のはず)」

加賀「(……提督と遠く離れはしたけれど、戦果を上げて、存在を知らせた。不知火からのアプローチもした。これ以上、どうすれば……)」

加賀「(まさか……私は、意図的に提督に遠ざけられている……?)」

加賀「(……いえ、止しましょう。提督にも事情がある筈……私は北の所属なのだから……)」

加賀「……」

加賀「(……逢いたい)」

760: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:15:11.85 ID:XO780uaJ0
別のテーブル


榛名「……近くに座ってるから、向こうのグループの話が聞こえてしまいますね。……不知火さん、向こうと何かあったんですか?」もぐもぐ

不知火「……ええ、少し。向こうに昔の同僚が居るので、それ関連で……」

榛名「成る程……」もぐもぐ

不知火「……榛名さん、そろそろ」

榛名「(え……)」もぐ……

榛名「(アイスクリーム……)」チラ

不知火「……」

榛名「……わかりました、行きましょう。ご馳走様でした!」カタン

不知火「すみません」

榛名「いえいえ」

761: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:15:49.80 ID:XO780uaJ0
不知火「ごめんなさい、椅子の後ろ、失礼します」

龍驤「あ、すんません……お?」

瑞鶴「げっ……」

加賀「……あら、不知火。そんな近くに居たのね……」

不知火「ども。これから皆様お食事ですか」

加賀「そのつもりだけれど。……あなた達はもう食べ終えた様子ね」

不知火「はい。そろそろ失礼しようかと」

加賀「そう」

不知火「では、ごゆっくり」

加賀「ぁ……」

不知火「……はい?何か」

加賀「……いえ」

不知火「……そうですか。では」

榛名「……」チラ

加賀「……」

榛名「……失礼します」ニコ
テコテコ

762: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:17:31.94 ID:XO780uaJ0
テコテコ

榛名「そういえば、あの方々はどこの……?」

不知火「北の艦隊ですよ」

榛名「確かに北提がどうのとか聞こえてましたね……不知火さんがお話していた方が元同僚の方ですか?」

不知火「そうですね」

榛名「……ふぅん……」

榛名「(あれらは敵……?なにやら剣呑な雰囲気を感じましたね。不知火さんと揉めたからでしょうか)」

763: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:18:09.93 ID:XO780uaJ0
日向「なんだ、あの連中は……」

響「不知火さんと……誰だろ。微笑んでたのに、目が全然笑ってなかったね」

瑞鶴「不知火さんはくたびれた感じだったけど……もう一人は何か、嫌な視線だったわね。艦娘を見定めるような……あの人も英雄提督の部下なのかしら」

加賀「そうよ。あの子は榛名ね」

日向「榛名?……『魚雷』か?」

龍驤「……マジ?」

瑞鶴「え、何?あのナリで駆逐艦か軽巡なの?」

日向「いいや。榛名は戦艦だ」

龍驤「瑞鶴は知らんのか……魚雷の榛名……」

瑞鶴「何それ……」

龍驤「標的見つけたら、いきなりすっ飛んで行って、わざわざ格闘戦でボコボコにするから『魚雷』言われてたんや」

瑞鶴「ふーん……」

日向「まぁ、すっ飛んで行く先が、敵だけなら良かったんだがな」

764: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/07(火) 19:19:01.01 ID:XO780uaJ0
瑞鶴「まさか、味方も?」

日向「味方の2,3隻を大破に追い込んだ事があるらしい。そのうち1隻は再起不能まで追い込まれたとか」

瑞鶴「全然そんな感じに見えなかったけど……なんでそんなのが野放しになってんのよ……」

日向「建造当初は貴重な戦力だったんだ。武勲も多数あったしな……それで解体を避けた結果、更に犠牲者が増えて……」

龍驤「左遷、やね。それであの提督が手懐けたんちゃうか?」

瑞鶴「……手懐けたって……不安なんだけど」

日向「……まぁ、用心するに越したことは無い」

加賀「……(この苛立ちは嫉妬かしら。……なんとかして、提督にお会いしたい……)」

775: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/08(水) 22:18:55.90 ID:AVAP27sd0
会議終了後……夜、鎮守府庁舎前


提督「(北方長官にたっぷり嫌味を言われたな……北提のところの艦娘にも嫌われただろうし……今日は良い事が無い)」

日はとっくに暮れ、辺りは夜の冷たい空気に包まれていた。

提督「(だがしかし。北の艦隊による五十鈴戦の証言から、情報開示が重要である事は全員が理解しただろう。響が行動不能に陥った事等、な……これで、少しでも艦娘の被害が減ると良いんだが……)」

ほぅ、と提督は首を上に向け、溜息をついた。そして、その目に入るは中央鎮守府の港湾部を優しく照らす灯台。

提督「……帰るか」

暫くぼーっと灯台を眺めていた提督が、帰途に着こうとした時。何者かが提督の背後から抱き着き、提督の目をその掌で覆った。

「Hey, テートクー。Guess who?」

776: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/08(水) 22:19:36.22 ID:AVAP27sd0
提督「……悪ふざけはよせ。川内」

川内「あれ?わかっちゃう?アハハ」

提督「……何の用だ」

川内「んー?……来ちゃった・」

提督「……」ハァ

川内「なんで溜息つくのさー」

提督「お前は昨日問題を起こしたばかりだろう……」

川内「まぁ、良いじゃん!それよりどう?久しぶりに飲まない?」

提督「……どこでだ」

川内「夜戦隊のねぐらさ」

777: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/08(水) 22:20:45.93 ID:AVAP27sd0
夜戦隊のねぐら


提督「散らかっているな……」

川内「そりゃ、ここは夜戦隊四人の共同スペースだからね……なに呑む?」

提督「……任せる」

川内「ふむ……デュワーズのホワイトラベル。それか、ジョニーウォーカーのブラックラベル。どっちが良い?」

提督「ブラックラベル」

川内「アハハ。昔からジョニーウォーカー好きだね。はい」コトン

提督「しかし、両方ともスコッチのブレンドか。よく手に入ったな」

川内「提督の為さ……乾杯」

チン

川内「懐かしいなぁ、こういうの……昔はよく、二人で飲んだよね」

提督「まぁな」

川内「アタシは提督が会いに来てくれた毎回の事、全部覚えてるよ」

提督「そうか」ぐい

川内「ま、その頃アタシはもう第四機動群ではなかったけどさ」

提督「そうだな……だが、」グビー

提督「ーーそのおかげで、お前は死んでない」ゴトン

778: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/08(水) 22:22:09.61 ID:AVAP27sd0
川内「注ぐよ……アタシなら、第四機動群に居ても死ななかったかもね」コポコポ

提督「どうだかな。まぁ、今更遅い」ぐい

川内「……アタシはーー」

提督「いや、過去は良い。これからの話をしよう」

川内「!……提督、アタシと来てくれるの?」

提督「落ち着け。詳しい話を聞かせろ……そのために待ってたんだろう」

川内「んー。……会わせたい面子が居るんだ」

提督「ほう」

川内「実はもう奥に居るんだけどね。……皆、出て来てー」

ゾロゾロ

天龍「うっす」

龍田「あらあら、今晩は〜」

神通「……提督様、お久しぶりです」

川内「じゃーん!我ら四人で夜戦隊だよ!」

提督「……」

川内「全員、強いよ。……フィジカルも、メンタルも。……相手が元艦娘でも、問題無く闘える」

提督「へえ」

779: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/08(水) 22:24:59.18 ID:AVAP27sd0
天龍「よっ!アンタが英雄提督か!いやー会いたかったんだよなー!」

龍田「天龍ちゃん?言葉遣いを改めなさい?」

天龍「ん、んだよぉ」

神通「仲間の非礼をお詫び致します……」

提督「いや、構わん。プライベートだ」

天龍「お!話のわかる提督じゃん!」

龍田「天龍ちゃん?」

川内「とまぁ、こんな感じ。神通とは顔見知りじゃないっけ?」

提督「……大反攻戦の時、直接会ったな。獅子奮迅の働きを見せてくれたのを覚えている」

神通「……光栄です」

天龍「神通は『中』だっけ。オレと龍田はその時、無線で指示を貰っただけだからなー。くそー」

川内「ま、アタシも無線だったし。『中』で生き残ったのなんて、数える程しか居ないよ」

提督「天龍、龍田もよく聞く名だった。共に戦った事は無かったがな」

天龍「おお!嬉しいねぇ」

龍田「あらあら」

提督「……しかし、よく集めたな。これだけの面子を」

川内「でしょ?褒めてくれても良いよ?まぁ、そんなに難しくはなかったけどね」

提督「……」

川内「夜戦隊の面子はさ、現状に不満を持ってたのさ。保守派の奴らにね。アタシは、反抗的な態度を取る艦娘の中から仲間を選別しただけだよ」

780: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/08(水) 22:25:59.10 ID:AVAP27sd0
川内「……そして、夜戦隊はこうも思ってる。何故、優秀な英雄提督が左遷されなければならないのか、と。それならば、我らの指揮を執って欲しいと」

提督「……夜戦隊の提督にならば、俺はなれるとお前は思う訳だ」

川内「夜戦隊は所属が中央とは言え、かなりの下位組織だし、お偉いさんのプライドを刺激する事も無い。降格人事になる訳だし。
……そして、今の夜戦隊の監督者はアタシの傀儡だから、いつでも首が飛ばせる」

提督「……五十鈴の出現に乗じて、中央に返り咲く、か」

川内「そうさ。提督は中央に呼ばれた。提督を呼ぶ程、中央は焦ったんだ、五十鈴の出現に」

提督「……」

川内「五十鈴が敵として出た以上、沈んだ主張派の艦娘は確実に深海棲艦となっていると見ていい」

川内「特に、提督の愛宕、赤城、霧島、那智は、深海棲艦化したら、東の前線基地の事件の様に、血眼になって提督を探すだろうね」

781: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/08(水) 22:26:36.05 ID:AVAP27sd0
川内「……今がチャンスなんだよ、提督、わかるよね。中央は提督の、作戦参謀としての能力を高く買ってる。だから提督は『提督権』を失っていない」

提督「提督権。艦娘の指揮を執る為の権限、か」

川内「それが無いと、基本的に艦娘とは接触出来ないからね。まぁ、そんな秘密主義的な制度があるお陰で、元主張派の人間が軍部にそこそこ残ってるんだけどさ」

提督「提督権の取得は時間が掛かるからな。艦娘の世話を、艦娘自身が『主計艦娘』として行っているのも、その提督権の所為。とにかく、艦娘に接する人間を少なくしようと言う話だったが……」

川内「そ。提督権の存在から、育成の遅い後任が着任するまでの艦娘関連の雑務係として、仕方なく軍に残された元主張派の人々」

川内「それから時間が経ち、監視も緩くなった今、英雄提督に強く賛同する者を、アタシは中央に集めた」

川内「中央に長官達が集まるタイミングで、平時の作業員だけでは数が足りなくなるからね。地方からの増員に志願してもらった」

提督「……その中の一人が、黒提督だった訳だ」

川内「そうだよ。その集めた主張派の人々には、人数で提督を推してもらうつもりさ」

782: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/08(水) 22:27:09.40 ID:AVAP27sd0
川内「……今は有事なんだ。中央はあなたを欲している。敗北を恐れる者からはケープゴートとして。勝利を願う者からは切り札として。」

川内「でも中央に呼ぶ口実が無い。そこで、扱い難い艦娘ばかりの、夜戦隊のポストが空くのさ。幸いにも、提督には厄介な左遷島をなんとかする手腕がある。ならば、と。中央はそう判断する……と、アタシは踏んでる」

提督「そう上手く行くとは思えんな」

川内「裏が取れてない訳じゃない。外野の一押しも用意してある。勝算はあるよ。何より……これは、あなたの為なんだから!」

川内「赤城。愛宕。霧島。那智。大反攻戦で沈んだこの四人、きちんと成仏させてあげないと、なんでしょ?だって。それが、あなたが頑として提督権を手放そうとしなかった理由、でしょ?」

797: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/09(木) 20:47:25.27 ID:IAF8ZXPu0
提督「……」

川内「準備は出来てる……後は、提督がこの話に乗るだけ、だよ」

提督「そいつは、どうも」ぐい

神通「……提督。我ら四人は滅私、粉骨砕身の覚悟を以って、あなたの手足と成りましょう」

龍田「血が見れるのなら、何だって構わないわぁ」

天龍「斬り込みはオレに任せな」

提督「やれやれ。どいつもこいつも頼もしい限りだな」ぐい

川内「ね、提督……来て、くれるよね」

提督「……まぁ、気持ちは嬉しいが、その申し出は受けられん」

川内「……一応聞くよ。どうして?」

提督「残された左遷島の艦娘はどうなる?俺は提督だ。かつて敗れたとはいえ、俺には信念がある。今の艦隊を裏切る事は出来ない」

川内「んー……やっぱそうか……冷静だなぁ。酔わせる為に、貴重なお酒も用意したんだけどなー。ま、もう少し考えてみてよ。まだ、猶予はあるからさ。アハハ」

提督「……」

川内「……よく、考えてよ。……赤城とか、単騎でも本当に殺されるぜ、提督」

798: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/09(木) 20:47:55.97 ID:IAF8ZXPu0
提督「……その時は、その時だ」ぐい

川内「……ま、今晩はここまでかな。あんまり遅いと、提督のワンちゃん達が黙ってないだろうからね」

提督「……失礼する」

川内「んー。またね、提督」

神通「お気をつけて」

提督「ああ……っと」フラ

川内「おっと。しっかりしてよ」

提督「悪いな……では」
ガチャ、バタン

川内「んー……そんなに飲んでない筈なんだけどな」

天龍「ボトル半分空いてるぞ?」

川内「そこそこだよ。……神通、提督が無事に帰れるかどうか、影からで構わないから、見てきてくれるかな?」

神通「わかりました」

799: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/09(木) 20:49:26.56 ID:IAF8ZXPu0
宿舎


コンコン
提督「私だ。会議は終わった」

ガチャ
榛名「お疲れ様です、提督!」

不知火「お疲れ様です。頼まれていた資料は出来上がっています」

提督「ああ、ありがとう」

不知火「今日ももう、遅いですから……お疲れでしたら明日、お渡ししましょうか?」

提督「ああ……すまないが、そうして貰えると助かる。ご苦労だった。二人も休んでくれて構わん」

榛名「……おやすみなさい、提督」

不知火「おやすみなさい」

提督「うむ。おやすみ」
バタン

榛名「……提督から、すごいお酒の匂いがしましたね……心配です」

800: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/09(木) 20:50:07.98 ID:IAF8ZXPu0
提督の自室


提督「……」

扉を閉めると、部屋を闇が支配する。防諜の為か、しっかりとしたドアには隙間はなく、廊下の光を通さなかった。また、部屋に備え付けられた窓のカーテンは綺麗に閉められ、光の差し込む余地はない。

提督「暗いな……」

提督は灯りに手を伸ばそうとして、やめた。そして、そのまま暗闇に抱かれるかの様に、備え付けられたソファに深く腰掛ける。

提督「……疲れた」

溜息。そして、訪れる沈黙。体を支配する気だるさに耐え兼ねた提督は、目を瞑り、物思いに耽ることにした。

801: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/09(木) 20:51:05.64 ID:IAF8ZXPu0
提督(川内の誘い、か)

提督の目的、その助けになると川内は豪語していた。

提督(……確かに川内の提案は魅力的で、現実的だ)

しかし。

提督(川内の言う目的と、俺の本来の目的は違う……)

悲しいけれど。

提督(川内の誘いに乗れば、俺は艦娘を、足柄を、鳳翔を、雷を、隼鷹を、不知火を、榛名を、そして何より、自分の信念を裏切る事になる)

自嘲する。
己の大義を失って尚、生きる意味などあるのか、と。

提督(過去、か)

どこで間違えたなど、そんな葛藤は遠く過ぎ去った。心に残ったのは悔恨のみ。

提督「……」

802: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/09(木) 20:51:48.83 ID:IAF8ZXPu0
昏い、昏い部屋の空気が、質量を持って。提督に重く、重くのしかかってくる。
提督は、ソファから立ち上がる事が出来ないでいた。
次第に彼が息苦しさを感じ、服の前をはだけさせると、首元に吊るしたペンダントが露わになる。
提督はそのペンダントも手探りで外し、ソファの肘置きに置いた。

やっと、苦しさが少し和らいだ時。

提督(……嗚呼)

提督の心の隙に、魔は忍び寄る。

提督(逆に、今俺が死ねばどうなる?)

全てを放り出して、逃げてしまいたい。そう、心の中で呟く。
部屋の闇が、その色を増した。

提督(……死ねば、あいつらは来ないんじゃ、無いのか?)

わからない。わからない、けれど。

罪も。後悔も。信念も。

提督(全部忘れて、楽になってしまいたい)

いっそこのまま、この重圧で潰れてしまいたいと。
そう、思う。
提督の視界は、閉じられた瞼の裏側、闇の中をグルグルと回っていた。

803: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/09(木) 20:52:32.63 ID:IAF8ZXPu0
………
……



ふと。
キィィ……カタン、と音がした。

それは、ドアの空いた音か。窓の開いた音か。
提督は瞼を開こうとしたが、上手くいかない。まるで、空気がねっとりと貼り付いているようだ、と提督は感じる。そのうち、誰かが提督に、優しく話し掛けてきた。

「……提督?大丈夫ですか?」

提督「……ああ……」

この声は誰だったか。提督にはわからない。わからないが、知っている。そんな声。

「ソファで寝ていては、風邪をひいてしまいます」

フワッと来た、浮遊感。
提督は誰かに持ち上げられている。
抵抗しようかと考えたが、やめた。
このまま自分を任せてしまおう、と開き直る。瞼は相変わらず重い。
そんな提督の頬を、誰かの髪が優しく撫でると。
どこか懐かしいような、そうでもないような、不思議な香りが提督を包んだ。

804: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/09(木) 20:53:17.80 ID:IAF8ZXPu0
どうやらベッドまで運ばれたようで、提督の体は柔らかいマットレスの上に背中からゆっくりと降ろされた。

「……飲み過ぎですよ」

クス……と小さく笑い、優しく告げる誰かの言葉に、提督は初めて自分の状態を気付かされる。

提督「……そうか、俺は酩酊しているのか」

それで、体が思い通りに動かないのか。思えば、本土に着いてからは、短く浅い眠りしかしていなかった、と提督は自分を振り返る。
昨晩は特に、考え事をしてあまり寝ていなかった。今日は体調が良くないのに、調子に乗ってしまったな、と。

「……お休みに、なられますか」

どこか、愛情が感じられる声で提督に語りかける。
提督はだんだんと薄れゆく意識の中、無言で頷いた。

805: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/09(木) 20:53:52.60 ID:IAF8ZXPu0
「……では、私はこれで……あら?この、ペンダントは……」

その声の主は、自分がベッドから離れる際に、ソファの肘置きに放置されたペンダントに気付き、興味を示した。

提督「なんだ。……欲しければ、くれてやる」

世話をさせた駄賃だ。提督は投げやりに言う。先程まで緩やかだった眠気の波は、今や津波のようになって提督に襲いかかっていた。

「……ありがとうございます。大切に、しますね……」

そう、嬉しそうに言って、誰かはペンダントを懐にしまった。

その言葉が提督の鼓膜を震わせた時は、提督の意識が深淵へと旅立つ瀬戸際。

「……おやすみなさい、私の提督……」

小さく苦笑し、その声の主は提督の頬を愛しそうにそっと撫でると、その場を後にした。

いつしか部屋の重圧は消え、提督は安らかな寝息を立てていた。

812: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/11(土) 00:13:25.69 ID:qBzKzBW/0
翌朝


「……とく、提督」

提督「ん……ああ?……榛名?……」

榛名「おはようございます」

提督「……おはよう」ぼーっ

提督「……部屋の鍵、空いてたか?」

榛名「は、はい。30分前にお伺いしたのですが、全く反応が無かったので……ついドアノブに触れてみたら、ドアが開いて……えへへ」

提督「そうか。……待て、30分前?……今、何時だ……?」チラ

0830

提督「……!」ガバッ

榛名「!」ビクッ

提督「……いかん……寝坊だ……!」

813: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/11(土) 00:16:11.74 ID:qBzKzBW/0
………
……



中央鎮守府、会議室


中央長官「おはよう、諸君。揃ったな。会議を始めよう」

提督「(提督就任以来、初めて寝坊したぞ……今回は間に合ったが、榛名が起こしに来てくれなければ危なかった) 」

提督「(しかし、榛名の奴……妙な事を言っていたが、まさか俺の部屋に30分も居たのか?違うよな?) 」

提督「(……そう言えば、昨晩部屋に来たのは榛名だったのか?聞くのを忘れていた……)」

中央長官「さて、今日は昨日のーー」

814: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/11(土) 00:18:28.81 ID:qBzKzBW/0
………
……



中央長官「では、情報開示をするという決定でよろしいかな?」

一同「……異議なし」

中央長官「よし、それではこの方針は決定だな」

提督「(よし、よし……)」

中央長官「次に、具体的な作戦の方だが……」

北方長官「断固として進軍を提言致します!」

提督「……まずは防衛線の強化を」

中央長官「……ふむ」

北方長官「大反攻戦では深海棲艦化した艦娘を中心として、組織立った行動が見られた。時間が経てば経つ程、敵戦力は強固になると予想される!今、叩くべきだ!」

提督「……今必要なのは柔軟な対応です。物資を蓄え、航路を整備し、戦略を整える事こそがそれに繋がります」

北方長官「平行して行えば良いだろう?」

提督「こちらの手勢が少数である以上、戦線を拡大すれば前線を突破された場合、取り返しのつかない事態に陥る可能性が高い事が推測されます」

北方長官「防衛線を固めた所で、それは同じだ。深海棲艦は数が多い。それらの統制が取れた時、防衛線とやらが絶対に突破されぬ自信があるのか?」

提督「その可能性を減らす為の防衛戦略を組み上げてーー」

北方長官「ーー!ーー」

815: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/11(土) 00:19:40.51 ID:qBzKzBW/0
………
……



東方長官「ですからそれはーー」

南方長官「しかしーー」

中央長官「……皆。少し、良いか」

一同「はっ……」

中央長官「私は、提督の案を推す」

提督「……」

北方長官「し、しかし!」

中央長官「落ち着け。無論、理由がある」

東方長官「それは……?」

中央長官「昨晩、三号計画について、国から許可が下りた」

北方長官「……!」

提督「……?」

中央長官「提督と北提には知らせて居ないが……丁度良い。教えておこう」

北提「は……」

中央長官「三号計画とは、大和型戦艦、伊四○○型潜水艦、装甲空母等の大型艦の建造を目的とする計画だ」

提督「……」

中央長官「これらは対深海棲艦の切り札的存在となるだろう。だが、その建造は手探り状態だ。就役までには凄まじい量の資源が必要となる。それこそ、これまでの数十、数百倍のな」

北方長官「……」

中央長官「今は資源を蓄えたい。各方面で、資源採掘場の奪還は進んでいる。最近だと、北提がかつての大規模資源採掘場を奪還してくれたな」

北提「は……」

中央長官「奪還した海域のシーレーンを回復、資源を集積し、戦力を増強する。その必要性も視野に入れておいてくれ」

816: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/11(土) 00:21:33.76 ID:qBzKzBW/0
会議終了後、鎮守府庁舎前


提督「話がトントン拍子に進んだな……防衛線構築に全力、か。鶴の一声だな。まぁ、大和型や大鳳、伊号への期待値を考えれば当然とも言える」

提督「(沈んだら深海棲艦化するという情報開示……これは無理な進軍への抑止力となるだろう。同時に、虐待等のストッパーにもなる。……無論、愛情のストッパーにも)」

提督「しかし、これで艦娘の待遇は更に改善するはず……悪くない結論だ」

提督「(そして、現在の戦術について知りたいと中央長官に申し出た所、許可も降りた。この後、今の作戦参謀と会える手筈だが……参謀は山口か……昔、数度会ったが……出世したな)」

提督「(……そして飛龍、蒼龍が居るようだな……これは自分から頼んだとは言え、気が重い)」

提督「……」

提督「雨が、降りそうだ」

817: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/11(土) 00:22:09.59 ID:qBzKzBW/0
訓練所


飛龍「でさ、山口さんがいきなり長官に呼ばれて。英雄提督に航空戦見せろって」

蒼龍「へぇ……」

飛龍「加賀もこの鎮守府に居るんでしょ?私たちじゃなくて、加賀に聞けば良いのにー」

蒼龍「どうせ北方長官が渋ったんじゃないの?北方長官は北方長官で面倒くさい人だよねぇ」

飛龍「わからなくもないけどさ。……てか、山口さんは結局英雄提督に見せるんだね、戦術。あの人、英雄提督を嫌ってたのにね……」

蒼龍「さぁ……昔対抗意識燃やしてたみたいだし、リベンジ、なのかな?」

飛龍「あんなクズにリベンジする事無いと思うんだけどな」

蒼龍「英雄提督はクズだけど、提督としての手腕は確かだったからかな……実際、今の航空戦術も英雄提督の航空戦術を叩き台としてる訳だし……」

飛龍「戦術はね?」

蒼龍「まぁまぁ、お仕事だから我慢しよう……」

飛龍「……本当は、顔も見たくない……」

山口「待たせたな、二人」

飛龍・蒼龍「はっ!」ビシッ

山口「英雄提督がいらっしゃった。準備をしておいてくれ」

飛龍・蒼龍「はっ!」

818: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/11(土) 00:23:37.45 ID:qBzKzBW/0
………
……



訓練所、展望台


提督「……よろしく頼む」

飛龍・蒼龍「……よろしくお願い致します」

山口「よし、二人とも。艤装の装着を許可する。湾内の訓練区域へ急げ」

飛龍・蒼龍「はっ!行ってまいります!」
タタタ……

提督「……」

山口「……英雄提督は、最新の航空戦術をご覧になるのは初めてですかな?」

提督「書面の方で確認はしておりますが……この目で見るのは初めてです」

山口「……現在の空母には、艦戦をかなり多めに積み、制空権の確保を最優先としています」

提督「……ほう……(北提の作戦報告書にも同じような事が書いてあったな……)」

提督「(……加賀の爆撃が五十鈴に当たらなかったのはその為か?本来の俺の構想、そして加賀の腕ならば、爆撃の密度の関係上いくら爆撃パターンを知っていても、一発も命中しない、なんて事はそうそう……)」

提督「……しかし、私が前線に立っていた頃とは、艦隊の運用思想がかなり異なるようですね」

山口「そうですね。貴方は空母艦載機による飽和攻撃を戦術の主眼に置かれたようですが。私は、空母は制空権の確保、沈没まで至らずとも敵の漸減を目標としました。爆撃パターンは貴方の考案したものをそのまま使用させて頂いていますが」

提督「……敵を撃破ではなく、敵戦力の漸減で留め、あくまで随伴艦の砲撃で決着を着けるという事ですか」

山口「御察しの通りです。これで、ほぼ全ての空母・軽空母がポテンシャルを発揮できています」

提督「……」

飛龍・蒼龍『準備完了しました。命令待機中です』

山口「始めてくれ」

飛龍・蒼龍『了解。訓練を開始します』

遠くで二人の空母が艦載機を発艦させてゆく。

819: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/11(土) 00:25:24.00 ID:qBzKzBW/0
提督「(……あくまで、艦載機は直線的な機動だな。その分、艦戦の数を増やす事で敵に対処するという事か……)」

山口「猛追する敵に対し、艦爆や艦攻をループ・バレルロールで逃がしつつ、艦戦を敵艦載機のケツに捻り込む……貴方の空母がしていた事です」

提督「……」

山口「しかし、多数の艦載機で同時にそんな事を出来るのはほんの一握りだけ。赤城や加賀以外に、満足にそれを行える艦娘が存在しましたか?」

提督「……」

山口「貴方は、空母以外には対空兵装を積んで支援させた。他にも、艦娘に格闘戦の基礎を叩き込んだ」

提督「……」

山口「時代は変わりましたよ、英雄提督。最早、空母以外に対空兵装を装備する事はありません。複雑な航空機動も、艦娘の肉弾戦も必要無いんです」

提督「……」

山口「それで戦果を上げる時代は終わりました。……今の私の戦術は全ての艦娘にとって有効な戦術であると、自負しております」

提督「……そうですね。私もそう思います」

山口「……貴方も変わりましたね。昔のあなたは、自分の戦術にもっと自身を持っておられた」

提督「貴方の仰る通り、時代は変わりましたから」

山口「……」

820: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/11(土) 00:27:17.94 ID:qBzKzBW/0
提督「当時は艦娘が出現して間も無い頃でしたから、その殆どが未熟でした。敵との相対速度が20ノットから30ノットの状態で、遠距離から人間大のサイズの的に砲撃を当てられる者が一体どれ程存在したのか」

山口「……」

提督「当然接近する必要がある。その時の護身にと教えた格闘術が役に立ったから、それを体系化したまでの話です」

山口「……」

提督「まぁ、砲撃がそんな状態でしたから、被害もかなり出ていました。遠距離戦の訓練をしようにも、人間に艤装を使っての訓練法などわかるはずもありませんでしたから」

山口「……」

提督「……艦娘黎明期の空母達は、自分でも艦載機をどう扱って良いものかわかっておらず、軍にとってもただのお荷物でした。しかし私は、空母に遠距離戦闘の活路を見出した。なんとか使った結果……後の主張派の大失態に繋がる訳ですが」

山口「……」

提督「艦娘の練度が向上し、砲撃が精密になった事は非常に喜ばしい事です。無駄な装備も要らず、空母に無理を強いる事も無い、良い戦術だとお見受けします。私の戦術は、皆が暗闇を手探りで進む中、間違った方向に明かりを灯したようなものですから」

821: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/11(土) 00:32:00.73 ID:qBzKzBW/0
………
……



訓練所内


蒼龍「ふぅーちかれたー。途中から雨も降ってきて最悪だったね」

飛龍「艦載機をコントロールするの、中々大変なのよね。これで英雄提督が満足してないとか抜かしたら……」

山口「二人とも、ご苦労」

飛龍・蒼龍「はっ!」ビシッ

山口「楽にしてくれ」

飛龍・蒼龍「はい」

山口「英雄提督は先程御帰りになられた。お前たちの事を褒めてらっしゃったよ」

飛龍「……褒められてもねぇ……」ボソッ

蒼龍「……飛龍!」ボソッ

山口「……艤装は工廠に回しておこう。今日はもう上がって構わん」

飛龍・蒼龍「はい!ありがとうございました!」
タッタッタ……

山口「……間違った方向に灯した明かり、か……」

山口「かつて一世を風靡した英雄提督様にそんな事を言われると、不安になるな……全く」

834: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/12(日) 00:14:56.56 ID:NnYhm5/N0
訓練所前


強い雨の中、訓練所の軒下でそれをやり過ごそうとしている男が一人。

提督「……風情の無い雨だな」

男の呟きは、水滴が地面を叩く乱暴な音に掻き消された。

提督「暫く待つか」

ふぅ、と溜息をつき、壁にもたれかかる。
しかし、一向に雨の止む気配は無かった。
侘び寂びの欠片も感じられない雨音に、提督がそろそろウンザリしてきた頃。来訪者があった。

榛名「提督。ここにいらっしゃったのですね」

提督「……榛名」

蛇の目傘を差す彼女は、雨の中から現れた。その手に、明らかに男物と分かる大きな番傘を携えて、こちらへと駆け寄ってくる。

835: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/12(日) 00:16:46.17 ID:NnYhm5/N0
提督「助かる。よく場所がわかったな」

榛名「榛名は、提督の秘書艦ですから」

少し胸を張り、そう得意げに言う彼女は、機嫌が良さそうだ。どうぞ、と笑顔で提督に番傘を手渡す。
ありがとう、と礼を言い番傘を受け取る提督。その時、榛名の手が濡れて氷のように冷えている事に驚き。次いで、榛名の服もずぶ濡れである事に気が付いた。

提督「……すまない。随分と探させたようだ」

榛名「いえ、大丈夫ですよ」

提督は、相変わらずニコニコしている榛名に再度礼を告げた。

836: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/12(日) 00:18:03.02 ID:NnYhm5/N0
提督「……所で、不知火とは一緒じゃないのか?」

榛名「急な雨だったので……抜け出してきちゃいました……少し、お話しておきたい事もありましたので」

提督「……一声掛けてきただろうな?」

榛名はその問い掛けに答えず、少し申し訳無さそうに、えへへ、と笑った。

提督「……言い付けは守ってくれ、榛名」

眉間に手を当て、提督は榛名を咎める。それに対し、榛名は少し慌てて言葉を発した。

榛名「そ、その!お話したい事が不知火さんの事でして……」

提督の表情が少し硬くなる。

提督「そうか。……宿舎に帰りながら聞こう。あそこなら、替えの服も風呂もある」

そう言って、提督は黒く、大きな傘を開き、二人は雨の中を歩みだした。

837: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/12(日) 00:24:25.94 ID:NnYhm5/N0
途端に激しい雨が彼らを包む。提督は、飛来する雨粒の冷たさに耐え兼ね、左手を上着のポケットに突っ込んだ。
その様子を少し後ろで見ていた榛名は、何かに気付き、考え込む様な表情になって、間も無くそれは小悪魔的な笑みに変わり。

そして突然、提督に向かってつんのめった。

真っ赤な蛇の目傘が宙を舞う。提督はそれを視界の端に捉えた。

提督「……!っと……」

反射的にポケットから出した左手は、榛名の右手を握ることに成功。
鮮やかな蛇の目傘が水溜りに落ちる頃、榛名は提督に抱き留められるような体勢になっていた。

榛名「……ごめんなさい」

暫くの沈黙の後、えへへ、という笑みと共に榛名は謝る。

提督「気をつけろよ」

そう言って、提督は左手を離そうとしたが、榛名は繋いだ右手を頑なに開こうとしなかった。
予想しなかった抵抗に、驚いた提督が振り向く。榛名はその両目をじっと見つめながら告げた。

榛名「……傘が、ダメになってしまいました」

その視線は、冷たい雨の中、どこか熱を帯びていた。

848: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 12:47:37.85 ID:3e4FYGJeO
バケツをひっくり返したような土砂降りの中を走る影が五つ。

龍驤「サイッアクや!何やねんこの雨!」

日向「やれやれだな……」

北提の艦娘達である。

響「自主訓練しないと、って飛び出したのが裏目に出たね」

瑞鶴「そもそも誰かさんが道を間違えるからっ……」

龍驤「しゃあないやろ!唯一鎮守府の地理を把握してる加賀が、今日はボーッとしてんねんから!」

反対側を指差して、多分こっちって言われたらどうしようもないやろ……とボヤく龍驤。

加賀「上々ね」

龍驤「やかましいわ!」

ギャアギャアと騒ぎながら駆け抜ける五人組は、どうやら訓練所を目指しているようだ。

849: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 12:49:41.00 ID:3e4FYGJeO
龍驤「ヤバイヤバイ……濡れスケ状態やで……」

瑞鶴「フルフラットだし大丈夫よ」

龍驤「何がやねん。お前も変わらんやろ甲板胸」

瑞鶴「……」

殺気のこもった瑞鶴の視線を、龍驤は軽くいなす。

日向「しっかし、始める前からこうもずぶ濡れだと、訓練へのやる気も削がれるな……」

龍驤「自主訓練やしなぁ。もう風呂行かん?」

瑞鶴「それ、賛成」

響「ダメだよって言いたいところだけど……空母にこの土砂降りはキツイよね。艦載機飛ばせるの?加賀さん、いける?」

850: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 12:51:20.52 ID:3e4FYGJeO
加賀「……え?……問題ないわ」

瑞鶴「いやいや離発着困難でしょ……」

響「……全然話聞いてないね……なんでこんな状態に?」

龍驤「よーわからん。昨晩部屋を出て行ったと思ったらニヤニヤしながら何かを持って帰って来てな。
それからずっと、えろうご機嫌やけど上の空や」

大げさなため息と共に告げる龍驤。

龍驤「……しっかし、あんなニヤけた加賀、初めて見たわ」

加賀「……」

加賀は無言で龍驤を小突いた。

龍驤「イタッ!なんでこんな時だけちゃんと聞いてるんや!」

うがー!と気炎を吐く龍驤。少しだけトゲトゲしかった空気が弛緩した。ふふふ、と誰からともなく笑みがこぼれる。

日向「……お?あれは訓練所じゃないか?」

日向が前方の、靄がかっている大きな建物の影を見つけた。
逸る心と、叩きつけるような雨への鬱憤が自然と彼女らを浮き足立たせる。

852: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 13:11:05.26 ID:3e4FYGJeO
その瞬間は唐突に来た。
訓練所へ急ぐ集団と、訓練所から離れる者。土砂降りのせいで、広くない道幅であるにも関わらず、お互いにかなり接近するまで気が付かない。
両者がすれ違うその時、先頭を走る龍驤は、視界に入った物を判別する事なく走り去った。続く日向もチラリと人影を見たが、気に留めた様子はない。響に至ってはそれを見ようともしなかった。

だが。
加賀は。

番傘が一つ。
その下に人影が二つ。
向かって右方、その影の動きが、何故だか自分の注意を惹きつける。
背筋を伸ばして歩くその男は。

傘が揺れ、視線が交錯するその瞬間。
突如、稲光。
雨のカーテンに、提督の姿がはっきりと浮かび上がる。その左腕に縋る榛名と一緒に。
雨の音も何もかもが消える、一瞬の静寂。
加賀の鮮やかな栗色の瞳が、大きく見開かれた。
そこへ、光を追う轟音。
跳ね上がった心臓はその為か、あるいは。

提督は、加賀の視線から逃れるように目を逸らし、顔は傘の中に隠れてしまった。
その歩みの速度は変わらないままに、両者はすれ違う。

加賀は思わず足を止めた。否、止まってしまった。過ぎ行く黒い番傘に、目は釘付けとなって、首を引く。
体を叩く雨が痛い。時間がゆっくりと過ぎる。視界から番傘が消えそうになる。更に上体を捻る。呼吸が詰まる。
それでも見つめる。

しかし。
提督が振り向く事はあらず。
加賀の小さい呟きは雨音に吸われ、ただ二人は離れるのみ。

863: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 23:32:27.94 ID:Wgr8l8Cj0
すれ違い様に見えた榛名の横顔は、幸せそうだった。

様々な思いが一瞬で胸を去来し。
冷徹の仮面が落ち、感情が溢れ、泣きそうになって。

その時、加賀は後ろから走って来ていた瑞鶴に、高速で激突された。
不安定な姿勢から突き飛ばされる加賀。抱いていた感情は、その時思わぬ形で表に出た。

加賀「痛い……!」

それは、普段加賀の発する事がない声色。最も幼稚で本能的で単純な心の発露。

驚いて振り返る龍驤ら。
加賀は強かな雨の中、うつ伏せのようになって、腕で上体を起こしていた。

864: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 23:34:08.68 ID:Wgr8l8Cj0
その声は提督の耳にも届き、彼の歩みを縛った。
息が詰まる。
どうやら加賀は転んだらしい。
加賀の声が体の中を反響して、振り返りたい衝動に駆られる。
加賀は足腰が悪いのだ。今すぐ駆け寄って、無事を確認してやりたい。
しかし、提督は真っ直ぐ前を向いたまた、眉根を寄せて目を瞑り、唇を噛んでその感情をやり過ごした。
そんな提督と後ろの加賀を、榛名は不思議そうに交互に見比べる。

榛名「提督?」

小さく首を傾げ、愛しい人の顔を下から覗く榛名の目には、提督の行動が些か奇異に映った。まるで、何かを我慢するような仕草は、何を示しているのか。

提督「……いや……」

提督は榛名の声で、ふ、と我に帰った。
その背後では、龍驤や日向がうわずった声で加賀に何やら話しかけている。だが、あれだけ仲間が居るのなら、大丈夫だ。そう自分に言い聞かせ、提督はその場を離れようとする。
その時、あの声がもう一度聞こえた。ザァザァと、自己主張の激しい雨の中、決して大きくない、加賀の声がはっきりと。

加賀「痛い……」

提督の呼吸が震えた。
瞳が揺れ、目が泳ぐ。
榛名には、その声は聞こえなかった様子で、いよいよ怪訝な表情になった。提督の左手を掴む手に、少し力がこもる。

提督は再び立ち止まった。
逡巡の後、彼はチラリと後ろを伺う。我慢出来ずに。
再び交錯する視線。
自分を取り囲み、心配する仲間を他所に、加賀は提督だけを見つめていた。いつか見た、泣きそうな顔で。
それは雨粒のカーテン越しに、やけにはっきりと見えた。

提督「……すまない、榛名。傘を頼む」

865: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 23:36:34.73 ID:Wgr8l8Cj0
榛名「え?」

確かに掴んでいた提督の左手は、驚くほど簡単に、スルリと榛名の元から抜け出した。
突然の事で榛名が呆気にとられているうちに、番傘を半ば押し付けるように彼女へ渡し、提督は雨の中を駆ける。加賀の元へ。

龍驤「ちょ、加賀!立てるか?」

加賀「……」

瑞鶴「……ごめんなさい……!」

日向「落ち着け、瑞鶴……とりあえず加賀を濡れない所へーー」

沈黙を貫く加賀に、北の艦娘達は焦りを募らせるが、それも提督の到着までだった。

提督「……すまない、少し退いてくれるか」

日向「!」

加賀「……ていとく」

提督「何処が痛む。腰か、足か」

加賀「……わからない」

提督は無言で加賀を抱き上げた。

加賀「ぁ……」

提督「この状態でどこか痛むか」

加賀「いえ……」

提督「……良し。取り急ぎ、私は加賀を船渠まで運ぶ。北の艦隊にも同行願いたい」

日向「……わかり、ました」

提督「ありがたい。……榛名!ドックに行くぞ!」

礼を述べた後、提督は少し遠くで佇む榛名に向かって大声で告げた。
ややあって、わかりましたー!と反応がある。
よし、と提督は呟き、加賀を抱いたまま船渠へと向かった。

ああ、私はこの人に甘えてしまった。
この人は、やっぱり優しい。
不思議な安心感を加賀は覚えた。
提督の首に手を回し、姿勢を安定させる。
チラリとこちらを確認する提督と目が合った。こんな近くで。私を案じて。
それが加賀には、堪らなく嬉しい事だった。

866: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 23:38:42.94 ID:Wgr8l8Cj0
船渠は訓練所に程近い場所にあり、所謂風呂のような出で立ちで、さながら湯治を行っているかのように艦娘を癒す。
北の艦隊と提督及び榛名は、道中全員が全くの無言で船渠まで来た。ただ一人、加賀だけは安らかな雰囲気に包まれていたが。

提督「着いたな……」

提督はドックの中に入ると、加賀をいきなり入渠させず、艦娘が各々のコンディションチェックに用いる個室の前まで運んだ。

提督「これから少し加賀の状態を確認するが……北の艦隊から誰か一名、残ってくれるか。その他は、ずぶ濡れだから風呂に入ってこい。北提には私が連絡を取る」

瑞鶴「……私が、残ります」

日向「私も残ります」

龍驤「ぜ、全員残ります!」

提督「……どうせ加賀は入渠させるが」

日向「それまで待ちます」

提督「……ではそこで待て。榛名も頼む」

日向「あの」

提督「……なんだ」

日向「部屋はお二人だけ、ですか」

加賀と提督が密室で二人きりになる事に危険を感じたのか、日向が提督に尋ねる。
それには提督が口を開くよりも先に、加賀が反応した。

加賀「大丈夫」

日向「っ……」

提督「……という事だ。暫し、加賀を預かる」

そう言って、提督は加賀を抱いたまま個室へ入った。

867: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 23:41:37.62 ID:Wgr8l8Cj0
加賀を、部屋の真ん中に置かれた台の上に寝かせ、その状態で問う。

提督「どこが痛む?」

少し考え、首を振る加賀。仕方が無いので、提督は。

提督「少し、脱がせるぞ」

加賀「ん……」

提督は手慣れた様子で、濡れそぼり加賀の肌に張り付く着物を脱がしてゆく。その下から現れる肢体もやはり濡れて、部屋の照明に艶かしく光った。

下着だけになった加賀を見て、思う。決して綺麗な体では無いと。
その肌は戦闘や訓練の傷跡が目立ち、かつて酷いダメージを受けた脇腹から太ももにかけては白く変色している部位も多い。
女性らしい部分といえば、その胸の豊かな膨らみだけで、体躯は基本的に細く、そして筋肉質である。
決して綺麗では無い。しかし、これは美しい。提督は思う。生きている証だと。

868: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 23:43:13.09 ID:Wgr8l8Cj0
加賀「あの……提督……あまり見られては、恥ずかしいのだけれど……」

頬を薄っすらと染め、恥ずかしさに身を捩る加賀の瞳に、提督の姿が写る。濡れて張り付く髪が煽情的だ。
しかし、提督はそんな加賀を直視して尚動じず、冷静に答えた。

提督「今更気にする仲でもあるまい……それよりも、腰と足のサポーターはどうした」

加賀は少し困ったような顔をした。

加賀「……最近調子が良かったから……」

宿題を忘れてしまった子供のような顔で、上目遣いのまま告げる。

提督「仲間に隠しているのか?故障の事を」

加賀「……そういうことではなくて……あれ、蒸れるの……すごく……」

提督「……とりあえずプラスチックテーピングで固定してから入渠させる。良いな」

提督はやれやれと言った風で、個室に据えられた引き出しから耐修復液仕様のテーピングテープを取り出した。

869: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 23:44:29.89 ID:Wgr8l8Cj0
そして提督は加賀をうつ伏せになるように転がし、告げる。

提督「下、脱がすぞ」

加賀「……はい」

赤面し、もぞもぞと動く加賀をよそに、提督は手早く下着を外した。
やはり筋肉質な臀部が露わになる。

提督「確かお前がダメなのは大腰筋と大臀筋、大腿筋あたりだったな……」

提督は事務的な動きでテープを次々と貼っていった。

提督「……きちんと食事は取っているか」

提督はテーピングする手を止めずに問う。

加賀「……ええ」

加賀もうつ伏せのまま答える。
それから暫く、提督は加賀に質問を重ねた。今の艦隊はどうか、司令官はどうか、無理はしていないか……
他愛も無い物ばかりだが、全て自分を慮る質問だった事を、加賀は覚えている。

提督「……そう言えば、酒を飲み過ぎて暴れたりしてないだろうな」

加賀「……」

提督「お前……」

加賀「……あなたを、悪く言う人が悪いのよ」

870: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/13(月) 23:46:26.19 ID:Wgr8l8Cj0
背面の固定を終えた提督は、はぁ、と溜息をついて、仕置とばかりに前触れも無く加賀を裏返した。躰が露わになる。
突然の事に、彼女の口から、やっ……と小さな声が漏れ、咄嗟に腕で顔を隠した。

提督「少し我慢してくれ」

提督はそう言い、太ももにテープを手際よく貼っていく。
内股に手が擦れる度、ん、と加賀の口から吐息が漏れた。
暫くの間、無言の空間にテープをロールからはがす音と、加賀の吐息だけが響く。
最後のテープを貼り終えると、提督は戸棚からバスタオルを取り出し、加賀に被せた。

提督「そのまま入渠してこい。それで良くなるだろう。……あと、隠している訳でないのなら、今日からはきちんとサポーターを着けろ。良いな」

そのまま提督は部屋から出て行こうとする。

加賀「……提督。あなたはーー」

提督「……なぁ、加賀」

提督は言葉を重ねる事で、強引に加賀を遮った。そして、ドアに手を掛け、困ったような笑顔を加賀へ向ける。

提督「その、なんだ。……すまない」

その微笑みは水平線に沈み行く夕陽のように、儚くて。そして、優しかった。

加賀「……待ってーー」

提督は加賀の声を最後まで聞かずに部屋を出てしまった。

加賀「……提督……」

残された者の感じる寂しさは、まるで夜。

887: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/14(火) 20:10:21.42 ID:rAIsVEii0
バタン
提督「……処置は済んだ。誰か、中の加賀に肩を貸してやってくれ」

瑞鶴「……!」ダッ

龍驤「瑞鶴!まちーや!」テテテテ

提督「響。入渠申請は加賀の名前で出しておいたと、加賀にそう伝えてくれ」

響「……わかりました」タッタッタ

提督「ああ、日向は行くな。少し残れ」

日向「……はい」

提督「榛名、問題は無かったか」

榛名「榛名は大丈夫ですよ」

提督「すまんな……日向、北提の現在地は何処だ」

日向「はっ……中央作戦司令室より召喚を受けております」

提督「そうか。加賀の状態は思ったより悪く無い。緊急連絡を取る程でもないだろう。作戦司令室の意向を妨げる訳にもいかんしな……
ドックからも連絡が行く筈だが、お前の口から直接、北提に私が処置した旨を伝えておいてくれ。
あの程度なら、それで事足りる筈だ」

日向「……はっ」

提督「頼んだ。行くぞ、榛名」

榛名「はいっ」

提督「……ああ、そうだ。これを渡しておこう」

日向「……?」

提督は紙片にその場でサラサラと何かを書きつけ、日向に手渡した。

提督「私の電話番号と宿舎の場所だ。併せて伝えておいてくれ」

日向「はっ」

提督「ではな」

入口へ向かうと、船渠の外は相変わらず、雨が降っている事がわかる。
提督が引き戸を開けた時、後ろから微かに加賀の聲が聞こえた気がする。

提督「……いや、雨の音だな」

榛名「?」

提督「行こう」

榛名「はい」

提督と榛名は、雨の中へと踏み出した。
ザァザァと、降る雨の中へ。

888: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/14(火) 20:11:29.59 ID:rAIsVEii0
………
……



戦闘の結果、余りにもダメージが深く、艦娘単独での本体の生命維持に問題がある場合。艦娘は工廠に隣接した場所に運び込まれ、集中的に補修が行われる。

それ以外の場合はここ、船渠の入渠スペースだ。
ここは四つの修復液に満たされた一人用浴槽と、通常の大浴槽一つで構成されている。
修復浴槽は、主に艤装が大破や中破したが、生命維持に問題の無い艦娘が体の傷の治癒に用いる。
大浴槽は普通の風呂である。
今も、大浴槽で寛ぐ艦娘が二人……


飛龍「あぁ〜あったかい〜訓練後は此処に限る。今日は厳密には違ったけど」

蒼龍「風呂はいいねぇ」

飛龍「雨が止むまでここに居たい」

蒼龍「あんまり長くはダメだよ、長門さんがまた怒るって」

飛龍「良いじゃん良いじゃん。牛乳飲んでゆったり過ごそうよ〜」

蒼龍「ダメだって……こないだ、あの人が胃薬飲んでるの見ちゃったよ、私……」

飛龍「あの人は自分から苦労しに行くねぇ」

蒼龍「中央作戦司令室付きの艦娘なんだし、何かと、ね」

飛龍「ま、一艦娘の私達には関係ありませーん」

蒼龍「もう……」

ガララと、引き戸を引いて、三人組が現れた。両肩を瑞鶴と龍驤に支えられた加賀である。

瑞鶴「加賀さん、足元気をつけてね……」

加賀「……ええ」

龍驤「ちょ、ほんま頼むで……」

飛龍「(……誰が入って来たかと思ったら、加賀かぁ)」

蒼龍「……」

龍驤と瑞鶴は、そのまま加賀を修復浴槽に注意深く入れた。

889: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/14(火) 20:12:22.78 ID:rAIsVEii0
加賀「ごめんなさいね」

瑞鶴と龍驤、後から来た響は通常浴槽に入った。

瑞鶴「いや……ほんと、私の不注意で……」

加賀「それは私が急に立ち止まったから。自分を責めないで」

龍驤「まぁまぁ。雨も降ってたし!おあいこってことで……」

瑞鶴「……」

龍驤「ほら!加賀も愛しの提督と近付けたし……」

加賀「……そうね」

瑞鶴「……それでっ!加賀さんが怪我したら意味ないよ!いくら、英雄提督に会えても……」

加賀「……」

飛龍「まーた英雄提督かぁ……」ボソッ

蒼龍「ちょっ……聞こえるよ!」ヒソヒソ

890: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/14(火) 20:13:36.83 ID:rAIsVEii0
加賀「……久しぶりね、飛龍、蒼龍」

飛龍「久しぶり。北提のとこに配属決まって以来だっけ。加賀は、まだ提督のおっかけしてるんだ?」

加賀「……」

飛龍「てか、本格的に振られたの?」

蒼龍「ちょっと……」

飛龍「だって未だに、北提のとこにいるみたいだしぃ。航空戦術のお披露目も私がやる事になったしさぁ。加賀に頼めば良いのにーって思ってたんだよね」

加賀「……!」

飛龍「……そういえば、加賀。あなたの航空訓練のスコア、見たよ。
数年のブランクと怪我の所為で満足に訓練こなせてないのなら仕方ないけどさ……」

飛龍の、それまで浮かべていた薄ら笑いが消え、顔が昏くなる。

飛龍「ちょっと酷すぎだよね?案外、そういうとこを見てんのかもよ、あの計算高い英雄サマは」

加賀「……ッ」ギリッ

891: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/14(火) 20:16:10.33 ID:rAIsVEii0
瑞鶴「ま、待って下さい……!加賀さんは、訓練での目標達成率90%ですよ?勘違いなさっているのでは……」

飛龍「んー?あなたが瑞鶴?」

瑞鶴「は、はい」

飛龍「……呆れた。加賀、どういう教育してんの?」

瑞鶴「なっ……」

飛龍「アッハッハ!一つ教えてあげるよ、ひよっ子。あんな訓練なんか、達成率100%が当然……一人前ならね」

瑞鶴「……」

飛龍「ダメダメだなぁ、加賀。……も、上がろっか、蒼龍」ザバー

蒼龍「……ん」ザバァ

飛龍が浴槽から出て引き戸に手を掛けようとした時、外側からガララと川内が戸を開いた。
川内は飛龍を見るなり、嫌そうな顔をして声を上げる。

川内「出た、気違い!」

飛龍は不敵な笑みを崩さず、答える

飛龍「何を自己紹介してんのさ、川内」

川内「……相変わらず言ってる事が、頭おかしいなぁ……」

飛龍「ハッ!冗談は顔だけにして欲しいね」

川内「……寝言は寝てからーー」イラッ

飛龍「アッハッハ!やっすい挑発に乗るなよ川内。だからお前はいつまでも夜戦隊なんだ。ほら、どいたどいた」

飛龍は苛立つ川内をドンっと押し除けて、脱衣所へと消える。
その後、入渠スペースに川内が入り、戸をピシャリと閉めた。

892: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/14(火) 20:25:33.62 ID:rAIsVEii0
川内「気分悪……お?じゃじゃ馬と仲間達じゃん」

川内はザブザブと浴槽に入りながら話しかける。

加賀「……」

川内「なんか機嫌悪いなぁ。気違い飛龍になんか言われた?それか提督に振られた?」

加賀「……」

川内「アタシも提督の事ストーキングしてたら榛名にバレてさー。雨の所為で撒かれちゃった。それでビショビショになったから来たんだけどさ。不覚不覚。アハハ」

加賀「……」

川内「……皆だんまりかよー。面白くないなぁ。なんか言えよー」

瑞鶴「……質問、良いですか」

川内「お、いいよ」

瑞鶴「……あのお二人って何者なんですか?」

川内「飛龍と蒼龍?アイツらは今の第一艦隊、第一機動部隊の空母様だよ。つまり、今んとこ最強の一角、だけど……」

瑞鶴「え……」

川内「知らないんだ?意外」

龍驤「ウチは知っとったけど……」

響「瑞鶴って結構そういうのに疎いよね……」

瑞鶴「……」

川内「例えば、今の加賀、故障抱えてるし比較にならないけどー。今の飛龍は、全盛期の加賀より強いと思うよ」

瑞鶴「……!」

川内「でもアイツ、それは味方殺しちゃってからーー」

龍驤「え?」

加賀「川内!」

893: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/14(火) 20:26:38.88 ID:rAIsVEii0
川内「……や、ごめんごめん。忘れてー。てか、加賀。そこで入渠してるって事は大破でもしたの?飛龍にやられたとか?」

加賀「……」

川内「聞いちゃいない……はぁぁぁぁ……
あ、そうだ。加賀。全く話題変わって、提督をストーキング中に聞いたんだけどさ」

加賀「……あなた、よくその単語を臆面なく使えるわね……」

川内「まぁまぁ。聞いてよ。その内容がさーー」

ーーーーー

提督『……で、不知火の話とはなんだ、榛名』

榛名『はい。この間、不知火さんと二人で居た時の事なのですが……少し、提督に対して不信感と言うか……不安と言うか……。
苛立ち。そう、苛立ちを抱いている様子が垣間見えました』

提督『……そうか……』

榛名『その事をご報告しておかねば、と思いまして……』

提督『それは有難い、が……余計に不知火を一人にして欲しくなかったな』

榛名『うー……ごめんなさい……』

ーーーーー

川内「って」

894: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/14(火) 20:33:16.19 ID:rAIsVEii0
加賀「……」

川内「榛名の奴、不知火を出し抜いて、提督と二人きりだぜ?なんとかなんない?」

加賀「……何故、それを私に言うのかしら。(というか、着目すべき点はそこでは無くて……)」

川内「不知火と仲、良いだろ?」

加賀「……だったら、何?」

川内「なんか、作戦、練れない?」

加賀「……出来たとしても、お断りね。提督にご迷惑がーー」

川内「迷惑。迷惑?アハハ」

ザバァと、浴槽から上がり、川内は加賀に近寄った。そして、耳元で加賀にだけ聞こえるように囁く。

川内「……ワザとコケた、イケない艦娘が今更何を、言ってるのかな」

加賀「……!」

川内「本当は、ポッと出風情が何故提督の横に、とか思ってんだろ?」

加賀「違っ……」

川内「提督の気を惹く為の、加賀のあんな声……痛くない癖に……やらしいなぁ……」

加賀「……五月蠅いっ」

腕をブンッと振って、川内を遠ざける。

川内「おっとっと」

龍驤「ちょ、川内はんとやら!加賀さんをあんま動かさんといて!」

川内「……ごめんごめん。アハハ」

川内は元の湯船に戻った。

川内「ま、考えといてよ……アタシも協力、するからさ……」

川内はニコニコしていたが、その実、目は全く笑っていなかった。

923: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:14:34.24 ID:/AUn5jAw0
家路


雨の中。
ずぶ濡れの二人が、一応傘をさして歩いている。

提督「(不知火の話、気付いていない訳では無かった……が)」

提督「(……やはり、新人教育を、赤城と愛宕に任せるべきでは無かった)」

提督「(不知火の自信の無さの原因は、そこにある、か……クソ、本当にあの頃の俺は周りが見えて無さ過ぎた……!)」

提督「(……それよりも、帰路に宿舎へ電話しても、不知火が取らなかった……今はそれが怖い)」

榛名「っ」クチュン

提督「……帰ったら、早めに風呂であったまってくれ。
(……鎮守府内の誰でも利用できる船渠に、この娘を入れるのはちょっとな……)」

榛名「ごめんなさい……ご迷惑、でしたよね」

提督「そんな事は無い。助かったよ」

榛名「本当ですか?」

提督「ああ」

榛名「……良かったです」

提督「(そう……助かった、助かったんだが……)
そろそろ宿舎だな……」

924: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:15:48.47 ID:/AUn5jAw0
榛名「あ、ほんとです……ね……」

霞む遠方の中、宿舎の影が見えた。
しかし、宿舎前にあるものを見て、榛名の言葉が尻すぼみに消えた。

榛名「……あぁ……」

苦虫を噛み潰したような顔。
その視線の先には。

提督「(……まぁ、こうなる、か)」

雨の中。
不知火は一人。
傘もささずに佇んでいた。

不知火「……お帰りなさい……」

提督「……只今帰った」

不知火「ご一緒、だったんですね」

榛名「……ごめんなさい……」

不知火「……いえ、無事でしたら、それで……」

提督「取り敢えず、中に入るぞ」

925: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:16:58.37 ID:/AUn5jAw0
宿舎内


提督「榛名、お前たちの部屋に備え付きの風呂に入ってこい」

榛名「いえ、不知火さんが先に……」

提督「不知火は俺の部屋の風呂に入れる。行ってこい」

榛名「それでは提督がーー」

提督「良いから入ってこい」

榛名「……わかり、ました」シュン
バタン

提督「来い、不知火」

不知火「はい……」


提督の部屋


ガチャ
提督「私は着替えで済ませる。風呂を使え」

不知火「……またしても、榛名を一人に……申し訳、御座いません……」

提督「榛名の勝手な行動だと聞いている。気にするな」

不知火「……」ギリ……

提督「……不知火。まずは風呂に入ってこい。頭を冷やせ」

不知火「……はい」
テクテク……

提督「(……どうしたものか……不知火の不安定さに対して、恐らく榛名がイニシアチブを握ろうとしている)」

提督「(不知火に、艦娘達を纏め上げて欲しかったが……荷が、重かったか)」

提督「(……いや……この言い方は良くないな。不知火は決して無能ではない……無いんだが……)」

提督「……」

926: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:18:27.38 ID:/AUn5jAw0
………
……



鎮守府庁舎、執務室


コンコン
山口「山口、出頭致しました」

中央長官「入れ」

ガチャ
山口「失礼します」

中央長官「英雄提督はどうだった」

山口「良い感触は有りませんでした。やはり、大反攻戦が尾を引いている様子で」

中央長官「奴も人間だったと言う事か。事後処理を誤ったな……」

山口「……」

中央長官「ふむ、彼がああだと……来るであろう赤城への対処に加賀が使えるかと思って、アレを渡したが……早計だったか?」

山口「……お言葉ですが、加賀よりは飛龍の方が……」

中央長官「そんな事はわかっている。飛龍と蒼龍で赤城を撃破出来ればベストだ。だが、戦力が多いに越した事は無い。特に、加賀と提督の組み合わせならな」

山口「……」

中央長官「……赤城の演習を見た事があるが、一人だけ異次元だった。しかもアレは英雄提督の右腕として、戦術も把握している。
記憶がそのままだとすると、赤城自身が無傷の第一機動部隊と積極的に事を構えるとは考えにくい」

927: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:20:11.34 ID:/AUn5jAw0
山口「……」

中央長官「そこで、だ。来襲される可能性が高い英雄提督。彼に着け、敵戦力を漸減できる最適な艦娘は、加賀だろう」

山口「……確かに、そうですが……北が黙っていませんよ」

中央長官「それは、ネックの一つだな……まぁ、段階を踏ませるつもりだ」

山口「……」

中央長官「対赤城本隊として、左遷島のある南西海域に第一機動部隊を放つ」

山口「……あくまで英雄提督は、餌ですか」

中央長官「……そうとも言える」

山口「……あれは、主張派だったとは言え、現場指揮としては優秀です。何より、人間として戦場に立っています」

中央長官「そんな事は知っている。だが、脅威は赤城だけではないのだ。
少なくとも、赤城は確実に処理せねばならない。多少の犠牲があってもな」

山口「……」

928: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:22:19.85 ID:/AUn5jAw0
………
……



宿舎、提督の自室


不知火「提督、お風呂いただきました」

提督「着替えはそこに置いてある。着たらーー」

ジリリリリリ
提督「電話か。済まないが、風呂から出たら一旦部屋に戻ってくれ、不知火」

不知火「……はい」

ガチャ
中央長官『私だ』

提督「中央長官殿。如何なさいましたか?」

中央長官『少し内密な話がーー』

提督「ーー」

不知火「……失礼しますね」ボソッ
ガチャ、バタン

不知火「……部屋に戻りますか」


宿舎、榛名と不知火の相部屋


ガチャ
不知火「……」

榛名「ぁ……」

不知火「……どうも」

榛名「……」

不知火「……」

榛名「……ごめんなさい、勝手に出て行ってしまって」

不知火「……」

榛名「(やはり、怒ってますね……わかりきった事ですが。まぁ、折り込み済みです)」

榛名「……早く帰るつもりが、途中で提督のお知り合いにお会いして……確か、件の加賀さんでしたか」

不知火「……」

榛名「その方が転倒なさって、それで立てないとかで……提督が処置をなさって……」

不知火「……」

榛名「……あのーー」

ガチャ
提督「不知火、榛名。休んでいるところ悪いが、私は少し急用で出る。留守を頼みたい」

榛名「は、はい」

不知火「……私も少し、外へ」

榛名「……?!」

提督「不知火、今回は私は一人でーー」

不知火「いえ、少し……外の空気を吸いに……」

提督「……そうか。それなら自由にしてくれ。榛名、留守を頼む。抜かりの無いようにな」

榛名「はい!」

929: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:23:04.10 ID:/AUn5jAw0
宿舎前


提督「雨は止んだか……では、私は鎮守府庁舎へ向かう。……不知火、お前は休暇扱いとしておこう。……早めに帰れ」

不知火「はい。提督もお気をつけて」

提督「……ではな。念の為傘は持てよ」カツカツカツ……

不知火「……」

不知火「……また、やってしまいました……本当に、私は……」

不知火「……」

不知火「……適当に、どこか行きますか」


北の宿舎


龍驤「いやー疲れたわ……ありがとうな、日向。着替え用意してくれて」

日向「構わん構わん。お安い御用だ。加賀もすぐに治ったようだし、良かった」

加賀「ごめんなさいね」

響「……北提に入渠の件、報告しないとね。気が重い……」

日向「それは私と加賀で行くさ。他の皆は部屋で休んでてくれ」

瑞鶴「……私も行くわ」

龍驤「……アタシもーー」

日向「あんま大人数で行くのも、な。ぶつかった瑞鶴は兎も角、龍驤と響は休んでいてくれ」

響「む……」

龍驤「……わかった。行こ、響」

響「むー」テクテク

日向「……さて、と。行くか」

加賀「はい」

瑞鶴「……」

930: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:24:53.49 ID:/AUn5jAw0
北提の部屋の前


日向「着いたな……」
コンコン

シーン……

コンコン

日向「……反応がない?取り込み中か?いや、電気はついていたはず……」

加賀「どうかしたのかしら」

日向「……中から少し言い争うような声……?」

瑞鶴「!……少し確認を……」スッ
ガチャ……

日向「おいっ」

北提「いえ……それは……」

日向「なんだ、電話か。出直して……」

北提「……私に加賀を手放せと仰るのですか!」

日向「!」

北提「……しかし……彼女を教官にするなど……!」

加賀「ーー!」

北提「……瑞鶴ではまだ……!」

瑞鶴「……!」

北提「……わかりました。また明日、お伺いさせていただきます。では……はい。……はい」ガチャ

日向「……」
コンコン

日向は、半開きのまま、ドアをノックした。

北提「……!お前たち……聞いて、いたのか」

日向「すまない」

北提「……ノックを……」

日向「一応、したんだが。反応が無かったので、心配になってな」

北提「……」

日向「……加賀の異動の話……電話の相手は、あの英雄提督か?」

加賀「……」

931: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:25:36.11 ID:/AUn5jAw0
北提「……だったらまだ良かったんだけどね……中央長官だよ」

加賀「?!一体何を」

北提「……前線から退かせて、教官にするって……言われたよ……」

加賀「……教……官」

北提「故障があるから、もう戦わせない、と」

加賀「……嘘……」

北提「……」

加賀「……」

北提「……そうだ、ここに来たのは、加賀さんの入渠の件かい?」

日向「……ああ」

北提「大丈夫だった?加賀さん」

加賀「……ええ」

北提「ついさっき、英雄提督から宿舎に電話があったんだ。その件で。サポーターはきちんとしろ、だそうだ」

加賀「……そう」

北提「……」

加賀「……でも、もう関係無いわね。……前線から消えるんだもの」

北提「……教官だからってーー」

加賀「艦娘の教官が、どういうものか、私が一番わかっているつもりよ……戦闘では使えない、旧型、故障艦の行き着く先」

北提「……」

加賀「……」

北提「……まだそうなると決まった訳じゃ無い。……今日は皆、下がってくれ」

日向「……わかった……失礼する」
バタン

加賀「……」フラフラ

瑞鶴「(さっきの話……私は、『まだ』……?まだ、何なの……?)」グッ……

加賀「……少し、風に当たってくるわ」フラ〜

日向「あっ……おい!」

瑞鶴「……加賀さんが、居なくなる……私が、もっとしっかりしないと……」

日向「瑞鶴……?」

瑞鶴「……ごめん、日向。ちょっと行くとこ出来た」ダッ

日向「ちょ、お前もか……」

日向「……ハァ。どうなるんだ……」

932: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:26:34.05 ID:/AUn5jAw0
艦娘酒場


艦娘の酒場がある。
艦娘は休暇中にしか飲酒が許可されていない為、いつも閑散としている。
そんな中、夕方からビールを飲む加賀の姿があった。

加賀「(……この、この私が……!もう、もう、提督の横に立てない……?だったらあの夜……何故……)」

苛立ちに任せて、グラスに半分ほど残っていたビールを一気に飲み干した。

加賀「(……提督も、私を避けるようにっ……なんで、なんで!)」

飛龍の言葉が脳裏に浮かぶ。
『そういうとこも見てんのかもよ?』
ギリッと音の鳴る程、奥歯を噛み締めたのはいつ以来か。

加賀「……もう空っぽ」

空のグラスを見つめていると、急に涙が込み上げてくる。
それを拭い、それを忘れる為に、加賀は酒を頼む。

933: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:27:31.43 ID:/AUn5jAw0
「「……すいません、ビール一つ」」

誰かと注文が被った。
その聞き覚えのある声は背後から。

加賀「不知火……」

不知火「……何してるんですか、加賀さん」

不知火もそこそこ飲んでいるようで、顔が微かに紅潮している。

加賀「……別に」

不知火「……ふーん」

その答えに加賀は苛立つ。

加賀「そちらこそ、何を?」

不知火「……別に」

鸚鵡返しに、負の感情は募る。

加賀「……」

不知火「そいえば、今日、提督に会ったんですか?榛名が言ってましたけど」

空のグラスを握る手に、力が篭った。

加賀「……それが何か」

不知火「……毎日、楽しそうですねぇ」

934: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:28:53.31 ID:/AUn5jAw0
理性がトんだ。

掌の圧力でグラスが破裂する。
目の前の机を蹴り上げ、椅子を蹴飛ばし、加賀は振り返った。
向こう側を向いて座る不知火の肩を乱暴に掴み、こちらを向かせ、背後からテーブルに叩きつける。

不知火「……何か?」

それでも飄々とした態度を崩さぬ不知火。
加賀の思いが爆発する。

加賀「提督に、私は避けられているのにっ……楽しいだなんて……!」

不知火「仕方ないですよ。加賀さん、弱くなりましたし」

煽る不知火。
飛龍の姿が不知火に重なる。

加賀「私が弱くなったから……いけないの……?!」

不知火「そりゃ、そうですよ」

突きつけられた現実に、漏れる嗚咽。
不知火を抑えつけていた力が緩む。

加賀「……今日、艦娘の教官になれと、そういう話があったわ」

不知火「……それは、提督が喜びそうですね」

鼻で笑う不知火に、加賀は膝から崩れ落ちた。
涙が止まらない。

935: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:30:24.83 ID:/AUn5jAw0
不知火「……」

それを見た不知火は立ち上がる。
立ち上がって。
加賀の胸ぐらを掴んだ。

不知火「……何、泣いてんですか……!」

加賀「……?!」

不知火「泣きたいのは……泣きたいのは、こっちだよ!」

不知火が吼える。
加賀の体がビクりと震える。

不知火「本当に自分の事しか見えてないんですか?!何故自分が避けられるか、本当にわからないんですか?!」

ガクガクと、加賀を揺さぶる。

加賀「……提督はっ……わだじを……遠ざげでっ……」

えぐっえぐっとしゃくり上げながら言う加賀の言葉は弱々しい。
不甲斐ないかつての先輩の姿に、我慢出来ずに、まくしたてる。

936: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:31:20.45 ID:/AUn5jAw0
不知火「……そんなのっ!そんなの、あなたを守る為に決まってるじゃないですか!」

937: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/15(水) 23:32:47.67 ID:/AUn5jAw0
加賀「……?」

不知火「あなたが弱くなったから!今のあなたは、深海棲艦化した赤城さん達にきっと殺されちゃうから!
だから、提督はあなたを遠ざけてるのにっ!この、独り善がりの、分からず屋ぁぁ!」

加賀「っ……」

不知火「……五十鈴さんが敵対して、いつ赤城さんが来るかわからないこの状況で、提督があなたに優しく出来ると、本当にそう思ってるんですか……?」

不知火の目尻に涙が浮かぶ。

加賀「……」

不知火「あなたが反攻戦で倒れて!
その治療中、苦労して保守派の中でも穏健な人探してっ!
あなたを北提の元へ送る事に、どれだけ提督が苦労なさったか!」

加賀「……ぁぅ」

不知火「まさか、主張派の艦娘が、偶然あんな甘い上司に着けたと、そう思ってたんですか?」

加賀「……」

不知火「そんなに、そんなに愛されてるのにっ!……どうして……どうして、言わせる、かなぁ……」

957: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/16(木) 20:58:57.14 ID:BUGvYus60
不知火「……提督は加賀さんを遠ざけ、私を近くに置いています。そんなの、そんなのっ!」

不知火「私が沈んでも、大した損失にならないって!私が敵に回っても、大した事がないって!そう、そう言われてるような物じゃないですか!」

加賀「……そんな事はーー」

不知火「私は、私はっ……今日も、ミスを犯しました……二回目ですよ。同じミスを二度も。
目を離すなと言われた人に、二度も逃げられました」

不知火の語気が弱まる

不知火「なのに……なのに……提督は、気にするなと……」

加賀「……?」

不知火「怒らないんですよ、提督は……私を、怒らないんです。それが、それがどれ程の苦痛かっ……!」

加賀「……」

不知火「……あの人は、合理的な人です……その提督が、ミスをしても怒らないんですよ。それって……私がどうでも良いって事じゃないですか」

加賀「……」

不知火「……私は、沈んでも良い、艦娘なんですよ……」

958: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/16(木) 21:09:23.73 ID:BUGvYus60
加賀「……そんなこと、無いっ。あなたは間違ってる」

不知火「……知ったような口を……!」

加賀「私だって疑問だったわ。何故、あなたが側に居るのか。でも、いくら考えても、提督があなたを頼ってるからとしか思えなかった!」

不知火「……何をーー」

加賀「正直、あなたはセンスが無いわ。弱い。そして事務が有能な訳でもない」

不知火「……!」

加賀「……従順で有能なだけなら川内でも良かった……でも、あなたは、提督に選ばれた。あなたが頼りになると、それがあの人の心なのよ……!」

不知火「……そんな訳が……」

加賀「……そもそも、あの人が合理性を重んじるなら、自分に好意を持たぬ、仕事の出来る艦娘を使うでしょう。それこそ保守派の」

不知火「……」

加賀「自己肯定感を、責められる事で得ようとしないで。あの人が怒らないのは、本当に怒る必要が無いからよ。
提督の言葉を信じないで、誰の言葉を信じると言うの?」

不知火「……」

加賀「……愚直で、責任感が強くて、例え弱くても提督が重用なさるあなたが、私は羨ましかった……」

不知火「……」

加賀「……沈んだら困るから遠ざけられる艦娘と、弱くても側に置ける艦娘なら、私は後者が良い。……いえ、艦娘なら誰だって……」

不知火「……」

加賀「……」

不知火「……」

加賀「……」スクッ

不知火「……行くのですか」

加賀「……帰ります」

不知火「……」

加賀「……私もあなたも……人のことばかり……」

不知火「……」

加賀「……さよなら。また、会いましょう」
バタン

不知火「……」

982: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:27:37.56 ID:YrO8cEV80
その頃……


飛龍「(蒼龍が山口さんに連れてかれて、暇ぁ)」

飛龍「山口さんてば、蒼龍ばっかり連れ回してるなぁ。……やっぱ、胸か?!」

飛龍「……ま、面倒じゃなくて良いけどサ。間宮行こっかなぁ……♪」

鼻歌を歌いながら、ぶらりぶらりと雨上がりの夕暮れを歩く。そこに、雨後の湿気た空気を吹き飛ばすような風が吹き、飛龍の髪を撫ぜた。

飛龍「あーきもち……」

間宮の甘味を思うと、自然と唾液が出る。飛龍の足取りは軽く、心は浮ついた。
来訪者があるまでは。
飛龍の元を訪れた者は、その前に立ちふさがり、飛龍の歩みを止めた。
瑞鶴である。

飛龍「……私間宮行きたいんだけど」

瑞鶴「……飛龍さんにお願いがあって来ました」

飛龍「何?」

瑞鶴「私に、戦い方を教えてください」

飛龍「……北のひよっ子は礼儀を知らないのかい?司令官通しな。
大体、加賀が居るだろ。教え方甘いみたいだけど、ひよっ子にはあいつで十分だよ」

瑞鶴「……そこをなんとか、お願いします!」

飛龍「……加賀に大恥かかせる事になるって事、わかってる?北提の顔にも泥を塗ることになるよ」

瑞鶴「……なんとしても、私は!強くなりたい……強くならないと、いけないんです!」

飛龍「ふぅーん。心意気は認めてあげるよ。でもパス」

瑞鶴「……そこを、なんとか!」

瑞鶴は飛龍にすがりつく。
飛龍は嫌そうな顔を隠そうともしない。

飛龍「……しつこいなぁ……」

瑞鶴「お願いします!」

飛龍「私は英雄提督は嫌いだけどさ、加賀に嫌がらせしたい訳じゃ無いんだ。この事は黙っててやるから、もう帰んな」

瑞鶴「……お願い、します!」

飛龍「……」

はぁぁぁぁ〜と長い溜息。

飛龍「私は口先だけの奴は嫌いだ」

瑞鶴「……はい」

飛龍「とりあえず訓練所に行こうか。練度と……根性、見せてもらおう。教えてあげるかはそれ次第」

瑞鶴「……はい!」


ーーそしてこの日、瑞鶴は初めて訓練で血を吐く事になる。
飛龍の教導の代償として。

983: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:32:11.31 ID:YrO8cEV80
艦娘酒屋前、外


ガチャ、とドアが開き、艦娘が一人、酒屋から出て来た。

川内「……もう行くんだ、加賀。早かったね」

その出て来た艦娘に、入り口で座り込んでいた艦娘が話しかけた。

加賀「……盗み聞き?最低ね」

川内「アハハ。そう言うなよ、提督の大切さん」

加賀「……チッ」ツカツカツカ

川内「あ、おーい!どこ行くのさー……あーあ、行っちゃった……折角、瑞鶴がヤバい事してるって教えてあげようとしたのに……」

ガチャ
不知火「……何してるんですか、川内」

川内「あ、提督の頼り人」

不知火「……それが何か?」

川内「……急に自身を得たなぁ……」

不知火「……そう言うあなたは、提督の何なんですか?」

川内「ーーは?」

沈黙。

不知火「……私は帰ります」フンス

テクテク

川内「あ、おい!……って行っちゃったよ……」

川内「やれやれ、ほんと、二人とも素直なんだから……」

川内「……アハッ♪
アハハッ
アハハハハ!」

川内「あいつら馬鹿だなぁ!実に馬鹿だなぁ!」

川内「お互い提督に直接言い寄れば良いのに!無駄な衝突して勝手に理解しあって!ありがたいよ、全く!アハハ!」

川内「単純だなぁ!すぐ、お互いの言葉信じて!」

川内「これで、加賀は北提の元で大人しくなるだろうし!本調子に戻った不知火は、榛名をしっかり管理するだろうし!」

川内「アタシにもチャンスが出来たじゃん!」

川内「アハハ!……ハハ……」

川内「……」

川内「……アタシ、いつから、こんなんなったんだっけ……いつから、かつての仲間の言葉、素直に聞けなくなったっけ……アタシ、提督のなんだっけ……?」

984: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:32:49.15 ID:YrO8cEV80
川内「……クソッ……見苦しいなぁ……」

川内が虚しい気持ちで夕日を眺めていると、酒屋の扉からまた誰かが出て来た。そして、川内に呼び掛ける。

ガチャ
「……おい、お前」

川内「……なんだい?」

不機嫌な川内がギロリと入り口を睨むと、そこには酒屋の主任が居た。

主任「む!その顔は夜戦隊の……また貴様か!」

川内「……げっ」

主任「言い逃れは出来んぞ!よくもまた、店の中で暴れてくれたな!」

川内「……いや、今回は本当にアタシじゃーー」

主任「問答無用!ここに居るという事は、休暇中だな?!さぁ、掃除してもらうぞ!……割ったグラスの分の皿洗いもな!」

川内「えちょ、待って待ってヤダヤダヤダぁぁぁ!」

首根っこを掴まれた川内は、ズルズルと店の中へ引き摺り込まれた。

川内「加賀っ不知火っ覚えてろよぉぉぉぉ!」
バタン!

985: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:33:44.28 ID:YrO8cEV80
鎮守府庁舎


コンコン
提督「失礼致します」

中央長官「入れ」

ガチャ
提督「遅くなり、申し訳ございません」

中央長官「急に呼び出したのは此方だ。気にするな」

提督「は……」

中央長官「……君の居るサセン島に配備されている艦娘は榛名、足柄、不知火に鳳翔。隼鷹と雷は兎も角、戦力だけを見るならば、ある程度揃っているな」

提督「はい」

中央長官「英雄提督。君に命令を下す」

提督「はっ」

中央長官「近く、南方海域に敵主力級の出現が予想されている。
南方方面軍サセン島防衛隊は更に練度を高め、これに備えよ」

提督「はっ!謹んで拝命いたします」

中央長官「ついては、これを渡しておこう」スッ

提督「……?(小箱?)」

中央長官「開けてみろ」

提督「失礼します」ぱかっ

提督「……これは……!……廃棄されたのでは……?」

中央長官「中身に関して、私は一切関知しない」

提督「……」

中央長官「困った事に、もう一箱有ったのだが、加賀が『勝手』に持って行ってしまった」

提督「……それは……しかし……」

中央長官「私は君を理解しているつもりだ」

提督「……」

中央長官「……加賀には本土にて『それなりの』訓練を積ませる。『あくまでも教官とする為』にな。しかし、今後どうするかについては、元上司の、君の意見を大いに取り入れるつもりだ」

提督「……」

中央長官「話が逸れたな……そのことはよく検討しておいてくれ。どうせ直ぐには動かせん」

提督「……はい」

中央長官「さて、赤城らはまだ動きを見せていない。だが、これまでの経験から、君の居場所が判れば、そこに敵が殺到することは予想出来る」

提督「……」

中央長官「今回の会議の結果に従い、情報開示し、今は防衛線を固める。君には、その奥で練度を高めておいて貰おう。今はまだ、息を潜めていろ」

提督「はっ」

中央長官「決戦の際は作戦の決定に伴い、部隊の再編を行う可能性があるだろうが、現時点で編成の変更予定はない。今の艦隊で最善を尽くせ」

提督「はっ」

中央長官「詳しい作戦等は検討の後、追って通達する。……君が今すべき事は、その小箱を持ってすぐさま島に戻り、部下と情報を共有し、防衛戦略を練る事だ」

提督「はっ!」

中央長官「他の南方方面軍とも連携して、抜かりなく頼むぞ。……行ってこい」

提督「はっ!失礼いたします」

986: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:36:07.08 ID:YrO8cEV80
宿舎


コンコン
提督「帰った」

ガチャ
不知火「お疲れ様です」

榛名「お疲れ様です!」

提督「ああ。……急だが、明日の便で島に戻る事になった。準備をしておけ」

不知火「……!そうですか。わかりました」

榛名「はい!」

提督「頼んだ」
バタン


提督の部屋


提督「中央長官も無茶をなさる……こんな物を用意するとは、な」

提督はチラリと手元の箱を見た。

提督「やれやれ、退去に伴う書類の処理を急がねばな……お陰で挨拶に回る暇もない」

提督は部屋の机に座り、書類作業を始める。
暫くして、ふと呟いた。

提督「……いよいよ、現実的になってきたな……赤城達との戦いが」

そう言って、提督は胸元に手を遣り、ペンダントが無いのを思い出す。

提督「……結局、誰に渡したんだか。超硬合金だし、御守りにでもと思ったが……」

987: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:38:15.49 ID:YrO8cEV80
翌日、港


榛名「いやぁ、入港は大変だったのに、出港は緩いもんですね。手続きが……」

提督「そんなものだ」

不知火「提督、お時間の方が迫っています。皆様にご挨拶を……」

提督「そうだな。少し、行ってくる」

………
……



提督「南方長官、本来ならば此方からお伺いせねばならぬ所を、申し訳御座いません。……お世話になりました」

南「構わん、こちらこそ世話になった」

提督「そう仰って頂けると、光栄です。情報開示や防衛戦略等、課題は山積しておりますが、必ずやこの戦い、勝利しましょう」

南「勿論だ」

南がスッと手を差し出した。
提督はそれをガシッと掴み、二人は握手を交わす。
そこへ、駆けて来る一団があった。

太郎「提督さー金剛「テイトクー!遅れてsorryネー!」

翔鶴「ちょっと金剛?!」

提督「太郎君、金剛、翔鶴……すまないな、わざわざ」

太郎「そんな!とんでもありません」

金剛「テイトクー寂しいヨー!」

提督「そうかそうか」よしよし

金剛「えへへ……」

提督「……やっぱり、姉妹だな」

金剛「?……what……?」

提督「こちらの話だ。……太郎君、例の件はくれぐれも慎重にな」

太郎「……はい。……私も翔鶴の艤装の改修が済み次第、直ぐに戦線に復帰します。その際、もし宜しければ、是非演習を……」

提督「構わん。こちらからお願いしたい位だ」

太郎「ありがとうございます!……船旅、お気をつけて」

翔鶴「……」ぺこり

提督「ああ。またな」

金剛「Bon Voyage、テートク!」

提督「Merci、金剛」

988: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:39:14.14 ID:YrO8cEV80
………
……



提督「見送りご苦労さん」

川内「えっへっへ!」

神通「……」ペコ

提督「……川内、随分と疲れているようだな」

川内「……朝まで皿洗って掃除しててたからねぇ……」

提督「……?」

川内「ま、それは良いよ。……アタシ、振られちゃったみたいだね」

提督「まぁ、最初から断っていた話だ」

川内「……」

提督「お前達は強い。本当に私の力となる心算が有るのなら、今は待て。そう遠くない日に、私の方からお前達を呼ぶ事になる」

川内「……それは夜戦隊として、だよねぇ」

提督「そうだな」

川内「……わかった!死ぬ前に呼んでよ?」

提督「……ありがとう。では、私は行く……これ以上、危険な真似はするな。良いな、川内」

川内「しないしない!」

提督「それは嘘つきの顔だな……」ハァ

川内「……ほんとだって」

提督「川内。一線は越えるな」

川内「……わかってるよ」

提督「私を失望させるなよ」

川内「うん」

提督「……じゃあな。また、会おう」

川内「バイバイ!」

神通「お気をつけて」


川内「行ったか。……ダメだよ、提督。赤城が、いつも言ってたろ。『一番以外に、価値は無い』って」

川内「……アタシはまだ諦めて無いぜ」

神通「……」

川内「……行くぞ神通」

神通「はい」

989: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:41:11.85 ID:YrO8cEV80
………
……



英雄提督が本土を離れるらしい。
その情報と共に、昨晩行方知れずだった瑞鶴は帰って来た。
全身ボロボロの状態で。

加賀は今すぐにでも走り出したかったが、瑞鶴をそのままにしておけなかった。
しかし、龍驤が、瑞鶴は見といたるから行っといで、とその背中を押す。
加賀は感謝の言葉と共に、港へ向けて駆け出した。


加賀「……提督!」

提督「……探したぞ、加賀」

加賀「私、もよ……」

全力で駆けて来た為、息が荒い。
それを落ち着けていると、提督が話し始めた。

提督「……昨晩、中央長官から懐かしい物を受け取った」

そう言って懐から取り出した物は。

加賀「それは……私も、その前の日に頂いたわ」

それを提督が無言で元の場所に戻すと、暫しの沈黙が訪れた。

提督「今まで色々すまなかった」

加賀「提督……」

提督「……私は、お前を近くに置きたくなかった。少なくとも、赤城とケリをつける迄は」

加賀「……知ってますよ。不知火から、聞きました」

提督「何?……言ったのか、奴は……」

加賀「あの子も、色々抱え込んでいたわ」

提督「……そうだろうな。不甲斐ない話だ。全部を赤城に丸投げしていた、そのツケだな」

加賀「あの人は、もう居ないわ。ちゃんと、不知火を見てあげて頂戴」

提督「……心掛けよう」

990: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:45:45.71 ID:YrO8cEV80
加賀「……そして、私は大丈夫よ。教官になる事に決まりそうなの。もう……戦う事も無いわ」

提督「……生憎だが、そうも言ってられなくなった」

加賀「え?しかし、中央長官の……」

提督「……相変わらず、お前は少し頭が硬いな」

加賀「何をーー」

ムッとした加賀の頭を優しく撫ぜる。

提督「よく考えてみろ。中央長官が俺とお前に渡した物を。このタイミングだ。明らかに赤城を意識しているだろう」

加賀「……という事は、これは、まだ機能するのですか?……これを使う事は禁じられて……まさか、また使えと……」

提督は狼狽する加賀を見て苦笑し、言った。

提督「本部も余裕が無い、という事だ」

加賀「……しかし」

提督「……真面目なのは、お前の美徳だな」

加賀「っ……」

再び髪を撫でる提督に、加賀は俯いて喋れなくなる。

991: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:46:17.65 ID:YrO8cEV80
提督「なぁ、加賀」

加賀「……はい」

提督「俺は最近、ふと自分がわからなくなる事がある」

加賀「……」

提督「俺は何をしているのか、とね……」

加賀「……人生、そんな日もあるわ」

提督「ふっ。加賀センセの有り難いお言葉だな」

加賀「馬鹿にしてるわね……頭に来ました」

提督「そんな事はない。怒るな、怒るな。……まぁ、なんだ。今は本土の最新鋭の授業とやらをみっちり受けてくれ、加賀センセ」

加賀「……その、センセって言うの、やめて欲しいのだけれど」

提督「俺は良いと思うぞ」

ははは、と笑ってから、提督は踵を返した。

提督「……そろそろ、時間だ。また連絡する」

加賀「そう……キチンとお願いね」

提督「ああ」

加賀「……」

提督「……」

加賀「……行かないの?」

提督「……なんか、最後に一言くれないか」

背を向けたまま、提督は加賀に頼んだ。
その背中は少し寂しそうで。
加賀は少し考え込み。

加賀「……」コホン

加賀「……こ、困ったら先生に相談なさい?」

992: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:46:53.83 ID:YrO8cEV80
提督は思わず振り返ると。
加賀の頬は染まり、綺麗な栗色の瞳は、斜め下を見つめていた。
羞恥心からか、指がモゾモゾと動いている。

提督「……それは、ありがたい事だ。心に留めておくよ」

恥じ入る加賀の姿を記憶に納め、提督は笑う。

提督「今度こそ、行く」

加賀「コホン……気をつけて」

提督「……また会おう」

加賀「……はい」

………
……



提督「待たせたな」

不知火「いえ、大丈夫です」

提督「よし、では、不知火及び榛名は艤装を受け取り、高速輸送船へ向かえ。輸送船内の艤装収容施設にて合流しよう」

不知火「了解です。行きましょう、榛名さん」

榛名「は、はい!」

不知火と榛名は艤装を受け取る為、提督の元を離れて行く。

提督「やれやれ、最後まで慌ただしい日々だったな……」

993: ◆hsyiOEw8Kw 2015/04/18(土) 23:50:24.23 ID:YrO8cEV80
提督「…さて、と」

もうすぐ昼だ。
太陽はぐんぐんと高度を増して行き、その光は中央鎮守府を綺麗に照らしている。
しかし、ひとたび海を見れば、遠くに黒い、大きな積乱雲が見える。
嵐が来るか。そう、心の中で呟いて、提督は船へと歩き出した。


引用元: 【艦これ】提督「…さて、と」