1: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:10:14 ID:xUMh

P「いやあほたる君。ウチの事務所によくきてくれたねえ待ってたよぉ」

ほたる「あ、ありがとうございます」

P「ウチの事務所は見ての通り出来たばかりだけど、ちひろさんはがめついし僕ぁこれでも敏腕Pで通ってるんだ」

ほたる「はい」

P「だから君には大船に乗ったつもりでね! うちの事務所のアイドル第一号として全力を尽くして欲しい!!」

ほたる「……」

P「どしたの黙っちゃって」

ほたる「その、隠しておくのは、フェアじゃないと思うので」

P「うん?」

2: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:10:34 ID:xUMh

ほたる「私、不幸体質なんです。前の事務所も、その前の事務所も倒産して……」

P「ああ、聞いてる聞いてる」

ほたる「……知ってるのに軽いですね?」

P「まあ僕ぁ基本的に運不運とか信じてないからね」

ほたる「……」

P「どうせそんなの偶然か、さもなきゃ元々その事務所の経営が悪かったんだよォ」

ほたる「……そう、でしょうか」

P「ウチはほたる君にそんなこと心配させないから。デビューに向けて全力でレッスンに励んで欲しいな」

ほたる「……」

P「ね?」

ほたる「……はい。解りました。頑張ります……」

P「はっはっはっ若い子は心配性だなあ」

3: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:11:09 ID:xUMh







P「とか言ってたら3週間で事務所が傾くんだもんなぁ」

ちひろ「傾くんだもんなぁじゃありませんよ、どうするんですかこれ」

P「どうするんですかとか言ったってさあ。まさかこんな事になるとは思わないじゃない」

ちひろ「そりゃ私だって思いませんでしたけどね。このままだと事務所立ち上げのために用意してた資金、全部吐き出しちゃいますよ」

P「打つ手打つ手ことごとく裏目に出るんだもんなあ。不運ってあるもんなんだね」

ちひろ「ほたるちゃんも最初からそう言ってたらしいじゃないですか」

P「不幸体質ね」

ちひろ「そうそれ」

P「いやまさか本当だとは思ってなくて」

ちひろ「思ってなくてもわざわざそういう噂のある子拾ってこなくてもいいでしょう」

P「ちひろさんだって『いい子が来てくれた可愛い嬉しい』って大はしゃぎだったくせして」

ちひろ「うぐっ」

4: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:11:27 ID:xUMh

P「仕方ないでしょティンと来ちゃったんだもん。アッこの子だァーって」

ちひろ「ティンと来ちゃったなら仕方ないですけど……でも可哀想じゃないですか」

P「……」

ちひろ「私は不幸体質です、なんて自己紹介したくないでしょうに、自分から教えてくれて」

P「うん」

ちひろ「それなのに取り合ってもらえなくて」

P「う、うん」

ちひろ「それで事務所が潰れちゃったりしたら、あの子傷つきますよ? 優しそうな子なのに」

P「……それは僕も反省してるんだけどね」

5: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:11:40 ID:xUMh

ちひろ「まあ、私としては最終的に恨まれるのも負債を被るのもPさんなんだからいいんですけど」

P「なんだいちひろさん冷たくないかい?」

ちひろ「なんとでもおっしゃい。とにかく、現状をどうにかする責任はPさんにあるんですからね」

P「解ってるよ。僕もね。悪い事したと思ってるし。せっかく立ち上げた事務所を潰したいとか思ってないからいろいろ考えてます」

ちひろ「でも、相手が不幸とか運とかじゃ、どうしたらいいんでしょう」

P「そうだよねえ。商売敵ならどうとでもできるけど、運とか……あっ閃いた!!」

ちひろ「早いですね!?」

P「僕ぁこれでも敏腕Pで通ってるからね!!」

ちひろ「不安だなあ……」

6: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:11:56 ID:xUMh







P「というわけでごめんねほたる君。忠告にまともに取り合わなくてさ」

ほたる「いえ、信じられないもの仕方ないと思いますから……」

P「だけどもう信じたから。対策も打つ」

ほたる「はい。ではお世話になりました」

P「えっ、なんでいきなり『お世話になりました』なのさ」

ほたる「だって、不幸の対策を打つんでしょう? ……私が出ていけばいいんですよね」

P「いや、アイドルの卵をあと20人スカウトしてくる!!」

ほたる「バカなんですか?」

P「優しい顔してストレートにこきおろすねぇ君は!!」

7: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:12:33 ID:xUMh

ほたる「だってそうじゃないですか。私の、私のせいでこうなってて。資金だって目減りしてるはずなのに。沈みそうになってる船にさらに人を乗せてどうするんですか。おかしいですよ」

P「ほたる君」

ほたる「……はい」

P「僕ぁ実際、不幸体質とかそういうの信じてなかったんだよな」

ほたる「……はい」

P「だけどもう信じた。いやあ、あんなに何もかもうまく行かなくなるってあるもんなんだね。目に見えない何かに邪魔されてるのを確かに感じたよ」

ほたる「だから。だったら。私が居ないほうがいいって、解ってるはずじゃないですか」

P「だから20人追加スカウトするんだよ」

ほたる「わけがわかりません」

P「ほたる君の不幸体質は確かにあるけど、運とか

8: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:12:55 ID:xUMh


P「ほたる君の不幸体質は確かにあるけど、運とかめぐりあわせって誰にでもある程度あるものじゃない」

ほたる「……それは、そうだと思います」

P「そして、僕とちひろさんの運命パワーではほたる君の不幸パワーに勝つことは不可能だった……」

ほたる「……」

P「だが相手が20人ならどうかな!?(ドドン!!)」

ほたる「え、えっ」

P「夢と気力に満ち溢れたアイドル候補20人の運勢をまとめて相手どってひん曲げられる程君の不幸は強いかな!?」

ほたる「そ、それは……どう、なんでしょう考えたこともなかったです!?」

P「いわんやそれが50人、182人ならどうだい」

ほたる「いや、どうだって言われても……」

9: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:13:42 ID:xUMh

P「ほたる君は鳥取産まれだそうじゃない」

ほたる「は、はい」

P「鳥取県民が不幸だって話は聞いたことがないんだよね、僕ぁ」

ほたる「……」

P「いや鳥取に産まれた事が不幸だって言うなら話は別だけど」

ほたる「いきなり故郷をディスらないでください!?」

10: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:14:03 ID:xUMh

P「つまり、ほたる君の不幸は鳥取県民をまるごと不幸にできるほど強くはないわけだ」

ほたる「それは……そう、なんでしょうか? 私今Pさんに騙されそうになってません?」

P「騙すなんて人聞き悪いな――でも、どう? ほたる君、182人のアイドルになりたいって気合に満ち溢れてる人間の運命をまるごと相手どって勝てると思う?」

ほたる「……」

P「……」

ほたる「……ち、ちょっと勝てそうにない気がします……」

P「だよね。数の力ではじき返しちゃうよ」

11: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:14:19 ID:xUMh


ほたる「でも」

P「うん」

ほたる「でも、もしそれでも私の不幸が強かったら? それでも私が勝ってしまったら?」

P「その時は僕とほたる君両方の責任だから、一緒に全国お詫び行脚の旅に出ようぜ」

ほたる「Pさんも一緒に?」

P「そりゃそうでしょ。誰をスカウトするのも、会社経営するのも、僕の仕事なんだもん。僕の責任の方がどう考えても大きいよ」

ほたる「そんな事言われたの、初めてかもしれません……」

P「ただまあ一緒に謝って回るだけじゃ儲からないから、その後一緒に四国八十八か所回ってビデオ撮って売るのに付き合ってもらう」

ほたる「すごく罰ゲームっぽい!?」

P「そ。何かあったら一緒に罰ゲーム」

12: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:14:38 ID:xUMh


ほたる「……」

P「どう?」

ほたる「……でも」

P「うん?」

ほたる「でも、それでも」

P「うん」

ほたる「私が居ないほうが、うまく行くんじゃないですか? Pさんの言うとおり20人だか182人だかのアイドルが居れば私の不幸を跳ね返すとしても。だから平気なんだとしても」

P「……」

ほたる「そこに私が居ないほうが、もっとうまく行くんじゃないですか? 私がそこに居る意味、ないんじゃないですか?」

P「……」

ほたる「私は……めんどくさいかもしれないけど、私は。介護されたいわけじゃないんです。優しくされたい、甘やかされたいから、アイドルになりに来たわけじゃなくて」

P「何言ってるのさ。君、トップアイドルになるって言ってたんじゃん」

ほたる「えっ」

13: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:15:01 ID:xUMh


P「どうしても何があってもトップアイドルになりたいって。つまりそれは事務所のアイドルが20人居ようが100人居ようが、その中で一番稼ぐってことじゃんか。一番でかい顔できるよ。一番居る意味あるよ」

ほたる「そ、それはそう、かもしれないけど」

P「それに新しく連れてくる子だってトップアイドルと張り合えるんなら励みになるよォ。絶対気合入るって」

ほたる「あ、あのあのあの」

P「えー、何オタオタしてるの。あれウソだったの? トップアイドルになってがっぽがっぽ稼いでくれないの? みんなの目標になってくれないの?」

ほたる「あ、あの、あの」

P「うんうん?」

ほたる「すぐには出来ないと思うけどいつか必ずなりたいです……!!」

P「そうだね。なってもらわなきゃ困る。というか、なれると思ったから君をスカウトしたんだし」

ほたる「Pさん……」

14: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:15:13 ID:xUMh


P「でも182人とかライバルが出来る予定だからなー? その中でトップになるのって難しいなー? こりゃ無理なんじゃないのぉ?」

ほたる「……頑張って、いいんですか?」

P「うん」

ほたる「ここで、たくさんの、ちゃんとしたアイドルになれる子たちの中で、頑張っていいんですか?」

P「ちゃんとトップアイドル目指すなら、ね」

ほたる「……目指したいです。目指します!」

P「よく言った。これでうちの事務所も将来安泰だなってことでさっそくガンガン卵をスカウトしに行ってくるよ!!」

ほたる「行動早いですね!?」

P「忘れなさんなよ。もしうまく行かなかったら、一緒にお詫び行脚だからね」

ほたる「はい」

P「そのあと資金稼ぎのために四国八十八か所ビデオ撮影に付き合ってもらうからね」

ほたる「はい」

P「その稼いだ資金で事務所立てなおしたら、もう一度トップアイドル目指してもらうからね」

ほたる「……はい!」

P「じゃ行ってきます。ほたる君がかすむような凄い金の卵を見つけてくるから、覚悟しなさいよぉ」

ほたる「ま、負けませんから……!!」

15: ◆cgcCmk1QIM 21/09/11(土)13:16:15 ID:xUMh
〇数年後

トップアイドルほたる「……とまあ、そういうわけでこの事務所には私を含めて183人ものアイドルがいるんですよ」

辻野あかり「ひええ、知らなかったんご……!」

砂塚あきら「#流石に無い」

ほたる「ふふふ、そう思いますよね」

あきら「あかりチャン、騙されやすすぎ」

あかり「えっ、今のウソだったの!? 私騙された!?」

ほたる「ふふふ、どうでしょう」

あかり(……白菊さんはあいまいに笑ったし、あきらちゃんは冗談だととりあわなくて)

あかり(だけど私は、もしかして今の話には本当のことが含まれているんじゃないかって思いました)

あかり(私をスカウトしてくれた、ゲラゲラ笑うPさんの車の後部座席に、おへんろさんの杖や装束がいつも一式、なぜか積み込まれているのを思い出したからです……)

(おしまい)




引用元: 【モバマス】白菊ほたるスーパートップアイドル伝説