ロックオン「で？　どうするんだ、刹那」

刹那「潜入ミッションを円滑に進めるために、流行は知っておく必要がある」

ロックオン「なるほど」

アレルヤ「読まないと、貸してくれた人にも悪いしね」

ティエリア「そんなもの、読むだけでマイスターとしての品格に……」

ロックオン「まぁいいじゃねぇか。刹那、読んだら感想聞かせてくれよな」

刹那「了解した。刹那・F・セイエイ。コミック百合姫を読破する」

………

プトレマイオス　刹那の自室

刹那「………」

刹那（登場人物は少女が多い。ロックオンの言っていた通りのようだ）

刹那（………）

刹那（日本の少女たちはこんなに仲睦まじいものなのか）

刹那（………）

刹那（なぜそこで頬を赤らめている？）

刹那（………）

刹那（……っ！　なにっ……！？）

刹那（告白した……だと……？）

刹那（どういうことだ、告白とは、男女の間でするものではないのか？）

刹那（確か、ロックオンがそう言っていたはずだ……）

刹那（と言うことは……こいつらは、歪んでいるということか！？）

刹那（………）

刹那（……ッ！）

刹那（………）

刹那（……彼女は、ここまで友のことを）

刹那（………）

刹那（人は、他人をここまで思いやれるものなのか）

刹那（………）

刹那（……そうか）

刹那（彼女たちは歪んでいるのではない）

刹那（自分の心に苦悩し、現実という檻の中でひたすらに悩んでいるのか）

刹那（……今の、俺のように）

刹那（同性同士という葛藤、世間の弾圧、計り知れない相手の気持ち）

刹那（そして、全てを乗り越え見つけた『答え』）

刹那（それは、確かな絆という全てを超越した概念）

刹那（そこに争いなどない。あるのは、紛争が根絶された二人だけの世界）

刹那（そうだ……）

ﾊﾟﾀﾝ



刹那「百合がガンダムだ」

………

数日後　日本

沙慈「この前はごめんね刹那。急にルイスが家に来たいって言うもんだから」

刹那「気にしていない」

沙慈「そう言ってもらえると助かるよ。それで、どうだった？」

刹那「………」つ百合姫

沙慈「あ、そ、そうだよね。ごめんね、変なもの貸して……」

刹那「続きは無いのか？」

沙慈「……へ？」

刹那「この本はとても興味深かった。続きがあるのなら、貸してもらえないか」

沙慈「ほ、本当かい！？」

刹那「ああ」

沙慈「なら、すぐに用意するから待ってて！　あ、結構荷物になるけど大丈夫？」

刹那「問題ない」

沙慈「わ、わかった！　それじゃ、すぐ持ってくるから！！」

刹那（……これがオタクか）

………

刹那の自室

刹那（百合姫のバックナンバーの他に単行本も押しつけられてしまった）

刹那（百合姫に載っている漫画以外にも、色々とあるようだな）

刹那（それにしても凄い量だ）

刹那（しかし、百合を知るには丁度良い）

刹那（俺は学ばなければならない。百合とはなんなのかを）

刹那「刹那・F・セイエイ。これより、セカンド百合ッションに移る」

………

数日後　プトレマイオス

アレルヤ「刹那、食事だよ」ｺﾝｺﾝ

アレルヤ「……返事がない」

アレルヤ（ここ数日、ミッションの時以外姿を現さないから、スメラギさんに言われて来てみたけど）

アレルヤ（やっぱり何かあったのかな？）

アレルヤ「刹那、入るよ？」

ｳｨｰﾝ

アレルヤ「うわっ、凄い量の本だ。……あれ？」ｽｯ

アレルヤ「この絵柄……前に刹那が借りてきたのと一緒のやつかな……？」

刹那「アレルヤ・ハプティズム」

アレルヤ「わぁっ！？」

刹那「何かあったのか？」

アレルヤ「な、何かじゃないよ、君がここ最近姿を見せないから心配で様子を見に来たんだ」

刹那「そうか」

アレルヤ「もう……。食事も摂らずに何をしていたんだい？」

刹那「これを読んでいた」ｽｯ

アレルヤ「これは……？」

刹那「ゆるゆりだ」

アレルヤ「ゆるゆりって？」

刹那「ガンダムだ」

アレルヤ「え？」

刹那「ゆるゆりはガンダムだ」

アレルヤ「いや、どう見てもこれ……」

刹那「ガンダムだ」

アレルヤ「……この子達がモビルスーツに乗って戦う話なのかい？」

刹那「違うっ！　ゆるゆりに争いを持ち込むな！」

アレルヤ「えぇー……」

ｳｨｰﾝ

ロックオン「よっ、刹那の様子はどうだ？」

アレルヤ「あ、ロックオン。良いところに」

ロックオン「おぉ、思ってたより凄いことになってるな」

刹那「ロックオン、ゆるゆりは読み終わったのか？」

アレルヤ「え？」

ロックオン「ああ、結構面白かったぜ」

アレルヤ「ど、どういうこと？」

ロックオン「ちょっと前に刹那から百合姫の感想を聞いてな」

ロックオン「そしたらこいつ、どうやら相当感化されちまったらしくてな」

ロックオン「どんなもんか、俺も興味が湧いたってわけだ」

アレルヤ「そういえば、ロックオンは刹那に感想を聞かせてくれるよう約束してたね」

刹那「それで、ロックオンのガンダムは何だ？」

アレルヤ「へ？」

ロックオン「好きなカップリングってことらしいぜ」

アレルヤ「か、カップ……え？」

刹那「カップリング。友情、愛情を問わないキャラクターの組み合わせのことだ」

アレルヤ「へ、へぇ……」

ロックオン「俺はそうだな、京結がいい感じだ」

刹那「結京ではなく京結か」

ロックオン「普段クールな結衣が京子の前でだけ乙女な顔を見せる」

ロックオン「そこで京子がガンガン結衣を狙い打つってのも、悪くねぇだろ？」

刹那「……ガンダムだ」ﾓﾝﾓﾝ

ハレルヤ（コイツらイカレてやがる）

刹那「………」つ　ゆるゆり

アレルヤ「えっ？」

ロックオン「お前も読めってさ」

アレルヤ「ぼ、僕はいいよ……」

刹那「百合マイスターに後退は許されない」

アレルヤ「いや、わけが分からないよ」

ロックオン「まぁ騙されたと思って読んでみろって」

ロックオン「気を抜いて読めるから、息抜きには持って来いだぜ」

アレルヤ「……ロックオンがそこまで言うなら」

刹那「なら、これも持って行くといい」

アレルヤ「これは？」

刹那「ゆるゆりのアンソロジーコミックだ」

アレルヤ「……あ、ありがとう……」

………

刹那（ゆるゆりのお陰で、俺は多くの百合を知った）

刹那（特に、さくひまが与えた影響は目を見張るものがある）ﾊﾟﾗ

刹那（友情に裏打ちされた絆、そこから先へ踏み込むか踏み込まないかの駆け引き）

刹那（結京やあかちなも悪くないが、やはりさくひまがガンダムだ）ﾊﾟﾗ

刹那（これで俺も、百合マイスターに……）

刹那「………ん？」ﾊﾟﾗ

【これを見ないと百合マイスターは名乗れない！？】

刹那「なにっ……！？」

【漫画だけで満足していては、世界は変わらない！】

刹那「そんな……！」

【百合姫読者が選ぶアニメベスト10！】

刹那「ゆるゆりだけでは足りなかったというのか……！？」

刹那「親友、姉妹、幼馴染、クラスメイト……」

刹那「こんなにも多くの百合を知ったというのに！」

刹那「俺は……百合マイスターにはなれない……！」ｸﾞｯ

刹那「………」

刹那「………」ﾁﾗｯ

刹那（……アニメ、か）

………

数日後

クリス「スメラギさん、物資の中に小包が入ってたんですけど」

スメラギ「小包？　誰宛？」

クリス「えーっと……」

刹那「俺だ」

クリス「きゃあ！？」

スメラギ「刹那？」

刹那「違ったか？」

クリス「え、い、いや。合ってるけど」

刹那「すまない」ｽｯ

クリス「あ、ちょっと刹那……」

刹那「………」ｽﾀｽﾀｽﾀ

クリス「行っちゃった」

スメラギ「最近変よね、刹那。何してるのかしら」

クリス「さぁ。確か、百合がどうとかって話してるのはちらっと聞きましたけど」

スメラギ「百合？　花のお勉強でもしてるのかしら？」

クリス「えぇー、刹那がですか？　あり得ないですよ」

スメラギ「そうよね」

………

刹那の自室

刹那「ついに来たか……」

刹那（まどか、リリカルなのは、舞HiME、神無月の巫女、ウテナetc）

刹那（どれもあの記事の特集にあったものだ）

刹那（俺は驕っていた。ゆるゆりだけで全てを知った気になっていた）

刹那（だがそれは違った）

刹那（全てを知らなければ、本当の百合マイスターとはいえない）

刹那（そうだ、今度こそ。今度こそ百合マイスターに……）

刹那「刹那・F・セイエイ。百合アニメへの介入行動に入る」

………

アレルヤ「刹那、いるかい？」ｺﾝｺﾝ

アレルヤ「……また返事がない。どこかに行ってるのかな？」

アレルヤ（せっかくあかり総受けについて話そうと思ってきたのに）

ｳｨｰﾝ

刹那「アレルヤか」

アレルヤ「あれ、部屋にいたのかい？」

刹那「すまない、目が離せなかった」

アレルヤ「目……？　まぁ、それはいいんだけど、良かったらゆるゆりの続きを……」

刹那「ゆるゆりはガンダムではない」

アレルヤ「へ？」

刹那「いや、正確には、ゆるゆりだけがガンダムではない」

アレルヤ「ど、どういうこと？」

刹那「俺は知らなかった。いや、知ろうとしていなかったんだ」



刹那「なのフェイもガンダムだということを！」



ハレルヤ（キメェ）

アレルヤ「え、ええと？　なのフェイっていうのは？」

刹那「魔法少女リリカルなのはシリーズに登場するなのはとフェイトのガンダムだ」

アレルヤ「要するにカップリングってことだね」

刹那「なのはとフェイト。出会った当初は、二人は敵同士だった」

アレルヤ（なんか語りはじめた……）

―――

刹那「………そこで、なのはは言った。『なまえをよんで』、と」

アレルヤ「そこで掴まれちゃったわけか」

刹那「そこからの二人が名前を呼び合うシーン……」

刹那「そして、リボンを交換して再会の約束をするシーンは、まさにセブンソードだった」

アレルヤ「破壊力抜群ってことだね」

刹那「なのはとフェイトがガンダムたる所以は、お互いがお互いを想い合っている描写を丁寧に描いていることだ」

刹那「敵同士、共闘、仲間、お泊り、同棲。そして娘の誕生」

刹那「しっかりと付き合いに段階が踏まれているのも好印象だ」

アレルヤ「え？　ちょっと待って、娘？」

刹那「アレだけでStrikerSは放送した価値があった」

アレルヤ「そ、そうなんだ」

刹那「やはり、なのフェイこそガンダム。なのフェイ以上のガンダムなど……」

ティエリア「………」ｳｨｰﾝ

アレルヤ「？　ティエリア？」

刹那「なんの用だ、ティエリア・アーデ」

ティエリア「スメラギ・李・ノリエガから伝言を頼まれて来たが……」

ティエリア「気分が変わった」

刹那「？」

ティエリア「刹那・F・セイエイ！！」ﾊﾞﾝｯ!

アレルヤ「ひっ」

ティエリア「君は、最初の目的を忘れているんじゃないのか！？」

刹那「なに……」

アレルヤ（ああ、そういえば刹那が百合に入れ込んだのって、潜入に役立てるためだっけ）

アレルヤ（それがこんなになって……これは確かに、ティエリアに怒られても……）

ティエリア「なのフェイのような古臭い組み合わせが最高のカップリングなどと、君には絶望した！！」

刹那「！　なんだと！？」

アレルヤ「　」

ティエリア「同じ魔法少女ならまどほむを見るべきだろうに！！」

ハレルヤ（駄目だこのダメガネ）

ティエリア「第一、最近のなのフェイは百合と言えるミッションを行ったのか！？」

刹那「くっ……それは、劇場版が……！」

ティエリア「過去の産物にすがるとは！」

ハレルヤ（まどかも総集編やってたじゃねえか）

ティエリア「それに、>>75を見てみろ！」

ティエリア「戦闘方向に全力疾走し、肝心のキャラの絡みが薄くなっている！！」

刹那「それは……ッ！」

ティエリア「百合の本分から外れたカップリングなど、万死に値する！！」

アレルヤ（そりゃ元々百合作品じゃないからね）

刹那「それでも……！　それでも俺は……！！」

ｳｨｰﾝ

ロックオン「そこまでだ、お二人さん」

アレルヤ「ロックオン！」

ロックオン「ティエリア、熱くなりすぎだ」

ティエリア「しかし、彼のカップリングは百合マイスターとして！」

ロックオン「好きなカップリングなんて人それぞれだろ？」

ロックオン「それに、真の百合マイスターは、討論はしても晒しはしない」

ティエリア「……！」

ロックオン「俺たち百合マイスターの目的はなんだ、刹那」

刹那「……紛争の、根絶」

ロックオン「そうだ」

ロックオン「その俺たちが、こんなところでカップリング紛争をやってたら……」

ロックオン「紛争の根絶なんて、夢のまた夢だと思わねぇか？」

ティアリア「………」

ロックオン「同じ百合マイスター同士がいがみ合うなんて、そんな世界……俺は、やだね」

ティエリア「……刹那・F・セイエイ。僕が間違っていた」

刹那「分かってくれたのなら、それでいい」

刹那「それに、まどほむも素晴らしいガンダムだということは、俺も知っている」

刹那「そうだ、さくひまが、なのフェイが……そしてそれを遠くから見守る俺達が……」

刹那「ガンダムだ」

ロックオン「……ぷっ、ははは。まったく、お前はとんでもない百合バカだよ」

刹那「ありがとう、最高の褒め言葉だ」

ティエリア「……これが、人間か」



アレハレ「（なんだこれ）」

………

数日後　プトレマイオス　食堂

刹那「………」

アレルヤ「あれ、珍しいね。刹那が食堂で食べるなんて」

刹那「ああ……」

アレルヤ「？」

刹那「………」

アレルヤ（……一点をガン見してる……？）ｸﾙｯ

――

クリス「はい、フェルト！　あーん！」

フェルト「……は、恥ずかしいからやめて」

クリス「ふふふ！　フェルトったら照れちゃって、かわいーい！」ｷﾞｭ

フェルト「ちょ……」ｶｧ

――

アレルヤ「………」

刹那「………」

刹那「クリフェルもガンダムだ」ｸﾞｯ

アレルヤ「僕は憂鬱だよ……」



刹那「コミック百合姫……？」
―FirstSeason END―

変わる世界。

変わる刹那。

そして、変わらない歪みを孕んだ百合界隈。

刹那は、その歪みと対峙する。

次回、『コミケ』

百合は穢れ無き色。では、穢された百合の色とは……