1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:30:32.35 ID:hvohTjZ6O
第一話

シンデレラガールズ

外を歩いていると、常に携帯電話をいじっている者達が目に付く。

あれじゃあチンピラにぶつかられても文句言えないよなぁ。

「…2015年、か」

気付けば僕ももう40代か。
…ああいう若者からすればもうおじさんと揶揄される年頃だな。

「…今年は、修gack旅行何処に行こうかな」

久しぶりに外国へ行こうか?
それとも、温泉にゆっくり浸かろうか。

…。

ダメだ。
僕一人じゃあまり考えつかないや。

…まあ、いっか。
これから会う親友にそれとなく相談してみよう。

それに、久しぶりの休日だしな。
話す事は沢山ある。

「…だけど」

待ち合わせの、店の中が見える程透き通ったガラスから見える窓側の席にいた自分の親友を見て何となく思う。

「……」

先程の若者達のように一心不乱に携帯電話をいじるその姿。

先に店に入って待っていてくれたのは嬉しい事だけど。

「…時代を感じるよねぇ」


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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:34:00.66 ID:hvohTjZ6O
「お待たせ」

「あ、ガク!明けましておめでとう」

新年初顔合わせだな。
相変わらず無邪気な笑顔だ。

「明けましておめでとう、YOU」

しかし挨拶を交わすと同時にYOUの視線は手元の携帯電話に移った。

「あのさぁ、良い歳なんだから…」

「ちょっと待って…今ええとこ」

「…」

…ムカつく。

ゲームでもやってるのかな。

何かのリズムゲームとかだろうか。
もしなんだったら、僕もやらせてもらおうかと考え、彼の後ろに周る。

すると、それに映っていたのは、リズムゲームでも、パズルゲームでもなかった。

「…何これ?」

「ん?モバマス」

「モバマス?」

モバマス…何かの略なのは分かる。

モバイル…なんだろう?

「あぁ。ガクこういうのやらんそうやもんね。…アイドルマスターって知っとる?」

「知らない」

アイドルマスター。
また知らない単語が出てきた。

というより、それ多分アニメのゲーム…だよね。

「まあゲームが最初なんやけどね。これはそれのケータイ版!シンデレラガールズって言うんやけどね!」

「ふーん…面白いの?」

「面白いよ!…あ、がっくんもやってよ!」

「やだよ…」

ガンダムならそれなりに知ってるけど、それ以外のアニメとなると自分が声をあてた作品しか分からない。

漫画なら沢山読んでるんだけど、その中にもアイドルマスターというのは無かった。

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:34:44.04 ID:hvohTjZ6O
「お願い!今招待するとSレアの…」

それからYOUは色々と語り出した。
途中からは全く聞かなかったけど。

しかしYOUがハマるのか…。
何故か知らないけど、興味深い。

YOUがハマる何かがこのモバマスとやらにあるんだろう。

『島村卯月、頑張ります!』

「は?」

「おお!卯月のSレアや!」

今、このキャラクターが喋ったというのは分かった。

絵柄からして、いわゆる萌えというやつなんだろうが。

40代の自分の親友がこれにハマっているのを見るのは少々心苦しかった。

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:36:10.36 ID:hvohTjZ6O
「…で、これで登録完了!」

「…」

しかし結局、押しに押されて僕も始めてしまった。

数少ない休日を無駄にしそうで怖い。

「まずは、ガチャを引いて…」

「この緑スーツの子もアイドル?」

「ううん。これは事務員。千川ちひろって名前」

事務員、か。
変なスーツだなぁ。

「で、キュート、クール、パッションの3種類から選ぶんやけど…どれにする?」

「クール」

「即答やねぇ。それで…お、やっぱり律子やん!」

…秋月、律子。

「で、これが何?」

「まぁ、早い話こうやって…アイドル活動して、…すると新しいアイドルとかも出てくるんだよ」

『ふーん…アンタが私のプロデューサー?…まあ、悪くないかな』

こいつは何様のつもりだろうか。

「あはは…でも、この子も好感度上げてくといずれはデレるんやで」

「へー…」

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:37:39.25 ID:hvohTjZ6O
結局その日YOUと過ごした時間の大半はそのゲームに持っていかれた。

全く、無駄な時間を過ごしたものだ。

…だけど、家に帰っても何故か僕は携帯電話をいじっていた。

「…」

こんなゲームに普通にお金出しちゃってる自分がいる。

時代のせいだよ、きっと。

…いや、きっとTAKUMIのせいだ。
毎日色んなゲーム進められてるうちに、ゲーマーとしての僕が生まれてしまった。
…そうそう、あいつが悪い。

「好感度…バトルに勝って…こう…仕事しても上がるんだなぁ」

…?
あれ、眠気がする。

いつものやつかな。

仕方ない、これは一旦置いて寝るとしよう。

続きはまた暇な時にやればいいさ。



…なんて、思うべきじゃないのかもな。

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:39:09.95 ID:hvohTjZ6O
「…はっ!?」

…あれ?
もう朝?

僕はそんなに寝ない筈なんだけど。

確か寝たのは夕方くらいで…起きたのは、朝。

少なくとも10時間以上寝てるな。

…きっと疲れてたんだろう。慣れない事して。

年齢なんか関係無いよ。

「……あれ?」

何だか違和感がある。
いつも寝ているベッドにしては窮屈だ。

いや、違う。
これはベッドじゃない。

…それ以前に、僕の家にこんな部屋は無い。

「…」

ここは、何処だろうか。

見た事がない。

小さなソファーと、机と椅子。
それと安っぽい電気ストーブ。

…てか狭い。

「ここ、何処?」

ふと自分の格好を見る。

…まるでサラリーマンのようなスーツだ。

さっきまで私服だったのに。

「…」

いきなりの事に混乱し、頭が、脳が上手く働かない。

夢でも見てるのだろうか。

「…?」

ソファから立ち上がると、机の上にあるものに気づいた。

ファイルと、紙数枚。

何となくそれを手に取ると、それにはこう書いてあった。

「さんよんろくプロ…シンデレラガールズプロジェクト?」

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:40:04.75 ID:hvohTjZ6O
何だこれ?
…訳が分からない。

状況が掴めない。

まさか、誘拐でもされたのか?

…何が、どうなってる?

「……シンデレラ、ガールズ…?」

この名前、何処かで聞いた覚えがある。

確か、YOUが…。

『シンデレラガールズって言うんやけど!』

…まさか、あれ?

僕は、あれの世界に来たのか?

…いや、普通に考えて何かのドッキリじゃないのか?

有り得る訳ないよ、そんな事…。

「…」

周囲をくまなく見回すが、カメラらしきものは無い。

それどころか、人の気配も無い。

ドッキリにしては手が込んでいる。

「…嘘、だよな?」

狭い部屋では、小声でも響くんだな。

…全く、参ったよ、もう。

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:42:54.18 ID:hvohTjZ6O
しかしこのファイルが気になって仕方ない。

ゲームとかだったら、まず目の前の何かを調べるだろうし。

仕方なく、そのファイルを読む事にした。

折角だし、この事務所らしき部屋の事を見てみよう。

出ていくのは、それからでもいい。

「…?この子は…」

そこには、可愛らしい字で書かれた履歴書と写真があった。
名前は…。

「島村、卯月…」

これって…。

『頑張ります!』

あの子か?

髪型もこんな感じだった気がする。

「…」

何となくだけど理解した。

…僕は、本当にゲームの世界に来てしまったんだという事を。

「…あれ?」

このシンデレラガールズプロジェクト、一人しかいない。

後二枚用紙があるのに。

「…ということは…」

まだ、未定という事か?
つまり、ここは出来たてのプロダクションで、僕はそれのプロデューサー?

…いや、とりあえず携帯電話を確認しておこう。

ひとまずYOUに連絡をとらないと…。

『アドレス件数 3件』

「」

これは間違いなく僕の携帯電話だ。

とすると、誰かが意図的に消した、という事になる。

バンドメンバーはそんな悪質な事しないだろうし。

家族や家に常駐してるスタッフは考えにくい。

道で僕が倒れて、通行人がやって、…いや、だとしたら財布も盗られているはずだ。

というかそもそも僕が寝たのは自分の家だ。
道とかだったら僕は夢遊病者になってしまう。

色々と考えていると、何やら階段を駆けあがる音がした。

パタパタと、無邪気な走り方だ。

すると控えめなノックの後に木製のドアが開き、向こうから一人の少女が現れた。

「おはようございます!プロデューサーさん!」

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:43:52.23 ID:hvohTjZ6O
……。

……?

「え、僕?」

「?プロデューサーさん?」

僕の耳が腐ってないなら、確かにこう聞こえた。

プロデューサーさん、と。

彼女のその言葉は、間違いなく僕の方に向かって発せられた。

というより恐らくここには僕と彼女しかいない。

とどのつまり、僕は…。

「僕が……君の、プロデューサー?」

「………えっ?」

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:45:12.48 ID:hvohTjZ6O
彼女の名前は島村 卯月。
346プロダクションのアイドル候補生であり、今日は僕に呼ばれたから来たのだという。

彼女曰く、僕はアイドル達のプロデューサーであり、毎日のように会話している仲、らしい。

そして先程の僕の発言で自分がクビになったと思って泣いてしまったようだ。

可哀想だとは思うけど、いかんせん僕自身が状況を飲み込めないからなぁ。

「…ええと」

恐らく話というのは、このファイルに書いてある事だろう。

彼女をこのプロジェクトの一人として迎え入れる、という話。

まずはこの場を乗り切らなきゃな。

一応プロデューサーなんだし、な。

「今日は…卯月をこの…シンデレラ、ガールズプロジェクト…の一人目としてね、迎え入れようと思ってさ」

「シンデレラガールズ…プロジェクト?」

「そう。アイドルのユニットでさ。…実質まだ卯月一人で、後二人はまだ決まってないんだけど」

「…それって、もしかして…!?私が、アイドルとしてデビューするって事ですか!!?」

「…そういう事に、なる…よね」

実際なんの事だか分からないんだけど。

「や…やったぁ…島村卯月!頑張ります!!」

…この笑顔が見れたなら、今は良しとしよう。

「これからよろしくな。卯月」

「はい!プロデューサーさん!」

握手を交わす。
女の子らしい、小さな手だ。

…でも。

「プロデューサーさんはやめてくれないかな」

「えっ?」

「僕には、GACKTって名前があるから」

「は…はい!分かりました!GACKTさん!よろしくお願いします!」

全く、困った事になったな。
突然知らない世界に飛ばされて、アイドルのプロデューサーになって…。

でも、やってやろうじゃないか。

こうなったら、一流のアイドルにしてやるからな。

…僕は、僕のやり方で好感度を上げさせてもらうとするよ。

お前よりも先にトップアイドルのプロデューサーに辿り着いてやるからな、YOU。

でも、その前に。

「後二人、どうしようかな…」

…課題は多いな。

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:49:31.58 ID:hvohTjZ6O
この世界はどうやら僕のいた所と少し違うようだ。

何となく察したけど、「GACKT」なんて誰も知らない、というか存在しない。

どうやら僕はここでは一般のサラリーマンらしい。

名刺もちゃんとある。
そこには「GACKT」ではなく、「神威 楽斗」と記されている。

そして少し街を歩けば、どこを見渡してもアイドル達の看板があり、ビルを見上げればアイドルの広告。

もうアイドル尽くしだ。

そしてその中でも一際存在感を放つものがある。

「…ななひゃく、ろくじゅうご。……ナ…ムコ?」

765プロダクションのアイドル。

恐らく彼女達が今この世界のトップアイドルなのだろう。

…勿論、シンデレラガールズとやらの広告も看板もありはしない。

さみしい限りだ。

「…0からのスタートか」

悪くない。

僕が作る、アイドル事務所。

…面白いじゃないか。

その看板、すぐに取っ払ってやるからな。

…だけど。

「…あれで、みしろって読むんだなあ…」

…プロダクションの名前はもう少しどうにかならないものだろうか。

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:52:41.10 ID:hvohTjZ6O
「……?」

何だろう。
駅前で人混みが出来ている。

人が通るんだから、どいてくれないと困るよ。

「?」

人混みを後ろから見てみると、彼らの視線の先には警官と言い合いする女子高生。
それと、泣いている子供。
子供の下には、壊れたプラモデル。

……そりゃ、そうなるよなぁ。

でも、女子高生の方はしきりに首を横に振り、何もしていないと言っているようだけど、警官の方は聞く耳を持たないようだ。

確かに、ちょっと不良っぽくて目つきは悪いし反抗的だけど、そんな事するような子には見えないな。

…全く、野次馬達も面白がって見てないで、助けてやればいいものを。

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:53:51.09 ID:hvohTjZ6O
「ちょっと、どいてもらえるかな」

人混みをかき分け、警官の方に行く。

「ちょっといいですか?」

「?…何でしょうか?」

警官が訝しげに僕を見る。
当然と言えば、当然か。

「少しはその子の言い分も聞いてあげたらどうですか?」

「?…いや、しかしですねぇ…」

状況的に、彼女が子供のプラモデルを壊したと思うのが普通だろう。

しかし当の本人が泣きじゃくって話にならない。

「…とりあえず、署の方で話を聞きます」

ここでは何も解決にならないと踏んだのか、警官は彼女に容赦無く言い放った。

…仕方ないか。
それが彼らの義務だろうしな。

「じゃあ、僕も行くから」

「はい?…まあ、構いませんが…」

今度は女子高生が僕を訝しげに見る。

あはは。
取って食ったりしないよ。

…まさか、こんな早く良い人材に巡り会えるなんてな。

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 19:55:13.47 ID:hvohTjZ6O
「え!?じゃあ…ネジを探してて、それで…」

「うん…プラモデル置いて探してたんだ。お姉ちゃんも一緒に探してくれた」

そして、第三者が気づかずに踏んだと。

「…すいませんでしたぁ!!!」

警官達が彼女に頭を下げる。

彼女はさほど気にしていないようだったが。

まあ誤解が解けたようで何よりだと思う。

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:08:09.71 ID:283UGwJ8O
平謝りする警官に見送られ、彼女と二人で交番を出る。

彼女はあんな事があったというのにどこ吹く風という感じだ。

…しかし、今時の子は制服にピアスやネックレスが許されるんだなあ。

「…さっきは、ありがとうございました」

「いいよ。それに君に、用があったから」

「…?」

そう。
本題はこれから。

「実は僕さ、アイドル事務所のプロデューサーなんだけど」

「…は?」

「一目見た時から、ずっと目が離せなくてさ」

「…そういう魂胆だったんだ…。ナンパなら、その辺にいる奴にしてくれる?…呆れた」

軽蔑の眼差しで僕を見て、そのまま踵を返し行ってしまった。

…僕ももう41だったな。

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:09:15.25 ID:283UGwJ8O
しかし、何故か。

僕はどうしても彼女をアイドルにしたい。
いや、しなければならない。

そんな使命感を背負っているような気がした。

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:10:08.90 ID:283UGwJ8O
「ただいま」

…と言っても僕の家じゃない。

多分、事務所だ。

「お帰りなさい!GACKTさん!これから何をしましょう!」

「…じゃ、帰ろっか。晩ご飯どう?」

「え…っとぉ…は、はい!頑張ります!」

…この子、アホなのかな。

まあ、明るくていいかな。
…今の僕にはありがたい。

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:11:04.72 ID:283UGwJ8O
「美味しいです!」

「そっか」

晩ご飯の店は何処にするか聞いてみた所、彼女は何処でも良いと言っていた。

僕に気を使っているのだろうか。

…今どきの子でも、良い子はいるんだな。

「…あのぉ…GACKTさん」

「何?」

唐突に卯月が話を切り出してきた。
何だろう。

「どうして、私がその…シンデレラガールズに選ばれたんですか?」

「…」

そういえば、何でこの子を選んだんだろう。
…選んだの、僕じゃないけど、僕なんだよな。

何だかややこしいぞ。

「…そうだねぇ」

…でも、きっと僕もこの子を選んだと思う。

だって、こんなに。

「輝いてるからな」

「!?…わ、私が、ですか?」

「眩しいくらい、輝いてるよ」

両手で顔を隠している。
彼女なりの照れ隠しだろうか。

「〜!!ありがとうございます!島村卯月!アイドル頑張ります!」

「あはは。…僕も頑張るよ」

……当面は厳しい戦いになりそうだけどさ。

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:11:53.24 ID:283UGwJ8O
「…またアンタ?」

「偶然だね。本当に偶然」

「…待ち伏せしてたじゃん」

「諦められなくてさ」

「アイドルなんて、興味無いよ」

「僕はお前に興味があるんだ」

「…  コン?」

「違うさ。お前がそれだけ人の目を引く魅力の持ち主ってことなんだ」

「…学校、行かなきゃいけないから」

「そっか。またな」

「またなって…他の子にしてよ」

「僕には今お前しか見えてないんだよ」

「はぁ…」

前途多難。
だけどこれくらいで折れてたら、男じゃない。

「…ね、ねぇあの人めっちゃカッコ良くない?」
「凛!あの人誰なの!?」
「…知らないよ」

…だけどあまり時間もかけていられない、か。

27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:12:56.85 ID:283UGwJ8O
「……なんなんだろ…この家」

昨日僕は自分の家に帰った、つもりだった。

そこにあったのは、小さな一軒家。

しかし表札には神威という文字。

何故かスーツに入っていた鍵を差し込むと、これまた何故か、開いた。

そこに広がるのは、無機質な部屋。

必要最低限の家具に、机と椅子。

ソファも、ベッドも、滝も、バーも道場も地下も加湿器も無い。

風呂と、トイレと、リビングと寝室だけ。

だけど、これが今の僕の家。

なんとなくだけどそう感じた。いや、多分決定事項なんだろうな。

無理矢理連れてこられて、こんな仕打ちがあるのか。

…人材に僕を選んだのなら、せめて加湿器は置いといてほしい。

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:14:25.13 ID:283UGwJ8O
「…」

安っぽい背もたれの固い椅子に座る。
それと同時に柔らかいソファの有り難みを改めて痛感する。

これからは、物を大事に扱おうかな。

机の上に置いてあるノートパソコンをいじくりながらそう思った。

「…」

昨日から約一日、この家で過ごしてみたけど。

…僕は、一人じゃ何もしないんだなあ。

料理も外食だったし、洗濯もまだやってない。

軽いトレーニングをして、風呂に入って、冷たい床に敷かれた布団で眠れない夜を過ごした。

…しかし意外とストレスは感じてない。

恐らく、僕は今この現状を楽しんでるのだろう。

ゲームの世界に飛び込んで、非日常を過ごしている。

眠れなかったのは、楽しいからなのかもしれない。

年甲斐も無くはしゃいでいる。

「…あはは」

……でも、寂しい。

いつもは笑っただけで誰かが質問攻めしてくるのに。

…仲間は、大事だな。

…仲間、か。

『♪〜お風呂が、湧きました』

「………ありがとう」

……久しぶりに、自分でお風呂を沸かしたよ。

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:15:14.65 ID:283UGwJ8O
「おはよう。卯月」

「おはようございます!今日は何をしますか!?」

「……レッスン、かな」

「ありゃ…は、はい!頑張ります!」

仕事、無いしね。

「じゃ、僕はまた勧誘に行くから。終わったら連絡するよ」

「はい!」

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:16:22.53 ID:283UGwJ8O
「君、可愛いね。良かったら一緒に食事に行きたいなぁ」

「…ここ私の家なんだけど…もしかしてわざとやってる?」

「手法を変えてみたんだよ。どうやったら来てくれるか考えたんだ」

「根っこは変わってないのにね」

そういう星の下に生まれたからな。

「話だけでも、聞いてほしいんだ」

「………じゃ、話だけだよ」

これだけでも、一歩前進だな。

31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:17:36.10 ID:283UGwJ8O
「…シンデレラガールズプロジェクト…」

「そう。そしてお前が二人目のシンデレラなんだよ」

「いや、やらないって…あのさ」

「?」

「どうして私なの?…私より可愛い子なんていくらでもいるでしょ?」

「…」

卯月と同じ質問だ。

だけど今回は僕が、この目で選んだシンデレラだ。

「…可愛さってのは、魅力ってのはさ、外面だけじゃないんだよ」

「?」

「そういったものは、内側から出てくるもんだ。それにただ顔が可愛いだけなら3時間で飽きる。一生、触れていたいと思わせる女になってほしいんだ」

「…で、どうして私?」

「…キスしたくなったからかな」

「…帰る」

「………それと、僕なりの勘…かな」

「………そっか」

「ありがとな。また行くよ」

「…好きにすれば」

好きにするさ。
僕は恐竜系男子だからな。

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:20:39.15 ID:283UGwJ8O
「おはよう。卯月」

「おはようございますGACKTさん!今日は何をすればいいですか!?」

「……そうだなぁ。……なぁ、卯月」

「はい!」

「デートしよっか」

「はい!頑張ります!……ってええええええ!!!?」

あの子には悪いけど、ズルい手を使わせてもらうか。

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:21:40.46 ID:283UGwJ8O
「今日は、花屋に行くんだ」

「お花屋さんですか?…あれ?ここって…」

「あ」
「あ」

卯月と彼女が顔を合わせた瞬間、止まった。

どうやら初対面ではないようだ。

これは運が良いな。

「卯月、もしかして知り合いだった?」

「はい!私がどれにするか迷ってたら選んでくれたんです!」

「へー」

…花屋の人なら至極当然の事だと思うけど。

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:23:41.45 ID:283UGwJ8O
「…ねえ、何だか近いんだけど」

「近い方が話がしやすいだろ?」

「…いや、あのさ、これ…なんなの?」

今、僕と卯月が彼女を挟んで座っている。

どうにも彼女には堪え難いらしい。

犬も困惑しているようだ。

「えっと…これから一緒にアイドルやるんですよね!よろしくお願いします!」

卯月が彼女に手を差し出す。
すると彼女は首を横に振り、否定する。

そういえば卯月には断られ続けてる事言ってなかったな。

「そんなぁ…折角仲間が出来たと思ったのにぃ」

シクシクと泣く卯月に彼女の犬が近づく。

小さくて、可愛らしい犬だ。

「可愛いなぁ…!じゃなくて、その、お名前聞いてもいいですか!?」

「?ハナコだけど…」

「ハナコさんですね!よろしくお願いします!島村卯月です!」

「え?あ、いや…犬の名前…」

「ええっ!?」

「…ふふっ」
「…えへへっ」・

僕も一瞬ハナコって呼びそうになったよ。
危ない所だった。

…でも、今ので何が伝わったんだろうか。
僕には、分からないな。

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:24:53.62 ID:283UGwJ8O
だけど、収穫が一つ増えたよ。

「お前の魅力、また一つ見つけたよ」

「え?」

「…その笑顔がさ、本当に純粋だったんだよ。純粋に笑える人間って、心がもう、すっ…ごく綺麗な証拠なんだぜ?」

「……凛」

「?」

「お前、じゃなくて…渋谷、凛。私の名前」

凛、か。
似合ってる、いい名前だ。

「僕はGACKT。神威 楽斗」

「GACKT…そっか。分かったよ」

「来てくれる気になった?」

「…」

僕の質問に、凛は答えない。
悩んでいるのか、それとも断る理由を探しているか。

…いや、この場合は前者だろうな。

「悩むのは、答えを導く材料がまだ揃ってないから。… だったら、その材料を探しに前に進んでみたらどうかな」

「前に、進む…」

「そうだよ!一緒に進もうよ!…ええと、渋谷、さん?」

「…凛でいいよ」

「!うん!よろしくね!凛ちゃん!…私は、卯月ね!」

「でも、アイドルになってもさ、私、売れるのかな…」

売れるか、どうか。
そんなものはやってみなくちゃわからない。

でも自信が無いのは当たり前だ。

「自信ってのはさ、自分の中から振り絞るもので、人から与えられるモノじゃないんだよ。…卯月を見てみろよ」

「…?」

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:26:02.68 ID:283UGwJ8O
「私、ですか?」

島村 卯月。
彼女から自信があるだなんて言葉は聞いていない。

だけど彼女から自信が無いだなんて言葉も聞いてない。

「ただ、アイドルが好きなだけだ。輝く自分を見たいだけだ。自信とか、そんなのは考えてすらない」

「わ、私そんなに自信過剰じゃないですよぉ…?」

「夢は、見るものじゃくて、叶えるものだ。そして、夢を叶えるということ、それは強い意志を貫くこと。卯月にはその強い意志がある」

「えっと…えへへ」

「そしてそれは勿論、僕にもある。僕の夢は、お前達をトップアイドルにすること。…だから、僕の手を、卯月の手を取ってほしい。…僕達を、信じてほしい」

「……一晩だけ、考えさせて」

「最後に、これだけは言わせてくれ」

「?」

「夢を見ろよ。寝てる間じゃなく、起きてるうちにさ」

「…じゃ。行くから。…………またね」



「凛ちゃん、来てくれるかなあ…」

卯月が不安気な顔をしている。
やっと来た仲間なのだから、当然か。

「凛次第だよ。これ以上は僕も何も言わない」

……またね、か。

「あはは。じゃ、帰ろうか」

「?…はい!」

凛。

またねってのはな。

今の僕にとって最高の言葉だよ。

37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:27:05.73 ID:283UGwJ8O
「…」

…。

『夢を見ろ。寝てる間じゃなく、起きてるうちにさ』

…。

「夢…か」

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:28:25.38 ID:283UGwJ8O
「渋谷 凛。15歳、高校生」

「知ってる」

「自己紹介しろって言ったのアンタじゃんか…」

「そうだっけ?あはは。もう嬉しくってさぁ」

「凛ちゃん!本当に、本当によろしくね!一緒に頑張ろうね!」

「う、うん。宜しく」

「堅いなぁ」

「…そっちが卯月で、……ふーん。アンタが私のプロデューサー?」

「そうだよ…いや前から言ってるじゃん」

内心イラっとしたけれど。
あはは。
何だかこれデジャヴだな。

「じゃあ、これから一緒に頑張っていこうな。凛」

「…うん。GACKTさん。…後さ」

「?」

「あの後GACKTさんの香水でハナコの鼻がいかれそうになったから、あんまりハナコに近づかないでね」

「…あはは…」

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:29:56.57 ID:283UGwJ8O
…さて、後一人か。
次は誰をナンパしようかな。

またすぐに見つかれば良いけど。

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/01(水) 22:31:01.50 ID:283UGwJ8O
…。

『シンデレラガールズオーディション会場』

…。

「…ま、いっか」

……何なんだろうな。
聞いてないんだけど、こんなの。



「はい、じゃあ真ん中の子、自己紹介よろしく」

「はーい!!エントリーナンバー5番!本田 未央です!!」

…。

…さて。

選ぶ必要も無いか。

もう準備は整ったかな。

僕達の、快進撃といこうか。卯月、凛、……そして、未央。

「……YOU、元気でやってるかな」

元の世界に帰ったら自慢してやるか。

…。

……。

「どうやったら戻れるの?」

第一話 終

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:30:52.95 ID:JhNxPlb40
あれから僕は元の世界に戻る事なく、あの小さな家で目を覚ました。

そして昨日携帯電話のアドレス帳を確認した所、やはり連絡先は3件だけだった。

「千川ちひろ……誰?」

せめて、この世界のマニュアル本でも置いといてほしい。

「うわっと…」

偶然か必然か、僕の携帯電話が鳴り出した。

そこに表示されていたのは。

「千川ちひろ」

…。

だから誰だよと思ったけど、そういえば…。

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:31:58.30 ID:JhNxPlb40
「GACKTさん!おはようございます!」

シンデレラガールズプロジェクト、346プロ事務所のビルで待ち合わせ、というか…出勤。

まだ道のりすら覚えてない僕にとっては待ち合わせといった方が正しいのだけれど。

彼女、千川ちひろからすればいつものように、いつも通りの時間にやってきたということなのだろう。

緑スーツ、というか彼女を探す事に必死になっていた僕に笑顔で話しかけてきたことからそれは伺える。

カーナビで道のりを調べながら来る僕の苦労など知る由も無い筈だ。

…前から思ってたけど、随分大きなビルだ。

人も多い。

ここは無名プロダクションじゃないのか?

……本当、全く、訳が分からない。

「GACKTさん?」

「うん。おはよう」

色々考えても仕方ないか。
とりあえず目の前の事を一つずつ片付けていこう。

…それに、一度任されたからには逃げたくないしな。

「で、今日は何だっけ?」

「え!!?……その、シンデレラガールズプロジェクトのアイドル達の顔合わせですよ?」

「…そうだった…よね」

知らないよ。

それに顔合わせならしてるんじゃないの?

…あ、未央はまだだっけ?

「じゃ、これが名簿ですからね!」

ちひろはそう言って一枚の紙を僕に渡す。

そこにはシンデレラガールズプロジェクトのメンバーの名前が書かれていた。

55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:32:53.19 ID:JhNxPlb40
…。

……。

………は?

「14人?」

「はい!……GACKTさんが選んだんですよ?」

選び過ぎだよ。
…僕。

「面接という訳ではないですが、一人ずつ条件等の確認もしますので、話し合いをして頂きますね!」

…。

「え、僕と?」

「はい!と言っても一人5分程度だと思いますからそれ程時間はかかりませんよ?」

全員やったら一時間以上はかかるぞ。
簡単に言うんじゃないよ。

「あ、でも…あの三人は特別ですかね?」

ですかね?って何?

「彼女達はまだまだ新人ですし、空気に慣れてもらわなくてはなりませんから、レッスンから始めてもらうんです!」

「そっか。……え?そうなの?」

「はい!…そういえば、そろそろ来る時間ですね」

「へー」

僕の知らない所で何時の間にか色々進んでいるみたいだ。

いや、僕が把握してないだけかな。

「ですが、その前に!」

そう言うとちひろは僕に向かって右手を突き出した。

小さい手の中には、栄養ドリンクのような物が握られている。

蓋が星の形をしている、変わったドリンクだ。

「…何これ」

ちひろはそれを僕に渡すと、にぱっと聞こえてきそうな笑顔で。

「私からの差し入れです!これで朝の眠気を吹き飛ばして頑張って下さいね!」

「…いらないよ?」

「ええっ!?」

栄養ドリンクなんて、飲まないし、好きじゃない。

「そ、そんなあ…」

そんな絶望の顔をされてもなあ。

「…とりあえず貰うよ。ありがとう」

こういうのより、野菜スムージーの方が良いと思うんだけどな。

…ま、貰うだけで喜んでくれるなら貰うしかないか。

…しかし事務員、か。

「?」

YOUに伝えてやりたいな。

346プロは事務員もアイドル級だって。

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:33:50.39 ID:JhNxPlb40
「へー…ここが事務所なんだねえ」

「一人もいないね…」

「おおっ!何かかっこ良いじゃん!」

「「!」」

「あの、さっきの…?」

「うん!私はねぇ…」

入り口の方から声が聞こえた。

どうやら、来たみたい。

「おはよう」

3人は振り向くと、僕を見て少しだけ綻んだ笑顔を見せた。
もしかしたら場所を間違えたかもしれないと思ったのかな。

「「「おはようございます!」」」

元気だなあ。若い証拠だ。

あ、まだ子供か。あはは。

57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:34:47.22 ID:JhNxPlb40
「えっと…そちらの方は?」

「千川 ちひろ。事務員だよ」

「はじめまして皆さん。私、千川ちひろです!ここの事務員をさせてもらっています」

…そういえば、この子はいくつになるんだろう。

20代前半か、その辺りだろうか。

雰囲気は落ち着いていて、でも元気がある。

さっきも思ったけど、この子がアイドルになってたとしても不思議じゃない。

「…GACKTさん?」

「ん…なんでもないよ」

僕の視線に気付いたのか、僕の顔を見上げるちひろ。

身体が小さいからなのか、自然と上目遣いになる。

…ちょっと、くるよな。・

…というか、そのジュースどこに売ってるの?

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:35:34.72 ID:JhNxPlb40
「お前達にはこれからレッスンを受けてもらうからさ。それからはアイドルの触り程度のお仕事もするから」

「本当ですか!」

どうやら初顔合わせは何の問題もなく進んだらしい。

年齢もそんなに変わらないし、すぐに友達になれたみたいだ。

安堵していると、未央が僕の前に立ってにこやかに質問してくる。

「ね!そういえば何で私がアイドルになれたのかな!…やっぱり超絶可愛いスポーツ万能だから?」

「…雰囲気、だね」

「雰囲気?」

このあっけらかんとした感じ。
ムードメーカーというやつだろうか。
そんな感じがする。

彼女、本田 未央は一度は落ちてしまったものの、欠員補充のオーディションで補欠合格した子、らしい。

…あのオーディションにはそういう意味があったのか。

未央を選ぶのは、僕の意思なのか、そうなる運命だったのか。

…前者であってほしいものだ。

59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:36:21.10 ID:JhNxPlb40
「じゃあ僕は他のアイドル達と顔合わせてくるから」

「え?他の人達もいるの?」

「いるよ。後…11人」

「11人!?ど、どんな人達!?会ってみたい会ってみたい!」

自分と共に歩んでいく仲間達がいる事が嬉しかったのか、興奮気味に食いつく三人。

だけど、お前達は特別らしいからな。

「とりあえずレッスン行ってきなよ。それからはしばらく自由だから」

「えー?じゃあ皆にはまだ会えないの?」

「ちゃんと会えるよ。僕の方が先だけどな」

しかし僕一人で14人か。

…全く信じられない程むちゃくちゃだな。

レッスン会場で彼女達と別れ、僕も自分の仕事をする事にした。

60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:37:16.71 ID:JhNxPlb40
「戻ったよ」

「はい!もうアイドルの子達の準備も出来てますよ!」

「準備って何を準備するの?」

「女の子にも色々あるという事です!…という訳で、あちらの部屋に用意してありますので…」

行けって事?
…この子、割とズケズケ来るなあ。

61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:40:31.72 ID:JhNxPlb40
「…」

結局言われるがまま部屋に入れられ、椅子に座らされた。

まあ仕方ないよね。
自分が何をするのかすら分からないんだし。

「…」

…。
柄にも無く緊張してる。

僕、人見知りだし。

「最初、誰来るんだろ…」

名簿には一応目は通した。

顔写真も見た。

…はっきり言って、何で選んだのか分からない子ばっかりだ。

正直、怖い。

そしてそんな事を思っていた折、部屋の扉がノックされた。

どうやら来たようだ。

62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:41:20.08 ID:JhNxPlb40
「失礼します」

入ってきたのは、お菓子作りが好きなアイドル。

「三村 かな子です!趣味はお菓子作りです!」

…体重は、普通。
…着太りするのか?

「おはよう。…よろしくな」

「はい!よろしくお願いします!」

握手をすると、物凄く柔らかい感触が伝わってきた。

あはは。子犬でも触ってるみたい。

「今日から本格的に活動していくけど、何か聞きたい事はある?」

「え、えっとお…う~ん…その、わ、私…」

「?」

かな子が自身の身体を見る。

「私、アイドルに相応しい体型なのかなって…」

言うと思ったけどね。

でも、ここまで来てそれって今更だよね。

「アイドルになるならさ、持ってる物を武器にするくらいの器量が無いと駄目だよ。それがどんなものであれさ」

「ぶ、武器に?」

「当たり前だよ」

テレビに出るなら、それ相応の度胸はなきゃ駄目だよ。

芸能人ってのはそんなもんだ。

63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:42:04.19 ID:JhNxPlb40
「失礼しまーす」

「はい」

……。

iPodをいじりながら入ってきて、ヘッドホンを外し椅子に座る。

何だろう、この非常識人は。

「ねえ、そのヘッドホン何?」

「?これですか?…私、ロックなアイドル目指してますので!」

多田 李衣菜。
ロックなアイドル、か。

ふーん。

いいね。
ロック。

…良いじゃない。

「あのさ、ちょっといいかな?」

「はい!」

「楽器はどれくらい弾けるの?」

「あっ…」

64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:43:21.74 ID:JhNxPlb40
…。

「とにかく、私はロックでクールに…」

「……そっか」

…ロックなアイドルじゃなくて、ロックになりたいアイドルだったか。

…知識はこれから頑張ればいいよ。

「ちなみにだけどさ、何聴いてたの?」

「あ、これですか?え、ええとですね…よ、洋楽の…何だったっけ…」

あはは。

…ロックをバカにするんじゃないよ。

65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:44:15.05 ID:JhNxPlb40
「し、失礼…します」

控えめなノックから現れたのは、ツインテールの女の子。

「緒方 智絵里です…」

オドオドしててるのが目に見えて分かる。

「…座りなよ」

「は、はいぃ」

あっちを見たり、こっちを見たり。

大丈夫なのだろうか。

迷いこんだ子供じゃないんだから、もっとドッシリ構えてくれないかなあ。

「…智絵里で、いいんだよね?」

「は、はい…」

「何か聞きたい事とかある?」

「え、えっと、私、その…」

「?」

「…頑張ります…から」

「うん?」

「す、捨てないでください…ね」

「は?」

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:45:28.26 ID:JhNxPlb40
…。
あの3人にも言える事だけど、変わってるよなあ。皆。

こんなのが後8人も続くのか。

…捨てないでって、何だよ。
僕はお前の旦那じゃないぞ。

「…あ、あのお…」

「あ、ごめん。よろしくな」

制服姿、というか、何だろうか。

鞄一つと、ラクロスで使うラケット。

聞いてくれと言わんばかりにそれを分かりやすく椅子の横に置いている。

「…そのラケットは?いつも持ち歩いてるの?」

僕も気になったので、それの用途について聞いてみた。

「あ、これは…今日の撮影で使えるかな、って…」

ラケットを大事そうに抱えて笑顔になる彼女、新田 美波。

…。

「…ど、どうでしょうか?」

「…変わってるね」

「えっ!!?」

…いけないな。
つい本音が出た。

「年齢は19、ね…」

シンデレラガールズプロジェクトの中では一番年上か。

「はい!少しだけですけど、皆の中で一番お姉さんですから…」

そっか。

確かに、大人びて見える所はあるからね。

この子は皆のまとめ役として、期待するとしようかな。

67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:46:30.84 ID:JhNxPlb40
次は誰なんだろう。
…いや、何となくだけど誰かが来るのは分かってる。

耳を澄ますとパタパタ、でもカツンカツンでもない。

形容し難いけど、女の子の足音には聴こえない。

今までの子よりも大きく、何か口ずさんでいる。

そしてノックの音も大きい。

「……はい」



「やっほーい!!諸星 きらりだにぃ!!」

「双葉 杏…」

…。

顔は、子供。
体は、世紀末。

小脇にぬいぐるみ…のような奴。

「…よろしくな」

「うきゃー☆いきなり握手なんて照れゆー!」

近付いて、いや近づかなくても気づくけど。

……この子、僕より大きいな。
自分より大きな女の子を見るのなんて、小学生以来だよ。

「…で、これは?」

きらりの抱えた人形を指差す。

いや、分かってる。
決して無機物ではないだろう。

「あー…極楽」

「ねえ、それ降ろしてもらっていいかな?」

「?…ほい!」

「うぇー」

…。

「あのさ、何してるの?」

「?…誘拐された」

「…」

そういう意味じゃねえよ。

「いや、とりあえず立とうよ」

「…じゃ、起こして…」

「……」

どうしてやろうか。
いや、ここまで無気力だと一周回って清々しいな。

もう、むしろ、こき使ってやりたくなるな。

「…何だよう…口がニヤついてるぞぉ…」

この見るからに無気力そうなのが双葉 杏か。

こんなの採用するくらいなら未央を5人くらい採るよ。

…いや無理だけど。

68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:47:40.48 ID:JhNxPlb40
とりあえずあの人形はきらりに任せておくことにした。

…それに、無気力とは言いながらもちゃんと事務所には来てくれている。

アイドルの仕事を絶対やらないという事はないだろう。

「…はい、どうぞ」

…普通の子、来るといいな。






「闇に飲まれよ!!」

「」

69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:49:05.12 ID:JhNxPlb40
「…何?」

「…我が名は神崎 蘭子。紅き満月の夜より…」

「何て?」

「…い、いえ…」

「お願いだから、普通にしてくれないかな」

「…ふぇ…」

銀髪という珍しい髪色の女の子。
…多分だけど、染めてる。

この服装は…。
ゴシック系というのかな?

「何というかさ、面接じゃないけど、一応これから一緒に頑張っていくんだからさ。あんまりふざけられると困るんだよね」

「…ずびま゛ぜん゛でじだ…」

「…ごめん。とりあえず泣き止んでよ。はいティッシュ」

「ぶぇ…」


…14歳、か。

あからさま、だよな。

…何だか、胃が痛いよ。

これくらいの年齢なら誰しもある事なのだろうか。

…伊集院さんの言葉。
中二病だったっけ?

…どうやって接すればいいんだよ。

僕も昔はああいう時期があったのかな。

…いや、親父にボコボコにされて終わるよ、あんな事してたら。

70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:49:51.63 ID:JhNxPlb40
「…」

頭を抱えて悩んでいる暇もなく、間髪入れずに扉がノックされる。

「…はい」

「Вы грубо」

「え?」

「Доброе утро」

「あ?」

「…あ、すいません。私、アナスタシア、ロシアから、来ました」

……ロシアか。

一体この子とどうやって会って、どうやってこうなったのか知りたいもんだな。

「名前は、えっと…アナスタシア、だね」

「アーニャ。そう呼んで下さい」

そう言うと彼女は深々とお辞儀した。

アーニャか。
可愛らしいじゃないか。

日本語能力は後回しとして、礼儀正しくて良いな。

…良い機会だし、ロシア語、覚えようかな。

71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:50:33.39 ID:JhNxPlb40
次の子が来るまでの間に携帯で何となくロシア語を見てみたけど。

ロシア語って、発音が難しいんだよなあ。

…音声聴いても分からないや。

けど、今は携帯電話でも勉強出来る時代なんだよな。

便利な世の中になったものだよ。

「失礼しまーす!」

「はい」

城ヶ崎 莉嘉。
金髪の、…ちびギャルか。

「ねえねえ知ってる!?」

「何?」

「実はね!私のお姉ちゃんもアイドルなんだよ!」

「へー」

「も」って…。

どこに行ってもアイドルアイドル…。

…アイドル乱立状態だな。
…アイドル戦国時代、か?
なんてな、あはは。

「へーって…もしかして知らないの?」

「興味無いんだよねぇ」

「えー!!?」

興味が無いというか、だから何だという話。
姉は姉。
妹は妹じゃないか。

「僕が興味あるのは、これからアイドルとして活躍していく君らだからさ」

「!何かかっこ良いね!えへへ!」

……我ながら、取って付けたような台詞だ。

この子にあだ名をつけるとしたらなんだろう。

アゲ嬢、小悪魔。あはは。

72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:51:08.99 ID:JhNxPlb40
「失礼しまーす!赤城みりあだよー!」

「赤城みりあ、です。だろ?」

「んー?」

赤城 みりあ。
美波とは逆に最年少のアイドル。

小学生だから仕方ないけど、ノックもしない勝手に座る声がうるさいの三拍子が揃っている。

しかし小学生からアイドルか。
…将来はどうなることやら。

しかし、莉嘉もこの子も本当に元気だ。

見てるとこっちも元気になれるな。

あはは。こんな台詞、まるでおじいちゃんだな。

…41、か。

「?…どーしたの?」

「…何でもないよ」

まだまだ若いよ、僕は。

73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:51:48.31 ID:JhNxPlb40
あの3人とは対照的に変わった子が多い。
もしこれを全員世話するとなったらどれだけ大変なのだろうか。

…鬱になりそうだな。

感受性豊かな思春期の子達を14人も相手にしなきゃいけないなんて。

もうちょっと大人な方が、僕にはいいかな。

本当、個性豊かな子達が揃ったものだよな。

僕はこの事務所を見世物小屋にするつもりは無いんだけどなあ。

これ以上変なのが来ないことを祈りたい。



が。




神様は僕の事を嫌っているようだ。

74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:52:28.12 ID:JhNxPlb40
「失礼しますにゃ!」

「あ?」

「前川 みくだにゃ!ガクちゃんよろしくにゃ!」

「ガクちゃん…?」

「GACKT、だからガクちゃんにゃ!」

「…にゃって何?」

「?みくは猫キャラだから、こうしているんだにゃ!」

「えええ…」

こういう人、いるんだなあ。
これって来年も再来年も続けるつもりなのかな。

…そこまで出来たら、尊敬できるな。

「とゆー訳で、改めてよろしく、にゃっ!」

「イタっ」

「イタって言うにゃー!!!」

75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:53:04.02 ID:JhNxPlb40
疲れた。

人と話すのは嫌いじゃないけど、相手が普通じゃない。

何で僕があれらを選んだのか、未だに分からないよ…。

「…そろそろあの3人も来る頃、かな」

ビル一階フロントで待ち合わせ、だったかな。

76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:55:38.66 ID:JhNxPlb40
……。

……。

遅い。

もう5分は過ぎてる。

…忘れてるのかな?

僕も時間にはルーズだから、気持ちは分かるけどさ。

新人のうちからそれは駄目だよな。

そう考えていると、一人の長身の女の子が歩いてきて、僕の前で立ち止まった。

「GACKTさん…こんにちは」

「ん?…ああ、うん」

「…?どうかされましたか?」

「いや、何でもないよ」

…。

ボブヘアーにオッドアイ。

そういえばこのビルで温泉街のポスターがあった。

それにはこの子が起用されてたな。

名前は確か…。

「楓、だよね」

「?…え、ええ…」

良かった、何とか思い出せたかな。

…もしかしたら僕は、このビルにいるアイドル達全員と面識があるのか?

…それはそれで嬉しいような、困るような、気がする。

77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:56:19.40 ID:JhNxPlb40
「GACKTさん!あの、さっきの高垣 楓さんですよね!?」

「うん。そうだね」

楓と別れた瞬間、入口から卯月達が走ってきた。
…いや、もっと前から走りなよ。

「すっごーい!!楓さんと知り合いだなんて、もしかしてGACKTさんって敏腕プロデューサーなの!?」

敏腕どころか、まだ駆け出しなんだよ…。

「…そんな事よりさ、遅刻だよ?」

「あ……つい楽しくて…」

「ごめんなさい…」

あはは。女の子らしいじゃない。

「だけど仕事だからさ。友達と待ち合わせしてるんじゃないんだよ?」

「…すいませんでした…」

そんな落ち込まなくてもいいのに。

…これが普通の子、だよな。

「…」

「わっ!」

「じゃ、行こっか」



「あ、頭撫でられちゃった…えへへ」

「……卯月、行くよ」

「ほほー…GACKTさん、やりますなあ…」

78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:56:55.35 ID:JhNxPlb40
「ねえGACKTさん、私達の最初の仕事って?」

「これからお前達を宣伝するための写真撮影だよ」

「わー!見て見て!すっごい可愛いい!」

「GACKTさん!あれで撮影するんですか!?」

「あれじゃないなあ。多分、こっちだよ」

…あのハート形の台座、何だろう。

I ・ MIKA?

…どう考えてもウチじゃないよ。

79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:57:41.14 ID:JhNxPlb40
シンデレラガールズプロジェクト 様と書かれたプレートがある控え室。

辺りを見渡すとさっきの所とは対象的に、スタッフも少なく台座も無い。

僕らはまだまだ駆け出しだということを痛感させられる。

気を引き締めて行かなきゃな。

「入るよ」


中に入ると、先程顔を合わせた子達がいっせいにこっちを振り向き、卯月達に近づいてきた。

そういえばこの子達はこの三人と初顔合わせだったか。

「…!あ、もしかして、シンデレラガールズプロジェクトの人達!?」

「あ、はい!そうです!」

「わぁ!って事は、ねえねえGACKTさん!」

莉嘉が嬉しそうに僕の手を握る。

…全員集合、か。

まあ。

「そういう事になるね。これで全員揃ったからさ」

シンデレラガールズプロジェクトが始まるのか。

でも皆。

はしゃぐのは写真撮影終わってからにしてくれないかな。

80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:58:22.26 ID:JhNxPlb40
「お、何か賑やかだと思ったら…」

後ろから声が聞こえたので振り向くと、そこにいたのは。

…。

「…誰?」

「………………えっ?」

際どい格好をしたギャル風のピンク髪の女の子だった。

81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:59:02.98 ID:JhNxPlb40
「ああ、莉嘉のお姉さんか」

「びっくりしたよ…いつも普通に顔合わせてるのに忘れられたかと思ったじゃんかぁ…」

本当に知らないんだよなあ。

でも彼女、城ヶ崎 美嘉はこの世界では有名なアイドルらしい。

…確かに、魅力的な感じだ。

モデルとしても、アイドルとしても良いと思う。

この挑発的な服装も…悪くない。

すると僕の視線に気がついたのか、美嘉の顔が赤く染まりだした。

「あ、あの…そそそその、ああああんまり見ないでぇ…はは恥ずかしいから……」////

…見られるのが嫌なら、そんな格好しなきゃいいのにな。

82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 20:59:42.53 ID:JhNxPlb40
皆それなりにポーズを取れているようで、滞りなく宣材撮影が進んだ。

…途中までは。

「島村さん!表情固いよ!もっと柔らかく!」

「渋谷さん!目線こっちに!…笑って笑って!」

「本田さん!もっと普通に!!!」

……この三人は、世話が焼けるなあ。

ついこの間まで撮られる側よりかは撮る側だったんだしな。

仕方ないといえば仕方ないか。

「んー…どうしましょう?」

スタッフがあの三人を撮った写真を僕に見せる。

卯月は口角がつり上がったぎこちない笑顔。

凛は無表情。

未央は………何だこれ?

「……撮り直し」

83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:00:27.71 ID:JhNxPlb40
一旦休憩を挟み撮影に戻ると、カメラマンが青いボールを未央に向かって優しく放っていた。

彼曰く、いつも通りの彼女達を見せてくれという。

……それ、簡単そうで結構難しいよね。

だけど彼女達は僕の予想外の行動を取り出した。

「しまむー!パス!」

「ぶぇっ!…し、しまむー?」

「しぶりん!投げて投げて!」

「…しぶりん?…まあいいけど」

…。

未央を選んだのは、正解だったみたいだな。

この三人、力を合わせれば、もしかしたら。


「しぶりん!決めちゃって!」

「はっ!」


……もしかするのかもしれないな。

84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:01:17.97 ID:JhNxPlb40
「…うん。これなら良いかな」

可愛く撮れてるじゃないか。

そりゃあ、僕が選んだアイドルだからな。

「写真撮れたのー?」

「何とか終わったよ」

美嘉が僕らの所にやってきた。
自分の仕事は良いのだろうか?

「んー…ちょっと提案したい事があってさ」

「?」

何か含みのある感じだ。

聞こうと思ったが、それは未央の声にかき消された。

「ガクちん!一緒に撮ろうよ!」

…。

「ガクちん…」

あはは。久しぶりに呼ばれたなあ。

相手は自分の半分も生きてない子供だけど。

そういえば、元の世界では中々皆僕に対して踏み込んできたり、くだけてきたりはしなかったな。

スタッフも、知り合いも。

くだけてくれるのなんて、ごくごくわずか。

だけど、子供はそういうのが無いんだな。

…元の世界に居た時は、ちょっと怒ったかもしれないけれど。

これはこれで、悪くないか。


「あっ…ちょっとGACKTさん?…出来れば真ん中ではなくて、後ろとかで…」

後ろかあ。

隣にきらりがいるからなあ。

…自分より大きな女の子の隣って、嫌だよな。

「ガクちゃんおっつおっつ!」

しかしこの子はこの子で、別次元だな。

「…ま、いっか」

じゃ、美波とアーニャの間にお邪魔しよっか。

「きゃっ…あ、あのお…が、GACKTさん…?」

「Смущенный…は、恥ずかし、です…」

「むぇー…きらりもハグハグしてほしいにぃ」

あはは。

「…これから一緒にやっていくんだ。頑張っていこうぜ」

「良いですねえ…じゃ、撮りますよ!はい目線こっちに!……渋谷さん!GACKTさんを睨まないで!」

85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:01:56.87 ID:JhNxPlb40
撮影も終わり、事務所へ戻ると美嘉が待っていた。

そういえばさっき何かを話したがっていたっけな。

「で、何だったの?」

「うん。それでね、この三人を私のLIVEに参加させられないかなってさ!」

「「「ええっ!?」」」

…は?

「私のLIVEのバックダンサーに空きが出来ちゃってさ!ね?良いと思うんだけど!」

だけど、ついこの間まで素人だったんだしなぁ。

「良いじゃないか。遅かれ早かれLIVEはするんだからねぇ」

そう言ったのは初老の男性。

…誰だろうか?

エレベーターに常駐してた気がするけど。

「じゃあ…部長の許しも出た事だしさ!ね?」

「「「ぶ、部長!!?」」」

「……うーん」

…僕の上司だったんだ、あれ。
警備員か何かと思ってた。

しかしLIVEか。

確かに、いつかはやらなきゃならないんだ。

この三人も、残りの皆も。

「…いいよ。やろっか」

「GACKTさん!?」

卯月が目を見開く。

「…お前達にはいずれ、一流のアイドルになってもらうんだ。こんなもんでビビってちゃあ、ダメだよ」

そう、こんなもんだ。
アイドルのバックダンサー。

その程度出来なきゃ、この先どうなるか分からない。

「…えっと…じゃあ、オッケーってことだね!やったぁ!」

美嘉が可愛らしくピースをしている。
彼女にとっては嬉しい事でも、あの三人にとってはプレッシャーなんだけどな。

86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:02:37.30 ID:JhNxPlb40
「えー!?なになに?アイドルデビューしちゃうの!?いいなー!」

勢いよく入ってきたのは莉嘉とみりあ。
まだまだ幼い彼女達には事の重要さが分かっていないのだろう。

卯月達は今、二つの岐路に立っているのだという事が。

成功すれば御の字。

失敗すれば…。

先輩アイドルの舞台で失敗でもすれば赤っ恥では済まない、よな。

…あれだけ緊張するのも無理もないか。

「僕はちょっと外に出るから、後はちひろに任せたよ」

「…?は、はい」

87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/02(木) 21:03:14.50 ID:JhNxPlb40
…この世界の僕は、歌手でも、俳優でも無い。
ただの、サラリーマン。

…ああやって、チャンスが来るのを待つしかないのか?

・ちょっと、悔しいな。

「…初心に、帰る、か…」

これは、今の地位に甘んじていた僕への試練とでも言うのか。

…あはは。
いいよ。悪くない。

なら、受けて立つさ。


一流プロデューサー、GACKTとしてな。

第二話 終

97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:05:18.93 ID:pW/g0JwZ0
「…」

城ヶ崎美嘉のライブバックダンサーとしての仕事を貰った翌日。

僕はちひろから電話を受けトレーナーとビル内のレッスン会場にいた。

「まだ負けてないにゃ!つ、次はこれにゃ!」

…そこには何故か前川みくと対峙する卯月達がいた。

98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:06:02.71 ID:pW/g0JwZ0
「お前は他にやる事があるだろ?」

トレーナーに凄まれ萎縮するみくを尻目に、僕は三人に挨拶をする事にした。

「おはよう」

「「「おはようございまーす!」」」

元気だなあ。
昨日のビビってたあの顔は何処に行ったのやら。

「んー?一日寝たらさ!もうやれるだけやっちゃえ!って感じでさ!」

未央が笑顔で応える。
肝が据わってるのか、ただのアホなのか。

でも、これくらいのがアイドルとしては良いのかもしれない。

「おっ!揃ってるみたいだね!」

後ろを見ると、美嘉が大きめのバッグを持って立っていた。

待ち合わせの時間より、ちょっとだけ遅れてる。

…重役出勤だこと。

いや、それくらいの位置にいると考えるべきか。

「ちひろから聞いてるよ。三人を指導してくれるんだって?」

「それもあるけど、一番はまず合わせる事かな?」

「そっか。任せるよ」

そういえばこのビルって色んなプロデューサーがいて、色んなアイドルがいるんだよな。

…凄いとこ来ちゃったもんだ。
運が良いのか悪いのか。

これが何も武器が無いプロダクションだったらもっと大変だったかもな。

99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:06:52.55 ID:pW/g0JwZ0
「〜♪」

美嘉を中心にした四人のダンス。
激しい動きはさほど無いけど、細部の動きがかなり多い。

僕も学園祭ライブでアイドルの振り付けやってみたけど、結構大変だったなあ。

「…んっ!ここでポーズ決められるとカッコ良いよ!」

美嘉はそう言っているけど、後ろの三人はそんな余裕が無いみたいだ。

息を切らし、膝に手をついている。

それもそうか。
慣れてない事をやるのはいつだって難しい。

まあ今はいくらでも失敗すればいい。
本番で成功すればいいんだから。

100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:07:31.61 ID:pW/g0JwZ0
「GACKTさん!お菓子どうですか?」

かな子が僕に駆け寄ってくる。
この子はトレーナーにお菓子の事をよく注意されているけど、いいのだろうか?

「でもGACKTさん、何だか難しい顔してたので…」


そんな顔してたかな…。

「お腹が空いたら貰うよ、ありがとう」

…サングラスかけてるのに、分かるもんなのか?

101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:09:00.59 ID:pW/g0JwZ0
美嘉が帰り、残された卯月達は再び振り付けの練習をしていた。

いいね。
真面目、いいじゃないか。

出来るまで反復練習する。

素敵だよ。

ただ何もする事が無いってのはキツいものがあるな。

喋り辛いし。

…仕方ない。
僕は自分の部屋に戻るとしよう。

…自分の部屋、か。
あの部屋、ちひろに言われるまで誰のか分からなかったよ。

102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:09:50.37 ID:pW/g0JwZ0
しかしこのビルは何処を見渡してもアイドルばかりだ。

皆僕を知ってるみたいだし。

…今みたいに。

「GACKTさん、今度のLIVE、シンデレラガールズから三人手伝いに来てくれるみたいですね」

彼女は川島 瑞樹というらしい。

エレベーターに乗りこむと、そこには彼女がいて、僕の顔を見た瞬間に楽しげに話しかけてきたのだ。

元アナウンサーともあり、ハキハキした話し方だ。

「そうだよ。…勿論、実力もある」

「ええ。美嘉ちゃんが選んだんですからね」

「違うよ。僕が、選んだからだよ」

「…ふふっ。やっぱりGACKTさんですね」

どういう意味なんだろう。
意味がありそうで無さそうだけど。

「だって、GACKTさんったら……あら?どうやら着いたみたいですよ?」

「…」

嫌味ではないみたいだけど、今の僕には挑発にしか聞こえないな。

「…とりあえず、期待しててよ」

「はい、勿論」

103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:10:46.34 ID:pW/g0JwZ0
それから数日間、卯月達はレッスンに励んでいた。

全く、一生懸命頑張る子供達の姿はいつ見ても微笑ましいものだよ。

自分で選んだアイドルが、有名になっていく。

まるで親子みたいな関係だな。あはは。

親子、か。

…でも、家に帰れば一人、なんだよなあ。

ふと時計に目をやると、もうすぐ夜の8時。

もう事務所内には誰一人いない。
ちひろも、今日は定時で帰ってしまった。

外はもうすでに暗く、中も暗い。
電気を点けていても一人でいると暗く感じるんだよ。

…こうして一人で座っていると、寂しくて泣きそうになる。

「…」

携帯電話を見る。
これは一応僕の携帯だけど、そこに映っているものはほとんど何も無い。
まあ初期設定の画面という事だ。
アプリも無いし、今までに撮った画像も消えてる。

…暇つぶしくらいさせてよ。

というか、後3台は何処へ行ったのか。

…まあ、いっか。

「…」

携帯電話のアドレス帳。
連絡先は増えたけど、まだ30人もいない。

元の世界でも、友達だと呼べる存在は結構少ないけど、ね。

「うわっ…と」

この間と同じく、狙ったかのように携帯電話が鳴る。

「誰だろ…卯月?」

相手は卯月。
何か話し忘れたことでもあったのかな。

「もりもり」

『もし…もりもり!GACKTさん!夜分遅くにすいません!お仕事お疲れ様です!』

「お疲れ。何かあった?」

『!…えっとぉ…あの、その、特に無いんですけど…』

「?」

用が無いのなら、何だろう。

『で、でも!その…仕事だけの関係って、何かドライな感じで…』

「あはは。そんなことあるわけないだろ?僕とお前達は仲間、だろ?」

『!…はい!頑張ります!』

「で、他に何か話したい事はあるの?」

『えっと、ですね…じゃ、じゃあ…』

104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:12:08.77 ID:pW/g0JwZ0
『ありがとうございました!GACKTさん!』

「うん」

『…あ、後、…その』

…?
どうしたんだろう。

『えっと、…美嘉さんのLIVE…凄く緊張しちゃって…』

後、とは言っていたけど、多分それが本題だったのかな。

「初めては誰だってそうだよ」

『えっと…もうちょっとだけ、もうちょっとだけいいですか?』

「うん。いいよ」

…僕は良いけど、向こうの電話代大丈夫かな?

でも、寂しさが少しは和らいだかな。

単純な男だよ、僕も。

105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:13:04.40 ID:pW/g0JwZ0
美嘉とのLIVE当日。
そのLIVEを見にきた客でごった返しになった会場外を抜けて中に入ると、既にそこはピリピリした空気に包まれていた。

「「「…」」」

卯月も凛も未央も流石に初めての光景に息を飲んでいるようだ。

一応ホームなのに、アウェイ感が物凄い。

今からこの空気の中で、自分らがLIVEの参加者となるのだ。

初仕事でこんな息苦しい思いをするとは思わなかっただろうな。

…でも、今更後には引けない。

「さ、行こっか」

三人の背中を軽く押して、楽屋へと入っていく。

そこには346プロビルで見た有名アイドル達がメイクをしていた。

和やかな雰囲気で、これから大規模のLIVEに向かうなどこれっぽっちも思えない。

これがベテランアイドルというものなんだな。

そう思って三人に目をやると、やはり緊張気味。

今、目の前にテレビに出ているアイドルが何人もいるもんな。

もしかしたら夢ではないか。

そんな事を思っているのだろう。

最も、僕もまだこの世界を夢だと思っているけれど。

「ほら、挨拶しなくちゃ」

僕の声で我に返った三人は、挨拶をし、たどたどしく自己紹介をしていた。

…本当に大丈夫かな…。

106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:14:02.76 ID:pW/g0JwZ0
「あら、貴方達はこの前見た…」

「覚えててくれたんですか!?」

瑞樹が未央と卯月に話しかけている。

そりゃあ、あのビルの中で行動してるんだから一人や二人は目にするよな。

「それに、GACKTさんも」

「おはよ。皆万全みたいだね」

…そういえばまだ一人来てないな。

時間には間に合ってるから良いけど、こうして皆が揃ってるんだから…。

ま、僕が言える事じゃないか。

107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:14:41.93 ID:pW/g0JwZ0
「皆、おっはよー!」

噂をすれば、かな。

しかしどうしてこの子は僕の後ろに来るんだろう。

「美嘉、おはよう」

「ん!おはよ★」

だけどこうして見ると…。

「随分仕上げてきたんだね」

「分かる?めっちゃトレーニングしてきたからさ★」

ストイックな事だ。

「そういうの、僕は大好きかな」

「へ?……え、えええっ!!?」///

赤くなる美嘉をよそに、卯月達にゆったりと歩み寄る女の子がいた。

「うふふ。今日は頑張りましょうねぇ」

「あの、LIVE前って緊張しますよね!私も初めての時はすっごく緊張して…!」

あれは確か、佐久間 まゆと…小日向、美穂…だったかな?

何だか、個性的…なのかな?

「GACKTさんも!おっはようございまーっす!!!!」

「…うるさいよ」

「ハッ!?ご、ごめんなさい!私、どうしても声が大きくなってしまうんです!こう、何か…燃えてくるというか…!!」

つんざくような大声。
火野 茜、だったかな。

名前通り、暑苦しそう。

…まあ、いいんじゃないかな。

美嘉とも気が合ってるみたいだし。

…一人だけ、一人だけ年齢差がある子もいるけどさ。

「…GACKTさん?私がどうかしましたか?」

あはは。
何でもないよ。

108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:15:16.49 ID:pW/g0JwZ0
「はい一回通し入りまーす!」

スタッフの声とともに美嘉がステージの上に立ち、最終調整に入る。

これは僕も見慣れた光景だ。

自分のLIVEでは殆ど僕が仕切ってたけどな。

そしてこの後、バックダンサーとなった三人を見て僕の胃は痛くなることとなった。

109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:16:00.40 ID:pW/g0JwZ0
「うわわっ!」

「おっとと…」

「……」

舞台下からせり上がる装置にスタンバイして勢いよく飛び出す。

…つんくも紅白でやってたなあ。
失敗してたけどさ。

勿論、不慣れな彼女達はバランスを崩し、何度も何度もやり直しをしていた。

次第に顔も強張っていき、美嘉の顔も心なしか不安の色を覗かせてきた。

…でも、一番怖いのは。

「…」

つい昨日まで明るく元気に振舞っていた未央。

そんな彼女は今は何処にもなく、失敗すればする程口数を減らしていき、終いには喋らなくなってしまっていた。

「もう一度、もう一度だけ練習させてくれませんか!?」

卯月がスタッフに懇願するが、もう限界だろう。

時間も押してきている。

結局、数々の不安要素を抱えたまま衣装に着替える事になってしまった。

110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:19:40.21 ID:y6VzuHJX0
…。

着替えが終了したのか、楽屋から女性スタッフが出ていった。

…さて、中はどんな様子だろうか。

「…」

覗いてみるが、想像通り、いや想像以上に。



空気は重たかった。

111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:20:17.43 ID:y6VzuHJX0
「入るよ」

「…GACKTさん…」

一番はじめに反応したのは凛。

緊張からか、不安からか、はたまた両方かは分からないけどその顔からは血の気が引いていた。

卯月もまた、これから始まるであろうLIVEが生で流れてくる液晶画面を見ようとしない。

そして、未央に至っては俯き、縮こまっていた。

…これが本来の彼女の姿なのだろうか。

それとも、こういった空気に慣れておらず、それらをナメていたのか。

どちらかは知らないけれど、普段の未央からは想像出来ない借りてきた猫のように大人しく、弱々しい少女の姿がそこにあった。

「…どうやら始まったみたいだね」

舞台に明かりが灯され、それと同時に観客の歓声が湧き上がる。

それはLIVEの始まりでもあり、卯月達のスタンバイの始まりでもあった。

112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:21:03.41 ID:y6VzuHJX0
「島村さん!渋谷さん!本田さん!スタンバイお願いします!」

「「!?」」

スタッフが呼びにきた事でいよいよ逃げ場が無くなり、わかりやすい程に焦りの色を見せる卯月と凛。

…だけど。

「…」

未央を見ると、まだ立つどころかスタッフの声すら耳に入ってないようだった。

「…未央!」

「!」

「…行くよ。卯月も」

「う、うん!」

凛の声を皮切りに二人とも立ち上がり舞台に向かうが、その足取りはおぼつかなかった。

113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:21:44.23 ID:y6VzuHJX0
「…」
「…」
「…」

参ったなあ。

僕も初めての時はこんな感じだっただろうか。

…覚えてないや。
20年くらい前の事だしなぁ。

「随分震えてるね」

あまりにも心配なので声をかける。

しかし今の三人には僕の声すらもスタッフからの指示のように聞こえてしまうらしい。

ビクっとして僕の方を一斉に振り向いた。

逆にビックリするよ、もう。

「何がそんなに心配なの?」

「だって…ダンスもまだギリギリだし、舞台の演出も成功してないし、あんな空気の中で…」

凛から出る言葉は最早マイナスの言葉ばかり。

努力は裏切らないって言葉もあるのにな。

今の凛には気休めにもならないか。

「あのさ、こういう時は考えちゃダメだよ」

「…だって…」

「あれだけやったとか、出来なかったとかさ、過程の事は良いんだよ」

「…」

「それまでの過程ではなくて、結果を見ていれば、何でも成し遂げられるよ」

「…結果?」

「抱き合うお前達や、お前達を祝福する観客や先輩アイドル達」

「…」

「それと、最後に感極まってキスしちゃう僕とかさ」

「何でそうなるの!」///

「あはは。口より先に唇が出ちゃうからな」

「…ぷっ」

「…ふ、あははっ。何それGACKTさん!」

「…」

凛の後ろで笑い声が聞こえる。
それの主は、卯月に未央。

「…二人とも…ふふっ」

そんなおかしな事言ったかなあ。
…ま、緊張がほぐれたなら結果オーライ、だな。

114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:22:33.02 ID:y6VzuHJX0
「そ、そろそろ出番だね…」

「う、うん…」

卯月と凛、少しはマシになった未央。
緊張が解れた訳ではなく、また元の萎縮した姿に戻りつつあった。

…僕はこういう時、どうしてたかな。

「あ」

…そうだ。

「ねえ、緊張した時の良い方法、教えるよ」

「!それ、何ですか!?」

「逆ギレすればいいんだよ」

「ぎゃ、逆ギレ?」

「そうそう。もう観客と美嘉に威嚇するくらい」

「それ返って逆効果になるよ…」

…ダメ、か。
良い方法だと思うんだけどなあ。

どうしようかと迷っている時、茜が舞台裏から走ってきた。

緊張した卯月達を見兼ねたのか、ただノリで来たのか。

…彼女の場合は、後者だろうな。

「頑張って下さい!あ、それとこういう時は!好きな食べ物を思い浮かべるといいですよ!」

先輩といっても、年は同じくらい。

年上に言われるより、効果はあるのかもしれないな。

どんな形であれ、激励に来てくれたのは嬉しい事だよ。

「好きな、食べ物を…」

しかし何で好きな食べ物なんだろう…。

でもこういう時はとりあえず何でもいいからノリやすい何かを見つけるのが一番だ。

茜にとっては、それがアッツアッツのご飯なだけであって。

僕は…。

しかし僕が言うよりも先に、彼女らがその火蓋を切って落とした。

115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:23:17.79 ID:y6VzuHJX0
「ちょ、チョコレート!」

「な、生ハムメロン!」

「フライドチキン!」

「…みよしのラーメン」

「ジャン!」

「ケン!」

「ポン!」



「じゃ、行ってらっしゃい」

さっきまでの不安は全て無くなったようで、どうやらもう心配する事は無いみたい。

…後は、彼女らに任せるしかないしね。

「行くよ…!」

「せーのっ!」

「ラ!」

「アー!」

「「「メーン!!!」」」

…心配無い、か。


美嘉達にとっては年に何回もやるLIVEの一つでしかない今日も、卯月達には最高の思い出になったようだ。

初めて味わう感動。
初めて味わう興奮。

…初心、忘るるべからず、か。

僕も勉強させてもらったよ。全く。

116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:24:02.45 ID:y6VzuHJX0
「ありがとうございました!GACKTさん!」

「?」

「GACKTさんが出してくれたから…私達…!」

卯月が僕の手を握り、嗚咽の混じった声で礼を述べている。

「…美嘉にも、お礼は言わなきゃな」

「はい!」

あまりにも泣きすぎて若干メイクが崩れてたけど、まあ…いっか。

「GACKTさん、私達どうだった!?」

興奮冷めやらぬ感じで未央が僕に感想を聞いてくる。

そうだなあ。

一言で済ませるなら。

「…頑張ったね」

「えー!?そんだけー?」

バカ言うんじゃないよ。

「バックダンサーくらいで感動してたら、この先トップになった後泣き過ぎてミイラになるよ」

「!」

「大きく出ましたね。でも、それがGACKTさんらしいですよ」

瑞樹が僕にウインクをしてきた。
…中々セクシーじゃないか。

だけどそれは、勝者の余裕というやつか。

あはは。

…上等だよ。

「え?うわわっ!!」

「ちょ、ちょっと!?」

「おおっ!?だ、抱きしめられ…!」

「僕はこの子達を必ずトップにするつもりだから。やるからには一番だしね」

「うふふ。…凛ちゃん達が羨ましいですねぇ」

まゆが何やら光の無い瞳で僕達を見つめる。

「…うふふ」

その瞳が何を訴えているのか。

僕には判断出来なかった、いや、…しなかった。

少し寒気が走ったが、それもすぐに後ろからの声によって消えてしまった。

117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:24:59.55 ID:y6VzuHJX0
「ま、まぁ今回は譲ってあげるにゃ!…でもどうしてみくがこの子達よりもぉ…」

「にゃっほーい!ばっちし決まってたよ☆」

「皆…!」

来てくれたんだな。

仲間の活躍を素直に祝える。
良い仲間達に出会えたもんだね。

アイドルはプロデューサーの子供、みたいなもん、なのかな。

今日は、本当にほっこりしたよ。

「…?」

その時だった。

ふと、スーツのポケットが不意に重くなり、一瞬にして膨らんだ。

まるで初めからそこにあったかのように。

…何だろうか?

手を当てると、入っているのは何か硬い物。

プラスチック製だろうか?

厚さからして…。

「…CDケース?」

自然に声が出てしまっていたけど、皆LIVEの余韻に浸っているようで気づいていないみたいだった。

ポケットにギリギリ入る大きさなようで、少々取るのに手間取ったけど。

何とか手に取って見てみると、それは。

…これって…。

…僕の曲じゃないか。

「…」

おまけに、随分懐かしい曲だ。

でも僕は曲を作るとき、10年後、20年後聴いても良いと言われるようにやってきたつもりだ。

…だとしたら。

通じるということだろうか。
僕の昔の曲は。

118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 20:25:36.22 ID:y6VzuHJX0
…あはは。

そっか。

そういう事か。

なら、やってみようか。

…だけど、それをやるのは今じゃなくて良い。

今は、とりあえず。

「凛」

「ん?」

「キスしよっか」

「だから何でなの!!?」/////

…お疲れ。

第三話 終

120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:28:15.08 ID:vEhBUOuSO
「おはよ」

もうここに来てかれこれ一ヶ月、か。

「…それと、あの家も」

あれだけ狭い狭いと言っていたけれど、やっぱり住めば都という事なのかな。

というより、慣れ、だよな。この場合。

改装しようにも何があるか分からない怖さがあるし、普通のサラリーマンとなり月収制となった今ではあまりしたくない。

先週、卯月達がデビューを果たして、シンデレラガールズプロジェクトというチームがほんの少しだけ知られる事となった。

ま、ほんの少しだけなんだけどさ。

客観的に見てしまえば、まだ誰がいて、何人いるのかさえも知られていない。

だから、今回はそれらを払拭する為に。

「はいこれ」

「…か、カメラ?」

「…GACKTさん。これ何?」

「お前達でシンデレラガールズプロジェクトのPRをしてもらいたいんだ」

「…わ、私達で、ですか?」

「こういうのは、誰かプロを雇うより身内でやって手作り感出した方が可愛らしいと思うんだ」

…ま、部長から言われただけなんだけどね。

「GACKTさんは、やらないの?」

「僕は用事があるからさ」

「ふむふむ…ならこの未央ちゃんにお任せ!全員余すところなく撮っちゃうよ~?」

…お前も、一応撮られる側だからな。

121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:28:50.51 ID:vEhBUOuSO
ビデオカメラが物珍しいのか、はしゃぎながら出ていった三人。

…まだまだ子供なんだよな。

あの純粋さ、忘れないでいてほしいものだよ。

さて、僕も自分の仕事をこなすとしようかな。

122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:29:34.12 ID:vEhBUOuSO
「え!?」

「何だよその反応…」

事務所にやってきたちひろを捕まえ、僕のやりたい事を話すとかなり驚かれた。

いつもテンションの浮き沈みが無いから、結構レアな瞬間だったな。

「い、いえでも、ですよ?…冷静に考えてください。GACKTさんはプロデューサー、ですよね?」

「そうだよ」

この世界ではね。
…何かデジャヴ。

「…で、そのですね…ン、ンン!!」

ちひろが大きくわざとらしい咳払いをして、何かを決心したかのように僕の目を真っすぐ見据えた。

…告白でもされるのかな?

「何?」

「まずGACKTさんが曲を作ったとして、それが売れるなんて保証はありません!…そうですね?」

「…」

「そして346プロはちゃんとクリエイターに曲を依頼するくらいの費用はあります!」

「…」

「ですから、その…GACKTさんの趣味で、彼女達の仕事を決めるのは……あ、す、すいません!言い過ぎました!!」

「…」

…また忘れてたなあ。
この世界での僕は、プロデューサーなんだよな。

作詞家でも、作曲家でもない。
…ましてや、歌手でもない。

ちひろにとっては、今の僕は自分の趣味の延長を押し売りしてるだけにしか見えないんだろうな。

「…いや、僕が悪かったよ。ごめんな」

「い、いえ、そんな…」

…なら、簡単な事だよ。

「じゃあ、僕の歌、聴いてくれるよな?」

「……へ?」

123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:30:11.17 ID:vEhBUOuSO
僕の態度が気に食わないなら、証明するだけ。

まずは、聴いて、感じて、それからなら文句も言えばいい。

「悪いけど、聴いてもないのに、売れないと言われるのは気に食わないんだ」

僕はこれでもロックスターだからな。

さっきのちひろの言葉は社会人として当然の事なんだろうけど、僕のプライドを著しく傷つけた。

なら、聴けばいい。

「聴かないで過ごす人生と、聴いてから過ごす人生。全然違ってくると思うからさ」

「あ、あの?GACKTさん!引きずらないで!私、仕事がぁぁぁ…」

124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:30:51.15 ID:vEhBUOuSO
あれからちひろに曲を強引に聴かせ、一応部長に掛け合ってくるとCDを持たせた。

…第三者から見たら洗脳みたいに思われたかな。

それでも彼女の聴いた後の顔は信じられないといった感じだった。

それが本業なんだからな。当たり前だよ。

「がーくちゃーん!!」

フロントを歩いていると、後ろからきらりの声が聞こえた。

彼女の声や喋り方は特徴的だからか、すぐに分かる。

けれど、後ろを振り向いた時、僕は一瞬目を疑ってしまった。

125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:31:30.82 ID:vEhBUOuSO
「がーくちゃーん!おっすおっす!」

「…」

怪獣の着ぐるみだろうけれど、小さい子が見たら確実に泣くんじゃないかな。

…彼女の身長と合わさって、かなり迫力がある。

約187cm…か。
流石に少しビビるよ。

「…何それ」

「着ぐるみだにぃ☆杏ちゃんと一緒に撮影だよ!」

「杏と?」

…どこ?
着ぐるみの中?

「うゆ…さっき杏ちゃんが逃げちゃったんだにぃ…」

「…」

何だろうなあ。
何であんなの採用したんだ?
というか、何であれでアイドルのオーディションに来たんだ?

…僕がこの世界に来る前の「僕」は一体どんな基準で選んでいたんだろうか。

僕なら死んでも採用しないけどなぁ。

これがババ抜きだったら、あれがババなのか?

126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:32:21.22 ID:vEhBUOuSO
「あっ、いっけない!きらり、杏ちゃん探してくるにぃ!」

着ぐるみのせいなのか知らないけど、歩く度にドシン、と音がする…ような気がする。

…正直、きらりみたいなのも苦手だ。

あの子は僕には明るすぎるよ。

…それと、デカ過ぎ。

127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:33:04.10 ID:vEhBUOuSO
外に出ると、施設内とは違った新鮮な空気が入ってくる。

今日は雲一つ無い快晴。

散歩するには丁度いい日だ。

辺りを見渡すと、スタッフやアイドル達が自由気ままに束の間の休息を楽しんでいるのが分かる。

缶コーヒーを飲みながら日常会話をしたり、ギターの練習をしたり。

ここに来れば、いつでもアイドルに会えるということか。

…警備とか大丈夫なのかな、このプロダクション。

「…あ!GACKTさーん!」

声のする方へ視線を移すと、そこには智絵里とかな子が仲良くシートを広げてお茶会を開いていた。

こうして見ると、ただの大人しい女子高生だよな。

改めて、アイドルって凄い。
彼女らを、一流アイドルにするプロデューサーも。

…あ、僕もその一人か。あはは。

128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:33:58.43 ID:vEhBUOuSO
「はい!GACKTさんも良かったらお一つどうぞ?」

自動的に二人のお茶会に参加する事になってしまった。

何を話すでもなく、ただただかな子お手製のお菓子をつまむだけ。

…でも、それが今の僕にとっては安らぎなんだよな。

「美味しいね、ありがとな」

「えへへ…そう言って貰えると作った甲斐がありますね!」

「GACKTさん、…お、お茶をどうぞ…」

「うん。…これ美味しいね」

「あ…は、はい…ありがとうございます♪」

あはは。

……すっごい落ち着く。

良いなあ、こういうの。
子供染みた光景かもしれないけれど、本当に良い。

ゆったりと時間を感じる事がほとんど無くなってしまった僕には、これが至福のひと時なんだ。

時間をお金で買う事なんて出来ないからね。

…元の世界に帰ったら、YOU達を誘ってピクニックにでも行ってみようかな。

それが次の修Gack旅行。
おっさん達で、ピクニック。
あはは。

「…ありがと。じゃあまた後でな」

さて、ちひろからの返答を聞きにいくかな。

129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:34:39.78 ID:vEhBUOuSO
「GACKTさん!GACKTさん!」

今日はよく名前を呼ばれるなあ。

まあ、それが普通なんだろうけど。

「何?」

ちひろの所まで行こうかと思っていた矢先、彼女の方から僕に向かって走ってきた。

めちゃくちゃ遅かったけど。

僕の前までやってきたちひろは呼吸を整え、深呼吸をして、僕の目を再び真っすぐ見据え、大きく頷いた。

その顔は、とても可愛らしい笑顔で。

それだけで、僕は思わずガッツポーズをしてしまった。

嬉しい時は誰だってこうなるさ、あはは。

130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:35:21.48 ID:vEhBUOuSO
「GACKTさーん!プロモーション撮影終わりました!」

卯月がビデオカメラを両手で差し出してくる。
十分な物が出来たと言わんばかりだ。

「お疲れ」

どれどれ。

…。

ざっと観たけど。

手作り感、満載。

まあ、子供らしくていいんじゃないかな。

…色々とツッコミたいけど、まあ、いっか。

今の僕にとって、本題はこれじゃないんだ。

…未央は僕のモノマネをするなら、もうちょっとカッコ良くやらないとな。

「うん。良いんじゃないかな」

卯月、凛、未央が互いに手を取り合って喜んでいる。

まるで試験に合格したみたいだな。

…ほっこり。



翌日、シンデレラガールズの皆を事務所に呼び出すと、朝一番で集合していた。

この間の美嘉のLIVEを見た事で皆デビューへの気持ちが一層高まったのだろう。

期待と不安の面持ちで僕に注目してくる。

…何だかゾクゾクするよ。

131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:37:33.31 ID:vEhBUOuSO
「とりあえず、PR撮影お疲れ」

とりあえず、という事は本題があるという事。

それは流石に理解できたようで、みくをはじめ、莉嘉やみりあ達がついにアイドルデビューが決まったのかと息巻いている。

まあそれもそうだよな。
事務所に入ったからには、デビューしなくちゃならないからな。

「で、卯月、凛、未央…アーニャ、美波」

5人の顔が強張る。

それと同時に、残りの皆が彼女達に注目する。

「お前達に、CDを出してもらう事になったから」

132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/03(金) 21:38:15.44 ID:vEhBUOuSO
5人のCDデビューが決まった瞬間、事務所に凄まじい程の騒音が響いた。

自分の出番はまだかという不満。
5人を祝う歓喜の声。

本当、賑やかな所だよ、ここは。

でも、僕が伝えたいのはこれだけじゃないんだ。

「もう一つ、発表があるんだよね」

こんなにうるさくても僕の声にはすぐに反応してくれる。

それも当然、だよな。

「お前達の曲を作るのは、僕だから」

次の瞬間、事務所は今日一番の騒音に包まれることになった。

あはは。

…うるせぇよ。


第四話 終

140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:23:15.10 ID:Or5Afvo1O
「CD…デビュー…ですか?」

「うん。卯月と凛と未央、美波とアーニャ。二つのユニット」

「で、でもガクちんが歌作るの?そ、それって大丈夫なの!?」

失礼だなあ。
…いや、まあしょうがないんだけどさ。

「安心してよ。絶対に売れるから」

「どこからそんな自信湧いてくるの…」

何処から湧いてくる、か。
こればっかりは、経験としか言えないけど。

…言えないのがもどかしい。

「とにかく僕を信じてくれ」

だけどさっきから外野が凄まじくうるさい。

莉嘉に至っては今にも掴みかかってきそうな雰囲気だ。

姉があれだけ売れてるんだ。
劣等感を感じてるのかもしれない。

みくもみりあも、かなり不満気な様子だ。

杏に関しては何もいう事は無いけれどさ。

何なのかな、嫌な予感しかしないよ。

141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:24:10.48 ID:Or5Afvo1O
「GACKTさん。彼女達の曲、書いてきてくれたんですよね」

「うん。後はあの子達次第かな」

僕の歌は決してアイドルが歌うような感じじゃない。

だからある程度崩したり、変えてみたりする必要があった。

「だけど、少し早すぎる気もします」

「そうなんだよなあ。まだ僕の歌を歌えるレベルじゃないんだよ」

「あ…は、はい…」

そう。それが問題なんだよ。
じゃあ何でデビューなんかさせたんだって話になるけどさ。

でも、ちゃんと考えはあるんだ。

「だからさ、部長に頼みがあるんだよね」

企画書を嬉しそうに見ていた部長が僕の方に向き直る。

「?…私にかい?」

「うん。企画書、見たんだよね?」

「まあ、まだ触りだけなんだけどねぇ。嬉しくて嬉しくて…」

あはは。プロデューサー冥利に尽きるよ。

「その2ページ目、見てくれる?」

だけど、ちゃんと目を通してくれないと困るな。

「?……なになに、神威 楽斗、プロデューサー、兼……ボイストレーナー!?」

「ええっ!?」

142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:24:57.22 ID:Or5Afvo1O
部長とちひろが僕の名前が書いてあるページを凝視している。

見間違いじゃあないよ。
僕がボーカルトレーナーを引き受けるんだ。

「で、でもこういうのは正規のトレーナーさんが…」

「嫌。それに僕の歌を歌うなら、僕が教えた方がいい、だろ?」

「…ん?…まさか……!…ちょっとGACKTさん?それに関して、なんですけど…」

ちひろが何かを思い出したかのように自分の机に行き、引き出しを開けて一枚の紙を持ってきた。

いや、紙というか、領収書なんだけど。

「20万のチューナー、これ無断で頼んだのGACKTさんでしょ!!」

「無断じゃないよ。ちゃんと声掛けたもん」

ちひろが珍しく眉をつりあげている。

これ、結構怒ってるな。


「ちなみに、誰に声掛けたんですか?私も部長も聞いてませんよ!?」

「あれ」

「あれ?………杏ちゃんに聞いてどうするんですか!!」

「でもそれがあれば自分の声の質が分かるし、高音を出せるコツも分かりやすいんだ。歌を上手くする為の出費なら安いもんだろ?」

「ぐっ…けど、これからはちゃんと私にちゃんと聞いてからにしてください!危うくクレーム出しそうになったんですからね!頼んでないのが届いたって!」

「ちひろに聞くの~?」

「事務員なんだから当たり前でしょ!?」

何だかなあ。
ケチ臭そうだもんなあ。

「分かったよ。一言断ってからやるよ」

「意見も聞いて下さい…」

143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:26:15.89 ID:Or5Afvo1O
「…じゃあ、GACKTさんが直接教えてくれるんだ」

「うん。その代わり僕は妥協しないからさ。結構厳しい事も言うからね」

卯月と未央は今の言葉で多少怖気づいてるようだけど、凛だけは笑っていた。

1ヶ月以上過ごして分かったけど、凛はかなりストイックな面を持つ。

スパルタ教育、どんと恋、か。

頼りになるよ、この子は。

「もしかしたら泣いて帰る日もあるだろうし、まあ期待しててよ」

「ええっ!?そ、そんなあ…」

あはは。卯月はからかいがいがあるなあ。

「…でも、GACKTさんが真剣にやってくれるなら私達も真剣にやるよ」

…そっか。

「凛は本当に僕が大好きなんだなあ」

「さっきまでの話の流れで何でそうなったの!?」

この子も本当にいじりがいがある。
思わず笑っていると、後ろからやかましい声が聞こえてきた。

144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:27:29.17 ID:Or5Afvo1O
「ちょーっと待つにゃ!!」

にゃ、というだけで誰だか分かってしまう。
キャラ作りって、めんどくさくないのかな。

目の前に陣取っていたのは、みくとみりあと莉嘉。

卯月達のデビューが決まった時に僕に突っかかってきた三人だ。

「今日こそ勝たせてもらうにゃ!デビューを賭けて勝負にゃ!」

彼女の中では、僕に決定権は無いようだ。

未央も何だか乗り気だし、レクリエーションの一つとして見てればいいの、かな?

145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:28:16.86 ID:Or5Afvo1O
「かっ…勝ったにゃー!!これでアイドルデビューできるにゃ!」

「…」

僕の方に目を向ける。
みく達三人の目は期待に満ち溢れていた。

…後ろからトレーナーに話しかけられるまでは。

「こら!休憩はもう終わりだろ!」

「にゃっ!!?」

…若気の至り、だな。

146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:29:09.96 ID:Or5Afvo1O
「はいまた外した。もう一回最初から」

「は、はい!」
「Трудно…難しい、です」

美波とアーニャの二人にボイスレッスンをしていた時、ふと思った。

そういえば僕はこんな本格的に人に歌を教えるのは初めてだったかな。

割と難しいな。いやアーニャじゃないけど。

僕が覚えてる事をそのまま伝えればいいんだけど、理屈どうこうじゃなくて感覚で覚えたからなあ。

言葉で表すのは、割と難しい。

「やっていけば必ず出来るよ。僕もそうだった」

「GACKTさんが…?でも、何だか初めから凄く出来てそうな感じだったんですが…」

「そんなわけないじゃん。あのね、僕は人よりかなり不器用なんだから」

「GACKTさんが、ですか?…Это невероятно…」

何言ってるのか分からないけど、疑ってるみたいなのは分かった。

「本当そうだったんだよ。だから死にものぐるいで努力したしさ。…だから今があるんだ」

「そ、そうだったんですか…」

あ。

「…休憩の時間だね。じゃ、10分後にまた来て」

「あ、はい…ありがとうございました」
「ありがとうございました」

僕も少し外に出るかな。
二人の曲も考えなきゃだし。

こういう時はゆっくりできるところで考えるのが一番だからね。



「…GACKTさん、今があるって言ってたけど…今、プロデューサー、だよね?」

「…Удивляться」

147: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:30:00.21 ID:Or5Afvo1O
美波、アーニャ。
二人とも落ち着いていて、かなり大人びた印象を持っている。

それに事務所内でも仲が良いみたいだし。

この二人に合う曲は…。

「…あ」

ヤバイな。
もうレッスン再開の時間じゃないか。

いけないな。集中すると周りが見えなくなる。

卯月達の事叱れないな、あはは。

148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:30:59.59 ID:Or5Afvo1O
「ごめんよ、遅れちゃった」

少し急ぎ足で戻ると、美波とアーニャの間に何か異物が紛れ込んでいたのは一瞬で分かった。

「何してんの?」

「うう…」
「肉球、気持ち良い…にゃ?」

みくが二人の間に陣取って立っている。

「見ての通り、新ユニットにゃ!」

「あ?」

「あのね!GACKTさん!卯月ちゃん達は三人でしょ?だから二人ユニットの美波ちゃん達に空きがあるかなって!」

みりあが小学生並の質問をしてくる。
いや、小学生か。

「どうにゃガクちゃん!割と良い線行って……ふにゃああああ!!!耳が千切れたにゃああああ!!!!」

「これつけ耳じゃないか」

「猫キャラにとって猫耳は命の次に大事なんだにゃ!」

知らないよ…。

「あのさ、もう美波とアーニャは二人ユニットって決まってるんだから、そんな事できるわけないじゃない」

若干ムカつく。

昔の僕だったらどうしてたんだろうか。

…ひん剥いて放り出したかな。

「でも、みく達はいつになったらデビューできるんだにゃ!?」

「そんな急ぐ事ないと思うけどなあ…」

だけど、僕は後に後悔する事になる。

若さをナメてると、面倒くさいことになるのだという事だ。

149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:31:54.69 ID:Or5Afvo1O
一日の仕事が終わり、卯月達と軽いミーティングをしていた時、ふいに凛が質問をしてきた。

「ねえ、どうして私達を選んだの?」

「いきなり何?」

「いや、何でなのかなって…」

「あら~?しぶりん、私達とは嫌なの~?」

横で聞いていた未央が凛を軽く突つきながらからかいだした。

「違うよ…けど、ほら、みくとかさ…」

みくか。
今僕が聞きたくないキーワードその1だな。

「んー…確かにそうだよねぇ。…私達を選んだ理由って、何なんでしょう?」

卯月も疑問に思ったのだろう。
書類から目を離して同じ質問をする。

「どうしてって…」

「?」

「そりゃ…お前達が1番まともだから、かな」

「……ガクちん。それみく達の前で言っちゃダメだよ?」

……。

「…まあそんな話は置いといてさ、皆に宿題があるんだよね」

「宿題?」

「そう。重大な宿題」

宿題、というキーワードだけで拒絶反応を起こすのは今の若者らしい。

特に、未央。

「簡単な宿題だけど、難しい宿題でもあるよ」

「…どういう宿題なの?」

勿体ぶらないでくれと言わんばかりに凛が僕を見る。

「…ユニット名を、決めてもらう事かな」

150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:32:54.40 ID:Or5Afvo1O
ユニット名。
それって結構大事なんだよな。

わけ分からんやつなら引かれるし、テキトーすぎると嫌がられるし、あんまり凝りすぎるのもダメ。

「重要なのは、覚えやすくて、お前達らしい名前。頼んだよ」

…それと、もう一つ忘れてた。

「はいこれ。お前達の曲だから」

「「「!」」」

欲しかった物が通販で届いた時みたいにすぐさま梱包を乱雑に開けて一心不乱に聴いている。

聴けば聴く程、三人は笑顔になっていく。

歌詞を見ながら、段々とリズムを取っている。

凛は目を瞑りながら鼻歌交じりに。

未央は人差し指を振りながら口ずさんで。

卯月はひたすら一生懸命に。

三者三様だけど、嬉しそうに。

僕の歌は、まだまだ通じるようだな。あはは。
 

151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:33:38.21 ID:Or5Afvo1O
翌日。
事務所に入ると、一番最初に目に入ったのは、転がる筆記用具。くしゃくしゃに丸められた画用紙。
楽しそうに絵を描くみく達。
…きらりや、蘭子達も。

…言葉が出ないや。

152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:34:25.35 ID:Or5Afvo1O
「ねえ、何これ」

僕が入ってきた事に気付いたのか、画用紙に描いた絵を見せびらかしてきた。

別に上手くないし、ここは保育園じゃない。

ついに精神が壊れてしまったというのか。

「ふふふふふ。これはみく達がデビューした時のCDパッケージデザインにゃ!」

あ、これダメなやつだ。

少しからかい過ぎたかもしれない。

…いや、でもそれだけデビューしたいという事か。

…そんな必死にならなくても、デビューさせるのになあ。

「…まあ、とりあえず考えとくよ」

「……本当かにゃ?」

「まあ、うん」

何だか事務所に居辛いな。
………逃げよ。

この絵とか、どうしようか。
…武道館でゲリラライブ?

…アホだ。

153: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:36:09.14 ID:Or5Afvo1O
「ふむ。じゃあ…この順番で行くんだね?」

「うん。だっていきなり全員デビューさせたらそれこそ過密スケジュールになって無理だしさ」

全く部長には驚いた。
全員仲良く一緒にデビューしましょうだなんて無理だって。

僕はもとより、ちひろやスタッフの体力がもたない。

それに色々と過密どころの騒ぎじゃなくなる。
1人デビューさせるのも大変なのに。

1番いいのはユニットを組ませて、一期二期とデビューさせていくことだ。

彼女達の中では優劣をつけられていると感じてしまうかもしれないけど。

その時、ポケットの中で携帯が震えてる事に気づいた。

「…?電話?」

マナーモードにしておいて良かった。
一応会議中だしな。

部長に断りを入れて、電話を掛け直す。

相手は、かな子だった。

「…もりもり」

『もりm…いえ、えっと、何と言ったらいいのか…』

「どうしたの?」

『あの…みくちゃんと莉嘉ちゃんとみりあちゃんと杏さんが、えっとお…』

「あの四人が?」

…嫌な予感。

『喫茶店を占拠してストライキを起こしてるんですううう!!!』

…。

……。

………。

「……あ゛?」

154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:38:21.68 ID:Or5Afvo1O
「みくちゃん!こんな事しちゃダメだにぃ!」

「うるさいにゃ!みく達はもう我慢の限界だにゃ!」

「無駄な抵抗は辞めるんだー!君達は完全に包囲されているぞー!」

「やかましいにゃ!デビュー出来たからってぇ!!」

「…!」

……。

僕は昔、すぐに殴ってくる教師の車を何人かで壁に立て掛けた事がある。

その他には、近所のうるさいおっさんを嵌めるため落とし穴を掘ったり。

今、僕はまさにそれをやられてる気分かな。

やるのは良いけど、やられるのはこんなに嫌なことなのか。

…元の世界に帰ったら、少しTAKUMIに美味い物を奢ってやろう。

「GACKTさん!何とかして下さいいい!」

かな子と智絵里が僕の腕を掴んで振り回している。

両手に花だな、なんて冗談は通じないようだ。

…そうだよなあ。
まだ子供だしなあ。

そういえば、僕は必要最低限の事しか言わなかった。

みくはきっと、確定した情報が欲しかったんだろうな。

ふわっとした情報じゃなくて、確固たるものが。

155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:39:23.83 ID:Or5Afvo1O
「みく、ちょっといい?」

「……今更何だにゃ」

「お前達の事を放ってる訳じゃないんだよ」

「…だって、みくはいつまで経っても…」

「全員一斉にデビューなんて出来るわけないじゃない。ちゃんと順番があるんだから」

「……えっ?」

「シンデレラガールズに採用したのに、デビューさせない訳ないじゃない」

「……じゃ、じゃあ、みく達もデビュー出来るの?」

「させるよ、そりゃ……まあ、こんな事する奴はさせたくないけど」

「す、すいませんでしたにゃ!今すぐ片付けますにゃ!!」

156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:40:44.31 ID:Or5Afvo1O
それからは大変だった。
店の責任者やイタそうな店員に平謝りし、346プロの役員に謝り、部長に謝り。

これもプロデューサーの仕事だと自分に言い聞かせてはいたけど、人に頭を下げるのはいつだってキツイ。

「だからってみく達を1時間以上正座させるのは酷いと思…」

「それくらいで済んで良かったよねえ」

「…すいません…にゃ」

「本当だよ。これから美波とアーニャとミーティングなのにさ」

「……じゃあなんで杏達は正座してるの?」

「あんまり文句言うと今日ずっとそのままだよ」

「ふえぇ…足が痺れるよう…」

「お姉ちゃん助けてぇ…」

157: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:41:27.52 ID:Or5Afvo1O
「ラブライカ…」

「あ、はい…一応二人で相談して…」

ライカ…聞き覚えがあるなあ。

…宇宙に行った犬だっけ?

「うん。良いんじゃないかな」

そういえば、アーニャは星を見るのが好きだったっけ。

…関連性があるのかどうかは知らないけどさ。

158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:42:22.91 ID:Or5Afvo1O
「これが、私達の歌…」

「Прохладно…とても、クールです」

彼女達の歌を考えている時、またもやスーツのポケットからCDが出てきた、というか生えてきた。

まるで誰かが僕の手助けをするように。

この歌が良いんじゃないか、というような感じで。

これもまた、懐かしい曲だ。

そうして今彼女達はそれを聴いている。

美波とアーニャは大人しい雰囲気だ。
だけど、それはあくまで普段の彼女達。

彼女達には、ライブで新しい自分を見つけてほしい。

僕の予想ではあるけれど、この二人は何だか化けそうだ。

だから少しキメてもらうとしよう。

頼むよ。

僕の好きなアニメに使ってもらえた曲なんだからさ。
   

159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:43:26.12 ID:Or5Afvo1O
冬になると、朝が遅く、夜が早い。

だから学校が終わる頃にはもう真っ暗だ。

ちょうどそれくらいの時に事務所に入ると、卯月達が何やら楽しそうに話していた。

どうやらユニット名を決めあぐねているらしい。

そして凛の提案したプリンセスブルーが面白いようで、卯月と未央が笑っていた。

…でも豚汁よりマシじゃないかな。

「ガクちんも考えてよ。私達だけじゃどうにも…」

「僕が?」

「そうそう!ガクちん得意そうだしさ!」

うーん。

いきなり言われてもなあ。

「じゃあ、僕が犬につけた名前でいい?」

「えっ?あー…しぶりん、どうする?」

「…一応、聞くけど」

「アンジー」

「「「却下!」」」

酷いな。
愛犬は喜んでたんだぞ。

可愛い名前じゃないか。

「可愛いの基準は人それぞれですからなー…」

未央のコメントから察するに、どうやら僕に聞くのはやめたらしい。

まだ時間はあるしな。
気長にやればいいよ。

「…ねえ、GACKTさんってさ」

「何?」

凛がソファにゆったりと腰掛けながら話してくる。

態度が悪いよ、態度が。

「ごめんごめん。…あのさ、今日、みく達にあまり怒ってなったよね」

「僕?」

「うん。てっきり怒鳴り散らすかなって…」

凛は僕をどんな目で見てるんだろうか。

昔の僕ならそれもあったかもしれないけれど。

「僕は本当は[たぬき]みたいな優しい人なんだよ。…出せるものは全部ポケットから出しちゃうけどね」

「…いらないものまで出してくるけどね。今みたいに」

「隣に座っただけじゃない」

「ち、近いよ…もう…バカ」

最近ようやく気づいたんだよ。
プロデューサーって、面白いんだって事にな。

160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:44:24.22 ID:Or5Afvo1O
「え?私にですか?」

二日後、良い案が浮かばず期日が来そうだったのでちひろに聞いてみる事にした。

「んー…シンデレラガールズプロジェクトの切り込み隊長を務めてもらう訳ですからねえ…」

切り込み隊長。
それ、いいね。
その感じで考えてみよう。

「今までのアイドル達をなぎ倒すくらいインパクトのある名前…」

第三子から見れば今の僕とちひろはコンビみたいに見えるのかな。

気づいたら二人とも腕組みして考えていた。

「…あ」

やがてちひろが閃いた、といった顔をする。

「そのドヤ顔ムカつくなあ…」

「待って下さいよ!まずは聞いて下さい!」

この後ちひろから聞いた提案は、僕の頭の中がすっきりする程的中していて、それでいて僕の嫉妬心を刺激する要因にもなった。

161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:45:10.45 ID:Or5Afvo1O
「と、いう訳で」

「これ、すっごく良いです!私達のユニット名、これが良いです!」

「うん!かっこいいし、まさに私達に相応しいよねぇ!」

「…ニュージェネレーションズ、かぁ。うん、良いと思う」

「うん。良かった良かった」

「あり?ガクちん何だかつまらなさそうだね?」

「そんな事無いよー」

「……ちひろさんに嫉妬したんだ」

「してなーい」

「きゃー!ガクちん可愛い!」


……ま、いっか。
まだ問題は色々と山積みだしな。


…まずはとにかく。

…デビュー、おめでとう。

第五話 終

162: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:46:09.53 ID:Or5Afvo1O
「いやー…ついに私達もCDデビュー…たまらないねぇ!」

レコーディングスタジオに来たのは初めてで、そして今から自分達が歌う歌が収録され、販売される事に興奮を隠せないようで。

「恥ずかしいから静かにしててくれる?」

周りのスタッフが苦笑し始めたくらいでぼくは未央を静止した。

ここには仕事で来たのであって、見学に来たのではないのだから。


今回の僕の仕事は卯月達と美波達5人のCD作り。

紆余曲折あって何とかデビューまでこぎつけ、こうしてそれが形として現れ、何だか嬉しい。

自分が育てた子供が有名になるって、凄く嬉しい事なんだなあ。

「で、でも上手く出来るかどうか心配です…」

未央とは逆に、卯月はかなり心配しているようだ。

この子はまだまだ緊張しいなんだな。

「大丈夫だよしまむー!……あれだけガクちんに泣かされたんだから…」

「うう…」

「あのさあ…」

僕は最初に言ったはずなんだけどなあ。
厳しくイくよって。

「あの時のGACKTさん、正直怖かったです…」

「Крики…毎日怒られて、泣いてしまいました…」

それ僕がただのヒステリックな奴みたいに聞こえるんだけどなあ。

「…練習の時は、いくらでも泣けばいいんだよ」

「『泣いてる暇があるなら練習しろ!出来ないんじゃなくて、どうすれば出来るか考えろ!』…って怒鳴ってたよね~?」

……この子をリーダーにしたのは間違いだったかな?

163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:47:07.61 ID:Or5Afvo1O
まだ年頃の女の子達という事もあり、何から何までが初めての事で、慣れてないのは当然と言えば当然。

そして僕も、まだ子供である彼女達にどう接していいのか分らなかった。

結局途中で開き直って、いつもの仲間に接するくらいの気持ちで接する事にした。

だから包み隠さず言うし、怒鳴る。

美波は運動部で慣れていたのか、一度も泣く事なくついてきていたけれど。

残りの子達は怒られた日には俯き、鼻をすすりながら帰っていた。
凛は涙こそ見せなかったけど、トイレから出てこなかった時もあった…らしい。

…それがプラスに働いたのか、マイナスに働いたのか。

レコーディングを卒なくこなしてくれた5人を見れば、どちらかは明白だったようだ。

164: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:48:05.97 ID:Or5Afvo1O
レコーディングが終わってからは、デビューする新人アイドルという事で取材を受けていた。

相手は吉澤という人で、こういった仕事は慣れっこのようで。

緊張してガチガチな卯月に対してそれとなく助言をしながら質問していた。

「それじゃあ、これからどんなアイドルになっていきたいとかあるかな?」

「やっぱりですねぇ…ドラマとか、バラエティとか!えっとそれとそれと〜」

…未央は、心配する必要無さそうだよな。
いや、これだけビックマウスやられると、何か心配…かな。

…この間みたいに本番で怖じけづいたりしなきゃいいんだけど。

165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:48:51.81 ID:Or5Afvo1O
「今日はありがとうございました。いい記事にしてください」

「ええ。本当に明るい良い子達で、将来が楽しみです」

それが取り柄ってのもあるからね。

「…これから、辛い事もたくさん経験するでしょうが、どうか頑張って下さい」

「…ありがとうございます」

…辛い事、か。

それは、彼女達に向けて言ったのか、僕に向けて言ったのか。

…何があろうと僕は諦めるつもりはないけどね。

166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:53:46.63 ID:Or5Afvo1O
レッスンに行った卯月達と別れてこれから彼女達がやる仕事を見直した。

今日の仕事は、ラジオのゲスト。

そのラジオというのは、勿論アイドルがパーソナリティを勤めていて、そのラジオの魅力というのが…。

「…ゆるふわ…」

高森 藍子。

何気なく視線を回すと、一瞬で目に入ってきた。

一枚の大きめのアイドルのポスター。

茶髪の、大人しめの女の子。

何をもってゆるふわなのか僕には分からないけれど。

「……ちっちゃ…」

…いけないな。人を見た目で判断しちゃ。

167: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:54:37.08 ID:Or5Afvo1O
「高森 藍子のゆるふわタイム!本日のゲストは…デビューを間近に控えたこの方達です!」

「どーもー!ニュージェネレーションズ、本田未央です!!」

「し、島村、卯月です…」

「渋谷、凛です」

三者三様。
彼女達を見た藍子はこう感じただろうな。

しかしこれで三人と変わらない歳か。

随分落ち着いてるよなあ。

これがベテランアイドルなのかな。

好き勝手喋ってる未央を見てニコニコ笑ってる。

こっちは恥ずかしくて外に出たいというのに。

…まだ15歳、だもんなあ。

うん。元気で、いいんだよ。あはは。

168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/04(土) 23:55:38.65 ID:Or5Afvo1O
夜、振り付けや歌詞を見直していると未央から電話がかかってきた。

もうすぐライブという事で、かなりはりきってる様子が伺える。

…リーダーだもんね。

「もう私友達沢山呼んじゃったもん!絶対に良いライブにしようね!しぶりん!」

「…うん。じゃあまた、明日ね」

…。

GACKTさんの歌、か。

この歌は、私達の為に書いてくれたのかな。

…それとも、自分に置き換えていたのかな。

正直、驚いてる。

突然現れて、アイドルに誘われて、歌をくれて。

「…実は魔法使い、だったりして…」

……何言ってんのかな、私。

恥ずかし。

169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:00:29.51 ID:au7xM2SJO
本格的に5人のデビューへの準備が進められてきた。

雑誌への売り込みや、CD。

…CD。

こんなにも、笑顔がキマってる。

これから輝く自分達を想像したんだろう。

とっても、良い笑顔だ。


事務所に戻ると、ジャージ姿の三人が何やら紙に書きなぐっている。

何してるんだろ?

覗いてみると、ああそういう事か、と。

「サイン考えてるんだ?僕にも見せてよ」

卯月は、結構それっぽい。
恐らく研究生時代から考えてたんだろうな、と考えるとちょっと泣けてくる。

未央は…。

「何これ?ミミズ?」

「違うよー!練習中なんだよ!」

「あはは。出来たら僕にも書いてよ」

「うん!絶対書くね!」

…で、凛は。

「…見せてよ」

「嫌」

「何で?」

「嫌」

「…」

「あ!取り上げないで!」

「…」

あはは。
ただ名前書いてあるだけじゃん。

「…だって、分かんないし」

まあ、そうだよなあ。
…じゃあ。

「…はい。僕のサイン、あげるよ」

「…貰っても、どうしたら良いのかな、これ…」

…これでも、ロックスターだよ。一応。
ここじゃ、無名だけどさ。

170: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:01:25.20 ID:au7xM2SJO
「えっと、君が追いかけた夢、なら〜……うーん…」

「どうしたのしまむー?」

「うん…ちょっとどうしても分からないところがあって」

「?どこどこ!?」

…。

夕暮れ時、廊下を歩いていると、外で一生懸命踊ってる三人組がいた。

言うまでもなく、卯月達。

…こうして見ていると、まだまだ素人の女の子達だ。

でも、どんどん上達してきている。

あれならビビったりしない限り、失敗する事はないだろうな。

これからのLIVEが楽しみだよ。

171: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:02:23.25 ID:au7xM2SJO
…。

「…あー…」

もう夜の11時、か。

なんだかんだでこんな時間になってたのか。

…どうりで周りが静かだと思ったよ。

「GACKTさん、お疲れ様です」

軽めのノックがされた方向へ顔を向けると、そこにはちひろがにこやかな笑顔で立っていた。

「あれ?ちひろまだいたんだ」

「それ、私の台詞ですよ?…ふふっ」

「いけないなあ。女の子がこんな夜遅くまでいちゃあ」

「…こんな夜遅くまで、彼女達の事を考えているんですね」

しょうがないよ。プロデューサーなんだから。

自然に謎の栄養ドリンクを僕の机に置こうとする彼女の手を制止して再び作業に戻る。

「…彼女達は、まだ階段を上り始めたばかりですからね」

「…そうだよ。でもその階段に終わりはないんだよ」

「…?」

「こういうことに終わりなんてあっちゃならないんだよ」

「…そう…ですよね」

「じゃ、まだ仕事あるから」

「…後どれくらいですか?」

「…もう少し、かな」

「…お腹、空きました」

…。

「…じゃ、手伝ってよ」

「はい!」

あはは。積極的な女の子は好きだよ。

174: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:16:58.64 ID:au7xM2SJO
あれから数日後、ついに初LIVE当日となった。

デパートの中央広場という小さい会場ではあるけれど。

ちゃんと控室も用意してもらっている。

「少しくらい体温めておきなよ」

座って黙ってばかりの5人。
ラブライカ、ニュージェネレーションズ。

…まさか、また不安になってきたなんて…ね。

「ね、ねえガクちん!」

「何?」

「ちょっと会場見てきていいかな?」

「いいけど…」

何だろ。

何か心配事かな。

175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:17:56.46 ID:au7xM2SJO
「んー…思ったより狭いんだねぇ」

「そういうこと言うんじゃないよ」

「あはは…ねえ、でもここにたくさん人が入ったら、買い物に来たお客さんが通れなくなるんじゃないかな?」

「たくさん?」

「うん。そうなったらどうなるのかなって…」

…。

「それ、僕に言ってるのか、自分に言い聞かせてるのかどっち?」

「…両方」

「…頼むよ。ここまで来てビビられたら困るんだ」

「ち、違うよ!…楽しみだから、だよ」

「ならいいけど…」

…たくさん?
…お客さんが通れなくなるくらい?

…何か、嫌な予感。

176: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:23:50.13 ID:au7xM2SJO
控室に戻ると、みく達が応援に駆けつけてきてくれていた。

同時に、自分達の番が来た時の予行練習でもあったようだけど。

それでも、今の5人にはとても助かったらしい。

いいね。
こういうの、好きだよ。

でも、携帯の映像で応援してくるってさ。

…杏は一辺シメた方が良いのかな?

177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:24:44.35 ID:au7xM2SJO
「じゃあ、ラブライカが終わってからお前達3人だから」

「…あ、はい…」

「…まだ緊張してんの?」

「き、緊張というか、出来るかなって…自信が…」

卯月がぼそぼそと呟く。
デビュー前はあんなに張り切ってたのにな。

デビューしてからは違うもんなのかな。

「……前にも言ったけど、自信ってのは人から与えられるもんじゃあ、ないよ」

「…?」

「自分の中から振り絞るもんだから」

言葉だけで自信がつくなら、いくらでも喋るけどさ。

「…でも、あの、何かさ、送り出す言葉、とか…」

凛がぶつぶつ喋っている。
気恥ずかしいのか、緊張してるのか。

そうだなあ。

「頑張るってのは当たり前なんだよ」

「…」

「…だから、何があっても後悔だけはしちゃダメだ。これだけは言っておくよ」

「…うん。分かった」

…じゃ、頑張ってな。

178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:26:16.63 ID:au7xM2SJO
ラブライカの初LIVEがはじまった。
見た感じだけど、アーニャも、美波も、もう開き直ったようだ。

精一杯、自分が持っている全てを出している。

そうそう。それがいいんだよ。

…とっても、カッコ良いじゃないか。

179: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:27:49.95 ID:au7xM2SJO
ニュージェネレーションズの番になり、ラブライカが戻ってきた。

「お疲れ」

「はい!ありがとうございます!」

「Счастливый…!とっても、嬉しかった、です!」

よく見ると、二人とも足と手が震えている。

…プレッシャーに負けずに、よくやってくれたものだ。

…頑張ったな。お疲れ様。

「あ!ガクちゃん!未央ちゃん達が来たにぃ!」

そうだったな。

まだ終わってないんだ。

さて、彼女達はどれくらい開き直ってくれたのかな。

…ん?

「…あ」

上の階に何人かがまとまって垂れ幕をおろしている。

手作り感満載の垂れ幕だ。

そこにはローマ字で「MIO」と書かれていた。

あはは。
良い友達じゃないか。

こんな所でも、ちゃんと見にきてくれているんだな。

これなら未央も頑張れるよな。

180: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:33:16.24 ID:au7xM2SJO
「…?」

…あれ?

振り付けはちゃんと出来てるのに。

何か、未央の声と顔に覇気が無い。

それを見る卯月にも。

何でだろう。

冷や汗が出てくる。

何やってんだよ、お前ら。

…こりゃ、後で叱らなきゃな。

181: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:36:24.71 ID:au7xM2SJO
ニュージェネレーションズの初LIVEが終わって、控室に戻ってきた3人。

いや、未央は何やら様子がおかしい。

先輩アイドルである美嘉に挨拶もせずに足早に戻ろうとする。

「未央、ちょっと」

「…」

「…さっきのあれ、何なの?」

「…」

「あれで、お客さんが満足すると思ってる?」

「…ぜん……いじゃんか…」

「は?」

「全然!お客さんいないじゃんか!」

「あ?」

182: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:39:18.35 ID:au7xM2SJO
何を言ってるのかさっぱり分からない。

地力の無い新人アイドルの初LIVEに大勢の観客が押し寄せる訳がないだろうに。

「何言ってんの?」

「私…みんなに、友達に…いっぱい客来ちゃうから早く来ないと入れないよって…言っちゃったのに……!バカみたいじゃん!」

「バカなんじゃないの?」

「!?」

「え?」

「…だって…この間のライブの時は、あんなに、いっぱい…」

「え、それってアタシのLIVEの、事…?」

「そりゃあ、美嘉のLIVEなんだから、人が来て当たり前じゃないの?…有名アイドルだし」


「…でも、ガクちん、絶対売れるって…絶対一流アイドルになるって…!!」

…まあ、アイドルが何なのかまだ分かってないだろうしなあ。

…でも、一つだけ許せない事があるな。

「って事はさ、お前は客が少ないからヤル気が無くなったって訳?」

「…」

「…どんな時でも、手を抜かずに本気で仕事に打ち込むのがプロなんだよ」

「…」

「お前みたいな奴がいると、周りにも迷惑だよ」

「…!!?」

「ちょっ……GACKTさん!言い過ぎだよ!!」

良いんだよ。
それに、僕の気が済まない。

「僕は妥協ってのが嫌いだ。諦めるのも嫌いだ。でも、一番嫌いなのは…」

「…」

「今の、お前みたいな奴かな」

「…もういいよ。…アイドル、辞める!」

「!…未央ちゃん!」

「未央!!……アンタ…!!」

走っていってしまった未央を追いかけて凛も卯月も行ってしまった。

…さて、どうしようかな。

183: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 00:41:31.35 ID:au7xM2SJO
「が、GACKTさん…流石に今のは…」

美嘉が遠慮がちではあるが、僕を諭そうとする。

「良いよ。ああいうのは一度は叱っておかなきゃダメだ。甘やかせば甘やかしただけ今日みたいな事をするから」

「…」

美嘉だって正直、僕と同じ事を思った筈だ。

それを言うか、言わないかの違いだ。

僕は絶対に包み隠さずに言う。

プロデューサーだしな。

「ガクちゃん…」

「お前達は先に帰ってて。後は何とかするからさ」

「何とかするって…どうするにゃ?」

「…さあ?」

これで未央が辞めるなら、僕はそれで構わない。

一度躓いただけでヤル気が無くなる奴に用は無い。

「…とりあえず、アイツ次第だよ」

ちょっと早いけど、躓くなら早いうちの方が良いと思うからな。

…これからどうなる事やら。

第六話 終

195: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:17:26.80 ID:au7xM2SJO
シンデレラ。

魔法によりドレスを羽織り、ガラスの靴を履き、生まれ変わった女の子。

「…」

今思えば、魔法は解けてしまったのかもしれない。

いや、僕が解いてしまったのか。

『アイドル辞める!』

間違った事は言っていないと思うんだけどな。

あの子には酷な言い方だったかな。

…だけど、このままなあなあにしておくのは好きじゃないな。

「…さて」

未央の退職手続きの書類を作ってはいる。

作ってはいるけれど。

「…」

どうしてか、進まない。

手が勝手に打つ文字を消していく。

…いや、勝手にじゃないな。

打っては消して、打っては消して。

これ、僕の、意思なのかな。

…あれから未央はしばらく事務所に来ていない。

来ようにもばつが悪くて来れないだろうし。

…何だか、面倒臭い。

躓いたのは、どうやら彼女達だけではないようだ。

196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:18:41.60 ID:au7xM2SJO
「あ、GACKTさん。おはようございます!」

「おはよ」

「…ねえ、未央が来てないみたいなんだけど」

卯月と違い、挨拶する前に未央が来ていない事を確認してくる凛。

そりゃあ、仲間だしな。

「知ってるよ」

「…ねえ、未央の家の住所、教えてよ」

「何で?」

「私達も未央ちゃんの家に行ってみようと思うんです!」

私達も、か。

僕は行ってないんだけどな。

「…今の未央が一番会いたくないのは、お前達だと思うんだけどな」

「…どうして?」

「ばつが悪いから」

「…でも、このままじゃ、ダメだよ」

「そうだね。辞めるって言ってたからな」

「…!!アンタ、まだそんな事…!」

「友達ならまだ許されたかもしれないけどさ、仕事をしている以上はプロだよ。未央がやった事はそれを全て裏切る行為なんだよ」

「…」

凛も何となくは分かっていると思う。
ストイックな彼女の事だ。
未央のやった事がどれだけ失礼極まりないか、よく分かるだろう。

「とりあえず、今はまだ会わせられない」

まずは、話だけでもしてみるとするかな。

197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:19:26.15 ID:au7xM2SJO
未央の家はマンションの一室にある。
入るにはまず一階ロビーで未央の家の番号を鳴らして開けてもらわなければならない。

つまり、そんな簡単には入れない。

『…帰って』

…さっきからこんな調子だ。

「帰るとかじゃなくてさ、これからお前がどうするのか聞きたいだけだから」

『…』

「辞めたくて仕方ないなら辞めればいいよ」

『…』

「それは仕方ない事だから。凛と卯月には僕から言っておくからさ」

『…』

「…とりあえずさ、顔くらい見せようよ」

『…帰って!』

…堂々巡りだなあ、これじゃ。

198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:20:53.45 ID:au7xM2SJO
346プロに戻ると、既に夕方だという事に気付いた。

随分長い時間あそこにいたんだなあ。

「…あ、GACKTさん」

声の先には、凛と卯月。
偶然なのか、それとも待っていたのか。

「…未央の家に、行ってきたの?」

「そうだよ。…帰ってコールがハンパなかったけどな」

「…追い返されてきたの?」

「随分嫌われちゃったみたい」

「そんな、冗談言ってる余裕があんの?」

「冗談言ってるつもりはないよ?」

「じゃあ、私達も行けば…!」

「お互い傷つきたいなら、止めないよ」

「「…!」」

あんな調子じゃ、凛も卯月も肩を落として帰ってくるのが関の山だ。

…普段明るく振舞っていたのは、メンタルの弱さを隠す為のものでもあったのか。

199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:21:40.47 ID:au7xM2SJO
翌日、作業をしていると、部屋に凛が押し入ってきた。

「ノックくらいしたら?」

「…卯月も、来てないよ」

「風邪だってさ」

「…未央は?」

「…相変わらず」

「……なんで、何もしないの?」

「何かしようにも、向こうが全部嫌がるんだよね」

「…」

「…子供だから」

「…なら、…」

「そんな言い訳は通用しないよ。美嘉だってデビューした時は同じくらいだったみたいだしさ」

「…」

200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:22:35.26 ID:au7xM2SJO
「お前は利口な方だと思ってるから言うよ」

「…なに?」

「デビューしたてで客が満員だなんて奴はそうそういないよ。ましてや、アイドルでさ」

「…」

「客がいないなんて、皆一度は経験する事なんだよ。それを乗り越えるかどうかが問題なんだ」

「…」

「未央はそれが出来なかっただけの事だよ」

「…」

「…何か、言いたげな感じだけど?」

「…アンタは、逃げてる」

「あ?」

「未央や私達から、逃げてる!問題を解決しようとしてる風に見せてるだけじゃん!」

逃げてる?

僕が?

「…それ、どういう事?」

「未央の事辞めてもらうって言っておきながら、何もしないで、そこに座ってるだけ!…アンタが何を考えてるか、全然分かんないよ!!」

…。

凛の言う通りといえば、そうなるよな。

「…」

「…アンタなら、信じてもいいかなって思ってたのに…」

…ぐうの音も出ないな、これ。

201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:23:21.27 ID:au7xM2SJO
凛もあれから姿を現さなくなった。

そしてラブライカの二人に次の仕事を任せる為、呼びたしたけど。

この二人も、何だか重苦しい雰囲気。

「じゃ、宜しく頼むよ」

「はい」
「分かりました」

正直、この二人は本当、手間のかからない良い子達だ。

礼儀もしっかりしてるし、おとなしい。

あの二人にここまでやれとは言わないけど、せめて卯月くらいにはなってほしいものだ。

…戻ってくるならの話だけどさ。

「…あの、二人とも」

・・「「…?」」

202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:23:57.20 ID:au7xM2SJO
それまで沈黙を保っていたちひろが美波とアーニャに声をかける。

「…この間のLIVE、どうでしたか?」

「この間の、ライブ…」

「…えっと、最初から最後まで、頭の中が真っ白で…ね?」

「はい。でも、終わった時、拍手、いっぱい貰いました」

「…その時、やって良かったなって…嬉しいなって、思いました」

「…」

そっか。

見る観点が違っただけの事か。

この子達はあれが初LIVEだったけど。

あの子達にとっては、美嘉のバックダンサーが初LIVEだったもんな。

…僕にも、責任はある、か。

203: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:25:13.17 ID:au7xM2SJO
「…」

風邪、引いちゃったなあ。

みんなに迷惑かけちゃった。

明日までには治ると思う。

…きっと、明日には、みんなが揃って。

また、一緒に笑い合えると思う。

そうであってほしい。

…そうなるよ、きっと。

「卯月、具合良くなってきたかしら?」

「うん。ありがとうママ」

…。

「…明日からは、もっと頑張らなきゃ!」

204: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:26:08.20 ID:au7xM2SJO
「…」コンコン

「?…ママ?」

「入るよ」

「え!?ちょっ…GACKTさん!?」

具合が悪いと聞いていたけど、どうやら本当みたいだ。

…パジャマ姿、何か良いな。

205: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:27:00.85 ID:au7xM2SJO
「心配で来ちゃった」

「えへへ…ありがとうございます」

卯月の家へ、見舞いに行く事にした。

悩み事があり過ぎて、倒れたのだろうか。

まだ顔は赤みがかって、本調子ではなさそうだけど。

「ここの所色々問題があるもんな。しょうがないよ」

問題って、言っていいのか分からないけどさ。

「…あの、未央ちゃんは、どうですか?」

「どうって?」

「ちゃんと、戻って来てくれました?」

「今の所は、その気は無いみたいだよ」

「…で、でも!絶対戻ってきますよ!」

「…そうだといいね…ん?」

ふと、テレビへ目をやる。

そこには、彼女達のデビューシングルや、この間の美嘉のLIVEDVDが綺麗に、いくつも置かれていた。

「…私、嬉しいんです。憧れだったアイドルになれて」

「…それからは?」

「え?えっと…CDを出して、ライブもやって…ラジオも出て…後は、テレビ出演ですね!」

「…」

能天気、じゃないみたいだな。

…ただ、まっすぐなだけだ。

ひたむきで、純粋だ。

「…じゃあ、もっと楽しませてやらなきゃな」

「え?」

「こんな所で立ち止まってる暇なんて、無い、だろ?」

「…はい!」

…王子は、ガラスの靴でも届けに行くとするよ。

…二人分、な。

206: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:27:51.48 ID:au7xM2SJO
「ガクちゃん!」

「?」

事務所へ戻り、ある写真数枚を持って、彼女達の元へ行こうとした時、みく達に捕まった。

「どうしたの?」

「どうしたの?じゃないにゃ!…これからみく達はどうなるにゃ!?」

「…」

「デビューさせてくれるって言ったのに、いきなりこれで…!もう終わっちゃうにゃ?」

つくづく思う。
この子は、心配性だな。

…それと、ブレない。

「終わるわけないじゃん」

「で、でも…ニュージェネレーションズ、解散しちゃうんじゃないかって…」

「これから始まるのに、終わりも何も無いよ」

まだ彼女達は、階段を上がってすらいない。

それではニュージェネレーションズとは言えない。

新世代を作るには、動かなきゃならない。

だけど彼女達はまだ動いてすらいない。

動かすのは誰か。

それは、彼女達自身。

だけど、それを助けるのは。

シンデレラを助けるのは…。

「…王子様は、僕だよ」

僕の役目だから。

207: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:28:52.43 ID:au7xM2SJO
「…」ピロリーン

『未央ちゃん!皆待ってるから、明日からまた一緒に頑張りましょうね!』

「…」ピロリーン

『未央、大丈夫?楽斗さんに言われた事、気にしなくていいからね』

「…」ピロリーン

『今からお前の部屋にイくからな』

「!!!!?」ガタッ

208: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:29:40.65 ID:au7xM2SJO
「まぁ…本田さんの娘さんの…」

「そうなんですよ。…入れてもらってもいいですか?」

「え、ええ…はい…」



「GACKTさん!!管理人さんに何してんの!!?」

「未央、久しぶり」

「あっ…」

209: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:30:26.45 ID:au7xM2SJO
未央と数日ぶりに再会したけど、まあそこまで変化があるわけじゃあなかった。
あくまで、外見には、だけど。

「…今更、何しに来たの?」

「とりあえず、僕の役目を果たしにきたんだよ」

「…辞めるって、言ったじゃん」

「僕の目を見て言えないのに?」

「…」

「正直、未央が何で怒ってるのか分からないよ。怒りたいのは僕の方なのに」

「…」

「でも、最近気付いたんだよ」

「…」

「姫のワガママを聞くのが、王子の役目って事」

「…姫?」

210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:31:19.20 ID:au7xM2SJO
とりあえず話を聞いてくれる気にはなったようで、一階フロアのエレベーター付近で二人座る事にした。

「これ、見てみなよ」

「…これ…」

僕が見せたのは、この間の初LIVEの写真。

そこに写っているのは、勿論笑っていない未央や卯月、凛。

「何これ…全然笑ってないじゃん…」

「そうだよな。よろしくない写真だ…でもさ」

でも、それだけじゃない。

「…お客さんは、笑ってる、だろ?」

「…」

「お前達のLIVEがあるのを知ってる子達なら分かるけど、この人達は、お前達の事なんか知る訳もない。だけど、こうやって足を止めてお前達を笑顔で見守ってくれている」

本当はラブライカの二人に気づかされたんだけどね。

まだまだ僕も未熟って事だな。

「僕がお前に怒ったのはこういう事だよ。こうやって純粋な好意でお前達のLIVEを見てくれていた人達の想いを裏切った事だ」

「…皆、拍手までしてくれてたんだね」

「お前の友達を見てみろ。嬉しそうに、これからのお前を送り出す為に、一生懸命拍手してる」

無論彼らは観客がいない事なんて気にしていないだろう。

「…私、こんなに優しい人達に囲まれてたんだね」

「…」

「…私、最低だよ…!!」

「…泣きたい時は、泣けばいいよ」

「…」

「だけど大切なのは、泣き終わった後のお前の行動だ」

「………〜〜!」

「…後さ、女の武器は涙じゃなくて、笑顔だよ」

「……うん!」

211: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:32:07.46 ID:au7xM2SJO
「君が、追いかけた夢なら…傷つく事に恐れないで…♪」

…。

良い歌だな、と思う。

今の私達に、よく合ってると思う。

大切な物が何か、気付いた時にはもう遅くて。

…このままアイドル辞めたら、凄く後悔する事になる…のかな?

「…ハナコ、私、どうしよっか…?」

「…?」

ハナコに聞いても、分かるはずもなく。

一人俯いて、ベンチに佇んでいた。

ここに座って、もうどれくらい経ったのか。

ハナコも私を心配して顔を見上げてきてる。

…GACKTさん、怒ってるかな。

…どう、なのかな。

212: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:33:47.96 ID:au7xM2SJO
「…」

「…」

「…」

「悲しそうな顔は辞めて、君の笑顔を見せておくれ…♪」

「…GACKTさん?」

「二度目まして」

「…何それ…てか自然に隣に来たね…」

「誰よりも素敵なお前の笑顔、見たいからさ」

「……よくそんな台詞言えるね……あ」

「僕がこの歌をお前達にあげたのは、気まぐれじゃないよ」

…そっか。
そう、だよね。

私達の関係性とか、思いとか。

そういうの全部ひっくるめて、作ってくれたんだよね。

「…前に、ここでお前に言ったよな?」

「…」

夢は、寝てる時じゃなくて、起きてる時に見る…だっけ?

「…もう一つ言ったよな」

「…?」

「夢は、叶えるもの。夢を叶える事、それは強い意志を貫く事」

「…」

「まだ、お前の強い意志を僕は見ていない」

「私の、意志…」

「未央も、卯月も、僕に見せてくれたよ。アイドルになりたいって意志を、さ」

213: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:34:57.48 ID:au7xM2SJO
…。

私は、どうなんだろう。

今思えば、私だけアイドルへの想いが違う気がする。

誘われて、何となくやってみて、何か楽しくて…。



「…」

「僕も、お前達を育て上げる意志は見せたつもりだよ」

「…」

…。

「…まだ、分かんないや」

「分からない?」

「うん」

「…うん。お前らしいや」

「うん。…だから、見つけに行く」

「…」

「迷ってるから、前に進んで、探してみるよ」

「…それで、いいと思うよ」

GACKTさんが手を差し出す。

未央も、GACKTさんの後ろで、待っている。

そんな不安気にならなくてもいいよ。

「…これからも、宜しくね。GACKTさん、未央」

それから私は平謝りする未央を制止して、明日からまた事務所に戻る事を決めた。

214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:35:41.35 ID:au7xM2SJO
「「迷惑かけてごめんなさい!!」」

凛と未央が皆に頭を下げている。

流石にみく達も複雑なようだけどさ。

「うぅ〜…凛ちゃん!未央ちゃん!お帰りなさい!!」

卯月は全く、変わらないや。あはは。

215: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:36:35.47 ID:au7xM2SJO
「じゃ、改めてシンデレラガールズプロジェクト、始めるよ」

「「「はい!!!」」」

「…ねえ、その前に一つ気になってる事があるにゃ」

「…何?」

折角良い空気なのに水をささないでくれるかな。

「何か辛辣だにゃ……あの、何でガクちゃんはいつもサングラスかけてるにゃ?」

「え?」

「そうだよ!いつもサングラスかけてたら目が悪くなっちゃうよ!」

知らないよ。

何を言い出したかと思ったら、僕のチャームポイントを否定か。

「これはお前の猫耳みたいなもんだよ」

「むー…外してほしいにゃ」

「恥ずかしいもん」

後眩しい。

あれ、本当眩しくなってきた。

…というか、サングラスが無い。

「みくちゃんの猫耳毟ったんですから、これでお、あ、い、こ、です!」

卯月が僕のサングラスを手に取り、後ろに隠す。

「本当に眩しいんだけど」

「えへへー♪」

「ほほー…良い男すぎますなぁ…」

「……これが、GACKTさんの素顔…」

あはは。

参ったなあ。

「もう帰っていい?」

「「「ダメ!!!」」」


こりゃ、敵いそうもないや。

何しろ、彼女達はお姫様で、僕は王子様だからな。

とりあえず。

…おかえり。



第七話 終

216: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:51:40.76 ID:au7xM2SJO
「…私物持ち込み?」

「そっ!」

冬の寒さはとっくの昔に消え去り、日差しが強くなってきた夏のある日、未央が僕に提案をしてきた。

「…それ、良いけどなんの意味があるの?」

「みんなが私物持ち込んだらさ、ここがみんなのお城って感じになりそうなんだよね!」

…ゴミ屋敷になりそうな予感しかしないんだけど。

「あれ、未央の?」

「そだよー」

あれ、というのはハンバーガーを模したクッション。
それと、携帯扇風機と涼感スプレー。

あれくらいならまあ、許容範囲と言えるけど。

「みくは反対だにゃ。仕事場に私物持ち込むなんて…」

「でもみくにゃんも猫耳…」

「猫耳は仕事着なんだにゃ!」

…あれ仕事着なんだ。

「きらりは賛成だにぃ。楽しくなりそうだから!」

「お前の私物って何か想像できて嫌なんだよなあ…」

「酷いにぃ…」

でも私物か。

…悪くはないかもな。

217: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:52:32.17 ID:au7xM2SJO
話し合いの結果、一人一つずつという事で決定した。

一つかぁ。

…足りるのかなあ。



「ガクちん!ありがとね!」

あれからCDの売り上げも伸びて、それなりにLIVEに客が集まるようになったニュージェネレーションズ。

あの時は、今思えばかなり苦労した。

でも、今はこうしてまたいつもの未央に戻ってる。

この子はやっぱり、笑っているのが一番良い。

…そして今また面倒な問題に直面している訳だけど。

「おやおや…何だか賑やかだねぇ」

後ろからゆったりとした声が聞こえる。

振り向くと、そこには部長の姿。
それと、ちひろ。

「「おはようございます!!」」

…僕にはそんな礼儀正しく挨拶してくれないよな。

まあそれはそれでいいんだけどさ、あはは。

「…GACKTさん?あの話は…」

「今からするとこ」

あの話。

そう、それが問題なんだ。

218: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:53:09.65 ID:au7xM2SJO
「CDデビュー!?」

やっと来たかと息を巻く数人と、次は自分だと嬉しがるもの数人。
それと、ヤル気の無さそうな奴一人。

「そ、それで?今回は誰と誰がデビューするんだにゃ?」

みくが緊張の面持ちで聞いてくる。

今回は誰と誰が、じゃない。

「ソロだよ。一人だけ。……蘭子の」

自分の名前が呼ばれた蘭子はしばし放心していた。

そこは年相応な所だと言える。

でも、皆から賞賛された直後。

「…ふふ。良かろう、今こそ我が力を示す時が来た!!!」

ほら、こうなるんだ。

219: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:53:56.11 ID:au7xM2SJO
「…」

「…で、とりあえずこんな感じになったから」

「…は、はい」

蘭子と初めて会話した時、僕は彼女にお願いをした。

まず、僕の前では普通の口調でいること。
というより、基本的に僕が近くにいる時はそれはやらない事。
…いや、それ自体人前でやらない事。

理由は、言わなくても分かるだろうけど。

きらりの言葉がようやく理解出来る僕には蘭子の言葉なんて一つも理解出来ない。
いや、出来てもしない。

そのせいかどうか知らないけど。

「…」

蘭子は、僕の前では借りてきた猫のように大人しくなってしまっていた。

220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:54:44.90 ID:au7xM2SJO
「僕が曲作るとさ、どうしても激しい感じにしちゃうから、少し直さなきゃならないんだ。…このままでいいならいいけど」

それでも自分が歌うであろう曲を聴いてる時は真剣そのもので、ここだけ見れば真面目な女の子に見える。

いや、この子は元来真面目なんだろうな。
そんな感じがする。

自分のデビューまでを事細かに纏めたファイルを一生懸命読んでいることからも何となく分かる。

「…」

そして、新たにページを捲ると。

「…」

そこには超絶ホラーチックな絵がデザインのCDパッケージの写真が貼ってあった。

…僕、正直こういうの苦手なんだよ。

というか、この曲はホラーじゃない。

これはちひろに文句を言わなきゃならないなと思い、ふと蘭子に目を移すと。

「……!!??」

僕以上にリアクションを取っていた。

221: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:55:32.23 ID:au7xM2SJO
「…ホラー、嫌いなの?」

「…」

無言で頷く。

「ふーん…何かお前っぽいと思うけど…」

まあ、変えたいと言うのには僕も賛成だしな。

「…」

しかし蘭子の顔は何処か優れない。

何か言いたい事があるのだろうか。

…聞かなくてもいいかな。

222: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:56:29.06 ID:au7xM2SJO
「…」

事務所から帰る時、最寄りの電気屋に立ち寄った。

折角持ち込みOKになったんだしな。

良いの買わなきゃ。

「…あ、GACKTさん!こんばんは!」

声がしたので振り向くと、そこにはヘッドホンを数本手にした李衣菜が立っていた。

「…何してんの?」

「私物ですよ!やっぱこれぞロックって感じで…!」

…この子は参考書をたくさん持ってれば東大合格出来るとか思ってるんじゃないだろうか?

「あのさ、何か楽器弾けるようにしたら?」

「うっ…」

形から入るのには賛成だけど、こいつのはボクシングでいったらカエルパンチ並だ。

「そ、それはとりあえず将来的に…」

「あんまりロックロック言ってるとそのうち痛い目にあうと思うよ?」

「う…頑張ります…」

卯月とは180°違う頑張りますだな。

あの子はちゃんとやる事はやるからな。

「…そういえばGACKTさんは何か買いにきたんですか?」

「うん。私物」

「…へー…これも、ロックですか?」

「…………喉使う奴なら大体持ってるんじゃないかな?」

…せめてこの子が痛い目にあわないように願おう。

223: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:57:48.78 ID:au7xM2SJO
家路を行く車の中で考えていた。

はっきり言って、僕は蘭子とは相性が合わないと思う。

恐らく向こうもそう感じているだろうし。

今日の打ち合わせなんか、早く逃げたい帰りたいってのが顔に出てた。

…僕もちょっと大人気ないかな。

多少合わせてみても…無理だな。

蘭子リンガルでもあればまだマシなんだけどさ。

…よく考えたら、子供自体相性合わないや。

美波がギリギリかな。

嫌いじゃないんだけど、向こうから遠ざかっていく。

そう考えたら、僕はプロデューサーには向いてないんじゃないかとひしひしと感じる。

ああいうのを全て受け止めて、優しくしてやれる奴なんているのだろうか。

だとしたら、そいつは仏の生まれ変わりかもしれない。

…僕が嫌な奴なだけか?

224: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:58:39.82 ID:au7xM2SJO
「はあ…」

軽く自己嫌悪に陥る。
いけないな。僕らしくない。

後悔だけはしちゃいけない。
卯月達にそう言ったのは自分だ。

明日からも顔張るさ。

225: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 18:59:20.45 ID:au7xM2SJO
「…」

あれから少しだけ蘭子に歩み寄ってみようかと考え、机に向かって何か必死に描いている彼女に近づいてみた。

「蘭子ー」

「!?……が、がが…」

「?」

何だろうか。

顎でも外れた?

「が、ガク…」

「何?」

「……!!」

…逃げちゃった。
別に睨みつけてた訳じゃないんだけどなあ。

226: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:00:06.59 ID:au7xM2SJO
逃げられると追いたくなる。

何故かそうなってしまう僕は、彼女を探して、逃げられて探して逃げられてを繰り返していた。

…そして近づく度に何か描くスピードが上がっていく。

いいかげん飽きたので最終的には自分の机に向かっていったけどね。

あれは避けているのか何なのか。

227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:00:56.03 ID:au7xM2SJO
「おはよ、GACKTさん」

「おはよ」

久しぶりに凛の私服を見た。
クールなパンツスタイル。
これは新鮮だな。

「やっぱお前はそういう格好が似合うよな」

「…ス  」

「それは僕にとっては褒め言葉にしかならないよ」

「…そんな事よりさ、蘭子の事だよ」

蘭子。
それなら昨日磁石の同極みたいな事してたけど。

「蘭子がどうかした?」

「うん…何というかさ、GACKTさんって蘭子の事、苦手でしょ?」

「すっごい苦手」

「少しは否定しなよ…そういうの、蘭子にも伝わってるんじゃないかな?」

「知ってるよ」

「…GACKTさん、私達にあんなに歩み寄ってくれたじゃん」

「まあ、ね」

歩み寄った、か。
結構前の話だけど、凛には昨日の事のように感じられるのかな。

「蘭子だって、きっとGACKTさんといっぱい話したいと思ってるんじゃないかな」

「話が通じないじゃない」

「まあ、うん…」

228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:01:52.23 ID:au7xM2SJO
「でも、蘭子はGACKTさんの事嫌いになったりはしないよ」

「うーん…」

「少しだけ、受け入れてあげたら?」

そうは言ってもなあ。
会話出来なきゃ意味が無いし。

「まぁ…やってはみるよ」

…何だかなあ。

229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:02:44.95 ID:au7xM2SJO
私物持ち込みとなってから、事務所が人の家みたいになってきた。

クッションやら、可愛らしいデザインの急須やら変な飾りやら。

「おはよ」

「「おはよーございまーす!」」

「何これ」

「何って…花だよ?」

「店のやつ持ってきたら駄目なんじゃないの?」

「まあ、これくらいなら良いって言ってたから…」

凛は花か。
らしいといえば、らしいよな。

「…」

皆一様に凛の花を見ている。

その時だった。

「…綺麗」

そう呟いたのは、卯月でも美波でもなく。

「…えっ?」

蘭子だった。

いやおかしくはないけど。

彼女だって普通の女の子だ。

花を愛でるくらいの事はあるだろう。

だけど、何か違和感。

230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:03:29.33 ID:au7xM2SJO
「…あ」

蘭子が綺麗と言ったその花は、真っ白い花。

僕は彼女が好きそうなのはてっきり黒い薔薇とかかと思っていた。

それが違和感の正体か。

合点がいった。

231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:04:55.13 ID:au7xM2SJO
「そういえば、あの飾りってなあに?」

みりあが指差した方向にあったのは、壁にかけてあった奇妙な飾り。

…釘で留めてなくて良かった。

「馬の蹄だね。何の意味があるのか分からないけど」

変な飾りだなあとは思う。

誰が持ってきたかなんて一目瞭然だ。



「蘭子ちゃんっぽいよね!」

いわゆるダークっぽい物、黒魔術にでも使われそうな物。

確かに蘭子っぽい。

「んー…蘭子ちゃんはもっとホラーな感じだと思うなあ」

「ホラー?」

「!」

ホラー、と聞いて蘭子が少し目を見開く。

「例えば、血とか…幽霊とか!!!」

「ひうっ!!」

莉嘉の言葉を聞いて蘭子の顔が青白くなる。

そういえば、打ち合わせの時も嫌がってたもんな。

じゃあ何であんな誤解されるような服着てるんだろ…。

突っ込んじゃいけないよな。あはは。

232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:05:52.52 ID:au7xM2SJO
それから僕は、凛のアドバイスに従って蘭子を半ば無理矢理連れ出し、彼女が休憩に使う噴水広場に腰掛けた。

日が当たるから嫌なんだけど、まあ彼女のためだ。

しかし蘭子も嫌がるかと思ったけど、普通についてきた。
スケッチブックを大事そうに抱えてきた辺り、何か伝えたいことでもあるんだろう。

…さて、何から話そうかな。

233: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:06:37.02 ID:au7xM2SJO
「…日が照ってるね」

「……」

無意識に日差しの強さを口にすると、彼女は黙って僕の上に傘を止めた。

気を遣ってくれたのは言うまでもない。

「ありがとな。…でも、こうした方が効率が良いよ」

「……!」

14歳の女の子と相合傘か。
まあ良いかな、あはは。

234: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:07:25.72 ID:au7xM2SJO
「…正直さ、僕はお前が苦手なんだ」

「…」

「勿論嫌いとかそんなんじゃないよ。でも僕はこういう人間だからさ。嘘ついても仕方ないし」

「…あの、が、ガク…」

「何?」

「が……GACKTさん!!」

「何?」

「い、言えたぁ…」

「は?」

「ずっと、言えなくて…」

「…ああ、そう…」

まさか名前を呼ぶくらいであんなに渋ってたのか。
どれだけ僕を恐れているのか。
それともシャイなのか。

どちらかは分からないけど、どうやらやはり彼女はスケッチブックを僕に渡したくてたまらなかったようだ。

235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:08:05.54 ID:au7xM2SJO
「…これ、お前のだよな?」

スケッチブックを僕に手渡し、一仕事終えたような顔になった蘭子は、それきりまた黙ってしまった。

…いや、このスケッチブックに彼女の言葉が詰まっているんだろうな。

僕なりに彼女の気持ちを察して、スケッチブックを見てみる事にした。

236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:08:56.27 ID:au7xM2SJO
「…」

「…」

「…」

見たには、見た。

黒いドレスと、白いドレスを着て、次のページにはそれの半々を着た女の子が描かれていた。

「…これを、撮影に使いたいの?」

「…」

黙って頷く彼女。

しかし僕にはもう案があったんだけど。

というか、僕のPVと同じやつをやろうと思ってた。

…この案とは、全く違うけど。

「うーん…」

「…」

どうしよっかな。

「…」

隣を見ると、目を潤ませて子犬のように懇願する表情になっている彼女。

…ゾクゾクしてしまうな。

まあ、折角考えてくれたんだしな。

「…うん、分かったよ。お前のデビューだもんな」

やれるだけやってみればいいさ。
僕は、精一杯応援するだけだよ。

「あ、…ありがとうございます!」

…なかなかどうして、この子の笑顔も、悪くない。

237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:09:39.59 ID:au7xM2SJO
「神崎さーん!撮影入りまーす!」

PV撮影スタッフの掛け声で蘭子のスイッチがONになった。

彼女の衣装は希望通り、白と黒の衣装。

天使と悪魔、二つを兼ね備えた衣装、らしい。

「じゃ、顔張って恋」

「ふふ…いざ参るぞ!我が下僕よ!」

「あ゛?」

「…行ってきます」

…ま、多少は良いけどさ。

それに、あんなに楽しそうに仕事してる。

今の僕にとっては、これ以上無いプレゼントだな。

これからの彼女に、期待しよう。 
 

238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:10:28.63 ID:au7xM2SJO
蘭子のCDも売れ出し、LIVEも好調になってきたある日、事務所に入るとシンデレラガールズの皆が仁王立ちで待っていた。

「何?」

きらりの仁王立ち、迫力あるようで無いな。

「何?じゃないよ!見て分からない!?」

皆の一歩前を陣取っていた未央が頬を膨らませて僕の目の前に立つ。

見て分かるかと言われると、まあ何となくは察することが出来る。

「いいじゃない。これでも皆に気を遣ったんだよ」

「良くないよ!」






「事務所の中がビチャビチャじゃんか!!」

240: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:15:09.59 ID:au7xM2SJO
ビチャビチャ。

杏の座椅子と、きらりのタオルケット、未央や子供達のクッション、かな子のお菓子。

原因は言わずもがな。

「加湿器置いたのガクちんでしょ!!それも5つも!!」

「うん」

「少しは悪びれなよ!!」

「好きなもの置いていいって…」

「一つ!!!一つだけって決まってたでしょ!!」

「…喉が潤うよねえ」

「潤うどころじゃないよ!限度ってあるじゃん!」

241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/05(日) 19:15:51.00 ID:au7xM2SJO
こうして、加湿器を4つ持ち帰る事になった。

重いなあ。
やだなあ。

でももっと嫌なのは。


「……GACKTさん?」

僕の後ろでふやけた書類を持ってこめかみ辺りに青筋を浮かべるちひろだった。

…。

……。

「…あはは」

「あははじゃありません!!!」

第八話 終

251: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:49:02.67 ID:iZto+0NPO
蘭子のデビューから数週間後。

僕はまた一つの事件に遭っていた。

それを事件と呼んでいいのかどうかは分からないけどさ。

何というか、僕の中では事件なんだ。

252: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:49:38.78 ID:iZto+0NPO
「キャンディアイランドです!よろしくお願いします!」

「よ、よろしくお願いします…」

「頑張って歌いましたー!キャンディアイランドでーす!よろしくお願いしまーす!」

かな子、智絵里、杏の三人ユニット、CANDY ISLAND。

僕はてっきり杏ときらりが組むのかと思っていたけど。

問題はそこじゃない。

僕が言いたいのは。

「杏が、頑張って働いてる…?」

あの双葉 杏が笑顔で仕事してるのが信じられないという事だ。

253: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:50:22.92 ID:iZto+0NPO
ユニットの面子を決めるのはどうやら僕個人の意思だけではないようだった。

ちひろや今西部長、346プロのスタッフ達の多数決で決められている。

ちなみに、最近部長の名前を知った。

皆部長部長って呼ぶんだもん。
分かるわけないよ。

僕は嫌がる杏に無理矢理仕事をさせる予定で、その為にきらりと組ませてやるつもりだったのだけれど。

アイドル達を見る目は彼らの方が上だろうし、彼らに従う事にした。
…まあ、仕方ないってやつだ。

254: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:51:04.87 ID:iZto+0NPO
「はー…疲れた」

「CD、売れるといいですね!」

「たくさん売れるように、四葉のクローバーたくさん集めましたから…」

楽屋に戻り、いつもの皆に戻る。

気弱な智絵里に、温和なかな子に、グータラな杏。

内心本当に大丈夫なのかと思っていた。

僕の中では放送事故になりかねない事をされるんじゃないかとヒヤヒヤしていたけど。

杏はどうやら楽をする為の努力は惜しまない子のようだ。

…少し、見直したかな。

「GACKTさん。素敵な歌をありがとうございました!」

「…まあ、ね」

…僕の歌は、本当にアイドル寄りじゃない。

今回それをかなり痛感させられた。

見るからにロックとはかけ離れた三人組。

ユニット名もそうだ。

今回は曲をアレンジというよりもう別物にしてしまった感じだ。

この世界のアイドル達の曲を聴いて勉強して、とりあえずそれっぽくしてみた。

マジで苦労したんだよ、マジで。
…主に、耳がね。

255: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:51:48.68 ID:iZto+0NPO
彼女達のCD発売イベント後、なんとクイズ番組のオファーが飛び込んできた。

これには少し驚いたかな。

今までこんな順調な事は無かったからな。

…シンデレラガールズも、多少は知られてきたって事かな。
つまり僕の手腕だな、あはは。

256: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:53:32.00 ID:iZto+0NPO
事務所の中。

クイズ番組で出されるであろう例題本を隅々まで読み進めるかな子と智絵里。
それと自前の座椅子に身体を預ける杏を事務所に置いてきて、僕は自分の部屋へと戻った。

スケジュールの確認もしたいからな。

…それと、アイドルのお勉強。

「…本当この世界はアイドルで溢れてるんだなあ…」

それも、純粋無垢な子供達で。

…元の世界とは大違いだ。

そう思っていると、部屋の扉を軽くノックしてそれと同時に未央が入ってきた。

「ノックしながら入るならノックの意味ないじゃん」

「あはは、ごめんごめん!…ね、ガクちん!どうしても頼みたい事があるんだけど…」

「何?」

こいつの頼み事か。
…なーんか、嫌な予感。

257: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:54:27.40 ID:iZto+0NPO
「…」

未央に言われるがままされるがままやってきた。

案内されたのは、杏達がいる所。
つまり事務所だ。
というか、一つ部屋を過ぎただけだ。

いや、問題はそこじゃない。

「…これ何?」

「…か、カエルの着ぐるみ?」

着ぐるみの微妙に空いた穴から彼女達を視界に入れる。

みくや李衣菜、かな子や智絵里に杏。

それぞれなんと言っていいか分からなさそうな顔だ。

僕もどうしていいか分からない。

未央なりに気を遣ったんだろうけど。

「…クスッ」

突っ立っていると、かな子が吹き出す。
失礼な奴め。

「ご、ごめんなさい。でも普段が普段だから、おかしくって…」

「普段からめちゃくちゃラブリーなのに?」

「ラブリーな人はみくの猫耳千切ったりしないにゃ」

「かーわーいーいー」

「どこにもそんな要素ないにゃ!!」

…まあ、これもプロデューサーの仕事の一環、だよな。

258: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:55:31.04 ID:iZto+0NPO
着ぐるみのせいか暑くなってきたので、外に涼みに行く事にした。

クーラーの効いた部屋も恋しいけど、体感がおかしくなるからな。

なるべくなら、いつも自然に身を任せたい。

…全く、そんな訳にはいかないみたいだけどさ。

「GACKTさん、明日はシンデレラガールズの子達が私達の番組に来てくれるそうですね」

「そうみたいだね」

外に向かう途中、瑞樹と普通に鉢合わせしてしまった。
別に悪い事じゃないけど。

というか、彼女の言葉にはいちいち鼻に付く所がある。

正直苦手だ。

けど、恐らくオファーを送ってきたのは…。

「瑞樹さ、もしかしたら何か番組側に言った?」

「とんでもない。ちょっぴり思い出話しただけです」

「…ありがとな」

「あら、嬉しい…」

この子なりに激励してくれてるという事か。

…そこは、感謝しなきゃな。

259: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:56:14.90 ID:iZto+0NPO
そして息つく暇もないまま生放送当日を迎えてしまった。

一日という短い時間だったけど、果たしてかな子と智絵里はどれくらい知識を身につけたのか。

…という不安は杞憂に終わった。

260: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:56:58.14 ID:iZto+0NPO
「…」

これはクイズ番組のはずだけど。

僕の目には、どう見ても肉体を駆使する番組に変わっているように見える。

頭脳は筋肉に変わり、ブレインはマッスルに変わってる。

…聞いてないぞ、これ。

「…?」

…舞台上で瑞樹が僕にウインクしている。

…食えない女の子だね、全く。

261: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:58:36.25 ID:iZto+0NPO
舞台袖から両チームが出てくる。

この番組は本来チーム頭脳対抗戦のクイズ番組だったようだ。

しかしアイドル達の頭脳は番組スタッフ達の予想を遥かに下回っていたようで、ならば体力ならどうかとこのような仕様になったらしい。

かな子、智絵里、杏。
…一番向いてない奴らだぞ。

やっぱりきらりを入れておくべきだったか。

彼女が入ったら…いけない、想像出来るな。・

262: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 19:59:20.63 ID:iZto+0NPO
両者のマイクパフォーマンスが終わり、こちらに点数が入ってきた。
どういうことなのか、基準が分からない。

といっても10点。

こんなのすぐに逆転される点数だ。

たかだか短めの番組での勝負だけど、負けるのは嫌だな。

そんな事を思っていると、後ろの観客席から聞き覚えのある声がした。

「ガクちん!」

…声というか、僕の事をそんな風に呼ぶ女の子なんて一人しかいない。

「…」

振り向くと、やはり未央。
そして、凛と卯月。

仲間の為に駆けつけてくれたのか。

三人とも僕に手を振り、何かを喋ろうとしている。

静かにしておくようにとジェスチャーしてから視線を元の位置に戻し、次のゲームを待つ事にした。