GACKT「モバマス?」 前編

263: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:00:04.30 ID:iZto+0NPO
次のゲームは、自転車の空気入れで相手の風船を割るというシンプル且つ金のかからなさそうなものだった。

が、力も体力も少ない彼女達にとっては凄まじくキツいゲームだったようで。

開始1分くらいで相手に風船を割られていた。

きらりがいたら…やめとこう。

264: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:00:50.79 ID:iZto+0NPO
「負けちゃいました…」

「まあいいよ。お前達向けじゃなかったしさ」

「次は、ええと…ファッションを競うゲーム?」

ファッション。
これは譲れないな。

「で、誰が出るの?」

「はいはーい。杏でーす」

「…えぇ…」

「なんで嫌がるのさ」

「想像出来るから」

「分かんないじゃん。もしかしたら意外といけるかもよ」

意外とって、負ける事前提で考えてるのかよ。

…とは言ってももう変更は出来ないから、もう祈るしかないよな。

265: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:01:49.16 ID:iZto+0NPO
相手のアイドルは、輿水 幸子、小早川 紗枝、姫川 友希。
恐らくあの腹立つ目をした幸子というのがリーダーだろう。

こういったゲームに慣れているのか、はたまたベテランなのか知らないけど。

今の時点で点差はかなり開いている。

そして次のファッションショーにはあの紗枝という京都娘が来るようだ。

どんな服を着てくるのか。
京都ということもあるし、着物だろうか。

…短絡すぎかな?

266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:03:19.73 ID:iZto+0NPO
杏が着替える時、僕は楽屋から追い出されたので仕方なく先に現場で待つ事にした。

かな子ならともかく、あれの裸を見た所で特に何とも思わないのだけど。

そこはまあ、思春期だからということなのだろう。

で、つまり、杏がどんな服を着てくるのか分からない。

あの子の隠されたポテンシャルが発揮されるのかされないのか。

瑞樹ともう片方の司会者、十時 愛梨が杏を呼び、彼女の待ち構えるカーテンの向こう側が明らかになる。

…。

シン、と会場が静まり返る。

未央達も言葉が出ないようだ。

それもそうだ。

カーテンを捲られて出てきたのは。

今日、というかいつも着てるあのグータラファッションだったから。

おまけに汚いぬいぐるみを脇に抱えて。

「…JESUS」

…微妙にヤル気を出してる所は評価してあげたいけどさ。

267: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:04:29.61 ID:iZto+0NPO
紗枝の方は、予想に反して学校の制服を着てきていた。

あちらはどうやら、どうすればアピール出来るか熟知しているようだ。

…喋り方に似合わずしたたかなんだね。

さすが、京都の女の子だ。

結果は予想どおり、向こうに軍配が上がった。

268: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:05:16.51 ID:iZto+0NPO
「次、どんなゲームかなぁ…はむっ」

負けてストレスが溜まるのは分かるけど。

休憩の度にお菓子を頬張るかな子がどうにも心配でならないな。

小リスというか、ハムスターというか、モルモットというか。

…彼女には本能的に「食べない」というキーワードが無いのかもしれない。

次のマシュマロキャッチというゲームにも誰よりも早くキャッチ側を立候補していたから。

…本当、醜態を晒すのだけは勘弁してほしいものだ。
僕の胃が痛くなるだけなんだからいいけどさ。

269: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:06:04.36 ID:iZto+0NPO
何だか結果が予想出来たので、僕は一度持ち場を離れて未央達に話しかけに行く事にした。

「ありがとな。お前達のおかげで少しはあいつらも緊張せずにすんだみたい」

「えへへー。まあ先輩ですから?」

「うるさいよ」

「冗談だよ…。ねえガクちん、かな子ちゃん達大丈夫かな?」

「まあこういうのは最後に勝てばいいんだから」

「…そういえばGACKTさん、言ってたもんね」

凛や未央はもう僕が後ろから覆いかぶさっても何もリアクションを取らなくなっていた。

恥ずかしそうにしてくれるのは卯月くらいだ。

ちょっぴり寂しい。

「何か言ってた?」

「結果だけ見てればいいって」

「そういえば言ったね。そう、最後に勝てばいいんだよ」

過程なんかいいんだ。
…そう、いいんだよ。

「あ!かな子ちゃんが転んじゃってます!」

「ああ!お腹丸出しに!!」

…やっぱダメな気がしてきた。

というか、醜態を晒すのとは違うんだよ。
参ったなあ。

270: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:06:40.03 ID:iZto+0NPO
「ふいまひぇん…」

残ったマシュマロすら食べながら喋るかな子はもうアイドルに見えなくなっていた。

色気より食い気ってやつだな。

まあ標準体重みたいだからまだいいけどさ。
…まだね。

271: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:07:19.22 ID:iZto+0NPO
「次が最後だけど…やっとクイズだね」

というか元々そういう番組だろうに。

ようやく逆転のチャンスが巡ってきた。

これで一安心、かなと思っていると。

なんと智絵里が倒れていた。

272: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:08:04.75 ID:iZto+0NPO
「調子は?」

「…何とか」

「それじゃ困るなあ」

「…すいません。私がこんなだから…」

どうやらプレッシャーに押し潰されたらしい。

気が弱いというか、これではアイドルとして話にならないんじゃないだろうか。

「罰ゲームはバンジージャンプだってね」

「うう…」

もう罰ゲームは受けるだろうという体になってる。

「…まだ逆転はできるよ」

智絵里次第だけどさ。

皆が沈黙する中、一人がそれを破った。

「…はいはーい。杏は逆転を希望しまーす」

「?」

「何とかなる、と杏は思うよ」

273: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:08:46.87 ID:iZto+0NPO
…。

あはは。

「今日だけは、褒めてあげようかな」

「酷いなあ…」

「最後に笑える事が出来ればそれでいいんだ。今から勝ちに行こうぜ」

「…私、みんなに迷惑かけちゃうかもしれません」

「過程なんか気にしなくていいんだよ」

「…私」

「勝ちとか負けるとか考えるからダメなんだよ。勝つ事だけでいい。選択肢がひとつの方が、明らかに前に進むスピードは速いんだから」

「………私、勝ちたい」

「智絵里ちゃん…」

「勝って、みんなと、歌を歌いたいです!」

そう、それでいいんだよ。

これなら、心配はいらない、よな。

274: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:09:38.25 ID:iZto+0NPO
「さて!最後のゲームとなります!」

このゲームは、クイズに答えて相手の滑り台の傾斜を上げていき、どちらか全員落とした方の勝ちとなるバトルロワイアルだ。

見ている側としては面白いけど、ひ弱な彼女達には地獄以外の何物でもないだろう。

さて、勝ちに行くと言ったはいいけど。

「この度全国ツアーを果たす男性三人組ユニットといえば!?」

「ジュピター!」

「正解!どすえチーム20ポイント!」

…今の所その様子は無いみたい。

力の無い杏はもう限界を迎えたようで、ずるずると滑り落ちていっている。

でも、その時だった。

「杏ちゃん!」

「!」

275: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:12:30.38 ID:iZto+0NPO
智絵里があの細い腕で杏を掴み助けていた。

さっき倒れて弱音を吐いていたあの智絵里がだ。

…何だ。
やれば出来る子達なんだな。

…ちょっと安心したよ。

「徳川三代目の将軍は?」

「と、徳川家光!」

「正解!」

…それからかな子のファインプレーを皮切りに、各々が得意分野で光を見せた。

そして相手を全て薙ぎ倒し、最後には仲良く芸人のように落ちていった。

あはは。ここは笑いどころだな。

でもさ。

いやあ、まさか。

僕にも難しい問題をパッと答えちゃうなんてな。

科学というか、物理?かな?
ただの計算かな。

…杏め。

276: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:13:14.81 ID:iZto+0NPO
「さて!結果発表となります!」

結果発表の時間はすぐにやってきた。

前半は向こう側。
後半は僕達がリード。

さて、どうなるか。

…いや、どうもこうもないか。

そりゃ、同点だよな。

ま、御の字だよな、あはは。

277: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:14:01.40 ID:iZto+0NPO
「本当は勝ちたかったけど、まあいいよ」

「ありがとうございます!これでまたみんなとお仕事が出来ますね!」

「お仕事っていうのかな…」

…バンジージャンプって、どちらかと言えば芸人枠だよな。

「あー…やっと仕事しなくていいって思ったのに…」

「たかがちょっと売れたくらいじゃ印税生活は出来ないよ」

「うぇー…」

杏は納税額やCDで自分に入るお金とかについて考えていないのだろうか。

まあ、どうでもいいけどさ。

結果が発表された瞬間に肩の力を抜いている。
結局こいつはいつも通りという事だ。

本当なら杏一人にやらせてやりたいけど、皆やりたがってるし、今回はこの子のおかげでもあるからな。

見逃してやるとしよう。

278: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:15:00.77 ID:iZto+0NPO
僕が杏と同じく肩の力を少しだけ抜いていた時、瑞樹が少し上機嫌でこちらに向かってきた。

「何かムカつくんだけど」

「うふふ。結果オーライって事でいいじゃないですか」

ムカつくなあ。

「…ま、それはそれとして、貴方のアイドルの宣伝なんですから、貴方にも来てもらわなくちゃ」

「え?」

何を言ってるのかと思ったけど、杏達のポスターを手渡された時にああ、そっかと思った。

…これもプロデューサーの仕事の一環だな。

279: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:15:48.69 ID:iZto+0NPO
「ええと、皆さん!私達キャンディアイランドをよろしくお願いします!」

「デビューシングル、marmalade!どうか聴いて下さい!」

「…私達、今日限りで引退します」

「「なんでやねん!」」

「えー…こにゃにゃちわ…GACKT、です」

「「GACKTさん!!!」」

ちょっとくらいいいじゃない、ケチ。
   

280: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/06(月) 20:16:35.85 ID:iZto+0NPO
「じゃ、罰ゲーム顔張って恋」

「嫌だなあ。しんどいなあ」

「ほら杏ちゃん!一番手だよ!」

「うー…」

仲良く落ちていく杏と幸子を見下げながら思った。

この子達、本当良いトリオになりそうだな、と。

しかし、もう一つ思う事がある。

罰ゲーム二番手のかな子と、向こうの紗枝を見比べて。

あちらとこちら、どう見ても…。

「…かな子さ」

「はい?」

「そろそろお菓子控えよっか?」

「はうっ!!?」


第九話 終

287: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:13:25.72 ID:Og21gkmJO
「うわー出来てる出来てる!」

うん。
出来てるね。

「あー!これってピカピカポップにゃ!?…で、何でそれ見てるにゃ?」

「コラボするんだよ。グッズも出るんだってさ」

「えー!いいにゃー…」

杏達のユニットも少し落ち着いてきたので、次のユニットの「凸(デコ)レーション」をデビューさせる事にした。

今回はいつものように売り込みに行くのではなく、ピカピカポップというネットを中心としたものとコラボさせる事で売り出すという特殊な方法を取った。

インターネットサイトとのコラボレーション。
新しい売り込み方だよな。

昔では出来ないやり方だ。

今の御時世ネット社会となりつつある傾向にある中、これは丁度良い。

288: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:14:15.77 ID:Og21gkmJO
「結構人気があるらしいからね。それとコラボするという事は自動的にきらり達も注目されるって事にもなるんだよ」

おまけにこのピカピカポップ、テレビ局からも注目されているらしい。

「じゃあじゃあ!これからいっぱいいーっぱいお仕事出来るの!?」

みりあが瞳を輝かせて詰め寄る。

売れない事は無いだろうね。

「これからお前達を色んな所で露出させてくからさ。任せてよ」

「いや〜ん。露出だなんて、ガックンの●●●…」

あはは。

「今更気付いた?」

「えー!GACKTさん●●●なの!?」

「みりあちゃん。●●●ってのはね、ガクちゃんみたいな怖~い大人の事にゃ」

「?…ん〜?そ、そうなの…?」

みくがみりあの知識を書き換えようとしている。
どうせいつか覚える事なのにな。

…しかし好き勝手言ってくれるなあ。

「GACKTさんって怖いの?じゃあ露出すると怖い事になるの?」

「みりあちゃん。露出ってのはメディアとかだと思うにぃ?」

「めでぃあ?そーなんだ!」

…分かってないだろこいつ。

まあいいんだけどさ。

「そっかー…ガックン大胆だねぇ…」

「恐竜系男子だからな」

全く、僕をからかおうだなんて100年早いよ。
…というか、このメンツは本当苦手だ。

289: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:15:32.10 ID:Og21gkmJO
きらり、みりあ、莉嘉の三人ユニット、デコレーション。

凸レーションというのが正しいらしいけど。

…確かに合ってるよな。

二人はまだ小さな子供だけど、一人は僕より大きな高校生だ。

しかし性格的にはデコボコどころか平らなんだけどな。

…きらりが普段、どんな生活をしてるのか気になる。

「で、このイベント用移動車に乗って仕事してもらうんだけどさ」

「うんうん!じゃあ歌の練習しなきゃいけないよね!」

「今回はトークオンリーだよ」

「ええー!?」

彼女たちには可哀想だけど、今回のイベントは歌うのに適した環境じゃない。

というか、狭過ぎて踊れないだろうし。

290: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:17:44.28 ID:Og21gkmJO
「ガクちゃんはぁ、どんな事喋ったらいいと思うにぃ?」

…この子の喋り方、作ってるのか本心なのか。

出来れば後者であった方がいいんだろうけど、そうだとしたら17歳とはもう思えない。

「ガクちゃん?」

「ん…まあ、喋りたい事喋ったら良いんじゃないの?」

「むぇー…アバウトだにぃ」

こういうのに台本作ったって仕方ないじゃない。

というか、台本作るならまずこの喋り方から矯正する必要がある。

需要はあるだろうけど、僕には無いんだよ。

「でもでも、話題が無くなったらどうすればいいの?」

莉嘉はいつもベラベラマシンガントークをかましてくるくせにそんな事を心配してるのか。

「そうだなあ…」

この子達がどんな事を話すのか。

まあアイドルデビューの話とか、身の上話くらいなのかな。

「…放送事故にならなけりゃいいかな」

291: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:18:45.94 ID:Og21gkmJO
「えー?例えばどんなの?」

うーん…。

「●●です、とかかな」

「「…………」」

途端にみくときらりが黙り込む。

顔を真っ赤にして、俯きながら僕を睨み出す。

え?

「違うの?」

「「ガクちゃんのバカ!!!」」

あはは。
面白い。

「ねー●●って何?」

「何?」

「二人は知らなくていいにゃ!」

何も恥ずかしがる事は無いだろうに。

…きらりも意味は知ってるんだな。
意外。

292: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:20:34.87 ID:Og21gkmJO
イベント当日。
思ったよりも観客が集まっている。

まだまだ美嘉のLIVEに比べれば寂しいものだけど。

新人にしては上出来と言えるだろうな。

…ネット社会も意外と悪くない。

「ねえねえ!ポーズはこれでいいよね!」

「うーん、もっとセクシーにいきたいなあ」

「きらりはぁ、みんなで楽しくいきたいにぃ☆」

この子達には緊張感というものがないのだろうか。

まあ返って頼りになるからいいけどさ。

「そろそろ時間だよ。イって恋」

「「「はい!!」」」

…変な事言わないか心配ではあるけどね。

293: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:21:40.90 ID:Og21gkmJO
「それでは登場していただきましょう!デコレーションの皆さんです!!」

本番が始まって舞台袖から走って出ていくきらり達。

莉嘉、きらり、みりあの順番で上がっていくのだけど。

観客や野次馬の視線は明らかにきらりへ集中している。

それもそうだ。
僕も彼女達を見ているとお母さんといっしょでも見てる気分になる。

「凸レーションというと、デコボコという事ですね?」

「そうだよー!あたし達デコボコしてるでしょ?」

「年も私が11歳と、莉嘉ちゃんが12歳で、きらりちゃんが17歳なんだよねー?」

「おっつおっつ☆」

あの子達を纏めるのは年長者でもあるきらりの役目だ。

精神的にも恐らく一番上、だと思う。たぶん。

そう思っていると、莉嘉が客席ではなく、舞台袖の僕に向かって手を振ってるのが見えた。

みりあですら仕事に徹してるというのにな。

とりあえず僕も手を振っておいたけどね。

「カワイイー!!」

「えへへー★」

…受け入れてもらえたようで何より。

294: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:22:34.26 ID:Og21gkmJO
「お疲れー」

トークだけのイベントだったけど、3人にとってはとても貴重で忘れられない事だったようだ。

楽屋代わりのテントの中でまだ余韻に浸っている。

自分達がただ喋っただけで観客が湧き上がってくれるなんて。

そんなの、普通の日常生活じゃ無いもんな。

「ガックン!次は何処の会場なの?」

「原宿」

原宿と聞いてきらりの顔がにぱっと明るくなる。

何だろうか。

「えへへ…原宿は良く行くんだぁ♪」

「あ…そう」

….ああ、そうなんだくらいしか感想無いよ。

295: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:24:11.44 ID:Og21gkmJO
「…」

「入るよー」

しばしの沈黙の後、僕の後ろで誰かの声がした。
振り向くと、そこにいたのは。


「…とりあえずお疲れ様!三人とも。…四人かな?」

…。

帽子を深く被って、眼鏡をかけて変装しているようだけど。

「…美嘉さ、バレバレなんじゃないの?」

「えー!?でも野次馬に混じってた時は何とも無かったよ?」

…という事は。
オーラってやつか?

…アイドルオーラ?
…やっぱり分からないや。

「でも良く分かったね!それ程目に焼き付いてるのかな?」

「あれだけ了承も得ずに堂々と入ってくる奴なんてお前か未央くらいだよ」

「てへ★顔パスってやつで勘弁してよ」

…毎回後ろに来られるから、どうにも覚えちゃうんだよ。

296: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:26:12.03 ID:Og21gkmJO
「んー…えっとねぇ…莉嘉はGACKTさん見過ぎ!」

「えっ?ホントー?」

「きらりちゃんは……ちゃんと、出来てたね!」

「ばっちし?やったにぃ☆」

「で…みりあちゃんは頑張りすぎじゃないかな?」

「頑張りすぎちゃダメなのー?」

変な事考えてたら美嘉がトレーナーかと言いたくなる程に三人を評価しだした。

「あのさ…」

297: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:27:18.16 ID:Og21gkmJO
「それとGACKTさん、ちょっといい?」

それとなく注意を呼びかけようとした僕の声に被せるように美嘉が声を発する。

「何?」

そしてちょっといいかと言う割には僕の服を掴み引きずる勢いで歩き出した。

一応お前よりかなり歳上なんだけど。

298: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:29:33.84 ID:Og21gkmJO
「何なの?」

きらり達のいるテントから少し離れた所で止まり、僕の方に向き直った彼女。

ちょっと怒り気味で美嘉に質問すると、美嘉もまた眉間に少しだけ皺を寄せていた。

何が言いたいのか。

「GACKTさん。…あえて直接的に聞くけどさ、あの三人の事ちゃんと考えてあげてるの?」

「考えてるよ」

「…はあ」

何かムカつくな、この上から目線。

「ねえ、例えばみりあちゃん。あんな小さい子があんなに仕事に徹しててさ、偉いと思わない?」

「プロって呼ばれたいんじゃないの?」

前から憧れてたんだしな。

「違うよ。今みたいに他人事みたいにみりあちゃんの事考えてるから、そういうのが伝わるんだよ?…だからあれだけ必死に頑張ってる姿を見せたんじゃないの?」

「…何が言いたいわけ?」

「莉嘉だってそう。あの子寂しがりやで、GACKTさんからあまり話しかけてもらえないって言ってたよ。だからイベント中もチラチラGACKTさんの事見てたんじゃないの?」

「…それ、話しかけたくなかったんじゃなくて、話す事が無いだけなんだけど」

共通の話題がほとんど見つからないし。

「莉嘉はまだそういうのが分からないの!みりあちゃんもそう!……ねえ、さっきは言わなかったけどさ…」

「何?」

299: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:32:28.56 ID:Og21gkmJO
「きらりちゃん、時折すっごい悲しそうな顔してたよ」

…。

「あれが?」

「…あのね、もうこの際だから言うよ」

「…」

「GACKTさん、好き嫌いはっきりしすぎ。顔に出てるよ」

…。
……。

「…僕が?」

300: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:34:01.92 ID:Og21gkmJO
「正直、あたしの事そこまで好きじゃないでしょ?」

「どっちでもないかな」

「顔、物凄い嫌そうな顔してるよ」

「そんな顔してるか?」

「…あたしはとりあえず置いといて、きらりちゃんはああ見えて弱い子なんだよ」

「それと僕の関係は?」

「分かるでしょ!?GACKTさんがぶっきらぼうに接するから、あんな…」

…。
うーん。

自覚無いんだよなあ。

そんな風にしてたのかな…。

「…あ」

そういえば、蘭子の時も無意識に敬遠してたっけな。

かな子の時もそうだっけ?
…サングラス越しでも伝わるのか。

幼心には伝わりやすい、ということなのかな。

…幼い?

「…うーん」

「自分で選んだアイドルでしょ?ちゃんとコミュニケーション取ってあげなきゃダメだよ!」

拾ってきた犬みたいな扱いだよね、それ。

しかし選んだのは僕じゃない、というのは言い訳になるのかな。

301: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:35:35.61 ID:Og21gkmJO
「今日はおNEWの靴なんだにぃ!」

「わー!可愛い可愛い!!」

…。

蘭子程ではないけど、僕はどうにもきらりや小さい子供達も苦手なようだ。

きらりは僕とは正反対の性質だし、みりあや莉嘉も眩しすぎる。

おまけに彼女達は僕という男に遠慮なく抱きついてくる。

子供二人はまだどうでもいいけど、きらりの場合は少しだけ気にして欲しくもなる。

こうやって車に同乗してもそうだ。

前の座席にいる僕に向かって沢山話しかけてくる。

それだけ懐いたということなのか、はたまた先程美嘉に言われた事のように寂しがっているのか。

これ17歳なんだよな?

…参ったなあ。

302: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:40:33.71 ID:Og21gkmJO
「ねーねーガックン!お腹空いたー!」

「ええ…?」

赤信号で捕まっていた時、まさに原宿のど真ん中で莉嘉がぐずり出した。

まだ時間はあるけど、ゆっくりご飯を食べるような時間も無い。
かなり中途半端な時間だ。

「ならこの商店街にあるクレープ屋さんが良いと思うにぃ!」

「クレープ?」

食べに行くかこのまま進むか迷っていると、きらりが折衷案を出してきた。

というか、彼女が食べたいのだろう。

しかし原宿は本当にきらりの庭なんだな。

「それくらいなら良いよ。行こっか」

僕は食べてる姿でも愛でるとするよ。

303: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:42:14.56 ID:Og21gkmJO
「美味しー!」

「んまーい!」

きらりの言う通り商店街にあったクレープ専門店でしばしの休息を取ることにした。

周囲は僕らをどう見てるのだろうか。

にこやかに視線を送っている道ゆく人達。

子供三人を連れた保護者か、子供二人を連れた夫婦か。

出来れば前者がいいな。

「ガクちゃん!はいあーん!」

「「あーん!」」

きらり達が食べかけのクレープを僕に差し出してくる。

何も頼まなかった僕に気を遣ったのかな。

甘いのは微妙に苦手なだけなんだけど。

「ありがとな。一口だけ貰うよ」

うん…うん。
…まあまあ美味い。

しかしきらりのこの笑顔、確かに17歳には見えないな。
顔だけ見たら10歳かと思うくらいのベビーフェイスだ。

でも立ち上がったら僕より大きい身長。
そのギャップが逆にウケたのかもしれない。

304: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:43:16.84 ID:Og21gkmJO
「んしょ…」

少しすると、莉嘉が携帯を取り出し、僕らをバックに写真を撮っていた。

「?」

今流行りのSNSサイトへの日記だろうか。

「ううん、これシンデレラガールズのブログにアップしたら良いかなって!」

ああ、良いね。

「なら僕が撮るよ。メインはお前達だから」

「ダメ!ガックンも写るの!」

「そう?なら…」

305: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:46:10.55 ID:Og21gkmJO
周囲を見渡すと、一人の警察官と目が合う。

訝しげに僕を見ているようだけど。

まあ丁度良いや。

「あのお仕事中すいません。一枚写真をお願い出来ませんか?」

変に疑われるより堂々とした方が良いだろうしな。

「あの、まさにお仕事中なんですが…」

「そこを何とか」

「……まあ一枚だけなら…」

あはは、ごめんよ。
お姫様からご指名入っちゃったからさ。

306: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:48:03.32 ID:Og21gkmJO
「じゃーいきますよ…はいチーズ」

警察官が嫌々ながらも莉嘉の携帯で写真を撮る。

前に莉嘉、きらり、みりあ。
後ろに僕が三人を囲う形で入る。

これで少しは彼女達も機嫌が晴れたかな。

でもこうしていると、本当に家族みたいだな。

…あはは。

307: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:50:04.76 ID:Og21gkmJO
「ねーねー!この服可愛いよ!」

「これ蘭子ちゃんの着てる服っぽい!」

軽めの食事で終わるはずが、今度は初めて来た原宿に興奮気味の子供二人がどうしても服屋に寄りたいとぐずり出した。

おまけにきらりまでもが洋服を楽しそうに選んでいる。

休日にでも行けばいいと思うのだけど。

「…」

時間を確認すると、もうすぐ現地に行かなければならなくなっている。

…勘弁してよ。

「ガックン!似合う似合う?」

「いや、もう時間なんだけど」

「えー!?もう時間なの?」

「まだ早いよー!」

「向こうに着いても着替えとか軽い打ち合わせとかもあるから、これくらいで締めなきゃ」

「うー…せっかくみんなと一緒なのにー…」

「また休みの日にでも来ればいいじゃない」

と言っても、不定期になっちゃうけどね。

「でもでも、GACKTさんがいないよ!」

「僕?」

何で?

308: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:51:59.13 ID:Og21gkmJO
「何でって…」

みりあと莉嘉が互いの顔を見る。

「察しろ」みたいな感じだけど、分かんないよ、それじゃ。

「みりあちゃんも、莉嘉ちゃんも、この前のこと気にしてるんだにぃ」

きらりが僕の隣に来て話す。
この前?

「うーん、みくちゃんの、ほら…」

…ああ、あれね。

「別に気にしてないよ。ってか忘れてたし」

「でも、ガクちゃん何だかきらり達といると静かだにぃ」

静かなのはいつもなんだけどなあ。

「僕ってそんなにいつもはうるさいの?」

「そういうことじゃないよ?」


きらりが少しだけムッとした顔で詰めよってきた。

迫力あるようで無さ過ぎじゃないだろうか。

309: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:53:22.46 ID:Og21gkmJO
「ガクちゃんはぁ、いつもきらり達と話そうとしないにぃ…。だから、すっごく寂しいんだよ!」

美嘉に言われた事を再び思い出す。

つまり、あまり話しかけられないから自分達が好かれていないと思っていたのか。

凛のように構いすぎると嫌がる子もいれば、構って構ってな子もいる、か。

…女心って、難しいなあ。

「まあ、うーん…そうなの、かなあ?」

だからといってどうしろと言うのか分からないけど。

「「「…」」」

三人がじーっと僕を見つめる。
こんなにドキドキしない視線は初めて味わうな。

…仕方ない、か。

「…まあ、たまには一緒に何処か行こうか」

「わあい!ガックンとデート!」

「デートだあ!デートって何?」

「デートってのはぁ、男の子と女の子が一緒にお出掛けする事だにぃ!」

…嵌められたな、これ。

まあ、うん。
悪くないよ、そういうの。

「とりあえず、もう行こうよ。本気で時間無いよ?」

「「「はーい!」」」

311: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:54:35.86 ID:Og21gkmJO
目的の全てを果たした三人は改めて仕事場に向かおうとする。

「ほらガックン走って走って!」

…好き勝手言うよなあ。
誰かさんに似てるよ。

あ、姉妹だもんな。あはは。

「早くしないと遅れちゃうにぃ!」

「前見てないと…」

「…あっ!」

あーあ、転んじゃった。

…きらりはピンクのストライプか。
予想通りというか、なんというか。

312: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:56:40.31 ID:Og21gkmJO
「痛いにぃ…」

外傷は特に無かったものの、どうやら足を挫いてしまったようだ。

足首が赤くなっている。

大した怪我ではないようだけど、走るのは無理そうだな。

「きらりちゃん大丈夫?」

「ごめんね。私が走ろうだなんて言っちゃったから…」

みりあがきらりに涙ぐみながら謝っている。

莉嘉も時間を気にする事なくきらりの心配をして、必死に彼女の足を治そうとしている。

…この子達、素直だなあ。

しかしきらりは俯いたまま、全く応答しない。
いや、してはいるが。

「ごめんね。きらりは一番年上なのに、こんなみんなの足引っ張るような事してごめんね…」

本気で泣いてしまっている。

…年上は僕なんだけどな。

どうやら本当にメンタルが弱いようだ。

そういえば、歌のレッスンの時も一番泣いてたよなあ。

…いつもこういう所に気づいてやれない。

…僕も、まだまだ未熟者だ。

313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 21:59:00.13 ID:Og21gkmJO
「きらり、アイドルなんて向いてないのかなあ…」

「そんな事ないよ!きらりちゃんがいるから凸レーションなんだよ!」

「こんなのタクシー捕まえたらすぐ行けるもんね!」

「きらり」

「…?…どうしたの、ガクちゃん…?」

「きらりは「北風と太陽」の話、知ってる?」

「…?」

頑なに閉じた心を開くのは、強引な方法ではダメだ。

まずは相手の心をゆっくりと温めていかなきゃならない。

「きゃっ…が、ガクちゃん…?」

「タクシー乗り場まで、こうしてやるからさ」

「おお!お姫様抱っこ!!」

「GACKTさんすごーい!!」

僕ときらりは正反対の性質。

彼女を太陽とするなら、僕は月なのかもしれない。

だけどきらりは人間だ。
太陽のようにずっと輝いてるわけじゃない。
いつかはバテる時もある。

そんな時は、陰から支えてやらなきゃならない。

倒れかかったら、後ろから支えてやるまで。

つまりは、僕はきらりの「影」、という事か。

いや、アイドル全体の影、か。

「ガクちゃん…」

「自分より小さなオトコにこんな事されるなんて思わなかったろ?」

「…ううん。すっごく嬉しいにぃ☆」

涙目ながらも精一杯、もしかしたら今までで一番のかもしれない笑顔を見せたきらり。

…おかしいな。

…ちょっと、ドキッとした。

314: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 22:00:01.93 ID:Og21gkmJO
あれから周囲の奇異な視線を無視しながらタクシーまで歩き、何とかギリギリの時間で向こうに着いた。

一応ちひろに遅れるかもしれないという連絡をしておいたからか、現場のテントではちひろが凛と美波と蘭子を引き連れて待っていてくれていた。

…でも。

「あははは。何その格好」

「衣装がこれしか無かったの!!」

no title

316: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 22:01:54.61 ID:Og21gkmJO
きらり達が着いた事でホッとしたのかすぐさま私服に着替えた凛と美波。

蘭子は衣装が気に入ったようで暫く着ていたけれど。

凛のツインテール、イケてるのかどうなのか…。

「お、始まるみたいだね!」

先に現場に入っていた美嘉が声を上げる。

舞台を見ると、きらり達が楽しげに自己紹介していた。

「「「こんにちはー!凸レーションでーす!!」」」

…今ならはっきり言える。

良い笑顔だってな。 

317: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 22:03:03.04 ID:Og21gkmJO
「ねえ、GACKTさんもきらりちゃんみたいに笑ってみたら?」

仕事も終わり、後片付けをしているスタッフ達を見ているとふいに美嘉が喋る。

「笑顔ならいつも見せてるけどなあ」

「いつもの悪どい笑顔じゃなくてさ」

失礼な奴め。
こうしてやる。

「あー!変装バレちゃうでしょ!!」

…けど今回は美嘉のおかげかもしれないな。

彼女達の良さを発見、いや再確認させてもらった。・

アイドルとしては美嘉の方が一枚も二枚も上手という事だったか。

でももう大丈夫だ。

もしもう一度彼女達の事を聞かれたらこう言ってやるからな。

彼女達は、「僕が」見つけたアイドルで。

「僕の」育てた最高にイケてるアイドルだってな。

第十話 終

323: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:53:47.89 ID:DWLvYZUIO
その日は朝イチで部長とちひろに呼び出された。

何でも大きなプロジェクトをやりたいらしい。

何だろうか。

そして朝が早すぎるからか、周囲に人がいない。

通勤ラッシュとは都市伝説じゃないのかと疑いたくなる程だ。

サラリーマンとしては有り難いけどさ。

…そろそろシンデレラガールズもまとまってきた。

つまりは、そういう事…なんだろうか。

324: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:55:17.18 ID:DWLvYZUIO
「おはよう。ちひろ」

「GACKTさん!おはようございます!」

いつもの緑スーツで僕を迎え入れるちひろ。

小さな手には紙が数枚。

それを僕に手渡し、にこやかに笑う。

「…これなに?」

「それは…」

…。

…ああ、やっぱそう来るか。

325: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:56:12.66 ID:DWLvYZUIO
「ええー!?みくと!?」

「私が!?」

「「ユニットを組む!?」」

朝からよく声が出るなあ。
元気な証拠だ。

シンデレラガールズ最後のデビュー。

それは李衣菜とみくのコンビ。

実はこのコンビ、言い合いしてるけどよく一緒にいる所を見る。

あながち組ませたのも間違いではないと思うのだけど。

「なんでにゃ!みくは可愛くネコキャラで行きたいんだにゃ!」

「私だって!クールでロックに行きたいんです!」

そういえばみくは僕の前であまり猫耳をつけなくなった。

引き千切られる恐れがあるからかな。

誰にって?あはは。

326: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:57:04.63 ID:DWLvYZUIO
というか李衣菜はクールではないし、ロックでも無いと思うけどな。

「いいじゃん。猫ロック」

「一緒にしないでほしいにゃ!」

「こっちだって!」

僕の前でいがみ合う彼女達。

何とも迫力の無いいがみ合いだ。

「この際キャットファイトでもしたら?」

「上手い事言ったつもりかにゃ!」

327: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:58:43.90 ID:DWLvYZUIO
周りからは心配の声が上がっている。

無理もない。

会話すれば5分で喧嘩になり、しまいにはお互いの服装をけなしあっている。

はたから見れば犬猿の仲と言わざるを得ないものだろうな。

「あの二人大丈夫なの?今日も言い合いしてたけど…」

見るに見兼ねた凛が僕の部屋にやってきた。

おせっかいというか、何というか。

「ほっときなよ。殴り合いでもしてるなら別だけど」

「いやそれは未然に防がなきゃ…」

言い合いなんていくらでもあるさ。
僕だってバンド時代はそうだった。

「仲が悪いなら一緒に話したりしないだろ?」

「仲が悪いっていうか、方向性が合わない?って感じでさ…」

方向性か。

猫耳とロック。
合わせちゃえばいいのにな。

「もし本気で嫌なら変えるよ」

その辺は本人達の問題点だしな。
凛達が関与する事じゃない。

329: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 21:59:57.14 ID:DWLvYZUIO
ニュージェネレーションズ、ラブライカ、キャンディアイランド、凸レーション。
…蘭子。

ユニットを組ませる時に考えた事。

それはバランスだったり、性格だったり。
はたまた上の判断だったり。

みくと李衣菜はその辺の事が不一致だ。

しかしそうじゃない。

ユニットを組むにはもう一つ理由がある。

それはお互いに足りないものを補わせるということだ。

バランスではなく、差を埋める。

最後には完璧な平らにすることが目標なんだ。

ただ仲が良いから趣味が合うからのユニットなんていくらでもいる。

ならこの二人はどうか。

「どうもこうもないにゃ!ねえお願い!ソロで出してほしいにゃ!」

「わたしもお願いします!」

…。

うーん。

330: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:00:47.24 ID:DWLvYZUIO
「あのさ、僕がプロデューサーやってて何か不満ってある?」

唐突な質問に戸惑う二人。
何を言ってるんだこいつはって顔だな。

「いいから答えてよ」

「んー…仕事熱心、だけど…バイオレンスにゃ!Sだにゃ!ウルトラSだにゃ!」

「クールって感じですね。それでいてロックで…でもちょっととっつきにくい…です?」

「…まあとりあえず、良い所も悪い所もあるってことだよ」

「良い所と…」

「悪い所…」

「それは他の皆も、お前達にもある」

顔を合わせる両者。
まだ納得がいってないようだけど。

331: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:01:40.60 ID:DWLvYZUIO
「つまり、お前達は別に仲が悪いとかじゃなくて、ありふれたコンビって事だよ」

「…余った二人の寄せ集めとかじゃないのにゃ?」

だったらまず組ませたりしないよ。

「どうしても嫌ならやめるけど、どっちかがまたレッスン漬けの日々になるよ」

それを聞いてビクッとしている。
そして二人でコソコソ会話して、結局ユニットを組む事をしぶしぶながらも承諾した。

あはは。
こんな仲の良いコンビなら大丈夫だよ。

332: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:03:46.52 ID:DWLvYZUIO
事務仕事を一段落させ、自分の部屋から出る。

事務所内に行くと、アーニャが珍しくソファにだべっていた。

腕を力無くだらけさせ、虚空を見つめている。

一人でいたからか、気を抜いたようだ。

暑さには人一倍弱そうだもんな。

「…」

コソコソと後ろから近づく。
どうやら全く僕に気づいてないらしい。

「…アーニャー」

「…Что!!?」

流暢なロシア語で驚くアーニャ。
ロシア人だからな。そりゃそうか。
…北海道から来たってのは最近知ったよ。

「驚いた?」

「は、はい…どう、しました?」

「あはは。特に理由なんてないよ。こうしたかったからかな」

仕方ない奴だ。
そんな感じで肩をオーバーにすくめながら苦笑する彼女。

…この仕草、本当可愛らしいな。

333: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:04:40.46 ID:DWLvYZUIO
「アーニャはさ、みくと李衣菜のユニット、どう思う?」

「アーニャと、みく、ですか?…とても、賑やか?だと、思います」

賑やかか。
確かにそうだよな。
あんなモンキーパーク中々いない。

「私と、美波は、静か、です」

「…あー。そうだよね」

なるほど。
うるさい同士丁度良いって事か。

「…お前やっぱ良いオンナになるよ」

「…?」

334: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:05:37.26 ID:DWLvYZUIO
「可愛い系にゃ!!」

「ロック!!」

レッスン場外の休憩所で猫耳を押し付けるみくとそれを拒む李衣菜。

ニュージェネレーションズがそれを心配そうに見ている。

「あれ何してんの?」

見れば何があったのかは大体把握できるけど、とりあえず聞く事にした。

「あー…ユニットの方向性で揉めてるみたい…」

未央が耳打ちするように答える。

凛に至ってはあからさまに面倒なものを見る目だ。

心配そうにしてるのは卯月くらいか。

「んー…」

僕なら可愛さもロックにしちゃうんだけどな。

…いやまずロックってそういう風に使うもんじゃないだろ。

僕が入った所で何か変わるとか思わないけど、プロデューサーとしてとりあえず仲裁に入る事にした。

「カッコ可愛いって言葉もあるだろ?少しはお互い受け入れてみろよ」

「「むー…」」

…子供だよなあ。

335: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:06:46.07 ID:DWLvYZUIO
翌日、再び僕の部屋に入ってきたみくと李衣菜。

ソロで同時デビューは無理かと聞いてきている。

…相手を蹴落とすような仲じゃないって事か。

ちゃんと相手を思いやってるじゃないか。

…そう言っても否定されて終わりか。

「一緒に住んでみたら?」

二人にどう声をかけようか悩んでいると、何時の間にか入ってきていた莉嘉が面白い提案をした。

「私もお姉ちゃんと一緒に住んでるけど、すっごい仲良いよ?」

なるほどな。
同じ釜の飯を食えと。

その案、気に入ったよ。

「じゃあ、みくの寮に李衣菜が住むって事にしよっか」

しかし予想通りめちゃくちゃ嫌がる両者。

だけどもう決定事項だからさ。

「強引だにゃあ…」

336: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:11:14.16 ID:DWLvYZUIO
そしてまた翌日。

今日から李衣菜はみくの家にお邪魔する。
ある程度は業者に頼んだらしいけど、自分で持てる物は持つらしい。

「あれ?ギター持ってたんだ」

凛が李衣菜のギターケースを見て呟いた。

その台詞で凛が彼女をどう思っているか分かってしまう。

というか、もう周知の事実なんだな。

「ま、まだ練習中だから…」

「…ちょっと貸して」

そう言うと、ケースからギターを出して、軽くチューニングしてからおぼつかないながらも弾き始めた凛。

これには僕も驚いた。

「すごーい!凛ちゃんギター弾けるんだね!」

「昔ベース弾いた事があって、それで何となくギターもいけるのかなって…」

卯月の声で我に帰った凛は少し赤くなりながら李衣菜にギターを返した。

全く。

「凛はどれだけ僕にアピールすれば気が済むの?」

「何言ってんの!!!?」///

…しかしチラッと見たけど。

「李衣菜さ、ギターの練習してる?」

「うっ…」

それは安物のそれだし、長い間手入れしてないのか音が悪い。

触ってない証拠だろう。

「持ってるなら練習しなきゃ。こいつがかわいそうだろ?」

凛が弾いたなら、僕も見せてやらなきゃな。

こういう時くらいしかプロの腕を見せられないってのが辛いけど。

337: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:14:01.91 ID:DWLvYZUIO
「…」

音は悪いけど、このギターに出せる最高の音を出したと思う。

しばらくギターには触ってなかったけど、そうそう衰えるものではないらしい。

「GACKTさん、何かバンドやってたの?凄く上手かったけど」

「あはは。秘密にしておこうかな」

「何それ…」

だって言った所で信じてもらえないしな。

「…」

そして僕の演奏を誰よりも真剣に聞いていた人物がいた。

…李衣菜だ。

「練習すればこれくらいは出来るよ」

僕の言葉に大きく何度も頷いたけど、果たして彼女はこのギターを使い始めるのか否か。

少しは本当にロックと向きあってくれればいいけど。

…だからロックってそういう使い方しないって…。

338: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:15:02.46 ID:DWLvYZUIO
李衣菜がみくのいる寮に泊まって一日。

その翌朝、早くも不機嫌な二人がいた。

「何があったの?」

「ありすぎるにゃ!まずいらない物が多すぎるにゃ!」

「いらない物!?いるよ!全部!」

「ヘッドホンは一つで十分にゃ!それに壁に画鋲刺しちゃダメにゃ!」

「えー…」

…。

何だか、若いカップルを見てる気分だ。

「ガクちゃん何で笑ってるにゃ!」

「いやあ、ラブラブみたいだからさ」

「ラ…心外だにゃ!!みくは可愛いのが好きなのにゃ!」

「こっちだって!」

339: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:18:27.98 ID:DWLvYZUIO
ふと気付くと、彼女らを眺める女の子が一人。

未央が中々終わらない言い合いをすぐ後ろで腕を組みながら見ている。

ディレクターか、お前は。

「んー…だってこのまま二人にしても平行線でしょ?」

「本当は譲りあえばいいだけなんだけどね」

「まあそういうキャラで売り出してるし、意地なんだろうね。ここまで来ると」

随分冷静に言ってるな。
ちょっと前のお前にも言ってやりなよって思うけど。

「…で、どうするの?」

「…間にワンクッション入れて、バランス取ってみるとか?」

気付けば何時の間にか一部屋言い合いしているみくと李衣菜、雑談する僕と未央の奇妙な絵図が出来上がっている。

「あー…」

誰かが仲裁役に入るって事かな。
でも流石に寮に三人は狭いんじゃなかろうか。

「ってかそれやったら折角コンビ組ませた意味無いもんね…」

…あ。

閃いた。

「未央さ」

「何さ?」

「つまりさ、アイドルの誰かじゃなければいいんだよな?」

「え?…うーん…そう、なのかなあ?」

「あはは。なら簡単だよ」

「…ダメだよ?」

「え?」

「いやあの、流石にダメだよ?」

…。

「…僕じゃダメ?」

「…ダメ」

「…絶対にダメ?」

「…ダメ」

「…何でダメ?」

「…ダメなんだもん」

あはは。何かこの未央可愛いな。

340: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:19:24.00 ID:DWLvYZUIO
「そこで、私ですか?」

「うん」

議論の末、ちひろが二人の家にお邪魔する事で決着がついた。

しかし三人があの部屋に入るのか。

…狭すぎじゃないか?

「でもGACKTさんだとどうしてダメなんです?」

「だってガクちんだとねぇ…」

「ああ…」

ああ…って何だよ。

「いや、間違いがあると困りますし…」

失礼な奴だな。
僕は節操あるオトコだぞ。

「でもさ、実際問題狭過ぎやしないか?」

「うーん。でも女の子同士で雑魚寝って、何か修学旅行みたいじゃないですか!」

僕の頭の中に、三人寝苦しそうにしている姿が目に浮かぶ。

341: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:20:21.28 ID:DWLvYZUIO
「でもさ、元々二人に同じ釜の飯を食わせて仲良くさせようって事だったんだよな?」

「だけどそれじゃ平行線だって…」

「もう少し、二人に任せてみようよ」

こういうのって、あまり誰かが出しゃばると余計に混乱しかねない。

「あ、でもGACKTさん」

ちひろが何かを思い出したかのようにポン、と手を叩く。

「どうしたの?」

「みくちゃんと李衣菜ちゃん。このままだと本当にどちらかが降ろされるかもしれませんよ?仕事先でも言い合いしてるらしいですし…」

惨い言い方するなよ。
最終的にはデビュー出来るんだから。

「…まあ、あの二人もそこまでバカじゃないと思うよ」

心配だけど、仕方ない。
見守るのもプロデューサーの仕事だ。

「…あれ?じゃあ私何の為に呼ばれたんでしょうか…」

342: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:21:23.67 ID:DWLvYZUIO
その日の夕方。
もうすぐアイドル達も帰っていく時間だ。

僕はとある大きなプロジェクトの為に一人事務仕事に打ち込んでいた。

…だけど。

「前川みく、多田李衣菜。…ユニット名…曲も…いやそれ以前かな…」

まずはこの二人をどうにかしなくてはならない。

何にしても課題が多い。
もしかしたら、今までで一番苦労させられるかもしれない。

改めて、自分が相手をしているのは思春期真っ盛りの子供達だという事を再認識させられた。

「あ゛ー…」

「何これー!」

目を閉じて気の抜けた声を出していると、莉嘉の声で我に返る。

「何って…フェスの事?」

「みんなでライブ出来るの!?」

「そうだね。じゃないとシンデレラプロジェクトを作った意味が無い」

「わー!すごいすごい!早速みんなに言ってくるね!」

「ダメだよ。まだみくと李衣菜のユニットの問題が残ってるじゃない」

「?分かったー!」

アイドルフェス。
シンデレラガールズプロジェクトの皆での合同LIVE。

これが成功すれば、恐らく第一線で活躍するアイドル達にも匹敵する知名度を得る事が出来るだろう。

しかしまずあの二人がちゃんとやってくれないとこのフェスは崩れる。

だから僕ら大人も少し焦り気味だ。

莉嘉には言わないようにそれとなく伝えておいたけど。

『ええええ!?私達でアイドルフェスやれるの!?』

『そうだよ!楽しみだね!』

…相手はまだ子供の中の子供だったな。
忘れてたよ。

343: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:22:44.03 ID:DWLvYZUIO
しかし莉嘉の口の軽さが意外と吉と出たようだった。

その翌日から、みくと李衣菜は全く喧嘩をしなくなって仕事に打ち込み始めた。

お互い全く別々の衣装を着てる時点で心中お察しだけどな。

うーん。

こうじゃ、ないんだよなあ。

これはお互いが我慢をしたというより、今だけ我慢してやるみたいな感じがする。

こんなんじゃ、いつフラストレーションが爆発してもおかしくない。

彼女らは心では通じ合ってる筈だ。
それを理解しようとしない。

それも子供染みた意地で。

プロだなんだ言うならそんなものはかなぐり捨てればいいと思うのだけど。

でもそれを言ったらおしまいだよな。

仕方ないな。
僕も少しだけアクティブになるとしよう。

344: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:23:39.71 ID:DWLvYZUIO
それから僕は、彼女らのどちらかが一人きりになる機会を狙って話しかけていく事にした。

二人いる時だと言い合いになりそうだしな。

「みくはさ、可愛く行きたいんだよな?」

「そうだにゃ!クールでロックだなんて…」

「…とりあえずさ、李衣菜がロックかっていったら、違うよな?」

「…うん」

「それにクールっていうのも、違うよな?」

「…あ、…うん」

「そう考えたら、楽じゃないか?」

「それ何か李衣菜ちゃんが可哀想だにゃ…」

やっぱり、心の中では受け入れてるんだよな。

相手の思いまで否定はしたくない、か。

思いは違えど立場的には同じなんだもんな。

「それが分かってるなら、アイツの事、受け入れてやれるよな?」

「…にゃ」

大丈夫だ。
組み始めは皆色々あるものだから。

「ガクちゃん、みくレッスン行く途中だったんだけど…」

「…あっ」

みくの方向50m先に複雑な顔で立っているトレーナー発見。

「…じゃあ、任せたよ」

「ふにゃああ…」

元はと言えば、お前達が悪いんだぞ。

345: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:25:25.66 ID:DWLvYZUIO
この日、みくはどうやらオーディションが長引くようで、先に李衣菜を帰らせたようだ。

事務所に寄った李衣菜を捕まえて話してみる事にした。

「李衣菜、これからご飯でもどう?」

「あー…行きたいのは山々なんですけど…今日、晩御飯作るつもりなんですよ…」

右手に持ったスーパーのビニール袋を見せる彼女。

若干中身が透かされて見える。

「…魚?」

「はい!今日はカレイの煮付けにするんです!…食べたいですか?」

…シブすぎじゃないか?

「骨取るの面倒臭いんだよねぇ…」

「えー…子供っぽい…」

「かーわーいーいー」

「…くすっ。何かGACKTさんって、クールなイメージなのに、子供っぽかったり、不思議ですね」

「…ロックだからな」

「…えっ?」

「お前のロックは知らないけど、僕のロックはひたすらバカやって生きていくって事だから。クールとかそんなんじゃなくてさ」

「…ひたすら、バカに…」

「自分も楽しむ。相手も楽しませる。その為に日々血の滲むような努力をする」

「…それ、楽しいんですか?」

「他人から見たら地獄、自分から見たら至福」

「…楽しいと思えという事ですね!分かりました!多田 李衣菜!ロックに行きます!」

単純だなあ。あはは。

…そういえばみくの自己紹介文に「魚嫌い」って無かったか?

346: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:28:01.42 ID:DWLvYZUIO
「…」

「「…」」

…。

どーしよっかな。

「お願いします!このイベント、みく達にやらせてほしいにゃ!」

あくる日、僕にアイドルの誰かをサマーイベントに出してくれないかとオファーが来た。

当日空いてる者達はそれなりにいるものの、隣の部屋で聞いていたみくが突如自分達に任せてくれと大見得を切ってみせたのだ。

これには李衣菜も困惑気味で、理由をみくに問いただしていた。

「どうしてそんな事言っちゃったの?まだ曲もユニット名も決まってないのに…」

「…チャンスを無駄にしたくないんだにゃ」

チャンス、か。

確かに、偶然というか、奇跡というか。

「でもちゃんとまとまってくれないとチャンスもへったくれもないよ」

「分かってるにゃ!…だから、李衣菜ちゃん!」

「…!…うん!」

…何?
何か僕に向き直ったけど。

「「私達に、歌詞を書かせてください!!」」

347: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:29:32.51 ID:DWLvYZUIO













「嫌」













348: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:30:35.34 ID:DWLvYZUIO
「ええええええええ!?何でにゃ!!」

「今絶対によし頑張れって言う所じゃないですか!!」

「嫌だよ。…まあ、多少の案なら受け入れるけどさ」

「う…まあ、この際それでいいにゃ!」

…さて、どんな案が来るのやら。

いや、もう何となく分かってる。

スーツのポケットにある違和感と、この二人の事である程度分かったよ。

349: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:31:44.17 ID:DWLvYZUIO
二日後。

衣装も決まり、歌も決まった。
後は二人の団結力がどこまで高まったのか、だ。

「相変わらず衣装はバラバラなんだね」

「もう開き直る事にしたにゃ」

「バラバラなのが私達のユニットの良い所でもあるって!」

まあ統一しなきゃいけないなんて決まりは無いもんな。

「今日は事務所からも駆けつけてきてくれたからさ。イイ所見せつけてやれよ」

「「はい!!」」

350: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:32:41.12 ID:DWLvYZUIO
観客席を見る。
夏の日差しが照りつける外会場というのに、わざわざ見にきてくれた人達。

中には物珍しさから来た者達もいるだろう。

「…お」

後ろを見ると、未央達が汗を拭いながら手をこっちに振っている。

アイドルに日焼けはマズイと思うけど、まあ、いいよな。

351: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:33:35.91 ID:DWLvYZUIO
「みんなー!今日は集まってくれてありがと…にゃっ!!」

みくの挨拶。
初対面の人間には戸惑いしか感じられない。
僕もそうだったからな。

けど、あの子達はそんな事でたじろぐ様な弱さは持っていない。

ちゃんと教えたからな。

バカになれって。

…本当はもっと伝えたい事があったけど。

今の彼女らには、一つでも伝わってればいい。

「「にゃーっ!!!」」

『『にゃーっ!』』

「それじゃ行くにゃー!」

「激しくイくよー!!」

この歌が彼女達に相応しい物なのか分からない。

だけど、どんな曲でも自分の物にするのがプロってもんだ。

可愛く、激しく。

あはは。

結構いいじゃない。
 

352: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:34:45.42 ID:DWLvYZUIO
LIVEも無事に終わり、もう一つの宿題に差し掛かっていた。

「結局お前たちのユニット名まだ決まってないんだよね」

週刊誌に取り上げられたのはいいが、謎の2人組として処理されたみくと李衣菜には同情せざるを得ない。

どうしようかと迷っている時、ちひろが入ってきた。

ちょうど良いや。

「ちひろ、この二人のユニット名なんだけどさ…」

「?…アスタリスクじゃないんですか?」

「アスタリスク?」

ちひろがこれでしょう?とシンデレラガールズプロジェクトの紙を見せてみく達の所を指差す。

指先には*印。

…アスタリスク。

そうだよね。
アスタリスクだよね。

…あはは。

「…ああ、いいねそれ」

「それ何かカッコ良くていいですね!」

「何か可愛い感じにゃ!」

みくも李衣菜も気に入っているようだ。

だけどその記号一文字はマズイ。

「じゃ、カタカナでアスタリスクだな」

「?別にこのマークでもいいにゃ」

「いや、ダメだよ」

「…?わ、分かったにゃ…」

それ、変に連想する奴いるからな。
…純粋って、たまに怖いよな。

353: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 22:35:50.90 ID:DWLvYZUIO
「…」

我ながらパソコンのキーボードを打つ速度が速くなったと思う。

ここに来て大体の仕事はこれだからな。

元々打つのは速い方だけど。

「…」

ENTERキーをターンッなんてやった事一度も無かったけど、ついやってしまった。

それだけこのイベントに期待しているという事なんだろうな。

「アイドルフェス、シンデレラガールズプロジェクト…」

僕の育てた14人のアイドル達による大規模なLIVE。

「ガクちんお疲れー」

「お疲れ。帰り?」

「そだよー」

未央がいつものように僕の部屋に現れる。
本当によく来るよなこいつは。

「他の奴らは?」

「しぶりんは犬の散歩とかで、しまむーは親御さんの用事だって」

…犬の散歩。
あいつらしいや、全く。

「…じゃ、お前一人?」

「…どーかなー?」

未央が僕を見ながら含みのある言い方をする。

そして今、未央の周りには誰かがいる気配はない。

未央を見ると、わざとらしく下手くそなウィンクを投げかけている。

…。
はいはい。

「…一緒に、晩御飯どう?」

「…にひひ♪」

デートに誘うのは、いつだってオトコの方からじゃないとな。

…さて、シンデレラガールズもやっと一段落終えた。
…いや、今やっとスタート地点に立ったという方が正しいな。

これからどうやって、どうなっていくのか。
そして僕は元の世界に帰れるのか。

それは全く分からないけど。

…今は。

「…どしたのガクちん?」

「何でもないよ、行こっか」

「…うん!」

…このひとときを楽しむとしよう。

積もる話はこれが終わってからだ。

第十一話 終

360: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:14:25.24 ID:g12cRdScO
ついに来た。

…うん、ついに。

「346プロ合同LIVE、アイドルフェスがやっと来ましたね!」

ちひろと部長、僕の三人。

会議室で中年と高翌齢のおじさん二人と年齢不詳の女の子が大人とは思えないウキウキ感を醸し出している。

こんなにも分厚い冊子を見てるとそんな気にもなるさ、あはは。

「…で、まずは合宿、と」

冊子で一番はじめに注目したのはシンデレラガールズ達の合宿。

個々で練習していては全員で歌う新曲なんて到底覚えられない。

…新曲か。

「GACKTさん!気合の入った曲期待してますからね!」

気合か。
僕は気愛だけどな。

全く、ちひろも無茶を要求するものだ。

僕への曲作りは良いとして、このアイドルフェス。

当日までの時間があまりにも短い。

果たして彼女らは無事にこのフェスを終えられるのだろうか。

…いや、僕の育てた子達だ。

これくらいやってのけなきゃダメだよ。

361: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:15:14.32 ID:g12cRdScO
「…私が、ですか?」

「そうだよ」

そしてこの合宿。
僕は諸事情で途中までしか参加出来ない。

つまり、誰かが子供達の面倒を見てやらなきゃならないということだ。

子供達の面倒を見るのは年長者の役目。

シンデレラガールズで年長者といえば。

「美波には辛いかもしれないけどさ」

この子だ。

362: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:16:04.63 ID:g12cRdScO
新田 美波。
おしとやかで穏やかな外見とは裏腹に、ラクロスで鍛え上げた足腰とスタミナ、精神力。

内も外も出来た奴ってのはそうそういない。

この子に関しては僕も絶対に
選んだと思う。

「辛いなんて事は…ちゃんと務まるのかなって」

「出来るよ。僕はそう思ってる」

しかし美波の顔は心配でならないといった顔だ。

初LIVEの時はあんなに頑張ってたのにな。

「…あの、GACKTさんの諸事情って?」

「…色々だね。スタッフとの打ち合わせとか、衣装とか、…後は…」

…。
いけないいけない。

これ以上は今は禁句だ。

「…後は?」

「…ナイショ」

気になるって顔だな。
あはは、可愛い。

363: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:17:00.73 ID:g12cRdScO
「ねえねえ!ご飯とか何が出るのかな?」

みりあと莉嘉は楽しそうだな。

恐らくこの子達は修学旅行にでも行く気分になってるんだろうな。

…合宿ってのがどれだけキツいか知らないみたいだね。

「ガクちゃん、本当に大丈夫にゃ?」

みくが僕に寄ってくる。
何が心配なのか。

「だってまだみくと李衣菜ちゃんは曲も完全じゃないにゃ」

完全か。
…完全ねぇ。

「なら大丈夫かな」

「え、何でにゃ?」

「まだシンデレラガールズは僕の目標の10%にも達してないよ」

「…鬼畜だにゃあ…」

彼女達のレベルは僕に言わせればまだまだ低いと思う。
素人に毛が生えたくらいと言っても良い。

「…でもそんなんで当日大丈夫にゃ?」

「当日までに100%にすればいいってだけだよ」

むちゃくちゃを要求してると思うか?

大丈夫だよ。

1ヶ月で舞台を仕上げた奴がここにいるんだから。

364: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:18:36.78 ID:g12cRdScO
合宿に向かう日の朝。

向こうに行くまでの時間にはまだかなり早いというのに皆既に集合している。

よっぽど楽しくて仕方ないんだな。

事務所の中を見回すと、まだまだ空気は明るい。

女の子らしく、互いの荷物を見せ合ったりしてる。

「やっぱ携帯扇風機と冷感スプレーは外せないよね!」

「私も持ってきました!」

「私も…後タオルかな」

…。

この子達も大概だな。

365: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:20:06.79 ID:g12cRdScO
「ねえガクちん!合宿すぐ抜けちゃうって本当なの?」

「ギリギリまではいるつもりだよ」

「…そっかあ…」

未央の顔が少しだけ暗くなる。
あはは。寂しがっちゃって。

「…良いとこ、見せようと思ったのにな」

良いとこ?

…ああ、そういえば初めのLIVEはボロボロだったもんな。

「良いとこってのは、見せようと思ってやっちゃダメだよ」

「え、あ、うん。ごめん」

…随分懐いたもんだよなあ。

366: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:21:07.11 ID:g12cRdScO
何となく彼女達のバッグを見てみる。

花火や浮き輪まで持ち込んでる奴もいる。

…お気楽だなあ。
向こうに行って落胆しなきゃいいけど。

「…」

凛や卯月のバッグはきちんと整理されているというのに、未央のは割と乱雑だ。

「ってか未央さ、服くらいもうちょっと綺麗にたたみなよ。シワつくよこれ」

「え?あ、ご、ごめん…あはは」

無理矢理閉めたのか蓋部分が膨らんでる。
乱雑に入れた証拠だ。

こういう事からちゃんとやらないといけないよ。リーダーなんだから。

…ん?

「カバンからはみ出してるよ。何これ」

「え?…あっ…ちょっ…見ちゃダメ!!!」

「…へえ」

白か。
…予想通り。

367: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:22:31.40 ID:g12cRdScO
346プロはそれなりに大きなプロダクションだ。

こういった大人数を乗せるバスも出してくれるんだからな。

「快適だなあ」

「快適じゃないよ!」

未央が僕の前の席でぷんすか怒っている。

見られるのが嫌ならはみ出させるなよ。

「ふーんだ」

「…」

だけど本当に旅行にでも行くみたいだ。

これから覚える事はかなりキツいというのにな。

…いや、ちゃんと分かってる奴がいるな。

368: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:23:45.87 ID:g12cRdScO
「…」

事務所に来た時からほとんど口を開かず、外を見ている美波。

13人もの子達にどうやって指導してけばいいのか。
恐らくそんな事を考えているのだろう。

生真面目な子だよ、全く。

369: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:26:01.06 ID:g12cRdScO
「着いたみたいだね」

「わーい!」

「早く早くー!」

我先にとバスから降りていく面々。

「はしゃぎ回るなよ…」

最後にゆっくりと降りていった美波を見て思った。

…確かにこれらをまとめるのはまだ若い美波にはキツそうだな。

370: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:26:54.69 ID:g12cRdScO
…。

これから泊まる合宿所。

長い階段を上がり、見えてきたのは海を一望できる日当たりの良い民宿。

広い体育館もついている。

「…?」

…うーん。
どっかで見たっけ?

…いや、知らないな。

「とりあえず着替えて体育館に集合。話もあるから」

着替えというキーワードに未央がびくりと反応したのは見逃さなかった。

371: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:27:52.27 ID:g12cRdScO
「…で、まあそういう事だからさ」

僕がしばらく離れるということはニュージェネレーションズやアーニャは知っていたようだけど、他の面子はまだ知らなかったようだ。

多少なりとも嫌がる子供達がしがみついてくる。

「えー!やだやだガックンと一緒がいい!」

「GACKTさんもう行っちゃうの!?」

「きらりも寂しいにぃ!」

…重い。

「その間のリーダーは美波に任せるからさ」

自分の名前が呼ばれた事でびくっとしたが、何とか笑顔で皆の前に立つ美波。

「…私頑張るから、宜しくね!みんな!」

僕がいなくなるのは本当だと察したきらりやみりあや莉嘉は手を離し、美波に声援を送った。

だけどなあ。

言う事聞くのかなあ、こいつら。

「…まあ、うん。言う事聞かない奴は美波がラケットで殴りにいくからさ」

「ええー!!?」

「GACKTさん!そんな事しませんから!!!」

372: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:28:38.66 ID:g12cRdScO
「じゃ、頼んだよ美波」

「はい!全力であの子達をサポートします!」

頼りになるんだかならないんだか。

「…もし困ったら電話くれればいいからさ」

「は、はい!」

373: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:29:27.41 ID:g12cRdScO
シンデレラガールズを向こうに置いてきて、僕一人バスに乗る。

さっきまであんなに賑やかだったのになあ。

あればうるさいけど、無いと寂しい。

僕って本当にワガママだ。

「…」

何となく一番後ろの席から外を見る。

『~!』
『~!』

杏以外の面子は僕を見送りに来てくれたようだった。
何言ってるか聞こえないけど。

…これドナドナじゃないよな?

374: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:31:18.48 ID:g12cRdScO
「…あー…」

海沿いの道を走るバス。
一人貸切状態だ。

とても快適で、気持ち良い。

かなり安らげる。

…わけないな。

一人はいつだって寂しいよ。

…前はこんな事無かったのにな。

375: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:32:21.34 ID:g12cRdScO
「…?」

あれ、前?
前って、なんだ?

「…」

うーん…。

全然分からないや。

多分、元の世界の事だろうな。

2、3ヶ月缶詰め状態の時もあったしな。

…んん??

376: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:33:35.52 ID:g12cRdScO
事務所に戻るとやはり賑やかだ。

近々大きなフェスをやるという事で、いろんな奴から質問攻めにあう。

そして。

「GACKTさぁん。久しぶりに二人っきりですねぇ」

この眠くなるような声。
346プロに帰ってからずっと後ろをついてまわってくる。

「…そうだね」

久しぶりってのは恐らく過去の僕の事を言っているんだろうな。

つまり、僕は知らない。

「…うふふ。GACKTさぁん、嘘はいけませんよ?」

「え?」

「まゆはぁ、GACKTさんのどんな表情でも見抜けるんですよぉ?」

…おお怖い怖い。

「…もう昔の事ですからねぇ。今はあの子達につきっきりで…」

僕はこの子に何をしたんだろうか。

さすがに自分の半分も生きてない子に手は出さないけど。

「しょうがないよ。つきっきりで見てやらなきゃならないんだから」

「でも今はいませんよねぇ?」

「…残念だけど満員なんだよなあ」

シンデレラガールズ達の事務所の扉の前で向き直る。

改めてまゆの瞳を見る。

…何で光が無いのだろう。

377: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:34:22.46 ID:g12cRdScO
「お帰りなさいGACKTさん!…あら、佐久間さん?」

「うふふ。美嘉ちゃんも入れたんですからいいですよね?」

「え、ええ…」

何だろうなこの子は。
僕の意見など聞く耳持たないようだ。

…それにしてもこの世界に僕が来る前の「僕」ってどういう感じだったんだ?

誰かに聞くわけにもいかないし。

前はああだったとか、こうだったとかいう感じでもないし。

どちらかといえばそんなに変わってはないようだけど。

瑞樹もそう言っていたからな。

378: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:35:14.67 ID:g12cRdScO
「…まゆ」

事務所内のソファに座り、自然な動作で隣に座ったまゆに話しかける。

「はぁい。何ですかぁ?」

話しかけられたのが嬉しかったのかニコニコしながら返事をするまゆ。

彼女なら、どうだろう。

「僕って、変わった?」

「…そうですねぇ。私以外の女の子達に…」

「そうじゃなくてさ、客観的に見てだよ」

「…」

まゆフィルターを介するとわけが分からなくなる。

出来れば第三者視点で答えて欲しいな。

「…随分、優しくなりました」

379: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:36:01.92 ID:g12cRdScO
…。

優しくなった?

「前のGACKTさんは、こう、凄く気難しくて、…すいません。こんな事言っちゃいけないのに」

…。

ああ、なるほどな。

それは、昔の僕そっくりだ。

…そんなに気難しくなかったと思うけど。

380: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:36:51.64 ID:g12cRdScO
「はい。お茶が入りましたよ。佐久間さんも」

話を遮るようにちひろがお茶を二人分、机の上に置いた。

まるで今の話を終わらせたいかのように。

「ちひろ、あのさ…」

「GACKTさん?もうすぐ打ち合わせですよ?」

…あ、そうだった。

ここにお茶を飲みにきたわけじゃなかったな。

「…じゃあ、行こうか」

「はい!」

「じゃあまたな、まゆ」

「…はい」

いけないな。
また自分の事でいっぱいになってた。
ここに来てからの僕の悪い癖だ。

381: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:37:56.57 ID:g12cRdScO
打ち合わせの為の会議室に行くまでの間、珍しくちひろは無口だった。

いつもならあの怪しいドリンクを僕に押し付けようとするのに。

「ちひろさ、何かあった?」

「いいえ、何も?」

…これは嘘だ。
僕でも分かる。

何もという割には僕に顔を見せようとしない。

声のトーンも低い。

…何を隠してるんだろう。

気になるけど、今は答えてくれそうにないな。

「…着いたよ」

「…あ!はい!」

…戸惑ってるのが丸わかりだ。
会議室って書いてあるのに素通りしてる。

…これは、気になる。

382: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:40:38.42 ID:g12cRdScO
「…で、衣装はこういった感じで…」

会議の内容の一つ、衣装デザインの決定。

スタッフ達が提案した物を絵にしてある。

シンデレラガールズ達の衣装。
まるでお姫様のような衣装だ。

まあシンデレラって銘打ってるからな。

…きらりと杏はサイズまで特注しなきゃならないけどな。

「今西部長、これで良いよな?」

「うんうん。可愛らしい衣装だ。…舞台の方も素晴らしいねえ」

孫を可愛がるおじいちゃんか。
…少しは部長としての意見を言って欲しいものだ。

「当日は恐らくお客さん達の渋滞も予想されますので、現地スタッフの増員もしたいのですが…」

スタッフからも色々な意見が出る。
良いねえ。
これぞプロダクションのあるべき姿だ。

無意識に笑みがこぼれてしまうよ。

383: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:41:45.52 ID:g12cRdScO
結果3時間にも及ぶ会議が終了し、やっと休みになった。

まだ事務仕事が残っているけど、ここでゴールデンタイムとしても良いだろう。

「…お」

部長が先に休憩している。
彼もまた男のゴールデンタイム中という事か。

384: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:43:04.55 ID:g12cRdScO
「僕も休憩する事にしたよ」

「おや、GACKT君」

「ちょっと疲れちゃってさ」

「…そうか。君も随分と変わったね…」

変わった。

確かに彼はそう言った。

…彼にも聞いてみようかな。

385: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:44:23.15 ID:g12cRdScO
「あのさ、僕ってそんなに変わったかな?」

「変わったねえ…。昔は、何というか、若かった、と言わせてもらおうかな」

若かった。
彼は恐らく僕にかなり気を使っているのだろう。

彼の言わんとした事、何となく察する事が出来た。

…まだガキだったという事か。

…。

え?

「…僕ってここに来て何年経つんだっけ?」

「ん?…そうだねえ。もう3年は経つんじゃあ、ないか?」

3年て。
そこまで前じゃないのか。

「君はこのプロダクションが出来た当初からいる唯一のプロデューサーだからね」

…成る程。
初期メンバーって事ね。

…そりゃあ、いろんな奴から話しかけられるわけだ。

というか、まさか僕って本当に他のアイドルもプロデュースしてたのか?

386: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:47:11.49 ID:g12cRdScO
「今でも覚えてるよ。まだ出来たてで、無名だった頃に人手が足りなくて困っていた時に君が来たんだ。…君はもう覚えてないかな?」

「…ほとんど覚えてないね」

…覚えてない、というか知らない。

「あの時は驚いたよ。一応会社の面接だというのに長髪にピアスに着崩したスーツ。それと人を威嚇する様な目。おまけにサングラス。…正直困ったよ」

ただのチンピラじゃないか。
僕ってそんな性格だったっけ?

「しかし猫の手も借りたい私達には雇う以外の選択肢が無くてね。…いざ雇ってみたら、一日たりとも遅刻はしない、休まない、愚直に仕事に向かう。…見た目とのギャップに思わず驚いたものだ」

「へぇ」

「ただ、アイドル達からはとても怖がられていたね。無口で、何を考えているか分からないと」

…ボロクソ言われてるなあ。
そりゃ今でもピアスは空けてるけどさ。

「その上一言も弱音は言わないからか、アイドル達も自然に君に気を使って意見を言ったりする事が無かったんだ」

「へぇ…」

「…そんな中、一人だけ君に真っ直ぐ向かい合ってたアイドルがいたのも、覚えてないかな?」

真っ直ぐぶつかってくるオンナか。
悪くないよな。

でもなあ。
知らないんだよなあ。

「…あー…ごめんよ。あんまり思い出せないや。あの時は仕事でいっぱいいっぱいだったからさ」

「ははは。そうかもしれないね。…千川君だよ?」

「え?」

387: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:50:01.17 ID:g12cRdScO
…千川。
僕はその名字に聞き覚えがある。

だって、いつも僕の近くにいるじゃないか。

「…あ、あー。ちひろ、うん」

まずいな。
内心かなり動揺してる。
思わずどもってしまった。

「勿論千川君だけじゃない。他にも色んなアイドル達を手がけていた…そんな中でも一番熱心にプロデュースしていたのが、千川君だったんだ」

「あ、うん…」

「あえて今はちひろ君と呼ぼうかな。…ちひろ君は君に対していつも真っ正面から向かい合っていた。そして君もまた彼女に真っ正面からぶつかっていた」

それが僕の性格だからな。

「君とちひろ君はまあまあ順調だったよ。彼女も色んな仕事をこなしていた。…だけど、それはある事件をきっかけに崩れてしまったね」

ある事件、か。
言い合いでの喧嘩とは思えないけど。

「あの時は私も…」

「部長、GACKTさん」

388: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:53:48.17 ID:g12cRdScO
何だよ。
今僕は真剣に彼の話を…。

「…あ」

彼女は椅子に座る僕と部長を悲しげな顔で見つめていた。

「…ちひろ」

今までの彼女の反応から察するに、この話は聞きたくないという事だろう。

「…あの」

「GACKTさん。もう終わった事ですから」

「…」

「これからは、私は事務員ですから」

…何だろ。
ほっといたらダメな気がする。

多分この件に関しては解決しきってないのだろう。

この件といっても何の事か分からないけどさ。

…次から次へと問題が訪れるな。

389: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:55:43.76 ID:g12cRdScO
その日の夜。いつもより遅めの帰宅だ。

少し疲れたかな。

…お腹空いた。

「…何処に行こうかな」

今日は何だかモヤモヤする。
飲みたい日だ。

何処か適当なバーとか無いかな。

「…ん?」

ちょうどその時だった。

携帯が鳴っている。

「美波?」

…そういえば、悩み事があったら電話くれって言ったよな。

あの時はこんな風になるなんて思いもしなかったなあ。

「…もりもり」

『もりm…もしもし、GACKTさん』

声色から察するに合宿に向かう時よりもさらに元気が無くなっている。

こりゃ何かあったな。

「…とりあえず、話してみなよ」

『あの…新曲の振り付けがバラバラで、新しい曲を覚えるのを嫌がってる子もいて…』

嫌がってる?
ずいぶん偉くなったな。

…まあ、それどころじゃないってことだろうけどさ。

それは僕も同じだよ。

390: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 21:58:42.53 ID:g12cRdScO
「ちゃんとラケットで脅した?」

『そんな事出来ませんよお…。どうしたらまとまってくれるのかなって…』

まとまる、ねえ。
…うーん。

…あ。
そうだ。

「じゃあさ、何かゲームやりなよ。皆で出来るやつ」

『みんなで、ですか?』

「リーダーのお前への下克上ゲームでさ、レクリエーションだよ」

『…レクリエーション…』

そうそう。
簡単な話だ。
修gack旅行、いや、ある意味雪板苦羅武だ。

「まとめる為には言葉じゃダメだ。行動で示さなきゃ」

『…はい!分かりました!美波…キメます!』

「あはは。そのセリフ良いな」

『あっ…』

電話の向こうで恥ずかしがっているのが分かる。

「顔張れよ。僕が行く頃には最高にイケてるチームにしてくれ」

『はいっ!』

…さて、これで解決したかどうか知らないけど。

次は、僕の番だな。

391: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:02:25.53 ID:g12cRdScO
「…」

駅前に来ると色んな店がある。明日も平日だからか、あまり人はいない。

いるとしたら、チャラそうな若者達だ。

学生諸君は夏休みだっけ。
羨ましいものだ。

…しかしこうして歩いていても、誰も僕に振り向かない。

それもそうだ。僕はしがないサラリーマンだしな。

スーツ着て、1人で飯屋を探すおっさん。

…今の僕は井之頭GACKT。あはは。

「…あ」

訂正だ。
僕は井之頭じゃない。

何故なら孤独じゃないから。

立ち並ぶ店から外れた隠れ家のような店に入っていった緑色のスーツの女の子を見てそう思った。

…小料理屋か。
洒落てるな、あの子。

392: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:03:49.98 ID:g12cRdScO
「…」

ちょっといい感じだ。
狭くもなく、広くもない。

店内は静かで、和の空間が広がっている。

良いねえ。
今の僕らにぴったりだ。

こちらを振り向き、顔を真っ赤にしたちひろにそう目で訴えた。

いつもならなんてことない笑顔で迎え入れるのにな。

…あんな事があった後だしな。

「ご飯食べに行くなら誘ってくれれば良いのに」

「…あ、あの、GACKTさん、どうして…」

「偶然見かけちゃってさ」

…タイミングが良いのか悪いのか。

393: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:06:35.72 ID:g12cRdScO
「今日は僕も飲もうと思ってたんだ」

「…も…って。私は、そんな…」

「…お前とは、最近腹割って話してなかったよな」

「…」

「どうかな。たまには」

「…少しだけですよ」

あはは。
そういう時に限って飲んじゃうんだ。

394: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:08:07.37 ID:g12cRdScO
「…」

少し、どころじゃないな。
かれこれ2時間は飲んでる。

隣を見ると、舟を漕いでるちひろ。

「…ヤバそうだね」

「そんな事ないですよぉ…」

まゆみたいな喋り方だな。
酔ってる証拠だ。

彼女なりにストレスが溜まっているんだろうな。

…もしくは、忘れたいのか。

でも、何となく思う。

「…」

この世界に来て誰かとこうして飲んだ事は無かったからかな。

久しぶりの感覚だ、と。

395: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:11:46.24 ID:g12cRdScO
「GACKTさんはぁ、楽しそうですねぇ…」

「そうだね。1人の時より楽しいよ」

「…違いますよぉ。シンデレラガールズのみんなといる時すっごい楽しそうなんです」

「…それも、そうだね」

「…私の時は…」

…ん?

「…それって…」

「私がアイドルで、GACKTさんは私のプロデューサーで…」

…まさか本人から聞くとは思ってなかったな。

396: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:13:55.49 ID:g12cRdScO
「GACKTさん、私が他のプロダクションの人からいじめられた時の事覚えてますかぁ?」

「…何だっけ?」

「とぼけないでくださいよぉ。今でも忘れてませんよぉ。…あの時、相手は大手のプロダクションだったのに、私の事凄く庇ってくれて…」

「…」

「相手のプロデューサーに脅された時も、思いっきり…こう、ぐわーんっ!て!」

「…えぇ…?」

「…でも、逆に相手のプロデューサーさんに苦情出されて…」

「…」

「GACKTさんはそれでプロデューサーを辞めるって言って…」

「…」

…。

397: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:15:16.89 ID:g12cRdScO
『GACKTさん!プロデューサー辞めるって…』

『辞めるよ。あんな奴らが堂々としていられる今の業界なんていたくない』

『…私のせいです。私がもっとしっかりしてれば…』

『違うよ。僕がこの業界を嫌いになったんだ。お前のせいじゃない』

『…嫌です。私、GACKTさん以外の人がプロデューサーなんて嫌です!』

『お前は絶対一流になれるよ。大丈夫だから』

『…だったら、変えていきましょう…?』

『え?』

『私達二人で、この業界を変えましょうよ!』

『…』

『…私達で、最高のプロダクションを作るんです。だから…』

『…!』

『…これからは、私は、アイドルではなく、貴方の同僚です』

『…ちひろ…』

『私が、サポートしますから、だから…辞めないで下さい!』

『…』

398: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:19:12.52 ID:g12cRdScO
…。



なるほどねえ。
この世界の僕はそんな感じだったんだなあ。


それであんなに大きなプロダクションになったのか。
…まるでドラマだな。

…でもそれ、「僕」じゃないよな。

…良いのかな、「僕」で。

「…」

隣でついに撃沈したちひろを見てそう思う。
仮に僕が元からこの世界にいたら、同じ事をしていただろうか。

もしかしたら、今もちひろがアイドルとして輝いていたかもしれない。

いや、最悪な展開になっていたかもしれない。

…僕が、この世界に来た理由って何だ?

何で、僕は…。

…。

「…GACKTさぁん…えへへぇ…」

…僕にはこの子やあの子達に接する権利があるのか?

…もう、わけが分からない。

399: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:20:57.32 ID:g12cRdScO
ちひろを無理矢理起こし、タクシーで帰らせた後、僕は鬱屈した気分のまま家に帰った。

考えれば考えるほど嫌になる。

僕は、この世界の僕から彼女達を奪おうとしていると。

この世界の僕の生きがいを奪い去ろうとしていると。

…僕は、この世界の僕は、僕の事を許してくれるのか?

僕だったら、どう思う?

…。

「…分からない」

僕は何故この世界に連れてこられたのか。
こんな思いを味わわせる為にか?

…だとしたらそいつはよっぽど趣味が悪いな。

400: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:23:36.59 ID:g12cRdScO
一人悩んでいると、既に時間は深夜になろうという所。

そんな時、携帯に着信が入ってきた。

こんな時間にだれだよと思ったけど、その相手は…。

「…凛?」

401: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:24:34.45 ID:g12cRdScO
「…もしもし?」

『もしもし、GACKTさん?…何となく、電話しちゃった』

「あはは、そっか。…でも夜更かしは良くないな」

『GACKTさんだって夜更かしだよ。…何か、元気無いね』

「え?あはは、ちょっと疲れててさ」

『……本当に?』

「本当だよ」

『…嘘。もう付き合い長いんだから分かるよ。…いつもならもっと変な感じで出るもん』

「…あはは」

『何があったの?』

「色々、かな…」

『…』

「…」

『…ねえ、私に言ってくれたよね?』

「?」

『悩むのは材料が足りないからだって、その材料を探す為に前に進めって』

「…」

『GACKTさんがそんな事じゃ困るよ。私達のプロデューサーなんだから』

402: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:25:23.70 ID:g12cRdScO
「…」

…何だろうな。

今、僕の足を掴む枷が、外れたような気がする。

「…あはは。そうだよな。僕らしくない事しちゃったな」

『そうだよ。…ね、GACKTさん?』

「ん?」

『…ごめん。何でもない。…また明日ね』

「…そうだね。お休み」

『……お休み』

403: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:26:26.00 ID:g12cRdScO
「…」

…また明日、か。

…あはは。

そうだったな。

悩んでどうする。
僕は恐竜系男子だぞ?

あの子達が誰かのだなんて、関係無いよ。

選択肢は一つ。

前に進むだけだよ。

これまでも、これからも、な。

404: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:31:02.06 ID:g12cRdScO
…。

最近購入したソファで目が覚めた。

時計もセットしてないけど、いつも通りの時間だ。

「…」

いや、代わりがあったからかな。

外は本当、うるさいよな。

…夏だもんな。
蝉の鳴き声くらい聞こえるよ。

元の世界じゃ地下で寝てたから味わえなかった。

何だか新鮮だなあ。

「…朝かあ」

ここに来てから随分規則正しい生活を送るようになった。

おかげさまで二日酔いも無い。

そんな気分も悪くない。

むしろ今までにないくらい清々しいや。

なんせ、僕は姫のお墨付きだからな。

「…じゃあ、行こうか。GACKT」

立ち止まってる暇なんてない。
僕は一度決めたら最後までやり抜く主義なんだ。

…最後、か。
 

405: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:33:35.72 ID:g12cRdScO
「GACKTさーーん!!」

「ガクちゃーーん!!」

「ガックーーン!!」

「ガクチーーン!!」

…呼び方統一しない?

「あはは。そんな寂しかった?」

合宿最終日。
というか今日の午後までには帰らなきゃならない。

…けど。
まずは、これだよな。

「はい、皆のTシャツ。イケてるだろ?」

「おお…何かガクちんっぽい」

黒い色を基調とし、胸にはシンデレラガールズのマーク。
そして背中には…。

「ねえGACKTさん。これどう見てもヤンキーの集団だよね…」

『嬢』。

凛はどうやらそこが気になって仕方ないらしい。

「あのさ、せめて姫にならない?」

「姫より嬢のが強そうじゃない?」

「喧嘩しにいくわけじゃないんだから…」

あはは。
そのうち着慣れるよ。
そういうもんだ。

「良いですね!ロックって感じ!」

「みくはこんなの反対にゃー!」

…これこそ僕だ。
間違いない。他の誰でもない僕だよ。

「さ、バスに乗って。午後から使う奴らもいるんだから」

「「「はーい!」」」

406: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:35:13.87 ID:g12cRdScO
皆より先に玄関で靴を履いていると、下駄箱の上に一つの色紙が置いてあった。

その色紙にはアイドル達のサインが書かれている。

「765プロ…へえ」

765ってあれだよな。凄い有名プロダクション。
この子達もここを使ってたんだな。

…成る程。
もしかしたらここで合宿すると何かあるのかもしれないな。

運頼みは大嫌いだけど、ここはあやかるとしよう。

そんな事を考えている時、後ろから美波の声が聞こえた。

「GACKTさん!」

「ん?」

「あの、ありがとうございました!」

「何が?」

「GACKTさんのおかげで、みんなをまとめる事が出来たんです!」

…ああ、そんな事言ってたっけ。
色々あったから忘れてた。

「じゃ、これからもリーダー任せたよ」

「へ?」

「年長者のお前がリーダーじゃないとな」

「え、ええええ!?」

408: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:36:17.15 ID:g12cRdScO
「姉さん!」

「わっ!」

美波の後ろをコソコソついてきた未央が驚かせるように美波に話しかける。

「みなみん姉さん!…じゃなかった。これからはリーダーだね!」

「み、未央ちゃん…その姉さんはやめて…」

姉さん。
…姐さん?

何があったのだろうか。

…いや、何となく何があったか分かった。

若干ふざけながらも美波に対し真っ直ぐ爪先を揃えて立つ未央を見て確信した。

美波…キメたな。

「あ、あの…まだやれるかどうか分かりませんけど、頑張ります!」

それに、シンデレラガールズの皆の顔を見て思う。

ここに着いた時のバラバラ感は微塵も無く。

皆がこれからのフェスに想いを馳せている。

ようやく、一致団結したようだ。

…良くやってくれたよ、美波は。

「じゃ、行くよ」

「「「はい!!!」」」

しかし横一列に並んだこの子達の背中。

…面白すぎ。
 

409: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:42:35.66 ID:g12cRdScO
「皆さんお帰りなさい!」

事務所に帰ると、いつものように笑顔で僕達を迎え入れたちひろがいた。

「ちひろ、二日酔いしてない?」

「大丈夫です!このドリンクを飲めば!」

「…いやいらないって……いやごめん。ひとつだけ貰うよ」

久しぶりに受け取ってもらえたのが余程嬉しかったのか飛び上がって喜んでいる。

中身はいらないけど。

…まあ、これくらいはね?
解決策も見つかったことだしな。

しかし後ろからの黒いオーラはなんだろうな。あはは。

410: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 22:43:33.03 ID:g12cRdScO
「…GACKTさん。二日酔いって?」

「ん?」

振り向くと、そこには。
凛…いや、シンデレラガールズの皆が。

「…もしかして、きらり達が合宿してる時にぃ…」

「二人で、一緒に、デート、ですか?」

「…ガクちん?」

「…私の事、リーダーにしてくれたのに…」

…。

あー。

そう来るか。
こういう一致団結も来るのか。

だけど今日くらいは、いいかな。

このやかましい騒音は、僕の、今の生きがいだからな。

それに、約束しちゃってるもんな。
こいつらをトップアイドルにする事を。

ちひろと、…姫達とな。


第十二話 終

413: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:00:15.15 ID:g12cRdScO
とある夢を見た。

いや、あれは夢なのかどうか。

とても鮮明で、リアルだった。

親友のYOUから、ゲームをやらされて、気付いたらとても狭い事務所で置きた。

そして、そこにはアイドル達がいて。

…何故か顔が分からない、というか見えない。
この子達の名前も。

ほとんどおぼろげにしか見えない。

まるで紙芝居のようだ。

…でも、そういった事なら今までとさほど変わらない。

違うとすれば、何だろう。
顔が分からないとか、紙芝居みたいとかじゃなくて。

そこには、元からアイドル達がいて。

でも、全く無名で。

でもひとつのチャンスを掴み取って。

挫折もたくさん経験して。

後輩アイドル達も出来て。

…そして。

414: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:01:07.70 ID:g12cRdScO
『GACKTさん!行っちゃダメ!!』

『GACKTさん!!』

…あれは。

……凛?

その隣にいるのは…。

…。

415: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:01:57.63 ID:g12cRdScO
「…ハッ!?」

…。

…まさか僕が机に突っ伏して寝る日が来るとはな。

…ああ、JESUS。

「…今、何時だろ…」

こういう時って、何故か腕時計よりも先に壁にかけてある時計を見てしまう。

…昼か。

あれ、僕昨日なにしてたっけ?

…ああ、そうだ。
確か、合宿が終わったんだっけ?

「…おはよ。GACKTさん」

凛の声がする。
割と近くで。

「…ん、おはよう」

声のする方を振り向くと。

「…え?」

そこには。


「どうしたの?ガ・ク・ト・さん♪」

ウエディングドレスを着た凛がいた。

え?

あれ?

「…」

そして何故か、タキシードを着ている、僕。

…。

416: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:02:52.44 ID:g12cRdScO
「…アアアアアアッ!!?」

…。

……。

「…夢、か…」

…何だ、今のは?

今のはどう見ても凛だけど、凛じゃない。

凛はあんな事絶対に言わない。

言うわけがないよな。

…ここは。

…自宅か。


「どしたのガクちん?凄い叫び声あげて…」

未央の声がする。

良かった。いつも通りだ。

417: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:03:43.37 ID:g12cRdScO
…。

「………あ?」

いつも通り?

いや、自宅に未央が来るわけないだろ。
住所も教えてないんだぞ。

「ガクちん?どーしたの?」

…ゆっくりと、緊張の面持ちで未央の方を向く。

そこには。


「ねーパパが調子悪いみたいでちゅねー…」

膨らんだ腹を愛おしそうに撫でている未央がいた。

…。

418: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:04:42.23 ID:g12cRdScO
「…ァァアアアアアアッ!!?」

…。

……。

…夢か。

…ヤバイ。
凛よりもヤバイ。

何だ、何だこの夢は。
結婚どころかゴールインしてるじゃないか。

僕はあんな年下に手を出す様な奴じゃないぞ。

「……」

周囲を見渡す。
良し。ここは事務所だ。

僕はスーツ。
時刻は昼。

何も怖くない。
大丈夫、ただの夢だ。

419: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:05:25.02 ID:g12cRdScO
その時、ドアを乱暴に開ける奴がいた。

誰だ?
僕はそんなヤンキー育てた覚えはないぞ。

…これは叱ってやらないとな。

「ダメだろ。そういう開け方したら…」

ドアから出てきたのは。



「ハ?うるせえよジジイ!!!」

木刀を持ったツナギ姿の卯月だった。

420: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:06:17.56 ID:g12cRdScO
「……ァァアアアアアアッ!!!?」

…。

「…ハアッ…ハアッ…夢か…」

…勘弁してくれ。
未央や凛はもとより、卯月は勘弁してくれ。

卯月はいけない。
あの子は一番真面目で純粋な華の女子高生なんだ。

思わず顔を両手で覆ってしまう。

…さっきから冷や汗が止まらない。

…何だ?
僕はニュージェネレーションズに何かしてしまったのか?

あの子達は僕に恨みとかあるのか?

「…さすがに、もう無いよな…?」

…。
うん。

無いか。

…良かった。

「ああ、良かっ……」

421: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:07:00.78 ID:g12cRdScO
…。

冷静に考えよう。

今、僕はスーツを着ている筈だ。

ここは事務所だもんな?

じゃあ。

何で。

僕はシンデレラガールズ達の衣装を着ているんだ?

422: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:08:01.45 ID:g12cRdScO
冷静に焦っていると、ドアが大きな音を立てて開く。

今の姿を誰にも見せるわけにはいなかないというのに。

「GACKTちゃん!」

「あ!?」

ドアを開けて入ってきたのは卯月、凛、未央。
てかGACKTちゃんって何だ。

「あ?じゃないよ!もうこんな所で何やってるの!?」

彼女達はそう言うと僕を引っ張り連れていこうとする。

何だ、僕は今から何をするんだ?

「今からLIVEでしょ!?プロデューサーが待ってるよ!」

「プロデューサーは僕だろ!」

「何寝ぼけてるの!?」

こっちの台詞だ。
何で女装したおっさんがアイドルデビューしてるんだ。

…頼む。
誰か僕を助けてくれ。

423: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:09:00.65 ID:g12cRdScO
「ほら着いたよ!ガクちゃん準備して!プロデューサーも来るんだから!」

「準備!?」

いきなりなんだ。
準備ってなんだ?

焦っていると、向こうからゆっくりと歩いてくる奴が一人。

「…」

「あ!プロデューサー!ガクちゃん連れてきたよ!」

…。

…プロデューサー。

…。

…プロデューサー?


「GACKTちゃん!今日も頑張っていきましょうね!」

そいつは黒スーツを着たちひろだった。

424: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:10:59.78 ID:g12cRdScO
「…ァァアアアアアアッ!!?」

…。

……。

何度目だよこれ。

まさか無限ループってやつじゃないよな。

「ガクちんどーしたの?」

「!!?」

びっくりした。
…未央か。

「…」

「…ガクちん?」

…腹、膨らんでないよな?

「…?が、ガクちん?そんな真剣な目で見つめられても…」///

良かった。
僕はそこまで堕ちてなかったか。

425: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:11:52.54 ID:g12cRdScO
「凄い叫び声だったよ?よっぽど嫌な夢見たんだね…」

次は凛か。
…ウエディングドレス着てないよな?

「…な、何?」///

…着てないか。
良し。

426: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:12:44.69 ID:g12cRdScO
「もしかしたら疲れてるのかもしれませんよ?大丈夫ですか?」

…卯月も、大丈夫だな。
声だけ聞けば分かるからいいや。

427: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:13:39.21 ID:g12cRdScO
「…いや、かなり酷い夢見ちゃってさ…始めの頃は結構…」

「…結構?」

…あれ?
どんな夢だっけ?

…後半からどんどんひどくなっていったから忘れちゃったよ。

せっかく良い夢だったのに。

「…ちなみに、酷い夢って?」

凛が聞いてくる。
かなり心配そうな顔だ。

「…お前達が出てきて、それだけなら良かったけど…」

「…それから?」

「…絶対にあり得ない事をしてきたんだ」

凛、未央、卯月が顔を見合わせる。

「…私達が」

「絶対に」

「…あり得ない事を?」

…これ以上は言いたくない。
というか、思い出したくない。

個人的には卯月が一番酷かったけどな。

428: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:14:26.10 ID:g12cRdScO
「…でも、悪い夢って意外と良い事の前兆だったりしますよね!」

卯月がせめてものフォローを入れてくれた。

そうだよな。
僕もそれは聞いた事がある。

「…良い事かあ」

何だろうな。

「…しまむーは何だと思う?」

「えっ?…私は、その、みんなで…トップアイドル!…かな?…えへへ」

「…もー!可愛いなあー!」

「えへへ…」

卯月はこういうキャラだよな。
間違いない。

木刀持って殴り込みに行くような奴じゃない。

…でも。

「それはダメだよ」

「え?」

「トップアイドルになる事を運任せにしちゃダメだ。なれたら良いんじゃなくて、なるんだよ」

そうだ。
トップアイドルに、なるんだよ。
じゃなければシンデレラガールズを作った意味が無い。

「…そう、ですね!じゃあ…えっと…」

何か何時の間にか願い事をお祈りする会みたいになってるぞ。

…僕にとっての話じゃなかったの?

429: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:15:21.72 ID:g12cRdScO
「…あっ……」

卯月はそれっきり顔を赤くして口を閉じてしまった。

まあ、何となく察した。

…女の子らしいや、あはは。

「未央とか凛は?」

二人にも質問してみるが、彼女らも赤くなって押し黙っていた。

…アイドルだもんな。
そういう事に憧れる気持ちも分かる。

「…ね、ねえ、ガクちん。ガクちんは?」

未央が上目遣いで僕に聞いてくる。
両手の人差し指をツンツンしながらとか、少女漫画みたいだな。

「…僕ねぇ…」

今の僕にとって良い事。

…たくさんあるなあ。

430: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:16:26.13 ID:g12cRdScO
それを聞いた途端、三人の頭上に?が浮かんだ…ように見えた。

彼女らにはどうやら忙しいおじさんの気持ちは分からないようだ。

「ゆっくり出来る時間が欲しいんだよ」

ゆっくりゆったり。
確かに睡眠で無駄な時間を過ごすのは嫌だけど。

…実は、たまにはゆったりしたい。

温泉につかってみたりさ。

431: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:17:14.22 ID:g12cRdScO
「んー…じゃあさ、ねえしぶりん!しまむー!」

未央が凛と卯月を引き連れ何やらコソコソ話している。

気になるけど、聞かせてはくれなさそうだ。

「「「……」」」

そして、三人ともこちらを振り向く。

「…GACKTさん」

凛がソファに座り、未央のハンバーガークッションを敷き、それをポンと叩く。

未央と卯月はソファの近くで待機。

…ああ、成る程ね。

432: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:18:05.86 ID:g12cRdScO
「お客さんこってますねー」

凝ってないよ。
僕の体内年齢は15歳なんだぞ。

身体も柔らかいんだ。

「言ってみただけー」

「えっと…こう、かなぁ?」

「…」

凛と未央と卯月が一生懸命僕の体をマッサージしている。

良いなこれ。
くすぐったいけど。

足と、腰と、首。

とりあえず全部くすぐったい。
下手くそめ。

「…」

…でも、悪くない。

これはこれで良いや。

…夢とか、気にならなくなるな。

433: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 23:21:11.73 ID:g12cRdScO
例え僕の過去に何があったとしても、それは過去だ。

変えられない昨日より、今、そして未来だ。

忘れちゃダメな事もあるかもしれない。

時折振り向く事もあるかもしれないけどさ。

でも今こうして仲間がいる。

…今は、それでいいや。

さて、明日からも顔張るかな。

…。

「んしょ…んしょ」

「よっと…」

「…こうですか?」

「…ああ、うん。そんな、感じ…いやちょっと痛い…」

「え?じゃ、じゃあ…こうですか?」ゴリッ

「コノヤロー!!!」

「ごめんなさいごめんなさい!」

…これ、いつまでやるんだろうか?

第十二.五話 終

442: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:30:07.54 ID:TB9ZFadlO
「じゃあ、こんな感じでいい?」

「んー…まだみんながまとまりきってない感じがするにゃ…」

「じゃあ、上手くはけられるようにスタッフさん達に話してきますね!」

あー…。

本番だ。

「じゃあ…行ってくるね!」

皆が意見を出し合っている。
いらない事まで言ってくる奴もいるけど。

「…GACKTさん?」

「何?」

「…あの、何か意見は…?」

まとめ役の美波が僕に意見を求めてきている。

そうだねえ…。

「とりあえず楽しんでよ」

「え、ええ…?」

「そ、それだけ?」

それだけ。
僕からは以上。
あはは。これじゃくりぃむしちゅーさんだな。

「でもガクちん、あれをこうしろとかは無いの?」

「無いよ。合宿でお前達がイケてる奴らになったってのは分かったから」

後は…。

「楽しむ、それが僕からの課題だよ」

今日は、僕も楽しむからな。

…あはは。

443: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:31:15.59 ID:TB9ZFadlO
「何かガクちん今日はずっと笑ってるねぇ…何か隠してる?」

「何だろうなあ…」

「あー!絶対何か隠してるなー!?」

「みんな!今日は楽しもうね!」

会議から雑談に変わりかけていた時、美嘉が入ってきた。
いつも通り、僕の後ろを陣取って。

「美嘉姉!」

どうにもこの子はシンデレラガールズに関わりたいらしい。

まあ、後輩だもんなあ。

…でもそれは、彼女達にも言える事なのかな。

「美嘉さん!」

「お姉ちゃーん!」

…間違いないな。

でも一番顕著に表れてるのは…。

444: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:33:27.51 ID:TB9ZFadlO
「美嘉姉!今日は絶対、この前みたいな事はしないから!一歩進んだ私たちの事、見ててね!」

「未央ちゃん…」

一歩進んだ、か。

たかだか一歩。
されど一歩。

踏み出した事事態に意義がある。

未央もようやく一流に近づきだしたな。

445: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:34:15.41 ID:TB9ZFadlO
「GACKTさん。こうして一緒にお仕事するのって久しぶりですね」

「…そうだね」

知らないけどな。

彼女、高垣 楓にとっては久しぶりなんだよな。

「今日の仕事、とってもワークワークします」

「…今ので少しヤル気が下がったかな」

「…ひどいです」

…この子こんなキャラだったのか…。

446: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:36:45.01 ID:TB9ZFadlO
「き、緊張してきましたあ…」

「智絵里ちゃん大丈夫?お水持ってくるね!」

「何か暑いねえ…」

「?じゃあスタッフさん達に話してくるね!」

…。

本番直前。

美波が何故かハムスターのように走り回っている。

リーダーをやれとは言ったけど、パシリになれとは言ってないぞ。

「美波、僕が行くからさ、お前は体力温存しときなよ」

「いえ、こうしてないと落ち着かなくて…」

お前はお母さんか。

「…お前絶対無理してるよな」

「そ、そんな事はないです!大丈夫ですよ!」

そう言って美波は走っていった。
…目のクマはナチュラルメイクじゃ隠せないよ。

 

448: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:39:14.94 ID:TB9ZFadlO
「はいはーい!みんな注目!」

そろそろLIVEが始まるといったところで参加者の一人、瑞樹が声を上げる。

何だかんだで年長者だな。

まとめ役としては最適だ。

「とにかく、ケガが無いように!安全で楽しいLIVEにしましょう!」

「「「はい!」」」

「…じゃ、円陣組みましょ!そして…楓ちゃんから一言」

「じゃあ…円陣くんで、エンジンかけましょ!」

「「「…」」」

「分かるわ…先輩のボケってツッコミづらいものね…」

…。

何だこれ。

449: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:40:53.75 ID:TB9ZFadlO
「僕も入っていいよな?」

「あ、あらGACKTさん…そんな強引な…」///

楓と瑞樹の間に割って入る。
バカ言うんじゃないよ。

本物の円陣ってのを見せてやるだけだ。

450: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:42:21.76 ID:TB9ZFadlO
「じゃ、皆手じゃなくて肩組もうか」

「え…あ、…はい…」

背中が露出しているのか少し恥ずかしがる彼女達。

正直今はそんなのどうでもいい。

「…今日、皆の日々の努力が試される日が来る」

「「「……」」」

「努力は裏切らない。だけどそれを証明するのはお前達自身だ」

「「「…」」」

「…行くぞお前ら」

「「「…」」」

「このLIVE、最高のものにするぞよろしいかお前ら!!!!」

「「「はい!!!」」」

僕にできる事はここまでだ。

さて、後は…。

451: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:43:20.82 ID:TB9ZFadlO
 
「さて、始まったね」

楓を中心とした曲でスタート。

何ともアイドルらしい歌だな。

夢を叶えて、か。

あはは。
叶えるのは、お前達自身だって。

こんなに心の底から楽しさが湧き上がってくるのも久しぶりだ。

…さて、そろそろネタバラシでもするかな。

…なんて、思ってた僕はバカだったかな。

452: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:44:29.40 ID:TB9ZFadlO
「GACKTさん!あっ…は、早く着替えて下さい!」

ちひろが僕の裸を見て顔を覆い隠す。
指の間から見てるくせにな。

というか、僕が今から何をするのか知っているくせに。

「まだ僕の出番じゃないだろ?」

もうちょっとゆっくり着替えさせてくれと言おうとした時だった。

「美波ちゃんが、美波ちゃんが倒れてしまったんです!」

…。

……。

「…JESUS」

…参ったなあ。

453: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:45:35.96 ID:TB9ZFadlO
「…」

枕に顔を埋め、頑なに顔を見せない美波。

不甲斐なさ、情けなさ。
まだ自分はいける。
こんな熱は辛くない。

そんな複雑な思いからの行動だろう。

「…美波、いつも、夜遅くまで練習、してました」

アーニャが泣きそうな顔でぽつりぽつりと呟く。

…仮に二人の出番が最後だとしても。

「…」

枕から出ている部分、耳や頬。
…真っ赤だ。

知恵熱ってやつかもしれないな。

これじゃ、無理だよな。

ましてや出番は最初へんだ。

…。

まただ。
また、僕は彼女達の辛さに気づいてやれなかった。

いや、気付いてはいたのかもしれない。

だけど止める事はしなかった。

…自分につきっきりだったからだ。

…自分の事ばかり考えていた僕への罰か。

454: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:46:18.24 ID:TB9ZFadlO
「美波、ごめんな」

たまらず美波を抱きしめる。
熱で弱っているからか、普段より筋肉が弛緩して柔らかい。

こんなんじゃ出せるわけがない。

「GACKTさん、私…」

「ごめんな…ごめん」

僕の言葉で察したのか、嗚咽をあげながら泣きじゃくる。

僕の背中に爪が食い込むほどに。

…ごめんな。
ここまで来て、僕は一人を犠牲にしてしまった。

455: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:47:09.60 ID:TB9ZFadlO
「代役…ですか?」

「…でも、今からだと時間が…」

…。

皆が沈黙する。

今まで一緒にやってきた、それもリーダーが参加出来なくなったのだ。

はいそうですかで納得するとは思えない。

けど美波に無理はさせられない。

…仕方ない、か。

ちょっと早いけどさ。

457: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:48:00.83 ID:TB9ZFadlO
「…代役ならいるよ」

「え?」

皆、まさか自分が呼ばれるなんて思ってるんじゃないだろうな。

あはは。

そんなわけないだろ。

「…ここにいるよ」

「…が、ガクちん?」

「誰がお前達の歌を作ったと思ってんだ?」

「…まさか?」

「アーニャ、一緒にイこうか」

「「「………ええええええええ!!!!!?」」」

…うるせぇよ。

458: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:48:55.05 ID:TB9ZFadlO
「が、GACKTさん!それは無理ですって!」

李衣菜が僕の肩を掴み揺らす。

僕の気が狂ったとでも思っているのだろうか。

残念ながら、シラフで正気だ。

「ダンスは悪いけど、アーニャ。僕に合わせてくれるか?」

「あ、…は、はい!」

心配そうに僕を見つめるシンデレラガールズ達。

40超えたおっさんが何言ってるんだって事だろうな。

出来るって言葉で言うなら簡単だけどな。

それでは証明は出来ない。

ならどうするか。

…見せつけてやるだけだ。

「イくよアーニャ。他の皆も準備してくれ」

…一番手は蘭子。

その次に僕達。

アスタリスク達がMCで時間を稼ぐと言っているが、せいぜい10分かそこらが限界だろう。

だけど、それだけあれば十分だ。

なんせ、シンデレラガールズの歌は僕が提供したものだからだな。

この世界の僕じゃない。他の誰でもない、僕のものだからだ。

459: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:49:40.97 ID:TB9ZFadlO
「…」

先輩アイドル達の番が終わる。
それは前半戦が終わった事を知らせるものでもあった。

「…」

僕の隣で目を閉じて心を落ち着かせている蘭子。

両拳をぐっと握りしめ、瞑想している。

「…蘭子、イケるよな?」

「…はい!」

僕の問いかけに対してもどもる事もなく。

彼女の目は、今真っ直ぐ僕を見つめている。

今までこんな事無かったのに。

…強くなったよな、本当。 

460: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:50:27.30 ID:TB9ZFadlO
トップバッター、蘭子の出番が終わった。

曲の終わりで分かるけど、それ以上に観客の湧き上がる歓声でも理解できる。

もうこの子達は先輩アイドルの力などなくても客を集められるという証拠だ。

「GACKTさん!」

もう普通の喋り方になってるな。
いやそれが普通なんだけどさ。

「よく顔張ったね。鼻が高いや」

それを聞いた時、彼女が僕の手を掴み振り回してきた。

よっぽど嬉しかったんだな。

あはは。
離してくれないと行けないんだけど。

461: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:51:16.92 ID:TB9ZFadlO
みくと李衣菜にMCをやらせてかれこれ10分。

その10分が彼女達に出来る精一杯のアシストだ。

自分の番もあるというのに、な。

「…GACKT、さん」

「ん?」

「…あの、私、重く、ない…ですか?」

今僕はアーニャをお姫様抱っこしている状況。

上目遣いでおそるおそる聞いてくるけど。

ここまで来てそっちの心配か。

ダンスに関してはちょっと不慣れだったから、悪いけど僕なりの演出でイカせてもらうとしよう。

重いかどうか?
んー…。

「ちゃんと食べてるか心配になるかな」

「あっ…ゆ、揺らさないで、下さい…」

緊張か。

それなら全く無いよ。

むしろヤル気しか無い。

462: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:52:12.74 ID:TB9ZFadlO
「じゃあ!今回は特別verなんだね!」

「そうにゃ!…みく達の歌を作ってくれて、プロデュースもしてくれて、そんな超人がいるんだにゃ!」

「その人が歌ってくれるの!?」

「ついにそのベールを脱ぐんだにゃ!」

「じゃあ!そろそろイきましょう!…アナスタシアfeaturing…!」

「「GACKT!!!」」

463: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:53:03.88 ID:TB9ZFadlO
…観客達が唖然としているのが分かる。

舞台上に自分がファンとしているアイドルをお姫様抱っこして現れた男がいるんだからな。

「…」

久しぶりに舞台に立つ。
いや、彼等にとっては初めてか。

アーニャを下ろし、マイクに手をかける。

「…えー…今回、特別verとして、このフェスに参加する事になりました、GACKT…です」

『…』

「まずは、この場を借りて、君達に感謝します」

『…』

「彼女達がここまで来れたのは、彼女達自身の力でもありますが、その実君達ファンの応援があったからです」

『…』

「そして、僕にプロデューサーとしての機会を与えてくれた346プロや…僕と共に歩んできたアイドル達」

『…』

「アーニャをはじめとするシンデレラガールズプロジェクトの皆」

『…』

「本当に、ありがとう」

『…』

「これからも、全力でぶつかっていきます」

『…』

464: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:53:57.38 ID:TB9ZFadlO
「…!!!」

隣を見ると、一生懸命拍手しているアーニャが。

舞台袖でも皆が拍手している。

そして、それらは伝染し、観客達も拍手しだした。

『いいぞー!!』

『GACKTさーん!!』

『カッコ良いよー!!!』

…。

良かった。

アーニャがいなかったら。

「…?」

もしもアーニャがいなかったら、泣いてたな。 
465: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:54:42.32 ID:TB9ZFadlO
約4分間。

とても短く感じた。

いや、短過ぎるな。

湧き上がる歓声を聞き、そう感じる。

もっと歌いたいな、と。

アーニャを見ると、今にも飛びついてきそうな雰囲気だ。

良かった良かった。

…美波がいれば、もっと良かったのかな。

でも、後悔なんてしている暇は無いよ。

次が待ってるんだから。



…その時だった。

466: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:55:29.62 ID:TB9ZFadlO
「…雨?」

ポツポツ、いや、ザーッと。

これじゃスコールだ。

聞いてないぞ。
これだから気象予報士はアテにならないんだ。

あー…雷も落ちてき…。

「あ」

ブツん。

そう音がした。

かなり嫌な音だ。

何故ならその音は。

…停電の音だったからだ。

467: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:56:18.38 ID:TB9ZFadlO
「あー…参ったね」

誰だ雨を呼んだ奴は。
あれか、キノ子か。

「フヒ…?」

…まあいいや。

「GACKTさん、どうなっちゃうの?」

みりあが心配そうに聞いてくる。

「中止にはしないよ。させないし」

たかが通り雨だ。
へのツッパリにもならんですよ。

468: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:57:34.19 ID:TB9ZFadlO
「…」

しかし思ったより雨量が多く、客席はドロドロ、野外テントも水浸し。

「ガクちん!私達も頑張るから見ててね!」

最悪のコンディションだけど、気愛は十分。

次はニュージェネレーションズの番だ。

…いや、本来僕とアーニャの次なんだけどさ。

こうなるとは予測してないもんなあ。

469: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:58:24.98 ID:TB9ZFadlO
「…あのさ、未央」

「…?」

「雨、凄かったろ?」

「うん…」

今日は晴れと聞いていた人達ばかり。

傘や合羽なんて持ってるわけがない。

そういった人達は避難所に行ってしまった。

その大半はまだ戻ってきていない。

つまりだ。

客席はがらんどうなんだ。

470: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 21:59:17.46 ID:TB9ZFadlO
「…」

初LIVEの事を思い出しているのか、少し俯く。

そんな未央を、横から助ける者達がいた。

「…でも、やるしかないよね?」

「最高のステージにしましょう!」

凛、卯月。

この半年間お互い切磋琢磨して、共に歩んできた仲間。

…僕の助言は、必要ないな。

「じゃあ、行って恋」

「「「はい!」」」

471: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:00:12.24 ID:TB9ZFadlO
「チョ!」

「コー!」

「「「レート!!!」」」
 
観客は、まばら。

けど、そんな事は関係無い。

やれる事を精一杯やるだけ。

今の彼女達なら分かるだろう。

…良い、笑顔だ。

473: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:10:47.23 ID:TB9ZFadlO
ニュージェネレーションズの次、CANDY ISLANDの三人組。

もうすぐ自分の出番という時に智絵里がボソボソと語りだした。

「私、美波さんが倒れた時、何も出来ませんでした」

「それなら僕もだよ」

「…その、私、本当に気が利かなくて…」

「それが言えるってのは、自分の悪い所を知ってるって事だよな」

「…え?」

「自分の悪い所を言える奴って、良い人間って証拠なんだぜ?」

「…あ…」

それに、智絵里は気が利かないような奴じゃないよ。

今でも、あの美味しかったお茶の味を覚えてるんだからな。

474: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:12:55.03 ID:TB9ZFadlO
「出来る事をやるだけだよね。杏もそれで精一杯だもん」

無気力キャラ丸つぶれだな、それ。

「だってさすがにここでやりたくないとか言えないでしょ。そこまで杏もひどい奴じゃないよ」

「あはは。酷いってのは自覚してるんだな」

「うー…あー言えばこー言う…」

「…じゃ、かな子もイケるか?」

「はい!大丈夫です!」

今日はお菓子食べてないもんな。

それだけ代わりになるものがあったんだろう。

何かって?

言わなくても分かる、だろ? 

475: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:14:47.41 ID:TB9ZFadlO
「GACKTさん!どうかな?決まってる?」

「キマってるキマってる」

何のポーズか知らないけどさ。

莉嘉に教えられたというポーズをLIVEで使いたいらしく、今になって練習している。

子供らしくていいや。あはは。

「ガッくん!私、お姉ちゃん驚かせるくらいやってくるからね!」

頼りにしてるよ、この子も。

…色々、まだまだ未熟だけどな。

476: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:16:50.33 ID:TB9ZFadlO
「ねえガクちゃん」

「ん?」

「きらりはね、ガクちゃんに抱っこしてもらった時、すっごく嬉しかったにぃ」

「…そっか」

「もう、こう…うきゃーってなっちゃったにぃ。…だからね」

「…」

「今日は、きらりがガクちゃんをうきゃーってさせるから、見ててね!」

「…あはは」

うきゃーってのが何なのか分からないけど、驚きの意味だとしたら…出会った瞬間にうきゃーってなってるよ。
 

477: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:17:53.13 ID:TB9ZFadlO
「みくも李衣菜もありがとな」

今回ばかりは感謝しなければならない。

彼女達が場をもたせなかったら正直まずかった。

「ま、日々のプロデュースのお返しってやつですね!」

「それに、ガクちゃんの為だけじゃないにゃ。みんなの為でもあるんだにゃ」

…この子が喫茶店を占拠したとは思えないな。

「それでも、嬉しいよ」

「…あ、あのGACKTさん」

「ん?」

「じゃ、じゃあ、…私にギター教えてください。それでチャラって事で…」

「何調子に乗ってんの?」

「うぇぇ…」

あはは。
うそうそ。

「教えてあげるよ。その代わりかなり厳しくやるけどな」

「は、はい!ありがとうございます!」

じゃ。

…頼んだよ。 

478: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:18:38.59 ID:TB9ZFadlO
アスタリスクがLIVEをしている時、僕の袖を引くものがいた。

それは…。

「…美嘉?」

「ねえ、GACKTさん…ちょっと…」

彼女はそう言って前よりも優しく、それでいて強く僕の手を握って何処かに連れていった。

いや、何となくどこに行くか分かったけどさ。

479: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:20:25.87 ID:TB9ZFadlO
「…」

「お願いします!一曲だけなら何とか出来ますから!」

やはりというかなんというか。
美嘉が連れてきたのは、美波が寝ている救護室。

いや、寝てないな。

起きてる…というか準備してる。

しかしなあ。

…うーん。

「その言い方、嫌だなあ」

「えっ…」

美波の言い方はこうだ。

熱はあるけど、とりあえず出られる。

…それは良くないな。

「妥協してLIVEに出るくらいなら出ない方が良い。それじゃ全力は出せない」

「…」

ここまで準備してたみたいだけどさ。

「…ねえ、GACKTさん」

「ん?」

「…前に、アタシのプロデューサーだった時の事、覚えてる?」

「あ?」

480: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:21:36.50 ID:TB9ZFadlO
ここに来てそうくるか。
ちひろや楓だけじゃないと。

「…こんな感じのLIVEでさ、アタシも美波ちゃんみたいになってて…」

「…」

「その時も、今みたいな事言ってたね」

「…一日でも妥協して良いと思ったらどんどん崩れてくよ」

「うん。…だから、ああ言ったんだよね?」

…何て言ったのかな。

いや、分かるよ。

今なら分かる。

だって僕はGACKTだからな。




「「死ぬ気でやって恋」」

481: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:22:29.78 ID:TB9ZFadlO
美嘉と僕がハモる。
それが嬉しかったのか、僕に強烈なウィンクを投げかけてくる。

あはは。一語一句違ってないだろ?

…この世界の僕も、やはり一流だな。

482: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:29:04.70 ID:TB9ZFadlO
美波はというと、呆気にとられていた。

「美波ちゃん。厳しい事言っちゃってるかもしれないけどね…」

「…いえ、良いんです。私、忘れてました」

「忘れてた?」

「…GACKTさんとの約束です」

約束、か。
そうだな。

「最高にイケてるチームにしろって」

「…僕はもう一つ、約束したつもりだよ」

「…?」

「『キメる』ってな」

「あっ…え、えっと…それは…」

顔を赤くして俯く。
元気が戻ってきたのは本当らしいな。

「…GACKTさん?」

隣でジト目をする美嘉の事は気にしないでおくよ。

483: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:29:55.04 ID:TB9ZFadlO
みくと李衣菜が戻ってきた時、既に美波は衣装に着替えていた。

顔色も大分良い。

他メンバーから心配されていたけれど、これならもう大丈夫だな。

…奇跡ってのも案外あるのかもしれないね。

484: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:31:41.52 ID:TB9ZFadlO
「…ねえ、円陣、組も?」

皆が衣装に着替え、舞台袖でスタンバイしていた時、未央が口を開いた。

円陣か。

さっきの先輩アイドル達を参考にしたのかな。

どうかは分からないけど、美波も皆もヤル気満々みたいだ。

「ほらガクちんも早く早く!」

未央が自分の隣を空けて手招きをしてくる。

あはは。
分かった分かった。

485: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:32:41.17 ID:TB9ZFadlO
「じゃあ、美波。気愛の入ったやつ頼むよ」

「え?…でも、私は…」

「主役は遅れてくるもの、だろ?」

「…」

それに、僕だけじゃない。

蘭子やアーニャ。
シンデレラガールズの皆が僕と同じ事を思ってるよ。

皆の視線を受け止め、やがて美波の顔も引き締まってきた。

さあ、行こうか。


「…ラスト2曲、シンデレラガールズ、最高にイケてるLIVEにしましょう!!!」

「「「おおおおおおお!!!!」」」

…さあ。

僕も準備するとしようか。

でも少しくらい。

…少しくらい、見ててもいいよな。 

486: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:34:07.19 ID:TB9ZFadlO
「…」

一曲目が終わった。

熱はもう気にならないみたい。

むしろ力が湧いてきてる。

GACKTさんが言った通りだった。

…LIVEが終わった後の事は考えなくても良いかな。

私の事を、リーダーにしてくれて。

自信がない私の背中を何度も何度も押してくれて。

「美波…!」

アーニャちゃんが私の手を握る。
手は震えていて、緊張していた事を感じさせる。

私の手も震えている。

だけど怖くない。

アーニャちゃんや、みんながいるから。

仲間がいて、助けてくれるから。

…その時だった。

487: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:35:17.38 ID:TB9ZFadlO
「…え?」

私達の後ろにある電飾が開く。
ゴゴゴゴゴ…と。

…これ、聞いてないよ?

私も、アーニャちゃんも、みんなが困惑する。

勿論観客の方々も。

そして、開いた向こう側から一人。

その人はゆっくりと、それでいて激しく。

挑発的で、妖艶な笑みを浮かべ歩いてきた。

「…嘘…」

ニュージェネレーションズの三人が口に手を当てている。

だけど、何となく私には予想出来た。

この人はただのプロデューサーじゃない。

きっと何か特別な力がある。

前奏を聴くだけで、それも始めて聴いた曲なのに。

こんな心の底から何かが湧き上がってくるなんて。

「…ガクちん!?」
 

488: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:36:24.90 ID:TB9ZFadlO
GACKTさんのパフォーマンスにみんな圧倒されている。

観客の人達なんてGACKTさんを知ってるはずもないのに、両手を上げて声援を送っている。

そして、曲が終わると同時に凄まじい歓声に包まれている。

はじめは混乱していた私達も我に返りGACKTさんの元へ駆け寄った。

「が、GACKTさん!これは…?」

「こんなの聞いてないよ!?」

「あはは。言ってないもん」

「もう…むちゃくちゃだよ…」

「ごめんな。どうしてもやりたくなっちゃって」

やりたくなった。

たったそれだけの理由なのに、ここまでのパフォーマンスが出来てしまうなんて。

…この人は一体…何なの?

489: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:37:29.73 ID:TB9ZFadlO
結構久しぶりにやってみたけど、まだまだ衰えてないな。

凛や未央はまだ混乱してるみたいだ。

今回、今西部長に頼んでこのサプライズを用意してもらった。

受け入れてもらえるかどうかは賭けだったけどね。

…うん。
アイドルってのも案外悪くないな。

「ほら、まだ一曲残ってる、だろ?」

僕の周りで固まるシンデレラガールズ達を所定の位置へと戻す。

ここまで来たらもう後は勢いだけなんだから。

「…も、もう、しょうがないなぁ…後でちゃんと説明してよねガクちん!」

分かった分かった。

「じゃあ、みく頼んだよ」

「ふえぇ!?…わ、分かったにゃ!も、もうヤケクソだからね!」

490: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:38:32.69 ID:TB9ZFadlO
しかしアイドル達と一緒に歌うのか。

初めてだなあ。

…まあ、やってみるか。

「これが最後の曲にゃ!『情熱のイナズマ』!!」
 

491: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:39:46.85 ID:TB9ZFadlO
「…で、私達に用意したサプライズだった、って事…?」

「そうそう」

…ダメ?

「ダメっていうか、びっくりしたよ!いきなり現れて!」

あはは。
まるで僕と凛の出会いみたいだな。

「!…も、もう…そうやっていつも…」

「いつも?」

「何でもない!」

分かりやすくて良いなあ。

「でも、あんな凄いパフォーマンス見たの初めてです!」

「だよね!もう何かまさしくこれぞロック!!って感じでしたよ!」

「だろ?」

凛とは対象的にパフォーマンスを教えてくれとか何とか言ってくる卯月や李衣菜。

…李衣菜は置いといて卯月はこういうキャラじゃなくないか?

他にもきらりや子供達、みくや未央や杏達。

皆それぞれの反応を見せていたけど。

ちょっと分からないのは…。

492: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:40:40.90 ID:TB9ZFadlO
「…」

僕をいつもの垂れ目で見つめてくる美波、それの隣にいるアーニャ。

「どうしたの?」

「…いえ、その…GACKTさんは、本当にプロデューサーだけ…なのかなって…」

「どういう事?」

「…前に、凄い努力をしたから今があるって言ってたのを思い出しまして…」

言ったっけ?

「…その、もしかしたら、GACKTさんは、実は凄い人なんじゃないかって…あ!こ、こんなこと…すいません…」

「…いや、良いよ。むしろ嬉しいからさ」

あはは。
ロックスター冥利に尽きるな。

まあ、ここではアイドルなんだろうけどな。

…いやプロデューサーだよ。

493: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:42:40.28 ID:TB9ZFadlO
「…いやあ、彼は本当に凄いねえ。前よりもさらに輝いてるよ」

「…」

「千川君?入らなくていいのかい?」

「…いえ、ちょっと…トイレに…」

「あ、ああ…」

「…!」

「……千川君…どうしたのかねえ…」

494: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:43:27.59 ID:TB9ZFadlO
「…」

『心の準備は宜しいか!?』

『宜しー!!』

『…イきまぁす!!!』

…。

……。

「……違う」

…。

「あれは……私の知ってる、GACKTさんじゃ、ない…?」

…。

「…考え過ぎ…なのかしら…」

495: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:44:18.40 ID:TB9ZFadlO
「凄かったな加蓮!特に最後のGACKTって人も!」

「本当だよね。とてもじゃないけど、絶対素人の人なんかじゃないよ」

「でもプロデューサーって話みたいだけどな」

「…あ、後知ってる?あの渋谷凛って子、私達と同じ中学だったんだって」

「へー!それ知らなかったなあ…………!!!?」

「な、何?どうしたの奈緒?」

「…あ、あれ…!!」

「あれ?……えっ…?あれ…765プロの、天海…春香?…えっ?」

「で、でも…まさかこんな所にいるわけ…無い…よな?」

「…そ、そうだね!あははは!…まさかね…?」

496: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:45:12.06 ID:TB9ZFadlO
「…」

…。

「…」

…。

『…でも、僕は見てみたい。
心と心が、本当の意味で繋がったアイドル達を…もう一度、来てくれないか。僕と共に』

「…」

『お前の純粋な心が、僕の心を癒してくれた。
ありがとう、春香』

「…」

『…さようなら』

「…」

497: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:47:29.35 ID:TB9ZFadlO
あの時、視界が光に包まれて。

気がついたらそこは2年以上前の765プロ。

そこにはGACKTさんはおらず、また違うプロデューサーさんがいた。

プロデューサーさんは私の為に何度も汗を流し、それに…。

色々あり過ぎて、とても良い思い出だ。

だから、夢かと思ってた。

あれを、夢だと思うようにした。

あの3年間は夢だったと、そう思うようにした。

でも、夢じゃなかった。

どちらも現実で、本当の出来事。

「…GACKTさん。お久し振りです。天海 春香。また会えました…」

私の独り言は、誰に聞かれるでもなく夏の夜空に消えていった。

498: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:48:28.37 ID:TB9ZFadlO
「…あー…終わったねぇ…」

「終わりましたねえ…」

「…そうだね」

LIVEも終わり、スタッフ達が後片付けをしている。

シンデレラガールズ達は舞台に座り込み、夜空を見上げて余韻に浸っている。

色々ドタバタしちゃったけど、ま、悪くないかな。

あはは。凛みたい。

「ねえGACKTさん。さっき持ってきたあのダンボール箱何?」

目が合ったからなのか、凛が先程僕が持ってきた二つの大きめのダンボール箱について聞いてくる。

「ファンレターだよ。お前達の」

「「「…」」」

「何?」

ファンレターという言葉を聞いて皆が僕を見る。

口を開けて。

鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔ってこういうのを言うんだな。

…。

あれ?

「「「…ええええええええ!!?」」」

499: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:49:19.38 ID:TB9ZFadlO
もうちょっと冷静になれないのか。
僕はプロデューサーだぞ。

押し退けるんじゃないよ。

…聞こえてないか。

皆食い入るようにファンレターを読み漁ってる。

…アイドルとしての自分達の立場がようやく分かってきたみたいだね。

未央なんか泣いちゃってるよ。

「ガクちん…私、アイドル続けてて良かった…良かったよお!!」

抱きついてくる未央を引き剥がし、一人舞台の隅でファンレターを一枚一枚じっくりと見つめる凛の元へと歩く。

501: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/12(日) 22:58:46.72 ID:TB9ZFadlO
「そんな嬉しかった?」

「…当たり前だよ。持ってきた時に言ってよね」

「これもサプライズの一つだからさ」

「…忘れてただけでしょ」

「…いや~今日はまあ、ギリギリ合格点かな」

「誤魔化して…でも、ありがと」

「…何が?」

「私達のプロデュースしてくれて」

「プロデューサーだからね」

「…ね、今ならさ…」

「?」

「…ごめん。忘れて…」///

「滅多な事言うもんじゃないよ。本気にするだろ?」

「…な、何勘違いしてるんだか…」///

…さて。

これからどうなるのか。

まだまだトップアイドルへの道は長い。

…親友の元へ帰るのはいつになるのやら。

だけど、ひとまず今は…。

今の僕は…。

「凛」

「何?」

「…おめでとう」

「…ありがと」

この小さな手を、小さな存在を。

「あー!!凛ちゃんとガッくんが手繋いでるー!!!」

「!!?こ、これはち、違うから!!」

守る王子様、だな。

…これからも、宜しくな。 

前編 終

引用元: GACKT「モバマス?」