3: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/22(土) 23:59:51.34 ID:AUSLkh3V0

京都の、山村。
少女は、独りぼっちだった。
つい昨日までは、そんな事は無かった。
今日、昼頃から、夕方にかけて。
彼女は、その村の全ての人を消し去った。
灰の中、たった一人で佇む少女は、雨に打たれていた。

「…おかあさん」

彼女は、まだまだ幼い少女だった。
まだ、六歳だった。
家族を喪うには、あまりにも早い。
昨日までの楽しい日々が、これからもずっと続いていくと、そう思っていた。
彼女を取り巻く状況は、どこまでも暖かかった。
それは正に、平穏、或いは安穏。幸福と呼ばれて然るべき時間だった。

「…おとうさん」

彼女の髪は、黒くて長かった。
日本美人、或いは大和撫子とそのまま美人画に出てきそうな。
母親も、彼女と同じように長くて黒い、真っ直ぐな髪の持ち主だった。

彼女の瞳は、ほんのりと紫がかった黒だった。
涼やかな顔立ちは、村一番の美男子と讃えられた事もある、父親に似ていた。

彼女を大切に愛した両親は、優しくて、いつも笑顔が絶えなかった。
彼女が好き嫌いをすれば、それはよくないよ、お野菜にも命があるんだから、と言った。

「…おばさん、…おにいさん…」

彼女は、村に住んでいる身の回りの人々が大好きだった。
いつも自分に優しく、または甘く接してくれた人が多くて。
お隣のXX君は少し意地悪だったけれど、それはそれで悪くなかった。

少女―――姫神秋沙の周囲に散らばる、灰。
それらは、彼女の血液を呑み、死を選んだ人々の遺体だった。

「………おねえさん、……」

隣人も家族も、全員が全員。
彼女の体質に吸い寄せられ、謝罪をしながら血液を呑み込んでは、灰となった。

「…どうして」

降りしきる雨は、灰を何処かへ流していってしまう。
最早、それをかき集めるだけの力は、彼女に残されていなかった。
膝をついた彼女に、近寄る影があった。
彼等は、『ローマ正教十三騎士団』と呼ばれていた。

「…おい」

声をかけられ、のろのろと、彼女は顔を上げる。
手を差し伸べられた。あまり嬉しいと思えないまま、彼女は導かれる。

5: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 00:00:54.53 ID:BjlSUHrT0

彼女が連れていかれた先は、教会だった。
正確には、限りなく教会を模した住居…と思われる場所。
幼く、バチカンという場所に詳しい筈も無い彼女には、判別がつくはずもない。
彼女を送り届けるなり、騎士団は姿を消してしまい。
よくわからないまま、ひとまず疲れを感じた幼い彼女は、席に座る。
その目は真っ赤に泣きはらしていて、愛らしい顔立ちを台無しにしていた。

「…ひくっ…」

一人になってしまった。
両親はおろか、知り合いは誰一人居ない。
そして、ここが何処なのか、見当もつかない。

「…おうち。……ないんだった…」

帰りたい、と思っても。
既にその場所が存在しないのだから、帰れる筈もない。
またしても泣きそうになる彼女は、俯く。
ふと、ドアの開く、軋んだ音が聞こえた。
聴覚に従って、音の方向へ目をやれば、そこには一人の少年が立っていた。
白色人種だろう、とても色が白い。色白な姫神とはまた別種で、白かった。
神父服だろうか、詳しく無い姫神には、見分けがつかない。

「…泣いているのか」

近づいてきた少年の髪は、赤かった。
ちょうど、姫神より十歳程年上だろうか。
トパーズにも似た、金色の綺麗な瞳を、長い睫毛が縁どっている。
綺麗な顔だなぁ、と姫神はぼんやりと思った。
彼は日本語が使えるらしく、そう独り言のように問いかけた後、彼女の頭を優しく撫でる。

「…名前は?」
「…あいさ…」
「…アイサか」
「…ひめがみ。あいさ…」
「…姫神がコンニョーメ…、…苗字か」
「…うん」

巫女服を纏っている彼女は、教会に似たこの場所に似つかわしくない。
けれど、彼はそれに眉を顰める事なく、話しかける。

「…あなたの。なまえは…?」
「…俺様か? …俺様は…」

名を名乗る事に慣れていないのだろうか。
彼は視線を不安定に彷徨わせ、迷っている。

7: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 00:01:14.26 ID:BjlSUHrT0

「…じこしょうかい。にがてだったら。いい」
「…苦手という訳でもないのだが」

彼はひょいと彼女の身体を抱き上げる。
細い腕に対し、その力は想像以上に強かった。

「…わ」
「…アイサ、だったな」
「…そう。あいさ、わたしの…なまえ」
「お前には今、二つの道がある」
「ふたつ?」

首を傾げる彼女へ、彼は告げる。
選択肢は、きわめてシンプルだった。

9: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 00:02:18.09 ID:BjlSUHrT0
《連投・連続取得は良識の範囲内でご自由に。どうしても捌けない内容のみ適宜安価下採用とします》



フィアンマ「…まず一つ。ローマ正教管轄の修道院で生活する」

姫神「…しゅう?」

フィアンマ「教会だよ、教会」

幼い姫神にもわかるように噛み砕いて説明する。

一つ目は、教会で暮らす。
身寄りをなくした彼女には、育ててくれる相手が必要だ。

二つ目は、フィアンマと暮らす。
理由は前述の通り。

前者にも後者にもメリットとデメリットがある。

前者のメリットは、寂しい思いをしないこと。
前者のデメリットは、集団生活に慣れるまで辛いことや、修道服で過ごすよう義務付けられること。

後者のメリットは、好きな服装で過ごしていいこと。
後者のデメリットは、フィアンマが外出中、一人になる時があるかもしれないということ。

姫神「……」

フィアンマ「…難しいか」

姫神「…おれさまさんは」

フィアンマ「ん?」

姫神「どっちがいいと。おもう?」

フィアンマ「…どっちともつかんな。俺様としては、どちらでも構わん訳だし」

姫神「>>11」

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 00:11:56.85 ID:5mFOhPUQo
あなたと暮らす。

13: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 00:23:12.35 ID:BjlSUHrT0

姫神「あなたとくらす」

フィアンマ「…良いのか?」

姫神「…なんにしても。…もう。…おかあさんも。おとうさんも…だれも。いないから。かわらない」

六歳の少女が口にするには。
あまりにも残酷な現実で、そして、それは真実以外の何物でもなかった。
そのことが悲しくて、しかし微笑んで安心させてやることも出来ないままに。
そうか、と簡素に相槌を打って、フィアンマは彼女を抱き上げたまま、優しく髪を撫でる。
つやつやとした黒髪は、彼の指によく馴染んだ。
こそばゆそうに目を細める姫神は、警戒心があまりないというのもあり、ふにゃんと笑む。

フィアンマ「…疲れただろう。寝ていても構わんぞ」

姫神「…でも」

フィアンマ「…頼りなく見えるか。すまないな」

筋骨隆々だったら、それはそれで怯えられそうな気がするものの。
幼い子供に重くないのかと心配され、彼は苦笑いを零した。

姫神「…おうち。…ひろい?」

フィアンマ「…まぁまぁ、といったところか。俺様には調度良い広さだが、果たしてお前にとってもそうかはわからん」

姫神「…おれさまさんは。むずかしい。はなしかたをする」

フィアンマ「…書物相手の方が、人と話すよりも親しみがあってな。だから、少々わかりづらいかもしれん」

『おれさまさん』という呼称は嫌いではないのか、少年はてくてくと歩いていく。
兄妹と呼ぶには見目があまりにも似てはいなかったが、街の人々はそんなに目をくれることも無い。




教会から出て。
少年は、親しみのある自宅へと入った。
アパートメントの一室は、少年にとっては少々広いものだ。
彼は眠っている姫神を起こさないようにベッドへ寝かせると、毛布をかける。
それから、机に向かうと、やるべき諸連絡を行った。


二時間ほど眠って、姫神は目を覚ます。
暖かな室内できょろきょろと辺りを見回す彼女の視界には、一人の少年。
神父服から着替えたのだろう、白いワイシャツを纏い灰色のスラックスを穿いている。

フィアンマ「ん…何だ、目が覚めたのか。…空腹か?」

姫神「……」

フィアンマ「何か食べたい物があれば…」

欠伸を噛み殺し、彼は一度伸びをする。
一人称や口調は尊大で、印象は薄くは無いのに、危うい雰囲気が感じられた。

フィアンマ「…ん。好きに言え。…作れるものであれば用意するし、そうでなければ適当に買う」

姫神「…>>15」

15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 00:30:47.62 ID:5mFOhPUQo
さんま

16: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 00:39:11.95 ID:BjlSUHrT0

姫神「…さんま」

フィアンマ「…サンマ?」

姫神「…ながくて。しゅっと。している…さかな」

フィアンマ「……」

和食に慣れ親しんで生きてきた姫神には、そもそも洋食名の知識が無かったりする。
謎魚『SANMA』とは市場で手に入るものなのだろうか、とフィアンマは首を傾げた。
しばらく考えた後、彼はこういった"無理難題"に燃え盛る情熱を持つ人間に、依頼する事にした。
リクエストを求めた以上、少女の願いを断ってまで自分の楽を追究するつもりは無い。
彼はシビアであると同時に、ストイックだ。妥協をしない性格をしている。

フィアンマ「…少しだけ時間がかかるが、良いか?」

姫神「だいじょうぶ」

良い子だ、と言った後、彼は机に向かった。
本を開き、電話帳から電話番号を捜すかのように捲っている。
或いは、勝手にめくられているのか。

フィアンマ「リドヴィア。どうしても困った問題が起きた」

リドヴィア『貴方様が困るとは、一体全体どのような用件なので?』

フィアンマ「サンマ、という魚を探さねばならんのだが、イタリアでは用意出来そうにない。困っている」

リドヴィア『!! お任せください』

機嫌が俄然良くなったリドヴィアに一切合切任せてしまい。
後は献上を待つだけとなったフィアンマは、姫神を見やる。

フィアンマ「魚だけではバランスが悪い。買い物に行こう」

姫神「かいもの」

こくん、と頷いた姫神を抱き上げ、フィアンマは外へ出る。
とりあえずは、『SANMA』を食べる為に必要な努力をせねばなるまい。






二人は、大型スーパーへとやって来た。
米を炊くのは流石に非効率であった為、米粉パンを購入して。
ふと、フィアンマは思い出したように問いかける。
やって来たのは色とりどりのお菓子が並ぶ菓子コーナーだ。

フィアンマ「何か食べたいものはあるか? この棚の中から。…とはいっても、見慣れないものが大概だと思うがね」

姫神「>>18」

18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 00:45:41.61 ID:FrPTLf2SO
じゃあ。貴方も好きな物を。一緒に食べたい。

19: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 00:58:55.49 ID:BjlSUHrT0
 
姫神「じゃあ。あなたもすきなものを。いっしょにたべたい」

フィアンマ「…俺様の趣味で良いのか」

姫神「あんまり。くわしくないから。あなたに。まかせる」

フィアンマ「…そうか」

お菓子コーナーを眺め、フィアンマはしばし悩む。
普段であればコーヒー味や、べたべたに甘いお菓子を買う。
前者は苦いし、後者は紅茶を呑む習慣の無い姫神には甘すぎる。

姫神「?」

フィアンマ「…何か苦手な食べ物はあるか?」

姫神「…あんまりない」

フィアンマ「…あんまり、というのも…」

散々悩み、彼はクリームの挟まれたクッキーパイのようなものをカゴに入れた。
程よく甘い人気菓子で、フィアンマはミントの味がするものが最も好きなのだが、ここは我慢していちご味。
フィアンマにとって調度良い刺激というのは、六歳児にとって酷なものだろう。


帰りに死にそうな顔をして帰ってきたリドヴィアからサンマを受け取り。
慎重に炙り焼きをしながら、フィアンマは姫神と共に椅子に座り、お菓子を食べていた。
食事前に菓子を食べるのは褒められた事ではないものの、フィアンマもまだ十代の少年であり。
ストイックとはいえ、昼食を抜いていた状態で、夕飯前に菓子を食べる事は我慢出来なかった。

姫神「…」

もむもむ、と小さな頬を膨らませ。
気に入った様子で、彼女は頬張っていく。
フィアンマは時々思い出したようにサンマをひっくり返して丁寧に焼きながら、菓子を適当に口へ放り込む。

姫神「おれさまさんは。…かぞく。いないの?」

フィアンマは、孤児である。
姫神と違い、産まれた時から、親の顔を知らない。

フィアンマ「>>21」

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 01:19:38.92 ID:7U9Cn0Yyo
さあ?どうだと思う?

22: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 01:32:54.11 ID:BjlSUHrT0

フィアンマ「さあ? どうだと思う?」

敢えて聞き返す事で、質問には答えない。
大人らしい、ずるいやり方だった。
対して、策略も何も無く質問していた姫神は、うんうんと真面目に考える。

姫神「……」

フィアンマ「…」

姫神「かぞくがいたら。きっと。いっしょにすんでる。だから、…いない」

フィアンマ「…そうか」

姫神「…あってる?」

フィアンマ「合っているよ」

焼きあがった未知の魚『SANMA』はまるごと食べるものなのか、と首を傾げながら、フィアンマは素っ気なく答える。
ある程度年齢がいった者であれば、こういった質問はしないし、彼の拒絶の態度にも気がついただろう。
だが、六歳で、何も知らない姫神は、恐れない。

姫神「じゃあ。きょうからは。わたしが。おれさまさんのかぞく」

フィアンマ「……、」

姫神「おそろい」

邪気無く、ちょっとだけ寂しそうに、姫神は微笑む。
フィアンマは目を瞬いた後、少し困って、頷いた。

フィアンマ「…そうだな。家族の定義には当てはまる」

姫神「わたしにも。おれさまさんにも。かぞくはいないけど。あたらしくかぞくになったから。もうさみしくない」

フィアンマ「……さて、食事にするか」

応答しなかったのは、羞恥心からか。
彼はそう纏め上げて話題を撤収してしまうと、配膳を開始した。
購入してきた割り箸を半分に割って作った子供用箸を使って、姫神は器用にサンマを解体していく。
フィアンマはしばらく格闘しようか迷った結果、ナイフを使ってサンマを解体した。

フィアンマ(…ひとまず、明日からはパスタにしよう)

自己都合でそう決定してしまいながら、彼は食事を始める事にした。



余談だが、買い物のついでに、姫神の衣類一式を購入してきた。
他にも歯ブラシ等も購入して、配置したので、後は入浴して歯磨きをして眠るだけ。

フィアンマ「アイサは何歳だったか」

姫神「ろくさい」

フィアンマ「六歳か。風呂は一人で入れるな?」

姫神「>>24」

24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 01:42:50.29 ID:jvJWTxhro
…………(コクリ)

25: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 01:58:00.40 ID:qB0kXNxJ0
《今日はここまで。お疲れ様でした》




姫神「…………」

無言のままに、彼女はこくりと頷いた。
親離れはほとんど出来ていなかったものの、入浴だけは何とか出来るレベルのものだった。
姫神の返答に安堵したらしいフィアンマは丁寧に畳んであるタオル等を手渡し、彼女をバスルームまで見送った。
そもそも彼は、あまり人の世話をすることに慣れていない。
一時期猫を飼っていた時期はあったものの、それでさえ猫が『飯をくれ』『かまってくれ』と素直なタイプだったからこそうまくいったのだ。
一度何かに没頭すると、つい何かを忘れがちになるフィアンマは、子育てに向いていないのかもしれない。

フィアンマ「……」

自己責任とはいえ、やはり拾い物などすべきではなかっただろうか、と彼は思う。
別に、彼は幼女趣味という訳でもなければ、お人好しという訳でもない。
ただ、一瞬の同情と、有用さにつられてしまっただけだ。
原石―――『吸血殺し』は、非常に興味深い。そしてその力は、彼の知識欲や興味心を刺激した。

フィアンマ「…いかんな」

知識欲や好奇心につられてしまう傾向を自ら咎め。
似合わない真似をしている、と思う。

『じゃあ。きょうからは。わたしが。おれさまさんのかぞく』

フィアンマ「……純粋だな」

子供は純粋故に、騙しやすい。
自分にほほ笑みかけてくれる人は全員味方で、自分をたしなめる人は全員敵だと捉える節さえある。
そう嘲られる程に彼も大人ではないのだが、それでも、ぼんやりと思った。


一時間後。
姫神は、ややのぼせ気味な様子でバスルームから出てきた。
途中、何度か驚いた声が聞こえていたが、それはシャワーに対してのものだったらしい。
ぽた、と水の滴る髪を一生懸命タオルで拭きながら、姫神は近寄ってくる。
フィアンマは読んでいた本を閉じると、彼女の髪を拭いてやった後、自分も入浴へ向かった。

三十分程して。
フィアンマが部屋に戻って来ると、姫神はベッドで眠っていた。
昼寝をして尚、疲れていたらしい。無理もない。本来であれば、心を病んでいても仕方無いのだ。

フィアンマ「……、」

そっと毛布を持ち上げ、彼女の身体を包む。
姫神はもこもことした毛布に包まれ、表情をほんわかと和ませた。

姫神「……ん…」

フィアンマ「……」

彼は彼女の枕元の空いたスペースへ腰掛け、黒い髪を撫でる。
彼の指先は、まるでヘアアイロンのように彼女の髪を乾かしていった。これで、風邪を引く心配は無いだろう。

彼の見ている前で、少女はむにゃむにゃと寝言を漏らす。

姫神「……>>27…」

27: 2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 02:18:08.82 ID:r1I8FQZ+0
おかあさん…

29: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 12:47:05.99 ID:Fz7p/qS60

姫神「……おかあさん……」

母親と、何かをしている楽しい夢を見ているのだろうか。
表情は和やかなままに、彼女は数度『おかあさん』と言う。
フィアンマは、彼女に母親を与えてあげる事は出来ない。
彼が右手の奇跡を用いた術式で蘇らせられるのは、死後四日までの、保存状態が良好な死体だけ。
彼女の血液を呑んで灰となってしまった彼女の身近な人々を蘇らせる事は、出来ない。

フィアンマ「……」

せっかくの奇跡の力を持っていても。
所詮、不完全であるが故に、万能ではない。
だから、彼の善行にはあまり意味が無い、と彼自身は考える。

フィアンマ「…持たぬよりも、…喪う方が苦痛は大きい、か」

母親どころか、親などどうでも良いと考えている自分には、理解の出来ない感情。
それでも、傷ついている姫神を慮る位は出来た。
どうすれば傷を癒せるだろうか、と考えながら、彼も少しだけ、眠る事にした。



目が覚めた。昼過ぎだった。
まだ昨日来たばかりで見慣れない室内をきょろりと見回し。
姫神はふと、テーブル上に置かれた一人分の食事に気がついた。
一度も見た事ないピザだったが、添えられていたメモの内容を読んで、食べる。

姫神(…このきいろい。のびるやつは。おいしい)

チーズに対してそう判断を下していると、ドアが開いた。
本来の家主であるフィアンマだった。昨日と似たような私服姿だったが、白いワイシャツは僅かに血液で汚れている。
赤黒い血液の痕跡にびくつく姫神へフォローする事も忘れて、フィアンマは落胆した様子を見せた。
外で何かあったのかもしれない、と少女はうっすらと思う。

姫神「…、」

フィアンマ「…おはよう。所用で少し外に出ていてな。やはり、人助けなどするものじゃないな」

姫神「…なにか。あったの?」

フィアンマ「…聞きたいのか? つまらん失敗談だぞ?」

そうして初めて気がついたかのように、彼は服を着替える。
頬に付着した血液を指で拭い、手を洗う。

姫神「>>31」

31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 13:05:54.49 ID:5mFOhPUQo
まずはお風呂入ってきて

32: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 14:56:38.61 ID:HpTkNoPU0

姫神「まずは。おふろはいってきて」

フィアンマ「…少しだけ作業をしたら、入る」

言いながら彼は机の上の物の内、ノートと思われるものに何かを描き足す。
それで彼が言うところの『作業』とやらは完遂されたのか、入浴の準備を済ませ、フィアンマはバスルームへと消えた。
残された姫神は皿をシンクに片付け、興味心からノートの中身をちらりと見る。
しかし、そこに綴られているのはイタリア語やヘブライ語ばかり。
日本語しか知らない、まして日本語でさえ初等教育を受けていない彼女には、内容はわからなかった。
彼の職業を思えば、むしろ読めない方が幸せである可能性が高いので、それはそれでよかったのかもしれない。

一時間経ったが、上がってこない。
姫神が心配しているのは、彼の怪我だった。
彼女の中で、フィアンマはとても優しい人物となっている。
故に、殺人をしただとか、誰かに乱暴を働いただとか、そういうイメージとは直結しない。
そして、その考え方は正しかった。彼はただ、人助けをしたいだけだったのだ。
ちょっと買い物に出かけた先、倒れた人が居た。
その場に居る誰もがそちらを見つつも、何となく手が出しにくくて手助けしなかった中。
放っておく罪悪感に耐え切れず、フィアンマは手を差し伸べた。
倒れた相手である老婦人は何らかの病気を患っていたらしく、吐血しながら彼に助けを求めた。
魔術でどうにかしようにも、症状を正確に把握しなければ対応出来る筈もなく。
救急車は呼んだものの、なかなか来る事は無かった。道が混んでいたのかもしれない。
服や顔を血で汚しながらも、彼は老婦人の意識を絶たせまいと、救おうと話しかけ続けた。
その身に宿す彼の幸運は、いつも裏目に出る。

『あなた、私の孫に似ているの。…迷惑をかけてごめんなさいね、…ありがとう』

孫に看取られているかのようだ、とうっすら笑って、彼女は死んだ。
蘇生させようとした寸前に、救急車が来て、連れて行かれてしまった。

フィアンマ「……」

誰かに手を伸ばすと、ロクな事にならない。
そうは思っていても、まだ、彼には原動力があった。

フィアンマ「…救えなかった」

助けられなかった。救えなかった。無駄だった。頑張っても、結果が出ない。

一時間半程経過して、彼は部屋に戻って来た。
空元気を発揮しているその表情は、そこそこに明るい。

フィアンマ「適当に用意したが、ピザは気に入ったか?」

姫神「>>34」

34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 15:18:58.88 ID:FrPTLf2SO
とても。ただ。伸びて髪に絡まった。

35: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 15:27:35.41 ID:HpTkNoPU0

姫神「とても。ただ。のびてかみにからまった」

フィアンマ「…お前の髪は結んでおいた方が良いかもしれんな」

どういう食べ方をしたら絡まるのか、と思うフィアンマだったが。
姫神の長い美しい黒髪や、まだまだ小さな手を見やり、納得する。
彼はがさごそと戸棚を漁った後、赤いリボンを何本か手にし、戻って来た。
霊装でもあるそれは、単独で防護術式を構成出来る代物だ。
その他に持ってきたのは、数本の無地の黒い髪ゴム。

フィアンマ「こちらへ来い」

姫神「?」

首を傾げ、てくてくと近寄った姫神に対し、フィアンマはソファーへと腰掛けてヘアブラシを手にする。
どうやら髪を結んでくれるらしい、と判断した彼女は、彼の脚の間に、背中を向けて座った。
彼女の髪はつやつやとしていて、まっすぐだ。
結ぶには少々難儀するかもしれないが、長さはそうそうたるもので、どんな髪型でも実現出来るだろう。

姫神「じつをいうと」

フィアンマ「ん?」

姫神「わたし。あんまり。かみをむすんでもらったことがない」

フィアンマ「不便ではないのか」

姫神「あまり。そとにでるたいぷではなかったから」

フィアンマ「なるほど」

丁寧に、引っかからないよう慎重に姫神の髪をヘアブラシでとかし。
さてどのような髪型にしようか、とフィアンマは考える。
彼自身の髪も肩を過ぎる程に長いので、結ぶ事には慣れている。







姫神の髪型をどのようにする?(例:ポニーテール、サイドテール、三つ編み等)>>+2

37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 16:50:02.90 ID:FrPTLf2SO
お団子みたいなやつ

41: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 21:22:02.10 ID:H1C6D5h50

彼は手を伸ばし、姫神の髪をたぐり寄せる。
ふと思い立ったように魔術を活用すると僅かに彼女の髪を濡らす。
唾液がつかないよう注意しながら髪ゴムを口にくわえ、彼女の髪をまとめあげていく。
ドキドキとしながらも、姫神は大人しくした。過去、母親に動かれると結びにくいと言われたからである。
ヘアブラシを活用し、うなじの方の毛もしっかりと纏め、ゴムで結ぶ。
痛くない程度に調整しながらキツく結び、ぐるぐると巻いて何度かゴムで結ぶ。
思い出したように赤いリボンを彼女の前髪に緩く巻きつけるように結べば、出来上がり。
所謂お団子ヘアーではあったが、単純なそれではないため、夜会にでもしていけそうな美しい髪型だった。
ドレスを着ていれば服ともつれあいがとれたのかもしれないが、生憎、姫神は巫女服姿である。
眉の上程度の前髪をブラシで整え直し、後ろ髪と長さの違う腹部までの長さの前髪両方に結んであるリボンを眺め、フィアンマは疲れたように息を吐きだした。
リボンの色が赤だからか、前から見れば巫女服にも合い、後ろから見れば夜会の令嬢の様に美しい後ろ姿となる。
髪型一つでも、女性の印象とは変わるものだ。それは子供でも例外無く。
元々目鼻立ちが整っていたということもあり、今の姫神はどんな服を着ても似合う美少女だった。
やる事は済んだ、とばかりにフィアンマはヘアブラシや、余った髪ゴムを片付ける。

姫神「…おわり?」

フィアンマ「ああ」

姫神「ありがとう」

フィアンマ「ん」

姫神「…わたしも」

フィアンマ「…何だ?」

姫神「わたしも。むすんであげる」

フィアンマ「…俺様は別に、」

姫神「むすんで。あげる」

仕方なく折れる形で、せっかくしまった髪ゴムを取り出す。
渡されたゴムを手に、姫神はフィアンマへ向き直ると、丁寧に彼の髪をとかした。
その上で、器用に一本に結んでいく。
ちょうど、体勢としては、姫神がフィアンマの首へネックレスをかけてあげるかのような体勢だ。
前髪はそのままに、一本に結ぶ。肩過ぎまで長い赤い髪を持つ彼は、そうするだけで更に涼しげに思えた。

姫神「できた」

フィアンマ「そうか」

礼を言うかわりに、ぽんぽんと姫神の髪を撫で。
そんな彼に、ヘアブラシを再度片付けてもらいながら、姫神はもごもごと問いかける。

姫神「…わたし。かわいい?」

フィアンマ(…何歳でも女は女か)

思いながら、フィアンマはもういらなくなったものをきちんと片付けた。

フィアンア「>>43」

43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 21:50:00.01 ID:nbKw88zj0
ああ、とても可愛いぞ、惚れてしまいそうだ

44: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 22:04:03.43 ID:H1C6D5h50

フィアンマ「ああ、とても可愛いぞ。惚れてしまいそうだ」

彼が返した軽口に、姫神は過剰反応する。
無理も無い事だ。何せ、彼女はまだ六歳。
ましてや、日本人に囲まれた生活では、キザな台詞に慣れる筈も無い。

姫神「…ほれ」

フィアンマ「俺様は聖職者なのだが、やめてしまいたくなる」

姫神「……」

かあっ、と顔を赤くして、姫神は黙り込む。
前髪では隠せない赤面が、フィアンマの前に晒された。
そこまで照れるような台詞でもないだろうに、とは思ったものの。
彼女の反応が何だか楽しくて、フィアンマはもう少しばかりからかってみることにした。

フィアンマ「そのまま外に出たら、全ての男がお前を見たくて振り返るだろうな」

姫神「……、」

お世辞や揶揄という発想すらないまま、姫神は真に受けてしまう。
年頃の、またはある程度ませた女の子なら、彼の表情は遊興のみという事に気がついただろう。
姫神はきゅっと袴の布地を握り、そろそろとフィアンマを見上げる。

姫神「じゃあ」

フィアンマ「?」

フィアンマと向かい合い、彼の脚の間に座ったまま。
ぺたんと、所謂乙女座りに直して、彼女は言う。

姫神「いいなずけに。して」

フィアンマ「…フィアンセか…」

ばくばくと高鳴る心臓を認識しながら、姫神はそう告げた。
六歳の女の子から、十六歳の男へ、プロポーズ。
当然、フィアンマは真面目には受け取らなかった。

フィアンマ「>>46」

46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 22:25:18.70 ID:FrPTLf2SO
ああ、いいとも。お前が16になったら結婚しよう

47: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 22:37:58.32 ID:H1C6D5h50

フィアンマ「ああ、いいとも。お前が16になったら結婚しよう」

姫神「じゅうろく。…じゅうねんご」

フィアンマ「だから、それまで病気にかかったりして死ぬなよ」

余計な台詞こそが、彼の本心だった。
身近に置いた以上、姫神には生きていて欲しい、と。
姫神は気づかずに、結婚という単語に夢を膨らませる。
フィアンマは知らない事だが、この年頃の女の子というのは花嫁に憧れる。
何故交際をすっ飛ばして結婚という概念にあこがれを抱いてしまうのだ。
本来それは姫神と歳の近い男の子と話題にすべきであり、自然と忘れ去られていくもの。
その代わりを務めたフィアンマは、ままごと遊びをしているような気分になった。

フィアンマ「そもそも、女は十六にならねば結婚出来んしな」

姫神「しらなかった」

フィアンマ「これから学べば良い。…語学の勉強でもするか」

彼は立ち上がり、姫神はソファーへ座らせたままに、参考書などを持ってくる。
イタリア語の勉強をしておかねば、この先姫神が生きていくには辛いだろう。
小学校に入れるのが一番なのかもしれないが、何となく、フィアンマはそれを好まなかった。

姫神「べんきょう。むずかしい?」

フィアンマ「コツさえ掴めば簡単だと思うがね。イタリア語と英語、どちらが良い?」

どちらも、学べばよく使う言語だ。
また、幅広く使う事が出来る。沢山の人と話が出来る。

姫神「>>49」

48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 22:42:07.18 ID:5mFOhPUQo
両方、どうせならもっと学びたい

50: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 23:04:54.94 ID:H1C6D5h50

姫神「りょうほう。どうせならもっとまなびたい」

フィアンマ「そうか。なら、いくつか学んでみるか」

世界には数え切れない程の言語がある。
フィアンマは魔術に関する書物を読む為に無理やり詰め込んで学んだが、姫神はそんなに急ピッチで覚える必要は無い。
なので、有り余る時間の有効活用として、まずはイタリア語から学ぶ事にしたのだった。



数時間後。
『吸血殺し』の副次的効果による『流れを読む』特技が、言語を学ぶにあたって発揮されたのか。
はたまた、そもそも地頭の悪く無い彼女のやる気と努力が身を結んだのか。
イタリア語の基礎や応用、会話までもを学ぶ事に成功した。
代わりとして、彼女はぐったりと疲れきってしまったが。
この覚え様では一ヶ月後には三十ヵ国分を覚えるのでは、と思いつつ。
そこまで無理をさせるつもりもない、と考えながら、フィアンマは彼女の背中をさすった。
ぐだ、と上体をテーブルに預け、脳内糖分は全部使い切ってしまいました、といった様子の彼女に、フィアンマは提案する。

フィアンマ「今日は寒くない。だから、ジェラートを食べる」

姫神「じぇらーと。…あまい。あいす」

フィアンマ「そうだ」

人に教える事で再発見があったのか、知識欲を程よくくすぐられた彼の機嫌はすこぶる良い。
そんな訳で、彼にひょいと抱き上げられるまま、彼女は近所のジェラート店に連行されたのだった。


ケースの中には、色とりどりのジェラート。
カラフルながらも、それらの色は果物由来のものが多く、美味しそうだ。
だが、どれもこれも食べる訳にはいかない。姫神は大食いでない自分をちょっぴり恨んだ。

姫神「なんだか。どれもこれもおいしそう」

フィアンマ「どれでも好きなものを…そうだな。二種類選べ」

姫神「…>>52」

52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 23:07:19.73 ID:FrPTLf2SO
マーブルタイプ、ソーダとバニラで

53: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 23:19:03.84 ID:H1C6D5h50

姫神「まーぶるたいぷ。そーだとばにらで」

フィアンマ「そうか」

相槌を打って、彼はついでに自分の分も注文し、よそってもらうまでの間に支払いを済ませる。
見慣れない硬貨に興味を示す姫神へ説明するフィアンマは、好青年然としていた。

姫神「そういえば。おれさまさんは。なににしたの」

フィアンマ「苺とチョコレートだが」

二人掛けの席へ向かい合って座り。
姫神は小さな両手で入れ物を持ち、ジェラートを食べ進める。
ソーダとバニラが程よく口の中で溶け合い、舌を楽しませる。
アイスクリームよりも水気が少なく、味が濃い為、ちょっと舌が肥えた姫神である。
まったく系統の違う味に興味が湧いたらしい彼女の口へ、フィアンマは二口運ぶ。
一口目は苺、二口目はチョコレート。

姫神「いちごは。すっぱい」

フィアンマ「…子供の味覚は甘味が優先されるのだったか」

甘酸っぱい味は、彼女の中で酸っぱいと判断されたらしい。
ちょっぴり残念な顔をした彼女は、二口目のチョコレートの甘ったるさに表情を和ませた。
ちょっと舌が肥えたといっても、やはり幼い子供は幼い子供。
繊細な味よりは、大味と呼ばれる甘ったるい、わかりやすい味の方が好みなのだろう。


二人は家に帰ってきた。
今日の晩御飯はトマトソースパスタである。
アラビアータにしかけ、途中でどうにか方向転換した結果、アマトリチャーナソースへ。
少し甘めの味付けにしたそれは、姫神の口に合ったらしく、表情は和やかだ。

姫神「…このふしぎなぼうは」

フィアンマ「ソーセージだが」

姫神「この。しょっぱいぺらぺらしたものは」

フィアンマ「ベーコンだ」

姫神「…」

洋食というものに縁が無かった彼女にとって、パスタの具一つ一つが物珍しいらしい。
人参や玉ねぎなどは親しみがあるのかスルーしていたが、ベーコンなどには何度か質問してくる。
フィアンマにとってそれらの言動は鬱陶しいと思わなくもないが、同時に、悪く無い平穏だとも思えるものだ。

フィアンマ「…そういえば、お前は算数などは出来るのか」

幼稚園などに通っているか、親が教えていれば出来るもの。
何の期待もせず、特に意味もなく、参考程度に、フィアンマは問いかけた。

姫神「>>55」

55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 23:21:31.87 ID:5mFOhPUQo
数3cまで対応済み

57: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 23:36:08.58 ID:H1C6D5h50

姫神「すうさんしーまでたいおうずみ」

元々、彼
女は勤勉な性格をしている。
なので、家にある父母の教科書などを絵本代わりに読んでいた。
また、往来の『流れを読む』特技も、反映された。
算数どころか数学の域まで学んでいる事に驚きつつ、フィアンマは淡々と相槌を打った。
そこまで学んでいるのなら、わざわざ自分が学ばせる必要性も特に無いだろう。
かえって、言語の勉強に集中出来るというものだ。

フィアンマ「…優秀だな」

頭の良い女は苦労する。
そうは思いながらも口には出さず、フィアンマはのんびりと褒める。
姫神は僅かにはにかむと、パスタを頬張る。
少しだけさみしげで、傷を舐めあうような、暖かい食卓だった。




翌日。
姫神は、風邪を引いた。
雨に打たれていたのが今更になって影響を及ぼしたのかは、わからない。

姫神「う…」

ぐったりとする彼女の額に冷やした濡れタオルを畳んで置き。
フィアンマは外に出かける事はせず、彼女の看病をしていた。

姫神「けほ。…おとうさん…おかあ。さん…」

フィアンマ「……」

彼女が本当に求めているのは、自分ではない。
だから、フィアンマはあまり彼女に近づかなかった。
どうせ、求められていないクセに手を伸ばしたところで、ロクな結果にならないのだから。

姫神「けほ。…けほっ…」

フィアンマ「…、…何か欲しい物はあるか」

姫神「>>59」

60: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/23(日) 23:39:06.64 ID:BlFHi/Wno
あたまを。なでてほしい。

61: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/23(日) 23:58:40.90 ID:H1C6D5h50

姫神「あたまを。なでてほしい」

フィアンマ「…俺様で良いのか」

姫神「…おれさまさんしか。いない。よ」

フィアンマ「…そういえば、そうだったな」

代わりになるも何も、彼女にはもう、自分以外家族が居ないのだった。
そう思って、先程の暗い思考に浸っていた自分を払って、フィアンマは彼女の頭を優しく撫でた。
さらさらと長い黒髪は、今日は結ばない状態である。

姫神「…おちつく。…おとうさんも。…こんなふうに。なでて。くれた…」

フィアンマ「…、そうか」

右手で、丁寧に撫でる。
術式を何ら行使していないというのに、それだけで、姫神の苦しみは和らいだ。
結果主義のフィアンマには、人の感情が時々理解出来ない時がある。
周囲の人間など、言葉一つで操れる駒ばかり。
助けようと手を伸ばせば、何らかの形で失敗する。
時々心を塞ぐ彼は、どうして姫神の表情が和むのか、少し、理解出来なかった。
が、よくよく考えて気がつく。きっとこの少女は、自分を好いてくれているのだ。
結婚してくれという与太話は抜きにしても、きっと。

姫神「すー…」

フィアンマ「…悩んでいるのは、…力、だったか」

彼女の『吸血殺し』については、だいぶ調べてしまった。
どんな特性があるのかを知ってしまった以上、彼女を手元に置く必要は、もう無いのかもしれない。
だが、フィアンマはもう、彼女を捨てようとは思わなかった。

フィアンマ「…『吸血殺し』を抑える、霊装」

知識と技量を総動員すれば、造れない代物ではない。
いつか、彼女に贈ろう、と。本当の意味で、一度位、誰かを救ってみたいと。
彼は、思う。




数日かけて、姫神の病状は消えていった。
代わりに、今度はフィアンマが熱を出す。
だが、彼は微熱程度で寝込む事は無い。
幼い、非力な姫神とは違うのだから、寝込む必要が無い。
ぐらぐらと揺れる視界に不愉快そうながらも、彼は座って机に向かう。

姫神「…えっと。だいじょうぶ?」

フィアンマ「問題無い」

姫神「…かぜ。うつして。ごめんなさい…」

フィアンマ「…>>63」

62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 00:00:00.14 ID:FrPTLf2SO
いや、予防を怠った俺様が悪いだけだ。気に病まなくていい

63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 00:09:42.33 ID:RXLpyWM10
>>62(頭を撫でる)


64: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 00:26:10.50 ID:LiO8ghXo0

フィアンマ「…いや、予防を怠った俺様が悪いだけだ。気に病まなくていい」

左手で重い頭を抱えたまま、フィアンマは右手で姫神の頭を撫でる。
心優しい少女なのだろう。
フィアンマが倒れてしまわないか、やっぱり自分のせいだ、と自責の念に駆られているのか。
じわじわと目に涙を溜める姫神に、フィアンマは苦笑する。
自分は、そんなに心配してもらうような価値がある人間ではない。
否、才能は価値があるのかもしれないが、人格に価値は無い、とフィアンマは考えている。
だから、困ったように姫神の髪を撫でた。

姫神「…でも。」

フィアンマ「お前が悪い訳ではない」

強いて言えば、風邪の菌が悪い。
そんな事を言って、フィアンマは姫神へ食事を摂るように言った。
彼女は大人しくそれに従い、食事やおやつを口にする。

フィアンマ(…頭が痛い)

机にだらしなく上体を預け。
ロクに回らない頭で、書物の内容について考える。
実は姫神より重症だったりするのだが、表に出すようなことはしない。



彼が、ついうっかり気を喪って、数時間。
ふと、皿のがちゃがちゃという音で目が覚めた。
椅子を使って踏み台とし、姫神が皿を洗っている。

フィアンマ「…何を、…している?」

姫神「>>66」

66: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 00:30:24.00 ID:+fiGTCxf0
家事

68: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 00:36:29.93 ID:LiO8ghXo0

姫神「かじ」

フィアンマ「…家事をしているのは、わかるが。別に、俺様は動けん訳ではないぞ」

姫神「でも。いま。わたしのほうがげんき」

フィアンマ「…子供が家事をやる必要は無い」

姫神「いいの。わたしが。やりたいだけだから」

少々水を使いすぎというのは否めないが、チェックをするまでもなく、姫神は綺麗に皿やコップを洗っている。
彼女は彼女で、フィアンマに恩義を感じているのだ。
例え安全圏まで連れ出してくれたのが騎士団だったにしても、彼女の世話を看てくれているのはフィアンマで。
だから、ほんの少しでも恩返しをしようと考えた結果が、皿洗いだった。
フィアンマは机に手をついて立ち上がり、どうにかふらつかないよう彼女に近寄ると、イタリア語混じりに褒めた。
完全に日本語で褒められる程、思考はすっきりしていないのだろう。

フィアンマ「すまないな。…お前は、良妻になりそうだ」

姫神「…じゅうねんごに。けっこんするから」

包丁だけは危ないからという理由でフィアンマに洗ってもらい、皿洗いを終え。
姫神はお粥を作ろうと試みた。だが、流石に止められる。

フィアンマ「…火の扱いを任せる訳にはいかん。我慢しろ」

姫神「つくる」

フィアンマ「…大体、六歳では料理などロクにした事が無いだろう。…料理がしたいなら、俺様の体調がマシになってからにしてくれ」

姫神「>>69」

69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 00:45:12.95 ID:Cg5MEKqSO
だが。ことわる。

70: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 00:58:58.23 ID:LiO8ghXo0

姫神「だが。ことわる」

フィアンマ「…怒るぞ」

姫神「おれさまさんのねつがちゃんとさがるまでは。わたしが。ごはんをつくる」

フィアンマ「……」

姫神「おかゆなら。おかあさんに。つくりかたをおそわったことがある」

フィアンマ「…だから、粥なら問題無いと?」

姫神「だいじょうぶ。せいこうさせてみせる」

フィアンマ「…」

無理やり止める事は簡単だ。
彼には力がある。
だが、子供には成功や挫折の経験が必要だ。
だから、彼はひとまず、任せてみることにした。

フィアンマ「火傷をするなよ。火がつかないように、袖を捲くっておけ」

姫神「らじゃー」

巫女服の袖を結んで捲り、半袖状態にして、彼女は料理に臨む。

姫神(おこめと。おみずと。…"ぐざい"はなににしよう)

冷蔵庫を、ひょこりと覗き込んだ。

姫神(>>72をいれよう)

72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 01:10:37.96 ID:2ZUhg1r3o
ウメボーシ

73: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 01:23:44.49 ID:LiO8ghXo0
《>>67様 本編合流については現時点未定です… 似たようなスレはちょっと気になります わからないのでもしかすると展開被りするかもしれません》


姫神(うめぼしをいれよう)

何故ウメボーシが冷蔵庫にあるかというと、和食に詳しく無いフィアンマがねだられるまま、彼女の為に購入したものであったりする。
姫神は俄然やる気を出すと、まずはプレーンのお粥を作り始める。
フィアンマの心配は杞憂だったらしく、彼女の手つきはそう危なっかしいものではなかった。
あっという間に柔らかめのおかゆが出来上がり。
その中に入れる梅干についても、種を取り出し、細かくしながら投入。
蜂蜜漬けの梅干だった為、甘酸っぱい匂いが台所を支配する。
日本人であれば唾液と食欲が出そうな匂いである。が、フィアンマにとってはそうでもない。

フィアンマ(…あの赤い物は、酸味が強いのではなかったか?)

だが、投入してしまった以上、止める術は無い。
姫神は少しだけ味見をすると、塩をちょっぴり降った。
梅干自体がさほどしょっぱくなかったので、味を付け足したのだ。
ちなみに、これまでフィアンマが食べた事のあるおかゆはミルク粥のみだったりする。

姫神「できた」

丁寧に皿へよそい、スプーンを突っ込んで。
フィアンマ本人に渡しては危なっかしいと思ったらしい姫神は、使命感に燃えた瞳で、一口、息を吹きかけてから、フィアンマの口元へ運ぶ。

姫神「…。…あーん」

フィアンマ「……」

こんな子供相手にプライドを誇示して一人で食えると言うのも馬鹿馬鹿しい。
そんな訳で、フィアンマは大人しく、梅干の入ったお粥を口にした。

姫神「…あじはかんぺきなはず。…でも。くちにあわないかも。…おいしい?」

フィアンマ「>>75(>>76)」

75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 01:31:18.37 ID:Cg5MEKqSO
男には、やらね 、ば   ならな…


時が
 あr

76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 01:34:32.23 ID:2ZUhg1r3o
うまい。

77: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 01:43:08.53 ID:LiO8ghXo0

フィアンマ(うまい)

言おうとした。
だが、口の中を埋め尽くすのは、酸味と、毒された蜂蜜の匂い。
それらは、ただでさえ体調が悪いフィアンマの身体に負荷をかけた。
だが、ここで『酸っぱい死ぬ』だとか、『クソマズイ』と言ってしまっては、彼のプライドが許さない。
彼には矜持がある。そして、それは姫神をも守るべき内容だった。
だから、彼は素直にそのまま包み隠さず言う事はしなかった。

フィアンマ「男には、やらね 、ば   ならな… い 時が あr」

姫神「!!」

耐え切れず、彼は机に上体を倒す。
それでも、口の中のものを吐き出しはしなかった。
無理矢理に呑み込む。酸っぱい。苦しい。

フィアンマ(…われらが主はもっと苦しかった筈だ)

聖書の文章を脳内で展開する。
吐きそうだったが、胃酸ごと呑み込んだ。
不味いと面と向かって言われる以上に、これは彼の口に合わなかったのだと判断した姫神は、ショックよりも先に不安が立つ。

姫神「…お。…おれさま。さん…」

フィアンマ「……案ずるな」

この程度では、死なない。死ぬ訳には、いかない。
格好良い台詞だったが、それが梅粥から出た言葉であるが故に、悲しみをおびていた。




梅粥を自分好みに作り変え。
それらを食してどうにか乗り切ったフィアンマは、落ち込んだ様子の姫神を慰めていた。

フィアンマ「…不味かった訳ではない」

姫神「…>>79…」

80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 01:50:07.19 ID:dfd9pqUBo
よかった……おれさまさんを苦しめる悪い梅干しはなかったんだね

81: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 02:13:47.84 ID:LiO8ghXo0
《今日はここまで。お疲れ様でした》


姫神「…よかった……おれさまさんをくるしめるわるいうめぼしは。なかったんだね」

フィアンマ「…、そうだな」

沢山の調味料を用いたとはいえ、フィアンマが自らの意思で梅干を食べきった事には変わり無く。
何やら安心したらしい姫神の笑顔に、彼は何も言えなかった。
何となく、症状は悪化してしまった気がする。しかし、泣き言は言わないでおく。

姫神「…できれば。うめぼし。すきになってほしい」

フィアンマ「…なれれば、良いが」

当分、そのまま食べるのは無理だろう。
そうは思いながらも、フィアンマは、否定しなかった。




一月経った。
姫神も、心を開ききっていた。
少し歪な家庭は、それでも幸せを築いている。
そして、今日は。
姫神秋沙の、お誕生日だった。

姫神(…おたんじょうび)

今までは、村の人達に祝ってもらっていた。
今年からは、祝ってもらえないものと思おう。
そう考えていた姫神だったが、フィアンマは祝うつもりでいた。
彼は祝ってもらえない立場として生きてきた為、こういったイベントごとはスルーしない性格だった。
そもそも、そういった楽しい事が好きだというのもあるが。

フィアンマ「…何か欲しいものはあるか。誕生日だろう」

姫神「>>83」

83: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 02:18:20.92 ID:1LFe9yIm0
何でもいいならヘアアクセサリー

84: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 12:36:47.16 ID:OXq7kW0q0

姫神「なんでもいいなら。へああくせさりー」

フィアンマ「…髪飾りか」

姫神「おれさまさんのおもう。かわいいものがいい」

フィアンマ「……」

ふむ、と考え込んだ後。
フィアンマはふと思い立ったのか、彼女の手を引いて外に出た。
ひと月経過してもまだまだ見慣れないイタリアの地に対してきょろつく姫神の手を引いて向かった先は、小物屋。
プレゼント類が一式販売されている、プレゼント専門店のようなものだ。
ラッピングサービスも充実している、中型店舗である。

姫神「…なんだか。たくさんある」

フィアンマ「ヘアアクセサリーに限らず、欲しい物があれば買ってやる」

姫神「……」

幼くとも、女は女である。
化粧品にふと目を惹かれる姫神だったが、フィアンマの阻止により視線の先が変わる。
彼は彼でもうヘアアクセサリーの目星を付けたらしく、やって来たのはぬいぐるみコーナーだ。
彼女の身長と同じ位のテディベアを見上げ、姫神は興味を示している。

フィアンマ「…誕生日には、いつも何を食べていたんだ? 好物か」

姫神「>>86」

86: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 13:33:37.17 ID:2ZUhg1r3o
そうだよ。

87: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 13:47:36.19 ID:OXq7kW0q0

姫神「そうだよ」

フィアンマ「そうか。…お前の好物はあまり再現出来んが、我慢してくれ」

彼女の好物は、煮物やきんぴらごぼうといった純和食である。
イタリア産まれイタリア育ちであるフィアンマには再現出来る筈もなかったが、やれるだけの事はやってみようと彼は決める。

姫神「おりょうり。おてつだいする」

フィアンマ「…いや、いい」

梅粥事件を思い出し、フィアンマは渋い顔で首を横に振った。
姫神はむすくれながら、一つのぬいぐるみを手にする。
猫をモチーフとした、無地のクッションだ。
触り心地はふわふわとしていて、ついつい触っていたくなる。

姫神「これがほしい」

フィアンマ「わかった」

頷き、姫神が辺りを見回している間に、彼は会計を済ませる。
ラッピングが終わるまで待って、料理の他に何を食べようか、と悩んだ。
セオリー通り、彼の常識でいえば、ケーキである。



プレゼントは一旦部屋に置きに帰り。
もう一度外に出たフィアンマは、姫神と共にケーキ屋へ向かった。
料理の材料は帰り道に買えば良い。
色とりどりのケーキ、或いはパンナコッタなどのドルチェに、姫神は素直に関心を示した。

姫神「…えっと」

フィアンマ「…誕生日というと、ケーキを食べるイメージが強くてな。…食べてみたいものはあるか?」

姫神「>>89」

89: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 14:34:38.67 ID:88V6rggR0
このちーずけーきとしょーとけーき

90: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 15:53:30.77 ID:OXq7kW0q0

姫神「この。ちーずけーきと。しょーとけーき」

彼女が指差したのは、カット済みのチーズケーキ。
それから、同じくカットされた、白いクリームに苺という典型的な苺ショート。
きらきらと目を輝かせる様は本当に子供で、フィアンマは目を細めて笑みを浮かべた。
注文したのは、チーズケーキと、苺ショートと、モンブランだ。
最後の一個、即ちモンブランは、フィアンマが個人的に食べたいと思ったものである。

フィアンマ「…帰るか」

姫神「うん」

片手でケーキの箱を持ったまま、もう片手で姫神を導いて、買い物をした跡、帰路につく。
彼の生活は、順調である。


家に帰って来たフィアンマは、学んだレシピと購入した食材を元に、懸命に和食を作っている。
きんぴらごぼうや、肉じゃが。レシピ通りに作ったそれは、少し薄味だ。
四苦八苦しながらも、それでも調理を投げ出さないのは、持ち前の生真面目さか、頑固さか。

姫神「…おれさまさん」

フィアンマ「んー?」

姫神「ありがとう」

フィアンマ「何の話だ」

姫神「ぷれぜんと。それと。おりょうり」

フィアンマ「…勉強になるからな」

肉豆腐だけは何の問題もなくうまくいき、フィアンマは少し疲れた顔で息を吐き出す。

フィアンマ「それより、プレゼントはもう開けたのか?」

感想を聞きたい、と彼は姫神を見やる。

姫神「>>92」

91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 15:55:10.15 ID:Cg5MEKqSO
気にいった。

97: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 20:27:13.15 ID:I5TZ/CqH0
《跳ぶかもしれません 見切り発車過ぎて…》


姫神「きにいった」

にへら、と嬉しそうにはにかんで。
姫神は、ごそごそと巫女服の胸元から、それを取り出した。
リボンのついた、赤いヘアピン。
フリルが少しついているそれはなかなかに豪奢で、少し人目を惹くであろうもの。
よく刺さらなかったなと思うフィアンマだったが、ものをしまうにはコツというものがあるのだ。

フィアンマ「…着けてやろうか」

ぐつぐつと煮込み中の鍋を見やり、フィアンマはそう問いかけた。
姫神は、明るい表情でこくんと頷く。
未だに家族を喪ったショックは抜けない為、表情に感情はあまり出ないものの。
激情はすぐに出るタイプらしい。それは喜びでも適用される。

姫神「はい」

手渡され、フィアンマは彼女の地肌を傷つけないよう気をつけながら、黒い髪にヘアピンを差し込む。
前髪を留めるという観点ではあまり意味の無いものだったが、装飾品としては十分だ。
彼女はフィアンマから離れ、一度脱衣所へ行くと、装飾品によって一層可愛くなった己の姿に微笑む。
やはり女は何歳でも女なのだな、とフィアンマはぼんやりと思った。



出来上がった料理の数々は、甘かったり薄味だったりしたけれども、概ね成功だった。
分量を正確に計って正しいタイミングで投入するという行為の積み重ねが料理だ、とフィアンマは思っている。
だが、姫神に『おいしい』と言われると、何だか自分がとても良い事をしているような気分になれた。

夕飯を終え、食休みを挟み。
現在、二人はケーキを食べていた。
姫神の皿には、苺ショートと、ショート・ベイクトチーズケーキ。
フィアンマの皿には、モンブランが一つ。
誕生日を迎えたにしても、まだ七歳。
太る、などの発想がまだ無い姫神は、時々零しそうになりつつ食べた。

姫神「ところで。さっきのろうそくを。ふー。ってするのはなにかいみがあったの?

食べる直前、姫神のケーキに七本程細い蝋燭を立てて息を吹きかけさせたのはフィアンマだ。

フィアンマ「んー? >>99」

99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 20:35:24.24 ID:hm9Blc5i0
願い事をしながら一度で全部吹き消せたら願いがかなうらしい

100: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 20:47:22.10 ID:I5TZ/CqH0

フィアンマ「んー? 願い事をしながら一度で全部吹き消せたら願いが叶うらしい、と聞いてな」

姫神「…わたし。さんかいかかった」

フィアンマ「叶わんな」

姫神「…ぐぬぬ」

来年こそは、と決意を新たにする姫神。
彼がそのような事を言い出したのは、そうした決意を思わせる為だったのかもしれない。
彼女は、今もまだ傷ついている。
時が傷を癒すには、まだまだ歳月がかかる。年月が必要になる。
何年経っても、或いは忘れられないかもしれない。
だからこそ、幼い内は、こうした子供だましで未来に目を向けさせておく。
大きくなってくればまた別の方法で騙していくしかないのだが。

フィアンマ(…そもそも、そんな先の未来まで一緒に居るかどうか、謎だが)

彼は自己評価が低い。
故に、手近な人々は離れていくと思っている。
いつか、姫神にも嫌われる日がくるのだろう、と。

フィアンマ(…それでも構わん。どうせ拾い物だ)

彼は、誰にも愛された事が、無い。




姫神が眠るまで、あやし、寝かしつけ。
フィアンマは、本を開く。
そこには、言語を混ぜて綴った『計画』が記されている。
彼なりに考えて練り上げたものだ。
内容としては、世界の救済。
個人個人を救う事に失敗するのなら、世界全体を救えば良いという結論に至っての、計画。

フィアンマ「……」

十六歳の少年には、まだ荷が重い話だった。
それでも、彼は自らの体質を知ってしまっている。
圧倒的な幸運と、才能。換えの利かない、『右方のフィアンマ』。

フィアンマ「…、」

どうせ、失敗する。
そんな考えが浮かんで、やるせなくなる。
力があるのに、いつでも救う事にだけ失敗する。
躍起になればなっただけ、後で絶望を味わう事を知っている。
彼の隣人は、悲哀だけだ。

フィアンマ「……、」

視界が曇り、中身を濡らす訳にはいかない、と目元を手で押さえた。
思い出される幾度もの喪失感に、願ってもいない涙が溢れてくる。
それでも、誰かに慰めて欲しくはないから、黙々と泣いていた。
その内治まる生理的状態だと、そう自分に言い聞かせて。

フィアンマ「…っ、…」

姫神「…おれさま。さん?」

フィアンマ「…どうした」

低い声で、涙声を覆い隠し。
まるで眠気を堪えているかのような体勢で、彼は聞き返した。

姫神「>>102」

102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 20:50:23.93 ID:Cg5MEKqSO
…どこか。痛いの?さすってあげようか?←胸を擦る

104: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 21:06:57.45 ID:I5TZ/CqH0

姫神「…どこか。いたいの? さすってあげようか?」

フィアンマ「……、」

姫神はそっと手を伸ばし、小さな手で、彼の胸を摩った。
精一杯背伸びをして、身長差を省みる事無く。
黒い瞳は澄んでいる。何の打算もありはしない。

姫神「…おれさまさん」

心配そうな顔は、水分に歪められた視界でも確認出来た。
フィアンマは目元を乱暴に服の袖で拭い、床に膝をついて彼女を抱きしめた。
姫神はやはりどこか痛むのだろうか、と思いながら、彼を抱きしめ返す。

フィアンマ「…すまない」

姫神「なにに。あやまっているの」

フィアンマ「…情けないところを見せたな」

姫神「なさけないなんて。おもわない」

フィアンマ「……」

姫神「だって。おれさまさんは。…やさしいから」

優しいから、格好良いよ。
そう言って、姫神は恐る恐る、彼の髪を撫でた。
自分が泣いている時、母親がそうしてくれたように。





朝が来た。
あの後再び姫神を寝かしつけたフィアンマは、二時間程眠って目を覚ました。

フィアンマ「……」

昨晩の出来事は、彼の中で不祥事である。
弱いところを見せるのは必ずしも恥ずかしい事ではないのだが、それは一般論である訳で。

フィアンマ「……、」

朝食を作ろう、と。
彼は、気分を切り替えた。






朝食に何を作る>>106-107

106: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 21:10:21.30 ID:1LFe9yIm0
卵焼き

107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 21:10:48.71 ID:Cg5MEKqSO
塩鮭、味噌汁(赤味噌)、厚焼き玉子、イクラ

108: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 21:24:11.88 ID:I5TZ/CqH0

作るものは決めた。レシピは頭に入っている。
冷蔵庫内のいくら、塩味のついた鮭の炙り焼き。
甘めの厚焼き玉子に、赤味噌を使った味噌汁。
味噌汁の具は何にしようかと悩んだが、トウフーときのこを入れる事にした。

フィアンマ「…塩気が多いな」

日本人はそんなに塩が好きなのか、と首を傾げる。
パスタ料理もよくよく考えれば塩分が多いのだが、それは除外されているらしい。
塩干ものが多い為に、塩気が目立つのかもしれない。
かといって塩抜きをすれば、耐えられない味になる事はわかっている。

姫神「…ぅ。…ん…」

目を覚まし、姫神はぐしぐしと目元をこする。
慣れ親しんだ和食の匂いがした。
彼女の過去を再現しているのは食卓だけで、周囲の人間ではない。
だが、家族が居ないという事実に、彼女はもうなれ始めている。
仕方が無いと、妥協したのだ。だって、蘇らないのだから。

姫神「…わ」

起き上がり、顔を洗って、食卓を見る。
炊き上がった米の代わりに米粉パンという事以外は、概ね、親しみのある食事だった。

姫神「…おいしそう」

フィアンマ「起きていたのか」

卵焼きの端っこでも余ったのだろうか。
もぐもぐと口を動かしながら、彼は挨拶をする。
姫神は機嫌よく挨拶をすると、大人しく席に着いた。

姫神「…そういえば」

フィアンマ「ん?」

姫神「その。ながいおいのり。しないでごはんをたべると。どうなるの」

食前の、十字教徒の祈りは、未だ見慣れないらしく、問いかけた。
自分と違って、『いただきます』で済まない長々としたお祈りが気になるようだ。

フィアンマ「>>110」

110: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 21:30:43.19 ID:1LFe9yIm0
特に何も無い

111: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 22:29:58.87 ID:3hN2kNu/0

フィアンマ「特に何も無い」

姫神「…ないの?」

フィアンマ「無いな。別に、祈らずとも俺様は神に愛されている訳だし」

さらっととんでもない事を言うのは、才能に基づいての発言だ。
聖人とは違う形で、彼は神に愛されきってしまっている。
それはそれで周囲に不幸を呼ぶ為、彼としてはあまり気分が良いものでもないが。

フィアンマ「ただ、俺様以外の十字教徒は、神の恵みを得る為に祈る」

姫神「…めぐみ」

フィアンマ「…もう少し大人になれば、わかりやすく説明出来るのだが」

  交際の例えを出しかけ、流石にそれはまずいかと口を噤む。
もごもご、と甘い卵焼きを頬張りながら、何となく理由は掴めたらしい姫神は、こくんと頷いた。




朝食を終えて。
暇を持て余している二人は、言語の勉強をすることに決めた。
イタリア語の復習を終え、日本語と英語の勉強。
それに大体慣れたところで、別言語を学ぼうという話となった。

姫神「きょうはなにごをやるの」

フィアンマ「>>113語だ」

113: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 22:30:55.49 ID:Z6JsMJnmo
ラテン

114: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 22:47:47.46 ID:3hN2kNu/0

フィアンマ「ラテン語だ」

姫神「…むずかしい?」

フィアンマ「そこそこに難しいな」

しかし、慣れの問題である。
会話を交えつつ勉強をしていけば、存外すぐに覚えられる筈だ、とフィアンマは言う。
彼は褒めて伸ばす志向らしく、姫神が質問に正解する度、頭を撫でて笑む。
姫神が順調に知識を吸収していくのも、そういった"褒め"の成果なのかもしれない。

フィアンマ「少し問題を作るから待っていろ」

姫神「ひかくもんだい?」

フィアンマ「そうだよ。…ほら」

差し出された空白の紙に、綴っていく。
ペンを握る事に慣れたらしい彼女は、秀才だ。
魔術を教えれば優秀な魔術師になるだろうか、とフィアンマは思う。
が、守るものの無い者が魔術を学んで力を手に入れたところで、ロクな事にならない。

自分の、ように。



姫神「…できた」

フィアンマ「…一問以外正解だ」

ぽんぽんと撫でて褒め、片付ける。
ラテン語の後は、ドイツ語。
子供の知識吸収とは、年齢の高い者の比ではない。

何から学んだのか、唐突に。
姫神は、子供らしい要求をした。

姫神「…おれさまさん」

フィアンマ「ん?」

姫神「ごほうび。ほしい」

フィアンマ「…褒美か。何が欲しいんだ」

姫神「えっと。…>>116」

116: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 22:53:12.01 ID:5HFAhRhA0
ちゅー

117: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 23:00:39.54 ID:3hN2kNu/0

姫神「えっと。…ちゅー」

フィアンマ「……」

姫神「……」

期待の眼差し。
無言でお願いアピールをしてくる瞳は、澄んでいる。
それが褒美になるのか、と疑問視しながらも、仕方なくフィアンマは彼女を手招く。
ドキドキと緊張しながら顔を近づける彼女の額の前髪を手であげ、彼はそっと、軽く口づけた。
額への口づけは、祝福の意味合いに相当する。

姫神「……」

目を開けた姫神は、僅かに不満そうな顔をした。

姫神「…おでこにとは。いっていない」

フィアンマ「唇に、とも言っていなかったぞ?」

姫神「やりなおしをようせいする」

フィアンマ「ダメだ」

姫神「…どうして。くちはだめなの」

じと、と睨めつけるような視線。
フィアンマは少し困った後、こう答える。

フィアンマ「>>119」

119: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 23:03:32.48 ID:1LFe9yIm0
16になった時の楽しみに取っておけ

121: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/24(月) 23:12:59.59 ID:3hN2kNu/0

フィアンマ「16になった時の楽しみに取っておけ」

姫神「…16」

フィアンマ「…どのみち、結婚式は口づけをする事になっている。それからでも遅くなかろう」

姫神「……うん。わかった」

後、九年。
姫神は未来の自分に想いを馳せ、無理矢理に納得した。
思いの他結婚の約束を覚えているものだ、とフィアンマは思う。
面倒だとは思わない。子供のままごとに付き合う事は容易い。

フィアンマ「…フランス語も勉強するか?」

姫神「する」

促されるまま、ペンを握る。
この勉強が終わったら、ジェラートを食べさせよう。
そんな事を考えながら、彼もまた、ペンを握る。



三年経った。
もう、彼女も10歳だ。
自分の事は、何となく自分で決められる年齢。
19歳になったフィアンマは、何かと家をあける事が多くなってきた。

フィアンマ(…一緒に居る必要は、)

必要は、無いのだ。
彼女と無理に一緒に居なくても、きっと、頭の良い姫神は自分で幸せを掴んでくれる。
それに加えて、世界を救う為に戦犯となる覚悟のある自分と一緒に居ては、かえって不幸にしてしまうだろう。

フィアンマ「…秋沙」

アイサ、ではない。
彼女の名前を呼ぶ事に、慣れた。
だが、姫神は未だに、彼の呼び方を知らない。

姫神「なに、オレサマさん」

フィアンマ「…学園都市へ行くつもりは、無いか?」

姫神「ガクエントシ。…どんなところ?」

フィアンマ「>>123」

123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 23:31:30.23 ID:QVhR3y0C0
6年後にヘタ錬が姫神をさらってフィアンマが学園都市に来るんですね。わかりました
安価↓

124: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/24(月) 23:56:57.07 ID:2ZUhg1r3o
科学の街だ

125: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 00:04:19.67 ID:/X9vJ7x50

フィアンマ「科学の街だ」

姫神「…カガク」

フィアンマ「…日本だよ。お前の故郷とは違うが」

姫神「……」

旅行だろうか、と姫神は首を傾げる。
それならば行きたい、という意思を感じながら。
フィアンマは悩み悩み言葉を選ぶ。

フィアンマ「…そろそろ、お前も自分の未来を選べる年齢だ」

姫神「……」

フィアンマ「…学園都市は、学生に優しい街だ。慎ましやかに生活していけると思う」

姫神「………」

フィアンマ「…お前の力は、科学でも丁重に扱うべきものだ。…故に、そう冷遇される事は無い…筈なんだ」

姫神「…いっしょに。…くらせ。ないの? もう」

言いたい事を直球に指摘され、フィアンマは黙り込む。
姫神を嫌っている訳ではない。大人の事情というものだ。

姫神「…わたしは。…オレサマさんといっしょにいないほうが。いいの…?」

フィアンマ「…、…>>127」

127: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 00:06:39.11 ID:8mcHgKdbo
決めるのはお前だ。
入るとしても中学から、あと2年考えろ

128: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 00:22:11.65 ID:/X9vJ7x50

フィアンマ「…、…決めるのはお前だ」

姫神「…」

フィアンマ「入るとしても中学から、…後二年考えろ」

姫神「…うん」

しゅん、と落ち込む姫神の頭を撫で、フィアンマは口ごもる。
本当に彼女を大切に思うなら、早く離れるべきではある。
わかっているからといって、そうそう手放せるものでもない。
ましてや、こうやって姫神が嫌がってしまえば、強く言えなくなる。

姫神「…わたしは」

フィアンマ「…」

姫神「…でも。…できたら。オレサマさんと、いっしょにいたい」

フィアンマ「…二年後に、もう一度同じ質問をする。その時までに決めておけ」

後二年の間に、何かが変わるかもしれない。
自分の本性を知って嫌いになるかもしれない。
そうなれば突き放しやすい、とフィアンマは思う。
その時点で、かえって、嫌われなければ手放したくないという意思の現れなのだが。

姫神「…きょうは。わたしがごはんをつくる」

フィアンマ「…そうか」

姫神「…あしたは。おしごと?」

フィアンマ「…>>130」

130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 00:27:27.54 ID:22AoRzqko
いやちがうが どうした?

131: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 00:35:19.30 ID:/X9vJ7x50
《今日はここまで。お疲れ様でした》


フィアンマ「…いや、違うが。どうした?」

姫神「さいきん。かえりがおそいから。しんぱい」

フィアンマ「…心配せずとも、そうそう事故には遭わん」

姫神「そうじゃなくて」

フィアンマ「?」

姫神「…つかれていないか。しんぱい」

フィアンマ「…大人は多少の疲労を我慢する生き物なんだよ」

姫神「でも」

フィアンマ「…今、大事な仕事をしているんだ。寂しいかもしれんが、もうしばらく我慢してくれ」

姫神「おしごとがおちついたら。いっしょにいてくれる?」

フィアンマ「勿論」

その先は、敢えて口にしなかった。
一緒に居られるという確証は無い。
そもそも、現在抱えている仕事に、落ち着くも何も無いのだ。
『右方のフィアンマ』としての仕事以外をこなしているせいで、帰る時間が遅くなるのであって。
けれども、世界救済を諦める気にはなれない。
彼の中で、姫神は救済の次の位置にあった。

フィアンマ「…それで、今日は何を作るんだ?」

姫神「>>133」

133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 00:37:03.39 ID:22AoRzqko
ヤンソンさんの誘惑

137: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 13:39:05.42 ID:oS4nz0I50

姫神「やんそんさんのゆうわく」

フィアンマ「…あれか」

『ヤンソンの誘惑』は、スウェーデンの伝統的家庭料理。
『ヤンソン氏の誘惑』、または『ヤンソンさんの誘惑』とも呼ばれている。
分類としてはグラタン料理の一種。味の決め手となるのは塩辛さのあるアンチョビであり、スウェーデンではポピュラーな料理である。
日本ではパーティー用の料理か、北欧料理店で食べられる。
じゃが芋を使ったポテトグラタンではあるが、通常のホワイトグラタンにあるような面倒なベシャメルソースを作る必要もない。
玉ねぎとアンチョビを必ず使うのが特徴である。
名前の由来は19世紀に実在したと言われる菜食主義のエリク・ヤンソンという宗教家があまりにもおいしそうな見た目と匂いに勝てずついに口にしてしまったとされる事からこの名前が付いたと言われている。

そんな素敵料理が、今夜の夕飯のようだ。
この短期間(とはいっても、フィアンマにとっての数年と姫神にとっての数年では感覚が違う)で、姫神の料理の腕は極端に上がった。
理由はフィアンマが家を空けるからであったり、彼女が『すてきなおよめさんになりたい』と努力をしているからである。

フィアンマ「材料はあるのか?」

姫神「だいじょうぶ」

必要な材料

>>3~4人前

じゃがいも2個~5個
アンチョビ1缶
玉ねぎ2個~3個
生クリーム200cc~300cc
牛乳50cc
ブラックペッパー 適量
パセリ 色合い程度
とろけるチーズ
粉チーズ(またはパン粉)

姫神「ぜんぶそろってる」

フィアンマ「…そうか。火傷しないように気をつけろ」

姫神「うん」

彼女の髪にはヘアピンが差し込んである。
フィアンマが誕生日に贈ったものだった。
物持ちが良いのか、大切に扱っているのか。
それは綺麗なままだった。彼女の心のように。

姫神「…オレサマさん」

フィアンマ「何だ」

姫神「>>139」

139: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 13:59:36.54 ID:uZQB4vet0
梅干乗せてみる?

140: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 14:08:41.48 ID:oS4nz0I50

姫神「うめぼし。のせてみる?」

フィアンマ「やめろ」

姫神「そんな。かんぱついれずにいわなくても」

フィアンマ「…やめろ」

姫神「…いがいとおいしいかもしれないのに」

フィアンマ「存外合わんかもしれんだろう」

姫神「む」

乳製品と梅干は合わない、と言い切るフィアンマは割と必死である。
初めて梅干を食べた日から努力を重ねてきたはいいものの、嫌いなものは嫌いな訳で。
蜂蜜漬けでない梅干だったとしても、彼は拒絶するだろう。
そもそも、マリネ程度の酸っぱい物位しか受け付けない味覚なのだ。
残念そうに、それでも粘る事はせず、彼女はセオリー通りに作っていく。

姫神「…出来た」

出来上がった料理を並べていき、取り皿も配膳する。
料理の出来が上手くいったことに対してか、機嫌は良い。

姫神「いただきます」

フィアンマ「…」

いつも通り、お祈り。
フィアンマのお祈りが終わってから、姫神も食べ始める。
もぐもぐと食べながら、彼女はフィアンマを見た。

姫神「ずっと。きになっていたんだけど」

フィアンマ「何だ?」

姫神「せいしょくしゃいがいに。なんのしごとをしているの」

フィアンマ「…>>142」

142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 14:53:44.71 ID:qB9HrgkSO
弁護士

143: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 15:49:32.64 ID:3ZU5JGA40

フィアンマ「…弁護士」

姫神「…べんご…」

フィアンマ「罪ある人々を厳罰から守り、救う仕事だ」

フィアンマ(職務内容としては遜色あるまい)

姫神「…かっこいい」

嘘を信じ込んだらしく、姫神はきらきらと目を輝かせる。
食事の手を止めるなと促しながら、フィアンマは心中でため息を漏らした。

フィアンマ(純粋なのは良い事だが、多少の疑う事を教えた方が良いかもしれんな)

女は少し馬鹿な方が幸せに生きられる。
もしくは、疑いながら冷徹に生きていくか。
姫神は頭が良い。故に、後者として生きていく方が良いだろう。

姫神「…オレサマさん」

フィアンマ「んー?」

姫神「ガクエントシにいっても。16さいになったら。むかえにきてくれる?」

フィアンマ「…、」

姫神「…けっこん。してくれる?}

フィアンマ「…>>145」

145: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 16:03:58.55 ID:6Bp86/U90
ああ、約束する

146: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 16:19:15.29 ID:3ZU5JGA40

フィアンマ「…ああ、約束する」

きっと、これは嘘になる。
彼女がどんなに望んでも。
フィアンマが世界を救うと決めている限り、その未来は訪れない。
今のように、こうして二人で食卓を囲む事など、無い。
そんな事もわからないまま、姫神は純真な少女らしく、嬉しそうにはにかんだ。
家族を、隣人を、全て喪った彼女にとっては、フィアンマが全てなのだ。
自分に優しく微笑んでくれ、頭を撫でてくれ、勉強を教えてくれ、愛してくれる彼だけが。
学校に行かないという選択をしてきたものも、今思えばフィアンマにとっての失敗だった。

姫神「やくそくだよ」

フィアンマ「あぁ」

姫神「…はい」

そっ、と姫神は細い小指を差し出す。
気付けば、食事は終わっていた。
何がしたいのだろうかと首を傾げ、フィアンマは食器を置いた。

姫神「ゆびきり」

フィアンマ「…指切り?」

姫神「やくそくの。ぎしき」

フィアンマ「………」

子供だましだ、と思う。
彼はそっと手を伸ばし、彼女の指と、自分の小指を絡ませた。
見よう見まねにやってくれた彼に笑みながら、姫神は無邪気に唄ってみせる。

姫神「ゆーびきーり。げんまん。うそついたら。はりせんぼん。のーます」

フィアンマ「…破ったら針を呑まされるのか。恐ろしいな」

姫神「…ほかのがいい?」

フィアンマ「…出来れば、他の内容が良いのだが」

姫神「…うーん」

フィアンマ「……」

姫神「じゃあ。うそついたら…>>148」

148: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 17:08:44.40 ID:qB9HrgkSO
一生甘いもの禁止

149: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 17:29:36.90 ID:3ZU5JGA40

姫神「じゃあ。うそついたら…いっしょうあまいものきんし」

フィアンマ「…それは困るな。破らない様にしなければ」

改めて指切りを終え、手を離す。
フィアンマは元より、約束を守るつもりなど微塵もなかった。
聖職者をやめたとしても、姫神とは結婚しないだろう。
彼が自らの人格に欠陥のあることを知っている。
唯一の存在として誇っておきながら、卑屈に自己否定してしまうような気持ちの悪い人間であると。
完璧を求めながら、徐々に歪みつつあるということを。
少年時代の失敗の積み重ねは、確実に彼の精神へダメージを与えていた。

姫神「おさらあらいも。まかせて」

フィアンマ「…すまないな」

姫神に食器洗いを任せ、フィアンマは机へ向かう。
開いた本を眺め、適度に書き足していく。
計画のルートは決まった。後は、時期を見ながら実行していくだけ。
既に部下へ連絡して下準備は進めてある。
途方もない時間がかかったとしても、孤高の道だとしても、やり遂げなければ。




一年経った。
姫神は11歳に、フィアンマは20歳になった。
姫神の身長と髪は順調に伸び、身体つきも子供というより少女のそれへと変わりつつある。
だからといってフィアンマが異性として意識するはずもなく、日常は穏やかに過ぎていった。
決定の時まで、後一年ある。

そんな、ある日。

姫神は、ベッドが血まみれになっていた事に気がついた。

姫神「…え?」

へた、と座り込んだ姫神の細い脚の間から、血だまりは広がっていく。
調度、フィアンマが帰って来た。
ドアを開け、閉め、鍵をかけ。
血だまりと化しているベッドを見やり、次いで、姫神を見た。
姫神はというと、下腹部のじんじんとした痛み、真っ白なベッドが鮮血に染まる様に驚き、固まっている。

姫神「…わ。…私…」

フィアンマ「…、…初潮か」

なるほど、と納得した彼を恐る恐る見上げ、姫神は今にも泣き出しそうな顔をした。

姫神「…私、…なにも。してないの。ちが。…なんで。びょう。き?」

フィアンマ「…>>151」

151: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 18:07:14.62 ID:4OlAw1Cd0
安心しろ、しばらく痛いとは思うが怪我でも病気でもない

152: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 18:27:42.01 ID:3ZU5JGA40

フィアンマ「…安心しろ、しばらく痛いとは思うが、怪我でも病気でもない」

姫神「でも。ちが」

フィアンマ「女は一定の年齢に達するとそうなる。…そうだな、医学の本を読んだ方が、頭の良いお前の場合、早いだろう」

言うと、フィアンマは姫神の頭を撫でた後、ひとまず外へと引き返した。
生理用品が手元に無いからである。そもそも、手元にある方が妙なのだから、仕方がないのだが。
どのような手段を使ったのか、数分で帰ってきたフィアンマは、下着に貼り付けるタイプの生理用品、換えの下着、医学の本を渡した。
彼女が奮闘しているところを見て興奮する 的嗜好は生憎持ち合わせていないし、そこまで無遠慮・下衆な人間でもない。
そんな訳で、心中で応援しながらも、彼は彼女が居る方向とは真逆である机へ向かった。
姫神はちょっとした孤独感を覚えながらも一生懸命生理用品の使い方を読み、換えていく。
汚れている部分はウェットティッシュで拭き、痛む腹をさすりながら医学の本を読んだ。
曰く、月経とは月に一度、女性に訪れる、適切なホルモンバランスを保つ為にはどうしても必要なものらしい。

フィアンマ「…済んだか?」

姫神「うん。でも。ベッドが」

フィアンマ「…」

立ち上がり、フィアンマはベッドへ近づくと、嫌な顔一つせず片付けた。
生理現象で、汗や夢 と同じ類なのだから、仕方が無いし、汚いとも思わない。

姫神「…よごして。ごめんなさい」

フィアンマ「>>154」

154: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 20:11:30.44 ID:qB9HrgkSO
大丈夫。気にするな。俺様はもっと汚した事がある。

156: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 20:35:24.70 ID:zwOYOO0H0

フィアンマ「大丈夫。気にするな。俺様はもっと汚した事がある」

姫神「…ほんとう?」

フィアンマ「嘘は吐かん」

主に、夢 などで。
経血以上に、ある意味汚いものだ。
それを自分で処理した時の虚しさに比べれば、とフィアンマは思った。
ベッドを綺麗に清掃し、シーツを換えて。
姫神に寝ていろと告げ、フィアンマは仕事に戻った。
血液が排出されている感覚に慣れないのか、生理痛が辛いのか、姫神は毛布に顔を埋める。
血で汚していないそれは、所謂『おひさまのかおり』がした。

姫神「……」

うつらうつらとしながら、毛布に身を委ねる。
ホルモン分泌の関係なのか、唐突な出来事に驚いたのか、彼女は酷く眠かった。
フィアンマも引き止めるつもりはないので、声はかけない。
姫神は、段々と深い眠りに引きずり込まれていった。



『秋沙、ごめんね…』
『ごめんよ、秋沙ちゃん…』
『姫神ちゃん、…うう』

自分の血液を呑み込み、灰となっていく人々。
朝に起きれば『おはよう』、夕方に帰れば『お帰り』と言ってくれた、優しい人々。
自分をめいっぱい愛してくれた人達は、皆泣いて、謝りながら消えていった。
ごめんなさい、と口にする。
それでも、粉になってしまった皆は、蘇らない。
自分のせいだ、と思う。自分が居なければ、きっと、こんなことには。




姫神「…」

少女は、目を覚ました。
真っ暗な室内の中、ぽたぽたと涙が落ち、シーツを濡らした。
辺りを見回す。フィアンマは見当たらなかった。

姫神「…、」





姫神はどうする?>>+2

158: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 21:36:13.91 ID:XvY5QbwIO
フィアンマを捜しに出る

159: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 21:48:23.67 ID:zwOYOO0H0

もしかしたら、自分のせいで、彼も。
そんな悲しい結論に至り、ふらふらとしながら、姫神は外に出た。
夜のイタリアは、決して治安が良いとは言えない。
ましてや、大人ならともかく、幼い子供一人で出歩かせるべきではない。

姫神「…オレサマ。さん…」

うろうろと辺りを見回す。
フィアンマは見当たらない。
もしかしたら、迷惑でないと言ってくれたのは嘘で。
月経を経験し、大人になった自分は、もう嫌いなのかもしれない。

姫神「…ひくっ…」

ぐすぐすと目元を擦り、それでも大声では泣くまい、と堪える。
涙で滲んだ視界、真っ暗な場所。
気付けば、知らないところまできていた。
こんなところには来た事が無い、と、彼女は辺りを見る。
不意に、口に何かがあてがわれた。
一秒以上嗅いだ人間を気絶させる薬品が染み込まされている、白いガーゼ。

姫神「むぐ、む!」

じたばたと暴れるが、非力な少女の力などたかが知れている。

男「…よし」

男は、人身売買組織の一員だった。
子供であれば誰でも良かったのだ。
姫神の体質を知れば、更に手放さくなる事だろうが。

男「適当に担いで運ぶか…」

ひょい、と軽い姫神を抱き上げ、男は闇に消えていく。
幸いにも、姫神の髪には、赤いリボン<サーチに反応する霊装>が結ばれていた。




ほんの少し、雑用で家を空けていたフィアンマは、家に入る前に異変に気がついた。
鍵が開いている。出てきた時には、きちんと閉まっていた筈だ。

フィアンマ「……、」

入る。
室内には、誰も居ない。
こんな夜更けに、彼女一人で出歩くだろうか。
誘拐を疑う彼だったが、それはないだろうと結論づける。
わざわざ家にまで入って攫うという手口は明らかにアシがつく。

フィアンマ「………」

ここいらが、彼女の捨て時だろうか、とフィアンマは思う。
元々彼女は拾い物で。
捨てられていた玩具が汚れていたから、綺麗に保管していた、それくらいなもので。
例えば、人身売買組織から、裏や闇に流れたとしても。
自分の人生に、何の関係がある。どうせ、騙して学園都市に捨てる算段のくせに。

フィアンマ「…俺様は、」

どうせ、手を伸ばしたらロクな事にならない。
だから、見捨てる理由になるのか。
自分と結婚したいと、一緒に居たいと微笑んでくれた少女を、此処で探さずに見捨てるのか。








フィアンマはどうする?>>+2

160: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 22:41:51.57 ID:8mcHgKdbo
助けるに決まってんだろ!

161: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 22:52:59.06 ID:LpmJEcME0


フィアンマ「無論。邪魔者など消すのみ」

163: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 23:03:28.98 ID:zwOYOO0H0

フィアンマ「…見捨てても良い理由は、見捨てる理由にはならない」

そして、自分は彼女との生活を、それなりに気に入っている。
沢山の事を否定しても、それだけは肯定せざるを得ない。
それに際して、彼女を連れている人間は邪魔なのだ。
自分は、邪魔なものに対してどう接してきたか。
どう接していくべきなのか。

フィアンマ「…無論。邪魔者など、消すのみ」

幸せは、誰かが与えてくれるものじゃない。
自らが突き進んで、掴み取るべきものだ。
けれど、それは大人の理論であって。
子供は常に、大人の事情に振り回される。自分もそうだった。
ならば、あの少女を見捨ててはいけない、と思う。
彼女は非力なのだから、自分のような強者が平和を取り戻してやらなくてはならない。
もう一度だけ、個人に手を伸ばす。それで失敗したら、諦めれば良い。




男2「東洋人のガキは珍しいな」

男「だろ? マグレで原石だったりしねえかな」

男2「高く売れんだっけ?」

男「そうそう。ま、今回は  ガキが多いから 館でもいいんだけど」

物騒な会話を、姫神は聞いてしまう。
粗雑なイタリア語だったが、しっかりと勉強した彼女には、意味がわかる。
このままだと、車か船か、何かに積まれて何処か遠くへ運ばれてしまう。
それに抗おうにも、彼等が何らかの凶器を持っていることもわかっていた。
目隠しをされていて何も見えないが、周囲に同じような子供たちが居る事を把握する。

姫神(…オレサマ。さん)

助けに来ては、くれないだろう。
学園都市にへ行くかと持ちかける位なのだ。
きっと、もう。自分の事なんて、どうでもいいと思ってしまったのかもしれない。
彼女は、神にも仏にも祈らない。そんなことをしても、父母や隣人は皆死んでいった。

姫神(…やっぱり。わたしなんて。)

居ない方が、良いんだ。
自嘲して、目隠しをしているにも関わらず、目を瞑った。
これまでの生活が幸せ過ぎたのだ。沢山の人を、灰にしておいて。

男「あ? 何だ、鍵が開い、…ごッ!!」

大きな物音がした。
姫神を含む十数人の子供達は、一体何事かと固まる。

男2「な、何なんだテメェ…!? お、おいしっかりし…ご、ァがぐ、ぎっっ…ッ!」

フィアンマ「>>165」

165: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 23:08:14.96 ID:8mcHgKdbo
消されるか消えるか選ぶ時間はやろう

166: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 23:19:06.63 ID:zwOYOO0H0

フィアンマ「消されるか、消えるか。選ぶ時間はやろう」

無慈悲な宣告に、かえって敵意が湧いたのか。
どこから出てきたのか不明だが、男数人がフィアンマを囲む。
武器は多種類で、刃物、銃器、様々なものがあった。

男3「こっちは大金がかかってんだ。そう簡単に諦められるか」

男4「細っこい男一人で何が出来んだ。ああ?」

フィアンマ「そうだな」

彼は万能だ。
彼が『倒す』と決めた時点で、相手方の運命は『倒される』ただ一つに絞り込まれる。
彼には、戦闘において危惧すべき事が何も無い。

速度。
硬度。
知能。
筋力。
間合。
人数。
得物。

それらの下らない事柄は、彼の前では障害にも値しない。
路傍の石と同じく、気にかける程の事でもない。
手を出せば戦いが終わってしまうフィアンマにとって、勝利の為の積み重ねなど、一切必要無い。
相手が邪悪であればあっただけ、彼の神聖なる力は増していくのだから。

フィアンマ「世界を救う程度なら、出来ると思うが」

だから、彼が行ったのは、右手のひと振り。
彼の右肩から乖離した、歪な巨人の腕のようなもの―――『聖なる右』は、振るわれる。
そして一切の容赦なく、男達を一人残らず叩きのめした。

フィアンマ「ふん。群れる事でしか立ち向かえんのか」

軟弱な事だ、と鼻で笑い、フィアンマは子供達に近寄る。
しーん、と静まり返った空間で、子供達は目隠しを解かれていく。

姫神「……。…オレサマ。さん?」

フィアンマ「そうだよ」

姫神「…なんで。…たすけにきて。くれたの…?」

夜中に家を抜け出すような悪い子なのに。
沢山の人を灰にした最低な子なのに。
迷惑をかけてしまう子供なのに。

言葉に出来なかった数々の想いが、涙という形で排出される。

姫神「なんで…」

フィアンマ「…>>168」

167: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/25(火) 23:21:05.06 ID:qB9HrgkSO
抱きしめて

…家族だからだ

169: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/25(火) 23:33:48.00 ID:zwOYOO0H0

フィアンマ「…」

彼は腕を伸ばし、まだ細くて小さい体躯を抱きしめた。
呆然とする姫神へ、彼は至って真面目に言う。

フィアンマ「…家族だからだ」

むしろ、それ以外に理由があるのか。
そう言わんばかりに、言い切る形で。
珍しく、一切の虚偽が混じっていない言葉だった。
姫神は、どうにか泣きやもうと我慢して。
それから、我慢が過ぎて二回程噎せて。
そして、彼の肩に顔をうずめて、珍しくわんわんと泣いた。

姫神「うわああぁああっっ…! ごめんなさい。ごめんなさい…!」

フィアンマ「…別に、無事だったんだ。問題あるまい」

姫神の居場所は、サーチ術式に霊装を引っ掛ける形ですぐにわかった。
幸いにして、彼女の髪が乱暴に扱われていなかった事が功を奏した。

姫神が泣き止んだところで。
ふと、フィアンマは自らに視線を向けている32の瞳に気がついた。

フィアンマ「……」

子供「…ヒーロー?」

子供2「ヒーローさんだ!」

子供3「どうやってやっつけたの?」

一人の子供の発言を皮切りに、質問攻めと共にフィアンマの周囲へ子供が群がる。
それを払う事も出来ないまま、フィアンマは口ごもった。
まさか『聖なる右』について説明する訳にもいくまい。
そして、憧れられるのもまっぴらごめんだった。
何しろ、自分は世界最"暗部"の『右方のフィアンマ』なのだから。

フィアンマ「>>171」

171: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 00:05:37.84 ID:EOaPnscco
全て忘れろ


魔術行使

173: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 00:19:12.86 ID:sifO4obD0
《>>172様 エピソードを迂回して迂回すれば、四大属性全ての魔術はどうにか扱えるみたいです ただ、属性配置が歪んでいるので全力は出せないようですが…》


フィアンマ「全て忘れろ」

言うなり、彼はポケットからチョークを取り出し、床に幾つか奇妙な記号を書いた。
ここ数時間の記憶を封印しておくための術式だ。
脳に圧迫をかけることもなく、『幻想殺し』で触れなければ消える事も無い、強力なもの。
消去ではうっかり不要な情報まで消してしまう恐れがある為だ。
そして、この記憶封印は、男達に対する恐怖についても消すものだった。
射程範囲内から姫神だけを外してしまったのは、何故か、わからない。
初めて誰かを救えたという思い出の痕跡を完全に消すには、彼はまだ若く、吹っ切れていなかった。


数時間かけて後処理を済ませ。
子供達の身柄は一先ず部下である司祭などに頼むと、フィアンマは姫神を連れて帰って来た。
そっと彼女の身体を抱き上げ、ベッドへと寝かせる。
数年前よりも重くなったな、と親のようなことを思って、彼は小さく笑った。

フィアンマ「…今夜の事は全て夢だ。眠れ」

姫神「…オレサマさん」

フィアンマ「……良いんだ」

姫神は、彼が人助けに失敗する度に苦しい思いをしては独りぼっちで泣く事を知っている。
初めて救えたのに、その成功を、どうして塗りつぶしてしまうのか。
姫神にはわからなかった。そして、きっと、どれだけ年齢を経てもわからないだろう。
この苦しみは、善行をかき消さねばならない理由は、暗部に堕ちた者にしかわからない。

姫神「…オレサマさん!」

フィアンマ「>>175」

175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 01:09:52.32 ID:tHxOmQzSO
いいと言ってるだろう!


……俺様は、お前が無事なら、それでいい。お前を救えたなら、それでいいんだ。だから、もう何も言うな

176: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 01:23:24.97 ID:sifO4obD0
 
フィアンマ「いいと言っているだろう!」

声を荒げられ、姫神はびくりとすくむ。
思わず毛布を握る彼女に、何故声を荒げたのかもわからないまま、フィアンマは数度深呼吸を繰り返す。
精神的に自分を落ち着けるには、まず身体的に落ち着ける必要があるからだ。

姫神「……。…」

フィアンマ「……俺様は、お前が無事なら、それでいい」

自分に、言い聞かせるかのように。

フィアンマ「お前を救えたなら、それでいいんだ」

許されない事を弁解するかのように。

フィアンマ「だから、もう何も言うな」

それは、少女の錯覚だったかもしれない。
けれど、その時。
彼の、世界を満たす悪意へ向けた憎悪に満ちている金色の瞳は。
不安げに、揺れていた。泣きそうな、我慢しているような。

姫神「…おやすみ。なさい」

フィアンマ「…おやすみ」

落ち込みながら、姫神は目を閉じる。
自分が心を開けば、相手も心を開いてくれる。
そんなものは子供の幻想だ。フィアンマはそんな甘い男ではない。

やがて、緊張や恐怖による疲れも手伝ってか、彼女はぐっすりと寝入った。
フィアンマは手を伸ばし、彼女のさらさらとした黒髪をなでて、俯く。

フィアンマ「…すまない。…すまなかった」

何度も、何度も謝罪する。
彼女はただ、自分を慮ってくれただけなのに、怒鳴ってしまった。
反省すべき点だ、と。彼はどんどん、自分を追い込んでいく。




翌朝。
フィアンマは、いつも通りだった。
朝食を用意して、姫神が目を覚ますのを見て、挨拶をしてから、仕事に出かける。

姫神「いってらっしゃい」

フィアンマ「…行ってきます」

彼の背中が見えなくなるまで見つめた後。
姫神は家の中に戻り、夕飯の内容について考える。
昼食はいつも共に出来ない。だから、晩御飯を一生懸命作る事で、彼に満足して欲しかった。

姫神「…そうだ。>>178をつくろう」

178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 01:52:23.10 ID:tHxOmQzSO
ビーフストロガノフ

179: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 02:05:55.57 ID:sifO4obD0
《今日はここまで。お疲れ様でした》


姫神「…そうだ。ビーフストロガノフをつくろう」

フィアンマは、割と甘いものを好む。
甘党まではいかないものの、味付けを甘めにしがちだ。
それこそが彼の好みなのだろう。
料理の味付けとは、その料理を作った人間の感覚や好みが反映されるものだ。

ビーフストロガノフとは
牛肉の細切りとタマネギ、マッシュルームなどのキノコをバターで炒め、若干のスープで煮込む。
仕上げとしてスメタナ(=サワークリーム)をたっぷりいれる。
バターライスや白飯、パスタ、揚げたジャガイモと共に食される場合が多い。

そんな食べ物である。
少し甘い味付けで作ろうと決意しながら、姫神は調理に取り掛かる。
煮込み料理は、いつから取り掛かっても良いものだ。
むしろ、早め早めに行動しなければ、良い味にはならない。

これで少しは元気が出ると良いが、と思いながら。
きっと夜に一緒に食べる事は出来ないと、知っているのに。



日付が変わる頃。
姫神がとうに寝付いた後、フィアンマは帰って来た。
彼女の枕元には、一冊の本。
もしや魔術関連ではないだろうなと警戒するフィアンマだったが、違った。
何の事は無い。彼女が時折愛読する、優しい魔法使いをテーマにした絵本だ。

フィアンマ「……」

今日の料理は手が込んでいる。
そう思いながら、ビーフストロガノフを温めて口にする。
この時間に食べては胃もたれする恐れがあったものの、構わない。
彼は、姫神の手料理をなるべく帰宅してすぐに食べると決めている。

姫神「んん…。…ぁ。…オレサマさん。…おかえり。なさい」

フィアンマ「…ただいま」

姫神「…きょうのは。りきさくちゅうの。りきさく。…おいしい?」

フィアンマ「>>181」

181: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 08:57:20.22 ID:EOaPnscco
疲れが吹き飛ぶ魔法なぞどこでおぼえた?

182: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 15:31:53.38 ID:69EeRJkD0

フィアンマ「疲れが吹き飛ぶ魔法なぞ、何処で覚えた?」

くすりと笑って、フィアンマは姫神を褒めた。
寝ぼけた頭ながらも褒められた事はわかったのか、少女は嬉しそうにはにかむ。

姫神「えほんから。…私のしょうらいのゆめは。まほうつかい」

フィアンマ「魔法使い、か」

本職が魔術師であるフィアンマには、何だかその願い事が綺麗に思えた。
魔術師の出発点が悲劇に基づくものなら、魔法使いの出発点は幸福に基づくものだ。

誰かを守る為に誰かを傷つけるのが前者で。
誰かを守る為に誰かを愛するのが後者だ。

絵本から術式を読み取る事は魔術的な職業人にも等しい、などとうっすらと思って。
フィアンマは、起き上がり、近づいてきた姫神の頭を撫でる。

姫神「…私。まほうつかいになれる?」

フィアンマ「なれると思うぞ」

姫神「…まほうがたくさんつかえるようになったら。オレサマさんのおしごとを。おてつだいできるから。いっしょにいられるね」

フィアンマ「……、」

子供の寝言だ。
わかっていても尚、彼は自分の心が痛んだ事に気がつく。
その焦げ付くような疼痛を無視して、料理を平らげてしまう。

フィアンマ「…まだ朝ではないんだ。もう一度寝ろ」

姫神「うん…」

フィアンマと話がしたくて起きてきただけらしい。
姫神はうとうととしながらベッドへ戻っていった。

フィアンマ(…一緒に)

自分の手を見る。
汚れている手だ。彼女とは違う。





時間が過ぎ行くのは、本当に早いもので。
姫神は12歳に。フィアンマは、22歳になった。
『準備』が大体済んだフィアンマは、最近は家をあまり空けないようになり。
寂しい思いをせずに毎日を過ごしていた姫神は、問いかけを持ちかけられる。

フィアンマ「一年前にも話をしたが」

姫神「…学園都市」

フィアンマ「あぁ。…お前の力を低める手段が見つかるかもしれん」

姫神「…。…私は…」





区間>>184-186の多数決で姫神の進路決定。
1IDにつき1票、番号指定でお願いします。

1.「………わかった。…きっと。迎えに来て」(学園都市へ行く)

2.「やっぱり。嫌。…俺様さんと。一緒に住んでいたい」(引き続きフィアンマ宅に居住)

185: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 16:37:52.01 ID:aKESilhq0
2

187: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 16:52:20.32 ID:69EeRJkD0
《結果:1が1票、2が2票、よって2に決定しました。ご協力ありがとうございます》


姫神「…。…私は…」

フィアンマ「……」

静かに、考えて。
彼女は、首を横に振った。
学園都市へは、行かない。

姫神「やっぱり。嫌。…俺様さんと。一緒に住んでいたい」

フィアンマ「……、…後悔する事になるぞ」

彼の口から、本音が溢れる。
ここで姫神が学園都市に行っていれば、離れておけば。
数年後に一緒に居なければ良かったと後悔することもないだろう。
容易に未来が想像出来てしまうフィアンマは、そう告げた。
その一言で、どうにか、彼女の気が変わってくれる事を祈って。

姫神「…後悔なんて。しない」

フィアンマ「…、」

姫神「…一緒に。居させて」

お願い。
真っ直ぐな瞳に射抜かれ、フィアンマは頷いた。
仕方が無い。彼女がそう言うのなら、もうしばし、一緒に居るしかない。

フィアンマ「…わかった。……だが、学校には行っておいた方が良い」

姫神「…」

フィアンマ「近所に中等学校がある。…女学校と共学、どちらが良い?」

姫神「>>189」

189: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 16:54:18.69 ID:/Wb74z8z0
女学校

190: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 17:12:04.61 ID:69EeRJkD0

姫神「女学校」

近くにある学校の内。
共学は、平凡だったが、女学校はお嬢様然としている雰囲気の学校だ。
うっすらと憧れはあったらしい。
制服も、ちょっとしたワンピースのような作りだった。

フィアンマ「あの学校は制服があるから、巫女服は私服にしろ」

姫神「うん」

確かあそこは飛び級が可能だったような、とうっすらと思いながら言いつつ、フィアンマは暇を持て余す。
そんな彼へ、チェスがしたいと持ちかけながら、姫神はチェスセットを取り出した。
丁寧にテーブルへ並べ、向かい合って座る。
小学校には通っていなかったが、勉強に関して彼女が苦労することは無いだろう。
あるとすれば化学位なものだが、姫神の暗記力であれば問題無いだろうと、彼は思う。

姫神「…俺様さんは」

フィアンマ「んー?」

姫神に先攻を譲り、駒を動かしていく。
多少駒を抜いてあるのは、フィアンマの手加減だ。

姫神「やっぱり。頭の良い女の子の方が。好き?」

彼は常常、頭の良い女は苦労する、と考えている。
だが、それと嫌いはイコールではない。

フィアンマ「>>192」

192: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 17:19:57.91 ID:J677tZHp0
姫神が好き

193: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 17:32:02.41 ID:69EeRJkD0

フィアンマ「秋沙が好きだ」

姫神「……。」

フィアンマ「その定義で言えば、頭の良い女の方が好きなのだろうな」

お前は頭が良いし、と付け加えるフィアンマの真意は見えない。
それを推し量る前に、姫神は駒を手にしたまま固まった。
顔が真っ赤である。
16歳になったらお嫁さんにしてね、という約束をしていても。
ここ最近改めてフィアンマへの恋心に悩まされている12歳の少女にとって、意中の相手からの「好きだ」はなかなか刺激が強い。

姫神「…急に。そんなことを。言うのは。少し。反則だと。思う」

フィアンマ「いつもの事だろう」

姫神「………わ」

フィアンマ「…ん?」

姫神「…私も。好き」

フィアンマ「…そうか。知っているが」

姫神「……もう」

いつも笑って軽口を叩くせいで、本心が見えない。
どちらなのだろうと思いながら、彼女は駒を動かしていく。

姫神「…学校って。楽しいところかな」

フィアンマ「>>195」

194: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 17:35:05.56 ID:tHxOmQzSO
さぁ、行った事がないから俺様はわからんな。

…楽しいといいな

197: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 17:46:06.91 ID:69EeRJkD0
 

フィアンマ「さぁ、行った事が無いから、俺様はわからんな」

姫神「……」

ごめんなさい、といった雰囲気の姫神に苦笑して。
駒を動かし、王手をかけながら、彼はのんびりと言う。

フィアンマ「…楽しいといいな」

姫神「…友達作り。してみる」

フィアンマ「そうか」

例え、沢山の嘘をついていても。
約束を守るつもりが、無いとしても。
フィアンマは、姫神に幸せになって欲しいと思っている。
姫神に限った話ではなく、世界中の人々に、幸せになって欲しいと。
その中でも、姫神は特別だった。
内乱を静観する彼が、姫神が誘拐されただけで直接動く程に。

フィアンマ「…集団生活には何かとトラブルが起こる。自分で解決しようとする姿勢は立派だが、悩みが出来たら言え」

姫神「…うん」

ちなみに、彼女がこれから通う中等学校は、ローマ正教の息がかかっている。
故に、フィアンマはその気になれば彼女の学園生活全てを把握・操作出来るだろう。
だが、そうやって策略によって人生を振り回すのは、『駒』と認めた相手だけでいい。

姫神「……やっぱり。強い」

フィアンマ「もう少し手加減するか?」

姫神「…要らない。勉強する」

チェスの指南書を読めばきっと。
姫神はそう思いながら、丁寧にチェスセットを片付けていく。

姫神「そういえば」

フィアンマ「?」

姫神「私も。…ローマ正教を。信仰するべき?」

フィアンマ「>>199」

199: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 17:53:18.70 ID:tHxOmQzSO
日本国憲法第20条で『信教の自由』というのがあってだな…

200: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 18:05:12.42 ID:69EeRJkD0

フィアンマ「日本国憲法第20条で『信教の自由』というものがあってだな…」

産まれで宗教を強要される地域もあるが、イタリアは別段そうではない。
バチカンに住む人間には確かにローマ正教の者ばかりだが、そうでなければ住めないという訳でもなく。
勿論、女学校の生徒はローマ正教徒が多いかもしれない。
けれど、周囲に話を合わせるには、教養程度に宗教学の知識を得ている程度で良い。

フィアンマ「…もしかすると学校の方で洗礼は受けるかもしれんが」

姫神「…"するべき"というよりも。してもしなくても良い?」

フィアンマ「そういう事だ」

そもそも、神とは無理やり信仰するものではない。
どんな理由であれ、必要な人間が信仰するものなのだ。
親が十字教徒であるからといって、子も十字教徒である必要は無い。
それと同じように、フィアンマが十字教徒だからといって、姫神が神道主義でも問題は無いのだ。
姫神はどちらかというと無宗教に近い状態だが。

姫神「…ちょっと。考えてみる」

フィアンマ「そうしろ」




中等学校に入って、数ヶ月。
姫神はひとまず、大人しめの女子のグループに属していた。
女の付き合いというものは、とかく面倒だ。
女三人寄れば姦しいというが、正しくそうである。
お嬢様学校とはいっても、実態が楚々としているかどうかは別であり。

少女「そういえば、アイサはお料理が上手ね。趣味?」

姫神「…まぁ。そんなところ」

少女2「アイサはまっすぐ帰るけど、恋人でも居るの?」

姫神「>>202」

201: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 18:18:36.64 ID:tHxOmQzSO
そう。6才の時からの。彼氏////

204: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 18:37:03.53 ID:69EeRJkD0

姫神「そう。6歳の時からの。彼氏」

顔を赤くし、俯きがちに。
それでもやや誇らしげに言う姫神。

少女「アイサ、顔が赤いわ」

姫神「許嫁でもある」

少女2「イイナズケって何?」

姫神「えっと。…フィアンセ」

少女「結婚式には呼んでね、アイサ!」

姫神「うん。ありがとう」

えへ、とはにかむ姫神は、もう年相応だ。
頭の良さ故に少々精神年齢が高い部分もあるが、卑屈さはだいぶ薄れた。
過去の出来事を忘れた訳ではない。それでも、前を向く。
姫神の友人達は、彼女の彼氏兼フィアンセに興味が湧いたらしい。
その辺りは、中学一年生相当の少女達へ、愛らしくもちょっぴり宿る野次馬精神か。

少女2「アイサ、私会ってみたいわ」

少女「私も。そのフィアンセは、お仕事中?」

実際のフィアンマはというと、午前中に仕事を済ませて、現在は家に居る。
彼女達が歩いているのは、帰り道だ。
珍しく、車の迎えなどで帰らないグループなのである。
つまり、このまま姫神の住む家へ行ってフィアンマに会っても良いかと、そういう問いかけ。

姫神「>>206」

205: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 18:38:59.02 ID:tHxOmQzSO
ううん。家で。私の帰りを待っててくれてる。

…よかったら。寄ってく?

207: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 18:55:06.58 ID:69EeRJkD0

姫神「ううん。家で。私の帰りを待っててくれてる」

少女(夜のお仕事かしら?)

少女2(アイサの恋人だもの、きっと美形なんでしょうね!)

姫神「…よかったら。寄ってく?」

少女「ええ」

盗られる、などと不安がらないのは、所謂正妻の余裕か。
それとも特に何も考えていないのか、姫神はそう問いかけた。
勿論、と頷いた友人二人と共に、街を歩く。
かつて夜中に飛び出した時は迷ったが、今はもう歩き慣れたものだ。

三十分かかるか、かからないか。
その程度の時間で、姫神、もといフィアンマ宅へ到着。
いたって普通の家である。少女達が想像しているようなお城ではない。

姫神「ただいま」

フィアンマ「ん、…お帰り」

フィアンマは背中まで伸びた赤い髪を一つに簡素に結わえた状態で、本を読んでいた。
衣服はシンプルな黒に白ラインの入ったシャツと、細身の黒いズボンである。
そんな彼は姫神を見やり、パタン、と本を閉じる。
彼の美青年然とした容姿と、一見では優しげな様子に、少女達は思う。

少女(>>209)

少女2(>>210)

209: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 18:58:01.47 ID:tHxOmQzSO
え、俳優とかアイドル?

210: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 18:59:04.86 ID:TtHa5vXc0
犯罪だ、この年齢差は犯罪だ
でもかっこいい

211: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 19:08:55.22 ID:69EeRJkD0

少女(え、俳優とかアイドル?)

少女2(犯罪だ、この年齢差は犯罪だ。…でもかっこいい)

姫神「この前。話した」

フィアンマ「あぁ、友人だったか」

彼は積み上がった本が崩れないように適度に片付け、姫神達を迎え入れた。
一応は、保護者としての自覚があるのか。
はたまた、これはこれで良い暇潰しだと思ったのかもしれない。

クッキーと紅茶を振舞われ。
基本的には少女達に話させる方向で、フィアンマは会話をしていた。
普段相手にする教諭も女性ばかりの女学生生徒はフィアンマ相手にドギマギとしながら、いつ恋の話題にシフトするか迷っている。

フィアンマ「…それで、普段はどんな話を?」

姫神は「大体は勉強の話」

フィアンマ「感心な事だ」

少女「あの、」

不意に、少女が言葉を発する。
子供相手にわざわざ冷たくする理由もなければ、格好をつけるつもりもないので、フィアンマは普通に促した。

フィアンマ「何かな、お嬢さん」

少々胡散臭い。
が、彼の見目に本来似合った話し方である。

少女「アイサのどんなところが好きなんですか?」

まだ、恋人が居る同年代に嫉妬する年齢ではない。
どちらかというと、彼女は惚気を聞いてみたいタイプらしい。
きらきらと瞳が輝いている。乙女の、期待の眼差し。

フィアンマ「>>213」

212: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 19:18:52.53 ID:tHxOmQzSO
どんな所が好き、と聞かれてもな…
俺様は明確には答えられん。好きな部分が余りにも多すぎてな。
だが「じゃあ例えばその中でどこ?」と聞かれても、どの部分も同じくらい好ましいのだから、どれを言えばいいのかすらわからんほどなんだ

214: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 19:32:16.61 ID:69EeRJkD0

フィアンマ「どんな所が好き、と聞かれてもな…」

考え込んでみる。
素振りだけなのか、実際に考えているのかは不明だ。
それが恋愛感情かはさておき、フィアンマは姫神の事を好きである。

フィアンマ「俺様は明確には答えられん。好きな部分が余りにも多すぎてな」

姫神「……」

徐々に顔を赤くしていきながらも、制止はしない姫神。

フィアンマ「だが、『じゃあ例えばその中でどこ?』と聞かれても、どの部分も同じくらい好ましいのだから、どれを言えばいいのかすらわからんほどなんだ」

つまり、全部が好ましい。
容姿に限らず、性格、振る舞い、話し方、センス。
それらをひっくるめて、全てが好きなのだから、論じる事も出来ない。

少女2「アイサ、愛されてるね」

嫌味でなく、本当に心からそう言い。
その言葉を発さなかった方も含め、少女達はにこにこと笑んだ。
日本の諺にある『類は友を呼ぶ』というやつなのか、姫神の友人は性格が真面目ながらも素直な子のようだ。



二時間程話をした後。
門限に気がついたのか、少女達は慌ただしく帰っていった。

姫神「………」

フィアンマ「…続きを読むか」

使った食器などの片付けを終えて。
そういえば本を読みかけだった、と立ち上がる彼の手を、姫神が掴む。

フィアンマ「…どうかしたのか?」

姫神「>>216」

216: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 19:35:55.60 ID:7WzPLunAO
もう少しだけそばにいてほしい

218: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 19:47:24.62 ID:69EeRJkD0

姫神「もう少しだけ。そばにいて欲しい」

フィアンマ「……構わんが」

引き止められ、フィアンマは元の場所へ座り直した。
部屋の中に響くのは、かち、かち、という時計の針の音。
フィアンマが振り払わなかった事もあり、姫神は彼の手を掴んだままでいる。

姫神「……」

フィアンマ「……良い友人だな」

姫神「…うん。いつも優しくしてくれる」

フィアンマ「そうか。…気の合う友人はそうそう見つかるものではない。大切にしろ」

姫神「うん」

おずおずと。
勇気を出して、彼女は指を絡ませる。
所謂恋人繋ぎへの移行だった。

姫神「…わ。…わたっ。…私も。…どこか。と指摘出来ない位。好き」

フィアンマ「…先程の話か?」

姫神「……」

こくり、と。
姫神は無言で頷いて、細いながらも確実に自分よりは長くて太めの指を握る。
今の、彼女の精一杯だった。

姫神「…誕生日に。欲しいものが。あるの」

フィアンマ「欲しいもの、か。何だ?」

姫神「>>220」

220: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 21:48:28.79 ID:xfWj8vR10
指輪

221: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 22:03:48.74 ID:H/SSvQvX0

姫神「指輪」

フィアンマ「…指輪?」

姫神「そう。…こん。…婚約。指輪」

まだ、もらっていなかったから。
そうもじつく彼女の瞳は、本気だ。
フィアンマは一応約束は破棄していない。
幼い頃にした約束をここまで覚え、本気にするとは思わなかったのだ。
だが、姫神はフィアンマの事を好いている。

誰かを救いたいと苦悩する優しさが。
自分の為に何かをしてくれる強さが。
自分のワガママを聞いて、窘めてくれる甘さが。

それ以外にも、言葉に出来ない数々の部分を。
彼について知らない部分である『右方のフィアンマ』以外全てが、好きだ。

姫神「…ダメ?」

フィアンマは、聖職者だ。
それ自体にこだわりは無い。
やめてしまっても構わないとは思っている。
だが、やめたところで、世界を救う為に、人ではなくなる。
『神上』とでも呼ばれそうな位置へ至って、世界を救う。

成功すれば、神上に。
失敗すれば、戦犯に。

何にせよ、結婚したところで、姫神を幸せにすることは、出来ない。
夫として一緒に住む事も出来ないだろう。

フィアンマ「…>>223」

223: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 22:14:32.58 ID:tHxOmQzSO
どんなものがいいんだ

224: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 22:35:38.31 ID:H/SSvQvX0

フィアンマ「…どんなものがいいんだ」

それでも、暫くは。
今暫くは、彼女に優しい幻想を見せておいてあげよう。
わざわざ崩す事も無い。
此処でネタバラシしたとして、何があるというのか。

姫神は希望は無いのかと持ちかけられて、うんうんと悩む。

姫神「…あなたを」

フィアンマ「…俺様が?」

姫神「いつでも。あなたを思い出せそうなデザインのものが。良い」

フィアンマ「少し難しい注文だな」

後は、フィアンマに任せる。
そう結論を出して、彼女はドキドキとした様子で見つめてくる。
彼は適当な相槌を打つと、しばらく悩んだ。




次の日。
フィアンマは、宝石店前で悩んでいた。
自分を思い起こせそうなデザイン。
それでいて、彼女の細い指に似合いそうな指輪。
そして、且つ、婚約指輪らしいもの。
ディスプレイを眺めて悩む彼へ、一人の女が声をかけた。

ヴェント「何見てんの?」

今代、前方のヴェント。
私服姿で完全オフの彼女は、普通の女性に見えた。
一度事を起こす時には、ピアス等で恐ろしい顔つきに変えるのだが、現状、黙っていれば美人である。

フィアンマ「見てわからんか。指輪だよ」

ヴェント「宝石店のものを霊装にすんのはちょっとばかし面倒なんじゃないの?」

フィアンマ「違う。……だ」

ヴェント「…何?」

フィアンマ「婚約指輪だ。女に贈るものだ。納得したのなら帰れ。…いや、待て。手伝え」

ヴェント「は? 何を」

フィアンマ「指輪選びだ」

ヴェント「何で私が」

フィアンマ「どうせ暇だろう」

ヴェント「暇だけど」

フィアンマ「なら良いだろう。別に国を潰して来いと言っている訳ではあるまいし。何なら金で賄える物を買ってやる」

ヴェント「…>>226」

226: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 22:53:32.45 ID:5EKIFuga0
あげる相手なんかいたのかよ

227: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 22:57:43.37 ID:H/SSvQvX0

ヴェント「…あげる相手なんかいたのかよ」

フィアンマ「数年前から、な。強請られたのはつい最近だが」

ヴェント「…ふーん」

フィアンマ「…機嫌が悪いな?」

ヴェント「別に」

ふん、と鼻を鳴らしながらも立ち去らないという事は、手伝ってくれるらしい。
さて、後でどのような見返りを要求されるだろうか、と思いながら、彼はヴェントと共に街中の宝石店を見て歩いてみた。
婚約指輪、と一口に言っても、沢山の種類がある。
フィアンマを連想させるような指輪、というと、ルビー等があしらわれた『赤』ということになる。
それにしても、デザインは星の数…まではいかないが、数え切れない程。

ヴェント「…これとかいいんじゃないの?」

彼女が指差したのは、一つの指輪。




どんな指輪?(アバウト可)>>+2

229: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 23:02:11.51 ID:5EKIFuga0
姫神に似合うやつ

230: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/26(水) 23:11:39.05 ID:H/SSvQvX0

細いリングだった。
そこに、ルビーとトパーズが並べてはめ込んである。
女性用のそれは、無駄な装飾を省く事で、かえって純真さを表現しているかのようだった。
婚約にはうってつけの、ロマン溢れる逸品といったところか。

フィアンマ「…センスが良いな」

ヴェント「当たり前じゃない。…ま、女ならこういうのが好きだと思うケド」

フィアンマ「お前もか?」

ヴェント「私の話はしてない」

フィアンマ「…これにするか」

揃いで買う必要は無いだろう。
そう判断して、何号サイズか告げた上で、しばし待つ。
一時間と経たずに、指輪の入った宝石箱のしまってある高級そうな紙袋が渡された。
円にして、30万。
ポン、と店員に渡したフィアンマは、ヴェントと共に店から出る。

フィアンマ「一応、礼は尽くそうか。何が良い?」

食事か、或いは高級な物品か。
特に身構えるでもなく、彼は紙袋片手に問いかけた。

ヴェント「>>232」

232: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 23:28:14.45 ID:5EKIFuga0
礼が貰いたくてこんなことしたんじゃねぇよ

233: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 00:03:20.56 ID:kJbA1bFe0

ヴェント「礼が貰いたくてこんな事したんじゃねぇよ」

唐突に不機嫌なヴェントに、フィアンマは首を傾げる。
彼にとって、人生とはギブアンドテイクだ。
何かをするには代償が必要だ。仕方のない犠牲が。
金を稼ぐ為には時間が必要になるし、愛を築くにはコミュニケーションが要る。
そしてヴェントは、誰かに遠慮するような控えめな性格はしていない。

フィアンマ「…借りを残していると気味が悪いんだよ」

ヴェント「……」

だから、何か形で。
そう問われ、考えても。




―――ヴェントの欲しい物は、もう、誰かに渡される。


ヴェント「…なら、…来月までに考えておく。アンタ、生真面目が過ぎんのよ」

フィアンマ「そうか?」

ヴェント「一人称が『俺様』なんだし、もう少し傲慢に生きたら?」

フィアンマ「と、言われても。俺様も、これで十字教徒なのでな」

言葉を交わした後、彼女は何処かへ行く。
相変わらず無闇に攻撃的な女だ、と思いながら、フィアンマは自宅へ向かった。



誕生日。
例年通りケーキを食べ、姫神の好物を食卓に出し。
フィアンマは、彼女に宝石箱を差し出した。
角の丸い資格の、指輪の入ったもの。
ぱか、と開ければ、姫神の眼下に美しい指輪が晒される。

姫神「……」

フィアンマ「>>235」

234: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 00:15:02.43 ID:5lOxbjYSO
誕生日、おめでとう。約束の婚約指輪だ。
…気に入ってもらえるといいが。

236: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 00:36:56.45 ID:kJbA1bFe0

フィアンマ「誕生日、おめでとう。約束の婚約指輪だ。…気に入ってもらえると良いが」

トパーズとルビーの嵌った、細身の指輪。
姫神はそっと指輪をジュエリーケースから取り出し、自分の左手薬指へ嵌める。
フィアンマの予想通り、彼女の指によく似合った。
白い細い指を際立たせるように、光る宝石。

姫神「……」

姫神は、黙ったままでいる。
しばらく、彼女は自分の左手薬指を見つめた。
フィアンマからの、愛の証だ。
結婚の約束を形とした、素敵な贈り物。
自分が欲しいと言ったものを、こうやって用意してくれる。
やっぱり、彼は優しい人だ。
そして、好きな人だ、と再確認する。
指輪一つで、何だか永遠に一緒にいられる事が定まったようで。

嬉しい。
彼の事は、前々から家族だと思っている。
だけれど、婚約者だということをこんなにも強く意識したのは、初めてだ。
彼に何があっても、支えてあげたいと思う。
そして、一緒に居たいと思う。願う。

フィアンマ「…秋沙?」

姫神「…>>238」

237: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 00:37:50.03 ID:ctHNwBHn0
…っ(嬉しさのあまり号泣)

239: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 01:25:57.35 ID:kJbA1bFe0
《お疲れ様でした。今日はここまで》


姫神「……っ」

嬉しい。ありがとう。
言葉を発そうにも、その前に涙が溢れてくる。
悲しい事や痛み、悩みで泣いた事はあっても、嬉し涙は初めてかもしれない。
ぐすぐすと泣く姫神に、それでも悲哀の色は感じなかったのか、フィアンマは薄く笑む。

フィアンマ「……」

姫神「だい。…だい。っじに。…する…」

指輪の嵌った、自らの左手薬指を右手で包み。
姫神は嬉し涙を流しながらも、微笑んだ。
しゃくりあげ、呑み込む涙は、しょっぱくも、少し甘いような気がして。
愛される喜びというものに浸りながら、彼女は何度も、ありがとうと告げた。




ローマ正教で些細な問題が起き。
『神の右席』、即ち教皇への意見役の長として会議に出席した後。
フィアンマは、ふと思い出したようにヴェントへ声をかけた。
本日の仕事は会議の結果をアックアに伝えさせれば終了なのである。
そして、その為の手はずはとっくに済んでいた。

フィアンマ「そういえば、今月までに決めておくと言っていたな」

ヴェント「あぁ、礼ね。忘れてる訳じゃない。決めたわ」

フィアンマ「そうか。内容は」

ヴェント「>>241」

244: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 14:50:09.82 ID:QRuGQUop0

ヴェントは唐突に、フィアンマを壁へと押し付ける。
一切の敵意も悪意も攻撃意思も感じられない彼女に不可解そうな彼の唇に、ヴェントの唇が重なった。
 
一方的に為されるがまま、ショックというよりは疑問の感情が強く、フィアンマは大人しく受け入れた。
これが彼女の求める礼だというのなら、受け入れるべきだ。
彼はどこまでもシビアで、ストイックで、且つ、自分という人間自体には価値を見いだせない卑屈な青年だった。
つまり、自分に関しては、貞操観念が適用されない。

 

「…これで良いわ。んじゃ」

言うなり、身体を引き、ひらひらと手を振りながら、彼女は大聖堂を出て行く。
フィアンマは口を拭う事も忘れて、視線を床に落とした。

「……、…」

自分が彼女に好かれているとは、意外だった。
だとすれば、婚約指輪を共に選ばせるというのは、残酷だったかもしれない。
だが、彼にはヴェントを追いかける権利も、義務も無い。

「……」

謝ったところで、無意味だろう。
そう断じて、彼もまた、大聖堂を出て行った。




家に帰ると、姫神が居た。

フィアンマ「早かったな」

姫神「今日は。午前中で授業が終わったから」

フィアンマ「そうか」

相槌を打ち、フィアンマは本を開く。
読書をして、先程の出来事の記憶を薄れさせたかった。

姫神「そういえば」

フィアンマ「ん?」

姫神「>>246」

246: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:00:35.20 ID:zqHGiGu80
他の女の匂いがする

247: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 15:05:13.88 ID:QRuGQUop0

姫神「他の女の匂いがする」

フィアンマ「…気のせいじゃないか?」

姫神「む」

本を読みながら、顔色一つ変えず。
思い当たる節を覆い隠す言動はある意味嘘に当たるが、彼は悪びれない。
そもそも、嘘が下手な人間は暗部組織でやっていけない。

姫神「…もしかして。浮気」

フィアンマ「天に誓ってしていないが」

実際、浮気はしていない。
今日の事はヴェントから一方的にされた事と言えば、それまでであり。
彼は、何ら後ろめたさを感じていない。
続けて、姫神は指摘した。はったり混じりの指摘だ。

姫神「俺様さんが女の人と歩いていたと。聞いた」

フィアンマ「ほう」

姫神「宝石店を歩いていたって」

フィアンマ「>>249」

249: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 15:11:52.70 ID:zqHGiGu80
婚約指輪選びのアドバイスを貰っただけさ

250: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 15:37:41.95 ID:QRuGQUop0

フィアンマ「婚約指輪選びのアドバイスを貰っただけさ」

姫神「……本当?」

じと、と睨まれ、フィアンマは肩を竦める。
そもそも、彼は聖職者だ。
そして、男女問わず、姫神以外には興味すら無い。
あるとしても、それは救済を行うにあたって必要な人間だけだ。

フィアンマ「俺様が信用出来んのか?」

姫神「…そういう訳じゃ。ない」

浮気していないのなら良い、とそっぽを向く姫神。
彼女は彼女で、見目も性格も悪く無い恋人が心移りしないかどうかが不安なだけなのだ。




結婚一年前。
即ち、姫神15歳になった、ある日。
何の前触れも無く、彼女が失踪した。
誘拐かと疑ってみても、イタリア国内、何処を捜しても見つからない。

フィアンマ「……、…」

ローマ正教を挙げて捜索させるには、大義名分が足りない。
悩み、動くに動けない彼へ、一人の傭兵が声をかけた。
かつて、単身で姫を助けに行った、騎士自主辞退の二重聖人が。

アックア「>>252」

252: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 16:01:31.43 ID:ctHNwBHn0
ヘーイ!どうしたんだい!?まるで自分のワイフだと
思って声をかけたらクマだった時みたいな顔をして!

253: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 17:04:14.03 ID:Ps2C0ZFI0

アックア「ヘーイ! どうしたんだい!? まるで自分のワイフだと思って声をかけたらクマだった時みたいな顔をして!」

余談だが、彼の近頃の趣味はアメリカンファミリードラマの視聴である。
科学サイドに対して調べている内、横道に逸れたらしい。

フィアンマ「テンションが高いな。……」

話すべきか、迷う。
彼は、右席メンバーに対して姫神の事を話していない。
テッラは異教徒と住んでいる事自体に難色を示すだろうし、ヴェントには話さない方が良いだろう。
アックアは右席の座に着いてまだ間もない。
だが、彼は寡黙な男だ。現在、挨拶こそコメディードラマを参考としているが、基本的には真面目で、信頼における。
そして、力も持っている。それは駒としての優秀さであって、フィアンマが仲間と認めるには至らないが。

散々迷って、結局、彼は話した。

姫神秋沙という少女と同居しているということ。
彼女は特殊な力を持ってはいるものの、戦闘にはまるで必要とされない性質だということ。

アックア「…ふむ」

フィアンマ「国内、近辺の周辺国家、…当たってはみたが、一向に見つからん。…『吸血殺し』を必要としていそうな、ローマ正教内の人間に心当たりは無いか? 不穏な動きをしている反乱分子でも良い」

彼は、冷静に見えて必死だった。
まだ、姫神と離れたくは無かった。

アックア「>>255」

255: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 17:19:34.75 ID:XvKuOz8So
そうか ならばそういうことにしておくのである

258: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 20:42:30.55 ID:4p0I7v8o0
《>>257様 ありがとうございます》


アックア「そうか。ならば、そういう事にしておくのである」

フィアンマが冷静を装いたいのなら、それを受容しよう、と思い。
続けて、寡黙な傭兵は言う。
彼は、常々こう考えている。
戦場に立つのは、本当の兵隊だけで良いと。

アックア「心当たりは無いが、捜索はする」

協力意見に、フィアンマはうっすらと笑みを浮かべた。
この駒は優秀だ。自発的に動いた時は、命令した際の比ではない。




後方のアックアによる、調査結果が出た。
結果として、ローマ正教内の人間の仕業ではなかった。
元ローマ正教の『隠秘記録官』。
彼は、パラケルススの末裔たる、チューリッヒ学派の錬金術師。

アウレオルス=イザード。

全世界を敵に回している、18歳の少年。或いは、青年。
彼の居場所についても、調べがついた。
彼が居るのは、学園都市だ。姫神を攫ったのも、彼だろう。
彼は、かの禁書目録を救う為に動いていた。
カインの末裔、即ち吸血鬼を欲するが故、姫神を利用しようと考えたのか。
だとすれば、非常に不味い。何しろ、姫神が必須必要ではないということだから。
必要でないということは、気にかける必要も無いということだ。
例えば、右方のフィアンマが、幻想殺しを回収するその直前まで、上条当麻を殺す訳にはいかないように。

フィアンマ「…ご苦労」

アックア「…どうする。大義名分としては不十分だが、これは魔術師、まして、相手はローマ正教に所属していた人間。独断で動く事も出来るが」

どうする、というのは、自分が行くか、フィアンマが行くか、二人で行くか、そういう趣旨の問いかけた。
見捨てるつもりなら、そもそも、フィアンマは口にしない。

フィアンマ「>>260」

260: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 20:57:53.11 ID:5lOxbjYSO
一緒にきてくれ

261: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 21:43:41.44 ID:4p0I7v8o0

フィアンマ「一緒に来てくれ」

アックア「…」

無言で頷いたアックアを見、フィアンマはただ、姫神の身を案じる。
彼女に危害が加えられなければ、それで良い。
何にせよ、アウレオルス相手であれば、殺してしまっても構うまい。
そう断じて、彼はアックアと共に、移動する。




アウレオルス「…毅然。協力を頼めないものか」

姫神は、緑髪の青年を見上げていた。
彼は、フィアンマと似たような目をしている。
何かを救う為に、苦悩している瞳。
協力の条件として提示されたのは、能力を抑える方法。
彼の『黄金錬成』によって、姫神は救われるかもしれない。
そう聞かされて、少女は困った。

姫神「…私は。」




上条当麻は、ステイル=マグヌスの要請を受け、三沢塾へ向かっていた。
そこに囚われているのは、インデックスだけでなく、同年代の少女も居るそうだ。
『吸血殺し』、と聞いた。
吸血鬼という単語は、上条に馴染みの無いものだった。

上条「…ここが、三沢塾か…、って」

ステイル「…どうやら、僕達以外にも今回の件に関与しているようだ。あの子じゃない方の少女に関する人間かな」

二人が出会ったのは、二人の男。

一人は細身で、赤い髪を腰まで伸ばし、一つに結んでいる、あまり身体を鍛えていると思えない青年だ。
もう一人は大柄・筋肉質で、壮年の男性が好みそうなゴルフウェアのような衣装を纏っている、茶髪短髪の男。

赤を基調とした衣装と、青を基調とした衣装。
まるで正反対の二人は、上条とステイルを見て少し困った顔をしていた。

フィアンマ「……」

フィアンマは、吸い寄せられるように上条の右手を見やる。
そして、視線の先を元に戻した。

上条「…アウレオルス側か? それとも…」

フィアンマ「>>263」

263: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 21:44:50.40 ID:onCnlHOK0
巫女服の少女を助けたい。
貴様は敵か味方か

264: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 22:02:10.85 ID:4p0I7v8o0

フィアンマ「巫女服の少女を助けたい。貴様は敵か、味方か」

上条「俺は、インデックスっていう…修道服の女の子を助けたい。…味方ってことだろ」

フィアンマ(そんなところだろうとは思っていたが)

姫神に対してとはまた違う理由で、上条を守らねばならない。
少しだけ面倒に思いながらも、彼は三人を伴って三沢塾へ侵入する。
苛烈な戦いが、始まる予感がしていた。



アウレオルス「…唖然。…こうも簡単に侵入者を許すとは」

姫神「……」

アウレオルス「…悠然。しかし、怯える必要は無い」

協力することになってしまった姫神は、眠る一人の少女を見ていた。
白い修道服姿の少女は、静かに眠っている。
そんな彼女を見るアウレオルスの表情は、和らいでいた。
視線も、やわらかで暖かいものになる。
それは、仕事に対して目を向ける時と、自分に対して目を向ける時のフィアンマの変化に似ていた。
姫神は、自分の左手薬指を撫で、アウレオルスを見上げる。

姫神「…私は。何を手伝えば良い?」

彼女はずっと、フィアンマを助けたいと考えてきた。
学園都市まで連れてこられた以上、フィアンマとは会えないだろうとも思っている。
代替行為として、アウレオルスを助けたいと考えたのだ。

アウレオルス「>>266」

266: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 22:05:08.68 ID:onCnlHOK0
貴様の能力が必要

267: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 22:27:44.95 ID:4p0I7v8o0

アウレオルス「自然、貴様の能力が必要だ。つまり、そこに居てくれれば良い」

姫神「…でも」

アウレオルス「現然、目立った行動は不要だ」

そこに居てくれれば良い。
問題に介入出来ないというのは、何かが出来て、やれないよりも辛い。
スポーツでいえば、大会に出られないよりも、出場権がありながら、コーチに止められている方が辛いことと同じ。
だが、余計な事をして困らせる訳にはいかない。
落ち込む姫神に、アウレオルスは目を向ける。
彼女の左手薬指に輝く美しい婚約指輪を見、少々申し訳無い気分になった。

アウレオルス「蓋然、君の婚約者にはすまない事をした」

姫神「…大丈夫」

もしかしたら。
きっと、また、助けに来てくれるかもしれない。
そんなことを思って、彼女は、目を閉じる。



フィアンマ達は、三沢塾の塾生達の死体を前に、悲しい気持ちでいた。
彼らには何の罪も無かっただろう。死ななくて済んだだろう。
アウレオルス本人の居る場所へ近づいた時。
アウレオルス=ダミーが、四人の行く手を阻んだ。

上条「コイツ等、触れば消えるのか…?」

ステイル「>>269」

268: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 22:31:53.90 ID:onCnlHOK0
ああ!だから早く フィアンマ「邪魔だ紛い物め」

270: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 23:07:00.39 ID:4p0I7v8o0

ステイル「ああ! だから早く「邪魔だ、紛い物め」!?」

叫ぶステイルだったが、上条の前に、フィアンマが動いた。
動いたとはいっても、彼が行った事はシンプルだ。
ただ、右手をひと振りしただけ。
たったそれだけで、眼前の多数のアウレオルス=ダミーは倒れふした。
止めとばかりに、何処から取り出したのか、アックアが巨大なメイスを振り下ろす。
そのまま、まるでビジョンか何かのように消える。

フィアンマ「…ふん」

アックア「群れというものは皆弱者であるな」

フィアンマ「そうだな」

ステイル「……」

上条「……、」

もしかして、この二人滅茶苦茶強いのでは。
そんな考えが頭を過ぎり、上条の中での魔術師の定義がちょっぴり崩れた。



錬金術師は、焦る。
どうしてこんな事になってしまったのか。
アウレオルス=ダミーが倒されるのが、あまりにも早すぎる。
思いながら、彼は姫神にインデックスを任せ、エレベーターを用いた。
そして、四人の前へと姿を現す。

上条「テメェ、インデックスを何処にやりやがった!」

アウレオルス「確然、安全な場所に居る」

フィアンマ「…アックア」

無言の指示に、傭兵が動いた。





アックアはどうする?>>+2

272: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 23:21:16.24 ID:oeiOCPzko
1tの水の塊をアウレオルスに向けて放つ

273: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/27(木) 23:38:17.12 ID:4p0I7v8o0

アックア「『laguz(水よ)』」

彼は、『後方の水(アックア)』の名の通り、水を自由自在に扱う。
空気中の水分を水として扱い、彼は1tもの水の塊を作った。
それを放たれ、アウレオルスはただ淡々と、告げる。

アウレオルス「『消えよ』」

言うなり、彼を押し潰す筈の水は、離散して消える。
だが、アウレオルスが確認するよりも早く、次の攻撃が放たれた。
既に詠唱を終えていたステイルによる、『魔女狩りの王』だ。
アウレオルスは魔女狩りの王を一瞥し、鍼治療に使うような鍼を取り出し、自らの首に刺しながら言う。

アウレオルス「『濡れよ』」

彼が言うと、ステイルが『魔女狩りの王』を体現させる為に周辺へ撒いていたルーンが濡れる。
ラミカ加工をしていたというのに、内側からびっしょりと濡れて。
構成要素を喪った『魔女狩りの王』は姿を消した。
一息つかせる間を持たず、上条が弾丸のように突っ込んだ。
そして、フィアンマは彼を支援する。



上条が行った行動>>+2

フィアンマの支援内容>>+4

275: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 23:48:09.33 ID:iFS9WSUJ0
顔面パンチ

277: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 23:57:48.16 ID:5lOxbjYSO
聖なる右でアックア投げつける

278: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 01:39:39.87 ID:87gAVjC+0

上条の行動は、いつも通りシンプルだった。
右拳を握り、特攻する。
だが、それでは最悪殺される恐れがあった。
故に、フィアンマは意外性を演出した。
アウレオルスの『黄金錬成』の弱点は、想像しきらない限り現実に反映されないことだ。
だからこそ、アウレオルスは不測の事態に弱い。
そしてそのことを、フィアンマは知っている。

フィアンマ「上条当麻、姿勢を低めろ」

上条「ッ」

言われるまま姿勢を低めた上条の頭上を、アックアがメイスを振り上げた状態で飛び越す。
フィアンマが、『聖なる右』を用いて、投石器の原理にて、投げつけたのだ。

アックアを防げば、上条の攻撃に間に合わない。
上条を防げば、アックアの攻撃に間に合わない。

そして両方を防ぐには、想像しきるだけの時間が足りない。

アウレオルス「ッ、『吹き飛べ』」

そう言って現実化するのがやっとで。
吹っ飛ばされたアックアは、ステイルに抱きとめられるまでもなくしっかりと着地した。
そんな錬金術師の顔面へ、幻想殺しの拳が迫る。

アウレオルス「っっ、『弾け「遅い」」

上条の隣に、フィアンマが立っていた。
それなりの距離はあったはずなのに、瞬時に移動していた。
彼は、水平線上に道が開けていれば、何処までも移動出来る。

だから、アウレオルスは逃げられなかった。
一歩後ずさり、上条の拳が僅かに掠った後。

『天使の力』を封入されたフィアンマの右拳に、その人智を超えた腕力に、吹き飛ばされた。

壁に頭がぶつかり、がくんがくんと脳が揺さぶられる。
一時的な脳震盪に、アウレオルスは地面へ倒れた。

アウレオルス「が、…ぉぐ…愕然、…これでは…インデックスを…『首輪』から…救えな…」

ステイル「…安心しろ。お前が助けずとも、あの子の『首輪』は、既にこの男の手で壊されている」

上条「そういうことだ」

アウレオルス「……」

彼の身体から、力が抜ける。
バラバラと、鍼が散らばった。

フィアンマ「アックア。殺せ」

アックア「…」

体勢を立て直し、歩み寄ったアックアが、メイスを振り上げる。
思わず、上条が叫んだ。

上条「ッ、待てよ!」

アックアは一時動きを止め、上条を見やる。
フィアンマも、上条を見た。

フィアンマ「…何だ」

上条「>>280」

280: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 02:03:02.41 ID:4BmD09sso
目的はおわった、ありがとう。

281: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 02:20:38.49 ID:87gAVjC+0

上条「目的は終わった、ありがとう」

無言の、殺すなというアピール。
アウレオルスが倒れたが故に『黄金錬成』の効力が切れたのか薄れたのか。
通常運転を再開したエレベーターから、姫神とインデックスが現れた。

インデックス「とうま! すている!」

姫神「…俺様さん」

フィアンマ「……」

姫神の前で、人が死ぬところは見せたくない。
それが病気などであればともかく、殺人は。
どのような理由であれ、殺人行為は、彼女の未来を昏くする。
そう考えたフィアンマの表情を見て、アックアは一旦メイスをしまった。

アックア「…"処理"は、我がローマ正教が引き受ける」

言うと、彼はアウレオルスをつかみあげた。
そして俵担ぎをすると、三沢塾から出て行く。
あの分では、恐らくバチカンで裁かれる事だろう。
そこからはもう、『神の右席』たる人間が気にする事ですらない瑣末事。

姫神は、やはりフィアンマが助けに来てくれた、と安堵にはにかむ。
巫女装束の中、左手薬指の指輪だけが違和感と共に光っていた。

インデックスは上条とステイルに飛びつき、話をする。
それはとても暖かそうな光景だった。その内、フィアンマが引き裂くものだ。

姫神「俺様さん。…助けに来てくれて。ありがとう」

フィアンマ「……秋沙」

姫神「? 何」

フィアンマ「良い機会だ、お前は学園都市に残れ」

姫神「…え?」

フィアンマは、暖かな三人の掛け合いを見ていて、はたと、自分の成す行動に気がついた。
正しくは、再確認したというべきか。
やはり自分は、姫神秋沙と共に暮らしているべき人間では、ないと。

姫神「…どう。して」

フィアンマ「>>283」

283: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 02:35:16.41 ID:4BmD09sso
いままでの俺様の言葉はすべて嘘だ。



からのイタリアで号泣、自棄酒

285: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 02:52:30.09 ID:87gAVjC+0
 
フィアンマ「今までの俺様の言葉は、全て嘘だ」

姫神「…どういう。意味」

彼は、表情を変えない。
淡々と言う事で、彼女を突き放し、自分を守る。
それは、ひいては彼女の人生の為に。

フィアンマ「結婚の約束も。指輪を贈った事も。仕事が終わればお前とずっと一緒に居られると言った事も。役職さえ。…聖職者ということは本当だが」

姫神「……。…俺様。さん?」

フィアンマ「お前を好きだと言ったのも。愛していると言った事も。お前に宛てた生易しい言葉は、全部嘘だった」

二人の会話が耳に届き。
上条は口を挟むべきか、迷った。

フィアンマ「お前の力など気にしていないと言った事も。そうだ、俺様はそもそもお前の『吸血殺し』に興味があって引き取ったんだよ。それを勘違いして、婚約だの、結婚だのと喧しいから、そんな玩具を与えてやったんだ。…ま、無理やり現実に適応しようとした結果が『あれ』だったのだろうが。お前との生活にも、もう飽きたんだ。だからといって見殺しにしては少々後味が悪いし、ヤツは犯罪者でもあったから、ここへやって来ただけのこと。お前一人の為に、この俺様が此処まで来ると、本気で思っていたのか?」

姫神「……」

フィアンマ「蝶よ花よと育てておいて何だがな。お前が思っている程、俺様は優しくも甘くも無かった。ただそれだけのことだ」

そう言い捨てて、彼は背を向ける。
そして、姫神の言葉を待たずに、三沢塾を出て行った。
姫神は、遅れて言葉の意味を理解して。冷たい表情までをも、脳内で繰り返して。
耐え切れず、床にへたりこんだ。

姫神「……。……そんな」

『…なんで。…たすけにきて。くれたの…?』
『…家族だからだ』

『どんな所が好き、と聞かれてもな…』
『俺様は明確には答えられん。好きな部分が余りにも多すぎてな』
『だが、『じゃあ例えばその中でどこ?』と聞かれても、どの部分も同じくらい好ましいのだから、どれを言えばいいのかすらわからんほどなんだ』

『誕生日、おめでとう。約束の婚約指輪だ。…気に入ってもらえると良いが』
『だい。…だい。っじに。…する…』



『お前を好きだと言ったのも。愛していると言った事も。お前に宛てた生易しい言葉は、全部嘘だった』



ぽたぽた、と涙がこぼれ落ちていく。
嘘だ、と繰り返した。でも、彼が戻って来る素振りは無い。

上条はそんな姫神の様子を見、ステイルにインデックスを任せると、三沢塾から出た。
走って、フィアンマの肩を掴む。

上条「ッ、待てよ!」

フィアンマ「…何だ」

上条は、姫神の事を知らない。
だが、彼女がフィアンマから婚約指輪を受け取って喜んでいた事や、今の言葉で傷つけられた事は、わかった。
だから、代わりに怒る。それは、青々しい正義だった。かつてフィアンマも、こんな風に誰かの為に怒っていた。

上条「テメェ、巫女服の少女を助けたいって言っただろうが。あの子じゃねえのか。どうしてあんな事言いやがる。女の子を泣かせて何が楽しいんだよ!」

きっと、二人は仲が良かった。上条は、何となくそう思う。そう感じた。
だというのに、涙一つ浮かばせずに淡々としているフィアンマの様子が、気に障った。
今のこの行動が正しいかどうか、どのような結果に繋がるか、ロクに考えていないのだろう。
かつて、フィアンマもそんな少年だった。そして、何度も後悔した。

フィアンマ「…>>287」


291: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 13:35:33.21 ID:S1F9rgHL0
《>>288様 二人が可哀想で…》


「…貴様に何がわかる!!!! 俺様だってな!! 本当は秋沙のことは愛しているさ!!!」

過去の自分へそうするように、彼は怒鳴りつける。
彼だって、姫神と一緒に居たかった。
いつまでも、隣に居て、笑っていて欲しかった。

「だが、俺様の傍にいては危険に晒してしまう!! 今回がその例だ!!」

しかし、そんな自分の欲求で、彼女を傷つけたくなかった。
どんなに正しい事を成そうとしたところで、自分は暗い場所に居る。
右手に特別な力が宿っていなければ、彼は彼女を突き放さなかった。
記憶を喪う前の上条当麻なら、きっと、彼の想いがわかる。
けれど、今はそうではない。

「秋沙の事を語ってんじゃねぇぞ、三下が!!!!」
「ッ、」

上条は、インデックスを騙している。
記憶喪失になったことを、隠して生きている。
それがいつかバレて彼女を傷つける事になると、知っていて。
自分と一緒に居て、彼女が幸せだと確証が持てないクセに、一緒に居る。
そうした自分に比べれば、この男はまだ潔いのかもしれない。
そんなことを思ってしまった上条は、言葉に詰まった。
呼吸ごと、止まった。言い返せない。そんな資格が、自分にあるのか。

怒鳴りつけ、数度呼吸を繰り返し。
一時的に落ち着きを取り戻した彼は、思い出したように、ポケットへ手を差し込む。
そして、一つのペンダントを取り出した。聖ピエトロ大聖堂のそれに勝るとも劣らぬ防護結界の霊装だ。
イギリス清教で言えば『禁書目録』の『歩く教会』にも匹敵する物。
彼がこの約十年間の生活の中で作り上げたものだ。
効果は、防護結界の他に、『吸血殺し』の力を九割九分抑える役目がある。

「……、…右手で触るな。壊れる」
「…何だよ、それ」
「…『吸血殺し』の力を抑える、防護結界的役割を持つ霊装だ。あの子は、力に悩んでいる。……秋沙に、…渡してくれ」
「…アンタが直接渡せば良いだろ」
「…今更、合わせる顔が無い」

上条は恐る恐るペンダントを左手で受け取ると、フィアンマを見上げた。
彼は上条に託した事で肩の荷が下りたのか、落ち着いていた。
そんなフィアンマは、それ以上何を言う事もなく。ただ、上条の前から姿を消した。
残された上条は、左手でペンダントを握ったまま、三沢塾へと戻る。
そして、泣いている姫神を優しく慰めるインデックスに少し退いてもらい、差し出した。

「………これ、…あの人から。『吸血殺し』をほぼ完全に抑える霊装だから、渡して欲しいって言われた」

姫神は、十字架のような形のペンダントを受け取る。
最後通牒を渡された気が、した。まるで、婚約破棄の慰謝料のような。
彼女は、そっとペンダントを撫で、口を開いた。

「…>>293」

292: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 13:40:02.53 ID:EZ1LcBCt0
……私は諦めない。ってゆうか聞こえてた。
絶対に認めさせてやる

293: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 13:49:56.16 ID:0aSJ8TpDo

+俺様さんの孤独はわかったからこそ支えたいの

294: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 14:17:15.45 ID:S1F9rgHL0

姫神「……私は諦めない。っていうか。聞こえてた。…絶対に認めさせてやる」

認めさせてみせる。
どんな彼でも、傍に居たいと願う女が居る事を。
彼は世界に独りぼっちではないということを。
そして、彼自身は、優しい人間であるということを。

姫神「…俺様さんの孤独は。わかったからこそ。支えたいの」

ぎゅう、とペンダントを握る。
そして、そっと首にかけた。
指針を決めたからか、少々、表情は晴れやかに見える。

上条「…じゃあ、まずは落ち着かないとな。……俺の担任の先生がさ、優しい人なんだ。多分、お前の住居とか用意してくれると思う」

姫神「…うん。…そういえば。貴方の名前は?」

上条「俺は上条当麻」

姫神「上条くん。私は。姫神秋沙」

上条「姫神か、よろしくな」





フィアンマは、イタリアへ帰って来た。
日本とは違ってまだ明るい時間帯だったが、彼はありったけの酒を買い込む。
悪酒、良酒、呑めるものは全て、目についただけ購入した。
泥酔して死んでしまっても構わないとばかりの量を。

フィアンマ「……」

そして、家に戻る。ソファーに座った。
水割りをしよう等とは、考えない。
彼は酒瓶に直接口をつけ、ごくりとそれを飲み下していく。
まるで水でも飲むかのように、ごくごくと。

『…オレサマさん』
『んー?』
『ガクエントシにいっても。16さいになったら。むかえにきてくれる?』
『…、』
『…けっこん。してくれる?』
『…ああ、約束する』
『やくそくだよ』

『…出来れば、他の内容が良いのだが』
『じゃあ。うそついたら…いっしょうあまいものきんし』

フィアンマ「…秋沙の誕生日を祝う事の無い以上。…甘い物を食べる事も、無いだろうな」

そんな事を呟く彼の目からは、涙が溢れていた。
どうしようもない喪失感が、全身を疲労させている。
気にせずに呑み込む酒は、やたらと塩気が強い。

フィアンマ「…クソッたれ…ッ、……く…ぁ、…あああああああっ…!!」

声を出して泣くのは何年ぶりだろうか。
姫神に弱いところは見せるまいと、いつも声を殺して来た。そして、彼女と過ごす日々に悲しさはほとんど無かった。
空になった酒瓶を床に転がし、思うがままに泣く。彼女を愛していた。一緒に居たかった。好きだった。




フィアンマ「…ん」

泥酔し、泣いたからか、数時間程眠っていたらしい。
酒瓶を片付けるような仕草が近くに感じられ、彼はのろのろと目を開ける。
ソファーに横たわらされているフィアンマの身体には、毛布がかかっていた。

フィアンマ「…、…秋沙…?」

ヴェント「残念ながら違う」

フィアンマ「…お前か。…何だ…仕事は無い筈だが…?」

ヴェント「>>296」

295: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 14:23:32.89 ID:V9K/7jLt0
惚れた女一人幸せにできない奴が世界救えると思うなよ

296: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 14:55:34.71 ID:wDhnbDou0
ビンタの後に↑

297: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 15:06:27.93 ID:S1F9rgHL0

ヴェント「…」

彼女は、彼の頬を一度叩いた。
ぱちん、という音と鈍い痛みに、フィアンマは眉を潜める。
ヴェントは、彼を見下ろして言う。

ヴェント「…惚れた女一人幸せにできない奴が、世界救えると思うなよ」

フィアンマ「…"見た"のか」

ヴェント「…まぁね」

フィアンマ「…ふん」

『計画』自体には何も言わない辺りが、彼女らしいというべきか。
彼女はかつて、事故によって弟を喪った。
大切な人を、どうしても喪いたくなど無い人を、運命によって喪った。
故に、自ら大事な者を手放したフィアンマの態度が、気に障るのだろう。
打たれたからといって反撃するでもなく、彼は無気力にソファーへ沈む。

フィアンマ「……わかっているさ。不釣合いな事位。……だが、…誰かがやらなければならない。そして、本当に秋沙を大事に思うのなら、遠ざけた方が良い。…俺様のような人間が、誰かに手を伸ばした事自体が、やはり間違いだった」

まだ中身のある酒瓶に手を伸ばしかけるフィアンマよりいち早く、ヴェントが酒瓶を取り上げる。

フィアンマ「…、……俺様がどうしようと、お前には関係無いだろう。秋沙に会った事もあるまい。思い入れもあるまいに」

ヴェント「>>299」

299: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 15:18:47.37 ID:wDhnbDou0

…だからさァ、
世界を救うアンタが、一度手を伸ばしたモノを離してどうすんのよ。
言ったでしょうが。俺様さんは"俺様"らしく、傲慢に生きろ、って。

302: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 15:49:37.49 ID:S1F9rgHL0

ヴェント「…だからさァ、世界を救うアンタが、一度手を伸ばしたモノを手離してどうすんのよ」

フィアンマ「……」

ヴェント「言ったでしょうが。俺様さんは"俺様"らしく、傲慢に生きろ、って」

『一人称が『俺様』なんだし、もう少し傲慢に生きたら?』

忘れた訳ではない。
だが、フィアンマはそこまで強気にはなれない。
世界を救うつもりではいるが、それだってある意味捨て身なのだ。
彼女を巻き込む訳にはいかない。
姫神秋沙という無力で優しい少女を、不幸にする訳にはいかない。
そんな考えで彼女に別れを告げた事が既に不幸を与えたとも知らず、フィアンマはそう思う。

フィアンマ「…俺様は、そこまで傲慢になれんよ」

度重なる失敗で、彼はボロボロだった。
本当に大事なものを見失ってしまう程に、心はズタズタに裂かれていた。
なまじ生真面目で神を愛するが故に、運命を呪う事も出来ないでいる。

ヴェント「……、…捨て身で世界を救う事は、私が許さない」

フィアンマ「……ヴェント?」

ヴェント「成功しようが失敗しようが、アンタはその子の所に戻らなければならない。その時に拒否されたら別だけど。だから、…協力する。世界を平定する<すくう>力を持ったその時、科学サイドを傷つけてくれれば良い」

失敗や、帰れない事が前提なら。
成功と帰還をなせる程の戦力があれば良い。
だから、彼女は彼と同じ目的に進むと述べる。

フィアンマ「…後悔する事になるぞ」

ヴェント「>>304」

304: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 15:57:47.88 ID:zRax5cyn0
何を今更クスッ

305: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 16:43:14.34 ID:S1F9rgHL0

ヴェント「何を今更」

くすっ、と笑って、彼女は肩をすくめた。

ヴェント「私に否定形は無い」

つまり、彼が何と言おうと、ヴェントは世界救済に協力すると、そういうことらしい。
いかにも彼女らしい、とフィアンマは小さく笑った。
力無い笑みは、泥酔の残りで頭が痛いからだ。

ヴェント「…それにしても酒臭い」

フィアンマ「ん…自棄酒をしていた」

ヴェント「わかってるケド」

がさごそ、と片付けをした後。
ヴェントは黙々と料理を始めた。
どうして誰も彼も、自分の為に損得無視で動きがちなのだろう、と思いながら。
フィアンマは、静かに目を閉じた。



九月十九日。
大覇星祭初日。
すっかりとある高校に慣れた姫神は、吹寄と共に大通りで動線を検討していた。
知らず知らず、視線を彷徨わせてしまうのは。
姫神が、ある人を捜してしまうから。

吹寄「? 姫神さん、誰かと待ち合わせしていたの? それだったらごめんなさい」

姫神「ううん。違うの」

吹寄「でもさっきから周りを見ているし、」

姫神「>>307」

307: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 16:51:11.75 ID:E49Cy8170
フィアンセが来てくれないかなぁって

308: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 17:42:41.47 ID:S1F9rgHL0

姫神「フィアンセが。来てくれないかなぁ。って」

吹寄「フィアンセ?」

姫神「うん」

例え玩具だと言われても。
彼女は、指輪を捨てなかった。
彼も自分と同じ気持ちなのだと、信じている。
だからこそ、捨てる必要が無い。




フィアンマは、髪を切っていた。
鋤鋏を使ってはいるものの、長い髪をざくざくと。
ヴェントはそんな彼を引き止める事もせず、暇そうに眺めていた。

ヴェント「腰まであったってのに、執着は無いワケ?」

フィアンマ「無いな」

ヴェント「そもそも、何で伸ばしてたの?」

フィアンマ「>>310」

310: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 18:08:21.57 ID:flvVngIO0
切る暇がなかった

311: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 19:20:54.18 ID:LodX4UKT0

フィアンマ「切る暇が無かった」

ヴェント「洗う方が面倒臭いでしょ」

フィアンマ「それはそうだが、短髪が似合わないというのもあってな」

ヴェント「その割にはザクザク切ってるケド?」

フィアンマ「セミロング程度にする」

思い切ってばっさりと切った後、丁寧に整えている。
美容師に関しての勉強をしていないとは思えない程、良い手つきだ。
手先が器用なことが関係しているのだろう、素人が切った割には綺麗な出来だった。
ところどころまばらな部分もあるが、伸びれば馴染むだろう。
すきハサミを片付け、彼は髪の毛をゴミとして捨てる。
長い髪が女の命であっても、彼は男である。

フィアンマ「…これより、詰める」

真面目な口調で言い、彼はソファーへ腰掛けた。
まるで、チェスの盤面を自分好みに組み替えるかのような、一言。

フィアンマ「…布石は敷いてある。ビアージオへの命令は?」

ヴェント「してある。『女王艦隊』でしょ。『刻限のロザリオ』も実用化は終わってる。後はアイツが"素材"を使ってうまいことやれば」

フィアンマ「…厳しいだろうな」

ヴェント「でしょうね」

フィアンマ「上条当麻が、仮に制止に来たとすれば、主の敵として正確に設定出来る。その時は、教皇さんにサインをさせて、学園都市へ行ってくれ」

ヴェント「リョーカイ」

軽い口調の彼女に、緊張の文字は無い。
彼女は必要なだけ、徹底的に壊す。
相手を滅茶苦茶に、容赦なく出来るということは、味方には敵意を向けないということだ。
逆に、味方は彼女には敵意を向けないが。そもそも、彼女に味方が少ないというのも一因でもある。

フィアンマ「……死ぬなよ」

ヴェント「>>313」

313: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 19:46:08.12 ID:A/1wg9UE0
死ぬつもりは無いわ
いってきます

314: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 19:56:57.18 ID:LodX4UKT0

ヴェント「死ぬつもりは無いわ」

元より、彼女は何があっても生き延びるつもりでいる。
科学と呼ばれるものが一片たりとも残らなくなる、その日まで。
復讐心に突き動かされるまま、彼女は生きている。
そんな彼女にもう一つの生きる理由を与えたのが、右方のフィアンマだった。

ヴェント「行ってきます」

フィアンマ「…あぁ、行ってこい」




九月三十日。
酷い雨が降っていた。
彼女がただゆっくりと歩いているだけで。
彼女の奇抜な装いをした人間達は、バタバタと倒れていく。
『神に敵意を向ける事など許さない』、その発想から来ている、天罰術式。
この術式が効かない人間は、非常に限られている。

ヴェント「さ、て、と」

ファミレスの中には、ツンツンとした頭の少年が居た。
この少年の右手を取って帰れば、フィアンマはこれ以上自分の手で誰かを傷つけなくても済む。
ヴェントは、ローマ教皇直筆のサインが入った紙を見せ、挑発的に事情を説明する。

ヴェント「…ってワケで、大人しく死ぬか、右手差し出してくれると、おねーさん、働かなくで楽なんだケドな?」

上条「>>316」

315: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 19:58:51.88 ID:WeprrVBm0
切り取っても生えてくるよ?

317: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 20:34:14.66 ID:LodX4UKT0

上条「切り取っても生えてくるよ?」

ヴェント「は?」

上条「俺だって、こんな右手を疑問に思わなかった訳じゃない。それなりに調べた。…だから、切っても無駄だ」

ヴェント「…そ」

それが嘘かどうかを判断するのは、ヴェントではない。
彼女が動くのは、科学を潰す為。
もしくは、フィアンマの計画を成就させる為だ。
叩きのめした死体を持っていけば、後はフィアンマが真偽を判断する。
話はそれからでいい、とヴェントはハンマーを握り直し、吐血した。




様々な事情があり、場所を移しながら。
ヴェントと上条は再び鉢合わせ、戦闘していた。
中央には風斬氷華が居る。人工の天使だ。

上条「ッ、何だってこんな事する必要がある!」

ヴェント「話す必要がある?」

ヴェントは風の弾丸を飛ばし、上条は慌てて右手で防ぐ。
げほげほと吐血する彼女は、自らが生きている理由を語った。

ヴェント「…だから、科学を潰す。その為なら、私は何だってする」

上条「そんな事を優しい弟が願ってるって、テメェはそう思うのか!」

ヴェント「思わない。でも、これは私が決めた道だ。…それに。…私には、他にも守るべき人間が居る」

上条「守る、べき…?」

ヴェント「アンタの右手を必要としてる人間が居るんだよ。幸せになる為にね」

上条「>>319」

318: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 20:40:01.88 ID:VEqTHY9u0
右手が欲しいならくれてやるけど
欲しいのは右手の中身だろ

321: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 21:14:09.83 ID:LodX4UKT0

上条「右手が欲しいならくれてやるけど、欲しいのは右手の『中身』だろ」

文字通り、切っても切り離せない力。
それがなければ、誰にも、上条の右手は手に入れられない。
外殻だけを剥いだところで、中身が手に入る訳ではない。
茹でた蟹の剥き方を失敗したように、手に入るのは、残骸だけ。

上条「テメェを此処に寄越した野郎は、何がしたいんだよ」

上条は、インデックスを守ると決めている。
しかし、過ごしてきた日々の生活の中で。
改めて、世界を嫌いになった。

インデックスに『首輪』を着け、結果として以前の自分を殺したものも。
インデックスを傷つける事しかしない、この世界も。
何の関係もない自分を否応なしに傷つける運命も。

神様をひっくるめて、全部が全部嫌いだった。

この世界を変革する為なら、悪の王にでも協力してやるつもりがある。

上条「…俺も、疲れたんだ。目的次第では、協力してやる」

上条当麻らしからぬ、と人は言うだろうか。
だが、今の上条は、昔から連続して生きてきた少年ではない。
連続性の無い人間など、別人も同じだ。

眉を潜めるヴェントと上条の間に、アックアが割り入る。
上条はアックアを見やり、小さく笑った。

上条「…ああ、あいつか。…なら、……協力してやっても、…良いな」

かつて、フィアンマが世界に諦念と失望を抱いたように。
上条当麻もまた、世界に絶望したのだ。

上条「…アイツの名前は知らない。でも、姫神…、…秋沙と仲が良かった野郎が何かしようとしているのなら、連れて行ってくれ」

彼は、インデックスさえ守れれば良い。
それは、魔術師に通ずる部分のある、昏さだった。






ヴェントはどうする?>>+2

322: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:26:21.26 ID:VEqTHY9u0
上条によろしく頼む

324: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 21:53:28.46 ID:LodX4UKT0

ヴェント「…わかった。日を空けて、連絡する。携帯電話番号さえ寄越してくれれば」

上条「あぁ」

返事をし、上条はメモにペンで番号を綴ると、ヴェントへ差し出した。
ついでに背中を摩った辺り、彼には敵意が無いようだ。
思いがけない展開に驚きながらも、限界を迎え、ヴェントは懐へメモをしまい、アックアに身を預けた。
内臓が滅茶苦茶に傷ついてしまっている。一刻も早く撤退しなければならない。
戦闘中、上条が霊装に触れた事で、『天罰術式』は消え去った。

アックア「…少年」

上条「ん? …ヴェントの治療、ちゃんとしてやってくれよ」
 
上条の目は、フィアンマと同じだった。
世界を憎む、歪んだ憎悪に満ち満ちた、それでも真っ直ぐ過ぎる瞳。

アックア「……いや」

言葉を慎み、彼は爆風を巻き起こし、去っていった。
上条は、風斬が元に戻るのを待って、言葉をかける。
その優しい笑顔が濁っている事に、誰も気づかない。





十月初め。
病院に入院したヴェントの所へ、フィアンマは見舞いにやって来た。
上条当麻の連絡先を知るというのもそうだが、純粋な意味の見舞いでもある。

フィアンマ「…派手にやられたな」

ヴェント「上条当麻っていうより、アレイスターに出し抜かれたって感じカナ」

フィアンマ「…報告は受けている」

ヴェント「ん、…ほら」

メモを渡し、彼女はゆっくりと呼吸を繰り返す。
フィアンマはメモをしまい、花束を彼女の傍ら、見舞い品の場に置いた。

ヴェント「…ダリア…『感謝』か。相変わらずキザね」

フィアンマ「国民性だよ。…病状は」

ヴェント「>>326」

326: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 21:57:08.65 ID:VEqTHY9u0
心配するほどじゃないわよ
ちょっと内臓へのダメージが多いけど
直ぐ良くなるわ

327: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 22:10:39.55 ID:LodX4UKT0

ヴェント「心配する程じゃないわよ。ちょっと内臓へのダメージが多いけど、直ぐ良くなるわ」

フィアンマ「そうか」

ヴェント「……そっちは」

フィアンマ「ん?」

ヴェント「体調」

フィアンマ「体調管理位出来るが」

ヴェント「自棄酒した野郎が胸張って言う事じゃないわね」

フィアンマ「…仕方あるまい。あの時は」

ヴェント「わかってるわかってる」

くつくつと笑う彼女は、病人とは思えない。
しかし、腕に刺さっている点滴の針の数は多く。
それだけ、彼女の身体はボロボロだということを表していた。

フィアンマ「…養生しろ」

言って、彼は病室を出た。
ヴェントは、花束を見やり、呟く。

ヴェント「……代わりにゃ、なんないわよね…」





フィアンマは自宅へ戻り、上条へ電話をかけた。
半分は、魔術回路を使った通信だ。ハッキングにも等しいかもしれない。

上条『もしもし?』

フィアンマ「…久しいな」

上条『あぁ、やっぱりあんたか』

フィアンマ「…絵空事ではなく、世界を救う為に動いている。その為に多量の犠牲も止むを得まいと考えている。それでも尚、協力するか?」

上条『インデックスを傷つけないなら』

フィアンマ「知識を借りられるのであれば」

上条『その辺りは説得する。……あんたが何で姫神にあんな事を言ったのか、わかった。…今なら、あんたの考えが理解出来る』

フィアンマ「この短期間で、あの正義感はどこへいったんだ?」

上条『>>329』

329: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 22:16:45.18 ID:12z2rxOSO
別に、悪って訳じゃねーだろ。アレだ、『また別の正義』ってやつ。

330: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 22:25:12.82 ID:LodX4UKT0
 
上条『別に、悪って訳じゃねーだろ。アレだ、『また別の正義』ってやつ』

フィアンマ「そうか」

上条『対義語としては、合ってるだろ。…あんたも、姫神を巻き込みたくなくてああしたんだろうが、…実際、今やってる事が間違ってるとは思ってないだろ。間違ってると自分で思っている事に、人は取り組めない』

フィアンマ「勿論だとも。俺様の行う行動は絶対に正しい。その過程で何を喪ったとしても、絶対的な善の到来を意味する」

上条『突き抜けてるな』

フィアンマ「お前も同じようなものだろう?」

特別な右手を持つ二人。
育った環境も、国も違う。
だが、同じような悩みを抱えた。
そして、一人の少女だけは喪いたくないと考えている。
逆に、その為なら最悪、何が犠牲になってしまっても、仕方が無いとも。

上条『先に、幻想殺しの本質について話しておく』

曰く、外殻は長く持たない。
故に、フィアンマが取り込んで救済を行う事は不可能。

上条『だから、俺はこう考えたんだ』

フィアンマ「…」

上条は、淡々と話す。
フィアンマの行いたい事は、神罰の再現による世界の変革。
正確には、あるべき状態へ、世界を戻す事。
一度戻してしまえば、最悪、神罰の再現は禁書目録の知識による『聖なる右』の安定だけで済む。

上条『>>332』

332: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 22:32:53.90 ID:Dj5+f2fK0
どうだ?

333: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 22:43:45.42 ID:LodX4UKT0

上条『どうだ?』

フィアンマ「…俺様の右手では限界がある」

上条『…んー。必要なのは、"幻想殺しに耐えうる強靭な右手"なんだよな?』

フィアンマ「素材として、な」

上条『…俺は、どうせ"中身"を抑え込めば、勝手に腕は元に戻る。その短い時間の間に、人の腕を霊装にすることって出来ないか? そして、霊装をその『聖なる右』ってのに取り込めばいい』

フィアンマ「安全な切り外し方にはならんぞ」

上条『成功するんなら、別に良いよ』

淡々としている。
自分の右手を乱暴に切られると聞かされても尚。
フィアンマが安全な世界を作ってくれて、インデックスが幸せなら、と。
フィアンマは上条の言葉をよくよく吟味し、考慮する。
そして、計画に組み込んだ。
上条の言葉が嘘なら、腕を霊装にしろなどとは言わないだろう。

フィアンマ「…禁書目録が好きなのか、お前は」

上条『>>335』

335: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 22:47:28.69 ID:kWSxCSyB0
好きじゃなきゃこんな真剣にならねーだろ

336: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 23:04:08.46 ID:LodX4UKT0

上条『好きじゃなきゃ、こんな真剣にならねーだろ』

フィアンマ「…そうか」

上条『…告白する資格は、無いんだけどな』

フィアンマ「…記憶喪失の事か?」

上条『何で知ってんだよ』

フィアンマ「お前は、高い買い物をする時、その物について調べないのか?」

上条『…俺をテレビと同列に並べんな』

フィアンマ「はは、……気にするな」

上条『……』

フィアンマ「…例え、記憶を喪う前のお前が、禁書目録を救ったにせよ。今、禁書目録と笑い合っているのはお前なんだろう。問題は、過ごした年月の長さと、濃度だ」

上条『…あんたに何がわかるって言いかけたけど、…わかるよな、そりゃ』

フィアンマ「…本当に大切だと思うのなら、愛していると言ってやれ」

上条『………そうする』

フィアンマ「…また連絡する」

上条『わかった』

電話を終え、フィアンマはソファーに横たわる。
料理をする気力は、湧かなかった。
姫神と一緒に居た頃は、一生懸命やれていたのに。




上条の右手(霊装)を作るには、実に一週間かかった。
しかし、出来上がりは出来上がり。
後は、戦争を起こし、必要な物資を、戦争を名目に集めるだけ。
全快したヴェントは、フィアンマの自宅へ来ていた。

ヴェント「…アックア辺りは止めるわよ、アンタの事」

フィアンマ「だろうな」

ヴェント「殺す?」

フィアンマ「>>338」

338: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 23:13:09.86 ID:Dj5+f2fK0
殺しはしないさ
とりあえずはな

339: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 23:22:51.01 ID:LodX4UKT0

フィアンマ「殺しはしないさ。とりあえずは、な」

上条には、囮を頼んでいる。
イギリスの『ブリテン・ザ・ハロウィン』の方へ、だ。
なるべく人死を出さない、且つ、戦争を引き起こす為に。
上条とフィアンマで、一芝居打つ事になっている。
最終的に、彼等は『ベツレヘムの星』へ避難した後、安全になった場所へ下ろす事に決めている。
理想通りの世界、優遇せずとも、上条達にとっては平和で幸せな世界だろう。
禁書目録は嘆くかもしれないが、上条が宥める事だろう。
彼等には、彼等の世界がある。無闇に踏み込もうとは、思わない。

フィアンマ「無闇に人死を出す必要はあるまい」

ヴェント「まぁね」

彼女は『天罰術式』の再構成に手間取っているらしい。
が、戦争に間に合わずとも、問題は無い。
彼が直接行ってしまっても、何ら問題無いのだから。

フィアンマ「……まるでチェスだな」

現実感が、まるで無い。
戦争でどれだけの涙と血が流れるかわかっていながら、フィアンマは、行動を開始する。




戦争が始まるのは、呆気なかった。
フィアンマが教皇を倒したが故に、制止が弱かったというのもあるが。

ヴェント「大天使の素体の確保は、やってくる。…アックアの方は」

フィアンマ「適当に止めるさ。やる事が済んだら、地点Bまで来い」

ヴェント「了解。上条当麻は?」

フィアンマ「禁書目録と共に>>341」

341: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/28(金) 23:46:58.52 ID:X6U6pMm+0
ロシアに向かってる

342: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/28(金) 23:54:39.82 ID:LodX4UKT0

フィアンマ「禁書目録と共にロシアへ向かっている」

ヴェント「捕捉出来るようにしてるんでしょうね?」

フィアンマ「抜かりは無い。『人形』を握らせている」

ヴェント「なるほど。じゃ、行ってくるわ」

フィアンマ「あぁ」

協力を得る。
彼一人では、難しかったことだ。
それが成功しているのは。

フィアンマ(…秋沙と過ごした期間で、丸くなったということか)

少しだけ、誰かを信じる。
それを学べたのは、姫神のお陰かもしれない。



上条「禁書目録、寒くないか?」

インデックス「うん、大丈夫かも。とうまは?」

上条「大丈夫。……」

インデックス「…とうま」

上条「ん?」

インデックス「…何だか最近、…とうまが遠くにいるみたいで、…ちょっと寂しいんだよ」

上条「>>344」

344: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 01:10:55.39 ID:6psvvBaSO
…そうか?ま、気にするなよ。突き進む時の人間ってそういうもんなんじゃないか?


345: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/29(土) 01:28:57.36 ID:jmJGpi+k0
《今日はここまで。お疲れ様でした》


上条「…そうか? ま、気にするなよ。突き進む時の人間ってそういうもんなんじゃないか?」

寂しいというよりも、怖いのかもしれない。
世界への憎悪を湛えて真っ直ぐに進む、上条の姿が。
自覚はなかったのだと苦く笑って、上条は進む。
禁書目録には、沢山の理由という名の嘘をついて、情報を出してもらった。
フィアンマはその知識によって、『聖なる右』を整えただろう。

上条(…幸せになるためなら)

仕方が無い。
そう結論づける彼の瞳に、光は無かった。




ヴェント「ただいま」

告げる彼女は、少女を小脇に抱えていた。
赤い服を着た彼女は、名をサーシャ=クロイツェフという。

フィアンマ「ご苦労。では、準備に入ろうか」

ヴェント「…そういえば、アンタの婚約者は学園都市に居て大丈夫なワケ?」

フィアンマ「>>347」

347: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 01:38:30.05 ID:Rr6Xx0Uro
俺様はそんなに抜けてはいない

350: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/29(土) 16:21:13.13 ID:AOg/lDEt0

フィアンマ「俺様はそんなに抜けてはいない」

ヴェント「手配はしてあんのね」

フィアンマ「あぁ。…ともすれば、残酷な場面を見せる事になるかもしれんが、安全は確保した」

ヴェント「…そ」

フィアンマ「…大罪だが、…強欲にも身を浸そう」

本当に大切なものの為になら、精一杯腕を伸ばそう。
姫神は今、『ベツレヘムの星』内にそのまま組み込める部屋の中に、居る。




上条と禁書目録を回収しながら、『ベツレヘムの星』を築き上げる。
大天使『神の力』に関してはアックアによる妨害が入ったが、それで削れたのはたったの半量。
50%台でも、充分な勝利が望める。
やるべき事はほとんど終わった。後は、『神の力』に戦争へ終焉を与えさせるだけだ。
フィアンマは『神の力』へ指示を与える為の霊装である杖を持ち、ぼんやりとしていた。
いつ姫神に会いに行っても良いものか、タイミングが掴めない。

上条「姫神に、会いに行かないのか?」

右手が壁などに触れないよう気をつけて、上条が儀式場に入ってきた。
フィアンマはちらりとそちらを見やり、戦火の様子も見ながら、言葉を返す。
現在、姫神はインデックスと共に、『ベツレヘムの星』内でも暖かな場所で過ごしている。

フィアンマ「>>352」

351: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 19:12:54.04 ID:D+fhyV7N0
まだその時ではない

353: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/29(土) 20:13:19.98 ID:nLgiVjUt0

フィアンマ「まだその時ではない」

全てを終えなければ、彼女に謝る資格すら無い。
フィアンマは、そう考えている。
『段階』が進み、『ベツレヘムの星』のある上空は、黄金の空と化す。
フィアンマが立っているこの場所が、神聖な天国なそれと化しているのだ。
神聖な彼に、相応しい空間へ。

上条「…自分が変わるんじゃなくて、周りが変わるんだな」

フィアンマ「俺様が世界に合わせる必要はないからな。世界が俺様に合わせれば良い」

上条「すげえ傲慢」

フィアンマ「俺様もそう思うよ。だが、傲慢でなければ得られないものがある」

上条「…それが、姫神?」

フィアンマ「違うな。秋沙を含んだ『成功』『勝利』だ」

言っている間にも、地上の浄化作業が始まった。
光の波に呑まれる人を見ながら、何の感慨も覚えないフィアンマと。
苦しむ人々を見ながら、手を伸ばす事をやめた上条当麻とが考えていた事は、同一だった。

『これで、救われる』。


大洪水で世界中の悪意を流すように。
『作業』を終えたフィアンマは、上条やヴェント、それ以外の部下に地上の再建を頼み、自分は神罰を与える立場に終わった。
やるべき事が全て終わった以上、もう頑張る必要は無い。彼は右方のフィアンマではなく、一人の青年に戻った。
無理やりの笑顔が溢れる世界で、不幸の絶滅した惑星で。或いは、神上と呼ばれる青年。
フィアンマは城を捨て、姫神と共に家へ戻って来た。
顔を合わせるのが怖くて、今はまだ、彼女を寝かせてある。

フィアンマ「……、」

姫神「…ん…」

ぱち、と姫神が目を覚ます。
家の様子は変化していた。
フィアンマが世界中に手を加えて『直した』結果、どのような家も大概が金色になっていた。
成金趣味という下品な風ではない。

姫神「……」

フィアンマ「…秋沙」

目が合った。
姫神は、何となく察している。
フィアンマがとても酷い事をして、それでいて、世界を救ったということを。

姫神「>>355」

355: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 20:24:13.94 ID:6psvvBaSO
………。ギュー

356: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/29(土) 20:42:42.33 ID:nLgiVjUt0

「………」

彼女は無言で、起き上がる。
そして、彼の身体を抱きしめた。
強く強く、少女の細腕が出せる最高の力で。
もう二度と離すものかと、言わんばかりに。

「…おかえり。俺様さん」
「…ただいま」

遠回りをした、と思う。
フィアンマは手を伸ばし、彼女の髪を優しく撫でた。
黒くて長い髪。幼い頃と変わらず、きらきらとしていた。
奇しくも今日は、姫神秋沙の、16歳の誕生日。
図らずも、フィアンマは彼女との約束を守っていた。

『…オレサマさん』
『んー?』
『ガクエントシにいっても。16さいになったら。むかえにきてくれる?』
『…、』
『…けっこん。してくれる?』
『…ああ、約束する』
『やくそくだよ』

『誕生日、おめでとう。約束の婚約指輪だ。…気に入ってもらえると良いが』
『だい。…だい。っじに。…する…』

『お前を好きだと言ったのも。愛していると言った事も。お前に宛てた生易しい言葉は、全部嘘だった』

『…貴様に何がわかる!!!! 俺様だってな!! 本当は秋沙のことは愛しているさ!!!』

彼の言葉を思い返して、姫神は目を細める。
瞳を潤ませながら、うっすらと微笑んだ。

「…ずっと。待ってた」
「………すまなかった」
「…いいよ。…俺様さんが。…私を迎えに来てくれたから。もう。良いの」
「……、…」
「…俺様さん」
「…何だ」
「私の。…旦那様の。本当のお名前。教えて」

彼女は、フィアンマの手を握る。
そして、真剣な目で見上げた。

「…俺様の名前は、…>>358」

358: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/29(土) 20:45:14.59 ID:sXNwpmdI0
ルシフェル・ミカエリス

359: ◆2/3UkhVg4u1D 2012/12/29(土) 20:55:13.21 ID:nLgiVjUt0

「…俺様の名前は、…ルシフェル・ミカエリス」
「…何だか。天使みたいな名前」
「俺様に名をつけた人間は、光を掲げる者として名をつけたのだろう。神に寵愛を受けるように。…事実、そうなったがね」
「…婚約指輪。外して。ないの」
「……」

彼女の左手薬指には、指輪が嵌っていた。
きらきらと、ルビーとトパーズが輝いている。

「…貴方を。いつでも思い出せるように」
「……」
「…この歳だから。わかる。…玩具なら。もっと安いものにする」
「……玩具ではない。…お前が子供だということを度外視して、購入したものだ」
「…嬉しかったの」
「………秋沙」

謝罪の言葉を零し、フィアンマは彼女を強く抱きしめ直す。
暖かな安堵感に、少女は柔らかく笑んだ。

「約束。守ってくれてありがとう」
「…、」
「…ルシフェルさん」
「…ん?」
「…これからは。ずっと一緒に。…暮らして…くれる?」
「あぁ」




もう二度と彼女と離れる事はしない。
愛する許嫁(フィアンセ)を、妻とする。


「今度こそ。貴方を。支えるから」



幸せそうに。
そして、事実幸せな彼女は。


世界で一番綺麗な笑顔を浮かべ、永遠を、誓った。


















おわり

引用元: 姫神「安価で。許嫁にして」フィアンマ「…フィアンセか…」