2: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:08:35.36 ID:l9MRacwa0
プロローグ:君なら彼女の結末を変えることができる

3: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:12:25.13 ID:l9MRacwa0
まどか「そんな…。こんなのって…」

ほむら「これでいいのよ。もう、思い残すことは無い。――さよなら、まどか」

荒廃した街にに響く銃声、ガラスが割れるような音。そして、倒れる一人の少女
もう一人の少女が、倒れた少女に駆け寄って、抱き抱える

QB「死んだね。」

まどか「こんなのないよ…。これじゃほむらちゃんが救われない…」

QB「仕方ないよ。これが彼女に残された唯一の逃れ道だったんだ

QB[生きてこの夜を乗り越えることはできないと、暁美ほむらは知っていたんだよ」

 生き残った少女は泣きじゃくる。

QB「しかし、知っての通り、君なら彼女の結末を変えることができる」

QB「『別の君』の言葉を清算できる。彼女を救うことができるんだ」

4: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:14:10.07 ID:l9MRacwa0
 ――これは罠。わかってる。乗っちゃったら、私は『また』ほむらちゃんとの約束を破ることになる
私は、やっとの思いで願いを叶えたほむらちゃんに、再び地獄のような日々を送らせることになる
それがどんなに罪深いことか知ってる。

……この時間軸の最後に何も、感謝の言葉さえ言えなかったことの清算、
別の時間軸で呪いにも似た言葉でほむらちゃんを縛った償いのために契約するなんておかしいんだ
ほむらちゃんに対する裏切りだ。
……だけど、それでも私は祈る。祈らずにはいられない。

5: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:14:45.68 ID:l9MRacwa0
今一度信じたい。『間違ったっていい』っていう、お母さんの言葉を

6: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:16:35.75 ID:l9MRacwa0
――ほむらちゃんは、絶対に幸せにならなくちゃいけないんだ――

まどか「キュゥべえ、お願い…。ほむらちゃんに奇跡を…もう一度だけ勇気を……!」

QB「それが君の願いだね。…しかし、」

インキュベーターが、彼女の顔を覗き込む

QB「二つの願いというのは――」

7: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:18:39.08 ID:l9MRacwa0


第1話:誰にでも秘密はあるものよ


8: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:21:27.07 ID:l9MRacwa0
ほむらside

???????

確かにまどかを救えたと思ったんだけど…。夢だったのか…。いい夢だったな…

夢にでもすがらないと、最早精神を維持できないらしい。惨めなものだ

22回目の目覚め。なぜこんなに繰り返してもまどかを救うことができないのか
夢のないSF映画のごとく、未来を変えることなどできない、とでも言うつもりなのだろうか
だとしたら、私は何のために祈ったのだろう…
大体この物語はファンタジーじゃないか

…少しダークな部類に入るとはいえ

9: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:23:24.42 ID:l9MRacwa0
ここで後ろ向きな世界観に浸っていても仕方がない
これからの行動について考えよう

…鹿目まどかと美樹さやかの契約を防ぐ
そのためにインキュベーターを襲撃する
佐倉杏子、それと可能ならば巴マミを仲間に引き入れる
これが理想的プランだ。

だが、このプランがうまくいった試しはない


――理想は所詮理想でしかない―――


失敗を繰り返すうちに私はそのような考え方に至り、まどかを救うことのみに固執し、それ以外を切り捨てていった

10: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:25:08.59 ID:l9MRacwa0
…本当はわかっている。それは最適解に見えて、解ですらない
まどかが周りを全て失った結末を見たらどうするか
…契約するに決まっている
そういう娘だからこそ、私が命を賭して救いたいと思ったんだ

理想を現実にすることでしか彼女を救うことはできない

だけど、たとえ誤った解でも、見せかけの救いでも、まどかが死ぬよりはマシだ
あのプランは実現が極めて困難なのだから

11: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:27:28.96 ID:l9MRacwa0
理想的プランを進めようとすると必ず美樹さやかが障害となる
彼女にいつも疑惑をもたれ、さらには敵対してしまう
特に最近は、盲目的なまでに私を敵視してくる。最初のほうは疑わしい、気に入らない程度だったのがどうして敵対するに至ったのか
…彼女が尊敬する巴マミと敵対するからだ

巴マミと敵対する理由は何か…。彼女が信頼するインキュベーターを襲うからだ
では襲うのをやめるか?
…しかし、まどかが奴と接触することで契約の可能性が初めて生じることを鑑みれば、彼女とインキュベーターの接触自体を防ぐのが最良だ
接触を防ぐことをできなくとも、遅らせることができれば、それだけ契約のリスクも減る

12: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:29:50.25 ID:l9MRacwa0
…とは言え、このままではジリ貧なのは確かだ
奴は神出鬼没で無限残機を誇る
時間停止と言えど当然グリーフシードの制限を受ける
引き延ばすにしても1週間が限度であり、今までこの接触の遅れが今まで功を奏したことはない

…ならば、妨害をあきらめてしまうことも一つの策か?
…少なくとも美樹さやかと巴マミへ与える第一印象は変わるはずだ
あくまで第一印象であり、すべての問題が解決するわけではないが、やってみる価値はあるかもしれない

………うん。今回はこれを基本方針にしよう
そして、妨害しないとすれば、私がまずとるべき一手は――

13: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:32:59.99 ID:l9MRacwa0
まどかside


――悪い夢を見た

ほむらちゃんから見れば、良い夢だったんだろうけど、私から見れば悪夢でしかなかった
…それにほむらちゃんから見ていい夢だと言えるのは、彼女が諦めているからでしかない
だから私は祈った。傲慢だとわかっていたけど、それでも祈らずにはいられなかった


――何を?誰のために?


鮮明だった記憶は、段々とおぼろげになっていって、後には何も残らなかった
いつものこと。特別なことじゃない
…なのに、どうして私は、夢の内容をこんなにも思い出したいと思っているんだろう
…わからない。思い出さないと何か大変なことが起こるような――

14: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:34:12.76 ID:l9MRacwa0
…あっ、もうこんな時間!さやかちゃんとの待ち合わせに遅刻しちゃう!

私はとりあえず夢のことはおいておいて、着替えを手早く済ませリビングへと向かい、お父さんとタツヤに朝の挨拶を済ませて――

15: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:38:57.87 ID:l9MRacwa0
待ち合わせ場所である公園の前で、うちの制服をきた女の子とぶつかってしまった

まどか「あわわ。ごめんなさいっ!」

ほむら「鹿目まどか」

まどか「…?」

え、知り合い?まずい。ぶつかった上に、名前も思い出せないなんて失礼すぎるよ…誰だ…誰だ…えーっと…

しかし、女の子は私のアタフタしている様を気にするでもなく、

ほむら「あなたに大切な人はいる?その人たちを守りたいと思う?」

まどか「……うん。お母さんに、お父さん、たっくん、さやかちゃんに仁美ちゃん、クラスのみんなに和子先生」

まどか「みんな大切な人だし、みんな守りたいと思っているよ」

ほむら「…ならば、自分を犠牲にして誰かを助けようなんてもって思わないことね

ほむら「…後先考えない独善は、逆に守りたいものまで失う結果をもたらす」

まどか「………うん。何となく言いたいことはわかるけど…。」

ほむら「だからこそ、自分を大切にしないといけない。今と違う自分になりたいなんて、考えないことね。」

16: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:40:31.21 ID:l9MRacwa0
そう言って、私が来た方向と逆に歩いていった。そして去り際に、

ほむら「うまい話にはくれぐれもご用心を。親友の美樹さやかにも伝えておきなさい」

と言った。何がなんだか分からない
すぐに追いかけて行きたかったけど、できなかった
さやかちゃんと待ち合わせをしていたし、遠のいていく背中が私を拒絶している気がして…

17: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:46:43.20 ID:l9MRacwa0
さやかside

 あたしが公園についたとき、まどかはすでにいた

さやか「ごめーん。待ったー?」

まどか「ううん。まだ三分前じゃん。」

まどかは、なにやら考え事をしているようだった

さやか「どうしたの?」

まどか「うーん、あのね。うちの制服を着た女の子がここにいてね」

さやか「ふんふん」

まどか「私は覚えていないんだけど、あっちは私を知ってる感じだったの」

さやか「へー」

18: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:49:46.51 ID:l9MRacwa0
まどか「それでね、あなたに大切な人はいるか、その大切な人を守りたいかって聞いてきたの」

さやか「…へー」

まどか「それで、いるし、守りたいよって言ったら、自分を犠牲にするな、自分を大切にしろって」

さやか「…」

まどか「あとね、今と違う自分になろうなんて考えるなって」

まどか「それとうまい話には気をつけてって。あ、後、この話をさやかちゃんにも伝えてって」

さやか「…あたしのことも知ってたの?」

まどか「うん。私とさやかちゃんの名前、フルネームで知ってたよ」

さやか「…なのに、まどかは覚えてない?」

まどか「うん…どこで知り合ったのか…まったく見当もつかなくて…」

19: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:52:33.92 ID:l9MRacwa0
……ありえない分けがわからない。でも、そいつの目的は何?

胡散臭いけど間違ったことは言ってない…………多分

あたしとまどかの名前を知ってる
まどかの顔を知ってる。うちの生徒…
よくわからない忠告…
特に『今と違う自分になるな』?それじゃ、まるでまどかの――

あたしは頭を掻き毟った
わかんないや

さやか「まどか、あんまり知らないやつを信用しちゃだめだよ?」

まどか「わかってるよ。あ、もう時間だね。行こう、さやかちゃん。」

さやか「…うん」

20: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:55:38.70 ID:l9MRacwa0
…多分本当の意味ではわかってくれてない
嘘をつかれても、きっとこの子には嘘をつかなければならない理由があったんだ、なんて考える娘なんだ
まどかのいいところではあるんだけど、何度それで歯がゆい思いをしてきたことか…

まどか「……あ」

さやか「な、何?」

まどか「思い出した…かも?」

さやか「そいつのこと?」

まどか「うーん……なんていうか…」

さやか「何?」

まどか「…笑わない?」

さやか「…?…うん」

21: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:56:36.07 ID:l9MRacwa0
まどか「あのね、夢の中で会った…ような…」

さやか「」

まどか「…」

さやか「…まどか…あたしはあんたがどんな電波ちゃんでも、あたしは絶対に見捨てたりしないからね…」

まどか「もう!馬鹿にしないって言ったのに!」

さやか「してない、してない」

もう一人の電波には会いたくないな
どうせろくなことにならないから

22: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 20:58:57.90 ID:l9MRacwa0
行きつけの店へと移動する道すがら、バス停の前で、まどかが突然立ち止まった。目を見開いている
まどかが見ている方向に目を向けると、何かが浮いていた
動物?猫?…いや、一見すると猫みたいに見えるけど、すぐに違うとわかる。猫は浮かない

そして、その『何か』が、私たちに語りかけてきた
口は開いていない。それでも、『何か』が『喋っている』ことはわかる
そしてその内容は、あたしたちをさらに混乱させた

QB「僕はキュゥべえ。」

まどか「きゅう…べえ……?」

QB「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

23: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/25(金) 21:04:29.93 ID:l9MRacwa0
ほむらside

例のごとく多少無理やりだったが、夜中に窓の外から語りかけるよりはましなはずだ
ああ言っておけば、まどかは契約を即決することはない。素直な子なのだ
美樹さやかも愚かだが馬鹿ではない
これで、現段階であの二人にすべきことは、エイミーなどの直近の契約の原因を取り除くだけだ

そして次に向かう先は、巴マミの家
インキュベーダーを襲わない以上敵対する理由がない
手順さえきちんと踏めば、ある程度の協力体制は築けるはずだ

ワルプルギスまで持続するような強固な体制である必要はない
当面の敵対さえ避けられれば、今はそれでいい

29: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/26(土) 20:31:17.73 ID:11Mkj1F30
マミside

掃除機をかけているときに、インターホンが鳴った
掃除機を止めて、モニターを見ると…中学生かな?出ても問題ないか

マミ「どなたかしら?」

ほむら「暁美ほむら。あなたと同じ魔法少女」

マミ「まあ」

ほむら「今日から滝見原で活動をすることになった」

ほむら「滝見原で唯一の魔法少女であるあなたに一言いれたほうがいいかと思って」

マミ「それはわざわざご苦労様」

マミ「…」

30: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/26(土) 20:33:44.14 ID:11Mkj1F30
マミ「じゃあ、普段は単独で魔女を狩り、一方がすでに魔女と交戦しているのを見つけた際は、協力してもよし」

マミ「そのときは手に入れたグリーフシードは半分ずつ使って分ける、というのはどうかしら?」

ほむら「…こちらとしては断る理由はないわね。……今日のところは失礼するわ。また、どこかで」

そういって、彼女は去っていった

…対応でよかったのかな
不躾だった気がする。あれじゃあ、あなたのことは信用しない、と言っているようなものじゃない…
佐倉さんとの一件以来ずいぶん臆病になっちゃったなあ…

31: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/26(土) 20:37:02.91 ID:11Mkj1F30
QB「僕は妥当な対応だったと思うよ」

振り返ると、家の中にキュゥべえがいた。もう帰っていたんだ

マミ「どこに行っていたの?」

QB「勧誘以外にあるのかい?」

そういえばそうだ。久しく彼が勧誘していなかったので、頭に無かった

マミ「誰か面白い人でもいたの?」

QB「まあね。即答はしてもらえなかっけど」

マミ「へえ」

QB「それはそうと、さっきの子だけどね」

QB「彼女は得体がしれない」

マミ「…どういうこと?」

QB「僕は、彼女と契約した覚えが無いんだ。」

マミ「……あなたという固体が?それとも、あなたたち全体として、という意味?」

QB「両方だね」

32: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/26(土) 20:40:54.81 ID:11Mkj1F30
マミ「あなたと契約する以外に、魔法少女になることはできる?」

QB「見たことは無いし、聞いたことも無い。考えたことも無かった」

しかし、彼女は間違いなく魔法少女だった
心臓付近から魔力がにじみ出ていたから
多分、心臓に疾患か何かがあり、魔力で強化しているのだろう

QB「僕は警戒しておいたほうがいいと思う。備えあれば憂いなしだよ」

マミ「でも、誰にでも秘密はあるものよ」

QB「こんな重大なことでもかい?」

マミ「私はそんなに重大だとは思わないわ。あなたにとっては重大でしょうけど」

QB「僕のアイデンティティが侵されるからね」

33: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/26(土) 20:43:59.71 ID:11Mkj1F30
マミ「それに、彼女にそれほど近づくことにはならないわ」

マミ「さっきの提案は、ほとんど、不干渉主義をとろうと言ったようなものよ」

QB「だから、彼女が秘密を抱えていても問題ないって言うのかい?

QB「たまたまかち合ったときは協力するんだろう?」

マミ「だって彼女、結構な魔力を心臓の強化に使っているのよ?戦闘中に使える魔力はおのずと限られてくるはず」

マミ「正直、彼女が一人で魔女と戦うなんて、とても心配よ。できることならお手伝いしたい

マミ「何でもっと積極的に協力しようって言えなかったのか、後悔しているくらい」

QB「そんなこと言ったって、魔女と戦っているときに不意打ちを食らったら、ひとたまりも無いよ?」

QB「彼女は敵じゃないと断言できるのかい?」

マミ「そう言われたら困るけど、私は誰かに恨まれる覚えは無い……いえ、佐倉さんからは恨まれているでしょうね」

マミ「でも、彼女は人を差し向けるようなことはしないわ。」

34: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/26(土) 20:46:58.46 ID:11Mkj1F30
……キュゥべえが警戒している
まったく不安が無いといえば嘘になる

魔法少女の多くが縄張りを作る目的は、グリーフシードの確保だけじゃない
命がけの戦いをするにおいて、異物は排除したいと思うのは自然なこと

一理あることは確かだけど、頭ごなしに決め付けてかかるわけにはいかない
怪しいそぶりを見せたら、そのときに考えればいい

QB「それに、見滝原のグリーフシードを狙っている可能性もある」

QB「マミを倒せば見滝原が手に入ると考えているかもしれない」

マミ「敵対する意思がないと言葉や態度で示している娘に、そこまで警戒心を持つのもかわいそうだと思うのよ」

マミ「私ってその気がなくても結構態度に出ちゃうじゃない?」

35: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/26(土) 20:48:22.25 ID:11Mkj1F30
キュゥべえはなおも考えるそぶりを見せていたが、最終的には、

QB「まあ、確かにこちらから敵対を煽るようなことは避けたほうがいいかもしれないね」

と、折れてくれた。

マミ「ありがとう。心配してくれて」

QB「見滝原から君が消えることは、大きな損失だからね」

QB「ふふ。おだてたって、何もでないわよ」

36: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/26(土) 20:52:08.09 ID:11Mkj1F30
ほむらside

自宅にて今日の行動について振り返る。おおむね予定通りだ

巴マミが自分からああ言ってくれたのは助かった
いきなりワルプルギスの夜が来ると伝えようかと考えていたが、よそ者の私がそれについての共闘を呼び掛けるのも変な話で
一体どう転ぶかわからなかったから

想定していたよりもドライな関係に落ち着いた気もするが、うまくいった部類だろう
インキュベーターと敵対しなければ、それほど私に対して不信感を持たないはず

しかし、いずれはやつらと敵対する
それまでに、彼女との信頼関係を築きておければベストだが…まぁこれは必須ではない

佐倉杏子と接触するのはその後。今回は慎重にいきたい
巴マミに不信感をもたれかねない行動は、極力さけよう

後は転入前にするべきことを済ませておけば――

37: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/26(土) 20:54:24.69 ID:11Mkj1F30
QBside

エネルギー回収ノルマを一気に満たせるレベルの逸材を見つけたることができた
イレギュラーの介入はできるだけ排除したい。巴マミをぶつければ牽制になると思ったのだが…

巴マミとイレギュラーの関係は彼女が言うように不干渉協定の延長に過ぎず、流動的だ
この状態で佐倉杏子を送り込んでも、素直に敵対してくれるとは限らない
しばらくは様子を見て、勧誘のみに徹するべきか

45: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 22:26:56.24 ID:ORjbZAlz0

第2話:何その秘密主義?

46: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 22:29:53.70 ID:ORjbZAlz0
さやかside

まどかと世にも不思議な体験をした後、流れで解散になってしまい、あたしは一人で家に帰った
今、その体験について考えてる

まどかと私に謎の忠告をした電波女
その直後に現れた、魔法少女になれば願い事が叶うと語るキュゥべえ…

まどかはずいぶん心を動かされたみたいだったけど、即決はしなかった
直近で叶えたい願い事なんてないし、何より電波女の忠告が気になったからだと思う
それは私も同じ

47: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 22:33:17.69 ID:ORjbZAlz0
『自分を犠牲にするな』『今と違う自分になりたいと考えるな』『うまい話にご用心』
――この忠告が『契約』を念頭においていることは明らか
だとすれば、電波女はあたしたちに魔法少女になって欲しくないと考えていることになる

…いや、あたしたちに、だけとも限らない
勧誘を受けることになる人みんなにこの話をしているのかもしれない

48: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 22:36:42.10 ID:ORjbZAlz0
じゃあ、なぜ契約してほしくないのか
電波女にとって、魔法少女が増えて困ることでもあるの?

そうではなく、私たちのために言っているとすれば、それほどまでに、魔女との戦いは過酷ってこと?
あるいは、『契約』に裏があるのか。キュゥべえは嘘はつかないと本人(?)言ってたけど…

…今はまだわからない。大体あたしたちのことを知ってるってのも怪しい
はっきり言って信用できない

だけど…見せかけかもしれないけど、『忠告』って形をとっているのは…気になる
魔法少女、なんて聞いた後だと、あたしたちのことを知ってる不可思議な事情もあるんじゃないかとも、思えなくもない…んだよね

49: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 22:42:27.98 ID:ORjbZAlz0
…どっちにしろ、もし本気であたしたちの契約を止めたいと電波女が考えているなら、もう一度現れるはず
あの忠告だけで契約を防げるとは思っていない…よね…?
…その女が再び現れたときにもう一度考えよう


――その時は、意外とすぐにやってきた


もう一度考える、くらいで済む話ならどんなによかったか…


50: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 22:46:49.90 ID:ORjbZAlz0
三日後の朝のホームルームで、暁美ほむらって名前の転校生が紹介された
先生の隣に立っている転校生は、まどかと見つめ合っている
転校生は何かを決意しているかの表情で、まどかは驚きの表情で
これは…

休み時間になると、彼女の席の周りにクラスメイトが大挙して、彼女を質問攻めにした
女子は興味深深だし、男子も女子が来たとなったら放ってはおかない
…容姿も並以上ではあるし
彼女の隣の席のまどかは、人に押されるようにあたしの席まで逃れてきた

さやか「まどか、あれが昨日言ってた娘?」

まどか「うん。まさか転校生なんてね。びっくりしちゃった」

…話すなら、早いほうがいいんだろうな

51: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 22:48:45.47 ID:ORjbZAlz0
昼休み

さやか「ごめんね。転校生と話があるんだ」

そう言って、クラスメイトから転校生を無理やり引きはがして屋上まで連れて行った
後ろから聞こえるブーイングは気にしない
まどかは置いてきた

52: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 22:55:32.96 ID:ORjbZAlz0
仁美side

さやかさんがいきなり暁美さんを連れ出したことで、教室は騒然としていた
確かに周りをあまり顧みないところはあるけれど…
思えば自己紹介の時からさやかさんは暁美さんを睨んでいたような…知り合いなのかな

仁美「さやかさん、暁美さんと何かあったのでしょうか?古くからの知り合い…とか?」

まどか「うーん」

…そうか。まどかさんも何か知っているのか
そして、多分それは私に言うべきことではないと

…あるいはいつもの悪い癖なのかもしれない
すぐに思い込んで突っ走ってしまう…

追おうにももう二人がどこに向かったか見当もつかない
何かしでかした時にフォローできる心の準備くらいかな。今できることは

53: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 22:59:17.72 ID:ORjbZAlz0
さやかside

ほむら「もう少し後先を考えて行動しなさい、美樹さやか」

ほむら「あなたの愚かで軽率な行動で、どれだけ周りが迷惑することになるか、少しは想像しなさい」

屋上に着くとすぐ転校生は言った。今の時間は屋上に誰もいない

さやか「あんた、あたしたちのことどこまで知ってんの?」

ほむら「一般論を述べたまでよ。今日が初対面でしょう?」

さやか「何で三日前の時点で、あたしたちの名前を知ってたわけ?」

ほむら「今は、ネットで何でもわかる時代よ?」

…ネットって、そこまで万能なの?

54: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:01:27.14 ID:ORjbZAlz0
さやか「あの忠告は、魔法少女になるなってことでいいんだよね?」

ほむら「そうよ。まさか、契約なんてして無いでしょうね?」

さやか「してないよ。どっちも。…みんなにああいう話してるの?」

ほむら「いいえ、あなたたちだけよ」

まあ、うちのクラスに来たってことは、そう考えるのが普通なのかな
…特定の中学校の特定のクラスに狙って転校なんてできるものかわからないけど

55: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:03:51.02 ID:ORjbZAlz0
さやか「何であたしたちに契約してほしくないの?」

ほむら「あなたたちが不幸になるから」

さやか「何であたしたちが不幸になるなんてわかるの?」

ほむら「大抵の魔法少女は、不幸になっている」

さやか「あんたは魔法少女?」

ほむら「そうよ」

さやか「何を隠しているの?」

ほむら「質問の意味がわからないわ」

56: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:09:45.16 ID:ORjbZAlz0
さやか「『今の自分を変えようと思うな』」

さやか「まるで、まどかの悩みを見透かしてるみたいだね?」

ほむら「一般論よ。鹿目まどかはそんな悩みを持っているの?友人のプライバシーを安易に他人に話すことは、やめておいたほうがいいわ」

さやか「…『自分を犠牲にするな』」

さやか「魔法少女になるってことは、犠牲って言うほど酷いことなの?願い事、何でも叶えてくれるんでしょ?」

ほむら「限界はある。それに、契約をした時点では大抵自分の本当の願い事、自分の心の奥底に気づいていないものなのよ

ほむら「それに気づいてしまったら、後に残るのは後悔と絶望だけ」

さやか「あたしたちにそれが当てはまるって、どうして言えるの?あたしたちの悩みも、願いも、あんたは知らないでしょ?

さやか「理解できるはずがない。――理解できる人には、一体どんな事情があるんだろうね?」

ほむら「…さあ?私が何人かの魔法少女を見てきた感想を話しただけよ。一般論でもある」

さやか「…『うまい話しにはご用心』――あの契約のどこに用心をしろって言いたいの?何か裏があるの?」

ほむら「一般論を述べただけよ」

さやか「……一般論!一般論!一般論!何も教える気は無いってわけ!?信用できるわけないじゃない!」

57: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:18:23.00 ID:ORjbZAlz0
ほむら「それでも、あなたは私の言葉を切り捨てられない。熱くなっているのがその証拠」

ほむら「何かを知っているような女が意味深な忠告を施した後に、未確認生物に、なんでも願い事を叶えるなんて突拍子もない提案をされる」

ほむら「その女が自分のクラスに転向してきたと考えれば、私から何かを聞き出さない限り、親友を契約させるわけにはいかない」

さやか「…親友、ね……どこまでわかってるんだか………」

さやか「……確かにそう。あたし一人だったら、もしかしたら契約に傾いてたかもしれない」

さやか「でも、まどかを巻き込めない。『自分を変える』なんてことのために、危ない目にあってほしくない」

さやか「そりゃ、まどかにとっては深刻な悩みなのかもしれないけど、それでも、ね」

さやか「あたしが契約したら、まどかを説得できなくなる」

さやか「特に、裏がありそうだから、なおさら」

転校生はそれを聞いて、ほっとしたような表情を浮かべた

58: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:21:16.02 ID:ORjbZAlz0
……こいつは、あたしたちに何も教えずに、あたしたちの契約を止めることができたわけだ
でも、あたしだって何か聞きだしたい

さやか「…でもさあ、あんた何サマなの?何でも知ってますって態度、ムカつくんだよね。何その秘密主義?」

あたしは、転校生の胸倉をつかんで、体を壁に押し付けた
ポケットに入れといたボールペンを、ちょこっとだけ芯をだして首筋に押し付ける
そして、ニヤニヤしながら声を低くして、人を傷つけるのが趣味ですという感じを精いっぱい演出する

さやか「なんでわざわざ屋上に連れて来たかわかる?この時間だれもいないんだ」

さやか「もってこいなんだよ。こういう強迫めいたことするのに」

転校生の目を見る。冷めた目、どうでもいいという感じ
全部お見通しなのかな

59: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:24:43.57 ID:ORjbZAlz0
さやか「…悪かったよ。あたしたちのために言ってるんだよね?ホントに腹立つけどさ」

転校生を放して、あたしは言葉だけの謝罪をした

ほむら「なれないことはするものじゃないわ。脅迫めいたこと、なんて本当にやったことあるのかしらね?」

さやか「…まどかには、『うまい話は気をつけろ』の方向で念を押しておく。あたしもそう簡単には契約しない」

ほむら「…そう」

さやか「だけど、まどかが本当に契約したいって思ったら止められない。それはあたしも同じ」

さやか「…あんたが知ってること話してくれるまではね」

ほむら「………それで問題ないわ」

さやか「あんたが話すときが、早く来ることを祈るよ」

60: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:28:19.68 ID:ORjbZAlz0
そう言って私が教室に戻ろうとしたとき

ほむら「一つ聞きたい。…鹿目まどかは、私にどういう印象を持っていた?」

――からかってやろうとも思ったんだけど

ほむら「…」

答えを待つ表情はあまりに切実で

さやか「あたしは電波だし気味が悪いと思ったけど、まどかはそうは思わなかった」

さやか「親切に忠告をくれた女の子としか考えてないんじゃないかな」

嘘はつけなかった

ほむら「そう」

転校生は微笑んだ。始めてみる顔だ。…今なら…

61: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:32:20.63 ID:ORjbZAlz0
さやか「まどかと長く接してれば、わかりそうなもんだけどね」

さやか「そんなこと考えるなんて、失礼ってもんでしょ」

ほむら「それもそうね。あの子は優しすぎるから。まぁそれが困ったところでも…………!!!!!!」

転校生が怒りの形相で睨み付けてきた。蒸気までだしてる
さっき軽く脅したときには少しの怒りも見せなかったっていうのに。よっぽど悔しいらしい
こんなもんわかってたけどね。まどかのことを話す表情を見てればわかる
バレてないとでも思ってたのかな…

『あたしたち』じゃなく、『まどか』か…。やっぱりまどかと接点があった。それも結構深いみたい
でも、まどかは知らないと言っていた。うーん…。忘れた、なんて考えにくいし…

…そういえば、寝言としか思えないようなことを言ってたっけ

62: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:34:20.23 ID:ORjbZAlz0
さやか「まどかはあんたに夢で会ったって言ってた。心当たりある?」

ほむら「………あるといえばある。同じ夢を見ていたのかもしれない」

さやか「と、言うと?」

ほむら「…」

さやか「…それも話せないってこと?」

ほむら「…こればかりは、私にもよくわからない」

さやか「…そっか」

あたしは背伸びをした

さやか「ま、今はそれで良いや」

63: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:40:48.50 ID:ORjbZAlz0
まどか「どうだった?」

五時間目の前の休み時間の前にまどかが聞いてきた。あいつは、いまだ質問攻め
成績優秀、運動神経抜群、そして美人。天はあいつに三つも与えた。えこひいきだ…

さやか「あたしたちのことを守りたいって感じだった。何にも教えてくれなかったけどね。あと、魔法少女だった」

さやか「たださ、何も教えずにただ守りますって言われてもねえ」

まどか「そっか」

さやか「まあ、契約ってやつはもうちょっと考えてもよさそうだね。願い事と、魔女と戦うことは、釣り合わない気がしないでもない」

さやか「何でも叶えてあげるって言われたらね。話がうますぎる」

まどか「どういうこと?」

さやか「裏があるのかもしれない」

64: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:51:12.13 ID:ORjbZAlz0
まどか「キュゥべえは、嘘はつかないって言ってたけど」

さやか「それが本当かなんて確かめようがないじゃん

さやか「それに、もし全部正真正銘本当だとしたら、どうしてあの転校生は私たちの契約に口を挟んでくるの?」

さやか「願い事、何でも叶えてくれるって言うんだよ?」

まどか「でも、魔女と戦わなきゃいけなくなるんでしょ?」

さやか「そうだとしても、願い事によっちゃ安いこともあるんじゃない?」

さやか「それで戦うのがいやになって後悔するなんて、自業自得としか思えない」

さやか「楽じゃないことはわかってたはずだよ」

さやか「いや、魔女がどんなのか知らないけどさ」

さやか「少なくとも、そんなことを言う、あるいは言う可能性がある赤の他人を助けようなんて、あたしは考えない」

さやか「何かあるんだよ。きっと。あたしたちが知らない何かが」

明らかにまどかと接点がありそうだ、多分助けたいのはまどかの方、なんて言う気はない。あいつはそんなこと望んでない

65: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:52:45.63 ID:ORjbZAlz0
まどか「うーん。そう言われてみると、そんな気もするかも…」

さやか「転校生の言ってることも一理あるよ。『うまい話には裏がある』もんだって」

まどか「だよねえ。ママもよく言ってるし」

さやか「まあ、あいつは、あたしたちに親切にも忠告してくれたみたいだし、今はあいつの忠告をおとなしく聞いておこうよ」

まどか「…そうだね。惹かれる話ではあるんだけど、焦るのもね」

66: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:56:56.94 ID:ORjbZAlz0


…あたしは、後ろに何かを隠したまま近づいてくる奴を信用できない
隠しているのはナイフか爆弾もしれない

だからといって、あのキュゥべえも信用できない
裏があるんじゃないかと意識すれば、確かにに胡散臭い感じがするんだよね
転校生は、まどかを守りたいと考えているだろうことだけはわかるんだけど、キュゥべえの方は、考えてみれば目的すらよくわからない

――どちらも信用できないのだから、あたしがするべきことは現状維持

67: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/27(日) 23:59:34.39 ID:ORjbZAlz0
仁美side

昼休みが終わる10分前にさやかさんと暁美さんが教室に帰ってきた
様子を見るに大きなトラブルはなかったようだ。私は胸を撫で下ろす

その後、この休み時間暁美さんはまた質問攻め
さやかさんとまどかさんは教室の隅でひそひそ話
どうやら誰にも話を聞かれたくないようで、私もその中に含まれてるみたい

…暁美さんと二人の間に何かがあることは確定かな。三人が周りに知らせる気がない以上、静観する他ない

まぁ、事が済むか、深刻になれば話してくれるかもしれない
それまで待つことなんて何でもない
私たち中学生の抱えるトラブルが致命的になるなんて普通はない、というより、ありえないのだから

68: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 00:03:37.53 ID:BoGfvetf0
QBside

危惧していた通り、イレギュラーはターゲット及び美樹さやかとすでに接触していた
しかも契約の阻止に動いている
これより、イレギュラ――暁美ほむらは敵であると認識する

美樹さやかは、向こうを完全に信用したわけではないようだが、こちらのほうもかなり警戒している
ターゲット――鹿目まどかは契約への対応に関して、基本的には美樹さやかに従うようだ

ただの交渉では契約を結ぶことは難しくなったと判断していいだろう
これ以上静観していても、状況が好転する見込みは薄い


ともすれば、行動に移すべきか――


75: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:00:12.62 ID:BoGfvetf0


第3話:こんな奴の思い通りになってたまるか


76: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:02:02.94 ID:BoGfvetf0
級友A「暁美さん。帰りながら一緒に買い物に行こ。この街のこと案内するよ」

ほむら「ごめんなさい。越してきたばかりで、いろいろやることがあるのよ」

級友B「そっかー。残念。また今度ね!」


仁美「私、今日はお稽古がありますので、これで失礼しますわ」

まどか「わかった。じゃあ、行こっか。さやかちゃん」

さやか「うん。帰ろっか」

77: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:07:59.52 ID:BoGfvetf0
まどかside

私たちは、帰り道の途中にあるCDショップに二人で入った
さやかちゃんのボーイフレンド(本人だけは否定するけど)の上条君にあげるクラシックのCDを選ぶため
バイオリニストである上条君の影響で、さやかちゃんはかなりクラシックにうるさい

とはいえ、私は興味がないので、いつものように演歌のコーナーで時間を潰す
新人さんは、勢いがあるけど安定感がないがない。ベテランさんは安定感はあるけど勢いが足りない
どっちもどっちかな、二人でデュエットでも出せばいいのに、なんて考えながら試聴していると

「助けて…」

って声が頭に響いてきた

78: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:14:24.39 ID:BoGfvetf0
まどか「キュゥべえ!?」

QB「助けて…」

何度問いかけても、助けて、としか言わない。大急ぎでさやかちゃんを呼びに行く

まどか「さやかちゃん!」

さやか「何!まどか、あんたもう少し静かに――」

まどか「キュゥべえが呼んでる!助けてって!」

さやか「へ?」

私とさやかちゃんは大慌てでCDショップから出る
もちろん、助けたいって気持ちはあるけど

………私は、変わりたい。いつも願ってた
それをかなえてくれるっていう存在が、目の前に現れた
それを失うわけにはいかない。たとえ今契約するつもりがないにしても

さやかちゃんも思うところがあるらしく、キュゥべえの危機を伝えるとついてきてくれた

声の方向に行くと、そこは使われてるのか定かではない倉庫みたいな場所
キュゥべえは、そこに血まみれで倒れていた

79: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:18:28.58 ID:BoGfvetf0
まどか「キュゥべえ!大丈夫!?」

と、あたしは駆け寄った
そして私がキュゥべえを抱えた瞬間、悪寒が走るとともに辺りの風景が一変して――
――なぜかさやかちゃんは、キュゥべえを睨み付けていた

まどか「これ…何?」

あたり一面に前衛的な空間が広がる。なんて言えばいいんだろう、これは

さやか「…結界ってやつじゃないかな」

まどか「え!?じゃあ、近くに魔女がいるの!?」

さやか「…多分。こいつの話が正しければ…」

まどか「そんな!」

80: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:19:01.05 ID:BoGfvetf0
このままじゃ、みんな死んじゃう!

まどか「起きてキュゥべえ!お願い!今すぐ私とけいや――」

さやか「まどか!」

まどか「何!?」

さやか「今はだめ!」

まどか「何で!?このままじゃ――」

さやか「まだ使い魔ってやつすら出てない!お願いだからあたしの言うこと聞いて!一生のお願いだから!」

まどか「今その一生が終わりつつあるんだけど!?」

81: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:25:29.34 ID:BoGfvetf0
さやかside

――あたしはまどかの腕に抱えられたキュゥべえをにらみつける

転校生が現れた直後にこいつが出てくる――ギリギリありえる。どっちも怪しいけど
こいつに呼び出されたら結界に巻き込まれる――ありえない

――この状況はこいつのせいだ!

迂闊だった
まどかを何としても止めなきゃいけなかった
あたしはまどかよりこいつのこと疑ってたってのに…

82: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:27:37.99 ID:BoGfvetf0
…時間さえ稼げば助けが来るかもしれない
もし間に合わなければ――

この命を使ってでも、まどかを守る
あたしがやられた後に、まだ助けが来ないなら、そのときまどかが契約すればいい
何もできないまま、まどかを契約させる訳には行かない
あたしも契約してやらない
こんな奴の思い通りになってたまるか!

………転校生の顔が頭に浮かんだ
まどかは別にひいてないって私が伝えたときの、あの安堵した表情
あいつがまどかを、何かから守ろうとしているってことだけはわかる
このまま為す術なくまどかを契約させては、あいつに会わす顔がない――

83: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:29:42.78 ID:BoGfvetf0
まどかside

さやかちゃんと言い争っているうちに、髭を生やしたおぞましい何かが現れた
使い魔か魔女かはわからない
わかるのは、私たちの命がいよいよ危ないってことだけ

さやかちゃんはなぜか止めるけど、もう契約するしか助かる道はないと思う

――大丈夫だよ、さやかちゃん。契約するのは私だから
さやかちゃんは、契約には裏があるかもって気にしてたよね
大丈夫。奇跡の報いを受けるのは私だから
どんな不幸が舞い降りても、私は全部受け止めるから

本当にごめんね…

心の中でそうお詫びをして、私は口を開いた

84: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:31:46.94 ID:BoGfvetf0
まどか「――あ――――え―――!?」

………恐怖で声が出なかった。情けない…

髭を生やした何かはもうすぐそばまで来ている
気がついたら私はへたり込んでいた
…腰が抜けた。立つことすらできない。もうだめだ…

さやかちゃんは、私が立てないと見て取ると、私をかばうように髭の何かの前に立ちはだかった
戦う手段なんて持ってないはずなのに…

私は本当にだめだ。いつもさやかちゃんに守られてばかり…何のとりえもない…
そもそもこんなことになったのも、私のせいみたいなものじゃない…
このままじゃ、私のせいで…

85: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:34:31.03 ID:BoGfvetf0
そして、いよいよさやかちゃんがやられてしまうと思った瞬間、髭の何かの後ろに誰かが現れた気がした
その直後、いきなりさやかちゃんが、私を下にして覆いかぶさるように倒れこんだ

そして――銃の乱射音が聞こえた

気がつくと、あの得体の知れない何かはすでに消えていた
銃声がしたほうに目を向けると、銃を構えた、魔法少女風のコスプレをしているほむらちゃんが立っていた
凄まじい怒りの形相で

…そうか。さやかちゃんは、ほむらちゃんの銃から私を守ろうとしてくれたんだ
実際のところ、さやかちゃんがそのままでも当たらなかっただろうと、今は知ってるんだけど、あの時わかるはずもない

86: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:35:42.11 ID:BoGfvetf0
さやかちゃんが、青ざめた顔でニヤリと笑って言った

さやか「越してきたばかりだからすることって、魔法少女の仕事だったの?」

ほむら「そうよ。引越しすると、魔法少女って本当に忙しくなるの。」

ああ、そうだ。ほむらちゃんは魔法少女だった
魔法少女って本当に大変そうだ
引越しすると、こんなことが多くなるんだ…

87: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:37:14.65 ID:BoGfvetf0
QBside

美樹さやか、君は実に興味深い
これほどの状況下で契約を拒んだケースは、かなり珍しい
どうやら君のことも、鹿目まどかとの契約の障害の一つにカウントした方がよさそうだ
君もなかなかの素質があるのというのに、実にもったいない

88: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:40:28.40 ID:BoGfvetf0


第4話:私は今、さやかちゃんと一緒にいて、それを感じる。苛まれる


89: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:43:16.56 ID:BoGfvetf0
ほむらside

すこしたって、結界が消えた。魔女の居たほうから、巴マミが私たちのもとへと駆けて来る

マミ「一体どうしたの?」

さやか「…結界内に入ったら、すでにあなたは交戦中で、この子達が使い魔に襲われていた」

マミ「…それは助かったわ。私はとても手が回らなかったから。どうもありがとう」

ほむら「あなただって、私が戦ってる時に加勢してくれたこともあるじゃない?お互いさまよ」

マミ「そうね…ちょっとごめんなさい。貸してもらえるかしら?」

マミ「あ、はい。」

インキュベーターを受け取った巴マミは回復魔法を施した
本当に見事なものだ。こいつにはもったいない

90: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:45:17.00 ID:BoGfvetf0
マミ「…ねえ、キュゥべえ。何があったの?」

QB「怪我をしたから助けを求めたんだ」

QB「魔法少女用の回線でテレパシーを送ったんだけど、資質を持つ彼女――まどかにまで届いてしまった」

QB「彼女が慌てて来たところで、結界に巻き込まれてしまったんだ」

…迂闊だった。インキュベーダーを襲いさえしなければ、まどかたちがここの結界に巻き込まれることはないと思っていた
まさか、ここまで強引な手を使ってくるとは…
思い直して来てみて正解だった

91: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:46:43.26 ID:BoGfvetf0
………白々しいこいつの言い訳を看破してやりたい

何で怪我をしたのか
何で無限のストックがあるというのに、仕事中であろう魔法少女に助けを求めるなんてことをしたのか
余裕がなかったとして、回線から一般人をシャットアウトするくらいもできなかったのか
結界の反応は感知できていたはずだ。近づいてくる一般人に離れろくらいも言えなかったのか

だが、いくらこいつを追求しても、嘘とはいえないごまかしではぐらかして来るだけだ
そうして、巴マミと美樹さやかに不信感をもたれるだけで終わってしまう
いつもそうだ。今は何もいえない

巴マミからそれ以上の質問はなかった。彼女はインキュベーダーに疑念を持っていない。当然だ

93: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:54:12.36 ID:BoGfvetf0
まどか「あの、あなたも、魔法少女なんですか?」

マミ「ええ、そうよ。自己紹介がまだだったわね」

マミ「私は巴マミ。あなたたちと同じ見滝原中の3年生よ」

まどか「ありがとうございます、マミさん、ほむらちゃん…あと、ごめんね、さやかちゃん。ありがとう」

さやか「え?いやそんな。まどかが悪いわけじゃないよ」

ほむら「ええ、助かったんだからいいじゃない。誰が悪いって話ではないわ」

そう、悪いのは、「誰」で指される「人」ではない

マミ「…キュゥべえこの娘が、前に話していた、『面白い子』ね?」

QB「そうだよ。かなりの資質なんだ」

マミ「そうなんだ。…キュゥべえに選ばれた以上、説明が必要ね。今から私の家に来れる?」

まどか「あ…そうですね。私は大丈夫です」

さやか「こっちも、取り立てて予定はないかな」

マミ「よかった」

マミ「あなたも来てくれるかしら?」

94: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 22:57:00.80 ID:BoGfvetf0
巴マミが私に問う
正直驚いたが、敵対していないとなれば共に説明するよう求めるのは道理か

…巴マミは慎重に考えろとは言うが、二人が契約することに関してはむしろ積極的だ
否定的な意見を交えられると言うのなら、断る理由はない

ほむら「むしろ、私の方からお願いするわ」

95: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 23:10:12.44 ID:BoGfvetf0
さやかside

マミさんの自宅へ向かう途中、マミさんとまどかとキュゥべえは、私と恭介の話で盛り上がっていた

年頃の女の子二人(と一匹)がガールズ(?)トークで盛り上がっては、いくら私が否定したところで、無視されるだけというもの

今やプロポーズはどんな言葉にするかだの
それなら契約で世界史史上最もかっこいいものを言わせられるだの
そんなの意味ないでしょというマミさんの真っ当な突っ込みだの
僕にはわからないという、やはり人外という返しだの

まったく…恭介と私が釣り合う訳ないじゃない
怪我さえ治れば高校入学前に世界デビューしたっておかしくない奴なんだ。成績だってかなり良い

住む世界が違う。仁美あたりの才色兼備のお嬢様がお似合いだよ――

96: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 23:12:19.33 ID:BoGfvetf0
ほむら「さっきのことなんだけど」

まどかとマミさんとキュゥべえのガールズ(?)トークを、なぜか後ろから切なそうな顔で聞いてた転校生が話しかけてきた
私もまどかたちの話に参加する気はさらさらなかったので、私は転校生の隣を歩いていた

ほむら「何であそこまでしたの?」

さやか「何が?」

ほむら「私が言える筋合いではないけれど、あの状況で契約もしないで使い魔の前に立ちはだかるなんて思いもしなかった」

ほむら「あなたにとってあいつと契約することは、死よりも恐ろしいことなの?何の情報も持っていないのに」

97: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 23:16:18.52 ID:BoGfvetf0
さやか「あたしが全部知ってたら、どうしてたかな?」

ほむら「…すべての情報を知っていたとしても、あの状況ならほとんどの人が契約するでしょうね」

ほむら「私だって、多分契約していたわ。」

さやか「…頭に血が上っちゃってさ。まともな判断ができなかったのかな」

さやか「あいつの思い通りになってたまるかってので、頭がいっぱいだったんだ」

ほむら「…まどかを守ってくれたことには礼を言うわ

ほむら「だけど、自分の命を粗末にすることはやめて欲しい。もっと後先を考えて行動しろとい言ったはずよ」

さやか「そうだね。転校生が助けに来なければ、あたしは死んでた」

さやか「まどかにもとんでもないものを見せるところだったね。本末転倒だよ」

さやか「………ありがと」

98: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/28(月) 23:18:03.71 ID:BoGfvetf0
ほむら「……………」

さやか「ねえ?」

ほむら「…何?」

さやか「今度は自分の命を大切にするために、あんたが知っていることを全部教えて欲しいんだけど」

ほむら「ダメ」

さやか「ケチ」

 

105: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:18:36.58 ID:Ehjw1bIC0
マミさんの家で、お手製のお菓子と紅茶を食べながら、マミさんによる魔法少女講座が聞かれた
契約の概要はキュゥべえの言っていたのとそっくり同じものだった

何かを隠している様子はない。というか、そんな人に見えない
…となると、マミさんもキュゥべえから聞かされていないのか、転校生の思わせぶりな態度はすべてフェイクなのか…

…いや、転校生が何から何まで嘘をついているとは思えない
あいつは何か契約、あるいは魔法少女について重大な何かを知っている。多分、間違いない

…マミさんは、何回か転校生と一緒に魔女を倒したことがあるって言ってた
何でマミさんにも教えていないんだろう?
…同業者にも教えられない秘密って、一体…

106: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:21:20.00 ID:Ehjw1bIC0
じゃあ、キュゥべえが語るのの焼き直しで退屈かと言えばそんなことはない
未知の世界のことを実体験を伴って語られると、とても魅力的に移る
魔法少女の話を聞いてからあれやこれや想像してた光景が目の前に広がっているように感じられるってわけ

…想像せずにはいられない
腕が私の願いによって治った恭介が世界に羽ばたく
あいつはバイオリンで世界中の人々を癒し、励まし、勇気を与える
あたしは人知れず、魔女に狙われた人々を救う正義の味方になる、なんて甘美で素敵でありふれたストーリーを

いや、もちろん自分のために使わずに後悔しないか、とかも考えるけど、あくまで思い浮かべるのは理想だからね
やっぱり綺麗なビジョンを思い浮かべちゃう

107: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:23:30.90 ID:Ehjw1bIC0
もちろんキュゥべえは胡散臭く、あたしが見るところ極悪野郎なんだけど
マミさんも転校生も魔法少女としてやっていけてるじゃないかと都合のいい言い訳さえ思いつく

つまるところ転校生の、キュゥべえの話のリメイクであるマミさんの話の焼き直し(なんかデメリットを強調してた気がする)なんて頭に入ってこない
そういうわけで、マミさんが魔法少女体験ツアーをやらないかと提案してきたときの答えが

まどか「はい!」
さやか「喜んで!」

となるのも仕方ないことだと思うんだ

転校生は呆れをはらんだ目つきであたしを睨む
構うか。あんたが何も教えないのが悪い。てか、その眼をまどかにも向けろ

108: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:24:31.43 ID:Ehjw1bIC0
転校生としては許容できる話ではないらしく

ほむら「巴マミ、ちょっと来て」

とマミさんを伴って別室へと移動した。

109: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:27:01.26 ID:Ehjw1bIC0
ほむらside

ほむら「私は反対よ」

マミ「そこまで問題あることかしら?」

マミ「…仮に私が力を過信していたとしても、あなたがいれば万が一も起こらないと思うんだけど」

ほむら「…その体験ツアーは、魔法少女になることを念頭に置いているんでしょう?」

ほむら「魔法少女なんて、それしか他に方法がない人だけがなるべきものよ」

マミ「概ね同意するけど、あの二人が魔法少女になるべきかどうかは、あの二人が決めることよ?」

マミ「まぁあの二人にはよくよく考えるように言うつもりだし、あなたも思うところを言えばいいんじゃないかしら?」

ほむら「…それでも、あの二人を結界に連れ込むなんて、許せることではないわ」

110: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:30:52.92 ID:Ehjw1bIC0
マミ(…ああ、そっか。二人はこの娘とクラスメイトだっけ)

マミ(転校して初めてできた友達なんだ。…うん。その気持ちよくわかる)

マミ「…クラスメイトだったわね

マミ「…ごめんなさい。やっぱり心配よね。…もう一度あの二人と話してみましょうか」

………考えろ……ここで二人にやめると言って納得するか?
そうは思えないし、何より巴マミもあちら側だ
私一人強行に危険だといっても、私一人除外されるだけだ。いつもそう
ならば――

ほむら「…私たちのうち常に一人はあの二人について防御に専念

ほむら「もう一人は魔女に当たる。もしものときは、二人についた方が、もう一人を切り捨てて結界から出る…というのは?」

…妥協案を提示するしかない
…あの二人がツアーを機に魔法少女への憧れを強くするのも問題なのだが、その問題は先送りせざるを得ない
三人との関係が切れさえしなければ、解決できる可能性も残る

マミ「…ええ。それくらい徹底するべきね。それでいきましょう

マミ「これからよろしくね」

111: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:36:23.24 ID:Ehjw1bIC0
さやかside

まどかとマミさんの家を出る。明日から魔女退治見学ツアーが始まることになった
まあそれは心躍る話ではあるんだけど、それはともかく、マミさんの家に向かう途中から、違和感があった

さやか「まどか、なんか今日変だよ?今日って言うか、結界から出たときから」

さやか「空元気っていうか、無理してるっていうか…」

さやか「あんなに人の恋バナで盛り上がったりするとこ初めて見たよ」

まどか「…私ってホントだめだなって。私、自分を変えたい」

さやか「…知ってた?あたしはまどかが大好きなんだ。まどかに変わってほしくない」

まどか「…私にそんな価値ないよ」

112: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:36:58.50 ID:Ehjw1bIC0
さやか「…まあ、わかんないでもないよ。そういうの」

さやか「あたしも恭介と一緒にいると、そんな気持ちになることがある」

さやか「最近特に思うんだ。こいつと対等に話せる時間も、後ほんの少ししか残ってないんだって」

さやか「こいつとは住む世界が違う。もうすぐ、手の届かないところに行っちゃうんだって」

さやか「だけどさ、あいつみたいに選ばれた人間なんてそういないんだよ」

さやか「多分みんな思ってることなんだって。あたしたちまだ中学生なんだからさ、先のことなんて考えないでもっと――」

113: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:41:04.61 ID:Ehjw1bIC0
まどか「さやかちゃんの惚気話を聞きたいんじゃない」

まどか「そんなの、どうにでもなることじゃない。明日にでも告白すれば?」

さやか「…いや、まどかたちの中では、あたしたちはそういう風になってんのかもしれないけど」

さやか「あたしと恭介の間には、まどかが想像できないような高い壁が――」

まどか「言ったよね?今はそんな話がしたいんじゃない」

…まどか、ちょっと怖い
そういえば、まどかが本気で怒ってるとこ、見たことない
溜め込んでるのかな…。無神経だったかな…

さやか「…ごめん…あたし、まどかの気持ちぜんぜん考えてなかったね」

さやか「そりゃそうだよね。まどかとあたしがそっくり同じ悩みを抱えてる訳ないもんね」

さやか「自分と同じ悩みだって、勝手に決め付けてた。本当にごめん…」

114: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:43:01.23 ID:Ehjw1bIC0
まどか「…私もなんか意地になってた。ごめん。そういうんじゃなくて」

まどか「………えっと、なんていうか――さやかちゃんは、上条君といると、無力感を感じることがあるってことで、いいんだよね?」

さやか「…無力感?無力感…。無力感かあ。…ああ、そうか。これは無力感って言うのか…」

あたしがぶつぶつと呟いていたら、まどかは、深呼吸をして、言った


「私は 今 さやかちゃんと 一緒にいて それを 感じる 苛まれる」


さやか「…『無力感』を?」

まどか「うん」

115: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:45:32.04 ID:Ehjw1bIC0
今、あたしは、確実に『キョトン』としている
…さっきは、わからないのにわかった振りをして、まどかを怒らせてしまった
今は話を聞くべきなんだろう

まどか「私は、さやかちゃんがいないと、何もできない」

…もう限界かもしれない

まどか「さやかちゃんはいつも私を助けてくれるよね」

さやか「お互い様だよ」

まどか「私が、さやかちゃんを助けてあげたことなんてあったっけ?」

さやか「三日前にノート貸してくれたし、一昨日課題手伝ってくれたし、夏休みの宿題だって――」

まどか「そんなことしかないよね?」

116: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:48:46.40 ID:Ehjw1bIC0
さやか「…あたしは、まどかが大それたことあたしにしなくたって、友達だと思ってる」

さやか「いつも助けられてる」

まどか「…」

さやか「こっちだって、似たようなもんじゃん。あたしがまどかを『助けた』って、どんなこと?」

まどか「私もついさっきまでは、私がされていることは、私がしていることと似たようなものだと思ってた」

まどか「ううん、気づいていない振りをしてたんだ」

さやか「結界に入るまではってこと?」

まどか「うん…さやかちゃん、私のこと使い魔から守ってくれたよね?」

さやか「いや、それは転校生だよ」

まどか「でも、私が動けないのを見て、使い魔の前に立ちはだかってくれた」

まどか「ほむらちゃんが銃を撃つときも、私をかばってくれた」

さやか「あんなの何の役にも――」

117: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:51:38.62 ID:Ehjw1bIC0
まどか「そのとき気づいたんだ」

まどか「私が数学の宿題に頭を悩ませてるとき、さやかちゃん一緒に徹夜で一緒考えてくれたよね」

まどか「結局1ページも進まなかったけど」

まどか「私がいじめられたとき、クラスのみんなに喧嘩を売って、大騒ぎになって、先生に一緒に目をつけられたこともあったよね」

まどか「私が犬に追いかけられたとき犬と戦って、犬にボロボロにされたこともあった」

まどか「――さやかちゃん、私のため、ううん、私だけじゃなくて、みんなのために、できもしないことを、いつもしようとしてくれるよね」

さやか「…この流れで貶されるとは思わなかったよ」

まどか「違う」

まどかは決然とした表情をして言った

118: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:53:15.66 ID:Ehjw1bIC0
まどか「私はいつも躊躇ってばかりいる。何も決められない」

まどか「私は、さやかちゃんの勇敢さに憧れてた。いつも、さやかちゃんみたいになりたいって思ってた」

まどか「あの時気づいたんだ」

まどか「『自分を変えたい』って、さやかちゃんみたいになりたいってことだったんだって」

………まどかは真剣だ。あたしも真剣に答えなくちゃいけない

さやか「あたしは、今まどかが言ったようなことをしたとき、大体、後から後悔してる」

まどか「…え?」

119: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 20:57:16.25 ID:Ehjw1bIC0
さやか「あたしはいつもみんなに迷惑をかけてる。特にまどかに」

さやか「意地になって徹夜で宿題するのにつき合わせたとき、あたしたちは二人して授業ほとんど効かずに暴睡してた」

さやか「テスト前の大事な授業だったってのに」

さやか「まどかがクラスのみんなと微妙だった時期に、あたしが勝手に大暴れして、まどかまで先生に怒られた」

さやか「あげく仁美を巻き込んで長い間クラスで孤立した」

さやか「犬にやられた時だって、まどか、お見舞いに来てくれたけど、お父さんにひどいこといわれたんだよね」

さやか「後から聞いた。ごめんね。お父さん、あの時本当に疲れてたから」

さやか「狂犬病発症するかの瀬戸際だったらしくてさ」

さやか「今日だって、あたしが勝手起こして2人で死にかけた。転校生が来なかったら共倒れだったかもしれない」

さやか「転校生にも言われたよ。もっと考えて行動しろって」

120: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:07:27.22 ID:Ehjw1bIC0
まどか「違うよ!そんなんじゃない!」

さやか「違わないよ。あたしは後先考えないで行動して、いろんな人に迷惑をかけてきた」

さやか「まどかみたいに慎重に、仁美みたいに思慮深くなりたいって、いつも思ってた」

まどか「…私は臆病なだけだよ」

さやか「あたしは無鉄砲なだけ」

さやまど「…」

さやか「…まどか」

まどか「何?」

さやか「あたしたち、変なとこで似てて、へんなとこで正反対だね」

まどか「…うん」

さやか「足りないところを、3人で補っていけたらいいね。仁美も一緒にさ」

まどか「…できるかな?」

さやか「うーん。まどかがその気になってくれないとできないかな」

まどか「…」

まどか「そうだね……うん。私、頑張る」

まどか「あたしが頑張らないと、さやかちゃん、勝手に契約してボロボロになっちゃいそうだもんね!」

さやか「…おいこら。なんて縁起でもないことを」

121: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:09:54.13 ID:Ehjw1bIC0
ほむらside

翌日から魔女退治の見学がスタートした
門限がないとはいえそう遅くまで平日に連れ出すことはできないので、特に休日に集中的に戦闘を行った

…失敗だったかもしれない
戦闘を重ねる度に二人の魔法少女への憧れは深まっていった
巴マミの、優雅で圧倒的な戦闘はやはり刺激的過ぎた

役割分担では、必ず私が二人につき、彼女が魔女に当たるという方式で戦ってきた
合理的ではある。彼女は何年もの間、この魔境見滝原を一人で守ってきた、多分現役では最強の魔法少女なのだ
後方支援も期待できるとあっては、そう苦戦することもない

122: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:12:38.52 ID:Ehjw1bIC0
もちろん、それは想定内であり、誰でもこんな風にはできないのだと
私が無様に敗北するところでも見せ付けてやろうと、たびたび役割の交換を申し出たのだが
そのたび、先輩に譲って、の一点張りで聞いてくれなかった

余談だが、面倒くさいから私はそれなりのベテランということにしてある
すなわち、この先輩は学年的な先輩という意味だ
…魔法少女の戦闘において、1年先輩だから何だというんだ

…どうやら、私の心臓のことをとっくに見抜いていたらしい
心配で気が気でなかった、今回、こんな形ではあるが協力体制を取れてほっとしている、とまで言われた
大体、彼女が私を切り捨てて逃げるなんて役割につくはずがなかった
どうしてそのことに思い至らなかったのか…

123: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:14:58.36 ID:Ehjw1bIC0
それに、もし私が苦戦しているところを見せても、インキュベーターが

『君たちの素質は彼女をはるかに凌駕する』

『まどかは歴代でも最強の魔法少女になれるし、さやかだって努力を重ねればマミに肩を並べられるかもしれない』

なんていうに決まっている
事実なのだから反論のしようがない。巴マミだって肯定する

幾分私が傷つかないようにオブラートに包んでくれるだろうが、それはより一層惨めかもしれない

124: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:18:15.24 ID:Ehjw1bIC0
だが、今回の時間軸において、美樹さやかは明らかにインキュベーターに不信感を持っている
具体的な願いを持っていない、ただ魔法少女に憧れているだけのまどかが契約を交わすことを、現段階では止めるはずだ
まして、憧れる理由が、『何もできない自分を変えたい』ならなおさら
まどかも、友人の忠告を無視できるような子ではない

しかし、今はまだインキュベーターへの不信感が勝っているが、いつ逆転するかわかったものではない
巴マミが体験ツアーを提案した時は驚くほど目を輝かせていた
かなり危ういように思える

まどかは、私が見る限り精神的に安定しており、当面は契約しないように思える
やはり、問題は美樹さやか本人
上条恭介への医者からの宣告がターニングポイントとなるだろう
そろそろ、その宣告がきてもおかしくない

125: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:23:51.43 ID:Ehjw1bIC0
美樹さやかは、過去の時間軸では、ソウルジェムが魂そのものであるという事実にショックを受けていた
…知っていれば、契約しないのだろうか?
…わからない。今まで彼女と向き合ってこなかった

さすがに、魔女化の事実を知れば契約しないだろう
…しかし…魔女化を話したとして信じてくれるだろうか?
こればかりは証明のしようがない。インキュベーターを使うしかないが、あれははぐらかそうと決めたらとことんはぐらかす

それに、彼女の口から巴マミに伝わる可能性もある
巴マミの耳には、適切なタイミングで入れなくてはならない
というか、適切なタイミングがくるのか。できれば永遠に来てほしくない

――ならば、魂の話だけ、美樹さやかにする。それしかない
彼女の口から巴マミに伝わる可能性もあるが…それだけなら彼女も耐えられる…と思う

魂ならば濁り切ったらどうなるのか、となるかもしれないが、その時は魔法少女として死を迎える、とでも言えば大丈夫ではないだろうか
別段不自然な話ではない

…インキュベーターみたいな手だ、と思うと自己嫌悪したくなるが

126: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:25:35.99 ID:Ehjw1bIC0
QBside

鹿目まどかの悩みが解消されつつあるのは気がかりだが、それでも、二人の魔法少女への憧れが強くなっていることは実に好ましい
彼女たちとの交渉において、今、悩みがないということはたいした問題ではない

暁美ほむらにはわかっていない
資質を持つ者は、自分の人生を選ぶことはできないということを
逃れられないレールに拘束される対価として、才能を受け取っているのだから
それが、因果というものだ

127: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:26:46.38 ID:Ehjw1bIC0



第5話:契約すれば問題ないよね?



128: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:33:16.38 ID:Ehjw1bIC0
ほむら「――だから、ソウルジェムは私たちの魂そのものなの」

ほむら「これが壊れれば、私たちは死ぬというわけ」

ほむら「ソウルジェムがソフトウェア、抜け殻の体がハードウェアと言ったところかしら」

さやか「」

…いきなり朝の6時に校舎裏に呼びだされて、転校生が、いきなり今まで隠していたことをあっけらかんと打ち明けた
…何が起こってんだろ?頭が追いつかない…これは絶対眠気のせいじゃない

ほむら「ゾンビみたいでしょ」

さやか「いや、そんな…」

思っちゃってたよ…。あたし、最低だ…

ほむら「いいのよ。私にとっては、もはやどうでもいいことだから」

さやか「そんな…」

ほむら「今から試すわよ」

さやか「……は?」

129: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:39:53.23 ID:Ehjw1bIC0
ほむら「これが体から100m以上離れると、一時的に死ぬの」

ほむら「でも大丈夫、体にくっ付ければちゃんと再起動するから」

ほむら「これを魔力も使って遠くに投げるから、死んだことを確認してからとってきて」

さやか「いや、あたしが持って歩くとか、もっと安全な方法があるじゃない!何でそんな無茶するのよ!」

ほむら「あなた、言うこと聞く?」

…聞かないだろうなあ。死ぬとなっては

さやか「いや、あの………ちゃんと生き返る保障って、あるの?」

ほむら「そういえばよくわからないわ。インキュベーター!」

QB「呼んだかい?」

さやか「え、こいつ、いんきゅべーたーって言うの?」

ほむら(あれ…これ教えたらバレる可能性も…いや、美樹さやかだから一回くらいは大丈夫ね)

ほむら「忘れなさい。とにかく!聞いていたでしょう?100%生き返る保障はあるのかしら?」

QB「すぐに戻せば、理論上は大丈夫なはずだけど、実際に魔法少女とソウルジェムが100m離れたことはほとんどない。ちょっと自信がないな」

ほむら「使えないわね。まあいいわ。行くわよ!」

130: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:44:31.28 ID:Ehjw1bIC0
さやか「ちょっと待って…。今分かった」

さやか「あんた、あの体育の好成績、魔力を使っているな!?」

さやか「こんなちっこいの、あの運動神経なら、魔力を込めるまでもなく100m投げられるもん!」

ほむら「ええ。そうよ。なにか問題ある?」

さやか「大有りだよ!ずるじゃん!」

ほむら「心臓病で病み上がりの女の子に、健康な人と同じカリキュラムを課す腐った教育制度が悪いのよ!」

ほむら「体育の度に準備運動で貧血なんてやってられないわ!」

ほむら「そしてそんなことは今どうでもいい!とにかくやるわよ!」

さやか「いや、もうわかったから!いいよ、もう!キュゥべえだって認めてるし!」

ほむら「実際に見せておかないと、私の気がすまないの」

ほむら「あなたにショッキングな光景を見せて、契約への恐怖心を与えておかないと」

さやか「それをあたしに話したら、意味なくない!?絶対テンションおかしいよ!怖いんでしょ!?やめときなって――」

ほむら「うるさい!」

131: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:46:46.01 ID:Ehjw1bIC0
叫ぶと同時に、転校生が『魂』を投げた
一瞬間をおいて体が崩れ落ちる
急いで駆け寄って脈と呼吸を調べると…本当にない
しかも、みるみる体が冷たくなっていく

QB「これは死んでいるね。急いだほうがいいよ」

さやか「わかってる!」

あたしは大急ぎでソウルジェムをとってきて、転校生に駆け寄った
とりあえず胸においてみる。ピクリ、と動いたかと思うと、ガバッて起きた
ソウルジェムを胸に当ててブルブル震えてる。本当に怖かったんだ…

ほむら「…これでわかったでしょう。私たちはゾンビなの。ゾンビになりたくなかったら、契約なんてしないことね」

…何でこんなにゾンビを強調するんだろう…
ゾンビって転校生…が言うたびに、胸がズキズキする…

132: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:51:11.90 ID:Ehjw1bIC0
さやか「やめてよ…そんなこと言わないで…」

さやか「あたし、転校生のこと――ほむらのこと、そんな風に思いたくない…」

ほむら「言ったでしょう?私は本当に気にしていないの」

ほむら「まどかさえ守れれば、ゾンビになろうが死人になろうが、たいした問題じゃないわ」

…一体、まどかとほむらの間に、何があったって言うんだろう…」

さやか「この話、マミさんやまどかには…」

ほむら「していない。特に巴マミの耳には私の口からタイミングを選んで入れたい。どうか黙っていて」

さやか「…わかった。正直口は軽いほうだけどさ。これは流石に黙りとおして見せる」

さやか「任せるからね」

マミさん、知らないで契約したんだとしたら、相当ショック受けるだろうなぁ…
あたしにどうこうできる話じゃない。やはり魔法少女にお任せするしかないか

まどかじゃなくて、あたしにこの話をしたってことは、あたしのほうが契約する可能性があるって思ったのかな?
まどかは最近落ち着いてる感じだし

133: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/29(火) 21:53:34.61 ID:Ehjw1bIC0
…あれ?…ソウルジェムが魂――命だって言うのなら
――濁りきったらたら魔法を使えなくなるってキュゥべえは言っていたけど
それだけじゃすまないんじゃ…

――いや、ほむらがここまで体を張ってくれたんだ
今は、これ以上の追及はよそう
それに、この事実だけでも契約を拒む理由には充分だ

恭介の力になれないのは残念だけど、時間がかかっても治りさえすれば、あいつはすぐにでも世界に行ける
本当の天才なんだ。契約の力になんか、頼らないほうがいいのかもしれない


―――と、思えたのは、本当にまだ何も知らなかったからでしかなく…

140: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 21:50:21.75 ID:4RkSgZio0
その放課後、いつものように恭介のお見舞いに行ったんだけど…

恭介「もうほっといてくれないかな…。もうだめなんだ…」

さやか「どうしたのよー。そんな落ち込んじゃって!」

さやか「あー、いくらVIP待遇とは言え、病室で一人閉じこもってたらねー」

さやか「今度外出許可とろうよ!公園前にクレープ屋ができてさ、これがおいしいんだよね!なんと言ってもチョコクレープが――」

恭介「ほっといてくれないかな!!」

さやか「!……恭介…?」

恭介「指、もうだめなんだって…。先生が…」

さやか「そんな…。だって、まだリハビリ初めてちょっとじゃん!まだ諦めるには全然だよ!絶対ヤブだって!他の医者に――」

141: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 21:57:40.86 ID:4RkSgZio0
恭介「もう充分だよ!!!それで感覚ひとつ戻らない。とっくに気付いてたさ…。みんなだって気付いてた」

恭介「君ぐらいだよ。来る日も来る日も無意味な励ましばかり。弾けもしない曲を聞かされる身になってくれ」

恭介「君が来るたびに、もうバイオリンを弾けないんだろうっていう現実を直視させられる。…憂鬱になる!」

恭介「…ひょっとして、君は僕をいじめてるのかい?」

さやか「…!」

恭介「…何て無意味な時間を毎日毎日過ごしてきたんだろうねえ、君は」

恭介「みんなみたいに見放してくれればいいんだよ」

恭介「バイオリンを弾けない僕に何の価値もない。生きてたって仕方が無い。違うかい?」

恭介「だからみんな見舞いに来なくなったんだよ。そっちのほうが、僕だってよっぽど楽さ…」

恭介「君も、もう来ないでもらえるかな!?」

142: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 22:02:35.59 ID:4RkSgZio0
さやか「…」

恭介「…」

さやか「ごめん…」

恭介「…!…何で君が謝るんだ…」

さやか「あたしが追い詰めちゃったんだよね…?」

恭介「…え?」

さやか「あたし、ほんとに治るもんだと信じてたからさ。ごめんね、バカで」

さやか「医者でもなければ恭介でもないんだから、指のことなんて、わかるはず無かったのにね…」

恭介「…」

さやか「毎日毎日もバイオリンの話ばっかしてさ。恭介の気持ち全然考えてなかったよ」

さやか「恭介のことを追い詰めてるだなんて、考えもしなかった」

さやか「…小さいころからいつも一緒にいて、毎日お見舞いに来て、一緒に音楽を聞いて

さやか「…恭介のこと全部知ってる気になってた。何もわかって無かったのにね…。無神経にもほどがあるよね…」

143: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 22:06:33.76 ID:4RkSgZio0
恭介「…」

さやか「…これだけは言わせてもらえないかな?」

恭介「…何だい?」

さやか「バイオリンなんか弾けなくたって、恭介は恭介だよ」

恭介「…そんな気休め聞きたくない」

さやか「あたしが言ったって仕方ないよね。バイオリンのことばっかり言ってたのは、私だもん」

恭介「…」

さやか「ほかの人っていっても、恭介のお見舞いにどんな人が来てたか、なんて知らないしねぇ…」

さやか「…だけどさ、恭介のお父さんとお母さんは違うよ」

恭介「君に何がわかるっていうんだよ。とっくに見放されてる」

さやか「ありえない」

恭介「だから、君に何が…」

144: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 22:13:07.90 ID:4RkSgZio0
さやか「恭介が事故にあったって聞いて、病院にすっ飛んできた時さ、もうお父さんとお母さんいたんだよ」

さやか「気が気じゃないって感じだった。先生が出てきて、命に別状は無いって言われたとき、すごくホッとしてた」

恭介「…」

さやか「まあ、あれだよ、見放されたって感じたのは、たぶん、焦ってたんじゃないかな」

さやか「それを恭介に悟らせないように、そっけなくなっちゃったとか」

さやか「いや、実際のところはわからないけどね。それでも、恭介がバイオリンを弾けなくなったからって、見放すなんてありえない」

恭介「…」

さやか「…あたしが言ったって仕方ないよね。今度親子三人で話してみなよ。絶対大丈夫だから。」

恭介「…うん」

さやか「…もう帰るね」

恭介「――あ―」

145: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 22:15:02.53 ID:4RkSgZio0
何もわかっていなかった
私が恭介を追い詰めてた。私のせいだ

恭介の才能がここで終わるなんて、いやだ

契約…契約すれば
ほむらには悪いけど。本当に申し訳ないけど
体が抜け殻になるだけじゃすまない、とてもひどい代償があるのかもしれないけど
それでも…

あれ?
でもそれって
…恭介にバイオリンしかないって言ってることに?
そんなの嫌…


………わからない。どうすれば…


146: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 22:23:54.16 ID:4RkSgZio0
まどか「今日は早いね?」

さやか「……こんな日もあるよ」

まどか「ははーん。『二人の間には言葉は不要』ってやつだね!」

さやか「…それぐらい分かりあえていれば、良かったのにね」

まどか「…さやかちゃん?」

あたしはまどかの言葉を上の空で聞きながらぼんやりと視線を前に向けた。…え、あれって…

さやか「ねえ、まどか、あれ…」

QB「グリーフシードだね。しかも、孵化しかかっている状態だ」

まどか「キュゥべえ!」

さやか「何とかならない?」

QB「魔法少女じゃないと無理だね。僕と契約して――」

147: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 22:29:31.84 ID:4RkSgZio0
さやか「ケータイは?」

QB「マミは、仕事には持っていかない主義なんだ。ほむらの方は知らない」

さやか「まどか!呼んできて!」

まどか「さやかちゃんは!?」

さやか「私はほむらにかける。ケータイ持ってるかもしれない」

まどか「わかった!すぐ逃げてね」

そう言うと、まどかは走っていった

148: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 22:32:56.62 ID:4RkSgZio0
ほむらside

…美樹さやからの着信…――ッ!
 
ほむら「何!」

さやか「病院にグリーフシード。孵化しかかってるって、キュゥべえが」

やっぱり…統計より早いじゃない…

ほむら「すぐに行く!あなたは離れなさい!」

さやか「やだよ。恭介や病院の人はどうなるのさ?」

ほむら「私が間に合わせるわ!」

さやか「間に合うならいても問題ないね」

ほむら「…あなたに何ができると言うの!?向こう見ずになるなと何度言えば――」

さやか「契約すれば問題ないよね?」

ほむら「――!あなた、あれを知ってまだそんなことを…!?」

さやか「私だって、今、契約したくない。できれば急いでほしい。」

そう言って、電話が切られた。やはり魔女化まで伝えたほうが
――今はそんなこと考えている場合じゃない!

149: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 22:35:52.34 ID:4RkSgZio0
さやかside

さやか「あんたの仕業じゃないでしょうね?」

QB「何が原因かが、そんなに重要かい?」

さやか「…あんたへの信用が、ますます無くなるだけだね」

QB「たいした問題じゃないね。もともとそんなものがあったのかさえ疑問だ」

QB「それに、君が契約するのは、もはや時間の問題さ」

さやか「…見てたの?」

QB「僕はいつも資質ある少女のそばにいる」

QB「まどかに行かせたのは、きっかけがほしかったからだろう?」

QB「君がマミの方へ向かうことが最善だったはずだ。身体能力では明らかに君に分がある」

さやか「…そうかもしれないね」

さやか「だけど、今、契約したくないとも思ってる」

さやか「こんな、何も心の整理ついていない状態で契約するなんて、ほむらを裏切る行為だから」

150: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/30(水) 22:37:56.11 ID:4RkSgZio0
QB「ずいぶん彼女に肩入れするんだね。彼女は何か隠しているよ?」

さやか「あんたも同じでしょ?」

QB「僕は有史より前から存在している。そのときから見聞きしてきたことを、全部話して欲しいのかい?」

さやか「……いいよ。もうあんたには何も聞かない」

QB「彼女も何も話さないと思うよ。肝心なことはね」

…確かにそうだ
そして、それを聞かないと、あたしは力になれない
…つまり、ほむらには、私の力なんて必要ないってこと
だからずっと秘密にしているんだ…

157: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 21:33:32.53 ID:AkdF1m+10
ほむらside

病院に着いたときには、すでに結界が形成されていて、巴マミが入っていこうとしているところだった
まどかもそこにいた

ほむら「私も……連れて行って…」

二人は私を見て驚いたようだった。ずいぶんひどい様相をしているんだろう。

QB「よく間に合ったね。まだ少し余裕がある。さやかも無事だよ」

インキュベーダーがテレパシーで語りかけてきた

まどか「さやかちゃんもいるの!?」

さやか「ごめんねー。ほっとけないしさー」

美樹さやかがインキュベーダーを媒介としたテレパシーで語りかける。まったく…

158: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 21:35:19.93 ID:AkdF1m+10
マミ「まあ、間に合いそうだし結果オーライでいいじゃない。急ぎましょう」

そして、巴マミは、息絶え絶えの私に向かって問う

マミ「グリーフシードは無いの?」

ほむら「…全部……使い切った…」

マミ「これを使って」

巴マミがグリーフシードを私に差し出した

ほむら「いや…あなたが矢面に立つのだから…」

マミ「その状態じゃ、使い魔の相手もできないでしょう?私は魔力満タンだから。ストックもある」

と言って、ソウルジェムを見せた。確かにそうだった

「…ありがとう」

「お互い様よ」

159: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 21:38:52.44 ID:AkdF1m+10
そして、浄化を終えて、まどかに切り出した

ほむら「今回は急ぐ必要がある。あなたは連れて行けない」

まどかはかぶりを振って答える

まどか「連れて行って」

…そういえば、大抵この結界内にまどかもいたな…

ほむら「だめよ。あなたに何ができると言うの?」

まどか「力になれなくてもいい!さやかちゃんをほっとくなんてできない!」

ほむら「何を馬鹿なことを……!言ったはずよ!自分を大切にしろと!」

ほむら「あなたがいなくなることで傷つく人がどれだけいるか少しは――」

マミ「暁美さん。今は時間が惜しい。その問答こそ時間の浪費よ」

マミ「……いつもの見学の要領でいきましょう。今までそれで問題もなかったじゃない?」

ほむら「…そうね。仕方ないわ。…まどか、あなた変わったわね」

契約なんて必要なかった。喜ばしいことかもしれないけど…

160: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 21:41:13.86 ID:AkdF1m+10
……ここの使い魔が相手なら、まどかを連れて行っても何とかなるか…
問題はやはり魔女。過去の統計から言えば、私が相手をしたい
しかし、やはり譲ってはくれないだろう。無駄なことに時間をとられるわけにはいかない

それに、時間停止が不安定になっていることも気にかかる
ここに着く少し前から、予期せぬ停止の解除や、不発が起こっている
時間停止の過度な連続使用・連発の危険性はわかっていたので、これまではそれを避けるような戦術を組み立てていた
ゆえにここまで連続的に、長時間使ったのは初めてだった
統計上一番早い時間にグリーフシードが見つかったがために、いつ孵化するか分かったものではないと考えたからのことだが……

魔力が回復すれば元に戻るよう類のものではないらしい
この状態では魔女は相手にできない。やはり任せるしかない。

161: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 21:42:52.57 ID:AkdF1m+10
しかし、大体の時間軸においては、まどかの話では
どうやら巴マミが浮かれていたと言うか、高揚しすぎていたことが敗因になっていた
……らしい。何故か自分を責めていたまどかがあまりにも痛ましかったので、詳細は聞いていないが…

今の巴マミにそのような様子は無い
巴マミが、通常の状態でワルブルギルス以外の魔女に負けるというのも考えがたい
そこまで心配する必要は無いんだろうか?

……いや、魔女自体は倒したことはあるが、私が巴マミと今回の魔女との戦闘を、この目で見たことは無い
決め付けるわけにはいかない。いつでも助けに入れる準備はしておかないと

162: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 21:46:07.89 ID:AkdF1m+10
結界最深部までは苦も無くたどり着けた

さやか「ありがとう。間に合ってくれたね」

ほむら「契約していたら、どうしてくれようかと思っていたわ」

マミ「でも、間に合ったと言えるのかしら。これは。…いえ、間に合ったと言えるようにしないとね」

魔女の孵化と同時に、新たに出現した使い魔が襲い掛かってくる
確かに、二人を逃がす暇はなさそうだ。しかし、これは…

マミ「いくわよ!」

私は使い魔の相手をして、巴マミは魔女に向かっていく
あの魔女は過去の時間軸において、何回か巴マミに勝利した恐るべき魔女のはず――なのだが

巴マミが、マスカット銃を何丁も出し、連射する。全弾が当たり、魔女が吹っ飛んだ。
…何だ、これは。ここまで無抵抗な魔女は見たことが無い
仮に絶不調だったとしても、巴マミがこれに負けるものなのだろうか?

…そもそも、結界の構成こそ同じだが、私が見た魔女は、これよりかなり大きかった
形から何から何まで違う出現時間も統計と違う。別の魔女なんだろうか?
…そうとしか思えない。出現時間ならともかく、結界の構成が同じで魔女が違うなんて初めてだ

163: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 21:48:25.50 ID:AkdF1m+10
巴マミは、華麗に舞いながら、盛大に銃を乱射している
油断は見えない。どうやらいらぬ心配だったらしい

マミ「ティロ・フィナーレ!」

巴マミが魔女に止めを刺そうとしたき、私は使い魔の相手をしながら、美樹さやかに魔女化の事実を伝えるべきか否かについて考えていた

しかし…


――統計は、そこまで狂わない


ほむら「――ッ!」

魔女が倒されたかと思いきや、それが見覚えのある、大きい魔女に変化した
あいつだ…!巴マミの頭に噛み付いてくる…!

164: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 21:50:55.60 ID:AkdF1m+10
ほむら「間に合え…!」

私は時間停止をかけて駆け出す。うまく作動してくれた

こういうことか…!
経験は事象の予測に役立つが、同時に、突然現れたイレギュラーに対する思考停止、判断の遅れを引き起こす
現に彼女は全く動けないでいた

どうしてあの程度の大きいだけ魔女に、あの巴マミが何回も負けているのか疑問に思っていたが、こういうカラクリが…!

驚愕と恐怖に染まった表情の巴マミをどけると同時に時が動き出した
やはり調子がおかしい
私は完全に避けきれず、右手の手首が裂けた
鮮血が飛び散る。ぞっとするような噴出しようだった

165: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 21:54:18.79 ID:AkdF1m+10
われに帰った巴マミが止血をしてくれた。…何とか戦える。私は魔女へと歩を進める

マミ「だめよ!止血だけじゃ…どれだけ血が出たと…!」

ほむら「自分のソウルジェムを見てみなさい」

マミ「…!」

ほむら「死の恐怖が原因でしょう。その状態では浄化しても濁る。それでも、使い魔程度なら、問題ないわよね?」

マミ「でも…!」

ほむら「大丈夫。私にはあれを瞬殺する手段がある」

ほむら「あなたのおかげで魔力の残量も十分。この体調でも問題ない。二人をお願い」

マミ「グリーフシードはどのくらい――」

ほむら「今最悪なのは、あなたが戦闘不能になることよ」

マミ「――わかった…!」

巴マミが二人の方へ駆け出した
…そう、魔力の残量、体調ともに問題では無い。時間停止を使って爆弾を体内に送り込む。それさえ決めてやればいい
…問題は、やはり時間停止。発動しなかったら…途中で切れたら…

だが、巴マミなら、あの状態でも二人を逃がせるはずだ
この場において魔女を倒すことは必須ではない。時間稼ぎで十分だ

166: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 21:56:52.69 ID:AkdF1m+10
…そもそも、巴マミを切り捨てて退避するはずではなかったのか
取り決めでもそうだったし、私自身そのつもりだったはずだ

…3週目からずっと敵対していた彼女に少し受け入れてもらうとこれだ
…こんな体たらくで、まどか以外切り捨てるだなんて失笑だ
これじゃ、ただみんなから逃げていただけじゃないか…
 

…今は感傷に浸っているときではない。集中しよう。
魔女は、自分が自由であると主張するように、フラフラと飛んでいる
右に左に上に下に。今は、あちらから仕掛けてくることはなさそう

167: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 22:01:42.13 ID:AkdF1m+10
一歩一歩近づきながら魔女に発砲する
4発目までは気にも留めていなかったようだが、五発目が鼻と思しき部分に当たったとたん、こちらに口をあけて猛然と襲い掛かってきた
急所か何かだったのだろう。…落ち着け

まさに食われるという瞬間に、時間停止
…作動してくれた。後は爆弾起動、口に投げ込んで退避

…これだけだ――だったのだが、やはりうまくいかず――
――投げ込んで魔女の体内に送り込んで、三歩はなれないうちに、時間停止が勝手に解除され、爆発
私は吹っ飛び、結界内のなにかに頭をぶつけて――

168: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 22:03:10.90 ID:AkdF1m+10
さやかside

現在時刻は午前1時
マミさんがほむらに応急処置を施し後、まどかは病院に運びこもうと主張した
だけど、マミさんが自分でもリスクなく治療できる、彼女も大事にすることを避けたいはずだととりなして自宅に運び込んだ

そして今、マミさん宅で続きの治療を行っている
まどかも、立ち会っている
あたしはあまりに遅くなってしまったことの謝罪をお母さんに電話でしているところ

169: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 22:06:13.32 ID:AkdF1m+10
さや母「…門限を決めていなかったことは、さやかへの信頼からだったことはわかるわよね?」

さやか「わかってる。ごめんなさい。本当に悪いと思ってる。裏切ることになって、本当にごめんなさい」

さやか「…だけど、今は、何を言われ.たって帰れない。」

さや母「…理由もいえないの?」

さやか「…うん」

さや母「それは謝っているとは言わない。説明にもなっていない。」

さやか「…うん」

さや母「どう思われても、仕方ないということなのよ?」

さやか「…わかってる」

さや母「………お小遣い半年無し、ゲームと漫画は、全部捨てる」

さやか「あの、門限は…」

さや母「…今は変えない。今度同じことをしたら、本当に許さない」

さやか「…ありがと」

170: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 22:07:18.46 ID:AkdF1m+10
そう言ったら、電話を切られた
まどかの方は、大変な事情があると察してもらえたらしく、不問になったらしい
日頃の行いが違うからね…。

電話を切ると、別室からマミさんが出てきた。

マミ「もう終わったわ。大丈夫。まだ起きないけど。鹿目さんは、もう少し看ているそうよ」

…良かった

171: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 22:10:59.73 ID:AkdF1m+10
マミさんは、私の向かいに座った
意気消沈している感じ…何を言うべきかわからない。本当は黙っているべきなんだろう

…だけど、あたしはあいつのことを知りたい。あいつがその気なら、こっちから近づいてやる

さやか「あの…ほむらは、何をやったの?」

マミ「…時間を停めていたわ」

さやか「時間を停めた?」

マミ「自分と、自分に触れたものの時間を停められるみたい」

さやか「そんなこと、できるんだ……」

マミ「そういう魔法があること自体知らなかった。彼女も意図して習得したわけではないはずだけど……」

さやか「どういうこと?」

マミ「自分が最初に覚えた魔法以外の系統は中々覚えられないのよ」

マミ「まして、時間干渉みたいな強力なものとなるとね。元々使えたんでしょう」

さやか「その元々使える魔法って、最初に選ぶの?」

マミ「願いによって、最初から決まっているの。選択するものではないわ」

さやか「それって、つまり…」

マミ「暁美さんは。時間に関するお願いをしたってこと」

時間か、よくわからないな。それに関係する願い事って言っても……

172: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 22:16:45.95 ID:AkdF1m+10
マミ「……あの、質問してもいいかしら?」

さやか「?」

マミ「暁美さんのこと、やけに勘がいいな、とか思ったことない?」

さやか「…あの、どういう…?」

マミ「あなたたちが始めて結界に入ったとき、暁美さんが助けてくれたでしょう?」

さやか「?…うん」

マミ「私が、暁美さんのお手伝いをすることはたまにあるんだけど、暁美さんが私を手伝うために結界に入ったことは、あの一回しかないの」

さやか「――ということは…」

マミ「その一回で、たまたまあなたたちが救われた」

さやか「…」

マミ「それと、魔法少女見学の件。普段は私と暁美さんで適当に魔女が出やすそうなところを練り歩くだけなんだけど」

マミ「彼女、たまに確信をもって結界のところまで誘導するの」

マミ「まるで、絶対に倒しておかないといけない魔女をわかってる、って感じに」

173: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 22:21:11.69 ID:AkdF1m+10
…そういうこと……か

さやか「……転校前に、まどかがほむらに出会って、忠告をされたんだ

さやか「その少し後にキュゥべえが現れたんだけど…忠告の内容は、契約するな、ってことだった」

さやか「あたしたちがキュゥべえと会ったのはそれが初めてで、その前に魔法少女になるなって、いきなりまどかの前に現れて忠告」

さやか「タイミングができすぎてるから、忠告なんて言っておいてキュゥべえとグルなんじゃないかとも思ったこともあったけど」

さやか「キュゥべえが出るタイミングを知っていたのかもしれない」

さやか「後、会う前から、あたしとまどかのことを良く知っていたみたい。特に、まどかを守ろうとしてる」

マミ「それが、目的なんでしょうね」

マミ「…キュゥべえが、暁美さんとは契約した覚えがないとも言っていたわ」

174: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 22:23:27.01 ID:AkdF1m+10
…できれば、ほむらの口から聞きたかった
でも、まだ聞きたいことが五万とある

マミ「暁美さんは、明らかに未来を先読みしている」

マミ「あなたたちのことも、出会う前から知っていた」

マミ「そして、時間に関する願い」

マミ「キュゥべえが契約した覚えもない……つまりこれは――」

マミさんが、確信した表情で言う

175: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 22:23:55.93 ID:AkdF1m+10




「――タイムリープ」




176: ◆WxX/Ywk/v6 2013/10/31(木) 22:28:34.12 ID:AkdF1m+10
QBside

成程、可能性のひとつとして考慮はしていたが、そんな願いをね
これで暁美ほむらの行動と目的の意味がすべてわかった

もはや君はイレギュラーなどではない
少し特殊な魔法を使えるだけの、ただの魔法少女だ
我々の障害にはなりえない

もう、この時間軸での脅威は去ったと見ていいだろう
いや、永遠に取り除かれたと言える

君はこの時間軸で失敗したら、また時を元に戻すつもりなんだろう?
そうすれば、また、目的が達成される可能性が生まれる、と、君は思っているんだろうから

しかしだ
鹿目まどかの過ぎた才能から生まれる、彼女の破滅の未来
それが君が彼女を何度も救おうとしたことによってもたらされたものだと知ったら
君は――君のソウルジェムは、どれだけ絶望に染まるんだろね?

186: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 20:45:31.41 ID:gBx1NpMx0
マミ「……完全に私のせいね」

さやか「何が?」

マミ「…見学のとき、必ず私が魔女に当たっていたでしょう?」

さやか「?…うん」

マミ「…何度か彼女は変わって欲しいって言ってきたんだけど、私はそのたび断っていたの」

マミ「心臓のことが心配だって言って」

さやか「ほむら、心臓が悪いの?…ってそういやそうだった」

さやか「そっか。魔力で強化してるんだね。そんな感じのこと言ってた」


187: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 20:48:10.50 ID:gBx1NpMx0
マミ「心臓を強化すればそれだけ戦闘に使える魔力が減る。だから私が押し切っていつも魔女と戦っていた」

マミ「それで、今回も、阿吽の呼吸と言った感じで、私が魔女にかかっていったの」

さやか「そうなんだ」

マミ「未来がわかっていたと言うのなら…」

さやか「!」

マミ「あの時、本当は変わりたかったんでしょうね…。でも時間に余裕が無かった」

マミ「馬鹿な私が拒否することが、わかっていたんでしょうね…」

さやか「…」

マミ「私の思い上がりのせいで、暁美さんがあんな目に――」

さやか「違うよ」

マミ「違わないわ」

さやか「違うんだよ。…教えてくれなきゃ、わかるわけ無いじゃないじゃん」

マミ「それは…」

さやか「……何もわからなきゃ、力になんてなれるわけが無いんだよ」

188: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 20:49:22.88 ID:gBx1NpMx0



第6話:あなたたちがいつ私の力になったことがあると言うの?



189: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 20:54:34.39 ID:gBx1NpMx0
ほむらside

目を覚ますと、3人とも、私が寝ているベッドのそばにいた

……私、生きてたんだ

…よかった。いつ以来だろう、巴マミを助けることができたのは
まどかと美樹さやかも、1周目・2周目以来と思えるほどに友好的だ

もしかしたら……

ほむら「あなたたちが助けてくれたのね。迷惑かけたわ」

マミ「迷惑だなんて…あなたがいなかったら、どうなっていたか…」

マミ「本当に、ごめんなさい。…ありがとう」

ほむら「あら、お互い様って言ったのは、あなたじゃない?」

そして、なんともなしに窓を見た。…暗い

ほむら「今、何時?」

まどか「2時だよ」

ほむら「…ごめんなさい。私を待っててくれたのね。今すぐ帰りましょう。一緒に言い訳――」

さやか「ほむら」

ほむら「何?」

さやか「ほむらは、未来から来たんだよね?」

!!!

190: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 20:58:37.71 ID:gBx1NpMx0
ほむら「……時間停止を時間跳躍に結びつけたっていうの?飛躍しすぎじゃないかしら」

マミ「キュゥべえ、飛躍してる?」

QB「していないね。あり得る範囲だよ」

ほむら「…」

さやか「もう、全部話して欲しい」

…だめだ。成り行きで話していいことではない
適切なタイミングで伝えなければ……また……
……そもそもいつが適切かさえ、私にはわからない……

ほむら「話せない」

美樹さやかは悲しげにため息をついて、言った

さやか「じゃあ、あたしは、あんたのことを、敵として見なきゃいけなくなる」

ほむら「……………え?」

…………嘘だ……

まどか「さやかちゃん!?」

……そんな……ここまできて……敵対?
………嫌!……もう嫌!嫌!……嫌…嫌……
いやだ…だけど…だけど…

191: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 21:02:51.84 ID:gBx1NpMx0
マミ「暁美さん」

巴マミが伏目がちに言う

マミ「美樹さんだって、こんなこと言いたくないのよ?あなたは、私たちの命の恩人だもの」

マミ「あなたが悪い娘じゃないってことは、みんな知ってる」

マミ「いえ、消極的すぎる表現ね。あなたがいい娘だって信じたい。鹿目さんは確信しているわ」

マミ「…だけどね、わからないのよ。あなたがここまで秘密主義を取る理由が」

マミ「タイムリープのことを話せなかったことはわかるわ。言われたって、なかなか信じられる話じゃないもの」

マミ「だけど、それが知られて尚、何を、何故隠そうとしているのか、わからないの」

マミ「……だから、私は最低なことを考えてしまう」

マミ「暁美さんが守りたいのは鹿目さんだけで、あなたが望む未来に私と美樹さんはいないんじゃないか…って」

まどか「マミさん!いくらなんでもそれはないよ!」

ほむら「そんな…」

192: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 21:07:38.16 ID:gBx1NpMx0
マミ「あなたは私の命を助けてくれた。こんなこと言っちゃいけないってわかってる」

マミ「だけどね……ふつう、隠し事って、後ろめたいからすることでしょう?」

ほむら「…」

マミ「だけど、みんなの命はあなたに救われた

マミ「だから、あなたが非道な目的を持っていないことを信じて聞く」

マミ「何も、教えてはくれないの?私たちが手伝えることは、本当に何もないの?」

気づいてしまった……
……もう、みんなと敵対するのは嫌だ
……あんな思いをしたくない

…だけど……だけど――

193: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 21:16:19.45 ID:gBx1NpMx0
『あのさあ、キュゥべえがそんな嘘ついて、一体何の得があるってわけ?』


『私たちに妙なこと吹き込んで、仲間割れでもさせたいの?』


『どうしてかな。ただ何となくわかっちゃうんだよね。あんたが嘘つきだってこと』


『にわかに信じがたい話ね』


『ソウルジェムが魔女を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない!』


『ほむらちゃん……どうしていつも冷たいの…?』


『ごめん、ほむらちゃん。私、契約する』

194: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 21:19:49.80 ID:gBx1NpMx0



ほむら「………私は もう 誰にも 頼らない」


マミ「……どうして?」


ほむら「あなたたちが いつ 私の力に なったとことが あるというの?」


マミ「……確かに、私はあなたの足手まといでしかなかった」

マミ「だけど、知っていたら、力になれることがあるかもしれない。美樹さんや、鹿目さんだって――」


ほむら「あなたたちが いつ 私の 言うことを 信じてくれたと いうの?」


マミ「…え?」


ほむら「…誰も 何を言っても 信じてくれなかったじゃない!」


マミ「……そう、『私たち』のせいなのね…」

まどか「そんな…そんなのって…」

195: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 21:23:27.50 ID:gBx1NpMx0
さやか「ほむら」

美樹さやかが両手で私の手を包んで、まっすぐ目を見て、言う

さやか「『違うあたし』が、あんたにどれだけ迷惑をかけてきたかなんて、知らない。知ったこっちゃない」

さやか「今、あんたの目の前にいるあたしは、あんたの力になりたいと思ってる」

さやか「どれだけ力になれるかなんてわからない」

さやか「『また』、迷惑かけちゃうかもしれない。それでも」

さやか「あたしは、あんたのことを知りたい。助けたい」



「――あたしは、あんたのことを信じたい」



196: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 21:27:16.04 ID:gBx1NpMx0
………そうだ、この子は――さやかは――

転校してから、クラスで浮いていた私の心に土足で上がりこんで、傷つけて、へこませて、泣かせて、怒らせて――
――私のことを笑顔にしようとした。放っておいてくれなかった

…泣いたことのほうが多かったけど、それでも、いくらやめてといっても、私を見捨てなかった
体の弱い私のことを、いつも助けてくれた

魔法少女のまどかとの距離感に悩んでいたとき、事情を何も知らないくせに、相談しろと強要してきた

契約して、体を強くしたいといったら、自分が支えになるから、必要ないと言ってくれた


…だからこそ、私は、まどかのために願うことができた


何度も繰り返すうちに、彼女を切り捨てるために、1周目のことを忘れなくてはいけなかった



今にして思う


…どうして忘れることができたんだろう



197: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 21:29:19.19 ID:gBx1NpMx0
……信じよう、さやかを
生まれて始めてけんかをした相手、確かに友達だった彼女を

私が契約してからは、正直迷惑だったけど、いつもまどかを守ろうとしてくれた
優しい、それゆえに、魔法少女に向いていない彼女を

さやかは、私が隠し事をしていると悟り、いつも警戒していた
そう、隠し事は後ろめたいからこそするものだから

仲間を疑わない巴さんや、誰も疑おうとしないまどかを守ろうとしてくれていたんだ

私が隠さなければ、きっと、受け入れてくれるはずだ

198: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 21:31:34.06 ID:gBx1NpMx0
信じよう、巴さんを。素人同然の弟子を二人も三人も抱え込むことになっても、嫌な顔せずに受け入れてくれたお人よしを
みんなが私を拒絶する中で、自分も私の言うことを信じていなかったくせに、私自身を信じてを守ろうとした、正義の魔法少女を

あの時、巴さんは、みんなと私との間で疲弊していた
さやかが魔女になって、ポッキリ折れてしまった

……あの時は、何もかもタイミングが悪かったんだ
……まともな状態で、心中を図るような人じゃない
私は、知っているはずだ。わかっていたはずなのに…

彼女は、自分の運命を受け入れてくれるはずだ
彼女は、弱くなんて無い。何年もこの見滝原を守ってきた人なんだから…

199: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/01(金) 21:34:43.41 ID:gBx1NpMx0
信じよう、まどかを
どうしてまどかを信じず、まどかを救えるというのだろう
この子は、私の、一番の友達なんだ。私に、初めて希望を与えてくれた人なんだ

まどかはいつも私のことを信じてくれる……ただ、私がまどかのことを信じられなくなっただけだ


何度も繰り返して、みんなの嫌なところを見て、怖くなって
私は逃げていた。結局、私一人では何もできなかった

みんなが、私を見てくれた。私も、向き合おう


――もう、逃げない


「わかった」
深呼吸をして、もう一度言う
「全部話す」

220: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:12:25.21 ID:bMcJLo6m0



第7話:これを知らないと、私は前に進めない



222: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:14:35.02 ID:bMcJLo6m0
私はすべてを話した

まどかと、巴さんに命を救われたこと
まどかが、私の一番の友達になったこと
舞台装置の魔女と戦って、二人が死んだこと
まどかとの出会いをやり直したい、まどかを守れる自分になりたいと願ったこと

まどかが魔女になったこと

インキュベーターに騙されているとみんなに話しても、誰も信じてくれなかったこと
さやかが、魔女になったこと
私が殺したこと
殺し合いになったこと
まどかに、契約する前の自分を救ってくれと頼まれたこと
まどかを殺したこと

もう、誰にも頼らないと決めたこと

まどかが、救済の魔女となって、世界を滅ぼしたこと

――すべてを

223: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:17:35.98 ID:bMcJLo6m0
ほむら「――信じてもらえるかしら?」

さやか「信じるよ……やっと、話してくれたね、ほむら」

まどか「……私の………私のために?」

ほむら「そうよ」

まどか「……どうして?……今の私は、ほむらちゃんに何もしてない」

まどか「どうして、そんなに頑張れるの?」

ほむら「……勝手な自己満足よ。もう、こんなことでしか、『まどか』を守ることができない」

ほむら「どの、何の、いつの『まどか』を守ろうとしているのか、もうわからない……とっくに迷子になっていたの」

ほむら「こんなことで、あのまどかを、今のまどかを救えるわけなんてない。わかってる」

ほむら「だけど……それでも私は……」

224: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:20:45.75 ID:bMcJLo6m0
まどか「……ごめん。ほむらちゃん。……そうじゃなくて……」

まどか「あの、私は、今の私は、ほむらちゃんに何もしてないけど、友達だって思ってる」

ほむら「……え?」

まどか「もし、ほむらちゃんが今の私を友達だって思えないなら、思えるようにする」

まどか「私は、友達を、ほむらちゃんを守りたい。ほむらちゃんが私を守ってくれるなら、とても嬉しい」

まどか「――それじゃ、だめかな?」

ほむら「…それ以上のことなんて、望めるはずがない。…ありがとう、まどか…。」

信じてもらえた……わかってもらえた……こんなこと、初めてだ…

後は――


マミ「……証明できる手段はないかしら?」


225: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:24:19.99 ID:bMcJLo6m0
顔をしかめて、腕を組んでいた巴さんが口を開いた
……大丈夫。巴さんは信じようとしてくれている。絶対に認めたくない話を

ほむら「何を証明できればいいかしら?」

マミ「……魔女になるということ。」

ほむら「残念だけど、それは無理。」

マミ「……ソウルジェムが、魂だという話は?」

ほむら「ソウルジェムが体から100m以上離れると、一時的に死ぬ。これは証明になるかしら?」

マミ「……なるでしょうね……自分で、確かめたい」

ほむら「ええ。それが一番よ」

と言って、私がソウルジェムを差し出そうとすると

マミ「私が、確かめたいって言っているのよ」

と、自分のソウルジェムを、私たちに差し出した

226: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:27:48.31 ID:bMcJLo6m0
ほむら「……インキュベーター曰く、理論上は大丈夫なはずだけど、必ず再起動するとは断言できないそうよ?」

マミ「……それでも、これを知らないと、私は前に進めない」

ほむら「……わかった」
 
と言って、私が受け取ろうとすると

マミ「できれば、美樹さんにお願いしたい」

マミ「……暁美さんなら、帰ってくるとき時間停止を使うでしょうから」

マミ「あなたに時間停止を使わせられない。不安定なんでしょう?」

ほむら「……よくわかるわね。」

マミ「あの時、あなたの魔力自体は余裕があった。それなのに二度も時間停止後に大怪我をしたとなると、ね」

227: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:29:50.61 ID:bMcJLo6m0
さやか「……わかった。どこまで行けばいいかな?」

マミ「外に出て、右にしばらく進むと公民館がある。100mは超えているはずね。」

さやか「了解。超特急で帰ってくる」

と、言うとまどかが、行く手をふさぐようにさやかの前に立ち上がった」

さやか「まどか……マミさんは、ほむらの話を信じようとしてるんだよ」

さやか「これを知らないと進めないって言ってる。わかるでしょ?」

まどか「……わかんないよ」

マミ「ごめんなさい。こうでもしないと、私の気がすまないのよ」

さやかは、立ち尽くしているまどかを置いて出て行った

228: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:36:07.53 ID:bMcJLo6m0
マミside

目が覚めると、暁美さん、美樹さん、鹿目さんの三人が私をのぞき込んでいた

寝て起きるという日常では経験しないような嫌悪感
……確かに、気絶・就寝とかより、死という言葉が合うかもしれない

マミ「どうだった?」

ほむら「死んでた」

二人も、沈黙で肯定した

マミ「そう…」

ソウルジェムが魂……命そのもの……
それが濁りきったら、死に類することが起こるだろうという推測は成り立つ
……魔女になると言うのも……ありえる範囲……ね……

マミ「信じるわ。聞き分けが悪くてごめんなさい。ほかの時間でも、苦労したんでしょうね」

ほむら「……いえ、ここまで聞き分けがいいのは、初めてだわ」

マミ「ひどいわねぇ」


QB「ここまで知っていたとはね」


229: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:39:25.72 ID:bMcJLo6m0
いつの間にかいなくなっていたキュゥべえが戻っていた

マミ「……キュゥべえ……今の話、事実なのね?」

QB「事実だよ」

マミ「何で教えてくれなかったの?」

QB「訊かれなかったからね。大体、君は教えたところで契約していたんじゃないかな?」

マミ「それはそうだろうけど……後から教えてくれてもいいじゃない」

QB「教えたら、君は魔女になる前に死ぬだろう?」

マミ「それだと困るの?」

QB「僕たちは、魔法少女が絶望して魔女になるときに発生するエネルギーを使って、宇宙の寿命を延ばしてるんだ」

QB「思春期の少女の感情の起伏から生じるエネルギーは、実に莫大なんだよ」

マミ「宇宙ねえ。私は見滝原で精一杯よ」

230: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:43:28.54 ID:bMcJLo6m0
マミ「それにしても、あなたがいなくならなかったら、あんな体験しないで済んだのに」

QB「君が証明を求めるだろうことは予測がついていたからね」

QB「どこかのタイミングでご破算になればと思っていたんだけど」

マミ「どこまで原黒なんだか」

QB「この話を知られると、大概怒られるんだけど、君はそれほどじゃないね?」

マミ「私の願いは、命をつなぎとめることだったから、ソウルジェムが濁りきったら死ぬんじゃないか、とは思っていた」

マミ「あなたの言うように、死が5秒程早まっただけよ」

マミ「鹿目さんや美樹さんが契約した後だったら、本気で怒っていたでしょうけど」

QB「君は、二人が契約しないと思っているんだね?」

マミ「だって、私みたいに命がかかった状況じゃあるまいし、この事実を知って尚、契約しようとなんてするわけないじゃない」

231: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:48:29.87 ID:bMcJLo6m0
さやかside

ほむらとマミさんは話があるということで、あたしとまどかは、今、二人の送るという申し出を断ってタクシーで帰宅している
……収入を絶たれたあたしのお小遣いは早くも底をつきつつある

さやか「まどか、まだ契約する気がある?」

まどか「……ううん。もう絶対にできない」

さやか「だよね」

まどか「さやかちゃん…さやかちゃんも、契約なんてしないよね……?」

さやか「……うん。当たり前じゃん」

まどか「……」

232: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:53:05.13 ID:bMcJLo6m0
ところでまどかはイベント事が大好きで、エイプリルフールにはいつもどでかい嘘を仕込んでくる
なのだが、いかんせんどんな仕込みをしても態度ですぐにバレてしまう
慣れないことはするもんじゃないよー、と、あたしが茶化すまでが恒例行事だ

嘘が嫌いだからこそ、嘘が苦手なんだろうと思っていた
そして、あたしたちは変なところで似ている

……それを今、強烈に実感している

233: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 22:55:54.52 ID:bMcJLo6m0
ほむらside

ほむら「杏子を仲間に入れようと思う」

マミ「…確かに、この近辺の魔法少女では頭が一つ抜けているわね。でも、佐倉さんだけでいいの?」

ほむら「他は役に立つレベルではないわ」

ほむら「………いえ、彼女以外に心当たりがないわけじゃないけど、味方になってくれるかわかったものじゃない」

ほむら「不安要素が大きすぎる」

マミ「佐倉さんなら、確実に仲間になってくれるの?」

ほむら「ええ。相応の見返りを用意すれば問題ない」

マミ「どういう見返り?」

ほむら「私は、ワルプルギスを倒した後、つまり一月後には、見滝原を出るつもりでいるの」

ほむら「その後、私の居場所、というか立場に杏子が入ってくる、と言うのはどうかしら?」

ほむら「彼女も、見滝原で魔女を狩れることに魅力を感じるはず」

234: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 23:02:02.34 ID:bMcJLo6m0
マミ「それは交換条件になるのかしら?」

マミ「彼女が今、見滝原で魔女を倒しても、私は咎める気はないのよ?度が過ぎたら話は別だけど」

ほむら「……向こうがどう思っているのかはわからない」

ほむら「現に、今の今まで彼女は風見野に移ってから、見滝原で魔女を狩ったことはないはずよ」

マミ「確かにそうね……」

ほむら「少なくとも、別の時間軸では、ここの縄張りを提供することで協力してくれた」

ほむら「…度が過ぎたら、の度を広くしてもらえれば受けてもらえると思う」

マミ「…あなたが言うならそうなんでしょうね……ええ、そうしましょう」

マミ「私も、できる限り彼女に歩み寄ってみる。時が心を溶かしてなんとやらに期待するわ。お互いにね」

ほむら「そういうわけで武器の調達と杏子との交渉に専念したい。どこにいるかよくわからないから」

ほむら「グリーフシードの調達、お願いできるかしら?」

マミ「ええ、蓄えもあるし、しばらくは大丈夫でしょう」

マミ「ただ、ワルプルギス戦の前にはできるだけ多くためておきたいし、あなたも早めに佐倉さんを見つけてね」

ほむら「わかったわ」

マミ「それと……ワルプルギスの夜を倒したら、本当に出て行っちゃうの?二人とも、寂しがるわ」

ほむら「……私の問題よ。誰になんと言われようと変わらない」

マミ「そう……」

235: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 23:03:58.61 ID:bMcJLo6m0
その後、もうすっかり遅くなってしまったので、巴さんの家に泊まることになった
朝まで他愛のない話をして、そして、気づいてしまった


この人は、あの夜を越えたら……死ぬ気だ


正義を掲げて戦ってきた彼女だ。自分が、限界を迎えたとき、人を襲う魔女になる……耐えられるはずがない
その前に死ぬ、と言っても、実際にそれができるかなんてわからない。そんなに甘い世界じゃない
……あの時も、たぶんとっさにそう考えた

今は、打倒ワルプルギルスを最後の目標にしているんだろう。それを達成したら……。
だけど、理由は違えども、私も同じようなことを考えているんだ
……私に巴さんを止める資格なんて…あるんだろうか?

236: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 23:06:46.51 ID:bMcJLo6m0
……今更の今更だけど、ワルプルギスを倒した後の巴さんの心配をするなんて、ね
リスク度外視にさやかの元へ駆けつけた時から、とっさに巴さんを助けた時から、すでに気づいていた

でも、信頼の代償に、ひどく弱くなった
……今の私に、まどかのための犠牲を許容できるんだろうか

……-できるできないじゃない
その時が来たら……もし来たら……
……切り捨てなきゃいけないんだ……

237: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/02(土) 23:08:47.18 ID:bMcJLo6m0
マミ「ねえ」

ほむら「何?」

マミ「私が限界になったとき、死ぬことをためらったりしたら、あなたにお願いしてもいいかしら?」

ほむら「……構わないわ」

マミ「ありがとう。あなたはどうする?」

ほむら「私は、絶対に魔女にはならない」

マミ「強いのね」

ほむら「……あなたほどじゃない」

246: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/03(日) 23:06:11.66 ID:hMUMStjK0



第8話:彼の隣に立ちたいだけなんじゃないの?



247: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/03(日) 23:10:22.76 ID:hMUMStjK0
仁美「さやかさんは、上条君のことを、どう思っていますか?」

翌日の昼休み、仁美と二人でいるときに唐突に質問をされた

さやか「ただの幼馴染だよ。ちょっとー、まさか仁美まであんな――」

仁美「私は、上条君のことが好きです。」

さやか「!?」

あー、そっか、ほむらが言ってたアレ、仁美のことだったんだ……
全く気付かなかった。思いもしなかったよ……告白成功率100%だっけか、ハハ……

248: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/03(日) 23:12:28.97 ID:hMUMStjK0
仁美「あなたは、私に、嘘をつくんですか?」

さやか「………ごめん。あたしも、恭介のこと、好き。」

仁美「まあ、クラスメイトはみんな知っていましたけどね。」

さやか「………でも、伝える気は無い。それはあたしの自由だよね?」

仁美「ええ、さやかさんの自由です。私が気持ちを伝えるのも、私の自由です。」

さやか「……そう……だね」

仁美「いつ伝えるかも、私の自由です」

さやか「…え?」

仁美「明日、お見舞いに行ったときに伝えます」

249: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/03(日) 23:17:14.91 ID:hMUMStjK0
さやか「……優しいね。仁美は」

仁美「……やさしいとは思えませんわ」

仁美「友達から好きな人を取ろうとしているというのに、どんな結果になっても、友達であり続けたいと思っているだけなんですから」

さやか「…奪うってのはどうなんだろ。別に恭介はあたしのものじゃないし……」

仁美「あなたが一番上条君の事を見ていたじゃありませんか」

さやか「…ただ長かったってだけだよ。あたしは、恭介のこと何もわかってなかった」

仁美「ならば、私に一体何がわかっていると言うのでしょうね?」

さやか「…」

仁美「相手のことをすべて理解していないと、告白する資格すらないとおっしゃるんですか?」

さやか「…わからない」

仁美「とにかく、明日伝えます」

さやか「…そう」

仁美「いいですか?今日決心がつかなくとも――明日、学校を休んで伝えてもいいんですよ?」

仁美「学校なんかよりも、大切なものはたくさんありますから」

さやか「…仁美が言うか」

250: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/03(日) 23:19:36.70 ID:hMUMStjK0


そう。学校よりも大事なことはある

あたしは、後の授業は全部サボった


251: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/03(日) 23:21:15.97 ID:hMUMStjK0



「ほむら?今屋上。報告することがあるんだ。今から来てくれない?」



259: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 22:53:09.08 ID:0FwiI57s0
さやか「契約することにしたんだ」

ほむらが浮かべる表情は――失望と落胆……かな……胸が痛い

ほむら「理由を聞かせて」

さやか「恭介の腕を治したい」

ほむら「…」

260: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 22:57:05.14 ID:0FwiI57s0
さやか「……てか、これじゃ答えになってないよね」


さやか「……恭介はね、本当の天才なんだ。その恭介が、事故にあって、手が動かなくなった」

さやか「こんなのおかしいって、ずっと思ってた。何で事故にあうのがあたしじゃなかったんだろうって」

さやか「そして、もう治らない――ホントはだいぶ前から契約したかったんだけどさ」

261: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 22:57:33.12 ID:0FwiI57s0
さやか「恭介、追い詰められてた。バイオリンを弾けない自分は生きてても仕方ないって」

さやか「こんなんで契約したって、何の解決にもならない。同じようなことが起こったら、また恭介は絶望する」

さやか「先延ばしにしかならないんじゃないかって思ってた」

さやか」まあ、そんな風に追い詰めちゃったのはあたしなんだけどさ」
 
さやか「それにさ、なんか違うよ。それしかないからバイオリンやるしかないってのは」

さやか「あたしは、ただバイオリン楽しんで弾いてる恭介が好きなんだから」

262: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:07:13.27 ID:0FwiI57s0
ほむら「……じゃあ、なぜ……?」

さやか「今は仁美がいる」

ほむら「!?」

さやか「仁美は、恭介の才能じゃなくて、恭介そのものを見てる」

さやか「きっと支えになってくれる。どんなにいい子か知ってるし、任せられるって思ったんだ」

さやか「偉そうなこといえる身分じゃないけどね」

ほむら「あなたは――」

ほむら「あなたはどこまで愚かなの……」

さやか「……愚か……だよね……そりゃあ……」

263: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:12:17.06 ID:0FwiI57s0
ほむら「……上条恭介と付き合う気は本当にないの?」

さやか「……うん」

ほむら「理解できない。あなたが志筑仁美の立場に立とうとは思わないの?」

ほむら「あなただって彼の支えになれる。あなたが適任だと彼女も思った。彼女がどんな思いであなたに譲ったか…」

さやか「想像できないんだよ。私が腕治った恭介の隣にいるのが。住む世界が違う。距離があったんだよ。あたしの中ではさ」

ほむら「最近は距離が縮まったんじゃないの?」

さやか「治ったら、また開く」

ほむら「時間をかけて距離をつめていけば…」

さやか「仁美は、明日告白するんだよ?」

ほむら「付き合ってから心の距離を縮めていくという手も…」

さやか「こんなに長く一緒にいて、距離があるなんて、見込みがないと思うんだよ」

ほむら「……」

ほむら「あなた、さてはいつかみたいに上条恭介と気まずいことになったわね?」

ほむら「それで彼と向き合うことから逃げているだけなんじゃないの!?」


さやか「ねえ――ほむらとまどかはどうなの?」

ほむら「………え?」

264: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:14:32.15 ID:0FwiI57s0
さやか「性別がどうのとか言わないでよ?ほむらはまどかと友達にすらなる気がないよね?」

さやか「今も、ワルプルギルスの夜を倒した後も。そして、全部が済んだらまどかのそばから離れる気でいる」

ほむら「……どうしてわかるの?」

さやか「あれだけ打ち明けたってのに、あんたは未だにまどかとどこか距離をとってる」

さやか「気の遠くなるくらい繰り返してでも、救おうとしている相手だってのに。」

ほむら「…」

さやか「ほむらがいなくなったら、まどかは間違いなく悲しむよ?だけど、私はそれをどうこう言うつもりはない」

さやか「ほむらが自分で決めたことだからね。あんたの気持ちは尊重されるべきだと思う」

さやか「――だから、私の願いも認めてほしいんだ」

265: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:17:10.69 ID:0FwiI57s0
ほむら「……あなたは自分の選択が間違っていると気づいている」

ほむら「……だから、そんな脅迫まがいなことを言ってまで、私に認めさせようとしているのよ」

ほむら「……返答に窮したら持ち出してきたわね?……ええ。まさに脅迫よ」

さやか「…もう、決めたことだからさ」

ほむら「………私は、あなたに自分の持っている、あなたが知るべき全ての情報を提示した」

ほむら「それでも尚、契約するというのなら、もう知らない」

さやか「…」

ほむら「………契約前に、まどかと巴さんにも話しておきなさい」

さやか「…わかってる」

266: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:19:50.16 ID:0FwiI57s0
沈黙があたしたち二人の間に横たわる。ほむらは逡巡しているようだった
そして、ためらいがちに口を開いた

ほむら「私は何度もあなたを見限ってきた。…見殺しにしてきた」

さやか「言ったはずだよ。そんなの知ったことじゃないって。あたしだってこんな人の忠告を無視して勝手に自爆するようなやつ――」

ほむら「だけど」

ほむら「あなたの周りの人が、あなたを見限ったことはなかった」

さやか「!」

ほむら「よく覚えておきなさい。それと」

ほむらがあたしの胸倉をつかんだ

ほむら「勝手に死んだら許さない。私は、誰が死のうが切り捨てる覚悟はあった」

ほむら「……その気にさせたのは、あなたなのよ?責任取りなさい!」

それだけ言って、ほむらは出て行った

267: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:23:37.72 ID:0FwiI57s0
5分後にまどかが来た。私の話をほとんど反論せずに聞いてくれた
止めても無駄だってわかったみたい。長い付き合いだからね…

まどか「本気なんだね?」

さやか「うん」

まどか「…あのね、さやかちゃん。ひとつだけ、言いたい事があるの」

さやか「何?」

まどか「ほむらちゃんが、私を守るために今までがんばってきたって聞いたときね……嬉しいっていうより、悲しかった」

さやか「…」

まどか「苦しかった。罪悪感だって感じた」

さやか「……ほむらに言っちゃ駄目だよ?」

まどか「わかってるよ……でもね、さやかちゃん、これを上条君も背負っていくことになるんだよ?」

さやか「……墓まで持っていく。墓になんて入れるかわかんないけどさ」

まどか「さやかちゃん……」

まどかが私に抱きついてきた

まどか「お願い……お願いだから長生きして。そんなこと言わないで……」

さやか「……あたしだって、そう簡単に死ぬ気はないよ」

268: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:25:44.34 ID:0FwiI57s0
放課後、三人でマミさんの家を訪れた。マミさんは私の話を驚愕の表情で聞いていた

マミ「……正気?」

さやか「はい」

マミ「…暁美さん、鹿目さん。ミスドで新作が出たの。売り切れ必死だって言うから、今から買ってきてくれないかしら?」

まどか「え?」

ほむら「……わかったわ」

まどか「え、ほむらちゃん?」

269: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:26:54.11 ID:0FwiI57s0


ほむら『いやな役を任せてしまったわね…』

マミ『大丈夫。でも、結果は期待しないでね』


270: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:28:51.45 ID:0FwiI57s0
道中にて

まどか「ほむらちゃん。あれ、どういうこと?」

ほむら「私たちに聞かれたくない話をするということよ」

まどか「それって…」

ほむら「私は、さやかがどういう性格をしているかわかっているけど、巴さんはまだよく知らない」

ほむら「多少強引にでも止めようとするでしょうね」

まどか「……ほむらちゃんは、さやかちゃんを止められないって思ってるんだね?」

ほむら「まどかもでしょう?」

まどか「……うん」

271: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:32:30.98 ID:0FwiI57s0
ほむら「さやかの意志は固い。放っておいても勝手に一人前になるなら、構わないんだけど……」

まどか「……すぐに魔女になっちゃうんだよね?」

ほむら「ええ。魔法少女に向いてないのよ。致命的に」

ほむら「……すぐに、壁に当たることになるわ。時間さえあれば、乗り越えられるんでしょうけど、魔法少女にそんな時間は与えられない」

まどか「私、本当に情けない。さやかちゃんが、酷い目にあうってわかってるのに、止められない。友達なのに……」

ほむら「……まどかにしかできないことがある」

まどか「……え?」

ほむら「さやかの隣にいてあげて。あの子がどんなに拒んでも」

まどか「……『拒む』?」

ほむら「誰にだって一人になりたいときはある。だけど、一人ではどうにもならないこともある」

ほむら「さやかが一人で乗り越えられなかったら、取り返しのつかないことになるの」

まどか「…」

ほむら「さやかと一緒に悩んであげて。あなたにしかできないことよ」

272: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:39:04.69 ID:0FwiI57s0
二人が出て行った後で、マミさんが切り出した

マミ「……あなたたちに、魔法少女になることを勧めたことは間違いだった。自分の無知が恥ずかしい。愚かだったわ」

マミ「……でも、あなたも大概よ」

さやか「…ほむらにもいわれたよ」

マミ「あなた、ワルプルギルスの夜と戦うのにもついてくるつもりなの?」

さやか「うん」

マミ「迷惑ね。正直言って」

さやか「……え?」

マミ「私たちが誰にも頼らないで二人で動いている理由がわかる?足手まといを排除するためなの」

さやか「足手まとい……」

マミ「魔法少女になって一ヶ月未満で、役に立つはずがない。というより、暁美さんの話を聞いていたでしょう?

マミ「実際ほとんど何もせずに死んでいったそうじゃない?」

さやか「……戦わずして魔女になったのがほとんどだって言ってたね……」

マミ「よく覚えているわね。何で魔女になったかも聞いていたかしら?」

さやか「……魔女との戦闘よりは、精神的絶望が原因で、やけになってグリーフシードを使うことを拒絶したこともあるって……」

マミ「重症よね。どれだけ絶望したのかしら」

さやか「…」

273: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:40:59.57 ID:0FwiI57s0
マミ「…何で絶望したのかしら?」

さやか「…?」

マミ「上条君がバイオリンを弾けるようになればそれでいい」

マミ「彼が友達にとられても構わない」

マミ「自分は人間をやめてもいい」

マミ「魔女になる前に自分で死ぬ」

マミ「――そんな願いと覚悟を持つ人が、そうそう絶望なんてするものかしら?」

さやか「…」

マミ「……その願いが本当なら、ね」

274: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:41:50.69 ID:0FwiI57s0


『契約をした時点では、大抵自分の本当の願い事――自分心の奥底に気づいていないの』

『それに気づいてしまったら、後に残るのは後悔と絶望だけ』


275: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:46:23.42 ID:0FwiI57s0
マミ「あなたは上条君にかけた言葉を清算したいだけ――彼の隣に立ちたいだけなんじゃないの?」

さやか「……そうかもしれない」

マミ「なら、契約したって絶望するだけね。志筑さん、だっけ?彼女から告白した場合の成功率も100%だそうよ?まあ、わかってるわよね」

マミ「あなたが先に告白すれば、あるいはうまくいくかもしれないけど、成功したといい難い結果しか得られないでしょうね」

マミ「上条君と何か諍いがあるたびにあなたは思う。『あたしはこんなにあんたに尽くしたのに』って」

マミ「ええ。それを言えるだけの対価を払うことになるわ。言う資格はあるでしょう」

マミ「……言った後の結果はご想像通りだけど」

マミ「隠し通す?果たして隠し通せるものかしらね?」

マミ「少なくともあなたには無理よ。知り合ったばかりだけど断言できる」

マミ「まあ、付き合っている相手に心の奥底を隠し通せるような賢明な人は、こんな愚かな選択はしないでしょうから、前提がそもそもおかしいわね」

さやか「…」

276: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:48:34.76 ID:0FwiI57s0
マミ「契約した時点であなたが彼と付き合える未来は訪れない」

マミ「今まで通りの幼馴染としての付き合いさえ難しいでしょうね」

マミ「契約さえしなければ、志筑さんが許すだろうとあなたが考えるラインで接することができたのに。残念ね」

マミ「じゃあ、あなたが二人を遠くから見守って耐えられるかといえば、暁美さんが話した過去の時間軸の通りよ」

マミ「陰から指をかんで勝手に絶望して魔女になるわ」

さやか「…」

マミ「本気で、魔法少女になるなんて言っているの?」

278: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:52:19.00 ID:0FwiI57s0
さやか「確かに、私の願いには下心があるのかもしれない。……あるんだろうね。ほむらの話を聞く限りでは」

マミ「わかっているなら…」

さやか「だけどさ、恭介にバイオリンを弾いてもらいたいってのも、本当の気持ちなんだよ」

さやか「後になって後悔するのかもしれない。仁美が恭介の隣にいることに嫉妬するのかもしれない……多分する」

さやか「……それでも、今はこの気持ちを大事にしたいんだ」

マミ「…」

さやか「……それに、ほむらが言ってることは正しいと思うし、いかにもあたしがやりそうなことだと思うけど」

さやか「……ほむらにあんな思いさせて聞き出したのに、最低だと思うけど」

さやか「……それでも、あたしが知らないあたしに縛られるなんて、やっぱり嫌だよ」

マミ「……」

279: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:56:57.95 ID:0FwiI57s0
さやか「……足手まといになっても、盾にだって何でもなる」

マミ「……自分の言っていること、本当にわかっているの?人間やめるって言っているのよ?」

マミ「死ぬといっているのと同義なのよ?」

さやか「……わかってる」

マミ「…」

マミ「……」

マミ「…………まさかこんなことになるなんて……」

さやか「……ごめんなさい」

マミ「謝るくらいなら撤回してよ……」

さやか「…」

マミ「……いたずらにあなたの心をえぐるだけになってしまったわね。ごめんなさい。物分りが悪くて」

さやか「…そんなこと、ない」

マミ「……せめて、二人が帰ってきてからにして」

280: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/04(月) 23:58:00.15 ID:0FwiI57s0
二人が帰ってきてから、あたしは契約した

まどかは泣いていて、マミさんも目を潤ませてた

ほむらは顔を伏せてた。表情はわからなかったけど、多分……

288: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:33:33.92 ID:IPOxXaIR0
投下します

289: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:34:12.40 ID:IPOxXaIR0



第9話:そんなのさやかちゃんじゃないよ



290: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:36:39.64 ID:IPOxXaIR0
ほむら「あなたは巴さんに指導してもらいながら魔女を狩りなさい。私は他にすることがあるから」

さやか「することって?」

ほむら「武器の調達と、戦ってくれる魔法少女との交渉」

さやか「あてがあるんだ?」

ほむら「ええ。風見野の実力者よ。まだ接触はできてないけど」

まどか「あの、私は……」

ほむら「……どうせ止めてもさやかに着いて行くんでしょう?」

マミ「まあ、魔法少女が二人いればそう危険はないはずよ」

ほむら「魔女の出現予測は渡してあったわよね?統計通りにならないこともよくあるからあまり当てにされると困るけれど」

マミ「ええ、とにかく数をこなしていかないとね。実践あるのみよ。ビシバシ行くからね。覚悟しなさい」

さやか「はい!」

マミ「ワルプルギスまでに間に合わなかったらソウルジェム取り上げてでもおいていくから」

さやか「……絶対間に合わせる」

291: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:39:48.07 ID:IPOxXaIR0
それでもって魔女狩りに移行

マミ「暁美さんの情報では、この時期この辺りで広範囲型精神干渉系の魔女がよく出現するらしいわ」

マミ「それほど強いわけではないけど、場合によっては大規模な被害をもたらすそうだから、今日はこの辺りを中心に活動しましょう」

さやか「はい!」

まどか「……?……さやかちゃん、向こうから歩いてくる人――」

さやか「仁美?」

仁美「あら、ごきげんよう。さやかさん、まどかさん。……巴さん、でしたっけ?」

さやか「どうしたの、仁美?今日お稽古だって言ってたじゃん」

292: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:40:39.12 ID:IPOxXaIR0
仁美「いいんですよ。そんなことは。これからすばらしい世界にいけるんです」

仁美「わずらわしいものをすべて捨てることができる。叶わぬ思いだって。……一緒に行きましょう?」

まどか「……仁美ちゃん?」

マミ「……『魔女のくち付け』ね」

まどか「そんな……!」

魔女のくち付け……人の悩みに付け込む魔女の手口…


――何の悩みがあるって言うの?……何よ……それ……


マミ「……大規模な被害が出るというなら、もっと大勢の人が吸い寄せられているはず。……この娘についていきましょう」

293: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:44:08.35 ID:IPOxXaIR0
仁美「さやかさん。まどかさん。あの工場です。あれが、新しい世界の入り口です」

仁美「行きましょう。私はもう待ちきれません」

仁美は工場のほうへふらふらと歩いていった

マミ「……何人か集まってるみたいね。美樹さんと鹿目さんは工場の中に多分いるであろう人たちをお願い」

マミ「私は裏から直接魔女を叩くわ。中の人を何とかしてから合流して」

まどか「……中の人たちは何をしようとしてるんですか?」

マミ「集団自殺か殺し合い……いずれにせよ碌な事じゃないわ。とにかく止めて来て」

マミ「美樹さんは回復魔法を使えるから、多少手荒なことをしても問題ないと思う」

さやか「…」

マミ「美樹さん?」

さやか「……了解です」

マミ「……じゃあ、私は魔女のほうに行くわ。気をつけてね」

294: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:46:35.70 ID:IPOxXaIR0
仁美が入っていった扉から中の様子を伺う
…十人。生身の人間相手なら、いくら初戦といっても問題ないはず
一気にいく?……いや、何をしているかわからないと止めようが……

奥で二人くらいが何かを運んでいる
バケツか……何が入ってるんだろ?魔力で嗅覚と視覚を強化してみる

……!…洗剤!混ぜると危険なやつ!

――――――

――あたし…なんて……こと……

……今は考えてる場合じゃない!あたしはバケツのほうに猛然と駆けていって――

295: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:49:07.11 ID:IPOxXaIR0
まどかside

さやかちゃんは、突然走り出して一つのバケツを窓の外に放り投げた……混ぜると危険ってやつなのかな?

その直後、一斉に中にいた人たちがさやかちゃんに襲いかかっていった
さやかちゃんは次々と返り討ちにしていく
もともとさやかちゃんは女子にしては喧嘩が強い方だだし魔法少女になれば、なおさら。一般人に負けるはずがない。

だけど…なぜか私は、戦っているさやかちゃんを、とても危うく感じた
なんで、何のためらいもなく人に――仁美ちゃんにまで手を出せるんだろう……

いや、そりゃ緊急事態ってのはわかるし、躊躇っちゃいけないんだろうけど
……そういう風に割り切れないのがさやかちゃんでもあるっていうか……

みんなを気絶させた後、さやかちゃんは一人ひとりに回復魔法をかけていった。上の空って感じだった

さやか「これで終わりだね。マミさんのとこいかないと」

296: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:49:43.42 ID:IPOxXaIR0



『さやかの隣にいてあげて。あの子がどんなに拒んでも』



297: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:52:00.97 ID:IPOxXaIR0
まどか「待って」

さやか「何?」

まどか「行かないで」

さやか「……いや、マミさんのとこ行かないと」

まどか「マミさんなら大丈夫だよ。言ってたじゃん。たいした魔女じゃないって」

さやか「万が一ってことがあるでしょ?」

さやか「それに今から実践積んでいかないと間に合わないし、こんなとこでサボってるわけには…」

まどか「今のさやかちゃんが行くのが、かえって万が一だよ」

さやか「……え?」

まどか「今のさやかちゃん、ちょっと危なっかしいよ」

さやか「……なり立てだから――」

まどか「そんなんじゃない」

298: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:54:41.51 ID:IPOxXaIR0
さやかちゃんはイライラしていた

さやか「わかった。マミさんのとこには行かない……少し一人にさせて」

まどか「嫌だ」

さやか「……なんで?」

まどか「さやかちゃんなら、こういうとき私を一人にしないと思うんだよね」

さやかちゃんは盛大にため息をついた

さやか「ウザい」

まどか「言うんだ?その言葉を」

さやか「言うよ?ホントにウザいもん。魔法少女じゃないまどかに何がわかるって言うの?」

まどか「ベタな逃げだね。さやかちゃんだってなってから1日も経ってないじゃない?」

まどか「まあ、1年経とうが何年経とうがわかるよ?友達だもん」

299: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/05(火) 23:57:43.27 ID:IPOxXaIR0
さやか「何それ……。だったら言ってみなよ」

まどか「私に嫌われてでも、今の気持ちを隠したいんだよね?嫌うわけなんてないけど」

さやか「…」

まどか「……『仁美ちゃん』」

さやか「――――――ッ!!」

まどか「明日、仁美ちゃん、告白するんだよね?」

さやか「…」

まどか「気づいてた?仁美ちゃんに魔女のくち付けがあるって知ったとき、さやかちゃん、すごい怒ってたよ?」

さやか「……やめて」

まどか「ずいぶん容赦なく殴ってたよね。あ、責める気なんてないよ?あれは仕方ない―――」

さやか「やめてっていってるでしょ!!!」

300: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/06(水) 00:00:22.55 ID:+Rhq99aQ0
さやか「そーだよ!あたしサイテーなんだよ!」

さやか「仁美が魔女の口付けにやられたって知ったときさあ、すっごいムカついたんだよ」

さやか「明日から恭介と付き合えるってのに、いったい何の悩みがあるだろうって」

さやか「逆恨みだよね!仁美はあたしに譲ったつもりだったのに!」

さやか「仁美にとっちゃ、今にもあたしが告白してるのかも知んないのにさあ!」

まどか「…」

さやか「それで、中の人達が洗剤混ぜようとしてるの見て、あたし…あたし……あたし……」



「………『死んじゃえ』って!」



まどか「…」

さやか「……仁美が倒れていくのを見ながら……『このまま死ねばいいのに』って!」

まどか「…」

301: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/06(水) 00:02:34.45 ID:+Rhq99aQ0
さやか「ほむらとマミさんが言ってたとおりだったんだよ……」

さやか「あたしみたいなのが魔法少女になっちゃいけなかったんだ……」

さやか「勝手に契約して、勝手に身を引いて、嫉妬なんかして、その挙句…仁美のことを殺そうとしたんだよ!」

まどか「…」

さやか「駄目だ…もうあたし駄目だ…馬鹿だ…最低だ…終わりだ」

さやか「……もう仁美に合わす顔ないよ……まどかもどっか行ってよ……あたしなんかほっといてよ………あ」

さやかちゃんが突然笑顔になった
目を背けたくなるような笑顔だった

……背けるわけにはいかないんだ……

302: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/06(水) 00:06:02.86 ID:+Rhq99aQ0
さやか「遠くに行っちゃえばよかったんだ……」

まどか「……え?」

さやか「遠くに行けばいいんだよ!誰もいないところに!そしたらもう恭介にも会わなくてすむじゃん!」

さやか「仁美と恭介に会わなかったら、嫉妬なんてすることない!」

さやか「恭介に合わなくて済むなら、願いがばれるなんてありえないじゃん!なんで気づかなかったんだろう!」

まどか「…」

303: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/06(水) 00:06:29.01 ID:+Rhq99aQ0
さやか「それに、それに――誰にもにこんなの見せたくない……こんなあたし……」

まどか「…」

さやか「お願いだからほっといてよ……もう二度と会わないから……あたしのことなんか忘れてよ……まどかにはわからないよ……」

まどか「わかるって言ってるじゃん!」

さやか「わからないって言ってるでしょ!」

304: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/06(水) 00:08:59.01 ID:+Rhq99aQ0
まどか「……ワルプルギスの夜はどうするの?」

さやか「……ほむらは役に立たないって言ってた。なにもできないって」

さやか「マミさんもあたしは足手まといだって……」

まどか「役に立たないからって、足手まといだからって逃げるの?」

まどか「そんなのさやかちゃんじゃないよ」

さやか「あたしってどんなのなのよ……」

305: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/06(水) 00:11:37.91 ID:+Rhq99aQ0
まどか「さやかちゃん……さやかちゃんは仁美ちゃんのこと助けたんだよ?」

さやか「でも、あたし、死んじゃえって……」

まどか「だけど、死ななかった」

まどか「……ねえ、私だって、さやかちゃんに嫌な感情持ったことあるんだよ?」

まどか「だめだってわかってても、思っちゃうことはある」

まどか「だけど、後で間違ってたって気づけたら、きっと、それでいいんだよ」

さやか「「違うよ……そうじゃない……私、魔法少女なんだよ?」

さやか「なったのは、恭介のためだったけど、それでも、正義の味方になりたかった……マミさんみたいな…」

さやか「なのに…あたし……あたし……仁美を……こんなの…正義の味方なんて……」

306: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/06(水) 00:14:43.92 ID:+Rhq99aQ0
まどか「さやかちゃんにとっての正義の味方って、自分の心を押し殺して、ロボットみたいに人を救う人なの?」

まどか「マミさんやほむらちゃんが、そんな風に戦ってるって思ってるの?さやかちゃんには、二人がそんな風に見えたの?」

まどか「……ほむらちゃんは、私のためにそうしていたこともあったかもしれないけど、あったって言ってたけど」

まどか「少なくとも今は違う」

さやか「…」

まどか「私、さやかちゃんにそんな風になってほしくない」

さやか「だけど…」

307: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/06(水) 00:16:27.34 ID:+Rhq99aQ0
まどか「さやかちゃんは、立派な正義の味方だよ」

まどか「上条君に告白されるってわかってても、仁美ちゃんを助けたんだよ」

まどか「迷いや誘惑、ちゃんと振り切れたんだよ。損得勘定抜きにして、友達を助けたんだよ」

まどか「それって、きっと、とてもすごいことなんだよ」

さやか「…」

まどか「私の自慢の友達なんだよ。だから……だから……」

……いつから私は泣いてたんだろう

まどか「いなくなるなんて言わないでよ……」

308: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/06(水) 00:18:31.95 ID:+Rhq99aQ0
さやか「……まどかが泣いてどうすんのよ」

さやかちゃんが、ハンカチで涙を拭いてくれた

さやか「ごめん。どうかしてた。…初日からこんなんじゃ、先が思いやられるよね」

まどか「大丈夫だよ。だって――」

四人いて、一人、魔法少女じゃない
気がついたら、みんな、遠くに行っちゃうんじゃないか、いなくなっちゃうんじゃないかって思っちゃう
……怖い。後から後悔なんてしたくない


だから、私は、さやかちゃんみたいに、厚かましく、おせっかいに、傲慢に――


まどか「――私がみんなを守るから!」

それを聞いて、さやかちゃんは微笑んだ

さやか「言うようになったねえ」

309: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/06(水) 00:19:58.06 ID:+Rhq99aQ0
さやかside

あたしが落ち着いた後、すぐにマミさんが帰ってきた。少し疲れているみたいだった

マミ「魔女は倒したわ。そっちも大丈夫そうね」

さやか「はい。あの、この人たちはどうすれば?」

マミ「匿名で警察を呼んでおけば多分大丈夫」

マミ「魔女がいなくなれば頭も冷えるはずだし、集団で幻覚でも見ていたことになるでしょうから」

318: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:10:14.74 ID:u4tIRzzO0
マミ「これからが本格的な特訓ね。まずは一人で魔女の相手をしてみて。」

さやか「いきなりですか!?」

マミ「危なくなったら援護はするわよ。まずは自分の魔法と武器をよく知ることが大切だから」

マミ「時間もないし、実戦あるのみよ」


さやか「どんなもんですかね」

マミ「回復魔法に頼りすぎよ。そんなんじゃすぐ魔力がなくなるわ」

さやか「はあ」

マミ「先に痛覚遮断なんて知っちゃったからよね……。今後はデフォルト以上の痛覚遮断禁止」

マミ「剣はどんな大きさのものでも、いくらでも出していいから、攻撃を受けないことを最優先にして……いや、今は数より剣の質が重要かな」

マミ「後、スピードが秀でているみたいだけど、生かしているとは言いがたいわね

マミ「少し押さえ目にして自分が制御できる速さを見つけて、だんだんに速くしていきましょう」

さやか「はい!」


1時半になるまでに魔女を7体倒せた。

マミ「今日はここまでね。帰って暁美さんと報告会をしましょうか」


319: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:14:50.57 ID:u4tIRzzO0
マミさん宅に帰還後、ほむらに今日会ったことを報告
振り返ると恥ずかしいことこの上なく、出来れば何も知られたくなかったんだけど、まあ、あたしに隠し事なんてできないわけで
まどかから工場の件を報告してもらった

ほむら「初日から大荒れとは恐れ入るわ」

さやか「面目次第もございません……」

ほむら「これからも大いにまどかや巴さんに頼ることね。あなたって本っ当に危なっかしいんだから」

さやか「うう…」

ほむら「それと……」

さやか「?」

ほむら「……私も力になれなくもないかもしれない」

…うん。これから何かあったら、あたしを大切に思ってくれる人の顔を思い浮かべることにしよう

320: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:16:54.51 ID:u4tIRzzO0
マミ「そっちはどうだった?」

ほむら「武器の調達はあらかた完了した。杏子とはまだ接触できていない」

マミ「これからは、佐倉さんとの交渉に力を入れることになるのかしら?」

ほむら「そうなるわね。……こんなところかしら」

さやか「解散?」

ほむら「私は、もう少し巴さんと話がある」

さやか「じゃああたしも――」

ほむら「あなたたちはもう帰りなさい。門限がないからといって、いつまでも外にいてもいいということにはならないわ」

ほむら「特にさやかは、この前も怒られたんでしょう?」

さやか「……うん。流石にこれ以上はまずいかも」

321: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:19:06.22 ID:u4tIRzzO0
マミside

マミ「それで、話って何?」

ほむら「例の魔女を倒すのに、ずいぶん時間がかかっていたそうね」

マミ「…」

ほむら「嫌な思いしなかった?」

マミ「……タイムリーパーには適わないわね」

マミ「……私たちがしていることって、何なのかなって思って」

ほむら「どういうこと?」

マミ「人を殺して人を救うって、何なんだろうって……」

ほむら「…」

マミ「情けないわよね……。美樹さんは全部わかった上で受け入れたのに、一番長く魔法少女をやっている私が、受け入れられてないなんて」

ほむら「長くやっていたからこそ、でしょう?」

マミ「……かもしれない」

322: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:23:14.53 ID:u4tIRzzO0
ほむら「月並みでありふれた例え話だけど」

マミ「何?」

ほむら「巴さんが魔女になってしまったとして、それを私が倒したら、私を恨むの?」

マミ「そんなわけないじゃない」

ほむら「ほかの魔法少女だって、きっと同じよ。人って、結構優しくできているの。魔法少女だったらなおさらよ」

マミ「……本当にそうかしら」

ほむら「私は、繰り返す中でたくさんの魔法少女を見てきた」

ほむら「敵対したり、殺しあったりしてきた。今でも許せない人だっている」

ほむら「だけど、自分が魔女になって人を殺すことをよしとする人なんていなかった」

ほむら(正直その、今でも許せない二人のことは未だによくわからないけど)

マミ「…」

ほむら「あなたはどうなの?」

マミ「……そんな人はいなかった、わね」

323: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:25:32.73 ID:u4tIRzzO0
ほむら「これからだって、多分そんな人は出てこない」

ほむら「希望をかなえるために魔法少女になるんだもの。絶望を振りまき続けるなんてこと、望むはずがない」

マミ「……ずいぶんロマンチストなのね」

ほむら「あなたにだけは言われたくないわ」

私は、クスクスと笑った

マミ「ええ、そうね。……少し悲観的になっていたのかもしれない」

簡単に割り切れる話じゃない
彼女たちが望んでいるから、で済ますつもりもない

だけど、私の道は、もとよりこれしか残されていない
私は生きて、殺して、懺悔し続ける……ワルプルギルスの夜を倒すまでは


そして、その後は――


324: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:33:40.25 ID:u4tIRzzO0

さやかside

二日後
あたしとまどかは、一緒に仁美とほむらを待っていた
ほむらも一緒に学校に通うようになったんだ。ちなみに仁美の告白は幻覚騒動で昨日に延期されていた

ほむらの後に少し送れて仁美が来た。ほむらとまどかは昨日のドラマの話
ほむらはドラマを見てないいけど話はできるらしい。そりゃ何回も繰り返してたら飽きるよね
私は仁美にひそひそと話しかける

さやか「で、どうだったの?」

仁美「告白、ですわよね……?」

さやか「それ以外に何があるのよ?」

ぶっちゃけ聞きたくなかったし、もう学校で顔合わすのも避けたいとか、学校やめようかとか枕に顔を埋めて考えたりしたけど
最終的に処刑台で過ごす時間は短い方がいいという結論に至った

仁美「えっと、その……」

仁美「上条さんの手が治ったって聞きました?」

さやか「あー、うん。電話で聞いた。一昨日からお見舞い行けなくなってたんだ」

魔女退治が忙しいのもあるし、告白に来た仁美と鉢合わせるかもって言うのもあった
まあ、手が治れば退院も時間の問題らしいし、もう行かなくても大丈夫だよね

325: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:39:33.59 ID:u4tIRzzO0
仁美「私も昨日告白しにお見舞いに行ったときに聞かされまして」

さやか「すごいテンション高かったよね。あんなにうれしそうな恭介、本当に久しぶりだったよ」

仁美「それで、その……」

さやか「?」

仁美「雰囲気が、その、告白できる感じではなかったと言うか……」

さやか「あー……あるある(経験ないけど)」

仁美「恥ずかしいです。あんな啖呵をきっておいて……」

さやか「そんなの気にすることないよ」

仁美「でも、退院したら、身の回りのお世話をすることを申しでることができましたわ」

さやか「おー!」

仁美「……今度告白するときは、予告なんてしませんよ?」

さやか「ふっふーん。そんな余裕ぶっちゃってていいのかなー?」

さやか「意気地なしのさやかちゃんだって、ある日突然理屈に合わないことをすることがあるんですよー?」

さやか「勝算のない告白とか!」

仁美「……計算に基づいた行動をしたこと、あるんですか?」

さやか「何おー!?」

326: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:41:27.52 ID:u4tIRzzO0
こんな感じに、話を聞いた後はうれしさのあまりテンションが上がったり
ちょっと経つと、やっぱり処刑台での時間が長くなっただけじゃないかと思って絶望したり

人の感情はやっぱり複雑で難しい。そりゃ宇宙のために役立ちもしますわ
なんて考えた14歳の春なのでした。15歳の春も無事で迎えたいものです

327:  ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:44:39.39 ID:u4tIRzzO0
一時間目が終わった後、ほむらに呼び出された

さやか「何?」

ほむら「志筑仁美が告白する前に告白しなさい」

さやか「……朝の、聞こえてた?」

ほむら「途中から丸聞こえよ」

まどかにも聞かれたかな……?

ほむら「いつ死ぬかもわからないのよ?本当に、自分の気持ちも伝えられないで死んでいいの?」

さやか「……今は恭介のことばっか考えてられないしさ。こんな状態で仁美の邪魔するのも悪いと思うんだよね」

さやか「それに、勝手ながら任せるって決めたわけだしね。仁美を見守ることにするよ」

ほむら「…」

さやか「ワルプルギルスの夜を倒せたらさ、気持ちを伝える。その前に仁美が告白したら、そのときはそのとき」

ほむら「…そう」

328: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:46:59.24 ID:u4tIRzzO0
さやか「その前に死んじゃったら、ほむらから伝えてもらってもいいかな?」

ほむら「…」

さやか「……虫が良すぎる?」

ほむら「……そんなことになったら、洗いざらい全部上条恭介に話してしまうかもしれないわね」

さやか「……それは困る」

ほむら「なら、死なないことよ」

329: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:50:29.25 ID:u4tIRzzO0
仁美side

病院のスタッフは口々に言っていた。これは奇跡だと

奇跡ならどんなによかっただろう
やはり才を与えた者に天は微笑む。ただそれだけの話

だけど、滅多に起きないからこその奇跡
……付随だった指だけがいきなり事故前の状態に回復するなどあるものか

だからこれは必然
そして、それを起こしたのは、神ではなく人間

330: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:51:21.36 ID:u4tIRzzO0



――つまり、彼に微笑んだのは、彼女以外にありえない



331: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:52:05.18 ID:u4tIRzzO0



……



何でこんなことに……



332: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:55:10.35 ID:u4tIRzzO0
QBside

これは計算外だ。美樹さやかの成長速度が思いのほか速い
ワルプルギルス戦で彼女が犠牲になることを厭わず、盾に徹したら、場合によっては勝ててしまうかもしれない

暁美ほむらに対する切り札も、この時間軸で目標を達成されたら、ないし、達成できると確信されたら意味をなさない

確実に彼女たちの間で犠牲はでるだろうから、鹿目まどかに対する勧誘はやりやすくなるが……
やはり不確定だ。友人や家族が死んだ時の勧誘においても、断られたケースはかなり存在する
鹿目まどかが人一倍感受性が強い人間であるにしても、やはり不確定だ

まだそうは高くない可能性だが、彼女の目的が達成される芽が出てきたわけだ
鹿目まどかに対する勧誘に、失敗は許されない

そろそろ動くべきか――

333: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 00:59:35.95 ID:u4tIRzzO0
杏子「グリーフシードの処理以外でこっちに来るとはね。どういう風の吹き回し?」

QB「君に情報を提供しに来たんだ」

杏子「……珍しいね。あんたからこっちに働きかけてくるなんて」

QB「近々マミが君に接触してくるよ」

杏子「……へえ?」

QB「いや、少し語弊があった。もうすでに風見野に一人出向いている。たまたま君に出会わなかっただけだ」

杏子「……はあ?」

QB「現在マミはチームで動いている。構成は、マミと、ベテラン一人と、ルーキーが一人。それに魔法少女候補生が一人」

QB「そのうちのベテランが、風見野に最近入り浸っている」

334: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 01:00:31.22 ID:u4tIRzzO0
杏子「穏やかな話じゃないね。てか候補者がチームにいるってどういうことよ?」

QB「彼女は相当強い魔法少女になれる素質がある」

杏子「あんたもマミも、随分そいつのこと高くかってるんだねえ……」

杏子「それで、そいつらの目的は何さ?」

QB「彼女たちに聞けばいい」

杏子「……ふーん」

杏子「このまま風見野で好き勝手されても困るな……」

杏子「どういう理由にせよ、向こうさんに先手を打たせるのはバカだ」

杏子「て言っても、見滝原に出向いて下手打てば3対1、場合によっては4対1か。ままならないねえ」

QB「後ひとつ。ベテランの暁美ほむらは、イレギュラーだ」

杏子「…は?」

QB「彼女と契約した覚えがない。」

杏子「へえ…」

335: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/07(木) 01:01:41.76 ID:u4tIRzzO0



「いずれにせよ――――このまま風見野で出しゃばらせるわけにはいかないね……」



342: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/08(金) 00:09:07.92 ID:+mXCdOag0



第10話:ソウルジェムの秘密を知りたくない?



343: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/08(金) 00:11:07.21 ID:+mXCdOag0
さやかside

仁美の『告白』の顛末を聞いた次の日、私は一人で魔女退治をやっていた
まどかとマミさんはそれぞれ委員会の仕事で遅くなり、ほむらは例の風見野の魔法少女を探すいうことだった
まどかは心配したけど、マミさんは、ほむらの統計から判断して、今の実力でもそう苦戦することはないだろうと判断した
危なくなったらすぐ逃げるように念を押されたけど

344: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/08(金) 00:12:00.99 ID:+mXCdOag0
今は、見滝原と風見野の町境の辺りで魔女を倒したところ
グリーフシードでソウルジェムを浄化したところで、風見野のほうから魔女の気配がするのに気づいた

……いや、この反応は使い魔か

345: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/08(金) 00:14:20.07 ID:+mXCdOag0
杏子side

あたしは、見滝原と風見野の町境にある廃ビルに向かっている

結局使者とやらがこっちにくるまで待つなんざ性に合わない
だから、逆にルーキーから色々聞き出そうと考え、境に拠点を移すことにしたからだ
万が一戦いになった場合も想定してのこと

ベテランを巻きつつマミに気づかれずにルーキーにちょっかいかけるっていう微妙なさじ加減が必要だが、そういう小競り合いなら慣れてる
相当な候補者ってのも気になるが、やりあうとしてもなり立てのなり立てだ

問題ないだろ

346: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/08(金) 00:16:23.92 ID:+mXCdOag0
廃ビルが視界に入ったところで、使い魔の反応に気づいた
別にここでなくてもいいか、と思い、引き返そうとしたところで

――青い何かが目の前を疾走していった

……魔法少女?使者か?……いや、使い間のほうに向かっていったとなると……

変身してあとをつけていってみると、やはり廃ビルに入っていった
青い魔法少女が使い魔に相対している

まったく……あたしは、使い魔をまさに倒そうとしていた魔法少女の足元に槍を投げて威嚇する
そいつは驚いて振り返った

347: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/08(金) 00:20:21.25 ID:+mXCdOag0
杏子「あんた、どこの街から?」

さやか「……見滝原、だけど?」

杏子「やっぱそうなるよね。マミのところにいる『素人』?」

さやか「……素人といえるのはあたしだけだろうね」

杏子「質問にはストレートに答えな」

杏子「ここは……チッ……縄張り的には微妙なラインだな」

さやか「……あれは使い魔だし、そこら辺はどうでもいいんじゃない?」

杏子「駄目だね。あんたは何もわかってない。使い魔は人を襲うことで魔女になる。これは知ってるでしょ?」

さやか「?…うん」

杏子「じゃあ、何で倒すわけ?魔女になってから倒せば、グリーフシードが手に入るじゃない?」

さやか「!…………なるほど、ね。そっか……」

さやか「ソウルジェムが、濁りきった後のことを考えれば、そういう生き方もありなのかもしれないね」

348: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/08(金) 00:22:30.26 ID:+mXCdOag0
?……何か引っかかる物言いだな
まあ、わかってもらえりゃ問題ない。意外と物分りがいいな
この分だと、労せずいろいろ聞き出せるかも――

さやか「だけどさ、それでもあたしはあんたを認められない」

杏子「…はあ?」

さやか「あんたがそういう生き方をしていく限り、人が死に続ける」

杏子「……そう……だけど?」

さやか「その中に、あたしの大切な人も入るかもしれない」

杏子「そういうこともあるだろうね。あたしは今は天涯孤独だから関係ないけど」

杏子「……ま、運命だと思って諦めなよ」

さやか「冗談じゃないね」

349: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/08(金) 00:23:49.28 ID:+mXCdOag0
杏子「ずいぶん甘ちゃんだね。魔法ってのは自分に使うためのものなんだよ」

さやか「あんたが決めることじゃない」

杏子「……ひょっとして、あんた、他人のために願ったくち?」

さやか「あんたには関係ない」

杏子「……まあ、いいさ。…じゃあ、どうする?」

さやか「あんたを叩き潰す」

杏子「……実力差もわからないわけ?」

さやか「わかるよ。あたしじゃちょっと敵いそうにないね」

350: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/08(金) 00:29:14.03 ID:+mXCdOag0
杏子「……巴マミは随分無能になったんだね」

杏子「敵わない相手からは逃げろってことも教わらなかったのかい?」

さやか「いーや。マミさんはきちんと教えてくれたよ」

さやか「死ぬと思ったら一目散に逃げろって。だけどあたし、馬鹿だからさ、教えられたことを素直に守ることもできない」

さやか「考えてみりゃ契約した時点で教えられたこと守れてないや」

そう言って、素人は剣を投げて使い魔を消滅させた

杏子「そうか、じゃあ、先輩として最初で最後の慰みでもかけてやるよ」

杏子「その、死ぬと思ったら逃げろってやつ、考えてみりゃあいつが一番守れてないからさ」

杏子「死んでも別にあの世で詫びる必要もないんだよ。よかったな。心残りが一つ減って」

杏子「お前が勝手に契約した件も含めて、他人に自分ができないこと要求してる時点で相殺ってやつさ」

さやか「……ちょっと意味が分からないな」

351: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/08(金) 00:31:54.41 ID:+mXCdOag0
さやか「……ちょっと意味が分からないな」

頭ではわかってる
こいつの背後にはマミがいる
あいつが今すぐ私に危害を加えようって原じゃないとしても、こいつと戦えばそうもいかなくなる
あたしだってあいつとやりあいたいわけじゃない。ここは引くべきなんだ

……だけど、それでも、あたしはこいつの存在を認められない。

杏子「素人、名前は?」

さやか「美樹さやか」

杏子「……そうか、美樹さやか、わかりやすく教えてやる」

杏子「あたしはあんたを認められない。あんたもあたしを認められない」

杏子「どっちも引くつもりはない」

杏子「魔法少女同士がこうなったとき、どういう結果になるかわかる?」

さやか「どうなるの?」

そう言って、素人は剣を構え、前傾姿勢をとった……わかってるじゃないか。あたしも槍を構える


杏子「どちらかが死ぬ」


それが合図だった

360: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/09(土) 01:28:06.48 ID:qgLow3cW0
素人はあたしにめがけて一直線に飛び掛ってきた

スピードはなかなかだが、真正面からなら対応するには余裕だ
あたしは槍で剣をいなして思いっきり腹を蹴ったぐる

素人は吹っ飛び、体勢を立て直すや否やあたしに剣をに投げた

だがそれも予測済み。造作もなく避けられる

今度はあたしが素人に突っ込む。慌てた素人がでかい剣を出してあたしに振った
それを半円を書くようによけて素人の背中に回り込む

素人が反応するも、時すでに遅し
解放した多節槍でしなりを利用しての打撃。ガードは余裕で突き破れる
まずは先手、あるいは決まり手。全治3か月分だ。もう反撃はできないはず

―――だったのだが

361: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/09(土) 01:30:17.41 ID:qgLow3cW0
まさに届こうという瞬間、槍はあらぬ方向に向かっていった

…それた?無理やり方向を変えられたような……

!!……いつの間にか、あたしと素人の間に魔法少女が立っていた
『ベテラン』……か?そいつが銃をあたしに突きつけていた。あたしは飛びのいて槍を構えなおす

……落ち着け。あの銃は奴が魔法で出したわけじゃない
ただの銃の威力なんて高が知れてる

362: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/09(土) 01:36:38.06 ID:qgLow3cW0
ベテランは素人に語りかける

ほむら「これは一体どういうことかしら、さやか」

ほむら「あなた、この子が、私が接触しようとしている魔法少女だと思わなかったの?風見野にいる実力者だと教えていたはずよ?」

ほむら「気づいていたはずよね?その挙句、敵いもしない相手に戦闘を仕掛けるなんて、どういう了見をしているのかしら?」

さやか「………申し開きのしようもございません」

さやか「……いや、なんであたしが仕掛けたって決めつけるの?」

ほむら「喧嘩というものはどちらにも原因があって起こるものよ。特にあなたたち二人なら、なおさらね。どちらが先かなんて関係ないわ」

さやか「………まあ、あたしが退けば避けられたかな」

さやか「だけど、どうしても譲れなかったんだ。後で思いっきり叱ってよ」

ほむら「……叱ったところで意味があるのかしら」

ほむら「……いくら言えばわかってくれるの?もっと後先考えて行動してって。自分の命を大切にしてって」

さやか「……ホントにごめん」

363: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/09(土) 01:40:54.09 ID:qgLow3cW0
『ベテラン』が、今度は私に問いかける

ほむら「あなたもよ、杏子。三滝原との境に現れた魔法少女を見て、巴さんとのつながりをまったく想像しなかったというの?」

杏子「……いや、キュゥべえに聞いてた。巴マミがベテランと素人と候補者の三人と組んで、あたしに近づいてるって」

ほむら「……だったら、なおさら理解できない。巴さんの仲間に手を出すことが何を意味するか、わかっているわよね?」

ああ。知っているとも
ベテランの魔法は……瞬間移動か何かか……わからないうちは敵わないだろうな
おまけに二対一だ。隙を作ってこの場は逃げるしかない

後は……逃げるか、戦うか……微妙な線だな。逃げるならやつらの目の届かない所まで逃げないと意味がない
そうなると、どこかの魔法少女と縄張り争いか

馬鹿なことをやっちまったもんだ……

364: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/09(土) 01:48:23.19 ID:qgLow3cW0
ほむら「だけど、あなたは運がいい」

杏子「……は?」

ほむら「私たちは、あくまであなたに協力を頼みたいだけなのよ。この娘はよくわかっていなかったみたいだけど」

……助かった、のか?

杏子「……何を協力しろって?」

ほむら「一か月後に、見滝原にワルプルギルスの夜が来る。それを倒すのに協力してほしい」

杏子「……なんでそんなことがわかるわけ?」

ほむら「統計よ」

杏子「統計、ねえ……ま、いいや。三人魔法少女がいて、まだ戦力がほしいなんて、それ以外には思いつかないしね」

杏子「あんたには確証があるんだよね?」

ほむら「ええ。もちろん見返りもある」

杏子「見返り?」

ほむら「見滝原で魔女を好きに狩っていい。何なら今からでも」

杏子「……話にならないね」

ほむら「……え?」

365: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/09(土) 01:53:37.30 ID:qgLow3cW0
ベテランが心底意外そうな顔をする。何だってんだ?

杏子「あたしは今はグリーフシードにまったく困っていない。何であんたたちと組んでまで、見滝原で魔女狩りしないといけないのさのさ?」

杏子「……もっとぶっ飛んだ見返りかと思ったんだけどね」

ほむら「……」

杏子「しっかし、巴マミにお前に、数には入るかしらないがそこの馬鹿に、相当な候補者一人だっけ?それに加えるためにあたしの勧誘、ね」

杏子「ずいぶん慎重なんだな。まあ、出直しなよ」

杏子「……って言っても、あんたみたいなのに風見野をうろうろされちゃ困るんだよねー……」

ほむら「…」

杏子「まだその気があるなら、交渉役には美樹さやかを使いな」

杏子「ベテラン、お前のほうを今度風見野で見つけたら、問答無用で攻撃する」

ほむら「……そんな条件飲めないわ」

杏子「甘いね、あんたも。なら。この話はここまでだね」

そう言って、あたしは扉の前まで一気に飛ぶ

とにかくこの場からすぐにでも離れなきゃいけない
仮に瞬間移動なら、一手二手でソウルジェムを破壊できる。こいつは危険だ
扉は開いたまま。一気に出られる

366: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/09(土) 01:59:32.88 ID:qgLow3cW0
だが、まさにビルから出るため飛ぼうとしたとき

ほむら「ソウルジェムの秘密を知りたくない?」

と、やつが語りかけてきた。……なんだ?悪あがきか?

ほむら「ソウルジェムが濁りきった時、魔法が使えなくなるだけで済むって、本気で思ってる?」

ほむら「奇跡の対価は戦い。ならば、魔法の対価は何かしら?」

杏子「……」

ほむら「知りたかったら見滝原まで来て。詳しい話をしてあげる」

ほむら「……人生ひっくり返るわよ?『ぶっ飛んだ見返り』になるでしょうね」

杏子「……じゃあ、あんたは帰りな。美樹さやかから話を聞くからさ」

ほむら「……できない相談ね」

杏子「………あんたたちが交渉役として美樹さやかをこっちによこす。それだけだよ」

それだけ言って、あたしは出て行った

367: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/09(土) 02:03:08.13 ID:qgLow3cW0
さやかside

佐倉杏子が去ってほむらからさんざお説教をくらった後に、どうしても聞きたかったことを聞いた

さやか「それにしてもさ、ほむら、あれはないんじゃないの?あんなのを見返りだなんて」

ほむら「……そうよね。ありえない提案をしてしまったわ」

ほむら「今まで断られたことがなかったから動転してしまったみたい」

さやか「……え“?」

ほむら「なにが原因だったのかしら…?」

さやか「……はい。あたしのせいです。どう考えても。自分のこと棚に上げて本当にごめんなさい……」

ほむら「え?……ああ、いえ、違うのよ。あなたと杏子が殺し合いをするなんて日常茶飯事だもの」

ほむら「それでもいつも協力してくれるの」

……いつも何をやってるんだ!?あたしは!

ほむら「……よくわからないわ。とりあえず巴さんとまどかのところに戻って相談しましょう」

さやか「もう二人とも、マミさんの家にいるはずだね」

368: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/09(土) 02:05:27.84 ID:qgLow3cW0
マミさんにも、佐倉杏子と殺し合いをしたことを報告したら、めちゃくちゃ怒られた
ひっぱたこうとしたのを、まどか止めてくれた

……最近怒られてばっかな気がする

その後で、ほむらが交渉が失敗したことを伝えた

マミ「そんなに私と組みたくないのね、佐倉さん……」

ほむら「そうじゃないのよ。あなたと杏子が普通に組んでいた時間軸も会ったの」

マミ「あら、そうなの?……この時間軸で私とあなたがあった日から一ヶ月間を、繰り返しているんだったわよね?」

ほむら「ええ」

マミ「じゃあ、私と佐倉さんの関係も、変わらないはずね……」

ほむら「だから、わからないのよ……どうして今回断られたのか、どういう条件なら受け入れてくれるのか」

まどか「じゃあ、今までほむらちゃんが今まで会ってきた杏子ちゃんのこと、話してみてよ。何かわかるかもしれないよ?」

ほむら「……そうね。それが一番の近道かもしれないわ」

369: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/09(土) 02:07:47.60 ID:qgLow3cW0
マミ『暁美さん』

ほむら『?』

マミ『彼女の過去のことまで話すつもり、ある?』

ほむら『……話す必要が出たときは時は』

マミ『仕方ない場合もあるでしょうね。でも、ああいった話は本人の知らないところでは、あまりするものではないわよ?』

マミ『彼女を仲間に引き入れようとしているのだから、なおさら、ね』

ほむら『……わかったわ』

376: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 01:28:44.42 ID:LCtG9PKE0



第11話:この時間軸でも、もしもの時は



378: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 01:32:11.35 ID:LCtG9PKE0
ほむら「最初に杏子と出会ったのは、三番目の時間軸、二回目のやり直しのときだった」

まどか「ほむらちゃんが、魔女化について初めて知った上で臨んだ時間軸だったね」

ほむら「ええ。だけど、あなたたちが魔法少女になることを、止めることはできなかった」

ほむら「さやかが魔法少女になるのは、あの時間軸が最初だったし、まどかが契約する原因も、まだ全てはわかっていないころだったから」

さやか「あたしって、必ず魔法少女になるわけじゃないんだ」

ほむら「そうよ。繰り返したからといって、私以外のすべての人が同じ行動をとるわけじゃない」

ほむら「些細な違いがほとんどなんだけど、それの積み重ねが大きな変化をもたらすの。計算違いなんてしょっちゅうよ」

マミ「統計が確実じゃないっていうのは、そういうことね」

ほむら「ええ。それで、私とさやかとまどかの三人で、巴さんに、一緒にチームを組んでくれないかって頼んだの」

ほむら「巴さんは快く受け入れてくれて、さやかとまどかの指導も買ってくれた」

ほむら「私は、基本的なことは前の時間軸で教わっていたから、その時間を武器の製造と調達に当てていた」

379: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 01:35:00.51 ID:LCtG9PKE0
さやか「そのころからもう強かったんだ?」

ほむら「いえ、まだ試行錯誤していたわ」

ほむら「知っていることを実践できるかって言うと話は別だし、初めは自作の爆弾しか用意できなかったしね」

ほむら「この時に、さやかと一緒に戦うと爆弾を使うのが難しかったから、銃を調達するようになったわね」

……そういえば、ほむらの武器って、どこで調達してんだろ?

ほむら「ただ、私が、みんなはインキュベーダーに騙されているってしつこく主張していたものだから、少しずつ関係がギクシャクしていった」

ほむら「何でそんなことを知っているんだって言われても、うまく説明できなかった」

さやか「……なんか私が原因なような気がするよ」

さやか「まどかとマミさんは、信じないにしても、そんなにひどいこと仲間に言うわけないし……」

380: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 01:37:29.37 ID:LCtG9PKE0
ほむら「あなたは、お人好しの二人に変わって、私を警戒していただけよ。気にする事じゃないわ」

マミ「ちょっとー?」

まどか「ほむらちゃん?どういう意味かな?」

ほむら「そのままの意味よ。それで、そんなときに、杏子が私達の前に現れた」

ほむら「きっかけは、さやかが風見野の使い魔を倒したことで彼女と喧嘩になったことだったわ」

さやか「……あたしって、やっぱりいつもそんなことしてるの?」

ほむら「ええ」

さやか「……迷惑かけてばっかりだね」

ほむら「そこは本当に反省してほしいわ」

381: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 01:40:34.19 ID:LCtG9PKE0
ほむら「その時、私は杏子の力を知って、是非戦力に欲しいと思った」

ほむら「だから、巴さんに杏子を仲間に入れようと提案したの。巴さんは、悩んだ末に、了承してくれた」

ほむら「一度に二人に指導することに限界が来ていたみたいだったから」

ほむら「さやかと巴さんはタイプも違かったということもあって、同じ近接タイプの杏子にさやかの指導してもらおうということになったの」

ほむら「さやかはかなり反対したけれど、巴さんに負担がかかっているって知ったら、渋々ながらわかってくれた」

マミ「佐倉さんの方は?」

ほむら「杏子には、さやかの指導をしてくれる代わりに、見滝原で好きに魔女を狩っていいって巴さんが提案した」

ほむら「それで、本当にあっさりOKしてくれたの」

382: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 01:42:55.66 ID:LCtG9PKE0
さやか「ワルプルギスの夜のことは話さなかったの?」

ほむら「ええ。あの時間軸では本当に余裕がなかったから。そこまで話したとしても、信じてもらえなかったと思う」

ほむら「まあ、結局何もかもうまくいかなかったんだけど」

まどか「……あたしが魔女になっちゃったから…」

マミ「……私がみんなを殺そうとしたから…」

まどか「……私、ほむらちゃんにとんでもないお願いを…」

ほむら「……そこは気にしないで」

ほむら「うまくいかなかった原因は、私が一人だけ全部知っていたのに、それを生かせてこなかったことにある」

ほむら「それにね、まどか、私は、私自身の望みで繰り返しているの。あなたが気にすることではないのよ」

まどか「ほむらちゃん……」

383: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 01:45:35.57 ID:LCtG9PKE0
ほむら「……話を戻すわね」

ほむら「次の時間軸では、自分から風見野に出向いて、彼女にワルプルギスの夜のことを話した上で協力を要請した」

ほむら「あの時間軸ではチームを組んでいなかったから、そう頼むしかなかったの」

ほむら「だけど、彼女は快諾してくれた」

さやか「うーん、そこでもやっぱりOKしたのか……」

まどか「杏子ちゃんが断ったことって、今の時間軸以外ではないの?」

ほむら「あるにはあるわ」

マミ「そのときの状況について話してくれないかしら?」

ほむら「千歳ゆま、という少女がキーなの」

さやか「千歳ゆま?」

384: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 01:50:09.28 ID:LCtG9PKE0
ほむら「そう。杏子が魔女を倒したときに助けた女の子なの」

ほむら「その子、一緒にいた両親をその魔女に殺されてしまって、杏子が引き取ったの」

さやか「あいつ、そんなとこあるんだ」

マミ「そうね……私が知っている彼女は、そういう娘だった。変わったわけじゃないのね……」

ほむら「それで、彼女と一緒に暮らしているときは断るの。『今はこいつのほうが大事だ』って」

ほむら「その子も魔法少女になっていたから、自分が参戦したらついてきてしまう、もしものことがあっては困るって言っていた」

さやか「へえ……」

ほむら「それで、その次の時間軸から、児童相談所に通報して、その子を親から引き離して杏子と出会う接点をなくしたの」

マミ「よっぽどなのね、その親。そんなにポンと児童相談所が動くなんて」

まどか「だけど、だったら、その子は今は、児童相談所、じゃなきゃどっかの施設、親戚……」

まどか「少なくとも杏子ちゃんのところにはいないってことだよね?」

ほむら「ええ。そうなるわね」

385: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 01:53:44.40 ID:LCtG9PKE0
さやか「じゃあ、結局、今、なんで断られたのかは、わかんないんだ」

ほむら「そうね。私が知らないことが、杏子の周りで起こったのかしら?」

マミ「でも、それについては調べようがないわ。あなたが風見野に入ることを拒まれたのだから、私が入ってもまずいでしょうし……」

さやか「あたし、交渉のついでに調べてこようか?」

ほむら「だめよ。さっきみたいなことが起こったら、殺されてもおかしくないのよ?」

ほむら「まして、こそこそ嗅ぎ回るだなんて、ありえないわ」

まどか「私が行けば…」

ほむら「だめ。杏子はまどかのことも知っていた。しかも私たちのチームの一人として認識してる。やはり危険よ」

マミ「今は、過去の時間軸について検討するしかないわね」

386: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 02:07:29.55 ID:LCtG9PKE0
まどか「……ねえ、ほむらちゃん。杏子ちゃんが協力してくれたとき、私たちはどういう反応をしてた?」

ほむら「そうね……さやかは、喧嘩したり……結構仲良くしてたこともあったわね。仲直りしたこともあった」

ほむら「まどかは……普通に、多少互いに違和感はあっても時間がたてば、仲がよくなったわね」

ほむら「まあ、まどかが仲良くできない人にお目にかかりたいものだけれど。きっと、人間的に何か欠陥がある人よ」

まどか「私のこと買いかぶりすぎだよ……」

さやか「まあまあ。ほむらがまどかびいきなのは仕方ないじゃん」

ほむら「……何かしらその言い方は?…それで、巴さんは………あれ?」

まどか「どうしたの?」

ほむら「ちょっと待って」

ほむらが腕を組んでぶつぶつ呟き始めた

387: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 02:12:18.68 ID:LCtG9PKE0
ほむら「あの時は……巴さんがあの魔女にやられて……あの時は、あの魔女に杏子がやられて」

ほむら「……あの時は…杏子が……あの時は……魔女になって…あの時は………殺されて…」

……ほむらはたくさんの修羅場をくぐってきたんだ
この時間軸では、そんなことを経験してほしくない
この時間軸で終わらせてあげたいと、私は思った。たぶん、まどかとマミさんもそう

そして、ほむらが愕然とした表情をして、言った

ほむら「ワルプルギルスの夜のことを杏子に伝えたとき…巴さんはいつもいなかった……?」

マミ「…『いない』っていうのは、死んだとか、魔女になったっていうこと?」

ほむら「……ええ」

マミ「……じゃあ、やっぱり私のせいなんだわ。三番目の時間軸のときはたまたまで……」

ほむら「…違う。違うのよ…。巴さんと杏子が組んでいた時間軸はほかにもあった……」

ほむら「だけど、それがいったい何を……」

まどか「その、杏子ちゃんとマミさんが組んでいた時間軸って何?ワルプルギルスの夜のことは話さなかったんだよね?」

ほむら「それは、その……」

388: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/10(日) 02:14:01.99 ID:LCtG9PKE0
ほむらは言い淀んでいた。チラチラまどかを見ている
……席をはずしてもらう?……いや、蚊帳の外が一番よくない

さやか「ほむら、まどかは大丈夫だよ」

まどか「え?」

ほむら「………そうね」

ほむらは、深呼吸をして続けた

ほむら「魔法少女狩り、というのがあったの」

さやか「魔法少女狩り?」

まどか「何、それ?」

ほむら「………言葉の通りよ。魔法少女が連続して殺される事件が起こったの」

まどか「………何…それ……」

396: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 00:49:49.60 ID:WZZE+O4D0
ほむら「……それで、魔法少女狩りの調査のために二人が組んでいた」

ほむら「巴さんは純粋に事件の解決のために動いていたけど、杏子は、その犯人に思うところがあったって聞いた」

まどか「……なにが原因で、そんな事件が起こったの?」

ほむら「……未来予知ができる魔法少女が起こしたの」

マミ「未来予知……」

さやか「なんでもありなんだねえ」

まどか「何でその子は、そんなことをしたの?」

ほむら「…………間違った未来を見たの」

まどか「どんな?」

ほむら「…………………世界が滅ぶ未来」

397: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 00:53:24.31 ID:WZZE+O4D0
………あー……全部つながったわけじゃないけど、なんとなく……
……マミさんも察したみたいだった

……うん。知るべきなんだよね、あたしたちも、まどかも
この時間軸でも、その事実、世界が滅ぶ危険を避けては通れないんだから

まどか「……どうして、世界が滅ぶの?それと、魔法少女を殺すのと、どういう関係があるの?」

ほむら「……世界が滅ぶ原因は、私がしくじること」

ほむら「魔法少女を殺すのは…………インキュベーターの関心をその事件にむけさせること」

まどか「何でそんなことを?」

ほむら「………」

ほむら「………まどかが最強の魔女になった話はしたわよね?」

まどか「……うん」

ほむら「……彼女は、それを阻止しようと動いていたの」

まどか「…………え?」

ほむら「……それで、彼女は最終的に魔法少女になる前のまどかを殺した」

さやか「最低だね」

マミ「許せないわ」

398: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 00:55:46.65 ID:WZZE+O4D0
まどか「……私のせい?私のせいでそんな事件が……」

ほむら「あなたのせいじゃない」

ほむら「『間違った未来』を見たその女の独善と、その『間違った未来』で何もできなかった私の甘さが原因なの」

ほむら「それに、手は打ってある。この時間軸でそんな事件は起きない」

まどか「でも、その子、私が世界を滅ぼすのを見たん……だよね………?」

ほむら「……違う時間軸の、間違った未来なのよ」

まどか「だけど……!」

ほむら「聞いてまどか。…大丈夫なの。その点に関しては安心して」

ほむら「まどかが世界を滅ぼしかねない魔女になったことは、一度しかない」

ほむら「まどかが魔女にならないように……してきたから。」

まどか「…え?」

399: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 00:57:51.71 ID:WZZE+O4D0
ほむら「………ワルプルギスとの戦いで、見かねたまどかが契約して参戦すると、なぜか倒した後でソウルジェムが限界を迎えてしまう」

ほむら「まどかが、魔女になること、世界が滅ぼすことを望まないって私は知ってたから……だから、私は……」

まどか「…?」

ほむら「……殺してきた。ワルプルギスが消えた後、魔女になる前に」

まどか「!」

……放っておいてもよかったはずなんだ。ほむらはそのときは繰り返すんだから
だけどほむらは、その時間軸のまどかのために、まどかを殺してきた

まどかのためにまどかを殺せるほむらのことを、心底すごいと思った
どれだけ辛かったんだろう…

400: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 01:00:10.70 ID:WZZE+O4D0
ほむら「………世界が滅んだときは、そういう結果になるって知らなくて、私がためらったときだけなの」

まどか「ほむらちゃん………」

ほむら「この時間軸でも、もしものときは……」

ほむらは、後に言葉を紡げず泣き出した

ほむら「……ごめんなさい……ごめんなさい……まどか……ごめんなさい…私…私…」

まどかは、ほむらを抱きしめた

まどか「ありがとう、ほむらちゃん。今まで私を守ってきてくれたんだよね」

ほむら「まどかぁ……」

まどか「もう大丈夫だよ、ほむらちゃん。わたし、もう、絶対に契約しないから」

ほむら「約束よ……約束だからね……まどかぁ……」

401: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 01:02:54.52 ID:WZZE+O4D0
30分後

ほむら「………見苦しいところを見せてしまったわね」

さやか「いやあ、むしろほほえましかったよ」

マミ「ええ、泣きたいときは思いっきり泣けばいいのよ」

ほむら「………あなたにそうしてもらえると、私としても安心できるんだけど?」

マミ「……善処するわ」

さやか「それでさ、結局佐倉杏子はどういうときに断って、どういうときに断らないのかな?」

マミ「……一回目は私たちを、特に美樹さんの指導を手伝うことに協力した」

マミ「ほかはワルプルギスを倒すため、あるいは、魔法少女狩りを止めるため。断るときは、千歳さんを守るため」

マミ「……今回は何なのかしら?」

ほむら「うーん……」

まどか「……あの」

さやか「どうしたの?まどか」

402: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 01:05:33.19 ID:WZZE+O4D0
さやか「どうしたの?まどか」

まどか「杏子ちゃんがさやかちゃんの先生をしたときって、マミさん、大変だったんだよね?」

ほむら「……そう、だけど?」

マミ「……私のためだって言いたいの?」

まどか「そうです」

さやか「だけど、他のときはマミさんはいなかったんだよ?」

まどか「うん。マミさんはいなかった。この町をずっと守ってきた魔法少女が、いなかったんだよ」

ほむら「……え?」

まどか「マミさんの意思をついで、この町を守りたかったんじゃないかな?」

まどか「自分の気持ちを認めたくなかったから、『条件』なんてつけてきたんだよ。きっと」

403: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 01:11:08.96 ID:WZZE+O4D0
さやか「……それはいい風に解釈しすぎじゃない?だったら、どうして今回は助けてくれないのよ?」

さやか「この町を滅ぼそうって魔女と戦おうとしてるんだよ、私たちは」

まどか「だけどさ、杏子ちゃん知らないでしょ?ワルプルギスの夜の強さなんて」

さやか「知らない?魔法少女の中では有名な話だって言ってなかったっけ?」

ほむら「……………まさか」

さやか「ほむら?」

ほむら「………最初の時間軸でね、まどか、楽観視……とまではいかないでしょうけど、甘く見積もっていたの。ワルプルギスの夜の力を」

ほむら「マミさんと一緒なら大丈夫だよ、って。巴さんは窘めてたけど」

さやか「……え?」

ほむら「あ!もちろん覚悟はしてて、勇敢に戦ったわよ?」

さやか(そこ、本筋と関係ない)

404: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 01:14:01.01 ID:WZZE+O4D0
ほむら「二つ目の時間軸で、巴さんの力を目の当たりにして、一度目の時間軸の結果は何かの間違いだったんじゃないか」

ほむら「少なくとも今回、三人で挑めば負けるはずはないって思った。だけど、ワルプルギスは規格外だった」

さやか「……」

ほむら「現役の魔法少女で、ワルプルギスの力を知っている人は多分いない。杏子も知らないはず」

ほむら「そして、彼女は巴さんの力を知っている」

ほむら「……あのときのまどかと同じような考えを持っていても、おかしくは…ない…?」

さやか「つまり、あいつは、マミさんが困っているときに力を貸してくれて、マミさんがいないときにはマミさんのためにこの町を守ってくれる」

さやか「でも、マミさんが何とかできるときには力を貸してくれないってこと?」

まどか「うん」

405: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 01:16:19.55 ID:WZZE+O4D0
さやか「じゃあ、魔法少女狩りは?最強の魔女にも勝てるって思われてるマミさんが、どうしてそこらの魔法少女に負けるって思うの?」

まどか「ほむらちゃん言ってたじゃん。犯人に『思うところ』があったって」

ほむら「……そうね……恨みに近かったでしょうね」

さやか「……つまり、そのときは、マミさんのためじゃなくて、自分のため…だった7かもしれないと……」

マミ「結構筋は通ってるかもしれないわね」

ほむら「……杏子って、案外面倒くさい娘だったのね」

まどか「ほむらちゃん!」

マミ「だめよ、そんなこと言っちゃ」

ほむら「……ごめんなさい」

406: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 01:18:49.24 ID:WZZE+O4D0
さやか「……じゃあ、あたし、明日にでもあいつのとこ行ってみるよ」

ほむら「……言ったでしょう?あなた、さっきあんなことがあったばかりじゃない?」

さやか「大丈夫。今度はこっちから仕掛けない。あいつが仕掛けてきたらすぐ逃げる。ソウルジェムさえ守れれば、すぐ死ぬことはないしさ」

さやか「それに、いきなり殺しにかかるやつじゃないんでしょ?今の話では」

さやか「何より、ほむらが仲間にしようとしてるやつなんだし」

ほむら「確かに杏子が悪人だとは思っていなかったけど……」

マミ「彼女が悪い子じゃないとは思っているんだけど……」

さやか「……二人とも、何で私を見るんですかね?」

ほむら「自分の胸に手を当てて考えてみなさい」

マミ「回復魔法のせいなのかしら?どうしても無謀な戦いを挑みがちなのよねえ」

さやか「……うう」

407: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 01:24:21.80 ID:WZZE+O4D0
ほむら「いっそのこと、三人で行く?この際多少強行的に行ってもいいんじゃないかしら」

マミ「彼女、私たち三人から振り切るくらいならできるわ。そしたら結局ご破算よ」

まどか「じゃあ、私がついていく」

ほむら「まどか!?」

まどか「さやかちゃんが無茶しそうになった時は、私が止める」

ほむら「……さやかでも危ないと言っているのよ?」

まどか「無力な一般人を殺すような子じゃないんでしょ?」

ほむら「………巻き込まれるってことがあるでしょう?」

マミ「暁美さんも私も、あなたが絶対安全だと断言できるわけじゃないのよ?」

マミ「特に私は彼女ともう長いこと会っていない……信じたいと思ってるけど」

マミ「それでも許容できる話ではないわ」

まどか「……わかってます。それでも、私はほむらちゃんを信じます」

ほむら「……まどか…」

408: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/11(月) 01:27:13.29 ID:WZZE+O4D0
……この三人がここまで深刻な顔をするのは、すべてあたしの無鉄砲さに原因があるわけで、本当に申し訳なくて情けない
だからと言って、私が冷静になるといっても、三人とも信じるわけがなくて……

現状を招いた後悔は後でいくらでもする
だけど、あいつは交渉役にあたしを指名した
だから、結局のところ、あたしが出向かないと始まらない
ストッパーは絶対に必要で、それはこの状況ではまどかしかありえない

だから、あたしがすべきことは、しなきゃいけないことは――

さやか『ほむら、何があってもまどかは必ず守る。神に誓う』

さやか『何度裏切ってきたか、あたしにはわからないけど……今の時間軸でも裏切っちゃったけど、今度ばかりは絶対に』

ほむら『…』

ほむら『……』

ほむら「わかった」

ほむら『………あなたが死んだら誰もまどかを守れなくなる。そこは忘れないで』

418: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 01:50:26.32 ID:c4DekwMo0
翌日、風見野に行くと、佐倉杏子にはすぐ会えた。マミさんとほむらは町境に待機

杏子「そいつ、誰?」

さやか「鹿目まどか。魔法少女じゃない」

杏子「……例の候補者か。契約はまだしてないみたいだね…………何で連れてきたのさ?」

さやか「あたしがバカをやらないために」

杏子「……そういうこと」

杏子(新人が二人になってもこっちには問題ないか)

杏子「……まあいいや。場所移すよ」

419: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 01:51:10.85 ID:c4DekwMo0



第12話:さやかちゃんホントは頭いいんだから!



420: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 01:54:43.30 ID:c4DekwMo0
佐倉杏子の指定で、近くのレストランに入ることになった
魔法少女の話を一般人に聞かれても、頭がにぎやかな中学生の妄想としか取れないだろうということで

お代は私たち二人で持つことになった
あたしたちは慎ましくピラフの単品を、佐倉杏子はステーキ定食とハンバーグとチョコパフェとアップルパイとドリンクバーとを注文した
……好き勝手注文してくれるよ
……今あたしはお小遣いを止められているが、まどかだけに負担させるわけにはいくまい。後でお母さんに直談判しないと
〆て4100円を二人で割って2050円。この金額を手に入れるために、一体どんな代償を払うことになるか……

杏子「で?どういう条件を用意してきたのさ?」

まどか「この前と変わらないよ」

421: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 01:59:16.65 ID:c4DekwMo0
杏子「……なんだ。あんたら、あたしに奢るためにわざわざ風見野まで来てくれたのか」

杏子「案外良い奴なんだね」

ドリンクを飲みながら、佐倉杏子が満面の笑みで言う。
……皮肉?天然?

まどか「……この前ほむらちゃんが話したことを、補足しに来たんだよ」

杏子「まあ、あれだけのものを注文させてもらったわけだし、聞くだけ聞いてやるさ」

杏子「長くなるなら追加の注文もするけどね」

まどかの表情が青ざめる。へたすりゃ二人で皿洗い…で済むんだろうか?
……コンパクトにまとめないと

さやか「ワルプルギルスの夜だけどさ、あたしたち三人がかりでも勝てるか微妙なんだって。てか負ける公算のほうが高いみたい。」

佐倉杏子がドリンクから口を離した

杏子「……『統計』?」

さやか「うん」

422: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:00:17.70 ID:c4DekwMo0



「……あんたら、あのベテランに騙されてるよ?」



423: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:04:41.07 ID:c4DekwMo0
さやか「何言ってんのよ!?」

まどか「さやかちゃん!」

さやか「―――ッ!……理由、言ってみなよ」

さやか「………根拠無かったらただじゃおかないから」

杏子「親切心で忠告してやっったのにこれえ?」

杏子「てか、ただで済まさないからってあんたにできることって何かねえ?そいつに願わせる?」

まどか「さやかちゃん、大丈夫だから、ね?大丈夫だから……」

さやか「………いいから根拠を話せ」

杏子「じゃあ、あんたらにわかるように説明してやるよ」

杏子「あの後気になって調べたんだけどさ、ワルプルギスの夜って災害に例えられたりするんだけど」

杏子「ホントに大災害の後に、目撃証言からあれがワルプルギスだったんだろうって当たりを付けてるってだけなんだ」

杏子「そんなふざけた資料集めてどうやって統計出すんだよ?」

424: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:07:45.78 ID:c4DekwMo0
まどか「普通イメージする統計とは違うの。ほむらちゃんの体験を基にした『統計』なんだよ」

杏子「……ほむらってのは、あのベテラン?」

杏子「うん。暁美ほむらって名前なの」

杏子「……一番最近でワルプルギルスが出現したのは1978年だよ?そのときにまだ1歳だったとしても、計算が合わない」

杏子「まあ、例のふざけた資料によるものだけどさ。最近の何かの災害がそれだったって言ってるの?」

まどか「違う。ほむらちゃんが体験したのはあくまで一ヶ月先のワルプルギルスの夜だけ」

杏子「…はあ?」

まどか「未来から来たんだよ。ほむらちゃんは」

杏子「………」

さやか「……信じられない?」

杏子「……信じるも何も……そういうことができるだろうとは思うけど……あんたら何でそいつを信用したのさ?」

まどか「ほむらちゃんが話してくれたから」

杏子「」

425: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:09:35.69 ID:c4DekwMo0
さやか「……マミさんが気づいたんだよ。ほむらが未来を先読みしているとしか思えない行動をとっていたことと、ほむらの能力から」

さやか「具体的に聞きたい?」

杏子「……いや、めんどくさい。まあマミのやつが言うんなら………いや、あいつ甘いからなあ……」

杏子「……チッ」

佐倉杏子は唐突に席を立った

まどか「ど、どうしたの?」

杏子「見滝原に行く。やっぱり直接聞き出すよ」

426: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:10:57.64 ID:c4DekwMo0
道中

杏子「相当な候補者なんだっけ?あんたも契約するの?」

まどか「……私はしないの」

杏子「へえ、あんたをうまく言いくるめて手駒にするためにデタラメ言ってるわけじゃないのか」

さやか「……当たり前でしょ」

杏子「そうカッカするなよ。まあ、よかったじゃん。契約なんてろくなもんじゃないし」

……?

427: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:14:44.41 ID:c4DekwMo0
杏子side

見滝原の境でマミと暁美ほむらが待っていた。その後マミの家に場所を移して話をすることに

ほむら「で、何について聞きたいの?」

杏子「未来から来たってこと証明をしな」

ほむら「……」

杏子「どうしたのさ?これから起こるニュースとかでもいいんだよ?」

ほむら「……直近では無理なのよ」

さやか(ああ、統計の誤差ってやつか。まあ、それがいつもできるならそこまで苦労しなかったよね)

杏子「俄然うさんくせえ」

ほむら「……あなたの過去、でだめかしら?」

杏子「……あたしの過去?」

ほむら「魔法少女になった時の願いと、その顛末」

杏子「……マミ?」

マミ「私からは話してないわよ?」

杏子「他のやつに話したことは?」

マミ「絶対ない」

428: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:16:53.37 ID:c4DekwMo0
……ここで暁美ほむらがデタラメ言ってるなら、いくらなんでも不信感持つよな。そんな様子はない
マミからはないってことか

後ありそうな線は…

杏子「キュゥべえ、あたしの過去を話したことがあるか?」

QB「僕の口からはありえないね。彼女が言うほかの時間軸の僕、なら可能性はあるけど、そんなことをする理由が思いつかないな」

QB「まあ、そこら辺はこの問題ではどうでもいいだろう?」

……あたしはマミにしか話はしてない

杏子「わかった。それでいいよ」

ほむら「……ここで話していいの?」

杏子「隠すことでもないし」

万一組むことになるなら、まあ、なおさらだしな

429: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:18:51.48 ID:c4DekwMo0
暁美ほむらが話した内容は、寸分たがわずあたしが体験したのと同じ内容だった
……信じざるを得ないか

さやか「……ごめん。あんたのこと誤解してた」

杏子「別にいいんだよ。イメージ間違ってるわけでもないし」

杏子「それでさ、あたしは人のために魔法を使うのをやめたんだ。神様は希望と絶望は差し引きゼロになるようにしてるんだよ」

杏子「だったら他人のために祈ったり魔法使うなんて無駄さ。結局ゼロになる」

杏子「ゼロで済まないことだって……」

430: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:20:37.55 ID:c4DekwMo0
さやか「言いたいことはわかることはわかるけど、あんまり認めたくない話だね」

さやか「あたしは神様が間違ったことをしたのを、元に戻しただけだよ?それで恭介がまた不幸になるなんて納得いかない」

さやか「馬鹿なことしたあたしに天罰が下るっていうならわかるけど」

まどか「私は、さやかちゃんに天罰が下ったら神様を恨むよ。そんなのおかしいもん」

杏子「……あんた、恭介って奴に何したの?」

さやか「事故で動かなくなった指を治すように願ったの」

431: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:23:52.15 ID:c4DekwMo0
杏子「……そりゃマミも反対するわな。そんなこと願った時点で、もうそいつとうまくいきっこないよ?」

杏子「どんなに取り繕ったって、あたしがあそこまでしてあげたのに、ってなっちまう。どうせ、そいつに気があるんでしょ?」

さやか「心配してくれてありがとう。マミさんからも言われたよ」

さやか「だけどさ、そんなのわかってるんだよ。恭介、あたしの親友とくっつくことになるだろうから」

杏子「……それも統計?」

さやか「うん」

杏子「あんた、それわかってて契約したの?」

さやか「……うん」

杏子「……馬鹿だね…」

さやか「……最近よく言われる」

ほむら「『最近』……?」

さやか「ほむらぁ~!?」

432: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:27:02.66 ID:c4DekwMo0
まどか「やめてよ!さやかちゃんホントは頭いいんだから!」

まどか「えっと…えっと……えーっと…」

さやか「……ごめん…まどか…もういいよ……」

杏子「……ともかくだ、まあ、あたしは成りそこないのシスターだからさ、あんなこと言ってなんだが、神様の本意なんてわかんないや」

杏子「さっきのは、単なるあたしの考えってだけし。恭介って奴とお前がこの後どうなるかなんてあたしにはわからない」

杏子「ま、せいぜい気をつけて見守ることだね」

さやか「……ありがと。気をつけるよ」

杏子「言ってる意味わかるよな?そいつから離れるなって言ってるんだよ?統計なんて覆しちまえ」

さやか「……うん」

433: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:28:03.44 ID:c4DekwMo0
杏子「……それでだ」

一同「?」

杏子「条件」

一同「!?」

杏子「なにか上乗せして」

一同「……?」

434: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:34:15.94 ID:c4DekwMo0
ほむら『どういうこと?ここにきて条件なんて』

マミ『グリーフシードの現物かしら?』

ほむら『困ってないって言ってたわ……お金?』

マミ『……それをこちらから言い出すのは、かなり失礼じゃないかしら』

さやか『あの』

ほむマミ『?』

さやか『他人のために魔法を使わないってのを、守ろうとしてるんですよ、きっと』

さやか『私たちの考えでは、少なくともマミさんのために戦う意思はずっと持っていた』

さやか『この分だと気付いてないみたいですけど』

さやか『そして、少なくとも今この瞬間は認めたくない』

さやか『だから条件上乗せで、そのために組むってことにしたがってるんですよ』

ほむら『……本当に面倒くさい』

杏子「なにか失礼な話してない?」

435: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:36:06.52 ID:c4DekwMo0
マミ「…」

マミ「……」

マミ「じゃあ」

杏子「お、何くれるのさ?」

マミ「……い、一緒に住まない?」

杏子「………!」

マミ「衣食住は提供できる……………あなたが嫌じゃなければ」

杏子「……あんたはどうなんだよ?」

マミ「……嫌じゃないわ」

杏子「……」

杏子「………あたしだって…嫌なわけ…ないじゃん」

436: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:38:05.25 ID:c4DekwMo0
マミ「佐倉さん……」

マミが目頭を押さえた。

マミ「ありがとう。佐倉さん……本当にうれしい。私、あなたに嫌われているものとばっかり……」

杏子「……ホントにお人よしだよ。弟子が師匠にあんなこと言ったんだよ?普通そっちから勘当でしょ……」

杏子「………まあ、あれだ」

杏子「……」

杏子「あたしも嫌われてると思ってたからさ、うれしいよ。ホント」

437: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 02:39:22.84 ID:c4DekwMo0
言い終えて、二人で笑いあった。二人とも、少し涙声だったと思う
みんな、にこやかだった。まるで普通の中学生が、普通に友達同士で話しているような、和やかな雰囲気

あ、そう言えば、気にはなってたんだけど




「それでさ、『ぶっ飛んだ見返り』って何なの?『ソウルジェムの秘密』ってやつ。」




途端に、あたしを除く全員の笑顔が凍りついた

448: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 23:33:17.85 ID:c4DekwMo0



第13話:もう戻れない



449: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 23:38:03.21 ID:c4DekwMo0
ほむら『どうしよう……?』

マミ『暁美さん、あなた、あんなことを見返りだなんて言ったの!?』

ほむら『ごめんなさい……』

マミ『……謝る相手が違うわ。わかってるわよね?』

ほむら『……ええ』

さやか『それでさ、教えないってわけにはいかないんじゃない?あたしたちだけ知ってるって「言うのも……』

マミ『……ええ。戦闘でも、やっぱり知っているのと知らないのでは違うわ……』


杏子「あんたたちさあ、魔法少女相手にテレパシーで密談なんてよくやるよね」

杏子「いや、何話してるかはわからないけどさ」

杏子「後、さやか、あんたのテレパシーは不充分だよ。少し聞こえる」

まどか「私、何話してるかわかんない……やっぱり、仲間はずれは良くないよ……」

ほむら「そうね……」

450: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 23:41:10.09 ID:c4DekwMo0
ほむらが私に向き直って頭を下げた

ほむら「はじめに謝らないといけないわ。ごめんなさい、杏子。あれは見返りなんてことに使える話じゃないの」

ほむら「あなたを引き止めるためにとっさについた嘘なの。本当にごめんなさい。」

杏子「けど、でまかせってわけじゃないんでしょ?『ソウルジェムの秘密』っていうのは」

ほむら「ええ。気を強く持って聞いて」

……相当いやな話らしいな……こんな気分になるなら聞くんじゃなかったかなあ……

杏子「わかった」

ほむら「……ソウルジェムって、魂なのよ」

……へ?

杏子「……いや、知ってるよ?魔法少女の魂だよ?濁りきったら魔法を使えなくなるんだから――」

ほむら「そうじゃない。そのままの意味の魂なの。これが砕けたら、私たちは死ぬの」

ほむら「この石ころが私たちの本体で、体は抜け殻に過ぎないの」

杏子「え゛?」

451: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 23:44:18.64 ID:c4DekwMo0
………おいおい聞いてないぞ……

……待て待て……もしそうだとして………


杏子「濁りきったらどうなるんだ……?魂が濁るって……」

つい口に出してしまった
あたしはこんらんしている。



「魔女になるの」



杏子「は?」

ほむら「ソウルジェムが濁りきったら、私たちは魔女になるの」

……………

452: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 23:46:58.72 ID:c4DekwMo0
その後話されたのは、キュゥべえことインキュベーターのエネルギー搾取計画
だけど今の状態でそんなもん頭に入るか微妙、というか平常でもすこぶる疑問で
宇宙人があたしたちをもてあそんでいるとしか取れなかった

…………この場にマミがいる……
マミは……うそは……吐かないし……付いてるときはわかる

……つまり、あいつは信じた……
……この話は……マミが絶対に認めたくない話だ…

…ってことは…あいつが信じたってことは……それなりの確証があるってことだ……

……あいつは頭もいい…でまかせってことはないだろう…つまり―――

杏子「――マジなのか……」

ほむら「ええ」

QB「本当だよ」

453: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 23:53:01.25 ID:c4DekwMo0
この場のインキュベーターの存在を今更ながら思い出し、瞬間、あたしは槍を召喚して奴に突き刺そうとする
反射といって差し支えない速さだった

だが、できなかった。マミが銃であたしの槍の矛先を変えたからだ
マミと別れてからあたしもそれなりに腕を磨いてきたつもりだったんだけど……

……だけど、この時頭を支配していたのはそんなことじゃなくて――

杏子「……何で………?」

マミ「あなたの気持ちはよくわかる。だけど待ってほしい」

杏子「……何で止めるんだ………?」

マミ「この子は、私の友達だから」

杏子「何で!よりによってあんたが!そんなことを言えるんだよ!?」

杏子「この話を聞いて一番ショックを受けたのはあんたのはずだ!」

杏子「あんたの生き方を全否定するような話じゃないか!!!???」

マミ「その前に死ぬつもりだから」

杏子「……!!!」

454: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 23:55:38.70 ID:c4DekwMo0
あたしは崩れ落ちるようにして椅子に座って、気を落ち着けるために紅茶をがぶ飲みした
そんなことで落ち着くわけは無いんだけどね

杏子「………あたしはこの際いい。好き勝手に生きてきたし、どうせろくな死に方しないと思ってた」

杏子「お似合いの最後だ。自業自得だよ」

杏子「……自殺なんてするか。ほかの魔法少女がなんとかすりゃいいんだ……」

杏子「けど、何であんたや……さやかみたいな奴まで……同じ結末にならなくちゃいけないんだよ……」

杏子「おかしいだろ……何でこんな……」

QB「このシステムはどの少女にも公平で平等だっていうだけだよ」

QB[生前の行いによって救済が左右されないというのも君の父上が所属していた宗派の教義どおりじゃ――」

杏子「出てけ!!!」

455: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/12(火) 23:58:12.30 ID:c4DekwMo0
周りを見れば、ほむらは銃を、さやかは剣をあいつに向けていた
まどかも腕を捲り上げている。こいつがここまで怒るなんて意外だな。全く似合わない
マミさえも、武器こそ構えないものの、青筋を浮かべて震えていた

杏子「今度マミの手を噛むような真似をしてみろ……マミがなんと言おうと知るか……」

杏子「テメエらの仲間を根こそぎ地球上から殲滅してやる……!」

QB「そんなことを出来るものなら是非やってみて欲しいね。掛け値なしに史上最強の魔法少女といえる」

QB「魔女となったときに生まれるエネルギーも実に甚大だろう―――」

四人の一斉放射と、奴が消えたのはほぼ同時だった

456: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/13(水) 00:06:21.13 ID:jIt+TxXZ0
マミ「……気持ちは多いにわかるし、友達とはいえ私も仕留められなくて少し悔しい気もするけど、ここが誰の家か考えて欲しかったわ」

結局、後には床が抉られた跡しか残らなかったというわけだ

杏子「悪ぃ……」

さやか「ごめんなさい……」

ほむら「弁償するわ……」

まどか「何もできない身でよかった……」

杏子「……つーかさ、あんたたちこれ知ってて契約したわけ?」

ほむら「私は、最初は知らなかったわ。まあ、知ってても契約したでしょうけどね」

さやか「あたしは最初から知ってたよ?」

杏子「……付き合えもしない片思いの相手の腕を治すために契約したんだっけ?」

さやか「うん」

杏子「……化け物になるって知ってたわけだ?」

さやか「……うん」

まどか「化け物じゃないよ」

杏子「……そう言ってもらえるのはありがたいよ、ホント。世の中あんたみたいなやつばかりじゃないからさ」

杏子「当然のことだし、文句言うこともできないけどね……」

杏子「この馬鹿を支えてやって」

まどか「うん!」

457: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/13(水) 00:13:34.76 ID:jIt+TxXZ0
さやか「やっぱり馬鹿なのかなぁ……?」

杏子「馬鹿だ。真正の馬鹿だ。人生を棒に振るような馬鹿だ」

さやか「そこまで言われたのは初めてだよ……」

ほむら「あなたの周りの人に感謝することね。」

さやか「……ほむらぁ~?どういう意味なのかなぁ~?」

ほむら「そのままの意味よ。現に棒に振りかけてるじゃないの。しっかりしなさいよ?」

さやか「うう……」

458: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/13(水) 00:18:36.13 ID:jIt+TxXZ0
杏子「……いいからじゃれてないで、ホームセンターにでも行って木材とか買って来い」

杏子「マミとあたしで家でできることはやっておくから。」

さやか「へえ、杏子そんなことできるんだ」

杏子「まあいっつも廃材でチョチョイってやってるからね

マミ「私はそういうのは得意じゃないわよ?」

杏子「手伝いが要るんだよ。家主にこんなことさせるのも悪いけどさ、マミの家なんだから。やり方は教えてやるから」

さやか「てかこういうのって管理人に報告するものなんじゃないの?」

杏子「ばれなきゃいいんだよ。終わったあとで魔法で修補すれば元通りさ。誰にも分からないって。」

465: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/14(木) 01:17:02.33 ID:4LB3JCrX0
杏子「なあ。マミ」

やっぱりマミは慣れてない感じで四苦八苦って感じだった

マミ「何?」


杏子「あんた死ぬ気でしょ?」


マミが手を止めた

マミ「…ええ。言ったじゃない?魔女になる前に死ぬつもりだって」

杏子「『魔女になる前』が、相当前な気がするんだよ」

マミ「…」

杏子「ワルプルギスを倒した後すぐ、とかさ」

マミ「………よくわかるわね…」

杏子「不肖だけど弟子のつもりだからね」

このお人よしのおかげで、今日からまた胸を張ってそう名乗れる
うれしい限りだ

…こんな奴が損をするなんて、早死にするなんてあっちゃいけないと思う

466: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/14(木) 01:19:47.64 ID:4LB3JCrX0
マミ「……だめ、かな?」

杏子「だめでしょ、そりゃ」

マミ「……今まで、魔法少女として、できることを精一杯やってきた」

杏子「……うん。マミほど魔法少女を体現したやつはいなかっただろうさ」

マミ「最後くらい、わがままを許してほしい」

杏子「……最後のわがままが、死なせてくれ、って何だよ……そんな悲しい話があるかよ……」

マミ「……」

杏子「あたしだって恐いんだよ……さっきはああ言ったけどさ……やっぱり人を殺したくなんかないよ……」

杏子「散々好き勝手やって、あんなことまでしてきて何言ってんだとは思うけどさ……」

467: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/14(木) 01:23:27.87 ID:4LB3JCrX0
マミ「……あなたは自分で思ってるほど悪い人じゃない」

杏子「……どうかな」

杏子「…さやかだってさ、絶対後悔するよ。覚悟はしてるみたいたけど、そんなに都合よくできてないんだよ、人間は」

マミ「……」

杏子「マミが、魔女になった魔法少女のこととか、あたしが考えもしないようなことまで考えて苦しんでるんだろうってことはわかるよ」

杏子「マミが背負うものとあたしが背負うものの重さは違うんだろうさ」

杏子「多分、あたしにはマミの生き死ににとやかくいう権利なんてない」

杏子「……それでも、あたしはマミに生きてほしいんだ。一緒に戦ってほしいんだよ」

マミ「……」

杏子「……ほむらとまどかだって同じだよ」

杏子「逃げないでくれ」

杏子「……マミが死ぬととても寂しい、から」

468: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/14(木) 01:26:51.30 ID:4LB3JCrX0
マミ「………」

マミ「……自分のことしか考えてなかったかもしれないわね」

マミが、ため息をついて自嘲気味に笑みを浮かべて言った

マミ「今までずっと一人だった。あなたと別れてからもずっと一人」

マミ「……暁美さんが現れて、鹿目さんと美樹さんと出会って、友達になった。魔法少女の仲間ができた」

マミ「本当は美樹さんには加わってほしくなかったけど、それでも仲間が増えたのは純粋にうれしかった。喜びや苦しみを共有できた」

マミ「魔法少女じゃない友達もできた。とても新鮮で、私たちが守ってきたものの意味を感じることができた。あなたとも友達に戻れた」

マミ「だけど、私は友達に甘えてるだけで、みんなのことを考えてなかったみたい」

マミ「……」

マミ「一人だったら、自分のことだけ考えてればよかったんだけどな……」

469: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/14(木) 01:32:23.87 ID:4LB3JCrX0
杏子「戻りたい?」

マミは首を横にを振った

マミ「もう戻れない」

杏子「……だろうね」

マミ「……ねえ、佐倉さん」

杏子「何?」

マミ「私、あの話を聞いて以来、時々、衝動的にソウルジェムを割りそうになるの」

杏子「……」

マミ「正直ここまで自分が弱いと思わなかった」

マミ「暁美さんの話では、みんなと心中しようとしたこともあったんだって……」

杏子「だけど、今、マミは砕いてないし、心中だってしようともしてない」

杏子「これからだって、絶対にない」

470: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/14(木) 01:34:29.22 ID:4LB3JCrX0
マミ「……何でそんなこと言えるの?」

杏子「マミにみんなを見捨てることなんてできっこないからさ」

杏子「ワルプルギルスを倒すことを一区切りにするつもりだったんだろうけど」

杏子「それが逃げだって、みんなを見捨てることだって気づいたから」

マミ「……一人じゃないって、楽じゃないわ……」

杏子「あたしも不肖ながら支えてやるよ。何でも言ってみな」

杏子「できることなら何でもしてやるから」

杏子「できないことはしないけどさ」

471: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/14(木) 01:37:13.14 ID:4LB3JCrX0
マミ「……じゃあ、ちょっとお願いしてみようかな」

杏子「何?」

マミ「……」

マミ「ちょっと胸貸して」

…今まで誰にも相談できなかったんだろうな。弱みを見せられるタイプじゃないし、立場でもないか…

まあ、あたしも同じか。見せられる相手もいなかったし

杏子「奇遇だね。あたしも胸を貸してもらえる相手を探してたんだ……ずっと」

472: ◆WxX/Ywk/v6 2013/11/14(木) 01:39:40.84 ID:4LB3JCrX0
三人が帰ってくる前には二人とも泣き止んだが、赤くなった目はごまかしようがなかった

ほむらとまどかは深入りしようとしなかったけど
さやかはしつこく何があったのか聞こうとして


ほむらとあたしの鉄拳を食らった