1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 00:06:40.02 ID:R7FBXpn90
~12月24日 夜~
2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 00:07:18.18 ID:R7FBXpn90
雪が降っていた。
細やかな白い結晶が風にのせられて舞い踊る街角。
クリスマス一色に染められた街路を、浮かれた雰囲気の人達が行き交う。
人の波から少し離れた場所に立地している765プロの事務所でも今日は普段の仕事の色は消えうせ、かわって賑やかなパーティが開かれていた。
窓から漏れる蛍光灯の光と騒ぎ声。
正に世はお祭り騒ぎだった。
細やかな白い結晶が風にのせられて舞い踊る街角。
クリスマス一色に染められた街路を、浮かれた雰囲気の人達が行き交う。
人の波から少し離れた場所に立地している765プロの事務所でも今日は普段の仕事の色は消えうせ、かわって賑やかなパーティが開かれていた。
窓から漏れる蛍光灯の光と騒ぎ声。
正に世はお祭り騒ぎだった。
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 00:13:05.80 ID:R7FBXpn90
亜美「まだかなぁ、兄ちゃん…」
会もたけなわといった様子で飲み食いし雑談に花を咲かせていた765プロのアイドル達は、その言葉を耳にした瞬間一様に表情をくもらせた。
真「もうすぐだと思うけどな…」
先ほども同じ台詞を口にしたような、と内心に思いながら真がつぶやく。
入り口に掲げられた「クリスマスイヴパーティ&雪歩の誕生日会」というポップが少しばかり寒々しく見えた。
真美「ゆきぴょん、もうすぐだよ。きっと。」
人だかりの中央にいる雪歩はそう声をかけられるたびに、そうだね、と気のない返事をしていた。
会もたけなわといった様子で飲み食いし雑談に花を咲かせていた765プロのアイドル達は、その言葉を耳にした瞬間一様に表情をくもらせた。
真「もうすぐだと思うけどな…」
先ほども同じ台詞を口にしたような、と内心に思いながら真がつぶやく。
入り口に掲げられた「クリスマスイヴパーティ&雪歩の誕生日会」というポップが少しばかり寒々しく見えた。
真美「ゆきぴょん、もうすぐだよ。きっと。」
人だかりの中央にいる雪歩はそう声をかけられるたびに、そうだね、と気のない返事をしていた。
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 00:20:47.22 ID:R7FBXpn90
雪歩(プロデューサー…やっぱり間に合わなかったのかな…)
今日の朝プロデューサーは行きがけに、今日は遠方へ出張だと言っていた。
パーティには間に合うように電車に乗るとは言っていたが、予想外に交渉が長引いて…ということは十分に考えられる。
雪歩(仕方ないよね…お仕事だから…)
抱え込んだ皿にのった大きなチキンを頬張りながら、極力明るい表情をつくろった。
壁際で柱にもたれかかり、早回しにしたように右へ左へ動き回って歓談する皆を眺める。
伊織「なにしけた顔してるのよ。」
今日の朝プロデューサーは行きがけに、今日は遠方へ出張だと言っていた。
パーティには間に合うように電車に乗るとは言っていたが、予想外に交渉が長引いて…ということは十分に考えられる。
雪歩(仕方ないよね…お仕事だから…)
抱え込んだ皿にのった大きなチキンを頬張りながら、極力明るい表情をつくろった。
壁際で柱にもたれかかり、早回しにしたように右へ左へ動き回って歓談する皆を眺める。
伊織「なにしけた顔してるのよ。」
8: >>6 アドバイスありがとう 途中台詞が多くなるところがあるからこのSSはこのままで書くわ 2012/12/24(月) 00:26:21.39 ID:R7FBXpn90
いつの間にかとなりにちょこんと立っていた伊織が、雪歩の手にデザートの乗った皿を押し付けながらそう話しかけた。
雪歩「あっ、ありがとう。」
伊織「このパーティの主役はあんたなんだから、もっと楽しそうな顔しなさいよ。」
雪歩「そんなに暗く見えたかな…ごめんなさい…」
伊織「…あいつは来るわよ。」
雪歩「あっ、ありがとう。」
伊織「このパーティの主役はあんたなんだから、もっと楽しそうな顔しなさいよ。」
雪歩「そんなに暗く見えたかな…ごめんなさい…」
伊織「…あいつは来るわよ。」
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 00:32:07.05 ID:R7FBXpn90
雪歩の落ち込みを見かねたように肩をすくめた伊織は、立ち去り際に少し声をあげた。
伊織「来るって言ったなら来る。あいつはそういう奴だから。」
伊織「ちょっと遅くなったくらいでへこむんじゃないわよ。もう。」
有無を言わさぬ勢いでそれだけ言うと、伊織はぷいっと顔をそむけて足早にテーブルへと戻っていった。
伊織なりの気遣いが、今は少しだけ心に痛かった。
伊織「来るって言ったなら来る。あいつはそういう奴だから。」
伊織「ちょっと遅くなったくらいでへこむんじゃないわよ。もう。」
有無を言わさぬ勢いでそれだけ言うと、伊織はぷいっと顔をそむけて足早にテーブルへと戻っていった。
伊織なりの気遣いが、今は少しだけ心に痛かった。
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 00:41:04.39 ID:R7FBXpn90
~数時間後~
皆が代わる代わる雪歩にデザートをよそったお陰で、両手に抱えた大皿にはケーキやらプディングやらが溢れんばかりに盛られていた。
相変わらず人の輪の中に囲まれたままの雪歩は、それをもくもくと小さな口へと運んでいた。
律子「はいっ。みんな。」
雪歩「?」
先ほどまで亜美と真美を追い掛け回していた律子が、社長席の前に立って二三度手を叩いた。
律子「時間も時間だし、そろそろ片づけを始めて。」
ちょうどその言葉に被るようにして時計の短針が9時を指し、寒々しい鐘の音が室内に響いた。
皆が代わる代わる雪歩にデザートをよそったお陰で、両手に抱えた大皿にはケーキやらプディングやらが溢れんばかりに盛られていた。
相変わらず人の輪の中に囲まれたままの雪歩は、それをもくもくと小さな口へと運んでいた。
律子「はいっ。みんな。」
雪歩「?」
先ほどまで亜美と真美を追い掛け回していた律子が、社長席の前に立って二三度手を叩いた。
律子「時間も時間だし、そろそろ片づけを始めて。」
ちょうどその言葉に被るようにして時計の短針が9時を指し、寒々しい鐘の音が室内に響いた。
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 00:49:27.77 ID:R7FBXpn90
春香「え?もうそんな時間?」
千早「急いで片付けないと…」
先ほどまでの和やかな雰囲気が一転、師走の名に相応しい気ぜわしさをみせはじめた。
そうは言っても、家事に手馴れたやよいや響が途中途中で片付けを行っていたため、テーブルの上に残っているのはデザート用の大皿だけであった。
ポップの類も年長組によって即座に片付けられ、きらびやかだった室内がいつもどおりのビジネスライクな雰囲気へと戻りつつある。
すでに各々は少し疲れたような雰囲気で、後片付けに加えて帰宅準備に入りはじめていた。
千早「急いで片付けないと…」
先ほどまでの和やかな雰囲気が一転、師走の名に相応しい気ぜわしさをみせはじめた。
そうは言っても、家事に手馴れたやよいや響が途中途中で片付けを行っていたため、テーブルの上に残っているのはデザート用の大皿だけであった。
ポップの類も年長組によって即座に片付けられ、きらびやかだった室内がいつもどおりのビジネスライクな雰囲気へと戻りつつある。
すでに各々は少し疲れたような雰囲気で、後片付けに加えて帰宅準備に入りはじめていた。
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 00:55:18.44 ID:R7FBXpn90
雪歩「ごめん。私、ちょっと座ってるね。」
依然雪歩を取り囲んでいる人の輪から抜け出し、窓際の椅子へと足を向ける。
腰を下ろした席から垣間見える外の様子は、朝事務所にきたときよりも一層幻惑的なものになっていた。
カーテンの隙間から顔を覗かせている黒い空には、ゆらめく白い光の粒が無数に舞い散っている。
今年はホワイトクリスマスになりそうだった。
冷たく冷え切ったアスファルトの上にうっすらと降り積もった雪。
窓際の、普段プロデューサーが座っている椅子に浅く腰掛けた雪歩は、言うまでもなく自らの名前の由来となったそれをぼんやりと眺める。
依然雪歩を取り囲んでいる人の輪から抜け出し、窓際の椅子へと足を向ける。
腰を下ろした席から垣間見える外の様子は、朝事務所にきたときよりも一層幻惑的なものになっていた。
カーテンの隙間から顔を覗かせている黒い空には、ゆらめく白い光の粒が無数に舞い散っている。
今年はホワイトクリスマスになりそうだった。
冷たく冷え切ったアスファルトの上にうっすらと降り積もった雪。
窓際の、普段プロデューサーが座っている椅子に浅く腰掛けた雪歩は、言うまでもなく自らの名前の由来となったそれをぼんやりと眺める。
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 01:01:41.56 ID:R7FBXpn90
時折通り過ぎる車のヘッドライトが照らし出すミクロな星空のような景色は、一つ一つが完成された芸術作品のようであった。
数週間前、イルミネーションに彩られた街角で初雪を見たときよりも幾分色味を失ったような印象を感じた雪歩は、そのときのことを頭の片隅で回顧する。
確かあのときは…
あのとき聞いた、耳慣れた車の響くエンジン音が再生される。
薄く雪化粧をした地面を踏みならすように、おもむろに現れた、あの黒みがかった車。
雪歩(そうそう…ちょうどこんな感じで…プロデューサーが…)
数週間前、イルミネーションに彩られた街角で初雪を見たときよりも幾分色味を失ったような印象を感じた雪歩は、そのときのことを頭の片隅で回顧する。
確かあのときは…
あのとき聞いた、耳慣れた車の響くエンジン音が再生される。
薄く雪化粧をした地面を踏みならすように、おもむろに現れた、あの黒みがかった車。
雪歩(そうそう…ちょうどこんな感じで…プロデューサーが…)
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 01:06:33.49 ID:R7FBXpn90
耳に届く心地よい車の駆動音に体を小さくゆすられながらそっと目を閉じる。
雪歩「…え?」
本来そこにあるはずの無いもの…プロデューサーが乗る車の音が先ほどから聞こえていることにようやく気付いた雪歩は、驚いて目を見開く。
雪歩「あっ…」
真新しい黒い二つの筋がくっきりと刻まれた道の先に止まっている車に目を向ける。
勢いよく開いたドアから、足をもつれさせながら、一人の男が飛び出てきた。
雪歩「プロデューサー…」
ぼそりとつぶやいたその言葉を聞いた他の皆が、一斉に窓の外へと視線を向けた。
真美「え?兄ちゃんやっときたの?」
雪歩「あ、うん。今そこの駐車場に。」
雪歩「…え?」
本来そこにあるはずの無いもの…プロデューサーが乗る車の音が先ほどから聞こえていることにようやく気付いた雪歩は、驚いて目を見開く。
雪歩「あっ…」
真新しい黒い二つの筋がくっきりと刻まれた道の先に止まっている車に目を向ける。
勢いよく開いたドアから、足をもつれさせながら、一人の男が飛び出てきた。
雪歩「プロデューサー…」
ぼそりとつぶやいたその言葉を聞いた他の皆が、一斉に窓の外へと視線を向けた。
真美「え?兄ちゃんやっときたの?」
雪歩「あ、うん。今そこの駐車場に。」
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 01:13:05.10 ID:R7FBXpn90
真「もう遅いよぉ…折角雪歩の誕生日なのに…」
拳を鳴らしながら不満を口にする真に苦笑いをしながら、再び窓外へと目を流す。
先ほどまで道路の向こうにあった黒い人影は、既に事務所の前に到着していた。
それとほぼ時を同じくして、下階からばたんとドアを開ける音が響く。
真美「おっ、やっときたみたいだね。」
雪歩「うん。」
階段を駆け上がる革靴特有の硬い音が近づくたびに、雪歩は少しだけぼんやりとした温かみが胸の中に灯る心地がした。
拳を鳴らしながら不満を口にする真に苦笑いをしながら、再び窓外へと目を流す。
先ほどまで道路の向こうにあった黒い人影は、既に事務所の前に到着していた。
それとほぼ時を同じくして、下階からばたんとドアを開ける音が響く。
真美「おっ、やっときたみたいだね。」
雪歩「うん。」
階段を駆け上がる革靴特有の硬い音が近づくたびに、雪歩は少しだけぼんやりとした温かみが胸の中に灯る心地がした。
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 01:18:41.40 ID:R7FBXpn90
あと数歩。
あと少し。
扉の前で止まったその人は、一呼吸置いてドアノブを回した。
律子「やっとですか…」
音をたてて開け放たれた扉の先には、あの人のよさそうな顔に申し訳なさを滲ませたプロデューサーがいた。
P「遅れてごめん…」
手に持ったブリーフケースと脱ぎかけのコートを椅子に放り投げたプロデューサーは、挨拶もそこそこに自分のデスク…今まさに雪歩が座している机へと駆け寄った。
P「すまん雪歩…遅れて。」
あと少し。
扉の前で止まったその人は、一呼吸置いてドアノブを回した。
律子「やっとですか…」
音をたてて開け放たれた扉の先には、あの人のよさそうな顔に申し訳なさを滲ませたプロデューサーがいた。
P「遅れてごめん…」
手に持ったブリーフケースと脱ぎかけのコートを椅子に放り投げたプロデューサーは、挨拶もそこそこに自分のデスク…今まさに雪歩が座している机へと駆け寄った。
P「すまん雪歩…遅れて。」
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 01:24:43.61 ID:R7FBXpn90
雪歩「いえ、そんな。忙しいのにありがとうございます。」
あがった息を整えながら、プロデューサーが隣の椅子に腰を下ろす。
真「何やってたんですか?こんな時間まで。」
P「ちょっとな…色々あって。」
言葉を濁したプロデューサー。
律子「もうパーティ終わっちゃいましたよ。」
P「ああ…まぁこんな時間だからな。」
大方テーブルや飾りつけの類も片付けられた味気ない室内を見渡し、自分を納得させるように2、3回頷く。
あがった息を整えながら、プロデューサーが隣の椅子に腰を下ろす。
真「何やってたんですか?こんな時間まで。」
P「ちょっとな…色々あって。」
言葉を濁したプロデューサー。
律子「もうパーティ終わっちゃいましたよ。」
P「ああ…まぁこんな時間だからな。」
大方テーブルや飾りつけの類も片付けられた味気ない室内を見渡し、自分を納得させるように2、3回頷く。
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 01:30:07.79 ID:R7FBXpn90
小鳥「あの、早々に申しわけないんですけど…もうそろそろ事務所閉めないといけないので…」
P「あ、そうですか…」
見回せば、周りは皆それぞれにコートを着込み、すでに帰宅準備を済ませていた。
P「まぁ、明日もパーティはあるしな…」
先ほど放り投げたコートを早々に着なおし、ぼやくように独り言を零す。
春香「雪歩にちゃんとお祝い、してあげてくださいね。」
プロデューサーの背後からとことこと歩み寄ってきた春香が、耳もとでそう呟いた。
P「あ、ああ。勿論だ。」
弾かれたように動いたプロデューサーは、窓際で物憂げに室内を眺めている雪歩の元へ行き、腰を屈める。
P「あ、そうですか…」
見回せば、周りは皆それぞれにコートを着込み、すでに帰宅準備を済ませていた。
P「まぁ、明日もパーティはあるしな…」
先ほど放り投げたコートを早々に着なおし、ぼやくように独り言を零す。
春香「雪歩にちゃんとお祝い、してあげてくださいね。」
プロデューサーの背後からとことこと歩み寄ってきた春香が、耳もとでそう呟いた。
P「あ、ああ。勿論だ。」
弾かれたように動いたプロデューサーは、窓際で物憂げに室内を眺めている雪歩の元へ行き、腰を屈める。
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 01:36:02.50 ID:R7FBXpn90
P「今日の帰り、あいてるか?」
雪歩「え?あ、はい。大丈夫ですけど…」
P「そっか。じゃあちょっと一緒に帰らないか。」
雪歩「一緒にですか…? はい。いいですよ。」
少し明るい面持ちになった雪歩は、俯いたまま首肯した。
律子「よし、それじゃあ電気消しますよ。みんなでてください。」
図ったようなタイミングで律子が声を上げた。
貴音「お二人もどうぞ早く。」
P「おう。ちょっと雪歩、先いっててくれ。」
雪歩「え?あ、はい。大丈夫ですけど…」
P「そっか。じゃあちょっと一緒に帰らないか。」
雪歩「一緒にですか…? はい。いいですよ。」
少し明るい面持ちになった雪歩は、俯いたまま首肯した。
律子「よし、それじゃあ電気消しますよ。みんなでてください。」
図ったようなタイミングで律子が声を上げた。
貴音「お二人もどうぞ早く。」
P「おう。ちょっと雪歩、先いっててくれ。」
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 01:43:20.26 ID:R7FBXpn90
促されるままに、雪歩は貴音と一緒にドアを潜る。
温かい室内との気温の差に身震いしながら階段を下りる雪歩に、下から声がかけられる。
真美「ねえねえゆきぴょん、途中まで一緒に帰ろ?」
凜と澄んだ空気を小さく震わせるような幼い声が階段の下から飛んできた。
雪歩「あ、えっと…その、今日は…」
さっきプロデューサーに誘われたから…と言おうとしたところで、真美の後ろにいつの間にか立っていた真が真美の肩に手をかけた。
濡れた階段を危なっかしい足取りで駆け上がる真美の肩を引き止めるようにしっかりと掴んだ真。
真「真美、今日はボクと帰ろうよ。」
にこっと微笑みかけ、真美の手をとる。
真美「え?じゃあ三人で帰る?」
真「今日は二人きりで話したいな。クリスマスだし。ねっ?」
温かい室内との気温の差に身震いしながら階段を下りる雪歩に、下から声がかけられる。
真美「ねえねえゆきぴょん、途中まで一緒に帰ろ?」
凜と澄んだ空気を小さく震わせるような幼い声が階段の下から飛んできた。
雪歩「あ、えっと…その、今日は…」
さっきプロデューサーに誘われたから…と言おうとしたところで、真美の後ろにいつの間にか立っていた真が真美の肩に手をかけた。
濡れた階段を危なっかしい足取りで駆け上がる真美の肩を引き止めるようにしっかりと掴んだ真。
真「真美、今日はボクと帰ろうよ。」
にこっと微笑みかけ、真美の手をとる。
真美「え?じゃあ三人で帰る?」
真「今日は二人きりで話したいな。クリスマスだし。ねっ?」
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 01:48:43.51 ID:R7FBXpn90
返答を待たずして真美の手をひき、そのまま下の方へとひっぱる。
真美「え?ちょ、まこちん?」
心なしか頬に朱がさしている真美も、それにしたがってひきずられていった。
隙間風を体で受けるように真美とくっついて街路へと足を向ける真。
階段をおりきったところで、振り返りざまに真は雪歩に向けて悪戯っぽい表情でウインクを飛ばした。
雪歩「真ちゃん…」
先ほどプロデューサーに一緒に帰ろうと誘われたことを知っての行動だと察するに、さほど時間はかからなかった。
ありがとう、と小声で呟いた雪歩は、もうすぐプロデューサーが降りてくるであろう階段の方へと向き直る。
いつも見慣れた階段が、装飾されたかのようにきらりと光って見えたのは錯覚ではないだろう。
内心にそう思いながら、彼を待つ。
少し前ならば、自分が男の人を待つなんて考えられなかった。
それが今では…
その先を頭に思い描いて顔を真っ赤にさせた雪歩の視線の前に、ダッフルコートを来たプロデューサーがすっと現れた。
P「お待たせ。いこうか。」
真美「え?ちょ、まこちん?」
心なしか頬に朱がさしている真美も、それにしたがってひきずられていった。
隙間風を体で受けるように真美とくっついて街路へと足を向ける真。
階段をおりきったところで、振り返りざまに真は雪歩に向けて悪戯っぽい表情でウインクを飛ばした。
雪歩「真ちゃん…」
先ほどプロデューサーに一緒に帰ろうと誘われたことを知っての行動だと察するに、さほど時間はかからなかった。
ありがとう、と小声で呟いた雪歩は、もうすぐプロデューサーが降りてくるであろう階段の方へと向き直る。
いつも見慣れた階段が、装飾されたかのようにきらりと光って見えたのは錯覚ではないだろう。
内心にそう思いながら、彼を待つ。
少し前ならば、自分が男の人を待つなんて考えられなかった。
それが今では…
その先を頭に思い描いて顔を真っ赤にさせた雪歩の視線の前に、ダッフルコートを来たプロデューサーがすっと現れた。
P「お待たせ。いこうか。」
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 01:54:18.39 ID:R7FBXpn90
~街路~
不思議な夜だった。
ひらひらと舞い散る細雪。
それを吹き流す風は、かすかな温かみを感じさせる。
雪を降らせているはずの夜空を見上げればそこには雲は無く、冬の象徴たるオリオン座と、それを取り巻くような星々が艶やかに瞬いていた。
異質の美しさが同居したその光景に、雪歩は小さく嘆息した。
雪歩「…今日は、とっても変な日ですね…」
P「ああ。でもいい日だよ。」
隣を歩くプロデューサーが少し歩調を落として合わせていることにふと気付き、雪歩の頬が淡い紅色に染まった。
不思議な夜だった。
ひらひらと舞い散る細雪。
それを吹き流す風は、かすかな温かみを感じさせる。
雪を降らせているはずの夜空を見上げればそこには雲は無く、冬の象徴たるオリオン座と、それを取り巻くような星々が艶やかに瞬いていた。
異質の美しさが同居したその光景に、雪歩は小さく嘆息した。
雪歩「…今日は、とっても変な日ですね…」
P「ああ。でもいい日だよ。」
隣を歩くプロデューサーが少し歩調を落として合わせていることにふと気付き、雪歩の頬が淡い紅色に染まった。
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 02:00:02.48 ID:R7FBXpn90
P「あの、さっきはほんとにごめんな。遅れて。」
雪歩「いえ。きてくれただけで嬉しいです。」
P「…これで雪歩、いくつになったんだっけ。」
雪歩「えっと、17です。」
そっか、と言って微笑むプロデューサーの顔には、どこか娘の成長を喜ぶ父親のような雰囲気が宿っていた。
P「雪歩も、もう大人の女性だな。」
雪歩「そんな…私なんてまだまだ駄目駄目で…」
P「いや、雪歩はこの一年で随分成長したよ。贔屓目なしに。」
一年前、全く仕事も無く、アイドルらしい能力を何一つ持っていなかった頃の自分の姿を思い返す。
プロデューサーが入社してからの一年間、厳しいレッスンを繰り替えし、仕事をこなし、それなりの実績は積み上げてきた。
雪歩「でもそれは全部、プロデューサーのお陰です…」
雪歩「いえ。きてくれただけで嬉しいです。」
P「…これで雪歩、いくつになったんだっけ。」
雪歩「えっと、17です。」
そっか、と言って微笑むプロデューサーの顔には、どこか娘の成長を喜ぶ父親のような雰囲気が宿っていた。
P「雪歩も、もう大人の女性だな。」
雪歩「そんな…私なんてまだまだ駄目駄目で…」
P「いや、雪歩はこの一年で随分成長したよ。贔屓目なしに。」
一年前、全く仕事も無く、アイドルらしい能力を何一つ持っていなかった頃の自分の姿を思い返す。
プロデューサーが入社してからの一年間、厳しいレッスンを繰り替えし、仕事をこなし、それなりの実績は積み上げてきた。
雪歩「でもそれは全部、プロデューサーのお陰です…」
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 02:06:53.12 ID:R7FBXpn90
雪歩「私がちゃんとレッスンできるようになったのは、プロデューサーが男の人嫌いを直すのを手伝ってくれたお陰です。」
P「そんなことはないさ。克服したのは雪歩自身。その力も実績も、雪歩が自分で掴み取ったものだよ。」
雪歩「はぅ…」
照れ隠しに視線を横に流す雪歩。
その視線の先には、色とりどりの明かりが咲き乱れた繁華街があった。
クリスマスらしく赤と緑を基調に彩られたその世界に、降り続く雪がささやかな華を添えている。
P「ほんとに、よく成長したよ。」
同じく街の明かりに顔を向けているプロデューサーが、そう呟く。
P「あの雪歩が、今やこうして男と並んで歩けて、触れることだって出来るようになったんだからな。」
雪歩「触れられるのはプロデューサーだけです。」
口にしてから、幾分意味深な響きを含んだその言葉に頬を染める。
P「そんなことはないさ。克服したのは雪歩自身。その力も実績も、雪歩が自分で掴み取ったものだよ。」
雪歩「はぅ…」
照れ隠しに視線を横に流す雪歩。
その視線の先には、色とりどりの明かりが咲き乱れた繁華街があった。
クリスマスらしく赤と緑を基調に彩られたその世界に、降り続く雪がささやかな華を添えている。
P「ほんとに、よく成長したよ。」
同じく街の明かりに顔を向けているプロデューサーが、そう呟く。
P「あの雪歩が、今やこうして男と並んで歩けて、触れることだって出来るようになったんだからな。」
雪歩「触れられるのはプロデューサーだけです。」
口にしてから、幾分意味深な響きを含んだその言葉に頬を染める。
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 02:11:54.72 ID:R7FBXpn90
P「いずれ他の人も大丈夫になるさ。」
雪歩の照れをよそに、淡白な反応がかえって来る。
今に限ってはそれがありがたかった。
暫し、心地の良い沈黙が二人の間に降りた。
-そういえば外国のとある国では、会話の間にふと起きる沈黙のことを「天使が降りた」と表現するらしい。
以前誰かから聞いたそんな雑学が頭を過ぎる。
雪歩(天使…かぁ。)
聖なる夜に男女が二人で歩いているのだから、天使の一人や二人が現れても別に変じゃないよね…
そんな少女趣味に満ちた考えが少しおかしくなって、くすっと笑いがこぼれた。
雪歩の照れをよそに、淡白な反応がかえって来る。
今に限ってはそれがありがたかった。
暫し、心地の良い沈黙が二人の間に降りた。
-そういえば外国のとある国では、会話の間にふと起きる沈黙のことを「天使が降りた」と表現するらしい。
以前誰かから聞いたそんな雑学が頭を過ぎる。
雪歩(天使…かぁ。)
聖なる夜に男女が二人で歩いているのだから、天使の一人や二人が現れても別に変じゃないよね…
そんな少女趣味に満ちた考えが少しおかしくなって、くすっと笑いがこぼれた。
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 02:20:06.96 ID:R7FBXpn90
P「なぁ雪歩。」
雪歩「はい。」
いつの間にか、高鳴った鼓動は落ち着いていた。
P「雪歩ってネックレスとかつけるか?」
雪歩「ネックレスですか?」
雪歩「…あんまり持ってませんけど、つけないことはないです。」
P「そっか…じゃあ、よかった。」
ほっとした様子で目を細めたプロデューサーは、右手に持つブリーフケースの中に無造作に手を突っ込み、街頭の明かりをきらりと反射する何かを取り出した。
雪歩「?」
雪歩「はい。」
いつの間にか、高鳴った鼓動は落ち着いていた。
P「雪歩ってネックレスとかつけるか?」
雪歩「ネックレスですか?」
雪歩「…あんまり持ってませんけど、つけないことはないです。」
P「そっか…じゃあ、よかった。」
ほっとした様子で目を細めたプロデューサーは、右手に持つブリーフケースの中に無造作に手を突っ込み、街頭の明かりをきらりと反射する何かを取り出した。
雪歩「?」
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 02:26:30.74 ID:R7FBXpn90
首を傾げる雪歩を見てにこりと笑うプロデューサー。
白っぽいリボンが僅かにふく風に流されてたなびいているその小さな袋を、そっと雪歩の方へと差し出した。
P「誕生日プレゼントだよ。雪歩。誕生日おめでとう。」
雪歩「えっ…私に…ですか?」
恐る恐る、絹のように繊細なラッピングを施されたその小包を受け取る。
雪歩「あ、ありがとうございます…私なんかに…」
雪歩の小さな手のひらの中にすっぽりと収まるサイズのその袋には、金色の文字で「My Dear」と印字されている。
雪歩「綺麗…です。」
P「ああ。」
天使の真っ白い衣のようにその身をゆらめかせる薄手の袋をじっと見つめる。
白っぽいリボンが僅かにふく風に流されてたなびいているその小さな袋を、そっと雪歩の方へと差し出した。
P「誕生日プレゼントだよ。雪歩。誕生日おめでとう。」
雪歩「えっ…私に…ですか?」
恐る恐る、絹のように繊細なラッピングを施されたその小包を受け取る。
雪歩「あ、ありがとうございます…私なんかに…」
雪歩の小さな手のひらの中にすっぽりと収まるサイズのその袋には、金色の文字で「My Dear」と印字されている。
雪歩「綺麗…です。」
P「ああ。」
天使の真っ白い衣のようにその身をゆらめかせる薄手の袋をじっと見つめる。
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 02:33:08.67 ID:R7FBXpn90
恐らく中身はアクセサリだと推察されるその袋越しに、女性ばかりの店内で齷齪しながらこれを選んでいるプロデューサーの姿を見て、思わず笑いがこみ上げた。
P「どうした?雪歩。」
雪歩「なんでも… あっ」
横を歩くプロデューサーの顔を見た瞬間に、ふとある考えが頭の中に浮かんだ。
雪歩「あの…もしかして、遅れたのって…これを選んでて…?」
その言葉に、プロデューサーは少しくもった笑いを浮かべる。
P「あはは…一応前から決めてはいたんだけど、いざ買うとなるとやっぱり悩んでさ…」
雪歩「…私なんかの為に…」
俯いた雪歩。
さらさらと歩みにあわせて揺れるその髪を、プロデューサーの大きな手のひらがそっと撫でつけた。
雪歩「わっ…えっ…?」
P「どうした?雪歩。」
雪歩「なんでも… あっ」
横を歩くプロデューサーの顔を見た瞬間に、ふとある考えが頭の中に浮かんだ。
雪歩「あの…もしかして、遅れたのって…これを選んでて…?」
その言葉に、プロデューサーは少しくもった笑いを浮かべる。
P「あはは…一応前から決めてはいたんだけど、いざ買うとなるとやっぱり悩んでさ…」
雪歩「…私なんかの為に…」
俯いた雪歩。
さらさらと歩みにあわせて揺れるその髪を、プロデューサーの大きな手のひらがそっと撫でつけた。
雪歩「わっ…えっ…?」
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 02:39:52.03 ID:R7FBXpn90
P「年に一度の雪歩の特別な日だからな。適当になんて決められないよ。」
気障ったらしいけれど、どこか様になっている台詞。
雪歩「ありがとうございます…大事にします。」
P「ああ。 お、もうそろそろ迎えが来る所か?」
雪歩「あ、はい。あのデパートの横です。もう来てるみたいです。」
父の黒い車がとまっている場所を指差す。
P「そっか。じゃあここらでお別れだな。」
雪歩「そう…ですね。」
P「ああ。それじゃ。また明日。」
雪歩「はい。ありがとうございました。」
後ろ髪をひかれるような感覚をおぼえながら、雪歩は車へと足をむけた。
窓から見たときよりもいっそう繊細できらびやかにな電飾が彩るデパートの入り口を横切り、見慣れた車のドアに手をかける。
雪歩「…あっ」
気障ったらしいけれど、どこか様になっている台詞。
雪歩「ありがとうございます…大事にします。」
P「ああ。 お、もうそろそろ迎えが来る所か?」
雪歩「あ、はい。あのデパートの横です。もう来てるみたいです。」
父の黒い車がとまっている場所を指差す。
P「そっか。じゃあここらでお別れだな。」
雪歩「そう…ですね。」
P「ああ。それじゃ。また明日。」
雪歩「はい。ありがとうございました。」
後ろ髪をひかれるような感覚をおぼえながら、雪歩は車へと足をむけた。
窓から見たときよりもいっそう繊細できらびやかにな電飾が彩るデパートの入り口を横切り、見慣れた車のドアに手をかける。
雪歩「…あっ」
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 02:44:33.48 ID:R7FBXpn90
何気なく振り向いた先。
先ほどまで自分がいた場所にまだ立ったままのプロデューサーが、こちらに向けて手を振っていた。
雪歩「…えへへへ。」
はにかんだ笑いを浮かべながら、雪歩も小さく手を振りかえす。
その人越しに見る景色は、今年の最後を締めくくるに相応しく美しい光景だと、内心に思う雪歩。
右手に持ったプレゼントに舞い降りた雪をさっと払い、ポケットにしまう。
雪歩(プロデューサー…)
雪歩(来てくれてよかったです。嬉しかったです、私。)
先ほどまで自分がいた場所にまだ立ったままのプロデューサーが、こちらに向けて手を振っていた。
雪歩「…えへへへ。」
はにかんだ笑いを浮かべながら、雪歩も小さく手を振りかえす。
その人越しに見る景色は、今年の最後を締めくくるに相応しく美しい光景だと、内心に思う雪歩。
右手に持ったプレゼントに舞い降りた雪をさっと払い、ポケットにしまう。
雪歩(プロデューサー…)
雪歩(来てくれてよかったです。嬉しかったです、私。)
42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 02:50:11.02 ID:R7FBXpn90
~深夜 雪歩自宅 自室~
窓の外は夜とは思えないほど明るかった。
降り積もった雪に反射した白銀の月光がガラス越しにカーテンを照らし、ぼんやりと全体が輝いている。
ベッドに横たわり、先ほどから数十分にわたってプレゼントの袋をためつすがめつしていた雪歩は、月明かりにきらりと光るリボンに手をかけた。
リボンをひっぱるごとに、形の整った蝶々結びの輪が少しずつ小さくなっていく。
雪歩「…解けた…」
ぱさりと小さな音を立てて雪歩のパジャマの上に落ちたリボン。
両手で包み込むように持った袋の中にそっと手を入れ、中から硬い手ごたえを返す箱を取り出す。
雪歩「わぁ…」
雪歩の眼前に現れたのは、ほんの少しの光沢を持つ黒い平らな小箱だった。
蓋と思しきところには、銀色の文字で「Dear Yukiho」と印字されている。
窓の外は夜とは思えないほど明るかった。
降り積もった雪に反射した白銀の月光がガラス越しにカーテンを照らし、ぼんやりと全体が輝いている。
ベッドに横たわり、先ほどから数十分にわたってプレゼントの袋をためつすがめつしていた雪歩は、月明かりにきらりと光るリボンに手をかけた。
リボンをひっぱるごとに、形の整った蝶々結びの輪が少しずつ小さくなっていく。
雪歩「…解けた…」
ぱさりと小さな音を立てて雪歩のパジャマの上に落ちたリボン。
両手で包み込むように持った袋の中にそっと手を入れ、中から硬い手ごたえを返す箱を取り出す。
雪歩「わぁ…」
雪歩の眼前に現れたのは、ほんの少しの光沢を持つ黒い平らな小箱だった。
蓋と思しきところには、銀色の文字で「Dear Yukiho」と印字されている。
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 02:57:04.39 ID:R7FBXpn90
雪歩「プ、プロデューサー…」
自分の名前が捺されたプレゼントを貰った…ただそれだけのことに気恥ずかしさを感じ、頬が熱くなる。
半ば布団に顔をうずめるようにして、雪歩はその蓋をそっと開けた。
雪歩「わっ」
箱を裏がえしにしたまま蓋を開けたため、中に入っていた銀色の何かが、雪歩の顔の上にこつんと落ちてきた。
あたふたしながら、金属特有の重々しい冷たさを伝えるそれを手にとる。
自分の名前が捺されたプレゼントを貰った…ただそれだけのことに気恥ずかしさを感じ、頬が熱くなる。
半ば布団に顔をうずめるようにして、雪歩はその蓋をそっと開けた。
雪歩「わっ」
箱を裏がえしにしたまま蓋を開けたため、中に入っていた銀色の何かが、雪歩の顔の上にこつんと落ちてきた。
あたふたしながら、金属特有の重々しい冷たさを伝えるそれを手にとる。
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 03:03:07.92 ID:R7FBXpn90
それは、銀のロケットだった。
ネックレスよりも大きい、中に何かが収納できる円筒が付いたアクセサリ。
カーテンの隙間から漏れる光を受けて控え目に光るそのロケットからは、頼り無いほどに繊細なチェーンが伸びている。
雪歩「綺麗…」
夜闇の中で確かな輝きを放つそれには、雪をモチーフにしたと思われる意匠が施されていた。
その結晶の形に、帰り道にプロデューサーが降りつもった雪を掬い取って眺めていたことをふと思い出す。
雪歩「プロデューサー…ありがとうございます…とっても嬉しいです。」
届くことは無いであろう言葉を、心の中で微笑んでいる人へと投げかける。
ネックレスよりも大きい、中に何かが収納できる円筒が付いたアクセサリ。
カーテンの隙間から漏れる光を受けて控え目に光るそのロケットからは、頼り無いほどに繊細なチェーンが伸びている。
雪歩「綺麗…」
夜闇の中で確かな輝きを放つそれには、雪をモチーフにしたと思われる意匠が施されていた。
その結晶の形に、帰り道にプロデューサーが降りつもった雪を掬い取って眺めていたことをふと思い出す。
雪歩「プロデューサー…ありがとうございます…とっても嬉しいです。」
届くことは無いであろう言葉を、心の中で微笑んでいる人へと投げかける。
46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 03:09:09.53 ID:R7FBXpn90
雪歩(あっ…ロケットは中に何か…写真とか入れるものだっけ…)
おもむろに体を起し、隣に置かれた机の引き出しをさっとあける。
一年前は何も入っていなかった引き出し。
今はパンフレットや仕事の書類がほとんど全部分を占拠しているその中から、一枚のシールのような紙を取り出す。
雪歩(あった…)
ちょうど半年ほど前、真とプロデューサーと雪歩の3人で営業に行ったときのことだった。
まだ夏になりきる前の乾いた風が吹いていた帰り道に、真が一緒にプリクラをとろうと提案した。
そのとき、雪歩は真によって半ば強引にプロデューサーとツーショットを撮らされたのだった。
ファンシーなフレームの中で引きつった笑みを浮かべている自分の姿に、当時は今よりも男の人が苦手だったことを思い出す。
おもむろに体を起し、隣に置かれた机の引き出しをさっとあける。
一年前は何も入っていなかった引き出し。
今はパンフレットや仕事の書類がほとんど全部分を占拠しているその中から、一枚のシールのような紙を取り出す。
雪歩(あった…)
ちょうど半年ほど前、真とプロデューサーと雪歩の3人で営業に行ったときのことだった。
まだ夏になりきる前の乾いた風が吹いていた帰り道に、真が一緒にプリクラをとろうと提案した。
そのとき、雪歩は真によって半ば強引にプロデューサーとツーショットを撮らされたのだった。
ファンシーなフレームの中で引きつった笑みを浮かべている自分の姿に、当時は今よりも男の人が苦手だったことを思い出す。
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 03:15:41.25 ID:R7FBXpn90
雪歩(それでもプロデューサーと歩けるくらいにはなってたっけな…)
隣で同じく困ったような表情をしているプロデューサーの顔を、細い指先でそっとなぞる。
お世辞にも写りが良いとはいえない一枚だったが、今こうしてみると、当時の自分達の関係をよくあらわしているようで、案外悪い気はしなかった。
雪歩「これでいいかな…」
雪歩が持っている中で唯一の、プロデューサーと二人だけの写真。
ぎこちないながらに肩を並べて笑う二人をおさめたそれを、そっと筒状に丸め、ロケットの円筒の中に滑り込ませる。
ぱちりとそれの蓋を閉め、再びベッドに潜った雪歩は柔らかな微笑みを浮かべた。
馴れない手つきで首にロケットをつけ、胸の前で写真が入った円筒をきゅっと握り締める。
先ほどまで重厚な冷たさを放っていたそれは、ぼうっと熱を持ったように温かな感触を手に伝えた。
隣で同じく困ったような表情をしているプロデューサーの顔を、細い指先でそっとなぞる。
お世辞にも写りが良いとはいえない一枚だったが、今こうしてみると、当時の自分達の関係をよくあらわしているようで、案外悪い気はしなかった。
雪歩「これでいいかな…」
雪歩が持っている中で唯一の、プロデューサーと二人だけの写真。
ぎこちないながらに肩を並べて笑う二人をおさめたそれを、そっと筒状に丸め、ロケットの円筒の中に滑り込ませる。
ぱちりとそれの蓋を閉め、再びベッドに潜った雪歩は柔らかな微笑みを浮かべた。
馴れない手つきで首にロケットをつけ、胸の前で写真が入った円筒をきゅっと握り締める。
先ほどまで重厚な冷たさを放っていたそれは、ぼうっと熱を持ったように温かな感触を手に伝えた。
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 03:20:34.23 ID:R7FBXpn90
雪歩「プロデューサー…」
手の中の温もりを与えてくれたその人の名を小さく呼ぶ。
雪歩(来年も、一緒に誕生日のお祝い、してくれますか…?)
誰に向けたものかも分からない問いかけを発する。
雪歩(…きっと、してくれますよね。)
雪歩(だって、今日は願いが叶う聖なる夜…ですから…)
目を閉じて、来年の雪の降るクリスマスイヴを頭の中に思い描く。
雪歩(もしかしたら、もう一つのお願いも…叶うのかな…)
手の中の温もりを与えてくれたその人の名を小さく呼ぶ。
雪歩(来年も、一緒に誕生日のお祝い、してくれますか…?)
誰に向けたものかも分からない問いかけを発する。
雪歩(…きっと、してくれますよね。)
雪歩(だって、今日は願いが叶う聖なる夜…ですから…)
目を閉じて、来年の雪の降るクリスマスイヴを頭の中に思い描く。
雪歩(もしかしたら、もう一つのお願いも…叶うのかな…)
50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 03:26:31.04 ID:R7FBXpn90
閉じた瞼の裏に今日の帰り道…雪降るイヴの夜に二人並んで街路を歩いていた光景がうっすらと甦った。
プロデューサーの横顔を近くで見たあのときの胸の高鳴りを思い出し、かぶりをふる。
雪歩(やっぱりこっちのお願いが叶うのは…もっと後でいいです。)
雪歩(でも、いつか…きっと…)
神様に祝福された夜の静けさは、程なくして雪歩に眠りを運んできた。
首元に光るロケットをつけたまま寝息を立てる少女を優しく包みこむように、丸い月は煌々と光を地上へと降らせていた。
真っ白く染め抜かれた世界は、純白という言葉では形容しがたい美しさを湛えている。
雪はイルミネーションに彩られた町中で、一晩中ふわふわと降り続けた。
プロデューサーの横顔を近くで見たあのときの胸の高鳴りを思い出し、かぶりをふる。
雪歩(やっぱりこっちのお願いが叶うのは…もっと後でいいです。)
雪歩(でも、いつか…きっと…)
神様に祝福された夜の静けさは、程なくして雪歩に眠りを運んできた。
首元に光るロケットをつけたまま寝息を立てる少女を優しく包みこむように、丸い月は煌々と光を地上へと降らせていた。
真っ白く染め抜かれた世界は、純白という言葉では形容しがたい美しさを湛えている。
雪はイルミネーションに彩られた町中で、一晩中ふわふわと降り続けた。
51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 03:33:13.89 ID:R7FBXpn90
~翌日 朝~
雪歩「おはようございます。」
真「おっおはよう雪歩…って、どうしたの?それ?」
真が開口一番を驚いた表情で雪歩の首を指差す。
真「なんか赤くなってるよ…?虫さされじゃないっぽいけど…」
反射的に首元に目をやると、首周りにこすれたような細く赤い筋がついていた。
雪歩「あっ…」
雪歩は、昨晩のおぼろげな記憶を掘り起こした。
眠気のせいで多くがあいまいになっている中で、一晩中、あの温もりを両手に握り締め続けていたことだけが鮮明に頭に焼き付いていた。
雪歩「そっか…」
真「何か思い当たることあるの?」
心配そうに雪歩の顔を覗き込む真に、大丈夫だよとジェスチャーする。
雪歩「おはようございます。」
真「おっおはよう雪歩…って、どうしたの?それ?」
真が開口一番を驚いた表情で雪歩の首を指差す。
真「なんか赤くなってるよ…?虫さされじゃないっぽいけど…」
反射的に首元に目をやると、首周りにこすれたような細く赤い筋がついていた。
雪歩「あっ…」
雪歩は、昨晩のおぼろげな記憶を掘り起こした。
眠気のせいで多くがあいまいになっている中で、一晩中、あの温もりを両手に握り締め続けていたことだけが鮮明に頭に焼き付いていた。
雪歩「そっか…」
真「何か思い当たることあるの?」
心配そうに雪歩の顔を覗き込む真に、大丈夫だよとジェスチャーする。
53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/24(月) 03:37:34.78 ID:R7FBXpn90
雪歩「ちょっと着替えるときにこすっただけだから…」
真「そう…?ならいいけど。」
いまひとつ釈然としない表情の真にそっと背を向けて、胸元のポケットに手をあてる。
昨日と変わらない温かみがそこにあった。
勇気付けられたように雪歩は一つ大きく頷き、くるりと真の方へ居直る。
雪歩「真ちゃん、もうお仕事行こっか。雪がつもってるから時間かかるかも。」
真「あ、うん。そうだね。」
勢いよく開け放ったドアの隙間から、ひとひらの雪の結晶が舞い降りてきた。
朝日を浴びて虹色に輝くそれは雪歩の頬に当たり、丸い水玉となった。
隙間から空を見上げると、風花といった様子を呈す細かな雪が時折舞っている。
聖なる夜が明けて少し。
雪歩の胸元に収まる雪を象ったロケットが、新たな日の光を布越しに受けて、柔らかく輝いた。
おわり
真「そう…?ならいいけど。」
いまひとつ釈然としない表情の真にそっと背を向けて、胸元のポケットに手をあてる。
昨日と変わらない温かみがそこにあった。
勇気付けられたように雪歩は一つ大きく頷き、くるりと真の方へ居直る。
雪歩「真ちゃん、もうお仕事行こっか。雪がつもってるから時間かかるかも。」
真「あ、うん。そうだね。」
勢いよく開け放ったドアの隙間から、ひとひらの雪の結晶が舞い降りてきた。
朝日を浴びて虹色に輝くそれは雪歩の頬に当たり、丸い水玉となった。
隙間から空を見上げると、風花といった様子を呈す細かな雪が時折舞っている。
聖なる夜が明けて少し。
雪歩の胸元に収まる雪を象ったロケットが、新たな日の光を布越しに受けて、柔らかく輝いた。
おわり
引用元: ・P「おめでとう雪歩。大人になったな。」
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