さやか「よろしくね、相棒」 まどか「うん!」 その1 

364: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/07(金) 23:55:41.62 ID:zyGd9G8a0

マミ「暫く留守をお願いね」


まどか「…………本当に行っちゃうんですか?」

さやか「ぶっちゃけると、あたし達だけだとまだ不安と言うか何と言うか…」


マミ「大丈夫。今のあなた達は随分戦い方が上手になったわ。

   特に連携の質の高さは私が保証する。あなた達が力を合わせれば、並の魔女は対抗できない筈よ」


まどか「でも………」

マミ「不安なのはわかるわ。でも、私もできるだけ早く済ませて戻るつもりだから…」


QB「この間からすまないね、マミ。あの周辺に魔法少女が居なくなった所に強力な魔女が出ているものだから…。

   代わりの子も探してはいるんだけど、そうそう見つかるものでもなくてね」


マミ「気にしないでQB。

   それよりもここの所多いわね。魔法少女の戦死の話」


QB「…………」

365: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/07(金) 23:56:30.30 ID:zyGd9G8a0

マミ「QB?」


QB「いや、前にも言ったけど用心してくれ。

   もう感じているとは思うけど、どうも様子がおかしいからね」


マミ「と言う事よ。二人とも十分に気を付けてね。

   念を入れるまでも無いとは思うけど、出来るだけ二人で行動するよう心掛けた方がいいかもしれないわね」


さやか「その点は心配ご無用っす! あたしがまさか嫁から離れるなんて、ある訳ないじゃないっすか!」

まどか「もう…/// さやかちゃんったら///」


マミ「その調子なら大丈夫そうね」



マミ「じゃあ、私達はそろそろ行くわね」


まどか「はい。行ってらっしゃい。マミさん」

さやか「マミさんも気を付けてくださいね」

366: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/07(金) 23:57:24.70 ID:zyGd9G8a0





―【第九話】現実と理想の壁(前編)―



367: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/07(金) 23:58:18.58 ID:zyGd9G8a0

さやか「よ~し、じゃあ張り切っていきますか!」

まどか「うん。明日から頑張ろうね」


さやか「え…? マミさんにあぁ言って、いきなりサボるのはちょっと…」


まどか「でも、さやかちゃんは前から楽しみにしてた予定があったでしょ?」


さやか「…………」

まどか「上条君のコンクール。行こ」


前にも言った通り、さやかちゃんは上条君の為に祈って、何時どうなるかもわからない魔法少女になった。

そして、今日はその上条君が半ば無理やりとは言え、参加させて貰ったコンクールの日。

さやかちゃんがずっと望んでいた、上条君の本気の演奏が聞ける晴れ舞台だから…。

368: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/07(金) 23:59:15.20 ID:zyGd9G8a0

さやか「でも……」


まどか「ずっと楽しみにしてたんでしょ?

    なら、行こっ。わたしも久しぶりに上条君の演奏聞きたいしっ」


さやか「ちょっ、まどかっ…!」


確かにわたし達は使命を背負った魔法少女なのかもしれない。

でも…。


魔法少女である前にわたし達も一人の女の子だから…。

好きな事をしたり、大切な人の近くで過ごす時間がやっぱり必要で…。


特にさやかちゃんは、こんな世界に身を置いてまで魔法少女になったんだから、こう言う時くらいは楽しんで欲しい。


そう思ったわたしは、さやかちゃんの手を引いてコンクールの会場へ歩いていた。

こうでもしないと、さやかちゃんは自分の気持ちを隠して、他の事を優先する悪い癖があるから…。

369: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:00:07.23 ID:LEZfknAa0

―コンクール会場―


さやか「……よ、よっ」

まどか「こんにちは。上条君」


恭介「…………やぁ、さやか。鹿目さん。

   来てくれたんだ」


さやか「…………」

恭介「…………」


まどか「…………」


まどか≪もう! さやかちゃん!≫

さやか≪な、何よ…!?≫

まどか≪上条君緊張してるんだよ? 何か一声かけて励ましてあげなきゃ!≫

370: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:01:46.60 ID:LEZfknAa0

さやか≪いや、でも…≫

まどか≪は・や・く! 上条君行っちゃうよ?≫


さやか「……………」


さやか「えと、その、さ…………」

恭介「ん………?」


さやか「頑張って………ね?」

恭介「………あぁ」



恭介「じゃあ、そろそろ時間だから…」

さやか「うん………」


まどか(焦れったいなぁ…)

371: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:08:40.45 ID:LEZfknAa0

そんなこんなでコンクールは始まった。

そして、他の出場者達が次々に
演奏を終え、いよいよ待ちに待った上条君の番。


さやかちゃんは勿論、わたし自身も「天才」と呼ばれた上条君の演奏を期待していた…。

でも…。




恭介「くっ……」



まどか「あれ…?」

さやか「恭介……」


「天才」上条恭介君の演奏。

それは大分前とは言え、わたし自身も聞いた事があって、その実力も演奏の素晴らしさも知ってる。

でも、今日の上条君の演奏はその「天才」の異名を感じさせるものじゃなかった…。


演奏自体もどこか冴えないうえに途中でミスをしてしまって…。

思えば上条君自身も最初から浮かない顔をしていた…。

372: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:10:00.11 ID:LEZfknAa0

────────

────

──


さやか「恭介……」

まどか「上条君……」


恭介「ごめん……。期待に応えられなくて……」


さやか「それは良いの……。でも、やっぱりまだ手の調子が悪いの…?」

恭介「いや、手の調子は良いよ。

   事故に会う前よりも良いかもしれないくらいだ…」


まどか「だ、だったら次はうまく行くよっ!

    ブランクもあったんだし、今回は仕方ないと思うな…」

さやか「そうだよ! 誰だって調子の悪い時くらいあるって。

    だから、次はきっと…」



恭介「…………それは僕が『天才』だから?」

373: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:12:54.92 ID:LEZfknAa0

まどか「上条君…?」



恭介「天才、か…。この程度の才能の持ち主なら、幾らでもいるって事みたいだね…」

恭介「あるいは、僕にそんな器は無かったのか…」


さやか「そ、そんな事ないよ。恭介のバイオリンは…」

恭介「今日のコンクールの演奏を聴いてればわかる筈だよ」




さやか「それは今日は調子が悪かったからで……」


恭介「次も変わらないだろうね」

さやか「…………」


恭介「確かに僕は怪我をして、それによるブランクがあった…。

   でも、手の調子自体はもう悪くないし、たくさん練習して感覚も取り戻したつもりだった…」


恭介「でも、結果はあの様。そして、それが今の僕の実力だ…」

さやか「恭介………」

375: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:22:30.78 ID:LEZfknAa0

恭介「バイオリンをまた弾ける事自体は嬉しいんだ…。

   でも、思い通りに弾けないんだ…。腕の調子は決して悪くないのに…」


恭介「理由もね……、それとなくわかっているんだ」

さやか「…………」


恭介「怪我をする前の僕は、きっと子供だったんだと思う…」

恭介「バイオリンを弾くのが楽しい。だから、このままバイオリンを弾き続けて将来はバイオリニストになりたい。

   そんな事を考えていた。いや、多分それだけを考えていたんだ」


恭介「だから、夢と現実の境が、その間にある壁が見えていなかったんだと思う…」


さやか「そんな……の……」



恭介「今回のコンクールはレベルが高かった。だからこそ思い知らされたよ…」

恭介「現実の……、自分の実力と言うものをさ……」


さやか「恭介………」

376: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:24:03.97 ID:LEZfknAa0

まどか「そんな……、そんな事上条君が言ったら、さやかちゃんは…!」

さやか「まどか!」



まどか「でも…!」

さやか「良いの…」



さやか「良いんだ…」

まどか「さやかちゃん……」


恭介「…………ごめん」


申し訳なさそうにしながら上条君は、静かに去っていく。

さやかちゃんの願いを否定するような残酷な弱音を吐きながら…。


うぅん、さやかちゃんの願いだけじゃない…。




「理想と現実の壁」

それは…。

377: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:25:16.87 ID:LEZfknAa0

────────

────

──

まどか「…………」

さやか「…………」


まどか「あの、さやかちゃん………大丈夫?」

さやか「ん? 心配してくれるんだ。

    相変わらず優しいねぇ、まどかは…」


まどか「当たり前だよ……」

さやか「そっか…………」


さやか「ありがと……」

まどか「うん…………」

378: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:26:50.57 ID:LEZfknAa0

さやか「でも、さ…。実際きつい言葉だったよね……」


さやか「夢と現実の境が見えてないから……か」


まどか「……………」



さやか「あたしも……、そうなのかな?」

さやか「子供だから……、それが見えて無かったから、魔法少女としてやっていけるかも、なんて…。

    そんな気がしたのかな……」

さやか「マミさんみたいに一人前の魔法少女になって、みんなを守りたい……。

    そんなの……、夢なのかな……」


まどか「さやか、ちゃん………」



さやか「あ……、ごめんごめん。

    こんな事言われたって困るよね?」


さやか「忘れて、忘れて!」

379: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:29:02.92 ID:LEZfknAa0

まどか「…………」


願いを否定されたも同然の上に、上条君の事に自分自身も重ねて弱気になっているさやかちゃん…。

何時もなら自分の弱い所をあまり見せようとしないさやかちゃんが、わたしを頼ってくれてるのに…。

でも、わたしはさやかちゃんに掛けてあげる言葉が無かったんだ…。


わたし自身も同じ事を考えていたから…。




「夢と現実の壁」「それが見えていない子供」


わたしもそうなんじゃないのかな…?

そう考えてしまって、言葉が詰まった…。

380: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:29:59.74 ID:LEZfknAa0

魔法少女になって、誰かの役に立っている。

つもりでいた…。


でも、実際にこの街を守っていたのはマミさんだ。

マミさんが居なければわたしは最初の魔女と戦った時に、やられていただろうし、

そもそも今だって、マミさんやさやかちゃんが居なきゃ一人で魔女と戦うなんて出来ないかもしれない…。


そう考えたら、わたしの中にあった確証のない自信や、感じていた妙な達成感のような物が崩れた、気がした。


同時にマミさんの姿が浮かび、わたしはマミさんのようになれるの…?

そんな疑問と不安が頭を埋め尽くした。

381: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:30:49.78 ID:LEZfknAa0

さやかちゃんもきっと同じだったんだと思う。

わたし達二人は、帰路で全く会話をしなかった。


そして、そんな時でも…。



さやか「!?」

まどか「魔女の反応……?」


さやか「こっちの事情なんてお構いなし、か…。

    どこまでも迷惑な奴ら…!」


さやか「行こう、まどか」


まどか「うん………」


事態は止まる事を許してくれない…。

わたし達の居る世界は、そんな迷った心を整理する時間さえ与えて貰えない厳しい世界で…。



わたしとさやかちゃんは、そんな状態のまま魔女の結界へと向かう事になってしまって…。

382: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:32:24.44 ID:LEZfknAa0

魔女の結界の中は全てが真っ黒。

その深い闇は自分たちの姿まで黒い影のように染めてしまい、互いが互いを視認するのに苦労するほど。


おまけに結界内では、蛇のような体から地面から生え、その先端に他の生物の頭を付けたような薄気味の悪い使い魔が無数に犇めいる。

ざっと確認しただけで犬、猫、鼠、兎、馬、熊のような頭部があり、

人間の頭部らしきものを持った使い魔も居たから、これに関してははっきりと姿が見えなくてよかったと思った。


使い魔達は数に任せて直接飛びかかってきたり、口から何か吐き出したりして襲いかかって来る。

はっきり言って、今まで戦ってきた使い魔達とは比べ物にならない攻撃の激しさだった。


それでも…。

383: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:33:28.98 ID:LEZfknAa0

まどか「使い魔になんて負けてられないよ!」

さやか「そうだね…!」



まどか「さやかちゃん、纏わりついてくる敵はお願い!」

さやか「オッケ~! 任せといて!」


迫って来る使い魔と、使い魔の放った攻撃をさやかちゃんが全て切り払う。

その数は多く動きもなかなかに速いけど、さすがに速度自慢のさやかちゃんの動きには付いてこれず、

次々にその頭部が斬り落とされ、残った触手のような体は次々に消えていく…。



まどか「さやかちゃん!」


さやか「おっし! 頼むわ!」


わたしの掛け声で、さやかちゃんが大きく後ろへと跳躍、わたしはそれに合わせて矢を放つ。

溜めた魔力によって無数に分裂した矢は、雨霰のように無数の使い魔に迫り、前方の敵を壊滅させた。


そして、その先にようやくこの結界を作り出した存在を見つける。

384: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:37:38.33 ID:LEZfknAa0

まどか「あれがこの結界の魔女…」

さやか「ようやく出て来たね…!」


祈りを捧げる長髪の聖女……と言った外見をしているものの、

周囲にはさっきまでに倒したモノと同タイプの使い魔が犇めき、さらに辺りの地面からさらに現れ続けていて…。

聖女のような外見に似合わない異様な光景が、彼女が魔女である何よりの証明になっていた。



さやか「また、うじゃうじゃと…。

    どうする、まどか…?」



まどか「手順は途中までさっきと一緒。で、その後は何時も通り…」


さやか「あたしが魔女に張り付いて、二人で畳みかける…、と」


まどか「うん…!」

さやか「オッケー! じゃあ、頼むね。まどか!」

385: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:39:47.53 ID:LEZfknAa0

さやかちゃんが襲ってくる使い魔や攻撃を払い、わたしが魔力を溜める。

前方と周囲の使い魔が片付いたのを見て、わたしが指示を出してさやかちゃんに一端下がって貰う。

そして、同時にわたし自身は使い魔の群れに矢を放つ…。


打ち合わせ通り、さっきの使い魔を倒した時と同じ戦法…。

魔女に向けられて放たれた矢の嵐を、身を呈して受ける使い魔達。



さっき同様に、使い魔達が次々と貫かれて消えていく…。

386: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:43:30.84 ID:LEZfknAa0

まどか「今だよっ!」

さやか「よっし! いくよ!!!!」


わたしの合図でさやかちゃんが駆け出す。

消えていく使い魔の残骸の中から僅かに見える、背を向けて祈る聖女のような魔女に向かって飛んでいく。


自慢の圧倒的な速度で、間合いを詰めたさやかちゃん…。

でも、その動きはどこかキレが悪くて…。


過った不安と、さやかちゃんの精神状態を省みた時には、既に全てが遅かった。

387: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:45:52.85 ID:LEZfknAa0

さやか「っぐ…! これ、は…!?」


まどか「さやかちゃん!!!!!!!」


後一歩、と言う所でさやかちゃんの動きは止まった。


後ろを向いて祈るような態勢を崩さなかった魔女。

その姿をそのまま捉えたのが、そもそもの間違いの始まりだった。


常識から外れた存在である魔女は攻撃方法も普通である筈が無い。

魔女は背中から樹のような物を突如生やし、さやかちゃんを巻き込むと…。

そのまま樹は急成長し、その中にさやかちゃんを封じ込めてしまった…。

388: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:47:41.48 ID:LEZfknAa0

まどか「さやかちゃん!!!!」


瞬く間に成長した魔女の背中の大樹は、力強く大きい。

自力での脱出は難しいと考えたわたしは、さやかちゃんを助ける為に弓を構えるも…。



まどか「………今助けて……、きゃっ!」


まどか「うっ……く……使い魔……?」


新しく現れた使い魔に背後から襲われたわたしは、地面へと叩きつけられてしまった。

そして、態勢の崩れているわたしに使い魔が次々に襲いかかってくる…。

389: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:49:57.35 ID:LEZfknAa0

態勢を崩したわたしに、苦手な近接戦を仕掛けてくる使い魔達。

絶好の機会と言わんばかりに畳みかけられたわたしは、弓矢の狙いを付けようとする間に、再び倒されてしまった。


まどか「痛………」


まどか「………しまった」


襲われて転んだ際に弓を手放してしまい、丸腰となって再び地面に突っ伏すわたし。


そのわたしの周りで嘲笑うように立ちふさがる使い魔。

何時の間にか数を増やして並ぶその姿はまるで壁…。


上条君の言う、夢と現実の間に立ちふさがる壁のようだった…。

390: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:50:34.15 ID:LEZfknAa0

やっぱり、無理なのかな…?

わたしには…。


魔法少女としてみんなを守りたい…。

これもやっぱり子供の見る夢なのかな…?

そして、この結末が現実なのかな…?


みんなどころか…。

大切な友達一人守れずに…。

こうやって死んでいくのが…。



現実なのかな…?

391: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:51:44.01 ID:LEZfknAa0

厳しい現実は、甘ったれたわたしに考える時間を与えはしない。

群れの中から抜けだした数匹の使い魔が牙をむきつつ迫る。


別々の方向から迫ってくる使い魔達に息を飲み、諦めかけた時だった。



??「な~にボサっとしてんのさ?」


響いた声と共に迫った使い魔は、纏めて斬り裂かれ、

次の瞬間に周りにいた使い魔達の群れも、生き物のように暴れまわる範囲攻撃にまとめて掻き消された。



まどか「この攻撃……」

まどか「まさか……」


まどか「杏子ちゃん!?」



杏子「よっ、久しぶりだな」


―to be continued―

392: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/08(土) 00:52:32.09 ID:LEZfknAa0

―next episode―


「大丈夫だよ! 二人でなら出来る…! 絶対!」





―【第十話】理想と現実の壁(後編)―



401: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 20:57:14.36 ID:pBlLjz+30

鞭のように伸びて暴れた槍を元に戻し、長いポニーテールを揺らす…。

影の世界でも見違える事のない特徴的なシルエット。


佐倉杏子ちゃん…。

かつてのマミさんの弟子にして、主張の違いから一度はわたし達と敵対した魔法少女。

彼女がわたしの前に立っていた…。



まどか「やっぱり……、杏子ちゃん…」


杏子「なんだよ…、その情けない声は……。

   こっぴどくやられちまったってとこか?」

まどか「…………杏子ちゃん」



杏子「あぁ?」

まどか「お願い…。さやかちゃんを……、助けて……」

402: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 20:58:05.80 ID:pBlLjz+30

杏子ちゃんは誰かの為に戦って傷ついて、今はそれを否定している。

そんな杏子ちゃんにお願いする事じゃないのはわかってる。

それでも…。


杏子「わかってるよ」

まどか「え…?」


杏子「見捨てると寝覚めが悪そうだからな…。助けには行ってやるよ。

   ただ、その代わり……」


杏子「それ以上の面倒は見ない。

   アタシもさっき魔女と戦ったばっかで疲弊してるからな…。

   それでも良いか?」


まどか「うん…。ありがとう、杏子ちゃん……」

403: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 20:59:13.79 ID:pBlLjz+30

わたしがお礼を言い終わらない内に、杏子ちゃんは魔女の背中に生えた大樹へ向かって飛んでいく…。

そして目にも止まらぬ槍捌きで樹を切り裂き、中に居るさやかちゃんを救出して受け止めると、

あっと言う間にその場を離脱して、わたしの元へと戻って来た…。



杏子「予想通り、ノびてるな…。

   まぁコイツは頑丈さだけが取り柄だから、多分大丈夫だろ。

   それより…」


杏子「アタシは退くが、まどか…。

   お前はどうする?」


まどか「…………」


杏子「勝てない相手に『見過ごせない』って理由で挑んで死ぬか…。

   ここは目を瞑って一旦退くか…。好きな方を選びな」

404: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:00:20.85 ID:pBlLjz+30

まどか「わたしは………」


杏子「………」

まどか「………」



杏子「ったく………」


杏子「特別に答えを教えてやる……」

杏子「命懸けってのはな、そうするしか他に方法が無い時にやることさ。

   そうじゃない時にそれをやるのは、自棄っぱちになって体をビルから放り投げて死ぬのと変わりはしない…。

   かっこ良くも何ともない。ただのおふざけだ」


まどか「うん……」


杏子「よし…。わかったなら、ここは退くぞ。付いてきな」

405: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:00:59.04 ID:pBlLjz+30





―【第十話】理想と現実の壁(後編)―




406: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:02:32.93 ID:pBlLjz+30

さやか「ん………」

まどか「さやかちゃん!」


さやか「まど………か……? ここは…?」

まどか「魔女の結界の近くに会った公園のベンチだよ。

    さやかちゃんは魔女の攻撃を受けて気絶しちゃって……」

さやか「そっか………」



杏子「もう目ぇ覚ましたのか。

   さすがに頑丈さだけは一級品だな」


さやか「杏子! なんで、アンタがここに………」


杏子「そんな事はどうだって良いんだよ…。

   それよりもまどかから、全部聞いたぜ?」

407: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:04:48.60 ID:pBlLjz+30

杏子「ざまぁ無いな」


さやか「…………」

まどか「杏子ちゃん!」



杏子「人に偉そうに語った割に、自分の番になったらそれか?」


さやか「くっ………」

まどか「杏子ちゃん、やめて!」



杏子「やめねぇよ。

   つぅかさ、まどか…。アンタもアンタだよ」


まどか「……………」

408: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:06:40.79 ID:pBlLjz+30

杏子「アンタさ、アタシに言ったよな?

   『大切な人達を守れる魔法少女になりたい』って。

   アレは嘘か?」



杏子「『守りたい物や守りたい人がたくさんいる』…。

   アレも口から出た出任せか?」


まどか「それは……」




杏子「アタシは言ったよな? 向いてねぇって…!

   それでも続けてんのはどこのどいつだ?

   そんなアタシに腹立てて、喧嘩売って来たのはどこのどいつだ!?」


まどか「……………」

さやか「……………」


杏子「あの時のお前らは嘘だったのか?

   そんなくだらねぇ事で諦めちまうようなちっぽけな覚悟だったのか?

   えぇ!?」

409: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:07:31.30 ID:pBlLjz+30

まどか「違うよ…」

杏子「…………」


まどか「嘘なんかじゃないよ…。

    今でもそう思ってる……、けど……、わたしは……」


杏子「さやか! お前は!?」


さやか「あたしだって違うよ…。でも…」




杏子「その坊やに願いを否定されたってか…?」

さやか「…………」



杏子「願いの事はさておくとしても、お前が守ろうとしたのは坊やだけか?

   まどかの考えを否定した時に突っかかって来たアレは気の迷いか…!?」


さやか「違う…。あたしは確かに恭介の為に契約した…。

    でも、魔法少女を続けているのは………」



杏子「だったら………!」


杏子「壁だの…、現実だの……、くだらねぇ事でウジウジ悩んでんじゃねぇよ!!!!!」

410: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:11:52.42 ID:pBlLjz+30

まどか「だけど……」

さやか「あたし達じゃ、あの魔女に太刀打ちできなかった………」



杏子「『弱くて悔しい』。そうなら、そう言え馬鹿!」


杏子「弱いなら強くなりゃ良い……。そんだけの事だろ?」


まどか「杏子ちゃん………?」



杏子「アタシが戦い方を教えてやる」


杏子「ただし、アタシはマミみたいに甘くねぇ。

   お前らが潰れるくらいのスパルタで行くから、覚悟しておけ」


さやか「杏子………」

まどか「ありがとう………」


結局、その日は受けたダメージの大きさから杏子ちゃんの指示で家に帰された。

魔女の事は気がかりだけど、今のわたし達にはどうする事も出来ないから…。

その代わり………。

411: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:13:19.46 ID:pBlLjz+30

杏子「ふぁぁ………。朝早くから叩き起こしやがって………」

杏子「でもまぁ、やる気はあるみたいだな」


さやか「当然」

まどか「勿論だよ」



杏子「………今の所、魔女に動きはないな」

さやか「何でそんな事…?」


杏子「昨日からここを動いてねぇからな……」


まどか「じゃあ……」

さやか「今の所、魔女による被害者は出てないって事?」


杏子「先に口づけされた奴が居ないとも限らないから、何とも言えないが……。

   まぁその可能性は高いな」


まどか「よかった………」

412: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:14:01.37 ID:pBlLjz+30

杏子「三日だ」


さやか「ん……?」


杏子「宿代が勿体無いから三日だけ、ここで寝泊まりしてやる。

   だから、その間に……」

さやか「あの魔女と戦えるくらい強くなれって事だね」


杏子「そう言うこった」




まどか「何から何までありがとう、杏子ちゃん………」

さやか「ほんとにありがと……、杏子……」


杏子「………ふん。礼なんて言った事を後悔するくらい扱いてやるからな。

   覚悟はできてんだろうな?」


さやか「おう!」

まどか「よろしくお願いします!」

413: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:14:44.52 ID:pBlLjz+30

杏子「じゃあ始めるか……。

   まずは………、さやか!」


さやか「はいっ!」


杏子「お前走ってこい。ちょっと行くと陸上トラックがあるから、そこを100周な」

さやか「は………?」


杏子「返事は?」

さやか「えと………、それだけ?

    特別な特訓とかは……?」


杏子「口応えすんな! 行け!」


さやか「くぅぅぅ! なんか理不尽だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

414: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:43:49.98 ID:pBlLjz+30

杏子「さて……、うるさいのも行ったし……」

まどか「杏子ちゃん………、さすがにそれは酷いと思う……」


杏子「やかましい。

   それより、ここに残されたって事は現状さやかよりもお前の方が問題が大きいって事だぞ、まどか」

まどか「うん………」


杏子「これは指導したマミにも責任があるが………」

杏子「コンビネーションってのは確かにメリットも多いが、それを主としてる当人自体は対応力が欠如してる例が多い。

   相方に頼ったり連携したりすれば、苦手な状況や厳しい状況も対処して貰えるからな」


杏子「この欠点は後衛タイプに顕著だが…。

   まどか、特にお前の近接対処の下手糞っぷりは致命的だ」


まどか「うん……。自分でもまずいんじゃないかとは思ってたよ…」


杏子「丁度良い前衛特化タイプのさやかが居たり、お前の魔力の高さを活かすとなると移動砲台みたいにするのが善策……。

   とでもしたんだろうな、マミは。自分も近く居るつもりだったんだろうし、実際それはそれで間違いじゃないんだが……」



杏子「まぁ良い。とりあえず変身してみな」

415: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:45:02.17 ID:pBlLjz+30

わたしは変身して魔法少女に姿を変える。

そのわたしの変身に合わせ、先端にピンク色の蕾を伴った樹の枝のような杖が現れる。


杏子「………その杖、前見た時は弓だったよな?」


まどか「うん。こうやって魔力を通すと……」


わたしが魔力を杖に込める。

先端は三つに枝分かれし、その中央の蕾が花開き、柄は僅かに撓って弧を描き、弓へと姿を変える。



まどか「弓になるの。杖は待機状態って感じかな?」

杏子「へぇ………、そりゃ都合が良い」


まどか「そうなの…?」

杏子「あぁ。そんだけ変形が早いなら、武器を持ちかえずにうまくクロスレンジに対抗できそうだしな」


まどか「うん………?」

杏子「杖の状態に戻して、そのまま魔力を込めな」

416: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:45:50.68 ID:pBlLjz+30

まどか「こうかな…?」

杏子「違う違う、弓にするんじゃない。

   杖の状態のまま魔力を込めて強度を上げるのさ」


まどか「………そっか! 杖を打撃武器として使うんだね?」


杏子「そう言うこった。やってみな?」

まどか「うん!」


最初はやり方がよくわからず弓に戻してしまう失敗を繰り返した。

でも、マミさんが前に金属バットを強化して、メルヘンチックな打撃武器に変えたのを思い出す。


それを意識したら、段々とうまく行くようになってきて、最終的に杖にピンク色のオーラが纏うようになって、

杏子ちゃんが繰り出した攻撃を受け止めても破損しない立派な近接武器になった。

417: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 21:47:01.91 ID:pBlLjz+30

杏子「よし…、上出来だ」



さやか「お~い……。グランド………、100周……、終わった……、よ………」


杏子「丁度良い時に来たな。よし、そのまままどかと打ち合え」



まどか「へ…? いきなりさやかちゃんとやるの?」

杏子「さやかは多少なりとも息上がってんだろうし、

   アタシもその方がお前らの動きを見やすいからな」


さやか「自分が………、楽したいだけじゃ………、ないでしょうね………?」



杏子「だとしてもお前らに拒む権利はないよね~?

   じゃ、始めろ」

さやか「ちっくしょ………、覚えてなさいよ…………」


まどか「あはは………」

419: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:20:09.91 ID:pBlLjz+30

こうして……。

わたしとさやかちゃんは、杏子ちゃんの特訓を受け続けた。

杏子ちゃんの特訓はマミさんの優しい指導とは正反対で……。



さやか「ちょ…! 死ぬって! マジで死ぬって!」

まどか「杏子ちゃん……。これはさすがにまずいんじゃ………」

杏子「続けろ。当てるつもりで良いぞ」


ひたすら厳しく……。

宣言通り、本当に死ぬんじゃないかってくらいのスパルタで……。



さやか「ぐぇっ……」

まどか「いった~~い……」


杏子「早く立て。敵はアタシと違って待っちゃくれねーぞ?」


わたし達はボロボロになりながら、その訓練を受け続け……。

約束の三日が過ぎた。


そして……。

420: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:21:01.84 ID:pBlLjz+30

まどか「戻って来たね、あの魔女の結界に……」

さやか「…………」


まどか「さやかちゃん……?」

さやか「できるかな、あたし達に……」




まどか「大丈夫だよ! 二人でなら出来る…! 絶対!」

まどか「それでさ…、教えてあげようよ、上条君にも」



まどか「越えられない壁なんて無いって!」




さやか「うん…! ありがと、まどか!」


まどか「お互い様だよっ。じゃ、行こっか!」

421: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:22:31.63 ID:pBlLjz+30

再びやってきたあの魔女の結界。

呆れるほどに犇めいていたあの使い魔達の姿が一切なく、わたし達はすぐに最深部へと辿り着く。

ただ、そこには…。



まどか「あの使い魔達…」

さやか「結界全域を守れるほどの数が居なくなったから、親玉を守る事に専念したって訳ね」


まどか「それでも、前回よりは数が少ない…、これなら!」

さやか「オッケー! 一気に行くんだね?」


わたしは、さやかちゃんに目配せして合図するとわたしは右手に魔力を込めて巨大な矢を作り出す。

そして、それを使い魔の群れの間にちらりと映る魔女目掛けて放つ。

わたしの手元を離れた光の矢は、さらに何回りも大型化して飛んでいく…。

422: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:23:16.98 ID:pBlLjz+30

使い魔達は当然のように、魔女を守るべく壁になる。

でも、わたしの放った矢はその使い魔達の壁の真ん中に大穴を開けた。



まどか「無駄だよっ!」


わたしが放った矢は貫通弾。

今回の特訓で作り上げた出来たての新技。


この前使った拡散弾が広範囲の敵を狙うのに向いてるのに対して、こっちの貫通弾は敵の密集地や防壁を破るのに向いている。


さらに…。

423: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:24:05.74 ID:pBlLjz+30

さやか「続けていくよッ…!」


新技を獲得したのは何もわたしだけじゃない…。

わたしの足もとでさやかちゃんが、陸上のクラウチングのような構えをとり…。

矢の着弾に合わせて、魔力を込めて地面を蹴った。


魔力を伴ったクラウチングスタートは、一瞬で爆発的な加速を生み、

わたしが作った使い魔達の壁の穴が塞がる前に潜り抜け、さやかちゃんは一気に魔女の懐に入る…。



さやか「一閃!!!!!」


さやかちゃんはその加速を活かした居合のような横一文字の斬撃を繰り出し…。

その動きに対応しきれない魔女の首を跳ね飛ばした。

424: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:27:36.46 ID:pBlLjz+30

さやか「やったの…?」

まどか「…………」


まどか「まだだよっ!!!!」

さやか「!?」


首を落とされ、溶けるように形を崩した魔女が動きを見せる。

ゲル状になった体の首元から、先端に人の手を伴った無数のおぞましい触手が飛び出し…。


近くに居たさやかちゃん目掛けて襲いかかる…。

425: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:28:12.89 ID:pBlLjz+30

さやか「くっ…! また厄介な攻撃を…!」


まどか「さやかちゃん! 今援護を…!」

さやか「いい! まどかは自分の方に集中して!」



まどか「…だね。個々でも戦えるように杏子ちゃんが特訓してくれたんだから!」


わたしの側面と背後の地面を突き破り、使い魔達が首を出す。

貫通弾で撃ち漏らした残りが、地中を通って現れたんだろう。


これで、わたしとさやかちゃんは完全に分断された形となる。

でも…。

426: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:28:51.58 ID:pBlLjz+30

まどか「数に任せた一斉攻撃…」

さやか「確かに厄介だけど…」


わたしは、弓を杖に変え、魔力を回して強度を上げ…。

さやかちゃんは添えていた左手を離して、そちらにも剣を作り出す…。



まどか「杏子ちゃんの特訓に比べれば…!」


さやか「大した事ない!!!!」


杏子ちゃんとの特訓でも最も厳しかった、敵の範囲攻撃の対処の練習。

恐らくは使い魔の動きを見て、重視してくれたんだろうその特訓を思い出す。


周囲をよく見つつ、足をフルに使って、囲まれないように動きつつ…。

わたしはオーラを纏った杖で、さやかちゃんは二刀流で少しづつ敵の攻撃を対処していく…。

427: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:30:59.81 ID:pBlLjz+30

杏子「…………」

杏子「ふん…………、やれば出来るじゃんかよ」


??「どう言う風の吹きまわし…?」





杏子「マミ、か…。どうもこうもねぇよ。ただの気まぐれさ」


マミ「素直じゃないのね」

杏子「うっせ。それより、どこ行ってたんだよ…?」


マミ「ちょっとね…。魔法少女が不在になった所の魔女討伐を頼まれて…」

428: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:32:03.22 ID:pBlLjz+30

杏子「あぁ…、最近多いんだってな…。何が起きてんだ…?」


マミ「………魔法少女狩り」

杏子「………何?」


マミ「ようやくQBが犠牲者から証言を聞けたらしいの。

   黒い魔法少女に襲われたって……」




杏子「あ~、ちょっと待て。今良い所なんだ。これ終わったらゆっくり聞くわ」

マミ「ふふ…。ほんと、素直じゃないのね」

429: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:41:11.12 ID:pBlLjz+30

さやか「いい加減、しつこい!」

さやか「アイツにさんざん走らされたせいか、どうにか振り切れてるけど…」


さやか「さすがにこれ以上は……」




まどか≪大丈夫…!≫


さやか≪おっ…! ようやく片付いたかっ≫

まどか≪うん…! 遅くなってゴメン…!≫


さやか≪じゃあ、あたしは…!≫

まどか≪うん! 頼むね!≫

430: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:44:31.51 ID:pBlLjz+30

厄介な触手から付かず離れずの距離を保ちつつも常に動き、最低限の迎撃をして触手を引き付けてたさやかちゃん。

『よく動く前衛タイプは足腰と体力があってこそ』と言う理由から、あの後も杏子ちゃんにさんざん走らされただけあって、

使い魔よりさらに厄介な敵の触手から、うまく逃げる事が出来ていた。



でも、急にさやかちゃんはその足を止めてしまう…。





さやか「……………」


素早く動き回っていた対象が急にその動きを止め、一瞬だけ魔女の触手に変化が見えるも、

すぐに、「今!」と言わんばかりの一斉攻撃を仕掛け始める。


無数の触手がさやかちゃんに当るその瞬間…。






さやかちゃんの姿が完全に消えた。

431: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:45:57.47 ID:pBlLjz+30

さやかちゃんの居た一点に集った触手。

敵を捉えられなかった触手の大群は、突如起こった爆風に巻き込まれ、まとめて吹き飛んだ。



まどか「今だよ! さやかちゃん!!!!」


さやか「おっけー! 決めさせて貰うよ!!!!!」


わたしの放った炸裂弾は魔女の攻撃手段である触手をまとめて焼き払った。

さすがの魔女も次の触手を作るのに手間取っているのか、いまのさやかちゃんを追う存在はいない…。


敵の触手を避ける為、上空へ飛びあがったさやかちゃんは華麗に宙返り。

逆さに近い姿勢になりつつも、足元に魔法陣を作り出し、それを蹴って急加速し、再び魔女の元へ…。

432: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:51:25.10 ID:pBlLjz+30

さやか「必殺…! さやか流二刀剣!!!!!」


触手をまとめて失い、それを魔女はそれを戻そうとする動きが見て取れる…。

しかし、高速で迫る魔法少女の動きに対し、うねるだけの魔女の反応はまたも間に合わず…。

懐に入ったさやかちゃんは交差するように、二本の剣を豪快に繰り出す…。




さやか「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


必殺の斬撃をまともに受けた魔女に斜め十字の剣閃が走り…。

軟体状の体もその一撃に耐えきれず引き裂かれ、文字通り四散した。

433: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:52:48.85 ID:pBlLjz+30

まどか「………」

さやか「はぁ……はぁ……はぁ……」


さんざん苦戦させられた魔女だけに、相手の動きが無くても警戒を解く事が出来ない。


『グリーフシードになって転がるまで、警戒は解くな』

これは杏子ちゃんから教わった事でもあるけど、それ以上にこの魔女への恐怖感からも来ていた。

でも…。


まどか「グリーフシード……」

さやか「結界も消えた………」


まどか「やった…! やったよ! さやかちゃん!

    あの魔女…、倒したよ!」

さやか「うん…。うん…!」


さやか「そうだ…。アイツにもお礼……。

    杏子は…? 近くで見てるって言ってたけど…?」


まどか「まさか、もう行っちゃったんじゃ…」



??「大丈夫。ここに居るわよ」

434: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:53:43.68 ID:pBlLjz+30

まどか「マミさん…、杏子ちゃんも…」

さやか「お帰りなさい、マミさん!」


マミ「ただいま」

杏子「ちょっとおい! 離せって…!」


まどか「何で杏子ちゃん、掴んでるんですか…?」

マミ「ん…? あぁ…。こっそり帰ろうとしてたから、ちょっと強引に引っ張って来たの。

   お礼されるのが照れ臭かったみたい」

杏子「はぁ…? 照れ臭くねーし! つーか離せ!」


まどか「もう、ちゃんとお礼ぐらいさせてよ~」

さやか「ったく、ガキかっつーの!」

マミ「そうね、今回は私からもお礼させて貰わないとね」


まどか「ありがとう、杏子ちゃん」

さやか「さんきゅ、杏子。ほんと助かった」

マミ「この子達がお世話になったわ。佐倉さん。本当にありがとう」

435: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:55:23.45 ID:pBlLjz+30

杏子「う…///」

杏子「こ、言葉なんて貰っても何の足しにもならねーし!///」


さやか「ほぅ…? その割には顔が真っ赤ですけど~?」

まどか「杏子ちゃん可愛い」

杏子「るっせぇ!」



マミ「そうね…。夕食くらいは私が御馳走するわ。

   なんなら、久しぶりにピーチパイでも焼きましょうか」


杏子「…………ごくり」



さやか「杏子、杏子! 涎出てる…!」

杏子「あ…? 何だよ、何も出てねーじゃねぇか!」


さやか「ぷっ!ひっかかってやんの!」

杏子「てめぇ! 騙したな!」


マミ「はいはい…。二人とも喧嘩しないの」

436: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:56:37.91 ID:pBlLjz+30

まどか「…………ねぇ、さやかちゃん」



さやか「うん…?」

まどか「一つ越えれたね」


まどか「理想と現実の壁」

さやか「………そうなのかな?」



杏子「越えたさ」


杏子「勝てない筈の相手を努力して超えた。

   現状を嘆いて足踏みせずに、努力して先に進んだ。

   これは確かに前進してる証拠だよ」


さやか「でも………」


杏子「遠くばっか見つめて、そこになかなか届かなくてもどかしいのが夢ってもんだが…。

   焦ったって何にも成りはしない…」

杏子「だから、今回のお前らみたいに我武者羅に足掻いて、都度どうにかするしかないんだよ」


杏子「魔法少女が起こせる都合の良い奇跡は契約の時の一回だけ。

   そこから先は、自分の力で少しづつ精進していくしかない」


杏子「そこは人間のままでも、魔法少女になっても変わりはしないから…。

   『やめた』って投げ出さない限りは負けじゃないのさ」

マミ「佐倉さん…」

437: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:57:40.31 ID:pBlLjz+30

まどか「そっか…」

まどか「そうだよね…!」


さやか「…? どしたの? まどか、人の顔見て…」


まどか「…何でも無いよっ」

さやか「…?」


それでも、今のわたしに点数を付けるとしたら50点だろう。

転んだのも、立ち上がったのも、辛い特訓も、壁を越えたのも…。

みんな、さやかちゃんと一緒…。

さやかちゃんが居たから頑張れて、さやかちゃんが居たから前に進めて、さやかちゃんが居たからあの魔女を倒せた…。


それでも…。

支えられるばかりだった0点のわたしに比べればきっと…。

少しづつだけ進んでいるんだと思うから…。


だから…。

ゆっくりだけど、歩み続けよう。

そして、何時か…。

438: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:58:41.30 ID:pBlLjz+30

―翌日―


恭介「………」


さやか「お~~~っす、恭介!」

まどか「おはよう、上条君」


恭介「やぁ…、おはよう。二人揃って休んでたから心配したんだ…。

   いや、それよりもごめん…。僕は…」


さやか「恭介」

恭介「…?」


さやか「あたし達は一つ越えたよ、理想と現実の壁」

恭介「…………」

439: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 22:59:30.80 ID:pBlLjz+30

さやか「あたし達に出来て、恭介に出来ない訳ないよ」

さやか「だから……さ……」




恭介「三日だ……」


さやか「え…?」

恭介「三日間だけ待って欲しい…」


恭介「三日間死ぬ気で練習してみる…。

   だから、三日経ったら、もう一度僕の演奏を聞いて欲しい…」

さやか「恭介…」

440: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 23:01:06.09 ID:pBlLjz+30

恭介「さやかに八つ当たりして、おまけに先を越されたんじゃカッコ悪過ぎるからね…」


さやか「うん…! 楽しみにしてる…!」



まどか(よかったね…。さやかちゃん)


こうして、上条君もさやかちゃんの一言で、もう一度立ち上がれたみたい。

みんなこうやって、自分一人じゃどうにもならない時は、誰かに頼って立ち上がる…。

でも…。



以前のわたしや上条君みたいに、さやかちゃんに支えられるんじゃなくて…。

わたしが、さやかちゃんを支えられるようになりたい…。



その夢が叶う日まで、わたしは歩み続けよう。

他ならぬさやかちゃんの隣で…。


―to be continued―

441: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/14(金) 23:02:06.94 ID:pBlLjz+30

―next episode―


「本当にまどかの婿に来るかい? アタシは大歓迎だぜ?」





―【第十一話】鹿目家だヨ!全員集合!―

450: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:39:51.68 ID:7bhwiUKD0

さやか「マドカァァァァァァァァ!!!!」

まどか「サヤカチャン!」


さやか「…………」

まどか「…………」



まどか「……何?」

さやか「いや、退屈だから呼んでみただけ」


まどか「そっか」

さやか「うん…」


さやか「まどかこそ、どした?」

まどか「わたしはさやかちゃんが叫んだから返しただけだよ」


さやか「そっか…」

まどか「うん………」

451: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:40:44.26 ID:7bhwiUKD0

さやか「……………」

まどか「……………」


さやか「あ~~~~~~~!!!!!!」

さやか「ひ~ま~で~す~よ~~~~!」



まどか「ゲームでもやる? そろそろみんな来るだろうし」




さやか「いや………、襲う」

まどか「は…?」



さやか「退屈過ぎて鬱屈した気持ちを抑えきれなくなり、さやかちゃんはまどかに襲いかかるのであった、まる」

452: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:42:04.12 ID:7bhwiUKD0

さやか「と言う訳でさやかダーーーーーイブっ!!!」

まどか「きゃー!」

さやか「えへへ~!あたしの嫁の成長具合は~!どうかっ!!?」

まどか「さやかちゃん、またそう言う悪ふざけを…!

って、ちょ! そこは…!?」



マミ「こんにちは~」

杏子「お~~~っす!」

ほむら「お、お邪魔します…」


ゆま「あれ~?二人ともなにしてるの?」

453: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:43:39.81 ID:7bhwiUKD0

マミ「」

ほむら「」


まどか「あ………」

さやか「え、え~っと…」



ほむら「え…!?/// その…/// お二人は…、あの…////」


マミ「こ…、後輩達が不純異性交遊してるなら、止めるしかないじゃない!!!」


杏子「同性な。つーか落ち着け。魔法少女に変身しようとすんな」

ゆま「二人ともなかいいね~」




まどか「もう…! さやかちゃんのせいだからね…!?」

さやか「う…、反省しまーす……」

454: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:44:42.73 ID:7bhwiUKD0





―【第十一話】鹿目家だヨ!全員集合!―




455: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:48:11.17 ID:7bhwiUKD0

マミ「ご、ごめんなさいね…? 取り乱してしまって…」


杏子「ったく…、ガキ同士じゃれて遊ぶなんて、よくある事じゃねーかよ…」

ゆま「マドカおねぇさんはちっちゃいからいいけど、サヤカはおおきいのに子供なんだね」


杏子「あぁ、さやかは体ばっか成長して頭パーのガキそのものだ。

ゆまは気をつけろよ。良い子にしてないと『さやか』になるぞ」


まどか「ち、ちっちゃい…」

さやか「く…。今日ばっかりは反論できな……ってちょっと待て!

何『さやか』になるって! さすがに馬鹿にしすぎだろ!?」


杏子「え…?だってお前馬鹿だろ?」

さやか「確かに馬鹿だけど…、アンタには負けるわ!」


マミ「もう…、喧嘩しないの!」

ほむら(佐倉さんも結構子供なんじゃ…って言ったら荒れそうだからやめよう)

456: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:50:06.12 ID:7bhwiUKD0

マミ「ご、ごめんなさいね…? 取り乱してしまって…」


杏子「ったく…、ガキ同士じゃれて遊ぶなんて、よくある事じゃねーかよ…」

ゆま「マドカおねぇさんはちっちゃいからいいけど、サヤカはおおきいのに子供なんだね」


杏子「あぁ、さやかは体ばっか成長して頭パーのガキそのものだ。

   ゆまは気をつけろよ。良い子にしてないと『さやか』になるぞ」


まどか「ち、ちっちゃい…」

さやか「く…。今日ばっかりは反論できな……ってちょっと待て!

    何『さやか』になるって! さすがに馬鹿にしすぎだろ!?」


杏子「え…?だってお前馬鹿だろ?」

さやか「確かに馬鹿だけど…、アンタには負けるわ!」


マミ「もう…、喧嘩しないの!」

ほむら(佐倉さんも結構子供なんじゃ…って言ったら荒れそうだからやめよう)

457: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:51:23.16 ID:7bhwiUKD0

────────

────

──

さやか「誇っていいよ、杏子。あたしが『マルス様』を使うって事はそれなりに本気って事だから!」

杏子「はッ…!誰だろうと関係ねぇ!アタシのPKサンダー体当たりで、まとめて粉々にしてやんよ!」


ほむら「ゲームでもさせて血の気を押さえてもらおうと思ったのに…」

まどか「なんかより殺気立ってるような…?よかったのかなぁ、これで…」



ゆま「マミおねぇさんは、そのゴリラさんで良いの?」


マミ「え、えぇ…」

マミ(何かよく動かし方がわからなくて、いじってたら決定しちゃったのよね…)

458: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:52:13.51 ID:7bhwiUKD0

さやか「マミさん…」

マミ「何かしら…?」


さやか「コントローラの持ち方逆です…」

マミ「そ、そうなの…?///」



杏子「ぶっ…アハハハハ! ま…、マミ…、今のは良いボケだ…っハハハハ!」

ゆま「マミおねぇさんかわいい」


マミ「そんなに笑わないでよ…///」

459: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:53:46.02 ID:7bhwiUKD0

マミ「このゴリラ…、動くわ…!」


杏子「っくく…、笑わせんなよ、マミっ。ゲームなんだから動くに決まってるだろ…」

マミ「む…、仕方ないでしょ。ゲームなんて始めてやるんだから…」


さやか「杏子! アンタ、あんまりマミさん馬鹿にすんな!

    ……確かに可愛いけど」

杏子「だ、だってさ…、ドンキーが動いただけで目ぇキラキラさせてんだぜ…?

   可愛…っと面白過ぎるだろ?」


マミ「もうっ! あんまりからかわないで!///」



ほむら「巴さんのおかげで和やかな雰囲気に…」



ゆま「離れたら『でんげき』、近寄って来たら『かみなり』だね?」

まどか「うん。頑張ってね」



ほむら「あの…鹿目さん? 私達はその間、ポケモンの対戦しませんか…?」

まどか「そうだね。ちょうど良い機会だからやろっか」

460: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:55:13.60 ID:7bhwiUKD0

マミ「ひ、酷いわ…。集中攻撃するなんて…」

ゆま「だって、サヤカのキャラよけるの上手で、うまく当てられないんだもん」


さやか「杏子! よくもマミさんを…!」

杏子「ふん! アタシの前に立ってる奴が悪いのさ!」



さやか「アンタはぁぁぁぁぁぁ!!!」

杏子「うぉっ!?」


杏子「て、てめー! 復帰に合わせて物ぶつけんじゃねー!」

さやか「やーだよ! 馬鹿杏子ー!」

杏子「潰す!」



マミ「仲が良いんだか悪いんだか…」

ゆま「でも、二人とも楽しそうだよ?」

461: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:56:36.41 ID:7bhwiUKD0

ほむら「盛り上がってますね、美樹さん達」

まどか「こっちも盛り上がっちゃえば良いんだよ~」


ほむら「そうですね。それでは…」

まどか「か、カウンターゲンガー…」


ほむら「一匹いると便利ですよ。サブウェイでも役立ちますし」

まどか「え、エメラルド持ってないし…」


まどか「ガブリアスが倒せない…」

ほむら「私のガブは5vです!」


まどか「く…、アンコールかぁ」

ほむら「繰り返す…。鹿目さんのポケモンは何度でも…」

まどか「それなら交代…って、トゲキッスのトライアタック!?」



まどか「ほむらちゃんって、最高の廃人だったんだね…」

ほむら「入院してた時に時間がたくさんあったので…」

462: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:58:07.72 ID:7bhwiUKD0

まどか「ボ、ボロ負け………」


まどか「こんなのってないよ…。あんまりだよ…」

ほむら「ご、ごめんなさい…。ごめんなさい…」


まどか「なんてね? 楽しかったよ、ほむらちゃん」

ほむら「はい! 私もです!」



さやか「はぁー!はぁー! いい加減諦めなさいよ…!」

杏子「てめぇこそ…! 200%越えて何時までも粘ってんじゃねぇよ…!」


ゆま「マミおねぇさぁん! 退屈だよぉ!」

マミ「うん。ごめんね。もうちょっとだけ待とうね」




タツヤ「おねぇちゃ~~!」

まどか「どうしたの、たっくん?」


タツヤ「ママ帰ってきた。ご飯だよ~って…」

まどか「うん。わかった。じゃあ二人ともゲームやめて、ご飯食べに行こ」


さやか「くっ…! 覚えてなさいよ!」

杏子「そりゃ、こっちの台詞だ!」

マミ「はいはい。二人とも行くわよ~」

463: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 00:59:22.35 ID:7bhwiUKD0

────────

────

──

マミ「あの…、何かお手伝いできることはありませんか…?」

知久「君が巴さんだね?気が利くんだね。

   でも、大丈夫。お客人は座ってて」



さやか「たっくん。おひさっ!」

タツヤ「さやかおねえちゃ、おひさ!」


さやか「おっ、相変わらずたっくんは可愛いな~。やっぱ鹿目姉弟はたまんないわ~!

    パパは優しいし、ママはかっこいいし、あたしも鹿目家に生まれればよかったよ~」

??「またまた~」



さやか「あっ、お久しぶりです。詢子さん!」

詢子「よっ」


詢子「しっかし、さやかちゃんが鹿目家になりたいねぇ…。

   なんなら…」


詢子「本当にまどかの婿に来るかい? アタシは大歓迎だぜ?」

ほむら「!?」

464: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:01:05.52 ID:7bhwiUKD0

ほむら「だ、駄目です! そんなの!!!!」

詢子「ん…?」


さやか「いやいや…、ほむら…? まさか本当に嫁にする訳無いじゃん…。

    詢子さん流のジョークだって…!」

ほむら「え…? そうなんですか…?///」


ほむら「じゃ、じゃあ、今の忘れてくださいっ!///」

詢子「あっはっは!こりゃいいもん見れたわ~」


詢子「ほむらちゃん…だっけ?」

ほむら「はい…」



詢子「娘をそこまで慕ってくれてありがとな」

まどか「えへへ。ありがと、ほむらちゃん」

ほむら「そ、そんな…///」

465: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:01:47.89 ID:7bhwiUKD0

杏子「ゆま、行儀よくしろよ?」


ゆま「む~! ゆまはお行儀いいもん。キョーコの方が心配だよ!」

さやか「そうねぇ…。あたしも同感だわぁ…」



杏子「な、なに…!?」

マミ「私も佐倉さんの方が心配ね」



杏子「な、てめー!マミまで…!」

知久「まぁまぁ…。料理も並んでみんな揃ったことだし、話は食べながらにしよう」

杏子「っし…、それじゃ…!」



一同「いただきます!」

466: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:02:48.21 ID:7bhwiUKD0

マミ「お招きいただいて本当にありがとうございます」

知久「まどかが何時もお世話になってるみたいだからね…。

   このくらいの持て成しはしたいな…って考えてたんだ」



タツヤ「パパのごはんおいしいよ~」

ゆま「ほんとだ~!すごくおいし~!」

タツヤ「ね~?」

ゆま「うんっ」



杏子「………」

さやか「………おほんっ」

杏子「…!」

467: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:03:31.69 ID:7bhwiUKD0

さやか「妙な事考えてない?」

杏子「………あ?」


さやか「ご両親や妹さん差し置いて自分だけ幸せで良いのか…?

    とかさ?」

杏子「………」


さやか「いいんだよ。アンタは。生きてるんだから、その分楽しみなよ。

    アンタの家族だって悲しい思い出としてばっかり見られたら、やってらんないって」


杏子「はッ…!わかってるよ、そんなモン。それよりも…、いただきッ!

   うん。美味ぇ!」

さやか「あ~~~~っ!!!? ちょっと何人の皿から取ってんのよ!? 

    楽しみに取っておいたのにぃ…」


マミ「佐倉さん………!」

ゆま「キョーコ………!」

タツヤ「きょ~こ………?」


杏子「はい…。スイマセン…」

468: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:04:53.31 ID:7bhwiUKD0

さやか「ったく…!杏子の奴!」

ほむら「よかったら、私の分を差し上げましょうか?」


さやか「ほむらは確かに何時も少食だけど…、良いの?」

ほむら「はい。せっかく作っていただいたのに、残してしまう方が悪いですから…」


さやか「ほむらは良い子だな~。

    杏子! アンタはほむらの爪の垢でも貰って飲んだら?」

杏子「うるへ~! おはえには、おはへひはひはれたふへ~!」


マミ「佐倉さん…! 食べるか喋るかどっちかにしなさい!」



詢子「っはは! 良いねぇ。退屈しなくていいわ~。この子達!」

まどか「今日は何時もより、はしゃいじゃってるみたいだけどね」


詢子「でも、みんな良い子だな…」

まどか「でしょ?」


詢子「あぁ。大事にしろよ、まどか」

まどか「うん…?」

469: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:05:35.33 ID:7bhwiUKD0

詢子「友達ってのもな、二種類あるんだ」

詢子「ただ、なんとなく付き合って、別れてそれっきりになる奴…。

   そして、すごく気が合ってずっと一緒にやっていきたいって奴。この二種類だ」

詢子「特に後者の奴は『親友』って言ってな…。何か理由付けて馬鹿やったり、時には助け合ったり…。

   居ると居ないとじゃ人生の楽しさが変わってくるのさ」


まどか「ママで言うと…、早乙女先生みたいな?」

詢子「……認めたくない点もあるが、まぁそうだな」

まどか「そっか…」


詢子「最近のお前は楽しそう…。いや、どこか充実してるように見えるからな。

   それ、みんなのおかげでもあるんだろ?」

まどか「そうだね…。そうだと思う」


詢子「なら、大事にしな。友人はともかく、親友ってのはそうそう巡り逢えるもんじゃねーからな?」

まどか「うん…!」

470: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:06:43.79 ID:7bhwiUKD0

────────

────

──

ほむら「無駄です…!」

さやか「なん…だと…?」


まどか「こ、こうなったらストーンで強引に…!

    え? 地雷…? いつの間に…!」


さやか「つ、強すぎる…」

ほむら「え、えへへ///」


杏子「文字通り、ほむらのショータイムだったな…。

   アタシはほとんど何もしてねぇ…」



マミ「みんな、お風呂が沸いたから順番に入ってくれって」


杏子「おしっ。じゃアタシらから行くか、ゆま」

ゆま「うん。じゃあ、あとでね、たっくん」

タツヤ「うん。あとで~」



まどか「パパからレシピ教われました?」

マミ「うん。バッチリ。今度作ってみるから、その時は試食お願いね」


さやか「わぉ! ヤバイ! 楽しみ過ぎて興奮して来た!」

まどか「さやかちゃん…。幾らなんでも気が早すぎるよ…」

471: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:07:48.65 ID:7bhwiUKD0

────────

────

──

杏子「ほら…、しっかり頭洗わねぇと…。

   あぁ、もう良い。アタシが洗ってやるから、じっとしてな」


ゆま「わぁ…、人に洗って貰うのって気持ちいいね」


杏子「………随分汚れてるな。やっぱり、あんまり風呂入れて貰ってないのか?」

ゆま「…………」


杏子「やっぱ、まだ酷い仕打ち受けてんのか…?」

ゆま「………うぅん。あれから、ひどいことされなくなったよ。

   ほら、あたらしいケガないでしょ?」


杏子「アレは親として最低の行為。論外だ。

   だけど、最低の事をしなきゃ良いってもんじゃない…」


ゆま「それでも、痛い事されなくなったから大丈夫だよ。

   ご飯とかお洗濯とかは、あんまりやってくれないけど…」

杏子「…………」

472: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:08:50.14 ID:7bhwiUKD0

杏子「アタシもマミみたいに甲斐性がありゃ、な…」

ゆま「かいしょー?」


杏子「………マミくらいしっかりしてりゃ、お前を守れるのに……って意味さ」

ゆま「キョーコはゆまを、守ってくれてるよ」


杏子「…………」

ゆま「キョーコがママに怒ってくれたから、ママはゆまに乱暴しなくなった。

   それにゆまもみんなと出会えて、一人じゃなくなったんだよ…?」

ゆま「そのあとも、よくゆまのところに遊びに来てくれて…。

   優しくしてくれる…。ゆまは、そんなキョーコが大好きだよ」


杏子「…………」

ゆま「だから、ありがとう。キョーコ」


杏子(ったく……、どいつもこいつも…)




杏子(『ありがとう』か…)

杏子(多分アタシが……、一番聞きたかった言葉だ)

杏子(全部諦めて、全部投げ出して……、もう聞く事は二度と無いと思ってたが…)



杏子「わかんねぇもんだな……」

ゆま「…?」

473: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:10:08.00 ID:7bhwiUKD0

────────

────

──

ほむら「…………」

マミ「…///」


ほむら「巴さんはすごいですね……」

マミ「じゃ…、邪魔なだけよ…?///」


ほむら「は…?」

マミ「え、え~っと胸の話じゃないの…?///」


ほむら「ちっ、違いますっ!!!!」

マミ「…///」



ほむら「私と一つしか違わないのに…、勉強も運動も料理も魔法少女も…、何でも出来て…。

    みんなのお姉さんとして、しっかりしてて面倒見も良いし…。中学生なのに一人暮らししてて…。

    魔法少女としても……」


マミ「………そうならざるを得なかったのよ」

ほむら「……?」

マミ「暁美さんには話してなかったわね…。

   私が何で魔法少女になったのか」

474: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:12:14.51 ID:7bhwiUKD0

マミ「私はね、事故に会って死に掛けて……、その時にQBと出会ったの」

ほむら「じゃあ………」


マミ「そう…。私の契約の際の願いは『助けて』。

   私は魔法少女になる事によって、『自分だけ』助かったの。

   もっと他の願いなら、両親を救えたかもしれないのに……、『自分だけ』」


ほむら「そ……、そんなの……」

ほむら「巴さんは悪くないです。

    生きるか死ぬかの状況で、まず助かりたいなんて誰だって……」



マミ「ありがとう、暁美さん」


マミ「でも、私にはそれがどうしても許せなかった」

マミ「そして、そんな私に人の為に戦う魔法少女の使命は打って付けの罪滅ぼしで…。

   訪れた孤独は、自分自身に対する罰同然だったから……」


マミ「受け入れざるを得なかったのよ…。

   そんな生き方を…」


ほむら「…………」

475: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:13:50.70 ID:7bhwiUKD0

マミ「でも、私は弱いから…。

   結局それに押し潰されそうになって、みんなに支えられてここに居る……」

マミ「駄目な子よね? 誰よりも気丈な先輩でなくちゃいけないのに…。

   本当はみんなに誰よりも寄りかかっている…」


ほむら「孤独は…」

マミ「…?」


ほむら「孤独は辛いです…。心のどこかが壊れない限り、きっとそうそう耐えられるものじゃない…。

ほむら「少なくとも私は…、そう思ってます…」

マミ「………」


ほむら「だから、巴さんはきっとそれで良いんです。

    誰かに縋っているとしても…。縋った相手を正しく導いているんだから…」



マミ「………ありがとう、暁美さん」


ほむら(そうだ…)

ほむら(それでも、巴さんは魔法少女として戦い続けている…)

ほむら(それは、巴さんの強さであり、功績だ…)


ほむら(対して、私はどうだろう…?)

ほむら(巴さんと同じ…、鹿目さんやみんなに寄りかかる人間なのに…)

ほむら(私はただ、寄りかかることしかできない…)


ほむら(私は……)

476: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:15:22.99 ID:7bhwiUKD0

────────

────

──

まどか「久しぶりだね。こうして一緒にお風呂はいるのも」

さやか「だね~。そもそも、まどかん家来るのが結構ご無沙汰だったしなぁ…」


まどか「………大変だったもんね」

さやか「まぁ、ね」


まどか「上条君の事故に始まって、さ……。

    あの時のさやかちゃん、ほんと辛そうで見てられなかった」


さやか「あぁ…、まぁ…、その辺りは……、色々とご心配おかけしましたっ」


まどか「ほんとだよ…」

まどか「いっつもいっつも心配ばっかりさせて…」

まどか「なんか、わたしの知らない間に勝手に魔法少女になっちゃうし…!」


さやか「うっ…。結構根に持つなぁ…。まどかは……」



まどか「…………約束、忘れて無いよね?」


さやか「それは勿論」

477: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:16:49.34 ID:7bhwiUKD0

まどか「ほんとだね…?」

さやか「お、おぅ…!」


まどか「ほんとにほんと?」

さやか「ちゃ、ちゃんと覚えてるって!

    なんかあった時は突っ走らずにまどかに相談する、だよね?」


さやか「ほ~ら、さやかちゃん、きちんと覚えてますよ~!」



まどか「………でも、杏子ちゃんの時は、わたしに何も話さずに行っちゃったよ?」

さやか「う………、それは……」



まどか「守れてないよ………?」

さやか「く………。ま、まどかがこ、怖い………!」

478: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:17:43.00 ID:7bhwiUKD0

まどか「…………はぁ」


まどか「わたし、心配なんだよ……。

    そうやって、さやかちゃんが無理ばっかりしてる内に、取り返しのつかない事になるんじゃないかって…」


さやか「だ、だ~いじょうぶだって!

    も~、まどかは心配性だなぁ………!」


まどか「…………約束、忘れないでね」

まどか「絶対、だからね!」


さやか「おぅ! さやかちゃんと約束だっ!」


さやか「では、こっちのお『約束』も……」

まどか「………?」




さやか「成長した嫁を直に味わう、さやかちゃんボディチェーーーーーック!!!!」

まどか「ちょ…! 結局それ!?」


さやか「へっへっへ~…、覚悟しろぉ、まどか~~~~!」

まどか「も、もう! さやかちゃんったら~~~!!!!」

479: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:19:11.12 ID:7bhwiUKD0

────────

────

──

さやか「も、もう駄目だ………」

まどか「さやかちゃんの……………、馬鹿ぁ………」



マミ「全く………、逆上せるまでお風呂で遊ぶなんて…」

さやか「こ、これから……、枕投げ大会か怖い話で、盛り上がる………、あたしの計画がぁ………」



杏子「修学旅行に行ったガキかよ……」

マミ「近所迷惑になるから、どっちにしろ私が許しません!」



さやか「そ、そんなぁ~~~、がくっ」


ほむら「くすっ…。まぁ少し早いですけど、休んでてください」


ゆま「zzz……」

杏子「ゆまももう寝てるし……、ほんとに騒ぐなよ?」



さやか「わ……、わかってら~」

まどか「ふぃ~……、おやすみぃ……」

480: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:20:09.83 ID:7bhwiUKD0

────────

────

──

まどか「…………」

さやか「…………」

ゆま「……Zzz」


まどか「ねぇ、さやかちゃん…?」

さやか「…………」


まどか「寝ちゃったか……」


まどか「…………何時も一緒に居てくれてありがとう」

まどか「何時も、守ってくれてありがとう」


まどか「……………わたし、今はまだ頼りないかもしれないけど」

まどか「必ず………、さやかちゃんを支えられるようになるから………」

まどか「だから…………」

481: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:21:09.25 ID:7bhwiUKD0

さやか「まどかぁぁぁぁぁぁ!」

まどか「ひっ…!」


さやか「むにゃむにゃ………、あたしの嫁ぇ……」

さやか「……Zzz」

まどか「なんだ、寝言か……」



さやか「まもるのだぁ……、あたしがぁ……」

さやか「……Zzz」



まどか「くすっ…」

まどか「ありがと、さやかちゃん」



まどか「それと……」

まどか「これからも、よろしくね」


―to be continued―

482: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/17(月) 01:21:52.50 ID:7bhwiUKD0

―next episode―


「暁美ほむらさん、だよね? 悪いけど…、死んでくれないかな?」





―【第十二話】夜闇の襲撃者―

493: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 20:51:31.73 ID:aN0Htkig0

???「やぁ、どうしたの? こんな時間に連絡をくれるなんて…」

???「もしかしてっ! 私の声が聞きたくなった!?」


???『ふふっ…。あなたの元気な声が聞けて嬉しいわ』

???『でもね、連絡したのはそれだけじゃないの。今回の件は特に大事だから、念を押しておきたくて…』

???「な~んだ、やっぱりそっちの話か。面白くない…」



???『ごめんなさい…。そんなに拗ねないで。キ…』

???「拗ねてないよ! 拗ねてないけど…!

    キミはまた、そーやって子供扱いするんだッ!」


???『………嫌い?』

???「………………」


???「………だいっっっっ好き!!!!」

494: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 20:52:20.12 ID:aN0Htkig0

???「でも、さすがに心配のしすぎだよ。

    だって今回の相手は、ただの人間なんでしょ?」


???『そうだけど…。万一失敗して彼女が…』

???「その万一が無いように、アイツの相手はキミがしてくれる。問題はないよ」


???『…………』

???「大丈夫だよ」


???「『一人たりとも』逃がすつもりはないから」


???(そうさ、一人たりとも逃がさない)

???(私の存在が奴に知られればいずれ………。それだけはあってはならない)

???(汚れ役は私一人で良い………。いや、私一人じゃなきゃならない……)


???(その為にも逃がさない)

???(人間だろうが魔法少女だろうが、強かろうが弱かろうが、正しかろうが間違ってようが関係ない)

???(必ず殺す。そして彼女の理想は必ず叶える。そうやって私は彼女に無限に尽くす)


???(愛は……『無限に有限』なのだから!)

495: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 20:52:56.75 ID:aN0Htkig0







―【第十二話】夜闇の襲撃者―







496: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 20:53:58.42 ID:aN0Htkig0

月明かり一つない雲に覆われた夜空。

魔女が出たでもないのに、こんな時間に三人並んで道を歩く。


理由は勿論、私にある…。


さやか「一時はどうなるかと思ったけど」

まどか「見つかってよかったね、ほむらちゃんの家の鍵」


ほむら「ごめんなさい……」



さやか「使う言葉が違うぞ、ほむらっ」

ほむら「え………?」


さやか「こう言う時は『ごめんなさい』じゃなくて…?」

ほむら「あ、ありがとう……ございます……?」


さやか「うんうん。困った時は助け合うのが友達ってモンでしょ~。

    で、そう言う時は『ありがとう』。それだけで良いって。お互い様だし」

ほむら「はい……」


さやか「もうちょい自分に自信を持ちな、ほむら。

    じゃ、あたしはこっちだから! また明日ねっ!」

497: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 20:54:51.52 ID:aN0Htkig0

ほむら「…………」

まどか「さやかちゃん、相変わらずだなぁ」


まどか「わたしも昔は助けて貰ってて、その度に言われてたよ。

    『ごめん』じゃなくて『ありがとう』だって」


ほむら「………鹿目さんも、そうだったんですか?」

まどか「………そうだよ」


ちょっと照れ臭そうに俯き気味になりながら、鹿目さんは口を開く。


自分の昔の事。

今の私のように悩むばかりだった日々の事を。

498: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 20:56:12.13 ID:aN0Htkig0

まどか「わたしもほむらちゃんみたいに転校してすぐの時は、色々あってね…。

    今よりずっと人見知りだったし、今よりもっと泣き虫で弱虫で、ドジで…」


ほむら「鹿目さんが……?」

まどか「そんなに意外かなぁ…? まぁいいや…」


まどか「でも、そんなわたしにさやかちゃんは手を差し伸べてくれた…」

まどか「何時も一緒に居て、笑ってくれた。困った時は当たり前のように助けてくれた…。

    でも…」


まどか「わたしはほむらちゃんに前に言ったように、悩んでた。

    何の役にも立たない。何の取り柄も無いわたしはただ生きて行くだけなんだって…」


まどか「そんな自分は、さやかちゃんに迷惑をかけることしかできないんだって、申し訳なく思ってた…。

    気にすんなって笑うさやかちゃんに憧れる一方で、いつも…」


ほむら「…………」

まどか「でも、今ならわかる」

まどか「友達を大切だと思うのに取り柄があるとか無いとか、関係ない。

    そして、その大切な友達を助けるのに理由なんていらないんだって」

499: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 20:59:01.76 ID:aN0Htkig0

ほむら「でも、わたしは…」


まどか「じゃあさ…? ほむらちゃんはわたしが突然、泣き虫で弱虫でドジな昔のわたしに戻ったら友達やめる?」

ほむら「そんな…! そんなことしないです!」


まどか「わたしが今ここで急に倒れたり、落し物したから一緒に探してって言ったら迷惑だから放っておく?」

ほむら「助けます……」


まどか「ね? わたしやさやかちゃんもそれと同じ」


ほむら「あ………」

まどか「わたしもそうだったから、気持ちは凄くわかるけど……。

    ほむらちゃんはさ、焦り過ぎなんだよ」

まどか「自分を信じてあげよう? そして、じっくり考えて、ゆっくり進んで行けばいいんだよ」



まどか「わたしもそうしている内に、こうやって自分に自信を持てる事が見つかったんだから」

ほむら「はい…………」


優し過ぎる鹿目さんの言葉…。

それに寄りかかり続ける駄目な自分のままでいるのは心苦しいけれど…。

それでも、彼女の優しさが嬉しくて、別れ際には彼女に合わせて大きく手を振った…。



500: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:01:02.86 ID:aN0Htkig0

ほむらちゃんと別れてひとりになったわたし。

実はこの時点で、マミさんとの約束を一つ破っている。



まどか「さぁ…、急いで帰らないと…」

まどか「マミさんの言ってた『魔法少女狩り』が出ない内に……」


『魔法少女狩り』。

QBが瀕死の犠牲者から聞きだした『黒い魔法少女』の一言で明らかになったその存在は…。


鋭利な刃物で切り裂かれた、その犠牲者と同じ武器で斬られたらしき死体が幾つか出てきている事から、

ここ最近多発している、魔法少女の殺害及び行方不明となっている事件の実行犯らしき危険人物の仮称。


この『魔法少女狩り』への警戒から、夜間の出歩き、特に単独行動は絶対避けるようマミさんに言われていたんだけど…。

まぁ、事情が事情だからやむを得ないよね…。


恐怖心も合わさり、せめて駆け足でと帰路についていたんだけど…。

501: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:01:44.88 ID:aN0Htkig0

???「うわぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!!」

まどか「ひっ!?」


突如あがった奇声に、恐怖と警戒でめいっぱいだったわたしの心臓が一瞬止まる。

すぐに身構えて魔法少女に変身しようと、指輪状のソウルジェムに力を込めようとするも…



???「………」


まどか(びっくりした。何だ、魔法少女じゃないんだ………)


そこに立っているのは、魔法少女でもなんでもない黒髪のショートカットの女の子。

頭を抱えてうろついたり、その頭を掻きむしったりと、何やら近寄りがたいもののごく普通の女の子のようで…。

わたしは、落ち着きの無いその子の横を通り過ぎつつも、さりげなく様子を眺めた。




???「……しよう」

???「どうしよう。どうしよう!」

???「こ、このままじゃ…!?」


???「こ、このまま、ここがどこかわからないまま夜が明けて…!

    私の愛は終わってしまうんだ!!!!」


その落ち着きのない行動は、どうも困り果ててるが故の動きらしい……と言うのが伝わる。

諦めが強くなってきたのか、忙しない動きがしょんぼりとした動きに変わる。

そして、その様子が居た堪れなくなったわたしは、彼女に声をかけていた。

502: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:02:45.74 ID:aN0Htkig0

まどか「あの……」

???「ん…?」

まどか「どうかしたんですか…?」


???「あぁ…。携帯の電池が切れてしまって…。

    これを頼りに歩いていたから……、ここがどこだかもうわからないんだ…」


まどか「でしたら、わたし案内しますよ…? この辺りには詳しいですし」


???「いいよ…。こんな時間だからキミにも迷惑をかけてしまう」

???「でも、口頭で良いんだ。見滝原第二児童公園にはどう行けば良いかだけ、教えてくれないかな?」


まどか「あぁ、それならここからすぐですよ。

    あそこの信号で左へ。そのまま進んで二つ目の十字路を右に進めばすぐ見える筈です」


???「ホント!? よかったぁ……。

    キミのおかげで愛は死なずに済みそうだよ」



キリカ「私は呉キリカ。恩人に礼をしたい」


まどか(え? 愛? 恩人? なんかやっぱり変わった子だなぁ…)

503: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:03:46.71 ID:aN0Htkig0

キリカ「あ…。でも、あまり時間が無いんだった…」


まどか「あ、いえ。わたしは道をちょっと教えただけなんであんまり気にしないで…」

キリカ「ダメだよ、恩人!」


キリカ「恩人は、私の愛の手助けをしてくれた恩人なんだよ!?

    その恩人に何の礼もせずに去るなんてそんなの間違ってる!!」


まどか「はぁ…」


キリカ「そうだ! これをあげるよ!

    愛の手助けをしてくれた恩人に渡す礼が、こんな物で申し訳が無いんだけど…」


手渡されたのは『特濃練乳入苺ジャムジュース』。

見るだけで喉が痛くなりそうな甘さが伝わってくる、わざとらしい赤とピンクが毒々しささえ感じる缶ジュース…。



キリカ「それ、甘さが足りないから、砂糖を5杯程入れてから飲む事をお勧めするよっ!」

キリカ「じゃあね、恩人っ! また会う事があったらちゃんと礼をするからねっ!!!」


と、恐ろしい甘党発言と同時に道順を忘れ、わたしに聞き直す始末…。

その慌しさとそそっかしさは見てて、どうにも不安にさせられる。


結局わたしは一回り考えた後、彼女が向かおうとした公園へと足を向けていた。

504: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:04:22.97 ID:aN0Htkig0

―ほむら自宅―


ほむら「自分を信じて、か…」

ほむら「鹿目さんの言葉は信じられる…。でも……」


ほむら「私自身を信じられる日なんて来るのかな…?」


鏡に映る自信のなさげな自分を見ながら思う。

自分を信じてくれる友達に寄りかかるばかりじゃなくて、友達を助ける自分になれる…。

何時か、そんな日は来るのだろうか…。



そんな事を考えて、俯いた顔を再び上げる。

再び鏡に映る自信のない私…。

その姿自体に変化はない。

でも…。

505: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:05:07.42 ID:aN0Htkig0

ほむら「これ…、もしかして…」

ほむら「魔女の結界……!?」


私の周囲は、何時の間にかあの異様な空間。

魔女の結界へと変化していた。


その話を何度も聞き、体験した事もある私はその恐怖をよく知っている。



ほむら「に、逃げなきゃ……」

ほむら「ここから出なきゃ…!」


この中でじっとしていれば、私はあの恐ろしい魔女や使い魔に捕まって殺されるだけ。

どちらともわからないとは言え、私はこの異様な空間から逃げるべく駆け出していた。

506: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:06:12.13 ID:aN0Htkig0

ほむら「はぁ…、はぁ…」

ほむら「やっぱり抜けられない…」


元は私の家だと思っていた場所はすっかり魔女の結界となっており、幾ら走っても出口はわからない…。

やがて横を向いた化け猫の顔を二つ繋げ、先端に棘のような爪を伴うやけに長い腕を無数に持つ魔女が現れる。


当然のように私を狙おうとする魔女から逃げる内に、この異様な空間に違和感ない独特の衣装を着た少女を前方に見つける。

それは恐らく…。



ほむら「あ、あの!」

ほむら「魔法少女の方ですよね!?」


???「…………」

ほむら「お願いします、助けてください!」




???「…………やだ」

507: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:07:02.37 ID:aN0Htkig0

ほむら「え……?」

???「だって、そんな事したらキミを閉じ込めた意味が無くなるじゃないか」


ほむら「え? え……?」

???「せっかくグリーフシードに穢れを吸わせて魔女と結界を生みだしたのに…。

    キミが逃げてしまっては、その意味が無くなっちゃうじゃないか…!」



眼帯と前髪で、その魔法少女の表情はそこまで見れなかった…。

でも、二言目を発したその少女の口元は笑い、私の背筋に凍るような寒気が走る。


そして、前方の魔法少女は右手を顔の高さ構え、その手に三本の鋭利な鉤爪を作り出し…。

後方から迫る魔女以上の怖気を誘う狂気の表情を浮かべ、言い放つ。



???「暁美ほむらさん、だよね? 悪いけど…、死んでくれないかな?」

ほむら「ひっ………!?」



???「ほむらちゃん、伏せて!!!!」

508: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:07:54.96 ID:aN0Htkig0

その声を聞いた私はすぐにその場にしゃがみこみ、そのまま見上げるように黒い魔法少女を見つめる形になる。

私の頭上を大きめのピンク色の閃光が走り、それが黒い魔法少女の顔面に迫る。

が、黒い魔法少女は体を大きく反らしてそれを避け、そのまま両手を床に付いてバク転し、ゆらりと不気味に構えた。


私は思わずそれが放たれた後方へと目を向けると、頭部を撃ち抜かれた魔女が倒れ…。

その後ろから、ピンクの衣装に身を包んだ魔法少女…。


珍しく強い怒りの表情をした、鹿目さんの姿が現れた。



まどか「道に迷ってるんじゃないかって、心配して後を追ってみれば…」

まどか「これはどう言う事なの? 呉さん!!!!」


キリカ「恩人は魔法少女だったのか……」

キリカ「えぇと、こう言うのって何て言うんだっけ…。

    えぇと、え~っと…」


まどか「その衣装、鋭利な鉤爪、他者を平然と傷つける行動…!」

まどか「黒い魔法少女、呉キリカ…。

    あなたが『魔法少女狩り』の犯人だね!?」


キリカ「うんっ」

509: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:10:27.13 ID:aN0Htkig0

鹿目さんに目配せを貰い、私は彼女の後ろへと走る。

恐らくはその間も、そして、私が鹿目さんの後ろへと退避した後も、彼女はその姿勢を崩さない。


無邪気と狂気を合わせた笑みと、怖気と寒気を誘うゆらゆらした動きを…。



まどか「何で、こんな事を!」

まどか「まして、魔法少女に関係の無いほむらちゃんまで巻き込んで…!」


キリカ「それはね…、『愛は無限に有限』だからだよ?」

まどか「は…?」



キリカ「だから、私は彼女に『無限』に尽くす」

キリカ「魔法少女を狩るのも…、暁美ほむらを殺すのも…。恩人を故人にするのも…!」


キリカ「全ては……、『無限』の中の『有限』に過ぎないよ!!!!」

510: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:11:50.44 ID:aN0Htkig0

言っている事は支離滅裂。

それを語る彼女自身は、どこか壊れている…。

その壊れた精神が生み出す無邪気を伴った狂気は、恐るべき速度で迫る。




まどか「は、速い…!」

キリカ「速い? 速くないよ?」


キリカ「もっと速くできるんだよ?」

キリカ「もっともっともっともっともっともっと…!」


その動きは、まるで獲物を見つけた獣のように速く…。

以前見た同タイプの前衛の美樹さんと比べ、柔軟さと豪快さを伴ってトリッキーそのもの。


鹿目さんは、近接用のロッドを使って防いでいるものの、本来苦手な距離なのもあってか対処しきれていない…。

致命傷でないとは言え、あちこちに傷を負い、場所によっては派手に血を流している。

途中、消えかけの魔女の死体に敵の攻撃がまともに入り、ズタズタになった所を見て、私は震え上がった。

511: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:12:50.57 ID:aN0Htkig0

身軽な動きを活かした型破りな動き…。

まるで曲芸師のように、跳んで跳ねて回って相手を掻き乱し…。

間合いに入る度に素早く右に左に、時に両手に鉤爪を作り出して、荒々しくも鋭い攻撃を繰り出し続ける…。



キリカ「ダメダメ! それじゃあ話にならないよ、恩人ッ!」

まどか「きゃあっ」


同タイプの美樹さんともまるで違う、予測不能な猛攻に鹿目さんは追い詰められ…。

力を込められた強烈な一撃を受け、鹿目さんは大きく態勢を崩す…。



ほむら「鹿目さんっ!!!!」


キリカ「キミはあと! どうせ逃げられやしないし…!」

キリカ「どうせ一人も逃がすつもりもないし!!!」



まどか「………」

キリカ「『愛は無限に有限』なんだ…!」

キリカ「だから、恩人。キミには感謝と謝罪を…!」


???「愛は無限に、ねぇ…。良い言葉じゃん。

    今度あたしも使わせて貰おうかな…?」

512: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:13:49.57 ID:aN0Htkig0

さやか「よっ、お待たせ。まどか」


まどか「さやかちゃん!」

ほむら「美樹さん!」



私の真横に立った青い衣装の騎士は白いマントを翻して立っている…。

覚えたてらしい結界をややぎごちない手つきで、私の周囲に作り出しつつ会話を続ける…。



キリカ「増えた………」

キリカ「うん。でも、ま、その、あれだ。ささいだ」


さやか「……………ほむら」

ほむら「はいっ」


さやか「黒い魔法少女…。コイツってもしかして…」

ほむら「はい。噂の『魔法少女狩り』の犯人みたいです…」


さやか「そっか…。なら…!」



さやか「容赦はしない!!!」


美樹さんは、ボロボロの鹿目さん、そして動きを止めてこちらを眺める敵を見回しつつも私に確認を取ると…。

高速の踏み込みで、黒い魔法少女の間合いに入りつつ斬り込み、一気に鍔迫り合いとなった。

513: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:14:46.04 ID:aN0Htkig0

キリカ「へぇ…、やるね」


さやか「内心頭来てたんだよね! アンタには!!」

キリカ「恩人の友人は中々素早いんだ…!」


さやか「魔女じゃなくて、魔法少女を狙う最低のアンタにはさ!!!!!!」


美樹さんは鍔ぜり合いしていた相手の爪を強引に弾き、そのまま横に一回転。

円心力を生かした追撃を行う。

さらに…。



さやか「まどかっ!」

まどか「うんっ!」


同時に鹿目さんも矢を放つ。

息の合った二人の攻撃は、別々の方向からほぼ同時に敵を襲う。


二人の得意とするコンビネーション攻撃。

しかし、それにも関わらず敵の魔法少女は平然と二人の攻撃を受け切った。

514: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:17:52.92 ID:aN0Htkig0

まどか「なっ…!?」

さやか「くそっ…!」


キリカ「すごいあれだね…! えぇと、そう!『挟撃』!!」

キリカ「良い『挟撃』だったとは思うよ? 

    ただ…」


キリカ「私を仕留めるには、遠く及ばない!」


黒い魔法少女は体勢を低くしつつ、美樹さんへ迫る。

見えにくい足元から来る不意打ち同然の一撃を、美樹さんはどうにか防ぐ。

でも、敵は反撃を許さず、相変わらずの動きで美樹さんを翻弄しつつ攻め続ける。



キリカ「すごいッ! 止めたッ! でも!」

キリカ「次もあるよ。次々次次次ッ!」


さやか「くっ…!この…!」


激しい連撃に曝される美樹さん。

敵のスピードは、同じく高機動が売りの前衛タイプの彼女を上回っているようで、一方的に押され続ける。


その美樹さんへの攻撃を止めるベく、鹿目さんはまた矢を射るも、放たれた光の矢は難無く避けられ、叩き落とされてしまう。

515: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:20:13.30 ID:aN0Htkig0

キリカ「だから無駄だって」


まどか「当たらない…!」

さやか「なんてスピード…! おまけに攻撃が読みづらいったら…!」


まどか「それならこれで…!」


鹿目さんは三つの矢を束ね撃ちにして放ち、さらに続けてもう三発放つ。

それに気付いた敵は、行おうとした攻撃をやめ、大きく跳躍して光の矢を回避した。

しかし…。



キリカ「矢が軌道を変える…!?」


光の矢はその先端を突如斜め上へ向け、別々の方向へ散りながら上空へ…。

さらに、美樹さんも跳躍し、矢の着弾に合わせて追撃へ向かう。

取り囲むように各方向から迫る光の矢と、それに合わせて飛んだ美樹さん。

素早い敵を追い込む形で繰り出した先ほどを上回る強力な連携攻撃。


でも、敵はその状況に怯む事なく笑い、叫ぶ。

516: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:22:09.60 ID:aN0Htkig0

キリカ「思念操作による誘導矢…! やるじゃないか、恩人!」

キリカ「私に『コレ』を使わせるなんてッ!」


言うと同時に両手に爪を作り、その一組の爪の本数が三本から五本へ増える。

そのまま五本に増えた爪を伸ばし、大きく広げ、攻撃範囲を増やすと…。


回転しつつ全ての矢を切り払い…。

直後に来た美樹さんに蹴りを浴びせて地面へ蹴落とし、自身は華麗に着地した。



まどか「ウソ…」

さやか「ぐっ……、何て奴なのよ……!」


キリカ「私に『コレ』を使わせた魔法少女は君達が初めてだよ。

    新記録だ。おめでとう。でも…………」


キリカ「あきた」


黒い魔法少女は相変わらず支離滅裂な言動を繰り返しつつ、美樹さんの元へ…。

本数を増やし、激しさを増した凶爪が再び彼女を襲う…。

517: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:23:38.87 ID:aN0Htkig0

キリカ「オナカもすいたし」

キリカ「そろそろ倒れてよ、恩人の友人!」


さやか「何がお腹空いただよ! ガキかってのっ!」



キリカ「が、き…?」

キリカ「ガキ! ガキ? ガキだって!?」


キリカ「誰がガキだッ! 誰がッ! ガキだッ!!!!」


さやか「く……、ちっくしょうっ!」


美樹さんに襲いかかる敵の猛攻。

彼女の言葉に苛立ったのか、その攻撃はますます激しさを増している…。


美樹さんも左手に剣を作って対応するも、防戦の形は変わらない。

持ちこたえては傷を負い、傷を負っては回復する…。

それの繰り返し。


致命傷を負うか、美樹さんの魔力が尽きるか…。

どちらにしても美樹さんの戦局は最悪だった。

518: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:24:22.49 ID:aN0Htkig0

まどか「何か……。何か手はないの……。

    何とかしないと、さやかちゃんが……」


ほむら「鹿目さん……」


悉く矢を避けられた鹿目さんは弓を構える事もせず、立ち尽くしている。

高速の敵を対処する為の誘導矢を平然と潰されてしまい、彼女自身も成す術を失っているんだろう。

焦りきった様子が伝わってくる…。



まどか「炸裂弾ならあるいは…。

    いや、駄目だ。さやかちゃんが相手を振り切れない以上、巻き込んじゃう…」


まどか「そもそも他の矢より、弾速の遅い炸裂弾じゃ…」

まどか「遅い……?」


何かに気付いた鹿目さんの様子が変わる。

睨むように見ていた美樹さん達の戦いから目を離し、周囲を見渡し始める。

519: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:25:19.67 ID:aN0Htkig0

まどか「そう言えばおかしいよ…」

まどか「何で、魔女を倒したのに結界が残ってるの……?

    それに、さっきだって何で『あれ』がまだ残ってたの…?」


そう言えば、その通りだ。

私が見た時も、聞いた話でも、魔女を倒せばすぐに続けて結界も解ける筈である。

なのに、この結界は鹿目さんの言う通り、魔女が既に倒れて消滅しているにも関わらず、まだ消えていない。



まどか「多分……、いや、間違いないよ」

まどか「それなら………!」


鹿目さんは突如何か思いついたかのように声をあげると、弓を構えて次々と矢を作っては放ち始める。

狙いも碌に付けず、滅茶苦茶に。

520: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:26:16.71 ID:aN0Htkig0

キリカ「自棄撃ちかい…? 数撃っても無駄だって」

キリカ「この通り私は、防御に回ればキミの攻撃を避けながら、恩人の友人を相手にする余裕がある」


まどか「………」

キリカ「だから無駄だよ…?」


まどか「そう……」

キリカ「そうさ。だから、こんな面白バカみたいな真似止めて…」


まどか「………」

キリカ「やめ………」


まどか「…………」

キリカ「鬱陶しいッ! やめろッ! 目障りなんだよッ! 人の話を聞けッ!!!!!」


まどか「あなたにだけは、言われたくないよ」

まどか「あなたみたいな……」



まどか「大きいだけの『子供』には!!!!」

521: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:27:10.44 ID:aN0Htkig0

キリカ「だ、だ…、だ、だ…!」

キリカ「だ、れ、が、こっここ…」



キリカ「『子供』だァ!!!!!!」



さやか「くっ! 行かせ…」

まどか≪ここは任せてッ!≫


さやか≪まどか…?≫


黒い魔法少女は美樹さんを力尽くで弾き飛ばす。

美樹さんは受け身を取れずにそのまま倒れ、敵は鹿目さんに狙いを付ける。



キリカ「散ね!!!!!」

まどか「…………」


まどか「今だ!!!!!」


怒りを顕にする敵が鹿目さんの元へと飛んだ時、鹿目さん自身も後ろへ大きく飛ぶ。

そして、気付けば彼女の弓の上部の華が強い輝きを放っており…。

その光に呼び寄せられたように舞い戻っていたそれは、黒い魔法少女に一斉に襲いかかった。

522: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:28:13.05 ID:aN0Htkig0

キリカ「これ、は……!」


黒い魔法少女を襲ったのは、全方位から迫り来る光の矢による一斉攻撃。

誰もいない筈の方向から飛んでくる無数の矢が敵を取り囲み…。

さらに鹿目さん自身も弓を構え、一本の光の矢を放つ。



キリカ「舐めるな…! この程度ッ…!」

キリカ「もう一度『アレ』をかけて…!」


まどか「無駄だよ…!」


周囲から迫る矢を回転を主とした攻撃で薙ぎ払おうとする黒い魔法少女。

何やら魔法陣のような物が見え、敵の攻撃速度が上がるも、それは無駄だった。

美樹さんを伴わず、敵の足止めが成功している時点で鹿目さんには十分だったから。




キリカ「な、あっ………!!!!」


鹿目さんの放った矢は地面に着弾。

自らを襲う矢の群れを落としていた黒い魔法少女の足元で爆発し、敵ごと吹き飛ばした。

523: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:29:40.57 ID:aN0Htkig0

鹿目さんの魔力切れが近いのか、爆風自体は前に見た時と比べてそう大きくなかった。

それでも鹿目さんは、地面へ叩きつけられた敵の魔法少女を見逃さない。

転がった彼女の右足を撃ち抜き、動きを封じた。


キリカ「…………」

キリカ「驚いたよ…。こんな奥の手が使えたなんてね」


まどか「うぅん、使えないよ」

キリカ「………?」


まどか「わたしが未熟なのもあるだろうけど…。

    非物質の状態で放つ魔力攻撃ってすぐに減衰しちゃって、あまり長持ちしないんだ。

    でも………」

まどか「ここにはあなたの魔法『速度低下』が満ちている、違う?」


キリカ「ふむ。すっごいね。正解だ…。恩人!」

まどか「だよね。結界の崩壊がやけに遅かったり、倒されて動かなくなった魔女の死体に攻撃が当たったり…。

    おかしいと思ってたんだ」


『速度低下』

その魔法を敵が使っているとしたら、ここで起きた様々な事の理屈がまとめて通る。

黒い魔法少女が自分以外を遅くするのなら、鹿目さんや美樹さんにとって黒い魔法少女は速いも同然だし…。

さらに魔女の死体消滅や結界の崩壊がやけに遅いと言う、よくよく考えれば不可解な点にも説明は付くからだ。

524: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:30:31.30 ID:aN0Htkig0

キリカ「だからって、あれだけの量の矢をコントロールするとは…!」

まどか「確かに難しいね。わたしにはできないよ」

キリカ「………?」


まどか「わたしがしたのは、Uターンをかける操作だけ。

    だから、後方へ移動しつつ、わざとあなたを挑発して攻撃の射線軸上に呼びこんだの」


キリカ「くふふふふ! ふふふあっはははははは!! 私はまんまと嵌められたのか!!!!!」


倒れていた美樹さんも起き上って、黒い魔法少女の元へ。

そして、鹿目さんは険しい表情をして相手に弓を構える。

先ほどまでよりは落ち着いているとは言え、鹿目さんにしては珍しい、怒りの様子が見て取れる。

525: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:31:25.70 ID:aN0Htkig0

まどか「さぁ呉さん…。今度はこっちの質問に答えて貰うよ」

キリカ「…………」


まどか「何故、魔法少女を狙ったの…?

    と言いたけれど、こっちはグリーフシードって見返りがあるにはあるよね…。

    それよりも…」


まどか「なんで、無関係のほむらちゃんを狙ったの!?」

キリカ「…………」



まどか「呉さん!!!!!!」


キリカ「いやだね」

さやか「ちょっとアンタ…! 喋んないって言うなら治療しないよ!?

    その怪我、その出血! 放っておいたらアンタ死んだって…」



キリカ「結構だ!」

キリカ「たかだか死ぬ程度で私のすべてが守れるなら…、大いに結構!!!!」


まどか「そ、そんな…。どうして……」


黒い魔法少女の剣幕と覚悟に怯む鹿目さん…。

でも、反対にその様子を見た美樹さんの表情が変わる。

静かに持っていた剣を持ち直すと、それを敵の首元に突き付けた。

526: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:35:58.64 ID:aN0Htkig0

さやか「そこまでの覚悟なんだ…」


キリカ「そうさ」

さやか「…………」


キリカ「質問は受け付けない。私に対するすべての要求を完全に拒否する!」

さやか「ここで、死んでも?」


キリカ「そうだ……! さっきも言った通りその程度で済むのなら、構いはしない!!!!」

さやか「あっそ。なら………」


まどか「ちょっと、さやかちゃん!」

さやか「最初に杏子に会った時の行動…。あれはあたしなりの覚悟なんだ」

まどか「…………」


さやか「あたしはね、大切な人を守る為にこの力を望んだの」

さやか「だから、もし魔女より悪い人間がいれば、あたしは戦うよ」


さやか「それが魔法少女であっても……!」

527: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:37:26.08 ID:aN0Htkig0

美樹さんの目はどう見ても本気だった。

剣を突き付け、相手を睨んだまま微動だにしない。



まどか「っ………!」


キリカ「くっくく…」

キリカ「恩人の友人……。キミも良い覚悟の持ち主だね……。

    できればもっと、違う形で会いたかったよ」


さやか「そうだね」

さやか「あたしもアンタが何かに向けている『愛』だけは理解できるよ。

    それを肯定する気は全くないけどね………」


キリカ「ま、いいよ。そんな事はさ。それよりも…」


キリカ「さぁ、やれ! やってみてくれよッ!!!」

キリカ「キミがやらないんならッ、私が自分でッ!!!!」



???「その行為は不要よ、キリカ」


突如響く透き通るように綺麗な声…。

それと同時に巨大な爆風が広がり、美樹さん達を包む…。

528: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:38:19.16 ID:aN0Htkig0

まどか「くっ」

さやか「しまったッ…!」


キリカ「な……んで……?」

???「あなたをここで失う訳には行かないから」


ほむら「あ……、あぁ……」


煙幕の中から現れたのは、栗色の髪に宝石のような碧眼、さらに白い装束を纏った天使のような魔法少女…。

でも、その天使のような魔法少女は、悪魔のような殺人鬼である黒い魔法少女を抱きかかえ…。

強烈な威圧感を以て、こちらを威嚇している…。



キリカ「でも…、でも…!」

???「大丈夫。アイツには良い餌を『教えて』あげたから…。

    その子の勧誘に掛かりきりで、今暫くはこちらには来ないわ。

    だから、新しい動きが『視える』まで、ゆっくり対処しましょう?」

キリカ「ッ…! ごめん……」


???「さて……」

529: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:40:28.54 ID:aN0Htkig0

まどか「ッ…!」

さやか「……お前っ…! 黒幕…かッ…!?」


???「これだけ威圧している中で、よく…。

    それに中々鋭いのね…」

織莉子「今更隠し立てしても無意味なので、名乗りましょう…。

    私は織莉子。三国織莉子」

織莉子「そしてご想像通り、この一件をキリカに指示していた者です」


まどか「な……んで……?」

織莉子「それについてはまた、別の機会に」

織莉子「………貴方達とは、またお会いする事になると思いますわ」


織莉子「御機嫌よう…」


さやか「くッ…! 待…」


白い魔法少女はまるで仇を見るような目で、私を一睨みするとゆっくりとその姿を消した。


疲労、恐怖、疑問、無力感、威圧から解放された安堵…。

他の二人はわからないけど、私の中にはそれらの感情が一辺にやってきて、ただ混乱し、呆然とするしかなかった。


そのまま私達三人は結界が消えても、そこに座り込んでいた。

巴さんが、この場に駆けつけてくれるまで、ずっと…。

530: ◆.2t9RlrHa2 2011/10/24(月) 21:41:04.66 ID:aN0Htkig0

―next episode―


「神にでもなったつもり? あなたは罪を『犯すかもしれない』と言うだけで人を裁くの?」





―【第十三話】預言者からの招待状―


542: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:10:05.14 ID:C5TEHcIv0

キリカ『暁美ほむらさん、だよね? 悪いけど…、死んでくれないかな?』

ほむら 『ひっ…! た……助けて…!』


キリカ『無駄だよ…、キミは逃げられない…! だって、ほら…!』

ほむら『あ、ぁ……』


織莉子『どこへ逃げようと言うのかしら?』



ほむら『い……ぃや…』

キリカ『くくくあははっ! 震え上がって動かなくなったよ!?』

織莉子『そうね。とても都合が良いわ』



ほむら『あ………あぅ……ぁ………』


キリカ『そのまま』

織莉子『じっとしていて』

キリカ『今』

織莉子『殺してあげるから…!』



ほむら『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!』




 
543: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:11:22.66 ID:C5TEHcIv0

ほむら「はッ……はぁ……はぁ……」

ほむら「ゆ……め……?」

ほむら「もう……、嫌だ……。怖いよ………」


マミ「…………大丈夫?」

ほむら「巴………さん……」


マミ「悪い夢を見たのね…?」

ほむら「はい…………」


マミ「こっちへいらっしゃい…。私が一緒に寝てあげる。

   それなら、少しは怖くなくなるでしょう…?」


ほむら「でも………」


マミ「悪夢に苛まれて一人で、それに苦しむ事の辛さ…、私にもわかるの」

マミ「だから…、力になりたいの」


ほむら「ありがとう、ございます……」


マミ「うん。遠慮しないで、こんな時くらい先輩に甘えなさい」




 
544: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:12:16.04 ID:C5TEHcIv0







―【第十三話】預言者からの招待状―





 
545: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:12:55.26 ID:C5TEHcIv0

目が覚めて何時もと違う天井を見るのも、これで四日目。

あの恐ろしい二人の魔法少女の恐怖も少しづつ薄れていた。


巴さんや鹿目さんが近くにいてくれる安心感か、非日常の話を毎日聞き、巻き込まれる内にそう言う感性が鈍ったのか…。

こんな状況でも平然とできる自分がどこか恐ろしいけれど、それでも打ちひしがれているよりはマシだと思う事にした。



ほむら「あ、おはようございます。佐倉さん」

杏子「ふぁ~あ……。おぅ…」


杏子「……その調子だと、あの後はちゃんと寝れたみたいだな」

ほむら「はい。巴さんと佐倉さんのおかげです…。

    本当にありがとうございます」


杏子「……あたしは宿とタダ飯が魅力的だから引き受けてるだけだ。

   礼ならマミに言ってやりな」


廊下の途中で眠たげに欠伸をする佐倉さんに挨拶とお礼を言う。


理由は今、口にした通り。

巴さんは謙遜するし、佐倉さんは否定するけれど、私が安眠できるのは二人のおかげだから…。




 
546: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:13:45.78 ID:C5TEHcIv0

思えば巴さんはともかく、佐倉さんへ私が抱いた第一印象は『苦手なタイプの人』だった。

鋭い目付き、乱暴な口調や言動のそれが、どうしても不良やそれに近い印象を持ってしまっていたから。

初めて紹介された時に素っ気ない態度を取られたのも一因ではあるんだけど…。


ほむら『あの………、暁美ほむらです。よろしくお願いします』

杏子『あぁ…。よろしく…』


さやか『ちょっと、杏子! ちゃんと挨拶ぐらいしろって!』

杏子『あぁ、もう! うるせぇな、お前は…! 必要無いから省いたんだよ』

さやか『自己紹介が必要無いって……。

    アンタ、ひょっとしてほむらの事馬鹿にしてる? だったら…!』


杏子『馬鹿にしちゃいねーよ!

   ただ、コイツはお前やまどかから、自己紹介以上に相手を理解しやすいアタシの評価を聞いてる筈だ。

   だったら今更、自己紹介なんてすることもねーだろ』

杏子『その上で聞きたい事があるなら、アタシに聞けば良いし、アタシの態度が気に入らないなら嗜めれば良い。

   違うか?』

さやか『違くはないけど……。だからってねぇ…!』


まどか『気を悪くしないでね、ほむらちゃん。杏子ちゃんは色々と厳しい人だから…』

まどか『でも、本当は優しい子なんだよ。

    色々あって素直になってくれないから、わかりづらいとは思うけど…』




 
547: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:14:28.55 ID:C5TEHcIv0

以来、ずっと苦手意識を持っていた。

鹿目さんからはそう言われたし、二人を特訓した話も聞いていたけれど…。

正直イマイチ、ピンと来なかったから。

でも……。


佐倉さんは巴さんに続き、黒い魔法少女の襲撃のあった私の家に駆けつけてくれた。

元々の目的は鹿目さんや美樹さん、巴さんの援護の為だったのかもしれない。

それでも……。


杏子『アタシがほむらの家に泊まり込んで、夜間の護衛をするよ』


ほむら『え…?』

まどか『杏子ちゃん…?』

さやか『杏子、アンタ…』


杏子『どうせアタシは宿なしで流離ってる身だ。

   家族と暮らしてるお前らと違って、四六時中コイツの家に居たって大きな問題はないからな』


杏子『そうでもしなきゃ、コイツも気が気じゃねーだろ。

   自分を狙ってる魔法少女が、何時襲ってくるかわかんねー状況なんてさ…』




 
548: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:15:20.02 ID:C5TEHcIv0

その申し出自体は襲撃のあった私の家に居座る危険性と、佐倉さんの生活力の問題から却下されてしまい、

結局、私は巴さんの家にお邪魔する事になった。

でも、戦力は多い方が良いし、日常生活のある巴さんじゃ寝ずの番は出来ないと同行を申し出てくれた。


そして、そこまでされてようやく鹿目さんの言う事がわかった。

佐倉さんも結局は鹿目さん達と同じで…。

誰かの為に戦える強くて優しい人だって…。

だから…。



ほむら「それでも、私は佐倉さんの行動に助けられています。

    だから……、ありがとうございます」


杏子「ふん………。言ってろ」


ほむら「はい。そうします」


御覧の通り。

彼女自身が認める事は、絶対にないだろうけど。




 
549: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:16:16.67 ID:C5TEHcIv0

そのまま一度部屋に戻って制服に着替えて、居間へ。

居間には、制服の上にエプロンをつけたままの巴さんと佐倉さん、卓に並べられた朝食が待っていて、

私が席に着くなり、朝食の時間となった。



ほむら「あの……昨晩はごめんなさい。それと、ありがとうございました」


マミ「気にしなくていいわ。

   昨日も言った通り、辛い時くらい先輩に頼りなさい」


マミ「それよりも……、今日は鹿目さんと美樹さんに家に寄るように言ってあるから、二人と登校してくれる?」


ほむら「はい、それは構いませんけど…。

    何か用事でもあるんですか…?」


マミ「えぇ。ちょっとね」

杏子「…………」


その時に巴さんは、ちらりと佐倉さんの姿を見たような気がしたけれど、その意図は私にはわからない。

恐らくは魔法少女としての何かだろう…と言うのは予想が付く。

あるいは例の黒い魔法少女の件かもしれないとも思ったけれど、違っていたら申し訳が無いし、深くは追求しなかった。


そのまま私はそれを追求せず朝食を終え、迎えに来た鹿目さんや美樹さんと登校した。




 
550: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:17:15.99 ID:C5TEHcIv0

暁美さんを見送り、私と佐倉さんは居間へと戻る。

彼女も初日は怯えて学校へ行く事もままならなかったが、少しづつ落ち着きを取り戻している。

ただ、夜に見てしまう悪夢はどうしても避けられないようで、今朝も心配していたのだけど…。

顔色もよく、声にも元気があった。

どうやら本当にきちんと眠れたらしい



杏子「…………で? なんだ、用事って」

マミ「こんな物が届いたのよ」


せっかちな佐倉さんは、私が席に着く事すら許さずに質問を促した。

私は今朝届けられていた封書の中に入っていた手紙を彼女に手渡す。

手紙も封書もそこらで買える安っぽい物ではなく、送り主の格式の高さを感じさせる。



杏子「なになに…」

杏子「『拝啓。桜舞う爽やかな風を感じる今日この頃。

    理想の為に日々邁進し続ける貴女と、魔法少女の在り方について語る場を…』」


杏子「なんじゃこりゃ。お茶会のご案内か…?」

マミ「送り主の名前を見てみなさい…」



杏子「…………………美国、織莉子!」




 
551: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:20:26.43 ID:C5TEHcIv0

杏子「まさか…!」


マミ「えぇ…。同姓同名の別人とかなら、面白おかしい冗談で済むけど…。

   魔法少女について書いてる事からも、例の白い魔法少女に違いないでしょうね…」


届けられた招待状の送り主は、美国織莉子。

先日、暁美さんを襲った『魔法少女狩り』を援護し、それを指示していたと語った白い魔法少女の名前。


敵と密接な関係にある人物から、本日の午後から一緒にお茶をしないかと言う内容の文書が届いたのだ。



杏子「お前とまどか達の関係を知ってか知らずかはわからねぇが、キナ臭いにも程があるな…」

マミ「『魔法少女狩り』なんてする連中だから、どっちに転んでも罠か…。

   少なくとも、文面通りの楽しいお茶会にはならないと思うべきね」


杏子「…………どうすんだ?

   敢えて乗るのか? 見え見えの罠だって蹴るのか?」


マミ「待っていても後手に回るしかない以上、少しでも相手の情報が欲しい…。

   QBとの連絡も付かない以上、行くだけ行ってみるつもり」



杏子「そうか、なら……………」




 
552: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:21:50.13 ID:C5TEHcIv0

────────

────

──


―見滝原市街外れ―



マミ「初めまして。今日のお茶会の招待を受けた巴と言う物です」

織莉子「いらっしゃい。歓迎するわ」


招待状に同封された地図に記された箇所にあった洋館。

その建物の入口から送り主らしき人物は現れた。


変身していない為、天使のような純白の衣装は纏っていないものの、

ふわふわとした栗色の髪、整った顔立ち…。

碧眼と言われた眼はエメラルドのような緑色であったものの、宝石みたいと言う比喩がよくわかる…。



織莉子「こちらへ…」


優しげな笑顔で案内する彼女に合わせ、私も可能な限りの作り笑いで返す。

勿論、その間も警戒は怠らない。

罠や『魔法少女狩り』がどこに潜んでいるかわかった物ではないから。




 
553: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:22:36.79 ID:C5TEHcIv0

織莉子「さぁ、どうぞ。召し上がって」

マミ「えぇ。ありがとう…」


結局、警戒は杞憂で終わる。

彼女に案内されている間も、お茶の支度を待つ間も異変が起こる事はなかったからだ。

もっとも、あくまでも『ここまでは』の話ではあるけれど…。



マミ「…………」

織莉子「どうしたの? 紅茶はお嫌いかしら…?」


マミ「いえ……」


織莉子「あぁ…、警戒されているのね。

    大丈夫よ。何も入っていないから…。

    紅茶は私も頂くし、カップやお茶菓子は交換しても…」


マミ「そこまで言うのなら、とりあえずは信用させて貰うわ」




 
554: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:23:42.78 ID:C5TEHcIv0

様子を見る限り、紅茶や菓子に何かを仕込んでいると言う訳でもないようだ。

そうなると、ますます訳がわからないけど、とりあえずは勧められるままに紅茶を楽しみ事にした。

思えば、普段私が飲んでいる紅茶からは感じる事の出来ない高級感溢れる芳香が部屋中に溢れている。


   
マミ「この独特な香り…。

   相当良い茶葉を使っているんじゃないかしら…?」


織莉子「気付いた? 貴女もお茶に詳しいみたいね」

マミ「紅茶は好きで、よく嗜むの」


織莉子「そう。なら、せっかくだから当ててみて」

マミ「家計に響くから、高価な物はあまり飲まないんだけど…」



マミ「そうね…。キャッスルトンのセカンドフラッシュ……かな?」

織莉子「当たり! すごいわ…」


織莉子「せっかくのお茶会だから奮発したの。

    おかげでお茶菓子までお金が回らなかったから、こっちは手作り。

    よかったら、こちらも召し上がって」




 
555: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:24:56.45 ID:C5TEHcIv0

マミ「美味しい…。サクサクしたパイ生地が中のアーモンドクリームとよく合う…」


織莉子「ピティビエと言ってね、フランスの伝統的な焼き菓子なの。

    シンプルだけど、紅茶との相性も良いし作ってみたのよ。

    気に入ってくれたなら嬉しいわ」


マミ「えぇ。お菓子も紅茶も…、すごく気に入ったわ。

   最高のお持て成しありがとう…」

マミ「でも……」


マミ「そろそろ、このお茶会の趣旨を聞かせて貰えないかしら…?」


彼女を纏う空気が一瞬だけ変わる。

それでも彼女自身は物腰柔らかい笑顔の仮面を崩さずに、静かに私に返す…。



織莉子「もう少しゆっくりお話をしながら……、と思ったのだけど…。

    せっかちなのね」


マミ「申し訳ないけれど………、

   得体のしれない相手とニコニコ笑ってお茶を続けられる程、人間が出来ていないの」


マミ「相手が魔法少女なら、尚更ね」




 
556: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:26:24.04 ID:C5TEHcIv0

睨むように相手を見つめる私に反応し、彼女は瞑っていた眼を開き、カップを置く。

先ほどまでの優雅で温和な表情が打って変わり、強い意志を秘めた瞳で見つめ返しながら返答を始める。



織莉子「では、単刀直入に言うわ」

織莉子「私と手を組みまましょう 巴マミ……」


マミ「…………」

織莉子「貴女の噂は伺っているわ。

    他者の為、人知れず魔法少女と戦い続ける正義の魔法少女として、ね」


マミ「魔女と戦うのは魔法少女の使命……、当然の事よ」


織莉子「いいえ。私達が契約で成されるのは、『願いを叶える』代わりに『魔法少女になる』事まで。

    その後の生き方は特に定められてはいないわ」


織莉子「実際の所、素行の悪い魔法少女にQBが罰則を加えると言うのを聞いた事がある?

    無いでしょう?」

マミ「…………」


織莉子「彼自身、魔法少女の在り方に干渉する資格はないし、興味も無い。

    仮に人間に害なす魔法少女がいたとして、せいぜい情報を流して助力を求めるだけ。

    それをどうこうする力は持ち合わせていないのよ。彼自身が魔女をどうにもできないように、ね」




 
557: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:27:23.38 ID:C5TEHcIv0

マミ「仮にそうだとして、私と手を組む事になんの意味があるの…?

   真面目に魔女を狩る者同士手を結んで、不真面目な魔法少女の尻でも叩こうと言うのかしら?」


織莉子「さすがね。ほとんど正解」


マミ「……………」




織莉子「私はね……、魔法少女の世界に秩序を作りたいの。

    その為に、貴女のような高い理想と確かな実力を持つ魔法少女と手を組みたい……。

    それがあなたをここに招いた理由」


マミ「イマイチ話が見えてこないのだけど………」



織莉子「いいえ、貴女はうすうすながらも勘付いている筈よ」


織莉子「私の行っていた『魔法少女狩り』もその一環であると」




 
558: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:28:35.54 ID:C5TEHcIv0

白々しい芝居を止め、いよいよ敵が自らの招待を自ら明かす。


彼女の表情は変わらない。

でも、私は温和で物腰柔らかいお嬢様としての仮面が完全に外れ、冷酷な魔法少女の一面を覗かせたのを感じ取る…。

同時に感じていた不安感が、威圧感と言う形を取り、周囲の空気を重くしていく…。



織莉子「貴女も聞き及んでいるんでしょう?

    私が『魔法少女狩り』を指示していた者であると……」


マミ「しらばっくれていたから何も知らないのかと思った」


マミ「でも、それを知りながら、よく私と交渉する気になったわね。

   よほど自信があったのかしら…?」


織莉子「………無駄よ」


私は指輪に魔力を込め、座っている椅子に静かに手を着く。

魔力は椅子を伝い、床を伝い、リボン状の高速魔法となって四方八方から敵を襲う…。




 
559: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:29:47.10 ID:C5TEHcIv0

マミ「な……!?」

織莉子「無駄だと言ったのに……」


完全な不意打ちであった事も含め、敵を囲むように放った拘束魔法の回避は極めて困難な筈だった。

しかし、敵の魔法少女は拘束魔法の陰から、その眼を青白く輝かせつつ、ゆっくりと姿を現す。



織莉子「何故避けられたのかわからない……、と言った顔ね。

    種明かしをしましょうか…?」


マミ「………随分と余裕なのね」

織莉子「余裕? そんなものはないわ。

    ただ、交渉と言うモノはこちらの手もある程度明かして、信用されなければうまく行くモノではない…。

    まして、私の能力は自らの行動指針にも直結する能力なのだから………」


マミ「行動指針に……、直結する能力って………」



織莉子「………私の能力は『未来予知』」

織莉子「私自信が見る筈の『これから』。そして、私が今見ているモノの『これから』。

    それらのすぐ後から、遥か遠い未来まで見通す事が出来る力。それが私の能力」


織莉子「最も色々と扱いが難しい力だから、全知全能と言う訳にはいかないのだけれど…」




 
560: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:31:53.36 ID:C5TEHcIv0

マミ「未来予知…、魔法少女の秩序…、魔法少女狩り…、そして無関係の暁美さんへの襲撃…」


マミ「あなたが行っているのは、『罪を犯す者』を『罪を犯す前』に裁く……。

   そんなところかしら……?」


織莉子「その通りよ」

織莉子「私の予知は、このまま『何もしなければ』起こる結末を映す…。

    でも、結末が絶対でない以上、その要因の『今』に積極的な干渉をする事で変化を促す事が出来る…」

織莉子「ただ、定められた未来を変えるには、そうそう生易しい干渉ではいけない…。

    だから………」


マミ「相手を殺す、と言うのね………?」

織莉子「そうよ……。

    そうでもしなければ、定められた結末は変わらないから……」


マミ「傲慢だわ」

マミ「神にでもなったつもり? あなたは罪を『犯すかもしれない』と言うだけで人を裁くの?」





 
561: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:33:53.02 ID:C5TEHcIv0

織莉子「じゃあ、逆に聞くけれど……。

    貴女は人を襲う魔法少女がいたらどうする? 魔法少女を襲う魔法少女がいたら……?」


マミ「愉快な皮肉ね。答えるまでも無いわ」


織莉子「では、貴女がその魔法少女に勝てると言う保証は?

    力を付けて増長した魔法少女は恐らく、そう簡単には止まらない…。

    対して、貴女のように命懸けで、それを対処する献身的な魔法少女がこの世にどれだけいるかしら…?」


織莉子「そもそも……、強大な力だけを与えられ、後の事は当人のモラルに委ねらるのみ。

    その割に魔法少女が一度暴走すれば、それを止めるのもまた魔法少女の自由意思に委ねられている……」

織莉子「事を起こすも、それを止めるも全ては魔法少女の意思一つのみ……!

    これほど危険なモノは無いわ………!」


マミ「だから、建前を並べて、そうなる前に裁くと言うの?

   まだ、何もしていないのに……!」




 
562: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:35:50.89 ID:C5TEHcIv0

織莉子「力を付けてからでは全てが遅いの。

    強い力を持つ可能性を秘める魔法少女を確実に裁くには、先手を打つしかない……」

織莉子「そうしなければ………、魔法少女のエゴで世界は滅びるわ。必ずね」


マミ「大げさな言い回しをして、自分達を正当化しても…」


織莉子「いいえ。大げさではないのよ」

織莉子「暁美ほむら……。既に彼女がそれそのものと言えるわ…」

織莉子「彼女の『願い』…。そして、そこから生まれる『エゴ』は世界を滅ぼす……。

    そして、私は己のエゴで世界を滅ぼすような存在を、絶対に認める訳にはいかない…!」


マミ「一方的な言いようね」

マミ「貴女達に襲われた暁美さんがどんな思いをしていたかわかる…?

   道を歩く時、学校で家で、普通に過ごす間も怯え続けて、夜は悪夢に魘されて…!」


マミ「何もしていないのに、その罪を問い……。

   何もしていないのに、その罪を裁く……!

   そんなモノは、あなたのエゴ以外の何物でもないわ…!」


マミ「そして、私はあなたのような存在を、絶対に認める訳にはいかない…!」




 
563: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:37:25.91 ID:C5TEHcIv0

織莉子「…………」

マミ「…………」


織莉子「交渉は決裂、ね…」

マミ「えぇ…」


織莉子「貴女とは手を組めたら良かったけど…」

マミ「それは無理だとわかったでしょう…?」


織莉子「貴女は」

マミ「だって」


織莉子「咎人を守ろうとしている…!」

マミ「罪なき人を殺そうとしている…!」




織莉子「残念ね」

???「全くだよ……! 客人ッ!!!!!」


気配を殺していた強烈な敵意が突如迫る…。

まるで弾丸のように、二つの影が私の背後で交差した。




 
564: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:39:12.14 ID:C5TEHcIv0

マミ「用心と言うものはやはりしておくものね…!」



キリカ「くっ…!」

杏子「伏兵を潜ませてるのが自分だけだと思ったか…?

   考えが甘ぇよ!!!」


紅の影と漆黒の影…。

二つの影が斬り結ぶ中、私と彼女は互いに変身し、戦闘の準備を整える…。



マミ「悪いわね…」

織莉子「お互いにね」


互いの周囲にマスケット銃と、青白く輝く球体が浮かび…。

やがて、それらが飛び交った。




 
565: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:40:15.25 ID:C5TEHcIv0

マミ「ティロ・ボレー!!」

織莉子「無駄よ……!」


マミ「レガーレ・ヴァスタリア!!!」

織莉子「それも無駄ね……」


普通の人間なら回避できない弾幕の雨霰。

そして、その着弾点から派生する暴れまわる拘束魔法。


しかし、白い魔法少女は、回避の難しい圧倒的な物量の攻撃を、平然とかわす。



織莉子「そして、拘束魔法を囮にしての再度の一斉射撃…。

    これはもう『視る』までも無いわね…」

マミ「くっ…!」


織莉子「わからない? 先が『視える』以上、あなたがどれほど連携を組み立てても、弾道を計算しても…」

織莉子「それは全て意味を成さない…!」


織莉子「こんな風にね」




 
566: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:41:47.28 ID:C5TEHcIv0

飛んでくる球体をかわし、両手を振るう。

勿論私の魔力を以て、無数のマスケットの弾幕を作る為だ。

幾ら無駄と言われても、私にできるのは弾幕を張って敵の足止めをする他は無いから…。


私の付近の空中が歪み、魔力がマスケットを形成する…。

筈だった。



織莉子「ふふ…………」

マミ「な………?」


私の周囲には何時しか、敵の青白い球体が浮かび…。

その存在が、魔力の収束を妨害。

生成される筈だったのであろうマスケット銃達は途中で壊れ、出来損いの残骸だけが地面に転がった。




 
567: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:42:58.93 ID:C5TEHcIv0

織莉子「………何の事はない」

織莉子「あなたの銃の発生位置に、私の魔力球を配置しただけの事よ…」

織莉子「そして………」


マミ「くっ……!」

マミ「ぐぅッ……、あっ……、がっ…、あぁッ…」


敵の放った球体を回避したと同時に背後の球体に当たり…。

後は、それに弾かれ、弾かれた先に球体があり、また弾かれ…、それの繰り返し。

ピンボールのように弾き飛ばされた私の体は、床に叩きつけられる事でようやく動きを止める…。



織莉子「今のは、あなたの移動先に魔力球を置いてみただけ。

    まるでお手玉ね」


マミ「げほっ………けほ………」


圧倒的な強さだった。

攻撃でも防御でも圧倒的なアドバンテージとなる『未来予知』。

さらにそれに加えて、相方の黒い魔法少女のエリア魔法『速度低下』も生きているんだろう。

相性の良い二つの魔法が合わさる事で、彼女はほぼ無敵の存在となってしまっている…。

唯一欠点があるとすれば、攻撃が軽く、持久戦に持ち込むくらいできそうなくらい、か…。


申し訳ないけれど、ここは佐倉さん任せかな…?




 
568: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:44:45.76 ID:C5TEHcIv0

杏子「はッ…!」

杏子「どうした! どうしたッ!?」


キリカ「チィッ……!」


杏子「さやか達から随分な使い手だって聞いたが…、この程度か?」

杏子「それとも………、右足でも痛むか!?」


キリカ「コイツっ!」


杏子「申し訳ないが……、アタシらがやってんのは殺し合いだからな。

   欠点突いて、負担かけるのは当たり前なんだよ!」


キリカ「くッ……そッ……!」


杏子「さて、アタシはともかく、アタシの家主様はいっぱいいっぱいみたいだからな…!

   悪いが、ここらで決めさせて貰うぜ!」



キリカ「冗談じゃない……! 私が粘れば織莉子がお前程度…!」


織莉子「キリカ、そのまま動かないで…!」

キリカ「織莉子…? わかった!」




 
569: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:46:02.75 ID:C5TEHcIv0

杏子「なんだなんだ? お仲間にも見捨てられちまったか!?

   だったら…!」


マミ「いけない! 佐倉さん!!! それ以上踏み込んでは駄目!!!!」

杏子「あ…? マミまで何言って…!」


動きを止めた黒い魔法少女に向かい、突進しようとした佐倉さん。

しかし、その動きは私の声に阻まれ、僅かに緩む…。

そして、それが功を奏した。



杏子「うぉ!? 危ねッ!!」

キリカ「惜しいな……。もう一歩踏み込んでれば、今頃キミはぐちゃぐちゃになっていたのに!」


佐倉さんと黒い魔法少女の間に、強烈な衝撃が走り…。

その砂煙の中から、その攻撃を行った一つ目の鎧の魔女が静かに顔を出す…。


周囲は、妙な文様と折れた無数の石柱が浮かぶ静かすぎる風景に変わり…。

四人の魔法少女とティーセットを乗せたテーブル、椅子のみを残してその魔女の結界へと移された。




 
570: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:49:26.81 ID:C5TEHcIv0

杏子「こんな時に、邪魔しに来やがったってのか!」


マミ「こちらだけを向いた魔女の視線……。

   そして、その魔女の背に隠れるようになった二人の位置…」


マミ「やられたわ…。これじゃ、魔女が敵の増援に来たような物ね…」



織莉子「さぁ、キリカ…、撤退しましょう」

キリカ「良いのかい…?」


織莉子「えぇ。ここで戦っても良い結果は『視えない』から…」


キリカ「私の為……だね。ごめん」

織莉子「貴女が傷ついたのは、私の身勝手に付き合って貰っているから。

    だから、気にしないで」


キリカ「…………うん」




 
571: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:51:24.63 ID:C5TEHcIv0

織莉子「…………さて、申し訳ないけれど、私達はここでお暇させて貰うわ」


杏子「ちっくしょう! やっぱ逃げる気かよ!」

マミ「………美国織莉子!」



織莉子「巴マミ…」

織莉子「貴女はご自分の愚かさに気付くでしょう」


織莉子「全てを識った時に、ね……」


マミ「何を………!」



織莉子「また、そのときにわかるでしょう。

    私のやり方が最も正しいとも………」


織莉子「それでは、また。いずれ」



マミ「くっ……! 待ちなさい!!!!!」


魔女の背後で魔力球が弾けて煙幕となり、二人の魔法少女はそのまま姿を眩ました。

私と佐倉さんは、圧倒的な速さで魔女を倒して、その周辺や洋館を探索したけれど、

当然ながら、その姿は愚か、手掛かり一つ見つかる事はなかった…。




 
572: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:52:54.67 ID:C5TEHcIv0

────────

────

──


織莉子「大丈夫……? もうそろそろ彼女の作った試薬が届くと思うのだけど…」


キリカ「問題無いよ。足や体の痛みより、不覚を取った事の方がよほど悔しい…!」

キリカ「それよりも………、今日の交渉を何故行ったのか聞いても良いかな?

    結果は『視えて』いたんでしょ……?」


織莉子「………そうね。親近感を覚えたんでしょうね」

キリカ「………?」


織莉子「同じような未来を目指す為に、自分を省みず、進み続ける彼女…。

    そんな彼女を討つ事に躊躇いを覚えてしまったんだと思う…」


織莉子「相手が『死』にでもしない限り、『未来が変わらない』と言ったのは他ならぬ私なのにね…」



キリカ「……………織莉子には私がいる」





 
573: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:54:17.80 ID:C5TEHcIv0

キリカ「誰も理解しなくても……、世界中の人間全てが織莉子を恨もうとも……!

    私だけは絶対に織莉子の傍に居る……!」

キリカ「織莉子に尽くし、守り、愛し続ける事を誓うよ………!」


織莉子「ありがとう、キリカ………」



織莉子「そうね……。私の理解者は貴女一人で十分……よね?」


キリカ「そうだよ。そもそも巴マミが仲間になるなんて言ったら、私は嫉妬で腐って果てていたね!」


織莉子「ふふっ。もう、貴女って子は…」


そうだ…。

もう迷う事は許されない…。

アイツがもうじき戻ってくる…。

それまでに何としても暁美ほむらを仕留めなければ…。


その為なら、私はどんな手でも使おう…。

どんな卑劣な手段でも…。

どんな凄惨な犠牲を出そうとも…。


私の理想とする救世の為なら…!


―to be continued―


 
574: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/02(水) 00:54:54.23 ID:C5TEHcIv0

―next episode―


「潰れてしまった薄っぺらな信念と共に消え逝きなさい」





―【第十四話】魔法少女の真実―

 
582: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:14:27.63 ID:TVMcFP480

織莉子「………薬が届くのは、今日の夜。

    アイツがここに戻るのはそれより少し早い………」


キリカ「つまり、薬は間に合わない。

    まぁいいよ。動かない訳じゃないんだ。どうにかするよ」

キリカ「それより………、勝機はあるの?」


織莉子「巴マミに加え、彼女と互角かそれ以上の佐倉杏子。二人揃えば彼女にも見劣りしない弟子達。

    貴女の状態もあって、この間のように内二つが揃えば互角が良い所。

    一つしかない状況で仕掛けてもそうそう後れは取ってくれない上に、手間取ればすぐに増援が来る。

    そして、恐らく巴マミはそれを意識して全員を行動させている」


キリカ「各個撃破が成功する未来は『視えない』、か」

織莉子「そうなる前に、必ず誰かが駆けつける事が出来る位置に常に全員を配置している…。

    ただ……」


織莉子「彼女の理想は綺麗だけど、それだけだから…」

キリカ「それが…?」


織莉子「夢見がちな少女達も現実を叩きつければ、夢から覚める。

    そして夢から覚めた魔法少女に待っているのは……」

583: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:15:39.30 ID:TVMcFP480







―【第十四話】魔法少女の真実―








584: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:16:38.71 ID:TVMcFP480

マミさんが白い魔法少女と戦ってから丸三日。

わたし達はこの二日間、マミさんや杏子ちゃんと行動を常に共にしていた。


二人の体感だと、相手はかなり手強いけど、四人掛かりならどうにかなる。

逆に言えば一人でも欠ければ勝機が薄れるから、各個撃破を狙った襲撃を警戒。

わたしとさやかちゃんもマミさんの家に泊まり、学校の時間は杏子ちゃんも近くで待機させる等、集団行動を徹底していた。


そして今は、魔女退治をしている杏子ちゃんを待ちつつ、杏子ちゃんが襲撃されないよう魔女の結界の入口を見張っている。



さやか「お泊り兼ねた集団行動ってのは良いんだけど、雰囲気が重過ぎるって…」

ほむら「状況が状況だけに仕方ないかと…。

    と言うか美樹さんは緊張感なさすぎでは…」

さやか「何をっ!物には限度ってもんがあって…。ね、まどか」

まどか「………」


さやか「ま~ど~かっ!」

まどか「…え? 何?」

さやか「………」

585: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:18:55.40 ID:TVMcFP480

さやか≪マミさんに言われた事、また考えてたの?≫

まどか≪うん…≫


マミさんに聞いた敵の能力と目的。

それは『未来予知』の力で、将来に悪行を成す魔法少女や候補を先んじて倒す、と言うモノだった。

多少の問題に目をつむれば、被害者を出さずに加害者を倒せる効率的な手段。

だけど…。



まどか≪ねぇ、さやかちゃん≫

さやか≪ん~?≫


まどか≪やっぱりわたし達が間違ってるのかな…?≫

さやか≪………≫


さやか≪だとしたら諦められる?≫

586: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:19:30.36 ID:TVMcFP480

まどか≪それは…≫

さやか≪あたしは無理≫


まどか≪さやかちゃん…≫

さやか≪大事な友達を、『かもしれない』で見捨てるなんて≫

さやか≪何が正しいか間違ってるか…、自分で見るまでは信じない。そう決めた≫

さやか≪だから、今はほむらを信じる≫


まどか≪さやかちゃんはすごいね…≫

さやか≪単純なだけだよ≫



???≪泣かせてくれるわね≫

587: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:20:18.31 ID:TVMcFP480

まどか≪この声…!≫

さやか≪盗み聞きとは良い趣味してんじゃん…!≫


???≪聞かれたくないなら、もっと精度を上げる事ね。最も…≫



織莉子「そんな練習をする機会はもうないでしょうけど…」



川岸にある結界の入口を見下ろせる、この人通りの無い大きな鉄橋の遥か先。

既に変身を終えた純白の衣装を纏う魔法少女が静かに立ち塞がっていた。


離れていても伝わる強い威圧感。

そして、それを放ちながらも凛とした表情を崩さない歪な存在感は、恐怖心をより強く煽る…。

588: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:21:28.14 ID:TVMcFP480

ほむら「あ、あ…」


マミ「あら、美国さん。待ちきれなくて出てきてくれてのかしら?」

織莉子「えぇ。貴女達に真実を教えに、ね」


さやか「な~にが真実だ! 何時までもアンタの与太話に付き合うほどこっちは暇じゃないっつの!」

まどか「話は聞かせて貰いました。

    でも、やっぱりほむらちゃんを渡す訳にはいきません…!」


織莉子「愚かね…。目先のモノばかりに捕われて…」

マミ「そうでもないわよ」


マミ「例えば、そこの柱の影に隠れた彼女なんて、見えずともわかるわ」


キリカ「………くっく。やっぱりバレてたか。

    でも………」



キリカ「コイツの気配は、さすがに感じ取れなかったんじゃないかな?」

589: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:24:47.10 ID:TVMcFP480

黒い魔法少女、『魔法少女狩り』の呉キリカ。

現れる魔法少女は一人である筈だった。


でも、柱の影から現れた人影は二人分…。

呉さんに引きずられる形でもう一人、魔法少女が姿を現した。

前に一緒に遊んだゆまちゃんと変わらないくらいの年頃の、まだまだ小さな女の子。

そんな幼い子があちこちを痛めつけられ、体を拘束され、引きずられている…。



マミ「その子は………」

織莉子「見ての通り、ただの魔法少女」

織莉子「言うまでも無く、後に多くの被害をもたらす、どうしようもない悪い子よ…」


キリカ「そして、『人質』ってヤツでもあるね。

    私には理解できないけど、君達はこう言う赤の他人でも捨て置けないんだろ?」

590: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:26:00.54 ID:TVMcFP480

マミ「その子と暁美さんを交換とでも言いたいのかしら?」

織莉子「そこまで簡単に行くとは思っていないわ。

    そうね…。あなたのソウルジェムをそこの川に捨てる、と言うのはどうかしら?」


マミ「そうこうしてる内に、二人や暁美さんを倒す腹積もりでしょう?

   舐めないで…! 取捨選択くらい私にも出来るわ」


キリカ「取捨選択、ね。それをしているのは織莉子だって同じだよ」

マミ「………」

キリカ「助けられない相手を捨てるのは互いに同じ。

    じゃあ、キミと織莉子は何が違うんだい…?」


マミ「くっ…」

??≪ったく、甘ったれが…≫

マミ≪…!≫


??≪良いよ。ここは話に乗っておけ≫

??≪アタシが下でアンタのジェムを回収しつつ、そのまま合流する。さやかとまどかだけでも、アタシが上がる数十秒程度なら保つだろ≫

??≪その代わり、奴らが約束破っても、その時は割り切れよ≫


マミ≪ごめん。佐倉さん!≫

591: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:26:47.32 ID:TVMcFP480

織莉子「わかったでしょう? 全てを救うなんて事は誰にも出来ない。

    だから、どこかで何かを諦めるしかないのよ」

マミ「そうね。そうかもしれない…」


マミ「でも…!」

マミ「私は出来る限りは、それを諦めない!」


さやか「ちょっ…!」

まどか「マミさん!?」


そう言うとマミさんは、ソウルジェムを指輪から変化させ…。

敵の指示通り川に放り投げた。



そして、その直後。

マミさんの足の力が抜け、その場に崩れ落ちた。

592: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:27:39.81 ID:TVMcFP480

まどか「え…?」

さやか「マミさん! どうしたんですか!?」

ほむら「巴さんっ!? 返事してください!」


織莉子「………」

キリカ「ふふ……」



まどか「だ、大丈夫ですか!?」

まどか「………嘘」

まどか「息してない。…………心臓も動いてないよ!」


さやか「な…!? お前らッ!マミさんに一体何をしたッ!」

キリカ「別に何も」

織莉子「見ての通りソウルジェムを捨てさせただけ」


さやか「だったらなんで! マミさんがこんなッ…」

まどか「さやかちゃん! そんな事良いから治癒魔法を…!」


織莉子「不要よ。今元に戻る。本体が帰って来たから…」

593: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:31:18.62 ID:TVMcFP480

白い魔法少女の言った事は本当だった。

鉄橋の柱に伸ばした多節槍を巻き付け、それを利用して上に跳ね上がって来た杏子ちゃん。

彼女の登場に合わせるように、マミさんは息を吹き返し、目を覚ました…。


予想だにしない事態。

わたし達は錯乱し、マミさんは何が起きたのかわからず呆け…。

あの杏子ちゃんでさえ、マミさんにソウルジェムを渡しつつも、混乱を隠せていない…。



マミ「何…、どうしたの…?」

ほむら「巴さん!よかった!よかった…!」

まどか「し、死んじゃったかと思ったんですよ…!?」

マミ「死…んだ…? 私が…?」


杏子「何があった…?」

さやか「わかんない…。マミさんが川にソウルジェム投げて…。そのまま息も心臓も泊まっちゃって…!

    でも、アンタが来たら元通りになって…」


杏子「へぇ………」


杏子「……なんか知ってんだろ?」

織莉子「………」



杏子「答えろ!!!」

594: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:32:45.35 ID:TVMcFP480

キリカ「うるさいな。大声を出さなくても答えるよ」

キリカ「言ったろ?真実を教えに来たって」


まどか「真実…?」

織莉子「えぇ…。魔法少女の真実…」


織莉子「ソウルジェムこそが私達魔法少女の本体…。

    肉体はそれに動かされる屍同然である、と言う知られざる真実をね」


まどか「な、何それ…」

さやか「て、適当な事を言うな!」


織莉子「適当な事だと思うのなら、仲間のでも自分のでも良いから、もう一度川へ投げてみたら?」

キリカ「ソウルジェムと肉体の接続範囲を越えればさっきと同じ事が起きる。

    何度でも気の済むまで試すといいよ」


さやか「う…、嘘だ!」

織莉子「私の言葉が信じられないなら、彼に聞いてみる?」


織莉子「ねぇ、QB。いいえ…」

織莉子「インキュベーター」


QB「お見通し、と言う訳か。さすがだね」

織莉子「あなたの帰りに合わせて、話を進めさせてもらっていたから…」

595: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:34:00.13 ID:TVMcFP480

白い魔法少女の呼び掛けに応えるように…。

どこからともなく、あの白い妙な生き物『QB』が久々に姿を表す。

彼女の言うような行動をする悪意はとても感じれないその姿を見つけた私は、縋るように問いかけていた…。


まどか「QB! 今のって…!」

QB「織莉子の言った事かい? 訂正するほど間違いではないね」


さやか「そ、そんな…、じゃああたし達…」

杏子「テメェは…何てことを…。ふざけんじゃねぇ!!

   それじゃアタシたち、ゾンビにされたようなもんじゃないかッ!!」

マミ「なんで、そんな酷い事を…」


QB「酷い?」

QB「酷いと言うなら、生身の体のまま魔女との戦いに放り込む…。

   そちらの方がよほど酷いと思うけどね」

QB「知っての通り、魔女との戦いは過酷だ。

   ただの人間と同じ、壊れやすい身体のままで魔女と戦ってくれなんて、とてもお願い出来ないよ」

596: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:34:59.57 ID:TVMcFP480

QB「魔法少女との契約を取り結ぶ僕の役目はね。

   君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事なのさ」

QB「そもそも君たち人間は魂の存在なんて、最初から自覚できてないんだろう?

   そのくせ、生命が維持できなくなると、人間は精神まで消滅してしまう」


QB「そうならないよう、僕は君たちの魂を実体化し、手に取ってきちんと守れる形にしてあげた」


QB「むしろ便利だろう?

   心臓が破れても、ありったけの血を抜かれても、その身体は魔力で修理すれば、すぐまた動くようになる」


QB「ソウルジェムさえ砕かれない限り、君たちは無敵だよ。

   弱点だらけの人体よりも、余程戦いでは有利じゃないか」


まどか「そんな………。じゃあ、わたし達は本当に………」

さやか「……………」


キリカ「とまぁ、こんな感じなんだって」

QB「それよりも驚いたよ。君達が魔ほっ…」


キリカ「解説ご苦労様。だからもう消えて? ね?」

597: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:37:11.50 ID:TVMcFP480

キリカ「キミの存在は! とても! 不快! だからさっ!」


一通りの説明を終えたQBは、呉さんの鉤爪に引き裂かれた。

八つ裂きになった死体をそれでもまだ切り裂き、肉片になったのを見て、ようやく手を止める。


怖気すら走る狂気の沙汰。

人間ではないし、騙していたとは言え、知り合いが惨殺された事。

でも、それら全てが今のわたしには他人事だった。


動く死体。

それこそが魔法少女の正体…。

その事実を受け止め切れず、わたしは愕然とする事しかできなかったから…。

598: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:38:06.39 ID:TVMcFP480

杏子「まどか…」

まどか「……」


杏子「さやか!」

さやか「……」


杏子「チッ…!」

杏子「もういい。お前らは、ほむら連れて逃げろ」


まどか「え…」

さやか「だって…」

杏子「そんなんじゃ戦えねぇだろ…」

さやか「でも…」


杏子「足引っ張りは邪魔だ、消えろ!」

さやか「ごめん…」

まどか「行こう、ほむらちゃん…」


ほむら「………はい」

ほむら「巴さん、佐倉さん…。二人ともご無事で…」


事実に耐え切れず立ち尽くしていたわたし達は、杏子ちゃんに言われるまま、ほむらちゃんを連れてその場を離れた。

すぐにそれを後悔すると考える事さえ、出来ないまま…。

599: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:39:16.31 ID:TVMcFP480

杏子「異論ないな、マミ…」

マミ「………えぇ」


杏子「悪いけど、アンタには付き合って貰うぜ」

マミ「………わかってる」


とは言ってるが、マミも内心は穏やかじゃないだろう。

正直、アタシも結構きついが…。

あの二人と違って、状況を目の当たりにした訳じゃないから、混乱の度合いもまだ薄い。

だから、頭の理解が完全に追いつく前にコイツらを始末するっきゃないだろう…。


あっちの黒いのはまだ足に包帯巻いてる所を見ると、怪我は完治していねぇ。

マミの精神状態が不安だが、どっちにしてもアタシがアイツを手早く始末できなきゃ勝てない相手だ。



先手必勝。

そう考えている所だったんだが、敵にまたも先手を打たれる。

しかも、考えうる限り、最悪な形のものを。

600: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:40:58.85 ID:TVMcFP480

織莉子「さすがに、貴女達二人はこの程度では沈まないのね。

    新人さん達と違って、化け物染みてる力に自覚を持っていたのか、状況を直視していないから飲み込めていないだけか…」


キリカ「さ~て、ここからは第二幕。

    今度は君達も『気に入って』くれると思うよ?」


そう言うと黒いヤツは、右手の鉤爪を一本だけ発生させ…。

それを人質に…。

年端も行かない魔法少女に向かって振りあげると……。



マミ「!?」

杏子「てめぇ、何をッ…!」


人質の魔法少女「た……助け……」


キリカ「ごめんね?」

キリカ「でも、この世界の為に………」


キリカ「『絶望』してくれ」


その首を綺麗に跳ね飛ばした。

601: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:42:15.53 ID:TVMcFP480

マミ「あなた達はッ…!」

杏子「上等だよ! それがテメェらのやり方かッ!」



キリカ「言ってろ。すぐにどちらが『正しい』かわかる筈さ」


マミ「そんなものッ!」

杏子「わけわかんねぇ事言ってんじゃねぇッ!」


少女の生首が転がり、自分の体と対面する。

吐き気を催す凄惨にして、残酷な光景。

それを見て、アタシの中で沸騰したお湯のように、怒りの気持ちが煮えたぎった。

だが…。


それすらも忘れる『変化』はすぐに訪れた。

602: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:43:38.58 ID:TVMcFP480

マミ「え……?」

杏子「ちょっと………、待てよ……。

   あれって………」


マミ「グリーフシード………!?」


首を失くした少女の胸の位置にあったソウルジェム。

穢れきったそれは砕け散って、見覚えのある『魔女の卵』へと変化する…。


そして、そこからは穢れきったただの『グリーフシード』と何ら変わりはしない。

物凄い衝撃を伴いながら、結界を作り出し…。






魔女「麩giィィィぃぃぃぃゐ鋳ィィ!!!」


当然のように『魔女』へと姿を変えた。

603: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:44:35.20 ID:TVMcFP480

マミ「これ………」

杏子「なんだよ……。これ………」


杏子「一体、なんなんだよッ!?」



キリカ「見ての通りさ」

キリカ「絶望した魔法少女の末路…。

    それが『魔女』だって言う事だよ」


マミ「う……そ………」

マミ「じゃあ、私は……?」

マミ「今まで何をやって来たの………?」


マミ「私自身は……!?」

マミ「私も……? 魔女に……?」


織莉子「魔法少女そのものでも危険なのに…。

    その末路に待っているのは、私達が敵とするあの邪悪な『魔女』」

織莉子「魔法少女自身が邪な心を持たなくても……、全ての魔法少女は人の害となる可能性を秘めている」



織莉子「理解していただけたかしら」

織莉子「魔法少女と言う存在の真実。危険性。

    そして、私の決断の『正しさ』を」

604: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:45:42.08 ID:TVMcFP480

マミ「あ………ああぁ……」

杏子「くそっ…………」



キリカ「無様だね、巴マミ」

キリカ「織莉子はその『真実』を知って尚、揺らぐ事はなかった。

    それがキミと彼女の差だよ」



織莉子「みんな、真実を受け入れられないのね」

織莉子「異物のように、毒のように……。

    えづき侵され、壊れていくだけ」

織莉子「だから、心乱れてもうまともに戦えない」


織莉子「私は真の『恐怖』を識っている。

    こんな『真実』、恐れる事はないわ」


織莉子「自らの運命すら受け入れられず、ただ立ち竦む哀れな魔法少女達…」

織莉子「潰れてしまった薄っぺらな信念と共に消え逝きなさい」



織莉子「貴女達の目指した理想は、私の目指す形で叶えてみせるから」

605: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:48:14.35 ID:TVMcFP480

魔女「尾ッほ頬ォー! 肺ホー!」

マミ「………」


キリカ「さて、どうする?

    魔女をうまく利用してコイツらを仕留めておく?

    それとも戦意喪失した新人二人と一緒にいる目標を叩く?」


魔女「あ亜冷ひゃヒャHya~♪」

杏子「くっ……」


織莉子「…………」


織莉子「この魔女はかなり手強い。利用しようとすれば足元を掬われて、酷い損害を伴って後に支障が出る。

    そして、目標に中途半端に手出すのも駄目ね。こちらも行けば最悪の事態が訪れる…」


キリカ「どちらも今は対処すべきじゃない、か」

織莉子「勿体無い気もするけれど…、このまま撤退しましょう。

    そうすれば薬も届くから、次回からは貴女もベストな状態で戦える」


キリカ「……………わかった」



織莉子「………ごめんなさい。巴マミ」

織莉子「そして、さようなら」

606: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:49:56.14 ID:TVMcFP480

士気って言葉がある。

戦いにおける気の入り方みたいなもんの事だ。

そんな言葉がある事からも、命のやり取りにおける精神状態の大切さは言うに及ばない。


そして、その精神を見事に叩き折られたアタシ達は、

目の前にいるくしゃくしゃのドクロみたいなふざけた魔女に、一方的に押されていた…。



魔女「浮鵜爬ハha破は羽ァぁぁぁa!!!!」


杏子「ちくしょ…!」

杏子「おい、マミ…! とりあえずどうにか脱出だけでも……」


マミ「………」


杏子「マミッ!」

マミ「…………もういいわ」


杏子「馬鹿野郎! お前、何言って……」

マミ「もういいと……、言ったのよ………。

   だって…………」


マミ「ソウルジェムが魔女を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない…」

607: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:51:17.92 ID:TVMcFP480

失意に満ちた顔で、アタシをただ見つめるマミ。

ただ、アイツの言ってる事もわかる。


将来、魔女になる事が約束されてるアタシらが足掻いて、生きて、それで何になるってんだ…?

それなら、いっそ…。



魔女「蘭、卵、覧♪」

魔女「乱!!!!!!!」


マミ「……………」



杏子「ッ……! やらせるかよッ!!!!!!」


それでも、諦めかけたアタシの体は動いてた。

魔女に襲われたマミを突き飛ばし……、同時に槍を繰り出した………。

608: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:52:00.93 ID:TVMcFP480

目の前で、大切な人を………、失いたくないって、事なんだろうか…?


化け物かもしれないけど…。

化け物になるかもしれないけど…。

それでも、この人は……。


マミは尻もちをついてるが、どうも無事みたいだ。

ただ、足を止めていた代償は大きかった。

マミを庇うように飛んだアタシと魔女は刺し違えた形になり、互いに深手を負った……。



杏子「がはッ……、あ………」

マミ「佐倉さん………」


杏子「いけ…………」

マミ「もう……いいって……」


杏子「アンタが死ぬとこなんて……、あ、アタシが見たくないんだ! 行けッ!!!!」


マミ「ッ……!」

609: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:53:58.79 ID:TVMcFP480

杏子「へっ……」

杏子「い、行ったか…………」


さて、アタシはどうするか…?

ここで、諦めるか?

それとも、まだ……。



魔女「ウぐ虞…。ヒ魏ぎぎ…」


杏子「……さ…、さっきのが効いてんのか?」

杏子「なら、テメェっ……を倒せば……!」


目の前にいるくしゃくしゃドクロはさっきの一撃が効いたのか、苦しそうに血反吐を吐いている…。

勝機が見えたら、多少なりとも心が切り替わる。

我ながら現金なもんだ


正義の味方をやめちまった影響もあるんだろうか?

どうも、アタシはマミほど、おセンチにはできていないらしい…。

610: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:55:53.26 ID:TVMcFP480

杏子「とりあえず……、生きて……」

杏子「それから、ゆっくり考えりゃ……」



魔女「O嗚汚エ餌ぇェぇぇeェ…」


杏子「なっ…!?」


アタシが魔女に斬り込もうとした時だった。

魔女の撒き散らした血反吐が、突如アタシの両手足に巻き付き…。

そのまま、溶解させた。


両手足を失い、達磨となったアタシは勿論そのまま地面に転がる。



杏子「なん……だ……」

杏子「やっぱ……」

杏子「終わり……か………」



まぁ良いや……。

どうせ、アタシらに待ってる結末なんてのは、コイツらと同じふざけた存在になるだけなんだ。


だったら、もう………。


―to be continued―

611: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/14(月) 00:56:48.10 ID:TVMcFP480

―next episode―


「恋の相談ですわ」





―【第十五話】悲劇の序曲―


622: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:11:10.96 ID:LEsOYMVs0

織莉子「あら、おはようキリカ。もう少し待っててね。

    朝ごはんが出来るから」

キリカ「この匂いは……、ホットケーキだね!

    ハチミツとバターとシロップはたっぷりで頼むよっ!」

織莉子「はいはい」


キリカ「昨日飲んだ例の薬がとんでもなく不味かったから、口直ししないとね。

    あ~、まだ口の中に残ってるようだよ。一体何を入れたんだか…」


織莉子「彼女の固有魔法を回復に応用する為に作った試薬って話ね。

    一応、薬の知識をある程度持った仲間の協力は得ているみたいだけど、多分聞かない方がいいと思うわ…」


キリカ「でも、まぁそのおかげか体調も随分良くなった。今日からは織莉子の役に立てそうだよ?」



織莉子「…………今日はまだ、様子を見ましょう」


キリカ「何故? 悪いモノでも視えた?」

織莉子「昨日と同じ。今、目標に手を出すと勢い任せで契約をされる恐れがあるから…」


キリカ「でも……、だったら何時動くの?

    時間はまだあるけど………、のんびりしている程の余裕はない筈だよ?」

織莉子「もう少し………もう少しだけ待ちましょう」


織莉子「もう少し待てば………」

623: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:11:48.86 ID:LEsOYMVs0







―【第十五話】悲劇の序曲―










624: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:12:22.32 ID:LEsOYMVs0

真実を知った衝撃の一日が終わり、夜が明け、朝がやってくる。


あの場に残ったマミさんと杏子ちゃんはとうとう帰って来なかった。

今朝早くさやかちゃんが、二人を探しに行ったみたいだけど、連絡が来ないと言う事は言うまでも無いんだろう。


仲間を見殺しにしてしまったかもしれない罪悪感と、大切な人を失ってしまったかも知れない不安。

辛い事実が重すぎる真実に苦しむわたし達の心に上乗せされた…。


それでも、わたし達は学校に向かう。

ほむらちゃんの安全を考えれば、人の多い所の方が敵もやりにくい筈だから…。



さやか「おっはよぉ、ほむら」

ほむら「おはようございます…、美樹さん…」


さやか「相変わらず、ほむらは可愛いな~。あたしの嫁になるかぁ?」

ほむら「そ、そんな…」


まどか「…………」

625: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:13:02.02 ID:LEsOYMVs0

さやか「おっす、まどか」

まどか「うん………」


さやか「何、その顔? ひょっとしてほむらに嫉妬?

    大丈夫ですよ~、さやかちゃんの一番の嫁は…」

まどか「そうじゃなくて…」



さやか「あたしなら平気。見ての通り、さやかちゃんは元気いっぱいですよ~!」

まどか「さやかちゃん………」

さやか「おっ、あそこに居るのは仁美! お~い、ひっと、み~!」



ほむら「思ってたよりも元気そうですね。美樹さん」


まどか「ほむらちゃんにはそう見えちゃうんだ……」

ほむら「え………」


まどか(さやかちゃんは、空元気が上手なんだ……)

まどか(でも、わたしにはわかっちゃうから…)

626: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:13:35.17 ID:LEsOYMVs0

平気なわけ、ないよ………。

いつもいつもムードメーカーに徹してて…。

自分で勝手に諦めたり、否定したりするけど…。


さやかちゃんは、本当は誰よりも純情で一途な女の子だもん………。



だから………、平気なわけ、ないよ……。

すごく辛い筈だよ。

すごく苦しい筈だよ。


好きな人がいるんだもん。

ずっとずっと好きだった人がいるんだもん…。


わたしなんかより、何倍も苦しい筈だよ………。

627: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:14:07.16 ID:LEsOYMVs0

さやか「おっはよぉ~! 仁美」

仁美「おはようございます。今日は随分テンションが高いんですのね。

   良い事でもありましたか?」

さやか「ん? いや、全然」



仁美「……………今日なら、良いかもしれませんわね」

さやか「ん? 何か言った?」

仁美「さやかさん、放課後少しお時間よろしいでしょうか?

   大事なお話があるのですが……」



ほむら「何話してるんでしょうか…」

まどか「……………」




さやか「良いけど。何、話って?」

仁美「………………」


仁美「恋の相談ですわ」


さやか「え………」

628: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:15:04.69 ID:LEsOYMVs0

ほんの少しの距離が…。

ほんの少しの強がりが…。

ほんの少しの傲慢が…。


互いの関係を壊していく…。



わたしは、この時はほむらちゃんといて、二人の会話を聞いていなかった。

さやかちゃんは、辛い精神状態を笑顔で誤魔化した。

仁美ちゃんは、そんなさやかちゃんを見て今なら大丈夫と高を括り、自分の気持ちを押し通そうとした。


結果、親友と呼べたわたし達三人は大きくすれ違い…。

その関係に大きな亀裂を生じさせていく…。

629: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:15:58.11 ID:LEsOYMVs0

――放課後――



ほむら「遅いですね、美樹さんと志筑さん…」

まどか「うん………」


ほむら「鹿目さん」

まどか「……………」


ほむら「鹿目さん!」

まどか「え、何?」


ほむら「美樹さん、来ましたよ…?」



さやか「…………」


まどか「さやかちゃん……?」

630: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:16:43.68 ID:LEsOYMVs0

さやか「………さ、帰ろっか」

まどか「何かあったの?」


さやか「…………何もないよ」

まどか「嘘だよ! わたしにはわかるもん…」


さやか「……………」

まどか「約束………したじゃない………」


さやか「…」

さやか「………」


さやか「…………しよう」

まどか「え…?」



さやか「どうしよう、まどか…」


さやか「仁美に恭介を取られちゃうよぉ……」

631: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:17:27.27 ID:LEsOYMVs0

魔法少女の真実を知って尚、明るく振舞っていた今朝とは一転。

突然の涙を流すさやかちゃんを抱きしめる…。

普段見せない弱気なさやかちゃんに心が締め付けられそうになりながらも、事の顛末に耳を傾ける…。



まどか「どう言う事…?」

さやか「仁美に言われたの……。

    前からずっと恭介の事が好きだったって……」


ほむら「そんな………」


さやか「それで、あたしは恭介の幼馴染だから一日だけ待つって……。

    でも、あたし何も出来ない…」

さやか「だって、あたし死んでるんだもん…。ゾンビだもん…」


さやか「こんな身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ…」



まどか「さやかちゃん……」

ほむら「美樹さん………」

632: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:21:44.89 ID:LEsOYMVs0

なんて残酷なんだろう…。

さやかちゃんはずっと上条君を想ってて…。

危険を承知で魔法少女になって、その腕を治してあげるくらい、好きだったのに……。


さやかちゃんはもう、人間じゃなくなってるなんて……。




「他人の夢を叶えてあげるのと、他人の夢を叶えた恩人になるのとでは、似ているようで全く違う…」


マミさんの言葉が頭をよぎる…。

そして、他人の為に願い、その願いで何もかもを失った杏子ちゃんの姿が浮かぶ…。

他人の為の願いに苦しんだ杏子ちゃんと、その杏子ちゃんと親しかったマミさんなら、さやかちゃんを救えるんだろうか…?

そんな事を考えると同時に、二人の事を思い出して情けなさと悲しさと不安が心を満たす。



このまま、さやかちゃんの願いや気持ちも裏切られちゃうの…?

そんなのって…。

633: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:22:51.10 ID:LEsOYMVs0

まどか「そうだよ!」

まどか「わたしも一緒に行って、上条君に事情を説明すれば……」


さやか「言えないよ…。だって、わたしはもう………」

さやか「それに、何て言えば良いの…?」


さやか「『あたしは実は恭介を助けました。だから、あたしの彼氏になってください』

    そんな……、そんな卑怯な事を言うの?」

まどか「………」


まどか「だったら…!

    わたしが仁美ちゃんにうまく言って、告白を待ってもらえば…」

さやか「そんな時間は、ないみたいだね…」



まどか「魔女の反応……、こんな時に………!」


さやか「行こう」

まどか「でも、さやかちゃんは…」

さやか「もう大丈夫。スッキリしたから」


さやか「さあ、行こう。今日も魔女をやっつけないと」

まどか「さやかちゃん………」

634: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:24:59.75 ID:LEsOYMVs0

本当は止めるべきだったんだと思う。

さやかちゃんの精神状態が最悪なのは、わかっていたから。


でも、時間の無いわたしは焦っていた。

さやかちゃんの為にも早く戦闘を終わらせたかった。

だから、さやかちゃんを止める事まで頭が回らなかった。


そして……。




まどか「当たって…! 当たってよ!」

まどか「早くしないと……、早く……」


さやか「まどかっ、焦り過ぎだよ…!」


まどか「あ………」


さやか「危ないっ!!!!」


焦るわたしは攻撃を外し続けて、大きな隙を作る。

敵の魔女は当然、大きすぎるその隙を見逃さず、攻撃を仕掛ける。

そして、その攻撃はわたしを突き飛ばすようにして庇ったさやかちゃんを貫いた…。

635: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:26:14.11 ID:LEsOYMVs0

さやか「…………」

まどか「さやかちゃん!!!!」


さやか「アハハハハ……。ほんとだぁ……!」

まどか「え………?」



さやか「その気になれば痛みなんて、完全に消しちゃえるんだ!!!!!」


普通だったら助からない重症だった。

左肩が裂け、右足からは骨が飛び出し、右の脇腹、さらに左眼を中心に頭部を貫かれていた…。


でも、さやかちゃんは狂ったように笑いながら振り向き…。

そんな状態でありながらも何事も無かったかのように、敵へと向かっていく…。


さやかちゃんが敵へと届く僅かな時間で見る見る内に傷は塞がり、肉体的なダメージはすぐに消えた。

636: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:28:02.44 ID:LEsOYMVs0

さやか「アハハハハハハ!!! 何もかもQBの言った通りだぁ…」

さやか「もう……、何も感じない…!」


まどか「さやかちゃん……、そんな戦い方じゃ………」

ほむら「………」


さやか「えッ! えいッ! アハハハ! アハハハハハハハハ!!!!!」

まどか「駄目………だよ……」


わたしを庇った際に負った死に至る筈の重傷。

でも、どこか壊れてしまったのか、さやかちゃんはその痛みを感じていなかった…。


そして、それを目の当たりにしたさやかちゃんは多分、わたしと同じ事を考えたんだろう。

わたし達、本当に人間じゃなくなったんだ……って。

この事実はさやかちゃんに改めて現実を突きつけ、心には致命的なダメージを与えてしまった…。


そこから先のさやかちゃんは自暴自棄になって、自身を傷つけるように戦い続けた。

顔に、目に、胸に、腹に、手に、足に傷を負い、穴が開き、時には無残に裂けて…。

それでも、殴りつけるように剣を振るう動きは止めず、そうこうする内に傷が治り、また敵の反撃でダメージを負う。

それの繰り返し…。


やがて魔女の方が力尽きる。

それでも、さやかちゃんは止まらず、結界が消えるまで剣を振るい続けた…。

637: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:29:10.26 ID:LEsOYMVs0

まどか「さやかちゃん、グリーフシード…」

さやか「いらない」


まどか「さやかちゃん!」

さやか「本当にいらないから、まどかが使って」


まどか「駄目だよ…」

さやか「何が」


まどか「グリーフシードいらないって言ってみたり、あんな戦い方したり…。

もっと自分を大事にしなきゃ…」



さやか「いいんだよ。本当に必要ないし、痛くも無いんだから」

まどか「よくないよ…!」

638: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:30:07.49 ID:LEsOYMVs0

まどか「痛く無いなんて、ウソだよ…。見てるこっちが痛かったもん…。
    
    何も感じないから、自分を傷付けていいなんて駄目だよ…」


さやか「だったら、どうすれば良かったのよ!」

さやか「マミさんも杏子もいない! アンタは当てにならない!

    こんな状況で他にどうすれば良かったのよ…!」


まどか「ごめん…」

さやか「良いも駄目も無いんだよ…。

    アンタもさっきの見たでしょ…?」


さやか「今のあたしは魔女を倒す為の道具なんだ。それだけしか価値の無い石っころ」


さやか「この剣が反り血で汚れても、粗雑に扱って痛んでも、誰も気にしないでしょ…? 

    それと同じ」


さやか「戦いの道具がどんなに傷付いても、誰も、何も、気に止めない…!

    なら、戦いの道具は道具らしく、壊れるまで敵を倒し続けるしか価値なんてないんだよ!」

639: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:31:06.04 ID:LEsOYMVs0

まどか「違う…。違うよ…。さやかちゃんは…」


さやか「何が違うのよ」

まどか「それは…」

さやか「答えなさいよ…」

まどか「………」


さやか「何で答えないのよ…! 違うんでしょ?

    何が違うのよ!」



まどか「………」

さやか「………」

さやか「そっか…」



さやか「答えられるわけ、無いよね。

    だって、アンタもあたしと同じ…」


さやか「『化け物』なんだから!!!!!」

640: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:31:47.67 ID:LEsOYMVs0

まどか「ッ…」


ほむら「美樹さん!」

さやか「………」


ほむら「今のは酷過ぎます! 鹿目さんは美樹さんの為を思って…」

さやか「そうだね…」



さやか「アンタだけは、まどかを裏切らないであげてね…」

ほむら「美樹さん、何言って………」



まどか「さやかちゃん…」

さやか「ついてこないで」


さやか「一人に……、してよ……」



まどか「………」

ほむら「………」

641: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:32:35.17 ID:LEsOYMVs0

最低だ…。

何言ってんだよ、あたし…。


まどかだって…。

まどかだって辛いのに…。当たり散らして…。


それにほむらだって、また何時襲われるかわからないのに…。

置いて…、来ちゃって…。




もう救いようがないよ…。

もうどうしようもないよ…。

642: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:33:28.91 ID:LEsOYMVs0

わたしは、さやかちゃんを追えなかった。

うぅん、追わなかった。

また、拒絶されるのが怖くて…。


さやかちゃんの言う通り『化け物』のわたしが、掛ける言葉なんて無くて…。

『戦いの道具』としても、さやかちゃんの役に立てなかったわたしが言える言葉なんて…。


だから、答えられなかった…。

泣きそうな顔をしたさやかちゃんの問いかけにも…。





わたしは、すぐにそれを後悔した。

でも、それでも遅すぎた。


マミさんや杏子ちゃんと一緒…。

一日経っても、二日経っても、三日、四日と経っても…。



さやかちゃんは戻ってこなかった。

643: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:34:14.47 ID:LEsOYMVs0

――見滝原市内廃墟――



マミ「………」


魔法少女は魔女になる。

それは私自身も魔女になる卵も同然と言う事。

また、魔女と言う存在も魔法少女の成れの果てだと言う事。


そして、それは私がやってきた魔女退治も、美国織莉子達の魔法少女狩りも、結果としては大差がないという事…。



私はたくさんの命を奪ってきた罪人で…。

それに何時魔女になるかわからないから…。


だから、そうなる前にって…、そう思ったのに…。

でも、佐倉さんはそんな私を庇って…。

644: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:35:09.71 ID:LEsOYMVs0

マミ「もう…、わからない…」

マミ「何が正しくて…。どうすれば良いのか…。

   もう、私には…」


???「そう、それは良かった」

???「随分長持ちしたようだけど…。醜態を曝し続ける貴女は見るに堪えない…」


織莉子「だから、私がこの手で葬ります…。後回しにして、多くの被害を出す魔女になる前に、ね」



マミ「貴女…達」

キリカ「わからないんだろう? 考えたくないんだろう?

    なら、もう何も考える必要はないよ」


キリカ「善も悪も全て織莉子が決めてくれる。そして、キミは悪として裁かれろ!」



織莉子「安心していいわ。寂しい思いはもうさせない。

    ………ある事をきっかけに貴女の後輩達も直に全滅する」

マミ「まさか…」



織莉子「えぇ。美樹さやかは魔女になる」



―to be continued―

645: ◆.2t9RlrHa2 2011/11/26(土) 00:35:39.79 ID:LEsOYMVs0

―next episode―


「未来? 運命? そんなモンで勝手に決められて、それだけの為に殺されてたまるか!」





―【第十六話】それぞれの選択―


659: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:18:31.35 ID:Wtqdz5oh0

それが起きたのは突然だった。


チャイムをならしたのは、いつもの宅配のおにいさん。

それを取りに行ったのはママ。


受け取りに出たママは、そんなのたのんでないとおにいさんと言いあってた…。

その時だった。



なにかがピカっと光ったと思ったら、知らない場所にいて……。

そこには宅配のおにいさんとママと、すんでいるマンションのみんなもいて…。


そして、みんなそこに居たこわいこわいお化けにおそわれた。

660: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:19:02.09 ID:Wtqdz5oh0

ママも、宅配のおにいさんも。

おうちに入れなくて泣いていたわたしに親切にしてくれたおじいさんも。

昔はよく遊んでくれたおねえさんも。

たまに作りすぎたと煮物をもってきてくれるおばさんも。


みんなみんなこう言った。


「苦しい」

「助けて」

「死にたくない」




いつもいつもわたしに冷たかったママもそう言った。

ママは初めて、わたしを必要としてくれた。


ママだけじゃない。

苦しそうにしてるみんなみんな、わたしにそう言った。




「力になりたい」

そう思ったとき、あの声は聞こえてきた。

661: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:19:30.34 ID:Wtqdz5oh0







―【第十六話】それぞれの選択―










662: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:23:03.37 ID:Wtqdz5oh0


――使い魔結界内――



さやか「アハハハハ…! ハハハッ!!!!!」


さやか「やり方さえわかっちゃえば簡単なモンだね。

    これなら負ける気がしないよ」


薄暗い結界の闇の中、使い魔が一匹、また一匹と切り裂かれる。

魔女になれる日も近かったのか、やたら攻撃が激しい。

が、今のあたしにはそんなモノは意味を成さない。


攻撃が直撃しても……。

傷を負っても、穴が開いても、止まらない……。



なぜなら……。

今のあたしは痛みと言うモノを感じないから…。

663: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:24:01.92 ID:Wtqdz5oh0

全ては…。

あの夜、アイツが言った通りだった。



さやか『こんな身体になっちゃって…』

さやか『あたし、どんな顔して恭介に会えばいいのかな…』


QB『随分と荒れているようだね』


突き付けられた真実に苦しむあたしの前に、あの白い生き物が現れる。

黒い魔法少女にグチャグチャにされて死んだ筈の、あのQBが…。



さやか『QB、アンタ生きて……』

さやか『うぅん、それより……。何で教えてくれなかったのよ!』


QB『聞かれなかったからさ。知らなければ知らないままで、何の不都合もないからね。

   実際、戦いにおいては便利だろう?』



さやか『大きなお世話よ! そんな余計な事……!』


QB『君は戦いという物を甘く考え過ぎだよ。

   例えば体を貫かれた場合、肉体の痛覚がどれだけの刺激を受けるかって言うとね』

664: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:24:44.31 ID:Wtqdz5oh0

その声、姿、しぐさ。

今となっては全てがわざとらしく見えるアイツは、机に置いてある私のソウルジェムに触れる。

そして、その瞬間、私の体に激痛が走る……。



さやか『うぐぁぁぁぁぁぁッ!!!!!』


QB『これが本来の痛みだよ。ただの一発でも、動けやしないだろう?』


QB『君が今まで戦って来れたのは、強過ぎる苦痛がセーブされていたからさ。

   君の意識が肉体と直結していないからこそ可能なことだよ』



さやか『ぐ………ぅ……』

QB『慣れてくれば、完全に痛みを遮断することもできるよ。

   最も、それはそれで動きが鈍るから、あまりオススメはしないけど』



さやか『何でよ……。どうして私達をこんな目に……!』


QB『戦いの運命を受け入れてまで、君には叶えたい望みがあったんだろう?

   それは間違いなく実現したじゃないか』

665: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:25:25.03 ID:Wtqdz5oh0

願いは実現した。

その点だけは、間違いなくアイツは正しかった。


あたしが勝手に『その願いの先』を期待しただけで…。

あたしが思うよりも遥かに、願いの代償が大きかっただけで…。

恭介の願いが叶う代わりに、あたしの願いは絶対に叶わなくなっただけで………!




結局、薄ら綺麗な事を言いながら、あたしは恭介に見返りを求めてただけなんだ。


だから、仁美に嫉妬した。助けなければよかったなんて最低な事まで思った。

それだけに飽き足らず、あたしはまどかにまで八つ当たりをした。


最後まであたしの事を心配してくれたあの子に…!

666: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:26:24.72 ID:Wtqdz5oh0

こんな最低なあたしは、あそこには戻れない。

戻ったらきっと、みんなを傷つけちゃう。

だから…。



さやか「あたしは戦い続ける………」


さやか「使い魔も………、魔女も………、

    悪い魔法少女も………、あたしが全部倒す………」


さやか「そう………、決めた…………」



化け物は化け物らしく、道具は道具らしく。

戦って、戦って、戦って、戦って、戦って…。


そうやって、ずっと戦い続けよう……。



きっと、それだけが…。

あたしに残った存在意義だから………。




667: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:26:54.38 ID:Wtqdz5oh0

不気味な月が輝き、道行く人の姿も見かけなくなった夜遅く…。

美樹さん達を探すも、見つけられなかった私達二人は、鹿目さんの家へと帰宅する。

あれから私は、鹿目さんの提案で、ずっと彼女の家にお邪魔になっている…。



まどか「…………ただいま」

ほむら「すいません。今日もお邪魔します……」


最初は、前に来た時のような温かい家庭だった。

でも、今はその玄関の扉が重い…。



知久「いらっしゃい。ほむらちゃん。

   …………まどか、君は言う事があるだろう」


まどか「…………」

知久「遅くなる時は連絡くらい……」


詢子「いいよ。そんな事は後回しだ」

詢子「それよりも、まどか………。

   お前、本当にさやかちゃんの事、何も知らないのか?」


まどか「………………知らない」


詢子「あの子が行方不明になって4日…。

   いい加減、洒落じゃ済まない事くらいはわかるよな…?」

668: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:27:30.91 ID:Wtqdz5oh0

詢子「ご両親も、和子も心配してる。

   何でも良い。何か知らないか?」

まどか「……………」



詢子「まどかッ!!!!!!」


まどか「…………知らないって言ってるでしょ!!!!

    いい加減しつこいんだよッ!!!!!!」


詢子「ッ…!」

詢子「………しつこくもなるだろ! あのさやかちゃんの行方がわかんねぇんだぞ!!!!」



まどか「うるさいなぁ……! そんなに知りたいなら教えてあげるよ……!」

ほむら「鹿目さん…?」


まどか「わたしも、さやかちゃんもね……! もう人間じゃな……」

ほむら「鹿目さんッ!!!!!!!」


まどか「ッ………」


ほむら「す、すいません。私、忘れ物を思い出しました!

    ちょ、ちょっと鹿目さんと一緒に取りに戻りますね!」


詢子「ちょっと待て! おいッ!!!!」

669: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:28:17.08 ID:Wtqdz5oh0

病みきった鹿目さんと、頭に血が上った鹿目さんのお母さん…。

この二人を一緒にしておけば、さっきのように鹿目さんが自棄を起こしてもおかしくない。

そう思った私は、鹿目さんの手を取り、全力で駆け出していた。



ほむら「はぁ…、はぁ…、はぁ…」

ほむら「逃げて…来ちゃいましたね…」

まどか「…………」


息が上がり、立ち止まっても、鹿目さんのお母さんが来る様子はない。

玄関で大きな音がしたから、そっちも心配だけど、引き返すわけにもいかない…。

それならば…。



ほむら「このままもう一度、美樹さんを探しましょう」

まどか「いいよ。もう無理だよ………」


まどか「本当はあの時、わたしはさやかちゃんを支えてあげなきゃいけなかった……。

    でも………」


まどか「わたしには言えなかった……。

    さやかちゃんの言う通り……、戦うことしかできない道具で……」

    その道具としてもさやかちゃんの役に立てない、中途半端なわたしには……!」

670: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:28:57.02 ID:Wtqdz5oh0

ほむら「そんな事…」


まどか「結局、わたしは……、駄目なわたしのままだった…。

    魔法少女になって変わった気になっていただけで…。


まどか「さやかちゃんのように優しくも、マミさんのように強くもなれなかった…」


まどか「自分が辛いからって…、マミさんと杏子ちゃんを見殺しにして…。

    そればかりか…」


まどか「一人ぼっちのわたしに手を差し延べてくれて…。ずっと傍にいて、支えてくれた大切な人一人…、

    支え返してあげることさえ出来なかった…!」




ほむら「鹿目さん…、それって…」


まどか「さやかちゃんはね…。

    転校して来たばかりで、一人ぼっちで不安だったわたしに手を差し延べてくれたんだ…」


まどか「それからずっと傍にいてくれて…。いつもわたしを守ってくれて…。

    こんな何も出来ないわたしを友達だって言ってくれた…。なのに…!」


まどか「わたしはそのさやかちゃんを守ることも…、助けることも…。

    言葉一つ掛けてあげることさえできなかった…!」

671: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:29:28.07 ID:Wtqdz5oh0

鹿目さんの悲痛な嘆き…。

私はそれに少しだけ驚く。


強い口調に怯んだんじゃない。


彼女は何もかも…。

本当に何もかも、私と一緒だった。

だから…。



ほむら「鹿目さんの気持ち、わかります…」


まどか「知ったような事言わないでよ!!!

    わかるわけ…」


ほむら「わかるんです」



ほむら「鹿目さんが美樹さんに感謝し、想っているように……。

    私は鹿目さんに感謝し、想っているんです」


ほむら「だって、私は……、鹿目さんに手を差し延べてもらって…。

    傍にいてもらって……、支えてもらったんですから………」


ほむら「だから、今の私は鹿目さんと全く同じ思いを抱いているんですよ…?」

672: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:31:22.34 ID:Wtqdz5oh0

まどか「ほむらちゃん…」


ほむら「だからこそ言えます…。鹿目さんは、今ここで立ち止まっちゃ駄目です…」


ほむら「美樹さんに感謝しているなら…。

    大切に思ってるなら…、今こそ美樹さんを支えてあげるべきです…」


まどか「でも、わたしは『化け物』だから…。

    こんなわたし、さやかちゃんはもう…」


ほむら「関係ないです! 鹿目さんは鹿目さんです…!

    それは魔法少女がなんであろうと変わらない…」


ほむら「私を救ってくれて…、私が憧れてて…、私が大好きな…、鹿目さんである事には…!」


ほむら「だから……、こんなわたしなんて……。

    もう……、言わないで…」

673: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:31:52.69 ID:Wtqdz5oh0

思わず溢れてしまう涙。

そして、私の言葉はそのまま止まってしまう。


もっと言いたい事があるのに…。

言わなきゃいけないことがあるのに…。

私の言葉は涙に塞き止められてしまう…。


喋りたいのに言葉が出ない。

それが堪らなく悔しい。


鹿目さんが苦しんでるのに…。

鹿目さんが悲しんでるのに…。

私こそ鹿目さんの力になってあげなきゃいけないのに…。

その言葉が出せない…。



結局、力無く泣くことしか出来ない私。

でも、鹿目さんはそんな私を見て、ゆっくりと顔を上げた。

674: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:32:31.57 ID:Wtqdz5oh0

ほむら「うっ…く……、ひっく…、ぐす…」

ほむら「かなめさんっ……、わたし…」


まどか「ほむらちゃん……、ごめん……」




まどか「それと…、ありがとう…」

ほむら「え…?」



まどか「ほむらちゃんに言われて…、想いを聞いて…、その涙を見て…。

    やっと……、わかった…」


まどか「わたしはわたしで…、さやかちゃんはさやかちゃんで…。

    そして、わたしはさやかちゃんが大好きで…」

まどか「その気持ちは人であっても、そうでなくても、変わらないんだって…」


まどか「だから………」



まどか「『化け物』でもなんでもいい。

    わたしは、『さやかちゃん』を失いたくない…」

675: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:33:06.39 ID:Wtqdz5oh0

まどか「マミさんと杏子ちゃんの事だって……、何もわからないまま諦めたくない」

ほむら「ぐずっ…、それなら…!」


まどか「うん…! 我が儘でごめん…。だけど、わたしみんなを探しに行きたい…!

    そして、出来るなら助けたい…!」

まどか「ほむらちゃんを危険な目に会わせちゃうかもしれない…。

    でも、わたし必ず守るから……。だから……」


ほむら「はいっ! 付き合いますっ…!

    私も…同じ気持ちですからっ…!」


まどか「ありがとう、ほむらちゃん…!」


涙を拭うためのハンカチを貸してくれた鹿目さんは、いつもの…。

強い意志と優しさを宿す鹿目さんの姿で…。


私はその背中を追うように、一緒に走り出した。

676: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:34:31.37 ID:Wtqdz5oh0

見滝原市内の廃墟。

絶望し、そこで佇むだけの私の前に現れた白と黒の魔法少女は…。

駄目押しと言わんばかりにさらに冷酷な現実を突きつける…。



織莉子「もう一度だけ言ってあげるわ。美樹さやかは魔女になる。

    そして、それを救おうとして鹿目まどかと、その場に居合わせる暁美ほむらも倒れる」


マミ「そんな………」

キリカ「これでいいんだよ。これが正しいんだよ。

    世界を滅ぼす存在が消えるんだ。たくさんの人が救われるんだ」


マミ「こんな………、こんなのって……」

キリカ「いい加減認めなよ。織莉子の言葉の正当性はわかっただろう?」


織莉子「無理でしょうね」

キリカ「………」

織莉子「それを受け止めれば、暁美ほむらを裏切る事になり、受け止めなければ、暁美ほむらに裏切られる。

    手詰まりなのよ。彼女の正義も思いも」


キリカ「少しだけ同情するよ。

    だから、最期はこの手で……!」


???「させないよ…………!」

677: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:35:13.27 ID:Wtqdz5oh0

振りあげられた凶爪を妨害するように揺れる大地。

走った衝撃に足を取られ、黒い魔法少女は態勢を崩す。



キリカ「ちっ…! 誰だ!」


???「………そっちのおねえさんは、よく知っている筈だよ」

???「なぁ? 美国織莉子ッ!!!!」



キリカ「ぐぅッ! お前は……!?」

織莉子「……………間に合わなかった」


大地を揺らす攻撃を行ったんであろう魔法少女が私を守るように立ち…。

もう一人、別の魔法少女が黒い魔法少女へ追撃を仕掛ける。


一人は、猫耳に尻尾、そして可愛らしい衣装と小柄な背丈に似合わないハンマーを持つ、

見慣れない姿と聞き慣れた声の少女………。


そして、もう一人は………。

678: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:35:52.37 ID:Wtqdz5oh0

ゆま「助けにきたよ、マミおねえちゃん」

マミ「やっぱり、ゆまちゃん………。

   それに………」





杏子「いつまでヘタレてんだよ、バ~~~カ」

マミ「佐倉さん…………!」


夢でも見ているんじゃないかと思った。


私を庇い、死んだと思っていた佐倉さんと………。

魔法少女ではない筈のゆまちゃんの二人が、私の危機を救うべく駆けつけてくれたのだから。


残酷な現実ばかりが突き付けられる中、ようやく訪れた一筋の奇跡と希望。

それは確かに嬉しかった。

でも………。



それでも、私達魔法少女の危険性と存在意義は…………。

679: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:42:47.49 ID:Wtqdz5oh0

杏子「ゆまに助けられてね。

   ただ、体は癒えても、ジェムの穢れがなかなか落ちなくてな……。

   遅くなっちまった。悪ぃ……」


マミ「うぅん……。いいの……、いいのよ……。

   無事で居てくれたなら、それで……」



杏子「さ~て、感動の再会と行きたいが、その前にけじめ付けて貰いたい奴がいるんでね」

杏子「なぁ………?」


織莉子「…………」


杏子「覚えていないとか、ふざけた事は抜かさないよな?

   テメェがゆまにした事………、知らないとは言わせねェぞ!!!!」

680: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:43:38.25 ID:Wtqdz5oh0

マミ「何があったの……?」

杏子「簡単に言えば、コイツはグリーフシードをゆまの家に送り付け、魔女に襲わせたのさ」

マミ「暁美さんの時と同じ……。でも、何故……」



ゆま「あれをゆまの家に送ったのはおねえさんでしょう?」

織莉子「………」




ゆま「おねえさん……」

杏子「答えろよッ!!! このイカレ野郎!!!!!!」



織莉子「えぇ……。それを送ったのは私です」



マミ「美国さん、あなたは………!」

杏子「何の為にそんな真似をした!?」

681: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:44:37.96 ID:Wtqdz5oh0

織莉子「足止め」

杏子「は……?」


織莉子「インキュベーターと暁美ほむらを接触させない為の足止め」


織莉子「その為に、私は彼に素質のあるその子を紹介した。

    そして契約が難航し、一旦その場を離れようとする彼を再びその子の元へと戻す為に、

    到着する頃に孵化するであろう、穢れを溜めきったグリーフシードを送り付けた」


杏子「足止めだと………。

   たった、それだけの為に…!」



織莉子「ありがとう。貴女達の『犠牲』で、世界は救われるわ…」



ゆま「たくさん……、死んだんだよ……。

   ゆまも……、頑張ったけど、それでもたくさん死んだんだよ……?」


織莉子「暁美ほむらを止めなければ、未来には全てが滅ぶ。

    全てが滅ぶなら、その人達の迎える結末は変わらない。それがその人達の運命だったのよ」


杏子「ふざけんな………」

杏子「未来? 運命? そんなモンで勝手に決められて、それだけの為に殺されてたまるか!」

682: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:46:17.37 ID:Wtqdz5oh0

織莉子「決めているんじゃない。決まっているのよ」


杏子「違ぇだろ! 殺してるんだよ! 他ならぬテメェが!

   まだ死んでいなかった奴を、何時かは死ぬ、やがては殺される、それだけの理由で!」


キリカ「救えないものは切り捨てて、より多くを救う。

    10を守る為に1を、100を守る為に10を犠牲にしても、10の内9、100の内90が助かる。

    子供にでもわかる単純な計算だよ?」



杏子「…………その1や10に選ばれた奴は塵同然ってか。

   上等だよ!」


杏子「だったら、アタシは世界なんてもうどうでもいい!

   切り捨てられる奴の代表として、徹底的にお前らに抗ってやるよ!!!!」



織莉子「自分達が生き残るためだけに、世界を……、多くの人々を犠牲にするというの……?」


杏子「ハッ! 知るか! 生憎とアタシは正義の味方はとうに卒業しててね]


杏子「『守りたいモノを最後まで守り通せばいい』。

   それだけが今のアタシの信条さ」



杏子「その守りたいモノが切り捨てられる世界なんて………、クソ食らえだ!!!!」

683: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:47:53.20 ID:Wtqdz5oh0

織莉子「何が……、何が守りたいモノだ……!」

織莉子「その身勝手が……、あなたのような存在が……、人々を苦しめ、世界を滅ぼす!」


織莉子「貴女は、生かしてはおけない……!」


キリカ「くくくあっはははは!!!! 面白馬鹿みたい!!!」


佐倉さんの言葉に怒りを顕にした白い魔法少女、そしてそれに付従う黒い魔法少女。

二人は魔力を以て各々の武器を作り上げると………。

一気に佐倉さんに向かって襲い掛かる。



キリカ「キミのような奴は逆に良い! 織莉子が良心を痛める必要が無いからね!」


織莉子「魔法を使った暴力、窃盗、破壊行動……、自分本位の犯罪の数々!

    魔法少女だの危険思想だのの以前の問題……!」


織莉子「貴女のような害虫は、この世界に必要無い!!!!」


動きの読みにくいトリッキーな爪攻撃。

そして、予知を用いた的確過ぎる援護。

型破りと型通りが合わさり、完璧なコンビネーションを生みだす。


速度低下の魔法も手伝っているのか、佐倉さんは一方的にダメージを受け続ける。

それでも、彼女は逆に不敵に笑う……。

684: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:49:27.45 ID:Wtqdz5oh0

杏子「害虫ね……。良いじゃねぇか、アタシらしくてさ」

杏子「神様気どりの糞野郎よりは、よっぽど気分が良いね!」


織莉子「黙りなさい! 自分の事だけを考え、ただただ周囲に害を及ぼす害悪がッ!!!!」

杏子「ぐっ…、かはッ……!」


両手の爪による激しい攻撃の果てに槍を弾かれ、そこへ当然のように魔力球が叩きこまれる。

血反吐を吐き、背中に重傷を負った佐倉さん。

それを見て小さな魔法少女が駆け寄る……。



ゆま「キョーコは、ゆまが守る……!」

杏子「悪ぃ………」


立ち上がろうとする佐倉さんの傍らに来たゆまちゃんは、治癒魔法で彼女を癒す…。

しかし、その背後には…。

685: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:50:19.55 ID:Wtqdz5oh0

キリカ「邪魔だよっ!」

ゆま「うわぁぁぁぁっ!!!」


杏子「ゆまッ!!!!」

織莉子「彼女の事を気にする必要はないわ。

    先に終わるのは貴女なのだから…!」


佐倉さんが治癒魔法で癒えた直後、彼女達に迫った黒い魔法少女が笑う。

ゆまちゃんは咄嗟に反応し、その攻撃を受けるも止め切れず、大きく吹き飛ばされる。

そして、それを視ている佐倉さんは魔力球に襲われる…。


圧倒的不利。

この状況を変えられる存在は、この場にたった一人しかいない。

686: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:51:15.25 ID:Wtqdz5oh0

ゆま「マミおねえちゃん! おねがいだよ……、キョーコをたすけて!」


マミ「戦いに……」

マミ「生きる事に……、意味が見出せないのよ……」


マミ「私達魔法少女はいつかは魔女になる存在で………。

   私が守ろうとしたあの子は、やがて世界を滅ぼす存在………」


マミ「なら、生きる事に意味はあるの……?

   生かす事は正しいの……?」


ゆま「マミおねえちゃん………」



杏子「わかるよ………」

杏子「アタシも同じ事考えた。将来魔女になるのに、何一生懸命になってんだ……って」

杏子「でもさ………、アンタはさっきアタシの姿を見て喜んでくれたろ?

   魔女になるから死んでも良いって思わなかったろ?」


杏子「アンタだって同じだよ」

杏子「アタシがずっと憧れて……、離れても忘れられなかった大切な人……。

   『巴マミ』のまま………」


杏子「『いつかはいまじゃない』。

   だから今はまだ、アンタは『巴マミ』なんだよ」

687: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:51:51.76 ID:Wtqdz5oh0

杏子「なんて……、全部ゆまの受け売り……」

キリカ「ペラペラ喋る余裕がどこにあるッ!!!」

杏子「くっ…!」



ゆま「ゆまもね、ママにいじめられたとき、考えたよ。

   このまま死んじゃった方がいいって」


ゆま「こうやって、ずっと痛くて、苦しくて、寂しいのがつづくなら……って思ってた。

   でも………」

ゆま「ゆまはあきらめずに生きたから、みんなに会えたんだよ。

   キョーコにも、サヤカにも、マミおねえちゃんにも……!」


ゆま「このままマミおねえちゃんが何もしなかったら、いつかはいまになる……」

ゆま「マミおねえちゃんは、ほんとうにいま死ぬの?」



マミ「いつかは…………、今じゃない………」

マミ「じゃあ、私は…………」



織莉子「………このままではまずい。キリカ!!!!!」

キリカ「一気に勝負を付けるんだね! わかったッ!!!!!」

688: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:52:32.53 ID:Wtqdz5oh0

状況が変わる前に、と白と黒の魔法少女が先手を打つ。

黒の魔法少女は、その爪の数を3本づつから5本づつへと増やし、佐倉さんに攻撃を繰り出す。



キリカ「さぁ、散ね!!!!!」


杏子「踏み込みが浅ぇッ!」


攻撃は避けられるも、その隙に白の魔法少女は周囲に無数の魔力球を発生させ始め……。

いつも繰り出す倍以上の数になると、一斉にそれを放つ。



織莉子「受け入れなさい! 貴女の運命を……!」


キリカ「そうさ、これがキミの運命だ!!!!」


魔力球は佐倉さんの全周囲から迫り、取り囲むように飛び交う……。

そして、その中に十本の魔力爪を携えた黒い魔法少女が向かっていく……。

689: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:53:33.44 ID:Wtqdz5oh0

杏子「どうせ織莉子の攻撃は切り払えねぇ……」

杏子「なら、一か八かだ………!」


佐倉さんの周囲を舞う魔力球は、思念操作系の動きを見せている。

それは、黒い魔法少女への誤射はまずあり得ないと同時に、

予知の力を持つ彼女自身が操っている以上、多節槍による範囲攻撃を出しても当たらないと言う事になる。


だからこそ、佐倉さんは槍を真っ直ぐ構え、黒い魔法少女を迎え撃とうとしている。

でも………。



マミ(相手を取り囲む包囲攻撃……)

マミ(でも、魔力球を同時突撃させることはしない……)

マミ(させたくないのは回避…? したいのは足止め…?)


マミ(まさか……!)

マミ(だとしたら、それは駄目………!!!!)

690: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:54:53.88 ID:Wtqdz5oh0

キリカ「終幕だよッ!!!!!」

杏子「終わるのは、お前だけどな!!!!」


先手を仕掛けたのは、武器のリーチに優れる佐倉さんの方。

魔力球の包囲からの脱出を捨て、予知の影響を受けない前衛へ攻撃を集中する。


でも、それこそが敵の狙い。

最も、その狙いに気付いていたとしても、佐倉さんにはどうにもできなかったんだろう…。



佐倉さんの槍が届く前に…。

敵は両手の5本づつの爪を1本づつへと束ねる。


一点へと収束された魔力爪は迫った槍へと向けられ……。

その槍をいとも簡単に真っ二つにした。



キリカ「束ねた十手は、一手で百手の強さとなる……!

    さよならだ!!!  罪人!!!!!!」


杏子「クソッ……!」


敵の右手の一撃で獲物を失った佐倉さんは丸腰となり…。

続けて繰り出された左手の一撃で、その体も横に両断された。

691: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:55:56.83 ID:Wtqdz5oh0

杏子「かぁッ………」

ゆま「キョーコッ!!!!!! 今治すよ!!!!!」


切り離された佐倉さんの体を繋ぎ合わそうと、佐倉さんへ駆け寄ろうとするゆまちゃん。。

しかし、黒の魔法少女はそれを許さない。


まだ浮いたままの佐倉さんの上半身の前で、両手の爪を振りあげ…。

さらに、両手の爪を一本に収束させ始める。



キリカ「その隙は与えない!!!!!

    次は一手で千手だッ!!!!!!!!」


杏子「………!」

ゆま「ッ………!」


キリカ「じゃあね! ばいばい!!!!!!!」



















マミ「ティロ・フィナーレッ!!!!!!」

692: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:57:37.35 ID:Wtqdz5oh0

間に合え……!

そう念じた甲斐があったのだろうか。


私の攻撃の中で、唯一あの収束された魔力爪を破壊できる可能性を持つ切り札…。

『ティロ・フィナーレ』の生成、砲撃がギリギリで間に合う……。


大出力の魔力を放つ砲撃は、敵の二つの爪が一本になるギリギリで左の爪に直撃。

収束されて強度も増している筈の爪をへし折り、さらにその衝撃を以て彼女自身も吹き飛ばした。



キリカ「ッ! く…ぁ…!」

織莉子「巴マミ、貴女はッ………!」



杏子「集中を解いたな? 隙だらけだ…!」

織莉子「!? しまった……!」


怒る白い魔法少女の隙を、ゆまちゃんの魔法で体を戻した佐倉さんが突く。

繰り出された多節槍による範囲攻撃は、予知による回避を行う前に、瞬く間に魔力球の包囲を薙ぎ払った。

693: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 00:59:07.19 ID:Wtqdz5oh0

杏子「ったく………、遅ぇよ」

マミ「ごめんなさいね……」


マミ「でも………、もう迷わない。

   私は私で………、私の信じたやり方で、前に進むわ」




織莉子「ふざけた………、ふざけた事を……!」


織莉子「魔女へ変わる魔法少女! 世界を滅ぼす暁美ほむらの存在!

    その危険性……! なぜ、それがわからない!!!!!」


マミ「わかっているわよ。あなたの言葉も、その行いの意味も。

   でも………」


マミ「やはり、私はあなたの傲慢なやり方を肯定する事は出来ない」



織莉子「傲慢? 傲慢なのは貴女達でしょう?

    何時か世界を滅ぼす存在を守る貴女達こそが……!」


マミ「何時か、やがて、未来は、運命だから」

マミ「あなたが見ているのは結果ばかり。過程がまるで見えていない」


マミ「だから傲慢だと言っているのよ……」

694: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:00:11.69 ID:Wtqdz5oh0

織莉子「なら、平和的に話し合う? それでは元凶を消せない以上、根本的な解決にはならない。

    そもそも、一人の人間の為に世界を滅ぼすリスクを背負うなど…」


マミ「世界を滅ぼすリスク自体は、あなたの行動にだってある」


織莉子「………」


マミ「あなたが止めようとしているのが物ならば、それが正解でしょう。

   でも、相手は感情を持った人間なのよ」


マミ「非道な行いをされれば苦しみ、大切な人を傷つけられれば悲しむ……。

   そして、追い詰められた人間は何をするかわからない。大切なモノの為なら尚の事…」


マミ「事実、暁美さんに契約の意思はなかった…。

   でも、あなた達はその彼女を追い詰め、契約してもおかしくない状況を作っている…」



マミ「世界を滅ぼす存在を消す事に捕われすぎて、一つ間違えば世界を滅ぼす状況を作り出しているのよ!」

695: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:00:59.32 ID:Wtqdz5oh0

マミ「あなたの行っている行為はね……。どうしてもわかりあえない相手に降す最後の手段…。

   でも、それを行えば、そこから憎しみの連鎖が始まる…」


マミ「敵意を以て向かえば敵意で返される。そうやって人は憎みあい、滅ぼしあって来た。

   それを魔法少女の力で行いあえば、どうなるかわからないあなたではないでしょう…?」


マミ「加害者になる筈の者をあなたが狙っても、今度はその人やその周囲が被害者になって、結局憎しみは広まる。

   魔女になると言う結末だけを視て相手を一方的に狩れば、別の誰かが憎しみに満ちた堕ちやすい魔法少女になるだけ」

マミ「そして、そんなやり方を続けるのなら、

   ここで暁美さんを殺しても、また他の誰かが世界を滅びへ導く未来が視えるでしょう」


マミ「必要だったのよ、あなたにも。

   言葉で語り合う事こそが……」



織莉子「くだらない……」

織莉子「そんな甘く、くだらない道徳に感けている間に状況と言うものは悪化する。

    そうやって後手に後手に回り続け、やがて取り返しのつかなくなる前に……」


マミ「ねぇ、美国さん」


マミ「そのくだらない道徳を捨てた魔法少女は…………、魔女と何が違うの?」

696: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:01:33.79 ID:Wtqdz5oh0

織莉子「……………」


織莉子「……構わない」

織莉子「私は魔女で構わない」


織莉子「救世を成し遂げる事が出来るのなら…………!

    心を失くした魔女になっても、私は私の目指す救世を成す……!」


マミ「…………」



織莉子「………やはり、わかりあえないのね」

マミ「そうね………」



織莉子「なら……」

マミ「私は……」



織莉子&マミ「勝って、自分の道を進む……!」

697: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:02:18.85 ID:Wtqdz5oh0

キリカ「ねぇ、織莉子。何故言わなかったの…?」

織莉子「何を…?」


キリカ「予知で視た時、暁美ほむらを説得する方法では、結果は変わらなかったって…」


織莉子「私と『あの時点での彼女』では、結果を変える未来は視えなかった。

    でも、『今の彼女』ならどうなるかはまだ視えていない」


織莉子「そして、視えていないモノを頭ごなしに否定する事は出来ないから…」

キリカ「………」



織莉子「それでも、そんな不確かな可能性に全てを預ける事は出来ない…。

    だから、私は彼女を倒し、全ての元凶を取り除く……!」


キリカ「わかった…。なら、私はアイツを刻もう…」


キリカ「全力を以て……!」

698: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:02:56.14 ID:Wtqdz5oh0

マミ≪ゆまちゃん、あなたは下がって≫

ゆま≪ゆ、ゆまも戦える……。戦えるよ…!≫


マミ≪わかってる。だから、合図をしたらさっき繰り出したあの攻撃をお願い≫

ゆま≪うん…!≫



杏子「マミ…。何考えてやがる?」


マミ「佐倉さん、アレやるわよ…」

杏子「アレ、だぁ…?」




マミ「『ステルミニオ』」


マミ「アレなら速度低下の影響を受けた上でも、彼女を確実に撃破できる…!」

699: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:03:57.99 ID:Wtqdz5oh0

杏子「ちょっと待て…! アレをやるには…」

マミ「頼んだわよ」

杏子「ちょ…、おい!」

   
杏子「無茶苦茶言ってくれるよ……」



キリカ「最後の会話は楽しんだかい…?」

キリカ「でも、続きは『死んでから』にしてくれるかなッ!」


直進してくる黒い魔法少女。

そして、その黒い魔法少女を追う形で飛んでくる魔力球。


予想通り、後衛の私を狙ってきた敵に合わせ、私はゆまちゃんに指示を出す…。




マミ「ゆまちゃん!!!!」

ゆま「えぇぇぇぇぇいッ!!!!!」


先が丸い、どこか可愛らしいハンマーで地面を叩き、大きく揺らす。

当然、それに足を取られるのを避ける為、敵は跳躍して宙へと逃げる…。

700: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:05:04.75 ID:Wtqdz5oh0

キリカ「二度も同じ手にかかるもんか…!」

キリカ「上から行って、切り刻んでやるッ!!!」


私は揺れる地面に残り、片膝と片手を付き、揺れに耐えながらも魔力を地へと放つ。

そして、直進してきた魔力球が当たる直前で、それを食らいながらも後ろへ飛び、魔法を発動させる。



マミ「今よ! レガーレ・ヴァスタリア!!!」


私の一言を以て、仕掛けた拘束魔法が、地面のあちこちから吹き出す。

無数の黄色いリボンは、敵の行く手を阻むように、そして敵を封じるかのように……、

次々と空に向かって伸びて行く…。



キリカ「こんなモノ…! 目暗ましにしかならない…!」


杏子「そりゃそうだ。それは目暗ましと移動範囲に制限を掛ける為だけに放ったんだ」

杏子「アタシが十分にコレを使えるようにな…!」



織莉子「……!?」

織莉子「いけない! キリカ、戻ってッ!!!!」


杏子「もう遅ぇ……」







杏子「ロッソ・ファンタズマ………!」

701: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:06:00.08 ID:Wtqdz5oh0

何かを視たのであろう、白い魔法少女の言葉が響く。

けれど、その言葉が手遅れだと言う事は、僅か数秒後には誰の目にもわかった。


佐倉さんが静かに、けれど力強く放ったその名に呼ばれるように…。

紅の影が一つ、また一つと増え……。


黒い魔法少女のいる、拘束魔法で出来た陣を取り囲むように……。

13人の佐倉さんが、そこに立っていた。



キリカ「なんだ、これは……」


杏子「『ロッソ・ファンタズマ』」

杏子「アタシが昔使ってた…」

杏子「錆びついちまった得意技さ」


杏子「出せるかどうか不安だったんだが…」

杏子「やってみるモンだな」


杏子「どうだい?」

杏子「なかなか壮観だろ?」

702: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:07:48.95 ID:Wtqdz5oh0

分身魔法『ロッソ・ファンタズマ』。

佐倉さんの得意技にして、その願いを映した固有魔法。

彼女の願いと悲劇の元となった『幻惑』の魔法……。



彼女の父親は、教会の聖職者だった。

でも、優し過ぎる彼女の父親は、その思いが強過ぎるあまり、

やがて教義に無い事まで説き始め、教会から破門された。


間違った事は言っていないのに、その言葉には誰も耳を傾けてくれない。

そんな状況を悔しく思った彼女は、『父親の言葉を聞いてくれますように』と願って魔法少女になった。


願いの通り、彼女の父親は新興宗教の一派を築くまでに至るも…。

その全ては魔法の力によるモノだったと知ってしまい、錯乱…。

やがて、佐倉さんだけを残し、彼女の父親は母親と妹と共に一家心中してしまった。


そこで彼女は、自分の願い、そして『誰かの為』に戦う生き方を否定し、一度私と決別した。

そして、同時に彼女はこの技も使えなくなった筈だった。



でも……。

今の彼女は間違いなく『誰かの為』に戦っている。

だから、私は賭けてみたのだ。

703: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:08:52.53 ID:Wtqdz5oh0

キリカ「たかが分身で良い気になるなッ…!

    織莉子の力なら、本体を見切る程度、造作も無いんだよ…!」


キリカ「織莉子っ!」

織莉子「駄目…。脱出する方法が…」


キリカ「織莉子…?」


杏子「そいつに聞くまでもねぇよ」

杏子「そんなに知りたいなら」

杏子「教えてやる」


杏子「アタシが本物だ」

杏子「最も、そんな事がわかっても意味はねぇけどな…!」


自ら本物を名乗った佐倉さんが指を鳴らし…、分身の内の三体が多節槍を伸ばす…。

黒い魔法少女の動きはあまりに速く、それらの攻撃を掻い潜り、本物へ向かうも…。

さらに次の四体が放った多節槍はさすがに振り切れず、左肩と右脇に命中した。

704: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:10:58.93 ID:Wtqdz5oh0

キリカ「くふッ……」


黒い魔法少女は直撃した左肩と掠めた脇腹から血を流す…。

そして、一旦戻されていく多節槍を驚嘆の目で見る…。



キリカ「この分身…。攻撃力、いや…。実体があるのか…?」


杏子「いいや、そいつは幻さ」

杏子「ただ…、お前の頭は、体は、目は、耳は、鼻は…」

杏子「この幻と幻のした事を『実在するモノ』として認識する」


杏子「だから見えるし、聞こえるし、触れるし、当たれば痛みも感じる」

杏子「さらに見てわかる通り、幻はアンタ自身にも作用して…」

杏子「攻撃を食らえば、血が出て、骨が折れ、肉が裂け、臓器が潰れる…」

杏子「そう………、錯覚する」


杏子「実体はないが、実体があると感じる幻」

杏子「ま、そこまでくると実体と変わらないかもな」


杏子「って事で、本物じゃない12人も本物と同等の戦力ってわけさ」

杏子「さらに………」



マミ「この攻撃はフォーメーションなの」

マミ「敵を『殲滅』する為の……ね」

705: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:11:45.44 ID:Wtqdz5oh0

黒い魔法少女を取り囲んだ拘束魔法の陣。

そして、それを見つめる佐倉さん達の付近の空間に、無数の円形のゆがみが発生する。


それは次々と数を増やしながら、黒い魔法少女のいる陣の周囲を一周し…。

次の瞬間、その歪みの中から私の獲物であるマスケット銃が一斉に姿を現す。


数え切れない程の量の銃は、当然のようにその中心に砲口を向けている。



マミ「フォーメーション『ステルミニオ』」

杏子「元々は数にモノ言わせてくる使い魔に対する、掃討殲滅用の連携だが…」

マミ「この物量なら、速度低下を受けた上で、あなたを仕留められる…!」


キリカ「こんな……、こんなところで…」

織莉子「キリカをやらせて………、たまるかッ!」




杏子「さっきも言ったろ。もう遅ぇ!!!」


マミ「一斉掃射!!!!!!」

706: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:13:15.68 ID:Wtqdz5oh0

私の掛け声に合わせ……。

マスケット銃による弾丸の雨霰と、13人の佐倉さんによる多節槍の範囲攻撃が同時に繰り出される……。


殺傷力の高い槍先、破壊力に優れる分銅、鎖を伴う柄による打撃…。

飛び交い、弾け、貫き続ける弾丸の嵐…。

おまけに拘束魔法で作られた陣と伸びた多節槍の柄が、その動きを制限する。


逃げる事も防ぐ事も許されない一斉攻撃。

それは、獣のように身軽だった黒い魔法少女にさえ、回避を行わせない。



キリカ「う……あ……ぁ……」


織莉子「キリカぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」


無数の弾丸に貫かれ、多節槍の槍先に裂かれ、それでも可能な限りの防御と回避を行おうとする…。

その彼女を救うべく、白い魔法少女は魔力球を中に飛ばすも、そんなモノが届く筈もなく…。

やがて、黒い魔法少女は無残な姿となり、地面に転がった。



宙には無数の拘束魔法のリボンの切れ端が、返り血で赤く染まりながら舞っていた…。

707: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:14:58.22 ID:Wtqdz5oh0

織莉子「キリカッ! キリカぁぁぁぁッ!!!!」

キリカ「………」


本来なら肉塊になってもおかしくない量の攻撃を受け、尚も体が原型を残したのは彼女の実力の賜物だろう。

ただ、それでも全身がボロボロになった黒い魔法少女に意識などある訳もなく…。

彼女を呼ぶ白い魔法少女の悲痛な声だけが、その場に響き続ける……。



マミ「…………さぁ、撤退しましょう」


杏子「あ…? 見逃すのか、織莉子を…」

マミ「逆よ。見逃してもらうの」


マミ「私は、ここ数日穢れの除去を行っていない…。そして、佐倉さんは元々かなり消耗の激しい分身を久々に繰り出している…」

マミ「対して、あっちは美国さんがまだ余力を残している上…、呉さんが今だ魔女にならず、

   ソウルジェムが破壊できたかもわからない以上、速度低下は持続している可能性がある…」


杏子「速度低下と予知が合わさってる織莉子は、ほぼ無敵。

   おまけに、戦ってる途中で呉キリカが魔女化して、さらに大乱戦になる危険性まである…か。

   確かに消耗しきった今のアタシらじゃ荷が重いな……」


マミ「それに彼女の言葉が本当なら、急がないと美樹さんが手遅れになるかもしれない」

杏子「了解。ここは撤退する」

ゆま「…………うん! 急ごう!」

708: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:16:34.89 ID:Wtqdz5oh0

――??線車両内――



さやか「はぁ……、はぁ……」


さやか「さす…、がに…、しんどい…、な…」


休む事なく敵を探しさまよった弊害か…。

あたしは意識を朦朧とさせながら、ふらふらと歩き…。

辿り着いた電車の席に座りこむ。


席に座った瞬間、状態はますます悪くなり…。

くるくると視界が回り、暗転する。



真っ暗な闇。

何一つ見えない闇。

そして、その闇の中で何故かあたしの声をした幻聴が聞こえ始める…。

709: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:17:32.26 ID:Wtqdz5oh0

さやか?『ねぇ…、疲れてるんでしょ? もうやめちゃいなよ』

さやか『…………』


さやか?『アンタにはもう守るモノなんてないじゃない』

さやか『うるさい…』


さやか?『共働きの両親はアンタなんか見向きもせず…、恭介と仁美に裏切られて…、

     杏子とマミさんを失って…」

さやか?「最後には、まどかとほむらにも失望されて…!』


さやか『ほら、もう何もないじゃん』


さやか『うるさい!!!!! それでも、あたしは…』


さやか?『そんな事したって、何にもならないってわかったじゃない』

さやか?『誰かの為に幾ら頑張ったって…、その想いは唾を吐くように否定される。

     そんな腐った世界だってわかったじゃない』


さやか?『もう一度考えてみなよ』



さやか?『こんな世界、本当に守る価値あるの…?』

710: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:18:16.29 ID:Wtqdz5oh0

さやか「あたしはっ…!」


言おうとした時、薄ぼんやりとした視界に光がさす。

同時に入って来た電車内の光景を見て、全てが夢だったと理解する。


でも…。

夢の中で言われた言葉は、頭にこびりついて離れず…。

あたしは自問自答を繰り返し始めた…。



さやか(価値はあるんだ……)

さやか(あたしにはもう……、何も無いだけで……)

さやか(だから、守るんだ……)

さやか(マミさん……、みたいに……、一人でも……)



ホストA「言い訳とかさせちゃダメっしょ」

ホストA「稼いできた分は全額きっちり貢がせないと。

     女って馬鹿だからさ。ちょっと金持たせとくと、すぐ下らねぇことに使っちまうからねぇ」




さやか「……」

711: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:19:31.49 ID:Wtqdz5oh0

何を……。

何を……、言ってんの?

女って………、馬鹿なの?


だから、あたしも………?



ホストB「いや~、ほんと女は人間扱いしちゃダメっすね。

     犬かなんかだと思って躾けないとね。アイツもそれで喜んでる訳だし。

     顔殴るぞって言えば、まず大抵は黙りますもんね」


ホストA「けっ、ちょっと油断するとすぐ付け上がって籍入れたいとか言いだすからさぁ…。

     甘やかすの禁物よ」




さやか「……」


さやか「…………」


さやか「………………」

712: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:20:21.31 ID:Wtqdz5oh0

あぁ…、そっか。


頑張っても踏みにじられて。

尽くしても捨てられて。

犬のように、塵のように、平然と切り捨てられる。


見向きもされず、裏切られ、奪われ、見捨てられる…。





これが………。

あたしが守ろうとした…。




『この世界』なんだ………。

713: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:21:03.72 ID:Wtqdz5oh0

ホストA「ったく、テメェみてぇなキャバ嬢が、10年後も同じ額稼げるかってぇの。

     身の程弁えろってんだ。なぁ?」

ホストB「捨てる時もさぁ、ホントウザいっすよね。
   
     その辺、ショウさん巧いから羨ましいっすよ。俺も見習わないと」


さやか「ねえ、その人のこと、聞かせてよ」

ホストB「あ…?」

ホストA「お嬢ちゃん中学生? 夜遊びはよくないぞ」


さやか「今アンタ達が話してた女の人のこと、もっとよく聞かせてよ。

    その人、あんたの事が大事で、喜ばせたくて頑張ってたんでしょ?」

さやか「アンタにもそれが分かってたんでしょ? なのに犬と同じなの?

    ありがとうって言わないの? 役に立たなきゃ捨てちゃうの?」



さやか「ねえ、この世界って守る価値あるの? あたし何の為に戦ってたの?」

さやか「教えてよ。今すぐアンタが教えてよ! でないとあたし…!」















???「いいよ…。わたしが教えてあげる」

714: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:21:48.07 ID:Wtqdz5oh0

まどか「わたしが…、教えてあげるよ…」

さやか「まどか…………」


まどか「この世界の価値も、さやかちゃんのした事の価値も、さやかちゃん自身の価値も…。

    だから…」


まどか「帰ろう…」




さやか「………なぁ」

まどか「え…?」


さやか「……ガタガタうるさいなぁ」

まどか「………」

ほむら「美樹さん…?」


さやか「とりあえず、次で降りよっか…。

    満足に話も出来やしない…」




ホストB「おい……」

ほむら「す、すいません、すいません……」

ホストA「よせよ、ガキの悪戯に構うな」

715: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:22:31.38 ID:Wtqdz5oh0

――見滝原市内某駅――



さやか「で…、何が…、なんだっけ…?」

まどか「………」

さやか「この世界の価値とか…、あたしの価値とか…、だっけ…?」


まどか「うん…。それはね…」

さやか「あぁ…、いいよ。答えなくて」



さやか「何もかも全部、価値なんて無いってわかってるから」


ほむら「美樹さん、そんな………」

まどか「さやかちゃん…」



さやか「正直、今すぐジェムを砕いて死んでもいいんだけどさ…。

    死ぬ前にやりたい事があるんだ…」


さやか「杏子とマミさんの仇…、討たないと死ねないよね…?」



まどか「さやかちゃん…、そんなの…、そんなの違う…!」




さやか「だからさ…」

さやか「アンタ、邪魔」

716: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:23:08.06 ID:Wtqdz5oh0

さやか「そこ………、どきなよ」


まどか「嫌だ…」

まどか「もう、絶対さやかちゃんを一人になんてしない…!」



さやか「………魔法少女は多少痛め付けても死なない。ジェムが無事ならいい」

さやか「そうわかってる以上、アンタでも容赦しないよ?」


まどか「わたしは…、さやかちゃんを傷付けたくない」

まどか「でも、ここで行かせたら、さやかちゃんはまた自分を傷付けて……。

    そのまま死んじゃう気なんでしょ…?」



まどか「だったら、行かせない…! わたしがさやかちゃんを止める…!」

まどか「だって、わたしは………」





まどか「さやかちゃんが大好きだから!」


―to be continued―

717: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/07(水) 01:23:37.04 ID:Wtqdz5oh0

―next episode―


「あたしって、ほんとバカ…」





―【第十七話】いつか救えなかったあなたを―


740: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:48:20.35 ID:iUfLrNez0

まどか『だいじょ…ぶ……、わたしは……大丈夫…、だから…』


さやか『結局あたしは、一体何が大切で何を守ろうとしてたのか……』


さやか『もう何もかも…、訳わかんなくなっちゃった…』





まどか『駄目……、さやか…、ちゃん……、自分…、責め、ちゃ…』


さやか『確かにあたしは何人か救いもしたけどさ…。

    だけどその分、恨みや妬みが溜まって…。一番大切な友達さえ傷つけて…!』


さやか『誰かの幸せを祈った分、誰かを呪わずにはいられない…。

    あたしたち魔法少女ってそういう仕組みだったんだ』





まどか『わたしは…、大丈夫だから……ね…?

    も…、もう……、自分をっ…、責めないで……!』





さやか『あたしってほんとバカ』

741: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:49:10.63 ID:iUfLrNez0







―【第十七話】いつか救えなかったあなたを―








742: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:49:49.86 ID:iUfLrNez0

わたしは一人ぼっちだった。




見滝原に来てすぐの時だった。


人見知りだったわたしは、転校してすぐに友達なんて出来なくて…。

家でも、たっくんが生まれたばかりで、パパもママも掛かりきりで…。


学校にも、家にも、どこにも…。



わたしの居場所はない。

わたしは一人ぼっちなんだ…。


そう思っていた。

743: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:50:28.24 ID:iUfLrNez0

俯き気味に歩く、覚えたての通学路。

沈みきった気持ちで歩くその道は、足取りも重くて…。

何かに足を掛けたきっかけに、勢いよく転び…。

拍子に閉め忘れたランドセルの中身を辺りに散らす………。



雨上がりの水たまりに落ちた教科書やノートやお弁当を見て……。

涙で視界が滲んだ……。

そんな時だった。



???『大丈夫?』


まどか『あ………』


そう言いながら、彼は手を差し伸べてくれた。

短い髪に、半袖半ズボンと、男の子のような格好…。

でも、しゃがみこんだ際に映った赤いランドセルから、彼は彼女であると気付く…。


そして、彼女はポケットからハンカチを取り出すと…。

躊躇う事なく、汚れたわたしの教科書を拭き始めた。

744: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:51:29.44 ID:iUfLrNez0

まどか『あ……、ありがとう』


???『教科書とか拭けば大丈夫だよ。ノートは染みが残っちゃうかもしれないけど…。

    お弁当も大丈夫。包んでる布巾は汚れちゃったけど洗えば落ちるよ』


ハンカチで濡れた教科書やノートを拭きながら…。

太陽のように明るくて、優しい笑顔を向けながら彼女はそう言った。


その優しさはわたしの涙腺を刺激して…。

堪え切れなくなった涙は、溢れだしていた。



???『あーあー、泣くなって! 全部大丈夫だから!』


わたしの涙に少しだけ困った表情をしたけれど、彼女はまた微笑み…。

また、持ち物を拭き始めた。

745: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:52:12.73 ID:iUfLrNez0

???『これで最後、かな。他に落とした物はない? 痛いとこない?』


まどか『ないです…』

???『そっか。じゃあ、いこう。

    遅刻しちゃうし』


まどか『ごめんなさい……』

???『あ、謝らなくていいって』


???『じゃ、いこっか』


まどか『あ………、わたし、鹿目まどか………です』


???『知ってるよ。つか、同じクラスなんだけど』



まどか『え………?』



さやか『美樹さやか。よろしく』

746: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:52:59.80 ID:iUfLrNez0

これが、わたしとさやかちゃんの出会いだった。


さやかちゃんは孤独だったわたしに手を差し伸べてくれたばかりか…。

その手を引いて、引っ張り上げてくれたんだ。


そして、その後も…。



さやか『まどか、これあげる』


何時も構ってくれて…。



さやか『まどか、今日、遊ぼうよ』


ずっと一緒にいてくれて…。



さやか『まどかをいじめるな!』


どんな時だってわたしを守ってくれた。


わたしが辛い時、苦しい時、悲しい時…。

さやかちゃんはわたしを支えてくれた。

傍にいてくれた。


でも………。

747: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:53:56.37 ID:iUfLrNez0

『あたし? 全然平気』

『やだな~、まどかは心配し過ぎ』

『さやかちゃんはこんな事でヘコたれたりしないのだっ』


その逆はなかった……と、思う。


さやかちゃんは何時もわたしを助けるばかりで…。

滅多にわたしに弱い所なんか見せてくれなくて…。

見せたとしても、何時も何時も『平気だよ』って笑って誤魔化してた…。



上条君が事故にあって入院した時だってそう…。

結局、わたしはさやかちゃんの力にはなれなくて…。

748: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:55:11.66 ID:iUfLrNez0

でも、思えばそれは当然のことだった。

わたしはさやかちゃんを守って、支えてあげるだけの器が無かった。

何も出来ない、価値のない人間が、優しくて強いさやかちゃんの力になろうなんておこがましいんだって…。

そう思ってたから…。



だから、わたしは魔法少女になれた時、本当に嬉しかった。

自分に自信が持てた。

やっと、誰かの役に立つ事が出来る。

そう思った。


そして…。

749: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:56:09.45 ID:iUfLrNez0

まどか『これからはさ、何かあったらすぐにわたしに相談してね。

    何があっても。どんなことでも』


さやか『おっけ~! 約束っ!』


これからわたしは…。

やっと、さやかちゃんと肩を並べて歩けるから…。

これからはさやかちゃんを守って、支えてあげられるから…。


そう思えたから、あの約束をしたんだ。



それなのに…。







さやかちゃんが一番苦しい時に、わたしはその手を離してしまった。

750: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:57:11.96 ID:iUfLrNez0

さやか「あぁ…、いいよ。答えなくて」

さやか「何もかも全部、価値なんて無いってわかってるから」


さやか「正直、今すぐジェムを砕いて死んでもいいんだけどさ…。

    死ぬ前にやりたい事があるんだ…」


さやか「杏子とマミさんの仇…、討たないと死ねないよね…?」



そして、これが孤独に堕ちたさやかちゃんの答えだった。


上条君が入院した時も、魔法少女になった時も、杏子ちゃんの時も…。

苦しい時も、辛い時も、困難な壁にぶつかった時も…。

何時だってさやかちゃんは、わたしなんかに頼らずに答えを出していた。

そして、その答えは多少荒っぽかったりはしても間違いと言えるものはなかった。



だけど…。

この答えだけは……。

絶対に違う。

751: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:58:16.37 ID:iUfLrNez0

まどか「さやかちゃん…、そんなの…、そんなの違う…!」


何時も何時も支えてもらいながら…。

さやかちゃんが一番苦しい時に手を離したわたしが、何を今更って思うかもしれない。


でも、この答えだけは認めない。

この答えだけは絶対に間違ってるって……、そう言い切れる。



まどか「ここで行かせたら、さやかちゃんはまた自分を傷付けて……。

    そのまま死んじゃう気なんでしょ…?」

まどか「だったら、行かせない…! わたしがさやかちゃんを止める…!」


そして、それ以上に認めたくない。

認める訳にはいかない…。

だって…。




まどか「だって、わたしは………」


まどか「さやかちゃんが大好きだから!」

752: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 22:59:27.92 ID:iUfLrNez0

さやか「大好き、か……」

まどか「………」




さやか「でも、あたしは大嫌い…」



さやか「あたし自身も、この世界も、そして………」


さやか「アンタの………、事も………」



まどか「…………」

ほむら「美樹さん………」


さやか「だから、もう放っといてよ……

    でないと…………」






さやか「本当に潰すよ?」

753: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:00:27.56 ID:iUfLrNez0

強い威嚇と拒絶の言葉と共に、さやかちゃんのソウルジェムは光を放ち…。

魔法少女の姿へと変わる。


青い衣装に、白いマントに手に握られた刀剣。

ずっとわたしを守ってくれた優しい青の騎士。


でも、その刃の矛先を今は………。






それでも、わたしの答えは変わらない。


754: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:01:45.64 ID:iUfLrNez0

まどか「放っとけないよ…」


まどか「放ってなんておける訳ないよ……。

    だって、さやかちゃんは今……」


説得の言葉は、そこで遮られる。

さやかちゃんはわたしが言い終わらない内に、その刀剣を前へと繰り出すと……。

その刀身を打ち出して放った。





まどか「………」


ほむら「そ、そんな………」


放たれた刀身はわたしの顔の横を通り過ぎ、掠められたピンク色の髪が宙を舞う…。


その視線の先では、何時もの笑顔が嘘だったかのように…。

悲しく、冷めきった表情をしたさやかちゃんの姿があって…。

755: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:02:55.29 ID:iUfLrNez0

さやか「次は当てるよ…、早くそこをどいて」



ほむら「美樹さん………、どうして………」


さやか「あたしはもういらないんだ」

さやか「あたし自身も、この世界も、アンタ達も………。

    だから………」



さやか「もうあたしの前に立つなッ!!!!!」



悲しいんだね…。

辛いんだね…。

何を信じたらいいかわからないんだね…。



ごめんね。

苦しんでいるさやかちゃんを支えてあげられなくて…。

こんなになるまで放っておいて…。


そう、伝えてあげたいよ…。



でも、言葉はもう…。

さやかちゃんには届かないみたいだから…。

756: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:03:46.89 ID:iUfLrNez0

まどか「ほむらちゃん、下がって」

ほむら「え……? でも、それってまさか……」



まどか「うん…。そうでもしないと、今のさやかちゃんは引き止められそうにないから……」


ほむら「そんな…! そんなの駄目です!

    二人が殺し合いをするなんて、そんなの……」


まどか「わたしも嫌だ。さやかちゃんに嫌われちゃうのも、さやかちゃんと争うのも。

    でも………」




まどか「さやかちゃんがいなくなっちゃうのは……、死んじゃうのは……。

    もっと嫌だから……」


まどか「今は、やれる事をやるよ」





まどか「今のわたしには、それが出来るだけの力があるんだから!」

757: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:04:50.12 ID:iUfLrNez0

指輪状のソウルジェムに魔力を込めつつ、翳す。

眩い光に包まれ、わたしもまた魔法少女の姿へと変わる。



魔法を行使しやすい姿へと変わったわたしは…。

まず左手で離れた後方にいるほむらちゃんを指さし、結界を作り出す…。


続けて、その左手を戻しつつ両手で自分の武器である先端に蕾を伴った木の枝のような杖を生成。

さらに、そのまま魔力を込めて弓の形状へと変化させた。



そして…。

一人静かにそれを見つめるさやかちゃんと向き合う…。

758: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:05:44.94 ID:iUfLrNez0

まどか「お待たせ」


まどか「わざわざ、全部終わるまで待っててくれたんだね」

さやか「…………」


まどか「今ので確信したよ。

    さやかちゃんは優しいさやかちゃんのままだって…」


さやか「何それ…」

さやか「アハハハハハハハハ!!!!! 馬鹿じゃないの!!!!!」


さやか「丸腰のアンタの前で変身して、攻撃を放って殺そうとして……。

    そんな最低な奴があたしだよ。何勝手な事を…」



まどか「わたし、思うんだ…」


まどか「言葉にしないと伝わらない事って、たくさんあるけど…。

    その逆で、言葉にしなくても伝わる事もあると思うんだ…」


まどか「今みたいにね」






まどか「だから、最後まで諦めないよ」

759: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:06:50.78 ID:iUfLrNez0

さやか「……………」


さやか「馬鹿じゃ……ないの?

    そうやって勝手に相手に夢見て………」




さやか「それなら…、教えてあげるよ……」


さやか「あたしがどんな奴かなのかを………」




さやか「アンタの体にさ!!!!!!」


一触即発の状況がとうとう崩れ、さやかちゃんがその剣を構える。

そして、わたしも右手に矢を作り出して、その弓を引く…。


誰も望んでいない戦いが、静かに幕を開けていた。

760: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:08:14.98 ID:iUfLrNez0

さやかちゃんはわたしに向かって真っ直ぐ突進し…。

わたしはそれに合わせて即座に弓を射る。


放たれた矢は、遥か前方で弾け…。

無数の魔力弾となり、さやかちゃんに襲いかかる。


足の速いさやかちゃんはそうそう捉える事は出来ない。

だからこそ、回避の難しい拡散弾を突進に合わせて放ったんだ。





ほむら「美樹さん!!!!!」

まどか「大丈夫。練習用の矢だから」


さやかちゃんに放ったのは、魔力を絞って殺傷力を落とした模擬戦用の矢。

それでも直撃すれば悶絶するほどの激痛を伴うほどのものだ。

そんなモノを全身で受ければ、ただで済む筈もない。




でも………。

761: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:09:19.59 ID:iUfLrNez0

さやか「今のあたしは何も感じないんだ…」


無数に弾けた魔力弾は、確かにさやかちゃんの全身に命中した。

しかし、さやかちゃんは止まらない…。





さやか「そんなモノじゃ…」


さやか「あたしは止められない!!!!」



痛覚遮断。

別れる前に見たあの痛々しい技を完全にモノにしたようで…。


自らの高機動とそれを合わせた圧倒的な突進力を以て、魔力弾の弾幕を通り過ぎると…。

次の瞬間には、わたしを間合いに捉えていた。

762: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:10:18.62 ID:iUfLrNez0

繰り出される斬撃。

しかし、わたしはその斬撃をギリギリの所で受け止める…。



さやか「よく止めたね」

まどか「まぁね…」


さやかちゃんの機動力の高さ…。

うぅん、さやかちゃんの実力はわたしが一番よく知っている。


矢を掻い潜られれば、一瞬で間合いを詰められるのは明白。

だから、予め矢を放った直後から弓を杖へと戻していたのだ。




さやか「でも、非力な後衛のアンタは、鍔迫り合いになったらもうどうしようもない…!」


まどか「そうだね…。

    そうならないようにって、いつも守ってくれてたよね…」

さやか「…………」


まどか「でも、そんなさやかちゃんの負担を少しでも減らせるようにって、これも生まれたんだよ…」

さやか「……!」



まどか「吹き飛べ…!」

763: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:11:00.63 ID:iUfLrNez0

さやか「くッ…!!!!」


わたしの握る杖を纏う輝きが、刃の当たっている一点に収束し、弾ける。

その衝撃に足を取られたさやかちゃんは…。

そのまま発生した爆風に運ばれ、勢い良く後方へ吹き飛んでいく…。



杖先に込めた魔力の衝撃波で、敵と距離を置く為だけの技。

発生する衝撃も爆風も威力はほとんどない、本当にそれだけを目的とした魔法。


近接対処能力を上げて、さやかちゃんの負担を減らしたい。

そう思って作られた技が、さやかちゃんとの鍔迫り合いを制する事となる。

何とも皮肉な話だ。

764: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:11:56.91 ID:iUfLrNez0

さやかちゃんは体勢が崩れたまま飛ばされて転がるも、途中で左手を地についてバク転を行いつつ勢いを殺し、

そのまま左手と両足を地につけたまま低く構え、いつでも飛びかかれる状態へと体勢を整える。


そして、わたしは睨むような目付きのさやかちゃんを見つめ、再び言葉を投げかける。



まどか「さやかちゃん…、『アレ』やっぱりまだ続けていたんだね……」

さやか「痛覚遮断の事…? だから、何…」


さやか「言ったでしょ…。あたしは魔女を倒す道具…! それしか価値が無いんだ…!

    だから、道具は道具らしく…」


まどか「違うよ…。例え何になっても、さやかちゃんはさやかちゃんだよ」


さやか「そんな屁理屈、何の意味もない…!」


まどか「そうかもしれないね」

まどか「でも、やっぱりわたしは……。

    さやかちゃんが、そうやって自分を痛めつけているのを見ると胸が苦しくなるんだ…」


さやか「だったら何よ…!」


まどか「もう、使わせない」




まどか「さやかちゃんを傷つけるだけの魔法は…!」

765: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:13:14.47 ID:iUfLrNez0

さやか「アハハハハハ!!!!!!」

さやか「やれるもんなら、やってみなさいよ!!!!」


まどか「…………」



さやか「そもそも、ちょっと鍔迫り合いに勝ったくらいで逆上せ上がって…!」




さやか「あんなモノ…! 鍔迫り合いにさせなきゃいいだけだろ!!!!!」


地面を蹴り、さやかちゃんは再びわたしへと接近する…。

そして、自分の間合いへと入るか入らないかの時、その姿を消す…。



さやかちゃんのその速度を活かし、一瞬で背後へ回り込む強襲攻撃。

並の魔法少女や魔女であれば、そうそう対処できないであろう超高速の斬撃。










しかし、わたしの杖は、再びその斬撃を受け止めていた。

766: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:14:25.18 ID:iUfLrNez0

さやか「な…!?」

まどか「無駄だよ……」


先ほどと違い、完全に不意を突いた筈の攻撃を止められ、さやかちゃんも動揺の声を上げる…。

それでも、そのまま立ち尽くしている程さやかちゃんは馬鹿じゃない。



さやか「なら…! これで…! どうだッ!!!」

まどか「無駄だって言ったよ…!」


状況を立て直す為に、一度剣を弾いて強引に連撃しようとするも……。

一撃、二撃、三撃と…。

その連撃は悉くわたしの杖に阻まれる。




さやか「見切られてるって言うの…? それなら…!」


大きく後方へ飛び、さやかちゃんは再度姿を消す。

だけど、結果は同じ。

さやかちゃんの繰り出した背後からの剣撃は杖に阻まれ、わたしには届かない。

767: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:15:48.59 ID:iUfLrNez0

さやか「こんな…、こんなの……」


まどか「なんで、当らないかわかる?」

さやか「ッ………」



まどか「それはね……」


さやか「何時までも舐めるなッ!!!!」


煽られたさやかちゃんは意表を突こうと一旦横に跳び、そこから踏み込んで剣を繰り出す。

そして、わたしはさやかちゃんの剣先を見つつ、その表情を見る…。


剣を見るよりもわかりやすい…。

その真っ直ぐ見ているようで、どこかズレた視線…。

その時は多分…。

768: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:16:26.74 ID:iUfLrNez0

キィン、と音が響く…。

ピンク色の魔力を纏うわたしの杖は、さやかちゃんの剣をまたも見切り、受け止めた。



まどか「やっぱりフェイント、だね」


さやか「また、止められた……!?」


まどか「わかるんだよ。

    さやかちゃんの事は全部…」


一緒に特訓して来たから…。

うぅん、ずっと一緒にいたから、わかる。

さやかちゃんの癖も傾向も得意技も全部。


走っている時に牽制されると、右に避けようとする癖…。

焦ってる時の連撃のパターン。

フェイントの際の視線…。



何もかも全部知ってる。

だって、わたしは…。

769: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:18:00.23 ID:iUfLrNez0

まどか「よく見てるでしょ、さやかちゃんの事」


さやか「馬鹿にしてッ!」


さやかちゃんは大きく跳躍して距離を置く。

これもわかってる。


これは癖と言うよりはマミさんからの教え。

相手に攻撃を見切られたら、一旦距離を置いて牽制。


マミさんに素直なさやかちゃんは、確実にそれを守って来る。


そして、焦りで周りが見えなくなっているさやかちゃんは、そこに気付いていない。




距離を置いてしまった時点で、わたしの得意な距離に持ち込まれていると言う事に。

770: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:18:52.12 ID:iUfLrNez0

さやか「…!?」


まどか「ごめんね」


射撃型のわたしに対していきなり大技を出そうとするほど、さやかちゃんは馬鹿じゃない。

それなら繰り出してくるのは間違いなく、隙の少ない刀身射出。


だから、わたしはそれを繰り出そうと突き出した刀剣に目掛けて矢を放ち、弾き飛ばした。



さやか「ッ! この程度…!」


まどか「それもやらせないよ」


刀身を失った剣の柄を捨てつつ、その手で次の剣を作ろうとする。

だけど、体を盾にして作られかけた次の剣もまた、同じ末路を辿る。

771: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:20:04.44 ID:iUfLrNez0

さやか「!?」

さやか「まだだ…、まだッ…!」


今まさに生成されたばかりの刀剣が、思念操作された魔法ならではの矢に撃ち抜かれて弾かれる。

さやかちゃんはわたしを睨みながら、再度刀剣を作り出そうとするも、わたしはそれをさらに射抜いて、弾く。

今度は両手でそれぞれ剣を作ろうとしたけど、結果は同じ。


わたしは同時に二発の矢を放って、それぞれ出来たての刀剣を弾き飛ばした。



まどか「無駄だよ」

まどか「さやかちゃんの剣の生成より、魔力を直に飛ばすわたしの矢は生成が早いんだ…」


さやか「それにしたって、そんな嘘みたいに正確な早撃ちが…」


まどか「これでも鍛えてるからね…」

さやか「…………」



まどか「さっきも言ったよね…」


まどか「もう使わせない…。

    さやかちゃんを傷つけるだけの魔法は…!」

772: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:21:34.58 ID:iUfLrNez0

さやか「まどか……、アンタは…!」


あらゆる攻撃を見切られ、行動を封じられ……。

動揺と苛立ちから来る混乱を隠し切れずに立ち尽くすさやかちゃん。

そして、わたしはそんな姿を見つめながら、左手に矢を作り、弓を引く。



ほむら「鹿目さん? まさか……」



まどか「終わりにしよう。さやかちゃん」

さやか「………」



ほむら「駄目ですッ! 鹿目さんッ!!!!」


結界を叩きながら叫び、わたしを制止しようとするほむらちゃんを他所に…。

わたしは右手を離し、丸腰のさやかちゃん目掛けて矢を放つ。


矢は直進し……。

動く事なく、それを見つめるさやかちゃんの目の前で炸裂した。

773: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:22:18.72 ID:iUfLrNez0

ほむら「駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」


響く慟哭。

それに呼応するかのように…。


さやかちゃんを飲み込んだ魔力の光が広がっていく……。



ほむら「あぁ………あ……」


ほむら「もう………やだ……、こんなの……」


ほむら「やだよぉ……」


一面に広がった眩い光。

辺り一帯を照らすその光が減衰していく……。



そして……。

その光が完全に明けた時…。





















わたしは、押し倒したさやかちゃんをしっかりと抱きしめていた。

774: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:23:39.65 ID:iUfLrNez0

ほむら「美樹さんっ!!!、鹿目さん………」

ほむら「よかった…、よかったよぉ……」




まどか「さやかちゃんっ、やっと捕まえた………」


さやか「離して……、離してよ!」

まどか「イヤだ。もう絶対離さない…」


さやか「どいてよ……、あたしはもう……!」

まどか「やめて!」


まどか「聞きたくないよ……」


さやか「…………」



まどか「ごめんね」


まどか「さやかちゃんが辛い時に一人にしちゃって……。

    偉そうなこと言いながら、結局何の支えにもなってあげられなくて……」


まどか「だけど、わたしもう迷わない。

    今度こそ……、さやかちゃんを守るから…。もう一人になんてしないから…」


まどか「もう自分を責めないで……。傷つけないで……」

775: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:25:18.01 ID:iUfLrNez0

さやか「…………」

さやか「なんで…」


さやか「なんでアンタは構うのよ……」

さやか「アンタを傷つけるあたしなんかに……」



まどか「もういいよ。それも全部わかってる」


まどか「さやかちゃんは、わたしに嫌いだって嘘言ってでも……、傷つけてでも遠ざけたかったんだよね?

    そうやって美国さんと刺し違えて、罪滅ぼししようと思ったんだよね?」


まどか「死んじゃう前に………、せめて死ぬのならって………」


さやか「…………」


まどか「でも、わたしいらないよ。そんなの嬉しくない…。

    そんな事よりも、わたしはさやかちゃんに生きてて欲しい…」

776: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:26:24.31 ID:iUfLrNez0

さやか「わけ……、わかんないよ……」

さやか「なんで…? あたしはアンタに八つ当たりするような……。

    そんな最低な奴なのに…」


まどか「それを言ったら……、さやかちゃんはなんでわたしなんかに構ってくれたの?」

まどか「わたし…、ずっとさやかちゃんに迷惑ばかりかけてた。お世話になりっぱなしだった。

    けど、わたしからはさやかちゃんに何もしてあげられなかった……」


まどか「それなのに、どうしてわたしの友達でいてくれるの…?」



さやか「それは………」


まどか「それと同じだよ。小難しい理由なんていらない」

まどか「わたしはさやかちゃんが大好き。だから助けたい。

    それだけだよ」


まどか「だから、全部話してよ。全部わたしにぶつけてよ。

    今度はちゃんと受け止めるから……」


さやか「…………」





まどか「そう言う……、約束でしょ…………?」

777: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:27:54.17 ID:iUfLrNez0

さやか「ふ………」


さやか「あっはははははは…」

さやか「アンタには敵わないわぁ……」


それまで、ただ辛そうで悲しそうだったさやかちゃんの表情が変わる。

一瞬だけ目を丸くして、そのまま笑いながらそう言う。

それは少しだけ寂しそうだけど……、いつものさやかちゃんの笑顔そのもので……。


やっと、いつものさやかちゃんが帰って来た気がした。




さやか「まずは……、あたしも謝んなきゃだね。

    ごめん、まどか。それにほむらも……、ごめん」



さやか「でもね……」


さやか「もう何もかもわからなくなったんだ」


寂しそうな…、それでいてどこか吹っ切って笑ったような……。

見た事のない表情をしながら、さやかちゃんは胸中を語る…。


わたしは、そんなさやかちゃんをまた抱きしめようとしたけど、それはもうしなくていいって拒まれてしまい、

そんな様子を、ほむらちゃんに笑われた。

ほむらちゃんはもう結界から出てもらっていて、今は駅のベンチに三人並んで座っている。

778: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:29:23.06 ID:iUfLrNez0

さやか「結局あたしは恭介に見返りを求めてて……、事情を知らない仁美を妬んで恨んで……。

    まどかに八つ当たりした……」

さやか「こんなあたしはもう、みんなの所に帰る資格はないってそう思った。

    そして、そんなわたしが出来る事、すべき事を考えた……」


ほむら「それって、魔法少女の使命…、魔女退治ですか?」



さやか「そう…。あたしはマミさんを見殺しにしてる。

    だから、マミさんの代わりに守らなきゃって思った」


さやか「まどかも、ほむらも、この街の皆も………」


さやか「だけど……、『誰かの為に生きる馬鹿は犬も同然』って言ったあのホスト達の話を聞いて……。

    どうしようもなく虚しくなったんだ………」


さやか「うぅん、それは引き金に過ぎなくて……。

    戦い疲れたあたしは、どこかで薄々感じてたのかもしれない…」


さやか「同時に、そこにいたホストもこの世界もどうしようもなく憎くなった。

    でも、それ以上にそんな事を考えたあたし自身はもっと許せなかった……。

    だから、もう……」



さやか「消えちゃいたかったんだ………」

779: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:33:06.45 ID:iUfLrNez0

まどか「さやかちゃん………」


さやか「あたし、嫌な女なんだ……」


さやか「勝手にした事の見返りを求めて……、得られなかったって妬んで……。

    そして、友達に八つ当たりして……。最後には全部嫌になって……」


さやか「ほんと、どうしようもないくらい最低だよね……。

    救えないくらいバカ……、だよね………」




??「そんな事ないんじゃないかしら」


さやか「え…?」

まどか「その声………」


??「誰だって、した事の見返りくらい欲しい。当然だと思うわ」

??「すべき事をしたから見合った報酬が欲しい。そして、それが得られずに他人を妬む…。

   どれも人として自然な…、当然の感情よ」



??「それでも『誰かの為に』って頑張れるあなたを、私は尊敬しているわ」


??「そもそもさ…。人間なんて、本来そんなもんだろ?」



??「なぁ……、さやか」

780: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:34:44.79 ID:iUfLrNez0

聞き覚えのある声。

見覚えのあるシルエット…。

間違える筈が無い……。


振り返った先に立っていたのは…。

死んだと思っていた二人の姿で…。



まどか「マミさん!」

さやか「杏子………」

ほむら「二人とも、無事だったんですね…!」


マミ「ごめんね。遅くなって」


杏子「とりあえずは…、まどか。これを使ってやりな。

   さやかの奴、その様子じゃ相当まずい事になってんだろ?」


まどか「うん……」


わたしに向かって、グリーフシードを投げて渡す杏子ちゃん。

まずい事、と言う言い方が少し引っ掛かったけど、その場は聞き流しつつ、

さやかちゃんからソウルジェムを預かり、その穢れを移す。


元の色がわからなくなるほど真っ黒に染まったソウルジェムは、ようやく元の輝きを取り戻していく…。

781: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:38:52.57 ID:iUfLrNez0

さやか「悪いね……、手間かけさせちゃって」


杏子「ふん…。それ見た事か。

   だから『誰かの為』なんて、どうなるかもわからねぇ格好付けはやめとけって言ったんだよ」


さやか「ほんとだよね……。

    あたし、アンタに偉そうな事言いながら、結局はこんなになってさ…」


杏子「チッ……。ウゼェ! 何時までもうじうじすんな!」


杏子「誰かの為に何かしたいって事は間違いじゃないんだろ?

   じゃあ、少なくともお前の行動自体は正しいんだ。胸を張れ」


さやか「うん………」


杏子「ったく…。世話が焼けるよ」

杏子「そうだ…。なんなら、特別にアタシの面貸してやろうか?

   ぐだぐだうるせぇ奴をボコボコにするだけでも、結構すっきりするもんだぜ?」


さやか「…………バカ」


目を潤ませながら………、けれどさやかちゃんは笑ってそう言う。

頭を掻き、少し照れくさそうに明後日を向く杏子ちゃん。


そして、そんな杏子ちゃんの後ろに居た小さな人影が、ひょっこりとさやかちゃんの前に出てくる。

782: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:40:30.90 ID:iUfLrNez0

ゆま「サヤカっ」

さやか「ゆまちゃん、どうしてここに……」


ゆま「サヤカにありがとうを言いに来たの」

さやか「…………」


ゆま「サヤカはゆまを助けてくれたよ…。

   そのことをゆまはいつもいつもありがとうって思ってるよ」

ゆま「ゆまのありがとうじゃ、足りないかもしれないけど……。

   でも、ゆまもたくさんありがとうするから……、消えちゃヤダよ……」


さやか「ゆまちゃん…………」



ほむら「じゃあ、私からも。

    美樹さん、今までありがとうございます」


さやか「ほむらまで………。あたしはそんな事言われる資格…」


ほむら「私、美樹さんが居なかったら魔女か、あの魔法少女に殺されてとっくに死んじゃってます」

ほむら「それだけじゃないです。私も美樹さんにはたくさん優しくしてもらって……。

    たくさん元気をもらいました……」

ほむら「私は、鹿目さん達と違って美樹さんの力にはなれないけど……。

    それでも、お礼くらいは言わせてください」

783: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:42:30.14 ID:iUfLrNez0

さやか「でも、あたし………」

ほむら「コンプレックスがあるのは美樹さんだけじゃないです。

    誰でも皆、それを隠したり、ごましたりして生きてるんです…」


ほむら「それを理由に死ななきゃいけないなら、私なんか何回死んでるかわかりませんよ?」

ほむら「それに……、負の感情を覚えたり、その感情に悩んだりするのは、化け物や道具なんかじゃない何よりの証…。

    美樹さんが、私と同じ人間である証拠だと思うんです」


さやか「ほむら………」




まどか「ねぇ、さやかちゃん」


まどか「わたし達は上条君じゃないから、さやかちゃんが一番に望むモノをあげる事は出来ない。

    でもさ………」

まどか「さやかちゃんが頑張って来た事は知ってるよ。

    上条君の為に自分の身を捧げた事も、わたしや皆の為にって戦ってくれた事も……」


まどか「だから、そんな自分を否定しないで。

    何もかも自分一人で背負おうとしないで」


まどか「さやかちゃんが誰かを救ってきたように……。

    今度はわたし達で、さやかちゃんを支えるから」

784: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:43:52.44 ID:iUfLrNez0

さやかちゃんを取り囲み、みんなが支えている。

それは多分…。

さやかちゃんが望む光景の一つなんじゃないかなって……、そう思う。


そして、その中でさやかちゃんは…。



さやか「あたし……、一人じゃなかったんだね…」


さやか「なのに一人で恨んで、妬んで……。

    勝手に何もかも嫌になって……」


さやか「みんな……、こんなに…、あたしの事見ててくれたのに……。

    それなのに……、こんなになっちゃうなんて……」


さやか「あたしって、ほんとバカ…」





まどか「帰ろ、さやかちゃん」

さやか「うん……。うんっ……」


泣きじゃくるさやかちゃんをもう一度だけ抱きしめる。


そして、そのまま…。

さやかちゃんが泣きやむまで、ずっと抱きしめていた。

785: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:45:48.17 ID:iUfLrNez0

────────

────

──



さやか「ねぇ…、まどか」

まどか「なぁに?」


さやか「実はね…、あたしの願いって恭介の腕を治す以外にもう一つあったんだ」



マミ「…? おかしいわね。QBは魔法少女が叶えられる願いは一つだって言ってた筈だけど…」

ほむら「何かを満たすと二つになるとか、隠し条件でもあるんでしょうか…?」


ゆま「あ~っ! サヤカばっかりズルイ! ゆまも二つめのお願い叶えたいよ~!」

杏子「やめとけやめとけ。仮に叶うとしたって、その分あの白饅頭になんか持ってかれるぞ。

   つーか、そう言う事じゃなくて、魔法少女になって出来た事とかそんなんだろ?」


さやか「うん」

まどか「それって………」


さやか「そう。あたしは恭介の腕を治すのと同時に、ピンチだって聞かされたまどかを助ける事が出来たんだ」

さやか「そして、あたしは今日まどかに救われた……。

    だから、しっかり見返りを受け取る事が出来たんだなって、そう思ったんだ」

786: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:46:50.84 ID:iUfLrNez0

まどか「その願いの見返りはそのくらいじゃ終わらないよ」

さやか「え…?」


まどか「わたしはこれからもずっと、さやかちゃんを助けちゃうからね」



さやか「ぷっ…、あははははははっ」


まどか「もうっ、どうして笑うの!」

さやか「ははははっ……。いや~、見返りは無限大ですかぁ!

    我ながらお得な願いをしたもんだなって」

まどか「でしょ…?」


さやか「うん…。なら、これからも頼むね。

    あたしは弱いから、またまどかに迷惑かけちゃうかもしれないけど…。

    その分、あたしもまどかを守るから…」



さやか「改めて…、これからもよろしくね、相棒」

まどか「うんっ!!!!」



交わした約束。

それは…。

わたし達の辿るべき運命さえも変えていく…。

787: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:47:54.75 ID:iUfLrNez0

――見滝原市内???――



織莉子「ふぅ……、あと……少し……」

キリカ「………」


織莉子「重いわ……、キリカ……」

織莉子「ふふ……、後ろから抱きつかれた事はあったけど……。

    貴女をおんぶする日が来るとは思わなかったな」


キリカ「ぅ…………」

織莉子「ごめんね。もう少しだけ頑張って……」


織莉子「あの薬……、多めに貰っておいてよかった……。

    あれを全て使えば………」



織莉子「……………」


織莉子「本当に容赦が無いわね、この力は………」


織莉子「希望に縋る時間すら、満足に与えてくれない…」




織莉子「え………?」


織莉子「何故、『美樹さやか』がキリカの前に現れるの……?」

788: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:49:18.17 ID:iUfLrNez0

織莉子「こんな……、こんな馬鹿な……!」

織莉子「彼女は今日、鹿目まどかを倒したショックで魔女化して……。

    満身創痍の鹿目まどかはそれを説得しようとして戦死、そこに居合わせる暁美ほむらも魔女の手によって死ぬ……」


織莉子「その………、筈だったのに……!」


織莉子「何故…」

織莉子「どうして……?」

織莉子「私が視た未来は……」


織莉子「私が視た『いつか』はどこへ行ったの!?」



織莉子「巴マミ達を逃がしたのが大きかったの……?」


織莉子「違う………。足止めは十分だった。

    あそこまで足止めすれば、彼女達は間に合わない。

    状況を変える因子が無い以上、もう未来が変わる筈は無い…!」


織莉子「では、何故!? どうして…!?」




織莉子「……………」


織莉子「キリカ………。どうやら、私の『運命』も決まったみたい……」

789: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:50:15.39 ID:iUfLrNez0

――見滝原市内廃墟――



QB「一足遅かったみたいだね。

   戦闘の痕跡があるから、ここに彼女達が居たのは間違いないんだけど」

???「……………」


QB「念の為、もう一度彼女達の特徴を説明しておくよ」

???「必要無い」


QB「それは困る。彼女達以外の魔法少女に手を出されると……」


???「くどい! 一度聞けば覚える!」

QB「…………」



???「絶対に許さない」

???「おまえたち……、おまえたちだけはッ………!!!!」


QB「全く………、頼もしい限りだよ。

   性格には難があるけど、実力と目的に対する執着は折り紙つきだからね」


QB「さぁ………、役者も揃ったし、始めようか」

   

QB「『魔法少女狩り』を」


―to be continued―

790: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/18(日) 23:50:48.30 ID:iUfLrNez0

―next episode―


「愛は無限に有限か。良い言葉だよ。だけどね…!」





―【第十八話】白と黒(前編)―