???『ほっといて…。もって三ヶ月。終わったの。私の人生』


???『終わってなんかない』

???『アンタが生きたいと思うなら…、アタシはどんな手を使ってもあんたを助ける』


???『助けて………。私死にたくない。もっと生きていたい』

???『夢色のお守り。アタシが戻るまで持ってて』




???『ねぇ…、やったよ! 私治ったんだって…! 病気…!』

???『お守り効いたでしょ…?』

???『うん…! あ、このお守り返しておくね』


???『今度は…をお守りください』




???『どこ行ったの…? この中で迷ってるのかな…?』

???『え…? このお守り………、まさか…!!!』

???『う、うわぁぁぁぁぁ!!!!!!』


???『酷い……、酷いよ!!!! なんで? なんで…がこんな目にあわされるの…?』

???『許さない…』

???『絶対に許さない…………!!!!』

800: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:16:37.88 ID:g8NNWSxm0







―【第十八話】白と黒(前編)―










801: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:17:21.00 ID:g8NNWSxm0

――見滝原市内 人里離れた家屋――




織莉子「ここに籠ってほぼ丸一日、か……」


例の薬の効力もあり、ボロボロだったキリカの肉体も幾らか回復した。

しかし、その傷は未だ深く、左腕は欠損したまま…。




織莉子「けれど、この薬はもう使えない…」


理由は二つ。

この薬は、『肉体の再生』と言う形を取った薬の製作者の固有魔法を服用者に発動させるモノ。

魔力消費は服用者のモノで賄われるのは勿論、無茶な仕様から消費量は著しく大きい。

その副作用は今のキリカには重すぎるほどに…。


そして、もう一つ…。


802: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:18:13.08 ID:g8NNWSxm0

織莉子「ソウルジェム………」


魔法少女の本体にして、唯一癒す事の出来ない弱点。

それをキリカは破損してしまった。


本来、普通に過ごせばそうそう溜まる筈の無いソウルジェムの穢れ。

その穢れが破損した箇所から次々に溢れ続ける。

これは魔法少女として致命的な状態と言えた。




織莉子「キリカ……、本当にごめんなさい…」

織莉子「私はずっと、貴女に助けられて来たのに…」


織莉子「私は貴女に何も…………」


織莉子「…………」



織莉子「追手、か…」





織莉子「…………そんな!?」


織莉子「何故、彼女が……、ここに………!?」

803: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:19:52.86 ID:g8NNWSxm0

突如起こった爆発で、私達の居た家屋が粉々に吹き飛ぶ。

予知により脱出した私は、キリカに結界を張りながら、爆風の向こうにある影を見つめる。


長い金髪のツインテール、やや釣り上がった金色の目、見覚えのない露出の多い紫の衣装。

全ては予知の通り、家屋の残骸と爆煙の向こうから現れたのは怒りを狂気に変えて笑う復讐者。



織莉子「何故………」

織莉子「何故、貴女が………!」


???「よう、美国織莉子。このユウリ様のことが気になるご様子で!」


彼女の名は飛鳥ユウリ。

魔女になり、多くの犠牲を出す運命から、私が始末させた魔法少女の一人。

つまり、とうに死んでいる筈の人物…。


804: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:20:33.54 ID:g8NNWSxm0

織莉子「その貴女が、何故生きている…!?」


ユウリ「へぇ……、意外。ちゃんと覚えてるんだ」

ユウリ「アタシにとっては唯一<オンリーワン>でも、あんたたちにとっては十把一絡げ…」


織莉子「答えなさい…!」



ユウリ「答えはか~んたん」


ユウリ「アタシはあんたたちに復讐するために還ってきたんだ!!!!!!」


見てわかる通り、私は驚いていた。

自分に対する復讐者が現れた事に対してではない。


多くの者を救う為とは言え、私は人殺しを繰り返している。

私に恨みや憎しみを向ける者が現れる事は当然だろう。


けれど…。

まさか、殺した当人から復讐されるであろう事は考える由もなかったのだ。



驚愕。

それと同時に、予知を持っていながら、こう言った事態を見切れなかった自分の未熟さを痛感していた。

805: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:28:35.88 ID:g8NNWSxm0

織莉子(半狂乱の敵は有無を言わさず仕掛けてくる)

織莉子(武器は二丁のハンドガン。射程はそう長くない…)

織莉子(回避コースは右、右、左、下、右…)


ユウリ「はッ! 避けた!」


私の固有能力『未来予知』。

以前、私が言ったようにこの力は確かに全知全能ではない。


それでも、極めてそれに近い力であると自負している…。




織莉子(弾丸はこのまま走っていれば当たらない。けれど背後から伏兵)

織莉子(召喚済みの魔牛…、弾丸の事も含めれば、今大きく飛んでもギリギリか…?)


ユウリ「コルノ・フォルテ!!!!!」

コル「オォォォォォォッ!!!!!!!」


織莉子「ッ…!」



ユウリ「これも避けたか。すごいなぁぁぁぁぁぁぁ」


織莉子(弾丸はまだ切れない…!? 次の攻撃は食らったらまずい拘束弾。でも、この体勢じゃ…)




ユウリ「よく頑張りました。あはっ」

806: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:29:58.43 ID:g8NNWSxm0

織莉子「くッ…!」


けれど…。

残念ながら、それを使うのは所詮人の成り上がりに過ぎない私。

予知と言うのは、正確な未来が書き連ねられた分厚い本のようなもの。

戦闘などの積極的な干渉を受ければ、多少の歪みが生じるとは言え、即座に予知自体もそれに対応してくれる。

それでも…。


今日起きる事を視る事が出来るとしても、視ているとは限らない人並みの視野しか持たず…。

どれだけ起きる未来が正確でも、それに対応できるとは限らない程度の器しかない…。


力を使っているのが私である事。

それがこの力の欠点だった。



織莉子(左肩、右手首)


ユウリ「あははっ!」

織莉子「ぐッ…! うぅ…」



織莉子(左脇腹、右胸)


ユウリ「あははは! うふ!」

織莉子「かぁはッ! あぐ…く…ぅ…」



織莉子(また腹……、そして左眼…)


ユウリ「あはははははッ! ひゃーはははははははは!!!!!!」




織莉子「あっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

807: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:32:08.16 ID:g8NNWSxm0

ユウリ「悲鳴の独唱? 最高!」


織莉子「はぁ…はぁ……、はっ…」



ユウリ「でも、許してあげない」




織莉子「はっ……はぁ……………」


ユウリ「あんたはアタシの一番大事なものを奪った」

ユウリ「だからね、アタシはあんたの一番大事なモノを…………」



ユウリ「殺すの!!!!!」


そう言って、血まみれの私を見下すのをやめ、敵は視界をずらす。

ずれた視線の先に居るのは勿論…。

808: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:32:59.76 ID:g8NNWSxm0

キリカ「………」



ユウリ「うふふふふっ! あはははははははははは!!!!!!」


織莉子「それだけは……させ…、ない……!」


その右手とソウルジェムを重ねて魔力を放ち、キリカの周囲に魔法陣を展開し始める敵…。

それを止めようと放った魔力球は悉くかわされ、代わりに右肩にも銃弾を受ける。



織莉子「うぅッ!」



ユウリ「しゃらくさいんだよ」


ユウリ「さぁ………、死ね!!!!!!!」




織莉子「ごめん……なさい。キリカ…」

809: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:34:06.96 ID:g8NNWSxm0

ユウリ「イル・トリアンゴ…」


ユウリ「かッ…!」


敵が言おうとした魔法の名は遮られ、その発動を止められる。

さらに振り向けば、あり得ない速度で魔力球を炸裂させ、拘束を解いた私が立ち上がる姿。


復讐の妨害と、起こりうるはずの無い事態に相手は再びその苛立ちと狂気を私へと向ける。



ユウリ「鬱陶しい、うっとうしい、うっとお! しいッ!!!!!!」


織莉子「………行きなさい」




ユウリ「そんななまくら玉…………、速い!?」


違う。

魔力球自体の速さは、先ほどと変わらない。

しかし、それを知る筈もない敵はゆっくりと攻撃を避けようとし、魔力球の直撃を受ける。

810: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:36:47.45 ID:g8NNWSxm0

ユウリ「うぉッ…! おまえぇぇぇぇぇ!!!!!」


織莉子「……………」


ユウリ「当たらない…! 見切られたのか!?」

ユウリ「なら…、コルッ!」


コル「オォォォォォッ! オォ…!?」

織莉子「…………無駄よ」


ユウリ「馬鹿な…!? くぅおッ…!」


形勢は完全に逆転した。

敵の放った攻撃は全て当たらず、魔牛を使った連携でも変わらない…。

対して、こちらの攻撃だけが一方的に敵に命中し続ける。



ユウリ「くそッ、糞…! 待てよ………」

ユウリ「あはははッ! それなら、あいつだけでも……!」



ユウリ「やれッ! コルノ・フォルテ!!!!!」


コル「オォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!!」


指示を受けた魔牛は、右の後ろ足で地面を二度ほど蹴ると…。

ミサイルのような速さで、キリカのいる結界に突撃、それを粉砕し……。




血飛沫と共にバラバラに解体された。

811: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:38:14.59 ID:g8NNWSxm0

コル「ォォォァァァァァァァ……………」


ユウリ「コルッ!!!!!!」



???「牛かぁ…、今夜の晩御飯はステーキかな…?」

???「いや、もっと細かく刻んで潰してハンバーグにしよう! それがいいなっ。

    そうしようよ、織莉子」


キリカ「牛の肉も、そこのふざけた奴も…、今私がミンチに仕立てるからさ!!!!!!」




ユウリ「チッ…!」


返り血のシャワーが染める赤一色の闇から、怒りの表情を見せながら現れるキリカ。

さすがに状況を悟ったのか、敵はハンドガンを地面に向けて放つと…。

煙幕を発生させ、そのまま行方を眩ませた。

812: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:39:18.56 ID:g8NNWSxm0

キリカ「逃がしたか」

キリカ「……………八つ裂きにしてやろうと思ったのにッ…!」



キリカ「織莉子、大丈夫…?」

織莉子「私は………」



キリカ「織莉子?」

織莉子「私は……無力だ………」


織莉子「貴女をあんな目に遭わせたのに、世界を救うどころか敵の一人も倒せていない…」

織莉子「今の敵のように……、他者から憎まれるしかない茨の道を共に歩ませて……」


織莉子「そして、今も傷付き、弱り切った貴女にまた無理を強いている…!」



キリカ「そんなこと……。織莉子は気にしなくていいんだ」

織莉子「良いわけが無い! 私は貴女を傷付けることしかできない…!」


キリカ「いいんだ」

織莉子「よくないわ!」


キリカ「本当に…………いいんだ」



キリカ「それが………、それだけが、私の望みなんだから」

813: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:40:26.85 ID:g8NNWSxm0

キリカ「そもそも……、謝罪が必要なのは私の方なんだ」


織莉子「キリカ……?」



キリカ「うん…、そうだね。良い機会だ」

キリカ「私の告白をきいてほしい」


織莉子「…………」



キリカ「私はね…………」


この世の全てがキライだった。

いいや、嫌うよりもっと酷い。

私は何もかもに興味が無かった。


いつもバラバラで家に居た事なんてない、あるだけ無意味な家族ごっこも。

「そうなんだ」で返せるようなスカスカの会話を繰り返す、バカ丸出しの友情ごっこも。

下心が透けた盛った猿共の間に合わせにしか見えない、薄ら寒い恋愛ごっこも。


全部。

くだらない、つまらないって何もかもを見下していた。

814: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:41:21.56 ID:g8NNWSxm0

そんなある日の事だった。

私は列を成したコンビニのレジで、財布の中身をひっくり返した。


飛び散った小銭、お札、カード。

けど、自分の事しか見えていない周囲の人間はただ冷たい視線を送るだけ。

「邪魔だ」「早くしろ」と、隠しすらしない声が漏れてさえいた。


そんな時だった。



???『よいしょ…』

キリカ『…』


???『これで全部かしら?』


天使のような姿をした女の子が、私の財布の中身を拾うのを手伝って…。

微笑み返して去っていった。


それが織莉子。

キミだったんだ。

815: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:42:44.18 ID:g8NNWSxm0

些細な出会いの筈だった。

だけど、私にはそれが何時までも引っ掛かった。


たったそれだけの事で惹かれるなんて、私はどれだけ希薄な日々を歩んでいたんだって笑えてくるけど…。

それでも、私はキミの姿を探し続けて、やっと見つけたんだ。




キリカ『偶然を装って声を掛ければいい。一度あったことあるんだし…』


キリカ『そして、聞けばいい。私のこと……、覚えてますかって……』


そう呟きながら、遠くに見かけたキミに近寄ろうとした。


でも………、出来なかった。

「私のことなんか覚えてるわけがない」そう思ったから。


その時、気がついた。

何もかも興味がないなんてウソだ。



何にも興味がないフリをして…。

みんなを見下したフリをして、妬んでたんだ。


私なんかの事を気に止めてくれる人なんていないって…。

そして、願った。



「変わりたい。違う自分になりたい」って。

816: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:44:10.71 ID:g8NNWSxm0

織莉子「………」


キリカ「ゴメンよ。織莉子が知ってる私はニセモノだったんだ」

キリカ「本当の私は嫌われるのが怖くて、友達も恋愛も何も出来ないいじけた子供なんだ」


キリカ「織莉子、私のウソに付き合わせてごめんね。ありがとう」


織莉子「キリカ………」



キリカ「でもね、何もかもウソで出来た私が、ただ一つ誇れるモノがあってね…」

キリカ「それがキミへの思い……、キミへの『愛』なんだ」



キリカ「だから、キミの為に戦い、キミの為に恨みを買い、キミの為に傷つく事は全て私の誇り…。

    そして、私の望みなんだ……」


キリカ「でも、私にはもう時間が無い…」

キリカ「死ぬのなんて怖くない。だけど、ただ死ぬのは絶対にイヤだ……」


キリカ「だから、お願いだ、織莉子。最後まで私を使って…」


キリカ「織莉子の為に生きて…、織莉子の為に死ぬ…。

    私の望みを最後まで叶えさせて…」

817: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:48:06.37 ID:g8NNWSxm0

織莉子「本当…………、困った子…、ね……」


キリカの告白。

そして、その思い。

それに打たれた私は涙をこらえ、懸命に顔をあげる…。




織莉子「わかったわ…。キリカ。貴女は最期まで私の為に在りなさい…。

    例えどんな姿になっても、私に尽くし護りなさい…」


織莉子「それが私を欺いた貴女に課せられた罰よ」



キリカ「わかった。約束する」


キリカ「そんな罰なら、喜んで受けるよ……」


818: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:50:19.81 ID:g8NNWSxm0

違う…。

お礼も、謝罪も…。

そして、罰を受けるのも…。


本当は全て私の方なんだ。



キリカ、私の身勝手に付き合わせてごめんね、ありがとう。

私は何も与えられないばかりか、貴女が傷つくような事ばかりさせているけど…。




それでも…。

私を慕う貴女を駒として使い続けよう。

憎しみも悲しみも怒りも全て踏みにじる冷酷な私であり続けよう。

救世を成す事だけを考え、他の全てを切り捨て続けよう。




そう在る事を貴女が望んでくれるから…。

そして、それが私が貴女にしてあげられる唯一の事だから…。

819: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:52:07.88 ID:g8NNWSxm0

――見滝原市内道路――



ほむら「今日からは美樹さんも来れるんですよね?」


まどか「うん。さっき連絡あったからそろそろ…、あ、来た来た」


行方不明になっていた美樹さんが戻って来て二日目の朝。

敵への警戒から私と佐倉さん、ゆまちゃんは鹿目さんの家に泊まり…。

同じ理由から、学校近くで待機する為に佐倉さんとゆまちゃんも含めた四人で通学路を歩いていた。



あの夜戻ってからは大変だった。

鹿目さんのお母さんは真っ赤になって怒っており…。

私も含めてそれはそれは壮絶なお説教の時間が朝まで続いた。

最も…。



さやか「お~っす」

マミ「おはよう、みんな」


当然ながら、美樹さんはこの比ではなく…。

捜索願が出されていた事もあり、昨日一日先生や親御さんにこってり絞られた様子で…。

今日から久々の登校となる。


巴さんはその美樹さんが一人になる危険から、彼女の家の近くに張り付いていた、と言う訳だ。

820: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:54:29.53 ID:g8NNWSxm0

まどか「てぃひひ。大変だったね」

さやか「ほんとよ、も~! 同じような話を延々と繰り返され…。

    同じような事を何度も聞かれ…」


さやか「でもさ…。実際悪い気はしてなかったんだ」

さやか「怒られてるんだけどさ、なんか嬉しいんだよ。

    本気で自分の事を思ってくれてる……、それが端々から伝わって来てさ…」


まどか「あぁ…、なんかわかる」


さやか「今になって思えば馬鹿だったってよくわかるよ」

さやか「アンタがいて…、ほむらもいて…、ウチの親だって何だかんだであたしの事思っててくれてて…。

    先生もなんか本気で泣いてくれて…。杏子やマミさんも帰って来て、ゆまちゃんも来てくれて…」


さやか「あたしはまだ、こんなに必要とされてるんだって気が付いた」



杏子「………ようやくわかったか馬鹿」

マミ「全くね」

ほむら「です」

ゆま「そうだよ~」


さやか「たはは…」

さやか「正直……、まだ色々とモヤモヤしてる事はあるけど…。

    とりあえず馬鹿やって自分を傷つけたり、捨てたりしようって気だけはなくなったよ…」

821: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:55:17.84 ID:g8NNWSxm0

そう言いながら、どこか遠い目で話す美樹さん。

その顔は居なくなる前のような鬱な様子は見て取れないけれど、晴れきった爽やかなものとも言えない…。

太陽のような笑顔と、底なしの元気を誇る美樹さんのモノとはほど遠い何とも複雑な表情だった。


けど、当然だろう。

あれだけの事があった以上、美樹さんにだって心の整理は必要なんだ。

少しづつでも、いつもの美樹さんに戻れるように、今度は私達で支えてあげよう。


そう思い直した矢先だった。



さやか「あ…………」

まどか「…………」


美樹さんの表情が一辺に曇る。

それもその筈だった。


視線の先に居たのは、美樹さんがあぁなってしまった一因を作りだした彼女…。

志筑さんだったのだから。

822: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:56:26.82 ID:g8NNWSxm0

さやか「…………お、お~」

まどか「いいよ」


さやか「な、何言ってんの…? 仁美もこっちに誘って一緒に…」

まどか「無理しなくていいよ」


まどか「まだ、気持ちの整理付いてないんでしょ?

    だったら、そんな時くらい無理しなくていいんだよ」


さやか「でも………。そうだ! まどか、アンタだけでも仁美の所にいって…」

まどか「いかない」



さやか「な、何でよ………。仁美の事嫌いになったの……?」

まどか「ちょっとだけ怒ってるけど、嫌いにはなってないよ」


まどか「だから、一人でいる仁美ちゃんを見るのは心苦しいけど…。

    それでも、わたしが仁美ちゃんの所へ行ったら、さやかちゃんが寂しい思いをするから、いかない」


まどか「仁美ちゃんが上条君とさやかちゃんで、上条君を取る事を選んだのと同じ。

    わたしも、さやかちゃんと仁美ちゃんのどっちかしか取れないなら、さやかちゃんといる」


さやか「まどか………」

まどか「さやかちゃんはね…、人の事考え過ぎだよ。

    自分が辛い時くらい、自分の事考えようよ…」

823: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:57:45.29 ID:g8NNWSxm0

薄らと目に涙を浮かべる美樹さん。

その美樹さんに微笑みかける鹿目さん。


人の為ならどこまでも強くも優しくもなれる美樹さんだけど…。

代わりに自分の事を省みない悪い癖があるから…。

鹿目さんの判断はきっと正しいんだろう。

でも…。



ほむら「どうにかならないんでしょうか…」

杏子「何がだ」


ほむら「志筑さんの事です…」

ほむら「元々鹿目さんや美樹さん以外の人とは、あんまり話が合わないみたいで…。

    そこに美樹さんの行方不明の件と、上条君の件の噂も広まって、尚更他の人との折り合いが悪くなってて…」


杏子「さぁ…? 知らね」



ほむら「そんな…。そうだ! なら、せめて私だけでも……」


杏子「死にたいのなら、そうしな」

824: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 10:59:22.49 ID:g8NNWSxm0

ほむら「え…? なんで…、死…?」

杏子「何時もだったらそうしてやるといいさ、とでも言ってやってたよ。

   けど、お前は今の状況わかってんのか?」


ほむら「あ………」


杏子「まどかやさやかに守られてる身の癖に、折り合いの悪いお嬢の方に行く…。

   まぁそれはそれでお前の勝手だけどさ…」

杏子「その代わり、二人から離れた隙を突かれて死んじまっても、二人を絶対に恨むなよ?

   ただの自業自得なんだから」



ほむら「自業……、自得……」


杏子「先に断っておくとな、別にアタシはさやかの肩持ってる訳じゃねーぞ?

   恋愛騒動に関しちゃモタモタやってたさやかにも非があるし、むしろそのさやかに断り入れたお嬢に関心してるくらいだ」

杏子「ただな、お嬢の行動は、自身の思惑はどうあれ…。

   まどかの言う通り、さやかを切り捨てて、その上条って坊やを選んだ事には違いないんだ」


杏子「で、その結果が今の現状だって言うんなら、それはお嬢自身が受け止めるしかないだろ」

杏子「それが、お嬢の起こした行動の結果なんだから」

825: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:01:40.54 ID:g8NNWSxm0

ほむら「…………」


杏子「ほむら。お前もよく覚えとけ。

   自分の行動の先にあるのが、今考えてたり、そこで見えた結果だけだと思うな」


杏子「思わぬものが思わぬ絡み方をして、思わぬ方向に進んだり、転んだり…。

   それが現実ってもんだ」


杏子「だから、行動する時はよく考えろ。よく周りを見ろ。

   起きた結果や、自分の望みや目的だけを見るな」


杏子「動いた後に、気付いたらもう取り返しがつきません、じゃ遅い事なんて山ほどあるんだからな」




杏子「まして、予知の事があるお前は尚更………、な」


ほむら「はい。わかってます…」




杏子「まぁあんな話聞かされて、今更魔法少女になるなんて思わね―だろうけどな」

826: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:02:59.37 ID:g8NNWSxm0

昨日の帰り道だった。

みんなが別れる頃になって、巴さんと佐倉さんが顔を合わせ、

突然、みんなに大事な話がある、と切り出した事から始まった。


真剣な顔をした巴さんの口から語られたのは…。



ほむら『魔法少女が魔女に……』


マミ『えぇ。実際にそうなる瞬間を私は見た。確定情報よ』


さやか『…………』

まどか『…………』


杏子『お前らがおかしくなるのを一番警戒してたんだが…。

   案外驚かないんだな?』



さやか『ん…。まぁ何となくわかってたって言うか…。

    ほら、あたしはさっきまで穢れ溜めて暴れまわってたじゃない』

さやか『でさ、その時になんか自分の中にモヤモヤした……、こう……。

    なんかうまく説明できないけど、とんでもなくヤバくて悪いモノが吹き出そうになった…。

    そんな感じがしたんだよ』


杏子『な~る。魔女になる直前まで行ったお前は、感覚的にそれがまずいのがわかってたってか。

   まどか、お前は?』

827: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:04:38.87 ID:g8NNWSxm0

まどか『わたしは……、さやかちゃんほど確信があった訳じゃないんだけど…。

    やっぱり、さやかちゃんの様子からしておかしいって思ってた』


まどか『傷心から来る自虐、ネガティブ、八つ当たりや威圧的な態度。

    どれもさやかちゃんの性格や精神状態からして全く無いとは言えないし、

    実際それら全てさやかちゃんの意思で行ってたってのは嘘ではないと思う。けど…』

まどか『それにしたって、何かネガティブ過ぎるし、何か攻撃的過ぎる…。

    なんとなく、そんな気がしたんだ…』


まどか『だから穢れが溜まった先に悪い事が起こる……ってまでは考えてたから…。

    その結果が魔女だって言うんなら、やっぱり納得しちゃうって言うか…』


まどか『そもそも……、ずっと引っ掛かってはいたんだ。

    ソウルジェムが魔法少女の本体なら………、そのジェムに溜まる穢れって何なのか。

    その穢れが溜まったら何が起きるのかって………』



杏子『そう……か。二人ともジェムの事は知ってたからな。

   そっから碌でも無い答えを予想はしてたってとこか』


まどか『まぁ、ショックじゃない訳じゃないんだけどね…』

さやか『でも、もう色々起き過ぎて頭がパンク寸前って言うか…』


マミ『……災い転じて福となる、か。

   今回の一連の事件が結果的に良い方に転んだのね』

828: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:05:35.81 ID:g8NNWSxm0

願いを叶えて魔法少女になる。

みんなそれだけが望み、考えた結果だった筈だろう。


でも、佐倉さんの言う通り、現実は違う。

願いを叶え、魔法少女になると言う行動は…。

誰も予想だにしない…、魔女になるかもしれないと言う結果を突きつけている。



行動の結果に起きる事が、自分の望むモノだけとは限らない。

自分の悲しい過去の体験談から、それを語る佐倉さんの悲しそうな表情を見た私は、改めて肝に銘じた。



いや、銘じざるを得なかった。

だって、私は…。

世界を滅ぼすと予知された存在だから…。


佐倉さんの言う通り、いや佐倉さんが言う以上に…。

もっと、より慎重に行動しなきゃいけないんだ…。



ほむら(けど……)

ほむら(このまま志筑さんを放っとかなきゃいけないなんて…)

ほむら(私は……、志筑さんにもお世話になったのに…)


ほむら(こんなの……嫌だな……)

829: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:06:53.01 ID:g8NNWSxm0

仁美「…………」


今日もまた一人きりで通学路を歩く。

途中、さやかさんが私に声を掛けようとしていたけれど…。

その声を受ける訳にはいかない私は、少し早足になってその場を通り過ぎた。



仁美「こんな状況になってまで、私に声を掛けようとするなんて…」


仁美「どこまで………、お人よしなんですの………?」


私がやったのは横恋慕。

さやかさんの気持ちを知りながら、それでも自分の気持ちを抑えきれずに優先した。


それがどれだけ残酷な事か、私はそこまでは考えなかった。

どころか、さやかさんは許してくれる。

そんな甘い気持ちまで…。


だけど、実際は…。

彼女が失踪するまで、私はさやかさんを追い詰めた…。

彼女が大事にしている物を、私は奪い取ろうとした…。

さやかさんは強いから大丈夫だって、勝手に決め付けて…。



仁美「最低ですわね…、私……」


























???「良いモノ見ぃつけた♪」

830: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:08:03.09 ID:g8NNWSxm0

――見滝原中学教室――



ほむら「…………志筑さん、遅いですね」


さやか「…………」

まどか「うん…………」


ほむら「私達の先を歩いてたのに…」

まどか「…………」


さやか「…………」

さやか「………………」

さやか「……………………」


さやか「あ~~~~~!!!!! もうッ!!!!!」

さやか「やっぱり、こんなのあたしらしく無い!!!」



さやか「今朝は気使ってくれてありがとう、まどか。

    でも、やっぱり、あたしはこう言うモヤモヤしたのって好きになれそうにないわ」


まどか「うん。それで?」



さやか「だからさ…、ちょっと一っ走りして仁美見つけて、腹割って話してくるよ!」

831: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:08:57.27 ID:g8NNWSxm0

早乙女「ちょっと美樹さん、どこへ…!?

    もう出欠取るわよ…?」


さやか「ごめん、先生! 青春にはわかってても止まれない時があるんですっ!」

早乙女「もう…! また後でお説教ですからね!」


な~にが青春だ、とクラス中に笑いを起こし…。

早乙女先生と入れ替わる形で教室を出て、そのまま走り去っていく美樹さん。


その元気な様子とオーバーな台詞を聞いて、私と鹿目さんは少し呆れながら笑う。

早乙女先生も、駆けて行く美樹さんを叱りつけたものの、それを追ったりはせず、そのまま教壇に立った。


そして、もう一人…。



恭介「うん。それでこそ、さやかだ」

ほむら(……上条君?)


小さく呟いただけだから、その言葉は私にしか聞き取れなかったけど…。

どこか嬉しそうな顔をして、彼がそう言ったのを私は聞き逃さなかった。

832: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:13:08.70 ID:g8NNWSxm0

早乙女「さぁ…、問題児は放っといてみんなは席に座って。

    そろそろ朝礼のアナウンスが…」


教壇に立った早乙女先生が手を叩き、生徒たちを席に座らせた時、それは起きた。

本来であれば、朝礼のアナウンスと放送が流れる筈の時間…。


代わりに流れたのは…。



???『あ~、あ~、テステス。マイクテス~』


???『こほんっ…。

    この放送はッ…、私とッ、織莉子がッ、占拠した!』


聞き覚えのある無邪気な声。

聞き慣れた私達の敵の名前…。


ざわめく教室に応えるように現れた立体映像には…。

美国織莉子と呉キリカ。

白と黒の魔法少女のそれぞれの学校で制服姿で映っていた。

833: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:13:41.29 ID:g8NNWSxm0

早乙女「さぁ…、問題児は放っといてみんなは席に座って。

    そろそろ朝礼のアナウンスが…」


教壇に立った早乙女先生が手を叩き、生徒たちを席に座らせた時、それは起きた。

本来であれば、朝礼のアナウンスと放送が流れる筈の時間…。


代わりに流れたのは…。



???『あ~、あ~、テステス。マイクテス~』


???『こほんっ…。

    この放送はッ…、私とッ、織莉子がッ、占拠した!』


聞き覚えのある無邪気な声。

聞き慣れた私達の敵の名前…。


ざわめく教室に応えるように現れた立体映像には…。

美国織莉子と呉キリカ。

白と黒の魔法少女のそれぞれの学校の制服姿で映っていた。

834: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:14:57.43 ID:g8NNWSxm0

まどか(あの二人…!)


まどか≪杏子ちゃん…!≫

杏子≪マミから聞いた。ゆまも連れてすぐそっちへ…。チッ!≫


まどか≪杏子ちゃん…!?≫



織莉子『皆さんには愛する人がいますか?』

織莉子『家族、恋人、友人。心から慈しみ、自らを投げ打ってでも守りたい人がいますか?

    そして、その人達を守るに至らぬ自分の無力を嘆いた事はありますか?』


まどか「何を……、言っているの…?」

マミ≪時間稼ぎね≫

マミ≪仕掛けてくる。鹿目さんも先手を打って変身しなさい…!≫



織莉子『私には……います』


織莉子『けど、それを捨てて……。

    ここに居る方々全員を犠牲にしてでも…』


織莉子『私は戦う!』


彼女の宣告と共に…。

周囲の景色が歪み、教室の壁が消え、白と黒のチェック柄の床が広がっていく…。


この嫌な感じ、間違いない。

彼女達は、ここに魔女の結界を展開したんだ…。

835: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:16:29.02 ID:g8NNWSxm0

早乙女「み、みんな落ち着いて…」

ほむら「せ、先生ッ! か、肩に…!」


まどか「先生、動かないでッ!!!!!」

早乙女「ひッ!」


ほむらちゃんの警告通り。

シルクハットを被った綿で出来たいも虫のような使い魔が、早乙女先生の肩に乗って牙を向く。


その牙が早乙女先生の肩に触れた時…。

わたしの放った光の矢が、その使い魔を討ち抜く…。



早乙女「は…、はひ…」

まどか「大丈夫ですか…?」


中澤「な…、なんだよ。鹿目のあの格好…」

クラスメイトB「それより、この周りに居るの何なんなの…!?」

クラスメイトA「は…? 何か居るか…?」

クラスメイトB「いるでしょ、そこいら中に!」


中澤「それよりも鹿目…、先生に何やったんだ…?」

クラスメイトA「なんかぶっ放してなかったか…? まさか…!」

クラスメイトB「馬鹿! 見て無かったの! 鹿目さんはその変なのに襲われそうな先生を助けたんだよ!」

クラスメイトC「何でも良いわよ! 誰かどうにかしてよぉ!!!!」

836: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:18:33.74 ID:g8NNWSxm0

突然訪れた非日常にパニックを起こすクラスメイト達。

クラス同士を隔てる壁が消え、その混乱はますます大きくなる…。


使い魔を見る事の出来る者は見えないモノに混乱し…。

見る事の出来る一部の人は、それに恐怖する…。


泣き叫ぶ人。

逃げようとする人。

訳もわからず、立ち尽くす人。


みんながバラバラになって、ますます喧騒は大きくなる…。

けど、このままじゃ使い魔達の思うツボだ。

だから…。



まどか「みんな、静かにしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!!!!!!!」


クラスメイトA「…!」

中澤「あ…」

クラスメイトB「鹿目さん…」


今までの人生で出した事の無いような大声を出して、喧騒を鎮める。

そして、同時に使い魔を討ち落とし、みんなを一ヶ所に誘導し、結界を作る準備をする。


まだ結界が出来たばかりで使い魔の数が少なく、戦闘力が低かったのと…。

授業前で大半の人達が密集してたのが幸いし…。

ほむらちゃんや使い魔が見えている人や先生の協力の元、わたしのクラスと隣のクラスのみんなを集める事に成功した。

837: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:20:03.19 ID:g8NNWSxm0

まどか「今、結界を張ります。ここの中に居れば安全ですから、みんなは絶対にここを出ないで…」


早乙女「鹿目さん…、これはどう言う…」

まどか「後で必ず説明します。 けど、今は事態を収拾する事を優先させてください…!」

早乙女「わかったわ…」



ほむら「鹿目さん…、私も連れてってください…!」

まどか「ほむらちゃん…? 駄目だよ…!」


ほむら「ここに居たら、みんなを巻き込んでしまうかもしれない…。

    だって、私は…」


まどか「わかった。わたしの傍を離れないでね」


ほむらちゃんがみんなの中から離れたのを確認し、わたしは結界を作る。

正直、わたしの未熟な結界では多少心許無かったけど…。


それでも、あの使い魔達には十分だったらしく…。

結界に阻まれて勢いよく弾き飛ばされる姿を確認し、わたし達はその場を離れた。

838: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:21:07.81 ID:g8NNWSxm0

――見滝原中学魔女結界入口――



ゆま「杏子、これ…」

杏子「あぁ…。連中…、やっぱり形振り構わない腹積もりらしい」


アイツらの居る学校のすぐ近くで待機してたのに…。

駆けつけた時にゃ既に遅い。

マミ達が通う見滝原中学がまるまる魔女の結界に収まっていた。




ゆま「助けに行かないと、人がたくさん死んじゃう…!」


杏子「…………」



ゆま「杏子…?」


杏子「ゆま、お前先に行け」

839: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:22:48.33 ID:g8NNWSxm0

――見滝原中学魔女結界入口――



ゆま「キョーコ、これ…」

杏子「あぁ…。連中…、やっぱり形振り構わない腹積もりらしい」


アイツらの居る学校のすぐ近くで待機してたのに…。

駆けつけた時にゃ既に遅い。

マミ達が通う見滝原中学がまるまる魔女の結界に収まっていた。




ゆま「助けに行かないと、人がたくさん死んじゃう…!」


杏子「…………」



ゆま「キョーコ…?」


杏子「ゆま、お前先に行け」

840: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:24:41.91 ID:g8NNWSxm0

ゆま「へ………? どうするの?」


杏子「アタシらは五人。対して防衛対象はこの学校中の人間数百人。

   普通にやったんじゃ、10分の1も守れやしない」


ゆま「だったらはやく………」


杏子「まぁ聞けよ。アタシらがここで頑張って10分の1を助けたって…。

   そのほとんどは救えない。何もかも全部アイツらの思うつぼだ」


ゆま「…………」

杏子「それでも、それしか救えないってんなら仕方ない。

   けどさ、それじゃ面白くないだろ…?」



ゆま「キョーコ、まさか…!」


杏子「あぁ。全員とは言わないが、9割助けられるかもしれないとっておきがある。

   ただ、それをやるには時間がちょっとばかし時間が掛かるんだ…」


ゆま「だから、ゆまたちが中で、その時間をかせぐんだね…?」

杏子「あぁ、頼む!」


ゆま「うんっ! たのむね、キョーコ!」

841: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:25:46.20 ID:g8NNWSxm0

杏子「………さ~て」


あぁ言っちまった以上、もう引き返せない。

それに、失敗も許されない。




杏子「はぁ…、何でアタシは得意げに言っちまったかなぁ…」


杏子「半ば、賭けみたいなもんだってのに…」



一応、そのとっておきってのは嘘じゃない。

ただ、試した事も一度もない。


だから成功する保証も無ければ、自分に掛かる負担も想像できない。

842: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:26:44.42 ID:g8NNWSxm0

杏子「………下手すりゃ回復する間もなく、ソウルジェム真っ黒で即お陀仏。

   どころか、魔女になってむしろ被害拡大、全員全滅ってか…?」


杏子「冗談じゃねぇよ…」


正義の味方。

そんなもんに戻るつもりはない。

だけど、それを目指している奴がいる。


そんな奴に、頑張ったけど9割助けられませんでしたって結果を見せるのか?

それが現実だって、ここで全部諦めさせるのか…?



杏子「できねぇよな、そんな事…」

杏子「甘っちょろい事を言うマミやさやか、まどかの事は気に入らねぇ…。

   けど…」


杏子「何もかも織莉子の思い通りってのもまた、面白くねぇ…!」



杏子「なら…、やってやるよ…。

   あっと驚く奇跡って奴を起こしてやるよ…」


杏子「そういうもんじゃん? 最後に愛と勇気が勝つストーリー、ってのは!」

843: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:28:22.35 ID:g8NNWSxm0

――見滝原中学結界内1F――



見滝原中学生徒「た、助けてぇぇぇぇぇ!!!!」

さやか「早く、こっちに来て!」


見滝原中学生徒「はぁ…はぁ…はぁ…」

さやか「よし、結界張るよ!」



さやか「じゃ、ここの中に居る間は安全だから!」


仁美を探す為に、校庭の階段を下り、下駄箱へ向かっている時だった。

突如、発生した魔女の結界に捕われる混乱に巻き込まれる。


いや、今回ばっかりはむしろ幸いと言えるかもしれない。

あたしはまだ結界を出る前で、かつまどかと別動する事で、

まどかやマミさんの居ない一階に居る人達の救助を迅速にこなせている。

844: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:30:12.32 ID:g8NNWSxm0

さやか「けど、全員助けられるって訳じゃない…」

さやか「むしろ、分断されてるって意味じゃ結構まずいのか…」


この現状を対処する方法は一つ。

魔女を倒して、あたしらがみんなに張った結界が壊れる前に、この状況を打破するしかない。

だだっ広い上に入り組んだ魔女結界さえ無くなれば、みんなを襲う使い魔の動きも見やすくなり…。

あたし達の合流も楽になって、犠牲も減って、アイツらに対抗する手段も生まれる。




さやか「魔女が直接見つかれば良いんだけど、そううまくも行かないか…」


さやか「なら、とりあえず放送室に行ってアイツらを問い…」



???「放送室には誰もいないよ」


さやか「アンタは…」






キリカ「やぁ。ご機嫌はいかが」

845: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:31:52.51 ID:g8NNWSxm0

そこに立っていたのは、黒いショートカットに黒い眼帯、黒い装束…。

黒の魔法少女、呉キリカ…。


杏子達との戦いで負った傷が癒えなかったのか、左腕を失っており、

あの魔力の爪は右手から伸びる五本のみである。



さやか「最悪よッ!」


キリカ「そうか…。なら、わたしは最高だ!」


最大の速度を以て敵に踏み込み…。

斬撃を浴びせるも…。

平然といなされ、蹴りによる反撃を脇腹に受ける。


最も、そんなものを物ともしないあたしは、続けて斬撃を繰り出し…。

相手の左肩の辺りに掠り傷を付ける。

846: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:32:52.35 ID:g8NNWSxm0

キリカ「へぇ…、やるようになった」

さやか「こっちは急いでんのよ!」


キリカ「ふぅん…。なら、焦りなよ。私の役割は足止め。

    キミがここに居る時点で私の、そして織莉子の思惑通りなんだから」


さやか「挑発のつもり? 舐めんな…!」


ヘラヘラと笑いながら挑発する敵。

だけど、それには乗らない。

敵のフェイントを見切って、本命の攻撃を剣で止め、逆に相手を腹から思い切り蹴り飛ばしてやった。



キリカ「くっ…ふ…。案外冷静なんだ」


さやか「冷静? 全然冷静じゃないわよ!

    むしろ滅茶苦茶苛立ってるっての!」


さやか「これから喧嘩した友達と仲直りしに行くとこだったのに…!

    このモヤモヤした気持ちをどうすればいいのよ…!」

847: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:34:41.12 ID:g8NNWSxm0

キリカ「喧嘩した友…? あぁ志筑仁美の事かい? へぇ…」


さやか「なんでアンタが…、って例の予知の力か。

    うざったいなぁ、プライベートも筒抜けな訳…?」



キリカ「ふむ。しかし、また…なんでかな?

    キミは彼女を恨んでいる筈だろう?」


キリカ「もう少しで魔女になる程にさ…!」




さやか「…………また、挑発?」


喋っている間も敵は動きを止めない。

あたしは、その攻撃を受けながらも要所要所で反撃を仕掛ける。


戦いは拮抗していたけれど、それは敵がそれだけ弱っている事を意味していた。

848: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:36:41.89 ID:g8NNWSxm0

キリカ「いいや、単純に興味深いだけだよ」

キリカ「彼女がやったのは言わば愛の略奪だろ…?」


キリカ「なんで、そんな相手とのやり直しを望むのか…。

    私には理解できないからさ」

さやか「…………」


キリカ「愛してたんだろ? 自分の身を捧げてまで彼を救う事を願うほどに」

さやか「わかんないけど…、多分そう」


キリカ「なら…、何故その彼への愛に横槍を入れる輩を許そうとする?」

キリカ「許し難いじゃないか。そんなの…、そんな奴…!」



さやか「簡単だよ…」


さやか「このまま腐って、仁美を恨んで妬んで、モヤモヤしてたら…。

    あたしがあたしで無くなる。そんな気がする…」


さやか「ただ、それだけ!!!!」


鍔迫り合いの末、互いの武器が弾き合い、大きく距離が離れる。

あたしはその隙を逃さぬよう、足先に魔力を込め…。

空中に魔法陣を作り出し、それを蹴って再加速して切り込む。


相手は回避が間に合わず、防御しながら吹き飛んでいくも、その口調を強めていく…。

849: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:38:00.40 ID:g8NNWSxm0

キリカ「なんだい、それは…」


キリカ「キミの愛はその程度のモノなの…?」

キリカ「キミの深い献身は、愛では無かったの…?」


キリカ「キミの愛は無限に有限じゃなかったのッ…!?」



さやか「恭介の事はまだ好きだよ。多分、忘れられない」


さやか「けど、あたしが愛しているからって…、それを恭介に強要する事は出来ない。

    だから、あたしの愛を邪魔されたからって…、仁美を恨むのもなんか違うんじゃないかなって思うんだ」


さやか「それにね…」


さやか「愛はあたしに振り向いてはくれなかった。でもね…」

さやか「代わりにもっと良いモノを見つけたんだ…!」



互いの速度を最大限に活かし、すれ違いざまに打ち合いを続ける。

治っていない傷口が開いたのか、あたしが攻撃をした覚えのない箇所からも血が滲む…。


それでも、敵は自分の信じるモノを語る口調を強めると共に、少しづつ動きのキレを増していた…。

850: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:38:47.26 ID:g8NNWSxm0

打ち合いの末に離れた距離。

その絶妙な距離を好機としたあたし達は互いに決着の為の、大技を繰り出そうとする…。


あたしは地面でクラウチングの構えを取りつつ、足元に魔力を溜め…。

敵は右手に魔力を収束させ、恐らくは速度低下の重ねがけを狙う…。



キリカ「くくくっ、くくっ、あっはははははははッ!!!!!!」


キリカ「愛は無限に有限なんだ…! その愛に勝るものなんて…!」




さやか「愛は無限に有限か。良い言葉だよ。だけどね…!」



さやか「友情は無限に無限…!」





さやか「無限大だよッ!!!!」

851: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:40:04.66 ID:g8NNWSxm0

互いに狙ったのは先手…。

最大限まで速度を活かす、ないし殺す事で相手より早く斬りつける。


これだけの事。

しかし、結果は互いの考えていた通りにはならなかった。



さやか「んッ…!」


キリカ「ちぃッ…!」


互いの攻撃はほぼ同時に繰り出される。

同時に繰り出された攻撃同士は当然のようにぶつかり、鍔迫り合いとなる。


その結果…。




さやか「はぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」


キリカ「くぅッ!!!!!!!!!」


身体中のダメージが響く黒の魔法少女は、力比べではあたしには敵わず…。

速度の乗ったあたしの攻撃を受ける事が出来ずに、そのまま大きく弾き飛ばされて壁に激突した。

852: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:41:36.35 ID:g8NNWSxm0

叩きつけられた壁を背にして、座りこむ敵。

あたしはその敵へ剣を向ける。


あたしの剣の刀身は射出する事が出来る。

つまり、この微妙な距離から行ったホールドアップと言う訳だ。



キリカ「やる………ね……」

さやか「勝負あったね」


キリカ「くっくくく…、それでいい…。それで…」

キリカ「やっぱり……、キミは愛の何たるかを理解しているよ……」


さやか「…?」



キリカ「愛ってのはね……、好きとか…、大好きとか…、単位で表すようなモノでも無ければ…。

    奪うだの、横槍だの…、そんな小さな事に拘るモノでも……無い……」


キリカ「見返りを……求めず………、ただ相手を愛し、尽くす……!

    それが……、それこそが『愛』……」


さやか「見返りを求めず…、尽くす……」



キリカ「美樹さやか、キミは誇っていい…。

    キミが彼に行った行為は……、願いは………、紛れもなく『愛』そのものだ…!」

853: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:43:52.04 ID:g8NNWSxm0

さやか「なんで………、なんで敵のあたしにそんな事を…?」



キリカ「敵、か…。くくっ…、確かに敵だね…」


キリカ「だけど、私はキミの事だけは…、最初から嫌いじゃなかった…」



さやか「…………」


キリカ「愛に生きて、愛故に苦しみ、愛に死ぬ…。そんな面白い生き方を…、覚悟をするキミは……。

    ある意味では成りたい私であり…。興味深い存在であり…、同士とも言えた……」



さやか「あたしはアンタの事が嫌い」

さやか「けど、やっぱり…。

    アンタの言う『愛』だけは理解できるよ…」


キリカ「くくっ…。本望だ。

    『私』の最期を看取るのが、キミで……」






























???「そんなキモチのイイ終わらせ方、させると思ったのか?」


???「バーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!」

854: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:46:10.56 ID:g8NNWSxm0

キリカ「この声と陣…! 離れろ!」

さやか「え…?」



???「イル・トリアンゴロ!!!!!!!」


黒の魔法少女を中心に金色の魔法陣が展開すると…。

謎の声の掛け声とともにその周辺が炸裂した。




キリカ「うッ…く…」


さやか「くっそッ…!」



???「あはははははははっ! キレイに飛びましたぁぁぁぁぁ」



ユウリ「けど、息はあるようで関心かんしぃぃぃんッ」



炸裂して吹き飛んだ壁の向こうから現れたのは…。

金髪のツインテールに金色の釣り目、さらに紫の際どい衣装を着た見慣れない魔法少女。


両手にハンドガンを持ち、明らかに気が狂った笑みを満面に浮かべている。

855: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:48:13.47 ID:g8NNWSxm0

ユウリ「よぅ…、探したぜぇ…。

    な~に、勝手にキモチよく死のうとしてるんだよ?」


ユウリ「困るんだよなぁぁぁぁ。勝手なことされちゃあ」


ユウリ「お前は、アタシがぐちゃぐちゃにしてやるって決めてるんだからさぁ!」



キリカ「また…、キミか…。せっかくいい所だったのに…」


ユウリ「そう言うなよ! 今度はお前を蜂の巣にしてやろうと思ってきたんだから!

    ほら、あの白いのみたいに良い悲鳴あげてくれよっ!」


キリカ「…………」



ユウリ「乗らないか。けど、ボロ雑巾をもっとボロくしてもつまんないなぁ…。

    もっと面白いモノないかなぁ…?」


黒い魔法少女と話す気が狂った紫の魔法少女が突然、その向きを変え…。

視線をあたしへと合わせる。


そして、ここに来た時と同じ狂った笑みを満面に浮かべると…。



ユウリ「そうだぁ…! あんたがやけに気に入ってるあの子にも悲鳴で歌ってもらおうかな!」


標的をこちらに定めた。

856: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:50:03.82 ID:g8NNWSxm0

ユウリ「さ~て、そうと決まれば…。お~い、魔女のお嬢さん!」


ユウリ「あんたの出番だ!!!!!」


紫の魔法少女の呼び声に合わせ…。

全身が金色のマネキンのような魔女が姿を現す…。


壊れた壁の向こうの闇から這い出たその姿はどこか神々しく、登りかけの朝日のように見える…。




ユウリ「そっちの黒いのの相手を頼むわ」

魔女「…………」



ユウリ「かなり弱ってるけど、殺すなよぉ?」

魔女「…………」


魔女に指示を出す紫の魔法少女。

そして、それに黙って従い、縦に首を振るだけの魔女。

その光景は奇怪そのものだけど、そう言う能力だとすれば頷けなくもない。

それよりも…。

857: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:55:05.06 ID:g8NNWSxm0

ユウリ「全部終わったらあんたの探し人も見つけて一緒にボコし…」


さやか「この結界を作ってる魔女を倒せば…!!!!」


あたしは状況を打破するために魔女へ向かって駆けだす。

結界を作っているであろう魔女が自ら出てきてくれたのだ。

それを逃す手はない…。



さやか「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

魔女「…!」


もう少しで間合いに入るかと言う時、その全身が金色の魔女の緑色の瞳と目が合う。

どこか見覚えのある瞳をしたその魔女は突如、苦しそうに頭を抱えると…。

周囲に高熱と炎を伴う衝撃波を発生させ、あたしと隣に居た紫の魔法少女を吹き飛ばした。


そして、さらに全身の炎を魔力で吹き飛ばした紫の魔法少女に、魔力爪の追い打ちが入る。



ユウリ「何やってんだッ!」

ユウリ「…!?」


キリカ「残念だったね…! 思惑が外れて!」




ユウリ「くッ…!」


キリカ「どこの誰だか知らないが……、キミの相手はこの私だ!!!!!」

858: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:57:10.34 ID:g8NNWSxm0

紫の魔法少女同様、軽い火だるまになりながら吹き飛んだあたしは…。

受け身を取りながらも、その勢いを殺し切らずに技と転がり、体中に付いた炎を消す。


それでも炎の消えないマントを捨てつつ飛び起き、追撃に来た金色の魔女を迎え撃つ。

つもりだった。



さやか「上等…! あんたからこっちに来てくれるなんて願ったり叶ったりだね…!」

魔女「サヤ…カ………」



さやか「気持ち悪い奴だな…! なんであたしの名前を…」

魔女「サ…ヤ………サ………」


敵の両掌に発生した小さな太陽の如く燃える炎の魔力球を受け流しながら、敵の様子のおかしさに気付き始める。

いや、正しくはこの敵に戸惑っている自分に気付く……。

その声、その瞳、そして…………。



魔女「サヤカ…………サン………」


さやか「その呼び方…」


さやか「アンタ、まさか…」





さやか「仁美?」


気付いた戸惑いは、最悪の確信へと変わる。

859: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:58:10.85 ID:g8NNWSxm0

――見滝原中学結界内2F――



まどか「ほむらちゃんが説明と誘導をやってくれるから、助かるよ」

ほむら「いえ………」


まどか「…………でも、わたしの傍を離れないでね」



まどか「怖い人も来たみたいだし」




???「あら…? もう気付かれてしまったのね」




織莉子「御機嫌よう」


今や薄気味悪さしか感じない綿の山の物陰から…。

白い装束、栗色の髪、そして美しい碧眼をした…。

天使のような魔法少女が現れる。


中身は悪魔のような、と言いたいけれど…。

彼女の目的を考えれば…。

ある意味では、中身も冷酷な天使のようであるとも言えるだろう…。

860: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:58:53.79 ID:g8NNWSxm0

まどか「この結界を解いて…!」

織莉子「何のことかしら?」


まどか「しらばっくれるの?」

織莉子「あらあら、怖い子ね」



織莉子「はじめから話しあうつもりなんてなかったのでしょ?」

まどか「ッ…!」


矢を即座に作り出しつつ、早撃ちを狙っていた事を見透かされる。

それでも、わたしはそのまま弓矢を構える…。

今のわたし一人では敵わないかもしれない。

それでも…。



まどか「ほむらちゃんはわたしが守る…!」



織莉子「心配しなくても大丈夫。貴女の相手はあとみたい」


織莉子「ねぇ…、巴マミ?」





マミ「…………決着を付けましょう。美国さん」



―to be continued―

861: ◆.2t9RlrHa2 2011/12/30(金) 11:59:21.24 ID:g8NNWSxm0

―next episode―


「その時は、わたしが命に代えても責任を取るよ」





―【第十九話】白と黒(後編)―


866: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 22:59:42.96 ID:NxI63QRO0

『美国久臣がこの政治腐敗に一石を投じます』

『この国が幸せになる為にはまずこの街が幸せにならないとね』

『勿論、織莉子の幸せの為にも』


お父様は立派な人物だった。

家でも、外でも、何時も人の為、国の為、世界の為と…、よりよい世界を作ると日々勤しんでいた。


そんなお父様は私の憧れであり、そんなお父様の力になれるようにと務め、精進を続けた…。

そして…。



『ほら、あの人よ。生徒会長で学年トップの美国織莉子さん』

先生やクラスメイトも…。


『本当に気持ちのいいお嬢さんね。親切で礼儀正しくて何でも出来るのにお高く止まっていなくて』

ご近所の人々も…。


『とても聡明なお嬢さんだ。これからも父上の名に恥じぬよう頑張りたまえ』

お父様と親交のある政治家の方も皆、そんな私を褒め称え続けた。


だから、私はそれで良いんだと思っていた。

いや、そんな風に疑う事さえしなかった。

あの時までは…。

867: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:00:34.04 ID:NxI63QRO0


『本日未明××党 美国久臣議員が自宅で首を吊っているのが発見されました』


お父様は死んだ。

それも、行っていた不正の疑惑の追及を避ける為だと言う。


綺麗事を並べていたお父様の手は、真っ黒だった。

私はお父様に裏切られたんだ…。

さらに…。



『くすくす。よく学校に来れますわね』

『やぁねえ! まだ住んでるんですって!』

『先生はお会いにならないと言っています。選挙も近いと言うのに不正議員の娘に纏わりつかれたら堪らないでしょう?』


私の築き上げてきたモノは、お父様の死、裏切りと共に全て崩れて無くなった。

そして、その時にようやく気がついた。

868: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:01:18.70 ID:NxI63QRO0

周囲や世間から見れば…。

美国織莉子と言う人物は、美国久臣の娘以外の何物でも無く…。

誰もが私個人ではなく、お父様の一部としてしか私を見ていない事に。


お父様に裏切られ、残された私は誰にも必要とされていないばかりか…。

世間から疎まれる存在の残り滓に過ぎない事に…。




だから、私は呟いた。


『みんな私の事をお父様を通してしか見てくれない…』


『私がお父様の一部だと言うのなら、何故私は生きているの?』








『私は………、私が生きる意味を知りたい』


溢れ出た嘆きは、私の全てを変えた。

869: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:01:48.43 ID:NxI63QRO0







―【第十九話】白と黒(後編)―










870: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:02:40.39 ID:NxI63QRO0

――見滝原中学結界内2F――




マミ「…………決着を付けましょう。美国さん」


暁美さんを守る為に弓を構える鹿目さんと、その前に立ち塞がる美国さん。

私が来る事を予知していたのか、あるいは本当に手を出す余裕がなかったのか…。

何にしても二人の戦いが始まる前に制止する事に成功する…。


そして…。

彼女との決着を望む私は、変わり果てた階段の踊り場の上から、白の魔法少女を睨みつつ…。

踊り場から跳躍して床へ着地しつつ、そのまま歩いて鹿目さんのすぐ後ろに立った。




まどか「マミさん、わたしも…」


マミ「あなたは下がってて。

   彼女の事だから、隙を見て暁美さんを狙わないとも限らないしね」


まどか「はい…」

871: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:03:54.53 ID:NxI63QRO0

私の指示に従い、暁美さんの元まで後退していく鹿目さん。

その足音を聞きながら、私は再び白の魔法少女を睨みつつ、告げる。




マミ「………最後の警告よ。今すぐこの結界を解きなさい」


織莉子「そうして欲しいのなら、暁美ほむらを今すぐ差し出しなさい」


無駄な事だとはわかっていた。

彼女が学校を巻き込んだのは、それを含めての行動なのだろうから。


彼女の狙いは、私達の倫理や道徳に付け込む事。

ここに居る人達を見捨てきれずに疲弊し、また事の早期解決に焦るであろう事を色々な意味で見据えているのだろう。

かつ犠牲を認めきれず、一人でも多く助けたいと欲張る私に対する当てつけでもある。

だから…。



マミ「そう…。なら、もう躊躇わない.

   今ここであなたを倒し、全てを終わらせる」


織莉子「………来なさい。貴女は私の手で引導を渡してあげる」


迷う事、躊躇う事、焦る事。

それは全ての敵の思うつぼなんだ。

だからこそ、私はそれらの邪念を捨て、銃弾と言う形を以て彼女に応えた。

872: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:05:29.26 ID:NxI63QRO0

織莉子「…………」

マミ「………」


両手に握られたマスケット銃から一発づつ…。

さらに右手を振って、素早く空中に作られた四丁のマスケット銃から一発づつ…。


計六発の銃弾が、ものの数秒の間に間髪いれずに放つ。

けれど、その銃弾はいずれも虚しく空を裂く…。




織莉子「なかなか速いわね。それに正確…」


マミ「まだ、終わりじゃないわ」


白の魔法少女が全ての攻撃を回避する僅かな隙を活かし…。

私は周囲の空間を歪ませ、無数のマスケット銃を発生させ始める…。

しかし…。



織莉子「勿論知っているわ」


織莉子「だから………、それは撃たせない」


一瞬で発生した無数の敵の魔力球が放たれ…。

武器の生成で動く事が出来ない私目掛けて飛んでくる…。

873: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:06:51.44 ID:NxI63QRO0

周囲に展開した無数のマスケット銃を打ち倒すべく迫る魔力球。

後一歩で魔力球が届く、と言った瞬間…。




マミ「…………」


織莉子「……やるわね」


地面を突き破って、数巻の魔力のリボンが出現する。

天へと伸び、私を守る壁となったそれに阻まれ、軌道を変えられた魔力球達は明後日の方向へと飛んでいく…。


さらに…。



織莉子「…………」


織莉子「大盤振る舞いね」


魔力のリボンは白の魔法少女の四方八方からも現れて、取り囲み。

一斉に襲いかかる。

しかし…。

874: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:07:28.32 ID:NxI63QRO0

織莉子「けれど、それも…」


白の魔法少女はその眼を青白く輝かせると…。

まるで生き物のように四方から迫るリボンを平然とかわしつつ…。

魔力球を纏めて撃ちこんでリボンの一画を崩して、包囲網を抜け…。




織莉子「それも…」


さらに、その間に生成された無数のマスケット銃の弾丸の追撃をも平然と回避し…。




織莉子「それも………。全て無駄よ」


その弾丸を縫うように進む魔力球を、当たり前のように私に命中させ…。

私が作ろうとしていた巨大な砲身を破壊しつつ、その衝撃を利用して私自身も吹き飛ばした。

875: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:08:41.49 ID:NxI63QRO0

マミ「くッ…、まだ…」


織莉子「全ての小細工は私の前では無意味…」



織莉子「そして…。先が視えていると言う事は、無駄は一切必要ないと言う事…」


片膝を付くも、立ち上がろうとする私を指さす白の魔法少女。

それに合わせるように彼方から現れた魔力球が、私目掛けて飛び交う。


いや、現れたと言うよりは舞い戻ったと言うべきなのだろうか。

あの魔力球は恐らく、リボンに阻まれて軌道を反らされたモノであろうから。




織莉子「もうわかっているとは思うけれど、回避は出来ないわ。

    私には貴女の行動が全て視えている」


彼女の思念で操られ、不規則な動きを繰り返して飛び交う魔力球は…。

私の回避行動や、弾を撃ち終えたマスケット銃を使っての振り払いをかわし…。

悉く直撃し続ける…。


けれど、私は攻撃が着弾すると同時に防御や回避を諦め…。

三度、周囲に無数のマスケット銃を展開していく…。

876: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:10:09.49 ID:NxI63QRO0

織莉子「私の予知は絶対。貴女の行動の全てを私は先んじて知る事が出来る」

織莉子「戦いに置いて先を読む事、先手を取る事…。その大きさが理解できない貴女ではないでしょう?」


織莉子「なのに、立ち上がる。無駄とわかりながらも繰り返す。理解が出来ないわね」




マミ「諦めがよくないのよ…。あなたと違ってね…」


織莉子「減らず口を…」



マミ「私は諦めない…。暁美さんの事も、ここに居る人達の事も、魔法少女達の事も…!」


マミ「そして、認めない! 多数の為なら少数は切り捨てられて当然と不幸を強いて、

   憎しみや悲しみを撒き散らすあなたのやり方は…!」


子供染みた綺麗事だと言うのはわかっている。

それでも、私にはこの道しかない。

だって、私の守りたいモノは………。



展開されたマスケット銃を強引に撃つも、平然とかわされ、また魔力球を受けて倒れる。

それでも私はまた立ち上がりつつ、マスケット銃の展開を続けていく…。


そして、白の魔法少女はその様子を忌々しそうに見つめながら…。

魔力球を撃ち込み、再び私を地面へと叩きつけた。

877: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:10:56.09 ID:NxI63QRO0

織莉子「…………」


巴マミのその姿。

それはかつての私を思い起こさせる。

魔法少女になったばかりで、まだ何も知らなかったあの時の事を…。



『私の生きる意味を知りたい』

その願いに応え、現れたあの嘘吐きと契約した。

私の願いは、強力な固有能力と言う形で叶えられ、その先で見たモノこそ…。



『私契約します。だから、お母さんを助けてください』

『凄いじゃん。魔法少女の力って! これなら私を馬鹿にした奴らに一泡吹かせられる!』

『ありがとう、QBのおかげで歌手になる夢が叶いそうだよ』


知らずとは言え、自分を売り渡し、強大な力を得て災いの種となった見知らぬ魔法少女達の姿と…。



『痛い…、苦しい…、誰か………、助けて』

『違う…、違う! 私はこんな事望んでない!』

『もう、何もかも……………消えちゃえば良いんだ』


その真実と末路…。

878: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:12:04.53 ID:NxI63QRO0

魔女と言う不幸の塊を生みだす根源を知った私は…。

その存在の発生を阻止し、被害を未然に防ぐ事を決意した。


そうやって、『人』も『魔法少女』も『この世界』も救う…。

お父様とはまた違う形だけど、お父様の成せなかった救世を成す。


それが『私の生きる意味』だと…。

そして、そんな綺麗事が成せると、本気で信じていた。

けれど……。



織莉子「無駄よ……」

織莉子「貴女の足掻きなど、定められた未来にひびを入れる事さえ無い無意味な行動…。

    貴女の語る理想や道徳は何も救わない、救えはしない、綺麗なだけの無謀な幻想…!」


マミ「そうかも……、しれない………」

マミ「でも、私には…、未来は見えないから…、信じて…、足掻くしかないのよ……」

マミ「私の守りたいモノは…、その先にしか、ないから………!」


決意と共に放たれた無数の銃弾と魔力球は一切ぶつかる事はなく…。

巴マミの弾丸だけが外れ、私の魔力球だけが命中する。


もがき、足掻く者の都合など無視して…。

私の力は彼女の未来を視せ続ける…。

879: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:12:46.86 ID:NxI63QRO0

――見滝原中学結界内1F――



さやか「そんな…」

さやか「なんで…、なんでよ……」


ずっと彼女を羨んでいた。

殺したいほど憎んだ時もあった。


けど…。

ようやく向き合おうって、そう思ったのに…。




さやか「なんで、仁美が…!

    魔女なんかになってんのよッ!!!!!!!!」


その相手は今…。

化け物へと姿を変え、あたしに襲いかかっている。

880: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:13:30.48 ID:NxI63QRO0

壁に大穴の空いた、結界内の広い空間の中で虚しく木霊するあたしの叫び。

魔女に変貌したあたしの友人は、勿論答えない。


代わりに…。

その様子を嬉しそうに、横目で見る紫の魔法少女が笑いながら語りだす。





ユウリ「今まで大人しかったのに、なぁにを突然暴れ出したのかと思ったら…。

    そうか、そっかそっか…」


ユウリ「そいつが探し人の『サヤカサン』かぁ!!!!!!!」


既に満足な動きが出来ていない黒の魔法少女を軽くあしらいながら…。

壊れた笑みを浮かべ、紫の魔法少女は嬉しそうに喋り続ける。


その様子と言葉に激怒したあたしは、魔女の相手をしながらも怪しいその女を問い質す。

881: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:14:59.39 ID:NxI63QRO0

さやか「アンタ、仁美に何やったの!?」

ユウリ「いや、何…、悩んでたみたいだからな…」


ユウリ「心を解き放ってやったのさッ!!!!」



さやか「訳わかんない事を!」

キリカ「心を………、まさか………」


キリカ「『悪の果実<イーブルナッツ>』か…?」



ユウリ「御名答! 暗い気分がすっきりする最高の特効薬!

    この『悪の果実<イーブルナッツ>』を頭に埋め込んでやったのさ!」


紫の魔法少女は敵を左手のハンドガンで牽制する片手間で…。

どこからか取り出した、右手のそれぞれの指の隙間に挟んだグリーフシードによく似た何かを見せつける。


『悪の果実<イーブルナッツ>』

そう呼ばれたあのグリーフシードもどきは恐らく…。

882: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:16:50.22 ID:NxI63QRO0

魔女「………カ………ン………」

さやか「アレが仁美をこんな姿に…!」


キリカ「間違いない。あれが人を魔女へと変える呪いのアイテム…」

キリカ「私も噂で聞いただけだったけど、誰の得にもならない傍迷惑な物が本当に実在するとはね…」



ユウリ「傍迷惑ねぇ。そうでもないんだよなぁ、これがさ」

ユウリ「コイツの特徴は、個人差はあれど本来の魔女と違って、ある程度理性を残せる可能性がある。

    例えば……」


ユウリ「そのお嬢さんはここに来るまで、人殺しはおろか、器物破壊や暴力行為の素振りすら見せず、

    移動以外の一切の行動を行っていない。本人の理性がそれを望まなかったんだろうなぁ…」


さやか「魔女になってるのに…、それらしき行動はしてない…?」


でも、今目の前に居る仁美らしき魔女は、ひたすらあたしに対して攻撃行動を繰り返している。

矛盾…? いや…。



ユウリ「もうわかったんじゃないのかぁ?」

ユウリ「人を襲わない程の理性が残ってるそいつが、アンタにだけは襲いかかる。

    その意味…、すごくわかりやすいよなぁ…?」


ユウリ「そいつが探し出してでもぶち殺したかったのが、アンタって事だよ!!!!!!!」

883: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:18:32.31 ID:NxI63QRO0

魔女「サヤ……カサ……」

さやか「あたしを………」


その言葉に固まった一瞬を逃さず、魔女はあたしに一撃を入れる。

咄嗟の防御には成功するも、紫の魔法少女の口は止まらない。




ユウリ「アタシもちょいと手駒が欲しくてなぁ…」


ユウリ「適当に物わかりがよくて、利害が一致する奴に当るまで手当たり次第に行こうと思ってたんだが…。

    いきなりそのお嬢に当たってさぁ…! ラッキーだったよ!」


ユウリ「で、そのお嬢ときたらアタシに刃向わないどころか、人探しなんて始めようとするんだ。

    笑っちまうだろ?」


ユウリ「そんなその大人しい魔女のお嬢が、アンタを見た途端にこれだ!

    もうたまんないよ!!!! なぁ!!!!!?」


さやか「ッ…」



ユウリ「よかったじゃないか! 思われてるみたいで!」


ユウリ「しっかりそいつの憎しみを受け止めてやれよ、サヤカサン!

    あはははははははははははははははは!!!!!!!!!!!」

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884: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:19:21.33 ID:NxI63QRO0

魔女「サヤカ………サンッ…!!!!!!!」

さやか「…………!」


紫の魔法少女の歪んだ笑い声に反応するように…。

魔女となった仁美の右手が強く燃え盛り…。

その拳を受けたあたしは、防御の際に発生した爆発によりその身を飛ばされる。



さやか「憎しみ、か………」


そりゃそうだよね。

仁美だって、多分ずっと恭介の事が好きだったのに我慢して…。

付き合ってもいないあたしが幼馴染だってだけでウロウロして、目障りだったよね。

見せつけるようにあたしがする恭介の話なんか、聞きたく無かったよね。

告白した後に騒動を引き起こして有耶無耶にしたんだろうあたしが、鬱陶しくて仕方なかったよね。


アンタさえ居なければって、そう思ったんだよね…?



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885: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:20:22.58 ID:NxI63QRO0

空中に投げだされたあたしに止めを刺すべく…。

両手に纏う炎を更に強めながら、魔女となった仁美は地面を蹴って跳躍する…。




さやか「仁美の気持ち…、わかる………」


さやか「あたしだって………、そうだったから………」


美人で、頭がよくて、優しくて、お金持ちで…。

あたしは、そんな女らしくて完璧な仁美がずっと羨ましくて…。

そんな仁美が恭介を好きだと言った時、すごく苦しくて嫌な気持ちになった…。


知らないとはいえ、あたしがどうしようもなくなった時を狙ったように、恭介との間に入って来て…。

何もしてないアンタが全てを横から奪い去ろうとするのが、憎くて憎くて仕方なかった…。


アンタなんか居なければ、ってそう思った。


だから…。


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886: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:21:19.92 ID:NxI63QRO0

さやか「あたしだって恨んだんだ。

    仁美だって憎めばいい。憎んでくれて構わないよ。

    けどさ………」



さやか「こんなのは………、違うよ………」


さやか「またやり直せるにしても、もう戻れずに憎みあうしかないとしても…。

    こんな所で……、こんな終わり方をするのは違う………」


止めを刺そうと迫る仁美。

けれど……。




さやか「そうでしょ!? 仁美ッ!!!!!!」


魔女「…………!」


拳が届く直前に、あたしの言葉に反応した仁美は…。

急に頭を抱えて、地面へと落下…。

あたしと少し離れた位置に着地し、そこで苦しそうに炎を撒き散らしながらのた打ち回り始めた。




887: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:22:23.93 ID:NxI63QRO0

魔女「ア…アァ……ァ…」

ユウリ「何が……どうなってるッ!!!!」


魔女「ウゥ……ウァ…ア…アァァ!」

ユウリ「どうしたんだよ! やれよッ! やっちまえよッ!!!!」


魔女「チガ………ウ………」

ユウリ「何が違う! 探してたんだろ! いきなり襲いかかるほど憎んでたんだろ」


魔女「憎ンでる……、だカラ……、止め…れなかっタ……」

魔女「で…モ、探しテタノハ……違…」


魔女「たダ……、謝りタかっ………タから……です…の……」


ユウリ「なにをだッ! 憎む相手に謝る事なんて…!」



魔女「ワタ…し……は……、何ハ…どうアレ……、サヤカさんノ……。

   大切ナ人……、奪おウとしたン…、ですの……。

   さやかさんの………、気持ち……知ッテ…いなガラ………」


魔女「傷つける……ッテ…、わかってたノに……。

   それでも…、さやかさンは強イから…、だいじょうブだって……、言い訳…シテ……。

   コンなに傷つクなんテ…、苦しめルなんて……、思わなクテ……」


魔女「ごめん…なさい……。ごメンな……サい……」

888: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:23:17.68 ID:NxI63QRO0

さやか「仁美………」


魔女「ごめ………ん……なサ…」

さやか「もう、いいよ………」



さやか「あたしこそ………ごめんね」


さやか「あたしが弱かったから、アンタを苦しませた。

    こんな目に……、遭わせた…」




さやか「責任……、とんなきゃね…」


苦しそうに頭を抱えながら、それでも謝罪の言葉を繰り返す仁美…。


そして、あたしは…。

苦しむ仁美を見つめながら、その左手を強く握って刀剣のパーツを砕き…。

剣を左腰に収めつつ、左手でその刀身を握って構え…。



苦しむ仁美の懐に、一気に飛びこんだ。

889: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:24:08.46 ID:NxI63QRO0

ユウリ「ハッ! アイツ斬る気か…!? 

    あははははは! ひゃははははは!」

キリカ「…………」



さやか「まどか…………」


アンタの気持ち、やっとわかったよ。

目の前の友人がおかしくなって…。

それでも諦めきれなくて、止めようとして…。


すごく、しんどいね。

すごく、苦しいね。

けど、それでもアンタはあたしの事、諦めないでくれたんだよね。


ごめんね。

それと、ありがとう……。




さやか「あたしもさ……」


さやか「アンタみたいに、強くなるよ!」


鋭く振り抜かれた居合の如く横一閃。

その一撃で動きを止めた相手にさらに三閃。


計四度の斬撃を受けた魔女は、血飛沫をあげて地面へと倒れた。

890: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:25:27.03 ID:NxI63QRO0

さやか「……………ごめん」

さやか「結局、あたしはまたアンタを傷つけてる…」


さやか「でも、その手足は後であたしが治すから………。

    アンタが治る方法をすぐに聞きだして戻るから………。

    仁美の事、絶対諦めないから………」


さやか「少しだけ、そこで待ってて!」




ユウリ「鞘代わりに自分の手を傷つけて繰り出す、居合染みた強烈な一撃…。

    だが、それによる外傷はない…?」

ユウリ「ナックルガードを砕いたのは、峰打ちの邪魔だからか…!」


キリカ「そして念を入れて、気絶しなかった時や手早く起きた時の為、手足だけ斬り落として戦闘力を封じておく、か……。

    彼女を救いたいなら正解だ、美樹さやか。アレが噂どおりなら………」



ユウリ「けど、考えが甘かったみたいだなぁぁぁぁぁぁぁ!」





魔女「ァァァァァ…………ァァァァァァァアアアアアア!!!!!!」

さやか「…!?」


最初の峰打ちが失敗したのか、あるいはその後の追撃の激痛で起こしてしまったのか…。

どちらにしても、手足を失って尚、魔女に変えられた仁美は意識も戦闘力も失っておらず…。


ここからでは回避も防御も間に合わないだろう、巨大な火球を口元に作り出していた。

891: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:26:45.26 ID:NxI63QRO0

――見滝原中学結界内校庭?――



ゆま「はぁ……はぁ……はぁ……」


キョーコに言われて、ひと足先に結界に入ったゆまは…。

そこにいた人たちを狙う使い魔と戦ってた…。

けれど…。




ゆま「まだ………出てくるの…?」


敵はたおしてもたおしても出てくるのに…。

みんなは何も無い広い場所の真ん中にいて、進むことも戻ることも隠れることもできない…。


せめて、ゆまがキョーコの使ってたバリアみたいなのが使えればよかったんだけど…。

それのできないゆまは、みんなの周りを走り回りながら、守るしかなくて…。

892: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:27:19.30 ID:NxI63QRO0

見滝原中学生徒A「こ、こっちからも来たよ…!」


ゆま「うん。今いくから…」



見滝原中学生徒B「う……うわぁ! なんかいっぱい出てきた!」


ゆま「ちょっと待って…! 今こっちを…」



見滝原中学生徒C「いい加減にしろよ! 何にもいねーじゃねぇか!」

見滝原中学生徒D「馬鹿! この辺に見えない何かが居るのは確かだろ! 先生がどうなったのか忘れたのかよ!」


見滝原中学生徒C「う、うるせぇッ! ここに居たって同じだ! 俺はもう行く!」

見滝原中学生徒E「待てよ! 俺も行くぜ!」



ゆま「あ…! ダメだよッ!!!!」



一ヶ所に固まっておしくらまんじゅうのようになったみんなの中から…。

混乱しきった数人が飛び出す。


そして、飛びだしたその人たちを待っていたかのように、わたがしのような使い魔が現れ…。

893: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:28:01.52 ID:NxI63QRO0

見滝原中学生徒C「う、うわぁぁぁぁぁ! い、痛い、痛いよ! 助けて!」

見滝原中学生徒E「ぎゃああああぁぁぁぁッ!」



ゆま「待ってて、今助けに…!」


見滝原中学生徒D「それよりもこっちだよ!」

見滝原中学生徒A「また、こっちも出てきた…!」


見滝原中学生徒C「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


あの人たちのところに行かないとあのまま使い魔に食べられちゃう…。

だけど、ここをゆまが離れたら…。



見滝原中学生徒E「死に………たく……ないよ…」


見滝原中学生徒B「お、おい…! こっちはまだなのか! たくさん湧いて出て…!」



ゆま「あ……あ……あぁ………」


ダメだ…。

あっちもこっちも使い魔だらけ…。


どうしよう…。

どうしよう…!





ゆま「助けて、キョーコッ………!」

894: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:28:57.01 ID:NxI63QRO0

頭がいっぱいになったゆまは、思わず目をつむってさけぶ。

そんなことしたって何も変わるはずはない。

はずはないんだけど…。


目を開けて見直したゆまの周りは…。

奇跡か魔法で、使ったかのように…。


何もかもが動きを止めていた。



ゆま「何が………、起きたの……?」


突然のことにわけがわからないゆまは、とりあえず辺りを見渡す。

山のように溢れる使い魔も、真ん中でおしくらまんじゅうしてた人たちも…。

逃げようとした人たちも、みんな動きを止めてしまっている。




ゆま「みんな……、死んじゃった……の………?」


止まってしまった周囲に、混乱して泣きそうになったゆまの頭を…。

なにかがそっと撫でた。

895: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:29:48.19 ID:NxI63QRO0

――見滝原中学結界内1F――




魔女「アアアアアアアアア!!!!!!」


さやか「しまっ……」


魔女の口元に出来あがった巨大な火球。

あたしは察した気配から、首だけ振り向いてそれを確認するも…。


今この体勢で、ほとんど離れていないこの距離から、それが放たれれば…。

絶対に回避できない。


そして、その火球が今魔女の口元を離れるかと言う時…。




何故か火球は力を失い、急速に収束して…。

消滅した。

896: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:31:52.34 ID:NxI63QRO0

さやか「な、何…………」


ユウリ「何が、起きた…!?」

キリカ「死んだのか………? いや……」




??「眠ったのさ」


突如攻撃を収め、そのまま動きを止める魔女…。

その状況に戸惑うあたし達三人に、しれっと現れた四人目の声が響く…。



??「そいつだけじゃない。一般人然り、使い魔しかり…。み~んなぐっすり夢の中さ」


キリカ「キミは…」




??「学校中を巻き込んで、やりたい放題やってたみたいだが…、それもここまでって訳さ」




杏子「なぁ、呉キリカ!!!!!!」


ゆま「もう好き勝手させないよ!」


眠りに付いたらしい魔女となった仁美の横を通り過ぎて…。

紅の影と緑色の小さな影が、あたしを守るように目の前に立った。

897: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:35:14.51 ID:NxI63QRO0

さやか「杏子! ゆまちゃん!」


ゆま「助けに来たよ。サヤカ」

杏子「結構派手にやられてんな…、と思ったら見覚えないヤツまでいるな。

   織莉子の仲間か…?」


さやか「うぅん。けど、敵なのは間違いないよ…。

    だって、アイツは仁美を…!」


杏子「そうかい。まぁこっちの狙いは………」




キリカ「やられたね…。キミの固有魔法は幻惑。それを応用したってところかな…?」


杏子「あぁ…。お前らのような実力者まで錯覚させるロッソ・ファンタズマが、幻惑魔法の一点集中なら…。

   今回やったのは、幻惑魔法の広域拡散」


杏子「効果を催眠に限定し、一般人やここに溢れる雑魚みたいな魔力の低いヤツがかかる程度に力も弱めて…」


杏子「そうやって薄く伸ばした魔法を、この結界中に広めてやったって訳だ」




杏子「まぁ、実は最中にソウルジェムが濁れ切ったり、

   一般人だけが寝ちまってアウトって可能性もあったりして、ヤバイ賭けだったんだけどな」


杏子「まぁ何にしても………。

   お前らの目論見は全部潰れたって訳だ!」

898: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:36:56.11 ID:NxI63QRO0

キリカ「……………」


美樹さやかの仲間が駆けつけた。

おまけに結界中の使い魔を機能停止させると言う荒業をやってのけて。


佐倉杏子のせいで、せっかく『体を張って』作った結界が台無しだ…。



ただ…。

代わりに、ここに連中の内『三人』が集まってくれた。


体ももう満足に動きやしないし…。

潮時、なんだろう…。



キリカ「……………そろそろだ」


ユウリ「何がだ! 追い詰められ過ぎて頭でもイカレたのか!」



キリカ「イカレてるのはキミだけだよ…。どこかの誰かさん」


挑発、のつもりもない…。

ただの言い返しのつもりだった。


だけど…。

その一言は、結果的に『私』を終わらせる口火となった。

899: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:39:54.01 ID:NxI63QRO0

ユウリ「誰かさん………。誰かさん…………!

    あっはははははははははっ!!!!!!!」


キリカ「くぅッ…」



杏子「なんだ、アイツ! 壊れてんのか…!?」

さやか「何でもいい! やめさせないと結界を解く手掛かりが無くなる…!」



ユウリ「失礼な……、ヤツだな…!」

キリカ「ぐッ…、くふっ…」

ユウリ「お前の…! ご主人の白いのは……! ちゃんと! 覚えてたのにッ!!!!」


『誰かさん』

その一言に猛烈に反応し、その感情に任せる事で…。

さっきまでの遊びとは違う苛烈な攻撃を、突如繰り出す紫の魔法少女…。


だけど…。



キリカ「失礼なのは………、キミ…だろ…?」

ユウリ「何…?」


キリカ「キミが『飛鳥ユウリ』だとでも言うのか? ふざけるなよ…」


キリカ「彼女は他者へと尽くす献身の中で力尽きる…、運命だったんだ…」

キリカ「その彼女の名をキミのような下衆が語る。それこそ失礼…。

    いや…」


キリカ「彼女に対する侮辱だよ…!」

900: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:42:01.61 ID:NxI63QRO0

飛鳥ユウリ。

契約の願いは『不治の病にかかった親友を救いたい』。


そして、魔法少女になった後も他者の病を癒して回り、かつ魔女とも戦い続け…。

そうやって自分を省みずにいた無理が祟り、やがて魔女となり、多くの人間を殺す…。


そんな報われない運命を変える為に、織莉子は私に彼女を始末するよう指示を出した。

そして、彼女も…。



キリカ『言い残す事は…?』

ユウリ『特に……ないや……』


ユウリ『アタシの存在が…、あの子と……たくさんの人を……殺すんでしょ…?』


キリカ『信じろとは言わないよ。だけど、私がキミを手に掛けた理由はそれ以外にない』


ユウリ『なら……いいや。あの子を………助けたくて……魔法少女になったのに……。

    そのアタシが………、あの子を殺すなんて……、格好付かないもん……ね…』


キリカ『…………』



ユウリ『でも………』


ユウリ『最後にあ……と………、バケツパフェ……、食べたかった…、な…』

901: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:43:25.02 ID:NxI63QRO0

その彼女が復讐のためとはいえ、他者を踏み躙る?

そもそも復讐なんて薄ら寒い事を思いつく…?

そんな訳が無い…。


だから、これは…。



キリカ「彼女に対する侮辱なんだよ! 偽物め!!!!!」



ユウリ「うふふふふ! あぁぁぁぁははははははははははッ!!!!!!」



ユウリ「そこまで……、わかってたか…」


ユウリ「それでも、お前はユウリを殺したのかぁ……」



キリカ「………」



ユウリ「その通り。アタシは飛鳥ユウリに救われた者…。

    そして……」


ユウリ「ユウリを殺したヤツへ復讐する為、『飛鳥ユウリ』を継いだ者だッ!!!!!!!」

902: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:44:29.79 ID:NxI63QRO0

なるほど…。



ユウリ「だから、許せないんだよ! お前はッ!」


彼女は、恐らく『飛鳥ユウリ』に救われ、そして『殺される筈だった親友』か。

全てに納得が言った…。




ユウリ「お前たちだけはッ!」


重たいな…。

彼女の思い…、憎しみもまた『愛』だったのか…。




ユウリ「ユウリが何をした!?」


何もしていはいないさ。

する筈だっただけで…。




ユウリ「一人でも助けたいって、毎日頑張ってただけのユウリが、お前に何をしたんだッ!」


その頑張りを無駄にしない為に、織莉子は…。

けど、やっぱりそれは誰にも……。

理解はされないんだね…。

903: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:45:17.96 ID:NxI63QRO0

でも…。

それでも、いいさ。

私だけは知っている。


そして、そんな織莉子に対する私の愛は…。

誰にも……負けない。



美樹さやかの献身や自己犠牲も…。

飛鳥ユウリの親友の愛が故の憎しみも…。

それ以外の純粋な魔法少女や罪なき人々も…。


何もかも全て、踏みにじってでも…。



キリカ「私は………、私の愛を成す……」


ユウリ「な、何だ…! 何を…」




キリカ「愛は………、無限に……有限なんだ…、から……!」



織莉子…。

キミの為に在り続ける事が出来るのなら…。

キミを護ることが出来るのなら…。

私は…。







安らかに『絶望』出来るよ。

904: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:48:21.21 ID:NxI63QRO0

黒い魔女「……………」


ユウリ「な……。コ、コイツ、魔女を召喚したのか…!?」




傀儡の魔女。性質は『虚偽』。

操られてると知りながら、それを望む変わり者。

体を重ねて背丈を伸ばし、周囲の動きを遅めては、他者を見下して嘲笑う。

そうやって弱い自分を偽るも、一番大切なものには触れる事すらできない臆病者。



傀儡の魔女の手下。役割は『数合わせ』。

傀儡の魔女が馬鹿にされないように居るだけの存在。

中身は綿しか入っていない出来損ないで、品性の欠片もなく、

魔女が蔑む者達よりもさらに救いようが無い。

905: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:51:19.32 ID:NxI63QRO0

敵の攻撃を受け続け、とうとう限界を迎えた黒の魔法少女のソウルジェムはグリーフシードへと変わり…。

そのグリーフシードは、女性の体を縦に重ね、上がった頭部に一つ目のついたシルクハットを被った…。

どこか妖艶ながらも悪趣味な姿をした魔女を生みだす。



黒い魔女「……!」

ユウリ「くそッ………」


銃弾や蹴りで仇敵を嬲っていた紫の魔法少女は、当然真実を知る筈もなく、事態に驚愕し…。


その隙を突かれてしまい、見かけに反して高速で動く魔女に踏み込まれ…。

魔女の伸ばした鎌の直撃を受けた。



ユウリ「げほッ…、がッ…! こいつ…! 速い…!」

ユウリ「けど…、アタシは……、仇を…取らな…」


ユウリ「いけ……ないのに……」


最初の一撃で深く腹を抉られた紫の魔法少女は、そのまま動きを鈍くした事で敵に捉まり…。

まるで先ほどまでの仕返しが如く繰り出される、両手を回転させての連続攻撃を受けてズタズタになり…。




ユウリ「うごぉああぁぁぁぁぁッ!!!!」


遠心力で力を増した敵の止めの一撃を受けきれず…。

自らが開けた壁の向こうへと弾き飛ばされ、そのまま姿が見えなくなった。

906: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:54:36.69 ID:NxI63QRO0

黒い魔女「…………」


さやか「くッ…! アイツを逃がしたら仁美が…」


杏子「後回しにした方が都合がよさそうだぜ。さやか」

さやか「なんでよ…!?」


杏子「周りを見てみろ。魔女が現れたのに結界が書き変わらない」

ゆま「それって………」


杏子「あぁ…。この結界を作ってたのは、あの呉キリカだったって訳だ」



さやか「…………そうまでして、愛する人を守りたかった。

    うぅん、今も護ってるんだね…」


ゆま「サヤカ…?」


さやか「アイツ、言ったんだ。『愛』ってのは例え見返りが無くても、相手をただ愛し、尽くすことだって…」

さやか「だから、魔女になってでもあたし達を足止め出来てるアイツは…。

    今も自分の『愛』を貫き通してる…」


杏子「そんなアイツは可哀想だから、殺せないとでも言う気か…?」

さやか「そんな事しないし、できないよ」



さやか「愛とは違うかもしれないけど………」


さやか「あたしにはあたしで護りたいモノがあるから!」

907: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:56:23.10 ID:NxI63QRO0

あたし達三人は一気に決着をつけ、結界を破るべく…。

黒の魔法少女から生まれた魔女へと向かっていく…。



黒い魔女「…………!」


杏子「てめぇが速い? アタシらが遅い…? どっちにしても…」

ゆま「避けられない攻撃を繰り出せば…!」


あたしと杏子はひと足早く跳躍し…。

その後ろに隠れていたゆまちゃんが大きく振り被って地面を叩き、衝撃で地面を揺らす…。


それに足を取られる事を避けた魔女は、その縦長の背丈を感じさせない身軽な跳躍を披露する。

だけど…。



杏子「飛んだな? 狙い通りだ…!」

杏子「おっらぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


杏子の槍が多節槍へと変わり、逃げ場のない空中へ飛んだ魔女へと追撃する…。

そして…。



さやか「時間が無いんだ! 一気に決めるよ!」


空中に魔法陣を作る事で、それを足場にできるあたしが空中でそれを蹴って…。

撓りながら疾る多節槍を追うように、空中を駆け抜ける。

908: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:57:57.63 ID:NxI63QRO0

防御が難しい杏子の多節槍を空中で受ける敵に合わせて、あたしが切り込む…。

その筈だった。


しかし…。



黒い魔女「…!!!!」


杏子「なッ!?」



ゆま「嘘…!」


敵の右手の鎌とぶつかった杏子の多節槍の鎖は、いとも簡単に切り裂かれ…。

槍先を伴った柄は回転しながら派手に地面に落下、そうでない方の柄も斬られた箇所から項垂れるように落ちて行く…。



よくよく考えれば…。

今日の杏子はこの戦闘の前に慣れない広域魔法を使っている。


そもそも…、幻惑魔法自体が元々は杏子が一度は否定したモノ。

使うだけでも負担が掛かるモノを、さらに拡張、応用までしているんだ。


その負担で疲弊して、獲物の生成すら満足にできない程だったとしても不思議じゃない。


問題は…。

909: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/11(水) 23:59:04.88 ID:NxI63QRO0

敵を防御させつつ、その隙に横から潰す連携は失敗。

相手の獲物が生きている以上、速度で負けてるのに突っ込んでも返り討ちにあうだけ。


…………………………本当に?



杏子「馬鹿! やめろ!!!!」

ゆま「無茶だよ! サヤカ!!!!」


連携が失敗したのに、敵に斬り込むあたしを制止しようと叫ぶ二人…。


けど、杏子が弱ってるなら、どっちにしろ気張らなきゃいけないのはあたしだ。

そして、敵の速度低下は敵の周辺に居る限り永続的に発揮されるだろう。

なら…。



さやか(単純な速度ではアイツには敵わない…)

さやか(けど、何も徒競争やってんじゃないんだ…)



さやか「それならッ…!」


あたしの体は敵の間合いへと入り…。

杏子の槍を切り裂いたのとは逆の、左手の鎌が動く…。


動き始めると同時に、信じられない程の速度で繰り出された敵の左手の鎌は…。






















突如姿を消したあたしを捉えられずに、虚しく空を切った。

910: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:00:14.04 ID:n4duvZC50

黒い魔女「…!?」


敵の左脇付近に入りこんだあたしは、そのまま上から二段目の体の脇腹を切りつける。

当然、それに反応した敵は、あたしを斬りつけようと動くも…。


またも姿を消したあたしに背中から斬りつけられる。

そして…。

人形か何かの無機物を斬りつけたような感覚が手から消えない内に、あたしはまた姿を消す…。



姿を捉えても動こうとした時には見失い…。

斬りつけられた痛みで、ようやく気付き、今度はそれに任せて攻撃するも…。

当たる瞬間に消えて、当てられず、また斬りつけられた瞬間に気付く…。




それを繰り返され、魔女の体は次々に傷を負い…。

やがて見る影もないくらいボロボロになっていき…………。


とうとう両足を失い、その体が宙へ浮いた所に首を跳ね飛ばされ…。

力を失った魔女は尻餅を突き、あたしは背中合わせになるような形で地面に着地した。

911: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:02:38.63 ID:n4duvZC50

さやか「スクワルタトーレ」


さやか「アンタに見つかった、攻撃が当たる…、その一瞬だけ速度向上を掛けて捕捉させず…。

    直撃を避けつつ攻撃を当て、また一瞬だけ速度を上げて、アンタの死角に入る…。

    それを繰り返すだけのつまらない技だけど…」


さやか「アンタに速さで勝ち続ける事の出来ないあたしが、アンタを超える為に使った苦肉の策」



さやか「そして、護りたいモノを護る為のあたしなりの悪足掻きだよ…!」


ズタボロになった後ろの魔女はあたしの言葉に応えたかのように…。

その身を崩してグリーフシードへと姿を変わる…。


あたしはそれを拾って、少しだけ見つめた後…。

強く握りしめながら、静かに呟いた。



「さよなら」

「それと、あたしの生き方を認めてくれてありがとう」って。

912: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:04:35.77 ID:n4duvZC50

杏子「速度低下が効いてる中、あれだけの動きが出来てんのが『つまらない技』ねぇ…」

杏子(こりゃ、速さだけなら完全に抜かれたな…)


さやか「何?」

杏子「いいや、何でも」


さやか「…………紫の魔法少女は?」

ゆま「今見てみたけど、いない。血が垂れてるし、こっちから逃げたんだと思う」

さやか「と、なると急いだ方がいいね。マミさんやまどかにも手を付けるかもしれない。

    ごめん、仁美。もうちょっと待ってて…!」





??「…………」

??「よし、行ったよ…」


???「どうにか見つからずに済んだね。

    一番実力の高そうな子が疲弊してるのは助かったよ…」


??「酷い傷だ…。早く薬を…」

???「待て待て。魔力ない子にそんなモン飲ませるな…!」


??「いやいや、冗談だぞ?」

???「あのな…。まぁ手足は私の方で治すから良いとしても…。コレ治すにはあの子を…」

??「その必要はないみたいだね…。勘の良い子だ」



???「はぁ…はぁ…はぁ…! 二人とも、キリカは…!?」


??「たった今倒れた」

???「それに、言ったでしょ? 彼女達の問題にこっちは首を突っ込まない。あっちも同様。だから………」


???「だけど………、織莉子もキリカも……。二人は、わたし達の友達だったんだよ!?」

913: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:06:53.92 ID:n4duvZC50

??「君は優しいね…。でも……」

??「友達だからって何でも背負ってあげられる訳じゃないし、必ずしも同じ道を歩む訳でも無い」


???「彼女達は、私たちの忠告を押し切って自分達の道を歩んでいた。

    そして、どんなに苦しくても私たちの手を借りようとする事はなかった」

???「何故だかわかる?」


???「……………」


???「彼女達の選んだ生き方は過酷だから、例え友達でも歩ませたくはなかったんだ。

    それが………、彼女たちなりの覚悟だったんだよ」



???「別々の道を歩んでいても、共にある事…。それが、友達なんだね…」


???「そうだよ。だから、私たちは彼女達の戦いに直接手を出す事は許されない。

    他ならぬ彼女達の頼みだからね」


??「でも、せめて…。彼女達の汚名は少しでも減らしてあげたい。

   だから、こうしてこっそり救助活動に来てるんだ」


???「それが、わたし達に許された、ギリギリの………、二人にしてあげられる事なんだね…」

???「でも………わたし………」


???「悲しいよ……、悔しいよ………、こんなの………」


??「…………」

???「…………」

914: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:07:59.95 ID:n4duvZC50

――見滝原中学結界内2F――



マミ「かはぁっ……」


ほむら「巴さん!!!!!」


激しい抵抗も虚しく、マミさんはひたすら敵の攻撃を受け続ける…。


倒されても倒されても、立ちあがって銃を放つマミさんだったけど…。

さっきの攻撃でとうとう力尽きてしまったのか…。

壁にもたれかかったまま動かなくなった。



ほむら「鹿目さん! お願い、私の事は良いから…! 巴さんを…」

まどか「…………」

ほむら「鹿目さんッ!!!!!!」




織莉子「ここまでね」


マミ「えぇ……………」







マミ「私の………………………勝ちよ」

915: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:08:55.89 ID:n4duvZC50

織莉子「減らず口もそこまで叩けると…」


織莉子「…!?」


去っていく不気味な気配。

消えていく見慣れない風景。


異様な存在は消えて行き…。

わたしを包んでいた魔女の結界は、元々ここにあった見滝原中学の2Fの廊下へと戻り始めていた。




織莉子「キリカ……!」


マミ「呉さん………、やはり………ね」


織莉子「…………」


マミ「あの…ダメ―…ジで戦える…筈ないと…思ってた…。

   けど…、彼女の……性格からして……魔女になっ…てでも…、戦おうと、する…でしょ…」


マミ「ならば…、その前、に…、戦場になる…、所を……、予知で知って…、予め…速度、低下を…張らせておけ、ば…。

   結界を作り…、戦えない…呉さん…足止めに……、速度低下も…維持、し…、あなた一人でも……、呉さんと…連携…できる…」

   
マミ「最高の…、舞台の出来……上がり」


マミ「違う………?」

916: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:10:11.66 ID:n4duvZC50

織莉子「何時から気付いていたの…?」


マミ「最初…から…。

   あの…賢いあなたが………、力量を…弁えずに、一人で…、現れる、なんて愚行…、する…、筈が無い……」


マミ「そして…、だから…こそ、私は…、一人で…、あなたに挑ん…だ……。

   それも………、あ…なたの予知が……、なる…だけ…、私だけ……、に向くように…」



織莉子「まさか、自分との戦闘だけに予知を使わせる為に、あんなにしつこく苛烈な攻撃を…!」




マミ「あなたと…、違って………。

   弱い…、私に…できるのは……、信じる事……、くらい……」


マミ「だから…、私は……、仲間が………、速度低下を…、消して…くれるまでの……、時間稼ぎ」


マミ「私の…、本命、は…………」














まどか「はい…! マミさん!」

917: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:11:46.71 ID:n4duvZC50

織莉子「鹿目…、まどか……!」




マミ≪ごめん…。後……頼む…わね≫

まどか「はい。任せてください…」



ほむら「鹿目さん………」

まどか「照れ臭いけど、もう一度だけ言うね」



まどか「ほむらちゃんは私が守る…!」


そう言いつつ、怯えきったほむらちゃんへ笑顔を向けてわたしは振り返り…。

再びその弓を構え…。


ほむらちゃんだけじゃない。

さやかちゃんも、マミさんも、杏子ちゃんも、ゆまちゃんも、みんな…。

わたしが、守る…。


身勝手なのかもしれない。

だけど、大切な人を切り捨てるなんて、やっぱり出来ないから…。

だから、わたしは…。



白い魔法少女へ向けて、その矢を放った。

918: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:14:09.69 ID:n4duvZC50

織莉子「鹿目まどかッ!!!!」


まどか「美国織莉子…!」


放たれたわたしの矢は、美国さんの衣服の左肩の辺りを掠め…。

後ろにあった校舎の壁を貫いて、大穴を開ける。


その結果に舌打ちをしながら、美国さんは移動しながら魔力球を作り出し、半ば苦し紛れに放つ。

けれど、魔力球は先ほどとは比較にならない程速度が落ちており…。

さっきまでの攻撃で目が慣れたのもあって、わたしは魔力球の回避に成功する。



織莉子「すぐに貴女を倒しさえすれば、私の目的は成される…!」


まどか「そんな事…」


敵はそのわたしに魔力球を次々に放つも…。

元々威力の低い魔力球を即席で作って放っても、捨て身で突っ込んだわたしを止め切れず、踏み込まれ…。



織莉子「くッ…!」


まどか「させない!!!!!」


勢いに任せたわたしの杖の一撃をどうにか防御するも…。

そのままわたしに押し切られ、壁に空いた大穴から二人揃って落下した。

919: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:16:09.48 ID:n4duvZC50

織莉子「よくもッ…!」


やはり、そうだ。

呉さんが倒れた事で、速度低下の効果が消えて…。

予知で先がわかっても、攻撃や回避にそれが追い付ききらないんだ…。


これなら…、勝機は十分にある。




織莉子「なんで……、あなた達は…! いつも…!」

織莉子「私達の邪魔をするんだッ!!!!!」



まどか「あなたが奪おうとしてるモノが、わたし達の守りたいモノだからだよ…!」


わたしは、少し大きな光の矢を…。

美国さんは、無数の魔力球を生成し、互いに放つ。


わたしの放った矢は途中で拡散するも、美国さんは体勢を崩しながらもギリギリでそれを回避し…。

美国さんの放った魔力球は、拡散された矢とは一つもぶつかる事なく、悉くわたしに撃ち込まれる。


けれど怯んでいる暇はない…。

魔力球を受けながらも、わたしは右手で矢を生成し…。

弓を離さぬよう、左手を強く握り、隙を見て矢を放つ…。

920: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:17:29.70 ID:n4duvZC50

放たれた矢は途中で拡散し、広い範囲を攻撃する。

それがわかっている彼女は急ぎ回避行動に移り、どうにか回避するも…。


続けて放たれた早撃ちには反応しきれず…。

左肘を撃ち抜かれる。



織莉子「暁美ほむらが世界を滅ぼす存在と知りながらッ!!!」」



まどか「それでも、ほむらちゃんはわたしの大切な友達だから…」


まどか「何も知らない内に…、何もしない内に…、勝手にほむらちゃんの未来を諦めるなんて…」


まどか「そんな事、出来ない!」



織莉子「なら、彼女が世界を滅ぼすのを黙って眺めると言うの…!」


まどか「それも違う。それは全部諦めるのと同じだよ…」



まどか「わたしが欲しいのは、みんなで迎える明日だから…」


まどか「この世界も、ほむらちゃんも、さやかちゃんも、マミさんも、杏子ちゃんも、ゆまちゃんも…。

    パパもママもたっくんも先生もクラスのみんなも、誰が欠けても嫌だから…!」


まどか「その為なら、どんなに困難な道でも絶対に諦めないよ…!」

921: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:18:19.70 ID:n4duvZC50

織莉子「真の絶望も知らない小娘が…!」


私も信じ、探していた。

巴マミや、この鹿目まどかのように…。

『それ』を知ってしまうまでは…。


私はお父様とは違う。

お父様の並べた綺麗事、掲げた理想を本当に叶えて見せると…。

私はその綺麗事を嘘にはしないと…、叶えられると…。

けれど…。



『痛い…、苦しい…、織莉子さん………、助けて』

『なんで邪魔するんだよ、織莉子! 私はこんな事望んでいないのに!』

『織莉子か…。もう今更遅ぇよ…。もう、何もかも……………』


私がどれほど未来を見直しても…。

実際に動いてみても、何も変わらず…、変えられず…。

結局は最後の手段を使い続ける…。


そんな事を繰り返す内に、私の手はお父様と同じ真っ黒に染まっていた。



それでも、まだ変えられると信じ…。

綺麗事を並べ、全てを救う等と言う、その綺麗な理想を追い、足掻き続けた。



だけど、もがき続ける私を嘲笑うかのように、アイツは現れた。

922: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:19:10.80 ID:n4duvZC50

『た、助けて…!』

『イヤだ…、死にたくない、死にたくないッ!!!!!』

『この世の………、終わりだ』


誰も対抗できない…。

出来る筈など無い、悪夢のように強大な力を持った魔女に…。



『知らないし、知った事ではないわ』

『私の戦場はここじゃない』

『繰り返す。私は何度でも繰り返す』


その魔女やそうなる前の種の傍らに現れても、結局何も出来ず…。

最悪の存在を生みだしては逃げ、それを繰り返し続ける魔法少女の姿…。



『お手柄だよ、ほむら』

『君がまどかを最強の魔女に育ててくれたんだ』


そして、その魔法少女こそが最悪の存在を育て上げた元凶だと言う事実を…。

923: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:19:58.71 ID:n4duvZC50

暁美ほむら。

全ての元凶…。


奴を倒すには力も、時間も足りなかった。

だから、私は奴を探し出し、『救う』のではなく、『討つ』為の術を模索し続け…。

時間を稼ぎ、奴を守る者を討てるだけの力を付けさせる為、キリカに魔法少女狩りをさせ続ける必要があった。


その必要な犠牲の山に私は、驚愕し…。

同時に、私の追い続けた綺麗な理想はこの瞬間に潰えた。



この時に悟った。

綺麗事では結局、何も変えられないのだと。

変わりはしないのだと。



そして、私は覚悟を決めた。

自分の手を汚しても、自分を慕ってくれる大切な者を利用しても、どれだけ残虐だと罵られようと…。

汚れ役としてでも、救世を成すと。


それが、未来を視る事が出来る私の『生きる意味』なのだと、そう信じた。



だからこそ…!

924: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:21:09.27 ID:n4duvZC50

放たれ続ける矢と魔力球の応酬…。

けれど、互いの限界が近づいてきたわたし達は…。


互いに動きを止め、相手が動くギリギリまで、大技を繰り出す為の魔力を溜め続ける…。



織莉子「諦めなければ変えられる…?」


織莉子「魔法少女は………、いや、この世界の全ては希望の後に絶望に沈む。これは運命だ!

    絶対に変える事の出来ない…!」


織莉子「そうやって、弱い貴女達は彷徨い、やがて世界を滅ぼすモノを見届ける羽目になる。

    その放浪の果てには何も無い。破滅しかない。だからこそ…」


織莉子「先に絶望しかない昏い道を自らを燃やす事で、陽となり陰となる事を私は決めた!」




まどか「きっと、あなたの言う事は全部正しいんだろうな…」


まどか「だけどね……、みんながみんなあなたのように強くはなれない。

    大切な人を切り捨てて、世界の為だと歩んでいけるほど強くない。

    そして、わたしもそれをみんなに強要できるほど、立派にはなれない!」


まどか「だから、探し続けるよ。絶望するギリギリまで…」


まどか「大切な友達も、世界も……、大きな悲劇も、小さな悲劇も……」


まどか「みんな救える道を…!」

925: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:21:49.62 ID:n4duvZC50

織莉子「暁美ほむらは最悪の魔女を作り出す。生かしてはおけない…!」


まどか「ほむらちゃんを魔法少女にはさせない。わたしが…!」


互いにありったけの魔力をつぎ込んで繰り出した最後の大技。

全ての決着を付けるべく一撃を、今互いに放った。






まどか「いっけぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!」


わたしは、魔力を可能な限り魔力を集束させ、圧倒的なまでの魔力を伴った光の矢。

魔力を集め過ぎたのか、弓の方が弱っていたのか、放たれた際に反動で弓が砕け散る…。







織莉子「自らの過ちを認める事すらできない愚かな魔法少女よ…。

    せめて安らかに眠りなさい…!」


対する敵は、百には届かないだろうけど、数十の魔力球を押し固めて作った巨大な魔力球…。


二つの魔力の塊は互いの中央辺りで、正面からぶつかる。

そのまま暫く拮抗するも、状況に変化が訪れるまでそう時間はかからなかった。

926: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:27:14.62 ID:n4duvZC50

織莉子「…!」


魔力球の塊の中央を貫く光の矢。

光の矢より、一回りは大きかった魔力球はその大半を失うも、周囲に残った僅かなその名残を散らす…。



わたしが放ったのは最大限まで魔力を集束した貫通弾。

貫く事に特化した矢を限界まで強化したモノであるのに対し…。


相手の放った魔力球は、複数の球体を一ヶ所に強引に纏めた継ぎ接ぎだらけのモノ。

魔力を用いて多少の補強はしているんだろうけど、普通それを重視するくらいなら数を増やして威力を上げるだろう。

攻撃力の低さが欠点の白の魔法少女の大技は所詮即席に過ぎず、相手の大技にぶつけられる程の耐久は持ち合わせることができなかった。


つまり最終的には、その攻撃の性質の差が明暗を分けた。





だけど、突き進む光の矢の向こうで………。

彼女の口元は僅かに笑った。

927: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:27:58.31 ID:n4duvZC50

織莉子「…………」


集束された貫通弾の直撃を受け、左足を中心に下半身を失い、倒れる。


だけど、『それで良い』。

その果てに『暁美ほむらを撃ち抜く結末』が映ったのだから…。



負けるとわかっている大技の撃ち合いに応じた私の狙いは、三つ。


以後の追撃が出来ないように、彼女の獲物を破壊させる事。

次に、敵を倒したと言う事実から発生する、一瞬の隙を作り出す事。

そして………。



まどか「……!?」


まどか「魔力球が…!」


私の放った大技そのものがフェイクであり…。

撃ち貫かれた後に残った数発の思念操作弾こそ、本命であると悟られない事。



その全てを満たした私は…。

予知された結末を成し遂げる為に…。


暁美ほむらのいる校舎の2Fの壁の穴へと、残った十発弱の魔力球を疾らせていく。

928: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:28:44.06 ID:n4duvZC50

織莉子「これで…………、世界は救われる」


まどか「こんなの………ダメ! ダメぇッ!!!!」



鹿目まどかの両横を通り抜ける魔力球。

唯一の障害を避けた今、彼女の開けた校舎の壁の大穴に向けて、一直線に魔力球を疾らせる。


急ぎ振り向いた彼女もそれを追おうとするも…。

速度低下が無くとも、ただの魔法少女が後ろから追い付ける程鈍いモノでもない。

その距離は確実に離され、高度も既に彼女の手に届くものでは無くなった。


巴マミは未だダメージで体が動かず、それが見えても何も出来ない…。

美樹さやかと佐倉杏子は、魔力の応酬の際の光や騒音を元に、今こちらに向かっており、辿り着くのはもう二十秒ほど先。

千歳ゆまは、唯一2Fに向かうけれど、まず巴マミに目が行き、そもそも辿り着いた位置が遠すぎて届かない。

暁美ほむらには周囲には障壁が張ってあるも、あの数を一点にぶつければギリギリでそれは崩壊する。


全ては………私が視た未来の通り。



これで………。



織莉子「私の勝ちだッ!」



まどか「こんなの……………駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!!」

929: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:29:37.77 ID:n4duvZC50

織莉子「な…」

織莉子「こんな………、こんな……」


織莉子「こんな馬鹿な事が……!」


追い付けない足、届かない手、鹿目まどかの叫び、嘆き…。

ここまでは全て私が視た未来の通りだった。

だけど………。




まどか「間に合って…………!」


今、鹿目まどかはその背中に輝く翼を生やし…、空に向かって…。

舞いあがった。




まどか「お願い…、届いて…!」


まるで天使のように美しい翼を生やし、空を駆ける彼女。

魔法少女自体が常識から外れた存在だ。

外見がいかに威圧的だったり神々しくあても、いっそ神や悪魔のように映ろうとも、それはどうでもいい。


そんな事よりも…。

彼女は、今目の前で…。




私の視た未来を覆したのだ。

930: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:30:56.52 ID:n4duvZC50

力強く羽ばたき、魔力球へと追い付いた彼女は…。

その翼を叩きつけるように横回転し、全ての魔力球を悉く打ち落とした。


暁美ほむらを討つ筈の未来。

それが今…。

何の大きな変化もなく突如書き変わったのだ。



織莉子「何故……、何故!」


織莉子「何故、未来が……、書き変わった!? こんな馬鹿な事が…」



??「知りたいかい?」


静かに響くどこか愛嬌のある『悪魔』の声。

希望をちらつかせ、絶望を突きつける、姿も言葉も嘘の塊がそこに立っていた。



QB「物凄く単純な事だよ」


QB「単にまどかの力が、君より上だった。

   ただ、それだけの事さ」

931: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:33:18.37 ID:n4duvZC50

織莉子「そんな………、そんなふざけた理由で…!」


QB「そうだね。それで納得しろと言うのは無理があるね。

   じゃあ、もう少し詳しく教えようか」


QB「言ってしまえば、魔力の資質の差、とでも言うべきかな」


QB「例えば………、『大金持ちになりたい』、と言う願いがあったとするだろう?

   それを才能ある君と、そこらの少女が叶えた場合どうなるかわかるかい?」


織莉子「……………」


QB「君は一生遊んで暮らせるだけの富を得て、才能なき少女はまぁ…、遊んで暮らせば数年分程度の富となるかな」


QB「とまぁ、君がうん兆のお金を望んでも、それが叶えられるだけの才があるから僕は見えるけど、

   その逆は無い。願いに見合わない才しか持たない少女に僕は見えないんだ」




QB「話が逸れたから、簡潔に纏めようか。

   君の能力は未来を視る力、『定められた運命を見る事が出来る力』なのに対し…」


QB「まどかの固有能力は、死と言う結果さえ覆す『奇跡』。すなわち『定められた運命さえ変える力』なのさ」



QB「最も本人に自覚が無く、強力すぎてアンコントローラブルな能力だから、知った所で自在に扱えるとは思えないけどね」

QB「そのまどかよりも上はいるけれど………、それは君にはどうでもいいかな」

932: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:34:44.78 ID:n4duvZC50

織莉子「変える力……。変えられた……、運命を……」


QB「相当ショックみたいだね。だけど、それは当然の摂理だよ。

   君達の大好きな、誰が正しいだの、間違ってるだの、そんなモノよりもずっと当然の摂理」


QB「強いモノが弱いモノを淘汰する。この星はおろか、僕達の間でさえ変わらない当然すぎる摂理。

   この国では………弱肉強食と言ったかな?」



織莉子「運命を変えられるのなら………、私のやって来た事は……」


QB「もちろん、無意味な事だよ。君の…」




まどか「そんな事ないよ」


まどか「誰かの為に誰かを殺す………。そのやり方が正しいとは言ってあげられないけど……。

    この世界を救いたい。みんなを守りたいって戦ったあなたが間違ってるなんて………」


まどか「それは違うって………、言い切れる」

933: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:35:44.94 ID:n4duvZC50

織莉子「鹿目まどか…………、それに………」


わたしの前に立つ鹿目まどか。

少し後ろには多少傷を癒していはいるも、満身創痍の巴マミ…。

その右後ろに美樹さやか、左後ろに佐倉杏子…、さらに後ろに千歳ゆま…。

そして、彼女達が取り囲まれ、守られるように暁美ほむらがいる。


四方を障壁より遥かに厄介な魔法少女に囲まれている上に…。

私の魔力は完全に尽きている上、何かしようと下手に動けば鹿目まどかがわたしに止めを刺す…。



織莉子「完敗………ね……」

マミ「いいえ、私達はまだあなたに勝っていないわ」


マミ「暁美さんを生かし、その上で世界も滅ぼさせない。

   あなたの予知が間違いであることを証明する」


マミ「そこまでやって、初めて………、あなたへ勝利したんだと言えるわ」



まどか「見ていてください」

まどか「わたし達が、みんな救える道を探します。

    世界も魔法少女の事も向き合って行きます」


まどか「そして、もしそれが見つかった時は……………」

934: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:36:22.38 ID:n4duvZC50

そう言って手を伸ばす鹿目まどか。


私の進んだ道が間違いではないとした上で…。

自分達がより良い道を探す…。


そして、それが叶った時は…。


『この手を取ってもらえますか?』

そう言う意味だろう…。




織莉子「一つだけ質問があるわ………」


まどか「なんですか…?」



織莉子「もし……、あなた達が進み続けた先に絶望しか無かったら……。

    特に、暁美ほむらが世界を滅ぼす存在である事が確定した場合は……、どうする………?」



まどか「……………」


まどか「その時は…………」



まどか「その時は、わたしが命に代えても責任を取るよ」

935: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:38:44.40 ID:n4duvZC50

強い意志を秘めた瞳。

小さいけれど、私が視た絶望の未来を覆す可能性を持つその存在…。


あまりにも頼りなく不確実だけど…。

それでも…、賭けてみよう。


私の代わりに……。

私より正しい道を…、より多くを救えるのか…。

私がかつて見て、理想や幻想だと諦めた道を成せるのか…。


もう、私にはできないから…。



織莉子「暁美ほむら…」

ほむら「はい…」



織莉子「貴女はどうしようもなく、弱く、脆い」

織莉子「その貴女の歩みは世界を滅ぼす…………」



ほむら「……………」


織莉子「だから、貴女は前を向くな………」


もう少し…。

もう少しだけ時間が欲しかった。


だけど、全ては予知の通り。



私のソウルジェムは、体ごと銃弾に貫かれ………。

その言葉は、そこで潰えた。

936: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:40:15.65 ID:n4duvZC50

まどか「え……………?」

ほむら「あぁ………………」



ユウリ「あはははははははは!!!!! あはははははははっ!!!!!!」


ユウリ「やった…! やったよ…、ユウリ………。私…、やったよ…?」

ユウリ「仇………取ったよ……、ユウリの………」


憎しみに捕われた少女は仇敵を倒し、その場で泣き崩れる…。

彼女が善意でばら撒いた悪意が、復讐と言う魔弾となり、彼女を撃ち抜いた。



さやか「お前はッ…………!」

マミ「美国…………さん………」


杏子「…………」

ゆま「…………」



まどか「あんまりだよ………」


まどか「こんなのって……、ないよ……」


最後に彼女が抱いたのは希望か、絶望か、それはわからない。

けれど、その亡骸は、安らかに眠るように横たわっていた。

937: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:41:57.03 ID:n4duvZC50

────────

────

──


???「ン? どうしたの? キミ?』


織莉子『…………私は何も成せなかった』

織莉子『より多くを救う為と称して……、たくさんの人を殺したのに………。

    結局は何も…………』


???『よくわかんないけど…………』

???『思う通りの事が成せなかったからって、何も成せなかった事にはならないんじゃないかな?』


織莉子『…………』


???『そりゃ殺された人からすれば、たまんないよ? 

    でも、それはキミが何やったって殺された人からは変わらないよ。人殺しめ~ってそれでおしまい』


???『けど、それで救った人が一人でもいるんなら、その救われた人にとっては意味がある。

    少なくとも「何も」成してない事にはならんじゃないかな?』


???『なんて………、私みたいなのが偉そうに言う事じゃなかったね。ごめん』



織莉子『いいえ…………』

織莉子『そうね……。そうかもしれない……』

938: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:43:27.82 ID:n4duvZC50

???『じゃあさ……』

織莉子『でも………いけないの』



織莉子『私は多くの人を犠牲にしたから…。

    こんな所に居てはいけないの……。償わなきゃいけないの……』


織莉子『なのに………立てないの………』

織莉子『覚悟………した筈なのに………。許されるとも思っていないのに………。

    でも、重いの………』


織莉子『こんなになって………、やっと……、私が奪って来たモノの重さが……、わかったの……』




???『それなら…、それは私が半分持ってあげよう』

織莉子『え…………?』


???『そしたら、キミも立つ事が出来るでしょ?』




???『だから…………、一緒に行こう』

    
???『私は…………、どこでも、どこまでもキミに付いていってあげるから』




織莉子『うん…………、ありがとう』




織莉子『キリカ』



―to be continued―

939: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/12(木) 00:44:19.05 ID:n4duvZC50

―next episode―



「ふんだ! キョーコなんかに頼らなくたって、ゆまは魔法少女できるもん!」






―【第二十話】魔法少女ゆま☆マギカ―




949: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:27:21.14 ID:+oJd6Wjk0

住宅街から少し離れた静かな山奥…。

二つの墓石が寄り添うように立っていた。


『美国織莉子』と『呉キリカ』。

世界の為にと戦い、その果てに散った二人の魔法少女の墓。


アタシとマミは、その二人の墓の前で黄昏ていた…。




マミ「彼女は本気で、魔法少女やこの世界の事を考えていた…。

   なのに私は、その彼女と敵対し、突き離す事しかできなかった…」


杏子「仕方ないさ。アイツらが守ろうとする世界に、アタシらの大事なモンは入って無かった」

杏子「互いに譲れないモノがある以上、戦るしかなかったんだ。

   例え、アイツらの方が正しかったとしても、な………」



マミ「わかってる。だけど……」

マミ「その正しい彼女を倒した私達は……。

   彼女とは違うやり方で、多くを救える道を探さなきゃいけない」


マミ「それが彼女達を倒した私達の、しなければならない事だと思うから…」

950: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:28:35.31 ID:+oJd6Wjk0

杏子「未来が視えるアイツにだって、見つけられなかったんだ。

   そんなモン、ないかもしれねぇぞ…?」



マミ「そうかもしれない」

マミ「でも、やらなくちゃ…。

   今の私は彼女のように強くもなく、無力だから、時間はかかるかもしれないけど…」


マミ「それでも、知った以上は見て見ぬ振りは出来ない……」





杏子「マミ……」



マミ「だから、私は彼女と戦い続ける」


マミ「彼女とは違うやり方で、多くを救える道を探し続ける…。

   世界を滅ぼすって言う暁美さんの予言も実現させない…」



マミ「道を違えた私が言うのは、身勝手かもしれないけど…。

   彼女の目指したモノや、その意思だけでも引き継ぎたいから……」

951: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:30:22.59 ID:+oJd6Wjk0

杏子「…………ふん」


杏子「どいつもこいつも、世の為、人の為って物好きな事だよ」




杏子「だけどさ…、頑張るのはいいが、生き急ぐなよ」


杏子「世界ってのはお前や織莉子が思うよりももっと単純にできてんだ。

   例え、お前らが気張らなくても回るモンは回るし、潰れるモンは潰れる。そんな風にね」


杏子「より良くしようと思うのは結構だが……。

   その為に、お前が親父や織莉子のように、その歪みや矛盾に飲まれちゃしょうがないからさ……」



マミ「心配してくれるの?」


杏子「………まぁな」




マミ「ありがとう…。でも、大丈夫」


マミ「私が一番に守りたいモノは…、ここにある。

   それを捨て、自分を捨てる事が出来るほど、私は強くはないから…」



杏子「そうかい。なら、一先ずは安心だ」

952: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:30:50.63 ID:+oJd6Wjk0






―【第二十話】魔法少女ゆま☆マギカ―










953: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:32:13.00 ID:+oJd6Wjk0

「ここ見滝原中学校で生徒、教師が多数失踪した事件ですが…」


織莉子の学校襲撃から三日。

戦いの傷跡はそう簡単に消える筈もなく…。

世間では謎の失踪事件? それとも襲撃事件?と好き勝手騒いでいたようだった…。



謎、と言えばアタシ達にもよくわからない事が二つ。

一つ目は、巻き込まれた奴らの当時の記憶が綺麗に抜け落ちていた事。

もう一つは、魔女になったさやかの友人を始め、覚えのない救助活動の跡が見られた事。


どちらもこちらに取っちゃありがたい事だから、会って礼でもしたいくらいだが…。

それは同時に、アタシらの知らない何かが動いていたって事にもなる。

どうにも胡散臭い話でもあった。


だからと言って、何をどう出来る訳でも無いんだが…。

954: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:35:26.33 ID:+oJd6Wjk0


「現在確認された所…、死者は24人、行方不明者は89人。警察では身元とその行方を…」


アタシらの善戦も虚しく、当然のように多くの犠牲者が出た。

それでも、あの学校に出入りしてる人間が500人程度と仮定すると、数だけ見れば上々の戦果だ。


だが、アタシ以外の連中はそんな単純には出来ていないらしい。




マミ『状況が状況だけに犠牲が出る事はわかったはいたけど…、実際に見ると遣る瀬無いものね…』


杏子『あんだけ派手に巻き込まれた状況で犠牲出すなってのが無理だ。よくやった方だと思うけどな』


マミ『わかってる…。だけど、それは犠牲を悲しまない事の理由にはならないでしょ…?』



こうは言っているが、さすがにマミは冷静だった。


長い事魔法少女やってる以上、手が届かないモノだってあると知っている。

だからと言って犠牲を割り切る事も出来ないからと、わかった上で悲しんでいた。


優しさと甘さは紙一重。

ずるずる引きずるなと言いたいが、そう出来るならそもそも織莉子と対立していないだろう。

それを必要だったと割り切れるのが織莉子だったのだから、割り切りきれずに心痛めるのはマミがマミである為に必要なものなのかもしれない。


どちらにしても…。

悲しみこそすれど、事実を受け入れる事が出来ているマミはまだ良い。



問題は…。

955: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:37:03.60 ID:+oJd6Wjk0

まどか『…………』


優し過ぎるまどかは、その事実を受け止めきれずに沈黙し…。



さやか『悔しい…。悔しいよ…! これが現実だって…、わかってるけど…!』


潔癖過ぎるさやかは、壁を殴りつけ、無力さを嘆き…。



ゆま『ごめんね…、ゆま、助けてあげられなかった…』


まだ幼いゆまは、守れなかった者を思い出し、涙を流した。



三人とも頭じゃわかってるんだろう。

たった五人で、400だの500だのの人数を守り切るなんて出来はしないって。

どんなに頑張ったって守れないモノだってあると。


だけど、それをコイツらは初めて知った。

失う事を知らない年頃の小娘に、こう言う事を簡単に割り切れってのはなかなか酷だろう…。




それでも、これはコイツらが乗り越えなきゃいけない壁だ。

魔法少女として、誰かを守る為に生きようとするコイツらが何時かは知らなきゃいけない現実だった。

それが今、やって来ただけの事…。

956: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:38:14.97 ID:+oJd6Wjk0

だからこそ、アタシはコイツらを諭した。

魔法少女にとって精神状態がいかに大事かってのは知ったばかりだし、それに…。

やっぱり、コイツらにはこんな所で立ち止まって欲しくないから…。



杏子『魔法少女っつったって、人より出来る事がちょっぴり増えただけに過ぎないのさ』


杏子『何もかも全部守れる神様やヒーローなんてのは、この世界にはいない。

   だから、自分が出来る事をやるしかないんだ』


杏子『そんな中でお前らはベストを尽くしたんだろ? 守りたいモノだって守り通せたんだろ?』


まどか『うん…』

さやか『そう…だけどさ…』

ゆま『でも………』


杏子『じゃあ、それ以上を望むのは傲慢だよ』


まどか&さやか&ゆま『……………』



杏子『その悔しさは忘れなくていい。でも、それに捕われるな』

杏子『守れなかったモノばかり見るな。嘆いたって、そいつらは帰って来ない。

   それよりも次はいかに犠牲を減らせるか、それを考えろ』


杏子『失ったモノと違って…。

   守ったモノは、これからまた守り続けなくちゃいけないんだから』

957: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:39:09.29 ID:+oJd6Wjk0

らしくもないクサイ説法をしてみたものの…。

アイツらは、そのまま黙ったまま。

アタシの言葉が届いたかはわからずじまい。


ただ、一人を除いて…。




ゆま「キョーコッ!!!!! またボーっとしてる!」


杏子「あぁ…」


何をどうしたのか、ゆまだけがやる気を出して、アタシの前に現れ…。

こうして、アタシに教えを請うている…。



いや、やる気を出しているのともまた違うか。

コイツは多分焦ってるんだ。


思えば自分が契約した時と今回、コイツは二度も目の前で人を見殺す羽目になってる。

大人でもトラウマになるであろう瞬間を、二度もだ。

むしろ、よく保ってると思う。


だけど、だからってここで焦ったって何にもならない。

まどかとさやかの時と違って、状況が切迫してる訳でも、明確な目標があるでもないのに…。

自分を追い詰める為の特訓、ましてそれを幼いゆまがやるのは、芳しいとはとても言えなかった。

958: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:40:06.39 ID:+oJd6Wjk0

杏子「…………やめだ。今日はもうやめ」


ゆま「なんで!? 続けてよ! じゃないとゆまは…」



杏子「昨日も夜遅くまで相手したし、今日も朝早くからぶっ通しだろ。

   そんなに焦って、お前は何を得たいんだよ?」

杏子「気にしてた結界に、盗聴されない高精度の念話、物質の耐久強化、簡易催眠と教えたし、後は一朝一夕にはいかない事ばっか。

   ここから先は今焦ったってどうにもならねぇよ」


ゆま「だけど…、ゆまが弱いうちにまた敵が来たら…。

   キョーコだって言ったよ! 次はギセイ減らせるようがんばれって…」



杏子「『次はいかに犠牲を減らせるか、それを考えろ』。確かに言ったよ」

杏子「けど、こうも言ったぞ? 『何もかも全部守れる神様やヒーローなんてのは、この世界にはいない』って」



ゆま「でも、そんな事言ってて、また守れなかったら………」



杏子「そん時はそん時。そこで死んだ奴の運が悪かった。そう思いな」


杏子「何から何まで背負う訳にはいかないし、そんな義務もねーんだから」

959: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:41:03.99 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「………………よ」


杏子「あ…?」



ゆま「冷たいよ……!」


ゆま「冷たすぎるよ! キョーコは!!!!」


ゆま「なんでそんなかんたんに割り切れるの! なんでそんな平気な顔していられるの!」

ゆま「たくさん…、たくさん死んだんだよ……!」



杏子「…………」




ゆま「もういいよ、だったらキョーコには頼らない!」

杏子「あっそ…。勝手にしろ」




ゆま「キョーコの………」


ゆま「ばかぁ!!!!!!!!!!!!!!」

960: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:41:45.86 ID:+oJd6Wjk0

杏子「…………」

杏子「………………」


杏子「………ハァ」


ったく…。

ゆまの疲弊っぷりが心配でやめさせようとしたのに、喧嘩してどうすんだよ…。


おら…。

早く追っかけろよ…。

じゃないとアイツのジェムの穢れが………。


だけど…。





杏子「…………冷たすぎる、か」



杏子「仕方ねぇじゃん…」


杏子「他人どころか大切な人すら守れなかったアタシは…。

   そうなるしか、やってられなかったんだから、さ…」

961: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:42:32.97 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「ふんだ! キョーコなんかに頼らなくたって、ゆまは魔法少女できるもん!」

ゆま「できるもん………」

ゆま「…………」


ゆま「言いすぎ………ちゃったかな…?」

ゆま「でも………、ゆまはやらなきゃいけないんだ…」




ゆま「ゆまは………、ゆまは………」

ゆま「役立たずのままじゃ………、ダメなんだ………」


ゆま「だから、やらなきゃ…。がんばらなきゃ………!」



だけど、どうしよう…。

もう、キョーコにはたよれない…。

だけど、ゆま一人じゃどうしていいかわかんない…。



ゆま「う~~~ん……」



ゆま「そうだ!」

ゆま「マミおねえちゃんに教わろう!」


ゆま「マミおねえちゃんはキョーコの先生だったし、キョーコよりもすごいこと教えてくれるよね!」

962: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:43:23.70 ID:+oJd6Wjk0

――マミのマンション自室前――


ゆま「…………」

ゆま「む~~~~~」

ゆま「チャイム何回も押したのに出てこない~」



ゆま≪マミおねえちゃ~~~~ん!≫

ゆま≪いないの~~~~!?≫


ゆま「…………」

ゆま「…………念話でもダメって事は、いないのかぁ」



ゆま「どうしよう………」

ゆま「キョーコに………」


ゆま「………ダメダメ! キョーコに教えなくちゃ!

   ゆまは役立たずじゃないって…!」




ゆま「……………まどかおねえちゃんのお家に行こう」


ゆま「まどかおねえちゃん優しいから、キョーコよりもていねいに教えてくれるよね!」

963: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:44:05.09 ID:+oJd6Wjk0

――まどかの家――


知久「やぁ、いらっしゃい。ゆまちゃん」

ゆま「こんにちは。まどかおねえちゃん居ますか?」



知久「居るには居るんだけど……」

ゆま「どうかしたんですか…?」


知久「まぁ上がって。見てみた方が早いよ」





まどか「ちょっとたっくん…。重いよ。離れて~」

タツヤ「や!」


まどか「おねえちゃん、おトイレ行きたいんだけど…」

タツヤ「やー!」


まどか「もう……、たっくん!」

タツヤ「ねえちゃ、いなくなっちゃうの、やー!」

まどか「困ったなぁ………」

964: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:46:04.51 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「…………」

知久「例の事件の怖さが、子供ながらにわかったんだろうね」


知久「あれ以来、まどかが居なくなる事をすごく怖がってて…。

   詢子さんがちょっと状況が落ち着くまでと幼稚園を休ませたのをいい事に、ずっとまどかにべったりなんだ………」


知久「でも、あの事件以降暗い表情ばかりだったまどかも、タツヤと遊んでる内に段々元気が戻って来ててね。

   引き剥がす理由もないし、まどかの心の傷も癒せるならと、あのままにしてるんだ」



まどか「たっくん! ほんのちょっとだから!」

タツヤ「む~」

まどか「ほら、戻ってきたらまた続きしよ?」

タツヤ「うん…。わかった…」



ゆま「…………帰ります」

知久「悪いね」


ゆま「いいなぁ、たっくんは。

優しいおねえちゃんがいて…………」


知久「君の身近にもいると思うけどなぁ」

ゆま「え…?」


知久「君と杏子ちゃんは、血の繋がりはなくても…。

   まどかとタツヤ以上に仲が良くて、お互いを大事に思ってる、本当の姉妹みたいに見えたんだけどなぁ」

965: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:47:25.14 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「…………」


ゆま「キョーコとゆまが仲良し…? 姉妹みたい…?」


ゆま「そんなはず……ない……」


ゆま「ゆまはキョーコに迷惑ばっかりかけて…。いつも助けられて……。

   なのに、ひどいこと言って………」



ゆま「つづき……、やらなきゃ。

   キョーコやみんなに………、役立たずって思われないように………」



ゆま「うん…! 頑張らなきゃ!

   もう、あんなのヤダもん……!」



ゆま「今度はサヤカのところへいこう」


ゆま「サヤカって面倒見いいから、きっとゆまの悩みや特訓も、真剣に受け止めてくれるよね」

966: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:48:33.30 ID:+oJd6Wjk0

――さやかの家近所の公園――



ゆま「あ…、きた! お~い、サヤカ~!」

さやか「おう、お待たせっ」



さやか「で、用事って何?」


ゆま「戦い方を教えて…?」


さやか「別にいいけど………。

    何でまた、あたしに?」

さやか「マミさんとか杏子とか適任者がいると思うんだけど……」



ゆま「マミおねえちゃんは居なかったし、キョーコは………」


さやか「………………」



さやか「わかった。引き受けるよ」


ゆま「うん…! ありがと!」



さやか「ただ、保障はしないよ…?」


ゆま「うん! だいじょーぶ! じゃあさっそくやろう!」

967: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:49:29.41 ID:+oJd6Wjk0

────────

────

──


ゆま「ぜんっぜんっっっっっっっ、わかんない!!!!!!!」



ゆま「サヤカ、教え方ヘタ!」


さやか「やっぱし?」



ゆま「『ピシっとしてパーン』とか『ビュッと来てバッ』とかそんなのでわかるわけないじゃん!」


さやか「あっはははははは…。ごめんごめん……」



さやか「あたしってさ…、頭で考えるよりも先に、身体が動いてるタイプって言うかさ。

    あんまりモノ教えるの得意じゃないんだな、これが」


ゆま「む~~~~」

968: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:50:19.89 ID:+oJd6Wjk0

さやか「やっぱり杏子に教わりなよ」


さやか「アイツあれで案外物教えるの上手でさ、あたしやまどかもお世話になったりしてるし…。

    ちょい厳しいけど、その代わり身になる特訓が出来ると思うよ」

さやか「マミさんは多忙だけど、アイツは基本暇人だから、アイツの為にも誘ってやった方がいいよ」


ゆま「…………」



さやか「それに、ゆまちゃんの頼みなら断らないと思うけどな」


ゆま「そんなこと…………」




さやか「…………ほ~ぅ」


さやか「さては、杏子と喧嘩でもしたな~?」



ゆま「喧嘩って言うか………」


さやか「話してみなよ。戦い方は教えられないけど…。

    そっちの相談では力になれるかもしれないよ?」

969: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:51:39.76 ID:+oJd6Wjk0

────────

────

──

さやか「なるほどね…」


ゆま「うん、それでキョーコに冷たすぎるって言っちゃったんだ…」

ゆま「でも……、しかたないしかたないって諦めてるキョーコを見てたらなんかガマンできなくて…」



さやか「あたしもね……、どっちかと言うとゆまちゃん寄りの考えなんだ。

    助けられなかった人は仕方ないって割り切れない…」

さやか「死んだ人たちにもやりたい事があって、死んだ人たちにも大切な人が居て…。

    そう思うとやっぱり、アイツみたいにそう簡単には割り切れない…」


さやか「それでも…、アイツの…、杏子の考えも否定はしない」



ゆま「なんで……?」


さやか「アイツの過去の話は聞いた?」

ゆま「うん……。マミおねえちゃんに聞かされたよ…」



さやか「なら、わかるとは思うけど…。

    アイツはそうやって戦った先で、大事なモノを失った過去があるから…」


さやか「何もかもを守る事より……、大切なモノを失わない事の方に必死なんだよ…」

970: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:52:52.70 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「何もかも、より……、大切な……モノ……」


さやか「アイツは不器用で乱暴なところがあるから、誤解されやすいけど…。

    今回もそうやって無茶するゆまちゃんを止めなかったんじゃないかな?」


さやか「見知らぬ誰かよりも、ゆまちゃんの方が大事だから…」



ゆま「…………」



さやか「アイツは確かに冷たいよ。と言うより考え方が大人なんだ」

さやか「無理なモノは無理って割り切ってるし、出来ない事をやろうとするような熱苦しい考えも持たない。

    けど…………」


さやか「そうすることで、一番大事なモノだけは守ろうとしてる」

さやか「それを冷たいって言い切る事も出来るけど…。

    あたし達はそんな杏子に守られてるんだって思うと…、アイツの考えを否定する気にはなれないんだよね」



ゆま「……………」

ゆま「ゆま、キョーコにあやまってくる!」


さやか「うん。それが一番だね」



ゆま「教えてくれてありがと、サヤカ!」

971: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:53:27.48 ID:+oJd6Wjk0

キョーコは…。

キョーコは、ゆまの事を思って言ってくれてたんだね…。


ゆまは…。

目の前でだれかが死にそうなのに、守れないのはもう嫌だから…。

役立たずなのがつらかったから…。

だからがんばろうと思ったんだ…。


でも、そうやってムリするゆまを見てられなくて…。

遠まわしだけどムリするなって、言ってくれてたんだ…。



なのに、ゆまは…。

冷たすぎる、なんて言っちゃった…。



いつもゆまを助けてくれて…。

いつもゆまの相談にのってくれる優しいキョーコに…。

冷たすぎるって……。

972: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:54:32.93 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「あやまらなきゃ…、キョーコに…」


ゆま「ん…? これ、魔女の………反応!?」



ゆま「もう! こんなときにこなくてもいいのにっ!」


それでも、魔女をほうってはおけないから、ゆまは魔女の結界へとむかう…。



ほんのいっしゅんだけ、先にキョーコに会いにいくことも考えたけど…。


『自分にできる事』をしないで、自分のことを優先したら…。

ゆまは『役立たず』の中の『役立たず』になっちゃう気がするから…。

973: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:56:14.19 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「どいて! ゆまは急いでるんだから!」


結界の中はせまくて、途中にいた男の人の体に鳥頭と羽をはやした変な使い魔も、怖いのは見かけばっかり。

使い魔をたおしながら進んでも、すぐに魔女の元についた。






ゆま「魔女…、見つけたよ!!」


ゆま「ゆまの……、ジャマしないで!!!!!」


たくさんの使い魔が飛んでいる中、その真ん中でぷかぷか浮かぶ体が鳥かごに入った魔女。

魔女は怒ってるのか、かごをけとばしながら使い魔に命令して、ゆまを攻撃させようとしたけど…。

あの使い魔が怖くないのはもうわかってる。



魔力を込めたハンマーを思い切りふって、すごい風をおこし…。

使い魔たちごと魔女を吹き飛ばして地面へ叩きつける。


飛ばされなかった使い魔たちも魔女のところへ近よって、そこでタイミングよく魔女が大爆発。

魔女も使い魔もすごいいきおいで燃えはじめる。


そして、その炎の中からなぜか足音と拍手が聞こえてきて…。

974: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:57:23.96 ID:+oJd6Wjk0

??「お見事です…」


ゆま「………誰?」



双樹「申し遅れました。私は双樹ルカと申します」


双樹「小さいのに素晴らしい戦いぶり…。

   よろしければ、お名前を教えていただけませんか?」




ゆま「千歳ゆま、だけど………」


出てきたのはまっ赤なドレスの女の人、まちがいいなく魔法少女だと思う。

でも、外の魔法少女はいい人ばっかりじゃないってキョーコやマミおねえちゃんがいつも言ってた。

ひどい人はグリーフシードを狙って、相手を傷つけることだってあるって…。


だから、ゆまはその人を注意しつづけた…。




ゆま「ゆまに、なにか用? グリーフシードが欲しいの…?」


双樹「そんなに怖い顔をなさらなくても、こんなモノは必要ありません。

   その代わり、と言っては何ですが…」







双樹「あなたのソウルジェムをいただけませんか?」

975: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:58:15.19 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「…!」


赤いドレスの人は、やっぱり悪い魔法少女だったみたいで、剣でいきなりゆまを攻撃してくる。

あぶないところだったけど、ゆまはギリギリでその攻撃を止める…。




ゆま「っ…、何するの…!」


双樹「ほぅ…。良い反応です。けれど…」

双樹「あなたはもうお終いです」


ゆま「…!?」


剣を受けているハンマーから順番に…。

手、ひじ、肩、体、足とどんどんゆまの体を凍らせていき…。


とうとう全身が凍りついて、ゆまは動けなくなった。

976: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:58:48.99 ID:+oJd6Wjk0

双樹「あら…、怯えてしまって可愛そうに…」


双樹「ご心配なく。『大切に』致しますから」



やだ…、やだよ…。

こんなところで…、終わるなんて……。


役立たずのまま……なんて…。

あやまれ……ない…まま……なん…て……。


たすけて…?

だけど、またキョーコにたすけてもらうの…?

役立たずのまま…?


そもそも、キョーコはゆまのこと怒ってるはず…。

きてくれるはず…ない…。

977: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 00:59:37.09 ID:+oJd6Wjk0

ゆま≪聞こえる……わけ…ないと思うけど……≫


双樹「あなたの体は永久にここで、美しいまま………」



ゆま≪ごめんね…、キョーコ…。ひどいこと言って……≫


双樹「そして、あなたの美しいソウルジェムは私達と…」



ゆま≪ゆま、くやしかったの…≫

ゆま≪みんなはたくさんの人を助けてるのに、ゆまは目の前の人すら助けられないから…≫


双樹「美しいモノが二つになる…。あなたは芸術を二つも生み出し…」



ゆま≪ゆま、ね…。キョーコみたいになりたかったんだ≫

ゆま≪なんだかんだ言いながらも、いつもみんなを助けて、それをいばったりしないカッコいいキョーコみたいに…≫


ゆま≪でも、ゆまはなれなかった…。役立たずのままだった…≫

ゆま≪それどころか……、いつもゆまに優しくしてくれたキョーコに冷たいって…≫


双樹「では、行きましょう。共に」



ゆま≪最後にもう一回だけ………≫


ゆま≪ごめんね………、キョーコ………≫















??≪そう言う事は………≫


双樹「……?」



杏子「口で言え! 馬鹿!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

978: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:00:41.04 ID:+oJd6Wjk0

双樹「ぐあぁぁぁッ!!!」


凍りついて動けないゆまに、何かしようとした赤いドレスの人が吹き飛んでいく…。

そして、遠く見えなくなったその人の代わりに…。

泣きそうなような、ほっとしたような顔をしたキョーコの顔が見えた…。



杏子「待ってろ……。今治す…」


ゆま≪キョーコ…。ゆまは…≫

杏子「良いよ。何も言わなくて。全部聞こえたから…」


ゆま≪うん……。ごめんね…、キョーコ…≫

杏子「………それももう良いよ。さっき聞いた」


杏子「むしろ今度謝るのは、アタシの方だ。

   お前の気持ちもわかる筈なのに、いつもみたくぶっきらぼうなやめさせ方をしちまった。

   ごめん…」


杏子「でもな、ゆま……、お前の気持ちもわかるけど、その為に無茶されたら…、こっちが冷や冷やするんだ」


杏子「お前が頑張ってる事も、役立たずなんかじゃない事もアタシが知ってる。

   だから、少しは自分の事大事にしてくれ」


杏子「アタシの為にも、さ」



ゆま「うん…!」

979: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:02:12.24 ID:+oJd6Wjk0

お話が終わり、ゆまの体の氷がほとんどとけた時…。

こわい顔をした赤いドレスの人が帰ってくる。

その顔は怒ってはいるけど、それ以上にうれしそうにも見えて、こわいとしか言えなかった…。



双樹「まったく、乱暴な…」

双樹「けれど…、また美しいジェムが見つかったので、良しとしましょうか」



ゆま「キョーコ…」

杏子「ちょい休んでろ。どうせ手足もさっきの氷にやられてて満足に動かないだろ?」



杏子「………さて、ただですませてやる気は毛ほどもねぇが…。

   一応聞いといてやるよ」


杏子「何が狙いだ? 人様のジェムを奪って何がしたい?」




双樹「何、と言われましても別に何も。ただ奇麗だから集めているだけです」


杏子「お前…、ソウルジェムが何なのかわかってんのか…?

   それは…」


双樹「無論です。だからこそ集めるのでしょう?」






双樹「生命の輝きを放つこの石を…!」

980: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:03:02.21 ID:+oJd6Wjk0

杏子「最高に下衆いコレクターってわけね。

   安心したよ…」


杏子「それなら、気兼ねなくぶっ殺せるからなぁッ!!!」


キョーコは目にも止まらないはやさで、赤いドレスの人に槍を突き出す…。

けれど、さっきとちがって、赤いドレスの人もキョーコの攻撃を止めてしまう。

そして、攻撃を止められてしまったら…。




ゆま「キョーコ! 離れて!!!!!!」



双樹「同じ手が二度も通用するとでも?」

双樹「そして、私に切り込むのは自殺行為です…!」


双樹「カーゾ・フレッド!」


ゆまの時と同じ。

剣にふれていた槍先が凍って、そこから槍の棒の所、手が、体が、足が凍っていき…。

やがてキョーコもさっきのゆまのように凍りついた。

981: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:04:07.87 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「キョーコッ!!!!!!」


双樹「あら…。よく見ると結構綺麗な顔立ち…。

   これはジェム以外にも価値を…ッ!?」



杏子「…………死ね!」


双樹「後ろ!? 何故!!!!!」


凍りついたキョーコの後ろから、『別のキョーコ』が襲いかかる。

赤いドレスの人は剣で防いだけど、それでも大きく飛ばされて地面に転がる。


キョーコはそれを見ながら、さらに分身を増やしていく…。




双樹「分身、ですか」

双樹「…………」

双樹「…………スキくないなぁ」



双樹「あなたも…、そのださい攻撃も…!」


飛びおきた赤いドレスの人の様子が変わったかと思うと…。

そのまっ赤なドレスは、、まっ白に変わって…。


今度は剣から火の玉を出して、キョーコの分身ごとその周りを燃やした。

982: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:05:01.42 ID:+oJd6Wjk0

双樹「どう? 派手に燃えてる自分の姿を見るのは?」

杏子「…………」



杏子「お前………、誰だ?」


双樹「へぇ…、よくわかったね」



双樹「いいよ、教えてあげる。

   私はあやせ。ルカと同じ体を共有している『別の存在』ってとこかな?」


双樹「最も別の存在とは言っても、一緒に『ジェム摘み』したり、残った体でアートを作ったり…。

   世界で一番通じ合ってる二人だけ…」


杏子「どうでもいいよ」



双樹「は…?」

杏子「とっととさっきの奴を出しな」



杏子「人のダチに手を出したお礼をしなきゃならないんだからさ!」



双樹「…………」


双樹「やっぱりあなた…………」




双樹「スキくない!!!!!!!」

983: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:06:44.09 ID:+oJd6Wjk0

双樹「オトボケを言わないで欲しいなぁ」

双樹「今度は、私の宝物であるルカに手を出したあなたに、私がお礼をする番なんだよ!」



双樹「と言う訳で、もうあなたのジェムは良いから…」


双樹「ここで消し炭になってよッ!!!!!!」


赤いドレスの人と、白いドレスの人は何もかもが逆…。


赤いドレスの人が氷なら、白い人は炎。

赤い人が慎重で冷静なら、白い人はすごく乱暴。

赤い人は一人と戦うのが得意みたいだけど、白い人はたくさんの敵と戦うのが得意みたいで…。


とにかく、何もかもがさっきとは逆で、別の人と戦ってるみたいなのに…。

キョーコはその別の人を、さっきまでと『変わらなかったかのように』軽く倒してしまった。





双樹「ち…くしょう……。

分身もせず、私ごと火球を全て落とすなんて…」


杏子「広範囲攻撃はこっちも得意。

   むしろ分身なんかより、手慣れてるくらいなんだよ」

984: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:08:44.70 ID:+oJd6Wjk0

杏子「さぁ…、さっきの奴をゆまに土下座させて、アタシの前から消えるか…。

   二人まとめてぶっ潰されるか…。好きな方を選びな」



双樹「何、いい気になっちゃってるの…?」


双樹「私たちは二人で一人…」

双樹「一人一人のお遊びの敗北なんて…、意味が無いのです…」

双樹「だから見せてあげる…」



双樹「私たちの本気を!」


熱さと寒さのまざったキモチ悪い風がふいて…。

その中心にいた白いドレスの人は、剣を両手にもち、そのドレスの右半分を赤色へと変えていた。



双樹「受けなさい…!」

双樹「ピッチ・ジェネラーティ!!!!!」


杏子「くッ…!」


右手の剣の冷気と、左手の剣の炎を合わせて、すごい魔法をはなってくるドレスの人。

キョーコはその魔法をどうにかよけたけど、その魔法はキョーコの後ろですごい爆発をおこして…。



さらに、赤白ドレスの人は剣を重ねて、そのとんでもない魔法をまたすぐに飛ばしてきた…。

985: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:10:01.15 ID:+oJd6Wjk0

双樹「あやせの超高熱…!」

双樹「ルカの超低温…!」


双樹「相反する筈の二つの力をも融合させる完璧なコンビネーション!」



キョーコはやっぱりすごい。


赤白の人の撃ってくる魔法は、すごく速いし、爆発もすごく大きい。

そんな攻撃をすごくかんたんそうに、しかもたくさん飛ばしてくる。


ゆまだったらすぐに当たっちゃうようなすごい攻撃を、よけつづけてる…。

でも…。




双樹「二つの頂点を一つにする…。これこそが、至高の技…!」


杏子「ほざけ…!」


キョーコはいつものように攻撃をよけているけど…。

心なしか、いつもより…。


うぅん…。

間違いなくキョーコは、追いつめられてる…。

986: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:11:24.58 ID:+oJd6Wjk0

杏子「ロッソ!!!」


双樹「くだらない…!」

双樹「今どき流行らないのよね。分身の術なんて!!!」



杏子「当たらない大技なんて、流行る流行らない以前の問題だろうが!」


双樹「ほざけ…!」


相手をわざと怒らせて…。

いつもだったら、あまり出したがらない分身を出して…。

だけど…。


キョーコが分身を出しても、つぎつぎにくる魔法の爆発が広くて、よけるだけで精いっぱいだから、

数を出せない上に、出せても爆発に巻き込まれて、敵にとどく前に消されちゃう…。


そうやって逃げている内にキョーコは、とうとう爆発で足を怪我して…。



杏子「チッ…」

双樹「とうとう回避が追い付かなくなったか」



双樹「ふん…。これでようやく……、終わりにできそう…!」


双樹「ピッチ・ジェネ………」




ゆま「そんなの………」


ゆま「やらせない!!!!!!!!!!」

987: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:12:30.22 ID:+oJd6Wjk0

おもいっきり地面をハンマーでたたいて、地震をおこす…。

それに足を取られた赤白ドレスの人は、キョーコへの攻撃を外す…。


そして、もちろん攻撃をジャマしたゆまを見て、にらみつける…。



双樹「あなたは後回し………と思いましたが、先のほうがよろしいので?」


杏子「馬鹿…! よせ…!」




ゆま「やだ……」


杏子「無茶ばっかすんなって言ったばっかだろうが…!」


ゆま「絶対にやだ……!」




杏子「ゆま!!!!!!」


ゆま「キョーコは無茶するなって言うけど………」


ゆま「いま無茶しなきゃ、キョーコを………」




ゆま「ゆまの大事な人を守れないもん!!!!!!!」

988: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:13:26.17 ID:+oJd6Wjk0

双樹「されば潔し…」

双樹「お前から先に片づける!!!!!」



ゆま「っ………」


赤白ドレスの人は、杏子ではなくゆまの元に向かってきて…。

両手の剣で、ゆまに斬りかかってくる。


ゆまは、それをどうにか受け止めたけど……。



双樹「私の剣を受けるとどうなるか………、お忘れで?」


ゆま「あぁ………!」


赤いドレスの方の右手の剣にふれた辺りのハンマーが凍り始め…。

すぐ近くの右手、すぐに左手も凍って…。

その氷が、手首を、ひじを、肩を凍らせて…。




そこで止まった。

989: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:14:17.77 ID:+oJd6Wjk0

双樹「な、何…!?」


杏子「ゆま! 無理やりぶっ飛ばせ!!!!!!」



ゆま「てぇぇぇぇぇぇぇいッ!!!!!!!!」

双樹「くぅ…!」


ゆまが凍った腕の代わりに、思い切り力を込めてキックをくりだす。

赤白ドレスの人は、それを思い切り受けて、よろつく…。

そして、それを狙って…。





杏子「これで………、終わりだッ!!!!!!」


双樹「かぁぁぁぁッ!!!!!!」


キョーコが持っていた槍を投げつける…。

ものすごい勢いで飛んできたそれは、赤白ドレスの人のお腹に刺さり…。

そのまま、たおれて動かなくなった。

990: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:16:41.53 ID:+oJd6Wjk0

杏子「ったく…。冷や冷やしたが、賭けには勝ったみたいだな…」


双樹「…………」


変身がとけて、動かなくなった敵の魔法少女の前に立ったキョーコが言う。

キョーコの足はゆまが治して、まわりに三人ほど分身もいる。


それでも、キョーコはゆまが回復魔法を使うのを止め、その上でのばした槍のくさりでしばった。



杏子「自分の力に溺れたな」

双樹「くッ…」


杏子「あの魔法は確かにとんでもない魔法だったよ」

杏子『マミのティロ・フィナーレに見劣りしない威力で、外れても爆風で敵を巻き込める。

   おまけにそれが連射できるんだ。ヤバイったらない」


杏子「ただ、そんなモンをあんだけポンポン撃ってりゃ…、そりゃ長続きするわけないなとは思ってたよ。

   魔力消費もお互いで半分こなのかもしれないが、それでもバカにはならない筈だろうしな」


双樹「だから、小賢しく逃げ回ってたのか…」



杏子「単純に食らいたくなかったってのもあるが…」

杏子「分身も満足に出せない、接近戦しかけりゃ凍りつく…と来りゃ、他に手もなかったしな」


双樹「…………」

991: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:17:46.86 ID:+oJd6Wjk0

杏子「さて、お前らの処遇だが…。どうしたもんかな…」

杏子「お前らみたいな外道は、殺しちまう方が面倒はないんだが…」


双樹「ルカは私が守る…」

双樹「あやせはやらせません…」



杏子「他の魔法少女に散々好き勝手してよくもまぁ、そんな事が言えるな…」

杏子「まぁいい。とりあえずジェムを出しな」



双樹「…………」


杏子「別にアタシはお前らが二人まとめて魔女になるまで待っても良いんだぜ?

   仲間も来るし、グリーフシードも儲かるしな」



双樹「チッ……」




杏子「そうそう。それでいいんだ………」


杏子「よッ!!!!!!!」


キョーコが敵から二つのジェムを受けとると…。

もう片方の手で、なにか魔力をこめて…。

そのまま敵だった魔法少女は、動かなくなった。

992: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:19:16.59 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「……………」

ゆま「………殺しちゃったの?」




杏子「そうしたかったんだけどな」



杏子「コイツが収集してたジェムの山をマミに押し付ける予定だからな」


杏子「生かしとかないと情報聞き出せなくなるし…。

   そうなっちまったら、お人よしのアイツでも、さすがに引き受けなくなるかもしれないだろ」



ゆま「じゃあ………」


杏子「あぁ、ジェムに細工して眠って貰っただけだ」

993: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:20:40.69 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「キョーコ…、ありがと」


杏子「何がだ?」



ゆま「ゆまが、人が死ぬとこ見たくないっていうから…。

   二人を殺さずにすませたんでしょ…?」


杏子「自惚れてんじゃねぇよ。全部アタシの為だ」



『アタシの為』

キョーコはいつもそう言う。


でも、そういうキョーコの強さも、優しさも、厳しさも…。

それは全部、ゆまたちのためだから…。


ゆまもやっと…。

そうわかったから…。

994: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:21:33.95 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「キョーコ」

杏子「あん…?」



ゆま「もう、ゆまは力におぼれたりしないよ」

杏子「……………」



ゆま「たとえ、役立たずのままでも…。

   ゆまは、キョーコに大事にされてるって………、わかったから………」


杏子「……………」



ゆま「だから、キョーコも自分を大事にしてね…」


ゆま「キョーコがゆまを大事にしてくれてるように…。

   ゆまもキョーコを大事だから…」



杏子「……………」



ゆま「キョーコ! へんじは!!!」


杏子「…………はいはい」

995: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:22:32.67 ID:+oJd6Wjk0

ゆま「もう、テキトーすぎるよ! もう一回」

杏子「だーもう、うるせーなー!」



ゆま…。

悪いけど、その約束だけは…。

守れないかもしれない。


アタシは決めてんだ。

他ならぬ『アタシ自身の為』に…。

この身を捨ててでも、お前らを守るって…。

もう二度と大事なモノだけは失わないって…。


だって…。

また、アタシ一人残されたら…。

今度こそアタシはどうなっちまうかわからないから、さ…。



その代わり…、にはならないかもしれないけど、誓うよ。

お前は……、お前たちはアタシが必ず守る。



それが、今のアタシの…………。

全てだから。


―to be continued―

996: ◆.2t9RlrHa2 2012/01/25(水) 01:23:07.17 ID:+oJd6Wjk0

―next episode―



「御飯を粗末にしちゃ駄目だよ! それは悪い人のする事なんだから!」






―【第二十一話】迫り来る聖者達―




引用元: さやか「よろしくね、相棒」 まどか「うん!」