歩夢「KILL THE FIGHT」ss 前編

629: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/02(土) 23:03:19.85 ID:1R+d0L6k
選べないルート〔3年生からのアドバイスや愛、璃奈との会話が無かった場合〕


侑ちゃんが

せつ菜ちゃんが

私なんかのことを好きなんて…

そんなこと本当にあるの?

2人の告白を信じられなくって、混乱した私の脚は無意識のうちに明後日の方向を向く

逃げたところでどうにもならないのに

今、私の頭はそんなことすら考えられなくなっていた

だってもし本気の告白だったとしても

いきなり大好きな2人からどちらかを選ぶなんて私には無理だもん

630: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/02(土) 23:08:48.93 ID:1R+d0L6k
侑「逃げないで」

せつ菜「待ってください!」

でも、駆け出そうとした私の腕は2人に掴まれていた

まるでそう、私が逃げるのを予測していたみたいに素早く

侑「ねぇ歩夢、なにか答えてよ」

歩夢「でも…」

侑「私が好きなの?せつ菜ちゃんが好きなの?」

歩夢「それは…」

せつ菜「当然どんな結果も覚悟の上なんです」

せつ菜「歩夢さんが男性とお付き合いしたいのなら諦めますし…」

せつ菜「もしも私達2人、どちらとも恋愛対象として見られないならそう言ってください」

632: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/02(土) 23:17:10.72 ID:1R+d0L6k
歩夢「そんな訳無いよ!」

歩夢「きっと私は好きなんだと思う…」

どんな相手と居ても、私は侑ちゃんと、せつ菜ちゃんと一緒にいる時程楽しく感じられない

きっと
いや、絶対にこれは恋に近い感情なんだと思う

それは間違いない

侑「じゃあ早く答えてよ」

せつ菜「私と侑さん、どちらが好きなんですか!?」

歩夢「うぅっ…」

そんなの選べないよ

だって二人とも私の大切な人なんだから

それに差なんて無いし、つけたくない

2人からどっちかを選ばなきゃいけないなんて考えたことも無かったもん

何よりも私の言葉で片方を傷つけたくなんてない

633: みんなからの励ましやアドバイスのイベントだけをスキップした世界線って感じです(もんじゃ) 2021/10/02(土) 23:27:28.07 ID:1R+d0L6k
歩夢「わっ」

歩夢「私は2人と付き合いたい!」

侑「…はぁ?」
せつ菜「…ほぅ?」

歩夢「だっ…だって私は2人とも差をつけられないくらい大好きなんだもんっ!」

気がつくと追い詰められた私の口は頓珍漢な言葉を発していた

でも、これなら2人を傷つけずにいられる

差をつけられないくらい2人を好きなことは間違い無いんだし、片方を選ぶなんて事は私には出来ない

なら、いっそのことここで2人に失望されるようなことを言うべきなんだ

そして嫌われてこっちが振られちゃう

そうすれば悪いのは私だけになれる

嫌われるのは怖い

心で泣きながら、それでもバレないように笑顔を保つ


635: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/02(土) 23:34:11.87 ID:1R+d0L6k
侑「…へぇ」

せつ菜「私達2人に差をつけられないと?」

歩夢「うん」

歩夢「誠実な答えを出せなくってごめんなさい」

歩夢「でも、これが私の本心なの」

侑「あはは、そんな泣きそうな顔しないでよ」

侑「私は付き合えるならそれでも良いよ?」

せつ菜「奇遇ですね侑さん。私も同意見です!」

歩夢「…」

歩夢「えっ?」

あまりにも軽く発される言葉に自分の耳を疑う

侑「私達と同時に付き合いたいんでしょ?」

侑「良いよ?別に」

せつ菜「私も歩夢さんの1番になれるのでしたら」

歩夢「はぇ?」

637: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/02(土) 23:44:12.67 ID:1R+d0L6k
これは本当に想定外の結果だ

2人から嫌われることを覚悟していたのに

何がなんだかわからなくって混乱する

侑「でも、他の子と浮気したら許さないから」

せつ菜「ええ。不誠実なことをしたらペナルティですからね!」

歩夢「えっ…?うん」
歩夢「もちろんだよ?」

働かない頭で
誰も傷つけず、更に嫌われないで済んだから良かったのかな?なんて呑気に思いながらも
この時に

浮気の定義を

不誠実という事の基準を

ペナルティとは何なのか


私はもっと話し合うべきだったんだろうね
もう話し合っても手遅れだったんだろうけど


背後で最後の花火が弾けて散って
さっきまでの光景が嘘みたい

空が一気に暗くなった

638: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/02(土) 23:50:29.97 ID:1R+d0L6k
みんなと集まった後、侑ちゃんとせつ菜ちゃんは自分こそが歩夢の彼女なんだとみんなに話していた

当然みんなは騒いだ

賑やかに、何処か面白がるように

其処には純粋な祝福があった

でも、どうしてだろう?

楽しそうなそれが
何故か危険を知らせるサイレンみたいに聞こえたのは

640: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 00:00:05.90 ID:d3PpmUyx
週明け

果林「歩夢っ!」

歩夢「果林先輩?」

歩夢「どうしたんですか?そんなに慌てて」

果林「侑とせつ菜の2人と付き合ったって本当!?」

歩夢「はい。2人から同時に告白されたら選べなくって…」

果林「嗚呼、なんてことを…」

歩夢「確かに誠実な選択じゃなかったとは自分でも思います」

歩夢「でも、私はそれでも2人を愛しているんです」

歩夢「そこに差なんてつけられないくらいに」

これは今の私の本心だ

2人同時にと言ったのは振られる為だったけど

こうなっちゃったら2人をちゃんと愛さなきゃ!

だって好きなのは間違いないんだから

641: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 00:07:42.85 ID:d3PpmUyx
でも

果林「はあ~…」

果林「違うのよ、歩夢」

果林「そうじゃないの…」

果林「かわいい後輩には私と同じ目にはあってほしくなかったのに…」

果林「こんなことならもっと早く言っておくべきだったわね…」

歩夢「果林先輩?」

何故か果林先輩はどうしてか心の底から悲しそうな眼をしている

まるでそう、何も知らずに自分から屠殺場へ歩く家畜を見るような目を

644: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 00:12:16.34 ID:d3PpmUyx
果林「その気持ちは痛いくらいわかるわ。歩夢は二人を傷つけたく無かったのよね?」

果林「でもね、結局はその選択が1番みんなを傷つけちゃうの」

果林「自分自身を含めたみんなの」

果林「心も、身体もね」

歩夢「何を言ってるんですか?」

果林「最初はいいのよ?お互いに遠慮しあっててまだ余裕があるから」

果林「でも、暫く経つとそんなの無くなるわ」

果林「お互いがお互いに嫉妬しあって行為は止まることなくエスカレートしていくの」

歩夢「エスカレート?」

果林「ふふふ」

果林「ねえ歩夢もしかしてとは思うけど、告白された時逃げ出したりなんかしなかったわよね?」

歩夢「…混乱して逃げ出そうとしちゃいました」

果林「本当に私達って変な所で似てるわね…」
果林「じゃあもうダメ…私と同じミス…」

646: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 00:22:28.03 ID:d3PpmUyx
果林「2人はきっと歩夢からの愛を疑っているわ」

果林「実は相手の方が好きなのに」

果林「あるいは2人とも好きじゃないのに」

果林「自分を傷つけない為に嘘をついたんじゃないかって…」

歩夢「そんなことっ!」

果林「知ってるわよ。歩夢にそんな気が無いってことは」

果林「でも、そんなの口で言われても完全には信じられないの」

果林「それを信じようとしてもね」

果林「歩夢が優しいからこそ、余計にそう思われちゃうかもしれないわ」

果林「だからこそ脳裏にはもしかしたらって考えが消えないの」



果林「歩夢にとっては両方を選んだつもりかもしれないけど、相手はきっとそう思ってないわ」

648: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 00:30:41.45 ID:d3PpmUyx
果林「当人にとっては断られたわけでもなく、完全なOKというわけでも無い宙ぶらりんな状態」

果林「激しい飢餓の中いつ相手の物になるか、誰かに取られるのかわからない甘い果実」

果林「でも、自分がそれを求める事が不可能な訳じゃないの」

果林「なら、それを諦められる訳ないわよね?」

果林「相手に奪われる前に、何をしてでも自分の物にするって考えになるのよ…」

歩夢「何をしてでもって…」

果林「ねぇ歩夢」

果林「この手遅れな状況で今更私から出来るアドバイスは一つだけよ」

果林「水分補給は絶対忘れずにしっかりしなさい」

歩夢「?」

650: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 00:42:27.09 ID:d3PpmUyx
果林「知ってる?無理矢理体液を出し続けると脱水になるの」

歩夢「???」

体液?急になんの話だろう?

まさか泣かされちゃうのかな?

果林「ええ。涙も出るわね」

歩夢「心を読んだんですか!?」

果林「歩夢がしてそうな考えを予測しただけよ」

歩夢「私ってそんなにわかりやすいですか?」

果林「ええ。こういう話題の時は特にそうね」

果林「でも、残念だけどきっと数日もしない内にわかるようになると思うわ」

652: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 00:54:34.20 ID:d3PpmUyx
歩夢「でも、あの2人なら…」

そんな酷いことしないって言い終わる前に果林先輩が興奮したように口を開く

果林「あの普段ほんわかしてるエマと彼方ですらああなったのよ!?」

ああなったって何!?

さっき部室で会った時も普段通りだったよね!?

果林「勉強前、問題を間違えた時、勉強の後絞られるの…」

何を!?

果林「お陰でこの私が毎日死ぬ気で自習してるのよ?」

果林「この私がこんな短期間でB判定にまでなれるとは思わなかったわ」

果林「まぁ、そのご褒美にって結局は絞られるんだけどね…」

果林「何もない日も私が他の娘に見つめられてたとかいう理由で絞られるし…」遠い目

654: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 00:59:38.97 ID:d3PpmUyx
果林「…」
果林「話を戻しましょうか」

果林「あの2人はきっとその比じゃないわよ?」

果林「行動力の化身とも言えるせつ菜と、嫉妬深い侑の組み合わせなんてどんなことになるか…」

果林「あっ、そうそう」

果林「私と2人で話してたってことがバレるだけでも浮気を疑われるから気をつけなさい」

歩夢「浮気ってそんな…」

果林「ただの同好会メンバーとの何気ない会話も致命傷に繋がりかねないわよ?」

歩夢「えぇ~?」

そんな冗談みたいな事を言い残しながら

果林先輩は"偶然"通りかかったエマ先輩と彼方先輩に引きずられて行った

…あの方向空き教室しかないと思うんだけど


あの2人が道を間違えるなんて珍しいなぁ

656: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 01:09:39.18 ID:d3PpmUyx
侑「歩夢~っ!」

歩夢「ぴゃっ!?何!?どうかしたの!?」

果林先輩との話の後だからか変な返事をしちゃった

侑「さっき果林さんと何を話してたの?」

何で知ってるんだろう…
まあ良いか

歩夢「あ~、大したことじゃないよ」

歩夢「気にしないで」

まさかあんな話をしたなんて恥ずかしくって言えないよ

侑「…そうなんだね。うん。わかったよ」

侑「ねえ、歩夢」

侑「少しお願いがあるんだけど」

歩夢「良いよ。何でも言って」

侑「今夜私の家に来てくれない?」

658: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 01:16:50.45 ID:d3PpmUyx
歩夢「えっ!?えぇっ!?」

侑「…何でそんなに驚いてるの?」

侑「前までは二つ返事で来てくれてたよね」
侑「恋人の私に対して何かやましい事でもしてるの?」
侑「…やっぱり私以外の娘と夜会ったりしてるの?」
侑「やっぱりせつ菜ちゃん!?それとも他の子!?」

歩夢「侑ちゃん?何を言ってるの?」

侑「…まぁ良いや。今夜私の、私だけの物にするんだから」小声

歩夢「侑ちゃん?」

侑「何でも無いよ。こっちの話」

侑「実は今日私の両親が出張行っちゃっててさ」

侑「歩夢が夜ご飯作りに来てくれないかな~って」

なんだ、そんなことか

身構えてたのが恥ずかしい…

659: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 01:25:06.99 ID:d3PpmUyx
侑ちゃんに美味しい料理を作ってあげたいし

私の両親も何故か急に旅行が当たったみたいで数日家にいなくて寂しいし…

だから私の返事は決まってる

歩夢「うん、大丈夫だよ」

侑「やった~。いつもありがとうね」

侑「あと、録音してもらいたい曲があるからついでに少しだけ声を当ててほしいな」

歩夢「録音?」

侑「そうそう。ライブとは関係ないやつなんだけど私の元気の為に協力してもらいたくって」

歩夢「でも私作曲の為の声なんて出せないよ?」

侑「大丈夫。歩夢が協力してくれるならきっと寝てるうちに終わっちゃうよ」

歩夢「寝てる時に声出しなんて出来ないでしょ…」

661: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 01:31:03.77 ID:d3PpmUyx
侑「あっはは、ごめんごめん。言葉の綾ってやつだよ」

侑「ねえねえ、良いでしょ?」

侑「お礼に寝付きが凄く良くなる特別なお茶をご馳走するからさ」

歩夢「ふふっ、何それ」

歩夢「そんなの出されても私絶対眠らないからね?」

侑「言ったね~」

侑「じゃあ、眠ったら何でも全部協力してもらうから」

歩夢「ふふ、望むところだよ」

663: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 01:45:52.97 ID:d3PpmUyx
この返事を私はその日の内に後悔する事になる

この時私はどう寝たふりをしながら協力しようかって考えてたのに

侑ちゃんのお家でお茶を飲んだら本当に直ぐ眠っちゃって…



目が覚めた時には

地獄のような
天国のような

激しい快楽に蹂躙されて涙を流しながら

自分でも信じられないくらい大きな 声を上げていた

途中から窓を突き破りながらせつ菜ちゃんも乱入して来て、侑ちゃんと激しく言い争ってくれたお陰で少しだけ休憩できたけど…

侑「歩夢のこんな可愛い声は私達以外は絶対に聞かせないよ」

って言いながら侑ちゃんが璃奈ちゃんの発明した薬品で割れた窓を強化修復してすぐに

せつ菜「確かにまだ膜はありますね!まずは快楽で私達から逃げられないようにしてから所有権を争いましょう!」

なんて言いながらせつ菜ちゃんまで参戦して来たから、気休め程度の休憩は無駄どころかマイナスになっちゃった



快楽に支配された私がお願いだからもっと奥までしてと必死に懇願するのはこの数十分後

獣慾に支配された私が2人に依存するようになるのは数日後

665: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/10/03(日) 02:00:32.19 ID:d3PpmUyx
私は今も2人を心の底から愛している

きっと2人も私を愛してくれている

今の2人との関係にも不満はない

だって私が他の娘と話さなければ2人が笑顔でいてくれるんだもん

せつ菜ちゃんと侑ちゃんは私が何をされても片方を選ばないって気がついてからは同盟を組んだんだ

今は今で私は好き


でも、もしかしたら

普通にデートを楽しんで

キスに赤面して

恋人繋ぎを喜んで

どうでも良いような事で喧嘩もしながら

一歩一歩距離を詰めて

いざそんな雰囲気になったらお互いが宝石を撫でるように触れていく

そんなもどかしい甘酸っぱい関係もあり得たんじゃないかって

…そう思う時が無いと言えば嘘になっちゃう

そんなのあり得ない話なんだけどね



バッドエンド完

693: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 21:09:29.79 ID:eEql9sZa
侑「歩夢、次の土曜日空いてる?」

私と侑ちゃんが付き合って早くも2ヶ月

もう季節は冬に近づいて、最近は上着が必要になってきた

そんな季節の週初め

今日はせつ菜ちゃんが生徒会活動で早く学校に行かなくちゃいけない日

だから久し振りに侑ちゃんと2人っきりの登校だ

私が侑ちゃんといれるのが嬉しい反面

親しい友達がいなくて寂しい

毎度の事ながらそんな複雑な気分でいると

ふと侑ちゃんが口を開いた

歩夢「次の土曜日?空いてるけど」

歩夢「どうかしたの?」

侑「あのさ」

侑「デートに行こうよ」

694: 親切にありがとうございます。クッキー”削除”してもダメでした…(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 21:14:59.52 ID:eEql9sZa
歩夢「デートっ!?」

ビックリして少し大きな声が出ちゃった

だって

遊びに行こう

とは侑ちゃんが毎日のように言ってくれてるけど

デートに行こう

って言ってもらえるのは初めてで…

だから思わず聞き返しちゃった

695: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 21:19:53.95 ID:eEql9sZa
侑「そう!デート!」

侑「歩夢、デートに行こうよ」

侑「勿論2人きりのデートだよ!」

歩夢「わっ…わかったから…」

歩夢「そんなに何度も言わないで///」

ここは通学路

当然通学中の生徒もいるわけで…

うう〜、周りの優しい目が恥ずかしいよぉ

侑「次の土曜日は丸一日空けといてね」

でも

それ以上に

歩夢「うんっ///」

私は今、とっても嬉しい

697: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 21:25:11.35 ID:eEql9sZa
歩夢「う~ん…」

水曜日の放課後

みんなの都合が悪くって同好会活動が中止になった今日

鏡の前で洋服を持ちながら、私は1人唸っていた

家にある服を組み合わせても、それは侑ちゃんに一度は見せた姿になっちゃう

それがダメな訳じゃないんだけど

折角侑ちゃんからデートって言ってくれたんだから、少しでも特別なものにしたいんだ


だってこれが私達の初デートなんだもん

699: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 21:30:14.76 ID:eEql9sZa
だから、少しでも侑ちゃんに喜んでもらえる格好で行こうって思ったけど、手持ちの物じゃ特別感は無い

かと言って、私がこれから服を買いに行ってもそれじゃいつもと似たタイプの服しか買えないだろうな…

これから侑ちゃんと買いに行こうにも侑ちゃんは今外出中だし、何よりそれじゃビックリさせられないもんね


というわけで、私は果林先輩を頼る事にした

いつもお洒落で、モデルもやってる果林先輩ならきっと私が着たことのないコーディネートのアドバイスをくれるって思うから

701: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 21:35:07.51 ID:eEql9sZa
歩夢『果林先輩、突然すいません』

歩夢『侑ちゃんとのデートに着ていく服を相談させてもらって良いですか?』


って送った後に今の果林先輩が受験生だって思い出した

そんなイメージは全然無いけど、先輩も今は勉強が忙しい筈だよね?

歩夢「あぁ、やっちゃったぁ」

慌てて取り消そうとしたけど

果林『良いわよ』

丁度果林先輩からメッセージが返ってきた

702: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 21:40:58.92 ID:eEql9sZa
歩夢「良いの!?」

歩夢『良いんですか?』

果林『こうして歩夢が私に相談するってことは多分初デートとか特別な日って事よね?』

…果林先輩ってやっぱり凄いなぁ

歩夢『実はそうなんです』

歩夢『お付き合いをしてから何度もお出かけには行ってるんですけど』

歩夢『しっかりデートだって言ってもらえたのはこれが初めてで』

果林『それなら侑にはそのデートっていう言葉に何らかの想いがあるのかもしれないわね』

果林『それなら私がリスクを背負う価値は十分あるわ』

703: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 21:45:15.48 ID:eEql9sZa
果林『メールだけだとよくわからないからこれから会いましょう』

果林『手持ちの服も知りたいから歩夢の家に行っても良いかしら?』

歩夢『それはとっても助かります』

歩夢『でも、こっちからこんな相談しておいてなんですけど、受験勉強は大丈夫なんですか?』

歩夢『リスクがあるなら…』

果林『勉強は平気よ。寧ろ良い気分転換になるわ』

果林『彼方とエマにバレなきゃ平気だしね』

やっぱり2人に勉強を見てもらってるんだなぁ

歩夢『気分転換ならそのお二人も誘いましょうか?』

果林『やめなさあ』

送った瞬間に返事が来た

705: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 21:50:09.07 ID:eEql9sZa
果林『お願いだから、それだけはやめて』

歩夢『…もしかして2人と喧嘩でもしちゃったんですか?』

もしそうならこの前のお礼も兼ねて何か少しでも力になりたい

果林『いえ。寧ろ困った事に仲は良すぎるくらいなのよ』

果林『ほら、2人とも最近忙しいみたいだから』

果林『とにかく、今から歩夢の家に行くから待ってて』

文章なのに不思議とそれは有無を言わさない勢いを持っていた

707: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 21:55:05.97 ID:eEql9sZa
そして待つこと約1時間


果林「お邪魔するわね」

歩夢「忙しい中ありがとうございます」

果林「そんなことより、喜びなさい!歩夢に合いそうな物を持ってきたわよ!」

高級そうな紙袋を持ちながらヤケにテンションの高い果林先輩にビックリしながら

私は自宅で出迎える

708: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 22:01:27.82 ID:eEql9sZa
果林「歩夢って表情は可愛い系だけど」

果林「顔立ちは美人寄りだし案外レザー系も似合うと思ってたのよね」

そう言いながら袋から出したのは私が手に取ったことも無いような格好良くってシンプルなレザーのジャケットだった

歩夢「ええっ!?」

果林先輩には悪いけど

単体でそれを見ると、とても私に似合うとは思えない

果林「ふふっ。気持ちはわかるわ」

果林「まあ任せなさい」

果林「侑がビックリする様な変身をさせてあげる」

709: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 22:05:29.17 ID:eEql9sZa
果林「歩夢、一通り持っている服を見せてもらっても良いかしら?」

歩夢「あっ、はいっ」

果林「そうねぇ、これをこういう風に合わせれば…」

果林先輩は持ってきた洋服と私の私服を見比べて暫く考えている様子だったけど…

果林「よし」

果林「決めたわ!歩夢、一応確認したいからこれとこれとこれを着てみてちょうだい」

果林「きっと似合う筈よ!」

果林「じゃあ、着替え終わるまで私は部屋の外で待ってるわね」

710: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 22:10:38.63 ID:eEql9sZa
歩夢「ううっ///」

果林先輩の選んでくれたコーデは、私が普段着ている可愛らしい服の上に、少し細身なレザーを羽織るものだった

慣れない感覚に体を揺らす

ロングスカートは私が身動ぐたびに揺れ動く

歩夢「本当に似合ってるのかなぁ…」

初めて着るレザーの服は窮屈で何だか落ち着かない

712: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 22:16:24.12 ID:eEql9sZa
でも、ふと鏡に目を向けるとそこに写る私はそれを見事に着こなしていて

不思議とそれを着慣れているようにすら見える

歩夢「わぁっ」

ジャケットを羽織るだけで幼さのある格好が一気に引き締まる

それでいて硬くなり過ぎていない

可愛らしさを際立たせながら、大人らしい格好良さがあって…

ここまで似合って見えるのはただ私がそれを着るだけじゃなくって、果林先輩の合わせてくれた服だからだろう

これだけで少し大人になった様な気分にすらなれる

713: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 22:21:19.91 ID:eEql9sZa
時間を忘れてそれに見惚れながらポーズを取っていると

コンコンコン

部屋に控えめなノックの音が響いた

歩夢「あっ、すいません。もう着替えましたっ///」

慌ててそう言う私の声は、とても浮ついていた

715: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 22:26:10.21 ID:eEql9sZa
果林「うん。やっぱりよく似合ってる」

部屋に入ってきた果林先輩は開口一番にこう言ってくれた

果林「凄く素敵よ。歩夢」

そう言う果林先輩はとても嬉しそうで、本心から言ってくれているのが伝わってくる

…これで謙遜するのは失礼だよね

だから私は心からの満面の笑顔で返す

歩夢「ありがとうございます!」

果林「これできっと侑も惚れ直すわ」

歩夢「///」

歩夢「じゃっ、じゃあ早速これと似たお洋服を買ってきますね!」

私のお小遣いじゃこんなにしっかりした物は買えないと思うけど、探せばきっと安価なのもある筈…

716: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 22:33:26.26 ID:eEql9sZa
歩夢「本当にありが…」

果林「私のお古で良ければあげるわ」

歩夢「へっ?」

果林「それ、あげるわ」

歩夢「ええっ!?」

果林「ん?ああ、大丈夫よ」

果林「お古といってもサイズを間違えちゃってて、一度袖を通しただけで綺麗だから」

歩夢「いえいえいえ、気にしてるのはそこじゃなくって」

歩夢「こんなにしっかりした物を貰っちゃっていいんですか!?」

革製品に詳しくない私にもこれが高級なものだっていうことはわかる

そんな物を貰っちゃうのは流石に…

果林「ああ、そんな事?」

果林「気にしないで」

果林「あげたいから持ってきたんだもの」フフッ

717: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 22:38:02.31 ID:eEql9sZa
歩夢「でも、コーディネートしてもらった上にそこまで良くしてもらっちゃうのは…」

果林「大丈夫よ。これは元々衝動買いしたらサイズが合わなかった物だし」

果林「捨てるのがもったいなくって、売るのも私の性分じゃないから手元に残してただけなの」

果林「歩夢と侑の思い出作りの役に立てるなら本望だわ」

歩夢「果林先輩…」

果林「それともまさか、苦労して持ってきた私に1人寂しく持って帰れとでも言うのかしら?」ニヤニヤ

歩夢「あぅ…」

果林「ふふっ」

718: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 22:42:08.23 ID:eEql9sZa
果林「こう言っても歩夢は気にしちゃうわよね」

果林「それならそうね…」

果林「決めたわ」

果林「侑との結婚式、私は香典無しで参加させてちょうだい」ニヤリ

歩夢「結婚!?」

歩夢「もうっ!果林先輩っ!///」

果林「うふふっ」

それから、果林先輩から明日のメイクのアドバイスやレザージャケットのお手入れ方法を教わって

気がつくと日が落ちていた

歩夢「今日は本当にありがとうございました」

歩夢「勉強も大変な時期に…」

719: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/10(日) 22:46:33.01 ID:eEql9sZa
果林「本当に気にしないで」

果林「確かに少し帰るのが遅くなっちゃったけど…」

果林「可愛い後輩達が未来を手に入れる為だもの。例え私が今夜枯れ果てても本望よ」

歩夢「?」

枯れ果てる?どうして受験勉強でそんな単語が出てくるんだろう…

果林「頑張りなさいね。歩夢」

最後にそう微笑んだ果林先輩を見送りながら再びお礼を言う



デート、侑ちゃんに楽しんでもらおう
そして私も
デートを、楽しもう

743: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:05:16.57 ID:lJEqCQJX
デート当日

待ち合わせの1時間前

ワクワクしながら着替えや軽いメイクをしていたら思っていたよりも早く終わって、手持ち無沙汰になっちゃった

念の為に最後に鏡の前でどこもおかしい所がないことを入念にチェックして…うん。大丈夫っ!

744: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:09:26.04 ID:lJEqCQJX
歩夢「よしっ」

約束まではまだまだ時間がある

でも、時間を潰そうにもソワソワしちゃってテレビを見る気にもなれないし…

歩夢「少し散歩しよっかな」

外の空気を吸って気持ちを落ち着かせよう

そう思って部屋から出てマンションから外に踏み出すと

745: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:14:36.70 ID:lJEqCQJX
侑「ふんふふふふん ふーんふふーん」

そこにはマンション前の階段に腰掛けて

笑顔を浮かべながら上機嫌に鼻歌を歌う侑ちゃんがいた

歩夢「侑ちゃん?」

侑「!!」

侑「歩夢ぅ!おは…」

歩夢「侑ちゃんおはよっ///」

不意打ち気味に鉢合わせる私達

747: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:19:14.42 ID:lJEqCQJX
もちろんあと少しで会うつもりだったとはいえ、いきなりこの姿を見せるとなると恥ずかしい…

ソワソワしちゃうのは仕方ないよね?

初めて見てもらう格好

侑ちゃんはどんなリアクションをしてくれるのかな

今までしてきた私のどんな格好も侑ちゃんは知っている

今までの私の全てを侑ちゃんは知っている

だからこそ、今までと違うこの姿をどう思ってくれるんだろう?

それがどうしようもなく気になっちゃうんだもん

748: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:23:32.58 ID:lJEqCQJX
可愛いって思ってくれる?

格好良いって褒めてくれる?

大人びているって喜んでくれる?

もしかしたら普段の格好の方が好きかな?


期待とほんの少しの不安に胸が高鳴る

でも、こう思いながらも本当はどんな反応をしてくれるのかはわかってるんだ

だって侑ちゃんは昔から…

750: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:28:41.96 ID:lJEqCQJX
侑「かっ…」

侑「可愛いっ!」

侑「カッコいいっ!!」

侑「可愛いっ!!!」

侑「凄いっ!本当に素敵だよ歩夢っ!」

侑「すっっっごいトキメいちゃったぁ!」

語彙力まで赤ちゃんになっちゃったの?ってくらいシンプルな褒め言葉

それが心底嬉しい

だって侑ちゃんの純粋で真っ直ぐな言葉はいつだって

どんなに飾り立てた言葉よりも私を喜ばせてくれるんだから

751: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:33:47.40 ID:lJEqCQJX
私の眼前で輝くその緑がかった綺麗な宝石は、私を何よりも美しく写してくれていた

歩夢「ほっ…褒めすぎだよぉ///」

侑「本当本当!どこからどう見ても清楚で素敵な大人のお姉さんにしか見えないもん」

侑「歩夢の新しい一面だね」

侑「ありがとう。オシャレしてきてくれて」

侑「本当に素敵だよっ!歩夢」ニコッ

歩夢 「ありがとう///」

753: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:39:13.14 ID:lJEqCQJX
侑「水曜日何かしてると思ってたらこういうことだったんだね」

歩夢「そうだよ。侑ちゃんをビックリさせたくって」

侑「へ〜っ、流石果林さんだね」

ん?

…その日侑ちゃん外出してたんだよね?

あれ?サプライズにしたかったから言ってないはずだと思うんだけど…

侑「どうかしたの?歩夢?」

まあ、いっか

歩夢「ううん。なんでもないよ」

だって侑ちゃんにならもしも盗聴器とかつけられてても気にならないからね

754: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:44:07.07 ID:lJEqCQJX
なんて冗談は置いておいて…

何はともあれこんなに言ってもらえるならお洒落してきた甲斐があるな

忙しい中本当にありがとうございました、果林先輩っ!

心の中で改めて果林先輩にお礼を言う

756: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:49:26.51 ID:lJEqCQJX
さっきまでは私の心に余裕が無かったから気がつけなかったけど

改めて侑ちゃんを見てみると、彼女もお洒落をしてきてくれているのがわかる

歩夢「侑ちゃんもカッコいいよ?」

侑「えへへ~」

侑「私は愛ちゃんにアドバイスを貰ったから!」

そう言いながらVサインを出す彼女を改めて見直す

侑ちゃんの格好はいつものようなボーイッシュさを出しながらも、腕時計やネックレスで可愛らしさも出していて

彼女の持つ少女らしさをより強く感じさせていた

端的に言うと、とっても可愛らしい

757: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:53:54.53 ID:lJEqCQJX
…こんな侑ちゃん初めて見るな

それがとっても嬉しい

だって私は侑ちゃんの全部を知りたいから

いつも可愛らしい服装の私と

いつも格好良い服装の侑ちゃん

今日はまるでそれが入れ変わったみたい

服装選びでお互いの考える1番素敵な相手のイメージが出たのかな?



…なんてね。選んでもらったんだからそんな訳無いか

758: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 21:58:10.09 ID:lJEqCQJX
歩夢「侑ちゃんはいつも素敵だけど、今日は特別だね」

侑「当然だよ。世界一可愛い歩夢の恋人として隣に並ぶためだもん」

歩夢「侑ちゃんだって私には世界一素敵だよ?」

侑「じゃあ私は宇宙一歩夢を可愛いって思ってるよ」

歩夢「ふふっ、何それ」

侑「ねえ、覚えてる?昔この言い合いで喧嘩になったの」

歩夢「覚えてるよ。幼稚園の頃だよね」

侑「そうそう、最後までどっちも引かなくって」

歩夢「結局2人で泣きながら相手の良い所を言い合ってたっけ」

760: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/17(日) 22:02:51.69 ID:lJEqCQJX
侑「そうそう。それで泣き疲れたらこうして手を繋いで一緒に帰ったんだよね」

歩夢「あっ…」

侑ちゃんのしなやかな指が私の指を絡め取る

普段何気なくする仕草も、不思議と今は私の心を大きく跳ねさせた

侑「えへへっ」

侑「あの日と反対に私達は笑顔だし」

侑「今日はこれから出かけるんだけどね」

侑「少し早いけどもう行こっか」

歩夢「…うんっ!」

そうして隣で私の手を手を引いてくれるのは幼いあの日と同じで


でも、結ぶ手の強さはあの日よりずっと強かった

782: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 19:50:33.21 ID:brjIOyJw
侑ちゃんに引かれながら進む私の足は電車に乗ってはまた歩き

どんどんと見慣れた景色に近付いていく

歩夢「そういえば、さっきは階段で何してたの?」

侑「あはは」

侑「実は歩夢とのデートが楽しみすぎてさ」

侑「部屋でじっとなんてしてられなかったから外に出てたんだ」

侑「歩夢はどうしてあんな時間に?」

784: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 19:59:51.59 ID:brjIOyJw
歩夢「私も一緒だよ?」

歩夢「楽しみでソワソワしちゃって」

歩夢「気を紛らわせたくって散歩に行こうかなって思ったらそこに侑ちゃんがいたんだ」

侑「うふふっえへへ〜」

侑「そっか〜えへへっ」

歩夢「凄い笑顔だね」

侑「そりゃこうもなるよ〜」

侑「だって歩夢も楽しみにしてくれてたのが嬉しくってさ」

歩夢「当たり前でしょ。侑ちゃんと一緒にいられるだけでも私は嬉しいんだから」

侑「えへへ〜」

侑「今日はその期待を裏切らないように頑張るね」

785: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 20:05:34.25 ID:brjIOyJw
頑張らないで

いつも通りで良いんだよ

そう言いたい気持ちをグッと抑えて私は敢えて挑発的に笑う

歩夢「ふふ」

歩夢「うん。楽しみにしてるね」

だって侑ちゃんの覚悟に水を差したくないから

その後も私達は他愛のない話を続ける
どこに行くのかはまだ聞いていない

だって、その時まで楽しみにしていたいから

何より、侑ちゃんと一緒ならどこに行っても絶対に楽しいもんね

だから、それをわざわざ聞く必要はないんだ

787: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 20:12:55.84 ID:brjIOyJw
駅を出るとすぐに大きな観覧車が見えてくる

そっか

今日の目的地がわかった

パレットタウン

東京有数のデートスポット

そのシンボルは何なら通学中も遠くから目に入る

まず入るのはヴィーナスフォート

よく遊びに行くジョイポリスから遠くないのに、ここに侑ちゃんと2人だけで来るのはとっても久しぶり

確か、侑ちゃんと2人では小さい頃に来たきりだったよね?

788: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 20:22:01.02 ID:brjIOyJw
確か、侑ちゃんと2人では小さい頃に来たきりだったよね

歩夢「ここ、2人だけで来るのはスゴイ久しぶりだね」

侑「ふふふ」

侑ちゃんが少しイジワルな笑みを浮かべる

侑「あ〜っ、もしかして歩夢ってば覚えてないんだぁ〜」

歩夢「何のこと?」

侑「実はね」

侑「今はなくなっちゃったけど、昔ここにレジャーランドがあったじゃん?」

歩夢「うん」

数年前に潰れちゃったけど、ここのすぐ近くに東京レジャーランドって場所があったのは覚えてる

侑「小さい頃二人で行った時にさ」

侑「歩夢がそこのお化け屋敷がトラウマになっちゃって、この辺りはこれなくなったんだよね~」

790: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 20:33:28.46 ID:brjIOyJw
歩夢「ええっ!?そうだったっけ」

侑「そうだよ。お化け屋敷で私と一緒に居たいって私に抱きついて離れなくって…」

侑「途中でリタイアしようかって私が誘っても、涙声で遠慮しないでって言ってくれてね」

侑「最後までリタイアしないでいたらクリアした途端に泣き出しちゃったんだよ?」

侑「それ以来この辺りに来ると歩夢が怖がっちゃうから私も来ないようにしていたんだよ」

歩夢「うぐっ…」

791: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 20:40:58.65 ID:JKdG1qVR
そうだ、段々と思い出してきた

確か…
子供向けかと思って侑ちゃんと2人で入ったら思いの外恐くって

泣きながら侑ちゃんの背中に隠れてたような…

侑「フェスの時ここのすぐそばをライブ会場にしてたから平気だと思うけど」

侑「今日はもう大丈夫かな?」

侑「怖くない?」

歩夢「大丈夫だからっ!」

歩夢「彼方さんのライブの時しっかり入れてたでしょっ!」

侑「あははっ、そうだったね」

793: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 20:45:55.28 ID:JKdG1qVR
歩夢「もうっ!そんなの早く忘れてよぉ〜」

侑「それは無理だよ。歩夢との思い出は全部私の大切な宝物なんだから」

そう言ってくれるのはとっても嬉しい

だって私もそうだもん

それでも、恥ずかしいものはどうしたって恥ずかしい

この感情をどう言葉にしたものか

悩んでいると声にならない声が出る

歩夢「…むぅ〜っ」

侑「そんな顔しないでよ」

歩夢「しちゃうよっ!」

侑「あはは、そんなに気にすることじゃないと思うよ?」

侑「怖がる歩夢も凄く可愛かったんだから」

794: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 20:50:05.11 ID:JKdG1qVR
歩夢「…可愛いって言えば私が何でも許すって思ってない?」

侑「まさか!私はいつも本心をそのまま伝えてるだけなんだからね」

歩夢「ううっ///」

侑「懐かしいね」

侑「しばらく夜は怖がる歩夢と一緒に私のベッドで寝てたのも良い思い出だよ」

歩夢「一々言葉にしないでっ!」

歩夢「あと、あの時はありがとうっ!!」

それは鮮明に覚えている

両親に無理を言って1ヶ月近く侑ちゃんの部屋に泊まりに行ってた事を

怖い夜、隣に侑ちゃんがいるのがどんなに心強く感じたか

796: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 20:55:35.83 ID:JKdG1qVR
そう。それはしっかり覚えている


侑ちゃんが震える私を優しく抱きしめてくれたこと

私の頭を撫でてくれたこと

私が眠るまでは絶対に寝ないでいてくれたこと

遅い時間に文句を一つも言わずにお手洗いに付き合ってくれたこと

私を笑わそうとして自爆していたこと


全部を


恐怖の記憶を今まで忘れていられたのは、きっと侑ちゃんがそれを忘れるくらい勇気付けてくれてたから

だから、折角話題に出たんだもんね

歩夢「本当に…ありがとうね」

今更だけどお礼を言う

799: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 21:02:17.39 ID:JKdG1qVR
侑「気にしないでよ。歩夢の力になれてほんっとうに嬉しかったし」

侑「歩夢と朝まで一緒にいられて、同じベッドにいるのが本当に楽しかったから」

歩夢「ありがとう…」

侑「それに、私はあの時すでに歩夢を恋愛的にも好きだったからね」

侑「結婚ってこんな感じなのかな〜って思えてとってもときめいて幸せだったよ」

歩夢「おませさんだね…」

侑「おませさんだからこそ絆を深めて歩夢とこうして付き合えたんなら良いことでしょ?」

歩夢「ふふっ、そうかもね」

歩夢「でも、そうじゃなくっても私達付き合えてたかもよ?」

800: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 21:08:29.63 ID:JKdG1qVR
侑「いや、歩夢って昔からお世辞なんかじゃなくって本当に可愛いからね…」

侑「そのくせ小さい頃は今以上に押しに弱かったでしょ?」

侑「だから私が周りを牽制しなきゃだったんだよ…」

歩夢「?」

侑「つまりね」

侑「私が早く恋心に気がつけたから歩夢は私と付き合えたってこと」

歩夢「そうかなぁ…私そんなに押しに弱くないよ?」

侑「そう思えてるのは私が全力でそんな状況を作らないようにしてたからだよ…」

802: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 21:15:13.22 ID:JKdG1qVR
歩夢「ふふっもうっ、侑ちゃんったら変な冗談言わないでよぉ」

侑「冗談なんかじゃ」

侑「…」


侑「歩夢」

いきなり侑ちゃんに壁際に押し寄せられて、両手で逃げ場を無くされる

これってもしかして壁ドン!?

眼前に侑ちゃんの目が来て、すぐ耳元で聞こえる優しい声にドキリとする

歩夢「ひゃいっ!?」

侑「あゆぴょんして」

歩夢「…はぁ?」

急に何を言い出すんだろう…

侑「今すぐあゆぴょんしてっ!」

803: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 21:20:36.22 ID:JKdG1qVR
歩夢「やる訳ないでしょ…?」

脈絡の無いお願いに困惑する

そんな恥ずかしい事、いくら侑ちゃんのお願いでも…

侑「お願いだよ。どうしても見たいんだ」

歩夢「えっ…でも…」

侑「これは歩夢にしか頼めないんだよ」

うぐぅっ…そんなに真剣な目を見ると断るのが凄く申し訳なく感じちゃう…

歩夢「…でも、ここ人が多いよ?」

侑「小声でも良いからさ」

侑「ねっ?」

歩夢「…それなら」

歩夢「あ…あっ…あゆっ」

歩夢「あゆぴょんだぴょん…///」

侑「可愛いよ!凄くトキメいちゃうっ!」

歩夢「///」

侑「…じゃなくってっ!」

侑「弱いじゃん!」

歩夢「!?」

805: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/24(日) 21:28:53.36 ID:JKdG1qVR
侑「押しに弱いじゃんっ!」

歩夢「!?!?」

本当だ!?

侑「あんな唐突なお願いをやってくれて私がビックリしたよ!」

歩夢「いっ…いや、でもそれは相手が侑ちゃんだから…」

侑「もちろんそれもあるだろうけど」 

侑「歩夢は優しすぎるから人からの頼みを断るのが凄く苦手なんだよ」

歩夢「うぐっ」

侑「もちろん1番の理由は私が歩夢と一緒にいたかったからなんだけどさ」

侑「私がずっと一緒にいた理由の一つは歩夢が変なお願いをされない為ってのもあったんだからね」 

悔しい…否定できない

歩夢「ありがとうね」 

私にできるのは敗北宣言代わりのお礼を呟くことだけだった

侑「心配だからこれからもずっとそばにいさせてねっ」

歩夢「うんっ!」

827: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 20:29:04.90 ID:tAaB6PAI
侑「ねえ歩夢っ歩夢っ」 

歩夢「ふふっ、引っ張らないでよ侑ちゃ〜ん」

私の手を引きながらはしゃぐ侑ちゃんがなんだか微笑ましい

侑ちゃんに引っ張られながら到着したここ、ヴィーナスフォートの2〜3階は全体的に古代ローマ風の装飾がされている

彼方先輩のライブの時だけじゃなくって愛ちゃんのPVを撮る時にもここに来たけど、いつ来てもなんだかワクワクしちゃう

天井まで青空みたいに彩られているのが驚きだよね

828: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 20:36:49.89 ID:tAaB6PAI
侑「あっ!」

侑ちゃんに振り回されながらブラブラしていると、侑ちゃんが何かを見つけたみたい

それを嬉しそうに話しかけてくれる

侑「歩夢見て見てっ」

侑「真実の口だよ、真実の口っ!」

歩夢「えっ!?どこにあるの?」

侑「ほらほら、あっちだよ」

侑ちゃんの指差す先には大きい白い顔が見えた

歩夢「わあっ、本当だ」

歩夢「凄いおっきいね」

真実の口

ここにある事は知っていた。いつも来る時はみんな当たり前みたいにスルーしてたから私も探したりなんてしなかったんだけど…

それに近づいて目の前にすると存在感にビックリする

まるで本物みたい

…見たことないけど

829: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 20:41:11.80 ID:tAaB6PAI
侑「ねえ、歩夢は知ってる?邪心のある人がここに手を入れると噛みちぎられちゃうって」

歩夢「知ってるよ?」

侑「えへへ〜なら、今から私が…」

歩夢「でも、それでもし本当に噛み切られちゃうならここはもうとっくに閉鎖されちゃってるだろうね」

侑「…」

歩夢「…」

831: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 20:45:48.75 ID:tAaB6PAI
侑「はゆむぅ…」

歩夢「あっ、ごめんね。やり直すよ」

侑「そうして」

歩夢「うん…」

侑「ごほんっ」

侑「歩夢は知ってた?」

歩夢「うっ、うん。知ってるよ?」

侑「えへへっ、そうでしょ?」

侑「見ててね、私が今まで歩夢に嘘をついたことがないって証明するから」

言うが早いか侑ちゃんはその口に手を入れた

歩夢「ちょっと侑ちゃんっ!?」

もしかしなくても、この為に今のくだりやり直したの!?

833: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 20:51:47.69 ID:tAaB6PAI
文句を言おうかと口を開こうとしたら侑ちゃんが先に声を出した

侑「ったぁ…!」

手を入れたまま、侑ちゃんの顔が大袈裟なくらいに歪んでいる

歩夢「どうかしたの!?大丈夫っ!?」

侑「うぅっ…歩夢ぅ…私の手がぁ…」

演技のように呻きながらその穴から手を出す侑ちゃん

その手首から先が無くなって…

歩夢「侑ちゃんっ!」

歩夢「…ローマの休日は一緒に見たでしょ?」

そう、これはあの名作映画のワンシーン

しずくちゃんに勧めてもらって一緒に見たんだもんね

こんな子供騙しにビックリなんてしないよ
…少ししか

834: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 20:56:22.23 ID:tAaB6PAI
侑「あはは〜」

侑「ばれちゃった?」

侑ちゃんはそう言いながら袖から手を出す

歩夢「もうっ!」

そもそも、わざとらしいくらいリアクションしてたのは万に一つでも私を心配させないためでしょ?

侑「因みに私が今まで歩夢についた嘘は」

侑「歩夢のサプライズパーティーの時と」

侑「小学5年生の頃お泊まりした時に、好きな人がいないって言ったことだけだよ」

歩夢「聞いてないからっ///」

836: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:04:42.94 ID:jI6syPGI
あの日は侑ちゃんから聞いてきてくれたんだよね

私の部屋に泊まってる時に、ただの雑談みたいにさらっと


侑『歩夢って同性同士の恋愛ってどう思う〜」

歩夢『急にどうしたの?』

侑『今日の授業を思い出してさ〜』

歩夢『そうなの?ふふ、授業の話するなんて珍しいね』

侑『たまにはそんな日もあるんです〜』

歩夢『ふふふ、そうなんだね』

侑『それで、どうなの?』

歩夢『う〜ん、お互いに好き同士なら私はいいと思うよ?』

侑『へっ…へ〜、そうなんだ』

838: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:12:55.72 ID:7oWT9Tyy
侑『じゃ、じゃあさ』

侑『歩夢って今好きな人はいる?』

歩夢『えっ///好きな人!?」

侑『うんっ、どうなの!?」

歩夢『いないよぉ〜///』

侑『本当に?』

歩夢『どうしてそんなに食いついてくるのぉ』

侑『あっあはは、ごめんごめん』

歩夢『そう言う侑ちゃんはどうなのっ?」

侑『私っ!?』

歩夢『うんっ』

侑『私はあゆっ!』

侑『…ううん』

歩夢『?』

侑『…私もいないよ』


その時に侑ちゃんの目が少し潤んでいたことも覚えてる

あの時は侑ちゃん眠いのかなって思ってたっけ

その本当の理由がわかったのはつい最近の事

840: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:19:05.49 ID:7oWT9Tyy
あの日もしも私が今と同じ気持ちを持っていて、私が侑ちゃんを好きだって言っていたら私達は今頃どうなっていたのかな?

今の関係と何か変わってるのかな

キス…は、もうしてるし

ハグは付き合う前からよくしてたよね?

その先はもうしてたのかな? 



……

………

…その先!?

いけないいけない

ぼーっしてたら思考が変な方向に向かって行っちゃってた

その先ってつまり…っ

841: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:23:28.42 ID:DHjPJLUc
歩夢「〜っ///」

…なんだか顔が熱くなってきちゃった

私ってば普段はこんなこと全く考えないのに、こんな時に何考えちゃってるんだろうっ!

歩夢「もう行くよっ!」

侑「あっ、引っ張らないでよ歩夢〜」

嬉しそうな侑ちゃんの声が私の顔を更に紅くさせる

いつもより慌てん坊な心臓を落ち着かせるのには少し時間がかかっちゃった

843: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:28:56.53 ID:DHjPJLUc
私がなんとか平静を取り戻した後、私達は引き続きウインドウショッピングを楽しんだ

沢山の素敵なお店があって、目移りしちゃう

時間が無限にあるなら全部のお店に入っちゃいたいくらい

そんな中であるお店がふと目に留まる

侑「どうかした、歩夢?」

歩夢「あっ…ううんっ、何でもないよ?」

侑「そう?それなら良いんだけど」

侑「入りたいお店があったら遠慮しないで言ってね」

歩夢「ありがとうっ、侑ちゃん」

844: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:34:33.65 ID:DHjPJLUc
暫くお洋服を見たり、小物を見ているとなんだか侑ちゃんがソワソワしてきた

侑「…」

侑「ねえ歩夢、少しだけお手洗い行ってくるからここで待っててくれる?」

歩夢「わかったよ」

侑「本当にごめんね」

歩夢「そんなこと気にしないでよ」

歩夢「近くで待ってよっか?」

侑「いやいや!大丈夫だよ!」

歩夢「そっ、そう?」

侑「うんっ!ここで待ってて!」

845: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:38:43.61 ID:DHjPJLUc
侑「もしナンパされてもついて行かないでねっ!」

歩夢「行かないよ…」

侑「本当にすぐ戻るから待っててね!」

歩夢「わかってるよ。侑ちゃんが戻ってくる時、絶対にここにいるから」

歩夢「ほら、早く行かないとデートの時間が少なくなっちゃうよ?」

侑「!?」

歩夢「私が侑ちゃんを置いてどこかに行ったりなんてしないから」

侑「本当に?」

歩夢「もちろん」

侑「もしも強引にナンパされたら大声出してね」

侑「すぐ助けに来るから」

歩夢「うん、ありがとう。そうさせてもらうね」

侑「絶対だからね〜」

小走りで駆け出す侑ちゃんを見送る

思わず出来た少しの間の別行動

よし、この間に…

848: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:45:30.47 ID:DHjPJLUc
侑「ごめんね。お待たせ歩夢」

歩夢「そんなに待ってないから大丈夫だよ」 

大体10分で息を切らしながら侑ちゃんが戻ってきた

侑「何もなかった?」

歩夢「あはは、平気だよ」

侑「良かったぁ…」

…心配させちゃいそうだから、歩いてる時に数回声をかけられたのは黙っておいた方が良さそうかな…

849: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:50:29.52 ID:DHjPJLUc
侑「そろそろお昼にしよっか」

歩夢「あっ、もうそんな時間なんだね」

侑ちゃんと合流して再びお店を見ている内に気がつくともう14時になっていた

侑ちゃんと一緒にいると楽しくって、いつも本当に時間が過ぎるのが早く感じちゃうな

侑「そうだっ」

侑「ねえねえ歩夢っ、せっかくここに来たんだからさ」

侑「お昼の前にあれ乗らない?」

侑ちゃんが指差すその先にはここのシンボルマーク

ゆっくりと回る大観覧車

850: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:54:57.83 ID:DHjPJLUc
歩夢「ふふっ、良いよ」

侑ちゃんってば普段はかっこいいけど、こういう子供っぽいところもあって可愛いんだよね

順番を待つ短い列に並んで乗り込む時を待っていると、すぐに順番が来た

たまにはこういうことに付き合うのも良いよね

852: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 21:59:09.46 ID:DHjPJLUc
歩夢「わあっ」

外に広がるのは私達の思い出だった

あそこは幼い頃に侑ちゃんと迷子になった所

遠くに見えるあそこは私と侑ちゃんが喧嘩をした公園

東京タワーには昔一緒に行ったよね

窓にかじりついて目を輝かせる私を侑ちゃんは微笑ましそうに見つめてくれる

…少し悔しいけど子供っぽいのは私の方だったみたい

853: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 22:04:24.28 ID:DHjPJLUc
侑「ほら見て」

歩夢「ねえ見て」

小さな籠の中で、侑ちゃんと思い出を語り合う

侑「歩夢、覚えてる?」

歩夢「侑ちゃん、覚えてる?」

互いに出し合う私達だけの問題

それが堪らなく嬉しい

大切な思い出を、何よりも大切な人と共有出来る幸せは自然と私達の頬を緩ませる

向かい合って心からの微笑みを交わす

855: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 22:08:46.00 ID:DHjPJLUc
煌めく思い出を語り合っているとあっという間に時間が過ぎて

気がつく頃には一周が終わっていた

とっても短い、2人の人生の回想

もっと乗っていたい気持ちをグッと抑える

まだまだ語り足りないそれを切り上げちゃうのは少し寂しいけれど

これからもそれは積み重なって多くなっていくんだ

857: 名無しで叶える物語(SB-iPhone) 2021/10/31(日) 22:16:54.19 ID:ZkZzxeNo
長年多くの人に親しまれてきたこの場所も近い将来無くなってしまうように、全てのものは変わっていく


それでもこの想いは変わらないと断言しながら私に気持ちを届けてくれた彼女を私は信じている

私のこの想いが絶対に変わらないって自分自身を信じている


だから私達は閉じた小さな籠の外に出る

外では輝く日光が眩しく、暖かく迎えてくれた


…っていうか、今日のデートもまだまだ途中だもんね!

今日もまた未来で沢山語り合える思い出を増やしていこう

876: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/05(金) 22:55:56.83 ID:3ZxPEwQf
侑「沢山話してお腹空いちゃったね」

侑「今度こそお昼にしよっか」

観覧車から出た侑ちゃんが口を開く

歩夢「そうだね」

侑「どこで食べよっか?」

歩夢「あのね、侑ちゃん」

歩夢「もしよかったらなんだけど…」

鞄を胸の前に持ち上げる

それだけで、侑ちゃんは察してくれる

侑「もしかして」

侑「今日もお弁当作って来てくれたの?」


877: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:00:50.13 ID:3ZxPEwQf
歩夢「お店のお料理にはきっと敵わないけど…」

歩夢「あっ…愛情は絶対にこっちの方が入ってるからっ!」

今日はなんだか私が押されてばっかりな気がするからね
ここで攻勢に出るよっ!

侑「知ってるよ」

歩夢「えっ?」

侑「だって歩夢の愛情が私の大好物なんだもん」

歩夢「…ふえっ!?」

まさかのカウンターにビックリ

侑「歩夢の料理が美味しいのはもちろんだけど」

侑「愛する人が作ってくれるって事がそれを何倍にもしてくれるんだ」

侑「昔歩夢が作ってくれた少し焦げちゃった卵焼きも、私にとってはご馳走だったんだからね」

歩夢「///」

はうぅ…
今日の侑ちゃん強すぎるよぉ~

879: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:05:16.82 ID:3ZxPEwQf
侑「せっかく歩夢が作ってきてくれたんだし、あの広場で食べよっか」

歩夢「そっ、そうだねっ!」

侑ちゃんの指差した先

パレットタウン前の原っぱにレジャーシートを敷いて2人で座る

ポカポカした日差しがなんだか心地良い

微風が頬を撫でて熱った顔を冷やしてくれる
…よし、落ち着いてきた

侑「もう待ちきれないよ、早く早くっ」

歩夢「えへっ、ちょっとだけ待ってね」

お弁当箱の包みを解いて

今か今かと出番を待ちわびていたお弁当を日の光に晒す

歩夢「どうぞっ!召し上がれ」


日に当たり輝くそれは我ながら自信作!

880: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:09:35.09 ID:3ZxPEwQf
侑「わあっ、凄いね!」

侑「いつもすっごく美味しいけど、今日は更に美味しそうっ!」

歩夢「ふふっ、気合を入れて作ったからね」

侑「…作るの大変じゃなかった?」

歩夢「ううん。侑ちゃんとの初デートだもん」

歩夢「もちろん一生懸命作ったけど、それ以上に楽しかったんだ」

侑「楽しい?」

歩夢「うんっ!」

朝のメイクと着替えが早く終わった理由はこのお弁当の為に早起きしたから
色々と工夫を重ねて、今日の気温や天気も考えながらメニューを考えたの

でも、本当に大変なんかじゃなかったよ?
だって嬉しそうに食べてくれる侑ちゃんを想像するだけでもドキドキして幸せな気持ちが溢れてきたんだから

それを直接伝えるのは少し恥ずかしいからここまで言葉に出さないけどね

882: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:13:17.56 ID:3ZxPEwQf
いつも侑ちゃんが好きだって言ってくれる卵料理も、もちろん入れてある

焦げ目一つにすら気を使った、胸を張って言い切れる人生最高の出来

昔一緒に作った思い出よりずっと綺麗に作れるようになったハムエッグ

彼方先輩にアドバイスをもらったデザートのプリン

そして、いつも侑ちゃんが大袈裟なくらいに褒めてくれる甘い味付けの卵焼きも

侑「本当に嬉しいよ」

中身を見た侑ちゃんは飛び跳ねながら嬉しそうにしてくれる

歩夢「喜んでくれるのは嬉しいけど大袈裟だよ」

侑「そんなことないよ」

侑「歩夢のおかげでまた夢が一つ叶っちゃったなぁ」

883: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:18:39.37 ID:3ZxPEwQf
歩夢「夢って?」

侑「歩夢とのデートで歩夢手作りのお弁当をこうして食べるってことっ!」

侑「それが私の事を考えながら作ってくれたんだろうなってわかる物なら尚更ね」

歩夢「お弁当ならお付き合いする前から時々作って来てたでしょ?」

侑「もちろんそうなんだけどさぁ…」

侑「友達同士よりもなんだかとくべつって感じがするじゃん?」

歩夢「それはわかるけど…」

侑「そもそも歩夢ってば油断すると他の子にもお弁当作ってきちゃうし」

歩夢「だって…私の料理を食べて嬉しそうにしてくれるのが嬉しくって…」

侑「うん。私も歩夢が嬉しそうにしてるのは最高にときめくからそれをやめて欲しいわけじゃないんだ」

侑「ただ、歩夢の恋人としてデートで食べるっていう特別が欲しいだけ」

歩夢「侑ちゃん…」

その気持ちは少しわかる

きっとそれは侑ちゃんを押し倒しちゃったあの日、私が感じていた不安と似ているのかもしれない

なら、私がする事は…

885: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:29:17.25 ID:3ZxPEwQf
歩夢「ねえ、侑ちゃん」

歩夢「私はきっとこれからも他の娘にお料理を食べてもらうと思う」

侑「うん…気にしないでよ。私は歩夢のしたいことを邪魔なんてしたくないからさ」

そう言いながらも侑ちゃんのその笑顔は少しだけど、確かに陰っている

歩夢「でもね」

侑「?」

歩夢「これだけは信じて」

歩夢「私がお弁当を作って来てもこんなことするのは、これからは侑ちゃんだけなんだからね」


私たちがいつもやってる事だけど、それが特別な事なんだって伝えなきゃ

歩夢「ほら、侑ちゃん」
歩夢「あ~んっ」

侑「!うんっ、ありがとう」

私の意図を察してくれたのか侑ちゃんは嬉しそうな表情を浮かべてくれる

侑「あ~んっ」

侑「んんっ、おいひぃ」

歩夢「よかったぁ」

想像なんか軽く超えて輝くその笑顔が心底嬉しい

886: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:33:27.79 ID:3ZxPEwQf
歩夢「これは侑ちゃんだけの"特別"だよ」

侑「ずっと…?」

歩夢「うん。侑ちゃんがそう望んでくれる限りずっと」

侑「おばあちゃんになっても?」

歩夢「当然だよ」

侑「ず~っと?」
歩夢「ず~っと!」

侑「えへっ、そっかぁ。特別かぁ」

侑「じゃあ歩夢っ」

侑「私からもあ~んっ」

歩夢「あ~んっ」

侑ちゃんに食べさせてもらう卵焼きは出来立てを味見した時よりずっと美味しかった

895: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/07(日) 21:04:32.32 ID:ZUMRtjUl
お昼を食べながら少しのんびりした後、侑ちゃんが立ち上がる

侑「歩夢、ご馳走さまでした」

侑「本当に美味しかったよ」

歩夢「ふふ、お粗末さまでした」

侑「また次のデートにも作ってきてくれるかな?」

歩夢「いいとも~」

侑「あはははは」

侑「うん。安心したよ」

侑「そろそろ移動しよっか」

侑「行こ、歩夢」

歩夢「うん」

侑ちゃんに手を引かれてまた私達は移動する

着いた先は…

897: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/07(日) 21:16:33.31 ID:ZUMRtjUl
侑「歩夢っ、これを観ようよ」

今、私達はアクアシティの映画館にいる

侑ちゃんが指差すのは最近話題の映画

全く席が取れないって評判の恋愛映画だ

歩夢「チケットは…」

侑「当然私が用意してるよ!」

歩夢「あっ、そうなの?ありがとう」

歩夢「でも、チケット取るの大変じゃなかった?」

侑「あはは、予約サイトに張り付いてただけだよ」

歩夢「えぇ…」

侑「そんなの気にしないで」

歩夢「…そう?」

歩夢「侑ちゃんがそう言うなら気にしないことにするけど…」

歩夢「幾らだったの?」

侑「いいよいいよ、ここはわたしに奢らせて」

898: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/07(日) 21:23:30.77 ID:ZUMRtjUl
歩夢「でも、そんな訳にはいかないよ」

侑「いやいや、そもそもこのチケットは歩夢に相談しないで私が勝手に買っただけなんだしさ」

むむむ、これは引かない侑ちゃんだ

歩夢「じゃあ、ジュースは私に買わせてっ!」

歩夢「私が二つ買いたい気分だから」

歩夢「カロリーが気になるから侑ちゃんに一つ渡しちゃうけどね!二つ買いたい気分なんだから仕方ないよねっ!」

侑「どういう気分なの?」

歩夢「こういう気分なんですっ!」

侑「あはは、うん。わかったよ」

侑「ありがとう歩夢」

900: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/07(日) 21:40:25.60 ID:ZUMRtjUl
ジュースを買って席に着く

CM等が流れた後にやっと映画が始まった

映画の内容は幼馴染でどこから見ても両思いの2人が関係の変化を恐れて気持ちを言い出せずにいる

男の子は踏み込む勇気を持てなくて

女の子はすごく鈍感で思いに気がつけない

なんだか凄く焦れったいストーリーだった

ライバルの出現や周囲の友人との相談

それらを通して成長していく2人の関係


901: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/07(日) 21:48:42.74 ID:ZUMRtjUl
…どこかで見たような関係性だね?

夏祭りに出かける2人をドキドキしながら見届けて

なんとなく隣の侑ちゃんを見てみると

侑「ジ~ッ」

歩夢「!」

侑「ふふっ」ニコッ

その両眼は私だけを写していた

歩夢「!?」

えっ!?何で!?
その眼はもしかすると最初から私を写していたんじゃないだろうか

見つめ合った眼を暫く逸らせずにいると

侑「ふふ、映画観なくて良いの?」

侑「今いいシーンだよ?」

903: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/07(日) 21:55:58.22 ID:ZUMRtjUl
私から視線を逸らさないまま侑ちゃんは小さくそう呟く

侑ちゃんが言う通り、感動のラストシーンなんだろう

横目で確認するとスクリーンでは今まさに想いを伝えあった2人が見つめ合い、唇の距離を近付けていた

歩夢「///」

思わず侑ちゃんから顔をそらす

侑「ふふ」
侑「やっぱり歩夢は表情がコロコロ変わって可愛いなぁ」

侑ちゃんは小声でそう言って悪戯っぽく笑う

彼女の顔が少し近付いていたような
繋ぐ手から感じる彼女の鼓動が早くなっていたような

それが私の気のせいなのかそうじゃないのか

それは侑ちゃんだけが知っている

でも、次の機会があったら眼を逸らさないでいよっかな?

確認のためにね

904: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/07(日) 22:05:43.11 ID:ZUMRtjUl
やがて暗闇に明かりが灯る

周囲には涙を流す人
カフェまで待てずに友人と感想を語り合う人
足早に席を去る人

色々な人がいた

侑「少しここでウインドウショッピングでもしようか」

歩夢「うんっ!」

もう夕方だ。時間を無駄には出来ないね

私達はやや足早に映画館を後にした

926: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 21:05:00.84 ID:f7JQ6jtO
アクアシティで色々なお店をまわった後

少しお腹が空いたなぁなんて思いながら歩いていると

侑「ねえ、歩夢」

侑ちゃんがこう切り出してくれる

侑「実は今日デイナーのお店を予約してるんだ」

歩夢「予約?」

侑「そうだよ。電車で移動しなきゃなんだけどね」

侑「電車まで少し時間があるからさ」

侑「外を歩かない?」

そのお誘いに私は頷く

暖房の効いた室内で少し火照っている身体を冷やしたいなって思ってたしね

外を2人でお散歩をすることにした


927: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 21:10:22.15 ID:f7JQ6jtO
すぐ近くにあるお台場海浜公園で潮風の音を聞きながら

予約時間までの時間潰し

寒く薄暗い中、波音と一緒に伴侶を探す季節外れな虫の声が響く

侑「少し冷えてきたね」

歩夢「そうだねぇ」

侑「歩夢は平気?」

歩夢「うん。大丈夫だよ、ありがとう」

歩夢「侑ちゃんは?」

侑「私も平気っ!」

周囲には複数の仲睦まじい様子の男女が寒さに負けじと手を繋いでいる

私達はそれに負けじと握る力を強める

928: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 21:16:55.95 ID:f7JQ6jtO
カップルの集まる場所に来ると少しだけ思っちゃう事がある

私達はきっと、こんんな中にいても仲の良い友達にしか見られないだろう

それは仕方のない事だと思う

でも、どうしても思っちゃうんだ

私達の関係は世間一般からすると『普通』じゃない

女の子同士で結婚なんて出来ないもん

私は侑ちゃんに何かあった時、絶対に守れるように男の子よりも強くなった…とは思う

侑ちゃんが私を守りたいって思ってくれるのと同じくらい、私も侑ちゃんを守りたいんだから

でも、私は侑ちゃんを世間の視線から守れる強さは持っていない

いつか、この関係が続けられなくなっちゃうんじゃないかって考え

それが私を酷く不安にさせる

普段からその思いが無いわけじゃないけど、こんな場所に来るとどうしても思っちゃうんだ

931: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 21:28:26.63 ID:f7JQ6jtO
侑「あはは、安心してね歩夢」

まだ私が何も言葉にできてないのに侑ちゃんが握る力を更に強めてくれる

侑「私は絶対に歩夢の側から離れないから」

侑「例え他の誰がなんて言おうと関係ないもん」

侑「だって仕方ないでしょ?好きで好きで仕方がないんだから」

侑「私は歩夢が私を好きでいてくれるなら嫌って言われても側にいるから」

侑「それでも辛くなっちゃったら、こうして私がもっと歩夢の近くに行くよ」

侑「だから安心してね」

侑「私が歩夢を絶対に守るからさ」

歩夢「侑ちゃん…」


…そうだよね

大切なのは私達が誰よりもお互いを想い合っているって事だもん

歩夢「ありがとう、侑ちゃんがいてくれると心強いよ」

侑「へへっ、だって私はずっと昔から歩夢のヒーローだもん」

その笑顔はやっぱり私に勇気をくれる

932: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 21:35:31.73 ID:f7JQ6jtO
少し歩くと人が疎らな場所が見える

侑「あそこに座ろっか」

侑「おいで、歩夢」

侑ちゃんが段差に座りながら空いている手で手招きしてくれる

いつからだったかな?少し男勝りな性格だった侑ちゃんが座る時にタオルを敷くようになったのは

そんな時、私の分もタオルを敷いてくれるようになったのはいつからだったかな?

侑「こちらへどうぞ、お姫様」

演技がかったように恭しく頭を下げながらおどけたような侑ちゃんの声

私は知っている。侑ちゃんは何かサプライズしてくれようとする時は、それを誤魔化す為に冗談を言うんだって

歩夢「うふふっ、くるしゅうない」

歩夢「ありがとうっ、私の王子様」

なら、それにノるのがお礼で、礼儀だよね

侑ちゃんの隣に腰掛けながら私もおどけてみせる

侑「えっへへ~」
歩夢「えへへ…」

934: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 21:40:05.82 ID:f7JQ6jtO
侑ちゃんと座って並ぶと、笑顔の中の真剣な眼に気がつく

侑「ねえ、歩夢」

歩夢「なぁに?侑ちゃん」

侑「少しだけお辞儀してくれる?」

歩夢「急にどうしたの?」

侑「いいからいいからっ!」

歩夢「?」


歩夢「こう?」

侑「そうそう。そのまま目を閉じて少し待ってて」

歩夢「ええ…」

困惑しながらも頭を下げたまま目を閉じる
 
937: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 21:50:11.24 ID:f7JQ6jtO
 
侑「ちょっとごめんね」

歩夢「ひゃんっ!?」

首に硬く温かい感触があたる

歩夢「侑ちゃん!?」

侑「ごめんね。あとちょっとだから」

歩夢「あと少しって…ううっ…くすぐったいよぅ…」

侑「もう少しっ…」

今度は金属の触れ合うようなカチャカチャという音が響く

暫く頸に何かが触れるこそばゆい感覚に身じろぎしたくなるのを堪えていると

侑「はいっ、出来たっ!」

その声に安心する

侑「もう身体を起こして大丈夫だよ」

やっと終わった…

上体を起こして目を開けようとすると

チュッ

不意に唇へ柔らかい感触が触れる

939: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 21:54:06.64 ID:f7JQ6jtO
歩夢「侑ちゃん!?」

侑「お代はこれでね」

慌てて顔を上げた私の目にはイタズラっぽく微笑む侑ちゃんの顔

そして、首にはさっきまでなかった微かな重みを感じる

歩夢「侑ちゃん…これ…」

そこには綺麗に輝くネックレスがかかっていた


私が1番好きになったお花の形をしたネックレスが


940: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 22:01:16.19 ID:f7JQ6jtO
侑「えへへ~、実はしずくちゃんがかすみちゃんに髪飾りをあげたって聞いた時から、ずっと歩夢にこうして贈りたかったんだ」

侑「でも、どうせなら歩夢と付き合ってからにしたいなって思ってたの」

侑「だってネックレスを贈るなんてただの友達同士だったらちょっと重いけど、恋人同士なら堂々と出来るでしょ?」

侑「ローダンセの首飾りなんて滅多に見ないし、今日これが目に入ったのはきっと運命」

侑「これで歩夢が私の特別だってみんなにアピールできるもんね」


侑「本当は観覧車で渡すつもりだったんだけど…」

侑「あはは、歩夢との会話に夢中になってすっかり忘れちゃってた」

942: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 22:05:42.73 ID:f7JQ6jtO
首にかかるネックレスを撫でる

侑ちゃんの肌に温められていたそれは私の胸に熱をくれた

歩夢「ありがとう…」

歩夢「すっごく嬉しいよ」

侑「喜んでくれたなら嬉しいなっ」

歩夢「…」

歩夢「ねえ、侑ちゃん」

歩夢「実は私からも渡したいものがあるの…」

侑「えっ?」

歩夢「これ」

943: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 22:10:05.95 ID:f7JQ6jtO
私が贈るのは指輪

歩夢「実は私も観覧車でお喋りに夢中になって忘れちゃってたんだ」

歩夢「ふふっ、おんなじだね」

歩夢「いつか本物を渡したいけど」

これは学生のお金で買える物で、高級な物じゃ無い

だけど、それに込める想いだけは自信を持って何にも負けない本物だって言い切れる

例え何千万、何億円、何を積まれても譲れないこの気持ち

それを込めているんだから

歩夢「今はこれで…ね」

944: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 22:15:02.63 ID:f7JQ6jtO
黒とピンクのペアリング

ふと、お店で目に入った瞬間に侑ちゃんと分かち合いたいって思った

だからね、侑ちゃんが髪飾りを買いに行ってくれてた時間に私も急いで行ってたんだよ?

ピンクのリングを少し悩んでからネックレス用の紐に通して侑ちゃんの首にかける

歩夢「うん、似合ってる」

指に嵌めるのは遠くない未来にとっておこう

946: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 22:21:30.41 ID:f7JQ6jtO
侑「歩夢///」

歩夢「ねぇ、侑ちゃん」

チュッ

侑「歩夢っ!?」

歩夢「…えへへっ」

目の前にはビックリした顔の侑ちゃん

当然だよね。私からキスをするなんて今までずっと一緒にいて一度もなかったんだから

これが今日一日中私を手玉に取ってくれた仕返しっ!

歩夢「私も渡したんだからお代を返してもらわないとねっ///」

侑「///」

歩夢「ふふふ、お返しだよっ」

耳まで真っ赤になった侑ちゃんが何だか可愛くって嬉しくなる

947: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 22:26:09.01 ID:f7JQ6jtO
侑「あっ…」

侑「ありがとうっ!歩夢ぅ!」ダキッ

歩夢「わひゃぁっ!?」

歩夢「…うふふ」
歩夢「どういたしまして」ギュッ

心なしか恨めしそうな虫の声を聴きながら私達は抱きしめ合う

いつまでも

いつまでも

いつまで…

949: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/14(日) 22:30:49.82 ID:f7JQ6jtO
歩夢「…ねえ、侑ちゃん」

侑「な~に~?歩夢~」

歩夢「私達、何か忘れてる気が…」

侑「そんなのどうでも良いじゃん」

侑「今日はず~っとこうしてようよ~」

侑「えへへ~はゆむ~っ」

歩夢「ずっとって…夜ご飯はどうするの…?」

侑「そんなのいらな…」

侑「夜ご飯…ディナー…」

歩夢・侑「…ディナーっ!?」

侑「あぁっ!お店の予約っ!?」

スマホを見た侑ちゃんの目が驚愕に染まる

侑「ごめんっ!駅まで少し走ろう歩夢っ」

歩夢「ふふふっ、わかったよ」

歩夢「急ぎなら私が侑ちゃんをおんぶしていくよ?」

侑「あははは、いくらなんでも流石にそっちの方が遅くなっちゃうでしょ」

侑「行くよ歩夢」

侑「しっかりついてきてね」

968: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 20:03:04.38 ID:P9DqO1L/
歩夢「ねえ、侑ちゃん」

歩夢「予約したお店って本当にここで合ってるの…」

電車に揺られ、お店に着いた時思わず口から出たそんな私の疑問に

侑「あはは…」
侑「まさか本当におんぶされる方が圧倒的に早いなんてね…」

なんてさっきまで悲しそうに呟いていた侑ちゃんは瞳に力を取り戻して力強く答える

侑「そうだよ。今日の為に色々お店を調べて予約したんだからね」

969: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 20:08:49.73 ID:P9DqO1L/
歩夢「…でも侑ちゃん、ここって…?」

唖然としたまま中に入った私は案内された席に座る

お店を見た時、物凄くお洒落なお店だなぁって思ったけど

中に入るとその感情は更に大きくなった

出迎えてくれた店員さんの所作一つとってもそこが平凡では無いって事がわかる

天井にはシャンデリアが煌めいて

大理石の壁は指紋ひとつ無いくらい綺麗に磨かれている

テーブルが、まるで鏡のように私の驚いた顔を写している

窓から見える星空すらいつもより輝いて見える

高級さを全面に押し出しながら、それでいて下品さを全く感じさせないのは匠の成せる技だろう

971: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 20:14:50.39 ID:P9DqO1L/
彼女の予約してくれたお店に入った私はその雰囲気に圧倒される

予約してくれるくらいだから少し高級なレストランなのかな?って思ってはいた

でも、流石にここまでとは思わないよ

ふと自分の服装を思い出して安心する

幸いドレスコードが無くって助かったけど、それでも改めて果林先輩に服を選んでもらえて助かったなって思う

普段通りの服装だとここじゃ場違いになっちゃうって、そう思っちゃうくらいの空気がここにはあるから

これって世に言う高級店ってやつなんじゃ…

さっきの指輪に貯めてたお小遣いの大部分を使っちゃったんだけど大丈夫かなぁ…

973: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 20:20:59.06 ID:P9DqO1L/
そんな私の不安を感じ取ったのか、侑ちゃんはあっけらかんとこう言う

侑「私が払うから心配いらないよ?」

歩夢「は?」

侑「払うよ?歩夢の分も」

歩夢「…え?」

侑「安心してよ。歩夢との初デートの為に小さい頃からずっと貯めてたんだもん」

侑「今日は私が奢るよ!」

歩夢「…えぇっ!?」


歩夢「ダメだよっ!そんなの!」

974: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 20:26:59.21 ID:P9DqO1L/
それでも侑ちゃんは眼を輝かせて引いてくれない

侑「良いの良いのっ!」

侑「これでまた私の夢が一つ叶うんだもん」

侑「むしろ、今日ここで使わせて」

侑「今日くらい私に格好つけさせてよ」

歩夢「でも…」

きっと映画のチケットとは比べ物にならない位しちゃうと思うし、さっきみたいにこの場で返す方法が見つからない

いくら恋人でもそんなに甘えちゃう訳にはいかないよ

でも、ここまで言ってくれる侑ちゃんの想いは大切にしたいし

何より私はこの眼をした侑ちゃんを止められた事がない

うぅ…どうしよぅ

侑「ふふふ、やっぱり歩夢は気にしちゃうよね」

侑「心配いらないよ。それは長年のシミュレーションで当然想定済みだから」

歩夢「想定って…」

975: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 20:34:20.53 ID:P9DqO1L/
侑「ねえ、歩夢」

侑「このお礼にさ」

侑「歩夢の手料理を私に毎日食べさせてよ」

侑ちゃんの提案

でも、それは私にとってはメリットしかないもので…

歩夢「そんなんじゃ」

侑「そんなんじゃないよ!」

侑「さっきも言ったけどね、私にとって歩夢の手料理はどんな物にも勝るご褒美なんだ」

歩夢「侑ちゃん…」

侑「毎日歩夢がご飯を作ってくれるって思うだけでも私は頑張れるよ」

侑「大袈裟に思うかもしれないけどそれは私にとって人生を支えてくれる大切なこと」

侑「それが私にとって何よりも嬉しいお礼になるんだ」

侑「もちろん歩夢が忙しかったり用事がある日は休みでも良いし」

侑「毎日が大変なら週に1回でも嬉しいからさ」

977: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 20:41:18.37 ID:P9DqO1L/
侑「それに、こうして約束しておけば歩夢は絶対に私と離れられないでしょ?」

侑「歩夢は約束を破らない良い子だからね」クスッ

歩夢「…侑ちゃんのイジワル」

歩夢「そんな約束しなくっても私は絶対に侑ちゃんから離れないもん…」

少し頬を膨らませながら抗議する

今日のデートを通してそれでも私の気持ちを疑ってるなら少し怒っちゃうよ?

ぷんぷんだよ?

侑「知ってるよ。そんなこと」

歩夢「あうっ」

侑ちゃんに頬っぺたを突っつかれてプシュ~って空気が抜ける

979: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 20:49:46.77 ID:P9DqO1L/
侑「でも、それでも保健をかけたくなっちゃうんだよ」

侑「だって私にとって歩夢はそれくらい…」

侑「ううん。それよりもず~っと大切な幼馴染で、恋人なんだから」

私の頬を撫でながらニコリとまるで小悪魔みたいに微笑む侑ちゃん

歩夢「むぅ~~っ///」

その笑顔と歯の浮くような言葉に私は恥ずかしくって真っ赤になっちゃう

侑「決まりだね」

侑ちゃんは心から嬉しそうにそう言う

まるで最初からこれを約束する事が目的だったみたいに

悪魔は契約を絶対に守らせるっていうけど、この小悪魔さんはどうなんだろうね?

私の心を掴んで離さない彼女との約束

一つ言えるのは私の毎日の楽しみも増えたって事かな?

嬉しくって頭がポワポワする

980: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 20:57:03.15 ID:P9DqO1L/
そんなタイミングでウェイターさんが飲み物の注文を受けに来てくれた

フワフワして働かない頭のまま慌てて注文をする

でも、ホストである侑ちゃんに恥じないように表面上だけでも堂々としないとねっ!

襟を正して、姿勢良く

あたかもこういったお店に慣れているかのように

しずくちゃんから教わった演技の基礎は成り切る事

今の私はこういう場所に慣れた大人の女性

歩夢「これをいただけますか?」

目に付いたオレンジのジュースを指差す

オレンジジュースは大人っぽくないって?

良いでしょ、こういうのは雰囲気だよ!

…値段が怖いから注文はこの一回だけにしようかな

981: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 21:02:39.14 ID:P9DqO1L/
うぅっ…侑ちゃんニヤニヤしながらこっちを見てるよ…

侑「私は紅茶をお願いします」

ウェイターさんが下がった後

侑「えへへ~大人な歩夢も可愛いよ」

歩夢「言わないでぇ…」

色々な意味で私の意図を察していそうな侑ちゃんに茶化される

侑「後、その気持ちは嬉しいけどね歩夢」

侑「今日はコース料理を選んでるから観念してよ?」

察しの良い幼馴染は事前に私の逃げ道を塞いでくれていた

982: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 21:09:21.32 ID:P9DqO1L/
考えを読まれていた事の照れ隠しとばかりに私は存外早くウエイターさんが持って来てくれた飲みものをコクコクと飲み込む

焦っているせいで味なんてよくわからないけど

オレンジの風味のある冷たい液体が喉を通り抜けるのがとても心地いい

思わず一息に飲み干しちゃった

侑「そうそう。そうこなくっちゃ」

侑「すいません、これをおかわり」

間を持たすためだけに飲んだつもりだったのに、グラスが空くと侑ちゃんが追加で注文してくれて…

983: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 21:14:09.45 ID:P9DqO1L/
そうしてるとなんだかだんだん気分が良くなってきちゃった

さっきまで頼むのは少しにしようかなって思っていた気持ちはどこかに行っちゃったみたい

心が蕩けそうなのはきっと最愛の彼女が近くにいるから

やがて料理もやってきて…

美味しい料理を食べながら好きな人と語り合う夢みたいに幸せな時間

フワフワして嬉しくって楽しくって

何杯のんだんだろう…

もうわからにゃい

でも、なんだか気分が良いからもっと飲むぞ~

あっそうだっ、こんなに美味しいんだから侑ちゃんにも飲んでもらおう

きっと喜んでくれるよね~?

985: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 21:20:58.01 ID:P9DqO1L/
幼い日からずっとずっと今日の為に計画を立てていた

その為の軍資金はずっと貯めてきた

お年玉は毎年貯金してたし、歩夢との外出以外では極力出費を抑えた


もしも歩夢と付き合えなかったら私はこれをどうするつもりだったんだろうね?


そんなあり得ない仮定なんて考えたくも無いけどその場合、私は例え無一文になったとしてもそれに手をつけないで人生を終えていたんじゃないかって思う

最高で最後の…いや、違うな
最後まで続く許されなかった恋の証として記憶と一緒に封印していただろう


自分でも少し重いって思うような想いを込めているのが今日のデート

この日の為にずっと前から計画を立てていたんだ


レストランの予約と映画のチケットを取るのに時間がかかって、付き合ってから初デートまでは遅れちゃってたけどね

986: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 21:27:38.83 ID:P9DqO1L/
歩夢「えへ~っ」

今目の前で歩夢は凄くニコニコしながら飲み物を飲んでいる



かわいいなあ、歩夢は

そう思って綻びそうになる口元を引き締める

それが今日何度目かはもうわからない

歩夢の前ではかっこいい私でいたいから
もう何度もボロを出しちゃってるけどそれはそれ

だって私が一日中とけた顔のままじゃ歩夢が心配しちゃうもんね

でも、なんだか…


歩夢「えへへ~侑ちゃんもこれ飲む~?」


侑「歩夢?」

…さっきから歩夢の様子がおかしいような…

987: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 21:32:17.27 ID:P9DqO1L/
デートに浮かれてるだけ?

きっとそれもあると思う。でも、それだけで今歩夢がこんな子供の時みたいな表情を浮かべるのはちょっと違和感

だってさっき観覧車で昔を振り返っていた時ですらこんな表情にはなっていなかったもんね

そんな私の思考をかき消すのは思考の中心人物その人

歩夢「飲んでよぉ~」

歩夢「ほんとうに美味しいんだからっ」

侑「飲むよ!飲むからそんな顔しないで」

瞳を潤ませた歩夢からグラスを受け取る

それはとてもよく冷えていた

そのオレンジジュースに口をつける

侑「!?」

でも冷たい筈のそれは何故か焼けるように熱くって…

988: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 21:37:08.73 ID:P9DqO1L/
これはキスの熱?

でも、付き合うようになってから何度もキスをして

なんなら幼い頃から事あるごとに間接キスを仕込んできた私にとって、それは嬉しくはあっても少しだけ物足りない筈

じゃあ何故こんなに熱く感じるのか

ふと、幼い日の記憶が蘇る

クリスマスに歩夢と一緒に両親に隠れてシャンパンを舐めて顔を顰めた記憶

ああ、そうか

原因は凄く単純だった

侑「歩夢!?これお酒だよ!」

歩夢が頼んでいたのは…

メニュー表を見直すと歩夢が最初に指差していたのは…これかな?

カンパリオレンジ?

991: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2021/11/21(日) 22:13:15.11 ID:P9DqO1L/
幸運にもコース料理は既に食べ終わっていたので歩夢を支えながら会計を済ませて店を出る

エレベーターを下り一歩外に踏み出すと暖かな室内とは一転して寒さが襲ってくる

歩夢「うぅ、侑ちゃん」
その空気が冷たいのか歩夢は私に強くしがみつく

その歩夢の体温が心地良い

高級な料理の感想?
ドキドキして味なんて分からなかったけど、ニコニコする歩夢が可愛かったよ

引用元: 歩夢「KILL THE FIGHT」ss