2: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:43:12.52 ID:uXujPGXiO
穂乃果「そこにアイドルはもういない」



穂乃果「はぁ…」

四月、春休み。私は一人自室のベッドの上でため息を吐く。

なんと言うか、やる気が出ない。一種の五月病のような感覚が私を襲う。

雪穂「お姉ちゃん?海未さんたち来たよー?」

穂乃果「あー、うん。いまいくー」

今日も生徒会の仕事だった。

3: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:44:19.62 ID:uXujPGXiO
穂乃果「ふー…」

海未「穂乃果、ぼーっとしてないで仕事をしてください」

穂乃果「あ…ごめんごめん」

ことり「穂乃果ちゃん、最近ため息多いね?」

穂乃果「そうかな?」

海未「そうです。幸せをどんどん逃がしていきますよ」

穂乃果「あはは…気をつけるよ…ふぅ…」


海未「穂乃果…考え事で…」

ことり「なにか悩み事が…」

海未「しかし…」


二人が内緒話をしてる。私のことかな…

4: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:44:53.56 ID:uXujPGXiO
フミコ「ほーのかっ」

ミカ「おっはよ!」

穂乃果「あれ、フミコ、ミカ?」

ミカ「どしたのー?最近元気ないけど」

穂乃果「そう?穂乃果はいつも通りだよ!」

フミコ「ならいいけど…」

ミカ「もっとシャキッとしなきゃ!」

フミコ「でもシャキッとしてる穂乃果ってあんまり穂乃果っぽくないかも」

ミカ「そうそう!生徒会長やってるときとかね!」

穂乃果「あー、ひどーい!」

5: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:45:34.77 ID:uXujPGXiO
もう私も三年生。進路の事もあるし色々考える事もたくさんあるなぁ…なんて考えてたそんな時のことだった。

穂乃果「ライブ?」

海未「ええ。都内のライブハウスで本当のアイドルの前座として、ですが」

穂乃果「それって凄いの?」

花陽「勿論です!アイドルというのはそもそも…」

真姫「また始まったわね…」

凛「凛はこっちのかよちんもすきだよー♪」

花陽「…というわけなんです!」

穂乃果「そっか…みんなはどう思う?」

海未「いえ…実は」

海未「穂乃果のソロを指名してるんです」

穂乃果「…穂乃果?それって」

海未「あなたのことです」

穂乃果「ええええええ!?」

6: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:46:33.66 ID:uXujPGXiO
そしてリハーサルの日がやってきた。

穂乃果「高坂穂乃果です!よろしくお願いします!」

プロデューサー「んー、よろしくー。曲はもう覚えた?」

穂乃果「あ、はい。あの…なんで穂乃果ひとりなのでしょうか…」

プロデューサー「あー、それ聞いちゃう?まあ一つはオトナの事情ってやつ。ほら、まだあんまり売れてないから。ウチの子」

プロデューサー「さすがにμ's…全員とは言わなくても知名度的にね?」

プロデューサー「ウチが目立たなくなっちゃうから」

穂乃果「でもアイドルって前座は入れないって花陽ちゃん…学校の友達が」

プロデューサー「そこなのよ。まあぶっちゃけちゃえば客寄せは欲しい。だけど目立たれすぎても困る」

プロデューサー「話題も人気も絶頂のまま終わりを迎えたスクールアイドル、そのリーダーが歌ってくれるとなればこっちとしてもギリギリ良いバランスを狙えるかなーってね」

音響「プロデューサー、準備できましたー」

プロデューサー「あいよー。じゃ、舞台に上がってちょうだい」

穂乃果「はい!」

そこまで久しぶりじゃないけど、一人でステージに…アイドルとして立つのは初めてだったから、なんだかいつもと景色は違って見えて、

講堂とそんなに変わらないはずなのにとっても広かった。

7: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:47:16.76 ID:uXujPGXiO
リハーサル終了後、こんな事を聞いた

スタッフ「プロデューサーと少し話してたけど、変なこと言われなかった?」

穂乃果「あ…少しだけ」

スタッフ「あー、やっぱり。あの人元はロックバンドのボーカルやってた人なんだけどさ」

スタッフ「インディーズじゃ結構売れてたのに急にバンド抜けたって話題になったんだよ」

スタッフ「ブレイク直前に姿を消した変人って」

穂乃果「へぇ…」

なんでだろう…私は少し気になっていた。

8: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:47:52.64 ID:uXujPGXiO
ここのライブハウスに楽屋は二つある。どうやら本来は男性用と女性用に分けて使うらしい。

けれど今回はアイドルのライブだから一つ余る。というわけで私はまあまあ広い楽屋を一人で使わせてもらうことになった。

穂乃果「落ち着かない…」

椅子も鏡も一つあれば十分なんだけどな…
そわそわしているとノックの音が聞こえる。

穂乃果「はーい!」

扉を開けるとそこには最近会えていなかった親友が…

海未「おはようございます」

ことり「穂乃果ちゃん!」

穂乃果「海未ちゃん!ことりちゃん!」

つい私は2人を抱きしめてしまった。こんな広いところで寂しかったよぉ!

海未「穂乃果…そのような事で大丈夫なのですか?」

穂乃果「うん…大丈夫!海未ちゃん達に会えたから!」

ことり「穂乃果ちゃん!頑張ってね!」

穂乃果「うん!」

9: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:48:35.06 ID:uXujPGXiO
その後は出番の一時間前位まで三人でお話ししてた。練習もたまに真姫ちゃんに見てもらうくらいだったし、会う機会も減ってたからかな。

海未「穂乃果、今日は何を歌うんですか?」

穂乃果「うーんとね、ロックンロール?だって」

プロデューサーの説明を思い出す。

その曲は私がが生まれるもっと前に発売された、とあるロックバンドのデビューシングル。

今までもたくさんの人にカバーされてるくらいの名曲で誰しもが一度は聞いたことがある。

どんなに辛くても、心の底から応援する曲。世界一熱い応援歌…

10: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:49:04.30 ID:uXujPGXiO
ことり「No brand girls みたいな感じなのかな」

穂乃果「うーん…近いような近くないような…」

穂乃果「とにかく聞くまでのお楽しみ!」

スタッフ「高坂さーん、スタンバイお願いしまーす」

海未「もうそんな時間ですか」

ことり「穂乃果ちゃん、客席で応援してるね!」

穂乃果「うん!ありがと!」

穂乃果「行ってくるよ!」

私は舞台袖に向かった。

11: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:50:08.89 ID:uXujPGXiO
絵里「あ、海未!」

海未「絵里!」

ことり「希ちゃん!にこちゃん!」

にこ「来てやったわよ」

希「穂乃果ちゃん1人なんだってね」

海未「三人とも忙しいのに…」

絵里「そんなこと言ったら、海未たちだってそうじゃない」

にこ「それで、穂乃果はどうだったのよ」

ことり「うーん…」

海未「いつも通りに見えるよう振舞っている感じ…でしょうか」

絵里「亜里沙から元気がないとは聞いていたけど…」

ことり「穂乃果ちゃん、何か悩んでるみたい」

希「穂乃果ちゃんの悩み事…かあ」

にこ「あ…もう始まるのね」

絵里「え、希!なんで急に暗くなるの!?」

希「大丈夫。すぐに明るくなるから」

ことり「あ、穂乃果ちゃん!」

にこ「何よあの衣装…私服?」

海未「そのようですね…」

希「ほらえりち、はじまるよ」

絵里「え…あ、明るい」

穂乃果「きーがーくーるーいーそー…」

12: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:51:24.25 ID:uXujPGXiO
私は全力で歌いきった。でも、歌っている中で不思議に感じたこともある。

プロデューサーはこの曲を世界一熱い"応援歌"といった。

その割には始まりは「気が狂いそう」とか「優しさだけじゃ人を愛せない」とか…要所要所にネガティブな感情が混ざってる。

それにずっと思ってたけどこの曲はおおよそアイドルらしくない。

ダンスも何もない、ただマイク一つで叫ぶ曲。

色々な「なぜ?」その答えは案外あっさり出た。

プロデューサー「この曲ってさ、理想を語ってる気がするんだよね」

穂乃果「理想、ですか?」

プロデューサー「そう。なんていうか…」

13: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:52:04.52 ID:uXujPGXiO
プロデューサー「俺たちの成功は望まれてないし、誰も認めないかもしれない。だけど俺たちは知ってる。だから応援してやる」

プロデューサー「みたいな?」

穂乃果「うーん…」

プロデューサー「あ、やっぱ分かんない?まあ感じ方の話だしね」

プロデューサー「でも、俺はこの曲が好きなんだよ」

プロデューサー「泥まみれでもギラギラ光ってる宝石みたいで」

穂乃果「プロデューサーって変なこと言うんですね」

プロデューサー「よく言われる」

14: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:53:14.70 ID:uXujPGXiO
穂乃果「そういえば」

穂乃果「プロデューサーって昔バンドやってたって聞いたんですけど」

穂乃果「なんでやめちゃったんですか?すごい人気だったらしいのに」

プロデューサー「人気だったから」

穂乃果「へ?」

プロデューサー「俺の大っ嫌いなアーティストになるのがすっげぇ嫌だったからバンドをやめた」

穂乃果「でも人気になるって良いことじゃ…」

プロデューサー「人気にも質と量があるって事。量はともかく、質が良くなるのは嫌だったね」

穂乃果「良くなるのが嫌なんですか?」

プロデューサー「パンクロックってのはクソ野郎の為にあるもんなんだよ」

穂乃果「ええ!?」

プロデューサー「って、そんなこたどーでもいい。側から見りゃ全体的には大成功だが…お前的にはどうだったよ」

穂乃果「う…」

プロデューサー「まあこの際曲目にゃ目を瞑れ。一人で歌って、魅せて納得したか?」

穂乃果「…」

プロデューサー「それが答えだな。今度は納得できるように頑張れよ」

15: ◆Mp2p4WwlwA 2015/06/24(水) 03:53:48.68 ID:uXujPGXiO
穂乃果「納得…」

その言葉に引っかかるのはμ'sの事じゃなくて、私自身のこと。

このままアイドルを続ける?それとも…

穂乃果「ギラギラ…かぁ」

その日一晩、私は迷い続けた。

21: ◆Mp2p4WwlwA 2015/07/23(木) 22:54:52.25 ID:lYujdhZYO
真姫編投下していきます

22: ◆Mp2p4WwlwA 2015/07/23(木) 22:56:43.67 ID:lYujdhZYO
この一年で変わった事がある。それは日々の生活であったり、日々の運動量であったり、いろいろあるけれど、一番は聴く音楽のジャンルだろうか。

真姫「…うん。こういうのもありなのね」

刺激を受けたら直ぐに曲作り…と行きたいけれど生憎すぐに予定がある。私は出掛ける準備を始めた。



子供「あー!真姫ちゃんだ!」

真姫「優一くん、おはよう」

子供「おはよーございます!」

老人「おや、もうそんな日かい?」

真姫「白方さん」

老人「もう一週間か…歳をとると時が経つのが早い」

真姫「まだお若いじゃないですか」

私は週に一度、パパの病院に顔を出す。

最初は医者になるための勉強の一環…だったのだけど、いつからか患者さんたちとお話しするのが楽しみになって来ていた。

真姫「失礼します…?」

そこの病室は私と歳が近い人達が揃う(ただの偶然で)ところだったんだけどその日は違った。

青年「あれ…もしかしてμ'sの?」

真姫「え…?」

青年「西木野…西木野…ああ!もしかしてこの病院の関係者だったり!」

真姫「そうですけど…」

23: ◆Mp2p4WwlwA 2015/07/23(木) 22:57:52.13 ID:lYujdhZYO
話を聞いてみればこの人は元々μ'sのファンだったらしい。

青年「いやー…まさかこんな所で西木野真姫さんに会えるなんて、事故にあったときはついてないなんて思いましたが…そうでもないみたいですね」

この人は…なんか変だ。慇懃無礼…というのも微妙に違う気がする。年下のはずの私にも敬語だし。

それを指摘してみると

青年「ああ、これは癖なんですよ」

なんて言われた。

敬語が癖…?変なの

24: ◆Mp2p4WwlwA 2015/07/23(木) 22:58:22.22 ID:lYujdhZYO
この人は元々ジャズシンガーらしい。

青年「と言っても都内の小さなバーやライブハウスで演奏する程度の腕前ですが」

真姫「でも、それなりに上手だったんでしょう?」

青年「テクニックはそれなりにあったと思いますよ?ただ、いい演奏かと言われれば自分でも首を傾げてしまいますけど」

真姫「なんで?」

青年「うーん…なんででしょう?」

なにそれ…意味わかんない。

25: ◆Mp2p4WwlwA 2015/07/23(木) 22:58:56.65 ID:lYujdhZYO
あの人の怪我は足の骨折と腕に打撲が幾つか。腕の方はどうやらあまりひどくなかったようで先に治った。

そして私はあの人と一つ約束していた。

青年「まさか病院にピアノがあるなんて…」

真姫「音楽はリラックス効果があるらしいってパパ…院長が言ってたの」

青年「はぁ…しかし、私まで参加してもいいのでしょうか?」

真姫「良いの。何かやりたい曲はある?」

青年「…では、Honestyを」

真姫「Honestyね。わかったわ」

青年「いきなりで大丈夫ですか?」

真姫「有名じゃない」

青年「まあそうですが…」

真姫「それより準備はいいの?」

青年「え、あ、はい」

真姫「始めるわ」

真姫「1.2...」

26: ◆Mp2p4WwlwA 2015/07/23(木) 23:00:11.07 ID:lYujdhZYO
真姫「ふう…」

青年「……」

真姫「私と演奏するの、楽しくない?」

青年「い、いえ!こんな機会滅多にないのに!」

真姫「そう?…でも演奏している間、ずっとつまらなそうよ」

青年「そんなことはないと思うのですが…」

真姫「…ねえ」

青年「なんでしょう?」

真姫「あなたはなんで音楽を続けてるの?」

そう聞くと彼は少し呻いた後黙ってしまった。

そうして1分か2分ほど経ったころだろうか、ようやく口を開いた

青年「なんででしょう?」

27: ◆Mp2p4WwlwA 2015/07/23(木) 23:01:30.35 ID:lYujdhZYO
思わず椅子からずり落ちてしまう。

真姫「なにそれ!意味わかんない!そんなこともわからないならやめちゃえばいいのに!」


青年「ですが、これが仕事ですし…」


何気なく言ったであろう一言。それは私にとって一つの答えのように聞こえた。

真姫「…そう。なんとなくわかったわ」

青年「…?」

真姫「それなら、私と一緒に演っても面白くないわよね」

青年「あの…なにかご無礼を?」

怒ってるように見えたのかしら?

真姫「いえ、いいの。私が勝手に納得しただけだから」

青年「はあ…」

これが彼との最後の会話になるはずだった…程なくして彼は無事退院したからだ。

28: ◆Mp2p4WwlwA 2015/07/23(木) 23:02:29.68 ID:lYujdhZYO
真姫「…で、今度はどうしたのよ」

青年「考え事をしていたら側溝に足を…」

真姫「それで今度は足首?」

青年「それと尾・骨を」

真姫「はぁ…何を考えてたのよ」

青年「それは--」

その日私は彼ともう一度約束した。

今度は楽しい演奏ができそうね。




真姫「時の流れのように」 終

引用元: 穂乃果「そこにアイドルはもういない」