佐天「ベクトルを操る能力?」 前編

526: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/30(月) 23:39:39.55 ID:+/fYR4fT0

“お姉様”
完全反射(フルコーティング)と名乗る少女は確かにそう言った。
佐天に弟はいるが妹などいない。
しかし、これほどまで自分と似ている他人がいるのだろうか?
ドッペルゲンガー?
佐天は、この科学が支配する街でそんな非科学(オカルト)的なことをつい思ってしまう。
対して一方通行は、その女がクローンであることに瞬時に気が付いた。


一方「そのうち何かしてくると思ってはいたが、また趣味の悪ィ嗜好だな」


それに、思っていたよりも時期が早い。
一方通行は、何か動きがあるとすれば、佐天が反射を使いこなせるかどうかというレベルになってからだろうと考えていた。
それが、佐天と一方通行が親しくなってきたところを狙っての“完全反射”の登場である。
そもそも、なぜ一方通行は佐天の能力開発担当に名乗り出たのだろうか?
答えは単純だ。

“スペアプラン”

かつて潰してしまった垣根帝督の代わりに、この少女がスペアプランに抜擢されるだろうと予測したのだ。
自分は学園都市に非協力的な姿勢を取っている。
それなら、表で一方通行をメインプランに据えたまま、裏では佐天涙子という新しい可能性にかけてみるのも悪くないだろう。
たとえ、失敗しても学園都市にはなんの痛手もないのだから。

そこで、一方通行は、佐天涙子の能力を開発することにした。
放っておけば、学園都市が、彼女を規定のレベルに到達させるために、どんな非人道的な実験をするか分かったものではない。
彼はこれ以上光の世界の人間を犠牲にはしたくなかった。
だが、第一位と言えどもできることとできないことがある。
打ち止めなど身近な者を守りながら、彼の目の届かない他人まで守るということは到底不可能だ。
それならば、佐天が自分自身を守る力を身に付けられれば、学園都市に食い物にされる可能性も低くなる。
また、そうすることによって、順調に成長しているうちは、相手も無理に攻勢には出ないと踏んでいた。
一方通行が、佐天涙子を成長させてくれるのならば、学園都市側としては失敗のリスクも低くなり、手間も省けるからだ。
だから、動きがあるのは、彼女が順調に成長し、ギリギリ確保できる時期。
つまり、反射を使いこなせるかどうかの時期になると思っていた。

だが、現実はそうではなかった。
どこで佐天のDNAサンプルを入手したかは知らないが、目の前には事実として、彼女のクローンが存在している。
確かにクローンを使った実験なら、オリジナルを使った実験とは違い、失敗しても何度もやり直せる。
ただ、超電磁砲のクローンである“妹達(シスターズ)”は、オリジナルの1%にも満たない劣化版でしかなかった。
そうすると、佐天涙子のクローンでは、とてもではないが実用の域を超えることはできないはずだ。

527: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/30(月) 23:40:31.04 ID:+/fYR4fT0


一方「どォして、こいつをオリジナルに選んだ?」


今の佐天は、どんなに甘く見積もってもレベル3程度。
そんなレベルのオリジナルを元にクローンを作るなど、予算の無駄遣いにしかならない。
それとも、他に何か彼女をクローンにするだけの理由があるのだろうか?


完全反射「実験のためって聞いたけどね」

一方「なンの実験だ」

完全反射「たしか、『原点超え(オーバーライン)シリーズ』だったかな?」


“原点超え(オーバーライン)”
つまり、原点(オリジナル)を超えるクローンの製造。
はたして、そんなことが可能なのか?


一方「クローンは細胞が劣化しちまって、オリジナルを超えることはできねェはずだろ」

完全反射「ま、その通りなんだけどね」

一方「認めンのか?」

完全反射「うん。けど、能力はそうとは限らないでしょ?」


“妹達”はオリジナルと同じDNAを使用して作成されているにも関わらず、その能力は相当劣化したものである。
つまり、能力の“種類”はDNAによって決定されるが、“優劣”はDNA情報に基づいて決まっているわけではないことになる。
では、何によって能力の優劣が決定しているのだろうか?


完全反射「能力をつかさどるのは脳だからね。そっちを開発することにしたんだってさ」


その結果生み出されたのが、“完全反射”という佐天涙子のクローン。
『能力のみ』オリジナルを超えた成功例であった。

528: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/30(月) 23:41:23.80 ID:+/fYR4fT0


完全反射「まあ、それもアナタのデータがいっぱいあったから、辛うじて成功したってことらしいんだけど」

一方「ってことは……」

完全反射「身体(ハード)はお姉様が元だけど、思考(ソフト)はアナタに近いんだよ」


まったくデータのないところから、オリジナルを超えるクローンが作れる訳ではないと、完全反射が説明を付け足す。
同じ能力であったからこそ、一方通行のデータが生きた訳だ。


一方「だが、それなら、なぜ俺のクローンを作らねェ?」


わざわざ、身体と思考を別々にする必要もないだろう。
そんなのは無駄な手間がかかるだけである。


完全反射「さあ? 男のクローンなんて作っても面白くないからじゃない?」


そんなことを言う研究者がいるのなら大笑いだ。
それはもう研究ではなく、ただの趣味としかいえない。
ともかく、さすがにこれ以上の情報は、このクローンからは引き出せないだろう。


一方「あァ、そォだ。重要なことを聞いてなかったな」

完全反射「ん? 何?」

一方「オマエの目的は何だ?」


こうして自分たちの前に姿を現した以上、何らかの目的があってのことだ。
いや、目的はもう分かりきったことか。


完全反射「そンなのアナタと戦うことに決まってるじゃン」


完全反射の口調が変わった。
その返事を引き金に、ベクトル操作能力者同士の戦闘が始まる。

529: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/30(月) 23:42:20.20 ID:+/fYR4fT0


佐天「オリジナル?」


佐天は、未だに状況についていけていなかった。
だが、それも仕方ない。
いきなり自分の目の前に、自分と瓜二つの人間が現れたのだ。
冷静に対応できる方がおかしい。
2人は、そんな佐天を放置して話を続けていた。
“オーバーライン”や“クローン”などという聞きなれない単語が飛び交うが、頭に入ってこない。


一方「オマエは逃げろ」


一方通行のその言葉に、ハッと我に帰る。
明らかに今までとは空気が違う。
今までに感じたことがないほどピリピリとした空気。
これに比べれば、ポルターガイスト事件などお遊びの範疇だ。
真っ直ぐ前を見れないし、足も震えてしまっている。


完全反射「いやいや、お姉様に逃げられるのは困るンだよね」

佐天「え?」


なかなか逃げ出せずにいる佐天に、そう声がかけられる。
顔を上げると、完全反射と名乗った少女が細い路地から出てくるところだった。
街頭の下に立った彼女が、ますます自分にそっくりな、いや、自分と同じ顔をしていることに気づく。


完全反射「お姉様に危害を加えるつもりはないけど、第一位に逃げられるのは困るの」

一方「俺が逃げるだと? そいつは面白ェ冗談だな」


源流である第一位と、それを元に作られたクローン体。
どちらが上かなど問うまでもないだろう。
しかし、完全反射の余裕な態度は崩れなかった。

530: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/30(月) 23:43:21.52 ID:+/fYR4fT0


一方(まずは小手調べってところからだな。弱ェやつをいたぶる趣味もねェし)


わざわざ、本気を出す必要もない。
チョーカーのスイッチを入れると、路地から出てきた完全反射に対して、軽く小石を蹴った。
―――時速200km程度で。
当然、当たればただでは済まない速度だ。
しかし、完全反射は避ける素振りすら見せない。


完全反射「ねェ? もしかしてそれは舐めてンの?」


高速で飛ばされた小石は、彼女に当たると跳ね返ってきた。
ただ、その軌道上にいるのは一方通行ではない。
小石は、佐天の方に向かって反射されていた。


佐天「―――ッ!!」


佐天はとっさに両手を体の前に突き出し、反射を使用する。
それで防げたのは偶然だっただろう。
あと1秒遅ければ、あるいは、小石が両手のどちらかに当たらなければ、骨の1本や2本は折れていたに違いない。
わずかに回復しているとはいえ、さきほどまで開発を受けていたのだ。
もしかしたら、能力が発動しない可能性もあったかもしれない。


完全反射「あー、びっくりした。お姉様も反射使えるみたいで良かったよ」


心臓をバクバク言わせている佐天に向かって、完全反射が笑いかける。
彼女にしても、わざと佐天の方に向けて反射した訳ではなかったようだ。
その顔には、演技とは思えない安堵の表情が浮かんでいる。
そんな態度に疑問を持ったのは一方通行だ。


一方「解せねェな。なンでオマエがこいつの心配をする」

完全反射「だから言ったでしょ? 私の目的はアナタだけなんだってさ」


クローン体というのは、オリジナルに対して友好的なものなのだろうか?
それは、多くの“妹達”を見てきた一方通行にも分からないことだった。

531: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/30(月) 23:44:42.49 ID:+/fYR4fT0

ともかく、彼女が名前の通り反射を使えるということは分かった。
それに、おそらく全身を反射の膜で覆うこともできるのだろう。
そうなると、物理的な攻撃でダメージを与えることは難しい。
となると、直接攻撃を仕掛けて反射の膜を突破するか、反射を使っていないときに攻撃するしかなさそうだ。


一方(反射同士がぶつかるとどォなるかなンて知らねェけどな)


今は、お互いにある程度の距離を保っている。
だが、そんな距離は一方通行にとっては、あってないようなものだ。
足元をベクトル操作すれば、一瞬で詰められる距離である。


一方「さて、どォなるかねェ?」

佐天「え?」


ゴッ!!というアスファルトが砕ける音がした瞬間、佐天と完全反射の視界から一方通行の姿が消えた。
あまりにも早いスピードで動いたため、目で追いきれなかったのだ。
2人が見失っている間に、一方通行は音速に届くような速度で、完全反射の死角に回りこんでいた。


一方(これで終わりだ、クソ野郎)


死なない程度に加減された一方通行の一撃が、完全反射に向けられて一閃される。
それに遅れて、一方通行が移動したことによって発生した風が発生した。


完全反射「!?」

佐天「きゃああっ!?」


完全反射はまったく対応できていない。
ならば、その一撃が命中するのは当然だった。

が、そこで、予測していなかったことが起こった。

一方通行の拳が、完全反射に触れた瞬間に止まったのだ。
もちろん、当たれば、余裕で気絶するような威力だったはずだ。
その証拠に、2人の間からすり抜けたベクトルが、衝撃派のように辺りに響き、地面に大きなクレーターを作っている。
どうみても、気絶では済まない威力である。

532: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/30(月) 23:45:27.50 ID:+/fYR4fT0

だが、正確には、完全反射には触れていなかった。
反射の膜同士が触れ合った途端、一方通行の動きが止まったと言うべきだろう。
それだけではない。


一方(こりゃどォなってやがンだ!?)

完全反射「ンなっ!?」


反射の膜がジワリジワリと削られる感覚。
2人の反射の膜は、接触することによって相殺されていた。
このままでは、触れ合っている反射の膜が2秒もしない内に消え去ってしまう。


完全反射「くっ!!」


まだ、何が起こっているかも分かっていない完全反射は、地面を強く蹴ると一方通行から距離を離すため横に飛んだ。
ただ、その移動速度も普通に蹴ったスピードで出せるものではない。
一方通行にはかなり劣るものの、一流の運動選手でも出せないであろう速度だった。


一方(なるほど。反射同士が触れ合うと相殺されンのか)


1人冷静に分析を始める一方通行。
あの感覚だと、反射の“強度”の弱い方が相手の反射に破られることになるだろう。
そういった意味では、完全反射の反射の“強度”と一方通行の反射の“強度”はほぼ同じだった。
それだけでも、クローンとしてみれば、いや、一方通行と同じものを持っているだけで驚異的である。
しかも、全身の反射もこなすなど、ここまで完璧にできていれば、レベル5間違いなしだ。


一方「軽いベクトル操作までできンのか。オイオイ、クローンじゃレベル5は作れねェって話じゃなかったか?」


遺伝子操作・後天的教育問わず、クローン体から超能力者を発生させることは不可能という予測が『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』から出てしまっている。
そのため、量産型能力者計画(レディオノイズ)計画は破綻してしまったのだから。
だが、目の前のクローンはどうだ?
反射だけとはいえ、レベル5に匹敵する力を行使している。
樹形図の設計者の演算が間違っていたとでもいうのだろうか?

533: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/30(月) 23:46:06.55 ID:+/fYR4fT0

一方通行が、うろたえていることを知ると、完全反射は笑みを浮かべた。
そんなことまで、バカ正直に答えてやる必要はない。


完全反射「さァ? どォだか」

一方「チッ!」


完全反射は、一方通行が反射の膜を一方的に貫通できないと知ってわずかに安堵していた。
予定外のことだったが、これなら作戦通りの展開に持っていける。
問題ない。
あとは、アイツが急に来なければ。


一方(クソッ! どォする)


対する一方通行は焦っていた。
佐天に授業をしていたせいで、バッテリーの残量がもう5分くらいしか残っていない。
遠距離攻撃はダメ、直接攻撃もダメとなると、相手が反射を適応させていない時に攻撃するしかない。
完全反射はどこまで反射を維持できるのだろうか?


一方「聞いてなかったンだが、オマエは何分反射を維持できンだ?」

完全反射「うン? 30分が限度かな」


あっさりと完全反射が答える。
だが、それも当然だろう。
一方通行の能力を使える時間と同じ時間反射ができるのだから。
嘘かもしれないとは思ったが、どちらにしろこちらはあと5分しか残されていない。
それくらいは優々維持できるだろう。
これでは攻撃を当てることはできない。
相手に攻撃手段がないとはいえ、佐天がいるので逃げることもできない。
つまり、八方塞がりだ。


一方(八方塞がりだァ? ンなことはねェ。クローン体ってことは、アイツは高くてもレベル4。それは間違いねェンだ)


つまり、どこかに弱点は存在する。
時間があれば、それを発見することができるだろうが、今はその時間がない。
一方通行は焦っていた。

534: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/30(月) 23:47:06.99 ID:+/fYR4fT0

だが、その心配はいらなかった。
突然、完全反射は、現れたときと同じように何の前触れもなく踵を翻したのだ。


完全反射「残念だけど、今日はもう終わりみたい」

佐天「え?」

一方「なンだと?」


明らかに相手が有利な状況だったはずだ。
彼女がここで逃げる必要性はまったくない。


完全反射「また会おうね、お姉様。じゃあねー」


手を振って、現れた路地裏へと足早に消え去る完全反射。
何が起こっているかまるで分からなかった佐天は、ただ呆然とするしかない。
帰り道に突如登場して、一方通行と一度交錯したかと思ったら、すぐに逃げたのだ。
しかも、その人物は自分と同じ顔。
訳が分からず、一方通行の方を見るが、彼の顔にも困惑の色が浮かんでいた。
目的がまるで分からない。


一方「俺と戦えたから満足ってかァ?」


そんなことありえるのだろうか?
とそのとき、立ち去った完全反射と入れ替わる形で2人に近づいてくる人物が現れた。
コツコツと大きな足音を立てて歩いてくる。
この時間のこの道は人通りがほとんどない。
それに、こんな場面での登場である。
コイツは関係者に違いない、と一方通行は、身構えたのだが、


番外個体「どうしたの、これ?」

佐天「み、番外個体さんですか。た、助かったぁー」


その人物は番外個体だった。
思わず、佐天から力が抜ける。
一方通行はなにやら不可解な顔をした後、チョーカーのスイッチを切った。

535: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/30(月) 23:47:58.68 ID:+/fYR4fT0


一方「どォして来た」

番外個体「そりゃ帰ってくるのが遅いから、迎えに行って来いって言われてさ。ミサカだって女の子なのに1人で出歩かせるとか差別じゃないのかな?」


けけけ、と番外個体が笑いながら答える。
この様子では、完全反射のことは見ていなかったのだろう。
でなければ、一方通行の焦った顔を見て、大笑いしているはずである。
となれば、聞くことは1つ。


一方「原点超えシリーズってのに聞き覚えは?」

番外個体「あるよーん」

佐天「はい?」


番外個体が即答する。
いつもの一方通行をバカにしているような顔を浮かべている。
教えてほしけりゃ土下座しろという表情である。
もっとも、説明されずとも、一方通行には見当はついていたが。


一方「オマエがその試作体(ファーストサンプル)ってところか」

番外個体「……ちぇっ。そりゃアナタじゃ気付いちゃうか」


一方通行の確信めいた物言いに、あっさりと折れる番外個体。
今までの“妹達”とは、異なるレベル4というスペックを見れば推察はつく。
完全反射は、そのデータも元に製造されているのだろう。
これで、彼女につながる手がかりは見つけた。
あとは、弱点を分析し、こちらから赴いてそのふざけた計画ごと潰してくるだけだ。
そこで、やっと一方通行は1人取り残していたことに気がついた。


佐天「な、何がどうなってるの?」


そう。佐天涙子である。
彼女は見事に置いて行かれていた。
これから起こる波乱の中心人物でもあるに関わらず。

552: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/31(火) 17:17:53.28 ID:RG8iDp0W0

あの後、黄泉川のマンションまで引き返してくると、一方通行の部屋に通された。
番外個体はリビングにいる打ち止めの様子を見に行ったようだ。


佐天「どういうことか説明してもらえますか?」


開口一番、佐天は一方通行にそう尋ねた。
分からないことはたくさんある。
自分とそっくりな少女のこと。
彼女が何者か知っている様子だった一方通行。
そして、それに関係していると思われる番外個体。
どれも1つに結びついているような気がする。


佐天「何か知ってるんですよね?」

一方「……あァ」


一方通行は難しい顔をすると、佐天から視線をそらす。
真実を話すべきかどうか迷っているらしい。
知ってしまえば、闇の世界に足を踏み入れることになってしまう可能性も高い。
誰も彼も御坂美琴のように、光の世界で踏みとどまれるとは限らないのだ。


一方「聞いちまったら引き返せねェかもしンねェぞ?」


それでも聞きたいか? と暗に問う。
知らなかったなら話す必要はなかった。
だが、もう知ってしまったのだ。
クローニングされた本人が知りたいのならば、黙っている訳にもいかないだろう。


佐天「それでも、何も知らないままじゃいられないです」


そんな脅しをかけるような一方通行の問いに、佐天涙子は迷わず返答した。
アレには、自分が関わっているのだ。
目をそらすことは簡単だが、それではレベルアッパー事件のときから何も変わっていないことになってしまう。

553: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/31(火) 17:18:56.48 ID:RG8iDp0W0


一方「いいンだな? 真実を知って、元の世界に戻れるとは限らねェぞ?」

佐天「……それでもです。私のせいで誰か傷つくのはもう嫌なんです」


一方通行が光の世界の住人を傷つけたくないように。
結局、佐天涙子に能力の使い方を教えたのは間違っていたのだろうか?
そんなことをしていなければ、完全反射などと呼ばれるクローンに会うこともなかっただろうし、そもそも一方通行という人物にも会わずに済んだ。
関わることによって、さらに危険性を上げてしまっただけではないのか、という疑念が一方通行の頭の中に渦巻く。


佐天「いいえ、後悔なんてしてません。能力が使えなかったら、もっと危険なことになっていたかもしれませんよ?」

一方「……そォか」


確かにそうだ。
一方通行が、佐天を保護しないからと言って、学園都市が黙っているとは限らないのだ。
下手をしたら、クローンも生み出され、佐天まで生命の危機に陥っていたかもしれない。
それなら、本人を守ることができた代わりに、あのクローンができてしまったと考えるべきだろう。
どちらにしろ、自分と同じ能力を得てしまったことで、佐天の運命も決まってしまっていたのだ。
そこまで来ているなら話すしかないだろう。
力を付けて学園都市から身を守る力を得るか、学園都市の計画そのものを潰さなければならないのだから。


一方「アイツはオマエの複製体、つまりクローンだ」

佐天「そう……ですよね」


戦闘中にあれだけクローンという言葉が飛び交っていたのだ。
あのときは、冷静になって考えることもできずにいたが、今になって考えれば理解できる。
あれは佐天涙子自身。
何から何まで自分と同じ人間なのだ。
映画などでよく見るシチュエーションだったが、まさか自分がその実体験をするとは思わなかった。
あのクローンは、本人との入れ替わりなどを画策したりするのだろうか?
そんな不安が佐天の脳裏をかすめた。

554: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/31(火) 17:19:26.80 ID:RG8iDp0W0


一方「それはねェから安心しろ」

佐天「え?」


どうやら考えていたことが口に出ていたらしい。
一方通行は言葉を続ける。


一方「クローンってのは、肉体的には確かに一緒かもしンねェが、中身はまったくの別物だ」

佐天「そうなんですか?」

番外個体「そうだよ」

佐天「……番外個体さん?」


いつの間にか、番外個体が佐天の後ろ側に立っていた。
リビングに行ったのではなかったのだろうか?
しかし、今はそんなことより聞かなければならないことがある。


佐天「……なんでそう言い切れるんですか?」

番外個体「だって、ミサカもお姉様のクローンだもん」

佐天「!?」

一方「…………」


頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
クローン?
番外個体さんが?
彼女の言う『お姉様』というのは、御坂美琴に間違いない。
つまり、自分より先にもクローンの計画というものがあったということになる。
しかも、知り合いである『御坂美琴』という人物を中心として。

555: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/31(火) 17:20:29.35 ID:RG8iDp0W0


佐天「そ、そんなこと御坂さんは一言も……」

一方「よく考えてみろ。オマエは自分のクローンがいるなンて他の人間に言ったりするか?」


初春を相手に想像してみる。
どのようにクローンがいると初春に説明すればいいだろうか?
いや、説明できない。
そもそも、するべきではない。
自分だけではなく、初春まで巻き込んでしまう恐れがある。


佐天「そ、それじゃあ……」

一方「あァ。御坂美琴のクローン計画は実在した。打ち止めもそォだ」

番外個体「他にもいっぱいいるけどねー☆」


頭がクラクラしてくる。
しかし、それならば、なぜ自分が?
御坂美琴はレベル5だから、クローンを作るのにも一応説明はつく。
彼女のクローンなら、相当の力を持っていると考えてもおかしくはない。
だが、自分にはそこまでの強い力を持っていない。
ならば、なぜ?


一方「俺と同じ能力だからだろォな」

佐天「え?」


全ての元凶は、佐天涙子ではなく一方通行。
これは、学園都市最強の超能力者が存在することによって巻き起こされた騒動の1つなのだ。
佐天が選ばれたのは、同じ能力を持っていたから。
ただそれだけだった。

556: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/31(火) 17:21:07.96 ID:RG8iDp0W0


一方「オマエも運がねェな。俺と同じ能力だったばっかりによォ?」

番外個体「でもさ、それならなんでアナタのクローンじゃないの?」

佐天「そ、そうですよ」


そこが腑に落ちない。
なぜ一方通行のクローンを作成せずに、佐天涙子のクローンを作ったのか。
そこには何か理由があるはずだ。
一方通行には、その理由に心当たりがあるのだろうか?


一方「推測だがな。アイツらの目的は“原点超え”なンだよ。オリジナルを超えることが目標なンだろ」


オリジナルから劣化したものしか作れないとされているクローニング技術。
そこから、オリジナルを超えるクローンを作り出すという計画。
体細胞は劣化しても、それを能力で補えれば、結果としてオリジナルよりも価値があると言えるのではないか?
おそらく、計画発案者はそう考えたのではないか、というのが一方通行の推測だった。


佐天「そんな……」

番外個体「なるほどねえ」

一方通行「今度はこっちが質問する番だ」

佐天「え?」

一方「オマエに聞きたいことは1つ。自分のDNAを提供した覚えはあンのか?」


いくらクローニング技術が進歩しても、元がなければ作成することはできない。
その最初の1歩には、必ず佐天が関わっているはずなのだ。
そうでなければ、“完全反射”などという個体は生まれていない。

557: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/31(火) 17:21:42.15 ID:RG8iDp0W0


佐天「い、いえ、ありません」

一方「髪の毛1本、血の1滴でもありゃ十分なンだ。能力を得てからのことを思い出せ」

佐天「え? 血の1滴……?」


それなら、心当たりはある。
能力が発覚した次の日に血液検査をやった。
それ以外には考えられない。


一方「なるほど。オマエは知らずにDNAマップを提供してたって訳か」

佐天「は、はい……」


よし。
それで聞きたいことは全部聞き終わった。
それなら、書庫(バンク)に正式に登録されていることはないだろう。
そちらは研究所ごと潰してしまえば問題ない。
あとは……。
一方通行は、今度は番外個体の方に視線を向けた。


一方「次はオマエの番だ。“原点超えシリーズ”に関して知ってることを全部話せ」

番外個体「別にいいケド。でも、大した情報はないと思うよ? 計画の目的も知らなかったぐらいだし」

一方「オマエが製造された研究所くれェは知ってンだろ?」

番外個体「知ってるよ? でも、まだノコノコとそこにいるとは思えないんだけど」


それでもいい。
なにか手がかりになるようなものがあれば、それで十分だ。
1つあれば、芋づる式に手がかりが引っこ抜けるはずである。
問題は、あの“完全反射”という佐天涙子のクローンだけだ。

558: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/31(火) 17:22:43.55 ID:RG8iDp0W0


佐天「何か作戦はあるんですか?」

一方「あン? 俺を誰だと思ってンですかァ?」

番外個体「白いモヤシでしょ? あひゃひゃひゃひゃ」


一方通行には、完全反射の弱点を既に分析できていた。
なぜあの時気が付かなかったのか、というほど単純な作戦である。
であるが故に気がつかなかったのかもしれないが。


一方「でもまァ、さすがに何体もでてこられると厄介な相手かもしンねェな」


一方通行1人では、1対1を相手にする作戦しか取れないのだ。
数によっては、相手を無力化する前にこちらのタイムオーバーが先にやってきてしまう。


番外個体「その心配はしないでもいいと思うけどね~」

一方「なンだと?」


気楽そうに番外個体が言う。
ということは、あの完全反射1人を相手すればいいということになる。
しかし、なぜそんなことを知っているのだろうか?


番外個体「簡単な話。クローンを作るより簡単で時間がかからないのに、一気に戦力増強できる研究が進められてるからね」


代わりにお金はすごくかかるから研究費はほとんどそっちに持っていかれちゃったんだけど、と番外個体が付け足す。
クローン技術による能力者生産よりも効率的な研究。
そんなものがあるのだろうか?

559: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/05/31(火) 17:24:40.82 ID:RG8iDp0W0

答えを知ってしまえば、明快なことである。
その研究とは、駆動鎧(パワードスーツ)を始めとする『兵器の開発』だった。
兵器であれば、ある程度反乱も制御でき、能力者でなくとも扱える。
それこそ、簡単に戦力が強化できるのだ。
ファイブオーバーを始めとするオーバーテクノロジー満載の兵器相手では、多少強化したクローンなど相手にならない。
そう。
“完全反射”という例外を除けば。


一方「つまり、アイツはクローン推進派の尖兵って訳か」

番外個体「だろうね」


そういうことなら、1度戦闘をしただけで引き返したことにも説明がつく。
本当に、“完全反射”は戦いに来ただけなのだ。
あくまで、戦闘データの収集が目的だった。
つまり、一方通行や佐天涙子の殺害や拉致を目的としていた訳ではないことになる。
たしかに、あれだけの成果が出れば、兵器開発に傾いた天秤を戻すことができるかもしれない。
当初の目的であるオリジナル超えも達成させるとは、なかなか凄い研究者がそこにいたものである。


佐天「でも、そんなのって……」


そんなことのために、あの子は生み出されたのだろうか?
だったら、あまりにも寂しすぎる。
誰かのつまらない利益のためだけに生み出されたなんて。


番外個体「ま、その辺はミサカも似たようなもんだけどね」

佐天「え?」

一方「とにかく、今日の話はこれでお終いだ。オマエらはさっさと寝ろ」

佐天「はい?」


えっと、私も?
いきなり話を打ち切られたことよりも、そんなことが気なった佐天涙子であった。

611: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/03(金) 23:00:16.65 ID:46fVOIlb0

午後11時。
一方通行の部屋は、異様な雰囲気を出していた。


一方「行くぞ?」

佐天「は、はいっ!」


部屋の中に居たのは、佐天涙子と一方通行の両名。
既に番外個体は自室へと戻っている。
2人はあることを試していた。
身構える佐天に、ゆっくりと一方通行の指が近づいていく。


一方「ンっ」

佐天「うわっ……」


触れられた途端、思わずそんな声が漏れてしまう。
その触れられた部分だけにある明らかな違和感。
いや、ただ触れられただけでは、こんな声は出さない。
佐天は、一方通行が触れているところから力が抜けていくのを感じていた。
今まで感じたことのない感覚が佐天に流れる。


佐天「うぅっ……」

一方「もォちっと耐えろ」


今にも限界に達してしまいそうな佐天に厳しい命令が飛ぶ。
辛くはないが、これ以上は堪えられそうにはない。
一方通行の力が強すぎるのだ。


佐天「あっ。ダメっ……」


その瞬間、ギュッと一方通行の指が強く肌に押し付けれらる。
それは、佐天が一方通行の前に敗北したことを意味していた。

612: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/03(金) 23:01:02.67 ID:46fVOIlb0


番外個体「な、何やってんのー!!」

打ち止め「あ、あなたって人はー!!」


バターン!! というけたたましい音と共に、その異様な雰囲気の部屋に番外個体が突撃してくる。
その後ろには、当に眠っている時間のはずである打ち止めの姿もあった。
なぜか2人は顔を真っ赤にしている。
それは、怒りか羞恥のどちらなのかイマイチ判断がつきにくい顔色だ。


一方「あン?」

佐天「え?」


驚いたのは、部屋に居た一方通行と佐天だ。
特に、佐天はいきなりの2人の乱入にビクッと体を震わせる。
位置的に、ドアに背を向けていたので仕方もない。


番外個体「あれぇ?」

打ち止め「んんー?」


部屋に入った2人は、佐天と一方通行の様子を見て、頭にたくさんのクエスチョンマークを浮かべた。
てっきり一方通行の部屋の中で、とても口に出しては言えないようなことをしていると思ったのだ。
しかし、その割には2人とも着衣はしっかりとしている。


番外個体「っていうか、xxxされてた訳じゃないのね」

佐天「れ、れい―――ッ!?」


口に出しては言えないようなことを、サラッと言う当たりは彼女らしいと言うべきか。
ただ、中学1年生の佐天涙子には少々刺激の強いワードだったようだ。
入ってきたときの2人と同じくらいくらい顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

613: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/03(金) 23:02:38.45 ID:46fVOIlb0


打ち止め「うんうん。ミサカはあなたのこと信じてたよ、ってミサカはミサカは内心とは真逆のことを言ってみたり」

一方「ホンネ出てンぞ」


それに目も泳いでいる。
とことん嘘をつけない子である。
口調でも、行動でも。
だが、それでは2人は何をしていたのだろうか?


番外個体「何をしてた訳?」


番外個体と打ち止めが部屋に入り込んだときは、手を取り合っていた。
ただ、それは恋人同士のようなソレではなく、手相を見る占い師のような雰囲気だった。
正直、手相を見ていたのでなければ、何をしていたのか分からない。
ちなみに、一方通行が占い師で佐天が客である。


一方「反射同士をぶつけてたンだよ。こいつは実際に体験してみせる方が説明しやすかったンでな」


一方通行は佐天に完全反射との戦闘を解説していたのである。
あの移動と攻撃で、どのベクトルを、どれだけ、どの方向に使ったのかということを。
その最中、一方通行の攻撃が静止し、衝撃波が発生した部分を説明するのに、実際に実演した方が早いという流れになった訳だ。
さっきまで会話は、手に反射を張った佐天に一方通行が反射をぶつけていただけである。
声だけ聞いていた番外個体と打ち止めが勘違いしてしまうのも仕方ないだろう。
特に  いことをしていた訳ではないのである。


佐天「結局、こっちの反射は壊されちゃいましたけどね」


手をひらひらと振りながら答える佐天。
分かっていたことだが、反射の強度が強い一方通行の方が打ち勝った。
それに、触れられた部分の佐天の反射は強制解除されてしまったが、一方通行の反射は生きたままだった。
2つの水流が正面からぶつかったときに、強い流れの方に飲み込まれるようなものなのだろう。
これも新しい発見だ。

614: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/03(金) 23:03:23.59 ID:46fVOIlb0


一方「そォなると、やっぱりあのクローンは別格だな」


たとえ強度が弱くても、反射同士がぶつかると攻撃に込めたベクトルは衝撃波となって霧散してしまう。
そうなると、全身を反射できない佐天にはその衝撃波のダメージが通るが、反射を全身に使える完全反射には通用しない手になる。
これは既に実証済みだ。
だがそれでも、一方通行と強度が互角というのは改めて驚異的だった。
攻撃手段が全て無効化されてしまうのだから。


佐天「でも、反射が相殺されるのって不思議な感覚ですね」

一方「そォだな」


言葉では言い表せない妙な感覚。
精神が削られるという言葉で理解してもらえるだろうか?
多分難しいだろう。
これは、反射を使えるものにしか分からない感覚なのだ。


一方「ともかく、そンなところだな」

佐天「ありがとうございましたー」


これにて今日のレッスンは終了。
初めての夜間の部だったが、なんというか……、


佐天「パジャマでってのも妙に緊張感がないですねぇ」

一方「まァな」


佐天は番外個体のパジャマを拝借していた。
少々大きいのだが、芳川のサイズでは小さかったのだ
小さいよりは大きい方がいい。
胸の話ではなく。

616: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/03(金) 23:04:58.50 ID:46fVOIlb0


打ち止め「終わったなら、サテンお姉ちゃんはミサカたちと同じ部屋に行こう、ってミサカはミサカは袖をグイグイ引っ張ってみたり」

番外個体「そうそう。そこのモヤシに襲われる前にね。あひゃひゃ」

佐天「お、襲うって……」


相変わらず、番外個体の一方通行に対する悪意は止まることがなかった。
そのように作られたのだから仕方ないのだが、1人だけそんな事情を知らないものがいる。
もちろん、佐天涙子である。
佐天には、どうして番外個体がそこまで辛辣な態度を取っているのかよく分からない。
どうしてなんだろう?


番外個体「さ、こんなところにいないでさっさと寝よ」

佐天(ん? あ、なるほど)


そんな態度にピンと女の勘が働く。
番外個体が毒づくことを止めない理由は何なんかを考えた末に、佐天は1つの可能性に思いついた。
しかし、それをここで問いただすわけにもいかない。
なにせここには一方通行がいる。
ともかく、今はこの部屋から退散することにしよう。


佐天「それじゃ、私たちはもう寝ますね」

打ち止め「オヤスミなさい、ってミサカはミサカはあなたとの別れを惜しんでみる」

一方「オゥ。オマエらはさっさと寝ろ」


そう言って、3人は一方通行の部屋を後にした。
この時点で、午後11時30分である。
夜はまだ始まったばかりだ。

617: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/03(金) 23:06:00.56 ID:46fVOIlb0


打ち止め「じゃあサテンお姉ちゃんはここね、ってミサカはミサカはお布団を敷いてあるところを指差してみるー」

佐天「うん。ありがとー」


2人の部屋に案内され、リラックスする佐天。
正直なところ、未だに一方通行の前では緊張してしまう。
イチイチ睨まれるのだから仕方ないといえば、仕方ないのだが。


番外個体「それでさ。こういうときってどんな話すればいいのかな?」

打ち止め「分からないかも、ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」


ドサッと自分のベットに腰掛けながら尋ねる番外個体に、打ち止めが応答する。
このように、自分の部屋に他人がいるという時点で、彼女たちにとっては非日常なのだ。
そもそも、友達というものが初めてなので、どう対応すればいいのか分からない、というのがホンネだ。
こればかりは、ミサカネットワークにも情報がない。


佐天「ふっふっふー。教えて進ぜよう!!」

番外個体「ん?」


しかし、相手はノリと高いテンションで日々を過ごしている佐天涙子。
佐天にとっては、相手を自分のペースに巻き込むことなど簡単なことだ。
その相手が、知り合いのクローンだろうと火星人だろうとお構いなしだ。
一方通行を除けば。
さて、その佐天涙子が2人に提案した話題は、


佐天「もちろん、こういう時には恋バナだーっ!!」

打ち止め・番外個体「恋バナ?」


つまり、佐天は番外個体の一方通行に対する態度をそう解釈したのである。
小学生男子が好きな女の子をイジめたくなるというアレである。

618: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/03(金) 23:06:37.11 ID:46fVOIlb0


打ち止め「恋バナって何なのかな、ってミサカはミサカはサテンお姉ちゃんに言葉の意味を尋ねてみたり」

佐天「恋バナって言うのはねぇー」

番外個体「うん?」

佐天「好きな人のことを話したりするガールズトークのことなのさー!!」

打ち止め「好きな……」

番外個体「……人?」


おやおや? 思ったよりも反応が薄いなー。
女の子なんだから、そういう話も好きかと思ったんだけどねえ?
あー、でも、御坂さんとはそういう話したことないかも。


打ち止め「ミサカはね、あの人のことが大好きなんだよ、ってミサカはミサカは大胆告白!」

佐天「あの人って一方通行さん?」

打ち止め「うん!」


おおぅ。
無邪気な子供だこと。
私は打ち止めちゃんくらいのときには、もう素直じゃなかった気もするなぁ~。


番外個体「ミサカはそういうのよく分かんないカモ」

佐天「あれ?」


あれ、読み違えた?
むむむ。
もしかして、私の勘って大して役に立たないんじゃない?

619: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/03(金) 23:07:19.83 ID:46fVOIlb0


番外個体「そもそも、『好き』ってどういうコトなの?」

佐天「え?」


改めて聞かれると難しい。
これって哲学?
いやいや、概念じゃなくて、どんなものかを教えればいいんだから……


佐天「一日中その人のことを考えちゃったり、ついつい目で追いかけちゃったりしたりするっていうのは良く聞くかも」

番外個体「ふ~ん?」

打ち止め「うんうん。分かるかもってミサカはミサカは肯定してみる」


私自身、恋した経験なんてないからなぁ……。
知らないものを教えるって結構難しいかも。


番外個体「それじゃ、ミサカがあの人のことをどうやってからかおうか一日中考えたり、何かマヌケなことしないかついつい目で追っちゃうのも恋?」

佐天「え、ええっと……」


どうなんだろ?
やっぱり、小学生男子的なアレですか?
うん、もうそういうことにしておこう。


佐天「Yes!! それは、もう恋に間違いない!!」

番外個体「ま、マジで?」


ノリで言ってみたけど、案外満更でもないんじゃない?
つーか、強く肯定しすぎたかも。
ドンマイ、私☆

620: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/03(金) 23:08:52.48 ID:46fVOIlb0


番外個体「これが恋ね~。なるほどー、てっきりこの感情は憎悪だと思ってたよ」


いやいや、世の中にはヤンデレっていうのもあるらしいし、間違ってないよね?
大丈夫、大丈夫。
でも、なんか怖いことブツブツ言ってるからスルーで。


打ち止め「なんか違うと思うんだけど、ってミサカはミサカは口を挟んでみる」

佐天「じゃあ、打ち止めちゃんはどう思う?」

打ち止め「恋っていうのはもっと甘いものだと思うの、ってミサカはミサカは気持ちを抽象的に表現してみる!」


イメージは確かにそんな感じかも。
甘いとか、甘酸っぱいとかそんな感じ。


打ち止め「それで、好きな人のことを考えただけで胸がドキドキして、気持ちがいっぱい溢れてくるの!」

佐天「なるほど、なるほど」


経験者、打ち止めは語る。
胸がドキドキして、気持ちが溢れるかぁ……。
先生に怒られたときのアレとは違う感覚なのかな?
……全然違うか。


打ち止め「そしてあの人にも好きになってもらおうって、いっぱい頑張ることができるの! ってミサカはミサカは胸を張って答えてみる!」

佐天(う……。カワイイ……)


御坂さんも小さいときはこんな感じだったのかな?
というか、一方通行さんすごい愛されてるなぁ。
少し妬けちゃうかも。

621: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/03(金) 23:10:26.32 ID:46fVOIlb0


打ち止め「それで、サテンお姉ちゃんはどうなの? ってミサカはミサカは尋ね返してみる」

佐天「ええっ!? 私?」

番外個体「そうそう。言い出しておいて、自分だけ言わないってのはなしだよね?」


そ、そんなこと言われても……。
ど、どうすれば……。


佐天「え、えーっと、私はまだ良く分からないかな? あんまり深く関わった男の人とかいないし……」

番外個体「そうなの?」

打ち止め「じゃあ、サテンお姉ちゃんの初めてはあの人なの?」

佐天「え?」


う、うーん……。
言われて見れば、一方通行さんくらい深く関わった人はいないかも?
でも、そういうことは考えたことなかったなー……。


佐天「そうかも」

打ち止め「じゃあ、サテンお姉ちゃんもミサカと一緒だね、ってミサカはミサカは喜んでみる」

佐天「ええっ!? いや、私はそこまでのレベルじゃ……」


というか何故喜ぶ。
1対2だからって有利になったりはしないんだよ?
いや、私は一方通行さんが好きって訳じゃないけど。
でも、確かにあの人への気持ちは普通の男の人とは違うかも。
どっちかっていうと『恋』っていうより『憧れ』とか『畏怖』って感じだけどね。
ここから変化していくものなのかな?

―――そんな風に楽しくおしゃべりしながら、激動の1日が幕を閉じた。

686: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/09(木) 00:32:48.35 ID:Nu5hW8ko0


???「うおあああああああっ!?」

佐天「―――ッ!?」


完全反射に出会った翌日の朝。
私は、いきなりの謎の悲鳴(?)によって起床させられた。
というか、睡眠状態から無理やり覚醒させられたと言うべきだろうか?
さきほどの絶叫は、まるで谷にでも落とされたかのような感じだ。
誰の声だったのだろう? いや、何が起こったのか?


打ち止め「ふぁ……。もう、朝?」

番外個体「うーん……」

佐天「ええっ!? リアクション薄っ!!」


この2人はまだ寝ぼけているのかもしれない。
あんな絶叫で平然としていられる訳が……。
って、なんで打ち止めちゃんと番外個体さんがうちにいるの?
ええと、昨日は確か……
あ、そういえば、黄泉川先生のところに泊まってたんだっけ。
今のは黄泉川先生の声だったかもしれない。


打ち止め「早く起きないと次はミサカたちの番になっちゃうよ、ってミサカはミサカは注意を促してみる」

佐天「そ、壮絶な目覚ましですね」


まだ寝ぼけているらしい番外個体さんが、寝ぼけ眼でこちらを向いてくる。
一方の打ち止めちゃんは、もうすっきり目覚めているらしい。
どうやらこの子は朝に強いみたいだ。
私も朝に弱い方ではないが、さきほどの絶叫のせいでまだ心臓がドキドキ言っている。
なんとも体に悪い起床としか言いようがない。
寿命が縮む。
というか、そんなことされてて、自分で起きない黄泉川先生も凄いけど。

687: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/09(木) 00:33:24.63 ID:Nu5hW8ko0

携帯を見て時刻を確認すると午前6時半。
いつもの私と比べると随分と早い起床だ。


佐天「いつもこんなに早いんですか?」

打ち止め「そうなの。ヨミカワが学校に行かなくちゃいけないから、ってミサカはミサカはうんうんって頷いてみたり」


パパッと着替えた打ち止めちゃんが、その場でくるりと回る。
袖なしのワンピースにYシャツを羽織るだけという、外に出るにはちょっと寒そうな格好だ。
もっとも、家の中にいる分には、大丈夫だろう。
私もさっさと着替えてしまおう。


打ち止め「じゃあミサカはお先にー、ってミサカはミサカは食卓に向けて猛ダッシュー」


ドタドタと駆けて行ってしまった。
この様子じゃ、あの子は一日中あのテンションっぽいな。
ん? そういえば、朝ごはんって誰が作ってるんだろ?
やっぱり、黄泉川先生?


佐天「……あれ?」


考え事をしながら着替えをしていると、番外個体さんがボーっとベットに座っているのに気づいた。
番外個体さんは朝に弱いのかな?
まさか目を開けたまま2度寝してるとかじゃないよね?


佐天「番外個体さん?」

番外個体「え? あ、うん。大丈夫」


うーん。
反応は返ってきたけど、まだ少しボンヤリしている印象。
何か変な夢でも思い出しているのかな?
妙に顔が赤い気がする。風邪かな?

688: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/09(木) 00:34:01.73 ID:Nu5hW8ko0


佐天「体調でも悪いんですか?」

番外個体「え? いや、その……」


しどろもどろになる番外個体さん。
なんだかはっきりしないなぁ。
気になるので続きを聞こうとしたとき、ガチャリとドアが開いた。


一方「オマエらはいつまで寝てンだ?」

番外個体・佐天「「え?」」


一方通行さんが部屋に入ってきたのだ。
思わず、番外個体さんとハモってしまった。
私はいまだ着替え中である。
上はもう身につけた。
スカーフはまだ巻いていないが、そんなことはどうでもいい。
問題はスカートだ。
スカートはまだ膝の位置にある。


一方「朝飯できてっからさっさと支度しろ」


だが、一方通行これをスルー。
リビングの方へと杖をついて歩き去ってしまった。
何の反応もなかった。
もしかして、私は女の子として見られていないのだろうか?
……まあ、別にいいですけどぉ。
なんだか釈然としない。


番外個体「…………」


それよりも、番外個体さんの方が重症だ。
なんだか余計、顔が真っ赤になっている気がする。

689: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/09(木) 00:35:00.34 ID:Nu5hW8ko0


佐天「おはよーございます」


着替えを済ませリビングに入ると、打ち止めちゃん、黄泉川先生が食卓についていた。
朝食は、納豆と味噌汁のようだ。
私の分もきちんと用意されている。
一方通行さんは、少し離れたソファーの方に座ってテレビを見ていた。


打ち止め「おはよう! ってミサカはミサカは元気いっぱいに挨拶してみたり!」

黄泉川「おう、おはようじゃん」


挨拶を返してくれる2人。
それにしても、黄泉川先生はケロッとしている。
警備員だけあってタフなのかもしれない。
いや、こんな起こされ方をしているからタフなのだろうか?


一方「番外個体はどォした?」


私の方を一瞥してそう尋ねてくる。
この人から挨拶がないのは予想通りだが、もう少し社交的にしてくれてもいいんじゃないかと思う。


佐天「なんでも、食欲ないから朝ごはんいらないそうです」

一方「ハァ? 食欲がねェ?」

黄泉川「あの子が? 珍しいじゃんよ」


そう言って番外個体さんは布団を被ってしまったのだ。
これ以上私に聞かれても答えられることなどない。
強いて言えば体調が悪そうだったということくらいだろうか?
もしかしたら、お腹を出して寝ていたのかもしれない。

690: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/09(木) 00:35:40.07 ID:Nu5hW8ko0


黄泉川「いってきまーす」

打ち止め「いってらっしゃーい、ってミサカはミサカは元気良くヨミカワを送り出してみる~」


結局、番外個体さん抜きで朝食が済むと、黄泉川先生は慌しく出発した。
私が起きるくらいの時間に出発って、先生も大変だなぁ。
これでアンチスキルの仕事までするって言うんだから、どんだけ体力あるんだか……。
って、そうだ。
私は今日何すればいいんだろ?


佐天「今日は能力開発はどうするんですか?」

一方「ンなことやってる場合じゃねェだろォが」


ごもっともです。
まず、やらねばならないことは、私のクローンの問題を解決すること。
今日はこれから昨日言っていた手がかりを探しに行くのだろう。
番外個体さんがその場所を知ってるって話だったけど……。


佐天「ドキドキしてきたぁ……」


気分は決戦前。
巨悪と戦う映画やマンガの主人公になった気分。
出発前に能力の確認を―――


一方「ハァ? オマエは留守番に決まってンだろォが」


そんな幻想をブチ殺されました。
まあ、一方通行さんの言うことは正論ですけど。
私が行っても、人質になって足手まといになるのが関の山だしね。
昨日もそうだったし。
でも、やっぱり少しは心配。

691: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/09(木) 00:36:15.23 ID:Nu5hW8ko0


佐天「1人で大丈夫ですか?」

一方「オイオイ。オマエは誰の心配をしてるンですかァ?」

佐天「で、でも……」


第一位だって無敵じゃない。
実は、昨日の夜、一方通行さんのバッテリーの話を聞いてしまっていた。
「バッテリーがなくなると、能力が使えなくなる」というのが打ち止めちゃんの話だ。
元々そうではなかったらしいのだが、何が原因でそんなことになってしまったのかは教えてくれなかった。
いろいろあったのかもしれない。


一方「オマエはここにいりゃ安全だ」

佐天「え?」

一方「オマエは大人しくしてろ」


そう言い残して、マンションを出て行ってしまった。
後に残されたのは、打ち止めちゃんと私だけだ。
芳川さんと番外個体さんは部屋に篭りっきりだし、どうすればいいんだろ?


打ち止め「サテンお姉ちゃん、ゲームでもしよっか、ってミサカはミサカは提案してみる」

佐天「うーん……」


どうしよう?
やはり自分もこの件に関わっているだけに、一方通行さん1人に任せっきりというのもなんだか悪い気がする。
確かに戦闘面では役に立たないが、他の部分で役立てることがあるのではないか?
情報収集とか。
昨日は周りに誰もいなかった気がするが、目撃者もいるかもしれない。
どっち方面に逃げたかだけでも分かれば、きっと有益な情報になるだろう。
よし。
それなら、やることは1つだ。
何事もチャレンジあるのみ。

692: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/09(木) 00:37:00.16 ID:Nu5hW8ko0


佐天「やっぱり、私も一方通行さんのお手伝いしてくるよ」

打ち止め「危ないかもしれないよ?」

佐天「でも、自分の問題でもあるし」

打ち止め「気持ちは分かるけど、ってミサカはミサカは……」


考えてなかったが、打ち止めちゃんまで着いてくるとか言ったらどうしよう?
御坂さんならいかにもいいそうなことだ。
さすがにこの子まで危ない目にあわせる訳にはいかないし……。


打ち止め「そらなら、ミサカも行く! ってミサカはミサカは大胆提案!」


やっぱり。
こ、こうなったら、


佐天「ほ、ほら! そしたら、番外個体さんの看病する人いなくなっちゃうじゃん!」

打ち止め「看病?」


体調悪いみたいだし、さすがに1人で放っておくわけにはいかない。
芳川さんは、いるかいないか分からないので数には数えません。
おそらく寝てるんだろうけど。


打ち止め「ううう……。きっとすごく危ないよ?」

佐天「大丈夫、大丈夫。この近くをちょっと見てすぐ帰って来るからさ」


その後、なんとか打ち止めちゃんを説得して、黄泉川先生のマンションを出ることにした。
私だって、危ないのはゴメンだ。
だけど、この辺りなら安全だって一方通行さんも言ってたしね。
昨日の場所は、徒歩数分のところだしきっと大丈夫。

693: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/09(木) 00:38:07.63 ID:Nu5hW8ko0

マンションのエントランスを出て辺りを見回すと、既に一方通行さんの姿は見当たらなかった。
昨日、番外個体さんから聞きだしていた研究所とやらに行ってしまったのかな?
私には教えてくれなかったけど。


佐天「ま、そんな本命の場所に行く気はないけどね」


私にできることはせいぜい情報収集。
本格的な戦闘ができるほど能力も経験もない。
それなら、安全で身近な場所を探索するくらいだろう。
結局、こんなのは無駄足になるかもしれないがそれならそれでもいい。
身近なところには危険がないって証拠にもなるんだし。
地盤を固めなくちゃ、安心して眠れないもんね。


佐天「ん? そうだ」


そういえば、これからもう少しの間、黄泉川先生のところにお世話になるのかも。
どう考えても、一方通行さんの傍にいるのが一番安全だ。
番外個体さんはレベル4、打ち止めちゃんはレベル3、そして黄泉川先生は警備員でもあるわけだし。
でも、そうなるとやっぱり着替えは必要だよね。
いつまでも同じのを着てるって訳にもいかないし、番外個体さんのパジャマは少しぶかぶかだったから。


佐天「着替えを取りに帰るだけでいっか」


昨日のポイントは帰り道の途中だ。
つまり、往復だけでも何かヒントがあるかもしれない。
いや、そこまで期待はしてないけどさ。
さっと行って帰ってくれば、往復で30分程度。
それくらいなら危険も少ないだろう。
多分。

―――その時の私はそんな能天気ことを考えていた。
学園都市の闇を知らなかったのだから、仕方ないといえば、仕方ないのかもしれないが。

727: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/12(日) 14:52:00.88 ID:DSNL9L/r0

少しくらいなら外に出ても安全だ。
そんな考えはわずか5分で覆された。


完全反射「やっほー、お姉様」

佐天「え?」


昨日の現場に着いた途端、当の本人に遭遇してしまったのだ。
いやいや、ちょっとあっさり出て来すぎじゃない?
それに、手がかりどころか本人の登場って。


佐天「くっ!!」


よし、能力はちゃんと使える。
両手だけだが、反射を適応させて私のクローンに相対する。
どう考えても勝ち目はないが、今は朝方だ。
夜に比べれば、人目も全くない訳ではない。
あまり騒ぎを大きくしたくないだろうし、それだけの時間を稼げればなんとかなるはず。
しかし、ボーっとしていた時間は短かったが、なぜ攻撃してこなかったのだろう?


完全反射「私はお姉様と戦う気はないよ」

佐天「はい?」


私の心情を察したのか、両手を上げ、ひらひらと振りながらそんなことを言う。
確かに敵意は感じられないが、本当だろうか?
どちらにしろ、あまり抵抗できる余地などないのかもしれないが。


完全反射「1回お姉様とお話してみたかったんだよねー」


ニコリと人の良さそうな笑顔を向けてくる。
私の顔で。
なんだか、本当に自分が2人いるのではないかという錯覚に陥りそうだ。

728: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/12(日) 14:53:02.95 ID:DSNL9L/r0


佐天「は、話?」

完全反射「そうそう。私って研究員の人と以外話したことなかったんだよね」


逃げ切れるだろうか?
いや、昨日の一方通行さんとの戦いを見ても、常人のスピード以上を出せるベクトル操作をしていた。
反射しかできない私が逃げ切れるはずもない。
とすれば、できるのは時間かせぎくらいか。
こちらが根を上げる前に相手が諦めてくれればいいんだけど。


完全反射「だから、そう身構えなくてもいいって。危害を加える気はないんだしさー」

佐天「昨日あんなことしておいて、それは難しいんじゃ……」


あんなことというのは、もちろん石を飛ばしてきたことや一方通行さんとのバトルのことだ。
あれに明らかな敵意があったことには間違いない。


完全反射「ん? 昨日は、第一位には攻撃したけど、お姉様には危害加えてないよね?」


石は反射しただし、と付け加える。
確かにその通りかもしれない。
でも、なんの目的で一方通行さんと戦ったのか?
そして、なんの目的で私に接触してきたのかも気になる。
まさか本当に話をしに来ただけなのだろうか?


完全反射「うーん……。そこまで警戒されると若干へこむなぁ」

佐天「うぇっ!?」


私のクローンにしては、妙に繊細なところもあるものだ。
いやいや、私も繊細ですよ?
一方通行さんが私の下 にまったく反応しなくてへこんだし。
……まあ、ほんのちょっとだけだけど。
それにしても、私が落ち込んでるときってこんな顔してるのか。

729: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/12(日) 14:53:37.35 ID:DSNL9L/r0

って、なんだかこれじゃ私が悪人みたいじゃない?
むしろこっちが被害者だと言いたいのに……。
う~ん。
完全に信用する訳じゃないけど、うまくいけば何か情報も拾えたりするかも?


佐天「じゃあ、ちょっと話すくらいなら……」

完全反射「そうこなくっちゃ!」

佐天「切り替え早っ!?」


いきなり満開の笑顔になった!?
もしかして、ハメられてる?
まあ、私から取れる情報なんてたかが知れてるか。


完全反射「じゃあねえ……」


何を話したものかと、話題を探しているらしい。
しかし、今まであんまりこの子を見てる余裕なんてなかったけど、本当に私そっくりだ。
自分でも分からないくらいかも。
それに顔だけじゃなくて、身長とか髪質とか―――


佐天「あ、胸は私の方が大きい」

完全反射「ええっ!? いきなり何っ!?」


目測だが、この子は私よりも一回り小さい気がする。
能力では勝てないかもしれないけど、スタイルでは勝った。


完全反射「やっぱり大きい方がいいのかな……」


なんか良く分からないけど、また落ち込んじゃった。
私って外からみたらこんなに浮き沈みが激しいのか。

730: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/12(日) 14:54:13.05 ID:DSNL9L/r0


完全反射「番外個体は第三位より胸が大きいのに……」

佐天「ははは……」


どうしたものだろう。
なんだかまともに会話もしてないうちにいじけてしまった。
というか、私もそこまで大きい方じゃない。
固法先輩のとか見ちゃうとねえ……。


完全反射「私もお姉様くらいあったら……」

佐天「あの、さ」


ちょっと気に掛かることがある。
落ち込んでいるところ悪いんだけど、


佐天「その『お姉様』ってのは止めて欲しいかも」

完全反射「そう?」

佐天「私には合わないから」

完全反射「他の妹達(シスターズ)はオリジナルのことをそう呼んでるって聞いたんだけどね」


確かに御坂さんなら『お姉様』というのも問題ない。
むしろぴったりだ。
何せ、あの人は正真正銘のお嬢様。
白井さんにもそう呼ばれているし、本人もそれを受け入れている。
それに比べて、私は一般庶民な訳だし、『お姉様』なんてかしこまった呼ばれ方したら違和感しか感じない。
なんだか全身がむず痒くなる。


完全反射「じゃあ、なんて呼ぼうかな?」


そもそも、これって本当に姉妹の関係なのかな?
良くわかんないや。

731: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/12(日) 14:54:59.96 ID:DSNL9L/r0


完全反射「姉妹ってことでいいんじゃない? さすがに母親というのはヤでしょ?」

佐天「そりゃそうだけど」


私(オリジナル)から生まれたのだから、そういう捉え方もできるのか。
この年で母親ってのもなんだかな……。
クローンってことは、正確には「私」なんだよね?
んー、双子みたいなものって捉えればいいか。
私が先に生まれてるから、私がお姉さん。


佐天「じゃあ、姉妹ってことで」

完全反射「オッケー。それで、何て呼ぶかなんだけどさ」

佐天「うん?」

完全反射「何か希望とかあったりする?」


私が決めろ、と?
まあ、自分のあだ名を自分で決めるよりはマシかもしれない。


佐天「そうだねぇ……。無難に『お姉ちゃん』とか?」

完全反射「『るいねえ』とか『姉さん』とかもオススメかな」

佐天「うーん……」


というか、なんでこんな話してるんだろ?
なんだか昨日から混乱しっぱなしな気がする。
能天気に話してるけど、正直この状況に私の頭が着いていってないだけかも。
つい1週間前までは、普通に初春と学校通ってたのに……。
そうだ。
冷静に考えれば、分からないことだらけじゃない?
この子の目的はなんなのかとか。
呼ばれ方で頭を悩ませている場合ではない気がする。

732: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/12(日) 14:55:46.65 ID:DSNL9L/r0


佐天「本当は何しにきたの?」

完全反射「ん? 何って、本当にお話をしにきただけだよ?」

佐天「それだけ?」

完全反射「そう。それだけー」


昨日は確かに、言ったとおりのことだけをしていった。
一方通行さんとの対決。
お互いにかすり傷もなく、まさに手合わせといったところだった。
では、今日も本当に話をしにきただけ?
良く考えてみるとおかしい。
なぜわざわざ私が1人のところを狙ってきたのか?
それは、たぶん一方通行さんと鉢合わせないようにするためだろう。
昨日の今日だし、あの人の性格からしても絶対に戦闘になる。
ならばおかしくはないか?
……いや、おかしい。
この子は、一方通行さんと私のペアなら勝てると思っているはず。
私を人質にして、チョーカーの電池がきれるまで粘れば勝てる、と。
一方通行さんに秘策があることは知らないのだ。
そうすると考えられることは2つ。
「本当は反射が30分持たない」か、「私に別の用があったから」ということになる。


完全反射「ん? そんな難しい顔しちゃってどうかしたのー?」

佐天「……本題は?」

完全反射「え、もう? もうちょっと世間話ってやつをしてからにしようと思ってたんだけど」


つまり今までのはお遊び。
鎌をかけてみたけど、やっぱりこの後に本命があるみたい。
でも一体なにを……。


完全反射「ま、いっか。今日は、お姉様に第一位と第三位のクローンたちの過去を教えてあげようと思ってきたんだよね」


世の中には知らない方がいいことはたくさんある。
これから聞く話はその1つだった。

733: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/12(日) 14:56:40.71 ID:DSNL9L/r0


佐天「絶対能力進化計画……?」

完全反射「そ。レベル6を生み出すために行われた実験」


聞いた話は、信じられないような内容だった。
学園都市には、レベルが0から5までの6段階しかレベルはない。
しかし、レベル5のさらに上、『レベル6』という能力者を作ろうとした実験があったそうだ。
ここは科学の街、学園都市。
そんな実験もあっても、全然おかしくない。
ただ、その方法というのが問題だった。
『超電磁砲のクローンを2万回通りの方法で殺す』
殺す?
打ち止めちゃんや番外個体さんを?
それも2万回も?
そんなの正気の沙汰じゃない。


完全反射「で、その被験者っていうのが、」

佐天「……一方通行さん」

完全反射「うん、正解~」

佐天「そ、そんな」


おめでとうとばかりに拍手をされる。
けれど、そんな音は私の耳には届いていない。
この子の目的だとか、そんなことが吹き飛んでしまった。
それほどのショックな話だ。
今の私の頭の中は、一方通行さんのことと、殺されたであろう御坂さんのクローンのことで、頭がいっぱいになってしまっている。


完全反射「これがそのデータ。まあ、見ない方がいいと思うけど」


信じたくはなかったし、信じられなかった。
だが、彼女の語った言葉は事実だった。
手渡されたレポートがそれを証明していた。

734: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/12(日) 14:57:38.44 ID:DSNL9L/r0


佐天「うっ……」


最初の数ページをめくっただけで吐き気がこみ上げてくる。
そこには、生々しい実験の記録や進行状況などが文字やグラフで記載されていた。
特に、殺害状況や時刻などの隣の欄に『完了』という簡潔な文字がずらりと並んでいるのが目についた。
その単語がこれほどまでに恐ろしいと感じたことはない。
レポートの目次によると、後半には写真が付記されているらしいのだが、とても見る気にはなれなかった。
それを見てしまっては、吐き気どころでは済まなくなる。
どうしてこんな実験が許可されていたのだろうか?


完全反射「結果としては、実験は1万ちょっとのところで断念・破棄されたの」

佐天「は、破棄?」


打ち止めちゃんや番外個体さんが生き残っているのはそういうことか。
どういう理由かは知らないが、実験が中断された。
これは喜ぶべきことなのだろう。
だが、1万という数のクローンは殺されている。
学園都市最強の超能力者、一方通行によって。


佐天「……なんでこんなもの私に見せたの?」

完全反射「それは、『一方通行』っていう人間のことを、お姉様が何も知らないみたいだったからだよ」


あの男のことを教えてあげようと思ってさ、となんでもないように言う。
確かに、私は一方通行さんのことはほとんど知らなかった。
知っていることといえば、第一位の超能力者であるということくらいだ。
『絶対能力進化計画』などという言葉は聞いたことすらない。
その内容も、外に漏れてしまえば学園都市という存在自体が危うくなるほどのものだった。
そもそも、なぜ一方通行さんはそんな実験を引き受けたのか?
通常の価値観をもっていれば、そんな実験を引き受けるはずがない。
しかし、あの人は引き受けた。
“最強”の能力者から、“絶対”の能力者になるために。
そこにはどんな思いがあったのだろうか?

735: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/12(日) 14:58:40.20 ID:DSNL9L/r0


完全反射「少しは分かってもらえたかな?」


吐き気は未だに治まらない。
この子の意図はなんなのだろう?
警戒すべきは自分ではなく、一方通行さんであると言いたいのだろうか?
私の既存の価値観が大きく揺らいでしまっている。
疑心暗鬼に陥ってしまいそうだ。


完全反射「ま、そんな訳だから、今後一方通行には近づかない方がいいよ」


話を聞いていれば確かにそうだろう。
今までは優しそうな一面して見えていなかったが、裏ではそんな実験をしていた人物なのだから。
そもそも、あの人はなぜ私なんかの能力開発をしてくれていたのだろうか?
そんなことをしているくらいなのだから、統括理事からの命令なんていくらでも無視できるはずだ。
では、なぜ?
分からない。
あの人の目的は?


佐天「一体、誰を信じれば……」


誰かに相談?
できる訳がない。
誰がこんなことを信じてくれるだろうか。
いや、御坂さんなら事情を知っているかも?
……ダメだ。
きっと御坂さんは、一方通行さんに恨みを持ってる。
一方通行さんの名前に過剰に反応していたのは、これが原因だったのだ。
御坂さんに相談しても、冷静に判断できるとは到底思えない。
つまり、自分で判断しなければならないということになる。
こんな混乱した頭で?
しかし、なぜ一方通行さんは悪者という結論がすぐに出せないのだろうか?
これだけの事実があるというのに。
何かが引っかかっている気がする。

736: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/12(日) 14:59:21.45 ID:DSNL9L/r0


完全反射「私の話はそんなところかな」


伝えたいことは全て伝えたという顔をしている。
きっと私の顔は酷いことになっているのだろう。
鏡を見なくても分かる。


完全反射「私の役目は果たしたことだし、そろそろお別れだね」

佐天「え?」

完全反射「これからまた第一位のところに行かなくちゃならないからねえ。できれば戦いたくはないんだけどさ」


彼女の目的がまったく掴めない。
私を混乱させることが目的?
ならば、それは大成功といえる。
今の私はどうしようもないほど混乱している。


完全反射「じゃっあねー。お姉様♪」

佐天「あ……」


そんな私を置き去りにするように、昨夜と同じように路地裏に消えていってしまった。
これから一体どうしよう?
一方通行さんに連絡する?
自分の携帯をポケットから取り出し、『一方通行』という連絡先を見据える。
昨夜、携帯の番号を聞いておいたのだ。
しかし、どうしてもかける気にはなれない。
実験の内容は知らないフリをしてでも、私のクローンが向かったことくらいは伝えるべきだろうか?
……いや、やめよう。
そんなことをしなくてもあの人は負けないだろう。
それに、まだ自分の気持ちを整理できていない。
こんな状態でまともに話せるとは思えない。
そう思い、ポケットに携帯を戻した。


佐天「一方通行さん……」


ひとり言は、誰にも聞かれることなく、路地裏に吸い込まれていった。
とても黄泉川先生のマンションに戻る気分にはなれなかった。

753: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/14(火) 23:47:49.49 ID:VPvR/SCp0


一方「チッ。ハズレか」


午前10時。
佐天が完全反射に出会ってから2時間が過ぎたころ、一方通行は番外個体の言っていた第7学区の研究所に足を踏み入れていた。
その研究所自体は稼動していたのだが、番外個体の言っていた研究チームは既に撤退した後で、精密機械を取り扱っている企業が代わりに入っていた。
だが、そんなこともお構いないなしに、一方通行は力ずくで乗り込んで調べさせてもらうことにした。
しかし、そこまでしても成果はなかった。
まったくの0だ。
元からあったというパソコンを調べてみても、クローンの「ク」の字も出ない有様である。


研究員「も、もうよろしいでしょうか?」

一方「邪魔したな」


そう言って、研究所を後にする。
去り際に、一方通行が出て行くのを見てホッと一息ついているのが見えた。
そんな反応をされるのも仕方ないかとわずかに苦笑する。
本来なら誰もいないような時間に無理やり押し入ったのだ。
文句の1つも言われなかっただけ僥倖だろう。
もっとも、一方通行に文句が言える人物など限られているのではあるが。


一方(これでまた振り出しに戻るか。他に手がかりもねェし、これからどォするか……)


考えられる選択肢はいくつかある。
その中でも有力なのは、完全反射を探すことだろうか?
土御門の情報網を使うのが最も手っ取り早い。


一方「アイツに借りは作りたくねェンだけどな」


そんなことをブツブツいいながら、携帯を取り出す。
すると、ちょうどそのとき携帯が着信を知らせた。
あまりのタイミングの良さに覗かれているのではないかと辺りを見回すが、もちろん、金髪のアロハ男などいない。
人通りもほとんどないような場所にいるのだから間違いない。
では、誰からの電話だろうか?
改めて携帯を確認すると、発信主は佐天涙子であった。

754: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/14(火) 23:48:38.24 ID:VPvR/SCp0


一方「あァ?」


佐天からの連絡ということに一方通行は眉をひそめる。
確かに昨日この番号を教えた。
だが、黄泉川のマンションにいるならば、打ち止めが電話をかけてきそうなものだ。
それを遮ってまで、佐天が電話をかけてくるとは想像しにくい。
あるいは、打ち止めが佐天の携帯を借りて電話をしているのかもしれない。
出れば分かるだろう。


一方「ン?」


そこで一方通行の動きが止まった。
先ほどは気が付かなかったが、前方に佐天が立っていたのである。
横道から出てきたのだろうか?
しかし、電話をかけている素振りは見えない。
いや、そもそもここにいること自体がおかしい。


佐天(?)「……」


こちらが気が付くとほぼ同時、佐天はカツンとなんの前触れもなく小石を蹴り飛ばしてきた。
一方通行は、その攻撃を軽く首を横に動かすことで回避する。
そこをビュンと風を切る音がするほどのスピードで小石が通過していく。
昨日の一方通行のに比べれば威力は大したことはない。
だが、今のは間違いなくベクトル操作による攻撃だ。


一方「完全反射か」

完全反射「正解~」


佐天涙子のクローン『完全反射(フルコーティング)』。
探していた手がかりが向こうから姿を現してくれた。
これで、手間が省けた。
あとは情報を引き出すだけだ。
一方通行がチョーカーのスイッチに手を伸ばす動作が2人の戦闘が始まる合図となった。

―――そして、佐天からの電話は、そこで切れた。

755: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/14(火) 23:49:51.95 ID:VPvR/SCp0

先に攻勢に出たのは、完全反射だった。
佐天のときとは違い、碌な挨拶もなく、最初から敵意に満ち溢れている。
そんな彼女は、地面を強く蹴るともの凄いスピードで突っ込んできた。
しかし、そんなことはチョーカーのスイッチが入ってしまえば関係ない。


完全反射「ハッ!!」


女子のものとは思えないほど鋭いミドルキックが飛んでくる。
だが、回避する必要はない。
既に、チョーカーのスイッチは入っている。
お互いに反射を使っていれば、相手の攻撃も自分の攻撃も届かない。
それを確認するかのように、鋭い完全反射の蹴りが腕に当たると、まるで一時停止したかのようにピタリと静止した。
それと同時に、例の反射の膜を削られる感覚が体中を駆け巡る。
正直、これはあまりいい気分ではない。
完全反射もそう感じたのか、軸足で地面を軽く蹴って後方へと距離を取った。
10mほどの距離を取って2人が対峙する。


完全反射「ちェっ。ちょっと遅かったか」

一方「オマエじゃ俺は倒せねェよ」

完全反射「そォかな? バッテリーが切れた後なら、タコ殴りにできると思うンだけど?」

一方「分かってねェな。その前に決着がつくって言ってンだよ」


佐天は勘違いしているようだったが、一方通行に秘策などない。
それほどに明確な弱点が完全反射には存在する。
それに、今の一連の動きで相手の能力のタネも割れた。


一方「オマエは自分で生み出した運動ベクトルしか操作できねェンだろ」

完全反射「へェ? もう気づいたンだ?」


移動にしても、石を飛ばすにしても、余計な動作が1つ多い。
地面を蹴ったり、石を蹴ったりというように。
一方通行が同じことをするのに、そんな余計な動作をする必要はない。

756: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/14(火) 23:50:38.51 ID:VPvR/SCp0


完全反射「でも、それがわかっただけじゃ戦況は変わらないよね? お互いに攻撃が届かない訳だし」

一方「確かにそォだな」


相手の攻撃が届かないように、一方通行の攻撃も完全反射には届かない。
反射が相殺しあって、攻撃に込めたベクトルが霧散してしまう。
強度がより高ければ一方的に攻撃することもできるのだが、完全反射の強度は一方通行とほぼ同じであるためそれもできない。
前回はそこで手詰まりになってしまった。


完全反射「あははっ! どォするの? 今日はお姉様もいないし逃げる?」

一方「逃げる必要なンてねェな。オマエは弱点だらけだからな」

完全反射「……ふ~ン?」


“弱点”という言葉にも、完全反射の余裕な態度は崩れない。
彼女にしてみれば、攻防には意味がないのだし、大人しく話を聞いて時間を潰すだけ。
一方通行が自ら時間を潰してくれるのなら、それに乗るのは当然だろう。
だが、そんな完全反射の顔色が次の一言で豹変する。


一方「オマエ、物理現象しか反射できねェンだろ?」


“強度”、“範囲”、“種類”の3つが同時に完璧にできるということは、レベル5に認定されるということに等しい。
しかも、完全反射はそれを30分も維持できる。
もし、本当に一方通行と同レベルの反射をそこまで維持できるならば、レベル5に認定されてもおかしくない。
だが、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の演算結果では、クローンによるレベル5の製造は不可能とされている。
目の前のクローンもそれに漏れないはずだ。
それならばどういうことか?
簡単なことだ。
“強度”と“範囲”が完璧ならば、“種類”が未完成ということになる。
拳を受け止めたり、石を反射させたところを見ると固体の反射はできている。
となれば、おそらくだが気体、液体の反射も可能。
いや、それしかできないと言った方が正しいのかもしれない。
つまり、完全反射は爆弾1つ、あるいは、スタンガン程度のもので倒せるのだ。

757: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/14(火) 23:51:55.15 ID:VPvR/SCp0


一方「昨日の退却の理由は、番外個体の奴が来たからなンだろ?」

完全反射「……」


昨夜の明らかにおかしい退却のタイミング。
あれは、電気を反射できない完全反射が番外個体を視界に捉えたからだったのだ。
その問いに完全反射は答えない。
しかし、先ほどまでの余裕な態度は既に消え去り、動揺しているように見える。


完全反射「フフッ。それが本当だったとして、アナタにそンなことができるのかな?」

一方「あン?」

完全反射「アナタの目的は情報収集でしょ? そンな攻撃してきたら、私は間違いなく死ンじゃうよ?」


一方通行は電気を使える訳でもなく、炎を操つれる訳でもない。
その辺りは、適当に電線を引っこ抜けばいいかもしれないが、相手を戦闘不能にさせる程度にベクトルを分散させるのは意外と難しい。
戦闘中となれば、そんなことに演算をしながら戦える訳がない。
ほんのわずかな弾みで殺してしまうこともありえる。
かといって他に使えるものは、手元にある拳銃が1丁のみ。
完全反射相手には、まだ100円ライターの方が役に立つかもしれない。


完全反射「それを知ってたなら、最終信号(ラストオーダー)でも連れてくれば良かったのに」

一方「いやァ? ンな必要もねェよ」

完全反射「え?」


完全反射の勝利条件は、30分という時間を潰すこと。
対する一方通行は、殺さないように注意しつつ、戦闘不能にすることだ。
お互いに攻撃が届かないという状況の中、これだけのハンデがあって、なお、一方通行は笑みを浮かべている。
同じ能力を持っているとはいえ、完全反射はレベル4程度。
その程度の相手に、2度も不覚を取る訳がない。
彼女の目の前にいるのは、学園都市最強の超能力者なのだ。
1度した失敗は、2度と繰り返さないのが、第一位たる所以である。

758: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/14(火) 23:52:59.35 ID:VPvR/SCp0


完全反射「一体、どォするつもり?」

一方「簡単なことだ」


そう言い終わるか否かというタイミングで、一方通行は完全反射との距離を詰めるために足元のベクトルを操作した。
目に見えないようなもの凄いスピードで一気に後ろまで回りこむ。
昨夜と同じく、完全反射はまったく対応できていない。


完全反射「!!」


やっと反応したときには、一方通行は完全に完全反射の視界から消えていた。
一方通行がテレポートでもしたように見えたはずだ。
そんな完全反射に向かって、音速というスピードで移動した副産物である突風が吹きつける。
もっとも、反射を適応させているのでなんの影響もない。
では、一方通行の狙いは?


一方「これで終いだ」


完全反射の後ろまで回った一方通行は、ベクトル操作もしていない拳を振るった。
当然、反応できていない完全反射は避けることができない。
一方通行の拳は、背中の真ん中辺りに命中した。
いや、正確には当たっていない。
反射によって、攻撃は完全反射に触れる直前で静止している。
そして、お互いに接触することで反射の膜が相殺されていく。


完全反射「何をするつもりだったか知らないけど、残念だったね」


やっとのことで、後ろに回られたことに気づいた完全反射が、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
完全反射にダメージは通っていない。
だが、安心するのはまだ早い。
そんなのは一方通行も承知である。
ここまでは、ほぼ昨夜の再現。
違うのはここからだ。

759: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/14(火) 23:54:13.00 ID:VPvR/SCp0


完全反射「え?」


気がついたときには、完全反射は膝を地面についていた。
何をされた?
頭がクラクラする。
背中に触れられてはいるが、攻撃は完全に止めたはずだ。
では、なぜこんなことになっている?
分からない。


一方「オマエと俺で違うのは、攻撃に使う『ベクトル操作』のレベルだ」


背後から一方通行の声が聞こえる。
意識がもうろうとして、うまく聞き取れない。
自分は今何をされているのか分からないのが怖い。
一方通行は、そんな完全反射に構わずに続ける。


一方「反射の強度は俺と同じレベルだった。俺もオマエも、触れてる部分は完全に反射が消えちまってるからな」


そうだ。
それならば、ダメージがあるはずがない。
ただ、触るだけでここまでの状態になるはずが……、


完全反射「ま、まさか……」

一方「そォだ。オマエも俺のデータは見てンだろ?」


血流操作。
外からの攻撃ではなく、内的な攻撃。
一方通行は、触れただけで血流、生体電気などの操作が可能なのだ。
それによって、妹達の命を奪ったこともある。
それを応用して、貧血のような状態にしているという訳である。
しかし、今更気が付いたところでもう遅い。
完全反射は、もう振り向くことすらできなくなっていた。
それから数秒も触っていると、完全反射の意識が落ち、ドサッという音と共に地面に倒れこんだ。
一方通行の完勝である。

760: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/14(火) 23:55:12.17 ID:VPvR/SCp0


完全反射「んっ……」

一方「起きたか」


完全反射が目を覚ます。
一方通行は、缶コーヒーを飲んでいた。
おそらく、近くのコンビニで買ってきたのだろう。
どのくらい気絶していたのだろうか?


一方「まだ30分も経ってねェよ」


時刻は10時半。
戦闘が5分程度で終わってしまったため、20分くらい気絶していたことになる。
正直、一方通行は、あまりにあっさりとした決着に拍子抜けしていた。
血流操作への対策も練っていると思い、いろいろ考えてきたのだが、それも無為になった。
あまりにも舐められたものだ。


完全反射「あー、ああ。私の負けかぁー」

一方「さっさとオマエの知ってる情報を吐け。そォすりゃ痛めに遭わずに済む」


脅しつけるような言葉をちらつかせる。
未だに完全反射の目的が見えないため、若干焦っているのかもしれない。
だが、悪い芽を早めに潰しておくに越したことはない。


完全反射「私の知ってる情報って言ったって大したことは知らないよ?」


これ以上抵抗する気はないようだ。
だが、少々無抵抗すぎるのが気に掛かる。
念のため、チョーカーのスイッチに手をかけておくことにする。
これならすぐに能力が使える。
敵がコイツ1人とも限らない。

761: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/14(火) 23:56:46.54 ID:VPvR/SCp0


完全反射「まあ、もう気づいてると思うけど、昨日の戦闘は私のデータを取るためだったんだよね」

一方「それで?」

完全反射「お偉いさんは割と満足してたみたいだよ?」


それはそうだろう。
一方通行と拮抗できたというだけでもすばらしい成果だ。
戦闘自体は短い時間だったが、それだけの価値はあった。
だが、一方通行に目を付けられるというリスクを考えると、はたして釣り合っていると言えるだろうか?
それに、それだけが目的とも思えない。
あまりに裏がなさ過ぎる。


完全反射「まだ聞きたいことはある?」

一方「知ってることは全部話せって言わなかったか?」

完全反射「そうだったね」


昨日のことは分かった。
では、今日の戦闘の目的は?
まさか本当に、彼女を作った研究員が、一方通行に勝てると思って送り出した訳ではあるまい。
それは楽観視しすぎというものだ。


完全反射「今日の目的はねぇ、」


なぜ、ここまであっさり話す?
意図が読めない。
“今日の目的”ということは、昨日とは違う目的があるということだ。
では、昨日と今日で違うことはなんだ?
一方通行が完全反射に勝利したこと?
いや、そこじゃない。


完全反射「時間稼ぎっていうやつかな」


佐天涙子がここにはいない。

762: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/14(火) 23:57:22.10 ID:VPvR/SCp0


完全反射「実験のためにお姉様を捕獲するから一方通行を食い止めろ、って無茶言うよねぇ?」


思えば、完全反射が登場したのは、佐天から電話がかかってきたときだ。
あまりのタイミングの良さに違和感を持たなかったのか?
答えはイエス。
電話をかけてきた本人が目の前にいるという違和感の方が強烈だった。
より強い違和感に、小さい違和感が覆い隠されてしまった。


完全反射「お姉様がアナタに連絡しなければ、わざわざ戦う必要もなかったんだけどね」


電話をかけてきたのが30分前。
それだけあれば、痕跡を消して逃走するには十分な時間だ。
つまり、この20分をまったくの無駄に過ごしてしまった。
完全反射がぺらぺらと話しているのは、もう役目が終わったからなのだ。


一方「クソがァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


ゴンと音が出るほど強く、近くの壁に拳をたたきつける。
行き場のない絶叫が、むなしく人気のない道にこだました。
能力を使っていなかったため、拳には血が滲んでいる。
だが、そんなことはどうでもいい。
自分のせいで、佐天涙子は学園都市の闇に引きずり込まれ、連れ去られてしまったのだ。
誰かの手のひらの上で弄ばれたという屈辱よりも、そんな展開も考えていなかった自分に激怒していた。
しかし、今更悔やんでももう遅い。
“佐天涙子は連れ去られた”
それは揺るがしのない事実であった。


―――そしてこの3日後、一方通行は、佐天を発見すると同時に最悪の相手と戦うことになる。


                                    第三章『Overline(彼女の目的)』 完

836: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/22(水) 00:14:43.82 ID:D2eLkuFx0

佐天涙子が連れ去られてから3日後。
完全に日が落ち、周囲には誰も居なくなった道路の上に2人の人物が立っていた。


一方「よォ。ひさしぶりじゃねェか」


1人は一方通行。
学園都市が誇るレベル5の1人であり、最強の超能力者である少年。
能力を使用していれば、たとえ核戦争が始まろうとも傷1つ負うことがない。
8月31日に脳にダメージを負い、杖を突いてはいるが、それでもなお、彼は最強の超能力者として君臨していた。
その能力の副作用として変色した赤い瞳が、目の前の人物を捉える。
その人物は、50mほど離れたところに立っている。
見覚えのある少女がそこにいた。
少女は、自分を睨んでいる一方通行の姿に物怖じもしない。
―――佐天涙子。
連れ去られたはずの彼女が、一方通行の目の前に立っていた。


佐天「……」


佐天は何も言葉を発しない。
いや、発することができる状況にあるのか分からない。
意識はあるはずだが、一方通行の声も届いているのか怪しい。
なぜなら、佐天の頭には、見たことのないヘルメットのような機械が取り付けられているのだ。
顔で見えているのは鼻と口元のみ。
その機械の大きさは、佐天の頭を1回りか2回り大きく見せていた。
そんな歪な大きさのヘルメットは、中学生の少女には少々不釣合いと言える。
あれでは重すぎて、まともに重心をとることもできないだろう。


一方(ふざけやがって)


辺りはシンと静まりかえり、ピリピリとした空気が流れている。
再会を喜んでいるような甘い空気は微塵もない。
張り詰めるような緊張と、動物が逃げ去ってしまうような強い殺気だけがそこに渦巻いていた。

どうしてこんな状況になっているのだろうか?
―――時間は佐天が連れ去られた時点に戻る。

837: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/22(水) 00:15:13.50 ID:D2eLkuFx0

能力開発を受け始めてから6日目の午前10時半。
佐天涙子がさらわれた推定時刻から、20分近くが経っていた。


一方「チッ。出ねェか」


佐天に電話をかけてみたが、当然のように何の反応もない。
分かっていたことだが、苛立ちを隠しきれない。
携帯は既に、逆探知できないようにその辺の路上にでも転がっているか、破壊されているのだろう。


一方「アイツらは無事だろォな?」


さらわれたのが佐天1人だけという確証はないのだ。
もしかしたら、同じ場所にいる打ち止めたちまでさらわれている可能性もある。
いや、その可能性の方が高いかもしれない。
確認を取るため、急いでマンションの部屋の電話にかける。
1コール、2コール……。
なかなか出ない。
やはり、こちらもターゲットにされていたのだろうか?
そんな不安な気持ちが膨れるが、ガチャリという音と共に、


打ち止め『もしもーし、ってミサカはミサカは元気に電話に出てみたりー!!』


という気の抜けるような声が受話器を通して耳に届いた。
打ち止めが無事に電話に出るということは、佐天は外に出たのだろうか?
とにかく無事が確認できただけでも十分だ。


一方「大丈夫そォだな」

打ち止め『あれ? どうかしたの?』

一方「佐天はいるか?」

打ち止め『サテンお姉ちゃん? そういえば、家の周りを見てくるーって言ってから帰ってきてないかも、ってミサカはミサカはちょっと心配になってたり』


これで、佐天が連れ去られたということはほぼ確定だ。
これからはそういう前提で行動を取らなければならない。

838: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/22(水) 00:16:02.03 ID:D2eLkuFx0


一方(かといって、打ち止めがまだ狙われている可能性も捨てきれねェ)


電話を切った一方通行は、これからの行動の指針を立てようとしていた。
狙われている可能性があるといっても、一方通行に佐天のことがバレた時点で無事なら、可能性は相当低い。
それとも、さらにその裏をかかれていることもありえるだろうか?


一方(いや、それはねェな)


打ち止めを狙っているならば、難易度や重要度から言っても、先にそちらから取り掛かるはずだ。
番外個体という明確な戦力が存在する分、どう考えてもそちらの方が時間がかかるだろう。
つまり、相手の目的は佐天涙子のみ。
となれば、


一方(優先すべきは打ち止めたちとの合流じゃねェ。佐天の救出だ)


万が一の事態には、ミサカネットワークで連絡するようさきほどの電話で伝えた。
緊急連絡の方法を、一方通行の演算の一時停止という強引な方法にした訳だが、それなら要件は確実に伝わる。
番外個体が応戦している間に、黄泉川のマンションまで戻ればいい訳だ。
ディフェンスに徹すれば、最低でも5分やそこらは持つはずである。
時速800kmで飛んでいけば、黄泉川のマンションから、半径40km圏内が行動範囲になる。
つまり、学園都市中を探せるということになる。


一方(これで足元は固めた。後はオフェンスなンだが……)


方針が決まったのはいいが、佐天を探す手がかりがまったくない。
電話の逆探知は不可能だろうし、どこへ行くかを明確に伝えていた訳でもないらしい。
連れ去られた現場が、マンションの近くという可能性は高いがそれも絶対ではない。
では、佐天涙子を見つけ出す手がかりはまったくないのだろうか?
……1つだけある。
完全反射だ。

839: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/22(水) 00:17:15.10 ID:D2eLkuFx0


一方通行「質問の続きだ。知ってることを全部話せ」

完全反射「んー? 別にいいよん」


完全に放置していたため拗ねているかとも思ったが、どうやらその辺りを根に持つタイプではないらしい。
妹達とは思考回路が少々違うようだ。
それとも、これも作戦の内なのだろうか?


一方(情報の取捨選択は自分でやりゃいい。今は、こいつから少しでも情報を得ることが重要だ)

完全反射「まず、何から話そうかな?」

一方「佐天の行方は知ってンのか?」

完全反射「ううん。知らないよ」


これは想定内。
足止めに本拠地の場所を知らせておくバカはいない。
まして、その足止めの相手が一方通行ではなおさらだ。


一方「オマエを作ったやつの名前は?」

完全反射「それは禁則事項なんだよね」

一方「なンだと?」

完全反射「その人の最後の命令(ラストオーダー)ってやつかな? それ以外は好きにしろってさ」


番外個体のときのように、シートやセレクターなどで行動を縛られているのだろうか?
あるいは、ウソをついているか。


完全反射「ま、そんなところだよ。そもそも、私だって好きでこんな作戦に手を貸してる訳じゃないし」


好きで手を貸している訳ではない?
どういうことだろうか?

840: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/22(水) 00:18:21.83 ID:D2eLkuFx0


完全反射「なんか、お姉様と私って気が合うと思うんだよね」


勘だけど、と完全反射が付け加える。
たしかに、佐天のクローンだけあって人見知りせず、ノリのいいところが多々あるように見受けられる。
佐天も自身のクローンに対して忌避を抱くどころか、友好関係を築けそうな性格をしているかもしれない。
多少、慣れるまでに時間はかかるかもしれないが。


完全反射「でも、クローンの意見なんて上の連中は聞いてくれないしね」


クローンを人形だとすら思っている連中が、そんなことをするはずがない。
彼らの思考では、クローンは『物』であり、消費するだけの『モルモット』。
クローン1体を処分するのに、何の気持ちも抱かない。
そこの研究者たちは、皆、例外なく狂っている。
それは自分が一番良く知っている。
なぜなら、自分がそういう立場だったからだ。
―――話を戻そう。
今は、完全反射の身の上話よりも、佐天の情報が欲しいのだ。
場所が分からなければ、目的を聞き出すのがいいだろう。


一方「なぜ佐天をさらった」


想像は多少つく。
おそらく、オリジナルとクローンとでどこが違うのかを比較するためだろう。
体細胞が劣化してしまうクローンでも、そこそこの強い能力を使用することができる。
だが、レベル5という超能力者を製造することは叶わない。
それはなぜか?
その答えがオリジナルの中に眠っていると考えても、何もおかしいことはない。
妹達の実験では、オリジナルとクローンの差異を発見することは不可能だった。
というのも、第三位の御坂美琴は、オリジナルとして力を持ちすぎていたからだ。
しかも、本人には秘密裏に計画を進められており、危険を冒してまでそのようなことをする必要性なかった。
そんなことをせずとも、一方通行という超能力者を絶対能力者(レベル6)にすることが可能だったからだ。
だが、今回は違う。
クローン推進派は後がない。
だから、樹形図の設計者が出した予測演算結果を無視してでも、事を起こす必要があった。
そのために、未だ力を付けきっていない佐天涙子を拉致した、というのが一方通行の推測だ。

841: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/22(水) 00:19:09.54 ID:D2eLkuFx0

―――だが、その推測はまったくのハズレだった。



完全反射「お姉様をさらったのは、人為的にレベル5を作れるかどうかを検証するためだよ」



一方「なン……だと……?」


クローンを使ってのレベル5ではなく、オリジナルを使ってのレベル5の製造。
確かに、その方法でレベル5が生まれないという演算結果は出ていない。
だが、実際に可能なのだろうか?
いや、それ以前に……


一方「それなら、なンでオマエが作られた」

完全反射「私?」


元々、オリジナルでレベル5を作ろうということになったら、クローンを作る必要などない。
一方通行の能力ならデータも豊富にあり、それを流用するためにも、同じ能力を持った佐天に焦点を当てるのは分かる。
では、なぜ『完全反射』というクローンは作られたのか?


完全反射「最初は、私で実験するつもりだったらしいんだよ」


クローンを後天的に調整することによってレベル5を作る。
それが、当初の目的だったらしい。


完全反射「それに見合うだけの方法も見つけたんだけど、それを実行しても意味がなかったんだってさ」

一方「どォいう意味だ」

完全反射「細胞の劣化だよ」


クローンの致命的な欠陥。
細胞の劣化に問題があったのだ。

842: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/22(水) 00:20:14.23 ID:D2eLkuFx0

この場合の後天的方法というのは、主に学習装置(テスタメント)を中心とした能力開発である。
能力開発といっても、人格は完全に失われ、代わりに新しい人格が埋め込まれるのだから、実行されることはほとんどなかった。
クローンを除いては。
クローンは、数時間という短い時間で、10代にまで体を成長させる。
そのため、脳に情報を埋め込む作業をしなければ、使い物にならない。
その脳に埋め込む情報を調整し、能力を最大に発揮できるようにするのが、完全反射の能力の強さの由来だろう。


完全反射「でも、今回の方法はそれとは違うんだよね」

一方「学習装置じゃねェだと?」

完全反射「そ。今回は、外部装置を使った演算補助、並びに自分だけの現実(パーソナルリアリティ)の強化をすることにしたんだってさ」


外部装置をつかった演算補助と言われても、ピンと来ない人もいるかもしれない。
だが、ここ学園都市ではそういった技術も開発されている。
例えば、HsSSV-01『ドラゴンライダー』。
最高速度1050キロという怪物のようなスピードを出すことのできる軍用バイクのことだ。
このドラゴンライダーは、駆動鎧(パワードスーツ)と連動して搭乗することが絶対条件となる。
時速1050キロという世界では、目の前の障害物に対し反応できる人間などいない。
そこで、コンピュータによって知識や技術の補正をかけるのだ。
電気的な刺激や脳の温度分布などを利用して人間と機械を繋げる『仕組み』を備え、時速1050キロという世界に人間を適応させる。
それを、能力に対して使用するということなのだろう。


完全反射「でも、学習装置で書き込んだ内容と、外部装置の知識が拒絶反応を示すって結果が出ちゃったんだよね」


無理に詰め込んだ知識を、さらに外から押し込もうということだ。
頭がパンクしない方がおかしい。
それに、脳細胞が劣化していることも関係があるのだそうだ。
オリジナルならば、学習装置を使う必要がないので、そこまでの拒絶反応は出ないだろうということらしい。


一方「無理だな」


だが、その方法にも問題はあった。

843: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/22(水) 00:21:13.57 ID:D2eLkuFx0


一方「そンなことができりゃ最初からやってンだろォが」


能力を使うということは、バイクの運転を補助するのとは訳が違う。
能力というのは、人間だけが使えるものなのだ。
『自分だけの現実』を構築するのは人間であり、どんなに演算能力を追加しても、本人以上の力は発揮できないはずだ。
なぜなら、機械に『自分だけの現実』を補助することは、今のところ不可能なのだから。
多少、処理速度は上昇するかもしれないが、その程度が関の山だろう。
それが外部補助装置の限界だと言われている。
だが、そんなことは完全反射も承知の上だった。


完全反射「その限界を超える可能性があるとしたら?」


限界を超える?
つまり、自分だけの現実の補強もできるということだろう。
だが、それは人間と機械の境界をなくそうと言っているようなものだ。
あまりにも現実的ではない。


一方「『自分だけの現実』を補強するマシンを開発しましたってかァ?」

完全反射「ううん。そんなことできる訳ないじゃん」


イマイチ、要領を得ない。
今まで言っていたことが全て空想だと言っているようなものなのだ。
何のためにこんな話を……


完全反射「だって、元からあった機械だもん」

一方「ハァ!?」


開発したのではなく、手に入れた。
どこのバカが作ったか知らないが、そんなものが世に出回ってしまえば、どんな混乱が起こったものか想像ができない。
能力者を恨んでいるスキルアウトは星の数ほどいるのだ。
そのような連中だけでも、目も当てられない事態へとなってしまう。

844: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/22(水) 00:23:45.07 ID:D2eLkuFx0


完全反射「ま、量産の心配はないけどね」

一方「あ?」


うすうす気づいていたが、完全反射はまだ知っていることを全部言ってはいない。
おそらく、そのマシンの詳細なデータも知っているのだろう。
そうでなければ、そこまで断言できる説明が付かない。


一方「そのマシンのデータは?」

完全反射「あれぇ? まだ気が付かないの?」

一方「……?」


自分だけの現実を補強できる機械などに心当たりなどない。
そんなものに頼る必要もなかったし、これからも必要ないだろう。
ミサカネットワークさえあれば、それ以上の補助は邪魔なだけだ。
そもそも、どうやって自分だけの現実を補強するつもりなのだろうか?


一方「待てよ……」


ミサカネットワークでは、自分の実力以上の力は出せない。
それは、あくまで演算の補助であり、自分だけの現実の補強を受けている訳ではないからだ。
では、その自分だけの現実に対して、常に最適化を図れるマシンならばどうだろうか?
自分だけの現実を作る“サポート”をするだけなら可能だろう。
時間はどれだけかかるか分かったものではないが。
いや、短時間で可能なマシンを1つだけ知っている。


完全反射「そのマシンの名前は『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』。アナタが壊したので全部だと思ってた?」


つまり、次の敵は佐天涙子自身。
果たして、本人を敵に回して、佐天を救うことなどできるのだろうか?

―――学園都市最高の『人間』と『機械』の対決はこの3日後のことであった。

894: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/27(月) 19:05:56.43 ID:lczi4xxw0


一方「樹形図の設計者だと……?」


8月31日。
夏休み最後の日に、結標淡希は『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の残骸(レムナント)をめぐる一連の事件を起こした。
その結果はご存知の通りだ。
一方通行が、残骸を派手に破壊した。
しかし、残骸はあれ1つではなかったという。


完全反射「アナタも知っての通り、『樹形図の設計者』ってのは超高度並列演算器なんだよ」


直列演算ではなく、並列演算。
それは妹達によるミサカネットワークと同じく、核となる部分が存在しないことを意味する。
つまり、どこか一部分だけでも機能する。
おそらく、並列に繋ぐ数が少ない分、本来の力の100分の1も出せないとは思うが、それでも驚異的なスペックを誇るマシンであることには変わりない。
そんな怪物じみた機械と佐天をリンクさせたら、心身共にどうなってしまうか想像もつかない。


完全反射「リンクに使われるソフトは、レベルアッパーってシロモノの改造品だって話もあるよ」

一方(レベルアッパー……?)


一方通行が知らないのも無理はない。
低レベルの能力者たちに流行したのだが、御坂美琴を除いたレベル5にはまったく無縁のものであった。
レベルアッパーとは、木山春美によって作成された他人の演算を代用して自分の演算能力を向上させる音楽ソフト。
結果的には、使用した人間が無理やり脳波を乱されることにより、昏睡状態に陥ってしまうという欠陥品だった。
だが、今回の場合はそうなる恐れはない。


一方「なるほど。残骸の方を佐天の脳波に同調させる訳か」

完全反射「そういうこと。お姉様はレベルアッパーを使ったことがあるらしいから、どんな副作用がでるか分からないけどね」


佐天涙子はレベルアッパーを使用したらしい。
それも、風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)が追っているということを知りながら。
あまり褒められたことではないが、自分に佐天を責める資格がないことは自覚していた。
彼もまた、レベルを上げるために『完全能力進化実験』という狂った実験に手を貸していたのだから。

895: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/27(月) 19:07:08.21 ID:lczi4xxw0


一方「クソが」


胸糞が悪い。
自分の過去を掘り返されたような気分だ。
今回の件は、手際の良さからいって暗部の仕業という可能性が高い。
ロシアでの功績によって暗部という組織は解体させたはずである。
現に、土御門元春、結標淡希、海原光貴といった連中は解放された。
それとも、解放されたのは自分を含めた4人だけだったのだろうか?


一方「チッ」


これ以上ここで考えていても仕方がない。
だんだん人通りも多くなってきた。
手がかりが得られない以上、一度戻って作戦を立て直すべきだろう。


一方「オマエはこれからどォすンだ?」

完全反射「私?」

一方「研究所に帰ンなら、引き止めねェよ」


その場所に佐天はいないとは思うが、後をつけて情報を得るチャンスはあるかもしれない。
ついでに、完全反射を製造した責任者とやらに挨拶しに行かねばなるまい。
少々派手な挨拶になってしまうかもしれないが、それは御愛嬌。
最悪なのは、研究所に戻らずウロウロされることだ。
足止めの際に死亡する前提だったのなら、その可能性も捨てきれない。
―――だが、そんな心配は無用だった。


完全反射「研究所になんて帰る訳ないじゃん」

一方「そォかい。じゃあ―――」

完全反射「だって、これからアナタのところにお世話になる訳だし」


オイ……。
今、なンて言った?

896: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/27(月) 19:08:15.93 ID:lczi4xxw0


一方「そりゃどォいう冗談だ?」

完全反射「冗談なんかじゃないよ~? 至ってマジメ」


顔がなにやらにやけている。
どう考えても、まじめに言っているとは思えない。
そんな表情のまま、完全反射が続ける。


完全反射「今回の作戦で、私はお役御免って言ったよね?」

一方「オイ……」

完全反射「アナタのいるところって、そういうクローンの溜まり場なんでしょ?」


あながち否定できない。
打ち止めも番外個体も似たようなものかもしれない。
できれば、目の付くところに置こうとは思っていたが、まさか家までついてくるとは予想していなかった。
なにしろ、つい1時間ほど前まで戦っていたのだ。
なんとも早い手の返しっぷりである。


完全反射「それに、私がいないとお姉様の情報はこれ以上入ってこないよ~?」

一方「まだ言ってねェことがあンのか」

完全反射「そういうこと♪」


どうやら本気でついてくるつもりらしい。
かといって、このまま突き放すこともできない。
佐天の情報は1つでも多く欲しいところだ。
それに、このまま放置しておいたら、彼女が殺される可能性もある。
もし、本当に暗部の人間が動いているならば、情報が洩れるかもしれないモルモットを放って置く訳がない。
完全反射はスタンガン程度で倒せるのだ。
多少のベクトル操作ができるとはいえ、手間は掛からないだろう。
なんとも面倒くさいことになってしまった、とため息をつくしかなかった。

897: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/27(月) 19:09:53.81 ID:lczi4xxw0


完全反射「こんにっちはー!!」

一方(うるせェ……)


時刻は午前11時。
結局、一方通行は完全反射を連れて黄泉川のマンションまで帰宅することにした。
クローンの性格はオリジナルと異なるはずだが、どうやら完全反射は佐天に近い感じがする。
佐天がさらわれたというのに、あまりそんな気がしないのはそのせいだろう。
あるいは、それが狙いなのだろうか?
いや、それは考えすぎだろう。
そうだとしたら、あまりにも堂々としすぎている。
などと一方通行が思考を巡らせていると、


打ち止め「おっかえりー、ってミサカはミサカは元気良く出迎えてみたりー」


奥の方からばたばたと打ち止めが駆け寄ってきた。
……?
いつもなら打ち止めの後ろから番外個体がついてくるのだが、今日は見当たらない。
まだ体調が悪いのだろうか?
打ち止めは、完全反射を佐天と勘違いしているようだ。
それも無理もない。
なにしろ細胞レベルで同一である上に、性格まで近いのだ。
佐天の友人ですら、話をしても見分けが付かない可能性もある。


完全反射「初めまして、最終信号(ラストオーダー)。私は、完全反射(フルコーティング)って言うの。よろしくね~」

打ち止め「ほぇ?」

完全反射「佐天涙子のクローンって言えば分かるかな? まあ、アナタの腹違いの妹って感じだね」

打ち止め「???」


どういうこと? という視線を一方通行に送る打ち止め。
どう説明するべきか悩ましいところである。

898: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/27(月) 19:11:40.54 ID:lczi4xxw0

説明を終えると、時刻は午後1時を過ぎていた。
3人で昼食をとると、打ち止めは部屋に戻っていった。
各妹達に指示を出すためだ。
学園都市内部の妹達も、佐天の捜索に協力してくれることになったのだ。
気休め程度にしかならないかもしれないが、ないよりはマシなはずだ。
そうして現在、リビングには一方通行と完全反射の2人だけが残っていた。


一方「それで、オマエは他に何を知ってンだ?」

完全反射「んーと、お姉様に使われることになってる機械の大まかな構造かな」


さすがに、樹形図の設計者をそのまま頭に埋め込む訳にもいかない。
人間の脳とのリンクを図るために、様々な補助装置をつけなければならないのだろう。
しかし、どうやらあまり詳しく知っている訳ではないようだ。


完全反射「知ってるのは、頭に被るタイプで、2重構造になってるってことだけ」

一方「2重構造?」

完全反射「外殻に『樹形図の設計者』である補助演算器が搭載されてて、その内部に催眠誘導装置が使われてるってことらしいよ」


催眠誘導装置とは、分かりやすくいえば洗脳装置のことだ。
佐天涙子をコントロールするために搭載された機能なのだろう。
ただレベル5を作っただけでは、一方通行のように意に沿わない場合に処理に困る。
ならば、最初から操り人形にしてしまえばいい。


完全反射「それにも穴がない訳じゃないけどね」


あくまで誘導するだけなので、本人に強い意志があれば拒絶も可能らしい。
つまり、佐天が心の奥底から一方通行との戦闘を拒めば、戦闘は回避できる。
だが、そううまくはいかない。
誘拐される直前に佐天の心の中に渦巻いていたのは、一方通行に対する『疑念』や『嫌悪』。
黒幕は、戦闘を回避されないように、完全反射に一方通行の過去を佐天涙子に話させたのだ。
佐天涙子がどの程度レベル5に近づいたのかを一方通行で確認するために。

899: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/27(月) 19:12:54.93 ID:lczi4xxw0


完全反射「ま、他にもいろいろ理由があるらしいんだけどね」

一方「他にだと?」


おそらく、今まで『樹形図の設計者』を利用してレベル5を作らなかったのは、費用対効果が原因である可能性が高い。
能力者1人だけのために、スーパーコンピュータを使うのはもったいない。
しかし、バラバラに砕け散った今では状況は変わってくる。
むしろ、廃材を有効活用した方が利に適っている。
それをうまく使えるかどうかは未知数ではあるが。
だが、目的はそれだけではないと言う。


完全反射「いや、よくは分からないんだけど、ナントカっていうレベル0への対策も兼ねてるとか」

一方「レベル0?」


一方通行の頭に真っ先に浮かんだのは、絶対能力進化実験を止め、ロシアでも自分の前に立ちはだかったツンツン髪の男だった。
能力を打ち消す能力者。
過去に2度ほど戦い、負けている相手。
あの男への対策に、樹形図の設計者を利用して意味があるのか?
いくら強い能力者を作ったところで、あの右手の前では無意味だ。
いや、そもそも対策うんぬんの前に、ロシアから帰還しているのだろうか?
あの戦いに巻き込まれて生きて帰っているという保障はどこにもない。


完全反射「何て言ったっけな……。あの金髪……」

一方(金髪?)


上条当麻は黒髪であり、最後に見たときも金髪などではなかった。
つまり、完全反射の指しているレベル0とは違う人物ということになる。
では、誰のことか?


完全反射「とにかく、素養格付(パラメータリスト)ってのを過去のものにするんだってさ」


アイテム構成員のレベル0、浜面仕上。
アレイスターのプランにはない、イレギュラーへの対応策であった。

900: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/27(月) 19:15:27.39 ID:lczi4xxw0

素養格付(パラメータリスト)。
それは、全ての学生を絶望と無気力のどん底に突き落とすことになるであろうファイルのことである。
その中には、将来どの程度の能力者になれるかというデータが全学生の分記載されている。
つまり、能力は元々生まれ持った才能でどのくらい成長するかが決まっていることになっているのだ。
そんなことが学園都市中に知れ渡れば、どうなることか分かったものではない。
第三次世界大戦のおり、浜面仕上はこのデータを入手し、学園都市との交渉を行っていた。
そんな危険なファイルを無意味なものにするのが、今回の目的の1つであるという。
というのも、佐天涙子には元々レベル5になれるなどという才能は持ち合わせていなかった。
せいぜいレベル4が限界。
それも、200年というカリキュラムを組み込んで初めて可能な水準である。
とてもではないが、現実的とはいえない。
だが、そんな彼女が、外部の力を借りるとはいえ、レベル5としての力を行使したら?
答えは簡単だ。
素養格付などというものは意味のないものになる。
それは、将来足がどの程度早くなるかということを記したようなものに過ぎない。
自分の限界が見えたならば、それを外部に任せればいいのである。
世界一早いマラソンランナーでも、自動車には勝てない。
量産に問題はあるだろうが、実績さえあればいくらでも時間は引き延ばせるだろう。


完全反射「―――ってところかな」

一方「…………」


そんなファイルの存在は知らなかったが、学園都市ならばそのくらいはやってもおかしくはない。
あるいは、自分も能力を持つ以前から目を付けられていたのかもしれない。
最強の超能力者になれるという未来を確信して。


完全反射「他にもいくつか理由があるって話だけど、これ以上は聞かされてないよん」

一方「そォか」


つまり、様々な思惑が重なり合い、その中心にいたのが佐天涙子であったという話なのだ。
こうしてみると、自分と同じ能力だというも、その理由の1つに過ぎないのかもしれない。
これだけの条件がそろえば、一方通行に捕捉されるリスクも承知で佐天を連れ去りもする。
そして、それはまんまと成功せしめたのだ。

901: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/27(月) 19:16:07.57 ID:lczi4xxw0


一方「これだけ話すってことは、オマエはこれ以上この実験に協力する気はねェンだな?」

完全反射「だから、最初からそう言ってるじゃん。元々乗り気じゃなかった、ってさ」


どこまでが、完全反射に意図的に与えられた情報なのかは分からない。
だが、これ以上あちら側に肩入れするつもりもないようだ。
信じきる訳ではないが、警戒のレベルを下げてもいいかもしれない。


完全反射「それで、これからどうするの?」

一方「とりあえず、オマエのいた研究所にいってみるか。何も残っちゃいねェとは思うがな」

完全反射「オッケー。あ。でも、私はお姉様とは戦えないからね」


まだついてくるつもりらしい。
最悪の場合、次に佐天と会うときは、自分と同等の力を持って登場するかもしれない。
それがうまくいくかは分からないが、完全反射にレベル5の相手は厳しいだろう。
となれば、相手をできるのは一方通行だけとなる。


一方「ハッ! オマエはここにいてもいいンだぞ?」


そう言うと、杖をついてソファーから立ち上がった。
多少使ったとはいえ、バッテリーの残量も十分ある。


完全反射「ねえ、なんでアナタはそこまでするの? ここまで面倒見がいいってデータは私にはなかったんだけど」

一方「さァな。俺にも分かンねェよ」

完全反射「ふぅん?」

一方「だが、やられっぱなしってのは性に合わねェ」


軽く笑いながらそう言うと、マンションのドアノブに手をかけた。
まずは、完全反射のいた研究所からだ。
馬鹿げた実験が済む前に、さっさと助け出すとしよう。

903: SSS ◆KtxQQEeKzw 2011/06/27(月) 19:17:33.87 ID:lczi4xxw0
※オマケ(完全反射のスペック)
●個体名:完全反射
●能力名:ベクトル操作Lv4
●能力詳細
・反射
個体名の通り、全身に反射を使用することができる。
反射強度も一方通行並み。
ただし、反射できるのは物理現象のみで、熱や光、音、電気などは反射不可能。
・ベクトル操作
自分で発生させた運動エネルギーだけ操作可能。
よって、風操作などは不可能。
●その他詳細
オリジナルよりスレンダーな体型。
性格は、佐天と番外個体を8:2でブレンドしたような感じ。

引用元: 佐天「ベクトルを操る能力?」