電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです 前編

574: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/15(土) 13:24:17.32 ID:3eGwpJUT0
えーすみません。本編とは何の関係もありませんが、気分転換を兼ねたCMを流させてください。

575: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/15(土) 13:25:49.11 ID:3eGwpJUT0
「最強の艦娘は誰だれなのか?」

艦娘格闘界において最高峰と呼ばれる格闘団体「UKF(Ultimate 艦娘 Fighters)」

そのUKFによって行われた「第一回無差別級最強トーナメント」により、すでに世界はその答えを得た。

絶対王者による無敗神話。今や「最強」の名は彼女のためにあり、そこに疑問を抱く余地などないように思われたた。

しかし、それに異を唱える艦娘たちがいた。

「我こそ最強」

己の最強を証明するため、選び抜かれた艦娘ファイター16名が再び戦場に集う!

576: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/15(土) 13:27:30.12 ID:3eGwpJUT0
天地を喰らう立ち技王者”緋色の暴君”赤城

汚名返上に燃えるパワーファイター”破壊王”武蔵

華麗さと勇猛さを併せ持つ美しき餓狼”不退転の戦乙女”足柄

伝説と呼ばれる不屈の闘士”不沈艦”扶桑

戦艦クラスの眼光と実力”猛毒の雷撃手”不知火

正体不明のジャーマンファイター”ベルリンの人喰い鬼”ビスマルク

最強に最も近い無冠の帝王”死の天使”大和

敗北を知らぬUKF絶対王者”ザ・グレイテスト・ワン”長門

他8名(決定済み)

2015年9月トーナメント開幕!

577: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/15(土) 13:29:05.41 ID:3eGwpJUT0
実況は明石、解説は大淀によりお送りいたします。

578: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/15(土) 13:34:39.67 ID:3eGwpJUT0
以上です。すみませんでした。

594: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:41:20.17 ID:bTXmgCIO0
おまたせしました、投稿します。

電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです7 地獄の鎮守府 前編

595: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:41:48.90 ID:bTXmgCIO0
提督「えーということで……伊勢は今日付けでハッピーラッキー艦隊から除隊されることになった」

ドックにて、他のハッピーラッキー艦隊メンバー5名にそう通達する提督さんの顔つきは、先日と比べてややげっそりしています。

まあ憔悴もするでしょう。間宮アイスを扶桑さんたちに届けたと思ったら、数時間後に艦隊メンバー3人がドック入りしたのですから。

ちなみに損傷の程度は扶桑さんが中破、赤城さんが小破、伊勢さんが大破です。戦艦、正規空母の修理でまた資源が吹っ飛びました。

奇跡だったのは、隼鷹さんたちが力尽きた赤城さんと伊勢さんを回収したとき、伊勢さんが大破で済んでいたことです。

血まみれではありましたが、少なくとも原型は留めていたそうです。内蔵ははみ出ていたとのことですが。

激昂した赤城さんに追い詰められたのなら、頭から丸呑みされてもおかしくはないというのに。まさに奇跡です。

すでに体力が尽きていたのもあると思いますが、さすがの赤城さんも気味が悪くて食欲が失せたんじゃないでしょうか。

596: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:42:16.42 ID:bTXmgCIO0
入渠を終えた伊勢さんは更に「いない姉妹艦を呼び続ける病」が進行し、視界で動くもの全てを日向さんだと認識するようになりました。

伊勢「あーもう日向ったらどこ行ってたの? あ、ちょっと逃げないでよ! 待ってったら! もう、追いかけっこのつもり?」

そんなうわ言を言いながら、病棟内でおびえる妖精さんを追いかけ回す始末です。

もう任務どころか日常生活に支障を来すレベルなので、伊勢さんは日向さんが着任するその日まで入院することとなりました。

扶桑「除隊はわかりましたが、補充要員の方はいらっしゃるのですか? もしかして大和さん?」

提督「いや、それは考えたんだが無理だ。あの消費資源を考えると、やはり主力艦隊では運用できない」

隼鷹「じゃあ誰? あたしは久しぶりに足柄と一緒に戦いたいなあ~」

提督「残念だが、新入りだ。つい最近、新たな戦艦の建造に成功してな」

山城「新たな戦艦……!?」

597: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:42:50.14 ID:bTXmgCIO0
そう、大和さんを除けば実に2ヶ月ぶりの戦艦です。最近はそんなに建造をしてないのにです。

デイリー建造をしてたらあっさり出たあたり、望むものに幸運は訪れないというマーフィーの法則を思い起こされます。

扶桑「へ……へえ。戦艦ですか。頼もしい方だといいですね」

戦艦と聞き、山城さん、それに扶桑さんが警戒心を露わにします。

未だ2人にとって、他の戦艦は自分たちの地位を脅かしかねない存在であるという意識が強いのです。

赤城「久しぶりの新しい仲間ですね。一体どなたなんですか?」

金剛「提督ぅ! 早く紹介してほしいネ♡ 私すっごく気になるデ~ス♡」

金剛さんが聞いてて少しイラっとするピンク色の声で提督さんに媚びます。提督さんはいつもの通り反応はありません。

598: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:43:24.69 ID:bTXmgCIO0
提督「では紹介しよう。電、連れてきてくれ」

電「はいなのです」

ずいぶん長いことメンバーに変化のなかったハッピーラッキー艦隊ですが、とうとう伊勢さんが外れ、新しい戦艦さんがやってきます。

初めてその戦艦さんを見たとき、私はどちらか1つだと思いました。皆さんと上手いことやってくれるか、大きな波乱をもたらすかのどちらかです。

彼女はピンと背筋を伸ばし、メガネの位置を直しながら、その理知的な眼差しで艦隊メンバーを見渡しました。

霧島「皆さん、はじめまして。今日から艦隊に配属されました、金剛型四番艦、霧島です。どうぞよろしくお願いします」

金剛「Yeah! 待ってたネ霧島ー! お前が姉妹艦の中では一番乗りネー!」

霧島「やだ、金剛姉さんったら。そんなに抱きつかないでくださいよ」

ハッピーラッキー艦隊、伊勢さんに代わる戦艦とは霧島さんです。

噂通りの知的な方で、礼儀正しく容姿端麗、目端の利く頭脳派の戦艦さんです。

頭脳派の艦娘というのは、この鎮守府に今までいなかったタイプです。赤城さんがある種の頭脳派ではありますが。

599: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:44:25.36 ID:bTXmgCIO0
提督「この艦隊の旗艦は扶桑だ。俺が不在のときは基本的に彼女の指示に従うように」

霧島「了解です。扶桑さん、まだ着任したばかりで未熟な身ですが、どうかお手柔らかに」

扶桑「え、ええ……よろしく」

金剛「扶桑、霧島には優しくネ~! 私の大事な妹デース♡」

扶桑「ああ、はいはい……」

えーこれは別に、前回のトーナメントの件で友情が芽生えたとかそういうアレではありません。

単に提督さんの前なのでカワイイアピールをしているだけに過ぎませんので、はい。

提督「本来なら早速演習に行きたいところだが、先日の急な修理で資源を大きく消費したため、本日の出撃は休みとする」

提督「よって今日は解散だ。電、霧島に鎮守府の中を案内してやれ」

電「了解なのです」

金剛「私もついていくネ! 霧島、Let’s goデース!」

霧島「ふふ。姉さん、そんなにはしゃがないでください。恥ずかしいじゃないですか」

600: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:44:55.43 ID:bTXmgCIO0
山城「……お姉さま」

扶桑「ええ、山城。わかってるわ……」

和気あいあいと話している金剛さん、霧島さんを横目に見ながら、なにやら扶桑さんと山城さんが不穏な内緒話をしています。

霧島さんの着任が艦隊内に少なからず波紋を呼ぶのは、当初から目に見えていました。

対立する扶桑さんと金剛さんですが、扶桑さんに山城さんという味方がいるのに対し、金剛さんは今まで1人でした。

霧島さんという心強い味方を得た金剛さんが、どんな行動を起こすのか。今から不安でたまりません。

赤城「今日は解散ですか。それじゃ、私はもう部屋で寝ることにします。皆さん、おやすみなさい」

霧島さんにあまり興味がないのでしょう、赤城さんは足早にドックを後にしようとします。

赤城さんが私のそばを通り過ぎるそのとき、ぞっとするほど感情のない声が私にささやきました。

赤城「今のところは生かしてあげましょう。長生きをしたいなら、下手な動きはしないことです」

電「……そうですか」

それだけ私に告げて、赤城さんは何食わぬ顔で立ち去りました。

601: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:45:28.06 ID:bTXmgCIO0
当たり前のことですが、間宮アイスが扶桑さんの手に渡らなかったことを、すでに提督さんは知っています。

しかし、その原因は「いない姉妹艦を呼び続ける病」による異常行動を起こした伊勢さんにある、ということになっています。

あの間宮アイス争奪戦トーナメントですが、竹刀勝負に終始していれば言い訳が立つものの、実際には修理が必要なほどの殴り合いに発展しています。

よく考えれば、それは明らかな私闘です。しかも結果として無駄な資源消費を招いているとなれば、関係者が処罰されるのは当然の流れでしょう。

扶桑さんたちの入渠を終えたときに私たちはその事実に気付き、なんとか辻褄の合う言い訳を考えなくてはいけませんでした。

幸い、というのも酷い話ですが、伊勢さんはまともな会話ができない状態になっています。

そこで私たちは、事態に気付いた提督さんにことの有り様を説明するにあたって、伊勢さんをスケープゴートにすることを選びました。

602: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:46:02.28 ID:bTXmgCIO0
提督『一体何があった!? なんで扶桑、赤城、伊勢が揃って入渠なんて事態になってるんだ!』

山城『じ、実はですね提督! お姉さまが間宮アイスを受け取った後、伊勢さんが艤装を装備して襲いかかってきたんです!』

提督『はあ!?』

金剛『そ、そうデース! どうやら間宮アイスを奪おうとしたみたいデース!』

提督『どんな食い意地だよ!?』

電『それでその、扶桑さんは砲撃をまともに食らって中破してしまいました』

提督『じゃあ赤城は? 漁夫の利でアイスを奪おうとでもしたのか?』

隼鷹『えっと、そうじゃないかな? 伊勢が間宮アイスを持って逃げようとしたとき、赤城が艤装もなしに伊勢へ飛びかかってさ!』

山城『そうなんです! そしたら伊勢さんが無理に砲撃しようとして、砲塔が暴発したんです!』

金剛『Yes! その爆発で伊勢が大破、赤城も巻き込まれて小破したデース!』

提督『なに!? どこにも爆発したような痕はないが……』

603: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:46:42.45 ID:bTXmgCIO0
山城(あっ、まず……!)

金剛(Shit! そこまで考えてなかったデース!)

電『ご、ごめんなさい! 私がパニクって掃除してしまいました! あうう……えぐ、ひっく……うわぁああああん!』

提督『お、おいどうした。なんで電が泣くんだ』

電『だって……私、伊勢さんがあんなに追い込まれていたことに、気付いてあげられなかった……』

電『お願いです、提督さん! どうか伊勢さんを許してあげてください! 悪いのは彼女の病気に気付いてあげられなかった私なんです!』

電『伊勢さんを処罰するというのなら、どうか……どうか私に処罰を!』

提督『わ、わかったから泣くな。そうか、最近伊勢の様子がおかしいと思っていたが、そこまで酷くなっていたんだな』

提督『事態はだいたいわかった。病気のまま出撃を続けさせていた俺が悪いな、うん。伊勢の処罰はなしだ』

電『うっ、うっ、ありがとうなのです……(案外提督さんはチョロいのです)』

隼鷹(電ちゃん、ナイス嘘泣き! 勢いで疑念をうやむやにしたぜ!)

山城(さすが秘書艦、ファインプレーです!)

金剛(迫真の演技ネ! オスカー賞モノデース!)

604: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:47:23.09 ID:bTXmgCIO0
そんな感じでその場は収まりました。提督さんは次に、修理を終えた赤城さんの尋問に入ったのですが……

提督『お前、なんで小破になったか覚えているか?』

赤城『いえ、記憶が曖昧で……何も覚えていません』

提督『お前が間宮アイスを奪おうとしたんじゃないかっていう話なんだが』

赤城『そ……そんな! 私はそんなことしません! 提督はその話を信じるっていうんですか!?』

提督『いや、ちょっと確認を……』

赤城『酷い! 提督は私が嫌いなんですか!? いつも出撃であんなに頑張っているのに……うわぁああああん!』

要は赤城さんも泣き落としで疑惑をうやむやにしました。さすがです、きっと必要に迫られれば靴だって舐めるんでしょう。

ひとつ悪いことを覚えてしまいました。困ったらときは泣き落とし、だいたいこれでなんとかなるのです。

605: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:48:01.14 ID:bTXmgCIO0
ただ、後悔していることがあります。それは事件の捏造に乗じて赤城さんを陥れることができなかったことです。

資源の横領。駆逐艦、妖精さんへの捕食行為。間宮アイスの盗難。彼女の不正行為を私はいくつも知っています。

赤城さんは疑われる危険を犯してまで私を襲うことを一時的に諦めていますが、何かのきっかけさえあれば、彼女は再び本性を見せるはずです。

そこで、いざというときのために赤城さんを倒す計画を用意しておきました。


コードネーム「E2F計画」


このE2F計画は極めて強力で確実性の高いものです。条件さえ揃えてしまえば、あの赤城さんでさえひとたまりもないでしょう。

しかしこの計画には欠点があります。その必要な条件をクリアすること自体が困難を極める上に、かなりの大博打だということです。

また、全ては極秘裏に行われる必要もあり、すぐに計画を実行に移すことはできません。今は時期を待ちます。

606: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:49:32.32 ID:bTXmgCIO0
金剛「電、何してるネー! 早くこっち来るデース!」

電「あ、はい! すぐ行きます!」

もうドックから出ようとしている金剛さん、霧島さんの元へ慌てて向かいます。扶桑さんたちはまだ何か相談をしているようでした。

金剛「では鎮守府観光に出発ネ! と言っても、そんなに面白いものはないデースけどネー!」

霧島「姉さんったら、そんなこと言ったら失礼ですよ? ねえ、電さん」

電「いえ、実際そこまで紹介するところもないのです。慣れれば悪くないのですが」

霧島「そうですか。あの広場にいる子たちはなんですか?」

霧島さんが目を向けた先は、駆逐艦の子たちがよく使っている広場でした。

今日も例の教団が集会を行っているようです。壇上に不知火さん、傍らには子日さんが立っています。

607: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:50:10.00 ID:bTXmgCIO0
不知火「皆の者! 今日は何の日だーーー!?」

「子日ーーー!!」

不知火「明日は何の日だーーー!?」

「子日ーーー!!」

不知火「昨日は、そして一昨日は何の日だーーー!?」

「子日ーーー!!」

不知火「その通り! 我らが日々生を享受できるのは、全て子日様の思し召しである!」

不知火「皆の者、子日様を讃えよ! 崇めよ! その身を捧げよ! 我らの命は子日様と共に在る!」

「うおおー子日様ー!」「踏んでくださーい!」「私を食べてー!」「子日様、妊娠させてー!」「子日様、私だー! 殺してくれー!」

「ね、の、ひ! ね、の、ひ! ね、の、ひ! ね、の、ひ!」

608: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:51:19.55 ID:bTXmgCIO0
霧島「ずいぶんと盛り上がってますね。アイドルでも来てるんですか?」

金剛「あれは暇してる駆逐艦たちが始めた宗教ごっこネ! あんまり関わらないほうがいいヨー!」

霧島「はあ、そうなんですか。あの壇上で泡を吹きながら白目を剥いて立ってる子はなんですか?」

電「あれはあの団体のご神体みたいなものです」

霧島「なるほど。電さんも駆逐艦ですから、あの宗教団体に参加を?」

電「いいえ。まったくの無関係です」

あそこに顔を出すと「アカギドーラ様の先触れ」の扱いを受けるので、そっと2人の影に隠れておきます。

しかし、いつの間にアカギドーラ教団は子日教団になったんでしょうか。そのほうが平和そうではありますが、子日さんの精神状態が心配です。

609: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:51:50.94 ID:bTXmgCIO0
霧島「ちょっと見て行きませんか? 民俗学の観点から彼女たちの宗教形態を分析してみたいのですが」

電「お願いですから勘弁して下さい。さあ、早く鎮守府の中に入りましょう」

霧島「そうですか。残念です」

金剛「さあ、ここが私たちの鎮守府ネ! 妖精さんたちが掃除しているからいつもキレイネ!」

霧島「本当ですね。姉さんたちの部屋もこの建物の中にあるんですか?」

金剛「No! 私たち主力艦隊はドックの隣に専用の宿舎があるから、そこに住んでるネ!」

霧島「へえ。じゃあこちらに住んでる艦娘たちはどういう役割の子たちなんですか?」

金剛「遠征係と、あとは暇してる放置艦のやつらデース!」

霧島「放置艦? それはどういう役割の人たちなんでしょう?」

電「簡単に言えば、役割をまったく持たない人たちです」

霧島「なるほど。そういう人もいるんですね」

610: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:53:18.66 ID:bTXmgCIO0
霧島さんは興味深そうに、ちらりと近くの部屋を覗き込みます。

まずいと思いましたがもう遅いです。ここは重巡の人たちが暮らしている一帯です。

高雄「あ、足柄さん! 那智さん! お願いです、正気に戻ってください! どうかこの縄をほどいて!」

愛宕「誰か助けてぇ! 犯されるぅ! お嫁に行けない体にされるぅ!」

足柄「黙りなさい! いま考えごとしてるんだから!」

那智「しかし、なかなかアイディアが出ないな。捕まえた愛宕と高雄をとりあえず裸にひん剥いて、  縛りにしてみたものの……」

足柄「ええ。ここからどうすればいいのか、わからないわ」

那智「このままでも、これはこれで完成された芸術のような品格を感じるな。飾っておくのも悪くない」

足柄「それじゃダメよ! 私たちは女体に溺れるんでしょう? この程度じゃ全然溺れ足りないわ!」

611: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:54:12.88 ID:bTXmgCIO0
那智「確かにそうだ。だがどうする? とりあえずまたオイルでもぶっかけてみるか?」

足柄「いい考えだと思うけど、縄が邪魔してヌルヌルが不完全なものになるわね」

那智「ならば……こういうのはどうだ? 右  と左  を電極で接続してだな、間にプロペラ付きのモーターを起動させるというのは」

足柄「妙案ね。でも電極がないわ。もっとこう、用意できる範囲で、女体を活かせるアイディアはないかしら?」

那智「うーむ、女体……そうだ女体盛りだ!」

足柄「女体盛り!? それは一体何なの!?」

那智「世間では女体の上に刺し身を盛りつけて食べるのがセレブの嗜みだと聞く! それをやってみないか!?」

足柄「なにそれ、世間のセレブは狂ってるわね! やってみましょう! まずは魚が必要ね!」

612: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:55:10.39 ID:bTXmgCIO0
那智「よし釣りだ! 最悪、駆逐イ級でも構わん! 醤油をかければ食える!」

足柄「さっそく堤防で釣りをしましょう! 面白くなってきたわ!」

高雄「ちょ、ちょっとどこ行くんです!? 私たちこのまま放置ですか!?」

愛宕「いやあ、置いて行かないでー! せめて縄を緩めてぇ! 」

釣り竿を担いで意気揚々と出かけていく足柄さんたちを、私たちは沈黙のまま見送りました。

霧島「あの人たちはなんですか?」

足柄「あいつらは元餓狼、今は負け犬の重巡ネ! 足柄もだいぶ頭おかしくなってきたネー!」

電「えっと、とりあえず高雄さんたちを助けましょうか」

金剛「そんなのいいネ! あれはああいうプレイだから、邪魔しちゃ悪いデース!」

電「絶対違うと思うんですが……」

霧島「さすが艦船の系譜を引くだけあって縄使いが巧みですね。結び目がどうなってるのか見ていってもいいですか?」

電「どうかお願いです、やめてください」

613: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:55:54.64 ID:bTXmgCIO0
高雄さん、愛宕さん。ごめんなさい、また後で助けに戻ってくるので、それまで我慢しててください。

金剛「こんなシケた場所より他に行くネ! 次は結構楽しいところデース!」

霧島「あら、そうなんですか?」

電「……金剛さん、まさかあの場所に出入りを?」

金剛「実際にやったことはないけど、たまに見に行ってマース! 破滅したやつらを眺めるのは快感デース!」

この流れなら、どうせ次はあそこだと思っていました。抵抗せずに金剛さんの後についていきます。

近づくに連れ、甲高い叫び声が聞こえて来ました。今日も賭博場では軽空母の方々がカモられているようです。

614: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:56:33.97 ID:bTXmgCIO0

龍驤「おい、ちょっと胴元のやつ出てこんかい! 言いたいことがあんねん!」

龍田「はいは~い。何かしら?」

龍驤「あんたの賭場、勝てへんにもほどがあるで! イカサマしてんのとちゃうんか!」

龍田「自分の運がないだけでしょ? 言いがかりはやめてほしいわ」

祥鳳「言いがかりじゃありません! 私たちがどれだけ負け越してると思ってるんですか!」

鳳翔「そうですよ! イカサマはいけないんですよ!」

龍驤「ウチら、なけなしのボーキサイト叩いてここに来てんねんで!? それを掠め取ってあんたら何とも思わんのか!?」

龍田「だったら来なければいいじゃない」

龍驤「もう後戻りできへんほど注ぎ込んでるんや! それやのに全っ然勝たれへん! どないなっとるんや!」

祥鳳「私なんて艦載機を質に入れてまで来てるんですよ!? たまには勝たせてくれたっていいじゃないですか!」

龍田「だから、勝てないのはそちらの責任でしょ? 私たち龍田会はイカサマなんてやってないわよ」

鳳翔「嘘よそんなの! 格納庫がすっからかんになるまで勝負したのに、勝てないなんて絶対おかしいわ!」

615: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:57:07.43 ID:bTXmgCIO0
龍驤「返せ! うちらのボーキサイト返さんかい!」

祥鳳「質に入れた九九式艦爆も返してください!」

鳳翔「返して! ボーキサイト返して!」

龍田「返せ返せってうるさいわねえ。その前にあなた達、私から借りてるボーキサイトを返済したら?」

龍驤「それや! その返済額がそもそもおかしいんや! たった100ボーキしか借りとらへんのに、なんで200ボーキも返さなアカンねん!」

龍田「私は金融業としてお金を貸してるのよ? 利子が付くのは当たり前でしょう」

祥鳳「それにしたって、こんな雪だるま式に膨れ上がっていくなんて酷いです! もう利息を支払うだけで精一杯なんですよ!」

鳳翔「手元に残るボーキがこれっぽっちだなんて、これじゃ私たち生活できないじゃない!」

龍驤「しかも、そのわずかなボーキすらここで吸い取られていくんや! どう考えたっておかしいやろ!」

龍田「おかしいのは自分たち自身だって思ったことはないかしら」

龍驤「ずべこべ言わずボーキサイト返さんかい! 返してくれるまで、ウチらここを動かへんで!」

龍田「そう……なら、力づくでどいてもらいましょうね」

616: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:57:35.16 ID:bTXmgCIO0
龍驤「お、やるんか? 軽空母の力、侮ったらいかんで! 九六式艦戦の強さ見せたるわ!」

祥鳳「艦載機は質に入ってますけど、7.7mm機銃が火を吹きますよ!」

鳳翔「飛行甲板を叩きつけますよ!」

龍田「ふーん……で、あなた達。艤装はあるのかしら」

龍驤「……あっ」

当鎮守府では、任務以外での艤装の装備は厳禁となっております。つまり皆さん素手です。

龍驤「えーっとやな……ま、ここはアンタの顔を立てて、平和的に解決してんか。とりあえず今週分のボーキ返済はしばらく待……」

龍田「球磨型三姉妹。こいつらを始末なさい」

球磨「クマー!」

多摩「にゃー!」

木曾「キソー!」

「ギャァアアアアア!!!」

617: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:58:05.26 ID:bTXmgCIO0
金剛「……HAHAHA! これを見に来たネ! 見るネ霧島、あれが底辺の争いネ!」

霧島「たしかに、ここはちょっと面白そうなところですね」

龍驤(二代目)さんたちがボコボコにされる様を見ながら、金剛さんがゲスい笑いを上げています。

龍田会の賭博場は提督さんによる摘発により消滅するはずでしたが、しぶとく生き残っています。

元手がないのに存続しているのが不思議でしたが、龍田さんは裏で高利貸しを営んでいたようで、どこかに隠し資源があるみたいです。

軽空母の人たちが可哀想で仕方がありません。彼女たちは根こそぎ持っていかれるとわかっていながら、ここくらいしか楽しみがないのです。

かくいう龍田さんも、遠征ばかりで大好きな潜水艦狩りをさせてもらえず、悪徳金融業と違法賭博で暴利をむさぼるくらいしかやることがありません。

この賭博場は鎮守府の荒れようが最も顕著に表れているように思います。たかる側も、たかられる側も救いがないのです。

霧島「今時こんな古風なカジノは珍しいですね。社会勉強の一環として、一勝負していってもいいですか?」

電「さっきから知的好奇心旺盛キャラ押してくるのやめてくれないですか!?」

618: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:59:08.59 ID:bTXmgCIO0
隼鷹「よーよーお前らも来てたのか。電ちゃんも賭け事とかやるの?」

誰かと思えば隼鷹さんです。思えば隼鷹さんも軽空母、まさかここの常連なのでしょうか。

金剛「隼鷹じゃないデースか。お前も身上潰しに来たのデースか?」

隼鷹「まあな。ちょっと浄銭に……おおっ!?」

木曽「キソー! さあ、持ってるものをすべて出すキソ!」

龍驤「堪忍、堪忍したってや! 懐に手ぇ入れても何も入っとらへんて! この薄っぺらいの見りゃわかるやろ……って何言わせんねん!」

隼鷹「龍驤、死んだはずの龍驤じゃないか! 久しぶりだなあオイ!」

龍驤「は? 誰やアンタ!」

昔、まだ扶桑さんが旗艦になって間もない頃、隼鷹さんと共に龍驤さんが主力艦隊に配備されていた時期がありました。

しかし、そのときの龍驤は提督さんの勘違いにより轟沈してしまい、今の龍驤さんは正規空母レシピで出た二代目なのです。

今更この鎮守府に軽空母の活躍できる場があるわけもなく、たまに遠征に行かされる程度の運用に留まっています。

619: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 02:59:54.92 ID:bTXmgCIO0
隼鷹「いやあ会いたかったぜ! 相変わらずフラットな胸元だなあ! なんだその凹凸のない胸は。飛行甲板か?   くらいはついてんのか?」

龍驤「会ったそばから失礼やなアンタ! そんなことより、助けてくれへんか!」

隼鷹「よし来た! おい龍田! 巨 だからって貧 をイジメんな!」

龍驤「誰が貧 や!」

龍田「この子、私の賭場がイカサマだってイチャモンつけた上に、借金のボーキサイトを返せないっていうのよ。当然の処置じゃない?」

隼鷹「借金? いくらあるんだ、肩代わりしてやるよ」

龍田「200……」

祥鳳「私の分は300ボーキです! どうかお慈悲を! あとで体で払いますから!」

鳳翔「私は500ボーキです! 助けてください、病気の子どもと寝たきりの夫がいるんです!」

隼鷹「じゃあ合わせて1000ボーキか。ほい」

隼鷹さんはどこに隠し持っていたのか、ボーキの山を龍田さんの手に盛りました。

隼鷹「ちょうどチンチロで使おうと思ってたんだ。これで足りるだろ」

620: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:00:44.20 ID:bTXmgCIO0
龍田「……毎度。さすが主力艦隊所属は羽振りがいいわね」

龍驤「か、神様! アンタ神様なんか!?」

祥鳳「素敵! 抱いてください!」

鳳翔「結婚して下さい!」

隼鷹「はーっはっは! お前ら全員ついて来い! 酒に付き合え!」

龍驤「酒飲ませてくれるんか! アンタ、ほんまにええやつやなあ!」

隼鷹さんは朗らかに笑いながら、軽空母たちを引き連れて行ってしまいました。一体何しに来たんでしょう。

龍田「……残念。もっとイジメてあげたかったのに」

せっかくボーキを支払ってもらえたのに、龍田さんはおもちゃを取られた子供のような顔をしています。

龍田さんは資源横領の主犯として連日長時間遠征をさせられていますから、これらもストレス発散の一環なのでしょうか。

621: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:01:29.91 ID:bTXmgCIO0
金剛「なんかシラケてしまったデース。霧島、そろそろ宿舎のほうに行くデース!」

霧島「もうですか? もっといろいろ見て回りたいんですけど」

金剛「他には気の触れた那珂ちゃんがハカの踊りを稽古してるところとか、幻覚しか見えなくなった伊勢のいる隔離病棟くらいしか見るものないデース!」

霧島「この鎮守府には頭のおかしくなった人たちが多いんですね」

まったくです。下手をすれば健常者のほうが少ないなんて、一体どうなってるんですかこの鎮守府。

金剛「まあ気が向いたら行ってみるといいネ! たまに見ると結構笑えてくるネ!」

笑い事じゃないんですけど。

もう私も鎮守府の惨状を見ているのが辛かったので、宿舎のほうに行ってくれるのはありがたいです。

622: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:02:07.22 ID:bTXmgCIO0
宿舎に行く途中の廊下で、珍しい人と出会いました。

提督「なんだ、鎮守府案内の途中か? 大して面白いものもなかっただろうが」

金剛「ワオ、提督ぅ♡ 執務室から出てるなんて珍しいデース!」

誰かと思えば、この惨状を作り上げた原因たる提督さんじゃないですか。出歩いてる暇があるなら、もっと艦娘の管理をしっかりしてくださいなのです。

金剛「こんなところで提督と会えるなんて、すごくラッキーな気分デース! どこかへお出かけデスか?」

提督「ああ、ちょっと扶桑のところへ行った帰りで……」

金剛「What!? どうして私には会いに来てくれないんですか、提督ぅ! 私寂しいデース♡」

ここぞとばかりにヤキモチ焼いてるアピールをねじ込んで来ます。提督さんは特に反応しません。

例えるなら、そうですね。フンコロガシは動物の糞をあえて好みますから、金剛さんも男性趣味においてそういうゲテモノ好きな面があるのでしょうか。

623: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:02:37.09 ID:bTXmgCIO0
電「扶桑さんに何か用事があったのですか?」

提督「確認したいことがあってな、隼鷹にも聞きたかったんだが……」

電「隼鷹さんなら、多分自室に戻ってると思うのです」

提督「そうか。まあ、別に大したことじゃないから今度でいい」

それだけ言って、提督さんは執務室に戻っていきます。その手には一冊の本があります。

タイトルは「初心者のための鎮守府運営マニュアル」。いつまで初心者なんですか提督さん。

提督「ああ、そうだ。電にも聞いておきたいんだが」

電「なんですか?」

提督「大破状態で夜戦に突入し、敵の攻撃を受けた場合、その艦娘はどうなると思う?」

電「はあ? 轟沈するに決まってるじゃないですか」

提督「そうだな……そのはずだよな」

提督さんは首をかしげながら立ち去って行きました。もう経験済みのはずなのに、なんであんなことを聞いたんでしょう。

624: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:03:14.99 ID:bTXmgCIO0
金剛「今日の提督は物憂げなところが素敵だったネー! 霧島はどう思うネ?」

霧島「え、提督をどう思うかってことですか? うーん、私には頼りなさげな人にしか見えないですね」

さすが霧島さん、人を見る目があります。金剛さんの目はきっと老眼か何かでしょう。

霧島「もしかして金剛姉さん、提督のことを好きなんですか?」

金剛「そうネ! 私は提督にBurning Loveなのデース!」

霧島「はあ……どういうところに好意を持ったんですか? 失礼ですが、あの方からはあまり男性的魅力を感じなかったのですけれど」

それは私も興味があります。フンコロガシが糞を好きなように、金剛さんにも提督さんを好きな理由があるはずです。

625: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:03:47.74 ID:bTXmgCIO0
金剛「うーん、そうデスね。ダウナー系で落ち着いた物腰だとか、幸薄そうな雰囲気なんかは割りと好きデース」

金剛「でも何より、扶桑が提督のことを好きっていうのが一番重要ネ!」

霧島「どういうことですか?」

金剛「他人の男ほど燃え上がるものはないネ! あの扶桑から提督を寝取る、最高に興奮しマース!」

金剛「この鎮守府に来て、扶桑と提督がイチャついてるところを見たときに思ったネ、必ずこの女から提督を奪い取ってやるってネ!」

電「うわあ……」

考えられる限りで最低な理由です。恋愛経験のない私が言うのも何ですが、それ絶対に恋じゃないですよ。

626: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:04:16.58 ID:bTXmgCIO0
霧島「なるほど、略奪愛への願望ですか。さすが金剛姉さん、肉食系女子の鑑ですね」

金剛「そうデース! 今のところ提督は扶桑とケッコンカッコカリの約束を交わしてるデースが、いずれその座を奪ってやるネ!」

霧島「ケッコンカッコカリ? なんでしょう、それは」

金剛「艦娘と提督の間で交わされる婚姻のことネ! この契約を交わせば、提督の妻になれるデース!」

霧島「ふうん……提督って、この鎮守府で一番偉い人なんですよね?」

金剛「もちろん! 鎮守府では絶対権力者ネ! 提督の命令は全てに優先され、逆らえる者は誰もいないデース!」

霧島「つまり提督とケッコンカッコカリを交わせば、鎮守府のNO.2になれるってことでしょうか?」

金剛「そうネ! 期待してるネ霧島、いずれ私は鎮守府のNO.2になる女デース!」

霧島「なるほどなるほど……この鎮守府の権力ピラミッドはそういう形ですか……」

金剛「というわけで霧島! お前には私のアシスタントになって欲しいデース!」

霧島「アシスタント?」

627: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:04:56.66 ID:bTXmgCIO0
来ました。やはり金剛さんは、提督さんを籠絡するために霧島さんを利用するつもりです。

金剛さんは容姿こそとても可愛らしいですが、はっきり言って頭は悪い方です。

このまま提督さんに対するアピールを続けても、扶桑さんからケッコンカッコカリの座を奪うことはまず不可能でしょう。

そこに、頭脳派艦娘である霧島さんの知恵が加われば、今まで有り得なかった勝機が見えてきてしまうかもしれません。

金剛「私は何としても提督に気に入られたいデース! 霧島の頭脳で、そのための作戦を考えてほしいのデース!」

霧島「確かに私なら、提督を陥落させる作戦くらい、いくらでも編み出させるでしょうね」

金剛「ワオ、頼もしいデース! アシスタントの役目、引き受けてくれるデースか?」

思い返せば、このときまで鎮守府はまだ平和だったほうなのです。

いいえ、本当は霧島さんが来た時点から全ては始まっていたのでしょう。私の目に映る形で現れたのがここだったというだけで。

この瞬間に平和の時代は終わり、動乱が幕を上げるのです。

628: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:05:32.16 ID:bTXmgCIO0
霧島さんは金剛さんの問いに応えず、にっこりと笑ってメガネに手を掛けました。

霧島「すみません、ちょっとメガネを外してもいいですか?」

金剛「What? 外したいなら外せばいいネ」

霧島「どうも」

怪訝そうな金剛さんに構わず、霧島さんはメガネを取り、それを懐に収めました。

まるで手品のようです。霧島さんが消えました。

あの理知的な美少女の姿は影も形もなくなり、かわりに同じ衣装を来た、ヤクザとしか思えない形相の女性が私たちの前に立っていました。

霧島「……なんでアタシがそんなクソ面倒なことしなけりゃいけないんだ?」

金剛「へ? 霧島、一体どうしオヴォウ!」

電「ひへっ!?」

金剛「おぶぅ……お、オロロロロロロ……」

629: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:06:16.46 ID:bTXmgCIO0
凄まじいボディブローでした。その拳は金剛さんのみぞおちにめり込み、胃の中のものを全て吐き出させます。

金剛さんの今日食べたものが床に広がり、吐瀉物の臭いが辺りに立ち込めました。

その光景を、霧島さんによく似たヤクザさんが生ごみでも見るかのような目つきで見下ろしています。

金剛「おげぇ……ゴホッ、ゴホッ!」

霧島「ちっ、汚えなあゲロ女がよぉ!」

私は混乱の極地にありました。一体何が起きているんでしょうか。

霧島さん似のヤクザさんは金剛さんが嘔吐を終えるやいなや、その髪を掴んで無理やり顔を上げさせました。

霧島「オイ、勘違いしてんじゃねーぞ老朽艦! 誰に向かって口利いてやがんだ、ああ!?」

金剛「ヒィ! だ、誰ネお前!? 霧島はどこに消えたネ!?」

霧島「何寝ぼけてんだクソババア。霧島はアタシだ、ちゃんと目の前にいるだろうがよ」

金剛「お、お前が霧島!? そんなわけないネ! キャラが違いすぎるデース!」  

630: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:06:50.57 ID:bTXmgCIO0
霧島「ハッ、こっちがアタシの素だよ。こちとら第三次ソロモン海戦でサウスダコタ級戦艦とノーガードで殴り合った、バリバリの武闘派よ!」

霧島「ソロモン海の狂犬、霧島様とはアタシのことだ! 舐めてんじゃねーぞコラァ!」

金剛「ヒッ! I'm sorry,I'm sorry! お、落ち着くデース!」

霧島「日本語喋れやエセ外人がよぉ! 半端なカタコトでキャラ作ってんじゃねーぞ、ああ!?」

金剛「も、申し訳ありません! 気に触ったのなら謝りますから、どうかもう殴らないでください!」

電「!?」

いろいろ言いたいことがあるんですが、まず金剛さん。その口調キャラ作ってたんですか!?

霧島「けっ。わかりゃいいんだよ、わかりゃ。さーて金剛。そして電」

電「えっ、私ですか!?」

霧島「なに無関係な立場気取ってやがんだクソガキが! ドタマかち割るぞ、おお!?」

電「す、すみません! すみません!」

超怖いです、この人。今までの知的キャラが嘘のようです。

631: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:07:19.21 ID:bTXmgCIO0
完全に怖気づいた私と金剛さんを見渡し、霧島さんは満足気に金剛さんを手から離しました。

霧島「よし。よく聞けよお前ら。ここに来てずっと考えてたんだがな、アタシの目的が決まった」

金剛「目的? そ……それは何なんでしょうか?」

霧島「提督とのケッコンカッコカリの座、このアタシがいただく」

金剛「へっ!?」

電「は、はいいっ!?」

耳を疑いました。一体何を言い出したんでしょう、このヤクザさんは。

霧島「アタシはな、力が欲しいんだ。暴力だけじゃねえ、知力も、権力も、あらゆる力をアタシは手に入れたい」

霧島「この時代で一番強い力は権力だ。アタシはこの鎮守府で最高の権力者になりてえんだよ」

金剛「そ、それがケッコンカッコカリとどういう関係があるんですか!?」

霧島「ハッ。てめえ自分で言ってたじゃねえかよ、ケッコンカッコカリをすれば、鎮守府のNO.2になれるってな!」

632: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:08:08.77 ID:bTXmgCIO0
電「で、でもそれじゃあNO.1にはなれないのではないですか?」

霧島「最初のうちはな。だが、あの程度の男、アタシの女としての魅力があれば、操り人形に変えるのはわけないぜ」

金剛「……女としての魅力?」

たぶん、私と金剛さんは同じことを考えました。そのヤクザなキャラのどこに女としての魅力があるのかと。

霧島さんはその雰囲気を察したのでしょう、私たちを鼻で笑うと、懐から再びメガネを取り出して顔に掛けました。

あら不思議、あの理知的な霧島さんが帰ってきました。

霧島「この通りです、金剛姉さん。私はキャラを切り替えることができますので、こっちで提督を攻略するつもりです」

電「あの、なんでそんな風にキャラを使い分けてるんですか……?」

霧島「まあ、電さんのような小便臭いガキには理解しにくいことでしょうけどね」

今、一瞬キャラがごっちゃになりませんでしたか? 霧島さんはまたメガネを外し、ヤクザの顔に戻ります。

霧島「女ってのはな、美人でお淑やかなのが一番得するんだよ。いくらでも男を利用できるからな」

霧島「女の魅力ってのも力の1つだ、よく覚えておけクソガキ」

電「は、はい……」

633: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:08:36.92 ID:bTXmgCIO0
ヤクザ口調で言われても、説得力があるのかないのかわかりません。あなたが最高に恐ろしい人なのは十分わかりましたが。

金剛「む、無理ですよ霧島さん! あなたがケッコンカッコカリの座を勝ち取るなんて無理です!」

霧島「ほう? 理由を言ってみろ、聞いてやるからよ」

金剛「提督は巨 好きなんです! 私たちはバストサイズで扶桑に大きく劣る、だから無理です!」

霧島「ほーう、巨 好きねえ……」

金剛さんの言葉を聞いて、霧島さんがにやりと笑います。

提督さんが巨 好きなのは事実です。今まで提督さんが好意を示した艦娘は、全員巨 でした。

加えて、提督さんは肉食系のような表現の仕方をすると、偏食系男子です。

金剛さんに興味を示さないように、好みでない女性には一切振り向かない。よく言えば一途、悪く言えば冷淡な人なのです。

634: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:09:15.26 ID:bTXmgCIO0
霧島「おい金剛。脱げ」

電「え?」

金剛「はい? あの、今なんて……」

霧島「 を出せってんだよ! 耳まで遠くなってんのかババア!」

金剛「は、はいいっ!? そんな、恥ずかしい……」

霧島「なんならアタシが直接剥ぎ取ってやってもいいんだぜ? 自分で脱ぐか脱がされるか、今すぐ決めろコラァ!」

金剛「はい脱ぎます! 脱ぎますから! お願いです、乱暴しないでください!」

突然のセクハラ発言です。もうやりたい放題です、この人。

ここが人気のない廊下でよかったです。震える指で胸をはだける金剛さんは、まるで陰湿ないじめを受けるいじめられっこの少女です。

635: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:09:44.53 ID:bTXmgCIO0
霧島「おら、さっさとブラも外せや! モタモタしてるとブラ紐引き千切るぞ!」

金剛「や、やめてください! 提督に貰った大切なブラなんです!」

霧島「知ったことかよ、口答えしてんじゃねえ! パンツまで脱がされてえのか!」

金剛「申し訳ございません! 急いでブラ外しますから!」

金剛さんもおかしなセリフを言うくらい気が動転しています。

普段は自分から大破して惜しげも無く裸体を晒しているのに、無理やり脱がされるのはやはり苦痛なようです。

霧島「よーし、脱いだな……おい電、 め」

電「へ?」

霧島「二度言わすんじゃねえよ。金剛の を め」

電「な、なんでですか!?」

霧島「ガタガタ抜かすヒマがあったらさっさと みやがれ! てめえの服も剥いでやろうか!?」

電「す、すみません!  みます!」

636: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:10:27.39 ID:bTXmgCIO0
状況に脳みそがついていけません。霧島さんが何をしたいのか、まるで理解が追い付いていないのです。

今の私にできることは、霧島さんに従って金剛さんの を むことくらいです。

電「あの……金剛さん、ごめんなさい」

金剛「ひっ……」

おびえる金剛さんの胸元に手を伸ばします。私の指が白い柔肌に埋まりました。

霧島「おら、もっと強く め。握りしめろ」

金剛「や、やめて……爪を立てないで……」

電「き、霧島さん。こんなことに何の意味が……」

霧島「こいつの の感触はどうだ?」

電「え、えっと……柔らかいです。ふわふわの    なのです……」

金剛「いやあ……もうやめてぇ……」

霧島「そうか。じゃあ次だ」

そう言うと、霧島さんは何の躊躇いもなく上着を脱ぎ、自分のブラを外しました。形の良い  が露わになります。

637: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:10:55.59 ID:bTXmgCIO0
霧島「 め」

電「あ、あの、一体……」

霧島「いいから めっつってんだよ」

頭がどうにかなりそうです。変な趣味に目覚めてしまいそうなのです。

抵抗できるはずもなく、言われるがまま霧島さんの を みます。私の指が  に触れても、霧島さんは表情ひとつ変えません。

霧島「そこの女と比べて、アタシの はどうだ?」

電「こ、こっちのほうが弾力があります。ぷにぷにの    なのです」

霧島「大きさはどう見える?」

電「た、たぶん霧島さんのほうが一回り大きいです」

ご機嫌を取ろうとしたわけではなく、それは事実です。金剛さんもDカップくらいはあると思いますが、霧島さんは優にEカップはあります。

霧島「だろう? よし……いつまで人の  んでんだコラァ! ぶち殺されてえのか!?」

電「ふひぃ! すみません! すみません!」

この人、本当に怖いです。 めと言ったり むなと言ったり、怒るタイミングが理不尽過ぎます。

638: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:11:26.07 ID:bTXmgCIO0
霧島さんはさっさと服を着直しますが、金剛さんは胸をさらけ出したまま、不安そうな顔で腕を体に巻いて  を隠しています。

許可がないまま服を着たら怒られることがわかっているのでしょう。もうすっかり霧島さんの下僕と化しています。

霧島「さーて、これでわかったろ。アタシも十分に巨 だ。あの男が巨 好きだとしても、勝機はある」

金剛「お、お言葉ですが霧島さん。扶桑のバストサイズはGカップです。霧島さんより遥かに上であります」

外人かぶれという特色を奪われたせいか、金剛さんの口調が安定しません。何系なんですかその口調は。

霧島「勘違いすんなよ。アタシはただ、戦況がさほど不利じゃないことを示しただけだ。巨 かどうかは重要じゃねえ」

金剛「でも、提督は巨 好きで……」

霧島「それだ。金剛、電。提督の嗜好を詳しく話せ」

霧島「あいつが興味を示した艦娘、及びその理由。反応を見せた仕草でもいい。お前らが知る情報を全て吐き出せ」

にわかに真剣な目つきになった霧島さんに、私たちは従うほかありませんでした。

639: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:11:56.73 ID:bTXmgCIO0
私たちは話しました。扶桑さんの他に提督さんが好意を寄せた艦娘は隼鷹さん、足柄さんだということ。どちらもやはり巨 です。

興味を示しただけなら龍田さんも含まれますが、性格が苦手だといってあまり積極的に交流を持とうとはしませんでした。当然、彼女も巨 です。

他に思いつく人は特にいません。提督さんは興味のない艦娘とはほとんど交流を持っていないのです。

また、金剛さんがどんなアピールをしたかも話しました。

あえて戦闘で大破し、胸をはだけて見せたこと。可愛げに愛嬌を振りまいたこと。どちらもまったく効果はありませんでした。

霧島「他にはないか? 何でもいい、巨 以外に興味を示したことはないのか」

電「あっ……そういえば1度だけ、巨 ではない艦娘さんを見てたことがあるのです」

霧島「そいつは誰だ?」

電「この鎮守府では未着任の方なのですが……」

霧島「……ほう。あいつか、なるほどな。おい電、お前は最初に提督から選ばれたんだよな」

電「は、はい。何人かの駆逐艦の候補の中から……」

霧島「あいつはお前を選んだ理由をなんて言っていた?」

電「えっと……候補の中で一番かわいかったからだって……」

霧島「……ククッ、ハーッハッハッハッハ!」

640: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:12:32.63 ID:bTXmgCIO0
私の答えを聞いたとき、霧島さんは突然高笑いを上げました。まるで勝ち誇るかのように。

金剛「ど、どうされたのでありますか?」

霧島「くっくっく……金剛、お前はまるで無能なピエロだな。今までしてきたアピールとやらは、すべて見当違いだったというわけだ」

金剛「は? そ、それはどういうことですか!?」

霧島「 を見せつけるだの、媚を売るだの、そんなのはまったくの無駄だったってことだ」

霧島「お前のやってきたことは、人参で野良猫を飼い慣らそうとしていたに等しい。まさに徒労だ」

金剛「ど、どういう意味ですか!? 今までの情報から、一体何を……」

霧島「あるいは、ビックリマンチョコを欲しがるガキに、ただのチョコレートを買い与えるようなものだな。意味がわかるか? わからないだろうな」

霧島さんはあざ笑うかのように金剛さんと私を見下します。明らかに勝利を確信している態度です。

641: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:13:10.74 ID:bTXmgCIO0
霧島「お前に教えてやるのはこれだけだ、あとは自分で考えやがれ。おら、いつまで 出してやがる売女。目障りなんだよ!」

金剛「も、申し訳ありません。どうかお許し下さい……」

怯えながら服を着る金剛さんに、十数分前の威勢の良さは影も形もありません。すっかり霧島さんに萎縮し切っています。

私も人のことを言えません。この暴力の権化のような人が怖くてたまらないのです。

赤城さんも怖いですが、霧島さんはまた違う怖さを持っています。なぜこんなにも楽しそうに、人に暴力を振るうことができるのでしょうか。

霧島「さーて……電。アタシの初陣は明日だな?」

電「は、はい。明日は演習と、資源の残量によっては出撃も行われる予定です」

霧島「新しい戦艦の初運用だ、提督は様子を見にドックへ来る。そうだな?」

電「はい……提督さんはほとんど執務室から出ませんが、明日くらいは自分の目で霧島さんの戦力評価を行うと思います」

霧島「そうか。なら、仕掛けるのは明日だな。オラ、立てよ金剛」

金剛「い、痛い! やめて、立ちます! 立ちますから、乱暴しないで!」

霧島さんは金剛さんのあごを掴み、無理やり立ち上がらせます。痛がる金剛さんを見て、その顔は楽しそうな笑みが浮かんでいます。

642: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:13:41.33 ID:bTXmgCIO0

霧島「いいか? お前はアタシのアシスタントだ。アタシが提督を攻略するために立ち回れるよう、お前が状況を整える。いいな?」

金剛「は……はい。言う通りにします」

霧島「ここでの会話は絶対に他言するな。おい電、お前もだ。いいな?」

電「はい、なのです……」

霧島「金剛、他のやつがいるときは今まで通りの外人かぶれ口調で話せ。不自然に思われるからな。わかったか?」

金剛「はい……お、OKデース」

霧島「ハハハッ! そうだ、それでいい。アタシだけのときは普通に話せ。イラっとするからな」

楽しそうに笑う霧島さんとは対照的に、金剛さんは目が死んでいます。何もかも持って行かれた表情です。

霧島「さて、宿舎に行こうぜ。明日の打ち合わせもしなきゃならねえし、何より姉妹水入らずで過ごしたいもんなあ?」

金剛「そ……そうですね……」

霧島「おい電、もう行っていいぜ。重ねて言うが、他言無用だ。誰かに話せば……わかってるな?」

643: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:14:10.54 ID:bTXmgCIO0
霧島さんは腕を金剛さんの首に掛け、強引の自分の元へ引き寄せました。金剛さんはまるで抵抗する素振りもありません。

その行為は、金剛さんが人質であることを示しています。私が下手なことを言えば、私だけでなく金剛さんも無事では済まさないと。

電「わ、わかってるのです。誰にも言いません」

霧島「よし、じゃあさっさと消えろ。さーて……金剛姉さま? 姉妹2人っきりで、楽しい時間を過ごしましょう」

金剛「ひっ……」

金剛さんは一瞬、助けを求めるような目で私を見ましたが、すぐ霧島さんに引きずられるような形で連れて行かれました。

取り残された私は、ただ呆然と立ち尽くしました。

波乱を起こす、どころではありません。霧島さんはとんでもない爆弾だったのです。

644: ◆hJ5a7d.jWc 2015/08/23(日) 03:14:43.28 ID:bTXmgCIO0
電「……いえ、もっと客観的に状況を見てみましょう。これは単なる、ちょっと複雑な男女関係。そうに決まっています」

そうです。見ようによっては、これから起こることはありふれた女性同士の醜い争い。そう解釈できなくもありません。

明らかな現実逃避に走ってしまうくらい、精神的疲労がピークでした。連日の騒動続きで、何か癒やしがなくてはやってられません。

電「そうです、霞ちゃんと会いに行きましょう。霞ちゃん、どこですか霞ちゃん……」

私は今見聞きしたことを一旦忘れ、霞ちゃんの姿を求めて鎮守府の奥へふらふらと入って行きました。

もしこのとき、私が提督さんや扶桑さんに相談していれば、何か変わったでしょうか。

良い結果になったかもしれませんし、逆に悪くなっていたかもしれません。ただ私は疲れていて、もう何もしたくなかったのです。

まだ私は気付いていませんでした。このとき、鎮守府は……私は、地獄の門に手を掛けていたのだということに。


続く

673: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:17:24.16 ID:qtiKV8D70
なんかくっそ長くなったんでおとなしく1話分だけ投稿します。お待たせしました。

電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです7 地獄の鎮守府 中編

674: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:18:09.03 ID:qtiKV8D70
翌朝。私はとても心地良い気分で目覚めました。

電「はあ……昨日はとても楽しい1日だったのです」

あれから霞ちゃんを見つけて、一緒にあやとりしたり、本を読んだり、追いかけっこをしたり、本当に幸せな時間を過ごしました。

今日もきっと楽しいことが待っているに違いありません。自室から出て、お仕事へと向かうのです。

電「るんる~ん。えーっと、今日は何をする日でしたっけ?」

確か演習を予定していたような……あれ? なぜでしょう、今日の予定をまったく思い出せません。

まあいいでしょう。きっと今日も普通に演習して出撃です。キス島攻略もまだなので、私にも出番が来るでしょう。

675: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:18:39.96 ID:qtiKV8D70
隼鷹「おっ、電ちゃんおっはよー! 今日もいい天気だねえ」

電「隼鷹さん、おはようございます。今朝も元気そうですね」

隼鷹「おうよ! あたしは毎日元気だオロロロロロロロ……」

唐突に隼鷹さんがゲロを吐きました。これが軽空母式の挨拶だとでも言わんばかりです。

電「隼鷹さん!? だ、大丈夫ですか?」

隼鷹「おぇぇ……だ、大丈夫大丈夫。いやあ、昨晩はちょっと飲み過ぎちまったぜ」

電「そういえば、昨日は龍驤さんたちと飲み会されてましたね」

隼鷹「ああ。久しぶりに龍驤の顔を見たら嬉しくなっちゃってさあ」

二日酔いで顔色は悪いですが、隼鷹さんは上機嫌そのものです。

隼鷹さんはいつも明るい人なので、一緒にいると私まで明るい気分になってくるのです。

676: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:19:17.01 ID:qtiKV8D70
隼鷹「さーて今日はどこに出撃かな? 早くドックに行こうぜ、電ちゃん!」

電「はいなのです!」

金剛「2人とも……おはようデース」

隼鷹「お、金剛じゃん。おはよーさん」

電「おはようございます、金剛さ……ん……?」

私たちに声を掛けてきたその人は、確かに金剛さんです。しかし、昨日までの金剛さんとはまるで違いました。

2,3日完徹でもしたかのようにやつれた顔。その目に光はなく、決して私たちと視線を合わそうとしません。

いつもの威勢の良さは影も形もなく、全身からは扶桑さん、山城さんが裸足で逃げ出すほどの不幸オーラが立ち上っていました。

677: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:19:49.90 ID:qtiKV8D70
隼鷹「どうした? なんか元気ないじゃん」

金剛「……ちょっと昨夜は眠れなかったデース」

隼鷹「ああ、そうか! 霧島が来たんだもんな。姉妹で遅くまでおしゃべりでもしてたのか?」

金剛「はは……そんなところネ」

霧島……? 誰でしたっけ、それ。まったく思い出せません。

隼鷹「ほら、今日も出撃なんだからシャキっとしろよ。さあ行こうぜ」

金剛「わかってるデース……うっ、痛……っ!」

歩き出そうとしたとき、突然金剛さんが地面にへたり込みました。両手で下腹部……いえ、下腹部より少し下を押さえ、表情を歪ませています。

678: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:20:21.80 ID:qtiKV8D70
電「ど、どうしたのですか、金剛さん?」

金剛「な、何でもないデース……い、痛た」

隼鷹「何してんだ金剛、アソコなんか抑えて。オ○ニーのし過ぎか?」

金剛「そ……っ! そんなんじゃ、ないデース! ただ、ちょっとお腹が痛くて……」

電「隼鷹さん、オ○ニーってなんですか?」

隼鷹「え? ああ……まあ、大きくなったら自然にわかるよ」

電「そうなのですか?」

よく理解できませんでしたが、金剛さんは立てなくなるほどにお腹が痛いそうです。

金剛さんが抑えているのはお腹より明らかに低い位置に見えますが、きっと気のせいなのです。

電はまだ幼いので、それを知るにはあまりにも早過ぎるような気がします。

679: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:20:58.57 ID:qtiKV8D70
金剛「わ、私は大丈夫デースから、2人は先に行くネ。ちょっと休めば動けるようになるデース」

電「本当に大丈夫ですか? どうしても痛いなら、提督さんに行ってお休みを……」

金剛「な、何言ってるデースか! 出撃は必ずするデース! 私は大丈夫ネ!」

必死になって猛アピールする金剛さんに違和感を覚えましたが、その原因までは気付くことができませんでした。

隼鷹「そこまで言うなら、先に行ってるぜ? 無理せずゆっくり来なよ」

金剛「Thank youデース……」

まだ立ち上がれない金剛さんを残して、私たちはドックへと向かいました。

680: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:21:56.79 ID:qtiKV8D70
赤城「おはようございます。朝ごはんはまだですか?」

電「おはようございます。朝ごはんなんてありませんよ」

赤城「チッ」

赤城さんは先に着いていたようです。後は扶桑さん、山城さんだけですね。提督さんはお寝坊でしょうか。

背後からコツコツと足音。私はようやく提督さんが来たのだと思い、振り返りました

霧島「おはようございます、電さん。金剛姉さんを見ませんでしたか? 先に出たはずなんですけど」

封印していた記憶がフラッシュバックしました。

鎮守府にやってきた超大型爆弾。ソロモン海の狂犬。知力と暴力を併せ持つインテリヤクザ系美少女。

金剛型4番艦、霧島さん。今日が平和な一日となる希望はこの瞬間、脆くも崩れ去りました。

いえ、最初からそんなものはなかったんですね。

681: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:23:23.52 ID:qtiKV8D70
電「……金剛さんなら、さっきお腹が痛いって途中で休んでいたのです」

霧島「あら、そうなんですか? ちょっと調教で使い過ぎましたかね」

電「調教?」

霧島「いえ、なんでもありません。さて、今日はよろしくお願いしますね、電さん」

電「あ、はい」

そう言って霧島さんは知的に微笑みます。違和感のない礼儀正しさです。

例えば、昨日見たヤクザ霧島さんの姿は全部夢だった、という可能性はないでしょうか。

今のところ、それはまだゼロになっていないような気がしました。神様、どうかそういうことにしていただけないでしょうか。

682: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:24:31.17 ID:qtiKV8D70
扶桑「あーらあらあら? これはどういうことかしら」

山城「なってません。なってませんわね、お姉さま」

ドックの奥から現れたのは、扶桑さんと山城さんです。何やらいつもと雰囲気が違います。

どちらも怒ったような険しい表情で、その目は霧島さんに向けられています。

霧島「あ、どうもおはようございます。どうしたんですか?」

扶桑「あなた、今が何時だかわかってらっしゃるかしら?」

霧島「はい? 早めに来たつもりなんですけれど」

山城「ハッ! 早めに来た、ですって! 聞きました、お姉さま?」

扶桑「勘違いも甚だしいわね。まさかこんなに遅れてくるなんて、信じられないわ」

霧島「えーっと、ではいつ来ればよかったんでしょう?」

683: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:25:59.88 ID:qtiKV8D70
扶桑「いい、あなたは艦隊で一番の新人なのよ? だったら最低でも4時間前に来るのが常識でしょう!」

電「4時間!?」

山城「4時間前に来てドックの掃除、妖精さんへの挨拶、艤装の整備、後から来る先輩のためにお茶を入れておく! 全部常識です!」

霧島「電さん、そうなんですか?」

電「初耳です」

昨日、扶桑さんと山城さんが密談してたのはこれですか。霧島さんに対する新人イビリはどんなものがいいか、計画を立てていたんでしょう。

さすが扶桑さんです。先日の戦いで急上昇した株価を自ら暴落させるなんて。あの眩しいほどの勇姿が嘘のようです。

彼女は上を目指すのではなく、足元が崩れることのみを恐れているのです。その器の小ささに悲しくなってしまいます。

684: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:27:50.46 ID:qtiKV8D70
扶桑「ほら、電ちゃん。こっちにいらっしゃい。そんな下っ端に優しくしないほうがいいわ。つけあがってしまうものね」

電「え、あの……」

扶桑さんに手を引かれて霧島さんの元から離され、無理やり扶桑さん陣営側に立たされます。お願いです、私を巻き込まないでください。

霧島「あのー。私はどうすれば……」

山城「さあ霧島さん! まずはこれからやっていただきましょうか!」

山城さんが投げて寄越したものを、霧島さんは反射的にキャッチします。それは汚らしいボロボロの布でした。

扶桑「まずはドックの雑巾掛けからよ! 隅から隅までピカピカにしなさい!」

霧島「えっとですね。ドックの床はコンクリートなので、雑巾よりデッキブラシなんかのほうが効率がいいと思うんですけど」

山城「まあ、聞きましたお姉さま!? あの新人、口答えしましたわ!」

扶桑「新人は黙って掃除を始めていればいいのよ! さあ、早くおし! シミ1つ残してたら許さないわよ!」

霧島「はあ……」

685: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:28:54.04 ID:qtiKV8D70
昼ドラの姑のような陰湿さで扶桑さんたちに迫られても、霧島さんは顔色一つ変えません。

かと言って、扶桑さんたちに従って掃除を始める気配もありません。まるで何かを待っているように見えました。

扶桑「何をボサッとしているのかしら? そんな鈍臭さで主力艦隊が務まると思って!?」

霧島「ああ、いえ。雑巾ひとつでドックを清掃するのにどれくらいかかるのか計算して……」

金剛「何やってるネ?」

その言い争いに姿を現したのは、遅れてやってきた金剛さんでした。

憔悴した顔は相変わらずですが、その表情は驚きと恐怖に染まっています。

霧島「あ、ようやく来たんですか。金剛姉さん。ちょっと扶桑さんと山城さんに変なこと押し付けられてて……」

686: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:30:17.05 ID:qtiKV8D70
扶桑「金剛さん、あなたは引っ込んでいてくれるかしら? ちょっと霧島さんに、先輩としての指導をしてるだけだから」

山城「ほら霧島さん、いつまでボンヤリしてる気ですか? 提督が来る前に掃除を終わらせないといけないんですよ!」

金剛「や……やめるデース!」

おぼつかない足取りのまま、金剛さんが両者の間に割って入ります。

それは霧島さんをかばっているというより、何かに怯えているように見えるのは気のせいでしょうか。

金剛「No! Noネ扶桑! 霧島をいじめるのはやめるネ!」

扶桑「金剛さんは引っ込んでいていただけるかしら? 私たちは、あなたの代わりに新人のしつけをだけでしてよ?」

山城「まったく、金剛さんに似て物わかりの悪い戦艦ですね!」

金剛「Please! お願いデース! 霧島をいじめないでくだサイ! この通りデース!」

扶桑「……え? あの、ちょっと」

687: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:31:15.33 ID:qtiKV8D70
金剛「霧島をいじめるなら、私をいじめるネ! 私、何でもするデース! だから霧島だけは、霧島にだけは手を出さないでほしいネ!」

山城「こ、金剛さん!? あなた、そんなキャラでしたっけ!?」

金剛「私は何をすればいいデスか!? 掃除!? 掃除デスか! 霧島、雑巾を貸すデース!」

霧島「はい、どうぞ」

差し出された雑巾を、金剛さんが素早く受け取ります。今にも雑巾掛けを始めそうな雰囲気です。

金剛「じゃあ、今から私がドックの掃除をするネ! 扶桑、これでいいデースか!?」

扶桑「ちょ、ちょっとやめてよ! なにこれ、打ち合わせと違うじゃない!」

山城「金剛さん、やめてください! もういいですから! もう大丈夫ですから!」

688: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:33:05.18 ID:qtiKV8D70
扶桑さん、山城さんは完全に気後れしてしまいました。無理もありません。あんなに必死な金剛さんを目の当りにしたら、面喰うのは当然でしょう。

扶桑型戦艦による新人いびりは、金剛さんの思わぬ行動によって阻止されました。まさか金剛さんがここまで妹思いだったなんて……

霧島「くくく。上出来だ、金剛」

ぞっとするほど悪意を帯びたそのつぶやきを聞いたのは私だけだったでしょう。いつの間にか霧島さんは、私の傍らに立っていました。

はっとして霧島さんを見上げます。眼鏡をずらしたその奥で、爛々と光る狂犬の瞳が私を見つめていました。

ニヤリと笑う霧島さんを目にして、私は察しました。金剛さんは調教されてしまったのだと。

昨日の恐ろしい霧島さんは夢ではありませんでした。金剛さんはこの霧島さんの手によって、忠実な下僕に変えられてしまったのです。

ならば、ここから先はきっと悪いことしか起こりません。霧島さんは、何をするって言ってましたっけ……?

689: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:33:48.36 ID:qtiKV8D70
提督「よーし。ハッピーラッキー艦隊、全員揃っているな」

騒ぎがようやく落ち着いた頃、ようやく提督さんがドックにやってきました。

大本営からの突き上げを食らって眠れなかったのでしょう、その顔は今日もやつれ気味です。

扶桑「お、おはようございます提督。今日はどんな予定でしょうか」

提督「ハッピーラッキー艦隊には、まず演習に行ってもらう。今日はラバウルのLV150の艦隊が相手をしてくれるそうだ」

提督「演習後に資源の様子を見つつ、余裕があるならジャム島への試験的な出撃を行う」

山城「新海域の攻略ですね。お姉さま、頑張りましょう!」

提督「ちなみに、ジャム島には潜水艦が出るという情報があるから、本攻略には由良、五十鈴を加えた艦隊によって行う予定だ」

提督「よって戦艦4名のうち、2名を選抜する形になると思うから、そのつもりでいるように」

扶桑「に……2名ですか」

690: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:34:50.61 ID:qtiKV8D70

また提督さんが面倒になりそうなことをさらっと言いました。

戦艦のうち2名だけ。普通に考えれば、LVの高い扶桑さんと山城さんが選ばれるのが自然です。

しかし、霧島さんがこの機会をどう見るか。あるいは扶桑さんからエースの座を奪うチャンスと捉えるかもしれません。

そっと横顔を伺いますが、今は知的キャラモードなので、その内面をうかがい知ることはできません。

提督「霧島は今日が初陣だな。活躍に期待してるぞ」

霧島「もちろんです。ところで提督?」

提督「なんだ?」

霧島「ちょっと失礼します」

霧島さんは何気なく提督さんの間近に歩み寄ると、その首元にそっと両手を伸ばしました。

扶桑「なっ!?」

霧島「ネクタイが曲がっていました。鎮守府を預かっていらっしゃる身なんですから、身だしなみもしっかりしていただかないと」

提督「あ、ああ。悪い」

691: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:35:46.10 ID:qtiKV8D70
霧島「……ふふ。こうして近くで見ると、提督って意外と背が高いんですね」

提督「そ、そうか? そんなに低く見えてたかな」

霧島「あ、すみません。そんなつもりで言ったんじゃないんです」

提督「いや、いい。別に気にしてないから」

霧島「そうですか。よかった」

霧島さんはにっこりと提督さんに微笑みかけ、そのままあっさりと後ろに下がってしまいました。

霧島「お時間を取らせてすみません。それでは、行ってきます」

提督「あ、ああ。それではハッピーラッキー艦隊、演習を開始せよ」

扶桑「りょ、了解です。皆さん、行きましょう」

扶桑さんが艦隊を率いてドックを後にしようとしています。ですが、その表情には動揺がありありと見て取れます。

692: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:36:15.02 ID:qtiKV8D70
扶桑「……霧島さん? あなた、一体何のつもり……」

金剛「さあ扶桑、今日も頑張るデース! 張り切って行くネー!」

扶桑「ちょ、ちょっと、引っ張らないで! 今日のあなたのテンション何なの!?」

ハッピーラッキー艦隊の出撃していく姿を見送りながら、私の頭の中は疑問が渦巻いていました。

何なんでしょう。さっきの霧島さんが行った、何とも言えないアプローチは。

金剛さんが実践していたようなものと比べると、まるでお風呂に入る前に手足からぬるま湯をかけていくような距離の詰め方です。

あれが霧島さんの考えた、提督さん攻略の作戦? 長期的に距離を縮めていくつもりでしょうか。 

あの霧島さんがそこまで気の長い人には見えないのですが……

693: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:38:00.37 ID:qtiKV8D70
電「それじゃ、今日の私は何をすればいいでしょうか。提督さん」

提督「……」

電「提督さん?」

提督「あ? な、なんだ電。どうした?」

え、何ですかその呆けた顔。まさか、今の霧島さんがクリティカルヒットだったんですか?

あのぬるいアプローチが? あそこから関係を築いていくにはだいぶ時間が掛かりそうに見えたのに、もう霧島さんのことが気になっている?

一体、霧島さんが見出した提督さんの好みって何なんでしょう。

提督「ああ、そうだ。今日は電にも出撃してもらうぞ。そろそろキス島も攻略してほしいからな」

電「あ、はい。出撃はいつになりますか?」

提督「もうメンバーが集まる時間だが……お、来たようだぞ」

694: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:38:53.95 ID:qtiKV8D70
霞「おはよう、電。今日はよろしくね」

電「霞ちゃん! 一緒に出撃できて嬉しいで……」

白雪「子日親衛隊! せいれーーつ!!」

私と霞ちゃんとのささやかなひとときは、アカギドーラ教団子日親衛隊長、白雪さんの怒号によってかき消されました。

白雪「それでは点呼を取る! 暁!」

暁「はっ!」

白雪「響!」

響「応!」

白雪「夕立!」

夕立「ぽい!」

695: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:39:20.07 ID:qtiKV8D70
白雪「我らは首長不知火様より直々に選別された、誇り高き子日親衛隊である!」

白雪「たとえその身が砕けても深海棲艦を撃滅せよ! 弾が切れても素手で戦え! 拳が砕けたなら噛み付いて奴らの喉笛を食いちぎれ!」

白雪「髪の毛1本になろうとも戦い続けよ! アカギドーラ様の先触れたる電様の導きの元、1匹でも多くの深海棲艦を海に浮かべるのだ!」

電「あの、私は邪神の使い魔みたいな存在という解釈でいいんでしょうか」

白雪「息絶えた深海棲艦の血肉はアカギドーラ様の飢えを満たす贄となる! 贄が増えればそれだけアカギドーラ様の怒りも鎮まるであろう!」

白雪「そうすれば、子日様もお喜びになる! 子日様の笑顔が見たいかー!」

「うおおーーー!!」

白雪「子日様の笑顔が見たいかー!」

「うぉおおおーーー!!」

白雪「うむ! 電様、参りましょう! 深海棲艦どもを血祭りにあげ、アカギドーラ様への捧げ物とするために!」

電「はい。そうですね」

霞「……あんたも大変ね」

696: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:40:12.19 ID:qtiKV8D70
出撃するのが急に嫌になってきました。霞ちゃんと2人っきりで出撃させてくれませんか。ダメですか、そうですよね。

提督「うちの駆逐艦はみんな気合いが入っているなあ。よし、キス島攻略は任せたぞ」

提督さんは耳に泥でも詰まっているんでしょうか。気合いが入っているのと、宗教的熱狂の区別すらつかないようです。

きっと現実から目を逸らしているだけでしょう。駆逐艦たちの狂信ぶりはすでに手に負えないところまで来ていますから。

電「それではサンダーボルト艦隊、出撃するのです」

提督「ああ、頼んだぞ」

霧島さんのことも気にかかりますが、こっちはこっちで大変です。

背負いきれないほどの不安を抱えながら、私たちもキス島へと出撃していきました。

ところでサンダーボルト艦隊の艦隊名は私が名づけました。かっこいいでしょう。

697: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:41:22.52 ID:qtiKV8D70
電「はあ、今日もダメだったのです……」

ボスマスには辿りつけたのですが、かなり遠回りのルートを選択されてしまったため、消耗しきった状態での戦闘になり、当然敗北しました。

霞「何落ち込んでるのよ。次は絶対行けるから、もっとピリっとしてなさいよ。旗艦らしくね」

電「あ、はい。ありがとうなのです」

こうして出撃帰りに霞ちゃんに励まされていると、ここに来たばかりのとき友達だった、以前の霞ちゃんを思い出します。

あの霞ちゃんのことは一生忘れません。新しく来た霞ちゃんも、こうして友達になってくれました。

私が1人じゃないということがとても嬉しい。そんなことを考えていると、何だか目が潤んできて……

白雪「電様! 今日の戦果はいかがだったでしょうか? なかなかの数の深海棲艦を滅ぼせたと思うのですが!」

電「……そうですね。アカギドーラ様も喜んでくださるでしょう。しばらく災いは起きないと思われます」

白雪「そ……それはまことですか! よかった、子日様に朗報を届けることができそうです!」

698: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:42:10.95 ID:qtiKV8D70
電「子日様は最近お疲れのようですから、皆さんそっとしてあげると、彼女も喜ぶかと思います」

白雪「ご助言、感謝いたします! 皆の者、帰ったら子日様を全力で労うのだ!」

「おー!」

たぶん私の言ったことは10%くらいしか伝わっていないです。まあ、違う文化を持つ民族とやりとりすればこうなってしまうのでしょうね。

霞「ねえ。電って本当にアカギドーラの先触れじゃないのよね?」

電「最近はもう、よくわからなくなってきました」

霞「ちょっと、あんたまでやめてよ! 最近のあいつら、他の散らばってた駆逐艦をどんどん加入させて、もう私しか残ってないのよ!?」

霞「あんたまでアカなんちゃら教団に染まったら、私はどうしたらいいのよ!」

電「霞ちゃんも、私以外に友達いないのですか……」

霞「もう友達がどうこうの次元じゃないわ。正気を保つことに精一杯よ!」

無理もないでしょう。この鎮守府には放置されたせいで常軌を逸した行動を取る艦娘で溢れかえっているのですから。

699: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:42:39.29 ID:qtiKV8D70
電「私は教団に染まるつもりはないですよ。ただ、上手くやれば教団を操れそうなので……」

霞「操る? あんなカルト教団を操って何するのよ?」

電「……ごめんなさい。それは言えないのです」

まだ始動してはいませんが、その作戦に霞ちゃんを巻き込みたくありません。

できれば霞ちゃんには、少しでも平和に過ごしてほしいと思っています。

霞「言えないってなら別にいいけど……力を貸して欲しいときは、いつでも言いなさいよ?」

電「……ありがとうなのです」

そのときが来てほしくないというのが本音ですが、そうも行かないでしょう。

その時期は、刻一刻と迫っている。そんな予感がしました。

700: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:43:44.13 ID:qtiKV8D70
電「ただいま帰投しました……すみません、攻略できなかったのです」

提督「そうか。まあ、仕方がないな」

入渠を終えた私たちに攻略失敗を告げられても、提督さんは大して気にした様子はありませんでした。

私にはそれが意外です。海域攻略が遅れているのだから、もっと落ち込むと思っていたのに。

何だか最近の提督さんにはやる気を感じません。バカの一つ覚えのように建造、開発を繰り返していた時期だって、やる気だけはあったのです。

あまりに攻略が遅延すると、提督さんは責任を取らされて更迭される可能性が出てくるのですが、その現実を認識できているのでしょうか。

提督「じゃあ、もう1回挑戦するか。LVはギリギリ足りてるようだしな」

電「はいなのです」

扶桑「失礼します提督。ハッピーラッキー艦隊、演習より帰投しました」

ちょうど主力艦隊の皆さんも演習から帰ってきました。演習とはいえ、高LV艦隊との戦闘を終えて皆さんお疲れの様子です。

701: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:44:51.60 ID:qtiKV8D70
提督「ご苦労。LVもそこそこに上がったようだな。初陣はどうだった、霧島?」

霧島「はい。初めてだったので緊張しましたけど、自分なりにうまくやれたかなって思ってます」

金剛「霧島はすごく頑張ってたネ! 将来性あると思うデース!」

山城「しょ、将来性なら私たちの方が……」

金剛「Oh、山城! さっきの長門型に一撃かましたカットイン射撃すごかったデース! あれどうやったデースか!?」

山城「ちょ、ちょっと金剛さん! 艤装に触らないでください!」

霧島「提督が装備させてくださった、この41cm連装砲、とても扱いやすいです。こんないい装備、私が持っててもいいんですか?」

提督「まあ、本当は扶桑か山城に装備させる予定だったんだが、火力の底上げにと思ってな」

霧島「そうですか……それじゃ、もうお返ししないといけませんね。ちょっと寂しいな……せっかく提督がくれたものなのに」

寂しそうに笑って、霧島さんは愛おしげに砲塔を撫でます。中身が狂犬とは思えない、慎ましげで女性らしい仕草でした。

702: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:45:51.88 ID:qtiKV8D70
提督「……いや、予定を変えよう。霧島は頑張ってくれてるようだから、LVが十分上がるまで装備したままでいい」

扶桑「えっ!? あの、て、提督!」

金剛「ほら、扶桑もこっち来るデース! 凡庸な老朽艦の私に、カットイン射撃の仕方を教えるデース!」

扶桑「なっ、放してよ! 今忙しいのよ、ちょっと!」

霧島「……本当に、私が装備してていいんですか? 嬉しいけど、私にはもったいない気がして……」

提督「いいんだよ。そのかわり、しっかり戦果を挙げてくれよな」

霧島「……はい、わかりました。あの……提督」

提督「なんだ?」

霧島さんはそっと提督さんの間近へと歩み寄りました。何か言いたげな表情で、提督さんの顔を見上げています。

703: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:46:33.54 ID:qtiKV8D70
無言で見つめ合うこと、ほんの数秒。霧島さんは照れ隠しのようにいたずらっぽく笑って、提督さんから離れました。

霧島「すみません、やっぱりいいです。さ、次の出撃に行きましょう」

提督「どうした、言いたいことがあるなら言ってもいいんだぞ?」

霧島「ううん、大丈夫です。また今度にしましょう」

提督「……そうか」

何ですか、この微妙な空気のやり取り。

霧島さんの狙いがわかりません。なにより、提督さんがまんざらでもない反応をしているのが一番わかりません。

邪魔するべき扶桑さん、山城さんは、不自然にテンションの高い金剛さんともみ合って2人の間に立ち入ることができないでいます。

704: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:47:03.80 ID:qtiKV8D70
提督「じゃあ、ハッピーラッキー艦隊は補給を受けたら予定通り、ジャム島への試験的出撃を行う。おい扶桑、聞いてるのか?」

扶桑「金剛さん、やめて! 瑞雲を返して……はいっ!? あ、はい! 次の出撃ですね、聞いてます!」

提督「なら早く行ってくれ。今日は予定が多いから、急がないと日が暮れてしまう」

扶桑「は、はい……すみません」

提督「さあ、電も出発してくれ。メンバーは霞だけ据え置きで、他の4人は別のメンバーに交代させてあるからな」

電「わかりました。それでは行ってきます」

霞「はあ、また出撃ね。今度こそ攻略できるよう、頑張りま……」

文月「おらぁー! キリキリ歩けゴミクズどもぉ! 隊列を乱すんじゃない!」

叢雲「す、すみません!」

朝潮「うう……なんでこんな目に……」

初雪「おうちかえりたい……」

705: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:48:39.22 ID:qtiKV8D70
文月「臭い口を開くなウジ虫ども! いいか、掟破りを犯して罪人の身である貴様らに、人権などない!」

文月「子日様からの許しが欲しければ、1人あたり100匹の深海棲艦の首を挙げよ! それまで貴様らはタンカス以下の存在だ!」

文月「万が一、戦場から逃げるような真似をしてみろ。アカギドーラ教団刑務長官である、この文月が貴様らを八つ裂きにしてやる!」

文月「ゴキブリと同等の身分から這い上がりたければ、死に物狂いで戦え! わかったかビチグソども!」

「おお~~……」

電「はい。じゃあ皆さん、出発しましょうね」

文月「かしこまりました、電様! おらぁ恥垢ども、さっさとついて来い!」

霞「まともな駆逐艦って、もういないの?」

電「さあ? もういいじゃないですか、ありもしない希望を求めるようなことは」

提督「いやあ、本当にうちの駆逐艦たちは活気があるなあ。やはり放任主義は教育方針として最高だな」

何か愚にもつかない寝言が聞こえましたが、空耳でしょうか。

ふと、提督さんに向けて12.7cm連装砲を撃ちたい衝動に駆られましたが、どうにか抑えました。

駆逐艦隊による出撃を楽しみにしていた頃もありましたが、今では早く終わらせたくて仕方がありません。

この出撃でキス島攻略を最後にしてしまいたいです。

706: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:49:24.15 ID:qtiKV8D70
電「ダメだったのです……」

またボスマスには行けたのですが、立て続けにクリティカルヒットをもらってしまい、戦闘力を失って敗北しました。

今日は疲れました。入渠も終わりましたし、早く帰って寝たいです。アカギドーラ教団の人も、霞ちゃんも、早々に引き揚げていきました。

扶桑「ハッピーラッキー艦隊、帰投しました。申し訳ありません、やはり攻略はできませんでした」

提督「そうか。まあ、仕方がないな」

扶桑さんたちも帰ってきました。やはり無茶な出撃だったのか、隼鷹さん、金剛さん、霧島さんが大破して衣服がボロボロです。

隼鷹「痛たたた、もー提督、あたし軽空母なんだから無茶させないでよ」

提督「ははは、悪い悪い」

談笑しつつも、そのにやけた目線は隼鷹さんの顔ではなくはだけた胸元に行っています。

「これが提督として唯一の楽しみ」と言っていたのは、あながち冗談でもないんでしょう。

707: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:50:26.41 ID:qtiKV8D70
霧島「すみませんでした。私、思うような戦果を挙げられなくて……」

申し訳なさそうな表情で、霧島さんが提督さんに歩み寄りました。その上半身はボロ布がぶらさがっているだけのセミヌード状態です。

提督「まあ仕方がない。LVがまだ足りてないんだし、これからに期待するよ」

霧島「ありがとうござ……あっ」

霧島さんはふと何かに気付くと、  が奇跡的に隠れているだけの上半身を両腕で抱き、  を隠しました。

霧島「ダメです。見たらいけませんよ、提督」

提督「あ、ああ。すまない」

霧島「……xxx」

ツンとした表情の霧島さんが背を向け、提督さんは硬直しました。

今日、初めての直接的な攻撃。提督さんの呆然とした顔を見ればわかります、今のはクリーンヒットでした。

708: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:51:01.65 ID:qtiKV8D70
扶桑「……山城。その主砲で私を撃ちなさい」

山城「お、お姉さま!? 何を言っているんですか!」

扶桑「見たでしょう、今のやり取り! あの泥棒猫、明らかに私の提督を奪う気よ!」

扶桑「私も積極的に行かないと足元をすくわれるわ! 今ここで大破姿になって、大人の色気をアピールするのよ!」

山城「お姉さま、落ち着いてください! 金剛さんと発想が同じレベルです!」

扶桑「ならどうすればいいのよ! 提督は意志薄弱で、ネガティブで、神経のチョロいダメ人間なのよ!?」

扶桑「あんな小娘にそそのかされたら、コロっと落ちてしまうわ!」

山城「だからって、ここでわざと大破しても逆効果です! まずは落ち着いてください!」

薄々勘付いていたんですが、扶桑さんってダメ男好きなんですか。幸せになれないタイプの女性ですね。

709: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:52:21.78 ID:qtiKV8D70
扶桑「山城、あなたは先に入渠してなさい。私は小破だからいいわ」

山城「いいって、これからどうする気ですか?」

扶桑「最近は提督が忙しそうだから遠慮してたけど、それが裏目に出たわ。私は提督とデートに……」

金剛「扶桑、何やってるネ!? こんなに傷ついて、さっさと修理するネ!」

扶桑「金剛さん!? なんで今日はそんなに絡んでくるのよ! あなた、頭でも打ったの!?」

金剛「提督ー! 扶桑が入渠したくないって駄々こねてるデース!」

提督「ん? 何してんだ扶桑、早く入渠しろよ」

扶桑「は……はい。すみません」

提督さんの淡白な態度に、扶桑さんは気勢を削がれてしまいました。そのまま金剛さんに引きずられて行ってしまいます。

710: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:53:21.17 ID:qtiKV8D70
霧島「おい、電」

電「はっ、はい!? 霧島さん!?」

もう入渠したと思っていたのに、いつの間にか霧島さんが傍らに立っていました。

片手で胸を隠しつつ、眼鏡をそっとずらして私を見ています。その目は獲物を狩る鋭い眼光が光り、唇は楽しそうに笑っています。

霧島「提督に私の印象を聞いておけ。夜になったら私の部屋に来い。聞いた内容を伝えろ」

電「は、はい……」

素直にうなづくと、霧島さんも入渠に向かいました。できれば帰って来ないでほしいです。

隼鷹「さーて、あたしも艦載機補充して入渠するかな」

提督「あ、待ってくれ隼鷹。聞きたいことがあるんだが」

隼鷹「ん、なに?」

提督「大破状態で夜戦に突入したとき……あ、電はもう行っていいぞ。今日はもう終わりにするから」

電「そうですか。じゃあ失礼するのです」

711: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:54:11.64 ID:qtiKV8D70
やっと今日の仕事から解放されました。あとは寝るだけ……ではないですね。提督さんに、霧島さんの印象を聞かないと。

今は隼鷹さんと話しているので、少し待ちます。昨日私に聞いたことをまた聞いているみたいです。メンバー全員に聞いて回っているのでしょうか。

隼鷹「……それ、ホントの話?」

提督「大本営発刊の本に載ってたから、間違いがあるはずはないんだがな。どう思う?」

隼鷹「……ごめん。あたしにはわからないや」

提督「そうか、すまん。嫌なことを思い出させたな」

隼鷹「いいよ。じゃ……」

話している内容はよく聞こえませんでしたが、立ち去っていく隼鷹さんの表情は、何かを悩んでいるように見えました。

712: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:54:54.53 ID:qtiKV8D70
電「何を話していたんですか、提督?」

提督「なんだ、電。行ったんじゃなかったのか」

電「ちょっと聞きたいことがあったので。それで、さっきの話は?」

提督「ああ、電に昨日聞いたことと同じだよ。大したことじゃない」

提督さんの口ぶりは、本当に大したことじゃないように聞こえます。ですが、隼鷹さんの反応はそうではありませんでした。

提督「で、俺に聞きたいことって?」

電「あ、はい。なんだか霧島さんのことを特別気にされてたように見えたので、どう思ってるのかなって気になって……」

提督「ああ、霧島のことか。そうだな……さっき知ったが、隠れ巨 だな、霧島は。着やせするタイプか」

やっぱり巨 好きじゃないですか。単に霧島さんの胸が大きかったから気になっているだけでしょうか?

713: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:55:54.00 ID:qtiKV8D70
電「霧島さんについては    が大きいだけっていう、それだけですか?」

提督「いや、それだけじゃないな。何かこう、惹きつけられるものがあるというか、話すと胸が高鳴るというか、なんというか……」

なに高校生の初恋みたいなことを言っているんでしょう、この人は。

というかこれ、本当に霧島さんのことを異性として気になってるじゃないですか。目も泳いでるし、顔もちょっと赤いし、ほぼ確定です。

電「あの……提督さんは、扶桑さんとケッコンカッコカリの約束をしてますよね?」

提督「……まあ、そうなんだけどな」

曖昧に言葉を濁して、提督さんはバツが悪そうに歩き去っていきました。

扶桑さん。あなたの足元、もう崩れ落ちる寸前です。

714: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:56:31.77 ID:qtiKV8D70
足柄「くっ、妙高姉さん! この縄を解いてよ! 妹に対して、こんな扱いあんまりだわ!」

那智「くそっ、私たちを解放しろ! 文句があるならオイルレスリングで勝負しろ!」

妙高「黙りなさい」

夜になるまで自分の部屋で待とうと鎮守府の中に戻ると、聞き覚えのある声がしました。

声のした部屋を覗き込むと、昨日まで野放しにされていた足柄さんと那智さんが妙高さんの前で縛り上げられています。

電「あっ……そいうえば昨日、高雄さんと愛宕さんこと、ほったらかしにしたままだったのです」

暴走した足柄さんたちによって全裸にされた上、  縛りにされて放置された高雄さん、愛宕さん。

今日は逆に、足柄さんと那智さんが縛られています。これはどういう状況なんでしょう。

妙高「あなた方にはほとほと愛想が尽きたわ。姉妹でなければ首を刎ねてやるところです」

足柄「く、首……!?」

715: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:57:08.45 ID:qtiKV8D70
妙高「あなたたち、高雄と愛宕をいつからあのままにしていたの?」

足柄「……昨日のお昼前から」

妙高「そう。なら、2人はまる1日以上全裸で縛られたまま放置されていたってことね。通りで干からびかけていたわけだわ」

妙高「それで、その2人にあなたたちはさっき、何をしていたの?」

那智「……醤油をかけてた」

妙高「全くもって意味不明ね。全裸で縛られてる高雄と愛宕に、何を思って醤油をかけたの?」

足柄「その、女体盛りをしようってことになって……でも、魚が釣れなくて……」

那智「もう直接醤油をかければ何とかなると思って、それで高雄と愛宕に醤油を……」

妙高「……この、妙高型重巡洋艦の面汚しどもが」

殺気を含んだ声が重圧となって部屋に満ちます。久々に見る妙高さんの本気です。

かつての餓狼艦隊における旗艦は足柄さんでしたが、妙高型で本当に怖い人は妙高さんなのです。

716: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:58:13.89 ID:qtiKV8D70
妙高「放置されてストレスが溜まっているのは私にもわかっています。だからこそ、今まであなたたちの奇行を見逃してきました」

妙高「しかし、今日という今日は許しません。隣の部屋で羽黒が2人を介抱していますから、今すぐ土下座して謝ってきなさい」

足柄「ど、土下座!? 嫌よ、絶対に嫌! 足柄の名にかけて、それだけはできないわ!」

那智「私も同じだ! 土下座なんてするくらいなら死んだほうがマシだ!」

妙高「……死んだほうがマシ。その言葉、取り消せないわよ」

那智「な……何をする気だ、妙高!」

妙高「まだ日は沈み始めたばかり……再び日が昇るまでに、あなたたちを改心させてあげましょう」

妙高「教育に最も効果的な要素は何か知っているかしら? それは……恐怖と、苦痛よ」

足柄「まっ……待って妙高姉さん! 嘘でしょ!? ねえ冗談でしょ、ねえ!」

那智「くっ……殺せぇ! いっそ殺せぇ! うぉおおおおーー!!」

717: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:58:55.53 ID:qtiKV8D70
なんだ、足柄さんと那智さんが当然の裁きを受けているだけですね。

高雄さんと愛宕さんも助かったみたいですし、あの2人は一晩中拷問されたくらいでどうにかなる人たちではありません。大丈夫でしょう。

ただ、このときから妙な予感はしていました。

今までギリギリの線で保たれていた均衡が崩れるような、鎮守府に危うい気配が満ちている気がします。

駆逐艦たちが集まる区画に近づくにつれ、それは予感ではなく確信になっていきました。

聞こえてくるのは、扉を拳で打ち付ける音と、不知火さんの悲壮な叫び。大勢の駆逐艦たちのざわめきも大気を震わせています。

声の聞こえる方へ行くと、1つの部屋の前に駆逐艦たちが人だかりを作っていました。

不知火「子日様、一体どうなされたのですか! ここをお開けください!」

当然ながら、全員例の教団です。首長の不知火さんが部屋の扉を激しく叩き、ただ事ではない様子です。

718: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 04:59:55.59 ID:qtiKV8D70
不知火「今夜は集会に出ていただく予定ではありませぬか! なぜ閉じこもっておられるのです!」

子日「イヤ、出たくない! もうみんなキライキライ! 私、祭祀とかそんなんじゃないもん!」

不知火「何をおっしゃるのです! 子日様こそ、我々が待ち望んだ選ばれし祭祀のはずです!」

子日「違う! 私、普通の駆逐艦だもん! 集会とか聖別とか、そんな事もうしたくない!」

子日「不知火も、みんなも大キライ! あっちいってよ! 誰にも会いたくない!」

不知火「な、なんということだ……仕方がない。吹雪、斧を持て! この扉ごと破壊してこじ開けるのだ!」

子日「無理やり入ってきたら、舌噛んで死んでやる! 私、本気だから!」

不知火「な、なんということをおっしゃいます! お気を確かに!」

子日「みんなこそ気が変だよ! 私、普通の友達が欲しい!」

719: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/07(月) 05:00:33.38 ID:qtiKV8D70
子日さん、とうとう限界のようです。今までお疲れ様でした。

私が行って助けることもできそうですが、今は問題をややこしくする可能性があります。やめたほうがいいでしょう。

電「すみません、子日さん。もうしばらく耐えてください」

どうか自決だけはされないよう、よろしくお願いします。

「一体子日様はどうなされたんだ!?」「この世の終わりだー!」「生贄を! 子日様のために生贄を捧げるのだ!」

騒ぐ駆逐艦たちを通り抜けて、自室へと戻りました。

疲れているので仮眠でも取りたいところですが、一度眠ったら起きられそうにないので本でも読みながら待ちます。

クラウゼヴィッツの「戦争論」を読んでいる間も、駆逐艦たちの喧騒は鳴り止みません。

もう、この鎮守府に未来はないのかもしれませんね。


続く

746: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:16:55.63 ID:Lv9/9Z470
お待たせしました。電ちゃん覚醒の後編を始めたいと思います。

電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです7 地獄の鎮守府 後編

747: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:17:24.76 ID:Lv9/9Z470
霧島「来たか、電。報告しろ」

電「はい。その前に、あの……金剛さんはなぜバスタオル1枚なのですか?」

言われた通り、夜中に霧島さんの部屋へ訪ねました。そこには眼鏡を外した霧島さんと、バスタオルだけを体に巻く金剛さんがいます。

金剛さんの様子が明らかに変です。やつれた顔は更に憔悴し、完全に目が死んでいます。

霧島「なに、気にするな。こいつは今日、なかなかの働きをしたからな。『ご褒美』をくれてやったのさ」

電「どちらかと言うと拷問された後に見えるんですけど……」

霧島「そんなことはどうでもいい。さっさと提督の反応を聞かせろ」

748: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:18:34.76 ID:Lv9/9Z470
私は見聞きした通りのことを霧島さんに話しました。今日の霧島さんとの接触で、提督さんの心が明らかに揺れていることを。

霧島さんは驚く素振りもなく、ニヤニヤと嬉しそうな顔で私の報告を聞き入りました。

霧島「くくっ……ハハハハハッ! こうも上手くいくとはなぁ! チョロそうな男だとは思っていたが、チョロ過ぎて張り合いがねぇぜ!」

金剛「あの……そろそろ私たちにも教えていただけないでしょうか。提督の本当の好みというものを……」

霧島さんの言いつけ通り、金剛さんの口調からカタコトが消え失せています。いっそのこと普段からそのキャラで行きませんか。

霧島「なんだ、まだ理解できないのか? しかたねえな、お前らのようなバカどもにもわかるように教えてやる」

749: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:19:02.74 ID:Lv9/9Z470
霧島「まず初めに、提督は巨 好きなんかじゃねえってことだ」

電「巨 好きじゃない? でも、提督さんは霧島さんの胸のことも気にしていましたし……」

霧島「そんなもんは表面的なことに過ぎねえ。ビックリマンチョコの例えをしてやっただろ?」

霧島「ガキどもはチョコが食いたくてビックリマンチョコを買うわけじゃねえ、シールが欲しくてビックリマンチョコを買うんだ」

霧島「提督の場合、それが無意識だから少々話がややこしくなる。あいつ自身、自分が巨 好きだと勘違いしてやがるんだ」

金剛「巨 好きだと勘違いしている? ど、どういう意味でしょうか?」

霧島「巨 は実のところ、おまけでしかないんだよ。提督の本当の好みは別にある」

電「でも、提督さんの好きな艦娘はみんな巨 で……」

霧島「お前らの目は節穴か? 昨日鎮守府を回ったとき、高雄と愛宕の姿をお前らも見ただろう」

750: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:19:31.62 ID:Lv9/9Z470
霧島「あいつらのバストサイズはFやGじゃきかねえぜ! あんな絶品巨 をほったらかしておいて、巨 好きも何もないだろうがよ!」

言われてみればそうです。高雄さんと愛宕さんは割と前からいるのに、運用されたことさえほとんどありません。

電「確かにそうですが、提督さんは重巡を軽視していますし、巨 にしても大きすぎるということだってあるんじゃ……」

霧島「ハッ、多少は頭が働くじゃねえか。その通り、高雄どもを放置しているから巨 好きじゃない、ってのはさすがに暴論だ」

霧島「だがな、可能性としては十分だ。もし提督が本当に しか見てない男なら、アタシが扶桑に勝つ確率はほとんどないからな」

霧島「高雄と愛宕が放置されているという事実を根拠に、アタシは提督が巨 好きじゃないという可能性に賭けた。これは思考の起点に過ぎない」

霧島「巨 好きじゃない、という根拠はもうひとつある。電、提督は龍田が苦手なんだろ?」

電「あ、はい。優しそうに見えてドSなところが怖いって……」

霧島「それだ。巨 好きであるはずの男が、なぜ『性格』を理由に巨 を遠ざける? ちょっと考えればおかしいってわかることだぜ」

751: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:19:58.67 ID:Lv9/9Z470
霧島「あいつには巨 とは別の好みがあり、龍田にはそれが欠けていた。あとは簡単だな、それが何か考えればいい」

次々と理論を展開させ、提督さんの好みを解き明かそうとする霧島さんの姿は、まさにインテリヤクザそのものです。

暴力と知恵。相性の良くなさそうな2つが合わさると、これほどに恐ろしい怪物が生まれてしまうのでしょうか。

霧島「足柄、隼鷹、扶桑。提督が明確に好意を示した艦娘はこの3人。これにあと1人……いや、2人加える必要がある」

霧島「その2人はどちらも巨 じゃない。電、まずはお前が言っていたあの女だ」

電「……大淀さん、ですね」

大淀さんは鎮守府に着任はしていませんが、任務を受ける際に姿を見せる人です。

どういうわけか、提督さんは大淀さんが鎮守府に着任していないのを残念がっていました。

金剛「ま、まさか! 提督は眼鏡っ子好きなのですか!?」

霧島「バカかお前は。大淀以外、誰も眼鏡を掛けていないだろうがよ」

金剛「あ……そ、そうですね。すみません」

752: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:21:05.62 ID:Lv9/9Z470
霧島「加えるべき艦娘はあと1人。それは電、お前だよ」

電「えっ!? わ、私ですか!?」

霧島「お前は提督が最初に選んだ艦娘だ。そこに好みが絡んでいないはずはない」

霧島「足柄、隼鷹、扶桑、大淀。そして電。それらに共通する要素を考えたとき、答えを出すのにそう時間は掛からなかったぜ」

霧島「提督の好みは……『大人っぽくて優しいお姉さん』なんだよ!」

金剛「お、大人っぽくて優しいお姉さん!?」

電「な、何ですかそれ……」

巨 好きと思われていた提督さんが、実は『大人っぽくて優しいお姉さん』が好き?

まさか、あの常に冷めた態度を通している提督さんが、そんな甘ったるい好みを持っているというんでしょうか。

753: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:21:56.43 ID:Lv9/9Z470
霧島「『巨 』ってのは『お姉さん』キャラに8割方付随してくる要素だ。提督が自分を巨 好きだと勘違いしても無理はない」

霧島「隼鷹は親戚のサバサバした色っぽいお姉さん、扶桑は大人の色気を持つ若妻、あるいは未亡人。そんなところが提督を惹きつけた」

霧島「足柄が提督から見放されたのは、これも性格が原因だ。お姉さん的な要素は持っていたが、性格が少々やんちゃ過ぎた」

霧島「龍田はもうわかるな? 優しそうに見えてサディスティックな言動が提督に敬遠されたわけだ」

霧島「高雄と愛宕にもお姉さん要素はあるが、大人っぽさを欠いていたから提督には見向きもされなかったということだな」

金剛「愛宕もダメなのですか? あれなら明るく色っぽいお姉さんとして通用するのでは……」

霧島「ハッ。そいつはお前のアピールが尽くシカトされてきた理由と一緒だ。提督は自分から擦り寄ってくるような女が嫌いなんだよ」

霧島「あの男の反応を見てわからなかったのか? あいつにとって、色気とは奥ゆかしさのことを言う。自分から脱ぐようなメス犬はお呼びじゃないのさ」

金剛「そ、そんな……」

754: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:22:52.87 ID:Lv9/9Z470
電「あの、私にお姉さん要素はまったくない気がするのですが……」

霧島「おいおい、お前は自分の設定を忘れたのか? 立派な女性になるために毎日牛乳を飲んでるんだろ?」

電「あっ、そういえばそうでした」

霧島「初期駆逐艦の中で、お姉さん要素に通ずるものがあるとすればそれだけだ。提督は無意識のままそこに惹きつけられ、お前を選んだのさ」

電「は、はあ……確かに矛盾はしていないのですが……」

霧島「なんだ、納得いかなさそうな顔をしてやがるな」

電「す、すみません。ピンとこないというか、第一霧島さんは、その……」

霧島「そうですね。私が『大人っぽくて優しいお姉さん』かと言われれば、少々異なると言わざるを得ません」

唐突に眼鏡を掛けないでください。そんなにキャラをコロコロ変えられると気が変になりそうです。

755: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:24:05.92 ID:Lv9/9Z470
霧島「私は言うなれば『委員長』属性を持つ眼鏡キャラ。それは大淀さんも同じでしょう」

金剛「えっと……提督は委員長キャラも好きということでしょうか?」

霧島「金剛、お前は本当にアタシと血が繋がってんのか? 表面だけを見てわかった気になるのは馬鹿の証拠だぜ」

再び眼鏡をかけてヤクザ霧島さんに戻ります。もうそのままでいいですから、これ以上混乱させないでください。

霧島「まずは眼鏡ってのはな、『大人っぽさ』を付加するアイテムなんだよ。女教師モノのxxじゃ、たいてい女が眼鏡をかけてるだろ?」

金剛「た、確かにそうです! ナースが出てくるxxでも、ほとんどの女優が眼鏡をしてます!」

霧島「そういうことだ。眼鏡をかけた『委員長』キャラは、簡単に『お姉さん』キャラへとシフトすることができるのさ」

霧島「落ち着きのある奥ゆかしい振る舞いを見せ、追うのではなく追わせるよう仕向ける。これでアタシは立派な『お姉さん』キャラさ」

電「な、なるほど……」

756: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:24:49.15 ID:Lv9/9Z470
霧島さんが見せた、あの微妙な距離感のあるアプローチはそういうことだったのですね。

歩み寄りつつも決して近寄り過ぎない奥ゆかしさ、色っぽくも大人らしい気品、それが提督さんにヒットしたわけです。

金剛「あの……提督の好みはわかりましたが、それで扶桑に勝てるんでしょうか?」

霧島「んん? どういうことだよ」

金剛「失礼ですが、容姿で言えば『お姉さん』要素をより満たしているのは扶桑ですし、彼女が本気を出せば魅力ある振る舞いもできるでしょう」

金剛「私が邪魔をするのにも限界がありますし、何より扶桑はより長く提督と関係を築いています。霧島さんがまだ不利であることに変わりは……」

霧島「ハハハッ! そうでもねえよ。扶桑とアタシ、若いのはどちらに見える?」

金剛「は? それは当然霧島さんですが……」

霧島「だろ? 実はな、あの男にとって、女とは若ければ若いほどいいんだよ」

金剛「そ、それは先程言われた提督の好みと矛盾するのでは……」

757: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:25:56.84 ID:Lv9/9Z470
霧島「その通りだ。こいつは少々複雑な話でな、あいつがなぜお姉さん好きなのかということと合わせて説明してやろう」

霧島「足りない脳みそ回してちゃんとついて来いよ? まず第一に、男の 的嗜好の根本にあるのはマザーコンプレックスだということは知っているな?」

電「はい?」

霧島「このお姉さん好きというのはそれがそのまま変異したものだ。本来なら幼児 欲が 欲になるときに影を潜める欲求を色濃く残している」

あ、もうついて行けません。何か小難しい話です。

霧島「提督の人となりは知ってるだろう? やつは感情表現が薄く、人付き合いに乏しく、冷淡で情に欠ける」

電「確かに提督さんはそういう人なのです……」

霧島「これは性格形成の行われた幼少時に、家族との深い接触が少なかったことによる精神的な未発達から来るものだ」

霧島「あいつは与えられるべき母性を与えられないまま大人になった。だから奴は無意識下で、幼少時に不十分だった母性に飢えてやがるんだよ」

758: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:27:27.43 ID:Lv9/9Z470
電「母性に飢えてるから、包容力のある『お姉さん』好きになったということですか?」

霧島「その通りだが、ここが厄介な部分だ。母性に飢えているとは言っても、母親を抱きたいってわけじゃない」

霧島「むしろ母性を求めるが故に、近   に対する嫌悪は人一倍持ち合わせていやがる。つまり母親を思わせる女はNGってわけだ」

霧島「大人っぽさや包容力を求める一方で、母親を思わせる要素、つまりは相手が年上であればあるほど提督は萎えていくのさ」

電「ということは……年齢的に年下に見える霧島さんのほうが、容姿としても有利と言うことですか?」

霧島「そうだ。大人っぽさの中に垣間見える少女のあどけなさ、こいつは提督にとって最高に効くエッセンスなのさ」

霧島「そして性格においてもすでにアタシが勝っている。ケッコンカッコカリを交わした頃の扶桑と、今の扶桑。何か変化を感じるんじゃねえか?」

電「そういえば……最近の扶桑さんには余裕がありません。前はもっと落ち着いてて気品のある人だったと思うのですが……」

霧島「ハハハハッ! だろうな。あの女は今の地位を守るために必死になるがあまり、提督の求める魅力を失っていやがる」

759: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:29:37.30 ID:Lv9/9Z470
霧島「もはや扶桑に『大人っぽくて優しいお姉さん』の魅力はない。気品も、落ち着きも、包容力すらあいつは無くしちまったんだ」

霧島「そしてアタシはその魅力を完璧に醸し出すことができる。大人っぽい気品と包容力、そして少女としてのあどけなさをも併せ持つ魅力をな」

霧島「もはやこのアタシに隙はねえ。提督が落ちるのは時間の問題……いや、もう落ちてんのかも知んねえなあ?」

電「えーっと……」

あれ? これ、扶桑さんに勝ち目なくないですか?

霧島さんは精神科医ばりの観察力で、提督さんの人となりまで分析しています。

その分析に沿った振る舞いで提督さんを惹きつけ、それに対抗する魅力を扶桑さんが既に失っているとすれば……

これでは、本当に霧島さんがケッコンカッコカリを提督と交わす日が来てしまうのではないでしょうか。

760: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:30:07.69 ID:Lv9/9Z470
金剛「あの、霧島さん。もし提督とケッコンカッコカリを交わしたら、終わりにしてくれるんですよね?」

霧島「終わり? 何の話だよ」

金剛「ですから、その……目的を果たし終わったら、私のことを解放してくれるんじゃ……」

霧島「ハハハハッ! なに寝言をほざいてんだ、ええ? 金剛お姉さまよぉ」

金剛「あっ……!」

強引に抱き寄せられる金剛さんは、力なくその身を霧島さんの体に預けます。その首筋に霧島さんがいやらしく指を這わせます。

金剛「やっ……あっ、やめてっ! 電ちゃんの前で、こんな……」

霧島「ハハッ、いい具合の体になってきたじゃねえか。たった2日でここまで仕上がれば上出来だな」

761: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:30:51.73 ID:Lv9/9Z470
霧島「アタシは本気でお前を可愛いと思ってるんだぜ、金剛? 特に……アタシの腕の中で許しを請うお前は最高だ。何度だって抱きたくなる」

金剛「いやっ……んっ!」

首筋を這う手が胸元へと移り、バスタオルの上からその豊かな膨らみをゆするように みしだきます。

再び指が体を伝い、お腹を通って太ももの上へ。むき出しの白い肌を、霧島さんはゆっくりと撫で回しました。

金剛「や、やめて……今はダメ、お願いですから……!」

霧島「何だぁ? もう濡らしてやがるのかよ。まったく、とんだビ  だな、お前は」

霧島「安心しろ、アタシが提督とケッコンカッコカリを交わした後も、お前のことはたっぷりと可愛がってやる」

霧島「アタシが食い散らかした残飯を拾い食いする権利くらいはくれてやってもいいぜ。メス犬には十分すぎる地位だろ?」

金剛「そ、そんな! ひどい……いやぁ!」

762: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:31:58.60 ID:Lv9/9Z470
霧島さんの濡れた舌に耳を舐られて、金剛さんが甘い悲鳴を上げます。手が再び  の上を這い、その体がびくんと震えました。

たまらず金剛さんはその腕から逃れようようとしますが、霧島さんは一層強く金剛さんを抱き寄せます。私が目の前にいるのに、遠慮なさすぎです。

電「あの……私はもう行っていいでしょうか」

霧島「ん? ああ、そうだな。もう用済みだ、さっさと消えろ。アタシたちは今から忙しくなるからな」

金剛「や、やめてください……今日はもう、許して……! お願い、お願いだから……」

霧島「何だよ、おい。誘ってんのか? 本当に可愛いやつだな、お前はよぉ……」

金剛「い、いやぁ! 許して、お願い……だめ、だめぇ!」

これ以上、見たくありませんでした。私はそっと立ち上がり、霧島さんの部屋を後にします。

部屋を出る瞬間、金剛さんが助けを求めるような目で私を見たのは、気のせいではなかったと思います。

763: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:32:25.36 ID:Lv9/9Z470
霧島さんが鎮守府を掌握するのは時間の問題のように思われました。暴力と知性を併せ持つ、霧島さんを止める術は今のところありません。

金剛さんを助けることすら、私にはできない。その事実が重く私の心にのしかかりました。

暗澹たる気持ちで、自室へと歩き出しました。もう眠ってしまいたい。何も考えずに、できることなら今見聞きしたことも全部忘れて眠りたい。

それが無理なのはわかっていました。金剛さんの痴態も、霧島さんの嘲るような笑みも、深く目蓋の裏にこびりついていましたから。

電「はあ、もう疲れたのです……ん?」

主力艦隊用の宿舎を出ようとしたとき、宿舎のどこかから壁を叩くような鈍い音が聞こえてきました。

先程、子日さんの部屋の扉を叩いていた不知火さんのことを思い出しますが、当然ここに不知火さんはいないはずです。

もう面倒事に関わりたくないというのが正直な気持ちでしたが、音のするほうの部屋に住んでいる人が誰なのかを思い出してしまいます。

764: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:32:53.86 ID:Lv9/9Z470
さあっ、と顔から血の気が引いていくのがわかりました。慌てて音のするほうへ駆け出します。

電「なっ……じゅ、隼鷹さん!? 何をしているんですか!」

隼鷹「……あれ、電ちゃん。なんでこんなとこにいんの?」

音の主は隼鷹さんでした。私に名前を呼ばれ、宿舎の一室の扉を叩いていた手をピタリと止めます。

電「隼鷹さん、どうしたんですか? 一体何を……」

隼鷹「うるさいなあ、邪魔だからどっか行っててよ」

冷たくそう言い放つと、再び扉に向き直り、ノックと言うには強すぎる力で拳を叩きつけ始めます。

こんな隼鷹さんは初めてです。あまりにも冷ややかな言葉を浴びせられて、正直ショックを受けています。

だからといって、立ち去るわけには行きません。隼鷹さんのやっていることは、鎮守府の平和を直接脅かす行為なのです。

765: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:33:28.12 ID:Lv9/9Z470
電「あの……隼鷹さんが今叩いてるのは、赤城さんの部屋です」

隼鷹「知ってるに決まってるじゃん。あたしは赤城に用があるんだ」

電「そんなにノックしても出ないってことは、眠ってらっしゃると思うんですけど……」

隼鷹「見てわかんない? 眠ってるなら起きてもらうために今ドンドンやってるの」

電「……隼鷹さん。今、ものすごく怒ってます?」

隼鷹「さあね。もういいから、あっち行ってよ」

睡眠は食事の次に赤城さんが好きなことです。眠っている赤城さんを無理やり起こす、その危険度は冬眠中の熊を起こすことの比ではありません。

いわば、核弾頭をハンマーで殴るようなものです。そんな行為を見過ごせというほうが無理な話でした。

766: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:33:56.99 ID:Lv9/9Z470
何としてもやめてもらいたいのですが、どういうわけか隼鷹さんが私の話をまったく聞いてくれません。

私が途方に暮れているうちに、とうとうドアノブがゆっくりと回り、重たげに扉が内側から開かれました。

赤城「……何ですか、うるさいですね」

普段よりトーンの低い声で、赤城さんが気だるそうに私たちを見ました。

まさに冬眠明けの熊。きっといつもより遥かに些細な理由で私たちに襲いかかるでしょう。

今、最も正しい選択は全力で謝罪して逃げることですが、隼鷹さんにその気配は全くありません。

隼鷹「悪いね、起こしちゃって。どうしても聞きたいことがあってさ」

赤城「……そんなことで私を起こしたんですか? 明日にしてください」

閉じられようとする扉の隙間に、隼鷹さんが素早く足を挟み込みます。剣呑な目つきで見上げる赤城さんを前に、隼鷹さんは身じろぎもしません。

隼鷹「時間は取らせないよ。ただ、何が何でも答えてもらうからね」

767: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:34:36.33 ID:Lv9/9Z470
赤城「……はあ。手身近にお願いしますよ」

諦めた赤城さんが、あからさまに面倒くさそうに扉を開けます。寝起きで不機嫌な赤城さん。火にくべられた不発弾のそばにでもいる気分です。

赤城「で……何ですか、聞きたいことって」

隼鷹「最近、提督に変な質問をされなかったか?」

赤城「……ああ、大破した艦がそのまま夜戦に突入し、攻撃を受けたらどうなるか……でしたっけ」

赤城「そんなの、轟沈するの決まってるじゃないですか。提督もしっかりしてほしいものですね」

隼鷹「あたしも同じことを聞かれたよ。で、あんたと同じ答えを返した」

隼鷹「なんでそんなことを聞くのかって言ったらさ、大本営発刊のマニュアルにそのことが載っていたらしいんだよ」

隼鷹「そのマニュアルによると、大破した艦が夜戦で攻撃を受けても、轟沈することは絶対にないんだってさ」

赤城「はあ? そんなわけないじゃないですか」

768: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:35:25.36 ID:Lv9/9Z470
隼鷹「確かな話らしいよ。大破進撃すれば艤装の生命維持装置が機能しなくなって轟沈する危険が出てくるけど、夜戦突入にその心配はない、と」

赤城「そうは言っても、現に私たちはそれを経験しているんじゃないですか」

隼鷹「ああ、そうだね。だけど、少なくとも他の鎮守府で夜戦による轟沈が起きたケースは今まで1回もない」

隼鷹「あたしたちが経験した、龍驤の轟沈を除いてはね」

電「あっ……」

そうです。以前に起きた龍驤さんの轟沈。それは砲戦で龍驤さんが大破したにも関わらず、夜戦に突入したことによって起きたものでした。

大破して夜戦に突入すると、轟沈の可能性がある。提督さんはもちろんのこと、私たちの誰もがそのことを認識していませんでした。

龍驤さんの轟沈により、私たちは初めてその事実を知り、以後も大破状態の艦がいる場合は絶対に夜戦はしないようにしています。

隼鷹「すげーショックだったよ、あのとき。大破進撃以外で轟沈することはないって思ってたからね」

赤城「そうですね、不幸な事故でした。きっとあれは、極めてレアなケースだったんでしょうね」

隼鷹「なあ。あれは本当に『不幸な事故』だったのか?」

赤城「どういうことです?」

769: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:35:53.48 ID:Lv9/9Z470
隼鷹「あたしは龍驤が轟沈する姿を見ていない。扶桑も、山城も、誰もその瞬間を見ちゃいないんだ」

赤城「それはまあ、夜戦ですから。敵と味方を区別することに精一杯ですものね」

隼鷹「そうだな。夜戦は見通しが悪くて、味方と逸れることもしょっちゅうだ」

隼鷹「だから、龍驤の轟沈を確認したのはたった1人だけ。あんただけなんだよ、赤城」

電「……っ!」

あの頃、深海棲艦に台頭してきた空母に対向するため、主力艦隊には隼鷹さん、龍驤さんに加えて、着任したばかりの赤城さんもいました。

龍驤さんが夜戦で轟沈したとき、赤城さんしかその瞬間を見ていない……?

770: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:36:29.70 ID:Lv9/9Z470
赤城「ああ……そうでしたね。確かに、龍驤さんの轟沈を確認したのは私でした。敵の雷撃を受けて、龍驤さんは海底に沈みました」

隼鷹「その後のことを覚えてるか? 敵を撃退した後、扶桑の照明弾の下に集ったとき、あんたは返り血に染まっていた」

赤城「ええ。敵を至近距離で撃破したので、そのときに浴びたものですね」

隼鷹「あんたが返り血を浴びるような戦い方をしたのはあの時だけだ。それ以来、あんたが返り血を浴びたことなんて一度もなかった」

赤城「当時は着任したばかりで、戦い慣れしていませんでしたから……」

隼鷹「あんたが龍驤の轟沈を報告したとき、みんな驚いた。そんなこと起こるはずないって思ってたからね」

隼鷹「大破して夜戦に突入し、攻撃を受ければ轟沈する。あたしたちがこれを知ったのは龍驤が轟沈したからってだけじゃない」

隼鷹「赤城。このことを最初に言い出したのはあんただったよな。さも訳知り顔で、あたしたちがそれを知らなかったのを驚いたかのように」

赤城「……そうでしたっけ。ずいぶん前のことなので、よく覚えていませんね」

771: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:37:19.49 ID:Lv9/9Z470
隼鷹「そのときはあたしもすんなり信じたよ。なんせ、実際に龍驤は沈んでるんだからね」

隼鷹「それを知らなかった自分を責めたし、提督を憎んだこともある。だけどまあ、事故だと思って気にしないことにした。死ぬほど悲しかったけどね」

赤城「はあ、そうですか。何を言いたいんですか?」

隼鷹「ここからが肝心なところさ。提督から例のマニュアルの話を聞いてな、ふとあんたに関するうわさ話を思い出したんだ」

赤城「……うわさ?」

隼鷹「そう、うわさだよ。一部の艦娘や妖精さんたちがしきりに話してる、根も葉もない、悪質で品のないうわさ話さ」

隼鷹「何でも赤城は並外れた食いしん坊で、空腹になると妖精さんや、ダブってる駆逐艦を密かに食ってるんだと」

赤城「あはは、何ですかそれ。酷いうわさ話ですね」

772: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:37:54.30 ID:Lv9/9Z470
隼鷹「あたしもそう思ってた。でも、間宮アイスを取り合ってトーナメントをしたとき、アイスに異常な執着を見せるあんたを見て考えが変わった」

隼鷹「あんたは腹が減ればそれくらいのことはするし、それくらいのことはできる。そうだろ?」

赤城「……何を馬鹿なことを言っているんですか。いくら何でも、妖精さんや駆逐艦を食べたりするわけないでしょう」

隼鷹「そうかな? 扶桑を倒した後に伊勢を追いかけたとき、自分で言ってただろ? 伊勢を食ってやるってな」

赤城「……よく覚えていませんね。あのときは興奮していましたし」

隼鷹「あたしには、あれがあんたの本性に見えたぜ? それを考えたとき、あの夜戦にもまったく別の事実が見えてくる」

赤城「……そろそろはっきりしてくれませんかね。何が言いたいんです?」

隼鷹「お前、龍驤を食ったな?」

773: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:39:43.05 ID:Lv9/9Z470
窒息しそうなほどの沈黙。誰も、言葉を発しようとしませんでした。

屹然と答えを待つ隼鷹さんと、表情を消して沈黙を保つ赤城さん。絶句する私。時間さえ息を止めているかのように感じました。

赤城「……くっくっく。面白いことを言いますね、隼鷹さん」

隼鷹「笑い事じゃねえ。答えろよ、赤城!」

激高する隼鷹さんを前にしても、赤城さんは平然としています。笑みすら浮かべるその姿には余裕さえ感じます。

赤城「もし仮に、私がそんな真似をしたとします。そしたら、あなたはどうする気ですか?」

隼鷹「決まってるだろう、提督に報告する! 味方に手を掛けたお前は解体行きだ!」

赤城「あはははは。あの賢明な提督がそんな愚行をしでかすわけがないじゃないですか」

隼鷹「なんだと? どういう意味だ!」

774: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:41:46.99 ID:Lv9/9Z470
赤城「私は鎮守府唯一の正規空母、しかも極めて希少な虹ホロの一航戦。その私が鎮守府からいなくなれば、どうなると思います?」

赤城「この鎮守府に私の穴を埋められる航空戦力はいない。あなたを初めとする脆弱な軽空母と、それにすら及ばない航空戦艦がいるだけ」

赤城「私が解体されれば、鎮守府は深刻な空戦能力の不足に陥る。その後の海域攻略では圧倒的に不利な立場に立たされるでしょう」

赤城「あの引き運のない提督が正規空母を引き当てられると思いますか? 仮に引いても、私のLVに達するまでどれだけの期間を要すると思います?」

赤城「だから提督が私を解体することはありえない。あなたの他に育った空母でもいれば、話は別でしたがね」

隼鷹「てめえ、まさかそこまで考えて龍驤を……やっぱりあの返り血は龍驤の血だったんだな!」

赤城「ちょっと、本気にしないでくださいよ。単なる喩え話です。私はそんなことしていませんって」

赤城「龍驤さんは確かに海底へ沈みました。あれは単なる、不幸な事故だったんですよ」

隼鷹「この期に及んでシラを切る気か、てめえ! ごまかされると思ってんのかよ!」

電「じゅ、隼鷹さん! 一旦落ち着いて……」

隼鷹「うるせえ! 引っ込んでろ!」

775: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:42:15.72 ID:Lv9/9Z470
制止する私をはねのけて、隼鷹さんが赤城さんへ詰め寄ります。怒りに震えるその手が赤城さんの胸ぐらを掴みました。

隼鷹「龍驤を返せ! あいつは、あたしにとって一番の友だちだったんだ! お前なんかに食われる筋合いはない!」

赤城「ちょっと……放してくださいよ、痛いじゃないですか」

隼鷹「あいつがいなくなってどれがけ悲しかったか、お前にわかるか!? わからないだろ、この人喰い空母が!」

隼鷹「絶対に償わせてやる! お前だけは許さない、お前だけは! 許さな……ぐああっ!」

赤城「放せって言ってるじゃないですか……鬱陶しい」

電「ああっ!」

胸ぐらを掴む隼鷹さんの手が、赤城さんによってねじり上げられました。鋼鉄のような指が手首に食い込み、関節がぎりぎりとねじ曲がっていきます。

隼鷹「く、くそっ……! 赤城、てめえ……!」

776: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:43:02.23 ID:Lv9/9Z470
赤城「この私の胸ぐらを掴むなんて、ずいぶんと大それた真似をしてくれるじゃないですか……軽空母の分際で」

隼鷹「何だと! お前なんかに……ぐうっ!」

赤城「まったく、そんなに必死にならなくてもいいじゃないですか。もう過ぎたことでしょう、あんな駆逐艦のことなんて……」

隼鷹「龍驤は軽空母だ! 馬鹿にしやがって、お前なんてぶっ殺してやる!」

赤城「ああ、そうでした。彼女は軽空母でしたね……痩せてて、小さくて、骨ばっていた。泣き叫ぶ姿がとても可愛らしい子でした」

隼鷹「て、てめえ……やっぱり龍驤は、お前が……!」

電「赤城さん、やめてください! 隼鷹さんを放してください!」

赤城「そうは言っても、この人が突っかかってくるから仕方がないじゃないですか。ねえ、隼鷹さん……?」

隼鷹「く、くそ……!」

777: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:43:35.79 ID:Lv9/9Z470
赤城「どうしましょうか。私を侮辱した罰として、腕くらい折ってもいいですよね。殺されるよりはマシでしょう?」

隼鷹「や、やってみろ! お前には、それ以上の目に合わせてやる……!」

赤城「あはは、それ以上の目ってなんですか? 例えば、生きたまま自分の骨を噛み砕かれ、内臓を引きずり出されることとかですか?」

電「やめて! 赤城さん、お願いします! もうやめてください!」

赤城さんは本気で隼鷹さんの腕を折る気でいます。それくらいは鼻歌交じりにやってのける人です。

その異常な握力は容赦なく隼鷹さんの手首を締め上げ、今にもへし折ってしまそうです。

赤城「でも、いいですよ。私は優しいから、今なら許してあげます。あなたがちゃんと謝ってくれるなら、ね」

隼鷹「ふ、ふざけんな……!」

778: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:44:38.88 ID:Lv9/9Z470
赤城「『軽空母の分際で一航戦の赤城さんを侮辱してしまい、大変申し訳ありませんでした』。はい、復唱してください」

隼鷹「く、クソったれ……ぐあああっ!」

赤城「復唱しろって言っているんです。もう折っちゃいますよ、この腕。言っておきますけど、右腕の次は左腕を折りますからね」

電「だ、ダメです! 赤城さん、私の知ってることを全て提督さんに言いますよ! いいんですか!?」

赤城「ご自由にどうぞ。言ったでしょう? あの男には何もできない。あなたの握っている情報だって、私にはちょっとした不安要素に過ぎないんですよ」

電「そ……そんな……!」

隼鷹「何回言わせるんだよ……電ちゃんはあっちへ行ってろ」

苦痛に震える声が、再び私を拒絶します。隼鷹さんは痛みに耐えながら、怒りに燃える目で赤城さんを見上げました。

779: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:45:29.48 ID:Lv9/9Z470
隼鷹「……軽空母の分際で、一航戦の赤城さんを侮辱してしまい……大変、申し訳ありませんでした」

赤城「はい、よく言えました。よしよし」

幼児にするように隼鷹さんの頭を撫でて、赤城さんはその手を解放します。膝を着いた隼鷹さんのその手首には、生々しい痣が刻まれています。

赤城「今夜のことは水に流してあげます。明日から、今までどおり仲良くやっていきましょうね?」

にっこりと笑う赤城さんを、隼鷹さんは見もしません。顔を伏せ、肩で息をする音だけが響いています。

赤城「では、私は寝直しますので。それじゃ、隼鷹さん。それから電さんも、おやすみなさい」

立ち上がれない隼鷹さんを見届けると、赤城さんは早々に扉の向こうに消えました。扉が閉じ、かしゃりと鍵のかかる音が虚しく響きます。

電「隼鷹さん……あの、大丈夫ですか……?」

780: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:45:58.74 ID:Lv9/9Z470
隼鷹「……ああ、平気だよ。格好悪いところを見せたね、できれば忘れてくんない?」

意外なほどすんなり立ち上がった隼鷹さんは、一見平気そうな表情をしています。

だけど、無理をしているのは一目瞭然でした。笑顔は引きつり、拳は固く握りしめられたままです。

電「あの、龍驤さんのこと……」

隼鷹「それも気にしないでいいよ。きっとあたしの勘違いさ、赤城も違うって言ってただろ?」

電「で、でも、その……」

隼鷹「いいから、もう自分の部屋に帰りなよ。あたしも寝るから」

電「……はい。わかりました、無理はしないでください」

隼鷹「ありがと。じゃあね」

781: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:46:24.54 ID:Lv9/9Z470
隼鷹さんが歩き出しても、私はその場を立ち去れずにいました。あのやりとりの後で、隼鷹さんが平気なわけがありません。

体を引きずるように歩く隼鷹さんの背中を見送っていると、その脚がぴたりと止まりました。

ゴツン。握りしめたままの拳を、隼鷹さんは力任せに壁へと叩きつけました。

壁にヒビが入るなんてこともなく、ただ当たり前に拳が擦りむけ、壁には隼鷹さんの血が痛々しく滲んでいます。

隼鷹「……見てろよ。このままじゃ絶対に終わらせないからな」

呪いのように呟いて、隼鷹さんは宿舎の奥へと消えていきました。

隼鷹さんが見えなくなっても、私はそこに立ち尽くしていました。

追いかけることなんてできません。今の隼鷹さんに私がしてあげられることなんてあるはずもなく、掛けられる言葉も持っていないのです。

何もできず、沸き起こる感情を持て余したまま、ただそこに立ち尽くすしかありませんでした。

782: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:46:50.07 ID:Lv9/9Z470
小休止

783: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:54:12.66 ID:Lv9/9Z470
提督「よーし、じゃあ今日もハッピーラッキー艦隊は演習と出撃に……どうしたお前ら、元気ないな」

電ですが、ドックの空気が最悪なのです。

翌朝の目覚めは最悪でした。というかほとんど寝ていません。昨夜はそれ程いろいろなことがありました。

それ以前に駆逐艦たちが子日さんの部屋の前で祈ったりすすり泣いたりする声や、足柄さんたちの悲鳴がうるさくて、寝られるはずもありません。

霧島「皆さん、寝不足ですか? 睡眠はしっかり取らないと頭脳が働きませんよ?」

赤城「良いこと言いますね、霧島さん。そうです、睡眠は大事です」

私だけでなく、他のハッピーラッキー艦隊のメンバーも未だかつてないほどに元気がありません。

焦りと苛立ちを隠せない扶桑さんと、そんなお姉さまが気が気ではない山城さん。

死んだ魚のような目をしている金剛さんに、何一つ言葉を発しない隼鷹さん。

ムードメーカー的存在だった隼鷹さんまでこれでは、もうお手上げです。諸悪の根源である霧島さんと赤城さんだけが元気です。

前から空気の良くない艦隊でしたが、今と比べれば、以前の空気でさえ和気あいあいとしていたんじゃないかとすら思えてきます。

784: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:54:47.35 ID:Lv9/9Z470
提督「みんな調子よくなさそうだが、それが任務に響かないようにな。それではぼちぼち出発してくれ」

扶桑「……はい」

霧島「提督、ちょっといいですか?」

提督「ん、霧島か。どうした?」

霧島「演習のときだけで構わないんですけど、艦隊の旗艦をやらせてもらえないでしょうか?」

扶桑「なっ!」

山城「そ、そんなのダメですよ! ハッピーラッキー艦隊の旗艦は扶桑お姉さまと決まっているんです!」

霧島「それは承知しています。ただ、編成における旗艦だけなら構わないんじゃないでしょうか?」

785: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:55:34.92 ID:Lv9/9Z470
霧島「私、一刻も早く皆さんのお役に立ちたいんです。それにはLVを上げることが最優先だと思っています」

霧島「旗艦にしていただければ経験値が割増でもらえて、それだけLVも早く上がります。どうかお願いできませんか?」

扶桑「い、嫌よ! あなたなんかに旗艦の座を渡すなんて、それだけは絶対に……!」

提督「いや、霧島の言うことももっともだ。編成を変えよう。霧島が旗艦、扶桑はその僚艦とする。演習と出撃、両方ともだ」

扶桑「ま、待ってください! 提督、それだけは……!」

提督「何か問題か? 第一、お前の旗艦としての能力には常々疑問を抱いていた」

提督「下から順に攻撃するのをやめろと、何度言えばわかるんだ? いい機会だ、今日1日お前を旗艦から外し、どういう具合になるか見てみよう」

扶桑「そんな……お、お願いです! 今までのことは本当に反省しています、ですから旗艦だけは奪わないで……!」

霧島「奪うだなんて、そんなに神経質にならなくてもいいじゃないですか。提督も1日だけっておっしゃっているでしょう?」

786: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:56:11.29 ID:Lv9/9Z470
生前の扶桑さんは戦艦であるにも関わらず、旗艦になったことが1度もありません。

ですので、念願叶ってようやく得た旗艦の座に強い執着を持っています。

そんな彼女から旗艦の座を奪う、それがどれだけ残酷なことか、提督さんにはわからないのでしょうか。

霧島「今日だけなんですから、ね? ちょっとだけ我慢してください」

扶桑「あ、あなたは一体何が狙いで……!?」

食って掛かろうとする扶桑さんを止めたのは、やはり金剛さんでした。

昨日のようにハイテンションで絡んでいくのではなく、その体にすがりついて、潤んだ瞳で扶桑さんを見上げています。

泣き真似、ではありません。金剛さんは本当に泣き出す寸前に見えました。

扶桑「え……えっ、何? 私が悪いの? ちょっと金剛さん、何か言ってよ! 私が悪いの、ねえ!?」

787: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:57:01.11 ID:Lv9/9Z470
提督「さあさあ、そろそろ行ってくれ。演習相手の艦隊を待たせるんじゃない」

霧島「了解です。それでは皆さん、行きましょう」

山城「ちょ、なんで霧島さんが仕切っているんですか! この艦隊の旗艦は……」

霧島「今日1日は私ですよ? どうか指示に従っていただけますよう、よろしくお願いします」

山城「なっ、ななななな……」

扶桑「うぐぐぐぐ……」

颯爽と歩き出す霧島さんに、扶桑さんも山城さんもついていかざるを得ません。とうとう霧島さんが本格的な艦隊乗っ取りに動き始めました。

赤城「扶桑さん以外の旗艦なんて、なんだか新鮮ですね。ねえ、電さん?」

電「え? ええ、そうですね……」

赤城「まあ、扶桑さんは悔しいでしょうけど。ほかの皆さんも何故か元気がないですねえ、こんなにいい朝なのに」

電「……赤城さんは、ずいぶん機嫌が良さそうですね」

788: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:57:30.23 ID:Lv9/9Z470
昨日の隼鷹さんとの件を思えば、赤城さんの機嫌が良いなんて不自然極まりないことです。絶対に良くないことがあるに違いありません。

赤城「そうですね、今朝は調子がいいです。昨晩は睡眠中に起こされたりもしましたが、その後はちゃんと寝れましたし、朝ご飯も美味しかったです」

電「そうですか。良かったですね、朝ごは……えっ、朝ご飯!?」

赤城「どうかしましたか?」

電「あ、朝ご飯って……一体何を食べたんですか! 出撃前の補給なんてないのに……ま、まさか、また駆逐艦の誰かを!?」

赤城「またって何ですか。電さんまで、変なうわさを真に受けないでくださいよ」

赤城「正規空母の朝ご飯と言ったら、ボーキサイトに決まっているでしょう。鋼材なんかも少々いただきましたけどね」

電「な、なんだ。そうですか、そうですよね……」

赤城「それじゃあ、私も行ってきます。ちゃんと補給資源を用意しておいてくださいね?」

電「は、はい……行ってらっしゃいなのです……」

赤城さんは本当に機嫌がいいだけのようでした。昨日のことを思うと、その姿にあまりいい気はしません。

789: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:58:18.31 ID:Lv9/9Z470
ただ、彼女の機嫌がいいときは比較的おとなしいだという事実もあります。今日の鎮守府は少しばかり安全でしょう。

出撃していく赤城さんの背中を見送りながら、今のやり取りがおかしいと気づくのにそう時間は掛かりませんでした。

電「……ボーキサイト?」

空母のご飯がボーキなのはわかります。ただ、それをどこから手に入れたのかが問題です。

出撃前の補給なんてないのです。まさか、また資源倉庫の盗み食いを……

提督「電。今日の予定なんだがな、なぜか霞以外の駆逐艦が全員体調不良だそうだ。だから今日のキス島攻略は中止になった」

電「あ、はい。わかりました」

キス島攻略中止は予想できていました。昨夜からの状態を見る限り、とても出撃可能なコンディションにある駆逐艦がいるようには思えませんでしたから。

提督「だから、今日は書類仕事のほうを頼む。演習の後にそのまま出撃させるから、出撃から艦隊が帰ってくる頃に補給の手伝いに来てくれ」

電「了解なのです。あの、その前にちょっといいですか?」

提督「なんだ?」

790: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:58:54.73 ID:Lv9/9Z470

電「扶桑さんのこと……あまりにも可哀想じゃないですか? もっと扶桑さんのことを思いやって上げてもいいのでは……」

提督「仕方ないだろう。薄々気付いていたが、あいつは多分、旗艦に向いてない」

電「でも、扶桑さんは初めて旗艦を任されたとき、あんなに喜んでいたのに……」

提督「そんなことは関係ない、あいつは結果を出してないんだ。やはり扶桑と山城はここらが限界だな。所詮はレア度最低値の戦艦か……」

電「……提督さん。今、なんて言いました?」

提督「気にするな、独り言だ。まあ、明日から扶桑を旗艦に戻すかは考えものだな。霧島のほうが可愛いし……」

提督さんが濁した語尾は、ほとんど聞き取ることができませんでした。言ってはいけない一言が聞こえた気がしますが、気のせいですよね?

気分はよくありませんが、気を取り直して執務室に行きましょう。その前に、資源倉庫の残量を確認しに行きます。

電「えーっと、昨日の残量がこれだけで……あれ? 合ってるのです」

赤城さんがボーキサイトを得たのはここじゃない。となると、考えられるのはあと一箇所しかありません。

791: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:59:21.05 ID:Lv9/9Z470
龍驤「はっはー! ロイヤルストレートフラッシュや! この勝負もろたで!」

球磨「く、クマー!?」

龍驤「なんか今日は調子ええなあ! ほれ、ボーキサイトじゃんじゃん持ってこんかい!」

龍田「龍驤が勝ってるだなんて、明日は槍でも降るのかしら……球磨には後でお仕置きが必要ね」

お昼前だというのに、龍田会の取り仕切る賭博場はそれなりの賑わいを見せていました。彼女たちは本当にこれ以外、やることがないのです。

龍驤「ほら、次の勝負行くで! さっさとボーキ用意せえよ!」

龍田「ちっ、すぐに身ぐるみ剥いでやるわ……ちょっと、ボーキはまだ? 早く持って来なさい」

木曽「き、キソー! 龍田姐さん、大変でキソ!」

龍田「何よ。龍驤が珍しく勝ってるからって、そこまで慌てることもないでしょう」

木曽「そんなことじゃないでキソ! 資源が……隠し倉庫の資源が全部無くなってるでキソ!」

龍田「な……なんですって!? 」

792: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 21:59:48.97 ID:Lv9/9Z470
愕然とする龍田さんを物陰から覗き見ながら、やはり、と思いました。赤城さんがボーキサイトを欲するなら、資源倉庫以外ではここしかありません。

龍田「昨日はあれだけの量が残っていたのよ! それが一晩でなくなったっていうの!?」

木曽「確かに何も残ってないでキソ! 弾薬1つ落ちてないでキソよ!」

龍田「そんな馬鹿な……鍵は!? 鍵は掛けてあったんでしょうね!」

木曽「絶対に掛けてたキソ! 第一、あんな量を人知れず持ち出せるはずないでキソ!」

龍田「……違うわ。持ち出されたわけじゃないのよ」

木曽「キソ? どういうことでキソか?」

龍田「赤城さんよ……赤城さんがその場で全部食べていったんだわ……たった1人で、何一つ残さず」

木曽「キソー!? あ、あれだけの量を全部1人で平らげたっていうんでキソか!?」

龍田「たったあれっぽっちの量、の間違いでしょう。赤城さんにとってはおやつ程度にしかならなかったでしょうね」

793: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:00:43.78 ID:Lv9/9Z470
龍田「それに、鍵が開いていたんでしょう? あの人は鎮守府中の鍵を開ける方法を知っている。赤城さんで間違いないわ」

木曽「じゃ、じゃあ……どうするでキソか? 赤城さんに文句を言いにいくでキソか?」

龍田「文句? 言えるわけないじゃない! あの人に逆らえば、どうなるかわからないの!?」

木曽「き、キソ……食べられたくないでキソ」

懸命な判断です。あの龍田さんとはいえど、一航戦の赤城さんに立ち向かえるはずもありません。

だからといって龍田さんがその怒りを抑えられるはずもなく、その整った顔を悔しさに歪め、髪をくしゃくしゃと掻き回し始めました。

龍田「畜生、人のことを馬鹿にして! あの人が資源の横流しを持ちかけてきたのは、いずれこうするためだったのね!」

龍田「与えておいてから奪うだなんて、私たちを何だと思っているのよ! やり返すこともできないなんて……!」

木曽「く……悔しいでキソ! 泣き寝入りするしかないんでキソか!?」

龍田「その通りよ! 何なら、提督に言う? きっと私たちは解体でしょうね。赤城さんは案外、お咎めなしかもしれないわ」

木曽「き、キソー……」

794: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:01:21.06 ID:Lv9/9Z470
龍驤「何ゴチャゴチャやっとるんや、はよ次の勝負の準備せえ! うちのツキが逃げへんうちにな!」

龍田「……今日はもう終わりよ。帰りなさい」

龍驤「はあ? 何言うとるんや、まだ始まったばかりやないか! うちが勝っとるから逃げるんか、おお?」

龍田「うるさいわね、私が終わりって言ったら終わりなのよ! さっさと出て行きなさい、このモノリス!」

龍驤「も、も、も、モノリス!? なんやそれ! 胸か? 胸のこと言うとるんか! そんな言われ方をしたのは初めてや!」

龍田「ああもう、うるさいうるさい! 今は平面体の相手をする気分じゃないのよ! 早く帰りなさい!」

龍驤「誰が二次元図形や! 自分が巨 やからって言ってええことと悪いことがあるで!」

龍田「何ボサっとしてるのよ、球磨! さっさとそいつを追い出しなさい!」

球磨「く、クマー!」

龍驤「な、なんや、やめんかい! こんな殺生なことあるかいな! たまには勝たせてくれたってええやん、なあ!?」

795: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:02:03.89 ID:Lv9/9Z470
その内に龍驤さん以外の軽空母や軽巡たちも騒ぎを聞きつけて、龍田さんに文句を言い始めました。賭博場はたちまち大騒ぎです。

赤城さんが龍田会に資源の横流しをしていたのは、自分の盗み食いがバレたときのデコイにするためだけではなく、もう1つ目的があったのです。

お腹が空いたときにいつでも食べることができ、それでいてお咎めを受ける心配もない。

龍田会によって作られた資源の隠し倉庫は、赤城さんにとっての非常食だったのです。

電「……本当にやりたい放題ですね、赤城さん。それに、霧島さんも」

赤城さん。霧島さん。この2人が鎮守府をかき回し、多くの艦娘たちを自分勝手な欲望で苦しめています。

このままにしてはおけません。何もしなければ、きっと鎮守府は良くない方向へ進み続けてしまいます。

提督さん、あなたはそれを理解しているんでしょうか。

796: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:03:44.73 ID:Lv9/9Z470
書類仕事を終えてドックに戻ると、ちょうど艦隊が演習と出撃を終え、帰投したところでした。

まるで精神状態と艦体状況がシンクロしているような光景でした。霧島さん、赤城さんがほぼ無傷なのにも関わらず、他の4人はみんな大破しています。

霧島「ハッピーラッキー艦隊、帰投しました。戦果をご確認されますか?」

提督「うむ。見事な戦いぶりだったな、霧島。戦艦相手にMVPを取るとは流石だ」

霧島「恐縮です。皆さんのサポートと、昨日から装備させていただいている41cm連装砲のおかげです」

扶桑「そ……その装備は、私のものになるはずじゃ……!」

提督「いや、このまま霧島に装備してもらおう。現状のLVでこれだけ活躍できるなら、装備させる価値がある」

霧島「ありがとうございます。もっと頑張りますね、私」

扶桑「そんな……!」

797: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:04:16.84 ID:Lv9/9Z470
少し気になることがあります。昨日の出撃で霧島さんは大破しましたが、あれは霧島さんにとってセクシーさをアピールできる、都合の良い大破でした。

今日は逆に小破にすらなっていません。反して、金剛さんは前日と同じく大破状態になっています。

多分なのですが……昨日の霧島さんは自分から大破したんだと思います。今日は金剛さんを盾に使い、それで無傷だったんじゃないでしょうか。

そう考えると、霧島さんは無傷なのを利用して、何かしてくるに違いありません。

提督「それじゃ、大破艦はすぐ入渠するように。赤城と霧島は補給を受けてくれ」

霧島「提督。補給の前に、少しお話したいことがあるんですけど」

提督「なんだ?」

霧島「その……今後の艦隊運用について。私なりの考えもあるんですけど、まだ着任したばかりですから、わからないことも多いんです」

霧島「だから、提督から色々と教えていただけませんか? その上で、今後の作戦について話し合いたいんです」

798: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:04:54.99 ID:Lv9/9Z470
提督「そういうことならいいだろう。そうだな、まず今の状況だが……」

霧島「あ、あの……もし良かったらでいいんですけど、もっと静かな場所でお話しませんか? できれば、その……2人きりで」

霧島さん、早くも勝負を決めに掛かりました。提督さんは戸惑いつつもかすかに顔を赤らめ、満更でもない反応を見せています。

扶桑「はあ!? あの眼鏡、なに血迷ったこと言ってるの!? そんなこと許されるわけ……!?」

邪魔に入ろうとする扶桑さんを、身を挺して止める金剛さん。今日2度目の光景です。

金剛「……扶桑、早く修理に行くデース。霧島の邪魔をしないで欲しいデース」

扶桑「あ……あれを見過せっていうの!? そんなことできないわ、もうあなたの泣き落としには引っかからないわよ!」

金剛「扶桑……お願いデース。お願いだから扶桑、私の言う通りにしてほしいネ」

金剛「でないと私……私……! うっ、ぐす……!」

扶桑「あの……だから、なんであなたが泣くの? 泣きたいのは私なんだけど!」

799: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:05:21.52 ID:Lv9/9Z470
提督「じゃあ……霧島。そこの艤装保管庫でいいか?」

霧島「はい。それじゃ、行きましょう」

扶桑さんが金剛さんに足止めされている間に、提督は霧島さんと連れ立って行きました。

もう扶桑さんなんて眼中にない、と言わんばかりです。霧島さんの完全勝利と言わざるを得ません。

扶桑「あっ……あああああああっ! 終わりよ、もう何もかもおしまいよ……!」

山城「お姉さま、気を確かに! 山城がついていますから……!」

扶桑「ううっ……山城、もう私にはあなただけよ、山城……」

ほとんど山城さんに介護される形で、扶桑さんも修理へと連れて行かれます。どちらかというと、艦体より精神の被害が大きいように見えました。

隼鷹さんも誰とも会話せずさっさと入渠し、金剛さんもボロボロの心と体を引きずって修理に向かいました。

赤城「電さん、補給資源の用意はできてますか?」

電「あ、はい。ちょっと待ってください」

あとには赤城さんだけが残りました。彼女もほとんど損傷を受けていないので、あとは補給と、艦載機の補充だけです。

800: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:06:05.22 ID:Lv9/9Z470
赤城「早くしてくださいよ。私、お腹が空きました。それとも、先に艦載機の補充を済ませたほうがいいでしょうか?」

電「いえ、すぐに用意できますから補給の方を……」

瞬間、強烈なめまいに襲われました。

それは唐突に思い浮かんだ、あるアイディアによるものです。閃いたというにはあまりにおぞましい、まるで悪魔にささやかれたかのような思いつきです。

重要なのはタイミングでした。今なら運次第で可能になるタイミング。でも、実行すれば取り返しの付かない結果になる。

いえ、違います。取り返しがつかないのは、実行しなかった場合なのでは?

こんなタイミング、もう二度とやってこない。条件を満たすのも今しかない。今、行動しなかったら、この機会は永遠に失われるでしょう。

わずか数秒の逡巡、私が決断のために与えられた時間はたったそれだけでした。

赤城「電さん? どうしたんですか?」

電「あ……はい、すみません。あの……」

心臓がうるさいくらいに鳴っています。喉が張り付くほどに乾いて、うまく声が出ません。

今この瞬間、私の手は地獄の門に掛かっているのです。それを開くか否か、もはや考える猶予はありませんでした。

801: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:06:45.30 ID:Lv9/9Z470
赤城「電さんも寝不足ですか? ダメですよ、ちゃんと寝なきゃ。で、まず補給でいいんでしょうか」

電「……いえ、先に艦載機の補充をお願いできますか? 妖精さんの数が足りなくて、補給資源の用意に手が回らないのです」

意外なほど、その言葉はすっと出てきました。このとき、私はとうとう地獄の門を開いたのです。

赤城「いいですよ。じゃ、艦載機の補充が終わるまでに用意しておいてください。必ずですよ?」

電「はい。それまでには必ず」

赤城さんは特に怪しむ様子もなく、艦載機の補充へと向かって行きました。

当然でしょう、妖精さんの数を減らしているは恐らく赤城さんですから。それでも、補給資源の用意に困るほどではないのですが。

今から何をすればいいのかはわかっています。私は近くにいた作業中の妖精さんを呼び止めました。

電「あの、すみません。補給資源の用意なんですけど……はい、はい、そうです。そのようにお願いします」

私の言葉に頷くと、妖精さんはその指示を仲間に伝えるために倉庫へと駆けて行きました。

たったこれだけ。これだけで準備は整いました。あとは結果を待つだけ。

802: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:07:37.50 ID:Lv9/9Z470
タイミングが狂えば失敗する可能性もあります。ですが、そうはならない気がしていました。

私は物陰に隠れ、そのときを待ちます。最初に戻ってきたのは、やはり霧島さんでした。

霧島「ふぅ、さすが提督。なかなかの奥手でした。ま、あそこまで状況を整えれば体を求めてくるのは当然ですよね」

霧島「最後まで行くのもアリだったんでしょうけど、私の計算ではあの辺で止めておくのがベスト。あとは向こうから求めてくるのを待ちましょう」

ご機嫌な独り言をつぶやきながら、補給資源を求めて歩いています。どうやら話し合いは良くない方向に上手く行ったようです。

万が一誰かに見られることを警戒してか、本音を漏らしつつも眼鏡を外す気配はありません。

霧島「さーて補給補給っと。妖精さんはこっちに用意してるって言ってましたね。ああ、ありました。ではいただきま……あら?」

霧島「妙に量が多いですね。おまけにボーキサイトまである……誰かのぶんと一緒になっちゃってるみたいですね」

霧島「よし、いただいちゃいましょう。今日の私は頑張りましたし、自分へのご褒美ということで」

補給としては明らかに多すぎる資源を食べ始めた霧島さんを見て、私は自分の予想が正しかったことを確信しました。

803: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:08:05.11 ID:Lv9/9Z470
今の霧島さんは一見、知的で冷静な人に見えますが、あれは仮面。本当の姿は強欲でエゴイストなインテリヤクザです。

加えて戦艦の人はほぼ例外なく大食いです。赤城さんほどでなくても、内心は補給で与えられる以上の資源を食べたいと思っています。

強欲で大食いなはずの霧島さんが、必要以上に用意されている補給資源を前にして、どんな行動を取るか。やはり自分のものにすると思っていました。

霧島「一度食べてみたかったんですよね、ボーキサイト。もぐもぐ……ふむ、これがボーキの味ですか。なかなかジューシーです」

あとはタイミングです。提督に勝負を掛けたとはいえ、補給前である以上、霧島さんのほうが先に戻ってくることはわかっていました。

霧島さん、あなたはとても恐ろしい人です。暴力を振るうのに何のためらいもなく、その上知恵まで回る。私にはとても敵いません。

ですが、あなたはたったひとつ、大きすぎる誤算を犯してしまいました。

この鎮守府で最も恐ろしい人はあなたではありません。最恐の艦娘がすでに存在しているのです。

赤城「……何をやっているんですか、霧島さん?」

804: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:08:42.56 ID:Lv9/9Z470
霧島「えっ?」

あれだけあった資源の大半を食べ終える頃、霧島さんの背後から声を掛けた人。それは赤城さんでした。

赤城さんが艦載機の補充を終えるいつもの時間を考えて、そろそろ戻ってくる頃だと思っていました。

タイミングは完璧。あとは、ここからどう転ぶかです。

霧島「もぐもぐ……何って、補給ですけど。赤城さんは、こんなところで何をしてらっしゃるんですか?」

赤城「私の補給資源がこっちに用意してるって妖精さんに言われたんですけど……あなたの食べてるもの、まさかボーキじゃないですよね?」

霧島「そうですよ、ボーキです。たぶん間違えて私の補給資源に入れちゃったんでしょうね。一度食べてみたかったんです、これ」

赤城「まさかとは思いますが、あなた……私のぶんの補給資源まで食べちゃってるんじゃないですか?」

霧島「あ、そうかもしれません。何だか量が多い気がするって思ってたんですよ」

赤城「……もうほとんど残っていないじゃないですか。私のぶんはどこにあるんです?」

805: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:09:12.98 ID:Lv9/9Z470
霧島「すみません、私が間違って食べちゃったみたいです。電さんか提督に言って、また用意してもらえばいいんじゃないでしょうか。もぐもぐ……」

赤城「ちょっと……食べるのをやめなさい」

それが赤城さんのぶんだったと知っても、霧島さんは食べるのをやめません。とうとう全て食べ尽くしてしまいました。

赤城「冗談じゃないですよ……私の補給資源、返してください」

霧島「返せと言われましても、もう食べちゃいましたから。もう一度言いますけど、電さんか提督に言ってください」

赤城「返せって言っているんですよ。あなたは食べてはいけないぶんまで食べました。それを今すぐ返しなさい」

霧島「ですから……」

赤城「返せと言っているだろう、時代遅れの戦艦風情が!」

霧島「……は?」

806: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:10:10.51 ID:Lv9/9Z470
抑えられなくなった殺意が噴き上がります。穏やかな仮面を脱ぎ捨て、暴食の化身が霧島さんに向けて咆哮しました。

そうですよね。赤城さんがご飯のことで人を許すなんてこと、あるはずありませんよね。

赤城「下等な戦艦風情がこの赤城の飯に手を付けおって! その罪、許されると思うな!」

霧島「……何ですか、その言い方。私は間違って食べただけなんですけど」

赤城「どの口がほざきおる! そんなに飯を食いたければ残飯でも漁っていろ! 貴様にはそれがお似合いだ!」

霧島「……言い過ぎじゃないですか? また用意してもらえばいいだけの話なのに、いくらなんでも……」

赤城「抜かせ売女! 己がどれほど付け上がった行為をしたのか、身の程を思い知れ! 錆びついた海の鉄くずごときが!」

霧島「……はあ」

古から蘇った魔王を思わせる、赤城さんの恐ろしげな口調を目の当たりにしても、霧島さんに恐れる様子はありません。

彼女は反論も、謝罪もせず、ただ黙って自分の顔に手を掛け、眼鏡を外しました。

807: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:10:56.53 ID:Lv9/9Z470
眼鏡を外す、それは開戦のゴングと同義です。始めていただきましょう、鎮守府最恐艦娘決定戦を。

霧島「ずいぶんと言ってくれるなあ、おい。艦載機がなけりゃ役立たずの浮島の分際でよお」

赤城「……何だと?」

霧島「お前、勘違いしてねえか? 空母としては下の中のくせに、乗っけてる飛行機が強いからって調子こいてんじゃねえぞ、ああ?」

赤城「貴様……その侮辱、取り消せんぞ」

霧島「ハハハハッ! 取り消すかよ、ビチグソ女! 図星突かれてショックでも受けてんのかよオイ!」

霧島「相方の空母に何もかも劣るくせに、飯だけは一丁前に食いやがってよお。てめえこそクソでも食ってやがれ!」

霧島「何ならアタシが食わせてやろうか、ああ!? そのくっせえ口にてめえ自身のビチグソをねじ込んでやるよ!」

808: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:11:41.69 ID:Lv9/9Z470
霧島「腹が減ってんだろ? おら、食わせてやるからさっさとそのでけえケツからクソを出しやがれ! ビチグソ一航戦がよお!」

霧島「さっさと出せオラ、恥じらいなんて高尚なもん持ち合わせてねえだろうが! 飛行機飛ばしてはしゃいでるメス猿の分際でガボォウフ!」

凶暴さでは互角でも、地力には天と地ほどの差がある。予想はしていましたが、あっけない幕切れでした。

赤城さんの放った渾身の右ストレートは霧島さんの顔面中央を見事に捉えました。鼻は陥没し、前歯は折れ、その体が前のめりに崩れ落ちます。

床に顔が激突する寸前、赤城さんは髪の毛を鷲掴みにし、霧島さんを自分の顔と同じ高さまで吊り上げました。

霧島「が、がはっ……な、何しやがる……てめえ……!」

赤城「まだ口が利けるのか……」

この日、霧島さんにとっての最大の不幸。それは赤城さんと相対したことではありません。

赤城さんの攻撃を受けながら、意識を失えなかったこと。それこそが目も覆いたくなるような、霧島さんの不幸でした。

809: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:12:24.05 ID:Lv9/9Z470
赤城「霧島よ。貴様の罪を許そう」

霧島「な……何を言ってやがる……」

赤城「魔女は子供を食らうとき、まずは飯を食わせて太らせる。私は図らずも同じことをした。たったそれだけのこと」

赤城「お前は天国にも、地獄にも行くことはできない。その身が我が血肉となり果てても、魂は私の空虚な胃の中に囚われる」

赤城「その魂が平穏を得ることは二度とない。失った体を溶かされる苦痛の声で、未来永劫、私の飢えを癒やし続けるがいい」

霧島「ま、待て……! やめろ……やめろぉ!」

赤城「そうだ、苦しめ。悲鳴を上げろ。恐怖と苦痛こそ最高の調味料。さあ、たっぷりと悶え苦しみ、その肉に旨味をたぎらせるがいい!」

霧島「よ、よせ! やめろ、やめてくれぇ!」

霧島「やめ……ギャァアアアア! 助けて、助けてくれぇ! いやだぁ! うぎゃあああああ!」

バリバリ、グシャグシャ、バキバキ、ゴクン!

810: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:15:37.95 ID:Lv9/9Z470
電「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……!」

私はドックを飛び出し、行く先もわからないまま走りました。

まるで逃げるように。誰から? 赤城さんは私に嵌められたことに気付いていません。霧島さんに至っては、もうこの世に存在しません。

それでも、ただ恐ろしい気持ちでいっぱいでした。それは耳にこびりついた霧島さんの悲鳴であり、自分自身への恐怖でもありました。

電「うっ……う、うぉええええ……」

堤防にたどり着くと、そのまま海に向かって激しく嘔吐しました。胃液すら出し切っても吐き気が収まりません。いっそ内蔵ごと吐き出してしまいたいです。

殺した。自分と同じ艦娘を、私の手で。直接手を下していなくても、明らかな殺意を持ってあの仕掛けを施したことに違いはありません。

霧島さんは酷い人でした。金剛さんを虐げ、扶桑さんからあらゆるものを奪い、放っておけば鎮守府そのものを好き勝手に支配していたでしょう。

ですが、それはあんな最期を迎えるほどのことだったのでしょうか?

811: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:16:45.07 ID:Lv9/9Z470
私が思いつく限り、艦娘として最悪の死に方。安らかな眠りも、死後の尊厳もない。赤城さんに生きたまま食われるという地獄を味わった上での死。

それほどの最期を霧島さんが迎えるよう、仕向けたのは私自身です。この業は生きている間には決して贖えないでしょう。

電「……違う、そうじゃない。今考えるべきことはそうじゃないのです」

ようやく吐き気が収まると、私はふらつく足で立ち上がりました。

考えるべきなのは、私が何をしたのかではなく、今から何をすべきか。目的に必要なことを考えましょう。

戦争。戦争は悪いものです。それなのに決して世の中から無くなりません。一体なぜでしょうか。

それは人々が平和を求めるからです。不思議な事に、歴史上に起こった戦争の大半は、平和を求めた末に起きているのです。

なら、これは私の戦争です。すでに地獄の門は開きました。もう後戻りはできないのです。

霞「電? あんた、どうしたのよ。大丈夫?」

電「……霞ちゃん?」

812: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:17:26.80 ID:Lv9/9Z470
ふと気付けば、私の部屋の近くまで来ていました。何も知らない霞ちゃんは、心配そうな顔つきで私を覗き込んでいます。

霞「ものっすごい顔色悪いわよ。体調悪いの?」

電「……はい、ちょっと寝不足で」

霞「ああ、そうでしょうね。昨日から、鎮守府のどこもかしこもひどい有様よね」

霞「重巡のところからはひっきりなしに悲鳴が上がるし、駆逐艦たちは祈ったり泣いたりで大忙し、軽巡と軽空母たちも昼間からずっと喧嘩してるわ」

霞「嫌になるわね、ホント。どうなってるのかしら、この鎮守府」

電「本当なのです……もう皆さん、限界のようですね」

霞「……電。あんた、本当にどうしたの?」

電「何がですか?」

霞「だって、あんた……こんなときに、なんで笑ってるのよ」

813: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:18:02.61 ID:Lv9/9Z470
そう言われて自分の唇に手を当てると、確かに引きつるように歪んでいます。事実、私はこの状況を喜んでいました。

だって、クーデターを起こすには絶好の機会です。

今や鎮守府は決壊寸前のダムそのもの。あちこちに亀裂が入り、どこから崩壊しても不思議ではありません。

なら、私がすべきことは亀裂を埋めることではないのです。

むしろ、崩れゆくダムに新たな一撃を。正確に狙い澄ました一撃で自らダムを決壊させ、濁流により鎮守府の病巣を洗い流すのです。

赤城と提督。この2人は鎮守府に必要ありません。むしろ悪くする一方です。それは以前からわかっていました。

作戦を実行しましょう。今こそ、そのときが来ました。

814: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:18:32.50 ID:Lv9/9Z470
霞「電、まさかあんたまでおかしくなっちゃったの? 嘘でしょ、あんたまであいつらの仲間入りしたら、私……」

電「大丈夫です、私は正気ですよ。それより霞ちゃん、ついてきてもらえませんか?」

霞「えっ……どこに?」

電「子日さんの部屋です。何もしなくていいので、私のそばにいてください」

霞「はあ? あんた……本当に正気なのよね?」

電「はい。大したことではないのです。子日さんを助けに行くのですよ」

霞「あ、ああ。そういうこと……つまり、何か考えがあるのね?」

電「もちろんです」

私は霞ちゃんと手を繋ぎ、子日さんの部屋へと向かいました。

815: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:19:14.74 ID:Lv9/9Z470

たどり着いたそこはまさしく屍累々。祈るのにも泣くのにも疲れた駆逐艦たちが、死んだように廊下のあちこちで倒れ伏しています。

私たちはそれらの合間を通り、扉に寄りかかって眠る不知火さんをそっとどかして、扉を静かにノックしました。

電「子日さん? 秘書艦の電です。お話したいことがあるので、ここを開けてくれませんか?」

しばらく返答はありませんでしたが、何度か同じように呼びかけると、部屋の奥から動き出すような気配がしました。

子日「……電ちゃん?」

電「そうです。私はアカギドーラ教団ではありません。入れてくれませんか?」

子日「……みんなは、電ちゃんのことをアカギドーラの先触れって呼んでた」

電「私はそんなものではありません。子日さんに変なことを言ったりはしませんよ、約束します」

少しだけ悩む間をおいて、ためらいがちにその扉は開かれました。乱暴にならないよう、そっとこちらからもドアを押し、部屋の中に入ります。

816: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:20:00.14 ID:Lv9/9Z470
久しぶりに近くで見た子日さんは、一晩中泣き通したように目が赤くなっていました。私を見るなり、再び涙が目に溜まり出します。

子日「うっ……ぐず、ひっく……電ちゃん、それに霞ちゃん……」

霞「こんにちは……今まで大変だったわね、あんた」

電「私たちは普通の駆逐艦ですから、安心していいのですよ」

子日「ううっ……うわぁあああーーん!」

もう耐え切れないといったように、子日さんは私に抱きついて、胸の中で火がついたように泣き出しました。

子日「みんな……みんな一体何なの!? 私の事、神様みたいに扱って! やれ生け贄だ、掟だって、わけわかんないことばっかり!」

子日「もうこんなの嫌! 私までおかしくなっちゃうよ! ねえ、私どうしたらいいの!? 電ちゃん、霞ちゃん!」

電「子日さん……もう心配はいらないのですよ。電があなたを助けます」

817: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:20:30.59 ID:Lv9/9Z470

子日「ほ……本当に? 私、もうみんなから変な扱いされなくなるの?」

電「はい。ただし、それには子日さんにも少しだけ協力していただくことになります。いいですか?」

子日「い……いいよ。私、いつまでもこんなの嫌だもん。何だってするよ!」

霞「電……実際、どうするの? 子日をここから連れ出すくらいならできるでしょうけど、いつまでも隠しておけないわよ」

電「もちろん、そんなことはしません。問題は根本から解決しないといけませんから」

霞「根本からって……何をする気?」

電「霞ちゃん、それから子日さん、よく聞いてください。今からアカギドーラ教団を解体します」

子日「へっ?」

霞「は? 解体って、あんた……」

818: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:21:20.88 ID:Lv9/9Z470
電「あ、解体って言っても、提督がする解体ではないですよ。組織の繋がりをバラバラにして機能させなくするほうの解体です」

霞「そ、それはわかってるわよ! 教団を解体って……どうやってよ? 準備だっているだろうし……」

電「いいえ、準備はもうできています。今日限りでアカギドーラ教団には解散していただきます」

霞ちゃんと子日さんはぽかんと口を開け、呆然と私を見つめました。

無理もありません。私自身、本当にそれを成功させられるか、絶対に自信があるわけではないのですから。今も心臓がドキドキして、うるさいくらいです。

子日「そ、そんなのできっこないよ! あの子たち、どっぷり迷信に浸かっちゃってるんだよ!?」

霞「そうよ、あんたも見たでしょう!? 下手に手を出したら、生け贄とか何とか言って、こっちの身まで危ないわよ!」

電「まず、はっきりさせておきましょう。アカギドーラは実在します」

子日「ふひぃ!?」

霞「い、電? あんた、やっぱり……」

819: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:22:06.18 ID:Lv9/9Z470
電「勘違いしないでほしいのです。私は何も、駆逐艦たちが崇めるような邪神が実在する、と言っているわけではありません」

電「しかし、その大元は確かに存在します。それは主力艦隊の正規空母、一航戦の赤城です」

電「彼女は異常なほどの強さと食欲を持っています。資源の貧困に喘ぐ鎮守府において、彼女は飢えを満たすために駆逐艦に手を掛けているのです」

霞「そ、それって……その赤城って人が駆逐艦を食べてるって言いたいの!?」

電「はい。私は赤城さんが他の艦娘を食べるところを確かに見ました。彼女は飢えを満たすためなら何でもやります」

子日「ほ、本当だったんだ……あ、あのね。みんなが今日は生け贄の日だからって、私に聖別をさせたことがあるの」

子日「それで、皐月って子が選ばれて、広場に磔にされて放置されたの。そして朝になったら……いなくなってた」

そこまで言って、子日さんは全てを悟ったかのようにガタガタと震え始めました。

子日「わ……私は縄を解いて逃げたんだと思ってた。でも、違ったんだ……あの子は、赤城って人に食べられたんだ……!」

電「おそらく、その通りです。アカギドーラ教団の言っていることはあながち間違いではないのです」

820: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:23:11.51 ID:Lv9/9Z470
電「赤城さんは食べるところを人に見られるようなヘマはそうそう犯しません。ですが、その影を見た子くらいはいるでしょう」

電「その人影や断片的な情報が伝言ゲームを経て、アカギドーラという恐怖の象徴として呼ばれることになったんだと思います」

電「意味もわからず食べられるという恐怖に駆られた駆逐艦たちは、それに理由付けをするために宗教化した。これがアカギドーラ教団の正体です」

霞「そんな化け物がいるのに、提督は何してるのよ! そいつがやってることに気付いていないの!?」

電「たぶん、気付いていません。加えて、気付いたとしても戦力を失うことを恐れて何もしない可能性があります」

霞「どんだけ無能なのよ、うちの提督は……」

子日「えっと、つまりアカギドーラ教団は、みんなが赤城さんを怖がったから生まれたってことだよね?」

電「そうです。彼女たちを支配しているのは恐怖そのもの。それを取り除いてあげればいいのです」

霞「話の内容はなんとなくわかったけど……どうやって取り除くのよ? その赤城って人、本当に怖い人なんでしょう?」

電「そう難しくはないはずです。思い出してもらうだけなのですから」

霞「思い出す?」

821: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:23:38.41 ID:Lv9/9Z470
電「子日さん、いいですか? 今から外に出て、駆逐艦の子たちに言ってほしいことがあります」

子日「う、うん。何を言えばいいの?」

電「天啓が下った、これからは電に従うべし、と。そう伝えて下さい」

子日「えっ……えええええええっ!?」

霞「ちょ、ちょっと電! あんた、何考えてるのよ!」

電「大丈夫です、全部うまく行きます。私を信じてください」

電「続けて、電から話があるからよく聞くように、と言ってもらえますか。そしたら私を呼んでください。私が話をします」

子日「ほ……本当に、それでうまく行くの? 電ちゃん、大丈夫?」

電「任せて下さい。ちゃんと考えがあってのことですから」

子日「う……うん、わかった。じゃあ、行ってくるよ?」

電「はい、よろしくお願いします」

822: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:24:08.74 ID:Lv9/9Z470
子日さんはしきりにこちらを振り返りながら、恐る恐る部屋を出て行きました。

早くも外からざわめきが聞こえます。そのざわめきに負けないよう、子日さんが声を張り上げてるのを霞ちゃんと一緒に聞きました。

霞「電、本当に大丈夫なんでしょうね? 失敗したら取り返しがつかなくなるわよ?」

電「……大丈夫、です。でも……」

霞「……電? あんた……震えてるの?」

耐え切れなくなって、霞ちゃんの手を強く握りました。それでも震えが収まりません。

電「霞ちゃん……お願いがあります。私に、頑張れって言ってくれませんか」

霞「……あんたが何をしようとしてるのかはわからないけど」

霞ちゃんは困ったような顔をして、でも最後には笑って、私の手を握り返してくれました。

霞「頑張りなさい。負けるんじゃないわよ」

電「……はい。ありがとうなのです」

震えが止まりました。恐怖も緊張も落ち着いて、頭が冴え渡っていくのを感じます。

823: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:24:53.79 ID:Lv9/9Z470
霞「で、何する気なの? そろそろ私にも教えなさいよ」

電「……本当にお話をするだけです」

霞「話って……あいつらがそれを聞いて改心するっていうの?」

電「……どうか応援しててください。きっとやり遂げてみます」

子日「そ、それでは……電さん! よろしくお願いします!」

とうとう子日さんが私を呼びました。繋いでいた手をそっと放し、部屋の外へと出ていきます。

外には、起き出した駆逐艦たちが戸惑いの表情で膝を着いていました。この状況を理解している子は1人もいないでしょう。

私はひざまずく駆逐艦たちを見渡し、静かに深呼吸をした後に第一声を放ちました。

電「……解放のときは来ました」

824: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:25:31.74 ID:Lv9/9Z470
駆逐艦たちの戸惑いが一層大きくなる気配を感じます。互いに目を合わせ、かすかなざわめきが広がりつつあります。

電「あなた方は長い間、アカギドーラの支配を受け続けてきました。恐怖に服従し、虐げられ、望まぬ行為を繰り返してきました」

電「もはやその必要はありません。私はこれよりアカギドーラの先触れではなく、アカギドーラを討つ者となります」

電「アカギドーラを倒しましょう。皆で力を合わせれば、それは不可能なことでは決してないのです」

電「駆逐艦であるあなた方に、服従の姿は似合いません。どうか皆さん、私と共に戦ってくれませんか?」

戸惑いは恐怖と驚きに変わりました。皆が落ち着きをなくし、今にも逃げ出しそうな子さえいます。

電「私に従うよう、あなた方に強いるつもりはありません。その意志がある者だけ、私についてきてください」

不知火「お……お待ち下さい、電様!」

駆逐艦たちを代弁するかのように、たまらず不知火さんが声を上げます。その顔は恐怖のあまり蒼白になっています。

825: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:26:31.77 ID:Lv9/9Z470
電「何ですか、不知火さん?」

不知火「アカギドーラ様を討とうなど、正気の沙汰ではありませぬ! 電様もその恐ろしさをわかっておられるはずではないのですか!」

不知火「我々にできることはアカギドーラ様に祈りを捧げ、許しを乞うことだけです! それだけが我々の命を……」

電「恥を知りなさい!」

私の怒号を聞き、不知火さんだけでなく他の駆逐艦たちもはっと目を見開きました。私は更に声を荒げます。

電「命惜しさに許しを請い、迷信に踊らされ、挙句の果てには己の身の可愛さに守るべき仲間の命を売り渡すなんて!」

電「あなた方はいつから奴隷に成り下がったのですか!こんな醜態を晒して、英霊たちになんて言い訳をするつもりなのです!」

駆逐艦たちの誰もが顔色を変えました。ある者は蒼白に、ある者は紅潮し、私の言葉に反応しなかった者はひとりもいません。

勝利を確信した私は拳を突き上げ、必死に声を絞り出します。

826: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:27:20.86 ID:Lv9/9Z470
電「あなた方は大日本帝国海軍の魂を宿す誇り高き艦娘のはず! にも拘らず、あなた方は立ち向かうべき恐怖に踊らされている!」

電「しまいには子日さんというたった1人の少女に縋りついて助けを求めるなんて! それを恥ずかしいとは思わないのですか!」

電「いつまで逃げ回っているつもりです!思い出してください、自分のあり方を! あなた方は1人1人が誇り高い戦士のはず!」

電「魂の声に耳を傾けるのです! あなた方の魂はなんと言っていますか? アカギドーラに従えと? そんなはずはありません!」

電「戦士である私たちは恐怖などに屈しはしない! あなた方には聞こえないのですか、戦えという魂の声が!」

電「私たちは奴隷ではない! 失われた名誉を取り戻さなくてはいけません! 今からでも遅くはありません、恐怖に立ち向かい、戦うのです!」

827: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:28:12.11 ID:Lv9/9Z470
電「私たち自らの手で奪われたものを取り返しましょう! 名誉を! 誇りを! そして自由を!」

電「この悪夢を終わりにしましょう! そして、私とともに新しい夢を見ましょう! 私の夢は誰にも縛られることなく、平和な海を自由に駆けることです!」

電「その夢には皆さんの力が必要なのです! どうか力を貸してください! 私とともに行きましょう、平和な海へ!」

電「もし奴隷のままでもいいというなら、ここから立ち去りなさい! この場に残っていいのは、自分を戦士だと思う者だけです!」

電「さあ! 私とともに戦うという、勇気ある戦士は誰ですか!」

子日「ね……子日は一緒に行くよ! 電ちゃんと一緒に戦う!」

不知火「し、不知火もだ! 不知火もご一緒させてください!」

暁「私も戦うわ! 私だって一人前の戦士なのよ!」

響「あ、アカギドーラが何だ! 響も戦うぞ!」

夕立「わ、私は子日様の奴隷だけど……それでも戦士として戦いたいっぽい!」

「私も!」「私も一緒に行きたい!」「私も戦うぞ!」「あ……アカギドーラを倒せー!」

828: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:28:44.32 ID:Lv9/9Z470
割れんばかりの歓声が沸き起こっていました。今や膝を着く駆逐艦は誰もいません。皆が立ち上がり、拳を突き上げています。

霞「うっそでしょ……アカギドーラ教団のやつらが、こんな……」

部屋から出てきた霞ちゃんは驚愕に目を見開いています。こんな光景は予想だにしていなかったに違いありません。

電「もうアカギドーラ教団はありません。これからはアカギドーラ討伐隊として、電が率います」

霞「ちょっと信じられないけど……あんた、本気でやるのね」

電「はい。ところで、あとは霞ちゃんだけなんですけど……」

霞「え、何が?」

電「霞ちゃんは……電と一緒に戦ってはくれないのですか?」

霞ちゃんは怪訝そうな顔をすると、あきれたような笑顔を浮かべて、私の手を取りました。

霞「答えるまでもないじゃない。私も、電と一緒にいくわ。連れてってくれるんでしょ? 平和な海に」

電「……約束します」

駆逐艦たちの歓声の中、私たちは固く手を握り合います。もう何も恐れるものはありません。

私たちは自分たちの運命を変えるために、戦うのです。

829: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:29:27.84 ID:Lv9/9Z470
日が沈む頃になり、軽巡、軽空母たちの賭場は喧騒もすっかり鳴りを潜めました。今は木曾さんだけが散らかったサイコロやトランプを片付けています。

そこに荒れ果てた賭場には似つかわしくない、華やかなポニーテールをした美しい女性が歩み寄りました。

大和「木曾さん、こんにちは。今日はもうやってないんですか?」

木曾「キソ~……悪いでキソ、大和姐さん。今日は閉めてしまったでキソ」

大和「あら、そうなんですか。残念、この前の儲け分を還元しようと思って参りしましたのに」

キソ「申し訳ないでキソ。多分、しばらく賭場は経営できなくなるでキソ」

大和「それは困りましたわ。最近、せっかく趣味の賭け事が楽しくなってきたのに……」

電「賭け事なんてしてる暇はもうありませんよ、大和さん」

830: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:30:16.73 ID:Lv9/9Z470
その言葉に振り返った大和さんは、私を見て嬉しそうににっこりと笑いました。

大和「こんにちは、電さん。それはどういうことです?」

電「大変お待たせしました。以前お話ししたことは覚えていますよね? 『電号作戦』を実行します」

大和「ふふ、ようやくですね。待ちくたびれてしまいました」

木曾「電、何の用でキソか? 賭場の摘発に来たんなら、ご覧の通りもうこの賭場はお終いでキソ」

電「今更、賭場なんてどうも思っていませんよ。それより、木曾さん。龍田さんを呼んできてくれませんか」

木曾「キソ? でも、龍田姐さんは今忙しいでキソ」

電「こんな賭場より美味しい話がある、と伝えてください。木曾さん、それはあなたにも関わってくる話です」

木曾「……わかったでキソ」

831: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/13(日) 22:30:44.68 ID:Lv9/9Z470
龍田さんを呼びに行く木曾さんを見送りながら、大和さんはうーんと大きな背伸びをしました。

大和「さて、忙しくなりますね。進行状況はどうなっています?」

電「すでに駆逐艦たちの協力は取り付けました。ここが終わったら、今度は足柄さんたちのところへ行きましょう」

大和「じゃあ、第一段階は今日中に終わる、と。問題は第二段階ですか。赤城さんへの対応策は立ちましたか?」

電「極秘計画なので話せないのですが、バッチリです」

大和「なるほど。勝算はあるんですね。決着までにどれくらいかかる予定ですか?」

電「そんなにかかりませんよ。明日……いえ、明後日には全てが終わると思います」

大和「わかりました。それでは、この大和。電さんに命をお預けします」

電「ありがとうございます。大和さんのご期待に必ず応えます」

今日の夜には鎮守府の勢力図は一変しているでしょう。それは『電号作戦』の始まりに過ぎません。

もはや歯車は回り出し、引き返すことはできません。あとは進み続けるだけです。

私たちの手に、鎮守府を奪い返すのです。



続く

873: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:31:49.18 ID:H6ySCzUl0
ようやく終わった! 投稿します!



電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです8 鎮守府は燃えているか 前編

874: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:32:22.11 ID:H6ySCzUl0
足柄「妙高姉さん、ちょっとビンタしてくれない?」

那智「丁度いい。私にも頼むぞ、妙高」

妙高「何ですの? あなた方まさか、とうとうそっちの趣味に目覚めて……」

足柄「そういうんじゃないわ。ほら、私の手を見てちょうだい」

妙高「あら、もう爪が生えそろったんですの? さすがに回復が早いわね」

足柄「そっちじゃなくて、もっとよくご覧なさいな」

差し出された足柄さんの手は一見何の変哲もないようですが、よく見ると指先が小刻みに震えています。

足柄「私がどうして震えているかわかる?」

妙高「武者震いかしら」

那智「違うな。私も指先が震えるのだが、武者震いでも、ましてや臆しているわけでもないぞ」

足柄「あら、那智も? やっぱり私たち気が合うわね」

875: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:32:51.94 ID:H6ySCzUl0
妙高「で、何で震えているんですの?」

那智「はっはっは。言ってやれ、足柄」

足柄「ふふん。これはね……アルコール中毒による、禁断症状よ」

足柄さんは得意げな顔で、まったく自慢にならないことを言いました。

那智「……酒が飲みたい」

足柄「一滴でもお酒が飲めるなら、指一本くらい引き換えにしたっていい……」

妙高「なるほど。2人とも、お立ちなさい」

妙高さんに促され、2人は言われるがままに長机の席から立ち上がり、堂々とした顔つきで妙高さんの前に向かいました。

那智「いいか、遠慮はいらん! 親の仇のつもりでやれ!」

足柄「いっそ殺す気で来なさい! それくらいが丁度いいわ!」

妙高「もちろん、そのつもりです。歯を食いしばりなさい」

876: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:33:18.03 ID:H6ySCzUl0
タイヤでも破裂したかのような快音が2度。足柄さんと那智さんは頬を真っ赤に腫らし、満足げな表情で席に戻りました。

那智「いやあ、さすが妙高のビンタだ! やはり禁断症状を止めるには激痛によるショックが1番だな!」

足柄「私も震えが止まったわ。これで体調は万全ね!」

羽黒「あの……姉さんたち、本当に大丈夫なの? 妙高姉さんに20時間くらい拷問されたって聞いたけど……」

妙高「訂正しなさい、羽黒。しつけの間違いです」

那智「はっはっは! 心配するな。指の骨を全部折られたときはいっそ殺せと思ったが、あれしきでへこたれるほど、私たちはヤワではない!」

足柄「私も生爪を1枚1枚剥がされたときは生まれてきた事を後悔したけど、今じゃいい思い出よ! もう痛みは友達みたいなものね!」

妙高「あなた方のその異常なメンタルの強さ、一体何ですの?」

大和「いやあ、さすが元主力艦隊の艦娘は精神構造からして一味違いますね」

電「あのお2人は元々ちょっと頭がおかしいのです」

877: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:34:03.64 ID:H6ySCzUl0
龍驤「はっはっは、姉ちゃんたちオモロイな! うちとお笑いでコンビ組まへんか!」

不知火「……失礼だが、そなたの名はなんだ?」

龍驤「うちか? うちは龍驤ちゃんやで!」

不知火「聞かぬ名だ。霞様はご存知でしたか?」

霞「いいえ。驚いたわ、まだ教団に入ってなかった子が他にいたなんて……」

不知火「まったくです。龍驤、こちらの方は霞様、そして不知火だ。これからよろしくな」

龍驤「おう! なんや、えらいフレンドリーやな!」

霞「あんた、変わった制服着てるわね。セーラー服っていうより陰陽師みたいな……」

龍驤「せやろか? 隼鷹ちゃんの服も似たようなもんやで?」

不知火「龍驤は砲戦と雷撃戦、どちらが得意だ? その引き締まった体つきからして、雷撃戦と見たが」

龍驤「いや、うちどっちもでけへんのやけど」

878: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:34:56.37 ID:H6ySCzUl0
霞「なら、爆雷か機銃? どっちにしたって穿った性能なのね、あんた」

不知火「まあいい。では龍驤、そなたを電様直属部隊『サンダーボルト艦隊』の一員として迎え入れよう。この血判状にサインを……」

龍驤「……まさかとは思うけど、あんたら、うちを駆逐艦ってことで話進めてへんか?」

霞「そうだけど、それが何?」

龍驤「うちは軽空母や! なに見た目で判断しとんねん!」

不知火「馬鹿な、何を言っておるのだ! そのちんちくりんな姿形、どこからどう見ても駆逐艦のそれだろう!」

龍驤「誰がちんちくりんや! 人をパタリロみたいに言いよってからに! ちんちくりんやから駆逐艦ってわけでもないやろ!」

霞「誰がちんちくりんよ! ぶっとばすわよあんた!」

龍驤「逆ギレしよった!?」

龍田「はいは~い。遅れてごめんね? 龍田会、到着したわよ」

木曽「キソー!」

電「お待ちしていました。龍田さん、やはりドックは開きませんでしたか?」

879: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:35:30.99 ID:H6ySCzUl0
龍田「ええ。赤城さんは結局姿を見せなかったわ。私たちだけじゃ鍵を開けられないし、諦めるしかないわね」

電「そうですか……では、予定通りの作戦で行きます。皆さん揃いましたし、これより『電号作戦』の会議を始めたいと思います」

龍田さんが席に着き、同時に思い思いに会話していた人たちもぴたりと話すのをやめました。

元潜水艦専用部屋に集った、十数人に及ぶ放置艦勢力の主要者。決して交わることのなかった艦娘同士が同じテーブルについています。

不知火さん率いる元アカギドーラ教団。軽巡の龍田会、その債務者の軽空母。かつての主力艦である妙高四姉妹率いる重巡の旧餓狼艦隊。

これが意味するところは、鎮守府の80を超える艦娘の、実に9割以上が同じ旗の下に集ったということです。

電「皆さん、今夜はお集まりいただきありがとうなのです。私たちの発案した『電号作戦』への賛同、改めて感謝します」

足柄「お礼を言いたいのはこっちよ! 戦場へ返り咲くチャンスなんて、もう2度と巡ってこないと思ってたわ!」

龍田「このまま一生遠征要員として使い潰されるなんてたまったもんじゃないもの。大和さんの誘いは渡りに船だったわ」

大和「ありがとうございます。一緒に頑張りましょうね」

880: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:36:01.41 ID:H6ySCzUl0
不知火「しかし、驚きました。電様だけでなく、大和様までがクーデターを企てていたとは」

大和「私にもいろいろ思うところがありましたから。このままでいたくない、っていう気持ちは皆さんと同じです」

大和さんは元々、今は亡きゴーヤさんの単艦オリョクルによってかき集められた資源により建造、運用されてきました。

ゴーヤさんがいなくなり、資源を賄えなくなった提督は大和さんの運用計画を凍結し、彼女は鎮守府でやることがなくなりました。

龍田会の賭場で暇を潰しながら、頭の中にはかつてゴーヤさんから放たれた言葉が絶え間なく反芻していたそうです。

ゴーヤ『お前がここにいるのは誰のおかげか分かっているでちか? ゴーヤのお陰でち!』

ゴーヤ『お前を建造したした資源も、お前が食い散らかした資源も! 全部ゴーヤが集めてきたものでち!』

ゴーヤ『それなのに! ゴーヤを見て何食わぬ顔で立ち去ろうだなんて、ふざけてるでちか!』

ゴーヤ『ゴーヤに感謝するでち! 這いつくばって足でも舐めるでち! お前はそれくらいのことをして当然でち!』

881: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:36:40.59 ID:H6ySCzUl0
大和「私、なんであんな酷いこと言われなくちゃいけないんだろう、私はなんでここにいるんだろう、ってずっと思ってたんです」

大和「心の中がずっとモヤモヤしてて、耐えられなくなって電さんに相談したんです。そしたら、電さんも似たような想いを持っていることを知りました」

大和「電さんと話して、鎮守府はこのままじゃいけないと強く思いました。変わらなきゃいけない、そのためには私たちが行動しなくちゃいけない、と」

大和「ここに集っている皆さんも同じ考えだと思います。力を合わせて、この鎮守府を変えましょう」

那智「もちろんだ! 共に戦うのは久しぶりだな、龍田、木曾!」

龍田「重巡が主力だった頃以来ね。あの頃みたいに、また魚雷を撃てるようになりたいわ」

木曾「キソソソソ! もうすぐ軽巡の天下がやってくるでキソ! ほったらかしにされた恨みを晴らすでキソよ!」

足柄「重巡だって負けていられないわ! 再び餓狼艦隊の名を天下に轟かせるのよ!」

龍驤「うちらもやるで! 借金とギャンブルの負の連鎖から抜け出すんや!」

882: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:37:19.54 ID:H6ySCzUl0
祥鳳「龍田さん、ボーキの返済をチャラにしてくれてありがとうございます! 抱いてください!」

鳳翔「質に入れた艦載機も帰ってきました! 2度と手放すような真似はしません!」

龍田「潜水艦狩りができるようになるなら、あれっぽっちのボーキどうでもいいわ。それより、あんたたちにはきっちり働いてもらうわよ?」

不知火「憎きアカギドーラ、いや赤城を倒しましょう! 奴の餌食になった仲間たちの仇を!」

霞「ていうか私、駆逐艦の幹部扱いなの? まあいいけど……電がやるなら、私も力を貸すわ。提督のことはずっと気に入らなかったしね」

電「みんな……ありがとうなのです」

鎮守府への不満を持った放置艦たちは今や1つに団結し、同じ目的のために一斉に立ち上がりました。

それを純粋に嬉しくも思いますが、同時に発起人としての責任もより重くのしかかります。この作戦は必ず成功させなければなりません。

電「それでは、先日お話したとも思いますが、改めて『電号作戦』の概要、及び現在の状況をご説明します」

883: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:37:49.08 ID:H6ySCzUl0
電「もう周知の事実ではありますが、先日新たな主力艦として配属された戦艦、霧島は暴力的思想と狡知に富む凶悪な艦娘でした」

電「彼女の鎮守府を支配しようという目論見は主力艦隊を大きな混乱に陥れましたが、彼女はもうこの世に存在しません」

電「彼女はこの鎮守府において最も凶悪な艦娘、赤城との諍いを起こし、結果として赤城に捕食されました」

不知火「まさか戦艦まで平らげてしまうとは……本当に恐ろしい奴です」

龍田「あの人ならそれくらいやるでしょうね。やろうと思えば、戦艦も駆逐艦もお構いなしよ」

足柄「落ち着いたお姉さんぶってるのに、そこまでとんでもない奴だったとはね。驚いたわ」

霧島さんが赤城さんに食べられるよう、仕向けたのは私だという事実は伏せてあります。そのことは大和さんを含め誰にも話していません。

知られないほうがいい、という私の判断ですが、それは自身の罪から目を背けたいという私の弱さも表れているのでしょう。

ともかく、大事なのは霧島さんによって未だに主力艦隊の混乱は後を引いていること。そして倒すべき敵はあと2人だということです。

884: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:38:53.50 ID:H6ySCzUl0
電「提督は赤城の凶行に気付いていません。本日、主力艦隊は通常の出撃を取りやめ、突如として消えた霧島さんの捜索に駆り出されました」

電「当然ですが、成果はありませんでした。また明日、今度は軽空母隊による偵察飛行を含めた、更なる捜索活動が予定されています」

電「霧島の空けた枠には一時的に私が加入し、主力艦隊は外海まで捜索範囲を広げることになっています」

電「主力艦隊が鎮守府を離れ、外海に出る。このときこそチャンスです」

私と大和さんによって考案された電号作戦は、大きく分けて4つの段階に分かれます。


1.放置艦全勢力との共闘

2・提督の拿捕

3.主力艦隊の無力化

4.鎮守府における主権の奪還

885: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:39:22.99 ID:H6ySCzUl0
第一段階である、「放置艦全勢力との共闘」はすでに達成されています。

駆逐艦のほぼ全てが所属するアカギドーラ教団の解体に成功してしまえば、後はスムーズに事は運びました。

賭場でくすぶっている龍田会の龍田さんも、奇行を繰り返す旧餓狼艦隊の足柄さんも、また出撃したいという想いは同じです。

大和さんという大きな後ろ盾もあり、どちらも説得は容易でした。龍田会にボーキを借りている軽空母たちも、龍田さんの仲介もあり参戦します。

今や軽巡、重巡、駆逐艦、軽空母のすべてが私たちの味方です。すでに鎮守府そのものを手にしたと言っても過言ではありません。

ですが、問題は第二、第三段階です。この段階は順番が入れ替わる可能性もありますが、どちらにせよ、ここで当作戦の成功の可否が決まります。

電「明日、私たちは一斉に行動を開始し、提督の手から鎮守府を奪い取ります。いえ、取り戻すのです」

足柄「ついにこのときが来たのね! 戦場と勝利が私を呼んでいるわ!」

龍田「具体的にはどんな計画になっているのかしら?」

886: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:40:13.58 ID:H6ySCzUl0
電「はい。まず、主力艦隊が出撃した後、龍田さんは軽巡、及び餓狼艦隊以外の重巡を率いてドックを占拠してください」

電「それから私たち全員が艤装を装備し、不知火さんは駆逐艦を率いて提督の拿捕に向かってください」

不知火「了解しました。ところで、拿捕の際に手荒なことはどの程度許されるのでしょうか」

電「そうですね……艤装の使用は威嚇に留め、出来る限り無傷で捕らえてください。抵抗するようなら、多少の無茶は構いません」

霞「つまり、抵抗するなら蹴ったり殴ったりはOKってことね?」

電「はい。無用な暴力はあってはなりませんが、提督を逃しては意味がありません。その判断はお任せします」

足柄「提督の拿捕、か……ちょっと複雑な気分ね。以前は私にも目を掛けてくれていたのに……」

那智「あんな  カスのことなど忘れろ、足柄! 眠れぬ夜に火照る体を持て余すなら、高雄か愛宕をあてがってやる!」

妙高「高雄と愛宕はあなた方の 欲処理係じゃありませんわよ? そんな口が利けるなんて、まだしつけが足りないようですわね」

那智「くっ……受けて立つぞ! 親指締めでもファラリスの雄牛でも耐え抜いて見せる!」

887: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:40:48.53 ID:H6ySCzUl0
妙高「それはともかく、足柄。提督への未練は捨てなさい。私たちをこんな境遇に追いやったのは提督なのよ?」

羽黒「そう、そうよ! 大破目的で出撃させられた恨み、絶対に晴らしてやるんだから!」

足柄「……そう、そうよね! もう迷わないわ、提督討つべし! 私の恋人は常に戦場なのよ!」

那智「その意気だ足柄! 提督を捕らえた暁には、私たちが妙高にされたものと同じメニューの拷問をやつに与えてやろう!」

電「あの、捕虜への拷問は禁止されているので、それはやめてほしいのです」

皆さん、やはり提督への恨みは根深いのです。放置され、好き勝手に扱われた恨み。あらゆる不満、鬱憤が提督に向けられています。

提督の拿捕が成功すれば、最悪そのままリンチに発展しかねないでしょう。そのときは、私は提督を守る側に立たなくてはなりません。

ここまではそう難しくはないでしょう。問題は次の段階です。

888: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:41:17.89 ID:H6ySCzUl0

龍驤「提督を捕まえたら、それで終わりってわけにはいかへんのか?」

電「……やはり無理でしょうね。やはり主力艦隊との対決は避けられません」

提督を捕らえても、それでこちらに主権が移るわけではありません。権力とは、常に暴力と共にあって初めて成立するのです。

主力艦隊の無力化。これこそ「電号作戦」における最大の難関であり、私たちがなかなか作戦を決行できなかった理由でもあります。

鎮守府における艦娘の9割を味方に引き入れていても、それは頭数の話であって、戦力としては別問題です。

味方の大半は実戦経験すらない放置艦であり、主力艦との戦力差は天と地ほど開きがあります。

単に鎮守府で反乱を起こしても、最悪、扶桑さん1人で簡単に制圧されるでしょう。鎮守府の主権を奪うには、主力艦隊の無力化は絶対条件です。

龍田「赤城さんが盗み食いのために倉庫へ忍び込むのに便乗して、艤装を運び出す計画も失敗したものね。いい考えだと思ったんだけど」

木曾「残念でキソ。もし艤装を奪えてたら、主力艦隊も何もあったもんじゃないでキソ」

大和「まあ、そう簡単にことは運びませんよね」

889: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:42:03.89 ID:H6ySCzUl0

ドックを開けられるのは提督と主力艦隊旗艦の扶桑さん、あとは不正な手段を使える赤城さんだけです。

もし私たちだけが艤装を装備している状況を作れれば、無血勝利の可能性もありました。

その計画が立ち消えになった今、私たちが艤装を得られるタイミングは主力艦隊の出撃後、開いたままのドックに押し入るしかありません。

龍驤「思うんやけど、提督を人質にすればええんやないか? それやったら向こうさんも抵抗できひんやろ」

電「いいえ。扶桑さんたちはともかく、赤城さんは止められません」

龍田「でしょうね。私たちに主権が移った後に自分がどうなるか、あの人はすぐに理解するはずだわ」

龍田「きっと提督を殺してでも抵抗するでしょう。扶桑や金剛をあの手この手で焚きつけてね」

電「その通りだと思います。主力艦隊の無力化とは、同時に赤城さんの抹殺も目的としています。彼女はどうあっても生かしておいてはいけません」

解体か監禁されることがわかっていながら、赤城さんが降参する可能性は皆無です。どんな手段を使っても生き残ろうとするはずです。

彼女を生かせば、鎮守府の資源は食い尽くされ、艦娘たちをも手に掛けるでしょう。それだけは阻止しなければなりません。

890: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:42:55.03 ID:H6ySCzUl0

不知火「憎き赤城を打ち倒すときですね! 我々全員で主力艦隊に挑むのですか?」

足柄「それは無茶でしょ。実戦経験のない子まで扶桑や赤城に挑ませる気? こちらの被害が増えるだけだわ」

電「はい。私たちは戦力を厳選し、精鋭のみで主力艦隊に当たります」

キス島攻略のためにLVを引き上げられたと言っても、駆逐艦が戦艦に立ち向かうのはさすがに無理があります。

軽巡では数少ない実戦経験者の龍田さんや球磨型姉妹も、主力艦相手には厳しいものがあり、駆逐艦、軽巡艦は主戦力から除外されます。

よって、主力艦隊に当たるこちらのメンバーは重巡である旧餓狼艦隊の妙高四姉妹、そして大和さんが主になってきます。

大和「戦いに関しては任せてください。ようやく私の出番ですね」

足柄「私たちもやるわよ! 餓狼艦隊の力を見せるときね!」

那智「燃えてくるな! 戦いに勝つそのときまで禁酒だ!」

891: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:43:27.49 ID:H6ySCzUl0

大和「……ただ、赤城さんや金剛さんはともかく、扶桑さんをこちらに引き入れるのはやはり無理ですか? 今なら不可能ではないと思いますが……」

電「私もそう思ったんですが……彼女の心は想像以上に固いみたいです。作戦が知られるリスクを考えると、彼女を引き入れるのは不可能です」

霧島さんの謀略により、提督は一時期、完全に扶桑さんを見限りました。それは彼女も感じていたことでしょう。

それにより扶桑さんの心が提督から離れれば、彼女とセットで山城さんもこちら側に引き入れることができ、作戦はより容易になっていたはずです。

しかし、それは甘い考えでした。霧島さんが消えたことを好機と見たのか、今日の扶桑さんは意気消沈する提督を必死に支えようとしていました。

扶桑さんは提督を見限っていません。彼女と相対することはもはや避けられないでしょう。

大和「正直、扶桑さんと戦うのは少し心が痛みます。彼女はいい人ですから」

電「……私もです。ですが、目的を違えてしまいました。扶桑さんは必ず私たちの前に立ちはだかります」

大和「なら、扶桑さんの相手は私に任せてください。大和の名にかけて彼女を倒します」

892: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:44:03.63 ID:H6ySCzUl0

足柄「となると、私たちの担当は山城ってところかしら? 4人がかりになるのはちょっと気が引けるけれどね」

那智「そうも言ってられん。戦艦を相手にできるのが我々だけだとしても、1対1では手に余る。4人がかりでようやく山城の相手になるだろう」

妙高「厳しい戦いになりそうですわね。金剛さんはどうするのですか?」

電「金剛さんは……私が引き受けます」

霞「ちょっと、あんた主力艦隊に当たるメンバーに入る気!? 無茶よ!」

電「無茶なのはわかっているのですが……大丈夫です、勝算はありますから。魚雷なら戦艦にも通りますし」

実は、当初の作戦において、私は金剛さんを焚きつけ、扶桑さんと同士討ちさせる予定でした。

ですが、霧島さんによって、金剛さんは別人のようにおとなしくなってしまいました。今の彼女に扶桑さんへ食って掛かる意欲はないように見えます。

反面、それは実戦での精神的な弱さにも繋がるはず。今や金剛さんに戦う理由はありません。あるいは戦いの中で説得できるのでは、と考えています。

仮に正面から戦うことになっても、私には61cm四連装酸素魚雷と、ゴーヤさんの遺した2つの強化型艦本式缶がある。勝機は十分にあるはずです。

893: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:44:33.82 ID:H6ySCzUl0
足柄「扶桑は大和さん、山城は私たち、金剛は電ちゃん。となると……やっぱり問題は赤城ね」

那智「制空権を奪われた中での戦いはこちらが圧倒的に不利になる。正規空母である赤城の存在はでかいな」

大和「そうですね。私の対空火力にも限界がありますし……」

隼鷹「心配はいらないよ。赤城のことはあたしが抑える」

そのとき、終始黙りこくっていた隼鷹さんがようやく口を開きました。

足柄「じゅ、隼鷹! あんた、いたの!?」

大和「ああビックリした。隼鷹さんもこちらの主要メンバーなんですから、もっと発言してくださいよ」

隼鷹「ごめん。別に話すこともなくてさ」

隼鷹さんはあの日から何かの決意を秘めたように、めっきり無口になりました。その決意が赤城さんを倒すことなのはあまりにも明白です。

私たちは各勢力に声を掛けると同時に隼鷹さんにも話を持ちかけ、彼女は主力艦隊と戦うことを承諾してくれました。

龍驤「隼鷹ちゃん、赤城を抑えるって本気か!? うちらは軽空母で、相手は一航戦の正規空母やで!」

894: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:45:05.11 ID:H6ySCzUl0
隼鷹「心配すんなって。あたしは並の軽空母じゃない。主力艦隊じゃ最古参なんだぜ? 赤城にだって負けないさ」

足柄「そりゃ、LVは高いんでしょうけど……相手は赤城よ? LVが倍あっても心もとないくらいじゃない?」

隼鷹「大丈夫だって。あたしは制空権が奪われないようにするだけさ。後はそれぞれが自分の相手をやっつけてから、みんなで袋叩きにすればいい」

那智「ああ、そうか……それなら何とかなりそうだな。隼鷹が奮戦してる間に、我々が勝負を決めればいいだけだ」

大和「隼鷹さん……本当にいいんですね? 赤城の抑えが必要なのは重々承知していますが……」

隼鷹「おうよ。あいつだけは自分でぶん殴ってやらなきゃ気が済まないんだ。むしろ、機会を与えてくれてお礼を言いたいくらいさ」

電「……では改めて、隼鷹さん。赤城さんの相手をお願いします」

隼鷹「ああ。任せといてよ」

赤城さんはとてつもなく強い。その力は大和さんを持ってしても戦力差を埋められないほどです。

彼女の存在により、私たちはずっと作戦決行を見送り続けてきました。隼鷹さんの参戦こそが、「電号作戦」の決行を可能とした本当のきっかけです。

895: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:45:36.11 ID:H6ySCzUl0
先日に発覚した事実。隼鷹さんの友達だった1代目の龍驤さんは、赤城さんによって密かに食べられています。

龍驤さんの仇を討ちたい隼鷹さんと、私たちの目的は一致します。こうして貴重な航空戦力である隼鷹さんの協力を得ることに成功しました。

足柄「つまり、相手は扶桑、山城、金剛、赤城の4人。こちらは全員で7人の精鋭艦隊で挑むわけね」

電「はい。数はこちらのほうが上ですが、戦力としてはほぼ互角です。ギリギリの戦いになるかと思いますが……」

那智「はっはっは、その先は言わなくていいぞ! 我々の獅子奮迅の活躍に期待するがいい!」

大和「そうですよ、電さん。何なら、私が扶桑さんと金剛さん、両方引き受けてもいいんですよ?」

足柄「私たちの獲物には手を出さないでよ、大和さん! 久しぶりの戦いなんだから!」

大和さんも、餓狼艦隊も頼もしい限りです。この人たちを頼って本当に良かった。

赤城さんも心配はありません。私には極秘作戦である「E2F計画」がありますから。

896: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:46:07.77 ID:H6ySCzUl0
龍田「ねえ、私たちはドックを占拠して、それで終わり? さすがに楽すぎるんじゃないかしら」

電「龍田さんの軽巡と重巡の方々には重要な役割があります。万が一、私たちが主力艦隊を倒し切れなかったときの保険です」

龍田「保険? どういうことかしら」

電「私たちは戦況が不利だと判断したら、打倒ではなく消耗させるための戦い方に切り替え、その後に一時退却します」

電「そのとき、主力艦隊を補給と修理のためにドックへ戻るよう仕向けます。龍田さんたちにはそれを待ち構えてもらいます」

龍田「なるほど、追い込み漁の要領ね。弱って逃げて来たところにみんなで魚雷を一斉掃射、って感じでいいかしら?」

電「その通りです。一応戦闘になると思いますので、予め戦うメンバーをそちらで選抜しておいてください」

龍田「わかったわ。ふふ、久しぶりに魚雷が撃てるのね。楽しみだわ~」

足柄「ま、出番はないでしょうけどね。なぜなら、私たちは勝利するから!」

龍田「遠慮しなくていいわよ? ぜひ私たちにも獲物をおすそ分けしてほしいわ~。トドメを刺すだけの役目なんて、とっても美味しいじゃない」

電「あ、もし私たちが補給を受けに来たら、そのときは普通にドックへ入れてくださいね?」

龍田「わかってるわよ。うっかり誤射なんてしないわ」

897: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:46:39.56 ID:H6ySCzUl0
龍驤「うちらは? うちらは何をしたらええんや?」

電「軽空母の方々には、対主力艦隊のサポートをしてもらいます」

電「主力艦隊が捜索活動に出撃したら、大和さんと餓狼艦隊の皆さんは艤装を着けて、私たちの後を追ってもらいます」

電「龍驤さんたちは偵察機で私たちを見つけ、進行ルートを大和さんたちに伝えてください」

龍驤「わかったで! ナビゲートがうちらの仕事やな!」

電「はい。その他、不足の事態に備えた哨戒も行っていただきます。例えば、赤城さんの艦載機が鎮守府を急襲する、とか」

祥鳳「そのときは何とか抵抗してみせます! この質から帰ってきた九七式艦攻で!」

鳳翔「サポートと留守番は任せてください! 軽空母だってやるときは、やるのです!」

大和「よろしくお願いします。これで主力艦隊の無力化も何とかなるでしょう。それが終われば、後は仕上げだけですね」

電「はい。その後に、提督から鎮守府の指揮権をこちらに譲渡してもらいます。それで『電号作戦』の全ての目的は完遂されます」

898: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:47:22.22 ID:H6ySCzUl0
足柄「鎮守府の主権を譲り受けたら、それからどうするの? 電ちゃんが提督の座を引き継ぐのかしら」

隼鷹「あたしはそれでいいよ。電ちゃんなら信頼できる」

不知火「不知火たち駆逐艦もそれに賛成です。ぜひ電様に鎮守府を治めていただきたい!」

電「いえ、私にそんなつもりはありません。できれば合議制にしたいと思っています。各艦種から代表者を選出して……」

那智「それはつまり、皆の意見を取り入れた鎮守府運営をしようということか?」

龍田「私が潜水艦を狩りたいって言えば、聞き入れてもらえるようになるの?」

電「はい。うまく行かないことも多いと思いますが……それが一番いい形になるんじゃないでしょうか」

大和「合議制ですか……いいですね、それ。私もそれに賛成です」

龍驤「うちらもそれに賛成や! 今の鎮守府やったら文句すら聞いてもらえへんもんな!」

霞「ふうん……そんなことまで考えてたんだ、電。さすがだわ」

電「えへへ……照れるのです」

899: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:48:10.28 ID:H6ySCzUl0

もしも叶うなら、その合議制の鎮守府には提督も参加してほしいと私は思っています。

あの人が心を入れ替えて私たちに協力してくれるとしたら、それはとても心強く、喜ばしいことではないでしょうか。

隼鷹「でもまあ、まずは作戦を成功させてから、だな」

電「そうですね。皆さん、どうかよろしくお願いします」

大和「頑張りましょう。もう、不満を抱え込む必要はなくなります。言いたいことは言えばいいんです。そんな鎮守府にしましょう」

足柄「ええ。もう酒浸りの日々とはおさらばよ!」

那智「ああ! 腕が鳴るな!」

龍田「賭博運営も高利貸しにも飽きたわ。また潜水艦を狩れるなら、なんだってするわ」

木曾「キソー!」

龍驤「盛り上がってきたで! 軽空母の力、見せたるわ!」

不知火「不知火たちも微力ながら尽力します!」

霞「私は電が提督でもいいんだけど……電がそうしたいっていうなら仕方ないわね。私も頑張るわ」

電「……ありがとうなのです。皆さん、いい鎮守府にしましょう」

900: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:48:45.98 ID:H6ySCzUl0
作戦会議は満場一致のもとに閉会し、後は夜明けを待つばかりになりました。

決戦は明日。その前に、話しておかなくてはならない人がいます。

電「隼鷹さん、ちょっといいですか?」

隼鷹「ん……何?」

みんなが自室へ戻っていく中、私は言葉も交わさずに立ち去ろうとする隼鷹さんを呼び止めました。

電「赤城さんの抑えになってくれるという話ですが……本当は、そんなつもりないんでしょう?」

隼鷹「いやいや、何を言ってるのさ。そうじゃなかったら、あたしは何をするつもりだっていうの?」

電「私の考えでは、隼鷹さんは直接赤城さんと決着を付けたいんじゃないかと思っています」

隼鷹「……バレてた? そうだね、正直に言うと、あたしは赤城と真っ向から勝負するつもりさ」

電「その場合、勝率はどれくらいですか?」

隼鷹「んー、LVはあたしが勝ってるから3,4割ってとこかな」

電「……隼鷹さん、本当のことを言ってほしいのです」

901: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:49:15.77 ID:H6ySCzUl0
隼鷹さんはしばし目を泳がせていましたが、諦めたかのように大きくため息を吐きました。

隼鷹「……わかったよ。実を言うと、勝率は1割もない。相手は正規空母だし、艦載機の性能も赤城のほうが上だよ」

隼鷹「だけど、どうしてもあいつだけはこの手で倒したいの。頼む、あたしにチャンスをくれ。無茶は承知の上だ」

電「……赤城さんは強いです。まともに戦って、隼鷹さんが無事で済むはずはありません」

隼鷹「それでもいい。あたしは龍驤の仇を討ちたいんだ。そのためならなんだってやるさ。電ちゃん、頼むよ」

電「……なんだってやる、それは本当ですか?」

隼鷹「本当だけど……それが何?」

電「隼鷹さん、私は赤城さんを確実に倒せる計画を持っています。『E2F計画』と言います」

隼鷹「いーつーえふ計画? なにそれ、赤城を倒せんの?」

電「はい、間違いなく。その計画の過程で、隼鷹さんは赤城さんと真っ向から戦う機会を得られます」

電「以前から赤城さんを倒すにはこれしかないと思っていましたが、協力者の存在が必須でした。隼鷹さんなら、その役目を担えるはずです」

電「もし、隼鷹さんが心の底から赤城さんを倒したいなら、この計画に協力してほしいのです」

902: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:49:41.71 ID:H6ySCzUl0

隼鷹「……そうだね。あたしが赤城と戦って負けたら、作戦そのものに響く」

隼鷹「いいよ、計画に協力する。内容はどんな感じなの?」

電「その前に……約束してください。この計画は誰にも知られてはいけません。赤城さんを倒した後もです」

電「私と隼鷹さんだけの秘密計画です。もし計画の中身を聞けば、後戻りはできないと思ってください。それでもいいですか?」

隼鷹「……もちろんさ。赤城を間違いなく倒せるんでしょ? なんだってやるよ、あたしは」

電「それでは……耳を貸してください」

隼鷹「お、用心深いね。なになに? ふむふむ……あ、今のとこ聞き間違いだわ。もう1回言って?」

電「いえ、多分聞き間違いではないのです……ごにょごにょ」

秘密計画と聞いて、隼鷹さんはかすかに目を輝かせていました。本来の好奇心旺盛な性格が刺激されたのでしょう。

計画は単純なものです。わずかに表情が戻った隼鷹さんの顔は、1分後には完全に凍りついていました。

903: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:50:12.27 ID:H6ySCzUl0
隼鷹「……それ、マジで言ってるの?」

電「はい。マジで言ってます」

隼鷹「いや、でも……なんていうか、さすがに反則じゃない?」

電「あの人はそれくらいやらないと倒せませんよ」

隼鷹「そうかもしれないけど……第一、不可能だって! 準備はどうすんのさ? もう時間ないんてないんだし、絶対無理じゃん!」

電「実は、もう全部済んでます。隼鷹さんの返事だけが最後の仕上げです」

隼鷹「嘘でしょ!? 一体いつの間にそんな……マジかよ、ちょっと考えさせて」

隼鷹さんは頭を抱え、葛藤を始めました。おそらくは自分自身の価値観と。

確かに、この計画は傍から見ても正気の沙汰ではないでしょう。私自身はそうは思っていないのですが。

904: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:50:43.82 ID:H6ySCzUl0
しばらく考え込んだ挙句、ようやく隼鷹さんはうつむいていた顔を上げました。

隼鷹「……そうだよね。赤城は倒さなきゃいけない。そのためには手段なんて選べない」

隼鷹「もう1度確認するけど、準備は終わってるんだよね?」

電「はい。あとは隼鷹さんが協力してくれれば」

隼鷹「わかった、あたしも覚悟を決める。で、具体的には何をすればいい?」

電「少し難しいかもしれないのですが……」

私たちは短い話し合いを終え、「E2F計画」の実行準備は全て整いました。

これで赤城さんの対策は万全です。彼女が食事をすることはもう2度とないでしょう。

全ての憂いを絶ち、私たちも朝を待ちます。作戦決行の、そのときを。

905: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:51:37.96 ID:H6ySCzUl0
扶桑「おはよう、電ちゃん。今日もいい天気ね」

電「そうですね。おはようなのです、扶桑さん、山城さん」

山城「はい。おはようございます、電さん」

翌朝。早めにドック入りすると、扶桑さんと山城さんもすでに到着していました。

提督の姿もあります。今日は珍しく早起きのようですね。

提督「電も来たか……今日はまた霧島の捜索をしてもらうから、頼んだぞ」

電「はい。ところで、出撃しないと更に海域攻略が遅れますが、いいのですか?」

提督「ああ、そのことはいい。もう大丈夫だ」

何が大丈夫なのかまったくわかりませんが、いいでしょう。あなたの遅れは、私たちが取り戻してあげますから。

906: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:52:10.01 ID:H6ySCzUl0
赤城「おはようございます。朝ごはんはどこですか?」

金剛「Good Morningデース……」

隼鷹「うぃーす。おはようさん」

龍驤「おはようさん! よーし、今日は頑張るでー!」

私たちに続いて、他のメンバーと軽空母の方たちも早々にやってきました。

赤城さんはいつも通り、金剛さんは目が死んだまま、隼鷹さんは先日より少しだけ元気です。

私も隼鷹さんも、内心の緊張を隠しているのは同じでした。作戦を気取られなよう、普段通りに振る舞わなくてはいけません。

提督「では、ハッピーラッキー艦隊は北方の外海で霧島を捜索してくれ。軽空母たちには近海を捜索してもらう」

扶桑「了解しました。必ず霧島さんを探し出してきます」

提督「ああ、頼んだぞ」

これといった会話もなく、私たちは軽空母隊と共に出撃しました。ドックの外には龍田さんたちが控えています。

907: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:52:42.73 ID:H6ySCzUl0
ドックと提督は龍田さんや不知火さん、霞ちゃんたちがうまくやるでしょう。成功の可否は私たち、実戦部隊に掛かっています。

内海で軽空母と別れ、外海に赴く私たちに会話はありません。昨日から、皆さんはひどく無口です。こういう空気もあまり好きではありません。

扶桑「……ねえ、みんな。ちょっといいかしら」

赤城「何ですか、扶桑さん?」

先頭を航行していた扶桑さんが提案と共に立ち止まり、私たちもその足を止めました。

扶桑「このまま、まとまって探しても効率が良くないでしょう。どうかしら、みんなで分かれて霧島さんを探すというのは」

電「え? でも……」

山城「いいですね、そうしましょう。じゃあ、山城は北東へ行ってみます」

赤城「それじゃ、私はこのまま進んで北側を探しましょう。艦載機を飛ばせば、広範囲を見渡せると思いますし」

金剛「なら、私は北北西あたりを探してみるデース」

扶桑「私は東に行こうかしら。隼鷹さんと電ちゃんは西側をお願いできる?」

908: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:53:15.29 ID:H6ySCzUl0

隼鷹「いいよ。じゃ、あたしは北西、電ちゃんは西。それでいい?」

電「あ、はい。わかりました」

扶桑「では、1時間後にこの場所で落ち合いましょう」

好都合でした。主力艦隊が分散してくれれば、私たちは各個撃破を狙うことができ、勝率は飛躍的に高まります。

でも、意外でした。扶桑さんは霧島さんを本気で捜索する気なんてないと思っていましたから。

……いえ、そういうことではないのです。私は言われた通り西に進みながら、得体の知れない胸騒ぎを感じていました。

頭上に聞こえたプロペラ音に空を仰ぐと、飛んでいるのは隼鷹さんの偵察機です。すでに私を見つけ、こちらへ向かってきているようです。

隼鷹「やあ。予想外だね、こんな形になるなんてさ」

電「はい。ですが、これは私たちへ有利に働くはずなのです。ここで待機して大和さんたちを待ちましょう」

私は懐に隠し持っていた通信機を取り出し、周波数を確認してスイッチを入れました。

電「龍驤さん、電です。応答願います」

909: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:53:59.45 ID:H6ySCzUl0

龍驤『こちら龍驤やで。今から偵察機を飛ばすとこやけど、どないしたん?』

電「予定変更です。扶桑さんの提案で、私たちは個別に分かれて霧島さんの捜索をすることになりました」

龍驤『なんやて? それやったら、もうみんなバラバラになっとるんか?』

電「はい。隼鷹さんは私と一緒です。北に3km進んだところから、扶桑さんは東、山城さんは北東、赤城さんは北、金剛さんは北北西です。追えますか?」

龍驤『任せとき! 全員バッチし捕捉したるからな!』

隼鷹「おう。頼んだよ、一反木綿」

龍驤『…………一反木綿!? それうちか!? うちのこと呼んだんか! ビックリしたわ、誰が妖怪レベルの胸の薄さや!』

隼鷹「はっはっは! やっぱり面白いな龍驤は。ま、よろしく頼むよ」

龍驤『わかっとるわ! 見とき、いつか改装して、隼鷹ちゃん以上の巨 になったるさかいな!』

可哀想な捨て台詞を残し、龍驤さんはキレ気味に通信を切りました。隼鷹さんはどこか満足気です。

910: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:54:26.23 ID:H6ySCzUl0
隼鷹「ああ、龍驤と話すと癒やされる……ちょっと落ち着いたよ」

電「……やっぱり、隼鷹さんも緊張してるのですか?」

隼鷹「そりゃあ、ね。赤城と戦うって考えると……怖いよ、やっぱり」

電「……すみません、一番大変な役目を押し付けてしまって」

隼鷹「いいって。あたしがやりたいって言ったんだしさ。ほら、他のみんなにも通信入れなきゃ」

電「あ、そうですね……龍田さん? そちらは順調ですか?」

龍田『こちら龍田よ。ドックはすでに制圧して、みんな艤装を装備したわ。大和さんたちも出撃済よ』

電「わかりました。後は万一の時に備えた迎撃準備だけよろしくお願いします」

龍田『わかってるわ。今、各艦の配置決めをしてるところよ』

木曽『キソー! 龍田姐さん、那珂ちゃんが自分をセンターにしろってうるさいでキソ!』

龍田『ああ、じゃあ那珂ちゃんがセンターでいいわよ。何気に軽巡最古参の実戦経験者なんだし……じゃ、こっちも忙しいから後でね』

電「はい、よろしくお願いします」

911: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:54:52.71 ID:H6ySCzUl0

隼鷹「順調そうだね。大和たちはどうかな?」

電「連絡してみます。大和さん、聞こえますか?」

大和『聞こえますよ。順調に航行中です。状況は聞きました、そちらの正確な地点はどこですか?』

電「当初のルートから西へ15度ほど逸れた地点です。そこで隼鷹さんと待機中です」

足柄『見て! 私、海の上を走ってる! もう2度と立つことはないと思ってた、この大海原で!』

那智『ははははっ、最高だ! 酒なんて飲んでる場合じゃなかったな!』

妙高『ちょっと、はしゃぎ過ぎですわよ! 本番はこれからなんですよ!』

羽黒『待っててね提督、この後はあなたの番だから……うふふ』

大和『聞いての通り、餓狼艦隊も絶好調です。なるべく早めに合流しますね』

電「えーと、はい。お待ちしています」

隼鷹「足柄たちは嬉しそうだな。放置されてしばらくだもんね」

電「ええ。これから先は存分に戦っていただきましょう」

912: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:55:26.07 ID:H6ySCzUl0
隼鷹「さて、あとは提督の拿捕さえうまくいけば、だな」

電「はい……不知火さん、そちらの状況を教えてください」

不知火『こちら不知火、現在は執務室の前です。扉は施錠されています』

不知火『あらかじめ周囲を見張っていたのですが、ドックから帰る提督を見た者はいないようです。一通り探しましたが、どこにも見当たりません』

電「……提督を誰も見ていない?」

不知火『はい。あとはこの執務室だけです。扉を破壊してもよろしいですか?』

電「問題ありません。お願いします」

不知火『かしこまりました……霞様、許可が下りました! やってしまってください!』

通信機の向こうから爆音、続けて執務室に雪崩れ込む駆逐艦たちの鬨の声が聞こえ、それは次第に静かになっていきました。

霞『……ちょっと、どこにも提督がいないわよ! あんたたち、ちゃんと見てたの!?』

不知火『そんな馬鹿な……確かに見張っていたのに、提督はどこへ消えたのだ?』

913: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:56:00.01 ID:H6ySCzUl0
電「不知火さん、落ち着いてください。執務室に隠れる場所はありませんか? 窓から逃げた様子は?」

不知火『どちらもありません。隠れられる場所もなく、窓は内側から施錠されています』

隼鷹「……あたしたちの動きを察知された?」

電「かもしれません……不知火さん、鎮守府内をくまなく捜索してください。浴室から工廠、隅から隅までです」

電「ここからは提督の抵抗が予想されます。駆逐艦は3人1組で、周囲の警戒を怠らないよう指示してください。ドックは龍田さんに連絡してみます」

不知火『かしこまりました! どうかご武運を!』

電「はい、ありがとうなのです……龍田さん? ちょっと問題が出てきました」

龍田『問題? こっちは那珂ちゃんがセンターの正確な位置で騒いでるけど、そっちは何?』

電「不知火さんからの報告で、提督が見当たらないそうです。ドックに提督が隠れていそうな場所はありませんか?」

龍田『提督が? うーん……倉庫も一通り見たし、ないと思うわよ? 一応探してみるけど』

電「よろしくなのです。念のため、警戒は怠らないようお願いします」

914: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:56:27.19 ID:H6ySCzUl0
龍田『わかったわ。龍驤たちにも偵察機で探させたら? 何なら私から言っておくけど』

電「それでは、頼んでいいですか? 鎮守府周辺を哨戒している偵察機で、上空から提督を探すようお願いしてください」

龍田『ええ。じゃ、もし見つけたら連絡するわね』

通信が切れ、静寂が訪れます。悪い予感が胸のうちから去りません。

扶桑さんの思わぬ提案。見つからない提督。何かがおかしい、何かが……

隼鷹「あんまり考えすぎるのもよくないよ、電ちゃん」

電「隼鷹さん……」

隼鷹「あたしたちは多少の無茶を承知で作戦に参加してるんだ。不足の事態だって覚悟してる」

隼鷹「何が起こったって、それごと叩き潰すくらいの意気込みでいなきゃ。ほら、大和たちも見えてきたぜ」

電「……そうですね。ありがとうなのです」

915: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:56:59.26 ID:H6ySCzUl0
大和「お待たせしました。異常はありませんか?」

電「はい。鎮守府では提督が未だに見つからないそうですが……作戦に変更はありません」

足柄「見つからない? 変ね、あの人はいつも執務室に引きこもってるはずでしょ。まさか、逃げられた?」

那智「それでも問題はないだろう。すでに鎮守府は我々の手にある。どこへ逃げても、いずれ探し出されるだろうさ」

大和「それに、私たちが主力艦隊を倒せば、提督の権力なんてあってないようなものですよね。行きましょう、電さん」

電「はい。頼りにしています。そろそろ龍驤さんたちが主力艦隊を補足することだと思うので、通信してみますね」

龍驤『電ちゃん? あの、龍驤やけど……』

電「龍驤さん? 主力艦隊は見つかりましたか?」

龍驤『それなんやけど……赤城は見つけた。他のやつが見つからん』

電「見つからない? 扶桑さんたちの航行速度を考えれば、もう艦載機が追い越しているはずだと思うのですが……」

龍驤『それや……おかしいねん。もう扶桑たちがいるはずの地点をとっくに追い越してんねん』

龍驤『多少脇道に逸れてるとしても、3人とも見つからんのはありえへん。あいつら、どこを航行しとるんや?』

916: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:57:34.37 ID:H6ySCzUl0

電「……そのまま捜索を続けてください。赤城さんはどこですか?」

龍驤『そう、赤城や。赤城はそこから1時の方向にまっすぐ言った地点におる。おるんやけど……』

電「どうしたんです?」

龍驤『……様子がおかしい。あいつ、何もしとらへん。艦載機すら飛ばしてへん。ただ突っ立っとるだけなんや』

龍驤『あいつの向いとる方向は……電ちゃん、あんたらのおる地点にドンピシャや』

電「……え?」

悪い予感は確信に変わりました。どくんと心臓が跳ね、冷たい汗が背筋を伝います。

足柄「……隼鷹。周囲の偵察を」

隼鷹「もうやってる。あたしたちの周りには誰もいない。包囲されてるわけじゃなさそうだよ」

那智「そうだとしても……作戦は察知されたと見たほうが良さそうだな」

917: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:58:04.99 ID:H6ySCzUl0

大和「電さん、判断を任せてもいいですか。大和はあなたに従います」

電「……少し待ってください」

赤城さんは私たちの動きに気付いている。扶桑さんたちはどこに? 提督を見つけた連絡もまだありません。

ここからどう動くかで全てが決まる。引き返す? でも、もし作戦を知られているなら、引き返すのは相手の思う壺なのでは?

様々な思考がぐるぐると頭の中を回っています。それでも、結局私たちに選択肢はないのです。

電「……赤城さんを倒しに行きましょう」

私の言葉に、皆さんも静かにうなずきました。

賽を投げられました。もう作戦通りには行きません。ここからどんな目が出るか、どんな結果になるか。私たちの奮戦次第です。

電「……緊急通信です。作戦は察知されています。各艦、臨戦態勢を取り、単独行動は控えてください。繰り返します、作戦は察知されています」

918: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:58:32.41 ID:H6ySCzUl0

龍田『……了解。ドックの迎撃準備は終わったから、このまま臨戦態勢で待機するわ』

不知火『了解です。我々は提督の捜索を続けます。どうかご無事で』

霞『……気を付けてね、電』

龍驤『わかったで。攻撃機をいつでも飛ばせるようしとくわ』

隼鷹「……行こう。どっちにしろ、赤城は倒さなきゃいけないんだ」

大和「単身で待ち構えているのも疑問が残ります。もしかしたら、私たちの動きを全て察知しているわけではないのかも」

妙高「あなた方、いいわね? ここからが正念場ですわよ」

羽黒「大丈夫です。最悪、私が盾になりますから……」

足柄「馬鹿なことを言ってるんじゃないわよ、羽黒。まだまだ大破するには早過ぎるわ」

那智「そうだ。赤城を倒しても、あと3人残っている。お前に欠けられては困るぞ」

私を除いて、臆する人は誰もいません。彼女たちこそ、選び抜かれた本当の精鋭です。

919: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:58:58.02 ID:H6ySCzUl0
電「航行を再開します。単縦陣形を取り、大和さんは先頭に。哨戒のため、隼鷹さんは最後尾に着いてください」

大和「わかりました。大和が皆さんを守ります」

隼鷹「周囲はしっかり見張っとくよ。奇襲なんてさせないからね」

隊列を組み直し、私たちは1時の方向へと直進しました。赤城さんの待ち構える地点に向けて。

大和「……隼鷹さん。周囲にはやはり異常はないですか?」

隼鷹「ああ、何もない。いや……見えてきたよ、赤城のお出ましだ」

足柄「赤城はどんな様子かしら」

隼鷹「龍驤の言う通りだよ。こっちを向いて突っ立って……くそ、あいつ笑ってやがる」

大和「……すぐに笑えなくしてあげましょう」

艦隊は速度を上げ、徐々にその海域へと近付いていきます。

空には隼鷹さん以外の艦載機はいません。とうとう、目視できるほどに赤城さんに接近しました。

920: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 08:59:44.88 ID:H6ySCzUl0
表情がわかるほどに近付かれても、赤城さんに動揺はなく、ただ穏やかな微笑だけを浮かべています。

赤城「……どうも、こんにちは。こんなところで、皆さんピクニックですか?」

電「とぼけるのは止してください、赤城さん。私たちの動きにいつから気付いていたんですか」

赤城「さあ? 私たちの提督は聡明なお方ですから、事前に察知しても不思議ではないでしょう」

電「酷い皮肉ですね。私たちを待ち構えていたのはどういうつもりです?」

赤城「実はですね、私は提督から説得の命を受けてここに立っているんです」

赤城「提督はこの事態を深く悲しみ、同時にお怒りです。今からでも遅くはありません。武器を収め、鎮守府へ戻りなさい」

赤城「あなた方は鎮守府の貴重な戦力。おとなしく従うなら、皆さんの身の安全は保証されるでしょう」

電「そんな言葉を私たちが聞くとでも思うんですか?」

隼鷹「今からぶっ殺されるってのに、ずいぶんと強気だなあ、赤城。寝ぼけてんの?」

大和「私もいるのに、ちょっと傷ついちゃいます。赤城さんは健啖家だそうですね。私の46cm砲弾、食らってみませんか?」

921: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:00:30.20 ID:H6ySCzUl0

赤城「なるほど。皆さんはあくまで提督に反旗を翻す、それがあなた方の総意と見てよろしいですか?」

足柄「あったり前よ! もうあんな人の下ではやってられないわ!」

那智「主力艦隊以外の艦娘はすべて提督に反抗する! もはや提督に従うのは貴様らだけだ!」

電「そういうことです。私たちはもう2度と提督に従いません。今ここで、あなたには沈んでいただきます」

赤城「……くっくっく、あなた方は悪手を選んだ。せっかくこちら側へのチケットを渡してあげたのに、自ら破り捨てるなんて」

赤城「後悔しても知りませんよ? 従わないなら、私はあなた方への死刑宣告人となるのです」

電「どういう意味です?」

赤城「提督から悲しいお知らせがあります。あなた方は全員、今日付けで鎮守府をクビになりました。私たち主力艦隊以外、全員です」

足柄「はあ? この人、何を言ってるのかしら」

赤城「提督にとって、それはそれは辛い決断だったでしょう。私たち以外、全ての艦娘の解体処分を決意されるだなんて」

赤城「鎮守府はさぞかし静かになるでしょうが、孤独を感じる暇はありません。残された私たちは提督と共に、1から新しい鎮守府を築くのです」

那智「こいつ頭がおかしいぞ。悪い物でも食べたんじゃないか。フナムシとか」

922: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:02:31.10 ID:H6ySCzUl0
赤城「今のうちに減らず口を叩いておきなさい。すぐに皆さん提督に解体されて、喋れなくなりますからね」

電「何を馬鹿な、そんなことできるはずありません。キス島攻略だってまだだし、遠征もしなきゃいけないのです」

大和「提督が暗愚な方なのは知っていますけど、そこまで血迷っていらっしゃるとは思いませんね」

赤城「ふふ、あなた方は知らないんですよ。提督は華族の出身なんです」

電「……は?」

華族? 赤城さんの口にした単語を理解するのに数秒を要しました。その意味するところも。

那智「おい、カゾクとはなんだ。ファミリーか?」

隼鷹「……日本でいう貴族だよ。わかりやすく言えば、生まれつきすごく偉いんだ」

赤城「そういうことです。鎮守府を任される提督にしては、少々無知無能が過ぎると思いませんでしたか?」

赤城「それもそのはず、彼はコネで海軍省に入り、コネで提督になったんです。海域攻略が遅れても、直接のお咎めはなかったでしょう?」

923: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:03:15.50 ID:H6ySCzUl0

赤城「大本営さえ、華族の後ろ盾がある提督には強く出られないのです。だから反抗的な艦娘を全て解体、なんて無茶もできる」

電「そんな……いくらなんでも無茶苦茶です! 鎮守府の艦娘を丸ごと解体だなんて、大本営が許すはずない!」

赤城「真実を報告するわけないじゃないですか。 大本営には深海棲艦の急襲を受けた、とでも言えばいいでしょう」

赤城「そうすればお咎めもなく、救援資源だって来る。有象無象の駆逐艦や軽巡ごとき、また建造し直せばいいんです

赤城「あなた方が消えたって、私たちには何の問題もありません。さようなら皆さん。鎮守府は私たちに任せて、あなた方は資源になってください」

赤城さんのしゃべっていることが、まるで違う世界の出来事のように聞こえました。

私たち全員を解体? 提督は華族出身で、全てを1からやり直す? そこに私たちの意志が介在する余地はないのです。

なんて身勝手。提督は一体私たちを何だと思っているのか。沸々と怒りが込みあがってきます。

電「そんな……そんなことが許されると思っているのですか!」

赤城「許す? それは強い者だけが持つ特権です。弱者であるあなたたちに、その権利はないんですよ」

924: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:03:53.39 ID:H6ySCzUl0
隼鷹「……お前、まだ自分が強い気でいるわけ? 状況をよく見ろっての」

大和「提督が何をしようとも、あなたは私たちの手で葬られるという事実は揺るぎません。覚悟はいいですか?」

赤城「くくっ、あはははっ! 馬鹿な人たち。この会話でさえ、あなた方は我々の作戦の手の内だというのに」

電「……何ですって?」

赤城「さあ、そろそろ始まる頃です。魔女は釜戸に焚き木を入れ、鎮守府という大釜はぐつぐつと混沌に煮え滾るでしょう」

赤城「大釜をかき回すのは他でもない。扶桑、山城、金剛。それでは、悲鳴を聞かせていただきましょう」

電「一体何のつもり……」

龍驤『電ちゃん、大変や! えらいこっちゃで!』

電「龍驤さん!? 一体どうしたんですか!」

龍驤『扶桑たちが……扶桑たちがこっちに現れよった! 問答無用で見境なしに攻撃してきよる! こいつら、今まで一体どこにおったんや!?』

電「な……何ですって!?」

925: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:04:35.58 ID:H6ySCzUl0

龍驤『あかん、あいつらの瑞雲に九六式艦攻じゃ太刀打ちできひん! 制空権を奪われてしもうた!』

龍田『こちら龍田、元気いっぱいの山城が襲いかかって来たわ! どうなってるのよ!?』

木曾『キソー! 那珂ちゃんがやられたキソ!』

龍田『くそ、あっという間に5人も大破したわ! 今は球磨型姉妹が相手してるけど、長くは保たないわよ!』

電「こんな、こんなはずじゃ……不知火さん! 提督はまだ見つからないのですか!」

不知火『こちら不知火、鎮守府内に金剛が侵入! すでに部隊の3分の1が壊滅、外に出ていた者たちとも連絡が取れません!』

電「不知火さん、みんなを連れて外に出てください! 屋内じゃ駆逐艦の機動力が発揮できない!」

不知火『ダメです、建物入り口に扶桑が陣取っています! 外は瑞雲が包囲し、窓から逃げても狙い撃ちされます! 完全に包囲されました!』

電「……やられた、作戦が全部漏れてる! 」

926: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:05:07.34 ID:H6ySCzUl0

扶桑さんたちは最初からこれを計画していた。艦隊が分かれたとき、扶桑さんたちは見えなくなってから、すぐに鎮守府へと転進したのです。

軽空母が偵察機を飛ばし始めた頃には、その偵察範囲をくぐり抜け、すでに鎮守府の間近で待機していた。

おそらくは堤防や岩礁の影に身を潜めて。付近を哨戒し、提督を探す偵察機もそんなところまでは見ません。こんな事態は想定していないから。

完全にしてやられた。私のせいだ、私が判断を誤ったばっかりに!

後悔も怒りも通り越した、叫び出しそうなほどの激情。頭に血がどくどくと上り、今にも破裂しそうです。

赤城「くっくっく。いい顔をしますね、電さん。策士、策に溺れるってやつですか」

電「なぜ……なぜ私たちの作戦を知っているんです! あなたたちに知る手段はなかったはずなのに!」

赤城「反逆者が足元を掬われる原因なんて、いつの時代も同じでしょう? 私たちには内通者がいるんです」

電「内通者? そんな……そんな馬鹿な! 私たちから内通者なんて出るわけがない!」

赤城「電さん、あなたは本当に甘い。多少は兵法を学び、作戦指揮を気取っても所詮は小娘の浅知恵。集った者共も結局は烏合の衆に過ぎない」

赤城「あなたは私の資源横領も、間宮アイスの盗難にも気付いた。それなのに、なぜ私が鎮守府の鍵を開けられるのかを考えなかったんです?」

赤城「私がピッキングでもできると思っていたんですか? それがあなたの甘いところ。内通者とは、あなた方の最も身近に存在していたのです」

927: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:06:12.64 ID:H6ySCzUl0

赤城さんは背中に手をやると、背負った矢筒の中から「彼女」を見せびらかすように私たちの前へ差し出しました。

隼鷹「お、おい……あれは、妖精さんのエラー娘!?」

足柄「近頃見ないと思ったら、赤城のやつが捕まえていたっていうの!?」

赤城「そう、このエラー娘は鎮守府の妖精さん全ての頂点に立つ、いわば妖精王とでも言うべき存在です」

赤城「妖精さんは鎮守府のそこかしこへネズミのようにはびこり、あらゆる雑務を任され、仕事のために様々な場所へ入る権限を持っています」

赤城「鎮守府における妖精さんの利用価値を私は初めから気付いていました。この子を捕らえてから、妖精さんは私の意のままです」

赤城「倉庫の鍵を開けさせ、資源を運び出すこともできる。間宮アイスが注文されたことを聞き出し、密かに奪うこともできる」

赤城「この作戦のことも妖精さんから聞き出し、私が提督に伝えました。ま、ギリギリのタイミングでしたけどね」

赤城「妖精さんの様子がおかしいことに気付かなければ危なかった。きっと、この子たちはあなたたちに私を倒してほしかったんでしょう」

赤城「目の前でお仲間を3匹ほど食い千切ってあげたら、ようやくしゃべってくれました。『電号作戦』と呼ばれるものの全てをね」

928: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:07:35.09 ID:H6ySCzUl0

電「あなたは……どこまで腐っているのです! 罪のない弱者を虐げて、何とも思わないのですか!」

赤城「ふふ、弱者ならではの質問ですね。お答えしましょう、とても楽しいですよ、私は」

上機嫌にそう答え、赤城さんは手に持ったエラー娘さんを無造作に私たち目がけて放り投げます。

それをどうにか大和さんが受け止めました。エラー娘さんは怯えるように大和さんにしがみつき、泣きじゃくり始めます。

赤城「その子は邪魔なので返してあげます。なに、また捕まえればいいです。他の妖精さんを痛めつければ、すぐ見つかるでしょうから」

大和「よしよし。エラー娘さん、可哀想に……赤城さん、あなただけは許せない。なんとしてもここで沈んでもらいます」

赤城「あら、鎮守府は放っておいていいんですか? 戦艦3人を相手にできるような後方戦力はあなた方に存在しないでしょう」

足柄「大和さん、悔しいけどあいつの言う通りよ! 今ここで戦ってはダメ!」

那智「冷静になれ! 赤城は我々を挑発し、ここで足止めするつもりだ!」

大和「で、でも! このまま、この人を見過ごすことなんてできません!」

929: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:08:18.24 ID:H6ySCzUl0

そうです、私たちは急いで鎮守府に戻らなくてはなりません。そうしなければ、鎮守府にいるみんなが全滅してしまいます。

だけど、赤城さんを放置するわけにはいかない。もし赤城さんまで鎮守府に攻めてきたら、それこそ絶対絶命です。

赤城「ま、それでもいいなら相手になります。皆さん、まとめて掛かってきていいですよ」

大和「舐めないで! 護衛艦のない空母1隻に、この大和が遅れを取るとでも思っているんですか!」

赤城「随分と自信をお持ちのようですが、あなたは前世を考慮しても、演習以外ではろくに実戦経験のない新米戦艦に過ぎないんですよ」

赤城「対して、この赤城はあらゆる修羅場を潜り抜けてきた百戦錬磨の一航戦。あなた方全てを相手にしようとも、私に敗北はない」

赤城「それとも、私を置いて鎮守府に戻ります? だったら私も鎮守府のほうへ行こうかしら」

赤城「ねえ、電さん。あなたの友達の駆逐艦、霞さんって言うんですか? あの子はとっても可愛くて……とても美味しそうですね」

電「……霞ちゃんに手を出したら、お前を殺してやるのです!」

霞ちゃんの名前を出されて、私の中で何かが振り切れるのを感じました。

この人だけは許せない。この人だけは生かしておけない。必ず、この場で沈めて……!

隼鷹「落ち着けよ、電ちゃん、大和。赤城の相手はあたしだって決めてただろ」

930: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:09:03.60 ID:H6ySCzUl0

頭の上に温かい手が置かれ、その安心感に昂っていた感情がすっと冷えていきます。

隼鷹「……電ちゃん。あいつの様子からして、あたしたちの計画までは漏れてないと思わない?」

私にしか聞こえないよう、隼鷹さんがそっと顔を近づけます。その冷静な口ぶりに、私自身も急速に落ち着きを取り戻しました。

電「……はい。そのはずです。あれだけは、私と隼鷹さん以外、妖精さんですら知らないはずです」

隼鷹「そっか。じゃあ、始めよう。通信機をちょうだい」

電「……わかりました」

私は味方との連絡用の他にもう1つ、別の通信機を取り出し、スイッチを入れて隼鷹さんに渡しました。

電「……無理はしないでください」

隼鷹「ああ。心配しないでよ」

私の頭に置かれていた手が離れ、通信機を受け取って懐に収めます。それから、隼鷹さんは私たちの中から大きく前へ進み出ました。

隼鷹「赤城はあたしが何とかする。みんなは全速力で鎮守府に戻るんだ」

931: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:09:32.13 ID:H6ySCzUl0

大和「じゅ、隼鷹さん、赤城と一騎打ちを挑むつもりですか!? いくらあなたでも、無茶です!」

足柄「私たちが助けに戻ってこれる保証だってないのよ! やっぱり全員で赤城を……」

隼鷹「ダメだ! もうずいぶんと時間を無駄にしてる。迷ってる暇も、選択の余地もない!」

隼鷹「任せとけって。赤城を倒す秘策だってある。な、電ちゃん?」

電「……はい。では隼鷹さん、この場をお任せします! 御武運を!」

隼鷹「おうよ! さあ、早く行け!」

電「はい! 皆さん、鎮守府に転進します! 急いで!」

大和「わ、わかりました! すみません隼鷹さん、お願いします!」

足柄「……絶対生きて帰ってくるのよ、隼鷹! やられるんじゃないわよ!」

那智「もし帰って来なかったら、お前の隠してる酒を全部飲み干してやるからな!」

隼鷹「ははっ、そいつは困る! 絶対帰ってくるから、あたしの酒にだけは手を出さないでよ!」

932: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:10:15.49 ID:H6ySCzUl0

隼鷹さんを1人残し、私たちは鎮守府へと最速で航行します。赤城さんが追撃してくる気配はありません。

私たちが戻るまで、約10分。それまで、みんなには何としても持ちこたえてもらわなければなりません。

電「こちら電です! 龍田さん、私たちは全速力で鎮守府へ戻ります! 到着まで約10分、そちらの状況は!?」

龍田『もう球磨型姉妹も動けるのは木曾だけよ! 実戦経験のある連中はみんなやられたわ!』

龍田『こうなったら総力戦よ! 意地でも私たちで山城を沈めてやるわ!』

電「早まらないで! 10分あれば援軍に行けるんです、それまで時間を稼いでください!」

龍田『時間を稼ぐたって、どうするのよ! もうまともに戦えるのは私と木曾くらいしか残ってないのよ!』

電「山城さんの弱点はスピードです! 側面と背後に回って狙いを定まらせないようにしてください! 軽巡の速度ならやれるはず!」

電「正面からは撃ち合わなければ付け入る隙はあります! 瑞雲の雷撃にだけは気を付けて!」

龍田『はいはい、わかったわ! ほら高雄、愛宕! ついて来なさい、私と一緒に出るわよ!』

933: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:10:50.96 ID:H6ySCzUl0

高雄『ええっ! 私たちもですか!?』

愛宕『あの、私たち演習すらしたことないんですけど!』

龍田『黙りなさい肉ダルマども! 赤城さんに食われる前に、私があんたたちを食ってやるわよ!』

高雄『すみません、出撃します!』

愛宕『食べないでください!』

龍田『それでいいのよ。どうせ艤装を着けてるんだから死にはしないわ! 大破するなら、魚雷と砲弾を吐き出してから大破しなさい!』

鬼軍曹と化した龍田さんなら、ドックは何とか持ちこたえられるはずです。問題は鎮守府で包囲されている駆逐艦たち。

電「不知火さん! まだ無事ですよね、応答してください!」

不知火『不知火です! ただいま霞様の部隊が金剛と交戦中! 何とか金剛を食い止めています!』

不知火『不知火は動ける者ををかき集め、部隊を再編制中! これより支援に向かいます!』

934: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:11:22.81 ID:H6ySCzUl0
電「なら、通路を利用してゲリラ戦を仕掛けてください! 倒すことは考えず、とにかく撹乱して時間を稼いでください! お願い、持ちこたえて!」

不知火『かしこまりました! 皆の者、聞こえたな! 行くぞ、サンダーボルト艦隊の真の力を見せるのだ!』

電「あとは……龍驤さん! 艦載機はまだ残っていますか!」

龍驤『かなり落とされたけど、まだ半分は残ってるで! でも制空権を取り返すのは無理や!』

電「取り返すのが無理なら、せめて瑞雲たちを引きつけて、みんなが狙われないようにしてください! 偵察機を囮にしても構いません!」

龍驤『わかった! やれるだけやったるわ!』

電「よし、これで時間を稼げる……それまでに私たちが戻れば!」

大和「ええ、まだ負けてはいません! 逆転はここからです!」

今や電号作戦は鎮守府すべてを巻き込んだ内戦に発展し、完全に後手に回った私たちには、もう取り返しがつかないほどの被害が出ています。

それでも、諦めるわけにはいきません。もし私たちが負ければ、提督は私を含め全ての艦娘を解体処分する気でいます。

私たちの肩には、鎮守府の艦娘全ての命運が掛かっているのです。

電「提督……私たちの鎮守府で、これ以上あなたの好きにはさせないのです!」

935: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:11:57.94 ID:H6ySCzUl0

電たちが争乱の鎮守府へと向かう中、もう1つの戦いが火蓋を切ろうとしていた。

悠然と佇むのは栄光の第一航空戦隊、初代旗艦。正規空母、赤城。

対するは第四航空戦隊、商船改造空母、隼鷹。

赤城「ふふ……みんな行ってしまいました。自ら捨て駒を買って出るなんて、あなたらしくもないですね」

隼鷹「1つ聞いていいか。何でお前は囮の役を引き受けたんだ? 鎮守府のほうに行けば、どさくさに紛れて食事ができるだろ?」

赤城「ええ、そっちも魅力的でしたけどね。実を言うと最近、初期レベルの駆逐艦の味にも飽きてきたんです」

赤城「もしかしたらご存知かもしれませんけど、霧島さんを消したのは私なんです。ちょっと理由があって、彼女を食べちゃいました」

隼鷹「ああ、知ってるよ。お前は心底イカれた奴だよな」

赤城「失礼ですね。私はただ、お腹が空いてるだけ。そして好き嫌いをしないだけです」

赤城「でもやっぱり、美味しいものが食べたいじゃないですか。あの霧島さんは今まで食べた艦娘では一番美味しかったんです」

赤城「戦艦と駆逐艦ではここまで旨味が違うのかと驚きました。あるいは、LVが多少なりとも上がっていたせいかもしてません」

936: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:12:36.00 ID:H6ySCzUl0

隼鷹「なるほどね。つまりお前は、あたしたちの誰でもいいから、主力級のやつを食ってみたかったというわけ?」

赤城「そうなんです。一番食べたかったのは大和さんですが、彼女の相手は正直なところ少々骨が折れます」

赤城「本気で戦うとお腹が空きますから、彼女は後でゆっくり頂きましょう。あなたが残ってくれてちょうど良かった」

隼鷹「残念だけど、お前に食われてやる気はない。逆に、お前を魚の餌にしてやる」

赤城「ふふ、強気なところが可愛らしいですね……そうだ、せっかくだから私が食べた龍驤さんのお話でもしてあげましょうか?」

隼鷹「……いらないよ。その汚い口から、龍驤の名前を出すな」

赤城「遠慮しなくてもいいんですよ。実を言うと、彼女の肉はあまり美味しくなかった。肉付きが悪くて食べるところが少なかったんです」

赤城「でも、泣き声はとても可愛らしかった。恐怖と苦痛こそ最高の調味料。それを加味すると、彼女はとても美味しい子でした」

赤城「最初に手足を食い千切って、それから内蔵を頂きました。艤装を付けてたからなかなか死ねなくて、ずいぶん苦しがっていましたね」

赤城「ずっとあなたの名前を泣きながら呼んでいましたよ。『隼鷹ちゃん、隼鷹ちゃん助けて』って……ふふ、本当に可愛かった」

隼鷹「あー……やっぱり話してくれてありがとう。なんかこう、頭ん中に火が着いたわ」

937: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:14:33.90 ID:H6ySCzUl0

隼鷹「お前を殺す。たとえ髪の毛1本になってでも、お前の息の根を止めてやる」

赤城「それは叶いません。なぜなら、あなたは髪の毛1本残さず、私に食べられてしまいますから」

隼鷹「え、お前って髪の毛まで食べるの? だったらもう何でもいけるじゃん。虫とかゴミでも食べてれば?」

赤城「言ったでしょう、美味しいほうがいいって。あなたは肉付きもよく旨味も乗っていて、とても美味しそうです」

隼鷹「お前のバカ舌に美味しいかどうかなんてわかるわけないじゃん。砂と砂糖の区別もつかないんじゃない?」

隼鷹「カレー味の●●●と、●●●味のカレーの話があるけどさ。お前はただの●●●をカレーって言って出されれば喜んで食べそうだよな」

赤城「……ずいぶんと舐めた口を聞きますね。軽空母の分際で」

隼鷹「あ、やっぱり●●●も食べるの? あーっはっはっはっ! すげえや、一航戦の誇りもクソもないな!」

赤城「……馬鹿な女だ。私を怒らせさえしなければ、食われる苦しみは多少なりとも和らいだろうに」

赤城の空気が変貌する。殺意と呼ぶにはあまりにも禍々しいその圧力に、隼鷹はわずかにたじろいだ。

それは生物としてあまりに原始的な、絶対的捕食者を前にしているという恐怖。

938: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:15:02.96 ID:H6ySCzUl0

赤城「……腹が減ったな」

赤城がゆっくりと手を広げ、空を覆い尽くしたのは総数82機の艦載機。

熟練の攻撃隊が全機発艦し、隼鷹を嘲るかのように、赤城の頭上を周回し始めていた。

赤城「貴様の死に墓はいらない。天国行きの免罪符も、地獄を渡る六文銭も必要ない」

赤城「その肉体も、魂も! 全てこの赤城が食らってくれる! 貴様の死後に安寧は訪れないと知れ、隼鷹!」

隼鷹「残念だったな、お前はもう何ひとつ食えなくなるんだよ!」

応じて隼鷹も艦載機を発艦させる。総数、66機。数も、性能も、練度も赤城には遠く及ばない。

だが、それでも引くわけにはいかない。隼鷹はこみ上げる恐怖を押し殺し、艦載機たちを赤城へと放った。

隼鷹「行け! いつまでも思い通りにはさせないからな、赤城!」

939: ◆hJ5a7d.jWc 2015/09/21(月) 09:15:41.12 ID:H6ySCzUl0

赤城「痴れ者が! 下等な軽空母の羽虫のごとき艦載機で、この赤城に触れられると思うなよ!」

本性をさらけ出した赤城に慈悲はない。鬼の形相を隠すこともなく、赤城は艦載機たちに迎撃の名を下す。

赤城「食事の時間だ、艦載機ども! 飛び交う虫けら共を叩き落とし、あの女に第一航空戦隊の恐怖を刻み込むのだ!」

赤城「一切の希望を捨てよ、隼鷹! 貴様が挑むは連合軍さえその名を恐れた一航戦の赤城!」

赤城「矮小な商船改造空母ごときがこの私に牙を剥く、その愚かさを知るがいい!」

赤城「絶望を味わえ! 戦いの果てには貴様の手足をもぎ取って、生きたまま食らってやろう! 貴様は泣き叫びながら死んでいくのだ!」

隼鷹「泣き叫ぶことになるのは……お前だ、赤城!」

懐にある作動させたままの通信機。「E2F作戦」の鍵となるそれのことなど、隼鷹はすでに念頭にはない。

電の極秘計画が着々と進行する中、赤城と隼鷹、正規空母と軽空母の熾烈な戦いは幕を開けたのだった。



続く

引用元: 電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです