1: ◆oDLutFYnAI 2010/07/07(水) 17:59:19.88 ID:QHiQmFUo
佐天「略して『ダマし』!どうですか?」

垣根「どうって言われても、俺の決め台詞取られてるしな」

佐天「えっ、じゃあ『私の第五波動に常識は通用しない……!』のほうがよかったですかね?」

垣根「だからそれも俺の台詞ぱくってるっての!」

佐天「『なるほど、余程愉快に凍結したいと見える』とか」

垣根「テメェわざとやってるよな?そうだよな?」

佐天「初春の恨み、忘れてません。脳ミソくちゅくちゅしますよ?」

垣根「ごめんそれだけはマジやめて」


このスレは禁書外伝キャラの佐天涙子が、NEEDLESSの左天の能力「第四波動」を手に入れたらどうなるの?
ってことを妄想したスレです。
ストーリーは原作基準……なんだけど、最近なんかおかしいぜ。
さて、来月には禁書の新刊が発売するな!俺はたぶん日本にいないけど!
以下過去スレ。vipのはのくす牧場でまとめられてました。ありがたや。

佐天「第四……波動……か」 

佐天「ストリームディストーション!」

佐天「第四……波動……か」 

佐天「今までありがとうございました―――左天お兄ちゃん」


ただ今一方さんルートの最終段階。
しかし前スレで終わらすつもりが……頑張るぞー。

2: ◆oDLutFYnAI 2010/07/07(水) 18:00:43.81 ID:QHiQmFUo
わかりやすいあらすじと現在の状況。

①なんやかんやで佐天さんが第四波動を使えるようになる。

②なんやかんやで上条さんや一方さんと仲良くなる。

③なんやかんやで一方さんと凄く仲良くなってる。

④なんやかんやで一方さんが佐天さんのために暗部入りしちゃったことを知る。

⑤なんやかんやで佐天さんは一方さんを暗部から救い出すために
 暗部へ喧嘩うりにいこうとしている。

⑥なんやかんやで美琴先生に見つかって説教されるけど、なんかよくわからん雑音で
 美琴先生と百合とハワイアンを吹き飛ばして逃走←今ここ!


装備。
幻想御手……AIM拡散力場から自分だけの現実および演算式を読み取り、
      最適な演算方法を導き出す、って効果がある新しい幻想御手。副作用有り。
篭手……ガンドレットとも。特殊な電熱線で作られた、美琴先生対策の品。
     なのでもう出番はありません。残念でした。

俺設定能力一覧
熱吸収→凍結
熱放出→爆炎。第四波動。ストリームディストーション。
エネルギー変換→身体強化。
増幅→現在使用不可。
熱ベクトル視覚化および操作。


第四波動⇒爆炎。ベクトル操作と組み合わせると、超高温の光線になったりする。相手は死ぬ。
ストリームディストーション⇒小型の台風。ベクトル操作と組み合わせて強力に。相手は死ぬ。
日輪〝天堕〟⇒太陽熱を収束する技。でももう出番は無い。相手は死ぬ。
エターナルフォースブリザード⇒瞬時に大気を凍らせる。相手は死ぬ。
第五波動⇒すごい攻撃。相手は死ぬ。
ダウンバースト⇒ぐぐれ。相手は死ぬ。
ヒートエクスプロージョン⇒吸収した熱をベクトル操作で相手へ流し込む。相手は死ぬ。


22: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 19:29:16.24 ID:Ptj1lEco
建宮「むぅ……」

天草1「……どうしますよ、教皇代理」

建宮「正直俺も悩んでるのよな」

天草1「まあ、そうでしょうね……それより困りましたね、本当」

建宮「全くよな。河原でようやく保護対象を見つけたとおもったらいきなり戦い初めて、しかも最後は
    吹き飛ばして逃走とはなー」

天草1「けど、無茶苦茶強かったですね」

建宮「お前はあれが強かったと思ったのかよ?」

天草1「個としての単純な力な強いでしょうよ。ただ、ま。あとは教皇代理の考えてることと同じですけど」

建宮「だよなぁ……ありゃーかなり不味いのよな。遠目に見ててもわかるくらいにな。
    ……今誰が保護対象を追っかけてた?」

天草1「五和のやつですが」

建宮「―――、あ、あー五和?聞こえるかー?」

五和『こちら五和、大丈夫です。何かありました?』

建宮「保護対象が潜伏してる場所がわかりしだい俺に連絡するのよな。そこで交代だ」

五和『え、でもアックアに狙われてるって伝えなくていいんですか?』

建宮「今伝えてもいいこっちゃない……まだ学園都市に侵入したって連絡もないし、保護対象の精神が落ち着くまで、
    そうだな、一眠りするまで待つのが得策ってやつなのよな。確かお前さんはアビニョンで一緒に戦ったんだったか?」

五和『ええ。まあ、一緒に戦ったというかなんというか、上条さんに聞いた話だと私が気絶しちゃった後に
    ががーって攻めていったらしいですけど』

建宮「会話は?」

五和『しましたけど……何ですか?何かありました?』

建宮「いや、だいたいどれくらいからあんな状態だったのかと知りたかっただけなのよな」

五和『んー、別におかしな点は感じませんでしたけど……』

建宮「そうか。じゃ、追跡頼んだ」


建宮「……せいぜい、後方のアックアが来るまでに少しはマシな状態に戻ってることを祈るだけなのよな」

23: 21 お前の一言で俺は死にそうになった  ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 19:40:04.51 ID:Ptj1lEco
海原「……これはこれは。土御門さん、ちょっといいですか」

土御門「なんだ?何かあったか?」

海原「いえ、さっきちょっと上の方へハックしてたんですけど、これ見てください」

土御門「……ローマ正教神の右席、後方のアックア?」

海原「このアックアとか言うのが学園都市に攻めてくるみたいですね」

土御門「わからんな。何故潜入せず、こんな古風な果たし状を?」

海原「それは僕にもさっぱりですけど、相当な自信があるんじゃないんですか」

土御門「ふん。まあ、狙いはカミやん、ってとこか」

海原「ええ、それもあるんですけどそれだけだったら問題ないんですよ。ただ、これ見てください」

土御門「……佐天涙子?なんでこの子まで?」

海原「それは土御門さんの方が詳しいんじゃないんですか?この前フランスへ連れてって、そのことで
    一方通行さんに殴られてましたし」

土御門「……あー、もしかしたらその時に戦った神の右席の一人に、危険分子扱いされたのかもしれんな」

海原「そりゃァ!!」バキッ

土御門「うがぁっ!?な、何すんだにゃー!?」

海原「いえ、僕は御坂さんの世界を陰ながら守ると決めているので、彼女の世界に必要なこの佐天という子を
    危険な目にあわせた土御門さんが許せなかっただけです」

土御門「だってだって!佐天ちゃんだって自分で行くっていってたんだからいいじゃねーか!」

海原「だからって本当に行かせるあなたは馬鹿ですか!!」バキィッ

土御門「げふぅっ!そ、それはもう一方通行のヤツに言われたにゃー……」

24: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 19:47:08.82 ID:Ptj1lEco
一方「うるせェな、俺がどォかしたか?」

海原「あ、いえ、なんでもありません」

土御門「ああそうだ、なんでもない」

一方「?だったら静かにしやがれ。こちとら後始末の書類に忙しいンだよ」

土御門「そんなもの下っ端に任せておけばいいだろう」

一方「奴らはもう定時なンだよ。サビザンなンてさせてられっか」

海原「(なんか前から思ってたけど話に聞いてたのと違うなこの人)」

一方「わかったらちょっと静かにしとけ。あと上のほうも探っとけ」

土御門「へいへい了解だにゃー、っと。あ、そういやそろそろ昼飯の時間だけど何食べるぜよ?」

一方「コーヒーゼリーとティラミスと缶コーヒー」

土御門「ティラミス(笑)コーヒーゼリー(笑)」

一方「うるせェェェ!!思いでの味なンだよくそがァァァああああ!!」

海原「僕は普通にビシソワーズで」

土御門「そんなもんコンビニにゃ売ってないにゃー」

海原「じゃあじゃがりこでいいです」

標結「私は今日は野菜ジュースでいいや」

土御門「お前いたのか」

標結「失礼ね」ヒュンッ

海原「あ、消えた」

一方「どこへ飛ばしたンだ?」

標結「近くのスーパーよ」

25: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 19:59:07.75 ID:Ptj1lEco
――――。

土御門「いきなり飛ばされるとびっくりするぜよ……」

標結「座標はぴったりだったでしょ?」

土御門「まぁな。ほれ、野菜ジュース」

標結「あ、これ私の好きなやつじゃない。ありがと」

土御門「偶然だにゃー。海原、じゃがりこなんてもん食ってると身体に悪いぜよ」

海原「いやぁ今日は食欲なくて。ありがとうございます」

土御門「一方通行はコレだったな」

一方「おォ、悪ィな。お前は何買ってきたンだよ」

土御門「寿司」

一方「スーパーの寿司なンざ美味くねェだろ」

土御門「回転寿司に行ってる庶民派第一位様が何を仰いますにゃー」

一方「別にいいだろォが!!てかなンでお前俺が回転寿司行ってること知ってンの!?」

標結「だってあなた注文する時にどもりそうじゃない。『あ、すいませン』とか、最初に必ずあが付く人っぽい。
    だかた回転寿司くらいしか行く場所ないんでしょ?」

一方「つかねェよ!!回転寿司なのはいちいち注文する手間が省けるからですゥ!!」

標結「やっぱりそうじゃないの」チュウチュウ

土御門「一方通行、今度うまい寿司屋に行こうぜ?勿論お前のおごりで」

海原「僕もご一緒しますよ。オススメの食べ方教えてあげます。あ、勿論あなたのおごりで」

標結「男三人で寿司なんて寂しいだろうから私も行ってあげるわよ。勿論あんたのおごりだけど」

一方「好き勝手言ってんじゃねェ!!……けど、ま。それくらいならおごってやンよ。次の仕事が終わったらな」

土御門「ひゃっほう!さっすが一方通行、気前がいいにゃー!」

一方「俺もオマエの言う『うまい寿司』ってのに興味あるしなァ。不味かったら承知しねェぞ」

土御門「任せとけ、とびっきりの場所を紹介してやる。だが値段を見て泣くなよ?」

一方「ハッ、誰に言ってやがる」


グループ「ハハハハハハハハ」

26: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 20:05:31.12 ID:Ptj1lEco
標結「」ちゅうちゅう

海原「」ぽりぽり

土御門「」うまうま

一方「」むぐむぐ

土御門「……やっぱり一方通行にティラミスとかゼリーとか合わないにゃー」

海原「孤独な幼少期を過ごしてきたせいで、そういった子供っぽい食べ物に憧れるんですか?」

一方「違うっての。勝手に俺の過去を不幸にしてンじゃねェよ」

標結「一般人から見たら十分不幸だと思うけど。そういえばなんか思い出の味とか言ってたけど、どういうこと?」

一方「……ま、いろいろな」

土御門「気になる言い方だにゃー」

海原「そこで海原流読心術です。……ふむ、なるほど。どうやら病院へ入院している時に、佐天涙子という少女が
    お見舞いの品でコーヒーゼリーとアロマブラックを持ってきたみたいですね。その時にふと漏らした
    『コーヒー使った菓子とかあンのかなァ……』という言葉を聞いて佐天涙子がティラミスをすすめたようです。
    おっと、どうやら佐天涙子は今度作ってあげるとか言ってたみたいですけど、結局作ってもらえなかったそうですね。ワロス」

一方「オマエ何者だァ!?怖ェよ!大当たりだよ!!」

標結「少女って何歳?」

海原「12歳だそうです」

標結「へぇ、12歳はまだストライクゾーンなんだ?」

一方「なんでお前俺が  コンみたいなこと言ってンだよォ!!」

27: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 20:12:42.05 ID:Ptj1lEco
―――――。

一方「……よし、こンなもンだろ」

標結「お疲れ。送ってきてあげるわよ」

一方「おォ、悪ィ。助かるぜ」

標結「うわっ、アンタから素直に御礼言われると気持ち悪い」

一方「泣くぞちくしょうが。しかし面倒だな、いちいちアナログじゃねェとダメなンてよ」

標結「ま、機密だしね。今の世の中、紙媒体の方が逆にいいんでしょ」

一方「量子コンピュータが出来たってのに、不便なもンだな」

標結「科学の進歩ってのはそんなもんなんでしょうね。こんなこと、第一位のアンタに言うのも
    なんだか皮肉めいてるけど」

一方「それを言うなら能力者全員に言えることだなァ」

標結「違いないわね。それじゃ行ってくる」

一方「無理すンなよ」

標結「だから気遣いとか結構気持ち悪いっての」ひゅんっ


一方「ふゥ、今日はこの後仕事もねェし、たまにはあのクソガキにでも電話してやっか……とパソコン落としてねェな」

一方「海原ー?土御門ォー?いねェのかー?……コイツ落としちまっていいのかァ?電気代節約しろってのあの馬鹿野郎ども」

一方「そォいや上の情報は何か新しいのは……なンだこりゃ?ファイル名『果たし状』?」


かたんっ

28: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 20:17:18.81 ID:Ptj1lEco
一方「何何ー……ローマ正教?ンだそりゃ、何でこの科学の街で宗教なンざ出て―――まァ、教会くれェはあるし、
    シスターだって歩いてるから全くゼロってわけじゃァねェけどよ」

一方「……」スクロールスクロース

一方「……我らに仇なす下記の二名を殺害するものとする、ねェ……物騒だな、いまどきの宗教ってのは」

一方「……っ!?」

一方「コイツ……あの三下が……?」

一方「―――――……あァ!?なンでこのガキまではいってやがる!?」

一方「危険分子だとォ?……そォいや、フランスにコイツ居やがったな……まさか、」

一方「――――――ちくしょうが」



カッ カッ カッ  バタン

33: 32 お前はよくわかってる。あのセトちゃんに踏まれたい。 ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 20:48:35.08 ID:Ptj1lEco
――――10月13日  16:32(一方さんが標結さんといちゃいちゃしてた頃)

「――――――はぁっ」

ベッドへ身体をあずける。横になると突然染み出してくる疲労感でもう動く気にもなれない。
立ち止まっている暇はない。
けれど、今は何も考えず眠っていたい。

そうしなければ、心も体ももたない。

「……初春」

名前を呼ぶと心が締め付けられて吐き気がしてくる。
目を閉じて、いろんなものをため息と一緒に吐き出す。

「……いいんだ。これで」

これでいい、と考えて、余計なことは全部塗りつぶす。
後悔懺悔謝罪その他もろもろ、いろんな感情を全部塗りつぶす。

「……戻る場所がなかったら、もう立ち止まらずにすむ」

――――そうだ。あとはもう、進むしかない。

――――けど、その前に。その前に少しだけ。

考えることをやめて、頭のなかを真っ暗にする。
その暗い中を、自分が魚になって深く深く潜っていくところを想像する。

そうして、私はひとまず眠りについた。

36: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 21:11:12.18 ID:Ptj1lEco
佐天「うーいーはーるーっ!!」

初春「ほわああああっ!!?だっ、だからいつも捲らないでっていってるじゃないですかーっ!」

佐天「いやぁ、なんか久しぶりだったからさ……ん、なにが久しぶりだったんだろ」

初春「知りませんようぅ……」

佐天「んー……なーんかひっかかるなー……」

初春「(ハッ!これはもしかしてやりかえすチャンス!?)」

初春「そりゃーっ!」バッ

佐天「……え?」フワッ

初春「やっ、やりました!どうですか佐天さん!自分のスカートが  られた気分は!!」

佐天「……」ジワッ

初春「……あ、あれ?」

佐天「ぅ……ひっ、ひぅ……男の人に   みられた……もうお嫁にいけないよぅ……」

初春「ちょ佐天さんっ!?私にいつもやってきてるのに自分はやられたらすぐ泣くとかないですよ?!」

佐天「ふぇぇぇん……う、ういはるのばかぁ……」シクシク

初春「あ、う、あ……ご、ごめんなさい佐天さんっ!私、その、冗談のつもりで……」

佐天「てやーっ!」バッ

初春「でしたってなにしてんですかぁぁぁあああ!?」

佐天「へっへーん!初春のくせに私のスカート  った罰だもん!」

38: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 21:28:03.01 ID:Ptj1lEco
白井「またやってますの」

御坂「仲がいいのはいいことだけど、路上でそれは初春さんがかわいそうよ」

佐天「いいんです!いざとなったら初春は私がお嫁さんにもらいますから!」

初春「え……?」

佐天「なーんて冗談冗談……あの、初春?その視線はなにかな?」

初春「え、っと、その、私、佐天さんとだったら……」

白井「まあまあお熱いことですの」

御坂「oh...」

佐天「ちょ、初春?初春さーん!?」



――――目が覚めたら何もかも元通りで。
      私はこの力も手に入れてなかったし、だから全部夏休みからの夢だったとか。
      そういうことをつい考えてしまうけど、夢なのはどっちかだなんて、言う必要もない。



「……っ、いま何時だろ……」

暗い部屋で目を覚ます。そこはミサカちゃんが案内してくれたアジトだった。
電気はかろうじて生きているが、照明はことごとく壊されている。
腕時計をを見ると23時を過ぎていた。

「だいたい6時間眠ってた、か……」

ぼやけた視界であたりを見回すが誰もいない。ということは、おそらくミサカちゃんは負けたということだろう。

「……これで、本当にひとりぼっち、か」

ふと夢を思い出した。
私が皆と仲良く遊んでいた頃の夢。
やけに現実感があって、だから凄く懐かしく感じられて、一瞬眼がしらが熱くなって泣いてしまいそうになる。

「っ――――、……ふ、ぅ……」

けどそれはもう、戻ってこない日常だから。
自分自身で切り捨てたものだから。
だから、必死で忘れてしまおうと目を閉じて今からすることを頭の中に展開する。

39: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 21:32:36.99 ID:Ptj1lEco

「―――――……、よし。まずは、」

まずは、裏でおかしな研究をしている研究所の破壊。
リストはミサカちゃんが持ってたからもう無いけど、名前くらいなら少しは覚えてる。
手始めにこの近くにある研究所を破壊しよう。後のことは後で考えればいい。
充電してあった幻想御手を耳に取り付ける。一応篭手もしておこう。
靴紐をしっかり結んで、辺りの熱を吸収してから立ち上がる。

「――――――さあ、行こう」

これから先は一方通行だ。
ドアに手をかけて、もう二度と戻ることのないアジトを後にした。



―――――――東へ3km ビルの上

「起きたか……それじゃま、ちょっと忠告しにいってくるのよな」

「一人で大丈夫ですか、教皇代理」

「ま、なんとかなるのよな。それじゃ――――ッ!?」

「……ッ!こ、の、圧力……!教皇代理、これはッ・・・・・・!」

「く……来たってことか……!全員に連絡!後方の―――」


「その必要はないのである」


「なっ……!」

「にっ……!?」


「障害となるとも思えんが、巻き添えにするのも目覚めが悪いのでな。気絶してもらうのである」


「がっ……」

「ぐっ……」


「さて……あそこか」

40: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 22:02:51.67 ID:Ptj1lEco
アジトを後にして路地裏に出る。
遠くに研究所の明りがぼんやりと見えるだけで、他の光は一切なく真っ暗にもほどがある。
空を見上げると、雲の向こう側にぼんやりと月の光のようなものが見えるが、それだけでは光源としては少なすぎた。

「……視覚化」

けれど、熱ベクトルを視覚化してしまえばある程度は視える。

「よし、問題なし。確か、研究所はこっちで――――」



―――今までで感じたことの無い悪寒が身体を満たす。
     そこにいてはいけないとか、はやくよけろとか。
     そういうモノじゃなくて、今すぐに命が潰れてしまいそうな凶悪な殺気――――



「ぅ、ぁ……!?」

どこから放たれているとかわからない。
ただ、一瞬で暗い路地裏一帯が上空からプレスされたかのような、そんな逃げ場の無い圧力。
身体が重い、なんてレベルじゃない。
今にも全身の血流が逆向きになって、内側から破裂してしまいそうになる。

「―――学園都市、というわりにこのような場所に女子供を歩かせるとは、この街も治安が悪いようであるな」

暗闇の中から重く低く抑揚の無い声がする。それは丁度私の真後ろだ。
振り向くなんて出来ない。そんな無駄な動作をすれば、一瞬で首をはねられる。
ありったけの力をこめて前方へ逃走するのが一番の策だが、それすら捕まって叩きつぶされる錯覚に陥る。

「―――いきなり殺したりはしない。こちらがこうして姿を現しているのだ、まず顔を合わせるのが流儀というものではないかね」

殺したりはしない、など嘘に決まっている。
いや、私自身がそうだと決めつけてしまっている。
振り向いた瞬間、ヤツが私の前に立っているという事実だけで、恐怖で心を満たすには十分すぎる。

「―――そうか。なら、」

熱のベクトルが歪む。
何事かと思ったら、後ろの何かは、私の前方へと立っていた。
雲が切れて月の光が路地裏を照らす。
そこには青い服を着た長身の男。男は、ゆっくりと口を開いて、

「―――私は『神の右席』が一人、後方のアックア。貴様を殺す者である」

明確な殺害宣言と共に、私の目の前に現れた。

41: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 22:23:06.99 ID:Ptj1lEco
吹き飛びそうな意識の中から、アックアと名乗った男の言葉を整理する。

神の右席。世界最大宗教ローマ正教の切り札。
曰く、20億人の最終兵器『前方のヴェント』。
曰く、神聖の国へ導く者『左方のテッラ』。
そして、目の前に立っている男が『後方のアックア』。

「く、ぅ……、は、ぁ―――――!」

呼吸が乱れる。
前方のヴェントと左方のテッラ。どちらも同じ神の右席。
だが、ヴェントとは直接戦っていないにしろ目の前にした時こんな圧力を感じなかったし、
左方のテッラに関してみれば一部を除けば十分に戦える相手だった。

けれど、なんだ、この男は。
既に生物としての格が違う。勝てるとか、勝てないとか、そういうのじゃなくて、殺意を向けられたら
もうそこで死んでいるくらいに、根本的な『質』が違いすぎる。

「―――どうしたのかね。そんなに、私が怖いであるか?」

問いかけられるが、答えるための口が動かない。
舌なんてとっくにからからに乾いて、ねっとりと口の中に張りついている。
目を逸らしたくなるが、ヤツが私の視界から消えてしまうことの方が恐ろしい。

「……ふん。やはり年相応の子供でしかない、か。テッラは確かに暴走していたが、その報告内容は信用に値する。
 ヴェントの報告書もかんがみれば、排除しなければならない障害なのであろうな」

そう言って、ヤツは暗闇から何かを取り出す。
5mはある金属の棒が、ゆっくりと振り被られる。

「ではさらば。後悔するならば、中途半端な信念と力をつけた自分を悔いるのである」

金属の棒が振り下ろされる。
ヤツとの距離は十分にあったはずなのに、いつの間にか間合いが詰められていた。
だからその鉄塊はこのまま容赦なく私の頭から身体までひき潰して地面へ激突する。

45: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 22:35:29.14 ID:Ptj1lEco
コンクリートが砕けて、破片が辺りに散らばった。
いや、散らばったなんて生易しいもんじゃない。破片それぞれが銃弾の威力をもって破裂した。

「――――――――ぅ、あ」

その光景を目の当たりにしたということは、私はまだ生きている。
どうやら、反射的に後方へ跳びのいていたらしい。

「あ……、ひ、ぁ」

泣き叫びそうになってしまう。
死ぬかと思った、じゃなくて死んでいた。
あまりにリアルに自分が死ぬ光景を想像してしまった以上、もう私はヤツに勝ち目は無い。
その想像が現実になるのを待つしかない。

「なるほど。確かに、その速さは驚けるのである。確実に粉砕できたはずなのだがな」

地面に突き刺さった金属棒を持ち上げながらヤツは言う。
そしてその金属棒を横へ振るったかと思うと、またいつの間にか間合いが無くなっていて。
金属棒が右から左へ振るわれる軌道上に居る私の身体は、ひしゃげて隣の壁にびしゃびしゃと撒き散らされる。


「……っ!!」

だがそれもまた幻覚のようなものだ。
私は死んでいないし、ヤツの金属棒は空ぶって、その時に生じた風圧だけで先ほどのガレキを吹き飛ばしている。
無意識で廃墟の屋上まで跳んでいた私をみて、ヤツは口を開く。

「死にたがりのように見えたが―――どうやら、ただの甘えたガキだというだけのようであるな」

46: 44 あ、確かにそうかも。すまん、勢いで書いてるから結構誤字ある ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 22:49:41.92 ID:Ptj1lEco
声が聞こえたと思ったら、また金属棒が迫っていた。
私の右上から頭を消し飛ばす線を描いて振り下ろされるそれを、しゃがんで右側へ転がって避けていた。
廃墟を破壊ていくそれを構えなおし、間髪いれず左側から振り払われる。
それを上に跳んで避けて―――自ら死ぬ道を選んでしまったことに気付いた。

顔を上げればヤツは私の目の前にいて。
振りあげられた金属棒を空中で避ける術はなく。
だから、振り下ろされた瞬間私の命は飛び散ってしまうことは、もう見えていた。

――――嫌だ。死にたくない。

「あああああああああああああああああああああああっ!!!!」

意味はないと解りながらも、頭の上で腕を組んで受け止めようとする。
けど、無理だ。
ズン、とか、ズガン、とか、なんだかよくわからない衝撃が脳天に走ったと思ったら、身体は地面にめり込んでいた。
その後に全身の骨が砕かれて筋肉がぶちぶちに切られたような痛みが走る。

叫び声なんて出ない。
どうせ痛みが増すだけなら、そんな声はあげていられない。

そこまでして、ようやく気付いた。
私はまだ死んでいない。
今にも死んでしまいそうなほど身体が痛いけれど、でもまだ生きている。
それだけで涙が出てしまいそうになるけれど、そんなもの1秒先に消える命だとわかって絶望する。

「―――腕ごと潰せると思ったのだが。その金属、私の攻撃を当てても傷もつかないか」

言われて、腕に出現している金属を見る。
第四波動の能力を使う際に出てくる金属。
どうやらこれが金属棒の攻撃を防いで、かろうじて私の命は助かったらしい。

48: ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 23:09:33.06 ID:Ptj1lEco
「しかし何にしても、これで終わりである」

何の感情もこもっていない声で言いながら、金属棒がゆっくり振りあげられる。
けれど、受け止められるとわかったからか、さっきよりも恐怖は少ない。
身体は痛いけれど、補強すれば動けないほどじゃない。

(それに、)

金属棒が頂点にきて、ぴたりと止まった。
月を隠すそれは、1秒後には私の身体をくしゃりと潰しているはずだ。
けれど、そんなのはごめんだ。

(それに私は、まだこんなとこで死にたくない……!)

振り下ろされると同時に私の身体が跳ねる。
横に身体を思いっきりはじいて、金属棒の一撃から逃れるが、余波だけで吹き飛ばされ壁に激突する。
だが痛がっている暇なんて無い。あれだけの重量をもった一撃を放った後なら、必ずスキが―――

「―――自らの筋力をこえる武器を持つ者は愚か者である」

「っ!?」

生まれる、と思い攻め立てようとするが、途中でありったけ後ろへ跳び下がる。
ごうっ、と風を生む音と共に金属棒が振るわれたその軌道は、つっこんでいたら上半身と下半身が
ひどく無残に分離させられている線を描いていた。

49: 迷い猫のOPかな恵さんver聞きながら書いてたらわけわからんくなってきたぜ ◆oDLutFYnAI 2010/07/08(木) 23:21:39.36 ID:Ptj1lEco
「……反則すぎる」

思わず呟く。
あれだけの重量と破壊力を持つ金属を、ロスタイムをほとんど無しで振るえるなんて、極悪過ぎる。
いや、あれだけじゃない。ヤツは移動から攻撃まで、瞬きをするうちに行っていた。
速いなんてもんじゃない。今まで避けられていたことが奇跡だ。
そしてそれが奇跡である以上、必ずどこかで途切れてしまうが――――

「―――戦う気になったのであるか」

ヤツが私に向かって問いかける。
いや、ヤツにはもう答えはわかっているはずだ。さっきまで逃げ回っていた私が、
攻撃に転じようとした時点で答えなんて出てる。

「……殺されるなんて御免ですから。あなたのスピードには着いていけますし、攻撃だって
 コレがあれば防げるみたいですし。勝つのは難しいかもしれませんけど、でも勝てないなんて決まってません」

そう言って、腕の金属をコツコツと合わせる。
その様子を見て、ヤツはたいして面白くもなさそうに金属棒を構える。

「その驕りが戦場では死に繋がるのである」

「え―――」

目の前に突然ヤツの金属棒が現れた。

あ、だめだ。

死んじゃう。

78: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 20:02:36.76 ID:sOUvg5Io
剛風が顔を叩いて走り去った。
それは本来金属棒が振るわれてから生じるもののはずで、攻撃を回避できなかった私は
とっくに死んでいてそんなものを感じることが出来ないはずだ。

「――――――え?」

だから口から漏れてきた疑問の言葉は、
どうして私はまだ死んでいないのか、ということと、
どうして金属棒が私の目の前で停止しているのか、の二つに向けられてのものだった。

「―――――――」

動かなくては、と思う。
何で止まってるとか、死んでないとか、そんなことより早く動かないと。
だってここはヤツの間合いに入っている。瞬きをしたらもう目が覚めないほどに、
常に死ぬ未来は約束されている場所だ。
―――いや、もう間合いなんて関係ない。
さっきの一撃。今までならなんとか反応出来たはずの距離だったのに、武器が目の前に
現れてやっと気付いた。
つまり、ヤツはさっきま全く全力で動いておらず、少し本気を出せば私なんて簡単に殺せてしまうのだろう。

終わった。これ以上無いほどに、確実に、私の命は潰えた。
なのにまだ生きているのはどうしてなのかと頭をよぎる。

「―――そういえば、ひとつ確認しておきたいことがあったことを忘れていたのである」

言いながら、男は金属棒を自らの肩に乗せる。
構えなど何もないが、それでも十分だ。ヤツはあの体勢からでも呼吸するように私を叩きつぶせる。


79: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 20:03:06.11 ID:sOUvg5Io
「……確認しておきたいこと?」

「そうである。何、簡単なことだ」

そう言うヤツの口調は、今までのような事務的な平坦なものでは無かった。
ずしりと空気に響くような、まるでこれが一番大切なことだというように力を込めて言った。

「―――貴様の戦う理由を言え」

「――――――――――――、は?」

―――何故今そんなことを聞くのか。

「……なんでそんなこと聞くのさ?」

「三度目は無い。言え」

有無を言わさず、言わねば今すぐに殺すと言っている。
拒否権は、無い。

「……私の戦う理由、は」





……。

あれ?

私の戦う理由って、なんだっけ。

80: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 20:03:38.33 ID:sOUvg5Io
「理由―――戦う、理由、って」

ぐるぐると頭を巡らせて考える。
戦う理由。
私が今戦っている理由。

そもそも、ヤツと戦うことになったのはどうしてだったか。
きっと、フランスへ行ったときだろう。
ヴェントの時も一応『私』が関わっているけれど、あの件に関してはほとんど上条さんだ。
だから戦う理由はまず、フランスでテッラと戦った理由に繋がる。


――――――何も出来ない自分を救いたくて。


「……っ!!」

違う。
そんなんじゃない。
あれは違う。あれはテッラの魔術に決まってる。
テッラは魔術を使えないって言ってたけど、そんなの嘘だ。
そうやって私の心をかき乱す作戦だったんだ。

「理由―――、そうだ、理由は」

そうだ、理由なんて簡単だ。
私は皆を守りたいって思ってた。だから戦うんだ。


――――――けれど、だとしたらどうして初春達を傷つけた。


「―――ッ!!」

じゃあ私が戦う理由は、あの人を救うためなんだ。
あの人を救うためになら、この命だって捨てられる。
これだ。私が戦う理由。一人の人を守るために戦ってるんだ。

「私が、戦っている、理由は……!あの人を、救いたいからに決まってる……!」

よくやったじゃないか私。そうだよ、私はそのために戦ってる。
大丈夫、なんだか口にした時違和感があった気がするけど、そんなの気のせいだ。


「―――それは、アビニョンへまで来る必要があったのであるか?」

「――――――、ぁ」

81: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 20:04:05.42 ID:sOUvg5Io
言われて、確かにそうだと思ってしまった。
私がアビニョンへ行こうと思った時、どんな気持ちで行っていたか。

――――――〝今は、何か目的があったほうが楽ですから〟

そうだった。確か、結局成り行きで行ったようなものだった。
その日スキルアウトの人に出会って、その人は、

――――――〝俺達を殺したヤツが何言ってやがる。いいか―――お前には何も出来ねぇよ〟

その人は、10月3日に、私が人生を奪ってしまった人の仲間だったっけ。
だからせめてもの償いで、何かしていよう、何か誰かのために動こうって思ったんだ。

―――そんなもの償いになんてならない。それはただの自己満足だ。
     誰かを闇へ突き落してしまったから代わりに誰かを助けるなんていう、
     私自身の心を救うための代償行為。

「……・っ、う、ぁ……!」

だとすれば、テッラの言うことは正解だということになる。
私は私自身を救いたくて戦いにいっていた。私自身を救うために、他人の信念や願いを踏みにじった。

「―――やはり、テッラの言うとおりだったようだな」

「な、にを……?」

「テッラが光の処刑で貴様から聞きだしていたことは知っている―――それも踏まえての質問だったが、
 どうやら貴様は本当に自分自身のためだけにその力を振るっているようであるな」


82: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 20:05:07.99 ID:sOUvg5Io
自分自身のために。
それはもう、認めてしまいそうになるけれど。
何故だかそれを認めてしまえば取り返しのつかないようなことになる気がして、今は必死で抵抗する。

「……けど!今は私はあの人のために戦ってる!あの人を救うためだったら、この命だって惜しくない!」

そうだ。死んだってあの人を助ける。いや、私を人質にとられているのなら、私が死ねば助かる。
誰かのために私の全てを捧げるって言うなら、それは自分自身のためなんかじゃない。


「―――命が惜しくない、か。なら、」


ゆらり、とヤツの金属棒の先端が動いたと思ったら、攻撃は来ていた。
左斜め上から振り落とされるそれは、肩を潰して身体を地面へとねじ伏せる力を持つ。
けれど、手加減していたのかどうかは知らないが、さっきよりもゆっくりで、だからほとんど
反射的に後ろに跳んで、なんとか避けることは出来た。
ヤツは器用に金属棒を地面スレスレで上へ持ち上げ、力を殺しながら振り切って肩へ担ぎ直す。


「―――何故よける?」


ヤツが心底不思議そうに尋ねてくるが、避ける理由なんて一つしかない。
あんなものを喰らえばひとたまりもなく死ねる。私はまだ死にたくなんてない。

「そんなの決まってるじゃない……あんなの当たったら死んじゃうか」

「命は惜しくないのであろう?」



――――あ。

不味い。

気付かないでいようとしたこと、目を背けてきたことに、無理やり気付かされた。

84: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 20:51:35.30 ID:sOUvg5Io
そうだ。どんな形でも、私が死ねばあの人が解放されるって言うんなら、いっそここで潰されてしまっても
良かったはずだ。なのに私はずっと逃げ回ってる。

死んでしまえば救える。

けど死にたくない。

「―――――、ぁ」

「―――気づいたか。貴様の願いが、矛盾していることに」












   。

。   。           。             ?

。                                   ?



「――――――――――、ふ」

             。




。                        。

   !          ……!

。                          ――――!!!!

86: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 21:14:12.16 ID:sOUvg5Io
――――死にたくない。助けて欲しいから、御坂さんにわかるように手紙を書いた。
      死ななきゃならない。だって、そうしないとあの人が助からないから。
      けど、そんなの嘘だ。とっくの前に気づいてて、けどずっと誤魔化してきた。
      私が死んでも打ち止めちゃんがいる。打ち止めちゃんを人質に取られれば、それで終わり。
      私が死ぬことに意味なんてない。だから、初春たちを捨ててきたことに意味は無い。
      辛い思いをして走り続けてきたことにも意味はない。覚悟にも意味は無い。
      
      いや。
      そもそも、覚悟なんて初めっから無かった。
      私がこうやって全部捨ててきたのは自分のため。
      何も出来ない自分が、何か出来るって証明するためにここまで来た。
      

――――――――〝佐天さんって本当どうしようもないですよね〟


      私の全てが変わり始めたきっかけ。第四波動をもらったあの日。


――――――――〝何もできないくせに口だけ達者で〟


      初春が私に言った何気ない一言。

                                      ニードレス
――――――――〝それに比べて佐天さんは……本当っ、要らない子ですよね〟

  
      要らない子。役に立たない子。何も出来ない子。
      御坂さんや白井さんや初春。みんな凄い能力を持ってて活躍してるなか、私だけ何の力もない普通の学生。
      そんな自分を変えたいと思った。だから、路地裏で蹴られていた左天さんを助けようと思った。
      けど、それってつまり。
      私のコンプレックスを解消するために、他人をダシにしているだけでしかない。
      私の戦う理由なんて、結局みんなに対する卑屈な気持ちのはけ口でしかなかったんだ。

87: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 21:31:19.82 ID:sOUvg5Io
「―――――――、そっか」

「―――理解したか。貴様のそれは、所詮紛い物だ。
 誰かを救うなどという大義名分を掲げ、自分のためだけに力を振るっている」


―――『誰かのためになれるかなって』。
     そうやって、あの日左天さんい自分の想いを語ったっけ。
     それを左天さんは立派だって言ってくれた。


「そのような歪んだ想いでは何も救えない。それは自分自身でさえも救われない道である」


―――けど、もうあの時から間違ってたんだ。
     誰かのために、なんかじゃない。そうやって、誰かを助けられる自分の力に満足していたかっただけ。


「力を振るう理由は様々である。私はその信念を否定するつもりは無い。
  それらが衝突した際に、自己の信念を示すために戦うだけである」


―――だから何も救えない。何も出来ない。
     始めて路地裏で左天さんを助けようとした時も。
     上条さんに初めて会った時も。
     御坂さんと妹さんを助けようとした時も。
     リドヴィアを止めようとした時も。
     打ち止めちゃんを助けられなかったのも。一方通行さんに置いて行かれたのも。
     そして、初春を傷つけたアイツを倒せなかったのも。
    

89: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 21:52:20.68 ID:sOUvg5Io
「しかし貴様のそれは信念などとは呼べまい。そんなもので、他人の信念を打倒出来ると思っていたのであるか」


―――結局、汚い気持ちに蓋をして、薄っぺらい偽物の気持ちで戦ってきた私に、
     強い気持ちを持った人達を止めることなんて出来なかったんだ。


「だが時には、信念無き力はか弱き者達を蹂躙する。テッラの暴走も近いものがあるが、
 貴様のその力もまた、そうなる可能性を十分に孕んでいるのである」


―――ああ、思い出した。魔術の影響で左天さんが出てきて、一緒にDVDを見てたあの日。
     あの時、劇中の台詞が、やけに心に引っかかると思ってたけど。


「世界に仇なす危険な芽はここで摘んでおく―――もし貴様が多少なりともマシな回答をすれば、
 結末は変わっていたかもしれんがな」


―――借り物の能力に、偽物の想い。
     なんだ。結局、私の結末なんて、そこらにありふれた、なんてことのない、ただのつまらない終わりだったんじゃないか。


「目を閉じ、四肢の力を抜け―――余計なことを考えなければ、痛みも無く一瞬で死ねる」


言われた通り、私は目を閉じてその場に座り込む。

―――雑音がうるさい。救え救えと頭にガンガン響いてくる。
     けど、もういい。
     初春たちを振りきれたこの雑音も、もう意味なんてない。
     もう全部わかったから。
     

「―――さらば」


アックアの鉄塊が振り下ろされる。
身体は動かない。雑音は途切れた。
ああ、よかった。死ぬ時もあんな雑音にまみれているのは辛かったんだ。
最後くらい、何も考えないでいられて、ほんとうによかった。






「―――ったく、勝手に終わってんじゃねぇ。俺はまだ、お前から答えを聞いてないんだぜ?」

92: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 22:06:53.01 ID:sOUvg5Io
「―――――え?」

突然聞こえた声に驚く。
心はすっかり空っぽになっていたと思ったけれど、それでも驚いて見上げざるをえなかった。

だって、その声は。
ずっと私の頭の中に響いていた、雑音と同じ音だったから。

「――――左天、さん?」

見上げた先。黒い外套をはためかせて、大きな背中がそこにあった。
腕の金属部分は初めて会った時のような大きさで、その金属であの鉄の塊を易々と受け止めている。

「なんだよ、幽霊を見たような声だしやが―――そういや俺は死んでたな」

アックアという化け物を相手にして。その武器を受け止めておいて。
左天さんは、なんてことのない、いつもの事だと言うように飄々と言った。

「なんで……なんで、左天さんが……?」

「―――そいつは、まだお前には言えねえな。今はとにかく、さっさと走ってどこかへ逃げろ」

「逃がすと思うか」

風を切る音と一緒に、金属と金属がぶつかりあう轟音が爆発する。
それはアックアが振るった鉄塊と、左天さんの腕にある金属がぶつかった音だ。
当たれば即死。防いでも吹き飛ばされて大ダメージ。さらには反応することさえ許さない速度。
それらを含んだ一撃を、左天さんはまたもや受け止めている。

「早く行け。さすがにお前を庇いながら戦うってのは無理みたいなんでな」

「で、でも……」

「行け!!」

「……っ!!」

始めて左天さんに怒鳴られて、身体が反射的に動いた。
がくがくと震える足を無理やり動かすともつれて倒れそうだったけど、それでも私は必死で走ってその場を後にした。

94: ◆oDLutFYnAI 2010/07/09(金) 22:13:13.12 ID:sOUvg5Io
ちょっと休憩。もしかしたらね落ちすっかも。風邪気味で調子悪いんだって言いワケしてみる。
とりあえず、本当はもっと、

アックア「貴様のそれは紛いものだ―――そんなものでは何も救えないのである!!」

とか思いっきりアックアが弾劾してる風に書こうと思ったけど、実力不足だったぜぇ……弾劾しながらメイスで佐天さん吹きとばしたりとかね。
しょうがないので佐天さんに自己解決してもらいました。まあ、気付いてるような伏線は張ってたし、いいよね……?

さあこっから左天さんのターンですよ!!
しかし、雑音の声と左天さんの声が一緒とはいったい……?
そしてまさか一番最初のスレの一番最初のレスがここにきて伏線となっていたとは……!俺自身もびっくりだぜ!!

113: ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 16:30:43.24 ID:srwVrjko
「ま、まさか初春の一言のせいでこうなるなんてーっ!?」ってレスがあったら嬉しかったけど、
みんなただの変 だったでござる。ちくしょう……俺が一番書きたかったところで反応薄いとか……

というか、うん。思いつきで始めたSSで、だいたい妹達編くらいから
「あー、どこで止めよっかな。止める場所見つからないし、どうせなら20巻まで書くかー」
って思ってから、
「ということは佐天さんをどう動かすかってことだけど」
って考えてから、
「それじゃひとつ、アックアに心折ってもらおうか。アックア好きだし」
と決めてからここまで書いてきた。
だから正直書きたいことは半分以上は書けたし、もう満足っちゃ満足。

てことで、こっからは蛇足になるけど、まあ書くよ。
佐天さんが立ち直るにはいったい何が必要なんだろうなーとか思ったり。

117: ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 19:07:36.44 ID:srwVrjko
「行かせると思うのであるか?」

アックアは地面を滑るようにして佐天を追いかけようとする。しかし、

「行かせると思ってんのか?」

彼の身体ががくん、と突然止まった。
む、と声が漏れる。
彼の動きは水を靴底と路面の間に挟み込むこみ、摩擦を無くすことによって成立する高速移動だ。
故にその水が全て凍結していたとすれば、驚きと疑問の声が出るのは当然だった。

「スキ有り、ってな―――第四波動」

左天の左手から爆炎が吐きだされ、アックアを襲った。
それは火炎としてでなく、爆弾を炸裂させたような物理的な破壊力だ。
そして爆風ゆえに、すさまじい速度で放出されたそれを、至近距離であれば避けられるはずはない。

しかし、アックアの二重聖人としての性能があれば、それを避けることも容易い。
彼は軽く跳んだだけで廃墟の屋上まで移動し、メイスを肩に担ぐ。

「チッ……それが無くても十分速ぇじゃねえか」

当たらなかったことについては何とも思っていないのか、左天は腕をさすりながら言う。
その様を見ながら、アックアは合点がいったように呟いた。

「―――なるほど。貴様が『サテン』であるか」

「ヘェ、俺を知ってくれてるとは随分調べてきたんだな」

「報告書にそのようなことが書かれていただけである。確か貴様はあの娘の内側にいたと聞いたが」

「ちょっと反則技を使ってね。無理して出てきたってわけだ」

119: ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 19:08:03.21 ID:srwVrjko
「―――あの娘に力を与えたのも貴様であったか」

「……あァ、そうだ。アイツが、力が欲しいって言ったもんでな」

「力を与え、その先娘がどうなるか想像しなかったのであるか」

「それに関しては俺も甘い見たてだったと反省してるさ。まさか、アイツがここまで歪んでたなんてな。
 ――――ま、だからこうして俺がここに出てきたんだよ」

割れた路面を蹴って左天が跳ぶ。
一足でアックアの前まで跳んだが、しかし、

「ぐ……!」

振るわれたメイスで一蹴される。
とはいえ攻撃事態は金属で受け止めことなきを得た。

(……さて、どうするか)

体勢を立て直す暇もなく、アックアの二撃目が放たれる。
いまだ空中にいる左天にそれをかわす術はなく、先と同じように金属で防いでそのまま吹き飛ばされる。

(ヤツの身体能力は俺より上、ってとこか。ついて行けてるがありゃあ本気じゃねえな)

地面に着地した瞬間に三撃目。落ちながら放たれる真上からのメイスだが、その速度は重力の力なんて
関係ない域まで達している。
その一撃を左足を軸に身体を回転させ、紙一重で避ける。
砕かれたアスファルトは弾丸となって炸裂するが、しかしその程度では左天の身体は傷つかない。

(しかもこのメイス―――身体能力でも射程でも負けてるってなると、さてさて)

120: ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 19:08:32.82 ID:srwVrjko
(ま、考えててもしょうがねえか)

放たれるのは四撃目。真横から薙がれたそれを、右腕で受け止めて掴む。

「ぬ―――」

途端にメイスが凍った。
とは言ってもたかだか凍った程度でその鈍器の機能が削がれることはない。しかし、
掴まれたメイスはアックアの想像以上の力で掴まれており、左天の手を振りほどけなかった。

アックアが動けないその一瞬を狙い、左天は攻撃を仕掛ける。

「第四波動……!」

ごう、と爆炎がアックアに直撃する、かと思われたが、アックアはメイスから手を離し攻撃を回避した。
自らの武器を捨ててまで攻撃を回避する。
即ち、規格外の化け物であれ、攻撃を喰らえば身体が傷つくという証明だった。

「これで丸腰同士になったな」

「ふん―――武器を攫った程度で互角になったつもりであるか」

「さぁてね」

そんなわけない、と左天は思ったが口にはしない。
アックアが本気で戦っていないことなど、彼にはすでにわかっている。
その速度。そしてこれだけの重量をもつメイスを軽々振るっていただけの腕力。
それが底でないのなら、左天はアックアに勝つ術などない。

(『アレ』が使えりゃ相打覚悟でなんとかなったかもしれねえが、どうやら使えねえみたいだな。
 第四波動じゃ当てたとしても致命傷にはなりゃしねぇ……参ったな)

壁を素手で登ったりただの拳で壁を破壊してきた神父を相手どっていた彼も、
際限の無い強さをもった二重聖人相手には分が悪かった。

そもそも、左天は全力で戦えない状態にあるのが。

121: ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 19:10:17.57 ID:srwVrjko
「しかし武器を奪った程度で丸腰とはいささか甘いのではないのかね」

「あん……?……―――!」

アックアが右腕を振りあげると、空中に水の塊が、その場だけ重力がないように丸い形になって現れる。
それはぬるりと動くと瞬時に複雑怪奇な魔方陣を描き、そこから太い水の槍が飛び出した。

(水の能力者―――いや、魔術ってやつか!)

左天は後ろに跳んで水の槍を交わすが、その矛先は地面へ突き刺さることなくぐにゃりと歪み、無数に分裂し彼を追う。

(しかも追尾とは、面倒だねどうも)

彼の身体を貫かんとする水の刃から身をかわしつつ、彼は大元である魔方陣を破壊しようと目をむける。
魔方陣は変わらずそこにあり、槍を生み出し続けている。
だがしかし、その傍にいたはずのアックアはどこにもいなかった。

(チッ……!不味い、見失っ―――)

「どこをみているのかね」

立体的に回避していた左天の下から、冷たい声がかけられる。
咄嗟に下を向くが遅い。
彼はアックアが右手にもっていた水で作られたハンマーで思いっきり打ち上げられる。

「ぐっ……!」

そこへ水の槍が追撃する。
空中ではろくに身動きがとれなず、だから左天がこの先串刺しになることは明白だった。


122: ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 19:11:24.59 ID:srwVrjko
無数の水の槍は一点を貫く。
しかし、そこには左天の身体は無かった。

「あの状況でかわしたか……!」

アックアが驚きの声をあげる。
左天は自身の身体を貫こうと一点に集中した水の槍を、その刃が肌に触れる一瞬前に拳で殴りとばして
強引に身体をひねり攻撃をかわした。
そのまま集中した槍の束を掴み、凍結させる。
掴まれた部分から凍結が広がり、魔方陣まで達すると、ぱきんと高い音を出して氷は弾けた。

「充填完了、っと」

たん、と身体をぐらつかせることなく地面へ着地する。
その様子をみて、アックアは呟いた。

「魔術による加工を施した水でさえ凍結させる、か。なかなかいい能力である」

「そりゃどうも。だがあいにく俺は魔術なんてもんには詳しくないんでね。いつも通りにやってるだけさ」

「その動きもたいしたものである。聖人である私についてこれるとはな―――」

言いながらアックアは左天へ向かって跳び、拳を振るう。
わき腹を狙ったそれを捌くが、コンマ一秒もたたないうちにすぐに別の方向から拳が繰り出されていた。
しかし勿論それも捌き切る。
何十回何十通りという拳のやりとり。
「速」の能力者同士が拳を合わせてようやくたどり着けるであろう応酬を二人は続けた。




そして。

123: ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 19:52:26.29 ID:srwVrjko
――――第11学区

ふらふらと歩いている。
どれだけか走ったあと、一度転んで、起き上がる気力なんてなかったけれど、
それでも逃げろって言われたから逃げなきゃって思って、走り続けた。
ここがどこかなんてわからない。
辺りは暗くて、少なくとも私が来るような学区じゃない。

かつん、と段差にひっかかって、べしゃりとみっともなく地面に倒れる。
膝がじんじんと痛むけど、逃げろって言われたからやっぱり立ちあがって歩きだす。
走る力はもう残ってない。
肉体的にも、精神的にも。


あの時少しだけ見えた左天さんの腕の金属は、初めて会った時と同じ形をしていた。
つまり、私の中から左天さんと一緒に第四波動の能力が無くなったということ。

〝―――もう無理だと思ったら俺は消えるからな〟

「……っ」

それは、左天さんに愛想を尽くされてしまったということと同じだった。
友達を失くして。守りたい人も失くして。左天さんまで失くしてしまった。

「……ひとりに、なっちゃった」

鼻の頭が痛くなって、じわりと目が潤む。
景色がぼんやりとしてよく見えない。

「ぅ……ひっ、ぅ……」

これからどうすればいいのかわからない。
ただただ何もかも失ってしまって、あまりに空しくて涙が出てくる。

「ぅ、ふぇ……っく……ひっ……」

しゃくりを上げながら暗い中をさまよう。
もう何処にも、行くあてなんてないのに。

128: ちなみにこのssの楽しみ方は鼻で笑いながら読むことだよってミサカはミサカはさりげなく呟いてみるなう ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 20:38:45.00 ID:srwVrjko
ごぉん、と音がした。
あまりに大きな音は、ぐちゃぐちゃした考えを一瞬で吹き飛ばすくらいに私を驚かせた。

「ひっ……な、に……?」

音の発生源、私の遥か前方へと目をこらす。
けれど広がっているのは暗闇ばかり。

「……」

ベクトルを視覚化して、少しでも状況を把握しようとする。

「……なにあれ」

まっすぐと遠くへ向けた視線の先には、不自然すぎる熱の歪みがあった。
熱の波は球体状に曲がったりそれがいきなり吹き飛んだり、はっきりいって物理なんて無視した動きだった。
私だってそこまで詳しく勉強できなわけではない。
けれど、あれが異常な光景だということくらい、すぐにわかる。

「……」

けれど、わかったからなんだと言うのか。
今の私には何も出来ない。
あんな異常な空間へ飛び込んだところでどうしようもない。
そもそも私には、もう何かをする理由なんて――――――




ごぉん、ともう一度音が響いた。

その音を聞いて、私は。

130: ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 20:57:03.68 ID:srwVrjko
「……何、やってるんだろ。私」

コンテナで周りを囲まれた場所に私は居た。
そこはきっとあの轟音がした所。
どうしてこんなところに来てしまったかなんてわからない。
きっと、もう何もすることもないから、気にかかったところへ勝手に足が動いただけなんだと思ってる。

「……こっちかな」

ベクトルはさっきのように歪んではいない。
ただ僅かに揺らいでいる。
揺らぐベクトルを追いかけていく。
揺らぎはしだいに強くなっていく。

「……なんだろ。これ―――人、かな」

もしそうだとしたら、あんな轟音の中で無事なはずがない。
そのことを裏付けるように、揺らぎの元は移動していないようだった。

(足とか、怪我してるのかな……だったら、たすk)

助けないと、と思って足が立ち止まる。

(……何やってんのさ、私。助けるなんて、そんなの出来っこないのに)

きっとさっき感じた、誰かを助けようなんていう気持ちも偽物だ。
その裏には、何も無いのに。
この想いには、何も宿ってないのに。

「……」

それでも足は進む。
自分がしていることが馬鹿馬鹿しいってわかってても、のろのろと足は進んでいく。

そして一つのコンテナの角を曲がると大きな空き地に出た。



その真ん中。
腕を空へ突き出して、懐かしい顔が寝転がっていた。

132: ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 21:15:14.20 ID:srwVrjko
「削板さん――――」

会ったのはたった一回、たった一瞬だけ。
けれど忘れもしない。
学園都市の第七位。削板軍覇。

「……何してるんですか、こんなところで」

ふらふらと近づいていって、声をかけて傍に座り込む。
相手は私のことなんて覚えていないはずだけれど、それでも今は誰かの傍にいたかった。

「ん……誰だお前?」

足を引きずりながら結構音を立てて近寄っていたのに、まるで今さっき気付いたかのような言い方だった。
やっぱり、覚えていない、か。
それはしょうがないことだったけど、でもやっぱりちょっと悲しかった。

必死で左天さんを背負ってるその姿を褒めてくれた人。
私が誰かを助けているその姿を、始めて褒めてくれた人。
褒められて嬉しがってる時点で、やっぱり私の気持ちは偽物だったんだなぁ、って思うけれど。

「……あぁーーーー!!」

突如削板さんが大きな声を上げて飛び上がる。
飛び上がって、私を指さして目が覚めたかのように言う。

「お嬢ちゃんあれか!あの大男を背負ってた!なっつかしいなぁ、あんな根性ある女子は珍しかったから忘れてなかったぜ!」

久しぶり久しぶり、と私の肩をばんばんと叩く。
途端に、涙があふれ出した。

「うおあ!?す、すまん、強くしすぎたか……?くそっ、女を泣かせるなんて最低だ……なんて根性なしなんだ……」

「あ、ぅ……ち、違うん、です……」

わたわたした後に落ち込む削板さんに、涙をこらえながら声をかける。

涙が流れた理由なんてわからない。
けど、なんだかすっごく嬉しかった。

140: ◆oDLutFYnAI 2010/07/10(土) 22:15:16.32 ID:srwVrjko
「ん?そうか、ならよかった。危ねぇ、俺もあいつみてぇな根性無しになっちまうところだったぜ」

そう言いながらかんらかんらと笑う削板さんに、涙をぬぐいながら尋ねる。

「あいつ?」

「さっきちょっとやり合ってな。で、負けちまった」

そう言う削板さんの身体は、よく見るとところどころから血が流れていた。
服は破れているし、暗くて今まで気づかなかったが目を凝らしてみると辺りもひどいことになっている。
コンテナだと思っていた黒い影はアスファルトがめくれて崖のようになっているからで、
そして本物のコンテナはくしゃくしゃに潰れて転がっていた。
何をどうすればここまでの惨劇を起こせるのか理解できない。
けれど削板さんはその中で、負けたといいながら笑っていた。

「悔しいなぁ、ちくしょう。あんなヤツに俺の根性が届かなかったなんてよ。手加減までされてたのに全然だった」

「……辛くないんですか?」

「辛いさ」

即答だった。
笑い声は消えて、その顔には後悔の念が浮かぶ。

「自分の根性がぶっ潰されて、辛くねえわけがねえさ」

けどな、と削板さんは続ける。

「辛いとか、もう嫌だとか、そんなこと言ってる暇なんてねえ。世界は広い。あんなスゲェやつがいるんだ。
 俺も、根性入れ替えて鍛え直さねえとな」

やるぞー、と背伸びをする。


私にはそうやっている削板さんが、これっぽっちも理解できなかった。

187: ◆oDLutFYnAI 2010/07/16(金) 18:32:40.46 ID:zPR/pQIo
「……、根性って何ですか」

ぽつりと問いかける。
さっきから削板さんは
―――〝自分の根性がぶっ潰されて、辛くねえわけがねえさ〟
って言っていたけれど、根性なんてよくわからない言葉じゃ駄目だ。
そうじゃないと何もわからない。

「あー?うーん、何、って言われても困るが、そうだなあ。……まあ、俺そのものって感じじゃねえか。
 いや、違うか?俺の理想っつーか……とにかく、すげぇ大切なもんってところだな」

大切なもの。
だとしたら、

「じゃあ、そんな大切なものが壊されたのに、なんでそんなに、笑っていられるんですか」

だとしたら、削板さんはこんな風にいられない。
私みたいに。
何もかも壊された私みたいに、ぼろぼろになるのが筋なんじゃないのか。

「そりゃあお前、根性入れ直すからな。壊れたってんならまた作ってやりゃいいだけの話だ」

「―――――――ちがう」

「ん?」

「―――そんなの、違う。大切だって言うなら、そんなに簡単に作ったりできるはずない。
 ……無くなったのに、すぐに他のものに変えるなんてできっこない」

だから、と言葉をつなぐ。

「だから、削板さんの『根性』なんて、言うほど大切じゃない」

だって、そうでなければ駄目なんだ。
そうでなければ、自分がこんな風になっている理由がつかない。
私がこのザマなのに、同じような彼が違っているなんてありえないんだから。

189: ◆oDLutFYnAI 2010/07/16(金) 20:01:54.84 ID:zPR/pQIo
「―――見損なったぜ、オイ」

その一言で、さっきまでの緩い空気がピンと張られる。
何度か感じたことのあるこの空気は、削板さんが作り出したものだった。

「何勝手に人の根性を馬鹿にしてんだ。まさかてめぇがそんなに根性無しだなんて思わなかった」

しっかりとこっちの目を見て言われた。
見て、というより睨んでいた。
さっきまで穏やかだった目に怒りがこもっている。
けれど、私は言い返す。

「だってそうじゃないとおかしいもん!今まで信じてきたものが全部壊されてそんなに笑って居られるはずなんてない!」

声はほとんど泣いている。
だって不公平じゃないか。

「全部壊されて!全部失くして!拾えるものなんて何もない!!大切なものを無くすってのはこういうことなのに!
 笑っていられるはずがないんだから!!」

私はこんなにも辛いのに、あなたはそんな風にしているのはおかしいと。
同じ境遇にあるのなら、こんなに差が出るのはおかしいんだと。

190: ◆oDLutFYnAI 2010/07/16(金) 20:02:59.09 ID:zPR/pQIo
「……てめぇに何があったか知らねえが、それがどうした。ったく、本当に根性曲がっちまってるな。
 不幸自慢なんざ俺は聞きたくねぇ。悲劇のヒロイン気どってんじゃねえぜ」

「……っ!!」

予想外の冷たい言葉で固まる。
なんで。
こんなにも辛いって言ってるのに、なんでこの人はこんな風に。

「別に俺だって笑ってばかりじゃねえよ。けどよ、だったら立ち止まって泣いてたら誰かが助けてくれんのか?
 違うだろ。そうじゃねえよ。俺も、てめぇも、最後に立ちあがるのは自分自身の根性だろうが。
 他人にすがってやつ当たりすんな。てめぇが失ったもんが本当に大切なモンだっていうなら、立ちあがってもう一度掴み直してみやがれ!」

知っている。
もう、ヤツ当たりだなんて知っている。
削板さんにこんな風に言っいる理由なんて自分にもわからない。
ただもう、辛くて辛くて、誰でもいいから、誰かのせいにしたいだけだった。

それが間違いだってこともわかってる。
けどしょうがないじゃない。

「……けどっ!それが無理だから、……ぅ、く」

嗚咽が漏れる。
だって無理だもの。
あの人を救うことも、御坂さんたちの所へ帰ることも、左天さんと一緒にいることも、戦う理由だって、
全部もう帰ってこない。取り戻す方法なんてない。
行く先も無い。
戻る道も無い。
こんな状態じゃ、もう何もかも終わって何をするのも無理なんだ。

191: ◆oDLutFYnAI 2010/07/16(金) 20:03:29.28 ID:zPR/pQIo
「……、む」

削板軍覇は困った表情で頭を手で押さえる。
先ほど現れた懐かしい根性ある少女がいきなり根性無しな台詞を吐いて、
それにむかついたので怒ってやったら泣きだしてしまって泣きやまないからだ。
かれこれもう5分は泣き続けている。泣きやむ様子も無し。

(……怒りすぎたか?)

削板の心に罪悪感が灯る。
いくら根性を馬鹿にされたと言えど、女子供に手を出さないと決めている彼にとって、自分の手で
女の子が泣きだすなど、あってはならないことだった。
ここで削板がそこいらの男と同じであればすぐに謝罪し泣きやむよう手をつくすはずだが、あいにく
彼は自分の言ったことを曲げるつもりは無いから謝ろうとは思わない。けれど、やはり女の子が
泣いてしまっているというのは自分もまた根性無しということになってしまいそうだと悩んでいた。
つまりは、ひたすら根性で切り抜けてきた彼は、対人関係においてとても不器用な男だったというわけだ。

(……ちくしょうっ、どうすりゃいい)

考える。このどうしようもない状況を打破する方法を。
そういえば、と頭にひとつの考えがよぎる。
泣きやんでいる女の子を泣きやませる方法。それは確か―――

 

195: 194 それはギャグ過ぎる。  ◆oDLutFYnAI 2010/07/16(金) 20:46:03.66 ID:zPR/pQIo
削板の隣で座りこんでいる佐天涙子。
彼は、彼女の肩を掴んでぐい、と引き寄せて抱きしめた。

「……ふぇ?」

当たり前だが、その声は佐天のものだ。
さっきまで怒っていた相手がいきなり抱きしめてきたらそれはもう驚く。
というより、彼も彼女もこれで二度目の顔合わせなのに、いきなり抱きしめたらただの変 なわけだが。
しかしそんなことはやはり削板の頭の中にはなく、彼の頭の中にはある台詞が思いだされていた。
それはいつぞやに見た映画の中で、男が誰かに向かって言っていたもの。たまたま隣にいたヤツが
「こういうことされたら誰だって泣きやむわー」とほがらかに言っていたのを彼は思い出していたが、
実はそこには記憶違いがあり、本当は「こういうことされたら女の子なら惚れちゃうわねー」だったが
どうやら都合よく書きかえられてしまったようである。

そういうわけで、彼は佐天をわりと強く抱きしめながら、その台詞を読み上げた。

「えっと……〝傷は耐えるものじゃない。痛みは訴えるものなんだ〟だっけか……?
 ん、まあ、なんだ。辛いことがあったんなら、話してみろ」

必死で頭を振り絞った結果がこれだった。

(確か、女の子ってのは話しを聞いてもらうと気分がよくなるとかなんとか誰かが言ってた気がするなぁ)

というおぼろげな記憶とともに最後の台詞も付け加えられていた。
某映画で取り入れた知識と組み合わされて放たれた台詞は、普通の人なら彼が言ったことも含めて
噴き出してしまうものだったし、ましてやいきなり熱い抱擁をされたのだから、噴き出す前に平手のひとつでも繰り出したくなるものだ。

けど、佐天は今は普通の思考は無かったし、抱きしめられてもその温かさを感じるばかりで。
だから、今回限りは削板のとった行動はほとんど満点に近いと言えた。

200: ◆oDLutFYnAI 2010/07/16(金) 21:15:18.42 ID:zPR/pQIo
「……ふぇ?」

いきなり抱き寄せられて、そんな声が漏れる。
はっきり言って何が起こったのかわからない。
ただ、細身に見えたその身体は結構筋肉質だったり、あと、なんだか久しぶりな人肌だったりで、
少しずつだけれど気持ちが落ち着いていく。
削板さんの体温をぼんやりと感じていると、耳元で何か唸るような声が聞こえて、そして、


「えっと……〝傷は耐えるものじゃない。痛みは訴えるものなんだ〟だっけか……?
 ん、まあ、なんだ。辛いことがあったんなら、話してみろ」


―――たったそれだけで、心の中の嫌なものがざっくりと削ぎ落された。

(―――そっか)

そうだ。簡単なことだった。
あの人を救えず、帰る場所を失くし、おまけに左天さんを失くして、戦う理由だとかそういうものも壊されて。
何もかも失くしてしまった私はただただ寂しくて。
だから、単純だけどこうして誰かに優しくしてもらえるだけで、凄く救われた。

痛いのなら痛いっていう相手がいることとか。辛いって訴えを聞いてくれる相手がいることとか。
自分の中に溜めこまないで、誰かに聞いてもらえるだけで、私の気持ちはとても楽になって。


それが嬉しくて、そこで大泣きしてしまった。

201: ◆oDLutFYnAI 2010/07/16(金) 21:22:40.40 ID:zPR/pQIo
「――――――――、ぁ」

抱き寄せた少女から全く反応が帰ってこないことに、削板は不安を感じる。
不安を感じた一瞬後、


「―――、ぅ、っ、ふええええええええええええええええええええええええええええええん!!!!」


耳のすぐ後ろで、聞いたこともないような大きな声が聞こえて不安を吹き飛ばした。
しかし次にやってくるのは疑問と焦燥だった。

(あっれー!?ちくしょうみすったか?やばい、さっきより泣いてるぞオイ、どうするんだ削板軍覇……!)

とりあえず引き離そうとするが、佐天は彼の服を強く掴んでいるので全く離れる気配は無い。
どうしたものか、と考えた末とりあえず佐天の背中をさすってやる。

それからどれだけ経ったかはわからない。
佐天はずっと泣いていたし、削板はすることがないので佐天の背中をさすったり彼女の髪の毛をいじって遊んでいた。
そして、


「……ぶふぃー、とミサカは目の前の状況に驚愕をあらわにしてみます」

御坂妹と、残りの7人が物陰からその様子を窺っていた。

216: ◆oDLutFYnAI 2010/07/16(金) 22:32:30.22 ID:zPR/pQIo
しばらくして、大きな泣き声は止み、代わりに小さなしゃくりの音が寂しく聞こえている。

「……大丈夫か?」

削板は佐天の背中をさすりながら尋ねる。尋ねられた彼女はまだ横隔膜が正常に機能していない。
ひっく、ひっくと声を途切れさせながら首を小さく横に振る。

「ん、そうか。落ち着いたら話せよ。深呼吸すると楽になるらしいからな」

言いながら背中をさする。時折小さく跳ねる背中は年相応のそれだった。
それを眺めて、彼はなんとなく考える。

(……こんな女の子がこんな風になるまで追い込んだのはどこのどいつだ。ったく、根性足りてねぇなオイ)

ぶっ飛ばしてやる、と彼は思ったが、この結果は彼女が招いたものなのでその怒りの矛先には誰もいない。
そんな感じでまた少しだけ時間が流れたあと、佐天が口を開く。

「……っく、……聞いてもらって、っ、も、いいですか、っ……」

その言葉はまだ途切れ途切れだったが、それでもはっきりとした口調で紡がれた。
それを聞いて削板は変わらず背中をなでながら、

「おう。急ぐ必要はねえから、ゆっくり話せ」

となるべく優しく答え返した。


佐天が、ゆっくりと今まであったことを削板に告げる。
ある人がその人自身を犠牲にしてまで自分を救ってくれたこと。
その人を救うために、命をかけて行動していたこと。
友達が止めにきてくれたが、それを追い払ったこと。
3カ月近く戦ってきたが、その理由や想いは偽りだったということ。
殺されかけたが、間一髪である人物が助けにきてくれたこと。
そしてその人に逃げろと言われて、ここまでやってきたこと。

217: 寝る寝るね  ◆oDLutFYnAI 2010/07/16(金) 22:44:57.24 ID:zPR/pQIo
―――泣きやんでから、全部削板さんに話した。
    立ち止まりたくても雑音が邪魔で走り続けて、その結果全て破綻してしまったと。
    とてもつまらない、ありふれた悲劇のようなもの。それを、削板さんは何も言わずに聞いてくれていた。

    全部話し終わった後、凄く心が軽くなっていることに気付く。
    別に何かが解決したわけじゃない。現状に変化があったわけでもない。
    けれど、ずっと背負っていたものを、ひとまず下ろせたみたいな感覚で身体が軽い。

私の話が終わって、削板さんの声が頭の後ろのほうから届く。

「……よくわからねえが、随分と大変だったみたいだな」

よくわからない、か。
けれどそれでいい。こんなつまらないこと、わかる必要なんてないんだから。

「けどよ、ひとつ気に入らねえことがあるから言わせてもらうな」

「気に入らない、こと……?」

233: 232だよな!鏑木との絡みがやばい。あと一ページ目に出てきたあの女の子。名前忘れ散った  ◆oDLutFYnAI 2010/07/17(土) 21:20:47.20 ID:Aczt9mMo
抱きしめた格好のまま削板さんが言う。

「話を聞いてるとよ、お前はその恩人さんを命捨ててまで救おうとしてんだろ?」

「……してた、ですけど。今はもうどうにもできないです」

「ん……まあそれは後にしとくか。ただ、それっておかしいだろ。なんでお前さんは折角救ってもらってる命を捨てようとしてんだ」

――――。

「ソイツは自分を暗部に放り込んでまでお前を守った。ものすげぇ根性だよな。はっきり言って尊敬するぜ。
 だが、お前はソイツを取り戻すためとかなんとか言って暗部に喧嘩売りつつ死のうとしてたんだろ?
 誰かのために命をかけるってのは随分といい根性だとは思うが、だがそれはまっすぐな根性じゃねえ。
 だってよ、お前はソイツの折角の根性を踏みにじろうとしたんだぜ?」

――――。

―――――――――。

――――――――――――――、あ。

そうだ。言われてみれば、そうじゃないか。
なんで私はそんなことに気づかなかったんだろう。

あの人は私を人質に取られて暗部へ入った。あの人は私を守りたいって言ってくれた。
だと言うのに、なんで私はそんなあの人の気持ちを無視して、一人で走っていたんだろう。

「だからよ、正直さっき聞いた話じゃよくわからんかったりした部分が所々あったが、やっぱり一番気に入らねえのはそこだ。
 人の根性を踏みにじるようなことだけはすんな。せっかく守ってもらった命を粗末にすんなよ」

「……けどっ。だけど、私はあの人を、暗部なんてところから、救いたかったんです」

その言葉を聞いて、削板さんは「うーん」と一度唸って、それから一言。

「それも気に入らねえなあ。さっきから、なんで全部過去形なんだ」


234: ◆oDLutFYnAI 2010/07/17(土) 21:35:40.01 ID:Aczt9mMo
「え……?」

「『救いたかった』とか『今はもう出来ない』とかよ。さっき話してくれた時もなんだか全部諦めちまったみてえな言い方だったじゃねえか」

そんなこと言われてもしょうがない。
だって、今の私には何かをするだけの力が無い。
それに、今までだったらこうやって諦めそうになったらいつも雑音が響いてたのに、
今はなんだか涙と一緒にそういうのまで落ちて行ったみたいで何も聞こえてこない。

「……だって、今の私じゃ、何もできないですし」

だからこうやって答えるしかない。
何も出来ないし、そもそも自分を突き動かす『何か』がもう無い。
動く理由も、動く手段も失くしてしまったみたいだった。

「……はぁ。ったく、お前は本当に、ちょっと見ねえうちに随分根性無しになっちまったなオイ」

「なっ……」

240: ◆oDLutFYnAI 2010/07/17(土) 22:12:28.20 ID:Aczt9mMo
「やってねえうちから『何も出来ない』なんて諦めてんじゃねえ」

「……っ!けど、今の私じゃ何かをするだけの力は、」

「力が無い、か?力の有る無しなんて関係ねえよ。そんなことお前自身が証明してんだろ。
 俺が初めてお前に会った日、お前は何も無いただの女の子だったじゃねえか。なのにあんなでかい男を担いでただろ」

左天さんを助けたあの日のことを、削板さんは言っていた。
けれど、それは。
あの時私が抱いていたものは、すでに歪んでいたもので、誰かを助けて自分が何かをできるということを証明しただけだった。
無価値な自分を否定いたいという歪んだ気持ちでの行為。
だから私一人じゃ救えない。
だから削板さんの力を頼っていた。

「……違うんです。さっきも言いましたけど、結局それは私が自分を誰かに認めて欲しいって気持ちで、」

「それの何が悪いんだ。認められたいのも、褒められたいのも、誰だって同じだろ。御礼を言われれば嬉しいと思えるし、それが正常だ。
 見返りを求めない行動ってのは立派だが、そりゃあ立派すぎて、はっきり言ってそんなヤツは既に人間じゃなくてロボットだ。
 だからさっきお前が、自分の気持ちが云々だからどうの、って言ってたのは正直わけわからなかったな」


262: ちょっと精神保養させてくれ死にそう 2010/07/18(日) 20:46:11.83 ID:AS9AyiUo
―――2月20日

佐天「あ、一方通行さーん。こっちですこっち」

一方「わかってるからハシャぐな、みっともねェ」

佐天「えへへー。今日は付き合ってもらってありがとうございますっ」

一方「たまたま仕事もなかったからな。で?何しにいくンだったか」

佐天「メールの内容くらい確認しておいてくださいよ……新しい調理器具が買いたいんです」

一方「それでなンで俺が必要なンだよ」

佐天「ん、まあ、別にいいじゃないですか。こんな可愛い女子中学生とデートできるんですよ?」

一方「自分で可愛いとか言うなクソガキ。帰っていいか?」

佐天「わーっ!駄目!駄目です!ほら、コーヒーミルとかも見ますから!」

一方「とっとと行くぞ」

佐天「(てっきり『俺ァ缶コーヒーしか呑まねえンだよ!!』とか言ってくると思ったのに……)」

263: ちょっと精神保養させてくれ死にそう 2010/07/18(日) 20:58:52.07 ID:AS9AyiUo
――――。

佐天「むぅ……そういえば私の包丁って結構な安物だったっけ。この際新しいのを……けど高いなぁ。
    それなりに奨学金入るようになったとはいえ……それにやっぱり包丁とかは伝統系が私は好きだし……外で買うか……」

一方「切れりゃァなンでも同じ……てわけでもねェのか」

佐天「そりゃあもう。正直外のヤツよりこっちの合成品の方が切れ味とかいいのはわかりますけど、
    やっぱりこう、手作り感?とか大事にしたいお年頃なんです」

一方「というよりも『オーダーメイド』ってのに憧れるお年頃なンじゃねェのか」

佐天「そうかもしれないですけど、どっちにしろ結構値段しますし、今日はやめときます。次いきましょう次」



一方「まな板なんて見て何してンだ」

佐天「いやぁ、学園都市にも木製のまな板なんてあったんだなーって。なんだかんだで木は雑菌繁殖しやすいですし」

一方「それ合成品だぞ」

佐天「嘘ォ!?……あ、本当だ!」

一方「植物由来のモンを混ぜてっから外から来た板前とかは好ンで使ってるらしいけどなァ」

佐天「うーん、なんだかいろんな伝統が科学に負けるって、ちょっと複雑な気分かなぁ」

264: ちょっと精神保養させてくれ死にそう 2010/07/18(日) 21:06:39.96 ID:AS9AyiUo
一方「よく考えたら俺コーヒーミルの知識なンざ持ってなかった」

佐天「私もですけど……ん、一方通行さんって無趣味ですから、いっそこれを趣味にしたらどうですか」

一方「電動じゃなく手動でのンびり豆挽けってか?あいにく、そンなに暇じゃねェよ」

佐天「ははっ、打ち止めちゃんの写真みて鼻息あらくしてる人がなにをぅはぁっ!?」

一方「次変なこと言ったらベクトル操作だヒャッハー!」

佐天「すみません……まぁ、冗談抜きでどうですか?一方通行さん結構凝り性っぽいですし、いいと思うんですけど」

一方「マジでそンなに時間ねェンだよ。そンなに言うならオマエが俺に淹れてくれ」

佐天「ぶはぁっ」

一方「……何?」

佐天「あ、いえ、なんでもないです(まさか『俺のために毎朝味噌汁つくってくれ!』が生で聞けるとは……)」

一方「しかしよく見りゃ結構値段すンな。オマエらの感覚で」

佐天「いかに奨学金がはいろうと一万以上のものは手が出しづらいですね」

一方「……欲しいか?」

佐天「……それは、『俺のために毎朝コーヒーいれろ』ってことですか?」

一方「そンなこと言わねェけどよ、まァ、そういうのもいいかもな」

佐天「てことは私が喫茶店開けば全ての問題が解決するわけか……」

一方「なンでそうなる」

265: ちょっと精神保養させてくれ死にそう 2010/07/18(日) 21:11:24.13 ID:AS9AyiUo
―――――。

佐天「今日はどうもありがとうございます」

一方「結局何も買わなかったけどな」

佐天「女の子の買い物なんてそんなもんですよ。ちょっと疲れちゃいましたし、あそこのベンチで休憩しましょう」

一方「疲れたんなら帰ればいいじゃねェか」

佐天「いいからー。ほらほら、私は先に行ってますから、一方通行さんはせいぜい缶コーヒー買ってから来てください」

一方「そこはお前が奢るとこだと思うンだかなァ」

佐天「私は微糖でお願いしますねー」



一方「クソガキがー。買ってきてやったぞ」

佐天「ん、ありがとうございます……てこれブラックじゃないですか!苦い!」

一方「甘いコーヒーなンざ認めねェヒャッハー!」

佐天「別にコーヒーが甘くてもいいじゃないですか……うぇ、苦い……」

267: ちょっと精神保養させてくれ死にそう 2010/07/18(日) 21:18:17.18 ID:AS9AyiUo
――――

一方「さて、そろそろ帰るか。じゃァな」

佐天「あ、はい……あの、一方通行さん」

一方「なンだよ」

佐天「……これっ」>>258

一方「……なンだよ」

佐天「ぅ、あの、じ、時間差攻撃ですっ!」

一方「……はァ?」

佐天「ほら、この前バレンタインだったんですけど当日に渡してもあんまり驚いてもらえないかなっておもったりして
    それで今日は買い物とかいって付き合ってもらって実はこれは渡すためだけの一日だったんですけど
    ああもうそんなことどうでもいいから受け取ってください義理なんかじゃないんですからっ!!」

一方「お、おォ……」

佐天「そっ、それでどうなんですかっ!いいんですか!?駄目なんですか!?ああもう、いいですちゃんと一か月後に返事聞かせてくださいねそれじゃっ!!」だっ

一方「あ、オイ!」

一方「……」

一方「……俺、チョコとか苦手なンだが」



一方「……苦っ。カカオ99みてェな苦さだなオイ」

終わり。

280: ◆oDLutFYnAI 2010/07/18(日) 23:01:13.62 ID:AS9AyiUo
「……っ」

削板さんの言うことは正しいのかもしれない。
けれど、認めてしまってもいいのか躊躇う。

認めてしまえばきっと後悔の念に押されて死んでしまう。
私が全てを失くしてしまった発端が、あの人を死んでも助けるという衝動。
しかしそもそもそれ自体が間違いで、あの人はそんなことを望んでいなかったというのなら、私はあの人を裏切って、
勘違いしたまま走って親友まで裏切ってしまった。
間違えていた。何故もっと早く気付かなかったのか。気付けば、違う道もあったはずなのに。
そんな後悔に飲まれて、今にも潰れてしまいまそうになる。

それに、もし私の戦う理由が間違ってないって言うんなら、どうして――――。

「でも、私はそれでも、」

「だーっ!ったく、さっきからぐちぐち言いやがって、この根性無しが!!」

肩を掴んでがっと私を引き離す。
―――離れていく人肌がやけに寂しい。
肩を掴んで、ぐっと私の目を見て、削板さんは言った。

「とにかくだ!一番言いてえことは今お前が何をしたいか、って話だ!」

「何をしたい、って」

「救いたいやつがいるなら救ってみろ!力が無いとかどうだっていいんだよ!お前の気持ちはどうなんだ!
 お前は今、そいつを救いたいのか、どうなのか!それを聞かせろ!!」

私はまだ、あの人を救いたいのかどうか。
そんなの決まってる。
全部失くした心で、救いたいかそうでないかと聞かれたら、それは。

「……救いたいに決まってるじゃないですか。私は、あの人をこっちへ連れ戻したいんです」

「だったら今何をしなきゃならないか考えろ。泣くなとは言わねえが、泣きっぱなしでも駄目だ。
 お前は今しっかり泣いたんだから、次は前へ進むことを考えろ」

今私がしなきゃならないこと。今の私に出来ること。
力を失くして、それでも私がするべきことは―――――

282: ◆oDLutFYnAI 2010/07/18(日) 23:30:22.16 ID:AS9AyiUo
―――第19学区

―――そして。勝負はついた。

「……は。敵わねえなコイツは」

幾度にわたる拳の応酬の末、先に一撃をいれたのはアックアだった。
たった一撃。しかし、二重聖人の一撃となれば、本調子でない左天を打ちのめすには十分すぎる。
そのことを理解したのか、左天は後ろに引いて両手をあげた。

「参った。俺の負けだ」

「そうか、ならばおとなしく殺されろ」

「つれねぇな。少しくらい残りの命を味あわせてくれよ」

「私にはまだあの少女と、もう一人の少年を消さねばならんのでな」

そんなに暇ではない、とアックアが言う。
それを聞いて左天は笑いながら、

「はっ、何言ってんだか。言っとくが、俺を殺せばあいつを殺す必要なんざないぜ?」

「何……?」

眉をひそめるアックアを前に、彼は壊れた路面へ座り込んでいつもと変わらない様子で飄々としている。

「アンタ自身も言ってただろ。あいつに力をやったのは俺で、その俺がこうしてここに居るんだ。
 だったら今のあいつが何の力を持っていないのは道理だろ?」

「……なるほど。貴様自身が力だったというわけであるか」

「まーそんな感じだな」

283: ◆oDLutFYnAI 2010/07/18(日) 23:42:14.15 ID:AS9AyiUo
「ならば」

アックアは落ちていたメイスを拾い上げ、振り被る。
左天は十分射程圏内に入っているが、座ったまま動こうとしない。
それは既に身体を維持するだけで限界だからなのかはわからないが。

「ここで貴様を殺せばあの少女は救われる。それがわかれば躊躇うことなく殺せるのである」

「そりゃ確かにそうだ。けどま、もう少し待ってくれねえかな」

「何をであるか」

「俺はまだアイツの答えを聞いてねぇんだよ。それだけ聞かせてくれ」

「ふざけたことを。戦場でそのようなことが許されると思うか」

侮蔑した感情をこめて放たれる言葉に、

「頼む」

左天は、いつものように飄々とした口調ではなく、実に真面目な口調で返した。
唐突すぎる変化に少々躊躇いを感じるものの、アックアの決定はその程度では揺るがない。

285: ◆oDLutFYnAI 2010/07/19(月) 01:09:56.63 ID:bQMcnD2o
「―――ひとつ、聞かせるのである。答えとはどういうことだ」

それでも、左天の言う『答え』という単語にひっかかったのか、それだけ尋ねてみる。
メイスは振りあげたままだと疲れるので下ろした。

「いやな、俺は最初にこの能力をあいつにやるときに聞いたんだよ。力が欲しいかならくれてやる、ってな」

三か月ほど前の昔話を始める。
ほんの少し前だが、とても懐かしく感じるのは、きっと消えてしまう寸前だからだろう。
走馬燈のようなものだと左天は思った。

「アイツはよ、何も出来ない自分を嫌っていて、そんな自分を変えたかったんだそうだ。
 そのために取った手段が人助けだったんだよ。立派じゃねえか」

「どうかな。そのような想いでは何も成し遂げられぬ」

「そんなことねぇよ。ただ、アイツはちょっと勘違いしておかしな道へずれちまっただけさ。
 そういうこともあって俺はアイツにちょっと休んでゆっくり考えろって言ったんだが、まあ聞いちゃいなかったわけだ」

やれやれだぜ、と息を深く吐いて頭をかいて、「まあそれは俺のせいなんだがな」と小さく呟く。

「その時に、その勘違いが治ってるかどうか聞くために後でもう一度会いに来るからな、って約束したんだよ。
 だから答えを聞くまで消えるわけにはいかねえのさ」
 

286: ◆oDLutFYnAI 2010/07/19(月) 01:33:18.70 ID:bQMcnD2o
「―――成程。そちらの事情はわかったのである」

そう言ってアックアはメイスを陰の中へしまいこむ。
武器をしまうとはそれすなはち、

「なんだ、問答無用で殺されるかと思ったが猶予はくれるのか」

「放っておいても消えるというならば問題なかろう。突然現れたのなら忽然と消えるのもまた道理。
 先刻拳を交えた感触では、その身体、よく出来ているが違和感があった。それもかんがみれば、貴様の言うことは事実だろう」

「まぁなー。たぶん、持って今日の夜明けまで、ってとこだろ」

「ならば夜明けまで待つのである」

それだけ言うと、アックアはがんっ、と地面を蹴って空を跳んで、あっという間にその場から立ち去った。
それを確認すると、左天はぼろぼろの地面へと寝転がる。

「……ふぅー。さて、どうなるもんかね」

果たして佐天はどういう選択をするのか。
しかしどのような選択をしようとも、その解答が間違っていればこのまま消えてしまえばいいし、
そもそもまたここへ戻ってくる可能性だって低い。
何せ完全に心を折られたのだ。単純に心を折られたのではなく、力による実力差をもってして、だ。
殺されることの恐怖。死を現実に感じるには、あの年頃の娘では早過ぎた。

287: ◆oDLutFYnAI 2010/07/19(月) 02:00:16.67 ID:bQMcnD2o
「……俺が間違ってたのかね」

ぽつりとつぶやく。
能力を継承すると同時に、自分の人格等もまた、佐天の中へと残ってしまった。
『フラグメントの継承』という一度も成功したことのない実験を成功させてしまったことから、
何が起きても不思議ではないとその時は片づけていたが、しかし実際はそんなものではない。

一人の脳には一つの人格。それが限界。
二重人格などは結局逃避するための手段であり、分岐しただけで真に二つあるわけではない。
しかしこの場合は違う。本当に二つの人格が一つの頭の中に存在している。
それがどれほどの負荷をかけるか、全く気付いていなかった。

結果として佐天の願いは歪んだ方向へと走っていったし、固定されて立ち止まることも出来なかった。
あの雑音はそのためだ。
別に意図していたわけではないが、能力を継承するさいに『どうして戦うのか』という理由をつけてしまい、
その理由に納得したからこそ能力を受け渡し、それゆえに能力をもっている間はその理由に縛られ続ける。
『左天』という人格が『俺はその理由のためにこの能力を受け渡したのだからお前はその理由を全うしなければならない』と、
無自覚のうちに佐天涙子を攻め立てることになってしまったのだ。
勿論左天はそのようなことは望んでいなかったが、『左天』という人物の経験から記憶が佐天へと少しずつ流れていたように、
『強制力』もまた、少しずつ働いていた。
最近になってそれが大きくなっていたのは、佐天が短時間で能力を使用しすぎたことによるものが大きい。

「辛い目にあわせちまったなぁ」

自分がいなければこんなことにはならなかった、と左天は思う。
あのまま何もせず消えていれば、彼女はただの普通の学生でいられたのに、自分のきまぐれでこんなことにしてしまったと悔んでいる。
了承したのは彼女だったが、それでも『巻きこんでしまった』ことには変わりは無かった。

そうやって、冷たい空気を感じながら空を見ている。
月は随分と沈んで、今は星がよく見えている。
静かで涼しい夜だと思った。
そんな静けさは―――


「―――オイオイ、なンですかァこいつァ。馬鹿みてェな音がしたから来たらヒデェことになってやがる」

不意に現れた第一位の声で撃ち破られた。


「辛い目にあわせちまったなぁ……

334: ◆oDLutFYnAI 2010/07/28(水) 19:57:07.53 ID:FmZ6sREo

――――。

「……行かないと」

出来るかどうかはわからない。
けれど、すべきことなら。

「戻って、左天さんと一緒に戦わないと」

あの敵が私を殺すと言うのなら、まずはそれに勝たなきゃいけない。
一方通行さんを助けるためには、私が生きていなきゃいけない。
だから目の前の災害を振り払うために、またもう一度、左天さんと一緒に戦わなきゃいけない。

勿論左天さんが了承してくれるかどうかなんてわからないし、断られるかもしれないけれど。
でも今私が出来ることは、これだけだった。

「―――そっか。よっし、することが見つかったんなら次は足を動かさなきゃな」

言いながら、軍覇さんはゆっくりと立ち上がって、座り込んでいる私に手を伸ばす。

「ほら、立てよ。俺が手を貸してやれるのはここまでだ」

「……」

差し出された手を握り返すと、力強く引き上げられた。


―――――ああ、そっか。ひどい勘違いをしてた。私は、ずっと―――――


335: ◆oDLutFYnAI 2010/07/28(水) 19:57:35.53 ID:FmZ6sREo

「……っと、」

少しふらついたけれど、でもちゃんと自分の足で立てる。
立てたから、まだ私は走っていられる。

「―――助かりました、軍覇さん」

「気にすんな」

根性注入ー、と軍覇さんが私の手を強く握りしめてくれた。
超能力者第7位が非科学的なのもいいとこだと思ったけれど、でも、確かに元気は貰った。

「―――それじゃあ、行ってきますね、軍覇さん」

彼の目をしっかりと見据えて。
もう一度走り出す気持ちを伝える。
軍覇さんもしっかりと私を見つめて。
その気持ちをまっすぐに受け取ってくれた。

「ああ!もう一度お前の根性、見せてくれよな!!」

そして彼は手を離す。
それが合図と言わんばかりに、振り返って走りだす。

後ろは見ない。
間に合うかわからないけれど、それでも私は左天さんの元へと駆けていく。

336: ◆oDLutFYnAI 2010/07/28(水) 19:59:05.08 ID:FmZ6sREo
―――。

軍覇「……行ったか」ドサッ

御坂妹「お疲れ様です、とミサカはコンテナの陰からひょっこりと出没します」

軍覇「お、8つ子ちゃんじゃねえか。もう身体は大丈夫なのか?」

御坂妹「ええ、少し気絶させられていただけで元々大したことありませんでしたから、と
     ミサカは自分の身体をぐいんぐいんねじって調子を確認します」

軍覇「そりゃよかった。しかしわりぃなぁ、お嬢ちゃん達をボコボコにしていったヤツに負けちまった」

御坂妹「それに関しては、任務を全うできなかったミサカ達に責任がありますので気にしないでください。
    それよりも、とミサカは言葉を続けます」

御坂妹「涙子のこと、ありがとうございました、とミサカは頭を下げて御礼をします」

軍覇「るいこ?あー、さっき走ってったお嬢ちゃんか。なんだよ知り合いだったのか。
   つーか別に俺は何もしてねぇよ。ちょっと根性いれてやっただけさ」

御坂妹「……そういえば、ひとつ気になったのですが、とミサカは貴方に問いかけます」

御坂妹「『傷つけられた女の子のために立ちあがれるんだ』、でしたっけ?こう言うくらいですから、
    理由を聞いたらすぐに涙子の手助けをすると思っていたのですが、とミサカは疑問を抱きます」

軍覇「俺だって他人の大切な意志を奪うことはしねぇよ。あの戦いはあの嬢ちゃんだけのもんだからさ。
   俺が出て行ったところで、何も解決しねぇっつーか何でてめぇその台詞知ってんだ?」

御坂妹「実はあの時既に意識は取り戻してました、とミサカはさらりと暴露します」

軍覇「えー」

337: ◆oDLutFYnAI 2010/07/28(水) 20:00:14.01 ID:FmZ6sREo
―――――。

簡単な話だった。

いつからか、一人で問題を解決できるようになろうとして、強くなれるように頑張ってきた。
身体を鍛えたり、勉強したり、能力の練習をしたり。
確かにそれは間違ってなかったと思う。けれど、一番最初が間違っていた。
佐天さんから力を貰ったあの日から、結局私は一度も一人で戦っていない。
借り物の力を振りかざして、まるでそれが自分の力であるかのように、自分一人で戦っているかのように錯覚していた。

それは一人じゃ何も出来ない自分を認めたくなかったからだ。
結局他人の力を借りてしか何かを出来ない自分が嫌だったから、その事実から目を背けてきた。
弱い自分を直視できない弱さ。

      レベル0
御坂さんは私なんかに負けたことを受け入れた強さがあった。
軍覇さんは自分の弱さを素直に受け止めて、さらに前へ進もうとする強さがあった。
一方通行さんは自分が救いたいもののためなら、最強の能力を手放すこともいとわない強さがあった。

けれど、私にはそんなものは無くて、弱い自分を必死で隠していくことしか出来なかった。
だからいつになっても自分の弱い部分に気付けないまま、間違ったままここまで来てしまった。

けれど、もう大丈夫だ。


「―――私は弱い。一人じゃ何も出来ないくらいに弱い。
    けれどそこに問題なんて無い。一人で何も出来ないなら、二人で頑張ればいいだけなんだ」

たったそれだけ。
そんなことにも気付かず仲間を振り払ってしまった自分に苛立つけれど、今は前を見よう。

もっと速く。

ずっと一緒に戦ってきた、あの人の元へ―――

338: ◆oDLutFYnAI 2010/07/28(水) 20:01:01.12 ID:FmZ6sREo
――――――第19学区

「……っ!」

ひどい有様だと思った。
私が逃げだした時もそれなりに破損はしていたけれど、それに加えて破損が広がっている。
けれど、何かおかしい。

「……壊れてる所が、少なすぎる……?」

左天さんはおそらく完全な状態で顕現したはずだ。
夢で何度か視たあの動きなら、もう少しくらい辺りが壊れててもおかしく―――

「まさ、か」

嫌な予感がした。
でも、この静かさだと、もう。

間に合わなかったのか、と。

そんな考えがよぎったときに、視界の端に、何か―――


「……ぅ、ぁ……!!!」

泣きだしそうに、なる。
見えたのは、地面に仰向けに倒れている左天さんだ。

「さ、てん、さん―――左天、さん。左天さん!!」

駆け寄って名前を呼ぶけれど返事はない。

私が間違えてしまったばっかりに。
私の恩人を死なせてしまったのか。



339: ◆oDLutFYnAI 2010/07/28(水) 20:01:27.45 ID:FmZ6sREo

「―――うるせぇ。ちゃんと生きてるっての。いやまあ、死んでるんだが」

「……っ!左天さんっ!!」

「ハイハイ左天さんですよー……さて、あんまり時間もねぇし、さくっと話進めさせてもらうぞ」

左天さんが生きていたことを喜ぶ暇もなく、話を続けようとする。
けれど、時間がないとはどういうことだろうか。

「まずは―――ここへ戻って来たってことは、答えは見つかったか?」

「―――」

少し前に夢の中で問いかけられた問に対して。
これから先、どうするつもりなのかと。
そんなもの、答えは決まっていて―――

「―――これからも、私は戦っていこうと思います」

「……俺はお前にゃもう諦めてほしかったんだがな」

左天さんが大きく息を吐きながら呟く。
その言葉はたぶん私のことを考えてくれての言葉だと思うと、なんとなく嬉しかったけど。

「私は皆の世界を守っていきたいんです。けど私一人じゃ何も出来ない。だから、もう一度力を貸してくれませんか左天さん」

ムシの良い話だってことはわかってる。
怖くて左天さんを見捨てて逃げだした自分にこんなこと言う資格なんて無いし、
左天さんの力をまるで自分の力のように使っていた自分が信用してもらえるわけなんてない。
あの時左天さんに誓った『誰かのために』も結局偽りだらけの想いだった。
約束を破った自分が許してもらえるとは思わないけれど、でも。
今この気持ちは嘘じゃないから。
私はただただ左天さんに、自分の想いを伝えるしかない。

340: ◆oDLutFYnAI 2010/07/28(水) 20:02:03.21 ID:FmZ6sREo
「―――はは、そうか。それがお前の答えなんだな」

呟く声はどこか満足気だった。それは、つまり、認めてもらえたってことなんだろうか。

「なあ涙子。俺よ、お前にひとつ謝らなきゃいけないんだが、聞いてくれるか」

「謝らなきゃいけないこと……?」

いきなりすぎる言葉に戸惑う。
左天さんが、私に謝らなきゃいけないことなんてあっただろうか。
むしろ謝らなきゃいけないのは私のはずなのに。

「お前さ、頭ん中にノイズ走ってたろ」

「―――!」

何故それを知っているのか。
いや確かに左天さんは私の中にいたのだから知っていてもおかしくないけれど。
いやそれより。
あの時も思ったけれど、どうしてあのノイズと左天さんの声が重なって聞こえるのか。

「まあ多分今はもう聞こえてないと思うが、悪いな、あれ俺のせいだったんだよ」

「え……?」

「簡単に言っちまうと俺がお前に力やるときの副産物みたいなもんだ。
 あの時のお前は『誰かのために』なれるようにって願ってただろ?それが変な形で固定されてな。
 だからお前が『一方通行を助ける』ことだけしか視えなくなるように思考が偏っちまうというか、
 それを諦めさせないような強迫状態を起こさせてたんだよ」

ああ、だから。
御坂さんたちの言葉に耳を傾けようとしても、それが出来なかったわけか。
影響を与えるのが左天さんということなら、それに私の意志が逆らえるはずがない。
何せ相手は私よりずっと強いんだ。だから、あの雑音に抗うことが出来なかったのも、
左天さんが私の中から消えてしまってから全く雑音が聞こえなかったこともうなずける。

「謝ってもすまねえよな。こんなことにならなけりゃ、お前はそこまで傷つくことはなかったんだからよ」

341: ◆oDLutFYnAI 2010/07/28(水) 20:02:34.11 ID:FmZ6sREo

「……違いますよ、左天さん。左天さんは悪くなんてないです。悪いのは、結局他人をダシにして自分が救われよう
 なんて思ってた自分が悪いんですから」

「―――そうか」

そう言う左天さんの声はさっきよりも丸くなっていた。
私なんかに対して罪悪感を感じていたりしたのだろうか。
そんな必要全くないのに。

「―――さて、力を貸してくれ、だっけか?けどな、もし俺がお前に力をやったら、またアイツに狙われるんだぜ?
 さっきアイツに事情を説明してな。このまま俺がお前に力を戻さなけりゃ、お前は対象から消してもらうよう話はついたんだよ。
 そういうわけだから俺はお前に力を戻したくねぇんだが―――」

「それは―――」

おそらく左天さんの言っているアイツとはアックアのことだろう。
ローマ正教神の右席後方のアックア。
規格外過ぎる相手で、目の前にせずとも死ぬと思えた化物。
そんな相手にまた命を狙われてしまうのだと思うと、心がすくみそうになるけれど―――

「―――戦います。戦って、勝ちます」

―――けれど、私はもう立ち止まらない。
何にせよ、あれがローマ正教から来ているということは、上条さんも対象に入っているということだろう。
さすがの上条さんでもあの化物には勝てない。
そして上条さんは私が守りたい人の一人だ。だとすれば、ここでアックアを斃さなければならないことには変わらない。

342: ◆oDLutFYnAI 2010/07/28(水) 20:03:03.94 ID:FmZ6sREo
私の決意は偽物なんかじゃない。
それを察してくれたのか、左天さんは静かに言う。

「……並大抵で勝てる相手じゃねえぞ」

「わかってます。けれど、勝ちます」

「自分を犠牲にしてでも、なんて思ってねぇだろうな」

それはリドヴィアの時のように、限界を超えて脳を壊してでも勝とうとすること。
けれどそれでは駄目だ。
一方通行さんに守られたこの命は、もう自分だけのものじゃない。

「そんなこと、思ってません。私が守りたい人の世界の中に、どうやら私も入ってるみたいなので」

「そうか……死にもせず、あれを斃す、か」

343: ◆oDLutFYnAI 2010/07/28(水) 20:03:30.71 ID:FmZ6sREo

少し考えた後に左天さんは何か呟いたようだったけれど、よく聞こえなかった。
そして大きくため息を吐いてから、

「―――力が欲しいんだな」

「はい―――私は、大切な人達の世界を守るために、力を貸して欲しい」

「……わかった」

「……っ!ありがとうございますっ!」

「ほら、頭こっちまで持ってこい。あー、こうしてると初めて会ったころを思い出すな」

「へへ、そうですね……あの時はあやふやだったけれど、今はそんなことないですからね」

「わかってるっての」

「ん」

左天さんの左手が頭に置かれる。
大きくて温かい手は、あの頃と変わってない。

「それじゃいくぞ――――あ、そうだ、言い忘れてたがな」

「はい?」

「俺、これで消えるから」

「えっ」









瞬間。
世界が白く塗りつぶされた。

371: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:30:51.78 ID:/4GLPJco
「―――っ、う……」

白く塗りつぶされた視界が開けてくる―――けれど、そこは。

「……何ここ」

さっきまでいた路地裏ではなく、白い床に白い天井がずっと広がっている不思議な場所だった。

「精神と時の部屋……ってわけでもないか。重くないし、空気も薄くないし、暑くないし」

くるりと見渡すけれど特に何かがあるわけでもない。
いやそれよりも。

「何処なのよーここはー」

「ここはお前の心ん中だよ。一度こうやって話したことがあっただろうが。まああの時は真っ暗だったが」

「左天さんっ?」

背後から左天さんの声が聞こえてきて振り返る。
さっきとは違い、何事もないかのように元気そうに立っている。

「心の中って、私の心って随分殺風景なんですね」

「いや別に心象風景ってわけじゃねえからな。―――けどま、何も言わずにさくっと消えようと思ったんだが、上手くいかねぇな」

372: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:31:38.91 ID:/4GLPJco
「あ、そうですよ!なんですか消えるって!!」

「……お前もわかってんだろ。お前が使ってた第四波動は、中途半端ってことくらい」

「……っ、それは、」

それはわかっている。
何度も夢で見て、そして今眼の前に立っている左天さんの腕についている金属。
そして『御使堕し』の時に、金属の腕輪が片方しか出なくなっていたあの状況。
『第四波動』をどれだけ引き出せているかは、どうやら腕の金属の大きさが尺度になっているようだった。
それは薄々気づいていたし、今はもう確信している。

「さっきアイツに挑んだが、まあ知っての通り負けちまった。全快じゃなかったとは言え、ありゃあなかなか勝てる相手じゃねえ」

それもわかっている。
『第四波動』だけでは―――左天さんだけでは勝てない、ということはなんとなく感じていた。
けれど、

「けど、第四波動に私の能力が加われば……」

「わかってるクセに言うな。それでも勝てねえよ」

「う……」

さっきは絶対に勝ってみせるとは言ったけれど、面と向かって否定されると困る。
身体強化と身体補強を全開にしてベクトル操作も使いながら戦えば勝てると思っていたが、
左天さんの口ぶりからするとそれでも無理だと言うらしい。

373: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:32:26.87 ID:/4GLPJco
「で、だ。お前の中途半端な第四波動じゃ絶対に勝てねえわけだ。なら勝率を上げるためにせめて
第四波動を完全に継承しねぇとダメだろ」

「そりゃあそうですけど、そんなこと出来るんですか」

「3カ月もお前の中にいたらどうすりゃいいかくらいわかるさ。けどまぁ、その代わりに俺は消えちまうが」

「だから何で消えるんですか!」

「しょうがねぇだろ、この自我は継承しきれなかった能力の残滓なんだからよ」

「え……?」

「それに俺が残ってたら、また変な強迫感が働いちまうかもしれねぇからな。そういうわけだから俺は消えるわ」

「そんな……そんなの駄目です!!一緒に戦ってくれるんじゃなかったんですか!!それに、」

それに。
私が初めて守りたいと思ったのは、誰でもない、左天さんなのに。

「……左天さんが消えちゃったら意味ないじゃないですか」

「―――有名な話をしてやるよ」

374: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:33:00.10 ID:/4GLPJco
――――『これから進む道は人生の道であり人間の業を歩む道。選択と苦悶と決断のみを与える。
     歩く道は多くしてひとつ、決して矛盾を歩むことなく』

     って。で、そこで初めて気付いたんだけど僕の背中の側にはドアがあったんだ。
     横に赤いべったりした文字で

     『進め』

     って書いてあった。

     『3つ与えます。
     ひとつ。右手のテレビを壊すこと。
     ふたつ。左手の人を殺すこと。
     みっつ。あなたが死ぬこと。

     ひとつめを選べば、出口に近付きます。
     あなたと左手の人は開放され、その代わり彼らは死にます。
     ふたつめを選べば、出口に近付きます。
     その代わり左手の人の道は終わりです。
     みっつめを選べば、左手の人は開放され、おめでとう、あなたの道は終わりです』

     めちゃくちゃだよ。どれを選んでもあまりに救いがないじゃないか。
     馬鹿らしい話だよ。でもその状況を馬鹿らしいなんて思うことはできなかった。
     それどころか僕は恐怖でガタガタと震えた。
     それくらいあそこの雰囲気は異様で、有無を言わせないものがあった。
     そして僕は考えた 。

     どこかの見知らぬ多数の命か、すぐそばの見知らぬ一つの命か、一番近くのよく知る命か。
     進まなければ確実に死ぬ。
     それは『みっつめ』の選択になるんだろうか。嫌だ。
     何も分からないまま死にたくはない。
     一つの命か多くの命か?そんなものは、比べるまでもない。
     寝袋の脇には、大振りの鉈があった。
     僕は静かに鉈を手に取ると、ゆっくり振り上げ
     動かない芋虫のような寝袋に向かって鉈を振り下ろした。
     ぐちゃ。鈍い音が、感覚が、伝わる。
     次のドアが開いた気配はない。もう一度鉈を振るう。
     ぐちゃ。顔の見えない匿名性が罪悪感を麻痺させる。
     もう一度鉈を振り上げたところで、かちゃり、と音がしてドアが開いた。
     右手のテレビの画面からは、色のない瞳をした餓鬼が
     ぎょろりとした眼でこちらを覗き返していた。

375: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:33:29.36 ID:/4GLPJco
     次の部屋に入ると、右手には客船の模型、左手には同じように寝袋があった。
     床にはやはり紙がおちてて、
     そこにはこうあった。


     『3つ与えます。

     ひとつ。右手の客船を壊すこと。
  
     ふたつ。左手の寝袋を燃やすこと。

     みっつ。あなたが死ぬこと。

     ひとつめを選べば、出口に近付きます。
     あなたと左手の人は開放され、その代わり客船の乗客は死にます。
     ふたつめを選べば、出口に近付きます。
     その代わり左手の人の道は終わりです。
     みっつめを選べば、左手の人は開放され、おめでとう、あなたの道は終わりです』

     客船はただの模型だった。
     普通に考えれば、これを壊したら人が死ぬなんてあり得ない。
     けどその時、その紙に書いてあることは絶対に本当なんだと思った。
     理由なんてないよ。ただそう思ったんだ。
     僕は、寝袋の脇にあった灯油を空になるまでふりかけて、
     用意されてあったマッチを擦って灯油へ放った。
     ぼっ、という音がして寝袋はたちまち炎に包まれたよ。
     僕は客船の前に立ち、模型をぼうっと眺めながら、鍵が開くのをまった。
 
     2分くらい経った時かな、もう時間感覚なんかはなかったけど、
     人の死ぬ時間だからね 。たぶん2分くらいだろう。
 
     かちゃ、という音がして次のドアが開いた。
 
     左手の方がどうなっているのか、確認はしなかったし、したくなかった。

376: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:34:21.86 ID:/4GLPJco
     次の部屋に入ると、今度は右手に地球儀があり、左手にはまた寝袋があった。
     僕は足早に紙切れを拾うと、そこにはこうあった。

     『3つ与えます。
 
     ひとつ。右手の地球儀を壊すこと。
 
     ふたつ。左手の寝袋を撃ち抜くこと。

     みっつ。あなたが死ぬこと。

     ひとつめを選べば、出口に近付きます。
     あなたと左手の人は開放され、その代わり世界のどこかに核が落ちます。
     ふたつめを選べば、出口に近付きます。
     その代わり左手の人の道は終わりです。
     みっつめを選べば、左手の人は開放され、おめでとう、あなたの道は終わりです』
 
 
     思考や感情は、もはや完全に麻痺していた。
     僕は半ば機械的に寝袋脇の拳銃を拾い撃鉄を起こすと、すぐさま人差し指に力を込めた。
     ぱん、と乾いた音がした。ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん。
     リボルバー式の拳銃は6発で空になった。
     初めて扱った拳銃は、コンビニで買い物をするよりも手軽だったよ。
     ドアに向かうと、鍵は既に開いていた。何発目で寝袋が死んだのかは知りたくもなかった。

377: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:34:53.00 ID:/4GLPJco
     最後の部屋は何もない部屋だった。
     思わず僕はえっ、と声を洩らしたけど、ここは出口なのかもしれないと思うと少し安堵した。
     やっと出られる。
     そう思ってね。
 
     すると再び頭の上から声が聞こえた。
     
     『最後の問い。
     3人の人間とそれを除いた全世界の人間。そして、君。
     殺すとしたら、何を選ぶ』
 
     僕は何も考えることなく、黙って今来た道を指差した。
 
     するとまた、頭の上から声がした。
 
     『おめでとう。
     君は矛盾なく道を選ぶことができた。
     人生とは選択の連続であり、
     匿名の幸福の裏には匿名の不幸があり、匿名の生のために匿名の死がある。
     ひとつの命は地球よりも重くない。
 
 
     君はそれを証明した。
     しかしそれは決して命の重さを否定することではない。
     最後に、ひとつひとつの命がどれだけ重いのかを感じてもらう。
     出口は開いた。
     おめでとう。
 
     おめでとう。』――――――

378: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:35:22.90 ID:/4GLPJco
「―――とまあ、お前が選んだ道はこういうことだよ。
 戦って勝つってことは、他人の思想信念を打ち壊すってことだ。
 『勝つ』という選択肢を選ぶことで自分とその周囲は救われる。
 だが相手は『負ける』という道をたどることになり不幸を歩むことになる。
 そのあたりきちんと理解してねぇと、戦う覚悟が出来てるなんて言わねえわけだが、そこんとこは大丈夫か?」

それは、わかっている。
悔しいけれど、それはアックアに諭された。

「……わかってます」

「そうか。それがわかってんなら、俺が消えちまうことにも納得してくれるよな」

「……ッ。それは……!」

匿名の幸福の裏には匿名の不幸があり、匿名の生のために匿名の死がある。
私の場合、知らない人じゃないけれど、おそらく言いたいことはそういうことだろう。

私も含む皆の世界を守りたいのなら、自分を捨てていけと。
皆の命を守るために、自分の屍を超えていけと。

たぶん、そういうことなのだ。

わかっている。
どうしなきゃ駄目なのかくらいわかってる。
けど、

「……駄目ですよ、左天さん。そんなの、選べるわけがない……!」

379: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:35:48.66 ID:/4GLPJco
頭じゃわかってるのに、納得できない。
自分が選んだ道とはそういうものだと理解しているのに、どうしても左天さんが居なくなることを認められない。

「何か無いんですか……左天さんも、私も、皆も死ななくて済む方法とか……」

「ねぇよ。さっき言ったことが全てだ。誰もかれもが救われるようなハッピーエンドなんざ幻想だ」

「う……」

――――。

――――。

――――。

「く、ぅ……」

「みろ、お前だってもう納得しかけてんじゃねえか。さっさと決めちまえ」

「ぅ、ぅぅぅぅぅぅ……!」

なんで。
どうしてこの人は……!

「けど、それじゃ左天さんが救われない……!!そんなの駄目だよぅ……!」

「……なんだ、お前。そんなこと気にしてたのか」

「そんなことって……」

自分が消えてしまうことを『そんなこと』で片づけてしまった左天さんに苛立つ。人のことを言えた身じゃないけど。

380: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:36:19.65 ID:/4GLPJco
「お前は気づいてねえかもしれねぇけどよ。この三カ月間、俺は十分に幸せだったんだぜ?」

「え―――」

「本当ならあのまま路地裏で倒れて消えてたところを生き長らえて、最後にはお前の力になれるんだからな。
 『御使墜し』だったか?あん時は楽しかったな。何の気兼ねもなくああして日常を過ごせるなんざ、
 向こうに居た頃は考えたこともなかった。

 ―――だから、さ。本音を言っちまえば、俺だって消えたくねぇんだよ」

「……っ!だったら―――」

「けどいくら考えても、これ以外に方法がねぇんだよ。
 時間があれば話は別かもしれねえが、無いものをねだってもしょうがねえからな」

「そんな……簡単に諦めないでよ!!何か、もっと他にあるはずなのに……!そんな簡単に……!」

「―――簡単なんかじゃ、無かったんだけどな」

「――――……ッ」

「わかってくれよ。俺は自分より、お前の力になってやりたいんだ」

―――そんな、ことを。
   言われてしまうと、もう―――



それからは、お互い口を開かなかった。
私はただ立ちつくしているだけだったし、左天さんはもう何も言わない。ただ、私の解答を待っているだけだ。

だから。
私は――――

381: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/29(木) 19:51:38.77 ID:/4GLPJco
「―――ごめんなさい、左天さん」

静かに、左手で左天さんの鍛え上げられた身体に触れる。
それはつまり。

「私は、左天さんを殺して前へ進みます」


大切な人との、別れの合図だった。


その解答に左天さんは、

「それでいい―――よく頑張ったな、涙子」

褒めて、くれて……っ

「……く、ぅ、……ぅ、ひっ、く……」

涙が止まらない。
悲しくて悲しくてどうしようもない。
泣いてる暇なんてないのに。
覚悟は出来てるはずなのに――――!

「―――馬鹿。泣くやつがあるか」

「でもっ……けどっ……!」

「気にすんなよ。ただ、元に戻るだけだ」

大きな手が頭を撫でる。
けれど、もう体温は感じられない。

「―――さて。それじゃ、そろそろいくか」

ああ、その前に、と左天さんは付け加える。

「『左天』って自我が無くなるってことは、俺の今までの経験や知識を歯止めするものが無くなる―――
 ―――だから、膨大な情報量がお前の頭の中に流れ込むことになる」

「……?どう、いう……」

「さっきお前が言った通りさ―――俺を殺して、前へ進んでみろ」





金属が割れる音がして。

私の意識は爆炎の中に投げ込まれた。

382: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/07/29(木) 19:52:26.70 ID:/4GLPJco
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――、」


意識は焼ける。
私が焼ける。
焼けるどころでは無く。
焼けて、粉々に吹き飛ばされる。



「―――――――――――――――――――――――――――――――――――、」


はいってくる。
爆炎と共に。
左天さんの全てが私を焼いていく。


「―――――――――――――――――――――――――――――――――――、ぁ」


勝てない。
左天さんは最後に勝ってみせろと言ったが勝てるわけがない。
何倍もの密度の人生を歩んできた彼に私の自我など塵も同然だ。


「―――――――――――――――――――――――――――――――――――、ぁ、ああ」


焼けているのに寒い。
端から削られていく。
自分が少しずつ無くなっていく。


「―――――――――――――――――――――――――――――――――――、ああああ」


終わった。
私の覚悟などこの爆風の前には何の意味も無い。
私は彼の力を手に入れることなんて出来ず――――





「――――――――――――――――――――――――、ち、がう」

383: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:54:35.05 ID:/4GLPJco
―――違う。
私は。
私は――――


「―――――――――違う……!」


なんだ。
まだ間違っていた。
そうだ、私は―――――


「―――私は、左天さんの力を手に入れるわけじゃない。
    私は、左天さんと一緒に戦っていくんだ……!」

都合のいい解釈かもしれない。
けれど、『左天』という人格は消えようとも。
私の傍には、ずっと彼が居てくれるって信じてる―――








爆炎が止み、遠くから声がひとつ。
これから先二度と聞くことが無いだろう彼の声は、いつもと変わらない調子で一言だけ。



       〝その通り。よく出来ました〟

384: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:55:14.86 ID:/4GLPJco
――――――――――。

冷たいアスファルトを感じて目を覚ます。
空はうっすらと明るくなってきていて、夜の終わりを告げていた。

「……、」

地面に倒れていた身体を起こす。
どこにも痛みはなく、むしろいつもより調子がいいくらいだ。

「……、」

あたりを見回すが、壊れたアスファルトと建物が広がるだけで、私以外には誰もいない。
当然だ。
左天さんは、もう。

「……その通り。よく出来ました、か。ははっ、最後の最後まで、変わらなかったな、あの人は」

自分が消える前に『戦ってみろ』だなんて。
そうやって間違いをおこさせるなんて、本当にいじわるだな、と思う。
けど、それはたぶん私がちゃんとわかってるかどうかためそうとしていたのだろう。

それに最後のあの声。
本当に、いつも通りの、飄々とした声だったな。

「―――よし」

さて。振り返るのはとりあえずここまで。
立ち上がって軽く身体をひねって、そして。



「―――それじゃあ、佐天涙子の最初の戦いに行きますか」

385: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:55:46.55 ID:/4GLPJco
―――。

「―――夜明けが近いな」

河原に座りながら空を眺めていたアックアが呟く。
彼が取り決めた時間は明け方まで。そろそろ刻限だ。

「……」

彼はいくつかの可能性を考える。
ひとつ、あの少女があの場に戻らず、男がそのまま消えてしまったこと。
ふたつ、戻って来たがこちらの世界に身を置くことを拒み、力を得なかったこと。
みっつ、力を取り戻したが、自分を恐れて逃げに入ったこと。

勿論これらはあの時の提案時にすぐに頭をよぎった可能性で、みっつめは無視出来ない可能性だった。
本来ならばあの場で確実に男を殺しておくべきだったのに、何故自分はそうしなかったのか。

「……甘いな」

それは自分の甘さだと、彼は結論付けた。
甘さなどとうの昔に置いてきたと思っていたのに、男と話しているとその内容を信じてみたくなったのだ。

しかしその甘さは、自分の力への絶対の自信によるものだ。
いくら何を変えて戻ってきたとしても、あの少女に負けるはずがない、と。
それは油断でも慢心でもなく、コーラを飲んだらゲップが出るくらい確実な事実だった。

386: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:56:30.52 ID:/4GLPJco
「―――」

そろそろか、と立ち上がる。
これ以上は待てない。まだ幻想殺しが後に控えているし、学園都市は敵陣だ。長居はするべきでない。
椅子がわりににしていたメイスを陰にしまいこみ、水を操って探査魔術を使おうとして、

「―――来たか」

こちらに駆けてくる気配を感じ取る。
長い髪をなびかせて走ってきた彼女は、アックアの前に立つとまず、


「はぁっ……はぁっ……ま、ったく……何処に居るかくらい伝えておきなさいよ……
 おかげで見つけるのに手間取っちゃったじゃん!」

と、肩で息をしながら、当然ともいえるべき非難をなげかける。

「―――そうか。それは悪かった」

だからと言って、彼の調子は変わらない。
しかし少しばかり驚いたといえば驚いて居た。何故なら、

「―――貴様の前にはいくつか選択肢があったはずだがな。
    折角拾えた命を捨てに来るとは、そんなに死にたいのであるか」

あの場で死んでもいいと言いながら死ぬことに恐怖していた少女が、何故この場に現れることが出来たのか。
あの時彼女の心は完全に砕けていたはずなのに、それでもなお立ち向かうというのはどうしてか。

「死にたくはないよ。死ぬ気も無い。私は……えっと、アックア、さん?に勝つために来たんだから」

緊張感の無い口調で、彼女は勝利するために来たと答えた。
それを聞いて彼は心底呆れて口を開く。

「勝つ、か。力の差を知ることも出来ない貴様が、私に勝てると思っているのか」

「勝てるかどうかじゃなくて勝つのよ」

「―――これ以上言葉を交わしても無駄のようだな」

そう言うと、彼は影の中から5mを超えるメイスを取り出す。
聖人に聖人を重ねた身体能力で振るわれるそれは、ただの鉄の塊だからこそ単純な破壊力を生み出す凶器となる。

対する彼女は手ぶらのまま耳に手をあてると、幻想御手のスイッチを全開にする。
瞬間、彼女の頭の中に演算式と演算力が流れ込む。

(―――私一人の力じゃ勝てないから。ごめんね、勝手に皆の力貸してもらうね)

そうしてここに、1人対184万人の構図が完成した。

387: ◆oDLutFYnAI 2010/07/29(木) 19:57:02.26 ID:/4GLPJco
「ではいくぞ」

アックアがメイスを構える。
構えると言っても、右手で握ったそれをゆらりと持ち上げただけだ。
しかしそれで十分。彼の身体ならば、その構えから一秒とかからず彼女の身体をなぎ払えるだろう。

「うん―――あなたに勝って、私は前へ進むよ」

佐天の腕に金属が現れる。
それは今までのような腕輪のような形ではない―――つまり、それは。
左天の第四波動を完全に習得したということに他ならない。

(―――往きます、左天さん!!)

今はもう消えた恩人を想い、彼女は戦いへと駆け出す。







互いに引けない信念がある。
ここに、『神の右席』後方のアックアと佐天涙子の戦いが始まった。

420: ◆oDLutFYnAI 2010/07/31(土) 23:59:01.68 ID:9Fcn8roo
――――――。

結標「ただいま、報告書だしてきてやったわよ……って、アレ?おーい、一方通行ー?」

結標「いないのかしら。はぁー、戸締りもせず不用心なんだから」

土御門「ただいまだにゃー」

海原「ただいま戻りました」

結標「おかえりなさい。仕事は終わったの?」

海原「つつがなく終わりましたよ」

土御門「キャパなんとかって機械持ってたが俺にゃ関係なかったぜい。ちょっと頭がびりっとした気がしたが」

結標「レベル0の肉体再生だっけ?微妙に使えないわよね」

土御門「いやいやこれはこれで結構―――」

海原「土御門さん!これ見てください!!」

421: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 00:08:28.13 ID:RTz124wo
土御門「なんだにゃー……げ」

海原「ローマ正教からの宣戦布告ファイルが開きっぱなしです……これって、」

土御門「間違いなく、一方通行だろうにゃー……くそっ、落としておくの忘れてたな」

海原「どうしますか。彼とこの佐天涙子との関係は上に知られています。もし彼がローマ正教からの刺客と相対した場合、
   こちらの動きがバレる可能性も……」

土御門「だな……上が俺達に何も教えなかったってのは、隠しておかなければならない理由があったはずだ。
     だというのにアイツが上の思惑を変えちまった場合、俺達の動きもかなり制限されることになるな」

海原「……」

土御門「……」

海原「―――アステカの魔術には探索魔術はあるにはありますが、時間がかかるのと、あと範囲がかなりおおざっぱです」

土御門「時間がかかるってのは頂けないが、この際仕方ないな。大雑把な位置を割り出してもらえれば、あとは俺の
     魔術で正確な位置を把握してやる」

海原「急いで準備します」

土御門「ああ、頼む」

422: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 00:16:12.57 ID:RTz124wo
結標「どうしたのよ、血相変えて」

土御門「何でもないにゃー。それより結標、お前って絶対座標解ればテレポートさせられたか」

結標「え?ん、そりゃまあ出来るけど」

土御門「よし、それじゃ今のうちに仮眠とっとけ。後で起こす」

結標「……あのさ、私にも解るように事情説明してくんない?」

土御門「簡単に言えば、一方通行の馬鹿のせいでいろいろおじゃんになっちまうとこだよ」

結標「おk、把握。じゃあ出番になったら起こしてね」

土御門「ああ、おやすみだにゃー」



土御門「ったく、一方通行のやろう……」

440: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 14:39:04.64 ID:RTz124wo
一直線に突っ込んでくる佐天に対して、アックアは今までと同じように、メイスを横に薙ぐ。
その速度は路地裏で見せたものよりさらに早く、だから彼女はその攻撃を避けられるはずがない。
だがそれは以前までの話だ。
今の彼女に、この程度の攻撃は避けるまでも無い。

「ぬっ!」

がぃん、と鈍く重い音をたて、メイスは予想外の軌道を描いて空振る。
アックアは驚嘆した。当然だ。たとえ本気で振るっておらずとも、その速度は彼女が反応することなど
出来ないはずであり、さらにその攻撃が当たる直前に腕の金属で下から上にかち上げ、無理矢理軌道を
ずらすほどの力を有していると思っていなかったからだ。
超重量を超高速で振るわれたソレは保有する破壊力は馬鹿にならない。その軌道を、変化させるなど―――

あまりにも想定外の現実に、アックアの身体はメイスの力に引かれてほんの少しだけ揺れた。

それで十分。
その一瞬、1秒の半分にも満たない短時間で、佐天は彼との距離を完全に詰めそして、

「―――、これで、おあいこってことで」

彼女の拳は撃ち抜かれることなく、彼の身体の寸前で静止していた。

441: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 14:39:38.97 ID:RTz124wo
「―――、なんのつもりであるか」

「路地裏で一度寸止めされたことあったでしょ。それのおかえしよ」

その言葉を聞いて、アックアは眉をひそめる。

「舐めるな。貴様程度の一撃と私の一撃、その重みは全くの別物である」

「舐めるな。この現実を見ても、まだそんなこと言っていられるの?」

む、とアックアは唸った。
確かに、ほんの数時間前には彼の出す重圧に押しつぶされていた彼女の意識は、今やまっすぐと
こちらを向いている。そこに恐怖や逃走などといった後ろ向きな気持ちは一切ない。
見上げられた目からは、ただ一心に勝つことだけを考えていた。

彼が見下し、彼女が見上げ。その状態のまま、数秒間見つめ合い、そして彼はほんの少し口元を
釣り上げて自身を嗤って、嬉しそうに言った。

「なるほど―――見誤っていたのは、私のほうであったか」

すまないな、と呟いて彼は大きく後ろへ跳んで距離をとる。
後退ではない。これは仕切り直しだ。

「貴様を標的ではなく、我が障害として認識する―――後悔の無いよう全力で立ち向かえ!!」

「……っ」

咆哮とともに、彼女には彼の周囲の大気が大きく揺らいだように見えた。
勿論そんなものは幻覚だ。実際にそんなことがあるはずがない。
しかし、そう感じるほどに、彼の闘気が凄まじかった。

「―――、は」

だがそれ程の気、路地裏での重圧とは比べ物にならないモノを叩きつけられたとしても、
佐天はひるむことはない。
むしろ、ようやくだと言わんばかりに、彼女は無言で右腕を突きだした。

442: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 14:40:13.27 ID:RTz124wo
夜明け前の河川敷。
今は忘れられた19学区の一角で、大気中の熱がぐらりと歪み、それに気付いたのか、アックアはその場から跳びのく。

(やっぱり、駄目か)

彼女は自身の能力を発動していた。
熱ベクトル感知・操作能力。彼女のベクトル操作は第一位とは違い、まず先に『感知』としての能力、『視覚化』が
優先的に発動される。そしてそれこそが、彼女と第一位との決定的な差。
膨大な演算量によってベクトルを把握する第一位に対して、彼女は『視覚化』により視覚的情報としてベクトルを
把握することができる。
今アックアに行った攻撃は、アックアへベクトル操作のラインを形成、彼から直接熱を吸収し凍結させようというものだった。
しかし、そのような点の攻撃では、百戦錬磨である彼に当たるはずがない。
だから、

(点じゃなく、面で―――!!)

本来ならば操作しきれないはずの『ベクトルの線』を掌握し、ラインを通して大気中の熱を吸収する。
アックアを中心に半径20mの熱吸収。
水による摩擦軽減の高速移動を使えれば、回避できない範囲ではない。
しかし、

「ちっ……!」

肝心の水を凍らされてしまい、彼は悪態をつく。
ベクトル操作によって固定化された空間の気温が一気に減少し、それにともない彼の身体からも体温が奪われる。
常人ならば3秒もその空間にいれば、身体の末端から凍っていくはずの凶悪な攻撃。

だが、彼は聖人だ。たった20mの距離など、1秒もかからず駆け抜けられる。
駆け抜け、そのまま佐天を討ちに行ける。

443: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 14:40:54.58 ID:RTz124wo
「はっ―――!」

右手に握ったメイスで佐天をなぎ払わんとする。
その速度はこれまでとは比べ物にならず、凄まじい速さで風を切り裂く。
生み出された威力は絶大で、例え紙一重でかわそうとも肉をそぎ落とすだろう。
そんなこと、彼女は百も承知だ。故に一定の距離を保ったまま戦うことが勝つための第一条件。
限界まで強化した身体能力をもってして、彼女はアックアの攻撃を余裕をもって回避し、距離をとる。しかし、

「甘い―――!!」

相手は聖人としての能力を2つも有した化物だ。ただ単純に強化しただけの身体能力では追いつかれて終わってしまう。

だから、限界をこえてその先へ。
身体が壊れるほどの身体能力を引き出し、彼の速度を凌駕せんとする。

「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

まずは一度、彼女は自分の身体の限界を超える。
だが今の彼女ならばそれでも問題ない。壊れた個所は変換したエネルギーで補修する。

上から振り下ろされたメイスをかわし、そのスキを突こうと攻撃を試みるが、

「まずっ……!?」

アックアは地面を砕くほどの勢いで振るわれたメイスを、予備動作なく薙ぐように振るい直した。
体重は前にかかっており、後退することは出来ない。故に必然的に上へ飛び上がるようにして回避するが、
その隙をアックアが見逃さないはずがない。
魔術によって上から氷の槍を降らせ、自身は下からメイスを振るうため飛び上がる。
上と下からの挟み撃ち。たがそれを、

「このっ!」

ベクトル操作により生み出した風を己に叩きつけ、無理やり横へと回避する。
氷の槍はそのままアックアとぶつかるなどということはなく、彼によって水に戻され、魔方陣を描き
変化自在な水の槍として佐天を突き刺そうとするが、彼女は熱吸収によってその動きを止めた。


444: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 14:41:25.90 ID:RTz124wo
相性も含めた総合的な戦闘能力はほぼ互角。ならば、後はひたすらにどうにかして隙を作り合う戦いだ。
繰り出される水の魔術は、時に槍となり時にハンマーとなり時に単純な水の塊として佐天に襲いかかるが、
彼女はそのことごとくを凍結し、無力化していた。



確かにアックアは水の魔術を得意とし、状態変化により大気中から水を生成したり、氷の槍として射出することも
できる。ただし、それはあくまで本人の意思によるものだ。氷は水とは違い、その形を自在に変化させることは
できない。故に、凍らされてしまえば、一度水に戻してからでないと次の攻撃に使用できない。

無論、彼は己の使う水には、アドリア海の戦艦のように、魔術的な加工を施してあり、例え氷点下になったとしても
凍結することはない。だが、水はあくまで水だ。分子の振動が停止するほどにエネルギーを失くしてしまえば、
凍らないではいられない。
佐天の使う熱吸収はあくまで自然現象に干渉したもの。自然から発生した「水」が、自然の理に逆らえる道理など
一切ない。

アックアの水の魔術はほとんど封じられたようなもの。それ以前に、使えば使うほどに、熱エネルギーを相手に
与えることになり不利になっていく。
彼自身もそのことに気付いたのか、水の魔術は目くらまし程度にしか使っていない。あくまで本命はメイスだ。
人の限界を超えたのは同じとして、それゆえになかなかこちらの攻撃が届かない相手に、どうメイスを打ち込むか。
その隙を作る事だけに、彼は専念していた。

445: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 14:42:21.76 ID:RTz124wo
対する佐天は攻めあぐねていた。
どれだけ迫りくる水を凍結させ破壊し、どれだけメイスを避け、どれだけ相手との実力差が縮まろうとも、
今攻めているのはアックアであり、彼女は守りに徹している状態でしかない。なぜなら、

(不味いな―――決めてが無い)

決定的な攻撃力に欠けていたからだ。
熱ベクトル操作と吸収を用いての凍結攻撃は、化物であるアックアに当たる気配が無い。
ベクトル操作の応用で作りだした風も、化物相手にはそよ風でしかない。
第四波動を当たられさえすればいいのだが、アレはこの戦いの中ではあまりに時間が食い過ぎ当たる気はしない。
せめて相手に触れられさえすれば、どれだけでも手はあるが―――

(あのメイスが邪魔すぎる―――何か手は)

5mに達するメイスによって、それは叶わない。
彼女は考える。自分のもつカードの組み合わせで、何か方法はないのか、と。

(――――――――あ。あった、かな……? けど、もし失敗すれば死ぬだけ、か。一度実験してみたいけど、
 それで警戒されちゃったら意味ないし……いや、でもこのままじゃ幻想御手のバッテリーが切れて
 終わっちゃうだけか。なら、やるしかない)

何かを決断すると、佐天は今までとは違い、アックアとの距離を一気に詰めようと駆け抜ける。

446: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 14:43:48.02 ID:RTz124wo
(む―――、一体なんのつもりであるか)

これまでとは全く違う行動に少々疑問が走る。
彼は彼女を敵として認めており、以前と違い軽視していない。
だからこそ、この無策とも取れる行動に何かあるのではないのかと警戒したが―――

(―――何があろうと、叩き潰すのみである)

相手の手が読めない以上、迎撃するより他はない。
まっすぐに、フェイクなどいれずただまっすぐにこちらへ駆け抜けてくる佐天に対し、
アックアは今までと同じようにメイスを構え、そして間合いに入ったと同時に彼女に向かって
ソレを振るう。前回のように弾くことが出来るほど遅くは無い。受け止められるほど弱くは無い。
回避する意外に方法は無い必殺の攻撃を、

「邪魔だ……!!」

佐天は、メイスを溶かすことによって回避した。

447: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 14:44:21.97 ID:RTz124wo
「な、に―――!」

メイスは先から3mほどの部分で分断され、切断面に紅さを残したまま、慣性に従って
遠くへ吹っ飛んでいった。
一瞬何が起きたのかわからず、ほんの少しだけ思考が停止する。そしてその一瞬で彼女は間合いをつめ、
そして今度は寸止めなどせずに、彼の胴体に触れて直接熱を吸収しようとするが、

「―――――ッ!!」

彼は戦闘のプロだ。敵に身体を触れられることがどれだけ危険かわかっているため、返す手で
短くなったメイスを佐天に叩きつけようとする。

「くっ!」

いくら短くなろうと、その攻撃が必殺であることには変わりない。
佐天は当たる直前で身体をひねり、そのままアックアの横に転がりこみ、体勢を立て直して間合いを離す。


アックアは切断されたメイスを一瞥して、顔をしかめる。
予想外すぎる攻撃。
アックアの使うメイスには、彼の筋力に耐えられるよう特殊な術式が施してある。
ただし、それはメイス自体の物理的な強度を高めるためのものだ。そもそも、ほとんどを一撃のもとに
葬ってきたアックアにとっては、それ以外の術式など必要なかったのだ。
だからこそ、佐天の攻撃は通る。
何故なら、

「―――炎神の息吹、ヒートエクスプロージョン。どうなるかと思ったけれど、上手くいって助かったかな」

それは単純に、熱によって触れた部分を溶かしただけだったからだ。

448: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 14:45:29.06 ID:RTz124wo
『炎神の息吹』―――左天の同僚、シメオン四天王が一人のアルカのフラグメント。
分子に直接干渉し、高速運動させることにより対象を破壊する炎系最強の能力。
勿論、佐天は超分子運動など起こすことは出来ず、ただ純粋な熱によって焼き切ったということになる。
自身の身体に蓄積された熱を、攻撃エネルギーとしてではなく、ベクトル操作の能力を用いて
純粋な熱として対象に叩きつけるという力技。しかし普段の熱放出とは勝手が違うため、ベクトル操作の
力に頼るところが大きく、それゆえに射程は手のひらからほんの数センチといったところだが、
『メイスを破壊する』という目的は十分に果たせた。


―――ちなみに。
それはかつて、彼女が第四波動の能力を手にした際に試みたが、結局失敗に終わってしまった技だ。
彼女自身も忘れてしまっている些細な記憶。
あの頃、借りた力だけでは成しえなかったことを、今彼女は自身の能力をもってして成功させた。

449: ◆oDLutFYnAI 2010/08/01(日) 14:56:47.10 ID:RTz124wo
さて、と佐天は言葉を投げかける。

「これでようやく互角、ってところかな」

「―――。……武器を奪ってもらったくらいでいい気になってもらっては困るな」

そう言うアックアの背後には水による魔方陣が無数に浮かぶ。

「貴様の能力をもってしても、処理しきれぬほどの攻撃ならばどうであるか」

ぶぉん、と短くなったメイスを振るうと、それを合図に水の魔方陣は砕け、そして、

「な、あ……!?」

アックアの背後、莫大な量の河川の水が持ち上がる。
簡単な話だ。
佐天は単純な熱量でメイスを焼き切ったというのならば。
アックアは、単純に物量だけで佐天を追いつめようというのだから。

「さあ―――これでなお互角と言えるのなら、せいぜい必死に防いでみるのである!!」

5000トンの水の塊。
分裂し形を変え、佐天を取り囲こみ、そして攻撃は開始された。

505: ◆oDLutFYnAI 2010/08/05(木) 23:59:49.22 ID:et.CRJgo
「さあ―――これでなお互角と言えるのなら、せいぜい必死に防いでみるのである!!」

それが合図と言わんばかりに、私の周囲に展開された水の魔方陣から多数の攻撃は放たれる。

―――けれど、それは大した脅威じゃない。
   だって見えてさえいれば、今の私に水の攻撃なんて通じない。
   確かにあの量の水には驚いたけれど、こんな風に使うならまとめてぶつけたほうが効果的なはずだ。
   なのに、どうして、

「……―――」

迫る水の槍や刃を一瞥しただけで氷に変えて一瞬だけ熱を送りこんで砕いてやる。
こんな攻撃、今はなんの意味もない。
それよりアックアだ。今のヤツは間合いが縮まっている。
どうやら速さはようやく互角ってレベルまであげられたみたいだし、
相性的にはこちらが有利だ。


―――勝てる。
   私と左天さんと、それから学園都市の人達の力を借りたらあの化物でさえ倒せる。
   

(アックアは―――)

大量の水でアックアを見失っていたが、熱感知で場所を割り出すと、何故か奴はさっきから殆ど移動していなかった。

506: ◆oDLutFYnAI 2010/08/06(金) 00:00:18.81 ID:ms8Awzko
……どういうことだろうか。
奴は能力だけでなく、頭だっていい。
ただ己の力を振りかざすだけでなく、その力をどう使えばいいかを完全に理解しているからこその化物だ。
そんな相手が、この程度の攻撃で私をやれるなんて思っているはずがない。
何かあるはずだが、今のところ特におかしな所はないように見える。

(―――考えても無駄、か。一応注意は払っておくとして、さて、)

ぱきん、と音を立てて氷の槍と魔方陣が砕け散る。
それで最後。宙に浮いていた水の魔方陣は全て消え去り、辺りには砕けた氷の破片が散らばっていた。

「さて、と。必死に防ぐも何も無かったけど」

「そうか―――ならば次だ」

そう言って奴は右手を振るい、河から新たに水を取り出す。
何を考えているんだ。そんなものでは私達は倒せないと知っているはずなのに。
まさか、武器が破壊されたからあとはもう、こうして私の体力が尽きるのを待つという戦法に出たのか。

(確かに近づいてくれば凍結でも融解でもどちらでもできるけど……だけど、奴がそんなことを怖がって
 近づいてこないなんてありえない)

だから、何かある。
何かあるが、それが何かはわからない以上―――

「―――次なんて無い!」

考える必要もない。
私は奴へ向かって駆け出す。

507: ◆oDLutFYnAI 2010/08/06(金) 00:01:12.84 ID:ms8Awzko
この遠距離からでは熱吸収も避けられてしまう。
今はあのうっとおしいメイスもない。そして速さは互角。
ならば、出来る限り近づいてから奴を凍結させて勝負をつける―――!

「っとと」

む。危なかった。
散らばった氷の破片を踏みつけ少しバランスを崩してしま―――





―――――氷の、破片?





「―――――――――――、」

おかしい。
メイスを破壊する前の戦闘でも散々氷を作り砕いてきた。
だというのに、氷の破片なんてなかったはずだ。
なのに、どうして―――

508: ◆oDLutFYnAI 2010/08/06(金) 00:01:45.76 ID:ms8Awzko
「―――しまっ」

奴の策に気付いたが遅い。
宙に持ち上げられた水の塊は制御を失い重力に従い落下する。
しかしそんなものはどうでもいい。本命は、

「が、ぁ……っ!」

地面に散らばった氷の破片。
その全てが一瞬で水に戻り魔方陣を描き、水の刃が飛び出して私を、

「……、は、く―――あぶ、ない……!!」

串刺しにするすんでで凍結させて止めた。
危なかったが、しかしベクトル操作を合わせた吸収ならば刹那の時間さえあれば十分―――




―――待て。
     まだ、奴の攻撃は終わってはいない―――

509: ◆oDLutFYnAI 2010/08/06(金) 00:02:58.64 ID:ms8Awzko

「―――上!!」

見上げれば、さっきアックアの操作から逃れた水の塊は、巨大な氷塊として私に向かって落ちてきている。
高さは奴が制御を手放したよりさらに上だ。おそらく、私が地面からの不意打ちを凍結させている間に
一気に上昇させたのだろう。
確かに、頭上からの量にものを言わせた攻撃はあまり相性が良くない。

だが、奴は間違えた。
私を殺したければ、水のまま落下させ、せめてこちらの手間を増やすべきだった。
既に凍結しているのならばあとは容易い。


「完成したコレならその程度の氷塊吹き飛ばせる―――喰らえ」


右腕を前に突き出し、身体の中の熱を全て右手に集中し―――


「第四波動……!!」


増幅し、爆炎として氷塊を破壊した。

510: ◆oDLutFYnAI 2010/08/06(金) 00:04:08.95 ID:ms8Awzko
ビルでさえも壊せる爆炎だ。たかが氷の塊ごとき壊せない道理は無く、5000トンの質量を誇る氷塊は破壊された。
そして、砕けた大小さまざまな氷のかけらは、

「あぶなっ!!」

辺りに降り注ぎ、結果として氷の塊を避けることになってしまった。

そしてすぐに違和感を覚える。さっきと同じ違和感だ。
どうしてアックアはこの氷をすぐに水に戻さないのか。
また何かあるに違いない、と思って―――












―――ぞくり、と。
   気持ち悪くなる感覚が顔をなでる。


530: ◆oDLutFYnAI 2010/08/06(金) 21:53:15.75 ID:ms8Awzko

―――頭は横に吹き飛び、脳漿が宙を舞って、メイスへ付着した血液は振り払われる。
   残った身体は何度かびくんびくんと動いたあと、制御を失い地面へ倒れ、
   なおびくびくと微動しながら数秒後に完全に沈黙していた。





「――――うおあああああああああああああああッ!?」

突如脳裏をよぎった一秒後の自分。
あまりの光景に声をあげ、とにかく身体を横に大きく逸らした瞬間、


ごひゅっ


という音が耳元をかすめ取っていった。

531: ◆oDLutFYnAI 2010/08/06(金) 21:55:22.54 ID:ms8Awzko
「……っ!!」

紙一重。
本当に、紙一重だった。
身体の表面をミリ単位で撫でていくような攻撃。
だから、

(しまった―――幻想御手が……!)

だから、自分の身体ではない、耳に取り付けていた補助装置は、音とともに耳から外れて吹きとんでいった。
同時に、最適化された演算式と演算力が霧散する。

まずい。
能力を幻想御手で引き上げ、自身の身体を補修しながら戦ってようやく互角。
だというのに、これでは結果なんて見えてしまっている。

「―――避けたか。いい勘をしているのである」

氷塊の向こう側から声が聞こえ、直後に氷の塊は飛散して奴の姿が現れる。
その手には、

「なっ……!」

確かに破壊したはずのメイスの先端が、堂々と私に突きつけられていた。

532: ◆oDLutFYnAI 2010/08/06(金) 21:57:27.23 ID:ms8Awzko
「なんで……確かに、壊したはずなのに……!」

「二つに切り離した程度では破壊したとはな。まだ読みが浅いようであるな」

私を嗤うわけでもなく、ただ事実のみを告げるようにして、アックアは突きつけたメイスを横へと
構えて、ようやくその種が知れた。
焼き切ったはずの部分には氷が張られ、メイスの残骸をつなぎ止めている。

ちくしょう。そうだよ。相手は水を使うんだ。
ハットフィールドだって自慢してたじゃないか。水はどんな形にも変化するオールマイティななんちゃらって。
わかってたはずなのに、こんな失敗するなんて―――!

「くっ……けど、ただ氷でつなぎ止めた程度なら、振ったら折れちゃうんじゃないの?」

「さて、な―――それは貴様自ら確かめてみろ!」


546: ここだけ3人称視点 ◆oDLutFYnAI 2010/08/07(土) 18:45:29.27 ID:Q/CRrxUo
「―――貴様自ら確かめてみろ!」

怒号は氷片を水に変え、瞬時に魔方陣へと変換する。
構築された陣からは水の槍が射出され、佐天を貫こうとするが、

「……っ!」

四方八方から迫りくるソレを、第四波動を以って迎撃してアックアから距離をとる。
しかし今の彼女は熱ベクトル操作を満足に使えない。使えて、せいぜい身体の周囲数センチといったところだ。
今までは凍結によって防御と熱吸収を同時に行っていたが、今はもう出来ず、だから、

「なっ……!」

アックアから十分に距離を取った直後、がくん、と彼女の膝が折れる。
熱が足りていない。
確かに今の場面では第四波動で道を作り後退するしか手は無かったのかもしれない。
けれど、二度も連続で使えば、蓄積された熱も空になってしまう。

「くそっ!」

地面から急速に熱を奪い体勢を立て直すが、それもいつまでも続かない。
これまでのアックアとの戦いの中、熱吸収は防御の手段としか使ってこられなかった。
攻撃手段として使おうにも彼の動きにベクトル操作は追いつかず、空気中や地面から能動的に
熱吸収する時間も無かったからだ。
それでよかったのだ。受動的でしか熱吸収できずとも、それは防御として十分な役割を果たしていたのだから、
防御のついでに熱吸収が出来たと考えれば全く問題はなかった。

だが今は違う。
ベクトル操作が満足に行えなくなった今、彼の水の魔術を防ぐことははるかに難しくなった。
身体の数センチ先まで刃が迫った瞬間に熱を奪えば凍結させられるが、しかしそのような紙一重を
この戦いの中で何度も続けられるはずも無い。









―――――だから、言ってしまえば。
     今の彼女に、勝機などただひとつしかあり得ない。

550: ◆oDLutFYnAI 2010/08/07(土) 23:19:52.51 ID:Q/CRrxUo
「っあ……!」

放たれた水の槍を避けて、そこから熱を吸収しようと試みるが、時間差で迫る別の矛先が
私を貫かんとする。
紙一重で避け、全ての刃を避けきった後になら熱を奪う隙も一瞬出来ると思ったが、
しかしあのアックアがそんなことをさせるわけはない。
水の魔術は基本的には牽制だ。だから、かわしきった後に一番大きな攻撃―――即ち、
アックアのメイスによる一撃が上から振り落とされる。

その衝撃は地面を割って飛礫を生み出す。
そしてそれだけの威力なのだから、当然氷でつなぎ止めた部分はかかる負荷に耐えられず
粉々に砕け散るが――――

「……っ!なるほどね……!」

砕けたそばから水へと戻り、また元通りの形になって凍結する。
敵ながらさすが、としか言いようがない。
私は魔術関連の知識はさっぱりだけど、けれどあれだけの速度で状態変化から操作、
そして凍らせた後に即座に別の強化魔術を施しており、おそらくそれは容易でないはずだ。
しかし感心している場合ではない。
メイスが壊れたあとなら多少なりとも隙は出来ると思ったが、そんな期待は捨てなければならない。

551: ◆oDLutFYnAI 2010/08/07(土) 23:20:39.15 ID:Q/CRrxUo
水の魔術の攻撃の後に、本命のメイスが来る。
このパターンは読めたとしても、だからどうしたというのだ。
ただでさえ朝方で、地面や大気には簡単に吸収できるほどの熱が無くて吸収するのに時間がかかるのに、
これだけの連続攻撃の中では、ただ熱を奪うなんて行動をしている暇はない。
さっき地面から略奪できた熱を増幅して身体を動かしているが、それも限界が来る。
ならば早々に決着をつけねばならないが、しかし今の私に奴を倒す手は無い。



「く、ぉ――――!!」

紙一重でかわした極大の水の槍から、木の枝のように乱雑に急激に成長した水の針を
これまたギリギリで紙一重で避けるが、しかし避けきれず所々を細い針が貫いた。

「……っ、ぐっ!」

しかし痛みにうずくまっている暇など無い。
すぐに避けねば、奴の一撃が――――!

「が、ぁ、あああああああっ!!!!」

無理やり引きぬいたせいで所々変な風に切れてしまったが気にするものか。
早く、今は早くこの場から駆け出すことだけを考えろ。

直後、さっきまでいた場所が爆ぜる。
ギリギリだった。けれど、ギリギリでかわしたのでは駄目だ。
砕けた地面と石が周囲に飛散して私を襲う。

「くぅっ……!」

威力自体はたいしたことは無いが、目をやられると厄介なので腕で顔を覆うが、
そんなことをすれば自ら視界を殺すことになり、その結果は、

「―――……ッ!」





―――ぞん、と。胸のあたりが強く圧迫される。

552: ◆oDLutFYnAI 2010/08/07(土) 23:21:17.80 ID:Q/CRrxUo
顔を覆っていた腕を胸へ下ろした直後に視てしまった未来の通り、胸を強く圧迫される。
それは奴のメイスが私を貫こうとした結果。
メイスは腕の金属で防げたが、けれど衝撃はガードを貫き肺へと至り、そして私の身体を
軽々と吹き飛ばした。

「が、ぁっ…………――――――!」


飛ばされて、背中から地面へ落ちて身体から空気が無くなる。
呼吸は乱れて身体は上手く動かないが、けれど早く動かねばその先どうなるかくらい視えている。
だというのに、意識に反して動いてくれない身体が恨めしい。

(あ―――)

不味い。
このままでは終わったしまう。
早く、早く、早く動かないと―――!


(―――……あ、れ?)

おかしい。
いつまで経っても―――といっても、おそらくほんの数秒だが、それだけ待っても全く攻撃がこない。
疑問に思った私に向けられたのはメイスでも水の刃でもなく、


553: ◆oDLutFYnAI 2010/08/07(土) 23:26:23.31 ID:Q/CRrxUo
「―――腑に落ちんな」

奴の、疑問の声。

「防戦一方なのは変化しないが―――だが先までの威勢はどうしたのであるか」

それはお前が幻想御手を破壊したせいだと言ってやりたいが、けれどこれは好機だ。
向こうが話を投げかけてきたということは、会話が終わるまでは攻撃してこない。
出来るだけ会話を引きのばして、その間に出来る限り熱を吸収しておけばなんとか―――。

「……はっ、そんなこと聞いて、どうするつもりなのさ」

「今質問しているのは私である。質問に質問で返すなと、学校で習わなかったのであるか」

「……」

びっくりだ。まさかアックアがジョジョ好きだったなんて。
もしかしたら、ここから会話が展開できるかもしれない。

「……根掘り葉掘り、ってさ。根ほり、ってのはわかる。根は土の中に埋まってるからさ……けど、葉ほりってどういうことk」

「無駄口を叩くな」

……。あれ?
おかしいな。ああ、もしかしたら4部までしか読んでないのかもしれない。だったら、

「だが断る」

「……そうか。ならば、死ぬがいい」

あっれー?選択肢間違えちゃったかなー。

562: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 10:21:33.47 ID:L3E70TQo
「っと!」

担いだまま、予備動作なんてないまま振るわれたメイスを後ろに下がって避ける。
予定よりは話は伸ばせなかったけれど、それでも十分に熱を吸収できた。
けれど、だからといって状況はかわらない。
このまま手を見いだせなければ私は終わってしまう。


―――いや。手はあるにはあるけれど。
   だけど、これを選んでしまうと―――


「どこを見ている」

「えっ!?」

右側から声が聞こえ、反射的に頭を下げると私の上を凄まじい速度でメイスが通り過ぎていく。
―――どうして見失った。
確かに少し考え事をしていたが、けれどその程度でこんな近くまで接近されるまで気付かないなんて。

急いで距離をとるが、しかし、

「はやっ……!?」

今までとは比べ物にならない速度でアックアが追いかけてくる。

「お前っ……今まで手加減を……!?」

「加減をしているのは貴様の方であろう」

メイス自体はいつもと変わらない速度で(それでも紙一重だが)振るわれるため避けることができる。
けれど、どうしてあんなに―――

563: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 10:23:16.11 ID:L3E70TQo
(―――そう、か……水の魔術!あのヒゲがやってたみたいな、水の上を滑る技術か……!)

きっと今までそれを使ってこなかった、というよりも使えなかったのは、私が辺りから熱を奪い尽くして
いたせいで、上手く発動できなかったのだろう。
けれど、今の私は以前のように熱を吸収できず、それに奴も気づいている。

(くっそ……好きで加減してるわけじゃないっての!)

アックアの周囲に水の魔方陣が展開される。
さっきから気になってはいたが、どうやらメイスをつなぎ止めている部分にかなり大量に水を使っている
ようだ。前と比べて操っている水の質量が少なくなっている。
つまりあのメイスを破壊したのは無駄ではなかったけれど、だがそれがなんだというのだ。
今のヤツの速さと水の槍の連携攻撃は、正直かわせるかどうか―――

「う……おぉっ!?」

まず振るわれたのは必殺の一撃。これを紙一重で避けて距離をかせごうとするが、しかし
私の進行方向には大量の水の刃が迫っている。
今更進む方向を変えることなんて出来ない。そんな余裕はない。
だから選ぶ道は、

「――――――、ぅ」

少しだけ、無理をした。
無理をして、ベクトル操作の距離を増やした。
そのおかげで水は凍って、熱も吸収できて、防御と回復ができたけれど、

「――――――、は」

ひどい頭痛に見舞われる。
やっぱり駄目だ。こんなやりかたじゃ先がない。

痛みで少しふらつくが、けれど敵はすぐに迫ってくる。
だから今は我慢して、ただ奴を―――

「―――なるほど。貴様が全力を出せぬ理由はコレか」

565: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 10:23:55.70 ID:L3E70TQo
「……なに?」

奴は、追撃することなく、何かを手にもって問いかける。
ほとんど壊れているが、あの形には見覚えがある。
けれど、そんなもの手にしてどうするというのか。

「……それが、どうしたのよ」

私の言葉を肯定と受け取ったのか、アックアの顔は途端につまらなさそうになる。

「―――所詮、科学の力を借りなければこの程度、ということであるか」

「――――――。」

「久しぶりの、楽しい戦いだったのだがな」

残念だ、と幻想御手の残骸を投げ捨てる。
奴は魔術師だ。今の言葉に、どれだけの意味が含まれていたのかは私にはわからない。
けれど、奴の顔はさっきまでと違い、心底残念そうにしているのは読み取れる。

「―――そろそろ、幕引きとするのである」

途端、私の周囲を水の魔方陣が囲む。
見れば、アックアのメイスをつなぎ止めていた氷は無くなり、それはつまり、

(……来るのか。あの、全方位からの攻撃が)

前はたいしたことはなかった。
けれど、今の私じゃ全方位から攻撃されてしまえば防ぐことは出来ない。
そら見ろ、魔方陣が変化していって、水の槍が生み出される。

終わる。
負ける
死んでしまう。
このままでは、私の最後まであと少し。

566: BGM「消えない想い」あたりで書いてた   ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 10:25:28.64 ID:L3E70TQo
―――わかってる。
   どうすればいいのかくらいわかってる。
   けれど、これを選んでしまえば、私はもう―――


   〝―――とまあ、お前が選んだ道はこういうことだよ〟


(――――――) 


そういうことなのだろうか。
左天さんを失くしてもまだ足りない。
それでは目の前の敵に追いつけない。
所詮、他人を失くしただけでは覚悟は足りていないというのか。
大事な人を失くした程度では、奴の信念に打ち勝つことは出来ないということなのか。


(――――――、は。馬鹿だな、私は。
 死んでしまえば、それこそ後がないっていうのに、まだ失うことを恐れてる)


そうだ。
いくら後悔があるとしても、ここで終わったしまえば目的は果たせない。
こんなことでは、左天さんに顔向けできない。

567: BGM「消えない想い」あたりで書いてた   ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 10:26:05.29 ID:L3E70TQo
(――――――)

水の槍はもう射出された。
これ以上迷ってはいられない。

(――――――)

正直怖いし、後悔で泣いてしまいそうになる。
けれど覚悟とはそういうものだと左天さんも言っていた。

(――――――、)

だから、今はただ生き残ることだけを考えよう。
ただ勝つことだけを考えて、全部終わってから泣くことにしよう。

(――――――、は)

目を閉じて、自分の頭の中をさぐる。
幻想御手で学園都市中から拾い集めた演算式の残滓。
それらを全て分解して、今の状況に合う最良の演算式を再構築する。

(―――――-、ぅ、ぁ)

自分の脳の許容量を超えた演算式に頭が割れそうになるが気にしない。
大丈夫。壊れた個所は後で補修するから心配いらない。

(――――――、が、ぁ)

だから、今はただこのいたみにたえるだけ。

(―――、あ、はは)

きりきりがりがりあたまがいたい。
いたいけどでも。

(―――、はは)

でもたくさんねつがはいってきたからだいじょうぶだ     [破損⇒補修]

ああ、大丈夫。痛いけれど、でも意識はちゃんとある。   [破損⇒補修]

行こう。時間はあまり無い。                   [破損⇒補修]

往って、アイツを―――

569: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 13:32:17.53 ID:L3E70TQo
「――――――、何?」

佐天の周囲に展開された水の槍は、今の彼女に防ぐ術は無く、故にその華奢な身体を無残に
貫いて戦いを終わらせるはずだった。
だがあとほんの数センチといったところで、全ての槍は凍結し砕け散る。

今までとはどこか違う、とアックアは感じた。
これまでは、視線の先、目で見てから凍結させていたようだった。
しかしさっきのはまるで違う。俯いたまま、全方位の槍が同時に凍結し砕け散った。

(――――――)

踏み込み、メイスで叩き潰すべきなのか躊躇う。
戦場において一瞬の迷いが命を落とす結果に繋がると知っている彼は、
同時に考えなしの突撃も同様の結果を招くことを知っていた。

「む」

ぱきん、と何かが弾ける音が聞こえる。
それは単独ではなく連続で、発生源は佐天だった。
彼女の周囲の空気が鳴っている。
白く、何か細かいものが舞っている。

570: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 13:32:54.48 ID:L3E70TQo
(あれは……?)

アックアの記憶のどこかに、あれと同じ現象があった。
ロシアで傭兵をやっていた頃見たことがある。
寒い朝方に、朝日に照らされて輝くそれは確か―――

「―――氷霧、か?」

大気中の水蒸気が昇華した結果生まれる自然現象だった。
だが、不可解だと彼は思った。いや、不可解というのなら今の氷の槍を防いだところからだ。
彼女があの妙な機械で自身の能力を強化していたのは決定事項。
そして、この戦いの中で傷を負ってまで出し惜しみするものなどないはずだ。
だというのに、今目の前の敵は明らかに以前以上の厄介さを備えているように見える。


疑問を感じながらも、一時たりとも彼女から視線を離さなかったアックア。
だからこそ、彼は彼女が動く一瞬をとらえることが出来た。

「……!」

とらえることが出来たというのに、気づけば彼女は肉薄していた。
同時に、彼の身体から急激に体温が奪われる。

「ぬ、……!」

一瞬の出来事に彼は後退する。
距離を離し、己の身体を確認すると、腕の一部が軽い凍傷のようになっていた。

571: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 13:33:41.45 ID:L3E70TQo
(―――なるほど。奴の周囲の氷霧はそういうことであるか)

しかし種が割れればどうということは無い、というように、彼はメイスを構える。
あの凍結射程がいかほどのものかはわからないが、相手は死に体だ。
事実、今までとは違い無策に近くこちらの間合いまで跳びこんで来たのだ。
先は反応に遅れたが、しかし直線でくるのならカウンターを狙って一撃で―――

―――そこまで考えて、彼は気づく。

(……反応に遅れた?)

それはありえない。今の自分は相手を侮ってなどいない。
確かに、以前までの強さが科学の力によるものを考えれば残念だが、しかしそれでも警戒は解いていなかった。
だというのに、戦場においてただ突っ込んできた相手に反応が遅れるなどありえない。

(何かある―――)

まだ、何かわかっていないことがある。
ただの能力では説明のつかない、何かが―――

572: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 13:35:04.69 ID:L3E70TQo
「―――ァァァァあああああああああッ!!!」


しかしその思考は佐天の咆哮によって打ち消された。
彼女はまたもや不可解な速さでアックアへと迫りくる。

だがそれは自殺行為だ。
メイスを構えた彼に、接近戦など無謀の極みだったが―――

「ちぃっ!!」

来る佐天を迎撃すべくメイスを振るう。
右から左へ彼女の頭が来るであろう個所を狙って放たれたソレは、
跳びこんできたそのの命を刈りとるはずだったがしかし、

「っ―――!」

驚異的な速度で停止した彼女の頭をなぎ払うこと無く、その数センチ先、揺れた
髪の毛だけをかすめとってメイスは空振った。

573: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 13:35:55.81 ID:L3E70TQo
「なっ……!」

驚くのも無理は無い。
あの速度を一瞬で失くすなど不可能だし、出来たとしても身体にかかる力は凄まじい。
現に、彼女の足からは血が流れ出している。故に、そのようなことをするなど、念頭に無かったのだ。

しかしそんなことは気に留めていないのか、佐天はメイスが通り過ぎた直後に
やはり驚異的な速さでアックアへと接近し、同時に彼の身体から熱が奪われる。

「ぐ、この……!」

だが肉を切らせて骨を断て。
例え少々の熱が奪われたとしても、ここでメイスを返し彼女の頭を吹き飛ばせばそれで勝敗は決する。
急速に無くなっていく熱を無視し、彼は彼女をなぎ払った。

がごん、と鈍い音が鳴って佐天が吹き飛ぶ。
音の正体は腕の金属とメイスがぶつかり合った音。つまり、彼女は致命傷を防いだということにほかならない。

吹き飛んだ佐天は体勢を立て直し、さらに彼に向い走ってくる。だが、

「馬鹿正直に向かってくる程度で勝てると思うな……!」

空中に魔方陣を描き、佐天の進行方向へ厚い氷の壁を落とす。
同時に残る三方を囲み、最後に封をして彼女を閉じ込め、

「終わりである!」

氷の壁ごと彼女をなぎ払おうとするが、しかし

「第四波動……!!」

「ぬっ……!」

氷の壁ごと攻撃したのは、佐天が先であった。

574: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 13:36:27.14 ID:L3E70TQo
第四波動の爆炎は壁を吹き飛ばし砕けた氷片はアックアを襲う。
しかしそんなもの、彼に届く前に水へ戻され再度制御されてしまうが、彼女にとってそれで十分。
その隙に、またもや彼の元へ潜り込もうとして、

「くどい!」

彼のメイスで弾き飛ばされる。
だが崩れない。吹き飛ばされた先から、すぐに体勢を立て直し向かってくる。
あまりにも単純で、あまりにも愚かなその姿に、彼は侮蔑をこめて叱咤する。

「馬鹿が……それでは私には届かないのである!!」

「知ってるさ!」

「ッ……!知ってなおそのような行動をとるか!」

即答されて、さらにアックアの攻撃の速度は増す。
二重聖人としての、聖人を超えた底の無い身体能力。
それをいかんなく発揮して彼女を黙らせようとメイスを振るい水の魔術を行使する。

だが無駄だ。
水の魔術は届く前に凍結し砕け、メイスは全く当たらない。
腕の金属でメイスの軌道を無理やり変え、避けられぬ攻撃はソレで防ぎ、
予測して薙がれたメイスの軌道範囲の直前で停止し、ときにはメイスの力を利用して避けることもあった。

575: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 13:37:29.86 ID:L3E70TQo
(なんだこれは……)
有り得ない光景だった。
聖人の身体能力だけでも常人は反応出来ず、訓練を受けた魔術師でさえも圧倒できる力がある。
その聖人でさえも圧倒できるのが二重聖人であるアックアだ。
確かにまだトップスピードではない。ようやく7、8割といったところである。
しかしそれでも既に聖人のソレを凌駕したこの速度は、目の前の小娘一人をひねりつぶすことなど、
それこそ息をするより容易いことだったはずだ。


―――だがもはや数十手以上。佐天はアックアの攻撃を捌き切っている。
    有り得ない奇跡はいかなるものか。
    いや、奇跡など無い。
    これは、彼女が捨てたものの代わりに得た、正当な結果だった。


「ちっ……!」

もはや水の魔術は意味を成さないと知ったのか、彼は別系統の魔術に切り替えて戦っているが意味は無い。
その全てを避けられ対処され、その上で自身のメイスが避けられていることに、彼は違和感を覚えた。

(何か、おかしい……あの動き、まるで)

彼が不可思議に感じた彼女の動き。
それはまるで、未来予知のような、一手先を読んでいたかのような動きだったが、しかしそれもそのはず。

576: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 13:39:09.93 ID:L3E70TQo
―――もともと、彼女自身能力開発によって未来予知と透視能力の素質は目覚めさせられていた。
     未来を見通す目、とでもいうのか。だからこそ、彼女は日常で常人にくらべ勘が鋭かった。

    だが、その程度ではアックアには届かない。要因はそこに、左天の経験が入り込んだことだ。
    左天の長い戦いの経験―――その中で見出した、その場その場で選ぶべき最適の行動。
    生き残るため獲得した、純粋な経験の中で培われた危機回避能力。

    そしてもうひとつ。科学の街に住む彼女にとって、本来ありえない恩恵。
    それは、彼女の母がくれたお守りだった。
    安全祈願のお守り―――大覇星祭で土御門が言っていたように、
    「ただ危ないと漠然と感じてそれを回避する程度の力」が備わった、今時では珍しい本物のお守り。
    佐天はこの霊装を、土御門に言われたとおり、ずっと身につけていたことがここにきて幸いした。



―――これら三種。
    科学と魔術とイレギュラーが交差した時、その未来予知能力は確固たるものとして発現した。

578: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 14:04:52.10 ID:L3E70TQo
だが、たとえその未来予知能力があったとしても、佐天はただの人間だ。
いかに身体を強化し、破損した傍から修復しようとも、二重聖人の動きに
ついていくような動きができるほどの身体では無い。

「――――――」

現に、彼女の身体はアックアの攻撃を全く食らっていないにも関わらず、動けば動くほどに瓦解していく。
目からは血の涙が流れ、血管が切れているのか身体のところどころから鮮血を撒き散らし、
口からは赤い筋が滴っている。

「――――――」

―――向かってくる彼女を相手にしながら、目を細める。


その姿が彼女の覚悟の重さだということはわかっている。
自らの身体をすりつぶしてまで、貫かなければならない信念があるということもわかっている。
だが彼女はまだ年端もいかぬ少女だ。
たった数か月前までは、戦いを知らない一般人だったのに、なぜここまで。

「――――――」

―――彼女は崩れ落ちそうな身体を、叫ぶことで支えてまたまっすぐに走ってくる。


別に、彼女ほどの年の子が戦うのを珍しいとは思わない。
傭兵時代には、そういった子供を何人も見てきた。
しかし、その全てはこれだけの傷を負う前にねをあげていた。
いや、子供だけではない。彼女より屈強な兵隊であっても、あそこまでの傷を作りながら、
勝てるはずの無い敵に挑もうなどと思ってはいなかった。

「――――――」

―――一歩踏み込むごとに、血を吐きだしているというのに、まだ、


いや、違うのか。
彼女は勝てないなどとは思っていない。
そんなこと、最初に彼女自身が言っていたではないか。
彼女は負ける未来など視ていない。
ただ、まっすぐに守りたいものだけを―――

579: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 14:05:27.00 ID:L3E70TQo
(―――ああ、そういうことであるか)


随分長い間戦いの中に身を置いてきた。
その中で、自分と異なる信念を持ったモノは何度も打ち砕いてきた。
今回もそれと同じ。今までと同じように、彼女を叩き伏せるだけだと言うのに、
なぜこんなにも彼女のことを気にかけていたのか。


(―――私も、まだまだであるな)


簡単な話だ。
自分一人では何も出来ない、弱い姿。
それが、自分の守ろうとした人と重なって見えていただけなのだ。

だから、そんな彼女が他人の力を借りて、自分を打倒しようとするその姿に。
守ってきたあの人を重ねて、弱い人間の可能性を見出したかっただけだったのだと、彼は気づいた。





彼女の膝が崩れる。
当然だ。もはや身体は限界。いかに補強し補修しようと無理がある。
しかし彼は彼女を一息で殺すことなどしない。

戦う理由など語ってどうするのか。そこに含まれる真実など、塵に等しい。
そう言ったのは彼自身だ。
けれど、それでも。
彼は、もう一度彼女へと――――――

590: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 20:30:51.17 ID:L3E70TQo
―――寒いのに、熱い。[破損⇒修復]

頭は割れそうで、正常な思考なんてままならない。[破損⇒修復]
けれど今自分のすべきことはわかっている。[破損⇒修復]
 
目の前の敵を倒すこと。[破損⇒修復]
それだけわかっていれば十分だ。[破損⇒修復]                                  
縮地を使って距離を一気に縮める。[破損⇒修復]

他にすることなんて何もない。[破損⇒修復]
さっき組んだ演算式は、あの人の演算パターンを模して構築した。[破損⇒修復]   
自動で周囲3mの熱ベクトルを私の元へと変換するもの。[破損⇒修復]
私が演算を止めるまで頭は自動的に演算し続ける。[破損⇒修復]
だから頭はひびわれて今にも崩れそうになるけれど、補強してやる。[破損⇒修復]

もう考えて戦うなんてことできない。[破損⇒修復]
私の頭はずっと演算を繰り返している。[破損⇒修復]
だから、身体を動かすのは別の部分。[破損⇒修復]
私の中の左天さんからくみ上げた経験が身体を動かす。[破損⇒修復]
脳は目と直結して外界の景色を読み取るだけの役割しか果たしていないがかまわない。[破損⇒修復]

退くことなんて出来ないから、ただ前へ。[破損⇒修復]
余計なことなど考えず、ただ前へ。[破損⇒修復]
身体が千切れようとも、ただ前へ。[破損⇒修復]
眼前の敵を討つために、ただ前へ。[破損⇒修復]

591: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 20:32:05.05 ID:L3E70TQo
「―――ァァァァあああああああああッ!!!」


痛みを振り切って足を踏み出せ。[破損破損⇒修復]
メイスが振るわれるが、恐怖なんて感じている暇は無い。[破損⇒修復]
身体は自動的に最善の回避行動をとり、その行為に耐えられずどこかが壊れる。[破損破損⇒修復]
―――どうでもいい。[破損⇒修復]
身体の一部が壊れようとも勝てばいい。[破損⇒修復]
だから、勝つために前へ前へ前へ――――――![破損⇒修復]


視界が突然遮られる。[破損⇒修復]
それは氷の壁のようで、いつのまにか周囲にも出来ていた。[破損⇒修復]
―――どうでもいい。[破損⇒修復]
こんなチャチなもの、すぐさまに破壊できる。[破損⇒修復]


「第四波動……!!」


爆炎は易々と壁を吹き飛ばして、代わりに私がメイスで吹き飛ばされる。[破損⇒修復]
しかしダメージなんて無い。     【はずはない】   [破損⇒修復]


「馬鹿が……それでは私には届かないのである!!」

「知ってるさ!」

「ッ……!知ってなおそのような行動をとるか!」


―――知っている。[破損⇒修復]
そんなこととうに気づいている。[破損⇒修復]
だからこそ【俺】の経験を汲み続けている。[破損⇒修復]
【俺】の中で最も強力な攻撃の方法。奴でさえも下せるような必殺の一撃。[破損⇒修復]
長い間戦い続けてきた【俺】に、それが無いはずが無い。[破損⇒修復]
だから、それをずっとずっと探し続けている。[破損⇒修復]

592: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 20:34:00.41 ID:L3E70TQo
「はっ―――、あああっ!!」

迫りくる鉄塊を弾き飛ばす。[破損破損破損破損⇒修復]
許容量を超えた衝撃に身体のどこかが弾けるがどうでもいい。[破損破損破損破損⇒修復]

「く―――おおおおおおッ!!」

奴の速度が少しずつ上がっている気がするがそれがなんだ。[破損破損破損破損破損破損破損⇒修復]
今の【私】は、その速度にだってついていける。[

「は、はは、あ―――!」

戦えている。[破損破損破損破損破損破損⇒修復]
防戦一方だったあの化物へ攻め立て、互角のように戦えている。[破損破損破損破損破損破損⇒修復]
こぼれた笑いが【私】のものか【俺】のものかはわからない。[破損破損破損破損破損破損破損破損破損⇒修復]

「あ、っ、はっ―――!」

だが愉しんでいる暇なんて無い。[破損破損破損破損破損破損⇒修復]
この身体に残された時間は幾許も無い。[破損破損破損破損破損破損破損破損⇒修復]
だから、

「っ、ぁ――――、あ!」

探せ探せ探せ。

もっと深く、もっと奥へ、もっと先へ。

【俺】の全てを【私】の全てに。

深く、


奥へ、



先へ、




あの風を超えて、前へ―――!

593: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 20:34:35.93 ID:L3E70TQo






          ―――見つけた。
               彼の必殺。限界を超えた奥の手―――
               

594: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 20:35:05.89 ID:L3E70TQo
―――これで勝てる。だというのに、



「――――――、ぁれ?」

がくん、と膝が地面に着く。そのままべしゃりと崩れ落ちるのはみっともない。[破損⇒修

「あ―――――、ぅ?」

熱は身体に残っているのに、身体が全く動かない。
なんで。
どうして。

「は、あ……、ぁ」

自動だったはずの演算式まで消えてしまい、代わりに鮮明な思考が戻ってきた。
憎いほどにはっきりとした頭は、現状をすぐさま叩きだす。

身体の限界と、脳の限界。
それらを超えて、向こう側へ到達したと思ったのに、さらに限界の壁があった。
生命は危機を感じて強制的に全ての命令を遮断したのだろうか。

595: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 20:35:33.59 ID:L3E70TQo
「――――――限界のようであるな」


敵の声がわかりきった事実を告げる。
だがそれがどうした。


「はっ―――、限界が、どうした……限界なんて、超えるためにある……!」


ぎりぎりと歯を食いしばって、神経が切れてしまったような腕を必死で動かし身体を持ち上げる。
奴はすぐそばにいる。
届くんだ。もう、あと少しで奴に届くっていうのに―――!


「気づいていないのであるか。自分の身体がどうなっているのか」


気づいていないはずがない。
痛みはずっと消えなかったし、動くたびにどこかが千切れていく音はしていた。
どれだけ身体を補強して補修しようと、そんなものが間に合うはずがない。
けれど、そんなことはどうでもいい。
今は、目の前の敵を、


「―――どうしてそこまでして戦う」


唐突に奴に問いかけられる。
答える必要なんてない。
無いけれど、でも、


「決まってる……大切な人の世界を、守るためだ……!」


今は言葉にして、その意思を掲げて前へ進む動力にする。

596: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 20:39:05.84 ID:L3E70TQo
「―――その想いは、偽りだと諭したはずだが」


―――。
そんな、こと。わかってる。
確かに、誰かを守るって気持ちは、誰かのために戦うって気持ちは、
その誰かを隠れ蓑にした、自分の劣等感の解消なのかもしれない。
その答えはまだ得ていない。
今も私は、間違った想いを持ったまま、戦っているのかもしれない。

けれど、


「―――初春が、泣いてたんだ」


一度私が馬鹿をやったせいで、酷い目に合わせて泣かせてしまった大事な親友。
もう二度と泣かせないって決めたのに、また泣かせてしまった。

いまさら謝ったって許されるわけがない。

そんなことはわかっているけれど。

でも、あの時流してくれた涙が、私を想ってくれているもので。

もし、今も私を待っていてくれるのだとしたら、私は。

597: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 20:39:34.08 ID:L3E70TQo
「――――――、私は」


勿論そんなもの、身勝手な願いだ。

けれど、それでも、少しでもそんな可能性があるのなら、


「―――私は、あの涙の理由を変えてやらなくちゃいけない。だから、ここで勝って前へ進むんだ……!」


例え憎まれようと、縁を切られようと。
身勝手で思いあがりも甚だしいとしても。
あの親友を泣かせたままにしておくなんて、私には出来なかった。

598: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 20:40:48.20 ID:L3E70TQo
少しの間。
私が思いのたけを告げて、十数秒後。


「――――――ウィリアム=オルウェル」


敵が、何かを私に向かって呟いた。


「本来ならば魔法名を名乗るべきなのだろうが―――この場にはそぐわんのでな。
 真名を名乗るだけにさせてもらうのである」


魔法名、と言ったか。
確か、聞いたことがあるはずだ。
それを名乗る時の、意味は―――


「――――――、ぁ」


―――思いだした。
魔法名を名乗る理由。
彼はそれの代わりに名を名乗ったと言ったが、つまり彼は私を―――

599: ◆oDLutFYnAI 2010/08/08(日) 20:41:41.18 ID:L3E70TQo
「―――、そっか」

息を整えて、ふらふらと立ち上がる。
いける。まだ、大丈夫だ。
定まらなかった視線を彼に向けて、ぼろぼろの身体を無理やり支えて胸を張る。
そうでなければ彼に失礼だ。そして、

「―――佐天涙子。魔法名なんてものはあいにくないから、第四波動、とだけ」

私も、自分の名前を自らの口から告げる。
彼の意図は私に伝わったし、私の想いも彼に伝わった。
力の差とか、経験とか、そんなものはどうだってよかったのだ。

こうして互いの覚悟を口にすることで、ようやく私と彼は同じ場所に立てた。
そこには誰の力もなく、純粋に私と彼だけが立っている。
それが何よりも嬉しくて、誇らしかった。

彼が東の空へと視線をやって、眩しそうに目を細める。
横から照るのは朝日の黄昏色。
それを確認すると、彼は私に向き直ってメイスを両手で構える。


「日も、昇ってきたのである」


「ああ―――お互いそろそろ時間も無いみたいだし」


私が瓦解するまであと数分だし、彼も魔術師という役柄上、この科学の街では日の下で戦うことは出来ないだろう。
だから、これから行う攻防が私達の最後。
本当に惜しい。ようやく彼と同じ舞台に立てたというのに、もう終わりを迎えてしまうなんて。
けれど時間は刻々と過ぎていくし、のんびりしている暇なんてない。
だからせめて、この戦いの晩節を汚さぬように。


「――――――決着をつけよう」


彼の言葉で、最後の戦いが始まった。

616: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:06:37.95 ID:XJ8/zcgo
「行くぞ!」

先に動いたのは彼だった。
当然と言えば当然である。この身体は、もはや立っているだけが限界だ。

彼は二重聖人としての身体能力を惜しみなく発揮し、高く高く跳び上がる。

    T H M I S S P
「―――聖母の慈悲は厳罰を和らげる」

今の私は彼の声をひとつたりとも聞き逃すことは無い。
本来聞こえる筈の無いその囁きすら拾い上げ、その術式が何を意味しているのか【俺】の知識をもって
理解しようとするが失敗する。
それは本来の魔術とは違う、『神の右席』としての技で、今の彼の必殺であることを意味しており、
即ちこれを防ぐことが出来ればまずはひとつ彼を打ち破ったことになる。

朝日を受けて輝くメイスは、次第に青白い光に包まれていく。
それはさながら客星に小さく光り輝くところまで上り詰め、そして、

T C T C D B P T T R O G B W I M A A T H
「時に、神の理へ直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ!!」

怒声と共に青い流星となり直下する―――!

617: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:08:00.60 ID:XJ8/zcgo
「――――――」

直撃するまであと1秒と少し。
それ程の距離があろうと、あの攻撃が並大抵ではないことはわかる。
性質は圧殺。何者の生存も許さない程の重圧は、純粋な破壊力となりこの身を押しつぶす。

「――――――」

避けるのが正解かもしれない。だが無理だ。今の私の足ではアレを避けたとしても、それは紙一重。
紙一重では、余波に巻き込まれて終わってしまうだけだ。
それに、彼の一撃を避けるなど、私には―――

「――――――」

―――故にすべきことは体中に残る熱で全身を固めることだけだ。
肉を強化し骨を補強し壊れた個所を瞬時に補修していくように能力にプログラミングする。
出来ないことは無い。
もし出来ないなどというのならば、その限界を超えてやる―――!

「――――――」

怖いと言えば怖い。本当にあんなものを受け切れるのかと、疑問は心の奥からふつふつとわいてくる。
だけど、その恐怖すら超えて前へ。

「――――――」

来る。腕を頭の上でガードする。
人の身体くらいくしゃりとトマトのように引き潰してしまう攻撃を受け止めて、一切傷が
付かなかった折り紙つきの防御力を持った代物だ。
これならば、きっとあの攻撃にだって耐えてみせる。

「――――――」

―――眩しい。
青い光はもう目前だ。
目を逸らしたくなるほどの強大な重圧。
だけど、私は。
ただまっすぐ、彼だけを見て――――――






―――瞬間、世界が真っ白になり、音が無くなった。

619: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:08:57.68 ID:XJ8/zcgo
「――――――がっ!?」

世界が真っ白になったのは私の意識が一瞬吹き飛んだからだった。
しかしすぐさまワケノワカラナイ重圧に意識が呼びもどされる。

「は――――――!」

理解できない。
わけがわからない。
何が起きているのか頭がついていかない。
腕の金属で防いだとしてもそんなものは何の役にも立たない。
重圧はガードなど関係なく周囲の空間ごと私を圧殺する。

「―――――――!」

強化なんて無いに等しい。
補強なんて無いに等しい。
補修なんて無いに等しい。

「――――、――――!!!

痛い痛い痛い痛い痛い。
圧力は身体ではなく心を先に引き潰す。
耐えられるものでは無い。
これは人の受けるものでは無い。

620: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:09:46.30 ID:XJ8/zcgo
「――――――――、――-!!!!」

叫び声なんて出せるほど空気は辺りに全く無くて。
心の中でただ諦めろと自分が叫んでいる。
諦めてやられてしまえ。
そうすればこんな痛みから楽におさらばできるぞ。

「――――――!――-、―――!」

黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。
囁く心を噛み殺して、ただひたすらに耐え続ける。
この重圧は何時まで続くのか。
もう1時間ほど受け続けているような気がするが、そんなもの錯覚なのだろう。

「!!――-、!――!!」

けれどそれでも錯覚でも。
まるで永遠の中に閉じ込められたかのように攻撃は終わらない。

「―――  ―――」

―。
まず―。
思――えも、消―て――。
白―、――。
私と―――間さ―――こ―――にぺ―――こにな―――――――













〝すっげー!お姉ちゃん超能力者になるんだかっけー!〟

―――。
なんだろう、これ。

621: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:10:23.02 ID:XJ8/zcgo
〝お母さんは反対よ?脳をいじくりまわされるなんて〟

―――。
ああ、そっか。これが。

〝えー、お守りなんてヒカガクテキな……〟

これが、走馬燈か。

〝あなたの身体が何より一番大事なんだから〟

―――。ごめんなさい、お母さん。
私は、もう。





〝私だって最初はレベル1だったし、全然普通の能力者だったって〟

思い返されるのは御坂さんとの思い出か。
そういえばあの時は、やたら御坂さんに劣等感感じてたっけ。

〝こんなとこで苦しんでないでとっとと帰んなさい〟

けど、幻想御手に捕らわれていた私を助けてくれたのは御坂さんで。
それからは、あんまり嫌な気持ちは感じなくなったっけな。

〝佐天さんは私達に自分を止めてほしかった―――だからあんな手紙を残して、自分を探してくれるようにしたのね?〟

私の無意識に気づいて、救い出そうとしてくれた。
何だ、私は二度も御坂さんのお世話になっていたんだ。
そんな恩人に、ひどいことをしてしまった。





〝ですの!〟

白井さんは別にいいや。

622: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:11:10.86 ID:XJ8/zcgo
〝男子もいる往来でこの暴挙ッ!何すんですか佐天さんっ!!〟

は。懐かしい。
初春のスカートを始めて  った時のことを思い出すなんて、本当に初春の   が好きだったんだな。

〝無能力者って……欠陥品なのかな〟

幻想御手を使って今にも潰れてしまいそうになっていた私を慰めてくれたのは初春だったな。

〝佐天さんは欠陥品なんかじゃありませんっ!!〟

私のために泣いてくれたのも、あの3人の中では初春が初めてだったっけ。
くそ、本当に後悔ってのは死に際になってするもんなんだなぁ。
幻想御手の事件が解決したあの日に、わかってたことなのに、
能力ばっかり欲しがって、大切なものを失くしてしまうところだったって。
本当に、私は成長しなかった。

〝帰りましょう、佐天さん―――帰って、ご飯食べて、ゆっくり休んで……〟

あんな、最後の最後まで初春は、私のことを考えてくれていたのに―――!






〝何も犠牲はなかった。それが、一番の終わり方なんだ〟

上条さんは本当にねっからの正義の味方だった。
掛け値無しで、それどころか記憶まで失って、それでも明るく振舞っていた。

〝今自分に出来ることなんてわかりきってんだ―――いい加減に戦おうぜ、佐天!!〟

よく考えてみれば、真正面から上条さんの説教を受けたのってあの時限りだっけ。
本当に、あの人の言葉はどこか心に響く。
ごめんなさい、上条さん。
彼はここでは止められませんでした。
たぶんこの後そっちに行くと思うけど、まあ持ち前の右腕でなんとかしてください。
少しくらいは、傷を負わせたと思いますから。

623: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:11:36.36 ID:XJ8/zcgo
〝女ァ、お前誰に向かって攻撃したか解ってんのかァ?そんなに死にてェのかよ〟

……。
うん、まあ。最近ずっとこの人のことを追っかけてきたから忘れてたけど、出会いはこんな感じだったっけ。
昨日の敵は今日の友ってよくできた言葉だよね。

〝まァここで断ってもそのガキが後からうるせェだろォからなァ。手伝ってやンよクそが〟

それで、なんだかんだで能力開発手伝ってくれるようになって。
本当にツンデレな人だったなぁ。

〝いいねいいねさいっこうだねェ!!この櫛全然髪にひっかからねェ!!ハッいいぜェ楽しくなってきやがったァ!!〟

うーん。
御坂さんが苦しむ原因だった人とこんなに仲良くなるなんて。
もしかして私って、友情に薄い人間だったのかなぁ。

〝……もういいンだ。休ンでろ。後はきっちり終わらしてくる〟

―――。
そう、か。
一方通行さんは、もうあの時に気づいてたんだ。だから、あんな風に。

〝あァ―――理由なンざねェ。ただ、守ってやりたかった。それだけだ〟

あの言葉を純粋に受け止めておけばこんなことにはならなかったのだと後悔する。
けれど、後悔なんてもう意味は無い。
ごめんなさい、一方通行さん。
折角守ってもらった命、守りきれませんでした。

624: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:12:21.90 ID:XJ8/zcgo
〝なぁ―――お前、アイツに出会って何か変わったか〟

――――――あれ。
なんだろう、この記憶。

〝ハッ―――なンでテメェにンなこと言わなきゃならねェ〟

知らない。
こんなの、初めて見る。

〝いいから答えろよ。つーか答えてくれ。じゃねえと死んでも死にきれん〟

片方の声は一方通行さんで、もう片方は―――

〝アイツが守りたいって思った男が、アイツをどう思ってるのか知らないまま死んでいくなんざ勘弁だ〟

―――左天、さん。
え―――じゃあ、これって、左天さんの記憶?
なんで―――いつ、一方通行さんと……?

〝―――そォだなァ〟

〝あのクソガキが居なきゃ実験は終わってなかったかも知れねェ。終わってたかも知れねェ。
 あのクソガキが居なきゃ俺は完全に演算能力を失って死んでたかもしれねェし違うかもしれねェ。
 アイツ一人で大きな流れが変えられたとは思わねェな〟

―――、そう、だよね。
私みたいな、偽物の気持ちだけで動いてた奴のしたことが、何か起こせるはずないもん。
わかってる。
わかってた。
けど、でも、やっぱり、大切な人からそうやって言われると凄く堪える。

〝でもよ〟

〝少なくともアイツが居たからこその今の俺が居て、今の俺は確かにクソッタレな暗部なンぞに落ちてるが、
 それでもそこまで悪くないって思ってる〟

〝ずっと暗闇の中を歩いてきた俺にとってアイツは眩しすぎて、
  普段触れてる時もこンなに幸せでいいのかって何度も思ったさ〟

〝だから今くらいの距離が丁度いいンだよ〟

625: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:14:16.18 ID:XJ8/zcgo
―――そんな。
そんな悲しいこと言わないでください。
一方通行さんは確かにたくさん人を殺したし、それは許されることじゃないけれど。
でも、だからって、ずっと暗い底にいる必要なんてないのに……!

〝でまァ、何か変わったかっていやァ、そォだな〟

〝―――守っていきたいもンが出来るってのは、やっぱりいいもンだ〟

〝これまでは殺すことくらいしか出来なかった俺が、ようやく誰かを守れる立場に立てた〟

〝勿論それは俺の欺瞞かも知れねェ。今まで蹴落としてきた奴らへの贖罪のつもりかもしれねェ〟

〝けどよ、たったひとつ言えることは〟




〝俺は、アイツに出会って救われたってことだな―――ってオイ、なァにニヤニヤしてやがる!
 クソッ、なンでこんな奴に……ガラでもねェことしちまった……〟





――――――。

――――――。

――――――。

――――――、は。

――――――、はは。

626: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:15:03.26 ID:XJ8/zcgo
そっか。

そっか。

ああ、もう。

嬉しくてうれしくて、言葉が上手く出てこない。

偽物の気持ち、偽物の想いで動いていた私には何も救うことは出来ない。
そう彼に言われて、私自身もそうだと思っていた。
だって事実だ。確固たる信念を持った人に、偽りの信念なんて通じない。

でも、一方通行さんは言ってくれたんだ。
私と出会って、救われたって。

「――――――」

間違ってばかりの三カ月間だったと思う。
能力を手に入れてから、偽りの気持ちのまま刻んできた三ヶ月間は誤りだらけだ。

けれどそれでも。
そんな間違いだらけの時間を、一方通行さんは良しとしてくれた。

何も救えるはずの無い私だと思っていたけれど。
一方通行さんはそんな考え覆してくれた。

「――――――」

間違いなんかじゃなかった。
間違いばかりの三カ月間は、それでも間違いじゃなかったんだ。

―――それで十分だ。

答えは得た。

後ろめたい気持ちはもう無い。

さあ行こう。

過去を振り返るのはここまでだ。

あとは私の気持ちひとつ。

恐れるものなんて何もない。

今はこの青白い閃光の向こう側。

彼の必殺を超えてその先へ――――――

627: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:16:06.38 ID:XJ8/zcgo
「――――――」

青白い光が止み、世界に音が戻る。
光に包まれたメイスは佐天の身体を貫いて地面へ至り、彼女を中心にクレーターを作っていた。
彼女は頭の上にかざした腕でメイス自体は防ぎきった。
だが、生み出された圧力を消すことは出来ず、その重圧は彼女の身体を完全に押しつぶす、はずだった。

「――――――」

彼女は倒れてなどいない。
メイスを受けとめ、下を向いたまま崩れ落ちない。
しかし崩れ落ちない代わりに、ぴくりとも動きもしない。
即ち、

「―――立ったまま絶命したか」

そう、アックアは判断した。
彼の顔は標的を打ちとったというのに、悲しげな顔をしていた。
才の無い者が才ある者に、多くの人間の力を借りて勝てるかどうか。
その可能性を彼女に見出したかったが、しかしそれはもはや叶わない。
もし彼女が自分に勝つことが出来れば、ヴィリアンの人徳もまた、イギリスに認められるかもしれなかったのに。

「―――意味のない感傷である」

そして、彼女がすこし前に口にした言葉。
おそらく込められた意味は違うであろうけれど、涙の理由を変えるために戦っているということ。
そんな彼女に、自分を思い重ねていたことを、そうやって断絶した。

アックアはメイスから力を抜いて、今もなおそのメイスを受け止めている彼女に向かって一言だけ。

「―――願わくば。貴様とは、同じ先を見ていたかった」








「―――そっか。私も、そうだったら幸せだった」

628: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:16:37.07 ID:XJ8/zcgo
―――は。
意識が明瞭になる。
それと同時に、身体中に走る痛みが頭を貫く。

けど、それは戻ってこられた証拠だ。
なら大丈夫。
私は生きてる。
まだ戦える。
戦って、勝つことが出来る。


「―――立ったまま絶命したか」


彼の声が遠く遠く聞こえる。
生きていると言えど、満身創痍なのか、他人の声は聞こえづらい。
当然と言えば当然か。
ぼろぼろの身体にあんな一撃を受けて、まだ生きていられる方がどうかしている。

629: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:17:30.82 ID:XJ8/zcgo
「―――意味のない感傷である」


何を言っているのかはわからないが、その声は悲しそうだ。
勝手に悲しむなよ。私はまだ、ここにいるのに。

腕で受け止めているメイスから、力が抜かれるのがわかる。
つまり、これで完全に彼の攻撃は終わったということ。


「―――願わくば。貴様とは、同じ先を見ていたかった」


―――。
そう言ってもらえるのはとても嬉しい。
なんたって、こんな人に認めてもらえたんだから。
だからこそ、こんなすれ違いで争うことが悔しかった。
私と貴方は決して交わらない。ならば、せめて。
私の想いだけでも伝えていく。


「―――そっか。私も、そうだったら幸せだった」


びくりと、メイスが震えた気がした。
返事は攻撃の合図。





さあ、ここからが私の戦いだ。
チャンスはこれっきり。これを逃せば後は無い。
故に私はこれからの攻撃で、彼の全てを上回らなければならない。

限界はもう何度も超えた。
だが最後。最後に、もう一度だけ、次は人の可能性を超えて前へ進む。
きっとそれこそが彼が私に見出したかったもの。
だとすれば、それを見せて勝利することこそが、彼に対して最も敬意ある勝利のはずだから。

630: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:19:07.45 ID:XJ8/zcgo
「ォォォォォオオおおおおおお―――――!!」

叫ぶ声は己への喝。
動く筈の無い身体を無理に動かし、メイスを両手で掴みとり熱を奪いとる。

「貴様、まだ動けて―――、――-っ!?」

彼の言葉が途中で止まった理由など解っている。
メイスは金属であり、金属は熱しやすく冷めやすい。
だから、今頃彼の、メイスを握っている手は凍傷寸前でさらにいきなり冷やされたことでメイスから離れまい。

直後凄まじい力がメイスにかかるが、しかし離すものか。
彼は耐えきれず、メイスを繋いでいた氷を粉砕して後ろに大きく下がる。

―――それでいい。

下がるためにも時間はかかる。
そんなもの一秒に満たないが、だがその時間は今この場においては致命的なものと知れ。

―――かちん、と自分を切り替える。

「は、あ、ああああ―――――!」

―――切り替えた先は『風を操れる自分』『水を操れる自分』『念力を使える自分』。
   脳に残る演算式の残滓より自分だけの現実を再構築および理解。
   自身への適用は2割程。しかし足りない部分は他で補うので心配は不要。

河の水を睨み、組み立てた式を適用し水を汲み上げる。

―――ぱきん、と頭のどこかで音が響く。

そしてその水を、直接彼に叩きつける。

「小癪な……!」

しかしその占有権は即座に彼の元へ移る。
当然だ。私のコレはただの着け焼き刃。
本職の水流操作でさえ叶うかどうかも解らないのに、私のひとつの可能性程度で太刀打ちできるはずがない。

だがそれでいい。
彼は思惑通り水を制御し、それを使って私を圧殺しようと上に跳んだ。
生半可な水の攻撃では先のように凍結させられると踏んだのだろう。それは事実で、だから
彼が水で潰しにかかるのは正しい選択だ。何故ならこれなら凍らせようとも関係ないし、
今の私は歩けるほど満足な足を持っていない。

631: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:19:35.69 ID:XJ8/zcgo
―――かちん、と自分を切り替える。
   切り替えた先は『本来あるべき自分』。
   
左手を東へと向けて太陽の熱ベクトルを集中。
これだけでは足りない。吸収し増幅する必要性があると感じ即座に切り替え。
視線を水の塊と共に向かってくる彼へと向けて、ベクトル操作の方向を切り替える。
対象は目前の水の塊。その全てに向けて、身体中の熱を全て叩き込む―――!

「日輪―――天墜」

―――ばきん、と頭のどこかで音が響く。
   何か致命的な故障をしてしまった。
   しょうがない。何せ自身の補強や補修にまわしているだけの熱は勿体ない。
   だから、限界を超えた行為は己の脳を壊すだけだ。

増幅された熱を叩きこまれ、水は一瞬で水蒸気へと変化する。
勿論彼は勢いのままその中へ突っ込むことになり、そしてそれこそが勝機。

―――かち、と自分の可能性を呼び戻す。
   および操作のベクトルを逆転。熱は全てこちらに向いている。

「は、あ――――!」

空気中に散った水蒸気をアックアの周囲へ出来る限り圧縮。
その異変に気付いたのか、彼は氷で即席の足場を作り脱出しようとするが、

「無駄、だ……!」

―――ぶち、と右腕から嫌な音がしたが気にしない。
   ろくに補強もせず、強化しただけなのだから当然の結果だ。

先に彼から取り去ったメイスの片割れ。
それをまるで槍のように投擲し、未来予知じみた勘の良さを以ってして彼の進行方向を防ぐ。

「……っ!」

彼は自身に突き刺さりそうになっていたメイスを易々と受け止める。
だがそれによって動きはほんの少し止まった。
その隙に、ベクトル操作と熱吸収を同時に行い、その結果―――

「な、に……!」

彼の身体のほとんどは、氷の中に閉じ込められた。
メイスを受け止めた腕と胸より上しか外に出ていない状況。
だが安心するな。この程度、彼が化物である以上容易く破壊し出てくる。

おそらく、それはおよそ3秒後。
故にその3秒の間に、私は彼と決着を付けなければならない。

632: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:20:26.95 ID:XJ8/zcgo
「お、おおおおおおおおおッ!!」

―――ばちん、と両足から大きな音がした。
   これも同じ。補強無しの強化では今の私の身体は耐えられないが、しかしそんな無駄なことはしていられない。

一秒。
一足でアックアの眼前へ跳ぶ。
足は壊れた。故に、彼に近づけるのはこれが最後。
いや、例え足が壊れなかったとしても、今このチャンスを逃せば先は無い。

「エデンズシード解放!」

左天さんの中からくみ上げた必殺に一撃を繰り出すため、左腕に全熱量を集中し変換する。
腕の金属はがちんと形を変えて組み上がって必殺の準備を―――

「舐めるな―――!」

二秒。
轟音と鋭音。
低い音の中に高い音が混ざる不可思議な音の発生源は、彼によって無理やり引き抜かれたメイスにより
砕けている氷のモノだった。

ろくに力も入らないあの体勢で、密度を高めた氷を破壊するか。
予想できなかったわけではない。それを加味しての残り3秒。
けれど実際には3秒どころか2秒で奴は復帰した。
舐めているつもりは無かった。
侮っているはずなど無かった。
簡単な話だ。つまり、彼は私の予想よりはるかに上をいっていたということだけ。

「――――――」

引き抜かれたメイスが私の頭を狙う。
不味い。このままでは、私が攻撃を放つ前に私の頭が吹き飛んでしまう。

―――須臾が永遠に感じられる。
   どうすればいい。
   これ以上手は無い。
   もう左腕は攻撃態勢に入っておりどうすることも出来ない。
   右腕は先の投擲で使いものにならない。
   どうする。
   どうすれば―――!

(―――ある。まだ、私に残ってる力……!)

成功するかどうかはわからない。
だが今は不安に感じる暇など無い……!

633: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:21:49.81 ID:XJ8/zcgo
―――ベクトルを視覚化。及び視覚強化。
   視線は朝日へ。目に映る全てのベクトルを制御下に置く。
   攻撃方法は一点集中。ただ、メイスを焼き切ることのみを考えろ―――!









―――ぱりん、と大切な何かが砕けてしまう音がした。
   きっとそれはただの幻聴。
   だというのに、どうしてこんなにも物悲しく心を締め付けるのか―――









「――――――……!!」

溶けたメイスは私の眼前を過ぎ去り、その光景に彼の表情は驚きの形で凍りつく。
そして、三秒。
左天さんの必殺の一撃。
能力の先にあるその一撃は、完全な形となり今ここに発動する。








             「―――〝第五波動〟」


634: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:22:21.85 ID:XJ8/zcgo
「あうっ!!」

反動で吹き飛ばされ、受け身などとれずそのまま地面へ叩きつけられた。

「あ、は……、ぅ」

頭がぼんやりとする。たぶん、直前でロクな演算式もなく無理な操作をしたせいだろう。
頭が熱いのに、身体は冷たい。
足はアキレス腱が切れてしまったのか、全く動かない。
幸いと言えば、脳のどこかがおかしくなったのか、全く痛みを感じないことくらいか。

「は、は―――、はぁ、」

呼吸を落ち着かせて、仰向けのまま天を仰ぐ。
朝焼けは無くなり、空は透明感のある青色が色がっている。

「は―――、ぁ―――」

頬をなでる風の感触が心地よい。

「―――、勝った」

そう。勝ったのだ。
手ごたえはあった。そして、完成された第五波動はまさに一撃必殺。
直撃したのならば、いかにあの二重聖人とて起き上がれまい。
だから私の勝利。
それを確認するために、今一度声にだして高らかに勝利を確信する。


「私の勝ちだ―――ウィリアム=オルウェル!」








「―――いや、貴様の負けである。佐天涙子」

635: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:23:53.17 ID:XJ8/zcgo
「――――――」

思考が止まる。
呼吸が止まる。
生命が止まる。

馬鹿な。
確かに、直撃したはずなのに―――!


「確かに、素晴らしい一撃だった。だが、惜しかったな。本当に惜しかった。
 もし私の手がほんの少しでも遅れていればやられていたのである」


―――そうか。
おそらく、彼は直撃する直前で防御の魔術でも使ったのだろう。
第五波動はそんなものは貫くが、しかし威力の減衰は免れない。
並の魔術師ならばそれでも十分。ただの聖人でさえ仕留めるはずだ。
だが彼は二重聖人。そんな常識の範疇に収まるはずがなかった。

「――――――そっか。残念だな。最後は、結局才能の差、ってわけか」

「―――そうかもしれないな」

彼の声は本当に寂しそうだ。
ああもう、勝った方がそんな顔をしていてどうするっていうんだ。

けれど、残念だ。

あと一歩、だったのだけれど。


けれど、その一歩が大きな差ってことなのかな。



ちくしょう。
全力を出して叶わなかったのだから、もはやどうしようもないとはいえ。
それでも、やっぱり、最後に思い浮かぶのは皆の顔で。

―――ああ、そうだなあ。

   心残りがあるとすれば。

   せめて最後に、迷惑かけてごめんなさいって、謝れたらよかったのに―――

636: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 04:24:26.59 ID:XJ8/zcgo
「――――――」

アックアは、沈むように眠ってしまった佐天を見ている。
年にしてはふくよかな胸は規則正しくゆっくりと上下し、彼女がまだ生きていることを告げている。

「――――――、く」

最後の攻撃。
第五波動と呼ばれた、説明のできない力の塊は、確かに彼を貫いていた。
そのせいで身体の芯から表面まで均一にダメージはあり、二重聖人である自分がこれほどの
怪我を負ったのはいつぶりだったかと、彼は少し考えてそれをやめた。

「―――、才能の差、か」

呪詛のように最後に吐かれた言葉を反芻する。
そこに感傷など意味の無いものだというのに。

「―――、本当に、残念である」

静かにメイスを振りあげる。
あとはもう、少し力をいれて振り下ろしてやれば、金属の塊は意識のない彼女の頭を打ち砕くだろう。

ためらいなど無い。
ずっとこうしてきた。
対立する信念はこうして潰してきた。
自分の思い描く先のため、他の道を潰してきた。
今回の件もそのなかのひとつに過ぎない。
だから、もう何も思うことも無くメイスを振り下ろして終わらせるだけ。

「―――さらば」

別れの言葉と共にメイスが振り下ろされる。
5mの鉄塊は空気を切り裂いて、彼女の頭を――――――

648: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 14:19:10.35 ID:XJ8/zcgo
「ォォォォォォおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

「――――――ッ!!」

どこからともなく跳んできた白い影に、メイスは脳天を砕くことなく弾き飛ばされる。
普通ではない、まるで聖人の一撃かのような攻撃に、アックアは痺れる手を抑えて後退して
突如飛来した白い影に目をやる。
白い髪に紅い瞳。
彼は知らないが、その姿は学園都市元最強。現第一位の、一方通行に他ならない。

「――――――」

一方通行は何も言わず、地に伏した佐天を見た後に、アックアへ向き直り、

「―――テメェェェェェェェェェェェッ!!!!」

その背中から、黒い翼が噴出した。

「―――――――!」

その光景を見てアックアの目が見開かれる。

(何だあれは―――聖人とも、神の右席とも違う……)

高く大きく、広く果てなく、十数メートル以上にも展開された黒い翼は
暴力の塊であり即ち、

「fbiasu;gnl:a::あ:w@spk:―――――――!!」

それは、眼前の敵を殺すためにしか機能しない破壊装置。
圧倒的な暴力は、漆黒の暴風となってアックアを襲う。

「ぬ、ぐ……!」

今の彼はこの攻撃をかわすだけで、反撃に出るなど不可能だ。
第五波動は身体だけでなく、その魔術回路でさえ狂わせる。
聖人崩しには届かないが、それでも今彼は満足に魔術を行使できるほどの力は無い。

「■■■■■■■■――――――――――ッ!!!!!」

翼が地面に当たるたびに地形が変わる。
それが数十回。もはや、河原は元の地形の面影を失くしていた。

そして、

(しまっ―――)

黒い翼はついにアックアを捉えるところ寸前まで伸びる。
既に回避ができるほどの距離はない。
後はただこの暴力に飲まれてしまうだけ。
いかに二重聖人といえど、この暴風の前にはなすすべもなく圧殺される―――!

649: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 14:19:58.69 ID:XJ8/zcgo
―――だが、


「ストップストップ!ってミサカはミサカはまた何も見えなくなってるアナタを制止してみる!」


一人の幼女の声で、その攻撃は止められた。
その隙にアックアはさらに後退し、距離をかせいで突如現れた少女に目をやる。
少女の傍らには、女性が一人と男性が二人。

「本当に止まるとは。流石土御門さん、筋金入りの  コンは考えることが違いますね」

「にゃー。対『暴走した一方通行』用に連れてきといてよかったぜい。ごめんなー打ち止めちゃん。あと海原は死ね」

「別にかまわないよ、ってミサカはミサカはあの人の保護者の役割を果たせてうれしかったり!」

「保護者ねぇ。でもま、確かにそうかもね。全く、こんなちっちゃい子に手綱握られるなんて一方通行も結構な変 ね」

「それについては同意するにゃー」

「全くその通りですね」

「だよねー、ってミサカはミサカは結構ひどいことを言ってることを自覚しながら同意してみる!」

ハハハハハ、と空気を全く読まない集団は朝日を受けながらアメリカンな笑い声を響かせている。
これまでの緊張感を完全にぶちこわした4人組に対して、

「―――何しに来やがったてめェら」

一方通行は、その雰囲気にそぐわない、いや、本来あるべき調子で彼らに問いかける。
その問いかけに、土御門は何を言っているんだお前はと言いたげに息を吐いて、

「お前を止めにきたに決まってるだろうが。ったく、独断で走りやがって。本来俺達の知り得ない情報を
 もとに動いて、上にバレたらどうするんだ」

「関係ねェよンなこと!!目の前でコイツが殺されかけてるってのに黙ってられるワケがねェだろォが!!」

「あ、駄目だよそんなわがままで皆に迷惑かけちゃ、ってミサカはミサカは自分勝手なアナタを注意してみる」

「打ち止めは黙ってろ!!」

「あうん」

割と本気で叱られたのが辛かったのか、明るい笑顔がしぼんでしまう打ち止めを、海原が慰めている。
結標はそれを横目に見ながら、やれやれと言わんばかりに一方通行へ話しかける。

650: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 14:22:54.00 ID:XJ8/zcgo
「そんな勝手な気持ちで動いてもらっちゃ困るのよ。ほら、今あんたがすることは何?
 敵を倒すことじゃなくて、そこで死にそうになってる子を早く病院へ連れていってやることでしょうが」

「うるせェ!コイツをこんな目に合わせた奴を放っとくなんてできるか!!
 それに奴はコイツを殺そうとしてンだろ!だったら今ここで先にアイツを―――!」

「いや、その心配は無用である」

「ァ……?」

「たった今、その子を殺す理由は無くなったのでな。ここらで退かせてもらうのである」

「信用するとでも思ってンのか!!」

アックアの、突然の宣言に一方通行は不信感をあらわにする。
当然といえば当然だが。何せここまで傷めつけておいて、殺さないなどその場しのぎの嘘にしか思えない。

「信用しとけ、一方通行。今は結標の言うとおり、佐天ちゃんを病院に連れてくのが、お前の望む一番の結末に繋がるはずだ」

「それはっ……!」

「ほらみろ、ちゃんとわかってんじゃねーか。そんじゃ結標、一方通行と佐天ちゃんをよろしく頼むんにゃー」

「りょーかい。ほら行くわよ一方通行。飛ばすから、しっかしその子を抱きかかえてやんなさい」

「……」

黒い翼を納め、一方通行は佐天の元へ駆け寄り抱きかかえる。
いとが切れたようにだらんとした四肢は痛ましく、ところどころから流れ出している血は生命の危機を表している。

「……っ!」

それを見て、一方通行は強く彼女を抱きしめる。
抱きしめて、一息おいて、結標に座標転移を促した。

651: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 14:25:22.64 ID:XJ8/zcgo
その場から二人が、遅れて一人が姿を消す。
その光景を見てアックアはどこか安心したように、彼らしからぬ無駄口を叩く。

「空間転移―――こちらの言葉で、テレポート、だったか」

「―――ああ、そうだにゃー。さて、後方のアックア。さっきの言葉は本当か」

「―――本当だ。もうあの子を狙う必要は無くなった。無駄な殺生は好まんのでな」

「ハッ、そうかい。神の右席ってのは、異教徒は問答無用で殺すもんだと思ってたんだがな」

「テッラのことを言っているのなら、アレは行き過ぎた結果である。異常なのは奴の方だ」

アックアはさっきまでの戦いでぼろぼろになったメイスを拾い上げると、自身の影の中にそれをしまいこむ。
身体の調子を確認したあと、少しずつ戻ってきた魔術回路で治癒魔術を自身にかける。

「……次は上条当麻、ってとこか?」

「そうだな―――だが、こちらも少々傷を負った。襲撃はおそらく、明日以降になるだろう」

「なら今日はまーだのんびり出来るってことかい。ま、俺にゃ関係ねーけど」

「……貴様も魔術師ということは、イギリス精教の者だろうに。いいのか、ここで私を討たずとも」

「傷を負っているとはいえ聖人なんぞに戦いを挑みたくはねーよ。それに、カミやんならカミやんで
勝手になんとかするだろうしにゃー。俺にゃー預かり知らんことだぜい」

「薄情なのだな」

「違うっつーの。俺には俺の目的があるんでな。お前と一緒だよ」

「……そうか」

652: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 14:25:57.75 ID:XJ8/zcgo
彼は土御門に背を向け、その場を去ろうとして、ああそうだと何かを思い出したかのようにそのまま彼に話しかける。

「彼女―――佐天涙子が目を覚ましたら伝えておいて貰いたいことがあるのが」

「んー、いいぜい。なんだ?」

「―――『Flere210』。次に会う時は、共に闘えることを願っている、と」

「―――いいのか。魔法名なんて」

「構わん。貴様に知れたところで、何の問題もないのである」

「……ま、そりゃそうだ。おっけい、伝えておくぜい。だが代わりに俺からもひとつ質問させてもらうぜい。
 ―――どうして、佐天ちゃんを見逃した?その理由を教えろ」

アックアが彼女を見逃した理由。
そんなもの、既に告げてある。
朝日を受けながら、河原を歩いていくアックア。
歴戦の戦士はやはり振り返らず、そのまま、ただ呟くように自らの想いを告げた。







「―――なに。たいしたことではないのである。 
 ただ、彼女の涙の理由を変えるのは、自分では無いということだけだ―――」



(何いってんだコイツ……)





こうして、佐天の長い悪夢は終わりを告げた。
そして彼女はようやく答えを手に入れて。
このSSは終わりを迎える。

―――10月14日 終了

―――後方のアックア編終了

663: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 15:56:10.32 ID:XJ8/zcgo
――――――10月14日

アレイ☆「――――――」

アレイ☆「(……誤差?)」

アレイ☆「(プランに影響ありとは―――なるほど、確かにイレギュラーだ)」

アレイ☆「(予測では、ここで死んでもらうはずだったのだが、まさか生き残るとは)」

アレイ☆「(……消すか?いや、ここは上手く使って―――)」

アレイ☆「(ふむ―――彼が現れるが少し遅れてしまうが、許容範囲内の誤差だ。問題ない)」

アレイ☆「(さて、すこし根回しをしておくか。ふっ、忙しいとはいいことだ―――)」

665: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 16:13:38.48 ID:XJ8/zcgo
――――――10月14日

皇帝『私だが、何かあったのか』

アックア『佐天涙子の抹殺を取り消した。そのことを報告したかっただけである』

皇帝『ほう……理由を聞いてもいいかな?』

アックア『実際に戦い、殺す必要は無いと感じた。アレはもはや放っておいても問題は無い。
      やはり対象は、上条当麻ただ一人だけである』

皇帝『……そうか。しかし、もしもう一度我々の前に立ちはだかった場合どうするつもりかね?』

アックア『その際は躊躇うことなく殺してみせよう』

皇帝『躊躇うことなく、か。ということは、今回は殺すことをためらったということかね?』

アックア『――――――、さて、何のことか』

皇帝『いや、君にも人間らしいところがあったとわかって安心したよ。
    何にせよ、この件は君に全て任せてある。実際に戦った君がそういうのならばそれでいい』

アックア『……貴方は我々が暴走してしまった時の手綱を握るものだ。
     そう簡単に信用されてしまっては困るのだが』

皇帝『君達は私の「相談役」だよ。そのような関係では無い』

アックア「―――」

アックア『―――では、次に連絡する時はおそらく事後になると思うのである』

教皇『ああ。君が負けるとは思わないが、気をつけてくれ』

アックア『お気遣い痛みいる』

669: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 16:19:04.17 ID:XJ8/zcgo
――――――10月21日

「ん―――」

目を開けると、そこは見なれた天井。
清潔な白いシーツとカーテンが、秋の風にゆられている。

「……あれ」

思考している自分に驚く。
風で髪が揺れて、くすぐったく感じる自分が不思議だ。

「なんで、私……生きて、」

あの時、私は気を失って。
それで、そこで終わるはずだったのに、どうしてまだ生きているんだろうか。

「――――――、まあ、でも」

でも、生きているのなら、それでいい。
理由はわからないけれど、死んでいないのなら、それは何よりも喜ぶべきことだ。


「目が覚めたようだね」

674: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 20:39:38.04 ID:XJ8/zcgo
佐天「先生……」

医者「……ふむ。言語機能と認識機能は特に問題なさそうだね?今日が何日かはわかるかい?」

佐天「えー……と、私ってどれくらい眠ってました?」

医者「ちょうど一週間だね」

佐天『一週間!?ずいぶん眠ってたんだなぁ……とすると、21日ですかね」

医者「計算能力も問題なしだね」

佐天「あの、さっきから何なんですか?」

医者「何かなんて、君が一番よくわかってると思うんだけどね」

佐天「……まあ。でも、頭に特に異常無さそうですよ。昔の事も思い出せますし、特に問題なさそうです」

医者「そうかい。運ばれて来たときは見て驚いたからね。全く、君は自分の脳を破壊するのがよほど好きなようだね?」

佐天「いやぁ好きってわけじゃないんですけどねー」

675: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 21:12:14.57 ID:XJ8/zcgo
医者「さて、一応身体の具合を伝えておこうかな。さっきも言ったように脳へ大きなダメージがあったことは事実―――加えて、
    血管や筋肉や腱や骨や内臓、ひらたくいえば全身に致命的な怪我があったわけだが、まあ出来る限りは治しておいたから」

佐天「oh...まったくもって死に体だったんですね私」

医者「生きているのが不思議、とはよく言ったものだね?運んできた彼が少しでも応急処置をしていなかったらまず出血多量で
   死んでいただろうね」

佐天「あ、誰かが私を直接運んできてくれたんですね。誰かわかりますか?今度御礼したいですし」

医者「匿名希望らしくてね?残念だけど」

佐天「そうですかー。残念ですね」

医者「……ふむ。元気そうでなによりだね?それじゃ僕はこれで」

佐天「あっ、先生」

医者「なんぞや」

佐天「……いろいろ迷惑かけてごめんなさい」

医者「―――ふむ。君は悪いことだけしかしなかったのかい?」

佐天「え……?」

医者「いや、なんでもないよ。それじゃお大事に。それから、お疲れ様」バタン

676: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 21:25:06.87 ID:XJ8/zcgo
佐天「……あっ!」

佐天「一週間……一週間も寝てたって、それじゃあ……」

佐天「……!上条さんは……!くそっ、電話はどこに……ああもう、携帯電話は家か!確か、病院の公衆電話が……!」ばっ

ずるっ  ごんっ

佐天「あいたっ」

佐天「あいたたた……くそぅ、手術した後と、一週間も眠ってたせいで上手く立てない……松葉づえ松葉づえ、っと」

佐天「くそっ……無事でいてくださいよ上条さん……!」カツカツカツカツカツカツカツカツ!





pllllllplllllllllll

佐天「出ろ……出てくれよ……!」

ガチャッ

佐天「上条さんっ!!無事ですか!!」

上条『うおあっ!!その声佐天さんか?』

佐天「大丈夫でした?何もありませんでしたか!?」

上条『え、あ、うん、ちょっといろいろあったけど、まあなんとかなってるぞ?』

佐天「(良かった……上条さんは無事みたいだ。オルウェルさんが一週間も敵地で伏せてるなんて考えにくいし、
    たぶん上条さんは今回もまた追い払ったんだろうな……あんな人をどうやってかはしらないけど。でも、まあ)」

佐天「良かったぁ……本当に、良かった……」ガチャン

佐天「っと、安心して受話器置いちゃった。まぁいっか」

677: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 21:40:13.02 ID:XJ8/zcgo
――――――屋上

佐天「ふぅ……リハビリがてらきてみたけど、なんというか」

佐天「確か、三カ月くらい前に幻想御手使ったあともここに来てたなぁ。今回も幻想御手使ったあとだし、あの頃と一緒だ」

佐天「全く……能力が使えなくなるところまで一緒にならなくても、よかったのにさ」

そう。

私は、能力が全く使えなくなった。


―――幻想御手(改)。
    周囲のAIM拡散力場から『自分だけの現実』を逆算、さらにそこから各々の演算式を逆算し、
    それを用いて自身の演算式を最適化および演算力を強化する道具。
    結果として能力のレベルは上がるし、幻想御手と違い昏睡するなどといった副作用は無かったが―――

佐天「世の中そんなに甘くない、っと」

―――その道具を通して演算式を最適化する分には問題はなかった。
     けれど、私はそれが壊れた後に、自分の頭に残った演算式の残滓を無理やり自分に組み込んだ。
     それが一体どういうことか―――

佐天「ま、それでもそれだけだったら、前みたいにもう一度自分だけの現実からやり直せばよかったんだけど、でも」


     

678: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 21:50:45.30 ID:XJ8/zcgo
―――最後。
    水流操作・空気使い・念動力・ベクトル操作。
    それらの能力を使うために、演算式の残滓から『自分だけの現実』を適用した。
    それはつまり、私自身の『自分だけの現実』を侵食する行為だ―――

佐天「結果、私の『自分だけの現実』は他人の『自分だけの現実』と混ざり合って観測できなくなっちゃったし、
    無理して頭動かしたせいで新しく『自分だけの現実』をつくることもできなくなっちゃった、と」

わかってはいた。
あの時、後でどうなるかくらい、わかってはいた。

自分が求めてやまなかった、自分だけの能力。
ずっと憧れて、そのために学園都市に来たけれど。

佐天「―――まぁ。誰かを犠牲にして、自分だけ何も失わずに勝ちを拾おうなんてむしのよすぎる話しだし、ある意味これが正解なんだろうけど」


680: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 22:18:39.28 ID:XJ8/zcgo
佐天「それにしても、結構超えられるもんなんだなー限界って」

1人につき1つの能力。それが大原則。
多重能力が不可能なのは能力者にかかる脳の負担が大きすぎて出来ない、というものだったが、

佐天「はっはー。後先考えなきゃ割とできるもんじゃーん。
    まったく、三カ月前までは無能力者だった私が不可能とか言われてた多重能力者になれたんだから何があるかわかんないよねー」

佐天「はははは!凄いぜー私!やるじゃん私!」

佐天「あはははははははは……は、ははっ」

佐天「はぁ……空しいぜ」

左天さんを失くして、自分が追い求めていた自分だけの能力さえも失くした。
体を壊して限界をいくつも超えて、そこまでしても結局オルウェルさんには届かなかった。

結局私には勝利という結果を拾うことは出来ず。
何をしても戦いに勝つことは出来なかったが―――

681: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 22:37:12.70 ID:XJ8/zcgo
「けど、まあ」

私が戦いに勝てなかったのは、この三ヶ月間の戦い全部がそうだったし。
つまり私は誰にも勝つことは出来ないということだろうけれど。

それでも、答えは得た。
走馬燈の中でみた、一方通行さんの言ってくれた言葉。
それだけで、私は十分だ。

間違った想いで走り続けてきて、今も自分の劣等感を隠すために『皆を守るために戦う』なんて言っているのかもしれない。
間違いだらけの三カ月間だったけれど、そんな私でもどうやら一方通行さんを救えたみたいだったから。

この気持ちは偽りかもしれないけれど。
間違いなんかじゃないって、胸を張って言えるようになった。

それがわかったから、私はずっと走っていける。
迷うことなんてない。
弱い自分を認めて、自分一人じゃ何も出来ないことを認めて、それでもなお前へ進んで行ける。

「―――――、は」

だというのに。
失くしたものを、ふっきれない。

「――――――、ああ」

覚悟とはそういうものだと理解したはずなのに。

「――――――、未練なのかな」

まったくもって情けない。
未練なんて持っていては、前へ進むのに重荷になる。

「――――――、ぅ、っく」

ここでそんなものは置いていこう。
だから、せめて、

「は―――、ぅ、ひっ、く……」

失くしてしまった人、失くしてしまったモノのために、今だけ泣くことを―――

682: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 22:40:40.08 ID:XJ8/zcgo
初春「佐天さんっ!!」バンッ

佐天「っ」ビクッ

佐天「え、うい、はる……?」

白井「座標確認!いきますわよお姉さま!!」

御坂「ええ、いつでもいいわよ!!」

ヒュンッ

佐天「え?え?」

白井「マグネットパワーマイナス!!」

御坂「マグネットパワープラス!!」

佐天「え、ちょっ!?」

初春「そしてマグネットパワーニュートラル!!」がっ

佐天「え、えええええええ!?」

御坂黒子「師弟のクロスボンバー!!」

佐天「ぐわーっ!」

687: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 22:45:19.40 ID:XJ8/zcgo
佐天「」

御坂「いやー見事に決まったわねー」

白井「それはもう、ワタクシとお姉さまですもの。ああ!お姉さまとの合体技!!このまま二人で夜もがっt」

御坂「あ、そういうのいいから」

白井「」

初春「ほらほら、いつまで寝てるんですかー佐天さん」ペシペシ

佐天「う、うう……うい、はる?」

初春「はい、初春飾利です」

佐天「それに、御坂さんと……あと白井さん」

御坂「やっほ。元気?」

白井「なんだかワタクシだけとってつけたような感じですの」

佐天「……」

佐天「―――なんで」

689: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 22:50:16.10 ID:XJ8/zcgo
佐天「なんで、そんなに普通に接してくるんですか……」

佐天「私、三人に、ひどいことしちゃったのに……!」

御坂「……黒子、初春さん」

白井「ええ、お姉さま」

初春「言わずとも、ですよー」

御坂「フォーメーションB!!いくわよ!!常盤台のレールガン!」

白井「常盤台のジャッジメント!!」

初春「学園都市のゴールキーパー!!」

御坂白井初春「ジェットストリームアターック!!」

佐天「ぐわーっ!?」バキィッ

691: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 23:00:35.94 ID:XJ8/zcgo
佐天「」

初春「ほらほら、寝てないで起きてください佐天さん」ベシベシ

佐天「う、うう……初春……?」

御坂「やっほ。お目覚めかしら」

白井「調子はどうですの?」

佐天「御坂さん……と、あと白井さん」

白井「だからどうしてそんなオマケみたいな言い方を!?ワタクシ嫌われてますの……?」

佐天「いえ、そういうわけじゃないですけど……あの、さっきからなんなんですか?」

御坂「何って、仕返しよ仕返し。全く、あの時はよくもやってくれたわねー」

佐天「あ……」

初春「あーもー、そんな顔しないでください佐天さん」

白井「そうですの。さっきの仕返しであの時のことはチャラですのよ」


692: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 23:11:00.38 ID:XJ8/zcgo
佐天「チャラって……でも、そんなの」

白井「で・す・け・ど!」

御坂「私達はそれでいいんだけど、ただ初春さんをあんなに泣かせたのはいただけないわよねー」

白井「というわけで、佐天さん。今から初春に謝ってくださいですの」

佐天「……はい」



佐天「……初春」

初春「はい、佐天さん」

佐天「確かさ……幻想御手の事件で、目が覚めたあともここで会ったんだよね」

初春「そういえば、そうでしたね」

佐天「馬鹿やってさ、初春を危ない目にあわせて、大切な友達をなくしちゃうとこだったって気付いたのに」

佐天「また、同じように馬鹿やっちゃって……全然成長してないよね、私」

佐天「ごめん……ごめんね、初春」ぎゅっ

佐天「許してもらえるなんて思ってないけど、でも……私は、もう一度初春と―――」

初春「飾利ぱんち」がっ

佐天「ごふっ!」


696: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 23:19:25.77 ID:XJ8/zcgo
佐天「ぐ、おふっ……う、ういはる……?」

初春「全く、佐天さんは……私があの程度のことを許さないなんて思ってたんですか?
    そんなに器がちっさかったら、佐天さんの日々のスカート りを許せるわけないじゃないですか」

佐天「あ……じゃ、あ」

初春「佐天さんはいつまでたっても佐天さんですからね!危なっかしくて放っておけません。
    私がずっとついててあげなきゃだめですよね!」

佐天「初春……――-っ、ははっ、どの口がそんなことを言うか!この口か!この口かー!!」

初春「いひゃい!?い、いひゃいでふよひゃへんひゃん!!」

佐天「あはは、初春変な顔ー!あはは、はは、は……ぁ、っ、はっ、くぅ……ひっ……」ボロボロ

初春「ひゃひぇんひゃん?あの、どうしたんですか?あ!まさかどっか痛くなってきて……!?」

佐天「ちっ……ちが、うの……。こうやって、また……ういはるたち、と、はなせるのが……うれしくって……うれしくって……!」

佐天「ふ……ふぇぇぇぇええええええんっ!!」ワー

初春「佐天さん……」

697: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 23:23:36.91 ID:XJ8/zcgo
初春「大丈夫ですよ、佐天さん」ぎゅぅ

初春「私はどこにもいきません。御坂さんも白井さんも、佐天さんを見離したりなんてしませんから」

白井「勿論ですの」

御坂「なんたって、私たちは―――」

初春「―――し・ん・ゆ・う!ベストフレンドですから!!」

佐天「み、みんな……!うぇぇぇぇええええええええんっ!!!」ワーワー

初春「(ああ、泣いてる佐天さんかわいい……)」ゾクゾクッ

白井「初春、顔に出てますのよ」



御坂「落ち着いた?佐天さん」

佐天「はい……あの、御坂さん」

御坂「うん?」

佐天「……ありがとうございました」

御坂「……いいのよ。親友のために動くのは、当然でしょ?」

佐天「御坂さん……」キュンッ

699: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 23:28:08.88 ID:XJ8/zcgo
佐天「それから、白井さん」

白井「はいですの」

佐天「足を貫いてくれた恨み、忘れません」

白井「何でワタクシは恨み言を!?」

佐天「あはは、冗談ですって。ありがとうございました、白井さん」

白井「え、ええ、まあ、ワタクシもお姉さまと同じですの。親友のために動くのは当然―――」

佐天「えっ。白井さん私の親友だったんですか?」

白井「えっ」

佐天「えっ」

白井「……ふええええええええええええええええん!!お姉さまー!佐天さんがー佐天さんがー!」

佐天「あはは、冗談ですってばー」


佐天「初春」

初春「はい?」

佐天「ありがとね」

初春「なんのことですか?……私達に、そんな言葉は不要ですよ」

佐天「初春……」キュンッ

701: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 23:40:49.30 ID:XJ8/zcgo
佐天「そういえば、どうして私が目を覚ましたこと知ったんですか?」

御坂「あー、それはほら、あの馬鹿から電話あってね」

佐天「……ああ、上条さんですか」

御坂「というか、佐天さん?私達より先にアイツに電話するなんて……ちょーっとひどいんじゃないかしら?」

佐天「え?あ、いやぁ、あれはですね、上条さんの安否を確認するためにですね……」

御坂「ん……どうしてずっと眠ってた佐天さんがアイツの体のことを知ってるの?」

佐天「え……なんで御坂さんが上条さんの体に何かあったみたいな言い方するんですか?」

御坂「……」

佐天「……」

御坂「……ま、お互い言いたくないことってはあるしね。どうして佐天さんが死に際をさまようほどの怪我を負ってたのかは聞かないけど」

佐天「(御坂さんが上条さんの体の具合を知ってる……ってことは、それって、もしかして―――!)」

御坂「だけど、これから何かするときは一人じゃなくて私たちもたよって―――」

佐天「おめでとうございます御坂さんっ!!」

御坂「……。はい?」

佐天「いやぁ、ついに上条さんに自分の気持ちを打ち明けられたんですね!しかももう  関係までもってるなんて!
    さっすがレベル5!いよっ、この  がっぱー!」

御坂「な、ななななな何いってんのよさてんさんっ!? 、  、  関係ってそんなのあるわけないじゃない!!」

佐天「え、違うんですか?」

御坂「当たり前でしょうがっ!!」

佐天「えー。じゃあ結局好きって言えなかったんですね」

御坂「べっ、べつに私はアイツの、こと、を……好き、とか、その……」

佐天「(……。あれ?いつもと反応が違う?)」

御坂「好き……そっか……好き、なの、かな……」

佐天「……!?」


白井「なんでしょう。お姉さまが随分おとめちっくですの」

初春「なんだか面白おかしなことになってきましたよー」ワクワク

702: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 23:46:12.74 ID:XJ8/zcgo
佐天「(なんだと……いったい私が寝ている間に何があったんだ……)」

御坂「好き……私は、アイツのことが……えへ、えへへへ、そっかぁ……そうかのかなぁ……」

佐天「あわわわわ、御坂さん顔!顔がにやけてます!!」

御坂「え?あ、あああうん、で、何の話だっけ?ああそうそう、アイツがね、佐天さんの目が覚めたみたいだから
    って言っててそのその……」

佐天「御坂さんはもう駄目だ……おいていこう」




白井「お姉さま?どうしましたの……?……お姉さまー!?」

御坂「そ、そっか、私ってアイツの番号とかしってるのよね……これって、世間一般でいう、こ、ここっ、こいびと、とか……」

703: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 23:51:16.82 ID:XJ8/zcgo
――――――。

初春「それはそうと、身体のほうは大丈夫なんですか?」

佐天「うーん、みての通り松葉づえつかなきゃ歩けないかな。あとは能力使えなくなったくらいで特には……」

初春「え……?」

佐天「……あ」

初春「佐天さん……能力使えなくなったって、それは、」

佐天「……詳しいことは、言えないんだけどさ。戦った相手が無茶苦茶強くて、能力失くすくらい頑張らなきゃ駄目だったんだ。
   まあそれでも負けちゃったんだけどね」

初春「そんな……せっかく、念願の能力が手に入ったのに、そんなの……」

佐天「あー、大丈夫だよ、初春。無能力者、ってわけじゃないから」

初春「……?」

佐天「そっか、初春には、まだ説明してなかったよね。えっとね、実は私―――」


土御門「よっ、佐天ちゃん」

佐天「――-土御門、さん」

初春「……?お知り合いですか?佐天さん」

佐天「うん……ごめん、初春。ちょっとだけ、時間もらえる?」

初春「え?はぁ、それはいいですけど」

705: ◆oDLutFYnAI 2010/08/09(月) 23:54:54.31 ID:XJ8/zcgo
土御門「……良かったのかにゃー?」

佐天「ええ、まあ。―――、後方のアックアのことですか?」

土御門「え?いやいや違うぜい。ただのお見舞いだにゃー」

佐天「えっ」

土御門「佐天ちゃーん。そんな、俺が魔術がらみでしか話しかけないみたいな偏見はやめてほしいにゃー。
     俺だって可愛い後輩のお見舞いくらい普通にくるぜい」

佐天「はぁ……それは、ありがとうございます」

土御門「ただ今回は別件もあってな。こうして二人きりになれたことは幸いだった」

佐天「(真面目口調に……)別件?なんですか」

土御門「ま、そりゃー病室に行けばわかるぜい」

707: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 00:02:44.59 ID:n.Jfm0wo
土御門「それにしても凄いにゃー佐天ちゃん。まさか後方のアックアにあそこまで傷を負わせるなんて」

佐天「え……土御門さん、直接会ったんですか?」

土御門「マァネー」

佐天「あ!もしかして、私を病院に運んでくれたのって土御門さんだったりして」

土御門「んー、それも病室に行けばわかるにゃー。そうそう、奴から伝言預かってたんだにゃー」

佐天「奴って、アックアからですか?」

土御門「ああ。―――〝『Flere210』。次に会う時は、共に闘えることを願っている〟 だそうで」

佐天「Flere210、って―――魔法名、ですよね」

土御門「Flereの意味は『涙』ってとこかにゃー。どういう意味かはわからなんが、何か思い当たる節はあるのかにゃー?」

佐天「……さぁて。けれど、魔法名、ですか」

土御門「何を思って名乗ったのかは知らないけどにゃー」

佐天「―――まったく。最後まで、敵ながら本当に素敵な人だなぁ」

土御門「んんー?まさか、佐天ちゃんアックアのヤツを好きになっちゃったとか?」

佐天「あはは、そんなんじゃないですって。ただ、まあ―――もう一度会って、今度は何の関係もなく、お話してみたいですけど」

708: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 00:13:30.24 ID:n.Jfm0wo
―――病室前

佐天「ん……扉の前に誰か……」

土御門「ありゃー俺の仕事仲間だから気にする必要はないぜい」

佐天「仕事って暗部のですか……て、アンタは!!」

結標「病院ではお静かに。その様子だと、身体は大丈夫みたいね」

佐天「あの時死んだと思ったのに……」

結標「失礼な」

土御門「とりあえず言っとくが、佐天ちゃんをここまで運んできてくれたのはコイツだぜい?」

佐天「えっ……そう、なんですか。……あの、ありがとうございました」

結標「うわっ、素直にお礼言われると気持ち悪い。別にいいわよ。それに、私だけが運んできたってわけでもないしね」

土御門「ま、それに関しては病室でのお楽しみ、ってことだにゃー」

佐天「はぁ……?あの、さっきから気にってたんですけど、そっちの方は?」

海原「どうも」

土御門「ただの  コン。ちょっと前に義妹もちのシスコンってことも判明したんだにゃー」

佐天「ああ、ただの変 さんなんですね」

海原「ははっ」

712: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 00:20:00.89 ID:n.Jfm0wo
結標「ほら、無駄話してないでさっさと要件終わらしてきてよ」

佐天「むぅ……性格が悪い感じは変わってないみたいね」

結標「みたいですね、でしょ。先輩には敬語使いなさい」

佐天「……みたいですね」

結標「うわっ、素直すぎて気持ち悪い」

佐天「土御門さん、私この人嫌いです」

土御門「安心しろ、口は悪くてもソイツもショタコンな変 だ。ああ、そういえば佐天ちゃんは弟いたんだったな」

結標「こんにちは、佐天さん。私は結標淡希。あわきんって呼んでくれて構わないわよ」

佐天「あ、ちょっと離れてもらえます?」

結標「そんなこと言わずに仲良くしましょうよ。佐天さんの弟さんはいつ学園都市にくるの?」

佐天「うわぁ……」

714: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 00:26:22.23 ID:n.Jfm0wo
海原「あの、土御門さん、結標さん。病院内ではあまり人払いを長く続けていたくないのでそろそろ」

佐天「人払い……?変 さんって魔術師なんですか?」

海原「変 さんではなくてエツァリです。ここは海原と呼んでください」

佐天「じゃあエツァリさんで」

海原「あれ?この子性格悪い?」

佐天「だって変 さんですしぃ……」

海原「ああ、ご心配なく。僕は御坂さんにしか興味はありませんから」

佐天「うわぁ……御坂さんのストーカーだぁ……」

海原「ストーカーではないんですけどね。それはそうと、本当に早く病室にはいってもらえませんか」

土御門「そうだな。あまり時間も取れないし」

佐天「はぁ……あの、病室に何があるんですか?」

土御門「それは入ってみてのお楽しみ、ってことで。強いていうならそうだな……
     ―――受け取れ。素晴らしいプレゼントだ、ってトコかにゃー」

佐天「あ、それって【俺】の台詞なんですけど。まあいいや」ガチャッ

716: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 00:45:16.25 ID:n.Jfm0wo
「――――――」

ドアを開けると、眩しいほどに清潔な白色で満たされて病室が目に飛び込む。
白いカーテンは秋風ではたはたと揺らめいて、白いシーツはシワもなく敷かれている。
窓から見える青い空は、真っ白な空間のただひとつのアクセントになって、その青をさらに強調している。

そんな爽やかな10月の中頃の病室に。
一人、イスに腰かける人が―――

「一方通行さん――――――」

―――私が救いたかった人。私を救ってくれた人。
ずっと追いかけ続けていた人が、静かに目をふせてそこにいた。

「――――――っ」

会えたら言いたいことがたくさんあったのに。
謝ったり、お礼を言ったり、ほかにもいろいろ。
だというのに、心臓が止まってしまったかのように胸は苦しくて、なのに動機は激しくて。

「あ―――――」

声が出ない。
言葉が紡げない。
気持ちを音に出来ない。

727: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/08/10(火) 20:29:01.94 ID:n.Jfm0wo
禁書21巻買ってきたー!!今日の24時がネタバレ解禁なんだってな。うーん、色々思うところがあるから
ここにそのパッションをぶつけたかったけどまあそれは3時間30後にしよう。
さぁーそれまで暇つぶしに続き書きますのよ。ジャッジメントですの!!

728: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 20:40:25.02 ID:n.Jfm0wo
「……っ」

一方通行さんがイスから立ちあがる。
立ちあがって、伏せていた目を開いて、赤い瞳で私を見る。

表情は無い。いつもどおりの不機嫌そうな感じも無い。
始めて見る彼の顔に、なぜか心臓が高鳴る。

「……」

彼がこちらへゆっくりと歩いてくる。
本当に、あと一歩で私にぶつかってしまうくらいにまで近づいてきて、


ぱん、と


高い音が、揺れる脳に届く。
その後に、右の頬が痛くなってきて、平手打ちされたんだと気付いて、気付いた時には、
ぎゅう、って。
一方通行さんに、抱きしめられていた。

730: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 21:16:27.79 ID:n.Jfm0wo
「馬鹿野郎が」

耳元で、感情を押し殺したような声で囁かれる。
私を抱いている腕の力は少しずつ強くなっていって、苦しいくらいだ。

「心配かけさせやがって」

「あ……」

どうしてかはわからない。
理由なんてしらない。
彼の体温のせいかもしれない。
私を想う言葉のせいかもしれない。
いろいろ混乱してて、自分の気持ちなんてさっぱりわからないけれど。
兎角、その言葉で私は―――

「―――ごめん、なさい。ごめんなさい、一方通行さん……ごめんなさい……ごめんなさい……」


――――――ちくしょう。
なんでかな。いろいろ終わったからかな。
今日の私は、本当に、泣いてばかりだ―――

731: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 21:25:47.71 ID:n.Jfm0wo
ひとしきり泣いた。謝りながら泣いた。
その間、一方通行さんは何も言わずに抱きしめていてくれた。
彼のうっすい胸元に顔をうずめていたから、たぶん服は私の、まあいろんな体液でべたべたになってるかもしれないけれど。
それを特に気にする様子もなく、背中をさすってくれる。

「落ち付いたか」

「はい……」

返事をすると、私を抱きしめていた腕の力が抜けて、彼が離れていこうとするけれど、

「まっ、待ってくださいっ」

離れてしまう前に、私から抱きしめ返す。
いや、だって。
今の私の顔はきっとひどい。
だから、あんまり見られたくない。

「……このままで、いてもらっていいですか?」

「……おう」

返事をすると、一方通行さんは今度は優しく背中に手を回してくれて、頭も撫でてくれた。気持ちいい。

736: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 21:39:49.27 ID:n.Jfm0wo
佐天「……えーっと、ですね」

一方「なンだ」

佐天「本当は色々言いたいことあったんですよ」

一方「そうか」

佐天「けど、さっきので全部忘れちゃいまして」

一方「ンで?」

佐天「だから、一番言いたいことだけ聞いてください」

一方「わかった」

佐天「一方通行さん―――私を守ってくれて、ありがとうございました」

一方「……ハッ、何勘違いしてンだか。俺は別にテメェを守ってやった覚えはねェけどな」

佐天「あー。すぐにそういうこと言うんですから。聞きましたよ私は。
    『あァ―――理由なンざねェ。ただ、守ってやりたかった。それだけだ』(キリッ」

一方「忘れろ。今すぐ忘れろ。あれはただのその場しのぎの嘘だ」

佐天「え……そう、だったんですか……?
    そんな……私、あの言葉のおかげで……」

一方「ゥ……」

佐天「だっていうのに……あ、あはは、そっか、そうですよね……私なんかが、一方通行さんに守ってもらえてるわけないですよね……
    ご、ごめんなさい、調子のっちゃって……ぅ、ぅぅぅ……」シクシク

一方「~~~っ!あァ畜生!嘘ってのは嘘だよ!!」

佐天「ですよねー」ケロッ

一方「ぶっ殺すぞ」

738: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 21:51:03.77 ID:n.Jfm0wo
佐天「うーん、このやりとりも久しぶりだー」

一方「ったく……馬鹿は死ななきゃ治らねェ、って言うが、あのまま一遍死んだほうがよかったかもなァ?」

佐天「ああ、その口ぶりだとやっぱり一方通行さんが私を病院まで運んできてくれたんですね」

一方「俺だけじゃねェがな」

佐天「結標さん、でしたっけ。かつての敵は今日の友、ってやつですか」

一方「別に友じゃねェ。ただの仕事仲間だ」

佐天「ふーん……お仕事、どんなかんじなんですか?」

一方「ンなもン聞いてどォすんだよ」

佐天「……別に。なんとなく、です」

一方「なンとなくで暗部の仕事なンざ聞くな」

佐天「そりゃそうですけど……でも、その、」

一方「……言っとくがな。確かにオマエを守るために暗部に入ったってのは事実だ。だがそれに対してオマエは別に何の責任を感じることもねェよ。
    いろいろ俺も調べることがあったンでな。暗部に入らねえと解らなかったことだったから、ついでだよついで」

佐天「でも……」

740: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 22:04:32.09 ID:n.Jfm0wo
一方「黙れ黙れ。今後一切この会話は無しだ」

佐天「……一方通行さんがそう言うならいいんですけど」

一方「それに別にこの生活もそこまで悪くねェよ。アイツら、あれで結構面白愉快なヤツらだからな」

佐天「おぉ……一方通行さんが他人をほめるなんて珍しい」

一方「褒めてねェ、こういうのは皮肉っていうンだ」

佐天「確かにストーカーにショタコンにメイドスキーに囲まれてたら退屈しそうにないですけど」

一方「そォいうこった。それに、ま。糸口は見つかったしな」ボソッ

佐天「?なんかいいました?」

一方「別に。おら、いつまでこうしてやがる。そろそろ離れろ」

佐天「う、え?だ、駄目ですっ!!駄目駄目ぜったい駄目!!」

一方「つってもなンか胸のあたりがやたら冷たくなってきてだな……」

佐天「~~~!ばかっ!!」どがっ

一方「オフゥッ!!て、てめっ……何しやがる……っ!!」

佐天「そ、そのままうずくまっててくださいね!!」バタバタ


佐天「(いまのうちに顔洗おう……)」ジャー バシャバシャ ゴシゴシ

742: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 22:22:10.31 ID:n.Jfm0wo
佐天「やぁやぁどうも」

一方「アクセラチョップ!!」

佐天「いたい!ひ、ひどいです……」

一方「どっちがだ!いきなり人の鳩尾に拳いれやがって……て、オイ、お前その腕」

佐天「はい?……ああ、傷口開いちゃったみたいですね。あの程度で開いちゃうなんて……ま、しょうがないです。
    どうやら致死性の少ない部分の回復は後回しになったみたいですし、もともと右腕は捨ててましたし」

一方「……ばかやろう、ンなことさらっと口にすンな」

佐天「すみません……でも、たぶん一方通行さんも会ったと思いますけど、あんな化物と戦って五体満足なだけで十分ですよ」

一方「ったく、馬鹿みてェに面倒事に首つっこむからああなるんだよ。反省したなら今度自粛しろよ」

佐天「はいっ。一方通行さんに助けてもらったこの命、無駄になんてできませんから」

一方「重い。そォいうのやめろ」

佐天「えー」

743: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 22:28:40.25 ID:n.Jfm0wo
コンコンコンコン

佐天「ノック?」

一方「……そろそろ時間みてェだな」

佐天「え……」

一方「馬鹿野郎、ンな顔すンな。別に会えなくなるってワケじゃねェよ。そォだな、仕事が休みな日は前もって連絡してやる」

佐天「……約束ですよ?」

一方「あァ。あのクソガキとも約束したからな」

佐天「打ち止めちゃんですか……・そうだ!この前打ち止めちゃんと一方通行さんにご飯作りにいくって約束もしましたよね?
   あの約束ってまだ有効ですか?有効ですよね?」

一方「……おう。またこっちの休みの時に連絡すっから、そン時に頼むわ」

佐天「へっへー、任せてください!とびっきりの料理作りますからね!コーヒー使ったお菓子もデザートで作りますから!」

一方「ハッ、そりゃ楽しみだ」

745: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 22:39:26.01 ID:n.Jfm0wo
一方「さて、そンじゃまたな」

佐天「はい、お仕事頑張ってください」

一方「言われるまでもねェよ。……なァ、佐天」

佐天「え……?(名前を……)」

一方「俺はオマエを守る。俺は打ち止めを守る。俺は出来る限りの一般人を守る」

佐天「……」

一方「けどな、俺もこのザマだ。どっかで、オマエらを守りきれねえかもしれねェ。
    俺の守りたいモノが守れずに、俺は壊れちまうかもしれねェ」

佐天「――――――」

一方「弱弱しいことを言ってンのは承知の上だ。だがな、俺はオマエだからこそこうして頼みたい」








「俺がオマエらを守るから――――――オマエが俺を守ってくれ」

750: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 22:52:57.81 ID:n.Jfm0wo
―――世界が止まったかと思った。
     彼の赤い瞳はまっすぐと私を捉えて、嘘偽りなんてひとかけらも無い。
     
「――――――」

目がしらが熱くなる。
一緒に戦いたくて、役に立ちたいと思って、その背中を追いかけてきた人に。
並んで戦えずとも、まさか背中を預けて貰えるなんて思ってなかった。
きっとその言葉は、打ち止めちゃんと、それから私自身を守れということ。
最後の最後まで、私達のことを考えてくれてるなんて、本当に優しい人だ。

「――――――、」

泣いちゃ駄目だ泣いちゃ駄目だ。
景色がじわりと歪むけれど、でもここで泣いちゃ格好がつかない。
どこまでも気丈に。この人が安心して戦っていけるように、私は笑顔で送り出さなきゃいけない。

「……っ。は、はは……あはは!任せてください!私を誰だと思ってるんですか!
 ローマ正教の刺客と渡り合えたくらい強いんですよ?自分と打ち止めちゃんを守るくらい、どうってことないですって!」

戦う理由は大切な人の世界を守るために。
だから、一方通行さんの世界を守るために。
私は、全力で私達を守ろう。

「―――だから、安心して行ってきてください。それで、ぱぱっと面倒事を解決して、こっちに帰ってきてください」

「―――おう。よろしく頼んだぜ」







御坂妹「ひゅーひゅー、とミサカははやしたてながらベッドの下からこんにちは」

佐天「」

一方「」

752: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 23:02:41.03 ID:n.Jfm0wo
14444「まったく、もう少しマシな隠れ場所は無かったんですか、とミサカは埃を払いながら立ちあがります」

御坂妹「贅沢言わないでください。むしろ、涙子が目を覚ましたことを知らせたことに感謝してほしいくらいです、と
     ミサカも同じく埃を払いながら反論します。あ、ここ埃ついてますよ」

14444「こりゃ失礼、とミサカは素直に御礼をいいます……はて、どうかしましたか二人とも。そんな、 
    ハトがアハトアハト喰らったみたいな顔をして、とミサカは先週あたりのジャンプの内容を思い出します」

一方「お、おま、おまままままま」

佐天「みみみみみみみみみみさかちゃんっ!?」

14444「はい、ミサカちゃんです、とミサカは久しぶりの再開を嬉しく思いますよ」

御坂妹「ミサカのことは呼んでくれないのですかそうですか、とミサカは頬を膨らませます」プクー

14444「ところでそちらの、おまおま京都弁もどきを口にしているあなた、とミサカは真っ白セロリを指さします」

一方「誰がセロリだァ!!え、てか何?何してンのオマエら?」

御坂妹「何って、ねえ?とミサカは吹き出しそうな気持を抑えながら14444号へ視線を送ります」

14444「『俺がオマエらを守るから――――――オマエが俺を守ってくれ』(キリッ」

ミサカ「「(笑)」」

一方「……ッッ!!!ブッコロス!!」カチカチカチッ

佐天「わー!すとっぷアクセラレータさーん!!」

754: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 23:15:29.29 ID:n.Jfm0wo
佐天「そ、それで、ミサカちゃん!一方通行さんに話しがあるみたいだけど!?」

14444「ええ、そうです、とミサカは一方通行を軽く睨みます」

一方「……なンだよ」

14444「涙子は貴方に任せました。泣かせたら承知しませんからね、とミサカは涙をぬぐって窓から飛び降ります」ばっ

佐天「ミサカちゃん!?ミサカちゃーん!!」

御坂妹「ご安心を。彼女もまた、成長したのですよ、とミサカは妹の成長を素直に喜びます」ホロリ

一方「オマエら妹達は成長すると窓から飛び降りるのか」

御坂妹「そういうわけではありませんよ、とミサカは何もわかっていないモヤシを蔑んだ目で見つめます」

一方「(うぜェ……)」

御坂妹「さて、ミサカはあの子を追いかけますが―――一方通行」

一方「ンだよ」

御坂妹「涙子のことをこれからもよろしくお願いしますね、とミサカもまた窓から飛び降ります」ばっ

一方「……」

佐天「……」

一方「……なンだったンだアイツら」

佐天「で、ですよね……」

758: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 23:21:36.85 ID:n.Jfm0wo
一方「それじゃ俺は行くが、お前はしっかり怪我治しとけよ」

佐天「はーい。ではまた」

一方「おう」

パタン


佐天「……」

佐天「……くぁー!うー!うーうー!!」ジタバタジタバタ

佐天「『俺がオマエらを守るから――――――オマエが俺を守ってくれ』(キリッ」

佐天「だってさー!あーもーなんであの人はこんなに嬉しいこというかなー!!」バタバタバタバタ

佐天「えへへーえへへへへー。どーしよっかなー!うー、このパッションを誰かにぶつけたい!!」バタバタバタバタ



海原「……中が騒がしいんですが、何かあったんですか?」

一方「さァな」

759: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 23:27:31.66 ID:n.Jfm0wo
結標「それにしてもアンタも大変ね。あんな子に振り回されて」

一方「年下のガキに振り回されるのは大人なら誰でも通る道だ。問題ねェよ」

土御門「かっこいいにゃー」

海原「ええ、かっこいいですね」

結標「かっこいいじゃない」

一方「……なンだオマエら。いつもと雰囲気が、」

三人「「「『俺がオマエらを守るから――――――オマエが俺を守ってくれ』(キリッ」」」

一方「」

三人「「「(笑)」」」

一方「……テッ、メェラアアアアアアアアアアアアア!!!」ファサー

土御門「やっべ結標テレポート頼む!!」

海原「僕もお願いします!!」

結標「オッケー」ヒュンッ

762: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 23:37:45.92 ID:n.Jfm0wo
――――――

一方「ったく、アイツら……」カツカツ

一方「―――って、オマエは……」

御坂「……久しぶりね、一方通行」

一方「超電磁砲……」

御坂「佐天さんがやたらアンタに執着してたからね……どんな繋がりがあるか知らないけれど、見舞いに来てると思ったわ」

一方「……で?何がしたいンだ?」

御坂「……っ!!」ぐいっ

一方「っ!」

御坂「もし!!佐天さんを……私の親友を、また泣かせてみなさい!!何があってもアンタをブチ殺してやるんだからね!!」

一方「……ハ。オマエに、俺が殺せると思ってンのか」

御坂「知ってるわよ。アンタが能力の制限受けてることくらい……じゃなきゃ、こうして胸倉つかむことだって出来ないはずだしね」

一方「……」

御坂「別にあの子とアンタがどんな関係かなんてどうだっていい。あの子がそうしたいのなら、それでいい。
    けどね、アンタはあの子に慕われたんだから―――私達より大事な存在になったんだから、ちゃんとその責任くらい果たしなさいよ!!」

一方「……いつまで掴んでやがる。いい加減離しやがれ」バッ

御坂「痛っ……ちょっと、アンタ!!」

一方「―――わかってる。俺はもう、アイツを泣かせたりなンざしねェよ」

御坂「……そう」

一方「じゃあな、超電磁砲。もう会うこともねェだろォよ」

御坂「……」



御坂「……何よ。絶対に許せないけど、でも―――思ってたよりも、アイツ……」

763: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 23:48:48.02 ID:n.Jfm0wo
一方「……アイツらより、俺が―――」

一方「……は、そりゃあ嬉しいこったな―――本当に。……っと」

軍覇「よう、第一位」

一方「オマエ……久しぶりだな、第七位」

軍覇「あの研究所以来か?懐かしいな」

一方「別にオマエと思い出を共有するつもりはねェよ」

軍覇「はっ、相変わらず無愛想だな」

一方「で?何でこンなとこにいるンだよ」

軍覇「いやなに、ちょっと忠告というかな」

一方「忠告だァ?」

軍覇「あの佐天涙子って女の子のことだがな。えらくお前を心配してたぞ。
    あんな少女を泣かすなんてただの根性無しだからやめとけ、ってな」

一方「……ったく。どいつもこいつも」

軍覇「ん?どうした?」

一方「なンでもねェ。安心しろ、俺は二度とアイツを泣かさねェよ」

軍覇「そうか。ま、お前ほどの力があれば問題ないだろうな。それなら安心して彼女を任せられる」

一方「……なァ、オマエまさか、」

軍覇「違う違う。そんなわけない。ただ俺は、彼女が根性のある人間だったから気に留ってただけだよ」

一方「……そォかい」

764: ◆oDLutFYnAI 2010/08/10(火) 23:54:45.46 ID:n.Jfm0wo
――――――。

佐天「……ふぅ」

佐天「よし、落ち付いた。さーて、と。初春はどこかなー」




佐天「お、いたいた。おーい、ういはるー」

初春「あ、佐天さん。もうお話は終わったんですか?」

佐天「うん、終わったよー」

初春「何の話だったんですか?なんかこう、スキルアウトみたいな格好してましたけど……」

佐天「あー違う違う。そんなんじゃないよあの人は。話の内容は教えられないけれど、でも私が元気になれたお話」

初春「そうですか。だったらいいんですけどね」

766: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 00:12:13.46 ID:H2LBgYco
初春「それで、あの、能力がなくなったって話でしたけど……」

佐天「ああ、それなんだけどね。うーん、どこから説明しようか―――」



―――夏のあの日。
    初春の一言で、私を変える三カ月が始まった。
    失ったものは大きくて、得たものがそれに代えられるなんてことはないけれど。
    それでも、この三ヶ月間は、無駄なんかじゃなかった。

    
「なるほどー。にわかには信じられない話ですけど……」

「でもまーほら、実際にこんな感じに」

「わわっ、ひやっこい?」


―――私の知らない世界で、私の幸福のために誰かが犠牲になっている。
    そんな当然のことを、この身をもって感じて、そして覚悟の意味を知った。
    答えを得て、本当の強さを手に入れることができた。
    だから、これから先何があろうと間違ったりしない。そうやって、胸を張って言える。
    
    風は強く、丘は長く続いているけれど。
    辛い時は助け合って、私はずっと、その先を目指して―――


「それで、佐天さん。この能力って名前なんて言うんですか?」

「ん?言ってなかったっけ?この能力はね―――」



             フラグメント
―――とある佐天の第四波動  おわり

785: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 01:01:06.76 ID:H2LBgYco
俺は左天。名前は捨てた。拾う気はさらさらない。
夢から覚める為に、俺のちからを全てあいつに与えて、俺は消えたはずだったが―――

「……どこだここは」

俺は何処ともわからぬ白い平原にたっていた。
そらは白く、地面も白い。だというのに、境界と輪郭ははっきりしていて、本当に不思議な場所だ。

「うーむ、ここがあの世、ってやつなのか?だとすると、随分と面白みの無い……」

無い場所だ、と言い結ぶはずだった口が止まる。
辺りを見回していた俺の目にとびこんできたものは、まぎれもない。
能力をあたえた、あの娘だったからだ。

「―――ようこそ。めくるめく、涙子ワールドへ」

奴は白いイスに座りながら、随分とまあ扇情的な衣装に身をつつんでそう言ってきた。

「……何してんだおまえ」

「んなっ!せっ、せっかくこうして色気たっぷりで出迎えたっていうのに!!」

「ガキに色気も何もねぇよ」

「もー……」

何かぶつくさ言いながら、自分の姿を眺める。
いや、そんなことより。

「おい、涙子……ここはどこか?なんでお前がいる?」

「へ?そりゃあここが私の心の中だからですよ」

786: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 01:13:02.60 ID:H2LBgYco
「なんだと……?」

それはありえない。何故なら俺は完全に消えたはずだ。
だから、こいつの心にこうして意識をもって現れることなんて出来ないはずだ。

「おっ。驚いてますね、左天さん」

「まぁな……どういうことか説明してくれるか」

「別に、難しいことじゃないですよ。ほら、左天さんって結局第五波動は継承してくれなかったじゃないですか。
 最後に、私が自力で引き出さなきゃならなかったみたいに」

「……ああ、確かにそうだな」

確かに、俺は第五波動とエデンズシードの要素は直接与えなかった。
あれは体には毒だ。適応しなければ腐って死ぬ。
そんな危険なものを、渡したくはなかったのだ。

「だから、そんな感じに、まだ左天さんが恣意的にしろ無意識にしろ、継承せずに残しておいたかけらがあると思ったんです。
 で、それをかき集めて、こうしてもう一度お話しできる機会をつくったってわけですよ」

まあたぶん、これ一回きりですけどね、とやつは続ける。
なるほど。確かに、それなら納得できないこともない。

787: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 01:20:37.25 ID:H2LBgYco
「だが、なんのために?」

「……私は、左天さんに言わなきゃならないことがあったんですよ」

いつのまにか、涙子は自分の服装を、見なれた制服に交換していた。
おそらく、心の中だからこそできる芸当だろう。

涙子は、泣くわけでもなく、実に穏やかな顔で俺を見上げる。
けれど、その目には強い意志が見受けられた。

一息呼吸をおくと、涙子は意を決したのか口を開く。


「今までありがとうございました―――左天お兄ちゃん」

「――――――」

お兄ちゃん、か。
まさか、またそうやって呼ばれるとは、夢にも思っていなかったな。

「私のこの力は左天さんのものだから―――他人の力にすぎないから。
 だから、私は私のために力を振るうんじゃなくて、誰かのためにこの力を振るっていこうと思います」

「……ああ、いいんじゃねえか。それで」

「今までずっと間違ってきましたけど――――――もう、間違えませんから」

「――-ああ。頑張れよ」

そういう涙子の目は、本当に力強い。
ああ、大丈夫だ。
こいつなら、俺のようにならずに済む。
これで安心して、向こう側へいける―――

788: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 01:44:45.68 ID:H2LBgYco
「……そろそろ、みたいだな」

自分の体が端から霧になっていく。
当然と言えば当然か。何せ、本当に残りカスを集めたようなもんだからな。

「そうみたいですね」

そんな俺を見て、涙子はやはり穏やかな表情のままだ。

「……強くなったな、涙子」

「そんなことないですよ―――本当に、今にも、泣いてしまいそうです」

―――。
なるほど、確かに。
目が随分とうるんでやがる。まったく、泣きたい時くらい泣けばいいものを。

「……それじゃ、俺はこっちだから」

「ええ、私はこっちなので」

まるで帰宅する際の分かれ道でお別れするかごとく、軽い調子でいい合う。
俺の後ろには涙子がいる。ぴたりと背中をつけて、まだ歩きださない。
そうか。まだ、一人で歩きだすまでには行かないか。
しょうがねえな。だったら、俺が背中を押してやろうか。

「―――じゃあな。達者で」

「はい―――お元気で」

そう言って、俺は涙子の背中を押して、同時に前へ走りだす。
互いに振り返ることはない。
姿を確認し合うことはない。

きっとあいつの歩み道は辛く険しい。
だが、あいつの周りにはあいつを想ってくれている人がいるはずだ。
だから俺が心配することなんて無い。

さて、少し疲れたな。

俺も、あるべき場所へ帰るとするか――――――

829: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 17:00:07.05 ID:H2LBgYco
―――10月21日 夕方頃

御坂妹「―――、はい大丈夫です、とミサカは涙子の体に特に異常がないことを確認します」

佐天「んーありがとー。妹さんってこのあともう帰るの?」

御坂妹「帰るといってもこの病院がミサカの家のようなものですが、とミサカはその質問が不適切であることを指摘します」

佐天「じゃあ言い方かえて、この後非番なの?」

御坂妹「そうですね。そしてこの後少々用事があるのですよ、とミサカは自分のスケジュールをちらりとにおわせます」

佐天「用事?……ははぁ、上条さんがらみと見た!」

御坂妹「……いえ、残念ながらそうではなく、14444の慰め会です、とミサカはがっくししながら事実を告げます」

佐天「ミサカちゃんの?……あぁ、なるほど」

御坂妹「あの後は大変でした、とミサカは窓から飛び降りたあとのことを回想します……」

佐天「まあ、その、ごめんね?」

御坂妹「いえいえ涙子が謝るような問題ではありませんよ、とミサカは頭をなでます」わしわし

佐天「……なんで頭なでるのさ」

御坂妹「なんとなくです、とミサカは涙子の頭から手を離しました。
     それでは、お大事に、とミサカは病室をあとにします」

佐天「うん、ありがとねー」

830: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 17:09:28.29 ID:H2LBgYco
コンコンn

佐天「?誰だろ。どうぞー」

ガラッ

上条「よっ」

佐天「あー上条さん。どうもどうも。無事でしたか?」

上条「色々あったけどな。ほら、これお土産」

佐天「そんな気をつかってもらわなくてもよかったのに……生活苦しいんじゃないんですか?」

上条「そりゃそうだけど、前も言ったように友達のお見舞いをけちるほど、上条さんは薄情な人間じゃありませんよ、っと。
   さーて、それよりも……そりゃっ」デコピンッ

佐天「あいたっ」

上条「お前馬鹿か!?アックアに一人で挑むなんて正気じゃねえよ!!」

佐天「一人じゃないですよ……そりゃ体はひとつでしたけど」

上条「つーか一人じゃなくても女の子があんな奴に挑むなんてどうかしてるっつーの。俺なんて虫けらのように扱われたぞ」

佐天「私だって、本当なら死んでたんですけどねー。あはははは」

上条「はははじゃありません!!」デコピンッ

佐天「ひゃうっ」

上条「ったく……でも、まあ」

佐天「?」

上条「佐天さんがアックアのメイスをあそこまでボロボロにしておいてくれたおかげで、神裂はそれなりに有利に戦えたらしいけどな。
    感謝してたぜ?天草式の面々」

佐天「……へへっ。ま、あれは副産物みたいなもんですよ。ところで上条さんていつもデコピンとか左手ですよね。なんでなんですか?」

上条「ん?そりゃあ利き手で女の子に暴力振るうような上条さんじゃありませんから」

佐天「はぁん」

831: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 17:22:35.21 ID:H2LBgYco
上条「でもすげえよな、佐天さん。あんな化物と戦えたなんてよ」

佐天「いろいろズルはしちゃいましたけどねー。ま、そんな血みどろな話は別にいいんですよ、終わったことですし。
    それよりお土産食べてもいいですか?」

上条「ああ。目が覚めたばっかりってことで、なるべくお腹に優しいもんにしといたぜ」

佐天「うっはーヨーグルトムースですかー。ありがとうございます」

上条「上条さんには女の子の喜びそうな味なんてわからなかったのでそれなりのお店で買ってきました。お口にあいそうですか?」

佐天「十分ですってー。いっただっきまーす……おいしい!」

上条「そりゃよかった」

佐天「はいっ、上条さんもどうぞー」

上条「あー?べつにいいって。それは佐天さんへのお土産だからな」

佐天「まぁまぁそうは言わずに一口だけでも。ほらほら、あーん」

上条「……あーん。……ん、うまいな」

佐天「ですよねー」

832: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 17:32:21.05 ID:H2LBgYco
佐天「ところで」ウマウマ

上条「ん?」

佐天「御坂さんと何かあったみたいですね?」

上条「―――」

佐天「いえ、別に言いたくなければいいんですけど……」

上条「……いや、佐天さんも知ってることだからな。別に問題ねぇよ。
   ――-記憶喪失ってのがバレちまった」

佐天「―――、は?」

上条「どうしてかはわかんねーけどよ。バレて、いろいろ言われちまってな」

佐天「……、そう、ですか」

上条「ま、そんだけだよ」

佐天「―――……、うん、御坂さんは言いふらしたりするような人じゃないですし……大丈夫ですよ。そういう問題じゃないんでしょうけど」

上条「ああ、そうだな」

佐天「(しかし、それがどうやったらあんな乙女な反応に繋がるんだろう……)」

833: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 17:43:08.84 ID:H2LBgYco
――――――ノジカンニナリマシタ。メンカイデライインサレテイルカタハ

上条「っと、そろそろ面会時間終わりみたいだな。おいとまするか」

佐天「いまさらですけど、インデックスちゃんは留守番ですか?」

上条「……アイツがいると見舞いの品買う時に余計な出費があるから黙って来た」

佐天「あ、そっか。今日はまだ学校でしたもんね―――って」

佐天「(じゃあ、初春たちは学校さぼってまで飛んできてくれたってこと……?……くぁー!)」

上条「どうしたんだ?いきなりくねくねしはじめて」

佐天「え!?い、いえっ、なんでもないです!!今日はありがとうございましたっ!」

上条「気にすんなって。また退院したらメシ作りにきてくれよ。インデックスも、最近佐天さんのご飯食べてないって言ってたしな」

佐天「ええ、また今度に」

がちゃっ

ばたん

834: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 18:14:17.34 ID:H2LBgYco
佐天「うーん、上条さんはいつも通りだったなぁ。さすがというか、なんというか……」

佐天「私はあんなだったのに……やっぱりヒーローは凄いなぁ」

佐天「そういえば、天草式の人が来てたって言ってたっけ?……むぅ、ということはあの巨 お姉さんもきてたんだろうか」

神裂「……それは誰のことを刺しているのですか?」

佐天「はぅあっ!?かっ、神裂さんっ!?」

神裂「お久しぶりですね、佐天涙子」

佐天「はぁ……あの、窓から入ってこないでくださいよ。びっくりしますから」

神裂「そっ、それは失礼……ですが、正規の面接時間にやってくれば上条当麻と談笑していましたので、
    邪魔をしては悪いかと思いその……」ゴニョゴニョ

佐天「はぁ……あの、それで、何かありましたか?」

神裂「え、あ、こほん……このたびは、こちらの力不足でお役に立てず申し訳ありません」

佐天「……はい?」

神裂「これは天草式としてではなく、『必要悪の教会』としての言葉になりますが……本来ならば一般人である貴女を
    巻き込んではならないはずが、一手遅くなり結果として貴女にそのような怪我を負わせてしまいました」

佐天「……ああ。別に、問題ないですよ。むしろ私はウィリア……アックアさんと戦えて感謝してるくらいですから」

神裂「はい……?」

佐天「ま、それに関しては別にいいです。それより、その、神裂さんにこんな心配はいらないと思いますけど、大丈夫でした?」

神裂「……正直危なかったですね」

佐天「なんと。むぅ、やっぱり敵ながらあっぱれというか……なんだかんだで結構ダメージ与えたと思ったんですけどね……」

神裂「そのことなんですが、その……いったい、どうやってあの敵と討ちあえたんですか?」

佐天「……根性?」

神裂「はぁ……」

佐天「ま、この話は終わりにしましょうよ。私も無事で、上条さんも無事で、神裂さんたちも無事でしたし」

神裂「言っておきますが、自覚は無いようですが貴女はとんでもないことをしたんですよ?」


835: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 18:19:34.47 ID:H2LBgYco
佐天「そうなんですか?でも負けちゃいましたし……あ、負けたといえば、ひとついいですか?」

神裂「?ええ、どうぞ」

佐天「その……アックアさんはどうなりました?」

神裂「……簡単に言えば、生死は不明。ですが、あの技をもってしても彼が死ぬとは思えません」

佐天「……ああ、だったら大丈夫ですね。たぶん、アックアさんはまだ生きてますね」

神裂「?なぜ、そう言い切れるのですか?それに大丈夫とは……?」

佐天「約束なんですよ。今度は、一緒に戦うって」

神裂「……??よくわかりませんが……」

佐天「まあいいんですよ、こっちの話ってやつですって」

神裂「??でしたらいいのですが……さて、それではじっとしていてください」

佐天「え?」

神裂「今から、治療魔術をかけます。おおかた治っているようですが、完全では無さそうですので」

佐天「本当ですか?ありがとうございます……こういうことを考えると、魔術って便利ですねー」

神裂「便利な面だけでもありませんけどね」


――――――。

神裂「――-終わりました。これで、ほとんど完治に近い状態になったと思いますよ」

佐天「おおっ、本当だ。なんだか調子がよくなってる」

神裂「さて、それでは私はこれで―――ああ、そうだ」

神裂「ありがとうございました、佐天涙子。貴女がいなければきっともっと苦戦していたでしょうから」

佐天「……へへっ。別にいいですって。こちらこそ、怪我の治療ありがとうございました」

神裂「ご謙遜を―――では、お大事に」ひゅばっ

836: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 18:28:57.73 ID:H2LBgYco
佐天「また窓から出てった……しかし本当に魔術って便利だなー。あ、そうだ。
    能力完全に使えなくなったし、私も魔術とか使えたりして?……いや、無理かな」

佐天「でも魔術使えたらステイルさんみたいに炎だして、吸収して、増幅してー、って無限ループできるかも?
    そういえばステイルさんと最近会ってないなー。元気にしてるかなー」

佐天「イノケンティウスを召喚!さらにもう一体!続けてもう一体!!トリプルイノケンティウス(笑)」




ステイル「へっくしょい」

アニェーゼ「どうしました」

ステイル「いや、なんでもない……(どこかで馬鹿にされた気がする)」




―――こうして佐天の久しぶりに平和な一日が終わった。
    しかし彼女はまだ気づいていなかった。
    これから起こる、さらなる平和を……

10月21日終了

839: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 18:40:14.65 ID:H2LBgYco
―――10月22日

佐天「どうですか?」

医者「……たしかに、ほとんど完治しているね?」

佐天「じゃあ!」

医者「ああ、退院手続きを済ませよう。少し待っておいてくれるかい?」

佐天「はーいっ」




佐天「んー、なんだか世界が輝いてみえるなー」

佐天「さて、退院したことだし、まずは―――ヘイタクシー!」



ピンポーン

木山『はい、こちら木山……っと、君か』

佐天「どうも、いきなり研究所まで来てすみません」

木山『いや構わないよ。今ロックを解除するから入ってきたまえ』

840: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 18:56:08.74 ID:H2LBgYco
木山「ミサカ君から聞いたよ。ずっと眠っていたんだってね」

佐天「ええ、まあ。それで、今日はですね……これ、なんですですけど」

木山「?ああ、幻想御手か」

佐天「ごめんなさいっ!!左耳は無事だったんですけど、右耳のほうがぐしゃぐしゃに壊れちゃいまして……」

木山「いや、気にする必要はないよ。さて、それじゃあ左耳のぶんだけでも、こちらで預かってもいいかい?」

佐天「はい……あの、ミサカちゃんは……?」

木山「彼女なら昨日の晩に電話があってね。二三日、傷心旅行に行く許可を求めてきたから許可してあげたよ」

佐天「傷心旅行かぁ……うう、なんだかとても罪悪感」

木山「ところで―――目的は果たせたのかい?」

佐天「……あの時思い描いてた形とは違いますけどね。でも、たぶん一番いい形でまとまったと思います」

木山「そうかい。それはよかった」

841: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 19:05:26.49 ID:H2LBgYco
―――。

木山「いいのかい、ゆっくりしていかなくて」

佐天「研究の邪魔するわけにもいきませんし……いろいろお世話になりました」

木山「いやいやこちらこそ。では気をつけて。タクシーは呼んでおいたよ」



研究員「あれ、先生ずいぶんご機嫌ですね」

木山「まあね。ようやくデータが集まった」

研究員「?ああ、あの子に渡した幻想御手のですか」

木山「片方壊れたと聞いてひやりとしたが、幸い壊れたのは機能面の方だ。記録面の左側は残ってて助かったよ」

研究員「これでまた研究が進みますねー」

木山「まったくだ―――悪く思うなよ、佐天君。目的のために手段を選ばない性格は変わってないんでね」



佐天「あのお会計は?」

運転手「ああ、すでに貰ってますんで」

佐天「木山先生……」キュンッ

842: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 19:14:41.89 ID:H2LBgYco
―――10月某日

佐天「初春と白井さんは風紀委員で御坂さんは漫画の立ち読みかぁ……今日は一人だね、っと」

佐天「ただいまー、誰もいなけど」がちゃっ

結標「おかえり」

佐天「」

結標「?どうしたのよ、そんな場所で固まって」

佐天「……いえ、突然の侵入者に驚いただけです。あの、何してるんですか」

結標「何って、あなたを待っていたに決まってるじゃない」

佐天「はぁ……?」

打ち止め「ひさしぶりー!ってミサカはミサカはとびついてみる!」

佐天「うわっ、打ち止めちゃん!?なんでここに……」

結標「私が連れて来たのよ。さってと、それじゃ今すぐこの服装に気がえなさい」

佐天「え?」

結標「質問はあとで受け付けるわ。ほらほら」ぱっ

佐天「ひゃぁっ?!ちょ、いきなりテレポートで服脱がさないでくださいっ!!」

843: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 19:26:31.06 ID:H2LBgYco
結標「……あー、ごめん」

打ち止め「うわぁ……サテンのお腹すっごい傷跡だね、ってミサカはミサカは心配してみたり」

佐天「う……そんな風な目で見られると余計意識しちゃうんでやめてください。
   しょうがないんですってコレは」

結標「だとしても、それは、こう、同じ女性としてさすがに、なんというか……」

佐天「別にいいですよ……どうせ誰かに見せる予定もありませんし」

結標「そう……さて、と。それじゃ早くこれに着替えちゃいなさい。あ、髪の毛は後ろでまとめてあげるわ」

佐天「えー?あの、本当になんなんですか?」

打ち止め「ミサカも不思議に思ったけどあの人の仲間さんだから安心してる、ってミサカはミサカは素直に着替えてる自分をみせつけてみたり」

佐天「……わぁ。すっごい男の子っぽい服装。これって結標さんの趣味ですか?」

結標「んー、そういうわけじゃないんだけど。ただ、変装するなら性別反転は基本中の基本でしょ?」

佐天「変装?」

結標「そっ、変装」

844: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 19:33:39.44 ID:H2LBgYco
―――。

結標「へー、似合うじゃない。声もけっこう男の子っぽい声だし」

佐天「う……まさか髪の毛をこんな風にして短くするなんて……」

結標「ちょっとまとめて、あとは帽子の中にいれただけじゃない。惜しむらくは胸があるとこだけど、
    そこは最近涼しくなってきてるし、ちょっと厚着すれば誤魔化せるかしらね」

佐天「はぁ……ところで、本当になんで変装なんですか?」

結標「それは今すぐわかることよ。さて、それじゃ行きますか」ヒュンッ




佐天「っと、いきなりテレポートされるとびっくりするなぁ」

土御門「よっ、佐天ちゃん」

海原「お久しぶりです」

佐天「土御門さんとエツァリさん……と、横の方誰ですか」

ショチトル「……ショチトルだ。なあ、貴様どっかで会わなかったか?」

佐天「え?……言われてみれば、会った気がしないでもないような……うーん?」

845: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 19:43:11.22 ID:H2LBgYco
佐天「……スリーサイズは?」

ショチトル「84・58・81……って何を言わすんだ!!」

佐天「ひとつも勝ってない……ちくしょう」

佐天「うーん、やっぱりどっかで会った?というより会うはずだった?わかんないけど、佐天涙子です。どうぞよろしく」

ショチトル「……エツァリとはどういう関係だ」

佐天「え?いや、この前初めてあっただけの関係だけど」

ショチトル「そ、そうか。ならいいんだ」

佐天「?」


打ち止め「ところでここってどこ?ってミサカはミサカは素朴な疑問をなげつけてみる」

海原「ここはキャンピングカーの中ですよ、打ち止めさん(ハァハァちっさい御坂さんカワユス)」

ショチトル「……」

海原「……ハッ!いえ、違うんですよショチトル!ああっ、そんな目で見ないでください!!」


土御門「馬鹿は放っとくとするにゃー」

佐天「はぁ。ところで、なんで私たち連れてこられたんですか?」

土御門「それはもうすぐわかるにゃー」

846: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 19:51:35.19 ID:H2LBgYco
―――。

土御門「着いたにゃー。皆降りろ降りろー」

佐天「寿司屋?」

土御門「今日は一方通行のオゴリで寿司食いにきたってわけだぜい」

海原「いやぁ、まさか本当に連れていってもらえるなんて思っていませんでした」

結標「あれでなかなか太っ腹よね。さすが第一位」

打ち止め「あの人に会えるの?!ってミサカはミサカは素直に喜んでみたり!!」

ショチトル「寿司……?」


一方「おいオマエら遅ェぞ」

打ち止め「わーい久しぶりだね!ってミサカはミサカは跳びついてみたり」

一方「だァァ!危ねェだろクソガキ!!って何だその格好」

打ち止め「ムスジメが仕立ててくれたの、ってミサカはミサカはくるくるまわってみたり」

一方「結標……テメェ自分の趣味でウチの打ち止めに何着せてやがる!」

結標「別にいいじゃない、可愛いでしょ?」

一方「……まァな」

土御門「今日はゴチになるぜい一方通行」

一方「ン。オマエが言ってた店はこの店でよかったンだよな?」

土御門「間違いないにゃー。奥の席は予約取れたか?」

一方「ハッ、俺を誰だと思ってやがる。ばっちりだ」


847: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 19:58:51.45 ID:H2LBgYco
寿司とか打ってたら腹へってきた。
ちょい休憩

850: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 21:59:40.06 ID:H2LBgYco
佐天「何してんですか、一方通行さん」

一方「何って見てわかンねェのか」

佐天「見てわかりますけど……わかりますけど!なんですか暗部の仲間で仲良くお寿司って……」

土御門「そりゃコイツがいっつも回転寿司いってるんでな。美味い寿司食わせてやるって話になったんだにゃー」

一方「俺のオゴリだけどな。オラ、店の前でいすわってると迷惑だ。早く中入るぞ」

佐天「というか私の格好については無視ですか」

一方「ああ、似合ってるぞ」

佐天「……っ!!?」

打ち止め「……っ」

結標「……あらあら、何これ、面白いかも」

海原「ははっ、一方通行め殺す」

851: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 22:08:35.92 ID:H2LBgYco
――――――。

一方「……」モグモグ

土御門「うめぇ」モグモグ

結標「なんか本格的なお店のくせにサラダ巻きなんてあるのね」

海原「おいしいですか?ショチトル」モグモグ

ショチトル「まぁ、それなりに……」モグモグ

佐天「うおあー、こんな美味しいお寿司初めて食べましたよ?」

打ち止め「さっきから黙って食べてるけど美味しくないの?ってミサカはミサカはアナタに問いかけてみる」

一方「……うめェ。普通にうめェ。びっくりしたわ」

土御門「んー?なんだよ一方通行、お前まさか俺が嘘ついて変な店に連れてくるとか思ってたのかにゃー?」

一方「まァ割と」

土御門「ははっ、オゴリで来るのにそんなネタ店選ぶわけないにゃー」

海原「あ、ほらほらほっぺに醤油ついてますよ」ふきふき

ショチトル「……!こ、子供扱いするな!それくら自分でできる!!」

海原「これは失礼。おっと、打ち止めさんもご飯粒がついてますよ。どれ、僕が食べてあげましょう」

一方「何やってンだそこォ!!」

852: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 22:51:53.72 ID:H2LBgYco
海原「ハハッ、冗談ですよ」

土御門「一方通行は少し過保護すぎるにゃー」

一方「なら海原、オマエ超電磁砲が三下とくっついてるところ想像してみろ。土御門、オマエの義妹が
    同級生に取られたところ想像してみろ」

海原「殺す」

土御門「青髪ピアス殺す」



青髪ピアス「へくしょい」

姫神「どうしたの。風邪?」

青髪ピアス「なんやろねー。どっかで噂されたかもしれんね」

姫神「それは。いい意味で?悪い意味で?」




853: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 23:01:32.16 ID:H2LBgYco
佐天「(なんだろ、一方通行さん……何か)」

打ち止め「……なんだかあの人楽しそうだね、ってミサカはミサカは呟いてみたり」



結標「サラダ巻き追加していい?」

一方「別に構わねェが折角寿司屋来たンだから魚食えよ」

結標「食べてるわよ、エンガワとか」

土御門「やっぱりマグロだろーマグロ食えマグロー!」

海原「いえいえ、ホタテこそ至高」

一方「あァ?イクラが一番に決まってンだろォが」

ショチトル「な、なぁ、このカッパ巻きってなんだ?東洋の妖怪に河童っていたがその肉を使った寿司なのか?」

土御門「ああそうだ。河童の血は古来から万病の薬とされ、その肉を食べたものには長寿をもたらす。
     一口食めば怪我をせぬ、二口食めば病に伏さぬ、三口食めば……河童になるんだにゃー」

ショチトル「……!?な、なんだそれ……そんなものを置いているなんて、学園都市は恐ろしいところなんだな」

海原「ちょっと!ショチトルにおかしな嘘を教えないでください」

一方「河童ってのは元々希少生物で随分昔に絶滅したンだが、クローン技術によって量産に成功したンだよ。
    オマエも聞いたことくれェあるだろ?河童のミイラ」

ショチトル「あ、ああ……なんてこった……」

海原「一方通行さんまで乗らないでくださいってば」



佐天「うん……凄く楽しそう。暗部っていうから、もっと殺伐としてると思ってたのに」

打ち止め「なんだか安心だね!ってミサカはミサカはサテンにもたれかかってみたり」


854: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 23:17:41.61 ID:H2LBgYco
佐天「ん、どうしたの打ち止めちゃん。お腹一杯で眠くなっちゃった?」

打ち止め「んー、そうじゃなくてね、最近あの人もそうだけど、サテンともご無沙汰だったから、ってミサカはミサカは
      甘えてみたり」

佐天「……ごめんね。私も、ちょっと馬鹿やってたからさ」

打ち止め「地面に血まみれで倒れてるところ見た時はびっくりしたよ、ってミサカはミサカは
      サテンの膝のうえでごろごろしてみる!」

佐天「え、打ち止めちゃんあそこにいたの?」

打ち止め「んっとね、かくかくしかじか」

佐天「まるまるうまうま……そうなんだ……対一方通行さん用に……」

打ち止め「あの人ったら凄かったんだよ。翼をぶわーって広げてがぁーって、てミサカはミサカは擬音だらけの説明をしてみる」

佐天「翼?ん、でも、そっか……一方通行さんが、私のために……えへへへ」

打ち止め「……むぅ」

856: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 23:44:04.12 ID:H2LBgYco
―――。

土御門「……ふぅ。食ったにゃー」

一方「結局オマエほとんど野菜だったな」

結標「いいじゃない別に。あんたのサイフにも優しいでしょ?」

一方「これっぽっちでどうこうなる貯蓄じゃねェよ」

海原「それではごちそうになりました」

一方「気にすンな……おい、オマエらももういいか?」

佐天「はーい、ごちそうさまでしたー」

打ち止め「美味しかったよ、ってミサカはミサカはアナタにとびついてみたり!」

一方「こら、食ったばっかだから苦しいだろ」

ショチトル「ところでどうして私は連れてこられたんだ?」

海原「いえ、病院食だけだと飽きると思いまして。口に合いませんでしたか?」

ショチトル「……別にそんなことないけど。おい、白髪、ごちそうになったな」

一方「白髪って言うな。好きで真っ白になったわけじゃねェ」

打ち止め「真っ白な髪の毛も綺麗だよ、ってミサカはミサカは髪の毛を撫でてみたり!」

佐天「(いいなぁ……)」

一方「そう言ってくれンのはオマエだけだぜ打ち止めァ」

857: ◆oDLutFYnAI 2010/08/11(水) 23:58:41.15 ID:H2LBgYco
―――。

結標「で?これからどうするの?」

一方「どうするって、解散だろ」

土御門「ばっかだなー一方通行。こうして仕事も無い日に4人揃うなんてないんだぜい?
     遊びにいくに決まってるにゃー」

一方「いや、俺達ってそういう関係じゃなかっただろ」

土御門「細かいことはいいんだにゃー。佐天ちゃんも打ち止めちゃんも行きたいよな?」

打ち止め「はい!ミサカはアナタの歌が聞きたいのでカラオケとかいってみたいかも!ってミサカはミサカは提案してみる」

佐天「お、いいねー。私も一方通行さんの歌ききたいです!」

海原「ハハッ、ご指名ですよ一方通行さん」

結標「いいわねーもてもてじゃない」

一方「……仕方ねェ。オイ、土御門、案内しろ」

土御門「了解だにゃー」

海原「ショチトルも行きますよね?」

ショチトル「う、わ、私は、あんまり……」

佐天「そんなこと言わずに行こうぜーい!」

ショチトル「な、けど私は、その……っていうか気安く肩組むな!!」

海原「(ショチトル……もう友人を作ったんですね。よかったです)」

868: ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 06:32:29.79 ID:nVlMxgEo
――――――。

佐天「39度のォォォォ!体温抱いてぇぇぇぇ!今をー駆け抜けろカウボーォォォォイ!!!新たにさァいたぁぁぁ花を散らさないよォに―――」


佐天「ふぅ……久しぶりでしたけど、どうでした?」

結標「貴女見かけによらず激しい歌うたうのね」

打ち止め「かっこよかったよ!ってミサカはミサカは絶賛してみたり!!」

佐天「えへへ、ありがとね打ち止めちゃん」ナデナデ

土御門「さーて、んじゃ次は俺がいかせてもらうぜい」


土御門「と・き・を!越え刻まれた!悲しみの記憶ー!まぁっすぐにー―――」


土御門「けほっ……久しぶりに歌ったら喉痛くなったにゃー」

海原「以前から薄々感じていましたが上手いですね」

結標「見た目遊んでそうだもんねー」

土御門「それはどういう意味なんだ?まぁいいや、じゃあ次結標な」


869: ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 07:01:40.76 ID:nVlMxgEo
結標「いつものありふれた朝だけどー鮮やかにー色づいてるよーそれは君とめぐりあえた奇跡ー―――」


結標「あっあー、んっ。まあこんなところかしらね」

佐天「変 と聞いていたからもっとアレな曲かとおもったのに ……」

結標「失礼な子ね。変 はこっちよ」

海原「失礼な人だ。しかし、いつもの食生活を考えると不思議でもありませんね」

土御門「地中海(笑)」

結標「壁にうめこんでやろうか」

打ち止め「喧嘩しないで!ってミサカはミサカはマイクを握ってみる!」


打ち止め「昨夜みた幻は淡い欲望ですかーひそやかな炎がーこころにうまれてくー―――」


打ち止め「MNWから急きょとりいれた曲だったけどどうかな、ってミサカは評価を求めてみる」

海原「ええ、とてもかわいらしいと思いますよあいたっ!?」

ショチトル「……」ギリギリ

佐天「かわいかったよー打ち止めちゃん」ナデナデ

打ち止め「えへー」テレテレ

打ち止め「あ!さっきから端っこで黙ってるけどどうだった?ってミサカはアナタにたずねてみる!」

一方「……ああ、うン。可愛かった」

打ち止め「!え、えへへへへへーってミサカはアナタにとびついてみる!!」

一方「だァっ、コラ、マイクもったまま飛び付くな危ねェ!!」

佐天「(……、ん、なんだろこれ……)」

打ち止め「じゃあ次アナタね!ってミサカはマイクを渡したり!」

一方「……しょうがねェな」

一方「(とは言ったものの歌なンざ全くしらねェぞ……あ、いや、一曲くれェなら……」

結標「ねぇ、一方通行って歌うたえるのかしら」ヒソヒソ

土御門「音痴ならそれはそれで面白いにゃー」ヒソヒソ

870: ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 07:15:17.30 ID:nVlMxgEo
一方「I walked ten thousand miles,ten thousand miles to see you~―――」


土御門「」

結標「」

海原「」

佐天「わぁっ、全然イメージにそぐわないかんじでかっこよかったです!いやむしろイメージぴったりかも?」

打ち止め「ホントホント!!ってミサカはミサカはむしろ歌なんて歌えたアナタに驚いてみたり」

一方「それ馬鹿にしてンのか褒めてンのかどっちなンだオマエら」

結標「……なんだか負けた気分」

土御門「あぁ……なんだろな、この敗北感」

海原「ハハッ……さぁーて、それじゃあ僕の本気をみせてあげましょうか」


海原「急に泣きだした空に声をーあーげーハシャグ無邪気な子供ーたちー―――」


土御門「くそっ、これを結標が歌ったら最強だったのに!!イジリネタとして!!」

佐天「ああ、無邪気な子供=ショタってことですね」

結標「なんて失礼な奴ら何だ」

一方「事実じゃねェか」

土御門「お前でもよかったんだぜい、一方通行」

一方「失礼な奴だなオイ」

ショチトル「お前らもう少しエツァリに感想いってやれよー!」

海原「ははっ、いいんですよショチトル。というわけで、はいパス」

ショチトル「なっ……わ、私は歌なんて……」

佐天「大丈夫。私はそんなショチトルを応援してる」

ショトトル「う……」

土御門「ほら、もう曲はいれてやったにゃー。大丈夫、ノリでいける曲だから」

ショチトル「う、ううううう……」

871: ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 07:27:10.18 ID:nVlMxgEo
ショチトル「オニイチャンそこどいてー!いまそいつ殺すからー!!―――」


海原「」

佐天「oh...」

打ち止め「か、過激だね!ってミサカはミサカは……う、うーん?」

一方「(怖ェ……)」

結標「……ははっ」

海原「ハッ!」

海原「つ、土御門ォォォォ!!あなたショチトルになんて歌うたわせるんですか!!」

土御門「えー?だって一番似合いうと思ったんだぜい、エツァリお兄ちゃん?」

海原「トラ(ryの槍ー!!」

土御門「室内だから使えねえよ。ショチトルちゃんもよかっただろー?」

ショチトル「ああ……意外と悪くなかったな」

海原「ショチトル!?」


880:   ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 12:57:16.27 ID:nVlMxgEo
土御門「さぁて皆のってきたみたいだから次いれるぜい」


土御門「切れ切れのー聖者たちぃぃぃx!小さきはァなほら記憶のブルー!摘み取るほどに―――」


土御門「全く、キャラソンとは思えないほどの熱さだぜい。さすがねーちん」

打ち止め「キャラソン?ってミサカはミサカは知らないふりしてたずねてみる」

土御門「知らないふりしたままでいいんだぜい」


佐天「泣いてもーいいのはー嬉しいとっきー―――」


一方「そりゃ卑怯じゃねェか」

佐天「えーなんのことですかぁ?」

一方「……」イラッ


海原「君の瞳に問いかけるー何を考えているのーもう言葉じゃなくて、体に聞いてみようー―――」


結標「意外だわ。そういうのも歌えるのね」

海原「どんな人間になり変わっても違和感のないように、レパートリーは多いんですよ」

ショチトル「……やらしいよ、エツァリお兄ちゃん」

海原「えっ」

882:   ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 13:25:10.51 ID:nVlMxgEo
打ち止め「おーおーおーおおおおーおおおーおおおおーおおおーおおおーあーあああああーあーあああああーあーあー―――」


佐天「斬新すぎる」

一方「そもそも歌詞なんてねェじゃねェかコレ」

打ち止め「うぅ、そんなこと言われてもMNWで安価したらこの曲だったんだもん!ってミサカはミサカは反論してみる!」


結標「頬をかすめていくー風の色がーいつか夏の始まりをつげるー大きくてを振ってー―――」


土御門「今更だがヴェネチアと地中海って関係ない気がしてきたにゃー」

結標「いいじゃないの、私はあの世界観が好きなの」

佐天「似合わない……『こんな恥ずかしいもん読めるかーっ!』って放り投げそうな気がするんですけど」

土御門「これでも乙女なんだにゃー」

結標「ちくしょう」

884:   ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 13:39:06.13 ID:nVlMxgEo
ショチトル「みこみこなーすみこみこなーす」


海原「土御門ォォォォォオオオオオオ!!!」

土御門「にゃーっ!首しめんな!!」

ショチトル「な、なんだ?知らない日本語があったけど、何かおかしかったのか?」

佐天「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

土御門「ギブ!」

海原「このエツァリ容赦せん!」


打ち止め「それじゃ次アナタの番ね!ってミサカはミサカはマイクを突きつけてみる」

一方「あァ?いいよ俺は、オマエらでやっとけ(もう歌える曲なンてねェ)」

佐天「そういうわけにもいきませんって。ほらほらー」

一方「だァーうっとおしい!!(知ってる曲ねェンだよォォォ!!)」

結標「やめてあげなさいよ、無理やり歌わせようなんて」

一方「(ナイス結標!!)」

土御門「そうだにゃー。どうせ一方通行のことだ、もう持ち曲無いんだろうぜい」

海原「ハハッ、さすが学園都市第一位。すさんだ青春時代を送ってきたようですね」

一方「テメェら……違ェよ。俺はオマエらがより多く楽しめるようにだな」

佐天「(……!)じゃあデュエットしましょうよ!それだったら問題ないですし!」

土御門「(ナイス佐天ちゃん)そうだにゃーそりゃー名案だにゃー」

海原「(さすが御坂さんのお友達)それではマイクをどうぞ」

一方「ちょっとまて勝手に話進めるンじゃねェよ!!」

結標「あはは、いい気味ね。ほら、もう曲始まったわよ」

一方「ちっ……ちっくしょォォォおおお!!いいぜやってやらァ!初見だろォがこの第一位様に歌いきれねェモンなんてねェ!!」

885:   ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 13:47:39.79 ID:nVlMxgEo
一方「ギリギリかもねいつでも!完璧ありえないし!!」

佐天「そりゃそりゃオトメですものっ!ブルーな日もありますのー!」

一方「あなたがわたしをジっと見るー!音の無い風が吹く」

一方佐天「「瞬間!伝わる!!なンて熱い誓いなんだろーう眠り目覚め!今を超えて!強くなれるー!
       泣きごとはナシでヨロシクーチカラよりも確かなもの笑っていつものようにドキドキ宣言する!」」

佐天「NOW!!」

一方「『だいすき』……ってオイ、これも歌うのか?!」

佐天「当たり前ですよ!!『だいすき』ですのエブリディ!」

一方「くっ……『ありがとう』って言えない!」

一方佐天「「ねェだいすき!ありがと!!」」



土御門「(笑)」バンバンバンバン

海原「これ……は……」プルプル

エツァリ「凄いな……初めて聞いた曲をこんなに歌えるなんて」

打ち止め「……」

結標「……どうしちゃった?妬きもちやいちゃった?」

打ち止め「!ち、違うよ、ってミサカはミサカは即座に反応してみる!!」

結標「ふーん」ニヤニヤ

886:   ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 13:53:23.61 ID:nVlMxgEo
一方佐天「「なンてまぶしい明日なンだろー迷い悩み!笑いはしゃぎ!名前よンだー
       そうね決着をつけなくちゃーわたしたちが輝く時!なにもかも巻き込ンでギラギラ暴走するNow!」」

一方「だ、『だいすき』だって言ったの!!」

佐天「聞こえませんのワンモアプリーズ!」

一方「付き合っていられない!」

一方佐天「「ねェだいすき!ギラギラ!跳びこめ!!」」


一方「はァ……はァ……」

佐天「あはー楽しかったですねー」

一方「どこがだ……ちくしょう」

結標「お疲れ一方通行」

海原「お疲れ様です一方通行さん」

土御門「お疲れだにゃー一方通行」

一方「クソッ……もとはと言えばオマエらが……」

三人「「「『大好き』だって言ったの」」」

三人「「「(笑)」」」プークスクス

一方「チックショォオォォォォォオオオオオオオ!!!!」

891:   ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 14:08:57.82 ID:nVlMxgEo
打ち止め「むー」

佐天「?どうしたのー打ち止めちゃん」

打ち止め「……ずるい」

佐天「えっ」

打ち止め「サテンだけあの人と一緒に歌ってずるい!ってミサカはミサカは抗議してみる!!」

土御門「(ほぅ……)」

結標「(これはこれは……)」

海原「(ははっ、一方通行死ね)」

打ち止め「ねぇミサカとも一緒に歌ってよ!ってミサカはミサカはアナタの腕をひっぱってみる!」

一方通行「ふざけンな……二度も連続で歌えるか」

土御門「可愛そうなこといってやるなよ一方通行」

結標「ホントホント。一曲歌ったくらいでバテるなんてそれでも第一位?」

一方通行「……いや、今度は乗せられねェぞ」

海原「一方通行さん」ヒソヒソ

一方通行「あ?」

海原「いいんですか?打ち止めさん、泣きそうですけど」ヒソヒソ

打ち止め「ずるいもん……ミサカも一緒に歌いたいもん……」

一方通行「うっ……し、しかたねェなァ打ち止めァ!!今回だけだぞ!!」

打ち止め「……!うんっ、ってミサカはミサカは喜んで安価してみる!!えーっと、えーっと……これかな」


892:   ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 14:52:26.76 ID:nVlMxgEo
一方「すなおにーーーーーー自分をーーーーーーーーーーーー」
打ち止め「アナタの紅い瞳が私を捉えて離さないのは内緒よっ」

一方「見つめてーーーーーーーーはじめてこんなに胸がくるしくなるなんてー」
打ち止め「どうしてどうしてフシギはじめてこんなに胸がくるしくなるなんてー」

打ち止め「遊びに誘っても生返事今日も上の空なのどうして」

一方「不安な気持ちをはきだせばいい」

一方「だいじょうぶさー一人にさせないぜ」
打ち止め「わーたしを一人にさせないでっ!」



一方「歌いきったぞチクショウ!!」

打ち止め「安価を20000番に取られた時はどうしようかと思ったけど案外普通の曲だったね、ってミサカはミサカは胸をなでおろしてみたり」

佐天「むぅ……」

土御門「意外とハマってるモンだにゃー」

結標「あんたもよくやるわよねぇ」

一方「焚きつけた奴が何いってやがる」

ショチトル「よしエツァリ。次は私たちが歌おう」

海原「ははっいいですよ」


――――――――――――。

893:   ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 15:03:02.81 ID:nVlMxgEo
――――――――。

佐天「本当によかったんですか?お支払い」

一方「いちいちワリカンすンのも面倒だろ。カードで」

店員「はーい」

土御門「かっこいいにゃー。カミやんなら間違いなく惚れてるにゃー」

一方「誰だよ」

土御門「同級生だぜい」

海原「大丈夫ですか?」

ショチトル「ん……ちょっと疲れた」

打ち止め「眠たいかもね、ってミサカはミサカは目をこすってみる」

結標「まぁいい時間だし、このあたりでお開きでしょうね。私たちも明日〝用事〟あるし」

土御門「そうだな。遊び疲れて〝用事〟ができないとか笑えないからな」

佐天「(いちいち伏せなくてもいいんだけどなぁ……あ、打ち止めちゃんか。て言っても、打ち止めちゃんも知ってそうだけど)」

結標「それじゃ私はこの二人送ってくから、あんた達は適当に帰りなさいな」

一方「頼ンだぞ。じゃァな、クソガキ共」

佐天「なんて暴言」

打ち止め「でもそんなアナタも大好きだよ、ってミサカはミサカは去り際に足に跳びついてみる!」

海原「ははっ、羨ましいかぎりですいたいっ!」

ショチトル「……」ギリギリ

土御門「義妹につねられるなんてご褒美だにゃー。じゃあな、また明日ー」

894:   ◆oDLutFYnAI 2010/08/12(木) 15:07:50.45 ID:nVlMxgEo
ヒュッ

結標「っと、あなたはここでいい?」

打ち止め「うんっ、ありがとね!ってミサカはミサカは御礼をいってみる」

佐天「じゃあねーおやすみ打ち止めちゃん」

打ち止め「おやすみサテン!ってミサカはミサカはお別れの挨拶をつげてみる!」



ヒュッ

結標「あなたはここだったかしら」

佐天「はい、ありがとうございます」

結標「……心配することなんて無いわよ」

佐天「はい?」

結標「見ての通り、アイツはこっちでもそれなりに楽しくやってるし。少なくとも私にはそう見えるから。
    だから、まあ、こっち側のアイツは私達に任せておきなさい」

佐天「……はいっ。それじゃ、おやすみなさい」

結標「ええ、おやすみ」



―――こうして私の10月の某日は終わりを迎えた。
    そして、次の物語で。
    私は、なんかいろいろ大人の階段をのぼるのであった。

おわり。

911: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 19:25:51.78 ID:BVv2u/co
10月某日

土御門「―――わかったよ。そう伝えておく」ピッ

結標「毎度毎度、顔も見せずに命令してくるなんて腹立つわね」

土御門「慣れろ。さて、奴からの伝言だ。明日明後日そしてその次と、三連休だそうだ」

一方「どういうこった」

土御門「わからん。だが、どうせ裏で統括理事が糸引いてるんだろう」

海原「彼らが予想できなかった小さな動きを排除するのが僕達の役目だったと思いますが」

土御門「ええい俺に聞かれても知るか。とにかく、奴は三連休だから休んでおけと言っていたんだよ。
     俺だってどういうことかさっぱりわからんが、しかし手のうちようもないだろ」

結標「……もしかしたら、その3連休後に何かあるのかもね」

一方「だとしたら各々この三日間で調整しといたほうがいいってことか」

土御門「ま、それが一番だろうな。さーて、明日は土曜日だし、舞夏がまたご飯作りにきてくれるにゃー楽しみだにゃー」

一方「あァ、明日は土曜日か。曜日の感覚なンざとっくに消えて……、そうか」

結標「それじゃ今日はここらで解散ね。おやすみ」

土御門「おう、ゆっくり休めよ」

海原「それでは」

一方「じゃァな」

912: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 19:34:30.62 ID:BVv2u/co
海原「(さーて、3連休ですしのんびり御坂さんを陰から見守るとしますか……、あ、いえ、ショチトルの方にも行ってやらねばなりませんね)」

一方「オイ、海原。ちょっといいか」

海原「?ええ、別にいいですが……珍しいですね、貴方から声をかけてくるなんて」

一方「ンなことどうでもいいだろ、ちょっとこっちきてくれ」

海原「はぁ……(なんだろう、打ち止めさんにべたべたしすぎたことが癇に触ったんでしょうか)」



海原「こんなスキルアウトも通らないような路地裏まで連れてきて、なんだっていうんですか?」

一方「……その、よ。オマエ、確か魔術師なンだっけか」

海原「ええ、まあ。この姿も借り物ですし。それにしても、科学の頂点に立つ貴方がまさか魔術をこうもすんなり信じてくれるなんて思ってませんでした」

一方「こっちにも色々事情があるンでな。……ああ、くそっ、こういうのは初めてだからどう手順を踏めばいいかわかりゃしねェ」

海原「(いきなり発狂したように頭を掻き始めましたがどうしたんでしょう)」

一方「はァ……海原、単刀直入に言うが、オマエの力を貸してくれ」

海原「……理由を、聞かせてもらってよろしいですか?」

一方「あァ……」

913: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 19:50:34.86 ID:BVv2u/co
―――。

海原「なるほど。打ち止めさんと佐天さんを……」

一方「俺達のアジトに呼ぶわけにもいかねェだろ。かと言って俺みてェな人間があいつらの家に行くなンてしてみろ」

海原「間違いなく、後で襲撃されますよね。スキルアウトとかに」

一方「クソガキ1が住んでる家は教師用マンションだからある程度は安心できるがそれでもプロが乗り込んだ場合は話が別だ。
    クソガキ2にいたっては話にならねェ」

海原「クソガキではなく名前で呼んであげたらどうですか」

一方「ンなことどうでもいいンだよ。でだ。ならどォするかって話だが、俺が以前使ってた部屋がそのまま借りっぱなしだったンだよ」

海原「そこを使おうということですね」

一方「ちょいと掃除しなきゃならねェがな。まァそれは明日にでも終わらせる」

海原「しかしここまで聞いて、僕は何故貴方が僕に助けを求めたのか理解できないのですが」

一方「俺があの家に戻って片づけをしていた場合、スキルアウトの馬鹿共にバレる。
    さらに、あのクソガキどもが俺の部屋へ入るところを見た場合、間違いなくそれに乗じて仕掛けてくるだろ」

海原「なかなか貴方もやんちゃしてきたわけですね」

一方「茶化すな。そこでどォすりゃいいかって話だが、まずクソガキ共が俺の部屋までの道中、誰にも姿を見られない。
    次に、部屋に誰も近づけさせない、ってことになるが、そこでオマエの魔術の力を貸してほしいってわけだ」

914: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 19:58:03.98 ID:BVv2u/co
海原「少々疑問が。部屋の片づけをしていると、どうしてスキルアウトにバレると?」

一方「やつら、俺があの部屋に帰ってこねェのを知ってたまり場にしてやがる。
    おおかた、俺が住んでた場所に居座ることで満足感を得てンだろォな」

海原「なるほど小物だ。もうひとつ、何故スキルアウトが貴方に攻撃をしかけると?貴方が学園都市最強なのは
    奴らも知っているはずでしょう」

一方「オマエは知らなかったか?俺の初任務がスキルアウトの一部隊の壊滅だったンだが、その際にこの電極のことがバレててな。
    さらに言うと、一瞬だったが一時電極を使用不可にさせられた。同じ轍を踏む気はねェが、相手が何をしてくるのかわからねェ。
    そこへあのクソガキ共が居た場合、どンな自体に陥るかわかンねェだろ」

海原「ふむ。スキルアウトは貴方が時間制限付きなことを知っているわけですか。しかし、とはいえ、佐天さんはスキルアウトごときに
    遅れをとるようには思えませんが」

一方「アイツを戦わせたくねェンだよ」

海原「……ところで、一番肝心なことを聞いてませんでした。どうして、そのお二人と一緒に休日を過ごそうと?」

一方「……。―――いろいろ寂しい思いさせちまったからな。せめてもの、だ」

海原「……わかりました。けれど、一方通行さん。貴方は何か勘違いしている」

916: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 20:12:52.57 ID:BVv2u/co
海原「まず、貴方はどうやら魔術をなんでも出来るもののように思っているがそれは間違いです。貴方がしてほしいことは
    人払いの魔術ということになると思いますが、明確な目標を持った相手にはあまり効果はありません」

一方「なン……だと……」

海原「次に、まず僕がどうして貴方に協力しなければならないのか、という話です」

一方「なっ……」

海原「だってそうでしょう?何故同様に闇を背負っている僕が、貴方だけが幸せになる道へと加担しなければならないのですか?
    貴方は愛する二人と休日を過ごせて、僕は御坂さんをストーキングできずただ一日中人払いに徹しろと?
    そこまでしてやる義理はまったく無いと思いますがね」

一方「それ、は……そうだけど、よ」

海原「魔術を使うのもそう楽なことではありませんし、そもそも科学の都市で魔術を使うなど、本来ならありえないことなんです。
    それを常時展開していろなど、学園都市側から刺されろと言っているのも同様ですよ」

一方「……わかった。悪かったな、こンなこと言ってよ。確かに、オマエの言うとおりだ。グループは仲良しこよしの集団じゃねェ。
   己が目的のために集まった組織だったな。その関係を自分の幸せのために使おうなンざ、ふぬけた話だった。
   すまねェな、海原。くだらねェことに時間を使わせちまって―――」

海原「ハハッ、全く。だから貴方は早 なんですよ」

一方「は……?」

海原「協力しなければならないのか?とは言いましたが、協力しない、とは言っていないでしょう。
    そもそも僕の目的は御坂さんの世界を裏から支えるため。佐天涙子は御坂さんの親友であり、彼女が悲しむことは御坂さんが悲しむことになります。
    貴方も病院で言われていたでしょう?佐天さんを泣かせば絶対に許さない、と」

一方「……オイ、待て最後、なンでオマエそれしtt」

海原「協力しますよ、一方通行さん。ですが、勘違いしないでください。これは貴方のためでなく、御坂さんのためなんですからね」

一方「……!う、海原ァ!!ありがとよォ!!!」

海原「ハハッ、感謝の気持ちなんていいですから打ち止めさんの写真ください」

920: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 20:20:50.18 ID:BVv2u/co
土御門「おっと話は聞かせてもらったぜい、一方通行」

一方通行「土御門!?なンでこンなところに……」

土御門「お前が海原に声をかけるなんておかしかったからな。後をつけさせてもらった。
     さて、と。そんなことより」だっ

バキィッ

一方「ぐァァッ!?くっ、テメェッ、何しや―――いや、言うな。わかってる。はは、そうだよな。
    俺がこンな普段とらねェような行動とっちまったら上から何かあるって思われるかもしれねェもンな。
    それで組織全体に迷惑かかったら話にならねェよな。くそっ、海原、悪いがこの話は無しってことに―――」

土御門「ばかやろう!!」

バキィッ

一方「がァァァ!?」

土御門「俺がお前を殴ったのはそんなことじゃない!どうして!俺に声をかけなかったのかってことだ!!」

一方「え……?」

土御門「組織?目的?馬鹿なこと言ってんじゃねーぜ!確かにそれは大事だ。けどな、もっと大事なもんがあるだろ?
     それはな―――仲間の幸せだよ、一方通行」

一方「な……土御門……」


土御門「勝手ながら、この話俺にも協力させてくれ、一方通行。佐天ちゃんの、打ち止めちゃんの、そして何よりお前の幸せを、
     俺はこの手で作ってやりたいんだ。それに、正直俺ばっか日常を謳歌してるのも悪いと思ってたしな」

一方「つ、土御門ォォォおおお!!」がしっ

土御門「一方通行!」がしっ





結標「アンタらなにやってんの……」

921: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 20:27:55.02 ID:BVv2u/co
土御門「結標?なんでこんなところに……」

結標「昔使ってたルートでね。よくいくスーパーへの近道なのよ」

海原「テレポートすればいいんじゃないんですか?」

結標「疲れるもん。それより、今の話なに?聞いてる限りじゃあんまりよろしくなさそうな話だったけど?」

一方「いや、それはだな……」

結標「私は反対よ?アンタらがよくても、私は駄目。なんで一方通行の一日のために、組織全体が危うくならなきゃいけないの?」

一方「うゥ……」

土御門「ままま、結標。ちょっとこっち来いって」





結標「こっ、これは……?」

土御門「佐天ちゃんの弟くんだにゃー。ここいらで一方通行を通じて点数稼いでおけば……あとはわかるな?」




結標「協力するわ!一方通行!!」

一方「む、結標ェ!!」ばっ

結標「わっ、ばか、抱きつこうとするなっ!!」

922: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 20:42:36.43 ID:BVv2u/co
―――ファミレス

一方「ほっぺ痛ェ」

結標「いきなり抱きつこうとすれば当然でしょ」

海原「一方通行さんに巨 趣味があったなんて驚きですね」

結標「ボッシュート」ひゅんっ

土御門「どこに飛ばしたんだよ?」

結標「ここの屋根よ。そのうち下りてくるでしょ」

土御門「ならいいか。それじゃ明日の話だが……」

結標「一方通行の家の片づけだっけ?」

一方「オイオイ、そこまでしてもらう必要はねェよ」

土御門「聞いた話じゃ相当荒れてんだろ?だったら一旦中のもん全部なくしちまった方がてっとりばやい」

結標「私の能力の出番ってわけね。1t以上でなければどれだけでも飛ばしてあげるわよ」

一方「ハッ……頼もしい限りだぜ」

925: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 20:53:50.92 ID:BVv2u/co
土御門「でまぁ、片づけが終わったら後は買い足しって形になるが、構わないか?」

一方「あァ、買い足しつっても大した額にはならねェだろ?問題ねェよ」

土御門「さすが第一位だな。俺にゃ真似できん」

海原「死ぬかと思いました」

土御門「おかえり。明日の話はもう終わった。次は明後日だな。予定はどうなってる?」

一方「まだ連絡すらしてねェ」

結標「……馬鹿なの?早く連絡しなさいよ」

一方「あ、ああ……」



pllllpllll

佐天『はい、もしもし』

一方「よォ、俺だ俺」

佐天『俺俺詐欺ですか?もう流行りはすぎましたよ?』ぷちっ

ツーツーツ……


土御門「(笑)」バンバンバン

結標「……」プークスクス

海原「ハハッ」

一方「」

926: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 21:07:53.13 ID:BVv2u/co
plllllplllll

一方「……もしもし」

佐天『なぁーんて冗談ですってー!だって一方通行さん携帯の番号変えたまま教えてくれてなかったんですもん。
    先日はごちそうさまでした。それで、何か用でした?』

一方「あ、あァ……あのよ、明後日って暇か?」

佐天『明後日……日曜日ですか?今のところ特に用事はありませんけど』

一方「そォか!あのよ、その日仕事が休みなンだが、よけりゃクソガキと一緒に遊びにこねェか?」

佐天『おっ、それはこの前約束した涙子ちゃんの手料理を食べさせろ、ってことですね?わっかりました!
    何時ごろに行きましょうか?』

一方「ン?そ、そォだなァ……」サラサラ


≪何時からがいいと思う?≫


土御門「あんまり長い時間いてもだれるだけだからな……3時ごろからでいいんじゃないか?」

結標「そうね、ちょっとだべった後ご飯つくって、食べて、のんびりして……うん、いいんじゃない?ゆったりしてて」

海原「御坂さんとなら何時間でもいたいものですけどね」


一方「あー……三時位からでどォだ?」

佐天『んっ、わっかりましたー。じゃあ打ち止めちゃん連れていきますね……って、どこへ行けばいんですか?』

結標「私が送ってく、って言ってあげて」

一方「この前みてェに結標が送ってくれるそォだ」

佐天『おおっ、最初は白井さんを傷つけた人だからあんまりいいイメージありませんでしたけど、結構いい人かもしれないですね。
    んー、これが信念のすれ違いかぁ……私もアックアさんとなぁ……』

結標「イエッス!!いいお姉さんのイメージ作りは着々と進んでるわ!」

一方「ンじゃ、打ち止めからは俺から連絡いれとくから。また電話するな」

佐天『はーい、それじゃ楽しみに待ってて下さいね?おやすみなさーい』

一方「オウ、おやすみ」ピッ

927: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 21:38:28.16 ID:BVv2u/co
一方「さて次は……」pllllplllll

黄泉川『はいこちら黄泉川じゃんよ』

一方「久しぶりだな」

黄泉川『おおっ、久しぶりじゃんよ!元気にしてるか?相変わらずモヤシか?』

一方「モヤシは関係ねェだろ……打ち止めいるか?いたら代わってくれ」

黄泉川『おっけー。打ち止めー、電話じゃんよー』

打ち止め『はーいこちら打ち止めだけど貴方は誰?ってミサカはミサカは電話の向こう側の君に尋ねてみる!』

一方「この前ぶりだな、打ち止め」

打ち止め『ああーっ!どうしたのどうしたの?アナタからの電話って珍しい!ってミサカはミサカは
      あまりの嬉しさに跳びはねてみたり!!』

一方「オイオイ、部屋ン中で暴れてンじゃねェ。明後日の日曜日って時間あるか?」

打ち止め『うん、ってミサカはミサカは即答してみたり!どうしたの?』

一方「この前あのクソガ……佐天の飯食いたいつってただろ?俺も仕事が休みだからな。
    丁度いいし、三人で飯食わねェか?』

打ち止め『サテンのごはん?ってミサカはミサカは首をかしげてみたり。
      確かにそれは食べたいって言ったけれど、それよりもミサカはヨミカワやヨシカワと一緒に4人でご飯食べたいかも、
      ってミサカはミサカは自分の気持ちを素直に言ってみる』

一方「そりゃァそうかもしンねェが、俺がそっち行くと色々問題起こるンでな。
    かと言って黄泉川も明後日一緒に、ってワケにゃなかなかいかねェ。わかってくれ」

打ち止め『むぅぅ……でもでも、それじゃヨミカワ達に悪いよ、ってミサカはミサカは後ろめたい気持ちになるの。
       ヨミカワとヨシカワだってアナタに会いたがってるよ?』

黄泉川『あー一方通行?私達のことは気にしなくていいじゃん。こっちはお前の元気そうな声が聞けただけで満足じゃんよ』

一方「黄泉川……」

芳川『それにしても成長したわね一方通行。まさか打ち止め意外の女の子を誘ってご飯食べにいくなんて』

黄泉川『だよなー!以前の一方通行からは考えられないじゃん!』

一方「……っ!そ、それじゃあ打ち止め!明後日の何時になるかわかンねェが、佐天がそっちに迎えにいくと思うから待ってろよ!」

打ち止め『ん……わかったよ、ってミサカはミサカは了解してみる』

一方「よろしい。じゃあな、『打ち止め』。おやすみ」

打ち止め『……!うんっ、おやすみ『一方通行』!ってミサカはミサカは元気よく挨拶してみたり!』プツ

928: ちくしょういろいろミスった  ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 21:47:50.18 ID:BVv2u/co
一方「ふゥ……」


土御門「『よろしい。じゃあな、打ち止め。おやすみ』(キリッ」

海原「超うける(笑)」

結標「キリッ、とはしてなかったでしょ。それよりも普段見せないような柔らかい表情だったのが気持ちわるいわ」

一方「ちくしょう」


海原「それで、人払いのほうはどうします?というか土御門さん魔術使えませんし」

土御門「まぁそうだが……人払いは夜だけだな。昼に来ることはないだろう。
     だから海原は夜へ向けて体力温存。俺と結標で昼間は見はってるぜい」

結標「まぁ打倒かしらね。もしきても、すぐにテレポートで飛ばしてあげるわよ」

土御門「便利だな、さすが空間移動能力者最強。んじゃ、今日はここいらで解散するか」

一方「忍びねェな……」

土御門「構わんよ」

930: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 23:02:53.64 ID:BVv2u/co
ねくすとでい


スキルアウト「ヒャッハーたまんねぇぜ!!」

スキルアウト「なんたってちょっと前までここがあの学園都市最強の部屋だったんだからなぁ!!」

スキルアウト「まったく居心地がいいたらありゃしねぇぜ!!」

スキルアウト「「「HAHAHAHAHAHAHA!!!」」」


一方「な?」

海原「ワロス」

結標「どうする?さくっとテレポしちゃう?」

一方「いや、ここは俺がいいってくる」


――――。


一方「睨ンだらおとなしく窓から飛び降りたぜ」」

土御門「んじゃさっさと始めるかにゃー」

932: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 23:13:36.46 ID:BVv2u/co
結標「うわっ、ひっどい」

海原「ゴミとか床に散らばってますよ?壁も落書きだらけですし」

土御門「予想以上だにゃー。なあ一方通行、これならもう部屋新しくどっか借りたほうが……一方通行?」

一方「――――――」

結標「何?そのテーブルがどうかしたの?」

土御門「んー?ほとんど全壊状態なのにそのテーブルだけほとんど無傷だにゃー」

一方「……はっ。いや、悪いがここじゃねェと駄目なンだ。面倒だと思ったら帰っても別にいいぜ?元々一人でやるつもりだったからな」

結標「何言ってんだか。これくらいちょちょいのちょいだって。土御門、トラックは借りてきてくれた?」

土御門「バッチリ積載4t借りてきたぜい。こっから見えると思うけどにゃー?」

結標「オッケー。さて、と。この中のもの、全部あそこへ送っちゃってもいいわよね?」

一方「このテーブルは残しといてくれねェか?」

結標「?別にいいけど……それそんなに高いものなの?」

一方「そォいうワケじゃねェが」

海原「ここで海原式読心術の出番ですよ。―――ほほう、なるほど。
    どうやら打ち止めさんに初めてであった時、彼女をこのテーブルで寝かせたそうですね。
    おっと、毛布一枚とは、これはこれは」

一方「やだ魔術師怖い」

934: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 23:21:11.38 ID:BVv2u/co
結標「それ、ぴかーっとね」

土御門「みるみる間に片付いてくにゃー。便利すぎだろ空間移動」

結標「扱いは難しいけどね。このまま壁紙もべりーっと」

一方「ものの15分ですっからかンになっちまった。こォいう時は空間移動は汎用性高ェよなァ」

結標「第一位に言われると悪いきはしないわね。さて、あらかたゴミは片づけたし、後は掃いたり拭いたり、
    壁紙はったり家具揃えたりね」

土御門「家具調達組と部屋掃除組にわかれるか。家具組には結標が入るとして、あと一人は……一方通行行くか?」

一方「いや、スキルアウトの馬鹿どもが万が一に戻ってきた場合面倒だから俺はここに残る。
   海原、行ってきてくれるか?」

海原「構いませんよ」

一方「オマエは普遍的なセンスは良さそうだからなァ。このテーブルに合うような配色で頼む。カードはこれ使ってくれ」

結標「何よ、私のセンスは悪いみたいな言い方じゃない」

一方「コルク抜きはちょっと」

結標「ちくしょう」

935: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 23:31:11.72 ID:BVv2u/co
一方「……」ハァー

一方「……」キュッキュッ

一方「……」ハァー

一方「……」キュッキュッ

一方「……」ハァー

一方「……」キュッキュッ

一方「……」ハァー

一方「……」キュッキュッ

土御門「……なぁ一方通行。そろそろそのテーブルを磨くのは終わりにして、こっち手伝ってくれないか?
     ガンコな汚れもお前のベクトル操作なら一発だろ?」

一方「お?おォ、ちょっと待ってろ―――」カチッ フインッ

一方「これでこの部屋の汚れは相当落ちやすくなったはずだぜ」

土御門「うぉぉぉ何これ面白いくらいに落ちる!!」

一方「……」ハァー

一方「……」キュッキュッ

土御門「ってお前は結局それ磨くのかよ。そんなに大切なのか、それ」

一方「……まァ、クソガキとの思い出なンざ、この部屋とこのテーブルだからなァ」

土御門「そんな明日で世界が終わるようなこと言うなよ。これからたくさん思い出作っていけばいいだろ」

一方「そりゃァ……オマエ、結構いいこと言うな」

土御門「普通だっての」

937: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 23:50:08.79 ID:BVv2u/co
――――。

土御門「綺麗になった!」

一方「おォ、すげェ」

土御門「お前結局テーブル磨いてただけじゃねぇか」

一方「電気まわりと浴槽も見たっつゥの。機能的には問題ねェな。あとは……」

土御門「あぁ……この、なんというか、しみついたタバコのにおいというか、だな」

一方「どォしたもンか……」


結標「ただいまっ」

海原「どうも」

土御門「ん、お疲れだにゃー。荷物は?」

結標「下のトラックに積んであるわよ。タンスとかはいらないと思って買ってこなかったわよ?これカードね」

一方「ありがとよ」

海原「それではさっさと設置しますか―――っと、その前に」

結標「皆一回外出てー」

土御門「何でだよ」

結標「この部屋匂うでしょ?時限式の缶スプレー消臭剤買ってきたから、一度密閉して匂い消すのよ」

海原「この辺りは流石女の子ですよね。僕は全然気づきませんでした」

結標「男と違って敏感なんだから」

土御門「いろいろと?」

結標「ボッシュート」ひゅんっ

938: ◆oDLutFYnAI 2010/08/13(金) 23:57:24.76 ID:BVv2u/co
―――。

一方「確かに臭くはなくなったが……」

海原「フローラルな香りがしますね」

結標「いいじゃない、いいじゃない!フローラルの何が悪いのよ!」

一方「便所の匂いみてェ」

海原「トイレの香りかと」

結標「ボッシュート!!」ひゅんっ

結標「あっ……私ひとりになっちゃった」



土御門「ひどい目にあったにゃー」

一方「上空800mから死のダイブするなンざ想像してなかったぞ」

海原「一方通行さんがいなければ死んでいました……」

結標「やりすぎちゃった……ごめんね」

土御門「しおらしい結標は可愛いにゃー」

海原「だんぜん御坂さんの方が可愛いですけどね」

土御門「それを言ったらうちの舞夏だって!」

一方「やめろオマエら、また飛ばされるぞ」

939: ◆oDLutFYnAI 2010/08/14(土) 00:10:29.57 ID:kGr4bcIo
――――。

――――――――。


土御門「終わった!!」

海原「いやぁ素晴らしい出来あがりですね」

結標「テレビはやっぱり必要だったわよね?」

一方「まァな……オマエら、ありg」

土御門「おっと一方通行、その台詞を言うのはまだ早いぜい。目的は部屋を片付けることじゃなく、明日二人を楽しませることだにゃー。
     それが出来た時こそ、その言葉をいただくことにするぜい」

海原「その通りですね。もし悲しませたら僕が許しませんから」

結標「たぶんあの二人にとっては一緒にいるだけで十分だと思うから、気どって変なことしなくてもいいわよ?
    いつものアンタで居てやればそれで幸せだと思うから」

一方「オマエら……わかった。安心しろ、絶対うまくやってやる」

土御門「おう。あ、そうだ一方通行。オマエは今日ここに泊っとけよ。それから、部屋から出るな」

一方「あァ?まァ、そりゃ構わねェが……」

土御門「よし。部屋から出なけりゃ絶対にスキルアウトはこの部屋に何も出来ないからな。じゃ、また明日」

一方「おう」



土御門「―――ごぷっ、げほっ、ごほっ……よし、これでおっけい」

海原「結界ですか。言ってくれれば僕が……」

土御門「結界に関しちゃ俺の方が数段も上手だろうが。何、この程度なら明日には回復してるよ」

結標「何やったのかよくわかんないけど不便ねぇ」

土御門「ま、仕方ないさ。さて、それじゃ明日に備えて俺たちも休むか―――」

954: ◆oDLutFYnAI 2010/08/14(土) 22:01:06.49 ID:kGr4bcIo
今回はセーブロード機能なんて無いよ。
後日談だからこその一発勝負。一方さんが両手に華なエンドを目指して頑張ろうぜ

それにしてもお盆の飲食関係はほんといろんな人が来るよな。
若い兄ちゃん見てると心が躍るよ。うほっ。俺より年上だけど。
そして水をぶちまけてしまっても笑って許してくれるお客様マジお客様。俺もあんなかっこいい大人になりたい。
だけど、「おう、兄ちゃん。俺もこぼしちまったからおあいこだな!」とかいいながら自分の服に水をかけるのは
やめてください酔っ払いのおじいさん。嬉しいけど申し訳ない気分になりますから。

お前らも忙しそうな時には店員になるべく優しくしてやってくれよ!そうすると店からの評判上がるから!
店の裏で愚痴られたりしないから!店員の心の救いになるからさあ始めましょう。

956: ◆oDLutFYnAI 2010/08/14(土) 22:16:10.48 ID:kGr4bcIo
一方「ふゥ……あいつらのおかげで随分早く終わっちまったな。それでももう夕方から」

一方「ン……腹ァ減った。飯食いに―――って、出るなって言われてたか。理由はわかンねェが、だが確かに出かけたら
    スキルアウトの馬鹿どもに荒らされる可能性は十分にあるな」

一方「しょうがねェ、今日は飯抜き……ン?なンだこりゃ」


『冷蔵庫の中に今日の晩御飯と明日の朝、昼ごはん入れておいたからレンジでチンして食べてね 結標』


一方「アイツ……ハッ、似合わねェことしやがって」

一方「ってオイ、なンで冷蔵庫の中がコーヒーゼリーと缶コーヒーで埋まってンだァ!?もっと他にあっただろォが!!」




海原「そういえば土御門さん、あの結界ってなんなんですか?」

土御門「ひとつの部屋に一人だけしかいない時でないと使えない術式。一方通行が部屋から出ない限り効果は続く。
     少なくともスキルアウトには破れないが、しかし二人以上が部屋にいると使えないから明日は頼れんな」


957: ◆oDLutFYnAI 2010/08/14(土) 22:20:27.39 ID:kGr4bcIo
つぎのひになりました。


一方「ン……朝、っつゥか昼前か」

一方「さて、どォすっかなァ……」


 

965: えっ、何この結果  ◆oDLutFYnAI 2010/08/14(土) 22:34:01.34 ID:kGr4bcIo
一方「まずはメシ食うか……コーヒーゼリーしかねェ」

一方「昨日も散々食ったからなァ。……あ?これ裏に突起ついてやがる。なるほど、これを折れば空気が入ってゼリーが
   下に落ちる、ってワケか」プッチン 

一方「……おォ。なンだ、なンか楽しいな」ポヨポヨ

一方「しかし、コレを見てっとなァーンか思いだすなァ……」ポヨポヨ

一方「……あァ、結標の胸か……って何考えてンだ俺は!!」ブンブン

一方「クソッ、馬鹿なこと考えちまった!食えるかこンなもン!」ベチョッ


pllllllplllllllllll

一方「もしもし?」

結標『おはよ、一方通行』

一方「オ!?お、おう……」

結標『……何驚いてんの?今日ってさ、何時ごろにあの子たち迎えにいけばいいのかしら』

一方「ン、そォだなァ……今から電話して聞いてみるから、折り返し連絡する」

結標『おっけー』ピッ


一方「ふゥ……って、何で俺ァ意識してンだ?女の胸なンざ意識するよォなもンでもねェだろ」

966: ◆oDLutFYnAI 2010/08/14(土) 22:47:17.40 ID:kGr4bcIo
―――。

佐天「ん、そろそろ買いもの行こうかな……あ、そうだ。せっかくだし、打ち止めちゃんも誘おう」

佐天「ラースートーオーダー……っと、見つけた見つけた」

pllllllplllll

打ち止め『もしもしっ、ってミサカはミサカは自分の携帯に電話がかかってくることが珍しくて驚いてみる!』

佐天「打ち止めちゃん?おはよー」

打ち止め『おはよっ、ってミサカはミサカはお返事してみる。どうしたのサテン』

佐天「今日一方通行さんの家に行くんじゃない?それでね、今からご飯の材量買いに行くんだけど、一緒にいかないかなーって」

打ち止め『……あの人からミサカを連れていけって言われたの?ってミサカはミサカはたずねてみる』

佐天「うん?いや、違うけど……そういえばまた連絡するって言ってたのに全然連絡来ないや、まあ寝てるんだろうけど」

打ち止め『そうだね、あの人って好きな時に寝て好きな時に起きる人だから……ってミサカはミサカは初めてあの人に
      出会った時のことを思い出してみる』

佐天「へぇー。それで、どうする?一緒に行かない?」

打ち止め『んー……じゃあ一緒にいこっかな、ってミサカはミサカはサテンの提案にのってみる』

佐天「おっけぃ。それじゃどこで待ち合わせよっか?」

打ち止め『えっとねー……じゃあ―――』

佐天「―――ん、わかった。それじゃね」ピッ

969: 無意識に嫉妬しあう女の子が書けん今日は寝る ◆oDLutFYnAI 2010/08/15(日) 00:03:46.35 ID:C4/R79wo
――――――。

―――。


打ち止め「――-というわけで、あの人は眠っててもミサカの毛布をはぎ取ってきたの、ってミサカはミサカは思い返してみる」

佐天「さすがの私も引いたわ……」

打ち止め「他にもあの人はすっごく寝起きが悪くてね、病院でも看護師さんを困らせてばっかだったんだよ、ってミサカは
      ミサカは病院でのあの人との生活を思い返してみるの」

佐天「無意識反射できてた時は音も全部反射できるからねー。好き勝手し放題だったんだろうなー。それにしても、
   こうやって聞いてると打ち止めちゃんって本当一方通行さんと一緒にいる時間長いよね」

打ち止め「あの人がミサカと一緒にいる時間が長いんだよ、ってミサカはミサカは反論してみたり!」

佐天「そんなもんかなぁ……けど、そっか。打ち止めちゃんに比べると私ってほんの少ししか一方通行さんのこと知らないんだなぁ。
    そうだ、打ち止めちゃんは今晩何食べたい?」

打ち止め「えー……んーと、サテンの作るものならなんでもいいよ!ってミサカはミサカは楽しみにしてみたり!」

佐天「う、うーん……そういうのが一番大変なんだけど、まーお店でぶらぶらしながら考えよっか」

986: 平日の昼間にレス付くの早過ぎワラタ  ◆oDLutFYnAI 2010/08/16(月) 13:49:17.22 ID:By5Wa32o
佐天「んー……悪いけどさ、一方通行さんに電話してくれる?ほら、今両手塞がっちゃってるし」

打ち止め「わかったよ、ってミサカはミサカは電波を飛ばしてみる」

pllllpllll

一方『クソガキか。どうかしたか』

打ち止め「どうかも何も、何処へ行ったらいいかわからないよ!ってミサカはミサカはサテンと一緒に路傍に迷ってたり!」

一方『……そォいや伝えるの忘れてたか。今どこに―――って、なンだ?オマエ、今アイツと一緒に居ンのか?』

打ち止め「うん、一緒にお買いものしてたところ!」

一方『そォかい……昨夜は随分とアイツのこと嫌ってたみたいだったからな。仲が良くて何よりだ』

打ち止め「……べっ、別にサテンのこと嫌ってたわけじゃないんだよ?!ってミサカはミサカは弁明してみる!!」

一方『そりゃ良かった』

打ち止め「……アナタはミサカがサテンのこと嫌ってたら嫌?ってミサカはミサカはふとたずねてみる」

一方『まァな』

打ち止め「……なんで?」

一方『ンなこたァガキは知らなくていいンだよ』

打ち止め「ちゃんと答えて」

一方『(何この子怖い……)そ、そォだなァ……あー、くそ、絶対言わなきゃ駄目か?』

打ち止め「そんなに私に言いにくいことなの?」

一方『……』

 

992: ◆oDLutFYnAI 2010/08/16(月) 14:50:34.54 ID:By5Wa32o
一方『(何やらクソガキの様子が尋常じゃねェ……正直に言ってやるしかねェか)』

一方『……俺はお前ら二人を守りてェと思ってる。その二人が仲悪いより、良い方がいいに決まってンだろ。
    こンな理由だが、お気に召さなかったかクソガキ』

打ち止め「……ううん。ごめんね、意地悪なこと聞いちゃって、ってミサカはミサカはアナタの解答に満足して
      素直に謝ってみたり」

一方『全くだ。ったく……恥ずかしいこと言わせやがって』

打ち止め「あはっ、アナタも恥ずかしいとかあるんだね!ってミサカはミサカは照れてるアナタを可愛いって評価してみる!」

一方『調子乗ンなよクソガキが!オマエ家に着いたらゲンコツな』

打ち止め「ひゃぁっ!?藪蛇ってやつかもってミサカはミサカは……そういえば、アナタ今どこにいるの?」

一方『……秘密。オマエ今どこにいる?結標に行って迎えに行かせるから』

打ち止め「絶対座標でもいい?ってミサカはミサカは尋ねてみる」

一方『むしろそのほうがありがてェ』

打ち止め「だったらねー――――――」



佐天「(……いいなぁ、楽しそうに会話してる)」

佐天「(って、ん、なんだろこれ……嫌な感じだな)」

993: ◆oDLutFYnAI 2010/08/16(月) 15:05:10.92 ID:By5Wa32o
打ち止め「ムスジメが迎えに来てくれるんだって!ってミサカはミサカはあの人からの言葉を伝えてみる」

佐天「……そっか。それにしても、結標さんホント優しいなー」



結標「おまたせー」

佐天「どうも、お世話様です」

結標「どうってことないわよ。運び屋なら昔もよくやってたし。それじゃ行こうかしらね」


結標「さて、ついたわよ」

打ち止め「ここって……」

結標「アイツ、やたらこの部屋にこだわっててね。理由はわかんないけど」

佐天「?話の内容がよく飲み込めないけど、ここって普通の寮ですよね?」

打ち止め「うん……あの人がミサカに会うまでずっと住んでた所、ってミサカはミサカはあの日を思い出してみる」

佐天「ふーん……?」

結標「それじゃ私はこの辺で」

佐天「ああ、はい、ありが……もういねぇ」

打ち止め「着いたよ、ってミサカはミサカはインターホン鳴らしてみたり」ピンポーン


引用元: 佐天「未元物質って知ってます?第五波動ー!」