球磨川『学園都市?』 前編

525: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/13(木) 22:43:34.86 ID:BWKcEvAa0
「さて、お姉様は死についてどういった考えをお持ちでしょうか?」

「死後の世界へと向かうのか、それとも霊体となってしまうのか。輪廻転生という考えもありますね、とミサカは質問を投げかけます」

9982号はそう言いながらも、蹲る御坂に対してサブマシンガンを構え、近づいていく。

ゆっくりと歩くその姿は、まるで十三階段を昇る死刑囚のように慎重な足取りだった。

「……何も無くなるんじゃないの?」

当然、死んだ経験など無い御坂にとってこの質問の答えなど知る由もなく、それは生きている生命全てに言える。

しかし、目の前の彼女は違うのだ。

死後の世界に旅立ったわけでもなく、霊体のように実態がないわけでもなく、まして生まれ変わった姿でもない。

死ぬ直前の姿のままで、御坂の前に立っている9982号は、この質問の答えを知っている。

「全くの無、だったら良かったのかもしれませんが、残念ながらそうではありません」

「ずっと死の痛みが残るんですよ、とミサカは語ります」

死の痛みが続く。

痛みが、廻っていく。

くるくると、狂う狂うと。

それは永遠に続く回廊。

進んでは振り出しに戻る回廊。

狂う程の痛みが続く回廊。

ゆえに、狂痛回廊。

「経験論に基づいてそう呼称するのですが、なかなか良い響きじゃないですか、とミサカは自身のネーミングセンスに酔いしれます。

527: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/13(木) 23:07:17.28 ID:BWKcEvAa0
「どこが……アンタさっきの台詞でも思ったけど、漫画の読みすぎじゃないの?」

「元ネタを知っているお姉様もかなりの漫画通だと思いますが、とミサカは自分を棚に上げたお姉様に呆れます」

「結構好きだったのよ、あの漫画は」

「趣味が立ち読みという時点で本当のファンとは言えないのでは、とミサカは疑問を投げかけます」

「うっさい!」

もう御坂の腹部に痛みはない。念の為、患部を擦ってみるがやはり外傷はなく、綺麗なままである。

「どうやら完全に回復したようですね、とミサカは痛みで演算ができない状態のお姉様に攻撃を仕掛けようとしましたが、諦めます」

そう言って、サブマシンガンの下ろす9982号の腹部に注目する。

(出血が止まってる?)

刺された直後の出血によって、制服は赤く染まっているが、今は止まっているようだった。

それはまるで御坂が痛みを肩代わりしたように、彼女の傷は塞がっている。

「こうなると、重火器は役に立ちませんし電撃はいわずもがな、とミサカは次の攻撃について思案します」

「させないわよ!」

叫びと共に一本の雷が9982号へ落下する。

当然、出力は調整してあるし、電撃使いの体性を考慮すればそこまでのダメージを与えることはない。

電撃使いには電撃に耐性がある。この場合、御坂が9982号へ気遣いのため攻撃に雷を使ったのは不幸中の幸いだった。

そう、落雷の衝撃はまたもや御坂に襲いかかったのである。

528: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/13(木) 23:31:25.45 ID:BWKcEvAa0
「~~ッ!」

衝撃に思わず膝をつく御坂だったが、痛みはさほどない。

しかし、御坂の思考回路は混乱していた。

(またダメージが私に!)

恐らくは狂痛回廊の効果によるもので、その効果もある程度だけであるが予想もついている。

ただ、どんな原理でこんな馬鹿げたことが起こっているのか理解が出来なかった。

「解析しようとしても無駄ですよ、負能力は無意味で無関係で無価値、何より無責任なのですから」

佐天涙子の公平構成がそうであったように、この狂痛回廊も負能力である以上、そこに理由など存在しない。

「……いちいち考えてたら馬鹿をみるってことね」

「その通りです。なのでお姉様は速やかに立って戦って傷つけて傷ついて負けて死んでください、とミサカはおもむろにナイフを取り出します」

月光に照らされた刃が光り、9982号はそれを逆手に構えて腰を落とし、臨戦態勢をとる。

そして、御坂が立ち上がった瞬間を狙い、一気に距離を詰めてナイフを振るう。

御坂は弾丸を操作したように、磁力を利用してナイフを無力化することができるのだが、それをせず紙一重のところで斬撃をかわしている。

ナイフを無力化した際に再び何らかのダメージを受けてしまったら、その時点で敗北が決定するからだ。

529: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/13(木) 23:48:06.22 ID:BWKcEvAa0
反撃の手段を考えていると、突然9982号の攻撃が止まった。

その隙に、距離をあける。

「ふむ。仮にも軍用として造られたミサカの攻撃をかわすとは、流石はお姉様ですね、とミサカは素直に驚きます」

「これでも身体能力には自信があるのよ!」

それは決して嘘ではない。

「そのようですね、ではこういった攻撃ならどうでしょう?とミサカはナイフを振り上げます」

そして、9982号は振り上げたナイフを思い切り自分の腕に振り下ろした。

「痛ッ!とミサカは……激痛に耐えながらも、ナイフを抜き取ります」

先程まで青白い月の光を反射していたナイフの刃は、今は赤黒い血液がべっとりと付着していた。

だらんと垂れた腕からとめどなく溢れる血が、指先まで伝い地面に血だまりを形成する。

「あああああああああああ!!」

数秒のタイムラグの後、絶叫したのは9982号ではなく、御坂美琴のほうだった。

最初と同じく、9982号と同じ個所に激痛が走るが、そこに出血はなくやはり外傷はないままだったが、

あまりの痛みに腕を押えながら両膝を地面に着き、唸りを上げ続ける。

そんな御坂とは対照的に、もはや涼しい表情の9982号。

やはりその腕の傷は既に塞がっていた。

「それでは、もう一、度!」

再び同じ個所へナイフを突き立てる。

血飛沫が宙を舞い、顔をしかめる9982号の後、御坂の絶叫が木霊する。

「ああああああああああああ!!」

自らの腕を引き千切らんばかりの力で握りしめる御坂。

そこに傷はないのに、そうせざるおえなかった。

530: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/14(金) 00:09:25.59 ID:kB4HZKbZ0
自らの傷が完全に塞がったのを確認した9982号は、サブマシンガンの照準を御坂に合わせ、トリガーに指をかける。

「最後に、ミサカの負能力を教えてあげましょう、とミサカはお姉様に冥土の土産を持たせます」

「狂痛回路、-レベル4の負能力。効果は感覚共有です」

「ミサカの感覚を誰かに請け負わせる。その副産物としてミサカの傷も完治します」

「また逆に第三者の感覚を他の第三者に移すこともできます。佐天涙子を超電磁砲から救ったのもこの能力です」

「因みに、感覚を移す相手は任意で選べますし、無差別にどこかの誰かへ移すこともできます。普段は無差別に設定してますよ」

「弱点としては発動までにタイムラグがあることと、ミサカの意識がない場合は発動されないことですね」

「もっとも、この場合はもう関係ないようですが……とミサカは足早に説明を終え、トリガーに力を込めます」

そしてトリガーを握る瞬間、轟音が鳴り響き地面が揺れた。

9982号が轟音のなった方へ目を向けると、煙を立ち上げながら、研究所の一部の屋根が崩れ去っていくのが目に映る。

「あの場所は天井亜雄が調整を行っている辺りですね、とミサカは彼の無事を案じます」

さっさとお姉様を処分して、佐天涙子と共に研究所へ戻ろう、そう思い再び目線を御坂に向けると、彼女は立ち上がっていた。

「……もう何も言う事はありませんよ、とミサカは絶句します」

息を切らし、腕を抑えつつも立ち上がった御坂は痛みが治まった訳ではなく、意識が半分飛びかかっているほどだった。

それでも彼女は立ち上がる。

全てを守るために。

603: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/16(日) 22:48:36.46 ID:cbQvV7QB0
9982号は目の前の人間の行動が理解できなかった。

御坂美琴。学園都市でも7人しかいないレベル5の第三位で、常盤台中学に通う中学2年生のお嬢様であり、自らの製造の元となったオリジナル。

レベル5という事実だけで周りから敬遠され、コミュニティの輪の中心には立てても輪に入れない彼女は友人が限られている。

羨望の眼差しは浴びても、同等の扱いは受けない。

そんな彼女は、数少ない友人に傷つけられ、罵倒されても彼女は立ち上がった。

そして自身のクローンという過酷な存在から、嘲笑され、批難されても彼女は立ち上がった。

どれだけ傷ついても。

どれだけ拒絶されても。

どれだけ心を壊されようとも、彼女は立ち上がった。

ボロボロの体を何度も蘇らせる理由。

それは9982号には、自身の存在意義を他人だけでなく、自分に持たないクローン体の彼女には

例えどれだけ時間を重ねても解るはずもないこと。

自身の為ではなく、誰かの為に何度も立ち上がるという、人間なら誰しもが持っている理由だった。

傷つけられた白井黒子のため。

負に堕ちた佐天涙子のため。

その二人を心から想う初春飾利のため。

そして、目の前の9982号を含む全ての妹達のために、御坂は何度でも立ち上がる。

604: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/16(日) 22:49:08.82 ID:cbQvV7QB0
「アンタ達の……痛みなら……」

呼吸が乱れながらも、御坂は懸命に声を絞り出す。

「どれだけでも……受け止めてやるから……」

片腕を押えながら、重い体を引きづりながら、99892号に歩み寄る。

「せっかく……また会えたんだから……」

もはや、その歩みを止めることが9982号にはできない。

「やっと……全員……姉妹がそろったんだから……」

理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能。

「な、なんで……お姉様は……」

9982号は姉の行動が、言葉が、表情が、理解できなかった。

「だから……今度は皆で……」

「そんなボロボロの体で、なんで……」

そんな姉を拒絶することが、妹には出来なかった。

そして気がつけば――優しく抱きしめられていた。

「アイス……食べに行くわよ……」

「なんで、なんで……」

なんで貴女は笑っているのですか?

605: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/16(日) 22:49:37.24 ID:cbQvV7QB0
どれだけ時が経ったのか。

9982号は御坂に抱きしめられる形のまま立ち尽くしていた。

一分、十分、一時間。それとも十秒程しか経っていないのかもしれない。

そこでようやく、口を開くことが出来た。

「お姉様の行動が全く理解できません、とミサカは抱きしめられたまま口にします」

「いいの、別に理解しなくても」

その言葉に少し照れたような物言いの御坂だったが、9982号も特にそれ以上を問い質すことはない。

「全く甘いですね……まだミサカはナイフを持っているのですよ」

「何度も言わせないでよ。アンタの痛みは全部受け止めるわよ」

「そうですか、それなら遠慮なく、とミサカは抱きしめられた体制からナイフを取り出し……」

「ちょ、ちょっと!少しは空気を読みなさいよ!」

「ミサカは風力使いではありませんので大気を読むことはできませんが、とミサカは会心のボケを繰り出します」

「自分で会心のボケって言っておきながらまったく面白くないわね……」

空気の読めない妹に呆れながら、ようやくその両腕を9982号の胴体から離す。

606: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/16(日) 22:50:09.70 ID:cbQvV7QB0
「……で?まだやるつもり?」

少し表情を強張らせて問う。

9982号は首を横に振って答えた。

「この距離なら負能力が発動する前にお姉様に気絶させられるでしょう、とミサカは弱点をばらしたことを猛省します」

「ならいいのよ。佐天さん達も決着付いたみたいだし」

もうこの戦いは終わりよ、と初春に抱きつかれている佐天を横目に両手を上げる御坂。

「……そのようですね」

9982号もこれ以上は戦う意味がないと悟ったのか、サブマシンガンを地面へ下ろす。

「さて、と。球磨川の場所について教えてもらうわよ」

「了解しました、とミサカは敗者は勝者に従うのみという理論に基づいてお姉様の問いに答えます」

そう言って、先程爆発のあった研究所を指差す。

「研究所……ビンゴだったみたいね」

本日襲撃予定だった研究所内に、球磨川が居る。そこから恐らく打ち止めもこの中に囚われているだろうと御坂は推測した。

「それじゃ、私達は行くけど……アンタや佐天さんはどうするの?」

御坂には、もう白井や初春を置いていくつもりはない。

ここまで来たのだ。白井や初春も危険は承知だろうし引き返すつもりもないだろうから、最後まで皆で行こうと思ったのだ。

その問いに、9982号は即答した。

「ミサカはついていきますよ、それは佐天涙子も同じ気持ちでしょう、とミサカは頷きます」

607: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/16(日) 23:06:50.40 ID:cbQvV7QB0
「へぇ、枕元に私が立って助けを求めてたの?」

「そうですの!絶望に染まりきったわたくしを希望の光で照らして下さったのは紛れもなくお姉様の神々しい御姿!」

「眠っていた黒子の頭を優しく、やさし~く撫でてくださった後にわたくしの体の調子を気遣ってくださいましたの!!」

研究所内に入った御坂達は、入院していたはずの白井がどうしてここに居るのか説明を受けていた。

以下、白井による病室内で御坂?と交わした会話の独り芝居。

609: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/16(日) 23:17:30.83 ID:cbQvV7QB0
「大丈夫?」

「なんとか会話出来るまでは回復しましたが、大丈夫ではありません……身も心もずたずたにされてしまいましたわ」

「そんな黒子にお願いするのは酷だけど、助けてほしいの」

「お姉様……しかし黒子は……」

「これは黒子にしか頼めない」

「黒子にしか……ですか?」

「そうお姉さ……ゲフンゲフン。私を助けてくれるのは黒子にしかできないのよ」

「お姉様……」

「だから、立ち上がって私を助けて。そうしたら何でも言う事聞いてあげるから」

「!!」

「お、お姉様……何でもというのは……」

「こ、言葉の意味の通りよ!ミサ……ゴホンゴホン。私をアンタの好きにして良いってこと!」

「それは夜な夜なベッドに侵入しても?」

「許す」

「お姉様にあんな 着やこんな 着を装着させても?」

「ゆ、許す」

「侵入したベッドの中で夜の営みも?」

「許す許すよ許します!とミサカは半ば投げやりに叫びます!」

「お姉様?その語尾は……?」

「さ、最近のマイブームよ!とミサカはもうどうにでもなーれ」

「お茶目なお姉様も素敵ですわ……ハァ」

「で、助けるのか救うのかどっち!?とミサカは選択肢を投げかけます」

「選択肢が一つしかないのですが……当然。こんなところで寝ている場合ではありませんの!」

「だったら、風紀委員支部に向かってちょうだい。そこに詳しい情報があるわ」

「わかりましたの!それでは行ってまいります」

以上、独り芝居終了。

610: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/16(日) 23:33:45.20 ID:cbQvV7QB0
「それで風紀委員支部へ向かったら、初春のパソコンにこの住所が映ってましたの」

そう言って、満足げな表情で説明を終える白井。

その説明で場の空気が死んだ。

「あ、慌てて飛び出したので、そのままになってたんですね。はは……」

「相変わらずだね……白井さんは……」

「お姉様、このツインテール風紀委員から滲み出ているオーラに身の危険を感じるんですが……」

「あの病院にいる妹達にはお仕置きが必要ね……」

四人が四人とも引いていた。それはもう思いっきり引いていた。

「と、とにかく。黒子も無事退院したし!佐天さんも見つかったし!全員無事だから万事オッケーね」

死んだ空気を無理やり蘇生させようと、明るい張った声を出す御坂。

かすかに、今夜が楽しみですわ。と聞こえた気がするが、全力でスルーしていた。

「そうですね。あの、御坂さん……」

そんな御坂に同意しつつ、佐天が申し訳なさそうに話しかけた。

「ごめんなさい!私ひどいこと言っちゃって……」

立ち止り、頭を下げる。

しかし御坂からは一向に反応がないので、恐る恐る顔を上げると、そこには同じように頭を下げている御坂の姿があった。

「私こそ、ごめんね……佐天さんのこと、考えてなかった」

「御坂さん……」

611: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/16(日) 23:49:57.61 ID:cbQvV7QB0
頭を下げ合い、微動だにしない二人を再起動させたのは初春の声だった。

「さ!これでお相子ですよ!御坂さんも、佐天さんも友達なんですから!」

「そうですわよ、雨降って地固まる。ですわ」

明るい弾ける様な笑顔で言う初春に白井も頷く。

「そう、だよね……友達はみんな私と同じになってくれるんだよね」

負能力を使わなくても、と付け加え呟く佐天。

公平構成はオンオフの切り替えが出来ない。なので現在彼女の周りにいる友人たちは全て効果の対象内に居る。

しかし、そんな能力は関係ない。

この友人たちはそんなことをしなくても私と同じ所まで来てくれるんだ、と佐天は感じていた。

「イイハナシダナーと感動したいのは山々ですが、目的地に到着しました、とミサカは空気を読まずに告げます」

歩みを止めて一枚の扉の前に立つ9982号はそう言った。

「ここの部屋に我らがボス。球磨川禊がいます」

その言葉で場の空気が一瞬にして緊張する。

これで終わりではないのだ。

全ての元凶を叩いてこそ、この事件は全ての解決を迎える。

「それじゃ……入るわよ」

御坂は扉を開き先頭に立って部屋へと入った。

そして御坂は、目の前に飛び込んできた光景に絶望する事になる。

かつて妹達を巡り戦った時に、第三位でありながら彼女が手も足も出なかった男が、数本の螺子を体に螺子込まれ倒れ伏していたのだ。

その男の名前は一方通行。

学園都市最強の第一位の超能力者だった。

612: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/17(月) 00:05:59.66 ID:18H+QGgl0
倒れ伏す一方通行の前に、刺さっている螺子と同じ物を両手に携えている一人の少年がいた。

その少年に、御坂は見覚えがある。

あのビデオに写っていた少年。

打ち止めをさらった少年。

白井を痛めつけた少年。

佐天を、9982号を巻きこんだ少年。

全ての元凶となった球磨川禊だった。

『やぁ、涙子ちゃんにミサカちゃん遅かったね?その子達が例のお友達とお姉さん?』

『始めまして!球磨川禊でーす!』

『ってツインテールの風紀委員さんじゃないか!退院できたんだねおめでとう!!』

『いやぁ、実際心苦しかったんだよね。君みたいな可愛い女の子に暴力をふるっちゃうことが』

『まぁでも、無事に退院できたんだから許してくれるよね!ありがとう!』

突然の来訪者にも関わらず、まるで予想していたかのように平然と螺子をしまい、笑顔で喋り出した球磨川。

その顔面には、一方通行のものと思われる血液がこべり付いていた。

明らかに意識を失うほどの重体を負った一方通行に、笑顔を浮かべる球磨川という異様な光景に、誰も喋ることが出来なかった。

『その様子だと涙子ちゃん?“僕の言ったとおり”仲直りできたみたいだね!』

球磨川の言葉に、9982号以外の人間の視線が全て佐天へ向けられる。

「さてん、さん……?」

俯いたままの佐天に初春が消え入りそうな声をかける。

そして佐天は顔を上げ、笑顔で球磨川に答えた。

「はい!球磨川さんの言った通り、皆は負(マイナス)になった私を見捨てることなく、同じ負(マイナス)になってくれると言ってくれました!」

615: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/17(月) 00:24:56.84 ID:18H+QGgl0
白井が入院していた病院のとある一室。

冥土返しと呼ばれる程の腕前を持つ蛙顔の名医が座る椅子の対面に、白衣に身を包んだ一人の女性が彼と同じパイプ椅子に腰かけている。

女性、というよりは少女と表現をした方がいい彼女はどう見ても小学校高学年ほどの容姿をしており、

白衣よりもランドセルを背負っていた方が様になるように見える。

「いきなり君が訪れると連絡を受けた時は驚いたよ?なんせ13年ぶりだからね?」

優しく微笑みながら、目の前の少女に話しかける冥土返し。

13年ぶりと言ったが、それは下手をしたら少女が生まれるより以前の事かと思うが、その言葉に少女も目を伏せながらも微笑んだ。

「ええ、本当にお久しぶりですね。できればこんな形で再開はしたくはなかったんですが……」

そう言いながら少女は、傍らの台に置いてあったブラックコーヒーを手に取り砂糖も入れず口に運ぶ。

「要件を聞かなくても解るよ?医師の職を辞した君が愛しの息子を放ってでも、無理に学園都市に来た理由はね?」

「そう言っていただけると助かります……」

愛しの息子、という単語に苦笑いしながらも、学園都市に来た理由を悟られ少し心がざわめく。

「球磨川くんの事だろう?」

球磨川、という単語にピクリと肩を揺らす。

そう、この少女がここに来た理由は球磨川禊にあったのだ。

「彼は今、大暴れしてるよ、まるで水を得た魚どころか金を得た賢者だ」

「でしょうね。彼にとって“大事な人”がいる場所ですから」

冷静さを装いつつも、コーヒーカップを持つ少女の手は少し震えていた。

冥土返しも同じようにコーヒーをすする。

少し、静寂が流れる。

616: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/17(月) 00:47:13.62 ID:18H+QGgl0
「それで、君は僕に何の用があるんだい?君は患者ではないが優秀な助手だったよ?だから君の望む物は何でも用意するからね?」

その言葉に一度頭を下げ、少女は口を開く。

「ありがとうございます。先生には聞きたいことが二つ、用意して頂きたいものも二つあります」

両手にピースサインを作り、冥土返しへ向け右手の中指を曲げた。

「まず一つ。球磨川くんの現在潜伏している場所」

「それに関してはこの病院で預かっている子が知っている筈だから後で聞いておくよ?」

その言葉に頷いた後今度は左手の中指を畳む。

「次に廃墟となったあの病院から持ち出されて、こちらに保管されているという彼のカルテを見せてください」

いくら過去のカルテだと言っても、通常それを外部の人間に見せることはできない。

だが、そのカルテ自体は目の前の少女が記入したものだ。

「ふむ、あれは君が球磨川くんを見て書いたカルテだよ?遠慮せずに持っていくといいよ?」

予め予測していたのだろう。冥土返しは手元に持っていたバインダーからカルテを取り出し少女へ手渡す。

人差し指を立てた両手を下ろし、カルテ受け取った少女は一度それに目を通した後、「確かに」と呟き再び両手を上げる。

そして今度はそれを同時に畳んだ。

「最後に二つ。球磨川くんの“友人だった”彼の現住所と、私が記入した初診から、先生が記入した彼の最新のカルテまで、全て見せてください」

“球磨川の友人だった彼”という言葉に、今度は冥土返しが微かに反応する。

しかし、これも彼は予想していたのだろう。しぶしぶではあるがバインダーから分厚いカルテを取り出し、少女へ渡す。

「そこには彼の現住所も記載されているよ?いったい彼をどうしようとするのか分からないが、彼は僕の患者だ」

カルテに目を通している少女に対し、頬笑みを崩さなかった冥土返しが初めて眉間にしわを寄せる。

睨みつているようだった。

「大丈夫ですよ。“今の彼”は負(マイナス)ではないんでしょう?だから安心してください」

自信満々の表情を浮かべる少女にため息をつき、冥土返しは立ち上がった。

「それじゃ、これで要件は済んだだろう?患者が僕を待ってるんだ、悪いがこれでサヨナラだね?」

そして、病室のドアノブを掴んだところで一度振りかえり、口を開く。

「無茶はしないでくれよ?人吉瞳先生?」

そう言って、今度こそ冥土返しは病室を後にした。

619: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/17(月) 00:58:07.30 ID:18H+QGgl0
今日はここまでです。

よ、ようやく御坂編終了した……
9982号あっさりしすぎたかな?

御坂編終了で球磨川と遭遇し、ようやくめだか側から球磨川以外のキャラが登場しました。

人吉瞳(42)

一応このssではめだか世界の一年前という事になってますので、恐らく41歳です。

まぁしばらく出番ないんですけどね(笑)


めだかの原作で球磨川さんがいろいろやりすぎて設定がやばい。
とりあえず、このssではVS会計戦の球磨川さん設定で、今後おいしい設定が出ればどんどん盛っていきます。


上でサイレンの話が出ててワロタ。
御坂と遊坂って名前似てるよね……

美琴「皆を殺す理由は……特にありませんでした♪」

やべぇ!カッコいい!!

バールのようなもの、というかそのまんまバールで戦う美琴さんを想像してしまった。


それでは、次回からようやく一方通行編です。
このssでは二回しか登場していないのに二回ともやられている一方通行さんの巻き返しはここでしたいです。

明日から一週間出張なので更新が滞ると思いますが、見捨てずに待ってて下さい。

『それじゃ、また近い内に』

655: sage忘れてた ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 01:13:30.78 ID:xFy+ffV30
日が沈み、迎えた完全下校時間から数時間が経つ学園都市を、杖をつきながら歩く一人の少年。

白髪に白く透き通るような肌。

眉間にしわを寄せて、何かを睨み付けるその眼は血の様な紅。

その少年、一方通行の足は、とある研究所に向かっている。

バスや電車が終電を向かえたこの時間では徒歩以外の移動手段が彼にはない。

目的地まではそうそう遠くはないのだが、いかんせん自力での歩行が困難な彼の足では、

通常の所要時間よりも多くかかってしまう。

彼の所有する能力を使用すれば、まさに一瞬で目的地には辿り着けるのだが、

敵陣へ乗り込む前に無駄なバッテリーの消化は抑えておきたかった為、多少時間が掛かってでもこうやって自らの足で歩いているのである。

敵陣。

そう表したのは、彼が向かう研究所内に攫われた打ち止めと攫った張本人がいるからだ。

あの死んだはずの少女に受けた襲撃から、

直ぐに打ち止めの安否を確かめるべく同居人の黄泉川へ連絡をとったところ、

「まだ帰ってきていない」と言った残酷な返答が返ってきた。

それから今日まで一方通行は何の手がかりもないまま、打ち止めを捜索していたが、

突如、黄泉川の友人であり、絶対能力進化実験にも携わっていた連絡が入り、打ち止めの居場所が判明したのである。

656: sage忘れてた ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 01:14:02.27 ID:xFy+ffV30
同じく実験に関与していた人物が打ち止めを利用した計画を実行するために、芳川へ提案を持ちかけた。

当然芳川は断ったが、その時に打ち止めの現在地が判明したのである。

「天井ィ……ぶっ潰してやる……」

杖をつきながら芳川に打ち止めの居場所を知らせた人物へ怒りの言葉を吐く。

天井亜雄、芳川と同じく絶対能力進化実験の関係者で、過去にも打ち止めを攫い、

ミサカネットワークを悪用しようと働いた人物である。

その企みは一方通行によって阻止されたが、それにより彼は脳へダメージを負い、能力の使用に制限が設けられた。

冥土帰しによって、ミサカネットワークに外部演算を託すことで完全に能力を失うことはなかったが、

現在杖を使用しているように、日常生活にも影響がでている。

しかし、そんなことは苦ではない。

一方通行はそんな今の生活をそれなりに気に入っているのだ。

口うるさい同居人に、馴れ馴れしく飛びついてくる少女。

一人ではない食卓に、プライベートも無い共同生活。

初めてとも言える“普通”の生活は、彼にとって面倒でも、嫌ではなかった。

657: sage忘れてた ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 01:14:37.83 ID:xFy+ffV30
「ッハ……そンな生活なンざ、俺が過ごす権利は無いんだがなァ」

自嘲気味に言い捨てる一方通行の頭に浮かぶ同じ顔をした少女達。

一万三十一人。

一方通行が実験の為に殺害した、超電磁砲、御坂美琴のクローン体【妹達】の人数である。

間接を全て逆に向け殺した、四肢を全てもぎ取り殺した、脳を破壊して殺した。

血液を逆流させて殺した、鉄骨を降り注がせ殺した、銃弾を反射して殺した。

圧殺、刺殺、撲殺、絞殺、斬殺、轢殺、射殺、落殺。

幾千の手段で惨殺した。

幾千の手法で虐殺した。

そんな少女が毎日、一方通行へ語りかける。

なぜ殺した、なぜ残りを生かした、なぜ生きている、なぜ死ななければならなかったか。

なぜ、生まれてきたのか。

「わかってンだよ、俺も許されるつもりはねェし、オマエらも許すつもりはねェンだろ?」

一方通行は誰もいない夜道で、彼女達に語る。

いくら打ち止めを救ったとしても、生き残った妹達を助けたとしても、その代償に能力に制限がかかろうとも、

自身が犯した罪が無くならない事ぐらい、一方通行は理解していた。

658: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 01:16:07.66 ID:xFy+ffV30
「だから、初めは糞野郎の言ったとおり大人しく殺されるつもりだった」

蘇った妹達を再び殺すか、それとも殺されるか。

それはあの大嘘憑きからの提案だった。

「でもよォ、俺ァ殺されるわけにはいかねェンだよ」

自分が死ねばきっと同居人や打ち止めは悲しむだろう。

大罪を犯した自分がそう思うのは月並みな意見ではあるが、それは間違いない。

だから、死ねはしない。殺しもしない。

「そう言う面では糞野郎には感謝しなきゃいけねェなァ……」

電話越しで出された提案は二つだけ。

しかし、今の一方通行はもう一つの答えを出していた。

「打ち止めを連れ戻して、テメェをブチのめせば一件落着、大縁談ってワケだ」

今ならば。

全ての妹達が蘇ったという今ならば。

悪夢を希望に変える事ができる。

上条当麻では無く、御坂美琴でもない。

今度は一方通行が妹達を救う。

そして、一方通行は元凶であり救世主がいるであろう研究所へ到達した。

659: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 01:16:49.56 ID:xFy+ffV30
多数のモニタとそれを操作するであろう操作盤が設置された研究所内のとある一室。

そこには天井と、中央にそびえる液体の詰まった巨大なビーカーの中に浮かぶ打ち止めが居た。

天井はそのビーカーに両手を沿え、なにかブツブツとつぶやき続けているが、当然打ち止めからの返事は無い。

打ち止めを眺める天井の両目は虚ろで、呪詛を吐き出し続けるその口元からは涎が垂れて床へと落ちる。

そして、何かを呟きながらもそのままおぼつかない足取りでモニタの前に移動し、震える指で操作を始める。

「これで、終わりだ……何もかも」

一心不乱に打鍵をする天井は、その時部屋に入ってきた侵入者にすら気がつかなかった。

「天ァァァァァ井ィィィィィィくゥゥゥウン」

ぐちゃりと顔面を歪め、愉快そうに天井を呼ぶ侵入者は白い死神、一方通行だった。

「一方、通行……」

名前を呼ばれようやく顔を一方通行に向けるが、また直ぐに作業へと戻る天井。

その姿を見た一方通行は静かにチョーカーのスイッチを入れた。

「なァァァにテメェ如きが俺を無視しちゃってくれてるんですかァァァァ!!」

そのままついていた杖を振り上げ、天井に向かって投げ飛ばす。

ベクトルを操作した杖は投げ槍競技の槍どころの速度ではなく、まるで銃弾のような速度で天井へと襲い掛る。

しかし。

天井の足へ刺さるようにベクトルを操った杖は、術者の思惑通りに目標を貫くことができなかった。

660: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 01:17:36.51 ID:xFy+ffV30
杖が目標をそれて床に刺さる。

たったそれだけの事ではあるが、一方通行が操作をしたものである以上、それはありえてはいけない減少だった。

「おいおい天井くンよォ。なンか特別な機械でもこしらえたのかァ?」

杖にかかっているベクトルに違和感を感じた一歩通行。

いや、杖にかかるベクトルというよりは、それを操るための演算に対しての違和感といったほうが正しいのかもしれない。

しかし、一方通行に焦りは無い。

天井は一方通行の問いに再び顔を向け、次に自身の傍らに刺さる杖を見て、首を傾げながらも打鍵は止めない。

そしてゆっくりと口を開いた。

「実験体ごときが研究者に攻撃を仕掛けるなど……」

先ほどまでとは打って変わって冷静な口調に戻る天井だったが、

その見開いた両目と、口元から垂れている涎。

そして傾けた顔面だけをこちらに向け中腰でタイピングを続ける姿は異様だった。

「ッハ!やァっとお喋りする気になったかよ!だがそれも直ぐに終わりだけどなァ!!」

一方通行はダンっと一度地面を踏みつける。

その瞬間に地面はひび割れ、無数の破片が宙へ浮かびそれらを右手で掴みとる。

「ピッチャー振りかぶってェ……投・げ・ま・し・たァ!!」

もはや避け切ることが不可能な速度と密度で、破片が放たれる。

661: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 01:18:27.72 ID:xFy+ffV30
「分身魔球ってなァ!!っま威力はショットガンと同じ……ッ!?」

両手を横に広げ、口元を大きく歪めた一方通行だったが、目の前の光景に言葉を奪われた。

“破片が”

“破片の銃弾が全てでたらめな方向へ飛んでいった”

その内の一つは天井の脹脛辺りを貫いたが、当の本人は痛みを感じるそぶりさえ見せず、平然と作業を続けている。

そして、急にタイプしている指が止まると、ゆらりとこちらに体を向けて天井は歩み寄ってきた。

「失敗してしまったな、一方通行。俺と同じように」

足からの出血は多く、まともに歩行できるはずはないが、天井はその足を引きずりながらもゆっくりと一方通行に近寄る。

「あぁ、この足のことは気にしなくていい。ちょっと薬で痛覚をなくしているだけだからな」

天井はそんな事を言うが、一方通行が聞きたいことはそんな事ではない。

「なンで、ベクトル操作が“狂う”ンだよ!?」

先ほど感じていた違和感が、今このタイミングで確信へと変わった。

“ベクトルの操作が狂う”

一方通行のベクトル操作だけではなく能力とは演算を用いて使用するものである。

それは白井黒子のテレポートや、御坂美琴の電撃も同じ事で、その処理能力の高さが能力の優劣を決めるのだ。

もちろん演算だけでなく【自分だけの現実】等も関わってくるのだが、

能力操作に関しては演算が全ての割合を占めているといっても過言ではない。

662: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 01:19:56.15 ID:xFy+ffV30
天井へと放った破片の雨は、一方通行により操られていたが、被弾の直前にコントロールができなくなり、

結果、でたらめな軌道を描いたのである。

「何故だろうなぁ……私の周りではいつも失敗ばかりだ」

そんなことは答えになっていないが、天井は語るのを止めない。

「学生の頃からそうだったよ。俺の周りでは何かと失敗続きで思い通りに事が運ばない」

「不本意ながら疫病神とも呼ばれた。しかしそれでも俺は努力を止めなかった」

「そして、手に入れた量産能力者計画や絶対進化能力計画への参加権。そして最終信号を使用した復讐」

「だが、それもご存知のとおり中止……失敗に終わったよ」

「その後、残ったのは膨大な借金と絶望だけ……自殺も考えた」

「しかし、“あの少年”に教わってね。どうやら失敗続きなのは自身の能力によるものだった、とね」

その言葉に一方通行が反応する。

「能力だァ?学生でもないテメェに能力なンざ……」

「“負能力”と言ってね。君みたいな能力とは少し違うのさ」

能力開発を受けていない天井に能力など持ち合わせているはずも無いと思った一方通行の言葉は天井に遮られる。

「何も役に立たない負の遺産だよ。ただ自覚したことによってある程度コントロールができる様になったがね」

「さて、君達能力者は戦いの前に格好良く能力名とレベルを宣言するみたいだ」

「ここはそれに則って、私も高らかに名乗らせていただくかな……そんな歳ではないんだが……」

そう言って羽織っていた白衣の懐から、拳銃を取り出し一方通行へと向ける。

「天井亜雄。-レベル3の負能力者。能力名は【破綻理論(サイコロジカル)】だ」

663: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 01:29:33.70 ID:xFy+ffV30
天井さんがこんな歳になって中二病を発症したところで、今日はここまでです。

それじゃ、ちょこっと気分転換に球磨川さんが色々台無しにする所を考えてみました。



上条「これで、インデックスの首輪が無くなった……」

球磨川『It's All Fiction!!』

木山「この音楽、プログラムが崩壊する……」

球磨川『It's All Fiction!!』

美琴「これで、潰す研究所は最後……」

球磨川『It's All Fiction!!』

一方通行「あのガキが死んでいい理由にはならねェだろうがァ!!」

球磨川『It's All Fiction!!』


うん!最悪だな!



『それじゃ、また今度とか』

680: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 21:32:54.03 ID:xFy+ffV30
「ご丁寧にどゥもありがとう天井くゥン!!」

天井の宣言の後に、対峙する一方通行も叫ぶ。

「学園都市レベル5の第一位!俺が一方通行だァ!!」

それと同時に足元のベクトルを操作し、超加速で歩み寄る天井の眼前へと移動した一方通行は、天井の拳銃を持つ右手首を掴む。

そのまま能力を使用した握力で手首を握りつぶそうと力を込めるが、

やはり天井へと伝わる力は一方通行の生身の力だけで、逆に腕を振り回されて体制を崩してしまう。

「おやおや無様だな第一位。お前は私とダンスでも踊りたいのかな?生憎だがフォークダンスの踊り方など忘れてしまっていてね」

方膝を床につきながらも、いまだ手首を掴み続ける一方通行に、左手に持ち替えた拳銃の銃口を向け、そのまま引き金を引く。

乾いた炸裂音と共に弾丸が発射されたが、紙一重、一方通行の右頬を掠め、通り過ぎ床へとめり込んだ。

外してしまった事に疑問を覚え首を傾げる天井に対し、急いで右手を離し距離を開ける一方通行にはもはや余裕はない。

握りつぶす際にベクトルの操作が上手くできなかったことだけではなく、

弾丸が頬を掠ったという事実が学園都市最高の頭脳をさえ混乱させる。

能力使用状態での一方通行には、生命活動に最低限必要なもの以外は反射されるように薄い膜を張っている。

反射膜。

一方通行が最強である要因の一つに挙げられる要素だ。

その膜に触れたものは雷であろうと、銃弾であろうと、核爆弾であろうと、放射能であろうと。

解析ができる性質なら例外なく反射されるのである。

しかし、現状では反射対象に含まれているはずの銃弾が彼の体を傷つけた。

これは銃弾が特殊なわけではなく、ただ単に反射膜を形成する為の演算ができなかっただけ。

だがそれだけで、一方通行はただの一般人以下の人間に成り下がってしまうのだ。

681: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 21:34:50.32 ID:xFy+ffV30
「そンな至近距離で外してンじゃねぇよ!!」

虚勢のように聞こえるが、一方通行にはまだ余裕があった。

(ある程度能力の効果は当てがついた……効果対象は俺だけじゃなく天井のヤロウも含まれてンなァ)

混乱はしているものの、ここまでにいたる数回の攻防で、

一方通行は天井の負能力【破綻理論】の効果をある程度だが解析が終了し、一つの仮説を組み立てていた。

その仮説はこのようなものだ。

例えば、一方通行はサイコロの六の目を必ず出せるとしよう。

そこに天井の負能力が加われば、六以外の目もでてしまう。

だがそれは完全に六の目が出せなくなるという訳ではなく、ただ0だった“別の目の出る可能性”が上がっているだけである。

当然、天井がサイコロの目を自由に決めているわけではなく、偶然そうなってしまうのだ。

そして、二つの事例。

一方通行は必ず成功する筈のベクトル操作の演算に“失敗した”。

天井は外す筈のない距離での銃撃を“外した”。

その二つの事実から、破綻理論の効果に術者も入っていることがわかる。

そして、その仮説はまさに的中していたのだ。

「その表情……もう解析が終わったのか?」

不適な笑みを浮かべる一方通行に天井は自身の能力効果が解析されたことを理解する。

「まったく、あのクソ忌々しい三下みてェな能力かと思ったが、どォやら違うみてェだな」

歪んだ笑みを消し、今度は眉間にしわを寄せ吐き捨てるように一方通行は言った。

「テメェの破綻理論っつゥ、くだらねェ能力は“現象の不安定化”だろォ?」

683: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 21:55:53.41 ID:xFy+ffV30
「全く、素晴らしいよ。君が学生じゃなく研究者だったらきっと友人になれただろうに」

拳銃を構えたまま目を伏せ、やれやれといった感じで首を横に振る。

その姿からは、能力が解析されて焦っているといった様子は伺えない。

「テメェとお友達になるくれェなら、女装して学園都市中を歩き回ったほうがマシだ」

天井の言葉に一層、睨み付ける眼光が鋭くなる。

「そう睨み付けるなよ……そうだな、演算への干渉に関しては、一+一が三になる様な感覚だろう?」

「そうだなァ、演算式に余計な情報が入ってくるみてェだよ」

「研究の失敗する一番の理由は、その余計な情報だ」

公式通りに計算を行っても答えが合わないという表現ならば伝わりやすいだろうか。

特に一方通行の能力のように複雑な演算であればあるほど、ほんの小さな不安要素が全てを崩壊させてしまう。

「だがよォ……床の破片が一つ命中したり、弾丸が完全に外れず頬を掠めたってこたァ、全くの無効化って訳じゃァねェんだろう!?」

そう。完全に無効化されるわけではないのだ。

「それに、テメェも効果の対象内みたいだしなァ……ワリィが物量で攻めさせて貰うぜ」

「そうだ、当然私も効果の対象……じゃなきゃここまで失敗続きになるわけがないだろう?」

自嘲する天井に「そうかァ」と呟く一方通行にこれ以上会話を続けるつもりはなかった。

そして再び床の破片を作成するために右足を挙げた瞬間、銃声が鳴り響いた。

一方通行は何も分からなかった。

天井の放った弾丸は一方通行の腹部目掛けて、襲い掛かる。

「ッ……」

不安定ながら反射膜の作成が成功しており、銃弾は一方通行を貫くことなく天井の足元へと反射される。

おかしい。一方通行の脳内で先ほどの証明にヒビが入った。

685: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/19(水) 22:24:13.72 ID:xFy+ffV30
天井自身も認めた通り、破綻論理の効果対象には使用者も含めている筈だった。

しかし、現状はどうだ?

その天井から放たれた銃弾は反射膜がなければ確実に着弾していた。

完全に矛盾している。

(たまたま今回は六の目が出ただけだろォ?)

そんな儚い希望も再び放たれたすう初の銃声によってかき消される。

頭部に一発、腹部に二発。

反射膜に触れた弾丸の数だ。

(確実に着弾してやがる……!!能力を解除しやがったか?)

そして再び一発の弾丸が放たれた瞬間、大気のベクトルを操作し突風を天井に向け作り出した。

が、対象に着弾したのは弾丸のみで、作り出したはずの風はそよ風程度の威力しかなく、天井の髪を揺らすだけだった。

「ッガァァア!!」

銃弾は一方通行の脇腹を掠めるだけで済んだが、その裂傷は深く赤い血がジワリと彼のTシャツを濡らす。

大気のベクトル操作と、同時に反射膜の作成など破綻理論の前ではできるわけもなかった。

痛みで脇腹を押さえながら膝を床につく一方通行に天井は近付き、革靴のつま先でその顔面を蹴り付ける。

「ック……!!」

吹き飛ばされ、地面に横たわる一方通行は血流操作で応急処置を試みるが、上手くいかない。

そして、無表情を貫いていた天井の表情が一変した。

「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」

裂けるのではないかと思うほど大きく、醜く口を開いた天井は笑い始めた。

「ァアクゥセェェラレェェエェェェェタァァァァァ!」

げらげらげらげら。

一方通行の名前を絶叫し、再び笑い出す。

そしてピタリと笑い声が止まると溢れ出したのは呪詛の言葉。

「失敗失敗失敗失敗実験失敗借金借金破綻破綻破綻最終信号最終信号最終信号一方通行一方通行一方通行
殺す殺す殺すコロスコロすころすここころころころすすころろろす死死死死シシしシ詩シ死氏しsss
 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげら
       げらげらげらげら          げらげらげらげら
     げらげらげらげらげら
                     げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」

もはや、天井亜雄は人格さえも破綻していた。

718: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/20(木) 22:59:09.58 ID:KEe7M3CO0
「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」

狂気の咆哮を響かせながら、一方通行の反射膜は形成されていない無防備な体へ向け引き金を引く。

しかし、今度の銃弾は大きく右に逸れてしまい、致命傷を与えるまでにはいかなかった。

その隙を利用し、一方通行は脇腹を押さえつつも立ち上がり、走って天井との距離を開ける。

背中に壁を背負う形だ。

(追い詰められましたァってかァ?だが距離をある程度あけてりゃァ演算は可能みてェだな)

そして、血流操作で止血をした後、生態電気の信号をも操り傷を癒そうとするが、目の前の狂った科学者はそれを許さない。

「死死しシssァクセェラァレエェェタァァァア!!」

げらげらと壊れたように笑いながら再び拳銃を向けて、発射する。

銃弾は一方通行の体を打ち抜かんとして頭部へと向かうが、演算が可能になった今、銃弾は天井の頭部へ向け反射される。

だが、それさえも天井に掠ることすらできない。

「おもしれェじゃねェかよォォォ!かかかかけけきくくくけけけここここ!!」

「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」

双方からの狂った笑い声が部屋に木霊する。

一方通行が背面の壁を右手で思い切り叩くと轟音を鳴らしながら壁が崩れ去り、

鉄骨がむき出しになった破片が幾つかが彼の足元へ転がり落ちた。

そしてそれを両手一杯に抱えると、自らの上空へ放り投げる。

そのままベクトル操作で天井の頭上まで移動させ、一気に落下させつつも、先ほど失敗した突風も作成しぶつける。

「こォォォンな愉快な攻撃はァ、どォォするンですかァ!?」

頭上には凶器となった壁の破片、眼前には迫り来る突風。そして、一方通行が足踏みをし発生させた地割れ。

三方からの攻撃は通常なら避けきれる筈が、ない。

しかい、それでも天井は、その場を動かず立ち尽くしているだけだった。

719: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/20(木) 23:15:59.70 ID:KEe7M3CO0
突風が、破片が、地割れが、天井の立っていた場所を蹂躙する。

降り注いだ破片の粉塵で、天井の姿は確認できないが普通なら命中は必須だ。

通常の人間で普通の状態なら。

僅かに粉塵が晴れる。

徐々に浮かび上がる姿は、今だ大きく口を歪めながらげらげらと笑ったままだった。

そう、彼はもはや通常の人間ではなく負の人間であり、破綻した状態である。

結果、完全に目視できる状態になった天井の姿は無傷ではなく、悲惨なものだった。

一方通行の操作通りに攻撃が命中していれば、粉塵が晴れた先にあるのはただの肉塊にならなければいけない。

すなわち、天井が立っているということはまたしても攻撃は失敗に終わったということ。

しかし、笑い続ける天井の姿は、一方通行の攻撃が、全て失敗にならなかったことを表していた。

頭部からは血を垂れ流し。

背負う白衣も紅く染まり。

左手の親指を除く指はグシャグシャに変形し。

右足は先ほど打ち抜かれた出血だけでなく、膝の間接が逆に曲がっている。

だが、そんな姿になりながらも。

「げらげらげらげらげらげらげら!!殺す殺すころすころこすココロロスss」

天井亜雄は狂ったままだった。

720: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/20(木) 23:31:29.08 ID:KEe7M3CO0
「大人しく死ンでた方が楽だぜェ。あァ今のテメェには痛覚が無ィのか」

そんなボロボロの天井の姿を確認して、一方通行は己の勝利を確信した。

このまま物量で攻めきれば勝てる。

「だったらァ何度でもぶち込んでやらァァァアア!!」

足元に転がる破片を蹴り付け、再び天井へ弾幕を放射する。

やはりその大半は目標から大きく逸れていくだけだが、何個かは天井の体へと突き刺さった。

「死なない俺は死なない死なない死なないシナナイシネナイ……」

流石に出血量が多かったのか、笑い声が止み、初めて天井は自身の体を気遣うように刺さった破片を取り除いていく、

その内の腹部へ刺さった破片を天井が引き抜いた瞬間、突如けたたましい警報が部屋に鳴り響く。

「なんだァ?」

追撃をするつもりだった一方通行も、その警報に動きが止まる。

そして、警報が止まったと思えば今度は機械的な女性の声のアナウンスが流れ出した。

――最終信号へコード三七五六四のインストール完了。三百秒後にプログラムが実行されます。繰り返します……

そう伝えるアナウンスの言葉の意味を、再び笑みを浮かべた天井の表情を見た一方通行は即座に理解する。

目の前のマッドサイエンティストは、あの時の様に打ち止めを利用した何かを仕組んだのだと。

721: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/20(木) 23:54:43.20 ID:KEe7M3CO0
「げら……げらげらげらげら!!終わる殺せる壊せれる!!」

今だ鳴り続ける無機質なアナウンスとは対照的に、歓喜の叫び声を上げる天井。

そして、一方通行は激昂する。

「テメェ……クソガキに何しやがったァ!?」

「お、おなじだ。あの時と……」

はたから聞いていれば天井の言葉の意味など理解ができない。

だが、一方通行には瞬時にその意味が解った。

「ウイルスか……!!」

ウイルス。

それは過去にも天井が打ち止めを上位固体とした、ミサカネットワークに繋がる妹達の全固体に強制的に命令信号を送らせる代物。

そして、一方通行が自身の能力と引き換えに食い止めたものだった。

「こ、今度は……あ、あの少年によって蘇った00001号から10031号を含めた全固体を対象にしている……」

「勿論、全固体というのは最終信号も入っているよ。げらげらげらげらげら」

アナウンスに自我を取り戻したのか、会話ができるところまで天井は戻ってきていた。

「ンだとォ!アイツは俺に実験をするよう言ってただろうがァ!!」

すがるように一方通行が叫ぶが、天井はそれを一蹴する。

「げらげら……貴様は自分に自分に害をなす敵の言葉を信じ続けるのか?……げらげらげらげら」

「それに……あの少年の能力名を知らないのか?げらげらげら」

そう言って狂った笑いではなく本当に愉快そうに天井は嘲笑する。

「球磨川禊……本当に傑作だ……いや、戯言かな?彼は能力だけじゃなく性格さえも“大嘘憑き”なのだから」

その言葉の後に部屋に残っていたのは、げらげらと笑い続ける天井の声だけだった。

723: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/21(金) 00:07:26.57 ID:8L3AXVsw0
「げらげらげら……さぁて一方通行よ。死んで貰おうか」

ずるずると体を引きずり、血の線を床に描きながら天井は一方通行へと近寄る。

しかし、一方通行は動かない。

混乱しているわけではない。

恐怖しているわけでもない。

ただひたすらにこの状況を打破する方法を考えていた。

(天井のヤロォを瞬殺すれば、まだコードの解除はできる……)

(クソッタレがァ……あの能力の前じゃァ時間がかかり過ぎンぞ)

既にアナウンスが刻んでいるタイムリミットは百五十秒を過ぎている。

思案する一方通行に対し、天井は再び呪いの言葉を呟きつつゆっくりと近づいてくる。

だが、一方通行にはその言葉は届かない。

(能力を解除したわけでもないのに、天井の攻撃は成功し、俺の演算は失敗……)

(つまり、何かしらの方法を使えば俺の攻撃も奴に届く)

必死に思考を回転させて糸口を掴もうとするが、その答えは見つからない。

「失敗、成功、失敗、成功、失敗、成功……」

ぶつぶつと呪文のように呟き続ける一方通行。

反射膜の形成が乱れて気がくころには、天井の能力の効果範囲へと入っていた。

「げらげらげら。一方通行、こんな俺でも成功する時が来たようだぞ。まさに失敗は成功の母であるとはこの事だな」

銃口を向け、天井の放った言葉で一方通行は遂に天井攻略の尻尾を捕まえた。

724: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/21(金) 00:18:59.21 ID:8L3AXVsw0
「そォか!」

足元のベクトルを祈りながら操作した一方通行は、なんとか天井の能力対象距離から外れることができた。

この時、ベクトル操作が失敗していたら、勝負は天井に軍牌が上がっていただろう。

だが、千分の一、万分の一の確立で“成功”した一方通行はこの瞬間勝利を確信した。

――プログラム実行まで残り百秒……

もはや解説をしている場合ではない。

一方通行は急いで床を砕き弾丸を作成し、右手に握ると、天井の右足を貫いたときと同じように大きく振りかぶった。

そして、思い切り破片を天井に“当たらないように”投げ飛ばした。

「げらげらげらげら!どうしたぁアクセラレー……ッタ!!」

明らかに当たらない筈の起動を描いた破片の弾丸は、何故か天井の眉間を打ち抜いた。

不気味な笑顔のまま崩れ落ちる天井。

即死、だった。

勝利の余韻に浸ることなくすぐさまモニタに向かって、コードの解除を開始する一方通行。

そして、直ぐにプログラム解除のアナウンスが流れ出した。

「結局、まァた失敗しちまったみてェだな」

事切れた天井を見下しながら、一方通行は吐き捨て、打ち止めの入っているビーカーの前に歩いていった。

725: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/21(金) 00:31:45.27 ID:8L3AXVsw0
「よォ……クソガキ」

目を瞑り、蹲りながらビーカーの中に浮かぶ少女に一方通行は話しかける。

プログラムが解除された今、少女の意識はその言葉によって少しずつ覚醒した。

酸素マスクを外しゴポリと笑う少女の口から大きな泡が漏れ、自分が今呼吸ができないことに気がつき慌てふためく。

「なァにやってンだよ……」

慌てて酸素マスクを口にはめた後、再び笑顔を浮かべる少女の行動に少し呆れつつ頭を掻く。

そして一生懸命口を動かして何かを伝えようとする少女。

「アァン?「早くここから出してーってミサカはミサカは懇願してみる」だァ?」

一方通行の言葉に自らの意思が伝わった事が解り、一層笑みを深くする少女に対し、彼はある悪戯を思いついた。

「だが断る」

「~~~ッ!!」

同居人の黄泉川が収集している漫画の中の台詞を模倣してみる一方通行にビーカーの中の少女は怒りを露にし、激しく口を動かす。

「……「そんなこと言うと演算機能を切っちゃうよってミサカはミサカは脅してみたり」……」

今そんなことをされたら洒落にならない。

一方通行は小さな交渉人の要求を大人しく聞き入れ、ビーカーの端末を操作し中の液体を排泄させた。

726: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/21(金) 00:49:08.69 ID:8L3AXVsw0
「やっとあなたに言葉が伝わるねってミサカはミサカは大喜び!!」

液体が全て無くなったとたん、狭いビーカーの中で飛び跳ねながら喜ぶ少女こと打ち止め。

「うっせェ!少しは静かにしやがれェ!!」

「照れちゃって可愛いなぁ~ってミサカはミサカは小悪魔の笑み!!」

「そンなくだらねェ事どこで覚えやがった!」

「え?芳川の持ってた雑誌だよ?ってミサカはミサカは首を傾げてみる」

「芳川ァ……帰ったら血流操作かコンテナ降り注がれるか好きな方を選ばしてやンよォ……」

「そんな恐ろしいこといわないで、さっさとこのビーカーを開けて!ってミサカはミサカは密閉空間に嫌気がさしてたり!!」

「わァったよ、ちょっと待ってろォ……ってンン?」

これ以上の寸劇は不毛だと思った一方通行が、ビーカーの開閉を操作しようとするが、なにやら鍵穴があるのを発見して小さく唸る。

打ち止めはそんな姿を見てアホ毛を揺らしながら首を傾げていた。

「あァ……こりゃまた原始的だなァ。でもまァこの学園都市じゃ逆に安心ってかァ?」

そして、物言わぬ天井へ歩み寄ると彼の白衣をまさぐり鍵を探す。

「あなたは何をしてるのってミサカはミサカはあなたの性癖を疑ったり……」

「露骨に引くなァ!!鍵を探してンだよ……あったあった」

思いのほか簡単に見つかった鍵を掌の上で転がせつつ打ち止めの入っているビーカーへと引き返す。

そして鍵穴に鍵をさした、その瞬間。再びアナウンスが流れ出した。

――最終信号へのプログラム解除及び天井亜雄の生体反応が停止後六十秒の経過を確認……

そのアナウンスは、天井が用意した自爆プログラムの起動を知らすもの。

――守秘の為、この研究室の爆破を開始します。開始まで残り百五十秒です。研究室内の研究員は直ちに避難してください……

爆破という単語に慌てて鍵を回す一方通行だったが、鍵はロックされ回らなかった。

絶望のカウントダウンが始まる。

745: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/21(金) 21:56:39.11 ID:Q5qjddTB0
「それなら、ビーカーをぶっ壊す!クソガキィ!!伏せてろォ」

ビーカー自体を破壊しようと、思い切り自らの拳で殴りつける一方通行だったが、

ビーカーから返ってくるのは衝撃だけで、壊すことは適わなかった。

「ちィ!何ですかァこの物質はァ!?」

一方通行が破壊できない物質などは、この世には存在しない性質を持つものだけである。

すなわち、この物質は地球上の成分で形成されていないということになる。

実はこのビーカーは学園都市レベル5の第二位の能力者である、

垣根提督の“未元物質”によって作り出された物で、文字通り地球上に存在しない物質なのだ。

未元物質によって作り出されたこのビーカーは性質だけでなく強度面でも鉄壁を誇っているため、能力を利用した攻撃でも破壊はできない。

しかし、だからといってこの部屋の爆発に耐え切れるかの保障はないため、一刻も早く何とかしなければいけなかった。

実際には物質の解析をすればベクトル操作を行えるのだが、今の一方通行と打ち止めにはそんな猶予はなく、

それに感づいた一方通行はビーカーの破壊を諦め、再び警告マークを表示しているモニタの前へ移動する。

「ちょっとまってろクソガキ……」

ビーカーが破壊できないのであれば、爆弾を無力化すればいい。

この部屋のみが爆破対象ならば、恐らく爆弾は室内のどこかに隠されているはずだと推測し、モニタによって爆弾の位置を検索する。

が、どれだけ検索しても爆弾の位置を示す表示はない。

そればかりか、代わりに現れた爆弾の種類が事態をより悪化させることになった。

モニタに映し出された爆弾はN-40小型爆弾というもので、学園都市の科学力を集めたその爆弾は

ライター程の大きさでありながら、小規模のエリアのみ原子爆弾に匹敵するほどの破壊力をもたらすというものだった。

――爆破まで残り百秒……

747: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/21(金) 22:08:49.49 ID:Q5qjddTB0
「くそったれがァ!!」

一方通行は思い切り操作盤に両手叩き付け、急いで部屋中の探索を開始する。

床をめくり、壁を剥ぎ、天井を破壊して、機材を全てひっくり返す。

だが、一向に爆弾は姿を現さない。

――残り六十秒……

カウントダウンだけが、無常に刻まれていく。

――残り五十秒……

「ねぇ……」

打ち止めが、口を開いた。

――残り四十秒……

「このビーカーなら大丈夫だよってミサカはミサカは提案してみる……」

「アァン?なに言ってンだクソガキィ」

意味が理解できないといった様子の一方通行だったが、打ち止めの言葉の真意はしっかりと一方通行へと届いていた。

“自分を置いて非難しろ”という意味だろう。

事実、打ち止めの浮かべている笑顔はどう見ても無理やり作っているものだった。

――残り三十秒……

しかし、一方通行は爆弾を探すのを止めない。

「ねぇ!聞いてるのってミサカはミサカは憤慨してみたり!」

そんな一方通行の姿に、打ち止めは眼に涙を溜めながら怒鳴りつける。

だが、一方通行はその言葉を無視して探索をし続ける。

748: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/21(金) 22:22:28.92 ID:Q5qjddTB0
――残り二十秒……

「おねがい、だからぁ……って……ミサカは……ミサカはぁ…………」

とうとう泣き出してしまう打ち止め。

そしてようやく一方通行が口を開いた。

「うるせェぞ!クソガキ!!俺はテメェを守るって決めたんだ!だからテメェが俺の決めた事に口出しすンじゃねェ」

「いつもみてェに眼ェ光らせながら俺様の活躍を期待して待ってやがれ!!俺は第一位の一方通行だァ!!」

打ち止めは、そんな一方通行の叫びを聞き「うん!」と涙で塗れたまま、笑顔を見せた。

――残り十秒……

ガチリ、と微かに爆弾が起動体制に入る音がした。

それは、横たわる天井の体から発せられた音だということを、一方通行は聞き逃さなかった。

――残り五秒

全力で、天井の死体まで駆け寄る。

――残り四秒

一方通行はその体を担ぐと、懇親の力と能力を使って壁際まで吹き飛ばす。

――残り三秒

すぐさま打ち止めのビーカーの前まで移動する。

――残り二秒

「最後の最後まで失敗尽くしだなァ……」

そういって両手を天井の死体へと伸ばす。

――残り一秒

打ち止めが何かを叫んでいるが、一方通行にはもう何も聞こえない。

爆風からこの少女を守ることだけを考えていた。

――残り〇秒

世界が、白く染まる。

750: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/21(金) 22:34:48.51 ID:Q5qjddTB0
「…………」

恐る恐る打ち止めは眼を開く。

爆発音は聞こえた、何かが崩れ落ちる音も聞こえた。

しかし、何の衝撃も伝わって来なかった。

「よォクソガキ……無事かァ?」

間の前には、自分を守ってくれた白い白髪の少年が居るだけで、他には何もない。

モニタも、操作版も、事件機具も、天井も、そして天井の死体さえも、何もなかった。

だが、打ち止めに必要な人物だけが生きているだけで十分だった。

「無事だよ!ってミサカはミサカは敬礼してみたり!!」

ビシッという効果音が似合うほどの敬礼を向けた打ち止めの姿に安心した一方通行は、ビーカーを破壊するための解析を開始する。

「ン……やっぱヤメだァ」

そんなことを言って、急に解析を中断する一方通行。

打ち止めはそんな彼の挙動に苛立ちを覚え、駄々をこねる。

「えー早く出してよーぶーぶーってミサカはミサカは頬を膨らましてみる!!」

「あー!うっせェ!!よく聞けェ……俺ァまだやる事が残ってンだ!だから一人で帰すよりも、中入ってた方が安全なンだよ!!」

「やる、こと……?」

もう少し喚かれると覚悟していた一方通行だったが、「やる事がのこっている」という言葉に打ち止めは大人しくなった。

いや、怯えていると表現したほうが正しいのかもしれない。

751: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/21(金) 22:53:10.85 ID:Q5qjddTB0
「それってあの男の人のこと……ってミサカはミサカは尋ねてみる」

まさに“あの男”、という打ち止めが指している人物を叩きのめす事が、一方通行の“やる事”だった。

球磨川禊を打倒すること。

「そうだァ……あのふざけた三下以下の糞野郎にはちィーっとお灸を据えなきゃなンねェからなァ」

どうやって始末してやろう、と思案している一方通行に投げかけられた言葉は同調するものではなく、否定のそれだった。

「やめてってミサカはミサカはあの男の人に関わって欲しくないって心配してみる」

「ハァ?ここまでやられたんだぞ。お礼参りは必要だァ……何より俺の怒りが収まらねェ」

今度こそ本当に理解できないといった表情を浮かべる一方通行。

なぜこの少女はこんなに心配しているのか?今しがた爆弾から守ってやったのを忘れたのか?

そんな考えが一方通行の頭の中を支配する。

「あの男の人は、何ていうか……関わっただけで駄目になりそうだから……」

球磨川の姿を思い出し、プルプルと小刻みに震える打ち止め。

「あなたが居なくなるのは嫌だからってミサカはミサカはあなたの身を案じてみる」

これほどまでに球磨川との接触を拒もうとする打ち止めの姿に、一方通行は少しだけ躊躇するが、

それを上回るほどの復讐の炎が彼の足を出口へと向かわせた。

「ッハ!何回言わせンだ。俺はレベル5第一位の一方通行様だぞォ。心配するのは黄泉川ン家に戻った時の祝勝会の手配だけにしとけェ」

そう言って、一方通行は打ち止めの前から去っていった。

「……うん」

力なく頷いた打ち止めだったが、この数分後に、一方通行は球磨川禊に蹂躙される事になる。

873: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/27(木) 22:48:36.18 ID:3h3lUlxi0
「本日も快晴ですよーっと」

右手に学生鞄を持ったまま、空に向け両手を伸ばしながら上条当麻は歩いていた。

本日は平日。学生である彼が向かう先は当然、自らが通う高校ということになる。

ここ一週間は実に平和な日々を送っていた上条だったが、そんな平穏な生活の中には少なからず違和感を感じていた。

その要因としては、ビリビリ中学生もとい御坂美琴に一度も遭遇しなかった事と、彼の学友が数人連続して学校を休んでいるという事があった。

上条の通う高校は偏差値やレベルが高い生徒が多くないとはいえ、

そこに通う人間たちは学校が大好きなので長期に渡って学校を休む、なんてことはあり得ないと言っていい。

インフルエンザや、上条のように怪我をして入院、というなら分からないでもないが、

担任の月詠小萌に尋ねてみたら「連絡がないのですー」という寂しい表情で寂しい返事が返ってきたため、その線は消える。

生徒に絶対的な信頼を置かれている小萌に連絡がない。これははっきり言って非常事態だった。

当然のごとく上条から欠席者達へ電話をしてみたところで繋がる訳もなく、

それならばと思い欠席者の一人で隣人でもある土御門元春の自室を訪ねてみても不在だった為、事の真相は分からずじまいだ。

だからと言って上条も学校を休んでいい訳でもないので、こうして級友が休んで若干面白みの欠ける高校へと登校を続けている。

だいたいこれ以上の欠席をしてしまったら冗談抜きで留年が確定してしまう。

土御門の抱える事情を少なからず知っている上条はきっと今も世界中を飛び回っているのではないだろうかと推測するが、

他の生徒の欠席する理由が解らない。

何か事件に巻き込まれたのではないかと思い、意図的に路地裏などを通ってみてもスキルアウトに絡まれるだけで情報は手に入らない。

御坂についても同じことが言える。

確かに今までも連絡を取り合って会っていた訳ではないが、一週間も遭遇しないとなぜか先程の件と無関係ではないように感じてしまう。

またなにぞろ事件に首を突っ込んでいるのではないか、それとも妹達になにかあったのではないか。

そんな考えが浮かんでは消えていく。

こんな時に限って御坂妹をはじめとする妹達の一人にすら会う事が出来ない。

彼女たちが居る病院へ顔を出したところ、

上条の担当医でもある冥土帰しに「調整中だから」や「外出中だよ」とはぐらかされてしまい、面会は叶わずじまい。

上条はそんな冥土帰しの様子にも不信感を覚えたが、普段から御世話になっているため食い下がることはできなかった。

875: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/27(木) 22:57:58.74 ID:3h3lUlxi0
「あー、こんな晴天なのに上条さんの心は曇り模様ですよ」

そんな訳で、上条当麻は絶賛モヤモヤ中だった。

せっかく前回蓄えた食糧も健在で、居候の機嫌も良く噛みつかれることが少なくなってるというのに、その事が彼の足取りを重くしてしまう。

(というか姫神は小萌先生の家に居るんじゃないのか?)

欠席中の友人の一人を思い浮かべる上条だったが、小萌先生が知らないというのであれば知らないのだろう。

そこに何かしらの事情があったとしても、それを詮索するのは無粋というものだ。

(アイツは……まぁ死んではないだろうけど、一番学校を休む奴じゃないよな……)

思い浮かべるアイツは心配はいらないだろうが、それにしても小萌先生ラブのアイツが無断欠席というのは最早天変地異の前触れとしか思えない。

そして、色々と考えている内に学校に到着していたが、見えてきた、見慣れた校舎の様子がおかしい事に気がつき、

走って敷地内へ入ろうとし校舎全体が目に入ったところで、上条の足が止まる。

校舎が崩壊していた。

窓が割れ、壁が崩れ、鉄骨がむき出しになっている校舎は、まるで地震に見舞われたかのような有様だった。

「っく!!」

一瞬目の前の状況が理解できず固まってしまった上条だったが、クラスメイトの身を案じて全速力で校舎内へと走っていく。

上履きなどに履き替える暇もない。階段を一段一段昇る余裕もない。

そして息を切らしつつも自らの所属するクラスの教室に辿り着いた上条は恐る恐る扉を開ける。

教室内に居たのはただ一人。

数いる欠席者の内の一人で、上条の隣人。土御門元春が、背中に裂傷を負い倒れ伏せていた。

876: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/27(木) 23:15:09.76 ID:3h3lUlxi0
「土御門!!」

上条はそう叫び、土御門の元へ駆け寄る。

彼が所有する能力、肉体再生のおかげで出血は止まっているものの、痛みのせいなのか気を失っていて。

「くそ!待ってろ今病院に連れてってやるから……」

そう言って救急車の手配をするために携帯電話を取りだし、ボタンを押そうとした瞬間、何かが上条の前を通り過ぎた。

「え……?」

目の前の光景に思わず声が漏れる。

上条が今の今まで手に持っていた携帯電話が、宙に浮いているのである。

そして、何かが通った筈なのだが、その物体を確認することが出来ない。

「能力者か!」

能力者による攻撃。そう解釈した上条は拳を握りしめ臨戦態勢をとる。

(念動力の能力者か……)

何もない空間に自分の携帯電話が浮いている現状から、

携帯を奪った犯人の能力は念動力(サイコキネシス)の能力を保持していると推測し、

能力者を探すが、死角の無い教室内に、それらしき影は見当たらなかった。

「違う。能力者じゃない」

辺りを見渡す上条に、突然投げかけられる女の声。

この独特な区切りで話す女性など、上条の知るところ一人しかいなかった。

「姫神……?」

彼女の名前を呼ぶ。

すると、宙に浮いた携帯電話の真後ろにノイズのようなものが走り、徐々に人の形を浮かび上がらせていく。

「よかった。私のこと忘れてない」

そう呟いて現れた少女の右手には携帯電話が握られていた。

少女の名前は姫神秋沙。長期欠席者の内の一人である。

878: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/27(木) 23:33:19.67 ID:3h3lUlxi0
「……冗談はやめようぜ」

驚かせるなよ、と言いたげな上条の表情はどこか安心しているように見えた。いや、実際安心しているのだろう。

犯人が見知らぬ能力者でも、魔術師でもないことが上条に安心感を抱かせた。

しかし、その安心感はこの場合油断ともいえるものだった。

携帯電話を返してもらうよう差し出した右手をじっと見つめた姫神は、少し不機嫌な表情を浮かべた後、そのまま携帯電話を床に落とす。

そしてそのまま足元に転がった携帯電話を思い切り踏みつけた。

ガシャっという破壊音と共に幾つかの破片に砕けた携帯電話はもはや使い物にならないと一目で分かった。

「姫神!何を……ッツ!!」

上条は自分の携帯電話を破壊されたことと、傷を負った土御門の為に病院への連絡が取れなくなったことに対して怒りを露わにする。

だが、再び姫神の姿がブレると、完全に消えてしまった。

「知らない。私を忘れた人の事なんて」

彼女の声だけが聞こえる。そしてその言葉の後に金属が擦り合う音が鳴り響いた。

正確にいえば刃物と刃物を擦り合わせた音。

その音に危機感を覚えた上条は土御門を引きずりながら、教壇まで移動し黒板に背中を合わせる。

動機は不明だが、どうやらあのクラスメイトは自分を傷つけるつもりだと上条は思い、まずは無防備な背中をカバーするためにこのような行動をとったのだ。

静まり返る教室に緊張感が走る。

嫌な汗が上条の頬を伝い、床に滴った瞬間、教室に陽気な声が木霊した。

「よぉーカミやん。どないしたん?そんな死にそうな顔して?ひょっとして便秘ちゃうん?」

879: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/27(木) 23:49:16.24 ID:3h3lUlxi0
そう言って現れたのはまたもや欠席者の内の一人。一週間前に球磨川の元を訪ねようと上条を誘った友人、青髪ピアスだった。

なんて良いタイミングで現れたのだろうと、再度安堵の息を着く上条だったが、ある事に気が付き顔を強張らせる。

いくらお調子者の青髪だろうと崩壊した校舎の中で重傷を負った友人と、

死にそうな表情を浮かべている友人を目撃して、普段通りの振る舞いが出来る筈がない。

特に、傷ついた土御門を発見したら彼は背負ってでも病院に向かうだろう。

だから。あくまでいつも通りの青髪に違和感を感じたのである。

「なんやぁカミやん。ボクの顔になんかついとる?」

笑顔を浮かべたまま首を傾げる仕草もいつも通り変わりのない青髪に、警戒は解かず上条は話しかける。

「おい、土御門が怪我をしてるんだ。急いで病院に連絡してくれ」

そして、数秒の沈黙が流れた。

「はぁ……何をやっとるんやあの子は。つっちーは相手にするな、相手取るなら即死させろっちゅうたのになぁ……」

友人のその言葉の意味が、上条には理解できなかった。

(即死させろ?土御門を?)

混乱している上条を余所に青髪は教室内に呼び掛ける。

「おーい、居るんやろ?ちょっと出てきてやー」

その呼び掛けに応えるように、青髪の右横にノイズが走り再び姫神が姿を現す。

さっきまでとは違う姫神のその両手には出刃包丁が握られていたのだ。

上条が目の前の二人を睨み付けると、青髪がその視線に気が付き頭をガシガシと掻いてから右の掌を土御門へ向け言った。

「ん?あぁ心配せんでもつっちーの傷は治したるで。ちょっと待ってや」

881: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 00:09:02.43 ID:F8mwl/jw0
その言葉の通り、土御門の傷は一瞬で塞がった。

「塞がったってより、消えた……?」

まるで傷が初めから無かったかのように、体を入れ替えたかのように傷が塞がり、破れていた上着も元へと戻っていた。

「ま、気は失ってた方が都合ええからそのまんまで。えっとカミやん何か質問ある?」

相変わらずのおどけた口調で言う青髪に上条は怒号のような声を上げる。

「質問!?全部だよ!土御門が怪我してたこと!姫神が携帯を壊したこと!お前ら二人の妙な能力のこと!」

「せっかちやなぁ。それがフラグ建築のコツですかい?」

「うるせぇよ!質問に答えろ!」

「ちょっとくらいふざけただけやん……んじゃその三つの質問に答えましょうか」

そう言って右手の小指と親指を畳んだ状態で上条へ向ける。

「まず一つ目」と言って立てていた残りの指の内、薬指を畳む。

「つっちーが怪我してた理由。ボク達の事を調べてたから姫神ちゃんがやってもうたんや。ごめんなぁ」

少し申し訳なさそうに目を伏せてから、今度は中指を折る。

「では二つ目。携帯壊した理由なんて外部に情報を漏らさんために決まってるやん」

二つ目の答えはそんなことも解らないのか、とでも言いたげなニュアンスでさっさと言ってしまった。

そして、最後の人差し指を畳む。

「そんで最後の質問。これがまぁ結局全ての答えになってるも同然なんやけど……」

「ボク等の能力はカミやんが知ってる能力じゃなくて負能力ゆうてな、なぁーんも利点がない能力のことや」

両手を広げ、万歳をした青髪はまるで道化のようだった。

そして、その言葉の続きを姫神が紡ぐ。

883: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 00:28:00.68 ID:F8mwl/jw0
「私の負能力。【存在証明(アイデンティティ)】。レベルはマイナス3。効果はさっき見せたとおり。でも。それだけじゃない」

「マイナスレベル3って言っても姫神ちゃんのはえげつない能力やで。あぁマイナスってのはボク等みたいなのの区分な」

姫神の説明に少ないが補足を入れる青髪。

「自分の存在を消せるってことか……」

「正確には違う。存在感を消す。それだけ」

上条の言葉に訂正をする姫神。

そして、まってましたと言わんばかりに青髪が大声を張り上げる。

「ボクの負能力名は【平衡戦場(アナザーシャフト)】!!なんとなんとレベルは球磨川さんと同じマイナスレベル5や!!」

「まぁゆうても普通のレベル5第一位と第三位位の差はあるんやけどねー」

カラカラと笑う青髪に上条から声が投げかけられる。

「ちょ、ちょっと待てよ!球磨川ってあの球磨川だろ?アイツはレベル5の第八位じゃないのかよ!?」

「それはただの嘘やでー。まぁ久しぶりにあの人に会うまでは気が付かんかったけどな」

「久しぶりって……お前球磨川と知り合いなのか?」

「昔ちょっとだけなぁ。さて!そんなことよりボクの能力や!気になるやろ!?知りたいやろ!?」

かなり重要な事をそんなことで済まされてしまい、青髪が自身の能力説明を始めた。

884: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 00:44:17.47 ID:F8mwl/jw0
「かといってすぐに教えるのも興が削がれてまうなぁ……よし!」

「なぁなぁカミやん。ギャルゲーとかやったことある?」

「……ねぇよ」

突如ギャルげー等とこの場の雰囲気に似つかわしくない単語を発せられ、戸惑う上条。

そんな上条などお構いなしに青髪はまくしたてる。

「簡単に言うといろんなヒロインから一人を決めて、どんどん選択肢を選んでいって攻略するゲームなんよ」

「普段カミやんがやってることと同じやね!」

「なんだそりゃ……」

どうもこの男と話していると調子が狂ってしまうようである。決してシリアスにはならず、真意は伝わらない。

「ボクの平衡戦場はね、全てのエンド、全ての選択肢を選んだ結果が分かった状態でプレイする事が出来る」

「さらに言えば、途中から強制的にルートを変えることもできるんや、例えばこんな風に」

青髪が言い切ると同時に砕け散った筈の上条の携帯電話が、床に落ちたままであるが元の状態に戻った。

「これは“携帯電話が壊れなかった世界”の結果をこちらに反映しただけや」

「…………」

目の前で起きた出来事に、上条は言葉を失っていた。

青髪の負能力とはつまり“平行世界の結果を反映する”というあまりにも傍若無人なものだと気が付いてしまったからだった。

「まぁこれだけじゃなく、色々裏技もあるんやけどな、これは後からのお楽しみってことで。カミやんどうせボク等と戦うんやろ?」

「……でだよ」

一通り説明を終えた青髪に、上条は何やら呟いていた。

890: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 01:10:16.75 ID:F8mwl/jw0
「なんでだよ!お前は……お前たちはなんで友達を傷つけるような感情を受け入れちまったんだよ!!」

「違ぇだろ!?何の役に立たない能力なら、役に立つように考えりゃいい!!なんでそんな不幸を受け入れちまってるんだよ!!」

「楽しい事も悲しい事も含めての人生だろうが!!勝手にテメェだけが不幸だけだと思うんじゃねぇよ!それを他人に振りかざすんじゃねぇよ!」

上条は、思っただけの気持を叫ぶ。そして少しの沈黙が流れてから青髪が口を開いた。

「不幸を受け入れる、ねぇ……ええか、カミやんちょっと聞いてや」

そう言った青髪からは先程までのおどけた雰囲気などは微塵もなく、真面目な表情だった。

「ボクぁ不幸のみならず不条理、不合理、不安、不信、理不尽、堕落、混雑、嘘泣き、言い訳、偽善、偽悪、いかがわしさ、インチキ、

不都合、冤罪、流れ弾、見苦しさ、みっともなさ、嫉妬、風評、密告、格差、底辺、裏切り、虐待、巻き添え、二次被害、災害、天災、

事故、古傷、腐敗、不平等、失敗、痛み、虚構、いじめ、毒舌、批評、批判、不安定、洗脳、暴利、脱法、隠蔽、違反、負完全さまで、

あらゆる負(マイナス)を受け入れる包容力をもってるんよ?」

「だから、分かったような口を聞かんどいてくれへん」

青髪に上条の想いは伝わらないばかりか、その胸の内に抱える膨大な負(マイナス)の前に、再び言葉を失ってしまう。

「なぁカミやん。本当なら君もこっち側の人間なんやで?だから大人しく今日見たことは忘れて家に帰ってくれへんか」

「壊したもんは取り換える、傷つけた人も取り換える。だから手ぇ引いてや」

そう言った青髪の表情は変わらないものの、どこか寂しげに見える。

普通の人間ならここで心が折れてしまうだろう。だが上条当麻は違った。

この負(マイナス)を抱える二人を助けてやる。そんな決意の炎が胸の中で燃え上がっていた。

893: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 01:24:19.63 ID:F8mwl/jw0
「ふざけんな!誰がここでお前らを見捨てるんだよ!!」

「間違った友達を導いてあげるのが親友としての俺の役目だ!!」

そして、上条が拳を握った瞬間、三度教室へ来訪者が訪れる。

その人物は幼く、小学生にも見える姿に白衣を着用し、両手には無数のまち針が持たれていた。

入ってきた扉から大きく跳躍し、上条の隣へと飛び移る。

「よく言ったわ上条君!オバサンも貴方に協力するわ!!」

にやりと不敵な笑みを浮かべる少女、いや自らをオバサン呼ばわりしているところをみると実年齢は上条達よりかなり高いのだろう。

「“久しぶりね”青髪クン。そっちの女の子は知らないけど、どうやら彼によって目覚めちゃってみたいね」

「なんや、小萌先生かと思ったら人吉先生やないですか。これはこれはテンション上がるなぁ」

「相変わらずねぇ……小萌ちゃんも嘆いてたわよ、青髪ちゃんが真面目に授業受けてくれないですーって」

「そりゃあ小萌先生の困った顔はボクの大好物ですから……あ、もちろん人吉先生も大好物やでー」

「残念だけど、人妻子持ちの41歳よ?幾らなんでも貴方のストライクゾーンからは大きく離れてワイルドピッチじゃない?」

「いやいや、ボクぁ落下型ヒロインのみならずってな心情を持ってるんや。属性が増えたら増えただけ、どストライクですわ」

「そっか、じゃぁ全力で身を守らないとね」

「いやーそんな姿もそそるわー。ほな、カミやん、人吉先生?いくで?」

その言葉と共に姫神は姿を消し、青髪は目の前の椅子に手をかけた。

戦いが始まる。

931: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 22:05:22.00 ID:fGSmymgE0
「上条君は青髪クンをお願い!あの過負荷(マイナス)に対抗できるのは貴方だけだから!!」

人吉瞳はそう言って教室の中央へ移動し、自らの周りに円を描くように無数のまち針を床へ刺す。

そして今度は瞳の身の丈ほどもある巨大な裁縫バサミをどこからともなく取り出し、構える。

そんな瞳の姿を見て青髪は上条へ戦う場所を変えようと提案を持ちかけた。

「あーあ人吉センセってば本気やん。カミやんちょっとグラウンドいこうや」

上条の返答を待たずに、ヒラヒラと手を振りながら教室から出て行ってしまう青髪を上条は急いで追いかける。

「なんで俺の名前を知ってるかとかはどうでもいい!姫神をよろしくお願いします!!」

「オッケーよん!成り立ての過負荷に遅れをとるほど柔じゃないわ!!」

瞳の返答を聞き、しっかりと頷いた後、上条はグラウンドへ向かった。

「姫神さん、だったけ?女の子同士ガールズトークでもしましょうか」

まち針で作られた円の中央から微動だにしないまま瞳は姫神に語りかけるが返答はない。

瞳がため息をついた瞬間、身を翻し何かをハサミで受け止める。

そこには姿を現した姫神が、右手に持つ出刃包丁で瞳を切りつけようとしていた。

「なんで分かったの?」

「縫合格闘技狩縫九の技『待張(まちばり)』……私の意図に気がつかなかったのかしら?」

「あなた。糸を」

姫神は気がつかなかったが、先ほど瞳が床に刺したまち針には極細の裁縫糸が張り巡らされていて、切れた方角から姫神の位置を割り出したのだ。

932: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 22:22:39.59 ID:fGSmymgE0
「たかが認識阻害の能力だけで私を倒すなんて二十三年早いわよ!!」

鍔迫り合いをするように互いに押し合う力を利用し、瞳はいきなりハサミにかけている力を抜く。

そのまま体制を崩し前のめりに倒れそうになった姫神のわき腹に思い切り回し蹴りを叩き込んだ。

壁まで吹き飛ばされた姫神は苦しそうに膝をつき、瞳を睨み付ける。

「認識阻害?違う。私の負能力は。存在証明に関わるもの」

「一緒でしょう?どれだけ姿を消したってこの待張さえあれば無意味だわ」

「そう。ならもう一度」

その言葉と共に姫神は姿を消す。ただし手に持っていた凶悪な武器は床に捨てていた。

「あらあら、そんな間単に武器を捨てちゃっていいのかしら?体術じゃ絶対に負けないわよ?」

そして巨大なハサミも地面へ突き刺し、背筋を伸ばし足を構え臨戦態勢をとる。

だが、姫神からの攻撃はなく、代わりに瞳へ声がかけられる。

「私は原石。吸血殺しという能力を持つ。それだけが存在理由だった。でも。今はそれを封じている」

原石。少なからず学園都市の内部へ関わりを持つ瞳はその言葉だけで彼女の言わんとすることを理解した。

「だから。私の存在証明は。ない。貴女の存在証明はなに?」

独特な話し方で瞳へ質問を投げかける姫神に対し、即答で答えを返す。

「存在証明?ふん!そんなものは球磨川くんを止める事よ!」

医師として、一人の人間として、彼を見逃してしまった彼女。

見逃した、見捨てた、見殺しにした。

自分の行動で数多くの人間が不幸になっているのだ。

だから、自分には彼を止める責任が、義務が、意思がある。

それが人吉瞳が動く理由だった。

935: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 22:38:32.12 ID:fGSmymgE0
そこで、瞳は異変を感じ取る。

「あれ?私何をして……」

自分が何に対して構えをとっているのか、なぜ自身の持つ武術スキルを使用しているのか。

その理由が分からなかった。

姫神が否定したように【存在証明】は自身の姿を消すわけではない。

光学迷彩や、認識阻害でもないのだ。

存在証明の本当の効果は“存在を忘れさせる”ことである。

視覚からの情報だけでなく、それ以外の情報ですら脳内から抹消される。

実は姫神は姿を消しているわけではなく、簡単に言えば極端に影が薄くなっているのだ。

確かにそこに居るが、認識されない。

ここに居る理由が無いから、見ることができない。

それこそが存在証明の能力。

「何で私はここに居るの?何で戦おうとしているの?」

そして、存在証明は“第三者の存在理由”ですら無くすことができるのだった。

「たかが球磨川くんのためだけに、学園都市に来たの?馬鹿らしいわ帰ろうかしら……」

能力によって戦う理由を奪われた瞳は、まち針やハサミを片付けて教室から出ようとする。

その背後に、ロープを持った姫神が居ることにすら気がつかずに。

「さようなら。貴女の意図は。ここで切れる」

そして、瞳の首にロープがかけられた。

936: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 22:52:45.88 ID:fGSmymgE0
瞳と姫神の戦闘が始まった頃、上条と青髪はグラウンドに居た。

「んーここならええかな」

「いちいち場所を変えて、なんのつもりなんだよ?」

いまいち戦う意思を見せない青髪に苛立ちを覚えつつ上条は尋ねる。

「あのまま教室で戦ったらつっちーが危ないし、姫神ちゃんの負能力にも当てられてまうし、そして何より……」

「何より?」

「人吉先生のご指名やからねーカミやんと戦おうと思ったら教室は狭すぎるわ」

相も変わらずふざけた口調で話す青髪。

「さて、カミやんは二人のレベル5と戦った事があるんやね?それも勝つなんてやっぱすごいわぁ」

「何で知ってるんだ?」

上条は青髪にその話をした覚えは無い。

一方通行、御坂美琴という二人のレベル5と戦闘をし、勝利を収めたことなどが知れたら混乱を招くし、

いちいち自慢げに話すようなことでも無かったため、そのことを知る人物は少ないのである。

「ボクは平行世界を把握できるんやで?この世界で一番近い世界の過去を覗けば一発や」

青髪はそう言ってケラケラと笑う。

「だったらどうしたっていうんだよ?」

「んー別に。ただ第一位と戦って勝てたんは単に第一位がひ弱すぎただけやね」

その言葉の意味は上条は理解できなかったが、青髪がグラウンドを踏みつけた瞬間全てを把握した。

グラウンドが捲り上がり、土の柱を作成しながら上条へと襲い掛かったのだ。

「だから、鍛えているボクにその能力があったらカミやんは勝てんっちゅうはなしや」

青髪は、平行世界の一方通行からベクトル操作の能力を自身へと反映させたのだ。

939: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 23:05:32.69 ID:fGSmymgE0
上条の脳裏にはあの時の悪夢が甦っていた。

妹達を巡り相対した学園都市最強の超能力者一方通行との戦い。

あの時はさまざまな助力のおかげで辛勝したが、今回は違う。

御坂も居なければ、妹達も居ない、真の一対一の戦いである。

「ほらカミやん!逃げ回ってたら日が暮れてまうでー!」

「ック……」

そんな上条は攻撃を回避するだけで精一杯だった。

実際、上条の持つ幻想殺しに対してベクトル操作の相性は最悪といっていい。

御坂の電撃、それに第二位の未現物質、第四位の原子崩しなどといった攻撃そのものが異能であるなら上条は打ち消せるのだが、

ベクトル操作で動かされている物質は紛れも無く現実のものなので、幻想殺しは発動しない。

割れる地面、降り注ぐ石つぶて、飛来するバスケットゴールの支柱。

これらを全て避けなければならない。右手で触ったところで勢いそのまま上条に当たるだけだ。

「よお動くなぁ。カミやん知ってる?この学校が建ってる地盤って元はかなり柔らかかったんや」

そう言ってポケットに手を突っ込んだまま、青髪は喋る。

「だから、もし地盤改良がされなかったらどうなってたんやろうなぁ」

直後、上条の足が地面へと埋もれる。

青髪は、上条の周りの地面を“地盤改良されていない”世界を反映させたのだった。

941: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 23:14:30.42 ID:fGSmymgE0
「避け続ければ勝機があると思った?」

青髪がニヤニヤと微笑みながら上条へ近づく。

「ベクトル操作中やったら負能力は発動できんと思った?」

そしてポケットから取り出されたのは無数のパチンコ玉。

「ボクが友達やから、自分に幻想殺しがあるから、助かると思った?」

青髪がパチンコ玉を上条に向けてゆっくり投げる。

「甘いで」

ベクトル操作によって加速したパチンコ玉はまっすぐ上条を襲う。

「でも、その甘さ嫌いじゃないで」

近づくパチンコ玉を避けようとも、足元が地面に埋もれた上条は思うように動けない。

だから、上条は右手を地面へと伸ばした。

「なんでそこでいい台詞を言うんだよ!」

幻想殺しの効果によって元の世界に戻ったグラウンドに上条は転がり紙一重で凶弾を回避した。

「おお!やるなぁカミやん」

しかし、青髪に動揺の色は見えない。

そんな青髪に上条は、拳を握り締めて、叫んだ。

942: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 23:23:52.47 ID:fGSmymgE0
「なんでそんなすげぇ能力を持ってるのにこんなことにしか使わねぇんだよ!」

「その能力を負(マイナス)って決め付けて、正しい(プラス)の事に使わないんだ!」

「病気の人間だって、怪我した人間だって、壊れた物だって取りかえれるんだろ!?」

「いくらでも幸せ(プラス)な使い方があるじゃねぇか!」

「いつものお前はどこにいっちまったんだよ!!」

「いいぜ、テメェが不幸だから他人を傷つけるって言うなら……」

「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」

拳を振り上げたまま青髪へと突進する上条。

そして、思い切り振りぬいた拳は青髪の顔面を捕らえた。

「……!!なんで避けねぇんだよ!!」

“わざと”殴られ吹き飛ばされた青髪はゆっくりと立ち上がった。

その表情は先ほど見せた冷たいものだった。

「……確かにカミやんの言ったとおりの使い方もできる」

「でもな、それじゃ何にもならんのや」

青髪は、どこか寂しげに言葉を続ける。

944: 1 ◆d.DwwZfFCo 2011/01/28(金) 23:40:57.35 ID:fGSmymgE0
「代用可能理論(ジェイルオルタナティヴ)、時間収斂理論(バックノズル)」

上条には聞き覚えの無い単語を呟く青髪。

「西東天っちゅう学者の理論でな、前者は全ての物に代わりがあるって意味で後者は今起きなくても、いつかは必ず起きるって意味や」

「それが何の関係があるんだよ」

意味が分からないと、上条は首を横に振る。

「例えボクが悪者をやっつけてもその代わりの悪者が出てくるし、末期の病気を治してもその人は近い内に死んでまうんや」

「つまり、意味がないんよ」

それは、先ほどの上条の言葉を全て否定するものだった。

「それに、平行世界もちゃんと世界として機能してるんや。その世界からボクは色々奪ってることになる」

直した携帯電話は違う世界では壊れ、土御門は傷つき、一方通行は能力が使えなくなっている。

こちらを立てれば、あちらが立たず。

「カミやんはつまり、他の世界を滅ぼしてまでこの能力を使えって言うのと同じや」

「もちろんボクが借りた能力は返すし、借りる世界を選別してから取替えとる」

「でもな、それでも周りは不幸になるんや」

今度は青髪が首を振る。

その姿は、とうの昔に全てを諦めているように見えた。

「だから、カミやんこれ以上詮索せずに全てを忘れて帰ってくれ。じゃなきゃ殺してまうで?」

「嫌だね!俺はその幻想もぶち殺してやる!」

青髪の最後通牒を否定した上条の眼には、それでも目の前の友人を正そうとする光が灯っていた。

「しゃあないな……」

諦めたように頭を掻きながら、上条をに睨む青髪はもう穏便にすますつもりは無かった。

「その幻想をぶち殺す、ねぇ……だったら“こんな現実”はどう殺す――?幻想殺し!!」

引用元: 球磨川『学園都市?』