1: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 18:48:13.98 ID:3zfOmQ280


――Nobody remembers her.I can't recall her name.


無慈悲で、非情で、不毛な現実は続いた

だから彼女は

たったひとりで戦い続けた




――――――――――――――――――――――――――――――――
ほむら「私のただひとりの友人」の再構成&続き。 


・前作(ほむら視点)からご覧下さい。短編です。

・MS P明朝  サイズ20で書溜め中。拡大推奨。
・かずみ☆マギカの深刻なネタバレ有り。例の子が登場します。
――――――――――――――――――――――――――――――――


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376819293

2: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 19:04:54.23 ID:3zfOmQ280

■円環的時間


――叶えたい夢があった たとえ自分を殺してでも



――――
――


二○**年 奇異な事件が見滝原を襲った。


 少々けたはずれの惨劇なのだが、仔細を知る者は少なく、信じる者はもっと少ない。


見滝原――街それ自体は、地球上のどこにでもありふれている開発特区の一つに過ぎない。
自然との調和を重要視し、都市部周辺には街路樹が均等に聳え立っている。


人々はみな穏やかであり、治安もすこぶる良い。耳を澄ませば、鳥の羽ばたきが聞こえ、
川のせせらぎがあなたを優しく包み込んでくれることだろう。


たとえば、あなたが外に出るだけで、石段が迎え入れてくれるし、
電線は足元深くで眠りこけているので、青々とした空はあなたのものである。


深夜に人気のない道を歩こうとも、近代的な水銀灯があなたの視界を補ってくれる。
開発特区にしては、地価も安く商業施設や医療施設にも事欠かない。
居住地区としても実に理想的であると言わざるを得ないわけだ。




3: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 19:39:09.16 ID:3zfOmQ280

 一方、郊外の再開発は大分遅れてしまった。そこに四季は無い。
人工物が全てを支配し、古びた工場が林立している。


朝から晩まで黒煙が大気を穢し、目が沁みるほどの異臭が漂っている。
そこに留まる住民は、須らく、生きるために全ての時間を費やしている。
一昔、二昔の人間の有り様がある。ここの人々は皆生気に満ち溢れているが、休日を持たず、昼夜と言う概念を持たない。


 偏見だという指摘があるかもしれない。しかしこのような街こそが開発特区と呼ばれるにふさわしい。
見滝原がどのように変わり果てたとしても八年振りの再会、といった面持ちであなたを迎え入れてくれるだろう。


そして、見滝原中心地区に暮らす住民は、郊外に興味を持たないし、
郊外に暮らす住民も全くもって同様だった。全く別の国かのように無関心であったようだ。



――――――――――――――――――
――――――――――――


4: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 19:42:53.17 ID:3zfOmQ280

 そんな二面性を持つ見滝原に「災いを招く者」が現れる。
ヴァルプルギスの夜――と呼称されていたが、いささか彼女には似つかわしくない。
私は〔    〕と呼んでいる。情報規制が敷かれているので、あなたは真実を知るすべは無かった。


「一人の少女が殺戮の限りを尽くした」とか「この国の政府が開発した、対人兵器の試運転が行われた」
などと噂されているのはご存知だろう。
勘違いしないでほしい――今現在、見滝原は健在である。もう一度言おう、見滝原は健在だ。


 十八年前――見滝原の住民は一つになった。
宗教に頼り、信仰心を宿した。住民らは名状しがたい出来事を、心の底ではまだ受け入れないでいながらも、
何か暗い力が蔓延っていることだけは明瞭に感じとっていた。


多くの人々は、自分達だけは助かるだろう、と高を括っていた。高を括ってしまった。
友人、母親と子供、夫婦、恋人という分類は消えうせ、消息不明、失踪、神隠し、犠牲者
といった単語群がマスメディアを覆いつくした。


5: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 19:45:34.84 ID:3zfOmQ280



 一ヶ月の間に数万人の命が奪われた



 ヴァルプルギスの夜は実在していたということだ。
おっと、勘違いしないでほしい。アレも元は人間だった。
普通に学校に通い、普通に生活し、普通にヒトを殺し続けた。話が長いか? 申し訳ない。


 自己紹介が遅れた。私は美国織莉子。友人の死をきっかけにインキュベーターと契約を取り結んだ者である。
父と共に国の安寧を保つ者である。それでは「災いを招く者」の人生を追体験しよう。


一人だけ客人を呼んである。これでも十八年近くの付き合いなのだが、
お互いに背負うものが多すぎて堅物に成り果ててしまった。
険悪に見えるかもしれないが、これでも似たもの同士である。気にしないで欲しい。



6: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 19:47:05.91 ID:3zfOmQ280


さて、追体験と言っても性質上、別の何かを識るかも知れないな。
そこらへんは愛嬌だ。御託はこの辺にして早速準備しようか。


 巴、その子じゃない。水晶から目を離さないで――見滝原中央病院の七十二階。
ああ、まだ脆弱だ。巴、魔力が溢れているぞ。気持ちは解るが落ち着け。


そうだ、巴。聞き忘れてたよ。




――奇跡はあると思うか?


――そんなものあるわけないじゃない。あってたまるものですか


7: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 19:54:24.66 ID:3zfOmQ280

――――――――――――――――――――――――――――――
『』内は織莉子とマミさんの発言。一部描写省略。一部台詞、描写追加。
既存の台詞変更なし。時系列順に並び替えました。
〔〕←個人へのテレパシー ≪≫←複数人数へのテレパシー 
――――――――――――――――――――――――――――――

8: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 19:56:58.07 ID:3zfOmQ280

少女が目を覚ます。名前は暁美ほむら。
今にも折れてしまいそうな華奢な体つきに艶やかな黒い髪の毛。
白くてか細い指が、赤いフレームを掴み上げる。


「目、覚めましたね。暁美さん、吐き気は無いですか」

「はい。胸は少し響くけど、体調は凄くいいと思います」

「それは良かった。輸液は交換しましたから。もし変だな、と思ったらナースコールで呼んでくださいね」

「あれ? 私のリボン知りませんか」

「床に落ちてたのでテーブルに置きましたよ」


看護師の手を振り払い、紅いリボンを強引に引っ張るほむら。
ある種の強迫観念さえ覚えるような振る舞いに、看護師から笑顔が消える。
それを横目に見た医師が空かさずフォローに回った。


「それだけ元気ならすぐ退院出来るでしょうね」


医師と看護師は微笑みながら病室を出て行った。
ほむらはその様子を気にも留めず、引き出しから新品のテキストを引っ張り出した。


「さて、勉強しないとね。半年も寝たきりだったんだもの」


――――――――――――――――――
――――――――――――


「午前の検査結果が出ました。凄く良いですね。十六日にも退院出来ますよ」

「あ、ありがとう・・・ございます」

「来月予約入れておきますから、その時また経過を見ましょう」

「はい」


『編転入生の方へ』と書かれた書類を見て、気分を高揚させるほむら。
白に侵食された病室に春色の風が吹き抜ける。
見滝原中学校への編入が現実の物となった瞬間である。



9: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:01:37.30 ID:3zfOmQ280

――――――――――――
――――――

二十五日


ほむらが入室すると、クラス全体にどよめきが沸き起こった。
頭から垂れたリボンは退院時よりも紅みが増しているようだった。


「それじゃ、自己紹介行ってみよ」

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」




『退院時から、随分とイメージが変わっているわ』

『それもそうだ。見るといい。魔力が溢れ出している。
溢れた魔力は彼女の身体を強化させ、頭脳を明晰にしている。
判断力、記憶力は今までの数十倍にまで上がっているだろう。魔力の一部は頭のリボンが吸収している』

『その口調なんとかならないの?』

『公務中』

『ふうん。そういう――やりづらいわ』




「凄いキレイな髪だね、シャンプーは何を使ってるの」

「部活はしてませんでした。指輪も物心付いたころから付けてて・・・多分東京の雑貨屋だと」

ほむらは紅いリボンと赤紫色の指輪をクラスメイトに見せている。

10: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:03:45.64 ID:3zfOmQ280

走り高跳びで百七十センチを悠々と飛び越えるほむら。
先ほどの数学の授業で貼られたレッテルは消え去り、
多数のクラスメイトに囲まれて、ほむらは満足そうにはにかんでいる。


「凄い!本当に入院してたの?」

「ええと、はい。数学の授業、散々でしたし」

「いやー、美人で運動馬鹿! そして馬鹿!キャラ立ってるよ」

「暁美さん、これ県内記録なんだけど」


気まずそうに体育教師が話しかける。
その瞬間、グラウンド中に歓声が響き渡った。


ほむらも体育教師も不思議そうな顔を浮かべている。
この記録は中学二年生の全国歴代記録を塗り替えかねないほどだった。



その日の午後、ほむらは呪いを撒き散らすことになる。
体調は崩れ、吐き気と倦怠感が彼女を襲った。


両横の生徒は青ざめた挙句、嘔吐し、保健室へ運び込まれた。


『これは・・・魔力の制御に失敗している。
あらかたリボンが吸収しているようだけど、周りの生徒にも影響が出ているわ』


――――――――――――――――――
――――――――――――

11: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:09:11.21 ID:3zfOmQ280

「また明日ね」

「はい、また明日」

夕焼けの中、一人で家路につくほむら。

「うう、吐きソう」

救急車を呼ぼうと試みる。
ほむらの周囲には魔力の波が広がり、リボンは轟々と輝いていた。

「橋を渡りきったら公衆電話があルはず」

「あっ」

地面に顔から倒れる。


――――――――――――――――――
――――――――――――



結構な時間、気絶していたようだ。
鼻が折れ曲がり、血がぼたぼたと垂れている。


随分『長いこと』倒れていたようだ。


『美国さん。これは?』

『さあ。何かを思い出しそうになってるのかしら?
どうやら別次元の存在のようですし・・・』

『別次元?』

『彼女は魔法少女として生を受けたのは知ってるわよね。
さらに、円環の理に関連する遺物を持ち合わせている。
この二点からそのように推測した』

『ふふ。美国知事さん。しばらく、素に戻ってたわね』

『言うな』



12: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:12:12.99 ID:3zfOmQ280
――――――――――――
――――――


刹那。ほむらの目の前が淡い光で包まれる。
光の中で、優しく微笑みながら、手を包み込んでいる。


――少女


「また会えたね」

内側から、暖かい声が響いた。全身が暖かく思えた。
目のなかに同年代の少女像が現れる。

ほむらは彼女が身に着けているリボンがお揃いだと気づいた。
そして、どこか懐かしみを感じる桃色の瞳を目に焼き付けていた。

「わたしたちは、どこかで――どこかで会ったことあるの? 私と」

「うん。そうだよ。わたしはあなたの、最高の友達。
元の世界に戻っても、リボン 付けてくれてたんだね。嬉しい、な」

「わたし、もうお仕舞いナの?独りぼっチなノ?」

「独りじゃないよ。みんな、みんないつまでも私と一緒だよ」



『日本語すらままならない状況。濁り切る直前に見られる兆候らしいぞ』

『元の世界・・・別の世界でリボンを受け取ったということね』

――――――――――――――――――
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13: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:14:31.05 ID:3zfOmQ280
――――――


「マミ、こっちだ。円環の理が始まってる」

「どういうことよ。この街の魔法少女は私と美樹さんだけよね?」


大きく目を見開いて、桃色の柱に飛び込む二人、と一匹。


「どっちでも良いよ! 今はあの子を助けなきゃ」


グリーフシードを用意し、ほむらのソウルジェムを浄化するさやか。
しかし、手持ちのグリーフシードを半分使っても濁りは消えない。


「これは、随分と魔力を使ってるわね。いえ、ソウルジェムの容量が桁違いだわ」


リボンを見つめるさやか。
黒くて長い髪、見覚えがあった。同じクラスメイト――転校生だと気がついた。


「マミさんは応急処置をして。絶対に助けるからね、ほむら」


桃色の光は次第に淡く、薄くなっていった。
キュゥべえはそれに気づくと、安堵した素振りを見せて二人の方を向いた。


「ふむ。何とか一命は取り留めたんじゃないかな」




「良かった――ほむらちゃん、がんばって」

耳元に囁きかける声を聞いて――ほむら目の前は真っ暗になった。

14: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:16:59.21 ID:3zfOmQ280
■暁


「ほむら! ほむら! 大丈夫?」

「随分濁ってたわね。浄化がなかなか終わらなかったのよ」


どうやらほむらは声が出ないようだった。
眼球を震わせてマミ、さやかの方を向いている。


「キュゥべえ、一体どういうこと?魔法少女になってすぐの子よね」


キュゥべえはしっぽをくるんと一回転させ、真っ赤な目をマミの方へ向けた。

「それがボクもわからないんだ。契約した覚えも無いし。
魔力の波動だって今月の十六日まで全く感知出来なかったのさ」

「それは不思議ね。治療が終わったら私の家まで運ぶわよ、美樹さん、タクシーを呼んできて」

「おっけー。電話かけてくるよ」


さやかは返答しながら橋の向こうまで走っていった。


「あ、あの。あなたは・・・」

「私は巴マミ、貴女と同じ魔法少女。本当に危なかったのよ? 消え去る間近だったもの」



15: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:18:23.09 ID:3zfOmQ280
――――――――――――
――――――



何とかティロホームまで運び込み、ほむらを硝子テーブルに座らせるさやか。
念のため、ビニール袋と電話の子機を脇に置いた。

ほむらは終始上の空だった。

三度目の説明をする。


「つまるところ、魔力の使いすぎね。ここ最近、妙に感覚が研ぎ澄まされたりしたでしょ」

「はい。確かに心当たりはありますが」

「そう。美樹さんも昔はそうだったのよ。魔力の制御に苦労していたもの、ね?」

「あはは・・・そりゃマミさんみたいにベテランじゃないし」


退院が早まり、飲み込みが早くなり、視力や聴力の回復――といった出来事、
全てが魔力のお陰であることを思い知った。努力よりも手軽で見返りの多い手段を知り、
多少困惑するものの、ほむらは心を躍らせていた。


16: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:22:44.27 ID:3zfOmQ280

キュゥべえが硝子の上にひょいと乗り、赤い瞳でほむらをまじまじと見つめる。
「暁美ほむら。君はどこまで知っているんだい?」

魔法少女として、敵か味方か。反乱分子か否か。率直に問い詰める必要があった。

「!? 何ですかこれ。喋った!」

「白ね」

マミとさやかは安堵した。
ただ単に魔力の制御に失敗しただけ。一般人を巻き込む恐れはないと判断した。


――――――――――――
――――――


「そういや物心付いたころから持ってたんだっけ?ソウルジェム」

「何ですか?この紫タマゴ」

演技では無さそうだと確信するマミ。

「美樹さん、指輪に戻して」

「ああ、うん。これだよほむら」

「指輪に変身した! か、返して下さい」

美樹さんから強引に奪って中指に通す。

「相当昔から持ってたのかしら? この指輪って本来銀白色なのよ」


血でも付いていたのだろうか、指輪はもとの輝きを取り戻していた。


17: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:25:39.74 ID:3zfOmQ280
■嘆願

「とどのつまり、ボクの役目は願い事と引き換えに、魔法少女を生み出すことさ。
そして君たちが魔獣を倒し、グリーフシードでソウルジェムを浄化する感じだね」

「じゃぁさっきのが円環の理――ですか」

「魔法少女システムの根幹を担っているわ。
私たちが呪いを撒き散らす前に、ああやって消え去るしかないのよ」

「そうだよ、ほむら。いきなし行方不明になるところだったんだから」


「システム? じゃああの女の子は・・・?」

「女の子? 幻覚か何かじゃないかな」

「嘘じゃないわ、あの子は誰? キュゥべえ教えてよ! 包み隠さず話してくれるんでしょ!!」

「深呼吸するんだ、暁美ほむら。また魔力が漏れ出している」



「教えてよ・・・今すぐ教えなさいよ・・・!」


無我夢中でキュゥべえの両耳を掴み、力を込めるほむら。
自ずと筋肉の強化が成されている。


「暁美さん、少し落ち着きなさい」


キュゥべえの耳から鮮血がにじみ出ていた。
目に余る凶暴性。マミは躊躇うことなく、ほむらに強制催眠を仕掛ける。



『見せないで頂戴。ここは見たくないの』

『ある種、巴のお陰じゃないか? この悲劇が魔法少女システムを大幅に変えたと聞く。
幼いうちに契約をし、魔力のコントロールを重視するようになったのだ。
巴は弟子を取らないから実感がわかないだろうな』

『建前に過ぎないわ。暁美さんのようなバケモノを生まないようにするため。
五年かけて少数精鋭の魔法少女を育て上げ、お互いに監視しあうシステムよ』

『巴は変わったな』


18: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:30:06.32 ID:3zfOmQ280
――――――――――――
――――――


「鬼の形相だったね・・・」

溜息をつくさやか。疲れきった表情でほむらの髪を撫でている。
血餅がカーペットに降りかかり、それを見たマミは少しイラついていた。


「催眠の魔術を使ったから数時間は起きないわ。美樹さん、彼女の親御さんに連絡入れてくれる?」

「大丈夫ですよ。ほむら一人暮らしって言ってたから」

「それは幸いね。もう遅いし美樹さんは帰ったほうがいい頃合いね。
大丈夫、この子は私とキュゥべえが看てるから」


さやかが帰宅した後、マミはキュゥべえに頼み込んで写本を借りた。
追加のグリーフシードで穢れを取り除いた。マミはほむらを懐柔する用意があった。


「キュゥべえ、濡らしたタオル持ってきて頂戴。暁美さんの体を今のうちに拭いておきましょう」

「ころころはもういいのかい」

「絨毯は綺麗になったの?」

「・・・とれてないよ」

「じゃあ続けて。あとタオルはまだ?」

急な怪我人にてんてこ舞いのマミとキュゥべえだった。




『巴も大胆だな。写本は秘匿中の秘匿じゃないか。
私だって二度伝え聞いただけだ』

『ええ。最初は良心のつもりだったのよ。結果としてヴァルプルギスの夜を生み出したわけなのだけど。
管理も不十分。全ての元凶は私よ』

『気にするな、巴。それに暁美が盗んだ写本は取り戻せたのだろう?』

『もちろん。少し暗赤色のフレーズが追加されていたわ』

『暁美が足したのか?』

『多分』


19: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:39:47.95 ID:3zfOmQ280



――ほむらちゃん

なあに。まどか。

――リボンに想いを込めてくれるかな

こうかしら。

――上手だよ

何もおきないわ。

――振ってみて

何もおきないわ。

――耳を澄まして

何も聞こえないわ。

――よおく、澄ましてみて



20: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:43:40.48 ID:3zfOmQ280


ほむらが何かを呟いている。
マミはソウルジェムを片手に、ほむらの体をゆすった。


「――けみさん? 暁美さん、起きた?」

「巴・・・さん」

「こんばんは。もう夜中の3時よ、今日は泊まっていきなさい」

「え? もうそんな時間ですか」

「ふふ、目が醒めちゃったかしら?」

「はい・・・」

「じゃあ、話の続き。しましょうか」


マミは羊皮紙を硝子テーブルに広げる。
白い光沢の上に黒く、はっきりと文字列が刻み込んである。
とはいえ、この世の言語とは程遠く、その羊皮紙は歪んでいた。


「これは特別だよ。君みたいに円環の理に接触して、生き残った子は極めて稀だからね。
有史以前から口伝されてきたものを、ボク達はこうして保護しているのさ」

そういうとキュゥべえはテーブルに乗っかり、文字列をじっと眺めた。

「残念ながら、ボク達も円環の理の把握に苦慮している。正確な情報でないと認識した上で聞いてくれ」


マミは眠気と戦っていた。キュゥべえは文字列と戦っていた。
見かねたほむらがキュゥべえを睨み付ける。


「早く・・・早くして下さい」

「原本の石版はもっと読みやすかったんだけどね、有機物の写本は乾燥に強くないね。
シワが寄ってて見づらいよ。よし、出来た。それじゃ読むよ」



21: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:45:01.25 ID:3zfOmQ280


その ことば は きこ え なくとも
むねの おくへは と ど く は ず

あらゆるもの に すがた を かえて
かがやく こな を まく の です

まち の うえ でも なみ の した でも

よばれる ことの ない かわりには
いつでも そこに いるのです

うつろい ゆく この すべて は
あおのひ の きぼう の ひゆ に すぎま せん

かつての すべては いま みたされる

ことば に できぬ まほうたち で さえ
ここ に とげられる

いつか えいえんの その きぼうが
わたしたち を むかえに くるのです


22: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:46:31.39 ID:3zfOmQ280
「と・・・もえさん、巴さん」

「暁美さん・・・?」

「どうしてでしょう。涙が。涙が、溢れて――止まりません、何ででしょう。胸が、凄く痛いです」

「暁美さん、大丈夫よ。もう大丈夫だから」

「あの子にもう一度会いたい・・・です」


――もう一度



23: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:47:33.49 ID:3zfOmQ280

『暁美の行動原理が顕わになったな。ここから彼女は大きく道を外すことになる』

『それも別の次元・・・が関係してるのかしら』

『さて。それくらい円環の理が魅力的に映ったのかもしれない。
そもそも、円環の理は彼女をよく知っていたではないか?』

『最高の友達・・・ねえ。狂言に思えるわ』

『暁美はそれに魅かれたのだろう。リボンを身につけたアノ死神の容姿をみれば尚更だ』

『美国さんも懲りないわね』



25: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:50:58.01 ID:3zfOmQ280
■仕事

クラスメイトの誘いを全て断り、たった一人で帰路に付くほむら。
右手に持ったリボンを眺めながらゆらりと歩いている。


『円環の理に出遭ってからずっとこの調子ね』

『見かねたクラスメイトが追いかけてきたぞ』


それを垣間見た仁美がほむらの後を追いかけてきた。

「暁美さん、何をしているのですか」

「少しリボンを眺めていただけです・・・」

「ボーっとしてると危ないですわ」

「心配・・・ありがとうございます。でも見てると、安心出来るから」


26: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:55:13.59 ID:3zfOmQ280

「何か悩み事でも?」

「そんな感じです。ううん違うかもしれません」

「と申しますと――」

「最近、リボンの色が濃くなっているような・・・」


「まあ。それは暁美さんに何かを知らせているのですわ。
よくよく観察するのが良いと、ある書籍に書いてありました」


興味深そうにほむらのリボンを見つめる仁美。

「少し触らせてくださいませ。とても綺麗なリボンですこと」

どうぞ、とほむらが渡した瞬間、仁美がふらついた。

「?」

「いえ、お返ししますわ。何だか私には合いませんでした」

貧血のような目眩を感じた仁美はすぐにリボンを手放した。
なんとも言えぬ気持ち悪さとはこのことかと心の中で理解する。


27: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:57:17.64 ID:3zfOmQ280

「観察・・・ところで志筑さんは今日も習い事ですか?」

「ええ、この後お茶のお稽古が。お陰でずっと一人ぼっちですわ」

ほむらが積極的に話しかけてきたことに仁美は喜び、また同時に自分の立場を怨んだ。

「それでは・・・駅まで一緒に行きませんか」

「それは嬉しいですわ。内心辛かったのです。
上条君は半年前に事故に遭ってしまって。さやかさんも最近よそよそしくて・・・」

「美樹さん・・・がですか?」


これも何かの縁だと嘘をつくのは諦め、ありのままに話そうと腹をくくった。
意を決した仁美。こほん、と咳をしてから言葉を選んでいく。


「私のただ一人の友人。私の良き理解者でした――が、近頃疎遠になってしまいました」

「美樹さんも事情があって――」

「さあどうでしょう。さやかさんは何かを隠し通して、私に察知されるのを恐れているように思えるのです。
ですから、私はそれを受け入れるまでです。この考え、おかしいでしょうか?」

「おかしいです! 私なら追いかけると思います。どんな手段を使ってでも理由を聞きたいです」

「まあ! 暁美さんは何処か遠くを見つめていらっしゃる。これだけ元気なら学校生活も安心ですね」



「美樹さんもきっと同じだと思います! 話したくても話せない、そんな事情があるんです」

「そうかも知れません――でも相談くらいして下さっても・・・」



28: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/18(日) 20:59:01.10 ID:3zfOmQ280


□見滝原駅前

「それではこの辺で。そうそう暁美さん――」

「なんですか? 志筑さん」

「――先ほど、どんな手段でもと仰いましたが、どこまでする気ですか?」

「力ずく・・・は駄目ですね。穏便に、録音くらいでしょうか」

「面白いお方。ふふ、それではまた明日」


ほむらが視界から消え去るまで、仁美は気丈に振る舞った。

「志筑さん――ですか」

最後の最後までほむらと打ち解けられなかったことを痛感した。




仁美と別れた後、再びリボンを見つめ続けるほむら。

「さっきより色が濃いよね・・・」


――リボンに想いを込めてくれるかな


夢の中で聞いた台詞を思い出し、魔力を注ぎ込んでみるほむら。
するとリボンがますます紅みを帯びた。

「やっぱり・・・! あの夢は本当だったのかな」



35: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/21(水) 23:58:07.91 ID:KMht8LMR0
■結婚Ⅰ


その日からほむらはリボンに魔力を注ぎ続けた。


既に深夜。今日も眠気と戦いながらリボンを眺め続けた。
ほむらは気づいた――リボンに貯めこんでいた膨大な魔力が、容貌を変えて安定していたことに。

魔力を構成する波動の種類が明らかに異なっていた。
ほむらの魔力を色に喩えるなら――紫であるが、その波動は桃色を感じさせた。


「 しづき さん が いって たとおり 」

「・・・」


36: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:00:30.64 ID:0XUtM/kh0


「 みつけた わ 」


「 わた しの ただ ひとり の ゆ うじん 」



朦朧としたまま、虚空に囁きかける。


その瞬間からは寝食を忘れ、研究に没頭した。
研究と言っても、リボンの魔力をほむらの身に注ぎ込む平易なものだった。


また、学校近くに住み着いている野良ネコにも魔力を注ぎ込むなど
自分以外の生物に対しても、興味本位から研究対象とするようになった。


37: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:01:35.47 ID:0XUtM/kh0


ほむらの肉体はリボンの魔力に耐えられなかった。
桃色の力を体に注ぎ込んでは喀血、嘔吐を繰り返す日々を送っていた。

その光景はもはや人体実験に等しく、失った何かを埋め合わせるかのごとき所業だった。




『酷い光景ね。確かに、このころから様子がおかしかったわ』


『只のバケモノに成り果てた瞬間だ――ほら、また吐いた。
アノ得体の知れない暗い力が、暁美の自我を創り出したのさ。
知っているだろう? 暁美が持っていた怪奇小説に書いてあったぞ』




「ご めんね まだ あな たの名前 思い 出せない」


「でも あなたの力  私の中 に入って るよ」


「ももいろで とっても あった かい」



38: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:02:22.52 ID:0XUtM/kh0


以来、ほむらは単独で行動するようになる。

マミの特訓も、さやかの誘いも徐々に断るようになった。


和気藹々と集団で魔獣狩りする気は既に消え失せ、魔力に囚われるようになった。

赤いリボンに魔力を注ぐため、グリーフシードを集め続け、戦闘スタイルを吟味し魔力の節約を重視した。
しかし、この程度で採算が付くほど生半可な作業ではない。ほむらは最後の手段を選択することになる。


それはほむらも何処か頭の片隅にあった妙案だったのだが、
見てみぬ振りを続けるにはあまりにも――それほど魅力的で革命的な唯一のアイデア。


39: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:04:25.75 ID:0XUtM/kh0
□地下室


「・・・次は頭」


魂を吸われた人間を引きずりだし、リボンの魔力を注ぎ込んだ。
瞬間、水風船の如く四散した。


「駄目ね。これではキリが無いわ」

目に入った液体を魔力で蒸発させる。

「あーあ。次の人間を拾ってきましょう」

「魔力の補充もしないと」


魔獣に人間の魂を喰わせることで、穢れを取り除く唯一の手段
――グリーフシードをより効率的に収穫する、と同時に実験台も入手することが出来た。


実験台の使い道はただ一つ、『円環の理』を現世に宿すため、再現するため。
ほむらを突き動かす原動力は、「あの子にもう一度だけ逢いたい」ただそれのみ。


あの時、『円環の理』との只ならぬ因果を感じさせる出会いにほむらは魅了されていた。
目的を達成させるために人間をやめる覚悟だった。


否。


暁美ほむらは既にバケモノに成り果てていた。


既に――魔力に魅了されていた。


40: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:05:07.57 ID:0XUtM/kh0

『その子の名前は覚えてないのね』

『名前なんて当てにならないさ。誰かが「名は体を表す」なんて戯言を吐いていたが』


――――――――――――――――――
――――――――――――

41: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:30:03.20 ID:0XUtM/kh0


久しぶりの集団戦闘。マミ、さやか、杏子、ほむらの五人が一堂に会した。


佐倉杏子と呼ばれる風見野の魔法少女。
初めての顔合わせゆえ、ほむらは情報を手にする必要があった。



暁美ほむらは得物の弓だけを用いて、巧みに使いこなす。
魔獣が群がる戦場。文字通り、蝶のように舞い、蜂のように突き刺した。


ベテランの杏子が舌を巻くような戦闘技術、そのバトルスタイルにマミは最高の評価を下した。
さやかも負けじと魔獣と交戦するが、マミ、杏子にやや遅れをとっている。




清掃作業を終え――


「お疲れ様。いまからあなたに魔力をあげるからね」
愛おしそうな様子でリボンに話しかける。


――ほむら達はマミ達の元へ向かった。


42: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:31:46.53 ID:0XUtM/kh0


「四人ともお疲れ様。この地区は二ヶ月先までは平気だろう。さあ、早く浄化してくれ」

「うへえ、一番しんどかったよ」


ほむらはキュゥべえを睨み付け、路肩に横たわるさやかを尻目に、小粒のキューブを鷲掴みにする。
リボンを人数に勘定しないキュゥべえに苛立ちを覚えていた。



「暁美さん? 意外と濁ってるのね」

「私は燃費が悪いのよ。もう爆発するくらい」

「「・・・」」


不信感を募らせるマミとさやか。
魔力をセーブした戦いを続けた割には、元の紫色が認識できないほど黒く穢れていた。


「ははは、ルーキーの癖に大口叩くんだな」

「いいじゃない。グリーフシードは掃いて捨てるほどあるのだから」

「それもそうだな」


竹を割ったような性格。
ほむらは見た目や言動のみで杏子を判断してしまった。


43: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:35:53.04 ID:0XUtM/kh0


『そういえば暁美は五人と言い、インキュベーターは四人と言っていたな?』

『暁美さんはリボンを人間扱いしていたのよ。
円環の理がリボンの中に居ると考えていたのかしら』

『インキュベーター曰く、結論は今も出てないだろう。
リボンは魔力の変換機と増幅器の役目を持つ。それ以上は推論の域を出ない』


――――――――――――――――――
――――――――――――

44: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:38:00.58 ID:0XUtM/kh0

数週間後

マミ、さやか、杏子、ほむらの四人は魔獣討伐のために共闘していた。

ほむらはリボンを付けていなかった。

さらに数日後

マミ、さやか、杏子、の三人は、お茶会と称して連携を強める訓練をしていた。
ほむらが出席していれば全員、美味しい紅茶にありつけただろう。

45: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:38:29.40 ID:0XUtM/kh0
その数日後

マミ、さやか、杏子、ほむらの四人は魔獣討伐のために共闘していた。

マミがさやか、杏子をアシストする形で狩りは続いた。
ほむらはただ一人で魔獣を蹂躙した。極力手の内を見せないように振る舞いながら。



「暁美ほむら。最近気が立っているようだけど、どうかしたのかい?」

「そんなこと無いわ。いえ、佳境を迎えてきた、ということかしらね」

「そうかい? 君が度々姿を現さないから心配してたのさ」

「余計なお世話よ、キュゥべえ。私にもプライベートというものがあるのだから」

「ふうん。君がそういうのなら、きっとそうなんだろう」



ほむらはキュゥべえの不審な動きに、前々から勘付いていたが、
以前にも増して積極的に、表立ってが問いかけて来た事に焦りを覚えた。

寝床を変えたことが致命的だったと、ほむらは直感した。


46: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:39:56.47 ID:0XUtM/kh0
――――――――――――
――――――

□見滝原中学 屋上


「ねえ、最近ほむらの様子。おかしくない?」

「そう。美樹さんも気づいてしまったのね」


キュゥべえは階段の側に寝転んでいた。他に誰も入らないように監視している。

ほむらは魔獣狩りに於いて、全くといって良いほど魔力を消費していない。
狩りの後、にもかかわらず彼女のソウルジェムは澄み切っているほどだ。


一方で狩りを始める前のソウルジェムは穢れきっているかのようだった。
それを隠そうとして、集合前に大量のグリーフシードを使用している姿も確認されていた。

キュゥべえと契約した覚えの無い魔法少女。急激な性格の変化。
トレードマークである赤いリボンも付けていない。


47: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:40:31.08 ID:0XUtM/kh0

また、キュゥべえによると、ほむらのキューブ回収量は突出して多いらしい。
この事実に疑を抱いた二人は頻繁に意見を交わすようになっていった。


元々、個々人で調べていたのだ。
杏子はいざ知らず、マミとさやかは以前から、ほむらの観察を怠っていない。

紫の魔法少女――ほむらは信用するに足る人物か、改めて考えなおす時期が来ていた



「うん、クラスの人に聞いて回ってるんだけど、全然わからなかった。
住所も変わっててさ――」

「――不老不死だったりして」

「そうでしょ? 行方不明者が――」

「今日も図書館に篭ってるって――」

「――そういえば、家にあった写本が盗まれてたのよ。キュゥべえも全然知らなくて」

「また聞いて回ってみたんだけど、何も――」



――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

48: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 00:48:20.69 ID:0XUtM/kh0
■結婚Ⅱ

見滝原中学校別館。
県内で最大級の蔵書数を誇る図書館――の裏門に志筑仁美は居た。


二時間近くそこに立っている。
凛とした表情で、背筋を伸ばして、堂々としていた。


49: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:00:51.32 ID:0XUtM/kh0


『志筑氏との絡みが多いな』

『それもそうよ。美樹さんが困ってたら全力で手助けするような子よ』

『随分と疎遠らしかったじゃないか』

『魔法少女のことは隠し通さないとね。そもそも魔力コントロールに慣れてなくて、
美樹さんも暁美さんと同様、クラスの子を入院させてしまったから・・・』

『志筑氏を巻き込みたくない気持ちはわかるが、美樹も不器用な子だな』


――――――――――――
――――――

50: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:05:20.95 ID:0XUtM/kh0
閉館時刻の二十二時を少し過ぎた頃、建物から待ち人が現れる。


「あら、暁美さん。このような夜分に、奇遇ですわ」

「こんばんは。では失礼するわ」


足早に去るほむらを必死に引き止めようとする仁美。


「お待ち下さい。目すら合わせないなんて、失礼ではありませんか」


失礼と言われた。眉間にしわが寄る。


「殆ど初対面の私と貴女。待ち伏せする方が、余程失礼では無いのかしら」

「何となく、今宵は、いつにも増して寒気がするので連れを探していたのです。
暴漢に襲われるやも知れませんし、駅前まで一緒に如何でしょう」

「学級委員長さんだったかしら? 私はこれから大事な用があるのだけれど」


「大事な用事――わかりますとも。夜更かしはお肌の大敵ですわ。
それと志筑とお呼びください。ささ、急いで駅まで行きましょう」


以前、ほむらが仁美にかけた台詞をここで使った。
仁美は何としてでもほむらに興味を惹かせねば、と腐心した。


「手を離してくれるかしら。歩き辛いわ」


無意識に右手を掴む。氷のような――底知れぬ感触に吐き気を覚えるが、
仁美は笑顔を絶やさずに演技を続ける必要があった。



51: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:06:17.06 ID:0XUtM/kh0


「手を離してくれるかしら。歩き辛いわ」


無意識に右手を掴む。氷のような――底知れぬ感触に吐き気を覚えるが、
仁美は笑顔を絶やさずに演技を続ける必要があった。


「いいえ、そうはいきません。ところで暁美さん、学校は慣れましたか。
最近、ずっと塞ぎ込んでいる様に見えます」

「随分と辛辣な物言いね、志筑さん。成績優秀者の掲示を見ればわかるでしょう。
それに今、夢中になっている事柄があるの。口を出さないで貰える?」

「事柄・・・ですか。金銀財宝、不老不死、満漢全席のうち、どれでしょうか」


恭介が入院して間もなく、さやかが仁美に問いかけたフレーズだ。
つい口を突いて出てきてしまったが、ほむらの反応は存外悪くなかった。



52: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:07:18.60 ID:0XUtM/kh0


「強いて言うなら、不老不死が一番近いわ。
だって残りの二つ、志筑さんなら簡単に実現出来るでしょう?」


「不老不死ですか――うんうん、わかりますとも。
永遠の美貌というものは私達女性の憧れですよね」



「時じくの香の木の実」

「?」

「聞き流して頂戴」



酷く落胆するほむら。トキジクノカグノコノミ――何かのアナグラムではないか、と
仁美は頭の中でパズルを組み立てる。しかし、止まらぬ吐き気が思考を邪魔する。


体中から冷や汗が止まらない。仁美は核心を突くであろう話題を出すことにした。


「時に暁美さん。不老不死になったらどうなさいますか」

「そんな易々と仮定しないでくれる? 虫唾が走るわ」


仁美は必死に別の解釈を探し始めた。
ここで怒らせては元も子もない。右手にも力を入れる。


53: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:08:13.88 ID:0XUtM/kh0


「いいえ。そういうことではありません。
どのようにして、不老不死を確かめるつもりでしょうか」


「そうね。同じ方法を誰かに施して――殺してみればいい」


「飄々と言ってくれますね。でも暁美さんなら・・・そう云うと思いました」

「どういう意味よ。まあ、望んで不老不死になろうとする愚か者は
――そんな与太話どうでもいいわね」

「与太ですか」


仁美は酷く焦った。駅が視界に入ってきたためだ。
絶好の機会をみすみす逃すまい。残された時間を逆算し、己の話術に全てをゆだねた。


54: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:08:54.86 ID:0XUtM/kh0


「私にとっては、ね。気づいたら永遠と生きている、位が丁度いいのよ」


「では永遠は副次的な物だと。愛し合った果てに永遠があるのだと。
暁美さんはそう仰るのですか」


「飛躍しすぎよ。でも何だかとても素敵な響きね」


焦りと吐き気と達成感の三つ巴が仁美に降りかかった。
ほむらは終始つかみどころの無い印象で、その真意は全く持って掴めないままだった。



55: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:09:59.32 ID:0XUtM/kh0
□見滝原駅前


「では私はこの辺で。暁美さん、お付き合い感謝いたします」

「ええ。貴女と話した二十五分は無駄ではなかったわ」

「愛――について、ですか」


「いいえ。目は心の鏡。目は心の窓。目というのは人間を構成する重要な器官なのね」

「何のことでしょうか」

「目は口ほどにものを言う、という事よ。眼球は大事よね」


最後の台詞に思わず顔を引き攣らせる仁美。
ほむらはほむらで仁美の方向すら向いていない。


以前と変わらない――どこか遠くを見つめる眼差し。それを見た仁美は肩を撫で下ろした。


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

56: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:11:29.54 ID:0XUtM/kh0


□志筑邸宅


駅から自宅に戻るまで、仁美は何度も嘔吐した。
魂が抉られる――比喩抜きの率直な痛みが脳内を支配した。

自分の思惑が見透けてしまったか、と仁美は幾度も肝を冷やしていた。
目は口ほどにものを言う。とても恐ろしい捨て台詞だった。


それでも仁美は高揚している。
指定鞄の底に潜めていたICレコーダーを取り出して、握り締める。


「やりました。やりましたよ・・・さやかさん。
これで暁美さんの行動理念を掌握できるはずです」


ICレコーダーのバックアップの準備に取り掛かる。
額の脂汗をガーゼタオルで拭う。


57: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:12:20.00 ID:0XUtM/kh0


「だってそうじゃないですか。只の中学生に何が出来るんですか。
殺人? とんでもない。況してや不老不死なんて常軌を逸してます」


汗で 着が透けていることに気づいた。


「流石に暁美さんが『不老不死』と宣った時は生きた心地がしませんでしたが。
一瞬、暁美さんを疑ってしまいましたが・・・」


「度重なる失踪者と暁美さんの振る舞いは、何の関係も無かったのです。
さやかさんは間違っていました。さやかさんの抱く疑いは私が晴らしました」


鞄からペットボトルを取り出し、全て飲み干す。

58: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:15:07.93 ID:0XUtM/kh0


「後は偶然を装い続けるだけです。さやかさんが暁美さんの近況を知りたがった時、
私は何の役にも立てませんでした。ですが、今度は違います」



「次も、その次もきっと、真っ先に私を頼って下さるはずです。やっと役に立てる時が来ました。
唯一無二の親友のためなら嘘も突き通しましょう。演じきってみせましょう」


「ICレコーダーは護身用で所持しています。偶然帰りが遅れ、偶然暁美さんと遭遇し、
偶然、突拍子もない話題になった。当然、レコーダーの起動も不本意です、と」



59: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:16:24.01 ID:0XUtM/kh0


『美樹さん・・・志筑さんにどんな聞き方をしたのよ』

『金銀財宝のくだり、失踪者の話題が出てる辺り、美樹は余計なことを口走ったらしい』

『美樹さんは正義に燃えて突っ走る子だった・・・から』



『ところで美国さん。どうして志筑さんの記憶が・・・』

『――基本的に暁美の人生を、水晶の目で追っている。わかるか巴?』

『どういうことよ』

『志筑は失敗している。全て暁美に筒抜けだ』


60: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/22(木) 01:18:30.59 ID:0XUtM/kh0


同日――二十六時過ぎ


魔力を補充し、ほむらは急いで帰宅した。
消費量を悟られないように、グリーフシードは別の地区に掃き捨てている。


今日もまた失敗作を自室の地下に保存した。

見た目はほむらと瓜二つの人型。


「動くけど、この素体は脆弱。使い物にならない」


ほむらは五段階の魔力障壁を展開した。
キュゥべえ、仁美が余計な詮索をし、計画が邪魔されることを案じた上の策だ。



『キュゥべえや私たちはおろか、志筑さんにまで疑われて・・・。
だからなりふり構っていられなかったのね』

『そうだな。そしてこの二十日後、暁美は――』


64: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:05:14.03 ID:eOfYaZuh0

□ティロホーム


硝子製のローテーブルを囲んで座るマミとさやか。
マミお手製のハーブティを飲みながら、お互いの心積もりを披露していた。


「でも、どうしてマミさんはあたしの意見を――?」


「暁美さんが裏で何かをしている、ってことには感付いていたわ。
魔力の管理に関しては、私以上に気を遣っているはずだもの」


あの濁り具合――不可解だわ、とマミは呟く。


「ただ、私利私欲で動くような子じゃ無かったから、ね」

「あたしもそう考えてたし、今でもほむらを信じてる。
あいつ、前々から何か一人で抱え込んでる様子だったけど」

「そうね。暁美さんはそういう子よね。でも意外だわ。
こういう時って、キュゥべえが真っ先に動くイメージだったのよ?」


「あたしもキュゥべえも――決め手に欠いていた。
友達から奇妙な話を聞いたのが、一番大きいかな」



65: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:07:06.74 ID:eOfYaZuh0



「話? 此処最近増え続けている失踪者のことかしら?」

「それも含んでるのかな? 正直考えたくないけど。話を戻すよ。
ほむらと仲良くなった子が居てね、幼馴染の――その子が色々話してくれて」


「あら、上条くんね。美樹さんも人が悪いわ」

「違いますって! んで、その話を聞いたら大分絞れてきたというか。
マミさんが保存してたアレも無くなった、ってことはやっぱりソレ絡みだろうなって」

「でもソレが事実だったら私達には荷が重過ぎないかしら?」

「いいの、いいの。ほんのちょっと早くなるだけなんだから」



――――――――――――

『好奇心は――をも殺す』

『アレは写本、羊皮紙のこと。ソレは円環の理。
何が早くなるかはわかるでしょ?』

66: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:08:07.80 ID:eOfYaZuh0

□公園

夕焼けの中で遅めの昼食を摂るほむら。
久しぶりに赤いリボンを取り出し、二人きりで魔獣狩りをした直後のことである。


「まろかーまろか!」

年の頃は三、四か。茶髪の子供が擦り寄ってきた。
ほむらが至極迷惑そうに睨み付けると、元居た場所に逃げ帰っていった。

よくみると、右手に持った棒切れで地面に絵を描いている。

「まろか。それはあなたの名前?」

「あい?」

子供の横に屈んだ。

「その絵は・・・」


67: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:09:25.94 ID:eOfYaZuh0

「えへー」

女の子の絵である。フリルの、いかにも魔法少女な服を着ていて、リボンを付けていた。


――ツインテール


良くみるとあの子に似てないことも無い、とほむらは頷く。


「りぼん・・・まろか」

突然、ほむらのリボンを引っ張る子供。
リボンに触れ続けても、子供は何の変化も示さない。


「えっ? 嘘でしょ・・・」

「?」


これはいいものを見つけた。


「いま、りぼん。つかんだよね」

「あいっ」

「きぶん、わるくないの?」


首をブンブンと横に振る子供。

68: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:10:50.41 ID:eOfYaZuh0


リボンに触れるだけでも、大抵の人間は魔力中毒を起こす。
魔法少女とて例外ではない。掴んで引っ張ればそれだけ魔力が移動する。


具合が悪くなることは当然、下手をすればその身が崩れ去るほどの力である。
素体探し――あの子の体を創る上で欠かせない作業。


リボンの魔力に耐えられなければ、当然ながら『円環の理』の前に砕け散るよりない。
ほむらは家族に女児が居る可能性を考慮して、もう少し相手をすることにした。




「あれ? 貴女もまどかを知ってるの?」

隣に立っていると、三十代の女性が話しかけてきた。

どうやら保護者らしい。


69: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:12:04.36 ID:eOfYaZuh0

「わからないわね。聞き覚えがあるような無いような」


ほむらが答えると、女性は眉間にしわを寄せた。
女性はただならぬ何かを感じ取っていた。


「ふーん、変なこと言っちゃってごめんね。
 ・・・そのリボン可愛いねえ。あたしの好みにド直球だわ」

「あげませんよ」

「いいじゃん、いいじゃん。ハチマキはやめてツインにしようよ」


そういってリボンに触れる女性。
この親も耐性――のようなものがあった。


「もういいでしょ。それじゃあさようなら」

ほむらは喜びをひた隠しながら公園を去った。

「あっ。素っ気無いなあ、最近の子は」


70: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:12:37.91 ID:eOfYaZuh0


素っ気無い? そんなことないわ、と背中で語るほむら。



付けて来た。


三人家族

表札には

『鹿目』



捜し求めていた



最高の素体


71: ほむら視点 ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:14:37.57 ID:eOfYaZuh0


そして、今日。この時間。

あの子は私の部屋で本を読んでいる。

陽の光に照らされて、かつて夢見たあの子は本を読んでいる。

まだまだぎこちないけれど、私はとても満足している。



悠久の時の流れに逆らってでも創り上げる程の遺志が、私に味方してくれたのだ。

否。時空を越えて廻り逢った運命の二人なのだから、遺志も意思も関係ない。

私たち二人は、そうなるように創られたのだ。



魔力さえ注げば、あの子は微笑んでくれる。

魔力さえあれば、私は生き続ける。


72: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:16:05.04 ID:eOfYaZuh0


『桃色の髪・・・』

『目を背けないでくれ。これが鹿目タツヤの成れの果てだ。
もし姉が居たとすればこのように可愛らしい子――おっと、とんでもない失言だった』


――――――――――――――――――
――――――――――――

73: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:17:09.16 ID:eOfYaZuh0

数日後


□風見野

マミと杏子の打ち合わせが始まった。

テレパシーが傍受される恐れがあったので、
極めて原始的な手段――直接、風見野で会うことになった。


「ほむらが円環の理を創り出したって?」

「だからそれを確かめるんじゃない」

「わざわざ人ん家までねえ・・・」


「私の家から盗まれた写本。最近の失踪者の減少。暁美さんの思惑と魔力消費量の推移。
この三つを踏まえると、一番自然な可能性がこれなのよ」

「創ったとして自分の家に置いとくか?」

「住所も偽装しているらしいわ」


「マミも考えるよなあ」

「何よ。そもそも、美樹さんの提案よ」

「そんな都合良く居るわけないだろ」

「あら、私の言う事、いつも正しかったでしょ?」

「知らねえな。昔のことは全部忘れちまったよ」

74: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:17:50.28 ID:eOfYaZuh0

「住所は此処。念のためキュゥべえも連れて行きなさい。
いいわね。見滝原では、単独行動は絶対に控える。解った?」

「マミ。アンタはどうするんだ?」

「私と美樹さんはキューブの収集を続けるわ。
キュゥべえも、秘密裏に手伝ってくれるって。使わないで済むのが一番なんだけどね」


「戦うのか?」

「暁美さんは――変わったわ」

「ふうん。なら外から偵察するまでも無いだろ。隙を見計らって燃やし尽くせばいいさ」

「美樹さんがまだ暁美さんを信じてるから駄目。私達の思い違いかもしれないわよ?」

75: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:19:09.82 ID:eOfYaZuh0

■戦争

幾日かの準備を経て、杏子は見滝原に移動した。
強烈な魔力の波動を感じ、二度引き返した上での、三度目の見滝原である。


□ランドマークタワーの展望台


コイン式双眼鏡には赤いソウルジェムがめり込み、即席の魔道具と化している。


「マミによると、あの辺なんだが・・・」

「本当に彼女と事を構えるつもりかい?」

「アイツの実力は折り紙つきだ。だけどな――キュゥべえ」


佐倉杏子が顔をあげ、双眼鏡からソウルジェムを取り出す。


76: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:22:20.03 ID:eOfYaZuh0


「アイツはもう、手遅れかもしれないんだ。話して駄目なら殴れば良い。
殴っても駄目なら――それに、魔法少女は否が応でも、命懸けで戦わなきゃいけないときがくるものさ」

「君らしくもないね」

「知ってて言ってるのか?」


ソウルジェムを指輪へと戻し、怪訝そうな顔付きでキュゥべえを見つめる。


「親父は、カラッポの教会に一人で突っ立って、誰かが来るのを待ってた。
自分の努力があたしの魔法だった、って気づいたとき親父はぶっ壊れた」


もの思わしげな様子で話し続ける。


「アイツは違った。魔法の力を受け入れた。受け入れて、徹頭徹尾、自分のために使ってる。
それが悪いとは言わないよ。言わないけどね」


「暁美ほむらは魔法に魅せられている、ってことかい」

「さあな。努力を履き違えてる。親父が心中してなかったらこうなってただろうさ」

「それでさやか達が言ってたことは本当だったのかい」


77: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:23:00.93 ID:eOfYaZuh0


佐倉杏子は視線を反らした。

「ああ、この目でしかと見届けたよ」

「黒だ。それも、真っ黒」




――『円環の理』がこの街に居る




「マミ達に伝えておけ。対象を捉えた、接触には細心の注意を、ってね」

78: ほむら視点 ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:24:17.96 ID:eOfYaZuh0


あの子の存在は創りだせた。

次はあの子そのものを宿したい。

魂や錬金術に関する書籍を片っ端から集め、時間の許す限り、読みふける日々だった。



休日は市街へと足を運び、閲覧禁止の棚を探しては頭に詰め込む日々だった。

勿論、あの子に今すぐ逢いたいという気持ちも無視できないが。

あの子で満足するわけにはいかなかった。

あの子は、あの懐かしく、暖かい桃色の光は持ち合わせていなかった。

あの子は、姿形がよく似た只の器に過ぎない。


79: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:24:56.58 ID:eOfYaZuh0

『このときは具体的なアイデアが浮かんでいなかったようね』

『少量の魔力を注ぎ続けていたようだ。他の選択肢が見つからなかったのだな』

80: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:26:31.13 ID:eOfYaZuh0
二日後

□暁美邸宅前


巴マミ、キュゥべえは下見をしていた。
杏子の報告を疑っているわけではない。半ば好奇心のようなものだ。


ただ、周囲に満ち溢れる禍禍しい魔力を考えると、果たしてそれが『円環の理』かどうか疑わしい。
そこで二人は邸宅を一周してみたが、生憎それ以外の力は感知できなかった。


「ここの二階の窓際に座ってたのよね。霞んでいてよく見えないわ」

「魔力障壁が邪魔をしているね。六層かな、入り混じっててわからないよ」


魔力障壁の性質は様々だが、少なくとも魔法使用の制限、
外部からの観察妨害、人払いと言った呪術が施されていることは判明した。


「ハシゴを使ったらどうかしら」



「無理そうだね。障壁を何とかしないと近寄ることすら困難だ」


81: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:27:56.17 ID:eOfYaZuh0


「障壁の薄い正面玄関を壊すか、障壁を中和するしかなさそうね。
暁美さんに小手先の手段が効くかわからないけど」


「それもそうだけど、魔力障壁の発生源が『円環の理』だったら非常に不味い。
無闇に刺激を加えることでシステムが発動するかもしれない。

あれは魔法少女に於ける、最大の天敵と言っても過言ではないよ」



一般に『円環の理』は、「呪いを撒き散らす前に魔法少女を消し去る」ものであり
そこに自我は無く、粛々と続く化学反応のような前提があった。


だが、暁美ほむらの「少女が話しかけてきた」という伝聞を前にすると、
『円環の理』が喜怒哀楽を持つ少女――魔法少女の可能性さえ否定できない。


刺激すること、それ自体が非常に危険な行為である。
化学反応より複雑であろう少女の自我。素手で触るなど以ての外だった。



「作戦開始は明日にしましょう。少し障壁に細工して、それから接触を試みるわ」

「わかった。ボクも準備しておこう」

82: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:29:56.67 ID:eOfYaZuh0
翌日


この日も、ほむらは学校の図書館に篭っていた。


昨日、ほむらは異物を感知したため、障壁を十層に増築していた。

【不信、執着、妄想、憧憬、自由、独善、渇望、恋慕、虚栄、不信】

九の性質を持つ障壁群は、複雑に、深く、混じり合っていた。


83: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:31:33.28 ID:eOfYaZuh0
――――――――――――――――――

『これは、かつてあったかもしれない世界の怪物をモチーフとしているのよ』

『魔女の厨で調べてもいいかも知れない。ただし、あれは魔方陣だがな』

『若返りの薬を作るときの呪文ね。道理で同心円状に展開してあったわけだわ』

――――――――――――――――――
――――――――――――

84: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:32:20.31 ID:eOfYaZuh0


ハードカバーの分厚い書籍を枕にして、外を眺めるほむら。
今にも雨が降りそうな、そんなどんよりとした空に浮かぶ雲を、目で追いかけ続けていた。


そこに、新しい図書委員が近づいてきた。学級委員長でもある、緑髪の優等生。


「お久しぶりですね。暁美さん」


志筑仁美がほむらの正面に座る。


「なんだ志筑か。さやかとの仲はどうなったのかしら」

「よそよそしさも薄まり、比較的良好だと思いますわ」


興味無さそうに外を眺めるほむら。


「今日は晴れたり曇ったりして落ち着かないわね」

「にわか雨かも知れませんね。あちらの方は陽が燦々としているみたいで――」



85: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:33:19.08 ID:eOfYaZuh0

「少し伺いたいことがあるのだけど」

「私もそう思っていたところです。暁美さん。『さやか』とはどういうことでしょう」

「さやかにだって私のような友達が居るわよ? 嫉妬は良くないわ」


「違います。暁美さんは変わってしまいました。
あの日、勇気を出して話しかけた時――あのときの面影がありませんの」

「夜中は皆そういうものでしょう。用事も邪魔されたとあれば、気が立つくらい造作も無いわ」


勘違いをしているほむらを見て仁美は溜息を吐いた。


「違います。夕方。あなたがリボンを見つめていた日のことです。
 ――暁美さん、リボンは? 随分前から外されているようですが」



86: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:34:24.49 ID:eOfYaZuh0

「あれはもう必要ないわ。本来の姿を取り戻した。後は魂だけよ」


「本来? 魂・・・って」

「志筑、貴女はどこまで鈍感なのよ」


いい終わると、何かを思い出したように含み笑いをする。
二人しか居ない図書館。居たとしても人目を気にせず、ほむらは笑っただろう。


仁美の眼球を指差し、声高々に宣言した。


「志筑――貴女はもう一人ぼっちよ。私と貴女は似た物同士、でも私には魔法がある。
永遠に近い時間も持っている。仲間外れにされて可哀想。貴女はもう独りぼっち――」




87: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:36:00.39 ID:eOfYaZuh0

「魔法・・・一体何を」

「ICレコーダー。発信機。貴女は私に挑んだけれど全部筒抜け。
志筑、つまらない子だったわ。さやかなら、もっと上手く騙してくれるはずよ」


ほむらは見開いていた目を伏せ、酷く落ち込んだ様子でぼそぼそと呟いた。
感情の起伏が激しいほむらの様子を見て、仁美はただならぬ恐怖を覚えた。


「ICレコーダー? よく存じませんが・・・」


ほむらは再び目を見開いて、仁美の緩くウェーブがかった髪を思いっきり引っ張る。
仁美は血の気が引いた。よもや、自分が暴力を受けるとは思っていも居なかった。

今にも「魂が抉られる」ような気がした。



「嘘は善くないわ。お目目がくるくるしてるわよ。貴女は私を売った。
貴女の『ただ一人の友人』さんは貴女を売った。それだけのことよ」


「さやかさんが私を売った・・・?」


「違う、違うわ。気がついたら値札が貼ってあったのよ」

「嘘よ。嘘・・・私の唯一無二の、ただ一人の・・・」



88: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:37:10.85 ID:eOfYaZuh0

翡翠色の髪をさらに引っ張る。額と額とがくっつくほど近づく。
ひし形状のソウルジェムを仁美の首元に突き刺し、不安を煽ってみるほむら。


「これは私。綺麗な宝石でしょう? 澄んでいるでしょう? 鋭いでしょう?」


「痛い! 離してください、やめて」

「貴女は私と違って、澱んでいるし鈍いのよ」



「いやあ! いやあ!」

「ああ! エレシュキガルよ、エレシュキガル。貴女のお目目じゃ私は殺せないわ。
はぁ、きれいなお目目。貴女じゃ全然立ち向かえな――」

――――――――――――――――――
――――――――――――


89: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:37:52.84 ID:eOfYaZuh0


「人間ってこんなにも脆かったかしら?」

髪の毛を離すと、糸が切れた人形のようにパタンとその場に倒れこんだ。
テーブルごと仁美を蹴り飛ばし――


「・・・」

「障壁に異常・・・」


周囲に隠匿の魔術をかけて、ほむらは神速で自宅を目指した。


90: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:38:30.46 ID:eOfYaZuh0

□暁美邸宅  正面玄関


「キュゥべえは何かあったら私たちに知らせること。いいわね」

「了解したよ」

「それじゃ、全員で入りましょう。佐倉さん、美樹さん準備は?」

「「おっけー」」

「生き残ってくれよ。キミ達はボクの自慢の魔法少女達なんだから」

「へっ、言われるまでもねえよ」


キュゥべえは障壁に阻まれて、中に入ることが出来なかった。


 

92: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:41:02.75 ID:eOfYaZuh0

□内部


「一階建てじゃないよな? 何でワンルームなんだよ」

「階段が無いわ。移動手段を探さないと・・・」

「へえ、随分と広いんだね。こっちのほむらの家は」



素材のよくわからない、淡紫色のラウンドテーブルが中心に一脚。
それを円形に囲んでいるソファが二列。内側から青、赤系の暖色である。

円形といっても所々欠けていて、さながら出来の悪いランドルト環のようだった。


最外殻には直方体のオブジェが等間隔に十二。
高貴な翡翠色で、ハイセンスと言ってもいい代物だ。


一方で、呪符や毒々しい紋様が至る所に散らばっていた。
得体の知れぬ気持ち悪さが三人の精神力を蝕んでいる。


93: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:42:06.36 ID:eOfYaZuh0

「こっちの家? どういうこった」

杏子は壁に描かれた紋章を見ながら、さやかの相手をした。


「いやあ、学校の名簿を盗み見たんだけどね。
もう一つの家は擦り切れた、抜け殻みたいなボロアパートだったんだよ。
勿論、魔力は全然無かったから親御さんの――ああ! ほむらは一人暮らしだったね」


辺りを物色しながら、溌剌と受け応えるさやか。


住所を偽装していることは知っていたが、
杏子は二つ以上の所在地があることを聞かされていなかった。


情報に齟齬がある。


――時として悲劇を起こしかねない、致命的なミスである。



94: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:43:34.90 ID:eOfYaZuh0


「おい、迂闊に触るんじゃねえ。魔力の護符が至る所に貼ってあるんだ」

「ふふん、甘いね杏子。こういう時は額縁やソファの配置を――」

「美樹さん? 罠もあるかもしれないから気をつけるのよ」


突然、轟音と振動が彼女達を揺らした。
テーブルの中央に大きな穴が現れる。


「マミさん・・・。杏子・・・。隠し部屋、見つけちゃった」

「「はあ?」」

「赤いソファが鍵だったのね。青いソファならきっと二階に――」


造作なく移動させると、今度は天井の一部が崩れ落ち、屋根裏へと続くはしごが顔を覗かせた。


「――ビンゴ! さ、行きましょう」

「一応、地下から見てみようよ」


95: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:44:34.51 ID:eOfYaZuh0

□地下室

「瘴気が凄まじいな。息苦しいし、性質が悪い」

「薄暗くて良く見えないよ。ん、マミさん何してるの?」

「ちょっと、ね。昨日垂らして置いたリボンを伸ばしてるのよ。
私の性質なら障壁を構成する魔力を掬いとれるから」

「繋ぎ止める、って奴か? マミは多芸だよなあ」

「ふうん。何の変哲も無い、黄色い布にしか見えな――ぁ」


「どうした?」


対してさやかは無言のままだった。
顔を引き攣らせたままで、遠くの人工物を指差した。


「水槽、なのかしら。少し澱んでいて良く見えないけど・・・それがどうか――」


96: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:46:19.83 ID:eOfYaZuh0

直後


絹を裂くような悲鳴が響き渡り、空間を支配した。



無理も無い。
元人間がそこに在ったのだから。入っていたのだから。



上半身だけの物
手足が綺麗に切断された物
指先だけ切り取られた物
お腹に大きな穴が開いた物
左半分がすっかり無くなっている物

――――――――――――
―――――――
――


97: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:46:59.12 ID:eOfYaZuh0


死体が幾つも幾つもあった。


死体。死体。死体。死体。死体――


その全てが、漏れなく、例外なく、尽く、徹底的に、



両目を抉られていた。


98: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:47:48.62 ID:eOfYaZuh0


「・・・引き返すぞ」


杏子は二人の手をとった。
二人とも棒立ちになっていた。


「おいっ。聞いてるのか」

「ぁ・・・あ、この人たち全部・・・」

「目に焼き付ける時間は後だ。さっさと引くぞ」


杏子はそのままマミとさやかを引っ張っていった。


99: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:48:57.63 ID:eOfYaZuh0


数十分の休息をとり、二階へ足を運んだ。


「・・・」


「流石に何も無さそうね」

「地下の施設はすごかったけどねー。もう吐きそう」

「立ち直り早いわね・・・」



「佐倉さん。本当に、こんな場所に女の子が居たのかしら?」


「魔力で丁寧に編んであった上、障壁も多くて見づらかった。
でもね、確かに見たのさ。不可解な魔力の波動を宿した存在をね」

「そうなの杏子? あたしには何も感じられないよ」


「今は微弱だ。集中しないと全然感知できないが・・・こっちだな、ついてこい」


杏子は好奇心に溺れていた。
ほむらが求めていたものを一目、焼き付けておきたかった。



100: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:49:43.12 ID:eOfYaZuh0


―――――――――――――――――――――


木造りの一室。小綺麗な書斎だった。

霧のように細かく、落ち着いた匂いがあたりに漂う。

窓から漏れ入る静かな残照。

慎ましやかで、しっとりとした情感あふれる光景。




陽だまりの中。少女――


――『円環の理』が椅子に腰掛けている



―――――――――――――――――――――


101: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:50:15.29 ID:eOfYaZuh0


赤いリボンで丁寧に束ねられた桃色の髪。象牙のように澄んでいる桃色の瞳。

ティアードフリルレースの、白くて清貧なワンピースを身に付けている。


少女は三人の訪問者に興味を示さず、読書に没頭している。

表情を見ても、何一つ窺い知ることは出来ない。


102: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:50:56.52 ID:eOfYaZuh0


「こいつが――『理』」

「・・・」

「こんにちは。貴女、お名前は?」

「・・・」

「・・・」

「・・・」



少女は黙々と読んでいた本に栞紐を挟む。
それをおもむろに机に置くと、三人の方を向いてにこりと笑った。


103: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:51:32.83 ID:eOfYaZuh0


「あら、かわいい」

少女はにこりと笑った。

「このリボンは、ほむらのかい?」

少女はにこりと笑った。

「へえ、本当に存在するんだな。アタシはさやか達みたいに消え去る瞬間見たことなかったし」

少女はにこりと笑った。

「触ったら天国いけるんじゃね? さやかが実験台な」



104: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:52:05.75 ID:eOfYaZuh0


「はあ? 戸籍上死んでるあんたが一番の適役じゃない」

「フン、怖気づきやがって」


少女はにこりと笑った。
少女はにこりと笑った。
少女はにこりと笑った。
少女はにこりと笑った。
少女はにこりと笑った。


「これ。本当に『理』か? それとも、死の間際だけ『理』として機能するのか?」

「わからないけど、今のところ無害だよね」

「槍越しなら、つついても平気だよな」

ソウルジェムから多節棍の一節を取り出す。

「あ、駄目よ佐倉さん。乱暴しないの」


105: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:52:41.66 ID:eOfYaZuh0


トン、と押された少女は倒れこんだ。


二つの眼球がコロコロと床に転がり落ちる。

眼窩から血が噴き上がった。


「ひぃ!」


その噴水は止まる事無く、辺り一面に広がった。
木の机も、木の床も、レースの服も、全て真っ赤に染め上げた。

ソレはにこりともしなかった。


106: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:53:18.38 ID:eOfYaZuh0


「やっべ、隠すぞ」

「さっきの地下室にしましょう」

「急げ」


佐倉杏子がソレを引っ張ると、指がぼろぼろと取れてしまった。


「見つかったらヤベえな」

「で、どうするのよ」

「幻術を敷くから今すぐ引き返せ。言質は取った。ほむらと敵対する」

「はあ、確かにあの実験台の数、人間の所業じゃないけどさ・・・でも」

「美樹さん、急ぐわよ。拡散した魔力を感じれば暁美さんが引き返してくるはずだわ」




107: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:54:06.39 ID:eOfYaZuh0

「マミさん。あたしは残ります」

「美樹さん? 悠長な事を言ってる場合じゃないわ」


「あたし達、魔法少女なんだよ。もう人間じゃない。
でもね、マミさん。想いは伝わるんだよ――魔法少女ってそういうものなんだよ」

「美樹さん・・・」

「言う様になったね、さやか。もう一人前だな。
説得して駄目なら拳で語り合えばいい。想いは徹頭徹尾貫くものさ」

「うん。あたしはほむらを信じてる」


「私は結界を何とかするわ。絶対に死なないでね」


二人のソウルジェム各々に、手をかざしながら呟いた。


「内部はまかせろ。マミは外部、さやかは待機。
急げ、八十秒後に結界を展開させる」

「「心得た!」」


108: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:55:12.53 ID:eOfYaZuh0
□外


「急いで、マミ。暁美ほむらの魔力を感じるよ」

「今から、見滝原全域に守護の魔術を植えつける。それが終わったら障壁の中和。
キュゥべえは見張っていて頂戴。それと別の固体に運搬を頼めるかしら。
追加でキューブを百八十個ほど届けて欲しいの」



「もう手配はしてある。そしてこの場に六十個。マミ達も各々四十個持ってたよね。
それなら問題ない。心置きなく、全力を出してくれ」


「それじゃいくわよ」


「まって、全域にかい? それは無駄じゃないか」


「街全体を巻き込んでしまったら大変だもの。出し惜しみはしないわよ」


憔悴しきった様子を見せまいと、気丈な笑顔をつくる。


「それに、暁美さんの魔力障壁は数も錬度も型破り。
だから守護の結界を展開すれば、きっと障壁の反応も垣間見ることが出来る。
昨日仕掛けたリボンも考慮すれば、厳密に、性質を突き止められるんだから」



109: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:56:17.89 ID:eOfYaZuh0


障壁は魔術の行使を妨害し、効力を減退させ、侵入者の精神を蝕む。
邸宅に残った二人の安否を考えると、直ちにこれを除去する必要があった。


グリーフシードを鷲づかみにし、詠唱を始める巴マミ。
大気中に淡い粒子が霧状に広がり始めた。


「展開している障壁は――
不信、執着、妄想、憧憬、自由、独善、渇望、恋慕、虚栄、不信
――十層構造になっているようね」


使い終わったグリーフシードをキュゥべえに与え、足元に魔法円を形成する。


魔法円――魔術作業の場となる聖域を定義する物質的基盤である。
また魔術作業にとって邪魔になりうる外部の魔力を遮断する結界としての役割を持っている。



110: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:57:52.39 ID:eOfYaZuh0


余談だが、暁美邸宅のオブジェも同様の役割を保持している。
魔術師の作業領域を区切るために床に「円環」が描かれていた。


この円環は、敵対的な想念(魔術作業の妨げになる想念)を締め出すために
魔術師が頼みとするところの、威光としての、神聖なる名前によって護られる。


無造作に散らばっているかのように思えた紋様や家具の配置は、
全て余す事無く魔術のための道具であり、触媒であり、増幅器であった。


「無力、慈悲、祝福で中和を試みるわ。次に救済、敬愛、献身で佐倉さん達の補助を。
成功したら暁美さんを『招待』するわよ」


「どうして、さやかと杏子を連れて逃げなかったのかい?」

111: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:58:44.74 ID:eOfYaZuh0


「そうするのが正解だったかもしれない。でも彼女達の魔法を補助することにしたわ
――大丈夫、安心して。私達は魔法少女。希望を振りまく存在なんだから」



花柄の髪飾りを外し、自分を激しく鼓舞した。



「それとキュゥべえ。ソウルジェムを渡しておくわ」


「マミ、殊勝な心がけだよ」


ほむらに勘付かれて奇襲された場合への備えだった。



112: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/23(金) 23:59:55.63 ID:eOfYaZuh0


魔法円の作成、呪文の詠唱、身振り等の印は、魔術を具体化するために必要な工程ではある。
高度な呪文になるほど魔法に関する造詣の深さが求められるのだが、

「想う」だけでも魔術の行使は可能である。勿論、威力や精度は大幅に下がる。


換言すると、魔獣程度の相手には「想う」だけで十分である。
魔法少女が相手であれば、詠唱や印を行うことによるリスクを考えなければならない。



また、訓練を積んだ魔法少女は、五感を失ったとしても魔法の発現が可能である。


巴マミとて例外ではなかった。


ソウルジェムが砕かれない限り、魔法少女は戦い続けることの出来る不死身の存在だ。



113: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:00:31.45 ID:BdlCR+mW0



「絶対に殺させない。美樹さんのソウルジェムに施した『絶対領域』
佐倉さんへの『アイギスの鏡』がきっと役に立つはずなんだから」




114: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:01:28.03 ID:BdlCR+mW0

ほむらは十数分で自宅にたどり着いた。
玄関が破壊されたことに気づくと、周囲には目もくれず隠し階段を駆けていった。


「待ちくたびれたよ、ほむら」


部屋の端に見知った顔。


「久しいわね。さやか」


その脇には――変わり果てた「あの子」の姿


「どういうことかしら? 美樹さやか」


部屋は赤で染め上げられ、リボンの魔力が漏出していた。


さやかは正義感が強く、向こう見ずであるが、勘が人一倍鋭い。
制服の状態で、派手に返り血を浴びることで、マミ、杏子を庇おうとした。


現に、ほむらは今回の災厄がさやか一人の手で行われたと錯覚していた。



115: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:02:28.42 ID:BdlCR+mW0


「ほむらこそどういうつもりだよ! 魔法少女は正義を守るためにあるんだ。
皆を護るための力だ! 街を護るための力だ!」


「そうね。あなたたちはそうすればいいわ。私はあの子の為だけに生きているの。
永遠に近い時間をあの子と、二人っきりで過ごすのよ。邪魔はさせない」



さやかが変身する。


「ほむら、変わったね」


ほむらも変身する。


「私は、変わらない」




116: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:03:14.77 ID:BdlCR+mW0

――寂しいのに 悲しいのに この気持ちを 誰にも解って貰えない

ほむらは従順だった。目的のためなら犠牲を厭わない。純粋な想いが彼女をそうさせていた。




「私の気持ちはずうっと一緒よ。あのときから」

「全部見たよ。ほむら、命を冒涜するなんて――」



間髪入れず、弱点の腹部を本弭で突き刺す。


「い――ッ」



さやかは紙一重で避けたつもりだったが、
ソウルジェムから大きく逸れた位置に穴が開いていることに驚き、目を見開く。


身体の強化が施されていたのだ。マミが結界を中和したことは判っていたが、
補助の上塗りまでしていることを、今初めて実感した。


そして痛みは殆ど無く――いや、痛みを感じる前に穴は塞がっていた。



117: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:04:19.82 ID:BdlCR+mW0


「潔く殺されなさい。お互いのために」


ほむらは本気でさやかを殺す気だった。さやかは薄々そうなるのではと覚悟していた。


「拳で語るしか無さそうだね。目が虚ろだもん」


「そうね。貴女には理解出来ない」


さやかはマントをはためかせてカットラスを周囲に召喚した。
ほむらは髪を掻き上げ、余裕を魅せつけている。



カットラスにはあるギミックが施されている。
近、中距離戦を得意とするさやかは六つの刀身を飛ばした。


小部屋は小回りの利く剣士に味方している。
弓使いのほむらは十分に戦えない事を想定した上での戦略である。




118: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:04:49.07 ID:BdlCR+mW0


「な・・・なんて奴!」



ほむらは刀身を全て、難無く掴み取っていた。


「貴女がそれを言うのかしら? 私の希望を奪っておいて」


さやかは狼狽した振りをした。
まずはほむらが冷静になるまでやり過ごすしかない。


ほむらは刀身をカタパルトのように一本一本飛ばしてきた。


119: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:05:35.27 ID:BdlCR+mW0

強化が施された身とは言え、さやかには避けがたい連撃である。
それは閃光かのごとく襲い掛かり、胸部と右太腿に深く入り込んだ。



さやかが二つの圧力を感じた瞬間




ほむらが 跳ねた




瞬刻の出来事だった。

全身のバランスが崩れ、目の前が真っ赤になった。

鼻を潰され――と脳が認識したときには



「あ・・・がぁ」



口の中に異物が入り込んでいた。



120: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:07:24.44 ID:BdlCR+mW0


頭を串刺しにされ、血が吹き出る。


力が一瞬抜けた。


人が倒れるには十分な時間だ。


さやかは難無く立ち上がると、刺された刃を思いっきり引き抜いた。
まるでほむらに見せ付けるかのように易々と回復を終えている。


「――全然響かないよ。これは予想以上だわ」

「そうでなくちゃ。私も殺し甲斐が有るってものよ」


戦いは止まらない――





121: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:08:09.35 ID:BdlCR+mW0


戦いと言っても地稽古のような、練習試合のような雰囲気だ。
加護を受けていたさやかを相手に、ほむらは思うがままに動き回っていた。


動かされてもいた。


お互いにカットラスを操っているが、ほむらは素人同然。


まして魔法少女を相手にした経験は乏しい。
魔獣にうつつを抜かしている間、対人戦が疎かになっていた。


さやかはそれを把握した上で動いていた。
精彩に欠ける不規則な攻撃をし続け、体力の消耗を狙うのが彼女の作戦だった。


より相手を動かし、限りある魔力を奪う戦術である。


そのため、さやかのソウルジェムが何度か狙われた。
幸いなことに、これもマミが何らかの細工を施していたようで、
カットラスの方が砕けるほどの強度を誇っていた。




122: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:08:38.70 ID:BdlCR+mW0


完全に泥沼だと捉えたほむらは手を休めた。


「一太刀位浴びせなさいよ、美樹さやか。このままじゃ濁り死ぬわよ」

「あたしは全然平気だよ。気が済むまで付き合ってあげる。
良いよ。それでほむらが救われるなら――」


ほむらはそれを聞くと頭を垂れた。


「私が間違っていたわ。無益な争いはもう終わらせましょう」

ほむらは、事もなく変身を解いた。


123: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:09:04.72 ID:BdlCR+mW0


「一体・・・何のつもり?」


露骨に不信感をあらわした。
先ほどまで修羅だったほむらが急にしおらしくなっている。 


「ごめんなさい。ほんの出来心だったのよ。
私は一目だけでもあの子に逢いたかったの」


さやかはほむらに抱きつかれた。

ほむらの目は潤んでいた。


「ほ、ほむら・・・?え、罠?」

「ううん、違うの。嬉しいの」

「何を・・・言ってるのさ・・・」



ほむらは右手に魔力を集中させる。

「お腹のソウルジェム。ちょっと借りるわよ」


124: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:10:28.19 ID:BdlCR+mW0
――――――――――――――――――

『ジェムごと取られたら絶対領域も無意味ってことね』

『美樹は倒れたままだな』

『傷の回復速度が遅すぎる。これは気絶ね。
意図的に体とソウルジェムのリンクを切断したら、傷の修復はされない設定よ』

――――――――――――――――――
――――――――――――

125: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:11:10.04 ID:BdlCR+mW0


「嬉しい。これで逢える」

「待っててね。ちゃんと命を吹き込んであげるんだから」

ほむらは、さやかと、抜け殻と、腹部から毟り取ったソウルジェムを地下室に運んだ。




126: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 00:20:18.06 ID:BdlCR+mW0
若干休憩
前作と読み比べると色々キツい描写がふええます

127: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 01:46:55.96 ID:BdlCR+mW0
投下

128: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 01:50:32.71 ID:BdlCR+mW0
■平和


魂の色と血液が混じったさやかのソウルジェムを硝子テーブルに置いた。
色は赤紫の様だった。


ミスリルで編んだ袋を用意し、中に二十五個のグリーフシードを流し込む。
多少の頭脳労働をした後、先ほどの違和感について考え始めた。


「美樹さやかの異常な生命力は一体・・・」


気づいた。

魔力障壁が消えていることに。



戦闘で予想以上のリソースを割いたのだと結論付け、
グリーフシードが入った袋に左手を突っ込んだ。




――――――――――――――――――
――――――――――――


『暁美さんは私の策に気づいていなかったのね。
てっきり無視されていただけかなって』

『巴は見つからなくて幸運だったな。
これは皮肉だぞ? 見つかっていれば戦いは続かなかったのだから』



129: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 01:54:12.06 ID:BdlCR+mW0


「濁りが進んでいないわね」

肉片がこびり付いたソウルジェムを眺める。

「ああ。無理も無いわ。美樹さやかは気絶してるだけ」

少しでも濁りを加速させるため、さやかに近づいて四肢を圧し折るほむら。

「おかしいわ。怪我が全く回復していない」

「まさか。ジェムと肉体のリンクが切断されてる?」


さやかの肉体と魂を接続させるため、ソウルジェムに向かった。

それを拾い上げようとした。

――――――
――――
――

130: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 01:54:57.88 ID:BdlCR+mW0



「―――・――――ズマ」



赤い靄が地下室に潜むほむらに纏わりついた。
薄明かりの中でただ一人歓喜する声が響き渡る。


「始まったわ! 現れた!」

「円環の理!」


地下室全体が震動しているほどのエネルギーをほむらは感じていた。


薄暗い地下室の虚空を指差し、視力を奪われるほどの、
燃えあがる濃桃色の光をほむらは観ていた。


131: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 01:55:59.86 ID:BdlCR+mW0



大げさに振る舞うほむらの真後ろに、赤い魔法少女が立っている。



「馬鹿みてえだな。ただの人形に回復魔法かけてやがる。
魔力が移動するだけで何も起きないっつーのに」


〔杏子だよねー? 居るなら接続戻してよ。体に触れさせれば戻るから〕


テレパシーを受け取った杏子は、幻影に躍るほむらを一瞥して、
「あの子」の側に置いてあるソウルジェムを拾い上げた。


「助かったぁ。もう駄目かと思ったよ」

塞がったお腹を叩きながら穢れを取り除くさやか。

「あぁ。まだ詠唱してるから黙ってな」



132: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 01:59:59.14 ID:BdlCR+mW0
――――――――――――――――――

『ここからが佐倉さんの番みたいね。
隙を見てRosso-Fantasmaを暁美さんにかけた。五感を全て支配したの』

『あれは円環の理じゃなかったのか?』

『濃桃色・・・円環の理とは随分色合いが違うのよ?
本物は大規模な光の柱だから、外に居た私が駆けつけているわ』

『ところで八十秒後に幻覚を敷いてたはずだが、二回も使わないだろうに』

『障壁に邪魔されて無理だったのよ。
私は外で色々してて・・・その、佐倉さんには悪かったわ』

――――――――――――――――――
――――――――――――

133: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:00:27.89 ID:BdlCR+mW0


「幻覚が効き辛いな。無意識に抵抗してるのか?」

「Echeggiato――Lorelei」

さやかが唱えると、蒼い音波が部屋全体に広がっていった。
それをまともに浴び、ほむらはそのまま崩れ落ちた。

「なんだ? 今の」

「ローレライの旋律。眠りにいざなうトドメの一撃必殺技なのだ!」

「いや、名前――あれ? 単体攻撃じゃないよな・・・その」

「言われてみると。杏子も寝てないとおかしいよね」



134: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:03:42.26 ID:BdlCR+mW0


「「?」」


「まあいいや。次だ次。アタシはこのまま幻覚をかけ続けるよ」

「正義を愛するさやかちゃんは施設を壊しまくっちゃいますか。
これならほむらも諦めてくれるよね。はい、これ」

「おう。後はまかせな」

残る全てのグリーフシードを杏子に渡し、さやかは施設の中に消えていった。


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


ほむらが目を覚ます。


「・・・ぅう」

タイルは暗い色に染まっている。
右手でタイルを引っかいても剥がれない。血ではないようだ。
随分『長いこと』倒れていた。



――――――


『倒れていたというか、寝ていたぞ』

『美樹さんがローレライの旋律を発動させたの。
佐倉さんに仕掛けたアイギスの鏡が無くなっているから効果は二倍よ』

『反射魔法か。無意識に陣形を取るほどの実戦を重ねたのだな』



135: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:05:18.27 ID:BdlCR+mW0


ほむらの正面には、杏子と抜け殻が立っている。
抜け殻の眼球を介在して、ほむらにロッソ・ファンタズマを掛け続けている。


その首元には真紅の紋章が浮かび上がっていた。
魔力で動く人形に、ほむらは語らい始める。


「また、会えたわね」

「ここは地下室よ。」

「ええ。寂しくないわ。いつまでも、私と一緒だもの」

「良かった――良かったわ。本当に嬉しい」


象牙のように高貴な桃色の瞳を、ほむらは何時間も覗きこんでいた。
杏子は人形の横でひたすら呪文をかけ続けている。


「こいつは一体何を見ているんだろうな。
満面の笑みじゃねえか、気色悪い」



「これはビーカーよ」

「これは貯水槽よ」


――――――――――――――――――
――――――――――――


『独り言みたい。魔法を掛け続けてる佐倉さんが難儀ね』

『あいつ、美樹は何をしてるんだ? 剣なんか振り回して』


たまに真空ポンプやアセトン溶液を落としてしまう無邪気さも愛おしい。


『壊して回ってるのよ。美樹さんらしいわね』


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

136: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:06:41.91 ID:BdlCR+mW0
―――
――

137: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:07:42.27 ID:BdlCR+mW0


手持ちのグリーフシードが二十個を切った。
杏子は撤退を決断する。さやかは既に地下室の大半を廻り終え、地上に戻っている。


「そろそろ退却するか。人形の耳と目だけリンクさせて、テレパシーで語りかけるか・・・。
さてさて、夢見るお嬢さんの相手はもうじき終わりだな」


再びロッソ・ファンタズマをほむらへ忍ばせた後、杏子は地上へ向かった。


人形が知覚した視覚、聴覚は杏子にそのまま伝わっている。
そのため邸宅を出る、といってもその過程は極めて困難な物であった。



138: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:08:28.38 ID:BdlCR+mW0


〔この子は動物じゃないよ?〕

「どれかしら」

〔ほむらちゃんと似てる〕


「素体、Vertebrate-02498ね」


〔素体?〕

「心を失った体のことよ」

〔それじゃあ、私も素体だったの?〕

「勿論よ。でもあなたはあなたなのよ」


 

142: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:20:08.98 ID:BdlCR+mW0
 

〔どういうこと? ほむらちゃん〕

「私たちは等しく、同じ素材で出来ている。そしてこれがあなたの原材料」

〔私の?〕


「シカメ って人よ。この近所で一番相性がよかったわ」

〔シカメ・・・〕


「大抵の子はリボンの魔力を注ぎこむだけで暴発――飛び散るのよ。
普通の魔力ですら、人間には荷が重過ぎるの。長時間摂ると吐いたりしちゃうの。
私だって、リボン――『理』の魔力を取り込むのに苦労したんだから」


〔シカメ?〕


「ええ、そうよ。シカメ――いえ、鹿目という表札しか見てないから、カノメかも知れないわ」


〔カノメ カナメ? 私と見た目が違うよ?〕


「只の原料に過ぎないわ。そこに、私の想いと叡智と貴女の光を注ぎ込んだのよ」






143: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:21:37.57 ID:BdlCR+mW0


『佐倉さんは最小限の魔法に切り替えてるわね。何日も幻惑をかけ続けるわけには行かないもの』

『今の佐倉はテレパシーを駆使して人形が話してるように見せかけている。
美樹も巴も無事離脱したのだから悪戯に長引かせる必要はないな』


――――――――――――


〔それじゃあ、たくさんの人が亡くなったの?〕

「些細なことよ。あなたに比べれば、安い犠牲なのだから」

〔そうだね。ほむらちゃん〕

「ふふ、リボン似合ってるわよ」

〔ありがとう。ほむらちゃん〕



144: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:23:28.12 ID:BdlCR+mW0


「・・・」


ほむらは魔法少女に変身した。

地下空間に広がる実験台、素体、触媒、溶媒の多くが散乱していた。


〔ねえ、ほむらちゃん?〕

「・・・」

〔ほむらちゃん。返事してよ。ほむらちゃん〕


神速で、ソレの首をへし折り

「ホ・・・チャ・・・ん」

矢を組成し、その体に衝き立てる。

右側頭部

「痛・・・・・・ィ」

左手の甲

下腹部上方

「ア・・・ァ・・・」

そして首元

首元を刺しぬいた瞬間、白い粉となって消えた。




145: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:24:15.86 ID:BdlCR+mW0


『これは、ソウルジェムの位置を狙っているようね』

『佐倉は平気なのか?』

『暁美さんの言う「素体」がベースだから大丈夫よ。
だけど私たちの仕組みと同様、リンクは切れてしまったわね』


『終盤は佐倉がテレパシーで人形の会話を再現していたはずだ。
それなら、人形は何故呻いていたのか? 佐倉はそこまで気が回らないと思うのだ』


『本当にあの子が宿ったとしたら、それは奇跡と呼んでいいわ。
でも、そんなものあるわけないじゃない。あってたまるものですか』


146: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:25:06.84 ID:BdlCR+mW0
――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


「佐倉杏子。貴女の仕業だったのね」

〔ああ、まあな。しんどかったぞ、お前の相手は〕

頭の中に声が響く。テレパシーだ。

〔どうしてわかったんだ?〕

「あの子は、心優しい子なの。慈悲深い子なの。
私が導かれそうになった時――あのとき『良かった』って言ってくれたのだから。
あの子は、犠牲を悲しむ子なのよ? こんな利己的な人形・・・此方から願い下げだわ」

〔ははは、それをお前が言うのか。懲りない奴だな〕

「・・・今に見ていなさい。私には魔法がある。不死身の肉体だってあるのだから」

ほむらはうわ言のように繰り返す。

「今に見てなさい・・・」



147: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:25:53.16 ID:BdlCR+mW0
――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――



「リボン・・・」


「あった・・・良かった」



液体で塗れている床に座り込み、嗚咽を上げながら泣いた。


ほむらは涙を流し続けた。




148: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:27:22.70 ID:BdlCR+mW0


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149: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:34:36.69 ID:BdlCR+mW0


「すこし、夢見すぎた」



「――疲れたわ」



「・・・」



150: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:35:08.48 ID:BdlCR+mW0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
――――――――――――

151: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:45:05.75 ID:BdlCR+mW0

□会議室


「そろそろ時間か。あなたは、ここまでの事実を受け留めて貰わねばならない」

「これで暁美さんに降りかかった出来事は大体把握できたと思うわよ」

「何か質問はあるか?」



「――よろしい。では少々休憩しよう。久しぶりに魔法を使ったら眠くなってきた」

「美国さんも大変ね・・・」




152: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:46:56.86 ID:BdlCR+mW0

□談話室

「客人は帰りましたわ。巴さん――また二人ぼっちですね」

「あの悲劇が全てを奪ってしまったのよ。全部私のせいなの」


「まだそう仰いますか。まあ無理もない事なのですが・・・。
それにしても、あの客人を見て何も気づかないとは、巴さんの目も節穴になったものです」


「ええと、私は初対面だったはずよ」


「あの方こそ鹿目詢子。私の友人の計らいで海外に移住させていたの。
元々は見滝原の住民――子供が『円環の理』の素体に利用されてしまったから、夫婦を退避させたのよ。
悪夢を繰り返さないためにね。そして今、九歳になる双子がいるの」






153: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:47:57.69 ID:BdlCR+mW0


「桃髪の子の・・・。美国さんはどこまで私を追い詰めるの?」


「どこまででしょう。スケジュールは空けておいてくださいね。
鹿目さんと、その子供達が近々ここに来ますから」



「私はあの日から独りで戦ってきたの。美国さんと違ってね。
だから魔法少女絡みの件だったら、間違いなくノーを突きつけるわ」


「巴さんは変わりました。お茶会次いでに子供たちと遊ぶのも良い気分転換かも知れません」

「美国さん、口調はどうするの? 親御さんには事務的に当たっていたけれど」


「いいのよ。私はこういう性分なの」

「あなたも十分変わってるわね!」




ちょっとした口論を肴に、二人で仲良く紅茶を啜ってみる。





154: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 02:51:29.11 ID:BdlCR+mW0


マミはクッキーを一つまみしては、黙々と口に運んでいる。
織莉子は長時間の頭脳労働を終え、うつらうつらとしている。


談話室は心地よい静寂に包まれていた。


クッキーを全て食べ終えた頃、マミはソファをぱんぱんと叩いて織莉子を起こした。


「それで、ヴァルプルギス――暁美さんの暴走も見届けさせる気?
気の強い方だと思えたけど、一般人には間違い無く耐えられないわよ」

「私の『願い』はそこにあるのだけど、巴さんにとってイヤな出来事を思い出させてしまうから・・・」


「今の今になって忠告? その心配は無いわよ」

「強がりは良くないわ」

「大丈夫。目を閉じるだけで鮮やかに映る・・・十八年も昔の出来事なのに」


「――巴さん、涙が流れていますよ」



155: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:00:14.00 ID:BdlCR+mW0



     物語は運命悲劇から始まる




156: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:01:07.94 ID:BdlCR+mW0
■Tragoidia


リボンを手に持ち、優しく頬ずりをした。
夢のようなひと時は、全て偽りだったことを思い知った。


「・・・魔力が足りない。もうあの子を創れない」

「・・・いえ。創っても殺されてしまう」

「先にあの二人を殺してでも――」

「魔力が足りない。魔力が・・・」



魔力を得るには、魔獣の落とすグリーフシードが必要である。
魔獣による人魂の加工が不可欠である。


「魔獣を介さない手段・・・穢れを吸う代替。きっとあるはず」


ほむらは今にも崩れ落ちてしまいそうな足取りで図書館へ忍び込んだ。
ふとあることが気になったためだ。隠匿の術をかけっぱなしだった事に。






157: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:02:26.85 ID:BdlCR+mW0
□図書館


「独りぼっちで可哀想に。いますぐ魔術を解いてあげる」


魔術の使用から十日間。仁美はあの時と同じ姿で横たわっていた。
水気は失われておらず、生きているかのように感じられた。しかし体は真っ黒に変色している。


「これは生きているの? なによこれは」


今日のほむらは冴えていた。冷酷だった。
ポケットからグリーフシードを幾つか取り出す。それらを地面にばら撒くと、一瞬で瘴気を吸いきった。


158: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:03:29.06 ID:BdlCR+mW0


「ぁあ・・・私に何をなさった のです か」


仁美が意識を取り戻した。人形のように白く、美しく、儚い姿に戻っていた。
水を手渡すと、むせながらも全てを飲み干した。


ほむらは満足そうにその様子を眺め終えると、戸惑いながらも質問をぶつけた。



「貴女は、何故生きているの?」


「何故、私は生きているのでしょう」



片方は生理学的な意味で問いかけ、片方は哲学的な意味で問いかけた。




159: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:04:14.10 ID:BdlCR+mW0


「その答え、志筑は何だと思う?」

「奇跡を――」

「そんなものあるわけないじゃない」

「答えを知りたいなら、私に利用されなさい」

「暁美さんは、何をしようとしているのですか。何を考えているのですか」




「既存のシステムに叛逆する」




160: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:05:40.00 ID:BdlCR+mW0
□暁美邸宅――二階



「美樹さやか。佐倉杏子。私の苦痛を思い知らせてあげる」


ほむらは、復讐の第一段階として、まず志筑仁美を手元に置く必要があった。
次に、より効率的な浄化の仕組みを開発する必要があった。


既存のシステムでは魔獣という二次捕食者を介さないと魔力の補充が不可能である。
食物連鎖として見ると、エネルギーに多大なロスが生じる。時間の無駄でもある。



「魔獣は、人間の持つ負の感情を糧に魂を吸い取り、グリーフシードを生む。
そのグリーフシードが穢れを吸い、私は生存し続ける」



それなら人間の魂に直接、穢れを移せばいいのではないか。



「理屈としては正しいけれど、リボンの魔力に人間は耐えられなかった」

「今まで注いでいたのは魔力。穢れだけを意図的に移す方法があれば」


161: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:06:30.31 ID:BdlCR+mW0


そして仁美の下へ詰め寄る。


「貴女はかつてリボンを持ったとき体調を崩した。
私の手を握り続けた後、何度も嘔吐を起こした」


「・・・それがどうかしましたか」


「今の貴女は、少しくらい魔力を吸っても生き残れるはずよ。
でなければ、穢れに埋もれて十日も生き残れるはずがない」



仁美の体にソウルジェムを押し付ける。白い肌に赤い血が滲みでてきた。




162: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:09:18.00 ID:BdlCR+mW0


「な・・・何を。その宝石で何を」

ソウルジェムの穢れは若干消え去っていた。
思惑通り、一定の条件下で穢れが人間に移ることを証明した。


「おかしいわね――いやこんなものね。
魚はお腹いっぱいになるけど、プランクトンじゃ全然足りないもの」


「志筑。ここで留守番してなさい。いいわね」

「・・・はい」


仁美なら明日にも逃げ出すだろう、泳がすのも悪くない、と考えながら指示をした。


163: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:10:00.20 ID:BdlCR+mW0


□暁美邸宅――最深部


「私は一人ぼっち。次こそ生きて残れない」

「私の遺志を継ぐもの――やはり必要ね。大切に保管しておいてよかったわ」

「間もなく起動する。さて、全てを移植し終えたら・・・フィールドワークよ」



164: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:12:31.15 ID:BdlCR+mW0
■Deus Ex Machina


家の外でテレパシーを送った。
泣き沈んでいるほむらの前に白い生き物が現れる。


「キュゥべえ・・・。何がおきているの? 私は血まみれで・・・その」

「暁美ほむら。覚えていないのかい? 美樹さやかと戦ってたそうじゃないか」

驚いた表情でキュゥべえを見つめるほむら。

「そんな、美樹さんが私と・・・。あぁ、美樹さんは無事ですか」

「ふむ、一命は取り留めているよ。錯乱――短期的な記憶障害かな?
マミの家まで行こうか。聞きたいこともあるし」




165: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:15:31.45 ID:BdlCR+mW0
□ティロホーム


マミとキュゥべえしかいない。
さやか、杏子が居た場合、厄介なことになっていたかもしれない。
マミとキュゥべえしかいなかったため、もっと厄介なことになってしまった。


――――――――――――
――――――



「そのときは、外に居たから全然気づかなかったわ。
でもまさか美樹さんと佐倉さんがねえ・・・。ちょっと信じられないわ」

「丁度、ボクは隣町で探し物をしてたんだ。
佐倉杏子はここには居ない。美樹さやかは大怪我をしていたよ」

「そうですか・・・。もしも、二人が私の命を狙ってたとしたら、巴さんは・・・」

「もしそれが事実なら、暁美さんの味方に徹するわね」

「キュゥべえは――」

「勿論ほむら側を支援する。犠牲は最小限で済ませたいからね」



「巴さん、キュゥべえ、ありがとうございます。
ちょっと探し物をしてきますね、紅茶ごちそう様でした」

「またいつでもいらっしゃい」

嬉しそうな、悲しそうな、複雑な表情で出て行くほむらを見送った。



166: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:16:31.19 ID:BdlCR+mW0



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167: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:17:59.83 ID:BdlCR+mW0

玄関の鍵を掛け、盗聴器具がない事を確認し、マミは顔を曇らせた。


「あの子、何を考えているのかしら」

「演劇には向いていないね」

「それにしても全然わからないわ。もう少し様子を見ましょうか」

「暁美ほむらはすぐに行動を起こした。次の目処が立っているんだろう」

「『円環の理』を――まだ諦めていないの・・・」

「そうだろうね。また数百人規模の行方不明者がでるんじゃないかな」



168: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/24(土) 03:18:59.25 ID:BdlCR+mW0

「だとしたらソウルジェムを破壊しなければ・・・。それが私たちの使命」

「邸宅から出てきた二人の話を聞いて、決断したのはマミじゃないか。
それとも何か気になることでもあったのかい?」


暁美ほむらが一般人に甚大な被害を与えた、と判断できた場合、
美樹さやか、佐倉杏子、巴マミの三名は暁美ほむらを探し出し、
彼女の左手甲にあるソウルジェムを砕く手筈になっていた。


深く考える素振りを見せるマミ。


「とりあえず、美樹さんに連絡するわね。最悪の事態に備えて、戦力の確保をしないとね」


171: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:10:39.06 ID:DqKwZXBV0

■In Vivo


黄昏時。


清流に柿色が吹き込まれ、初風にアキアカネが躍る。
増えに増えた苔むしろは石畳の合間に身を潜めていた。


人影はほとんど無く、車道もつかの間の休息といった所か。


耳を澄ませば、樹々の音色が見滝原に響き渡る頃。





172: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:11:29.19 ID:DqKwZXBV0



人のものとは思えない叫喚。



――安寧秩序は失われる






新しい犠牲者が出た。


地面には放射状に広がった鮮血。固形物は何一つ残っていない。
穢れを移したためか、赤の中にタールのようなものが浮かんでいる。




173: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:13:03.30 ID:DqKwZXBV0


赤の上に赤いリボンの少女。

沈黙を貫いて、考え事をしていた。




やはり、穢れと一緒に魔力も移った。総合すれば『得』したわけだけど。
穢れだけ魂に移せればもっと効率的な運用が出来そう。


魔力の移動量は志筑と同じ。彼女は耐性がついているようね。


そういえば、志筑は穢れで覆われていた。


リボンや私に触れたことと、今回の出来事で魔力に慣れたとしか・・・。
でも、どうして、穢れを身にまとっていたのかしら。



「実験データがもっと必要になる・・・。魔力は実験対象が補ってくれる」

ほむらは地べたを見ながら呟いた。



174: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:14:19.96 ID:DqKwZXBV0


頭のリボンに自分の魔力を注ぎ、『円環の理』の魔力として自分の肉体に戻す。
その力は密度が濃く、強く、桃色のような異なる波動を生み出す。魔力の増幅器のような役割だ。


二分子のATPから四分子のATPが生み出されるような経路だった。



以前こそ、嘔吐や体色の変化が見られたが、今のほむらは全てを克服している。
きわめて単純で、機械的な作業が続いた。


ほむらが消費した魔力はすぐに取り戻せるようになった。
魔獣を狩るときもあれば、魔獣を介さず『回復』させることもあった。



175: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:17:02.86 ID:DqKwZXBV0



人間に穢れを移す――理論上は簡単だ。
ソウルジェムの穢れを能動的に、魂へと輸送すれば良い。


実際には魔力も穢れも全身に移動するので、一般の人間は形を保てず四散する。
また、血の一部だけが痕跡と残るのが常なので、ほむらとしても隠す手間が省けた。



前回は『円環の理』の力に耐えうる肉体を探していた。
結局、最高の素体は見滝原の魔法少女達によって失うことになった。



今回は、素体と同時に、より多くの穢れを移す方法も模索している。



『円環の理』を創り出すための一定の方法論が確立された現在、ほむらを縛る制約は無きに等しかった。









176: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:19:42.92 ID:DqKwZXBV0



「素体探しだと思えば一石二鳥。志筑は放っておけばいい」


多くの犠牲があったとしても、あの子が生まれるとすれば、それはとっても素敵なことなのよ。


そのためには、“私”を閉じ込めてでも修羅になってみせるわ。




耳から離れぬ断末魔




身を震わせながら、赤と黒の上でほむらは心を鬼にした。




177: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:20:37.75 ID:DqKwZXBV0



好奇心は猫をも殺す――イギリスの諺。
九つの命を持つネコでさえ、好奇心が原因で命を落とす、という意味合いだ。



ほむらはネコ以上の好奇心を持ち合わせ、すぐに行動を起こす性分である。
ほむらは危うかった。危うくて、とても脆い。



その脆さを補うために――魔力、魔力容量の拡充と次の素体探しに努めた。



178: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:21:46.25 ID:DqKwZXBV0
三日後



行方不明、犠牲者は既に三桁へと差し迫っていた。
集団登下校が主となった。県警が街中に投入された。



午後九時以降の外出は制限された。
それでも見滝原の住民はどこか人事かのように、新聞を広げ、ニュースを流し見た。



国内でも治安の良い地域なのだ。きっと明日にでも犯人が見つかるだろう。



大黒柱はワイン片手に、甘すぎる見通しを立てる。誰一人として気に留めることは無かった。
それどころか、雷や台風を見て大騒ぎする児童のように、興奮を覚える愚者ばかりであった。




179: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:23:30.94 ID:DqKwZXBV0




――魔法少女達にとっては違った。




180: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:25:06.90 ID:DqKwZXBV0


日和見する状況は既に過ぎ、可及的速やかに、確実に暁美ほむらを排除する必要があった。


原因は既に把握している。目的も掴んでいる。


ただ、死体の形状が今までと異なっていた。
地下室に放置してあった物とは明らかに異なる。



これはマミとキュゥべえを悩ませた。
ほむらが突然訪問するなど、奇怪な出来事が続いた。




さやか、杏子勢は昔馴染みの魔法少女組織がいる他県へと遠征している。


現状報告と情報開示を行い、ほむらと対峙した直後から同盟を求め続けた。


見滝原に残るマミは新人魔法少女の教育に身を砕いた。







181: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:27:00.09 ID:DqKwZXBV0


キュゥべえは街に二体。マミとほむらに付いて回っている。


魔獣討伐において、ほむらのエネルギー回収効率は目を見張る物である。



比類なきその躍動と破壊は、誰もが認めざるを得ないものであり、
彼女が行った重大な「法益侵害行為」を知らないものは皆、尊敬の眼差しを向けるだろう。



インキュベーターにとっても例外ではなかった。
暁美ほむらが持つ天賦の才を無駄には出来ない。一騎当千とは言いえて妙である。



すなわち、状況によってはインキュベーターが寝返り――ほむらに組する可能性があった。
実際、魔法少女達は無闇にキュゥべえを信認することができなかった。




182: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:29:01.22 ID:DqKwZXBV0

――――――――――――
――――――

同日夜間



『円環の理』を宿すための素体を見つけて、ほむらは歓喜する。


「私はとても愚かだったわ。素体はあるじゃない」


涙が止め処も無くあふれ出し、顔が紅潮する。
道行く人に一人一人、後ろから抱きつきたくなるような気分だ。



「後はあの子の光。それまで魔力容量の強化に努めましょう」



月光に活路を見出した少女は、年相応の笑みを浮かべ、闇に消えた。



183: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 01:33:18.48 ID:DqKwZXBV0
――――――――――――――――――――――――――――――
ここまで。サブタイの解説は要らないですよね。

185: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 22:51:29.63 ID:DqKwZXBV0
        *'``・* 。
       ,マ|-─-'、`*。
       ,。∩(ノノ`ヽ)  *    もうどうにでも
      +ξゝ*^ヮ゚ノξ*。+゚     ティロフィナ~レ♪
      `*。 ヽ、巴 つ *゚*
       `・+。*・' ゚⊃ +゚
       ☆   ∪~ 。*゚
        `・+。*・ ゚

186: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 22:53:35.65 ID:DqKwZXBV0
■Duverger's Law




――戦力の確保




武力は争いを鎮め、いらぬ争いを生みだす。




暁美ほむらという一人の相手に、魔法少女三人を要した。

三日間にわたる幻覚。

使用したグリーフシードは二百を超える。







――ほむらが『円環の理』を諦めない可能性



美樹さやか、佐倉杏子は、万が一に備えて戦力を欲した。
そこで巴マミは魔法少女同士の協定を結ぶことを提案する。




ほむらが地下室で慟哭した一週間のうちに、魔法少女の勢力図は大きく変わっていた。



187: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 22:54:33.67 ID:DqKwZXBV0



そして――


――さやか、杏子が他県から戻ってきた



マミは無事に帰ってきた二人を見て落涙し、その生を喜んだ。




188: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/26(月) 23:00:06.16 ID:DqKwZXBV0
□ティロホーム


暫くの歓談を終え、本題に入るマミ。


「ニュースは見てるわね? 死者21人 行方不明者143人 
昨日だけで70人近く・・・そろそろ動かないと不味い事になるわよ」



見滝原の住民に甚大な被害があったと認められる数値である。


暁美ほむらのソウルジェムを砕くことが確定した。



 

190: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/26(月) 23:06:17.06 ID:DqKwZXBV0
 

「この前は何百人だっけ。もうほむらの好きにさせたらいいんじゃないの。
また戦ったら・・・勝てば別だけど、相打ちになったら今回みたいに繰り返すと思う」


「一理あるぞ。『円環の理』に執着している以上、目的を支援すれば犠牲は止まるはずだからな」


「私は表向き味方だから良いけど、美樹さんは特に恨まれてるはずよ。
佐倉さんも街の人を天秤にかけないで。救える命は救いたいから」



心変わりだ。



三人で相談したときは、さやかと杏子はほむらに敵対することで一致していた。
数日の間、二人の心境に何が起きたかわからない。


マミは遠まわしに非難の意を伝えたが、二人は何とも思っていない様子だった。



「キュゥべえはほむらの行動をどう考えてるの?」

「暁美ほむらの魔力容量が増大している。
彼女は『円環の理』ではなく、力を欲しているように見えたよ」

「アイツはもう十分強いと思うんだが」

「それでもマミ達には及ばなかったのだろう? まず、反乱分子を排除するのが先決と踏んだのさ。
どういう原理か解らないけど、リボンを媒介にして魔力の強化に充てているのは事実だ」

191: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/26(月) 23:08:38.22 ID:DqKwZXBV0


キュゥべえは窓辺から空を見つめて話し続ける。


「暁美ほむらは、人間を消費することで穢れを回復している。
知らぬ間に新しい技術を生み出したようだ。何が起きるのか察しがつくだろう?」

「前回以上に人が死ぬ・・・?」

「それだけじゃないよ」


キュゥべえの発言に息を呑む三人。ティロホームを沈黙が包み込んだ。



「魔法少女も標的だってことさ。『円環の理』を宿すのが彼女の願いだとしたら、
きっとキミ達の誰かを呼び水にするだろうね。その姿は、紛れも無く知能を持った魔獣――」

少し考えていた。間を置いただけかもしれないが。

「――いや『死神』と形容しよう。キミ達の出来ることはただ一つ、息の根を止めるしかない」




192: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/26(月) 23:10:11.58 ID:DqKwZXBV0


キュゥべえは矢継ぎ早に質問をする。


「マミ。新人――あの子の調子はどうだい?」

「・・・だいぶ使えるようになってるわ」

「さやか、杏子。話は付いたかい?」


「ばっちりだ。プレイアデスの七人はとっくに到着している。
報酬はアイツの家、所有物、地下室――遺産全部ってな」



「到着・・・している?」


マミが復唱する。動揺を隠し切れず、さやかに問う。


「協定――どころか顔合わせもしてない。独自に行動してるってことよね・・・」

「そうだよ?」

「プレイアデス聖団が暁美さん側に付いてもおかしくないわ」

「あぁー。『円環の理』のことを話したらヤケに喰い付きが良かったなあ」


杏子の能天気な発言に頭を抱えるマミ。



193: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/26(月) 23:11:10.15 ID:DqKwZXBV0


「ちょっと佐倉さん! それは早く言いなさいよ」

「ははは、もう遅い・・・」


「でもあたし達はちゃんと話したから味方になってくれるよ」

「味方のフリをして内側から壊すのは常套手段よ? 美樹さんも一応警戒しなさい」



マミはこの二人をよくよく観察した。瞳孔、呼吸回数、皮膚の色など。
得られる情報は全て得ようとした。
その上での、裏切りへの牽制を込めた発言であった。



「はあい」

「じゃあアレか。プレイアデスがほむらと組んだら一網打尽にされるわな」


「そういうこと。報酬の遺産も要らなくなるし、活きた知識が手に入るわ」

「それってもしかして・・・」


さやかが不安げに呟く。


194: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/26(月) 23:11:51.74 ID:DqKwZXBV0





「私達は八人の敵に囲まれているってことよ」





195: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/26(月) 23:12:45.25 ID:DqKwZXBV0



マミはそう答えると、目を閉じて沈黙を貫く。



プレイアデス聖団

――あまり良い噂は聞かないけど、あの子達ならと思った私が馬鹿だった。

暁美さんは狂っているみたいだし、キュゥべえは何だか最近、よそよそしくなっている。

佐倉さんと美樹さんはプレイアデス聖団と裏で取引をしているかもしれないわ。





このままでは、私は誰にも頼れない――。




あらゆる可能性が渦巻いていた。

マミにとって、心臓の高鳴りだけが唯一の理解者だった。




196: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/26(月) 23:15:05.16 ID:DqKwZXBV0







――流血の舞台に役者が揃った













197: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/26(月) 23:17:36.84 ID:DqKwZXBV0
■願はくは 花の下にて 春死なむ


□自然公園


「やっと見つけたァ。そこのお前・・・アタシと同じ種類の匂いだよォ」


『食後』のほむらに話しかける一人の少女。
暗闇の中。弱弱しく点滅する水銀灯の下にショッキングピンクが浮き上がった。


金髪でツインテール。腹部を中心に大怪我を負って、もたれ掛かっている。
別の地域から逃げてきた魔法少女だと思われた。






198: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/26(月) 23:19:04.19 ID:DqKwZXBV0


「貴女、もう長く無さそうね。命乞いなら引き受けないわ」

「あってるよ、けど違う。お願いがあるのさ、死ぬ前にね」


重傷を負いながらもニタニタ笑う少女に不信感を抱くほむら。


「聖職者気取りの人殺し集団を潰してくれ・・・」

「人殺し集団・・・?」

「ここまで追ってきたけど、仇とれなかったんだよおおおおお」



突然、少女はボタボタと涙を落としながら叫んだ。澄み切った空気が震えるほどに。
ぺたんと座りこんでもなお、彼女は長い間泣き続けていた。


ほむらは状況を飲み込めなかった。自分のことを言ってるのかとさえ思った。
眼前の惨めな有様に思わずほむらは立ちすくんでしまう。




199: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 23:20:46.35 ID:DqKwZXBV0


泣き止んだ頃、ほむらはピンクの前に屈んで、グリーフシードを一粒与えた。


「詳しく聞かせて頂戴」

「チッ、しけてんなァ・・・。ディヴァイン-ジャッジメント喰らうぞ?」

「私は、食べ物を粗末にはしないの。全部話してくれたらもっと食べさせてあげる」


「プレイアデス聖団。
アタシの大事な大事な大事な大事な、たった一人の友人を見殺しにしたんだ。
だから決めたんだよ。一人残らず殺してやるって」



魔法少女集団がこの街に潜伏していることを知り驚いた、と同時に、
目の前の少女が自分と似た境遇であることを聞き、ほむらは深い興味を示した。


私からあの子を奪った、青と赤を思いだすわね。
その気概も悪くない。まるでネメアーに潜む獅子のようだわ。






200: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 23:22:12.44 ID:DqKwZXBV0


「見殺し?」


「そう! あいつらは友人を見殺しにした。桃色の柱に驚いていたら、友人が中に居たのさ。
あいつらは取り込まれるまでずっと見てただけ!」


「それは『円環の理』ね。とても素敵なことだと思うわ」


「変な奴。あんなのは死神だよォ。友人を全部持って行きやがった! 
体ぐらい残してほしいよなァ? お前もそう思うだろ?」


「心配しないで。そのプレイアデスは私が責任を持って処理するわ。
そうそう、私は暁美ほむら。貴女のお名前は?」


ほむらはやおら立ち上がる。


「・・・・・・飛鳥ユウリ」

「さようなら。飛鳥ユウリ」


ヒールで路上のソウルジェムを思いっきり踏み潰した。
砕け散った宝石と黒いキューブは美しく輝いている。




「――お望み通り、体だけは残してあげたわ」






201: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/26(月) 23:27:47.67 ID:DqKwZXBV0

『夜食』を済ませて帰路に着く。
帰路、といっても街中を転々と彷徨うのが主で、自宅へ戻ることはなるべく控えていた。


「プレイアデス――か。キュゥべえに聞く価値はあるわ」


ピンクの獅子は何故あそこに居たの?
どうして、トドメを刺さないで生き地獄を味わわせていたの?


自ずと一つの答えが浮かび上がる。


「もしかしたら飛鳥ユウリは囮だったのかもしれない。
すぐに行動を起こさないと。奇襲されたらひとたまりも無いわ」


アレだけじゃ足りないわ。プレイアデスは恐らく七人。

飛鳥ユウリが聖団の可能性――これも考慮に入れないとね。




何れにせよ、相当量の魔力が必要だと判断し、ほむらは闇を駆けていった。



207: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:28:27.83 ID:TgwS9lW+0
■無慚

□見滝原――喫茶店


鋭い目つきにキュッと結んだ唇、冷静で利発そうな麗人が座っていた。
群青色に輝くストレートヘアはさながらアズライトのようで、椅子の背もたれから顔を出している。



その正面には、橙色のショートヘア。
足を組んで座っている。ボーイッシュで肌が浅黒い。
遠めにみると性別を間違えてしまいそうなほどである。


208: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:29:03.07 ID:TgwS9lW+0


何もかもが正反対に見えるこの二人、実はプレイアデス聖団のメンバー。


あすなろ市から見滝原に来た魔法少女達。



御崎海香と牧カオル両名が見滝原に居た。



この二人は竹馬の友であり、同聖団の中核――カズミの親友でもある。


人通りの多い繁華街。


外だけでなく店内も賑わっているので、盗み聞きされる心配は無かった。
正面の声すら伝わりがたいほどの有様だ。


209: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:30:06.31 ID:TgwS9lW+0


「カオル、本当に暁美ほむらをやれるの?
あの巴マミとその弟子達。三人がかりでやっと食い止めたそうじゃない」



「ミチル――ミチルの魂を宿す方法、暁美ほむらなら知っているはずさ。
何せ全くのゼロから『円環の理』の器を創ったんだもん。
魂の定着なんて造作も無いと思う。だからこそ暁美ほむらの知識が欲しいんだよねえ」


「人間を殺して生きてるってキュゥべえが言ってたわ。
私たち側に加入してくれたら、穢れの研究に役立つと思うのだけど」


「無いね~。暁美ほむらと同類の飛鳥ユウリ――は死んでたし。
暁美ほむらはあいつを助けなかった。んで、ほむらが見つからない。
プレイアデスが来てる事はとっくにばれてるよ」



「見つからないのは宜しくないわ。明日から早速行動を起こすわよ」





210: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:30:41.04 ID:TgwS9lW+0


カオルが問う。暁美ほむらに対抗する手段に若干の疑問を感じていた。

「それ、それなんだけど。七等分したのって」


「勿論、かずみのため」

「もしかずみが暁美ほむらと出遭ったらどうする気?」

「大丈夫。実際は七等分じゃない。ニコが近所に居るし、二人が自然公園に一番近いから」



「それなら・・・いいんだ」


作戦の内容を反芻し、カオルはラテを口に含む。苦々しい味が広がった。




211: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:32:02.70 ID:TgwS9lW+0


海香が俯く。いつものアレか、とカオルは身構えた。近々その頻度は増しているように思えた。


「ミチルを殺したのは・・・正しかったのかしら」

「器は失わずに済んだ。もちろん、正解に決まっているさ」


いつものやり取り。散会の合図のような物でもある。





「死を冒涜してる気がしてならないの。
『円環の理』に導かれていたほうがミチルも安らいだんじゃないかなって」


予想に反して海香は続けた。いつものやり取りがより濃くなった。
カオルは熟慮して次のように言った。


「みんな迷っている。でもね、正しいと思ったら突き進むしかないんだ。
それは海香だってわかっているだろう? 十二の過程を無かったことには出来ない。
十二の過程が犠牲になったとき、プレイアデスは殺人集団になってしまう」


「・・・暁美ほむらは私達と同類だと思うのよ」



「違う――過程はどうであれアイツは失敗した。だから死神と呼ばれた。
生命の作製に成功していたら、神と呼ばれていたかもしれないけどね」


「それでも――暁美ほむらは諦めない。私達と同類。想いは同じなのよね」



「想いは同じかもしれない。でも、神は二人も要らないよ。
死者の蘇生はプレイアデスが担う。『円環の理』にうつつを抜かす悪魔は消さないと」





212: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:33:17.11 ID:TgwS9lW+0
■無愧


インキュベーターによると、不可解な死者・行方不明者は9000人を超えている。
急増、という次元を超えていた。指数関数のような勢いだった。


報道各社は、正確な人数が割り出せないという建前
(実際に困難な作業ではある)のもと、数字の公表は控えている。


週刊誌やウェブ上では164人――という根拠あるデータから、人々は好き勝手に妄想を広げた。
とはいえ、精々三桁後半であり、最も過激な意見でさえ二千前後で落ち着いている。



この数字は見滝原、あすなろ市を担当する魔法少女全員が既知である。
そして、暁美ほむら含めた全員が重く受け止めていた。






213: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:33:44.66 ID:TgwS9lW+0



翌朝、プレイアデス聖団が動いた



214: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:34:38.12 ID:TgwS9lW+0


プレイアデス聖団を構成する七名は数キロ間隔で、円形に配置。
暁美ほむらであることがわかり次第、奇襲。


失敗したら離脱。


テレパシーで報告しながら、円の中心――見滝原自然公園まで逃げる。

ほむらを釣り上げ、集まった七人で一気に叩く寸法だ。


立案者である御崎海香は絶対の自信を持っていた。
実際に、飛鳥ユウリを見滝原まで誘導し、瀕死の状態にまで追い詰めている。
 



飛鳥ユウリは作戦の要であった。

ほむらが正常であるか判断する材料として、プレイアデス聖団はユウリを利用した。



普通の魔法少女であればユウリを助ける。

利己的な魔法少女なら交換条件でユウリを助ける。



しかしほむらは、どちらでもない――冷酷な魔法少女だった。
情報を聞きだした後、ユウリを殺害する手段をとった。



この事実はプレイアデス聖団としても味方に加えるべき存在でないと結論付けている。
身内にスパイを取り込むも同然であったためだ。




215: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:35:33.00 ID:TgwS9lW+0

■空蝉


閑散とした住宅地をうろつく少女の姿。プレイアデス聖団の一人がその後ろを付けている。


少女は一般人を文字通り吸い取っていた。

目的地も無く、ふらふらと歩き回っている。


人間を見つけると紫色で、ひし形状の物体を取り外す。
音沙汰もなく背後からブスリと突き刺していた。


吸い尽くした後には黒ずんだ血だけが広がっていた。



「紫のソウルジェム、黒い長髪。間違いない・・・。私が殺さなくちゃ」



216: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:36:01.40 ID:TgwS9lW+0


「Fantasma Bisbiglio――苦しんで死ね」



端的に言えば、洗脳、憑依魔法と同系統の高等魔術である。
自我の強い人間に対しては、不意打ちを狙って耳元で囁く。




自分の意思ではない何かがほむらの中を引っ掻き回す。


「え・・・なに?」

――苦しんで死ね






217: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:36:35.68 ID:TgwS9lW+0



右手に矢を生成し、何度も自分の体を突き刺し始めた。
ほむらの体は際限なく、自傷行為を繰り返した。


「・・・ッ!」


虚ろになったほむらは、支配されまいと必死に抵抗する。


体から魔力が漏れ出している。息絶えるのも時間の問題だった。



――苦しんで死ね

――苦しんで死ね

――苦しんで死ね



「イヤ・・・死にたくない・・・だれか――」





218: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:38:47.36 ID:TgwS9lW+0


数十分の格闘の後、生命を司る宝石が砕けた。
紫の破片がアスファルトの上で輝いている。



見滝原を恐怖に陥れた魔法少女はここに潰えた。実に呆気ない最期だった。




英雄の名は宇佐木里美


破片を入念に踏み潰し、勝利に酔いしれている。



「うふっ。殺しちゃった」



219: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 01:52:35.19 ID:TgwS9lW+0
――――――――――――――――――――――――――――――

ほむら「かずみ☆マギカ?」

海香「はーとふるぼっこ漫画ですことよ。吐いた読者も居たのよ?」

ほむら「壁ドンね。そんなの嘘だよ、も衝撃的だったわ」

カオル「聖団だけで七人も居る。一度じゃキャラ把握できないんだよねえ」

ほむら「でも主役級はあなた達とかずみでしょ」

海香「まっ否定はしないわ」

ほむら「・・・出番終わったわよ、私もあなた達も」

カオル「・・・」

海香「え?」

 
221: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/28(水) 23:59:39.44 ID:TgwS9lW+0
■惨劇



〔暁美ほむらは、たった今殺しちゃった。これで――〕





〔遠くに『円環の理』が発動してるわ。ちゃんと見えてるわよ、お疲れ様〕




222: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 00:01:07.69 ID:YLQnCtqw0



里美のテレパシーを受け取り、海香は安堵した。



単独行動というものは常に危険と隣り合わせである。
それでもこの作戦を取らざるを得なかった。



マミ、さやか、杏子がほむら側と結託していた場合



――つまり聖団全体がおびき出されて、叩かれる可能性もあった。



そのため海香は一箇所に七人集まることを恐れた。
集団戦になれば此方側の犠牲も大きく、混乱によって連携が崩れる。



逆に拡散した配置を取ることで、撤退する時間が稼げる。
犠牲は一人で済むし、ゲリラ的に報復する手段も失われないと踏んでいた。




犠牲が一人で済む。




プレイアデス聖団全体にとって、これは言葉以上の意味を持っていた。



しかしその安堵は一瞬で吹き飛ぶことになる。



223: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 00:02:01.96 ID:YLQnCtqw0


〔ボク、暁美ほむらを倒した! 大した事無かったかな〕



数分後、みらいのテレパシーを受け取る。



〔そう、二人で倒したのね。お疲れ様〕



作戦は成功した。しかし単独行動という取り決めを破っている。


里美、みらいに詳細を求ねばと海香が息巻いた瞬間




〔違うよ、ボク一人だよ。だって元々そういう作戦だっ――〕




≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫



「これは・・・どういうこと?」






224: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 00:02:33.00 ID:YLQnCtqw0



違和感を感じた海香は直ぐにその場を離れた。
赤錆で朽ち果てた非常階段を使い、近所で一番高いと思われる建物の屋上に移動した。


広々とした、黒いタイル張りの屋上から、辺りをくまなく見渡した。



225: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 00:03:08.46 ID:YLQnCtqw0



一箇所




また一箇所




226: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 00:03:55.98 ID:YLQnCtqw0


海香は顔を覆いたくなった。自然と視界がぼやける。
何もかも捨てて逃げたくなるほどだったが、感情を押し殺して戦況の把握に努めた。




桃色の柱が合計、四箇所にあった。





これは四人の魔法少女が『円環の理』に導かれていることを示していた。



「何なのよ・・・。何がおきているの?」


「連絡! テ、テレパシー! 安否を確認しないと・・・」




227: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 00:04:39.44 ID:YLQnCtqw0

数分後、返事は来た。



申し訳なさに、無力さに、悔しさに、海香は苛まれた。



どうかした? と言った気遣うような温かい反応が二つ。




海香はむせび泣いた。

自分の行いを、自分の過ちを心から嘆いた。




228: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 00:05:11.02 ID:YLQnCtqw0






牧カオル 浅海サキ 若葉みらい 宇佐木里美






上記の四名はテレパシーの返信が来なかった。

プレイアデス聖団のうち半数以上が死亡していた。




「逝ってしまった・・・。全部私のせいだ・・・」




海香は全ての『円環の理』が終息するまで祈り続けた。




229: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:25:39.55 ID:YLQnCtqw0





■黒い鳥人






230: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:26:30.51 ID:YLQnCtqw0


『円環の理』を見届けた海香は全ての生存者、かずみとニコにテレパシーを送った。


内容は簡潔なものだ。


≪生存者は自然公園に集合。その後、直ちに退避せよ≫



「・・・」

「急いで合流しないと」


刹那――彼女の蒼く麗しい髪が大きくゆれた。


231: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:27:18.37 ID:YLQnCtqw0


屋上に紫をモチーフとした魔法少女が居た。
背中から生えた禍禍しい羽が辺りを覆い、真紅のリボンは頭の上で、ひらひらと靡いている。




、        `≪≫ 、 \                                   //
ニ>、          `≪≫ \                               ,,,//    人__>≦三
三三> - _        `≪\__             x≦ニニ弋>、_     /ニ_/     /三三三三三三
三三三三三三>、__      _`≪≫ 、     __/川川川::Lレく_/    lニ,/      ,:'三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三フ´   `≪≫、    不川Ⅴ rテ|::fノ/::l    /ニl   ,,,_ ー<三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三> __  ノ三ヽ    ' リ丸 `´メヒノ)::|  ./三三`´三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ヽ   ノ人 -   ノ::イ:::::|,/三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三ーチ:/  イ><::/::レ´三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三/::/γニ大:::/   ヽ三三三三三三三三三三三三三三三三
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''' '   /三三三三>    /::::::::::::::::::::::::::::く-/  ,    〈::::::,   |::::::::|     `ヽ三三三三三ニ\
  ,, ー ´   /       ´/::::::::´ ̄::::::::::, " ,,     _ V,  i! !::::::::!         \  `≪≫   ` 、
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                      廴 /  , !!イ rニニニニニニニ>rrノ` ≪三` ´三三三≫
                        `T 〈ニニニニ〉ヘ V ̄ ̄〈|
                            从"  V//// , ,////}{
                             V////l V///}{
                             V///i!  ,///}{
                              ヽ//ハ  ,//ハ

232: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:29:03.24 ID:YLQnCtqw0


「何がおきていると思う? 御崎海香さん」


はっきりと、力強い声でほむらは言った。



233: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:31:25.97 ID:YLQnCtqw0


どこか嬉しそうな、そんな雰囲気が憎くてたまらない。
海香はありのままの形状を、ありのままに述べた。



「黒い鳥人、とても禍禍しい」



里美が殺した、みらいが殺した、見滝原の死神がなんで私の前にいるの・・・?


これは好機。敵討ち――いや、今すぐ逃げるべきよ・・・これ。




補助魔法主体の御崎海香にとって、暁美ほむらは出遭ってはいけない存在だった。

プレイアデス聖団でも一二を争う牧カオルでも適わなかったのだから。

形容しがたいプレッシャーが海香を襲った。




234: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:33:12.67 ID:YLQnCtqw0


「あなたが・・・暁美ほむら」


「初めまして。あの子の光はとても美しかったわ。
でもまだ足りないのよ・・・全然足りないし、あの子の声も聞こえない」


「これ以上近づくなら、攻撃するわよ」


「でも、あの子の桃色の光――四回も浴びちゃった。ふふっ。でもまだ足りないのよ・・・全然足りない。
私の付き人にも浴びせたけど、あの子はまだ宿ってくれない――魔力が足りない」


「聞いている? 近づかないで」


思い出したように海香を見るほむら。
まるで今の今まで気がついてなかったような素振りを見せている。




235: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:36:23.64 ID:YLQnCtqw0


「付き人は二体ずつ七箇所に派遣したのだけれど――貴女の担当は死んだ。
貴女はプレイアデス聖団の参謀よね?」

「ち、違うわ。私達はただの――」

「殺人集団」


ほむらがうっすらと微笑んで挑発した。
海香は震えを押さえ、すぐに切り返す。


「暁美ほむらも護衛を連れていたのね。それならお相子だと思わない?」

「付き人を殺したのは貴女達。私の大事な大事な大事な大事な付き人をね」


ユウリとのやり取りをそのまま重ねた。ほむらは海香を挑発することに徹していた。
特に深い理由はない。ただ、ユウリの涙を見て共感を覚えたことは否定できない。


「付き人・・・巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子のことね。くそっ」

「あってるよ、けど違う」


ユウリの台詞をそのまま流用する。他人の台詞だと気づかない海香を見下した。


「二かける七で十四人だったわね・・・。他にも居るってことを言ってるのかしら」

「それは大外れ。マミは味方――だと思うのよ。美樹さやかと佐倉杏子は敵」


「それで・・・残りの十三人は?」





236: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:39:25.68 ID:YLQnCtqw0


海香は内心焦っていた。かずみ、ニコを待たせるわけには行かない。


そして巴マミの思惑が全然読み取れなかった。
現在の状況を客観的に見る。


プレイアデス聖団が魔法少女狩りの被害にあっているだけだ。

正義の魔法少女を自負し、ミチルとプレイアデス聖団の発展に大きな影響を与えた巴マミが

――暁美ほむらに味方しているのか。ここまで用意周到な作戦を考えていたのか、と苦悩する海香。


「マミは味方かもって言ったでしょ? 付き人じゃない」


「これと別に十四人・・・。なんてこと・・・」



237: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:40:04.01 ID:YLQnCtqw0


「ええ、暁美ほむらと――」


海香にとって、付き人とやらの名前なんてどうでも良かった。時間稼ぎに徹する。
時間稼ぎ――それしか出来ることがなかった。


海香の思惑を知ってか知らずか、ほむらは続けた。



238: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:40:34.27 ID:YLQnCtqw0


「暁美ほむら――で三人目の付き人、名前は暁美ほむら」


え? 同じ名前よ?


ほむらの襲名披露宴は続く。



239: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:41:19.90 ID:YLQnCtqw0


暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら

暁美ほむら


240: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:42:10.27 ID:YLQnCtqw0


「これで十四人だと思うわ。でもその内、何体も破壊された」


耳がイカれたのかと疑った。吐き気をもよおす海香を尻目にほむらは続けた。



「私が造った付き人――貴重な素体。あの子を宿せる唯一の肉体。
あの子の全てを受け止められる抜け殻。貴女達って本当、人の邪魔しかしないのね」


「全部素体。抜け殻――」

「名前で呼んで頂戴。貴重な素体だからこそ名前があるのよ」



241: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 02:43:12.82 ID:YLQnCtqw0


「『円環の理』を宿すために何人も殺したってこと・・・よね」


「たった四人でしょ? 運の悪い交通事故だとでも思えば安い物だわ。
そうそう、一般人はどうせ魔獣に殺されるんだしノーカウントよ。結末は一緒だものね」



共に戦い、同じ目標のために苦心した仲間を貶された。
海香は悲しみと怒り、後悔の混じった感情をもって、目の前の敵にぶち撒ける。



「あなたは、もう人じゃない! 暁美ほむらじゃない!」

「トチ狂ってるわね、御崎海香さん。私は暁――」

「魔女よ! 魔女! 『死者を囲い込むもの』ヴァルプルギスの夜よ!」




「私を侮辱しているの?――」



243: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/29(木) 23:53:13.43 ID:YLQnCtqw0
――――――――――――――――――――――――――――――
Tips


ほむら「このリボン凄いのよ。魔力を注ぐと桃色の力になるの」

ほむら「魔力は人間の魂かグリーフシードから得ているわ」

ほむら「魔力容量が生まれつき多いから、穢れの浄化以上の効果があるの」

ほむら「リボンに貯めた魔力も考慮すると、アドバンテージは相当のものよ」

魔力→魔力容量UP、身体強化etc  →  穢れ発生  ←魂、グリーフシードで浄化


さやか「ほむらの実験場所を壊したよ。一人前の魔法少女だよ」

杏子「さやかとあすなろ市に行ったぞ。プレイアデス聖団に協力を仰いだ」

マミ「暁美さんが見滝原に被害を与えたら、次こそ止めないと、って美樹さん達と相談したの」

マミ「でも二人の意見は変わってしまったわ。プレイアデスと「同盟」を組むだけだったのに」

マミ「暁美さんとプレイアデスが組んだら拙いわ。いつの間にか見滝原に来ているの」


245: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 00:47:20.22 ID:YWo5QBEF0
――――――――――――――――――
――――――――――――


■宇佐木里美の悲劇


ほむらの鎖骨にある宝石は既にヒビが入っていた。
人間から集めた魔力が漏れ出している。


「イヤ・・・死にたくない・・・だれか――」


「バイバイ」

「――ぁ」

「あはは、あっけなかったわ。のんきに外を歩いてるからそうなるのよ」



硝子を磨り潰すように、入念に石を処理した。



そのままうつ伏せに倒れたほむらに足を乗せ、一時の興奮を楽しむ。




「海香ちゃんの作戦もまあまあ上手くいったわね」

「うんうん。早くあすなろに戻りましょう」







246: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 00:47:59.05 ID:YWo5QBEF0



〔暁美ほむらはたった今殺しちゃった。これで――〕



247: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 00:49:05.74 ID:YWo5QBEF0


海香にテレパシーをしている最中、目を疑うような光景を視た。




里美の真横に暁美ほむらが居た。




そこにいるのが当然かのように、気配なく、至近距離に立っていた。

動揺のあまり、テレパシーが途切れる。


集中力無しに情報の送受信は困難――況して先ほど殺害した人物が立っていたとすれば、
驚きの程度は甚だしいと言わざるを得なかった。



「貴女が最初の生け贄」


「!!」





248: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 00:50:06.40 ID:YWo5QBEF0


「初めまして」


「どうして・・・ソウルジェムが本体じゃない・・・」

「ソウルジェムは私達、魔法少女の本体よ?」


「壊したのに。どうして生きているの・・・」



ほむらは里美が踏みつけている死体を指差し、猫なで声で耳元に囁いた。



「私の付き人は十四体。残り十三体。13って死の数字よね。そういうこと」


「かずみちゃんと同じ? いやあああ! 死にたくない、死にたくないっ!」


里美は逃げようとしたが、今すぐこの場を離れようとしたが、体が動かなかった。
完全にイレギュラーな事態に、脳の処理が追いつかない。



249: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 00:51:16.43 ID:YWo5QBEF0


「もう穢れ始めてる。私が今すぐ楽にしてあげるから」


里美の左胸にソウルジェムを接触させる。
突風で紅いリボンが大きく靡いている。


「ふぁ、ファンタズマ・ビス――」

「精神を落ち着かせないと魔法は発動しないわよ? あら似た色なのね、縁を感じるわ」

「止めて。私まだ逝きたくない・・・導かれたくない」

「穢れを移すだけよ。あの子を宿す練習でもあるけど」


穢れは既に移し終え、里美の魔力を吸い尽くす形になっていた。
魔力を吸い切るか、里美が絶望すればほむらの計画が始まる。


「あノ子って円カんノこトワ――?」



250: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 00:52:43.88 ID:YWo5QBEF0


桃色の柱が上がった。里美のソウルジェムは既に濁りきっていた。


「ああ! 逢いたかったわ。本物のあの子にまた逢えた。私に姿を見せて・・・声を聞かせて・・・」


淡くて優しい桃色の中に入るほむら。全身に安堵は感じるが、
一向に『円環の理』が宿る気配は見られない。声も聞こえない。



呪を唱えたが、その身に変化は起きない。



「人の身に二つの魂は無理なのかしら?
魂は外にあるから、私の肉体に宿せば・・・と思ってたのだけれど。
外付けのハードウェアにあの子を拒絶する理由は無いはずよね」


桃色の中でほむらは独り言を続けた。


「付き人の方は上手く行ってるかしら。次は付き人にも浴びせないと。あれらは魂を持たない」


桃色から名残惜しそうに出て行った。紅いリボンは真紅に煌めいている。





 

252: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:08:34.36 ID:YWo5QBEF0
■浅海サキの悲劇


サキは高台を陣取っていた。


どこか抜けている彼女は地の利を活かすことを忘れ、
いつでも敵の奇襲を受けかねない場所に仁王立ちし、腕を組んでいた。


周囲には誰もいない。たとえ、一般人が居たとしてもサキは気にしないだろう。




253: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:09:33.86 ID:YWo5QBEF0


「記憶喪失・・・何も植えつけていない。クローンの器・・・ミチルより頑丈」

「ミチルの魂さえ手に入れば・・・暁美ほむら。奴さえ味方になってくれれば」

「ミチル――ミチルのためなら魔法少女システムの破戒も厭わない」


後ろに二体の影が近づく。サキは振り向かずにそのままの体勢だ。


「あの子の破戒は許さないわ。ええとプレイアデスのメンバーよね」


その内の一人が警戒心を示しながら問いかけた。
サキは待ちかねていたかのように後ろを向いて、ベレー帽を脱いでお辞儀をした。


「浅海サキ。暁美ほむらを仲間にしたい。どっちが本物だ?」


「「私よ」」

「どれでも良いよ。一つくれ」

「「何が目的でここに来たの?」」

「器に魂を宿したい。話は聞いているんだ。素体――と呼んでるらしいじゃないか」

「「そこまで知っているのね。でも誰の魂?」」



254: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:10:57.37 ID:YWo5QBEF0


「和紗ミチル。魂を呼ぶ方法と、器に定着させる方法を教えて欲しい」


「「どちらも魔力が要るわ。ものすごく沢山の。だから私達はヒトを殺し続けている」」

「最近の行方不明者具合から察しは付いてたよ。どうしても魔力が足りないんだな」


「「そうね。貴女、話がわかるじゃない」」

「わからないよ。暁美ほむらは人間を殺して魔力を得ようとしている。魔獣狩りも結局は同じ。
数千の命とひとりの友人、どっちも重すぎてわからないよ、私には」



「迷っているうちはまだまだ未熟よ」

左手を差し出す一人のほむら。サキはミチルを想いながら手を重ねた。




255: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:12:35.92 ID:YWo5QBEF0

そこに三人目が現れる。真紅いリボンが特徴――先の二人とは何かが違っていた。


「仕上げは私。貴女達二人には処理が難しいわ」

「「ふん。コイツは浅海サキ。プレイアデス聖団も私と同じ目的で――」」

「死んだ友人の魂を探し出して器に宿すことだ」

サキが間髪入れず説明をする。ほむらは全てを理解した。


「そう。浅海サキさん。私よりも難しいことに挑戦するのね」

「禁断の果実に難しいも何も無いだろう」

「あの子は、魔法少女の数だけここに現れる。
サキさんの友人はどうなのかしら。来れるの? ここに」




256: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:13:42.62 ID:YWo5QBEF0


「それを探し続けている。だから知恵を貸して欲しいんだ」


ほむらはサキの発言を気にも留めず、
左手甲にある常磐色のソウルジェムに興味を向けた。


「あら、同じ位置なのね。縁を感じるわ」

「おい。人の話を」

「イヤよ。却下」


二つのソウルジェムが接触する。

生命力を吸い尽くされる勢い――全身が気だるくなり、頭が重くなってきた。



死期を悟ったサキはポケットから一対のピアスを取り出した。

右手のひらにそれを乗せ、ほむらの方を向いて口を開閉しているが、
ほむらは無視を決め込んでいる。


最期の頼みは聞き入れて貰えそうに無い。


サキは涙を流した。



257: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:14:40.69 ID:YWo5QBEF0


「そろそろ限界? 案外早かったわね」

「・・・その罪ヲ身に心に刻みつづケろ」

「心に来るわね――」



桃色の柱が上がった。二度目の『円環の理』である。




「貴女達が味わいなさい。私は軽く浴びてから次のところに行くから。
グリーフシードを上手く使えば、結構長持ちするわよ。この現象」

真紅のリボンが他二人に命令する。
二人は口答えする事無く、柱の中へと入っていった。






258: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:16:22.68 ID:YWo5QBEF0

■若葉みらいの悲劇


「・・・」



「最初から全力全壊でいくよっ」

「La Bestia」



無数のテディベアを召喚し、黒髪の少女を拘束した。
三十センチ大のBestia――獣は対象の腕や脚に向かって噛み付き、痛々しい裂傷を与え続けた。
普通の人間にとっては見物しているだけでパニックに陥るほどの惨状である。



しかし、相手は魔法少女――ソウルジェムを砕かれない限り無敵の存在である。
たとえ、テディベアに四肢を食べられたとしても死ぬことは無い。



259: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:18:19.14 ID:YWo5QBEF0


「もういいかな」


既に脚は無く、失血によって全身が青ざめている。
傍目に見ると、生きているのか死んでいるのかわからない。

その少女は、死戦期呼吸を魔力で抑え、白い顔をあげた。


「プレイアデス聖団・・・」

「ソウルジェムが無いよ。どこに隠したの?」

「ノルマは達成してたから・・・ホンモノに渡した」

「?」




「私はニセモノだったのよ。もう濁ってしまいそう。濁る魂すら持ってないけど」




「よくわからない・・・けど死ね」


みらいは身の丈を凌駕するほどの巨大な刃を生成し、これ見よがしに振りかぶった。


「ありがとう」


車道がほむら色に染まった。


「変な奴」




260: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:19:42.64 ID:YWo5QBEF0



「さてさて報告っと」



〔ボク、暁美ほむらを倒した! 大した事無かったかな〕

海香にテレパシーを送る。

〔そう、二人で倒したのね。お疲れ様〕

誰と? みらいはすぐに返事を送りかえす。

〔違うよ、ボク一人だよ。だって元々そういう作戦だっ――



少し離れたところに桃色の柱が上がっていた。
丁度サキがいる方角だ。ほむらを倒したというのに胸騒ぎが止まらない。


「誰か・・・導かれてるの?」


みらいは高台の方まで全速力で走った。



261: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:21:56.22 ID:YWo5QBEF0
――――――――――――――――――
――――――――――――


みらいは一部始終を見てしまった。



桃色の中に三つの影。

一つの影がそそくさと出ていった。

暫くして二つの影が立ち去る。



最後に桃色の柱は消え去った。

「まさか・・・違うよね」

意を決して発生源だった場所まで向かった。







262: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:23:09.56 ID:YWo5QBEF0
――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――
□あすなろ市 海岸


海香「さあ? 記憶もゼロ、人格もゼロ。でもミチルみたいに明るくていい子になるわよ」

みらい「『かずみ』かあ、やっぱり姿はミチルなんだよね」

海香「複雑?」

みらい「そんなことないよ。サキはボクの魅力で勝ち取る、そして――」

綺麗に手入れが施されているテディベアを取り出した。

みらい「――かずみはボクの弟子にするんだ。その証拠にこれをあげるの」



里美「私はこの子をかずみちゃんに。やっと人になつくようになったの」

ネコと、腕にある引っかき傷を見せながら微笑む。

海香「私は執筆中の小説・・・を最初に読んでもらうわ」

カオル「なんだよ。みんなプレゼント用意してるのか。あたしは全日本のユニに――」

ニコ「私はアメリカ旅行――でプレイアデス星団を見る」

カオル「アメリカ!?」

ニコ「そしたら 私のこと全部話せるかも」



サキ「私はこのピアスを送ろうと思う。ミチルの願いを託すために」

サキ「そしてこのピアスにミチルではなく、かずみだけを見られるようになりたい」

サキ「その決意が出来たら、必ず渡すんだ」

――――――――――――
――――――


263: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:24:11.67 ID:YWo5QBEF0





足元に、一対のピアスが転がっていた。






264: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 01:26:10.94 ID:YWo5QBEF0


「サキが持ってたピアス?」

「サキ・・・サキ?」


『キミを見ていると、昔の自分を見ているようで嬉しくなる』


「嫌・・・嫌。ボクの最初の・・・人間のトモダチが」


『私はニセモノだったのよ。もう濁ってしまいそう。濁る魂すら持ってないけど』


「ボクは、踊らされてた」

「サキは・・・もう」


『似ているんだキミは』


「サキ」




「・・・サキ」



サキと同じ場所に、桃色の柱が上がった。



265: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 19:54:44.62 ID:YWo5QBEF0
     _
   ,r´===ヽ
   !l|从ハノリ!| 戦闘回だよ
   |リ、゚ ー ゚ノl|    
__ノノ_(つ/ ̄ ̄ ̄/__
   \/homura/

266: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 19:58:30.86 ID:YWo5QBEF0
バンバンバンバンバンバンバンバンバン
バンバン  _ バンバンバンバンバン
バン  ,r´===ヽ バンバンバンバン
バン  !l|从ハノリ!| バンバンバンバン
バン∩リ、#゚ ヮ゚ノl|
__(_ミつ/ ̄ ̄ ̄/__
   \/homura/

♪Leap the Precipice
http://www.youtube.com/watch?v=TM3BIOvEJSw

♪Agatio and Karst
http://www.youtube.com/watch?v=1K62LvNZSFk

267: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:00:27.31 ID:YWo5QBEF0
■牧カオルの悲劇


右太腿のホルスターが軋む。
硬質化させた手足で暁美ほむらに挑んでいた。




奇跡や魔法ではどうにもならない――




     ――悪夢のような数分




事の発端はカオルの強襲である。


268: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:02:44.28 ID:YWo5QBEF0



「長い黒髪、赤いリボン――」



「Capitano Potenza」


カピターノ・ポテンザ

前腕、下腿を、手足含めて硬質化させる魔法である。
魔導装甲やシュルツェンとは異なり、指の先まで自由に動かすことが出来る。


汎用性は高く、身体強化との相性が非常に良い。


トリッキーな使い手の多いプレイアデス聖団――
硬質部分の強度と重量を自由に変えるだけのシンプルな魔法と思う無かれ。


聖団随一の防御力と、純粋で直接的な“力”を前にして生き残るのは至難の技である。


269: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:03:33.42 ID:YWo5QBEF0


冷血で強烈な一撃を浴びた者は、皆言葉を失い後悔の念を抱く。


――こいつには勝てない


歯向かった者には、残酷な現実と、冷酷な蹴りが襲い掛かる。
プレイアデスを取りまとめる二強の一人。


          “力の牧カオル”


牧カオルは格闘術を駆使する魔法少女であり、
リーチの短さという対魔法少女において致命的な欠点は、天性の運動能力によって補われた。





270: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:04:37.66 ID:YWo5QBEF0


「――見つけたよ、死神さん」


塀の上を全力疾走し、街を徘徊するほむらへ飛び蹴りを喰らわせる。
カオルのスパイクは、勢いが収まるまで彼女の背中を抉り続けた。


鉄のように硬く、熱い衝突によって倒れるほむら。
焦げた肉のような匂いがカオルの鼻腔に入り込む。


「魔法・・・少女!」

「君が暁美だろ? 覚悟してよね」


背中に馬乗りになると、間断なく鋼の腕を叩きつける。
ほむらの背中は膨れ上がり、痛々しいうめき声だけを上げている。


硬化していない左手で服を剥ぎ取っていき、
青白い臀部にソウルジェムをみつける。



271: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:05:06.12 ID:YWo5QBEF0


カオルはそれを粉砕する。手際よく奇襲を成功させたかのように思えた。

摩擦熱と殴打によって変色し、スパイクで蚯蚓腫れした死体から視線を上げると





272: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:05:34.42 ID:YWo5QBEF0





暁美ほむらが居た





273: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:06:03.61 ID:YWo5QBEF0



「貴女、相当の手練ね」

「二人目・・・ロッソ・ファンタズマじゃないな。何者だ?」

「私は暁美ほむら。さっきのは付き人、基本的に二人一組で行動しているわ」

「・・・ッち」



「最初から本気でいくわよ」

「来い!」





274: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:06:48.73 ID:YWo5QBEF0


遠距離 対 近距離


ほむらは躊躇せず、ホルスター中央のソウルジェムを狙ってきた。
カオルからすれば愚の骨頂と言ってもいい戦術だ。


カオルは硬化、軽量化した四肢を駆使して矢を軽々避ける。


「ソウルジェムが狙いか、安直過ぎるよ」

「体そのものが武器。矢は当たりそうにない・・・わね」

「――勝てないよ? そんな考えじゃ」

「早っ――すぎる」


そのまま壁を蹴り、ほむらの方向へ飛び込む。




275: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:07:57.93 ID:YWo5QBEF0


と見せかけ、反対側の壁まで跳躍する。


カオルは一撃離脱戦法を選んだ。

丁度ジグザグに接近し、矢の照準を困難にさせる目論見でもある。

プロサッカー選手を凌駕する俊敏さに、ほむらは立ち尽くすしかない。



ほむらとカオルの目が合う。カオルの息が、ほむらの頬にかかる。



目と鼻の先



間合いは完全に消えた。
相性、戦術、攻め手、全てにおいてカオルが勝っていた。


ほむらは咄嗟に、カオルの片腕を掴む。


276: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:09:45.88 ID:YWo5QBEF0


「待ってたんだ。それ」


掴まれた腕を最大まで重量化させる。
ほむらは耐え切れなかった。カオルの腕が手から滑り落ちた。


腕は重力に従ってほむらの左足の甲と、その下の石畳を砕いた。
言葉通り、骨身に響く鈍痛がほむらを襲った。



「ぁああ゛あ゛あ゛」



カオルは妥協しない。油断しない性分だ。
そのまま慣性に従って、側面に蹴りを二発叩き込む。

脚の関節はカオルの攻撃に耐え切れず、ペキッっと音を上げた。


277: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:11:25.11 ID:YWo5QBEF0

「まだまだ。後ろが御留守!!」


うずくまるほむらの脳天に、かかと落としを決める。
ほむらは既に動かなくなっていた。


「気絶したかな。かの暁美ほむらでも痛覚遮断は使わないんだね」


「Tocco Del Male」

ほむらの脇腹から紫色の宝石を吸い出した。
そのまま硬化した手で握りつぶした。


「早く帰ってかずみの作った牛角煮こまだれとんこつチャーハン――」



278: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:12:21.62 ID:YWo5QBEF0


路地裏から少女が出てきた。
至極、機嫌が悪そうな様子である。


「よくも私の付き人達を潰してくれたわね」


冷静そうな、仏頂面。しかし声だけはヒステリックに上ずっている。


赤いリボンに黒い髪の魔法少女。


これも間違いなく、疑う余地もなく、紛れもなく暁美ほむらであった。



279: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:13:19.48 ID:YWo5QBEF0


「三人目? 勘弁してくれよ、洒落にならないや」

肩で息をしながら手足を硬質、軽量化する。

「三人目じゃない。真打――本物の暁美ほむら、直々に相手をしてあげるわ」




「二度あることは――ってね!」

少し接近を試みると、弓が鼻先をかすめた。


「!!」


矢は用いず、弦も張っていない。弓だけで戦っている。
鉄パイプのように弓を扱うその姿は、今までの二体とは大きく異なっていた。


流石、動きが段違いだ――強敵はこうあるものなのかとカオルは舌を巻いた。



280: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:14:49.48 ID:YWo5QBEF0


カオルは石畳を蹴り、ほむらの真上に跳んだ。


「これならどうだ! 避けられるものなら避けてみろ」


「馬鹿ね。私から遠ざかるほど、貴女は死に近づくのよ」


ほむらは矢を上に構えて、十数メートル上空の右腿を狙っている。



真下の魔法少女にカオルは呟く。




「馬鹿はお前だよ」




281: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:16:45.31 ID:YWo5QBEF0


四肢に重さを生じさせ、急速に落下する。

矢が放たれた頃には、石片と土埃が舞っていた。
カオルは既に地表面に急降下し、隙だらけの鳩尾に二発攻撃を与えていた。



紫電一閃



脇腹に一撃をもらい、カオルは大きく飛ばされた。



ノーモーションからの返し技は痛恨だった。


カオルの外見には問題ないだろうが、
複数の内臓が破裂したような、重く、鈍い痛みが全身を駆け巡る。


硬質化していない部分の損傷は計り知れない。
自動回復にリソースを割きつつ、暁美ほむらという強敵を褒め称えた。


「今のは・・・弓か、見えなかった。思った以上に厄介だな」


「貴女こそ。全身凶器の相手は骨が折れる――文字通りね」



282: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:18:04.70 ID:YWo5QBEF0


攻撃の余波によって壁は崩れていた。側面の足場がなくなった。地の利が奪われたのだ。
カオルは撤退の準備を始める。このままでは殺されてしまう、そんな直感が脳裏をよぎった。


露骨に、追い詰められているフリをして自然公園まで誘導する。



≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫

プレイアデス聖団全員にテレパシーを送り、脱兎の如く反対方向に走り出した。



283: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:19:57.82 ID:YWo5QBEF0

ほむらは追いかけてきた。作戦は成功。
走りながら、疑問をぶつける。余計なことを考えさせないために。


「結局、さっきのはソウルジェムじゃなかったんだろう?」

「付き人は素体だから魂を持っていないっ」


塀を走り、信号機を踏み台にして、屋根と屋根の間を跳ぶ二つの姿があった。


「じゃあなんで砕いたら死ぬのかな・・・っと」


着地に失敗し、車のボンネットに足を取られるも、
すぐに体勢を立て直して自分のペースに持っていく。


「魔力の回収装置、同時に動力源でもある。
それが壊れたら、体内に遺された魔力で補う。数分も持たない」


「付き人とやらは命懸けで魔力を集めてたんだな」


「回収した魔力をリボンに注いで、円環の力として再び取り出し、吸収するためにも、ね。
そして、魔力を奪い取った後の素体は、あの子を宿す器になるっ」


「効率的だな! 反吐が出るよ」



284: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:24:19.64 ID:YWo5QBEF0



罵倒しながら追いかけっこをする二人の頭上が紫色に輝いた。



走りながら、振り返って見上げるカオル。



空に魔法円が描かれている。



それは方形や円形が組み合わさった幾何学的模様で、
数学的で、合理的で、理性的なモノだった。



天上の青に浮かぶ、爛々とした紫。
それはほむらの頭上にあった。





285: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:25:27.04 ID:YWo5QBEF0


「おいおい、市街地をぶっ壊す気かよ」


「ち・・・違う。私じゃない」


「でも暁美を中心にしてるじゃないか」



これまで経験したことの無い、皮膚に刺さるほどの鋭いエネルギーを感じ、
カオルは魔法円から大きく距離をとる。


「私をおいて逃げないで!」


「そんだけ大きな魔法円敷いといて何言ってるのさ」



286: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:27:03.44 ID:YWo5QBEF0


「助けて――」



紫の線がほむらの体を貫通した。
その線はどんどん数を増していった。



ほむらは光の中に消えた。



魔法円が紫の柱になった、とカオルは認識した。


「ち・・・がう。あれは矢か? 全部矢なのか・・・」


円柱と思われたそれは、高密度に降り注ぐ、無数の矢だった。


一本一本が、豪雨のように降り注いだ。


特筆すべきはその音である。
ほとんど小雨のように、静かで、絹糸のように滑らかであった。


それらは魔法円から射出され、真下にあるもの全てを飲み込んだ。



287: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:39:56.35 ID:YWo5QBEF0



「自滅・・・? どういうことだ」



消し炭と化した円形の領域に何かが立っていた。


「トッコ・デル・マーレ。邪悪の感触って所かしら。便利なワザね。
でも邪悪ってソウルジェムのことよね? ちょっとイヤだわ」


そういって左手のソウルジェムに、同じ形をしたソウルジェムを当てている。
それは、おびき出した方のほむらから掠め取ったジェムである。



「途中からだけど、全部見てたわ。貴女のワザのお陰で貴重な魔力を回収できた」


「お前は――誰だ?」



288: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:40:39.81 ID:YWo5QBEF0



これも暁美ほむらの様に思われた。

しかし、カオルが接触した三人とは明らかに違っている。


剣呑な目つき、見下した目つき、殺意を顕にした目つき。
白と紫を基調とした魔法少女服に、二メートル超のロングボウ。
長く黒い髪の毛に、燃えあがるような真紅いリボンを纏っている。



「無駄に魔力を使ってしまったわ。次は気をつけないと」


「質問に答えろ。お前は・・・何者だ?」


「暁美ほむら。『円環の理』に焦がれる者」


ほむらは、付き人がかき集めた魔力をその身に取り込み終えると、
掠め取ったソウルジェムを無造作に砕いた。


289: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:41:48.76 ID:YWo5QBEF0



沈黙が続く。



「何しに来た」

「あの素体は喋り過ぎた。口封じ」

「あれも付き人だったのか」

「ええ、そうよ。アレにあの子を宿す予定だった」

「何故だ?」

「あの子の力に耐えられる素体が見つからないから。
だから私の付き人で代用している。宿ってからミテクレを書き換えればいい」

「・・・狂ってるよ」

「見た目は大事よ?」


「どうして『円環の理』にこだわるの?」

「私のただひとりの友人だから。あの子にとって私は、最高の友達」



290: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:42:22.45 ID:YWo5QBEF0

「えっ――と」

「話しすぎたから貴女も口封じ。トッコ・デル・マーレ」

呪文によってホルスターに輝く五角形のソウルジェム――とカオルの肉体が引き寄せられる。

「どういうことかしら」

「Tocco Del Male は対策済みさ。甘く見ないでくれ!」



291: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:43:09.70 ID:YWo5QBEF0


一度大きく距離をとった。
トッコ・デル・マーレで引き寄せられたとき、キツい一撃をお見舞いするためだ。


上部に殺気を感じ、緊急回避をする。

自分の居た場所には数本の矢が突き立っていた。


「これはシャレにならないね・・・」


空から降ってくる矢の連撃を必死に避け、懐に入り込むカオル。

焦土と化した円形の中で、二つの影が重なり合った。



292: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:44:02.28 ID:YWo5QBEF0

カオルのホルスターが軋む。
硬質化させた手足で暁美ほむらに挑んでいる。


攻撃は当たるが、当てたときの反動が尋常ではない。


脚蹴りをしてみれば、鋼にヒビが入る。
顎に全身全霊の一撃を与えたと思えば、肩が脱臼する。



奇跡や魔法ではどうにもならない悪夢のような数分。



293: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:45:16.87 ID:YWo5QBEF0



身体強化ここに極まれり



今度の暁美ほむらは桁違いの強さを誇っていた。


死神、冥界の王、死を司る魔法少女――二つ名を考えているうちに
カオルの浅黒く、健康的な太腿がベリベリと剥がされた。


言葉通り、剥がされたのである。


「私達相手に頑張ったほうよ?」

「四連戦・・・ちょっと無茶しすぎたな」

「潔く魔力の一部となりなさい。序でにあの子に遭わせてあげる」

「右足――サッカーはもう無理か」



294: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/08/30(金) 20:46:06.08 ID:YWo5QBEF0


〔かずみ、聞こえるか? 逃げろ。ホンモノの暁美は桁違いだ〕



かずみだけに聞こえるテレパシーを送った。



「ほむらちゃんが逢いたがってるって伝えておいてね」


〔最期にかずみのチャーハン、食べたかったなあ〕


「聞いてるの? 無視?」





「聞こえるさ。友人の声が――」





『円環の理』が発動した。


312: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:06:48.28 ID:yXRTDOXo0
■神那ニコの悲劇


人通りの全く無い歩道橋の上、ニコはほむらと対峙していた。



「その姿、魔法少女ですか。遭いたくありませんでした」

「アンラッキーだね 君がアケミホムラだろ?」

「噂は聞いています。プレイアデス聖団のメンバーですね」

「我が名は 神那ニコ おまえを殺しに来た」


ふら付きながら後ろに下がるほむら。
どうやら魔力切れ寸前の状態らしい。


「勝負なら受けて立ちます・・・」

「ああ 無理しなくていいよ カミ様に救済させるようなヘマはしないから」





313: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:08:01.76 ID:yXRTDOXo0


『円環の理』に導かれるべき存在ではないと見なした。
派手な戦闘をすれば、魔力切れを起こした殺人鬼が救済されてしまう可能性がある。


魔力を使い切る前にソウルジェムを砕く、神の御前にほむらを逝かせる気は無い。
ニコはこのように判断し、そして行動を起こした。


「Tocco Del Male」


ほむらの身には何も起きなかった。
ニコとしては予想外の事態である。仕方が無いので拘束行動に出る。


「Prodotto Secondario――」


「――おっと抵抗は無駄だ これ以上魔力を使ったらキちゃうよ?」



――――――――――――――――――
――――――――――――

314: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:10:05.35 ID:yXRTDOXo0


足を縛られたほむら。
縛り上げた複製ニコは既に、全て消失している。


「気をつけよう ドッペルゲンガー 生き写し」

「命だけは助けて・・・」

「おまえ 数千人も殺しておいて何?」

「えっ、私は誰も殺してな――」


ほむらの着衣を掴み、上半分を剥いだ。無抵抗のまま目を背けている。
すすり泣く少女を片手で持ち上げ、白くて華奢な肉体を目でなぞっていった。


「私、何もしてない。どうしてこんなことをするの?」


おまえはこの街を喰らう怪物だからね、と反論したくなった。
そんなこと口にするまでもなく、お互いにわかりきっているはずなのに。



315: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:11:30.48 ID:yXRTDOXo0


「魂を出してよ 砕くから」


胸、臍、脇、背中、首筋と見ていったがソウルジェムは見つからない。
ほむらは視 されている間、一言も発していない。


「吐かないか 強情だね」


そういって、ダイヤ柄のタイツを破き始めた。
ほむらは目を瞑ったまま何の反応も示さない。


「Tocco Del Male」


ソウルジェムを掠め取る呪文。
服を剥いでも反応しないと言うことは、百メートル圏内の何処かに置いている可能性。
或いは体内に飲み込んでいるのかもしれない。


ニコは暫くの間、ほむらを付けていた。

ほむらは、誰かを探すかのように見渡しながら、
大通りからわき道、裏道から歩道橋までくまなく歩いている。

したがって、前者の可能性は自然と消える。



316: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:12:41.08 ID:yXRTDOXo0


「うーん 教えてよ 裸はヤでしょ?」

「・・・・・・」


沈黙し続けるほむらを見てニコはもう一度「邪悪の感触」を唱えた。
ほむらの頬がキュっと収縮していた。


「見つけた あーんしてよ あーん」


首を横に振るほむら。
ニコは右手で額を掴み、もう一方で無理やり口を開けた。



「じゃ 痛いかもしれないけど 摘み取るよ」

「い゛ッッ!」

切り取ったソウルジェムをまじまじと眺める。
どこか人工的な違和感を覚え、その石を光に照らしたり、手で弾いたりした。



317: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:14:03.55 ID:yXRTDOXo0


「潰しても無駄ですよ・・・。別の私が居ることは知ってますから」

「アケミホムラのは ソウルジェムじゃないね エネルギーをためる装置だ」

「何を言っているんですか?」


「ためたものを 注げるようになっているのか
目の前の女 おまえは アケミホムラじゃないね」

「私は暁美ほむら。それだってソウルジェムです。戯言もほどほどにしてくれますか」

「ははん じゃあ使い方教えてあげるよ こう使うのさ」


ニコは首の後ろにある水色のソウルジェムを取り、ほむらが隠していた宝石に近付けた。
すると宝石が段々と、徐々に昏い色になってきた。


「こんな感じ アケミホムラのソウルジェムは 充電式のグリーフシードみたいなもの」

「え? そ、それじゃあ私のソウルジェムは何処に?」


318: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:15:08.85 ID:yXRTDOXo0


「おまえは ニセモノだ 人格も 記憶も 見た目も 全部ニセモノ」

「ニセモノ・・・魂は」

「ナイね だって魔力で動いてるもん」


「嘘よ、そんなの嘘よ゛」

しゃっくり上げて泣き始めるほむら。





「残念 その感情もニセモノ」

「!!」





とどめの一言をほむらに投げかけると、ニコは本物のほむらを探し始めた。


「報酬は珍妙な宝石一つ 気を取り直して次に行こうか」


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319: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:16:32.19 ID:yXRTDOXo0

□見滝原――大通り


≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫


カオルの広域テレパシーがプレイアデス聖団全体に発された。
無事、受信したニコは交差点の前で立ち止まる。



「公園はどっちだったかな」



「こっちだよ、神那ニコ」



「ああ助かるよ 通行人の方――」


ニコは目の前に居る人物を見て絶句する。




320: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:18:13.65 ID:yXRTDOXo0


「初めまして、かな。さっきのやり取りは頂けないなあ。
自分がツクリモノだと気づいたときの絶望は計り知れないんだよね」


「まさか おまえ」


「冥土の土産に教えてやろう。我が名は聖カンナ――おまえの操り人形さ。
おまえは二度も過ちを犯した。だからここで死ぬ」


フードを被った少女が魔法少女に変身する。


321: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:19:27.74 ID:yXRTDOXo0


肩の露出した分厚いレザーコートを纏い、その下には体に密着したズボンを履いている。
黒いミリタリーベレーからはクリーム色のツインテールが垂れている。


全身黒尽くめの容姿が、服の上に刺繍してある数個の緑と白の水玉を引き立たせていた。
カンナはどす黒い笑みを浮かべて、丁寧に頭を垂れた。




「似合っているでしょ。この紋様はヒュアデス星団をかたどってるんだ。
ヒュアデス――プレイアデスの異母姉妹。因果だろう?」


「因果だ 幸せな人生を捨てて おまえは魔法少女になってしまったのか」


「ツクリモノの人生――の間違いだろ。おまえの作った設定に魅力は無い。
『IF』の私は、オリジナルのおまえが自滅する瞬間を、待ち望んでいるだけさ」


「恨んでいるのか・・・ アケミホムラに挑む前に 殺されて殉職かな」

「ノン。おまえは自滅する」



322: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:20:27.27 ID:yXRTDOXo0


神那ニコの契約は 「IFの自分を造り出し、幸せな人生を送らせること」であった。
聖カンナは、とある出来事からニコの存在を知り、インキュベーターに仔細を聞いた。







       そして契約を取り結んだ




            コネクト 
           Connect







カンナは復讐を望んだ。対の破滅を望んだ。ホンモノになることを望んだ。
相手に気づかれずに接続する力を駆使し、見滝原の地までニコを追いかけてきた。


323: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:21:30.07 ID:yXRTDOXo0


「暁美ほむらのジェムを使っただろう? あれには得体の知れない魔力が混じっている。
神那ニコのような普通の魔法少女にはきっと猛毒。そろそろオダブツさ」


「魔力で死ぬわけが無い 現に穢れが浄化された」


「ま、『円環の理』に導かれるべき存在じゃないよ、おまえ。
ニセモノを二度も悲しませたんだ。やっぱり殺そう。これはデス・ペナルティに値する」


『円環の理』は比較的規模の大きい現象である。
カンナは本来ニコの自滅を目に焼き付けるために、ここまで追ってきたのだが、
プレイアデス聖団のメンバーに知られては新規の計画に支障をきたす。


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324: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:22:47.12 ID:yXRTDOXo0




「私の生き様に、おまえは何を見た」



「合成品に潰された人生、おまえは何を感じた」




ニコだった物から紫色の石を拾い上げ、自分の魔力を注ぐ。



「赦さないよ。暁美ほむら――哀れなニセモノを産み出し続ける魔法少女め」



325: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:24:15.00 ID:yXRTDOXo0

□歩道橋


半裸で泣き崩れる少女が居た。
上着は無く、タイツは引き裂かれている。


「やあ、君のソウルジェムは取り返したよ。
さっきの魔法少女は私が適切に始末した」

「ひぐっ・・・えっぐ」

「泣かないでくれ」


「・・・」


「私もニセモノなんだ」

「え?」

「さっき君が戦ったのは黄緑だっただろう? 私は黒衣の魔法少女だ」

「は、はい。でもどうして私なんかを」

「新たな人類――HyadesとしてHumanに復讐しないか?」

「そんな・・・無理よ」

「ソウルジェムに十二分の魔力を注いだ。君なら創造主に叛逆出来る」



326: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:26:15.99 ID:yXRTDOXo0

悲しみを堪えながら、返事をする同類を見て、カンナは優しく諭した。



「神は人間を創った。神はここにいるかい?」

「いない」

「人間は私達を造った。人間はここにいるかい?」

「・・・いる」

「なら消えてもらおう」

「私は――」



「まずは身の回りから。魔力を極限まで集めて暁美ほむらに挑むといい。
私は残りのプレイアデスに溶け込んで、内側から破壊する」

そう言ってほむらの服を修復し、肩を叩いた。


「私は聖カンナ。おまえは、暁美ほむら と名乗れ。オリジナルになれ」

「・・・魔力を集めてきます」



327: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 12:27:30.94 ID:yXRTDOXo0


涙を拭って歩道橋を飛び降りるほむら。
活路を見出したその姿にカンナは最大の賛辞を送った。











「敵を欺くには まず味方から ってね」













329: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/01(日) 13:11:54.03 ID:yXRTDOXo0
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ほむら「『付き人』の呼称が増えてきたわ」

ほむら「素体、器、暁美ほむら、Hyades、別称はまだまだ増えていく予定よ」

ほむら「それにしても、ちょっとキャラ多すぎない?」

ほむら「一気に七人で襲えば良かったのに」

ほむら「でも、単独行動には深い理由があったのよね・・・」


カンナ「ちゃんと減っている。神那は死んだぞ」

ほむら「カンナが出てきたじゃない」

カンナ「案ずるな」

ほむら「貴女は誰の味方なの?」

カンナ「さあ? 取りあえず、残りのプレイアデスは二人だ。かずみと御崎海香だね」