前回 ほむら「もう一度だけ逢いたい」 その1

338: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/04(水) 18:34:48.26 ID:eTjc/Hbi0
■かずみの悲劇


≪こちらカオル、今から陽動するよ!≫


「みんな、頑張ってるけど――ううん。民間人を襲うワルい奴だから・・・仕方ないよね」

「プレイアデスのみんなは平和を取り戻すために、悪の魔法少女と戦っているんだもん」



339: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/04(水) 18:36:59.07 ID:eTjc/Hbi0

□自然公園


「あっ。ニコも来てたんだね、二人だけ?」
 ・ ・
「人は誰も来てないさ・・・。カオルはまだかな」

「言いだしっぺは最後にくるものなんだよ」

「そうなのか? それにしても残りは何をしているんだか」


カンナの上機嫌な声が周囲に響く。


「まだ来ないよ。あすなろと違って道に迷いやすいし」

「確かに入り組んでいる。典型的な開発途――」


〔かずみ、聞こえるか? 逃げろ。ホンモノの暁美は桁違いだ〕


「カオル!?」

「私には聞こえないぞ。テレパスかい」



〔わかった。逃げるから、一緒に!〕

〔もう無理だ。最期にかずみのチャーハン、食べたかったなあ〕

〔いつでも作って上げるから・・・そんな悲しいこと言わないで〕



340: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/04(水) 18:37:31.17 ID:eTjc/Hbi0



〔カオル? カオル・・・〕


「ニコ・・・カオルが返事しないの」

「そっか。死んだか」



「チャーハンのこと言ってた」

「それが遺言かい?」




「それだけじゃない。ホンモノに気をつけろって」

「すっごく――ココロに来るね」



341: 以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/04(水) 19:06:24.10 ID:dRIh7tD8o
これじゃちょっと誰が喋ってるのかわからないな

342: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/04(水) 19:25:02.03 ID:eTjc/Hbi0
 
――
かずみ「あっ。ニコも来てたんだね、二人だけ?」

カンナ「人は誰も来てないさ・・・。カオルはまだかな」

かずみ「言いだしっぺは最後にくるものなんだよ」

カンナ「そうなのか? それにしても残りは何をしているんだか」

かずみ「まだ来ないよ。あすなろと違って道に迷いやすいし」

カンナ「確かに入り組んでいる。典型的な開発途――」
――
カオル〔かずみ、聞こえるか? 逃げろ。ホンモノの暁美は桁違いだ〕

かずみ「カオル!?」


カンナ「私には聞こえないぞ。テレパスかい」


かずみ〔わかった。逃げるから、一緒に!〕

カオル〔もう無理だ。最期にかずみのチャーハン、食べたかったなあ〕

かずみ〔いつでも作って上げるから・・・そんな悲しいこと言わないで〕
――
かずみ〔カオル? カオル・・・〕
――
かずみ「ニコ・・・カオルが返事しないの」

カンナ「そっか。死んだか」

かずみ「チャーハンのこと言ってた」

カンナ「それが遺言かい?」

かずみ「それだけじゃない。ホンモノに気をつけろって」

カンナ「すっごく――ココロに来るね」
――

346: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/06(金) 07:09:09.62 ID:xudtZGJ50
■暁美ほむらの悲劇


――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

「あなたは、もう人じゃない! 暁美ほむらじゃない!」

「トチ狂ってるわね、御崎海香さん。私は暁――」



「あなたは魔女よ! 魔女! 『死者を囲い込むもの』ヴァルプルギスの夜よ!」



「私を侮辱しているの? 無性に腹が立つ」

「博覧強記な貴女はご存知のようね! それとも博覧狂気ってところかしら? 
貴女にお似合いの二つ名ですことよ」

「狂ってるって、別の子にも言われた。私としては普通の道理なのだけど。
死んだ子を生き返らせたいと思うのと同じで、私はあの子に逢いたいだけよ」

「死者蘇生でさえ禁断の果実。ましてや無から有を創るなんて神の御技よ」



347: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/06(金) 07:10:52.96 ID:xudtZGJ50


「『円環の理』は貴女も見たとおり存在する――貴女は認識から間違っているわ。
万が一、無だとしても私には関係ない。私は私のやり方であの子に逢ってみせる。
そのためには神にだってなってみせるわ」


「大きく出たわね。法則を実体化させようとする試みは面白いけど、それが出来ると思って?」




「私には時間の概念が無い。知識も魔法もある。魔力だけ、力だけが足りない」


「あなたは、道理も倫理も持たない。仲間もいない。力だって足りてないわ」




「言ってくれるわね。知識は全てを解決してくれるのよ」



348: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/06(金) 07:13:31.95 ID:xudtZGJ50

海香の所有する魔道書が色調を変えた。
前もって仕掛けておいたイクス・フィーレが、対象の性質、弱点を読み取った。


「Ics File――弱点分析完了。随分と時間がかかったわ」


「・・・時間稼ぎ」


「知識は全てを解決してくれる。私の好きな言葉よ。魔法少女の暴走も、また知識が解決してくれる。
ヴァルプルギスの夜、あなたの性質と弱点は・・・」

魔道書に刻まれた真実を見て、戸惑う海香。ほむらも海香につられて首をかしげている。





「弱点が・・・・・・わからない」

「あははは、何て無様な子。今まで見てきた中で一番の愚者だわ」

「英語が、読めない」


「「・・・」」


お互いに固まった。



349: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/06(金) 07:15:50.74 ID:xudtZGJ50


00001という数字を挟んで、五つの英単語。


頭文字をとって並べても特に意味は無さそうだ。
最後の英単語以外、海香は読み取れない。


読み取れた唯一の語もほむらとは全く関係が無いように思えた。


(るみのうねが、べてぶらて1えれっきが? こんなの初めてよ。
最後の単語は連結・・・よね。どれも私の役に立ちそうに無い。
なんとしてでも生き残って、六つの光明を示さないと)


口をつぐんで思案する海香。
痺れを切らしたほむらは固有武器の魔道書を奪おうと動いた。


「ちょっと見せなさい。英語ならわかるから」

「謹んでお断りよ! それっバリア!」



350: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/06(金) 07:16:47.13 ID:xudtZGJ50

海香は本を内側に向けて、自分の周囲にシールドを展開した。
光の壁はバチバチと音を立ててほむらを威嚇している。


「これは、実に厄介ね」


気楽そうに言い放ち、弓に弦を張った。
海香はその場から動いていない。シールドに包まれて動けないようだ。



ほむらは若干の距離をとり、矢を射る。




ギィィィィイイン




金属が摩擦するような不快な音色が数刻続いた。


紫の矢はシールドを抉っているかのように見えたが、
ギリギリと軌道が反れて、海香の斜め後ろのビルに着弾した。


351: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/06(金) 07:19:28.59 ID:xudtZGJ50


「甘く見すぎじゃなくて? この分なら三時間は持つわよ」


シールドで声が反響しているが、三時間という単語は聞き取れた。
ほむらは腕を組んで、光の壁をじっくりと観察した。


「訂正、実に厄介ね・・・」


ほむらは攻めあぐねていた。
目的は邪魔者を消すこと、『円環の理』をここに呼び寄せること、素体にあの子を宿すこと。
このまま、海香の魔力切れまで待っても構わない状況ではあった。





「三時間もあれば十分ですよ。私がお手伝いします」


ほむらの後ろに、付き人が居た。
外見こそ区別は付かないが、弱弱しい口調が違いを引き立たせる。



352: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/06(金) 07:21:41.89 ID:xudtZGJ50

「貴女・・・私の遺志を継ぐもの――誰も殺せなかった出来損ない。
精神も貧弱。死に掛けていた割には元気そうね」

「巴さんから聞きました。美樹さんと戦ってたのは貴女でしたか――何日も探しましたよ」

「佐倉杏子も居たわ。貴女、記憶は戻っていないようね」

「徐々に戻って来ましたし、キュゥべえから幾つか情報を得ました。だから準備万端です」



ほむらは素体に道を譲った。
海香の前に立たせて、次のように述べた。


「私の遺志を継ぐもの――Vertebrate-00001に命ずる。
御崎海香を囲むシールドを破壊しなさい」




両手を強く握って、全身を震えさせ、素体は応答する。

「嫌です。最初の実験台、Vertebrate-00001は、
命を粗末にする貴女を殺してオリジナルになります」


「なっ!」


ほむらは素体の行動に魂消た。


記憶の殆どを移植した。どの素体も自分が本物であり、
自分以外は偽者――と全ての素体が思い込んでいた。


だからこそほむらは驚いた。真実を受け入れても尚、運命に抵抗する素体の可能性に。



353: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/06(金) 07:31:01.71 ID:xudtZGJ50


「魔力中毒を起こした臓器ごときが! 生みの親である私に勝てるわけ無い。
聞かなかったことにしてあげる。もう一度命令するわ――」


「嫌! 私は私のために生きる。歩道橋で私は生まれた」

「まだ記憶は戻ってないわね! 私の臓器で貴女が生まれたこと、忘れたの?」

「忘れるものですか、志筑さんにも手を出しておいて・・・」




暁美ほむらが最初に起動したコピーは、
自ら取り出した臓器を組み合わせて生み出したものである。


万が一肉体が失われたときに備えて造って置いた。
端的に言えば予備の体。ほむらは、これを第一の付き人とした。


残りの十三体は『円環の理』の力を克服したほむらの臓器から造ったものである。
これらにかんしては記憶の選択的移植に成功した個体達で、第二から第十四の付き人とした。




第一の付き人は、起動時までの記憶を全て移植したため
オーバーヒートを起こして、せん妄や解離性健忘に近い状態を起こしていた。
オリジナルのように人間を殺さないし、魔力の補充もロクにしない失敗作だった。


以後の付き人にかんしては、ほむらの思うとおりの動きを見せていた。
勿論、集めた魔力――殺害した人間や魔獣の数によって、思考や行動に大きな違いがあった。
二人行動を守らない者、魔力を別の付き人に与える者など、様々である。



354: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/06(金) 07:32:34.68 ID:xudtZGJ50


「貴女はとんでもない失敗作ね。地下深くに閉じ込めておくべきだったわ」

「それでも私は這い上がって見せる。Hyadesを知らしめてやる」

「ヒュアデス? 『円環の理』にその身を奪われる存在よ、余命幾許。好きにするといいわ」

「奪われるのはあなたです。全てを無かったことにして見せます」

「ふうん。五分と持てば僥倖と思いなさい」



355: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/06(金) 07:33:49.53 ID:xudtZGJ50


黒い屋上に揺れる二つの火。




「愚か者は散れ」

「邪魔者は消してあげます」





「「私には叶えたい願いがあるの」」







「たとえ自分を殺してでも?」

黒翼を収納し、ほむらが問う。




「たとえ自分を殺してでも」

弓を取り出し、コピーは答えた。




「そこまで言うなら仕方ないわね」

「そこまで疑うなら仕方ありません」



357: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 02:12:52.33 ID:XbYmDMN40

沈黙する海香の前で、ほむらとコピーの戦闘が始まった。




ほむらは手始めに、コピーの胴体に矢を向けた。
コピーはエイムされている部位を的確に予想し、弓を地面に押し付け、しならせる。

棒高跳びの要領で、斜めに飛ぶことでビームを避けた。



ほむらは既に弓を構えなおしている。



コピーは詠唱によって生成した三本の矢をつくり上げた。
正攻法で勝てる相手ではない。一つ一つに仕掛けを組み入れてある。





ほむらの第二波と第三波を紙一重で回避し、一撃を放った。




「ウルズよ!」



コピーが手を振りかざすと、矢はひとりでに飛んでいった。



ほむらは黄金色の矢を、弓の先端で叩き落とそうとする。
ところが矢に触れた瞬間、黄金色が爆ぜた。


耳をつんざくような高音が周囲を襲った。


お互いに耳を塞ぎたくなるほどの異音が続く。



358: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 02:14:00.67 ID:XbYmDMN40


意識を吸い上げられるような感覚に、お互いの攻撃の手が止む。
身体強化が劣っているコピーはほむらよりも素早く行動を再開する。



「まだ・・・まだッ! ソウイル!」



コピーは身体強化をさらに低倍率へ移行させた。
海香の陰に隠れて、二本目の矢を上空に投げようとする。




ほむらは髪の毛ほどの、細長い紫色の矢を無数に造り出して海香を指差した。


「ええい! 邪魔よ」




第四波




海香のシールドにアローが幾つも突き刺さる。


おぞましい異音に金属音が交じり合う。



359: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 02:14:45.49 ID:XbYmDMN40

コピーの身にも数え切れないほどの矢が立った。
激痛に悶えながらも口を動かす。


「私の、勝ちです」


ほむらには聞こえないし、自分にも聞き取れない。
二本目――ソウイルの投擲に成功した。身をもって実感する。





上空に強い熱源が現れる。





その場に居たもの全ての視力を奪った。コピーの世界は真っ暗である。



ソウイル――太陽のように眩い光が、眼底の隅々まで行き渡り、
目を構成する三つの膜全てを焼き切った。



さらに光情報は視覚野を支配し、脳の処理を中止させた。



360: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 02:17:04.13 ID:XbYmDMN40

三本目


赤く燃え滾る矢だった。
目が役に立たないので、追尾型の矢をほむらが居るであろう方向へ射る。



「カ・・・ノ」



ソウイルの効果によって喉が焼けてしまったが、力ある言葉を唱えた。


発声による位置情報の特定は防ぐことが出来た。
事前に視覚と聴覚を奪ったため、その心配はないとコピーは踏んでいる。


魔術は詠唱や意思、印によってその効果を増強させる。
コピーは威力ある一撃を望み、全てを託した。




矢を撃ち終え、即座に回復を行う。
ほむらと同様、コピーにとっても不得手な分野なのだが、
オリジナルのほむらよりも早く修復を終え、戦闘態勢に戻れる自信があった。



ほむらは魔法少女である。そして際限ない身体強化を行っている。
したがって、通常の魔法少女よりも強く、頑丈で、感覚が研ぎ澄まされていた。



コピーも同様に強化魔法をかけているが、純粋な魔力量はオリジナルの方が何倍も上である。
このため、オリジナルの五感は想像を絶するほど鋭いと分析し、上記の攻撃を選んだ。



361: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 02:19:00.06 ID:XbYmDMN40


コピーが回復を終え、前方に歩み出る。


何もかも読みどおりだった。



「どうですか。この魔力、戦術、判断力」

「・・・・・・」



ほむらはまだ治癒魔法をかけ続けていた。
ただれた腕を後頭部にかざしている。


身体強化をすればするほどダメージが増す攻撃を、ほむらはまともに喰らっていたようだ。


362: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 14:01:28.87 ID:XbYmDMN40

「全てオリジナルに劣ってる。なのに、私が勝ちました」

「・・・おかしい。素体にしては魔力が多すぎる」


かすれた声でほむらは反論する。
焼き切れた喉から空気が漏れ出していた。


「これは皆の怒りです。皆の想いです。
残りの素体――Hyadesの皆さんが、私に全ての魔力を注いでくれました」

「それは・・・本当なの」

「だからこうして戦うんです。戦えるんです!」


「――――ったわね・・・やってくれたわね!!」



363: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 14:03:28.54 ID:XbYmDMN40


攻撃されたこと。


回収する予定の魔力を奪われたこと。


コピーと接触した素体全てが無駄に終わってしまったこと。


ほむらは激昂した。


ほむらは悔やんだ。


ほむらは嘆いた。


ほむらは――



黒い翼を広げ、大空に舞った。


364: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 14:09:15.51 ID:XbYmDMN40


諸刃の剣であることはお互い承知だった。
コピーは羽ばたくだけの力を持たない。空からの攻撃とあらば、一方的な蹂躙に違いない。

しかし、双方が弓使い。遠距離ほどその特性は生かせるし、標的だって大きいほど有利である。
ほむらの飛行能力がずば抜けていたとしても、コピーの攻撃は避けられまい。



「絶対に赦さない」

桃色の魔法円を繰り出す。


「させません」

魔法円を視認したコピーは、間髪いれず七本の矢を放った。



「全然痛くないわよ」

「そんな!」



コピーの放った矢は全て当たった。にもかかわらず、ほむらは止まらない。
ほむらは魔法円を重ね始めた。



「痛覚を切ったのよ」

「そんなの、わかってます!」


コピーは十、二十と攻撃を重ねていく。


「早く左手に当てないと、貴女の存在が消えてしまうわよ」

「ソウルジェムが・・・砕けない!」


コピーは二十、三十と攻撃を重ねていく。


「美樹さやかと同じよ。ソウルジェムに防御魔法をかけたの」

「ひ、卑怯よ!」



365: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 23:48:13.46 ID:XbYmDMN40

――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――



「待たせたわね。私の全身全霊」


魔法円をそのまま伸ばした巨大な円柱があった。


直径三メートル弱。長さは視認できない。


避けるという選択肢が失せるほどの、残酷な現実が天上に渦巻いていた。





「これは、まるで・・・」




まるで『円環の理』のようだった。




366: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 23:49:06.10 ID:XbYmDMN40


「全ての魔力を注いだ。でもそれだけの価値があるのよ」


「全て・・・ですか」


コピーは防御壁作成に全力を注いだ。
アレを放った後の硬直時間に勝機があると信じて。



後ろで観戦していた海香は、シールドを四角錘状に変成していた。



「貴女の負けよ。言い残すことはある?」


「オリジナルになってやる。絶対に!」


「まだそんな下らない狂言を吐くのね!」



367: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 23:50:13.82 ID:XbYmDMN40

―― む ち 

  に。■■■。

――   ン  想 を  て れ かな

こ  か  ら。

――  手  よ

何    い 。

―― っ   て

   な わ。

―― を澄  し   

  も    わ 

――  お    みて




「記憶は足りない。それでも――」



「この一撃に耐えられるかしら――Finitora Freccia!」



「間に合えっ」




『円環の理』を連想させる眩い柱が見滝原のビル群を薙いだ。


368: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/07(土) 23:56:59.02 ID:XbYmDMN40
――――――――――――――――――――――――――――――
ウルズ【ある程度の犠牲が必要な事があっても、代わりに新たなものを得られる「挑戦」のルーン】
逆位置【エネルギー不足、意志力の弱さ。脆弱さや優柔不断さは、自分の状況を悪くしかねない。弱気は禁物である】

カノ【燃え盛る炎を意味するルーン。純粋でダイナミックなエネルギーや情熱を意味する】
逆位置【情熱が冷める、別れ、希望を失う。状況を無理やり変化させようとするよりも、現状維持に努めたほうがよい】

369: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:37:06.08 ID:twhxL/4l0


「02499から02511の素体、生存している付き人を探さないと。
裏切ったのは00001だけとは限らない」


ほむらのソウルジェムは限界に近づいている。


「感情に身を任せすぎた。このままでは付き人にさえ太刀打ち出来ない」



見滝原を一望する。


矢の軌道上にあった高層ビル群は暁色に染まり、ガラスは赤く茹で上がっている。
吹き荒む熱風は、空高く舞うほむらの体勢を崩しかねないほどであった。



「・・・・・・っ」

「どうしてこんなことになってしまったの」


ほむらは光明を求めて見滝原を彷徨う。



370: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:38:13.35 ID:twhxL/4l0


抗ったコピーはここに潰えた。


カンナのHyades論に理想を抱いたコピーは、七箇所に散らばっている付き人
――姉妹を探し、魔力を一つのソウルジェムに集めていた。


『円環の理』の魔力に耐えられない肉体の一部を捨て、
別の個体から持ち出し、補強した上での敢然たる戦いだった。


371: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:38:45.28 ID:twhxL/4l0


「全員、跳べ!」

「あっちのビルが崩れる!」

「みんな、早く」

「まずいわ! こっちよ」



「きゃっ」

「佐倉さんはこの人を!」

「ほいさ」


372: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:39:45.25 ID:twhxL/4l0
■好い鳥


キュゥべえの「暁美ほむら同士が戦っている」という情報を受けて、近くのビルを陣取るマミ達。


にわかには信じがたい。
悲しそうなほむらと、哀しそうなほむらが対峙していたのだ。


その後ろにはさやかと杏子の良く知る魔法少女がシールドに包まれていた。

この三人と一匹は、隙を見て強襲を仕掛けるつもりだったが、
強烈な閃光を浴び、突入するタイミングを完全に逃していた。


メンバーが動けるようになった頃には、幕が降りていた。




愚者は消え、主役は飛び、観客は墓石に座り込んでいた。




373: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:41:28.64 ID:twhxL/4l0

□ティロホーム


「皮肉なものね。注意深く行動したために多くを失ってしまった」


「あなた達プレイアデス聖団の生存者は三人。
辛かったと思うわ。でも、注意深く――と言うのなら、どうして私達に無断で行動したのよ」


回収したばかりの海香にキツくあたるマミ。


「あわよくば味方に加えるつもりだった。彼女の真意を見極めた結果、殺害を決定したの。
だけど、ヴァルプルギスの夜は想像以上の災厄だった」

「真意を見極めた? 真意はさやかとアタシが話したじゃないか」


海香の返答に杏子が突っ込みを入れる。
海香は溜息一つ、適当にはぐらかした。


「真意は真意。十四体の素体のことも知ったから尚更。
そもそもプレイアデスを呼んだのは貴女方ですことよ」


挑発的に海香は笑う。そうでもしないと心が折れてしまいそうだった。



「御崎さん達は、どこまで閉鎖的なの。だから私が暁美さんと組んでる、と思い違いするのよ」

「遠方から急に協力を求められたら疑うのが当然。裏切りほど恐ろしいものは無いわ」

「わかってるの? あんた達のせいで沢山の人が死んだんだ。一体どこから情報が漏れたのだか」


マミとさやかが次々に攻め立てる。

事実、情報はユウリから漏れている。
だが佐倉杏子がいる手前、海香はその名を出すことは許されない。




374: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:43:21.70 ID:twhxL/4l0

「擦り付け合いはほどほどにしろ。さっさと次の手を考えるのが先決さ。
おい、海香。あの戦いを詳しく教えなよ。ほむらと対峙して生き残った唯一の生存者だろ?」


杏子がクラッカーを頬張りながら、どうでも良さそうに喋り散らす。
海香は、暁美ほむらと対峙して生き残った三人に敬意を払って全てを話した。



「あれはヴァルプルギスの夜。十四の死者を囲って魔力を集めていたわ。
具体的には、人間の魂をグリーフシードのように扱って、穢れを除き、魔力を貯蓄し、
親玉のソウルジェムに移動させていた。それが死者――付き人の仕事だと思う」


さやかは腑に落ちなかった。


「それって『円環の理』に必要なの? 戦いの痕跡を見る限り、十分魔力集まってたよねえ」


「あの『円環の理』を固定するのがヴァルプルギスの夜の仕事。
素体にも浴びせさせたと言ってたから、あの力を現世に止めるつもりで動いている。
邪魔者を屠るために魔力を集めていた線も考えて良いわ」


「美樹さん達のことかもしれないわね。あるいは対プレイアデス用に集めていたのかも」


マミの言葉が海香の胸に突き刺さる。
暗に非難されているが、聖団全員が殺されても文句は言えない。


375: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:44:17.04 ID:twhxL/4l0

「幸いなことに、素体が結託して、同士討ち――と思えた。
シールド越しではっきりとは見えなかったのだけど。演技なら大したものだわ」


海香がつたなく話を反らしていると、さやかと杏子の顔色が変わった。


「あの桃色の柱を制御するのにも生半可な魔力じゃ足り無そう。素体か・・・杏子?」

「ああ、覚えているよ。『シカメ』がまた狙われるな。最後の犠牲者ばーてぶれーと2498だ。
親族もろとも、どっかに逃がさないとな」

「シカメさんの家に暁美さんが来るってことは、私達が先手を打てる好機ね」

「マミさん、どういうこと?」

「私達の決戦の地――ここで全てを終わらせるわよ」


376: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:45:09.65 ID:twhxL/4l0


「政府の避難勧告に従っていれば楽に済みそうだけどね」

「さやかはヌけてるな。見滝原外部までアイツが追っていったら逆に不味いだろ」

「仮に見滝原に居るとして、私達が見つけられるものなのかしら」

「それが問題だ。シカメの全員がくたばってるかも知れない」


盛り上がっている三人。
キュゥべえは冷凍庫を開けて氷を漁っている、こいつは役に立たない。
意を決して海香は話に割り込むことにした。


「仲良く話しているところ悪いのだけど、ばーてぶれーと? それって・・・」


海香はほむらに用いたイクス・フィーレを確認するため、
ソウルジェムから白い魔道書を取り出し、分析したページを開く。


「弱点わっwhackるワックる!whackる神よ~」

「わっ! 何事?」

「プレイアデスの子って本当に変わってるわね」

「おお、大体こんなヤツらだった」


377: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:50:35.94 ID:twhxL/4l0
――――――――――――
――――――

「ちょっと灰色の脳細胞が暴れてしまったわ」

落ち着き払って、こほんと咳をする海香。


「御崎さん・・・大丈夫?」

「私の魔法が、ヴァルプルギスの夜の性質と弱点を教えてくれてたのよ。
だから、伝えてあげます。その代わり、かずみとニコ、聖団の生き残りを保護してくれませんか」


三人は快諾した。戦力は多いに越したことはない。
そっぽを向いていたキュゥべえが関心を寄せる。


「それ、ボクにも見せて貰えないかい? 少し気になることがあってね」

「さあ存分にご覧あれ」



海香が魔道書を開いて呪を唱えると、
真っ白いページに複数のアルファベットと数字が現れた。



「るみのうねが、べてぶらて1えれっきが? こんなの初めて、マミさん辞書」


何処かで聞き覚えのある音型に苦笑する海香。
英和辞典を持ってくるマミ。後ろの杏子は日伊辞典を片手に悪い顔をしている。


「で、どれが性質?」

「それがランダムなの、そもそも四つ以上でたのは初めてよ」

「このさやかちゃんで実験したらいいんじゃない?」

「お前の性質はボウヤに貢ぐこと、弱点はマミの特訓だろ」

お腹を抱えながら笑う杏子。さやかはキュゥべえを掴んで投げつけた。
キュゥべえは弧を描き、ソファにのめり込んだ。

「佐倉さん、それどういうこと?」

マミが辞書を片手にニコニコしている。

生命の危険を感じた。杏子は手を八の字に、上体を伏せて謝罪の意を伝えた。




378: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:52:42.56 ID:twhxL/4l0
――――――――――――
――――――

イクス・フィーレはキュゥべえに解析させよう。
四人が初めて一つになった瞬間である。


「最初からそうしとけば良かったんだ」

「佐倉さんはどうしてイタリア語の辞書を持ってるのかしら?」

「関係ないだろ、キュゥべえの邪魔しちゃ悪いって」


キュゥべえがイクス・フィーレを読み解き、音読した。


「なるほど。中学生には難しいかもしれないね。最後以外」

「あたしには最後も読めなかったよ」

「・・・」

「00001はさっきの戦いで死んだ子、暁美ほむらの臓器らしいわ」


海香が思い出したように付け加える。
キュゥべえは仮説を立てて説明をし始めた。


「先頭の語は形容詞、これはおそらく暁美ほむらの性質だね。やわらかく輝く意さ」


「ふーん、さっぱりだな。マミ達は心当たりあるのか?」

杏子が神妙そうな顔で二人に言った。

「暁美さんは光ってるってこと? 多分弱点の方じゃないかしら」

「あの戦いの時は光ってたけどね。他の単語はさっぱりだよ」



379: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:54:11.65 ID:twhxL/4l0

「キミ達じゃその程度だろうね。五番目については心当たりがある」

「随分と自信満々だねえ」


「仮説という上で聞いてくれ。『円環の理』、或いは志筑仁美のことを指しているね。
帰還することの無い土地――すなわち死を司る女神だ」


「仁美は関係ないでしょ」


さやかが声を荒げる。


「あれは魔法少女候補になったんだ。聞かれなかったから言わなかったけど。
だから、マミに提案をしたうえで監視、保護の対象としているんだ」

「嘘・・・」


驚きを隠せないマミとさやか。


契約における条件として、因果律だとか第二次性徴といった
様々な要因が関わっていることは承知の上だったが、最も重要なファクターは
「どうしても叶えたい願い」が出来ることである。


恵まれた地位、環境にある仁美が願いを持つとは、二人とも考えてすらいなかった。


「ほむらに隠匿の魔術をかけられた頃には、候補に挙がっている。
ボク達インキュベーターは最低限の干渉で彼女の生命を守りきった。
数日間の栄養補給に加えて、肉体を瘴気で覆って魔獣の目を欺いたり――寧ろ感謝して欲しいくらいだ」




380: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:55:45.20 ID:twhxL/4l0

「で、どこにその、何とかって要素があるの?」


さやかは五番目の単語を指差し、キュゥべえを問い詰めた。


「修羅と化したほむらがそう罵っていたのさ」

「それだけ?」

「十分な根拠さ。何度もほむらと仁美は接触していたからね」

「それってあたしが変なこと聞いたから・・・?」

「さやかも薄々志筑仁美に期待していたようだし、こればっかりは否定しないよ。
お陰でICレコーダーから、暁美ほむらの貴重な発言を得る事ができた」

「知ってて黙ってたの?」

「優先順位は低かった。あの時は失踪者の件で精一杯だっただろう?」


さやかとキュゥべえは暫く、丁々発止の激論を繰り広げた。




そんなやり取りを、息を呑んで見守る海香と杏子の二人。

マミだけはノートに黒鉛を刻み込んでいた。


381: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/08(日) 04:56:36.50 ID:twhxL/4l0


マミが顔を上げた。


「終わったことはもういいでしょ。それより皆聞いて、ニコさん、かずみさんの保護が第二、
シカメさんの特定と避難が第三の課題ね」


「第一の目的はほむら征伐だな」


血気盛んに杏子が言い放った。
違うわ、とマミが否定する。



「全員が・・・・・・生き残ることよ」



384: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/10(火) 17:25:13.55 ID:tRFMX29X0

■エリドゥ


□美国邸宅前

巴マミと呉キリカが門の前で話をしている。
神那ニコとかずみの保護を依頼した――今も生きていれば、の話だが。


「はあ。それで織莉子を護れるなら容易い要求だ」

「念を押しておくけど、暁美さんと出会っても戦っては駄目よ」


「織莉子に尽くせれば私はどうなっても良いよ。
要はニコ、かずみ、まあ他所の連中をここに匿えばいいんだよね」


「そうよ。私の家だと見つかる可能性が高くなるから。
美国さんの護衛が増えるとでも思えばいいわ」


「私と織莉子の仲を邪魔する気かい?」

「・・・。使用人だと思えばいいわ」

「大いに結構! 給料は出さないよ」

「出すのは美国さんのお父様でしょう・・・」

「話は以上だろ? 伝えておくよ、バイバイ!」


話が終わるとすぐに家の中に消えるキリカ。
動かしにくい子だなとマミはつくづく思った。




385: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/10(火) 17:27:27.75 ID:tRFMX29X0

□美国邸宅


志筑仁美――暁美ほむらに軟禁されていたが、呉キリカの手によって救出されている。
今現在、キュゥべえとキリカの管理下にあった。


美国織莉子と志筑仁美は見滝原における最後の魔法少女候補だ。


この二名は暁美ほむらに対抗しうる有力なカードとして、
インキュベーターが大切に保護している。





ここは見滝原でも安全な場所のひとつ。政治家――美国久臣の自宅である。
織莉子の父親は対話戦略に長け、国内外から治安部隊を見滝原に派遣した張本人だ。


治安といっても得体の知れない殺戮者を外に出さないように、
徹底的な交通規制と流通制限を行うだけの平和的な武力部隊である。


取り合えず、複数の国から戦力を借り入れる外交手腕は持ち合わせていた。



386: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/10(火) 17:29:45.44 ID:tRFMX29X0


織莉子は手持ち無沙汰だった。
珍しく巴マミが訪ねてきたかと思えば、深刻な表情でキリカを呼び出した。



織莉子はほっぺを膨らませてマミに抵抗するも視線さえ向けてくれなかった。
きっと魔法少女絡みなのだろう、と知ることを諦めて、広間に引き返す。



志筑仁美が気だるそうに見つめてきた。
ソファの横には携帯端末が無造作においてある。




「志筑さん、お電話でしたか」



「はい、さやかさんにこっぴどく怒られてしまいました。
どうやら心配をかけてしまったようで」

気のいい声色が返ってきた。



「魔法少女のことですね、候補であることが漏れたの?」

「暁美さんとの関わりもキュゥべえさんが話してしまったそうな。
電話口の向こう側が別世界のようでした。ところでシカメさんという方はご存知ですか」


「シカメ。心当たりは無いですが、魔法少女絡みですか?」

「暁美さんと深い関わりがあるとか。いち早く避難させたいそうです」


387: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/10(火) 17:30:31.31 ID:tRFMX29X0

「暁美・・・ほむらさんね。志筑さん、いつか詳細を教えてくださいな。
皆さん口をつぐんでしまって、好奇心だけが空回りしているのですよ」


「全部解決したら、きっと。それか、打つ手が無くなったら知ることが出来るかもしれません」


「キュゥべえも悪い子ね。最後の切り札、聞こえは好いですけど、如何にも――」


「利用されるのはいい気がしませんが、頼みの綱であることは変わらないのですから。
それでは、人探しをしますので、お部屋と電源をお借りしますね」


「相変わらず礼儀正しい子。自分の家だと思ってゆるりとして好いのですよ。
愛しのキリカはお父様の部屋まで巡回済みですもの」








「シカメかあ――緑頭より早く見つけてあげよう。織莉子の負担は出来るだけ削がないとね」


聞き耳を立てていたキリカは何事も無かったかのように部屋へ戻っていった。


388: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/10(火) 17:31:37.65 ID:tRFMX29X0


■善きサマリア人


場所は見滝原。夕暮れの空に溶け込んで、赤いビル群が遠方に漂っていた。

無数の消防車が忙しなくカンナとかずみを横切っている。


「ニコ、あすなろに戻らないの?」

「散り散りになるのは良くない。巴マミという魔法少女を探すのが一番かな」

「巴マミ? 赤い髪の人だっけ」


389: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/10(火) 17:32:49.91 ID:tRFMX29X0

「黄髪の銃使いさ。・・・かずみ、具合悪くないか?」


かずみのピアスが暗い色になっている。
不思議に思ったカンナはかずみを気遣った。


「少し体が重たいだけ、大丈夫だよ」

「カオルのことは気に病んでも仕方がない。敵討ちだけを考えよう」


「ニコはどうしてそんなに強いの?」



「強くないよ、弱かった――とても脆かった。だから私が生まれたんだ」

「ニコ?」


「今はわからなくてもいい。でもね、真実を知ったときの絶望は計り知れないよ」

「うん。覚悟はしてる」




390: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/10(火) 17:33:35.90 ID:tRFMX29X0

カンナとかずみはすぐに見つかった。
美国邸の警備員が、門に寄りかかっている二人に声をかけたためだ。


「わあ! このケーキおいしいっ」

「上手くいったな」

「ん? 道に迷ってたんじゃ・・・」


くつろいでいる二人に織莉子が声をかける。


「初めまして。美国織莉子――巴マミさんの友人です」

「えっ? マミってニコが探してた・・・」

「無事で何よりです。さて何から話せばよいのでしょう」


391: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/10(火) 17:34:29.73 ID:tRFMX29X0

カンナは魔法少女に変身した。

「この姿は知っているだろう?」


指から細長いケーブルを出して、織莉子に接続した。
数刻後、もう一本を部屋の外に流した。


「ええ、魔法少女・・・。あすなろ市から来たと伺ってますが」

「なら話は早い。巴マミの家に行こう」

カンナは満足そうに頷き、変身を解いた。


「神那さん、待って。外はとても危険――」


「すぐ戻ってくる。かずみはココに居ていいよ」

「はーいっ。気をつけてね!」


そそくさと立ち去るカンナ。


392: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/10(火) 17:35:45.29 ID:tRFMX29X0


「地図・・・要らなかったのかしら」

「ニコはいつもあんな感じだよー」

「かずみさんもう一つ食べますか」

「頂きまーす。あっ」

「どうかされましたか」


「今日のニコは黒かったよ」

「はい?」


「服も、心も黒かった。別人に生まれ変わったみたい」

「どういうことでしょう」


「わたしに聞かれてもわかんないよ」

「かずみさんも魔法少女と伺ってますが」

「魔法は使えるよ? 契約の内容はね、えっと――」


話が終わってないのに追加のケーキを食べ始めるかずみ。
変わった子だなと織莉子はつくづく思った。


393: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/10(火) 17:36:17.48 ID:tRFMX29X0

「・・・」

「・・・」

「織莉子さん」

「なんでしょう」


「ケーキ、本当に・・・おいしい」

「か、かずみさん?」

「生きてるとこんなにも――」



さめざめと頬を濡らすかずみを前に、織莉子はかける言葉が見つからなかった。




396: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/15(日) 07:19:10.39 ID:D+gyuZ/K0

■受難者

□ティロホーム

美国織莉子から連絡を受けていたのだろう。
カンナがエレベーターから降りると、何者かに腕を引っ張られた。

無抵抗のまま巴マミの自宅まで連れ込まれる形になった。



「ニコ! 無事だったのね」



腕を掴んだまま、昂ぶった様子を見せている。声の主は御崎海香だ。
カンナにとって海香は感謝すべき対象、と同時に宿敵でもある。


カンナは口元に人差し指を立てる。
落ち着くように促した後、少し間をおいて述べた。


「とても苦しい戦いだった。ニコは無事じゃないだろうね」


カンナは肩をすくめながら、面倒くさそうに溜息を吐いた。


「かずみは・・・?」

「ああ、生きていないよ。無事だろうけどね」


今度もやれやれと肩をすくめる。



397: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/15(日) 07:20:21.74 ID:D+gyuZ/K0

「ちょっと! 何てことを言うの?」

「美国織莉子の家でケーキを食べているよ。最後の晩餐だ」

「巴さん? ちょっと二人にしてもらえるかしら!」


海香が怒る怒る。
カンナは湧き出る喜びを噛み締め、勝手気ままな生き物を嘲笑している。


「御崎さん。見てわかるけど、ワンルームなのよ。物置なら・・・」


「ちょっと下まで行ってきます!」

「海香の言うとおり、一度退場しよう。
外に出て風に当たってくるよ。今朝の戦いで少し興奮しすぎてね」


398: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/15(日) 07:20:51.18 ID:D+gyuZ/K0


「漢字はわかったけど、見滝原一体に散らばってて総当りじゃ何日かかるか・・・」

突然の来訪者に目もくれず、さやかと杏子は鹿目家の場所を探していた。



マミはイクス・フィーレの文言と格闘している。

「こっちもこっちで大変なのに・・・」


399: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/15(日) 07:22:29.03 ID:D+gyuZ/K0
□ティロエントランス


「あまりにも嬉しすぎて気が昂ぶっていた」

「ニコらしくないわね。暁美ほむらについて聞きたいことはある?」

「まずはかずみの件だ。プレイアデス聖団は何人生き残った?」

「ニコ含めて三人。私とニコとかずみ」

「マジ?」


それは海香とかずみ以外死に絶えたことを意味した。
海香と話している人物はカンナに置き換わっている。


「大マジよ。かずみの身が危険ね。二人の魔力じゃ支えきれない」

「グリーフシードは幾つ残ってるんだ」

「二十個。これは半分こしましょう」


海香は断腸の思いで数少ないキューブを取り出した。


400: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/15(日) 07:24:38.95 ID:D+gyuZ/K0

プレイアデス聖団の六人は、ミチルからかずみを造り出し、六人で魔力を供給している。
かずみ――13番目の死体をピアスで動かして、ありし日のミチルを投影していた。


かずみの左耳にあるピアスは、ミチルのソウルジェムそのものであり
六色が渦巻き状に交じり合った奇抜な鈴に形を変えていた。


残念ながら、暁美ほむらの付き人と同様、人造魔法少女を動かす手段は魔力のみ。



現在、かずみに魔力供給しているのは海香ただ一人である。
神那ニコは死に絶え、聖カンナは供給に加わる術を持たない。
かずみの持つピアスの色が暗くなった原因でもあった。

401: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/15(日) 07:27:28.32 ID:D+gyuZ/K0

「このままじゃ本当に最後の晩餐じゃないか・・・次。暁美ほむらの『ホンモノ』はどうなった?」

「まだ生きてるわよ。幸いなことにイクス・フィーレでの解析が出来た。
ただ、ワードが六つ。それだけ弱点があるってことだろうけど、その解釈が難しいの」


「敵は討てるってことか・・・燃えてきたよ」

「詳しくは巴さんという金髪の方に――」



「承知。ちょっと一人にさせてくれ」

カンナは俯いて地面に話しかけた。



「つらい気持ちはわかるけど、悲しむ余裕はそこまで無いわよ。
残された時間は短すぎる。ひとまず心の整理をしたら、すぐに戻ってきなさい」

きびすを返し、海香は足早に戻っていった。
その後姿に失意のオーラが滲み出ている。


402: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/15(日) 07:32:37.96 ID:D+gyuZ/K0

カンナは愉快でたまらない。
たくさんの鳩が一気に飛び立つような、言葉にし難い清々しさに身を委ねていた。



「かずみが魔力を使うほど御崎海香は死に近づく。
自業自得を体現した理想のシチュエーションじゃないか」


「しかし、はじめから七人で暁美ほむらを襲わなかったのは幸いだった。
アイツの立案した計画は結局かずみしか見ていない」


「一人欠けた程度なら、かずみの動力に問題はないからなあ!
プレイアデスが自滅していく姿はマーベラスだよ」


見滝原の地形、暁美ほむらと志筑仁美に関する三度のやり取りを考察する。
聖カンナはコネクトで吸い取った知識を丁寧に反芻した。



(志筑仁美に数日間の空白。ここで接続を切るんじゃなかった。
大方、暴漢にでも襲われたのだろうが・・・)




「後はどうやって暁美ほむらを始末するか――」




石段に座り、何度も何度も考えをめぐらせた。
無機質な石の冷たさを楽しみながら。



404: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/16(月) 11:23:07.59 ID:bPESZnga0
□ティロホーム

カンナは大体の状況を把握した。
イクス・フィーレの解読に、鹿目の住所特定と避難が急務らしい。


鹿目の家にほむらが訪れるだろうという推測。
反旗を翻した最初の素体――コピーとの戦いで、ほむらは多くの魔力を使ったそうだ。


カンナ
(暁美ほむらはどうも短絡的な性格らしい。魔力はチビチビと使うものだろうに)

マミ
「で、これが御崎さんのイクス・フィーレ」


マミがカンナにメモ用紙を見せる。


405: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/16(月) 11:24:11.21 ID:bPESZnga0

カンナ
「ほう、Vertebrate-00001か。きっと私が遭ったほむらだ」


歩道橋の上で出遭い、知らぬ間に散っていったHyadesの一員。
カンナはHyadesの死を悲しむつもりはない。


むしろ、ニコと自分の応酬にHyadesを重ねている。
自分がオリジナルに敗北した『IF』の時間軸を見ているような不思議な感覚を楽しんだ。


さやか
「会った? 詳しく聞かせて!」

カンナ
「何だ青いの。死に絶えたものに興味があるのか?」

さやか
「ほ、ほら。仲間割れする理由とか知りたいじゃない」

カンナ
「ははん」

カンナ
「生みの親に反抗するのはよくあることさ」


406: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/16(月) 11:25:16.23 ID:bPESZnga0



【Ereshkigal】



次の項に目を奪われた。図らずも、おおっと声が上がっていた。
カンナはすっと立ち上がる。

カンナ
「エレシュキガル――か、キュゥべえ居るんだろ?」

QB
「なんだい? カンナ」

カンナ
「・・・。危うく吹っ飛ばすところだった。
全くインキュベーターは――っと、鹿目の家にデコイランを置こう」

QB
「デコイラン、囮のことだね。でもどうしてだい?」



カンナ
「忌々しい暁美ほむらに一泡も二泡も吹かせてやる。
ツクリモノの気持ちを考えないクズは最高の演出で葬ってやるのさ」


マミ
「私としてはそこまでする必要が・・・」



話の腰を折るマミをにらみつけ、カンナは覚悟を決めた。
海香と杏子は調べ物に夢中だ。暴露大会は今のうちに済ませておこう。


407: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/16(月) 11:26:47.23 ID:bPESZnga0

カンナ
「私の性質はConnectだからね。これと、Vertebrate-00001は私が提供しよう。
多分それらが暁美ほむらの切り札になる」


黒い笑みを浮かべて天井を仰ぐ。


マミ
「でもコピーはもう生きてないわよ」


海香の目が届いていないことを確認してから、カンナはソウルジェムを照らした。


カンナ
「私は00001と呼ばれた暁美ほむらの宝石に触ったからな。こんなことも容易い」


テーブルの上に菱形の宝石が生まれた。

QB
「これはまさか暁美ほむらの・・・」

カンナ
「キュゥべえは賢いな。素体とやらにくっついてた魔力の回収装置さ」


408: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/16(月) 11:28:37.43 ID:bPESZnga0

マミ
「で、それをどうするのかしら」

カンナ
「デコイランを使って暁美ほむらに付着させる。
アイツの魔力を完全に削ぎ落とすんだよ、そして巴マミら三人で決着をつけたらどうだ」

QB
「ボクは異存ないよ。回収装置を改良すれば何とか実行に移せるね」

マミ
「神那さんと御崎さんはどうするの?」

カンナ
「私は、デコイランの失敗に備えて、鹿目家までの行く手を阻む。
かずみにも働いてもらおう。他の魔法少女は好きにしてくれ」

さやか
「神那さん、そのデコイランって何?」


さやかが突っかかってきた。
カンナは少し頭を捻ってからゆっくりと話し始める。

カンナ
「デコイランはデコイランさ。そして神那は再生成の使い手だ。
カンナが創った宝石を見ただろう? カンナにとって囮なぞ造作も無いこと」

さやか
「あんた、悪いけど信じられない」

カンナ
「私もだ。どこまでも自分勝手な生き物なんぞ滅びてしまえ」

カンナは菱形の宝石を取り上げる。乱暴にドアを開けるとそのまま姿を消した。



409: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/16(月) 11:29:10.06 ID:bPESZnga0


マミ
「美樹さん。あの魔法少女は味方だと思う? 敵だと思う?」

さやか
「武器――だと思う。ほむらを殺すための」

マミ
「・・・」

さやか
「マミさんはどっちだと思ったんですか」

マミ
「さあ。でも美樹さんはたまに鋭いわね」

さやか
「あはは、照れちゃいますよ」

マミ
(美樹さんも、神那さんも――同じ匂いがした)


410: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/16(月) 11:37:02.06 ID:bPESZnga0
――――――――――――――――――――――――――――――
Tips

かずみ「魔法が使えるよ。織莉子さんの家に居るよ」

海香「ニコとかずみ以外、暁美ほむらの手によって逝ったわ」


カンナ「イクス・フィーレの4/6は解読出来た。御崎海香はもう持たない」

カンナ「赦さないよ。暁美ほむら――哀れなニセモノを産み出し続ける魔法少女め」


ほむら「反逆者の始末、及び失った魔力を補充しているわ」

さやか「神那は信用出来ない」

マミ「美樹さんと佐倉さんも怪しい」

杏子「鹿目はどこに住んでるんだ?」

キリカ「シカメ? 何それ?」

仁美「美国さんのお屋敷で待機。契約対象ですわ」
――――――――――――――――――――――――――――――

412: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 19:04:25.24 ID:QVqBrxCm0

■あなたがたは、十日の間苦しめられるであろう。


□暁美邸宅

暁美ほむらは自宅で静養していた。
なりふり構わず行動した結果、精神的にも、肉体的にも、相当なツケが回っていた。

ほむらの味方は、真紅いリボンと、魔力を提供してくれる魔獣と、餌の住民くらい。


自分と同じ志を持つはずの素体は創造主に牙を向けた。
暁美ほむらを支えていた拠り所はついに自壊する運びになった。


「魔法少女は裏切った。インキュベーターは日和見。
付き人は裏切った。志筑は・・・逃げた。私の周りは敵だらけね」


「でもあの子なら全部受け止めてくれる。私の全てを理解してくれる。
『鹿目』を探し出してこんな街から出て行きましょう」


「――いや、一人息子が行方不明だろうから、昔の知り合いを探し出すほうが・・・。
鹿目は引っ越しているかもしれないし、自害しているかもしれない」


(駅前には、掃いて捨てるほどの警察官や駐留部隊がひしめき合っている。
プレイアデス聖団の生き残りとマミが接触していることはインキュベーターから聞いた)


ほむらに憑りついた疑いの念は晴れない。



413: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 19:05:40.94 ID:QVqBrxCm0


(キュゥべえは情報の断片のみを提供して、認識の齟齬を意図的に生み出しているのかも)


あらゆる状況がほむらの行動を制限している。
何も考えずに、のうのうと外出するわけにはいかなかった。



「美樹さやか、佐倉杏子は黒。神那ニコ、かずみ、御崎海香も黒。キュゥべえと巴マミはきっとグレー」

「あれらもきっと、鹿目の保護を企てている」



「どうすればいいの。どうするのが正しいの」



急に脂汗が出てきた。目眩もするのでソファに横たわった。
お守り代わりのグリーフシードを握り締めて。


「この場所は割れている。家が焼き尽くされるかもしれない」

「命が奪われるかもしれない。リボンが奪われるかもしれない――」



414: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 19:06:24.02 ID:QVqBrxCm0




「もう一度逢いたいだけなのに。どうして・・・どうして?」



「・・・誰か助けて。誰でもいいから」







       ――助けて







415: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 19:06:58.10 ID:QVqBrxCm0



ほむらは吐いた。何度も、である。

口を数回濯いで、苦しみを和らげようと試みる。
とどまるところを知らない嘔吐物と廃液。旧式の排水溝は悲鳴をあげていた。



416: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 19:08:16.97 ID:QVqBrxCm0

■死に至るまで忠実であれ

□美国邸宅

志筑仁美は見つけてしまった。手がかりを。
恐ろしいほどに手際よく事が運んでしまった。

まるでDNAに刻み込まれたかのように、そのためだけに生まれてきたかのように。
以前の仁美では、全く持って思いつきもしない手段で、「鹿目」を探し当てた。

なあに、いざとなれば揉み消せば良いのです、と自分の指先を説得して後先考えずに
市の基幹サーバーにアクセスして情報を吸い取ったのだ。


417: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 19:10:03.16 ID:QVqBrxCm0

キュゥべえを呼びつける。


仁美
「鹿目詢子さんと連絡が取れました。鹿目知久さん、詢子さん、この二人は健在です。
ですから今すぐ海外に、と話したのですが見滝原を離れるつもりは無いと――」

QB
「住所がわかったのなら、呉キリカを使って強奪する手段はあるよ」

仁美
「そんなのは駄目です。私が呉さんに抱えられたとき、死の匂いを感じましたわ」


無邪気な目で拒絶の意を示す。


QB
「普通は見滝原を離れたいと思うものだろう? 直近の死者はボク達でも把握し切れていないのに。
それとも、苛政は虎よりも猛し、という教えに忠実なのかい?」

仁美
「あの日から毎日、息子さんを探しているようなのです。
ご両親の気持ちもわかりますが、このままでは哀れな虎に襲われてしまいます」

QB
「死んだことを話せばいいだろう。避難先の件は美国久臣にも協力を仰ごう」

仁美
「避難に関しては志筑財閥が全ての責任を負います。こればかりは誰にも邪魔はさせません」


QB
「そこまで言うならまかせるけど、無理は禁物だ」



418: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 19:12:45.44 ID:QVqBrxCm0


キュゥべえから重要なキーワードを引き出した。
仁美の口角はゆっくりと上がっていく。
間髪いれず、次のように述べた。自ら鍛えぬいた弁論術と悪運に感謝しながら。


仁美
「今、任せる――と言いましたね?」

QB
「気に障ったかな」

仁美
「では、準備をしますので。一度ここを離れます」

QB
「それは無茶だ! 安全の確保が出来ない」

仁美
「インキュベーターは私達人類と対等に付き合い、お互いに尊重するものだと仰っていました。
目の前の個体は私を尊重してくださらないのですか?」

QB
「それは志筑仁美を尊重した上での・・・」

仁美
「私に嘘を付き、積極的に騙そうとする気ですか? 
これはもう精神疾患と判断されてもおかしくないですわね」

QB
「・・・わかった。呉キリカを呼ぶからそこで待っててくれ」


419: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 19:57:25.42 ID:QVqBrxCm0

仁美
「はじめからそうすれば良いのです」

QB
「全く、キミは本当に興味深いよ。
重要な候補者だからといってあらゆる情報を提供するのは良くなかった」


仁美はあごを軽く撫でて口を開いた。


仁美
「キュゥべえさんのお陰で、美国さんは可哀想なほど何も知らないのですよ?」

QB
「美国織莉子はキミと違う種類の人間だ。
漠然とした願いしか持たない織莉子と、目的のためなら手段を選ばない仁美。
良くも悪くもボク達の持つカードが増えたのは感謝しきれないけどね」

仁美
「そのカードを育てたのはあなた達インキュベーターではありませんか。
美国さんは自分が真っ白なカードであることに嘆いています」

QB
「同じ種類の切り札はキミ達人類にとっても喜ばしくないんじゃないかな。
さて、護衛の件だけど、少しばかり時間がかかるかもしれないね」



一つの空間に、二つの溜息が漏れていた。


420: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 19:58:41.07 ID:QVqBrxCm0

――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


キュゥべえは呉キリカを探した。
台所にはプレイアデス聖団が産み落としたおもちゃが一つ。


(かずみ・・・キミはまだだね)


念のため、第三応接室まで覗いてみるがやはりキリカは見つからない。
その代わり、美国織莉子が居た。


織莉子
「キュゥべえ? どうしたの」

QB
「織莉子。キリカを知らないかい?」

織莉子
「キュゥべえに頼まれたから、人を訪ねて――どういうこと? キュゥべえ」


421: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 19:59:31.34 ID:QVqBrxCm0


織莉子は睨み付ける。キリカの優しい嘘に気づき、どうしようもなく苛立っていた。
キュゥべえのしっぽは力なく垂れている。


QB
「キリカの嘘だろう。元々キミ達を守るために置いているのだから」

織莉子
「テレパシーは使ったの?」

QB
「後でしておこう。少し、志筑仁美を借りていくよ」

織莉子
「理由を教えてもらえるかしら」

QB
「鹿目家の居場所が判明した。海外に避難させる腹積もりだろう」

織莉子
「街に残る人を放って置いて、そんなことが許されるのですか? 
確かに、暁美さんが絡んでると、志筑さんは言ってましたが」



QB
「今までの犠牲者は、ある種、鹿目詢子のような人間を探すためらしいからね」

織莉子
「鹿目詢子。その方は魔法少女なのですか?」

QB
「この先は話せない。暁美ほむらが捜し求める素――人物ではある。
暁美ほむらもまた、見滝原を脅かす存在だから、キミにとって敵対すべき存在だ。
くれぐれも賢く行動してくれ。呉キリカは簡単にやられるほど弱くないのは知っているだろう?」

織莉子
「釈然としませんが、私には待つほか無いのですね。
わかっていますとも。見滝原の安寧のためなら無知を貫きましょう」


422: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:01:53.60 ID:QVqBrxCm0



キュゥべえは仁美の護衛として聖カンナを就けた。
ほむらが把握していないであろう魔法少女。凶悪な魔法の使い手ゆえに適当な人材であった。




「ほむらと聖カンナが出会ってしまう可能性は否定できない。
ただ、今の彼女はお疲れのようだ。聖カンナの行動を分析するには良いタイミングだと思う」


「知ってのとおり、リスクは大きい。切り札が失われる程度で済めばいい。
無知な聖カンナが暁美ほむらを知ってしまうことだけは避けるべきだ」




カンナの弱みを握っていることもまたキュゥべえにとってプラスに働いた。
志筑仁美という切り札を動かすほど、聖カンナもまた重要な人物である。


423: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:02:32.10 ID:QVqBrxCm0


キリカとは連絡が付かない。織莉子には話していないが、既に何度もテレパシーを送っていた。
彼女の性格上、織莉子への奉仕を第一に考えている。キュゥべえは推論を立てた。


それは見滝原の騒動を鎮圧――暁美ほむらへの対立に自ずと繋がるはずだ。
とすればマミ達と合流しているはずで、すぐにティロホームに居た別個体から報告が飛んでくる。


何の報告も無い。


つまり、キリカは道中でほむらに接触してしまい、殺害されている可能性が高かった。


424: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:03:52.02 ID:QVqBrxCm0

■テオトコス

□閑散とした街

見滝原から半数近くの人間が逃げ出した。もはや外出制限は機能していない。
残されたものは魔獣に魂を喰われるか、コピーキャット――模倣犯の餌になるのみ。


人々は神仏に祈りを捧げるようになった。
自衛のために出刃包丁やバットなど、比較的簡単に入手出来る武器を買い揃えようとしている。


425: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:06:00.81 ID:QVqBrxCm0


派遣部隊や私服警官の一部にも行方不明者が出ていた。

連絡が途絶える間際、被害者は皆、口をそろえてこう言った。


「死神だ」


入電を受けた生き残りは死を身近に覚えた。
無線が入るたびに悪夢の「五文字」が耳を突き刺す。


次は自分が発する番かもしれない。


ヴァルプルギスの夜が終息した後も、耳に残る「五文字」は屈強な人間をも蝕んだそうだ。
生き残ったものは精神を病み、自殺するものもいたという。



426: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:07:00.47 ID:QVqBrxCm0



二十二時過ぎ。カンナと仁美は死神の潜む街を闊歩している。


鹿目の家に向かっていた。




427: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:07:53.62 ID:QVqBrxCm0

――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

カンナは仁美の持つ情報量に驚いた。
インキュベーターが一枚噛んでいるのは明白。

魔法少女や直近の話題をふると、すぐに返答がある。
なによりも自分が聖カンナと知った上での自然な応対に恐怖を覚えた。


仁美
「ニコさんは暁美さんを恨んでいるのですね」

カンナ
「何度も言っただろう? 聖カンナでいい。
私を貶しているのか、私に媚びているのかわからないヤツだ」

仁美
「カンナさんの存在がばれてしまったら大変ですもの」

カンナ
「私は大変かもしれないが、おまえは別に変わるまい」

仁美
「いいえ、これは大事なことなのですよ」

カンナ
「底知れないやつ。何を企んでいるんだ」



428: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:08:54.47 ID:QVqBrxCm0

仁美
「デコイラン」

カンナ
「私の名前だけでなく、それも知っているのか」


私の能力も知っているのかと問いたかった。
喉元まで出かけたセリフを寸でのところで飲み込む。


仁美
「キュゥべえさんが警告してくれました。キュゥべえさんは誰にも話してないので安心をば」

カンナ
「説明が省けた。実はその話をしようと思っていたのだ。
こうして二人きりになる機会がなかったら、きっと強制させていただろう」

仁美
「まあ、それは恐ろしい。魔法少女は強引な方が多いのですか?」

カンナ
「器用に生きることが出来ないだけだ。不器用揃いなのさ」



――――――――――――――――――
――――――――――――


429: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:09:40.47 ID:QVqBrxCm0

仁美
「ここが鹿目さんの家ですね。では私一人で」

カンナ
「約束の時間は過ぎてる、急いでこい。私はここで待っているよ」

仁美
「帰りもよろしくお願いしますわ。美国さんのお屋敷ゆえ、もっと遠いかと思います」

カンナ
「ああ、わかっている」




大きく深呼吸をしてインターホンを押した。

430: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:10:36.48 ID:QVqBrxCm0

□鹿目家

三十代前半と思わしき中肉中背の女性がリビングに座っていた。
無用心なことに、玄関の鍵は開いていた。


「何度も電話くれた子だよね。すまないね、手間かけさせちゃって」


仁美
「夜分に失礼します。鹿目詢子さんですよね」

詢子
「ああ、わたしだ」


目に覇気は無く、疲れ果てた様子で仁美を眺めている。
手元には褐色のアルコール飲料。


仁美
「知久さんは・・・」

詢子
「あれは朝から晩まで探してるから。二人揃ってないとまずかったか?」

仁美
「少し意外だなと。つい思ってしまっただけです」



431: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:13:12.49 ID:QVqBrxCm0

アルコールを全て飲み干し、詢子は眉をひそめた。

詢子
「で、教えてくれるんだろ? タツヤを何処に隠した」

仁美
「隠した? 滅相も無いです」

詢子
「黙れ。わたしには何となくわかるんだよ」

仁美
「タ、タツヤ君は・・・とりあえずあなた達の安全を――」

詢子
「これでもバリキャリなんだ。あんたの何倍も情報通だろうよ。あ?」


酔いつぶれているのか、語気がどんどん荒くなっていく。

気圧されないように心がけた。仁美の声も自然と大きくなっている。


仁美
「話せません。でも、どうしても知りたいなら、全てが終わってからに・・・」



仁美の焦り具合を見て思い当たる節があったのだろう。
詢子は姿勢を整えると、ぐいと前に出て仁美の顔を見つめた。



詢子
「全てって何だ? あんた達は何をしているんだ?」

仁美
「見滝原が元に戻るまで話せません!」



432: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:14:08.59 ID:QVqBrxCm0


詢子
「試して悪かった――いないんだろ。タツヤは殺されちまったんだろ?」


仁美
「!!」


433: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:15:16.67 ID:QVqBrxCm0


息を呑む仁美。何もかも諦めた眼差しが仁美の脳裏に刻み込まれる。
詢子は氷を含み、奥歯で思いっきり砕いて話し始めた。



詢子
「ある日の夕方、女の子に出遭ったんだ。赤いリボンが特徴的な、とても綺麗な子でね。
少しタツヤが迷惑をかけてしまったから、声をかけたんだよ」


仁美
「どんな風に――」

詢子
「あなたもまどかを知ってるんですかって」

仁美
「まどか・・・?」

詢子
「タツヤがよく描いてた女の子さ。でも、リボンの子――死臭がしたんだ。
よくわからない不気味さがあったんだ。つい嫌な顔をみせてしまった」

仁美
「はぁ・・・。そんなことがあったのですね」



詢子
「わたし達が帰る間も、死臭は離れない。本当に死神みたいな子だった。
やっと死臭が消えたと思ったら、タツヤも居なくなってたのさ」

仁美
「それを私に話すのは何故・・・」

詢子
「リボンの子、見たことあるかい?」

仁美
「いいえ。そのような方は存じません」


434: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:16:00.60 ID:QVqBrxCm0



暁美ほむらのことは話せなかった。
インキュベーターに固く口止めされている。

魔法少女である美樹さやかでさえ、
ほむらと仁美の接触はインキュベーター越しに聞き及んだだけだ。

まして、同じ候補者の美国織莉子は名前しか知らないといっても過言ではない。



435: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:19:30.09 ID:QVqBrxCm0

詢子
「存じません、か。残念だ」

仁美
「お役に立てそうも――でも、今すぐここを離れて」



詢子
「目が泳いでいる。わたしを騙そうなんて二十年早いよ」

仁美
「嘘なんて――ついて」



仁美の手が震える。口の中はとっくに乾ききっていた。



詢子
「あんたの何倍も情報通だって言ったよな? 人の話聞いてたか?」

仁美
「それは言葉の綾でそう言ったのでは・・・」


436: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:20:10.11 ID:QVqBrxCm0




「暁美ほむら」




「ひっ」




437: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:20:41.42 ID:QVqBrxCm0


思わず声に出てしまった。草臥れきった鹿目詢子は消えていた。
疲労を見せながらも、フクロウの様に剣呑な目つきで獲物を睨んでいる。



詢子
「こんなわたしにも親友がいるんだ。中学からの知り合い。
名前は何だったかな――年は取りたくないね」



呆気にとられている仁美を詢子はまじまじと見つめた。
気の強い令嬢は黙ったまま思考停止している。



ああ、そうそう、と勝手に頷いて詢子は続けた。



438: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:22:09.08 ID:QVqBrxCm0


詢子
「早乙女和子。うん、どこかの学校で英語を教えてたかな」

仁美
「・・・っ」


詢子
「中学二年の担――だった、ような」


仁美の返事は無い。
目を力いっぱい瞑って、何かに耐えている様子だった。


詢子
「・・・聞いたことある? あるよね、なあ? おい! 何故嘘をついた」


439: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:23:11.65 ID:QVqBrxCm0

仁美
「い、言えません。お父様にも、織莉子さんにも言えないんです。
だから、一般人の貴女に言えるはずありません!」



詢子
「当事者も無理ってことか。とんでもないことに首突っ込んでたのかなあ」



がさがさと鞄を漁って一枚の写真を取り出した。
顔写真。これは――鹿目タツヤのものではない。


黒くて長い髪。鼻がすうっと通っていて、どこか幼さが見え隠れしている女性の姿。


仁美
「まさか、暁美さんを探してたのでは!」

詢子
「そのまさかさ。薄情だと思うなら、好きに思っていればいい。
敵討ちってもんでも無いけど、重要な手がかりになるからね」


440: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:24:29.00 ID:QVqBrxCm0

仁美
「今すぐ――今すぐ逃げてください」

詢子
「嫌だね。わたしは探し続けるよ、たとえその身が滅びても」


仁美
「近々私は暁美さんに会うかも知れません。言伝なら承るので。これでも駄目ですか」

詢子
「こんなもんでわたしが動くとでも?」


仁美
「私が暁美さんを殺す、と言ったら海外に飛ばされて下さいますか」

詢子
「大法螺吹きだよ、あんた。そんな気全然無いくせに。
でも良いよ、乗った。仁美ちゃんの気概に免じて従ってあげよう」


仁美
「・・・実は、最初から私の提案を受け入れる気だった・・・なんてことは」

詢子
「まだまだ熟れてないね、仁美ちゃん。直接会ってから決めるつもりだった」

仁美
「そうでしたか」


詢子
「それと――ちょっとばかし、仁美ちゃんにも死臭が付いてるね。
ひとつ、アドバイスだ。自分が正しいと思ったことをしろ。
よくわからない理屈や一時の思考に邪魔されちゃ駄目だ」


仁美
「何が何やらさっぱり・・・。でも、はい。わかりました」


441: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/18(水) 20:26:00.53 ID:QVqBrxCm0

――――――――――――――――――
――――――――――――



仁美
「伝言はよろしいのですか」

詢子
「いいんだ。直接会う日が来るかもしれないからね」


小声で詢子に耳打ちする。早口で。

仁美
「・・・。暁美さんが生きていたら、何処までも鹿目さんを追いかけてきます。
何処へ逃げても無駄でしょう。逃がす場所は私とお父様しか知りません。
でも私がつい口を漏らしてしまうかもしれません。ゆめゆめ、お気をつけて」


詢子
「やっと本音が出たね。嬉しい限りだ」

仁美
「私は、あなたのような大人になりたかったですわ・・・」

詢子
「遺言か? そうだな、仁美ちゃんに一言だけ」

仁美
「なんなりと」


詢子
「こんな悲劇が二度と起こらないようにしてくれるかな。夫もわたしも疲れた」

仁美
「はい。約束は出来ませんが、努めます」

詢子
「それでいい。いつか、全部話してくれる日を楽しみにしてるよ」


444: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:11:13.02 ID:4d1mOe+J0
■Ea


志筑仁美を待つ間、聖カンナはとりとめのない根拠を元に暗号を解き続けた。
暁美ほむらが使役した素体の動力である宝石のニセモノを握り締めて、
御崎海香が見出したアルファベットを脳内に描いた。


神那ニコの性質をその身に宿した聖カンナは幾つもの宝石を創り出す。

多種多様。

種種雑多。

脳内に浮かぶ宝石はアメーバのようにかたちを変え続けた。





音のない世界に、扉の開く音。

規則的な足音も追随した。


カンナ
「待ちくたびれたよ。結果はどうだったの」

仁美
「まずまずです。いえ、カンナさん――貴女は知っているでしょう?」

カンナ
「ニコ・・・は止めたのか。いいや、私はずっと目を閉じていたから知らないね」

仁美
「そうでしょうか。デコイランの話、私は詳しく聞いているのです。
プレイアデス聖団のある記述から囮の発想を得られたとか」

カンナ
「何か言いたげだが。お前、回りくどいよ」


445: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:16:41.27 ID:4d1mOe+J0

仁美
「・・・。何故、私が囮――デコイランだと思ったのですか」

カンナ
「イクス・フィーレに書いてあったからに決まっている」

カンナ
「暁美ほむらを解析した結果、Ereshkigalという単語があった。ただそれだけだ」


仁美
「キュゥべえさんは貴女にエレシュキガルの事は話していない。
そこから、私は連想できない。つまり、カンナさんは私の記憶を盗み見ましたね?
私と暁美さんの、図書館での、二人きりの会話を盗み見ましたね?」



「ふむ」



カンナの声が闇夜に響く。


カンナ
「やるな、志筑仁美。鎌をかけたのだろうが、その洞察はなかなかのものだ」

仁美
「お褒めに預かり光栄ですわ」

カンナ
「私はConnectを用いることで、人間や魔法少女にアクセスすることが出来る。
誰にも気づかれずにな。多少魔力を喰うが、無意識に操る――洗脳も容易い」

仁美
「取引をしませんか」

カンナ
「言ってみろ」

仁美
「デコイランの心配は要りません、計画があればそれに則って動きましょう。
その代わり、これ以上私に接続しないで下さい。私は、私の意思で暁美さんの前に立つのですから」

カンナ
「――潰すときは正々堂々。約束を取り付けるまでも無い」

仁美
「良かった。ではニコさん。今後のことも踏まえながら、楽しく歓談をしましょう」

カンナ
「おまえは変わったヤツだな。人間は人間らしくしていればいいのに」

仁美
「もうすぐ午前様。皆に心配をかけてしまいますよ」

カンナ
「急ごうか。何事も早いほうがいい」

446: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:18:12.86 ID:4d1mOe+J0

仁美
「そうでした。もう一つ頼みが」

カンナ
「何だ? 聞くだけ聞いてやる」

仁美
「鹿目さんの自宅の場所、皆さんに話すのは何日か後にします」

カンナ
「準備期間というやつか?」

仁美
「そうです。機が来るまで、さやかさん達には内緒にします。だからニコさんも内密に。
勿論、キュゥべえさんにも協力して貰います」

カンナ
「たかが人間にインキュベーターを説き伏せることが出来るのか?」


仁美
「出来ますよ。だって私は――最後の切り札なのですから」


カンナ
「そうか。やはり、お前が切り札だったのか」

仁美
「ええ。ニコさんも知っているはずじゃ」

カンナ
「なんとなく感づいていただけ。今、知った」



しばらく沈黙が続いた。
長い道のりの中、二人とも歩くことだけに集中していた。



――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

447: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:20:23.39 ID:4d1mOe+J0

カンナ
「誰にも会わず、難無く到着できた。喜ばしい限りだよ。
私は少しばかり雑務があるから、かずみには心配するなと伝えて欲しい」

仁美
「ありがとうございました。ニコさん」





目の前の女が視界から消えたのを確認して、カンナは穏やかな声で闇に話しかける。





カンナ
「ずっと付けていたな? インキュベーターよ」

QB
「鹿目詢子と鹿目知久の安否を確かめるためだ」

カンナ
「それだけじゃないだろう? 確かめさせてもらうよ・・・。
あの女に入れ知恵して、一体何をするつもりかな」

QB
「話すわけには行かないよ。ボク達インキュベーターの存在意義に関わるからね」




カンナ
「なら奪うまでだ! おおよそ数ヶ月分の出来事、読み込ませて貰おう!」



指先からケーブルを解き放って、小動物の額に接着させた。



カンナ
「私はね、正確な情報が欲しいんだヨ」

カンナ
「そうだ。鹿目の家は内密に。いいね?」

448: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:23:29.77 ID:4d1mOe+J0
■IL DESTINO E SEGNATO


外で何が起きているか知らぬまま、仁美は無事に帰宅を遂げた。


織莉子とかずみはリビングで寝ていた。
多分、帰宅を待ってくれたのだろう。


どうしようもなく優しい方々なのですね、と二人に毛布をかけながら呟いた。



電気を消して、二階へ向かう。



「何も言わないで消えるのは良くないですわね」

「お手紙にしましょう」

「そうです。それがいいですわ」


449: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:24:34.65 ID:4d1mOe+J0

「鹿目さんには悪いけれど、私はきっと生きて帰れないでしょう」

「私が全部話す日など来ません。でも、頼むことなら出来るはず」


美国家の書斎――美国織莉子に手紙を綴る。


「この前、言ってましたよね?」


――いつか詳細を話して欲しい


織莉子の無垢なお願いは叶えられそうにない。
だから二三お詫びをした。




胸の奥に収めた心の重みを誰かに告白したかった。
長い間閉ざしてきた本音をぶちまけたかった。


「美国さんは生き残って下さい。私に出来るのはそれだけ」


生き残って、何が起きたのかを鹿目夫妻に伝えて欲しい。



450: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:27:02.29 ID:4d1mOe+J0


「きっと、美国さんは素敵な女性になるのでしょうね」




――羨ましいですわ。沢山ご学友が居て、自分の思いに実直。
私は今まで両親に縛られ続けて、自我というものがありませんでした。


その姿はさながら、舞台で踊らされる人形のごとく。
最後の最後くらい自分の意思で舞台を走り回りたいのです。


走って、飛んで、遊びたいのです。

自我を感じたいのです。

生を感じたいのです。



「だから私は暁美さんに逢います」

「自分の足跡を舞台に刻み込んでやります」




――たとえ、そこが血にまみれた舞台だとしても。



「鹿目さんにも頼まれてしまいましたから。こんな悲劇が二度と起きないように、と」



「もう後戻りは出来ませんね」


「本当に、これで良いのでしょうか・・・」


451: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:54:15.47 ID:4d1mOe+J0
■生産

□ティロホーム


さやか
「マミさんが居ない。あれれ、また?」

杏子
「また魔獣狩りに出かけた。凄い執念だよ。いつ寝てるんだかわからないくらいだ」

さやか
「グリーフシードは・・・」

杏子
「玄関に四個だけ置いてあった。今が踏ん張りどころってこった」



マミとキュゥべえは魔獣狩りに向かっている。


最近の事象によって見滝原は瘴気に溢れきっている。
連日寝る間を惜しんで戦いに身を沈める必要があった。


暁美ほむらに出会わないように注意深く、
ゲリラ的に魔獣を退治するには巴マミの戦闘スタイルが一番理に適っているのだ。




美樹さやかと佐倉杏子はひたすら待機している。



御崎海香の体調を管理すること

暁美ほむらの行動を特定すること

鹿目家の場所を特定すること



三つの役割が与えられた。


452: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:56:21.60 ID:4d1mOe+J0

さやか
「また昏くなってる」

海香
「ごめんなさいね。こんなことになって」


海香の穢れがとても早い。
かずみを動かすのに必要な魔力が吸われているのだが、海香は誰にも話していない。


最期の希望であるかずみを機能停止させるくらいなら、
自分が逝った方が良いと即決するほどの歪んだ友情を持っていた。



かずみは二度と造り直せない。



みらい、サキ、ニコ、カオル、海香、里美の持つ力が不可欠である。
暁美ほむらに頼ればミチルのような器は作れるかもしれない。
しかし、今の海香には交渉材料も、魔力も、時間も足りなかった。



海香
「パソコンを取ってください」

さやか
「あのねえ。病人は大人しく寝てたほうが良いって」

海香
「私にはやらなくてはいけないことがあるのですよ」

唸るように、さやかにパソコンを催促をした。
杏子は頭をかきながら、さやかに提言する。

杏子
「好きにさせとけよ、プレイアデスのかずみは向こうだし、ニコも戻ってこない。
海香にも思うところがあるんじゃないのか」


453: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:58:05.40 ID:4d1mOe+J0

海香
「『ヴァルプルギスの夜』の小説を書くのです。
この御崎海香――限られた時間は誰にも邪魔させません」

さやか
「ヴァルプルギスってほむらのことでしょ? なんでそう呼んでるの?」

海香
「暁美ほむらを見てそう思ったからよ。無為に殺し続ける舞台装置のようだと。
この悲劇は絶望で終わらせない。小説の中くらいハッピーエンドになりたいじゃない」

さやか
「もう好きにしたら? まっ、出来上がったらあたしに一冊頂戴」

海香
「ベストセラー作家の御崎海香様に何たる言い分。
でもグリーフシードの件もあるし、出来上がるまでに生き残ってたら十冊は送ってあげるわ」

さやか
「癪に障るやつ・・・」

海香
「ふん。大筋はもう出来ているのよ。だってノンフィクションなのだから」

海香はさやかの膝をつねった。


杏子
「どこまで事実を書くんだ?」

海香
「そうね、プレイアデスは皆生きてて――あなた達も生かしてあげる」


海香は構想を話し始める。

454: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 10:59:38.76 ID:4d1mOe+J0

海香
「星の神話を下地にしたわ」

――オーリーオーンがプレイアデスの七姉妹を追いかけ回すようになった。
これを憐れんだゼウスは彼女らを聖なるハトに――


海香
「オーリーオーンは弓使い、暁美ほむらみたいでしょ?」

さやか
「御崎さんはハトにでもなる気?」

海香
「美樹さやか。結構バカって言われない?」

さやか
「ぐぬぬ」

杏子
「その手の逸話は有名だ。検索すればすぐに出てくるだろ、こんな感じに」

さやか
「本当だ。でも、ゼウスに当たる人は居ないよね?」

アルテミスは、『死の中の生』と『生の中の死』の姿をとる月女神である。

という記述がさやかの目に入った。月の女神は弓の名手らしい。


海香
「そうね。ゼウスは居ない。だから私達は逃げられなかったし、殺された。まあ、続けるわ」

455: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 11:00:51.34 ID:4d1mOe+J0

――七人の魔法少女が現れて、ヴァルプルギスの夜に挑む。
大本の話に、インキュベーターから得た情報を混ぜる。
見滝原で何が起きたのか、後世に残すためのシナリオだった。


杏子
「でもオーリーオーンはアルテミスに殺されるんだよな」

海香
「佐倉さんは少し勘違いよ。相思相愛だった二人の弓使いの色恋沙汰。
片方が気づかずに――殺めてしまった、というのが正しいわ」

さやか
「ふむふむ、さやかちゃんは全部わかったよ。
ほむらの大好きな『円環の理』は弓が得物なのかな」

海香
「・・・馬鹿? 無尽蔵の魔力を造るヴァルプルギスの夜に『円環の理』はやってこないわ」

さやか
「ひっどい! ちょっとボケただけなのに」

杏子
「かといってここに弓使いは居ない。あのVertebrateが唯一の頼みだったか」

海香
「これも所詮こじ付け。神話に頼らず、泥臭く、決着をつけるのよ」


さやか
「え? 無視?」


456: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 11:01:51.71 ID:4d1mOe+J0

海香
「話が逸れたけど、概ねの流れは話したわ。
私が消えたらあなた達が編集に伝えなさい」

さやか
「んー。何だかんだで、みんな揃って悪の魔法少女を倒す話なんだね」

杏子
「倒せるかねえ。頼みのプレイアデスさんは残り三人だし」

海香
「――小説の中でしか生きられないのよ。あの子達は」



さやかは叫んでいた。

「杏子っ!」


杏子は直線に、ソファまで飛ばされた。
鈍い音と皮膚の痛みで気づく。魔力を込めた平手打ちを受けていたのだ。


杏子
「病人をなじるなんて・・・アタシらしくない。悪かった。完成すると良いな」

海香
「・・・ええ、絶対に」


さやかは目をまんまるに見開いて、自分の手を見つめている。
杏子を叩き飛ばしたことを後悔しているわけではない。


さやか
「――今、あたしは何をしたの? 何で手が痛いの?」

杏子
「はぁ? ついに呆けたか」

さやか
「わかんない。無意識になってた。気のせい?」

杏子
「あれ。一瞬殴られた気がしたけど」

さやか
「ちょっと眠くなってきた」

海香
「美樹さん――? 佐倉さん――?」


458: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 17:00:05.37 ID:4d1mOe+J0

■死に至る病Ⅰ

□暁美邸宅


暁美ほむらは堪えていた。
数日前からやけに調子が悪い。体が重い。力が入らない。


だから、外出をするときは専ら魔力収集。
今のほむらは生き残るためだけに魔力を集めていた。



リボンを手に持ち、自分は孤独でないと言い聞かせる日々が続いた。
自分と全く同じ存在 Vertebrate に裏切られてから、ほむらの心は揺らいでいた。


同じ記憶、同じ思考回路なら、コピーは何故、『円環の理』を求めなかったのか。
何故、素体同士が結託して創造主の暁美ほむらに叛逆したのか。




ほむらは忙しなく指を動かして不安を取り除いている。


あの子にもう一度だけ逢いたい、という結論に至らないコピーが理解できなかった。
その結論に至った「自分」が狂っているのでは、間違っているのでは、とすら思ってしまう。

459: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 17:13:27.25 ID:4d1mOe+J0


「初秋の断末魔が耳から離れない」


――多くの犠牲があったとしても、あの子が生まれるとすれば、それはとっても素敵なことなのよ。


――そのためには、“私”を閉じ込めてでも修羅になってみせるわ。


希望は潰えかけている。
閉じ込めたはずの罪悪感が静かに溢れ出てくる。


「あの子に逢えないで、多くの犠牲だけが残ったら・・・それは」

「それは――」


受け入れたくなかった。
ミネラルウォーターと一緒にその言葉を飲み込む。


洗面台で水と一緒に罪悪感を吐き出した後、二階に向かった。


「あった。はぁ・・・」


(誰の仕業なの? 皆目見当がつかない)



茶封筒をていねいに開けて、紙切れを取り出した。



最近届き始めた不可解な手紙も、ほむらを苦しめる一因だった。

場所は決まって二階の書斎。窓の隙間に差し込まれている。


「嫌がらせじゃないのよね」


四枚の手紙に目を通す。
各々、二つの名前が記されていた。だから残りは三通。


460: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 23:54:16.09 ID:4d1mOe+J0


【初めまして、かな。さてお前は14の悲劇を造り出したと聞いている。
名は体を表すと言ってね。悲劇にも名前をつけてあげようと思う。
それが終わった日に、最高の演出をもって招待したい場所があるんだ。
忠告だ。あの女に気をつけろ。どうやらお前を気に入っている節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に聡い。
そうそう、名前だ。_ベンヌ__________フルバシュ__】


【ハトは死者の魂を現しているらしいぞ。鳥人は何の象徴なんだろうな。
そろそろ私の正体に気づいただろう。お前は私のためにヒトを殺し続けている。
私のためでなくても、結果として私のためになっているのは喜ばしい限りだ。
忠告だ。あの女を殺せ。どうやらお前を慕っている節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に賢い。
そうそう、名前だ。_シャラブドゥ________ ミキト____】


【ココロの調子はどうかな。すこぶる悪いと嬉しいのだが。
お前の求めるものはまだそこにある。しかし、あの女が何処かへ運び去ってしまう。
さあ、準備が整うまでおとなしく寝込んでいてくれ。私も忙しいんだ。
忠告だ。あの女が出す食べ物には手を出すな。お前を殺そうとする節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に手際がいい。
そうそう、名前だ。___ ティリド______ ベールリ ____】


【やっと出来たんだ。名付けてイーブルナッツ。
形はお前のと同じだ。小さいけどな。グリーフシードの逆みたいなものと思ってくれ。
これで一番最初のワード以外は解明されたわけだな。
忠告だ。あの女が出す飲み物には手を出すな。お前を冒そうとする節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に要領がいい。
そうそう、名前だ。____ムタブリク_____ラビス_____】





読んでるだけで頭がどうにかなりそうな文章だった。
手に持って、読み返すたびに目の奥に痛みが走る。


461: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 23:56:28.41 ID:4d1mOe+J0


ほむら
(わけがわからないわ。筆跡は殺意が滲んでいるのに丁寧な忠告が書かれている)

ほむら
(グリーフシードかあ。まず、魔法少女関係を疑うべきだったのに。どうして気づかなかったのかしら)


ほむらはよろめきながら一階へ戻り、キュゥべえを呼びつけた。
キュゥべえとの頭脳戦は堪える。精神力が削られる。
だから、敵意がないことを端的に伝えたかった。


ほむら
「キュゥべえ、手を貸して欲しい」

QB
「珍しいね。キミから呼ぶなんて。障壁は外したのかい」

キュゥべえはまっすぐほむらの前に移動し、正面に座った。

QB
「相当堪えているね。まだ生きているのが不思議なくらいだ」

ほむら
「私には希望があるから。でも儚くて、弱弱しくて、今にも千切れてしまいそうなの」

QB
「ボク単体としては、ほむらに生きていてもらいたいものだけどね」


キュゥべえはグリーフシードを取り出してほむらのソウルジェムに近付けた。


462: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 23:57:17.69 ID:4d1mOe+J0

ほむら
「? 嬉しいわ。でも――この恩は返せそうにないわよ」
QB
「いいんだ。暁美ほむら、せめてもの罪滅ぼし、という慣習だ」
QB
「時間を費やしすぎた。すまなかった」


突然降って沸いた言葉にほむらは悩んだ。
キュゥべえは何かやらかしたのかと問う前に、全てを察した彼から説明があった。


QB
「いいかい。よおく聞いておくれ。遠くない未来、キミの命が狙われる。
ボク達インキュベーターは議論を続けていたが、先日ついに意見が割れた。
だからボク達はほむらに味方しよう。その死を見届けてあげよう」

ほむら
「えっ? 唐突すぎてわからないわ。軽く説明してくれると嬉しいのだけれど」

QB
「人類にとって致命的な損害を与えうるものは排除する。
それが有史以前からの基本方針なのは知っているよね」


初めて「あの子」にあった日に聞いた文言だ。春先の長閑な雰囲気が一瞬蘇った。


QB
「そして、聖カンナがここに現れた。現れたならまだしも行動が大規模になっている。
聖カンナは人類全てを心の底から恨んでいて、滅ぼそうとしているんだ」


463: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 23:58:48.45 ID:4d1mOe+J0

ほむら
「聖カンナ・・・。初めて聞く名前だけど、魔法少女よね」

QB
「うん。固有魔法のConnectが発動した瞬間、彼女の勝利が約束される。
契約した当初は大人しかったのに、ずいぶんと扱いに困る存在になった」

ほむら
「Connect?」

QB
「洗脳、記憶回収、身体操作、能力取得などの性質を持つ。最強と言っても過言じゃない。
厄介なことに、ほむらにConnectされると宇宙が終わる」


ほむら
「どうして宇宙が終わるのよ」

QB
「カンナがキミの知識を回収することで宇宙が終わるんだ」

ほむら
「・・・洗脳じゃなくて? 知識?」

QB
「洗脳は解ける可能性が残されている。身体操作もね。
能力の取得と記憶に関しては別物だ」

QB
「ほむらの記憶を見尽くしたら、キミ同様、『円環の理』に感化されるだろう。
聖カンナはあらゆる知識を吸収できる。ほむらを宿したカンナなら、全人類を滅ぼすのも朝飯前だ」

ほむら
「私だって人類の天敵みたいなものじゃない?
自分のために、壊して、壊して、壊しまくったんだから。
なのに見滝原は大丈夫。つまり、聖カンナが私の経験や知識を手に入れても人類は安泰よ」

QB
「その行動は『円環の理』を得るための手段だろう。聖カンナは人類の破滅が目的だ。
ヒトを殺すたびに穢れを浄化し、魔力を得る技術。使う人間が違えば、結果もまた変わっていくのさ」

ほむら
「なるほど。ヒトが消え去れば感情エネルギーの回収が出来ない。
だから宇宙が滅びると言ったのね」



464: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/28(土) 23:59:51.16 ID:4d1mOe+J0


QB
「そのとおり。だから早急に聖カンナを排除しなければいけない。
或いは、聖カンナに知識を与えない。この二点が人類存亡の鍵だ」


ほむら
(ややこしくなってきたわね)

ほむら
「Connectされる前に、誰かが私を排除する。これで円満解決じゃないの?」

QB
「ほむらを短期間で倒せる人材は限りなく少ない。聖カンナも同様にね。
二人とも強すぎるんだ。特に、聖カンナは対人に向いている魔法少女だし尚更難しい」

ほむら
「私でも聖カンナに勝てないと言うの?」

QB
「キミの存在がばれてしまった以上、勝率はどんどん下がっているね」

ほむら
「・・・。最初に言ってたわよね。意見が割れたって」

ほむら
「聖カンナを入念に潰すか、私を真っ先に潰すか。それとも共倒れを誘っているのかしら」

QB
「“彼ら”インキュベーターは、マミ達を信じている。
“ボク達”インキュベーターは、ほむらを信じている。この違いだよ」
QB
「マミ達なら聖カンナをとめられるはずだってね。でもボク達はそう思わなかった。
客観的に見ると、マミ達はまず全滅する。誰も生き残らない」


465: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:01:21.75 ID:96TObXj70


ほむら
「・・・。私が聖カンナに会ったらどうすればいいの?」


QB
「全力で戦って欲しい。
Connectされないように、何十にも障壁を展開して欲しい」
QB
「ボクに言えるのはそれだけだ」

ほむら
「聖カンナに会ったら、どうなるかわからないと?」

QB
「まあね。勝てば御の字。Connectされる前にキミが死んでも御の字。
Connectされてしまったら、聖カンナは誰にも止められない」




ほむら
「何故・・・今日になるまで黙っていたの」

QB
「聖カンナを監視していた個体のリンクが切れたんだよ」

ほむら
「Connectされたってこと?」

QB
「そうだ。余波がボク達にまで及んでいないか確認するのに手間取った。
戦いの火蓋が落とされた瞬間でもあるね。重ねてお詫びするしかない」



ほむら
「ふう・・・少し休んでから続きを聞かせてもらうわ。今、魔力を節約しているのよ」



糸が切れたかのように、ひっそりと倒れた。

静かな寝息だけがそこにある。



QB
「やれやれ」


466: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:12:10.63 ID:96TObXj70

QB
「マミ、さやか、杏子、海香、かずみ、織莉子、仁美」
QB
「新しいプレイアデスはとても脆い。末っ子の仁美は揺れているしね。
一歩間違えればヒュアデスに成り果てるものを何故彼らインキュベーターは信じるのだか。
カードが多い分、不確定要素が爆発的にうまれるというのに」


QB
「聖カンナも大概だけどね。殺すなら手っ取り早く済ませて欲しかった」
QB
「ほむらの価値が気づかれる前に」





QB
「まったく、わけがわからないよ」





QB
「おや、この手紙はなんだろう?」



キュゥべえは、ほむらの手にあった紙切れを取り上げた。



QB
「この吸着剤は――聖カンナの方が一手早かったか・・・」


467: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:16:10.24 ID:96TObXj70
■死に至る病Ⅱ


目を覚ますと白い生き物が手紙の横に座っていた。


ほむら
(キュゥべえが居る・・・。そうだ、思い出した。聖カンナの処分よね)


インキュベーターが味方につくと言ったら、間違いなく味方なのだ。

この難所を乗り越えれば、『円環の理』に出逢うことをも公式に認められる。
支援だってしてくれるだろう。寝ぼけた頭でもわかる単純な理屈だ。


QB
「ほむら、聖カンナは動き出している。
彼女の目的は全人類の抹殺――なのかわからなくなってきた。
こればっかりは本人に聞いてみるしかなさそうだ」

ほむら
「五通目、来てたんでしょ」

QB
「ほむらも見るかい?」

ほむら
「勿論。何か腑に落ちないところがあるし」



【先日、掴み取った一匹のリンクが外されていた。実に残念だ。
私のコネクトが公に漏れたのは想定していたわけだがな。
七通目が届いた日。お前は『円環の理』を見るだろう。
忠告だ。あの女が出す家具には手を出すな。お前を潰そうとする節がある。
私自身、あの女はお前以上に恐ろしい。実に小聡明い。
そうそう、名前だ。_____イディブトゥ __ツィダヌ _____】



QB
「暁美ほむら。この手紙には触れないように。それと――」


468: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:19:10.05 ID:96TObXj70

QB
「一人、円環の理に導いて欲しい子が居るんだ」

ほむら
「・・・わかったわ。実験をしてもいいのかしら?」


美樹さやか。佐倉杏子。或いはプレイアデス聖団の生き残りか。
前者の二名なら然るべき復讐を、と考える。


実験――かつての悲劇は今、蘇った。
記憶の中の自分に及ばないまでも、あの子に至る道しるべを作り出す手段を考えた。



QB
「任せるよ。魔力は足りてるのかい」

ほむら
「少なすぎる。でも仕方ないわ、まともに補給出来る状況ではないし、消耗も激しい」

QB
「そう思って三十個用意しておいたよ。きっと戦いになる。
時刻は午前四時以降。裏口に行けば見つかるだろう」

ほむら
「見つかる? それは怪文書のこと?」



頷くキュゥべえ。

なるほど封筒の送り主が来るらしい。


決めた。今、決めた。誰でも良いからこの鬱憤を晴らしたい。気だるさが癒えるなら何でもしよう。
しかし、アナログな伝達手段をとるなんて、世に疎い魔法少女なのだろうか。


QB
「ほむらにしか出来ない仕事だ」
QB
「念のため、彼女に一つ質問をしてほしいことがある」


ほむら
「聞く余裕があれば、聞いてあげないでもないわ――」


469: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:20:49.42 ID:96TObXj70

翌日


裏口近くの壁を背に、暇をもてあましていると見慣れぬ影が現れた。
障壁を敷いている以上、この場に入れる人間は限られる。


接続されないように、気をつけてはいた。気休め程度だが。
対魔装甲ではなく、リボンから抽出した『円環の理』の力。


それを全身に軽く纏わせて挨拶をする。


ほむら
「こんな朝早くに郵便? 趣味悪いわよ」


目の前の少女は漆黒の装いだった。
フードの中から見え隠れする黄金色の瞳に長い睫毛。


茶封筒を持って立っている。



少女はどす黒い笑みを浮かべて、丁寧に頭を垂れた。



「遅いね。遅すぎるよ。私の行動はルーチンだ。
キミならもっと早く気づくと思ったんだけどなあ?」


ほむら
「私の知らない魔法少女。何用かしら」


「わかっているんだろう? 封筒を渡しに来たんだ。
ヒントだよ、ヒント。最高の演出でキミを迎えるんだよ、暁美ほむら」


これ見よがしと言わんばかりに、封筒をひらひらさせていた。


わかっている? ということはこの魔法少女は――




ほむら
「貴女の口から直接聞きたいことがあるのよ。何が目的? 聖カンナ」




470: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:21:43.27 ID:96TObXj70

キリカ
「ハッ。勘違いしてるよ。呉キリカだ、呉キリカ。呉キリカと呼んでくれ」

ほむら
(・・・初めて聞く名前)

キリカ
「キミの言うカンナ様に頼まれてね、何日か前からお使いゴッコだよ」

ほむら
「聖カンナの使い魔? 付き人? それとも、立体映像なの?」

キリカ
「カンナの使い魔ではない、呉キリカだ。付き人ではない、呉キリカだ。
立体映像でもないよ、呉キリカだ。魔法少女の呉キリカ。呉キリカ」



ほむら
「壊れてるわね」



キリカ
「マぁ、些細だ。お使いがバレたからキミをコロさないといけない。そんな気がする。
だから大人しく私に切り刻まれるといいよ。暁美暁美暁美暁美暁美にしてアげよう」


471: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:23:51.24 ID:96TObXj70



キリカが薄暗いソウルジェムをかざす。
腰にソレを装着し、無駄なく変身を終えた。
その佇まいに一分の隙も無く、手甲から伸びた鉤爪が得物――暗器といったか。




間違いない。コイツは牧カオルと同様、格闘スタイルの魔法少女。非常にやりづらい相手だ。
黄金色の左目に両手の黒い爪。眼帯で覆っている右目にも注意を払わなければいけない。



目は口以上にものを言う。
視野を減らしてでもなお、眼球を隠す手段を取った。それだけ対人戦を意識しているに違いない。




そして、インキュベーターが恐れた聖カンナの息がかかっているのだ。




近接主体と思わせて幻術を使う佐倉杏子のような魔法少女もいる。
実際に戦ってみるまでは敵の「特性」を汲み取ることは出来ないが。


ほむら
(魔力が充実してない身体とはいえ、弓を好き勝手に振り回したら、外壁が崩れかねない)

ほむら
(相性も良くないし、変身は控えましょう)



472: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:25:57.44 ID:96TObXj70



196倍の身体強化のみで様子を見ることにした。
油断して両断されました、などという陳腐なエンドマークを迎えるわけには行かない。



指輪状態のソウルジェムであれば爪で引き裂かれる危険性も下がる。
魔力の消耗も少ない。最高の選択肢だ。


ほむら
(キュゥべえから聞いた「呪文」もある。それに――)



生体実験 In Vivo としての価値は十二分にある。
むき出しの殺意には、冷酷な現実をもって応えてあげるのが礼儀だろう。



ほむら
「牧カオルほどのお持て成しをするまでもない。
貴女のような、名前も知られてないぽっと出。生身で十分よ」


大仰に言い放った。


ほむら
「弱点は見せてあげない」



キリカ
「へえ、身体強化だけかイ?」

ほむらは首肯する。




キリカ
「私を甘く見すぎだよ。指一本触れられずに散ね」




473: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:26:48.00 ID:96TObXj70


キリカは身体の向きを斜めにしたまま、ほむらに近づく。
脇を絞めて、中段の構えを維持しながら、じりじり間合いをつめてきた。



ほむらは自然体――と言えば聞こえは良いが、完全に棒立ちで対応する。



初対面の魔法少女を相手に、である。



素人同然。ベタ足で身体が開いていた。

普通の人間相手なら足払いですぐに甲乙付いてしまうのではないか。




ほむら
「どこからでもかかってきなさい。貴女は私に絶対勝てない」



ほむらが言い終わると同時に、キリカは唸り声を上げて襲い掛かってきた。








跳躍。そして――


474: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:28:00.01 ID:96TObXj70





獰猛染みた黒金の一振





空手や合気道でよく見る基本形から、野生の獣のように本能を剥き出しにした一手は意外だった。
ほむらは慌てて体を捩って回避するも、キリカの両手から繰り出される爪の応酬は伊達ではない。


反撃する隙の無い怒涛の攻撃に、思わず一歩二歩と後ずさりしてしまう。




キリカ
「フッッッ!」

ほむら
(――――迅いっ)



ほむらからしてみれば、キリカの常軌を逸した高速の連撃は目で追うのがやっとで、
全力の回避をひたすら行うと同時に、適当な間合いを保つより無かった。


一方のキリカは澄ました顔で、執拗に、続けざまに、正面の空間を穿ち、切り裂いた。



華奢な体躯から生み出される純粋な圧力。純然たる暴力。
軌道を読んで必死に避けたとしても、余波の突風が吹き荒み、ほむらの姿勢は容易く崩れてしまう。



475: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:29:49.84 ID:96TObXj70

ほむら
(特殊能力は・・・無さそう?)



ほんの僅かな隙を見定めるために、ほむらは防戦を貫いた。


呉キリカの手の内をよくよく考えなければならない。
付き人はもういないし、予備の器も用意していない。



キリカは淡々と殺人術を行使していた。


476: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:31:08.95 ID:96TObXj70


ほむら
(このままじゃ埒が明かないわね・・・)


ほむらはそう思っていた。
しかし片方が朽ち果てるまで続くと思われた闘争は、キリカの一言で呆気なく終わる。



突然、両腕の牙はだらんと垂れ下がる。
二つの足音が息を潜め、場違いの突風も自ずと止んだ。




キリカ
「遅すぎ。期待外れだよ」




躊躇なく言った。


抑揚なく言った。



車道で潰れたハトを見てしまったときのような、汚らわしい物を見る目。
人間として最低限の哀れみすら持ち合わせない残酷な目つき。



477: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:32:25.73 ID:96TObXj70

ほむら
「一撃も浴びせられない魔法少女が何を言ってるの?
悪いけれど、牧カオルという怪物には遠く及ばないわよ」


キリカ
「あー、暁美ほむら。もう死んでも良いんだよ。何でキミが立っているのか不思議なくらいだ」


ほら、自分の体を見てみろ、と言わんばかりにキリカは指を突き出した。


ほむら
「――――――――――!!」



脚。

膝。

太腿。

脇腹。

胸部。

両腕。



全身が真っ赤になっていた。正確には、制服が赤く染まっていたわけだが。
間違いない。数分前まで、ほむらの血管に流れていたはずの生命のシンボル。



ほむら
「嘘・・・でしょ」



まさかと思い、頬に手を触れると、どろっとした感触があった。
見なくてもわかる。こんなに生温かい脂汗があってたまるものか。


478: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:33:58.26 ID:96TObXj70

キリカ
「なに? 全部避けたとでも思ってたのかい。これは傑作だ」


ほむら
「傷跡は・・・一つもないのに・・・」

キリカ
「落ちぶれたものだね。それがキミの回復力、身体強化のあるべき姿だよ」


なるほど。血が噴出した直後に、自然治癒したということか。
ただ、魔力を節約した割には妙な回復力だ。



キリカ
「さあ。変身しないと八つ裂きだ。キミの本気を見せてくれ」



このセリフに、ほむらは大きな違和感を覚えた。
トドメを刺す前にキリカが手を止めたことも相まって、尚更裏があるのではと思考が働いた。


479: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:35:02.57 ID:96TObXj70


ほむら
「・・・。殺すならこのままの方が好都合でしょ? どうしても変身して欲しいなら別だけど」

キリカ
「――――ン。確かにそうだ。私はキミをコロしたいんだ」

ほむら
「変身しろと言われて、はいそうですかと従うのも愚かだけど」

キリカ
「一理あるよ。うん、その――アレ? なんで私はキミをコロしたいんだ」


キリカ
「違う違う。シカメの家を探してたんだから暁美ほむらを殺せ――?」



急に頭を抱えてしゃがみ込むキリカ。
ぶつぶつと何かを唱えているようだった。



480: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:37:07.41 ID:96TObXj70

キリカ
「おっかしいなァ。封筒を渡すためにここにきたんだよ。
なのにシカメの家を探しに来たんだけど・・・。しかし、コ、殺す?」



キリカは耳を塞ぎ、長い鉤爪をわなわなと震わせた。
もはや言語として成り立っていないその独り言は、瞬く間に叫びへと変貌してゆく。


キリカ
「いや、何だこれは!」

キリカ
「私の知らない情報が・・・何故、私は鹿目詢子の棲家を知っている!!」





泡を吹いて倒れるのではと思うほどの狼狽振り。
キュゥべえに教えられた「呪文」を唱えるべきタイミングだと判断した。


ほむら
「呉キリカ。聞きたいことがあるの」

キリカ
「取り込み中だ!! 私は一切の質問を受け付けなILんだよッ!」




赤に染まった紫の少女は、闇に染まった黒い少女に問うた。
白い小動物に言われたとおりに。



――その魔法少女が、瘴気を散らし始めたら次のように聞いて欲しい。



ほむら
「貴女に愛する人はいるの?」

キリカ
「あたりまEじゃないかァア?」


481: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/09/29(日) 00:38:55.78 ID:96TObXj70


――もし、彼女が答えられなかったら・・・


ほむら
「・・・。愛する人は居るのね。名前は?」

キリカ
「居るけどね! 名前は教えられないなッ」


――手遅れだ。


ほむら
「私はどうでもいい。呉キリカ。貴女はその人の名前を思い出せるの?」

キリカ
「・・・かんな」



ほむら
「はぁ・・・。カンナねぇ、どうしましょう」


この返事は、一介の魔法少女の手に余る。
昨日、キュゥべえはコイツが質問に答えられない前提で話を振ってきたからだ。


ほむら
(そういえばカンナ様に頼まれた云々言ってたわね)


484: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/02(水) 02:03:04.26 ID:9MUCxqap0



ほむら
「・・・」



首根っこをとっ捕まえてキュゥべえの元に連れて行こうかと考えていた矢先。
興奮しきっていたキリカは苦しそうにして言葉を紡いだ。



キリカ
「・・・わかんない」


キリカ
「思い出せない」



キリカの紅潮した顔が真っ青になる過程を、ほむらは冷静に見つめていた。



485: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/02(水) 02:03:56.61 ID:9MUCxqap0

QB
「やっぱりね」

ほむら
「やっぱりって?」

QB
「呉キリカは行方不明だったんだ。てっきりキミに殺害された思ってたけど」

ほむら
「失礼ね。でも、変身してなかったら気づかないでヤッてたかも」


突然のらりくらりと現れたキュゥべえは仮説を立てる。
一部始終を見ていたようだ。


486: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/02(水) 02:06:14.07 ID:9MUCxqap0

QB
「目の前の存在に、聖カンナの魔力を感じるよ。
ファンタズマ・ビスビーリオと何かの複合・・・Connectは間違いなく使われている。
それじゃあ、荘厳に葬ってくれ。このカードは失敗に終わった」


ほむら
「呉キリカで何かしようとしてたの? 喰えないわね。でも話してくれてよかったわ」



キリカ
「おい・・・死神」

キリカ
「私の役割は愛すること。奉仕すること。早く殺し・・・」



QB
「ほむらにしか出来ない仕事だ。さあ」

ほむら
「ええ。呉キリカも哀れね。愛する人の名前すら思い出せないなんて」



キリカの魔力を、ほむらが作成した宝石に移し変える。
吸収はしない。複数の洗脳魔法を介した魔力はまさに毒といっても過言ではないからだ。


念には念をいれて呉キリカを導く。


キリカ
「助かるよ。恩人。六日目。チャンスだ。鹿目の住居へ。」


淡く輝く桃色の中で、呉キリカは確かにそう呟いていた。



487: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/02(水) 02:08:27.45 ID:9MUCxqap0

QB
「キリカの言う事も気になるけど、まずは手紙だ」

ほむら
「導かれる最中で放っておくのも気が引ける・・・けど、急いで確認しましょう」

QB
「待って。触ると危険だ。ボクが読み上げよう」

ほむら
「手紙に何か仕掛けが? 昨日も触るなといっていたけど」

QB
「四枚目の記述にあるイーブルナッツらしきものが付着してるんだ。輝く粉が装飾してあるだろう?
誰構わず魔力を吸い取る対人兵器だよ。さあ、読んでいくよ――」



【かつての全ては明日、満たされるだろう。
暁美ほむらは全ての罠を避けて、私に挑むのだ。
七つの扉を開いたお前に感謝する。
残念だが、くぐるのは私だ。私が『本物』になる日は近い。
私がお前の全てを引き継ごう。
名前か? お前はもう一生知らなくていいよ。】



488: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/02(水) 02:10:48.46 ID:9MUCxqap0


桃色の光に照らされた文字列を反復して読み込む。


ほむら
「また随分とテイストが変わったわね。これは何を示しているの」

QB
「七つの扉? ちょっとわかりかねるね。
聖カンナは、ほむらの知識に執着しているようだけど」

ほむら
「それくらい馬鹿でもわかるわよ」

QB
「で、どうするんだい? 別に、逃げても良いんだ。
イーブルナッツが完成した今、聖カンナに対抗できる魔法少女は皆無だよ」


ほむら
「弱気ねキュゥべえ。殺される前に殺せばいい」

ほむら
「私はそうやって、生き延びてきたのよ」



QB
「・・・ふう。わかったよ。初めからキミに従うつもりだったし。
ところで聖カンナは鹿目の家に居ると思って良いのかな」

ほむら
「何処に居ようと関係ないわ。見つけたら殺す」

ほむら
「早めに向かえば、聖カンナを迎え撃てるかもしれない。
それに鹿目詢子だっけ? 素体の元は回収しておきたいわね」


ほむら
「準備してくる・・・。時間かかるわ」

QB
「わかったよ」


489: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/02(水) 02:13:29.09 ID:9MUCxqap0

QB
「さて――聖カンナ。ほむらは去ったよ」

キリカ
「?」

QB
「どうしてConnectしなかったのかい」

キリカ
「知らない」

キリカ
「知らない」

QB
「ほむらを殺すいい機会じゃないのかい」

キリカ
「知らなイ」

キリカ
「知らナイ」

QB
「ううん。聖カンナがわからない」

キリカ
「シ――」


QB
「呉キリカ? 美国織莉子、だよ・・・」

QB
「美国、織莉子・・・」


490: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/02(水) 16:07:35.57 ID:9MUCxqap0


消え去ってもなお名前を呼び続けるキュゥべえのもとに、別の個体が一匹現れた。


「『円環の理』が発動してたね。呉キリカか」

「そうだよ。どうだった?」

「駄目だった。キミもまた、Connectされていたようだ」


「『一歩間違えればヒュアデスに成り果てるものを何故彼らインキュベーターは信じるのだか』だね?」


「うん。キミの発言したヒュアデス――だ。属性を示すような用語だけど」

「口を衝いて出てきたからね。そうじゃないかと思ってた。
多分、裏切るとか、そういう意味合いなのだろう。さて、引き継いでもらえるかい?」


「必ず聖カンナをとめて見せるよ。安心して逝ってくれ」

「ほむらは任せたよ」


「勿論。ボク達インキュベーターが信頼出来る、唯一のカードだからね」

「良かった。それと――」


「なんだい?」

「シロマルって呼んでみてくれないか? ボクはもうキュゥべえじゃないし」



QB
「じゃあね。シロマル。後は任せてくれ」

シロマル
「まだしっくりこないなあ。呉キr――」



491: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/02(水) 16:37:08.42 ID:9MUCxqap0
□地下室


「これがイーブルナッツか。私の造った装置とよく似ている・・・」


中世で言うところの白魔法といった具合の浄化呪文を全身に施すと、頭がクリアに働き始めた。
と同時に、身体に付着していたと思われる粉がぽろぽろと剥がれ落ちる。


魔力を吸い尽くすコレが、ほむらの造った宝石より数段劣っている証拠だった。
このイーブルナッツと呼ばれるものは、術式の異なる魔法にはとことん脆いらしい。


悲嘆に暮れている精神状態で、こんな吸着剤を連日触っていたのだ。
ますます暗い気分になるというもの。


「なるほど悪意たっぷり。反吐が出そうになるわ、聖カンナ」


492: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/02(水) 16:39:12.58 ID:9MUCxqap0

身体に密着した服と格闘する。

血でべっとりと貼り付いていたので、なかなかの重労働だった。



「あぁ。よく考えたら、聖カンナの顔すらわからないのよね」



少し熱めに設定して湯浴み。

紅くなった肢体をスポンジで撫でる。


「イーブルナッツ・・・」

「一通目の手紙にも付着していたということは、初めから完成していたってことよね」


「何だか踊らされている気がする。
六通目の文体だけ今までと違う。普通、七通目に書くべき内容のはず」


リンスが切れてる。
明日買いに行きましょう。


「どうして手紙ごときで魔法少女を派遣してきたのかしら。
第一、聖カンナが直接来ていれば、それで済んだ」


493: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/02(水) 16:42:14.27 ID:9MUCxqap0

イーブルナッツを投げつけて、魔力を吸い取った隙にConnectで知識を得れば良い。
私なら一日とかからずにやってのけるわ、と思った。



「ん、ふぅ・・・」


ちょっと温いか。まあいいや。

好い匂い。


それにしても聖カンナのお披露目は余りにも不自然。
突然現れて、人類を脅かす存在になりました? 何の冗談だと一蹴したくなるわ。

さっさと来て、私の浄化技術を得て、人類を滅ぼせば良いのに。


実に回りくどい人間だ。
こんなときはよくよく考える必要がある。


真意は他に在る。あらゆる可能性を考慮しないと。


494: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:34:49.16 ID:h+QPfhBH0


「原因は誰かの契約、或いは予言。他には浮かびそうも無いわね」



契約?


呉キリカ――。


あまり関係ないわね。
インキュベーターが頼っていた・・・。
私を殺すために訓練を重ねた節も見受けられたし。


聖カンナ――。


人類を恨んでいる。もしも私が聖カンナなら、契約するときに人類の絶滅を願うわ。
つまり、何かに接続した結果、好ましくない事実に気づいたということになるわね。



キュゥべえにConnectしたから?


多分Yes。


キュゥべえは議論を繰り返してきたらしいし、意見が割れた時期と重なる。
それで私の魔術を知って、知識を渇望した?


保留。



495: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:36:11.75 ID:h+QPfhBH0


まだある。

予言じみた何か。


イクス・フィーレ

そう! イクス・フィーレだ!



何が書いてあったのかわからないが、辻褄は合う。
弱点を解析する魔法だと聞き及んでいたが、何がしかの行動に従わざるを得ない――とか。


御崎海香が関与していると見ていいのか。
いや、Connectの被害者かもしれない。馬鹿だし。



496: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:39:00.35 ID:h+QPfhBH0


「あの怪文書は何だろう」


あの手紙はブラフと考えてもいいのかしら。
曲がりなりにも魔法少女からの手紙、というわけなんだし。


これは時間が解決するでしょう。それに、

「私の持つ魔法を、聖カンナは求めている。だったらそれまでやりたい放題」


殺されはしない。時間はある。




いいや、まだだ。まだ推察は足りない。



そうなるとプレイアデス聖団。私を襲ってきた理由がはっきりしそう。
美樹さやかと佐倉杏子が一枚噛んでいるものと思いこんでいたのだけれど。


皆、聖カンナが私の知識を欲していることを知っていた?


それは無いか。



でも結果として私の命が狙いだったのは同じ。
あの時は実験に夢中だったし、ある意味人類の危機。キュゥべえが私の排除を誘導してもおかしくない。




「終わったことは二の次でいいわ」



!!


真水のシャワーは冷たいぅ。



497: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:41:01.95 ID:h+QPfhBH0


「もしも、よ。考えたくないけど」



タオルが湿ってる・・・。
陰干しだったものね。



「もしも――」







――私が既に操られているとしたら。




既にConnectされているとしたら。







最悪の可能性が残っている。


498: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:42:45.18 ID:h+QPfhBH0


「あの子」の材料を回収している場合ではない。


キュゥべえはそれをも見越して行動しているとしたら。
だからマミ達を支持するインキュベーターが現れたのでは?



白の 着が無い。
黒は変身したときに浮き上がるのよね。



何れにせよ――


「私は、アイツを殺すしかない。洗脳されていたとしても解けるし」


「でも、聖カンナは何を企んでいる?」



499: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/04(金) 04:45:15.29 ID:h+QPfhBH0



Connectしたなら行動に移っても良いはずよ。



もっと。考えないと。


あ。無駄か。



私の思考にConnectされているとしたら、答えが出ないように操作することも可能だろう。

駄目だ。不安になってきた。



自分の意思が自分のものでない?




「何もかも信じられなくなるわね」




結局、黒のアーマーブラに。
ショーツも対のものを選んだ。




機能性と動きやすさを重視した結果。
発汗に優れ、密着したタイプのものをと悩んだ末。



500: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:47:16.49 ID:h+QPfhBH0


「長い一日になりそう」


袋に左手を突っ込んで穢れを浄化した。
先日からの体調不良はすっかり回復していた。


カモフラージュ用として学校指定の制服を着る。
別に図書館に篭るわけではない。



真紅いリボンを丁寧に巻く。


結ぶ。


撫でる。



――もう少しよ。もう少しで貴女に逢える。



「だから、邪魔者は殺しましょう?」


短い休息だった。
今日の私は冴えていると思った。


501: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:49:15.69 ID:h+QPfhBH0
■死に至る病Ⅲ


外に出ると、キュゥべえは尻尾を振って答えてくれた。
清冽な空気の流れに包まれた、そんな早朝。


ほむら
「お待たせ」

QB
「長かったね。待ってたよ。鹿目の家に行くのだろう?」

ほむら
「勿論。不安要素は出来るだけ取り除きたい」

ほむら
「だから、質問。絶対に答えなさい?」

QB
「いいよ」

502: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:49:47.41 ID:h+QPfhBH0

ほむら
「聖カンナの特徴、仲間について、貴方が知っていることを教えて欲しい」

QB
「端的に言えば漆黒の魔法少女だ。特徴は、黒いことかな」

ほむら
「他には?」

QB
「それだけだ。彼女の存在を知る魔法少女は居ないと思う」

QB
「存在を知っているとすれば、呉キリカの様にConnectされた魔法少女」

ほむら
「・・・使役させられてる人物、と」

QB
「今朝のとおりだね。だから仲間なんて居ない」

ほむら
「私そっくり!」

QB
「自虐はよしてくれ」


503: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:50:53.36 ID:h+QPfhBH0

ほむら
「で、誰が操られているかわかる方法はある?」

QB
「宇佐木里美や御崎海香のような洗脳を並行して使っていればわかるさ。
Connect単体だと話は別だよ。気づく人はまずいない」


QB
「ボクが一昨日教えたように、弁論術で探るのが一番だ」

ほむら
「知らないことを知っていたり、思ってもない行動を始める・・・ってことね」


QB
「ただ、区別は難しいよ。見知った相手だからこそ、差異に気づくわけだし。
呉キリカはキミみたいに、執着していたものがあったから」

ほむら
「わかりやすくてチョロい奴だったわ」

QB
「・・・。ちなみにボクもConnectされていたから、さっき交換してきたんだ」


ほむら
「さらっと凄いこと言うわね」

QB
「聞いた事の無い言葉を発してたんだ。自分でも冷静に驚いてたよ」

ほむら
「ううん。Connectを簡単に確かめる手段って無いのかしら」


QB
「それならどうだろう。お互いに思いの丈を明らかにしようじゃないか。
心の奥底に秘めた思いをさらけだしたら、聖カンナへの牽制になる」

ほむら
「冴えてるわね。いいわ――」


504: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:53:07.37 ID:h+QPfhBH0


ほむら
「もう一度だけ逢いたい」


ほむら
「私の唯一無二の行動理念よ」



QB
「ボク達の行動理念は、宇宙を救うこと。ただそれのみだ」


QB
「人類の繁栄は言うまでも無く包括されている」


505: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 04:55:30.02 ID:h+QPfhBH0


ほむら
「最後に。聖カンナのことを、どうして私だけに話したの?
この街には大勢の魔法少女がいる。プレイアデス聖団の搾りカスもね。
協力して戦う――手段もあったわよね」

QB
「無理だ」

QB
「プレイアデスはほむらを目の敵にしている。
見滝原を蹂躙したほむらに、和解の道はない。ほむらだって誰も信用してないだろう?」


ほむら
「そうだった。殺しておいて仲良く、なんて度台無茶が過ぎたわ」

QB
「そして、Connect。悪夢の本質を知った人間は耐えられないよ。
ほむらも十分苦しんだんじゃないか?」

QB
「自分は既に接続されていて操り人形と化しているのでは、って感じにね」


ほむら
「確かに貴方の言うとおりだとは思うけど、知らないほど怖いものは無いわ」

QB
「知るほど怖いものは無いよ。真実を知ったときの絶望は計り知れない。
ひょっとしたら、ほむらは自殺するんじゃないかと思っていたくらいだ」


QB
「聖カンナは恐ろしいだろう? たとえ何もしてなくても、精神が削がれていく。
ただ知るだけで、プレッシャーを与える存在なんだ」


ほむら
「若干、迷いはしたけれど平気よ。「あの子」の器を壊されたときは本気で死のうと思ってたわ。
聖カンナくらいじゃ、精々思考をかき乱される程度に過ぎない」


QB
「執念深いね。それに思考をかき乱されたって、結構重症じゃないか」


ほむら
「ふん。何とでも言いなさい」


506: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 05:03:56.01 ID:h+QPfhBH0


ほむら
「行きましょうか」

QB
「行こうか」



私は変身を済ませて、黒翼を展開する。
これで鹿目の近所まで楽々飛べるというものだ。



QB
「この魔術は?」

ほむら
「固有魔法。触れたら死ぬわよ」

QB
「目立つじゃないか」

ほむら
「いいのよ。まだ朝早いし」


ぎゅい。

キュゥべえから小気味良い音がした。


QB
「わわ、しっぽがちぎれる!」

ほむら
「そーれっ」


急上昇し、閑散とした見滝原の上空を眺めてゆく。
私が跋扈したかは知らないが、人通りは全くなかった。良い心がけである。


507: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 05:06:00.24 ID:h+QPfhBH0


QB
「それにしても」

ほむら
「同じ意見よ。言うまでも無く」



とにもかくにも酷い有様だった。




中心部から南の方向へ、一直線の黒煙が長々と続いている。


メランコリーな気分に一瞬陥るが、別に思い入れのある街ではないし
どれだけ焼き尽くされようが知ったことではない。


蒸発していた河川は元通りになっているのだ。
街だって雑草のように、すぐ直る。そうでしょう?


この街は怠け者ね。


川沿いに自然公園を見つけ、急降下する。


あとは道なりに進んでいけば、住宅街に出るはず。
表札を一つ一つ見ていけば着くだろう。



508: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/04(金) 05:07:02.17 ID:h+QPfhBH0


ほむら
「さっさと鹿目家を探しまいましょう」

QB
「今何時だっけ?」

ほむら
「午前五時過ぎ」

QB
「だよね・・・」



ほむら
「――で、この状況は何かしらね」


木陰からぞろぞろと、人間が這い出てくる。
待ち伏せされていたわけだ。



512: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/05(土) 20:40:59.67 ID:J0JcRpdU0

QB
「これが聖カンナの罠なのかな」



「いたぞ」


「あいつだ」



ほむら
「幻滅するわよ? こんな発泡スチロールみたいな連中。梃子摺るわけ無いじゃない」



ざっと数えて三百人?



五百?


513: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/05(土) 20:42:00.00 ID:J0JcRpdU0


「あの女だ」



刃物や拳銃をもった一般市民。



「間違いない」



千?



私服警官か。


「見つけたぞ!」

「殺せ!」


二千? えっ?



QB
「ん――。ここは一旦引こう」

ほむら
「こんなの朝飯前よ。十分対処できる」

QB
「ボクが危ないんだよ!」



514: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/05(土) 20:43:14.92 ID:J0JcRpdU0



「殺せ! 殺せ!」



ほむら
「一蓮托生。地獄まで付き合ってもらうわよ。
リボンと弓には触らないでね。死ぬから」


QB
「あんまりだよ」



大規模な運動会のようだった。
磁石に引き寄せられる砂鉄が如く、私服の連中が押し寄せてきた。



俯瞰して見ると面白いかもしれない、などと考えながら矢を放つ。



一撃。



たったの一撃で視界のはるか向こうまで貫通する。


515: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/05(土) 20:44:27.67 ID:J0JcRpdU0


正面の視界が開ける。


準備運動にもならない。


QB
「五時方向に――」


キュゥべえに指摘される前に、背部の敵を蹴散らす。


構えていた弓を振りかざし、水平に鞭打つような動作を加えることで対応した。

多分、後ろに居た連中は軒並み、悲鳴をあげる前に絶命していたと思う。


振り向いて確認するまでもなかった。



QB
「――必要なかったね」


お墨付きも頂いた。



516: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/05(土) 20:47:22.64 ID:J0JcRpdU0


半径二メートルの範囲には絶対踏み込ませない。


愛しい愛しい私のリボンは誰にも触らせたくないの。


誰にも。


絶対。



「味方を撃ってもいい!」

「何をしてでも殺せ!」



弾や刃物が当たったところで子ネコに噛まれた程度だろう。


が、一応全て防いだ。


「殺せ!」


直線に飛んできた刃を掴み、投げ返す。


二、三、断末魔が聞こえただけ。


これは非効率。



517: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/05(土) 20:48:41.86 ID:J0JcRpdU0


「殺せ!」


三千?


乙女に群がる野郎の集団。


五千かも。



洒落にならない。


数の暴力。


矢を四、五本同時に撃ち続けた。



「弾が防がれた!」

「死神だ!」



弓を両手持ちに。弧を描くように薙ぎ払っていった。



「うろたえるな!」


「殺せ!」



回転切りの要領で、容赦なく分断していった。



518: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/05(土) 20:49:48.32 ID:J0JcRpdU0


QB
「一気に倒さないのかい?」

ほむら
「迂闊に魔力を解き放つと、魔法少女に気づかれるから」

QB
「無駄に慎重だね」



「あいつだ!」



淡々と。粛々と。


「ええい! 何をしている!」


周囲の人間にエンドマークを捺していった。



521: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/08(火) 21:53:11.97 ID:VsJ8l5S90

やや退屈で牧歌的な、やわらかい朝の日常はどこへ。



「救援を呼べ!」



生命の噴水が形作られる。
オーボエ初学者が発する音色のような、不快で乾ききった呼吸音が混じった。



こんな音色聴いていられない。



魔力を用いて、聴覚を一時的に減退させる。



矢を番う。


弦を絞る。



殺さなきゃ殺されるのだから。


522: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/08(火) 21:54:40.68 ID:VsJ8l5S90

夜明けのジュリア谷の噴水を見出した私は、白い生き物に訊ねる。


ほむら
「いつ終わるの?」

QB
「なんでボクに聞くんだ」


インキュベーター、足にしがみ付くのはやめろ。


「いたぞ!」


「潰せ! 潰せ!」


一閃。


吹き飛ぶ上体らを背後に、一呼吸。


状況の把握。


八千、いや一万は居る。


いやいや。なんか増えてない?


降伏するなら今のうちよ。



「あの女だ!」



523: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/08(火) 21:55:45.37 ID:VsJ8l5S90

「――!」


矢を直接投擲していた。

弓で大きく薙ぐ。



気づけば片手持ちになっていた。



「死神だ! やはり死神がいるぞ!」



迷彩色の防弾チョッキを着ている集団を見た。

白シャツやスーツを着ていた私服警官とは異なる装いだ。

インターセプターボディアーマーだったか。
アルマジロの甲羅みたいな物々しい装備をしている一団が迫ってくる。



「殺せ!」

「応援が来たぞ!」



無骨な火薬の匂い。

重機関銃の一斉掃射。

先進都市にあるまじき残響音の連続。



本格的になってきた。


「殺せ!」



524: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/08(火) 21:58:21.38 ID:VsJ8l5S90

しかし紫色の魔法少女を相手に、装備の華やかさなど関係ない。

左に持った弓の勢いは何ら変わらない。


器官系を、

器官を、

組織を、

細胞を、


潰れる前に切断していった。

右人差し指でひたすら印を結び、虚空から矢を生み出した。



ほむら
「逢うためには何だって捨ててやる――」

ほむら
「――私の想いは変わらないわ」



冷たく澄み切った薄明かりの世界に、破壊を象徴する紫の光が解き放たれた。


幾度も。幾度も。


解き放たれる。



525: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/08(火) 21:58:49.74 ID:VsJ8l5S90







殺戮の紫は生命の赤と混じり合い、「死」に魅入られる色へと昇華した。







――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

526: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/08(火) 21:59:27.63 ID:VsJ8l5S90


ほむら
「永遠に続くかと思った」


柔らかく不安定な「足場」に立ち、全てを打ち払ったことを確認する。
時折、足場から弱弱しいうめき声が聞こえるが気のせいだろう。



ほむら
「一瞬、ロッソ・ファンタズマを思い出したのだけど」

QB
「強力な魔力は感じられないよ。幻覚の心配は無い」




何もかもが血に染まっている。

死滅した世界が広がっていた。


527: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/08(火) 22:00:25.67 ID:VsJ8l5S90

ほむら
「これだけの功績を挙げれば、死神から冥王に昇格してもいいわよね」

QB
「ほむらのジョークはレベルが高すぎる」

ほむら
「死者への手向けよ。こんな私にだって感情はあるのだから」

QB
「躊躇なく殺せるなんて流石だ。感心するよ」

ほむら
「ふん。貴方は何だか人間臭いわね・・・」

QB
「いやいや、本当に感心してるんだ」


ほむら
「私はどんな罪を背負おうと、私の戦いを続けなきゃならないから。
多少の犠牲は厭わないわ。今回に限っては正当防衛のようなものだし」


QB
「それ。それなんだけど」

ほむら
「何か気づいたの?」


528: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/08(火) 22:01:17.93 ID:VsJ8l5S90

QB
「兵士はここまで屈強なものなのかどうか、気になった。
勝機も無いのに、寄って集って襲いに来るなんてどうかしてるよ」

ほむら
「認識の差異でしょ。あいつらは勝機アリと判断した。
私達の見事な連携の前に、敢え無く散ったわけだけど」

QB
「私達? 案外ボクも捨てたものじゃないね」

ほむら
「皮肉よ。寧ろ邪魔だった」


QB
「でも闘争に明け暮れるほど人間は愚かじゃない。いいサンプルは無いかな」


キュゥべえは不機嫌そうに――いや、正しい表現じゃない。
バツが悪そうに? 眉間にしわを寄せて? 


消極的な姿勢で遠くの足場を観察していった。


QB
「この人の装備を外してくれないか」


キュゥべえは適当な対象をすぐに見つけたようだ。

529: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/08(火) 22:03:37.63 ID:VsJ8l5S90


ほむら
「・・・」

この死体に傷は一つも見られない。
かといって魔力中毒を引き起こす距離でもない。


でも死んでる。


ほむら
「なるほど。おかしいわね」


迷彩色の防護装備を外すと、屈強な男性の蒼白顔が目に入った。

QB
「服も全部脱がしてくれないか」

ほむら
「悪趣味ね。食べるの?」

QB
「食べる、という発想はフォローできないほど狂っているよ」

ほむら
「あれ。キュゥべえはよく共食いしてるじゃない」

QB
「そういう揚げ足はいいから早く」


靴下や 着も? と聞く前に異変に気づいた。


ほむら
「何よ。この斑点は・・・」


530: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/09(水) 00:53:22.09 ID:CfJ71V/80

グローブを外し終えて一言。
生気の消え失せた蒼白い右手に、季節外れの虫刺され?


違う。数が多すぎる。


男の袖を捲くる。


指先から腕にかけて紅い斑点が無数にあった。
なるほど。内出血だ。





案外、冷静になってみると視野が開けるものである。
目と鼻の先に『答え』が転がっていることもあるのだな、と思った。





531: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/09(水) 00:55:10.24 ID:CfJ71V/80

QB
「皮下の毛細血管が全部破裂しているんだ。極端に血流量が増えたんだね」

ほむら
「血管形成異常じゃないの? 先天性の遺伝病」

QB
「遺伝性疾患を抱えて、特殊部隊に配属されるのは考えにくい。
顔面蒼白に、過剰な発汗。多分、心室細動が死因だ」


ほむら
「変な薬でも飲んだわけ?」

QB
「モノアミン酸化酵素の阻害剤と副腎髄質から――」

ほむら
「そういうのはいいから。融通が利かないわね」


QB
「やれやれ、ドーパミンやノルアドレナリンは知ってるよね?」

ほむら
「交感神経系の神経伝達物質よね。流石に小学生レベルよ」

QB
「それらの分泌量が増したり、分解が阻害されると、理性的判断力が低下して、
強迫観念、自殺願望、パニック、癇癪 といった容態に陥るんだ」

QB
「換言すると、増幅された怒りや恐怖がこの男性を支配していたんだね」

ほむら
「つまり、私を襲った人たちは薬物中毒者だと言いたいの? 変よそれ」


532: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/09(水) 00:56:36.56 ID:CfJ71V/80


内因性の急死だから何?
薬物を飲んだから何?


私達は魔法という存在を知っている。
楽に説明がつくじゃないか。


ほむら
「普通に魔法で済む話よ」


QB
「魔法だとしたら一体全体、誰の仕業なんだろうね」

ほむら
「聖カンナしか居ないでしょ。刺客よ刺客」

QB
「彼女が直接くればいい話だと思わなかったかい?」

ほむら
「入浴中、私も同じこと考えたけど結論は出なかったわ。
とりあえず屠れるものは屠っていくまでよ」


QB
「ほむららしいね」


私は笑みを浮かべていた。
喜びなのか諦めなのか自分でもわからないが、妙にスッキリした。



533: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/09(水) 00:58:40.54 ID:CfJ71V/80

――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

キュゥべえと私の憶測は正しかった。


戦闘は終わらない。
公園を離れ、道なりに歩いていた頃から死臭は増していった。


生き残り? わからない。


ゲリラ的に襲い掛かってきた人間を片っ端から掃除した。



木陰から果物ナイフのような暗器を投げつけた女性――に穴が開いた。



何人目だろう。



ほむら
「何人目だと思う?」

QB
「今ので七十二人。ほむら、梃子摺ってるように見えるよ」


534: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/09(水) 01:00:16.25 ID:CfJ71V/80

ほむら
「個人で迫られると、それだけ手数が増えるの。ほら」


愚かにも、男が何かを大きく振りかぶって突進してきた。
そいつの攻撃を素手で受け止め、顎先にパンチ。


体中に赤ワインを浴びてしまった。

ほむら
「これがアイアン? ゴルフクラブって軽いのね」

QB
「今ので七十三人だ」

ほむら
「わかってるわよ・・・」


535: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/09(水) 01:01:32.43 ID:CfJ71V/80


女子中学生には似つかわしくない。

ゴルフクラブを右前方に投げる。


ほむら
「そこの貴方。七十四人目」

倒れた中年と思わしき男性に番号を付けた。
首には十字架。手には出刃包丁。


鋭利だ。


ほむら
「これは危険! 柔肌が傷ついちゃうわ」


我ながら昂ぶっている。
血を浴び続け、殺戮者として身をやつした。


冗談を言わないとやってられなかった。


QB
「白々しいよ。肌もね」

ほむら
「血で真っ赤なのだけど」

QB
「皮肉だよ」


キュゥべえも理解していた。


536: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/09(水) 01:04:29.43 ID:CfJ71V/80

死臭は増していく。止まらない。

曲がり角に数百人。

さらに曲がったところに数百。


幹線沿いに出ると――数千?


多分、鹿目詢子の家まで続いているのだろう。

QB
「随分と手が込んでるね。やはり聖カンナかもしれない」


そんな分析関係なかった。
邪魔者は消す。


国が動いたかもしれない。
ウェブ上で、計画が立案されてたかもしれない。


近日の騒動にかこつけたシリアルキラーかもしれない。
はたまた、私怨で私にたどり着いた一般人かも。


全員が聖カンナに操られたのだとすれば、既に魔力切れでしょうね。

事切れてると楽なのだけど。

537: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/09(水) 01:05:35.30 ID:CfJ71V/80

ほむら
「うんざりしてきた」


清酒、ニンニクや偶像。

銀色の杭やデタラメな呪符に十字架。

精神安定だとは思うのだが、さっぱり理解できない。


QB
「人間は多種多様だね。色んな考え方があるものだよ」

ほむら
「杭はまだわかるけど、食べ物はちょっと勘違いされてない?
それにしても寝巻きの連中は何を考えてるのよ」


QB
「さあね。でも、カモフラージュも居るから気をつけて」

ほむら
「ミニミを抱えた老人は危なかったわ」



近寄ってきた子供を蹴り飛ばしながら答えた。
腰に、筒状のものを巻きつけているのだから仕方ない。


538: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/09(水) 01:06:56.13 ID:CfJ71V/80


老若男女ところ構わず絶命させる私は狂っていると思う。
でも、血塗れの私に近づくほうもどうかしている。


私は命懸けで目的地を探しているのよ。



一人


また一人


死出の旅へ追いやる。



ほむら
「ねえ、キュゥべえ」

QB
「なんだい?」


――何人目だと思う?


独り言のように質問しながら、邪魔者を排除し続けた。


539: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/09(水) 01:10:42.65 ID:CfJ71V/80
――――――――――――

540: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 17:50:51.52 ID:OBKthgSR0

そんな下らないやり取りの末に、辿りついた住宅地。


大見得切って襲ってきた連中はもう居ない。


私には敵わないと察したのかわからない。
急に、蜘蛛の子を散らすように逃げ帰っていった。


本当に薬剤を投与されてたりして。



QB
「静まってきたね」

ほむら
「不気味。廃墟みたい」

QB
「だね」

ほむら
「覚えてるわ。確かここらへんよ」



見覚えのある石畳に街路樹。
この景色に赤色は無い。実に平和な空間だった。


人工的な建物。人工的な観葉植物。
虫一匹いないのではと思うほどの人工っぷりだ。


規則的に並んでいるガラス張りのデザイナーハウスを一つ一つ確認する。




どこかしら。



541: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 17:52:08.45 ID:OBKthgSR0

QB
「あったよ」


見た。

あった。



『鹿目』



ほむら
「寸分の狂いも無い。記憶どおりの外観だわ」


一気に疲れが取れた。



問題は、明日来るであろう聖カンナの先手に立てたか。
鹿目詢子が無事かどうか。


ほむら
「精神的に来る罠だったわ。聖カンナやるわね」

QB
「別人の可能性も頭の片隅に置いといてよ。先入観に囚われてはいけない」




ほむら
「罠には違いないわ。んで、この家は平気?」

QB
「大丈夫だよ。生命反応は一つだけ。だけど・・・」


542: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:04:27.61 ID:OBKthgSR0

ほむら
「だけど?」

キュゥべえは何かに気づいたらしく溜息を吐いた。

QB
「しかし、避難は任せろと言ってたくせに」

ほむら
「その言い方、鹿目詢子か誰かを逃がそうとしたの?」

QB
「そうだよ。鹿目詢子が殺される前に避難させる計画があったからね。
成功したか不明だけど、鹿目家の方々は避難しました――という置き手紙はあった」

ほむら
「鹿目詢子は逃げて無かったと言いたいのね」

QB
「ちゃんと逃げたみたい。少なくとも今は居ないよ」


視点を変えれば、先の争いに巻き込まれずに済んだということ。


ほむら
「聖カンナの手から保護出来たということじゃない。感謝するわ」

QB
「微妙に違うけど」

ほむら
「ふうん」


543: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:05:36.95 ID:OBKthgSR0

QB
「じゃあ、ここで燻ってないで入ろうか。まだ生命反応が残ってるんだから」

ほむら
「誰なのよ。キュゥべえの知ってる人よね? 聖カンナじゃ無いわよね」

QB
「ほむらも良く知る人間だよ」


思わせぶりな態度に腹が立ったが、扉を開けば済むこと。


ほむら
「あら? 玄関に鍵が掛かってない」


入りましょう。

QB
「インターホンを押す前にドアノブを握るなんてどうかしてるよ」

ほむら
「ちょっと黙りなさいよ。お邪魔します」


544: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:21:25.00 ID:OBKthgSR0
■死に至る病Ⅳ


緑髪の少女が迎え入れてくれた。
私は、目の前にひれ伏す少女を知っている。


「お待ちし てま した」


声も聞いたことがある。


「お・・・お待ちしてまし たわ。あ、会 えて嬉 しいですわ」


少女が顔をあげる。
なるほど翡翠の眼球だ。


大粒の涙を流している。
久しく見ていなかったが、紛れも無く――


545: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:22:13.18 ID:OBKthgSR0

ほむら
「貴女は志筑仁美。何故? 何故、鹿目の家に居るのよ」


志筑は、ゆっくりと口を開けた。


表現しづらいが、微笑みの中に筋肉のこわばりが見受けられる。
口を無理やり抉じ開けられたように、志筑は話し始めた。


仁美
「暁美さん。その格 好、赤ワインの海にでも落っこち たのですか」


頬を濡らしながら、私の麗しい衣装に言及した。


酷く狼狽した。


546: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:23:16.77 ID:OBKthgSR0

ほむら
「志筑、質問に答えてくれると有り難いのだけど」

仁美
「さあ。上がって下さいませ。お疲 れのご様子」

QB
「ほむら。落ち着いてからでもいいだろう」

ほむら
「ええと。そうね、お邪魔するわ」

仁美
「キュゥべえさんも お元気そうで。い・・・忙しく なりそうですわぁ」

そのままパタパタと志筑は奥に消えた。



志筑はキュゥべえが見えてたっけ?
ICレコーダーを美樹さやかに渡していたときは、無視していたように見えたけど。


でも意外だったわね。
あの志筑が泣いて迎え入れるなんて。


ほむら
「感情が駄々漏れ。嬉し泣きだなんて初めて見たかもしれない」

QB
「・・・」

ほむら
「シリアスな表情をしているけど」

QB
「何か得体の知れない感覚があった」

ほむら
「? 様子を見ましょうか」



仁美
「暁美さん? キュゥべえさん? 早くこちらへ」

来客用のスリッパを履き、私達は言われるがままに奥へと入っていった。



547: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:24:13.42 ID:OBKthgSR0

□ リビング


仁美
「さあ、座ってください。今お食事を用意しますから」


志筑は目に涙を浮かべて微笑んでいる。

シュールだ。


QB
「座らないほうがいいんじゃないか」

ほむら
「そうね。血塗れだし、椅子が傷むわ」

仁美
「いいえ、大事なお客人。気にすることは無いですわ」

ほむら
「そのお客人が座りたくないと言ってるのだけど?」

仁美
「カ、カバーをご用意します。少々お待ちを」

ほむら
「絶対に座らないわ。水を持ってきてくれる?」


仁美
「そうでした! ああ、忙しい!」


右往左往している志筑を見て、なんだか可哀想に思った。
しかし、この椅子。何か異質なものを感じる。


548: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:25:16.47 ID:OBKthgSR0

QB
「この椅子はイーブルナッツそのものだろうね」


ほむら
「あら、不穏なものを感じたのよ。少し離れたほうが良さそうね」


黒曜石を髣髴とさせる漆黒の家具。
カラフルな配色に凝ったインテリアの中で、この黒い椅子だけが調和を乱していた。


ほむら
「聖カンナの所有物を盗んだのかしら。イーブルナッツだし」

QB
「ボクにもよくわからない。志筑仁美は何を企んでいるんだろう」

ほむら
「何もわからないの? 殺意を隠しきれてないわよ、これ」

QB
「心当たりはあるよ。聖カンナが名前を偽ってマミ達の前に現れた日にね――」


――――――――――――
――――――

QB
「ほむらが造った宝石で魔力を吸い取らせて、マミ達三人でほむらを殺害する手筈だった。
その内容には、志筑仁美を囮として鹿目家に置くことも含まれていたんだ」


549: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:27:51.84 ID:OBKthgSR0

QB
「聖カンナも当然ノコノコ来る予定だったけど、無駄に終わった」


『Connectされる前に、誰かが私を排除する』 方法は既にあったのか。
インキュベーターを敵に回すとロクなことにならないわ。


QB
「逆手にとって、聖カンナを挟み撃ちできそうな作戦でもあった。
どちらか一方を排除するにはこの上なく理想的な展開だよね。
今は残念ながらパワーバランスが完全に崩れてしまったから無為なんだけど」


残念ながら、などと悪びれず暴露する。

驚きだ。

でもキュゥべえなりの愛情表現なのだ。


QB
「この計画を流用しているのが志筑仁美だ」

ほむら
「志筑が泣いてたのは私を殺さざるを得ないから?」



志筑が戻ってきた。

仁美
「違いますわ。逢えて嬉 しいのです・・・。さあ、お水 をどうぞ。」

断片的に聞かれていたようだ。
まあいい。


550: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:29:16.45 ID:OBKthgSR0

グラスに何も仕掛けがない事を信じて受け取る。

ほむら
「今、何か――」

透明の液体が入っている。

ほむら
「どう? 毒とか入ってたら教えて頂戴」

QB
「入ってないよ」


受け取った水を一口だけ飲んでグラスを水平に傾ける。



中身は床一面に零れていった。

仁美
「あの・・・暁美さん?」

ほむら
「ちょっと気分が悪くなったから捨てたわ。
志筑は一々得体が知れないのよ」


悪態をついた。
反応を見る必要があった。


551: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:30:22.71 ID:OBKthgSR0

ほむら
「それはそうと、料理はまだかしら? 用意してくれたんでしょ」


仁美
「はい、少しばかりお待 ち ください」



もう一度志筑を追いやる。



ほむら
「飲み物はセーフか。手紙――」

『あの女が出す食べ物には手を出すな。』


家具はアウトだった。

次は食べ物。

モンブランが食べたい。


鹿目詢子を避難させたのは志筑。
先ほどキュゥべえが言ってた置き手紙・・・のことは知らないが、これも志筑だろう。


あの怪文書にも似たような記述があったか。
『お前の求めるものはまだそこにある。しかし、あの女が何処かへ運び去ってしまう。』

志筑に聞こう。そうしよう。


552: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:31:38.64 ID:OBKthgSR0

ほむら
「怪文書の主が志筑ってことは無いわよね?」

QB
「保留すべき事案だよ。今は別に考えることがあるだろう」

ほむら
「別に考えること?」

仁美
「お、お待た せしました。 Duelos y quebrantos です。
さ・・・あ、お召し上が りくださ い」


白い皿に、卵と肉をグチャグチャに混ぜたものがでてきた。


最悪。


早朝の出来事を思い出してしまった。


QB
「この料理を見て何を感じるかどうかだよ」


ああ!

ボロが出たと言いたいのね。



ほむら
「気色悪いベーコンエッグ?」

仁美
「スペイン、ラ・マンチャ地方 の郷 土料理 ですわ」

ほむら
「ありがたく頂くわ。残さず食べるのよ、キュゥべえ」


553: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:32:47.22 ID:OBKthgSR0

受け取った皿をそのままキュゥべえに与えた。


食べたくない。


QB
「嫌ならはっきり言えばいいよ。毒は入ってないみたいだし」

仁美
「暁美さん・・・ 手造り なのですが」

ほむら
「じゃあ一口だけ食べようかしら」


塩辛い。


ほむら
「変な肉ね。レバーかしら」


何だかミルフィーユが食べたい。


ほむら
「残りは全部貴女にあげるわ」


私が皿を突き出すと、志筑は悲しそうな顔で残飯を受け取った。
いや、笑みを浮かべていた。


554: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:35:16.58 ID:OBKthgSR0

仁美
「・・・。お風呂に入っては如何? 二階にありますゆえ」


微笑もここまでくると恐怖を覚える。
何十分も泣いているおまけ付き。


だから尚更恐ろしい。

志筑が?


違う。聖カンナが恐ろしい。


ほむら
「悪くない提案ね。私が温まっている間、貴女も頭を冷やしたらどう?」

キュゥべえを連れて、バスルームに立てこもった。

QB
「どうしたんだい」

ほむら
「キュゥべえに聞きたいことがあるのよ」


555: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:45:22.95 ID:OBKthgSR0

志筑は操られている。

彼女から飲食物を受け取るとき、仄かな魔力を感じた。言質も取れた。


ほむら
「ドゥエロス・イ・ケブラントスという料理の意味が知りたい。教えてくれるかしら」

QB
「今の彼女を表しているような意味だ。名は体を表すということじゃないかな」


意味は教えてくれないか。
きっと卑 なんだ。



ほむら
「キュゥべえの違和感は正しかったわね」

QB
「洗脳系魔術で見られる症状があったし、妙な知識を持っている。間違いないよね」

ほむら
「そう。志筑がスペイン語を知っているとは思えない。
序でに微小な魔力を放出していて――表情がおかしいのが決め手」



志筑は「操られている」ことを自覚しているのだ。

556: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:48:41.76 ID:OBKthgSR0

QB
「ファンタズマ・ビスビーリオ系統の洗脳は厄介だね」

ほむら
「でも、洗脳なら戻せなくも無い」

ほむら
「聖カンナの魔力を切断しましょう。私にいい考えがあるの」

QB
「へえ。まかせてもいいのかい?」

ほむら
「今日の私は冴えてるのよ」

557: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:50:10.95 ID:OBKthgSR0

□ リビング

こびり付いた血液を浄化させて志筑の元に戻った。
相変わらず、志筑は嬉し泣きをしている。

心は悲しんでいるのかもしれない。


ほむら
「貴女、操られてるでしょ」

仁美
「そ、そんなことないですわ」

ほむら
「人形みたいよ。目に生気が宿ってない」

仁美
「無礼すぎます」

ほむら
「目は口ほどにものを言う。今の志筑は空虚も空虚、自我が無いわ」

仁美
「・・・」

私は本当に冴えている。
志筑の髪を引っ張り、椅子状のイーブルナッツに座らせた。


足掻いて抵抗する志筑を無理やり押さえつけて。


558: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:52:59.55 ID:OBKthgSR0

QB
「なるほど、考えたね。体内の魔力を全て吸い取るのか」


魔法少女でない志筑なら、魔力を必要としない。
イーブルナッツに座ったところで命に別状は無いのだ。


――――――――――――――――――
――――――――――――


ほむら
「ねえ。もう大丈夫よ、辛かったわね」

仁美
「あ・・・あ!」

魔力は全部尽きたようだ。

仁美
「あ。暁美さん・・・暁美さん!」


泣きながら抱きついてくる志筑を、追い払うことが出来なかった。
彼女の慟哭が止むには相当な時間が掛かりそうだ。


559: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:55:44.95 ID:OBKthgSR0


ほむら
「はあ。落ち着いた?」

仁美
「ご迷惑をかけてしまいました。」

仁美
「何日ぶりでしょう。自分で話すことが出来るのは」

ほむら
「身体に異常は無さそうね」

仁美
「多分。それにしても何故こんなことに・・・」

ほむら
「あー、聖カンナって知ってる? 貴女は悪い魔法少女に襲われたのよ」

仁美
「既知ですわ。私は騙されたのです。カンナさんに騙されていました」

ほむら
「カンナさんですって?」

まだ操られているのか?


QB
「詳しく聞かせて貰えるかな」

仁美
「カンナさんのConnectを暴いたまでは良かったのですが――」


と、恐ろしい発言から始まった。


鹿目詢子を説き伏せた深夜のこと。

聖カンナの計画に従う代わりに、接続をしないでほしい。
志筑自身の意思で私に逢いたいという口約束をした。

しかし、手紙に思いをさらけ出した翌朝以降。
聖カンナの魔術によって身体の自由だけが奪われたそうだ。


560: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/10(木) 18:57:14.75 ID:OBKthgSR0

QB
「インキュベーターへのアクセスが行われた日だよ」

ほむら
「Connectは使わない。だけど別の魔法で身体を乗っ取りましたってこと?
それはもう、完全に志筑の詰めが甘かったのね」

QB
「接続される前に牽制できたのは上々だと思うよ」


仁美
「いいえ。無意識に操る呪術は、すでに掛けられていました」

QB
「何故そう思うんだい?」

仁美
「キュゥべえさん。今思えば、鹿目さんの住所を特定したのは私じゃなかったのです。
急に頭が冴えて、両手が勝手に動いて、気づけば鹿目さんに電話をしてました」


とっくに接続してたのね。


QB
「これは黒だね。ほむら、間違いなくConnectだよ」

ほむら
「やってられないわね。今も接続されていると見て良いのかしら」


仁美
「それを確かめる唯一の方法があります」



志筑は朗らかな表情で言った。
生きた存在に死を見た瞬間だった。



583: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/13(日) 23:57:50.17 ID:O2ip5jY10


QB
「まさか・・・」

ほむら
「言ってご覧なさい」

仁美
「私は、契約します。インキュベーター、準備はいいですか」

QB
「ほむら、準備は良いね」


私は、頷いた。

584: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/13(日) 23:58:36.20 ID:O2ip5jY10


契約の内容次第によっては即座に殺害せよ、という博打に出たのだ。


例えば「人類を滅ぼしたい」「目の前の魔法少女を滅ぼしたい」などと志筑が祈れば、
聖カンナのConnectが影響しているといった風に。
志筑は志筑で叶えたい願いがあるらしいのだが、それはさておき。



実に恐ろしい女だと思う。
私は弓を生成して、彼女の首筋に近付けた。


耳を澄ませた。


手首に力をこめた。





仁美
「契約します」



志筑仁美は祈った。


585: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/13(日) 23:59:15.52 ID:O2ip5jY10



              こんな悲劇が二度と起こらないようにして欲しい





                   さあ、叶えてください 


                    インキュベーター




586: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/14(月) 00:00:22.47 ID:BG9zadtM0


「キミの祈りはエントロピーを凌駕した」


「さあ解き放ってごらん。その力を」






仁美
「ふう。賭けには成功しました」


志筑らしくない、実に抽象的な願いだと思った。
かといって、人類を脅かすような祈りでも無さそうなので白と判断。

QB
「通常の願いだ。Connectの心配は無いよ」

ほむら
「悲劇、ねえ。ひどく曖昧、よく叶えられたわね」

仁美
「いいえ、まだ叶っていません。ここからが勝負どころですわ」


QB
「そんなはずは無いんだけど・・・何かしらの変化は起きたはずだよ?」



志筑から柔和な笑顔が消え去った。




587: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/14(月) 00:01:34.33 ID:BG9zadtM0


仁美
「暁美さん。いいえ、ほむらさん」

仁美
「私を殺してください。それが最期の望みです」


ほむら
「私を殺してください?」



少々耳を疑ったが、この女なら言いかねない。
何故か納得してしまった。


仁美
「貴女は何故生きているの、といつぞや仰ってましたね。
私なりの答えを用意しました。受け止めてください、ほむらさん」


ほむら
「ええ。そ、そうね」


こ、言葉が出ない。



仁美
「聞きましたよ? 素体を探していると。鹿目さんを探していると。
だから、私にリボンの力を注いでください。私も『円環の理』の力に耐えうるはず」


ほむら
「貴女は、リボン、私の右手、私のソウルジェムに接触した。
三度、あの子の魔力を受容して、耐性がついたわね・・・」


変な返事だ。
それだけ動揺しているのだけど。


588: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/14(月) 00:02:26.62 ID:BG9zadtM0


仁美
「私が『円環の理』の器になって、ほむらさんの悲劇を終わらせましょう」

仁美
「だから、私を愛してください。器で良いですから愛してください」


ほむら
「・・・」

ほむら
「やってみるわ」




リボンから桃色の力を多めに取り出す。
耐性があるとはいえ、今一度確かめなければ。


念には念を入れて。


腕に桃色の力を注ぐ。


それは次第に変色した後、崩れ去った。


QB
「志筑仁美・・・腕が」

仁美
「!!」

仁美
「お、おかしいですわね。次は足を・・・」

志筑の声が霞んでいた。


589: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/14(月) 00:03:39.51 ID:BG9zadtM0

ほむら
「ごめんなさい。今の貴女でも、あの子を宿す器たりえない。
人体が四散しない程度の耐性だった・・・わけよ」

仁美
「そうですか」


消え入りそうに言った。
もう消えているのだと思うくらいに。


QB
「無念を晴らす手段はまだ残っているよ」

仁美
「・・・」

QB
「ほむらは桃色の力を受け止められる。だから、志筑仁美が呼び水になるんだ」


仁美
「ほむらさん自身を器に――妙案ですわ。
私が『円環の理』に導かれれば良いのですね」

ほむら
「腕は治癒出来るけれど、本当に死を選ぶのね?」

仁美
「そうです。私はもう絶望しているのです。
ほむらさんを救えば、悪夢は終わるはずです。そう思ったのがきっかけですから」



殺せだの愛せだの、注文の多いお嬢様だとは思っていた。



ほむら
「貴女はそういう人だったのね」


やっとわかった。
志筑仁美は、どうしようもなく利他的な人間なのだ。



590: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/14(月) 00:06:53.11 ID:BG9zadtM0

私の救済の先に何を見ているのだろう。

確かめたくなった。
好奇心は止められない。


ほむら
「遠くに見滝原の平和を見据えているのかしら? それとも――美樹さやか?」

ほむら
「悪夢を生んだのが私というのなら何れかのはず」

仁美
「自分でも・・・わからなくなってきました」



ほむら
「自分を抑えすぎよ志筑仁美。
優しい嘘はもういらないから、今思っていることを素直に吐きなさい」

仁美
「名前を口にするのも憚られる、恐怖の旋律――Connectから逃げ出したい。
“私”を奪われたくありません! あんな魔法少女に!」

ほむら
「わかったわ、逝ってしまいなさい。『円環の理』に導かれて」


591: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/14(月) 00:07:47.41 ID:BG9zadtM0

私は悲劇の舞台に迷い込んだ少女を救いたかった。
自分の身体に「あの子」が宿らないことは知っていた。


せめて雰囲気だけでも。
せめてミテクレだけでも。


プレイアデス聖団で、何度も試したのだから。


可能性はゼロに近い。


その上で演技をするのは大変だ。


淡い桃色の柱の下。
私は駆け寄って、涙を流す。いや、自然に流れていた。


演技ではなく――


ほむら
「ほむらちゃんの身体を乗っ取って? そこに居るんでしょ?」

桃色に話しかける。
「あの子」は確かに存在しているのだから。


――奇跡を希った。


592: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/14(月) 00:11:37.13 ID:BG9zadtM0

仁美
「本当に悪いお人ね」


小悪魔のような笑顔を浮かべている。


ほむら
「――志筑?」

仁美
「ほむらさんが逢いたがっている『理』さんは、きっと傍で見守っていま――」




仁美
「ああ。嘘・・・」


志筑は突然苦しみだした。


仁美
「最後の最後くらい――」


志筑は自分の首を絞めていた。


ほむら
「な、何をしているの!」

仁美
「自分の意 思だと 信じたかッ た・・・」

QB
「仁美?」


桃色の光が一層強くなった。


ほむら
「逝ったわ」



その死に様はさながら、舞台で踊らされる人形のようだった。



593: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/14(月) 00:13:08.40 ID:BG9zadtM0



ほむら
「私は正しかったの・・・?」



QB
「ほむらがどんな選択をしようとも、ボクは着いていくよ」



――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


612: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/15(火) 22:55:40.12 ID:851x/nQD0

■メロペー

ほむら
「志筑の願い・・・結局なんだったの? 悲劇って何よ」

QB
「わからない。でも志筑仁美らしい祈りだとは思ったよ。
彼女の置き手紙によると、鹿目詢子の頼みそのものらしいからね」


置手紙? 遺書じゃないのそれ。


ほむら
「志筑らしくないと思った。彼女なら聖カンナを八つ裂きにしかねない子よ。
志筑がどうしても叶えたい願い、というのはその程度で良かったの?」


QB
「それはあの世で本人に聞いてみるしかないね。
でもね、彼女の祈りが不利益なものでさえなければ、願い事なんて何でも良かったんだ」


ほむら
「キュゥべえ・・・?」

QB
「“彼ら”インキュベーターがどう思うか知らないけど、“ボク達”インキュベーターはほむらに味方しているんだ。
ボク達にとって、志筑仁美という不確定要素がほむらを邪魔しなければそれで十分」

ほむら
「わざと殺したというの?」

QB
「その意味で言ったわけじゃないよ。志筑仁美には荷が重すぎたということさ」

ほむら
「荷が重いとは到底思えないけど・・・」


613: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/15(火) 22:56:32.50 ID:851x/nQD0

QB
「ほむらじゃなきゃ聖カンナは倒せない、とボク達は結論付けている。
何度シミュレーションしても、マミ達はまず全滅する」


前もそんなこと言ってたわね。


QB
「だからね。マミ達が聖カンナに敵うはずがないんだ。ほむらにしか成しえないのさ」


マミ達、には志筑も含まれていたようだ。


ほむら
「ん? 仲間割れよ。誰が聖カンナを倒すかにこだわってる場合じゃないわ」

QB
「こだわるとも。意見が分かれて離反するほどに。それにボク達は願いを強制できない。
もう一度言うけど、志筑仁美がマイナスの祈りをしなければそれで良かったんだ」

ほむら
「そういう意味じゃ悪くない願いなのね」

QB
「そうだね。志筑仁美はほむらと聖カンナの両方を救いたかったんじゃないかな」

ほむら
「救われた気がしないわ」

QB
「もちろんただの憶測だよ」


志筑の遺した料理を食べながら意見を交わし続けた。
箸が進まない。


614: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/15(火) 22:57:53.27 ID:851x/nQD0

気がつけば昼下がり。

ほむら
「鹿目詢子の避難先、結局聞きそびれたわね」

QB
「すっかり忘れていたよ。志筑仁美というイレギュラーで手一杯だったし」

ほむら
「あの最期も気になるわね。理解に苦しむと言うか、理解してはいけないようで」


死の間際に自分の首を絞めていた志筑仁美。
信じられない。


QB
「ボク達が観測してきた最期のなかでも、極めて稀だと思うよ」

ほむら
「これからどうしましょうか」

QB
「魔法円を沢山配置して、明日の決戦に備えたほうがいい」

ほむら
「冷蔵庫のものは食べていいのかしら」

QB
「好きにすると良いよ。ただ用心してくれ」

ほむら
「何に用心するの。賞味期限なんて飾りよ」


冷蔵庫を開けてみるとマヨネーズやソースなどの調味料しかない。
何だか物寂しい気がした。


ほむら
「全部使い切ったのかしら、お肉もお魚も見当たらないわ」

QB
「何だ。マヨネーズがあるじゃないか」

ほむら
「明日が決戦なのに。悲しすぎる晩餐になりそうね」


616: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/15(火) 22:59:06.11 ID:851x/nQD0

キュゥべえにマヨネーズを与え、リビングの間取りをチェックしていた頃。

ほむら
「ねえ、話は遡るけど、志筑の願いで色々話したわよね」

QB
「うん、何か疑問でもあった?」

ほむら
「聖カンナのソウルジェムを砕きたいって志筑が祈ればハッピーエンドよ。
こんな状況だもの。鹿目詢子の頼みなんて無視しちゃっていいと思わない?」

QB
「だから、ボク達は願いを強制できないんだって。現に祈らなかっただろう」

ほむら
「そこは時機を見て契約すれば――」


と返答した矢先、玄関の扉が轟音と共に飛んできた。


ほむら
「危ない!」


強めの魔力と共に、それはまっすぐキュゥべえの方向へ。
身を挺して、キュゥべえに覆いかぶさる。




暗転。




ガンッという鈍い音。


常人なら頭の骨にヒビが入るであろう攻撃を、見事に喰らってしまった。


次いで、目に見えて赤い熱風が私を襲った。
簡単な障壁を形成し、熱源の中和に神経を集中させる。



ほむら
「誰? 何?」


618: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/15(火) 23:01:38.07 ID:851x/nQD0

不意打ちを決めた魔法少女の姿が現れる。
その姿は黒く、布地の少ない衣装を着ていた。



「ちゃおー。殺したがりの暁美さん! 当たった?」



いかにも魔法少女らしい装い。黒い三角帽子に黒いマント。
十字架状の杖を器用に操っている。



「カンナを苦しめる祈りは私が許さない。そのまえにキュゥべえをぺしゃんこだよ!」


ほむら
「あら。やるじゃない」


「フツーの反応だね・・・。もう一回やったら本性をあらわしてくれるかなっ?」


天真爛漫が服を着たような少女。やってることは陰湿だ。


QB
「思いっきり監視されてたね」

ほむら
「今度から二匹用意しましょう」




「カンナぁー。何もしてないのにまた魔力が減っちゃった」

「今日は調子悪そうだ。得意技の威力が低い」

「うーん。いまのは人様のお家を壊さないように加減したからだよ」

「ここまではおおよそ上手くいったな。私はまずインキュベーターと交渉しよう。
かずみはどうしようか。戦いたい?」


「なんかぞわぞわするけどやってみる」


恐らく私に攻撃を浴びせたのがかずみ。



掴みどころの無さそうな、寝起き顔の奴が聖カンナだろう。

素人目に見ても上品な、漆黒の装束に包まれている。
そのままボルドーグラス片手にパーティ会場へ紛れ込んでも通用しそうなほどに。


ただ漆黒の上に、数個の円が配列されているのは戴けない。
どこか彼女の本性が見え隠れする完全な、完璧な円だ。

ほむら
「悪趣味な円ね。立食パーティでお気に入りの皿でも見つけた?」

「そうだよ暁美ほむら。モーニン」

ほむら
「モーニン。もうすぐ夕方ね」

まだ昼だ。

「私達を相手に余裕綽々だねェー」



620: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/15(火) 23:04:01.19 ID:851x/nQD0

ほむら
「御崎海香はどうしたの。万が一生きてるなら三人がかりで来てもいいのに」


「ばっちり生きてるよ。今のところは」


ほむら
「何それ遅刻してるわけ?」


「遅れてはいるけどね、御崎海香では無いけど」



QB
「ほむら! 黒い少女が聖カンナで黒い方がかずみだよ」

ほむら
「二人のやりとりを見る限り仲が良さそうね。神那ニコっぽいミテクレだし親戚よきっと」

QB
「聖カンナ・・・と戦うのは明日だと怪文書にあったのに変だね」

ほむら
「解釈の違いか嘘よ。飲み物や食べ物は平気だったじゃない」

QB
「椅子は危険極まりなかったね」


接続されないように幾重にも防護壁を編んだ。キュゥべえにも一応。
ただの気休めに過ぎないけど無いよりマシだ。


QB
「ほむら、いつ襲われてもいいように準備してくれ。ボクは聖カンナと会話してみようと思う。
不意打ちするなら家を壊さない程度にね」



カンナ
「か―ずみ、そういうことになった。キュゥべえと対話を試みるよ」

カンナ
「ッち。めっちゃ遠いな、鈍る。集中しないと魔力が漏れそうだ」

かずみ
「カンナも大変だね。ニコが死んじゃったから複製の――」


カンナ
「ストーップ、かずみ。周りをよおく見ろ、今は時間を稼ぐのが適当だと思うぞ。
暁美ほむらに目をつけられた以上、戦って生き延びるしかないよ」

ほむら
「ええと、知的行動はキュゥべえに一任するわ」


キュゥべえとかずみの「わかった」という声が重なる。
深呼吸を一回。追加の障壁を展開してフィジカルを強化した。


622: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/15(火) 23:05:37.52 ID:851x/nQD0

カンナとキュゥべえが向かい合って着席する。

カンナ
「やあ。魅力的な休戦条約を持ってきたよ」

QB
「魔術の使用は禁止だ。それなら交渉に応じよう」


そんな立場じゃないだろ、と吐き捨てながら
カンナは胸のソウルジェムを指差していった。

カンナ
「恐れなくていいよインキュベーター。コネクトは結構濁るんだ。
接続を使ったら宝石に陰りが出る手筈。では――かずみの戦いを見るとしよう」

QB
「なんでだい?」

カンナ
「嫌われ者のインキュベーターに嬉しいニュースを教えるため。何事にも段取りというものがあってね」

カンナ
「勿論、お前の大好きな暁美ほむらには手を出さないよ。正確には出せないというか」

QB
「別に構わないけど、あの暁美ほむら相手にかずみ一人かい?」

カンナ
「だから段取りなんだよね。アレも暁美ほむらに一矢報いたいようだし」

642: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/18(金) 23:48:15.87 ID:xb0EQg1g0


かずみ
「そーゆーことっ」

ほむら
「間違って殺してしまったらごめんなさい。黒い魔法少女達」

カンナ
「不可視のシールドが展開されているから気にするな。私と宇宙生物に攻撃は通らない」

ほむら
「それはありがた迷惑というやつね」



できれば聖カンナから仕留めたいところだが、二人の実力は全くわからない。
まずは一対一で戦える場を与えてくれた漆黒の女に感謝したい。


と思いつつも両方に気を払わねばいけないわけで。


視線で人を殺しかねない、絶対的な存在感が椅子に座り込んで頬杖をついているのだ。
少しでも隙を見せたら全部終わってしまう。全部無駄になってしまう。


聖カンナの冷たい視線を感じる。


643: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/18(金) 23:48:56.40 ID:xb0EQg1g0

かずみ
「すぐにやっつけちゃうんだから! わたしの活躍見ててねカンナ」

聖カンナにウインクすると、十字架をモチーフとした杖を私に向ける。
こほんと咳払い。まるで正義の魔法少女のように口上を述べた。

かずみ
「ドゥ・オア・ダーイ。暁美さん? カオル達の弔い合戦だよ!」

ほむら
「受けて立ちましょう、聖カンナに与する魔法少女」



さて室内戦。
弓を振るうには狭すぎるか。




かずみ
「この杖、とーっても痛いんだよ。手加減しても魔獣さんは一撃!」


槍と同じと見ていいのだろうか。
十字架の先端には殺気が集束し、私の心臓を貫かんばかりに照準を合わせていた。



ほむら
「手が震えているわよ」

かずみ
「えっ?」


ぴくりと杖が痙攣した瞬間、超反応で十字架を蹴り飛ばす。
それはかずみの手から吹き飛び、一瞬で後方の壁をぶち抜いた。


かずみ
「はっやい! さすがだね。でもわたしも本気じゃないんだっ」


とろい、と思った。

644: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/18(金) 23:50:06.13 ID:xb0EQg1g0


かずみ
「いっくよぉー。リーミティ――ぐふぉあっ」


回し蹴り。
何の変哲もない回し蹴りによって、黒の肉体が不自然に曲がり真横に飛ぶ。


聖カンナの手前で静止した黒。
直後、あらぬ方向へ再度はじき飛んだ。


カンナ
「もう少しで私もろともオダブツじゃないか」


声が良く響く。時間が止まった気がした。


ほむら
「強力な障壁・・・。御崎海香以上ね」


近づくに近づけない。実にもどかしい。




かずみ
「けふっ。カンナ?」

コイツもコイツで間合いを知らない。
対人経験が無いようだ。



645: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/18(金) 23:51:39.81 ID:xb0EQg1g0

ほむら
「・・・その程度?」

かずみ
「まだまだっ! La Bestia」


苦しそうに患部を押さえながら、反対の手で印を結ぶ。
私の四方に小柄なヌイグルミが十数匹召喚された。


かずみ
「ちちんぷりん。クマさん達! がんばって!」

ほむら
「貴女は私を馬鹿にしているの?」

かずみ
「してないよー」


若葉みらいが素体相手に行使した魔術、のはずだが随分と小規模だ。


何が狙い?

魔力不足か?


「むぎゅ」

「ぐにぁ」


ひとつひとつ、ヒールの下敷きにしていった。
数が圧倒的に少なかったので簡単に対処出来た。


罠か。

あるいは様子見。



かずみ
「あれっ。踏み潰されるはず・・・」


ほむら
「これ、御崎海香より弱いんじゃないの」


かずみを指差して、説明を求める。

聖カンナは聞いているのかよくわからない態度。
キュゥべえもまた首をかしげるだけだった。



ほむら
「図星ね。張り合いがないわ」

かずみ
「もう許さない」


電撃のようなものを全身に纏って私を睨み付ける黒。
強烈な雷光が視界を眩くする。


かずみ
「手加減なしだよ」


646: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/18(金) 23:53:06.24 ID:xb0EQg1g0

ほむら
「凄い電撃っ。変なこと言って怒らせてしまったかしら」

かずみ
「ずっと怒ってるもん!」



強化補助魔法と思っていいのだろうか。
心なしか雰囲気が随分と大人びたというか、いや髪が伸びている。


ほむら
「第二形態・・・」


聖カンナに牽制。一瞥した。
様子を見て、かずみに矢を投擲する。


かずみ
「Capitano Potenza! 避けるまでも無いよ!」

かずみの手が鋼色へと変色する。硬化したのだ。
牧カオルの魔術よりやや淡い色合い。


そのまま矢を薙ぎ払おうとし――肩ごと持っていかれた。



かずみ
「ぁあ゛っ!!」


悲鳴と共に、赤い霧が矢の延長上に拡散した。


まるで虐め。


傷口を塞ぐように手を当てて、回復魔法を行使している。



ほむら
「ちょっと聖カンナ。どういうつもり?」


聖カンナは冷めた目のまま一言も発しない。
すっかり飽きてしまったようだ。

647: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/18(金) 23:54:14.20 ID:xb0EQg1g0

かずみ
「まだ・・・。まだだよ」


体液を散らしながらかずみが立ち上がった。


電光が消えている。


見ていられない。
やめてくれとすら思った。



かずみ
「まだ戦えるもん!」



ほむら
「とてもじゃないけど力の差が・・・」

かずみ
「ファンタズマ・ビス――」



幻覚魔法! と脳が認識した瞬間。



かずみ
「ぎゃんっっ」




両手が赤くなっていた。
返り血も盛大に浴びてしまったようだ。


ほむら
「はい、お終い。ソウルジェムは・・・ソウルジェムは?」


床に押し付けて、馬乗りになる。
勿論、聖カンナに背を向けないように注意を払って。


648: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/18(金) 23:55:45.94 ID:xb0EQg1g0

かずみ
「カンナ? 何で見てるの? 助けてよ」

回復を終えたかずみの救難信号に、聖カンナは冷ややかな視線で応えた。



かずみ
「ねえ、仲間でしょ・・・」

カンナ
「仲間だって? ばーっかみたい」


聖カンナが口を開く。軋轢を見た瞬間だった。


ほむら
「プレイアデス聖団の、神那ニコの親戚じゃなくて?」

かずみ
「カンナはニコの形見だよ。再生成で造った予備だって・・・この前教えてくれたもん」



予備?

誰よりも強くて悪質な?

本当に予備?



かずみの獲得した情報が正しいとは限らない。
無理やり私と戦わせるように、かずみを言いくるめた疑いが濃い。


ほむら
「それ嘘でしょ」


鎌をかける。



649: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/18(金) 23:56:57.61 ID:xb0EQg1g0

カンナ
「ま、かずみに話したのは嘘だよ。まずは譲歩して色々話してやろうか」


仏頂面。壁掛け時計をちらっと見て、話し始めた。聞いてもいないのに。


カンナ
「私はニコが契約で生み出したニセモノなんだよね。予備じゃない。
強いて言うならHyades。プレイアデスでもないし、かずみの仲間では無いよ」


ほむら
「真偽を証明できる人物が居ないわ」

QB
「ボクが保証しよう。カンナはニコの監視のために契約したんだ」


監視?
素体が私に刃向かうような感じと思えばいいのね。


カンナ
「そう。だからこんな馴れ合い集団は滅べばいい」

かずみ
「一緒に美国さんの家まで逃げたのに・・・なんでそんなこというの?
全部嘘だったの? ねえ、カンナ」

カンナ
「理由知りたそうだけど、悲しみはもう産みたくないから教えない」

かずみ
「わたしなら・・・平気だよ。どんな事実だって受け止めるから」

カンナ
「駄目。真実を知ったときの絶望は計り知れない」


650: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/18(金) 23:58:04.30 ID:xb0EQg1g0

かずみ
「本当の本当に平気だから、大丈夫だよ」

カンナ
「然るべき場じゃないとね。馬乗りされたままじゃこっちも話せないよ」


延々とこのやり取りを続ける気か?
キュゥべえは全てを天に任せているようだし、私が終止符を打とうか。


ほむら
「いつまで続けるつもり? 話したらいいじゃない」

カンナ
「暁美ほむらが言うなら仕方ないな。よし、暁美ほむらの命令に従おう」

ほむら
「そんなに軽いノリでいいの?」




私の意見をあっさり飲み込む。まるで待っていたかのように。
聖カンナの漆黒がさらに増したようだった。




カンナ
「眠り際の子守唄。かずみはプレイアデスが造った合成人間なんだよね」

さらりと言ってのける。



私はかずみ以上に目を見開いていたはずだ。
合成人間――あまりの完成度の高さに心臓も高鳴りはじめる。



よく動く。

よく喋る。



私に押し倒されている少女が急に宝物かのように映った。


ほむら
「素体の延長上にみた完成品が・・・これなのね」


651: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/18(金) 23:59:44.73 ID:xb0EQg1g0


カンナ
「かずみは不良品だぞ。ホンモノとニセモノの中間種という稀有な例だ」

カンナ
「和紗ミチルという魔法少女の砕けたソウルジェムに、和紗ミチルの肉体を元に造った器」

カンナ
「サイテーのヘテロ。今や御崎海香の魔力だけで動いてるガラクタだな」




ふっ、と自嘲的な溜息を吐いて脚を組む。




カンナ
「当の御崎海香は自滅寸前だが、かずみは何分持つか気になるよ」


かずみ
「それ・・・嘘だよね」


カンナ
「鎌かけか? 認めたくないのか? 可哀想に。肩から噴き出た血は、他人の血だ」

かずみ
「嘘に決まってる! わたし魔法使えるもん」


カンナ
「あ? 関係ないよ。錯乱したか? プレイアデス全員の血が流れている人間モドキめ。
かといって純粋なニセモノではない。つーか、メンバーの技を楽々使えるチートがいてたまるかよ」

かずみ
「ソウルジェムだって砕けてないもん・・・」


652: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:01:12.97 ID:cpa5inNg0

カンナ
「暁美ほむら。左耳のピアスを外してやれ。ミチルのソウルジェムだ」


ほむら
「これ? とっても素敵な色ね」



馬乗りの姿勢のまま、ピアスを一番見えやすい位置まで持っていった。
どう見ても複数個所に亀裂が入っている。
和紗ミチルが導かれる間際に一度砕いたのだろう。浅海サキが魂が~と言ってたし。



かずみ
「あ・・・そんな」


それだけではない。濁りきったソウルジェムが青い輝きを取り戻しつつあるのだ。
グリーフシードを当てているわけではない。

聖カンナの言うように、御崎海香の青い魔力を吸い取っているのである。


かずみ
「いやあああああ嘘だよぉぉおお」


かずみの悲愴な表情、叫び。思わず目を背けてしまう。


654: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:02:18.75 ID:cpa5inNg0

QB
「聖カンナ。何がしたいんだ?」

カンナ
「よく見ろよ、インキュベーター。
これだけ感情が昂ぶっていれば契約だって結べそうだ」

QB
「聖カンナはそういう人物だったね。そうだよ、契約はたった今可能になった」


契約させていいのだろうか。
素体なら契約したがるかしら――違う。素体は魂を持たないから契約できない。


「あの子」は結局魂を宿したのかわからないままだけど・・・。
椅子に座って、黙々と書籍を読む「あの子」なら契約したがるかしら?


私の下で慟哭する少女を大切に取っておきたい。
きっと役立つ。私の理論に新しい風を。だから――。


六つの工学チップが付着したソウルジェムを見つめる。


ほむら
「本当に人造かテストしてあげる」

かずみ
「え? 何を?」



655: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:03:06.62 ID:cpa5inNg0


ソウルジェムを握りつぶした。


かずみ
「なんてこと・・・」

ほむら
「貴女、まだ生きてるってことはそういうことなのよ」


人間ベースの素体と同じく、魔力が流れている分には機能停止しない。


かずみ
「そっか。そうなんだ」


嘆きを見た。目に悲哀の色が漂っていた。
殺してほしい、と私に訴えかけているみたいで。


かずみ
「・・・」

ほむら
「・・・」


おそるおそる首に手をかける。




温かい。




彼女の表情はどこか安らいでいるように感じた。




次に瓶を取り出した。



656: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:04:25.51 ID:cpa5inNg0

カンナ
「おい。交渉材料に何してやがる」

ほむら
「みていて可哀想だったから殺してあげたのよ」

カンナ
「死体をどうするつもりだ?」

ほむら
「瓶に溜めておきたい。あの子のサンプル体として役立ちそうだし。
プレイアデス聖団が死体に命を吹き込んだなら、私にも間違いなく出来る」

カンナ
「おーおー。お前は変わったやつだな。私の目は曇ってなかった」


ほむら
「私はそういう人間。あの子に逢うためなら何だってする。全部捨ててやる」


ほむら
「それが正しいかどうかは知らないけど」




カンナ
「でも――もっと可哀想な存在になったぞ。ビン詰めかよ? 発言と行動が矛盾してるな」




ほむら
「果たしてそうかしら。彼女は自分で死を選んだのよ。
身内を騙して踊らせ続けるほど狂っていないわ」

カンナ
「くっくっく。ああ言えばこう言う。お互い似たもの同士だなあ」


聖カンナが初めて笑った。とてもご機嫌そうだ。


657: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:05:20.04 ID:cpa5inNg0

ほむら
「似たもの同士? 何処がよ」

カンナ
「お前は美樹さやかと佐倉杏子を恨んでいたが・・・」

ほむら
「何故知っている」

カンナ
「おおっと、演出を削ぐような真似はしない性質でね。接続はしてないよ。
もうちょっとしたら戦わせてやろう、という優しい心意気だ」

ほむら
「聖カンナ。貴女に何のメリットも無いわよ」

カンナ
「私もあいつらを恨んでいるという点で似たもの同士。正確には現人類」


暁美ほむらは違うケドネ、などと理解に苦しむフォローをして続けた。


カンナ
「殺したいなら応援してあげるよ。お互いに恨みを晴らせて最高じゃないか。
でもそのまえに――キュゥべえ。話の続きだ」


658: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:06:24.74 ID:cpa5inNg0

QB
「もう話すことは無さそうだけど、ほむらと戦わないのかい?」

カンナ
「ここからが本題ってやつ。前座ですらないけど。
ちなみに、あのかずみは死なれても問題ないんだよね。殺してもらって助かったくらい」

ほむら
「不自然な言い回しね。自分で処分すればいいのに」


一瞬、聖カンナの顔が引き攣ったのを私は見逃さなかった。


カンナ
「ところで、私はプレイアデス聖団全員の魔術を行使できるんだ」


露骨に話を反らす黒幕。


ほむら
「・・・。想像に難くないわ。神那ニコを監視してたそうだし接続も容易いでしょう」

カンナ
「第二、第三のかずみを造り出せることには気づいたかな。
完全なヒュアデス。ヒトの血でない! ヒトの動力でない! 本物のヒュアデスを聖カンナは造れるんだ!」

QB
「ヒュアデス・・・合成体のことなのか」

カンナ
「ん。ああ。些細だ」

カンナ
「要するに、だ。私達HyadesがHumanに成り代わり、インキュベーターの手となり足となろう」

カンナ
「これで人類の消耗にケチを付けなくて済むね?」

ほむら
「なんて暴論なの」


659: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:07:08.29 ID:cpa5inNg0


私の方を指差して声高に宣言する。


カンナ
「良い話だと思わないか。好きなだけ人類を潰せるぞ。好きなだけ魔力を造り出せる」

QB
「興味深いね。人類の代用品にするのかい」

カンナ
「人類には消えてもらう。代わりに宇宙のエネルギー問題を解決してやろう、というだけだ」

QB
「ひとつ問題があるよ。聖カンナが『円環の理』に導かれたらどうするつもりだい?
少数のヒュアデスが残るだけの崩壊した未来しか残らない」

QB
「聖カンナを複数造り出すなら交渉は決裂。敵対関係だ」

カンナ
「同じ顔が沢山か、そんなキモイこと私には理解できない」


外をじっと眺めてから悩ましそうに答えた。



660: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:08:16.35 ID:cpa5inNg0

カンナ
「例えば、例えばだな。契約して死に続けるエネルギー源を生むのはどうだろう。
ヒュアデスがヒュアデスの誕生を願う増殖炉とかね。管理はインキュベーターに任せてしまえばいい」


カンナ
「どうだ? え? インキュベーター同士が対立している今、余計なトラブルを解決する最高の案だぞ」


ほむら
「む。説得力はあるわね」


聖カンナが偉そうに講釈垂れている。


休戦条約? の対価の果てが人類の滅亡――よく考えなくてもおかしな話だと思う。
ところがキュゥべえ視点でみると、新人類がはびこるし宇宙も助かる。好いとこ取りかもしれない。


QB
「参考に値する意見だね。事実だとすれば、お互いの利潤は確約される。
それはそうと、かずみを完璧に造れる魔力をキミは持つのかい?」

カンナ
「心配無用。聖カンナはインキュベーターと多少コネクトした。造るどころか契約も、破壊も思いのままだ」

QB
「そのエネルギー源。本当に信用できるか怪しいよ」

ほむら
「じゃあやってみなさいよ。聖カンナ」


自滅するまで魔力を使ってもらおう。


カンナ
「魔力が勿体無いからまずは一体だけ」


用心深い魔法少女だった。


661: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:10:34.91 ID:cpa5inNg0


かずみの残骸を指差して消し去る。


ピエトラディ・トゥーノ
プロドット・セコンダ-リオ
イル・フラース


から始まる高速詠唱。
正確にはこの三つしか聞き取れなかったわけで。


椅子に座ったままでぶつぶつと呟いている。
しかも彼女のソウルジェムは全く濁っていない。不思議だ。


カンナ
「さあ――私の同類よ目覚めるがいい! 喜劇の開幕だ!」

QB
「魔法円?」


何も無かった空間に魔法円と、かずみそっくりの物体が現れた。
それは初めからそこにあったかのように動き始め、人語を口にした。



「カンナ? カンナ・・・ッ!」


カンナ
「大成功、に決まってるよな・・・。名付けてsystem:kazumi_magica_ver_hyades。
略して――略さなくて良いか。かずみの記憶はどうかなあ?」


ほむら
「凄いわね。まるで生きているみたい」

QB
「間違いなくかずみだよ。元々魔法が使えるし、契約もできそうだ」

カンナ
「果たしてそうかな? フフ。さあ――かずみ」

かずみ
「何? カンナ」

カンナ
「私と契約してヒュゥーァアデスになろうよぉおおおお?」


かずみ
「いいよ。願い事は――」


662: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:11:28.52 ID:cpa5inNg0


聖カンナを睨み付けた。


かずみ
「カンナなんて死んでしまえっ」

カンナ
「かずみの願いはエントロピーを凌駕した! 契約は成立だぞ」


聖カンナはニタニタしている。
かずみの身にも、漆黒の魔法少女にも変化が起きない。


カンナ
「だが残念だったなぁぁあああ? 願い事が叶わなくて!」


カンナが絶叫する。
歓喜とも嘆きともとれる奇声が部屋中を支配した。


カンナ
「計画以上だ。みろよインキュベーター! 志筑仁美が! あの女やりやがった!」


QB
「何をしたんだ。聖カンナがまだ生きているだなんて」


QBが珍しく動揺を見せていた。
私は色々と理解が及ばなかった。冷たくてじっとりとした汗が額から流れる。


663: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:12:20.45 ID:cpa5inNg0


ほむら
「契約したフリよ。キュゥべえもう一度!」

QB
「違う。契約は成立した」

カンナ
「私じゃない。あの女が! 志筑仁美がルールを変えたんだ」

かずみ
「キュゥべえ。何をしてるの。早くカンナをやっつけてよっ」


今度はキュゥべえがかずみの眼前に立つ。

QB
「なんてことだ。契約適正年齢が九歳、いや違う」

カンナ
「そうだ。五年間の魔力コントロールの果てに契約が完了するシステムが採用された」

QB
「志筑仁美の祈りは・・・!」


664: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:13:52.86 ID:cpa5inNg0



――こんな悲劇が二度と起こらないようにして欲しい



ほむら
「適正年齢は十四歳のまま。五年の訓練を要するってことね。
それって二度と悲劇が起こらないシステムなの?」

QB
「知識を蓄えるだけでなく、魔力の正しい運用を学ぶ機会が与えられる。
期日までは願い事も変更できるようになっているね。契約完了は第二次性徴期を意識しているけど――」

ほむら
「随分と良心的になったと思っていいの?」

QB
「効率は悪くない・・・んだけど」





泣き崩れるかずみと、ソウルジェムを一回り小さくした物体が全てを物語っていた。


聖カンナは生きている。

666: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:14:39.27 ID:cpa5inNg0



カンナ
「これが嬉しいニュースだよ、インキュベーター」

ほむら
「初めから知っていたのね、どこまでも意地悪なやつ」

カンナ
「んー、そうでもないんだな。おおよそ二時間前にバッチリ判明したわけだ」


QB
「二時間前は聖カンナ達が来るちょっと前だけど」

ほむら
「ちょうどお腹が空いたころね」


二時間前。
お昼時に誰か契約しようとしたのか?



667: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:16:16.60 ID:cpa5inNg0

カンナ
「さて、暁美ほむらへのプレゼントが整った。素敵なイベントを用意してあげたよ」

QB
「ソウルジェムが若干翳りを見せた?」

カンナ
「ノン。役者を二人呼んでたから“濁らせた”のだろう。新規にコネクトはしてないよ」

ほむら
「美樹さやかと佐倉杏子・・・ね」

カンナ
「近所まで呼び寄せたぞ。お外で戸惑っているんだろうな」

ほむら
「美樹さやか達に接続していたのが驚き。いつ繋いだのかはっきりさせてくれる?
ひょっとすると復讐の対象が変わるかもしれない」


カンナ
「ああ。一ヶ月ほど前に思いついた作戦でな・・・」


聖カンナは面倒くさそうに説明を始めた。
小物の悪役が返り討ちの間際にする暴露形式で。



プレイアデス聖団に例の二人が、「私」を討伐するための協力関係を結びに来た。
これを好機と判断した聖カンナが、体よくConnectしてテキトーに操ったのだとか。


話半分で聞く。


カンナ
「プレイアデスと巴マミらの「協定案」を「遠征」に変更させるのが本来の目的だった。
聖団連中に見切り発車させて、死地に送り込み、全滅してもらうためにね」

カンナ
「聖団を見滝原に来させるには赤と青に踊ってもらわねば無理だったのさ」

QB
「ずっと繋いでいたとはお見それしたよ」

カンナ
「それは魔力の無駄遣い過ぎる。だが、かつてのコネクトは消えないよ。
赤に単語の知識を与えてみたり、青に平手打ちをさせて再接続を確認したのさ」


668: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:17:42.40 ID:cpa5inNg0


ほむら
「単語に平手打ち? 何言ってるのかさっぱりわからないわ」

カンナ
「解らないなら赤と青に聞けばいい。でも真実は残酷極まりないよ。話したら泣いちゃうかも?」

ほむら
「鵜呑みにするのは嫌だけど信じてあげる。貴女のバリアを剥いで、全部潰してからアイツらに挑むわ」


カンナ
「それは短絡的な考えだよ、暁美ほむら。今すぐ出て行かないと大変なことになっちゃう。
ここで待つつもりなら――復讐を果たせずに死を迎える覚悟でな」


QB
「ほむら。聖カンナの言うとおり、美樹さやかと佐倉杏子を止めに行ったほうがいい」

ほむら
「聖カンナを置き去りにしてでも?」

QB
「手紙が正しいのなら置き去りで平気だ」

ほむら
「意味がわからないわ。貴方一匹じゃ聖カンナの思うつぼよ」

QB
「後で詳しく話すから、今は準備を!」


マミ達を信じる“彼ら”インキュベーターの戦力を削りたいの?
操られてるとはいえ、聖カンナを倒せば治るはず。
私側に付いたインキュベーターの勝ち、それでいいじゃない。


一応準備だけしておこう。いざとなれば三人相手に戦ってやる。
ありったけのグリーフシードを用意し、赤黒い血液の瓶にも隠匿の魔術を潜ませた後、適切にしまった。


669: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:18:42.87 ID:cpa5inNg0



ほむら
「あの・・・準備できたわよ」



キュゥべえとカンナは相変わらず舌戦を繰り広げている。


QB
「新規のルールを確認できたことには感謝するよ」

カンナ
「五年も基礎魔法だけで生き永らえる、優秀な人材が見つかるといいな?」


キュゥべえに皮肉のようなものを浴びせていた。
生成したかずみを透明で細長い円筒容器に閉じ込めながら。


QB
「残念だがエネルギー源の話はご破算だね。
五年間後の取引材料は信用するに足らない。かずみの願い事もヒュアデスを造るものではなかったし」

カンナ
「自己分裂やエネルギー源になりたいなどと祈るように洗脳すればいい」

QB
「聖カンナ。今の不安定なかずみシステムを使うのは考え物だよ。
もう一体生み出してくれるなら考えても良いけど」


カンナ
「今はもっと大事なことがあるんだ。二体目は造らないよ」


まだ話してる。聖カンナは何がしたいんだろう。しきりに時計なんか見て。


ほむら
「キュゥべえ?」

カンナ
「まだ居たのかよ。女々しいな」


670: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:21:54.13 ID:cpa5inNg0


ほむら
「キュゥべえ? どうなっても知らないわよ」

QB
「リボンを肌身離さず持っていてくれれば十分だ」

ほむら
「リボン? 聖カンナを先に潰せば悔いなく二人と戦えるのに――」



「Prodotto Secondario」


首に痛みを感じた。


首が痛い。


首が痛い。


首が痛い?


振り向いて殴り返す。


力なく吹っ飛び、照明器具にぶつかって消えたのは聖カンナのカタチをしていた。
プロドット・セコンダーリオと呼ばれる物質生成魔法に、してやられたのだ。


注射器が床に転がっている。何かを打ち込まれたらしい。



カンナ
「ホイ。カクシアジ。あの女が遺した気付け薬さ。さあ本能のままに暴れて来い。
大丈夫、もう私の魔力は残ってないよ。インキュベーターと歓談する元気は残ってるけど」


椅子に座っている方の聖カンナが嬉しそうに言った。


QB
「聖カンナ――キミはやはり!」

ほむら
「よくわからないけど魔法少女に効くはず無いわ」

QB
「ただの阻害剤だ。一応、具合が悪くなったらすぐ逃げるんだ」

ほむら
「何? この状況でも操られた二人が優先事項なわけ?」

QB
「そうだよ。ほむらにしか出来ないんだ」

ほむら
「話が違うわよ。どうしちゃったのよ、キュゥべえ」


671: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:23:43.15 ID:cpa5inNg0


戦うためにここまで来たのに。
ごく少量のイーブルナッツなら対処出来るし、勝算もゼロではない。

もしかして私が勝てないとでも踏んでいるのか?



QB
〔落ち着いてほむら。今の聖カンナはボロを出し始めた〕

テレパシーだ。久しぶり。

ほむら
〔だから殺しましょうよ聖カンナを。宝石も濁っているわ〕

QB
〔今のほむらじゃどうしようもないよ〕

ほむら
〔もう知らないわ。黒幕を前にして引き返すだなんて!〕

QB
〔あの聖カンナに攻撃を加えたところでどうにもならない。
だってあれもプロドット・セコンダーリオで造った複製体なんだから〕

ほむら
「は?」

カンナ
「どうかしたか」

ほむら
「いいえ。ちょっと考え事」


672: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:24:29.90 ID:cpa5inNg0

QB
〔二人に接続して、特定の位置まで連れて行こうとするならソウルジェムが濁り続けるはずだ。
でも聖カンナは急激に濁った。手紙の内容は真実だったんだ、罠だよ〕

ほむら
〔濁りすらも演技だったらどうするのよ〕

QB
〔確信している。聖カンナは第二のかずみ、とやらを造ったようだけど。
正面の聖カンナが造った訳じゃない。タイミングよく召喚魔法を一個唱えたのをボクは見逃さなかった〕

ほむら
〔ホンモノが予め造っていて、複製体が転送したというの?〕

QB
〔そうだよ。だけど案外近くに聖カンナが潜んでいるかもしれない。気をつけて〕


ほむら
〔あの二人から居場所を聞き出してやるわ〕


ほむら
「聖カンナ、やっぱり行くわ」


カンナ
「達者でな。死ぬなよ」




私は目もくれず、鹿目邸宅を出た。
聖カンナの勝利宣言とも思える笑顔から逃げ出すように。




ほむら
「用心深すぎる・・・聖カンナ。一体何がしたいの?」

ほむら
「駄目。今は復讐だけを考えるのよ暁美ほむら。あの子の悲しみもきっと癒えるわ」



673: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:47:58.88 ID:cpa5inNg0

■復讐悲劇


見滝原中心地区の一角。幅広い車道に少女が放り出されていた。
二人仲良く、姉妹のように仲良く、家族のように仲良く。


杏子
「悪夢を見ているみたいだ。朝方から記憶が無いし、もう日が傾いてやがる」

さやか
「あたし達御崎さんの看病をずっとしてたよね――」

杏子
「わからねえ、でも全部アイツの仕業だろうな」

さやか
「全くだよ。ちょっと見ないうちに腐りきっちゃって」

杏子
「殺るしかないと前から思ってたんだ。そんだけの罪を背負ってる」

さやか
「もう躊躇わないよ。かつての友人としてそれだけの責務があるんだから」

杏子
「友人ねえ。そんじゃ冥府の果てまで付き合ってもらおうか」

さやか
「友人だった、だよ。何が何でも勝たないとクラスのみんなに示しがつかないよ」



青と赤は一瞬で魔道装束を纏った。
完全にベテランといったところ、歴戦の勇士のごとき立ち振る舞い。
青はカットラスを、赤は槍を、それぞれ肩に担いで余裕の表情を浮かべている。



674: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/19(土) 00:50:27.81 ID:cpa5inNg0


さやか
「杏子はどっちに分があると思う?」

杏子
「そりゃ自分らに決まってるだろ。千円賭けてもいいね」


さやか
「これから命を賭けるというのに安っぽいね。もう二千円足してもいいかな」

杏子
「そりゃ大金だな。命張っても悔いはないぜ――ところで」



杏子
「アンタはどっちが勝つと思う? なんて妙な訊き方しちゃったね。
否が応でもこの世界から消し去ってやるよ。死んで詫びな!」






ほむら
「逢いたかったわ。美樹さやか。佐倉杏子。さあ構えなさい」






942: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:33:59.12 ID:Cl4WnM5y0


■復讐悲劇


見滝原中心地区の一角。幅広い車道に少女が放り出されていた。
二人仲良く、姉妹のように仲良く、家族のように仲良く。


杏子
「悪夢を見ているみたいだ。朝方から記憶が無いし、もう日が傾いてやがる」

さやか
「あたし達御崎さんの看病をずっとしてたよね――」

杏子
「わからねえ、でも全部アイツの仕業だろうな」

さやか
「全くだよ。ちょっと見ないうちに腐りきっちゃって」

杏子
「殺るしかないと前から思ってたんだ。そんだけの罪を背負ってる」

さやか
「もう躊躇わないよ。かつての友人としてそれだけの責務があるんだから」

杏子
「友人ねえ。そんじゃ冥府の果てまで付き合ってもらおうか」

さやか
「友人だった、だよ。何が何でも勝たないとクラスのみんなに示しがつかないよ」



青と赤は一瞬で魔道装束を纏った。
完全にベテランといったところ、歴戦の勇士のごとき立ち振る舞い。
青はカットラスを、赤は槍を、それぞれ肩に担いで余裕の表情を浮かべている。


943: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:35:35.59 ID:Cl4WnM5y0


さやか
「杏子はどっちに分があると思う?」

杏子
「そりゃ自分らに決まってるだろ。千円賭けてもいいね」


さやか
「これから命を賭けるというのに安っぽいね。もう二千円足してもいいかな」

杏子
「そいつは大金だな。命張っても悔いはないぜ――ところで」



杏子
「アンタはどっちが勝つと思う? なんて妙な訊き方しちゃったね。
否が応でもこの世界から消し去ってやるよ。死んで詫びな!」







ほむら
「逢いたかったわ。美樹さやか。佐倉杏子。さあ構えなさい」





944: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:36:52.28 ID:Cl4WnM5y0

□ 見滝原中心地区



ほむら
「すぐに死ねとは言わないわ! 好きなだけ抵抗してみなさい!」


一声。決戦の火蓋が下ろされた。
弓を生み出す。青と赤が左右に散る。



車道、歩道関係なく、人通りをも気にせず、勢いに身を任せて魔法を使った。
青も赤も同様に、乗用車を投げ、歩道橋を刻み、あらゆる空間を斬り、薙いだ。



幾重にも障壁を広げ、一般人が入れないように配慮した上だから気にやまないで欲しい。
目視、数キロメートルの箱庭を造り上げたのは、キュゥべえがいる鹿目邸宅に被害が及ばないようにしたため。



あと、重要参考人――いや復讐の対象を捕らえて逃がさないのが本音。


補足しておくと今現在、結界の内側では雨が降っている。追尾式の紫色の雨が。



945: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:38:06.53 ID:Cl4WnM5y0


さやか
「シールドを広げたけどきっついね」

杏子
「リソースを割かせるとは賭けに出たな。槍の硬度が下がっちまったが、向こうはそれ以下の条件だ」



赤と青がちょこまかと交互に斬撃を放ってくる。
物量作戦というにはやや盛り上がりに欠けるわけだが、私を苦しめようとする気迫だけは一流だ。



二種類の高位魔法を詠唱しているため、生成する矢はいつもの五分の一にも及ばない威力。
相手側はバリアを展開している。お互いのステータスは低下していた。


さやか
「潰れろぉー!!」


矢を弾かれた。返す刀で両断しようと青が接近し、振りかぶる。
弓の部分で受け止め、滑らせるように受け流そうと構えたところに赤の三段突き。


ほむら
「チッ。やるじゃない」


緊急回避。


緊急回避。



左後方。正確には七時の方向から爆発音。


高速詠唱をしながら印を結び、即座に防御体制に移行。


時間差で襲ってくる爆風を中和した。



946: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:38:37.85 ID:Cl4WnM5y0


さやか
「苦戦してそうだね」


燃え滾る乗用車の上に青を見た。


ほむら
「当たったところで屁でもな――」



後頭部に鈍痛。


後頭部。


また後頭部。


前腕。


後頭部。




杏子
「ぺちゃくちゃ喋ってんじゃねーよ、うすのろ」



弓を大きく振り回して多節槍の追撃を止める。
手ごたえは無い、避けられたか。


947: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:39:45.90 ID:Cl4WnM5y0


カットラスが正面から七本、そのまま弓で吹き飛――


私が吹き飛ばされた。


今のは何?


杏子
「いけるぞ。こっちが押してる!」



鉄塔が降ってきた。
追尾式のアローで串刺しには出来たが、どうにもしがたい状況に息をのむ。


傾いた鉄塔の上に青。


シールドを展開し矢を防ぎながら青は叫ぶ。

さやか
「容赦しないんだから」


突然、青が鉄塔ごと消えた。




948: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:40:15.70 ID:Cl4WnM5y0




否。




「まだ生きているのか」



赤の声。



「天上から襲い掛かる矢は消えたけど・・・」



青の声。



視界が何かに遮られてよくわからない。



949: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:41:32.56 ID:Cl4WnM5y0



何かの下敷きになっているのはわかった。タイヤが見える。
意識が途切れているので確証は無いが、大型車に轢き飛ばされたらしい。



ほむら
「この程度で安心しないで!」


力いっぱい蹴り飛ばし戦闘態勢に戻る。



はっきり言って劣勢だ。
甘く見すぎていた気がする。


杏子
「矢が消えたが、わざとか?」


横転したトラックの脇から声が聞こえた。


ほむら
「小細工無しの方が燃えるでしょう?」


余裕を見せながら近づく。赤に迫り、殴った。

手ごたえはあるけれど・・・何故抵抗しない。




刹那。




背後の殺気を避ける。赤が槍に突き刺さって消えた。



ほむら
「殺気が隠せてないわよ」

杏子
「幻覚には慣れたかい?」


槍をぶんぶんと回して、へらへら笑う赤。


950: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:42:23.82 ID:Cl4WnM5y0


ほむら
「これも幻覚。コツは掴んでいるわ」


杏子
「そうでもないな。よく見てみろ――」



近づいてくる赤に悪寒を覚える。



二重の障壁で目の前を覆うや否や、赤が四散した。
時限爆弾か。器用な。



上空に強烈な魔力の痕跡がある。次いで炸裂音。



降って来る何かを弓でひとつひとつ打ち払っていく。
地には多数の刃が立っていた。


ほむら
「回復する余裕すらないわね」


地面に刺さったカットラスを投げ返し、一進一退の攻防が続いた。


久しぶりの狂騒に高笑いしてしまう。


951: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:43:10.44 ID:Cl4WnM5y0

□ 見滝原災害区域


周囲360度、火の海と化した街に紫の光線が飛び交う。
黒焦げの金属塊を蹴ると、面白いくらいに地面を擦り、激烈な悪臭がさらに深みを帯びる。
ガソリンが漏れ出すたびに戦闘フィールドが減っていく。


障壁を展開したから一般人の死傷者はゼロ。閉じ込められたほうの一般人は知らない。
青空はだんだんと赤く塗り替えられていた。




ほむら
「さっきまでの勢いはどうしたの?」



多節槍を弓で絡めとり、赤ごと地面に叩きつける。
生命力をガリガリ削り取る手ごたえを感じ、全身の筋肉が歓喜する。


952: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:43:37.81 ID:Cl4WnM5y0


直後、背部に痛み。
青の投擲を思いっきり受けてしまった。


大した怪我ではないだろう。隙を見せた赤が優先だ。


何度も蹴り飛ばし、弓を突き刺す。


さやか
「ほむらあああああ!!!」


左腕が落ちる感覚。


杏子
「ざまあみろ」



血の塊をぼとぼと吐きながら言う赤。




初めから狙ってたわね。




身体強化を最大に、振り向いて青を殴る。
ブチブチと千切れる音は私の無理な姿勢のせい。


腕と魂を救出し、全身に回復魔法。
結構な隙を見せてしまったかもしれない。



953: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:44:26.96 ID:Cl4WnM5y0


回復を終えていた赤に衝かれ、後ろ向きのまま空中に放り出される。




視界の片隅に青。お腹を押さえて縮こまっている。
ソウルジェムの穢れを浄化しているようだ。



弓矢を生み出し、狙いを定めて射る。
牽制になればと思っていたが命中した。



落下地点には赤。槍を構えている。


杏子
「よう。短い空の旅は楽しかったか?」



傾いた足場を空中に作り軌道をずらす。


近場の乗用車に魔力弾を撃つ。炎上させながら受身。
粗雑な手段だが、それを赤目掛けて蹴り飛ばす。


誰かが足に攻撃した。背後に青がいる。


954: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:45:05.02 ID:Cl4WnM5y0


ほむら
「まだまだ楽しめそうね」

さやか
「読まれてた!」


青の引き攣った表情が心地よい。


魔力のリソースを攻撃されるであろう部位に割いて、強化魔法を集中させていたのだ。
砕けたカットラスが軸足の強度を保証している。

流れに身を任せて青の膝を蹴り、破壊する。再び距離を広げながら弦を絞った。



血の昂ぶりに私は高笑いしてしまう。



955: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:45:38.62 ID:Cl4WnM5y0

□ 見滝原 大規模災害区域


火の海は徐々に落ち着いてきた。
しかし熱気は増すばかり。アスファルトからは黒煙が上がっている。
突っ立っているだけでも体力を奪われ、酸素の取り込みがおろそかになる。


障壁が全体的に薄まっている。それだけお互い追い詰められている証拠だが。
万が一逃げられてしまえば憂いが残ってしまう。



左手に意識が向いた。魔力が半分以上減っているのに気づく。



赤も青も二桁回は魔力を補充していたわね。
魔力容量がケタ外れとはいえ、油断禁物。


浄化しましょう。
いつ聖カンナが乱入してもいいように。


ソウルジェムの穢れを取り去ろうと左手を布地の下に忍ばせる。


956: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:46:28.77 ID:Cl4WnM5y0


杏子
「おっと、させないぜ」



地から幾つも槍が召喚され、無数の刃が襲い掛かってきた。
青と赤の本気をみた。地面が隆起し、戦火が広がる。


流石に片手を引っ込めては対処しきれない。




さやか
「やっと一回目の浄化かあ」


ほむら
「ああ、奪ってから回復しましょう。今日は何だか冴えてないわ・・・」

さやか
「グリーフシードを見つけられればいいけどね」


この青は何か勘違いをしている。


ほむら
「奪わないわそんなもの」



言ってやった。



957: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:46:54.55 ID:Cl4WnM5y0


杏子
「隙を見せるんじゃないよ、さやか。ペースに飲み込まれたらおしまいだ」


足元の振動に気づき、反射的に避ける。


ほむら
「しまった!」


避けた先からも槍が生えてきた。
回避・・・に失敗し、腿部から色々噴き出る。


ほむら
「もう終わりにしましょう――今すぐ後悔させて上げるわ」


中度の全身打撲。左手切断。左大腿部割創。
特筆すべき被弾はこのていど。



左足を引きずりながら青に近づく。



杏子
「逃げろ。何かする気だ!」

さやか
「っちくしょう」



958: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:47:32.14 ID:Cl4WnM5y0


反転。背中を向けて逃げ出す青。
目いっぱい右足で地面を蹴って呪文を唱える。


ほむら
「トッコ・デル・マーレ」


姿勢を大きく崩してアスファルトを何度も転がった。右手に何かが収まる感触に鳥肌が立つ。


トッコ・デル・マーレの射程内だったことに感謝した。美樹さやかのソウルジェムを摘み取ったのだ。
意外なことに強化魔法は仕掛けられていない。


さやか
「杏子! あたしは良いから逃げて! 壁が脆くなった今なら!」

杏子
「んなことできるかよ!」



強制摘出によって装束が消え去った美樹さやかなど敵ではない。



ほむら
「ゲームオーバーよ」

さやか
「あたしは駄目でも杏子が遺志を・・・」



959: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:48:36.06 ID:Cl4WnM5y0


ほむら
「遺言中、とても申し訳ないけど、聞きたいことがあるの。二人居ないと駄目なのよね」


美樹さやかの接続が切れても構わない。佐倉杏子も捕縛しなければ聖カンナの場所を聞き出せない。
接続が切れた状態、つまり生身で地面に伏せたら焼けただれてしまうだろう。


赤を追いかけ――



違う。



赤の幻覚だ。複数の足音が聞こえている。

手当たり次第に矢を射った。
実体を持った幻覚をひとつひとつ破壊する。


外れ。


また手ごたえが無い。


ほむら
「逃がすわけにはいかない・・・」




傾いた高層ビルの最上部。赤に狙いを定めて矢を放った瞬間、世界が傾いた。




痛みは全くなかった。蒸発する赤い霞を見てやっと気づく。
両膝から下をバッサリ切り取られてしまった。



960: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:49:11.05 ID:Cl4WnM5y0


杏子
「さやかのジェムは返して貰った」

杏子
「死ん――」



何か。

何でもいい。

閃け。

奪われたくない。



ほむら
「トッコ・デル・マーレ!」


手元には何も無い。



終わった。




961: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:49:47.67 ID:Cl4WnM5y0


終わった・・・?


ほむら
「殺気が消えた」


こつんと青のソウルジェムが降ってきた。


次いでバンッという音。
空気が震える異音に目を遣ると、人のカタチをしていたものが地面にあった。

ビルからの飛び降り自殺、ではなく。


ほむら
「そっちがホンモノだったのね」


内ポケットに左手を忍ばせて、魔力を補充しながら近づく。
ぽっかりと穴を開けている佐倉杏子がいた。



962: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:50:17.38 ID:Cl4WnM5y0


ほむら
「気絶か。勝利に酔える内容じゃないわね」

ほむら
「障壁が疎かになっていたし」



再度、適当な結界を練り直して街を覆う。
振り返ってみるとそこそこ苦戦を強いられる戦いだった。



何か寄りかかれるものを探し、何もない事に気づく。
佐倉杏子の内臓がじわじわと再生するのを観察しながら魔力の補充を続けた。



963: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:50:56.39 ID:Cl4WnM5y0


□ 見滝原 激甚災害区域


日がほとんど沈んでいた。
辺りはすっかり黒く焦げ上がり、歩道と車道の区別がつかない。
破壊の傷跡は、溶け出したアスファルトによって塞がれて自然治癒している。


三人の加害者がいた。



杏子
「魔力さえ漏れなければ勝てたんだがな」

ほむら
「身体強化しながら言うセリフじゃないわ」

さやか
「聞くだけ聞いて早く殺しなさいよ」

ほむら
「だから隙を見計らうのはおかしいわ」


フランクな語りに殺気を漂わせて訊ねる。


ほむら
「聖カンナって知ってるわよね?」



964: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:51:38.71 ID:Cl4WnM5y0

二人は首を横に振った。


ほむら
「漆黒の魔法少女。知ってるかしら」


二人はまたもや首を横に振った。


ほむら
「魔法少女の名前よ。アイツは――」


彼女の能力だけ軽く説明した。
知らないことを知ってたり――などと症状も明かす。


次。


ほむら
「平手打ちや単語で心当たりのあることは?」



965: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:52:34.49 ID:Cl4WnM5y0

単語、で青が微妙に反応した。気まずそうに口を開く


さやか
「単語って・・・イクス・フィーレの?」


赤の顔がみるみる暗くなっていく。


杏子
「さやか。あんた鋭すぎだよ。嫌になっちゃうね」

ほむら
「詳しく聞かせてくれる?」


佐倉杏子に手がかり。
青いソウルジェムを取り出して訊いた。


杏子
「しかも青かよ。尋問の才能があるな」


青いソウルジェムを握って同じ質問を繰り返す。


966: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:55:02.67 ID:Cl4WnM5y0


杏子
「ばーてぶれーとだな。知らないうちに正しい意味や綴りが頭の中にあった」

ほむら
「ばー“て”ぶれーと? ブイ、イー、アール・・・のvertebrateで良いのよね」



杏子
「あの日、地下室で人形越しに聞いたから曖昧だし、そのときの名残だ。
発音が間違っていることをも何故か知っていたのさ。本場の帰国子女みたいにな」



知らないことを知っている。無意識に操られた。



聖カンナは、佐倉杏子の能力を読み取っているのだろう。
幻覚使い相手にやりあえるか・・・。厄介だ。



ほむら
「イクス・フィーレについて、詳細に教えてくれる?」

さやか
「性質、弱点を分析する魔法。御――」

ほむら
「知っているわ。御崎海香にしてやられたもの。私の弱点を詳しく教えなさいと言っているの」


さやか
「あたしは穢れが弱点らしいけど、あんたのは解析が大変だからわからない。
精々二つ、三つ。ほむらは六つあった。それだけ弱点が多くて脆いってことだよ」


その単語を教える気は無いらしい。
嘘をつくと思って聞いて見たわけだが意外と素直だ。


967: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:56:22.07 ID:Cl4WnM5y0


ほむら
「平手打ちは?」


二人とも無言のまま放心している。心当たりは無さそう。


ほむら
「プレイアデス聖団を呼んだのは貴女達でいいのね」

さやか
「・・・だからなに?」

ほむら
「あーあ。これじゃ何を聞いても疑うしかないわね」


聖カンナの言ったとおり。
Connectによってはじめから全部仕組まれていたようだ。


杏子
「何とでも言いやがれ。洗脳されてるって言いたいんだろ」


織り込み済みの質問。
聖カンナの場所はおろか、存在すら知らない彼女なら憤怒するだろう。
自分の足で私と決戦に来たとでも思っているのならとんだ誤解ね。



968: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:56:49.47 ID:Cl4WnM5y0


ほむら
「そう、洗脳より性質が悪い魔法。百パーセント操られているわね。
無意識に行動、思考させられている。貴女達の自我はもう自我じゃない。恐ろしいわ」


突然青が血相を変えて迫ってきた。


さやか
「あんたも似たようなものじゃない!」

杏子
「おい! 無闇に刺激するな」

さやか
「狂い果てて、クラスメイトを何十人も殺して、街のみんなも! 挙句の果てにあんたの顔をした同類まで!」

ほむら
「同類? アレは全然違う。あの愚か者は『円環の理』を求めなかったし逢おうとすら思ってない」

さやか
「同類だよ、今のあんたそっくりだ。『円環の理』に会うだとかいって、ひたすら人間を殺してるだけだもんね?」

さやか
「人を殺すために人を殺してる。知ってる? 死神って呼ばれてるんだよ、あんた」

ほむら
「それは貴女のせいでしょ、美樹さやか。貴女のせいで殺すハメになったの。
桃色の力に耐えられるあの子を壊したせいで!」

さやか
「杏子っ」

ほむら
「させないわ!」


隙を見てソウルジェムを奪おうとした赤に肘鉄。
赤は何十メートルも派手に飛んでいった。


身体を丸めて横たわっている。


969: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:57:17.94 ID:Cl4WnM5y0


さやか
「万事休す、もう打つ手無しだよ。参った」

ほむら
「作戦だか本心だか知らないけど・・・あの子を殺した罪は重すぎるのよ」

さやか
「この街の死者。四万二千よりも?」

ほむら
「カウントするなんていい性格してるのね」

さやか
「聖カンナって人のお陰だね。何か知ってた」



やはりそうだ。知らないことを知る機会が与えられる。
もしかしたら美樹さやかが聖カンナの場所を知るかもしれない。

すこし会話を続けようと思った。


さやか
「戦闘が温和だったのは聖カンナって人を探してるせいだね?」

ほむら
「そうよ、貴女って鋭いわ」


970: ◆bvqVN1tP96Fx 2013/10/21(月) 23:58:02.55 ID:Cl4WnM5y0


ほむら
「で、その手は何?」


ソウルジェムを捕らえんとした青の手を掴む。
後ろから赤も接近しているのか。


さやか
「言わなくてもわかるでしょ? これが正義の魔法少女だよ」




一旦冷め切った身体がにわかに熱くなる。
まだ復讐できるんだと、青を平手打ちして実感した。



ほむら
「さあ生身で抵抗してみなさい。戦いは始まったばかりよ!」




引用元: ほむら「もう一度だけ逢いたい」