1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:11:08.51 ID:v4cblTEa0
澪ちゃんと梓ちゃんが付き合ってからかな。りっちゃんが遊びに誘ってくれるようになったのは。
今日で六回目のデート。
デートだと思っているのは私だけかもしれないけど、これはやっぱりデートなのだ。
だって私はりっちゃんに恋してるから。

りっちゃんは私を喜ばせようとしてくれる。
ゲームセンター、ボーリング、魚釣り…どれも私の知らなかったことばかり。
エスコートだってとっても上手。
楽しいけど、楽しすぎて少し申し訳なく思う。
私もりっちゃんを楽しませてあげられたらと思う。

でも、それは難しい。
私はりっちゃんみたいな明るさもポジティブさも持ちあわせていないから。

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:13:34.83 ID:v4cblTEa0
だからといって、弱音ばかりも吐いていられない。
今日のデートは特別だった。
私がりっちゃんを喜ばせるためにセッティングしたから。

選んだのはその道では知られた前衛派バイオリニストの演奏会。
チケット代金はバイト代から出した。
だけど、りっちゃんは自分の分のお金は払うと言い出したので、貰い物だと嘘をついた。

演奏会の後、りっちゃんはとても興奮していた。
HTTにもバイオリンを組み込めないかなんて言い始めるぐらいに。

それから御飯を食べて、見晴らしのいい公園にやってきた。

そこまでは、大成功だった。

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:16:58.47 ID:v4cblTEa0
本当は言うつもりなんてなかった。

だけどあの日の私はりっちゃんを喜ばせてあげられたことに興奮していて――

りっちゃんはいつも以上にかっこよく見えて――

だから――

言ってしまったのだ。



紬「好きです」


と、
りっちゃんはよくわからない表情で、


律「考えさせてくれ」



やってしまった……。

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:22:40.32 ID:v4cblTEa0
□□□


家に帰ってから、私はひたすら妥協点を探していた。

これまでりっちゃんとの間にあったものを、
私はどれだけ諦めることができるのか。

これまでのようにデートできなくなるのは嫌だ。
でも、もう無理だろう。
りっちゃんに負担をかけてしまうだけだ。

じゃあ、みんなで遊びに行くのは?
それなら……でも、二人きりになったとき、りっちゃんはどう思うのか。

ティータイムだってそうだ。
私が特別な気持ちを抱いていると知ったら、
りっちゃんだってこれまでのようにお茶を楽しめなくなるかもしれない。

きっと口では友達でいてくれると言うだろう。
りっちゃんは優しいから。
でも、きっとそうはいかない。

一緒に遊びに行くような友達には簡単には戻れない。

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:32:16.18 ID:v4cblTEa0
関係を修復するためにどれくらいの時間が必要なのか。

そもそも本当に関係を修復できるのか。

いっそのこと私はけいおん部を辞めたほうがいいのではないか。

そんなことばかりを考えていた。


しかし次の日、りっちゃんの口から漏れた言葉は意外なものだった。


律「もう少し考えさせてほしい」

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:40:09.23 ID:v4cblTEa0
その言葉で私の頭はぐちゃぐちゃになってしまった。
授業中も先生の言葉など入ってこないし、
唯ちゃん達と話をしてても何も考えられない。

もしかしたら……もしかしたら付き合って貰えるかもしれない。
りっちゃんと付き合えるかもしれない。
付き合える可能性があるドキドキと、
やっぱり駄目かもしれないという不安で、
どうにかなってしまいそうだった。

りっちゃんの方を見るなんて、とんでもないぐらいに。

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:45:46.94 ID:v4cblTEa0
そんな私を見かねたのか、りっちゃんが放課後に呼び出してくれた。



律「あの……ムギさん」

紬「は……はい」

律「ごめん……煮え切らない態度をとちゃって」

紬「ううん! そんなことない!
  私、どれだけだって待つから!」

律「……」

紬「りっちゃん?」

律「ムギ、ちょっと話を聞いてくれるか?」

紬「……うん」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:54:14.05 ID:v4cblTEa0
律「澪と梓が付き合いはじめただろ。
  実はショックだったんだ。アレ」

紬「……もしかして澪ちゃんのこと」

律「いや、それは違う。
  澪のことは……恋愛とか抜きにして大好きだけど、
  そうじゃないんだ。
  女の子同士ってのが……」

紬「……そっち?」

律「私が思ってるより特別気にしないんだなって。
  確かにムギ達といると楽しいし、
  ときどきドキッとすることもある」

紬「……うん」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:55:59.20 ID:v4cblTEa0
律「でも付き合うとなると話は別なんじゃないか。
  いつか男の人と結婚して……家庭を築いて……。
  まだ結婚なんて全然想像できないんだけど、
  そうなるんだと思ってた」

紬「うん」

律「特にムギはそうだ
  ムギのことだから、優しい旦那さんを貰って、
  子どもたちに囲まれながら幸せな家庭を築くんだろうなって」


……考えたことがないわけではない。
お見合いの話は既にいくつか着ている。
親に強制されることはないけど、そういう選択肢も確かに存在する。


律「いつだったか、
  私が男だったら惚れてたかもしれないってムギは言ってただろ。
  ムギが好きな私って、
  私の男性的な部分だと思うんだ」

紬「……」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:58:15.49 ID:v4cblTEa0
律「ここは女子校だから男がいない。
  だからムギは私のことを好きになったんじゃないか?」

紬「そんなことない……と思う」

律「じゃあさ、男の私と女の私がいたら、
  どっちを好きになった?」


私は黙り込んだ。
りっちゃんが男だったら。
それは何度か考えたことだ。

ゲームが上手なりっちゃん。
エスコートの上手なりっちゃん。
すごくかっこいいりっちゃん。

私はりっちゃんを男の子の代わりとして求めただけ……。
……なのかもしれない。


紬「ごめんなさい」


と言い残して、私は逃げた。

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 01:59:20.23 ID:v4cblTEa0
□□□


夜ご飯は喉を通らなかった。



翌日。私は学校を休んだ。
ズル休みをするのは初めてだ。
もちろん、りっちゃんが家にくるなんてことはなかった。
そのかわり子猫が迷い込んだ。


梓「澪先輩から話を聞いたのできました」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 02:04:03.61 ID:v4cblTEa0
私は梓ちゃんに全部を話した。
りっちゃんに告白したこと。
自分がりっちゃんの男性的な部分に惹かれていたこと。


梓「なるほど……律先輩に男性的な部分を見出し、
  そこに惹かれていた自分が恥ずかしいと。
  律先輩に申し訳ないと」

紬「…………うん」

梓「別にいいじゃないですか」

紬「えっ」

梓「別にいいと言ったんです」

紬「だって……りっちゃんを男の子として見ていたようなものよ」

梓「それの何が悪いんですか」

紬「だって……」

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 02:06:21.37 ID:v4cblTEa0
梓「ムギ先輩の部屋につくまでの間、沢山の使用人さんを見かけました。
  若い男の人もいました。
  その人達と較べて律先輩は負けますか?」

紬「りっちゃんのほうがずっと格好良いけど……」

梓「なら、いんですよ。律先輩のことが一番好きなら、
  何も問題ありません。
  そもそもかっこいいのは男の特権というのが古いんです。
  家に帰ってきて、風呂、飯、と言い捨てるかっこ良さをもった女性がいたっていいはずです。
  そしてそんな女性に掘れる同性がいたっていい。
  家事のできる男が持て囃されるのだって同じことじゃないですか。
  あれは男の女性的な部分に女性が惹かれているわけですから」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 02:07:51.98 ID:v4cblTEa0
紬「梓ちゃん」

梓「なんですか?」

紬「梓ちゃんってかっこいいね」

梓「惚れると火傷するです」


私は梓ちゃんをぎゅっと抱きしめた。
澪ちゃんには悪いけど、抱きしめたい気分だった。
案の定梓ちゃんは逃げ出した。

梓ちゃんが家に帰った後、私はりっちゃんにメールした。
その夜は、ぐっすり眠ることができた。

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 02:09:24.29 ID:v4cblTEa0
□□□


昼前、公園。りっちゃんが目の前にいる。


律「むぎ……」

紬「りっちゃん……やっぱり私りっちゃんのことが好き!」

律「……うん」

紬「私が好きなのはりっちゃんの男の子っぽいところかもしれないけど、
  それでも好きなことに違いなんてないから」

律「……うん」

紬「だから……
  だから私と付き合ってください!
  だけど、りっちゃんが男性として求められるのが嫌なら、
  きっぱり振ってください!!」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 02:09:49.64 ID:v4cblTEa0
律「むぎ‥…私は」

紬「りっちゃん……」

律「私もムギがすきなんだ」


予想外の、言葉だった。

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 02:10:23.44 ID:v4cblTEa0
律「初めてののデートで、
  『りっちゃんが男だったら惚れてたかもしれない』って言っただろ。
  あれがたぶんきっかけだった。
  それ以降、ムギと体が触れたり、笑顔を見たりすると、
  心臓が落ち着かないんだ」

紬「りっちゃんも……」

律「ムギもなんだな」

紬「うん……!」

律「でもさ、怖かったんだ」

紬「怖い?」

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 02:10:49.45 ID:v4cblTEa0
律「ムギは私の男性的な部分を求めているだろ。
  それなら、本当の男でかっこいいやつが現れたら、
  勝ち目なんてないんじゃないか。
  ムギはそっちに靡いちゃうんじゃないかって思って
  相手が男ならちゃんと結婚もできるし、子供も産めるしさ」

紬「そんなわけない!」

律「あぁ、分かってる。
  ムギはそんな奴じゃないってこと。
  でも私は怖かったんだ。
  だからムギは私なんかじゃなく、
  ちゃんとした男と付き合うべきだって思おうとしてた」

紬「……」

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 02:12:21.03 ID:v4cblTEa0
律「でも、それは無理だ。
  昨日、ムギが学校に来なくて気が気じゃなかった。
  どうして目の届くところにいてもらわなかったのか。
  どうして素直に付きあおうって言えなかったのか。
  ずっと後悔してた……」

紬「りっちゃん……」

律「だから言わせて欲しい。
  ……。
  ……。
  ……。
  ………………こんな私でよかったら付き合って欲しい!」

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/06(水) 02:15:02.90 ID:v4cblTEa0
紬「りっちゃん……嬉しい」

律「……なんだか照れくさいな」


赤くなってそっぽを向くりっちゃん。
こういうところも男っぽいかもしれない。
でも、そういうりっちゃんが愛おしくて愛おしくてたまらないのだ。
だから、もう迷うことなんてない。


紬「……キスしたい」

律「まだ付き合ったばかりだろ……」

紬「そんなところで大和撫子っぷりを発揮しなくてもいいのに」


無性に悔しかったので、私はりっちゃんの唇を奪った。
りっちゃんは目を見開いた後、まぶたをゆっくり閉じてくれた。


おしまいっ!

引用元: 紬「私とりっちゃんのジェンダー論」