1: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 22:04:23.07 ID:xKev8pgt
 

「みんな~かわいいかすみんの出番ですよ~!」

「も~!かすかすじゃなくてかすみんですぅ!」

「今日もいっぱいの応援、ありがと~!!」

「お疲れ様です~!っえぇ?彼方先輩もう寝てるんですかぁ!?」

「それでは明日、また部室で会いましょ~!」

「しず子~さっきはありがとね。かすみん帽子忘れて舞台に出ていくとこだったよ。あっ、電車来ちゃったから、また明日ね~!」

「ただいま~。もう今日はライブだったから疲れちゃった!ママお風呂沸いてる~?」

「今日は疲れたはずなのになかなか眠れないよ~。こういうときは脳がコーフンしているんだっけ?りな子が前にそんなようなことを言っていたようなきがする……ような?」

「ぐぬぬ……、画面越しに見ても藤黄学園のライブはレベルが高いです……うーん、かすみんもこういうライブがしたいのに……何が足りないんだろ……。あっ関連動画に東雲の先月のライブがUPされてる!早速見ないと!」

「かすみんだって、、、、、、みんなに負けない、、、、、、ライブを、、、、、、」

「zzz…」

4: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 22:17:35.66 ID:xKev8pgt
 

ピピピピピ……

枕もとの目覚まし時計が鳴り響く。

「もうちょっと……。」

目をつぶりながら適当に枕もとを何度か叩くと、音がストップ。

手の先が時計のボタンを押したのかな。



昨日はすぐに寝られず、動画共有サイトで他校のスクールアイドルの映像をだらだら見ていたんだよね。

そして気が付くとなんと朝!

夜更かしと寒い冬の朝の空気のせいで、全然布団が私を離してくれないよ~。

そろそろ準備をしないと学校に間に合わないのに……。

でももう少し、もう少しだけ……



「スマホどこ~?」

「あっ、画面ついたままだ……。」

昨日はスマホの画面を消す前に寝落ちしたみたい。全く覚えていないけど。



履歴には華々しいスクールアイドルたちのサムネがたくさん。

東雲のライブ映像を見た後にも動画が自動再生されちゃっていたのかな?

「そういえばスクールアイドルを知ってからもうすぐ1年かぁ……。」

画面に並んだたくさんのスクールアイドルを見ていると、昔の記憶が呼び起こされます。

それと同時に眠気に負けた重いまぶたが落ちてくる。

あ、まずい……と思った時には、もう私は夢の中でした。


6: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 22:27:43.60 ID:xKev8pgt
「はぁ~あ、自信ないなぁ……」

今日は虹ヶ咲学園の入学試験日。

試験科目は国数英の3教科の筆記試験と面接。

面接は自信があるんですけど、筆記テストは、、筆記テストは、、、はいぃ。

学校見学で後者に行った時には大きい校舎ですごいな~立派だな~って思ったけど、

いざ試験当日となるとその立派な校舎がなんだか威圧的に思えてきて、ちょっと怖かったり……。



虹ヶ咲の先生たちも、説明会の時にはニコニコしていたのに今日はなんだか険しい顔。

試験日だからしょうがないかもだけど、なんだか穏やかじゃない感じ。

そして試験問題も穏やかじゃないっ!

「私なんかにニジガクは難しすぎたのかなぁ……」

ついつい弱音がこぼれちゃう。



気が付けば電車はもうレインボーブリッジを走っています。

大きい橋だけど、電車の通り道は金網で囲われているので景色は可愛くない!

むしろ暗く後ろ向きな今の気持ちを表しているみたいで、目をそらしちゃう。

でも目線を下したところで特に見るものも無いから、ついつい今日の試験のことで頭がいっぱいに……。

「スマホは高校生からって、時代遅れすぎるよ~」

ついつい不満がこぼれちゃう。



「なにか面白いことないかなぁ~」

ふと目線を上げると、車内広告が目に入る。

週刊誌やビジネス本、虹ヶ咲学園の広告。その中に一際目立つピンク色の文字が……。

「ラブ…、ライブ……?」

聞きなじみのない単語に少し困惑。スクールアイドル。アキバドーム。一体何なんだろう……。

頭にたくさんのはてなマークを浮かべているうちに電車が乗り換えの駅に到着。

「わーっ! おりま~す!」

危ない危ない。危うく降りそびれるところでした。


7: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 22:38:59.51 ID:xKev8pgt
「スクールアイドル……だっけ?」

よくわからない広告のことなんて、いつもはすぐに忘れてしまう。

でも、なぜか今回はずっと引っかかっている。

「調べてみようかな……」

何もしていないと今日の試験のことで頭がいっぱいになる。

まぁ、もう終わったことだから今更いろいろ考えても結果は変わらないけど……。

――――少しでも気を紛らわせたら……

そんな目的も感じつつ、パソコンで今日の広告を調べてみる。



「スクールアイドル……学校でアイドル……えっ?普通の高校生が!? へ~……」

そこには今まで知らなかった、想像もしていなかったような、キラキラした世界。

思えばこの時から、私はスクールアイドルの虜になっていたのかも。

「私にも……できるのかな……?」

心に立ち込めていたブルーな気持ちは晴れ渡っていました!


9: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 22:50:06.31 ID:xKev8pgt
翌日。

虹ヶ咲学園の近くにある、大きなショッピングモールに来ています。

今日はここでスクールアイドルのライブがあるみたい。

ネットの告知を見て、気になって見に来ちゃった!

でも会場はどこなんだろう……?

しばらくたち物の中をさまよっていると、なにやら人だかりが……。

――「みんな~!今日は来てくれてありがとう~!」

――「今日は最後に新曲も披露するので、最後まで見ていってね~!」

もしかして!

「ちょっとすみませ~ん」

舞台を目指し、人をかき分け前へ前へ。

まだギリギリ中学生だし、身長も小さいからしょうがないよね?

そして、やっと見えた舞台の上にはインターネットで見たスクールアイドルの姿。

私の好きな黄色を基調としたアイドル衣装を身にまとった普通の女子高校生。

そんな彼女らを応援するたくさんのファン。

「これが……スクールアイドル……」

その姿は写真や動画で見るよりも何十倍も何百倍もキラキラで、輝いていて、可愛くて。

――「去年の大会でいいところまで行ったんだって~!」

――「あのセンターの子、1年生らしいよ!」

――「キャー!いま目が合っちゃった~!」



無意識のうちに、当時の私も、そんな熱いファンの興奮の渦に飲み込まれていました。


11: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 23:03:22.57 ID:xKev8pgt
よく“1時間が1秒に感じた”なんて表現を使う人がいる。

いままでそんな表現は行き過ぎた誇張だと思っていた。

でも、今日のライブを見てその表現が比喩でも例えでも何でもないんだなって……。



本当に、気が付いていた時にはライブは終わってて。

こんなに何かに熱中したのは初めてかも。

すごいライブを見たのに、すごい以外の言葉が出てこない。

きっと、今の感情を表現できる日本語なんて無いんじゃないかな。



でも、もう一つ分かってしまったんです。

こんなキラキラで可愛いは……私には無理だって……。

こんなの……あまりにも違いすぎるよ……。



私は小さいころから可愛い可愛いと言われながら育ってきて……。

クラスでもたいてい1番か2番目に可愛くて……。

そんな私をしたって友達が集まってきて……。

でも、きっとスクールアイドルはそれだけじゃだめ。

もっと何か違う、何かを持っている。それを今回のライブでまざまざと見せつけられた。

それでも、スクールアイドルのステージは本当に楽しかった。

きっと私には舞台の上に立つ側の人間じゃなくて、見る側の人間のほうが似合っているんだ。

今日はそれが分かっただけでも良かった……。


15: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 23:12:12.66 ID:xKev8pgt
――「お嬢ちゃん、どうしたのですか?」

「えっ……あのっ……。」

気が付くと、ずいぶん長い時間ステージの前で立ち尽くしていたみたい。

いつの間にか舞台は片づけられ、いつものショッピングモールに元通り。

「あの……、なんでもなくて……。」

ふと見上げるとこの近くの高校の制服。しかも頭には小さな花の髪飾り。

「えっ……もしかして……」

――「みんなに気が付かれちゃうから、『しー』ですよ!」

お姉さんは立てた人差し指と唇に添えながらウインク。

やっぱり……さっきのステージでセンターに立っていた人だ……。

――「お嬢ちゃん、名前なんて言うの?」

「中須……中須かすみです。」

――「かすみちゃんですか。可愛い名前でとても似合っています!」

「あの……お姉さんは×××●●さんですよね?」

――「良く知っていますね。是非気軽に●●とお呼びください。」

「そりゃもちろん……このステージを見たくてここまで来ていますから……。」

「えっと……●●さん、なんで私なんかに話しかけてくれたんですか?」

いきなり直球な質問。

――「それは、かすみちゃんが私たちのステージを見た後、悲しそうな顔でずっと立っていらしたからですよ。」


17: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 23:17:40.08 ID:xKev8pgt
その後、●●さんは私を喫茶店に誘ってくれた。なんか高校生って感じでかっこいい!



そこで私はさっき感じたことをすべてぶつけた。

つい昨日スクールアイドルを知ったこと。

初めてライブを見て感動したこと。

それと同時に自分が目指せるようなものではないと悟ったこと……。



●●さんは途中で口を挟むことなく、ただひたすらに相槌を打ちながら、一生懸命に私の話を聞いてくれた。

そして私が話し終わると●●さんは一言……

――「かすみちゃんは勘違いをしています。」

「えっ、勘違い?」

――「かすみちゃんは今の私を見てどう思いますか?」

都心の学校特有のちょっとおしゃれな制服。黒髪。スクールバッグ。

「うーん、普通?……あっ、いやそういう意味じゃなくてぇ……><」

●●さんはそんな私を見て嬉しそうに微笑んでいる。なんで!?

――「すばりその通りなのです。」

――「スクールアイドルは普通のアイドルとは違います。もちろんスクールアイドルからアイドルになる方も少なからずいらっしゃいますが、ほとんどのスクールアイドル普通の高校生です。でも他人には絶対に負けない『何か』を持っていると自負しています。」

「何か……?」

――「そう。なんでもいいんです。それがファンの方を引き付けるものであれば、可愛さでもかっこよさでも。」

――「かすみちゃんも他の人には絶対負けなくないような『何か』、持っているんじゃないでしょうか。」

「でも私なんかが……もっとかわいい子はいっぱいいますし……」

――「確かに世の中にはかわいい人がいっぱいいます。でも、『かすみちゃんの可愛い』は1つしかないはずです。そんな輝きを探してみませんか?」

――「私の勝手な意見ですが、かすみちゃんは舞台のこちら側へ来るべき人だと思います。きっと、多くの人を夢中にさせるスクールアイドルになれると思います。」

「なんで……なんでそんなに私の事を持ち上げてくれるんですか?本気にしちゃいますよ!?」

――「仲間は多いほうが楽しいですからね。」

「もーっ!ライバルが増えても知りませんからね!」

――「望むところですわ。仲間かつライバルですね!」



このように軽く口車に乗せられてしまった私は、無事(?) スクールアイドルを再び目指すことになるのでした。そう、入学式の日までは……。


20: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 23:23:50.03 ID:xKev8pgt
その後、家に1通の郵便が。

差出人は虹ヶ咲学園。どうやらなんとか合格できたみたい。やった~!

校舎も虹ヶ咲の特徴の1つですが、私が一番気になっているのは!そう!制服!

とにかく制服の自由度が高くてしかも可愛い!

気分はルンルン。採寸後すぐに制服が家に到着。あとは入学式を待つだけ!

春休みは宿題もないし、最高です!

本屋で買ったスクールアイドルの雑誌を読んだり、制服の着こなしをあーでもないこーでもないと色々考えたり。



「私らしい『かわいい』って何だろう……?」

毎日新しい雑誌を買っては紙に穴が開くほど読み込む。

「そのままの私のファンになってもらおうなんて甘いんだ……。」

「好きになってもらうためにはとびきりの可愛さが必要……」

「可愛くあるためには努力が必要……」

……

「はぁ~、も~わかんないよぉ~!!」

ふと机の上にいてある鏡に自分の顔が映る。疲れが出ている、ひどい顔。

「こんな顔、全然かわいくない……。」

「いつも可愛くいるって本当に大変なんだな~。」



毎日毎日、『可愛い』について考え続けました。それはもう、『可愛い』が嫌いになってしまうんじゃないかと思うくらいに。

この頃からですね、かすみんが『可愛い』に対して真剣に向き合うようになったのは。

そして、かすみんが自分の事を『かすみん』って呼び始めたのもちょうどこのころからだったと思います。


21: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 23:30:17.72 ID:xKev8pgt
とうとう待ちに待った入学式の日!!



勿論入学式が楽しみなわけじゃなくて、本命はその後の体験入部!

入学式の後の部活動紹介ではなぜだかスクールアイドルの出番はなかった。

「本番が重なって忙しかったのかな?」

大きなホールでの入学式のあと、自分のクラスの教室へ移動。

そして軽いHRのあと、急いで部室棟へ!

「さてさて、スクールアイドル部はどこにあるのでしょうか!?」

心が高鳴り、教室から部室棟までの道のりが異常に長く感じる。

入口の前を抜けて部室棟へ。

部室棟の入り口には大きな地図。たくさんの部と同好会の名前がずらり。

なんでもニジガクには100以上の部と同好会があるとか。本当に大きな学校です!

「さてさて、スクールアイドル部はどこにあるのでしょうか……」

「きっと大きな部でしょうから、大きな部屋のはず……」



おかしいです。何度探してもスクールアイドル活動をしていそうな部が!同好会が!ない!!

「そういえば、そもそもニジガクにスクールアイドルがいるか調べていなかった……」

これは失態。早速先週買ってもらったばかりのスマホで調べてみる。

「やっぱり……何も書いていない……」

「でも!もしかしたらわかりにくい名前なのかも!」

プラス思考!プラス思考!

何度も何度も地図とにらめっこ。でもそれらしい団体は見つからない!

「うーん、うーん」

――「どうしたのですか?」

「あなたは……」


22: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 23:35:42.22 ID:xKev8pgt
「あなたは……生徒会長!?」

――「あなたは……普通科1年の中須かすみさんですね。」

「えっ?なんで覚えているんですか!?」

――「生徒会長たるもの、当然です。」

――「何か困っているようですが、どこかの部をお探しですか?」

「えっと……スクールアイドルやっている部活ってありませんか?」

――「すっ!スクールアイドルですか!?」

「あっ……はい……。」

――「現時点でスクールアイドルの活動をしている部活動および同好会はありません。」

「えぇ……そんなぁ……。」

そんな……部活が無いならどうしたらいいの?

自分で部活を立ち上げる?1年生なのに?そんなことできるの?

あまりの事態に頭が大混乱。

――「でも、ちょうどよかったです。」

「へ?」

――「実は、この春、生徒会にスクールアイドル同好会結成の相談の打診がありました。」

――「しかし、彼女らは4人。対して同好会の成立条件は5人。あと1人足りないのです。」

――「そこでこんなポスターの掲示申請があったのです。せっかくなので、コピーを中須さんにも渡しておきますね。」

渡されたモノクロコピーには、『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の文字。

「あと一人ってことは……かすみんが入れば!」

――「そうですね、同好会として認められ、活動できるようになります。早速連絡してみてはいかがですか?」

「はい!ありがとうございます!」

紙には部長の学内メールアドレス。『優木せつ菜』さんって人らしい!とにかく連絡してみよう!

あれ?生徒会長……? でもまた会えるよね!


23: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/05(土) 23:40:31.59 ID:xKev8pgt
その後せつ菜先輩と連絡を取って、晴れて虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が成立したんだったっけ。

そこでしず子に会って、エマ先輩に会って、彼方先輩に会って……。

そのなかで「かすみんらしい可愛い」を毎日研究して。

まぁ、その後もたくさん問題が起こって、たくさんけんかして、廃部の危機もあったけど……というか1回廃部していた気も……?

でも!

でも、それを侑先輩と歩夢先輩が救ってくれて。

せつ菜先輩としず子たちが戻ってきてくれて。

その姿を見てりな子と愛先輩が仲間に加わって。

最後には果林先輩が合流して。

まさに十人十色の素晴らしいスクールアイドルグループです。

そしてその中でも飛び切り可愛いアイドルのかすみんが……

――「かすみー!いつまで寝てるのー!遅刻するよ!!」

「ん~、もう起きてるよ……。えっと……え~!?もうこんな時間!?!?!?」

一度目覚ましで起きたのに……なんでこんな時間?

全く記憶が無いよ……。

でも、なんだか懐かしい夢を見ていた気分。

「よーし、今日もファンのみんなに可愛いかすみんお届けしちゃうぞ~♪」

かすみんは起きたその時からスクールアイドル。

いつでもかわいいを実践です!

――――――――

――――

――

ふと、机の鏡が目に入る。

そこには大きな寝ぐせの付いた、普通の女の子。

「ははっ……私ったらひどい寝ぐせ。」

思わず声が漏れる。



これじゃあスクールアイドルなんてほど遠い、普通の女の子だ。

もしファンの子たちが今のかすみんを見たら、どう思うんだろう。

幻滅するかな……。がっかりするかな……。

でも、これが私の素顔。

紛れもない、どこにでもいる普通の女の子。

「本当の私はこんな素顔だけど……、それでも好きになってくれるかな?」



おわり


引用元: かすみ「私の素顔」