1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 10:22:55.90 ID:TD9+KMxWO
1998年
4月25日(土)
~病室~

早苗「そういえばホラー少年は親戚のお家がこっちなんだっけ?」

恒一「はい。母の実家がこちらで、転校先も母の通っていた中学なんです」

  「今回は病気の療養も兼ねて越してきたんですけどね、なのに早速やらかしちゃいました」ハハ…

早苗「こらこら、そんな自虐的じゃ治るものも治らないぞー。こっちにお友達とかもいたりするの?」

恒一「それが残念ながら1年半前に家の都合で訪れたぐらいなものだったので……あ」

早苗「ん? どうかした?」

恒一「いえ、その時にちょっと仲良くなった子がいたのを思い出して」

早苗「あ、もしかして……女の子でしょ?」フフ

恒一「決め付けないでくださいよ、そうですけど。というか何で笑うんですか」

早苗「いやいや、別に『見かけによらずプレイボーイだなー』なんて思ってないよ?」クスクス

恒一「もう、そんなんじゃないですって。ただ、お互いの境遇が似てたからちょっと意気投合しただけですよ」

  「……それに結局名前も聞かないままお別れしちゃいましたから、どう転んでも水野さん好みの浮ついた話にはならないですよ」

早苗「そっかー、ざんねん」

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 10:29:19.99 ID:TD9+KMxWO
――コンコン シツレイシマス ガチャリ…

風見「あの、こちらが榊原恒一さんの病室だと伺ったのですが……」

早苗「ええそうですよー。お見舞いかな?」

桜木「はい、彼が転校してくる夜見山北中学校の3年3組の者ですぅ」

早苗「そかそか、いらっしゃい。じゃあパイプ椅子がそっちにあるから適当に使ってね、ごゆっくりー」トテトテ

――バタン

風見「始めまして榊原くん、今日はクラスを代表してお見舞いにきました」

恒一「これはどうも……」

風見「僕はクラス委員長の風見といいます。こっちが女子の委員長で桜木さん、それでこっちが――」

赤沢「対策係の赤沢泉美、なん、だけど……」ポカーン

恒一「あれ、キミはもしかして……?」ジー

桜木「2人とも驚いた顔で見つめ合ってどうしたんですかぁ?」キョトン

赤沢「もしかしてあの時の男の子……?」

恒一「河原で僕に空き缶ぶつけた女の子……?」

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 10:35:31.31 ID:TD9+KMxWO
オープニングテーマ
『凶夢伝染』
歌:ALI PROJECT
作詞:宝野アリカ
作曲・編曲:片倉三起也
 

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 10:41:26.02 ID:TD9+KMxWO
恒一「うわあ、まさかまた会えるなんて思ってなかったから嬉しいよ!」

赤沢「……」

恒一「しかも同じクラスだなんてびっくりしちゃった」ハハ

赤沢「……ええ、私も驚いているわ」

桜木「え? え? お2人は知り合いなんですか?」

恒一「うん。たまたま1年半前に家の都合で夜見北に来てたときに、ちょっとね」

赤沢「まさかあの時の彼が転校してくるなんて今知ったけどね……どうして夜見北なんかに転校してきたのよ」キッ

恒一「え……もしかして僕何かしちゃったかな?」

赤沢「いえ再会できたのは素直にうれ……こほん、なんでもないわ。ただちょっとうちの中学には特別な事情があるのよ」

恒一「特別な事情?」

風見「赤沢さん、この際だから今日のうちにすべて話しておくのも手じゃないかな」

赤沢「……そうね、1年半前に会ってるんだし彼が死者ということもなさそうか」

恒一「ししゃ?」

赤沢「心して聞いてね。これから話すことは嘘でも冗談なんかでもない本当のことだから」

  「私たちの、そしてあなたがこれから通うことになるクラスには、ある“現象”とそれに伴う“災厄”が存在しているの――」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 10:48:27.14 ID:TD9+KMxWO
恒一「死者が紛れ込んだ教室?」

赤沢「ええ。26年前の無邪気な善意が生んでしまった、ある種の呪いね」

風見「死者が紛れ込むと、始業式の日から毎月1人以上クラス関係者が命を落としてしまうんだ」

  「始まりの年の一家焼死事件をなぞってか、市内にいる生徒と教師本人とその2親等以内が死の対象になる」

赤沢「死者が紛れ込むことは“現象”、それによって引き起こされる理不尽な死は“災厄”とそれぞれ呼ばれているわ」

  「そして“現象”が起きている年は〈ある年〉、何も問題のない年は〈ない年〉というの。死者はかつての“災厄”の犠牲者がなるそうよ」

桜木「それで〈ある年〉だと分かった場合に“災厄”の発生を未然に防ぐためのおまじないが〈いないもの〉対策なんですぅ」

恒一「……“現象”に“災厄”、ね。まるでホラー小説の話を聞いてるみたいだよ」

赤沢「こんな話を信じてるなんて、ちょっと馬鹿げてると思うでしょう?」

恒一「いや、そんなことは……」

赤沢「ううん仕方のないことだし気にしないで。今日来てる他の2人も正直なところ半信半疑だと思うしね」チラッ

  「でも私は違う、確信してる……1年半前に会ったとき、大切な人を失ったって言ったの覚えてる?」

恒一「うん、もちろん。それで共感を覚えたんだから」

赤沢「そう……その大切な人っていうのは私の家族でね、彼は当時3年3組の生徒だった」

  「私はすでに“災厄”で家族を奪われる理不尽を経験しているの。だから対策係に自ら立候補したのよ」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 10:54:22.13 ID:TD9+KMxWO
風見「赤沢さんが対策係になったのはそういう経緯があったのか」

桜木「全然知りませんでしたぁ……」ショボン

赤沢「良いのよ、私が話さなかっただけだから」

恒一「ねえ、1つ確かめてもいいかな。つまり1年半前……96年度は〈ある年〉だったということなんだね?」

赤沢「ええそうよ」

恒一「そっか……あの時赤沢さんにシンパシーを感じたのは、そういうことだったのかもしれないな」

赤沢「どういうこと?」

恒一「大切な人を亡くしたと言った赤沢さんに僕も同じだって言ったの、覚えてる?」

赤沢「ええ、もちろん」

恒一「僕の叔母さんはね、夜見北の教師をしていたんだ。それで死んだ96年度は……3年3組の担任をしていたって聞いた」

桜木「それって……!」

恒一「ああ、多分僕の叔母さんも“災厄”の犠牲者だったんだと思う」

  「赤沢さんの話、今度こそ全面的に信じるてみるよ。続きを聞かせてくれないかな」

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 10:59:19.87 ID:TD9+KMxWO
赤沢「そっか……喜ぶべきことじゃないけど、あの年の犠牲者が身内なら話は早いかもしれない」

  「“災厄”を未然に防ぐのが〈いないもの〉対策だって話、さっきしたわよね?」

恒一「うん、けどそれがどんな内容なのかはまだ聞いてないよ」

赤沢「そもそも“現象”というのは死者が1人増えることによって始まるでしょう?」

風見「ちなみに〈ある年〉かどうか分かるのは始業式の日で、用意されていた机より何故か生徒が1人多いことから発覚するんだ」

赤沢「1人増えてしまったことで“災厄”が起こる、ならその分1人減らして生徒数の辻褄を合わせれば……そういう発想のおまじないなの」

恒一「なるほど、原理は分かったよ。けど具体的に1人減らすっていうのはどうやって?」

桜木「そこで〈いないもの〉を作るんですぅ」

赤沢「“現象”のきっかけとなった26年前は、夜見山岬という死んだ生徒を〈いるもの〉として扱ったことから始まった」

  「その逆だから、生きている生徒を死んだもの、そこに存在しない〈いないもの〉として扱えば良いっていう理屈よ」

恒一「つまり簡単に言うと、クラス全体で1人の生徒を無視するってこと?」

風見「イジメみたいで気はのらないけどね……これは担任の先生なんかも協力してくれてることだよ」

赤沢「ちなみに〈いないもの〉は拒否することも途中でやめることも一応は許されているわ」

  「でもね、途中で放棄した年は、その月から“災厄”が起こり次々に犠牲者が出てしまっているの」

  「それが私たちの家族が死んだ96年度の出来事よ……だから私は今年こそは〈いないもの〉対策をやり遂げるつもり、何としてでもね」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 11:07:38.77 ID:TD9+KMxWO
赤沢「ちなみに今年は見崎鳴という女生徒がこの役だから。いつも左目に眼帯してるからすぐに分かるはずよ」

恒一「ちょ、ちょっと待って。〈いないもの〉の名前出して良かったの?」

桜木「あ、はい。見崎さんは5月から〈いないもの〉なんでまだ大丈夫なんですよぉ」

恒一「んー……どういうことかさっぱりなんだけど、〈いないもの〉を作るってことは今年は〈ある年〉なんだよね?」

赤沢「ええ。“災厄”による犠牲者が出るまではグレーだけど、その可能性は少なくないと思ってる」

恒一「でも〈ある年〉かどうかの判別って始業式の時点で行われるんだよね、〈いないもの〉も4月から作られるものじゃないの?」

赤沢「それは……今年は始業式の時点では机と生徒の数はぴったり一致していて〈ない年〉だと思われていたの」

  「けれどあなたの転校によって生徒が1人増え、机が1つ足りなくなってしまった」

  「今年度は途中から〈ある年〉に変わった可能性があるのよ、だから〈いないもの〉対策もあなたの転校に合わせてスタートするの」

恒一「そっか、僕の転校のせいで……」

赤沢「あなたが気に病む必要はないわ。転校なんて家の事情だし、何よりこれはわざわざ3組に入れた学校側の落ち度なんだから」

恒一「……うん、ありがとう。赤沢さんは優しいな」

赤沢「べ、べつに、事実を言っただけよ」モジモジ

  「まあこんなクラスで大変だとは思うけどこれから1年間よろしくね、榊ば……ううん、恒一くん」

  「退院したら再会の記念も兼ねて美味しい珈琲をご馳走するわ。イノヤのハワイコナエクストラファンシーは本物なんだから」ニコ

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 11:13:53.05 ID:TD9+KMxWO
5月27日(月)
~夜、院内エレベーター~

――ガコン…ウィイイイイン……

見崎「……」

恒一「あ、すみません人がいるの気がつかなくっ……て、あれ?」ジー

見崎「……なに」

恒一「キミ、三神怜子って人の葬式に来てなかった?」

見崎「……部活の顧問だったから行った、けど」

恒一「やっぱりそうか、見たことあると思ったんだ」ウンウン

  「確か事件の通報をしてくれた子ってキミだよね。お礼が遅れてごめん、ありがとう」

  「僕は怜子さんの甥で榊原恒一っていうんだ、キミの名前は?」

見崎「さかき、ばら?」ピクッ

恒一「あー……やっぱり印象良くないよねこの苗字は」ハハ…

見崎「そう、あなたが榊原恒一……あなたさえ……」

恒一「え?」

見崎「あなたさえ来なければ妹はっ! 未咲は……っ!!」キッ

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 11:20:22.02 ID:TD9+KMxWO
――ガコン チーン

恒一「えっと……」

見崎「……ごめんなさい、今のことは忘れて」

恒一「いや、別に構わないけど……だいじょうぶ?」

見崎「ええ……それじゃあ」トテトテ

恒一「……」

見崎「ああ、それと」ピタリ

恒一「え、なに?」

見崎「……見崎、鳴」

恒一「え?」

見崎「名前、聞かれたから……じゃあね」フラリ

恒一「……あ、そっちは――」

  (霊安室の方へ向かって行っちゃった…なんだったんだろう、あの子は)

  (というか見崎鳴って、もしかして彼女が〈いないもの〉に指名された女生徒?)

  (対策係に〈いないもの〉か……1年半ぶりに再会した子はみんな変な肩書きがついちゃってるな)

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 11:26:28.38 ID:TD9+KMxWO
~深夜、病室~

――カチコチカチコチカチコチ…

恒一「はぁ……寝付けないや」ゴロン

  「見崎鳴、か……」

  「彼女が赤沢さんの言ってた見崎鳴その人なら、僕の名前に反応したのも頷ける」

  「3年3組の生徒ならすでに転校生の名前を知っていてもおかしくないからね」

  「僕の転校さえなければ〈いないもの〉なんていうモノにされずに済んだ。その怒りで詰め寄った……?」

  「……いや、違う」

――あなたさえ来なければ妹はっ! 未咲は……っ!!

恒一「ミサキというのが彼女自身を指している可能性もなくはないけど、恐らくその前に口走った『妹は』って口走っていた」

  「つまり彼女は自分のためじゃなく、妹を想って僕へ怒りを向けていたんじゃないかな」

  「そしてその後に彼女が向かった先は……」

  「……」

  「ちょっと確かめる必要がありそう、かな」

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 11:34:10.76 ID:TD9+KMxWO
4月28日(火)
~病室~

恒一「ねえ水野さん、ちょっと変な質問なんですけど」

水野「ん、なにかな? もしかしてえっちな質問?」フフ

恒一「昨日亡くなった患者さんって水野さん知っていますか? たぶん女の子だと思うんですけど」

水野「む、スルーは傷ついちゃうぞ。それにしてもほんと変わった質問だね、何かあったの?」

恒一「あったのかどうか、それを知りたいなと思いまして」

水野「ふむ、何か事情があるみたいねー。私の担当してる患者さんにはいなかったよ」

恒一「そうですか……」

水野「あ、でも若い患者さんが亡くなったって話は聞いたかな、確か女の子だったと思う」

恒一「えっと、その人の名前とかって調べてもらえたりは……」

水野「んー……それとなく聞くくらいなら大丈夫。けど他の患者さんや先生にはナイショよ?」

恒一「もちろんですよ」

水野「た、だ、し」ビシッ

恒一「な、なんでしょう?」

水野「こんなこと聞くなんて何かワケアリなんでしょ? だからそのワケを教えてくれたらってことで」フフ

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 11:39:14.13 ID:TD9+KMxWO
水野「呪われた3年3組、か……ふむ、これで名実ともに本当のホラー少年になっちゃったわけだね」

恒一「笑い事じゃないですよ、昨日亡くなってた子がクラスの関係者だったら“災厄”が始まってるわけですから」

水野「う……そうだよね、恒一くんのご親戚も亡くなってるんだし不謹慎だった、ごめんね」シュン

恒一「いえ、そこは気にしてないですし構いませんよ」

水野「ん、ありがと」

恒一「こういった話は水野さんの得意分野だと思うんですけど、何か解決策とかないですか?」

水野「ホラー小説は好きだけどただの趣味だしねー、うーむ……ちょっと気になる点はあるかな」

恒一「え、なんです?」

水野「これは今年がその〈ある年〉ってやつで“災厄”が始まってると仮定しての話なんだけどね」

恒一「はい、昨日の患者さんが最初の犠牲者だったという場合ですね」

水野「その場合、もう死者が3年3組に紛れてるってことになるでしょ?」

恒一「“災厄”は死者がクラスに1人増えることから始まるから……はい、必然的にそうなりますね」

水野「けどまだキミは転校出来てない」ビシッ

恒一「はい、気胸で転校予定日が延びちゃいましたから」

水野「つまりクラスの人数はまだ増えてないわけよ、なのに“災厄”は始まってる……これってちょっと変じゃない?」

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 11:46:17.41 ID:TD9+KMxWO
水野「もともと5月からその対策を始めることにしたのは、恒一くんの転校で人数が増えちゃうからでしょ?」

恒一「そっか……だったら僕が転校してくるまで人数は増えない、つまり4月中は絶対に安全なはず?」

水野「そゆこと。ただしこれは実際に転校してきた日を基準に考えた場合だけどね」

恒一「実際に転校してきた日?」

水野「だってもともと4月中に転校を済ませてたはずでしょ? 登校できてないだけでもう書類上は3年3組の生徒なんじゃないかな」

恒一「確かに……はい、本来なら4月20日に転校を済ませている予定でした」

水野「だったらその〈いないもの〉対策っていうのは、その20日から始めるべきだったのかも」

恒一「言われて見れば確かに水野さんの言うとおりですね……対策が間に合ってなかったのか」ウーム

水野「ただねー、この考え方だとその紛れ込んだ死者っていうのがねー……」

恒一「え、もしかして死者が誰かまで分かっちゃったんですか?」

水野「……恒一くん」

恒一「なんですか水野さん」

水野「いや、だからね、恒一くんなの」

恒一「え?」

水野「4月20日から死者が増えたっていう考え方だと、死者は恒一くんしかありえないのよ」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 11:52:07.05 ID:TD9+KMxWO
水野「記憶や記録が改竄されて誰が死者か分からないのよね? 死者本人さえも」

恒一「え、ええ」

水野「でも教室の机だけはその改竄の例外で勝手に増えたりしないから、何故か1席足りなくなって1人増えてることが分かる、と」

恒一「はい、そういう話だったと思います」

水野「この机は勝手に増えたりしない、っていうのがミソなのよ」

恒一「どういうことですか……?」

水野「だって恒一くんが転校してくる段階でやっと『あ、転校生の分の机が足りない』ってなったわけでしょ?」

  「つまり始業式からずっとクラスの机はぴったり足りてたわけだよね」

恒一「はあ、そうなります……けど」

水野「もし恒一くん以外の誰かが死者だったとしましょう、たとえば例の見崎鳴ちゃんとかね」

  「今までクラスにいなかった鳴ちゃんが、恒一くんの転校に乗じて20日からそれまで一緒に過ごしてたクラスメイトとして紛れ込みます」

  「この場合、足りない机はいくつでしょう? ヒントは死者の分の机は勝手に増えない、です」

恒一「……あ」

水野「そゆこと。もし他のクラスメイトが死者だった場合、その子の分の机も足りなくなるはず」

  「だから足りない机は恒一くんのと合わせて2つ必要にならなきゃおかしいの」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 11:58:15.70 ID:TD9+KMxWO
恒一「まさか……僕が死者?」

水野「残念だけど……恒一くん、あなたはもう……」

恒一「そ、そんな……」

水野「……」

恒一「けど死んだ覚えなんて……」

水野「……」フルフル

恒一「ああそうか、死者には自覚がないんだったか……」

水野「……」プルプル

恒一「僕はいったい、どうしたら……」

水野「……」プルプルプル

恒一「……水野さん?」

水野「…………なーんてね!」クスクス

恒一「え?」

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 12:04:37.76 ID:TD9+KMxWO
水野「いやー、恒一くんったら本気にしちゃって可愛いなあ」クスクス

恒一「もしかして……冗談だったんですか?」ムッ

水野「ホラー少年の洞察力が足りないのが悪い」ビシッ

  「ほら、死者の条件に『かつての“災厄”犠牲者』ってのがあったでしょ?」

恒一「けど怜子さんが96年度の担任でしたし、その時にもしかしたら巻き込まれてて、とか……」

水野「“災厄”の対象はクラス関係者とその2親等以内で夜見山にいる者、なんでしょ?」

  「甥と叔母は3親等、しかも恒一くんは東京に住んでたんだし“災厄”の対象外だよ」

  「もう、ちゃんと考えれば自分が死者なんかじゃないってわかったはずなのになあ」

  「ホラー少年もまだまだだね」ツンツン

恒一「む……」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 12:10:41.67 ID:TD9+KMxWO
恒一「でもそれだと、死者はいないって結論になっちゃいません?」

水野「まあそれが一番だよね。今年はやっぱり〈ない年〉だったっていうオチ」

恒一「うーん、赤沢さんたちの早とちりなのかなあ」

水野「けどもし見崎さんの妹さんが亡くなってるなら、今の段階でそう決め付けるのはちょっと怖いよね」

恒一「どこかに穴があるんでしょうか?」

水野「あり得るとしたら……何らかの理由で座席は最初から余分に用意されていて、そのせいで1人増えたことに気付けなかった、とか」

恒一「僕の転校は春休み中に夜見北に打診してますし、2週間かそこらでやってくる生徒だからって先生が事前に用意してた可能性もなくはないですけど……」

水野「でも担任の先生が自ら用意したとしたら、始業式の日に席の余りがなくなってることに気付かないのはおかしな話よね」

恒一「つまり担任以外の何者かが勝手に机を1つ増やした? けど何のために……」ウーン

水野「まあ今度こそは名推理を期待してるよ、ホラー少年」フフ

  「じゃあ私は一応昨日亡くなった患者さんについて調べてみるね」

恒一「はい、よろしくお願いします」

水野「りょーかい、それじゃまたねー」フリフリ

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 12:20:32.14 ID:TD9+KMxWO
4月29日(水)
~病室~

水野「お待たせ、やっぱり27日に若い女性の患者さんが亡くなってたよ」

恒一「それで名前は……?」ゴクリ

水野「それがねー……藤岡未咲さん、だってさ」

恒一「え? 苗字は見崎じゃないんですか?」

水野「違うの、藤岡。しかも1人っ子だったみたいでご両親がすごく取り乱してたそうよ」

恒一「1人っ子ですか……ということは、見崎鳴の妹じゃなかった……?」

水野「そういうことになるのかな。けど恒一くんは妹って言葉を聞いたんだよね?」

恒一「はい、確かに『あなたさえ来なければ妹は、未咲は』って」

水野「名前は合ってるのね。27日に彼女が訪れた霊安室にいたのは藤岡未咲さんで間違いないわけか」フム

恒一「となると僕に詰め寄った理由ですね……“災厄”の対象は2親等以内なので、彼女たちは実は姉妹って考えるのが妥当なんですけど」

水野「兄弟姉妹なのに苗字が違う、って仮定すると……養子とかかなー」

恒一「養子、ですか?」

水野「東京ではどうか分からないけど、田舎では跡取りのいない家が子供をもらうってそれなりに良くある話なのよ」

恒一「ああそういえば確かにスティーヴン・キングの兄も不妊症が原因で引き取った養子でしたね、なるほど」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 12:27:25.02 ID:TD9+KMxWO
水野「けどここから先は私には調べることは出来ないかな、力になれなくってごめんね」

恒一「いえいえもう十分助けてもらいましたよ、ありがとうございます」

水野「よし、ではこれ以降の真相究明はホラー少年に任せた! ……なーんておどけつつも、実はちょっと不安なのよね」ハァ

恒一「何かあったんですか?」

水野「それが昨日家に帰ってから知ったんだけど、うちの下の弟も夜見北の3年3組の生徒なのよ」

恒一「じゃあ水野さんの弟さんが僕のクラスメイトになるわけですか?」

水野「そゆこと。猛っていうの、体力バカなやつだけど仲良くしてやってね」

  「まあそれで昨晩弟を問い詰めてみたら、アイツまでなんだか“現象”のこと信じてるみたいなのよね」

  「そんな風にいざ身近な存在に感じちゃうとなんか急に怖くなってきちゃって……」

  「我ながら情けない話だけど、今まで他人事だったからこそ気楽に助言なんて出来てた部分もあったんだろうなー……」

恒一「情けなくなんかないですよ、僕だって我が身に降りかからなければこんな話信じてたか怪しいですし」

  「水野さんと弟さんの命も預かったつもりで“現象”について取り組んでみます、安心して待っていてください」

水野「うん、ありがとう。私が力になれることがあったらいつでも相談してね」

恒一「ええ、その時はぜひお願いします」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 12:33:27.66 ID:TD9+KMxWO
5月7日(木)
~教室、朝のHR~

久保寺「転校生の榊原恒一くんです。3組の新しい仲間として仲良くやっていきましょう」

恒一「父の仕事の関係でやってきました。えっと……どうぞよろしく」

久保寺「では榊原くんはあそこの席に座ってください」

恒一「あ、はい」スタスタ チラッ

見崎「……」

恒一(やっぱりあの子も同じクラス、か)ストン

  (ボロボロの机に隅っこの席……赤沢さんの言ってた通り今月から〈いないもの〉をやってるみたいだ)

  (けど妹さんが亡くなっているならそんな対策は無意味だって彼女自身分かっているはず)

  (どうして甘んじてこんな辛い役割を引き受けているんだろう?)

  (赤沢さんに相談したいところだけど……今日は休みか)

  (勝手な行動は控えて赤沢さんが登校してくるのを待つべきなのかな……いや、違う)

  (万が一“災厄”が始まっていた場合、新たな犠牲者がいつ出るとも限らないんだ)

  (ここは“災厄”が始まってしまっているものと考えて、早急にそれを止める方法を調べなくっちゃ)

  (ただし手持ちの情報だけじゃ手詰まりだ、ここは新たな情報を誰かから――)

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 12:40:57.61 ID:TD9+KMxWO
~HR後、休み時間~

王子「お父さんが大学の教授で外国に研究へ行ってるんだってね、久保寺先生から聞いたよ」

恒一「そんなことも知ってるのかあ。じゃあもしかして、前の中学のことも何か?」

桜木「いいえ、それくらいしか聞いてないですよぉ」

勅使河原「にしても久保寺みたいな冴えないおっさんより、美人の先生が担任だったら良かったのになー」

望月「うんうん」

勅使河原「美人でキリッとした感じのさー」

望月「あ、でもプライベートでは気さくで人懐っこい年上女性ってのも捨てがたいよ、できれば年齢は20代でストッキングの似合って弟思いだったりする大人の女性とか良いよね」

勅使河原「お、おう……」

恒一「20代の気さくなお姉さんか……水野さんが教師だったら理想どおりだったかもね」ハハ

望月「水野さん?」ピクッ

恒一「僕の担当だった看護婦さんなんだけど、このクラスに猛くんって男子いるよね、彼のお姉さんで――」

望月「ねーねー水野くぅーん!」トテトテ

綾野「あはは……もっちーは今日も平常運転だねー」

恒一「ところでみんなにちょっと質問があるんだけど、いいかな?」

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 12:47:25.73 ID:TD9+KMxWO
綾野「うん、なになにー? 由美のバストサイズ以外なら答えちゃうよー」

小椋「ぶっ飛ばすよ」

恒一「たぶんAかな。千曳さんって人にはどうやったら会える?」

小椋「ぶっ飛ばす」

勅使河原「転校生があの人のことよく知ってんなー。ちなみにオレはAAだとげふぅ!?」

小椋「ぶっ飛ばした」フン

王子「あの人ならいつも第2図書室にこもっているよ、司書だからね」

恒一「そうなんだ、ありがとう。ところで赤沢さんは今日休みなんだね、風邪かな?」

中尾「心配だよな……オレも今朝から何度も電話してるんだけど繋がらないし、もし何かあったらと思うと……」

小椋「ちょっと中尾、あんま縁起でもないこと言うとぶっ飛ばすよ」

恒一「まあまあ、あの人は殺しても死なないようなタイプだし大丈夫だよ」

中尾「お前に赤沢さんの何が分かるんだよ、ちなみにオレは血液型から家族構成まで知ってるぞ」

恒一「彼女の好きなコーヒー豆の種類とか?」

中尾「教えてください」

綾野「中尾っちよわー……」

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 12:52:17.94 ID:TD9+KMxWO
~昼休み、第2図書室~

――コンコン ガララ

恒一「失礼します」

千曳「やあいらっしゃい」

恒一「えっと……あなたが千曳さんですか?」

千曳「うむ、そうだが私に何か用かい?」

恒一「僕は3年3組に転入してきた榊原恒一と言います。今日は3年3組のことについてお話を伺いたくてきました」

千曳「なるほど、キミがあのクラスの……私が“現象”について詳しいというのは対策係から聞いたのかい?」

恒一「ええ、赤沢さんから聞きました。早速なんですけど、いくつか質問しても構いませんか?」

千曳「ああ構わないよ」

恒一「まず1つ目ですが……僕が3組になったのにはなにか特別な意図があったんですか?」

千曳「いや、単なる校長の無理解によるものだ。彼は今年赴任してきたばかりで、“現象”や“災厄”など馬鹿馬鹿しいとお考えのようでね……」

  「事情を知る教員たちはキミを別のクラスへ転入させるよう散々に意見したんだが、それが彼を余計に頑なにさせてしまったようだ」

  「力及ばず済まない……今はただ“災厄”が始まってしまわないことを祈るばかりだよ」

恒一(学校側も今年の“災厄”は始まってないものとして認識してるのか……これは本人に確認する以外ないかも)ウーム

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 12:58:18.83 ID:TD9+KMxWO
恒一「では千曳さんは始まりの年の担任だったそうですが、集合写真に夜見山岬が写り込んでいたというのは本当なんですか?」

千曳「ああ、確かに写りこんでいたよ。よくある心霊写真なんかと違って、はっきりとした存在感を伴ってね」

恒一「もしよろしければこの目で確かめてみたいのですが」

千曳「それなんだが……すまない」

恒一「どうしてですか?」

千曳「いや、あまりの禍々しさに手元に置いておくのが憚られてね……その、処分してしまったんだ」

恒一「そう、ですか……」

千曳「こんな“現象”や“災厄”が起こると分かっていたら残しておいたんだが……」

恒一(何か写真から手がかりがつかめると思ったけど、ないものは仕方ないか)

恒一「では万が一ですが“災厄”が始まってしまった場合、それを止める方法はないのでしょうか?」

千曳「26年間見守り続けてきたが、私が知りうる限り残念ながらその手段は見つかっていないよ」

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 13:05:17.82 ID:TD9+KMxWO
千曳「ただ……そうだね、手段は判明していないのだが“災厄”が止まった年が1度だけある」

  「こちらを見てくれるかな、始まりの年からの26年度分のクラス名簿をコピーしたものだ」ズッシリ

恒一「これは……犠牲者とその死因についても書かれているんですね」ペラ…ペラ…

  「あ、一昨年の名簿に赤沢和馬って名前が……彼が赤沢さんの亡くなった家族でしょうか?」

千曳「ああ、和馬くんは彼女の従兄だよ。あの年は〈いないもの〉対策が途中まで成功していたんだが……」

  「いや、今更そんなことを言っても仕方のないことだ。ひとまず83年度のページを見て欲しい」

恒一「83年度ですね、えっと……ありまし、た!?」

千曳「どうかしたかね?」

恒一「三神、怜子……これ、僕の叔母さんの名前です」

千曳「そうか、キミは三神先生の甥だったのか……一昨年のことは、残念だったね」

恒一「あ、いえそれは良いんです。赤沢さんから“災厄”の話を聞いたときに怜子さんの死の原因は知りましたから。ただ……」

千曳「他に何かあるのかい?」

恒一「この83年度というのは僕の母・理津子が死んだ年でもあるんです。この名簿の犠牲者欄に名前は載っていませんが、母ももしかしたら……」

千曳「理津子くんだって!?」ガタッ

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 13:12:19.67 ID:TD9+KMxWO
恒一「え、母を知ってるんですか?」

千曳「……一番最初のページ、始まりの年の名簿を見てごらん」

恒一「!」

千曳「そう、理津子くんは72年度の生徒であり夜見山岬くんの同級生だったんだ」

恒一「母さんが始まりの生徒だったなんて……」

千曳「さて、話を戻そうか。83年度の名簿なのだが、注目してもらいたいのは備考欄の死因とその日付だ」

恒一「はい。えっとこれは……8月で“災厄”が止まっているように見えますね」

千曳「そう、正確には8月9日の犠牲者が最後となっている。そしてその年には8月8日から10日までクラス合宿が行れているんだ」

恒一「合宿、ですか?」

千曳「〈いないもの〉対策が考案されるまで、生徒と教師は一丸となって“災厄”から逃れられないものかと試行錯誤してきた」

  「お祓いなどオカルト的なことから、3年3組そのものをなくすという物理的な試みまで様々行われてきた。どれも効果はなかったがね」

  「そして83年度は、夜見山神社というこの地に古くからある神社へお参りしクラスの安全を祈願しようとしたというわけだ」

恒一「実際に“災厄”が止まっているということは、そのお参りが効果を発揮したということではないんですか?」

千曳「それが後の年に同じようにお参りが試されたんだが効果がなくてね。何か条件を揃えてお参りしないと意味がないのかもしれない、あるいは……」

恒一「合宿中に行われた別のことが災厄を止めたのか、ですね……なるほど。大変参考になりました、今日のところは失礼します」ペコリ

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 13:17:19.38 ID:TD9+KMxWO
~帰りのHR後、下駄箱~

勅使河原「おーいサカキー!」

恒一「うん? どうしたの?」

勅使河原「せっかくだし一緒に帰ろうぜ!」

恒一「残念だけど今日はお婆ちゃんが車で迎えに来てくれてるんだ、ごめんよ勅使河原」

勅使河原「ガガーン!」

風見「いや、そもそもキミは帰る方向が違うだろう」クイッ

勅使河原「そういやそうだったか、んじゃまた明日なー」バイバイ

風見「それじゃあ榊原くん、また明日」クイッ

恒一「2人ともまたねー」

  「さて、僕も帰ろうかな……ってあれは……」

  「んー……よし」

――ピポパ プルルルル…

恒一「あ、もしもしお婆ちゃん? 今日の迎えなんだけど――」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 13:24:52.33 ID:TD9+KMxWO
~帰路~

――ザザァアアア…バラバラ…

恒一「それにしても3組はみんな優しくて親切な人たちで良かった、名前でからかうような人もいないし」テクテク

  「……けどあの中に死者が紛れ込んでるかもしれないんだよね、なんとも複雑な気分だよ」テクテク

  「誰が死者なのか気になるところだけど、今はそんなことより“災厄”を止める新しい手段を探さなきゃかな」テクテク

  「だってもう“災厄”は始まってしまっているかもしれないんだから、〈いないもの〉対策なんてまったくの無意味かもしれないしね」テクテク

  「ただ未咲さんが今年最初の犠牲者だったとして、どうして未だに〈いないもの〉対策が行われているんだろう」テクテク

  「対策係はもとより学校の人間である千曳さんも彼女の死を知らない、あるいは“災厄”の犠牲者として認識していないのはなんでだろう?」テクテク

  「何か理由があって〈いないもの〉を引き受けてるのかもしれないけど、“災厄”が始まっている可能性を訴える必要はあるんじゃないのかな」テクテク

  「身内の死を口に出すのは辛いかもしれないけど……僕の母さんと叔母さんも、赤沢さんの従兄のお兄さんも“災厄”で殺されてるんだ」テクテク

  「だからこれ以上はもう不幸な犠牲者を増やしたくないし、そのための努力は惜しまないつもりだよ」テクテク

  「……まあ全部独り言なんだけどね……って、ん?」テクテ…ピタ

  「へぇ、雰囲気のあるお店だなあ。『夜見のたそがれの、うつろなる蒼き瞳の』、っていうのか」

見崎「……」

  「……わたしも、これは独り言だけど」ポツリ

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 13:30:15.30 ID:TD9+KMxWO
~夜見のたそがれの、うつろなる蒼き瞳の前~

――ザァアアア…シトシト…

見崎「まずは傘、帰り道に入れてくれてありがとう」

恒一「……」ポリポリ

見崎「これから続けるのも独り言だけど……」

  「先生たちが未咲の死を“災厄”と結び付けないのは、彼女とわたしが戸籍上は従姉妹だから」

  「けど血縁上は血を分けた双子の姉妹、わたしは見崎家に引き取られた養子なの」

恒一「……」

見崎「今まで言い出せなかったのは……わたしに現実を直視する勇気がなかったから」

  「この眼帯と同じ。見たくないものは見ないようにしてしまう、心の弱さのせい」

  「妹が“災厄”なんて出来の悪い冗談みたいなもののせいで死んだなんて認めたくなかった」

  「しかもわたしが3組になったことが原因だなんて、絶対に信じたくなかった」

  「だから、きっと未咲が死んだのは偶然で、わたしが〈いないもの〉として完璧に振る舞えば“災厄”なんて起きることはないはず」

  「そして5月中に“災厄”が起こらなければ、それこそが未咲がわたしのせいで死んだんじゃないって証拠になるんじゃないか――」

  「……そう、思っていたの。思い込むことで現実から眼を背け続けていたの」

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 13:37:39.52 ID:TD9+KMxWO
見崎「でも……このままだともっと犠牲者を、わたしたちの家族のような可哀想な人を増やしてしまうことになるんだよね」フゥ…

  「もう逃げるのは終わりにする。明日には赤沢さんに本当のことを話すことにするわ」

恒一「そっか。だったら〈いないもの〉を続ける必要はもうないよね、改めてよろしく見崎」ニコッ

見崎「……今までクラスを騙してきたこと、怒らないの? 怒らないまでも、呆れたりとか……」

恒一「一番辛いのは妹さんを失った見崎だと思うんだ。それなのに話してくれてありがとう」

  「それにまだ5月はまだ始まったばかりだし、今からでもきっと間に合うはずだ。謝る必要なんてどこにもないよ」

見崎「そう……まだ、これから…」

恒一「うん、僕からも赤沢さんを説得するから一緒に頑張ろう」

見崎「けどみんなの前で〈いないもの〉を急に辞めたりしてパニックにならない?」

恒一「じゃあ明日の朝、登校してきた赤沢さんを捕まえてこっそり3人で話すことにしようよ」

見崎「……うん、それが良さそうかな」コクリ

恒一「それじゃあ明日の朝、学校の中庭のベンチで待っててよ。僕が赤沢さんを引っ張っていくから」

見崎「わかった、お願い」

恒一「それじゃあまた明日ね」バイバイ

見崎「うん、また明日」フリフリ

57: >>53おk 2012/08/25(土) 13:42:23.04 ID:TD9+KMxWO
5月8日(金)
~翌朝、昇降口~

恒一「おはよう赤沢さん、待ってたよ」

赤沢「待ってたって私を? 教室で待ってれば良かったのに」

恒一「人目に付く場所だとちょっと困るんだ」

赤沢「えっ」ドキッ

恒一「だからこれから中庭まで来て欲しいんだけど、良いかな?」

赤沢「え、ええ構わないわよ、それじゃあ早速――」

中尾「あ、赤沢さん!」

赤沢「」チッ

中尾「おはよう、体調良くなったんだね良かったよ」ハハ…

恒一「中尾くんおはよう。昨日はすごく心配してたもんね、中尾くんの気持ちが通じたんじゃないかな」

中尾「電話は通じなかったけどな、それで何かあったんじゃないかって気が気じゃなくってさ――」

赤沢「それただの着信拒否だから」

中尾「うわあああああああああああん!!!!」ダッ

赤沢「よし、邪魔者は消えたことだし早く中庭に行きましょう」

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 13:47:57.60 ID:TD9+KMxWO
~中庭、ベンチ~

見崎「……」チョコン

赤沢「……これは一体どういうことよ」キッ

恒一「“災厄”と対策について対策係である赤沢さんに話があるんだ。さあ、見崎」

赤沢「ちょっと! 〈いないもの〉の相手は――」

見崎「“災厄”はもう、始まってるかもしれない」

赤沢「!」ピクッ

見崎「今まで黙っていてごめんなさい……わたしの妹は4月27日に病死しているの」

赤沢「そんなはず……! 先生も千曳さんも今年度の犠牲者はまだいないって……!」

見崎「戸籍上は従姉妹だから2親等外だとして見過ごされたんだと思う。わたしは見崎家の養子なの」

赤沢「……じゃあ見崎さんも……私と同じ、だったの?」

恒一「そうだよ赤沢さん、見崎も僕らと同じ“現象”の被害者なんだ。“災厄”のせいで家族を奪われた者同士、助け合えないかな」

  「もう犠牲者が出てしまっている今、予防策である〈いないもの〉対策は無意味なんだ」

  「だからと言ってこのまま手をこまねいているなんてことも僕はしたくない」

  「ねえ、新しい対策を一緒になって考えてみようよ。見崎も含めたクラス全体で」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 13:53:43.53 ID:TD9+KMxWO
赤沢「……話は分かったわ」

恒一「じゃあ――」

赤沢「でも、見崎さんの〈いないもの〉解除は認めるわけにはいかない」

恒一「そんな、どうして!」

赤沢「衝撃が強すぎるのよ……あなたたちはいつ死ぬとも分からない状況にあります、なんてクラスのみんなに告げられる?」

  「解決策も見出せていない今の状態で真実を告げても、悪戯にクラスに動揺を走らせるだけよ」

恒一「それは……でも、見崎をこのままずっと〈いないもの〉でいさせるなんて……」

見崎「ううん、榊原くんいいの。これは今まで黙っていたわたしの責任だから」

恒一「だけど……!」

赤沢「あー、あのね2人とも。盛り上がってるところ悪いけど、今はまだ続けてもらうしかないってだけよ」

見崎「?」キョトン

赤沢「確かに別の案もない今は我慢してもらうしかないけど、だったら他の解決策を早く見つければ良いだけの話でしょ」

  「それにあくまでポーズだけだから、すでに真実を知って受け止めている私と恒一くんの前でまで〈いないもの〉である必要はないわ」

恒一「それじゃあ――!」

赤沢「ええ、今日から3人で新しい対策を考えていきましょう。新しい犠牲者が出る前に、この“災厄”を止めてみせるわよ」キリッ

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 13:59:11.05 ID:TD9+KMxWO
~授業、美術室~

久保寺「さて、今回からは人物画のデッサンに挑戦してもらいます」

勅使河原「えー、またデッサンっすかー? この間は静物画だったじゃないっすかー」

望月「仕方ないよ、今の夜見北は美術教師いなくって各担任が見よう見真似でやってるんだし」

久保寺「今は私の方も勉強中ですが、徐々に分野を広げていきますので今後に期待ということでお願いします」

綾野「くぼっちファイトーっ」アハハ

久保寺「では今回はクラスメイト同士で互いを描きあってもらいます。まずは2人組みを作ってください」

――ワシトクムゾナー ウン、カマワナイヨ
  アキノカワイイカオ、カキタイナー キョウコチャンッタラ…ポッ
  アノサ、モシヨカッタラオレト… イヤヨ ウワアアアアアン!!
  ワイワイガヤガヤ ヤイノヤイノ

勅使河原「なあサカキ、一緒に描こうぜ!」

恒一「うーん、どうしようかなあ」チラッ

見崎「……」ポツーン

恒一「んー……悪い勅使河原、また今度ね」

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 14:05:49.11 ID:TD9+KMxWO
恒一「あの、先生ちょっと良いですか?」ハーイ

久保寺「なんでしょうか、榊原くん」

恒一「このクラスって30人じゃなくって29人なんですよね、2人組みだと1人余っちゃいませんか?」

久保寺「あ、あー……」チラッ

見崎「……」チョコン

久保寺「さっそくミスをしてしまいました、指摘ありがとう。ではどこか3人のペアを――」

恒一「あ、それなんですけど。僕だけ4月中の授業出てないせいで静物画のデッサンが出来ていないですよね」

久保寺「はあ、そうですね」

恒一「なので3人ペアを作るんじゃなくって、僕1人だけ静物画描くというのはどうでしょうか?」

久保寺「なるほど……ええ、榊原くんさえ良ければそれで。では前回まで皆さんがモチーフに使っていた果物がそちらにありますので――」

恒一「ああ、お構いなく。もうモチーフは決めてるんで大丈夫です、それでは」ドッコイショ

――トコトコトコ…ストン

恒一「さて、目の前のこの椅子でも描こうかな」

見崎「……えっ」

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 14:11:02.80 ID:TD9+KMxWO
赤沢「ちょ、ちょっと、恒一くん!」バタバタ

恒一「赤沢さんどうしたの? そんなに慌てて」

赤沢「あなた何しようとしてるの? ……さっきも言った通りクラスでは〈いないもの〉のフリしてもらわなきゃ困るわ」ヒソヒソ

恒一「何って、静物画のスケッチだよ。今からこの椅子を描こうと思ってるんだけど、どこかおかしいかな?」シレッ

赤沢「そう……あくまで椅子を描くだけなのね?」

恒一「だから最初からそう言ってるのに変な赤沢さんだなあ。あ、もしかして僕と描きたかったとか?」

赤沢「べ、べつにそんなんじゃ――」

恒一「まあ、もし『相手がいないんだったら勝手に描いて構わない』けどね」

見崎「……!」

赤沢「ああ、なるほどそういうこと……いいわ勝手にして、『私は』描かないけど」スタスタ

恒一「よーし。赤沢さんの許しも出たことだし早速描き始めるとするかな」ガサゴソ

見崎「……」チラッ

恒一「~♪」カキカキ

見崎(3人で秘密を共有、か……ちょっと楽しいかも)クス

――カキカキ…シャッシャ…サラサラ…カキカキカキ……

69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 14:17:47.42 ID:TD9+KMxWO
~放課後、中庭~

赤沢「……あんなの詭弁よ」

恒一「ん? なんのこと?」

赤沢「椅子描くって言ってたのに、完成した絵見たら普通に見崎さんだったじゃない!」

恒一「僕には椅子がああ見えるんだよ」

赤沢「望月くんみたいなこと言ってもダメ、てっきり見崎さんのモデルになるだけだと思ったからOKしたのに……」

見崎「えっと、なんだかごめんなさい」

赤沢「ああ、別に見崎さんは悪くないんだから謝る必要は少しもないわ」

見崎「そう……?」

赤沢「ええ、悪いのは全部恒一くんだから」ジトー

恒一「う……でも赤沢さんだって授業中に不自然なくらい見崎の方チラ見してたじゃないか」

赤沢「だ、だって事情知っちゃったら色々気になるじゃない……無理して〈いないもの〉のフリ続けてもらってるわけだし……」

  「うん、だからまあ、恒一くんのその見崎さんに寂しい思いをさせたくないって気持ちは分かるのよ?」

  「でも今後はそこを堪えて、クラスのみんなに疑問を持たれるような行動は謹んでもらいたいの」

恒一「そっか、赤沢さんも同じ気持ちなんだ。なら分かったよ、今後は僕も我慢するね」

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 14:25:51.63 ID:TD9+KMxWO
見崎「それでこの後はどうする?」

恒一「さっそく作戦会議でも良いとは思うけど……学校じゃ人目に付いちゃうかな」

赤沢「そうね。一旦場所を移しましょう」

恒一「どこか落ち着いて話せるようなところはある?」

赤沢「落ち着いて話せる場所と言うと、そうね……恒一くんはイノヤって分かる?」

恒一「イノヤ……ああ、昨日見崎を送った帰りに見かけたあの喫茶店かな?」

見崎「たぶんそれで合ってる、あそこ酒屋兼喫茶店だし」

赤沢「え? 送った?」

恒一「じゃあ今からイノヤにみんなで……って見崎は一緒に歩いてるとこ見られちゃまずいね」

見崎「わたしはあとから向かうから、2人は先に行ってて」

恒一「わかったよ、それじゃあまた後でね」

見崎「ええ、またあとで」フリフリ

赤沢「こ、これは由々しき事態だわ、まさか放課後デートまで済ませてるなんて……」ブツブツ

恒一「何してるの赤沢さーん、置いてっちゃうよー」

赤沢「ま、待ちなさいよー!」タタッ

74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 14:30:18.04 ID:TD9+KMxWO
~夕暮れ、イノヤ~

――ガチャ カララン カララン…

恒一「――っていう感じに見崎に話しかけてみたんだよ」

赤沢「なるほど、そういう流れで家まで送ったのね」フムフム

恒一「そういうこと。良く分からないけど納得してくれたみたいで良かった」

赤沢「私も今度傘忘れてみようかしら……あ、智香さんこんにちは」

智香「いらっしゃい、泉美ちゃん――と、お友達かしら?」

赤沢「はい、1年半ぶりの運命的な再会を果たした末にクラスメイトになった榊原恒一くんです」

智香「あら、じゃあ優矢くんのお友達ね。いつも弟がお世話になっています」ペコリ

恒一「え?」

智香「望月優矢の姉の智香です、はじめまして」ニコ

恒一「は、はじめまして……ねえ赤沢さん、これまずくない?」ヒソヒソ

赤沢「ああ、智香さんなら大丈夫よ。口の堅い人だから望月くんを介してクラスに伝わることはないわ」

智香「何か事情があるみたいね。大丈夫、ちゃんと優矢くんには黙っておくから安心してね」フフ

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 14:36:14.19 ID:TD9+KMxWO
智香「さて、ご注文は何にしますか?」

恒一「えっと……」

赤沢「いつものを。彼にも同じやつをお願いします」

智香「あらあら、かしこまりました」フフ

恒一「いつもの?」

赤沢「退院したら再会の記念にコーヒーを奢るって約束したでしょ? あの時言ってたやつをね」

恒一「コーヒーかあ、ちょっと苦手なんだけど……でも赤沢さんのおすすめなら飲んでみようかな」

智香「――お待たせしました、ごゆっくりどうぞー」

赤沢「騙されたと思ってまずはそのまま飲んでみて」

恒一「うん……あ」

赤沢「どう?」ドキドキ

恒一「苦いのに甘い……美味しいね、これ」ニコッ

赤沢(やった! 恒一くんに私のお気に入りを好きになってもらえたわ!)グッ

76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 14:41:16.65 ID:TD9+KMxWO
――ガチャ カララン カララン… トテトテトテ

見崎「おまたせ」ストン

赤沢「ナチュラルに恒一くんの隣に座ったわね……」

  「まあ良いわ、こっちは少しの間だけど2人きりのアフタヌーンコーヒーを楽しんでたんだから」フッ…

恒一「そうそうこのコーヒー、赤沢さんおすすめなんだけどすごく美味しいんだよ」

見崎「わたし、苦いのはちょっと……」

恒一「まあまあ、騙されたと思って飲んでみなよ。きっと見崎も気に入るから」

見崎「じゃあ榊原くんのそれ、一口もらえる?」

赤沢「えっ」

恒一「いいよ、はい」スッ

赤沢「えっ、それ間接キ――」

見崎「ほんとだ、美味しい」コクコク

赤沢「あ……あぁ……」ガクリ

見崎「ふぅ、ごちそうさま……赤沢さんはもう飲まないの? ならもらっても良い?」

赤沢「あ、他意はないのね……いいわよ全部飲んじゃって……」

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 14:47:06.19 ID:TD9+KMxWO
赤沢「こほん。さて、それじゃあそろそろ話し合いにしましょう」

恒一「始まってしまった“災厄”を止める方法について、だね」

赤沢「ええ、2人は何かアイデアみたいなものはある?」

恒一「ヒントになりそうなことなら千曳さんから聞けたよ」

見崎「もしかして、83年度のことかな」

赤沢「合宿のあった年のことね。やっぱりみんなそこに行き着くか……」

恒一「とりあえずこの合宿中に何かがあって“災厄”を止めたことは間違いないと思うんだ」

赤沢「でも他の年に同じように合宿と参拝をしても結局効果はなかったそうよ?」

恒一「うん、だから当初の目的だった参拝以外の何かが合宿中にあったんだと思う」

見崎「他のなにか、ね……」

赤沢「でもこればっかりは当時の合宿参加者にでも聞かなきゃ分かりっこないわよね……」

恒一「当時の参加者か、怜子さんさえ生きててくれたらな……」

80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 14:52:16.30 ID:TD9+KMxWO
――ガチャ カララン カララン

智香「いらっしゃ――あら松永くんじゃない」ニコッ

松永「やあ、お邪魔するよ」ヒョイ

智香「今日はいつもより少し早いんじゃない?」

松永「近々隣町に住み込みで働くことになりそうなんだよ、だから来られるうちに沢山来ておこうと思って」ハハ

  「というわけで景気付けに1杯頼む。まずはウィスキーのロックを――ん?」

恒一「え? なんですか?」

松永「もしかしてキミは……怜子の甥っ子くんじゃないか?」

恒一「えっと、怜子さんは僕の叔母ですが……」

智香「あら。2人はお知り合いだったの?」カランカラン トクトクトク…

恒一「違うと思います、けど……」

松永「あースマンスマン、1年半前の葬式んとき見た顔だと思ってつい声をかけちまった」ポリポリ

  「俺の名前は松永克己。怜子とは中学のときのクラスメイトで古くからの友人だったんだ」

見崎「三神先生の同級生……?」ピクッ

赤沢「つまり、夜見北中学出身……!」ガタッ

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 14:58:56.77 ID:TD9+KMxWO
智香「はいご注文のウィスキーロック、ごゆっくりー」コト…ササッ

恒一「えっと、失礼ですが、3年生のとき何組だったのか伺ってもよろしいでしょうか」

松永「ん、3年生のときか? 怜子と同じ3組だったが」チビチビ

赤沢「!」ガタタッ

見崎「赤沢さん落ちついて」

恒一「実は僕たち、今年の3年3組の生徒なんです」

松永「キミたちが……! そうか、あの呪われたクラスの後輩たち、か……」

見崎「はい。わたしたちは“災厄”を止める方法を探しています」

赤沢「松永さんの年は災厄が途中で止まっていますよね、当時何があったのか覚えていませんか?」

恒一「具体的には合宿中の出来事を。どんな些細なことでも構いません、お願いします」

松永「合宿、か……確かにあったな……そしてそこで何かが……」

見崎「なにか……?」

松永「それは……ダメだわからない、頭にモヤがかかったようで……」

恒一「いえ、15年も前のことですし覚えてなくても仕方ないですよ。こちらこそ無理を言ってしまってすみませんでした」

松永「役に立てなくってスマンな、不甲斐ない……んくっ……んくっ……ふぅ」コトッ カラララン…

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 15:05:51.04 ID:TD9+KMxWO
松永「あー……いや、ちょっと待てよ? そうだ、何かを隠したんじゃなかったか……?」フラフラ

恒一「松永さん? 酔ってます?」

松永「そ、そうだ……あの年の“災厄”は俺が止めたんだ……!」

赤沢「!」

松永「俺が……俺がみんなを守って……それで……」ワナワナ

恒一「それで、隠した?」

松永「あ、ああ……紙、ではなかったような気がする……でも伝えようとしたんだ……」

  「とにかく何かを教室に……いや、ダメだ……これ以上は思い出せない……スマン」フルフル

恒一「いえ、充分過ぎるほどの情報でした」

赤沢「松永さんの残したもの、必ず私たちが探し出してこの“災厄”を止めてみせます」キリッ

松永「後輩に託す形になってしまってすまないが、よろしく頼む……」

見崎「……」コクリ

88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 15:11:51.18 ID:TD9+KMxWO
恒一「とにかくこれで一歩前進だね、分かったことは2つ」

赤沢「1つは“災厄”は確かに止めることができるということ」

  「そしてもう1つはその方法が教室に隠されている可能性がある、ということね」

恒一「うん、それでその教室っていうのは、たぶん松永さんが過ごした旧3年3組のことだと思う」

見崎「……」コクリ

赤沢「そうと分かれば話は早いわ、次はみんなで旧校舎の3年3組に行きましょう」ガタッ

恒一「うーん、そうしたいのは山々なんだけど……」

赤沢「なによ。水差さないでくれる?」

恒一「女の子の夜遊びは親御さんが心配するし、今日は一旦解散にして明日にした方が良いんじゃないかな」

赤沢「使用人に車で迎えに来てもらうから別に心配いらな――」チラッ

見崎「……」コックリコックリ

赤沢「はぁ……仕方ないわね、見崎さんも眠そうだし明日にしましょう」

恒一「明日は土曜日だから午前授業だしね、ゆっくり探してみようよ」

赤沢「じゃあこれで今日は解散ね。見崎さんは私の車で送るから任せて」

恒一「うん、明日は放課後に旧校舎の入り口で落ち合うことにしよう。それじゃあ2人ともまた明日」バイバイ

89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 15:17:34.91 ID:TD9+KMxWO
5月9日(土)
~放課後、旧校舎3年3組~

――ガラララ…ピシャ

赤沢「もう、ちゃんと整理くらいして欲しいわよね。これじゃ物置と変わらないじゃない」

恒一「この中のどこかに松永さんの隠したものがあるはずなんだけど、どこから探したものやら……」ウーン

見崎「けほ……ほこりっぽい。ちょっと窓開けてくる」トテトテ

――ギギィイイ…ピシッ

恒一「あ、見崎! ガラスが――」

赤沢「あぶないっ!」グイッ

――カッシャーン! パラパラ…

見崎「……あ、ありがとう」

赤沢「もう気をつけてよホント、寿命縮んじゃったじゃないの」

見崎「ごめんなさい」

赤沢「無事なら良いわ、とりあえず窓には近づかないようにしましょう?」

見崎「うん」

赤沢「ん、よしよし」

91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 15:24:24.94 ID:TD9+KMxWO
恒一「とりあえず手当たり次第に探してみようか」

  「僕がダンボールとか重いものを下ろしていくから、2人はその中を調べてもらえるかな」

見崎「ええ」コクリ

赤沢「わかったわ、任せて」キリッ

恒一「よし、それじゃあ調査開始だ!」

   ・
   ・
   ・

恒一「ふぅ、疲れた……こっちは大体終わったかな。赤沢さんたちそっちは――」クルッ

見崎「どう?」キュピ

赤沢「ど、どっちが似合うかしら?」モジモジ

恒一「……頭に紙花つけて遊ぶのは小学生までにしておきなさい」ムシリッ

赤沢「あーっ」

見崎「いじわる」

恒一「はいはい、どっちも可愛いから真面目に調べて」

92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 15:30:34.59 ID:TD9+KMxWO
恒一「とりあえず手当たり次第にくまなく探してみたわけだけど……」

赤沢「見つからないわね……本当に松永さん、隠してくれたのかしら」

見崎「――ねえ、あそこは調べた?」スッ

恒一「あれは……掃除用具入れか。僕は調べてないよ、赤沢さんは?」

赤沢「私もまだよ。ちょっと調べてみましょう」

――ガシャン ギィイイ…

恒一「中には何も……ん? 天板に何か張り付いてるな、よいしょっと」ベリリッ

見崎「何か文字が書いてあるみたい」

恒一「なになに、『将来このクラスで理不尽な災いに苦しめられるであろう後輩たちへ』?」

赤沢「これよ、やったじゃないっ! それで中身は何なの?」

恒一「包み破くからちょっと待ってね、びりびりっと……む、これはカセットテープ、かな?」

見崎「なるほど、メッセージを音声にして残したのね」

赤沢「善は急げよ。放送室でレコーダーを拝借して、早く解決策を確かめましょう」

93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 15:35:15.84 ID:TD9+KMxWO
~放送室~

恒一「いいのかなあ、勝手に使っちゃって」

見崎「もうここまで来たら腹をくくった方がいいよ、榊原くん」クス

恒一「おーけー、わかったよ。テープはもうセットしたし再生スタートするよ?」

赤沢「ええ、お願い」

見崎「うん」コクリ

――カチッ キュルルルルルル…

テープ『……ザ……ザザ……ええっと、俺の名前は松永。松永克己』

   『1983年度の3年3組の生徒で……録音が終わったらこのテープはどこかに隠すつもりだ』

   『俺がこんなテープを残そうと決めたのには、2つの意味がある……』

   『1つは俺の、俺自身の罪の告白……』

   『もう1つは……後輩であるキミたちに、アドバイスを伝えたい……』

恒一「……」ゴクリ

   ・
   ・
   ・

96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 15:42:02.41 ID:TD9+KMxWO
テープ『結局2人も犠牲者を出しちまっただけで、合宿の目的だったお参りにはなんも効果はなかったんだ……』

   『そう、肝心なのはその後だ……』

   『やっとの思いで夜見山から下山した直後にそれはあったんだ……』

   『それっていうのは………………………………………………………』

恒一「む?」

赤沢「まさか壊れたんじゃ……」

見崎「――しっ、2人とも静かに」

――コツ コツ コツ コツ…

恒一「足音……!」

赤沢「こっち近づいてくるわよ、隠れなきゃ……の前にテープ!」ガチャッ キュルルル――ブチッ

見崎「2人ともこっち」グイグイ

恒一「わ――むぐっ!」

赤沢「きゃ――むぐ!?」

見崎「しずかに」ヒシッ

――ガチャリ ダレモイナイ…キノセイカ バタン

99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 15:47:53.14 ID:TD9+KMxWO
見崎「もう大丈夫みたい……って、ごめんなさい」パッ

恒一「ぷはっ」

赤沢「もがっ」

見崎「2人とも声上げそうだったから、つい」

赤沢「いえ、おかげで助かったわ。そんなことより早く続きを――って、あ……」ビローン

恒一「ちょっ、赤沢さんテープ再生中に抜き取ったの!?」

赤沢「だだだって急いでたんだもの……! これ、どうにかならない!?」ビローン

恒一「千切れちゃってるからなあ、ちょっと難しいんじゃないかな……」

赤沢「そんなぁ……」ガクリ

見崎「……ねえ、ちょっと貸してもらってもいい?」

赤沢「え、ええ、いいけど……」グスン

見崎「……これくらいなら大丈夫かも」

赤沢「み、見崎さんこれ直せるのっ!?」ガバッ

見崎「直すのはわたしじゃなくて霧果……お母さんだけどね、あの人手先だけは器用だから」

赤沢「なんでもいいからお願い直してーっ」ユサユサ

100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 15:52:36.70 ID:TD9+KMxWO
赤沢「取り乱して失礼したわね」キリッ

恒一「はは、何とかなりそうで良かったね」

赤沢「でも壊しておいて任せっぱなしというのは……ねえ、見崎さんの家について行っても構わない?」

見崎「別にわたしたちに出来ることは特にないと思うけど」

赤沢「これは気持ちの問題なのよ、近くにいたいの」

見崎「そう、赤沢さんがそうしたいなら……」

恒一「ところでテープの修復ってすぐに済むのかな? 出来ればすぐにでも聞きたいから終わり次第連絡もらえると嬉しいんだけど」

赤沢「そ、それじゃあ仕方ないわねっ、で、電話番号交換しなくっちゃ!」

恒一「そうだね、交換しようか。えっと僕の番号はね――」

見崎「……」ポケー

赤沢「これでよし、と……ん?」

  「……ねえ見崎さん」

見崎「?」

赤沢「見崎さんも番号教えてくれる? みんなで番号交換しましょう」

見崎「! 携帯電話は……えっと」イソイソ

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 15:58:54.36 ID:TD9+KMxWO
~夜、帰路~

恒一「さて、今頃2人は見崎の家に着いてる頃かな」

  「最初はあんまり仲良くないのかと心配したけど、杞憂みたいで良かった」

  「なんだか赤沢さんは見崎のこと気にかけてくれてるし、見崎は見崎で懐いてる感じ」

  「ただ、家にお邪魔するって話がいつの間にかお泊り会に変わってたのには笑ったけど」ハハ

  「……早く“災厄”を止める方法が何なのか確認して、この平和を守らなきゃな」

  「見崎に赤沢さんに僕、それにクラスみんなで一緒に卒業できるよう頑張るぞ」グッ

105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 16:03:53.97 ID:TD9+KMxWO
~同刻、見崎家~

見崎「こちら、同じクラスの赤沢泉美さんです」

赤沢「なんだか今日は急にお邪魔しちゃってすみません」

霧果「いいのよ、そんなこと。鳴とは今後も仲良くしてあげてちょうだいね」

見崎「それじゃあわたし達は上に行ってますから、修理の方よろしくお願いします」

赤沢「よろしくお願いします」ペコリ

霧果「はい、確かに受け取りました」フフ

赤沢「な、なんでしょうか?」

霧果「いえね、この子がお友達を家に泊めるなんて始めてだから嬉しくて」

見崎「もうお母さんっ、じゃあわたしたち行きますから」グイグイ

赤沢「あっ、ちょっと見崎さ――」ズルズル

霧果「うふふ」

  「……ふぅ」

  「未咲さんが亡くなって塞ぎこみがちだったけど、少し元気が戻ったみたいで良かった」

  「――よし、可愛い娘のために腕を振るっちゃおうかしら」

107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 16:09:03.91 ID:TD9+KMxWO
~見崎の部屋~

赤沢「へぇ、意外と部屋の中はシンプルなのね」キョロキョロ

見崎「もっとごちゃごちゃしてるって思った?」

赤沢「1階に通されたときは数十体のドールに囲まれて寝ることを覚悟したわ……」

見崎「人形は虚ろだから、そんなことしたら吸い取られるよ」クス

赤沢「カンベンしてー……これ以上のオカルトはもうお腹いっぱいよ」

見崎「そうね。早くこんな理不尽な“災厄”は終わりにしちゃいましょう」

赤沢「そしたら〈いないもの〉も終わりになって、見崎さんも学校生活を思う存分楽しめるものね」

見崎「あ……わたしそう言えば〈いないもの〉だったんだっけ」

赤沢「もうポーズだけだけどね、それでも忘れてもらっちゃ困るわよ」

見崎「ここ2日間が楽しくって、つい」クス

108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 16:14:37.14 ID:TD9+KMxWO
赤沢「そっか、見崎さんと話すようになってまだ2日しか経ってないんだっけ」

見崎「うん」

赤沢「……今まであなた1人につらい役目を押し付けて、ごめんなさいね」

見崎「ううん、別につらいと思ってなかったし大丈夫」フルフル

赤沢「でも……」

見崎「赤沢さんこそ対策係のプレッシャーで大変なんじゃない?」

赤沢「私はおにぃが死んだときから決めてたから。対策係になって“現象”をなんとかしてみせるって」

見崎「そう……けど1人でなんとかしようなんて思わないでね。だって今はわたしも榊原くんもいるんだから」

赤沢「見崎さん……」

見崎「わたしたちはもう1人じゃないわ、みんなで一緒に乗り切りましょう?」

赤沢「ええ……!」

112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 16:20:16.16 ID:TD9+KMxWO
見崎「あ、そういえば」

赤沢「どうかした?」

見崎「赤沢さん、着替えなんて持ってきてないよね」

赤沢「あ」

見崎「パジャマならわたしの貸せるけど……」

赤沢「下着はそういうわけにはいかないわよね」

見崎「サイズも合わない」ペタペタ

赤沢「……あとでバストアップ体操教えてあげようか」

見崎「ほんと?」

赤沢「由美が教えてくれたやつだから効果はちょっと怪しいんだけどね」

見崎「小椋さんか……」

赤沢「……やめとく?」

見崎「……うん、なんかしぼみそう」

赤沢「えーっと、ちょっと家に電話して着替え届けてもらうことにするわね」ソソクサ

見崎「ええ。今のうちにお風呂沸かしておくから、届いたら一緒に入りましょう」

113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 16:26:34.63 ID:TD9+KMxWO
~浴室~

――カポーン

赤沢「ふぅ……誰かと一緒にお風呂っていうのも良いものね」チャプ

見崎「じゃあ今度は榊原くんも誘ってみようか」

赤沢「ちょっ」

見崎「冗談だよ」クス

赤沢「もう……見崎さんもそういう冗談言うのね」プクプク

見崎「怒った?」

赤沢「……由美直伝の豊胸術をかけてやる」

見崎「……っ!」ジャバジャバ

赤沢「ふふふ、逃げたって無駄よ覚悟なさい」ワキワキ

見崎「それだけはやめて……やっとここまで成長したの……」プルプル

赤沢「そんなに怯えられると由美が不憫になってくるわね……いいわ、他のことで許してあげる」

見崎「他のこと?」

赤沢「ええ、それじゃあ――」

115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 16:32:49.42 ID:TD9+KMxWO
――シャコシャコ… コシコシ…

赤沢「んー、上手……人に髪洗ってもらうのってやっぱり気持ち良いわ」

見崎「これだけ髪長いといつも大変でしょう」コシコシ

赤沢「慣れるとそうでもないけどね。むしろ乾かすほうが手間なのよ」

見崎「そうなんだ、じゃあドライヤーかけるのも後でやってあげる」シャコシャコ

赤沢「それはかなり助かるわー……」

見崎「痒いところはない?」コシコシ

赤沢「ええ、大丈夫よ」

見崎「それじゃあ流すね」キュッ

――シャワアアアアアア……

赤沢「ふぅ、さっぱりした……じゃあ今度は見崎さんの番ね」

見崎「え?」

赤沢「さあ見崎さんそこ座って、洗ってあげるから」

見崎「わ、わたしは自分でできるから……」

赤沢「遠慮なんかしてないで洗わせなさい、ほらほら」グイッ

116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 16:39:57.86 ID:TD9+KMxWO
赤沢「はい、そこに座ってー」

見崎「……もう、強引なんだから」ストン

赤沢「シャンプーはこれでいい?」

見崎「ううん、その隣のリンスのいらないやつ」

赤沢「意外と庶民的なのね……まずはシャワーで髪濡らすわよー」シャワアアアア…

  「よし。じゃあ泡が目に入らないように前髪上げて、っと」

見崎「あっ」

赤沢「……わぁ、綺麗な目!」

見崎「え……」ドキン

赤沢「眼帯の下ってこうなってたのね。オッドアイ……ううん、義眼かしら」ジー

見崎「う、うん……霧、お母さんが作ってくれたの」ドキドキ

赤沢「こんな綺麗なんだからもっと堂々と出して歩けばいいのに、もったいない」

見崎「……変なものは見えない方が良いから」フイッ

赤沢「全然変なんかじゃないわよ、すごく似合ってて素敵よその目」

見崎「あ、この目のことじゃなくって……ううん、ありがとう」

118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 16:45:37.46 ID:TD9+KMxWO
赤沢「どう? 気持ち良くない?」シャコシャコ

見崎「気持ちいい……けど背中に当たる感触が悔しい」

赤沢「まだ中学生なんだし見崎さんだってこれから大きくなるわよ」シャコシャコ

見崎「そうかな……わたしも早く『当ててんのよ』ってやりたい」

赤沢「誰によ!?」

見崎「別に当てられれば誰でもいい」

赤沢「見崎さん、あなた恐ろしい子ね……」シャコシャコ

見崎「あ、もうちょっと右おねがい」

赤沢「はいはい」コシコシ

見崎「んっ、そこ、きもちい」

赤沢「……変な声出さないの」ペシッ

見崎「あいたっ」

赤沢「もう、本当に恐ろしい子ね……流すわよ」キュッ

――シャワアアアアアア……

120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 16:49:16.28 ID:TD9+KMxWO
~見崎の部屋、ベッド~

見崎「来客用の布団がなくてごめんなさい」モゾモゾ

赤沢「見崎さんのベッドは大きいし問題ないわ。むしろ半分取っちゃって悪いわね」モゾモゾ

見崎「いいの、赤沢さんは特別――あ、でも榊原くんもいいかな」

赤沢「」ピクッ

見崎「どうかした?」

赤沢「えっと、別にその、深い意味はなくって、今後の参考のために聞くだけなんだけど……」モジモジ

見崎「?」

赤沢「……見崎さんって、恒一くんのこと好きなの?」

見崎「うん、赤沢さんと同じくらい」

赤沢「私の恒一くんに対する想いくらいって……つまり恋してるってこと!?」

見崎「えっ」

赤沢「えっ」

見崎「わたしは2人とも同じくらい好きってつもりで言ったんだけど……赤沢さん恋してるの?」

赤沢「」

121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 16:53:11.96 ID:TD9+KMxWO
赤沢「えっと……おやすみっ」コロン

見崎「む」

  「……」

  「……わたしの妹の未咲もね」

赤沢「……?」

見崎「好きな人がいたんだって。地味な男の子だけど音楽の趣味が合うんだって惚気てた」

  「ただ、わたしがその話を聞いたのはあの子が倒れる前日だった」

赤沢「……」

見崎「可哀想な未咲は想いを伝えることなく、胸に秘めたまま逝ってしまったわ」

  「解決の糸口を見つけたとは言え、わたしたちだっていつ“災厄”で倒れるかまだ分からない」

  「もしかしたら明日にも……なんて可能性だってないとは言えないんだから」

  「だから……後悔だけはしないように、ね」

赤沢「……うん、ありがとう」

見崎「こんな心配しなくても良いように早く“災厄”を止めましょう」

  「――それまでは赤沢さんのこと、もちろん榊原くんのこともわたしが守ってみせるわ」ギュッ

124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 17:01:25.43 ID:TD9+KMxWO
5月10日(日)
~イノヤ~

――ガチャッ カララン カララン

恒一「2人ともお待たせ、待った?」

赤沢「いえ、見崎さんとコーヒー飲みながら過ごしてたから平気よ」

見崎「あ、榊原くんはそっち座って」

恒一「? 別に良いけど……じゃあ赤沢さん、隣座るね」ストン

赤沢「え、ええ……」ソワソワ

見崎「テープレコーダーは持ってきた?」

恒一「うん、探してみたら怜子さんが使ってたのがあったよ」ゴトン

赤沢「ありがとう、助かったわ」ホッ

見崎「わたしたちの家にはテープレコーダーなんてないものね」

恒一「このブルジョワっ子たちめ」カチャカチャ…

赤沢「何はともあれ、これで続きが聞けるわね」

恒一「よし、それじゃあ準備は良い? いくよ――」カチッ キュルルルルルル――…

125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 17:07:22.08 ID:TD9+KMxWO
テープ『死者を死に還すんだ……』

   『それが、始まってしまった災厄を止める方法だ……!』カチッ…

恒一「……死者を、死に還す?」

赤沢「つまり死者が誰かを特定して……殺すってこと、よね」

恒一「まさか、クラスメイトを手にかけなきゃいけないなんて……」

赤沢「しかもその年の“災厄”を止められても“現象”自体はなくならない」

  「松永さんが止めたのに今年こうして犠牲者が出てるってことは、そういうことよね」

恒一「そんなその場しのぎのために誰か1人を……?」

赤沢「考えたくないわね」

恒一「でもそうしないと、もっと人が……」

赤沢「そんなのまるで生贄じゃない」ギリッ

127: ここから前回の続き 2012/08/25(土) 17:14:51.31 ID:TD9+KMxWO
恒一「……よし、とりあえず死者を誰か特定してみよう」

赤沢「殺すつもり、なの?」

恒一「まだそこまでは考えてないよ。でも……今ここで立ち止まるわけにはいかないと思う」

  「僕たちにはあとひと月も時間が残されていないんだ、出来ることを1つずつ片付けていこう」

  「見つけた死者をどうするか、それは特定してから悩めば良いと思う」

赤沢「……今はそれしかないか。分かったわ、でも他の手段も平行して検討していくわよ」

恒一「もちろん。僕だってクラスメイトを殺したりなんかしたくないからね」

  「ただ『死者を死に還すことで“災厄”が止まる』ってことから1つ分かったことがあるんだ」

赤沢「え、なにが分かったの?」

恒一「多分だけど、死者は“災厄”によって死ぬことはない」

赤沢「どうしてよ?」

恒一「だってこの26年間で1度しか“災厄”は止まっていないんだよ?」

赤沢「そっか……松永さんが手にかけた死者以外は無事に卒業出来てるって、確かに不自然ね」

恒一「そういうこと。だから死者が勝手に死んでくれたら、なんて消極的な期待するのは止めておこう」

見崎「……」

131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 17:20:37.40 ID:TD9+KMxWO
見崎「……死者を見分ける方法、か」ポツリ

赤沢「見崎さん、どうかした? 何か心当たりでも?」

見崎「ううん、なんでもない」フルフル

赤沢「そう……?」

恒一「ところでこの情報はクラスで共有しない方がいいと思うんだけど、どうかな」

赤沢「みんなの知恵を借りたいところだけど……疑心暗鬼になられるのは怖いわね」

恒一「うん。考えたくはないけど、暴走したクラスメイト同士で諍いが起きないとも限らないからね」

赤沢「じゃあ私たち3人で聞き込みをして、誰が死者なのか調査してみましょう」

見崎「ううん、実質2人。わたしは〈いないもの〉だから」

赤沢「そういえばそうね……ごめんなさい見崎さん、もう少しだけ〈いないもの〉をお願いするわ」

恒一「それじゃあ明日からは赤沢さんと僕の2人で聞き込み、その情報を放課後に3人で分析って感じでいこう」

  「今後の方針も決まったことだし、とりあえず今日は解散にしようか」

見崎「夜道は危険だから榊原くんは赤沢さんを送ってあげること。それじゃあ」スクッ トテトテ…

恒一「それを言ったら見崎だって――って行っちゃった。はは、それじゃ一緒に帰ろっか赤沢さん」

赤沢「見崎さんったら、もう……ええ、エスコートお願いするわね」モジモジ

133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 17:27:22.48 ID:TD9+KMxWO
~夜、見崎の部屋~

見崎「……」グテン

  「死に近い色が分かる義眼、か……」

  「ちゃんと言うべきだったのかな、この瞳の力のこと」サワサワ

  「だけど言っても信じてもらえるか分からない」

  「変な子だと思われるかもしれない」

  「あの2人にそういう目では見られたく、ない」

  「……わたしのいくじなし」ゴロン

  「でも、病人や怪我人や死体は見たことあるけど、死者なんて今まで見たことないもの」

  「死者がどんな色かも分からない以上、わたしが口を出すべきじゃないわ」

 「2人が死者を探している間、わたしは“災厄”を止める別の方法を探してみよう」

  「……きっと、だいじょうぶ」

  「だからこのまま眼帯は外さずに着けたまま、見たくないものは見なければ……――」

134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 17:34:10.93 ID:TD9+KMxWO
――そして1週間後……

5月16日(土)
~放課後、イノヤ~

恒一「うーん、この1週間いろいろと手を尽くしてみたけど……」

赤沢「周囲の人間どころか死者本人にも自覚がないんじゃお手上げよ」ハァ

見崎「……」

恒一「あと1歩なのになあ……」

赤沢「死者を見分ける手段さえ分かれば……もう!」ムキー

見崎「……あのね、2人とも」

恒一「なになに、もしかしてなにか思いついた?」

見崎「ううん、違うの。ただ、死者を死に還すって方法に固執しすぎかと思って」

赤沢「でも……」

見崎「死者を特定したからって、そこから先どうするかはまだ決まってないんだよ」

恒一「うーん……進展もないし、ここは一度原点に立ち返って考え直してみるべきなのかな」

見崎「それで考えてみたんだけど、怜子さんもわたしたちと同じように“災厄”を止めるために調べてたと思うの」

  「だから榊原くんさえ良ければだけど……怜子さんの当時のノートとか日記を調べることはできない?」

136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 17:41:46.47 ID:TD9+KMxWO
~榊原家~

――ガララッ…

恒一「ただいまー」

民江「ハイハイおかえり――って、あら?」

恒一「2人は僕のクラスメイトで赤沢さんと見崎さん。2人とも、こっちは僕のお婆ちゃんだよ」

赤沢「お邪魔します」ペコリ

見崎「……」ペコ

民江「あらあら、恒一くんも隅に置けないわね」フフ

恒一「そんなんじゃないってば、怜子さんの教え子だったって聞いて連れてきたんだよ」

民江「まあ、怜子の……」パチクリ

恒一「部活で一緒に描いた絵を見たいんだってさ。2人を怜子さんの部屋に通しても良いかな?」

民江「ええもちろん、きっと怜子も喜ぶわ。ささ、こっちよ」

赤沢「……なんだか騙してるみたいで心苦しいわね」ヒソヒソ

見崎「わたしは本当に教え子だったからべつに」シレッ

恒一「ほら、2人とも行くよー」

139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 17:50:13.12 ID:TD9+KMxWO
~元・怜子の部屋~

恒一「さて、じゃあ1つずつダンボールを開けていってみようか」

赤沢「とは言ってもけっこうな数あるわね……」

恒一「あはは、うちのお婆ちゃんはなんでも残しておく人だからね」

見崎「3人で手分けすれば夕方までには片付く、かな」

恒一「何かそれっぽいもの見つけたら報告するようにしよう、1人じゃ判断がつかないかもしれないしね」

赤沢「それじゃあ調査開始よ!」キリッ

   ・
   ・
   ・

赤沢「見つからないわ!」ムリッ

恒一「でも怜子さんが僕たちと同じように奔走してたっていうのは確かだったね」

赤沢「ええ。しかも担任になってからじゃなくって、15年前からずっと」

恒一「怜子さんは僕の母さんの死に責任を感じていて、それで……」

  「元3組の生徒がどうして夜見北に戻ってきたのか疑問だったけど、“災厄”を止めるためだったんだね……」

140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 17:58:11.80 ID:TD9+KMxWO
恒一「見崎の方は何か見つかった?」

見崎「……いいえ」

赤沢「ちょっと一緒に調べてたけど、あっちは恒一くんのお母さんの遺品が主だったみたい」

恒一「そっか母さんの……あとで個人的に見てみるよ、ありがとう」

赤沢「ダンボールは全部開けたし、これ以上の収穫は見込めなさそうかしら」

恒一「良い案だと思ったんだけどね……まあそう上手くはいかないか」

見崎「……ごめんなさい」

赤沢「見崎さんが謝ることないわよ、明日からまた新しい策を考えてみましょう?」

見崎「……うん」

恒一「さて、今日のところはそろそろお開きにしようか」

赤沢「そうね、もう良い時間だしこれ以上いたら家の人のお邪魔になっちゃう」

恒一「別にそんなことないと思うけど……良かったらうちでご飯でも食べてく?」

赤沢「えっ!?」ドキッ

142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 18:04:57.84 ID:TD9+KMxWO
恒一「確か今日はカレーって言ってたし、1人や2人増えてもどうってことないよ」

赤沢「そんないきなりご家族と食事だなんて……」アワワ

  「そ、そうだ! 見崎さんはどうするの?」チラッ

見崎「わたしは……ううん、今日は帰らなくっちゃいけないから」

  「でも赤沢さんはご馳走になっていくんでしょう?」

赤沢「えっ、私もがっ!?」

恒一「分かった、じゃあお婆ちゃんに1人増えるって言ってくるからちょっと待っててね」

赤沢「んー……!」モガモガ

見崎「諦めてカレー食べるの、チャンスは活かす」

赤沢「むー……」

見崎「よし。それじゃあわたし帰るわね」パッ

赤沢「えっ、恒一くん帰ってくるまで待ってないの?」

見崎「……急いでるからごめんなさい。榊原くんによろしく伝えておいて」

赤沢「分かったわ、帰り道気をつけるのよ」

見崎「ええ……またね」ソソクサ

146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 18:12:37.58 ID:TD9+KMxWO
恒一「お待たせ、お婆ちゃん喜んでたよ――ってあれ? 見崎は?」

赤沢「なんか急ぎの用があるそうでもう帰っちゃったわ、恒一くんによろしくって」

恒一「そっか、なんだか今日は特に元気ないように見えたけど大丈夫かな」

赤沢「もう5月も半ばだし焦りを感じているのかもしれないわね」

  「ねえ、原点に立ち返るつもりで千曳さんに相談してみるっていうのはどうかしら?」

恒一「千曳さんかー……うーん」

赤沢「あまり乗り気じゃない?」

恒一「えっと、僕の母さんも犠牲者だったらしいって話はしたっけ?」

赤沢「恒一くんを生むために夜見山に帰省していて、出産後間もなく……だったわね」

恒一「そうそう。で、それを千曳さんは把握できてなかったんだよね」

  「今年度の犠牲者である未咲さんのこともあるし、今までもそういう見落としがあったかもしれない」

  「始まりの年の担任で“現象”を出現させた張本人の1人なのに、自分は被害の及ばない安全な立場に退いているし」

  「気味が悪いからって夜見山岬の写り込んだ始まりの年の集合写真は処分しちゃうし」

  「怜子さんが命を省みずに教師として戻ってきたのを知っちゃうと、本気で取り組んでくれているのかなってどうしても思っちゃうんだよね」

赤沢「うーん、言われてみればちょっと無の……いえ、頼りにならなそうね…」

148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 18:18:47.51 ID:TD9+KMxWO
恒一「まあ参考までに意見を聞くくらいなら良いかもしれないかな」

赤沢「そうね、一応カセットテープも千曳さんに保管しておいてもらった方が良いと思うわ」

恒一「そのほうが来年度以降の生徒たちの参考になる、か」

赤沢「来年度以降……そうよね、“災厄”を止められても“現象”がなくなるわけじゃないんだもの」

恒一「僕らも松永さんと同じように、後輩たちに託すことしか出来ないのかな」

赤沢「……いえ、私はそんな他人任せなことしたくないわ」

  「怜子さんがそうしたように、卒業してからだって“現象”に立ち向かうことはできるんだから」

  「私は絶対に、何があってもいつか必ずこの負の連鎖を断ち切ってみせる!」

恒一「赤沢さん……僕も一緒に頑張らせてよ、ここまできたら一蓮托生だと思ってさ」

赤沢「一蓮托生!? つ、つまりそれは、卒業してからもずっと一緒に……?」モジモジ

恒一「赤沢さん?」

赤沢「あ、あのね恒一くん、私恒一くんのことが――」

民江「2人ともー、カレーできたわよー!」

恒一「お、もう夕飯みたいだね、それじゃ行こうか」スタスタ

赤沢「……うん、カレー楽しみだなあ」グスン

149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 18:24:16.87 ID:TD9+KMxWO
~夜、見崎の部屋~

見崎「……」ピラッ

  「……現実を直視する勇気、か」

  「見たくなくても、見ないわけにはいかないんだよね……」

  「逃げるのはもう、やめにしなきゃ……」

――ピポパ プルルルル プルルルル プル…

  「……こんな夜更けにごめんなさい」

  「話したいことがあるの、大事な話」

  「ううん、直接がいい」

  「できれば明日……ええ、うん、空いてるかな」

  「そう……じゃあ明日、うちに来て」

  「ええ、また明日……」

――ピッ ツーツーツーツーツー…

153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 18:30:28.39 ID:TD9+KMxWO
5月17日(日)
~見崎の家~

見崎「いらっしゃい、榊原くん」

赤沢「昨日はカレーご馳走様、美味しかったわ」

恒一「あれ、赤沢さんも来てたんだ」

赤沢「見崎さんに呼ばれてね」

恒一「そうなんだ。それで、電話でも言ってたけど大事な話っていうのはなんなのかな?」

見崎「……わたし、今まで2人に秘密にしていたことがあるの」

  「2人は未咲のこと黙っていたのを許してくれたのに、また隠し事なんて……ごめんなさい」

恒一「良いんだよ見崎、友達同士だって隠し事の1つや2つあるものなんだから」

赤沢「恒一くんの言うとおりよ。それに見崎さんはこうして話そうとしてくれてるじゃない」

見崎「……ありがとう、2人とも」

  「わたしの隠し事というのはね、この眼帯の下……義眼の持つ力のことなの」

158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 18:36:10.58 ID:TD9+KMxWO
恒一「義眼の、ちから?」

見崎「赤沢さんには見せたよね、この義眼」

赤沢「ええ、綺麗なガラスの瞳だったけど……」

見崎「どうして眼帯で隠すのかっていう赤沢さんの質問に、わたしがなんて答えたか覚えてる?」

赤沢「えっと……『変なものは見えない方がいいから』だっけ?」

見崎「そう。赤沢さんは義眼を見えないようにしてるんだと勘違いしていたけど、それは間違い」

  「隠しているのは……このガラスの瞳が映す景色のほうよ」

恒一「どういうこと?」

見崎「左目を病気で失ったときに臨死体験をしたからかな、この義眼は死の色が見えてしまうの」

赤沢「死の色って……?」

見崎「病気だったり怪我だったり、あるいは死体だったり」

  「死に近い存在をこの義眼を通して見るとね、その存在に不思議な色が重なって見えてしまうの」

  「日常に死が溢れているのを直視したくないから、普段はこの眼帯で見えないように封じているの」

159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 18:43:10.66 ID:TD9+KMxWO
見崎「この力を使えば死者を見つけることだってできるかもしれない」

  「それでも2人に言い出せなかったのは……やっぱりわたしが臆病だったから」

  「だってこんな話、普通信じてもらえないでしょう?」

  「ううん、少し頭のおかしな子だと思われてしまうかもしれない、それはまだ良いの」

  「もし仮に信じてもらえたとして、死が見えるなんて気味が悪いと拒絶されてしまうのが怖かった」

  「だから『死者を見たことがないからこの瞳を使っても確証は持てない』なんて自分に言い訳をして……」

  「ううん違う、本当に逃げていたのは……ほんとは……」

赤沢「……いいのよ、話してくれてありがとう」ギュッ

  「見崎さんが冗談でこんなこと言う人じゃないって分かってるし、ましてや気味が悪いなんて思ったりしないわ」ナデナデ

  「恒一くんだってそうでしょ?」

恒一「うん、もちろんだよ。友達のことをそんな風に思ったりするもんか」

見崎「でも……っ」

赤沢「いーいーのっ」ギュッ

恒一「見崎、その力を僕たちに貸してくれるね?」

赤沢「お願いよ、見崎さん」

162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 18:51:33.23 ID:TD9+KMxWO
見崎「……わたしがこのことを告白しようと思ったのにはね、きっかけがあるの」

恒一「きっかけ?」

見崎「これ。勝手に持ち出しちゃってごめんなさい」スッ

恒一「これは……」

赤沢「集合写真?」

見崎「昨日家にお邪魔したときに、榊原くんのお母さんの遺品の中から見つけたものよ」

恒一「じゃあこれは……26年前の3年3組の?」

見崎「ええ。始まりの年、すべてのきっかけとなったあの写真が、それ」

赤沢「じゃあこの中に夜見山岬が……って一目瞭然ね、これは……」ヒキッ

恒一「どれどれ……ってうわぁ、もっとうっすら控えめに写ってるのかと思ってたのに……」

見崎「今までは死者をこの義眼で見たことがなかったから死者の色が分からなくて足踏みしていた」

  「でもこの写真のおかげでその色がやっと分かった……ううん、分かってしまったの」

赤沢「すごいじゃない、じゃあこれで明日から死者探しが出来るわね!」

見崎「いいえ、その必要はないわ」フルフル

  「……死者が誰なのか、もう分かっているから」

165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 18:58:09.11 ID:TD9+KMxWO
恒一「あれ、今まで学校で眼帯外してたことなんてあったっけ?」

見崎「いいえ、学校では一度も」

赤沢「それじゃあいつ確かめたの?」

見崎「……」

恒一「見崎?」

見崎「せっかく綺麗な瞳だって、褒めてくれたのに……」

赤沢「……え?」

見崎「お風呂でこの色が見えたとき、きっと未咲と同じように死の危険が迫ってるんだ、今度こそ守らなきゃって思ったの」

  「ううん、そう思い込もうとしただけで、本当はあの時から心の底では分かってたのかもしれない」

  「死者を死に還せば解決するってわかったのにこの義眼の力を明かさなかったのも、現実を直視したくなかったから……」

  「だって赤沢さんが死者だなんて、何があってもわたしは認めたくなかった……!」

赤沢「私が、死者……?」

172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 19:03:49.70 ID:TD9+KMxWO
恒一「あ、あはは……嫌だな見崎、きっと何かの間違いだよ」

  「だってほら、僕と赤沢さんは1年半前に会ってるんだよ? 従兄のお兄さんを亡くして泣いてる姿を今でも覚えてるし……」

見崎「赤沢さんはきっと、榊原くんと会ったそのあとに亡くなってるんだと思う」

恒一「そ、それはないよ、僕も前ある人に騙されかけたけど2親等外じゃ“災厄”の犠牲にはならないんだ、従兄妹の赤沢さんは対象外なんだよ」

見崎「……ねえ、赤沢さん。従兄のお兄さんって、本当に従兄だった?」

赤沢「!」

恒一「なにを言ってるんだよ見崎、そんな嘘をつく必要なんてないし千曳さんも2人は従兄妹だって……」

見崎「嘘? 赤沢さんの口から2人が従兄妹だって言葉、榊原くんは聞いた? わたしは聞いてないよ」

  「……わたしはずっと引っかかってた。どうして赤沢さんはわたしにこんなに親切にしてくれるんだろうって」

赤沢「それ、は……」

見崎「大切な従兄を失って執念で対策係にまでなったような人が、その原因でもあった〈いないもの〉対策を止めてまで……どうして?」

  「そこでね、最初にわたしを認めてくれたときの赤沢さんのセリフを思い出したの」

  「『見崎さんも私と同じだったの?』」

  「あれは家族を失ったことだけじゃなく、家庭環境も含めて同情していたんじゃないか……って」

  「ねえ赤沢さん、あなたも養子なんじゃない? だから従兄のお兄さんとは実の兄妹だった、違う?」

175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 19:09:11.75 ID:TD9+KMxWO
赤沢「見崎さんすごいわね。ええ、確かにおにぃは私の実の兄だったわ」

  「でも私が養子っていうところだけ間違い。養子だったのはおにぃの方よ」

恒一「なっ……!」

赤沢「私が生まれた家は赤沢家の親戚で、だけど余り裕福とは言えない家庭だった」

  「一方赤沢家は子宝に恵まれず跡継ぎを欲していてね、うちから兄の和馬を養子として引き取ることにしたの」

  「そうして私は1人残され、2人は従兄妹として過ごすことになったわ」

見崎「本当にうちとそっくりね……」

赤沢「見崎さんの家と違うのは両親があっけなく死んでしまったことね。事故だったそうだけど……よく覚えてないわ」

  「おにぃを養子に取った縁で私も今の赤沢家に引き取ってもらえたんだけど、跡継ぎとして望まれた兄と違って養子にする必要はなかったみたい」

  「だから兄とはまた兄妹のように暮らせるようにはなったけど、戸籍上は従兄妹のままだったってわけ」

  「……つまり、1年半前に私が死んでいる可能性は大いにあるってことね」

恒一「で、でも……」

赤沢「そして私は見崎さんの言うことを信じてる、だって友達だもの」

  「……私が死ぬことで今年の“災厄”は止まるのね。だったらすることは1つよ」

177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 19:14:37.58 ID:TD9+KMxWO
赤沢「こんなこと告げるの、辛かったでしょう」ギュッ

見崎「……っ」フルフル

赤沢「それにごめんなさい見崎さん、私のせいで妹さんを失わせてしまって」

見崎「そ、んな……っ、赤沢さんのせいなんかじゃ……っ」

赤沢「見崎さんのおかげでこれ以上犠牲者を増やす前に逝ける、ありがとう」

恒一「……赤沢さん、本気なの?」

赤沢「ええ。記憶の改竄ってあまり強固なものじゃないみたい、見崎さんに指摘してもらったら少しだけど記憶が戻ってきたわ」

  「確かに私は死んでる。河原で恒一くんと別れた帰り道にトラックが迫ってきて――ううん、そんなことはどうでもいいわね」

  「このまま私が卒業まで居座っていたら、恒一くんや見崎さんまで殺してしまうことになるかもしれない」

  「私はそんなの御免よ、私のせいで2人が死んでしまうなんてことあって欲しくないわ」

  「それに身体を張って“災厄”を止めるなんて、対策係としてこれ以上ない有能っぷりじゃない?」フフ

179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 19:21:31.32 ID:TD9+KMxWO
赤沢「ただ、2人にまで忘れられるのは少し寂しいわね」

見崎「忘れたくなんて、ない……」クスン

  「……そうだ……しゃしん」

赤沢「え?」

見崎「写真、撮ろう……?」ギュッ

恒一「見崎……」

見崎「この義眼があれば写真の赤沢さんのことずっと見えるはずだから、忘れずにいられると思うの」クスン

恒一「うん、そうだよ! 松永さんだって教室に隠したテープのこと思い出せたんだし、赤沢さんだって記憶が戻ったんだ」

  「きっかけがあればきっと思い出せる、赤沢さんのことを忘れたりなんかしないし、そんなことはさせないよ」

赤沢「2人とも……ありがとう」ウルッ

181: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 19:29:12.67 ID:TD9+KMxWO
見崎「……えっと、それじゃあお母さんからカメラ借りてくるね」コシコシ

恒一「うん、お願いできるかな」

見崎「少し時間がかかると思うから……ねえ、赤沢さん」

赤沢「なにかしら?」

見崎「しばらく2人きりだから、頑張って」ヒソヒソ

赤沢「え、それって……?」

見崎「ベッドは自由につかっていいから」ヒソヒソ

赤沢「え、えーっ!?」ガタッ

恒一「なに? どうしたの?」

見崎「乙女の秘密」

  「それじゃあ行ってきます、ごゆっくり」

恒一「う、うん?」

赤沢「」プシュー

   ・
   ・
   ・

183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 19:35:35.37 ID:TD9+KMxWO
見崎「ただいま、カメラ借りてきたわ」

赤沢「おっ、おかえりなさいっ」

恒一「お、おかえりミサキ」

見崎「……挙動不審すぎ」

恒一「あ、あははー」ポリポリ

見崎「あれ?」

赤沢「な、なによ?」

見崎「シーツが乱れてない……」

赤沢「そんなことするわけないでしょ!?」

見崎「じゃあなにをしたの?」

赤沢「そっ、それは……その……」モジモジ

恒一「わあこのカメラってばレトロでかっくいー!」

見崎「……まあいいわ、写真の準備しましょうか」クス

185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 19:41:30.15 ID:TD9+KMxWO
「誰がまん中になる?」

「やっぱり恒一くんじゃない?」

「わたしは赤沢さんの隣じゃなきゃイヤ」

「あはは……」

「っていうか何枚も撮れば良いんじゃないの?」

「……じゃあ榊原くんの隣で今は我慢する」

「はいはい、じゃあセルフタイマーをセットして、と……」

「あ、ぴかぴかし出した」

「はやく戻ってこないと!」

「うん今行くよ――ってうわあ!?」

「ちょっ!?」

「きゃっ」

――カシャ!

188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 19:47:21.59 ID:TD9+KMxWO
1999年
3月13日(土)

~卒業式後~

久保寺「クラス全員で無事に卒業できるなんて、こんな嬉しい日はありません……うう」グス

綾野「もぉー、くぼっちったら大げさなんだから」ケラケラ

勅使河原「そうっすよ、結局今年は〈ない年〉だったってだけなんですから」

桜木「でも何にせよみんなで卒業式を迎えられたのは素敵なことですよぉ」

中尾「うーん……」

杉浦「どうかした? 気分でも悪い?」

中尾「いや、なんか忘れてる気がしたんだけど……気のせいだよな」ウーン

風見「ところでみんな、せっかくだし集合写真でも撮らないかい?」

小椋「お、いいじゃん。あたしカメラ持ってきてるよ」

久保寺「よし、それでは……あ、千曳さん調度良いところに」

千曳「む?」

   ・
   ・
   ・

192: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 19:54:26.20 ID:TD9+KMxWO
恒一「みんなはやっぱり覚えてない、か」

見崎「仕方ないよ、わたしたちもこの写真があるから覚えていられるんだから」

恒一「見崎はまだはっきりと見える?」

見崎「ええ、この左目がある限り」

恒一「そっか……僕は段々薄れてきちゃってる、記憶も一緒に消えてしまわないか不安でしょうがないよ」

見崎「だいじょうぶ、わたしがちゃんと思い出させてあげるから」

恒一「うん、頼りにしてるよ」

見崎「榊原くんはこれからどうするの?」

恒一「まずは東京の高校に通って、それから大学に進学するつもりだよ」

見崎「大学に? お父さんの後を継ぐの?」

恒一「あはは、まさか。僕はね、教師になろうと思ってるんだ」

見崎「もしかして……」

恒一「うん。怜子さんと同じように夜見北に戻ってくるつもりだよ」

見崎「でもそれだと“災厄”の犠牲になるだけになってしまうかも……」

恒一「ああ、それなら大丈夫。ちゃんと手は考えてあるんだ、実はね――」

195: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 20:00:54.74 ID:TD9+KMxWO
20XX年某日
~夜見山北中学校、校門前~

赤沢「今までお世話になりました」ペコリ

未咲「お世話になりましたー!」ペコッ

恒一「2人とも今までお疲れ様、ゆっくり休むんだよ」

未咲「いやいや、先生と違って私たちまだまだ若いんで元気あり余ってますよー」エヘヘ

赤沢「ええ。むしろこれからが大変なんですよ、花の女子高生ですから」クスクス

恒一「それもそっか、これは一本取られたよ」ハハ

赤沢「……えっと」ソワソワ

未咲「ほーら、泉美っ」

赤沢「う、うん……あの先生、卒業しても手紙とか書いてもかまいませんか?」モジモジ

恒一「――うん、楽しみに待ってるよ」ニコッ

未咲「きゃー! 良いな良いな、私も恋してやるー!」ダッ――スゥ…

赤沢「あ、待ちなさいよ未咲ー! そ、それじゃ先生またっ!」パタパタ――スゥ…

恒一「……2人とも、卒業おめでとう」

198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 20:09:59.30 ID:TD9+KMxWO
見崎「ついにみんなを無事に卒業させることができたね」

恒一「うん、ここまであっという間のようで長かったなあ」

見崎「当時が懐かしいわ。最初にこの計画を聞かされたときは驚いたけど」

  「『“現象”で紛れ込む死者は“災厄”の犠牲者に限られている、そして卒業した死者が再び死者として紛れ込んだ例は一度もない』」

  「『なら“災厄”で死んだすべての生徒を卒業させてしまえば、死者が紛れ込むという“現象”自体起こりようがなくなるはすだ』」

  「……ここまではなるほどって思って聞いてたけど、まさかクラス30名全員死者にするなんて正気を疑ったわ」

恒一「1年に1人じゃ効率悪いし、〈いないもの〉対策も完璧じゃないから“災厄”が起きちゃう可能性があったからね」

  「その点クラス全員を死者にしてしまえば“災厄”で死者が死ぬことはないし、まとめて30人も卒業させられるんだ」

  「何より〈いないもの〉になって寂しい思いをする生徒を作らなくって済むしね」ニコ

見崎「それにしてもこんな無茶苦茶な話、よくあの校長先生を納得させられたね。わたしたちが3組の頃の校長でしょう?」

  「あの人が榊原くんの席を勝手に用意したせいで対策が遅れたんだと思うと……今でもあの人のこと好きになれない……」

恒一「当時“災厄”に無理解の校長を先生たちが説き伏せよう奮闘したらしいから、それで逆に頑なになっちゃったのかもしれないね」

  「世迷言をぬかしてるから備品管理も満足に出来ないんだ、ほら見ろ転校生の分の座席がまだ用意されてないじゃないかって具合にさ」

  「まあ僕らが卒業したあとやっぱり“災厄”が続いちゃって、精神的にどんどん追い詰められていったみたいだよ」

  「夜見北に戻ってきて僕が何とかしてみますって申し出たときにはすがり付くように頼んできて、少し不憫なくらいだったからね」

202: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 20:15:08.71 ID:TD9+KMxWO
見崎「けどついに“現象”も今日で終わり、なのね」

恒一「千曳さんの資料だけじゃ不安だから興信所でも調べてもらったけど、これで全員卒業してもらえたはずだよ」

見崎「そう……」

恒一「見崎にもずいぶん長いこと付き合ってもらっちゃったね、ごめん」

見崎「いいの、わたしたち3人で“現象”を何とかするって約束したんだから」

恒一「そっか……うん、そうだね。じゃあ、ありがとうかな」

見崎「ええ。それに未咲が元気に卒業する姿も見れたから、満足だよ」

恒一「そうそう美咲さんと言えば、双子とは聞いてたけど本当見崎そっくりでびっくりしたよ」

  「赤沢さんのスカート  ってケラケラ笑いながら逃げる見崎と同じ顔っていうのは、すごいシュールだった」

見崎「あの子のセクハラ癖は相変わらずか」クス

恒一「それにしても、未咲さんと話さなくって良かったの?」

見崎「うん、過去に縛られるのはよくないから」

  「もう逃げたりしない。見たくないものだって見るし、前を向いて歩くことに決めたの」

恒一「そっか……見崎も成長したんだなあ」

205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 20:20:58.24 ID:TD9+KMxWO
恒一「これから見崎はどうするの?」

見崎「このまま工房Mで働くのも手だけど、せっかくだし東京に行こうかと思ってるの」

恒一「東京か……人が多くて賑やかだから、見崎は少し苦手な環境かもしれないよ?」

見崎「それでも構わないわ。未咲と赤沢さんが焦がれていた東京で、少し自分を見つめ直してみたい」

恒一「そっか、そこまで決意が固いなら応援するよ。出立の日取りはもう決まってるの?」

見崎「ええ、実は明日にでもと思って」

恒一「そっか、じゃあ帰ったらすぐに準備しなくちゃだね」ハハ

見崎「……ねえ、榊原くん」

恒一「うん?」

見崎「これからしばらく会えなくなっちゃうけど、ずっと友達でいてくれる?」

恒一「それはもちろんだよ、見崎だって赤沢さんと友達のままでしょ?」

見崎「うん……」

恒一「なら同じだよ、僕たちはずっと友達だ」

見崎「ありがとう。それじゃあ……」

恒一「うん、それじゃあ――」

208: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 20:24:24.41 ID:TD9+KMxWO
エンディングテーマ
『anamnesis』
歌・作詞:Annanel
作曲・編曲:myu
 

212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 20:30:32.97 ID:TD9+KMxWO






―一「僕も消えないとね」







214: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 20:35:19.72 ID:TD9+KMxWO
恒一「記憶が改竄されてて分からないけど、見崎にはもう何回見送ってもらったのかな」

見崎「これで6回目。榊原くんが死んだ年を含めると7回目だよ」

恒一「ちなみに僕が死んだのは担任を始めて2年目?」

見崎「ええ。夜見山岬を喚び込んだ始まりの年と同じように、死んだ生徒30人と教師1人を〈いる者〉として扱って1人芝居をしたのが最初の年」

  「卒業写真には目論見通り31人分の死者が写り込んで、翌年からは生徒30人教師1人の全員が死者というクラスになって……ただ1人の生者である榊原くんは“災厄”から逃れられなかった」

恒一「ああ、そうそう。確かお爺ちゃんが死んじゃってお婆ちゃんは父さんが東京に引き取ったから、それで遠慮なくこの計画を実行できたんだよねー」

  「その後のクラス運営は……そうだ、千曳さんに事情を話して籍を置かない形で教鞭を揮ってもらう約束をしたんだった」

見崎「そして翌年、唯一教師で死者になる可能性のあった怜子さんは最初の年に卒業させているから、榊原くんは確実に紛れ込むことができたってわけ」

恒一「うんうん、段々思い出してきた……ちなみに卒業式を迎える度に見崎に自分が死者だってこと教えてもらってたの?」

見崎「ええ。少なからずでも自覚があったのは今回が初めてだったから、ちょっと驚いてる」

恒一「最後の年になるから“現象”もサービスしてくれたのかな」ハハ

見崎「むしろ逆じゃないかな」

  「あなたに卒業されたら“現象”が終わってしまうから、それを避けるために死者だと自覚させて自殺を促してるんだと思う」

恒一「あー、今まで毎年卒業門をくぐらないように自殺してリセットしてたんだよね? それで“現象”も知恵を付けたのかな」

見崎「ただの“現象”にそんな思考があるのかは分からないけど、可能性としてはあり得るかも」

216: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/08/25(土) 20:41:02.03 ID:TD9+KMxWO
恒一「“現象”を止めるためとは言え死者であることを突きつけるなんて役目、これまで押し付けてごめんね」

見崎「ううん、現実から目を背けるのはもう止めにするって決めてたから」

恒一「そっか……今まで本当にありがとう」

見崎「榊原くんもお疲れさま、そっちで赤沢さんと仲良く待っててね」

  「また3人で遊べるの、楽しみにしてる、から……」

恒一「こらこら、さっき前を向いて歩くって言ったばかりじゃないか。うつむいてたら赤沢さんに叱られるよ」

見崎「ええ……」コシコシ

恒一「僕たちはハワイアンコナでも飲みながらのんびり待ってるからさ、見崎はゆっくりおいでよ」

見崎「うん……ありがとう」

恒一「さて、と。それじゃ今度こそ僕は行くとするよ」

見崎「ええ、いってらっしゃい」


  「卒業、おめでとう――」



おわり

引用元: 恒一「怜子さんが死んでもう一年半か……」