番長「SOS団?」 その1 

番長「SOS団?」 その2 

番長「SOS団?」 その3

610: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/15(火) 01:58:34.35 ID:anCjbAgIo
――深夜、校門前。

>時刻は11時20分だ。

>雨はまだ降り続いている。

>まだ、ハルヒとキョンはきていない。

古泉「まだ少し時間に余裕がありますからね」

みくる「どこか雨宿りできるところがあればいいんですけど……」

>残念ながら、坂道が続いているだけで雨宿りができるようなところはない。

古泉「幸い、というわけではないですが、豪雨でなくて助かりましたね」

みくる「そうですねぇ。スカートとかびしょびしょになったら明日困っちゃいますし」

>しかし深夜の学校の前に制服を着た生徒がこれだけいるとなかなか異様だ。

長門「……」

古泉「ふふ、こういうイベントごとは制服と相場が決まっているのですよ」

みくる「き、決まっているんですか?」

古泉「雰囲気の問題です。涼宮さんもきっと制服でいらっしゃると思いますよ」

611: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/15(火) 01:59:14.47 ID:anCjbAgIo
>遠くから誰かが歩いてくるのが見える……。

キョン「よお」

みくる「こんばんはぁ」

キョン「朝比奈さん、こんばんは」

古泉「おや、お早いお付きですね」

キョン「ああ、家族が思ったより早く寝たんでね。
    案外簡単に抜け出せたんだ」

>キョンも制服に身を包んでいる。

キョン「ん? ああ。ハルヒが制服でこいって言ったからな」

キョン「そういやハルヒのやつまだ着てないのか」

>ああ、キョンのほうが早い。

キョン「今何時だ? 11時27分か。
    珍しいな。こういうときは、いの一番にいるんだが」

古泉「そうですね。僕らも5分ほど前にきたのですが、まだいらっしゃいませんでしたし」

キョン「ま、いいさ。おかげで罰金なんてもんを吹っかけられなくてすみそうだからな」

612: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/15(火) 01:59:51.02 ID:anCjbAgIo
>そういえば鍵は無事開けられたのだろうか。

キョン「ああ。ハルヒが大成功と息巻いてたからな。
    もう一度確認されて閉められていないのなら開いているだろうよ」

>そうか。よかった。

キョン「果たしてよかったのかね……」

キョン「しかし寒いぞ。冬場で雨で夜。これ以上ないくらい寒いシチュエーションだ」

キョン「朝比奈さん、寒くないですか? もし寒ければ上着をお貸ししますよ」

みくる「ううん、平気。ありがとね、キョンくん」

キョン「長門はどうだ?」

長門「平気」

キョン「なら、よかったよ」

>自分たちには聞いてくれないのか?

キョン「気色悪いことを言うな、番長」

キョン「……そういや、さっき古泉が『僕ら』といっていたが一緒にきたのか?」

古泉「ええ。番長氏のお宅で夕餉を共にしていたんですよ」

614: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/15(火) 02:00:39.06 ID:anCjbAgIo
キョン「なるほどな。たしかに番長の飯は旨いから古泉は役得だろうよ」

古泉「ええ、まさしくそのとおりです。
   機関に所属してから一番の役得といっていいかもしれません」

キョン「ちなみに。ちなみに訊くが朝比奈さんと長門は?」

みくる「あ、一緒にあたしたちもお夕飯でした」

長門「そう」

キョン「……」

>キョンがこちらを恨みがましい眼で見てくる……。

キョン「なぜその場に俺はいなかったんだ」

古泉「しかたありません。あなたはあなたのお役目をしていらしたのですから」

キョン「やれやれ……損な役回りだ」

キョン「しかし、番長も毎日飯作って大変だな」

>……。

古泉「……」

みくる「……」

長門「……」

キョン「おい、なんだ。この沈黙は」

616: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/15(火) 03:04:59.80 ID:anCjbAgIo
古泉「実はですね……」

>キョンにみくると有希に作ってもらったことを伝えた。

キョン「長門、朝比奈さん、ちょっと待っていてもらっていいですか?」

みくる「え、は、はい」

長門「わかった」

キョン「お前ら、ちょっとこっちこい」

>すこしみくるたちと離れた。

キョン「なにを作ってもらったんだ」

古泉「カレーですね」

キョン「レトルトを暖めてもらったのか?」

>いや、カレー粉からつくっていたな。

キョン「……うまかったか?」

古泉「ええ。それはもう」

>かなりおいしかったと伝えた。

キョン「エプロンは」

古泉「していましたね」

キョン「……」

古泉「ついでに言うなら長門さんも」

キョン「……」

617: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/15(火) 03:05:25.77 ID:anCjbAgIo
>キョン?

キョン「うおおおおおおおおっ!!」

キョン「どうして! 俺は! そこにいなかったんだッ!」

>キョンが地面にひざをついてくず折れている。

>濡れるぞ。

キョン「俺もまだ! 手料理なんて食べていないのに!
    それどころかエプロン姿も見ていないのに!」

キョン「ましてや長門のエプロン姿なんてッ!」

>キョンは、地面を叩いて悔しがっている。

>そっとしておこう……。

古泉「……ですね」

キョン「そっとしておくな!」

……


>とりあえずキョンを起こしみくるたちのところへもどった。

みくる「だ、大丈夫?」

キョン「え、ええ。少し精神的なダメージを受けただけです」

古泉「そういえば、涼宮さん遅いですね。
   もうそろそろ45分になりますが」

みくる「そうですねぇ……」

618: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/15(火) 03:05:55.90 ID:anCjbAgIo
キョン「なにか事故にでもあってるんじゃないだろうな」

>いや、どうやら来たようだ。

ハルヒ「遅れてごめんごめんっ!」

古泉「いえ、時間ぴったりですよ」

キョン「時間ぎりぎりなんて珍しいな。どうしたんだ」

ハルヒ「ん? 出てくるときに明日の朝食の用意するのを忘れてたこと思い出してたのよ」

ハルヒ「それで準備をしてたらこんな時間になっちゃったってだけね」

キョン「ハルヒも大変だな」

ハルヒ「なにせこんな深夜にSOS団の活動をするなんて初めてだからねっ!
    あたしもちょっと興奮してたのよ」

>ハルヒはうれしそうだ。

ハルヒ「さあ、いくわよ! 待ってなさい、マヨナカテレビ!」

>ハルヒの号令で、校舎へ侵入するべく動き出した。

………
……

619: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/15(火) 03:06:43.66 ID:anCjbAgIo
>無事、校舎内に侵入できたようだ。

>灯りのない校舎はどこか不気味だ……。

ハルヒ「みんなちゃんと靴はビニール袋に入れた?」

みくる「はぁい」

キョン「ああ」

ハルヒ「古泉くん! 懐中電灯!」

古泉「こちらに」

>ハルヒが懐中電灯を灯す。

古泉「皆さんもどうぞ」

キョン「ありがとさん」

>各々が懐中電灯を灯していく。

みくる「よ、夜の学校ってなんだか別の場所みたいですねぇ……」

ハルヒ「それがいいんじゃない!」

キョン「なんか、そうだな。
    なんて言ったらいいかわからんが懐中電灯の明かりだと余計に不気味に感じるな」

>わかる気がする。

キョン「だろ?」

古泉「できる限り足元を照らすことをオススメします。
   足元はよく見ないと危険ですし、光が外から見つかりにくいですしね」

ハルヒ「さ、まずは上履きを取りにいきましょ」

>そういってハルヒは歩き出した。

620: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/15(火) 03:24:00.14 ID:anCjbAgIo
>夜の学校に、自分たちの足音だけが響く。

ハルヒ「……」

>ハルヒは不思議そうな顔をしている。
 どうしたのだろうか。

ハルヒ「あ、ううん。なんでもないの。
    昔見た夢を思い出していただけだから」

>夢?

ハルヒ「ええ。いきなり学校に飛ばされた夢をみたことがあったの。
    それでそのときの学校の雰囲気とこの夜の学校の雰囲気がちょっと似てるなって思っただけ」

キョン「……」

古泉「ふふ」

みくる「……」

長門「……」

>なにかワケありのようだ。

621: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/15(火) 03:24:26.06 ID:anCjbAgIo
ハルヒ「ま、でも所詮夢は夢だからね。
    あたしがほしいのは夢のような現実! さあ、上履き履いて視聴覚室に行きましょ!」

キョン「そういうこった。夢なんて気にしてもしょうがない」

ハルヒ「時間があれば、深夜の校舎の探索もしてみたいんだけどね」

キョン「やめておけ。12時までもう時間がないぞ」

ハルヒ「わかってるわよ。さっさと回収していきましょ。
     深夜の不思議探索はまた今度にするわ」

キョン「また今度ってことは結局やるのか……」

ハルヒ「当然じゃない。こんなに不思議の匂いがぷんぷんするのにやらない理由はないわ」

キョン「やれやれ、それならせめて雨の降っていないときに頼むぜ」

ハルヒ「そうね、考えておくわ」

ハルヒ「うん。それもまた楽しみね!」

>ハルヒは深夜探索を決意したように言っている。

>1年生の上履きを回収し、2年の昇降口を回り視聴覚室へ向かった。

……

634: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/19(土) 03:32:28.81 ID:7MOmW+nHo
――視聴覚室前。

ハルヒ「ついたわね。今何分かしら」

古泉「53分ですね。あと7分ほど余裕があるかと」

ハルヒ「まあ、よかったわ。
    あまり時間が余っちゃうとだれるかもしれないし」

>ハルヒが合鍵を使い、視聴覚室の扉を開けた。

>やはりここも不気味なほど静かだ。

キョン「ま、そら深夜だからな。逆に騒がしかったらそれこそホラーだぜ」

ハルヒ「それはそれで面白いかもね。
    でも、今騒がしくなってもマヨナカテレビ優先かしら」

>ハルヒはそうとうに楽しみのようだ。


――視聴覚室。

>懐中電灯の光がちらちらと視聴覚室内を動き回る。

ハルヒ「うーん、特に今は何も異常はないわね」

>ハルヒはなにかないか探し回っている。

キョン「落ち着いて待ってろ。あとどれくらいだ? 古泉」

古泉「あと、3分ほどですかね」

635: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/19(土) 03:32:56.89 ID:7MOmW+nHo
みくる「ど、ドキドキしてきました」

長門「……期待している」

ハルヒ「あら? 有希がそんなこというなんて珍しいわね」

長門「そう」

ハルヒ「でも、ま。そうね。そろそろテレビの前で待機しましょ」

>ハルヒがテレビの前へ移動した。

キョン「おい、古泉」

古泉「はい?」

>キョンと一樹はなにか顔を近づけて話をしている。

キョン「で、なにをしたんだ」

古泉「なに、とは」

キョン「どうせお前のことだ。なにか仕掛けてるんだろ?」

古泉「ふふ、察しがよろしいですね」

キョン「お前が何もしないはずないからな」

古泉「お褒めにいただき、光栄ですよ。
   僕のしたことは、至極単純なことですよ。
   DVDロムをセットしただけです。読み込みのできない、ね」

キョン「褒めてなんかない。だが、なるほどな」

>キョンは何か納得したように一樹から離れた。

636: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/19(土) 03:33:30.62 ID:7MOmW+nHo
ハルヒ「ほら、あんたらもこっち来なさい!
    もうそろそろ時間でしょ!」

古泉「ええ、すみません。あと1分ですね」

>ぞろぞろと全員がテレビの前に集まった。

>誰に合わせるわけでもなく全員が押し黙る。

>全員が真っ暗な画面を見つめ、雨の音だけが響いている……。

>時計に眼を落とす。

>もう、時間だ。

>5、4、3、2――。

キュィィィン……ガガガガガ。

「「「!!」」」

>!! このラジオのチューンをあわせたときのようなノイズ音は……!

>砂嵐とともに何かの映像が画面へ映りこむ。

ハルヒ「う、映った! 映ったわよ!!」

>ハルヒは興奮気味に画面を指差している。

637: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/19(土) 03:34:34.75 ID:7MOmW+nHo
キョン「おいおい、マジかよ……」

古泉「ほう……」

みくる「え、まさか、え?」

長門「……」

>徐々に画面がクリアになっていく。

キョン「こ、これって」

>どうやら、子供――少女が一人こちらを見つめるように佇んでいる。

>……? みたことのあるような気がする……。

ハルヒ「え、あ、あたし? ど、どういうことなの?」

>今とは違うロングヘアーであるものの、トレードマークの黄色いカチューシャがはっきりと見て取れる。

>顔つきも幼いながらハルヒの面影を持ち合わせていた。

キョン「古泉!」

古泉「し、知りませんよ、僕は、こんなもの……!」

>一樹が激しくうろたえている。

???「こちらへ来なさい。あなたがほしかったもの、すべて教えてあげる」

>画面の中の少女がこちらに話しかけてきた……!

643: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:37:13.14 ID:9LW1zlgjo
ハルヒ「これ、誰かのいたずら?」

キョン「そんなわけあるかっ!」

???「教えてあげる、この世の全てを。この世の真理を」

???「あなたの全てを」

ハルヒ「じゃあ、これなんなの? CG、じゃないわよね。誰のイタズラ?」

>……? ハルヒが思いのほか冷静だ。

???「ふふ、そうよね。それが『涼宮ハルヒ』だもの」

ハルヒ「あたしの名前を呼んだ……? ずいぶん手の込んだイタズラね」

???「イタズラなんかじゃないわ」

ハルヒ「え! じゃあ、本当に怪奇現象!?」

>ハルヒは無邪気に喜んでいる。

ハルヒ「みんな! やったわ! ついにこの日が!
    SOS団が不思議をはじめてはっけ――」

>ハルヒが画面に触れようとし、そして――。


ハルヒ「え?」

ドプン

644: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:37:46.91 ID:9LW1zlgjo
キョン「おい、ハルヒッ!」

ハルヒ「きゃああああああっ!」

>ハルヒがテレビ画面に飲み込まれてしまった!

???「ふふ、じゃあね。"これ"は、あたしがもらっていくわ」

プツン

>マヨナカテレビが消え、一瞬の静寂が訪れる……。

キョン「ハルヒッ!!」

>キョンが画面に手を伸ばした……が。

ガンッ!!

キョン「ってぇ! な、な……!? どうなってやがる!?」

>画面は普段と変わらないまま、平面を保っている。

キョン「長門ッ!」

長門「わたしは接続を行っていない」

>どういうことだろうか。

645: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:38:41.29 ID:9LW1zlgjo
長門「異空間へ接続は調査時以外に断っている。
   だから、涼宮ハルヒが飲み込まれた瞬間も、今も、わたしは接続していない」

古泉「ということは、あの画面の向こうの少女が?」

長門「そう考えざるをえない」

みくる「じゃあ、じゃあ、涼宮さんは……」

古泉「画面の向こうの少女に招かれたということでしょうか」

古泉「というより、あの少女は……」

キョン「古泉ッ! そんなことはどうでもいい!」

キョン「ハルヒを助けに行く! 今はあれこれ考えている場合じゃない! そうだろう、番長!」

>ああ、その通りだ。

>だが、一度落ち着け。

キョン「落ち着け? この状況で落ち着けだと!?」

>画面の向こうの少女は、明確にこちらを意識して話しかけ、意思の疎通を行ってきた。

>こんなこと、自分のいたところでもなかったことだ。

古泉「つまり、番長氏であっても未知の存在であるということですか?」

>ああ。

646: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:39:25.80 ID:9LW1zlgjo
>ハルヒの影、ならばどうにかできるかもしれない。

>だが、ハルヒはまだこちら側にいた。

みくる「それってつまり……」

長門「涼宮ハルヒの影でない可能性がある」

>そういうことになる。

>だから、もし戦闘になるようなことがあれば、自分でもどうなるかわからない。

キョン「……」

>有希の影のときのように、守りながら戦うこともできないかもしれない。

>はっきり言おう。戦うことになれば、かなり危険だ。

>それでも、いくか? キョン。

キョン「……番長」

>キョンは深呼吸し、自分をまっすぐに見据えた。

キョン「愚問だ、愚問すぎる。
    俺はSOS団雑用係、団員その1だぜ。
    団長様を――ハルヒを助けに行く理由なんて、それだけで十分だ」

>キョンの覚悟が伝わってくる。

647: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:40:35.54 ID:9LW1zlgjo
>もう、大丈夫みたいだな。

キョン「ああ」

キョン「だけど……ありがとよ。
    番長の言うとおり、目の前で起こったことが信じられなくてパニックになっていた」

みくる「ふふ、よし。いきましょうか」

キョン「朝比奈さん、残ってもらっていいんですよ。番長の言ったとおり危険かもしれませんし」

みくる「うふ、あたしは副々団長ですよ? 助けに行く理由はそれだけで十分ですよね?」

キョン「朝比奈さん……」

古泉「では、副団長の僕が行かないわけにはいきませんね」

キョン「お前は、言わなくても来る気だっただろう」

古泉「おや、ばれていましたか」

キョン「……それにお前が、そんな薄情なやつだとは思っていないんでね」

古泉「ふふ」

キョン「長門」

長門「団員その2」

キョン「ああ、わかっているさ。
    ……番長のこと、頼んだぜ。戦いになったら俺じゃ力になれない」

>キョンは悔しそうだ。

648: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:41:15.71 ID:9LW1zlgjo
長門「……任せて。わたしが守る。あなたも、彼らも」

古泉「微力ながら僕もチカラを行使できますから。
   身を挺すればお守りすることくらいならできるかもしれませんが、あまり期待しないでください」

キョン「自分のケツくらい自分で持てるようにするさ。いざとなったら躊躇なく見捨ててくれ」

古泉「僕も見捨てていただいて構いません。番長氏も、長門さんも」

みくる「足手まといになるようでしたら、あたしもそれで構いません」

キョン「……朝比奈さんは守ってやってくれ、番長」

>全員覚悟はできているようだ。

>よし、行こう。

長門「接続する」

>テレビの中へ潜っていった。

……


649: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:42:04.40 ID:9LW1zlgjo

――テレビ内部。

>これは……。

>様子が様変わりしている。

キョン「こりゃあ……」

みくる「なんですか、これ……?」

>灰色の平面。灰色の空。これは……。

古泉「閉鎖空間……? いや、違う」

>後ろには灰色がかった北高の校舎がそびえている。

みくる「あ、あれ? ここ、北高の昇降口までの通路ですよね?」

キョン「え、ええ。この石畳は間違いなく、俺らがほぼ毎日歩いているところですよ」

キョン「さっきまで、視聴覚室にいたよな?」

長門「ここは、間違いなくあの部屋だった場所」

古泉「ということは」

>ハルヒがこの中へ入ったことで変化したのだろう。

>校庭へと目を向ける。遠目に2人の人物が見えた。

>片方の人物がなにか、叫んでいる。

650: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:42:33.76 ID:9LW1zlgjo
ハルヒ「アンタ、一体なんなのよ! それにここはどこなの!?」

???「うふふ」

ハルヒ「それに、アンタがいったあたしのほしいものってなんのことをいってるの!?」

キョン「ハルヒ!」

>ハルヒはどうやら無事のようだ。

???「やっぱりきたのね、うふふふ」

ハルヒ「え、あ。キョン……それにみんなも」

>ハルヒの元へ駆け寄る。

キョン「ハルヒ、無事か?」

ハルヒ「え、ええ。ここに来たときに思いっきりお尻打ったけど」

キョン「そうか……よかった」

ハルヒ「よくないわよ、痛かったんだから」

ハルヒ「それより……ねぇ、キョン。ここ――」

???「役者は、揃ったわ」

>ハルヒに似た少女が口を開く。

651: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:43:27.16 ID:9LW1zlgjo
???「みなさま、はじめまして。涼宮ハルヒです」

>金色の瞳を光らせ、目の前の少女は恭しく挨拶をした。

ハルヒ「いい加減にしなさいよ! 涼宮ハルヒはあたし! アンタは誰なの?」

???「だから、わたしは涼宮ハルヒそのもの」

>お前は、ハルヒの影なのか?

ハルヒの影(?)「影……ひどい言い方するわね。でも正解かもしれない」

ハルヒ「番長くん、何か知ってるの? 知ってるなら教えなさい!」

古泉「……涼宮さん、あとでしっかりご説明しますよ。今は番長氏に任せてください」

ハルヒ「古泉くんも、何か知っているのね」

古泉「ええ、ですが……」

ハルヒの影(?)「うふふふ」

ハルヒ「……わかったわ。こいつはあたしに話す気はないみたいだし。今は任せるわ」

ハルヒの影(?)「そんなことないわよ。今からしっかり話してあげる」

ハルヒの影(?)「言ったでしょう、役者は揃ったって。
        番長くん、もう一度さっきの質問に答えるわ」

ハルヒの影(?)「あたしは、3年前に押さえつけた涼宮ハルヒ。
        本当の涼宮ハルヒ」

652: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:44:03.50 ID:9LW1zlgjo
>3年前……?

ハルヒの影(?)「そのことに関しては後ろの3人のほうが詳しいかもね」

古泉「……」

みくる「……」

長門「……」

ハルヒ「ど、どうしたのよ、3人とも。怖い顔して」

古泉「どういうこと、でしょうか」

ハルヒの影(?)「うふふ、ちゃあんと教えてあげる」

ハルヒの影(?)「なぜ超能力に目覚めたのか、なぜ3年前以前に遡行できないのか、なぜ情報フレアが起こったのか」

ハルヒの影(?)「ちゃあんと教えてあげるから」

古泉「……!」

みくる「なん、なんでそのこと」

長門「……」

ハルヒの影(?)「ふふ、怖い顔しないでよ。あたしは当然のように知ることができる。
        だってそういう"能力"だから。知りたいと願っただけ」

>あなた達ならわかるでしょう、といわんばかりに微笑んでいる。

653: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:45:32.64 ID:9LW1zlgjo
ハルヒ「? なに? なんのこと?」

ハルヒの影(?)「きっかけは、3年前。たいしたことじゃなかった。
          あたしがちっぽけな人間だと気づいて、世界が退屈に染まったように見えたあの日。
          たしか春先のできごとだったかしら。桜が散り始めていたのを覚えているわ」

キョン「……」

ハルヒの影(?)「いつもと同じ登校風景。憂鬱で、陰鬱で、絶望的な気分だった。
          だからあたしは、面白い人を探そうと思った。
          日本中の、世界中のどこかにきっといるんだって信じて疑っていなかった」
 
ハルヒの影(?)「そんな人を探すにはたくさん時間が要る。日本全国に足を運ばないといけないだろう。
          だから早く夏休みになってほしい。夏休みになったら探しに行こう、そんなことを思いながら登校していたわ」

ハルヒの影(?)「楽しいことになるかもしれない。わくわくしていた」

ハルヒの影(?)「でもその途中で気づいたの。日本中を探し歩くにはオカネがたくさんいる。
          バス代や電車代、泊まるところ……もらっているお小遣い程度じゃ、ちっとも足らないって思い当たったわ。
          両親にいっても、きっとお金はくれないだろう。子供の一人旅なんてなおさら」

ハルヒの影(?)「また目の前が真っ暗になった気がした。
          あたしにはなにもできない。結局ちっぽけな人間で、ちっぽけな子供。
          楽しいことは起こらない。楽しいことを探すこともできない」
        
ハルヒの影(?)「ああ、なんてつまらないんだろう。せめてもし、目の前にお金が落ちていたら――」

ハルヒの影(?)「次の瞬間ふと、落ちていた封筒に眼が奪われた。眼が離せなくなった。
          よくみると中から、何枚もの1万円札が見えていたわ」

ハルヒの影(?)「あたしは歓喜した。警察に届けようなんて微塵も思わなかった。
          なんでこんなところにお金があるのかなんて疑念もまったくなく、心は喜びで満ち溢れていたわ」

ハルヒの影(?)「そのお金を拾って学校へ登校した、はやく夏休みになれと願いながら」

654: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:46:18.28 ID:9LW1zlgjo
古泉「まさか……」

ハルヒの影(?)「ふふ、古泉くんは察しがいいわね。そのまさか」

>ハルヒの影(?)は、なぜか楽しそうだ。

ハルヒの影(?)「最初は意味がわからなかったわ。お金を拾った喜びのあまり自分の頭がおかしくなったのかと思った。
        なにせ、学校についた途端、終業式が始まったんだからね」

ハルヒの影(?)「でも周囲はなんの疑問も持っていない。わけのわからないまま帰路についた。
          やけに暑い。まるで夏。そしてその帰り道に決定的な違和感に出会ったの」

ハルヒの影(?)「登校したときには淡いピンク色に染まっていた桜の木がね、全部青々とした若葉に変わっていたのよ」

ハルヒの影(?)「もしかして風で全部散ってしまったのかも。そう思って地面を見たわ。
          でも桜の散った形跡もまるでない。1枚たりとも桜の花びらは落ちていなかった」

ハルヒの影(?)「急いで家に帰ってテレビをつけたわ。ワイドショーがいってた日付は7月21日。
          まさしく終業式の日だった。
          新聞も、ラジオも、雑誌も。あらゆるマスメディアが7月21日をアナウンスしていた」

ハルヒの影(?)「はじめは面白いことを探しに行くことも忘れて恐怖に震えていたけれど、
          あたしの周りで起こる奇怪な現象に法則があることに気付いた」

キョン「それって……つまり」

ハルヒの影(?)「そう。すべてあたしが願ったことが起こっていたのよ。
          そこからは時間は掛からなかった」

>ハルヒは自分の能力を知っていた……?

>だが、今のハルヒは。

ハルヒ「?」

>なにをいっているのかさっぱりわからないといった様子だ。

655: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:47:03.63 ID:9LW1zlgjo
みくる「どういうことなんでしょう……」

長門「……」

ハルヒの影(?)「どうしてあたしにそんなチカラがあったのかはかわからない。
          でもそんなことはあたしに関係なかった」

ハルヒの影(?)「"能力"を自覚した瞬間、あたしの中の世界が一気に広がった気がしたわ。
          思いつく限りの面白いことをあたしはやった」
        
ハルヒの影(?)「だけど幼いあたしにとっては喜びだけじゃなかった。
          思いつく限りの面白いことは、経験した瞬間から徐々に"普通"へ、そして"つまらないこと"へと成り下がっていく……。
          目の前に現れるのは望んだ面白いことだったはずなのに、実際はつまらないものが増えていくだけ……」

ハルヒの影(?)「色んな感情が入り混じってどう表現していいかわからなかった」
        
ハルヒの影(?)「恐怖、悲哀、憤慨、驚愕、歓喜、驚喜、狂喜、狂気――。
          感情のタガが外れて暴走を始めた。なにか熱いものが身体中を駆け巡って、噴出したような気さえした」

長門「それが、情報フレア」

古泉「能力の自覚が引き金となったというわけですか」

ハルヒの影(?)「そうなるわね。普通に考えたらこんな"能力"一人の人間が制御できるわけないのよ。
          なにせ願うだけ思うだけ……思ったら勝手に発動してしまう。その場限りの感情的な願いでさえ発動してしまう。
          何度も何度も誤発動をしたわ。そのたびに修正した。何度も時間も巻き戻したし進めた」

ハルヒの影(?)「どれを修正したらいいのか、何処を修正したらいいのか、いつを修正したらいいのか、どの時間を修正したらいいのか。
          どんどん解らなくなっていった。はっきりいって気が狂いそうだったわ。ううん、もうそのときには気が狂っていたのよ。
          なにせ一度時間の概念すら破壊したからね。なにかもかもやけっぱちになって」

みくる「じゃ、じゃあ、それが過去に遡行できない原因を作った時空震……?」

ハルヒの影(?)「かもね。でもそのあとちゃんと作り直したわよ。ちゃんと今も時間の概念はあるでしょう?」

>ハルヒの影(?)はあっけらかんと言い放つ。

656: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:50:10.29 ID:9LW1zlgjo
ハルヒの影(?)「"能力"に制限をかけようとしてもうまくいかない。あたしの感情を消そうとしてもうまくいかない。
          どうやら、あたし自身にはこのチカラは掛かりにくいようだった」

ハルヒの影(?)「その後からは感情を押し殺して生きるようになった。
          "能力"の発動は感情に大きく左右されることをそのときには、あたしは知っていたからね」

古泉「……」

長門「……」

>以前一樹と有希が言っていた自身に能力が掛かりにくいというのはあたっていたようだ……。

ハルヒの影(?)「だけど、そんなことでこの"能力"を押さえつけることなんてできるはずがなかった。
          ふとしたことで誤発して、泣きながら修正する日々……しんじゃえって思っただけで両親が亡くなったときは絶望だったわ」

>金色の眼がさらに怪しく光る。

ハルヒの影(?)「もう、うんざりだった。もし世界をまるごと作り変えても、きっとなにも変わらない」

ハルヒの影(?)「なら、あたしが変わるしかない。でもあたしに能力は押さえつけられない」

ハルヒの影(?)「この袋小路で解決する方法をあたしは探したわ。
          その中で得たひとつの結論……あたしが、あたしでなくなればいい」

ハルヒの影(?)「あたしの中に『なにも知らないもう一人のあたし』の人格を作り出した。"能力"を抑えるための外殻。
          ……作ったというより、なにも知らなかったあのころのあたしを呼び戻したといったほうがいいかもしれないわね。
          あたし自身にかけられる能力の限界がこれだった」

ハルヒの影(?)「それが、あなたよ」

ハルヒ「あ、あたし?」

>ハルヒが、震えている……?

657: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:50:57.63 ID:9LW1zlgjo
ハルヒの影(?)「もう一人の人格を表層へと押し上げ、あたし自身は奥底へと押し込めた。
          だけど、それでもこの"能力"は外へ漏れでていく。あなたが感情を強く発露すればするほどね」

ハルヒの影(?)「漏れ出るこの"能力"の逃げ場所として、あたしはある場所を作り出した」

古泉「それが、閉鎖空間というわけですか」

ハルヒの影(?)「そういうこと。漏れ出る能力の全てを閉鎖空間へ追いやることはできなくても
          この世界へ大きく影響を与えそうな、修正をしなければならないようなものを追いやることはできた」

古泉「……神人は、その能力が具象化したものということですね」

ハルヒの影(?)「正解」

ハルヒの影(?)「閉鎖空間とあなたたちが神人と呼ぶものは、願望の集積物――つまり不発に終わった"能力"」

ハルヒの影(?)「でも追いやったからといって放置をしていたら、微弱とはいえいずれ閉鎖空間から噴出してしまう。また泣きながら世界を修正しなければならない。
          神人として具象化しているといえど、あたし自身の能力を押さえつけることはできないからね。
          そうしたら、あたしがしてきたことは全て水の泡」

古泉「そこで、僕たちに超能力を与えたわけですか」

ハルヒの影(?)「ええ。与えたというより目覚めさせたというべきかしら。
          この天啓としかいえない曖昧なものを理解して、神人退治を確実に行ってくれるような人物や性格に該当する人たちを選んだわ」

古泉「……創ればよかったのでは。神人を倒してくれる人物を、超能力をつけて」

ハルヒの影(?)「何度も言ってるように、あたし自身に能力は掛かりづらいの。
          あたしの造ったモノじゃ、結局はあたしの能力をあたし自身で押さえつけているようなものでダメなのよ」

ハルヒの影(?)「あくまで、あたし以外のほかの誰かでないとダメなの」

古泉「そう、ですか。僕は、僕たちは造られた人形ではなかったのですね……」

658: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:51:42.07 ID:9LW1zlgjo
ハルヒの影(?)「どう? 納得できた?
          なぜ超能力に目覚めたのか、なぜ3年前以前に遡行できないのか、なぜ情報フレアが起こったのかを」

古泉「……」

みくる「……」

長門「……」

>ハルヒの影(?)が話し終えると沈黙がその場に横たわった……。

ハルヒ「ちょ、ちょっと! なにいってるのか全然わからないわよ!
    あたしが、あんたに作られたですって? そ、そんなわけないじゃないっ!」

ハルヒの影(?)「そうよね、わからないわよね。"そういう風に"構築したんだもの。うふふふふふふ。
          でも、あなたは本能で理解してしまっているはずよ、本当のことだって。だって震えているもの」

ハルヒ「う、うっ……」

>ハルヒはガタガタと震えている。

キョン「このハルヒが、お前に作られた人格だと? ふざけるなよ」

キョン「ハルヒはハルヒだ! お前のほうが偽者だろうが!」

ハルヒの影(?)「ひどいこというわね、キョン……」

659: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:53:20.98 ID:9LW1zlgjo
ハルヒの影(?)「そもそもみんなは不思議じゃなかった?
          この『涼宮ハルヒ』が、あれほど不思議を望んでいる『涼宮ハルヒ』が、
          目の前であれほど不思議なことが起こっているのに頑なに信じようとしなかったことを」

古泉「……」

みくる「……」

長門「……」

ハルヒの影(?)「桜のあまりにも不自然な狂い咲き、不自然な台風の到来、不自然な猛吹雪。
          違和感だらけの映画撮影、違和感だらけの野球大会、そして極めつけはこの場所……。
          これだけ要素が揃っていて、どうして不審に思わなかったのかしら」

キョン「そりゃあ…………ハルヒが常識人だからだろう」

ハルヒの影(?)「うふふふふ……キョンは、この場所を覚えているでしょう?」

キョン「……ああ」

ハルヒの影(?)「もし、キョンがなんの前情報もなく、あの状況に陥ったらどう思うかしら」

キョン「…………そりゃ、夢だとおもうだろう」

ハルヒの影(?)「嘘ね。どんなに荒唐無稽な現実でも、夢と現実の感覚を取り違えることはありえないわ。
          精神的に病んでいない限り、夢を現実と取り違えることがあっても、現実を夢と取り違えるなんてまずない」

ハルヒの影(?)「『涼宮ハルヒ』もあの日キョンに言われたことは現実だと思っている。
          その証拠に、その『涼宮ハルヒ』はあの次の日、何をしてきた?」

キョン「……ポニー……テール」

660: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/22(火) 15:54:16.08 ID:9LW1zlgjo
ハルヒの影(?)「そう。その通り。じゃあキョン、改めて訊くわ。
          あなたの知っている『常識人の涼宮ハルヒ』は、
          もしも夢で男に言われたからといって、それを真に受けて、実際に行動に移すような馬鹿な女かしら?」

キョン「……!!」

ハルヒ「ど、どういうこと?」

ハルヒの影(?)「だけど、実際にはあの不思議現象をまったくの夢だと断じてしまっている。
          キョンに言われたことは現実として認識しているにもかかわらずね」

ハルヒの影(?)「つまり、あなたは信じられないようになっているの。
          目の前でいくら不思議なことが起ころうともね。
          もしそこに疑惑を持ってしまえば、"能力"の自覚へと繋がる」

ハルヒの影(?)「だから『涼宮ハルヒ』は不思議現象への認識が不自然なくらい盲目的になっているのよ」

ハルヒの影(?)「それこそが、作られた人格という証左に他ならない。
          悲しいわね」

>ハルヒはわけのわからないといった表情をしているが……。

>ほかの4人はあまりの事に絶句している。

ハルヒの影(?)「でも、それでも、ここは心に引っかかりを覚えていたみたい。
          心象風景としてここまではっきり映し出されるなんて。やっぱり現実離れしすぎていたからかしら」

>やはりこの空間の変化は、ハルヒがここに入ったからか……。

682: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/27(日) 04:30:34.24 ID:Y3PjYY75o
ハルヒ「じゃ、じゃあ、あのときのことって」

ハルヒの影(?)「ええ、夢じゃないわ」

ハルヒ「そんなの、そんなの信じられるわけないじゃない!」

ハルヒの影(?)「ここまできてもまだ信じないなんて。
        あたしが作ったとはいえ、どこまでも哀れね」

キョン「てめぇっ!」

>待て、キョン。

キョン「なんだ、番長!」

>こいつに、聞きたいことがある。

キョン「聞きたいことだ?」

>……なぜそんなことをハルヒに伝えた?

ハルヒの影(?)「なぜって? うふふふ」

みくる「そ、そうですよ! あなたの行動は矛盾しています!」

古泉「ええ、朝比奈さんの仰るとおりです。
   なぜ、涼宮さんに能力を自覚させるようなことを促したのですか」

683: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/27(日) 04:31:57.22 ID:Y3PjYY75o
ハルヒの影(?)「そんなの決まっているでしょう?」

ハルヒの影(?)「もう、外殻に頼る必要なんてないからよ」

ハルヒ「必要、ない?」

ハルヒの影(?)「あたしがただ外殻に全て任せて、心の奥底に沈んでいったと思うの?」

>どういうことだ。

ハルヒの影(?)「あたしがこの"能力"を抱えたまま沈んでいったのは、人生から退場するためじゃない。
          目的はただひとつ。『面白い人生をおくること』。
          そのためにこんな面白い"能力"を完全封印することは、あたしの意図するところじゃない」

ハルヒの影(?)「だからあたしはずっと模索してた。この"能力"を制御する方法をね」

古泉「それを見つけたというのですか?」

ハルヒの影(?)「残念ながら完全に掌握する方法は見つからなかったわ。
          でも誤発した"能力"をある程度処理するシステムは作り出せた」

ハルヒの影(?)「――それが、SOS団」

キョン「……なんだと」

684: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/27(日) 04:32:27.65 ID:Y3PjYY75o
ハルヒの影(?)「突発的な、そして意図しない"能力"の置き場所である閉鎖空間。
        そしてその処理をする古泉くんたちの機関」

ハルヒの影(?)「もし不都合が起きても、時間遡行で修正ができるみくるちゃんたち、未来の組織」

ハルヒの影(?)「それに加えて、その二つをサポートできる存在。
        さらにはあたしの"能力"が万が一暴走しても、"能力"を受け入れる耐性をもち"能力"を一時退避させる器となれるもの。
        有希たち、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースと情報統合思念体」

ハルヒの影(?)「ね、素敵なシステムでしょう?」

古泉「……ふざけていますね」

みくる「あたしたちをまるで道具扱い……じゃないですか!!」

長門「不愉快」

ハルヒ「なによ、どういうことなのよ……古泉くんが超能力者? みくるちゃんが未来人? 有希が宇宙人?
    もう全然わかんない。わかんない……」

ハルヒの影(?)「そして、あたしとそこの外殻を逆転させる。今度はあたしが表層へ戻り、その『涼宮ハルヒ』を奥底へ押し込める。
        その『自覚をしない器』に"能力"を押し込むことで、あたしの願望と能力の発動を直結させずにすむようになるの。
        そうすれば全てとはいかないまでも、能力を制限することができる」

ハルヒ「ひっ」

ハルヒの影(?)「不意の発動は、さっきも言ったように処理システム『SOS団』がなんとかしてくれるもの。
        ふふふふ、どう? これがあたしの計画! これでようやくあたしは素敵な人生が送れるようになるの!」

685: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/27(日) 04:33:03.95 ID:Y3PjYY75o
ハルヒの影(?)「SOS団の名前は、そこの外殻が決めたことだけど素敵な名前だと思っているわ。
        なにせこうやってあたしの『SOS』を聞き届けてくれたんだから!」

キョン「てめぇ……!」

ハルヒの影(?)「だけどね、それだけじゃ足りない。もっとも重要なものが欠けている」

ハルヒの影(?)「それがキョン、あなた」

キョン「俺、だと?
    ふん、この平々凡々な俺がお前なんかのふざけたシステムに役に立つとは思えないね」

ハルヒの影(?)「くふふふふ……その『平々凡々』が重要だって言ってるのよ」

キョン「はあ? 意味がわからん」

ハルヒの影(?)「あたしの最大の失敗はね、"特別"を"普通"へと自分の認識を変化させてしまったこと」

ハルヒの影(?)「いくら"能力"をつかって"楽しいこと"を起こしても、それが"普通"になっていったら意味がない」

>そんなことは、ずっと続けば誰だってそうだろう。

ハルヒの影(?)「ふふふ。それがね、キョンは違うのよ」

キョン「何を言ってやがる……?」

ハルヒの影(?)「キョンはね、"特別"を"特別"と認識し続けることができるの」

686: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/27(日) 04:33:44.13 ID:Y3PjYY75o
ハルヒの影(?)「普遍が普遍であるということを認識し続け、自らの普遍を保ち続けることのできる存在。
        自己や現環境を相対化ではなく"絶対の普遍"として認識できる存在。
        "普通とはなにか"を認識し続けられる"特殊"な存在」

ハルヒの影(?)「それがキョン。あなたなのよ」

キョン「意味がわかんねぇ。そんなもん、誰だって普通と特別は分けられるだろうが」

ハルヒの影(?)「そんなことないわ。一度認識してしまった特別は普遍へと変遷していく」

ハルヒの影(?)「キョンはまだ、超能力者や未来人や宇宙人いることを特別なことだって認識しているでしょう?」

キョン「そんなこと当たり前だろう。誰だってそうだ。一般人てのはそういう特殊な属性を持ってないやつのことだからな」

ハルヒの影(?)「それが当たり前じゃないのよ。一度認識してしまえば、いることが当然になってしまう。なんら特別なことじゃないってね。
        超能力者は当然いる、未来人は当然いる、宇宙人は当然いる。目の前の存在以外にも当然いる。
        確たる存在としてこの世界を構成している一要素と考えてしまう。そうでしょう? そこのお三方?」

古泉「……」

みくる「……」

長門「……」

ハルヒの影(?)「いくら特殊なことでも本来ならば時間が経つにつれ、普遍という認識は色濃くなっていく。
        だけどキョンはいまだに特殊の中にいるという認識を保っていられている。
        約1年という時間をSOS団なんて"特別"と一緒にすごしているにもかかわらず、ね」

687: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/27(日) 04:34:25.79 ID:Y3PjYY75o
ハルヒの影(?)「つまり、キョンは"絶対普遍"という"特殊"なのよ。
        こんなもの、本来の普遍的環境にいたら絶対にわからない。だからまったく目立っていなかった。
        でも、みつけた。見つけられた。うふふふふ」

>ハルヒの影(?)は怪しく笑っている……。

キョン「……おまえがどうしても俺を変人だと位置づけたいのは1万歩、いや100万歩譲って理解した。
    だけどそれがどうした。だからどうしたとしか言えん」

ハルヒの影(?)「だからねキョン、あなたも一緒に取り込むのよ。その外殻と一緒にあたしの中へね。
        あたしとキョンはひとつになるの。嬉しいでしょう? キョンの存在はこの世から消えるけどいいわよね」

キョン「ふざけんな! はい、そうですかなんていうわけあるか!」

ハルヒの影(?)「ま……キョンがなんていっても関係ないけどね。もうこれは決定事項」

ハルヒの影(?)「キョンの"絶対普遍"を取り込むことができれば、あたしはいつまでも"面白いこと"を認識し続けられるわ!
        超能力者がいることは特別、未来人がいることは特別、宇宙人がいることは特別、ってね!」

ハルヒの影(?)「SOS団という能力制御システムをつかい、キョンという普遍を取り込んで!
        それでようやくはじめることができるのよ! あたしの退屈しない人生を!」

ハルヒの影(?)「今から楽しみで楽しみでしょうがないわ!
        うふふふふ、くふふふふふ、あは、あはは、あはははははははっ!!!」

>ハルヒの影(?)は恍惚の表情を浮かべている。

688: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/27(日) 04:34:52.45 ID:Y3PjYY75o
古泉「……そんなものに、僕たちが手を貸すと思っているのですか?」

みくる「そ、そうです! あなたのためなんかにあたしは、あたしたちは協力しません!」

長門「あなたに協力する気は一切ない」

ハルヒの影(?)「ふう、わかってないわね。あなたたちの意思なんて関係ないのよ」

ハルヒの影(?)「記憶も、認識もこの"能力"を使って書き換えればいいだけだから。
        元からいた『涼宮ハルヒ』があたしであるように書き換えるだけ。簡単でしょう?」

ハルヒの影(?)「あなたたちは以前と同じように過ごすだけよ。あたしは外殻が培った友情を利用させてもらうだけ。
        あたしのために、あたしの面白い人生のために働くの。気付かないうちにね
        ここで起こったことはすべて忘れて」

ハルヒの影(?)「そうすればあなたたちも快く協力してくれるでしょう?
        だって、あなたたちの大好きなSOS団だもの」

古泉「くっ。それを容易く行えると?」

ハルヒの影(?)「…………ええ。そうね」

古泉「あなたは、涼宮さんの持つ願望実現能力そのものというわけですか」

ハルヒの影(?)「そういうことかしらね」

>すべてはお前の力の前に踊らされていたというわけか。

ハルヒの影(?)「ふふ……でもね、あたしだけじゃこうはできなかった。
        能力を押さえつけることばかり考えて、心の奥底に行き過ぎたのよ」

689: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/27(日) 04:36:46.64 ID:Y3PjYY75o
ハルヒの影(?)「この計画を思いついて表層へ戻ろうと思ったわ。
          でも自力で復帰することができなくなっていた。このチカラを押さえ込むにはそれくらい深く深く封じるしかなかった」

ハルヒの影(?)「だから、ここから抜け出すために心の深部へアクセスして外界とつなげることのできる能力を持った存在を呼び寄せたの」

キョン「……! それは、つまり」

長門「……彼」

ハルヒの影(?)「そう、番長くんってわけ」

>……!!

古泉「異世界にいた無関係な番長氏まで、利用したというわけですか……!」

みくる「……許せないですっ!」

ハルヒの影(?)「仕方ないじゃない。それしか方法がなかったんだから。
          でも、嬉しかったんじゃないの? 番長くんはこんなに素敵な人だったんだから。
          あたしにとっても、あなたたちにとっても。くふふふふふふふ」

古泉「……あなたは神経を逆なでするのが得意なようですね」

キョン「今まで生きてきた中で、これほどまではらわたが煮えくり返っているのは初めてだ」

古泉「奇遇ですね。僕もです」

ハルヒの影(?)「そこの外殻も新たな刺激を欲していたし、番長くんの状況も相まって呼ぶのは容易かった」

ハルヒの影(?)「改めてお礼を言うわね。きてくれてありがとう。ここまできてくれてありがとう!
          おかげであたしの計画の成就も、もう目の前にあるわ!」

キョン「こんなのが、こんなものが、SOS団の真実なのかよ……!」

ハルヒの影(?)「そうよ! これが真実! たとえどんなに信じたくなくてもね!」

>ハルヒの影(?)の瞳が大きく開かれた!

699: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/03(土) 05:08:36.57 ID:0B731doIo
ハルヒの影(?)「さあ、こちらに来なさい。とりこんであげる。
        もう十分知ったでしょう? あなたの欲していた不思議は近くにあったのよ」

ハルヒ「う……」

ハルヒの影(?)「でも、あなたは気付かなかった。気付けなかった。そしてこれからも気付けない。
        だからもうあなたの役目は終わり。あとは、SOS団はあたしが引き継ぐわ」

ハルヒの影(?)「安心して。古泉くんもみくるちゃんも有希も。今までの生活を続けられるわ。
        ちゃんと違和感なく記憶いじってあげるからね」

古泉「……」

みくる「……」

長門「……」

ハルヒの影(?)「ついでに番長くんも、こっちにいることが自然であるかのように記憶いじってあげるから。
        SOS団の一員としてね」

>やはり、自分の知っている影とは違う。

>確かにある種のハルヒの内面を映し出しているのかもしれないが、まるっきり別の意思だ。

>ハルヒに、自身すらまるで認識していなかったハルヒの影(?)を受け入れさせることができるのか……?

>それに、本来のハルヒだとしても、どこか違和感を覚える。

ハルヒの影(?)「あら、番長くんは思ったよりも冷静なのね。あたしを受け入れてくれたのかしら」

>……。

700: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/03(土) 05:09:16.44 ID:0B731doIo
キョン「こんなのがハルヒだと……」

ハルヒの影(?)「ああ、キョンは最初からいなかったことになるから記憶なんていじらなくていいわよね。
          でも死ぬわけじゃないから安心して?」

キョン「ぐっ……」

ハルヒの影(?)「うふふふふふふふ。ここから新しいSOS団が始まるのね。
          あたしのあたしによるあたしだけのためのSOS団が!!」

ハルヒの影(?)「あたしの退屈を消し飛ばしてくれるSOS団が!!」

キョン「ッ! ふざ――」

ハルヒ「――んな……」

>ハルヒ?

ハルヒ「ふざっけんじゃないわよっ!!」

ハルヒの影(?)「うふふふふふふふふ」

ハルヒ「この際、あたしがアンタに創られた人格だとか、そんなもんはどうでもいいわ。
     でもね……」

ハルヒ「アンタのいってるSOS団なんて、SOS団じゃないのよっ!」

ハルヒの影(?)「何を言っているのかしら」

ハルヒ「キョンを消す? 記憶をいじる? あんただけのためのSOS団?」

ハルヒ「もう一度言うわ。ふざけんなっ!!」

701: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/03(土) 05:09:43.48 ID:0B731doIo
ハルヒ「SOS団は、あたしと、キョンと、有希と、みくるちゃんと、古泉くんと、番長くんが全員いてSOS団。
    もしも誰かがひとりでも欠けていたらそれはもうSOS団じゃない。誰一人欠けたってあたしは許さない」

キョン「ハルヒ……」

ハルヒ「それにね。SOS団の目的は、宇宙人や未来人や超能力者や異世界人を探し出して一緒に遊ぶこと」

ハルヒの影(?)「だから? だからそれをあたしが」

ハルヒ「違うッ!!」

ハルヒの影(?)「……」

ハルヒ「いい? 『一緒に遊ぶ』ってことは――宇宙人も、未来人も、超能力者も、異世界人も。
    みんなが楽しくなくっちゃ意味がないの!」

古泉「!」

みくる「!」

長門「……」

ハルヒ「SOS団に関わった全員が楽しくなる。いずれは世界中を巻き込んで楽しくさせる!」

ハルヒ「それが、SOS団!」

ハルヒ「それが! 『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』!!」

>ハルヒは人差し指をハルヒの影(?)に思い切り突きつけた。

702: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/03(土) 05:10:45.93 ID:0B731doIo
ハルヒ「そんなのSOS団の理念じゃない! アンタの言ってることは、所詮一人遊びの延長線よ!」

ハルヒの影(?)「……だから?」

ハルヒ「だから、SOS団をアンタの好きにはさせない。させてたまるもんですか」

ハルヒの影(?)「……ふふ。何度も言うけど、あなたの意思は関係ないの」

古泉「それは、どうでしょうか」

>一樹?

古泉「ありがとうございます、涼宮さん。おかげで冷静になれました」

>一樹が一歩前へ出る。

ハルヒ「こ、古泉くん?」

古泉「2つ」

ハルヒの影(?)「……」

古泉「2つ、あなたは嘘をついていますね」

ハルヒの影(?)「なにを言っているのかしら」

703: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/03(土) 05:11:46.93 ID:0B731doIo
古泉「1つは、涼宮さんがあなたに作られた人格であるということ」

みくる「えっ?」

>どういうことだ?

ハルヒの影(?)「……それは言ったでしょう。造ったというより呼び戻したって」

古泉「そのようなことを言いたいのではありません。
   僕が言いたいことは、あなたが涼宮さんの本体ではないということですよ」

ハルヒの影(?)「……認めたくないのね」

古泉「たしかに、あなたの言うとおり涼宮さんは不思議現象に対して、疎い部分があることは事実です。
   だがしかし。あなたが本来の涼宮さんというのは非常に違和感が付きまとう」

古泉「それはなぜか。あなたの感情が一部に偏り過ぎているからですよ」

>……! そういうことか。

ハルヒの影(?)「……」

古泉「あなたは話し始めたときから、ずっと同じある感情に伴う表情、口調です。
   怒りと悲しみと絶望に満ちた経験を話す際にも、あなたは笑みを口元に浮かべたまま……。
   最初から気付くべきでした。ですが、今までみてきた影の経験からそれが普通だと思ってしまった」

古泉「しかし、それはおかしいのですよ。
   僕らの知っている涼宮さんは、非常に感情表現が豊かです。
   現在ここにいる涼宮さんが呼び戻されたというのなら、あなたにも同じように感情を持っていて然るべきではないでしょうか」

704: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/03(土) 05:12:51.57 ID:0B731doIo
古泉「ところが、あなたの持つ感情はただひとつに支配されている」
   
>たった一つの感情、それは――。

古泉「狂気、です」

ハルヒ「狂気?」

ハルヒの影(?)「あたしの感情が狂気だけですって?
          そんなわけないじゃない。ただあたしはうれしくてうれしくて堪らないだけ」

古泉「ええ、そうかもしれません。これは僕の推測です。なんの証拠もありません。
   ですが、僕は確信めいたものを感じています」

古泉「現在の涼宮さん人格形成までのいきさつ、あなたの持つ感情、僕からみたあなた自身……」

古泉「これらを踏まえた、僕の推測です」

キョン「……ふー。ああ、なるほどな。
    そこまで言われれば、俺も古泉の言いたいことが予測がついたぞ」

>キョンが大きく息を吐き出し、一歩前へ出る。

古泉「おや、そうですか? たまには思い切り指摘するのも気分がいいかもしれませんよ。
   どうです? やってみませんか」

キョン「なら、言わせてもらうぜ。お前はハルヒの本体なんかじゃねぇ。
    ハルヒが封じようとした願望実現能力に、ハルヒの狂気がくっついただけの存在だ!」

ハルヒの影(?)「うふふふ、ああ、ひどい。傷ついちゃいそう」

705: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/03(土) 05:13:39.01 ID:0B731doIo
ハルヒ「ちょ、ちょっと待って。キョン、どういうことよ」

キョン「つまりだ。ハルヒは、能力を自覚したあと、能力の暴走に伴って心が狂っちまった。
    だから当時のハルヒは残った理性で、自分自身を守るために願望実現能力を封じようとした」

キョン「だが、完全に封じることはできなかった。
    その代わり、お前自身が能力を自覚しないように、自分を不思議に疎くなるように作り変えた」

キョン「……自分自身の性格を作りかえることができるのは、長門が証明しているからな」

長門「たしかに、可能」

みくる「そっか、そういえば……」

ハルヒの影(?)「ああ、有希に引っ張り出されたこともあったわね」

長門「……」

キョン「だが、長門もそうだったが、元の性格から大きく逸脱して作りかえることはできないみたいだな。
    だからハルヒの不思議への興味は強いままだったんだろうよ」

キョン「だから、ただ作り変えただけじゃ、そのまま願えば能力が発動しちまう。
    だからそのときのハルヒは、きっとこう判断したんだろうさ」

キョン「『もうひとりの、あたしを作ろう』
    そんで『そのもうひとりの自分に、能力を渡そう』ってな」

ハルヒ「そ、そうなの?」

706: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/03(土) 05:14:11.18 ID:0B731doIo
古泉「おそらく2重人格を意図的に作り出し、片方の人格を能力を使って表に出ないように封じた後、
   その人格に能力を置いておこうとしたのでしょう」

古泉「そして人格形成の際に、当時の涼宮さんを最も支配していた『狂気』を過分に受け継いでしまった」

古泉「本来なら、能力封じるためだけの人格でしたから、どのような人格でも問題はなかったのでしょう。
   ですが……」

>その結果、生まれたのがこのハルヒの影(?)だということか。

古泉「ええ、僕はそう考えています。
   だからこそ、彼女の容姿は幼い頃――能力を封じた頃のままなのではないでしょうか」

キョン「どうだ、ちがうか? ハルヒの影(?)さんよ。
    本当は、お前のほうが作られた人格だったんじゃねぇのか?」

ハルヒの影(?)「くふっ、くふふふふ、うふふふふ」

>ハルヒの影(?)笑っているだけで答えようとしない……。

古泉「そしてもうひとつの嘘は――」

古泉「僕たちの記憶をいじることは容易だとおっしゃいました。
   ですが、あなたは今、能力を100パーセント自由に使うことができない。違いますか?」

ハルヒの影(?)「くふ、うふ、うふふふ、どういう、うふふふ、ことかしら? ふふふふ」

707: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/03(土) 05:15:39.97 ID:0B731doIo
古泉「もし自由に能力を使えるのなら、こんな無用なおしゃべりなんてせずに、さっさと力を行使すればいいのですからね」

古泉「きっと能力を自由に発動するためには、明確な身体、肉体が必要なのでしょう。所詮あなたは一人格に過ぎません。
   その身体は、かりそめのもの……」

>その身体は、本来のハルヒの影を乗っ取ったものだろう?

古泉「番長氏もそう思われますか」

>あの金色の瞳は、影の特徴だ。

>おそらくハルヒの影も、願望実現能力に飲み込まれてしまったのだろう。

ハルヒの影(?)「ふふふふふふ、ふふ、ふふふふフフふふ、ふふふフふ、ふ、ふふフふふ」

ハルヒの影(?)「アはははははははははハハハハハハははハハハはハハハハハッぁ!!」

>ハルヒの影(?)が不気味に大きく笑い出した!

ハルヒ「あ、ううっ……な、なに、これ……」

キョン「ハルヒっ!」

>ハルヒの身体から黒い影が吹き出ていく!

727: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/14(水) 05:02:30.13 ID:YHPObff9o
ハルヒ「あ、ううっ……な、なに、これ……」

キョン「ハルヒっ!」

>ハルヒの身体から黒い影が吹き出ていく。

>ハルヒが倒れこみそうになるところをキョンが無事に受け止めたようだ。

>しかし、これは。暴走……!?

キョン「番長ッ! 影が暴走したときと……!」

シャドウハルヒ「あハははっははっはハハはァっ!!」

>シャドウハルヒが猛然とキョンへ襲い掛かってきた!

キョン「!!」

>ペルソナ、ヨシツネ!

ヒュッ――!

シャドウハルヒ「へぇ……!」

>シャドウハルヒの両腕を押さえ、組み合う形となった!

728: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/14(水) 05:03:02.33 ID:YHPObff9o
>ぐっ。なんとか、キョンとシャドウハルヒの間に割り込むことができたが……。

キョン「番長!」

>このままでは、押し負ける……!?

シャドウハルヒ「残念。ちょっと、出力不足ね。番長くん」

>マズイ! キョン、離れていろ!

キョン「わかってるっ!」

長門「こっち」

>有希、キョンたちを頼む!

長門「任せて」

>有希が、キョンとハルヒを抱えて大きく後ろへ後退した。

シャドウハルヒ「ふん、奇襲は失敗ね……でも!」

>ぐあっ!

ドォン!

>力負けをして、地面へと叩き伏せられた……!

古泉「番長氏!」

みくる「番長くん!」

>一樹もみくるもはなれていろ!

729: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/14(水) 05:04:03.15 ID:YHPObff9o
シャドウハルヒ「くくく、いいわ。力がみなぎってくる……わッ!!」

>うぐっ!!

>シャドウハルヒに蹴り飛ばされ、ボールのように転がりキョンたちのところへまで飛ばされる。

>幸い、物理攻撃は無効化できたため、ダメージを受けることはなかったが……。
 ヨシツネを装備していなければ死んでいたかもしれない。

キョン「だ、大丈夫なのか!?」

>ああ、今の攻撃なら問題はない……。

>だが問題は、あのシャドウハルヒだ。

>ヨシツネのパワーを上回るとなると、対抗手段が限られる……。

>シャドウハルヒは、うっとりと確かめるように自らの身体を眺めている。

シャドウハルヒ「うふふふ、いいわ、いい。やっぱり身体があるのはいいわね」

キョン「どうなってやがる……ハルヒは、あいつを否定する言葉なんて口にしなかったぞ!」

古泉「確かに涼宮さんは、否定する言葉を口にしませんでしたが……
   あの影がそもそも自分の一面であることの認識すらしていませんでした」

>影は、本人がその一面を認めなかったときに暴走する……つまり。

古泉「涼宮さんの影の暴走は、本来ここに涼宮さんが落ちてきたときにはすでに始まっていたのかもしれません」

730: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/14(水) 05:04:29.26 ID:YHPObff9o
キョン「その暴走自体を、あいつが抑えていただけってことか!?」

>理性を保ち続ける暴走する影、やっかいだ。

ハルヒ「あ、あれが、あたしですって……」

>ハルヒ!

シャドウハルヒ「くふ、うふふふ。まだ喋る元気はあるみたいね」

ハルヒ「わっけわかんない……あんたなんなのよ!」

シャドウハルヒ「言っているでしょう? あたしは本当のあなた」

ハルヒ「あたしに、本当も偽者もないわ。あたしは、あたしでしかない。
    アンタもアンタでしかない。さっきから、何を言ってるのかさっぱりわからないわよ!」

シャドウハルヒ「ふフふ、くふ。ウふフふふ。
        そうやって、いつまでも認めないつもりなのね」

>ハルヒの身体からさらに影が噴出す!

ハルヒ「いやあああっ!」

キョン「ハルヒッ!」

シャドウハルヒ「いいわ! あなたに認めてもらわなくてかまわない!
        あなたが認識しなければしないほど! あたしはあたしになっていく!」

シャドウハルヒ「あたしはあなたに取って代わる!
       あなた――『涼宮ハルヒ』という仮面(ペルソナ)をかぶって、また現実世界へ舞い戻る!」

731: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/14(水) 05:05:01.52 ID:YHPObff9o
ハルヒ「はあ…はあ…アンタがあたしに成り代わる……? そんなことできるわけないでしょ……」

キョン「ハルヒ! それ以上喋るな!」

ハルヒ「嫌よ! だって、だって!! あいつは、あたしじゃないんだから!!」

>!!

シャドウハルヒ「…………うふ」

シャドウハルヒ「ウフフフフフフフフフフフ」

シャドウハルヒ「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

>一際大きな影がハルヒの中から噴出していく!!

ハルヒ「あ、う……」

>ハルヒは気を失ってしまったようだ。

古泉「はは。これは、拙いですね……」

キョン「笑ってる場合か!」

古泉「……笑うしかありません、なにせ彼女は今」

シャドウハルヒ「ハハハハハハハハハハハッハッハハハハハッハッハッハァ!!」

シャドウハルヒ「解き放たれた! ついに解き放たれた!!」

シャドウハルヒ「我は影、真なる我……!!」

古泉「完全に自由に行動のできる、涼宮さんから独立した存在になってしまったのですから」

古泉「あの恐ろしい願望実現能力を抱えた状態でね」

732: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/14(水) 05:06:04.32 ID:YHPObff9o
キョン「ぐっ、ぐっ!!」

古泉「長門さんと対峙したときも絶望的でしたが、今回はその比ではありませんね」

古泉「相手はなにせ、神にも匹敵する力を持っているのですから」

>神との、対峙?

>頭のどこかに引っかかりを覚える……。

シャドウハルヒ「さあ、キョン。ひとつになりましょう……!!
        そうしてこんなところから出て、新しい世界を作り直すの!」

キョン「嫌だね、ざけんな」

シャドウハルヒ「アンタにだけは、いてもらわなきゃ困るのよ。
        あたしが楽しい人生を送るためにね」

シャドウハルヒ「古泉くんも、みくるちゃんも、有希も、番長くんも代わりを見つけてくればいいけどね。
        キョンだけは替えを見つけにくいから面倒ごとは嫌なの」

シャドウハルヒ「だから、さっさと取り込まれてよォ!!」

キョン「!!」

>シャドウハルヒが再びキョンへと襲い掛かる!

733: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/14(水) 05:06:41.83 ID:YHPObff9o
>だが、させない!

シャドウハルヒ「番長くんに、止められるわけないでしょう!」

>やってみるまでわからない! ヒートライザ!

シャドウハルヒ「!!」

>よし、力は互角だ。

>先ほどとは違い、正面でお互いの両手同士で組み合い、押し合っている!

>だが、なんてパワーだ。気を抜いたらすぐにでも――。

シャドウハルヒ「へぇ……! でもね、今のあたしはこういうこともできるのよ」

シャドウハルヒ「『壁に叩き付けられるまで吹き飛べ』」

>!!

ドッオンッ!!

>シャドウハルヒから弾き飛ばされるように、身体が壁へと叩きつけられる。

シャドウハルヒ「『そのまま磔にされてなさい』」

>うぐっ! 身体が磔にされたまま動かせない!

>これは、圧倒的すぎる……! どうすることもできない!

734: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/14(水) 05:07:07.58 ID:YHPObff9o
シャドウハルヒ「さあ、邪魔者は――」

ボォンッ!!

>あの、赤い発光球は……!

古泉「残念ながら、まだここにいますよ。邪魔者はね」

シャドウハルヒ「古泉くん、何するのよ」

古泉「無傷ですか。渾身の力で投げたのですが。
   ある程度予想していましたが、さすがにショックを隠せませんね」

キョン「こ、古泉」

古泉「あなただけは、なんとしても逃げ切ってください」

キョン「何を」

古泉「あの涼宮さんが、大規模な攻撃を行わないのはあなたがこの場にいるからです。
   あなただけは死なせるわけには、消し去るわけにはいかないのでしょう。
   僕らに勝ち目があるとすれば、あなたがあの涼宮さんに捕まらずにいることだけなのです」

古泉「反対にあなたさえいれば、世界は作り変えられずに済む。最後の希望は、あなたなのです」

735: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/14(水) 05:09:27.52 ID:YHPObff9o
キョン「そんなこと言われても――」

古泉「お願いします」

キョン「……ああ。わかった」

シャドウハルヒ「古泉くん……邪魔しなければ、新しい世界でも一緒にSOS団ができるのよ?
        ここで素直に引けば、ちゃんと古泉くんの存在は保ってあげるから」

古泉「……それは、大変魅力的な提案ですね」

シャドウハルヒ「でしょう?」

古泉「ですがね。僕は今のこの世界が好きなのです。この『今のSOS団』があるこの世界がね」

古泉「それ以上に魅力的な世界なんて、今の僕には想像できない」

古泉「だから、あなたに新たな世界を創造させるわけにはいきません」

>一樹の手のひらから赤い発光球が浮かび上がる。

古泉「なにせ僕は、この世界を守るために生み出された超能力者ですから」

シャドウハルヒ「そう、残念ね」

746: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/24(土) 03:27:52.47 ID:TK+ew/+Go
古泉「さて……」

長門「(コクッ)」

シャドウハルヒ「なら、せめてボロボロになるまであたしと遊んでちょうだい」

古泉「僕のチカラがどれほど通用するかわかりませんが――!」

>一樹がシャドウハルヒに向かって赤い発光球を放つ!

シャドウハルヒ「そんなもの、あたしに通用すると? 『消えろ』」

>シャドウハルヒの腕の一振りで、一樹の放った赤い発光球は霧散してしまった……。

シャドウハルヒ「どう? 絶望的な気分かしら?」

古泉「いえ、想定内、といったところでしょうか」

シャドウハルヒ「あ、そ」

古泉「(本来の閉鎖空間内の6割……いえ、5割5分といったところでしょうか)」

古泉「(前回この空間で能力を行使したときと比べれば、まだマシといったところでしょう)」

シャドウハルヒ「どうしたの? もう終わり?」

古泉「いいえ。できる限りの抵抗はさせてもらいますよ……!」

747: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/24(土) 03:28:20.19 ID:TK+ew/+Go
>一樹の身体の周りから、同じように赤色に光を発しはじめている。

古泉「(……やはり、完全に能力を行使はできませんね。球形ではなく人型が限界ですか)」

シャドウハルヒ「へぇ。あの娘がここにきたから能力が使えるようになったってことかしら」

古泉「かもしれませんね」

シャドウハルヒ「そう! 楽しみだわ! あたしが目覚めさせた能力がどれほどのものか!」

>黒い影が一際大きくシャドウハルヒから噴出す!

古泉「そうです。あなたが授けた能力です。
   おかげであなたと対峙できるのです……感謝しますよ、これだけは!」

>お互いに猛進し、一樹とシャドウハルヒが衝突した!

>赤い閃光と黒い影は、中空へと浮かび幾度となく交錯している。

……


キョン「長門! どうにかならないのか! いくら古泉が力を使えるからって!」

長門「わたしが古泉一樹に加勢することは可能」

キョン「なら――」

長門「だけど、古泉一樹は今わたしが加勢することを望んでいない」

キョン「なっ……!?」

748: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/24(土) 03:29:37.89 ID:TK+ew/+Go
長門「古泉一樹は、わたしに彼の救出を託した」

キョン「彼って、番長か?」

長門「そう。涼宮ハルヒの影を止めるには、彼の力が必須」

キョン「情報操作とやらで、ハルヒの影を消しちまうことはできないのか!」

長門「わからない。たとえできたとしても、涼宮ハルヒの影も情報操作は可能。
   つまりそれは、情報操作同士による戦闘を意味する」

長門「敵意を持ったもの同士の情報操作による戦闘は、どちらかが消滅するまで終わらない」

長門「今あそこで戦闘しているモノは涼宮ハルヒの精神の一部。
   それを消滅させることは、涼宮ハルヒの精神の死――心の死に繋がる恐れがある」

長門「そしてもうひとつ。わたしが勝てる保証はどこにもない。
   涼宮ハルヒの影は、わたしに――情報統合思念体ができなかった彼への情報操作を目の前で行った。
   その点だけを見ても情報操作のレベルは、相手の方が確実に上」

キョン「長門……」

長門「だからこそ、彼の力が必要。消滅させるのではなく、暴走を抑える心の力。
   彼がペルソナと呼ぶ、あの能力が必要」

キョン「だけど、番長はあそこまで吹き飛ばされて……!」

749: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/24(土) 03:30:05.03 ID:TK+ew/+Go
長門「問題ない。彼は物理的なダメージは一切負っていない。彼の力のおかげ」

キョン「ペルソナって、そんなにすごいもんなのか……」

長門「だけど、涼宮ハルヒの影が行使した能力によって拘束され動くことができない」

長門「それをわたしが解除する」

キョン「できるのか!?」

長門「涼宮ハルヒの影が彼に行ったことは、ただの情報操作に過ぎない」

長門「それならば、わたしが解除できる」

キョン「だが、さっきあいつの情報操作のほうが上って――」

長門「してみせる」

キョン「……ああ、頼んだぜ。長門」

みくる「長門さん、お願いがあります」

キョン「朝比奈さん……?」

……

750: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/24(土) 03:30:39.92 ID:TK+ew/+Go
>くそ! 力をいくらこめても動けない!

>赤い光と黒い影は、激しく空中で切り結んでいる。

ドォンッ!

>一際大きな衝突音と同時に、弾き飛ばされるように赤い光が地上へと叩き落された。

>一樹っ!

古泉「はっ、はっ……まったく、とんでも、ないですね」

>呼吸を乱し、肩で大きく息をしてる。

シャドウハルヒ「思ったより楽しいわ。思ったよりね」

>黒い影は、緩やかに地上へと舞い降り、シャドウハルヒの姿へと戻った。

古泉「ここまで力の差があるとは、思いませんでしたよ」

シャドウハルヒ「そう? 遊ぶのにはちょうどいいくらいよ?
          いい運動にもなるしね」

古泉「遊び、ですか」

シャドウハルヒ「早く決着つけてほしかったわけ?
          それなら『消えろ』って願うだけでいいんだから」

古泉「そうですね……あなたは最初から勝負の場になど立っていないのでしょう」

シャドウハルヒ「当然でしょう? でも、もういいわ。古泉くんも限界みたいだし。これ以上は望めないでしょうから。
          それなりに楽しい遊びだったわ。今の記憶を消して、新しい記憶を植えつけてあげる」

>シャドウハルヒが一樹へと歩み寄っていく……!

751: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/24(土) 03:31:18.09 ID:TK+ew/+Go
古泉「絶体絶命というやつですか……困ったものです」

シャドウハルヒ「じゃあね、古泉一樹くん」

古泉「(時間は稼げたでしょうか……あとは頼みましたよ、長門さん、番長氏――)」

ヒュン!

みくる「――そんなこと、させませんっ!」

シャドウハルヒ「!」

古泉「!」

ヒュン!

>みくるが、突如一樹のそばに現れ、一樹の腕をとり一瞬にして姿を消した。

シャドウハルヒ「みくるちゃんも邪魔するのね……」

ヒュン!

みくる「ふうっ」

キョン「うわっ!」

長門「……」

>そして、キョンと有希のそばに再度出現した。

>この転移は、見覚えがある……!

752: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/24(土) 03:31:53.63 ID:TK+ew/+Go
古泉「朝比奈さん、これは、一体」

みくる「説明は、あとです。今は涼宮さんの影に注意を払わないといけません」

古泉「! ええ、その通りですね」

キョン「……朝比奈さん」

みくる「いいの、キョンくん。これがあたしの選択。
    これであたしも、戦える」

……


――数分前。

みくる『長門さん、お願いがあります』

キョン『朝比奈さん……?』

みくる『あたしの――わたしの中にある航時に関するすべての制限をはずすことはできますか?』

長門『……なぜ?』

みくる『もし、はずすことができれば、あたしの影がやったこと――極小単位での航時も可能になると思うんです』

みくる『そうすれば、わたしも、お役に立てる……!』

長門『たしかに、可能』

753: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/24(土) 03:33:18.63 ID:TK+ew/+Go
長門『朝比奈みくるに与えられている制限は概念装置によるところが大きい。
   情報操作によって、その制限を取り外すことは容易。
   しかし無断航時は、あなたたちにとって重大な背任行為にあたるはず』

みくる『わかってます。きっと制限を取り外して――これだけでも重罪なんですけど。
    さらに無断で航時した場合、最低でも懲戒以上の罰がわたしには下るでしょう。
    少なくともこの時代にはもういられなくなるに違いありません』

キョン『朝比奈さん、どうして、そんな!』

みくる『でも、なにかできるとわかっていて! それでいて手を拱いているのは嫌なんです!
    あたしにも、この世界を、このSOS団を守らせてくださいっ!』

『ドォンッ!』

キョン『!? 古泉っ!?』

みくる『古泉くんっ!』

『――今の記憶を消して、新しい記憶を植えつけてあげる』

みくる『長門さんっ!』

長門『……わかった』

……


シャドウハルヒ「やれやれ、面倒な手間がどんどん増えていくわね」

>シャドウハルヒは不適に笑っている。

769: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:24:59.94 ID:oQx6Mncto
みくる「あたしだって、最後まで、抗ってみせますっ!」

シャドウハルヒ「みくるちゃんに、なにができるのかしら」

みくる「……」

シャドウハルヒ「覚悟をしている眼ね。
        そう。それなら……見せてもらおうかしらッ!!」

古泉「朝比奈さん! 避けてくださいっ!」

>シャドウハルヒが鋭く地面を蹴り、一樹とみくるへ突進する!

みくる「――大丈夫。古泉くんは体力の回復に専念して」

ヒュンッ!

シャドウハルヒ「……ちっ。その消えるやつ面倒だわ」

>シャドウハルヒの地表すら抉るような突進から繰り出された右手の突きは、虚空をつかんだだけだ。

みくる「……」

古泉「これが、極小単位ではあるものの時間跳躍ですか。
   ……このような感覚なのですね」

みくる「ごめんなさい。気分が悪くなるかもしれません。でも、我慢してください」

770: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:25:46.98 ID:oQx6Mncto
シャドウハルヒ「ふう、みくるちゃんまでこんなに厄介だとはね」

シャドウハルヒ「でも、面白いわ。みくるちゃん、くふ……うふふ」

シャドウハルヒ「みくるちゃんは逃げる。あたしは追いかける。まるで鬼ごっこ」

>シャドウハルヒは獰猛な笑みを浮かべている。

みくる「(あたし自身に攻撃を与える術はない。
    だからこそあたしがすべきこと……古泉くんを守りながら、長門さんの情報操作完了までの時間を稼ぐ)」

みくる「やって、みせますっ!」

古泉「朝比奈さん。彼女は僕らを消すことは、あまり考えていないようです」

古泉「あくまで、僕らは僕らのまま、記憶を書き換えることに固執しているようだ」

みくる「あたしたちには、都合がいいですね」

古泉「ですが、いつ気まぐれを起こして僕たちを消すとも限りません」

みくる「そうですね……そうならないことを祈るだけです」

古泉「まったく、悪趣味な神頼みですよ。笑えません」

シャドウハルヒ「さあ、さあ、さあ! 楽しい楽しい鬼ごっこの始まり始まり!」

>先ほどの突進よりもさらに疾く、みくるたちにシャドウハルヒが迫る!

771: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:26:22.85 ID:oQx6Mncto
みくる「行きます、古泉くん!」

ヒュンッ!

>みくるが転位し、それをシャドウハルヒが追う!

>シャドウハルヒは、みくるの転位先を的確に読み、間髪をおかずに攻撃を繰り出している。

シャドウハルヒ「あはっ、くふふ、うふ、ふふふふ……あはははははははッ!」

みくる「ううっ……」

ヒュンッ!

>みくるは辛そうだ……。

古泉「避けながら聞いて下さい。おかげで幾分か体力が回復しました。
   攻撃することもできそうです」

古泉「相談なのですが、空中に転位することはできますか?」

みくる「は、はいっ」

ヒュンッ!

みくる「もちろん、できますっ!」

ヒュンッ!

古泉「では、今から6回後の時間跳躍で、涼宮さんの影の直上に出現することは?」

みくる「か、可能ですっ!」

ヒュンッ!

772: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:27:06.52 ID:oQx6Mncto
古泉「お願いします。できる限り近くに転位してほしいのです」

みくる「誤差もでるかもしれませんけど、や、やってみますっ」

ヒュンッ!

みくる「で、でも! 攻撃といってもあの涼宮さんの影に通じるんですか?」

古泉「わかりません。また先ほどと同じようにまったく効かない可能性もあります」

ヒュンッ!

古泉「ですが、この力は神人に……涼宮さんの能力の成れの果てに対抗するためのもの。
   この攻撃で何かしらの突破口に、もしくはそれを見つけ出す糸口になりえるかもしれません」

古泉「そして、彼らなら見つけてくれるかもしれない。彼らに希望を託すことができるかもしれない」

ヒュンッ!

みくる「番長くんたちに、託す……」

古泉「それだけでも、十分やる価値はあるように思えませんか?」

みくる「ええ。そうで――」

シャドウハルヒ「なんの相談かしらぁ!?」

みくる「くっ!」

ヒュンッ!

773: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:28:06.23 ID:oQx6Mncto
みくる「ふう、ふう……」

古泉「……」

>みくるとシャドウハルヒが距離を大きくとり向かい合う。

>みくるは息を切らせている。

シャドウハルヒ「あら、疲れちゃった? じゃあこれで終わりかしらッ!」

>シャドウハルヒがみくるへと突貫する!

みくる「まだですっ!」

ヒュンッ!

>みくると一樹がシャドウハルヒの真上に転位した!

古泉「いきますっ! フッッ!!」

シャドウハルヒ「!?」

>一樹の攻撃を受け、砂煙が舞い上がる。

みくる「やった、せいこ――」

シャドウハルヒ「――ざーんねん」

ガシッ!

古泉「うぐっ!」

みくる「あっく……」

>砂煙からシャドウハルヒが飛び出し、それぞれの首を片手でギリギリと締め上げいく!

774: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:28:43.57 ID:oQx6Mncto
>動け、動けっ!

『……解除コード生成完了。転送開始』

>……これは!

シャドウハルヒ「あはぁ、掴まえたァ」

古泉「が……ぐっ」

みくる「かっ……」

シャドウハルヒ「さあ、鬼ごっこはこれでお終いね」

シャドウハルヒ「そして、これまでの古泉くんとみくるちゃんともさような――」

長門「……」

ヒュオンッ!

シャドウハルヒ「おっとっと、危ないじゃない有希」

>シャドウハルヒは一樹とみくるを放し、有希の攻撃を回避した。

みくる「な、長門さん……」

古泉「げほ……た、助かりました」

シャドウハルヒ「でも、へぇ。有希が後ろ回し蹴りねぇ。
          思ったよりさまになってるじゃない。かっこよかったわよ」

775: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:29:16.68 ID:oQx6Mncto
シャドウハルヒ「でも、有希があたしに勝てるかしら?」

長門「わからない。だけど、彼がいる」

シャドウハルヒ「彼?」

>待たせた。有希。

シャドウハルヒ「番長くん? どうやってあたしの拘束から抜けたのかしら」

古泉「番長氏……」

みくる「ば、番長くん」

>ふたりは休んでいてくれ。

古泉「わかりました。今は役に立てそうにありません」

みくる「気をつけて……」

>コウリュウ! メシアライザー!

古泉「身体が軽く……!」

みくる「こ、これって」

>少しはマシになっただろう?

>キョン、2人を頼む。

キョン「あ、ああ」

776: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:29:58.08 ID:oQx6Mncto
シャドウハルヒ「誰が番長くんを助けたって考えるまでもないか。本当に有希も邪魔するのが好きね」

長門「……」

シャドウハルヒ「それで? あたしに一度負けた番長くんで、どうするつもり?」

長門「あなたを、止める」

>一樹とみくるがつないでくれたんだ。必ずお前を止める。

シャドウハルヒ「あたしを? ふふ、面白いこと言うわね」

シャドウハルヒ「じゃあ……止めてもらおうかしら!!」

>再び黒い影のようなオーラが噴出す!

>行くぞ、有希!

長門「(コクリ)」

>シャドウハルヒが、急速に間合いを詰めにじり寄る!

シャドウハルヒ「もういいわ! 邪魔をするくらいなら消えなさい!」

長門「……」

>有希が上空へ大きく跳躍する!

777: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:30:24.35 ID:oQx6Mncto
シャドウハルヒ「撃ち落してあげるわっ」

>させるかっ!

>チェンジ! ロキ! ニブルヘイム!

シャドウハルヒ「氷!?」

シャドウハルヒ「だけど、そんな攻撃であたしにダメージを……!」

>与えられるとは思っていないさ。

シャドウハルヒ「これは……凍り付いて……」

>だが、動きを封じさせてもらう。

シャドウハルヒ「無駄よ。『融けろ』」

>みるみるうちに氷が融けていく……。

シャドウハルヒ「今度こそ、終わりよ!」

>……その一瞬の隙がほしかった。

>有希っ!

長門「SELECT シリアルコード FROM データベース WHERE コードデータ
   ORDER BY 攻勢情報戦闘 HAVING ターミネートモード」

長門「さらに情報阻害因子を展開。局所的情報連結の解除を開始する」

778: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:30:52.91 ID:oQx6Mncto
シャドウハルヒ「チィッ!」

>有希がシャドウハルヒの直上から滑空し、頭上へと振り上げていた右足を振り下ろす!

ヒュォンッ!

シャドウハルヒ「ぐっ!」

>シャドウハルヒは、攻撃を避け大きく後退した。

長門「……」

シャドウハルヒ「かかと落しとは、やってくれたわね」

>シャドウハルヒの左肩に少し切り傷をつけただけで、大きなダメージにはならなかったようだ……。

長門「……」

シャドウハルヒ「フフ。あたしに攻撃を当てたことは褒めてあげるわ。
        でもね、所詮は奇襲。二度目はもうないわよ」

長門「……」

シャドウハルヒ「あたしを止めるだっけ?
        その最初で最後のチャンスはたった今潰れた」

>シャドウハルヒの威圧感が増す。

779: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:31:31.19 ID:oQx6Mncto
シャドウハルヒ「おしゃべりもこれまでね。消えなさい」

長門「終わった」

>……有希?

長門「情報阻害フィールド、展開開始」

シャドウハルヒ「これは……」

>シャドウハルヒの周りを透明な薄い膜のようなものが包む。

シャドウハルヒ「やれやれ。何をしたかわからないけど消せばいいだけの話。
       『消えなさい』」

>……?

シャドウハルヒ「……?」

>なにも変化が起こらない?

シャドウハルヒ「なにを、したの? 有希」

長門「あなたに答える必要はない」

シャドウハルヒ「ふ、ふふ、ふふふふ……あはははぁはァッ!!」

>狂気をむき出しにし、シャドウハルヒが躍りかかる!

780: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:32:07.48 ID:oQx6Mncto
長門「今なら涼宮ハルヒの影と組み合っても大丈夫」

>……! ならば、チェンジ! ザオウゴンゲン!

シャドウハルヒ「また、吹き飛ばしてあげる!!」

長門「無駄」

>組み合ったが飛ばされない……それどころか、押し勝てる!

シャドウハルヒ「ぐうっ! こ、れ、は……」

バチィッ!!

>はじき飛ぶように後退し、シャドウハルヒは間合いを取る。

シャドウハルヒ「どうやったかわからないけど、この膜であたしの能力を封じたというわけね」

長門「……」

シャドウハルヒ「さしずめ、さっきのかかと落しのとき……かしらね。
        この膜、外側からの展開じゃなくて、左肩の内側から発生しているわ」

>先ほどの攻撃の際に有希はなにか仕込んでいたようだ。

シャドウハルヒ「でも、チカラ、使い果たしちゃったんでしょ?
        さっきの組み合いで加勢してこなかったのがいい証拠」

>有希……。

長門「……」

シャドウハルヒ「何よりも雄弁な沈黙ね、有希」

781: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:32:50.84 ID:oQx6Mncto
>たとえそうだとしても、あとは俺が何とかしてみせる。

シャドウハルヒ「く、くく、くくくく。番長くんが、どうにか?」

シャドウハルヒ「番長くんに、あたしは止められない」

長門「気をつけて」

長門「涼宮ハルヒの影の力を完全に無効化したわけではない」

>どういうことだ?

長門「涼宮ハルヒの力は大きく分けて2つある」

長門「ひとつがわたしたちと同じような情報操作。
   この世界に存在しているものの情報や性質を書き換える能力」

長門「情報阻害因子によって一時的に妨害に成功したものはそちらだけ」

長門「そしてもうひとつが――」

シャドウハルヒ「ふふ、『変える』能力は使えないみたい。
        でも、いいわ。番長くんのその化身みたいなもの、面白そうね」

シャドウハルヒ「あたしも『創ろう』かしら!!」

>シャドウハルヒの後ろに、突如何体もの巨大な神人が顕現する!

長門「情報創造。わたしたち情報統合思念体も持ちえない能力。
   涼宮ハルヒだけが持ちえる無から有を生み出す、唯一無二の能力」

782: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:33:35.90 ID:oQx6Mncto
シャドウハルヒ「有希も、古泉くんも戦えない今!
        番長くんにあたしとこの神人の両方を相手にすることができるかしら!」

シャドウハルヒ「行きなさい。そして二度と邪魔できないように捕らえてあげる」

>出現した神人たちが押し寄せるようにこちらへと向かってくる。

>チェンジ! ルシフェル! メギドラオン!

キィン――ドォオオォンッ!!

オオォオオォオオォ……。

>くっ、何体かは吹き飛ばすことができたが全てを消し飛ばすことはできない……!

オオォオオォオオォ……。

>神人の巨大な手が自分を目掛けなぎ払ってくる――避け切れない!

ズドォオオン!

>ぐっ……思いのほかダメージが大きい。ならば、もう一度! メギ――。

シャドウハルヒ「そっちに意識をもっていきすぎよ、番長くん?」

>!!

783: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:34:02.41 ID:oQx6Mncto
シャドウハルヒ「――じゃあね」

>足元に闇が広がり、呪詛を彷彿とさせる無数の腕のような赤黒い触手が伸びる!

>こ、これは……!!

長門「させない」

ヒュンッ! ドンッ!

>有希のかかとが自分を思い切り吹き飛ばし、身体が地面を転がる。

>有希の身体に無数の触手が絡みつき、足元の闇の中へ引きずり込んでいく!

長門「わたしは、大丈夫」

長門「あなたを、信――」

ドプンっ……。

>有希ッ!

シャドウハルヒ「あらら、番長くんの代わりに有希が飲み込まれちゃった」

オオォオオォオオォ……。

>イザナギッ!

ザシュンッ!

>襲い来る数体の神人をどうにか切り倒し、再び対峙する。

784: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:34:36.17 ID:oQx6Mncto
>有希を、どこへやった。

シャドウハルヒ「さあ? 答える義理があって?」

>……。

>あの光景は……どうしてだ。頭が痛む。

シャドウハルヒ「さあ! さあ! まだまだ終わりじゃないわよ!」

みくる「な、長門さんが」

キョン「な、が……」

キョン「長門を、長門をどこへやったっ!」

シャドウハルヒ「うふうふふふあははははははっ!!」

>再び足元に闇が拡がる!

>先ほどのダメージのせい避けることができない……!

古泉「いけませんっ!」

ドンッ!

>自分を突き飛ばした一樹に触手が絡みつき、闇の淵へと引きずり込んでいく。

古泉「ぐ、僕もどうやらここまでのようです。あとは、任せ――」

ドプンッ!

785: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:35:08.64 ID:oQx6Mncto
>さらに足元に闇が広がる!

キョン「番長ッ!」

みくる「だめぇッ!!」

ドンッ!!

みくる「お願い、この世界を守っ――」

ドプンッ!

キョン「朝比奈さん!」

シャドウハルヒ「あはははははははははははッ!!
        なんだ、番長くんを守ろうとしてみんな消えちゃったじゃない!」

キョン「てめぇっ!!」

シャドウハルヒ「これで終わりにしましょう? そしてキョン、あたしとひとつになるのよ」

オオォオオォオオォ……。

>先ほどとは比べ物にならない一際大きな神人がシャドウハルヒの背後に現れる。

>ズキン、ズキン、ズキン――。

>頭が、割れるようだ。

786: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/21(土) 11:35:35.41 ID:oQx6Mncto
キョン「お、おい、番長! うずくまってどうした!?」

シャドウハルヒ「みんなが消えたショックで動けなくなっちゃった?」

シャドウハルヒ「ふう。残念ね、こんな幕切れなんて」

>!!

>頭に甦る、この映像は……!

……


――『幾千の呪言』

>死の呪いが仲間たちを襲う。

――『残念だよ…こんな幕切れになるなんて…』

>意識が遠くなっていく…。

>強大な相手を前に…ここで…力尽きるしかないのだろうか…。

???『――――――こっち』

>この声は……。

???『――――――こっちへきて』

???『――――――あたしを、助けて……』

>強烈な光が身体を包む!

……

798: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 21:57:48.59 ID:QgkjVVrYo
キョン「……う――長――番長っ!!」

>キョ……ン。

キョン「何を呆けているんだ! しっかりしろ!」

>ああ……すまない。

キョン「大丈夫か?」

>大丈夫だ。むしろ、不思議なくらい落ち着いている。

>それに、今頭をよぎったものは……そうか。

シャドウハルヒ「うふふ。そうそう。ちゃんと戻ってきてもらわないとね。
        このまま幕切れなんてつまらないもの」

>……。

>思い出したよ。

シャドウハルヒ「なにをいっているのかしら?」

>全部、思い出した。

>こちらへくる直前に、自分の世界でどんなことになっていたのか。

>どうしてこちらへ呼ばれたのか。

799: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 21:58:15.44 ID:QgkjVVrYo
シャドウハルヒ「……」

>あの状況からハルヒに助けられたこと。

>そして、ハルヒが――お前が、助けを求めていたことも。

>全て思い出した。

キョン「コイツが……助けを?」

シャドウハルヒ「アハハハッ! あたしが? 助けを? 番長くんに?
        面白いこというわね」

シャドウハルヒ「あたしがいつ! 助けてほしいって!」

>今だって、言っているじゃないか。

シャドウハルヒ「……」ピクッ

>今なら、わかる。ハルヒの、お前の。心からの叫びが。


『助けて』

『あたしを助けて――』

『あたしは、涼宮ハルヒは、』

『――ここにいる』



シャドウハルヒ「……ッ」

800: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 21:58:54.67 ID:QgkjVVrYo
>そう。お前だって、ハルヒなんだ。

シャドウハルヒ「……うるさい」

>自分に、自分を否定されるのは誰だって辛い。

シャドウハルヒ「うるさい」

>自分に、自分を認めてもらいたい。誰だって思うことだ。

シャドウハルヒ「うるさいうるさいうるさいっ!!」

>初めて、狂気以外の感情を露わにしたな。

シャドウハルヒ「黙れっ!!」

シャドウハルヒ「番長くんに、あたしの、"涼宮ハルヒ"のなにがわかるの!!」

>……確かに、出会って間もない自分にはハルヒのことはほとんどわからない。

シャドウハルヒ「なら――」

>だが。ここにいる。誰よりもハルヒのことを知っている人間が。

>なあ、キョン。

キョン「お、俺……?」

801: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 21:59:56.39 ID:QgkjVVrYo
シャドウハルヒ「キョン……? キョンだって上辺のあたししか。
        外殻のあたししか知らないじゃない」

シャドウハルヒ「それで、あたしのなにを知っているって!?」

キョン「ぐ……悔しいが、あいつの言うとおりだ」

>そうか? キョンは少なくとも自分よりは。
 いや、SOS団の誰よりもハルヒのことを知っている。

>それに、誰しも他人のすべてを知ることなんてできない。

キョン「……」

>それに、知らないのであれば。

>みんなが俺を受け入れてくれたように、1からはじめればいい。

>これから、知っていけばいい。

キョン「……!」

>それだけだろう?

キョン「……ははっ。ああ、そうだな。知らなければ知ればいい。それだけだ。
    もうひとりのハルヒを隠していたなんてな。古泉や朝比奈さんや長門以上に隠し事の多い団長様だ」

シャドウハルヒ「……うるさいうるさいうるさいッ!
        そんなことができるなら、最初からそうしてる!」

シャドウハルヒ「誰もあたしを認めない。あたし自身もあたしを認識しない」

シャドウハルヒ「それならば、あたしが新しい世界を創るのよ!!」

>…………ようやく、掴まえた。

802: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:00:25.07 ID:QgkjVVrYo
キョン「番長……?」

>それが、ハルヒから独立した意識となったお前の本心だ。

シャドウハルヒ「!!」

>未知の世界を楽しみたい……それはハルヒの願いだ。
 お前の願いじゃない。

>お前の本当の願いは、SOS団のみんなに、自分自身に認めてもらいたい。

>たった一つの純粋な願い。それだけだ。

シャドウハルヒ「だ、ま、れぇッ!!」

>シャドウハルヒの背後の巨大な神人が巨腕を振り下ろす!

ゴウッッ!!

>イザナギ!!

ザシュンッ!

>イザナギの矛が巨腕を切り落とす!

シャドウハルヒ「あたしは、アンタたちを屈服させて新しい世界を創る。
        もう、それだけでいい」

>神人が残った腕で攻撃に移ろうと溜めを作る。

803: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:01:06.31 ID:QgkjVVrYo
シャドウハルヒ「邪魔するものは、消すッ!」

>キョン、力を貸してくれ。

キョン「この状況で、俺に何ができるんだ」

>キョンは、今目の前にいるハルヒのことをどう思っている?

キョン「ハルヒの影のことか? どうって……それは」

>それは?

キョン「――いいや。ハルヒは、ハルヒだ。影でも偽者でもなんでもない。
    誰でもないさ。なにをしようとも、俺らSOS団に迷惑を振りまく団長様だ」

キョン「そんでその尻拭いをするのは、やっぱり一番下っ端の俺なんだろうよ」

キョン「その役割は、誰にも譲らない。譲らせない」

>それで、十分だ。

>イザナギの矛に触れてくれ。

キョン「こうか……?」

>イザナギの矛の刃が淡く光りだす。

>絆を真に深めた心が力へと変わる……。

>キョンとハルヒの絆の力、貸してもらうぞ。

804: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:01:34.97 ID:QgkjVVrYo
キョン「!! くるぞ、番長!」

シャドウハルヒ「消えろォッ!!」

ゴゥンッ!!

>イザナギが矛で襲いくる神人をなぎ払う!

パァンッ!

シャドウハルヒ「たった一振りで……」

キョン「神人が、砕け散った……!!」

>これがキョンとハルヒが育んだ絆の力だ。

>きっと、SOS団のみんなならば、お前だって受け入れてくれる。

シャドウハルヒ「なにを、戯言を!!」

>だがまずは、お前の暴走を止めさせてもらう。

シャドウハルヒ「……はっ! できるもんなら」

シャドウハルヒ「やってみなさいっ!!」

>シャドウハルヒの身体から爆発的に影のようなオーラが迸る!

805: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:02:00.35 ID:QgkjVVrYo
ギィン――ギィン――ギィン。

>イザナギのもつ矛の放がつ光激しくなる。

>離れていろ、キョン。

キョン「ああ、頼んだぜ」

>いくぞ。

シャドウハルヒ「あああぁあああぁぁあぁあぁあああッッ!!」

>オーラを纏い咆哮とともにこちらに向かい疾駆してくる!

ギィイィイイィインッ!!

>おおぉおおおおぉおおおおぉおぉぉおぉッ!

>シャドウハルヒの拳とイザナギの矛が正面でぶつかり合う!

シャドウハルヒ「こんなもの……こんなものッ!!」

>ぐぅっ……! おし、ま、け、る……!!

ギィイイィイイィイィン!!

シャドウハルヒ「う、ふふ……うふふ……あたしの、勝ちよ! 番長くん!」

>これは、この矛は! キョンとSOS団みんなの想い!!

>無駄にしてたまるかッ!!

806: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:02:28.21 ID:QgkjVVrYo
――――
――


キョン「なあ……ハルヒ。俺とハルヒの絆はよ。
    好きとか嫌いとか」

キョン「愛してるとか愛していないとか」

キョン「そういうことじゃねぇよな」

キョン「どこまでも、ついて行ってやる」

キョン「だから」

キョン「俺は、お前を。涼宮ハルヒを――」


――信じてる。


――――
――

807: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:03:20.23 ID:QgkjVVrYo
ギィイイィイィイィイイィイイィイイィイイン!!

>矛の煌めきに自分とハルヒの身体が包まれる!!

>届け!! 届けっ!!

シャドウハルヒ「こ、れ、は」

>届けえええぇえぇえええっ!!

シャドウハルヒ「!!」

ドッ……ザシュンッ!!。

シャドウハルヒ「あ……あ……」

>シャドウハルヒの身体の真ん中に矛が突き立つ。

シャドウハルヒ「あぁああああああああアアぁああァあぁああぁッッ!!」

シャドウハルヒ「ぁああぁあぁあああぁあぁあぁあああぁぁああぁ!!」

シャドウハルヒ「あ……あああ…ああああ…ああああぁぁぁぁ……」

ドサッ。

>シャドウハルヒが仰向けに倒れる。

キィン――。

>矛が光の粒となってシャドウハルヒの身体へ取り込まれていく。

ハルヒの影「……」

808: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:03:47.25 ID:QgkjVVrYo
>はあ、はあ、はあ……。

キョン「番長、終わったのか?」

>暴走は抑えられた、と思う。

キョン「古泉、朝比奈さん、長門は……?」

>……わからない。

キョン「まさか、このまま……?」

>それも、わからない。

キョン「くそっ! せっかく勝ったっていうのにこれじゃあ……」

>一樹、みくる、有希……。

古泉「勝手に亡き者にしないでいただけますか」

キョン「古泉っ!? いつから!?」

古泉「たった今です。長門さんがこじ開けてくれました」

長門「空間封鎖と情報封鎖が解除されただけ。すべてはあなたたちのおかげ」

みくる「でも、長門さんがいなければでられませんでしたから」

809: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:04:46.62 ID:QgkjVVrYo
キョン「全員、無事なのか?」

古泉「ええ。ただ涼宮さんの影が作り出した亜空間に囚われていただけですから」

キョン「俺はてっきりあのとき死んじまったとばっかり……」

古泉「あのとき、涼宮さんの影は『捕らえる』といっていましたから。
   最初から番長氏を含めて僕たちを亡き者にするつもりはなかったのでしょうね」

キョン「古泉、お前。それをわかっていて?」

古泉「いいえ。あのときは身体が勝手に動いただけです。
   あとも先もなにも考えずにね」

長門「わたしも、そう」

みくる「考えている暇はなかったですからねぇ」

キョン「そうか……そうだよな」

>ありがとう。みんな。

古泉「いえ。長門さんの言と重なりますが、全てはあなたたちのおかげです。
   この世界の命運をあなたたちに託してよかった」

みくる「ふふ、そうですね」

キョン「その命運とやらは、番長がほとんど背負っていたがな」

>そんなことはないさ。

810: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:05:15.01 ID:QgkjVVrYo
ハルヒ「ぅうっ……」

キョン「ハルヒ!」

>ハルヒも目を覚ましたようだ。

ハルヒ「なにが、どうなっているの……ここは。
    夢じゃ、なかった、わけ?」

キョン「夢なんかじゃないさ。全部現実だ」

ハルヒ「現実……」

キョン「いいよな。話しても」

古泉「一度は、あなたたちに託した世界の命運です。
   僕に止める権利はありません」

みくる「ええ、そうですね」

長門「任せる」

古泉「それに、涼宮さんもここで向かい合わなければ、
   いつかまた同じようなことが起こるでしょうからね」

キョン「ああ、そうだな」

ハルヒ「なにを……」

キョン「いいか、ハルヒ」

ハルヒ「な、なによ」

キョン「今、目の前に起こっていることは現実だ」

キョン「この空間も、このもうひとりのハルヒも、全部現実だ」

ハルヒ「これが、現実……?」

811: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:05:45.56 ID:QgkjVVrYo
ハルヒ「あはっ……そんなわけないじゃない。
    確かにこれが現実なら、そりゃ不思議すぎてびっくりだけど」

キョン「ハルヒ」

ハルヒ「でもね、いいキョン? 現実はそう甘くないの。
    こんな風に大仰に現れてくれないのが不思議ってものよ」

キョン「ハルヒ」

ハルヒ「それにね――」

キョン「ハルヒ!」

ハルヒ「!!」

キョン「もう一度言うぞ。全部、現実だ」

ハルヒ「……じゃあ、古泉くんが超能力者って言うのは」

古泉「本当です」

>一樹は赤光を纏い、空中に浮かんで見せた。

ハルヒ「……!」

古泉「この程度の超能力ですけどね。期待にはそえていないかもしれません」

ハルヒ「み、みくるちゃんが未来人って言うのも」

みくる「本当です」

ヒュン。

>ハルヒの手をとり、5秒後に時間転移をした。

ハルヒ「な、によこれ……」

みくる「時間転移……つまりタイムトラベルです。今のは5秒だけですけどね」

ハルヒ「ゆゆ、有希が宇宙人なんてさすがに嘘よね」

長門「本当」

>有希は自身の右手親指を噛み、出血をさせたのちに高速で自己修復を行った。

ハルヒ「すご……」

>ハルヒが3人を不思議そうに眺めている。

812: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:06:56.49 ID:QgkjVVrYo
ハルヒ「じゃ、じゃあ番長くんは」

>どうやら異世界人ということらしいと伝えた。

>イザナギを出現させる。

ハルヒ「い、異世界人……? なんで、そんな……」

キョン「信じたか?」

キョン「それでな。ここからが一番大事な話だ」

キョン「ハルヒ、お前にはなんでも願いを叶えちまうトンデモパワーを持っている」

ハルヒ「それって、あたしが気を失う前に言ってたこと……?」

キョン「ああ」

キョン「そのトンデモパワーは、ハルヒ自身を苦しめた。
    その結果生まれたのが、今そこに倒れているハルヒだ」

キョン「ハルヒの抱えていた苦しみを全部受け持っていてくれてたんだとよ」

ハルヒの影「……」

>ハルヒの影がゆっくりと立ち上がる。

813: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:07:23.44 ID:QgkjVVrYo
キョン「つまりだ。お前は知らなくても、あいつは、もう一人のお前だ」

キョン「ちゃんと話をして、決着をつけて来い」

>キョンがハルヒの背を軽く押す。

ハルヒ「そ、そんなこと言われたって」

>ハルヒとハルヒの影が向かい合う。

ハルヒ「何を話せばいいのよ……」

ハルヒの影「……」

ハルヒ「あなたは、あたしなのよね?」

ハルヒの影「そう。あたしは、涼宮ハルヒ」

ハルヒ「やっぱり、全然ピンとこないわ……」

ハルヒの影「あたしの願いは、あなたの願いと同じだと思っていた」

ハルヒ「……?」

ハルヒの影「だけど、それは違ったわ」

ハルヒ「……? 違った?」

ハルヒの影「わたしは、あなたは、未知であふれた楽しい世界を欲していると思っていた。
      でも、あなたはそれ以上に、今のSOS団が続くことを願っている」

ハルヒ「……」

814: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:08:09.18 ID:QgkjVVrYo
ハルヒの影「番長くんの矛が身体に突き立ったとき、SOS団の絆があたしの中に流れ込んできた」

ハルヒの影「すごく暖かくて、心地よかった」

ハルヒの影「未知はほしい。でも今のSOS団をつぶしてまで得るものじゃない。
      素直にそう思えたわ」

ハルヒの影「最初は、結成した当初は自分だけが楽しければいい。そう思ってた。
      だけど今は違う。SOS団のみんなと未知を見つけて一緒に遊びたい」

ハルヒの影「ううん、未知じゃなくてもいい。SOS団のみんなと楽しいことがしたい」

ハルヒの影「だからSOS団を守らなくちゃいけない。団長だからじゃない。
      一個人の涼宮ハルヒとして」

ハルヒの影「そうでしょう?」

ハルヒ「!!」

ハルヒ「ふー……」

>ハルヒは、何か考え事をしているようだ。

ハルヒ「……そこまで言われちゃ、認めないわけにはいかないわね。
    全然ピンとこないけど、どうやらあなたは、あたしみたい。
    だって、誰にも話したことないもの。それを知っているのはあたししかいない」

キョン「ハルヒ……」

ハルヒ「そりゃ口に出せないわよ。団長が結成の根本を失ったら元も子もないもの。
    でもね、それ以上に楽しかったことも事実」

ハルヒ「野球も、合宿も、文化祭も、クリスマスパーティも、全部全部楽しかったわ」

ハルヒ「そこで気付いてしまったのよ。
   『ああ、特殊な属性なんてなくてもこんなに楽しいんだ』ってね」

815: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:09:00.38 ID:QgkjVVrYo
ハルヒ「気付いたときには、あたし自身に愕然としたわ。
    どうしたんだ、涼宮ハルヒらしくないぞ、なんて思ったわ」

ハルヒの影「だから、少しでも不思議を望んだ」

ハルヒ「そうね、異世界人が目の前に現れたらあたしたちはどう映るんだろうって考えたわ。
    なにか新しい刺激をくれるかもしれない、そんな風にも考えた」

ハルヒの影「そして、あたしの願いと重なって――」

ハルヒ「異次元の扉をこじ開けたわけね」

ハルヒ「ごめんね、番長くん。番長くんがここにきたのあたしのせいみたい」

>気にするな。それに自分も助けてもらったからな。

みくる「? どういうことですか?」

>ああ…それは、また後にしよう。

ハルヒ「とにかく、あなたはあたし。ちゃんと受け止めるわ。
    それと、今までありがとう。いやな部分、全部受け止めてくれて。
    そして、これからもよろしくね」
     
ハルヒの影「……そう」

>ハルヒは、ハルヒの影を受け入れたようだ。

>……?

ハルヒ「で、キョン。これでいいわけ?」

>ハルヒの影がハルヒの中へ戻る気配がない。

816: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:09:41.31 ID:QgkjVVrYo
古泉「これは……?」

キョン「おい、ハルヒ。心の底から自分だって認めたか?」

ハルヒ「? 認めてるわよ」

みくる「どういうことでしょう……?」

ハルヒの影「あたしは――もう、一つの自我として成長しすぎた」

ハルヒの影「確かにあたしは涼宮ハルヒ。だけど目の前にいる彼女とはもう別の存在。
      別の自我として確定してしまった」

キョン「じゃあ、もうハルヒの中へは戻れないってことか?」

ハルヒの影「ううん。もう、いつでも戻れるわ。反対にいつでも出てくることができる。
      だけどね、一つだけ言いたいことがあるから」

ハルヒの影「あたしは――いえ、あなたはもう認識してしまったわ。自分の力を」

ハルヒ「なんでも願いを叶える力……」

ハルヒの影「そう。認識してしまったからにはきっと、同じように苦しみを味わうことになる。
      また気が狂いそうになるほどの退屈な日常に襲われる。能力の発動を恐れるようになる」

ハルヒの影「あなたは、そのときに、どうする?」

ハルヒ「そ、それは――」

キョン「安心しろ、ハルヒ」

キョン「俺たちが、ついてる」

817: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:10:41.35 ID:QgkjVVrYo
長門「情報操作は得意。任せて」

古泉「閉鎖空間の処理は僕らがついています」

みくる「涼宮さんの思っているような未来にはさせませんから」

キョン「ってことだ。それにな、ハルヒ」

ハルヒ「何よ」

キョン「このメンバーが揃っていれば退屈なんてするはずない。そうだろう?」

>……そうだな。その通りだ。

ハルヒ「みん、な……」

ハルヒの影「これがSOS団。素敵ね」

ハルヒ「な、何をいまさら! 当然じゃない!」

>ハルヒは、向日葵のような笑顔を浮かべている。

818: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:11:19.67 ID:QgkjVVrYo
>ハルヒの影が淡い光をまとい足元から粒子へと変わっていく。

ハルヒ「!」

ハルヒの影「じゃあ、あたしは戻るわ」

ハルヒ「……ええ」

ハルヒの影「……もし、みんなが。SOS団がピンチになったら。
      そのときは、助けるために、出てきていいかしら?」

>どういうことだ?

ハルヒの影「あたしだって、涼宮ハルヒなんだもの。SOS団が潰れるところは見たくない。
      だから――」

ハルヒ「……もちろん。ていうか出てこないと許さないからっ」

ハルヒの影「ふふ……そう」

ハルヒ「あ、でもその恰好はやめてほしいかな。紛らわしいし」

ハルヒの影「わかったわ。あたしも、少し成長した姿を見せられるように頑張るわ」

ハルヒ「じゃあね、その日まで」

ハルヒの影「覚えていて。あたしがいたことを。
        覚えていて。わたしはすずみや――」

>ハルヒの影は粒子になってハルヒへと戻っていったようだ。

819: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:11:45.70 ID:QgkjVVrYo
キョン「ふー、終わったか」

古泉「とりあえずは、ですけどね」

ハルヒ「にしてもみんな。なんてものをあたしに隠してたのよ。
    外に出たらたっぷり話を聞かないとね」

キョン「仕方なかったんだ。わかってやれ」

ハルヒ「冗談よ。冗談。それぞれに事情があるんでしょうしね」

キョン「やけに物わかりがいいな……反対に怖いぞ」

ハルヒ「なによそれ」

みくる「……」

>どうした? 暗い顔して。

みくる「ごめんなさい、涼宮さん。外に出てお話はきっとできないと思います。
    だから、お話をするなら今しかないです」

みくる「せっかく隠し事せずにお話しできるのに
    ……これでお別れになるのは寂しいですけどね」

キョン「!」

ハルヒ「どういうことっ!?」

820: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:12:23.00 ID:QgkjVVrYo
みくる「帰るというか、強制送還だと思います。
    抵抗するためには仕方なかったとはいえ、いったい幾つの厳罰行為を犯したのか数え切れませんから」

ハルヒ「だ、駄目よ! 帰るなんて許さないわ!」

みくる「ごめんなさい。涼宮さん。みんな。けど、これには抵抗できないんです。
    みんなのこれからを見届けられないのは、やっぱり残念かな」

みくる「でも、ダメなんです。ここにはいられない。
    でもこうなることは、覚悟していたんです。後悔はしていません」

ハルヒ「みくるちゃん、そんな……」

みくる「これで、みんなのお役にたてたのなら――」

古泉「……まだ、その強制送還とやらは始まらないのですか?
   ずいぶん時間が経っているように思うのですが」

みくる「……? そういえば、そうですね。
    きっと、この空間を未来では認知できないんだと思います」

みくる「でも、ここから出たあと、すぐにでもあたしは――」

長門「問題ない」

みくる「え?」

ガリッ!

みくる「ひゃぁえぇえぇえぇっ!!」

>有希がみくるの腕に突然かみついた!

821: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:12:58.29 ID:QgkjVVrYo
ハルヒ「有希! ちょ、有希!  何やってるの!」

みくる「ひぃぃいいん……」

長門「朝比奈みくるの中にあった航時に関する概念装置の再生復旧を行った。
   一時的に消去した痕跡は残ってしまうが、人類の科学レベルでは検知できない程度」

長門「時間平面上に起こったノイズも修復を試みている」

長門「誰かが報告しない限り、なにも、問題はない」

ハルヒ「え、え? どういうこと?」

古泉「つまり、朝比奈さんは帰らなくてもよくなったってことです」

ハルヒ「有希のおかげで?」

キョン「そういうこったな」

みくる「よ、かった……よかったですぅぅ……」

>ぼろぼろと大粒の涙を流しながらその場にへたり込んでしまった。

822: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:13:24.99 ID:QgkjVVrYo
みくる「もう、二度と、みん、みんなに、あえ、会えなくなるのかと思っ、」

ハルヒ「そんなこと、させるわけないじゃない!」

みくる「涼宮、さん?」

ハルヒ「誰かがそれを壊そうとするなら、あたしが許さないわ。
    そうでしょう?」

>ああ。

キョン「そうだな、団長様」

みくる「涼宮さん…」

古泉「ふふ」

長門「……」

ハルヒ「さーて、こんなところさっさと出ましょう!
    ……みんなにも、お礼しなくちゃいけないしね」

キョン「それなら、番長をまず労ってやれ」

古泉「ええ、間違いなく最大の功労者ですから」

みくる「番長くんのおかげなのは間違いないですね」

長門「彼がいなければ、この状態にはなりえなかった」

ハルヒ「ありがとね、番長くん!」

>SOS団の全員と強い絆で結ばれるのがわかる……!

>これは……!!

823: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:14:05.30 ID:QgkjVVrYo
【我は汝…、汝は我…】

【汝、ついに真実の絆を得たり】


【真実の絆…それは即ち】

【真実の目なり】

【今こそ、汝には見ゆるべし】

【 世界 のアルカナが…汝が内に宿らんことを…】

824: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:14:43.53 ID:QgkjVVrYo
>突如、目の前の空間がゆがむ。

>……? なにかがゆらゆらと実体化しようとしてる。

キィィンッ!

ハルヒ「な、なによ! この扉……」

>これは、ベルベットルームの扉……!?

キョン「な、いきなり現れたぞ」

キョン「長門か?」

長門「違う。これは、彼と同じ」

古泉「番長氏と?」

長門「完全に、解析不能」

みくる「ど、どういうことですかぁ?」

>みんなの視線が集まる。

>これは、ベルベットルームと呼ばれる場所につながる扉だ。

>本来ならば、自分にしか見えないはずだが……。

ハルヒ「……いきましょ? 
    目の前に不思議があるんだからそれに乗り込まないのはSOS団じゃないわ」

キョン「ハルヒ?」

ハルヒ「いいから、いきましょ」

古泉「ふう……このタイミングですか」

長門「でも、これが最後かもしれない」

みくる「そう、ですね…」

ハルヒ「さあ、番長くん開けてちょうだい」

>ベルベットルームの扉を開く……。

825: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:15:33.88 ID:QgkjVVrYo
――ベルベットルーム。

ハルヒ「ここは……?」

古泉「車の中、ですかね。ですが閉鎖空間より光が乏しい」

キョン「お、おい。誰かいるぞ」

みくる「ひぇっ…」

イゴール「ようこそ、ベルベットルームへ」

>イゴール……!

イゴール「ようやく見つけられましたぞ、お客人」

マーガレット「久しぶり、といったほうがいいかしら?」

>マーガレット!

古泉「長鼻……」

キョン「? どこかで…?」

イゴール「おや? これはこれは。これほど多くの客人が一度に介したのは初めてですな」

イゴール「それに、それぞれが数奇な運命をお持ちのようだ」

826: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/04(金) 22:15:59.99 ID:QgkjVVrYo
イゴール「わたくしの名はイゴール。お初にお目にかかります」

マーガレット「わたくしは、お客様の旅のお供を務めております。マーガレットと申し上げます」

古泉「旅……ですか」

キョン「ここはどこなんだ?」

イゴール「ここは、夢と現実。精神と物質。そして――世界と世界の狭間にある場所」

イゴール「本来は、何らかの形で契約を果たされた方のみが訪れる部屋」

マーガレット「ですが、あなたたちには主からお礼を申し上げたく、お呼び立てしました」

ハルヒ「お礼……?」

イゴール「お客人は、旅路の最後、強大な力を前に地に伏せってしまっておられた」

イゴール「その強大な力に飲み込まれ、そのまま力尽きるかに思われた刹那――」

イゴール「あなたが救い上げてくださったのですよ」

ハルヒ「あ、あたし?」

マーガレット「ええ。あのままでしたら、彼は消滅していたでしょう」

>ああ、そうだろうな……。

835: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 22:56:49.81 ID:WHARG3v3o
古泉「消滅……?」

マーガレット「それほど強大なものと対峙しているのです」

イゴール「しかしあなたは、その強大なものにも立ち迎えるだけの力をつけて今ここに立っておられる」

イゴール「世界をその身に宿し、この場へと戻ってこられた」

マーガレット「本当ならば、あなたが別世界へ飛ばされたときにすぐに呼び戻そうと思ったのです」

マーガレット「ですが、それはできなかった」

マーガレット「あなたの居場所がつかめなくなってしまったのです」

イゴール「ですが、わたくしたちはようやく見つけたのです。あなたの紡いだ絆の輝きを」

マーガレット「あなたたちがコミュニティを作り、絆を深め、
       力強い絆の波導を感じ取ることができたおかげで、見つけることができました」

マーガレット「改めて、お礼を言わせていただきます」

>世界のアルカナを宿したことがきっかけになったというわけか……。

イゴール「あなたにとって絆を育むことは、世界も場所も関係ないようだ」

イゴール「本来の世界でなくとも、大変良い友をお持ちになった」

マーガレット「……でも、そろそろ時間です。
       ここへ足を踏み入れたときから、あなたの世界と時の流れは同期してしまっている」

836: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 22:57:23.87 ID:WHARG3v3o
>……ああ。わかった。

>みんな。

ハルヒ「番長くん?」

>みんなとは、ここでお別れのようだ。

キョン「お別れだと?」

>自分の世界で、まだやり残したことがある。

>やり残したまま、そちらへ戻るわけにはいかないんだ。

古泉「……ここへ足を踏み入れた時からそうなるだろうとは、予測していましたが」

古泉「いざ直面すると、動揺を隠しきれませんね」

みくる「お別れ……そう、ですよね」

キョン「でも、ま」

キョン「永久の別れってわけじゃないんだろ? そっちの用事が終わったらまた遊びにこいよ」

マーガレット「それは叶わないわ」

キョン「……なに?」

837: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 22:57:49.62 ID:WHARG3v3o
イゴール「本来、彼の世界とあなた方の世界は、交わることがないはずのものでした」

イゴール「しかし、奇跡とも呼べる偶然が重なり、彼がそちらへと召喚されただけに過ぎないのです」

イゴール「いえ、それもまた、運命だったのでしょうな」

マーガレット「ですが、一度世界の繋がりを絶ってしまえば二度とそちらへはいけない。
       お互いに干渉することも観測することも叶わない完全に独立した世界へと戻ってしまうのです」

キョン「そん、な……」

ハルヒ「…………なら、あたしが繋ぐわ」

>ハルヒ…。

ハルヒ「あたしは、なんでも願いを叶える力を持っているんでしょう?
    それなら――」

イゴール「残念ながら、それも叶わないでしょうな」

ハルヒ「っ! どうしてっ!」

イゴール「彼は、あなたたちの世界に本来は存在していない人間」

イゴール「世界が閉ざされるということは、その存在も閉ざされる」

マーガレット「つまり、彼と彼の世界を認識できなくなる」

838: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 22:58:17.45 ID:WHARG3v3o
>それは自分にもいえることだろうか。

マーガレット「ええ、そうね」

マーガレット「あなたも、向こうの世界へ戻れば、彼らのことを認識できなくなるわ」

>そうか……。

ハルヒ「そんなことさせない。今ここで番長くんの存在をあたしたちの中へ刻み込むわ!」

マーガレット「……申し訳ありませんが、あなたの能力はここでは発動できません」

ハルヒ「どうしてっ!」

イゴール「あなた様の能力は、夢と現実、精神と物質に作用するもの」

イゴール「夢と現実、精神と物質。その狭間にある場所では、
     あなたの能力の発動のきっかけとなる触媒が何も在りませぬゆえ」

長門「この空間には情報が存在しない……?」

長門「ありえない。あなたたちは今ここに存在している。わたしたちもここに存在している。
   その情報は確実にこの場に確定している。
   それなのになぜ? 情報を持たない空間……?」

イゴール「おや、あなたは。どうやらわたくし達と近しい存在のようだ」

マーガレット「わたくし達は、力を統べる住人。あなたたちとは違った理を持っています」

マーガレット「つまり、あなたたちの世界の理に作用する能力は、ここでは意味を持ちません」

839: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 22:58:44.85 ID:WHARG3v3o
ハルヒ「そんな……そんな!!」

ハルヒ「なによそれ! なにがなんでも願いを叶える能力よっ!」

ハルヒ「こんな能力! こんな能力……ッ!!」

>ハルヒは、強くこぶしを握り締めている。

ハルヒ「あたしは、なんて無力なの……」

マーガレット「それともう一つ」

マーガレット「彼のことを認識できなくなるとともに、徐々にですが
       彼が強く関わった出来事も認識ができなくなるでしょう」

マーガレット「特にここ――ベルベットルームでの出来事と」

古泉「テレビの中の出来事、というわけですか?」

マーガレット「その通りです。あの場所は彼がいなければ知ることもできない場所ですから」

古泉「つまりテレビの中で起こった出来事……。
   僕らの影のことも、ペルソナも、涼宮さんが能力を自覚したことも。
   すべては、なにもなかったかのようになってしまうと。そういうことですか」

キョン「なっ!」

マーガレット「あなたたちが何をしてきたのか。わたくし達には遡って感知する術はありません。
       ですが、あなたたちが考えていることと相違はそれほどないでしょう」

古泉「そう、ですか」

840: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 22:59:10.99 ID:WHARG3v3o
みくる「せっかく……せっかく!
    新しい関係に進めると思ったのにっ! どうして、こんな……」

ハルヒ「いや……嫌よ! そんなことっ!」

長門「……」

キョン「すべては、ゼロに戻っちまうのか……」

>……それは、違うぞ、キョン。

キョン「?」

>ゼロなんかじゃない。

キョン「ゼロじゃない? 忘れちまうんだぞ!
    番長のことも! いままでのことも!」

キョン「そんなの……そんなの絶対に俺はごめんだ!」

>ゼロなんかじゃないさ。

>ハルヒ。

ハルヒ「な、なによ」

>料理対決のときに話したことを、覚えているか?

ハルヒ「料理対決……?」

ハルヒ「あ…!」

ハルヒ「一緒に過ごした『時』は消えない……」

841: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 22:59:39.42 ID:WHARG3v3o
>そう。

ハルヒ「『過ごした思い出が、人生の中で埋没してしまう時が来るかもしれない』」

ハルヒ「『この時は思い出になって風化してしまうことがあるかもしれない』」

ハルヒ「『だが、今こうして過ごしている時間は決して消えはしない』」

ハルヒ「今培っている絆は、決して、嘘じゃない……」

>離れてしまっても、思い出せなくても。

>この瞬間の絆は嘘じゃない。

>今目の前にある、真実だ。

みくる「どうして……どうしてっ!
    番長くんは悲しくないんですかっ!」

みくる「もう会えなくなるんて、あたしは、あたしはっ」

>――不都合な真実であっても見つめ続ける。

>それが、心に決めていることだ。

みくる「でもっ!」

>悲しいさ。

>悲しくないわけがない。

>だけど、前に進まなければいけない。

>ここに留まっているわけにはいかない。

>自分を待っている人たちもいるから。

>自分が、しなければいけないことがあるから。

842: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:00:40.49 ID:WHARG3v3o
みくる「番長、くん……」

>沈黙が横たわる…。

みくる「そう、ですよね……」

みくる「番長くんには、番長くんの世界がある……
    いつか、別れのときは来る……わかっていたんです。
    でも、それが突然すぎて……」

>みくる……。

古泉「ここは……笑顔で見送るべきなんでしょうね」

キョン「古泉!?」

古泉「あらゆる手段を考えてみても、世界の理を揺るがすことは僕たちにはできない」

古泉「涼宮さんも、長門さんもなにもできないのですから」

古泉「だから僕たちにできることは、笑顔で見送る。それくらいです」

>一樹……?

キョン「古泉、お前……その、涙」

古泉「え? は、はは、ははは……どういうことでしょうね。
   言った本人が笑顔を作れていません」

古泉「……困ったものです」

843: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:01:06.32 ID:WHARG3v3o
古泉「この涙は、僕の本心なのでしょう。
   ですが、同時に、笑顔で見送りたいと思うのも僕の本心です」

古泉「この状況になにもできない僕の無力さをこれほど恨めしいと思ったこともありません」

古泉「だからこそ、笑顔で。
   この状況で唯一運命にあらがえる行為、それが笑顔で見送ることだと思います」

キョン「古泉……」

長門「……ひとつだけ、聞きたい」

>なんだろうか。

長門「あなたは、本当に、もう2度と会えないと思っている?」

>!

>有希は、鋭いな。

長門「そう」

>……実をいうと、あまり思っていない。

キョン「どういうことだ……?」

>なぜだろうな。自分でもわからない。

>だけど、ここで紡いだ絆が、またいつか自分とみんなを引き合わせてくれると信じている。

>根拠は、なにもないけれど。そう、感じてる。

長門「そう……それだけ、聞きたかった」

844: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:01:35.95 ID:WHARG3v3o
ハルヒ「……そんなこといわれたら、信じるしかないじゃない」

キョン「納得できるのかよ!?」

ハルヒ「できないわよ! できないけど!」

>……キョン。

キョン「なんだ――」

ドゴォッ!!

ハルヒ「!!」

みくる「!!」

古泉「!!」

キョン「ってぇっ! 何しやがるっ!」

>何って、パンチだ。

キョン「そういうこと言ってるんじゃねぇっ!」

>キョン、こい。

キョン「なにを、こんなときに――」

ドゴォッ!

>こい。

キョン「っつ!! ……わかったよ、やってやるよ!!」

845: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:02:04.67 ID:WHARG3v3o
>キョンとしばらく殴り合いを続けた。

キョン「いったい、なんなんだよこれはっ! がっはっ!」

ドゴォッ!

>さあな! ぐっ!

ドゴォッ!

キョン「なんで、別れ際に、こんなこと、しなきゃ、いけねーんだっ!」

>それはな――!!

ドッゴォッ!!

>お互いのパンチが顔面に入り、その場にへたり込んだ。

キョン「いつつ……はぁ、はぁ、はぁ……わっけわかんねぇ……」

>はあ、はあ、はあ……これで親友だ。

キョン「あん……?」

>殴り合えば、対等だ。

>対等ならば、親友になれる。

>その親友が戻ってくると言ってるんだ。信じてくれ。

キョン「そうかい……そういうことか」

キョン「これも……絆の形の一つか」

>そういうことだ。

>キョンとこぶしとこぶしを合わせる。

846: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:02:58.86 ID:WHARG3v3o
ハルヒ「やれやれ、男って馬鹿ね」

みくる「ふふ、そうですね」

キョン「にしても、ここまで本気で殴るこたないだろうが……」

>つい……。

ハルヒ「しんみりした空気が台無しよ」

キョン「俺に言うな、番長にいってくれ」

>みんなに笑顔があふれる。

マーガレット「そろそろ、時間に余裕がなくなってきました」

イゴール「あなたは、再びあの強大な敵とまみえなければなりませぬ」

イゴール「覚悟は、お出来ですかな?」

>ああ。

マーガレット「別世界との接続により捩じれていた時空間が戻りつつあります」

マーガレット「もうすぐ、あなたたちの世界への道も閉ざされてしまう。
       その前に、その扉をお開きください」

ハルヒ「……わかったわ」

847: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:03:41.37 ID:WHARG3v3o
ハルヒ「じゃあ、これで本当にお別れね、番長くん」

>ハルヒ。料理対決楽しかった。

ハルヒ「リベンジは、いつでも待ってるからっ」

>ああ、きっとさせてもらうさ。

みくる「番長くん……」

>みくる。SOS団にはみくるの優しさが必要だ。

みくる「必ず、必ず! また会いましょうね!」

>当然だ。だからみくるも、待っていてくれ。未来でも現在でも。

長門「……」

>有希?

長門「忘れない」

>! ああ。有希がそういうなら、絶対だな。

長門「そう」

古泉「何を言ったらいいんでしょうね」

>一樹には、世話になりっぱなしだったな。

古泉「とんでもありません。僕のほうが助けられっぱなしで」

>必ず、世話になった恩は返す。待っていてくれ。

古泉「はい、お待ちしておりますよ」

キョン「番長……最後まで、悪い」

>どうした、親友。

キョン「恥ずかしいからやめてくれ。……最高の数日だったぜ、先輩。
    次に会う時までには、胸を張って肩を並べられるようになってるから、その日まで待っていてくれ」

>楽しみにしておこう。

848: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:04:22.67 ID:WHARG3v3o
ギィィ……。

>扉が開く。

マーガレット「少し、記憶が混乱するでしょうけど、身体に問題はないのでご安心ください」

ハルヒ「……あーあ。ってことは、せっかくみつけた超能力者も、未来人も、宇宙人も、異世界人も
    またしばらくお預けかぁ」

>大丈夫。ハルヒならきっと見つけられる。

ハルヒ「……本当に待ってるからね。ううん、絶対あたしからそっちに行ってやるんだから。
    もちろん、みんなを連れてね!」

>! ああ、待ってるよ。

ハルヒ「じゃあね――」

イゴール「それでは、よい旅路を」

ギィィ……バタン。

>ハルヒたちは扉を通り外へと出て行ってしまった。

イゴール「さて、準備はもうよいですかな?」

>ああ、みんなが待ってる。

マーガレット「時空間の捩じれにより扉の向こうは、あなたが倒れ伏した直後につながっております」

>決着を、つけよう。

イゴール「……いいお顔になられましたな」

>そうか?

イゴール「別世界でのできごとは、あなたにいいように作用したようですな」

849: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:04:54.27 ID:WHARG3v3o
マーガレット「だけど、先ほども言ったように、徐々に忘れていってしまうでしょう。
       いいえ、きっともうそれは始まっている」

>かもしれないな。

>今も、もう。なにか大切なことを忘れているような気さえする。

イゴール「SOS団、でしたか。素敵な方たちだ」

>SOS団?

イゴール「いえ、なんでもございませぬ」

>SOS団……わからない。だけど、心地よい響きだ。

イゴール「そうですか。それは、良きことです。
     さあ、扉をお開きなさい」

マーガレット「待っている人たちがいらっしゃいますよ」

>ああ、行ってくる。

イゴール「真実が、あなた様の手に宿らんことを……」

ギィィ……バタン。

『おっそいよ! 番長くん!』

『お帰り、番長くん』

『先輩! ようやく戻ってきたッスね!』

『もうっ! なにしてたんですか、先輩っ!』

『センセーイ! お帰りクマー!』

『待っていましたよ、先輩』

『行こうぜ、相棒!』

>ああ、行こう! すべてを終わらせに!

――――
――

850: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:05:49.46 ID:WHARG3v3o
――翌日、北高、文芸部部室。

キョン「俺が話したほうがいいのか?」コト

古泉「話したほうがいいとは?」コト

キョン「ハルヒにだよ。俺らが昨日の夜に視聴覚室で寝てた件についてだ」コト

古泉「ああ、そのことですか」コト

キョン「宇宙的、超能力的、未来的な組織からの攻撃じゃないのか?」コト

古泉「ああ、そんな物騒なものじゃないので大丈夫ですよ。
   特になにもしなくても大丈夫だと思います」

キョン「なぜだ」

古泉「よくよく思い出してみると、涼宮さんの発案で集まっていたように思います」

キョン「ん……? あー、そういや、そんな気もするな。
    なんだったか。オカルトチックな噂を試してみようとか、そんなんだったか。
    だが、なんでこんなに記憶があやふやなんだ?」

古泉「それは、僕にもさっぱりわかりません。
   ですが、なんでしょうね。心の底から害はないと思えてしまうのです」コト

キョン「そういわれると、そうだな……マインドコントロールの類の可能性は?」コト

古泉「人為的に行われたとは考えにくいですね。
   機関のすべての目をすり抜けて、行うことは非常に困難かと」コト

キョン「そうか……」コト

851: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:06:21.17 ID:WHARG3v3o
古泉「それ以上に不思議なことがありましてね」

キョン「なんだ」

古泉「機関の経理から連絡がありまして、ここ数日で使途不明金が大量にあると指摘されましてね」

キョン「ああ、そうかい。そりゃたしかに不思議なこって」

古泉「これはちょっとした恐怖ですよ」

バタン。

みくる「こんにちはぁ」

キョン「ああ、朝比奈さん。こんにちは」

長門「……」

キョン「よう、長門」

長門「(コクリ)」

みくる「あ、今お茶入れますねぇ」

キョン「ありがとうございます」

古泉「朝比奈さんがお茶を入れ、長門さんが部屋の隅で読書をし、
   そして僕たちはボードゲームに興じている、このいつもと変わらない風景で十分ではないですか?」コト

キョン「ま、そうだな。小難しいことは全部お前たちに任せるさ。俺は平平凡凡な一般人なんでな。
    ってことで、チェックメイトだ」コト

古泉「おや、いつのまにか追いつめられてしまいましたか」

852: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:07:04.12 ID:WHARG3v3o
キョン「どうだ? もう1局やるか?」

古泉「そうですね……あぁ、もしよろしければ朝比奈さんたちもどうですか?
   多人数で楽しめるものありますから」

みくる「ふぇ? あ、あたしたちですか?」

長門「わかった」

キョン「長門が応じるなんて珍しいな」

キョン「珍しいが……新鮮味がないのはなぜだ」

長門「そう」

みくる「そうですね……たまには、そういうこともいいかもしれないですね。
    あれ? たまには……?」

バンッ!

ハルヒ「みんなー! そろってるーっ?」

キョン「残念ながらハルヒの登場だ。てことで、俺の勝ち逃げだな」

ハルヒ「なーにが残念ながらよ! それよりみんな昨日のこと覚えてる?」

キョン「視聴覚室で寝ていたことか?」

ハルヒ「そうそう! たしかあれ、あたしが視聴覚室に集まるように提案したのよね?」

キョン「俺はそう記憶しているぞ」

古泉「僕も同じくですね」

みくる「あれ? そうでしたっけ……? あ、そっかぁ」

長門「……」

853: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:07:30.66 ID:WHARG3v3o
ハルヒ「でも、不思議なことに本当にあたしが提案したかはっきりしないのよ」

ハルヒ「それに、何をしようとしていたのかもはっきり覚えていないの」

ハルヒ「そこであたしは気づいたわ、気づいてしまったのよ」

ハルヒ「きっとあたしたちは、何かとんでもない不思議に直面してたんじゃないかって!」

キョン「おいおい……」

古泉「ふふ」

みくる「はー」

ハルヒ「きっと異世界人の侵略か何かがあって、あたしたちの記憶を奪っていったに違いないわ!」

キョン「そんなわけあるか」

ハルヒ「ということで! 今日の活動は、視聴覚室で異世界人のいた痕跡さがしよ!」

ハルヒ「さあ、みくるちゃん! いくわよ!」

みくる「は、はいいいぃぃっ!!」

ダダダダダダッ……。

キョン「えらい勢いで朝比奈さんを引っ張って行っちまったぞ」

古泉「そうですね」

854: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:08:07.19 ID:WHARG3v3o
キョン「ちなみに、異世界人はお前ら観測しているのか?」

古泉「残念ながら、まだですね」

キョン「そりゃそうだろうな……」

キョン「だが、んじゃ、まあ。いきますかね」

古泉「そうしましょう。涼宮さんの逆鱗に触れないうちに」

キョン「……ん? ホワイトボードに貼ってあるあのカードなんだ?」

古泉「カード、ですか?」

キョン「ほら、あれだ」

古泉「タロットカード、ですかね。地球を中心に6人の人影が描かれていますね。
   おそらく世界のカードですよ」

キョン「やれやれ、ハルヒのやつが拾ってきたのか。
    まあ確かに綺麗だし、こう、心惹かれるものがあるな」

古泉「おや、奇遇ですね。僕もこのカード心惹かれますよ」

キョン「ま、今はカードどころじゃないな。ハルヒのやつを追いかけるか」

古泉「そうしましょう」

バタン。

855: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/07/05(土) 23:08:33.73 ID:WHARG3v3o
長門「……」

長門「……」

ガチャ。

キョン「長門ー、いくぞ」

長門「……」パタン

長門「……」

キョン「うん? そのタロットカード気になるのか?」

長門「……」

キョン「見ていてもいいが、追いついてこいよ」

長門「わかった」

バタン。

長門「……」



長門「――また、どこかで」

【番長「SOS団?」 完】

引用元: 番長「SOS団?」 2