156: 2011/10/26(水) 17:55:06.08 ID:mhvCW6AZ0
 
いつの日から始まっていたのだろう? その異変はいつの間にか始まっていた。

         狂ったように次々と事件を起こす里の人々

        狂った人の首筋に付けられた謎の印 (しるし)

       狂わされた人々が語る、謎の存在 『魔女』 とは?

疑いをかけられた『魔法使い』たちは幻想郷を駆け回る。
自身にかけられた疑惑を晴らすため、『魔女』の正体を暴く為、

 「いいぜ、魔女が異変を起こすって言うなら、私はその魔女をぶっ飛ばす!」

                                 ― 普通の魔法使い:霧雨 魔理沙 ―


 「半人半獣に天狗の新聞屋ときて今度は貴女……、流石の私もそろそろ我慢の限界よ」

                              ― 七色の人形遣い:アリス・マーガトロイド ―


 「そんな装備で大丈夫ですか?」
 「大丈夫よ、問題ない」

                             ― 動かない大図書館:パチュリー・ノーレッジ ―


 「一体いつから妖怪相手に武力行使しないと錯覚していたの?」

                                   ― ガンガンいく僧侶:聖 白蓮 ―


“魔法使い”と“魔女”が出会う時、幻想郷の歴史は新たな一ページを刻む!
果たして“魔女”の正体は? 幻想郷を舞台にした大捕物、『魔女異変』ここに開幕!


                    ~東方円鹿目~

                  201X年XX月 捜査開始

2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/10/15(土) 16:21:28.77 ID:nhHZWkYP0
☢Caution!!☢☢Caution!!☢ ☢Caution!!☢

東方×まどマギ(基本魔女のみ例外あるかも)
幻想入りモノ
キャラ崩壊、オリキャラ化あり。
シリアスだったり、ネタに走ったりします。

以上をご了承下さい。
☢Caution!!☢☢Caution!!☢ ☢Caution!!☢

お願い
このスレでは発想力の低い作者の為に、魔女が使うオリジナルスペカを募集します。
使用キャラとスペカ名(出来れば弾幕の特徴)を投稿してもらうと作者が喜びます。

3: 序章:魔女たちの幻想入り 2011/10/15(土) 16:26:23.08 ID:nhHZWkYP0

『魔法使い』
妖怪や神と言った魑魅魍魎が闊歩する幻想郷に於いて、その言葉ほど広い意味と類義語を有する言葉はない。
人間の職業としてだったり、人の枠を外れ悠久の時を生きる種族の名だったり……

類義語、と言うか表記揺れも多く、例えば 『魔女』 という言葉は“○○の魔女”などと、しばしば有力な魔法使いの二つ名として使われる。

そんな、魔法使いの別称の一つ、と言う立場に甘んじていた 『魔女』 だが、ある日を境に一種族を指す言葉に昇格することとなった。

これは外の世界を追われ、幻想郷にやって来た『魔女』と、暇を持て余した亡霊が引き起こした、
賑やかで迷惑極まりない引っ越し挨拶、通称、『魔女異変』の記録である。


                                                                                                              稗田阿求 記 『幻想郷縁起』より

 
157: 2011/10/26(水) 18:00:48.91 ID:mhvCW6AZ0
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

深い深い闇、決して晴れることも、一筋の光が射すこともない、真の闇。
そんな場所に私の意識は落ちていった。
全てを救い、全てを滅ぼす、そんな存在になった私に突然にも訪れたその瞬間。
それは別世界の私だった者が捧げた祈りにより訪れた救済と言う名の死。
全てを呪わずに済まなくなった事を安堵しつつ、また何処かでこのまま消えるのは嫌だな、とも思う。
でも、こうなった以上もはや何も出来ない。
あとはこのまま消え去るだけ、だった筈なのだが……
沈んでいく一方だった感覚が急に浮遊感を覚えたかと思うと、あり得ないと思っていた光が射し込みはじめ、やがて……


クリームヒルト「…………あれ?」

気が付いてまず見えたのは、綺麗な木目だった。
木目調とか、そう言う作り物ではない、木板特有のソレだ。
感じる重さに、下を見ると、私の身体の上には布団がかけられていて、その向こうには障子が見えた。
どうやら、私はどこかの部屋に寝かされているらしい。

そこまで把握して、私ははっとなり、飛び起きた。
かけられていた布団を引っ剥ぎ、自分の身体を見下ろす。
手があって、足があって、服を着ていて……
その姿は私の意識が闇の世界に落ちる前のソレと大きく異なる。
と、言うより寧ろこの姿は、あの姿になる前の自分、即ち人間だった頃の……


??「あら?目が覚めたのね。どうかしら、気分の方は?」

急に声をかけられ私は振り向いた。
さっきまで閉まっていた障子が開いていて、蒼い着物姿の女性がそこに立っていた。

7: 序章:魔女たちの幻想入り 2011/10/15(土) 16:33:20.58 ID:nhHZWkYP0

クリームヒルト「あ、その、えっと……」

??「……急に聞かれても、って顔ね。 ふふふ、ごめんなさい。起きたばかりでちょっと意地悪が過ぎたわ」

クリームヒルト「貴女は……?」

??「私は西行寺幽々子。 冥界の名家、西行寺家の主よ」

クリームヒルト「クリームヒルト・グレートヒェンです。 って、冥界…………?」

幽々子、と名乗った女性のその一言が引っ掛かり、思わず呟く。
冥界って、確かあの世とかそう言う意味だったよーな……
そこまで考えて、私は幽々子さんの周囲に幾つかの人魂が浮遊している事に気付く。
これはつまり、端的に言うと……

クリームヒルト「うきゃああああぁぁぁぁっ! お、おば、お化けぇぇぇぇっ!?」

幽々子「あら、久々過ぎて新鮮な反応ね。亡霊冥利に尽きるわぁ……、人間じゃなくて妖怪(?)相手なのがちょっと残念だけど」

クリームヒルト「あ、あぅ、あうぅぅっ……」

幽々子「そんな怖がらなくても、とって食べたりしないから大丈夫よ」

幽々子「妖夢、お客様がお目覚めよ、お茶と茶菓子を持って来なさい」

??「畏まりました~」

そう言って座布団に腰を下ろす幽々子さん。
応えたのは執事かお手伝いさんだろうか?

クリームヒルト「えっと、あの、お構い無く……」

あの世で亡霊にもてなされる、と言うのも変な気がしたけど、そう言わずにはいられなかった。
が、幽々子さんは静かに微笑みながら首を横に降る。

8: 序章:魔女たちの幻想入り 2011/10/15(土) 16:36:58.08 ID:nhHZWkYP0

幽々子「良いのよ、私がもてなしたい、と思ってやっているのだから」

クリームヒルト「はあ、すいません。それにしても死んでからあの世で接待されるとか思ってもみませんでした」

幽々子「あら? 貴女たちはまだ死んでないわよ?」

クリームヒルト「えっ? でもさっき、ここは冥界だ、って……」

私が言うと、幽々子さんは何かに気がついたらしい。
手を軽く叩いて、語り始めた。

幽々子「ああ、確かにここは冥界、即ちあの世よ。 でも、貴女たちを拾ったのは此処じゃなくて、幻想郷との境目なのよ」

クリームヒルト「幻想郷?」

知らない地名に思わず首をかしげる。
あの世にも市町村とか区分けがあるのだろうか?

幽々子「その様子から察するに、貴女、外の世界から紛れ込んできたようね……。
    幻想郷は簡単に言えばあらゆるモノのるつぼよ」

クリームヒルト「るつぼ?」

幽々子「ええ、人間や動植物は勿論、妖怪や神、悪魔、そして私たち亡霊といったありとあらゆる存在が共存する、幻の郷……」

クリームヒルト「人と妖怪が……共存?」

幽々子「そうよ。人の世が否定し、追いやった幻想を束ねる最後の受け皿、それが幻想郷」

幽々子「偶に居るのよ、貴女たちのように外の世界、即ち人の世に存在することを否定され、幻想郷に流れ着く妖怪が……」

私自身、あんなだった(と言うか幽々子さんに妖怪呼ばわりされているあたり、今もそうなんだろうけど……)し、
目の前に亡霊は居るし、今更妖怪の存在を否定はしない。

しないけど、人と共存している、と言うのは信じられない話だった。
だって元いた世界で私たちの存在は……

9: 序章:魔女たちの幻想入り 2011/10/15(土) 16:42:29.22 ID:nhHZWkYP0
幽々子「畏れられ、排斥される存在だった?」

クリームヒルト「!?」

幽々子「驚かなくてもだいたい分かるわ。 私たちだってそんな感じだったし……」

最近は夏場ですら奮わなくなったけどねぇ……
と言いつつ肩をすくめる幽々子さん。

幽々子「その点、幻想郷は全く問題はないわ。
    確かに妖怪は人間をとって食う事も有るけど、食料確保のルートは確立されているし、秩序を保つ上で最低限のルールもある。
    そのルールに反しない限り、此処では人も妖怪も単なる隣人よ」

クリームヒルト「…………」

幽々子「さて、私からの話はこれくらいにして、貴女たちの話を聞かせてもらおうかしら?」

閉じた扇を私に向け、話を促す幽々子さん。
私の話をする前に、さっきから気になっていた事を尋ねてみる事にする。

クリームヒルト「えっと、さっきから幽々子さん、私たち、って言ってましたよね?と言う事は私以外にも……?」

幽々子「ええ、他にもいっぱい居たわ。 驚いたわよ、まるで打ち揚げられた鯨の群れみたいに集団で固まって倒れているんですもの。
    姿は貴女みたいに人間っぽいのから、妖精みたいなのまで色々だったんだけど、何て言ったら良いのかしら? 気配? 妖気?
    兎に角、纏ってる空気が似てたから同じ仲間だと思ったのだけど……」

クリームヒルト「じゃあ、他の魔女は……?」

幽々子「別の部屋に寝かせているわ、一応冥界随一のお屋敷だからね、部屋は余ってるのよ」

幽々子「……と言う事は、貴女たちは“魔女”なのね?」

クリームヒルト「えっ?」

幽々子「今貴女が言ったじゃない。 それにしても“魔女”かぁ……、
   外の世界の語意は変わりやすいとは聞いていたけど、結構変わるものなのねぇ……」

しみじみと呟く幽々子さん。
どうやらおっとりしたような見た目に反して、かなり鋭い人(?)のようだ。

10: 序章:魔女たちの幻想入り 2011/10/15(土) 16:48:12.15 ID:nhHZWkYP0

クリームヒルト「幻想郷にも“魔女”って、居るんですか?」

幽々子「う~ん、居ると言えば居るし、居ないと言えば居ないわ」

クリームヒルト「と言いますと?」

幽々子「つまり、貴女の言う“魔女”は今日まで幻想郷には居なかったわ、“魔法使い”の女性、を指す言葉としては昔からあったけど……」

どうやら、元いた現世と幻想郷とでは、“魔女”が指す意味が違ったらしい。
よくよく考えてみると、コッチに足を踏み外す前に“魔女”と言う言葉に持っていたイメージは確かに幻想郷でのソレだった気がする。

幽々子「それで?貴女の言う“魔女”はどういう存在なのかしら? 良かったら話してくれない?」

クリームヒルト「あっ、はい、え~と、私たちは……」


それから私は今までの事を話した。
元々は普通の人間だった事、魔法少女の事、魔女は魔法少女の成れの果てである事、
私も魔法少女から魔女となり、世界に呪いを振り撒いた事、
そして突然にも訪れた救済と言う名の消滅の事も……。


クリームヒルト「それで気が付いたらここに居て、姿も人間だった頃の姿になってて……」

幽々子「成程ねぇ……、不相応な穢れを溜め込み、堕ちた人の魂、それが貴女たちなのね。道理で人間っぽいな、と思ったら……」

ふむふむ、と一人納得する幽々子さん。
と、その時、おかっぱ頭の女の子が、障子を開けて部屋に入ってきた。

??「お待たせしました、幽々子さま。 生憎茶菓子を切らしてしまいまして……、取り急ぎ買って参りましたが、遅くなりました。 申し訳ありません」

幽々子「あら、お疲れ様ね、妖夢。 でも茶菓子を切らせていたのは感心出来ないわ、以後気を付けるように」

扇を片手にたしなめる幽々子さんは、さっきまで私の話を嬉々として聞いていた姿と違い、なんとも言えない風格が漂っていて……、
その姿を見ると名家の主と言うのも頷ける。

 

158: 2011/10/26(水) 18:03:28.50 ID:mhvCW6AZ0
 


妖夢「分かりました。幽々子さま」

そう言うと、妖夢と呼ばれた従者の女の子は静かに頭を下げる。

幽々子「まあ良いわ、おかげでクリームヒルトちゃんの話をゆっくり聞けたし……ね?」

クリームヒルト「あ、はい!……てぃへへへ」

ウィンクのおまけ付きで呼び掛けられ、私は思わず笑みをこぼす。
魔女として人を呪う存在になったときには考えられない程、私の心は穏やかだった。
身体が軽くなったと言うか、色々なものから解放された、そんな気分だ。

幽々子「漸く笑ってくれたわね……。安心したわ」

クリームヒルト「えっ?」

幽々子「これから幻想郷の一員になる子に辛気くさい顔は似合わないわ」

クリームヒルト「えっ、でも……私は……」

幽々子「言ったでしょう? 幻想郷は外の世界から弾かれた幻が集う最後の受け皿だ、って……
    幻想郷は全てを受け入れるわ……、例えそれが多大な穢れを背負った“魔女”であろうとも……ね」

もっと危険なのが闊歩してるしねぇ……、と茶化すように続ける幽々子さん。

励ますような感じではあったけど、私にはその前の『受け入れる』という言葉の方が心に重く響く。
拒絶される事はあっても、それだけはありえない、そう思っていたから……

クリームヒルト「てぃへへへ……ぐすっ……あれ? なんでだろ? 嬉しいのに涙が……」

本来なら、こんな感情を二度と持つこともなく消え去る運命だった私。
人に仇なす前に無に帰す事こそが救いだった私。
そんな私に訪れた予想外の救いに、私の心は満たされつつあった。


幽々子「さて、話も一段落ついたところで、クリームヒルトちゃんに相談なんだけど……」

幽々子さんの声に顔を上げると、広げた扇で口許を隠しつつ微笑む幽々子さんの姿が……
その顔は起きたばかりの時と同じどことなく不敵な感じの微笑みで、

幽々子「幻想郷に移り住むにあたって、魔女の皆さんに引っ越しの“ご挨拶”をしてもらおうと思うんだけど……」

幽々子「やってくれるかしら? クリームヒルト・グレートヒェンさん?」

私は幽々子さんの言葉に小さく頷いていた。

13: 序章:魔女たちの幻想入り 2011/10/15(土) 17:09:07.67 ID:nhHZWkYP0
と、言うわけでシリアス風味な冒頭終了。
こっから東方のゆる~いノリで行きます(多分)

簡単に補足すると
・まどマギはお察しの通り世界改変後(改変が何で幻想郷に及んでねーんだよwというツッコミ不可)
・東方は天則・DS辺り(変更するかも)
・クリームちゃんは見た目、服の色違いまどか(黒)で記憶アリ(オクタちゃんどうしよう……)

そんな感じです。

冒頭にも書きましたが、魔女のスペカを絶賛募集中です。
よろしくお願いします。

29: オープニング:魔法使いたちの憂鬱 2011/10/16(日) 17:02:54.06 ID:7IecTq/Q0
―――――――――――― 数日後、博麗神社 ―――――――――――――――


麗らかな日差し射す縁側に巫女が二人、並んでお茶を啜っていた。
そのうちの一人、白と蒼の巫女装束を纏った少女――東風谷早苗が、紅白の巫女装束少女――博麗霊夢に話し掛ける。

早苗「霊夢さん、知ってます? 最近巷で話題になってるあの事件……」

霊夢「“魔女騒動”ね……当然把握してるわ。私をなんだと思ってるの? 腐っても幻想郷の秩序を保つ博麗の巫女よ」

早苗「自分で腐ってもとか言わないで下さい。 ……で、霊夢さんはどう思います?」

霊夢「どう思う? って聞かれてもねぇ……」

最近、と言っても始まってから一週間と経っていないのだが……、幻想郷で少しおかしな事件が立て続けに起こっていた。

――例えば、秋を司る豊穣神の社で、お供え物の食べ物がごっそり食われたり、

――半人半獣が講師を勤める寺子屋での、机の投げ合い乱闘が勃発したり、

――騒霊姉妹の楽器を盗んでの、深夜の大合奏だったり、

兎に角様々な事件が発生していた。

犯人自体はそれぞれ判明している。
ただ全ての事件に共通して、騒動を起こした本人はその事を覚えておらず、
犯人は皆、普段は普通に人里に暮らす普通の人間であり、
調べた結果、犯人全員の首筋に謎の印があり、消したら正気に戻った事、
そして何より正気に戻った犯人が、話す内容と言うのが……

 

159: 2011/10/26(水) 18:05:19.14 ID:mhvCW6AZ0
 


早苗「“魔女”と名乗る相手に会ってから、記憶がない……って、言ってるんですよね~」

文「そうなんですよ早苗さん! ただ、その“魔女”が誰なのかがはっきりしないんですけどねぇ……」

早苗「って、うわっ!? 文さんいつの間に!?」

声にぎょっとして振り向くと、カメラを片手に持った鴉天狗――射命丸文が立っていた。

文「あややや、この射命丸文、事件と話題のあるところには何より早く現れますよ!」

早苗「それにしたって急すぎです! びっくりして寿命が縮まるかと思いましたよ!」

霊夢「諦めなさい早苗、コイツはそーいうヤツよ」

思わず怒鳴る早苗に対し、霊夢は冷めた目でお茶を啜る。

文「ん~、相変わらず手厳しいですね~」

霊夢「そんな事より……、調べてきたんでしょ? 幻想郷の“魔女”連中は何て?」

お茶を縁側に置きながら、幾分かまじめな口調で霊夢が尋ねる。
文は小さく咳払いをすると、書き溜めたメモ帖を取り出す。

文「……はい、皆さん揃って否認してます」

早苗「それはまあ、そうでしょうね……」

文「現時点で疑いがかかっているのは、まず紅魔館在住のパチュリー・ノーレッジさんと……」

文「命蓮寺在住、聖白蓮さん、魔法の森在住、アリス・マーガトロイドさん、そして……」

早苗「……っ」

霊夢「…………」

最後の一人を告げる前に、文はそれまで以上に間を空けた。
霊夢も早苗もその意味をすぐに察し、早苗は俯き、霊夢は目を閉じた。

31: オープニング:魔法使いたちの憂鬱 2011/10/16(日) 17:09:43.32 ID:7IecTq/Q0

文「同じく魔法の森在住、霧雨魔理沙さん……以上、四名です」

霧雨魔理沙、この中で唯一の人間にして、これまで数多くの異変解決を手掛けてきた魔法使いである。
異変解決のために共同戦線を張ったこともあれば、対立した事もあった。
特に付き合いの長い霊夢など、その関係を全て語るには原稿用紙100枚をゆうに越える。

文「事件発生以降、多くの人がこの四人に接触を図っていますが、今の所四人に大きな動きはありません」

文「基本的にそれぞれの家に篭って、一人で居るようです」

霊夢「つまり、アリバイはない、って事ね……」

重くなっていく雰囲気。
それを誤魔化すかのように早苗がやけに明るい声で言う。

早苗「他に容疑者(?)は居ないんですか? ほら、狂わすと言えば、永遠亭の月兎さんとか……」

文「鈴仙さんですか? 有力候補だったんですけど無理ですねぇ……、
 10日前に永琳さんの新薬の臨床実験台になったとかで、今も寝込んでます」

早苗「それは……、なんと言うかスイマセン……」

別に謝る必要はないのだが、謝らずには居られなかった。
鈴仙さん、変な疑いかけてゴメンナサイ、そして末永く頑張ってください。

32: オープニング:魔法使いたちの憂鬱 2011/10/16(日) 17:11:51.63 ID:7IecTq/Q0

文「で? お二人はこれからどうなさるおつもりなんです?」

回答次第では記事にでもするつもりなのだろう、そう尋ねつつ文は白紙のメモ帖と筆を取り出す。

早苗「う~ん、又聞きだけだと何とも言えないんですよねぇ……」

霊夢「そうね、直接本人に話を聞くぐらいはしてみようかと思ってるわ。 場合によってはその場で張っ倒すけど……」

早苗「それはいくらなんでも短絡的過ぎますよ」

霊夢「あら? じゃあアンタはやらないの?」

早苗「う~ん………………、やるかも…………しれないです」

自重出来ないかもしれません。と答える早苗の目は若干だが輝いて見えた。
この娘、間違いなくヤル気満々である。

霊夢「アンタってヤツは……、まあ良いわ、私はとりあえず魔理沙の所に行くから、早苗と文はアリスか命蓮寺にでも行きなさい」

早苗「あれ? 霊夢さん、紅魔館は行かなくて良いんですか?」

霊夢「そっちは大丈夫よ。 専門の犬(人材)が既に居るわ」



 

160: 2011/10/26(水) 18:08:21.30 ID:mhvCW6AZ0
 


――――――――――― 同じ頃・紅魔館 ――――――――――――――――

咲夜「本当に行かれるのですか? パチュリー様」

長い廊下を歩きながら、メイド服を纏った銀髪の女性――十六夜咲夜は前を行く紫の衣の少女――パチュリー・ノーレッジに尋ねた。
いつもは地下大図書館から動こうとしない彼女だが、今日はやけに早足で、紅魔館の出口へと歩を進めていた。

パチュリー「ええ、本気よ。それより、貴女こそ付いてくる気なの? 咲夜」

咲夜「お嬢様の申しつけです。 パチュリー様がお出になられるようなら、付いていくように、と……」

パチュリー「従者も大変ね。まあ良いわ、私のアリバイ証言、頼んだわよ」

咲夜「畏まりました」

恭しく頷きながら、長くなりそうだな、と咲夜は思う。
今日のパチュリーはいつになくやる気だ。
魔女の名を騙られた上、中途半端な事件ばかり頻発したせいで、魔法使いへの風当たりが悪くなっている。
流石のパチュリーも腹に据えかねたのかもしれない。


咲夜(本当に怒ってるようですね。こんな早足で歩くパチュリー様は久々に見……)

パチュリー「っ!? むっきゅ!?」ズテーン

慣れない早足が祟ったのか、はたまた寝巻きのようなその格好のせいか、裾を踏ん付け、顔面から盛大にずっこけるパチュリー。
受身を取る間も無く床と熱烈なキスを交わしたせいか、痙攣するように身体がぴくぴくと震えている。

咲夜「えっと、そんなお召し物で大丈夫ですか?」

パチュリー「大丈夫よ、問題ない」

そう言って顔を上げたパチュリーの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


【七曜の魔女と瀟洒なメイド 組 行動開始】


34: オープニング:魔法使いたちの憂鬱 2011/10/16(日) 17:19:52.42 ID:7IecTq/Q0

―――――――――――― 数刻後・命蓮寺 ―――――――――――――――

文「あやや……これは……」

はるばる命蓮寺にやって来た文が見たのは、随分と様変わりした寺の様相だった。

ずらりと並べられた槍や薙刀、元は舟だった本堂には大筒(大砲)も見える。
寺特有のいつもの落ち着いた雰囲気はそこにはなく、大演習かはたまた合戦の直前か、と言った一触即発の雰囲気だった。

表に出てきていたのをこれ幸いと、文はこの寺の主――聖白蓮に話しかける。

文「あの~、これは一体……」

白蓮「あら、これはこれは新聞屋さん、今ちょっと取り込んでるので……」

文「はぁ、まあ見るからにそうですよね……戦争でも始めるつもりですか?」

白蓮「戦争? 違います。ちょっとした掃除です」

文「掃除?」

いつもと変わらずにこやかに白蓮が言うので、文はふと思い直す。
これはもしかして、大掃除とか倉庫の整理でもしているだけなんじゃないか? と……
ああ、それならこの光景も、単なる日常の一こまに見えなくも……、なかったのだが、次の言葉で文は凍りついた。

白蓮「降りかかる火の粉は掃うもの、ですから(ニコッ」

文「ゾクッ)あ、あやや……ず、随分と物騒なんですねぇ……妖怪相手かも知れないのに全力投球とは……」

白蓮「あら? 新聞屋さん、それは勘違いと言うものですよ。 一体いつから私たちが妖怪相手に武力行使しないと錯覚していたの?」

文「………………」

白蓮「お痛が過ぎる子を正しい道に導くのも仏の教え、そこには人間も妖怪も関係ありませんよ? 新聞屋さん」


【密着!命蓮寺僧侶24時 組 行動開始】

35: オープニング:魔法使いたちの憂鬱 2011/10/16(日) 17:22:06.17 ID:7IecTq/Q0

―――――――――― ほぼ同刻・アリス宅 ――――――――――――――――

早苗「あはは…………」

文に命蓮寺を任せ、アリスの家に来た早苗は早くも後悔していた。
命蓮寺との関係は悪いわけではないが、信仰というパイを争いあうライバルである為、文に任せてしまったのだが、
その判断は裏目に出たようだった。

目の前の少女――アリス・マーガトロイドは不機嫌を隠そうともせず、鋭い視線を早苗に向ける。

アリス「また例の“魔女”の話? 今日だけで三度目なのよね……
   半人半獣に天狗の新聞屋ときて今度は貴女……、流石の私もそろそろ我慢の限界よ」

早苗「あっ、いえ、そういう訳では……」

アリス「じゃあ、何しに来たのよ?」

アリスの目が更に鋭いモノになり、早苗は背中で汗をかく。
あまりの剣幕に思わず否定してしまったが、さて、どうしよう……。

早苗「えっと、そう! 人形です! 人形作りを習いに来たんです!」

アリス「何の為に?」

早苗「えっと……、今度ですね、神奈子さま人形と諏訪子さま人形を売る事に…………、スイマセン、ウソですごめんなさい」

とうとう耐え切れなくなり、早苗はその場で土下座した。
その様子をアリスは暫らく見下ろすと、大きなため息を一つつき、頭を押えた。

アリス「はぁ……、まあ良いわ。 早苗、ちょっと付いてきなさい」

早苗「えっ? アリスさん? どちらへ」

アリス「そんなの、決まってるじゃない…………“魔女”に会いに行くのよ」


【都会派魔女と現代っ子な現人神 組 行動開始】

36: オープニング:魔法使いたちの憂鬱 2011/10/16(日) 17:24:23.37 ID:7IecTq/Q0

――――――――――― 同刻・魔理沙の家 ――――――――――――――

霊夢「部屋に篭ってる、と聞いて来てみれば……何やってるのよ?」

本やら道具やら相変わらず乱雑に放置されたゴミ屋敷、もとい魔理沙の家で、
霊夢は畳一枚分はあろうかと言う地図と格闘している旧知の友に問う。

魔理沙「見て分からないか? 地図でこれまでの事件現場を探してるんだ」

早苗ん家で見た“刑事ドラマ”ってのでやってたぜ! などと言ってのける彼女に、霊夢は肩をすくめる。

霊夢「アンタにしては随分と消極的じゃない、いつもならそんな事しないで現場に飛んでいくくせに……」

魔理沙「流石に今回は容疑者だからな。下手に動いて御用になるのはゴメンだぜ。 それに……」

霊夢「それに?」

声のトーンを落とした魔理沙を見やる。
その顔はいつもの興味本位で飛び出していく魔理沙のそれではなく、決意に満ちた表情だった。

魔理沙「今回ばかりは早く解決したいと思ってる。 この“魔女”がやってる事は、私たち“魔法使い”への明らかな挑戦だぜ?」

霊夢「……………」

魔理沙「早苗の時の異変と同じさ、売られた喧嘩は買わなきゃなんねぇ、
   そうじゃなきゃ“魔法使い”として、私が、私を許せなくなる」

霊夢「……協力はするけど、今回は裏方に回るわよ?」

魔理沙「ああ、それでいいぜ、魔女が異変を起こすって言うなら、私はその魔女をぶっ飛ばす!」

37: オープニング:魔法使いたちの憂鬱 2011/10/16(日) 17:28:06.73 ID:7IecTq/Q0

霊夢「まぁ、アンタがそれで良いなら、別に構わないけど……、で? 目星はつきそうなの?」

尋ねながら、霊夢は魔理沙の地図を覗き込む。
事件の起きた場所には大きく×印が付いていて、印はあちこちに散らばっている。

魔理沙「あー、それなんだがな、実は……」

地図との格闘を中断した魔理沙はいつになく神妙な顔を霊夢に向ける。
普段とはまったく違うその顔に、霊夢も思わず身構える。

魔理沙「さっぱり分からん!」

霊夢「……………………………アンタねぇ」

空気が一気にしらけ、霊夢のこめかみに青筋が浮かぶ。
拳をプルプルと震わせる霊夢に対し、魔理沙は大して悪びれる事もなく言う。

魔理沙「だって見てみろよこの地図、どっかに固まってるわけでもない、事件の内容もバラバラ、発生日時も同じくだ。
    これでどうやって特定しろって言うんだよ」

霊夢「やってたのはアンタでしょ……」

ため息をつきつつ、霊夢は再度地図を見る。
事件発生現場は人里周辺、魔法の森入り口付近、霧の湖、命蓮寺、妖怪の山の参拝道などなど、
ごく稀にだが、迷いの竹林付近や紅魔館手前でも起きている。
被害者の大半が人間なので、その行動範囲を考えればまあ妥当と言うべきか。

事件の内容を見ると、餓鬼に取り憑かれたような暴食が5件。
畑の作物や太陽の畑の花を薔薇に植え替えが3件。(後者は風見幽香により未然に阻止)
立て篭もり(と言うか引き篭もり)が6件。
寺子屋内でのあれこれが4件。
狂ったように演奏し続ける事件が7件。など、
起こる事件はある程度定まっているが、だからと言って発生場所が特定と言う訳でもない。

38: オープニング:魔法使いたちの憂鬱 2011/10/16(日) 17:31:13.52 ID:7IecTq/Q0

魔理沙「事件の内容で同じモノがあるって事は同一犯に違いないと思ったんだけどなぁ……」

霊夢「……ねぇ、魔理沙、私思ったんだけど、複数犯って事は考えられない?」

魔理沙「何?」

霊夢「つまり、特定の妖怪一人による事件じゃなくて、事件の種類ごとに担当者が居る、集団犯罪だったとしたら?」

それは発生件数を見ても明らかな気がした。
話に聞いていただけでは、大して意識していなかったが、こうして纏められるとその発生件数は異常だ。
単独でこれだけの事件を起こすのは、能力にも拠るが骨が折れる。

魔理沙「それで? 仮に集団犯行だとしたらその奴らの目的は何なんだ?」

霊夢「それがちょっと読めないのよねぇ……やっている事は、人に軽い呪をかけるだけ、それも印さえ消せば消える軽度なもの。
  妖怪の仕業だとしたら遊びにもならない軽度な呪……単なる愉快犯か、或いは……」

魔理沙「或いは……なんなんだよ?」

霊夢「いえ、忘れて頂戴、ちょっと引っかかっただけだから……」

魔理沙「なんだよ? 気になるな……」

霊夢「だから、忘れてって言ってるでしょ? それよりも行くわよ、魔理沙」

そう言いつつ立ち上がった霊夢は踵を返す。
床に転がっていた帽子と箒を手に取り、魔理沙はその後を追う。

魔理沙「おい、霊夢! 行くって、どこに行くんだよ?」

霊夢「決まってるじゃない、現場よ」


【白黒魔法使いと紅白巫女 組 行動開始】

39: オープニング:魔法使いたちの憂鬱 2011/10/16(日) 17:34:03.81 ID:7IecTq/Q0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

幽々子「どうやら、動き出したようね」

扇片手に、幽々子さんはちょうど良いおもちゃを見つけた児童(こども)の様に笑う。
こうしてみると、普段の“大人の女”な印象が消えて、同い年ぐらいの無邪気な少女のように見える。
あっ、年と言っても人間だった頃の年齢だけど……。

クリームヒルト「ホントに大丈夫なんですか? こんな事しちゃって……」

幽々子「大丈夫よ、博麗の巫女たちと例の方法で戦ってもらえば、必ず平和的に収まるわ……」

クリームヒルト「それが、スペルカードルール?」

幽々子さんが言っていた秩序を保つ上での最低限のルール、その一つがスペルカードルールと言うものらしい。

スペルカードと呼ばれるカードで攻撃を宣言し、その術が攻略されたら負け、と言うルール。
このルールで負けた側は例え余力があったとしても負けを潔く認める、と言う幻想郷内での唯一の決闘方法。

幽々子「言ってしまえばこれは単なる遊戯、愉しまなきゃ損なのよ……まぁ、見ていれば分かるわ」

クリームヒルト「………………」

本当に良いのかなぁ、と思いつつ私は幻想郷の人たちを映すソレに目線を戻した。


54: ステージ1 可憐に咲かせ、深紅の薔薇 2011/10/17(月) 11:08:56.23 ID:VKGjBZHH0

――――――――― 【白黒魔法使いと紅白巫女】 @ 無名の丘 ――ー――――――――

鈴蘭の咲き誇る丘を風が吹き抜けていく。
その丘を行く人影が二つ、霊夢と魔理沙だ。

魔理沙「おい霊夢、どうしてこんな辺鄙な所に来たんだ? ここは事件現場じゃないぞ」

霊夢「……事件の一つに畑荒らし、と言うか薔薇植え事件があったじゃない」

魔理沙「ああ、あったな」

霊夢「気付いた? 荒らされた、若しくは荒らされかけた畑は、全部花畑だ、って事」

魔理沙「!? ……言われてみれば確かにそうだな」

向日葵の咲き誇る太陽の畑はもちろん、他に荒らされた人里の畑も菜種農家のアブラナ畑だ。
畑荒らしなら普通は作物の植わってる畑でしょ? と言う霊夢の言葉に魔理沙も頷く。

魔理沙「なるほどな、要約合点がいったぜ。確かに此処は幻想郷の花畑で未だに狙われていない場所だ」

魔理沙「でもよ霊夢、此処はいくらなんでも人通りが少なすぎるぜ。
    人を狙うのに、幻想郷界隈の事情を知ってるヤツなら、まず此処には来ないと思うぜ」

魔理沙は周囲を見渡しながら言った。
人里から割と近いこの丘だが、自分たち以外の人の姿は見えない。
唯一、丘に入ったときにここの住人である妖怪人形に会ったが、今は眠ってもらっている。

霊夢「それを含めて、確認に来たのよ」

魔理沙「? どういう意味…………おい、霊夢、あそこに誰か居るぜ」

55: ステージ1 可憐に咲かせ、深紅の薔薇 2011/10/17(月) 11:11:06.76 ID:VKGjBZHH0

立ち止まった魔理沙が丘のくぼ地を指差す。
人っ子一人居ないと思われた丘に、碧髪の少女が一人、佇んでいる。

霊夢「人……じゃあないわね」

魔理沙「蝶の翅っぽいのが付いてるしな。 珍しいタイプの妖精かもな」

霊夢「そうである事を願いたいわね」

少女のほうへと歩を進めながら、霊夢は巫女服の袖に手を入れ、魔理沙は懐に手を突っ込んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

霊夢「そこのアンタ、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」

ごく普通に話しかけるように霊夢が呼びかけた。
が、翅の生えた少女は振り返ることなく言う、

??「何かしら?」

魔理沙「ずばり聞くぜ、この辺で最近噂の“魔女”を見なかったか?」

魔理沙の質問にも少女は振り返らない。

??「“魔女”? いいえ、私は見てないわ」

魔理沙「ありゃ? なんだ、勇み足になっちまったか?」

拍子抜けだ。というように魔理沙が頭を押えると、少女はようやく振り向いた。
その顔に、不敵な笑みを浮かべて……

??「だって、私の姿は私では見れないでしょう?」

魔理沙「っ!?」

霊夢「やっぱり、アンタが“魔女”ね」

風が変わる。
丘を吹き抜ける清々しいソレではなく、どこか淀んだような生ぬるい風。

56: ステージ1 可憐に咲かせ、深紅の薔薇 2011/10/17(月) 11:13:45.29 ID:VKGjBZHH0

??「私は不信の象徴にして薔薇園の魔女、ゲルトルート。
  ねぇ貴女たち、私の素敵な薔薇園造り、手伝ってくれないかしら?」

霊夢「生憎、食べられない植物に興味はないわ、他をあたりなさい」

ゲルトルート「残念だわ、薔薇はこんなにも綺麗なのに……」

ゲルトルートと名乗った少女の誘いを霊夢は即座に一刀両断にする。
対するゲルトルートも残念と言いつつ、口元は嗤っている。

魔理沙「奇麗かもしれんが、元々生えてた植物と植え替えるのは感心しないぜ」

霊夢「菜種農家と、幽香の所に突き出させてもらうわよ」

ゲルトルート「綺麗な薔薇には棘がある……。貴女たちは怪我をせずに、私を摘み取れるかしら?」


その言葉が合図になった。
ゲルトルートから魔理沙たち目掛け弾幕が放たれ、二人は空に舞い上がる。

魔理沙「こいつの相手は私がやる。 霊夢は下がってな!」

霊夢「最初からそのつもりよ、裏方に回るって言ったでしょ? その代わり……」

魔理沙「?」

霊夢「負けたら承知しないわよ」

霊夢の言葉に、魔理沙は一瞬ぽかんとした顔をして、すぐに口元を吊り上げた。

魔理沙「ああ、負けたらいくらでも賽銭払ってやるよ。
   さぁて、魅せて貰おうじゃねぇか、“魔女”のお手並み拝見だぜ!」

57: ステージ1 可憐に咲かせ、深紅の薔薇 2011/10/17(月) 11:16:35.04 ID:VKGjBZHH0

ゲルトルート「貴女が相手ね? それじゃあ早速行かせて貰うわ」


                           薔薇符 『薔薇の檻』


スペルカードが宣言されると同時に、ゲルトルートを中心に放射状に薔薇の茎を模したレーザーが放たれる。
自身に向かってきた茎を避けつつ、魔理沙は考える。

魔理沙(放射状の弾幕か、ヤツの方に近づくと間隔が狭くて厄介だな。ここは後ろに下がって……)

遠距離戦に持ち込むか、と考え後退しようとした魔理沙の背後で、先ほどかわしたレーザーの茎の先端が爆ぜる。

魔理沙「っ!?」

爆ぜた先端は花が開くように周囲に広がり、やがて消えた。それと同時にレーザーも消える。

魔理沙(危ねぇ、あのまま後退(さがって)たらピチュってたぜ……最初からこれとかルナティックかよ!?)

魔理沙(だが、今ので分かったぜ! このスペルは……)

魔理沙「中段に居れば安定だぜ!」

再び放たれたレーザーを今度は近づきすぎず離れすぎずの位置で避ける。
一回目と同じように後方で、弾幕の花が開くが、魔理沙の居る位置には殆ど届かない。

ゲルトルート「あら、一発で攻略法を見つけたのね。 なら、こんなのはどうかしら?」


                           薔薇符 『棘の嵐』


2度目のスペルカード宣言。
さっきまでのスペルと同じように茎を模したレーザーが放たれるが、数は2本と少ない。
少ない上、2本とも魔理沙へは向かってこなかった。 そのまま魔理沙の左右を後に通り抜けていく。

58: ステージ1 可憐に咲かせ、深紅の薔薇 2011/10/17(月) 11:21:34.68 ID:VKGjBZHH0

魔理沙「おいおい、どこ狙ってるんだ? 私はこっちだぜ」

ゲルトルート「言ったでしょう? 綺麗な薔薇には棘がある、って」

魔理沙の挑発にも不敵な笑みを崩さないゲルトルート。
『何か裏があるな』と魔理沙が警戒を強めると同時に、左右に展開されたレーザーから棘型の弾幕が放たれた。

魔理沙「ちっ、そう言う事かよ!?」

舌打ちしつつ、魔理沙は前方へと飛び出す。
最初のスペル同様、レーザーの茎が花を咲かせるのは容易に想像出来たからだ。
棘の弾幕に自ら突っ込む形となるが、花の弾幕との併せ技をくらうよりだいぶマシだ。

ゲルトルート「敢えて突っ込んでくるなんて、良い判断してるわね」

魔理沙「おいおい、相手を誰だと思ってるんだ?
    幻想郷のありとあらゆる弾幕を見てきた、普通の魔法使いさんだぜ。
    その実力と悪運の強さは誰にも負けてない自信があるぜ!」

ゲルトルート「実力と悪運……それが貴女の信ずるものね? なら、それを私が摘み取るまでよ」

魔理沙「へっ、やれるもんならやってみな!」

魔理沙がけしかけた直後、ゲルトルートは3度目のスペルを宣言した。



59: ステージ1 可憐に咲かせ、深紅の薔薇 2011/10/17(月) 11:23:55.05 ID:VKGjBZHH0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ゲルトルートのラストスペル――可憐『薔薇吹雪』、
回転する魔方陣から放たれる花びらの弾幕は一面を覆わんばかりに拡がっていた。

が、しかし、どれだけ多くの花があろうとも、花から舞い散る花びらの数は無限では無い様に、
遂に、その弾幕も散り尽くす時がやって来た。
魔方陣が光を失い、花びらの弾幕もまた霞と消える。そして……

弾幕が消えた宙には未だに霧雨魔理沙が舞っていた。

ゲルトルート「…………私の負けね」

魔理沙「そうなるな。まぁ、初めてにしては良い線行ってると私は思ったぜ。……だが、私を負かすにはまだ早いな」

ゲルトルート「ぐ、どうして私が初めてだと?」

魔理沙「弾幕自体は良く出来てたんだけどな、出し方や発動タイミングがまるで素人だぜ。
    ま、練習あるのみだな。センスはあるんだから自信もってもいいと思うぜ」

ゲルトルート「そう……」

そう言うとゲルトルートは肩をすくめて瞳を閉じた。
不信の魔女に自信を持て、と言われるのはなんだか変な気分だったが、それでも今はなんともいえない充実感があった。

魔理沙「それじゃあ悪いが、決めさせてもらうぜ」


                      魔符 『スターダストレヴァリエ』


決め技が宣言され、箒に跨った魔理沙が、ゲルトルートに突貫する。
箒から尾を引くように伸びる星屑の光がゲルトルートの視界いっぱいに拡がり……彼女は意識を手放した。



60: ステージ1 可憐に咲かせ、深紅の薔薇 2011/10/17(月) 11:26:37.65 ID:VKGjBZHH0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

幽々子「ね? 大丈夫だったでしょう?」

弾幕戦に敗れ、倒れたゲルトルートさんを背負いつつ、人里へと戻って行く幻想郷の魔法使い――魔理沙さんたちの姿を見ながら幽々子さんが言った。

クリームヒルト「…………でした」

幽々子「えっ?」

クリームヒルト「……すごく、すごく綺麗でした」

始めて見る幻想郷の弾幕戦(スペルカード)、その美しさは一度で私を魅了した。

この感覚を私は知っている。
魔女にも魔法少女にもなる前、マミさんに助けられた時。
マミさんの華麗な戦いに見惚れて、魔法少女への憧れを抱いた、あの時に良く似ている。

一つだけ違うのは勝敗が決した後の結果。
消すか消されるかの命を懸けた戦いではなく、勝負が付いた後は互いの健闘を称える、一種の試合。
私もアレをこれからやるんだと思うと、胸が熱くなってくる。

静かに、それでも確実に弾幕戦の魅力に惹かれつつある私を見て、幽々子さんは優しく微笑む。

幽々子「ふふっ、そうね……、実際の所は大半が無駄弾なんだけど、弾幕戦の魅力の一つがソレよ」

自慢ではないけど、私の弾幕も綺麗さにかけては幻想郷屈指よ。と茶目っ気たっぷりの口調で言う幽々子さん。

幽々子「弾幕戦がどういうものか、何となくだけど分かったでしょう? さ、観戦に戻りましょう、次の戦いが始まるわ……」



83: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 09:44:15.07 ID:KJXFjDli0
―――――― 【都会派魔女と現代っ子の現人神】 @ 人里の繁華街―――――――食欲の摩天楼

早苗「で、なんで私たちは人里の繁華街に居るんです?」

辺りを見回しても人ばかりで、紛れている妖怪もここでは単なる客に過ぎない。
幻想郷一の緩衝地帯ともいえるこの場所に何故来たのか、早苗は不思議でならなかった。

アリス「暴食事件にはね、面白い共通点があるの」

早苗「と、言いますと?」

アリス「狙われた食べ物はね、秋神のお供え物も含めて皆、お菓子なのよ」

食べ物は他にもいっぱいあったのにね。と続けるアリスに早苗はおどけながら言う、

早苗「なんですかソレ、それじゃあ犯人はスイーツ(笑)って事ですか?」

アリス「あり大抵に言えばそうなるわね」

早苗「それで、菓子店のある繁華街、ですか……。 でもやっぱり考えられませんよ。
   ここは幻想郷きっての非武装地帯ですよ? そんなところで事件を起こすなんて……」

常識知らずの幻想郷でもそれだけはない。
そう続けるつもりだったのだが、次のアリスの言葉に早苗は言葉を失った。

アリス「そうね、でも、そういう事情を諸々知らない相手だったとしたら?」

84: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 09:48:39.11 ID:KJXFjDli0

―――――― 【都会派魔女と現代っ子の現人神】 @ 人里の繁華街―――――――

早苗「で、なんで私たちは人里の繁華街に居るんです?」

辺りを見回しても人ばかりで、紛れている妖怪もここでは単なる客に過ぎない。
幻想郷一の緩衝地帯ともいえるこの場所に何故来たのか、早苗は不思議でならなかった。

アリス「暴食事件にはね、面白い共通点があるの」

早苗「と、言いますと?」

アリス「狙われた食べ物はね、秋神のお供え物も含めて皆、お菓子なのよ」

食べ物は他にもいっぱいあったのにね。と続けるアリスに早苗はおどけながら言う、

早苗「なんですかソレ、それじゃあ犯人はスイーツ(笑)って事ですか?」

アリス「あり大抵に言えばそうなるわね」

早苗「それで、菓子店のある繁華街、ですか……。 でもやっぱり考えられませんよ。
   ここは幻想郷きっての非武装地帯ですよ? そんなところで事件を起こすなんて……」

常識知らずの幻想郷でもそれだけはない。
そう続けるつもりだったのだが、次のアリスの言葉に早苗は言葉を失った。

アリス「そうね、でも、そういう事情を諸々知らない相手だったとしたら?」

85: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 09:49:52.36 ID:KJXFjDli0

早苗「えっ……?」

アリス「そう、かつていきなり霊夢に喧嘩売りに行った時の貴女みたいに、幻想郷のことをを大して知らない相手が“魔女”だったとしたら?」

早苗「…………」

アリス「そう考えるとね、起こってる事件が中途半端なのも説明できるのよ。
   つまり、幻想郷について良く分からないからどの程度までだったら“異変”で済まされるのか、判断が出来ないのよ」

アリス「そうよね、“魔女”さん」

早苗「えっ?」

アリスの言葉に早苗はぎょっとして背後を振り返る。
が、そこに人影はなく、ぬいぐるみが一つ、落ちているだけだった。

早苗「お、驚かさないでくださいよアリスさん、“魔女”なんて居ないじゃないですか……
   サン○オのキャラクターっぽいぬいぐるみは落ちてますけど……」

思わず苦笑する早苗に対し、アリスはあくまでも冷静な声音で言う。

アリス「いつまでそうしているつもりかしら? 人形遣いである私の目は、それくらいでは誤魔化せないわ」

??「あーあ、とうとうバレちゃった~」

早苗「!? ぬいぐるみが喋った!?」

突然浮き上がって喋りだしたぬいぐるみ(?)に今度こそ早苗は腰を抜かした。
喋って動く妖怪人形が居るのは早苗も知っているが、女児の部屋にありそうなぬいぐるみが喋ると言うのはそれとは別の意味で怖い。

86: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 09:52:07.41 ID:KJXFjDli0

アリス「一応聞いておいてあげる。 貴女、名前は?」

??「シャルロッテ、執着するお菓子の魔女だよ」

早苗「お菓子? ああ、そのやたらファンシーな頭はキャンディーの包み紙なんですね……」

シャルロッテ「かわいいでしょ?」

早苗「それは認めます。出来ればお持ち帰りしたいくらいです」

アリス「止めときなさい。 妖怪人形なんか泊めた日には、気を抜いた瞬間に寝首をかかれるのがオチよ」

シャルロッテ「あっ、こんなかわいい子捕まえといて酷い事言うんだ……」

早苗「人形遣いの貴女がそれを言いますか……」

ちょっとムっとするシャルロッテと、呆れてみせる早苗。

他人のこと言える立場じゃありませんよ、とさらに言いつつ早苗は御幣を構え、
対するアリスは多数の自律人形を具現化させる。
戯れの時間は終わりと分かったのか、シャルロッテも表情を戻す。

シャルロッテ「私ね、お菓子も大好きだけど、ホントはそれよりもチーズの方が好きなの。
      だから、私に酷い事言った代わりに、私に美味しいチーズをちょーだい?」

無邪気な見た目と口調に反して、禍々しい空気があたりに漂い始める。
賑やかだった繁華街が急に静まり返り、アリスたちの周囲から他の人影が消える。

アリス「結界を張られたようね……。油断しないでね、早苗」

早苗「分かってます。この結界がどれだけマズいか分からない程、落ちぶれては居ません」

シャルロッテ「それじゃあ行っくよ~、まずはこのスペル!」


                      菓子符 『ギャラクティカジャンボパフェ』




87: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 09:55:39.71 ID:KJXFjDli0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

早苗「お菓子の魔女と名乗るだけの事はありますね。さっきから弾幕が見事にお菓子です」

アリス「見てるだけで口の中が甘くなる弾幕ね。 あの“魔女”は胸焼け起こさないのかしら?」

キャンディーにケーキ、パフェにワッフルと言った甘ったるい弾幕の連続に思わずアリスは愚痴をこぼす。
甘いものが嫌いな訳ではないが、ここまでやられると普通の感覚の持ち主なら飽きる。

「お饅頭とか杏仁豆腐みたいな、和菓子や中華はないんでしょうか?」などどいう隣からのぼやきは聞かなかった事にする。

シャルロッテ「まだやるの? いい加減満腹でしょ? 降参するかチーズをくれたら許してあげるよ」

アリス「生憎チーズは持ってないし、降参する気もないわ」

シャルロッテ「ぶー、いいもん、くれないならこっちから探すもん」


                      探求 『燻製チーズはあるかい?』


スペルが宣言され、シャルロッテの周囲にキャップをつけた黒い影が複数現れる。
黒い影は瞬く間に増殖し、シャルロッテの周りを囲い込む。
良く見ると影には足と尻尾も付いているようだ。

早苗「足つきオタマジャクシの大量発生?」

アリス「やめなさい」

早苗の生々しい例えにアリスはげんなりした。
『この子と組んだの、間違いだったかしら?』 などと軽く後悔していると、足つきオタマジャクシが八方に飛び出していく。

アリス「来るわよ! 早苗っ!」

シャルロッテの周囲から飛び出した足つきオタマジャクシは、頭から緑のレーザーを伸ばすと左右を見回すように頭を動かす。
頭に併せてレーザーも左右に動き、避け回るアリスや早苗の脇をすり抜けていく。
レーザーが何かに当たると、何故か当たったものは赤く明滅する。

88: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 09:57:49.82 ID:KJXFjDli0

早苗「うわ、空港のレーダーみたい! はっ!? もしや探求って、レーザーでレーダー代わりって事?」

アリス「馬鹿言ってないで避けなさいっ!」

そうこうしているうちに、アリスは早苗とはぐれてしまった。
こうもレーザーが交錯している以上、簡単には合流できそうもない。

アリス「まぁ、すぐさま不利になる事はないかしらね。寧ろ隙をつける可能性も……」

と、思っていると周囲が急に開けた。
足つきオタマジャクシの群れの中から抜け出せたらしい。
そして、目の前にはピンクのぬいぐるみ、即ちシャルロッテの姿が……

アリス「ホントは遠距離戦の方が得意なんだけど……、折角ここまで来たんだし、決めさせてもらうわ」

アリスにここまで接近されているのに、シャルロッテは口をもごもごさせるだけでその場から動かない。
一瞬不審に思ったが、そのままスペル詠唱に入る。

アリス「……魔符 『アーティフ……」

早苗「アリスさん! 今すぐそこから逃げてくださいっ!!」

アリス「っ!?」


                      齧符 『ブロンドヘアーモグモグ』


早苗の切羽詰った声にアリスが身を翻した直後、アリスの居た場所を黒い大きな影が通り抜けていった。
大きな影はそれまでの影と違い、シャルロッテの口から直接伸びてきていて、
その先端には憎たらしくなるほど表情豊かな顔があり、その口は、全てを飲み込んでやると言わんばかりに大きく開かれていた。

咄嗟に身を翻していなかったから間違いなく餌食になっていただろう。
冷静に事を捉えられるようになると同時に、背筋が冷たくなるのを感じた。

89: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 09:59:50.46 ID:KJXFjDli0

シャルロッテ「あれ? 避けられちゃった? 惜しかったなぁ、もうちょっとで一人やっつけられたのに……」

相変わらず無邪気な声で言うシャルロッテ、対するアリスは隙を見せないようすぐさま後退する。

アリス「助かったわ早苗。……良くあの攻撃が読めたわね」

早苗「あまりにもタイムラグがありましたからね、仕掛けるとしたらあのタイミングしかありません。 それに……」

アリス「それに?」

早苗「あの手の不意打ちは聖蓮船異変でイヤというほど味わったので……(ヨミガエルニュウドウノトラウマ」

『弾幕戦で入道の特大パンチとか初見殺しにも限度がありますよ……』
どこか遠くを見るように早苗が言う。顔に縦線が入っている様に思えるのは多分気のせいではない。

アリス「まぁ、いずれにしても助かったわ、どんなに強力な初見殺しも一度見てしまえば怖くないわ」

早苗「それじゃあ……」

アリス「ええ、ここから反撃開始よ」



90: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 10:02:01.24 ID:KJXFjDli0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シャルロッテ「ホントにしつこい~、もう怒った! これで止めにしちゃうもん!」


                      願望 『ひとつきりのチーズケーキ』


戦いが長引きすぎた為か苛立ちを隠そうともせずにシャルロッテがスペルを宣言する。 が……


                             し~ん


シャルロッテ「あ、あれ? 何でなにも起きないの? 私、スペル宣言したよ!?」

いつまで経っても発動しないスペルにシャルロッテが慌てはじめる。
カードを振ったり、かざしてみたり、もう一度掲げてみたりしたが、スペルは発動しない。

アリス「教えてあげましょうか? なんでスペルが発動しないのか?」

シャルロッテ「貴女には分かるの?」

アリス「簡単よ、そのスペルの発動に必要な力が、貴女にはもう残ってないの」

シャルロッテ「? どういうこと?」

91: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 10:04:06.20 ID:KJXFjDli0

アリス「一言で言えば魔力切れよ。ペース配分を間違えたわね。
   多分、貴女の魔力自体、殆ど残ってないんじゃないの?」

シャルロッテ「う~言われてみたら確かにおなかが空いてるような……。
       うっ……気になりだしたらどんどん空いてきた……。
       あぁ~っ! もうダメ、おなか空きすぎて動けない~っ!」

悲鳴にも近いシャルロッテの叫びが決闘終了の合図となった。
結界が解かれ、周囲が元の賑やかな繁華街に戻る。

早苗「ふう、やっと終わりましたね。 これからどうしますアリスさん?」

アリス「話だけ聞いて秋神の社にでも括り付けておく、っていうのはどうかしら?」

服に付いた埃を掃いながら、意地悪げな笑みを浮かべたアリスが言う。
その言葉を聞いて、シャルロッテの顔が見る見るうちに青くなる。

シャルロッテ「そ、それだけは止めて! あそこ、甘そうな匂いはするのに、肝心の食べ物が何処にもないんだもん!」

早苗「そりゃあ、穣子さまのは香水ですからねぇ、お芋の匂いはしますけど、食べられる訳がありません」

アリス「お供え物食べちゃったのは擁護も看過も出来ないわ。 神様にたっぷり叱られてらっしゃい」

シャルロッテ「そんなぁ~」

アリスの言葉に、シャルロッテはがっくりと肩を落とすのであった。



92: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 10:05:54.98 ID:KJXFjDli0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

幽々子「可愛い顔してなかなかのやり手ね。山の巫女が居なかったらあの人形遣いは確実に負けていたわ……」

真剣な眼差しで今さっきの弾幕戦のリプレイを見ている幽々子さんの横で、私は画面を直視出来ずにいた。

クリームヒルト「う~、まさか人間だった頃のトラウマをこんな形でまた見るなんて……(ヨミガエルマミサンパックンチョ」

幻想郷に来て、人間だった頃の記憶もはっきり思い出せる様になった今の私にはシャルロッテちゃんのあのスペルは衝撃的過ぎた。

??「ホント、嫌な事件だったよね……。 マミさんを頭からガブリ、だもん。 下手な衝撃映像より怖いよ」

クリームヒルト「うんうん、……………って、あれ?」

妙に聞き覚えのある声に、私は思わず顔を上げた。
私と同じように魔法少女の衣装を纏った青いショートカットが特徴的な、私がよく見知った女の子がそこに居た。

??「や、久しぶり! まど……コホン」

クリームヒルト「えっ? さ、さやかちゃ……」

??「あれ? さやかちゃんだと思った? 残念、オクタヴィアちゃんでした」

言いかけた私に軽くおどけてみせるさやかちゃん。
よく見ると上半身は魔法少女のさやかちゃんだったけど、下半身は脚じゃなくて尾びれで、人魚みたいな姿になっていた。
これが幻想郷での魔女としてのさやかちゃんの姿なのだろう。

そんな事を思っていると、リプレイ視聴を一時中断した幽々子さんが私たちに問い掛けてくる。

93: ステージ2 別腹は欲多き魔女の為に 2011/10/20(木) 10:08:49.23 ID:KJXFjDli0

幽々子「楽しそうね、二人は知り合いなの?」

クリームヒルト「はい、人間だった頃から私の親友で、美樹さやかちゃんです」

オクタヴィア「だーかーらー、今の私は美樹さやかじゃなくてオクタヴィアだって!」

私がそう答えると、さやかちゃんが怒ったような声をあげる。

クリームヒルト「ティヒヒ……ならオクタヴィアちゃんも他人の事は言えないと思うな。
       最初、私の事、まどか、って呼びそうになってたでしょ?」

オクタヴィア「うっ、気付かれてたか……」

幽々子「ふふ、二人は本当に仲が良いのね。ところで二人にひとつ提案があるのだけど……」

クリ&オク「?」

突然切り出された言葉に私とオクタヴィアちゃんは幽々子さんの方を見る。

幽々子「少し早いけど、おやつの時間にしない?
    お菓子の弾幕をいっぱい見たせいか、私も何か食べたくなってしまったのだけど……」

そう言って微笑む幽々子さんの姿に、私はかつてお茶をご馳走してくれた先輩の姿を見たような気がした。


 

103: ステージ3 学び舎のダークサイド 2011/10/22(土) 09:01:34.55 ID:Gg8d+0Bc0
――――――――【密着!命蓮寺僧侶24時】 @ 人里の寺子屋――――――――――

文「寺子屋、ですか……。今日は休業日のようですね」

誰も居ない学び舎を見回しつつ、文がつぶやく。
白蓮が此処に来た理由は何となくだが、分かる。
発生場所がばらけている一連の事件のうち、なぜかこの寺子屋で発生する事件の件数だけ群を抜いて多い。
そして発生する事件自体も似通っていて、寺子屋での騒動に関しては同一犯の可能性が高いと文は踏んでいた。

文「とりあえず、現場写真を撮っておきますか、『“魔女”異変の舞台、狙われた寺子屋!』って感じで記事に出来ますし……」

そう言いつつ写真を撮り出す文。
対する白蓮は無言で教室の真ん中に立つ。

白蓮「居ますね。ここに……」

文「居るって、“魔女”が、ですか?」

写真を撮る手を止め、文は白蓮を見た。
白蓮は目を閉じると静かに手を広げる。

白蓮「ええ、救いが必要な迷える魂が此処に、確か居ます」

迷える魂が迷いついでに事件起こすとか性質が悪いなぁ……と文は思ったが、
今は異変解決にでた僧侶に密着取材している身なので黙っておく事にする。

104: ステージ3 学び舎のダークサイド 2011/10/22(土) 09:03:27.67 ID:Gg8d+0Bc0

白蓮「ん~、気配から察するにこの辺かしら……えいっ!」

                        べりっ

何もない虚空に手を伸ばしたと思ったら、何かを引っぺがすように手を動かす白蓮。
するとどうだろう、一部だけ剥かれた蜜柑の皮の如く、虚空に裂け目が生まれ、
その奥には寺子屋と似ているようで違う空間が形成されているのが見えた。

文(やけに可愛らしい掛け声で結界破ったーーーーーーーーーっ!?)

白蓮「身体強化の術をかければこの程度の結界は、障子紙同然ですよ」

文「いえ、それ無理です。貴女ぐらいにしか出来ません、って……」

白蓮「まぁ、そんな些細な話は置いといて、行きましょう! 迷える魂に仏の救いを……」

そういうと破った結界の中にずんずんと入っていく白蓮。
その後に続いて結界内に入りながら、『密着する相手間違えたかなぁ……』等と思う文であった。


105: ステージ3 学び舎のダークサイド 2011/10/22(土) 09:05:34.00 ID:Gg8d+0Bc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

結界の中は寺子屋と似たような施設になっていた。
机が並んでいて、教壇があって、部屋の前には大きな黒板があって……、
以前早苗に見せて貰った外の世界の寺子屋の写真がこんな感じだった気がする。

辺りをきょろきょろと見回していると、部屋の後ろ側のドアが開く音がした。
そちらを振り返ってまず見えたのは黒いセーラー服。

文「ああ、ここの生徒さんですか? 私たちは決して怪しい者では……」

言いかけて、文は言葉を詰まらせる。
目元まで隠れる長い髪のせいで一瞬分からなかったが、セーラー服を着た少女(?)には腕が4本もあったのだ。
一瞬ぎょっとして、それから此処が“魔女”の結界内だった事を思い出す。
考えてみれば、普通の少女が結界内部 (こんなところ) にいるわけが無いのだ。

白蓮「あら? 貴女は……噂に聞く妖怪・女郎蜘蛛さん?」

??「違います。 私はパトリシア、このクラスの委員長です。 と言うか貴方たちは何者ですか?」

白蓮「あら? 私としたことが申し遅れました。 私は聖白蓮、命蓮寺で僧侶をしております」

パトリシア「尼さんが何の用ですか? それに学校内(ここ)は生徒以外立ち入り禁止の場所ですよ?」

白蓮「ここに迷える魂が居るようなの。 私はその魂に仏の救いを授けに来たのです」

パトリシア「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」

106: ステージ3 学び舎のダークサイド 2011/10/22(土) 09:07:59.00 ID:Gg8d+0Bc0

話にならない、と言うように教室から出て行こうとするパトリシア。
が、一瞬早く、白蓮がその前に立ちはだかる。

白蓮「待ちなさい。 折角講師をしてあげると言うのに何処に行くつもりなんですか? “魔女”のパトリシアさん」

パトリシア「くっ、バレてたか……」

文(なんなんだろう、この茶番……)

パトリシア「とりあえず、そんな授業は要りません。帰って下さい」

白蓮「私にそうして貰いたいのなら、その主張をする前にやる事があると思うのですけど?
   まとめ役と言うなら、ルールを守る事の大切さは良くご存知でしょう?」

パトリシア「はぁ……、分かりました。 それじゃ、まずは場所を変えましょう」

パトリシアが言うと、結界内の景色が変わり始める。
部屋が消え、見渡す限り一面の青空が拡がる世界になる。
それと同時に、パトリシアの周囲に下半身のみの学生たちが現れる。
おそらく、式神か使い魔の類だろう。

パトリシア「言い忘れていたわ、私は“傍観”する委員長の“魔女”。
      後の事はクラスの皆に任せるわ。 それじゃあ私、傍観してるね」

白蓮「他者との関わりを絶ち、自身や周囲の問題すら傍観する。
  その姿勢、誠に利己的で、現実逃避であるッ! いざ、南無三――――!」



107: ステージ3 学び舎のダークサイド 2011/10/22(土) 09:10:24.42 ID:Gg8d+0Bc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

パトリシア「それじゃあ早速行くわよ」

開幕早々下半身学生使い魔を大量召喚し、早速スペルを発動させようとするパトリシアを見ながら、文は思案した。
相手は委員長の魔女、と名乗った。
外の世界に居た早苗によると、委員長と言うのは学校内でのまとめ役の人を言うらしい。

と、言う事は大量の使い魔を一子乱れぬ統率でもって操り、相手を追い詰める弾幕が来るに違いない。

そう、文は踏んだのだが……


                      宣告 『お前の席無いから』


スペル宣言と同時に、使い魔の手に椅子や机が現れた。
ソレも魔力で作られた概念的な何か、ではなく本物のソレが、である。

文「えっ?」

使い魔は大きく振りかぶると手にした椅子や机を放り投げてきた。

文「エェェェ(;´д`)ェェェ!?」

白蓮「新聞屋さん! 来ますよ!」

あまりの事態にぎょっとしている文の襟を掴み、白蓮は真横に跳躍する。
結果、二人に当たる事なく後方に飛んでいった椅子や机は結界の壁にぶつかり、音を立ててくだけ散る。

108: ステージ3 学び舎のダークサイド 2011/10/22(土) 09:13:06.26 ID:Gg8d+0Bc0

文「ちょっ、ちょっとぉ! 私の聞いた委員長、って言うのはもっと知的なイメージでしたよ!?
 なんでこんな物騒な弾幕(物理)撃ってくるんですか!?」

飛んでくる机をかわしながら文は悲鳴に近い声で問い掛ける。

パトリシア「私の学校、底辺校でね。 荒れてたのよ」

文「いやいやいや、止めましょうよ!」

パトリシア「最初は止めたわ。 でもね……」

パトリシア「見てるだけなら巻き込まれないし、端から見る分にはなんの不都合もなかったから止めるのをやめたの」

文「うわぁ……」

ダメだこりゃ、と文は思った。
パトリシアが通っていた学校を底辺校だと言うなら、パトリシア自身は間違いなく底辺委員長である。

パトリシア「理解できない、って顔ね。 なら分からせてあげる。 どんな恐怖も見なければ、触れなければ怖くないのよ」


                      処世 『見ず聞かず関わらず』


突然文の周囲が暗転する。
少し離れた所にいた筈の白蓮すら見えなくなり、あれほど響いていた机の壊れる音もパタリと止まる。

文(ちっ、視界と聴覚を潰されましたね……)

舌打ちしつつ愚痴るように呟いたつもりだったが、それすら耳には聞こえない。
さて、どうしたものか……

文(さっきの弾幕(物理)は自機狙いオンリーでした。 だから絶えず動いていれば問題ありませんでしたが……)

文(この場合は動かない。 もしくは目の前に来たらちょい避け、が正解ですかね……)

長年の経験と勘からそう判断した文は、圧倒的に小さくなった視界の中で最大限の注意を払いながら、その場にとどまり続けた。


109: ステージ3 学び舎のダークサイド 2011/10/22(土) 09:15:46.38 ID:Gg8d+0Bc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

パトリシア「そうそう、ソレが正解よ鴉さん。 鳥にしては賢いじゃない」

文が一切の動きを止めたことを察知したパトリシアは気分が良かった。
文の行動はパトリシアの予想そのままだったからだ。

パトリシア「周囲でどれだけ恐ろしい光景が展開していようと、関わるのを止めれば自身の平穏は保たれるのよ」

白蓮「あら? 随分と後ろ向きな考えですね」

ほら見たことか!という気持ちを隠そうともせずに嘲笑していたパトリシアは、次の瞬間背後から聞こえた声に思わず戦慄した。

パトリシア「なっ!?」

振り返った先に居たのは他でもない聖白蓮、その人だ。

パトリシア「あの視界ゼロの中をどうやったら此処まで来れるのよ!?」

理解できない事態に慌てて距離をとるパトリシアをよそに、白蓮は諭すように言う

白蓮「周囲との関わりを絶てば確かに平穏になるのかもしれません。
  ですが、そんな平穏など所詮まやかし、どんな闇も切り開かなければ決して晴れる事はないのです」

パトリシア「くっ、分かったような口をッ! なら、貴女にはこんなのはどう!?」


                      絶望 『学級内生前葬』


この時、パトリシアが発動させたスペルは、実はラストスペルとして使うつもりの物だった。
だが、あまりにも桁違いの戦闘力と精神力を併せ持つ白蓮の姿が、彼女にこのスペルの前倒しを決意させた。

パトリシア(この尼は危険すぎる! これ以上何かされる前に、この尼だけでも潰してみせる!)

事実、それが出来るだけの力がこのスペルには秘められていた。
パトリシアの用意したスペルの中で、最も強力で、最も残酷で、最も強い念のこもったスペル。それがこのスペルだった。
これから展開される光景はこれまで以上にかなり堪えるモノになる筈だ。特に真摯な仏教徒である白蓮にはかなりのショックになるに違いない。

パトリシア(あの尼さえ倒してしまえば、後は五月蝿い鴉をゆっくり仕留めれば良い。この勝負、勝たせて貰うわよ)


110: ステージ3 学び舎のダークサイド 2011/10/22(土) 09:18:42.54 ID:Gg8d+0Bc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

パトリシアがスペルを発動させてまず現れた弾幕は花瓶に入った花の弾幕だった。
襲い掛かる弾幕を回避しようとした白蓮の脳裏にある光景が浮かび上がる。

白蓮(これは……弾幕に込められた念? っ!? この光景は!?)


最初は花瓶

―――朝、登校して来て目に付いた、自身の机の上に置かれた、白い菊の花の入った花瓶。


次は写真立て。

―――移動教室から戻って来たら置いてあった、白黒の写真が入った額縁


更にその次は位牌

―――昼休みが終わって戻ると、置いてあったのは自分の名が入った位牌


白蓮「これが今の現世の姿ですか……、
  妖怪を迫害し、神をも追い出した人間は、遂にその矛先を同じ人間に向けてしまったのですね」

弾幕を避ける度に浮かぶ残酷な光景を、しかと脳裏に焼き付けながら、白蓮は飛ぶ。

白蓮「ならば私は此処で墜ちる訳には行きません! 人の心が、人の心であるうちに、
  他者の痛みも理解できぬ真の亡者となる前に、正しい教えを此処で説いて聞かせます!」

進む度に密度を増し、すぐ脇を掠める弾幕が増える中、それでも尚、白蓮は飛び続ける。

飛び交う弾幕の中を真一文字に飛び続け、そして……、

パトリシア「なんで……、なんで貴女はあんな中を――――」


                    臆することなく飛び込んでこれるの?


白蓮「それは、それこそが人が本来持つ強さだからです。
   どんなに暗かろうとも、強く求め続ければ一筋の光明を得る事も出来るのです!
   受け取りなさい、これが私の、仏の救いです!」


                      吉兆 『極楽の紫の雲路』


111: ステージ3 学び舎のダークサイド 2011/10/22(土) 09:20:48.30 ID:Gg8d+0Bc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

文「どうやら、決着が付いたようですね」

遥か前方の青空に紫の雲が生まれるのを眺めつつ文は呟いた。
パトリシアはおそらく白蓮の迎撃で手一杯だったのだろう、暗闇と無音のスペルが解けた後、
文は使い魔を散々撃破して回ったが、最初の頃の切れ味は最後まで戻ることは無かった。

結界が解け、見慣れた幻想郷の空が頭上に広がる。
結界という異空間の中で弾幕戦をする内に、寺子屋の外まで出てきてしまったようだ。

今頃、あの二人は何をしているのだろうか?
パトリシア相手に説法でもしているのだろうか? 或いは弾幕で負った傷の手当てをしているのかもしれない。
とりあえず、まずは二人の下へ行ってみよう。

文「行ってみて、お二人に話を聞かない事には、記事を書けませんしね」

果たして二人は話してくれるのだろうか?
まぁ、話してくれなかったとしても、記事にはするのだけれど……


文「それにしても、悪戯で葬式の真似事をした様を描いた弾幕を放った相手に説いた救いが、
 臨終の際に現れる仏様ですか……、白蓮さんも冗談きついですねぇ……」

多分、そんなつもりは無かったんだろうな~、と思いつつ、
天然な人の相手はこれだから疲れるんですよね~、と肩を落とさずには居られない文であった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ちなみに、これはまったくの余談なのだが、魔女異変が解決した数日後、
文が魔女一同に取材(と言う名の弾幕戦)を行ったとき、黒髪のセーラー服少女の放った弾幕は、
かつての異変で披露された、暗く暴力的なモノではなく、
明るく楽しい学園生活を模したものだったそうで、取材を終えた文はたいそうご満悦だったそうだ。



 
161: 2011/10/26(水) 18:13:52.70 ID:mhvCW6AZ0
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

妖夢「こっちの準備は整いました。 いつでもいいですよ~」

オクタヴィア「ん、じゃあ行っくよ~、スペルカード発動!」

庭の方から聞こえる、オクタヴィアちゃんと妖夢さんの声。
新作のスペルカードを作ったと言うオクタヴィアちゃんたっての希望で二人は今、模擬の弾幕戦をしている。

これまでの“魔女”仲間と幻想郷の人たちとの弾幕戦を見て、閃く物があったらしい。
オクタヴィアちゃんは既に幾つかのスペルを持っているが、これで良好なら更に追加すると言っていた。

それなのに、私は、と言えば……

幽々子「何をそんなに落ち込んでいるの? クリームヒルトちゃん」

クリームヒルト「あっ、幽々子さん……、
        オクタヴィアちゃんも他のみんなも、みんな自分のスペルを作って使ったりしてるのに、
        私だけまだスペル一個も思いついてないから……」

幽々子「周りに置いて行かれたようで、不安になってしまった?」

幽々子さんの言葉に、私は小さく頷く。
頷きついでに俯く私の肩に、幽々子さんがそっと手を添える。

幽々子「焦る必要なんて無いのよ。 焦って作ったって良いスペルは出来ないわ」

クリームヒルト「で、でもっ!」

思わず顔を上げる私。
それに対し、幽々子さんは落ち着いた思案顔で告げる。

幽々子「ん~、さっきの尼と委員長さん? の弾幕戦とか良いお手本だと思ったんだけどなぁ……
    クリームヒルトちゃんは、弾幕(スペル)についてちょっと、勘違いしてるみたいね」

クリームヒルト「勘違い?」

幽々子「弾幕戦、と言うか弾幕の本質……真髄、と言ってもいいわ、がまだ良く見えていないようね」

クリームヒルト「う~、ごめんなさい」

幽々子「あら? 責めるつもりではなかったの、だから謝る必要なんて無いわ。
    そうね、これは弾幕戦の先輩からのアドバイスだと思って頂戴」

幽々子「弾幕に於いて最も重要な事、それは…………」


 

130: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 17:44:48.09 ID:1Ra67Tjl0

――――――――【七曜の魔女と瀟洒なメイド】 @ 魔法の森―――――――――――

咲夜「パチュリー様、こんな森の中に入ってどちらに行かれるつもりなのです?」

人里離れた森の中、森の奥にずんずんと入っていくパチュリーの背中に、咲夜は問い掛けた。

パチュリー「もうすぐ着くわ、あてもなく歩いている訳じゃないから安心なさい」

咲夜「御意に」

それから暫く、草を掻き分けつつ行軍していたが、ある時急に視界が開けた。
森の中にポツリと現れたら原っぱ。
その中央には、木や蔓に覆われた鉄骨の塔が鎮座している。

咲夜「これは……?」

パチュリー「電波塔、と言う外の世界の通信施設よ。 少し前に外の世界から流れ着いたそうよ」

咲夜「電波塔……、これが……」

パチュリーの言葉に咲夜は少し前に神社で霊夢がそんな話をしていた事を思い出した。
元々、かなり老朽化した代物だったそうだが、妖精の悪戯でわずか数日にしてこんな姿になってしまったらしい。

咲夜「それで、ここがどうかしたのですか? ここは事件現場ではないと聞いていますが?」

パチュリー「直接の現場ではないわ。 咲夜、紅魔館の別館であった引き篭り事件は覚えてる?」

咲夜「勿論です。あの時は大の大人が酷い恐慌状態になっていて、落ち着かせるのも一苦労でしたから」

それは昨今頻発する魔女事件の中で、唯一紅魔館が舞台となった事件。
湖の方から必死の形相で逃げてきた男性が、紅魔館に駆け込んできたのは3日前の日没直後の事。
その様子にただ事ではないと判断し、最初に応対しようとした紅美鈴を男性は錯乱した様子で殴り倒し、そのまま別館に立て籠ったのだ。

131: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 17:49:31.51 ID:1Ra67Tjl0

パチュリー「なぜ恐慌状態だったのか? と言う話は聞いている?」

咲夜「一応、後日新聞屋から聞きました。 なんでも過去のトラウマが急に甦ったとか……」

聞くところによると、恐慌状態に陥った男性は、幼少の頃、夜道を歩いていて妖怪に襲われ、一晩中逃げ回った経験があったそうだ。
今となっては単なる笑い話、の筈だったのだが、あの日に限って何故か当時の恐怖がまざまざと甦り、あんなことになってしまったらしい。

パチュリー「そうね、そんな所よ。 ところで咲夜、その話にはちょっと変わったところがあってね。
     引き篭った人が”魔女”と会ったのは、引き篭る直前ではなく、数時間から半日のタイムラグがあるのよ」

咲夜「? どういう事です? 頃合いを見計らった、とでも?」

パチュリー「それもあり得るわね。 会ってすぐ恐慌状態にしたのでは犯行がすぐに露呈してしまう。
     捕まる可能性を低くするためにもある程度離れる必要があった」

咲夜「少し離れた所から見張っていた?」

咲夜が言うとパチュリーはそれを直ぐに否定する。

パチュリー「いいえ、それじゃあ私たちみたいな実力者に直ぐに感知されてしまうわ。
     “魔女”はもっと離れた場所から術を発動させたのよ」

咲夜「超遠距離遠隔操作呪式ですか? ですがそれこそ直ぐに感知されて……」

パチュリー「そこで、この外の世界の通信施設が出てくるのよ」

咲夜「!?」

パチュリーの言葉に咲夜もはっとした。
そう、それならばこの施設は……

パチュリー「この施設は電波塔……、魔力的要素は一切ない、科学的送受信施設よ。
     私たちに悟られず物事を進めるならこれ以上適した施設は無いわ」

咲夜「…………」

パチュリー「こんなところに篭って、魔法使いの株を暴落させた落とし前、きっちりつけさせてもらうわよ」


132: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 17:52:11.40 ID:1Ra67Tjl0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

蔓に覆われた電波塔の中で、塔の直下に建てられた小屋の扉だけは蔓が這っていなかった。
此処に誰かが出入りしているのは間違いないようだ。
錆が浮いているドアのノブに軽く手をかけてみる。
どうやら鍵はかかっていないようだ。

パチュリー「開けるわよ?」

咲夜「あら? パチュリー様、少々お待ちを、中から何か音がします」

パチュリー「音? どんな音が聞こえるの?」

咲夜「カタカタと何かを叩くような音です。 何をしているのかまではよく分かりませんが、中に誰かいるのは間違いないです」

パチュリー「また呪を操っているのかしら? だとしたら急がないといけないわね」

二人は互いに顔を見合わせると、頷きあった。
次の瞬間、パチュリーは勢いよくドアを開け放つ。

パチュリー「そこまでよ!」

そのままの勢いで小屋に突入すると、中にはこちらに背を向けるツインテールの少女の姿が……

??「…………」 カタカタカタ……

パチュリー「?」

かなり大声で怒鳴り込んだ筈なのに、箱っぽいモノに向かったまま全く反応を見せない少女。
想定外の反応にパチュリーが眉をひそめていると、何かに気付いた咲夜が囁きかけてきた。

咲夜「パチュリー様、どうやら彼女は耳に詰め物をしているようです。 おそらく聞こえていなかったのでしょう」

パチュリー「詰め物? ……ああ、イヤホンね」

咲夜に言われ、少女の耳を見たパチュリーはすぐさま納得する。
イヤホン、確か耳に突っ込んで、一人で音楽を楽しむ道具、とパチュリーは記憶していた。
ちなみに情報源は外から流れ着いた本と、実際に同じものを使っていた早苗だ。

 

162: 2011/10/26(水) 18:16:19.78 ID:mhvCW6AZ0
 


パチュリー「人がこうして乗り込んできたのに、無視するとは良い度胸ね……。そっちがそのつもりなら、こっちにも考えがあるわよ」


                      水符 『プリンセスウィンディネ』


水の魔法を発動させ、それを少女の頭の上から一気にぶっかける。

??「ひゃっ!? 冷たっ!? って、私のパソコンがっ!?」

水をかけられ、飛び上がらん勢いで驚いた少女は、直後に煙を吹き出し始めた箱を見て、悲鳴をあげる。

??「……完全にショートしてる……、私の秘蔵お宝画像がぁ……」

がっくりと膝を突く少女、暫らくそのままの状態で呆然としていたかと思うと、
やがて全身を震わせつつ、ようやく振り向いた。

??「いきなりこんな残虐非道なマネをするなんて……、一体どこの誰よ!?」

パチュリー「幻想郷の魔法使い、パチュリー・ノーレッジよ」

怒気の孕んだ声を上げる少女に対し、パチュリーは極めて落ち着いた声音で答えた。
もちろん悪びれる様子など一切無い。
一方の少女は、と言うとパチュリーの名乗りを聞いた途端、慄くように後ずさった。

??「魔法使い……って、えっ、ウソ、特定された!?」

??「見つからないと思ったのに……、なんでバレたんだろ? はっ!? もしや貴女も引き篭り?」

パチュリー「私は単なる喘息持ちよ。決して引き篭りなどではないわ」

咲夜(大して変わらない様な気が……)

毎日毎日地下大図書館に篭って読書にふけっているパチュリーの姿を見ている咲夜はそう思ったが、
口にも顔にも出さず、その様子を見守っている。

134: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 17:57:27.39 ID:1Ra67Tjl0

持ってきた魔導書の頁を開きつつ、パチュリーが問う。

パチュリー「それは置いといて、一応聞いといてあげる。 貴女、名前は?」

??「……エリー、箱の魔女、エリーよ」

パチュリー「…………偽名ね?」

エリーと名乗った“魔女”の言葉をパチュリーはすぐに切り捨てた。
図星だったのか、エリーはぎょっとしたような顔でパチュリーを見る。

エリー「っ!? なんでバレたの!?」

パチュリー「挨拶代わりに呪いを……と思ったのに発動しないからよ」

エリー「ひどっ! 他人の事言える立場じゃ無いけどひどっ!」

私そろそろ泣くよ!? と声を荒げるエリーに対し、パチュリーは鋭い視線を向ける。

パチュリー「何故かしらね? 私の勘が告げてるのよ、『まともに相手するな、速攻で潰せ』 って……」

エリー「あー、魔法使いさん。 貴女の勘、正しいわ。 だって……」

パチュリーの言葉に、エリーはそれまでの涙目になりそうな態度から一転してどす黒い笑みを浮かべてみせる。 
刹那、眩い閃光が辺りを包む。


                      読込 『スキャンユアメモリー』


エリー「貴女たちの記憶(メモリー)だいぶ読ませて(ダウンロードさせて)貰っちゃったし」

咲夜「っ!? パチュリー様!?」

閃光が収まると同時に、彼女にしては珍しい上ずったような咲夜の声がしたかと思うと、パチュリーと咲夜の間に半透明の壁が構築される。
パチュリーだけ、“魔女”の結界内に取り込まれてしまったようだ。

135: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 18:00:24.91 ID:1Ra67Tjl0

パチュリー「面倒な事になったわね……、初っ端からもっと強い術を撃つべきだったかしら?」

エリー「ふふ、貴女たちは今日、私に新たなトラウマを植え付けられるのよ」

先ほど水をぶっかけて壊したモノと同じ箱がエリーの手元に現れる。
現れた箱を操作しつつ、エリーが笑う。

エリー「ふーん、読書の虫な引き篭りなんだ、貴女……随分と時代遅れね」

パチュリー「電気が無いとなにも出来ない低級引き篭りに言われたくないわ」

手元の本をめくり、エリーの持ち物が電気演算処理装置――即ちパソコンである事を突き止めたパチュリーも鼻で笑ってみせる。
因みにどちらも検索時間はほぼ同じくらいだ。

エリー「…………」

パチュリー「…………」

なんとも言えない空気が流れる。
見る人が見れば、二人の間に火花が散っているのが見えたであろう、そんな空気だ。
暫らく睨み合っていた二人だが、先にエリーの方が肩をすくめてみせる。

エリー「まあ良いや、こっちには読み取った貴女の記憶があるし、これからたっぷりとトラウマ地獄を味わせてあげる」

パチュリー「貴女、随分と悪趣味ね……」

エリー「いきなり呪いをかけようと試みる魔法使いには言われたくないわ。 それじゃ、行くわね」


                      恐符 『フォーオブアカインド』


発動と同時に、パソコンが4つに分裂し、そのモニター画面に人影が映し出される。
画面に映ったのか誰なのか、一瞬過ぎて判別する間も無かったが、始まった弾幕を見てパチュリーはげんなりした。

最初に現れた弾幕は見慣れた、けど見たくはない紅魔館組(身内)の弾幕。
手加減と言うものを中々覚えない、親友の妹――フランドール・スカーレットの定番弾幕が発動したのだ。

パチュリー「ホント、悪趣味過ぎて反吐が出るわ……」



136: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 18:05:44.99 ID:1Ra67Tjl0
―――――――――― 【十六夜咲夜 @ 結界外】 ―――――――――――――

咲夜「パチュリー様! パチュリー様っ! ……くっ、聞こえない、か……、結界をどうにかして壊さないと」

結界外からの呼び掛けは、効果が無いと悟った咲夜は得物であるナイフを取り出した。
そのまま、ナイフを結界に投げつけようとして……、咲夜はそのナイフを自身の背後に投擲する。

??「あら? 随分と鋭いメイドさんね。」

咲夜「貴女も……よく今まで気配を完全に殺せましたね」

振り返るとかぼちゃスカートを履いた石像のような少女……いや、動く少女の石像が居た。

??「見ての通り、私、石像ですから……。このまま隠れていても良かったんだけど、エリーの邪魔をさせる訳には行かないから……」

咲夜「ここで相手になる、と?」

??「そうよ、瀟洒なメイドの十六夜咲夜さん」

咲夜「っ!? どうして私の名前を……!?」

名乗った覚えも無いのに名を当てられ、咲夜は一瞬身構えたが、すぐにある事実に思い当たり、笑みをこぼす。

咲夜「……なるほど、さっきの“魔女”と貴女とで情報を共有し合っているのね」

エリーと名乗った“魔女”が、咲夜たちを結界で分断する前に放ったスペル――『スキャンユアメモリー』。
スペル名を直訳すると、 『貴方の記憶を詳しく調べる』 つまり、読心だ。

目の前の“魔女”が現れたタイミングから考えて、二人が共闘していたのはほぼ確実と言っていいだろう。
そうなると、エリーが得た他者の情報を二人で共有し合っていた可能性も、かなり高いと言える。

??「ご明察よ。 そんな賢いメイドさんにご褒美として私の事をちょっとだけ、教えてあげる。
  私はイザベル、虚栄の芸術家な“魔女”よ」

咲夜「ご丁寧にどうも」

137: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 18:08:47.69 ID:1Ra67Tjl0

イザベル「それにしても貴女、いい弾幕(モノ)を持っているのね。羨ましいわ……
     ねぇ、メイドさん。 その弾幕、私が貰ってあげるから今すぐこの場で死んでくれない?」

咲夜「私に命令出来るのはこの世にただ一人しか居ないの。 貴女の言い成りにはならないわ」

イザベル「なら、力ずくで死んでもらうわ、自身が作った美しい弾幕でその命を散らせなさい」


                      始筆 『ドローオンザカンバス』


咲夜「?」

イザベルが取り出したスペルカードを見て咲夜は眉をひそめた。
取り出したカードが絵柄の一切無い、白紙だったからだ。 当然弾幕も現れない。

「失敗したのかしら?」などと思っていると、白紙だったスペルカードに絵柄が浮かび始める。
浮かびあがりつつ絵柄に咲夜が物凄い既視感を感じた直後、スペルが発動する。


                      贋作 『幻惑パワーディレクション』


咲夜「っ!?」

発動したスペルを見て、咲夜は思わず目を見張る。
イザベルが使用したスペルは、咲夜が良く使うスペル― 奇術『幻惑ミスディレクション』 ―にそっくりだったのだ。

自身のスペルを相手が初っ端から使ってきた事に内心驚きつつ、咲夜の身体は極めて正確に行動に移っていた。

こちらに向かってくるクナイ弾を避けつつ、咲夜は弾幕とは反対の方向にナイフを投擲する。
流石に自分のスペルだけあって、スペルの特性は完璧に把握している。
このスペルの場合、初弾を撃った位置の反対側に術者が移動するため、反対側に攻撃しないと命中しない。

咲夜「読心で読んだ私の弾幕の情報から“贋作”を作って発動する……。 見事ね。 そっくりで驚いたわ。
  でも、いくらそっくりでも所詮は物真似よ。 私の弾幕は私自身が一番熟知してる。 それじゃあ私は倒せないわ」

イザベル「本当にそう言える? 貴女自身すら把握していない貴女の事実が無いと、本当に貴女は言い切れるの?」

咲夜「今のうちにほざいてなさい、すぐに黙らせてあげる」


138: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 18:11:16.75 ID:1Ra67Tjl0
――――――――― 【パチュリー・ノーリッジ @ 結界内部】 ――――――――――

一方その頃、結界内で自身のトラウマ弾幕と相対させられているパチュリーは、
致命的なダメージこそ受けていないものの煤と細かい傷でボロボロになっていた。

パチュリーの格好を見て、エリーは愉快だと言うように嗤う。

エリー「あはは、良い格好ね。 もうボロ雑巾も同然じゃない」

パチュリー「こんなの、かすり傷にもなってないわよ……」

そう言いつつ、パチュリーは内心焦っていた。
身内の弾幕から始まったトラウマ弾幕は、かつて対戦した亡霊やら鬼やらスキマ妖怪やらの弾幕“もどき”となり、難易度はぐっと高くなっていた。

無論、それらの強者の研究や攻略法の開発を怠っていた訳でない。
怠っていた訳ではないが、『特徴を知っている』事と、『実際に相対した時に対処出来る』事とでは、その難易度は天と地ほどの差がある。
ここまでボロボロにされたのも、頭で分かっていても、身体の方が追い付かなかった為だ。
今日ほど自身の頭脳と身体のアンバランスさを恨んだ日は無い。

パチュリー「………………」

エリー「もう口も利けなくなったようね。それじゃ、貴女の一番のトラウマで止めにしてあげる」

パチュリー「っ!?」

エリーの笑みが更に凶悪さを増す。
それはまさしく獲物を追い詰めた狩人のソレ。

エリー「さようなら、時代遅れな読書スキーな魔法使いさん」

にやつきを隠そうともせず、嬉々としてスペルカードを取り出すエリー。
パソコンの画面に、ある人影が映り、直後にスペルが発動する。
光の粒子がエリーの前に集まり始め、その大きさは見る見るうちに大きくなる。


                      恐符 『ファイナルマスタースパーク』


集められた光が特大クラスまで大きくなったかと思うと、全てを飲み込まん勢いの奔流となりパチュリーを襲う。
単純にエネルギーだけならこれまで以上に圧倒的なパワーを誇るソレに対し、パチュリーはニヤリと笑い……


 
163: 2011/10/26(水) 18:17:57.96 ID:mhvCW6AZ0
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

圧倒的な光の奔流が棒立ち同然のパチュリーの目前まで迫った時、エリーは勝利を確信した。
あんな状態で、撃った本人であるエリーでさえ驚くほどの高威力エネルギー弾幕を受けて、無事で済むはずがない。
その直後、パチュリーの姿が見えなくなる。
規格外の極太さを誇るレーザーの影に隠れて見えなくなってしまったのだ。

エリー「これは、やったかな?」

光の奔流がパチュリーのいた場所を通り過ぎて行き、そのまま後方へと消えていく。
全ての光が流れきり、スペルがブレイクしたとき、地に倒れ伏したパチュリーの姿が……無かった。

エリー「なっ!? 消えた!? ど、何処に行ったの!?」

今撃った『ファイナルマスタースパーク』の威力は半端ではないが、人一人が完全消滅するようなモノでは無かった。
つまり、直撃したそこに居なければおかしいのだが、パチュリーの姿は影も形も見えない。

パチュリー「何処に目を付けてるの? 私はここよ。“魔女”さん……」

エリー「っ!?」

静かな、それでも確固とした意思を感じさせるパチュリーの声が頭上から響き、エリーは頭を上げた。
目に映るのは結界の天頂付近で、結界全体を覆わんばかりの巨大火球を片手に掲げたパチュリーの姿。

エリー「なっ、なんで!? 何で無事なの!? アレだけの術を受けたのに……」

パチュリー「答え合わせは後でたっぷりしてあげるわ。
      とりあえず今は……、今まで人の記憶で散々おちょくってくれた御礼、纏めて受けときなさい」


                      日符 『ロイヤルフレア』


火球を掲げた手をパチュリーが振り下ろす。
結界内で限界クラスにまで大きくなった火球が地上へと降り注ぐのを、エリーはただ、呆然としながら見つめる事しか出来なかった。


140: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 18:16:46.88 ID:1Ra67Tjl0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

エリー「なんで? どうして貴女はあのラストスペルを受けて無事だったの?」

地面に半ばめり込んだ状態でエリーは問う。
パチュリーの放ったスペルはまさしく必殺と言っていい威力で、一撃でエリーを行動不能にしてみせていた。

パチュリー「簡単よ。 貴女は隙を作りすぎたの」

エリー「隙?」

パチュリー「日符『ロイヤルフレア』は発動さえしてしまえば攻撃終了まで完全無敵になる魔法。
     貴女は散々喋った挙句、エネルギーチャージに時間の掛かる『ファイナルマスタースパーク』を選択した。
     その間に、貴女から見づらい結界の天頂付近に『ロイヤルフレア』を発動させておいたのよ」

仮に技が、チャージ時間の短い『マスタースパーク』だったら、負けてたけどね。
と付け足すパチュリーにエリーはある疑問を抱く。

エリー「どうして? どうして私が発動するスペルが『ファイナルマスタースパーク』だと分かったの?」

パチュリー「半分は賭けのような物だったけどね。 残りの半分は貴女の言葉よ」

エリー「私の言葉?」

パチュリー「ええ、私の一番のトラウマ、と聞いてピンと来たのよ。
     このスペルが来るのは、大抵、魔理沙が図書館を荒らしに来た時。
     図書館を滅茶苦茶にされる上、秘蔵の本まで盗られるんだからこれ以上無いトラウマよ。
     それ故に、このスペルだけは完璧に読めるし、対処も慣れっ子なのよ」

141: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 18:18:08.58 ID:1Ra67Tjl0

パチュリーが言うと、倒れたままのエリーは乾いた笑いをもらした。

エリー「……完全な私の読み間違え、って事ね……。データは完璧だったけど使い方を誤っちゃ、勝てる試合も勝てなくて当然ね」

パチュリー「……少なくともラストスペル以外の選択は間違ってなかったわ。 
     どっちが勝ってもおかしくなかったのよ。今の戦いは……。 今回はたまたま私に勝利の女神が微笑んだだけ……」

パチュリー「むしろ初回でここまで私をズタボロにしてくれた事、誇って良いわよ。 “キルスティン”さん?」

エリー「!? どうしてその名前を!?」

突然本名を言い当てられて驚いたのだろう、これまで力なく倒れていたのがウソのように跳ね起きるエリー。
パチュリーはエリーの脇で地面にめり込んだままのパソコンを指差す。

パチュリー「持ち物にしっかり名前を書いておくなんて、貴女も結構几帳面なのね」

エリー「あっ…………」

パチュリーに言われて気が付いたエリーは一瞬呆けた後、再度パチュリーと顔を見合わせた。
どちらからとも無く笑みがこぼれる。 二人の笑い声は結界の効果が切れるまで響きあっていた。



142: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 18:19:34.57 ID:1Ra67Tjl0
―――――――――― 【十六夜咲夜 @ 結界外】 ―――――――――――――

パチュリーの辛勝で、結界内の弾幕戦に決着がついた時、咲夜とイザベルの戦いもまた、佳境を迎えていた。


                      贋作 『殺人フィギュア』


何度目かとなる、イザベルの模倣弾幕。
相手の周囲にナイフを発現させ、逃げられないようにする弾幕だが……

イザベル「くっ! なんで当たらないの!?」

イザベルは苛立ちを隠そうともせずに声を荒げた。

弾幕の形状はエリーが読み取った通りに、ほぼ完璧にトレースした筈だ。
それなのに、この弾幕ですら咲夜は易々と避けて見せた。

イザベル(さっきからなんでこうも当たらないの? 
    元々読み取ったスペル自体が大した事が無かったのかしら? ……いえ、そんな訳が無いわ。
    弾幕の形は良く考えられたものだし、あのメイドさんの戦闘能力はかなりのモノ、手落ちがあるとは考えにくい……)

イザベル(何か見落としている要素がある?
    エリーが読み取った弾幕形状の記憶だけでは足りない何かが……」

咲夜「その通りよ。貴女のコピー弾幕には決定的に欠けているものがある」

必死に思考を回転させるイザベルに咲夜の肯定が割り込む。
どうやらいつの間にか思考が口から漏れ出ていたらしい。
だが、イザベルは思考に突っ込まれた事よりも、咲夜の声が聞こえた場所――立ち位置の方に驚愕していた。

143: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 18:21:19.88 ID:1Ra67Tjl0

イザベル「……いつの間に背後に来たの? いくらなんでも速すぎるわ!?
     瞬間移動か、さもなくば時間停止でもしないと説明が……、まさか!?」

咲夜のスペルの情報を見たとき、素早い移動が前提のスペルが多いとは思っていた。
弾幕を囮にしての移動だったり、相手の周囲に大量のナイフを配置したり……
普通に形を真似るだけでも骨が折れる弾幕ばかりだ。 
そう、“普通の手段”で、形を真似ようと思うのなら……、である。

咲夜「ご明察です。 やっと気付きましたか……
  私の弾幕の本質は、その形ではなく、私の能力を如何にフル活用するか? と言う一点」

咲夜「貴女のコピー弾幕は、形だけ立派で本質を理解していないから弱い。
   なぜこの弾幕を使うのか? その弾幕の真髄は何か? 重要なその点が抜け落ちた時点で片手落ちなのよ。
   贋作(コピー)を名乗るなら、その本質を見極めて、本質まで再現出来てからにしなさい」

咲夜の言葉に、イザベルは自身の過去を思い返す。
まったく同じような事を、展覧会の批評家に言われたような覚えがある。

記憶情報だけで安心して、物事をしっかり把握していなかったのは、自分自身の方だったのだ。

咲夜「私を倒したければ、そうね……。貴女が一から作った(オリジナル)スペルか、
  真髄までコピーし、昇華させた本物を越える贋作スペルを持ってくるか……
  とにかく、貴女自身の確固たる意思が篭った作品(スペル)を次の機会に見せて頂戴」

咲夜はそう告げると、手に持った銀時計を止めた。


                      『咲夜の世界』



144: ステージ4 ラクトメモリー ~記憶密室~ 2011/10/24(月) 18:23:23.46 ID:1Ra67Tjl0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

クリームヒルト「自分自身を、さらけ出す?」

鸚鵡返しにそうつぶやいた私に、幽々子さんは静かに頷いた。

幽々子「そう、自分自身を表現する、と言ってもいいわ。
   それは趣味嗜好だったり、主張だったり、人によって色々あるけど、自己表現であるのは変わりないわ。
   弾幕戦は相手をねじ伏せる事を目的とする闘争ではなくて、自己表現のぶつかり合い、一種のスポーツと言えるわね」

クリームヒルト「スポーツ……」

幽々子「そう、それに最初にも言ったけど、弾幕戦は決闘方法でありながら、また最大限楽しむ物でもあるの。
   物事を楽しもうと思ったら、まず自分を偽ってはダメ。 自分の中の全てを出し切るつもりで戦ってこそなのよ」

クリームヒルト「自分の中の全てを……出し切る……」

反芻しながら、私は私の中で何かが芽生えるのを感じた。
欠けていた何かが、ようやく見つかった。と言ったほうがいいかもしれない。

幽々子「そう、それこそが最も大切な事。 形や見た目の美しさなんて二の次でいいの」

クリームヒルト「…………なんとなく」

さっきまでの悩みがウソのように晴れていくのが分かった。
なんでそんな事で悩んでいたんだろうとさえ思えて来て、私は思わず苦笑する。

クリームヒルト「何となくだけど、分かったような気がします。 ありがとうございます、幽々子さん」

幽々子「良いのよ、これくらい……。 その代わり、貴女の全てを出し切った素敵な弾幕、後でしっかり拝ませてもらうわ」

そう言うと幽々子さんはニコリと微笑んで見せた。



167: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:06:09.59 ID:t6Wz/lC60
――――――――― 【密着!命蓮寺僧侶24時】 @ 人里 ―――――――――――

白蓮「痛そうでしたねぇ、上白沢先生の頭突き……」

昼を迎えた人里で、先刻の光景を思い出しながら、白蓮が呟く。
パトリシアを寺子屋の主である上白沢慧音に託した後、二人は人里へと繰り出していた。

寺子屋を後にする直前、今までウチの子供たちに散々呪をかけたお仕置き、と称して頭突きが炸裂するのを見ていたのだ。
おそらく今頃は延々と説教を受けている筈だ。

文「まぁ、散々寺子屋で問題起こされましたからね。アレ位で済んだだけマシかと……ん?」 ピリリリ……ピリリリ……

白蓮「あら? 何の音です?」

突然聞こえた軽快な音に白蓮は眉をひそめ、一方の文は慌てて小物入れに手を突っ込む。

音を出す小さな箱のような物を取り出した文は、音を止めると白蓮に頭を下げた。

文「失礼しました、お騒がせしてしまって……」

白蓮「いえ、別に大丈夫ですけど……それはその箱は一体何なのです?」

文「“ぽけべる”と言う最近外から入ってきた道具を河童が幻想郷でも使えるようにしたモノでして、
 何でも呼び出し連絡とかに使えるから、とかで天狗の里の方から持たされてるんです」

そう言って小さな箱――ポケベルを操作し始める文。

白蓮「まぁ、それじゃあ今、新聞屋さんに呼び出しが?」

文「そうみたいですね。一体何の用件やら…………あや?」

ポケベルを操作していた文が突然歩を止める。 連絡内容が意外な物だったらしい。

白蓮「どうしました?」

文「あー、天狗の里に侵入者が入った、って言う良くあるメッセージだったんですけど、その侵入者って言うのが……」

文「結界を伴って高速で逃げ回る厄介なヤツだと……」


168: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:07:38.68 ID:t6Wz/lC60
――――――――――――― 数刻後、妖怪の山 ――――――――――――――

文「あや、あそこに居るのは……椛! 状況はどうなってるんです?」

妖怪の山に駆けつけた文と白蓮は、見知った白狼天狗――犬走椛を見つけ、駆け寄った。

椛「文さん? 珍しい、呼び出しに素直に応じるなんて……」

文「今調査している事件と関連がありそうなので戻ってきたんですよ」

白蓮「貴女が話に聞いた千里眼を持った天狗ね。 はじめまして、私、命蓮寺の僧侶、聖白蓮です」

そういいながら白蓮が恭しく頭を下げると、つられて椛も頭を下げる。

椛「これはこれはご丁寧にどうも……、って文さん! 部外者連れてきちゃダメじゃないですか!?」

天狗の里手前まで一緒に来るとか何考えてるんですか! と怒鳴りかからん勢いで食って掛かる椛をスルーして文は尋ねる。

文「それで? その結界ごと逃げ回る怪しいヤツは今何処に?」

椛「人の話を聞い……ハァ、天狗の里と守矢神社の中間辺りに今は居ます」

何を言っても無駄だと悟ったのだろう、椛は素直に千里眼で見通した結果を伝える。

文「と言うと、7合目付近か……白蓮さん、行きましょう!」

白蓮「ええ、急ぎましょう!」

文は背中の翼を羽ばたかせて空に舞い上がり、対する白蓮は魔術で強化した足で連続ジャンプをしつつ、山を登っていく。
あっという間に小さくなっていく二人を見送った椛は、嵐が過ぎ去った直後のような脱力感に見舞われた。

椛「あっちは二人に任せて良さそうですね……、哨戒任務に戻っていよう……」


169: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:10:09.22 ID:t6Wz/lC60
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

??「ちぇ、ここでもあたいに追いつける(満足させる)ヤツは居ない、か……」

妖怪の山7合目付近に展開された結界の中、幻想郷には存在しない鋼鉄の馬――バイクに跨った状態で特攻服を着た少女がぼやく。

いつの間にかド田舎を思わせる世界に来てしまったり、
バイクで空を飛べるようになっていたり、色々あったが、やる事は変わらない。

ひたすら速さを追い求め、最速の座をこの手に……と思っていたのだが、今の所、競り合うどころか追いついてくる相手にさえ会えて居ない。

ここに自分の求めるような相手は居ないのか……そんな事考えが一瞬脳裏をよぎる。
が、次の瞬間、特攻服少女は何かを感じ取り、顔を上げた。

目に付いたのは、黒い翼を生やした少女と、地上スレスレを疾駆する女性の姿。

??「へっ、やっとおでましかい。 待たせやがってバカヤローが……」

思わずニヤリとする特攻服少女の目の前に、まず黒い翼の少女――文が着地する。
少し遅れて女性の方――白蓮も現場に駆けつける。

文「この結界、間違いなく貴女は“魔女”ですね? 私、射命丸文と申します。
 そこに居るのは分かってます、姿を見せてください」

今張ってある結界は内側からは外が見えるが、外からは内側が見れない。所謂マジックミラー状態だ。
カメラを片手に持っているあたり、写真でも撮りたいのだろう。

??「やなこったね。 アンタの言う事を聞く義理は無いし」

文「そこを何とか! 貴女の事を速攻で記事にして上げないと、幻想郷最速のブン屋の名が泣くので……」

??「最速だってぇ? アンタが?」

『最速』と言う言葉に、特攻服少女は敏感に反応した。
どうやら本当にアタリを引いたらしい。

文「ええ、そうですが……それがどうかしました?」

??「あたいは速いヤツと戦いたくて、こんなド田舎をかけずり回ってたんだ。
  アンタ、その『最速』の座を賭けてあたいと勝負しな」

声音だけでこちらの意図が伝わったのだろう、訝しげだった文の表情が不敵な笑みに変わる。

文「ルールは?」

170: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:13:30.80 ID:t6Wz/lC60
乗ってきた、そう直感した特攻服少女は結界のマジックミラー状態を解く。
これでやっと文は姿を見ることが出来た訳だが、文はカメラを向けようともしない。

??「そうだな、ここは分かりやすく一発勝負と行こう。 クリティカルヒット1回でどうだ?」

文「私が勝ったら独占取材させてもらいますよ?」

??「ああ、構わないぜ、インタビューだろうが、写真だろうが好きにしな」

文「いいでしょう、受けて立ちます。 白蓮さん、すいませんが……」

白蓮「わかってます。 判定をすれば良いのでしょう?」

手出しはしません、と言うように白蓮が両手を上げる。

??「おっと、名乗りがまだだったな。あたいはギーゼラ、銀の“魔女”だ。
   さぁて、それじゃあ早速おっぱじめようか、……アンタはあたいを満足させてくれるのかい?」

文「足腰立たなくなるまでやってあげますよ」

ギーゼラ「へっ、面白ぇ……行くぜ、まずは挨拶代わりにコイツだ!」

開幕と同時にスロットル全開、土埃を上げて宙に躍り出た愛車の上でギーゼラは最初のスペルを発動させる。


                      暴符 『世露死苦』


文「これはこれはまたご丁寧な挨拶だ事で……、それじゃあ、こちらも参りますよ!」


                      疾風 『風神少女』


ワンテンポ遅れて飛び立った文もスペルを発動、空中に無数の弾幕の花が咲き、二つの影が交錯する。
文が前方から飛んできたギーゼラの弾幕をバレルロールで回避したかと思えば、
斜め後ろから飛んできた弾に対し、ギーゼラはジャックナイフで空振りさせる。

早くも音速戦闘の様相を見せ始めた空中戦を見上げつつ、白蓮は呟く。

白蓮「お二方とも速いですねぇ……、
  瞬間的な速さなら私も自信がありますが、連続してあの速さはちょっと難しいかもですね……」

さて、と言いつつ腰を上げた白蓮も空へと飛び出していく。

白蓮「公平かつ厳正な審判を求められてしまいましたし、きっちりと見届ける事にしましょう」



171: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:17:46.67 ID:t6Wz/lC60
――――――――― 同刻、妖怪の山8合目【守矢神社】 ――――――――――

守矢神社の縁側でこの神社の主である二柱――八坂神奈子と洩矢諏訪子は眼下で始まった弾幕戦を見下ろしていた。

神奈子「今日はまた随分と派手にやってるじゃないか、酒の肴に丁度良さそうだ」

諏訪子「そうだねぇ……、まぁ、早苗が居ないと飲みたくても出せないんだけどね、お酒……」

財政に余裕があるとは言えない守矢神社の懐事情は、風祝であり、買出し役でもある早苗に一任されている。
当然、お酒の管理も早苗が行っているので、今の二柱には手を出すことすら出来ない。

諏訪子「…………早苗、帰ってこないねぇ」

神奈子「大方、最近流行の“魔女”異変に首を突っ込んでるんじゃないか? 確か博麗神社に遣いに行ったんだろう?」

朝も早くから山を下っていった実娘同然の風祝の姿を思い出しながら、神奈子は茶を啜る。
時間は既に昼過ぎなのだが、未だに帰ってくる気配すらない。

諏訪子「最近、妖怪退治(弾幕戦)が楽しい、とか言ってたし、たぶんそうなんじゃない?」

神奈子「今すぐ帰ってきたりとかは……」

諏訪子「無いと思うよ。 少なくともアレが終わるまでは……」

7合目付近での弾幕戦を指差しながら、諏訪子は断言した。
超スピードで行われている弾幕の応酬は、空も地上も関係なく覆いつくし、降り注いでいる。
今の状態で麓からここまで登るのは、登山道を含めて不可能に近いだろう。

諏訪子「どうする神奈子? カップめんでも食べる?」

神奈子「カップめん? あんな良い弾幕を前にしてるのに、ツマミがカップめんなのかい?」

諏訪子「食べ物だった炭を食べる覚悟があるなら何か作るけど?」

神奈子「カップめんで良いや……」

神奈子の言葉を聞き、台所へと向かっていく諏訪子。
守矢神社はいつもと変わらぬ極めて平和な昼下がりを迎えていた。


172: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:21:30.27 ID:t6Wz/lC60
――――――――― 同刻、妖怪の山5合目【天狗の里】 ―――――――――――

一方その頃、平和な守矢神社とはうって変わって、天狗の里は蜂の巣をつついたような騒ぎの真っ只中にあった。
上空で派手なドッグファイトが始まったかと思うと、無数の弾幕(流れ弾)が流星の如く降り注いで来たからだ。

文とギーゼラ、二人が撃った弾幕のほぼ全てが外れ弾となり、山の木々やら里の家やらに着弾する。
その内のひとつ、窓と言う窓を全てぶち破られた家から、ツインテールの鴉天狗――姫海棠はたてが飛び出してくる。

はたて「ちょっとぉ! いきなり人の家の窓破るとか一体何処のどい……って、また文なの!?」

上空で弾幕戦を展開する人影の中に良く見知った同業者の姿を見つけ、はたては激昂する。

山に謎の侵入者が入った事は知っていたが、もっぱら念写を用いるはたては部屋に篭っていた。
それがいつの間にかこんな事になっているのは、文がいつものようにちょっかいを出したからに違いない。
文句を言ってやろうと飛び立とうとしたはたては、次の瞬間呼び止められた。

椛「あっ、はたてさん! 丁度良かった、私と一緒に来てください!」

呼び止めるなり、はたての襟首を掴む椛。
いきなり連行しようとする椛にはたてがたまらず声を上げる。

はたて「ちょっ、椛!? 離してよ、これから文に文句を言いに……」

椛「里全域に大天狗さまの御殿防衛の命令が下ってるんです! つべこべ言わずに来てください!」

はたて「あーもうっ! 文っ! 後で覚えてなさいっ!」

天狗の里の混乱はまだまだ続きそうである。


173: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:25:48.95 ID:t6Wz/lC60
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

地上での悲喜こもごもなど露知らず、二人の闘いは続いていた。
遥か高空で弾幕を撃ち合ったかと思えば、地上スレスレに舞い降りて木々の陰で被弾を避けたりと、状況は目まぐるしく変化する。

ギーゼラ「いいねぇ、アンタ、気に入ったよ。 だが、そろそろバテてきたんじゃねーか?」


                      爆走 『走死走愛』


文「そっちこそ、燃料大丈夫ですか? ガス欠で決着とかこっちから願い下げですからね」


                      旋符 『紅葉扇風』


同時にスペル発動、口が減らないのも、二人が超スピードで回避するのも、弾が外れ弾になるのも変わらないが、
一つだけ、開始時より明らかに変わった事があった。
その事に真っ先に気付いたのは、他でもない、一番近くで見ていた白蓮である。

白蓮「お二方とも、弾幕の濃度が薄くなってますね。 ああ見えて限界が近い、と言う事でしょうか……
   これは、そろそろ決着かもしれません」

一方、当事者である文とギーゼラも相手の弾幕が衰えている事をつぶさに感じ取っていた。
無論、自身の力が衰えている事も重々承知している。

文&ギーゼラ((次が、最後ですね(だな)…………))

互いのスペルがブレイクし、二人の間につかの間の静寂が訪れる。
奇しくも今、二人が立っている場所は守矢神社裏手の湖だった。
遮るものなど一切無く、そこに小細工の入る隙は無い。

文とギーゼラはお互い同士顔を見合わせ……、ほぼ同時にニヤリと笑って見せた。
どちらともなく、適度に距離をとった二人は、それぞれ無言でスペルカードを取り出す。

174: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:27:40.71 ID:t6Wz/lC60

出会って半刻と経っていない二人だが、最早二人の間に言葉など必要なかった。
血沸き肉踊る大空中戦、そのフィナーレ。

山頂から吹き降ろす風に舞い上げられたのか、一枚の木の葉が二人の間に飛んでくる。

木の葉は、はらりはらりと舞い落ちて……、静かに水面に波紋を立てた。

エンジンの咆哮と、翼の羽音だけを残し一気に加速。 二人の距離はあっという間もなく縮まり、次の瞬間交錯する。


                   『ハートオブザチキン』
                      『幻想風靡』



                        カッ!



すれ違い、互いに動きを止める文とギーゼラ。
暫くその場で制止していた二人だが……

文「っ……!」

文が声にならないうめきを漏らす。見ると右腕がだらしなくぶら下がっている。
その場に文が膝をつく様を、振り返って視認したギーゼラはニヤリと笑い……


ギーゼラ「アンタの勝ちだよ、新聞屋……」


次の瞬間、ギーゼラはバランスを大きく崩し、愛車諸共湖面に落下した。



175: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:30:11.94 ID:t6Wz/lC60
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

幽々子「勝つには勝ったけど、新聞屋は行動不能と判断していいわね。
   紅魔館組に続き、命蓮寺組も脱落、っと……」

妖怪の山(と言うか天狗の里)を巻き込んだ過激な弾幕戦の結果を見て、
幽々子さんが黒板の『命蓮寺組』と書かれた欄に大きな×印を入れる。

幽々子「でも今の戦いは良かったわね。ここまで清々しくやられると、見ているこっちまですっきりしてくるわ」

クリームヒルト「分かります。『これぞまさしく決闘!』って感じの戦いでしたね」

格闘技の名試合を観戦したときの感覚、と言えばいいのだろうか?
凄い戦いを見終えたばかりで、私は興奮を押えきれずにいた。

幽々子「さてと、他の二組は何をしてるのかしら、っと……」

そんな私の脇で、幽々子さんは他の人たちの行動を見ようと、ソレを操作する。
色々操作をして、画面を切り替えていた幽々子さんの手がある時ふと止まった。

見ると、何処かの社の前で、ロープに縛られたシャルロッテちゃん(人型.ver)の姿が映っていた。
時代劇で御用になった下手人のように、黄色と赤の衣を纏った女の子の前で正座させられている。

クリームヒルト「うわっ、ホントに縛り付けられちゃったんだ……」

幽々子「これは、そろそろここがバレるのも時間の問題かしら?」

扇を広げつつ、幾分か眼差しを鋭くした幽々子さんが呟く。

176: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:33:00.35 ID:t6Wz/lC60

クリームヒルト「えっ?」

幽々子「この状態で、シャルロッテちゃんが口を割らずに黙って居られると思う?」

クリームヒルト「あ~……無理、かも……」

今のシャルロッテちゃんは全力を出し切った弾幕戦の後で、極度の空腹状態になっている。
聞いた話によると、今映っている女の子は美味しそうなお芋の匂いを纏った豊穣の神様らしい。
決して信用していないとかそういうわけではないのだけど、相手としては分が悪すぎる。

幽々子「証言を得られた、って訳でもないのになぜか博麗の巫女たちもこっちに向かってるし……
    相変わらずあの巫女はいい勘してるわねぇ……。ホント、困ったものだわ」

そう言いつつ、幽々子さんは笑っていた。
これから残った二組が乗り込んでくるかもしれないのに、それすら楽しんでいる感じがする。

クリームヒルト「あっ、幽々子さん! シャルロッテちゃん、とうとうバラしちゃったみたいですよ。
        人形遣いさんと巫女さんたちが社から出ようとしてます」

幽々子「仕方ないわね。 出迎えの準備にかかるとしましょうか……」



177: ステージ5 騒がしき疾風らの血 2011/10/27(木) 10:36:13.45 ID:t6Wz/lC60
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

白玉楼の門から剣を携えた青髪の少女が出てゆく。

その手に握られているのは数枚のスペルカード。
幽々子や妖夢のアドバイスを受け、熟考し、精査し、作り上げた。
模擬戦も繰り返し、戦術もある程度組み立てた。 
実戦でもこれらが通用すると今なら自信を持って言える。

そんな中、ようやく巡ってきた檜舞台。
ここ数日の成果と、恩義を返す又とないチャンス。
そんなチャンスを無駄にするつもりなど、少女には毛頭なかった。

強く言い聞かせるように少女――オクタヴィアは呟く。

オクタヴィア「これは幻想郷での、あたしにとっての大事な第一歩。
      例えどんな相手が来ようと、負けられない。 負けてなるもんか!」

一人白玉楼を後するオクタヴィアの表情は硬かった。



185: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:01:12.84 ID:/t7jTfnG0
――――――― 【都会派魔女と現代っ子の現人神】 @ 三途の川 ――――――――

早苗とアリスは三途の川の脇を通り、一路冥界へと向かっていた。
秋神の社での秋穣子による“美味しそうな匂い”攻撃に、空腹が限界に達したシャルロッテが洗いざらい暴露したからだ。

早苗「それにしても驚きました。一連の魔女事件の背後にまさか幽々子さんが居たなんて……」

アリス「そう? 裏で誰かが手引きしているのは確実だと思っていたし、あの亡霊ならやりそうだと思うけど……」

事件の内容から考えると、亡霊やスキマ妖怪は容疑者筆頭候補よ。などと言ってのけるアリスに早苗は眉を寄せる。

早苗「さっきの推理といい、何処まで読んでるんです? アリスさんは……」

アリス「冷静に考えれば分かるわよ。
   犯行内容だけを見ると、一連の事件は幻想郷に詳しくない者の犯行としか思えない。
   でも、だからといって外から来たばかりの妖怪が挨拶代わりに異変を起こす、なんて思考に至るとは考えられないのよ。
   なにも考えてないド天然か、幻想郷の内情に通じた首謀者が居る場合を除いてね……」

早苗「なんでしょう……遠回しに馬鹿にされたような気がします……」

アリス「気のせいよ。……っ! 早苗、止まって!」

一旦は早苗から目を反らしたアリスは、次の瞬間何かを感じ取り、早苗を手で押し止めた。

早苗「アリスさん? 一体どうし……、ん? この気配は……」

アリス「ええ、魔女のものね……」

どうやら早苗も気がついたらしい。
本日二度目となる、独特の気配……

早苗「手厚い歓迎、ってヤツですかね……」

アリス「でしょうね。……居るのは分かってるわ、出てきなさい」

??「ん~、バレたか……」

そう言いながら出てきたのは上半身が普通の人間で、下半身が尾びれになった女の子。
つまり端的に言うと……

186: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:04:22.71 ID:/t7jTfnG0

早苗「リトルマーメ……」

??「ストーップ! それ以上はどっかのネズミが出てくるからアウトーっ!」

言いかけた早苗をすかさず制止する人魚少女、その答えに早苗はある種の確信を持ちつつ言う。

早苗「見事なツッコミありがとうございます。元人間の“魔女”さん」

??「っ!? どうしてその事を……、あっ! まさかシャルロッテが全部吐いた?」

早苗「いえ、私たちが聞いたのは、この異変に幽々子さんが関わっている、と言う一点だけです。
  私が貴女が元人間だと判断した材料は今のツッコミと、貴女たちの魂のオーラ……」

??「オーラ?」

耳慣れない言葉だったのだろう、首をかしげる人魚少女。
良く分かっていない様子だったので、アリスが簡単に解説する。

アリス「人間から妖怪になった(人間やめた)モノ特有の気配よ。 私も同じだからよく分かるわ」

早苗「私も半分人間やめてますからね……」

アリスは種族・魔法使いになった人間、早苗は人間でありながら神の域に入ってしまった現人神。
過程や結果は違えど、根本的には大差がない。

??「幻想郷って思ってた以上にスゴイ所なのね……」

早苗「端的に言えばカオスですから……」

早苗の言葉に人魚少女は「うんうん」と頷きかけ……、はっとしたように二人に向き直る。

??「おっと、感心してる場合じゃなかった。 あたしはオクタヴィア、見ての通り人魚の魔女」

早苗「オクタヴィアさん、ですか……早速ですけど、穏便に済ませません? 私たちは幽々子さんに話があるだけですので……」

187: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:07:38.45 ID:/t7jTfnG0

オクタヴィア「うん、それ無理。 幽々子さんからここから先に通すな、って言われてるしね」

早苗「ですよねー」

にこやかに相槌を打った早苗だが、次の瞬間、声音をぐっと低くして言う。

早苗「そうなると、退治しなくてはなりませんね……悪い“魔女”さんを」

オクタヴィア「た、退治?」

雰囲気を一変させた早苗にオクタヴィアは思わず後ずさる。
一方の早苗は御幣と御札を構え、完全に戦闘モードに移行している。

早苗「忘れたとは言わせませんよ。 貴女たちは里の人たちに呪をかけて事件を起こしまくりましたよね?
  それに、この件ではアリスさんたち“魔法使い”の皆さんが要らぬ疑いをかけられて随分と迷惑を被りました。
  退治されても文句は言えないと思いません? ねぇ、アリスさん」

アリス「そうね、かなり性質が悪いし、一度懲らしめる必要があると私も思うわ」

「だから頑張ってね、巫女さん」と言いつつ後に下がるアリス。
どうやらこの場は早苗に任せることにしたらしい。
対するオクタヴィアは、と言うと、あまりの急展開に一瞬ポカンとした後、すぐに口元を吊り上げた。

オクタヴィア「……面白いじゃない、アンタがあたしを退治する?
       やれるものならやってみなよ! 返り討ちにしてあげるからさ」

早苗「ホント、泣きを見ても知りませんからね!」

オクタヴィア「ソレはこっちの台詞よ! あたしの超絶スペルで悶えなさい!」


                      懊悩 『水車小屋の娘』


スペル発動と同時にオクタヴィアから、青い音符型弾幕が放たれ、二人の周囲に散りばめられる。
直後、12条のレーザーが放射状に放たれたかと思うと、時計回り方向に回転を始め、最初にばら撒いた弾幕をかき混ぜ始める。

188: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:10:52.53 ID:/t7jTfnG0

早苗「水に見立てた青い弾幕を、水車を模した回転レーザーで攪拌ですか……。名は体を表すってヤツですね」

レーザーへの接触を避ける為、オクタヴィアの周りを時計回り方向に周りつつ、早苗が感嘆の声を上げる。
そんな弾幕戦の様子を後から見守りつつ、アリスは一人考える。

アリス(水を模した弾幕が音符なのは、元ネタがオペラ楽曲だから……。狂気の演奏事件の犯人は彼女と見て間違いなさそうね……)

アリス(問題があるとすれば、相手が弾幕として使う『音』の特性……、
    直進性にスピード、波紋、揺らぎ……、弾幕にすると厄介なモノばかり……。
    まぁ、下がると決めた以上、手出しは出来ないし、早苗のお手並み拝見、って所ね)

一面が青に覆われんばかりの中で、それでも目立つ白と蒼の巫女装束少女、
このまま水面に呑まれるか、はたまた切り抜けるか、この時点ではどちらに転んでもおかしくないとアリスは判断していた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

オクタヴィア「う~ん、このスペルはダメだったか……、じゃ、次行ってみようか」

スペルが途絶える間の牽制として、小型の車輪を模した弾幕を放ちつつ、オクタヴィアは二枚目のスペルを取り出す。

オクタヴィア「っと、その前に、奏者使い魔と踊り子使い魔を召喚して……、
      派手な援護射撃、頼んだわよ。 それじゃ、二枚目発動っ!」


                      賞賛 『歌姫へのオベーション』


使い魔の召喚により、音符弾幕が濃度を増す中、三方向から極太のレーザーが射す。
まず、中央に居るオクタヴィアを煌びやかに照らしたかと思うと、
極太のレーザーはてんでバラバラの動きで左右へと動き、今度は早苗を捉えようとする。

早苗「これは……コンサートステージのスポットライト、ですかね? 私から見ると厄介なサーチライト以外の何者でもないんですが……」

オクタヴィアとしては劇場のつもりなのだろうが、早苗の気分はさながら刑務所から脱獄した囚人のソレだ。
角度の都合なのか、レーザーの光量が時折少なくなるので、その隙を見計らって早苗は闇の中へと身を隠す。

189: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:14:17.51 ID:/t7jTfnG0

オクタヴィア「大振りな弾幕じゃこれが限度か……じゃあ、第二形態発動っと……」

早苗「っ!?」

オクタヴィアが指を鳴らすと、スポットライト弾幕は、オクタヴィアを射す初期状態で固定される。
その代わり現れたのは、四方八方からオクタヴィアへと注がれる無数の小レーザー。
右から来たかと思えば、次の瞬間には下から、また次の瞬間には斜め左上から、と目まぐるしく弾幕は姿を変える。
早苗は上下左右、全方向に最大限の注意を払いつつ、自身に向かってくるレーザーを把握し、身体を捻る。

早苗「スポットライトだったり、これだったり、よっぽど注目して欲しいんですね!?
  オクタヴィアさんは元はアイドルか何かだったんですか?」

オクタヴィア「アイドル? あはは、そんなんじゃないよ。 あたしの柄でもないし……。それに……」

言葉を区切ったオクタヴィアはちらりと先ほど召喚した奏者使い魔を見やる。
目線を送られても手にしたヴァイオリンを弾き続ける使い魔を見て、思わず小さなため息が口をついて出る。

その様子に早苗は一瞬眉をしかめたが、使い魔とオクタヴィアを交互に見やって、納得した。
ヴァイオリンを奏でる男性奏者と、その周りで踊る女性、二体の使い魔を見る目線にある感情が見て取れたのだ。

早苗(…………なるほど、そういう事ですか)

顔に出ないよう、口元だけで小さく微笑みつつ、早苗は小声で呟いた。

早苗「色々な意味で私の後輩なんですね、貴女は……。
  あーあ、負けられなくなっちゃったなぁ~。 まぁ、元々負けるつもりなんて無かったんですけど……」



190: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:16:45.78 ID:/t7jTfnG0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

多数の弾幕が早苗に襲い来る。
スペル、礼節『劇場ではお静かに』は、これまでの流れから言うとある種の罠だといえた。

最初、わずかばかりだった自機狙い弾幕は、早苗が移動する度にその数を増し、
今では無数としか言えないほどの数に膨れ上がっていた。

早苗(回転レーザーに、照射レーザーと言った逃げ回るのが必須な大振り技の直後に、
   移動すればするほど数が増えるホーミング弾を持ってくる。 完全にハメられましたね……)

追い詰められてようやくこの弾幕の意図に気が付いたが、今更小降りの回避に切り替えたところで意味はない。
だが、これ以上の大移動は自分の首を絞める事になる。

早苗「だったら……!」

御幣を構え、早苗は素早く五芒星を描く、それは早苗の技の中でも即効性の高い小スペル発動の儀。


                      秘術 『グレイソーマタージ』


発動と同時に生まれた五芒星型の弾幕は回転しながら周囲の弾幕と言う弾幕を打ち消す。
攻撃の為ではなく、防御の為にスペルを発動したのだ。

オクタヴィア「へー、そういう使い方もあるんだ……。
      でもそんな使い方するって事は、かなり切羽詰まってる、って判断してもいいんだよね? 巫女さん」

早苗「ボムの一つや二つでいい気にならないで下さい。
  ドヤ顔するなら私を撃墜さ(ピチュら)せてからにしないと足元掬われますよ」

191: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:19:10.49 ID:/t7jTfnG0

オクタヴィア「ご忠告どーも、ふむ、今のでリセットかかっちゃったし、そろそろ次のスペル行こっか……」


                      泡沫 『人魚姫の願い』


スペル発動と同時に、波打つ青い弾幕が展開され、オクタヴィアの手に剣が生成される。
剣を手にしたオクタヴィアは早苗目掛け、一気に間合いを詰める。

早苗「っ!?」

咄嗟に身を翻した直後、鋭い斬撃が早苗の脇を掠める。
かわされたと分かるや、オクタヴィアはステップを踏んで方向転換、再度躍りかかってくる。
モノはためしと、早苗はお札を放ってみるが、放たれた直後に剣で斬り捨てられる。

オクタヴィア「ほらほらほら、このままじゃ斬られちゃうよ!」

早苗「くぅっ!」

間一髪のところで斬撃を避けながら、早苗は考える。
オクタヴィアの近くに居る限り、絶え間ない斬撃に襲われる。
かといって距離をとろうと思えば、周囲に展開された青弾幕が早苗を飲み込もうとするだろう。

早苗「ならば……」

大振りになった斬撃を回避した直後、早苗は一気に距離をとった。
予想通り雪崩れ込んでくる青弾幕に対し、早苗は御幣を頭上に構える。

オクタヴィア「なに?また防御スペル? 荒れ狂う海原の弾幕にあんなのが通用するなんて……」

早苗「防御? 何を勘違いしてるんです? これは歴とした攻撃スペルです!」


                      開海 『海が割れる日』


早苗がスペルを発動させると同時に、早苗を飲み込もうとしていた弾幕の海原がピタリと制止する。
それどころか、早苗の目の前に道を作るように弾幕が二つに割れ、オクタヴィアの姿を露にする。

192: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:22:19.47 ID:/t7jTfnG0

オクタヴィア「なっ!?」

早苗「貴女が海原を行く人魚姫だと言うのなら、私はその海を割くまでです!」

弾幕を一気に打ち消され、驚愕で隙だらけとなったオクタヴィアに数枚の御札が突き刺さる。
攻撃スペルと名乗るだけの事はあり、これまでの牽制も兼ねたソレに対し、今回の御札は鋭く、重い。

オクタヴィア「っ!? かはっ……!?」

重い一撃をもろに受けた衝撃でオクタヴィアはその場に膝をつく。

早苗「これは……、勝負ありで……」

オクタヴィア「まだよ!」

言いかけた早苗の言葉を悲鳴に近いオクタヴィアの叫びが遮る。
見ると、オクタヴィアは剣を杖代わりにしてよろめきつつも立ち上がる。

オクタヴィア「あたしはまだ……まだやれるわ。 このくらいで敗けにされてたまるもんですか!
      あたしはこれからここで生きる為にも、幽々子さんに報いるためにも、こんなところで負けられないのよ!」

必死の形相で自身に言い聞かせるようにそう言うオクタヴィアに対し、早苗は真剣な眼差しで問い掛ける。

早苗「はぁ……、貴女って人は……、一体どれだけ自分で自分を追い詰めたら気が済むんです?」

193: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:28:00.18 ID:/t7jTfnG0

オクタヴィア「? なに言ってるの? 別にあたしは自分を追い詰めてなんか……」

早苗「いいえ、追い詰めてます。貴女、無理に順応しようとしてますよね?
  ホントは新しい世界への不安とか、外の世界や遺してきた人たちへの想いとか、色々あるのに全部無理に抑え込んで、
  弾幕戦に没入することで考えないようにしている。 違いますか?」

早苗の言葉に、オクタヴィアがびくりと体を震わせる。
思いもしなかった指摘に思わず声も上ずる。

オクタヴィア「さ、さっきから言わせておけば何を……、それにアンタにあたしの何が分かるって言うの!?」

早苗「同じなんですよ……」

オクタヴィア「えっ……」

小さく、それでもはっきりとした声にオクタヴィアは顔を上げる。
困ったような笑顔を浮かべ、早苗は言う。

早苗「……私も貴女たちと同じで外から来たんです。 家族も友達も故郷も、好きだった人でさえ全部、全部向こうに残して……」

オクタヴィア「あ…………」

一旦は頭まで上った血が見る間に下がる。
そして気付く、幻想郷に来てから今日まで鏡に向かう度に見ていたモノと同じ眼差し――何処か憂いと寂しさを帯びたソレを早苗がこちらに向けていることに……。

オクタヴィア「あはは……、なにそれ?
      弾幕戦で主導権握ってアンタを手のひらの上で踊らせていたつもりだったのに、実はアンタは全部お見通しだった、って事?」

早苗「お見通しと言うか、一緒だったんですよ。 幻想郷に来たばかりの頃の私にね……。
  同じ経験をした先輩として、黙って見ていることなんて出来ません」

194: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:30:09.50 ID:/t7jTfnG0

急いで慣れようとして、弾幕戦に没入した辺りもそっくりです。と続ける早苗の言葉にオクタヴィアは頭を押さえる。

オクタヴィア「そこまで見透かされてるのに、気付かないなんてね……。アタシってほんとバカ……」

早苗「安心して下さい。幻想郷(ここ)に来てバカやったのは私も一緒でしたから……」

そしてコテンパンにされたんですけどね。と付け足すと、オクタヴィアから苦笑いが漏れる。

オクタヴィア「おーい、慰めにならないって、そんな話……。 でもそれなら……」

オクタヴィア「尚更あたしは敗けるわけには行かないね……。 “先輩”とは違うってこと、ハッキリさせないと……」

剣を構えつつ、オクタヴィアが言う。
その瞳に、先刻までの憂いや気負いは一切ない。純粋な闘志だけがそこにあった。
その様子を見て、早苗も小さく笑みをもらす。

早苗「いいえ、このまま敗けてもらいます。 じゃないと私の立場がなくなってしまいますから……」

言いつつ、早苗も再度御幣を構える。
それは一度は決着宣言が出されかけた決闘を続行すると言う意思表示。

オクタヴィア「いくよ」

早苗「ええ、いつでも……」


オク&早苗「「勝負っ!」」


                      聖歌 『アヴェ・マリア』
                       秘法 『九字刺し』



195: ステージ6 亡き少女の為の独奏曲 2011/10/29(土) 23:32:29.19 ID:/t7jTfnG0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アリス「…………で? 大見得切った結果が、両者相討ち、って訳?」

二人仲良く地面に倒れている早苗とオクタヴィアを見下ろしながら、呆れ顔のアリスが言った。
気絶しているオクタヴィアの脇で寝転がったまま、早苗は頬を膨らませる。

早苗「失礼な、決して相討ちなどではないです。
  私が倒れたのはオクタヴィアさんが気を失った後ですし、ちょっと力を使い過ぎただけです」

アリス「事実上の相討ちじゃない。そんな状態で白玉楼まで行くつもり?」

早苗「行くだけなら行けますよ…………ウソです。ごめんなさい」

冗談めかして一旦はそう答えた早苗だが、アリスに思いっきり睨まれ、すぐに引っ込める。
アリスは暫らくそのまま早苗を睨んでいたが、やがて盛大なため息をついた。

アリス「30分だけ待ってあげる。その間にどうにか回復しなさい。 まぁ、そんなに待ってたら、全部終わってるでしょうけど……」

早苗「すいません、私が足を引っ張ったばっかりに……」

二人には共通の予感があった。
そしてその予感はほぼ間違いなく現実のものになるだろうと、二人は思っていた。

川岸に寝転がり、空を見上げつつ、早苗はアリスに問う。

早苗「アリスさん……」

アリス「なに? 早苗……」

早苗「私、きちんと“先輩”出来てましたか? 大事な事、ちゃんと伝えられてましたか?」

『何の』とも、『何を』とも早苗は言わない。
言わないが、何を言わんとしているか、アリスには良く分かった。

アリス「そうね。十分やれてたんじゃないかしら……。まぁ、霊夢にはだいぶ劣るけどね」

早苗「あはは……、手厳しいですね……」

苦笑しつつそう漏らすと、早苗はそれきり黙りこむ。
アリスは三途の川の行く先――冥界の方に目線を送りつつ、小声で呟いた。

アリス「最初はどうかと思ったけど、“魔女”も中々どうして、ちゃんとやっていけそうな相手よ。 だから……」


アリス「きっちり決着をつけて来なさい。 霊夢……、魔理沙……」



203: ステージ7 黒影審判 ~黒き影弄びし少女~ 2011/10/30(日) 16:57:16.19 ID:4cydie/X0
――――――――― 【白黒魔法使いと紅白巫女】 @ 冥界 ―――――――――――

魔理沙「おい霊夢、なんで冥界なんかに向かってるんだ?」

白玉楼へと続く長い階段を上りながら、魔理沙は霊夢に尋ねた。
ゲルトルートを幽香に預け(ついでに処遇も任せた)、魔理沙の地図などで改めて事件を精査した後、
霊夢はなぜか急に冥界行きを主張しだしたのだ。何故その決断に至ったのか、魔理沙は気になっていた。

霊夢「端的に言えば勘よ。いくつか根拠もあるけどね……」

魔理沙「ほう?どんなだ?」

霊夢「今回の事件は幻想郷の各地で起きてるわ。
   紅魔館や迷いの竹林みたいに滅多に里の人が行かないような場所でもね……
   でもある方角だけ、事件とは無縁の場所があったのよ」

霊夢の言葉に自身で作成した地図を思い返す。
幻想郷の各地に×印が書き込まれた地図の中で、印がまったく入らなかった場所は……

魔理沙「中有の道に三途の川、再思の道、無縁塚……、なるほど、冥界方面か……」

霊夢「そうよ。それでピンと来たの。 アイツらの根拠地若しくは匿っている人物が冥界に居るんじゃないか、って……」

自分の家の前で事件を起こすヤツなんて普通いないでしょ?と続ける霊夢に魔理沙は頷く。

魔理沙「確かに。 自宅の前で盗みなんか働いた日には即バレるだろうな」

霊夢「そして、冥界が怪しいとなると、いかにもこういう事が好きそうな人物が一人居るのよ」

魔理沙「西行寺幽々子、白玉楼の主か……」

魔理沙が言うと、霊夢は無言で頷く。

魔理沙「しかし、幽々子が犯人ならそろそろ妖夢のヤツが出てきても良い気がするんだが……」

階段は既に7割近く上ってきている。
仮にも異変を起こした張本人であるなら、白玉楼の防衛を疎かにするとは思えない。

204: ステージ7 黒影審判 ~黒き影弄びし少女~ 2011/10/30(日) 17:00:38.42 ID:4cydie/X0

霊夢「多分、妖夢は出てこないわ。
   幽々子は間違いなく関わっているでしょうけど、今回の異変は対外的にはあくまで“魔女”が主体となって行っている事にしたい筈よ。
   白玉楼として表立った動きは見せないと思うわ」

魔理沙「あくまで“魔女”任せ、って事か……。 霊夢、お前の考えはどうやら正解らしいぜ」

??「……気付かれましたか」

階段の脇に並んだ燈篭の陰から、修道服を纏った少女が顔を出す。

??「私は影の魔女、エルザマリア……。 時にお二方は救いを求めてはいませんか?」

霊夢「アンタの言う救いがなんなのかは知らないけど、この異変を終わらせる手伝いなら今すぐ欲しいわ」

「夕飯までには全部片付けときたいのよねぇ……」と面倒くさそうにぼやく霊夢に対し、胸の前で両手を組みながらエルザマリアが言う。

エルザマリア「ならば私と共に祈りましょう、そして救済が訪れるのを待つのです」

魔理沙「あいにくだが、待つのは私の性分じゃねーんだ。 他のヤツを誘いな」

霊夢「天は自らを助くる者を助く、救済は待つものじゃなくて掴む物よ。
   それにお祈りをするなら賽銭奮発して10秒祈ったほうがよっぽど御利益があるわ」

御札を構え、臨戦態勢をとりつつ、霊夢は魔理沙に目配せをする。
霊夢の意図を察し、魔理沙は小さく笑いつつ一歩下がる。

魔理沙「賽銭の強要もそこそこにしとけよ? 相手は新参なんだからな」

霊夢「失礼ね。一度たりとも強要なんかしてないわ。 あくまで相手の自由意志を尊重してるわよ」

魔理沙「そう仕向けてるだけだろ」

エルザマリア「そろそろよろしいでしょうか?」

軽い調子でやり取りを交わす二人に、若干困惑気味のエルザマリアが尋ねる。
小さい咳払いと共に、霊夢はエルザマリアに向き直る。

205: ステージ7 黒影審判 ~黒き影弄びし少女~ 2011/10/30(日) 17:03:51.41 ID:4cydie/X0

霊夢「いつでも良いわ、というかさっさと終わらせたいから早くやっちゃってくれない?」

エルザマリア「そんなに早く終わりにしたいのですか? なら、私の影の世界に入ってしまえば楽ですよ?」


                      影符 『魔造の太陽』


エルザマリアは霊夢たちに背を向けると、燈篭の一つに祈りを捧げるように膝立ちになる。
燈篭に灯っていた僅かな灯が目を焼かんばかりのモノに変わり、3人の影をハッキリと浮かび上がらせる。

霊夢「ちょっと、明るくなっただけで弾幕じゃないじゃない。何考えてるのよ」

エルザマリア「慌てないで下さい、これは言うなれば準備です。それでは、行きますよ?」


                      引込 『影法師の反逆』


エルザマリアが言うと、燈篭からの光が霊夢を殊更強烈に照らす。
霊夢の背後に濃い影が生まれ、その影から無数の弾幕が放たれる。

霊夢「っ!?」

背後から飛んできた弾幕に、驚きつつも霊夢の身体は回避に動いていた。

エルザマリア「どうですか? 自分自身の影に攻撃される気分と言うのは」

霊夢「背後から撃たれて気分が良い訳ないでしょ!」

怒鳴りつつ、霊夢は小刻みに移動する。
弾幕は放たれた時点で霊夢がいた場所を狙う、自機狙い弾なので、上手く動けば当たることはない。
ただし、放たれる間隔が短いので考えて移動しないと、すぐに階段の端に追い詰められてしまうだろう。

206: ステージ7 黒影審判 ~黒き影弄びし少女~ 2011/10/30(日) 17:08:08.78 ID:4cydie/X0

魔理沙(まぁ、霊夢ならその心配は無いけどな……)

その点、霊夢の機動は最適と言えた。
同じ方向に移動するのではなく、隙を見計らって移動方向を切り替えることで上手く左右へと誘導している。

エルザマリア「まったく危なげない回避……。 流石、と言っておきましょうか。
       ですが、後ばかり気にしていてはダメですよ?」


                      使役 『彷徨える黒影』


3枚目のスペルが発動し、エルザマリアの周囲に影の使い魔が多数出現する。
使い魔は四方八方に散ると、霊夢を取り囲むように周囲に展開し、弾幕を放ってくる。
更にそれだけではなく、霊夢の影から放たれる弾幕も継続したままだ。

霊夢「ちょっとアンタ! スペル2つを多重発動とか何考えてるのよ!」

思わず声を上げる霊夢に対し、エルザマリアは澄ました声で答える。

エルザマリア「多重発動ではなく上位互換です。
       先ほどのスペルは貴女の影を操るスペル、このスペルはこの場に存在する影全てを操るスペル、まったくの別物です」

霊夢「~~~~っ!! 今に見てなさい、この御礼はきっちり返させてもらうわよ!」

魔理沙「霊夢、それは悪役の台詞だぜ!」

地団駄を踏みつつ捨て台詞をもらす霊夢に、魔理沙はツッコミとも茶化しとも取れる言葉を放つ。
霊夢は魔理沙をキッと睨みつけたが、すぐに弾幕が殺到してきたので次の瞬間には視線を戻した。

霊夢「使い魔ってことはあの影も妖怪なんでしょ? それなら……」


                      夢符 『二重結界』


霊夢のボム発動と同時に二重の陣が霊夢の周囲に展開される。
展開しきると同時に陣は強力な結界となり、使い魔たちを弾き飛ばした。
結界の展開で外側まで弾かれた影に対し、追い討ちと言わんばかりに御札による追撃がかかる。
もろに御札の直撃を食らった影はその場で瞬時にして消滅する。

207: ステージ7 黒影審判 ~黒き影弄びし少女~ 2011/10/30(日) 17:11:07.82 ID:4cydie/X0

霊夢「ひいふうみぃ…………、八体はやったわね」

なんとか二重結界の内側に残る事が出来た一部の影が弾幕を撃ち続けているが、その濃度はぐっと薄くなっている。
霊夢の弾幕に封魔属性が含まれているのを見て、エルザマリアは思案する。

エルザマリア「使い魔では貴女に対しては分が悪いようですね。作戦変更が必要かしら?」

霊夢「必要だと思うわ。 他力本願な相手に負けるほど私は甘くないもの」

エルザマリア「ご忠告ありがとう、それでは私自らが相手になることにするわ」


                      侵蝕 『影蝋』


燈篭の光が今度はエルザマリアを照らし、その背後に黒々とした巨大な影を作り出す。

同時にエルザマリアから放たれた弾幕は、黒色のソレ。つまり……

魔理沙「影の中に入ったら弾が見えない、ってか、厄介な事してくれるぜ」

背後で弾幕戦を見守っていた魔理沙が呟く。
相手にならなくて良かった、と言う風だ。

霊夢「そう? 簡単な話じゃない、アイツの影に入らなければ良いのよ」

魔理沙「そうは言うがな、アイツの影の向きがしょっちゅう変わるから、意外と厄介だぜ?」

そう、燃え上がる燈篭がランダムで変わるので、影のできる向きもまた変わるのだ。
右前方の燈篭が燃えれば影は左後方に広がり、逆に左前方の燈篭ならば右後方、といった具合だ。

霊夢「燈が強くなってから、影が濃くなるまで若干だけど時間があるわ、その隙に移動するのよ」

エルザマリア「なかなか良い慧眼をお持ちですね。ではこれならどうでしょう?」

エルザマリアの言葉と共に弾幕が途絶える。
何をする気か訝しがる霊夢の前で、次の瞬間、燃え盛る燈篭がそれまでの1つから3つに増える。
光源が3つに増えた事により、影の出来る向きも3方向となり、霊夢の周囲の殆どが影に覆われてしまう。

208: ステージ7 黒影審判 ~黒き影弄びし少女~ 2011/10/30(日) 17:13:37.87 ID:4cydie/X0

エルザマリア「これで明るい所は殆どありません。 さてどうなさりますの? 紅白の巫女さん」

霊夢「………………」

お手並み拝見と言わんばかりのエルザマリアに対し、霊夢がとった行動は静かに目を瞑る事だった。
その様子を見ていた魔理沙が思わず声をあげる。

魔理沙「おいおい、何考えてるんだよ霊夢! 弾幕が来るぞ!」

魔理沙の忠告を受けても尚、霊夢は目を開かない。
影の濃さが増し、エルザマリアが再度弾幕を放った瞬間になってようやく霊夢は目を開く。

魔理沙「霊夢のヤツ、一体何がしたかったんだ…………ん?」

不可解な行動に、眉を寄せていた魔理沙は、霊夢が影の中を移動しつつそれでも被弾を許していない事に気が付いた。
黒い影の中で、その影に紛れてしまうような黒い弾幕に襲われているのに、である。

魔理沙「どうなってるんだ? ……まさか!?」

目を凝らして、影の中を見た魔理沙は、ある事実に気が付いた。
影の黒と、弾幕の黒、どちらも同じ黒なのだが、微妙に色や濃さが違ったのである。
影の黒が灰をぐっと濃くしたような黒なら、弾幕の色は群青を濃くしたような青味がかった黒なのだ。

魔理沙「良くあんなのが見分けられたな、あんなの目を慣らさなきゃ分からんぞ…………ああ、そういう事か」

呟いて、魔理沙ははっと気付く。
霊夢が何故目を瞑ったのか、それは同じような黒の見分けを付けやすくする為だ。
自ら一時的に一切の光を遮る事で、闇に目を慣らし、弾幕の襲来に備えたのだ。

霊夢は最初の段階で、影と弾幕の黒が微妙に違う色であることに気が付いていたのだろう。
仮に影に入ってしまっても、すぐに対応出来るよう、『目を慣らす』という対抗策を考え付いていたに違いない。

エルザマリア「本当に鋭い方ですね。 仕方ありません、次に参りましょう」

悔しがるどころか感心するような声をあげつつ、エルザマリアは次のスペルを発動させた。



209: ステージ7 黒影審判 ~黒き影弄びし少女~ 2011/10/30(日) 17:16:03.44 ID:4cydie/X0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――


                      連想 『影の中の宇宙』


エルザマリアの影に自身の影、影の結界に影の使い魔、霊夢の周囲はありとあらゆる影に覆われていた。
光の弾幕が描く軌跡にあわせて、新たな影が生まれ、その影が敵となり霊夢の前に立ちはだかる。

そんな中、神業的な身のこなしでそれらを回避しつつ、霊夢はエルザマリア目掛け御札を放つ。が……

エルザマリア「無駄ですよ、巫女さん」

放たれた御札はエルザマリアを庇うように現れた影によって遮られる。
直撃を受けた影は消えたが、エルザマリアには傷一つつけるに至らない。

霊夢「くっ……」

エルザマリア「いい加減諦めたら如何です? 貴女の周囲は最早影ばかり、影を操る私の世界に取り込まれてしまったと言っても良いのです
       そのまま影に飲まれてしまえば今すぐ楽になれますよ」

霊夢「そんな偽りの救済はいらないわ、それが救いなのかどうか決めるのは私よ」

霊夢(とは言え、これ以上はそろそろヤバいわね……)

霊夢は全方向に注意を払いつつ、辺りを見回した。
周囲はエルザマリアの言うとおり影だらけで、襲い来る弾幕はなおその数を増やしている。
こちらから攻撃を放っても、撃った攻撃により作られる影が、エルザマリアの盾となり、通じない。
何をやっても相手の戦力を増すばかりで、泥沼とはまさにこの事かと思えるほどだ。

そんな中で明るいモノがあるとすれば、互いの弾幕と、エルザマリアが祈りを捧げる燈篭ぐらいだ。

霊夢「……!」

その事に気が付いたのはまさにその時だった。
気付いた瞬間、霊夢は苦笑する。
それはこの布陣に絶対的自信を持っているエルザマリアへの嘲笑であり、自嘲でもあった。
絶対不利と思われたこの形勢を一発でひっくり返す、単純な一手。

霊夢「あー、何で今まで気付かなかったのかしら……こうすれば最初から一発だったじゃない……」

210: ステージ7 黒影審判 ~黒き影弄びし少女~ 2011/10/30(日) 17:18:53.61 ID:4cydie/X0

エルザマリア「? なにをなさるつもりです?」

霊夢「こうするのよ!」


                      霊符 『夢想封印 散』


七色の光弾と紅く燃える御札を現出させ、四方八方へとばら撒く霊夢。

エルザマリア「無駄です! 私に向かう攻撃は全て影が……」

霊夢「誰がアンタを狙うって言った?」

エルザマリア「なっ!?」

放たれた光弾と御札はエルザマリアではなく、その背後や周囲で燃える燈篭を直撃、その全てをなぎ倒す。
灯りと言う灯りが全て吹き消され、エルザマリアから伸びていた“影”も、弾幕が作り出す“影”も全てがふっと姿を消す。
光と共に影が全て消え、辺りは影より濃い“闇”に包まれる。

霊夢「“影”があるのはソレを照らす“光”があるからこそ、“闇”の中では影の作りようがないのよ。
   アンタが操っていた影は全部闇に消えたわ。 今のアンタには使い魔も盾もない」

エルザマリア「なっ!? なんと言うことを……でもこうなってしまえば貴女たちもなにも見えな……」

霊夢「あら、アンタが祈ってばっかで同じ場所から動いてないのは分かってるのよ。それに……」

口元に笑みを浮かべつつ霊夢が放った次の言葉に、エルザマリアは冷水をかけられたように戦慄した。


       『光の方ばっか向いてずっと祈ってたアンタの方が、何も見えないんじゃないの?』


灯りを消され、ただでさえ暗くなった世界で、エルザマリアの視界は完全な闇に覆われていた。
目を瞑っていても目を焼く様な明るさの燈を前にしていたのだ。一転して闇に包まれた世界にその目は順応する事ができない。

霊夢「他人は影に取り込む癖に自分は常に光の方を向いてるとか、アンタ、自己矛盾の極みなのよ。
   真の救済を望むのなら、アンタ自身がしっかり影の中も見て、陰陽あわせて見通してからにしなさい」


                      宝具 『陰陽鬼神玉』



211: ステージ7 黒影審判 ~黒き影弄びし少女~ 2011/10/30(日) 17:21:57.88 ID:4cydie/X0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

魔理沙「夢想封印じゃなくて陰陽玉で殴ってケリとか随分とケチなシメ方だったな」

大量の陰陽玉に埋もれるように倒れているエルザマリアに合掌しつつ、魔理沙はケラケラと笑う。
エルザマリアの頭には陰陽玉の直撃により出来た見事なたんこぶ。
霊夢の反撃で一瞬とは言え恐慌状態となり、隙だらけになったエルザマリアにこれでもかと言わんばかりに陰陽玉をぶつけまくったのだ。
おそらく暫らくは起きないだろう。

霊夢「仕方ないでしょ、夢想封印の光で影が出来たら意味ないし、勝てばいいのよ、勝てば……」

魔理沙「やっぱりそれは悪役の台詞だぜ」

そう言いつつ、霊夢と魔理沙は何事もなかったかのように階段の次の段に足をかける。 と、その時――、


           「あらあら、倒した相手をそのまま放置なんて、随分と酷い事をするのね……」


霊&魔「「っ!?」」

聞きなれた声に見上げれば、階段の最上段に蒼い衣と特徴的な帽子を纏った亡霊――西行寺幽々子の姿があった。
ミニ八卦炉に手をかけつつ、魔理沙が尋ねる。

魔理沙「おいおい、異変の張本人自らがお出迎えとは今回は随分と潔いじゃねーか」

幽々子「残念だけど今回の件での私は単なる脇役なの。貴女たちの相手は別よ」

私は案内役兼観客その1よ、などと言ってのける幽々子に霊夢は胡散臭そうなものを見る目を向ける。
冥界に行こうと思ったら迎撃受けたのだ、今の状況で幽々子の言葉を鵜呑みにすることは出来ない。

霊夢「とか何とか言って、焚きつけたのはアンタでしょ? 外から来たばかりの連中に計画できる事件じゃないわ」

幽々子「あらあら、右も左も分からない新しい人たちが来たのよ。 幻想郷各地への挨拶回りを勧めて何が悪いのかしら?」

212: ステージ7 黒影審判 ~黒き影弄びし少女~ 2011/10/30(日) 17:23:24.32 ID:4cydie/X0

魔理沙「そりゃまた随分とはた迷惑な挨拶を仕込んでくれたな……。
    お陰で私ら魔法使いがどれだけ変な疑いをかけられたことやら……」

げんなりしながら魔理沙が言うと、幽々子は思い出したと言わんばかりに手を軽く叩く。

幽々子「そうそう、その件に関して、挨拶ついでに話があるらしいのよ。 二人とも、ついて来てくれないかしら?」

魔理沙「…………おい霊夢、どうする?」

霊夢「怪しいって言えば怪しいんだけど……、その割りに幽々子にやる気がまったく感じられないのよね……
   っていうかアンタたち魔法使いの問題なんだから私に聞かないで自分で決めなさいよ」

ぶっ飛ばすんじゃなかったの? との霊夢の言葉に魔理沙は帽子を目深に被る。
正直、今日一日幻想郷を回って、“魔女”と実際にやり合ってみて、“魔女”に対する『怒り』に似たような気持ちはだいぶ治まってきている。
弾幕戦で気が晴れたという事もあるが、基本的に悪いヤツじゃないというのもやり合って分かったし、幽々子がそそのかしたと言う事情も知ってしまった。
大人にそそのかされて悪戯を働いた子供に怒りをそのままぶつけるほど、魔理沙も子供ではない。

つまり、今朝までの魔理沙を突き動かしていた動機は殆ど霧散してしまっているのだが……

魔理沙「~~~っ! ああ、もうっ! 一度買った喧嘩だ! 最後まで付き合ってやるよ!」

幽々子「なら、行きましょう。 あの子は白玉楼で待ってるわ」



213: 2011/10/30(日) 17:24:36.13 ID:4cydie/X0
対エルザマリア戦投下終了、このままクリームヒルト戦になだれ込みます。
後書きや解説はその後で

214: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 17:28:49.00 ID:4cydie/X0
――――――――― 【救済の魔女・クリームヒルト】 @ 白玉楼の庭 ―――――――――――

幽々子「連れてきたわよ。クリームヒルトちゃん」

クリームヒルト「あっ、ありがとうございます。幽々子さん」

幽々子さんの声に私は振り返る。
幽々子さんの後ろから続けて入って来たのは、紅白の巫女さんと、白黒の服と箒を持ったいかにもな魔法使いスタイルの女の子。

クリームヒルト「二人だけ……ですか?」

幽々子「ええ、ここまで来れたのは博麗の巫女たちだけよ」

クリームヒルト「博麗の巫女……、じゃあこの人が?」

霊夢「ええ、私が結界の管理と幻想郷の秩序を保っている素敵な巫女、博麗霊夢よ。 ……アンタが“魔女”の元締めね?」

クリームヒルト「一応そうなるのかな……。私はクリームヒルト・グレートヒェン、救済の魔女です」

自己紹介をしつつ頭を下げると、魔法使いの使いの女の子が感心したと言うように笑ってみせる。

魔理沙「こりゃまたご丁寧な挨拶だな。霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ」

霊夢「で、早速聞きたいんだけど、こんな丁寧な挨拶が出来る貴女がなぜあんな事件を計画したの?
   愉快犯や単なる悪戯心ではないんでしょ?」

クリームヒルト「勘が鋭い、って聞いてたけどホントだね……。
        私たちは一週間くらい前に幻想郷に来たの。
        外の世界で消滅する筈だったんだけど、たまたまこの近くにみんな一緒に流れ着いて……、
        そんな私たちを最初に見つけて介抱してくれたのが幽々子さんだったんだ」

私は落し物を拾って持ち帰っただけよ~と幽々子さんは軽い調子で言う。

クリームヒルト「私たちは幽々子さんから幻想郷について教えてもらって、ここで暮らしていく事に決めたの……。
        外にはもう私たちの居場所はないから……」

外の世界は他ならぬ平行世界の私の願いにより“魔女”が存在できない世界になってしまった。
奇跡的に流れ着いた幻想郷で生きるか、完全消滅か――結果、私たちが選んだのは“生きる”と言う選択だった。

私だって、出来る事なら消えたくは無い。そして消えずに居る方法が幻想郷(ここ)にあると言うなら、それにすがるしか方法がなかった。

215: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 17:33:24.75 ID:4cydie/X0

クリームヒルト「私たちはみんなで相談して、“魔女”と言う妖怪として幻想郷に加わるつもりだったんだけど、
        幽々子さんから幻想郷で “魔女” と言ったら魔法使いの女の人を意味する言葉だ、って聞いたの」

霊夢「なんとなく見えてきたわ……。
   要するにアンタたちは “魔法使い” とは違う “魔女” と言う新しい存在――概念と言っても良いわね――を、
   幻想郷に広めようと、そう思ったわけね?」

霊夢さんの言葉に私は頷く。
物分りの良い人だと、中継を見ていたときも思ったけど、こうして実際に話しているとホントに助かる。

クリームヒルト「そう、その他にも幽々子さんからスペルカードルールや貴女たち博麗の巫女についても教えてもらったの。
        私たち“魔女”の存在と、スペルカード、そして幻想郷の秩序を守る巫女、
        この三つを使えば簡単に、それでいて平和的に問題解決が出来るんじゃないか? って……」

霊夢「“魔女”が事件を起こして幻想郷で噂になって、その事件を調査に出た私たちに“魔女”がどういった存在かを見せ付けて、
   最終的に“幻想郷における規律”である私たち退治してもらう、って算段かしら?
   確かに、これなら悪さをしても表向きは退治されて改心しました。って事に出来るわね……」

それに以前、幻想郷に外の世界から神さまが来た時も同じような事があったと幽々子さんから聞いていた。
その事も理由として挙げると、霊夢さんと魔理沙さんは一様に呆れた表情を浮かべた。
「また守矢か……」とか言ってた気がするけど、この話はタブーだったのかな?

クリームヒルト「結果的に“魔法使い”の皆さんには迷惑をかけちゃったんだけど……。
        他に良い手段が思いつかなかったんです。 ごめんなさい!」

そう言いながら私は頭を深々と下げた。
それを見て魔理沙さんと霊夢さんは顔を見合わせ、肩をすくめる。
まさか、謝罪されるとは思ってなかったらしい。

霊夢「それにしても最終的に退治されるなんて話によく“魔女”全員が納得したわね」

クリームヒルト「もちろんみんなには退治されちゃうことはナイショにしたよ」

霊夢「あー、いい子ちゃんかと思ったけど、アンタも十分“魔女”だわ」

私が軽く笑いつつそう答えると、呆れというか白けた視線を向けられた。
多分、相当意地の悪い笑みを浮かべてしまったのだと思う。

216: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 17:36:21.80 ID:4cydie/X0

霊夢「で? 仮に誰もここまでたどり着けなかったり、貴女が私たちを倒してしまった場合はどうするつもりだったの?」

クリームヒルト「ん~、そうしたら、巫女さんすら退けた悪の魔女軍団の大ボスとして君臨……とかダメかな?」

そこまで想定していなかったので適当にそう答える。
幽々子さんの話を聞く限り、誰かしらが来てくれる確信があったので、考えていなかったのだけど……。
それはそれで意外と……って、ダメに決まってるよね?

そんな事を考えていると霊夢さんが殊更大きなため息をつく。

霊夢「事情は分かったけど、理解はし難いわね。 結局貴女は一度は痛い目を見るんじゃない……」

クリームヒルト「ティヒヒヒ……こう見えて私、救済の魔女だから……」

みんなが困ってるのを見ると救いたくなってしまう。例えどんな手段を使ってでも……

クリームヒルト「だから、この場で私と戦って、お願いします!」

霊夢「……そんな話を聞いたら断れる訳ないでしょ」

魔理沙「分かってるとは思うが、手抜きはいっさいナシだぜ」

声には呆れが混じっていたけど、二人の顔は本気でやり合っていた時のソレと同じだった。
だから、私も答える。ここで私が手を抜いたら霊夢さんたちにも、本気で戦いに挑んでいったみんなにも失礼だしね。

クリームヒルト「うん、それは当然だよ」

幽々子「話はついたようね。それじゃあ私は妖夢と茶菓子でもつまみながら観ててあげるから、三人とも派手にお願いね」

子供の遊びを見守るお姉さんのような微笑を浮かべつつ、幽々子さんが後ろに下がる。
途中でチラッと振り返った幽々子さんは、私を見てニコリと笑う。
その瞳は私に「頑張って」と言っているように見えて、私は小さく笑って答える。

魔理沙「さて、私らの準備はいいぜ、いつでも来な」

霊夢「アンタの目論見通り、“魔女”については良く分かったわ、今度はアンタについて教えてもらうわよ」

クリームヒルト「うん、いいよ。 私、クリームヒルトの……ううん、“鹿目まどか”の全てを魅せてあげる!」

217: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 17:40:10.74 ID:4cydie/X0

私は最初と決めていた黄色いカードを手に取る。
最初に語るのは全ての始まりとなったあの日、“魔法少女”と“魔女”と言う非日常の世界に足を踏み入れたあの日の出逢い。
しっかりしてるけど、内に秘めた弱さを見せまいと振舞っていた優しい先輩――マミさんのお話。


                      憧憬 『ティロ・フィナーレ』


発動と同時に自在に舞う黄色いレーザーが現れる。 それはマミさんの華麗なリボン捌きの化身。
一拍の間をおいて、私の周囲に無数のマスケット銃が出現。 それはマミさんが愛用したこだわりともいえる武器。
マミさんがかつて見せた、舞踏のような身のこなしを思い出しつつ、私もまた舞う。

クリームヒルト「いくよっ! ファイアっ!」

黄色のレーザーが霊夢さんたちを絡め取ろうと四方から襲い掛かり、マスケット銃が光る弾を放つ。
単装式のマスケット銃は弾を撃ったモノから光の粒子となって消え、光の粒子はまた新たなマスケット銃となる。
レーザーと弾幕をほぼ同時に受けることになった霊夢さんたちは、それでも落ち着いた様子で動き始めていた。

霊夢「舞うように戦っている様が見える弾幕ね。 アンタ良い先輩もったじゃない……」

クリームヒルト「どうしてそれを!?」

針と御札で弾幕を迎撃し、レーザーを右へ左へとかわす霊夢さんがもらしたつぶやきに私は驚く。
「マミさんのこと、二人には話していないのに……」と思っていると、それが伝わったのか、魔理沙さんが言う。

魔理沙「こういうことをやってるとな、不思議と伝わってくるもんなんだぜ。
    私個人の意見を言わせて貰うと、魂が宿るんだろうな……、文字通り精魂込めるってヤツさ」

魔理沙「さぁ、このスペルの真髄を見せてみな。その先輩の本気はこんな程度じゃないんだろう?」

そう言いつつ、魔理沙さんは不敵に笑ってみせる。
魔理沙さんに分かったと言う事は、霊夢さんも勘付いているのだろう、こうなっては隠す必要は無い。

クリームヒルト「それじゃ、遠慮なくいくよ!」

レーザーとマスケット銃による弾幕を続けたまま、私は手元に魔力を集中させる。
現れたのは、今までのものとは比べ物にならないほど巨大なマスケット銃。
最早大砲と言っても過言ではないそれに、魔力を注ぎ込んでいく。

218: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 17:42:24.79 ID:4cydie/X0

魔理沙「いいねぇ、そういうパワー一辺倒の弾幕は大好きだ! 霊夢っ!」

霊夢「分かってるわよ、手出ししないから好きになさい」

霊夢さんがやや後方へと下がっていき、前に出た魔理沙さんがミニ八卦炉を構える。
魔理沙さんの掲げたミニ八卦炉に魔力が集まっていくのを感じつつ、私も巨大マスケットに魔力を注ぎ続ける。そして――、

クリームヒルト「いくよ! これがマミさんの、私の憧れた先輩の必殺技!」


                     ――  ティロ・フィナーレ ――


魔理沙「一度一緒にその先輩と飲んでみたいもんだ。すぐに意気投合出来る気がするぜ!」


                      恋符 『マスタースパーク』


私の手元の巨大マスケットからは一際大きい黄色の極太レーザーが、魔理沙さんのミニ八卦炉からは虹色の光の奔流が放たれ、互いに激突する。
激突した瞬間、その場で巨大な爆発が起こり、物凄い爆風と噴煙を巻き起こす。

風と煙が消えたとき、その場には私の『ティロ・フィナーレ』も、魔理沙さんの『マスタースパーク』も残滓すら残さずに消えていた。

クリームヒルト(マミさん……)

消えてしまったスペルに、一抹の寂しさを覚えていると、魔理沙さんの悔しげな声が聞こえてきた。

魔理沙「スペルブレイク、引き分けか……」

クリームヒルト「……そうみたいだね。 なら今度はコレだよ!」

気を取り直し、自分自身を鼓舞しつつ、次に取り出したのは蒼いカード。
私の昔からの友達で、非日常に足を踏み入れたのも、魔女として生まれ変わったのも、スペルカードルールに慣れるのも私より少し早かった、
それでもいつも一緒に居てくれた親友――さやかちゃんのお話。


                       真友 『ブルー・フェンサー』


現れたのは蒼きサーベル。
魔法少女となったさやかちゃんが魔女との戦いで常に携え、斬り込み、切り抜けていった苦楽をともにした武器。

219: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 17:46:32.32 ID:4cydie/X0

私はサーベルを手に取り、目を瞑る。
心を沈め、風の音さえ耳に入らないほど精神を研ぎ澄ます。

クリームヒルト「――――っ! そこっ!」

まずは一閃。
剣の太刀筋にそって青い光の刃が生まれ、霊夢さんたち目がけ飛び出していく。狙うは霊夢さんの進むその先!

霊夢「未来位置を狙うとはいい勘してるわね! でも、まだまだ甘いっ!」

光の刃を寸での所で、それでもまったく動じた様子もなく回避する霊夢さん。
こうなってしまえば、狙いを澄ました一撃は望めない。

私は剣を構えると光の刃と剣による斬撃、双方を織り交ぜながら二人に肉薄する。

霊夢「剣術使いってそういう攻撃がなぜか好きよね。 その友達、妖夢辺りと相性ばっちりだったんじゃない?」

クリームヒルト「はい、毎日弾幕の練習だ、って言いながらやり合ってましたよ!」

魔理沙「妖夢と気が合うんじゃ真面目が過ぎて気苦労が多そうだな。 肩の力を抜けって今度アドバイスしてやれよ」

クリームヒルト「はい、そうします!」

外野から妖夢さんの「どういう意味ですか二人とも!」と言う声と幽々子さんの「まぁまぁ、落ち着いて」と言う声が聞こえてくる。
妖夢さんにとっての一番の気苦労は幽々子さんだと思ったけど、あまり深く考えない事にする。

霊夢「ふーん、アンタのこの友達、早苗と引き分けたんだ」

弾幕を通じて、“魔女”オクタヴィアとして幻想郷に来た後のさやかちゃんの事が伝わったのだろう、霊夢さんが感心するようにつぶやく。

霊夢「そっかそっか、最近調子に乗ってきた早苗がねぇ……これはいい話の種を見せてもらったわ」

一瞬ニヤリと笑った霊夢さんだが、すぐに表情を引き締める。

霊夢「でも早苗がやられたんなら油断ならないわね。早めに決めさせてもらうわよ!」

クリームヒルト「早苗さんって人のこと、随分と買ってるんですね」

霊夢「当たり前よ。 私は、認めた相手か客人にしかお茶を出さない主義なの」

220: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 17:48:54.14 ID:4cydie/X0

クリームヒルト「なら私は?」

霊夢「……今後の結果次第ね」

霊夢さんはそう言って不敵な笑みを浮かべ、その場から姿を消した。

クリームヒルト「っ!? 一体何処に……」

霊夢「ここよ!」

背後から霊夢さんの声が聞こえ、私は振り返る。 が、それより早く霊夢さんの蹴りが、私の持っていた剣を弾き飛ばしていた。

クリームヒルト「えっ? ええっ!?」

魔理沙「出た、霊夢の瞬間移動技、『幻想空想穴』……、やっぱアイツ相当人外だよなぁ……」

あまりに急な事に驚く私と、呆れる魔理沙さん。
対する霊夢さんは心外だと言うように顔をしかめた。

霊夢「失礼ね、私は歴とした人間よ。とりあえずスペルブレイクはスペルブレイクよ。次のスペルを出しなさい」

魔理沙「汚い……、流石霊夢、汚い……」

クリームヒルト「あっ、はい、それじゃあ今度はこれっ!(ゴメンねさやかちゃん!)」

不意をつかれて不本意なブレイクをさせてしまった事を内心さやかちゃんに謝りつつ次のカードを取り出す。


                      偽悪 『慈悲深き介錯』


次の弾幕はこれまでの青と対照的な燃えるような深紅。
自らを馴れ合いを好まぬ一匹狼と言い、辛辣な言葉を吐きつつも、他人のことを見捨てられない、不器用な優しさをもった女の子――杏子ちゃんのお話。
さやかちゃんの弾幕の時と同じように、今度は紅い槍が数十本と形成され、私はそのうちの一本を構える。

手にした槍以外の槍を何本か纏めて放射状に放つ。

221: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 17:51:15.53 ID:4cydie/X0

魔理沙「銃、剣ときて次は槍か! だが、そんな直線的なスペルじゃ私は捉えられないぜ」

クリームヒルト「直線的? 本当にそうかな、魔理沙さん」

放った槍のうち、魔理沙さんの横をすり抜けた槍のギミックを発動させる。
真っ直ぐに伸びていった槍が途中に組み込まれた節で折れ、かわしたばかりの魔理沙さんに矛先を伸ばす。

魔理沙「なっ!? 多節槍だと!?」

回避は間に合わないと判断したのだろう、魔理沙さんは乗っていた箒から飛び降りて槍の矛先をかわす。
片手で箒にぶら下がる形となったまま、飛行を続ける。

クリームヒルト「よし! 今……っ!?」

チャンスだと判断し、たたみ掛けようとした私目掛け、引き裂かん勢いで数枚の御札が飛んでくる。
私は手に持った槍で咄嗟に迎撃。 御札を斬り捨てるが、その時には魔理沙さんは再び箒に跨っている。

霊夢「余所見は厳禁よ。 今のアンタの相手は私と魔理沙の二人いるんだからね!」

クリームヒルト「そうでした。 ついうっかりしちゃったよ。 ティヒヒヒ……」

危ない危ないと思いつつ、私は笑っていた。
自分でも気が付かないうちにだいぶテンションが上がっていたらしい。

魔理沙「しっかし、この槍の使い手は相当捻くれてるだろ? 外の言葉でなんて言ったっけ? たしか“つんどら”だっけ?」

クリームヒルト「それって“ツンデレ”の事? うーん、そうなのかなぁ……」

まあ、杏子ちゃんの最後の方のさやかちゃんへの入れ込み様を思うと、案外そうなのかもしれない。
後でその辺の事をオクタヴィアちゃんに聞いてみよう。思い切りはぐらかされそうな気もするけど……

霊夢「私も同意見ね。 まるで魔理沙に対するアリスを見てるみたい」

魔理沙「は? なんでいきなりアリスが出てくるんだ? まあアリスのヤツも本気を出せば厄介なぐらい強いけどさ……」

霊夢さんの言葉に、意味が分からないと言うように首をかしげる魔理沙さん。
アリスさん……、確か蒼い巫女さんと一緒にシャルロッテちゃんやオクタヴィアちゃんと戦った人形遣いの人だった気がするけど、
霊夢さんの態度を見るに魔理沙さんと何かあるようだ。 魔理沙さんにその自覚はなさそうだったけど……。

何処にでも似たような人、似たような関係の人と言うのは居るんだなと思い小さく苦笑する。
その内に、最初に生み出した槍が底を突き、全てが回避される。 と同時に、私の持っていた槍も消えてゆく。

222: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 17:55:18.16 ID:4cydie/X0

クリームヒルト(ありがとう、杏子ちゃん……)

最後まで共に戦い抜いてくれた事に感謝しつつ、次のスペルに手を伸ばす。

クリームヒルト「……っ!」

分かっていた事だけど、そのカードを見た瞬間、私は胸が痛むのを感じた。
私じゃない、別の世界の私の話とは言え、私が重い十字架を背負わせてしまった。
そして、私自身、最後の最後で裏切ってしまった、大切な友達――ほむらちゃんのお話。


                      因果 『タイム・リピーター』


発動と同時に現れる無数の紫の弾幕。砂のように小粒な弾幕が流れるように霊夢さんたちの方へ降り注ぐ。
小粒弾幕を避けながら、霊夢さんたちがぼやく。

霊夢「今度のは武器じゃないのね。細かすぎて厄介なのが嫌らしいわ」

魔理沙「だが、こういうのは一旦避けきっちまえば後は楽だぜ」

クリームヒルト「本当にそう思う?」

多分、その時の私は端から見てすぐに分かるほど、悲しげな笑みを浮かべて居たんだと思う。
これが、私が友達に、ほむらちゃんに背負わせてしまった終わらない苦痛。

私の背後に時計を思わせる長短二つのレーザーが現出する。
レーザーの針は最初、ごく普通の時計回りに回っていたが、間も無く針が静止する。
そしてそれと同時に、霊夢さんたちの周囲を流れ落ちていた弾幕も静止する。

霊&魔「「っ!?」」

何が起こるのか、二人とも気が付いたのだろう、二人の表情が驚きのソレに変わる。
次の瞬間、レーザーの時計は反時計回り方向へ時を刻み始める。
それに併せて、静止していた弾幕も、ビデオを巻き戻すように上方へと流れていく。

霊夢「時間操作!? まったく、アンタの友達はなんつー技をもってるのよ!」

魔理沙「咲夜のヤツとどっちが厄介なんだろうな。気になるぜ」

クリームヒルト「あはは、ほむらちゃんはこっちに来る事はないと思うから、比べるのは無理かも……」

223: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 17:58:28.29 ID:4cydie/X0

苦笑しつつ、本当に会うことは無いだろうなと確信する。
私たちに訪れた救済、平行世界の私による導きがほむらちゃんをあちらへと導くだろうから……。

私は二度とほむらちゃん……、いや、マミさんや杏子ちゃんとも会えないんだろうなと思うが、それも仕方が無い。
こうなったのはほむらちゃんを裏切って、魔法少女となり、結果“魔女”となってしまった私に科せられた罰だと思うから。

霊夢「おーい、そこ! 弾幕戦の途中に辛気臭い顔して考え込まない! 弾幕が止まってるわよ」

霊夢さんに言われて気が付くと、紫の小粒弾幕は全て元の初期位置に戻っていた。
物思いにふけっている間に巻き戻しが完了してしまったらしい。

クリームヒルト「あっ、ご、ゴメン。 それっ、もう一回!」

私は時計レーザーの針を再び時計回りに切り替える。
今度は紫の小粒弾幕に加え、小型の時計弾幕も一緒に放つ。
弾幕が回を追うごとに増えてゆく様は、ほむらちゃんの時間遡行で私に因果が集まっていった様を思わせる。

クリームヒルト「ホント、こんなのを背負わせちゃったんだよね……」

霊夢「繰り返す度に弾幕が増えるとかイライラするわね! アンタの友達、よく心が持ったわね。それだけは感心するわ!
   ああ、もうっ! 使いたくなかったけど使うわ! 霊符、夢想封印っ!」

霊夢さんがこれまで使用を控えてきたボムを放ち、私のスペルが打ち消される。
私には止められなかったソレをあっさり止めてしまった事に悔しさと敬意の念を覚える。
私たちを救済した平行世界の私と言うのは霊夢さんのような人だったのかもしれない。

クリームヒルト(ゴメンね。ほむらちゃん……)

魔理沙「なーに、くよくよしてるんだよ」

クリームヒルト「っ!?」

俯いている所に急に声をかけられ、私は顔を上げた。
私の目に入ってきた霊夢さんと魔理沙さんは……笑顔だった。
泣いている幼子をあやす様な優しい笑みを二人とも浮かべていた。

224: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 18:00:45.68 ID:4cydie/X0

霊夢「信じられないかもだけど、安心しなさい、アンタの仲間は誰もアンタの事を恨んでなんか居ないわよ」

魔理沙「弾幕にこもった記憶をちょっと覗かせて貰っただけの私らだって、それくらいは分かったぞ」

クリームヒルト「で、でも……!」

霊夢「なに? じゃあアンタは一度の過ちでそれまでの親交をひっくり返すような仲間だと思ってたの?」

クリームヒルト「そ、そんな事ない! そんな事は絶対ないよ……、でも……」

みんなが私を見捨てるような真似の出来ない優しい人だったのは私も自信を持って言える。だけどこの後私は……。

霊夢「なら、見せなさい」

クリームヒルト「えっ?」

霊夢「互いに信頼し合ってる仲間に恨まれてるんじゃないかとアンタに思わせてる不安を、私たちに見せなさい」

有無を言わせない口調だったけど、それでも私の中の戸惑いは消しきれない。

クリームヒルト「で、でも……」

霊夢「アンタ言ったでしょ、全部を魅せるって、こっちは最初から受け止める準備は出来てるの。全力でかかって来なさい。
   じゃ無いと私はアンタを、アンタ達“魔女”を、一生認める事が出来ないわよ。 これまでの全員の努力、無駄にするつもり?」

クリームヒルト「っ!? そ、そんな事出来るわけないよ! そんな事になったら私が私を許さない!」

今回の件は、全員で相談して決めたとは言え、核心部分を黙っていた私に責任がある。
これまでのみんなの努力を、あの美しくも激しい、正々堂々とした戦いの全てを無駄にする事は私には出来なかった。

クリームヒルト「……ホントに良いんだね?」

225: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 18:07:16.04 ID:4cydie/X0

魔理沙「くどいぜ。私らをなんだと思ってるんだ、百戦錬磨の魔法使いと巫女だぜ」

クリームヒルト「いくよ! これが、これが今の私の真の姿! そして私が犯した罪!」


                      終焉 『新世界創造』


発動と同時に、地響きが巻き起こる。
私の背後に現世での私のおぞましい姿が投影され、それと同時にありとあらゆる物をその中に引き込む力が発生する。

魔理沙「っ!? コイツは……結構洒落にならないぜ!」

霊夢「魔理沙っ! 目をしっかり開きなさい! 後ろから来るわよ!」

魔理沙「なにっ!?」

私の元に引き込まれつつあるモノ、黄色いレーザーに、蒼い斬撃、自在に折れる紅い槍に、紫の砂粒弾幕。
これまで私が放ってきた、世界に生み出された全ての弾幕が、私の中に還ろうとしているのだ。

幽々子「ふーん、そういうことだったのね」

白玉楼の縁側で観戦をしていた幽々子さんがここで始めて腰を上げる。

幽々子「全ての生命を吸い上げ、新しく創造した世界へと導く、それが貴女の能力ね?
    新世界の創造、と聞けば聞こえはいいけど、それはつまり旧世界の終焉、一つの世界を終わらせる事なのよね。
    数え切れないほど多数の“死”を背負ってるから変だな、と思ってたのよ。 これなら納得だわ」

クリームヒルト「幽々子さん?」

幽々子「ごめんなさいねクリームヒルトちゃん。 私、言ってなかったのだけど“死”を操る能力をもってるの。
    だから最初貴女を見たときに全部視えちゃったのよ。 物凄いものを貴女がその小さな背中に背負っちゃってるのを……」

勝手に貴女の事を視てしまってごめんなさい、とすまなさそうに頭を下げる幽々子さん。
突然の告白に私の思考は追いつかない。

クリームヒルト「そんな、最初から全部視えてたって……、そ、そんな相手を、そんな相手だと分かって私たちを助けてくれたんですか!?」

私には訳が分からなくなっていた。
知らなかったのならいざ知らず、私が全てを、世界を一つ滅ぼした存在だと分かった上で、何故助けてくれたのか、それが分からなかったから。

226: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 18:09:59.42 ID:4cydie/X0

何も分からずその場にうずくまる私。
そんな私に答えたのは幽々子さんではなく、弾幕との格闘を続けている霊夢さんだった。

霊夢「そんなの決まってるでしょ。 答えは一つしかないじゃない……」

クリームヒルト「えっ?」

私は思わず顔を上げ霊夢さんを見た。 霊夢さんは、諭すような優しい瞳を向けていた。

魔理沙「ああ、ホントだぜ。 “救済の魔女”が聞いて呆れるな」

同じように弾幕を避けつつ、魔理沙さんは苦笑する。
私は半ば呆然としたまま二人に問う。

クリームヒルト「どういう……こと?」

魔理沙「お前さんの“救済”は一人だけ、救われていないのが居るんだよ」

クリームヒルト「えっ?」

霊夢「救われなかった一人、それはクリームヒルト……、いえ、鹿目まどか、他ならぬ貴女自身よ。
   一人でそんな重い十字架を背負って、貴女は本当にそれで救われた、って言えるの?」

クリームヒルト「それは……」

言えない、でもそれは私がこれからも背負っていかなくてはいけない罪だから、私だけは逃れる訳にはいかないから……。

227: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 18:12:43.19 ID:4cydie/X0

霊夢「幽々子は、アンタの背負ってるものが視えてしまった。視えてしまったからこそ助けようと思ったのよ。
   一人で無茶して背負い込もうとする、子供な貴女をね……」

霊夢さんに言われ、私は幽々子さんを見た。
扇を広げて、いつものはぐらかすような笑みを浮かべていたが、霊夢さんの言葉が間違っているとは不思議と思えなかった。
幽々子さんが優しい笑みを浮かべたまま、私の元へと近づいてくる。

幽々子「クリームヒルトちゃん、私貴女に言ったわよね? 弾幕戦は自分の全てを出し切るモノだ。って……」

クリームヒルト「はい……」

幽々子「それは言い換えるとね、全てを出し切った後は、相手に全部任せちゃう、って事でもあるの。
    霊夢と魔理沙は貴女の全てを見ても臆すことも逃げる事もなく戦い続けたわ。
    それは二人に貴女の全てを受け止める覚悟があると言う決意の顕れ、貴女が一人で全て背負う必要はもうないのよ。
    それに最初に出逢ったときに言ったでしょう?」


                    ―― 幻想郷は全てを受け入れる最後の受け皿だ、って ――


クリームヒルト「っ!?」

その言葉が合図となった。
私の中の全てを引き込む力が急激に失われ、嵐のように吹き荒れていた弾幕も全てがその場に静止する。
弾幕はその場で全てが虹色の粒子へと変わり、あたり一面に拡散してゆく。

それは相手を傷つける弾幕ではなく、私を含む全ての人に降り注ぐ、救いの光だった………。



228: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 18:14:58.26 ID:4cydie/X0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

早苗「30分待ってたらホントに終わっちゃいましたねぇ……」

白玉楼から眩いばかりの光が放たれているのを見ながら、早苗が呟いた。
早苗に背負われた状態で、同じように白玉楼を見上げていたオクタヴィアも声を上げる。

オクタヴィア「あっちゃー、クリームヒルトも負けちゃったか……、
       でもなんだろう、なんだかあの光を見てるとなんだか清々しい気持ちになる」

パチュリー「きっと、見てるほうが恥ずかしくなるほどの試合をやってのけたんでしょ……」

文「あの二人ならやりかねませんねぇ……見れなくて残念です」

アリス「あら?パチュリーに新聞屋じゃない、遅かったわね……って、その格好と腕はどうしたのよ?」

会話に割り込んできた二人を見てアリスが驚いたような声を上げる。
揃って視線を逸らす二人に代わり、事情を知っている別の声が答える。

エリー「パチュリーは私がトラウマ弾幕撃ちまくってボロ雑巾に……」

白蓮「新聞屋さんったら凄いんですよ。 こちらの方と最後はチキンレースを……」

パチェ&文「「それ以上は何も言わないで(下さい)!!」」

パチュリーと文が悲鳴に近い懇願を上げつつエリーと白蓮を押さえにかかる。
エリーはパソコンの中に逃げ込み、白蓮はギーゼラを抱えたまま跳躍する。

ゲルトルート「何やってるのよ、まったく……」

パトリシア「あんまり大きな声出さないで……うぅ、まだ頭が……」

エルザマリア「なんだか良く分からないけど、気絶している内に終わってしまったようですね」

イザベル「あら、ゲルトルートにパトリシア、それにエルザマリアじゃない、ん? シャルロッテはどうしたの?」

呆れ顔でやって来た三人を見て、イザベルはこの場にシャルロッテだけが居ない事に気がつき辺りを見回す。

早苗「ああ、それでしたら……」

??「コラーッ! 早苗ーっ!」

229: ラストステージ ラストサルヴェイション 2011/10/30(日) 18:17:06.31 ID:4cydie/X0

秋神の社に置いてきた。と早苗が説明しようとした時、怒気を含んだ怒鳴り声が割り込んでくる。
ぎょっとしてそちらを見ると、当の秋神の豊穣神――秋穣子が立っていた。
普段なら帽子の葡萄がついている所にシャルロッテ(ぬいぐるみ.ver)をのせ、なぜか顔に歯形をつけた状態で、だ。

穣子「まったくこんな食いしん坊妖怪置いてくとか私を殺す気!?
   あんまりにもお腹を空かせてるからかわいそうだと思って弾幕で焼き芋を出したら、まさかの頭からガブリよ!」

咲夜「匂いだけでなく本物の芋まで出したから、食べ物と間違えられたんですね……」

シャルロッテ「穣子、お芋もっとちょーだい」

穣子「言わないでっ! 神として情けなくなるからっ! あーはいはい、今出すからちょっと待ってね……」



クリームヒルト「うわっ? 騒がしいと思ったらみんな来てる……」

外の喧騒を聞きつけて、門まで出てきたクリームヒルトはあまりにもカオスな状況に目を丸くする。
対して、後から出てきた霊夢や魔理沙、幽々子の対応は慣れたものだ。

霊夢「アンタたち揃いも揃って何やってるのよ? ……門の前で立ち話もアレでしょうし、中に入ったらどう?」

魔理沙「おい霊夢、お前はいつから白玉楼の主になったんだ?」

幽々子「あら? 私は別に構わないわよ。 今日はいい物を見せてもらったから気分が良いの……。 妖夢! 宴会の準備をなさいな」

妖夢「はーい! かしこまりましたー!」

幽々子の無茶振りに近い命令に、妖夢がごく普通に答える。
まるで最初からこうなる事が分かっていたかのような返答だ。

クリームヒルト「えっ? 宴会!? どういうことですか!?」

霊夢「異変解決を祝しての単なる祝勝会よ。 ところでアンタ、酒はイケる口なの?」

クリームヒルト「えっ? 酒って……ええっ!? わ、私まだ未成年ですよ!?」

幽々子「ああ、言い忘れたわクリームヒルトちゃん、スペルカードルールのほかに、宴会でのお酒は幻想郷では絶対だから」

そう言って幽々子はたおやかに微笑んだ。
その微笑みは、いつも見ていた微笑みと大差なかったのだが、何故だかこのときばかりは悪魔に微笑みに見えたそうだ。



230: ステージ??? 星空の影 2011/10/30(日) 18:25:18.22 ID:4cydie/X0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

??「ん? あらー、夜まで寝ちゃったか……」

白玉楼の一室で寝ていた彼女は辺りの暗さに、今が夜である事に気がついた。
そして、それと同時に、ここにしては珍しく、歓声が聞こえてくる事にも気が付き、彼女は身体を起こす。

??「外が騒がし……って、なんかいっぱい居るな……」

障子を開けて中庭を覗き込んだ彼女は仲間の魔女と見知らぬ人間(妖怪も混じってるだろうけど)が杯を交わしているのを見た。
その光景を見て、彼女はすぐに全てを悟る。

??「あー、今日で終わったのかー、どうするかなー」

結局何もしていなかった訳だが、今更どうにもならない。
起きて居ればよかったと思ったが、元々夜型なのだ、最後まで起きれていた自信はない。
このまま何食わぬ顔で加わってしまおうか? そう思ったとき、彼女は部屋の奥に彼女とは違う影があることに気が付いた。

良く見るとそれは同じ“魔女”仲間である少女だった。
少女も外の状況に気が付いたのか、残念そうな顔をしている。
異変解決に来た幻想郷(こっち)の住人と派手にやり合う機会を逃したのだから当然かもしれない。

??「おっ、なんだ、お前も寝てたのか? 何? 弾幕を考えてたらいつの間にか寝てた? そりゃ残念だったな」

??「……………」

??「そうなんだよ、どうやら昼のうちに終わっちまったようでさ……、おっ、そうだ! ちょっとアタシにいい考えがあるんだけどさ……」

彼女は少女に自分の考えを耳打ちする。
最初は残念そうだった少女の顔にやがて笑みが浮かび、最後は喜びのソレとなった。
どうやらやる気満々のようである。

??「おーし、その意気だ! それじゃあアタシらであいつらに教えてやるとするか! 祭りの夜はまだ終わらない、ってな!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

こうして、“魔女”異変というお祭り騒ぎは夜の部に突入する事になった。
当然この夜の部も昼に負けず劣らず大変な事になるのだが……、その話はまた後日、記す事にしよう。
幻想郷における“魔女”の歴史はまだまだ始まったばかりなのだから……。


稗田阿求 記 『幻想郷縁起』 ~魔女異変の章~ 第一部 より


239: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/04(金) 22:14:03.73 ID:buuHKWav0

――――――――― 【魔女と愉快な飲兵衛たち】 @ 冥界・白玉楼 ―――――――――

夕方から始まった白玉楼での宴会は、噂を聞きつけた有力妖怪らが押し寄せた結果、止まる事を知らぬ大宴会へと発展した。
吸血鬼に、月人の姫と従者の医師、守矢の二柱まで降りてくる始末。
まぁその辺はいつもの事なのだが、今回はいささか勝手が違った。
本日をもって正式に幻想郷に迎え入れられた新参妖怪“魔女”ご一行様がそれである。

聞くところによると、魔女はほぼ全員が本をただせば中高生の少女だと言う。
つまり酒を飲んだ経験など、まったくない訳で、その結果は……

早苗「あーあ、皆さんあんなに飲んじゃって……大丈夫なのかしら?」

乱痴気騒ぎの中、ほぼ素面のままの早苗は辺りを見回してため息をついた。

とっくの昔に酔い潰れて端のほうで蹲っている者、
一杯飲んですぐに寝てしまう者、
酒豪組に混じってフツーに飲んでいる者、
酒が入った途端色々はっちゃけはじめる者、
見事なまでのオンパレードである。

早苗「う~ん、なんと言う酔っ払いの見本市状態……」

咲夜「あら? 貴女が酔い潰れていないなんて珍しいわね」

主であるレミリア・スカーレットの世話がある都合だろう。比較的素面を保っている咲夜が目を丸くしながら早苗に声をかけてきた。

早苗「流石の私も学習します。酔っ払いにまともに付き合ったら吐いても飲まされるんですから……」

幻想郷きっての下戸として知られる早苗だが、何度か経験すれば心得たもので色々理由をつけてのらりくらりと酒を回避していたのだ。
あと酒も飲まずに働いているのは幽々子の従者である妖夢くらいで、これは給仕やら調理やらをやらされている所為だ。

240: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/04(金) 22:18:09.85 ID:buuHKWav0

早苗「どうですか? レミリアさんたちの方は……」

咲夜「ウケの方はいいわね。 最初の挨拶としてあんな事をした意気を買ってるみたい。
   ゲルトルートはウチの庭園の整備、イザベルはお嬢様の肖像画を描く事になったわ」

早苗「それは、また結構気に入られましたね……」

どうやら今回の異変は、紅魔館の主にして、幻想郷の有力者の一角でもあるレミリアにはウケが良かったらしい。

今回の異変においてレミリアは、魔女からの迷惑極まりない風評被害に、親友のパチュリーが激怒していたのに、
咲夜をお供につけただけで、表立った動きは一切見せなかった。
彼女の能力である運命を操る程度の能力で、結末をあらかじめ見通していたのかもしれない。

咲夜「それにしても、こうなってしまうと新参も何もあったものじゃないわね……」

祝勝会を通り越して、乱痴気騒ぎの様相を呈し始めた宴会場を見渡して、咲夜は呆れたように呟く。

早苗「そうですね。 でもこれはこれで幻想郷らしくていいと思います」

咲夜「貴女からそんな言葉が聞けるなんてね。 新参の看板は彼女たちに引継ぎかしら?」

早苗「そうなると思います。これでやっと私も先輩ですよ」

そう言って二人でひとしきり笑いあっていると、二方向から声がかかってきた。
片方は主である吸血鬼、もう片方は仕える主神様。どうやらお呼びがかかってしまったようだ。

咲夜「それじゃ、酔い潰れてなかったら後片付けで会いましょう」

早苗「はい……、と言いたいところですが生き残れる自信がありませんねぇ……」

確か神奈子と諏訪子は、幽々子や霊夢、それにクリームヒルトという面子で飲んでいたはずだ。
早苗はある程度の覚悟を決めて、神奈子らの元に向かった。


241: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/04(金) 22:25:50.62 ID:buuHKWav0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

早苗「あれ?」

目も当てられない惨状を予想していた早苗は、意外な光景に思わず足を止めた。
いつもの飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ、だと思ったのだが、月を見上げて静かに杯を傾ける神奈子と幽々子、そして霊夢の姿があった。

早苗「珍しいですね。神奈子様たちがこんな風に静かにお酒を……って、あっ……」

近寄ってみて、気付く。
幽々子の膝の上で、静かに寝息を立てているクリームヒルトの姿。
どうしたのかと尋ねる声も自然と小声になる。

早苗「酔い潰れちゃったんですか? クリームヒルトさん」

霊夢「泣き疲れたのよ」

早苗「泣き疲れた?」

クリームヒルトの頭を撫でつつ、複雑な笑みを浮かべた幽々子が早苗の疑問に答える。

幽々子「今まで色々溜め込んでたんでしょうね。飲んで、饒舌になったと思ったら泣き出しちゃって……。今ようやく眠ったところなの」

無理もないな、と早苗は思う。
オクタヴィアに対しては説教染みた高説をたれた早苗だが、クリームヒルトの抱える事情には同じ様な対応は出来ない。

『みんなを助けたい』 という心優しき少女の願いは、皮肉にも彼女を『全生命を極楽と言う楽園に導く』破滅の化身に仕立ててしまった。
救済と全生命の消滅、相反する言葉のようにも思えたが、白蓮によると、 『悪質かつ過激な方向に解釈した浄土信仰』 で説明が出来ると言う。

人の道を外れた者の苦しみは早苗にも分かるが、人の道を外れた結果、地球規模の惨禍の当事者となってしまった者の苦しみには、想像すら及ばない。

霊夢と魔理沙、そして幽々子はそんなクリームヒルトの苦しみを受け止め、助けたいと手を差し伸べたそうだが、
いざ自分自身がその場に居たとしたら同じ事が出来ただろうか? 正直なところ、一片の迷いもなく『はい』とは答えられる自信はない。
最近はだいぶ霊夢たちに近づけた気がしていたが、その差はまだまだ大きい事を早苗は改めて思い知らされたような気がした。

早苗がそんな物思いにふけっていると、「頼みがあるのだけど……」と幽々子が早苗の方を向く。

242: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/04(金) 22:31:43.89 ID:buuHKWav0

早苗「なんですか? 幽々子さん」

幽々子「悪いのだけど、部屋から何か羽織るものを持ってきてくれないかしら? 妖夢は調理で忙しいみたいだから……」

早苗「あっ、はい、分かりました」

踵を返しながら、早苗は小さく苦笑した。
深く、複雑な事情があるのは重々承知しているが、幽々子とクリームヒルトの姿は、仲の良い姉妹か、親子かと思うほど微笑ましいものだったからだ。

ニヤニヤしながら、白玉楼の寝殿に向かっていると、パチュリーが訝しげな視線を向けてくる。

パチュリー「早苗、何ニヤニヤしてるのよ? 端から見ると怪しい人よ」

早苗「いえ、ちょっとほっこりしてしまいまして……」

早苗は幽々子たちのほうに視線を送り、パチュリーもそれに倣う。
最初は良く分からなかった様だが、そのうち幽々子に膝枕をされているのが、クリームヒルトだと分かったのだろう、ふっと表情を崩す。

パチュリー「……まるで親子ね」

早苗「ええ、そう思います」

髪の色も似ているせいだろう、パチュリーも早苗と同じような感想を抱いたようだ。

パチュリー「それで? 早苗はあの親子から何を頼まれたわけ?」

どうやらパチュリーの中で、二人は親子と認定されてしまったらしい。
と言うか幽々子からの頼まれ事だとすぐに察してしまった辺りは流石としか言いようがない。

早苗「羽織るものです。 この時季でも夜は冷えますから……」

パチュリー「そう、それならついでに私の分も持ってきてくれないかしら? ちょっと寒くなってきたのよね……」

とパチュリーは凍えるジェスチャーをしてみせる。

早苗「分かりました。持ってきます。 あっ、でも幽々子さんには……」

パチュリー「分かってるわ、亡霊には私から言っておくから……」

「ついでに少々からかってあげましょう」などと口元に笑みを浮かべながらパチュリーは幽々子たちのほうに向かっていく。
早苗はこれ以上オーダーが増える前に用事を済ませてしまおうと、早足で寝殿へ入って行った。



243: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/04(金) 22:39:17.57 ID:buuHKWav0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

早苗「とりあえずここから持って行こう……」

魔女たちが間借りしていたと言う大部屋の押入れから早苗は薄手の布団を取り出す。
大部屋の中は布団が敷きっ放しになっていて、綺麗に整頓してある布団もあれば、乱れたままの布団もある。
そんな布団がずらりと並んでいる様は早苗に修学旅行の宿泊先や林間学校での合宿場を思い起こさせた。

早苗「広い部屋だなぁ……、魔女の皆さん全員を寝させてもまだ余裕があるんですから……あれ?」

薄手の布団を持ったまま部屋を出ようとした早苗は、ふとあることに気が付き立ち止まる。
敷いてある布団の数が11組あったのだ。

早苗「確か9人でしたよね? なんで2組多いんだろう……」

幽々子と妖夢もこの部屋で寝ていたのだろうか?
どちらも自分の部屋がある筈なので、正直それは考えにくいのだが……

早苗「なんだろう、なにか妙な予感と言うか悪寒がする……」

布団を持って庭に出ながら、早苗は思案する。
もし仮に、布団の枚数と同じ人数の魔女が居たとしたら?
残りは二人は何処に行ったのか? 今何をしているのか?

早苗「終結したと知らずにまだ幻想郷のどこかに居るとしたら厄介ですね……」

でも、それだとしたら何故幽々子や他の魔女は動かないのか?
泊めていた幽々子はもちろん、魔女たちも自分の仲間の数なら把握しているはずである。

そんな事を考えていると、蓬莱山輝夜とパソコンに向かって、何かをしているエリーの姿が目に入った。
このまま悶々としたままにするのは精神衛生上宜しくない。 この際だ、11組の布団について聞いてしまおう。

早苗「あの、エリーさん」

エリー「…………」

早苗「エリーさん? エリーさん!
   もうっ! パソコンで何してるんです? ゲームかなにかですか?」

いくら呼んでも返事がないので、何をしているのか気になった早苗はパソコンの画面を覗き込む。
パソコンのモニターに映されていたものは……

244: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/04(金) 22:49:19.47 ID:buuHKWav0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
幻想入りした魔女だけどなにか質問ある?

1 :以下VIPにかわりまして名無しがお送り致します:201X/06/12(日) 19:29.54 ID:elLykrST
  蓬莱ニートと飲んでまーす(^_^)v

2 :以下VIPにかわりまして名無しがお送り致します:201X/06/12(日) 19:30.21 ID:H0mu2gNs
  >>1
  魔女?今は魔獣の時代だろJK

3 :以下VIPにかわりまして名無しがお送り致します:201X/06/12(日) 19:30.49 ID:ankMjSIj
  >>1
  東方厨乙

4 :以下VIPにかわりまして名無しがお送り致します:201X/06/12(日) 19:31.06 ID:gNSEmAMi
  幻想郷(笑)
  不夜城レッド(笑)

5 :以下VIPにかわりまして名無しがお送り致します:201X/06/12(日) 19:31.19 ID:kIHngSyK
  >>1
  なんかそっちに逝けそうな気がするんだが……

6 :以下VIPにかわりまして名無しがお送り致します:201X/06/12(日) 19:31.38 ID:ankMjSIj
  >>6
  行くなよ!?絶対行くなよ!?

7 :以下VIPにかわりまして名無しがお送り致します:201X/06/12(日) 19:31.58 ID:H0mu2gNs
  >>4
  ティロさんちっーす

8 :以下VIPにかわりまして名無しがお送り致します:201X/06/12(日) 19:32.00 ID:madoGOt3
  >>1
  特定しますた


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

246: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/04(金) 22:57:46.97 ID:buuHKWav0

早苗「って、なんかスレ立ててるーっ!?」

エリー「うわぁっ!? な、なに!? って、早苗じゃない、急に耳元で大きな声出さないでよ」

寿命が縮まるでしょ!? と言いつつ胸を押えるエリーに早苗はすぐさま頭を下げる。

早苗「ああ、スイマセン……って、そうだ、それよりもちょっと聞きたい事があるんですけど……」

エリー「聞きたい事? 何?」

ブラウザを一旦落として、早苗に向き直るエリー。
「えーなんで切っちゃうのー」とぼやく輝夜の姿は見なかった事にする。

早苗「今ちょっと布団を取りに部屋に行ったんですけど、敷いてあった布団が11組あったんですよ。
   魔女の皆さんってここにいるのは9人じゃないですか、残り2組は誰の布団なのかな? と、気になってしまいまして……」

エリー「誰のって、私たちのに決まってるじゃない。 あと二人、そこで昼寝してなかった?」

何を当然な事を聞いているの? と言いたげなエリーの態度に、早苗の中の嫌な予感が急速に膨れ上がる。

早苗「いいえ、誰も居ませんでしたよ。 と言うかもう夜の7時ですし、こんな時間に昼寝してる人が居るんですか?」

エリー「え゛っ?」

早苗の言葉に今度こそ、エリーの動きが止まる。
心なしか、血の気がさっと引いていったようにも思えたのだが……。
これはもう確定かな、と早苗も内心諦めながら、最後の確認とばかりに尋ねる。

早苗「えっと、その昼寝していた二人、ってどんな方なんでしょうか?」

エリー「どんなって、簡単に言えばお水と超核弾頭娘……?」

その言葉に早苗は思わず泣きたくなった。
今の話を合わせるとお水はともかく超核弾頭クラスの力を持った魔女が行方知らずになっている、と言うことになる。

早苗とエリーはお互い顔を見合わせると、無言で頷きあった。

早苗「私、霊夢さんたちに伝えてきますね……」

エリー「お願い、私も他の魔女呼んでくるから……」


247: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/04(金) 23:03:23.47 ID:buuHKWav0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

霊夢「で、集まったのはコレだけな訳?」

霊夢は不機嫌を隠そうともしないで、集まった面子を見回す。
集まったのは幻想郷の在郷人が霊夢、魔理沙、早苗、アリス、パチュリー、咲夜の六人。
魔女が、オクタヴィア、エリー、ゲルトルートの三人だ。

昼に活躍した魔法使いとお付きのオマケ軍団のうち、負傷とその回復で、命蓮寺組が戦力から外れ、
魔女の方も酔いつぶれたり、寝てしまった者が出てしまったりでこの人数となってしまい、戦力が低下した感は否めない。

特に魔女側の中心たるクリームヒルトが熟睡中で、尚且つダウンした魔女の介抱と、
何事もなく帰って来た時の事を考え、幽々子と妖夢が白玉楼に残る事になったのは痛い。

レミリア、神奈子、輝夜と言った他の有力妖怪はそれぞれ連絡体制の確立こそ確約を取り付ける事が出来たが、
レミリアが自宅の守備を固める必要があると言い出し、これに他の二人も倣った為、本人が捜索隊に参加する事は拒否された。

紅魔館からは咲夜が、守矢神社からは早苗が、それぞれ派遣されたのが最大限の譲歩であると言えよう。
永遠亭はそういう役割の鈴仙が寝込んでいる都合で、誰の派遣も無かったのだが……。

咲夜「愚痴っても何の解決にもないないわよ、霊夢。 それより今は今後どう動くか? それを考えましょう」

アリス「咲夜の言う通りね。 そっちの方がよっぽど建設的だわ。
    それで、悪いんだけど、居なくなった魔女の詳しい情報を教えて貰いたいのだけど……」

相手の情報も知らずに捜索なんて出来ないわ、と言うアリスに応えたのはオクタヴィアだ。

オクタヴィア「あー、えっと、名前は『ワルプルギスの夜』って言って……
       あっ、そんな顔しないでよ。ホントにそう呼ばれてるんだから……」

名前を聞いた途端、霊夢たちが一様に訝しげな表情になった為だろう、オクタヴィアは頬を膨らませて抗議する。

霊夢「あー、名前に関しては何も言わないわ、だから続けて頂戴」

オクタヴィア「うん……、無力の性質を持つ舞台装置の魔女で、現世だととんでもなく巨大な魔女だった、って聞いてる。
       纏ってる呪いの量も半端じゃなく強力で、最強の魔法少女だったクリームヒルトでさえ、その呪いを受けて魔女になっちゃったぐらい」

248: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/04(金) 23:07:47.74 ID:buuHKWav0

早苗「呪詛返し、ってレベル超えてますね……」

魔法少女だった頃のクリームヒルトがどれだけの実力者だったのかは分からないが、
人一人をあれほどまでに強力な魔女に仕立てると言うのなら、その呪いの力は半端ではない。

魔理沙「うん、現世での特徴は分かった。 で、こっちに来てからの特徴はどんななんだ?」

オクタヴィア「あー、それがねー…………、一見するとただの幼女」


霊夢他一同「「「「はい?」」」」


オクタヴィアの言葉に霊夢たちは思わず声を上げた。
再び訝しげな視線の集中砲火を浴びる羽目になったオクタヴィアが堪らず声を荒らげる。

オクタヴィア「だって本当なんだから仕方ないじゃん! 幼女なの! 青いドレスを纏ったツインテール幼女なの!」

静寂がその場に訪れる。
言った本人のオクタヴィアは顔を真っ赤にして黙ってしまうし、エリーとゲルトルートはそんなオクタヴィアを哀れむ様に見ているし、
対する幻想郷の住民らも色々思うところがあるらしく、みんな黙ってしまった。

その静寂を破ったのはこれまで一言も喋らずに話を聞いていたパチュリーだった。

パチュリー「……一つ、愚痴ってもいいかしら」

霊夢「良いわ、私も愚痴りたかった所だから……」

パチュリー「紅魔館(ウチ)にも居るから言えた立場じゃないんだけど、どうしてこう幻想郷の厄介な連中って幼女が多いのかしら?」

例えばそれは紅魔館の妹様ことフランドール・スカーレットだったり、守矢神社の呪い神な洩矢諏訪子だったり、
あるいは地霊殿の無意識娘こと古明地こいしだったり……

249: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/04(金) 23:14:07.05 ID:buuHKWav0

とにかく『カワイイ顔して凶悪極まりない妖怪』の幼女率の高さは異常と言えた。

今度は幻想郷の住人らに微妙な空気が流れたが、こんな事をしている場合ではないので、すぐに気を取り直す。

霊夢「……とにかく、此処で議論してても始まらないわ、手分けして今すぐ探しに行きましょう」

ゲルトルート「手分けをするのは賛成だけど、どうやってこの人数を分けるのよ?
       私たち魔女は幻想郷の地理とかまだ分からないことが多いし……」

ゲルトルートの言う事は最もだ。
いくら幻想郷の各地で騒ぎを引き起こしていたとは言え、来て一週間の魔女に幻想郷内を探せというのは酷である。

魔理沙「昼の組み合わせに、魔女を一人つける、で良いんじゃないか?
    文たちが脱落して私たちは3組だし、魔女も3人だ。丁度いいと思うが?」

咲夜「そうね、それが良さそうね。此処に居る魔女も丁度私たちが昼にやりあった相手だし……」

オクタヴィアたち3人を見ながら、咲夜が言う。
オクタヴィアは早苗とアリスが、エリーはパチュリーと咲夜が、ゲルトルートは魔理沙と霊夢が、それぞれ戦った相手である。
弾幕戦という形ではあるが、他の組み合わせよりも多少なりとも気心が知れているだけ、最適といえた。

エリー「ところでさ、お互いの連絡はどうするの?」

組み合わせが決まっても連絡取れなきゃ意味ないよ。というエリーの疑問に答えたのはアリスだ。

アリス「それなら私に任せて、全部のチームにこの子を持たせるわ」

そう言ってアリスは肩に乗る程度の小さな自律人形を三体、具現化させる。
地霊騒ぎの時に、魔理沙との連絡手段として用いた人形と同じものだ。

アリス「この子を持っていれば、互いに会話が出来るわ。 活用して頂戴」

霊夢「決まりね。見つけたらすぐにコレで連絡しなさい。 それじゃ、解散!」


262: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 01:21:25.59 ID:NVzYNTEF0
――――――――― 【七曜の魔女と瀟洒なメイドと引篭り娘】 ―――――――――― 12(日) 亥の刻

エリー「それでー、何処に向かってるの」

月明かりに照らされた幻想郷を、ひたすら飛んでゆくパチュリーの背にエリーが話しかけた。
チームごとに別れ、冥界を後にしたエリーたちは、パチュリーを先頭に同じ方角へと飛び続けている。
まるで、最初から目的地が決まっているかのように……

パチュリー「紅魔館よ」

エリー「えっ? 紅魔館って、パチュリーが住んでる? あれだけ言っといて帰るとか、やっぱりパチュリーって根っからの引篭……」

からかう様な口調でエリーが言うとその鼻先にナイフが突き立てられる。
思わず背筋を硬直させながら脇を見ると、真剣な表情をした咲夜が居た。
怒っている風ではないところを見ると、黙って聞いて居ろ、という意味らしい。

背後の二人に構う余裕がないのか、パチュリーは振り返りもせずに言う。

パチュリー「面白い事に積極的に首を突っ込みたがるレミィが“帰って守備を固める”なんて言う訳がないのよ。
      もし仮に言うなら余興にもならないと思ったか、或いは……」

パチュリーはそこで言葉を一旦区切る。
エリーも何となくだが、パチュリーが何を言おうとしているのかが分かり、表情を硬くする。
簡単に聞いただけだが、紅魔館の主であり、パチュリーの親友であるレミリアは運命を操る程度の能力を持っているらしい。
そのレミリアがなりふり構わず紅魔館への帰宅を決めたという事はつまり……

パチュリー「レミィが帰らなくてはならないほどの脅威が紅魔館に迫っている。そうとしか考えられないのよ」

263: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 01:27:17.55 ID:NVzYNTEF0

エリー「その脅威って……」

咲夜「十中八九、ワルプルギスでしょうね。 外の世界だと街を一つ吹き飛ばす程のものだったのでしょう?」

咲夜の言葉にエリーは頷く。
現世では結界を作らずに暴れまわる事の出来た数少ない有力な魔女である。
まずは自身の結界に引き込まなくては人を襲う事もままならなかったエリーなど足元にも及ばない。
単身で対抗できるとしたら、同じく結界要らずだったクリームヒルトぐらいだろう。

エリー「でも、それならどうしてパチュリーや咲夜を残して帰ったの?
    紅魔館を守りたいなら、戦力は多いほうが良いんじゃないの?」

咲夜「私たちに『不自然だ』と思わせる事で、紅魔館行きを促すつもりだったのでしょうね。
   現に私たちは怪しいと踏んで紅魔館へと向かっているし、或いは勘の鋭い霊夢が気付いてくれると言う確信があったのかも知れないわ……」

現実には霊夢たちは人里の方向に向かって飛んでいってしまったわけだが、
霊夢がレミリアの真意に気付かなかったのか、博麗の巫女として人里の様子見を第一に考えたのか、今となっては真意は分からない。

パチュリー「とにかく、レミィがどんな運命を垣間見たのか分からないけど、紅魔館へ行く価値はあるのよ。
      それに紅魔館方面なら戦うにしてもおあつらえ向きの場所があるわ」

咲夜「霧の湖ですね。 確かにあそこなら多少派手にやったところで周囲への被害は抑えられます」

湖周辺にあるのは紅魔館のほかは森だらけだ。
人もめったに立ち寄らないし、あの辺に住んでいる妖精たちには悪いが、決戦場になってもらおう。

月の光を受けてキラキラと光るものが見える。霧の湖だ。

パチュリー「後は、レミィの運命視が何処まで当たってるか、なんだけど……」

エリー「パチュリー……、貴女の友達の能力、間違いなく本物だよ」

紅く鎮座する屋敷と、広々と広がった湖を眼下に見下ろしながら、エリーは湖の湖面を指差す。
パチュリーと咲夜がそちらを見ると、青いドレスを纏い、頭を下にした状態で湖面近くを浮遊する幼い少女の姿が見えた。


264: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 01:36:13.83 ID:NVzYNTEF0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

何をするわけでもなく、少女が一人、月下の湖面の上を飛んでいる。
逆立ちをする様に頭を下にした少女――ワルプルギスの足元には満天の星の輝きが、
頭上には月の光を受けて星空に負けぬ輝きを見せる湖面がそれぞれ広がっている。

いずれも現世では見たことのないものだった。
現世では空は厚く黒い雲に覆われていたし、水面は何時も荒く波立って、茶色く濁っていたから。
ワルプルギスとしては、それらを眺めているだけでも十分心躍る景色なのだが……

ワルプルギス「………………!」

上空から近づいてくる3つの影を見つけ、ワルプルギスは色めきたった。
ここに一緒に来た仲間であるお姉さんの提案を受け、白玉楼を抜け出して約3時間超、ようやく遊び相手がやってきたのだ。

提案を受けた段階で愉しそうだとは思ったが、こうして計画通り遊び相手が来てくれると、その楽しさも一入だ。

上空から降りて来た3つの影――その内一人は見知った魔女仲間だったけど――はワルプルギスの前に立つと、その場で静止した。
3人のうち、紫の髪に、ピンクの寝巻きのような服を着た少女が分厚い本を片手に尋ねてくる。

??「貴女がワルプルギスね? 私はパチュリー・ノーレッジ。 貴女を連れ戻しに来たわ、さぁ白玉楼に帰りましょう」

そう言って、手を差し伸べてくるパチュリー。 対するワルプルギスは口元に笑みを浮かべつつ、言葉を漏らす。

ワルプルギス「……………よ」

パチュリー「?」

手を差し伸べたまま訝しげな表情をするパチュリー。どうやら聞こえなかったようだ。
なら、今度は聞こえるように言ってあげる事にする。その代わり……

ワルプルギス「……お姉ちゃんたち、私の遊び相手になってよ。
       朝まで、夜が明けるまで、私と一緒に遊びましょ? 私の用意した舞台劇のお祭りで!」

この一言が合図となった。
ハッキリとした声で言うと同時に、ワルプルギスは手に隠し持っていたカードを発動。
辺りに強力な魔力が満ち溢れ始め、巻き起こった暴風雨は霧の湖の水面を大きく波立たせる。
満天の星空は、不気味さを感じさせる虹色の光と、黒い雲に覆いつくされ、
荒れ狂う波は、巨大な津波となって、沿岸の森や紅魔館の方へと押し寄せていく。


                      宴符 『スーパーセルフェスティバル』


まさしく幕を思わせるような弾幕が現れ、左右へと広がっていく。

幕が開くと同時に現れるのは、数字の『5』。
ご丁寧にも○で覆われた弾幕の数字は、それが映画か舞台の開幕だと言うようにカウントダウンしてゆく。

265: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 01:38:50.78 ID:NVzYNTEF0

パチュリーが彼女にしては珍しい大声で叫ぶ。

パチュリー「エリー、アリスの人形で全員に呼びかけなさい! 今すぐにっ!」


                               『4』


エリー「わ、分かった!」

パチュリー「咲夜、カウントダウン終了と同時に、こっちも仕掛けるわよ」


                               『2』


エリー「って、ちょっ!? なんで『3』がないのよ!? 反則でしょ!?」

咲夜「畏まりました。パチュリー様」


                               『1』

エリー「あっ、繋がった!
    み、みんな! 急いで、えっと、霧の湖……だっけ? まで来て! ワルプルギスがいきなり弾幕戦を…………」


                               『0』


エリーの呼びかけが終わらないうちにカウントは『0』となった。
直後、豪雨の様な弾幕が降り注ぎ、エリーの手の中にあったアリスの人形を撃ち抜く。

夜通し行われる事になる“魔女”異変の後夜祭、後に彼女の名をとって『ワルプルギスの夜祭』と称される一大弾幕戦はこうして開幕した。



266: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 01:46:57.60 ID:NVzYNTEF0
―――――――――――――― 【同刻・紅魔館】 ―――――――――――――――

レミリア「始まったわね……」

湖の中央で弾幕が展開するのと同時に、嵐の様な暴風雨が巻き起こるのを見ながら、レミリアは呟いた。
窓ガラスがガタガタと揺れ、ガラスは水滴で瞬く間に曇る。 こうなってしまうともう、レミリアは屋敷の外に出る事は出来ない。
ちゃんと意図を察してくれたパチュリーと咲夜が駆けつけてくれた為、ここまでは上手く行ったようだが、ここから先どうなるかは分からない。

レミリア「見てるだけ、というのも随分ともどかしいモノね……」

美鈴「お嬢様、失礼します」

聞こえた声に振り向くと、ノックと共に門番をしていた紅美鈴が部屋に入ってくる。
今夜は咲夜が居ないので門番ではなく、雑務全般を彼女に任せたのだ。

レミリア「美鈴、あの子らの収容は終わった?」

美鈴「はい、パーティーと称して霧の湖周辺の全妖精を呼び寄せました。 大妖精に確認させたので欠員などはありません」

宵闇の妖怪も居たので、一緒に招いてしまいましたが、と報告する美鈴に、レミリアは「そう……」とだけ答える。
これでレミリアの“視た”被害もある程度押さえ込めるはずだ。 ここが絶対安全という保障は全くないのだが……

レミリアは再び窓の外に目をやる。
吹き荒れる暴風で、庭園の垣根や木々が大きく揺れている。 揺れ過ぎて根こそぎ吹き飛んでいってしまいそうだ。

レミリア「庭の整備を頼んだのに、これだと一から作り直しになるかも知れないわね……」

出来ればそんなことにはなって欲しくなかったが、その程度で済むなら安いと、レミリアは思っていた。


267: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 01:50:45.04 ID:NVzYNTEF0
――――――――― 【都会派魔女と現人神とお転婆人魚姫】 ――――――――――

アリさなオク「「「っ!?」」」

幻想郷の各地が見渡せる場所へ行こうと、妖怪の山の頂上を目指していたアリスたちは、眼下で起こった異変に素早く気が付いた。
山の麓から広大な森を挟んだその先、霧の湖付近で、強烈な魔力と、竜巻にも似た暴風が巻き起こるのが見えたのだ。、

直後、アリスの持った人形を通じて、エリーの悲鳴に近い声が届く。

エリー『がった! み、みんな! 急いで、えっと、霧の湖……だっけ? まで来て! ワルプルギスがいきなり弾幕戦を…………』

ブツッ、と言う音と共に途絶えるエリーの声。
向こうに余裕がないのか、通信を担っていた人形にトラブルでもあったのか、とにかく通信が出来なくなってしまったようだ。

オクタヴィア「あはは、凄い魔力……、話にしか聞いてなかったけどこれ程とはねぇ……オクタヴィアちゃんもびっくりだよ」

度肝を抜かれすぎて呆気にとられているのか、オクタヴィアの声には逆に緊張感がない。
対する早苗は表情を強張らせながら、アリスと顔を見合わせる。

早苗「アリスさん……」

アリス「探す手間が省けたわね。 行きましょう」


268: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 01:53:00.21 ID:NVzYNTEF0
――――――――― 【白黒魔法使いと紅白巫女と薔薇乙女】 ――――――――――

霊夢「ああ、もうっ! やっぱり勘があってたんじゃない! どうして私は人里なんかに来ちゃったのよ!」

レミリアの態度が怪しいと思いながらも、大した守護者の居ない人里を優先した判断が裏目に出たことを霊夢は後悔していた。

魔理沙「まぁまぁ、抑えろ霊夢、人里に被害が出てからじゃ遅いからこうして来たんだろ?」

人里に被害が出ないことがハッキリしただけで万々歳じゃないか。 いきり立つ霊夢をなだめるように魔理沙が言う。
霊夢はどうにかしてイライラを抑えようと、ため息を一つつき目を瞑る。
数秒間瞑目した霊夢は、幾分か落ち着いた様子でアリスの人形を片手にしたゲルトルートに問う。

霊夢「今の話だと、そのワルプルギスだっけ? が見つかったのは霧の湖よね?」

ゲルトルート「ええそうよ。それでちょっと聞きたいんだけど、ここからだとどれ位かかるの?」

ゲルトルートの問いに答えたのは魔理沙だ。

魔理沙「ちょっと時間がかかるな。 暫らくはパチュリーたちに持ちこたえてもらうしか無いな」

ゲルトルート「そんな……」

魔理沙の言葉に絶句するゲルトルート、開幕早々通信が途絶えたのだ。
熾烈な弾幕戦が既に展開されている事は想像に難くない。

魔理沙「まっ、出来るだけ早く駆けつけられるよう、超高速で行くしかないな。 早速行こう……」

霊夢「ちょっと待って!」

箒に飛び乗って、飛んで行こうとした所を霊夢に呼び止められ魔理沙は不機嫌そうな顔を向ける。
時間が無いのに何をしてるんだ?と言いたげな顔だ。

霊夢「時間はとらせないわ、行く前に、あそこに連絡を取っておいて欲しいのよ」

そう言って霊夢は連絡先を告げる。
この状態で動かすのは気が進まなかったが、最後の保険だけは掛けておきたかった。


269: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 01:57:23.25 ID:NVzYNTEF0
――――――――― 【七曜の魔女と瀟洒なメイドと引篭り娘】 ―――――――――― 12(日) 子の刻


                      大祭 『聖者の篝火』



ワルプルギス「キャハハハハ、面白い面白い! ほらほら、みんな踊ってよ!」

確実に逝っちゃってるとしか思えない笑い声と共に圧倒的な弾幕を放つワルプルギス。
襲い来る狙いを澄ました弾幕に、パチュリーたちは機敏かつ臨機応変な回避を余儀なくされる。

自機狙い弾の典型とは言え、自身を狙う弾だけでなく他の2人を狙う弾も無数に放たれており、
互い同士で注意を払いつつ上手く誘導しないと、いつ巻き添えを食うか分かったものではない。

エリー「ちょっ!? パチュリー、そっちに誘導しないで! 私の逃げ道が無くなるでしょ!?」

パチュリー「私の逃げ道もそっちしかないのよ。 貴女はまだどうにでもなるでしょ?
      次の弾幕が途絶えた瞬間に反対側に動きを切り替えなさい。 そんなに難しくない筈よ」

そう言って弾幕と弾幕と僅かな切れ間を指差すパチュリー。
既にいっぱいいっぱいのエリーは悲鳴にも似た……いや、最早悲鳴でしかない声を上げる。

エリー「あの隙間できり返しって、弾幕戦に慣れた貴女たちと一緒にしないで!?」

私初心者よ!? イージーシューターなのよ!? と錯乱気味に喚くエリーに、二人から冷たい宣告が告げられる。

咲夜「出来ないならそこで墜ちなさい。 骨は拾ってあげるわ」

パチュリー「墜ちるなら私の見えないところで頼むわね」

エリー「~っ!! やればいいんでしょ!? やれば!? それとパチュリー! エスコン自重!!」

半ば自棄になった様子で弾幕に飛び込んでいくエリーを見て、咲夜はやれやれと肩をすくめ、
パチュリーは「ネタにツッコむ余裕はあるんじゃない」とぼやく。

エリー「引篭りの私はこうして無いと神経がもたないの! ナチュラルハイなの!」

パチュリー「何でも良いから黙って頂戴。 ただでさえ喘息持ちなのに貴女に付き合ってると余計呪文が唱えられなくなるの」

魔術書を読む時間ぐらい黙ってられるでしょ? とパチュリーが愚痴ると、エリーは溜まった鬱憤を吐き出すように突っ込む。

エリー「貴女、喘息持ちって絶対ウソでしょ!? そんな派手に動き回れる喘息持ちが居て堪るもんですか!」

パチュリー「…………幻想郷では常識に囚われてはいけないのよ」

エリー「なら、目線を合わせなさい。 それと最初の沈黙は何?」

弾幕戦の真っ最中だと言うのに言い合いを始めた二人に、一人黙々と反撃を試みていた咲夜が低い声で二人に言う。

咲夜「…………パチュリー様もエリーも漫才をするならこれが終わってからにしてくれません?」

殺気のこもった声にパチュリーとエリーはびくりと背を震わせ、弾幕の回避に専念し始める。
今度ふざけたら、間違いなく咲夜も弾幕を撃つ側に回るだろう、そう思わせる何かが声にこもっていた。



270: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 02:01:15.39 ID:NVzYNTEF0
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咲夜の一声の後、弾幕の回避に専念した結果、3人はある程度の法則を見出す事に成功した。
ある程度3人の避け方が安定してくると、その様子を見ていたワルプルギスは眉を寄せる。

ワルプルギス「同じ動きばっかりでつまんない。 題目か~えよ」


                      召喚 『死狂い道化役者』


新たなスペルが宣言され、ワルプルギスの周囲に8体の影が現れる。
現れたのは黒一色で塗り潰された人影で、その中には見覚えのある背格好のモノも混じっている。

ワルプルギスによって召喚された使い魔はパチュリーたちを取り囲むように四方に散ると各々弾幕を放ち始める。
放つ弾幕は一定ではなく、通常弾幕もあれば、レーザーだったり、斬撃だったりと使い魔によって放つ種類は違う。
弾幕の見本市、そう評するのが正しいのかもしれない。

咲夜「使い魔ですか、話には聞いていましたけど、厄介ですね」

昼の弾幕戦では唯一使い魔を使役する相手とぶつかる事の無かった咲夜たちは、
初めて見る使い魔を駆使した四方八方からの弾幕に思わずそう呟く。

パチュリー「とりあえず完全に包囲される前に何体か潰すしかないわね」

そう言って魔道書を開いたパチュリーは辺りをちらりと見回す。
今居る場所は湖のほぼ中央で、障害物はおろか利用できそうな手頃なモノすらない。
が、すぐに自分たちの足元にアレがあることを思い出し、魔道書の項を捲る。


                      土水符 『ノエキアンデリュージュ』


呪文をさっと唱え、スペルを発動。
足元で荒れ狂う湖から水の弾幕を精製し、手近なところに居た使い魔目掛け集中砲火を浴びせる。

ワルプルギス「……………(ニヤッ」

その様子を見て、ワルプルギスは誰にも見えないほど小さく口元を吊り上げた。
無論、そんな変化に気づく者は居ない。

避けにくい、うねるレーザーを放っていた使い魔の頭が弾丸と化した水に撃ちぬかれ、爆ぜる。
頭が爆ぜると同時に使い魔の身体も幾つかの弾幕となって爆ぜ、四方八方に飛び散る。