クリームヒルト&西行寺幽々子「ちょっと本気出す」 霊夢「やめなさい」 その1

271: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 02:04:23.23 ID:NVzYNTEF0

パチュリー「っ!?」

使い魔自身が弾幕となると言う予想外の事態にパチュリーは目を見張る以外の行動を取ることが出来なかった。
眼前に弾幕が迫るが、動く事が出来ないパチュリーに対し、エリーの鋭い声が割り込む。

エリー「パチュリー! 危ないっ!」


                      防衛 『ファイヤーウォール』


パチュリーに弾幕が直撃するか否かと言う、間一髪のところでパチュリーの眼前に魔力で作られた壁が展開される。
エリーがボム代わりに持っていた防御スペルがギリギリのところで間に合ったのだ。
展開された壁に阻まれた弾幕は、その瞬間打ち消され、パチュリーへの直撃を果たすことなく消失する。

爆ぜた使い魔による弾幕が全て打ち消されると同時にパチュリーはどっと息を吐いた。

咲夜「大丈夫ですか!? パチュリー様!」

パチュリー「ええ、大丈夫よ。 エリー、ありがとう、お陰で助かったわ」

慌てて駆けつけてきた咲夜にそう答えつつ、パチュリーはエリーに向き直って微笑みかける。
エリーは一瞬呆気にとられたが、すぐに笑顔になる。

エリー「貸し一個ね。 御礼は貴女の図書館を漫喫代わりにすることで勘弁してあげる」

パチュリー「ちょくちょく五月蝿いネズミが来るけど、それでもいいならいつでも招待してあげるわ」

エリー「ありがと、さて、おしゃべりの時間もそろそろおしまいかしらね」

魔力防壁にひびが入り始めたのを横目に見ながら、エリーが言う。
ひと時の休息は間も無く終わりを告げ、終わると同時に再びあの嵐の中に突っ込む事になる。

パチュリー「今ので分かった事だけど、あの子の使い魔は撃破すると使い魔自身が弾幕になるわ。攻撃する時は注意して」

エリー「言われずとも重々承知してるよ。目の前であんなの見ちゃったらね……」

咲夜「攻撃を仕掛けるなら、近くに居る使い魔より遠くの使い魔の方が対処がしやすそうですね」

防壁のひびが急速に広がる中、三人は最後の打ち合わせを行う。そして訪れる限界の時――、

272: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 02:07:18.88 ID:NVzYNTEF0

エリー「時間ね。 覚悟だけは決めといてよ」

咲夜「お二方ともご武運を……」

パチュリー「咲夜、貴女もね。 それじゃあ、行くわよ!」

パリンと言う軽い音と共に崩壊する魔力防壁、これまでの静けさを踏みにじるように暴風と弾幕が吹き荒れる。
防壁崩壊と同時に三方に散った三人は、自爆への注意を払いつつ使い魔へたちに挑んでいく。

そんな三人を嘲笑うようにワルプルギスの笑い声が湖に響く。

ワルプルギス「さっきはギリギリのところで逃げられちゃったね。でも、かくれんぼの時間はオシマイだよ。ふふふ、キャハハハハ!」

咲夜「そうね、戯れの時間は終わりよ。 一度露呈した仕掛けにかかるほどこっちも素人じゃないの」


                      奇術 『ミスディレクション』


ワルプルギスの挑発じみた言葉も、自爆と言う初見殺しと対処法が判明した今、効果をあまりなさなかった。
咲夜は時間停止と高速移動を巧みに使い、パチュリーたちは冷静に弾幕と使い魔たちとの位置関係を見極め、
それぞれが次々と使い魔を撃破していく。
もちろん、自爆に巻き込まれる愚を犯すものは居ない。

パチュリーたちにとってはいい傾向と言えたが、コレを面白く思わない者がいた。 ワルプルギスである。
さっきまでの耳障りな高笑いがウソのように、ぶすっとした表情を浮かべたワルプルギスはつまらなそうにぼやく。

ワルプルギス「やっぱり、タネも仕掛けもバレちゃった演目じゃお話にならないか……次行こう、次!」


                      無力 『くずれ近未来都市』


まだ残っている使い魔も居たのだが、ワルプルギスはそれらを自らの手であっさり消し去ると、次のスペルを発動させる。
宙に無数の弾幕と瓦礫が現れたかと思うと、次の瞬間、それらは重力に従っていっせいに降り注ぐ。
弾幕は湖面まで落ちると、その場で堆積し、瓦礫は盛大な水柱を立てて、湖面の弾幕を再び跳ね上げる。

273: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 02:10:23.55 ID:NVzYNTEF0

弾幕と瓦礫を迎撃しようと、咲夜はナイフを投擲するが、打ち消せるのは弾幕だけで、瓦礫には逆にナイフが弾かれる。

咲夜「くっ!? 物理弾幕!? パチュリー様、エリー、瓦礫は本物です。
   瓦礫の迎撃は出来ませんから、瓦礫に対しては回避に専念して下さい!」

エリー「了解っ!」

パチュリー「分かったわ。 それにしても何処からあんな瓦礫を持ってきたのよ……」

降り注ぐ瓦礫は、幻想郷で見られる木造家屋のソレではなく、煉瓦造りの紅魔館に似た、いやそれよりももっと大きな片ばかりだ。
それらの瓦礫は皆、所謂鉄筋コンクリートなのだが、幻想郷の住人であるパチュリーたちは知る由もない。
とにかく幻想郷内で調達した瓦礫ではない事は分かったが、それ以上は推察も観察も出来ない。と言うかする暇すらない。

低空を飛べば、着水した瓦礫の水柱が跳ね上げた弾幕に巻き込まれる可能性が増し、
上空に上がろうとすれば、次々と生み出される濃度の濃い弾幕に突っ込む羽目になる。
中段域になると、重力により弾幕と瓦礫の落下速度は上がるが、その分隙が出来て、回避しやすくなる。

咲夜(弾速にさえ注意すれば中段域が安定圏ですね……。けど、これは……)

上手く中段域に留まる事ができればいいわけだが、言う程容易い事ではない。
いつの間にか低空域か上空に誘導されてしまい危ない場面が散見される有様になる。

エリー「あーっ! もうっ! 上も下も逃げ場がないじゃない! 何でこんな弾幕思いつくのよ!」

パチュリー「同じ魔女仲間でしょ? 趣味嗜好は貴女の方が詳しいんじゃないの?」

エリー「だって私引篭りだしー、あの子と会ったのも幻想郷(こっち)に来てからだしー」

「エリーちゃん分かんない」等と余裕があるのか無さ過ぎて一周しちゃったのか判断に困る態度を見せるエリー。
厄介な弾幕との併せ技で流石にイラっと来たのか、パチュリーの額に青筋が浮かぶ。

 


282: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 20:23:19.73 ID:NVzYNTEF0
 

咲夜「パチュリー様落ち着いて下さい、そんな事をしている場合では……」

咲夜が二人を宥めに入り、三人の注意が弾幕と瓦礫から離れた瞬間、上空のワルプルギスから驚愕の一言が降って来た。

ワルプルギス「あれあれあれー、仲間割れなんかしてて良いのかな~、特大のが行っちゃうよ~っ!」

パチェ咲エリ「「「っ!!!?」」」

ワルプルギスの言葉に上空を見上げた三人が目にしたのは超特大クラスの瓦礫の塊。
幻想郷の平均的な民家は愚か、紅魔館の時計台より大きいんじゃないかと思える程の瓦礫が、三人目掛けて降って来る。

エリー「大きい大きい大き過ぎだってコレ!? 避けられる訳ないじゃん! またなの!? またこの負けパターンなの!?」

パチェ&咲夜「「………………」」

視界いっぱいに広がる巨大な瓦礫に、昼間の弾幕戦で受けた『ロイヤルフレア』のトラウマが蘇ったのかエリーが頭を抱えてうずくまる。
咲夜とパチュリーは取り乱しこそしなかったが、冷静でいられたからこそ分かってしまった。


                      これはもう避けられない。と……


このような瓦礫が来ると最初から想定していたか、迎撃の為の高位魔法を発動する時間があれば、まだ手はあっただろう。
或いは戦っているのが咲夜一人であったなら、時間停止で逃げる事も出来たかもしれない。

しかし、今の二人には事前の想定も、迎撃用のスペルの準備もない、丸腰と言っても過言ではない状態なのだ。
咲夜が時間停止もしたとしてもパチュリーとエリーの二人を助ける事はできない。

これまでどうにか避けきり、乗り切ってきた三人だが、事茲に及んで今この場に居る三人全員が生き延びる手段は最早残されていなかった。 


283: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 20:28:35.27 ID:NVzYNTEF0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 13(月) 子の刻

パチュリー「……咲夜、貴女だけでも逃げなさい」

咲夜「っ!? パチュリー様!? ですがっ!」

覚悟を決めた、パチュリーの低い声。
当然予想されていた言葉ではあったが、咲夜は声を上げずには居られなかった。
思わず目を剥く咲夜に、パチュリーは首を横に振ってみせる。

パチュリー「昼間も十分綱渡りだったけど、それもここまでみたいね……。 後の事は頼ん……」


                      「諦めるなんてらしくないわよ、パチュリー」


そんな声が割り込んだのは直後のことだった。
その言葉と同時に、超特大瓦礫にも負けないほどの巨躯を誇る影が、瓦礫を一刀両断する。


                         試験中 『ゴリアテ人形』


ぱっくりと真っ二つに両断された瓦礫は三人の脇をかすめ、湖面目掛けて落下していく。
特大クラスの瓦礫による危険は去ったが、二つに割れた際に生じた瓦礫の破片はまだ残っている。
それだけでも十分危険なのだが……

??「あたしに任せて! どりゃあああぁぁぁっ!!」

そんな喊声と共に飛び出してきた青い装束の少女が、その手に構えたサーベルを一閃させる。
サーベルの斬撃に併せて生まれた弾幕の刃が、瓦礫を粉々に斬り裂き、粉砕する。

他方、三人への直撃こそしなかった特大瓦礫だが、その瓦礫が墜ちようとしている湖面には無数の弾幕が浮いたままとなっている。
三人は湖面へ着水した瓦礫が巻き上げる弾幕を巻き込んだ巨大な水柱が来ることを警戒したが、
瓦礫が着水する直前に、湖自体に穴、と言うか裂け目が生まれ、水柱を立たせることもなく瓦礫は地面が露になった湖底へ更に墜ちていく。

284: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 20:38:52.94 ID:NVzYNTEF0

咲夜「これは……、早苗の開海『モーゼの奇跡』!? それじゃあさっきの影は……!」

目の前で次々と起こった事にようやく理解が追いつき、三人は声のした方を見上げる。
上空から降りてくるのは、青い衣装ばかり纏った三人――巫女と、人魚と、人形遣いの姿。


??「ご名答です咲夜さん。 正解者に拍手!」

御幣片手に、おちゃらけてみせる巫女――東風谷早苗。


オクタヴィア「どーにか間に合ったみたいだね。 良かったぁ……」

サーベルを鞘に納めながら、胸をなでおろす人魚――オクタヴィア。


アリス「待たせたわね。加勢しに来たわよ」

操っていた巨大人形の具現化を解きつつ微笑みかける人形遣い――アリス・マーガトロイド


パチュリー「……まったく、どういうタイミングで来るのよ、寿命が縮まったじゃない」

見知った顔ぶれに、思わず冗談じみた愚痴が口をついて出る。
とんだ乱入者の出現と相成ったわけだが、一部始終を見ていたワルプルギスは――笑っていた。

ワルプルギス「アハハ、すごいすごい! あの瓦礫を真っ二つにするなんて!
       やっぱり役者は多い方が良いよね! お祭りはこうでなくちゃ!」

きゃっきゃと言う歓声が聞こえてきそうなほど盛り上がっているワルプルギスを見て、早苗が頬を引きつらせる。

早苗「アレは……見事にフランさんとかこいしさんと同じ類ですねぇ……」

アリス「天候が荒れてて助かったわね。紅魔館からあの子まで出てきてたら今頃大惨事よ」

285: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 20:44:45.84 ID:NVzYNTEF0

事前に話は聞いていたが、実際に見て改めて実感する。
アレは間違いなく、相手をするだけでも疲れる相手である。と……

ワルプルギス「役者さんが増えたんだから演目を変えなくちゃだね。次の演目はこれ!」


                      装置 『コーザリティーギアエンゲージ』


現れるのは放射状に放たれる多条の回転レーザーと、先ほどまでの瓦礫と同じ、完全物理の無数の歯車。
レーザーは出力が抑えてあるのか、実体化した歯車に当たると、その瞬間だけ遮られるが、それ以外は隙など殆どない。
回転するレーザーを見た途端オクタヴィアが頭を抱える。

オクタヴィア「ちょっと、この回転レーザーって、完全にあたしの上位互換じゃないの!?
       私だって12条が限度だったのに……、これじゃあ立場がないじゃない……」

などと妬みとも羨みともとれるぼやきをもらすオクタヴィアに早苗がトドメと言わんばかりの一言を放つ。

早苗「後から出てきた相手が上位互換してくるのは良くある事なんで諦めて下さい」

降り注ぐ弾幕と自機狙いと、自機外しと、回転と、へにょりは基本です。
となぜか胸を張って偉そうに言う早苗に対し、オクタヴィアはがくりと膝を付く。
実際には、オクタヴィアに膝はないのだが……

エリー「まぁ、これなら攻略法も分かりやすいし、まだなんとか……」

一方最初から相手をしていたパチュリーたち三人はこの弾幕は中休みになると踏んでいた。
早苗の言うとおり、良く見られる基本的な弾幕なので、レーザの隙間に入って、一緒に回っていれば回避も容易いからだ。

ワルプルギスが次の行動を起こすその時までは……

ワルプルギス「キャハハハ、準備は良いみたいだね。それじゃ二つ目の歯車行くよーっ!」

全員「「「「なっ!?」」」」

ワルプルギスの言葉と共に現れるもう一つの回転レーザー。
条の数こそ違うが、最初の回転レーザーとは反対周り、つまり噛み合うように現れた形だ。
二つのレーザーが噛み合って回転する姿はまさしく歯車と言えた。

286: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 20:48:53.41 ID:NVzYNTEF0

当然、レーザーの隙間に入って回り続ける回避法はこの弾幕には通用しない。
噛み合うレーザーが現れる直前に上手く逃げるか、実体化した歯車にレーザーが遮られる一瞬を利用して、別の隙間に逃げる他手段はない。

真の姿を現した弾幕を見て、にこやかな表情を浮かべたエリーがやけに抑揚のない声で言う、

エリー「うわー、まさかの電流イライラ棒状態だー(棒読み」

早苗「懐かしいですねー、まさか今になって体験できるとは思いませんでしたよー」

エリーの呟きに、早苗が緊張感の欠片もない声で相槌を打ち、そこに更にアリスのツッコミが入る。

アリス「…………貴女たち、随分と余裕綽々ね」

オクタヴィア「余裕綽々と言うか、アレはどう見ても現実逃避のような……」

絶望すら通り越して壊れた反応を見せる者が現れるが、煉獄はまだまだ終わらない。
トドメと言わんばかりの宣告が降って来たのは、二つ歯車の動きに全員がようやく対応出来るようになった直後の事だった。

ワルプルギス「キャハハハ! 楽しんでる、って事はもっと行けるよねー。 今度は巨大歯車だよー? そーれっ!」

恐怖すら感じさせるほどの無邪気な声と共に、ワルプルギスが生成する物理の歯車が一気に巨大化する。
その大きさは、一度はパチュリーたちを挫けさせた超特大瓦礫と同じか、それよりも大きい。

あまりにも予想外な展開に、錯乱していた者も、そうでない者も一気に現実に引き戻された。

早苗「っ!? アリスさん! さっきの人形もう一回出して下さいっ!!」

さっきの気の抜けようがウソの様に表情を引き締めた早苗が僅かばかりの希望を込めて、アリスに呼びかける。
だが、アリスから返ってきた返答は、そんな希望をあっさりとぶち壊した。

アリス「無理よ。 あの人形は試験中のもので、一日に3分動かすのが限度なの。
    さっきので今日の分は使い切ってしまったわ」

287: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 20:55:42.58 ID:NVzYNTEF0

咲夜「他に、アレに対抗可能な人形は?」

アリス「ごめんなさい、ないわ……」

そう言って俯いたアリスは強く唇を噛む。
パチュリーたちの危機を救うためだったとは言え、切り札の投入が早すぎたのでないか?
あの時、他の手段でも、十分対抗可能だったのではないか?
そんな疑念が、アリスの中で生まれては消える。
一度本気を出してしまえば、後はない。 それは分かりきっていた事なのに……

パチュリー「来るわよ!」

アリス「っ!!?」

そんなアリスの思考は、パチュリーの簡潔な、それでいて切羽詰った声によって遮られた。
反射的に見上げると、完全に実体化した巨大歯車が今まさに、こちら目掛けて墜ちて来ようとしていた。

巨大歯車はほぼ一枚板と言っても良く、穴が開いているのは中心軸の部分だけ、その幅も人一人が通るのがやっとの幅であり、
回転レーザーとの兼ね合いを考えれば、そこを通り抜けられるのは、六人中、一人だけ。 例え奇跡が起きたとしても二人が限度だろう。

オクタヴィア「…………よし!」

絶望的な表情で皆が墜ちてくる巨大歯車を見上げる中、飛び出していく影が一つあった。 オクタヴィアだ。
オクタヴィアは巨大歯車を見据えると、その手にサーベルを構える。

固い決意を感じさせる彼女の表情に、オクタヴィアの真意を悟ったのはエリーだった。

エリー「くっ!? やめなさいオクタヴィア! その術は諸刃の剣よ!」

オクタヴィア「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? 今はやるしかないの! 行くよっ!」


                      特攻 『痛覚遮断』


レーザーが飛んでくるのにも構わず、オクタヴィアは巨大歯車に斬りかかる。
一切の回避を試みずに行われた攻撃により歯車に細かいひびが入り、ひびは歯車の穴を徐々にではあるが拡げていく。
が、その対価と言わんばかりにレーザーは次々とオクタヴィアの身体を刺し貫き、その肌を焼く。

288: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 21:04:43.81 ID:NVzYNTEF0

あまりにも無謀な行動に咲夜が思わず声を上げる。

咲夜「なっ!? 何を考えているのよあの子は!? 死ぬ気なの!?」

パチュリー「……おかしいわ、あれだけ被弾すればいつ撃墜されて(ピチュって)もおかしくないのに……。 エリー、あれはあの子の特殊能力か何かなの?」

オクタヴィアの行動に驚愕しつつも、冷静な洞察と思考を続けていたパチュリーがエリーに尋ねる。
こんな状況だと言うのに冷静な思考が出来てしまう自分が少し嫌になったが、そんな事を言っている場合ではない。

エリー「あれは痛覚遮断って言ってね。 身体からの痛みを一切感じないようにする事で、被弾したと自覚させない術なのよ。
    もちろん自覚しないだけでダメージは受けるから普通は意味を成さないんだけど、オクタヴィアには驚異的な再生能力が備わっているの」

アリス「つまり、感覚の遮断と強力な回復魔法を同時に行う事で、一時的な無敵状態になって限界を突破するって術ね?
    確かに諸刃の剣だわ、博打要素が大きすぎるし、術が解けた後の反動がバカにならないじゃない」

アリスの言葉にエリーは無言で頷く。
だが、こうして術を発動して、既に斬りかかっている今、オクタヴィアに任せる以外手段はない。

下手な事をして邪魔にならないよう、静観しているのが正解。

誰もがそう思ったのだが、一人だけ、違う行動を取った者がいた。
オクタヴィアの後を追うように上昇してゆく緑髪の少女――早苗の背中にエリーの鋭い声が飛ぶ。

エリー「やめなさい! 貴女が行ったところでオクタヴィアの足手まといにしか……」

早苗「オクタヴィアさんだって無茶を承知で諦めずに向かっていったんです! やりもしないうちから決め付けないで下さいっ!」

エリー「……っ!」

早苗「……幻想郷に来て早数年、神奈子さまたちに頼らないでもやっていけるようにと編み出したこの技……、
   これが守矢の……、いえ、私、東風谷早苗の“奇跡”です!」


                      妖怪退治 『妖力スポイラー』



289: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 21:10:59.19 ID:NVzYNTEF0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その時、一か八かの痛覚遮断で勝負に出ていたオクタヴィアは限界を迎えつつあった。

オクタヴィア(くっ、被弾が多すぎて回復が追いつかない! このままじゃ術が切れると同時に行動不能かな……?)

これ以上の被弾を避けて回復に専念出来ればいいのだが、
レーザー弾幕は止まらないし、なにより目的であった巨大歯車の破壊を果たせなくなる。

この術を発動した時点で覚悟は決めていたが、いよいよこれまでかもしれない。

オクタヴィア(ま、いかにも後先考えないあたしらしい魅せ場が出来たし、ここで終わっても……)

などと、思考がネガティブな方向に傾き始めたその時、オクタヴィアを襲っていたレーザーがふっと霧散した。

オクタヴィア(……なに? 急にレーザーが……)

スペルブレイクかとも思ったが、そうではない。
ワルプルギスの頭上で光を放つスペルカードは未だ発動状態だ。

自身のダメージばかりに気が行っていたが、周囲を見回してみてオクタヴィアは気付く、
レーザーはただ単に霧散しているのではなく、微粒子に分解された上である一定の方向へ流れて行っている、と言う事に……、

オクタヴィア「っ!?」

ワルプルギス「キャハハハ、お見事だね! 私の技を吸収しようとする人、初めて見たよ!」

その流れを視線で追ったオクタヴィアは目を見開き、上空でそれら全てを見ていたワルプルギスは賞賛とも感嘆とも取れる声を上げる。
微粒子の流れる先にいたのは他でもない早苗だった。

早苗「こう見えて私も神の端くれですからね! 甘く見ないで下さい!」

粒子化した弾幕をその身体に取り込みながら、不敵な笑みを浮かべた早苗がオクタヴィアのもとへ飛んでくる。

オクタヴィア「早苗! アンタ一体何やって……!」

早苗「何って、見ての通り、相手の妖気の吸収ですよ? 弾幕は私が打ち消しますから、今のうちに歯車を!」

オクタヴィア「くっ! お願いっ!」

290: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 21:17:59.14 ID:NVzYNTEF0

本当なら言いたい事は山ほどあったのだが、オクタヴィアは言われたとおり歯車の迎撃に全力を注ぐ。
早苗はあっけらかんとした態度をとったつもりだったようだが、その表情は明らかに苦痛に歪んでいた。

早苗(ツッコミすらナシですか……これは表情に出ちゃったかな?)

オクタヴィアやワルプルギスに対してあんな啖呵をきった早苗だが、状況は思っていた以上に過酷だった。
ワルプルギスの弾幕、と言うか妖気に籠められた穢れや瘴気が想像以上に濃いモノだったのだ。

その濃さは半分神の域に足を踏み入れている早苗でさえ、気を抜けば闇へ堕ちてしまうのではと思わせるほどだ。

早苗(クリームヒルトさんが一気に魔女になってしまったのも納得ですよ。
   これほど強烈な呪詛をまともに受けて無事で済むわけがない……!)

早苗の葛藤が伝わったのか、はたまた被弾することがなくなったのでリミッターが外れたのか、
オクタヴィアの斬撃のペースが上がる。 そして……


オクタヴィア「これで、終わりだああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


一際大きく振りかぶった一撃が巨大歯車に叩き込まれ、その巨体に明らかな亀裂が入る。
一度入った亀裂は瞬く間に大きくなり、亀裂は圧倒的な重量を持つ歯車を崩壊へと導く。

オクタヴィア「みんな! 後は上手く避けてっ!」

早苗「レーザーは私が抑え込みます! 今のうちに上空へ!」

永い様で短い攻防の末、満身創痍と言ってもいい状態の二人の声に、全員が弾かれたように動き出す。
ある者は魔法で、ある者は人形で、またある者は自身の能力を駆使して、二人が切り開いた血路を駆け上がる。

その内、真っ先に飛んできたアリスが二人の前に立つ。

早苗「アリスさん、私たちやりましたよ!」

オクタヴィア「ちょ~っと、ボロボロになっちゃったけどね~」

アリス「~~~~~~っ!!」

やけにいい笑顔を浮かべる二人に対し、アリスは無言で上海人形を二体、具現化させる。
次の瞬間、上海人形はその手に持ったハリセンで、オクタヴィアと早苗の頭を思いっきり引っ叩いた。

パチェ咲エリ「「「!!!」」」

291: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 21:24:01.09 ID:NVzYNTEF0

不意打ちだった上、全く遠慮のない一撃をもろに受け悶絶する二人。
そこに、アリスの口から彼女らしくもない罵声が飛び出す。

アリス「バカ! 何考えてるのよ貴女たちはッ!?
    昼から見ててバカだバカだとは思ってたけど、ここまで救いようのないバカだとは思ってもみなかったわ!
    魔理沙並み……、いいえそれ以上のバカよ!」

オク&早苗「「す、すいません……」」

あまりの剣幕にオクタヴィアたちは思わず頭を下げるが、アリスの小言は止まらない。
口調こそキツイが、棘のない、言うなれば妹を叱る姉の様なモノだったが、二人はすっかり縮こまっていた。

そんな様子を横目に見ながら、パチュリーが苦笑する。

パチュリー「相変わらず変なところで世話焼きよね、アリスって……」

咲夜「本人は絶対認めようとしませんけどね……」

咲夜も小さく微笑みながら相槌を打ち、エリーは「へー意外」と呟きながら目を丸くしている。
そこに空気を読んでいるのかいないのか、ワルプルギスの声が割り込む。

ワルプルギス「そろそろいーかな? 次行くよ~っ!」

オクタヴィア「うへー、まだやる気なの!? あたし今ので限界近いんだけど……」

早苗「私もですよ。 と言うか宣言が必要な弾幕戦で助かりましたよ。 ガチでやり合ってたら勝てる気がしません」

早苗の言葉にその場にいた全員が気まずそうに目線を逸らす。
最低限のルールが守られている為、かろうじて勝負になっているが、
これが何でもありの普通の戦いであったなら、ここまでやり合えた自信はない。

ワルプルギス「今度の演目は、これだよー 戯曲 『メフィストフェレスの………」

そんな雰囲気など何処吹く風でスペルを発動させようとするワルプルギス。
どんな難題スペルが来るのか、全員が身構えた直後の事だった。

ワルプルギスの周囲に多数の御札が現れ、ワルプルギスに直接攻撃を加え始めた。
更に何処からともなく伸びてきた棘付きの茎がワルプルギスの腕を拘束し、発動寸前だったスペルを打ち消す。

292: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 21:29:23.62 ID:NVzYNTEF0

アリス「御札に薔薇の茎……!? まさか!」

目の前で起こった光景にアリスは御札と茎の飛んできた方向を振り返る。
その先にいたのは二人の少女……。

??「これはまた随分と派手にやられたのね……、ボロボロじゃない……」

??「それにしたって弱気が過ぎるわよ。
   アンタたち、疲れすぎて弱気になってるんじゃないの? 気迫で負けたらその時点で勝負は負けよ」

翅の生えた少女――ゲルトルートと、嵐の中でも目立つ紅白の巫女服少女――霊夢が、口々に漏らしながら戦場と言う舞台に参入する。
パチュリーたちがその見た目通り、かなり疲弊しているのを感じ取り、霊夢はやや後ろを飛んでいるゲルトルートに指示を出す。

霊夢「ここまで手酷くやられてる様じゃ、無茶は出来ないわね。 ゲルトルート、乙案で行くわよ」

ゲルトルート「分かったわ。 なるべく早く戻ろうとは思ってるけど、それまでお願いね」

そう言ってゲルトルートはパチュリーたちの方へ降りていき、霊夢はワルプルギスの方へと向き直る。

霊夢「アンタがワルプルギスの夜?」

ワルプルギス「そーだよ。 お姉ちゃんスゴイねぇ、私のスペルを発動前に無理矢理無効化するなんて……」

霊夢「隙があり過ぎなのよ。アンタは……
   初めての弾幕戦で色々魅せたい気持ちは分かるし、アンタの力が強いのも認めるわ。
   でもね、アホみたいにただスペルを連発するだけで勝てるほど甘くないのよ。 弾幕戦は……」

呆れたように肩をすくめてみせた霊夢は次の瞬間、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

霊夢「まぁ、お陰でアンタのスペルの攻略法はきっちり見つけさせてもらったけどね」

ワルプルギス「攻略法? なにそれ? 大体お姉ちゃんは今までこの場に居なかったじゃん」

293: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 21:33:35.29 ID:NVzYNTEF0

霊夢「確かに直接は見てないわ。 けど、ありがたいことに逐一状況を教えてくれる便利なモノがこっちにはあるの」

そう言いつつ、霊夢は捜索開始前にアリスから渡されていた自律人形をちらりと見やる。
視線を向けられ、人形はえへんと言うように胸を張ってみせる。

霊夢「アンタの弾幕は、多人数、それも共同戦線を張って抵抗してくる相手との戦闘に特化してるのよ。
   一見するとどのスペルも凶悪且つ圧倒的な攻撃よ。
   だけど、それらのスペルには必ず“一人”は生き残れるような穴、と言うか設定があるのよ」

例えば、巨大瓦礫。
あの時、咲夜がパチュリーやエリーの事を顧みず、自身が生き残る事に重点を置いていたのなら、
咲夜は時間停止を使って、あっさりあの瓦礫を避けて見せただろう。

或いは、巨大歯車。
二つの回転レーザーが厄介だったとは言え、巨大歯車には人一人が通れる穴が開いていた。
つまりタイミングを合わせる事が出来る者が一人でもいれば、その時点でその一人が生き残れるのは確定する。

『他が犠牲になっても誰か一人が生き残ればいい』と言う思想で臨んでいたのなら、クリアは容易だったのである。
では、何故それが出来なかったのか?
それはいずれの場面に於いても、『全員でこの弾幕を乗り切ろう』と言う考えで全員が動いていたからだ。
仲間と共同で戦っている、と言う潜在的な要因が、パチュリーたちから選択肢を奪っていたのだ。

地にしっかり根ざした木々を簡単にへし折る暴風が、弄ばれるまま宙を漂う無力な葉っぱを完全に消滅させる事が出来ないのと同じで、
抵抗するものには容赦がないが、用意された流れに従うと途端に優しくなるのがワルプルギスの弾幕の特徴と言えた。

霊夢「アンタ、舞台装置の魔女、とか呼ばれてたわよね?
   確かにアンタの弾幕は舞台よ。 多数の役者を揃えて、見事に掌の上で踊らせてみせたんだからね」

ワルプルギス「フフフ、アハハハ、キャハハハハハ! そこまで気が付くなんて流石だよ!
      お姉ちゃんはこれまで相手してきたお姉ちゃんたちと比べて一番スゴイよ! だから……」


                         「特別に私の本気、見せてあげるね」


                      天変地異 『オーバーターンハイパーソニック』



294: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 21:38:03.55 ID:NVzYNTEF0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 13(月) 丑の刻

一方、一時的に戦場から離脱したパチュリーたちは、ゲルトルートの回復魔法などで体力回復に努めていた。

咲夜「!? パチュリー様! ワルプルギスが!」

傷が浅かった為、見張りを買って出ていた咲夜が声を上げ、全員がワルプルギスの方へと振り返る。
振り返った先に見えたのは真下を向き続けていた顔を上げ、身体を起こそうとしているワルプルギスの姿。

パチュリー「逆立ちをし続けていたワルプルギスが起き上がろうとしている? 一体何が……」

エリー「ゲェーッ!? あれは!」

早苗「知ってるのですか!? エリーさん!」

思わず聞き返した早苗にエリーは顔を真っ青にしながら頷く。

エリー「逆立ちしている時のワルプルギスは実力の1/3も出してないの。 ワルプルギスが逆立ちを止めたと言う事は……」

ゲルトルート「手加減抜きの本気モードに入った、って事ね」

神妙な顔をしたゲルトルートの呟きに、早苗の声も思わず上ずる。

早苗「そんな! あれでまだ本気じゃないなんて、どれだけ化け物なんですかあの子は!?」

オクタヴィア「だからあたしが最初に言ったじゃん、半端じゃなく強力だ、って……」

早苗「……………」

オクタヴィアの言葉に今度こそ早苗は黙りこくる。
想像を絶する状況に、とうとう言葉も出なくなってしまったようだ。

そういう意味では長い経験と付き合いがそうさせたのだろう、咲夜やアリスたちは早苗より幾分か落ち着いていた。

咲夜「どっちにしても、今は霊夢に任せる他なさそうね……」

アリス「そうね……、そう言えば魔理沙はどうしたの? 姿が見えないようだけど……」

捜索開始時には確かにいた筈の魔法使いの姿がない事に今更ながらアリスが気がつく。
それだけ余裕がなかった、という事なのだが、そこにこの場で突っ込む野暮な者は居ない。

ゲルトルート「ああ、魔理沙なら出迎えに行って貰ってるわ」

パチュリー「出迎え? 出迎えって誰を迎えに行ったのよ?」

事情を唯一知っていると思われるゲルトルートの答えに、パチュリーが当然の疑問を漏らす。
ゲルトルートは戦場から視線を逸らし、ある方向――冥界の入り口のある方角に目線を送る。

ゲルトルート「あの子、ワルプルギスに唯一対抗しうる私たちの最後の切り札……クリームヒルトよ」



298: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 23:02:37.29 ID:NVzYNTEF0

――――――――――― 【白黒の魔法使い @ 白玉楼】 ――――――――――― 13(月) 丑の刻

魔理沙「なるほどねぇ、どうりで白玉楼と連絡がつかないわけだ」

霊夢たちと別れ一人、白玉楼へと舞い戻ってきた魔理沙は白玉楼の寝殿周囲に展開された檻のような結界を見て納得したように呟いた。

最後の切り札――クリームヒルトを呼び寄せる。
そう言って白玉楼に連絡をとろうとした霊夢だったが、いくら呼び掛けても通じない。
幽々子たちも事情は分かっている筈なのだから、呼び掛けに応じない訳がない。
それでも通じない、と言う事は何らかのアクシデントが発生している可能性が高い。
そう踏んだ霊夢は魔理沙に連絡役兼、クリームヒルトを連れてくるよう頼み、魔理沙もそれを受けて白玉楼に飛んだのだ。

魔理沙「お? あれは……」

今、魔理沙が来ているのは白玉楼の庭。
途中で宴会が切り上げとなった為、飲みかけ酒瓶やら徳利が放置しっぱなしになっているその庭に一つの影が見えた。
箒から飛び降りた魔理沙は、檻の前で座って一人で酒を飲んでいる女性に呼びかける。

魔理沙「こっちは急いでるんだ、そんな所で酒飲んでないでこの檻をどけてくれないか?」

??「あら?バレた?」

魔理沙「バレたもなにも檻の真ん前で一人で酒飲んでりゃ誰だってアンタを疑うと思うぜ」

魔理沙の言葉にそれもそうかと言いつつケラケラと笑う女性。

??「んー、まぁアタシとしちゃこうやって酒飲んでる方が楽だし、いいんだけどねー。
   ちなみにアタシはロベルタ、今居る魔女の中じゃ唯一のオ・ト・ナだ」

魔理沙「随分だらしのない大人だな……。私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ。
    ちなみに、私としては黙って通してもらっても全く構わないんだぜ」

ロベルタ「でもまぁ一応、あの子に持ちかけたのアタシだし、言いだしっぺが何もしないわけにはいかないよなー」

頭をぽりぽりと掻きながら、腰を上げるロベルタ。
既に酒が回っているのか、その動きは緩慢だ。

299: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 23:08:12.95 ID:NVzYNTEF0

魔理沙「おいおい、そんなに飲んだ状態で大丈夫か? 一気に酔いが回っても知らんぞ」

ロベルタ「あー、大丈夫大丈夫、アタシもあんたらと同じでケッコー飲み慣れてるし……。 ん~、そーだなー」

立ち上がってきょろきょろと辺りを見回したロベルタは、酒が注ぎっ放しになった杯を見つけ、ニヤリと口元を吊り上げた。
杯を左手で持ちつつ、ロベルタは魔理沙の方へと向き直る。

ロベルタ「よし、アタシがこいつを持ってるから、これを撃ち落してみせな。 出来たら言う事を聞いてやるよ」

魔理沙「撃ち落す……それだけで良いんだな?」

八卦炉を構え、最後の確認と言わんばかりに尋ねる魔理沙に、ロベルタは頷く。

ロベルタ「ああ、どんな手を使っても構わないぞ。 おねーさんは女には寛容なんだ。 男にゃ容赦しないけどな」

魔理沙「なら、遠慮なく行くぜ!」


                      魔符 『ミルキーウェイ』


まずは小手調べと言わんばかりに魔理沙は小スペルを発動。
箒に飛び乗ると星屑弾幕をばら撒きつつ、ロベルタ目掛け突進する。
が、ロベルタはあっさりとその攻撃を回避した。

ロベルタ「おっと、そのスペルはゲルトルートとの戦いで使ったヤツじゃん。その程度じゃアタシは倒せないよ」

白玉楼の寝殿を檻の結界で覆った後、暇つぶしにと見た昼の弾幕戦を記録した映像を思い出す。
酒を飲みながら見ていたので、スペル名までは覚えていなかったが、確かゲルトルート戦で決め技として使っていたような気がする。

そんな事を思っていると、魔理沙が不敵な笑みを浮かべつつ言う、

魔理沙「残念だが、コイツは昼のヤツより遅い下位互換スペルだ。 さぁて、それじゃ速度を上げさせてもらうぜ!」


                      魔符 『スターダストレヴァリエ』


ロベルタ(っ!? 速い!)

同じような弾幕だが、今度は先の『ミルキーウェイ』に対し、速度が段違いに上がる。
心なしか、その後ろに伸びる星屑の弾幕も量が増えているように見える。
右へ左へと回避するロベルタに対し、魔理沙は執拗に突貫を繰り返す。

300: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 23:15:01.14 ID:NVzYNTEF0

ロベルタ「まったく、こうもしつこく追ってこられちゃ酒をあおる時間すらない」

魔理沙「ゆっくり酒を飲みたいなら、なんであんな事をしたんだよ?」

アンタとあの魔女が抜け出さなきゃ今頃二次会三次会に突入してた筈だと言う魔理沙にロベルタは小さく笑ってみせる。

ロベルタ「なんで?だと、『その方が面白そうだったから』に決まってるじゃないか」

何を当然のことを、と言わんばかりの態度のロベルタに、魔理沙は攻撃を続行しつつ笑い出した。

魔理沙「こりゃ傑作だな。 そういうシンプルな動機、私は好きだぜ。
    酒も問題なさそうだし、アンタなら幻想郷でも上手くやって行けると思うぜ」

ロベルタ「そりゃどーも」

魔理沙「……で、ホントの理由はなんなんだ?」

笑うのをやめて、魔理沙が表情を引き締める。
今の一言でも十分動機になりうるのだが、これは真の動機ではないと魔理沙は踏んでいた。

魔理沙「確かにアンタが暴れまわるならそれで十分さ、でも実際問題暴れまわってるのはワルプルギスって子供だ。
    これは単なる推察に過ぎないが、この騒ぎはその子の為にやった事、なんじゃないのか?」

ロベルタ「……ちゃらちゃらしてるように見えて、中々鋭いじゃないの。そーだよ、その通りさ」

元々積極的に隠すつもりはなかったのだろう、ロベルタはあっさりと認める。

ロベルタ「魔法使いのお嬢ちゃん、魔女たちが現世から幻想郷(こっち)に来た時に全員にある変化が起こったんだが、なんだか分かるかい?」

魔理沙「いんや、全く見当もつかん。 第一、私は外の世界でのアンタたちがどんなだったか、知らないしな」

ロベルタ「それはな、明確な自意識、いや理性って言った方が良いかな……が戻った事なんだ」

外の世界に居た頃の“魔女”はひたすらに呪いを振り撒く化け物でしかなかった。
結界と言う巣を作り、そこに人をおびき寄せて襲う。そこには欲望と生存本能しかない。

それが幻想郷に来て、変わった。

301: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 23:21:56.32 ID:NVzYNTEF0

今現在、幻想郷に住み着いている他の妖怪が、外に居た頃は人に仇なす存在ばかりだったのが、
幻想郷に来てからはある程度の秩序(もちろん人間側の譲歩もあるのだが……)を遵守するようになったのと同じで、
魔女にも、人間だった頃の人格と理性が戻ったのだ。

ロベルタ「まぁ、そのせいで救済の魔女は随分と悩んでたようだけどな」

理性の芽生えは言い換えれば、罪の意識の芽生えでもある。
もとより優しく真面目な性格だった事もあって、クリームヒルトは悩み苦しむ事になったのだが、それはまあ措いておく。

ロベルタ「でだ、ここで問題になるのがワルプルギスだ。 あの子が私らの中じゃ一番幼いのは知ってるか?」

魔理沙「ああ、聞いてるぜ……って、成る程な。そういうことか……」

そこまで聞いて魔理沙はロベルタが何を言いたいのか悟った。
既に何度か挙がっている話ではあるが、フランやこいしと同じなのである。

ワルプルギスは見てのとおり、規格外の魔女だ。 当然抱えている穢れも半端なものではない。
が、その穢れを宿している本人の理性は、というと無邪気な子供程度でしかない。

抑圧は本人の知らぬ間に鬱憤となって溜まり、ある時一気に噴出する事になるだろう。
本人は愚か、周囲を巻き込む圧倒的な暴力となって……。

魔理沙「それで、アンタは遊び場を作ってやった訳だ。 最悪な形で鬱憤が爆発する前に……」

ロベルタ「まぁそんなところさ。 ところでお嬢ちゃん、そろそろスペル変えてくれない? いい加減見飽きたんだけど……」

魔理沙「そうだな、こっちも丁度飽きてきた所だ。 次に行かせて貰うぜ!」

答え合わせも終わったので、そろそろお話は終わりにして、弾幕で語り合う事にする。


                      恋符 『ノンディレクショナルレーザー』


箒に乗ったまま、魔理沙は周囲に複数の魔方陣を展開する。
時計回りに周回する魔方陣から細いレーザーが放たれ、一拍の間をあけて反時計回りに周回する魔方陣から太目のレーザーが放たれる。

とは言え、大小あわせて10本に満たないレーザーなので、避けるのは容易だ。

302: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 23:30:22.13 ID:NVzYNTEF0

ロベルタ「ガラッと手を変えてきたねぇ、でもこの程度じゃ……」

魔理沙「気が早いぜオネーさん。このスペルはここから先が勝負だ!」

レーザーの発射を継続しつつ、魔方陣の中から大小様々な星型の弾幕がばら撒かれる。
それも真っ直ぐな流れではなく、波打ちつつ範囲を広げながら、あたり一面を覆っていく。

ロベルタ「前言撤回だな。 こりゃ少々厄介だ」

魔理沙「そうかい、なら厄介ついでにもういっちょ上乗せだ」

そう言って魔理沙は弾幕を展開しながら、ロベルタの周囲を回り始める。
魔理沙が動くたびに位置関係が変わるので、当然ロベルタも立ち位置を変える必要が出てくる。

魔理沙「酒が入った状態で、ぐるぐる追い回される気分はどうだい?」

ロベルタ「そりゃ良いとは言えないな。 お嬢ちゃんが男なら張っ倒してる所だ」

魔理沙「まあ当然だよな。 ちなみに私だったら女だろうと構わずぶっ飛ばしてるところだぜ」

そう言って八卦炉を撃つ仕草をして見せる魔理沙。

ロベルタ「おー、怖い怖い。 次にお嬢ちゃんとやるときには用心棒を雇った方が良いかもだな」

魔理沙「半端な用心棒じゃ話にならないから強いのを連れて来いよ。オネーさん」

ロベルタ「ご忠告、ありがたく受け取っておくよ」

ロベルタ(さて、どうしたもんかな……)

冗談じみた会話を交わしつつ、ロベルタは魔理沙が懐へと仕舞おうとしている八卦炉を見つめた。
魔理沙が対クリームヒルト戦で見せた、魔力砲撃――『マスタースパーク』をこの試合の決め技として使ってくるのはほぼ間違いないと見ていいだろう。
クリームヒルトの砲撃弾幕である『ティロ・フィナーレ』と互角にやりあったスペルだ。
砲撃戦に特化した魔女か、クリームヒルトやワルプルギスといった規格外組でもない限り、真正面から受けるのは愚策でしかない。

303: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 23:36:59.48 ID:NVzYNTEF0

ロベルタ(そうなると、打つ手は一つしかないな……)

オクタヴィア辺りなら、何も考えずに向かっていきそうだが、その点ロベルタは大人だといえた。
真正面から受ける気も、もちろんくらうつもりも一切ない。
その時がきたのなら、逃げるだけだ。 逃げて、直後に出来た隙を狙い反撃する。

ロベルタ(お嬢ちゃんからすれば大技だ。 隙が出来ないわけがない、そこで一気に接近して決めてやろう)

魔理沙「ふーむ、コイツもダメだったか……んじゃ、次だな」

ロベルタの考えが大方まとまったところで、魔理沙はスペルを解除する。
魔理沙が懐に右手を突っ込むのを見て、ロベルタは確信する。

ロベルタ(来るな……来たら予定通り、避けるだけだ)

魔理沙「行くぜオネーさん、これが私の弾幕の真骨頂、パワー第一主義の十八番だぜ! 恋符、マスタースパーク……」

ロベルタ(今だ!)

ロベルタは魔理沙が、特大のレーザー弾幕を撃つ直前の“タメ”に入ると同時に身を翻した。
どんなに特大なレーザーが来ようと、このタイミングで動けば確実に回避が出来るからだ。

魔理沙「!?」

ロベルタが先刻まで居た場所を強烈な光がすり抜けていくが、これは見事なまでに空振りとなった。
右手に構えた道具から放たれたレーザーが収束し、魔理沙の周囲ががら空きになる。

ロベルタ「よしっ! 貰った!」

まさしく、想定した通りだった。 後は隙だらけの魔理沙に反撃を加えて、この弾幕戦を終わらせるだけ!
そう、ロベルタは思っていたのだが……

魔理沙「惜しかったなぁ、オネーさん……(ニヤッ」

魔理沙に一撃加えるべく、突貫してきたロベルタに魔理沙は、それまで箒を掴んでいた左腕を向ける。
その手の中に見えたのは八角形の魔法道具――すなわち、八卦炉!

304: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 23:42:13.32 ID:NVzYNTEF0

ロベルタ「なっ!? 何でそれがココに!? それは今右手に持っていた筈だ……」

言いかけて、魔理沙の右手を凝視したロベルタは自身の犯した過ちに気が付く。
魔理沙の右手に握られていたのは、八角形の八卦炉ではなく、円筒形の懐中電灯だったのだ。

ロベルタ「っ!?」

魔理沙「気付いたようだな。だがもう遅いぜ!」


                      恋符 『マスタースパーク』


最早、手は残されていなかった。
回避しようにも魔理沙が居るのは目と鼻の先で、いまからレーザーの圏外に出ることは不可能だ。
一気に決めようと接近したのが完全に裏目に出た形だ。

ロベルタ(こりゃ、やられたな……、全治3日、いや一週間ぐらいか?)

自らの負けを悟り、ロベルタは戦いが終わった後のことをぼんやりと考える。
迫り来る圧倒的なエネルギーからして、無事で済む訳がない。
諦めにも似た心境のロベルタに光の奔流が迫り……、その手に持った“杯”だけを撃ち抜いて後方へすり抜けていく。

ロベルタ「!?」

魔理沙「……最初の約束通り、杯だけを撃ち抜かせて貰ったぜ。さぁ、結界を解いてもらおうか」

一瞬呆気にとられたような顔をしたロベルタだったが、次の瞬間自嘲染みた笑みを浮かべる。

ロベルタ「私の負けだよ。 それにしてもさっきの懐中電灯はなんなんだい?」

魔理沙「さっきのアレか? アレはな、恋符『マスタースパークのような懐中電灯』って言う、宴会芸のようなスペルさ。
    人のスペル宣言は最後まで聞いといた方がいいぜ。 私みたいにフェイクを仕掛ける性悪女が居るからな!」

そう言ってやけにいい笑顔で言う魔理沙にロベルタは苦笑しつつ愚痴の様な呟きをもらす。

ロベルタ「ホント、お嬢ちゃんが男だったら張り倒してるところだよ」



305: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 23:45:47.16 ID:NVzYNTEF0
―――――――――― 【博麗の巫女と特大災害級幼女】 ―――――――――――― 13(月) 寅の刻


                      絶望 『濁りゆく少女の魂』


その弾幕は量り知れないほどの穢れに満ちていた。
その量は人ならば破滅するだろうし、妖精ならば一回休みどころか堕ちてしまうだろう。
妖怪だって、下手な下級妖怪はもちろん中級ぐらいまでなら、確実に傀儡にされてしまうに違いない。

そんな穢れの中を飛び続けている霊夢を見て、オクタヴィアが感嘆の声を上げる。

オクタヴィア「すご、あの中を一発の被弾もなく飛び続けるなんて……」

あの巫女も化け物なんじゃないの? と呟くオクタヴィアの横で、早苗が眉をしかめる。

早苗「おかしいです。いつもの霊夢さんらしくありません」

オクタヴィア「えっ?」

咲夜「そうね、いつもの霊夢ならあんな安全牌を切る様な避け方はしないわ。もっとギリギリの所を攻めていく筈よ」

そう今の霊夢は回避優先で、積極的に攻撃を仕掛ける素振りが全くないのだ。
ギリギリの所を見極めて、弾幕の合間を縫うように飛び抜け、手痛い一撃を加える。
そんな戦術を多様する彼女にしては珍しい事だ。

アリス「たぶんだけど、霊夢の事だから勘でグレイズは危険と判断したんじゃないかしら?
    離れた場所で見ている私たちにも分かるほどの穢れを纏っている弾幕よ。 近寄るだけで危ない可能性はあるわ」

パチュリー「いくら博麗の巫女とは言え、人間である以上危険なのは変わりない、という事ね」

アリスに続けたパチュリーの言葉に早苗が頷く。

早苗「確かに二人の言うとおりかも知れません。本気を出していなかった時の穢れでさえ、かなり危険なモノでしたから」

今思えば良くあんな事が出来たな、と早苗は自分自身でも思う。
切羽詰っていたとは言え、一歩間違えば本当に破滅していたかもしれないのだ。
少なくとも本気の穢れをこうして冷静に推し量れる様になった今、二度と同じ事をする気はない。

エリー「それで? これからどうするの私たちは……このまま見てる?」

ゲルトルート「私としては、回復が終わったのなら加勢するつもりだったのだけど……」

言いかけて、ゲルトルートは霊夢とワルプルギスを相互に見る。
本気を出す前がまるでお遊戯か何かだったと思えるほど、レベルの高い戦いが二人の間で繰り広げられていた。
あの中に今から飛び込んだ所で、何が出来るのか、正直怪しいところだった。

306: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 23:50:28.33 ID:NVzYNTEF0
皆が沈黙する中、最初に動いたのはオクタヴィアだった。

オクタヴィア「……私は行くよ」

全員「「「「!?」」」」

全員の視線が集中する中、オクタヴィアはけらけらと笑ってみせる。

オクタヴィア「大丈夫だって、あたしも一応魔女だし、穢れへの耐性はあるし……、
      流石にあの戦いについていける自信はないけど、盾代わりぐらいなら出来るでしょ」

アリス「ちょっ、また貴女はそうやって無茶を……」

早苗「…………そうですね。時間稼ぎと踏み台代わりぐらいなら出来るかもしれません」

アリス「さ、早苗まで……! 貴女たち、さっきので懲りたんじゃないの!?」

思わず声を荒くするアリスに、二人は茶化すような口調で言う。

オク&早苗「「だってあたし(私)、ホントにバカなんだもん(ですから)……」」

「やって、痛い目見ないと分からないんだ(です)」とまで、言ってのけた二人にアリスは頭を抱えながら盛大なため息をつく。
そして嫌悪感に満ちた視線を二人に浴びせ、もう一度ため息を漏らした。

アリス「貴女たちと一緒にいるとこっちにまでバカがうつる気が…いいえ、気がするじゃなくてホントにうつるわ」

オク&早苗「「えっ……?」」

ポカンとするオクタヴィアたちに対し、アリスは自律人形を召喚する事で答えとする。

アリス「なにボサっとしてるの? 加勢するなら早く行くわよ」

一言残し、アリスは飛び立つ。
そんなアリスの姿を見たオクタヴィアと早苗は一瞬顔を見合わせ、頷きあうとアリスの後を追って飛び出す。

エリー「うわーなんと言うツンデレ、本物は初めて見たかも……」

パチュリー「本人の前で絶対言っちゃダメよ。切り刻まれるから……。さて、それじゃあ、私たちも行くとしましょうか」

咲夜「私は問題ありませんが……パチュリー様は大丈夫なんですか?」

同じ紅魔館に住むものとしてパチュリーの事は良く分かっている咲夜が念を押した。
昼からの動きを考慮に入れずとも、そろそろ体力の限界が近いはずだ。

パチュリー「ここで逃げて紅魔館に更に被害が出たらレミィに怒られるわ。 だったらさっさと片付けてしまった方が楽よ」

そう言ってチラリと紅魔館の庭を見やるパチュリー。
遠目に見ても、庭園の木々や垣根が相当崩壊しているのが分かった。
ゲルトルートに庭の整備を頼んであるそうだが、復旧させるだけでも骨が折れそうだ。
幸か不幸か、肝心のゲルトルートはその事に全く気付いていないのだが、まあ仕方がない。

パチュリー「それじゃ行くわよ、もう一度あのお祭りの中にね」


307: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/09(水) 23:57:03.30 ID:NVzYNTEF0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

霊夢「っ!」

霊夢がパチュリーたちの参戦に気付いたのは、ワルプルギスに多数の方向からの攻撃が殺到した直後の事だった。
火球にナイフ、自爆人形に御札、薔薇に車輪というありとあらゆる種類の弾幕がワルプルギスに直撃し、彼女を煙で覆う。

周囲に視線だけを送り、状況を把握した霊夢は手近なところに居た早苗に対し、怒鳴りつける。

霊夢「アンタたち、一体何しに来たのよ!」

早苗「安心してください、邪魔をするつもりは一切ありません。私たちの事は砲台か何かだと思って忘れてください!」

霊夢「ぐっ、アンタたちねぇ……」

早苗の言葉に霊夢は唇を噛み締めた。 それは最初から気にせず切り捨てろ、と言う意思表示。
『他が犠牲になっても誰か一人が生き残ればいい』が、ワルプルギス攻略の鍵だと分かっている霊夢だが、
いざこうしてその場に立たされるとその決意も揺らぐ。

ワルプルギス「キャハハ、ソロもいいけどやっぱり舞台は大人数でやってこそだよね。 お祭りなんだからそう来なくっちゃ!」

対するワルプルギスは純粋に喜んでいた。
自分が不利になるとかそういった事は一切考えていない。迷っている暇はなかった。

霊夢「最悪骨も拾わないし、後ろから撃たれるような事があったら本気で消し炭にするわよ!」

早苗「消し炭になる前に逃げるので構いません!」

後ろからそんな早苗の声が聞こえてきたが、霊夢には届かない。
このとき既に霊夢は早苗達の存在を意識の外に追いやっていた。

ワルプルギスを見据え、弾幕の弾道を見極める。
六方向からの攻撃にワルプルギスの弾幕は先刻と比べると散発的になっている。
霊夢ではなく、うしろの“砲台”を代わる代わる狙っているからだ。

狙われた“砲台”は圧倒的な弾幕に襲われるが、それより一瞬早く現れた防壁が、その弾幕を弾き、減衰させる。
黒いツインテールをなびかせて、六つの“砲台”を守る“防壁”を視界の隅に映しつつ、霊夢は弾幕の中を潜り抜ける。

御札を取り出し呪を込める。
呪が宿った御札は赤々と燃え上がり、術式が即時発動状態になった事を示す。

何度目かになる“砲台”への攻撃で霊夢の眼前ががら空きになった瞬間、霊夢はスペルを解き放つ。

霊夢「霊符、夢想ふう……!?」

スペルの宣言をしようとして、霊夢は気が付いた。気付いてしまった。
こちらをがら空きにしていた筈のワルプルギスが、こっちを見てニヤリと笑っていた事に。

308: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/10(木) 00:07:55.01 ID:es1RGKCu0

ワルプルギス「キャハハハ、引っかかった~」

霊夢「ヤバっ……」

気付いた時には遅かった。
霊夢のスペル発動より早く、ワルプルギスの左手からこれまで以上に濃い穢れを帯びた弾幕が霊夢目掛けて放たれていた。
その穢れは、手にしている御札で取り除けるほど、甘いものではない。

全員「「「「霊夢(さん)っ!!」」」」

悲鳴にも似た声が周囲から響くが、霊夢に取れる行動はない。
今からスペルを放って無駄にあがくか、このままなす術もなくやられるか、その二択だった。

少なくとも“霊夢”がとり得た行動は……


??「霊夢! ちょっと息止めてろよ!」

そんな声と共に襟首が後ろに思いっきり引っ張られ、次の瞬間、霊夢の身体は急降下していた。
ギリギリの所を弾幕が掠めて行くが、霊夢に当たる弾はない。

忠告があったとは言え、瞬間的に首を絞められた形となった霊夢は咳き込みながら文句をこぼす。

霊夢「げほっ、アンタねぇ、ちょっとは加減ってモノを考えなさいよね!」

恨みがましい視線を向けてくる霊夢に、白黒の服を纏った魔法使い――霧雨魔理沙はにやりと笑う。

魔理沙「愚痴が言えるなら大丈夫だな。 おーい、こっちに箒を持ってきてくれ~」

??「は、は~い、今行きま……うわっとと!?」

霊夢の襟首を掴んだまま、自由落下を続ける魔理沙の言葉に、覚束ない飛び方で箒に乗ったピンク髪の少女――クリームヒルトが答える。
一度は大きくバランスを崩したクリームヒルトだが、どうにか持ち直すと両手を広げてバランスを保ちながら二人のもとへと飛んでくる。

魔理沙「よーし、いい具合に乗れてるし、似合ってるぞ。 なんなら今度箒の乗り方をレクチャーしてやってもいいぜ」

クリームヒルト「あはは、気持ちだけ受け取っておくね……」

魔理沙に箒の操縦を返しつつ、クリームヒルトは胸をなでおろす。
箒の操縦を任せていた時間は30秒とないはずだが、如何せん慣れていなかったせいか相当神経を使ったようだ。
一方、ようやく襟首を解放された霊夢は息を整えつつ、クリームヒルトに尋ねる。

霊夢「で、ここに来たって事はアンタの方は大丈夫な訳?」

309: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/10(木) 00:14:47.43 ID:es1RGKCu0

クリームヒルト「はい、おかげさまで、お酒飲んで思いっきり泣いたらスッキリしました。もう大丈夫です」

そう言ってニコリと笑ってみせるクリームヒルト。
その表情は作り笑顔やぎこちないモノではなく、自然な笑顔だ。

魔理沙「ま、悩みなんてのは酒飲んで寝ちゃえば大抵スッキリするもんよ。なぁ霊夢」

霊夢「年がら年中悩みのタネがそばに居る場合はその限りじゃないけどね。 さて、それよりも……」

気を取り直して、霊夢はワルプルギスに向き直る。
魔理沙も箒の後ろにクリームヒルトを乗せたまま、ワルプルギスの前へと向かう。

魔理沙が割り込んで無理矢理回避させた弾幕が最後だったようで、先ほどまでのスペルは解除されていた。
そして変化はそれだけではなかった。

ワルプルギス「………………」

ワルプルギスは彼女にしては珍しく、無言で魔理沙を……いや、その後ろに居たクリームヒルトを見つめていた。
その瞳に宿るのは不安と明確な恐れだ。 
このまま黙っているだけで猛獣に襲われた小鹿のように震えだすのでは、と思うほど、ワルプルギスは縮こまっていた。
おそらく、現世で人間だった頃のクリームヒルトに一撃で倒されたという時の恐怖が蘇ったのだろう。
そこに先ほどまで圧倒的な力を振りかざし、笑い続けていた少女の姿はない。

クリームヒルト「………………」

乗っていた箒から降りたクリームヒルトはワルプルギスの前に立つと、その手を伸ばす。

ワルプルギス「……っ!あっ…………いやぁっ……!」

ワルプルギスの身体がビクリと震え、目を強く瞑る。
クリームヒルトが伸ばした手はワルプルギスの頭に優しく触れると、その頭を撫でた。

ワルプルギス「っ!」

クリームヒルト「ティヒヒヒ、怖がらせちゃったかな? ゴメンね」

そう言って優しく微笑んでみせるクリームヒルト。
強張っていたワルプルギスの表情がふっと緩み、身体の震えが止まる。

310: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/10(木) 00:20:18.75 ID:es1RGKCu0

クリームヒルト「ワルプルギスちゃんは、遊びたかったんだよね? 思いっきり相手をして欲しかっただけなんでしょ?」

優しい口調で尋ねるクリームヒルトにワルプルギスは小さく頷く。

クリームヒルト「そっか、それならお姉ちゃんと、私と一緒に遊ぼう?」

ワルプルギス「!?」

クリームヒルトの意外な提案にワルプルギスは目を丸くする。
意外すぎる展開に魔理沙以外の全員も目を丸くする。

魔理沙が一人でニヤニヤしていると、魔理沙に一番近いところに居た霊夢が小声で尋ねてくる。

霊夢「ちょっと魔理沙、一体どういうことなのよ?」

魔理沙「まぁ、そのなんだ、あの圧倒的な弾幕も、とんでもない穢れも、あの子からすると遊ぶ為の手段でしかなかった、って事さ」

早苗「なんですかソレ、尺度の違いってレベルを超えてますよ」

一気に疲れちゃいました。といつの間にか集まっていた早苗がもらすと、
ぐったりと言う形容がぴったりなパチュリーが呆れ気味に呟く。

パチュリー「その辺も含めて、子供だった、と言う事なんじゃないの?」

咲夜「これは……妹様以上の大物かもしれませんね」

咲夜の言葉に幻想郷在住の全員が乾いた笑いを漏らす。
それに対して、首をかしげているのは魔女三人組だ。

オクタヴィア「前から気になってたんだけど、その妹様ってどんな子なのよ?」

ゲルトルート「あっ、それは私も気になるわ。こんどそっちで働くわけだし……」

エリー「ゲルトルート、覚悟だけは決めといたほうがいいと思うよ。話を聞いただけでも相当だし……」

エリーがゲルトルートの肩をポンポンと優しく叩き、ゲルトルートは顔を青くする。
『ご愁傷様』と言うムードが漂い、空気が緩みきったその時、クリームヒルトたちの方を見ていたアリスが強張った声を上げる。

アリス「ところで、みんなちょっといいかしら?」

魔理沙「ん? どうしたんだ? アリス、そんな怖い顔をしちまって……」

311: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/10(木) 00:22:46.72 ID:es1RGKCu0

アリス「私の記憶が間違いでなければ、クリームヒルトは“一緒に遊ぼう”ってあの子に言ったのよね?」

霊夢「そうだけど、それがどうし…………って、ああっ!?」

アリスの言葉にその場に居た全員がはっとした。
今のワルプルギスにとっての遊びは即ち先ほどまでの弾幕戦だ。

それをクリームヒルトは「一緒にやろう」とワルプルギスに持ちかけたのである。

早苗「アハハハ、幻想郷最後の日ってこんなあっさり訪れるものなんですね」

パチュリー「まだ読んでない本がたくさんあったのに……死んでも死にきれないとはまさにこの事ね」

エリー「うわーっ!? パチュリーたちが壊れたー!?」

オクタヴィア「帰ってこーい! 二人とも帰って来ーい!!」


下界にいる全員がそんな阿鼻叫喚の大混乱に包まれているとは露知らず、
上空で対峙したクリームヒルトとワルプルギスはお互いに満面の笑みでスペルを発動させる。

クリームヒルト「それじゃ、行くよ!」

ワルプルギス「いつでもいいよ!お姉ちゃん!」


                      輝弓 『フィニトラ・フレティア』
                       終焉 『ワルプルギスの夜』



その日の夜明け、嵐が止んだ紅魔館で、跡形もなく吹き飛んだ時計台を見て、お口をあんぐりと開けたお嬢様が一人居たそうだが、
詳しく書くと怒られそうなのでこの辺で筆を擱くことにしよう。


312: ステージEX 魔女と魔法使い達の後夜祭 2011/11/10(木) 00:27:07.98 ID:es1RGKCu0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

最後に簡単にだが、その後の“魔女”たちについて少しだけ記そう。


薔薇の魔女、ゲルトルートと、芸術家の魔女、イザベルは紅魔館に住み着いている。
あの『ワルプルギスの夜祭』事件で大きな被害を被った紅魔館だが、二人以外の魔女も再建に協力し、
今は当初の予定通り庭の整備と、肖像画の作成をしているそうだ。


紅魔館と言えば、住んでこそは居ないが地下大図書館でエリーの姿を良く見かける。
最近は魔理沙以上に訪れる回数が多いとかで、紅魔館に顔パスで入れる数少ない存在となっている。
司書の小悪魔曰く、仕える相手が二人に増えたので大変です。との事だが、
笑ってそう話している辺り、関係は極めて良好なようだ。


委員長の魔女、パトリシアと、舞台装置の魔女、ワルプルギスは寺子屋に行くことになった。
パトリシアは講師である上白沢慧音の補佐として、ワルプルギスは生徒として、それぞれ通っている。
たまにワルプルギスが発作のように“遊び”たがるのでその度にクリームヒルトや白蓮を呼ぶ騒ぎになっているそうだが、
あの夜以降、決定的な大爆発には至らずに済んでいる。最近では寺子屋からの大音響にもだいぶ慣れてきた。


お菓子の魔女、シャルロッテは魔法の森に住んでいる。
自身の魔法で作ったお菓子で家を構えた時には、早苗に「ヘンゼルとグレーテル?」と突っ込まれたそうだ。
秋神の社で見かける回数も多く、豊穣神の穣子は生傷(主に歯形)が絶えないが、
それでも満更ではない様で、なんだかんだと言っては芋などを分け与えている。


影の魔女、エルザマリアは人里近くに教会を作った。
命蓮寺の近くであり、信仰合戦に新たな一角が加わったと鴉天狗の間ではもっぱらの噂である。
実際の所は、命蓮寺、守矢神社共に関係は良好で(信者数が少ないからと言う噂もあるが)、
毎日、信者と向き合って祈りを捧げているとの事だ。

 
345: 2011/11/16(水) 20:09:48.88 ID:k7S6jM3x0
 

鳥かごの魔女、ロベルタは最近までハッキリしていなかったが、
どうやら鬼たちに紛れてあちこちで酒宴をしているらしい。
飲みっぷりも良いので鬼からの評判も良く、地下の旧都の星熊勇儀宅で見かけたとの目撃談も


人魚の魔女、オクタヴィアと、銀の魔女、ギーゼラは妖怪の山に住んでいる。
ギーゼラは天狗の里近くに一軒家を構え、文と良くつるんでいる。
同じく山に住む河童にバイクの整備をしばしば頼んでおり、ついでに改造される事も一度や二度ではないとか。

一方のオクタヴィアは渓谷近くに住んでいる。
人間だった頃からのクリームヒルトとの親交は続いていて、人里でも良く見かける。
早苗と一緒に居る事も多く、人里の他、守矢神社に居る事も多いらしい。


救済の魔女、クリームヒルトだが、冥界からほど近い、中有の道近くに家を構えた。
オクタヴィア共々人里にもちょくちょく顔を出し、里の人からの評判は良い。
異変以降魔女の代表として動く事も多く、皆が集まっての宴会には必ず参加している。
代表者として有力者との折衝も彼女が大半を担っているらしい。
その内、白玉楼を訪ねる回数は最も多く、西行寺幽々子との個人的な親交も続いているようだ。


稗田阿求 記 『幻想郷縁起』 ~魔女異変の章~ 第二部 より

314: ステージ??? 魔女と死霊の夜桜 2011/11/10(木) 00:47:18.22 ID:es1RGKCu0
――――――――――――― 【白玉楼の縁側】 ―――――――――――――――

吹く風に、庭の桜の木々がざわめく。
冥界は万年真夜中状態なので時刻は真昼間だと言うのに気分は夜桜見物だ。

幽々子「残念ねぇ……春だったらクリームヒルトちゃんたちに綺麗な桜を見せることが出来たのに」

私の自慢の一つなんだけどなぁー、と心底残念そうな幽々子を見て、クリームヒルトは苦笑する。

クリームヒルト「ティヒヒヒ、それじゃあ来年の春を楽しみにしてますね。
        でも私、こうやって静かにお茶を飲んでいる時間も結構好きですよ。落ち着きますし……」

クリームヒルトがそう呟きつつ湯飲みを縁側に置くと、幽々子はそっとその手に触れる。

幽々子「それで生活の方はどう? だいぶ落ち着いたかしら?」

クリームヒルト「そうですね。人里にもだいぶ馴染めましたし、基本的に皆さん優しいですから……」

幽々子「あら、それはちょっと違うわ。
    貴女たちが馴染めたのは、貴女たちの方から積極的に混じろうと努力した結果よ。
    壁を作っている人を受け入れてくれるほどここの住人は甘くないわ。 と言っても油断出来る相手ばかりでもないんだけどね」

「有力妖怪は特に曲者揃いよ」と言う幽々子の言葉にクリームヒルトは乾いた笑いを漏らす。
レミリアや輝夜、神奈子と言った有力者と顔を合わせる機会の多いクリームヒルトは身をもって良く知っていたからだ。

幽々子「私も他人の事を言える立場じゃないけどね……。 でもねクリームヒルトちゃん……」

クリームヒルト「?」

幽々子「ここにきた時は、心からゆっくりしていって良いからね。 クリームヒルトちゃんならいつでも大歓迎よ」

幽々子の言葉に、クリームヒルトは幽々子を見た。
幽々子はこの庭で霊夢たちと弾幕戦をした時と同じ、いや、それ以上の優しい笑顔を向けていた。
だからクリームヒルトもこれ以上無いという笑顔で答える。

クリームヒルト「幽々子さん……はい、ありがとうございます!」

そう言って笑い合う二人。
二人の笑い声は、風に乗り、白玉楼の庭に響き渡っていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

そんなこんなで新たな仲間が加わった幻想郷、しかしそれで何かが大きく変わったわけではない。
あれほどの大騒ぎも、終わってしまえば井戸端会議のネタでしかなく、一度溶け込んでしまえば魔女も一住人となってしまう訳で……
今日も今日とて幻想郷は賑やかで平和だった。



324: ミュージックルーム BGMについて考える 2011/11/12(土) 18:30:59.33 ID:hUfGJ5rB0
――――――――――― 【まどマギ楽屋にて】 ―――――――――――――

さやか「まどかだけズルイ!」 ←オクタヴィア役

まどか「え、えっと……、なんの話かな、さやかちゃん?」 ←クリームヒルト役

さやか「まど……じゃない、クリームヒルトの最終ステージだけBGM指定されてるじゃん!
    しかも神曲と名高いラスボス曲を2曲も! あたしもBGM欲しい!」

まどか「そんな事私に言われても……、それに別にゲーム化する訳じゃないんだからBGMなんかなくても……」

さやか「するかもしれないでしょ!? どっかの酔狂で親切な人が弾幕風で作ってくれるかもじゃん!
    それに、あるとないならあった方が良いに決まってるじゃない! まどかは既に決まってるからそんな事が言えるんでしょ!?」

まどか「うっ……」

マミ「あら、面白そうな話をしてるわね」 ←某掲示板のねらー役、その3

ほむら「そう? 単なる暇潰しにしかならなさそうだけど……」 ←某(ry その1

マミ「それは貴女の場合、『フラワリングナイト(緋想天.ver)』辺りで決定してるからでしょ?」

参考:『フラワリングナイト(緋想天.ver)』 


ほむら「巴マミ……、貴女、私の時間停止能力だけで決めたでしょ……」

まどか「あー、でもそんな感じかも……」

さやか「まどかお嬢様に忠誠を誓う従者……、うん、確かに……」

まどか「ただし忠誠は鼻から出る」

325: ミュージックルーム BGMについて考える 2011/11/12(土) 18:33:42.02 ID:hUfGJ5rB0

ほむら「なっ!? まどかまでそんな事を……!? くぅっ……、ならまどか、貴女に良いことを教えてあげる。
    作中でBGMになった『幽雅に咲かせ、墨染の桜 ~ Border of Life』と『ボーダーオブライフ』だけど、あれはあくまでもクリームヒルトのイメージ曲だそうよ」

参考:『幽雅に咲かせ、墨染の桜 ~ Border of Life』 

参考『ボーダーオブライフ』 


さやか「ん? するとつまり……?」

マミ「鹿目さんのイメージ曲はまた別にある、と言う事かしら?」

まどか「えっ? そうなの!?」

さやか「ちなみにその曲は?」

ほむら「まどかの>>1のイメージは『千年幻想郷 ~ History of the Moon』だそうよ。 ちなみにまど神になると『感情の摩天楼 ~ Cosmic Mind』よ」

参考:『千年幻想郷 ~ History of the Moon』 

参考:『感情の摩天楼 ~ Cosmic Mind』 


さやか「また6ボスかーい! どんだけインフレさせれば気が済むの!?」

ほむら「美樹さやか、安心しなさい、>>1の作中でのオクタヴィア/美樹さやかのBGMはEX曲の『ラストリモート』らしいから」

参考:『ラストリモート』 


さやか「暗っ!? しかも道中曲!? と言うかそれ絶対対戦相手が早苗さん、って言うのが影響してるよね!?」

326: ミュージックルーム BGMについて考える 2011/11/12(土) 18:36:04.35 ID:hUfGJ5rB0

ほむら「第二候補は『信仰は儚き人間の為に』、第三候補は『少女が見た日本の元風景』だけどどうする?」

参考:『信仰は儚き人間の為に』 

参考:『少女が見た日本の元風景』 


さやか「やっぱり早苗さんの曲じゃん!(ガーン」

ほむら「それだけ東風谷早苗のイメージと被ってるって事よ」 

まどか「やったねさやかちゃん! 次回作でエクストラで中ボスを経験したら、次々回作では自機になれるよ!」

さやか「私が自機……? それは良いかも……」

ほむら「ボソッ)まどマギ本編のオクタヴィアのイメージ曲、だと『緑眼のジェラシー』一択らしいけどね」

参考:『緑眼のジェラシー』 


まどか「ボソッ)なんだろう、納得でき過ぎて涙が……」

さやか「ん? 何か言った?」

まどか「うぅん、何も言ってないよ」

マミ「暁美さん、私のイメージ曲についてはなに聞いてないかしら?」

ほむら「巴マミは『the Grimoire of Alice(非想天即.ver)』と聞いているわ」

参考:『the Grimoire of Alice(非想天即.ver)』 

さやか「これまたラスボス曲(元だけど)、だと……?」

まどか「アリスさんの人形捌きとマミさんのマスケット銃捌き、確かにどっちもカッコイイし綺麗だし、イメージ的には合うかも……」

マミ「もう、鹿目さん! 褒めてもケーキとお茶ぐらいしか出ないわよ!」

まどか「わーい!」

327: ミュージックルーム BGMについて考える 2011/11/12(土) 18:39:06.36 ID:hUfGJ5rB0

さやか「……うん、もうこの際だから聞いちゃえ! ほむら、杏子のイメージ曲はなんなのさ?」

マミ「美樹さん! そういうことはせめて佐倉さんが来てから……」

さやか「まーまー、硬い事言わずに……。ねえほむら、知ってるんでしょ?」

ほむら「…………杏子はね。 『月まで届け、不死の煙』よ」

参考:『月まで届け、不死の煙』 


さやか「げぇ、まさしく本物のEX曲!?」

まどか「あー、でもなんだろう、なんか納得かも……」

マミ「そうね。境遇とか考えるとちょっと……」


杏子「おーい、今来たぞー! って、なんだよお前ら、みんなしてそんな顔でこっち見て……」 ←某(ry その2役

まどか「頑張って生きてね杏子ちゃん、私応援してるからね!(ガシッ」 ←肩を掴んだ。

マミ「つらくなったらいつでも私たちを頼っていいのよ(ギュッ」 ←手を握った。

杏子「お、おう……ありがと……、なあほむら、こいつら一体どうしたんだ?」

ほむら「気にしたら負けよ。 だから早めに忘れなさい」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

まどか「えっと、ここまでで挙げたイメージ曲はあくまで>>1の個人的イメージだそうです」

ほむら「こっちの方が似合ってるぞ! と言う意見ならいつでも受け付けているわ」

まどか「受け付けてどうするの?」

ほむら「さぁ? 私たちが幻想入り、とかのネタになった時のイメージ作り用じゃないかしら?」

さやか「え? ほむらたちも幻想入りしちゃうの? 円環入りじゃなくて?」

ほむら「モブと楽屋でしか出番がない、って結構つらいのよ」

マミ&杏子「「…………」」

さやか「あー、うん、ゴメン……」


334: 短編1 穣子様に叱られるけど 2011/11/16(水) 18:06:17.14 ID:k7S6jM3x0

みなさんこんにちは、季節神の秋静葉です。
最近、妹の穣子ちゃんに可愛らしいお友達が出来ました。
今日はちょっとだけ、その話をしようと思います。

??「おーい! 穣子、いるー?」

穣子「!」

蝉の声が響く社に、聞きなれたものとなった声が響いたのはお昼過ぎの事。
うだるような暑さの中、板の間でだらしなくぐてーっと寝転がっていた穣子ちゃんだけど、その声を聞いてがばっと起き上がる。

静葉「穣子ちゃん、お客さんよ」

穣子「……ないって言って」

静葉「?」

穣子「居ないって言って、お願い!」

手を合わせてそう懇願してくる穣子ちゃんに、わざと盛大なため息をついてみせつつ、私は玄関へと向かう。
戸を開けた先にいたのは、可愛らしい桃色の髪の女の子――シャルロッテちゃん。

お菓子の魔女、と名乗っているだけのことはあって、この子が来ると甘い匂いがする。
美味しそうなその匂いを今日も鼻先に感じつつ、私は微笑みかける。

静葉「いらっしゃい、シャルロッテちゃん」

シャルロッテ「あっ、静葉! おはよー」

静葉「はい、おはよう。 でも今はおはようじゃなくてこんにちはの時間よ」

シャルロッテ「え? そうなの?」

大方、自宅でお菓子作りに没頭していたのでしょうね。
だいぶ時間間隔のずれた挨拶にそんな事を思っていると、シャルロッテちゃんが尋ねてくる。

シャルロッテ「ねぇ静葉、穣子は居る?」

静葉「……………」

335: 短編1 穣子様に叱られるけど 2011/11/16(水) 18:11:29.97 ID:k7S6jM3x0

私はちらと社の奥を見やる。
奥の方から、「居ないと言って」と言うような、なんとも言えないオーラが漂ってきているのを感じつつ、私はシャルロッテちゃんに言う。

静葉「ええ、居るわよ。上がって頂戴」

穣子『~~~~~~~~~~っ!!! 静姉ぇええええええええええええええええ!!』

わざと、ハッキリとした口調で私がシャルロッテちゃんを招き入れると、穣子ちゃんの恨みがましい声が響く。

シャルロッテ「穣子ーっ! お願いがあるんだけどー!」

てとてとと廊下を駆けていくシャルロッテちゃんの後をゆっくりと追いながら、私は板の間へと向かう。
途中、ふと思いついて台所に立ち寄った私は、水の張った桶に浸けておいた西瓜を切り、お皿に盛り付ける。

塩と一緒にお皿を持ち、板の間に戻ると、シャルロッテちゃんが穣子ちゃんにひっついておねだりをしている真っ最中だった。

シャルロッテ「ねぇ穣子、葡萄とリンゴ出してよぉ~。今度の新作お菓子で使いたいの~」

穣子「葡萄とリンゴ、って無茶言わないで! 梨もまだだって言うのに……」

シャルロッテ「無茶って、葡萄ならいつもここにあるじゃん!」

穣子「それはあくまで飾り代わりよ!」

端から見ると戯れているようにしか見えない。 いや実際戯れているだけか……
ただでさえ暑い昼下がりにひっつかれているのに、振り解こうとしていないのが何よりの証拠だ。

静葉「ふふ、穣子ちゃんったら……」

相変わらず素直じゃないんだから……。
小さく苦笑しつつ、私は戯れる二人の脇に腰を下ろす。

静葉「二人とも、西瓜を切ったから食べましょう?」



ふっと、風が吹き、風鈴のかすかな音が響く。
暑い日差しの中でも良く分かる涼風に、少しずつ近づく次の季節を感じつつ、私は戯れる二人の様子を飽きることなく見続けていた。



336: 短編2 とある魔女ら紅茶時間(ティータイム) 2011/11/16(水) 18:24:37.33 ID:k7S6jM3x0

えっと、皆様はじめまして、私、紅魔館地下図書館で司書などをしております小悪魔と申します。
最近の紅魔館について、僭越ながら私から話させて頂きます。

??「こぁ~、珈琲持ってきてー」

??「こらこら、その子はウチの司書であって、貴女の召使じゃないわよ。 小悪魔、私には紅茶ね」

たった今、私に飲み物をご所望なさったのは、図書館の主であり、私が仕えているパチュリー様と、
最近よく図書館に出入りなさっている幻想郷生活一年目の新人さんであるエリーさん。

6月の異変で打ち解けた、とかでここの所毎日のように二人は図書館で駄弁ってます。
まぁ、パチュリー様は図書館の蔵書に、エリーさんは持ち込んだ箱に、それぞれ向き合っているので、
二人で何かをしている、と言う訳ではないのですけど……

小悪魔「分かりました。 少々お待ちくださいね」

本を整理する手を止めて、私は図書館を後にする。
地下大図書館の本は防水防火その他の処理を施したものばかりなのですが、
飲食物の取り扱いに関しては最低限のものを、とされているのでお茶の一つにしても食堂まで取りに行かなくてはならない。

地階から一階に出ると、夏の強い日差しに照らされた庭園が窓の外に見えます。
件の異変で、目茶目茶に壊された庭園は、今やすっかり元通り、いえ、それ以上に綺麗に整備されています。

その庭園の中、植物の合間を右へ左へと移動する麦藁帽子を見つけ、私は思わず苦笑い。
最近、紅魔館専属庭師とさえ称されるようになった薔薇の魔女、ゲルトルートさんは、今日も整備に余念がないようです。

小悪魔「ゲルトルートさん、今日も頑張ってますね~。 ん~、ゲルトルートさんにもお茶を持って行こうかな?」

どうせこれからお茶を淹れるのだ。
ゲルトルートさんと、美鈴さん、二人分ぐらい余計に淹れても時間的に大差はない筈です。

今は昼間で、レミリアお嬢様は眠っているし、咲夜さんや、肖像画が仕上げに入りつつあると言うイザベルさんは部屋で休んでいる時間。
誰かお客人でも来ない限り、これ以上、人が増える事はない。

食堂へと入り、まずはお湯を沸かします。
その間に茶葉とコーヒー豆を用意して居た私は、戸棚にお菓子の魔女さんから貰ったフルーツケーキがある事を思い出す。
あんまり置いておいても悪くなってしまうので、お茶と一緒に出す事にします。

季節はずれの果物がふんだんに使ってあるケーキを切り分けて居ると、
何処でこんな果物が手に入るのだろう?と言う素朴な疑問がわいて来ます。
多分、魔女ですから自らの魔法で作ったのでしょうけど、それはそれで便利そうです。

茶葉と豆とケーキの準備が終わったところで、丁度お湯が沸きました。
私は二人分のお茶だけ先に淹れてしまうと、残りのお湯を魔法瓶に入れそれら全てを手押し車に載せて食堂を後にします。

まずは表の庭園へと向かい、やっぱり作業を続けているゲルトルートさんに呼びかけます。

337: 短編2 とある魔女らの紅茶時間(ティータイム) 2011/11/16(水) 18:26:59.36 ID:k7S6jM3x0

小悪魔「ゲルトルートさ~ん、お茶が入りましたよ~」

ゲルトルート「あら、ありがとう。丁度喉が乾いたな、と思ってたのよ」

小悪魔「相変わらず精が出ますね~」

ゲルトルート「これが私の仕事だし、何よりこうしているのが一番楽しいから……」

そう言って微笑むゲルトルートさんは本当に楽しげで、つられて私も微笑んでしまいました。
手押し車に載せておいた小さなお盆にケーキと美鈴さんの分のお茶を載せて、ゲルトルートさんに託し、私は図書館へと戻ります。

図書館へと戻ると、やっぱり本と箱に向かったままのパチュリー様とエリーさんが居ました。

パチュリー「遅かったわね。何かしてたの?」

小悪魔「すいません、デザートに、とケーキを用意してたら遅くなってしまいました。 今淹れますね」

エリー「えっ? ケーキもあるの? やった、ラッキー」

パチュリー「あら、これはシャルロッテがウチに、と持ってきたケーキよ。 貴女の分はないわ」

エリー「…………ぐすん」

突き放すようなパチュリー様の言葉に、しゅんとなってしまったエリーさん。
そんなエリーさんの前に、私は淹れたてのコーヒーとケーキのお皿を置きます。

小悪魔「パチュリー様、お戯れが過ぎますよ。 大丈夫ですよエリーさん、きちんとエリーさんの分もありますから……」

エリー「~っ! こぁ~、……ねぇ、パチュリー、やっぱりこぁお持ち帰りしても……」

パチュリー「ダメに決まってるでしょ」

それぞれ手を止めて、二人仲良くお茶をし始めるパチュリー様たち。
そんなお二人を見ながら私は定位置まで下がろうとして……呼び止められました。

エリー「あれー、何やってるのよこぁ? 一緒にお茶しないの?」

小悪魔「えっ? で、ですが……」

エリーさんの申し出に私が戸惑っていると、パチュリーさまが呆れたような顔をこちらに向けました。

パチュリー「これは命令よ。お茶に付き合いなさい」

小悪魔「……はい、分かりました!」


日没まではあと3時間、私たちはしばしのティータイムを楽しんだのでした。

338: 2011/11/16(水) 18:31:32.25 ID:k7S6jM3x0
と言うわけで短編……超短編2編投下。
秋姉妹と小悪魔可愛いよ秋姉妹と小悪魔。
うん、いくら好みとは言え、風神と紅魔が優遇され過ぎだな。(妖々夢もか?)

今回の短編、一番困ったのは投下時に考えているタイトルと言うオチ……orz


さてさて、そしたら後は……って、何だお前はうわなにをす……

341: 新章予告編(予定) 2011/11/16(水) 18:44:27.34 ID:k7S6jM3x0

    田の稲が、その頭を垂れ始め、ただ暑いだけだった日々に仄かな涼しさが混じり始めた頃の事。

 あれほど幻想郷を騒がせた事件もすっかり話題にならなくなり、彼女らの存在も馴染みのものとなりつつあった。

                  そんな幻想郷に、ある日やってきた少女たち。

           ある者は偶然に迷い込み、またある者は自らの意思でその地を踏んだ。

                    まるで、何かに導かれたかのように……



 「まさか、妖怪に混じって宜しくやってるウチの新人さん達を引き渡せ、とか言いに来た訳ではないのでしょう?」


               「なんでこんなところに……、まどかが写っているの!?」


                「あら? そういう事なら私、良い温泉を知ってるわよ」


           「キュゥべえとも連絡がつかないし……、ここは一体何処なのかしら?」


                「ウソ……、ホントにほむらちゃん、なの…………?」

                         「まど……か……?」



                夏の終わりに起こった、異変とは呼べないちいさな事件。

     幻想郷で生きて行くと決めた魔女・クリームヒルトに訪れた、それは僅かばかりの邂逅の物語。

                   『東方円鹿目』 ファンダズムステージ 改め


                            ~東方焔環神~

                          201X年1X月 連載開始


予定

349: 東方焔環神 2011/11/18(金) 21:23:12.76 ID:+k6gOFpQ0
――――――――― 【円環の神様】 @ 現世とあの世界の境目 ―――――――――

闇なのか光なのか良く分からない空間を少女は飛びぬける。
ちょっと抵抗感があったが、概念となった今の自分に不可能はない。
少女はささやかな抵抗を試みる障壁――結界をすり抜けて、さらに飛ぶ。

???「こんな場所があったんだねー」

長い桃色の髪と、純白の衣をなびかせつつ、少女――鹿目まどかは呟いた。

それは初めて見る光景だった。 人の身を越え、概念となったまどかは今までありとあらゆる世界を見てきた。
太古の昔も見たし、想像も出来ないような未来だって見て来た。
どの世界のいつの時代に行ってもやる事は同じだったのだけど……。

それは“魔法少女”の救済。
穢れや絶望が溜まり、周囲に呪いを振り撒く“魔女”と化す前に安らかな“死”へと導く、せめてもの救い。
そうやって全世界から“魔女”の存在を消して回るのが今のまどかの役目であり、存在意義だった。

消した存在の中には“魔女”になってしまった平行世界の自分や友人らも含まれている。
自らの手で自分自身や友人を消す事になる訳だが、それも何万回何億回と繰り返してくると単純作業になってしまった。
感覚が麻痺していた、と言ってもいい。

そんな日々を送っていたまどかがある日偶然、本当に偶然にも見つけたのが、この“世界”だった。
いや、“世界”と言う表現は正しくないかも知れない。
この“場所”が存在するのはまどかたちが普段飛び回っている“世界”の一角であり、先ほどすり抜けた結界を一枚隔てただけなのだから。

それだけなのに、まどかはあの日まで、この“場所”の存在を感知できなかった。
おそらく、アレが無ければまどかは一生、この“場所”の存在に気付かなかっただろう。

まどか「それにしても驚いたなぁ……“魔女”が普通に暮らしてるし、その上“妖怪”もそこに住んでるなんて……」

それはまさしく驚愕と言ってもよかった。
所構わず、ただ呪いを振り撒く存在、それがまどかにとっての“魔女”だった。
時と場合によっては世界を一つ滅ぼしかねない程凶悪なモノ、そんな認識でしか無かったのだ。

それがあの“場所”に流れ着いた“魔女”たちは違った。
まるで“魔女”になる前の様に、しっかりとした意識と考えを持ち、それに何より自身が犯した罪と向き合う。
その姿はまどかの良く知る“魔女”の姿とはかけ離れていた。

“魔女”とは直接関係ないこととは言え、その“場所”に多数の“妖怪”がその地域の人々らと共存していると言う事も驚きだった。
“魔法少女”や“魔女”と言った存在が居る以上、“妖怪”の存在を否定するつもりはないが、はいそうですか、と受け入れられるものでもない。

そんな訳も含めてまどかは久々に、本当に久々に、単純作業ではない旅に出たのであった。

350: 東方焔環神 2011/11/18(金) 21:35:51.63 ID:+k6gOFpQ0

まどか「そろそろ結界を抜けるかなー」

現世とその“場所”を隔てる空間の終わり近くで、まどかが一人呟いた、その時の事だった。

???「あら? かわいいお客さんね。 はじめまして、でいいかしら?」

まどか「!?」

突然の呼びかけに、まどかは思わず立ち止まった。
自身が普段居るあの世界なら兎も角、現世の一角であるここで、他者から自分の姿が見える訳がない。
なぜならまどかは……

???「“概念”の貴女が何故見えるのか? そう言いたいんでしょう?」

声のしたほうを振り向くと、ピンク色の洋傘を持った女性が一人、こっちを見ていた。
何が起こっても対応出来るよう、警戒しつつまどかが頷くと、女性は苦笑してみせる。

???「そんなに怖がらなくてもいいのに……。まぁ、仕方ないでしょうけど……」

???「まず、貴女の疑問に答えるわ。 何故私が貴女を見れるのか、それは貴女が今潜り抜けてきた壁が、『常識と非常識』の境目だからよ」

そう言って、女性はまどかの後ろにある障壁、結界を指差した。
耳慣れない言葉にまどかは思わず聞き返す。

まどか「常識と、非常識の境目……?」

???「そう、その壁を越えたが最後、外の世界での常識は通用しないわ。
     普通の人には見えない存在も見えてしまうし、呪いしか生まない存在とも普通にコミュニケーションが出来てしまう、
     そんな非常識の世界に貴女は来たの」

「こうでもしないと私たちも生きていけないのよ」とサラッととんでもない事を言いつつ、それでも女性は笑みを崩さない。
底が知れない相手、と言うのはまさしく彼女の様な人(?)の事を言うのだろう。

???「そして一応、私はその世界の元締めをやっているの。 ああ、言い忘れてたわ、私は八雲紫、境界を操る妖怪よ」

そう言って紫は閉じた洋傘の先をこちらに向ける。
促されている。そう受け取ったまどかは、遅ればせながら名乗る事にする。

351: 東方焔環神 2011/11/18(金) 21:40:24.90 ID:+k6gOFpQ0

まどか「私は鹿目まどか。 “魔法少女”を救済して、“魔女”と言う呪いを生まない為の概念だよ」

紫「そう、まどか、ね……。 それで? 貴女は一体なにをしにここに来たのかしら?
  まさか、妖怪に混じって宜しくやってるウチの新人さん達を引き渡せ、とか言いに来た訳ではないのでしょう?」

そう言って紫はすっと目を細める。
口元は微笑んだままだが、明らかに警戒されているのが分かる。

まどか「てぃひひ、本当ならそうしないとなんだけど、ここだけは例外だよ。
    私の概念も、ここだとよく発揮出来ないし、なによりここの“私”たちは過去ともちゃんと向き合って生きてるし……」

それは本当だった。
ここに“魔女”が住み着いて居る事を突き止めたのはこの世界の時間換算で二ヶ月前のことであり、今日まで放置していたのだ。
それはこの“場所”で起こった一連の“事件”を見て、この“場所”の“魔女”については消す必要はないと判断したからだ。

更に言うと紫の言うように『常識』の通じない、『非常識』の世界に来てしまった為だろう、
概念という一種の常識であるまどかの力は現世と比べるとぐっと弱くなっていた。

紫「なら良いわ……、もしそのつもりであったのなら、詳しくお話しする必要があると思ってたけど……杞憂だったようね……」

「短期間でここまで馴染んでしまった勢力を消されると、パワーバランスの調整が面倒になるのよねぇ」とボヤく紫。
受け持つ世界も違えば範囲も違うが、同じ統べる存在としてその気持ちは良く分かるので、まどかは思わず苦笑する。

まどか「てぃひひ、管理役って大変だよね……」

紫「それで? 貴女の用件は?」

紫に促され、まどかは表情を引き締めた。
そう、ここに来たのは“魔女”たちの救済でもなければ、物見遊山でもない。
もっと重要で、なお且つ大切な、“友人”を探しにここに来たのだ。

まどか「……最近、と言うかここ二・三日の間に、幻想郷に入ってしまった人間、っていませんか?」

紫「ここ二・三日? ……居るわね、それも三人」

まどか「やっぱり……」

352: 東方焔環神 2011/11/18(金) 21:47:04.09 ID:+k6gOFpQ0

三人、と言う言葉を聞いてまどかは確信する。
全世界を見渡せる概念となったまどかでさえ、見通す事が出来ないこの“場所”にあの三人が、
あの時を境に感知出来なくなってしまったあの三人が、ここに来ている事を……

紫「成る程ね、納得したわ。 そういう事なら貴女の好きにして頂戴」

まどか「それで、今その三人は何処に?」

まどかが尋ねると紫は首を横に振った。

紫「流石にそこまでは分からないわ。 私に分かるのは博麗大結界をすり抜けた者が貴女を含めて四人居ること、それだけよ」

まどか「紫さんはその三人には会ってないんですか?」

紫「ええ、会ってないわ、人間の幻想入り、なんて日常茶飯事だもの。
  貴女のような高位の存在が押し掛けてきたら流石に動かざるを得ないけどねぇ」

「私もそんなに暇人じゃないの」と言いつつ紫は持っていた傘を差す。
その顔に浮かぶ表情は相変わらず、妖しく、胡散臭い笑み。

紫「なんなら貴女の人探しを手伝わせても良いわよ。 土地勘のない神さま一人に探させるのも酷だと思うし……」

まどか「てぃひひ、なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

そう答えつつ、まどかは紫の真意を図る。
手伝いと言うのは方便で、実際は好き勝手やらせないための監視役代わりだろう。
仮にも一つの世界を統べる存在なら、その程度の警戒はあって然りだ。
まどか自身、円環に他者が紛れ込んだ場合、同じことをすると思う。

兎に角、探して見付ける事が出来れば良いのだ。
“その時”を迎えた訳でもないのに、忽然と姿を消してしまったあの三人を……

こうして、円環の理こと、鹿目まどかはこの“場所”、幻想郷へと降り立ったのであった。



 

364: 2011/11/20(日) 18:01:44.89 ID:QASY5XbT0
 

――――――――――――― 【三日前@白玉楼】 ―――――――――――――――

牽制の小弾幕を放ちつつ、距離をとる。
想定通り弾幕回避の為、蒼と白の巫女服――早苗さんが上空へと上っていったのを確認して私は手に持っていた弓を構える。
構えると同時に魔力の矢を生成。 
チャージ時間を短くする代わりに誘導属性を付与し、直ぐ様放つ。

早苗「っ!?」

距離があった為、早苗さんはギリギリの所で矢をかわす。
が、その時には私は既に二本目の矢――魔力を十分に込めた必殺スペル――の発動準備を整え、早苗さんの背後に回り込んでいた。

早苗「ヤバっ……」

気付いた早苗さんが振り向きつつ御幣を構えるが、もう遅い。
この勝負、勝たせてもらいます!

クリームヒルト「行くよ!」


                      輝弓 『フィニトラ・フレティア』


万を持してスペル発動。
強力な矢が無防備な早苗さん目掛け勢いよく飛んでいく。
その距離は短く、もはや回避も迎撃も不可能だ。

クリームヒルト「決まりだね!」

早苗「くっ! 私は只では倒れませんよ!」


                      奇跡 『白昼の客星』


私の矢が肩を射抜く直前に早苗さんもスペル発動。
眩いばかりの光が辺りに溢れ、私は思わず目を瞑る。

クリームヒルト「っ!?」

一瞬とは言え視界を失った私に、次の瞬間、御札弾幕が突き刺さる。

355: 東方焔環神 2011/11/18(金) 22:02:01.28 ID:+k6gOFpQ0

クリームヒルト「きゃあっ!?」

勝ったと思い、気が緩みかけていた所に返ってきた思わぬ反撃に、私は受け身もとれずに墜落した。
背中から墜ちた体勢のまま倒れ伏していると、幽々子さんののんびりとした声が降ってくる。

幽々子「はい、そこまで。 この試合、双方クリティカルヒット判定で引き分けね」

クリームヒルト「~っ! 痛たたた……」

盛大に打ち付けた背中を擦りつつ私が起き上がると、私の矢(先端は吸盤)を肩に付けたまま降りてきた早苗さんが声をかけてくる。

早苗「大丈夫ですか? クリームヒルトさん?」

クリームヒルト「あ、はい、大丈夫です。 それより今の私の動き、どうでした?」

早苗「うーん、もうノーマルはクリアでいいと思いますよ。 回避もスペルの使い方もだいぶ上手くなりましたし……。
   あっ、でも最後の油断は誉められませんね。 アレがなければくらいボムで引き分け、なんて形にはならないでクリームヒルトさんの完全勝利でしたから」

最後まで気だけは抜かないで下さい。と言うもっともなアドバイスに私は肩を落とす。
何度目かになる、弾幕戦の模擬練習。
日替わりで技を変え、相手を変えやって来て、そこそこ自信もついてきていたけど、初歩的なミスを犯すようでは未熟さを痛感せざるを得ない。

クリームヒルト「はぁ……、やっぱりまだまだ未熟だなぁ……」

早苗「何言ってるんです? 本格的に弾幕戦をやり始めて二ヶ月でこれなら十分凄いですよ!
   私なんかこのレベルに来るだけで半年も掛かったんですからね!」

眉をつり上げた早苗さんが語気を強めて言った言葉に、判定役をお願いしていた幽々子さんも頷く。

幽々子「そうね。十分胸を張ってもいいレベルよ。 はい、これで汗を拭いて」

クリームヒルト「あっ、ありがとうございます。 幽々子さん」

幽々子さんが差し出した手拭いを受け取りつつ私は頭を下げる。
手拭いで、額の汗を拭いていると、隣の剣道場から大音響が響き、間もなく対照的な表情をした2つの影が出てくる。

ニヤニヤしながら出てきたのは魔理沙さんで、悔しそうに表情を歪めていたのはオクタヴィアちゃんだ。
あちらは完全に勝敗が決したみたい。

幽々子「そっちも決着がついたようね。 勝ったのは白黒の魔法使いのようだけど……」

356: 東方焔環神 2011/11/18(金) 22:04:49.39 ID:+k6gOFpQ0

オクタヴィア「嵌められた……、あんなのってアリなの?(ブツブツ」

魔理沙「まぁ、良いセンまでは行ってたんだけどな。 ブラフに引っ掛かるようじゃまだまだだぜ」

呪詛でも吐きかねないオクタヴィアちゃんに対し、魔理沙さんはけらけらと笑いながら言う。
一体どんな試合をしたのか気になるけど、聞かない方が良さそうだ。

クリームヒルト「お疲れ様、オクタヴィアちゃん」

幽々子さんから受け取ったもう一枚の手拭いを差し出しながら、当たり障りのない言葉をかける。

オクタヴィア「ああ、ありがと、クリームヒルト。 そっちはどうだったの?」

クリームヒルト「ティヒヒヒ、実は引き分けだったんだ。 最後の最後で気を抜いちゃって……」

苦笑しつつ私が言うと、オクタヴィアちゃんの表情が意地の悪い微笑みに変わる。
右手で私を抱え寄せると、左手で私の頬をぷにぷにと弄りだす。

オクタヴィア「ほー、それはそれは残念だったね~。 詰めの甘さでやられる様じゃまだまだだぞぉ……」

クリームヒルト「ひゃ、ひゃめてよ、おふたびぃあひゃん」

頬を弄られているせいで、必然的に変な声をあげてしまう私。
戯れる私たちを見て幽々子さんが微笑ましいモノを見る目をこちらに向けてくる。。

幽々子「あらあら、相変わらず二人は仲が良いわねぇ。妬けちゃうわ~」

早苗「……気心の知れた幼馴染、って良いですよねぇ……。ハァ……」

魔理沙「早苗、目が死んでるぞ……」

ニコニコ顔の幽々子さんの向こうで、早苗さんが遠くを見るような目をしながらため息をつく。
何か気の利いた一言でも、と一瞬思ったけど、オクタヴィアちゃんが頬を弄り続けていたのでやめておく事にする。

オクタヴィア「はぁ~、それにしても暑いなぁ~、どこか良い具合に汗を流せる所とかないかなぁ~」

手拭いで汗を拭いつつ、オクタヴィアちゃんが呟く。
試合で汗をかいたから暑いのは当然だけど、間違いなく私を抱き寄せてるのも大きな要因だと思う。
突っ込みを入れようか入れまいか悩んでいると、幽々子さんが小さく手を叩きながらオクタヴィアちゃんに言う。

幽々子「あら? そういう事なら私、良い温泉を知ってるわよ」

オクタヴィア「え?温泉? 幻想郷に温泉があるの?」

温泉と言う言葉にオクタヴィアちゃんが反応し、私はようやく解放される。

幽々子「ええ、丁度そっちに出かける用事もあったし、ちょっと行ってみましょう」



357: 東方焔環神 2011/11/18(金) 22:09:31.56 ID:+k6gOFpQ0
―――――――――――― 【同じ頃@旧地獄・地霊殿】 ――――――――――――

ほむら「う………? ここは?」

意識を取り戻した少女――暁美ほむらが最初に見たのは見馴れない天井だった。

ほむら「?……確か私は魔獣と戦っていて……」

まだはっきりしない頭でおぼろげな記憶をたどる。
巴マミや佐倉杏子らと共に何時も通り魔獣狩りに出て、普段より多い魔獣を相手にして……

ほむら「それで確か、一体の魔獣に後ろから……」

自身で呟いて思い出す。
あの時、不覚にもほむらは致命的とも思える一撃を貰ってしまった覚えがある。

見ると、わき腹の部分の衣装が裂けていて、包帯による処置が顔を覗かせていたが、痛みはさほどでは無い。
ほむらの弱い魔力でも、暫らく回復をかければ簡単に治りそうだ。

ほむら「思ってた以上に大した事が無かったのかしら? それにしてもここは一体……」

起き上がり、辺りを見回す。
寝かされていた部屋は石造りの洋室だ。
床には絨毯が敷かれ、趣向を凝らした鏡台がベッドの脇に鎮座している。

ほむら「洋館のようね。 電気が無いのが気になるけど……」

灯り代わりに置いてある燭台を見つつ、そんな事を呟いていると、背後の戸が開く。

???「おや、目が覚めたのかい? どうだい、気分の方は?」

振り返って、目に入った存在に、ほむらは一瞬目を疑った。
そこに居たのは人ではなく、一匹の黒猫(尻尾がなぜか二本あったが……)だったのだ。

ほむら「…………ネコが喋った?」

呆然とそう呟いてから、似たような存在が居た事を思い出す。
ちょっと前まで憎むべき対象で、今では(多少小憎たらしいとは言え)相棒兼マスコット認定までようやく格上げされた白い生き物――インキュベーターの事を。
思い出してよかったのか、悪かったのか、微妙な気分にほむらが陥っていると、その反応を見た喋る黒猫が、仕舞ったと言うように声を上げる。

358: 東方焔環神 2011/11/18(金) 22:13:22.29 ID:+k6gOFpQ0

???「おっ、こりゃ失礼。 姿を変えるのを忘れてた」

ほむら「?……っ!?」

黒猫の言葉に疑問符を浮かべていると、黒猫の体が眩いばかりの光を放ち始める。
光が収まった時、そこには、共に戦った仲間――佐倉杏子を思わせる紅い髪を、三つ編みにした少女が立っていた。

頭には髪の毛と同じ紅いネコ耳が、お尻には黒い二本の尻尾が、ご丁寧にも生えていたが……

ほむら「…………変身魔法?」

たっぷり考えて、ほむらはそう尋ねた。
ほむらの知りうる知識で、この事象を説明するとしたら、それ以外に考え付かない。
が、ネコ耳少女はすぐさまその言葉を否定した。

???「魔法? そりゃ違うね。 あたいは単なる化け猫さ」

ほむら「化け猫……ですって?」

思わず眉を寄せるほむらに、ネコ耳少女は得意げに話を続ける。

???「そうさ、あたいは火車の火焔猫燐。 ここ灼熱地獄跡で怨霊の管理とかをしてる妖怪だよ。
    あたいら火車は人間の亡骸を地獄に運ぶ妖怪なんだけどねぇ、お姉さんはまだ生きてる様だったからここに連れてきたのさ。
    ああ、あたいを呼ぶ時はお燐とでも呼んでくれればいいから」

お燐と名乗るネコ耳少女の言葉を、ほむらは殆ど理解出来なかった。 理解の及ぶ範囲を超えていた、と言った方が正しい。
唯一分かったのは、下手をしたら今頃自分は地獄送りになっていたかも知れない、と言う事だけだ。

ほむら「…………」

お燐「理解できない、って顔だね。 まぁこればっかりは仕方ないけど信じてもらうしかないね。
   そうだ! お姉さん、身体の調子に問題が無ければついて来てもらいたい所があるんだけど、良いかい?」

お燐の提案に、ほむらはしばし思案する。
怪しい事この上ないのだが、なにぶん情報が少な過ぎる。
ここは敢えて虎穴に入るべきかもしれない。

359: 東方焔環神 2011/11/18(金) 22:15:39.39 ID:+k6gOFpQ0

ほむら「それは別に構わないけど……、ついて行ったら死んでました。って言うのはナシよ?」

お燐「あ~、ないない、お姉さんからは確かに不思議な力を感じるけど、そんなに強そうじゃないし……」

ほむら「っ!?」

笑いながら言うお燐の言葉にほむらはピクリと身体を震わせた。
この自称化け猫に、自身が魔法少女である事は教えていない。
拾われた時に持ち物を調べられたかもしれないが、ほむらの正体に迫るようなモノはそもそも持ち歩いていない。
それなのにお燐はほむらが“不思議な力”、即ち魔力を持っていることを見破ったのだ。

言葉を鵜呑みにする訳ではないが、このお燐という少女が、少なくともほむらの理解が及ばない存在であると言う事は認めざるを得ない。

立ち上がり、お燐の後を追おうとすると、お燐がふと立ち止まり、こちらを向いた。

お燐「そう言えば聞きそびれてたんだけど、お姉さんの名前はなんて言うんだい?」

そう尋ねてくるお燐の表情はごく普通で、悪意とかそういったものは感じられない。
訳の分からないこの状況で、敵を作るのもアレなので、ほむらは素直に名乗る事にした。

ほむら「私の名前はほむら、……暁美ほむらよ」

お燐「ほぅ、『焔』ねぇ……。あたいとは同じ焔同士、気が合いそうだねぇ……」

そう言って笑うと、お燐はついて来いと言う様に歩き出した。
ほむらも歩き出したが、まだ笑おうと言う気は起きなかった……。



365: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:05:05.96 ID:QASY5XbT0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

お燐に案内され、だだっ広い部屋へと通されたほむらがまず取った行動は室内の観察だった。
タイル張りの床に石造りの壁、それにステンドグラスと言う内装はその広さも相まって教会を思わせる。

あからさまに変なものが鎮座しているような事は無かったが、良く見るとステンドグラスが床についていたりする。
奇妙でないようで奇妙、そんな印象を受けた。

その部屋の真ん中に、少女は居た。
薄紫色の髪に空色の服を纏い、胸元に赤い目玉(?)を付けた、小学校高学年ぐらいの女の子。

女の子は自身の目は瞑ったまま、赤い目玉だけをこちらに向ける。

ほむら「?」

???「ようこそ地霊殿へ。私はここの主、古明地さとり。
    貴女は……暁美ほむらさん、ですか……。 良い名前ですね」

ほむら「っ!?」

名乗りもしないうちから名前を当てられ、ほむらは思わず身構えた。
ほむらの一歩後ろに立つ、お燐が教えたのか? などと思っていると、さとりと名乗った少女が補足をしてくる。

さとり「ああ、ごめんなさい、驚かせてしまいましたね。 ちょっとだけ、貴女の頭の中を読ませてもらいました」

ほむら「読ませて……? 貴女、読心術が使えるの?」

ほむらが尋ねると、さとりは瞑っていた瞳を開きつつ頷いた。

さとり「ええ、その通りです。 ですが貴女の考えているような魔法ではありませんよ?
    これは私たち、覚(さとり)妖怪固有の能力です」

ほむら「覚妖怪?」

耳慣れない言葉に、ほむらは鸚鵡返しに呟く。
さっきの化け猫ぐらいならまだ分かるが、生憎ほむらはそっち方面の知識には疎かった。

さとり「簡単に言えば今のように人の心を読んで、相手を驚かす妖怪です。
    考えていることが全て見透かされてしまうので厄介者扱いされてしまいますけどね」

ほむら「…………」

苦笑するさとりに対し、ほむらは黙ってさとりを見つめる。
あからさまに見定める様な視線を送っていたのか、或いはまた心を読んだのか、さとりはため息をつく。

366: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:07:11.08 ID:QASY5XbT0

さとり「半信半疑、と言ったところですか……。
    まあ貴女のように不思議な事でも簡単に説明がついてしまう事象に長く触れていた人からすると、
    得体の知れない妖怪の存在を認めるより、よく見知った魔法で片付けてしまいたくなる気持ちは分かります。
    ですが、私は貴女の思うような“魔法少女”ではありませんし、正真正銘、本物の妖怪です。 その点だけは承知して下さい」

ほむら「分かったわ、そういう事にしておいてあげる。
    それで?一体ここはなんなの? 自称妖怪は居るし、人魂はあちこちに浮いているし……あの世かなにかな訳?」

そう言ってから、ついさっきお燐が灼熱地獄跡、とか言って居た事を思い出す。
あの世、と言うのは適当に言った言葉だったのだが、あながち間違いでは無いのかもしれない。

内心、そんな事を考えていると、背後からお燐のやけに明るい声が飛んでくる。

お燐「惜しいね。正確にはあの世じゃなくて、地獄だった場所さ。 言うなれば旧地獄だね」

さとり「お燐の言う通り、ここはかつて地獄でした。
    今は怨霊が少なくなったので、冥界に統廃合され、私たち妖怪の住処になっています」

ほむら「じゃあなに? 私はその妖怪の住処に迷い込んだと、そう言うの?」

ほむらがそう尋ねると、さとりは首を縦に振る。

さとり「その通りです。簡単に言ってしまえば“神隠し”ですね。
    私たちの世界では“幻想入り”と言われていて、人が迷い込む事はしばしばあるのです。
    いきなり旧地獄に迷い込むのは流石に希ですけど……」

ほむら「そんな希少性は出来れば遠慮したかったわ……」

げんなりしつつ、ほむらはぼやく様に言う。
それと同時に、これが夢なら早く覚めて欲しいと心から強く願う。
今ならこの願いで、もう一度インキュベーターと契約してもいいような、そんな気さえしてくる。

そんな事を考えつつ、ほむらはさとりの方を見る。
さとりは自身の目と、赤い目玉の三つの目でじっとほむらを見続けている。
さとりの言う事が本当なら今まさに頭の中を読まれているんだろうな、と思って居ると、さとりは手元の呼び鈴を鳴らした。
ほむらの背後で控えていたお燐がさとりに近づき、さとりはお燐に何か言伝をする。

言伝を受けたお燐は、部屋の奥へ消えて行き、対するさとりはほむらの方に向き直る。

さとり「…………暁美さん、一つ、貴女にお見せしたいものがあるのですが」

ほむら「なに?」

さとり「これです、どうぞ……」

さとりの言葉と共に、戻ってきたお燐が差し出したのは一枚の紙切れだった。
右上に文々丸新聞と言う囲い文字と、2ヶ月近く前の日付があるので新聞なのだろう。

367: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:09:10.91 ID:QASY5XbT0

ほむら(新聞、ねぇ……妖怪が読む新聞、それも古新聞なんか見せてどうするつも………っ!? これって!?」

胡散臭いと思いつつ新聞を受け取ったほむらだったが、次の瞬間、見出しとして載っていた写真を見て、思わず声をあげていた。
写真に写って居たのは数人の少女の姿なのだが、その中にほむらがよく見知った、そして絶対にあり得ない姿が写っていたのだ。

ほむら「ウソ……どうして? なんで……?」

さとり「…………」

新聞の見出しに釘付けになったまま肩を震わせるほむら。
そんなほむらをさとりは落ち着いた様子で見守っている。

ほむら「なんでこんなところに……、まどかが写っているの!?」

心拍数が上がり、頭に血が上りつつある事を感じながら、ほむらは顔を上げた。
やはり落ち着いたままのさとりに対し、ほむらは声を震わせながら問う。

ほむら「ちょっ、貴女、この新聞を一体いつ何処で……」

さとり「やはりそうですか……。
    貴女の記憶の中にある名前と、この記事に載っている名前とが違うので、別人かと思いましたが、貴女の反応を見るに間違い無さそうですね」

ほむら「名前……?」

さとりの言葉に、写真から本文へと目を移したほむらは、これ以上ないと言うほど目を見開いた。
説明文にあった名前、それは……


                      “クリームヒルト・グレートヒェン”


ほむら「これは……この名前は……」

一体何度この名前を見たのだろう?
それはほむらの力及ばず、幾多の世界で生まれてしまった大切な人の変わり果てた姿の名前。
姿かたちは大切な人と寸分も違わぬのに、名乗る名は魔女のソレと言う奇妙な状態にほむらの混乱は深まるばかりだ。

368: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:11:34.98 ID:QASY5XbT0

完全に固まってしまったほむらに、さとりが語り始める。

さとり「二ヶ月前の事です。 地上にある郷、“幻想郷”に新しい妖怪が現れました。
    彼女らは自らを“魔女”と名乗り、その郷に住み着きました。 その新聞はその時に出された号外です」

ほむら「二ヶ月前に魔女、ですって……?」

その言葉に、ほむらは思い当たる節があった。
ほむらがなんとしても救いたかった存在――鹿目まどかが、自らの存在と引き換えに全世界を救済して消えた、あの日がちょうど二ヶ月前なのだ。

ほむらは新聞の記事を読み進める。
そこに書いてあったのは、“魔女”らが幻想郷にやって来た経緯と、その際に引き起こした事件の顛末。
そして彼女ら魔女が、自らの意思として、この地での永住を希望している旨などがそこに綴られていた。

ほむら「ここに書いてあることは本当なのね?」

さとり「私はまだ会ったことはありませんが、地底の者に彼女らを見た、と言う者はかなり居ます。
    貴女のお友達が、地上に居るのはほぼ間違いないかと……」

写真の少女――まどかが友達であることがいつの間にかさとりに漏れ伝えられていたが、対するほむらはそれどころではなかった。

かつて救えなかった大切な友人が、会うとしたら自分が死ぬその時だと思っていた友人が、この近くに居る。
それだけでほむらの心は大きく揺れ動き、掻き乱された。

さとり「お燐、ほむらさんを連れて地上へ行きなさい」

お燐「えっ? あたいが、ですか?」

さとり「私はこれから会わなくてはならない人が居るの。 私の代わりに、ほむらさんを案内してさし上げなさい」

そんな言葉が、ほむらの耳に届く。
いつの間にか勝手に話が進んでいるのだが、今のほむらにさとりたちの申し出を断る理由も、余裕も、あるわけが無かった。



369: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:13:08.55 ID:QASY5XbT0
――――――――――― 【ほぼ同刻@幻想郷・魔法の森】 ―――――――――――

マミ「キュゥべえとも連絡がつかないし……、ここは一体何処なのかしら?」

鬱蒼と生い茂る深い森の中、金髪ドリルロール髪の少女、巴マミは呟いた。
確か気を失う前まで見滝原の街中で、魔獣相手に戦っていた筈だ。
それがどうしてこんな森の中に来てしまったのか、いくら記憶を辿っても答えは出ない。

マミ「確か、暁美さんが最初に不意打ちを受けて、そっちに気を取られた後……ダメね。良く思い出せないわ……」

それは、思い込みと些細なミスから始まった。
戦い慣れていた暁美ほむらが、背後を取られるとはあの時まで思っていなかった。いや決め付けていた、と言う方が正しいか。
更に痛いのは、魔獣の攻撃を受けて、ほむらの身体がその場に崩れ落ちた瞬間、
それを見ていたマミ自身が一瞬の思考停止状態に陥ってしまった事。

それが決定的となった。
一瞬とは言え隙を見せた者が生き残れるほど甘い戦いではなく、マミもまた例外ではなかった。
気付いた時には、相対していた魔獣がその手をこちらに振り下ろしていて……直後、マミの意識は暗転した。

マミ「てっきり死んじゃったかと思ったけど、そんな事もなかったし……」

見下ろした自身の身体はあの時の戦闘で負った小さなかすり傷と服の汚れがあるだけで、大した事はなかった。
あんな一撃をもろにくらっていたのなら、こんな事があるわけがないのだけど……。

よくよく思い返してみると、意識を失う瞬間、痛みとかそういった感覚がなかった様な気がする。
いや、感じる暇もなく、落ちた、と言う可能性の方が、どう見ても高いのだが……。

マミ「まぁいいわ、生きているならそれで十分よ。 それにしても、これからどうしましょうか? ここだと方角も分からないし……」

そう言ってマミは生い茂る木々を見上げた。
木々は高くそびえ立っていて、地上へ差し込む日差しの大半を遮っている。
見上げた空は狭く、太陽がどっちにあるのかも分からない。

マミ「間違いなく見滝原の何処か、ではないわよね……」

あの街にこんな樹海があると言う話は聞いた事がない。
いや、周辺の町を含めたってそんな場所はない。

マミ「とりあえずここにずっといる訳には行かないわね。 森を抜けてみないと……っ!」

そう呟きつつ、マミは一歩踏み出そうして、止める。
背後の茂みが小さくゆれた様な気がしたからだ。

咄嗟にマスケット銃を生成し、そちらに振り向ける。
少々気にしすぎかと思ったが、状況が状況だ。 用心するに越した事はない。

370: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:15:55.71 ID:QASY5XbT0

マミ「誰か居るの? 居るなら出てきなさい」

静かに、それでも有無を言わさぬ口調でマミは茂みの方へと呼びかける。
一旦は収まっていた茂みが、再度ガサガサとゆれ、そして現れたのは……

マミ「えっ?」

現れたのはフリルの付いた服を着た小さな西洋人形だった。
あまりにも予想外というか、常識はずれな光景に、マミは思わず間の抜けた声を上げてしまう。

大きさとしては猫ぐらいだろうか?
女の子がおままごと遊びで使う人形より一回り大きい人形は、銃口を向けられプルプルと震えている。

マミ「……えっと、今そこに居たのは貴女なの?」

銃口を人形から外しつつ、それでも警戒だけは解かずにマミは動く人形に問う。
人形は身体を震わせたまま、こくりと小さく頷く。 どうやら喋ると言うことはなさそうだ。

人形と、周囲の森に目線を送りつつ、マミは考える。
この人形は一体なんなのだろう?
勝手に動いているし、喋らないとは言え受け答えが出来るあたり、意思はあるようだ。
オカルト話で良く聞く、呪いの西洋人形とかそういった類のものだろうか?
それにしてはやけにこちらに怯えているのだけど……

キュゥべえの仲間か、はたまた新手の魔獣かと色々思考を巡らせていると、再び茂みがゆれ動く。

マミ「っ!」

陽動か!? そう思い、再びマスケット銃を振り向けるマミ。
だが、それよりも早く、マミの周囲を多数の人形が包囲していた。

マミ「くっ…………!」

目の前のオカルト現象に気を取られ、包囲を許してしまった事にマミの表情が歪む。
と、そこに少女のものと思しき声が割り込んできた。

???「そんな顔しないでくれる? 私はその子を返して欲しいだけなの」

そんな言葉と共に現れたのは、御伽噺の中から出てきたような、人形を思わせる美しさを持った金髪の少女。
その手からは多数の糸が伸びていて、マミの周囲を包囲している人形へと繋がっていた。

371: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:17:27.92 ID:QASY5XbT0

マミ「なるほどね。 人形が一人で動くなんてどうもおかしいと思ったら、貴女が操っていたのね?」

???「あら? 別におかしい事なんて何もないわ。 その子に関しては勝手に動くように作ってあるし……」

少女の言葉を聞いて、マミは自分の考えが正しかったと確信した。
この少女はマミと同じ、“魔法少女”だ。 おそらく人形を操るのが、彼女の魔法なのだろう。

???「貴女、名前は?」

マミ「……………巴マミ。見滝原中学の三年生よ」

少女の言葉に、棘はなかったが、こちらは包囲されている身である。
下手な口答えはしない方がいいだろう。

???「巴マミ……ですって?」

マミ「?」

マミの名を聞くなり、訝しむような表情を見せる少女。 心なしか観察されているような気がする。
マミの事を知っているのか、単なる気にしすぎか……。
少なくともこっちには見覚えは愚か、思い当たる記憶はない。
少々気味悪く思っていると、人形による包囲が急に解除された。

マミ「っ!? な、なに? どうして……!」

訳が分からなかった、マミはてっきり、他の魔法少女の縄張りに入ってしまったのだと思っていたのだ。
マミはそんな事はないが、大抵の魔法少女は縄張り意識を強く持っている。
自分のテリトリーに他の魔法少女が入り込もうものなら、すぐさま排除に来る。
今回も、その類だとそう思っていたのだ。 今の今までは……

理解の及ばぬ事態に、マミが戸惑っていると、人形を後ろに下げた少女が言う。

???「ちょっと、不躾過ぎたわね……。 てっきり、あの子が貴女に襲われていると思ってしまったのよ」

と言いつつ苦笑する少女。
先ほどまでの鋭く、刺すような雰囲気はいつの間にか消えていて、マミはすっかり毒気を抜かれてしまう。

マミ「あの、貴女は一体、……」

???「とりあえず立ち話もなんだから、場所を変えましょう。 私の家、すぐそこだから……。
    そうね、名前ぐらいは名乗っておくわ。 私はアリス・マーガトロイド、ここ“魔法の森”に住む“魔法使い”よ」

そう言って、少女――アリスはマミに微笑んで見せたのだった。



372: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:20:16.46 ID:QASY5XbT0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アリス・マーガトロイドと言う少女は聡明な人物であった。
その点において巴マミは幸運だったと言える。
少なくとも霧雨魔理沙や東風谷早苗など直情で動く人間と会っていたなら、彼女の混乱はより酷いものになっていたに違いないのだから。


アリス(巴マミ……ね。
    確かにクリームヒルトやオクタヴィアから聞いた通りの子だわ……。 でも……)

自宅へ案内しつつ、アリスは考える。
クリームヒルトたちの話によると彼女は既に死んだ人間の筈である。
が、目の前に居る巴マミは明らかに幽霊などの類ではなく、生きた人間であった。
気配を見るにクリームヒルトたちの様に、魔女になっていると言う訳でもない。

???「う~ら~め~し~……ばあーっ! って、ぎゃああああっ!?(ピチューン」

そうなるとクリームヒルト達から聞いた巴マミと、この巴マミは似て非なる存在、と言うことになる。
そもそも、クリームヒルトたちの話を全面的に肯定するのであれば、この世界自体、一度滅んでいる筈である。

???「ルナ! スター! ジェットストリームアタックを仕掛けるわよ!」

???「「了か……いやあああっ!?(ピチューン」」

が、こうして自分達は生きていて、世界が滅んだと言う事実はない。
しかし、クリームヒルトたちの話が全くの絵空事だとは到底思えない。
絵空事と断じる事は、事の大小はあれど、過去に犯した罪と向き合い、悩み、それでも生きて行くことを決めた彼女たちを否定する事だからだ。
とにかくアリスたちの経験と、クリームヒルトたちの経験、両方が現実にあった事だとすると、考えられる可能性は一つしかない。


クリームヒルトらが経験した一度滅んだ世界と、今アリスたちが居る世界は別の世界である。


所謂、平行世界と言うヤツである。
別世界からの幻想入りが可能なのか少々疑問だが、何が起こってもおかしくないのが幻想郷である。
世界の一つや二つ飛び越える事など案外容易いのかもしれない。

アリス(そうなると、この子の処遇が問題ね……)

おそらく今アリスの目の前に居るのは、アリス達と同じ世界、即ち博麗大結界を隔てた外の世界から、純粋に幻想入りしてきた巴マミなのだろう。
とすると、クリームヒルト達から聞いた話をそのまま彼女に聞かせるのは、彼女を混乱させるだけだ。
さて、どう説明したものか……


373: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:22:32.26 ID:QASY5XbT0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

巴マミと言う少女も聡明な人物であった。
出合った相手がマミであった事は、アリスにとって幸運だったと言える。
少なくとも行動が先に出やすい佐倉杏子や、疑ってかかる暁美ほむらが相手であったなら、事情の説明だけでも難航していたに違いないのだから。


マミ「…………」

前を歩くアリスの背中と、足元でぷすぷすと煙をあげて伸びている女の子たちを交互に見ながらマミは考える。
先ほどは、アリスを自分たちと同じ、魔法少女だと断じたが、早くもその判断は間違いだったのでは無いか? と思い始めたのである。

理由は足元の女の子をはじめとする死屍累々の山。
皆、突然飛び出してきては、アリス(の人形に)に有無を言わさず撃墜された者たちなのだが、その内訳が異常なのだ。

まず最初に出てきたのは人魂で、数も多くて10体は倒している。
次に出てきたのは、大きな口と舌の付いた和傘を持った女の子で、「うらめしや」とか言っていた様な気がする。
最後が、足元に転がっている女の子で、身の丈は幼稚園児程度なのだが、その背中には半透明の羽が生えている。
そして、これら全員が例外なく、さも当たり前の如く、空を飛んで現れていたのである。

マミ(あの子たち、どう見てもお化けとか妖精よね? いつの間にか夜の墓場にでも迷い込んだのかしら?)

目の前の光景から導き出された答えに、マミは昔見たアニメの主題歌を思い出す。
マミから見ると、今の状況は極めてそっちの歌詞の内容に近い。

少なくとも、アリスが撃墜して回っている存在は、マミが普段戦っている魔獣ではない。
ではないのに、アリスはそれらの存在が、ごくあり触れたモノであるかの如く、動じずに、冷静に対処しているのだ。

マミ(そう言えばアリスさん、私に“魔法少女”じゃなくて“魔法使い”と名乗っていたわね……。
   あの時は言葉の綾、程度にしか考えていなかったけど、もしアリスさんが、“魔法少女”とは違う“魔法使い”であったとするなら、もしかしてここは……)

アリス「ついたわよ」

マミ「!?」

思考の海に沈みかけたマミの意識は、アリスのそんな声に遮られた。
気が付くと、一軒の洋風家屋が目の前に建っていた。

アリス「さ、入って。あんまり大したもてなしは出来ないけど……」

マミ「……し、失礼します」

アリスに促され、マミはアリスの家だと言う建物へ、足を踏み入れた。
アリスから語られる話が、自身の予想したような突拍子もない話ではない事を願いつつ……。



374: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:24:23.11 ID:QASY5XbT0
――――――――――― 【同じ頃、幻想郷・迷いの竹林】 ―――――――――――

杏子「じゃあ、何かい? ここはアンタたちみたいな妖怪の住む隠れ里だ、って言うのかい?」

差し出された鰻の串焼きを頬張りつつ、佐倉杏子は目の前の少女――ミスティア・ローレライに尋ねた。

ミスティア「そうだよ。 まあアナタみたいに外から来た人には信じられないと思うけど……」

杏子「あー、普通ならそうなんだろうけど、生憎アタシは変な話には結構縁があるからな。 それにこうして目の前にアンタが居るわけだし……」

鳥だか蝙蝠を思わせるような羽に、不自然に長い爪(しかも伸縮自在)、獣っぽい耳と言うミスティアの出で立ちは、どう見ても人間のソレではない。

ミスティア「でも酷い目に遭ったわ。 急に空からアナタが降ってきて、私の屋台壊したかと思ったら、斬りかかってくるんだもの」

杏子「そりゃアンタが爪で急に襲いかかかってきたからだろ?
   ああ、屋台の件は悪かったと思ってるさ。 だからそんな顔すんなって……」

喉元に鋭い爪を突きつけられ、杏子は思わず乾いた笑いを漏らす。
一応話は付いたはずだが、ミスティアはいまだお冠らしい。

杏子(ま、仕方ないか……、出会いとしちゃ最悪だったしな……)

そんな事を考えつつ、杏子は自身が座っている屋台を横目で見回した。
深い竹林の中にぽつんと置かれた一台の屋台。
彼女を知る人妖たちからは、絶品と称される憩いの場となっている屋台は、屋根の一部が大きく欠けている。
ここに“飛ばされて”、空から落ちてきた杏子が、派手に屋根をぶち破ったからだ。
屋台の持ち主であるミスティアは激昂し、杏子に襲い掛かってきたが、どうにか落ち着かせる(返り討ちにする)事に成功していた。

ミスティアの身なりを見たときから予感めいたものはあったが、彼女は人間でも、杏子の知る人ならざる存在、“魔法少女”や“魔獣”の類ではなかった。
彼女は、自らを『夜雀の怪』と称し、ここがそういう存在、即ち妖怪が闊歩する世界である事を世間話を語るように教えてくれた。
ついでに言うと、杏子のように人間がこっちの世界についうっかり入ってしまう事はあまり珍しい事ではないらしい。

多少の事なら動じない自信のあった杏子だが、流石にこの話は受け入れがたい話だった。
目の前にこうしてミスティアが居なければ絶対に信じなかったに違いない。

375: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:26:21.95 ID:QASY5XbT0

杏子(まったく、変な事に巻き込まれちまったなぁ……)

二本目の串焼きを口に運びつつ、杏子は考える。
あれは普段どおりの魔獣狩り、だった筈だ。
それが、ほむらが不意打ちをくらって倒れ、マミがそっちに気を取られ、隙を見せた瞬間、おかしな事が起こったのだ。

まず、倒れていたほむらが、地面に出来た不思議な裂け目に呑まれて沈み込み始め、
次に、魔獣の攻撃を受けそうになり足元が疎かになったマミもその裂け目に呑みこまれてしまったのだ。

新手の転移魔法かなにかで、ほむらやマミを誰かが助けてくれたのか? とも思ったが、
裂け目の纏う雰囲気はどちらかと言うと禍々しいもので、妙な胸騒ぎを覚えた杏子はその裂け目に自ら身を投じたのであった。

が、結局先に裂け目に落ちた二人の姿を(僅かの差であったにも拘らず)見つけることは出来ず、
杏子は裂け目の出口――即ちこの竹林の上空に放り出され、ミスティアの屋台に墜落した、と言う訳である。

杏子「それで? あの変な裂け目はこの世界のどっかに絶対通じているんだな?」

ミスティア「うん、それは間違いないよ。 でも、知り合いを探そうとなると大変だと思うけどね……」

「狭いようで広いからねー」と軽い口調で言いつつ、ミスティアは蒲焼きを焼き始める。
最悪の部類に入る出会い方をしたミスティアであったが、中々どうしてお人よしらしい。
或いは鳥頭過ぎて既に記憶が薄れているだけかもしれないが……

杏子「サンキュ、だいぶ参考になった。 それじゃアタシはこの辺で……」

ミスティア「ちょいと待ちなよ、お客さん。 御代がまだじゃない」

席を立とうとする杏子にかけられた声は心なしか低く感じられた。
振り返ると、にこやかに右手を差し出すミスティアの姿が……

杏子「御代? 御代ってさっきアンタが焼き鰻はサービスだって……」

ミスティア「鰻の御代はいいよ。 でも、壊した屋台の修理代までサービス、とは私一言も言ってないよ」

そう言って、右手をずいっと伸ばしてくるミスティア。
出合った直後の様な怒気に満ちた妖気をぶつけてくるミスティアを見て、杏子は前言を撤回する。

コイツ、お人よしもでもなければ単なる鳥頭でもないぞ、と……



376: 東方焔環神 2011/11/20(日) 18:28:19.29 ID:QASY5XbT0
―――――――――――― 【数刻後、旧地獄・地霊殿】 ――――――――――――

さとり「…………この念は……幽々子さんですか」

お燐がほむらを連れて、地上へと向かってから数刻後、さとりは扉の方に語りかける。
直後、現れるのは思っていて居たとおりの人物。

幽々子「あら? バレちゃったようね」

さとり「私に隠し事は通用しませんから……」

幽々子「そうだったわね。それで? 最近こっちの方は大丈夫かしら?」

一瞬苦笑して見せた幽々子だが、次の瞬間向けられた話題は極めて事務的なものだった。
とは言え、元々その件で話し合う予定であったのだけど……

さとり「ええ、怨霊の方は問題ないです。地下の妖怪も同様に……」

幽々子「そう、なら良かったわ。 最近こっちに来てなかったし……」

ちょっと前からいろいろあったのよねぇ~、と口元に笑みを浮かべる幽々子を見て、さとりはあることを思い出す。

さとり「そういえば幽々子さん、確か、聞いた話だと六月の異変以来、懇意にしていらっしゃる方がいるとか?」

幽々子「ええ、居るわよ。 クリームヒルトちゃんの事ね?
    あの子はいい子よ~。可愛いし、素直だし……。 で、それがどうかしたのかしら?」

ニコニコ顔で答える幽々子。
どうやら噂どおりの入れ込み様らしい。

噂では件の異変の時に、思ったように動いてくれた為、玩具代わりにしている、などと言われていたが、
決してそんな程度ではなく、もっと深い親交を結んでいるようだ。

さとり「その方は今、どちらにいらっしゃるか分かります?」

幽々子「分かるわ、と言うかすぐそこの温泉まで来てるわよ。そろそろ帰る時間かもしれないけど……」

さとり「えっ?」

幽々子の答えにさとりは思わず顔をしかめる。
地上にいると思っていた対象が、幽々子らと共に地底に来ている。と、言う事は……

さとり「失敗しましたね。 完全に行き違いじゃないですか……」

ため息と共に頭を押えるさとりに、幽々子はすっと目を細くする。

幽々子「…………古明地さん、詳しい話を聞かせて欲しいのだけど?」

さとり「実はつい先刻の話なのですけど……」

さとりは、全てを話し始める。
幽々子の表情が、驚きのソレになり、やがてさとりと同じため息を漏らすまで、時間はさして掛からなかった。



387: 東方焔環神 2011/11/23(水) 16:37:43.31 ID:uotYbNIu0
―――――――――― 【焔な火車と魔法少女】@中有の道 ――――――――――

お燐「ありゃ、おかしいね。確かにこの子の住所はここなんだけど……」

一度人里に出て住所を突き止めたほむらたちは、まどか……もとい、クリームヒルトの自宅へとやって来ていた。
表札もしっかり出ていたし、里で聞いた話も、この記事の少女が間違いなくまどかである事を裏付けていたので、期待していたのだが……。

ほむら「どうやら留守のようね……何処に行ったのかしら?」

お燐「うーん、その子と直接会った事もないし、あたいにはちょっと分からないねぇ……」

お燐がそう漏らすと、ほむらはぺたんと膝を付く。
(ほむらが飛べないので)ここまでの長い徒歩移動も祟って、一気に力が抜けてしまった形だ。

ほむら「そんな……ここまで来て、手がかりゼロだ、って言うの?」

お燐「あー、まぁそんなに落ち込まないで……、おっ、あれは……」

あまりの落ち込みようにどう声をかけたものかと、視線を逸らしたお燐は上空にある人影を見つけ、声を上げた。
その影は、こういう場合だと強い味方になる、幻想郷随一の情報通のものだ。

お燐「捨てる神あれば拾う神あり、って言うのはまさにこの事だね。 おーい!」

ほむら「?」

お燐の呼びかけが聞こえたのだろう、上空を飛んでいた鴉天狗――文が羽音と共に舞い降りてくる。

文「あや? これはこれは火焔猫さんじゃないですか。今日はこんな所で何をしてるんです?」

お燐「いやー、丁度よかったよ。 実は今、あたいたち人探しをしていてさ……」

お燐がそう切り出すと、文は訝しげな表情になる。

文「人探し……ですか? 珍しいですね。地底の妖怪が地上で人探しなんて……」

お燐「いや、用事があるのはあたいじゃなくて、ほむらでね」

文「ほむら……?」

そこでようやく、文は足元で膝を付いているほむらの存在に気が付いた。
それと同時に、この場所がクリームヒルトの家の前である事に気付き、口元を吊り上げた。
長年、記者をやってきた文の勘が告げている。 これは何か面白そうな事が始まっているぞ、と……。

388: 東方焔環神 2011/11/23(水) 16:43:26.66 ID:uotYbNIu0

お燐「さとり様の命令でさ、ちょっと案内してたんだよ」

文「なるほど、付き添いですか……、で? 見ない顔ですけどどちらの方です?」

お燐「まぁいつものアレさ、珍しくいきなり旧地獄に来ちゃってたんだよねぇ~」

アレとは即ち幻想入りの事である。
見ない顔を、それも人間を見かけたら、まずこれで間違いない。

ほむら「暁美ほむらよ。 まど……クリームヒルトとは、向こうで知り合いだったのよ」

文「暁美ほむら……? ああ、確かそんな名前をクリームヒルトさんとオクタヴィアさんから聞いた覚えがありますねぇ……。
  そうですか、貴女が二人の言っていた“ほむらちゃん”ですか……」

そう言っていつの間にか取り出したカメラで写真を撮り出す文。
いきなりフラッシュの嵐に襲われ、ほむらは眉をしかめる。

ほむら「ちょっと、いきなりなんなのよ? この妖怪は……」

お燐「あー、勘弁してやってくれないかな。 文は新聞記者なのさ」

ほむら「記者? それじゃあこの新聞は……」

ほむらがさとりから失敬した新聞記事を取り出すと、文はフラッシュ攻撃の手を止めて言う。

文「あっ、それ私が書いた記事です」

ほむら「成る程、確かに拾う神のようね……」

この新聞を書いた主が目の前に居るのだ。
当然持っている情報も、その正確さも期待していいだろう。

文「クリームヒルトさんが出かけそうな場所、ですか? う~ん、ありえるとしたら人里か、オクタヴィアさんの家か、白玉楼ですね」

ほむら「白玉楼?」

聞きなれない言葉に、ほむらは思わず聞き返した。

389: 東方焔環神 2011/11/23(水) 16:47:29.51 ID:uotYbNIu0

文「ええ、クリームヒルトさん達が幻想郷(こっち)に来た時にお世話になってた場所ですよ。 冥界にあるお屋敷です」

ほむら「冥界って……、地獄から抜けたと思ったら今度はあの世なの?」

文「ああ、でもそういえば幽々子さんは午後から出かける、とか言ってましたから今はいないと思いますよ」

行き先を知ったほむらがげんなりとしていると、手帖を操っていた文が補足する。
どうやら、件の恩人とやらはあいさつ回りに出ているらしい。

お燐「なら、冥界には居ないだろうねぇ……。ほむらはどうしたい?」

ほむら「どうしたい、ってそれは会いたいわよ……」

お燐「いや、そういう意味で聞いたつもりじゃ……、とりあえず人里に戻ろうか?」

一度は通った場所だが、お燐は無難な選択肢を上げた。
情報が少ない今、できる限り多くの人から情報を得た方が好ましい。

文「それなら私は山に行ってオクタヴィアさんの家を見てきましょうか? 徒歩で妖怪の山を登るのは厳しいでしょうから」

お燐「ああ、それはありがたいねぇ、頼むよ」

ほむら「私からもお願いするわ」

文「いえいえ、お安い御用ですよ。 その代わり、後で取材させてくださいね?」

そう言って、文はニヤリと笑うと、羽音を立てて空へと舞い上がっていった。

お燐「……さて、あたいらも行こうか」

ほむら「そうね。 早くしないと日が暮れてしまいそうだし……」



390: 東方焔環神 2011/11/23(水) 16:51:18.22 ID:uotYbNIu0
――――― 【ドキッ!金髪だらけの魔法使いと魔法少女】 @ 魔法の森 ―――――

マミ「それで? 私たちは何処に向かっているの?」

アリス「博麗神社よ。 貴女たちの居た世界に帰るなら、そこが出口になるわ」

マミ「ふーん、妖怪の郷って聞いたときは帰れないかと思ったけど、出口があるのね……」

マミの質問にアリスは背中越しに答えた。
結局、アリスの取った行動は、普通の幻想入りとして扱う――即ち、幻想郷のことだけを説明して帰ってもらう、と言う事だった。
仮に、アリスの考えた平行世界説が正しいのなら、この巴マミにクリームヒルトたちの話をするのは百害あって一理なし、と判断したからだ。

アリスは幻想郷の事と、自身の身分が“魔法使い”であり、人間であるマミとは違う事などを説明し、
元の世界に帰してあげるから、と言って早々に連れ出していた。

ここは齟齬が起こる前に帰ってもらうのが吉だろう。
その方が彼女にとってもクリームヒルトたちにとってもいい事である筈だ。

表情には出さずにそんな事を考えていると、上空から見知った影が降って来るのが見えた。
直後、アリスの中で巻き起こる予感と悪寒……。

アリス(マズイのに見つかっちゃったわね……)

文「あややや? アリスさんも見知らぬ方を連れてますねぇ……その方は知り合いですか?」

降って来たのは文だった。
彼女はほむらたちと別れた後、約束通り妖怪の山に向かっていたのだが、
眼下にアリスと見知らぬ少女が一緒に居るのを見かけ、持ち前の好奇心が抑えられなくなってしまったのだ。

マミ「えっと、アリスさん? こちら方は?」

アリス「鴉天狗のパパラッチよ。 厄介者とも言うわね。 (ちょっと文、話があるからこっちに来なさい」

文「そんな酷いですよアリスさん、私は清く正しい射命丸ですよ? (なんです? 真面目そうな話のようですけど……」

マミには聞こえないよう、小声と目線でアリスは文を引き離す。
文は確かに面白い事ならすぐに頭を突っ込んでくるが、話を出来ない相手ではない。

アリス「マミ、悪いのだけど、ちょっと待っててくれない? このパパラッチを黙らせてくるから」

マミ「え、ええ。 分かったわ」

文「おー、こわいこわい。 こわいついでにアリスさん、貴女から話を聞かせてもらいますよ」

マミに不審を抱かせないよう、呆れやおどけを織り交ぜつつ、アリスは文と共に道の脇に移動する。
マミがやたら鋭い人間でなければ普通のやり取りに見えた筈だ。

391: 東方焔環神 2011/11/23(水) 16:55:33.09 ID:uotYbNIu0

文(それで? 今アリスさん、マミって言いましたよね?)

アリス(話が早いじゃない。 そうよ、そのマミよ)

説明する前から切り出してきた文に、やけに鋭いなと思ったが、アリスは頷いておく。

文(こっちも色々あったんです。 で? 確か話では彼女は既に故人なのでは?)

アリス(彼女たちの話を全面的に採用するなら私たちも全員故人よ)

文(……つまり、どういう事です?)

文も十分聡い妖怪だが、それでも平行世界という考えには及ばなかったようだ。
アリスはあくまで推測だけど、と前置きしつつ自身の考えを述べる。

文「なるほど、確かにそれなら説明がつきますね。 ですが、さっき会った暁美ほむらさんは……」

マミ「暁美さんですって!?」

アリ&文「「!?」」

突然割り込んだ声に、アリスと文は恐る恐る振り返る。
目の前にいたのは、金髪ドリルロールの少女、即ちマミだった。

アリス「え、えっと、マミ? 一体いつからそこに……?」

マミ「悪いとは思いましたが、結構最初の方から聞かせてもらいました。 アリスさん、詳しいお話、お願いできますよね?」

やけににこやかな笑顔を向けつつ、それでも有無を言わせない雰囲気を纏うマミ。
アリスは自身の失態を呪いつつ、ため息をついた。

アリス「いいわ、話してあげる。 その代わり、これはかなり信じがたい話になるわよ?」

マミ「妖怪の闊歩する世界の存在、と言う時点で十分信じがたい話だと私は思いますよ?」

どうやら本格的に腹をくくらなくてはならないようだ。
アリスはもう一度、ため息をつかずには居られなかった。



392: 東方焔環神 2011/11/23(水) 17:03:33.88 ID:uotYbNIu0
―――――――― 【夜雀と放浪娘の放浪屋台】 @ 妖怪の山の麓 ――――――――

杏子「ハァ、結局見つからなかったなぁ……」

屋台から少し離れた岩場に腰をかけつつ、杏子は思わずため息をついた。
あの後、壊した屋台の御代は身体で返す、と言う事になり、杏子はミスティアと共に屋台を引いて歩き回った。
が、出会うのは妖精やら妖怪やらばかりで、ほむらやマミは愚か人間にすら会えずに日没を迎えてしまったのだ。

杏子「骨折り損のくたびれもうけ、ってか……。おっ、そういえば……」

全身を襲う疲労感に、杏子はふとある事を思いだし、宝石の様なソレを取り出す。
ソレは魔法少女となった者が持つ、自らの依代の結晶――ソウルジェムだ。
普通に身体を動かすだけでも魔力を消費してしまう魔法少女が、特に扱いに注意しなくてはならないモノで、
魔力を使ったり、穢れを受けるとすぐ濁るので、常に浄化しておかなくてはならないのだが……。

杏子「アレ?」

取り出したソウルジェムを見て、杏子は思わず声を上げた。
これまでの経験から言うと、今日一日で消費した魔力の量はそれなりのものだ。
更に言うと、ここに迷い込む直前まで魔獣と戦っていたので、濁りの量は相当なものになっている。筈なのだが……

杏子「大して汚れてないな。 どうなってるんだこりゃ?」

ミスティア「おーい、杏子! お客さん来たから手伝って~」

自らのソウルジェムを片手に、思考の海に呑まれかけた杏子だが、
次の瞬間、背後からかかってきたミスティアの声に引き戻された。

杏子「まぁ、濁りが溜まってないなら良いか……。 おー、今行くよー」

杏子はソウルジェムを服のポケットに仕舞い、屋台へ戻る。
屋台に座っていたのは、フリルのたくさんついた赤いリボンと服を着た少女だった。

???「あら女将さん、こちらの可愛らしい方は?」

ミスティア「ああ、佐倉杏子って言ってね、訳あってウチで働く事になった外来人なんです。
      杏子、こちらの方は鍵山雛さま。この辺だと天狗と並ぶお得意様よ」

ほら、挨拶挨拶とミスティアに急かされ、杏子は小さく頭を下げる。

杏子「佐倉杏子だ。色々あって今はこき使われる身なんだけど、まぁ、よろしく頼むよ」

393: 東方焔環神 2011/11/23(水) 17:09:44.21 ID:uotYbNIu0

雛「ええ、こちらこそ……あら? 貴女、手の中に何か持ってないかしら? 貴女の服から厄を感じるのだけど……」

杏子「へ?」

いきなり訳の分からない話を切り出され、杏子は間抜けな声を上げてしまう。
どうしていいのか分からず、杏子が戸惑っているとミスティアが耳打ちしてくる。

ミスティア「杏子、雛さまは神さまなのよ。 何か変なものを持ってるならすぐに出しなさい」

じゃないと雛さま頑として動かないわよ。と言うミスティアの言葉に、杏子は思わず頭を掻く。

杏子「んなこと言われても、アタシが持ってるのはコレくらいしかないぞ」

雛「ああ、やっぱり厄を溜め込んでいるわね。ちょっと貸して」

しぶしぶポケットからソウルジェムを取り出すと、雛が杏子の手ごと胸元に引き寄せる。
突然の雛の行動に、流石の杏子も度肝を抜かれた。

杏子「あっ! おい、コラッ何を…………って、えっ?」

思わず怒鳴りつけようとした杏子だが、次の瞬間、動きを止めた。
雛の手の中に握られたソウルジェムから濁りが外に吸い出されたかと思うと、黒い霧状の気体になり、雛の周囲を漂い始めたのだ。

雛「…………はい、コレくらいで良いでしょう」

雛がソウルジェムから手を離した時、ソウルジェムの濁りは完全になくなっていて、本来の深紅の輝きを取り戻していた。

杏子「お、おい、アンタは一体……」

雛「私は厄神、人の厄を祓い、厄を流すのが私の役目。 簡単に言うなら厄除けの神様よ。
  貴女のソレ、ちょっとだけ厄が溜まっていたから祓わせて貰ったわ。 驚かせてごめんなさい」

杏子「あ、いや、それは別にいいけどさ……。それにしても厄除けねぇ……」

呟きつつ、穢れも厄のようなモノかと思い直す。
教会や神社に行ったらソウルジェムの穢れが減った、などと言うことは元の世界では絶対に起こらなかったのだが、
神様自身が直接手を下すのなら、そういう事も出来るのかも知れない。

394: 東方焔環神 2011/11/23(水) 17:15:57.74 ID:uotYbNIu0

雛「さて、女将さん、悪いのだけど今日は帰らせてもらうわ」

杏子「え?」

いきなりそう切り出したかと思うと、雛はそそくさと席を立つ。
まだ鰻も酒も殆ど手を付けていないのに帰ろうとする雛の行動は、杏子から見るとかなり不可解だ。
が、ミスティアはまるで当然の事であるかのように、平然と雛を送り出す。

ミスティア「うん、分かった。こればっかりは仕方ないしね。 いつでも待ってるからまた来てよ」

雛「ありがとう、また来るわ」

そう言って、雛は森の奥へと消えて行く。
雛の姿が見えなくなってから、杏子はミスティアに尋ねる。

杏子「おい、あの神様はどうしちまったんだ? まだ殆ど手をつけてないじゃねーか」

ミスティア「雛さまの周り、貴女から祓った厄が漂ってたでしょ? あの状態だと厄が他の人にうつっちゃうのよ」

杏子「は?」

ミスティア「つまり、今の状態だと厄を引き離しただけで、浄化した訳じゃないの。
      そのままだと色々危険なんで、雛さまは厄の浄化が終わるまで他人との接触は避けるのよ」

勿体無いから食べなさい、と鰻の串焼きを差し出さすミスティア。
杏子はその串焼きを言われるがまま受け取ったが、食べる気など起きなかった。

杏子「おい、それってつまりアタシが……」

ミスティア「あーあ、雛さま帰っちゃったから、今日の営業は終わりかなー。杏子、早く食べて片付けるの手伝いなさい」

話はコレで終わり、と言わんばかりに、ミスティアは片付けに取り掛かる。
杏子はしばし、呆然とその様を見ていたが、思い直して串焼きを一気に頬張った。

杏子「なんだい、妖怪や神様の世界も案外世知辛いモンなんだな……」

ぽつりと呟いた杏子の言葉に、ミスティアは答える事なく、黙っていた。



395: 東方焔環神 2011/11/23(水) 17:20:29.70 ID:uotYbNIu0
――――――― 【幻想を生きる魔女と巫女と魔法使い】 @ 中有の道 ―――――――

オクタヴィア「あー、さっぱりしたー。 いい湯だったね~」

温泉からの帰り道、日も暮れて星々が瞬く中、私たちは家路についていた。
ゆっくりと温泉に浸かり、いまだ火照ったままの体に夜風が心地いい。

クリームヒルト「そうだね。 また行きたいな~」

早苗「明日から忙しいですからねぇ……。 今日はゆっくり出来て良かったです」

クリ&オク「「へ?」」

背筋や首筋をほぐしつつ、そんなことを言う早苗さんに、私たちは揃って声をあげる。
何か行事でもあったっけ?と、オクタヴィアちゃんと顔を見合わせていると、魔理沙さんが苦笑しながら言う。

魔理沙「明日からお盆だからな。 せいぜい頑張ってくれよ」

クリ&オク「「あっ!」」

魔理沙さんに言われて思い出す。
今日は8月12日、明日13日からは世間一般ではお盆に入る。

お盆――それは去年までごく普通の学生でしかなかった私たちにとって、夏休み期間中の一時期、程度の認識でしかなかった。
けれど、幽霊や神様が普通に存在する幻想郷では、その意味は重い。

オクタヴィア「そー言えば明日から忙しいから暫らく会えない、って幽々子さん言ってたなぁ……。そっか、そう言う事だったんだねー」

魔理沙「幽霊はそうだろうなぁ……。ま、私には大して関係ないけどな」

早苗「ダメですよ。 ちゃんとご先祖さまをお迎えしないと……。
   私たちと違ってこっちにお墓もあるんですから、きちんと行って下さい!」

けらけらと笑う魔理沙さんを早苗さんがたしなめる。
早苗さんは神社の巫女さんであってお寺さんではないのだけど、看過できなかったのだろう。

オクタヴィア「そー言えばさ、あたしたちはどうなるんだろうね?」

クリームヒルト「? どうなるって、何が?」

396: 東方焔環神 2011/11/23(水) 17:23:45.87 ID:uotYbNIu0

オクタヴィア「ほら、あたしたちはさ、外の世界から消えちゃったわけでしょ?
       死んだ幽霊みたいにお盆にひょっこり~、なんて事は出来るのかな?」

クリームヒルト「う~ん、どうなんだろう……。 早苗さん、分かります?」

考えたことは愚か、お盆の事すら忘れていた私は、少し考えて早苗さんに話を振る。
考えても分かりそうもなかったし、幻想入りの先輩である早苗さんなら、何らかの答えを持っているんじゃないかと思ったからだ。

早苗「ん~、たぶんですけど、無理なんじゃないですか? 死んだ訳じゃありませんからねぇ……」

オクタヴィア「そっか、そうだよねぇ……」

そう言ってため息をつくオクタヴィアちゃん。
何が言いたかったのか、その気持ちは私にもよく分かる。
覚悟は出来ていたつもりだけど、あらためて突きつけられるとやっぱり寂しい。


早苗「さてと、それでは私たちはこっちなので……」

物思いにふけっていた私は早苗さんのそんな声に現実に引き戻された。
気付くと、お馴染みとなりつつある分かれ道に立っていた。

オクタヴィア「あれ?もうこんなところなんだ……。 それじゃ、クリームヒルトに魔理沙もまた明日」

魔理沙「ああ、またな」

クリームヒルト「うん、また明日ね」

簡単に別れの挨拶を交わして、それぞれの道へと歩いていく。

クリームヒルト「さて、帰ってご飯にしないと……、って、あっ!?」

みんなが見えなくなってから、私も家に帰ろうとして……、あることを思い出し、足を止める。
お米の蓄えがなくなっていた事を、今更のように思い出してしまったのだ。
今帰っても、お米が無いからご飯の作りようがない。 明日まで我慢するか他の主食で過ごすと言う選択肢もあったけど……

クリームヒルト「今から戻ればギリギリで買えるよね? 人里もそんなに遠くないし……」

私は踵を返すと、来た道を引き返す事にした。

幸い、お金はあったし、お店もまだ開いている時間だ。
お米を買いに行っても、寝る時間に大差はない。

そう思っての行動だったのだけど、これが思わぬ出会いの発端になるとは、このときの私は思ってもいなかったのでした……。



397: 東方焔環神 2011/11/23(水) 17:27:12.89 ID:uotYbNIu0
―――――――――― 【焔な魔法少女】 @ 人里の繁華街 ――――――――――

ほむら「はぁ、結局手掛かりは見付からず仕舞いだったわね……」

宿屋で借りた提灯を片手に、ほむらは街を歩く。
文と別れた後、お燐と共に徒歩で人里に戻ったほむらであったが、人里に着いた時点で日没となり、捜索は翌日に持ち越しとなっていた。

ほむら「それにしても本当に電気もないのね……。街中でこれなのだから、森の中とかはもっと冥いんでしょうね……」

店先の燈籠や提灯の明かりぐらいしか光源の無い町は、これが本当に繁華街かと言いたくなるほど薄暗い。
お燐が捜索打ち切りを提案してきたのも、これなら納得だった。
幻想郷の夜は元の世界のソレよりも深い闇に包まれている。

ほむら「この闇の中を妖怪たちが歩き回っているのよね……。
    お守りをしている身としては動くな、と言いたくなるのも当然だわ」

かつて、まどかを守るために駆けずり回っていたほむらは、お燐にかつての自分を見たような気がして、自嘲気味に呟いた。
そんなお燐は、ほむらを宿屋の主人に預けると、主であるさとりに報告に行くから、と言って帰ってしまっている。
合流は明日の朝、と言うことになっているので、それまでは自由時間だ。
そんな訳でほむらは、夜食を食べてくるから、と言って、人里の繁華街に繰り出してきていた。

ほむら「さて、食事も済ませたし、宿に帰って明日に備えると……きゃっ!?」

???「きゃあっ!?」

それは宿に帰ろうと、曲がり角に差し掛かった時の事だった。
角から突然人影が飛び出してきたかと思うと、避ける間もなく正面衝突。
互いに小さい悲鳴をあげつつ、ほむらと相手はその場で尻餅をつく。

ほむら「痛たた……、なんてベタな……。 えっと、大丈……えっ?」

立ち上がりつつ、ぶつかった相手を見たほむらは、次の瞬間硬直した。

目の前にいたのは、一人の少女。

和服が多いこの人里の中では異彩とも思えるファンシーなピンクの装束。
ショートのツインテールにまとめられた髪は装束と同じピンク色で、
それらを結わえるリボンはほむらが持っているのと同じ、鮮やかな赤。

その姿は、間違いなく探し求めていたその人で、
こちらを見上げる少女の瞳は、信じられないと言うように大きく見開かれていた。

???「ウソ……、ホントにほむらちゃん、なの…………?」

ほむら「まど……か……?」

探していた少女――クリームヒルトとの再会は、全くもって呆気ないかたちで訪れたのであった。



398: 東方焔環神 2011/11/23(水) 17:30:27.90 ID:uotYbNIu0
――――――――――― 【救済の魔女】 @ 人里の繁華街 ―――――――――――

ここを通りかかったのは気まぐれと言っても良かった。
お米以外の主食はあったのだから、買いに来る必要性はなかった。

だから、この出会いは、本当に偶然で……、運命的な再会と言うべきなのかもしれない……。


クリームヒルト「ウソ……、ホントにほむらちゃん、なの…………?」

???「まど……か……?」

頭にリボンが結わえられていたけど、それ以外は記憶の通りで……、
聞こえた声は、確かにほむらちゃんの声で……、
私は呆然と、目の前に立つ女の子を見つめる事しか出来なかった。

私の見つめる前で、女の子の瞳が涙で潤んだかと思うと、次の瞬間、私の体は抱きしめられていた。

???「その声……やっぱりまどかなのね……? ―――― っ!まどかぁ!」

クリームヒルト「ホントのホントに、ほむらちゃん……なんだよね?」

抱きしめられたまま私は聞き返す。

夢なんじゃないかと思った。
遊び疲れた私が見た幻覚なんじゃないかと、そう思った。
でも……

???「それ以外の誰に見えるって言うの? 私は正真正銘、貴女の知る暁美ほむらよ」

抱きしめられた感触、感じる鼓動、どこか呆れたような、それでいて優しい声。
その全てが、これは夢でも幻でもないと私に告げていて……。
これは現実なんだ、と思った瞬間、私の視界は急速に滲む。

クリームヒルト「っ……うぅっ……、ぐすっ………ほむらちゃ……会いたかったよぉ……」

溢れる涙は止められず、大して力も入らなかったけど、私はほむらちゃんの体をしっかりと抱きしめていた。



399: 東方焔環神 2011/11/23(水) 17:36:24.65 ID:uotYbNIu0
―――――――― 【救済の魔女と焔の魔法少女】 @ 人里の宿屋 ――――――――

ほむら「そう……、それじゃあ貴女はあの時のまどかなのね……」

宿屋にとった一室で、一つの布団に二人で横になったまま話を聞いていたほむらは納得したように頷いた。
それはほむらが最後に経験した時間軸とよく似ていた時間軸の話。
ただし最終時間軸の様な救済は無く、まどかが魔女化して終わると言う最悪の結末を迎えてしまった時間軸だ。

クリームヒルト「あ、ほむらちゃんまた間違えた。私は『鹿目まどか』じゃなくて、クリームヒルトだよ。
        あの世界の『鹿目まどか』は他の世界の私に救われて、一緒になっちゃったんだから……」

ほむら「そうだったわね……。でも、貴女もまどかの事、『私』って言ってるわよ?」

クリームヒルト「あっ……」

やっちゃった、と言うように苦笑するクリームヒルトはやっぱり記憶の中のまどかと同じで、
目の前に居る、自らを魔女のクリームヒルトだと名乗る少女も、間違いなくまどかなのだとほむらに確信させた。

ほむら「でも良かったの?家に帰らなくて……」

クリームヒルト「うん、帰っても私一人だし、それにほむらちゃんと話したい事、いっぱいあったから……」

ほむら「そう……」

ほむらのそんな返事の後、二人の間に沈黙が訪れる。
時刻は既に深夜、二人が黙ってしまうと、聞こえるのは互いの息遣いと虫の鳴き声だけになった。
その虫の声すらすぐに気にならなくなり、部屋は完全な静寂に包まれる。

その静寂を破ったのはクリームヒルトだ。

クリームヒルト「……ねぇ、あの後ほむらちゃんはどうしてたの?」

ほむら「まどかは……何処まで知ってるの?」

クリームヒルトの質問に、ほむらは質問で返した。
クリームヒルトは天井を見上げたまま、その質問に答える。

クリームヒルト「平行世界の私が、全世界の魔女を消して、魔法少女を救う願いをしたのは知ってるよ。私の所にも来たし……」

あれはいつの事だったのか、クリームヒルトが全世界を滅ぼした後の様な気もするし、その前だったような気もする。
とにかく、彼女はクリームヒルトの前に現れた。

400: 東方焔環神 2011/11/23(水) 17:39:44.49 ID:uotYbNIu0

クリームヒルト「平行世界の私は、“魔法少女の私”を救って、“私”の魔女化をなかった事にしたの。 その瞬間に、“魔女の私”は“なかった事”になった」

ほむら「…………」

クリームヒルト「私の存在は幻想として消え去る筈だったの……。
        それが偶然、他のみんなと一緒に幻想郷(ここ)に流れ着いて、亡霊の西行寺幽々子さん、って人に助けてもらって……」

その後の事はほむらが見た、新聞記事の通りだった。
クリームヒルトたちを助けた亡霊の姫君は、少々手の込んだ引越しのご挨拶を魔女たちに仕込み、
その結果、晴れて妖怪たちの住む隠れ里に迎え入れられた。と言う事らしい。

クリームヒルト「それで? ほむらちゃんはどうしてたの?」

ほむら「私? 私は……ずっと戦ってたわ、まどかを救うためにずっと……。結局、最後の最後で助けられてしまったけどね……」

そう言って、ほむらは苦笑する。
長い旅路の果てが、あの結末だったのだから、ほむらとしては笑う他ない。

クリームヒルト「そっか、ありがとう、ほむらちゃん」

ほむら「ちょっとまどか? 私は貴女に感謝されるような事、何一つしてないわよ? あの時は貴女の魔女化を防げなかったのだし……」

クリームヒルト「それでも、ほむらちゃんが私の為に頑張ってくれた事は変わりないでしょ? それと、ゴメンね……」

今度もクリームヒルトは何の事かは言わなかった。が、今度は何の事なのか、はっきりと分かる。
分かったからこそ、それに対する返答も決まっていた。

ほむら「いいのよ、まどかが気に病むことじゃないわ。
    それに形はどうであれ、こうしてまた出会えただけで私は幸せなの。 だから、そんな悲しい顔、しないで頂戴?」

クリームヒルト「何でもお見通しなんだね……。 ティヒヒ、やっぱりスゴイや、ほむらちゃんは……」

そう言ってほむらの方に向き直ったクリームヒルトは苦笑いしていた。
そんなクリームヒルトにほむらは優しく微笑みかける。

ほむら「さ、そろそろ寝ましょう? だいぶ遅くなってしまったし、明日も早いのでしょう?」

クリームヒルト「そうだね。 おやすみ、ほむらちゃん」

ほむら「ええ、おやすみ、まどか……」

二人は布団の中で向き合ったまま、目を閉じた。
それきり声はしなくなり、部屋には外で鳴く虫の声だけが響いていた。



408: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:14:43.79 ID:lAJBXs9I0
―――――――――――――― 8月13日 ―――――――――――――――――
―――――――― 【救済の魔女と焔の魔法少女】 @ 人里の宿屋 ――――――――

???「……だい、私の居な……つかったのかい」

ほむら「ええ、おかげさまでね。」

頭の上から聞こえるそんな会話にうっすらと目を開けると、ほむらちゃんともう一人、赤髪の女の子が会話しているのが見えた。
女の子の方の頭には猫耳の様なものが生えている。どうやら妖怪の子みたいだ。

クリームヒルト「……ん?」

私が僅かに身じろぎすると、ほむらちゃんたちがこちらを振り向く。

ほむら「あら? 起こしてしまった?」

クリームヒルト「ん……いいよ、そろそろ起きないとだし……ぁふ…………っ!」

伸びをしながら起き上がると、私の口から自然とあくびが漏れる。
まだ完全に起ききれていない私の視界の端に、ほむらちゃんと女の子が苦笑している姿が映り、私はその場に縮こまった。

???「あー、ゴメンゴメン。 そういうつもりじゃなかったんだけどね」

クリームヒルト「いえ、こっちこそお恥ずかしい姿を……えっと……」

私が、言葉に詰まると、赤髪の女の子も気付いたようで、すぐに名乗ってくれた。

???「ああ、あたいは火焔猫燐、昨日ほむらをここまで案内した、地霊殿の火車さ」

クリームヒルト「あっ、貴女がお燐さんなんですね。 はじめまして、クリームヒルト・グレートヒェンです」

布団から抜け出して、私は小さく頭を下げる。

クリームヒルト「それにしても地霊殿、ですか……。地底の方には昨日まで行ったことが無かったんですよ。 今度ご挨拶に伺いますね」

お燐「そうしてもらうとありがたいね。 さとり様も喜ぶだろうし……」

409: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:16:08.68 ID:lAJBXs9I0

ほむら「ところで、今日はどうするの? 本当なら、今日もまどか探しのつもりだったのだけど……」

尋ね人は見付かってしまったから、特に用事もないのよねぇ……と、呟くほむらちゃん。
それならと、私は自分の予定を切り出す。

クリームヒルト「えっと、私は今日はオクタヴィアちゃ……さやかちゃんと会う予定だったんだけど……」

ほむら「ふぅん、さやかと……ね。良いんじゃないかしら、私も久々に会ってみたいし……。
    それと一々言い直さなくても良いわ。 まどかたちが魔女になっているのは、重々承知してるから……」

クリームヒルト「うん、ありがと……」

幻想郷(こっち)に来たばかりの頃は、『さやかちゃん』と呼んでしまう回数の多かった私だけど、
幻想郷での生活に慣れるにしたがって、『オクタヴィアちゃん』と呼ぶのが自然になっていた。
最近は、私自身の事も、『鹿目まどか』と言うより『クリームヒルト』と言う方がしっくり来るようになっている。
色々な意味で、馴染んできた、と言うことなのかもしれない。

そんなちょっとした物思いにふけっていると、お燐さんが、遠慮がちに切り出してきた。

お燐「えっと、ほむらたちは山に行くんだよね? なら、あたいもついて行って良いかい?
   あの新聞屋に一言言っておかないとだからねぇ……。 あっ、お邪魔なら別に良いんだよ。あたい一人で行くから」

ほむら「私は別に構わないわ。 私からもあの天狗には一言お礼を言っておきたいし……、まどかはどうかしら?」

クリームヒルト「うん、私も問題ないよ。 それじゃあ、朝御飯食べて、出よっか」



410: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:20:12.51 ID:lAJBXs9I0
――――― 【ドキッ!金髪だらけの魔法使いと魔法少女】 @ アリスの家 ―――――

マミ「…………ん」

カーテンの隙間から射し込む光に、マミは静かに目を覚ます。
光の射す角度は高く、肌で感じる気温もまた高い。
どうやら多少寝過ごしてしまったようだ。

軽く身支度を整え、一階へ降りると、台所に立って鍋を火にかけているアリスの姿があった。

アリス「あらおはよう、よく眠れた?」

マミ「はい、お陰さまで良く眠れました。……射命丸さんは?」

マミは結局最後まで付き合わせてしまった鴉天狗の姿が無いことに気が付き、問う。
あの後、アリスの家で行われた再度の事情説明は、その難解さも手伝って、深夜まで及んだ。
事情を知る一員として文も加わり、二人はアリスの家に泊まる事になったのだ。

アリス「文なら今朝早く帰ったわ。色々用事があるみたいよ」

釜の火を消し、鍋の中身をお皿によそう。
湯気をたてるスープと、パン、野菜サラダと言う簡単な食事が並べられ、間もなく朝食となった。

アリス「それで?マミはどうするの? 文の言っていた知り合いを探すつもり?」

マミ「そうですね。 平行世界の美樹さんと、鹿目さん……?の事も気になりますけど、先ずは暁美さんを見つけるのが先決だと思います」

マミたちより2ヶ月も前、この世界に現れた新参妖怪・魔女。
マミの居た現世とは異なる歴史を刻んだ世界からやって来たそれらは、彼女もよく知る美樹さやかをはじめとする魔法少女たちのなれの果てだと言う。
そちらの世界ではマミたちも既に故人であるそうなので、確実に平行世界――パラレルワールドの存在に過ぎないのだが、
それでも今や会うことすら叶わない後輩が――奇しくも同じ2ヶ月前に円環へと導かれてしまった美樹さやかの事が――気にならないと言えば嘘になる。

マミ(でも…………)

それを差し引いても、ほむらとの合流は優先すべきであると、マミは考えていた。
もちろんそれはほむらのことが心配、と言う事もあるのだが、内実、マミの方が心細かったのだ。
アリスたち幻想郷の住人は、確かにマミに良くしてくれるのだが、それでも見知った仲間ほど安心できるものはない。

淡々と食べるだけの食事をしつつ、マミの思考は更に深い所へ沈もうとしていた。
が、次の瞬間かけられたアリスの言葉に引き戻される。

アリス「そう、じゃあ朝食が終わったら少し待っていてくれる? 支度を済ませてしまうから」

マミ「えっ? でも……」

先に食べ終えたアリスの言葉に、マミは思わず手を止めてアリスを見た。
アリスの表情は明らかに苦笑い、と言った感じだったが、それでも穏やかだった。

411: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:23:15.57 ID:lAJBXs9I0

アリス「貴女一人じゃ道も分からないでしょう? 乗りかかった船よ。最後まで付き合うわ」

マミ「アリスさん……、ありがとうございます」

アリス「お礼なんていいから、冷める前に早く食べ……」

???「きゃあああああああああああああっ!!」


                      どんがらがっしゃーん!


マミ&アリ「「!!」」

ほっこりしかけた二人の雰囲気だったが、それは文字通り窓と共にぶち破られた。
居間の窓を一枚巻き添えにして屋内に吹っ飛ばされてきたのは、ピンク色のファンシーなぬいぐるみだ。

マミ「!(ゾクゾクッ」

見た目は可愛らしいぬいぐるみなのだが、なぜかマミは妙な悪寒を感じた。
破ったガラスの破片やら窓枠やらに埋もれているせいかと思ったが、それも違う気がする。
この感覚は、どちらかと言うとトラウマが蘇ってきた時のそれに近い。

アリス「いきなり人の家の窓を破るなんて随分な挨拶ね。シャルロッテ?」

マミが軽い恐慌状態に陥っているとは露知らず、アリスは額に青筋を浮かべながら、ぬいぐるみに詰め寄る。
詰め寄られたぬいぐるみ――シャルロッテは慌てた様子で首を横に振る。

シャルロッテ「ち、ちがうの! 私はただ魔理沙に吹っ飛ばされて……」

アリス「魔理沙に?」

???「おー、悪いなアリス! お前ん家の窓、壊しちまったぜ!」

やけにハイテンションな声と共に典型的な魔女っぽい黒衣を纏った少女が、箒に乗って降りてくる。
悪びれた様子など一切ない少女――魔理沙の言動に、アリスは一気に疲れたような顔になる。

アリス「魔理沙、弾幕ごっこをするなとは言わないわ。でも、ぶっ放す時ぐらい周りを見てからにして頂戴」

魔理沙「そんな時間があったら、ぶっ放すのが私だから、それは無理な相談だな」

アリス「……一回痛い目見ないと分からないのかしら?」

 

429: 2011/11/30(水) 23:41:40.42 ID:LWNaE3pf0
 

火に油、いや火にガソリンを注ぐような魔理沙の言葉に流石のアリスも目が据わる。
あまりの急展開にマミが呆然としていると、ここにいると危ないと思ったのかぬいぐるみがこっちに這って来た。
一触即発な二人から少し離れたところで、ぬいぐるみはピンク色の髪の女の子に姿を変え、マミの元に駆け寄る。

マミ「え、えっと、大丈夫?」

普通ならぬいぐるみが女の子に姿を変えた時点で取り乱すところなのだが、意外にもマミは落ち着いていた。
昨日からの一連の出来事で、慣れてしまった、と言うか感覚が麻痺してしまったのだろう。

シャルロッテ「は、はい、大丈夫で……、って、きゃあああぁぁぁぁ!? オバケぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

マミ「えっ? あっ、オバケ……?」

二人から離れて、胸をなでおろしていた女の子だが、マミの顔を見るなり悲鳴を上げた。
呆気に取られるマミの前で女の子は跪いて土下座をすると、念仏を唱えるようにまくし立てる。

シャルロッテ「噛み付いてゴメンナサイ、食べちゃってゴメンナサイ、殺しちゃってゴメンナサイ! だからお願いだから化けて出ないでぇぇぇっ!!?」

マミ「えっ? 噛み……食べ……殺すって……ええっ!?」

身に覚えのない懺悔と謝罪にマミが戸惑っていると、一触即発モードを解除したアリスがそっと耳打ちしてくる。

アリス「この子ね、平行世界で貴女を殺しちゃった子なの。 丁度お盆だし、化けて出られたと思ったのよ」

マミ「ああ、そういう事なんですか……、平行世界で私を……って、ええっ!?」

アリスの言葉に一瞬納得したマミだが、今度は別の意味で戸惑う羽目になった。
思いっきり取り乱すマミを見て、アリスが仕舞ったと言うように顔をしかめる。

そんな中、一人だけ面白いものを見た、と言わんばかりにニヤニヤしている者がいた。
他でもない霧雨魔理沙その人である。

魔理沙「アリス、なんだか面白い事になってるじゃねーか……。 話、聞かせてくれるよな?」

アリス「はぁ、分かったわ。 教えるから二人を落ち着けるのを手伝って頂戴」



413: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:26:01.04 ID:lAJBXs9I0
―――――――― 【救済の魔女と焔の魔法少女+α】 @ 妖怪の山 ――――――――

オクタヴィア「うわっ!? ホントに転校生じゃん! 変わらないなぁ~」

ほむら「貴女も変わらな……いえ、随分と変わったわね……美樹さやか……(ソレトテンコウセイッテイウノヲヤメナサイ」

言いかけたほむらだったが、足元の尾びれを見て訂正する。
まぁ、尾びれだけで済んでいる分、マシなのかも知れないが……。

ほむら「それにしてもまどかを見たときから思ってたけど、この世界の魔女は本当に普通の人間っぽくなってるのね」

お燐「そりゃあ、あたいら妖怪もそうだからねぇ……。幻想郷じゃ良くあることさ」

オクタヴィア「何? 転校生はごっついアノあたしを見たかったの?」

ほむら「いえ、そういう事ではなくてね……」

妙に口ごもるほむらを見て、オクタヴィアは眉を寄せる。
首をかしげるオクタヴィアに対し、クリームヒルトが小声で話しかける。

クリームヒルト「それがね、ほむらちゃんったら……」

ほむら「ちょっ、まどか!? 言わないで!!」

オクタヴィア「ふむふむ……それで? ……ほ~、成る程ねぇ~」

ほむらが制止したときにはもう遅かった。
見る見るうちにオクタヴィアの表情がにやけたモノになり、ニヤニヤはニコニコ顔になる。

オクタヴィア「そっか、長年戦ってた相手があんな“幼女”だ、って分かったら流石のほむらも動揺するよね~」

ほむら「くっ!」

丁度いい玩具を見つけた、と言わんばかりのオクタヴィアにほむらは思わず唇をかむ。
話は、ここに来る少し前のことに遡る……。


414: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:28:05.36 ID:lAJBXs9I0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

それは山に登る前の人里での事、寺子屋の前を通りかかったほむらたちの前に一人の少女が現れたのだ。

???「あっ、お姉ちゃんおはよー!」

ほむら「…………?」

元気な声と共に、駆け寄ってきたのはドレスを着て髪をツインテールにした幼い女の子。
なぜか駆け寄る直前まで逆立ちをしていた女の子を見て、ほむらは妙な胸騒ぎを覚える。
が、周囲の人たちには見慣れた光景らしく、こちらを気にする者は一人として居ない。

クリームヒルトもその一人で、駆け寄ってきた女の子に合わせてしゃがむと、女の子の頭を優しく撫でる。

クリームヒルト「はい、おはよう。 最近はどう? ワルプルギスちゃん」

ほむら「えっ?」

クリームヒルトの言葉に、ほむらは一瞬耳を疑った。
確かに容姿の特徴は一致していたし、逆立ちだってしていた。でも、だけど、流石にこれは……。

???「あれ? お姉ちゃん、この人は誰?」

クリームヒルト「あっ、こっちは私の友達の暁美ほむらちゃん。
        ほむらちゃん、この子は私たちと一緒にこっちに来た魔女の一人でワルプルギスちゃんだよ」

ほむら「あ、暁美ほむらよ。宜しくね……」

もう確定だった。
間違いなくこの子は、ほむらと幾多の世界で激戦を繰り広げた魔女、ワルプルギスの夜に違いなかった。
他の世界はどうなのか分からないが、少なくとも目の前に居る最強の魔女が、こんな幼子であるという事は大いにほむらを動揺させた。
多少口ごもってしまったとは言え、表情だけは何とか笑顔を保つことが出来たのは奇跡に近い。

事実、ワルプルギスはそんなほむらの葛藤には気付かなかったようで……

ワルプルギス「ほむらおねえちゃんだね? よろしくー(ニコッ」

ほむら「!!!(ドッキーン!」

ほむらは、ワルプルギスから向けられた無邪気な笑顔を見て、今度こそその場に沈み込んだ。


415: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:30:18.27 ID:lAJBXs9I0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

オクタヴィア「アハハハ! そりゃ傑作だ! あのほむらが、あの無愛想なほむらが不覚にも萌えたなんて……!」

ほむら「黙りなさい、美樹さやか!」

お腹を抱ええて転げまわるオクタヴィアにほむらは顔を真っ赤にして激昂する。
それでも笑っているオクタヴィアに、ほむらはとうとう飛び掛らん勢いで……いや、実際に飛び掛ろうとして、あっさり避けられた。

ほむら「なっ!? 飛ぶなんてズルいわよ! 降りて来なさい!」

オクタヴィア「いやー、ごめんごめん、悪かったって」

苦笑しながら、一度は上空に逃げたオクタヴィアが降りてくる。
小突いてやりたい衝動に駆られたが、何とか抑え込んで、ほむらはため息をつく。

ほむら「貴女、姿だけじゃなく空まで飛ぶなんて、ホント妖怪じみてきたわね」

オクタヴィア「んー、妖怪じみてきたと言うか、一応あたしたちも妖怪だもんねぇ……」

お燐「空を飛ぶくらいは常識だからねぇ……」

オクタヴィアの言葉にうんうんと頷くお燐。
対するほむらはげんなりとしている。

ほむら「なにこれ? 私の方が異端なの?」

クリームヒルト「大丈夫だよほむらちゃん、ほむらちゃんは一応人間なんだから、落ち込むことはないんだよ!」

がっくりと膝を付くほむらをクリームヒルトが慰める。
が、そこに止めと言わんばかりの言葉が、空から割り込んだ。

??「ん~、例え人間でも飛べる人は飛びますけどね。 霊夢さんとか魔理沙さんとか……」

オクタヴィア「あれ? 文じゃん、久しぶり!」

降りて来たのは文だった。
文は、今朝方アリスの家を出た後、一旦里に帰り、ほむらたちとの約束を果たす為にオクタヴィアの家に来たのだが……

416: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:31:31.23 ID:lAJBXs9I0

文「どうもお久しぶりです! それにしても一足遅かったようですね……。 まあ無事解決したようですから、良いんですけどね……」

オクタヴィアの家の前に居る面子を見て、文は頭を掻く。
後れを取ってしまったのが、彼女としては不服らしい。

ほむら「ああ、その件に関してはありがとう。 色々手をかけたわね……」

文「いえいえ、この程度、片手間で済む事ですから」

お燐「その割には今朝まで掛かるなんて、幻想郷最速にしちゃ遅いんじゃないかい?」

ほむらに礼を言われ、文字通り天狗になる文に、お燐が意地悪げな表情で皮肉を言う。
文の表情が一瞬ぴしりと固まり、次の瞬間愚痴とも取れる身の上話が始まる。

文「いやそれが大変だったんですよ。 暁美さんたちと別れた後、アリスさんが金髪の女の子を連れているのを見かけましてね。
  話しかけたら、森の中で偶然出会った、巴マミさんを博麗神社に……」

クリほむオク「「「(巴)マミさんが(ですって!?)」」」

文「あっ……」

文が気付いた時には遅かった。
クリームヒルトとほむらとオクタヴィアという三人に三方を囲まれていて、その内、オクタヴィアにはしっかりと肩まで掴まれていた。

クリームヒルト「巴マミ、って……マミさんも幻想郷に来てるの!?」

オクタヴィア「と言うかなんでその話を早くしないの?」

文「いえ、早くも何も私、今来たばかりで……」

今にも食いつかん勢いで詰め寄られ、流石の文も縮こまる。
二人の勢いに、逆に落ち着いたのか、ほむらが間に割って行って二人を制する。

ほむら「二人とも落ち着きなさい。 それと文、一体どういうことなの? 詳しく話しなさい」



417: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:32:42.04 ID:lAJBXs9I0
―――――――― 【夜雀と放浪娘の放浪屋台】 @ 妖怪の山の麓 ――――――――

屋台の女将の朝は遅い。
だいぶ気温が上がり、寝苦しくなってきた昼近くになってようやく目を覚ます。

ミスティア「ふぁ~、良く寝た~」

杏子「ホントだよ。良くこんな暑くなるまで寝られるな……」

ミスティアが起き上がると、額に汗を浮かべた杏子が呆れ顔で声をかけてくる。
多分に皮肉が篭っていたが、ミスティアは動じることなく、寝巻きから服へ着替える。

ミスティア「いや、その為に屋台を木陰に止めたんだし、営業時間は主に深夜なんだから寝られるときに寝ないと……」

杏子「アタシが言えた義理じゃないけど、生活習慣どうにかした方がいいぞ」

ミスティア「はいはい、ご忠告ありがと。 さて、食材仕入れに行こうかな」

服を着替え、顔を洗うと、ミスティアは屋台の下から籠を取り出す。
仕入れと言う言葉に、客席側で寝転がっていた杏子も起き上がり、興味深げに覗き込んできた。

杏子「食材? 狩りでもするのか?」

ミスティア「何言ってるの? 人里に買いに行くに決まってるじゃない」

しれっと言ってのけたミスティアの言葉に杏子は耳を疑った。
今この妖怪、何処に買いに行くと言っていた?

杏子「は? 人の住む里がこの辺にあるのか?」

ミスティア「ええ、それくらい当然でしょ? 言わなかったっけ? ここは妖怪と人が住む隠れ里だ、って……」

杏子「言ってない、少なくとも人が住んでるとは一言も言ってない……」

妖怪や神様の話は聞いたが、ここに住む現地人が居るとは杏子は聞いていない。
迷い込む人が居るとは言っていたが、ミスティアはそれで説明した気になっていたようだ。
或いは単なる鳥頭……

418: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:33:42.91 ID:lAJBXs9I0

ミスティア「杏子、鳥頭とか言うな」

杏子「しまった、口に出してたか……」

ミスティア「はぁ、まあ良いや。それより、杏子もついて来るんでしょ? 人探しするなら人里が一番だし……」

杏子「そうだな。 そうさせてもらうよ」

ミスティアの申し出に杏子が頷くと、ミスティアは杏子の襟首をむんずと掴む。
いきなりの事だったので、一瞬、きょとんとしてしまったが、次の瞬間、ミスティアから発せられた言葉に、一気に血の気が引く。

ミスティア「それじゃ飛ぶからしっかり掴まっててね!」

杏子「ちょっ、おい! 飛ぶってなにを……」

ミスティア「何って、里まで歩くつもり? そんなことしてたら日が暮れちゃうよ。それじゃ、行くよーっ!」

杏子「ぎゃああああああああぁぁぁぁっ!!?」

杏子が返事をする前に、ミスティアは背中の羽を羽ばたかせ空へと舞い上がる。
飛び立つ直前の口調が、明らかにからかうソレだったのだが、杏子に突っ込む余裕はない。

ミスティア「あんまり暴れると落としちゃうよ~。私って華奢だし~」

杏子「人一人あっさり持ち上げといて華奢も何もあるかっ!」

見た目はこんなだけど、やっぱりコイツ化け物だ。などと内心思いながら、人里までの数分を上空で過ごす。
佐倉杏子人生初の飛行は、とにかく怖かった、と言う印象に終始した。



419: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:35:58.87 ID:lAJBXs9I0
――――― 【ドキッ!金髪だらけの魔法使いと魔法少女+α】 @ 人里 ―――――

アリス「残念だけど朝のうちに出てしまったようね。でもここに泊まっていたのは間違いないわ」

マミ「行き違い、と言う訳ね。残念だわ……」

昨日文から聞いた『ほむらたちは人里へと向かった』と言う情報を元に、人里の宿屋へとやってきたマミたちだが、
待っていた情報は残念ながら望んだものではなかった。

魔理沙「ま、しょうがないな」

シャルロッテ「しょうがないね」

アリス「家を出るのが遅れたのは誰のせいだったかしら?」

がっくりと肩を落とすマミの背を軽く叩いて宥める魔理沙とシャルロッテに対し、アリスは睨むような視線を送る。
シャルロッテの乱入と、その後の壊れた窓の修理がなければ1時間は早くこれた筈である。

魔理沙「まぁまぁ落ち着けって、行き先なら大体見当がつくからさ」

アリス「本当でしょうね?」

魔理沙「ああ、本当だ。宿屋の親父、そのほむらって子がクリームヒルトと一緒に居た、って言ってたろ?」

それは確かにアリスも聞いていた。
なんでも、昨夜夜食を食べて帰ってきた時にピンク色の髪の少女を連れて帰ってきたそうだ。
あれっ?と思って見ると、6月の異変の時のお嬢ちゃんだったと言うので、ほぼ間違いなくクリームヒルトだろう。

シャルロッテ「私の可能性もあるよ」

アリス「お願いだからモノローグにまで突っ込みを入れないで……」

エリーじゃないんだからとげんなりするアリスには構わず魔理沙は続ける。

魔理沙「昨日あいつ等に会ったけど、確か今日もオクタヴィアと会う約束をしてたぜ」

かく言う私もしてたんだがな。と何故か胸を張る魔理沙。
何故約束をすっぽかして、シャルロッテと弾幕戦をしていたのか疑問だが、魔理沙だから、で納得する事にした。

マミ「オクタヴィア……? つまり、美樹さんの居る所に暁美さんたちは向かった、って事?」

アリスたちから聞いた話――平行世界のさやかの話を思い出しながらマミが言うと、アリスが頷く。

420: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:38:19.92 ID:lAJBXs9I0

アリス「そういう事になるわね。 オクタヴィアの家は妖怪の山だったかしら?」

魔理沙「ああ、そうだぜ! そうと分かったら、早速……」

???「ちょっと待ったあああああああああああっ!!」

頭より行動が先に出る魔理沙らしく、魔理沙が箒に跨るのと、そんな声が降って来たのはほぼ同時だった。
声につられて上を見上げると、空から降って……いや、飛び降りてきている赤髪の少女が一人、こちら目掛けて落ちてくる。

アリ魔理シャル「「「!!?」」」

マミ「さ、佐倉さんっ!?」

ぎょっとして目を見開くアリスと魔理沙とシャルロッテに対し、マミは別の意味で驚く。
落ちてきているのはマミの良く見知った魔法少女仲間である杏子だったのだ。

杏子「ようマミ! 探したぞ! でさ、再会して早々悪いんだけど……」

マミ「?」

杏子「ちょっと受け止めてくれ! 後先考えず飛び降りちまった」

マミ「ちょっ!? 佐倉さんっ!?」

杏子の言葉に今度こそマミは驚愕した。
咄嗟に魔法少女に変身しようかとも思ったが、既に時間はない。

再会早々、最悪の光景がマミの脳裏によぎったその時、杏子の背後から別の声が聞こえたかと思うと、
蝙蝠の様な羽の生えた少女が物凄い勢いで急降下してくる。

???「バカ杏子ーっ!! いきなり何してるのよーっ!!」

杏子「ぐえっ!?」

地面まであと数メートルと言うところで少女――ミスティアは杏子の服を掴むと、羽を一気に広げてその場で減速する。
一気に勢いを殺された杏子は、その反動で肺の空気を残らず吐き出した。

ブレーキをかけることに成功したミスティアはそのままゆっくりと着地する。

421: 東方焔環神 2011/11/27(日) 18:39:27.13 ID:lAJBXs9I0

マミ「ちょ、ちょっと佐倉さん? 大丈夫?」

杏子「あはは、なんとかな……」

苦笑する杏子を見て、安心するのと同時に、マミの中で別の感情が湧き上がる。

マミ「もう、無茶しすぎよ! 寿命が縮まるかと思ったわ!」

杏子「だから悪かった、って……」

最初その感情は怒りとなって表れ……

マミ「貴女は何時もそう! 無茶ばっかりして……心配かけて……ぐすっ……」

杏子「あっ、おい……マミ……」

マミ「ホント、どうかしちゃうかと……ひっく……思っ……うぅっ……」

そしてそれは、とめどない涙となって溢れ出る。
怒りと安心感と、そのほか色々な感情がごちゃ混ぜになって、マミ自身、何で泣いているのか良く分からない。

その場で泣き崩れてしまったマミに、最初は呆然としていた杏子だが、やがて震えるその背中をそっと抱き寄せた。

杏子「悪い、マミの姿が見えたせいで、ちょっとだけ羽目を外し過ぎた。 アタシは大丈夫だからさ……」

マミ「…………もうこんな無茶はしない、って約束して」

杏子「分かったよ。 もうしない」

静かに涙するマミとそれを優しく抱きとめる杏子。
二人の様をアリスたち幻想の住人は肩をすくめつつ、それでも優しく見守っていた。



430: 東方焔環神 2011/11/30(水) 23:45:48.97 ID:LWNaE3pf0
――――――― 【救済の魔女と焔の魔法少女+α】 @ 妖怪の山の麓 ―――――――

クリームヒルト「うーん、今から行っても居るのかな? もうほむらちゃんを探しに出ちゃったんじゃない?」

オクタヴィアの家を出て、麓まで下りて来た所で、クリームヒルトは当然とも言える疑問を漏らした。
文曰く、マミたちはほむらを探しているそうだし、最後に見たのは今朝の話らしいので、既に家に居ない可能性が高い。

クリームヒルトの嫌な予感に対し、すぐ背後からほむらの小さな声が返ってくる。

ほむら「い、居なかったら人里経由でさやかの所に戻るだけよ。 さやかに残ってもらったのはその為なんだし……」

クリームヒルト「それはそうなんだけど……。 ねぇ、ほむらちゃん」

クリームヒルトは振り返ることなく声をかける。
返ってくるほむらの声は、やっぱり震えている。

ほむら「な、なにかしら? まどか……」

クリームヒルト「落としたりしないから、そんなにくっつかなくても大丈夫だよ」

ほむらの声が背後から聞こえる理由、それはクリームヒルトの背中に、ほむらがしがみ付いているからだ。
それも、空を高速で飛ぶ、箒に跨った状態で、である。

ほむら「い、いえ、別にまどかの事を信用してない、って訳じゃないのよ? ただ、こういうのって慣れてなくて……」

クリームヒルト「ごめんね、ほむらちゃんと一緒に飛ぼうと思ったらこうするしかなくて……」

幻想郷に来た当初こそ、魔理沙の箒に乗せて貰って空を飛んでいたクリームヒルトだが、
流石に2ヶ月も過ぎると空を飛ぶ事ぐらい普通に出来るようになっていた。

ただしそれは、『一人で飛ぶなら』という注釈がつく。
空を飛ぶ手段のないほむらと一緒に飛ぼうと思ったら、ほむらを何かに乗せるしか手はない。
結果、選んだのは入手しやすい箒となった訳である。

お燐「箒が嫌ならあたいの猫車に乗るかい? 普段は死体を乗っけてるヤツだけど……」

ほむら「遠慮させてもらうわ(キッパリ」

431: 東方焔環神 2011/11/30(水) 23:48:17.65 ID:LWNaE3pf0

お燐の申し出を、ほむらは即座に断った。
箒よりも安定感はありそうだが、死体運びの道具で運ばれるのは気分が悪い。
お燐としても冗談で言っていた様で、だよねぇ……と言いながら、けらけらと笑っている。

ほむら「とにかく、まどかは気にしなくて良いわ。 あの険しい山道を上り下りする必要がない、と言うだけで十分恩恵を受けているし……」

クリームヒルト「うん、分かった。それじゃあなるべく早く着くようにするね。ちょっとペースを上げるよ。 お燐さん!」

お燐「はいよ! あたいもちゃんと付いていくから気にしなくて良いよ」

お燐の返事を聞き、クリームヒルトは箒を飛ばす速度を更に上げる。
風きり音が強く大きいモノになり、それにも増して風圧も上がる。
夏の昼間だからまだ良いものの、寒い時期には出来れば遠慮したい。

クリームヒルト「それにしても、“私”が存在しない世界のマミさんかぁ……。つまりマミさんは私の事は知らないんだよね……」

ほむら「まどか……」

表情こそ見えないが、クリームヒルトが落ち込んでいるのは声音だけでも良く分かった。
こっちは知っている相手なのに、相手はこっちを知らない……。
ほむらもその寂しさをイヤと言うほど味わってきたので、その気持ちは良く分かる。
分かるが、どう声をかけるべきか、までは分からない。

ほむら「…………」

だから代わりに、ほむらは強くクリームヒルトの身体を抱きしめる。
クリームヒルトは一人ではない、私がここに付いている、そう伝わるように……。
少しでも彼女の寂しさを溶かせるように……。

そんな二人を、少し後ろから見ながら、お燐は小声で呟いた。

お燐「ふむ、ちょいとばかしこれは難儀な話だねぇ……」



432: 東方焔環神 2011/11/30(水) 23:53:40.96 ID:LWNaE3pf0
――――――― 【魔法使いと魔女と魔法少女+α】 @ 妖怪の山登山道 ―――――――

ミスティア「あ、ありのまま、起こった事を話すわ。
      私は杏子と一緒に人里に買い物に出た筈なのに、いつの間にか妖怪の山で天狗と弾幕戦をしていた……」

杏子「テンパるのは良いけど絶対手を離すなよ! 離したら焼き鳥にするからな!」

顔を真っ青にして、現実逃避じみた台詞を吐きつつ、ミスティアは弾幕の飛び交う空を飛ぶ。
そのミスティアの真下で本日二度目となる恐怖の飛行を味わっている杏子は、悲鳴に近い声を上げつつも、向かってくる弾幕を槍で迎撃する。

クリームヒルトたちが山を降りていったちょっと後、妖怪の山上空で弾幕戦が勃発していた。
なぜ、こんな事になっているか、と言うと……

魔理沙「天狗の里に勝手に入っちまったんだからコレは当然の結果だぜ」

アリス「真っ先に天狗の里の上空に入っていった貴女に言われたくはないわ」

片や圧倒的火力で、片や無数の人形を駆使した物量戦で、哨戒天狗たちを蹴散らしつつ魔理沙とアリスが先陣を切る。
無数の弾幕が飛び交う空で、二人が通った場所が道となり、その後に黒く大きな影が続く。
『空飛ぶ恵方巻』、『第二の雲山』など影で散々言われまくっているシャルロッテの相棒と言うか第二形態だ。

シャルロッテ「マミ! 三時と十時の方向から来るよ!」

マミ「オッケー、任せて!」

使い魔から送られてきた情報をマミに伝えつつ、操縦に専念するシャルロッテ。
対するマミはその背後で魔法少女に変身し、マスケット銃を具現化させる。

マミ(三時と十時……あの二人ね)

シャルロッテが言っていた方向にチラリと目線を送ると、脇から攻撃を仕掛けようとする白狼天狗の姿が見えた。
先頭を行く魔理沙とアリスが強敵なのを見て、真横からの攻撃を選択したようだ。

マミ「とりあえず、先手必勝ね! 行くわよ!」

果たして魔獣とは違う妖怪相手に、自身の魔法がどれだけ効果があるのか、
少々疑問ではあったが、マミはマスケット銃による弾幕射撃を開始する。

白狼天狗「!」

突如始まった弾幕による迎撃に、真横から斬りかかろうとしていた天狗の動きが止まり、一転して逃げの体制に入る。
僅か一回の斉射で逃げ出した天狗を見て、杏子は思わず眉を寄せる。

杏子「なんだ? あの程度で逃げるとか、天狗ってのは随分と臆病なんだな」

433: 東方焔環神 2011/11/30(水) 23:56:01.46 ID:LWNaE3pf0

ミスティア「臆病なんかじゃないよ。 弾幕戦はもろにくらったらその場で退場って言う、シビアなルールなんだからね!
      回避に専念するのは基本中の基本だよ。 まぁ例外も居るには居るけど……」

そう言ってミスティアはちらりと魔理沙を見る。

魔理沙「何人寄ってこようが、私の間合いに入ったが最後だぜ! くらいな、必殺、『マスタースパーク』っ!」

天狗たち「「「ぎゃああああああああああっ!(ピチューン!」」」

魔理沙は向かってくるのが弾幕であろうと天狗であろうと、ところ構わずレーザーをぶっ放し、蹴散らしていく。
後に残るのは、黒焦げになって撃墜された哀れな天狗たちの山だ。

魔理沙「ま、ざっとこんなもんだな」

アリス「多少は手加減しておきなさいよ。あの子たち、まだ新米じゃない……」

飛んでくる天狗に若い顔が多いのを見破ったアリスが、たしなめる様に声をかける。
そんなアリスも、人形による遠距離攻撃で、次々と天狗たちを屠って居たのだが……。

杏子「なんて言うか、さやかには最も不向きな決闘方式だな……」

基本的に飛び道具(と言うか弾幕)ばかりが飛び交う戦場を見て、杏子はそんな感想を抱いた。
この戦場の中では、サーベル一つで斬り込んで行く、今は見れないあの戦闘スタイルは分が悪い。

ミスティア「さやか? ああ、あの人魚の事ね。 確かにあんまり向いてるとは言えないわねぇ……。
      一度やりあった事があるけど、内懐に飛び込んでくる戦術が主だったから、視界奪って返り討ちにしたし……」

1ヶ月以上前の話だから、今はどうか知らないけどね。と語るミスティアの話に、杏子は苦笑した。
違う歴史を辿った結果、魔女という妖怪になってしまったさやかがこの郷に居るとの事だが、
話を聞く限り、中身は杏子達の良く知るさやかと大差ないようだ。

ミスティア「さて、そろそろおしゃべりはおしまいかな」

ミスティアの言葉に、杏子は前方を見た。
ズタボロにされた白狼天狗が引き上げて行き、別の所から応援に来たであろう他の天狗がこちらに向かってきている。

ミスティア「ちょっと派手に動くよ。 舌を噛んでも恨みっこなしだからね!」

杏子「そっちこそ、回避ミスって被弾するなよ?」

表情こそ見えなかったが、ミスティアは笑っているのだろう、
かく言う杏子自身、湧き上がる感情に笑みを浮かべずには居られなかったのだから……。



434: 東方焔環神 2011/12/01(木) 00:00:40.86 ID:bcd/dNZ90
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

文「で、貴女たちは哨戒天狗を袋叩きにした、と言う事ですか?」

オクタヴィア「あーあ、こりゃまた派手にやっちゃったねぇ……」

惨状としか良いようの無い里の景色を見て、文とオクタヴィアは驚くを通り越して呆れていた。

一時は天狗の里全域を巻き込んだ全面戦争に発展しかけた弾幕戦だが、
マミたちが探していた内の一人であるオクタヴィアたちがやって来た事により、双方が矛を納める事になった。

魔理沙が里の領空を侵犯したのは事実だが、最初に迎撃に出た若い白狼天狗が無警告で攻撃を仕掛けた事が判明したからだ。

マミ「一応、喧嘩両成敗、って形になったけど……、やっぱりやり過ぎだったかしら?」

杏子「少なくともアタシらの攻撃は自己防衛の範囲内だと思うぞ……たぶん」

戦いが終わって、落ち着いたせいか、現実に引き戻されたマミが、不安げに辺りを見回す。
対する杏子は、一見すると普通の態度に見えたが、よく見ると頬をひきつらせている。

魔理沙「大丈夫だって、弾幕戦のダメージはどんだけ強い術でも死ぬほど痛いだけで実際には死にはしないからさ」

杏子「死ぬほど痛いって時点で洒落にならねーよ……」

すっきりしたと言わんばかりにやけに良い笑顔で解説する魔理沙に、すかさず杏子はツッコミを入れた。
死ぬほど痛いと言うことは、一歩間違えばここに転がっているのはマミたちだった、と言うことだ。
冗談だとしても笑えない。

魔理沙「それにしてもマミの方はクリームヒルトの弾幕を見たときから相当のやり手だろうな、と思ってたけど、杏子もなかなかだったな。
    あとは単独で空さえ飛べれば二人とも合格なんだがなぁー」

杏子「おい、話を聞け。と言うか二度とやらねーからな、こんな事……」

オクタヴィア「あー、杏子? 魔理沙相手には何言っても無駄だから、諦めた方がいいよ」

魔理沙の言動にはあたしも手を焼いているからね、と励ましにもならない事実を告げつつ、オクタヴィアが杏子の肩をつかむ。
杏子はがっくりと肩を落としつつ、オクタヴィアの方を横目で見る。

杏子「はぁ、なんなんだここの連中は……お前以上に疲れるぞ」

オクタヴィア「む? 再会早々言ってくれるじゃない?」

杏子「再会、ねぇ……? 少なくともアタシの知り合いに人魚が居た覚えはないんだけどな……」

435: 東方焔環神 2011/12/01(木) 00:03:09.75 ID:bcd/dNZ90

今朝方、ほむらがそうしたのと同じように、杏子もオクタヴィアの尾びれを見る。
上半身だけを見るなら、記憶の通りの『美樹さやか』なだけに、違和感がすごい事になっている。
そんな言葉と視線を同時に受けたオクタヴィアは、次の瞬間、その場に膝……というか尾びれをついた。

オクタヴィア「うっ……、ほむらといいアンタといい、人が地味に気にしてるところを突いてくるわね。
       クリームヒルトは魔法少女の頃と大差ないのになんであたしだけ……」

そう言いながら、その場で地面にのの字を書き始めるオクタヴィア。
漫画的表現なら間違いなく彼女の周囲には縦線が入っているであろう。

杏子は一瞬、仕舞ったというような顔をすると、ばつの悪そうな顔で頭を掻きつつ、オクタヴィアに声をかける。

杏子「あー、でもまあ……」

オクタヴィア「?」

杏子「そのカッコもカワイイと思うぞ。 似合ってるし……」

オクタヴィア「!!」

そんな言葉をかけられるとは思ってもいなかったのだろう、のの字を書くのを止めたオクタヴィアの顔が、瞬く間に真っ赤になる。
割り込むのも憚れる、謎空間が形成されていくのを遠巻きに見守りつつ、文が呟く。

文「あややや、落として上げるとは、高度な話術をお持ちですねぇ……。あれが天然なら恐ろしい事になりますよ」

マミ「佐倉さんったらいつの間にあんな殺し文句(魔法)を覚えたのかしら?
  幻影魔法は昔から得意だったけど、コレはちょっと厄介ね。 私も惑わされないように気をつけないと……」

冗談めかしてそんな事を言いながら、マミはじゃれあう杏子とオクタヴィアの姿に、過ぎ去りし日々の記憶を重ねる。
目の前の光景と雰囲気は、かつての二人と全く同じで……、それらを前にすると、世界の違いだとか、人と妖怪だとかと言う問題も小さく思えてくる。

――平行世界の存在など、似て非なるものであって、別人同然である。

アリスの話を聞いた直後から、心のどこかで引っかかっていたそんな懸案は、少なくともあの二人には適用されなかったらしい。

マミ(わたしの杞憂だったみたいね……。でも、そういうことなら……)

懸案が晴れて、ほっとするのと同時に、ある感情がマミの中に起こる。
それはとても難しい事だと、マミ自身分かっているだが、それでも願わずには居られなかった。

マミ(せめて……、せめて二人には、この優しい時間が、出来るだけ長く続きますように……)



436: 東方焔環神 2011/12/01(木) 00:07:36.85 ID:bcd/dNZ90
―――――――― 【救済の魔女と焔の魔法少女+α】 @ 妖怪の山 ――――――――

ほむら「はぁ……、見事なまでに行き違いだったわね……」

クリームヒルト「あはは……、そうだね~」

背後から聞こえるほむらちゃんの疲れたような声に私は思わず苦笑した。
アリスさんの家に誰もいない事を確認し、人里へと向かった私たちを待っていたのは、マミさんたちが妖怪の山へと向かったと言う情報だった。
互いに相手を探しに出た結果、見事にすれ違ってしまった、と言う事のようで……。
そんな訳で私たちは来た道を引き返していた。

クリームヒルト「オクタヴィアちゃんを残しておいて正解だったね……」

ほむら「そうね。全員で探しに出ていたら昨日の二の舞になるところだったわ……」

お燐「昨日は地底の温泉に来てたんだって? さとり様から話を聞いた時は流石のあたいも頭を抱えたよ……」

それは私とほむらちゃん、双方の話をまとめた結果、判明した笑い話のような笑えない話。
ほむらちゃんがお燐さんと共に地底を出た直後に、幽々子さんたちと一緒に私が地底に入って行ったという、今日以上に洒落にならないすれ違い。
わずかの差でほむらちゃんは幻想郷を歩き回る羽目になってしまった。
昨日の夜、繁華街で私とほむらちゃんが出会えたのはやっぱり奇跡と言っても過言ではないと思う。

クリームヒルト「ほむらちゃん、寒くない?」

ほむら「ええ、大丈夫よ。 さっきみたいに大してスピードは出てないし、むしろ風が心地いいくらい……」

ふと気になり尋ねた私の言葉に、ほむらちゃんのリラックスしたような返事が返ってくる。
急いでいた行きと違い、ゆっくりと地表近くを飛ぶ飛行は気軽な空中散歩と言った感じで、確かに心地いい。

だけど、今の私に、そんな心地いい空中散歩を楽しむ余裕はなかった。

マミさんたちがほむらちゃんを探して妖怪の山に向かった、と言う事は間違いなく目的地はオクタヴィアちゃんの家だろう。
その場合、山に残ったオクタヴィアちゃんと文さんがマミさんたちを引き留めてくれる手筈になっている。
急いで帰る必要はどこにも無い。

そう、急ぐ必要は無いのだ。
私の事を知らないマミさんたちとどう顔を合わせたらいいか、少しぐらい考える時間があってもいい筈。
ゆっくり飛んだ所で、稼げる時間など大したモノではないのだけど……。

私の葛藤が伝わってしまったのか、暫し会話の無い空中散歩が続く。
そのまま山の中腹に差し掛かったときの事、真横を黙って飛んでいたお燐さんが前に出てきて、私たち二人に向き直る。

お燐「ところでお二人さん、ちょいと聞きたいんだけどさ……」

クリームヒルト「なんですか? お燐さん」

437: 東方焔環神 2011/12/01(木) 00:10:27.69 ID:bcd/dNZ90

お燐「その、二人の知り合いだって言う子は、一体どんな子たちなんだい?」

どんな子、その言葉が意味するのはもちろん人相や容姿の話ではない。
私たちから見て、どんな人なのか? どんな存在なのか? それをお燐さんは尋ねてきた。

お燐さんから問われて、私は考える。 いや、改めて確認する、と言った方が正しいかもしれない。
マミさんと、杏子ちゃん、この二人は私にとってどんな存在なのか、私は二人とどんな関係でありたいのか、再度、自分自身に問う。

クリームヒルト「憧れの先輩と、友達……ううん、違う。 それよりも……それよりも、大切で大好きな人、かな……」

ほむら「そうね。私もまどかと同意見よ。 マミ……巴さんは少し抱え込む癖があるけど、私たちが手本としたくなるほどいい先輩だし、
    杏子はちょっとガサツだけど、ああ見えて優しい子だしね。 二人が私たちにとって大切な存在なのは間違いないわ」

クリームヒルト(ああ、そっか、そうだったんだ……)

自分でそう答えて、『ああ、そうなんだ』と私は納得する。
どうやら深く考え過ぎていたせいで、基本的な、最も大切なことが見えていなかったようだ。
深く考えなくても最初から、自分自身の中に答えはあったのだから……。

その答えに気付くのと同時に、私は以前、幽々子さんが言っていた事を今更のように思い出す。

『貴女たちが馴染めたのは、貴女たちの方から積極的に混じろうと努力した結果よ。 壁を作っている人を受け入れてくれるほどここの住人は甘くないわ』

つまりはそういう事。
問題があるとするのなら、それはむしろ会う前から勝手に壁を作り上げていた私自身の方であって、何事も始めてみなければ結果は出ない。
まず、きちんと会わない事には話は始まらないのだ。考えるのはその後でもいい。

お燐「そうかい、二人がそう言うなら間違いなさそうだね。 なら、初対面のあたいでも仲良く出来そうだ……」

「いや~、安心したよ~」と、安堵したように呟くお燐さん。
その顔がやけににこやかなのは、私たちの話を聞いたから、では無い筈だ。
先ほどの質問にしても、答え自体を聞きたかった訳では無く、それを改めて私に自覚させる為のものだったに違いない。

クリームヒルト「……ありがとう、お燐さん」

お燐「? 何か言ったかい?」

クリームヒルト「うぅん、なんでもないです」

そう言いつつ、私は前を見る。
オクタヴィアちゃんの家がはっきりと見えるところまで飛んできていたけど、さっきまでの不安はもう何処にもなかった。



438: 東方焔環神 2011/12/01(木) 00:13:20.70 ID:bcd/dNZ90
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

クリームヒルト(……と、思っていた時期が私にもありました)


マミ「いちばん!巴マミ!歌っちゃいま~す」

杏子「おっ!いぃぞマミぃ、やれやれ~っ!」

オクタヴィア「マミさんカッコいーっ!」

文「皆さんノリが良いですね~。これはいい記事になりますよ~。あっ、ミスティアさん、熱燗と串焼き追加で」

ミスティア「はいはい、少々お待ちを」

シャルロッテ「うぅっ、気持ち悪いよぉ……」

アリス「弱いのに無理して飲むから……、出すならこれに出しなさい」


ほむら「…………なんなのこの状況は? って、お酒臭っ!?」

お燐「こりゃあ完全に出来上がっているねぇ……」

オクタヴィアちゃんの家に戻った私たちを待っていたもの。
それは目も当てられないようなどんちゃん騒ぎだった。

あまりの惨状に扉の前で呆然としていると、頬をわずかに赤く染めた魔理沙さんが、私たちに気がついて声をかけてくる。

魔理沙「おっ、クリームヒルトじゃん。遅かったな! そっちの子が例の“ほむらちゃん”か?」

クリームヒルト「う、うん、そうだけど……。いったい何があったんですか?」

オクタヴィアちゃんや文さんなどと共に乱痴気騒ぎを繰り広げるマミさんたちを見ながら、私は魔理沙さんに尋ねた。
たぶん、今の私の顔は相当ひきつっているのだろう、魔理沙さんは「あははは……」と、乾いた笑いを漏らしつつ目線を逸らす。
答えようとしない魔理沙さんに代わって、シャルロッテちゃんの介抱をしていたアリスさんが答えてくれた。

439: 東方焔環神 2011/12/01(木) 00:15:34.09 ID:bcd/dNZ90

アリス「色々とあってね。白狼天狗が持ってきた酒を、そこの後先考えない魔法使いがマミたちに無理矢理飲ませたのよ」

単なる水だ、って嘘までついてね……と、補足したアリスさんは心底侮蔑したような目線を魔理沙さんに向ける。
すべてを理解した私は、にこやかな笑顔を浮かべながら魔理沙さんの方に向き直り、問い掛けた。

クリームヒルト「……魔理沙さん、マミさんたちに無理矢理お酒を飲ませたんですか?」

魔理沙「い、いや、私は少しでも場を盛り上げようと思ってだな……」

クリームヒルト「……飲ませたんですね?」

魔理沙「はい、飲ませました」

笑顔のままの私が詰め寄ると、さしもの魔理沙さんも堪えきれなくなったようで、降参と言うように両手をあげた。
何があったのか、ようやく理解が追い付いたほむらちゃんも呆れた表情を浮かべ、アリスさんは肩をすくめている。
対する私は、それまでの作り笑顔を止め、これ以上ないぐらいの大声で、一気に捲し立てた。

クリームヒルト「ダメじゃないですか魔理沙さん! 魔理沙さんだって、オクタヴィアちゃんやシャルロッテちゃんが、私ほどお酒強くないのは知ってますよね!?
        それだけじゃなく、普通の中学生のマミさんたちにも盛るっていったい何を考えてるんですか!?」

魔理沙「悪かったって、まさかアレだけでこんなに酔うとは思ってなかったんだよ。だからお願いだからそのスペルカードはしまってくれ」

クリームヒルト「いいえ、許しません! 少し頭を冷やしてください!」


                      憧憬 『ティロ・フィナーレ』



440: 東方焔環神 2011/12/01(木) 00:21:14.61 ID:bcd/dNZ90
―――――――― 【魔女と魔法少女と魔法使い+α】 @ 守矢神社 ――――――――

早苗「――――で、オクタヴィアさんの家を吹き飛ばしてしまったから、ウチに来た、と?」

アリス「簡単に言うとそう言うことよ」

クリームヒルト「うぅっ、面目ありません……」

話を聞き終えて、心底げんなりした様子の早苗さんに、私は深々と頭を下げた。
ついカッとなった私が、魔理沙さんと一緒にオクタヴィアちゃんの家を吹き飛ばしてから数時間後、私たちは山の上にある守矢神社へと来ていた。
ある程度の広さがあったオクタヴィアちゃんの家を壊してしまったので、みんなで集まれる場所がなくなってしまったからだ。

アリス「クリームヒルトが謝る事じゃないわ。 悪いのは全部アイツよ」

そう言ってアリスさんは、背後の境内を見やった。
広い境内の真ん中では、酔いから回復したオクタヴィアちゃんと魔理沙さんが、弾幕戦を繰り広げている。


オクタヴィア「よくもあたしの家を吹き飛ばしてくれたわね! 今日という今日は許さない!」

魔理沙「いやいや、吹っ飛ばしたのは私じゃなくてクリームヒルトだぜ」

オクタヴィア「問答無用! もともと魔理沙が酒なんか飲ませたのが悪いんでしょ!?」


怒号とも罵声ともとれる会話と、弾幕の応酬が繰り広げられ、時々派手な爆音が聞こえてくる。
その様子をマミさんたちは遠巻きに苦笑しながら見守っている。

早苗「お盆の時期は忙しいのに……。 まぁ、話は分かりました。
   神奈子さまたちにお伺いを立ててきますので……クリームヒルトさん、一緒に来てください」

クリームヒルト「あっ、はい、分かりました」

頷きつつ私は奥へと戻っていく早苗さんの後に続く。
長い縁側を歩いて、表から見えない位置まで来たところで早苗さんはふと立ち止まり、私の方へと振り返る。

早苗「ところで、クリームヒルトさん。 その、マミさん、って方たちとはどうなったんですか?」

クリームヒルト「? どうなったって……ああ、酔いの方なら大丈夫ですよ。
        オクタヴィアちゃんの家には永琳さんから貰った酔い醒ましの薬がありましたから……」

早苗「それは良かった……じゃなくて! ちゃんと話は出来たんですか? って話ですよ!」

私の発した答えを早苗さんはにこやかに受けて、次の瞬間声を荒げて突っ込んだ。
見事なノリツッコミだったな、としょうもない事を頭の片隅で考えつつ、私は思わぬ質問に縮こまる。

クリームヒルト「えっと、話さないとダメ、ですか?」

早苗「出来れば聞きたいです。 さっきのクリームヒルトさん、困ったと言いながら、随分とにこやかな表情でしたよ?
   そんな表情になれるほどの良い話、って興味あるじゃないですか。 それに、私にそんな奇跡が起こった時の参考にもしたいので……」

そう答える早苗さんの目は興味津々と言うように輝いていて、それでも表情はどこか寂しげで、
そんな早苗さんを見てしまうと、断る事など出来なくなってしまった。

クリームヒルト「え~と、ここに来るちょっと前の話なんですけどね……」


441: 東方焔環神 2011/12/01(木) 00:25:00.73 ID:bcd/dNZ90
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

それは酔い醒ましの薬を飲ませたちょっと後の事。
家を壊してしまったので、どうしたものかと悩んでいると、マミさんが話しかけてきたのだ。

マミ「えっと、貴女が鹿目まどかさん?」

クリームヒルト「はい、鹿目まどかです。 と言っても今は魔女のクリームヒルトなんですけどね……。
        ああ、でも呼び方は好きな方で呼んでもらって構いませんから……」

はにかみながら私がそう言うと、マミさんはニコリと微笑んで私の手を取る。

マミ「そう、それじゃあ鹿目さん、って呼ばせてもらうわ。 貴女の方は知っているかも知れないけど私は巴マミよ。
   貴女の話は暁美さんから聞いているわ。暁美さんの一番大切な友達だ、って……」

クリームヒルト「そうなんですか? そっか、ほむらちゃんがそんな事を……」

マミさん言葉に、私は嬉しくなると同時にちょっとだけ悲しくなった。
“私”の居なくなった世界でも、ほむらちゃんは私の事を「友達だ」と言ってくれている。
これは素直に嬉しい。 魔女の私にも変わらず接してくれるし、ほむらちゃんには感謝してもしきれない。

でもそれは、マミさんたちからすると、ほむらちゃんの話を介した存在、と言う事でもある。
仕方が無い事だけど、事実として突きつけられるとやっぱり寂しい。

マミ「……一つ、聞きたいんだけど、“魔女”と言う事はあの美樹さんと同じで平行世界からここに来た、って言う事なのよね?」

クリームヒルト「はい、そうですけど……」

正確に話すと、私に関してはちょっと事情がフクザツなのだけど、ここはそういう話にしておく。
私がマミさんの言葉に頷くと、マミさんは私の手を取ったまま、小さくため息をつく。

マミ「そうよね。 はぁ、残念だわ……」

クリームヒルト「えっ?」

ため息と共に出た、残念という言葉に私は思わず声を上げていた。
何の事だか分からないでいると、マミさんは私に優しく微笑みかける。

マミ「平行世界の私にはこんな可愛いお弟子さんが居たのに、私には居ないなんて、平行世界の私が羨ましいわ」

442: 東方焔環神 2011/12/01(木) 00:27:28.85 ID:bcd/dNZ90

クリームヒルト「えっ? ええっ!? わ、私、マミさんの弟子とかじゃ……」

マミ「あら?違うのかしら? 暁美さんの友達で、美樹さんの親友なら当然私とも知り合っていたのでしょう? それに……」

クリームヒルト「それに?」

マミ「さっきのアレ、見事な『ティロ・フィナーレ(弾幕)』だったわよ。 
   私の『ティロ・フィナーレ』をあそこまで自分のものに出来てる子が、私の友人じゃないなんてウソよ」

そう言ってマミさんは私にウィンクしてみせる。
その表情は、私の記憶の中のマミさんと全く同じ笑顔で……、
そんな笑顔を今日初めて会った私に向けてくれた事が嬉しくて……

マミ「えっ? あっ、鹿目さん? 私、変な事言っちゃったかしら?」

クリームヒルト「えっ?」

マミ「いえ、だって、鹿目さん泣いて……」

言われて初めて、私は涙を流していた事に気が付く、気付かないうちにうれし涙が零れてしまったらしい。
私が慌てて涙を拭っていると、背後からからかうような口調の杏子ちゃんの声が聞こえてきた。

杏子「おうおう、女の子泣かせるとは随分じゃねーか。 おーい、ほむらーっ! マミがお前のお友達泣かせてるぞーっ!」

ほむら「なんですって!?」

マミ「ちょっ、佐倉さん!?そんな人聞きの悪いこと言わないで!? 暁美さんも、そんな怖い顔をして弓を構えるのは止めて!」



443: 東方焔環神 2011/12/01(木) 00:30:32.43 ID:bcd/dNZ90
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

クリームヒルト「……と、言うことがありまして……」

早苗「なんと言いますか普通に良い話過ぎて泣けてきました……。 ……よし!決めましたよ!」

私の話を聞いて、自分の事のように喜んでくれた早苗さんは、話が終わると拳を握りしめた。
それから、くるりと身を翻すと、さっきにも増して強い足取りで、廊下を歩き出す。

早苗「神奈子さまがなんと言おうと、大部屋を確保してみせます! 皆さまの為にこの東風谷早苗、一肌脱ぎましょう!」

???「あー、早苗?そんな事しなくても部屋ぐらい貸すよ。そんな話を聞いてしまったら尚更ね」

勢い込んで早苗さんが奥の襖に手を掛けようとしたとき、そんな声と共に襖の方が勝手に開く。
襖の奥から現れたのは、私にとっても馴染みとなりつつある神さま――八坂神奈子さんだ。

クリームヒルト「あっ、神奈子さん、お久しぶりです。それと、お邪魔してます」

そう言って私が深々と頭を下げると、神奈子さんは笑いながら言う。

神奈子「ああ、そんな畏まらなくてもいいよ。事情は承知しているつもりだしね。 それで、いつまで居るんだい?」

クリームヒルト「えっ……?」

たぶん、神奈子さんとしては純粋に予定を尋ねただけだったのだと思う。
だけど、その質問は私には、全く別の意味に聞こえて……、私は思わず固まった。

言葉につまる私を見て、質問の意図が伝わらなかったと思ってしまったのか、神奈子さんが言葉を付け加える。

神奈子「いや、部屋を貸す、と言ってもいつまでもと言う訳には行かないからね。 どのくらいで家が直るのか聞きたかったんだ」

クリームヒルト「あっ、えっと、長くても二・三日です」

神奈子「そうかい、うん、それくらいなら問題ないね。 早苗、部屋の準備は私がするから、みんなを連れてきなさい」

早苗「分かりました、神奈子さま」

早苗さんは一礼すると表へと戻って行き、神奈子さんは奥へと取って返す。
そんな様子を私は、どこか遠くのことの様に感じながら、その場で動けずに居た。

全く考えていなかった訳ではない。
奇跡的な再会を果たしたあの時から、そうなるんじゃないかと言う予感はあった。
だけど私は、それを敢えて考えない様にしていた。 見ないようにしていた。
考えてしまうと、見てしまうと、色々な意味で動けなくなってしまいそうだったから……。

だけど私は考えてしまった、とうとうその事実を直視してしまった。
一度意識してしまうと、火のついた思考は、もう私自身にも止められなかった。

間違いなく訪れるであろう“その時”の事で、私の頭はいっぱいになってしまう。

クリームヒルト「いつまでもと言う訳には行かない、か……。 私は……どうしたらいいのかな?」

小さく呟いた私の言葉に、返ってくる答えは、無かった。



449: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:31:52.47 ID:T+KBN3p90
――――――――――― 【その日の夜 @ 守矢神社】 ―――――――――――――

ほむら「博麗神社?」

マミ「そう、博麗神社。 そこがこの世界と私たちの居た世界の境目になっているそうなの」

聞き返したほむらの言葉にマミは頷いた。
守矢神社の大部屋に通されて、ようやく落ち着くことが出来たほむらたちは、
夕食までのひと時を互いに持っている情報の交換に費やす事にした。

当然と言えば当然なのだが、最初に挙がったのは「元の世界に帰れるのか?」と言う疑問だった。

杏子「なんだ、ちゃんとした出口があるのか。 アタシはてっきりあの変な裂け目を探さないとかと思ったよ」

ほむら「変な裂け目?」

ここに来た時の記憶がハッキリしないほむらは思わず聞き返し、マミも興味深げに身を寄せてくる。
今ここに居る魔法少女の中で、唯一裂け目をはっきりと目撃し、自らの意思で飛び込んだ杏子が、その時の様子を説明する。

杏子「ほむらたちが魔獣にやられかかった時に出来た、得体の知れない変な空間さ。
   アタシは二人がそこに落ちて行くのが見えたから、そこに自分から突っ込んだんだ。 そしたら、この世界に抜けて……」

ほむら「さっきの妖怪の屋台をぶっ壊した、と……」

ほむらの一言に、杏子は思わず声を詰まらせた。
クリームヒルトたちの口利きもあって、オクタヴィア家と共にミスティアの屋台も修理してもらう事になったのだが、
それで貸し借りが完全にチャラになったか、と言うと、そう言う訳ではない。
未だに杏子はミスティアにこき使われる身であり、夕食が終わり次第、屋台営業に出ることになっている。

マミ「それで納得が行ったわ。 アリスさん曰く、ここは人の世である私たちの世界から結界で隔離された場所らしいの。
  私たちが落ちた、って言うその裂け目は、その結界が何らかの原因で緩んで出来てしまった綻びだったのよ」

杏子「成る程ね。 魔獣が作り出してるあの異相空間をもっと強力にしたような感じなんだな……。
   そういや、さやかたちもその結界を潜り抜けてここに来たのか?」

マミの説明で、自分の経験が裏付けが得られた為だろう、うんうんと頷いていた杏子は、
他の幻想郷の住人たちと共に、その他の準備をしていたオクタヴィアに話を振る。

オクタヴィア「ん? あたしたち? まぁ、似たようなものだけど、あたしたちの場合は、『そうするしか無かった』って言うのが正しいかな」

ほむら「!」

マミ「美樹さん、それはどういう事かしら?」

自嘲するようなオクタヴィアの言葉に、ほむらは全てを把握し、マミと杏子は首をかしげた。
苦笑いを浮かべつつ、オクタヴィアは話を続ける。

オクタヴィア「えっと、あたしたち魔女って、こう見えてももう人間とは違う化け物なんですよ。
       幻想郷は『非常識』の世界だからまだどうにかなるんだけど、外に出ると呪いとか穢れとかが駄々漏れになっちゃうんだよね。
       それにマミさんたちの居た外の世界って、魔法少女が堕ちて、あたしたちみたいなのになる前に消しちゃうヤツが居るんでしたよね?」

マミ「円環の理、ね……」

マミが呟いた言葉にオクタヴィアは小さく頷く。
それはマミたちの居た世界で、魔法少女の間で語り継がれてきた、ささやかな救済を意味する言葉。

450: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:34:26.06 ID:T+KBN3p90

オクタヴィア「あたしが元居た世界にはそう言うのは無かったから、外に居ると超ヤバい化け物、ってだけだったけど、
       今はそれがあるから、ここから出たくても出られない、って言う訳なんですよ。 アハハハ、参っちゃっいますよねー」

早苗「オクタヴィアさーん、この布団そっちに持っていって下さ~い!」

オクタヴィア「あっ、はーい!」

そう言って最後までおどけてみせたオクタヴィアが部屋から出て行くと、杏子がぽつりと呟いた。

杏子「あのさやかにはせめてもの救いすら無かったんだな……」

ほむら「まどかやシャルロッテもそうよ。
    望んだ奇跡の代償として呪いと絶望を背負い、自らが呪いとなってしまった悲劇の魔法少女。 それが彼女たち魔女なのよ……」

マミ「そんな彼女たちが人を呪わずに生きようと思ったら、箱庭のようなこの非常識な郷に籠るしかなかった……。 そう言う事なのね」

口々に呟きながら、ほむらたちは幻想郷について説明を受けたときに聞いた話を思い出す。


                      ――妖怪は人に畏れられるモノ――

                        ――怨念は人を祟るモノ――

                        ――神は人に祀られるモノ――


そんな常識を非常識に変えるのが、幻想郷であると。

ここでは人に仇なす妖怪も、災厄しかもたらさない呪いも、人に触れ得ぬ存在である神も、外の世界と同じであるとは限らない。
それぞれが個人の意思と感情を持ち、それぞれが勝手気ままに生きる摩訶不思議な郷なのだ。

裏を返すと、妖怪や怨念はおろか、神々すら存在を否定されつつある今の世では、そんな箱庭の中でしか、妖怪や神たちは存在できないと言う事でもある。
そしてそれは、円環の理と言う一種の常識により、存在を否定される魔法少女が生み出す呪いも含まれる訳で……。

マミ「あの美樹さんや妖怪、神さまたちにとっての最後の救い、それがこの幻想郷の正体なんでしょうね」

杏子「仮にも教会の娘だったアタシにはきっついハナシだなぁ……。
   神様すら救いが必要なほど、アタシらの世界はどーしようもない、って事じゃねーか」

ほむら「だからこそ、私たちで守らないといけないのよ。 それが出来るのは、元の世界では私たちしか居ないのだから……」

そう言いながら、ほむらはふと考える。
ほむらが今でも魔法少女として魔獣と戦っているのは、世界が改変されたあの時に抱いた想いがあるからだ。

『まどかが守ろうとした世界を守りたい』

これが今のほむらの柱であり道標となっている。
世界を守れるのは、魔法少女だけであり、世界を守ろうと思ったら、ほむらたちはここから帰らなくてはならない。

451: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:39:40.70 ID:T+KBN3p90

ほむら(でも帰ると言うことは同時に、ここから出られないまどかやさやかたちと別れなくてはならないと言う事。
    そうなった時、私はここのまどかたちを置いて本当に帰れるの? この奇跡的な再会を一時の白昼夢だと切り捨てる事が、私に出来るの?)

???「……ら!……おい、ほむら!」

ほむら「!」

思考の海に呑まれかけたほむらだが、自身を呼ぶ声に引き戻される。
気付くと不可解そうな顔をした杏子がこちらを覗き込んでいた。

杏子「なにボーッとしてるんだよ? 話続けるぞ?」

ほむら「え、ええ、お願い」

取り繕いつつほむらが促すと、杏子は改めて話を切り出した。

杏子「でだ、そんな非常識な場所だからなんだろうな。アタシたち魔法少女にとっての常識も、ここじゃ通用しない」

マミ「魔法少女にとっての常識? それって一体何の話なの?」

遠回しな言い方にマミから当然の疑問が挙がるが、杏子はそれには答えず話を続ける。

杏子「マミ、ほむら、二人ともここに来てからソウルジェムはどうしてた?」

ほむら「ソウルジェム? ああ、そう言えば穢れを取るのを忘れて……あら?」

ほむマミ「「たいして穢れてない?」」

杏子に言われ、ほぼ同時に自身のソウルジェムを見たほむらとマミは、ほぼ同時に全く同じ言葉を呟いていた。
その反応を見て、杏子は自身の経験は偶然ではなかったと確信する。

杏子「やっぱりそうか……」

マミ「やっぱり、って事は佐倉さんもそうだったのね?」

杏子「ああ、アタシは昨日気がついたんだけどな。 で、その事について昨日こんなことがあってな……」

それから杏子は昨夜出会った厄神の鍵山雛と、その時に起こった出来事について、二人に話した。
厄祓いと穢れの浄化と言う、言われてみれば納得できる話に、ほむらたちは思わず唸り声を上げる。

ほむら「確かに神社なんかでやってる厄除けの儀は穢れを祓う儀式でもあるから納得できるわ。 信じがたい話ではあるけど……」

マミ「私は信じるわ。 神さまなら、それくらい出来てもおかしくないと思うし……」

???「はい、その位の穢れなら簡単に祓えますね」

ほむマミ杏子「「「!?」」」

452: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:41:08.15 ID:T+KBN3p90

突然背後から割り込んだ声に、三人はぎょっとして振り返った。
振り返った先では話に割り込んで来た少女――早苗がやっちゃったと言うように苦笑いを浮かべていた。

早苗「ああ、すいません。 なんだか私たちの専門分野の話をしていたようなのでつい立ち聞きしてしまいました。 ごめんなさい」

マミ「いえ、それは別に良いのだけど……。 今の話は本当なの?」

早苗「はい、厄祓い、若しくは厄落としの儀と言って神様自らは勿論、神様の力を借りることで神主や巫女でも祓えます」

「時間は多少かかりますけど、私でも祓えますがどうします?」と早苗が申し出てきたので、ほむらとマミは好意に甘える事にした。
神社の中に居るならソウルジェムの有効範囲を出ることもないと判断したからだ。

早苗「はい、確かに預かりました。 あっ、そういえばこっちにクリームヒルトさん来ませんでしたか?」

マミ「鹿目さん? いいえ見てないわ」

杏子「見てないな。 ほむらは?」

ほむら「私もよ」

ほむらたちが一様に首を横に振ると、早苗は首を捻る。

早苗「おかしいですねぇ……、そろそろ夕食が出来るから呼びに行く、って言ってたんですけど……。 トイレか何かですかね?
   まぁそれは置いといて、とりあえず皆さんついてきて下さい。広間に用意してますので……」


この後、広間に通されたほむらたちは、そこで神奈子たちと夕食を共にする事になった。
夕食直前に厠の方から広間に来たクリームヒルトを最後に全員が揃い、半ば宴会じみた夕食が始まった。
食事はシャルロッテの作ったデザートもつくと言う豪華なもので、夕食は大いに盛り上がった。

が、なぜかクリームヒルトだけは口数が少なく、食事が終わると早々に後片付けに行ってしまった。
その後も、そのまま色々な事を手伝っていたとかで、夜遅くになっても大部屋に戻る事は無く、
ほむらは、クリームヒルトと一言も言葉を交わすことなく、就寝した。



453: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:43:45.39 ID:T+KBN3p90
―――――――――――――― ?月?日 ―――――――――――――――――
―――――――― 【人魚の魔女と幻惑の魔法少女】 @ ??? ――――――――

そこは上も下も分からない不思議な空間だった。
その空間に、少女が二人、目を瞑り、手を取り合った状態で、漂っている。
片方は短く切られた青い髪が、もう片方は腰まで届く赤い髪が、それぞれ特徴的な少女だ。

二人は、手を取り合ったまま、漂い続ける。
二人の時間は既に止まってしまって、もう動かないとでも言うかのように……。

そんな二人に変化が起こったのは、その空間に白衣を纏った桃色の髪の少女が現れた直後の事だ。
桃色の髪の少女が、二人の身体を抱き寄せ、そっと声をかける。

???『待たせちゃったね。 さやかちゃん、杏子ちゃん、迎えに来たよ……』

暖かい光が二人の少女を包んだかと思うと、二人の瞳がゆっくりと開かれる。

さやか『あれ……? その声……―――?』

???『うん、そうだよ。 ―――だよ』

杏子『なんだいその格好は? アンタは天の使いか何かにでもなったのかい?』

随分と様変わりしちまったな、と杏子が言うと、桃色の髪の少女ははにかむ様に笑う。

???『てぃひひ、恥ずかしいからあんまり見ないで欲しいな』

さやか『雰囲気は凛々しいのに、この恥じらい……やっぱり―――はあたしの嫁になるべきだと思……あいたっ!?(ベシッ』

杏子『バカやるのはそれぐらいにしとけよ』

おちゃらけつつ、桃色の髪の少女に飛びかかろうとしたさやかに杏子は痛烈な手刀を脳天に叩き込む。
その場に蹲るさやかに冷ややかな視線を向けつつ、杏子は桃色の髪の少女に向き直る。

杏子『ところでアンタ、さっきに迎えに、とか言ってたけど、あれはつまり……』

???『うん、そういう事なんだ。 私は二人をあの世界に送る為に迎えに来たの』

そう言って寂しげに微笑む桃色の髪の少女に対し、さやかは「そっか……」と言いつつ、ため息を漏らし、杏子は訝しげな顔で更に尋ねた。

杏子『ちょっと待て、アンタ今、“二人”って言ったよな? じゃあ、あっちのさやかはどうなるんだ?』

454: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:46:18.77 ID:T+KBN3p90

さやか『あっちのあたし……? って、うわっ!? あっちにもあたしが居る!?』

さやかが振り返った先、正確には先ほどまで二人が手を取り合っていた場所に、もう一人の少女が居た。
短く切られた青い髪から顔立ちまで、さやかと瓜二つでありながら、下半身が人魚のような尾びれという決定的な違いを持つ少女。

最初に気付いた時は、杏子もぎょっとしたが、落ち着いて考えてみれば彼女が何者なのかすぐに分かった。

杏子『あれ、魔女になったさやかだよな? あっちのさやかも連れて行く事は出来ないのか?』

尋ねる杏子に、桃色の髪の少女は小さく首を横に振る。
それはつまり、不可能か拒絶を示していた。

???『ゴメンね。 私の力で救えるのは“魔法少女”だけなの。 魔女のさやかちゃんには悪いけどここでこのまま消えて……』

杏子『んなバカな話あるかよ!』

???『っ!?』

桃色の髪の少女の答えが終わりきる前に、杏子は怒気に満ちた声を上げていた。
桃色の髪の少女が縮こまるのも気にせず、杏子は言葉を続ける。

杏子『アタシはさやかを一人ぼっちにしたままあの世なんか行くつもりはねーからな。
   悪いけどさやか、先に―――と行っててくれ。 アタシはあっちのさやかに最後まで付き添ってから行くから』

さやか『杏子…………、うん、分かった。先に行ってる。 それと、ゴメン、本当に最後まで手間掛けちゃって……』

???『本当にいいんだね? 杏子ちゃん』

片やすまなさそうに、片や念を押すように声をかけてくる二人に、杏子は笑って答えた。

杏子『良いんだよ。これはアタシが決めた事なんだから……。 付き添いが終わったらそっちに行くから待ってろ』



―――――――――――――― 8月14日 ―――――――――――――――――
――――――――――― 【幻惑の魔法少女】 @ 守矢神社 ―――――――――――

杏子「…………んぁ?」

差し込む日差しと小鳥のさえずりで目を覚ました杏子は布団からのそりと起き上がる。
寝ぼけ眼を擦りつつ、周囲を見ると、そこは昨日借りた守矢神社の大部屋で、
隣を見れば未だに寝息を立てているほむらやマミ、クリームヒルトやオクタヴィアの姿があった。

杏子「……なんだ、夢か……」

そう呟きつつ、やけにリアルな夢だったな。とも思う。
まるでどこかで一度経験した事をそのまま思い返しているだけなのではと思えるほど、鮮明な夢だった。

さやかと一緒にあの世に招かれかけてたり、昨日初めて会ったばかりのまどかと似た少女とやけに親しそうに話していたり、
色々辻褄の合わないと言うか、矛盾点の多い夢ではあったのだが……

杏子「まぁ、夢なんてそんなもんか……」

そう呟きつつ、それでも杏子は納得することが出来なかった。



455: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:49:23.53 ID:T+KBN3p90
――――――――――― 【救済の魔女】 @ 守矢神社 ―――――――――――

クリームヒルト「昨日はなに考えてたんだろう……。ほむらちゃんたちが帰るか帰らないかなんて、私が考えても仕方ない事なのに……」

一晩寝て起きて、私自身、だいぶ落ち着けたようで、昨日感じた不安や焦燥感はかなり薄らいでいた。
冷静になった途端、昨日の考えや行動が身勝手なものに思えてきて、私は朝から猛烈な自己嫌悪に苛まれる。


       『だからこそ、私たちで守らないといけないのよ。 それが出来るのは、元の世界では私たちしか居ないのだから……』


昨日の夜、マミさんたちとそう話すほむらちゃんは使命感に燃えていて……、
邪魔しちゃいけない事なんだとこっそり覗いていた私にも分かった。

クリームヒルト「ほむらちゃんたちが戻らないとパパやママ、タツヤや見滝原の皆も危ないし、私一人のワガママで引き留めるのは……」

???「…………トさん。……クリームヒルトさん!」

クリームヒルト「!?」

私を呼ぶ声に我に返ると、心配そうにこちらを覗き込む早苗さんの姿があった。

クリームヒルト「さ、早苗さん!? いつの間に……」

早苗「いつの間にも何も、ちょっと前から声をかけてましたよ……。 何かあったんですか?やけにぼーっとしてましたけど……」

クリームヒルト「い、いえ、なんでもないです。 寝起きで少し寝惚けてただけですから……」

早苗「そうなんですか? それなら別にいいんですけど……」

私のとっさの言い訳に早苗さんは訝しげな顔をしたけど、それでも納得してくれたようだ。
朝ごはんの準備をすると言う早苗さんと別れ、私は大部屋に戻る。

クリームヒルト「そうだよ。あんなことをしちゃった私の事も『大切な友達だ』って言って貰えるだけで、私は十分嬉しかったし、欲張っちゃいけないよね……」

ほむらちゃんに友達だと言って貰えたし、マミさんたちだって私を受け入れてくれた。
これ以上の他の人を巻き込んで、自身の幸せを望むのはバチが当たるような気がする。

クリームヒルト「よし、ほむらちゃんたちがちゃんと帰れるよう、全力でサポートするぞー!」

私は固く決意するように握りしめた拳を高く振り上げた。
固くつき固めた決意に、ものの数時間でヒビが入るなど、このときの私は知る由もなかった。



456: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:51:58.93 ID:T+KBN3p90
――――――― 【救済の魔女と焔の魔法少女+α】 @ 博麗神社 ―――――――

クリームヒルト「えっ? 紫さん今居ないんですか?」

霊夢「そうなのよ。 ちょっと前にどっか行っちゃってね。 今は連絡すら取れないのよ」

お昼前、幻想郷と外の世界との丁度境界に位置する博麗神社を訪れた私たちを待っていたのは、そんな返答だった。
「幻想入りの対応なんですけど……」と申し出た途端、霊夢さんが面倒くさそうな顔をしたので嫌な予感はしていたのだけど、悪いタイミングで訪れてしまったようだ。

霊夢「それにしても盆の時期に知り合いが幻想入りしてくれるなんて、変なめぐり合わせもあったもんね」

クリームヒルト「ティヒヒヒ……、ホントだね……」

ほむら「冗談だとしたら出来すぎよね……」

不機嫌さを隠そうとしない霊夢さんに、私とほむらちゃんが一緒に対応していると、
視界の隅で、疑問符を浮かべたマミさんたちがひそひそと会話しているのが見えた。


マミ「どう言うことなの?」

早苗「えっとですね、ここは確かに外の世界との境目なんですけど、結界を開け閉めしようと思ったら、結界の管理をしてる妖怪の力が必要なんですよ」

アリス「八雲紫って言ってね。境界を操る胡散臭い妖怪よ。
    こういう場合じゃなきゃあんまり関わりたくない相手なんだけど……、肝心な時に居ないのよね」

マミ「その妖怪が今は居ないからなにも出来ないと、そう言う事なのね」

早苗さんとアリスさんの説明を受けて事情を察したのか、マミさんはため息をつきながらがっくりと肩を落とした。
そんなマミさんの腕の中でぬいぐるみ形態で抱かれているシャルロッテちゃんが、慰めるように言う。

シャルロッテ「元気だしてよマミ……。ほら、今帰れてもキョーコだけ置いてく事になるし、みんなで一緒に帰る為と思えば……」

今この場に居るのは私とほむらちゃん、マミさんにシャルロッテちゃん、それと付き添いとしてついて来たアリスさんと早苗さんの六人だけだ。
杏子ちゃんは相変わらずミスティアさんの屋台(仮)で賠償労働の真っ最中で、オクタヴィアちゃんや魔理沙さんはソレを冷やかしに行っている。

マミ「ありがとう、シャルちゃん。心配しなくても私は大丈夫よ。 もともと今日は話だけでも聞いておきたかっただけだから……」

シャルロッテ「わわっ!?マミ、撫でないで……恥ずかしいよぉ……」

早苗「なにこのカワイイ生き物……」

アリス「早苗、鼻血出てるわよ……」


背後で、漫才のような微笑ましい会話が繰り広げられていたのだけど、気にしていると話が進まないので、私は霊夢さんの方に向き直る。

457: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:54:38.48 ID:T+KBN3p90

クリームヒルト「それで、紫さんはどちらに?」

霊夢「さぁ? なんか厄介な神様が来るとか良く分からない事を言ってたけど……」

クリームヒルト「神さま?」

鸚鵡返しに聞き返した私は、次の瞬間、霊夢さんが呟いた言葉に思わず息を呑んだ。

霊夢「ええ、えっと、確か……エンカクだかネンカンだとか言ってた気がするわ」

クリームヒルト「っ!?」

うろ覚えなのか、いまいちハッキリしない、歯切れの悪い返事だったけど、私には何の事を言っているのか、瞬時に分かってしまった。
私たち魔女や、ほむらちゃんたち今の魔法少女たちに良く知られた存在であり、全世界を救ったもう一人の“私”の事を指す言葉。

ほむら「…………もしかして、円環?」

霊夢「そう!確かソイツよ。 なに?アンタたちの知り合いな訳?」

この言葉が決定的となった。
円環の理――それは、私たち魔女の呪いを人の世に広めない為に魔女になる前に魔法少女を導く、
魔法少女たちにとっての希望となった“鹿目まどか”に付けられた通称。

クリームヒルト「えっと……その……」

その言葉が、霊夢さんの口から漏れた事に私が口ごもっていると、ほむらちゃんが代わりに補足する。

ほむら「私たちの界隈で語り継がれてる神さまよ。 たぶん、私たちを探してるんだと思うわ……」

霊夢「ふーん、随分と親身な神様が居るのね。 まぁ、私としてはどうでも良いんだけど……」

霊夢さんは紫さんが動くほどの神さまが、何故ほむらちゃんたちの捜索、などと言う不相応な行動を取っているのか、不思議で仕方が無いらしい。
だけど、私はそんな霊夢さんよりもほむらちゃんの方が気になって仕方がなかった。
ほむらちゃんは“概念になった私”の話が出た途端、色めき立つように目を光らせていたから。

ほむらちゃんにとって概念の私が特別な存在である事は私自身、十分分かっているつもりだ。
長い間、あの一ヶ月間を繰り返し続け、苦しみ続けたほむらちゃんにとって、最後の最後で助けてくれた人なのだから当たり前だろう。

対する私は、ほむらちゃんが救えなかった“鹿目まどか”の一人でしかない。
そう思い始めると、ほむらちゃんにとって私と言う存在は大したものではなかったのではないか?と言う疑念が沸き上がってくる。

458: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:57:14.15 ID:T+KBN3p90

クリームヒルト(ほむらちゃんにとって本当に大切なのは概念の私の事で、私はその代わりでしかないんじゃ……って、私、なにを考えてるの!?)

疑念がほむらちゃんへの不信感になりつつある事に気が付き、私は慌ててその考えを振り払う。

私は、これ以上動揺をほむらちゃんに悟られない様に、意外な話題だったから少し驚いただけだと、
周りにも、私自身にも思い込ませるように、努めて冷静に、いつも通りの口調で、霊夢さんに尋ねた。

クリームヒルト「それで、紫さんは何時ごろ戻られるんですか?」

霊夢「少なくとも今日中は無理、って言ってたわ。 来るなら明日以降にして頂戴」

明日以降……。
紫さんが概念の私にどう対応するのか、全く検討もつかないけど、早ければ明日には概念の私がほむらちゃんたちを迎えに来ると言う事。

クリームヒルト「明日以降ですか……。分かりました。それじゃあ紫さんが戻られたら宜しくと伝えておいて下さい」

霊夢「アンタがアイツにそんな畏まる必要なんてないわよ。 一応会ったら伝えとくけど……」

世界を守ると言う責務を背負っているほむらちゃんたちからすれば、早くも明日には帰れると言うのは喜ばしい事実だ。
更に、概念の私もこっちに向かってきているとなれば、ほむらちゃんにとってこれ以上ないくらい嬉しい事である筈……。

クリームヒルト「お願いします。霊夢さん」

だけど、私はその喜ばしい事実を……。

クリームヒルト「良かったねほむらちゃん。明日にはなんとかなりそうだよ」

ほむら「そ、そうね……色々ありがとう、まどか……」

その事実を、心から喜ぶ事は、出来なかった。



459: 東方焔環神 2011/12/08(木) 21:59:43.33 ID:T+KBN3p90
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ほむら(さっきのまどか、笑顔が妙に痛々しいと言うか、無理に笑っているような感じだったわね……。
    やっぱりもう一人のまどかの事を気にしているのかしら?)

博麗神社からの帰り道、マミやアリスたちと談笑しているクリームヒルトを目で追いつつ、ほむらは一人考える。
もし、クリームヒルトの懸案事項が、もう一人のまどかの事であるなら、ほむらに出来ることはほとんどない。
それはクリームヒルト自身が踏ん切りをつける以外、手がないからだ。
だがしかし……

ほむら(いえ、それだけじゃない筈よ。 思い返してみれば昨日から少し変だったし……)

様子がおかしくなったのは、昨日の夕食以降の事だ。
それまでほむらとの再会や、マミと杏子が、初対面である筈のクリームヒルトを普通に受け入れてくれた事を、
純粋に喜んでいたクリームヒルトが、一転してよそよそしくなったのだ。

ほむらやマミたちに今さら気後れを感じた訳ではないだろう。
守矢神社で誰かに何かを吹き込まれた可能性はあるが、ほむらの知る限り、悪意をもってそんな事をしそうな人物は居なかった。
むしろ、同じ郷に住む者として良くしてもらっている印象の方が強い。

ほむら(私たちが帰る事になって寂しくなったのかしら?)

胸のうちを、それも『寂しい』などと打ち明けるのを恥ずかしがっているのだろうか?
或いは人間だった頃と変わらない優しさをもったクリームヒルトの事、ほむらに遠慮して言えなかったのかもしれない。

ほむら(私もまどかとずっと一緒に居たい。 そう言えれば、言い切ることが出来れば、良かったのだけど……)

だが、その言葉を言う事はほむらには出来なかった。
昨日のマミたちとの会話で、現世に戻って戦い続ける事が、現世だけでなく幻想郷を守る事に繋がると言う事を強く実感していたから。
一度は守れなかったまどか――クリームヒルトが居るこの世界を守れるなら、その力があるのなら、ほむらは今度こそ、守り通したかったのだ。
それが、クリームヒルトへの贖罪になると思ったし、あの日立てた誓いを裏切る事にもならない。

ほむら(ここに居るまどかも、あのまどかも、私にとってはどちらも同じくらい大切なの。
    大切だからこそ離れなくちゃならない……私のこんな我侭、まどかは受け入れてくれるのかしら……?)

ほむらとしては、これからもあくまでまどかを守る魔法少女として生きて行くつもりであった。
その思いが、クリームヒルトに不安と勘違いを巻き起こしている事にほむらが気付くのは、色々と取り返しがつかなくなった後の事だった。



460: 東方焔環神 2011/12/08(木) 22:05:48.24 ID:T+KBN3p90
――――――― 【人魚の魔女と幻惑の魔法少女+α】 @ 霧雨魔法店 ―――――――

魔法の森にある、霧雨魔法店。
立地条件が悪すぎて普段は閑古鳥が鳴いている店ナンバーワンなこの場所だが、今日は歓声が響いていた。

オクタヴィア「ちょっと杏子、この鰻焦げてるよー」

霧雨魔法店の店先に臨時に設けられた仮店舗のカウンターで、鰻の串焼きを食べていたオクタヴィアだが、
急に眉を顰めたかと思うと、串焼きのうちの一本を杏子に突き出す。

杏子「あー? ほんのちょっとじゃねぇか、それくらいなんとも……」

ミスティア「杏子、焼いてる時は手元をしっかり見なさい。 焦げた串焼き量産するつもり?」

杏子「誰が好き好んでそんな事するんだよ!? ちゃんと焼けばいいんだろ、焼けば!?」

突き出された串焼きを見やり、手元から目を離した杏子にすかさずミスティアの注意が飛ぶ。
先にクレームをつけたオクタヴィアと共にニヤニヤしている辺り、おちょくる為の注意なのは明白だ。

が、現状、杏子には従う以外に手は無かった。
オクタヴィアはこの場では『お客』だし、ミスティアは『雇い主』だった。
今の杏子の立場はこの中では底辺なのだ。

ミスティア「ん~、大体焼き加減はそんなものかな~。 杏子、ここちょっと任せるよ。 私、買い物行ってくるから」

杏子「はいはい、任されてやるからとっとと行って来いよ」

杏子はせめてもの嫌味を込めて、買い物籠を取り出したミスティアを見やることなく、手で追い払う仕草をしてみせる。
今はまた新しい串焼きを作っている最中なので、目を離せばまたツッコまれるからだ。

オクタヴィア「じゃあ、あたしが監視役しといてあげる」

杏子「お前は帰れ。 一体何時間粘……」

ミスティア「うん、それじゃあオクタヴィア、見張りは頼んだよ~」

杏子の言葉を遮ってミスティアがオクタヴィアの申し出を許可する。
公認を貰えた形となったオクタヴィアは、玩具を見つけた子供の様な笑みを杏子に向けた。

杏子「……勝手にしろよ」

オクタヴィア「うん、そうさせてもらう」

ミスティアが買い物に出てしまうと、仮店舗は一転して静かになった。
店先を貸している魔理沙は、出かけると言ってだいぶ前に出て行ったので、今この場には杏子とオクタヴィアの二人しか居ない。

461: 東方焔環神 2011/12/08(木) 22:09:12.35 ID:T+KBN3p90

串焼きを焼く音と、時折吹く風の音が、暫し辺りを包み込み……、そこに杏子の呟きにも似た声が溶け込んだ。

杏子「なぁさやか、一つ聞いてもいいか?」

オクタヴィア「何よ?」

杏子「さやかの居た世界のアタシってさ、どんなヤツだったんだ?」

予想外の質問に、オクタヴィアは杏子を見た。
急に視線を向けられた杏子はばつが悪そうに目線を逸らす。

杏子「いや、深い意味はないんだ。 ちょっと気になっただけで……」

もちろんそれはウソだった。
杏子は今朝の夢の事がどうにも気になってしまい、確認せずには居られなくなってしまったのだ。
杏子の考えが正しければあの夢はおそらく……

杏子が思案をめぐらせる横で、オクタヴィアはカウンター席に座ったまま空を見上げると、ぽつりと答えた。

オクタヴィア「……アンタと大して変わらないよ。 意地っ張りで素直じゃなくて……」

杏子「悪かったな、素直じゃなくて……」

オクタヴィア「でも、他人を放っておけない優しいところもあって……」

杏子「ばっ!? さやかお前何言って……」

不意打ちの様な言葉をかけられ、杏子の顔が瞬く間に赤くなる。
顔を真っ赤にしながら、オクタヴィアの方を見た杏子は……、オクタヴィアが寂しげな笑みを浮かべている事に気が付き、言葉を失う。

オクタヴィア「あたしの世界の杏子はさ。 呪いに呑まれて化け物になったあたしを何とか救おうとして、死んじゃったんだ……」

杏子「!」

オクタヴィアは泣き笑いと言った感じの表情で、話を続ける。

オクタヴィア「バカだよね。 とっとと倒しちゃうか逃げちゃえば良かったのに、
       最期はあたしを一人ぼっちにしたくないから、って言ってあたし諸共自爆して……、気付いたらあたしはここに居た」

462: 東方焔環神 2011/12/08(木) 22:14:49.96 ID:T+KBN3p90

杏子「…………」

オクタヴィア「幻想郷(ここ)で目覚めた時、杏子の姿はどこにもなかった。
       でも目覚める直前にさ、あたし、杏子の言葉を聞いたような気がしたんだ」


         『仲間の所まで連れてきてやったぞ。 アタシが付き添えるのはここまでだけど、寂しがるんじゃねーぞ』


オクタヴィア「その内会いに行ってやる、とも言ってたかな? そしたら平行世界の杏子(アンタ)が来た、って訳。
       偶然なんだろうけど、これも不器用なアイツが起こした奇跡だったのかな、ってあたしは思ってる。
       だから、訳が分からないと思うけど、言わせて……」

そこまで言ってから、オクタヴィアは杏子の方に改めて向き直る。
その表情は寂しげな笑みでも、泣き笑いでもなく、優しい笑顔だった。

オクタヴィア「あたしを助けてくれて、ありがとう……」

杏子「……バカ野郎。 そういう事はお前の世界のアタシに言えよ。 お前の世界のアタシが、約束通りさやかに会いに来た時にさ……」

オクタヴィア「あはは、そうだよねー。 本人に言ってやらなきゃ意味ないよねー」

まあ、会ったらまずは思いっきりぶん殴ってやるけど、と言いつつ苦笑するオクタヴィアはいつもの調子に戻っていた。
これでこの話はおしまいだ、と言うように……。

杏子も、それ以上話を聞こうとはしなかった。
オクタヴィアの話を聞いて、考えなくてはならない事が出来てしまったからだ。

杏子(一人ぼっちにしたくない、か……。 アタシは何処の世界に行ってもアタシなんだな……)

杏子の脳裏に浮かぶのは今朝の夢と二ヶ月前に消えていった、元の世界のさやかの事。
今朝の夢は間違いなく、オクタヴィアが辿ってきた世界の杏子の記憶だ。

あの世界の杏子は、魔法少女として死を迎えたさやかと、魔女として死んださやか、
二人を見捨てる事が出来ず、最後まで現世に残ったのだろう。

いくら違う世界の事とは言え、あんな自分自身の姿を見てしまった以上、
今すぐ如何こう、と言う訳ではないが、杏子としては彼女の事を…………

杏子「やっぱり一人には出来ないよなぁ……」

誰にも聞こえないくらい、小さな声で杏子は呟いた。
それが杏子の答えであり、決意だった。



469: 東方焔環神 2011/12/12(月) 19:16:10.79 ID:pdfcKQAW0
―――――――――― 【焔な魔法少女】 @ 人里の繁華街 ――――――――――

ほむら(結局、あの後はまどかとまともに会話も出来なかったわね……)

???「おや? ほむらじゃないか。 博麗神社へ行ったんじゃなかったのかい?」

今夜以降分の買出しに行くと言うクリームヒルトたちと一旦別れ、人里をぶらぶら歩いていたほむらは、背後から声をかけられ振り返った。
振り返った先に居たのは赤毛三つ編みの猫耳少女、お燐と、白黒装束の魔法使い、魔理沙の二人だった。

ほむら「あらお燐と魔理沙じゃない。 ……担当の者が居ないからまた日を改めて、だそうよ」

ほむらの言葉で、大体の事情を察したお燐と魔理沙は小さく苦笑する。

魔理沙「成る程な。 それじゃあどうしようもないな」

ほむら「それよりお燐は別に良いとして……、魔理沙、貴女はオクタヴィアと一緒に杏子の所について行ったんじゃなかったの?」

魔理沙「あ~、最初は面白そうだと思ってついて行ったんだけどな。 普通の営業と大差なかったんで抜けてきたんだ」

家を荒らすような連中でもないし、見てる必要性も無かったからな。 と言いつつ魔理沙は肩をすくめる。
面白いか否かで動けば良いと言うものではない気もしたが、これが彼女の性分なのだろうとほむらは勝手に納得する。

魔理沙「で、ほむらはなんでそんな辛気臭い顔して人里をほっつき歩いてるんだ?」

ほむら「えっ?」

魔理沙「顔に書いてあるぞ。 私悩んでます。って……。なぁ?」

お燐「確かに、顔見りゃ一目で分かるねぇ……」

魔理沙が同意を求めると、お燐もすぐさま頷いた。 どうやら本当に表情に出ていたようだ。

ほむら(さて、この場合、どうしたらいいのかしら?)

個人的な事ならまだしも、クリームヒルトも絡む話だ。
果たして本当にぶちまけてしまって良いのか判断に困るところなのだが……。

ほむらはチラリとお燐と魔理沙を見た。
お燐はこちらを待っている様子だったが、魔理沙は口元をニヤつかせながら、こちらを見ている。
ほむらがどう返してくるか、明らかに待ち構えている形だ。

ほむら(お燐は兎も角、魔理沙は見逃してくれる気はなさそうね……。 そうなると……)

適度にお茶を濁しつつ、二人の意見を聞くだけ聞いてみるのはどうだろうか?
参考程度に聞いてみるのも一つの手かもしれない。

ほむら「……二人に一つ聞きたいのだけど、
    『大切でなんとしても守りたい人が居たとして、守ろうと思ったら、大切な人と離れなくてはならない』 
    そんな状態になったとき、二人ならどうする? どうするのが最良だと思う?」

魔理沙「なんだそりゃ? 戦場かどっかにでも行く兵隊の話か?」

ほむら「まぁ、そんなものだと思って頂戴」

実際はもっと身近で、もっと危険で、もっと根本的なモノを守りに行く話なのだが、
そこまで打ち明ける気はほむらには無いので、そう思ってもらった方が都合が良い。

470: 東方焔環神 2011/12/12(月) 19:21:04.71 ID:pdfcKQAW0

お燐「それは守りたい人のそばに居たままじゃ出来ない事なのかい?」

ほむら「そうよ。 守る力は持っているけど、それを行使して実際に守るには離れないといけないの。
   守りたい人は表向きは選択を尊重してくれるだろうけど、実際には寂しい思いをさせてしまうのよ……」

お燐「つまり、出来れば泣かせたくない、でも守りたい、そう言う事かい?」

ほむら「そんな都合の良い手段があるなら、ね……」

半ば諦めを滲ませた声で答えつつ、ほむらはそこで言葉を切る。
さて、どんな答えが返ってくることやら……。

魔理沙「ん~、難しい質問だな。敢えて言うなら守りたいって気持ちが強いなら離れるしかないんじゃないか?」

ほむら「そうよね……。やっぱりそうなるわよね……」

予想通りの答えに、聞くだけ無駄だったかな、と思っていると、ほむらの耳に魔理沙の真剣な声が響く。

魔理沙「ただし、その大切な人、ってヤツとよーく話し合ってからだな」

ほむら「えっ……?」

魔理沙「そいつの意思が固いならそうすればいい。
    だけど待たせる相手が居るなら相手にしっかり考えを打ち明けて、きちんと分かり合う必要があると思うぜ」

じゃないと変な勘違いをさせちまうしな。 と言う魔理沙にお燐も頷く。

お燐「うん、魔理沙の言う通りだね。 決めるのは自由だけど、相談だけはしっかりすべきだと思うよ」

二人に言われて、ほむらはいつの間にか自分が受身の態勢になっていた事に気が付いた。
クリームヒルトの気持ちを推し量る事はあっても、自らの考えを積極的に打ち明けようとはしなかった。
自分の我侭を押し付けるみたいで、何となく気が引けたからだ。

だが、何も知らせず、自分で抱え込んだまま話を進めると言う事は、ほむら自身の経験に当てはめてもやってはいけない悪手だ。
知らないうちにその愚を再び犯しかけていた事に気が付き、ほむらは自身の浅はかさを恥じる。

ほむら「ありがとう。 二人のお陰で最悪の選択肢だけは免れたわ」

ふっと微笑んでみせつつ、ほむらは踵を返した。
まずはきちんと話し合ってこよう。
クリームヒルトが簡単に納得してくれるとは思えないが、それでもきちんと話し合おう。


人ごみへと紛れて行くほむらを見送りつつ、魔理沙とお燐は同時にため息をついた。

お燐「行き先は……あのお嬢ちゃんの所かねぇ?」

魔理沙「それ以外に無いだろ?
    ……まったく、こっちに来た頃の早苗といい、クリームヒルトといい、最近まで外に居たヤツは面倒くさいヤツしか居ないな」

お燐「魔理沙に関してはちょっと考えてから動いた方が良いとあたいは思うよ」




471: 東方焔環神 2011/12/12(月) 19:28:17.14 ID:pdfcKQAW0
――――――――――― 【救済の魔女】 @ 人里の外れ ―――――――――――

クリームヒルト「はぁ…………」

買い物籠を片手に、人里を歩いていた私は足を止めると、ため息をついた。
人里の入り口でほむらちゃんと別れた後、個人的に買う物がある、と言ってマミさんたちとも別れた為、
人通りの少ないこの場所で、ため息をつく私を気にする人は誰一人としていない。

クリームヒルト(ほむらちゃん、何か気付いた風だったけど、結局話も出来なかったなぁ……)

思い出すのは別れ際のほむらちゃんの心配するような表情。
内なる葛藤を悟られないようにと、なるべく自然に振舞ったつもりだったけど、
それでもほむらちゃんは私の様子がおかしいことに気が付いたようだった。

けれど、ほむらちゃんは声をかけてくる事はなかった。 と言う事はつまり、ほむらちゃんは……

クリームヒルト(やっぱり私は“概念の私”の代わりなのかな……。 ほむらちゃんにとって大切なのは、一番なのは“概念の私”なんだろうな……)

黙って一人で歩いていると、人通りの少なさも相まって余計に塞ぎこんでくる。
ついつい思考もネガティブなものになり、悲嘆が妬みを帯びてきたその時だった。
あの声が聞こえてきたのは……


――なら、一番にしちゃえばいいじゃん。


クリームヒルト「えっ?」

突然聞こえた声に、私は思わず顔をあげる。
けど、いくら見回しても、私に話し掛けている人など一人もいなかった。 と言うか人影一つ見当たらなかった。

それはそうなのかもしれない。 だって、今聞こえた声は……


――本当は寂しいんでしょ? ほむらちゃんが私を通して“概念の私”を見ているのが……


クリームヒルト「や、やめて……」

私は首を振って耳を塞ぐ。
声が聞こえる度に私の中にどす黒い感情が沸き上がり、その感情はマグマのように流れ出して私の心を覆いつくし始める。


――悔しいんでしょ?妬ましいんでしょ? なら、無理矢理一番にしちゃえばいいじゃん。


耳を塞いだのに、声はそれでも聞こえてきた。
それじゃあやっぱり、聞こえてくるこの声は……

クリームヒルト「お願いだから止めて! これ以上私に変な気を起こさせないで!」


――変な気? 何を言ってるの? すでに起こしてるじゃない。だって私は……


この声は間違いなく……


――他ならない貴女自身、クリームヒルトなんだからね?


クリームヒルト「あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

その言葉を聞いた瞬間、私の中でなにかが弾けたような、そんな気がした……。



472: 東方焔環神 2011/12/12(月) 19:30:56.93 ID:pdfcKQAW0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ほむら「あら、あんなところに居たわ。 一人で何をしているのかしら? ボーっとしているようだけど……。 まどか! 何をしてるの?」

クリームヒルト「…………」

魔理沙たちから助言を得たほむらは、人里の外れでようやくクリームヒルトの姿を見つけ、声をかけた。
が、クリームヒルトは突っ立ったままピクリとも動かない。

不審に思ったほむらは、クリームヒルトに近づきながら、再度声をかける。

ほむら「まどか? ……まどか、どうしたの?」

クリームヒルト「あっ、ほむらちゃん。 どうしたの?」

手の触れられる距離まで近づいた時になって、ようやく振り返ったクリームヒルトは……、笑顔だった。

ほむら「?」

その時、クリームヒルトの笑顔を見たほむらは、妙な違和感を感じた。
一見するといつもと変わらない笑顔なのだが、どことなく影があると言うか、冷酷と言うか、とにかく冷たい笑顔のような気がしたのだ。

あまりの違和感に、ほむらの中に一瞬、警戒心が芽生えるが、気のせいだろうと振り払う。

ほむら「えっと、貴女に話したい事があるのだけど……」

クリームヒルト「そうなんだ。 それじゃあまずは……」


――場所、変えよっか?


ほむら「えっ? ……かはっ!!」

その時、ほむらは何が起こったのか分からなかった。
クリームヒルトが、普段の彼女なら絶対しないような微笑みを――口元を醜いまでに吊り上げてみせたかと思うと、
手元に生成した魔力弾をほむら目掛けて放ったのだ。

至近距離からの不意討ちだった為、ほむらはもろに魔力弾の直撃をくらう事となった。
相手がクリームヒルトであり、なおかつ抱いた警戒心すら切り捨てた直後だった事もあって、ほむらは受身すらとることも出来ずにその場に崩れ落ちる。

473: 東方焔環神 2011/12/12(月) 19:35:10.80 ID:pdfcKQAW0

ほむら「……ま、まど……か? 一体、何……を…………」

クリームヒルト「ティヒヒ、ほむらちゃん、私たち、ずっと一緒だからね?」

ほむら「くっ……まど……か…………」

明らかにおかしいと分かる邪悪な笑みをクリームヒルトが浮かべているのを、霞ゆく視界の中で見ながら、ほむらは自らの意識を手放した。

クリームヒルト「…………」

ほむらが気を失ったのを確認すると、クリームヒルトは小さな結界を作り、その中にほむらを寝かせる。
ほむらの入った結界は宙に浮く球形の檻となり、ほむらを拘束する。

クリームヒルト「ティヒヒ……、それじゃ、行こうか……」



ミスティア「……ちょっと、なんなのよ。 何がどうなってるの?」

ほむらを閉じ込めた結界と共に人里を出て行くクリームヒルトの後ろ姿を、建物の影から見つめながら、ミスティアは思わず呟いた。
買い物を終え、仮店舗に帰ろうとしていたミスティアは偶然にもクリームヒルトがほむらを襲う様を目撃してしまったのだ。

ミスティア「アレが噂の“やんでれ”なのかしら? あの子はそんな事するような子には見えなかったけど……、
      って、こんな事してる場合じゃないわ! 早く誰かに知らせないと!」

一瞬、現実逃避しかけたミスティアだったが、それでも判断は早かった。
あの様子から見て、今この場でミスティアがほむらの救出を図るのは無謀だろう。
追跡して、居場所を特定するのも一瞬だけ考えたが、気付かれてしまったら終わりだ。

そこでミスティアは、通報役に徹する事にした。
今の二人の話なら、杏子やマミたち魔法少女や、オクタヴィアやシャルロッテをはじめとする魔女一同、
それに魔理沙や人形遣い、守矢の巫女あたりの有力者の協力がすんなり得られると踏んだからである。

ミスティアは助っ人を集めている間に事態が最悪のものにならない事を祈りつつ、人里の繁華街へと引き返していった。



474: 東方焔環神 2011/12/12(月) 19:42:30.20 ID:pdfcKQAW0
――――――――― 【現代っ子現人神】 @ 人里の繁華街 ―――――――――

早苗「あれ? あそこに居るのは……、雛さまと地底の橋姫さん……?」

早苗がその珍しい組み合わせを見つけたのは買い物を終えた直後の事だった。
組み合わせもさることながら、人里に居る事自体が珍しかったので、早苗は二人のもとに行ってみる事にした。

早苗「雛さまにパルスィさんじゃないですか、どうかしたんですか?」

雛「あら、守矢の巫女さん、こんにちは」

パルスィ「雛だけさま付けとか……妬ましいわね」

雛と一緒に居たのは、普段は地底の入り口で番人をしている水橋パルスィだった。
声をかけて早々、妙な嫉妬心に駆られているようだが、これが彼女にとっては普通なので無視する。

早苗「組み合わせもそうですけど、人里にお二人が居るのって珍しいですね」

パルスィ「私が人里に居ちゃ悪いのかしら?」

雛「実はね、流してる途中の厄が逃げちゃったのよ」

早苗「えっ!? 逃げた!?」

心底困ったと言う風に、深いため息をつきながら話す雛の言葉に早苗は目を丸くした。
流している最中の厄は、取り憑くと不幸を振り撒く厄介な代物だ。
それだけでも十分危険なのだが……

パルスィ「しかもその厄、私の能力の影響で嫉妬心を煽る能力も持っちゃったのよね……。 ああ、妬ましい」

早苗「なにその混ぜるな危険」

あまりにもヤバすぎる事態に、早苗の言葉も棒読みになる。
パルスィ自体は、むやみやたらに能力を使うことなどしないのだが、純粋な不幸の塊でしかない厄がそんな配慮をする訳がない。
危険度は極めて高いと言っても良いだろう。

雛「それで、誰かに取り憑く前に、と後を追ってきたのだけど……」

パルスィ「人里近くで厄の気配が途切れたのよね……」

早苗「えっ? それってまさか……」

厄を感知できる雛にも行方が分からなくなってしまった。と言うことは……
嫌な予感に襲われた早苗に雛たちは小さく頷く事で、その予感が正しい事を肯定する。

雛「誰かに取り憑いちゃったみたいなのよね。人里に居る誰かに……」



475: 東方焔環神 2011/12/12(月) 19:47:31.61 ID:pdfcKQAW0
――― 【ドキッ!金髪だらけの魔法使いと魔法少女+α】 @ 人里の繁華街 ―――

マミ「えっ? 鹿目さんが暁美さんを襲って連れ去った!?」

休憩していたお茶屋さんに息を切らせて駆け込んできた夜雀の話を聞き、マミはこれ以上無いと言うほど驚いた。
昨日初めて会った相手ではあるが、クリームヒルトがとてもいい子だと言うのは、会った人みんなが話していたし、
何よりマミ自身、昨日実際に何度か話をして、優しい子だと言う印象を抱いている。

さっきまで一緒に行動していたマミからすると、にわかに信じがたい話だった。

ミスティア「そうなのよ! なんか様子が変だな、と思ってたら、いきなり弾幕をぶち込んで気絶させて……!」

アリス「ちょっと待ちなさい。 あのほむら、って子はクリームヒルトの親友でしょ? 親友相手にあの子がそんな事をする訳が……」

早苗「皆さーん! 大変なんですーっ!!」

ウソか冗談でしょ? と言うようにアリスが声を上げたその時、ミスティア以上に顔を青くした早苗が飛び込んできた。
絶える間どころか、話すら終わる前に持ち込まれた新たな厄介事に、その場に居た全員の顔が険しくなる。

シャルロッテ「どうしたの早苗? 顔が真っ青だよ?」

早苗「そ、それがですね。ちょっと洒落にならない事態が発生しまして……」

アリス「こっちも現在進行形で洒落にならない事が起こってるわ」

この場に居る全員の苛立ちを代表するようにアリスがぼやいたが、次の瞬間、その表情は一変した。

早苗「雛さまが祓っていた厄の塊が、この人里に居る誰かに取り憑いちゃったんですよ!」

ミスティア「何だそんな事か……って、ええっ!? それって超マズいじゃん!!」

一瞬、さらっと流しかけて、事の重大さに気付いたミスティアは思わず目を剥いた。
話の内容が良く分からなかったマミ以外の全員が、早苗の周りを取り囲む。

アリス「ちょっと早苗! それは一体どういうことなのよ!?」

思わずアリスが早苗に詰め寄ったその時、申し訳ないと言うように縮こまった雛が店に入って来た。

雛「……全部、私の不注意なの。 お盆でパルスィが遊びに来てくれたから、お茶でも、と思って気を抜いたら……」

パルスィ「厄流しの最中に訪ねた私の方が悪い、って何度も言ってるのにこの子は……妬ましいわね」

涙声で身体を震わせる雛を抱きかかえつつ、パルスィは深いため息をつく。
やるせない雰囲気が漂う中、話についてこれなかったマミがすまなさそうに小さく手を挙げる。

476: 東方焔環神 2011/12/12(月) 19:50:41.37 ID:pdfcKQAW0

マミ「えっと、ゴメンなさい。 話が良く見えないのだけど……」

早苗「ああ、すいません。 えっと、マミさんは昨日の穢れ祓いの話を覚えてますか?
   あれで祓った穢れが浄化する前に逃げちゃった、って話なんです」

パルスィ「しかも私の影響を受けて、嫉妬心を煽る能力が付いちゃった厄介なのがね……」

早苗の解説にパルスィが全くありがたくない補足を加える。
が、その話を聞いて、アリスたちの脳裏にある仮説が浮かび上がる。

マミ「ちょっと待って、嫉妬心を煽るって言うその厄? に憑かれたら、その人はどうなるの?」

パルスィ「抱え込んでる鬱憤とかにもよるでしょうけど、嫉妬に狂いまくるのは間違いないわね。
     人間だろうと妖怪だろうと、普通なら精神を病んでしまうんじゃないかしら?」

精神を病むほどの嫉妬と聞いて、仮説は確信に変わる。
そんなモノに憑かれたのなら、信じがたい凶行にも説明がつく。

シャルロッテ「ねぇアリス、ミスティアが見た、ほむらを襲って拉致したクリームヒルトって、まさか……」

アリス「ええ、ほぼ間違いないわね。 まったく、厄介な事になったわよ。 これは……」

アリスが頭を押えながらため息をつき、今度は早苗たちが眉を顰める。
戸惑いと疑問符に支配されつつあった茶屋に、別の声が割り込んだのは、丁度そんな時の事だった。

???「その話、詳しく聞かせてくれないかしら?」

ミスティア「っ!? さ、西行寺幽々子!? 」

そんな声と共に、現れたのは蒼い衣の亡霊――幽々子だった。
個人的な事情も含めて、思わず声を上げたミスティアに、幽々子は視線すら向けることなく、アリスの前に立つ。

幽々子「今、厄が如何こうとか、クリームヒルトちゃんが如何こう、って言ってたわね? どういう事なのか、説明して頂戴」

そう問いかける幽々子の眼差しは真剣そのもので、その視線を真正面から受け止めたアリスは、小さく頷いた。

アリス「…………分かったわ。 最初から順を追って話すから、みんなも聞いて頂戴」



477: 東方焔環神 2011/12/12(月) 19:54:35.16 ID:pdfcKQAW0
――――――― 【幻想の住人と現の魔法少女】 @ 博麗神社 ―――――――

霊夢「また厄介な事を引き起こしてくれちゃったわね……」

話を聞き終えた霊夢は、昼前に訪ねた時よりも不機嫌そうな顔で、そう呟いた。

あの後、幽々子を含む全員にクリームヒルトに起こった異変について話したアリスたちは、
事態を重く見た幽々子の提案により、霊夢を含む、今回の件に関わった幻想郷の全住人を集め、協力を要請したのだ。

杏子「でもよ、なんでまどかはほむらにそんな事をしたんだ? まどかがほむらに対して嫉妬を抱いているような様子は一切無かったぞ」

早苗「嫉妬の相手がほむらさんじゃないから、と言うのは考えられません?
   ミスティアさん曰く、「ずっと一緒」みたいな事を言っていたようですし……」

皆が一度は抱いた疑問を杏子が口にすると、早苗が推測ですけど……と付け足した上で答える。
その言葉に頷いたのは魔理沙とお燐だった。

魔理沙「たぶん、それは間違いないな。 私らはその直前にほむらと会ってるんだが、
    ほむらは自分たちが帰る事でクリームヒルトが寂しい思いをしてるんじゃないかと気にしていたからな。
    ほむらの懸念した通りだったわけだ」

マミ「そうなると鹿目さんが嫉妬していた相手って一体……」

オクタヴィア「…………もう一人のまどか、じゃないかな……?」

マミ「えっ?」

オクタヴィアの呟いた言葉に、マミと杏子は思わずオクタヴィアを見た。
オクタヴィアは視線が集まることを気にすることもなく、話を続ける。

オクタヴィア「マミさんや杏子が居た外の世界って、まどかが居ない世界なんですよね?」

マミ「え、ええ、でもそれが今の話とどんな関係が……」

オクタヴィアの質問にマミは小さく頷いた。
本当に世界中を探しても居ないのかどうかまでは分からないが、少なくともマミたちの周囲には『鹿目まどか』は存在していなかった。
それを確認する事が今、何の意味を持つのかマミにも、アリスたちにも分からなかったが、続く一言にその場に居たほぼ全員が戦慄した。

オクタヴィア「マミさんたちの居た世界のまどかは、自らの存在と引き換えに私たち魔女を消し去る願いをしたんです。全世界の魔法少女を救う為に……」

マミ「っ!?」

杏子「ちょっと待て! “魔法少女”を救って、“魔女”を消すって……、まさか“円環の理”って……!」

声を荒げて詰め寄ってきた杏子の言葉に、オクタヴィアは頷きながら答える。

478: 東方焔環神 2011/12/12(月) 20:02:08.42 ID:pdfcKQAW0

オクタヴィア「そうだよ。杏子たちが“円環の理”って呼んでるソレこそが、杏子たちの世界のまどかの成れの果てなのよ。
       とてつもない願いを叶えて自らが皆の希望になった最強の魔法少女……、それが円環の理の正体なの」

私たちの所にも一度来てる、ってクリームヒルトも言ってたからね、とオクタヴィアが言うと、杏子は手近にあった机に拳を叩き付けた。

杏子「くそっ! それじゃあやっぱりあの夢は……」

マミ「ちょっと待って、二人とも一体なんの話をしてるの!?
   鹿目さんが円環の理で、更には佐倉さんが見た夢? 訳が分からないわよ!」

杏子「今朝、夢の中で見たんだよ。 コイツが幻想郷に来る直前の事を……、
   まどかが平行世界で死んだアタシとさやかを救いに来て、魔法少女のさやかだけを導いて、魔女のコイツを残して去った、その時の事をな……」

杏子がそう言うと今度はオクタヴィアが目を丸くした。
それから昼の会話を思い出し、そう言う事だったのかと一人納得する。

マミ「で、でも、それならどうして暁美さんは鹿目さんの事を覚えていたの? 私たちの世界の鹿目さんは存在ごと消えてしまったのでしょう?」

霊夢「あり得ない話じゃないわ。 例え存在ごと消えて、神様になったとしても縁の深い人は覚えていたりするものよ。
   完全に幻想入りしたモノだってそうだもの」

霊夢が解説するように言うと早苗が目を伏せる。
紫からの又聞きではあるが、彼女にもまだ覚えていてくれた友が外に居たらしい。

幽々子「…………それだけじゃないわ」

マミ「えっ?」

それまで黙って話を聞いていた幽々子がゆっくりと立ち上がり、前へと進み出た。
魔女異変が解決し、だいぶ落ち着いた頃にクリームヒルトがその話をしてくれた時の事を思い出しながら、幽々子は語り出す。

幽々子「これはクリームヒルトちゃんから聞いた話なのだけど……、そのほむら、って子は平行世界を渡り歩く能力を持っていたらしいの」

杏子「平行世界を渡り歩く能力だって?」

杏子が聞き返すと、幽々子は静かに頷いた。
驚きに目を見張る一同の中で、唯一平然としているオクタヴィアにお燐が尋ねる。

お燐「お姉さんは、その事も知ってたのかい?」

オクタヴィア「私もその話はクリームヒルトから聞いてたし、何より会った時にすぐ分かったから……。
       あたしの記憶の中のほむらと全部一緒だったんだもん。 ホントなら多少の食い違いがある筈なのに……」

杏子やマミさんだって似てるようで違ったんだよ、と呟いたオクタヴィアは寂しげに笑っていた。

元の世界でのオクタヴィア、いや、“美樹さやか”の事を覚えているのが、ほむら一人しか居ないと言うのは彼女も一緒だ。
恐らく今この場に居る全員の中で一番、クリームヒルトの心境を察する事が出来たのは他ならない彼女だろう。

479: 東方焔環神 2011/12/12(月) 20:05:12.06 ID:pdfcKQAW0

早苗「と、言う事はクリームヒルトさんにとってのほむらさんも、
   その神さまになった、って言うまどかさんにとってのほむらさんも、どちらもあのほむらさん、と言う事なんですね?」

幽々子「そう言う事になるわね」
オクタヴィア「そうだよ。 その通り……」

確認するように早苗が尋ねると、幽々子も、オクタヴィアも、揃ってそれを肯定した。
これまでの話を聞いて、納得が行ったというように頷いたアリスが、話を纏めるように切り出す。

アリス「これで話が繋がったわ。 その“円環の理”こともう一人のクリームヒルト、いえ、“鹿目まどか”が、貴女たちを迎えにこっちに向かっている」

魔理沙「それを知って、只でさえほむらたちと別れる事を寂しがっていたクリームヒルトは怖くなったんだな。
    自分と全く同じ姿をした別人に、ほむらたちが奪われてしまうんじゃないか、そう思ったとしても不思議じゃないぜ」

自分と同じだけど、全く違う他人。
それは一体どれ程の恐怖なのだろう?
存在を上書きされてしまうような、今度こそ完全に消されてしまうような、そんなとてつもない恐怖を覚えたに違いない。

パルスィ「そして、恐怖はもう一人の自分への妬みになった」

雛「そこを厄につけこまれて……、最悪ね。 その子の不安や恐怖が全部嫉妬に転化されたとしたなら……、厄介ってレベルじゃ済まされないわ」

アリス「一刻も早く、クリームヒルトたちを見つけて、厄を祓う必要があるわね。 みんなで手分けして探しましょう」

アリスの言葉に、その場に居た全員が頷く。
文やミスティアと言った妖怪たちが我先にと神社を出ていく中、幽々子は支度を整え始めた霊夢に話しかける。

幽々子「霊夢、貴女はここに残りなさい」

霊夢「は? ちょっとアンタ、なに言って……」

幽々子「博麗の巫女が動くと何事も“大事”になるのよ。 出来ることならこの件、あまり大きくはしたくないの」

そう霊夢に囁いた幽々子の表情は憂いを帯びていた。
その表情を見て、霊夢は気付く。 今、目の前に居るのは冥界の姫君でも、白玉楼の主でもない。
ただ純粋に友の身を案じる、一個人としての西行寺幽々子なのだ、と……。

霊夢「…………分かったわよ。 紫たちとの連絡役もしないとだし、私はここに残るわ」

幽々子「ありがとう、霊夢……」

幽々子はそう言って微笑むと、マミやアリスたちと共に飛び立って行った。
小さくなっていく皆の姿を見送りながら、霊夢は一人呟く。

霊夢「何がありがとう、よ。 アンタのあんな顔見たら、断れる訳無いじゃない……」



490: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/16(金) 18:11:17.91 ID:XzjD/EGe0
――――――― 【魔法使いと魔女と魔法少女+α】 @ 魔法の森 ―――――――

杏子「くそっ! ほむらたちは一体何処に行ったんだよ!? さやか! 心当たりとか無いのか!?」

オクタヴィア「あったらとっくに見つかってるよ! むしろあたしが聞きたいくらいだよ!」

早苗「二人とも落ち着いて下さい。 仲間割れしている場合じゃありませんよ!」

日が傾き始めた頃から始まった捜索は、日没を過ぎても尚、実を結ぶ気配を見せなかった。
手分けをしているのに、未だに発見の連絡が無い事に、杏子もオクタヴィアも苛立ちを隠せない。

オクタヴィア「クリームヒルトもそうだけど、ほむらのヤツ、大丈夫かな……」

杏子「その辺は大丈夫だろ? アイツがほむらに何かするとは思えないし……、たぶん……」

思わずオクタヴィアが漏らした懸念に、杏子は自信なさげに答える。
既にクリームヒルトによってほむらが拉致されてから六時間近くが経過していた。
クリームヒルトがほむらに手を出すような真似はしないと思うが、それでも心配になる。

早苗「そろそろ八時になりますね……」

手に持った携帯電話の液晶に表示された時計を見ながら、早苗が呟いた。
幻想郷では時計かカレンダー代わりにしかならないソレだが、早苗曰くなかなか手放せないらしい。

オクタヴィア「とりあえず、一旦魔理沙の家に行こう。 他の誰かが何か手がかりを掴んだかも」

約束の時間が迫っていることもあり、オクタヴィアの提案に異論は上がらなかった。
魔理沙の家へと向かうため、オクタヴィアと早苗は杏子の手をとると、それぞれ魔力と霊力を注ぎ込む。
三人の周りだけが無重力になったように身体がふわりと持ち上がり、三人はそのまま夜空へと舞い上がる。

杏子「悪いな、手間かけて……」

オクタヴィア「いいよ、これぐらい。 どうって事ないから気にしないでよ」

魔理沙の家には、既にアリスや文たちが集まっていた。
互いに肩をすくめあっているところを見ると、アリスたちも手がかりを掴めなかったようだ。

降りてくる杏子たちに気が付いたのだろう、マミがこちらに寄ってきて、結果を尋ねてくる。

マミ「佐倉さん、そっちはどう? 暁美さんたち見つかった?」

杏子「いや、ダメだ。手がかり一つ掴めなかった。 そう言うマミの方は……、やっぱりダメだったんだな」

目を伏せながら首を横に振るマミを見て、杏子は肩を落とした。
ざっと見たところ、単独で捜索に出ている幽々子とミスティアを除く全員が、集まっているようだ。

491: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/16(金) 18:15:59.79 ID:XzjD/EGe0

これだけの手数で捜索しているのに見つからないとなると、あとの二人も空振りの可能性が高いと誰もが思ったが……、
羽音を響かせてすっ飛んできたミスティアが、そんな空気を一気に打ち破った。

ミスティア「みんなーっ! 分かったわよ! クリームヒルトたちの居場所が!」

杏子「ホントか!? ミスティア!?」

真っ先に反応した杏子が尋ねると、ミスティアは興奮気味に首を縦に動かす。

ミスティア「うん、何人かの妖精が、女の子を閉じ込めた檻と一緒に歩いているクリームヒルトを見てたのよ」

魔理沙「で、それはどこなんだ?」

ミスティア「それが……、無縁塚の方へと歩いて行った、って……」

オクタヴィア「なっ!? 無縁塚って、また厄介な……」

ミスティアの答えを聞いた途端、幻想郷の住人たちは揃って顔をしかめた。
皆の反応に、マミと杏子が戸惑っていると、文が簡単に解説する。

文「無縁塚、って言うのは文字通り無縁仏、具体的には貴女たちのように外の世界から迷い込んで、
  そのまま帰る事も叶わず死んでしまった人間が埋葬されてる場所の事です」

マミ&杏子「「なっ!?」」

ここに来て初めて、二人は幻想郷の厳しい一面を垣間見る事になった。
思い返してみればマミたちは、多少の脅威であっても自力で排除できる魔法少女だったからまだ対処出来たものの、
それがごく普通の人間だったらどうなっていたか、深く考えずとも、答えは分かってしまった。

雛「そんなだから幻想郷の中でも例外的な場所で、穢れや怨念が本来の呪いを帯びていて、人間はおろか妖怪ですら避けて通る場所なのよ」

人間なら下手をすれば破滅するし、妖怪も怨念に憑かれかねないわ、と語る雛の表情は堅かった。
厄神の雛ですら手が出ない、雛にとっては屈辱とも言うべき地だからだ。

シャルロッテ「穢れに怨念、人なら破滅……、マズイよマミ! 早く助けに行かないとホムラが魔女になっちゃう!」

マミ「えっ?魔女? それってシャルちゃんや美樹さんの世界の話じゃ……」

突然声をあげたシャルロッテにマミは思わず目を丸くする。
理解が追い付かない一同に、シャルロッテは声を荒くして訴える。

シャルロッテ「忘れちゃったの!? 幻想郷の中では“円環の理”は通用しないんだよ!?
       幻想郷だと、魔法少女が穢れを溜め込むと、私たちと同じように魔女になっちゃうの!」

シャルロッテの言葉に今度こそ全員がはっとした。
いくら魔法少女と言えども、監禁拘束された状態で長時間穢れや怨念に晒されては無事で済む訳がない。

アリス「そう……、そう言う事なのね。 クリームヒルトはほむらを魔女化させる事で、幻想郷に縛り付けるつもりなんだわ」

早苗「そんな!? 普段のクリームヒルトさんならむしろ止めにかかる程の凶行じゃないですか!?
   そんな事になったら他ならぬクリームヒルトさんが一生後悔する羽目になりますよ!?」

事態を把握したアリスがクリームヒルトの魂胆を見抜き、早苗はそれが悲劇しか招かない事を嘆く。
クリームヒルトは幻想郷に来た当初、自分の居た世界を滅ぼしてしまった事を深く悔やみ、苦しんでいた。
そんな少女だ、自分が親友であるほむらを魔女にしたとなれば――例え厄に侵されてやった事だとしても――その罪悪感に押しつぶされてしまうだろう。

492: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/16(金) 18:19:02.83 ID:XzjD/EGe0

杏子「…………(ギリッ」

話を聞いていた杏子は奥歯を強く噛み締めると、ソウルジェムを取り出して魔法少女へと変身する。
マミもまた、表情を引き締めると、同じように変身してみせる。

ミスティア「行くんだね? 助けに……」

杏子「ああ、そんな話を聞いちまった以上、放ってはおけないからな。 ほむらも、まどかも……」

オクタヴィア「私も行く! って言いたいところなんだけど、私たちは行くと逆にマズイから……」

他の場所なら兎も角、無縁塚特有の濃い怨念は、魔女や、ミスティアたち肉食妖怪の本能を呼び覚ます可能性が高いので、行くこと自体が危険だ。
そんな怨念に憑かれてしまえば、厄に憑かれたクリームヒルトの二の舞になりかねない。
必然的に無縁塚へと向かえる面子は、怨念への耐性がある強力な者か、神や冥界関係者、或いは自然の化身である妖精などに限定されてしまう。

顔を俯かせ、肩を震わせるオクタヴィアの手を握りながら、マミがその耳元で優しく囁く。

マミ「その気持ちだけで十分よ、美樹さん。 暁美さんと鹿目さんのことは私たちに任せて頂戴」

オクタヴィア「うん、お願いします」

そう言ってオクタヴィアはぎこちなくではあるが笑ってみせた。
親友の危機に何も出来ない事が、悔しくて悲しい筈なのに、それでも笑ってみせていた。
それだけに、託された想いはとても重く感じられた。

文「私は行けなくもないですけど、幽々子さんや霊夢さんへの連絡も必要でしょうから、残りますね」

魔理沙「ああ、そっちは頼むぜ」

アリス「行くのはマミたちと、私と魔理沙、早苗とお燐の六人でいいかしら?」

全員を見回して、アリスが突入部隊の人選を告げる。
魔理沙とアリスは瘴気の扱いに長けた魔法使い、早苗は巫女、お燐は普段から怨霊を扱っており、耐性に関しては問題ない。

お燐「あたいはそれでいいと思うよ。 決める事が決まったのなら、早く行こうじゃないか」

早苗「そうですね……。 あっ、マミさんと杏子さん、一応これを持っていて下さい」

厄除けの御札です、と言いつつ早苗は御札を一枚ずつマミと杏子に手渡す。
早苗曰く、気休め程度との事だが、それでもその御札にはそれなりの力が込められているのが、二人にも分かった。

魔理沙「準備はいいな? それじゃあ行くぜ、クリームヒルトのヤツをたたき起こしにな!」

魔理沙の言葉に、マミたち突入班は力強く頷いた。



493: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/16(金) 18:22:34.77 ID:XzjD/EGe0
―――――――― 【救済の魔女と焔の魔法少女】 @ 無縁塚 ――――――――

クリームヒルト「……ほむらちゃん、大丈夫? 怖くないからね、ほむらちゃんはここに居るだけで良いんだから……」

ほむら「…………」

大丈夫かと問いかけるクリームヒルトの瞳には光がなく、明らかに正気ではない事は、ほむらにもよく分かった。
が、両手両足を拘束され、濃い瘴気に身体を侵されつつあるほむらが、クリームヒルトに対して出来る事など何一つとして無い。

ここから脱出する事はおろか、言葉を発する事すら、今のほむらには儘ならないのだ。
出来る事と言えば、霞みかけた視界と思考の中で、自身のソウルジェムが穢れに侵食されていく様を見届ける事だけ。
それはまさしく、絶望的な状況と言えた。
が、そんな状況にあってもほむらは、自身の境遇ではなく、別の事を悔やみ続けていた。

ほむら(まさかまどかがここまで思い詰めていたなんて……、
    こんな事になるんだったらもっと早く、まどかと話をしておくべきだったわ……)

自分がクリームヒルトをこんなになるまで追い詰めてしまったのだと言う後悔と罪悪感が、ほむらを苦しめる。
泣きそうになっているほむらを見て勘違いしたのか、クリームヒルトがほむらを閉じ込めた檻をそっと抱きしめる。

クリームヒルト「ホントに大丈夫だから……、私が、私だけはいつまでもほむらちゃんのそばに居るから……、ね?」

言葉や仕草が普段と変わらない優しいクリームヒルトのままなのが、ほむらは悲しかった。

クリームヒルト「ティヒヒ……、私ね、ほむらちゃんが私の事を、“まどか”って呼び続けてくれて、とっても嬉しかったんだ。
        ほむらちゃんを裏切って、魔女になって、“概念の私”にすら見放された私に、そう呼ばれる資格なんてないのに……」

ほむら「っ!」

悲しい顔で自嘲するように呟くクリームヒルトに、「そんなことない」と声をかけることも出来ない事が、悔しかった。

ほむら(どうして? なんで肝心な時に限って、私は何も出来ないの!?)

この“まどか”が魔女になってしまった時も、あの“まどか”が概念になる契約を結んだ時も、ほむらはただ見ている事しか出来なかった。
あのまどかとの約束を守り、このまどかの居る世界を守る。
それが出来るのは、自分なのだ、自分がやらなくてはならないのだ、そう思っていた矢先にコレである。
ほむらの思考は、急速に負の方向へと傾こうとしていた。
ソウルジェムの濁るスピードが早くなり、本来、紫に輝いている筈のその宝石は、その大半を漆黒の闇より深き黒に染め上げられていく。

ほむら(ごめんなさい、まどか……、私やっぱり貴女を守れそうも……)

???「シケた面してんじゃねーよ! バカ野郎っ!」

ほむらが絶望に呑まれかけた、まさにその時だった。
多分に怒気をはらんだ、聞きなれた声が、無縁塚に響いたかと思うと、同時に何本もの槍が飛来する。
飛んできた槍はクリームヒルトの周囲を覆うように突き刺さり、彼女と檻の間で壁となって、クリームヒルトの動きを封じる。

494: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/16(金) 18:24:53.47 ID:XzjD/EGe0

クリームヒルト「っ!? これは……、杏子ちゃん!?」

魔理沙「おっと、驚くのはまだ早いぜ!」


                      『ブレイジングスター』


そんな声と共に極太のレーザーを後方に放って一気に加速した魔理沙が突貫する。

クリームヒルト「くっ!」

一度は不意を衝かれたクリームヒルトだが、突っ込んでくる魔理沙に対して、すぐさま迎撃弾幕を放つ。

魔理沙「流石にこんな不意打ちじゃ通用しねーか……、だが、惜しかったな……」

そう言ってニヤリと笑った魔理沙は、身体をぐっと傾けて箒の向きを変える。
そのままクリームヒルトの脇を掠め通り、そこに居たほむらを閉じ込めていた檻ごと奪い去る。

魔理沙「私の狙いはこっちだぜ!」

クリームヒルト「なっ!?」

箒の柄を檻に引っ掛けて掻っ攫うと言う大胆な戦法に、今度こそクリームヒルトの表情が驚愕のソレに染まる。
それでも尚、飛び去ろうとする魔理沙に弾幕を放とうとして……、四方からの弾幕に阻まれた。

クリームヒルト「大量のマスケット銃!? いつの間に……!」

マミ「悪いけど、暁美さんは返してもらうわよ」

弾幕を身を翻して回避しながら、クリームヒルトは視界の隅にマスケット銃を操るマミの姿を捉える。
四方からの一斉射撃は、マミの中でも必殺技に準じる高威力攻撃だ。
しかし、それすらも弾幕戦に慣れたクリームヒルトにはまだ温く見えた。

クリームヒルト「流石マミさんだね。 でもこの程度じゃ……まだまだだよ!」

一瞬だけ出来た間を見計らって、魔力でサーベルを作り出したクリームヒルトは、襲い来る弾幕目掛け一閃する。
サーベルとサーベルの斬撃が生み出した光の刃が、マミの弾幕を打ち消し、クリームヒルトの前に道を作る。

マミ「なっ!?」

マミが表情を強張らせるよりも早く駆け出したクリームヒルトは、手にしたサーベルでマミに斬りかかる。

495: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/16(金) 18:28:07.01 ID:XzjD/EGe0

???「マミ、その場に伏せなさいっ!」

マミ「っ!?」

背後から飛んできた声に従い、マミがその場に身を投げ出すのと同時に、マミの頭上を小さな影が飛び越える。
マミの身体を捉えんと、襲い掛かってきた刃は、小さな影の持った十字剣により阻まれる。
アリスの操る自律人形が、ギリギリのところで間に合ったのだ。

アリス「マミ! 今のうちに下がりなさい! 魔理沙は早苗の結界へ!」

お燐「ここはあたいらに任せて、一旦引きな!」

アリスは剣や槍を装備した自律人形で、お燐は従えた大量のゾンビフェアリーで、それぞれクリームヒルトを牽制しながら、口々にそう叫ぶ。
すぐさま体勢を立て直したマミと、檻ごとほむらを奪還した魔理沙は、アリスの指示に従い後退する。

早苗「こっちです! マミさん! 魔理沙さん!」

後退した先では、陣を張って結界を作り上げた早苗が、杏子と共に待っていた。
結界に入るなり、杏子は、魔力で作られた檻を槍で壊し、中からほむらを救出する。

杏子「おい、ほむら! 大丈夫か!?」

ほむら「うぅっ……きょう……こ……?」

早苗「だいぶ穢れに侵されてますね。 早く祓わないと」

弱々しい呻き声を漏らすほむらを見て、早苗は真剣な面持ちで厄祓いの儀を行うための霊力を練り上げる。
その様子を横目で見ながら、魔理沙はマミと杏子に向き直る。

魔理沙「ほむらの事は早苗に任せて、私らはアリスたちに加勢しよう。 マミ、お前はほむらと早苗を守りつつ、援護射撃を頼む」

マミ「分かったわ」

魔理沙「杏子は私と一緒に切り込むぞ。 無茶して墜ち(ピチュ)るなよ?」

杏子「へっ! そっちもな!」

簡潔な打ち合わせを終えると、三人はそれぞれ三方に散る。
マミは、早苗の結界の前に陣取ってマスケット銃を生成し、魔理沙と杏子はそれぞれの武器を片手に、戦場へととって返す。
アリスとお燐は手数を利用してクリームヒルトを牽制しているが、ダメージを与えるには至っていないようだった。
ほむらの奪還には成功したものの、本来の目的であるクリームヒルトに憑いた厄を祓えるのか、見通せる者は誰一人として居なかった。



496: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/16(金) 18:32:06.72 ID:XzjD/EGe0
―――――――― 【博麗の巫女と円環の神様】 @ 博麗神社 ――――――――

霊夢「……来たわね」

月下の博麗神社の境内で、ソレ特有の気配を感じ取った霊夢は、気配のした方を振り返った。
宙に現れた裂け目――スキマから一人の少女を連れて出てきたスキマ妖怪――八雲紫は、そんな霊夢の姿を見て、目を丸くする。

紫「あら霊夢、出迎えなんて珍しいわね。 どういう風の吹き回しかしら?」

霊夢「アンタが居ない間に色々あったのよ……。 で、そっちのアンタが円環の理、いえ、鹿目まどかかしら?」

まどか「は、はい、そうですけど……」

名乗っても居ないのに霊夢から名前を呼ばれ、白衣の少女――鹿目まどかは戸惑いつつも、頷いた。
その様子を見て、何かを覚ったのか紫はすっと目を細める。

霊夢「私は博麗霊夢、この幻想郷で、結界の管理と、人と妖怪のバランスを保っている巫女よ。
   アンタの話はクリームヒルトやほむらから聞いてるわ。 当然アンタの目的も分かってるつもりよ」

まどか「! それじゃあ……」

霊夢「ええ、協力してあげる……、と言いたいところだけど、アンタにはまず全部話してもらうわよ」

まどか「? 全部話す……?」

話を受ける素振りから一転して突き付けられた要求に、まどかは思わず眉をひそめる。
霊夢の真意を、まどかが量りかねていると、霊夢自らが先の言葉に補足する。

霊夢「アンタがどんな経緯を経て円環の理(神様)になったのか、洗いざらい話して、って言ってるのよ。
   それを聞いておかないと、私はアンタへの態度を決められない」

きっぱりとそう言い切ってみせる霊夢の態度は、一見すると高圧的で敵愾心に満ちているように見える。
が、まどかに向けられた瞳は射ぬかんばかりに真っ直ぐで、真剣そのものであり、これが極めて真面目な話である事を如実に物語っていた。

まどか「……分かりました。全部話します。 私が、私たち魔法少女が辿ってきた、悲しみと不幸の連鎖の話を……」


                        【少女説明中】


まどか「……そして、私は願ったんです。 全ての魔女を消し去って、悲しみと絶望にうちひしがれて消えていった魔法少女を救いたい、と……」

霊夢「アンタは皆を救うために、不条理極まりない悪魔みたいなヤツの思惑と能力を逆手にとって、世界自体を書き換えた……、そういう訳なのね?」

一通りの話が終わり、最後に確認するように聞いてきた霊夢にまどかは頷いてみせる。
それを見て霊夢は静かに瞑目すると、ぽつりと一言呟いた。

霊夢「間違っては居ないけど間違えた、そう言う事なのね……」

まどか「?」

霊夢が漏らした言葉の意味を、まどかは理解出来なかった。
話の流れからして、まどかが行った世界の書き換えについての話の事だとは分かったのだが、
それのどこに間違いがあったのか、分からなかったのだ。

497: SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) 2011/12/16(金) 18:36:36.53 ID:XzjD/EGe0

霊夢「アンタの想いは正しいわ。そう考えるのは人として当然だもの。
   けどね、その想いを達成する為の手段として、“魔女を消し去る”って言う願いは正解とは言えないわ」

まどか「正解じゃない、って魔女は魔法少女の絶望と呪いから生まれた危険な存在なんだよ?
    魔法少女を呪われた運命から救おうと思ったら、そのルールを覆さないと……」

霊夢「その覆すべきルールに、魔女は穢らわしい危険な存在、って言う前提条件は含まれない訳?」

一度は声を荒げて反論しようとしたまどかは、霊夢の更なる問い掛けに言葉を詰まらせる。

霊夢「ここに来た魔女たちは話が出来ない相手じゃなかったわ。
   確かに穢れは纏っていたけど、あの子たちからすれば息をするようなもので、あの子たち自身を責めていい理由にはならないわ」

まどか「それはここが特別な場所だからじゃ無いんですか?
    私自身、魔女が外の世界で、人を襲って呪いを振り撒くところを見てるんですよ?」

まどかは幻想郷が、外での常識が通用しない場所であると言う紫の話を思い出しながら、霊夢に問い返す。

霊夢「そうね。 それは事実なんだろうし、ここだけが特別、と言う可能性は大いにあるわ。
   それじゃあ聞くけど、野生動物に人間が襲われたとして、その動物が悪意でもって人を襲った、と証明することはできる?」

まどか「そ、それは……、で、でも、それとこれとじゃ話が……」

霊夢「暴論に近いけど、同じなのよ。 人間の“常識”なんかが通用しない、と言う一点に於いて、魔女も妖怪も動物も同じなの」

幻想郷の中のように、直接対話が可能であるなら、相互理解も容易だろう。
だが、それが出来ない外の世界では、人間としての尺度を捨て、相手の側から物事を捉えない限り、完全な正答を導く事は出来ない。
人間同士の普通の人付き合いでも全く同じ事が言えてしまうのだから、この言葉には説得力があった。

霊夢「特に妖怪や神なんていう精神的な存在はね、人間の認識次第で敵にも盟友にもなり得る不確かな存在なのよ。
   怨念や妖怪が時代の変化で神となり祀られる、なんて例は古今東西で見られるわ。 一方的な見方で凝り固まるのは失敗の原因よ」

まどか「…………」

まどか自身、その事をまったく考えなかった訳ではない。
とくにこの幻想郷に流れ着いた魔女の存在を知ってからは、ここの魔女が自分たちと同じように生きている事を知ってからは、疑問に思う事も多くなった。

果たして、魔女とは一体なんだったのか? 消さねばならないほど危険な存在ではなかったのか?
魔女に関しては、マミもほむらも、インキュベーターも打ち倒すべき敵、としか言っていなかったのでそうだと信じてきたが、それは本当に正しいのか?

そんな疑問を抱いては、深く考えないようにしていた。 単純作業だと思い込むようにしていた。
そうしなければ、まどか自身の心が擦り切れてしまいそうだったからだ。
ある世界の杏子に魔女のさやか――オクタヴィアを救えないのはおかしい、と断じられた時など暫く引きずった覚えがある。

霊夢「そもそも、人って言うのはね、一度や二度の絶望程度でダメになるほど柔じゃないの。
   どうしようもなさそうな絶望ですら糧にして、這い上がるだけの底力を、人は持ってるの。
   それを一度の絶望で呪いに堕ちるように仕向けたその獣……インキュベーターだっけ? は勿論言語道断よ。
   でもね、だからと言って絶望で堕ちてしまった人たちに、そうして生まれてしまった呪いに、やり直しの機会も与えずに消していい、って事にはならないの」

まどか「…………」

霊夢「人間、間違えもすれば、絶望する事だってある。 問題は間違えたり、絶望したソイツが、その後をどうするか、よ。
   アンタ一人が他人の分まで背負い込んで、裁量すれば良い、ってモノじゃ無い。 なかった事にしたんじゃ意味がないのよ。
   何が問題だったのか、きちんと認識して、それを乗り越えないと、結局それは新たな歪みの元凶になるわよ」

全てを見て、全てを分かったつもりになっていたまどかだが、霊夢の言い分も道理が通っており、その自信はぐらつきつつあった。
すっかり黙ってしまったまどかを見て、霊夢は言い方が乱暴過ぎたと今更ながら思ったが、それでも尚、言葉を続ける。

霊夢「ついてきなさい、アンタの正しい想いから生まれた願いが、何をもたらしたのか、見せてあげるわ……」