クリームヒルト&西行寺幽々子「ちょっと本気出す」 霊夢「やめなさい」 その1
クリームヒルト&西行寺幽々子「ちょっと本気出す」 霊夢「やめなさい」 その2
クリームヒルト&西行寺幽々子「ちょっと本気出す」 霊夢「やめなさい」 その3
705: 東方魔戯歌伝 2012/03/05(月) 11:05:23.25 ID:tHEUH+Ob0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
クリームヒルト「輝弓『フィニトラ・フレティア』!」
早苗「秘術『グレイソーマタージ』!」
クリームヒルトが魔力の矢を放ち、その対面から早苗が五芒星型の弾幕を放つ。
まどかを挟み撃ちにするように放たれた弾幕は、そのまままどかに直撃するかと思われたが……、
まどか「ウェヒヒヒ、そんなの通じにゃいよ~」
まどかが放つピンク色の弾幕がそれらの前に現れ、矢や弾幕を打ち消していく。
円環符『もう、苦しまなくていいんだよ』は、魔力的及び、霊力的な弾幕を尽く打ち消していく、驚異的なスペルだった。
霊夢「クリームヒルトに早苗も、物理系の攻撃に切り替えなさい! そんなのじゃいくら撃っても届かないわよ!」
弾幕の性質を早々に見抜いた霊夢が、二人に呼びかける。
そう言う霊夢も、攻撃手段を御札から物理的要素を含む封魔針に切り替えている。
クリームヒルト「分かりました、霊夢さん!」
早苗「切り替えたいのは山々なんですけどね。 私、物理攻撃ってあんまり得意じゃないんですよ……」
霊夢の言葉に、早々に攻撃手段を弓から剣に切り替えたクリームヒルトに対し、
大した物理的攻撃手段を持たない早苗は弾幕による攻撃を継続する。
早苗「こんな厄介なスペルの名前が『もう、苦しまなくていいんだよ』なんて、ホント洒落の効いた神さまですね!」
クリームヒルト(絶対名前を付けたの“私”じゃ無いんだろうなぁ……)
一発目の神創『ラ・リスポスタ・デリヴァ』といい、明らかに自分のネーミングセンスからは想像も付かないほど、
技巧と洒落の効いた命名に、クリームヒルトは内心苦笑する。
現世のマミか、円環に居るというさやか辺りがアドバイスしたのだろう。
クリームヒルト(それだけ真剣に考えてた、って事だよね……)
試合前、あれほど戸惑っていたまどかだが、ことスペルに関してはしっかり考えていた事が伺える。
今回はそのようなつもりではなかった様だが、クリームヒルトたちの前でお披露目する為にそれらのスペル案を温めていた事は想像に難くない。
クリームヒルト(こんな形でのお披露目、概念の私も望んでなかった筈だよ……。 何がなんでも止めてあげなくちゃ!)
内心、決意を新たにしながら、剣を構えなおす。
その間、僅か数秒でしかなかったのだが、今回に関しては相手が悪すぎた。
霊夢「クリームヒルト! そっちに大きいのが行ったわよ!」
クリームヒルト「えっ!?」
霊夢の忠告が飛んできた時には、ピンク色の弾幕は回避不可能な位置まで迫っていた。
クリームヒルトを囲むように展開されたその弾幕に逃げ場は無い。
クリームヒルト「輝弓『フィニトラ・フレティア』!」
早苗「秘術『グレイソーマタージ』!」
クリームヒルトが魔力の矢を放ち、その対面から早苗が五芒星型の弾幕を放つ。
まどかを挟み撃ちにするように放たれた弾幕は、そのまままどかに直撃するかと思われたが……、
まどか「ウェヒヒヒ、そんなの通じにゃいよ~」
まどかが放つピンク色の弾幕がそれらの前に現れ、矢や弾幕を打ち消していく。
円環符『もう、苦しまなくていいんだよ』は、魔力的及び、霊力的な弾幕を尽く打ち消していく、驚異的なスペルだった。
霊夢「クリームヒルトに早苗も、物理系の攻撃に切り替えなさい! そんなのじゃいくら撃っても届かないわよ!」
弾幕の性質を早々に見抜いた霊夢が、二人に呼びかける。
そう言う霊夢も、攻撃手段を御札から物理的要素を含む封魔針に切り替えている。
クリームヒルト「分かりました、霊夢さん!」
早苗「切り替えたいのは山々なんですけどね。 私、物理攻撃ってあんまり得意じゃないんですよ……」
霊夢の言葉に、早々に攻撃手段を弓から剣に切り替えたクリームヒルトに対し、
大した物理的攻撃手段を持たない早苗は弾幕による攻撃を継続する。
早苗「こんな厄介なスペルの名前が『もう、苦しまなくていいんだよ』なんて、ホント洒落の効いた神さまですね!」
クリームヒルト(絶対名前を付けたの“私”じゃ無いんだろうなぁ……)
一発目の神創『ラ・リスポスタ・デリヴァ』といい、明らかに自分のネーミングセンスからは想像も付かないほど、
技巧と洒落の効いた命名に、クリームヒルトは内心苦笑する。
現世のマミか、円環に居るというさやか辺りがアドバイスしたのだろう。
クリームヒルト(それだけ真剣に考えてた、って事だよね……)
試合前、あれほど戸惑っていたまどかだが、ことスペルに関してはしっかり考えていた事が伺える。
今回はそのようなつもりではなかった様だが、クリームヒルトたちの前でお披露目する為にそれらのスペル案を温めていた事は想像に難くない。
クリームヒルト(こんな形でのお披露目、概念の私も望んでなかった筈だよ……。 何がなんでも止めてあげなくちゃ!)
内心、決意を新たにしながら、剣を構えなおす。
その間、僅か数秒でしかなかったのだが、今回に関しては相手が悪すぎた。
霊夢「クリームヒルト! そっちに大きいのが行ったわよ!」
クリームヒルト「えっ!?」
霊夢の忠告が飛んできた時には、ピンク色の弾幕は回避不可能な位置まで迫っていた。
クリームヒルトを囲むように展開されたその弾幕に逃げ場は無い。
706: 東方魔戯歌伝 2012/03/05(月) 11:10:53.14 ID:tHEUH+Ob0
クリームヒルト「マズっ……!?」
クリームヒルトの脳裏を早苗の忠告が過ぎる。
早苗から渡された護符は、弾幕の直撃には耐えられない、というあの一言。
この弾幕に救済概念が含まれているのは、弾幕が打ち消されている事からも明白で、このまま直撃を許せば無事では済まない。
打つ手のないクリームヒルトに対し、いち早く動きを見せる者が居た。 早苗だ。
早苗「坤神招来『盾』!」
諏訪子『呼ばれて飛び出てジャジャジャーン! ケロちゃんだよ~』
クリームヒルト「す、諏訪子さん!?」
早苗が短い呪を唱えると同時に、クリームヒルトの眼前に特徴的な帽子を被った少女が現れる。
召喚された神――洩矢諏訪子の分霊は、召喚されるなり防壁を展開し、まどかの弾幕を弾き返す。
クリームヒルトに向かっていた弾幕の大半を弾き返すと、諏訪子の分霊がクリームヒルトの方に向き直る。
諏訪子『大変な事になってるみたいだね~。 畑に結界を張り終えたらそっちに行くからそれまで早苗をお願いね』
クリームヒルト「分かりました。こっちは私たちに任せてください。 それと助けて頂いて、ありがとうございました」
諏訪子『良いって良いって、それじゃ、私は帰るね~』
普段と変わらぬ軽い口調で、消えて行く諏訪子の分霊。
再び始まる激しい弾幕戦に、クリームヒルトは気を引き締めなおす。
クリームヒルト「早苗さん、ありがとうございました!」
早苗「気にしないで下さい。 それより、一人で前線を支えている霊夢さんに加勢してあげて下さい」
私は援護射撃と補助に周ります。と言う早苗の声を後ろに聞きながら、クリームヒルトは前に出る。
クリームヒルト「霊夢さん!」
霊夢「まったく、危なっかしいわね……。 幽々子やレミリアが、だいぶ上達してきた。とか言ってたからどんなだと思ったら、この程度だなんて……。
私から言わせればアンタはまだまだ手のかかる新参よ。 あとでみっちりしごいてあげるから覚悟なさい」
クリームヒルトに目線を向けることすらなく辛辣な言葉を吐く霊夢。
一見するとキツい言葉にも思えるが、これが霊夢なりの優しさなのは、声音からも分かる。
こちらを見ようともしないのも、概念のまどかの弾幕が激しいからで、もう少し余裕があれば、呆れ混じりの笑顔で罵倒していたに違いない。
まどか「そろそりょ次に行こうかな~。 うん、行っちゃうよ~。かにゃめまろかの第三スペル、発動~っ!」
聖弓 『ラデーア・フレティア』
707: 東方魔戯歌伝 2012/03/05(月) 11:15:08.02 ID:tHEUH+Ob0
霊夢「っ!?」
クリームヒルト「うわっ、大きい!?」
まどかが発動したのはクリームヒルトも良く使う魔力の弓を放つスペル。
だが、同じ弓矢の弾幕でもその内容は大きく違う。
まず見てすぐ分かるのはその大きさ。
魔力のチャージ時間が短いにもかかわらず、クリームヒルトが限界ギリギリまで魔力を込めた時のソレに匹敵する巨大な矢がその手に握られていた。
持っている弓もまた、クリームヒルトのモノより一回り以上大きく、荘厳な装飾があしらわれている。
霊夢「クリームヒルト!」
クリームヒルト「うん、分かってる!」
まどかが魔力の矢をつがえているうちに、霊夢とクリームヒルトは左右に散る。
矢の太さからして、まどかの正面に居るのは自殺行為であり、今のうちに誘導しておかないと、逃げ場がなくなってしまう。
念のために霊夢とは反対方向に飛びながら、クリームヒルトは後方で控えている早苗に呼びかける。
クリームヒルト「早苗さん、矢が行きますよ!」
早苗「把握してます! お二人は回避に専念してて下さい!」
まどか「行くよ~っ! えぇいっ!」
矢を引く手が離され、今まで引き絞られていた弓が一気に反り返る。
クリームヒルトの弾幕より五割り増しほど速い速度で放たれた矢が向かうのは、霊夢の逃げた方だった。
矢が向かってくるのを認めた霊夢は、ふっと小さく笑みをこぼす。
霊夢「あら、私を狙うなんて、酔ってる割には良い判断してるじゃない……。 でも……」
真一文字に飛び抜ける矢は、そのまま霊夢に直撃するかと思われた。
が、次の瞬間、霊夢の姿はその場から消えている。
霊夢「私を捉えるにはやっぱり甘いわ」
亜空穴で一気に反対方向、即ち、クリームヒルトの逃げた側に移動した霊夢は、まどか目掛け御札と封魔針を撃ち返す。
一方のクリームヒルトも、短時間チャージで生み出した小さな矢を放とうとして……、後方から飛んできた早苗の声に身を翻す。
早苗「霊夢さん、クリームヒルトさん! 小型の矢が戻ってきますよ!」
早苗の声が聞こえた直後、さっきまで居た場所を光の矢がすり抜けていく。
どうやら『フィニトラ・フレティア』ではなく、『天上の矢』に相当するスペルだったらしい。
そんな事を思っていると、明らかに外れコースを辿っていた矢の内の数本が、ぐにゃりと向きを変えてクリームヒルトと霊夢の方を指向する。
クリームヒルト「うわっ、大きい!?」
まどかが発動したのはクリームヒルトも良く使う魔力の弓を放つスペル。
だが、同じ弓矢の弾幕でもその内容は大きく違う。
まず見てすぐ分かるのはその大きさ。
魔力のチャージ時間が短いにもかかわらず、クリームヒルトが限界ギリギリまで魔力を込めた時のソレに匹敵する巨大な矢がその手に握られていた。
持っている弓もまた、クリームヒルトのモノより一回り以上大きく、荘厳な装飾があしらわれている。
霊夢「クリームヒルト!」
クリームヒルト「うん、分かってる!」
まどかが魔力の矢をつがえているうちに、霊夢とクリームヒルトは左右に散る。
矢の太さからして、まどかの正面に居るのは自殺行為であり、今のうちに誘導しておかないと、逃げ場がなくなってしまう。
念のために霊夢とは反対方向に飛びながら、クリームヒルトは後方で控えている早苗に呼びかける。
クリームヒルト「早苗さん、矢が行きますよ!」
早苗「把握してます! お二人は回避に専念してて下さい!」
まどか「行くよ~っ! えぇいっ!」
矢を引く手が離され、今まで引き絞られていた弓が一気に反り返る。
クリームヒルトの弾幕より五割り増しほど速い速度で放たれた矢が向かうのは、霊夢の逃げた方だった。
矢が向かってくるのを認めた霊夢は、ふっと小さく笑みをこぼす。
霊夢「あら、私を狙うなんて、酔ってる割には良い判断してるじゃない……。 でも……」
真一文字に飛び抜ける矢は、そのまま霊夢に直撃するかと思われた。
が、次の瞬間、霊夢の姿はその場から消えている。
霊夢「私を捉えるにはやっぱり甘いわ」
亜空穴で一気に反対方向、即ち、クリームヒルトの逃げた側に移動した霊夢は、まどか目掛け御札と封魔針を撃ち返す。
一方のクリームヒルトも、短時間チャージで生み出した小さな矢を放とうとして……、後方から飛んできた早苗の声に身を翻す。
早苗「霊夢さん、クリームヒルトさん! 小型の矢が戻ってきますよ!」
早苗の声が聞こえた直後、さっきまで居た場所を光の矢がすり抜けていく。
どうやら『フィニトラ・フレティア』ではなく、『天上の矢』に相当するスペルだったらしい。
そんな事を思っていると、明らかに外れコースを辿っていた矢の内の数本が、ぐにゃりと向きを変えてクリームヒルトと霊夢の方を指向する。
708: 東方魔戯歌伝 2012/03/05(月) 11:37:14.80 ID:tHEUH+Ob0
クリームヒルト「なっ!?」
霊夢「ちょっ、矢のクセにヘにょり特性持ち!?」
弓矢にあるまじき軌道を辿る弾幕に、流石の霊夢も上ずった声を上げる。
それでもどうにか矢の第二群を回避する二人だが、思わぬ方向から第三、第四の矢の大群が向かって来ていて、息を付く暇すらない。
早苗「今どうにかして道を作ります! ちょっとその場から動かないで下さい!」
開海 『モーゼの奇跡』
二人が苦戦しているのを察知した早苗がスペルを発動させる。
戦場を入り乱れるように飛んでいた矢が、早苗がスペルを撃った方向だけ一気に打ち消され、二人の目の前に道が生まれる。
他の矢が再度雪崩れ込んでくるより早く、クリームヒルトと霊夢は出来上がった裂け目を通り、一気に後退する。
霊夢「ナイスタイミングよ。早苗……。 それにしても、無茶苦茶やる神さまね……」
クリームヒルト「同感です。 流石に今回ばかりはやられちゃうかと思いました」
早苗「さて、これからどうします? 流石にこんなのを連発されたらどうにもなりませんよ」
同じ手は通用しなさそうですしね。 と言う早苗の言葉に自然と表情が硬くなる。
早苗のスペルの中でも強力な部類に入る『モーゼの奇跡』をもってしても、一時的に退却路を作るので精一杯だったのだ。
今後飛び出てくるであろうスペルに対して、マトモにやり合って避けきれるとは到底思えない。
???「避けきれないなら、真正面から対抗する、ってのはどうだ?」
???「まーた魔理沙はそんな無茶を言う……。 でも、やってみる価値はあるかも?」
クリームヒルト「っ!? 魔理沙さんにオクタヴィアちゃん!?」
背後から聞こえる茶化すような声と呆れ混じりの声。
聞き慣れた声に振り返ると、そこに居たのは想像した通りの二人の姿。
白黒の魔法使い――霧雨魔理沙と、蒼い人魚――オクタヴィアの二人がちょうど駆け付けた所だった。
魔理沙「おう、手伝いに来てやったぞ」
オクタヴィア「なんかすごい事になっちゃったねぇ……。 いや、話を大きくしたあたしが言えた立場じゃないんだけど……」
魔理沙は普段と変わらぬニヤニヤ顔で胸を張り、一方のオクタヴィアは申し訳なさそうに縮こまる。
事態は6月の異変の際の『ワルプルギスの夜祭』に匹敵する様相を見せており、この増援は嬉しい限りだ。
クリームヒルト「魔理沙さんもオクタヴィアちゃんもありがとう。 正直、私たちだけじゃキツくて困ってたんだ」
霊夢「言っとくけど、今回は生半可な覚悟でどうにかなる相手じゃないわ。 気だけは抜かないでね」
素直に謝意を述べるクリームヒルトと、釘を刺す霊夢。
正反対な二人の言葉に、魔理沙もオクタヴィアも表情を引き締める。
魔理沙「ああ、分かってる」
オクタヴィア「覚悟は出来てるよ。 相手はあの“まどか”だもん」
早苗「皆さん、そろそろ次が来るみたいですよ!」
支援役として、まどかの動向を窺っていた早苗が声を上げ、全員がそちらに向き直る。
既に無茶苦茶なレベルに達しつつあるまどかの次なるスペルが、如何なるモノになるのか、予想出来る者は、誰一人としていなかった。
709: 東方魔戯歌伝 2012/03/05(月) 11:42:34.01 ID:tHEUH+Ob0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
神奈子「ふむ、田畑への結界はこんなもんで大丈夫かな……」
諏訪子「うん、流れ弾ぐらいならコレで充分なんじゃない?」
突貫工事で造り上げた結界を見上げつつ、二柱は額の汗を拭う。
畑の周りを御柱で囲い、そこに二柱の神力でもって障壁を構築したのだ。
一仕事を終え、神奈子はまずため息を一つついて……、次の瞬間、戦場となっている会場を見つめて動かない、もう一人の神――洩矢諏訪子の方に向き直る。
神奈子「さて諏訪子、これからどうするんだい?」
一言だけ故に簡潔だが、傍から見ると要領を得ない神奈子からの問い。
一見曖昧に見える問いだが、それが極めて真面目な話である事は、長い付き合いである諏訪子には声音だけで分かる。
だが諏訪子は、表情一つ変えることも、神奈子の方を振り向く事も無く、逆に聞き返す。
諏訪子「どうする、って言うと?」
神奈子「さっき分霊が呼ばれた時に言ってしまったんだろう? 加勢に行く、って……」
諏訪子「うん、確かに言ったね……」
それはつい先刻の話。
クリームヒルトの危機に早苗が諏訪子の分霊を降ろした時、諏訪子が分霊を通じてクリームヒルトに言った一言だ。
神奈子「諏訪子も分かってるんだろう? 今回の弾幕戦は単なる酒乱とは訳が違う事くらい」
諏訪子「そりゃ、あれだけ色々と抱え込んで、根をつめてれば、一目で分かるよ。 あのままじゃマズい、って事もね」
思えば6月の異変の時も、8月の事件の時も、彼女の半身である“あの子”に、同じような傾向が見られている。
魔女と概念と言う違いはあれど、根っこの部分は変わらないようだ。
いや、いずれにしてもほぼ直前まで、妖怪は愚か神にも縁の無い、ごくごく普通の女子中学生だったのだ。
思い詰めるな、と言う方が無理な話だろう。
神奈子「ああ、アレは出しきらせないと、あの神さま、早々に潰れるね。 或いは反動で堕ちるかもしれない。 諏訪子はそれでも加勢に行くのかい?」
諏訪子「私の答えは変わらないよ。 かわいい早苗たちを放ってはおけないし、それに……」
神奈子「それに?」
諏訪子「新米の神さまに、“神遊び”のやり方、って言うのを伝授してあげないとだしね」
「永い付き合いになりそうだし、餞別代わりにね」と言いつつ、振り向いた諏訪子は笑ってみせる。
その言葉に神奈子もようやく表情を崩す。
神奈子「ならついでに、酒の飲み方も伝授して来ることを勧めるよ。 酒が入る度にこの騒ぎじゃ、身が持たないからね」
諏訪子「りょーかい、それじゃ、行って来るよ~」
そう言うと、諏訪子はぴょんとその場から飛び出した。
神奈子「ふむ、田畑への結界はこんなもんで大丈夫かな……」
諏訪子「うん、流れ弾ぐらいならコレで充分なんじゃない?」
突貫工事で造り上げた結界を見上げつつ、二柱は額の汗を拭う。
畑の周りを御柱で囲い、そこに二柱の神力でもって障壁を構築したのだ。
一仕事を終え、神奈子はまずため息を一つついて……、次の瞬間、戦場となっている会場を見つめて動かない、もう一人の神――洩矢諏訪子の方に向き直る。
神奈子「さて諏訪子、これからどうするんだい?」
一言だけ故に簡潔だが、傍から見ると要領を得ない神奈子からの問い。
一見曖昧に見える問いだが、それが極めて真面目な話である事は、長い付き合いである諏訪子には声音だけで分かる。
だが諏訪子は、表情一つ変えることも、神奈子の方を振り向く事も無く、逆に聞き返す。
諏訪子「どうする、って言うと?」
神奈子「さっき分霊が呼ばれた時に言ってしまったんだろう? 加勢に行く、って……」
諏訪子「うん、確かに言ったね……」
それはつい先刻の話。
クリームヒルトの危機に早苗が諏訪子の分霊を降ろした時、諏訪子が分霊を通じてクリームヒルトに言った一言だ。
神奈子「諏訪子も分かってるんだろう? 今回の弾幕戦は単なる酒乱とは訳が違う事くらい」
諏訪子「そりゃ、あれだけ色々と抱え込んで、根をつめてれば、一目で分かるよ。 あのままじゃマズい、って事もね」
思えば6月の異変の時も、8月の事件の時も、彼女の半身である“あの子”に、同じような傾向が見られている。
魔女と概念と言う違いはあれど、根っこの部分は変わらないようだ。
いや、いずれにしてもほぼ直前まで、妖怪は愚か神にも縁の無い、ごくごく普通の女子中学生だったのだ。
思い詰めるな、と言う方が無理な話だろう。
神奈子「ああ、アレは出しきらせないと、あの神さま、早々に潰れるね。 或いは反動で堕ちるかもしれない。 諏訪子はそれでも加勢に行くのかい?」
諏訪子「私の答えは変わらないよ。 かわいい早苗たちを放ってはおけないし、それに……」
神奈子「それに?」
諏訪子「新米の神さまに、“神遊び”のやり方、って言うのを伝授してあげないとだしね」
「永い付き合いになりそうだし、餞別代わりにね」と言いつつ、振り向いた諏訪子は笑ってみせる。
その言葉に神奈子もようやく表情を崩す。
神奈子「ならついでに、酒の飲み方も伝授して来ることを勧めるよ。 酒が入る度にこの騒ぎじゃ、身が持たないからね」
諏訪子「りょーかい、それじゃ、行って来るよ~」
そう言うと、諏訪子はぴょんとその場から飛び出した。
725: 東方魔戯歌伝 2012/03/25(日) 13:08:16.82 ID:RMtsDo2a0
―――――――――― 【その頃 @ 現世・見滝原市・巴マミ宅】 ――――――――――
紫「こんにちは」
そんな声が巴家の一室に響いたのは、休日の昼下がりの事。
たまの休みなので皆で昼食会でも……、と、暁美ほむらに佐倉杏子、それに連れ子の千歳ゆまを招いて、食卓を囲んでいた時の事だった。
囲んでいた食卓の真上に突如として現れた女性に、少女たちは目を見張る。
ほむら「っ!?」
マミ「す、スキマ妖怪の八雲紫……さん?」
紫「あら?お鍋の最中だったのね。これは失礼したわ」
澄し汁を啜っていたほむらは思わずむせ込み、煮えていた肉と白滝を箸で掴もうとしてしたマミはその場で固まる。
突然の事態に鍋の煮える音以外の音が消える中、よく分かっていない様子でゆまが首を傾げる。
ゆま「えっと、誰……?」
杏子「ゆま、ちょっと下がってな。 おい、妖怪の元締めがこんなところまで来るとかどう言う風の吹き回しだよ? また面倒事か?」
マミ「ダメよ佐倉さん。決め付けは良くないわ」
変身こそしなかったが、得物の槍を具現化させた杏子をマミは手で制する。
むせたまま立ち直れないほむらや、杏子の反応に対し、その行動は幾分か落ち着いているように見えた。
紫「あら? 巴マミ、貴女はあまり驚かないのね?」
マミ「最近、似たような事があったばかりなので……」
紫「似たような事……? もしかして、鹿目まどかがここに?」
苦笑しつつそう答えたマミに紫は表情を険しくしながら問い返す。
紫の声音が若干だが低くなった事にマミも気が付いたのだろう、眉をひそめつつ頷く。
マミ「はい、そうですけど……」
ほむら「なっ!?まどかが!? 巴マミ、一体どういう事なのか説め……モガッ!?」
杏子「はいはい、抑えろ抑えろ、話が進まなくなるだろうが……」
まどかと言う言葉に外野が俄に騒がしくなったが、空気を読んだ杏子がすかさず押さえ込む。
当然だが、紫もこれをスルーした。
紫「こんにちは」
そんな声が巴家の一室に響いたのは、休日の昼下がりの事。
たまの休みなので皆で昼食会でも……、と、暁美ほむらに佐倉杏子、それに連れ子の千歳ゆまを招いて、食卓を囲んでいた時の事だった。
囲んでいた食卓の真上に突如として現れた女性に、少女たちは目を見張る。
ほむら「っ!?」
マミ「す、スキマ妖怪の八雲紫……さん?」
紫「あら?お鍋の最中だったのね。これは失礼したわ」
澄し汁を啜っていたほむらは思わずむせ込み、煮えていた肉と白滝を箸で掴もうとしてしたマミはその場で固まる。
突然の事態に鍋の煮える音以外の音が消える中、よく分かっていない様子でゆまが首を傾げる。
ゆま「えっと、誰……?」
杏子「ゆま、ちょっと下がってな。 おい、妖怪の元締めがこんなところまで来るとかどう言う風の吹き回しだよ? また面倒事か?」
マミ「ダメよ佐倉さん。決め付けは良くないわ」
変身こそしなかったが、得物の槍を具現化させた杏子をマミは手で制する。
むせたまま立ち直れないほむらや、杏子の反応に対し、その行動は幾分か落ち着いているように見えた。
紫「あら? 巴マミ、貴女はあまり驚かないのね?」
マミ「最近、似たような事があったばかりなので……」
紫「似たような事……? もしかして、鹿目まどかがここに?」
苦笑しつつそう答えたマミに紫は表情を険しくしながら問い返す。
紫の声音が若干だが低くなった事にマミも気が付いたのだろう、眉をひそめつつ頷く。
マミ「はい、そうですけど……」
ほむら「なっ!?まどかが!? 巴マミ、一体どういう事なのか説め……モガッ!?」
杏子「はいはい、抑えろ抑えろ、話が進まなくなるだろうが……」
まどかと言う言葉に外野が俄に騒がしくなったが、空気を読んだ杏子がすかさず押さえ込む。
当然だが、紫もこれをスルーした。
726: 東方魔戯歌伝 2012/03/25(日) 13:11:28.63 ID:RMtsDo2a0
紫「成る程ねぇ……、どうやら思ってた以上に事態は深刻なようね」
マミ「一体何があったんです? まさか鹿目さんたちの身に何かが?」
一人考え込むような紫に、マミは思わず問い返す。
先日の一件から大して日が空いていない事から、そうとしか思えなかったからだ。
紫「あったと言うか起こりつつある、と言うべきかしら? 盆の一件のあとね、私はあの子にあるモノを渡したの」
杏子「あるモノ?」
紫「貴女たちが盆に落ちた裂け目と同じモノ。 幻想郷のカケラだと思って頂戴」
ゆま「マミお姉ちゃん、なんの話?」
紫と面識もなければ、盆の一件も知らないゆまが小声でそう尋ねてくる。
マミは鍋の載っていた携帯用コンロの火を止めつつ、ゆまに諭すように言う。
マミ「私たちの大切な友達の話よ。後でゆっくり話してあげるわ。 だから今は……ね?」
ゆま「うん、分かった」
そんな会話をかわす間にも紫の話は続いている。
紫「私はソレを“円環の理”の効力を弱めて魔法少女と魔女を一緒に救う為に持たせたのだけど、それが弱めたのは“円環の理”だけじゃなかったのよ」
杏子「? どういう事だ?」
紫「マミ、先日会った貴女も気付いているかも知れないけど、普通なら概念でしかないあの子は現世じゃ知覚出来ない存在なのよ。
それが貴女の前に現れた。一個人の“鹿目まどか”として」
概念や常識と言ったモノは、その物が目に見える訳ではない。
その力の働きにより、他のモノに何らかの影響が出て初めて観測出来るのだ。
それがこの世の常識であり、理。
それは円環の理こと鹿目まどかも同様である。
彼女を知覚したければ、幻想郷のような世の理がねじ曲がっている場所に行くか、彼女と同格の存在――即ち神――になるしか手はない。
魔法少女を救う概念なので、死に目に会うことは出来るだろうが、その時点で人としては終わっている。
727: 東方魔戯歌伝 2012/03/25(日) 13:15:32.81 ID:RMtsDo2a0
紫「元々ね。あの子はとんでもない歪みを抱えてるの」
ほむら「歪み?」
紫「まずはあの子、“鹿目まどか”が“円環の理”と言う概念でもある、と言う事」
マミ「?」
紫の言葉に、その場に居た少女たちは一様に首を傾げた。
紫の言った事の何処がおかしいのか、分からなかったからだ。
が、その反応は想定内だったらしい。
紫は大して気にした様子もなく、話を続ける。
紫「あの子は『全ての魔法少女を救う』と言う願いを叶えるために円環の理と言う“概念”になった。 “神”じゃなくて“概念”に……、
それはね、願いを叶えるには“神”でも不足だったからよ。
幻想郷で実際に見た貴女たちなら分かると思うけど、神さまだって万能ではないわ。
気紛れだって起こすし、効力も毎回同じとは限らない。
全てを“確実に”救うのに、そんな不安定な存在になったのでは不都合が出る。 だからあの子は“概念”になったの」
紫の説明にマミやほむらたちの脳裏に鍵山雛や八坂神奈子と言った幻想郷で出会った神々らの姿が過る。
確かにあそこで見たのは、失敗もすれば、贔屓もする、全能とはほど遠い姿だった。
そう考えると、紫の話も頷ける。
紫「で、問題はここからよ。全てを等しく救う為に不確定要素のない“概念”になった訳だけど、
その際に『彼女自らの手で救う』と言う願いも反映された結果、“鹿目まどか”としての意識を有したまま、概念になってしまったのよ」
杏子「? それの何処が問題なんだ? 世界はまどかの願い通り改編されたんだから、万々歳だろ?」
紫「分からないかしら? 矛盾してるのよ。
“円環の理”は意思のない概念で、救済を行う“鹿目まどか”は意思を持った少女なの。
本来、相反する二つの存在が同一の存在になっているのよ。 結果、そこに齟齬が生まれるの」
紫「概念は確かに平等だけど、故にこの上なく残酷よ。 条件を満たせばすぐに作用するんですもの。 そこには情も贔屓も入る余地すらない。
じゃあ、それを間近で見届けて“救済”をこなさなくてはならない“鹿目まどか”はどうなるかしら?」
マミ&杏子「「!」」
紫が何を言わんとしているのか、悟ると同時に、マミたちは息を飲んだ。
分かってしまったのだ。 概念になった“鹿目まどか”を襲ったであろう悲劇が、現在進行形で彼女に巣食って居るであろう病魔が……。
ほむら「……普通に考えたって苦行以外の何物でもないわね。 優しすぎるまでに優しいまどかなら尚更よ……」
万単位、若しくは億単位すら越えるかもしれない程の“救済”を行うと言うことは、それと同じ分の死に目に立ち合うと言うことでもある。
いくら自らが望んだこととは言え、普通なら発狂してもおかしくない所業である。
他人の事を思いやる事の出来る優しい彼女の事、その苦しみも人一倍だろう。
728: 東方魔戯歌伝 2012/03/25(日) 13:18:56.17 ID:RMtsDo2a0
紫「さて、それじゃあそんなこんなで溜まりに溜まったであろう鬱憤をあの子は晴らせるのか、と言えばこれも否。
鬱憤を晴らすどころか、そもそも鬱憤を抱く事すら出来ないからよ。 だってあの子は……、“概念”なんですもの」
紫「“鹿目まどか”がどれだけ鬱憤を溜め込もうとも“概念”と言う種族がそれを許さない。
“概念”は鬱憤を抱くような存在ではない、と言うのが世の常識だから……」
もし仮にその鬱憤を一度でも自覚してしまうような事があれば、“鹿目まどか”は壊れてしまうだろう。
そうなってしまえば、同一存在である“概念・円環の理”もまた壊れてしまう。
だが、そうなってしまうとまどかの願いは果たせなくなってしまう。
紫「だからあの子は自身がとんでもない鬱憤を抱いて居ることに気付けない。 気付く事は即ち、全ての破滅だから……」
ほむマミ杏子「「「…………」」」
もはやほむらたちに言葉はなかった。
マミと杏子はまどかが抱えてしまったモノの大きさに、ある程度予感のあったほむらは、事態が想像以上に危機的であることに、それぞれ打ちのめされたからだ。
紫「ここで話は冒頭に戻るわ。 あの子がこれまで円環の理として役目をこなし続ける事が出来たのは、
概念に自由意思なんかないと言う常識に、“鹿目まどか”の意志が抑え込まれていたから」
それが幻想郷と言う常識外れの異界を知り、スキマと言う常識を打ち消す手段を得てしまった事で、内包していた大いなる矛盾に気付く可能性を高くしてしまった。
更に、致命的だったのが、あの一件で、まどかが潜在的に抱いていた「本当に自分のしたことは正しかったのか?」と言う疑問を決定的なモノにしてしまった事。
これが円環の理と鹿目まどかのバランスを急速に崩す事になってしまったのだ。
紫「あの子が即時効果性の高い概念でありながら、二ヶ月もの間、幻想入りした魔女たちを放置したのは、幻想郷に効果が及んでいなかった事もあるでしょうけど、
本能的に自身の危ういバランスを崩しかねない場所だと感じ取っていたからだと、私は思っているわ。 あの子にとって幻想郷は開けてはならないパンドラの箱だった」
マミ「それじゃあ、この間鹿目さんが家に遊びに来たのは……」
紫「潜在的な不安の顕れよ。今までの状態が長かったお陰で色々なモノが麻痺していたからその程度で済んだけど……」
予想通りの返答にマミは胸が苦しくなるのを感じた。
あの晩、笑顔で訪ねてきた少女は、その笑顔からは想像も出来ないほど深い傷をその心に抱えていた。
ほむらでも杏子でもなく、自分の家にまどかが来たのは、本能的に先輩であるマミに助けを求めていたからに違いなかった。
ほむら「それで、まどかは今何を?」
紫「溜まりに溜まった鬱憤を一気に爆発させて現在進行形で大暴れしてるわ。 幻想郷流のやり方で」
マミ「え゛っ!?」
幻想郷流のやり方、と言う言葉にマミは思わず声をあげる。
幻想郷流とは即ち、弾幕戦の事だ。
そして、先日、まどかがマミの元を訪ねてきた理由もまた弾幕戦に関することだった。と、言うことは……?
マミ「…………」
マミが一人青くなっているとは知らず、紫はほむらたちに現状を語る。
729: 東方魔戯歌伝 2012/03/25(日) 13:22:14.25 ID:RMtsDo2a0
紫「幸い、何となくムシャクシャした、程度の認識でしか無いようだけど、色々な意味で危ないのは事実ね」
杏子「で、そんな状況でアンタがここに来た、って事は……」
ほむら「私たちの力を貸して欲しい、と言ったところかしら?」
方や具現化させたままの槍を掴み直しながら、肩や自身のソウルジェムに手を添えながら、杏子とほむらは腰を浮かせる。
が、紫から返って来た答えは、二人の想像したようなモノではなかった。
紫「当たらずとも遠からず、ってところね。 貴女たちにはね、アフターケアをお願いしたいのよ」
杏子「なに?」
紫「今回の一件だけなら私たちだけで対処出来なくもないわ。
でもね、あの子が今日の一件から立ち直って、もとの“円環の理”としての日々に戻った後、
あの子を支えてあげられるのは外の世界に居て、尚且つあの子の存在をきちんと認識している貴女たちだけなの」
そこで紫は一旦言葉を区切ると、ほむらたち三人を順繰りに見やる。
紫のお願いの内容が、現状への対処と同等か、それ以上に重要な事であると伝わったのだろう、話を聞く三人の表情は真剣その物だった。
その表情を確認して、紫はふっと微笑む。
紫「貴女たちはね、永い時を概念として過ごすあの子にとってのオアシスなのよ。
だから、色々と無理をしがちな神さまが来た時は、優しく出迎えてあげて欲しいの」
杏子「なんだ、そんな事か……、そんな話をしにわざわざ来るなんてアンタも結構世話焼き……」
紫「因みに対応を間違えたら世界滅亡もあり得るから注意してね?」
話が終わると同時に、わざと茶化すようにぼやいた杏子に、紫はすかさず釘を刺した。
刹那、一瞬だけ緩みかけた空気が見る見るうちに凍りつく。
杏子「…………」
ほむら「それは確かに責任重大ね……」
紫「そういうこと、だから頑張ってね? 現役魔法少女の皆さん?」
爆弾発言に今度は杏子やほむらの顔が真っ青になったのを見て、今度は紫が茶化すように言う。
そんな紫におずおずとした様子でマミが話しかける。
マミ「えっと、紫さん? ちなみになんですけど、この間の私の対応は……」
紫「ああ、アレなら問題無いわ。 なんで概念が~、みたいな対応をとっていたら、その場で終わってたけど……」
マミ「…………」
返ってきた答えにマミは聞くんじゃなかったと、今更ながら後悔した。
730: 東方魔戯歌伝 2012/03/25(日) 13:29:30.26 ID:RMtsDo2a0
―――――――― 【概念の少女と救済の魔女 @ 人里近くの田園】 ――――――――
霊夢「あの神さまが慈悲深い、って絶対冗談でしょ!? 分身した上で全員が違う弾幕を撃ってくる、って鬼畜以外の何者でもないわ!」
飛んでくる数々の弾幕をかわしながら、吐き捨てるように霊夢が声を上げた。
まどかの新たなスペルは4体の分身を作り出し、まどか本人と合わせて5人で多種多様な弾幕を放つという厄介なものだった。
霊夢の漏らした愚痴に、回避と反撃を繰り返していた魔理沙も舌打ちする。
魔理沙「それも魔女たちの使い魔と違って耐久力も上がってるしな。 紙装甲だった分、使い魔の方が気楽だったぜ」
早苗「容赦なく問答無用で昇天させてあげる、って言う点では慈悲深いかもしれませんね。 迷惑極まりない慈悲ですけど……」
オクタヴィア「アンタたちねぇ……。 仮にもその半身が居る前でよくもまあそんな遠慮のない台詞を吐けるわね……」
クリームヒルト「あはは……、概念の私の弾幕が無茶苦茶なのは事実だし、仕方ないよ……」
ずけずけと言ってのける早苗たちにオクタヴィアが苦言を呈する脇で、クリームヒルトは乾いた笑いを漏らす。
どちらも事実であり、まさしく板ばさみ状態と言っても良いクリームヒルトの胸中は複雑だ。
魔理沙「で、どうするんだ? このまま全員でアレに付き合い続けるのはごめんだぜ?」
オクタヴィア「それはアタシも同感。 弓と銃と剣と槍と時間操作の同時攻撃なんか相手にしてられないよ」
人数的には拮抗しているとは言え、状況は芳しいとはいえない。
酔いや、弾幕戦に慣れていないなど、様々な要因が重なってどうにか対抗出来ているが、誘導ミスや連鎖事故などを考えると放置して良い状況ではない。
少なくとも今のように全員が纏まったままで戦い続けるのは愚策と言えた。
早苗「なら、手分けするしか手は……」
魔理沙「私は銃使いな」
オクタヴィア「じゃああたしは剣士のまどかね」
霊夢「仕方ないから槍使いの相手をしてあげる」
早苗「…………」
早苗の出した提案に、待っていましたと言わんばかりに飛び出していく霊夢たち。
出汁に使われた上、残り物を押し付けられた形となった早苗は思わず絶句する。
言葉を失ったまま肩を震わせる早苗を見て、残っていたクリームヒルトがおずおずと提案する。
クリームヒルト「あの、早苗さん? 私が時間操作の相手をしましょうか?」
クリームヒルトの言葉に早苗は一瞬だけ顔を輝かせたが、ぐっと堪える様な仕草をすると、笑顔で首を横に振ってみせる。
早苗「いえ、そのお気遣いだけで結構です。
クリームヒルトさんは弓使いのまどかさんの方をお願いします。 弓使いには弓使いが当たった方が効率的でしょうから……」
クリームヒルト「すいません。 何かあったらすぐに駆け付けますから!」
時間操作まどかに挑むべく飛んで行く早苗の背中にそう声をかけながら、クリームヒルトは弓使いのまどかの方に向かう。
他の場所では既にそれぞれのまどかと、幻想の住人の戦いが始まっている。
霊夢「あの神さまが慈悲深い、って絶対冗談でしょ!? 分身した上で全員が違う弾幕を撃ってくる、って鬼畜以外の何者でもないわ!」
飛んでくる数々の弾幕をかわしながら、吐き捨てるように霊夢が声を上げた。
まどかの新たなスペルは4体の分身を作り出し、まどか本人と合わせて5人で多種多様な弾幕を放つという厄介なものだった。
霊夢の漏らした愚痴に、回避と反撃を繰り返していた魔理沙も舌打ちする。
魔理沙「それも魔女たちの使い魔と違って耐久力も上がってるしな。 紙装甲だった分、使い魔の方が気楽だったぜ」
早苗「容赦なく問答無用で昇天させてあげる、って言う点では慈悲深いかもしれませんね。 迷惑極まりない慈悲ですけど……」
オクタヴィア「アンタたちねぇ……。 仮にもその半身が居る前でよくもまあそんな遠慮のない台詞を吐けるわね……」
クリームヒルト「あはは……、概念の私の弾幕が無茶苦茶なのは事実だし、仕方ないよ……」
ずけずけと言ってのける早苗たちにオクタヴィアが苦言を呈する脇で、クリームヒルトは乾いた笑いを漏らす。
どちらも事実であり、まさしく板ばさみ状態と言っても良いクリームヒルトの胸中は複雑だ。
魔理沙「で、どうするんだ? このまま全員でアレに付き合い続けるのはごめんだぜ?」
オクタヴィア「それはアタシも同感。 弓と銃と剣と槍と時間操作の同時攻撃なんか相手にしてられないよ」
人数的には拮抗しているとは言え、状況は芳しいとはいえない。
酔いや、弾幕戦に慣れていないなど、様々な要因が重なってどうにか対抗出来ているが、誘導ミスや連鎖事故などを考えると放置して良い状況ではない。
少なくとも今のように全員が纏まったままで戦い続けるのは愚策と言えた。
早苗「なら、手分けするしか手は……」
魔理沙「私は銃使いな」
オクタヴィア「じゃああたしは剣士のまどかね」
霊夢「仕方ないから槍使いの相手をしてあげる」
早苗「…………」
早苗の出した提案に、待っていましたと言わんばかりに飛び出していく霊夢たち。
出汁に使われた上、残り物を押し付けられた形となった早苗は思わず絶句する。
言葉を失ったまま肩を震わせる早苗を見て、残っていたクリームヒルトがおずおずと提案する。
クリームヒルト「あの、早苗さん? 私が時間操作の相手をしましょうか?」
クリームヒルトの言葉に早苗は一瞬だけ顔を輝かせたが、ぐっと堪える様な仕草をすると、笑顔で首を横に振ってみせる。
早苗「いえ、そのお気遣いだけで結構です。
クリームヒルトさんは弓使いのまどかさんの方をお願いします。 弓使いには弓使いが当たった方が効率的でしょうから……」
クリームヒルト「すいません。 何かあったらすぐに駆け付けますから!」
時間操作まどかに挑むべく飛んで行く早苗の背中にそう声をかけながら、クリームヒルトは弓使いのまどかの方に向かう。
他の場所では既にそれぞれのまどかと、幻想の住人の戦いが始まっている。
731: 東方魔戯歌伝 2012/03/25(日) 13:35:19.73 ID:RMtsDo2a0
まどか(砲撃)「ティロ・フィナーレ!ティロ・フィナーレ!ティロ・フィナーレぇぇっ!」
魔理沙「ナロースパーク、ダブルスパーク、ファイナルスパークっ!」
――開始早々、大技の撃ち合いに突入している魔理沙。
まどか(剣術)「ウェヒヒ、どうかなさやかちゃん? ありとあらゆる魔法少女の剣術を見てきた私の剣捌きは?」
オクタヴィア「ふん!まどかにしてはやるじゃん。 でも、圧倒的に足りてないよ、経験が!」
――目にも止まらぬ速さで繰り出される斬撃を的確に捌きつつ笑ってみせるオクタヴィア。
まどか(槍)「行くよ~、ロッソ・ファンタズマ!」
霊夢「アンタねぇ……、どれだけ分身すれば気が済むのよ……? とは言え……」
霊夢「多節槍使いだと(種も仕掛けも)分かってる相手に真正面から付き合ってあげる程、私はお人好しじゃないの」
――分身を使って四方から攻撃を仕掛けようとする相手に対し、強力な結界でもって攻撃その物を弾き返してみせる霊夢。
まどか(時使い)「そ~れ、ここで巻き戻し!」
早苗「させません! 妖怪退治『妖力スポイラー』っ!」
――時間を操る時計が効果を発揮する直前に弾幕ごと吸収してみせる早苗。
自身の得意分野でもって一人一人に確実に対応すると言う作戦は現状を見る限り成功と言えた。
クリームヒルト「私もやることをやらなくちゃ! まずは……」
前を向きつつ、クリームヒルトは弓使いのまどかを見据える。
酔いのせいか、上気しているのか、その頬は紅く、瞳はトロンとしている。
まどか「ウェヒヒ、来たね。魔女の私……、その実力、見させてもらうよ」
クリームヒルト「っ!?」
一瞬にして生み出した多数の矢を、まどかは弓につがえずに放射状に発射した。
弓から放たれた時ほどの威力は無いが、手数が多い分、避ける側としては厄介だ。
襲い来る矢の第一波をくぐり抜け、クリームヒルトは弓を構える。
クリームヒルト「輝弓『フィニトラ・フレティ……っ!?居ない!?」
が、弓を向けた先、先刻までまどかが居た場所には、既に誰の姿も無かった。
慌てて辺りを見回すクリームヒルトの背後から、からかうような声が飛んでくる。
732: 東方魔戯歌伝 2012/03/25(日) 13:40:36.12 ID:RMtsDo2a0
まどか「何処を狙ってるの? 私はこっちだよ?」
クリームヒルト「くっ!?」
弾幕戦的な勘で、クリームヒルトは振り向くより早くその場で身を翻す。
次の瞬間、クリームヒルトの脇ギリギリのところを矢が掠め抜けていき、勘が正しかった事を裏付けた。
まどか「うわっ、今のを避けちゃうんだ。 凄いね、魔女の私」
クリームヒルト「ティヒヒ、幻想郷のみんなにお稽古してもらってるからね。 私だって、いつまでも素人じゃないよ」
他のみんなと比べればやっぱり素人なんだけど……、と言う言葉は口に出さずにしまい込む。
戦いの中での効果的な虚勢やはったりの使い方も、クリームヒルトが学んだ事のひとつだ。
そう言う意味では現世に居た頃の自分、つまり魔法少女だった頃の自分は、色々な意味で未熟だったと言える。
まどか「ホント、魔女の私は楽しそうだね……。 色々な人たちに囲まれて、一緒の時を過ごして……、それに比べて私なんか……」
クリームヒルト「? 概念の……私?」
それまでの笑顔が嘘のように肩を落として俯くまどかに、クリームヒルトも思わず顔をしかめた。
下を向いている為、表情こそ見えなかったが、その言葉には寂しげな響きが混じっているように思えたからだ。
まどか「私の周りに居るみんなはいつも『ありがとう』って言って笑うんだよ? 魔女になるのを防いだだけで、死なせちゃった事に変わりはないのに……」
クリームヒルト「っ!」
自嘲気味に呟かれた一言に、クリームヒルトは息を呑む。
弾幕どころか弓の具現化すら解いたまどかがその場に膝を付く。 と同時に光るモノが一つ、その頬を伝い、零れ落ちる。
まどか「最近色々な事が辛いの。 だって私、何も出来ないんだよ?
さやかちゃんだって生かしてあげられなかったし、マミさんや杏子ちゃん、ほむらちゃんでさえ死ぬ運命は変えられない。
私はそれを迎えに行くだけ……。 行って『お疲れ様』って声をかけるぐらいしか、私には出来ないの」
ポツリポツリと独白するまどかを見て、クリームヒルトは悟る。
今のまどかは、魔女異変の頃や、お盆の事件の時の自分自身と同じなのだ。と……、
色々な事を抱えて、どうしようかと考えて、それでもどうにもならないから抱えて、抱え込みすぎて、とうとう耐え切れなくなってしまった。 あの時の自分と……、
まどか「さやかちゃんなんか、昔と変わらず接してくれるし、みんなも私に良くしてくれるよ。
けれど、私はそんなみんなを見ている方が苦しいの。 他にやれた事があったんじゃないか?って考えちゃうの。
“魔女”の件でも最善だと思って間違っちゃった私だよ? さやかちゃんやみんなの事だって間違ってない保障が何処にあるの?」
あの時は幽々子やほむらと言った多くの人に助けてもらった。
相談や愚痴だけでは収まらず、色々な方面に迷惑をかける結果となってしまったが、助けてもらったお陰で、致命的な破局には至らずに済んだ。
反省すべき事も多かったが、得たモノもまた多かったとクリームヒルトは思っている。
ならば、今この場でやるべきことは唯一つ。
733: 東方魔戯歌伝 2012/03/25(日) 13:44:58.92 ID:RMtsDo2a0
クリームヒルト「…………間違っても、良いじゃない」
まどか「え?」
持っていた弓を捨て、一歩踏み出す。
膝立ちのままぽかんとしているまどかに一歩、また一歩と近づいていく。
クリームヒルト「お盆の事件の時、紫さんが言ったんだってね? 『これからの行動で』って……。
まだ私たちには先があるんだよ? やり直す機会も償う時間もまだまだたくさん残ってる。
どうしようもない間違いを犯しちゃった私だって、今はこうして幻想郷でやり直してる。
だったら、貴女にも出来ない訳がない。 だって“貴女”は“私”なんだもん! 私と同じ、“鹿目まどか”なんだもん!」
まどか「っ!?」
言いながらクリームヒルトはまどかの身体を抱き締める。
抱き締めた身体は、衣装の荘厳さとは打って変わって華奢で、こんな身体一つで皆を救っていたのかと今更ながら驚く。
クリームヒルト「それに私は、貴女がやった事が間違いだなんて思った事は一度も無いよ。
貴女の祈りで、現世から消されなければ、私たちは幻想郷(ここ)には来れなかった。
幻想って言う救いがあることも知らずに、一生世界を呪って過ごしてたと思うの。 間違いなく貴女は、私たちを救ったんだよ?」
クリームヒルトの言葉にまどかは目を見開く。
驚きと嬉しさと、色々な感情が入り混じったその瞳を、クリームヒルトは真っ直ぐ見据えながら自信を持って断言する。
クリームヒルト「貴女のやった事は間違いなんかじゃ、決してない。 他の誰がなんて言っても、私は間違いだなんて思わない。 これまでも、そしてこれからも!」
強い口調で言い切ったクリームヒルトは、それからふっと微笑んでみせる。
その表情を見て、まどかも目尻に涙を浮かべつつ、微笑み返す。
まどか「てぃひひ、ありがとう、そう言ってくれて……。 ねぇ、魔女の私……」
クリームヒルト「なに? 概念の私?」
まどか「私ね、やっぱり怖いの。 私自身が、私のこの能力(ちから)が、いつか皆を傷つけちゃうんじゃないかって、
そんな事ばかり考えちゃって、不安で不安で堪らなくなるの。 だからお願い、私の中の不安、吹き飛ばしてくれないかな?」
それは多くの魂を独りで救ってきた少女が見せた僅かばかりの甘え。
現実に縛られ続けた神さまが、幻想を生きる半身にひと時の夢幻を見せて欲しいと言うささやかな願い。
まどかが漏らした願いに、クリームヒルトは首肯する事で答えとする。
クリームヒルト「わかった。 その不安、私が……、私たちが、全部受け止めてあげる。 “全てを受け入れる”この幻想郷で!」
734: 1 2012/03/25(日) 13:58:13.26 ID:RMtsDo2a0
本日分投下終了。
さあ後は気が済むまで弾幕戦じゃ!
まど神「なにこの空気? 歌えや騒げの番外編じゃなかったの?」
う~ん、どうもまど神さまの事を考えるとシリアスになるらしい。
更に言うと幻想郷との相性も悪いっぽい。
だって、まど神さまって、見るからにムチャシヤガッテなんだもん。
まど神「そんなに私って頼りないかなぁ?」
頼りないと言うよりその上に掛かる荷重が酷すぎる。
まど神って、SSだと度々フリーダムだったり、変 淑女だったり、ラスボスだったりするだろ?
それってやっぱり、皆もその辺が気になってるからだと思うし……、ぶっ壊れなきゃやってらんない、って感じ。
まあ何はともあれ胸のつかえは吐き出したんだ、後は弾幕祭りじゃ!
まど神「ちなみに次回の投下予定は?」
ゴメンナサイ、未定です。スイマセン……orz
さあ後は気が済むまで弾幕戦じゃ!
まど神「なにこの空気? 歌えや騒げの番外編じゃなかったの?」
う~ん、どうもまど神さまの事を考えるとシリアスになるらしい。
更に言うと幻想郷との相性も悪いっぽい。
だって、まど神さまって、見るからにムチャシヤガッテなんだもん。
まど神「そんなに私って頼りないかなぁ?」
頼りないと言うよりその上に掛かる荷重が酷すぎる。
まど神って、SSだと度々フリーダムだったり、変 淑女だったり、ラスボスだったりするだろ?
それってやっぱり、皆もその辺が気になってるからだと思うし……、ぶっ壊れなきゃやってらんない、って感じ。
まあ何はともあれ胸のつかえは吐き出したんだ、後は弾幕祭りじゃ!
まど神「ちなみに次回の投下予定は?」
ゴメンナサイ、未定です。スイマセン……orz
742: 本編の途中ですが>>1が番外編をお送り致します。 2012/04/06(金) 20:01:40.02 ID:rHu3w5YDO
――――――――――――【幻想郷・キャンデロロの家】――――――――――――
オフィーリア「ん? なんだ、もう無いじゃん……。 キャンデロロ、お茶のお代わりがないぞ」
キャンデロロ「あらごめんなさい。 すぐに持ってくるわ」
オクタヴィア「ちょっと、少しは自分で動きなさいよ」
オフィーリア「良いだろ、今日は客として招待された身なんだし……」
オクタヴィア「だからってアンタねぇ……」
クリームヒルト「まあまあ落ち着いてオクタヴィアちゃん。 それよりこのケーキ、本当に美味しいよ」
ホムリリー「クリームヒルト、頬にクリームが付いてるわ」フキフキ
クリームヒルト「んっ……、ありがとう、ホムリリーちゃん」ティヒヒ
ホムリリー「これくらいお安いご用よ」ウフフ…
オクタヴィア「あー、もう、この二人は……、ん?なんだろう結界に乱れが……」
クパァ……
~スキマオープン~
ほむら「ちょっと失礼するわよ」
ホムリリー「あら? だれかと思ったら魔法少女の私じゃない……」
クリームヒルト「一人で幻想郷(こっち)に来るなんて珍しいね。 今日はどうしたのほむらちゃん?」
ほむら「ちょっと、大変な事になってしまったのよ……」
オフィーリア「ん? なんだ、もう無いじゃん……。 キャンデロロ、お茶のお代わりがないぞ」
キャンデロロ「あらごめんなさい。 すぐに持ってくるわ」
オクタヴィア「ちょっと、少しは自分で動きなさいよ」
オフィーリア「良いだろ、今日は客として招待された身なんだし……」
オクタヴィア「だからってアンタねぇ……」
クリームヒルト「まあまあ落ち着いてオクタヴィアちゃん。 それよりこのケーキ、本当に美味しいよ」
ホムリリー「クリームヒルト、頬にクリームが付いてるわ」フキフキ
クリームヒルト「んっ……、ありがとう、ホムリリーちゃん」ティヒヒ
ホムリリー「これくらいお安いご用よ」ウフフ…
オクタヴィア「あー、もう、この二人は……、ん?なんだろう結界に乱れが……」
クパァ……
~スキマオープン~
ほむら「ちょっと失礼するわよ」
ホムリリー「あら? だれかと思ったら魔法少女の私じゃない……」
クリームヒルト「一人で幻想郷(こっち)に来るなんて珍しいね。 今日はどうしたのほむらちゃん?」
ほむら「ちょっと、大変な事になってしまったのよ……」
743: 本編の途中ですが>>1が番外編をお送り致します。 2012/04/06(金) 20:09:12.29 ID:rHu3w5YDO
平和な昼下がり、その事件は起こった。
ホムリリー「なんですって!? 概念のまどかが!?」
クリームヒルト「記憶喪失……?」
まどか「…………」ぽけ~
永琳「これは病気とか怪我の類いではないわね。 呪いによる記憶喪失よ。
いつからこうなってしまったの?」
ほむら「それが、いつも通り救済に行って、帰って来たと思ったら……」
鈴仙「となるとこれは妖怪……、もとい魔女の仕業ですかね?」
永琳「恐らくそうでしょうね。 いずれにしても呪いの詳細が分からないと治しようがないわ」
ほむら「そんなッ!?」
キャンデロロ「それじゃあ、鹿目さんは当分このままなの?」
オフィーリア「おいおい、どうするんだよ。 まどかがダメになると円環の理もダメになっちまうんだろ?」
紫「その件について、一つ提案があるのだけど」ババーン!
クリームヒルト「っ!? 紫さん!?」
紫「救済の魔女、クリームヒルト、貴女ちょっとだけ、“鹿目まどか”になってみる気はない?」
円環の理こと、鹿目まどかが記憶喪失に!
世の理を保つ為、救済の魔女はスキマ妖怪の手を借り、仲間と共に調査へと乗り出す!
魔理沙「へっ、久々に解決し甲斐のありそうな異変だな!」
早苗「勘弁して欲しいんですけどねぇ……。 私たち、もうそんなに若くないんですよ?」
霊夢「とかなんとか言って、フル装備で一番やる気なのはアンタじゃない……」
早苗「あっ、バレました?」
幽々子「あらあら、年が気になるなら人間止めちゃえば良いじゃない。 楽しいわよ、亡霊ライフも……」ウフフ…
妖夢「さらっととんでもない事を言わないで下さい、幽々子さま!?」ミョーン!
地球外からの魔女と、幻想が交差するとき、新たなステージがその幕を開ける。
劇場版『東方円鹿目』 ~概念代行編~
の連載予定はありません。
758: 東方魔戯歌伝 2012/04/16(月) 07:29:37.61 ID:wnHtsDWY0
―――――――――― 【その頃 @ 現世・見滝原市・巴マミ宅】 ――――――――――
ほむら「概念のまどかだけじゃく、魔女のまどかも頑張っているのに……、私には見ている事だけしか出来ないの!?」
杏子「おいほむら、机を揺らすな。 鍋があるんだぞ!?」
紫による説明が終わった後、見滝原の魔法少女(+α)はスキマで幻想郷での弾幕戦を固唾を呑んで見守っていた。
思わず机に拳を叩きつけたほむらに咄嗟に鍋を死守した杏子から非難じみた声が飛ぶ。
マミ「暁美さん、気持ちは分かるけど落ち着きなさい。 今の私たちには見守ることしか出来ないの」
ほむら「で、でも……!」
マミ「紫さんだって言っていたでしょう? 幻想郷(あっち)に行くという事は幻想に近づく事だから勧められない、って……。
暁美さん、貴女は鹿目さんたちの為に世界を守るって決めたのよね? なら自分の為すべき事も分かる筈よね?」
紫が言っていた事を思い出しながら、マミは真っ直ぐほむらを見る。
ほむらは一瞬だけ目を剥いたが、次の瞬間、浮かしかけた腰を下ろし、大きく深呼吸する。
ほむら「…………ゴメンなさい。 ちょっと思考が短絡的になってたわ」
マミ「良いのよ。 私だって本当は今すぐ加勢に行きたいって思うもの。
多分、暁美さんが取り乱していなかったら、私が同じ様な事を言っていたかも知れないわ……。 兎に角、今は落ち着きましょう、ね?」
ほむら「分かってる。少なくとも頭では分かってるつもりよ。 あら? お茶が無いわね……、ちょっとお湯を沸かしてくるわね」
空になったカップに紅茶を足そうとして、中身が無いことに気が付いたらしい。 ほむらが今度こそ腰をあげる。
マミ「えっ? ああ、それじゃあお願いするわ」
杏子「それと、ついでだから顔も洗ってきな。 ひどい顔だよ、今のアンタ……」
わざと茶化すような口調で声をかける杏子に、「そうさせてもらう」と言う代わりに手を挙げて応えるほむら。
ほむらの姿が見えなくなった所でマミと杏子はお互いに顔を見合わせて、ため息をつく。
杏子「ほむらもお前も苦労性だな……」
あのポット、まだ中身入ってただろ?とぼやく杏子に、マミは苦笑する。
中身がまだある事を知りつつ、見送ったと言う事は即ち、杏子も似たもの同士、と言うことで……、
マミ「あら、その言葉、佐倉さんにそっくりそのまま返すわ」
杏子「ばっ、アタシは別にそんなんじゃ……」
マミ「ふふっ、照れなくても良いのに……」
杏子たちの様子を見て、もう大丈夫だと思ったのだろう、それまで黙ってスキマに映される映像を見ていたゆまが、杏子に問い掛ける。
ほむら「概念のまどかだけじゃく、魔女のまどかも頑張っているのに……、私には見ている事だけしか出来ないの!?」
杏子「おいほむら、机を揺らすな。 鍋があるんだぞ!?」
紫による説明が終わった後、見滝原の魔法少女(+α)はスキマで幻想郷での弾幕戦を固唾を呑んで見守っていた。
思わず机に拳を叩きつけたほむらに咄嗟に鍋を死守した杏子から非難じみた声が飛ぶ。
マミ「暁美さん、気持ちは分かるけど落ち着きなさい。 今の私たちには見守ることしか出来ないの」
ほむら「で、でも……!」
マミ「紫さんだって言っていたでしょう? 幻想郷(あっち)に行くという事は幻想に近づく事だから勧められない、って……。
暁美さん、貴女は鹿目さんたちの為に世界を守るって決めたのよね? なら自分の為すべき事も分かる筈よね?」
紫が言っていた事を思い出しながら、マミは真っ直ぐほむらを見る。
ほむらは一瞬だけ目を剥いたが、次の瞬間、浮かしかけた腰を下ろし、大きく深呼吸する。
ほむら「…………ゴメンなさい。 ちょっと思考が短絡的になってたわ」
マミ「良いのよ。 私だって本当は今すぐ加勢に行きたいって思うもの。
多分、暁美さんが取り乱していなかったら、私が同じ様な事を言っていたかも知れないわ……。 兎に角、今は落ち着きましょう、ね?」
ほむら「分かってる。少なくとも頭では分かってるつもりよ。 あら? お茶が無いわね……、ちょっとお湯を沸かしてくるわね」
空になったカップに紅茶を足そうとして、中身が無いことに気が付いたらしい。 ほむらが今度こそ腰をあげる。
マミ「えっ? ああ、それじゃあお願いするわ」
杏子「それと、ついでだから顔も洗ってきな。 ひどい顔だよ、今のアンタ……」
わざと茶化すような口調で声をかける杏子に、「そうさせてもらう」と言う代わりに手を挙げて応えるほむら。
ほむらの姿が見えなくなった所でマミと杏子はお互いに顔を見合わせて、ため息をつく。
杏子「ほむらもお前も苦労性だな……」
あのポット、まだ中身入ってただろ?とぼやく杏子に、マミは苦笑する。
中身がまだある事を知りつつ、見送ったと言う事は即ち、杏子も似たもの同士、と言うことで……、
マミ「あら、その言葉、佐倉さんにそっくりそのまま返すわ」
杏子「ばっ、アタシは別にそんなんじゃ……」
マミ「ふふっ、照れなくても良いのに……」
杏子たちの様子を見て、もう大丈夫だと思ったのだろう、それまで黙ってスキマに映される映像を見ていたゆまが、杏子に問い掛ける。
759: 東方魔戯歌伝 2012/04/16(月) 07:32:46.61 ID:wnHtsDWY0
ゆま「ねぇキョーコ、この人たち、キョーコたちの知り合いなんだよね?」
杏子「ん? ああ、知り合い、っつーか戦友、かな? 短い間だが、色々世話になったんだ、こいつらには……」
将来的にはまたお世話になるのだが、その事は伏せつつ、杏子は語る。
自分たち以外に頼る相手の居ないゆまに、“その事実”はまだ言うべきではない。
ゆま「知り合い同士なのに戦ってるの?」
杏子「親しい相手だからこそ、戦わなくちゃならない時があるんだよ」
難儀な事だとは杏子も思う。
杏子も同じような経験があるし、だからこそ今の関係がある為、必要な事であるのは承知しているが、見ていて気持ちの良いモノではない。
特に今回のまどかの問題は杏子やマミやほむらたち、魔法少女の問題でもある。
幻想郷と言う隠れ里で、ひっそりと過ごすクリームヒルトやオクタヴィアに任せっきりの現状は杏子としても我慢ならなかった。
だが……、
杏子(今はまだ、ゆま(コイツ)を残して逝く訳にはいかねーんだ。 ちっ、アタシもほむらやマミの事、言える立場じゃねーな……)
表情には出ないよう、小さく歯を噛み締める事で杏子は湧き上がる激情を抑え込む。
が、それでも千歳ゆまと言う聡い少女には分かってしまったらしい。
ゆまは一瞬だけ目を見開くと、次の瞬間、杏子の手を握り締める。
ゆま「…………」
手を握るだけで、なにも言わないゆまに対し、杏子はその手を握り返す事で応えとする。
その様子を黙って見守っていたマミはスキマに映る中継に目をやる。
再度激しい弾幕戦へと突入していくクリームヒルトたちの姿を目に焼き付けつつ、マミは祈るように呟いた。
マミ「鹿目さんに美樹さん、それに霊夢さんたちも、どうか無事で居て……。
それと、お願いね。 鹿目まどか(私たちの希望)を、救ってあげて……」
760: 東方魔戯歌伝 2012/04/16(月) 07:36:42.94 ID:wnHtsDWY0
―――――――― 【概念の少女と救済の魔女 @ 人里近くの田園】 ――――――――
霊夢「まったく、言うようになったわね。 幻想郷に来て半年も経ってないのに……」
まどかとクリームヒルトの様子を少し離れた場所から見守っていた霊夢はそう言うと肩をすくめてみせる。
一時は激しく攻め立てていたまどかの分身は、クリームヒルトがまどかの想いを受けとめ、それに応えると同時に姿を消していた。
まどか自身の酔いが醒めてきたのと、胸につかえていたモノを吐き出した事で、落ち着き始めたのだろう。
取り敢えず一段落ついたようだった。
早苗「あれ?知らないんですか? あの位のお年頃の女の子って、結構あっさりと一皮剥けちゃうものなんですよ」
オクタヴィア「はぁ~、なんて言うか親友のああいう場面に出くわすと見てるこっちもこそばゆくなって来るね」
良いものを見たなと言うように早苗とオクタヴィアが頷きあっていると、
そこに幼げな影が一つ、地面から文字通り涌いて出てきた。
???「あれ? 手助けが要りようだと思ったけど、大丈夫だったみたいだね~」
早苗「っ!? 諏訪子さま!?」
霊夢「……何しに来たのよ?」
突如現れた目玉付きの帽子が特徴的な神さま――洩矢諏訪子に、早苗は目を丸くし、霊夢は訝しげな視線を向ける。
霊夢の露骨な反応には流石にムッと来たのか、諏訪子はカエル座りを崩しつつ、頬を膨らませる。
諏訪子「何しに、とは随分なご挨拶だねぇ……。 今日は純粋に助太刀だよ。 相当テンパってる新人さんの教育も兼ねて、ね……」
魔理沙「テンパってる、って、じゃあなんだ?お前らは気付いてたのか?」
魔理沙が尋ねると諏訪子は当然だと言うように胸を張る。
諏訪子「神力が僅だけど呪いを帯びてたからね。
ウチみたいに祟り神の性質があるなら兎も角、あの子の性質であの種の呪いはろくな事にならないし……」
早苗「はあ……、気が付きませんでした。 てっきり単なる酒乱だと……」
諏訪子「……早苗、帰ったらまた修行ね。 守矢の風祝がそんなようじゃ困るよ?」
魔理沙やオクタヴィアならまだしも、神職に就いている早苗からそんな言葉が漏れた事に諏訪子は呆れ顔だ。
はぁ、とため息をつく諏訪子に対し、オクタヴィアが先を促すように尋ねる。
霊夢「まったく、言うようになったわね。 幻想郷に来て半年も経ってないのに……」
まどかとクリームヒルトの様子を少し離れた場所から見守っていた霊夢はそう言うと肩をすくめてみせる。
一時は激しく攻め立てていたまどかの分身は、クリームヒルトがまどかの想いを受けとめ、それに応えると同時に姿を消していた。
まどか自身の酔いが醒めてきたのと、胸につかえていたモノを吐き出した事で、落ち着き始めたのだろう。
取り敢えず一段落ついたようだった。
早苗「あれ?知らないんですか? あの位のお年頃の女の子って、結構あっさりと一皮剥けちゃうものなんですよ」
オクタヴィア「はぁ~、なんて言うか親友のああいう場面に出くわすと見てるこっちもこそばゆくなって来るね」
良いものを見たなと言うように早苗とオクタヴィアが頷きあっていると、
そこに幼げな影が一つ、地面から文字通り涌いて出てきた。
???「あれ? 手助けが要りようだと思ったけど、大丈夫だったみたいだね~」
早苗「っ!? 諏訪子さま!?」
霊夢「……何しに来たのよ?」
突如現れた目玉付きの帽子が特徴的な神さま――洩矢諏訪子に、早苗は目を丸くし、霊夢は訝しげな視線を向ける。
霊夢の露骨な反応には流石にムッと来たのか、諏訪子はカエル座りを崩しつつ、頬を膨らませる。
諏訪子「何しに、とは随分なご挨拶だねぇ……。 今日は純粋に助太刀だよ。 相当テンパってる新人さんの教育も兼ねて、ね……」
魔理沙「テンパってる、って、じゃあなんだ?お前らは気付いてたのか?」
魔理沙が尋ねると諏訪子は当然だと言うように胸を張る。
諏訪子「神力が僅だけど呪いを帯びてたからね。
ウチみたいに祟り神の性質があるなら兎も角、あの子の性質であの種の呪いはろくな事にならないし……」
早苗「はあ……、気が付きませんでした。 てっきり単なる酒乱だと……」
諏訪子「……早苗、帰ったらまた修行ね。 守矢の風祝がそんなようじゃ困るよ?」
魔理沙やオクタヴィアならまだしも、神職に就いている早苗からそんな言葉が漏れた事に諏訪子は呆れ顔だ。
はぁ、とため息をつく諏訪子に対し、オクタヴィアが先を促すように尋ねる。
761: 東方魔戯歌伝 2012/04/16(月) 07:38:46.19 ID:wnHtsDWY0
オクタヴィア「で? まどかはどうやったら元に戻るの?」
諏訪子「それなら簡単さ。 神さまが荒ぶってるんだから鎮めてやれば良い。 つまり……」
全員「つまり……?」
諏訪子「あの子の気が済むまで神遊びに付き合えば良いのさ」
諏訪子の答えに対して反応は二つに割れた。
何を言わんとしているのか理解出来た者と、理解出来なかった者とだ。
霊夢「はぁ……、じゃあなに? あの飲んだくれが言ってた事が正解、って事な訳?」
オクタヴィア「……神遊び?」
前者の筆頭である霊夢が頭を押さえる脇で、四人の中で唯一の後者だったオクタヴィアが首を傾げる。
そこに早苗と魔理沙が簡単な補足を付け加える。
早苗「お祭りの事ですよ。 祭りとは本来、祀りと書いて神さまを奉り、鎮める行事の事を言うんです。
神さまと人が一緒になって遊ぶ、と言う事で神遊び、と呼ぶんですよ」
魔理沙「で、だ。 この幻想郷で神さまと人が一緒になってやれる事、って言うと……」
オクタヴィア「まさか……、弾幕戦?」
豆知識的な早苗の解説と、「皆まで言わずとも分かるよな?」と言わんばかりの魔理沙の言葉に、オクタヴィアは顔を青くしながら呟く。
霊夢「そー言うこと、つまり今までやってた事をこのまま続けろ、ってこの祟り神は言ってるの」
諏訪子「祟り神なのは認めるけど、なんか感じ悪いなぁ……。 う~ん、どうせ神遊びなんだし、あっちの味方に回ろうかなぁ~」
早苗「お願いしますからそれだけは勘弁して下さい諏訪子さま!」
とんでもない事を言い出す諏訪子にすかさず早苗が土下座をしかねない勢いで頭を下げる。
そんな早苗を見て諏訪子は一瞬きょとんとすると、やがてけらけらと笑い出す。
諏訪子「流石に冗談だよ。 他所さまの、それも新人さんの初めてのお祭りに水を差すなんて野暮な事、私もしたくないしね。
その代わり、しっかりあの子と遊んであげてよ?」
霊夢「まったく、どうしてこう神さまも妖怪も揃いも揃って面倒臭いヤツが多いのかしら?」
諏訪子「何事も面倒臭いのが世の常さ。 そこは人間も妖怪も神も関係無いんだよ」
762: 東方魔戯歌伝 2012/04/16(月) 07:43:28.73 ID:wnHtsDWY0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
まどか「それじゃあ続きから行くよ? 今度はこのスペル!」
再編 『新宇宙構築』
クリームヒルト「っ!?」
新たなスペルが発動し、まどかの持つカードが光った途端、クリームヒルトは激しい虚脱感に襲われた。
まどかが酔って暴れだした時よりもきついソレに、クリームヒルトは思わずその場にへたりこむ。
クリームヒルト「なに……コレ……? 概念の私の“救済”は早苗さんの御札で抑えて……、っ!?」
無くさないようにと懐に忍ばせておいた御札を取り出したクリームヒルトは思わず目を見開く。
印と呪が書かれた対救済概念用の護符が端の方から徐々にどす黒くなり始めていたからだ。
クリームヒルト「これってまさか、“円環の理”がこの場で!?」
霊夢「なにやってるのよ!? 早く下がりなさいッ!」
余りの事態に茫然としていたクリームヒルトは、罵声に近い霊夢の言葉に我に返る。
と同時に、クリームヒルトの体は後ろに引っ張られ、次の瞬間、放り投げられていた。
クリームヒルト「きゃあっ!?」
魔理沙「おっと、大丈夫か?」
力任せに投げられバランスを崩したクリームヒルトを、後ろから飛んできた魔理沙が抱き止める。
まどかから離れた事でスペルの効果が弱まった為だろう、虚脱感は治まったが、一度力が抜けてしまった体はなかなか言うことを聞いてくれない。
魔理沙「あ~、あんま無茶すんな。 お前らからすれば一番受けちゃマズい攻撃をくらったんだ。
前線は霊夢に任せて一旦下がれ、な?」
魔理沙の言葉にクリームヒルトはチラリと後方を見やる。
後方では早苗とオクタヴィアが待機していたが、結界など特別なモノを展開している様子はない。
あそこにはまどかの“救済”概念は及んでいないようだ。 だけど……、
クリームヒルト「……ごめんなさい魔理沙さん。 私、それだけは出来ません」
魔理沙「……クリームヒルト、お前今、何を言ってるのか分かってるのか?
向こうは本気で来てるんだ。 下手したら本当に消されるかも知れないんだぜ?」
クリームヒルト「うん、それは私も分かってるよ。 だからこそ私は行かなくちゃいけないの。
私が受けとめる、って約束したから。 概念の私が、私のその言葉を信じて、本気を出してきたから! 私が退く訳にはいかないの!」
そう言ってクリームヒルトは魔理沙と真正面から向き合う。
真っ直ぐな、揺るぎないクリームヒルトの視線からその決意の強さを認めたのだろう、魔理沙はふっと微笑むと箒の後ろにスペースを作る。
魔理沙「…………後ろに乗りな。 私は回避に専念する。反撃は任せたぜ」
クリームヒルト「っ! ……ありがとう、魔理沙さん」
感謝の言葉を述べつつクリームヒルトは箒の後ろに跨がる。
本当なら自力で飛びたい所だが、不意を突かれたとは言え、救済概念の影響下では飛ぶ事は愚か立つ事すらまともに出来なかったのだ。
無茶をして、消されてしまっては元も子もない。 ここは魔理沙の好意を素直に受ける事にする。
魔理沙「ヤバかったら早めに言えよ? 間違って消しちまった日には幽々子に何をされるか、分かったもんじゃないからな」
クリームヒルト「はい、お願いします!」
冗談染みた魔理沙の忠告にクリームヒルトは力強く頷いた。
まどか「それじゃあ続きから行くよ? 今度はこのスペル!」
再編 『新宇宙構築』
クリームヒルト「っ!?」
新たなスペルが発動し、まどかの持つカードが光った途端、クリームヒルトは激しい虚脱感に襲われた。
まどかが酔って暴れだした時よりもきついソレに、クリームヒルトは思わずその場にへたりこむ。
クリームヒルト「なに……コレ……? 概念の私の“救済”は早苗さんの御札で抑えて……、っ!?」
無くさないようにと懐に忍ばせておいた御札を取り出したクリームヒルトは思わず目を見開く。
印と呪が書かれた対救済概念用の護符が端の方から徐々にどす黒くなり始めていたからだ。
クリームヒルト「これってまさか、“円環の理”がこの場で!?」
霊夢「なにやってるのよ!? 早く下がりなさいッ!」
余りの事態に茫然としていたクリームヒルトは、罵声に近い霊夢の言葉に我に返る。
と同時に、クリームヒルトの体は後ろに引っ張られ、次の瞬間、放り投げられていた。
クリームヒルト「きゃあっ!?」
魔理沙「おっと、大丈夫か?」
力任せに投げられバランスを崩したクリームヒルトを、後ろから飛んできた魔理沙が抱き止める。
まどかから離れた事でスペルの効果が弱まった為だろう、虚脱感は治まったが、一度力が抜けてしまった体はなかなか言うことを聞いてくれない。
魔理沙「あ~、あんま無茶すんな。 お前らからすれば一番受けちゃマズい攻撃をくらったんだ。
前線は霊夢に任せて一旦下がれ、な?」
魔理沙の言葉にクリームヒルトはチラリと後方を見やる。
後方では早苗とオクタヴィアが待機していたが、結界など特別なモノを展開している様子はない。
あそこにはまどかの“救済”概念は及んでいないようだ。 だけど……、
クリームヒルト「……ごめんなさい魔理沙さん。 私、それだけは出来ません」
魔理沙「……クリームヒルト、お前今、何を言ってるのか分かってるのか?
向こうは本気で来てるんだ。 下手したら本当に消されるかも知れないんだぜ?」
クリームヒルト「うん、それは私も分かってるよ。 だからこそ私は行かなくちゃいけないの。
私が受けとめる、って約束したから。 概念の私が、私のその言葉を信じて、本気を出してきたから! 私が退く訳にはいかないの!」
そう言ってクリームヒルトは魔理沙と真正面から向き合う。
真っ直ぐな、揺るぎないクリームヒルトの視線からその決意の強さを認めたのだろう、魔理沙はふっと微笑むと箒の後ろにスペースを作る。
魔理沙「…………後ろに乗りな。 私は回避に専念する。反撃は任せたぜ」
クリームヒルト「っ! ……ありがとう、魔理沙さん」
感謝の言葉を述べつつクリームヒルトは箒の後ろに跨がる。
本当なら自力で飛びたい所だが、不意を突かれたとは言え、救済概念の影響下では飛ぶ事は愚か立つ事すらまともに出来なかったのだ。
無茶をして、消されてしまっては元も子もない。 ここは魔理沙の好意を素直に受ける事にする。
魔理沙「ヤバかったら早めに言えよ? 間違って消しちまった日には幽々子に何をされるか、分かったもんじゃないからな」
クリームヒルト「はい、お願いします!」
冗談染みた魔理沙の忠告にクリームヒルトは力強く頷いた。
763: 東方魔戯歌伝 2012/04/16(月) 08:00:57.43 ID:wnHtsDWY0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
オクタヴィア「えっ!? あっ、ちょっ、何やってんの!? なんで魔理沙はクリームヒルトを乗せたまま向かってくの!?」
一旦は離脱を図っていた魔理沙が、クリームヒルトを乗せたまま戦場へと引き返していくのを見て、オクタヴィアが上ずった声を上げる。
慌てふためいているオクタヴィアの脇で、険しい表情を浮かべた早苗が呆れたと言うようにぼやく。
早苗「クリームヒルトさんも無茶しますね。 変なところで頑固なんですから……」
オクタヴィア「頑固って……、じゃあクリームヒルトは自分の意思で?」
早苗「十中八九そうでしょうね。 ここまで来て他人任せに出来るような性格じゃ無いですし……」
オクタヴィア「だからって、ああっ、もうっ、あのお人好しはッ!」
そう言って頭を掻き毟ったオクタヴィアはサーベルを構え、飛び出そうとする。
が、オクタヴィアが動くより早く、早苗の制止の声が飛ぶ。
早苗「待って下さいオクタヴィアさん! 今、前線に不用意に出るのは却って危険です! 邪魔にならないように私たちはサポート役に徹しましょう」
オクタヴィア「邪魔、ってなんでそんな事が言い切れるのよ!?」
邪魔だとキッパリと断言されたオクタヴィアは思わず早苗を怒鳴りつける。
激昂するオクタヴィアに対し、早苗は努めて冷静に、現在の状況と、そこから導かれる結論をオクタヴィアに説く。
早苗「オクタヴィアさんが典型的な近接戦タイプだからですよ。
まどかさんの至近に居たときは立つことも出来なかったクリームヒルトさんが、距離を取ったらある程度回復しました。
そして、まどかさんから離れているここには救済の影響は全く見られません。 つまり……」
オクタヴィア「概念のまどかの近くに寄れば寄るほど救済の影響を受けやすくなる?」
早苗「そうです。そしてまどかさんの耐久力の高さはこれまでの戦いで証明されています。
今のまどかさんを攻撃するなら中遠距離からの高威力攻撃以外、手はないんです」
オクタヴィア「って、それじゃあ魔理沙とクリームヒルト以外、事実上戦力外じゃん!」
端的に言ってしまえば、その通りだった。
近接戦専門のオクタヴィアや、属性攻撃が主体の早苗は言うに及ばず、あの霊夢でさえ回避こそ問題ないが、現状では火力不足に喘いでいる。
火力面で対抗出来そうなのはクリームヒルトと魔理沙だが、激しい弾幕の中で共同戦線を張るので精一杯であり、その火力を活かしきれていない。
オクタヴィア「どうするの、このままじゃ押し負けるよ!? くっ! 五人も協力しててこの様とか、情けなくなってくるよ……」
早苗「私たち全員の力を一点に集中出来れば良いんですけど……、
ん? 力を……集中……? そう言えば確かクリームヒルトさんの能力って……」
何事か一人呟いていた早苗の脳裏にある考えが浮かぶ。
色々な意味で綱渡りなアイディアで、正直実用性は皆無に近い無謀な考えだったのだが……、
早苗「分の悪い賭けですが、この状況じゃ大差ないでしょうし……。 オクタヴィアさん、ついてきて下さい。 前線に出ますよ!」
オクタヴィア「えっ? 前線って、さっき早苗はダメだって……」
早苗「状況が変わったんです! 行きますよ!」
そう言って早苗は飛び出していく。
早苗の態度の変わりようにオクタヴィアは一瞬だけ面を食らったが、すぐさまその後に続いて前線へと飛び出す。
オクタヴィア「ああっ、もうっ!訳分かんないよ! 早苗、後でしっかり説明して貰うからね!?」
そうぼやきつつ、オクタヴィアは剣を構えた。
オクタヴィア「えっ!? あっ、ちょっ、何やってんの!? なんで魔理沙はクリームヒルトを乗せたまま向かってくの!?」
一旦は離脱を図っていた魔理沙が、クリームヒルトを乗せたまま戦場へと引き返していくのを見て、オクタヴィアが上ずった声を上げる。
慌てふためいているオクタヴィアの脇で、険しい表情を浮かべた早苗が呆れたと言うようにぼやく。
早苗「クリームヒルトさんも無茶しますね。 変なところで頑固なんですから……」
オクタヴィア「頑固って……、じゃあクリームヒルトは自分の意思で?」
早苗「十中八九そうでしょうね。 ここまで来て他人任せに出来るような性格じゃ無いですし……」
オクタヴィア「だからって、ああっ、もうっ、あのお人好しはッ!」
そう言って頭を掻き毟ったオクタヴィアはサーベルを構え、飛び出そうとする。
が、オクタヴィアが動くより早く、早苗の制止の声が飛ぶ。
早苗「待って下さいオクタヴィアさん! 今、前線に不用意に出るのは却って危険です! 邪魔にならないように私たちはサポート役に徹しましょう」
オクタヴィア「邪魔、ってなんでそんな事が言い切れるのよ!?」
邪魔だとキッパリと断言されたオクタヴィアは思わず早苗を怒鳴りつける。
激昂するオクタヴィアに対し、早苗は努めて冷静に、現在の状況と、そこから導かれる結論をオクタヴィアに説く。
早苗「オクタヴィアさんが典型的な近接戦タイプだからですよ。
まどかさんの至近に居たときは立つことも出来なかったクリームヒルトさんが、距離を取ったらある程度回復しました。
そして、まどかさんから離れているここには救済の影響は全く見られません。 つまり……」
オクタヴィア「概念のまどかの近くに寄れば寄るほど救済の影響を受けやすくなる?」
早苗「そうです。そしてまどかさんの耐久力の高さはこれまでの戦いで証明されています。
今のまどかさんを攻撃するなら中遠距離からの高威力攻撃以外、手はないんです」
オクタヴィア「って、それじゃあ魔理沙とクリームヒルト以外、事実上戦力外じゃん!」
端的に言ってしまえば、その通りだった。
近接戦専門のオクタヴィアや、属性攻撃が主体の早苗は言うに及ばず、あの霊夢でさえ回避こそ問題ないが、現状では火力不足に喘いでいる。
火力面で対抗出来そうなのはクリームヒルトと魔理沙だが、激しい弾幕の中で共同戦線を張るので精一杯であり、その火力を活かしきれていない。
オクタヴィア「どうするの、このままじゃ押し負けるよ!? くっ! 五人も協力しててこの様とか、情けなくなってくるよ……」
早苗「私たち全員の力を一点に集中出来れば良いんですけど……、
ん? 力を……集中……? そう言えば確かクリームヒルトさんの能力って……」
何事か一人呟いていた早苗の脳裏にある考えが浮かぶ。
色々な意味で綱渡りなアイディアで、正直実用性は皆無に近い無謀な考えだったのだが……、
早苗「分の悪い賭けですが、この状況じゃ大差ないでしょうし……。 オクタヴィアさん、ついてきて下さい。 前線に出ますよ!」
オクタヴィア「えっ? 前線って、さっき早苗はダメだって……」
早苗「状況が変わったんです! 行きますよ!」
そう言って早苗は飛び出していく。
早苗の態度の変わりようにオクタヴィアは一瞬だけ面を食らったが、すぐさまその後に続いて前線へと飛び出す。
オクタヴィア「ああっ、もうっ!訳分かんないよ! 早苗、後でしっかり説明して貰うからね!?」
そうぼやきつつ、オクタヴィアは剣を構えた。
764: 東方魔戯歌伝 2012/04/16(月) 08:04:59.27 ID:wnHtsDWY0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
飛び交う弾幕の中を箒に乗った二人の少女が飛び抜けていく。
本気を出したまどかの弾幕は一瞬でも気を抜けば被弾を許してしまいそうなほど熾烈で、
箒の操縦を担当している魔理沙は針穴に糸を通すような的確な回避を要求されていた。
そんな魔理沙を横目に見つつ、反撃の為に矢をつがえていたクリームヒルトは、ある時急にその感覚を感じ、声をあげる。
クリームヒルト「くっ、魔理沙さん!」
魔理沙「ちっ、今度はこっちに来たか! 一旦離れるぜ!」
クリームヒルトの苦しげな声に魔理沙は箒の針路を変更する。
針路を変え、少し飛んだところで倦怠感――救済概念による強制浄化――がすっと引いていく。どうやら効果範囲を抜けたようだ。
クリームヒルトは上がってしまった息を整えると、申し訳なさげに俯く。
クリームヒルト「……すいません、さっきから足を引っ張ってばかりで……」
魔理沙「おっと、クリームヒルトが気にする必要は無いぜ。
それにしても厄介だな。せめてあの神さまの“救済”が今どの辺りを覆っているのか分かれば良いんだが……」
クリームヒルトに声をかけつつ、魔理沙は愚痴のように一人ごちる。
普通ならばそんな都合の良い話などある訳がないのだが……、この時はその要望に応える声があった。
???「見分けをつけ易くすれば良いんだな? なら任せろ!」
クリームヒルト「っ!? 萃香さん!?」
声と共に飛び出てきた小柄な鬼の姿に、クリームヒルトは目を丸くする。
魔女たちへの警告と援軍を集めるために一旦戦場から離れていた萃香が、戻ってきたのだ。
萃香「行っくよ~、それっ!」
掛け声と共に萃香の身体が空気に溶けるように薄く、いや霧散し始める。
萃香がその姿を消すのと同時に辺りは形容しがたい靄に包まれる。
クリームヒルト「これは……、霧?」
魔理沙「成る程な、萃香のヤツ、考えてるじゃん」
クリームヒルト「? どう言う事ですか?」
一人納得した様子の魔理沙に対してクリームヒルトは首を傾げる。
そんなクリームヒルトの疑問に弾幕を引き付けつつ飛んできた霊夢が簡潔に説明する。
霊夢「萃香の能力の一つよ。 萃香は自分の身体の疎と密を操って霧状になれるの。
そうして出来た妖霧は当然妖気を纏っているわ。 そんなだからあの神さまの神力とは何があっても混じることはないのよ」
魔理沙「つまり、霧があるところを通ればあの神さまの厄介な“救済”の影響は受けない、って事さ」
クリームヒルト「それじゃあ……」
霊夢と魔理沙の解説にクリームヒルトの顔に喜色が浮かぶ。
だが箒を操る魔理沙の表情は堅かった。
飛び交う弾幕の中を箒に乗った二人の少女が飛び抜けていく。
本気を出したまどかの弾幕は一瞬でも気を抜けば被弾を許してしまいそうなほど熾烈で、
箒の操縦を担当している魔理沙は針穴に糸を通すような的確な回避を要求されていた。
そんな魔理沙を横目に見つつ、反撃の為に矢をつがえていたクリームヒルトは、ある時急にその感覚を感じ、声をあげる。
クリームヒルト「くっ、魔理沙さん!」
魔理沙「ちっ、今度はこっちに来たか! 一旦離れるぜ!」
クリームヒルトの苦しげな声に魔理沙は箒の針路を変更する。
針路を変え、少し飛んだところで倦怠感――救済概念による強制浄化――がすっと引いていく。どうやら効果範囲を抜けたようだ。
クリームヒルトは上がってしまった息を整えると、申し訳なさげに俯く。
クリームヒルト「……すいません、さっきから足を引っ張ってばかりで……」
魔理沙「おっと、クリームヒルトが気にする必要は無いぜ。
それにしても厄介だな。せめてあの神さまの“救済”が今どの辺りを覆っているのか分かれば良いんだが……」
クリームヒルトに声をかけつつ、魔理沙は愚痴のように一人ごちる。
普通ならばそんな都合の良い話などある訳がないのだが……、この時はその要望に応える声があった。
???「見分けをつけ易くすれば良いんだな? なら任せろ!」
クリームヒルト「っ!? 萃香さん!?」
声と共に飛び出てきた小柄な鬼の姿に、クリームヒルトは目を丸くする。
魔女たちへの警告と援軍を集めるために一旦戦場から離れていた萃香が、戻ってきたのだ。
萃香「行っくよ~、それっ!」
掛け声と共に萃香の身体が空気に溶けるように薄く、いや霧散し始める。
萃香がその姿を消すのと同時に辺りは形容しがたい靄に包まれる。
クリームヒルト「これは……、霧?」
魔理沙「成る程な、萃香のヤツ、考えてるじゃん」
クリームヒルト「? どう言う事ですか?」
一人納得した様子の魔理沙に対してクリームヒルトは首を傾げる。
そんなクリームヒルトの疑問に弾幕を引き付けつつ飛んできた霊夢が簡潔に説明する。
霊夢「萃香の能力の一つよ。 萃香は自分の身体の疎と密を操って霧状になれるの。
そうして出来た妖霧は当然妖気を纏っているわ。 そんなだからあの神さまの神力とは何があっても混じることはないのよ」
魔理沙「つまり、霧があるところを通ればあの神さまの厄介な“救済”の影響は受けない、って事さ」
クリームヒルト「それじゃあ……」
霊夢と魔理沙の解説にクリームヒルトの顔に喜色が浮かぶ。
だが箒を操る魔理沙の表情は堅かった。
765: 東方魔戯歌伝 2012/04/16(月) 08:10:44.68 ID:wnHtsDWY0
魔理沙「ああ、大分やり易くなる筈だぜ。 とは言え、まだまだ気は抜けないけどな……」
霊夢「そうね。 本番はこれからの筈よ」
クリームヒルト「えっ?これが概念の私の本気じゃないの?」
霊夢「能力的には本気でしょうね。 でも、弾幕の方は本気じゃないわ」
魔理沙「ああ、一見すると熾烈な弾幕だが、良く見ると通常弾幕の強化型でしかないしな。 この後にデカい一発があると見て間違いないぜ」
クリームヒルト「デカい一発…………、っ!?」
ベテラン二人の厳しい見通しに息を呑んだ次の瞬間、伝わってきたソレにクリームヒルトは全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
霊夢たちも感じたのか、三人がほぼ同時にまどかの方へと振り返る。
振り返った先には、目を瞑り、何かを詠唱しているまどかの姿があった。
激しい弾幕が途絶える代わりにまどかの周囲に桃色の気――魔力が物凄い勢いで集まりつつあるのが、遠く離れたここでも良く分かった。
彼女にしては珍しく、引きつる表情を隠そうともせずに霊夢がぼやく。
霊夢「そんな事言ってたらホントに来ちゃったじゃない……。 魔理沙、何とかしなさいよ。弾幕はパワーなんでしょ?」
魔理沙「霊夢が魔力をチャージするまでの時間を稼いでくれるなら受けてたつぜ?」
クリームヒルト「霊夢さんに魔理沙さんも、そんな事を言ってる場合じゃ……」
早苗「霊夢さん!」
売り言葉に買い言葉で、霊夢と魔理沙が喧嘩腰な会話を交わした直後、早苗の声が割り込む。
見ると、救済概念の薄いところをすり抜けて早苗とオクタヴィアが駆けつけた所だった。
オクタヴィア「クリームヒルト! 大丈夫!?」
魔理沙「今のところ大丈夫だが、そろそろ大丈夫じゃなくなりそうだぜ。
あの神さま、本気で決めにかかって来てる。 このままじゃ全員お陀仏だな」
魔力のチャージを続けるまどかを指差しながら、魔理沙は肩をすくめて見せた。
膨大な量になりつつある魔力から考えると、今からでは逃げることも無理だろう。
早苗「その件で話があります。 クリームヒルトさん、私たちの魂、一時的に預けて良いですか?」
クリームヒルト「えっ? 魂、って……、えっ?」
あまりにも突拍子も無い言葉に、クリームヒルトは一瞬、早苗が何を言っているのか理解できなかった。
思わず呆然とするクリームヒルトに構わず、早苗は言葉を続ける。
早苗「クリームヒルトさんの“救済”能力は、周囲の魂を自身の結界に引きずり込む事で発動します。 この特性を使うんです」
クリームヒルト「ちょっ、早苗さん!?」
霊夢「早苗、続けなさい」
声を荒げるクリームヒルトに対し、さっきまではとは打って変わって真剣な顔つきをした霊夢が先を促す。
クリームヒルトからの反応は想定していたのだろう、早苗は小さく頷くと、順序だてて説明をしていく。
766: 東方魔戯歌伝 2012/04/16(月) 08:16:39.23 ID:wnHtsDWY0
早苗「私たちがそれぞれの能力(ちから)を発動して対抗した所で、今のまどかさんの一撃必殺は抑えようがありません。
それは私たちの能力がそれぞれ違う属性を帯びた別物だからです。 纏まりが無い、と言えば分かりやすいでしょうか?」
早苗「そこで今回は、ワンクッションを挟み込みます。 私たちが能力を発動した状態で、クリームヒルトさんが“救済”をこの場で行った、と考えて下さい。
当然、私たちの魂はクリームヒルトさんの結界に取り込まれ、そこに集約することになります。
私たちの能力が全て混ざった状態で、クリームヒルトさんの結界内にプールされる事になる訳です」
オクタヴィア「そっか、そこで集めた力をクリームヒルトが操って一気に解放すれば!」
魔理沙「あのバカみたいな魔力にも対抗できる、って事か……。 なるほど、やってみる価値はありそうだぜ」
もしこの場に、この状況に於いても冷静に物事を判断するタイプの人が一人でも居たのなら、この提案は通らなかっただろう。
だが、この場に集まっていたのは、冷静な判断より、思い込みと勘で動く直情型の人妖ばかりであり、
まどかのラストスペルと言う差し迫った問題も相まって、この無謀極まりない作戦に疑問を漏らす者はこの場には居なかった。
たった一人、この作戦の骨子に挙げられ、重責を背負う羽目になった当人――クリームヒルトを除いて……。
クリームヒルト「ちょっ、ちょっと待ってよ! 他の人の力を操るなんて、私やった事ないし、それにそんな事したらみんなが……」
早苗「これは弾幕戦です。 一時的にピチュるだけですから気にしないで下さい」
霊夢「そうね。その心配は要らないわ。 それにこの作戦なら、色々な武器の扱いに長けてるアンタが最適よ」
方や安心させるように、方や現実的な観点からそれぞれクリームヒルトを宥める早苗と霊夢。
が、そんな事を言われた所ですぐさま 「はいそうですか」 と納得できる訳も無い。
クリームヒルト「で、でも……」
霊夢「どっちにしたって各々が立ち向かった所で待ってるのは全滅オチなのよ。
絶望的な抵抗を試みるか、それともアンタに最後の希望を託すか、こうなったら二つに一つよ」
踏ん切りのつかないクリームヒルトに霊夢がぴしゃりと言ってのける。
何処までも真剣で真っ直ぐな瞳は「決めるのは他でもないアンタ自身だ」と言っているようで……、
そんな瞳に射抜かれたクリームヒルトは、小さくそれでいてしっかりと頷いた。
クリームヒルト「……分かった。 みんなの力、ちょっとだけ借りるね」
本当はもっと言いたい事もあったのだが、今の状況が、残された時間が、それを許さなかった。
唇を噛み締めつつ、拳を強く握るクリームヒルトの肩にオクタヴィアがそっと手を添える。
オクタヴィア「うん、いいぞ。 それでこそあたしの嫁だ」
魔理沙「私らは大丈夫だからさ、デカいの一発、頼んだぜ」
クリームヒルト「うん、わかったよ。 オクタヴィアちゃん、魔理沙さん……」
早苗「すいません、クリームヒルトさん。 無茶なお願いをしちゃって……」
霊夢「それじゃ、任せたわよ」
クリームヒルト「いえ、良いんです。 もともと私が受け止めるって言い出した戦いです。 みんなの力を借りれるのなら、それで十分です」
霊夢の言葉にクリームヒルトは静かに頷くと、自身の“救済”能力を発動させる。
発動と同時に霊夢たち四人から放たれた力がオーラとなり、クリームヒルトの周囲に吸い寄せられていく。
767: 東方魔戯歌伝 2012/04/16(月) 08:20:43.85 ID:wnHtsDWY0
クリームヒルト「…………」
オクタヴィアの魂と共に『癒し』の力が、早苗の魂と共に『奇跡』の力が、霊夢と魔理沙の魂と共に絶大な『霊力』と『魔力』が、クリームヒルトの中に注がれていく。
注がれたそれぞれの『能力』は、やがて一つの溢れんばかりの『力』となってクリームヒルトの全身を駆け巡り、その身体にかつて無いほどの力を漲らせる。
クリームヒルト「…………ありがとう、みんなの『力』、確かに受け取ったよ」
『力』の高まりを感じつつ、クリームヒルトはまどかの方に向き直る。
それと同時に、魔力チャージの間、目を瞑り続けていたまどかがゆっくりとその瞳を開く。
まどか「そっちも準備が出来たみたいだね」
クリームヒルト「うん、出来たよ。 私一人じゃ、無理だったけど……」
まどか「うぅん、それは確かに貴女の『力』だよ。 貴女が集めた“信頼”の力……」
クリームヒルト「ありがとう、概念の私。 それなら、ここから先はどうなっても恨みっこ無しだよね?」
まどか「うん、ここまでお膳立てして貰ったんだもん。 文句の付けようもないよ」
向かい合った桃色の髪の少女たちは、鏡写しのように寸分違わぬ動きで魔力の弓と矢を生み出す。
その矢は先程まで飛び交っていた極太の猛々しいモノではなく、むしろ神々しく、見ている誰もが見惚れる様な流麗な姿をしていた。
クリ&まど「「…………」」
二人同時に矢をつがえる。
動作、タイミング、立ち居振る舞い、その全てがぴったりで、その光景は良く出来た演舞か、或いは本当に鏡写しなのでは無いかと思えるほどで、
その瞬間、二人の間から、否、二人を見守っていた全ての者から音が消えた。
そして……、
『いざ、勝負ッ!』
円環の理 『少女たちへの安らかな救済』
慈悲 『尽滅大結界内の奇跡』
クリームヒルトとまどかの放った矢は、まるで互いが互いを求めていたとでも言うように、吸い寄せられるように真正面から交差して……、
会場全体を眩いばかりの光が覆いつくした。
776: 東方魔戯歌伝 2012/04/22(日) 11:10:20.40 ID:o86NUcWj0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
まどか「……引き分け、だね」
四肢を大の字に投げ出したまどかが、ポツリと一言、呟く。
少し離れた場所で同じ様に仰向けになって倒れていたクリームヒルトも小さく首肯する。
クリームヒルト「そうみたい、だね……」
力なく地面に寝転がったままの二人に、先刻までの神々しさは微塵もない。
あるのはとてつもない疲労感と、全てを出し切ったと言う充足感だけ。
まどか「はぁ、まさか本当に受け止められちゃうとは思わなかったなぁ……。 全力だったんだよ?さっきのアレ……」
クリームヒルト「ティヒヒ、受け止めさせて貰いました。 全部の力、根こそぎ持っていかれちゃったけど……」
まどか「それは私も同じだよ。 こんなに力使ったの、概念になってから初めてかも……」
「弾幕戦って結構ハードなんだねぇ……」とぼやきにも似た呟きを漏らすまどか。
その言葉にクリームヒルトは思わず苦笑する。
クリームヒルト「 『遊びだけど本気で』 が、幻想郷での鉄の掟だからね」
まどか「どうりで……、ここの人たち、やけに強いんだもん。 これが“遊び”なら納得だよ……」
そう言ってお互いに顔を見合わせた二人は、同時に笑みをこぼす。
まどかと二人でひとしきり笑いあっていると、遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。
幽々子「クリームヒルトちゃ~ん!」
クリームヒルト「ん?あれ? 幽々子……さん?」
声のした方に首だけ動かしてそちらを見ると、幽々子が妖夢と共にこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
どちらかと言えばいつも悠然としている彼女にしては珍しく、息を切らせて駆けてきた幽々子は、その場に膝をついてクリームヒルトを抱き寄せる。
幽々子「大丈夫、クリームヒルトちゃん? なんだか最後、すごい事になってたみたいだけど……」
クリームヒルト「あっ、はい、お陰さまで何とか……」
相変わらず力は入らなかったが、それでもクリームヒルトは出来る限りの笑顔を作ってみせる。
身なりこそボロボロではあったが、クリームヒルトはどこか誇らしげで……、幽々子はそんな姿に、内心胸を撫で下ろした。
幽々子「良かったわぁ、クリームヒルトちゃんが無事で……。
私、クリームヒルトちゃんのことが心配で心配で、お弁当も喉を通らなかったのよ?」
妖夢「あれ?確か幽々子様、決着の瞬間もポップコーン食べてまし……もがっ!?」
空気を読まずに余計な事を口走りかけた従者の口を、幽々子は目にも留まらない早さで塞ぐ。
いきなり口を塞がれ、暴れだす妖夢を更に押さえ込む幽々子にクリームヒルトはただただ苦笑する事しか出来なかった。
まどか「……引き分け、だね」
四肢を大の字に投げ出したまどかが、ポツリと一言、呟く。
少し離れた場所で同じ様に仰向けになって倒れていたクリームヒルトも小さく首肯する。
クリームヒルト「そうみたい、だね……」
力なく地面に寝転がったままの二人に、先刻までの神々しさは微塵もない。
あるのはとてつもない疲労感と、全てを出し切ったと言う充足感だけ。
まどか「はぁ、まさか本当に受け止められちゃうとは思わなかったなぁ……。 全力だったんだよ?さっきのアレ……」
クリームヒルト「ティヒヒ、受け止めさせて貰いました。 全部の力、根こそぎ持っていかれちゃったけど……」
まどか「それは私も同じだよ。 こんなに力使ったの、概念になってから初めてかも……」
「弾幕戦って結構ハードなんだねぇ……」とぼやきにも似た呟きを漏らすまどか。
その言葉にクリームヒルトは思わず苦笑する。
クリームヒルト「 『遊びだけど本気で』 が、幻想郷での鉄の掟だからね」
まどか「どうりで……、ここの人たち、やけに強いんだもん。 これが“遊び”なら納得だよ……」
そう言ってお互いに顔を見合わせた二人は、同時に笑みをこぼす。
まどかと二人でひとしきり笑いあっていると、遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。
幽々子「クリームヒルトちゃ~ん!」
クリームヒルト「ん?あれ? 幽々子……さん?」
声のした方に首だけ動かしてそちらを見ると、幽々子が妖夢と共にこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
どちらかと言えばいつも悠然としている彼女にしては珍しく、息を切らせて駆けてきた幽々子は、その場に膝をついてクリームヒルトを抱き寄せる。
幽々子「大丈夫、クリームヒルトちゃん? なんだか最後、すごい事になってたみたいだけど……」
クリームヒルト「あっ、はい、お陰さまで何とか……」
相変わらず力は入らなかったが、それでもクリームヒルトは出来る限りの笑顔を作ってみせる。
身なりこそボロボロではあったが、クリームヒルトはどこか誇らしげで……、幽々子はそんな姿に、内心胸を撫で下ろした。
幽々子「良かったわぁ、クリームヒルトちゃんが無事で……。
私、クリームヒルトちゃんのことが心配で心配で、お弁当も喉を通らなかったのよ?」
妖夢「あれ?確か幽々子様、決着の瞬間もポップコーン食べてまし……もがっ!?」
空気を読まずに余計な事を口走りかけた従者の口を、幽々子は目にも留まらない早さで塞ぐ。
いきなり口を塞がれ、暴れだす妖夢を更に押さえ込む幽々子にクリームヒルトはただただ苦笑する事しか出来なかった。
777: 東方魔戯歌伝 2012/04/22(日) 11:14:15.38 ID:o86NUcWj0
まどか「…………」
クリームヒルトと幽々子がそんな風に戯れている様子を、まどかは黙って見守っていた。
微笑ましさすら感じる二人(+α)のやり取りに、悪戯心が芽生えたまどかは、クリームヒルトたちに聞こえるようにわざとらしくぼやいてみせる。
まどか「はぁ、なんだか妬けちゃうなぁ~。 ねぇ、魔女の私、もしかしてわざと見せつけてない?」
クリームヒルト「っ!? そ、そんな訳ないでしょ!? いくらアウェイだからって、ちょっと卑屈になりすぎてない?」
まどか「あはは、ごめんごめん。 でも、羨ましいのはホントだよ。 あ~あ、私も誰かに慰めて貰いたいなぁ~」
クリームヒルト「…………」
頬を膨らませて抗議するクリームヒルトに、まどかは苦笑いを浮かべつつ、素直な気持ちを口にする。
そんなまどかにクリームヒルトは一声掛けようとして……、それとは別の、良く通る声に遮られた。
???「まどか~っ!!」
ドップラー効果が全開にかかったその声はクリームヒルトやまどかがよく知る親友の声で……、
その声が轟音に近い足音と共に近づいてくる。
まどか「あれ? この声は……オクタヴィアちゃん? もう動けるようになったのかな?」
クリームヒルト「う~ん、違うみたいだよ。 ほら……」
クリームヒルトのラストスペルに巻き込まれた割りには早すぎる復活に、まどかがその場で首を傾げると、
幽々子に抱えられて居た為、声の主を見る事が出来たクリームヒルトがすかさず訂正する。
背後を指差すクリームヒルトに釣られ、振り返った先に居たのは……、
さやか「まぁぁぁどぉぉぉぉかあああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
オクタヴィアには無い、二本の足で畑の中の畦道を疾駆する少女――美樹さやかの姿だった。
思いもよらぬ事態に、まどかはこれ以上無いと言うほど目を丸くする。
まどか「っ!? さやかちゃん!? どうしてここに居……」
さやか「この阿呆んだらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
まどか「へぶぅっ!?」
当然の疑問を漏らしかけたまどかにさやかの罵声と右ストレートが突き刺さる。
次の瞬間、まどかの身体は綺麗な放物線を描きつつ宙を舞い……、数瞬の後、地面にグシャリと叩き付けられた。
778: 東方魔戯歌伝 2012/04/22(日) 11:20:31.94 ID:o86NUcWj0
クリームヒルト「へ……? えっ?あっ……、ええっ!? が、概念の私、大丈夫っ!?」
幽々子「あら、見事な右ストレートね」
妖夢「…………(ポカーン」
余りの急展開に一瞬呆けてしまったクリームヒルトは、我に返ると慌ててまどかを抱き起こす。
一方の幽々子は驚いているのかいないのか良く分からない感想を漏らしつつ、その様子を見守っている。
妖夢は完全に度肝を抜かれてしまったのか、完全に固まっていた。
そんなクリームヒルトたちには一切目もくれず、ずかずかと迫ってきたさやかは、殴られた頬を押さえて呆けているまどかを怒鳴り付ける。
さやか「あんたねぇ、何が 「みんなの笑顔が辛い」 よ!? その笑顔を作ったのは、笑える世界を創ったのは他ならぬあんたでしょ!?
まどかが創らなきゃ、あたしたちは笑う事も出来なかったの! まどかは十分、あたしたちを救ったの!
あたしたちにもう一度笑顔をくれた女神さまを……、うぅん、あたしの大切な親友を、一人で決め付けて否定しないで!」
まどか「なん……で? どうしてその事をさやかちゃんが……?」
さやか「お節介な妖怪が来て教えてくれたんだよ。「スキマで幻想郷を覗いてみろ」って……。
そしたらこんな事になってるんだもん。 涙の衝撃告白に流石のさやかちゃんもビックリだよ」
まどか「ご、ごめん……」
さやか「あたしに謝ってどうするのよ? 言ったでしょ?あたしの親友を否定しないで、って……」
謝る相手が違うよ。と強い剣幕で言われ、まどかは思わず縮こまる。
そんなまどかの肩にさやかはそっと腕を回すとまどかの耳元で優しく囁く。
さやか「まどか、あたしたちの方こそゴメンね。あんたが苦しんでるのに気付けなくて……」
その言葉は、渇いた大地に降る恵みの雨のように……。
さやか「あたしバカだからさ、言ってくれないと気付けないんだよね。
だからさ、今度こー言う事があったら、すぐに話してよ。 相談ぐらいならいつでものってあげるからさ……」
永い時を渡るうちに傷ついてしまった少女の心に深く、深く染み渡って……、
やがてそれは、大粒の涙となって概念の少女の瞳から溢れだした。
まどか「さやかちゃん……。 うん、ありがとう……」
目尻に涙を光らせつつ、そう答えたまどかの表情は……、晴れやかな笑顔だった。
779: 東方魔戯歌伝 2012/04/22(日) 11:30:51.47 ID:o86NUcWj0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
クリームヒルト「…………幽々子さん」
幽々子「ええ、邪魔者は退散しましょうか……」
クリームヒルトと幽々子は静かに頷きあうと、妖夢を連れて会場を後にした。
流れ弾被害防止の為に神奈子たちが張った結界をすり抜けた所でクリームヒルトはどっと息を吐いた。
クリームヒルト「はぁ~っ、良かったぁ~」
吐いた息と共に、再び身体から力が一気に抜け、クリームヒルトはその場にへたり込む。
今はただ、今回の件をどうにか収める事が出来たという安堵感だけがそこにあった。
幽々子「お疲れさま。 ふふっ、今回は大手柄ね」
妖夢「本当ですよ。あれ程の戦いを大きな被害もなく収めてしまったんですから……。 感服しました」
クリームヒルト「そんな、大げさですよ。 元はと言えば私が蒔いた種だし、それに私は最後まで独りじゃなかったし……」
最初から最後まで共に戦ってくれた霊夢や早苗。
危険な戦いだと承知しつつ加勢に来てくれた魔理沙とオクタヴィア。
彼女たちの助力が無ければ、この結果はありえなかった。
まどかの圧倒的な弾幕を前に成す術もなくやられていたに違いない。
クリームヒルト「あっ、そう言えば霊夢さんたちは大丈夫なんですか?」
幽々子「それなら大丈夫よ。 ほら……」
クリームヒルト「へっ? ……っ!」
思い出したようにクリームヒルトが訪ねると、幽々子は微笑みながらクリームヒルトの背後を指差した。
振り返ったクリームヒルトの視線の先に居たのは……、
オクタヴィア「お~い! クリームヒルト~っ!」
早苗「大丈夫ですかーっ?」
弾幕戦でボロボロになった姿のまま、大きく手を振ってみせるオクタヴィアと早苗に……、
霊夢「よくもまあ、あんな大声が出せるわね。 私としては早く帰って休みたいんだけど……」
魔理沙「今回ばかりは同意するぜ。 ま、そうは問屋が卸さないだろうけどな」
その後ろで、疲れを隠そうともせず愚痴をこぼしている霊夢と魔理沙に……、
クリームヒルト「…………幽々子さん」
幽々子「ええ、邪魔者は退散しましょうか……」
クリームヒルトと幽々子は静かに頷きあうと、妖夢を連れて会場を後にした。
流れ弾被害防止の為に神奈子たちが張った結界をすり抜けた所でクリームヒルトはどっと息を吐いた。
クリームヒルト「はぁ~っ、良かったぁ~」
吐いた息と共に、再び身体から力が一気に抜け、クリームヒルトはその場にへたり込む。
今はただ、今回の件をどうにか収める事が出来たという安堵感だけがそこにあった。
幽々子「お疲れさま。 ふふっ、今回は大手柄ね」
妖夢「本当ですよ。あれ程の戦いを大きな被害もなく収めてしまったんですから……。 感服しました」
クリームヒルト「そんな、大げさですよ。 元はと言えば私が蒔いた種だし、それに私は最後まで独りじゃなかったし……」
最初から最後まで共に戦ってくれた霊夢や早苗。
危険な戦いだと承知しつつ加勢に来てくれた魔理沙とオクタヴィア。
彼女たちの助力が無ければ、この結果はありえなかった。
まどかの圧倒的な弾幕を前に成す術もなくやられていたに違いない。
クリームヒルト「あっ、そう言えば霊夢さんたちは大丈夫なんですか?」
幽々子「それなら大丈夫よ。 ほら……」
クリームヒルト「へっ? ……っ!」
思い出したようにクリームヒルトが訪ねると、幽々子は微笑みながらクリームヒルトの背後を指差した。
振り返ったクリームヒルトの視線の先に居たのは……、
オクタヴィア「お~い! クリームヒルト~っ!」
早苗「大丈夫ですかーっ?」
弾幕戦でボロボロになった姿のまま、大きく手を振ってみせるオクタヴィアと早苗に……、
霊夢「よくもまあ、あんな大声が出せるわね。 私としては早く帰って休みたいんだけど……」
魔理沙「今回ばかりは同意するぜ。 ま、そうは問屋が卸さないだろうけどな」
その後ろで、疲れを隠そうともせず愚痴をこぼしている霊夢と魔理沙に……、
780: 東方魔戯歌伝 2012/04/22(日) 11:32:41.38 ID:o86NUcWj0
文「まぁまぁそう仰らずに……。 かけ金を集めに集めたのに結果が引き分けでしたからね。 お金の有効活用です」
諏訪子「あれ? でもそれって、集めたお金を皆に返せば良いだけのような……?」
神奈子「大方、集めすぎて返すのが面倒臭くなったんだろう。 全く、山の連中は変なところで適当なんだから……」
ロベルタ「まぁまぁ、酒が飲めるんだから別に良いじゃないか」
萃香「そうそう、細かい事は気にしな……」
全員「「「「話をややこしくしたお前らが言うなッ!!」」」」
酒樽やら料理を並べて宴の準備をしている幻想郷の面々の姿が、そこにあった。
クリームヒルト「…………」
そんな光景を、クリームヒルトはへたり込んだまま黙って眺めていた。
そこへ、真横からすっと手が差し伸べられる。
手を差し伸べていたのは幽々子だった。
幽々子「さぁ、クリームヒルトちゃん、私たちも宴会に加わりましょう?」
クリームヒルト「そう……ですね。 でも、それならまずは主賓を呼ばないとですよ? 幽々子さん」
差し伸べられた手を取って立ち上がったクリームヒルトは来た道の方を見る。
一瞬だけ、幽々子は怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐに納得したのかその表情を崩す。
幽々子「主賓? ああ、そう言えばそうだったわね。 それじゃあ、呼んで来ましょうか?」
クリームヒルト「はい、概念の私とさやかちゃんの二人を呼びに……、ね!」
東方魔戯歌伝 ~ お わ り ~
781: 東方魔戯歌伝 2012/04/22(日) 11:35:02.24 ID:o86NUcWj0
―――――――――――――― 【オマケ その後のまど神さま①】 ――――――――――――――
まどか「ちょ、ちょっと待って、待とうよ魔女の私。 そもそも今回の原因は、私がお酒に酔っちゃったからで……、だから考え直そう? ね?」
目尻に涙を浮かべつつ、概念の少女は手と首を力なく横に振る。
尻餅をついた状態で壁際まで追い込まれた彼女に最早逃げ道は無い。
すっかり怯えきったその姿は、小動物のようで……、凛々しい姿しか見たことの無い円環の住人が見たら、目を丸くしたに違いない。
まどかの事を良く知っているさやか以外、この場に円環の住人が居なかったのがせめてもの救いと言えるだろう。
文「いや~、良い怯えっぷりですね~。 こういう反応は幻想郷じゃ珍しいですからねぇ……」パシャッパシャッパシャッ
さやか「あっ、その写真、後であたしにも頂戴。 皆に見せないと……」
訂正、救いなんてありませんでした。
あっさりと親友を見限ったさやかに、心の中でありったけの呪詛を吐いていると、まどかを追い詰めていた少女、クリームヒルトが周囲を見渡しながら言う。
クリームヒルト「皆さ~ん、こんな事言ってますがどうします?」
魔理沙「聞く必要あるのか? それ……」
霊夢「そうね。 答えなんて決まってるじゃない」
早苗「同じ下戸として、骨だけは拾ってあげますね」
オクタヴィア「ゴメンまどか、私には何も出来ないよ……」
幽々子「と、言う訳で……、クリームヒルトちゃん、やっちゃいなさい」
クリームヒルト「は~い!」
まどか「魔女の私のバカっ! 鬼畜っ! 魔性の女~っ!!」
下された刑は、満場一致での死刑宣告。
嬉々として迫ってくるクリームヒルトにまどかは最後の足掻きと罵声を浴びせかける。 が、しかし……
クリームヒルト「ティヒヒ、だって私、“魔女”だもん! それじゃ、行っくよ~っ!」
まどか「っ!? ぁ……、そんな……、こんな事って……! ぃ、いやあああああああああああああああああっ!!!?」
まどかのこれ以上無いと言うほど大きな悲鳴は神無月の高い空に響き、吸い込まれていった。
因みにこれは全くの余談だが、この様子を終始スキマで見ていた現世の魔法少女たちは、この宴会での惨状を見て、
『早まった真似をしなくて良かった』と、ほむらを含む全員が胸を撫で下ろしたそうな。
まどか「ちょ、ちょっと待って、待とうよ魔女の私。 そもそも今回の原因は、私がお酒に酔っちゃったからで……、だから考え直そう? ね?」
目尻に涙を浮かべつつ、概念の少女は手と首を力なく横に振る。
尻餅をついた状態で壁際まで追い込まれた彼女に最早逃げ道は無い。
すっかり怯えきったその姿は、小動物のようで……、凛々しい姿しか見たことの無い円環の住人が見たら、目を丸くしたに違いない。
まどかの事を良く知っているさやか以外、この場に円環の住人が居なかったのがせめてもの救いと言えるだろう。
文「いや~、良い怯えっぷりですね~。 こういう反応は幻想郷じゃ珍しいですからねぇ……」パシャッパシャッパシャッ
さやか「あっ、その写真、後であたしにも頂戴。 皆に見せないと……」
訂正、救いなんてありませんでした。
あっさりと親友を見限ったさやかに、心の中でありったけの呪詛を吐いていると、まどかを追い詰めていた少女、クリームヒルトが周囲を見渡しながら言う。
クリームヒルト「皆さ~ん、こんな事言ってますがどうします?」
魔理沙「聞く必要あるのか? それ……」
霊夢「そうね。 答えなんて決まってるじゃない」
早苗「同じ下戸として、骨だけは拾ってあげますね」
オクタヴィア「ゴメンまどか、私には何も出来ないよ……」
幽々子「と、言う訳で……、クリームヒルトちゃん、やっちゃいなさい」
クリームヒルト「は~い!」
まどか「魔女の私のバカっ! 鬼畜っ! 魔性の女~っ!!」
下された刑は、満場一致での死刑宣告。
嬉々として迫ってくるクリームヒルトにまどかは最後の足掻きと罵声を浴びせかける。 が、しかし……
クリームヒルト「ティヒヒ、だって私、“魔女”だもん! それじゃ、行っくよ~っ!」
まどか「っ!? ぁ……、そんな……、こんな事って……! ぃ、いやあああああああああああああああああっ!!!?」
まどかのこれ以上無いと言うほど大きな悲鳴は神無月の高い空に響き、吸い込まれていった。
因みにこれは全くの余談だが、この様子を終始スキマで見ていた現世の魔法少女たちは、この宴会での惨状を見て、
『早まった真似をしなくて良かった』と、ほむらを含む全員が胸を撫で下ろしたそうな。
782: 東方魔戯歌伝 2012/04/22(日) 11:52:33.95 ID:o86NUcWj0
―――――――――――――― 【オマケ その後のまど神さま②】 ――――――――――――――
クリームヒルト「ねぇ、概念の私、いい加減帰ったらどう? いつまでも主神さまが不在じゃ円環(向こう)も大変だと思うんだけど……」
『神無月の御乱神事件』の数日後、まどかはまだ幻想郷に居た。
自分の家のようにすっかりくつろいでいるまどかに、クリームヒルトが促すように声を掛ける。
が、しかしまどかはあっさりと、そしてやんわりとその言葉を拒否する。
まどか「嫌だよ。さやかちゃんが広めてくれちゃったせいで、みんなが私にお酒を飲ませようとするんだもん。 みんなが反省するまで絶対に帰りません」
クリームヒルト「だからって私の家に転がり込まなくても……」
まどか「現世のほむらちゃんたちはほむらちゃんたちで、なんか妙に優し過ぎると言うか、余所余所しいんだもん。
そ・れ・に! 弾幕戦の練習をするなら幻想郷(ここ)が一番だしね!」
帰ったらさやかちゃんに目に物見せてやる!と意気込む概念の少女にクリームヒルトはがっくりと肩を落とした。
そして、近い将来親友を襲うであろう悲劇に、心の中で静かに合掌する。
クリームヒルト「はぁ……、それも程々にしておいてね? 概念の私がしょっちゅう勝負を仕掛けてるせいで、この辺が最近物騒になったって言われるんだよ?」
近所付き合いの面から見ても好ましくない事態に、クリームヒルトが釘を刺す。
そんな苦労を知ってか知らずか、まどかはやけに自信に満ちた表情で胸を張りながら答える。
まどか「大丈夫、強そうな人にしか勝負を仕掛けてないし、大体が接戦で終わるから」
クリームヒルト「うん、それが問題なんだって、概念の私……。 今度挨拶回り行かないと……」
永遠亭に守矢神社、命蓮寺、まどかが対戦を吹っかけた有力所を思い出しながら、クリームヒルトはため息をついた。
どんな菓子折りを持って行こうか、とまで考えたクリームヒルトは、次の瞬間、まどかの思わぬ言葉に目を剥いた。
まどか「あっ! 吸血鬼さんの所の妹さんと鴉天狗さん見っけ! すいませ~ん!ちょっと話があるんですけど~!」
クリームヒルト「ちょっ!?概念の私!? それ洒落にならないから! せめて場所変えてよ、ねぇ!? ねぇってばぁ!!」
この後、幻想郷縁起にて、鹿目まどかの欄に 『好戦性:極めて高』 などと書かれる羽目になるのだが、まあ当然であると言えよう。
クリームヒルト「ねぇ、概念の私、いい加減帰ったらどう? いつまでも主神さまが不在じゃ円環(向こう)も大変だと思うんだけど……」
『神無月の御乱神事件』の数日後、まどかはまだ幻想郷に居た。
自分の家のようにすっかりくつろいでいるまどかに、クリームヒルトが促すように声を掛ける。
が、しかしまどかはあっさりと、そしてやんわりとその言葉を拒否する。
まどか「嫌だよ。さやかちゃんが広めてくれちゃったせいで、みんなが私にお酒を飲ませようとするんだもん。 みんなが反省するまで絶対に帰りません」
クリームヒルト「だからって私の家に転がり込まなくても……」
まどか「現世のほむらちゃんたちはほむらちゃんたちで、なんか妙に優し過ぎると言うか、余所余所しいんだもん。
そ・れ・に! 弾幕戦の練習をするなら幻想郷(ここ)が一番だしね!」
帰ったらさやかちゃんに目に物見せてやる!と意気込む概念の少女にクリームヒルトはがっくりと肩を落とした。
そして、近い将来親友を襲うであろう悲劇に、心の中で静かに合掌する。
クリームヒルト「はぁ……、それも程々にしておいてね? 概念の私がしょっちゅう勝負を仕掛けてるせいで、この辺が最近物騒になったって言われるんだよ?」
近所付き合いの面から見ても好ましくない事態に、クリームヒルトが釘を刺す。
そんな苦労を知ってか知らずか、まどかはやけに自信に満ちた表情で胸を張りながら答える。
まどか「大丈夫、強そうな人にしか勝負を仕掛けてないし、大体が接戦で終わるから」
クリームヒルト「うん、それが問題なんだって、概念の私……。 今度挨拶回り行かないと……」
永遠亭に守矢神社、命蓮寺、まどかが対戦を吹っかけた有力所を思い出しながら、クリームヒルトはため息をついた。
どんな菓子折りを持って行こうか、とまで考えたクリームヒルトは、次の瞬間、まどかの思わぬ言葉に目を剥いた。
まどか「あっ! 吸血鬼さんの所の妹さんと鴉天狗さん見っけ! すいませ~ん!ちょっと話があるんですけど~!」
クリームヒルト「ちょっ!?概念の私!? それ洒落にならないから! せめて場所変えてよ、ねぇ!? ねぇってばぁ!!」
この後、幻想郷縁起にて、鹿目まどかの欄に 『好戦性:極めて高』 などと書かれる羽目になるのだが、まあ当然であると言えよう。
796: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/03(木) 07:46:52.73 ID:9XHmyMRJ0
静葉「~~~~♪」
秋静葉。
豊穣神・秋穣子の姉であり、幻想郷の季節を担う季節神の一柱である彼女は、基本的に物静かな性格であると言われている。
現に普段から里を飛んで回っている妹の穣子などと比べると、あまり動き回るような質でもなく、
むしろそんな穣子や訪ねてきた客人をニコニコと見守って居る事の方が多い為、その評は外れとは言えない。
そんな静葉だが、この日ばかりは勝手が違った。
いつも以上のニコニコ顔で妖怪の山を行く静葉の足取りは飛ぶように軽く、更には鼻歌まで口ずさんでいる。
誰がどう見ても明らかに彼女は上機嫌だった。
静葉「ふふ、今年もようやくこの日が来たのね。 里や山を美しく染め上げるこの日が……」
自然と緩む表情を引き締める事すらする事なく、静葉は山の奥へ奥へと分け入っていく。
そんな彼女に最初に気が付いたのは、守矢神社の前で立ち話に花を咲かせていた二人の少女だった。
オクタヴィア「……早苗はさ、コンビーフの缶詰の秘密って知ってる?」
早苗「コンビーフ? いいえ、ちょっと分かりませんね。 それって一体どんな……、ん?って、あれは……、静葉さま?」
オクタヴィア「えっ?静葉……? ホントだ、こんな山奥まで何しに来たんだろう……」
最初に静葉に気が付いた早苗の声に釣られ、振り返ったオクタヴィアは、珍しい来訪者に首を傾げた。
『山の麓にある社(と言う名の掘っ建て小屋)からあまり動かない』、『出歩くにしても穣子とセットで』、と言うイメージが強い静葉が、
何故こんな山奥を一人で歩いているのか、不思議に思ったからだ。
一方の早苗は、最初こそ怪訝な顔をしていたが、すぐに納得したのか、ポンッと手を叩きつつ呟く。
早苗「ああ、そう言えばもうそんな季節でしたねぇ~」
オクタヴィア「ん?なに、早苗は何か知ってるの?」
早苗「ええ、今日は静葉さまの年に一度の大仕事の日なんですよ」
オクタヴィア「? どう言う事?」
余計に分からないよと言うように顔をしかめるオクタヴィア。
そんな彼女に早苗は少し考えてから答えの代わりにある提案を持ち掛ける。
早苗「ん~、そうですね。口で言うより見た方が早いでしょうから、ちょっとついて行ってみましょう」
797: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/03(木) 07:49:22.00 ID:9XHmyMRJ0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
静葉「う~ん、この辺で良いかしら?」
山の頂上近くにある大木のてっぺんに登った静葉は、そう言うと辺りをきょろきょろと見回した。
山を見て、麓を見て、里を見て、丘を見て、幻想郷の主だった所を一通り見回すと静葉は満足げに頷いた。
静葉「うん、良さそうね。 天気も良いし、風は穏やかだし、今日は絶好の紅葉日和ね。 それじゃあ……」
そう言うと静葉は静かに目を瞑った。
静葉の周りに力が集まり始め、それが溢れんばかりの量になったところで一気に解き放つ。
解き放たれた力は最初は山の木々に、そこから徐々に麓に、里に、丘にへと広がっていく。
木々の葉にはあらかじめ静葉が呪を仕込んでいて、トリガー代わりのこの力を受けた木々は、
一斉に夏の面影が残る緑や黄緑の衣を脱ぎ捨て、色鮮やかな朱や黄に、次々と染まっていく。
その光景を眺めながら静葉はこれ以上ないと言うほどの高揚感と優越感を感じていた。
静葉「ふふ、今年もみんな綺麗に染まったわね。 さぁ、もっと良い色を魅せてちょうだい!」
オクタヴィア「おぉっ!?すごっ!?」
その様子を近くの茂みの中からこっそり覗いていたオクタヴィアは思わず声を上げていた。
その隣で同じ様に静葉の儀式を見ていた早苗も感嘆の声を漏らす。
早苗「やっぱりそう思います? これが静葉さまが司る秋の季節神としての役目の一つなんですよ」
オクタヴィア「うん、これは素直に凄いと思うよ。 こんな綺麗な紅葉、あたし見たことないもん」
早苗「異常気象や大気汚染で紅葉がダメになってしまう所が多いですからね。
かく言う私も、ここまで綺麗な紅葉は、幻想郷に来て初めて見ました」
「神奈子さまたちに言わせると昔は諏訪の地もこんな風だったそうなんですけどね」と小声で呟きつつ、早苗は複雑そうに苦笑した。
その苦笑の意味を早苗は決して語らなかったが、オクタヴィアには何となく早苗の言いたい事が分かってしまった。
かつては何処でも見られたであろうこの感動的な景色を、“幻想”にしてしまったのは他ならぬ外の世界の人間だ。
モノの豊かさと引き換えに、捨ててしまった豊かさの一つがこの景色なのだと、オクタヴィアや早苗は痛感させられたのだ。
オクタヴィア「なるほどねぇ……、こりゃ静葉も張り切る訳だ。 こんな檜舞台に立ったらあたしでもテンション上がるわ」
早苗「ええ、そう思います。 さて、それじゃあお邪魔になっては悪いので、そろそろ私たちは……」
静葉「う~ん、この辺で良いかしら?」
山の頂上近くにある大木のてっぺんに登った静葉は、そう言うと辺りをきょろきょろと見回した。
山を見て、麓を見て、里を見て、丘を見て、幻想郷の主だった所を一通り見回すと静葉は満足げに頷いた。
静葉「うん、良さそうね。 天気も良いし、風は穏やかだし、今日は絶好の紅葉日和ね。 それじゃあ……」
そう言うと静葉は静かに目を瞑った。
静葉の周りに力が集まり始め、それが溢れんばかりの量になったところで一気に解き放つ。
解き放たれた力は最初は山の木々に、そこから徐々に麓に、里に、丘にへと広がっていく。
木々の葉にはあらかじめ静葉が呪を仕込んでいて、トリガー代わりのこの力を受けた木々は、
一斉に夏の面影が残る緑や黄緑の衣を脱ぎ捨て、色鮮やかな朱や黄に、次々と染まっていく。
その光景を眺めながら静葉はこれ以上ないと言うほどの高揚感と優越感を感じていた。
静葉「ふふ、今年もみんな綺麗に染まったわね。 さぁ、もっと良い色を魅せてちょうだい!」
オクタヴィア「おぉっ!?すごっ!?」
その様子を近くの茂みの中からこっそり覗いていたオクタヴィアは思わず声を上げていた。
その隣で同じ様に静葉の儀式を見ていた早苗も感嘆の声を漏らす。
早苗「やっぱりそう思います? これが静葉さまが司る秋の季節神としての役目の一つなんですよ」
オクタヴィア「うん、これは素直に凄いと思うよ。 こんな綺麗な紅葉、あたし見たことないもん」
早苗「異常気象や大気汚染で紅葉がダメになってしまう所が多いですからね。
かく言う私も、ここまで綺麗な紅葉は、幻想郷に来て初めて見ました」
「神奈子さまたちに言わせると昔は諏訪の地もこんな風だったそうなんですけどね」と小声で呟きつつ、早苗は複雑そうに苦笑した。
その苦笑の意味を早苗は決して語らなかったが、オクタヴィアには何となく早苗の言いたい事が分かってしまった。
かつては何処でも見られたであろうこの感動的な景色を、“幻想”にしてしまったのは他ならぬ外の世界の人間だ。
モノの豊かさと引き換えに、捨ててしまった豊かさの一つがこの景色なのだと、オクタヴィアや早苗は痛感させられたのだ。
オクタヴィア「なるほどねぇ……、こりゃ静葉も張り切る訳だ。 こんな檜舞台に立ったらあたしでもテンション上がるわ」
早苗「ええ、そう思います。 さて、それじゃあお邪魔になっては悪いので、そろそろ私たちは……」
798: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/03(木) 07:51:25.57 ID:9XHmyMRJ0
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`;;i|l|li||lll|||il;i:ii,..,.i||l´i,,.;,.. .il `, ,i|;.,l;;:`ii||iil||il||il||l||i|lii゙ゝ
゙゙´`´゙-;il||||il|||li||i||iiii;ilii;lili;||i;;;,,|i;,:,i|liil||ill|||ilill|||ii||lli゙/`゙
´゙`゙⌒ゞ;iill|||lli|llii:;゙|lii|||||l||ilil||i|llii;|;_゙ι´゚゙´`゙
ちょどおおおおおおおおおおおん!!
オクタ&早苗「「って、ええェェェェェェェェェェ!?」」
799: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/03(木) 07:53:03.29 ID:9XHmyMRJ0
静葉「 (゚Д゚)ポカーン… 」
感動的な場面から一転、絨毯爆撃の方がまだマシだと思える程の焦土と化した山にオクタヴィアたちはおろか、当の静葉すら絶句する。
静葉の中に満ちていた優越感や高揚感は一気に失せ、代わりに芽生えたある感情が、頬を伝う一滴の粒となって溢れだす。
静葉「ぐすっ……、ひぐっ……」
オクタヴィア「え~っと、静葉……さん?」
静葉「っ!?」
早苗「あー、私たちの事は気にしなくて良いので、むしろ思いっきり泣いて下さい。 なんなら胸を貸しますよ?」
静葉「うっ……、ぐすっ……、うわ~ん!!」
オクタヴィアたちが現れたことに、静葉は一瞬だけびくりとなったが、二人の言葉に堰を切ったように泣き出した。
十数日間に及ぶ仕込みが、ようやく日の目を見たかと思ったら、一瞬にして灰燼に帰してしまったのだ。
その心中は察するに余りある。
と、そこに純白の衣を纏った、概念の少女が慌てた様子でやって来る。
まどか「ごめんなさ~い、撃ち損じちゃいました~。 大丈夫でしたか……って、オクタヴィアちゃんと早苗さん?」
オクタヴィア「ああ、さっきのはまどかのか……。 まどか、とりあえず静葉に土下座」
まどか「へ?」
最初こそ怪訝そうな顔をしていたまどかだが、背後の惨状とオクタヴィアの説明を聞くうちに、見る見るうちに顔が青ざめていく。
この後、まどかに暫らくの間、幻想郷への出入り禁止令が言い渡されたのは言うまでもない。
800: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/03(木) 07:53:30.53 ID:9XHmyMRJ0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~泡沫の人魚姫~ 【オクタヴィア】
能力 痛みを感じない程度の能力
危険度 中
人間友好度 中
主な活動場所 妖怪の山、玄武の沢、八坂の湖、守矢神社など
一見すると人魚に見える新参妖怪・魔女の一人。
人魚と聞くと、唄や悲恋と言った言葉を思い浮かべる人も多いと思うが、彼女も例外ではなく、彼女の場合、西洋音楽である。
美しくも哀しい調べを奏で続けるその音楽は聴き続けると生気を吸われるので注意が必要であり、
特に失恋直後の女性には効果抜群らしいので、夜道で物悲しい音楽が聞こえてきたら、まずは聞き流す事をお奨めする。
決してやってはいけないのは演奏を邪魔する事で、演奏を邪魔されると、音楽隊の中に引きずり込まれるので、絶対にやめてもらいたい。
そうなると彼女の気が済むまで延々と演奏をする羽目になる上、生気も吸われるので非常に疲れる。
死ぬことは無いらしいが、死ぬ方が楽だと言わしめる程疲れるので、バカにできない。
なお、音楽を奏でて居ない時の彼女は別段害は無いので、普通に接するのは問題ないと思われる。
〔能力〕
彼女の能力は普段ならなんの意味も持たないが、いざと言うときになると非常に厄介だ。
と言うのも、いくら攻撃受けても痛みを感じない為、いつまで経っても平然としていられるからだ。
実際には限度と言うモノがあるのだが、大筒3発程度ではびくともしないそうなので、普通の人間が相手をするのはまず不可能である。
〔対処法〕
基本的に害は無いので放置で構わない。
と言うか放置が一番無難である。
向こうから話し掛けて来た時はそれなりに話を合わせてやると良いかもしれない。
ただし色恋関係の話題はタブーに触れやすいので避けよう。
~泡沫の人魚姫~ 【オクタヴィア】
能力 痛みを感じない程度の能力
危険度 中
人間友好度 中
主な活動場所 妖怪の山、玄武の沢、八坂の湖、守矢神社など
一見すると人魚に見える新参妖怪・魔女の一人。
人魚と聞くと、唄や悲恋と言った言葉を思い浮かべる人も多いと思うが、彼女も例外ではなく、彼女の場合、西洋音楽である。
美しくも哀しい調べを奏で続けるその音楽は聴き続けると生気を吸われるので注意が必要であり、
特に失恋直後の女性には効果抜群らしいので、夜道で物悲しい音楽が聞こえてきたら、まずは聞き流す事をお奨めする。
決してやってはいけないのは演奏を邪魔する事で、演奏を邪魔されると、音楽隊の中に引きずり込まれるので、絶対にやめてもらいたい。
そうなると彼女の気が済むまで延々と演奏をする羽目になる上、生気も吸われるので非常に疲れる。
死ぬことは無いらしいが、死ぬ方が楽だと言わしめる程疲れるので、バカにできない。
なお、音楽を奏でて居ない時の彼女は別段害は無いので、普通に接するのは問題ないと思われる。
〔能力〕
彼女の能力は普段ならなんの意味も持たないが、いざと言うときになると非常に厄介だ。
と言うのも、いくら攻撃受けても痛みを感じない為、いつまで経っても平然としていられるからだ。
実際には限度と言うモノがあるのだが、大筒3発程度ではびくともしないそうなので、普通の人間が相手をするのはまず不可能である。
〔対処法〕
基本的に害は無いので放置で構わない。
と言うか放置が一番無難である。
向こうから話し掛けて来た時はそれなりに話を合わせてやると良いかもしれない。
ただし色恋関係の話題はタブーに触れやすいので避けよう。
801: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/03(木) 07:59:13.81 ID:9XHmyMRJ0
さとり「想起『ロイヤルフレア』」
エリー「いっけーっ! 恐符『マスタースパーク』」
カッ!
さとり「な、なかなかやりますね……(ガクガク」
エリー「そ、そっちもね……(ブルブル」
さと&エリ「「ふふ、ふふふふ…………」」
得意のトラウマ弾幕を相手にお見舞いしつつ、さとり妖怪の古明地さとりと、ハコの魔女・エリーは不敵に微笑んでみせた。
良く見ると、二人の膝はガクガクと震えていて、笑みを浮かべている筈の頬は引きつっているのだが、お互い余裕がないのか、そこに気付く事はない。
まるで鏡写しのように虚勢を張り続ける二人を見て、さとりのペットで旧灼熱地獄の管理者でもある火焔猫燐はため息をついた。
お燐「まったく、さとり様もあっちの子も無理しちゃって……、見てらんないよ」
こいし「ねぇ、お燐、お姉ちゃんたち止めなくて良いの?」
お燐「う~ん、あたいとしても止めたいのは山々なんだけどねぇ……」
いつの間にか隣に現れた古明地こいしに動じるどころか驚く事もなく、お燐は二人を見やる。
相対する二人は、普段の様を知っている者から見ると違和感を感じるほど、白熱している。
想起 『くずれ近未来都市』
恐符 『夢想封印』
超大技クラスの弾幕が交差し、その度にお互いから血の気が引いていく。
お燐「流石にあの中に割り込むのは勘弁してもらいたいねぇ……」
こいし「ああ、うん、確かにそうかも……」
どうしてこんな事になったのか、話は数時間前に遡る。
802: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/03(木) 08:02:52.28 ID:9XHmyMRJ0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
パチュリー「そう言えば、今更だけど、貴女の弾幕ってさとり妖怪と似てるわね」
ふと思い出したようにパチュリーがそんな事を言い出したのは冬も近付いて、そろそろ外を出歩くのが辛くなってきた日の事。
パチュリーの言葉にパソコンに向かっていたエリーは思わず顔を上げた。
エリー「さとり妖怪? なにそれ?」
パチュリー「常に相手の心を読んでる厄介な妖怪よ。 その能力故に嫌われてるから地底に篭って出てこないんだけど……」
エリー「なん……だと?」
パチュリー「?」
パチュリーの話を聞くなり、肩をわなわなと震わせ始めるエリー。
他愛ない会話、程度にしか考えていなかったパチュリーはその反応に思わず首を傾げる。
パチュリー「エリー? 一体どうしたのよ? 只でさえ不健康そうな顔が真っ青よ?」
エリー「読心術の使い手で、更には引き篭り……、マズいわ、弾幕どころかキャラまで丸被りじゃない!? って言うか寧ろ私の方が下位互換!?」
パチュリー「あ~、考えてみるとそうかもしれないわね……」
エリーの読心術はどちらかと言えば過去のトラウマに特化している。
現在進行形で読み取り放題なさとりと比べると、使い勝手は悪そうだ。
エリー「こうしちゃ居られないわ! そのサドリだかニトリって妖怪に目にもの見せてやらないと!」
パチュリー「あら?貴女がやる気になるなんて珍しい事もあるのね……」
エリー「アイデンティティーの危機なのよ! それじゃあパチュリー、私ちょっとそのさとりって子の所に行ってくるわね」
パチュリー「勝手にしなさい。 あっ、餞別代わりに行き方だけは教えてあげるわ。 だからこぁを拉致しようとするのはやめなさい」
勢い込んで出ていくエリーに地図を差し出しつつ、パチュリーが釘を刺すように言うと、エリーは笑いながら振り返る。
エリー「あはは、拉致?なにを言ってるのよ?そんな事私がするわけ無いでしょう?
それじゃあ、この地図はありがたく使わせて貰うわね~~」
地図を受け取り、そそくさと図書館を後にするエリー。
扉が閉まり、エリーの姿が見えなくなったところでパチュリーはポツリと呟いた。
パチュリー「そんな事、ねぇ……。 使い魔の召喚符を片手に持った状態で良くそんな事が言えたわね……」
エリーの使い魔、その性質は『運搬』である。
パチュリー「そう言えば、今更だけど、貴女の弾幕ってさとり妖怪と似てるわね」
ふと思い出したようにパチュリーがそんな事を言い出したのは冬も近付いて、そろそろ外を出歩くのが辛くなってきた日の事。
パチュリーの言葉にパソコンに向かっていたエリーは思わず顔を上げた。
エリー「さとり妖怪? なにそれ?」
パチュリー「常に相手の心を読んでる厄介な妖怪よ。 その能力故に嫌われてるから地底に篭って出てこないんだけど……」
エリー「なん……だと?」
パチュリー「?」
パチュリーの話を聞くなり、肩をわなわなと震わせ始めるエリー。
他愛ない会話、程度にしか考えていなかったパチュリーはその反応に思わず首を傾げる。
パチュリー「エリー? 一体どうしたのよ? 只でさえ不健康そうな顔が真っ青よ?」
エリー「読心術の使い手で、更には引き篭り……、マズいわ、弾幕どころかキャラまで丸被りじゃない!? って言うか寧ろ私の方が下位互換!?」
パチュリー「あ~、考えてみるとそうかもしれないわね……」
エリーの読心術はどちらかと言えば過去のトラウマに特化している。
現在進行形で読み取り放題なさとりと比べると、使い勝手は悪そうだ。
エリー「こうしちゃ居られないわ! そのサドリだかニトリって妖怪に目にもの見せてやらないと!」
パチュリー「あら?貴女がやる気になるなんて珍しい事もあるのね……」
エリー「アイデンティティーの危機なのよ! それじゃあパチュリー、私ちょっとそのさとりって子の所に行ってくるわね」
パチュリー「勝手にしなさい。 あっ、餞別代わりに行き方だけは教えてあげるわ。 だからこぁを拉致しようとするのはやめなさい」
勢い込んで出ていくエリーに地図を差し出しつつ、パチュリーが釘を刺すように言うと、エリーは笑いながら振り返る。
エリー「あはは、拉致?なにを言ってるのよ?そんな事私がするわけ無いでしょう?
それじゃあ、この地図はありがたく使わせて貰うわね~~」
地図を受け取り、そそくさと図書館を後にするエリー。
扉が閉まり、エリーの姿が見えなくなったところでパチュリーはポツリと呟いた。
パチュリー「そんな事、ねぇ……。 使い魔の召喚符を片手に持った状態で良くそんな事が言えたわね……」
エリーの使い魔、その性質は『運搬』である。
803: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/03(木) 08:08:38.34 ID:9XHmyMRJ0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そんなこんなで地底に足を踏み入れたエリーはトラウマ弾幕を駆使して地霊殿への殴り込みに成功したのだが……、
エリー「いやぁぁぁっ!? もうダメぇぇぇっ!?」
さとり「うぅっ……、もう限界……です」
ぴちゅーん!
トラウマの弄りあいと言う考えただけでも嫌な予感しかしない戦いは、両者が同時に音をあげると言う引き分けに終わった。
自身のトラウマを目の前で見せられつつ、相手のトラウマを探るという行為は、読心のプロである二人にとっても厳しいものがあったのだ。
ズタボロになった状態でエリーがぼやくように呟く。
エリー「はぁ~、さとりの能力が羨ましいなぁ~。
私の能力は基本的にトラウマ限定だから見てるこっちも気が滅入ってくるし、使い勝手は悪いし……」
さとり「そうですか? 年がら年中他人の思考が丸聞こえ、と言うのもあまり良いとは言えませんよ?
私からすると好きな時にだけ相手の心を覗き見る事が出来る貴女の能力の方が羨ましいぐらいです」
エリー「えー、そうかな~?」
さとり「そうですよ」
そんな会話を交わしているうちに、自然と二人から笑みがこぼれ始める。
お互いに無いものねだりをしているだけで、結局は大差が無い事に気が付いたからである。
エリー「散々トラウマ弄っといてなんだけど、さとりとは仲良くなれそうな気がする」
さとり「奇遇ですね。 私もそんな気がします……」
エリー「最近パチュリーの図書館も冷えるんだよねぇ。 冬場の別荘代わりに遊びに来てもいい?」
さとり「それでしたら本を何冊か持って来てくれませんか? 地底暮らしはいささか暇なので……」
「パチュリーの所から何冊か借りてくれば良いのね?」と聞き返すと、さとりは満足げに頷いた。
読書が趣味のさとりにとって、万を越えるという蔵書を持つ、紅魔館の地下図書館は一度は訪ねてみたい場所だったからだ。
心を読むという能力の都合上、地上にあまり顔を出すわけには行かないので、残念ながら訪問は一度たりとも実現していないのだが……。
エリー「さーて、そうと決まったら家に戻って冬篭りの準備をしてこないと……」
さとり「そうして下さい。冷え込み始めると早いですよ。 あっ、でも、その前に、あちらの方たちとも話をつけてから、にして下さいね?」
エリー「? あちらの方たち……、っ!?」
さとりに言われ、振り返ったエリーは、次の瞬間、血の気が引くのを感じた。
地霊殿の広間の入り口の前に見覚えのある影――ここに来るまでにトラウマ弾幕で蹴散らした地底の妖怪たちが居たからだ。
パルスィ「いきなり来て、人の傷口に塩を塗りこむとか、妬ましいわね」
ヤマメ「さっきは酷いご挨拶をしてくれちゃって、どーもありがとう。 お返しと言うかプレゼントがあるんだけど、受け取って貰えるかい?」
キスメ「…………(ニヤリ」
エリー「えっと……、その……、ゴメンナサイ」
この後、紅魔館に戻ってきたエリーは39度の高熱を出してぶっ倒れ、紅美鈴の手により永遠亭に緊急搬送される事となった。
パチュリーたち紅魔館の一同は呆れていたそうだが、エリーの診察をした八意永琳は「今年の土蜘蛛の病気が分かって助かった」とホクホク顔だったと言う。
そんなこんなで地底に足を踏み入れたエリーはトラウマ弾幕を駆使して地霊殿への殴り込みに成功したのだが……、
エリー「いやぁぁぁっ!? もうダメぇぇぇっ!?」
さとり「うぅっ……、もう限界……です」
ぴちゅーん!
トラウマの弄りあいと言う考えただけでも嫌な予感しかしない戦いは、両者が同時に音をあげると言う引き分けに終わった。
自身のトラウマを目の前で見せられつつ、相手のトラウマを探るという行為は、読心のプロである二人にとっても厳しいものがあったのだ。
ズタボロになった状態でエリーがぼやくように呟く。
エリー「はぁ~、さとりの能力が羨ましいなぁ~。
私の能力は基本的にトラウマ限定だから見てるこっちも気が滅入ってくるし、使い勝手は悪いし……」
さとり「そうですか? 年がら年中他人の思考が丸聞こえ、と言うのもあまり良いとは言えませんよ?
私からすると好きな時にだけ相手の心を覗き見る事が出来る貴女の能力の方が羨ましいぐらいです」
エリー「えー、そうかな~?」
さとり「そうですよ」
そんな会話を交わしているうちに、自然と二人から笑みがこぼれ始める。
お互いに無いものねだりをしているだけで、結局は大差が無い事に気が付いたからである。
エリー「散々トラウマ弄っといてなんだけど、さとりとは仲良くなれそうな気がする」
さとり「奇遇ですね。 私もそんな気がします……」
エリー「最近パチュリーの図書館も冷えるんだよねぇ。 冬場の別荘代わりに遊びに来てもいい?」
さとり「それでしたら本を何冊か持って来てくれませんか? 地底暮らしはいささか暇なので……」
「パチュリーの所から何冊か借りてくれば良いのね?」と聞き返すと、さとりは満足げに頷いた。
読書が趣味のさとりにとって、万を越えるという蔵書を持つ、紅魔館の地下図書館は一度は訪ねてみたい場所だったからだ。
心を読むという能力の都合上、地上にあまり顔を出すわけには行かないので、残念ながら訪問は一度たりとも実現していないのだが……。
エリー「さーて、そうと決まったら家に戻って冬篭りの準備をしてこないと……」
さとり「そうして下さい。冷え込み始めると早いですよ。 あっ、でも、その前に、あちらの方たちとも話をつけてから、にして下さいね?」
エリー「? あちらの方たち……、っ!?」
さとりに言われ、振り返ったエリーは、次の瞬間、血の気が引くのを感じた。
地霊殿の広間の入り口の前に見覚えのある影――ここに来るまでにトラウマ弾幕で蹴散らした地底の妖怪たちが居たからだ。
パルスィ「いきなり来て、人の傷口に塩を塗りこむとか、妬ましいわね」
ヤマメ「さっきは酷いご挨拶をしてくれちゃって、どーもありがとう。 お返しと言うかプレゼントがあるんだけど、受け取って貰えるかい?」
キスメ「…………(ニヤリ」
エリー「えっと……、その……、ゴメンナサイ」
この後、紅魔館に戻ってきたエリーは39度の高熱を出してぶっ倒れ、紅美鈴の手により永遠亭に緊急搬送される事となった。
パチュリーたち紅魔館の一同は呆れていたそうだが、エリーの診察をした八意永琳は「今年の土蜘蛛の病気が分かって助かった」とホクホク顔だったと言う。
804: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/03(木) 08:14:51.78 ID:9XHmyMRJ0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~電脳トラウマBOX~ 【エリー (キルスティン) 】
能力 トラウマを掘り起こす程度の能力
危険度 中
人間友好度 低
主な活動場所 魔法の森、紅魔館など
魔女異変の際、幻想郷にやって来た魔女の一人。
常に白い箱のようなモノを弄っており、基本的に他者と関わろうとしない、引き篭りな性格の持ち主。
その為、人間の里など、人が多い場所には滅多に顔を出さず、大抵が自宅代わりにしている廃墟か、紅魔館の地下図書館に篭っている。
一時期噂になった魔法の森の電波塔付近に出る女幽霊の正体が彼女で、噂の真偽を確かめに行って帰ってきた人の話によると、
面白い話には普通に食い付いて来たらしいので、普通に話すぐらいは問題ないのかも知れない。
〔能力〕
彼女の能力である相手のトラウマを掘り起こす程度の能力は一見すると、相手の心を読み取るさとり妖怪と良く似ている。
さとり妖怪が基本的に常に相手の心を読んでいるのに対し、彼女の場合、過去のトラウマを重点的に読み取るので、ある意味さとり妖怪以上に嫌らしいと言える。
彼女が掘り起こすトラウマは自己嫌悪に襲われる程度の他愛ない悪戯から、相手に自殺を考えさせる程の洒落にならないモノまで多種多様である。
が、彼女自身から話を聞いた人によると、
「自殺に追い込む程のトラウマは見ているこっちもしんどいから見たくない」
などと言っていたそうなので、心配する必要は無さそうである。
また、一部の情報筋によるとこの能力は彼女が持ち歩いている箱のようなモノが無いと発動できないとの事なので、
万が一の時は箱をどうにかすると良いと思われる。
〔対処法〕
基本的に引き篭りがちで、向こうから関わってくることは無いので、森や紅魔館に近寄らなければ、遭遇率は著しく低い。
もし出会ってしまい、襲われそうになった場合は前述の通り、彼女の持つ箱を狙うと良い。
一説によると水が天敵らしいので、ぶっかけるのが良いだろう。
ただし、箱を壊すと一気に凶暴化するとの情報もあるので、箱を壊し次第、早急に逃げた方が良い。
なお、「フタエノキワミ、アーッ!」と言う呪文を唱えるのも効果的との噂もあるが、真実は定かではない。
~電脳トラウマBOX~ 【エリー (キルスティン) 】
能力 トラウマを掘り起こす程度の能力
危険度 中
人間友好度 低
主な活動場所 魔法の森、紅魔館など
魔女異変の際、幻想郷にやって来た魔女の一人。
常に白い箱のようなモノを弄っており、基本的に他者と関わろうとしない、引き篭りな性格の持ち主。
その為、人間の里など、人が多い場所には滅多に顔を出さず、大抵が自宅代わりにしている廃墟か、紅魔館の地下図書館に篭っている。
一時期噂になった魔法の森の電波塔付近に出る女幽霊の正体が彼女で、噂の真偽を確かめに行って帰ってきた人の話によると、
面白い話には普通に食い付いて来たらしいので、普通に話すぐらいは問題ないのかも知れない。
〔能力〕
彼女の能力である相手のトラウマを掘り起こす程度の能力は一見すると、相手の心を読み取るさとり妖怪と良く似ている。
さとり妖怪が基本的に常に相手の心を読んでいるのに対し、彼女の場合、過去のトラウマを重点的に読み取るので、ある意味さとり妖怪以上に嫌らしいと言える。
彼女が掘り起こすトラウマは自己嫌悪に襲われる程度の他愛ない悪戯から、相手に自殺を考えさせる程の洒落にならないモノまで多種多様である。
が、彼女自身から話を聞いた人によると、
「自殺に追い込む程のトラウマは見ているこっちもしんどいから見たくない」
などと言っていたそうなので、心配する必要は無さそうである。
また、一部の情報筋によるとこの能力は彼女が持ち歩いている箱のようなモノが無いと発動できないとの事なので、
万が一の時は箱をどうにかすると良いと思われる。
〔対処法〕
基本的に引き篭りがちで、向こうから関わってくることは無いので、森や紅魔館に近寄らなければ、遭遇率は著しく低い。
もし出会ってしまい、襲われそうになった場合は前述の通り、彼女の持つ箱を狙うと良い。
一説によると水が天敵らしいので、ぶっかけるのが良いだろう。
ただし、箱を壊すと一気に凶暴化するとの情報もあるので、箱を壊し次第、早急に逃げた方が良い。
なお、「フタエノキワミ、アーッ!」と言う呪文を唱えるのも効果的との噂もあるが、真実は定かではない。
834: 1@携帯 そんなに旨いハナシは無いと言う御話 2012/05/10(木) 18:43:03.95 ID:bYRIJZUDO
>>827-830
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
魔理沙「ところがそうは簡単には行かないんだよなぁ……」
早苗「ええ、魔法にしても奇跡にしても十分な修行と鍛練が必要です。 魔法なら専門家の教えがあれば数年ですが……」
魔理沙「独学だと軽く数十年コースだな」
早苗「更に言うと私の奇跡は咄嗟の発動だと、そんなに使い勝手が良くないんですよね。
例えばマミさんの事故の場合、“奇跡的に助ける”事は出来ても、“五体満足で助かる”とは限りません。
さやかさんの想い人の場合も然りで、“奇跡的に手が動かせる”かもですが、そこから先は本人の努力次第です」
早苗「ほむらさんの場合はまどかさんが既に亡くなってますので完全に手遅れです。
まどかさんの霊を降ろして話をさせるのが限度ですかね~」
クリームヒルト「あの戦いに早苗さんが居たら、どうなってました?」
早苗「ワルプルギスさんとの戦いですか?大局は変わりませんねぇ。
時間稼ぎで精一杯でしょうから『ここは私に任せて逃げて下さい』ってなるんじゃないですか?」
オクタヴィア「早苗、それだと死亡フラグだよ(笑)」
早苗「はい、間違いなく死にますね。
しかもこうなるとワルプルギスさんは“現人神を倒した妖怪”になりますので更にパワーアップしちゃいます」
オクタヴィア「げっ!?なにそれ怖い。 そっか~、上手く行かないもんなんだね~」
霊夢「世の中そんなもんよ」
クリームヒルト「それじゃあ杏子ちゃんの場合は?」
早苗「……信仰を簡単に増やす手段があるならむしろ私が教えて貰いたいぐらいですよ……。 ハァ……(遠い目」
霊夢「そうね。同感だわ……(遠い目」
クリームヒルト「うっ……、なんて言うかゴメンナサイ……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
魔理沙「ところがそうは簡単には行かないんだよなぁ……」
早苗「ええ、魔法にしても奇跡にしても十分な修行と鍛練が必要です。 魔法なら専門家の教えがあれば数年ですが……」
魔理沙「独学だと軽く数十年コースだな」
早苗「更に言うと私の奇跡は咄嗟の発動だと、そんなに使い勝手が良くないんですよね。
例えばマミさんの事故の場合、“奇跡的に助ける”事は出来ても、“五体満足で助かる”とは限りません。
さやかさんの想い人の場合も然りで、“奇跡的に手が動かせる”かもですが、そこから先は本人の努力次第です」
早苗「ほむらさんの場合はまどかさんが既に亡くなってますので完全に手遅れです。
まどかさんの霊を降ろして話をさせるのが限度ですかね~」
クリームヒルト「あの戦いに早苗さんが居たら、どうなってました?」
早苗「ワルプルギスさんとの戦いですか?大局は変わりませんねぇ。
時間稼ぎで精一杯でしょうから『ここは私に任せて逃げて下さい』ってなるんじゃないですか?」
オクタヴィア「早苗、それだと死亡フラグだよ(笑)」
早苗「はい、間違いなく死にますね。
しかもこうなるとワルプルギスさんは“現人神を倒した妖怪”になりますので更にパワーアップしちゃいます」
オクタヴィア「げっ!?なにそれ怖い。 そっか~、上手く行かないもんなんだね~」
霊夢「世の中そんなもんよ」
クリームヒルト「それじゃあ杏子ちゃんの場合は?」
早苗「……信仰を簡単に増やす手段があるならむしろ私が教えて貰いたいぐらいですよ……。 ハァ……(遠い目」
霊夢「そうね。同感だわ……(遠い目」
クリームヒルト「うっ……、なんて言うかゴメンナサイ……」
842: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/11(金) 10:34:55.81 ID:b/yq79gs0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
魔理沙「はぁ!?夜が怖い!?」
昼下がりの霧雨魔法店に、魔理沙の声が響く。
相変わらず散らかっている居間で、白い修道服を纏った少女――エルザマリアが俯きながらその言葉に頷く。
エルザマリア「はい、お恥ずかしい話なんですが……」
魔理沙「お前なぁ、仮にも妖怪の端くれだろ? 夜が主体の妖怪としてそれはどうなんだよ?」
エルザマリア「それは解っているのですけど、幻想郷の夜は暗すぎて、操る影が作れないんです」
エルザマリアの言葉に魔理沙は頭を押さえた。
魔女異変の時には霊夢でさえ苦戦させた影を操る能力だが、それには決定的な弱点があったのだ。
エルザマリア「霊夢さんと戦って負けた後、現世での私を改めて思い返してみたんです。
で、良く考えてみたら結界は魔造の太陽で明るいし、外を移動する時も影が良く出来る明るい所にしか行ってなくて……」
魔理沙「深く考え出したら“闇”が怖くなっちまった。と……。 まったく、霊夢も嫌なトラウマ作ってくれたな……」
光源を全て壊して闇を作る事で、エルザマリアにとっての唯一の攻撃手段である影を完封し、
更に闇討ちで完膚なきまでに叩きのめすと言う効率的だが非人道的な攻撃は、彼女の中の潜在的なトラウマを掘り起こしてしまったようだった。
アリス「ちなみに聞いておきたいのだけど、ミスティアやパトリシアたちとはどうしてるのよ?」
しゅんとなるエルザマリアに、魔理沙と一緒に相談に乗っていたアリスが尋ねる。
人里に居を構えるパトリシアや、ちょくちょく買い物に訪れるミスティアとは顔を合わせている筈であり、付き合いは必須な筈だ。
エルザマリア「えっと、私の前では“そういう事”はしない様にと、お願いしています」
魔理沙「ついでに聞くとルーミアはどうなんだ?」
エルザマリア「絶対に会いたくありません!!」
アリス「……重症ね。 コレは……。 まったく、何をどうしたらこんな事に……」
ルーミアの名を聞いた途端ガタガタと震え出すエルザマリアに、アリスは盛大なため息を漏らす。
注がれた紅茶を一口啜ってから、アリスは思い出したように呟いた。
アリス「そう言えばさっき“明るい所”とか言ってたけど、今の外の世界って、夜でもそれなりに明るいの?」
エルザマリア「はい、人工の光で影があちこちに出来るほどに……」
魔理沙「なんと言うか現代の妖怪ってのも案外面倒くさいな。 明るい事が当たり前で夜の闇が怖いとか本末転倒だぞ?」
エルザマリア「すいません……」
肩を落としすぎたあまり、とうとうその場に縮こまってしまうエルザマリア。
このままでは話が進まないので、アリスの方から話を切り出す事にする。
魔理沙「はぁ!?夜が怖い!?」
昼下がりの霧雨魔法店に、魔理沙の声が響く。
相変わらず散らかっている居間で、白い修道服を纏った少女――エルザマリアが俯きながらその言葉に頷く。
エルザマリア「はい、お恥ずかしい話なんですが……」
魔理沙「お前なぁ、仮にも妖怪の端くれだろ? 夜が主体の妖怪としてそれはどうなんだよ?」
エルザマリア「それは解っているのですけど、幻想郷の夜は暗すぎて、操る影が作れないんです」
エルザマリアの言葉に魔理沙は頭を押さえた。
魔女異変の時には霊夢でさえ苦戦させた影を操る能力だが、それには決定的な弱点があったのだ。
エルザマリア「霊夢さんと戦って負けた後、現世での私を改めて思い返してみたんです。
で、良く考えてみたら結界は魔造の太陽で明るいし、外を移動する時も影が良く出来る明るい所にしか行ってなくて……」
魔理沙「深く考え出したら“闇”が怖くなっちまった。と……。 まったく、霊夢も嫌なトラウマ作ってくれたな……」
光源を全て壊して闇を作る事で、エルザマリアにとっての唯一の攻撃手段である影を完封し、
更に闇討ちで完膚なきまでに叩きのめすと言う効率的だが非人道的な攻撃は、彼女の中の潜在的なトラウマを掘り起こしてしまったようだった。
アリス「ちなみに聞いておきたいのだけど、ミスティアやパトリシアたちとはどうしてるのよ?」
しゅんとなるエルザマリアに、魔理沙と一緒に相談に乗っていたアリスが尋ねる。
人里に居を構えるパトリシアや、ちょくちょく買い物に訪れるミスティアとは顔を合わせている筈であり、付き合いは必須な筈だ。
エルザマリア「えっと、私の前では“そういう事”はしない様にと、お願いしています」
魔理沙「ついでに聞くとルーミアはどうなんだ?」
エルザマリア「絶対に会いたくありません!!」
アリス「……重症ね。 コレは……。 まったく、何をどうしたらこんな事に……」
ルーミアの名を聞いた途端ガタガタと震え出すエルザマリアに、アリスは盛大なため息を漏らす。
注がれた紅茶を一口啜ってから、アリスは思い出したように呟いた。
アリス「そう言えばさっき“明るい所”とか言ってたけど、今の外の世界って、夜でもそれなりに明るいの?」
エルザマリア「はい、人工の光で影があちこちに出来るほどに……」
魔理沙「なんと言うか現代の妖怪ってのも案外面倒くさいな。 明るい事が当たり前で夜の闇が怖いとか本末転倒だぞ?」
エルザマリア「すいません……」
肩を落としすぎたあまり、とうとうその場に縮こまってしまうエルザマリア。
このままでは話が進まないので、アリスの方から話を切り出す事にする。
843: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/11(金) 10:41:51.65 ID:b/yq79gs0
アリス「それで?貴女はなんで今になってそんな相談を、私たち二人に持ち掛けたの?」
エルザマリア「えっと、お二人は“クリスマス”と言う日はご存じですか?」
魔理沙「ああ、知ってるぜ。 お前たち十字教のお祝いの日だろ?」
エルザマリア「はい、そうです。 それで、普段私は夜になると教会を閉めてしまうのですが、その日は聖夜なので……」
アリス「夜でも教会を開けておく必要がある、と言う事ね?」
エルザマリア「はい……」
俯きながら答えるエルザマリアに魔理沙とアリスは納得した。
年に一度の聖夜に、「夜が怖いので教会は開けません」などと言える訳がない。
更に言うと、教会を切り盛りしているのはエルザマリアただ一人であり、聖夜の行事を他者に任せる事も出来ない。
現状では八方塞がりなのだ。
魔理沙「ん? そう言えばお前、確か太陽みたいに明るい燈を出せたよな? それで一晩中照らしたんじゃダメなのか?」
アリス「魔理沙、良く考えなさいよ。 聖夜の儀をするのに昼間のように明るくしちゃったら意味が無いでしょう?」
魔理沙「む。言われてみれば確かにそうだな……。 そうなると妹紅や地底の馬鹿鴉を呼ぶ、ってのも当然ながらアウトか……」
アリス「妹紅に八咫鴉って、教会が燃えちゃうじゃない……」
エルザマリア「出来ればそう言うのではなくて、月明かりぐらいの方が良いのですが……」
方や呆れ顔で、方や困惑気味に、それぞれからツッコミを入れられた魔理沙は再度思案顔になる。
月明かり程度の明るさを希望との事だが、確かその日は……、
魔理沙「確か新月だったよな?」
アリス「ええ、ちょうど間の悪いことにね……」
今年こと第126季(外の世界で言う西暦2011年)の12月25日は新月になる筈なのだ。
ここまで出来のいい話だと、仕組まれてるのではないかと疑いたくなってしまう。
アリス「月明かりねぇ……。 パチュリー辺りに頼むのは?」
魔理沙「パチュリーねぇ……。 真冬の夜に教会なんかに居たらぶっ倒れないか?」
アリス「ああ、なんかすごくありえそうね……」
「夜が明けたら真っ青になったパチュリーの姿が視えたわ……」とアリスが呟くと、エルザマリアも顔を青くする。
本人が聞いていたら間違いなく激怒しそうだが、絶対にありえないとは本人も言い切れないに違いない。
844: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/11(金) 10:45:56.51 ID:b/yq79gs0
エルザマリア「他にそう言う魔法を使えそうな方は居ないのですか?」
魔理沙「他にねぇ……。 おっ、そういやアリス、アイツらならどうだ?」
アリス「アイツら? ……ああ、“あの子”たちね?」
エルザマリア「? 一体誰の事です?」
突然頷きあいはじめた魔理沙とアリスに、エルザマリアは首を傾げながら尋ねた。
二人には思い当たる人物が居るようだが、エルザマリアには見当すらつかない。
アリス「光の三妖精って言ってね。 日の光、月の光、星の光をそれぞれ司る妖精が居るのよ」
エルザマリア「妖精……ですか?」
魔理沙「ああ、アイツらなら居場所は分かってるし、上手く条件をつけてやれば協力してくれるんじゃないか?」
エルザマリア「成る程、やってみる価値はありそうですね。 それで、その妖精たちは一体何処に行けば会えるんですか?」
魔理沙「一筋縄じゃいかない奴らだな。 アイツらも……」
光の三妖精たちと話をつけてくるべく、飛んでいくエルザマリアを見送りながら魔理沙はやれやれと肩をすくめた。
一仕事終えたと言わんばかりの魔理沙に対し、アリスはいささか不安そうな顔で言う。
アリス「ねぇ魔理沙、本当に大丈夫なのかしら? あの子たちって、仮にも妖精よね? 悪戯ばかりで話にならないんじゃ……」
魔理沙「そん時はそん時で文のネタが増えるだけだろ?」
「どっちにしても私は困らん」とキッパリ言い切った魔理沙にアリスはため息をつくことしか出来なかった。
本番の聖夜を前に練習する為、光の三妖精たちに照明係を頼んで夜間礼拝を始めたエルザマリアが、
彼女たちの悪戯に音をあげて博麗神社に駆け込むのはこれから数日後の事である。
―――――――――――――― 【 お ま け 】 ――――――――――――――
サニー&ルナ&スター「「「…………(ぷしゅ~っ」」」
エルザマリア「うぅっ、ぐすっ……」
霊夢「あ~、もうっ! 礼拝の真っ最中に光を消されたぐらいで泣くんじゃないわよっ! アンタ妖怪でしょ!?」
エルザマリア「で、ですが……」
霊夢「とりあえず身内の問題は身内で解決しなさいよ! と言う訳でクリームヒルト、コイツを何とかしなさい!」
クリームヒルト「えっと、そう言われても……」
こんな一幕があったとか無かったとか。
すっぱ抜いた筈の鴉天狗が何も語らないので深く突っ込まない方が身の為かもしれない。
因みにこの問題、佐倉杏子こと魔女・オフィーリアが幻想郷に来るまで続いたそうである。
845: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/11(金) 10:52:44.26 ID:b/yq79gs0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~黒影に祈るシスター~ 【エルザマリア】
別称:~一念専修の影法衣~ (東方円鹿目)
能力 影を操る程度の能力
危険度 中
人間友好度 極高
主な活動場所 人間の里
幻想入りしてきた魔女の一人で人里の近くで教会を開いている。
妖怪になる前は敬虔な十字教教徒だったようで、朝夕の礼拝は欠かさず行っている。
説法や懺悔なども行っているので、その時間に教会に行けば優しく出迎えて貰える。
妖怪としての行動より十字教教徒としての行動が主体で、妖怪の中では比較的人間に近いとされている魔女の中でも、人に近い方だと言えるだろう。
ただ、祈りに没頭するあまり、周囲が見えなくなる事があるので、時間外に教会を訪れるのはあまり勧められない。
十字教に興味が有るのなら時間を守り、教会では静かに話を聞き、礼拝の邪魔をしないようにしよう。
最低限のマナーさえ弁えれば、教会内で何かされることは無い筈だ。
〔能力〕
その名の通りあらゆる影を自在に操る事が出来る。
影は光が有る限り誰にでも付いて回る、云わば分身のようなモノである。
その影を完全に乗っ取られてしまうと、本人も操り人形同然になってしまう為、影が勝手に動き始めたら警戒すべきである。
そのような能力の持ち主である為、その実力は推して知るべしであり、敵に回してはいけない妖怪の一人である。
影を盗られたくなかったら、影が出来ない暗闇に逃げるしか手はないが、そうなると他の妖怪に襲われやすくなるので、逃げ込む時は注意しよう。
〔対処法〕
礼拝の邪魔をするなど、こちらから何かしなければ、まず問題は無い。
少々積極性に欠けるが、教会の運営は真面目に行っており、少なくともその点に関しては幻想郷の宗教家の中では真摯な方である。
真面目すぎるきらいがあるが、それ故に真剣に話を聞いてくれる為、マトモな悩みなら相談に行くのも十分ありだろう。
万が一、彼女を怒らせてしまった場合は、前述のように闇に紛れて逃げよう。
影を操られ、傀儡になってからでは手遅れであり、解呪も難しい。
普段優しい人ほど、怒らせてはならないモノなのである。
~黒影に祈るシスター~ 【エルザマリア】
別称:~一念専修の影法衣~ (東方円鹿目)
能力 影を操る程度の能力
危険度 中
人間友好度 極高
主な活動場所 人間の里
幻想入りしてきた魔女の一人で人里の近くで教会を開いている。
妖怪になる前は敬虔な十字教教徒だったようで、朝夕の礼拝は欠かさず行っている。
説法や懺悔なども行っているので、その時間に教会に行けば優しく出迎えて貰える。
妖怪としての行動より十字教教徒としての行動が主体で、妖怪の中では比較的人間に近いとされている魔女の中でも、人に近い方だと言えるだろう。
ただ、祈りに没頭するあまり、周囲が見えなくなる事があるので、時間外に教会を訪れるのはあまり勧められない。
十字教に興味が有るのなら時間を守り、教会では静かに話を聞き、礼拝の邪魔をしないようにしよう。
最低限のマナーさえ弁えれば、教会内で何かされることは無い筈だ。
〔能力〕
その名の通りあらゆる影を自在に操る事が出来る。
影は光が有る限り誰にでも付いて回る、云わば分身のようなモノである。
その影を完全に乗っ取られてしまうと、本人も操り人形同然になってしまう為、影が勝手に動き始めたら警戒すべきである。
そのような能力の持ち主である為、その実力は推して知るべしであり、敵に回してはいけない妖怪の一人である。
影を盗られたくなかったら、影が出来ない暗闇に逃げるしか手はないが、そうなると他の妖怪に襲われやすくなるので、逃げ込む時は注意しよう。
〔対処法〕
礼拝の邪魔をするなど、こちらから何かしなければ、まず問題は無い。
少々積極性に欠けるが、教会の運営は真面目に行っており、少なくともその点に関しては幻想郷の宗教家の中では真摯な方である。
真面目すぎるきらいがあるが、それ故に真剣に話を聞いてくれる為、マトモな悩みなら相談に行くのも十分ありだろう。
万が一、彼女を怒らせてしまった場合は、前述のように闇に紛れて逃げよう。
影を操られ、傀儡になってからでは手遅れであり、解呪も難しい。
普段優しい人ほど、怒らせてはならないモノなのである。
860: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/19(土) 10:01:54.88 ID:X6LWLopP0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「今年は秋を満喫出来なかったから!」と頑なに頑張っていた秋神の姉がとうとう折れ、
冬の怪が「冬ですよ~」と勝利宣言をして回った翌日、幻想郷は記録的な大雪に見舞われていた。
里も山も一面が白で覆われ、開幕直後から全力全開な降り方に、流石の幻想郷でも各地で混乱が相次いだ。
妖怪の山では氷の張った川に雪が積もり、道と勘違いして溺れる者が続出し、
里では雪降ろし中の事故が多発、商店など軒並み休業する有り様だった。
いくら冬とは言え、これでは困ると幻想郷の人妖たちが思い始めた頃、博麗神社に集まる少女たちの姿があった。
魔理沙「おいおい、今年のレティは少しやり過ぎじゃないか? いくら静葉のヤツがごねまくったとは言え、いきなりこれは限度を超えてると思うぜ?」
早苗「そうですよ。やり過ぎです! 例えこれが自然に降ったモノだとしても、寒気を操れるなら調整できる筈です!」
片や魔法で雪を溶かしながら、片や風起こしで雪を吹き飛ばしながら、博麗神社までの道を切り開いてきた魔理沙と早苗が口々に愚痴をこぼす。
降り止まない雪に、早々に雪掻きを放棄して、居間の炬燵でごろ寝を決め込んでいた霊夢は、そんな二人とは対照的に気だるそうにため息をついた。
霊夢「それで、わざわざ私に『雪女退治に行け』、と言いに来た訳? アンタたちも暇ね……」
早苗「死活問題なんですよ。 このまま登山道が雪で埋まってしまうと、参拝の方が来れないんです!」
魔理沙「こっちもアリスやシャルロッテが騒いでるんだよ。 『家が雪で潰れるからなんとかして来い』って煩いったらありゃしない」
霊夢「アンタたちの事情なんか知らないわよ。 私に言わないで二人で行けば良いじゃない……」
面倒臭いと切り捨てるように言って、霊夢は再び炬燵に潜り込む。
魔理沙と早苗は更に詰め寄ろうとして……、背後で閉まっていた障子がスッと開く。
???「お邪魔するわよ……、って、魔理沙に早苗も居るじゃない」
吹き込んだ風に一瞬、霊夢たちはぎょっとしたが、声の主が咲夜であることに気付き、浮かしかけた腰を下ろす。
この天候の為だろう、いつものメイド服に長めのマフラーと言う出で立ちの咲夜は障子を閉めると早々に炬燵に足を入れる。
魔理沙「よう咲夜、今日はどうした? この雪にとうとうレミリアが泣き言でも喚き出したのか?」
咲夜「お嬢様がこの程度の事でそんな事をする訳無いでしょう? まあ、この雪に関する話で来たのは合ってるけど……」
早苗「ああ、そう言えば霧の湖はレティさんの活動拠点の一つでしたね……。 それで、どうかしたんですか?」
「レティさんの様子がおかしいとか?」と早苗が尋ねると、咲夜は首を横に降った。
それから咲夜はフクザツそうな顔をすると、言い難そうに切り出した。
咲夜「あー、この大雪なのだけど、どうもレティが主犯じゃなさそうなのよ」
魔理沙「? どう言う事なんだ? レティ以外に雪を降らせているヤツが居る、って言うのか?」
咲夜「雪自体はレティが寒波を連れて来たせいよ。 でもここまでの大雪に発展させたのは別の妖怪らしいのよ」
早苗「別の妖怪? 一体、誰なんです?」
咲夜「それは……、私自身が見た訳じゃないから、ここで断言は出来ないわ……」
彼女にしては珍しく歯切れの悪い言葉に魔理沙と早苗は揃って首を傾げた。
この豪雪災害の犯人らしき妖怪について、何らかの情報を持っている様だが、
話したくないと言うか、咲夜自身も戸惑っているらしく、咲夜は中々話そうとしない。
どうやら余程言い難い相手らしい。
霊夢「……分かったわ。行けば良いんでしょう? 案内しなさい、その妖怪の元に……」
「今年は秋を満喫出来なかったから!」と頑なに頑張っていた秋神の姉がとうとう折れ、
冬の怪が「冬ですよ~」と勝利宣言をして回った翌日、幻想郷は記録的な大雪に見舞われていた。
里も山も一面が白で覆われ、開幕直後から全力全開な降り方に、流石の幻想郷でも各地で混乱が相次いだ。
妖怪の山では氷の張った川に雪が積もり、道と勘違いして溺れる者が続出し、
里では雪降ろし中の事故が多発、商店など軒並み休業する有り様だった。
いくら冬とは言え、これでは困ると幻想郷の人妖たちが思い始めた頃、博麗神社に集まる少女たちの姿があった。
魔理沙「おいおい、今年のレティは少しやり過ぎじゃないか? いくら静葉のヤツがごねまくったとは言え、いきなりこれは限度を超えてると思うぜ?」
早苗「そうですよ。やり過ぎです! 例えこれが自然に降ったモノだとしても、寒気を操れるなら調整できる筈です!」
片や魔法で雪を溶かしながら、片や風起こしで雪を吹き飛ばしながら、博麗神社までの道を切り開いてきた魔理沙と早苗が口々に愚痴をこぼす。
降り止まない雪に、早々に雪掻きを放棄して、居間の炬燵でごろ寝を決め込んでいた霊夢は、そんな二人とは対照的に気だるそうにため息をついた。
霊夢「それで、わざわざ私に『雪女退治に行け』、と言いに来た訳? アンタたちも暇ね……」
早苗「死活問題なんですよ。 このまま登山道が雪で埋まってしまうと、参拝の方が来れないんです!」
魔理沙「こっちもアリスやシャルロッテが騒いでるんだよ。 『家が雪で潰れるからなんとかして来い』って煩いったらありゃしない」
霊夢「アンタたちの事情なんか知らないわよ。 私に言わないで二人で行けば良いじゃない……」
面倒臭いと切り捨てるように言って、霊夢は再び炬燵に潜り込む。
魔理沙と早苗は更に詰め寄ろうとして……、背後で閉まっていた障子がスッと開く。
???「お邪魔するわよ……、って、魔理沙に早苗も居るじゃない」
吹き込んだ風に一瞬、霊夢たちはぎょっとしたが、声の主が咲夜であることに気付き、浮かしかけた腰を下ろす。
この天候の為だろう、いつものメイド服に長めのマフラーと言う出で立ちの咲夜は障子を閉めると早々に炬燵に足を入れる。
魔理沙「よう咲夜、今日はどうした? この雪にとうとうレミリアが泣き言でも喚き出したのか?」
咲夜「お嬢様がこの程度の事でそんな事をする訳無いでしょう? まあ、この雪に関する話で来たのは合ってるけど……」
早苗「ああ、そう言えば霧の湖はレティさんの活動拠点の一つでしたね……。 それで、どうかしたんですか?」
「レティさんの様子がおかしいとか?」と早苗が尋ねると、咲夜は首を横に降った。
それから咲夜はフクザツそうな顔をすると、言い難そうに切り出した。
咲夜「あー、この大雪なのだけど、どうもレティが主犯じゃなさそうなのよ」
魔理沙「? どう言う事なんだ? レティ以外に雪を降らせているヤツが居る、って言うのか?」
咲夜「雪自体はレティが寒波を連れて来たせいよ。 でもここまでの大雪に発展させたのは別の妖怪らしいのよ」
早苗「別の妖怪? 一体、誰なんです?」
咲夜「それは……、私自身が見た訳じゃないから、ここで断言は出来ないわ……」
彼女にしては珍しく歯切れの悪い言葉に魔理沙と早苗は揃って首を傾げた。
この豪雪災害の犯人らしき妖怪について、何らかの情報を持っている様だが、
話したくないと言うか、咲夜自身も戸惑っているらしく、咲夜は中々話そうとしない。
どうやら余程言い難い相手らしい。
霊夢「……分かったわ。行けば良いんでしょう? 案内しなさい、その妖怪の元に……」
861: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/19(土) 10:07:23.92 ID:X6LWLopP0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
???「キャハハハ、白い!冷たい!面白~い!」
レティ「お願いだからそろそろ勘弁して~」
そうしてやって来た霧の湖で霊夢たちが見たのは、半泣きと言った表情で懇願する女性――レティ・ホワイトロックと……、
逆さま飛行が特徴的な幼い少女――ワルプルギスの姿だった。
魔理沙「まさかのワルプルギス……だと?」
咲夜「美鈴がレティと一緒に居る逆立ちの女の子を見た、って言っていたから多分そうなんじゃないかとは思ってたけど……」
草影からワルプルギスの姿を認めた魔理沙が口をポカンと開けながら呟き、ある程度覚悟を決めていた咲夜はやれやれと肩をすくめる。
その横では霊夢と早苗が、これまた呆れ顔で乾いた笑いを漏らす。
早苗「あー、そう言えばあの子の魔法って基本、嵐になるんでしたね……」
霊夢「気分がのって来た時もね……」
霊夢の言葉に魔女異変の後夜祭、通称“ワルプルギスの夜祭り”の時の異常なテンションのワルプルギスを全員が思い出す。
魔女絡みの異変や事件が相次いだ今年だが、あの夜の騒動はその中でも群を抜いて厄介だった事件だ。
今ここでワルプルギスを強制的に止めようとすれば、あの時ほど酷くはならないだろうが、それに次ぐ騒ぎになるのは確実だろう。
ワルプルギス「アハハ、面白~い!(キャッキャ!」
レティ「お願いだからもう止めて。 ね?いい子だから?
……あら? この気配……、あっ!巫女たちがあんなところに!?
ちょっとそこの博麗の巫女!この子を何とかするの手伝って頂戴!」
楽しそうにはしゃぐワルプルギスを止めるに止められずに居たレティが霊夢たちの存在に気が付き、助けを求めてくる。
が、霊夢以下四人はこれを華麗にスルーした。
霊夢「で、アレはどうしたら良いと思う?」
魔理沙「いや、それを私に聞かれても困るぜ」
咲夜「寧ろ私が尋ねたいぐらいよ……」
早苗「はい、霊夢さん」
「助けて~」と騒ぐレティをよそに、魔理沙と咲夜が霊夢に言い返す中、早苗が一人、小さく手を挙げる。
他に意見は出なさそうなので、霊夢は(やはりレティの助けを無視して)先を促す。
早苗「はい、ワルプルギスさんは雪遊びをしているだけのようですから、このまま遊ばせてあげるのが良いと私は思います」
咲夜「その心は?」
早苗「無理に止めずとも、このまま雪遊びで魔力を使いきって貰った方が良いんじゃないかと……」
言い換えるとワルプルギスの説得の諦め、このまま雪を降らせ続けると言う事だ。
それはつまり、この豪雪災害を放置する事になる訳だが……、
???「キャハハハ、白い!冷たい!面白~い!」
レティ「お願いだからそろそろ勘弁して~」
そうしてやって来た霧の湖で霊夢たちが見たのは、半泣きと言った表情で懇願する女性――レティ・ホワイトロックと……、
逆さま飛行が特徴的な幼い少女――ワルプルギスの姿だった。
魔理沙「まさかのワルプルギス……だと?」
咲夜「美鈴がレティと一緒に居る逆立ちの女の子を見た、って言っていたから多分そうなんじゃないかとは思ってたけど……」
草影からワルプルギスの姿を認めた魔理沙が口をポカンと開けながら呟き、ある程度覚悟を決めていた咲夜はやれやれと肩をすくめる。
その横では霊夢と早苗が、これまた呆れ顔で乾いた笑いを漏らす。
早苗「あー、そう言えばあの子の魔法って基本、嵐になるんでしたね……」
霊夢「気分がのって来た時もね……」
霊夢の言葉に魔女異変の後夜祭、通称“ワルプルギスの夜祭り”の時の異常なテンションのワルプルギスを全員が思い出す。
魔女絡みの異変や事件が相次いだ今年だが、あの夜の騒動はその中でも群を抜いて厄介だった事件だ。
今ここでワルプルギスを強制的に止めようとすれば、あの時ほど酷くはならないだろうが、それに次ぐ騒ぎになるのは確実だろう。
ワルプルギス「アハハ、面白~い!(キャッキャ!」
レティ「お願いだからもう止めて。 ね?いい子だから?
……あら? この気配……、あっ!巫女たちがあんなところに!?
ちょっとそこの博麗の巫女!この子を何とかするの手伝って頂戴!」
楽しそうにはしゃぐワルプルギスを止めるに止められずに居たレティが霊夢たちの存在に気が付き、助けを求めてくる。
が、霊夢以下四人はこれを華麗にスルーした。
霊夢「で、アレはどうしたら良いと思う?」
魔理沙「いや、それを私に聞かれても困るぜ」
咲夜「寧ろ私が尋ねたいぐらいよ……」
早苗「はい、霊夢さん」
「助けて~」と騒ぐレティをよそに、魔理沙と咲夜が霊夢に言い返す中、早苗が一人、小さく手を挙げる。
他に意見は出なさそうなので、霊夢は(やはりレティの助けを無視して)先を促す。
早苗「はい、ワルプルギスさんは雪遊びをしているだけのようですから、このまま遊ばせてあげるのが良いと私は思います」
咲夜「その心は?」
早苗「無理に止めずとも、このまま雪遊びで魔力を使いきって貰った方が良いんじゃないかと……」
言い換えるとワルプルギスの説得の諦め、このまま雪を降らせ続けると言う事だ。
それはつまり、この豪雪災害を放置する事になる訳だが……、
862: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/19(土) 10:28:17.68 ID:X6LWLopP0
霊夢「それもそうね」
魔理沙「だな。 むしろ冬に雪が降るのは当たり前だしな」
満場一致で早苗の案は採択された。
レティ「!? ちょっ、貴女たち正気!?」
じゃあ解散だ、と言わんばかりの霊夢たちにレティは思わず目を剥く。
が、レティが騒ぎだすより早く、霊夢たちは撤収し始めていた。
レティ「ちょっと霊夢!? 貴女、博麗の巫女でしょ!? 妖怪退治が仕事でしょ!?」
霊夢「子守りは専門外よ。 そー言う訳で、頑張りなさい」
レティ「鬼巫女!鬼畜!人でなし~っ!!」
悲鳴にも似た冬の怪の叫びが湖畔に響いたが、霊夢たちは振り返る事すらなく、霧の湖を後にした。
このワルプルギスの雪遊びは結局、三日三晩続き、幻想郷の大雪記録を塗り替えたらしい。
―――――――――――――― 【 お ま け 】 ――――――――――――――
ワルプルギス「あ♪ そう言えば雪ってかき氷みたい!ちょっと食べてみよっ!」
レティ「ッ!?ダメよ! 少なくとも地面に積もった雪は食べちゃダメっ!!」
ワルプルギス「え~っ……」
レティ「……ねぇ、雪遊びは楽しい?」
ワルプルギス「えっ? うん!楽しいよ! 私、雪大好き」
レティ「どうして?」
ワルプルギス「だって、綺麗な向日葵も、美味しいお芋も私が遊ぶとダメになっちゃうんだもん。
でもね、雪は違うんだよ。 私が遊んでもダメにならないの。 だから大好き!」
レティ「…………(だきっ」
ワルプルギス「? どうしたの?」
レティ「今は分からないかも知れないけど聞いて。 今はダメにしちゃうかも知れないけど、大丈夫になる日がきっと来るわ。
だから、雪……うぅん、冬以外の季節も嫌いにならないで欲しいの。 私と約束、出来る?」
ワルプルギス「……うん、分かった。 約束する」
レティ「ありがとう。 さて、それじゃあ私とめいっぱい遊びましょうか」
ワルプルギス「うんっ!」
三日後の朝、人間の里の上白沢慧音の元を少しくたびれた様子の冬の怪が訪れた。
その背中に、安らかな寝息を立てる少女を背負って……。
冬の怪の背中で眠る少女の顔は、たいそう満足げな顔で、流石の慧音もこの時ばかりは怒らなかったそうだ。
863: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/19(土) 10:32:45.98 ID:X6LWLopP0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~嵐を呼ぶ舞台劇~ 【ワルプルギス】
能力 あらゆるものを戯曲に変える程度の能力
危険度 不明
人間友好度 不明
主な活動場所 人間の里
幻想郷にやって来た魔女の一人で、その中でも珍しい子供の魔女である。
妖怪と言うのは通常、見た目が幼く見えても、精神的にはある程度成熟しているモノが大半だが、
彼女については見た目相応の精神の持ち主であり、今後の成長如何によって判断が分かれるとされている。
人間の里の寺子屋や、命蓮寺を中心に彼女に対する教育が施されている最中であるので、本稿に於いては彼女に対する評価は未定としたい。
それ以外の特徴として、空を飛ぶと逆さまになる事が挙げられる。
これについては良く分かっていないが、子供特有の独特な感性によるものではないかと言われている。
寺子屋で一度癇癪を起こした時は普通に飛んでいたと言うので遊びの一種なのかもしれない。
〔能力〕
難しく言っているが、“何事も遊びにしてしまう”能力である。
人間の子供が、大人なら考えもつかない物事を遊び感覚でやってしまうのと同じで、彼女のまた、あらゆる事を自分の望む“遊び”にしてしまう。
『遊び感覚で色々なモノを自在に操る』、と書くと恐ろしい能力なのだが、この辺は本人自身も良く分かっていないようだ。
遊んで良いモノと、悪いモノについては前述の通り躾けている最中なので、今後の為にも出来る範囲で協力したい点ではある。
なお、たまに能力の調整が上手くできていないのか、魔力が漏れて周囲の天候に影響を及ぼす事がある。
彼女の場合、突風か激しい通り雨になるので、この点も注意して貰いたい。
たいていの場合、半刻で収まるとの話で、この辺りは気が変わりやすい子供ならではと言えるだろう。
〔対処法〕
寺子屋関係者曰く、人の子と同程度の聞き分けは出来ているとの事なので、里の子供と同じように接するのが良いだろう。
つまり、褒めるところは褒め、叱る時はきちっと叱り、物事の分別をしっかり教えるべきである、と言う事だ。
子供の頃の躾が大切なのは人も妖怪も変わらないとの話なので、その点に関しては注意深く見守るべきだろう。
ただし、彼女が人間より強い妖怪である事は事実なので、必要以上に刺激することは避けるべきだ。
彼女がひとたび能力を発揮し始めると、命蓮寺か有力な魔女を呼ぶ騒ぎになるなど、人の手に負えなくなる事もある。
文字通り『寝た子を起こす』騒ぎになるので、気をつけて貰いたい。
私としては寺子屋や命蓮寺の努力が良い形で実る事を祈りたいと思う。
~嵐を呼ぶ舞台劇~ 【ワルプルギス】
能力 あらゆるものを戯曲に変える程度の能力
危険度 不明
人間友好度 不明
主な活動場所 人間の里
幻想郷にやって来た魔女の一人で、その中でも珍しい子供の魔女である。
妖怪と言うのは通常、見た目が幼く見えても、精神的にはある程度成熟しているモノが大半だが、
彼女については見た目相応の精神の持ち主であり、今後の成長如何によって判断が分かれるとされている。
人間の里の寺子屋や、命蓮寺を中心に彼女に対する教育が施されている最中であるので、本稿に於いては彼女に対する評価は未定としたい。
それ以外の特徴として、空を飛ぶと逆さまになる事が挙げられる。
これについては良く分かっていないが、子供特有の独特な感性によるものではないかと言われている。
寺子屋で一度癇癪を起こした時は普通に飛んでいたと言うので遊びの一種なのかもしれない。
〔能力〕
難しく言っているが、“何事も遊びにしてしまう”能力である。
人間の子供が、大人なら考えもつかない物事を遊び感覚でやってしまうのと同じで、彼女のまた、あらゆる事を自分の望む“遊び”にしてしまう。
『遊び感覚で色々なモノを自在に操る』、と書くと恐ろしい能力なのだが、この辺は本人自身も良く分かっていないようだ。
遊んで良いモノと、悪いモノについては前述の通り躾けている最中なので、今後の為にも出来る範囲で協力したい点ではある。
なお、たまに能力の調整が上手くできていないのか、魔力が漏れて周囲の天候に影響を及ぼす事がある。
彼女の場合、突風か激しい通り雨になるので、この点も注意して貰いたい。
たいていの場合、半刻で収まるとの話で、この辺りは気が変わりやすい子供ならではと言えるだろう。
〔対処法〕
寺子屋関係者曰く、人の子と同程度の聞き分けは出来ているとの事なので、里の子供と同じように接するのが良いだろう。
つまり、褒めるところは褒め、叱る時はきちっと叱り、物事の分別をしっかり教えるべきである、と言う事だ。
子供の頃の躾が大切なのは人も妖怪も変わらないとの話なので、その点に関しては注意深く見守るべきだろう。
ただし、彼女が人間より強い妖怪である事は事実なので、必要以上に刺激することは避けるべきだ。
彼女がひとたび能力を発揮し始めると、命蓮寺か有力な魔女を呼ぶ騒ぎになるなど、人の手に負えなくなる事もある。
文字通り『寝た子を起こす』騒ぎになるので、気をつけて貰いたい。
私としては寺子屋や命蓮寺の努力が良い形で実る事を祈りたいと思う。
883: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/22(火) 22:27:02.38 ID:A9mA+Em10
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
天子「何とかは風邪をひかない、ってよく言うけど、アレって眉唾よね」
ギーゼラ「うるせ、ほっとけ……ごほっ、ごほっ!」
皮肉とも呆れともとれる言葉を漏らす比那名居天子を、銀の魔女・ギーゼラは万年床になっている布団に潜り込んだまま睨み付ける。
幻想郷に降った記録的な大雪から数日後、普段なら爆音を立てて天界に殴り込んでくる筈の不良娘が来ないことが気になり、
天子は妖怪の山中腹のギーゼラの家を訪ねていた。
天子「雪で埋もれた川を道と間違えて突っ込んだそうじゃない。 なかなか出来る経験じゃないわよ」
ギーゼラ「したくてしたんじゃねーよ! と言うかんな事やりたがるヤツなんか居るのかよ?」
天子「私に聞かないでよ。 分かる訳ないでしょ?馬鹿の考える事なんて……」
ギーゼラ「だからあたいは馬鹿じゃねぇっ! ごほっ、げほっ!!」
布団から飛び上がらんばかりの勢いで反論しかけて、ギーゼラは思いっきり咳き込んだ。
「ああ、もう、何してるのよ……」と呆れた様子で呟きつつ、天子はギーゼラを布団の中に押し戻す。
ギーゼラ(くそっ、なんであたいはこんなヤツと知り合っちまったんだか……)
天子と出会ったのは妖怪の山に居を構えてすぐの事。
整備を終えたバイクの慣らしついでに、妖怪の山の登山道を上まで登ってみようと思った時の事だ。
天狗の里を突っ切り、守矢神社の脇をすり抜け、頂上までたどり着いたギーゼラはそこから先が天界になっている事を知り、
どうせ来たついでだからと天界にも足を踏み入れたのである。 そして……、
天子「まったく、あんな出会いは私も初めてよ? 後ろから変な音がしたかと思ったらいきなり轢かれるんだもん」
ギーゼラ「だからそれは悪かったって何度も言ってるだろ? アンタもそーとー根に持つタイプだな……」
天子「根に持つも何も天界に来るたびに轢き逃げアタックをかまして来るのは貴女の方じゃない」
「ここ数ヶ月で回避が前より上手くなった気がするわ……」と怒りながら言う天子。
技能が上がったのなら、それはそれで良いじゃないかとギーゼラは思ったが、話をこじらせるだけなので言わずに黙っておく。
天子「さてと、あんまり長居して風邪をうつされてもアレだし、そろそろ帰ろうかな」
ギーゼラ「アンタなら大丈夫じゃないか? 何とかは風邪をひかないんだろ?」
天子「それはどういう意味かしら?」
天子「何とかは風邪をひかない、ってよく言うけど、アレって眉唾よね」
ギーゼラ「うるせ、ほっとけ……ごほっ、ごほっ!」
皮肉とも呆れともとれる言葉を漏らす比那名居天子を、銀の魔女・ギーゼラは万年床になっている布団に潜り込んだまま睨み付ける。
幻想郷に降った記録的な大雪から数日後、普段なら爆音を立てて天界に殴り込んでくる筈の不良娘が来ないことが気になり、
天子は妖怪の山中腹のギーゼラの家を訪ねていた。
天子「雪で埋もれた川を道と間違えて突っ込んだそうじゃない。 なかなか出来る経験じゃないわよ」
ギーゼラ「したくてしたんじゃねーよ! と言うかんな事やりたがるヤツなんか居るのかよ?」
天子「私に聞かないでよ。 分かる訳ないでしょ?馬鹿の考える事なんて……」
ギーゼラ「だからあたいは馬鹿じゃねぇっ! ごほっ、げほっ!!」
布団から飛び上がらんばかりの勢いで反論しかけて、ギーゼラは思いっきり咳き込んだ。
「ああ、もう、何してるのよ……」と呆れた様子で呟きつつ、天子はギーゼラを布団の中に押し戻す。
ギーゼラ(くそっ、なんであたいはこんなヤツと知り合っちまったんだか……)
天子と出会ったのは妖怪の山に居を構えてすぐの事。
整備を終えたバイクの慣らしついでに、妖怪の山の登山道を上まで登ってみようと思った時の事だ。
天狗の里を突っ切り、守矢神社の脇をすり抜け、頂上までたどり着いたギーゼラはそこから先が天界になっている事を知り、
どうせ来たついでだからと天界にも足を踏み入れたのである。 そして……、
天子「まったく、あんな出会いは私も初めてよ? 後ろから変な音がしたかと思ったらいきなり轢かれるんだもん」
ギーゼラ「だからそれは悪かったって何度も言ってるだろ? アンタもそーとー根に持つタイプだな……」
天子「根に持つも何も天界に来るたびに轢き逃げアタックをかまして来るのは貴女の方じゃない」
「ここ数ヶ月で回避が前より上手くなった気がするわ……」と怒りながら言う天子。
技能が上がったのなら、それはそれで良いじゃないかとギーゼラは思ったが、話をこじらせるだけなので言わずに黙っておく。
天子「さてと、あんまり長居して風邪をうつされてもアレだし、そろそろ帰ろうかな」
ギーゼラ「アンタなら大丈夫じゃないか? 何とかは風邪をひかないんだろ?」
天子「それはどういう意味かしら?」
884: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/22(火) 22:30:34.62 ID:A9mA+Em10
ギーゼラ「言わねぇと分かんねーか? つまり……」
???「お邪魔するよっ!!」
ギーゼラ&天子「「っ!?」」
売り言葉に買い言葉で一触即発の状況になった所に、新たな人物が転がり込んできた。
ぎょっとして振り返ると、見知った女性――最年長魔女のロベルタが、壁に隠れるようにして息を整えていた。
ロベルタ「はぁ、はぁっ……、悪いね。 ちょっと匿ってくれない?」
ギーゼラ「誰かと思ったら姐さんか……。 またアイツに追われてるのか?」
ロベルタ「ちょっと一人でいるところを見つかっちゃってねぇ……。 そろそろ諦めてくれないかねぇ……」
そう言うとロベルタはチラリと窓の外を見やる。
相変わらず厚い雲が垂れ込めている空で、カメラと手帖を手にした鴉天狗――射命丸文が辺りをきょろきょろと見回しているのが見えた。
天子「えっと……、誰?」
突然の乱入者に話しについて来れなかった天子が思わず声を漏らす。
ポカンとしている天子にロベルタはしまったと言う顔をすると、握手を求めつつ自己紹介をする。
ロベルタ「“魔女”の一人でロベルタだ。 普段は地下の旧都とかで酒盛りをしてる。 来る機会があったら奢るよ、お嬢ちゃん」
天子「天人の比那名居天子よ。 それにしても地下ねぇ……、もしかして、鬼の連中とよくつるんでる、って言うのが貴女?」
ロベルタ「ご名答だよ、お嬢ちゃん」
そんな話を鬼の伊吹萃香から聞いていた天子が呟くように尋ねると、ロベルタは小さく微笑みながら頷く。
鬼と普段からつるんでいる魔女なら、鴉天狗のパパラッチに追い掛けられるのも当然か、と妙な納得をしてしまう。
ギーゼラ「それより姐さん、あんまり長居しないほうが良いぜ。 あたいの風邪をうつしちまう」
ロベルタ「ああ、私もそのつもりはないよ。 ああもう、しょうがないなぁ……、ちょっと相手をしてやるか」
天子「なっ!!?」
文がこの周辺から離れようとしないのを窓越しに確認したロベルタは、しゃがんだままロングスカートの中に手を入れる。
思わず目を見開く天子の前で、スカートをばさっとめくり上げ……、次の瞬間、その手に二丁の機関銃が握られていた。
885: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/22(火) 22:32:36.05 ID:A9mA+Em10
ロベルタ「邪魔したね。 それじゃ、しっかり治せよ!」
ギーゼラ「へいへい、姐さんも気をつけてな……」
ロベルタ「伊達に場数は踏んでないよ。 さて、それじゃあいっちょやってやるか!」
そう言うとロベルタはころあいを見計らってギーゼラの家を飛び出していった。
上空の文が気を逸らした隙を狙って、横合いから奇襲攻撃を仕掛ける。
使っているのはペイント弾のようだが、油断していた文には効果覿面だったようで、二人の影はすぐに見えなくなった。
天子「えっ?あっ……、ええっ!?」
ギーゼラ「はぁ、姐さんも大変だねぇ……」
天子「……ねぇちょっと、今の何? 明らかに物理法則を無視した得物が出てきたんだけど……」
ギーゼラ「何って姐さんの魔法に決まってるじゃねーか。 ま、あれは姐さん本来の魔法じゃないらしいが……」
呆然としている天子に、いつもの事だと言うようにギーゼラが言う。
同じ魔女仲間であるギーゼラも詳しい事は知らないらしい。
ギーゼラ「ああ見えて姐さんは用心深いぜ。 魔力は弱いが、なんだかんだと言って手の内は絶対晒さねぇ……」
天子「外の世界のオトナの女って凄いのね……」
「ああ言うオトナになりたいもんだなー」と言いつつ布団に再度潜り込むギーゼラに対し、天子は苦笑することしか出来なかった。
―――――――――――――― 【 お ま け 】 ――――――――――――――
文「痛たたた……、また逃げられてしまいました」
椛「いい加減諦めたらどうです? どう見ても遊ばれてますよ?」
文「何を言ってるんですか椛! ここまでされて私が引き下がる訳ないでしょう?
ロベルタさんは引き出しをたくさん持って居るようですが、それならそれで、引き出しが出尽くすまでやりあうだけです!」
椛「お願いしますから天狗の里を戦場にするような真似だけはしないで下さいね?」
886: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/22(火) 22:36:53.73 ID:A9mA+Em10
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~疾駆する銀の荒馬~ 【ギーゼラ】
能力 すばやく動く程度の能力
危険度 中
人間友好度 皆無
主な活動場所 妖怪の山など
妖怪の山を中心に鋼鉄の荒馬を駆って走り回っている魔女の一人。
基本的に単独行動を好み、また外に居るときは常に走り回っているそうなので、会話などをする事はまずないと思われる。
彼女の駆る“荒馬”は空も飛べるらしいが、どういう訳か地表を走っていることの方が多い。
単に速く移動するだけなら、空を飛んだほうが圧倒的に速いのでこの辺は趣味なのではないかと思われる。
彼女の荒馬は一度走り出すとかなりの爆音を出すので、少し離れた場所でも彼女が走っている事は音で分かる程である。
身を守る上でこの音が重要なので、変な爆音がしたら注意しよう。
〔能力〕
その名の通りである。 とにかく彼女の移動は素早い。
速すぎて急に止まる事はまず不可能なので、爆音が間近に聞こえたら危険である。
轢かれないように物陰に隠れるなどして、やり過ごす事をオススメする。
〔対処法〕
遭遇場所は大抵、妖怪の山の山道なので山に入らなければまず会う事はない。
もし、何らかの用事で山道に行く場合は常に耳を澄ませて彼女の操る“荒馬”の音を聞き逃さないようにするべきである。
道の真ん中にいるとほぼ間違いなく轢かれるので、変な爆音が聞こえたら、道の脇の木陰に身を隠してやり過ごしたい。
仮に轢かれたりすると、まず大怪我は間違いなしであり、最悪自力の下山が不可能になるので、
極力山に行く事は避けて貰うか、二人以上で、なるべくなら力のある人と行く事をお勧めする。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~酔に生き、夢に死す乙女~ 【ロベルタ】
能力 焼き鳥を用意する程度の能力
危険度 低
人間友好度 中
主な活動場所 旧都、妖怪の山など
現在確認されている魔女の中でも最年長で、その分、謎も多い。
ここに記載されている能力も本人の自己申告であり、正確なところはハッキリしていない。
鬼と一緒に行動しているのが確認されているので、その実力はかなりのものであると思われるが、
状況証拠だけであり、その実力や能力は謎に包まれている。
そのため本稿に於いては判明していることだけを書かせてもらう。
唯一はっきりしているのは男嫌いと言う事である。
所構わず襲ってくるような真似こそしないが、男性に対しては得てして厳しい。
子供や年寄りと言った例外もあるにはあるが、基本良い顔はされないようだ。
〔能力〕
付き合いのある鬼と飲む時に活用されているのが目撃されている。
また、焼き鳥ゆえに、夜雀など一部の妖怪からはウケが悪く、鳥系の妖怪から避けられている節がある。
仕入れ先など詳しい事も不明で、ここまで徹底していると、生前に何かあったのではと穿った見方をしたくなってしまう。
〔対処法〕
活動拠点が地底と妖怪の山なので会う機会はそうそう無いだろう。
性格は温厚であり普通に会話する分には問題ないと思われる。
ただし、前述の通り能力を隠していたり、鬼との付き合いなど強者であることが窺える事から、侮って掛かるのは避けた方が良い。
特に男性はその傾向が強く、女性なら冗談で流してくれる場面でも、男性だとダメな場合があるので、男性諸氏は特に気をつけよう。
オンナの扱いと言うのは難しいモノなのである。
~疾駆する銀の荒馬~ 【ギーゼラ】
能力 すばやく動く程度の能力
危険度 中
人間友好度 皆無
主な活動場所 妖怪の山など
妖怪の山を中心に鋼鉄の荒馬を駆って走り回っている魔女の一人。
基本的に単独行動を好み、また外に居るときは常に走り回っているそうなので、会話などをする事はまずないと思われる。
彼女の駆る“荒馬”は空も飛べるらしいが、どういう訳か地表を走っていることの方が多い。
単に速く移動するだけなら、空を飛んだほうが圧倒的に速いのでこの辺は趣味なのではないかと思われる。
彼女の荒馬は一度走り出すとかなりの爆音を出すので、少し離れた場所でも彼女が走っている事は音で分かる程である。
身を守る上でこの音が重要なので、変な爆音がしたら注意しよう。
〔能力〕
その名の通りである。 とにかく彼女の移動は素早い。
速すぎて急に止まる事はまず不可能なので、爆音が間近に聞こえたら危険である。
轢かれないように物陰に隠れるなどして、やり過ごす事をオススメする。
〔対処法〕
遭遇場所は大抵、妖怪の山の山道なので山に入らなければまず会う事はない。
もし、何らかの用事で山道に行く場合は常に耳を澄ませて彼女の操る“荒馬”の音を聞き逃さないようにするべきである。
道の真ん中にいるとほぼ間違いなく轢かれるので、変な爆音が聞こえたら、道の脇の木陰に身を隠してやり過ごしたい。
仮に轢かれたりすると、まず大怪我は間違いなしであり、最悪自力の下山が不可能になるので、
極力山に行く事は避けて貰うか、二人以上で、なるべくなら力のある人と行く事をお勧めする。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~酔に生き、夢に死す乙女~ 【ロベルタ】
能力 焼き鳥を用意する程度の能力
危険度 低
人間友好度 中
主な活動場所 旧都、妖怪の山など
現在確認されている魔女の中でも最年長で、その分、謎も多い。
ここに記載されている能力も本人の自己申告であり、正確なところはハッキリしていない。
鬼と一緒に行動しているのが確認されているので、その実力はかなりのものであると思われるが、
状況証拠だけであり、その実力や能力は謎に包まれている。
そのため本稿に於いては判明していることだけを書かせてもらう。
唯一はっきりしているのは男嫌いと言う事である。
所構わず襲ってくるような真似こそしないが、男性に対しては得てして厳しい。
子供や年寄りと言った例外もあるにはあるが、基本良い顔はされないようだ。
〔能力〕
付き合いのある鬼と飲む時に活用されているのが目撃されている。
また、焼き鳥ゆえに、夜雀など一部の妖怪からはウケが悪く、鳥系の妖怪から避けられている節がある。
仕入れ先など詳しい事も不明で、ここまで徹底していると、生前に何かあったのではと穿った見方をしたくなってしまう。
〔対処法〕
活動拠点が地底と妖怪の山なので会う機会はそうそう無いだろう。
性格は温厚であり普通に会話する分には問題ないと思われる。
ただし、前述の通り能力を隠していたり、鬼との付き合いなど強者であることが窺える事から、侮って掛かるのは避けた方が良い。
特に男性はその傾向が強く、女性なら冗談で流してくれる場面でも、男性だとダメな場合があるので、男性諸氏は特に気をつけよう。
オンナの扱いと言うのは難しいモノなのである。
887: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/22(火) 22:38:44.07 ID:A9mA+Em10
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ゲルトルート「こんにちは」
魔女異変以降、紅魔館専属庭師として庭園整備に精を出していた薔薇園の魔女・ゲルトルートが、彼女のもとを訪ねたのは師走の中頃の事。
時折雪の舞う中、傘を片手にしゃがんで花を眺めていた風見幽香は意外な来訪者に僅かではあるが目を見開く。
幽香「あら、誰かと思ったらゲルトルートじゃない……。 今日は何の用?」
ゲルトルート「特に用事と言う訳では……。 ただ、お嬢様から暇を出されてしまって……」
春や秋に花を付ける薔薇も流石にこの時季になるとシーズンオフに入る。
無論、花が咲いていない時季でも世話は必要だが、夏に比べるとその頻度はグッと下がる。
幽香「ふぅん、魔女ご自慢の薔薇園も冬季休業はするのね……」
ゲルトルート「茶化さないで下さい幽香さん。
確かにやろうと思えば冬でも咲かせる事は出来ますけど……。 でもそれは幽香さんも同じでしょう?」
「魔法で咲かせ続ける事ぐらい朝飯前でしょう?」と、からかうように言う幽香に、ゲルトルートは逆に尋ね返す。
花を操るフラワーマスターの異名をもつ幽香だが、彼女も季節に逆らってまで花を咲かせるような真似は基本的にしないと聞いている。
まだ知り合って半年程度だが、ゲルトルート自身も幽香が季節外れの花を咲かせている場面は今のところ見ていない。
幽香「私は貴女と違って、四季折々の花を愛でる主義なの。 どういう訳か向日葵に特化してるイメージが広まってるみたいだけど……」
ゲルトルート「そう? 何だかんだと言って太陽の畑に居ることが多い気がするけど……」
かく言うこの場所も太陽の畑から程近い花の群生地だ。
疎い人や興味の薄い人たちから見れば同一視されてもおかしくない場所である。
幽香「花の群生地がたまたまこの辺に集中してるだけよ」
ゲルトルート「“たまたま”ねぇ……」
幽香「ええ、“たまたま”よ」
しれっと追撃をかわしながら立ち上がった幽香は、ついて来なさいと言うようにくるりと身を翻し、ゲルトルートもその後に続いた。
ゲルトルート「こんにちは」
魔女異変以降、紅魔館専属庭師として庭園整備に精を出していた薔薇園の魔女・ゲルトルートが、彼女のもとを訪ねたのは師走の中頃の事。
時折雪の舞う中、傘を片手にしゃがんで花を眺めていた風見幽香は意外な来訪者に僅かではあるが目を見開く。
幽香「あら、誰かと思ったらゲルトルートじゃない……。 今日は何の用?」
ゲルトルート「特に用事と言う訳では……。 ただ、お嬢様から暇を出されてしまって……」
春や秋に花を付ける薔薇も流石にこの時季になるとシーズンオフに入る。
無論、花が咲いていない時季でも世話は必要だが、夏に比べるとその頻度はグッと下がる。
幽香「ふぅん、魔女ご自慢の薔薇園も冬季休業はするのね……」
ゲルトルート「茶化さないで下さい幽香さん。
確かにやろうと思えば冬でも咲かせる事は出来ますけど……。 でもそれは幽香さんも同じでしょう?」
「魔法で咲かせ続ける事ぐらい朝飯前でしょう?」と、からかうように言う幽香に、ゲルトルートは逆に尋ね返す。
花を操るフラワーマスターの異名をもつ幽香だが、彼女も季節に逆らってまで花を咲かせるような真似は基本的にしないと聞いている。
まだ知り合って半年程度だが、ゲルトルート自身も幽香が季節外れの花を咲かせている場面は今のところ見ていない。
幽香「私は貴女と違って、四季折々の花を愛でる主義なの。 どういう訳か向日葵に特化してるイメージが広まってるみたいだけど……」
ゲルトルート「そう? 何だかんだと言って太陽の畑に居ることが多い気がするけど……」
かく言うこの場所も太陽の畑から程近い花の群生地だ。
疎い人や興味の薄い人たちから見れば同一視されてもおかしくない場所である。
幽香「花の群生地がたまたまこの辺に集中してるだけよ」
ゲルトルート「“たまたま”ねぇ……」
幽香「ええ、“たまたま”よ」
しれっと追撃をかわしながら立ち上がった幽香は、ついて来なさいと言うようにくるりと身を翻し、ゲルトルートもその後に続いた。
888: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/22(火) 22:42:36.91 ID:A9mA+Em10
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ゲルトルート「今の時季だとどんな花があるんです?」
ところ変わって幽香の家。
ゲルトルートは淹れたてのお茶を幽香に差し出しながらふと思い出したと言うように尋ねた。
花びらが浮かぶティーカップを口許に運び、湯気と共に立ち上る香りを楽しんでから、幽香はカップに口を付ける。
幽香「そうね。やっぱり代表的なのは寒椿や水仙じゃないかしら? 後は……、そうね、西洋桜草もそろそろ咲くわ。
あら、このローズティー美味しい……」
ゲルトルート「椿や水仙は分かりますけどサクラソウですか……。 こんな時季から咲くサクラソウもあるんですね。
あっ、それ、ウチの薔薇で作った紅魔館特製ブレンドなんです。 幽香さんのお口に合ったなら何種類かお譲りしますよ?」
再び舞い出した雪を見ながらゲルトルートは感心したと言うように呟く。
暖冬続きの外の世界と違い、寒さ厳しい幻想郷の冬。
一見すると過酷にも見える環境だが花はしっかりと咲いているのだ。
幽香「それにしてもすっかり丸くなったわね、貴女……。 最初は“私の”花たちに平然と手を出してくる程だったのに……」
「張り合いが甲斐が無いわ」と冷笑を浮かべる幽香に、ゲルトルートは乾いた笑いを漏らす。
ゲルトルート「幽香さんにはなにかとお世話になってますし、それに……」
幽香「それに……、なにかしら?」
ゲルトルート「いっ、いえ、なんでも!」
ニヤニヤしている幽香に対し、ゲルトルートは慌てて首と手を横に振る。
六月の魔女異変の時の幽香は思い出しただけでも震えがくるトラウマとしてゲルトルートの心の中に深く刻み込まれていた。
現世で呪う存在としての“魔女”をしていた時の癖が抜けきっていなかったとは言え、よくあんな事が出来たものだとゲルトルート自身も思う。
霊夢たちに幽香の前につき出されて、筆舌に尽くしがたいお仕置きを受けた時は、自身の行いを深く悔やんだ程だ。
幽香「心配しなくても大丈夫よ。 弱い者虐めは趣味じゃないの。花に手を出す愚か者は例外だけど……」
ゲルトルート「あ、あはは……」
しれっと言ってのける幽香にゲルトルートは顔を青くした。
身をもって知っているだけに洒落に聞こえない。
それどころか、幽香なら間違いなくやるだろうと言う確信すらあった。
幽香「まあ、貴女はもうそんな心配はないと思ってるけど……」
ゲルトルート「えっ?」
幽香「なんでもないわ。 ところで、時間の方は大丈夫なの? あそこのお屋敷、門限とかあるんじゃないの?」
ゲルトルート「お暇を貰いましたから今日は大丈夫……、と言いたいところなんですけど、天気が天気なのでそろそろおいとまさせて頂きます」
幽香「天気? ああ、また強くなってきたのね。雪……」
勢いを増してきた雪を見て幽香は納得した。
最初から記録的な豪雪で幕を開けた今年の冬だが、まだまだ自重するつもりは無いらしい。
結局、ゲルトルートは雪が酷くなる前に帰っていった。
ゲルトルートを見送った後、幽香は分けて貰ったローズティーでティータイムの続きを楽しむことにした。
さっきとは違う、別のブレンドティーを淹れる。
ほのかに香る薔薇の香りがなんとも言えない、見事なローズティー。
幽香「流石、と言ったところかしら。 薔薇に関しては私もうかうかしていられないわね……。
新参さんに負けたんじゃ、フラワーマスターの名が泣くわ」
そうポツリと呟いた幽香は、刺のある言葉とは裏腹に、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
ゲルトルート「今の時季だとどんな花があるんです?」
ところ変わって幽香の家。
ゲルトルートは淹れたてのお茶を幽香に差し出しながらふと思い出したと言うように尋ねた。
花びらが浮かぶティーカップを口許に運び、湯気と共に立ち上る香りを楽しんでから、幽香はカップに口を付ける。
幽香「そうね。やっぱり代表的なのは寒椿や水仙じゃないかしら? 後は……、そうね、西洋桜草もそろそろ咲くわ。
あら、このローズティー美味しい……」
ゲルトルート「椿や水仙は分かりますけどサクラソウですか……。 こんな時季から咲くサクラソウもあるんですね。
あっ、それ、ウチの薔薇で作った紅魔館特製ブレンドなんです。 幽香さんのお口に合ったなら何種類かお譲りしますよ?」
再び舞い出した雪を見ながらゲルトルートは感心したと言うように呟く。
暖冬続きの外の世界と違い、寒さ厳しい幻想郷の冬。
一見すると過酷にも見える環境だが花はしっかりと咲いているのだ。
幽香「それにしてもすっかり丸くなったわね、貴女……。 最初は“私の”花たちに平然と手を出してくる程だったのに……」
「張り合いが甲斐が無いわ」と冷笑を浮かべる幽香に、ゲルトルートは乾いた笑いを漏らす。
ゲルトルート「幽香さんにはなにかとお世話になってますし、それに……」
幽香「それに……、なにかしら?」
ゲルトルート「いっ、いえ、なんでも!」
ニヤニヤしている幽香に対し、ゲルトルートは慌てて首と手を横に振る。
六月の魔女異変の時の幽香は思い出しただけでも震えがくるトラウマとしてゲルトルートの心の中に深く刻み込まれていた。
現世で呪う存在としての“魔女”をしていた時の癖が抜けきっていなかったとは言え、よくあんな事が出来たものだとゲルトルート自身も思う。
霊夢たちに幽香の前につき出されて、筆舌に尽くしがたいお仕置きを受けた時は、自身の行いを深く悔やんだ程だ。
幽香「心配しなくても大丈夫よ。 弱い者虐めは趣味じゃないの。花に手を出す愚か者は例外だけど……」
ゲルトルート「あ、あはは……」
しれっと言ってのける幽香にゲルトルートは顔を青くした。
身をもって知っているだけに洒落に聞こえない。
それどころか、幽香なら間違いなくやるだろうと言う確信すらあった。
幽香「まあ、貴女はもうそんな心配はないと思ってるけど……」
ゲルトルート「えっ?」
幽香「なんでもないわ。 ところで、時間の方は大丈夫なの? あそこのお屋敷、門限とかあるんじゃないの?」
ゲルトルート「お暇を貰いましたから今日は大丈夫……、と言いたいところなんですけど、天気が天気なのでそろそろおいとまさせて頂きます」
幽香「天気? ああ、また強くなってきたのね。雪……」
勢いを増してきた雪を見て幽香は納得した。
最初から記録的な豪雪で幕を開けた今年の冬だが、まだまだ自重するつもりは無いらしい。
結局、ゲルトルートは雪が酷くなる前に帰っていった。
ゲルトルートを見送った後、幽香は分けて貰ったローズティーでティータイムの続きを楽しむことにした。
さっきとは違う、別のブレンドティーを淹れる。
ほのかに香る薔薇の香りがなんとも言えない、見事なローズティー。
幽香「流石、と言ったところかしら。 薔薇に関しては私もうかうかしていられないわね……。
新参さんに負けたんじゃ、フラワーマスターの名が泣くわ」
そうポツリと呟いた幽香は、刺のある言葉とは裏腹に、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
889: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/22(火) 22:46:20.44 ID:A9mA+Em10
―――――――――――――― 【 お ま け 】 ――――――――――――――
【第126季六月・魔女異変時 太陽の畑にて】
ゲルトルート「…………」
幽香「貴女、仮にも花を愛でる趣味を持っているのなら、自分が何をしたのか、分かってるわよね?」
縄でぐるぐる巻きにされ頭を垂れる少女――ゲルトルートに幽香は静かに問いかけた。
あからさまに怒気を含ませるのではなく、あくまでも静かな問いかけにゲルトルートは親に叱られる子供のように縮こまる。
ゲルトルート「…………はい」
幽香「私はね。弱いヤツに興味は無いけど、か弱い草花に手を出すバカは大嫌いなの。
他人の花に手を出すなんて阿呆な真似をするバカに、花を愛でる資格なんて無いわ」
ゲルトルート「うぅっ……、ごめん……なさい……」
一見すると厳しい言葉だが、それ故に幽香の言葉は正鵠を射るモノだった。
涙を目に浮かべて謝罪の言葉を述べるゲルトルートだが、幽香は表情一つ、眉一つ動かさずに言う。
幽香「私に頭を下げられても困るわ。 貴女がダメにした花たちに謝って頂戴。
さて、貴女、信賞必罰って言葉は知ってるわよね? 貴女には同じ罰を受けてもらうわ」
ゲルトルート「っ!? それだけは、それだけはやめて下さいッ!」
幽香「っ!? 貴女ねぇ……、自分が何を言っているのか分かって……」
拒否の声を上げるゲルトルートに幽香は思わず目を剥いた。
所詮はその程度の反省でしかなかったか、と内心失望しかけて……、次の瞬間、ゲルトルートが発した言葉に幽香は動きを止めた。
ゲルトルート「私はどんな罰でも受けます! だから私の薔薇たちには手を出さないで下さい!!」
幽香「なっ!?」
ゲルトルート「悪いのは私です。私は何をされても良いです。 だから……、お願いしますっ!!」
ゲルトルートは縛られたままなのも気にせず平伏して、幽香に涙ながらに懇願する。
その必死な表情は、その言葉に嘘偽りが一切無い事を如実に物語っていて……、幽香は思わず苦笑した。
幽香「ふふっ、貴女、私の言葉を聞いて居なかったのかしら?」
ゲルトルート「えっ?」
幽香「言ったでしょう? 『他人の花に手を出す阿呆に花を愛でる資格なんてない』って……。
こっちがやられたからと言って、私が貴女の花に手を出したらそれこそ本末転倒でしょう?」
ゲルトルート「それじゃあ……」
幽香「ええ、貴女の薔薇には手を出さないと誓うわ。 罰を受けるのは貴女自身よ。
さて、それじゃあ、変な誤解も解けた事だし……、ちょっと貴女、歯を食いしばりなさい」
この後、ゲルトルートは二度と幽香相手にこんな真似はするまいと固く誓う程のお説教をその身に受けることになる。
ともすれば加虐嗜好者などと噂される幽香が、この時は別な意味で笑みを浮かべていたのだが、ゲルトルートが気が付く事は無かった。
【第126季六月・魔女異変時 太陽の畑にて】
ゲルトルート「…………」
幽香「貴女、仮にも花を愛でる趣味を持っているのなら、自分が何をしたのか、分かってるわよね?」
縄でぐるぐる巻きにされ頭を垂れる少女――ゲルトルートに幽香は静かに問いかけた。
あからさまに怒気を含ませるのではなく、あくまでも静かな問いかけにゲルトルートは親に叱られる子供のように縮こまる。
ゲルトルート「…………はい」
幽香「私はね。弱いヤツに興味は無いけど、か弱い草花に手を出すバカは大嫌いなの。
他人の花に手を出すなんて阿呆な真似をするバカに、花を愛でる資格なんて無いわ」
ゲルトルート「うぅっ……、ごめん……なさい……」
一見すると厳しい言葉だが、それ故に幽香の言葉は正鵠を射るモノだった。
涙を目に浮かべて謝罪の言葉を述べるゲルトルートだが、幽香は表情一つ、眉一つ動かさずに言う。
幽香「私に頭を下げられても困るわ。 貴女がダメにした花たちに謝って頂戴。
さて、貴女、信賞必罰って言葉は知ってるわよね? 貴女には同じ罰を受けてもらうわ」
ゲルトルート「っ!? それだけは、それだけはやめて下さいッ!」
幽香「っ!? 貴女ねぇ……、自分が何を言っているのか分かって……」
拒否の声を上げるゲルトルートに幽香は思わず目を剥いた。
所詮はその程度の反省でしかなかったか、と内心失望しかけて……、次の瞬間、ゲルトルートが発した言葉に幽香は動きを止めた。
ゲルトルート「私はどんな罰でも受けます! だから私の薔薇たちには手を出さないで下さい!!」
幽香「なっ!?」
ゲルトルート「悪いのは私です。私は何をされても良いです。 だから……、お願いしますっ!!」
ゲルトルートは縛られたままなのも気にせず平伏して、幽香に涙ながらに懇願する。
その必死な表情は、その言葉に嘘偽りが一切無い事を如実に物語っていて……、幽香は思わず苦笑した。
幽香「ふふっ、貴女、私の言葉を聞いて居なかったのかしら?」
ゲルトルート「えっ?」
幽香「言ったでしょう? 『他人の花に手を出す阿呆に花を愛でる資格なんてない』って……。
こっちがやられたからと言って、私が貴女の花に手を出したらそれこそ本末転倒でしょう?」
ゲルトルート「それじゃあ……」
幽香「ええ、貴女の薔薇には手を出さないと誓うわ。 罰を受けるのは貴女自身よ。
さて、それじゃあ、変な誤解も解けた事だし……、ちょっと貴女、歯を食いしばりなさい」
この後、ゲルトルートは二度と幽香相手にこんな真似はするまいと固く誓う程のお説教をその身に受けることになる。
ともすれば加虐嗜好者などと噂される幽香が、この時は別な意味で笑みを浮かべていたのだが、ゲルトルートが気が付く事は無かった。
890: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/22(火) 22:48:51.17 ID:A9mA+Em10
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~不信の紅薔薇~ 【ゲルトルート】
能力 薔薇を育てる程度の能力
危険度 中
人間友好度 低
主な活動場所 紅魔館など
外の世界からやってきた魔女の一人。
緑を基調とした姿に、蝶の翅と言う妖精がそのまま大きくなった姿をしている。
その姿から分かるように彼女が操るのは植物で、その中でも薔薇系の花を操ることに特化している。
その能力を買われ、紅魔館で住み込みの庭師をしている。
基本的に紅魔館で庭園整備に精を出しているので、他の場所で見かけることは極めて稀。
たまに太陽の畑や無名の丘など幻想郷各地の花畑に出没する事もあるらしい。
〔能力〕
薔薇を生み出し、育て、自由の操る能力である。
棘を使って攻撃したり、茎を鞭のように操ったりと、地味だが当たると結構痛い。
また毒物を生成することもやろうと思えば出来るらしいので、その辺も注意が必要だ。
“薔薇園の魔女”という異名が語るように、彼女の能力は薔薇そのものだけでなく、
剪定鋏や如雨露と言った園芸用具も操れるモノの範囲に入っている。
鋏を使った攻撃は普通に致命傷になり得る強烈なモノなので、植物を操る能力なんて~、と甘く見ると痛い目を見る。
『綺麗な薔薇には棘がある』の言葉通り、油断してはいけない。
何事にも注意が必要なのだ。
〔対処法〕
基本、紅魔館から離れないのでまず会う機会がない。
外であったとしても、いきなり襲われるような事はまず無いと思われる。
薔薇園を見せて下さいと言えば、紅魔館内部の庭を案内してくれる事もあるらしい。
魔法で薔薇を生み出す事は季節を問わず出来るそうなので、薔薇の花が必要な時は頼むといいかも知れない。
が、しかし、それ故に薔薇園に手出しをする者には一切の容赦がない。
不慮の事故ならともかく、悪戯などには普段の穏やかさが嘘のように激昂して手が付けられなくなる。
人の機微を察するのも得意なようで、そういう人間には最初から厳しく、門前払いをくらうこともある。
冷やかし、悪戯目的の来訪は厳禁だ。
良識をもって行動し、彼女の不信を買わないようにしよう。
~不信の紅薔薇~ 【ゲルトルート】
能力 薔薇を育てる程度の能力
危険度 中
人間友好度 低
主な活動場所 紅魔館など
外の世界からやってきた魔女の一人。
緑を基調とした姿に、蝶の翅と言う妖精がそのまま大きくなった姿をしている。
その姿から分かるように彼女が操るのは植物で、その中でも薔薇系の花を操ることに特化している。
その能力を買われ、紅魔館で住み込みの庭師をしている。
基本的に紅魔館で庭園整備に精を出しているので、他の場所で見かけることは極めて稀。
たまに太陽の畑や無名の丘など幻想郷各地の花畑に出没する事もあるらしい。
〔能力〕
薔薇を生み出し、育て、自由の操る能力である。
棘を使って攻撃したり、茎を鞭のように操ったりと、地味だが当たると結構痛い。
また毒物を生成することもやろうと思えば出来るらしいので、その辺も注意が必要だ。
“薔薇園の魔女”という異名が語るように、彼女の能力は薔薇そのものだけでなく、
剪定鋏や如雨露と言った園芸用具も操れるモノの範囲に入っている。
鋏を使った攻撃は普通に致命傷になり得る強烈なモノなので、植物を操る能力なんて~、と甘く見ると痛い目を見る。
『綺麗な薔薇には棘がある』の言葉通り、油断してはいけない。
何事にも注意が必要なのだ。
〔対処法〕
基本、紅魔館から離れないのでまず会う機会がない。
外であったとしても、いきなり襲われるような事はまず無いと思われる。
薔薇園を見せて下さいと言えば、紅魔館内部の庭を案内してくれる事もあるらしい。
魔法で薔薇を生み出す事は季節を問わず出来るそうなので、薔薇の花が必要な時は頼むといいかも知れない。
が、しかし、それ故に薔薇園に手出しをする者には一切の容赦がない。
不慮の事故ならともかく、悪戯などには普段の穏やかさが嘘のように激昂して手が付けられなくなる。
人の機微を察するのも得意なようで、そういう人間には最初から厳しく、門前払いをくらうこともある。
冷やかし、悪戯目的の来訪は厳禁だ。
良識をもって行動し、彼女の不信を買わないようにしよう。
897: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 22:33:59.50 ID:nHi33yfc0
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レミリア「ようやく完成したのね。 よくやったわ、イザベル……」
イザベル「ありがとうございます。お嬢様」
出来上がった絵を前に満足げに頷くレミリア・スカーレットに、イザベルは恭しく頭を下げる。
異変の後、お抱え絵師として紅魔館に来てから約半年。
イザベルはついに当初の依頼であるレミリアの肖像画を完成させるに至ったのだ。
大広間の正面に飾られた肖像画は巨大で、ほぼ等身大と言っても過言ではなかった。
絵自体も精巧で、本物と見間違えたフランドール・スカーレットに壊された事もあるくらいだ。
咲夜「長かったわね……。 お疲れさま」
イザベル「いいえ、私の方こそ、良い経験をさせて頂きました」
フランドール「おめでとう。それとごめんねイザベル。 あの時は絵をダメにしちゃって……」
イザベル「頭を上げてくださいフランドール様。 ショックじゃなかったと言えば嘘になりますが、それも過ぎた事です」
労いの言葉をかける咲夜や、すまなさそうに縮こまるフランにイザベルは丁寧に受け答えする。
咲夜とは魔女異変の時にやり合った相手であり、無邪気なフランとは大小様々なトラブルが絶えなかった。
それでもここまでやり続ける事が出来たのは、やはりこの絵が、イザベルにとっても色々な意味で特別な絵だったからだと思う。
この絵は幻想郷で最初に描いた絵であると同時に、イザベルが本当の意味で1から描いた初めての作品だった。
魔女になる直前の頃のイザベルは、上手い絵を描くことばかりに目を奪われ、自分自身の絵と言うモノを見失っていた。
その事に咲夜との弾幕戦で気付かされたイザベルにとって、レミリアからの肖像画の依頼は色々な意味で新たな一歩と言ってよかった。
レミリア「本格的に整備された庭園に、この館の主である私の肖像画……。 紅魔館の対外的な体裁は整ったと言っても過言ではないわね」
「誰が来ても恥ずかしくない館が出来上がったわ」と不敵に微笑むレミリア。
気分がノっているためだろう。 その姿は普段と比べるとカリスマが5割ぐらい増えているように見える。
イザベル「それで、お嬢様、私は今後如何致しましょうか?」
レミリア「今後? そうね、もうすぐ年末だし、暫らくは休養をとって良いわ。 その後は……、来客用の部屋に飾る絵でも描いてもらおうかしら?」
「もう少し飾りっ気が欲しいのよね」と言うレミリアにイザベルは紅魔館に来た時に案内してもらった時の事を思い出す。
確か、咲夜の能力で空間拡張されまくったせいで、来客用(実質未使用)の部屋がたくさんあった筈だ。
レミリア「ようやく完成したのね。 よくやったわ、イザベル……」
イザベル「ありがとうございます。お嬢様」
出来上がった絵を前に満足げに頷くレミリア・スカーレットに、イザベルは恭しく頭を下げる。
異変の後、お抱え絵師として紅魔館に来てから約半年。
イザベルはついに当初の依頼であるレミリアの肖像画を完成させるに至ったのだ。
大広間の正面に飾られた肖像画は巨大で、ほぼ等身大と言っても過言ではなかった。
絵自体も精巧で、本物と見間違えたフランドール・スカーレットに壊された事もあるくらいだ。
咲夜「長かったわね……。 お疲れさま」
イザベル「いいえ、私の方こそ、良い経験をさせて頂きました」
フランドール「おめでとう。それとごめんねイザベル。 あの時は絵をダメにしちゃって……」
イザベル「頭を上げてくださいフランドール様。 ショックじゃなかったと言えば嘘になりますが、それも過ぎた事です」
労いの言葉をかける咲夜や、すまなさそうに縮こまるフランにイザベルは丁寧に受け答えする。
咲夜とは魔女異変の時にやり合った相手であり、無邪気なフランとは大小様々なトラブルが絶えなかった。
それでもここまでやり続ける事が出来たのは、やはりこの絵が、イザベルにとっても色々な意味で特別な絵だったからだと思う。
この絵は幻想郷で最初に描いた絵であると同時に、イザベルが本当の意味で1から描いた初めての作品だった。
魔女になる直前の頃のイザベルは、上手い絵を描くことばかりに目を奪われ、自分自身の絵と言うモノを見失っていた。
その事に咲夜との弾幕戦で気付かされたイザベルにとって、レミリアからの肖像画の依頼は色々な意味で新たな一歩と言ってよかった。
レミリア「本格的に整備された庭園に、この館の主である私の肖像画……。 紅魔館の対外的な体裁は整ったと言っても過言ではないわね」
「誰が来ても恥ずかしくない館が出来上がったわ」と不敵に微笑むレミリア。
気分がノっているためだろう。 その姿は普段と比べるとカリスマが5割ぐらい増えているように見える。
イザベル「それで、お嬢様、私は今後如何致しましょうか?」
レミリア「今後? そうね、もうすぐ年末だし、暫らくは休養をとって良いわ。 その後は……、来客用の部屋に飾る絵でも描いてもらおうかしら?」
「もう少し飾りっ気が欲しいのよね」と言うレミリアにイザベルは紅魔館に来た時に案内してもらった時の事を思い出す。
確か、咲夜の能力で空間拡張されまくったせいで、来客用(実質未使用)の部屋がたくさんあった筈だ。
898: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 22:36:34.38 ID:nHi33yfc0
レミリア「出来るなら部屋ごとにモチーフを変えて頂戴。 数が多いから大変だとは思うけど……」
そこでレミリアは言葉を区切ってイザベルを見る。
その目が「やれるか?」と問い掛けているような気がして、イザベルは再び頭を下げた。
イザベル「分かりました。 不肖イザベル、“芸術家の魔女”の名に懸けて誠心誠意やらせて頂きます」
レミリア「宜しい。 期待しているわ、イザベル。 今日はもう休んで良いわよ」
イザベル「はい、ありがとうございます」
一段と深く頭を下げてからイザベルは大広間を出た。
広間を出て戸を閉めたところでイザベルはどっと息を吐いた。
イザベル「はぁ~、久々に緊張したわ。 もしかしたら今までで一番緊張したかも……」
思い返してみれば依頼を受けて絵を描くと言う事自体、初めてだった気がする。
紅魔館の当主として振る舞ってきたレミリアの目は本物で、現世でのコンクールとは比べ物にならない程厳しかった。
挫けそうにもなったし、投げ出したくなった事も一度や二度では無かった。
それだけに今日、レミリアに満足して貰えた事がイザベルは何より嬉しかった。
イザベル「ふふっ、絵を描き終えて、こんな気持ちになったのは随分と久し振りのような気がするわ……。
ああ、そっか、私が本当に欲しかったのは、絵の評価なんかじゃなくて……」
“私の”絵で喜んでくれる人が欲しかったんだ……。
その日、イザベルは気持ち良く床に就いた。
その姿は、翌朝、小悪魔が起こしてしまうのを憚った程、安らかなモノだったそうだ。
899: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 22:38:31.54 ID:nHi33yfc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~既視感の多い展覧会~ 【イザベル】
能力 作品を真似る程度の能力
危険度 中
人間友好度 低
主な活動場所 紅魔館
魔女の一人で、紅魔館で住み込みのお抱え絵師をしている。
活動的な魔女と引篭りがちな魔女に二分される中で、引篭りがちな魔女の筆頭候補が彼女だ。
最もその見た目通り、彼女の身体は石像なのであまり動き回ることに適していない。
基本的にその場にじっとして、自身の創作活動に励んでいる。
彼女の作る作品は主に絵画であり、基本的にその手の依頼は普通に受けてくれる。
その腕は確かであり、人里に住む者から依頼された事もあるそうだ。
一点だけ気をつけるとしたら、人物画を描くと、ごく稀に描かれた人の魂を抜いてしまう事だろう。
幸い一時的な幽体離脱程度で済んでいるが、少々物騒な感は否めない。
安全策をとるなら風景画など、人以外の絵にしよう。
〔能力〕
一見すると他者の物真似をする能力のようにも思えるが、彼女の場合“作品”に特化しており、使い勝手は良いとは言えない。
しかし、この場合の“作ったモノ”には『鍛え上げた特技』も含まれる為、何か特技を持っていると逆に不利になってしまう。
彼女の模倣の再現性はきわめて高いが、所詮は模倣であり、何処かしらに穴ができることもしばしばだと言う。
言い換えれば、自分自身を相手にしているようなものなので、大した特技もない平々凡々な人間であればこの能力は大して怖くない。
逆に、彼女が模倣できるレベルを越えた特技を持っていた場合も同様で、この場合、彼女の模倣は不完全なものとなり、圧倒する事ができる。
中途半端が一番良くないので、何か特別秀でた技術を持つか、すっぱり諦めた方が良いだろう。
〔対処法〕
活動拠点が限られている上、基本的に自室から出てこないためまず遭遇の機会はないだろう。
上記の注意点の他に、絵を描いている最中の彼女を邪魔しなければ問題はないと思われる。
もっとも何かしている人の邪魔など、そもそもするものではない。
触らぬ神に祟りはない。 最低限の節度と常識をわきまえて行動しよう。
~既視感の多い展覧会~ 【イザベル】
能力 作品を真似る程度の能力
危険度 中
人間友好度 低
主な活動場所 紅魔館
魔女の一人で、紅魔館で住み込みのお抱え絵師をしている。
活動的な魔女と引篭りがちな魔女に二分される中で、引篭りがちな魔女の筆頭候補が彼女だ。
最もその見た目通り、彼女の身体は石像なのであまり動き回ることに適していない。
基本的にその場にじっとして、自身の創作活動に励んでいる。
彼女の作る作品は主に絵画であり、基本的にその手の依頼は普通に受けてくれる。
その腕は確かであり、人里に住む者から依頼された事もあるそうだ。
一点だけ気をつけるとしたら、人物画を描くと、ごく稀に描かれた人の魂を抜いてしまう事だろう。
幸い一時的な幽体離脱程度で済んでいるが、少々物騒な感は否めない。
安全策をとるなら風景画など、人以外の絵にしよう。
〔能力〕
一見すると他者の物真似をする能力のようにも思えるが、彼女の場合“作品”に特化しており、使い勝手は良いとは言えない。
しかし、この場合の“作ったモノ”には『鍛え上げた特技』も含まれる為、何か特技を持っていると逆に不利になってしまう。
彼女の模倣の再現性はきわめて高いが、所詮は模倣であり、何処かしらに穴ができることもしばしばだと言う。
言い換えれば、自分自身を相手にしているようなものなので、大した特技もない平々凡々な人間であればこの能力は大して怖くない。
逆に、彼女が模倣できるレベルを越えた特技を持っていた場合も同様で、この場合、彼女の模倣は不完全なものとなり、圧倒する事ができる。
中途半端が一番良くないので、何か特別秀でた技術を持つか、すっぱり諦めた方が良いだろう。
〔対処法〕
活動拠点が限られている上、基本的に自室から出てこないためまず遭遇の機会はないだろう。
上記の注意点の他に、絵を描いている最中の彼女を邪魔しなければ問題はないと思われる。
もっとも何かしている人の邪魔など、そもそもするものではない。
触らぬ神に祟りはない。 最低限の節度と常識をわきまえて行動しよう。
900: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 22:41:31.76 ID:nHi33yfc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
パトリシア「えっと、明日の授業は算盤と歴史とお習字だから……」
師走も中旬を過ぎ、間も無く年の瀬と言う時期、人間の里の寺子屋でパトリシアは翌日の授業の準備をしていた。
必要な教材を持ってパトリシアは準備室を出る。
授業の構成上、教材も多く、手が塞がってしまったので、パトリシアは足代わりにしている手で教室の戸を勢い良く開け放つ。
がらっ
パトリシア&青娥「「あっ……」」
誰も居ない筈の教室で、蒼い衣を纏った天女っぽい女性――霍青娥と鉢合わせてしまい、間の抜けた声を上げるパトリシア。
無人の寺子屋であちこちを引っ掻き回している場面を見られた青娥は、一瞬、「ヤバっ」と言う顔をして……、
青娥「えっと……、お邪魔してま~す……」
パトリシア「ああ、はい、どうも……、って、ど、泥棒ーっ!!」
にこやかに挨拶を交わして教室から出て行こうとして、次の瞬間、我に返ったパトリシアに取り押さえられた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
青娥「ねぇ、見逃してくれない? もうここには来ないって約束するから」
パトリシア「ダメよ。慧音先生が来るまでは」
文字通りお縄になった青娥が猫なで声で取引を持ちかけるが、パトリシアはぴしゃりとはねつけた。
交渉の余地が無いと悟った青娥は途端に頬を膨らませて不貞腐れ始める
青娥「つれないわね~。もうちょっと遊びがあった方が良いと思うわ」
パトリシア「人の家に忍び込んで悪戯して回るのは遊びの範疇を越えてる気がするのだけど……?」
パトリシア「えっと、明日の授業は算盤と歴史とお習字だから……」
師走も中旬を過ぎ、間も無く年の瀬と言う時期、人間の里の寺子屋でパトリシアは翌日の授業の準備をしていた。
必要な教材を持ってパトリシアは準備室を出る。
授業の構成上、教材も多く、手が塞がってしまったので、パトリシアは足代わりにしている手で教室の戸を勢い良く開け放つ。
がらっ
パトリシア&青娥「「あっ……」」
誰も居ない筈の教室で、蒼い衣を纏った天女っぽい女性――霍青娥と鉢合わせてしまい、間の抜けた声を上げるパトリシア。
無人の寺子屋であちこちを引っ掻き回している場面を見られた青娥は、一瞬、「ヤバっ」と言う顔をして……、
青娥「えっと……、お邪魔してま~す……」
パトリシア「ああ、はい、どうも……、って、ど、泥棒ーっ!!」
にこやかに挨拶を交わして教室から出て行こうとして、次の瞬間、我に返ったパトリシアに取り押さえられた。
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青娥「ねぇ、見逃してくれない? もうここには来ないって約束するから」
パトリシア「ダメよ。慧音先生が来るまでは」
文字通りお縄になった青娥が猫なで声で取引を持ちかけるが、パトリシアはぴしゃりとはねつけた。
交渉の余地が無いと悟った青娥は途端に頬を膨らませて不貞腐れ始める
青娥「つれないわね~。もうちょっと遊びがあった方が良いと思うわ」
パトリシア「人の家に忍び込んで悪戯して回るのは遊びの範疇を越えてる気がするのだけど……?」
901: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 22:44:36.19 ID:nHi33yfc0
青娥「…………」
冗談すら正論で返され、青娥は壁に寄りかかって黙りこくってしまう。
青娥が黙ってしまうと、一転して教室は静かになった。
そのまま、無言の時間が流れ……、やがて思いついたように青娥がぽつりと尋ねた。
青娥「ねぇ貴女、確か“魔女”の一人よね? 魔女が元は普通の人間だった、って言うのは本当なの?」
パトリシア「そうですけど……、それが何か?」
青娥「ちょっと興味があるのよ。 何をどうやったらそうなるのか……」
パトリシア「何を、って……キュゥべえのせいとしか言いようが……」
青娥「キュゥべえ?」
パトリシア「インキュベーターっていう宇宙人よ。 白くて耳の長いネコっぽい生き物で……」
青娥「ああ、“魔法少女”の勧誘をよくやってるアイツね……」
パトリシア「っ!? キュゥべえを知ってるの!?」
青娥「知っていると言うか商売敵よ。 才能のありそうな子をみんな魔法少女にしちゃうんだもん。
お陰で仙人になろう、って子が最近めっきり減っちゃったのよねぇ……」
「みんな手軽な魔法少女になっちゃうのよ。世知辛いわ~」と青娥はわざらしく嘆いてみせる。
が、パトリシアにはそれよりも気になる事があった。
パトリシア「キュゥべえを知ってる、って事は向こうも貴女の事を……?」
青娥「ん~、それは知らないんじゃないかしら? 仙人や魔法使いはおろか、死神すら迷信扱いだったし……。
人の魂を扱っておきながら、死後の世界に無頓着とかちゃんちゃらおかしいわ」
現世の事を思い出したのか、青娥は鼻で笑いながらそう言うと、次の瞬間、一転してしかめっ面になる。
青娥「それだけに悔しいのよねぇ……。 そんなヤツなのに、“魔法少女”に仕立てた後の事はしっかり考えてあるんだから……」
パトリシア「?」
902: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 22:46:43.57 ID:nHi33yfc0
青娥「ほら、あのケモノって魂を肉体から引っこ抜いちゃうじゃない? だからキョンシーの材料にしてやろうと思ったんだけど……」
パトリシア「おい、ちょっと待て」
青娥「魂が消えたら肉体も消えちゃったのよねぇ。 いい材料だと思ったんだけどなぁ……」
「魔法少女の身体でなんて事してるのよ!?」と声を荒げるパトリシアを完全に無視して青娥はため息をつく。
その態度に悪びれる様子は一切無い。
パトリシア「今ので確信したわ。 貴女みたいな極悪人、絶対突き出してやるんだから」
青娥「あら怖い、でも残念ね。 お喋りの時間はそろそろお仕舞いよ」
ボコっ……
パトリシア「っ!?壁に穴が!? いつの間に!?」
青娥「ふふっ、縛る前に何か隠し持っていないかチェックするぐらいの用心は必要よ。 それじゃ、また何処かで会いましょう?」
驚くパトリシアに、袖の中に隠し持っていた壁抜けの鑿を見せびらかしながら青娥は開けた穴にその身を躍らせる。
青娥の身体が穴を潜り終えるのと同時に穴はその姿を消し、もとの白い壁に戻る。
その時になってようやく気を取り直したパトリシアは、慌ててその後を追ったが、既に青娥の姿は何処にも無かった。
パトリシア「はぁ~~~~っ。 私とした事が完全にしてやられたわ……。
霍青娥、か……。 なんか厄介なのに目を付けられちゃったなぁ……」
この後、青娥によるクリスマス(と言う名の不法侵入)が人間の里の各地で相次ぐことになるのだが、このときのパトリシアは知る芳も無かった。
―――――――――――――― 【 お ま け 】 ――――――――――――――
【円環にて】
さやか「ねぇまどか……、この書類にある『逮捕歴一件』って何?」
まどか「え?ああ、これ? えっとね、ほら、私って最初のうち魔法少女の魂をみんな円環(こっち)に連れて来てたでしょ?
そしたらなんか、輪廻転生?のバランスを崩しちゃったみたいで、閻魔様にお縄になっちゃって……」
さやか「へー、そうなんだ……。 なんて言うか、大変なんだね……」
まどか「まぁでも、事情を話したら、転生か円環かを選ばせる様に業務改善命令が出ただけで、服役はしてないんだけどね~」
「いや~、失敗失敗」と言いながらまどかは舌を出して苦笑する。
さらっととんでもない事を言う親友に、さやかは神々の裏世界を垣間見たような気がして、この事は早急に忘れようと心に誓うのであった。
903: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 22:51:31.83 ID:nHi33yfc0
~※ 注意 ※~
今回の話はあくまで『青娥さんが話したお話』です。
外の世界の団体・魔法少女・インキュベーターに関して必ずしも正しい描写とは限りません。
その点を十分ご理解頂いた上で、お楽しみ下さい。
~※ 注意終わり ※~
904: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 22:54:48.43 ID:nHi33yfc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~虚栄な委員長~ 【パトリシア】
能力 青春をエンジョイする程度の能力
危険度 低
人間友好度 高
主な活動場所 人間の里
魔女の一人である。
人里に住んでいて、なおかつ寺子屋で手伝いをしている為、私たち人間からすると一番馴染みの深い魔女と言えるかもしれない。
彼女の特徴は足を含めて全てが手になっている事で、その自由度は極めて高い。
寺子屋で忙しなく動き回っている彼女からすると、それでも尚、猫の手でも借りたいそうだが、贅沢な悩みだと思う。
生前の彼女は“委員長”と言う寺子屋内のまとめ役をしており、寺子屋でもそのように振舞っている。
寺子屋の子供たちは私から見ても自由奔放な子が多いのだが、「外の世界に比べればかなりマシ」らしい。
少々涙ぐんでいたので深く聞かなかったが、外の子供がどんななのか一度見てみたいものである。
〔能力〕
基本的に彼女の能力は周囲の統率を執る能力である。
と言っても範囲が限定されており、現在の所、その能力が発揮できるのは寺子屋内だけであり、また、対象も基本的に子供たちに限定されている。
大人にはそもそも通じない上、寺子屋から一歩でも外に出てしまうと、手の多い単なる妖怪になってしまうのが現状だ。
とは言え、前述の通り、手の自由度は高く、応用力もそれなりに持っているので、
普通の人間の体術でねじ伏せるのはまず不可能である。 無謀な事はやめて貰いたい。
〔対処法〕
基本的に警戒は必要ない。
能力の範囲も効果も限定的であり、また彼女自身に悪用の意思が基本見られない為、普通に接するのが良いだろう。
友好的な妖怪であり、手伝いや頼まれ事も普通に受けてくれるが、あまりおんぶに抱っこにならないよう、互いに支えあって行きたいものである。
~虚栄な委員長~ 【パトリシア】
能力 青春をエンジョイする程度の能力
危険度 低
人間友好度 高
主な活動場所 人間の里
魔女の一人である。
人里に住んでいて、なおかつ寺子屋で手伝いをしている為、私たち人間からすると一番馴染みの深い魔女と言えるかもしれない。
彼女の特徴は足を含めて全てが手になっている事で、その自由度は極めて高い。
寺子屋で忙しなく動き回っている彼女からすると、それでも尚、猫の手でも借りたいそうだが、贅沢な悩みだと思う。
生前の彼女は“委員長”と言う寺子屋内のまとめ役をしており、寺子屋でもそのように振舞っている。
寺子屋の子供たちは私から見ても自由奔放な子が多いのだが、「外の世界に比べればかなりマシ」らしい。
少々涙ぐんでいたので深く聞かなかったが、外の子供がどんななのか一度見てみたいものである。
〔能力〕
基本的に彼女の能力は周囲の統率を執る能力である。
と言っても範囲が限定されており、現在の所、その能力が発揮できるのは寺子屋内だけであり、また、対象も基本的に子供たちに限定されている。
大人にはそもそも通じない上、寺子屋から一歩でも外に出てしまうと、手の多い単なる妖怪になってしまうのが現状だ。
とは言え、前述の通り、手の自由度は高く、応用力もそれなりに持っているので、
普通の人間の体術でねじ伏せるのはまず不可能である。 無謀な事はやめて貰いたい。
〔対処法〕
基本的に警戒は必要ない。
能力の範囲も効果も限定的であり、また彼女自身に悪用の意思が基本見られない為、普通に接するのが良いだろう。
友好的な妖怪であり、手伝いや頼まれ事も普通に受けてくれるが、あまりおんぶに抱っこにならないよう、互いに支えあって行きたいものである。
905: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:01:02.23 ID:nHi33yfc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
???「おはよー♪」
青娥による迷惑なクリスマスや、エルザマリアの教会での騒動など、何かとゴタゴタの絶えなかった幻想郷のクリスマス。
そんな中、ここ、命蓮寺に関して言えば「クリスマス?なにそれ美味しいの?」と言わんばかりに、平常運行が続いていた。
そんな命蓮寺に少女の声が響いたのは年の瀬も迫った師走の下旬の日の事。
少女の軽やかな挨拶に、般若心経を口ずさみながら境内の清掃をしていた幽谷響子はその手を止めて、思わず振り返る。
響子「おはよー、……ってもうお昼だよ」
おうむ返しに挨拶を返してからおかしい事に気付いた響子は、思わず突っ込む。
一方、挨拶にツッコミで返された方の桃色の髪の少女――シャルロッテはポカンとしながら首を傾げてみせた。
シャルロッテ「あれ? 今何時?」
響子&シャルロッテ「「そうね大体ね~」」
響子「っ!?」
シャルロッテの問いに答えようとした響子は、声がハモった事に驚いてシャルロッテを見た。
口元を押さえながら小声で、「ホントにそう言う返事をするんだ~。すご~い」とこぼしている姿に、響子はシャルロッテに担がれたのだとようやく気が付く。
響子「もうっ!私が山彦だからってからかわないでよ! いくら私でも怒るよ!」
持っている箒を投げ捨てかねない勢いで怒り出す響子。
と同時に、シャルロッテはクスクスと笑いながら脱兎の如く駆け出した。
シャルロッテ「あはは、ゴメンゴメン! じゃ、私は帰るね! バイバ~イ響子、また明日も遊んでね~っ」
響子「あっ、コラーッ! 逃げるな~っ!! って言うか明日はこうは行かないからね!」
シャルロッテ「あ~、楽しかった。 誰かを驚かすのって面白いな~」
まんまと悪戯が成功し、愉快だと言うようにシャルロッテは笑う。
ここ数日の間、シャルロッテは些細な悪戯を仕掛けては楽しむ日々を送っていた。
秋までは秋神の姉妹やリグルなど、遊び相手に事欠かなかったシャルロッテだが、冬に入り、皆が冬篭りに入ってしまうと途端に退屈になってしまった。
はじめの内は珍しかった雪も、数日も経てば鬱陶しいだけになり、暇を潰す為にはじめたのがこの悪戯だった。
最初は良く知ったご近所や仲間の魔女たちを相手にしていたが、その内に警戒されるようになってしまい、
ターゲットを身近な相手から、ちょっと遠くの相手へ、ちょっと遠くの相手から更に遠くへと、手を変え品を変え今日も里へと繰り出してきたのだ。
シャルロッテ「ふっふっふ、このまま魔女界、うぅん、幻想郷きっての悪い妖怪として名を馳せちゃうのもアリかな~」
悪いも何も、妖怪としては正しい姿であり、上には上が居るのだが、気分のノっているシャルロッテがその事に気付く事はなかった。
???「おはよー♪」
青娥による迷惑なクリスマスや、エルザマリアの教会での騒動など、何かとゴタゴタの絶えなかった幻想郷のクリスマス。
そんな中、ここ、命蓮寺に関して言えば「クリスマス?なにそれ美味しいの?」と言わんばかりに、平常運行が続いていた。
そんな命蓮寺に少女の声が響いたのは年の瀬も迫った師走の下旬の日の事。
少女の軽やかな挨拶に、般若心経を口ずさみながら境内の清掃をしていた幽谷響子はその手を止めて、思わず振り返る。
響子「おはよー、……ってもうお昼だよ」
おうむ返しに挨拶を返してからおかしい事に気付いた響子は、思わず突っ込む。
一方、挨拶にツッコミで返された方の桃色の髪の少女――シャルロッテはポカンとしながら首を傾げてみせた。
シャルロッテ「あれ? 今何時?」
響子&シャルロッテ「「そうね大体ね~」」
響子「っ!?」
シャルロッテの問いに答えようとした響子は、声がハモった事に驚いてシャルロッテを見た。
口元を押さえながら小声で、「ホントにそう言う返事をするんだ~。すご~い」とこぼしている姿に、響子はシャルロッテに担がれたのだとようやく気が付く。
響子「もうっ!私が山彦だからってからかわないでよ! いくら私でも怒るよ!」
持っている箒を投げ捨てかねない勢いで怒り出す響子。
と同時に、シャルロッテはクスクスと笑いながら脱兎の如く駆け出した。
シャルロッテ「あはは、ゴメンゴメン! じゃ、私は帰るね! バイバ~イ響子、また明日も遊んでね~っ」
響子「あっ、コラーッ! 逃げるな~っ!! って言うか明日はこうは行かないからね!」
シャルロッテ「あ~、楽しかった。 誰かを驚かすのって面白いな~」
まんまと悪戯が成功し、愉快だと言うようにシャルロッテは笑う。
ここ数日の間、シャルロッテは些細な悪戯を仕掛けては楽しむ日々を送っていた。
秋までは秋神の姉妹やリグルなど、遊び相手に事欠かなかったシャルロッテだが、冬に入り、皆が冬篭りに入ってしまうと途端に退屈になってしまった。
はじめの内は珍しかった雪も、数日も経てば鬱陶しいだけになり、暇を潰す為にはじめたのがこの悪戯だった。
最初は良く知ったご近所や仲間の魔女たちを相手にしていたが、その内に警戒されるようになってしまい、
ターゲットを身近な相手から、ちょっと遠くの相手へ、ちょっと遠くの相手から更に遠くへと、手を変え品を変え今日も里へと繰り出してきたのだ。
シャルロッテ「ふっふっふ、このまま魔女界、うぅん、幻想郷きっての悪い妖怪として名を馳せちゃうのもアリかな~」
悪いも何も、妖怪としては正しい姿であり、上には上が居るのだが、気分のノっているシャルロッテがその事に気付く事はなかった。
906: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:07:44.61 ID:nHi33yfc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そんな、言ってみれば『調子付いている』シャルロッテの姿を木陰からこっそりと窺う影があった。
目と口と長い舌の付いた紫色の和傘を持ったオッドアイの少女――多々良小傘はシャルロッテに覚られないよう気を付けながらその後を追う。
小傘「う~、人を驚かせるのは私のする事なのに……。 このままじゃ、私の立場がないよ~」
小傘は人を驚かせる事で腹を満たす古典的な妖怪である。
魔女界でも不意討ちに定評のあるシャルロッテとは言え、その立場を取られてしまうのは死活問題だった。
小傘「何とかして私の方が凄いんだ!って事を思い知らせないと……! でもあの子、本当に驚かすの上手いんだよねぇ~」
思い出すのは数日前の事、誰かを驚かせようと魔法の森を歩き回っていた小傘はその日、道の真ん中にピンク色のぬいぐるみが落ちているのを発見したのだが……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ぬいぐるみ『…………』
小傘『あれ? こんな所にぬいぐるみが……? 誰かの落し物か……』
ぬいぐるみ『キュピーン!)今だっ! 嚼符『ブロンドヘアーモグモグ』っ!!(ぎゅいーん!!』
小傘『ぎゃああああああああああっ!? おばけええええええええええええええええっ!?』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
小傘「……で、不覚にも腰を抜かしちゃったんだよね。 あの時は吃驚した……。 シヌカトオモッタ……」
当時を思い出し、思わず身体を震わせる小傘。
誰かが聞いていたら確実に色々とツッコミが入っただろうが、幸か不幸か周りには誰も居なかった。
小傘「さて、そうなると問題はどうやってあの子に思い知らせるか、なんだけど……」
順当に考えれば目には目をの精神でドッキリを仕掛けるべきだろう。
が、小傘の驚かせ方が古典的過ぎて子供騙しレベルだと言われている事を、小傘自身も良く知っている。
あのようなドッキリを仕掛けるシャルロッテが相手なのだ。 このまま行っても返り討ちに遭う危険性の方が高い。
小傘「他の驚かせ方かぁ……。 崖の上で背中を押してみる?
って、ダメダメ! それだと普通に飛んでっちゃうだろうし、何より洒落にならない」
付かず離れずの位置でこそこそと後を付けながら小傘は一人頭を悩ませる。
小傘「普通に行ってダメなら、顔に蒟蒻とか? でも最初に蒟蒻が見えたらダメだし、大体蒟蒻なんて持ってないし……、ん?」
物騒な手段を却下した小傘の思考は、やはりと言うべきか古典的な方向に流れる。
それでも一瞬はない物ねだりだよなぁ……と考えた小傘の目に、ふと眼前に垂れ下がっているあるモノが目に入る。
気付くと小傘はソレに手を伸ばし、感触や質感を確かめて……、次の瞬間、ぱぁと顔を輝かせた。
そんな、言ってみれば『調子付いている』シャルロッテの姿を木陰からこっそりと窺う影があった。
目と口と長い舌の付いた紫色の和傘を持ったオッドアイの少女――多々良小傘はシャルロッテに覚られないよう気を付けながらその後を追う。
小傘「う~、人を驚かせるのは私のする事なのに……。 このままじゃ、私の立場がないよ~」
小傘は人を驚かせる事で腹を満たす古典的な妖怪である。
魔女界でも不意討ちに定評のあるシャルロッテとは言え、その立場を取られてしまうのは死活問題だった。
小傘「何とかして私の方が凄いんだ!って事を思い知らせないと……! でもあの子、本当に驚かすの上手いんだよねぇ~」
思い出すのは数日前の事、誰かを驚かせようと魔法の森を歩き回っていた小傘はその日、道の真ん中にピンク色のぬいぐるみが落ちているのを発見したのだが……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ぬいぐるみ『…………』
小傘『あれ? こんな所にぬいぐるみが……? 誰かの落し物か……』
ぬいぐるみ『キュピーン!)今だっ! 嚼符『ブロンドヘアーモグモグ』っ!!(ぎゅいーん!!』
小傘『ぎゃああああああああああっ!? おばけええええええええええええええええっ!?』
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小傘「……で、不覚にも腰を抜かしちゃったんだよね。 あの時は吃驚した……。 シヌカトオモッタ……」
当時を思い出し、思わず身体を震わせる小傘。
誰かが聞いていたら確実に色々とツッコミが入っただろうが、幸か不幸か周りには誰も居なかった。
小傘「さて、そうなると問題はどうやってあの子に思い知らせるか、なんだけど……」
順当に考えれば目には目をの精神でドッキリを仕掛けるべきだろう。
が、小傘の驚かせ方が古典的過ぎて子供騙しレベルだと言われている事を、小傘自身も良く知っている。
あのようなドッキリを仕掛けるシャルロッテが相手なのだ。 このまま行っても返り討ちに遭う危険性の方が高い。
小傘「他の驚かせ方かぁ……。 崖の上で背中を押してみる?
って、ダメダメ! それだと普通に飛んでっちゃうだろうし、何より洒落にならない」
付かず離れずの位置でこそこそと後を付けながら小傘は一人頭を悩ませる。
小傘「普通に行ってダメなら、顔に蒟蒻とか? でも最初に蒟蒻が見えたらダメだし、大体蒟蒻なんて持ってないし……、ん?」
物騒な手段を却下した小傘の思考は、やはりと言うべきか古典的な方向に流れる。
それでも一瞬はない物ねだりだよなぁ……と考えた小傘の目に、ふと眼前に垂れ下がっているあるモノが目に入る。
気付くと小傘はソレに手を伸ばし、感触や質感を確かめて……、次の瞬間、ぱぁと顔を輝かせた。
907: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:11:00.00 ID:nHi33yfc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シャルロッテ「さ~て、今度は誰に悪戯を仕掛けようかな~……っと、あんな所にチルノと大妖精発見!」
次なるターゲットを探しながら歩いていたシャルロッテが見付けたのは、やたら上機嫌な氷の妖精と、その一歩後ろを行く妖精の姿だった。
驚かせる相手としては好都合であり、また妖精相手なら後で変な問題になる事もない。
この上なく、ドッキリのターゲットには適した相手と言えた。
シャルロッテ「どうやって驚かせようかな? 普通に行ってもつまらないし、やっぱり不意討ちかな?」
茂みに身を隠しながらシャルロッテは考える。
先日はぬいぐるみモードを使った方法でドッキリを仕掛けたが、チルノたちが相手では通じないだろう。
ここは直接、真横から襲い掛かる事にする。
シャルロッテ(ふふふ、何も知らずにこっちに来てる……。 よ~し、そのままそのまま……)
チルノと大妖精は何も知らずに道を歩いてきている。
会話が盛り上がっているのか、脇の茂みにシャルロッテが隠れている事に二人は気付かない。
シャルロッテは口をもごもごさせて、スペルの発動準備を整える。そして……、
シャルロッテ(よ~し、今だっ! 嚼符『ブロンドヘアーモグモ……)
ドッキリのために小声でスペルを宣言しようとして……直後、首筋から背筋にかけて妙な感覚が走った。
にゅるん!
シャルロッテ(×▲○■!? キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!?」
チルノ「でさ、あの三人ったら霊夢に……って、うわっ!?」
大妖精「きゃっ!? しゃ、シャルロッテさん!?」
突然首筋に受けた変な感触にシャルロッテは自身がドッキリを仕掛けようとしていたことも忘れて飛び上がった。
シャルロッテが突然茂みから出てきたことに、通りかかった妖精二人も目を丸くする。
シャルロッテ「何なにナニ!? 今のナニ!? 何なの一体ッ!?」
小傘「やった! ふくしゅー大成功! あの魔女から一本取ったぞーっ!!」
シャルロッテ「小傘!? 今のは小傘だったの?」
小傘「そうだよ~、いや~、久々に満腹だよ~。 ご馳走様でした」
愉快だと言うようにけらけらと笑う小傘に、シャルロッテの顔が見る見るうちに赤くなる。
小傘にしてやられた事で一瞬、頭に血が上りかけたシャルロッテは、次の瞬間、背後から聞こえた声に一気にどん底に突き落とされた。
シャルロッテ「さ~て、今度は誰に悪戯を仕掛けようかな~……っと、あんな所にチルノと大妖精発見!」
次なるターゲットを探しながら歩いていたシャルロッテが見付けたのは、やたら上機嫌な氷の妖精と、その一歩後ろを行く妖精の姿だった。
驚かせる相手としては好都合であり、また妖精相手なら後で変な問題になる事もない。
この上なく、ドッキリのターゲットには適した相手と言えた。
シャルロッテ「どうやって驚かせようかな? 普通に行ってもつまらないし、やっぱり不意討ちかな?」
茂みに身を隠しながらシャルロッテは考える。
先日はぬいぐるみモードを使った方法でドッキリを仕掛けたが、チルノたちが相手では通じないだろう。
ここは直接、真横から襲い掛かる事にする。
シャルロッテ(ふふふ、何も知らずにこっちに来てる……。 よ~し、そのままそのまま……)
チルノと大妖精は何も知らずに道を歩いてきている。
会話が盛り上がっているのか、脇の茂みにシャルロッテが隠れている事に二人は気付かない。
シャルロッテは口をもごもごさせて、スペルの発動準備を整える。そして……、
シャルロッテ(よ~し、今だっ! 嚼符『ブロンドヘアーモグモ……)
ドッキリのために小声でスペルを宣言しようとして……直後、首筋から背筋にかけて妙な感覚が走った。
にゅるん!
シャルロッテ(×▲○■!? キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!?」
チルノ「でさ、あの三人ったら霊夢に……って、うわっ!?」
大妖精「きゃっ!? しゃ、シャルロッテさん!?」
突然首筋に受けた変な感触にシャルロッテは自身がドッキリを仕掛けようとしていたことも忘れて飛び上がった。
シャルロッテが突然茂みから出てきたことに、通りかかった妖精二人も目を丸くする。
シャルロッテ「何なにナニ!? 今のナニ!? 何なの一体ッ!?」
小傘「やった! ふくしゅー大成功! あの魔女から一本取ったぞーっ!!」
シャルロッテ「小傘!? 今のは小傘だったの?」
小傘「そうだよ~、いや~、久々に満腹だよ~。 ご馳走様でした」
愉快だと言うようにけらけらと笑う小傘に、シャルロッテの顔が見る見るうちに赤くなる。
小傘にしてやられた事で一瞬、頭に血が上りかけたシャルロッテは、次の瞬間、背後から聞こえた声に一気にどん底に突き落とされた。
908: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:13:56.55 ID:nHi33yfc0
チルノ「なんだ、魔女が妖怪にドッキリを仕掛けられただけか……。 でもその程度であんな悲鳴を上げるなんて、あの魔女も所詮はその程度ね!」
大妖精「あっ、ダメだよチルノちゃん! そんなこと言っちゃ……」
シャルロッテ「ガーン!!」
大妖精が慌てて止めた時には手遅れだった。
チルノの台詞を一字一句はっきりと聞いてしまったシャルロッテはその場に崩れ落ちる。
小傘のドッキリに、チルノの言葉にと、二重のショックに喘ぐシャルロッテ。
が、彼女の災難はまだ終わらなかった。
パシャッ!パシャッ!パシャッ!
???「いやー、貴重な場面を見せていただいてありがとうございます。 シャルロッテさん」
シャルロッテ「っ!? この声はまさか……、文!?」
聞き慣れた声にその場に居た全員が顔を上げる。
上空に居たのは誰もが良く知った幻想郷最速を名乗る鴉天狗のパパラッチ。
文「どうも、毎度お馴染み清く正しい射命丸です。 いや~、今のは美味しかったですよ。早速記事にしますので楽しみにしてて下さい」
シャルロッテ「待って! 待って下さい文さまっ! それだけは、それだけは勘弁して~っ!!」
文の言葉に顔を真っ青にしながらシャルロッテは飛び去る文の後を追う。
事態の急展開についていけなかった一人の妖怪と二人の妖精はその姿を半ば呆然としながら見送る。
文とシャルロッテの姿が見えなくなったところで、チルノは思い出したように小傘に尋ねた。
チルノ「ところでさ、アンタは今どうやってあの魔女を驚かせたの?」
小傘「ん? ああ、それなら簡単よ。 後ろからこっそり忍び寄って首筋をこの傘の舌で舐めてあげたの」
ぺろんとね! と小傘が言うとチルノは腕組みをしながら納得し、大妖精は舐められた感触を想像してしまったのかぶるりと身体を震わせる。
種明かしも終わったところで、小傘は大きく伸びをすると、空へと舞い上がった。
小傘「それじゃ、私は他の人間たちを驚かせに行ってくるから。 じゃ~ね~」
チルノ「おー、またなーっ!」
さっきのシャルロッテとは違い、小傘は満たされた気分でその場を後にした。
古典的な妖怪の小さな復讐はこうして成功し、この一件で懲りたシャルロッテは暫らくの間、大人しくしていたとの事だ。
なお、コレは全くの余談なのだが、この後小傘はシャルロッテにやったのと同じ要領で人間を驚かせようとしたのだが、
忍び寄る段階でばれてしまい、結局この作戦は長続きしなかったそうだ。
909: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:17:10.94 ID:nHi33yfc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~悪食で大食な甘味狂~ 【シャルロッテ】
能力 お菓子を作り出す程度の能力
危険度 高
人間友好度 中
主な活動場所 魔法の森、人間の里など
小動物のような姿と、幼い少女の姿と言う二種類の姿を使い分ける珍しい妖怪。
どちらも見た目は可愛らしく、また性格も子供っぽい為、ついつい気を許しそうになるが、
多くの妖怪がそうであるように彼女もまた、油断ならない相手である。
子供のせいかはたまた彼女の体質なのか、お腹が減ると食べ物に喰いついてくる。
ごく稀に人間に噛み付いてくる事もあるので、大変危険である。
見た目にそぐわず大口で、人の頭程度なら一飲みに出来るそうなので、手持ちの食べ物があるならそちらをあげた方が賢明である。
甘いものが大好物との事なので、お菓子を与えれば確実にそちらに喰いつくと思われる。
食べ物を持って居ない場合は何はともあれ逃げよう。 少しでも呆けていれば一巻の終わりである。
〔能力〕
そんな彼女だが、意外にもその能力は好物であるお菓子を作り出す能力である。
和洋中華問わず、お菓子なら何でも作り出せるとの事で、作り出したお菓子を食べても別に問題は無い。
むしろ、彼女のお菓子を食べた人曰く、美味すぎて、暫らく普通の食事が不味く感じたらしい。
このようにこの能力自体に害は無い。
が、この能力は彼女の体力と魔力を大幅に消費するらしく、調子に乗ってお菓子を作り過ぎると、彼女自身が激しい空腹に見舞われる。
その為、最近は体力温存のために普通にお菓子を作ることの方が多いらしい。
空腹状態の彼女は上記の通り大変危険であり、襲われかねないので、勝手に彼女のお菓子を食べるのは止めておこう。
お菓子を食べたせいで、逆に食べられてしまったのでは洒落にならないからだ。
〔対処法〕
彼女がお腹を空かせていると分かったら、何はともあれ食べ物を与えることである。
森の中を歩く時は、お菓子を持ち歩いて行く事をオススメする。
人里に食材を買いに来ることもあるが、その場合は他の妖怪同様安全なので特に警戒する必要は無い。
毎度毎度大量に買い込んでくれるそうなので、上手くすればお得意さんになってくれるかもしれない。
~悪食で大食な甘味狂~ 【シャルロッテ】
能力 お菓子を作り出す程度の能力
危険度 高
人間友好度 中
主な活動場所 魔法の森、人間の里など
小動物のような姿と、幼い少女の姿と言う二種類の姿を使い分ける珍しい妖怪。
どちらも見た目は可愛らしく、また性格も子供っぽい為、ついつい気を許しそうになるが、
多くの妖怪がそうであるように彼女もまた、油断ならない相手である。
子供のせいかはたまた彼女の体質なのか、お腹が減ると食べ物に喰いついてくる。
ごく稀に人間に噛み付いてくる事もあるので、大変危険である。
見た目にそぐわず大口で、人の頭程度なら一飲みに出来るそうなので、手持ちの食べ物があるならそちらをあげた方が賢明である。
甘いものが大好物との事なので、お菓子を与えれば確実にそちらに喰いつくと思われる。
食べ物を持って居ない場合は何はともあれ逃げよう。 少しでも呆けていれば一巻の終わりである。
〔能力〕
そんな彼女だが、意外にもその能力は好物であるお菓子を作り出す能力である。
和洋中華問わず、お菓子なら何でも作り出せるとの事で、作り出したお菓子を食べても別に問題は無い。
むしろ、彼女のお菓子を食べた人曰く、美味すぎて、暫らく普通の食事が不味く感じたらしい。
このようにこの能力自体に害は無い。
が、この能力は彼女の体力と魔力を大幅に消費するらしく、調子に乗ってお菓子を作り過ぎると、彼女自身が激しい空腹に見舞われる。
その為、最近は体力温存のために普通にお菓子を作ることの方が多いらしい。
空腹状態の彼女は上記の通り大変危険であり、襲われかねないので、勝手に彼女のお菓子を食べるのは止めておこう。
お菓子を食べたせいで、逆に食べられてしまったのでは洒落にならないからだ。
〔対処法〕
彼女がお腹を空かせていると分かったら、何はともあれ食べ物を与えることである。
森の中を歩く時は、お菓子を持ち歩いて行く事をオススメする。
人里に食材を買いに来ることもあるが、その場合は他の妖怪同様安全なので特に警戒する必要は無い。
毎度毎度大量に買い込んでくれるそうなので、上手くすればお得意さんになってくれるかもしれない。
910: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:20:30.09 ID:nHi33yfc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
クリームヒルト「すぅ~、すぅ~……」
幽々子「ふふっ、結局寝ちゃったのね……。 まあ色々大変だったようだし、仕方ないかしら?」
年越しも間もなくと言う大晦日の夜、博麗神社の離れの縁側に腰を掛けながら、幽々子は膝の上で眠るクリームヒルトの頭をそっと撫でた。
夕方から始まった博麗神社での年越しの宴は集まった妖怪で大いに盛り上がり、年の終わりに相応しい大宴会となった。
妖怪ばかりで人間が来ない上、続出した脱落者への対応などで、霊夢は頭を抱えていたが、まあそれも些末な事だ。
盛り上がる本殿に対し、離れは静かで、幽々子は誰も居ない筈の虚空に問い掛ける。
幽々子「さて……、紫、居るんでしょう? 出てきなさい」
紫「あら?バレてたのね……」
幽々子「バレるわよ。 何年付き合ってると思ってるの?」
紫「そうだったわね。 それで、何の用かしら? 私は冬眠前の挨拶に、と思って来たんだけど……」
「お邪魔になりそうだったから帰ろうかとも思ったんだけど……」などと言う紫に、幽々子は小さく微笑む。
もっともらしい事を言っているが、帰らずにそこに居た時点で、興味本意での覗きだったのは確実だからだ。
幽々子「……紫は今年の件、一体どこまで読んでたの?」
紫「どこまで、と言うと?」
幽々子「六月の異変から今日までの全部よ。
今まで一度たりとも存在したことのない妖怪、“魔女”の一件を私に言われるままに任せたり、
貴女にしては珍しく、あの神さまの件じゃ対応を間違えたそうじゃない?」
考えてみればおかしい事ばかりなのだ。
一つの種族が纏まって幻想入りすると言う事態はかなりの異常事態だ。
それなのに紫自身は動こうとせず、事実上、幽々子に一任するカタチとなった。
かと思いきや盆の事件や、神無月の事件では紫は真っ先に動いている。
動きだけを見るなら紫が警戒していたのは“魔女”ではなくてむしろ……、
紫「その事ね……。 ねぇ幽々子、貴女はある日を境に、自分以外の全ての人の認識から、
そこに居た筈の妖怪が“存在していなかった事に”なる瞬間を認識してしまったらどうする?」
幽々子「あの神さまの話ね? ああ、成る程ね」
言ってから幽々子は目の前の友人の能力を思い出し、納得した。
つまりこの件に関して言えば、紫はあの“暁美ほむら”と同じ状況だったのだ。
クリームヒルト「すぅ~、すぅ~……」
幽々子「ふふっ、結局寝ちゃったのね……。 まあ色々大変だったようだし、仕方ないかしら?」
年越しも間もなくと言う大晦日の夜、博麗神社の離れの縁側に腰を掛けながら、幽々子は膝の上で眠るクリームヒルトの頭をそっと撫でた。
夕方から始まった博麗神社での年越しの宴は集まった妖怪で大いに盛り上がり、年の終わりに相応しい大宴会となった。
妖怪ばかりで人間が来ない上、続出した脱落者への対応などで、霊夢は頭を抱えていたが、まあそれも些末な事だ。
盛り上がる本殿に対し、離れは静かで、幽々子は誰も居ない筈の虚空に問い掛ける。
幽々子「さて……、紫、居るんでしょう? 出てきなさい」
紫「あら?バレてたのね……」
幽々子「バレるわよ。 何年付き合ってると思ってるの?」
紫「そうだったわね。 それで、何の用かしら? 私は冬眠前の挨拶に、と思って来たんだけど……」
「お邪魔になりそうだったから帰ろうかとも思ったんだけど……」などと言う紫に、幽々子は小さく微笑む。
もっともらしい事を言っているが、帰らずにそこに居た時点で、興味本意での覗きだったのは確実だからだ。
幽々子「……紫は今年の件、一体どこまで読んでたの?」
紫「どこまで、と言うと?」
幽々子「六月の異変から今日までの全部よ。
今まで一度たりとも存在したことのない妖怪、“魔女”の一件を私に言われるままに任せたり、
貴女にしては珍しく、あの神さまの件じゃ対応を間違えたそうじゃない?」
考えてみればおかしい事ばかりなのだ。
一つの種族が纏まって幻想入りすると言う事態はかなりの異常事態だ。
それなのに紫自身は動こうとせず、事実上、幽々子に一任するカタチとなった。
かと思いきや盆の事件や、神無月の事件では紫は真っ先に動いている。
動きだけを見るなら紫が警戒していたのは“魔女”ではなくてむしろ……、
紫「その事ね……。 ねぇ幽々子、貴女はある日を境に、自分以外の全ての人の認識から、
そこに居た筈の妖怪が“存在していなかった事に”なる瞬間を認識してしまったらどうする?」
幽々子「あの神さまの話ね? ああ、成る程ね」
言ってから幽々子は目の前の友人の能力を思い出し、納得した。
つまりこの件に関して言えば、紫はあの“暁美ほむら”と同じ状況だったのだ。
911: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:25:33.43 ID:nHi33yfc0
紫「そう、私は境界を操るスキマ妖怪。あの子がやってのけた“全世界を書き換えた瞬間と言う境界”も私は認識しているの」
紫「びっくりしたわ。ある瞬間を境に私の中に魔女の存在した世界と、していなかった世界の二つの記憶があったんですもの。
最初、何が起こったのか、私ですら訳が分からなかったわ」
幽々子「で、貴女は調べたのね? あの神さまの事を……」
紫「ええ、久々に骨の折れる作業だったわ。 情報も限られていたし……」
幽々子「で、対応を間違えた、と……」
遅かれ早かれあの神さま――鹿目まどかが抱えていた矛盾は解決しなければならない事だったのは事実だ。
だが、その矛盾があんなに早期に、それもかなり深刻なカタチで露呈したのは紫のミスとしか言いようがない。
紫「仕方ないじゃない。 人から神さまになる例は数あれど、人から一気に概念に、それも人格を有したままだなんて前代未聞にも限度があるわ」
「兎に角、今年は大変だったのよ」と言いつつ、紫は盛大に溜め息をついた。
いつもの余裕に満ちた胡散臭げな賢者の姿はそこにはない。
親友にだけに見せる素の八雲紫がそこに居た。
幽々子「それはまた大変だったわね。 とりあえずお疲れさま」
紫「ええ、疲れたわ。 そう言う訳だから、私はそろそろ休ませてもらうわ。 それじゃあ幽々子、良いお年を……」
幽々子「ええ、良いお年を」
互いに挨拶を交わすと紫はスキマの中にすっと消えていく。
あとに残されたのは幽々子と、その膝の上で寝息を立てているクリームヒルトだけ。
幽々子「来年か……、来年はどんな年になるのかしらねぇ……」
一人呟きながら幽々子はふっと微笑んだ。
何が起こるのか、それは幽々子にも、紫にも分からない。だけど……、
クリームヒルト「うっ……、う~ん……。 あ、あれ?私……寝ちゃってた……?」
幽々子「あら?ごめんなさい、起こしちゃったかしら?」
クリームヒルト「あっ、いえ、大丈夫です。 それより今は何時ぐらいですか?」
幽々子「そろそろ年越しよ。 ギリギリ、ってところね」
壁に掛けられた時計を見ながら幽々子は答えた。
命蓮寺から聞こえる除夜の鐘の音も、年越しが間もない事を告げている。
912: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:27:23.30 ID:nHi33yfc0
クリームヒルト「良かった~。 幻想郷で初めての年越しなのに寝過ごしちゃうところでした」
幽々子「う~ん、私としてはクリームヒルトちゃんの可愛い寝顔を見ながらの年越しも魅力的だったのだけどねぇ」
クリームヒルト「そんなイジワルなこと言わないで下さいよ~」
「幽々子さんが楽しいだけじゃないですか!」と頬を膨らませるクリームヒルトを宥めつつ、幽々子は小声で、
本当に小さな声でポツリと呟いた。
幽々子「まあ、どんな年でも私は私のやりたいようにやるだけなんだけどね……」
クリームヒルト「? 幽々子さん、何か言いました?」
幽々子「いえ、何も……。 さて、そんな事よりそろそろ時間よ、クリームヒルトちゃん」
壁掛け時計が零時を指し、最後の鐘の音が響く。
異変やら事件やらで瞬く間に過ぎていった年はこうして終わりを告げる。
それと同時に、新しい年が始まるのだ。交わされるこんな言葉と共に……、
幽々子「明けましておめでとう。クリームヒルトちゃん」
クリームヒルト「明けましておめでとうございます。幽々子さん」
「「今年も宜しくお願いします」」
913: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:29:07.90 ID:nHi33yfc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~天へと誘う魔の少女~ 【クリームヒルト・グレートヒェン】
能力 救済する程度の能力
危険度 極高
人間友好度 高
主な活動場所 中有の道、人間の里、冥界など
外の世界からやって来た新種の妖怪である魔女の一人。
人間が穢れに侵され堕ちた姿である魔女の中でも極めて強い力を有しており、この新参妖怪たちの長として認知されている。
元々が人間の少女であり、温厚な性格も相まって、彼女の方から人間に手出しする事は一切無い。
むしろ、人間に害を及ぼしかねない自身の能力を憂いているぐらいで、これは妖怪としては珍しい存在と言える。
また、似たような能力の持ち主である西行寺幽々子とは極めて仲が良い為、一緒に見掛ける事も多い。
傍から見ていると最も恐ろしい組み合わせの一つなのだが、本人たちにその自覚は無いようだ。
〔能力〕
一見すると分かりにくい能力だが、簡単に言ってしまえば生者の魂を極楽浄土に導く能力である。
極楽浄土に逝けば全ての苦しみから解放されるので、ある意味救いと言えるが、理不尽な屁理屈以外の何物でもない。
亡霊や怨霊など既に死んでいる魂など一部を除き大体の人妖に通用するとのことなので、危険極まりない能力だが、
前述の通り、彼女自身がこの能力を忌避しているきらいがあるので事実上、封印されている状態である。
〔対処法〕
彼女の性格を考えると普通に接する分には問題ないであろう。
ただし、能力が危険極まりない事は事実なので、十分な用心が必要である。
彼女を怒らせるような事は絶対に避けてもらいたい。
基本的に平穏無事な生活を好み、他者の不幸をよしとしない為、魔女関連で何か事件に巻き込まれた時は相談すると良い。
が、近くにいると巻き添えをくう可能性が高いので、通報したらすぐに離れた方が身のためだ。
~天へと誘う魔の少女~ 【クリームヒルト・グレートヒェン】
能力 救済する程度の能力
危険度 極高
人間友好度 高
主な活動場所 中有の道、人間の里、冥界など
外の世界からやって来た新種の妖怪である魔女の一人。
人間が穢れに侵され堕ちた姿である魔女の中でも極めて強い力を有しており、この新参妖怪たちの長として認知されている。
元々が人間の少女であり、温厚な性格も相まって、彼女の方から人間に手出しする事は一切無い。
むしろ、人間に害を及ぼしかねない自身の能力を憂いているぐらいで、これは妖怪としては珍しい存在と言える。
また、似たような能力の持ち主である西行寺幽々子とは極めて仲が良い為、一緒に見掛ける事も多い。
傍から見ていると最も恐ろしい組み合わせの一つなのだが、本人たちにその自覚は無いようだ。
〔能力〕
一見すると分かりにくい能力だが、簡単に言ってしまえば生者の魂を極楽浄土に導く能力である。
極楽浄土に逝けば全ての苦しみから解放されるので、ある意味救いと言えるが、理不尽な屁理屈以外の何物でもない。
亡霊や怨霊など既に死んでいる魂など一部を除き大体の人妖に通用するとのことなので、危険極まりない能力だが、
前述の通り、彼女自身がこの能力を忌避しているきらいがあるので事実上、封印されている状態である。
〔対処法〕
彼女の性格を考えると普通に接する分には問題ないであろう。
ただし、能力が危険極まりない事は事実なので、十分な用心が必要である。
彼女を怒らせるような事は絶対に避けてもらいたい。
基本的に平穏無事な生活を好み、他者の不幸をよしとしない為、魔女関連で何か事件に巻き込まれた時は相談すると良い。
が、近くにいると巻き添えをくう可能性が高いので、通報したらすぐに離れた方が身のためだ。
914: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:47:05.36 ID:nHi33yfc0
~※ 推奨BGM ※~
フラグメンツ(原曲『ネクロファンタジア』)/発熱巫女~ず
915: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:52:50.78 ID:nHi33yfc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
原作
東方project
魔法少女まどか☆マギカ
出演
クリームヒルト・グレートヒェン
西行寺幽々子
博麗霊夢 霧雨魔理沙
東風谷早苗 アリス・マーガトロイド
十六夜咲夜 パチュリー・ノーレッジ
射命丸文 聖白蓮
オクタヴィア シャルロッテ
エリー ゲルトルート
パトリシア イザベル
ギーゼラ エルザマリア
ロベルタ ワルプルギス
暁美ほむら
巴マミ 佐倉杏子
美樹さやか 千歳ゆま
キュゥべえ 鹿目まどか
魂魄妖夢 上白沢慧音
犬走椛 姫海棠はたて
八坂神奈子 洩矢諏訪子
秋穣子 秋静葉
レミリア・スカーレット 紅美鈴
蓬莱山輝夜 八意永琳
小悪魔 稗田阿求
火焔猫燐 ミスティア・ローレライ
鍵山雛 水橋パルスィ
古明地さとり 多々良小傘
サニーミルク ルナチャイルド
スターサファイア ゾンビフェアリー
八雲紫
河城にとり 鈴仙・優曇華院・イナバ
チルノ 大妖精
森近霖之助 伊吹萃香
フランドール・スカーレット 古明地こいし
黒谷ヤマメ キスメ
レティ・ホワイトロック 比那名居天子
風見幽香 霍青娥
幽谷響子 ルーミア(動画版のみ)
原作
東方project
魔法少女まどか☆マギカ
出演
クリームヒルト・グレートヒェン
西行寺幽々子
博麗霊夢 霧雨魔理沙
東風谷早苗 アリス・マーガトロイド
十六夜咲夜 パチュリー・ノーレッジ
射命丸文 聖白蓮
オクタヴィア シャルロッテ
エリー ゲルトルート
パトリシア イザベル
ギーゼラ エルザマリア
ロベルタ ワルプルギス
暁美ほむら
巴マミ 佐倉杏子
美樹さやか 千歳ゆま
キュゥべえ 鹿目まどか
魂魄妖夢 上白沢慧音
犬走椛 姫海棠はたて
八坂神奈子 洩矢諏訪子
秋穣子 秋静葉
レミリア・スカーレット 紅美鈴
蓬莱山輝夜 八意永琳
小悪魔 稗田阿求
火焔猫燐 ミスティア・ローレライ
鍵山雛 水橋パルスィ
古明地さとり 多々良小傘
サニーミルク ルナチャイルド
スターサファイア ゾンビフェアリー
八雲紫
河城にとり 鈴仙・優曇華院・イナバ
チルノ 大妖精
森近霖之助 伊吹萃香
フランドール・スカーレット 古明地こいし
黒谷ヤマメ キスメ
レティ・ホワイトロック 比那名居天子
風見幽香 霍青娥
幽谷響子 ルーミア(動画版のみ)
916: 1@ ~小ネタ&幻想郷縁起編~ 2012/05/28(月) 23:58:51.68 ID:nHi33yfc0
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――――――――――――――――――――――――――――――――
幽々子「……とまあこんな感じかしら」
白玉楼の応接間。
そこで話を区切った幽々子はパタリと広げていた扇を閉じる。
その仕草が何を意味するのか、すぐに覚ったのだろう、幽々子と正対して話を聞いていた少女が思い出したように息を吐く。
???「クリームヒルトたちも色々あったのね……。 最初の一年でそんなに……」
幽々子「あったわよ~。 曲者揃いの幻想郷ですもの。 何か無い方がおかしいわ」
???「どうしよう、こっちでやっていけるのか不安になってきたわ……」
茶化すように幽々子が言うと、少女は不安げに眉を寄せる。
落ち着いたと言うか、ともすればクールな印象すら受ける少女のそんな表情に幽々子はふっと苦笑する。
幽々子「それは貴女の努力次第ね……。 と、言いたいところなんだけど、貴女なら大丈夫だと思うわ」
???「? どうしてです?」
やけに自信たっぷりな様子で幽々子が断言したからだろう、少女は「何故?」と言うように小首を傾げてみせる。
問い掛けつつも不安の色を滲ませる少女とは対照的に、幽々子は落ち着いた様子でお茶を一口啜ってみせる。
幽々子「だって貴女にはちゃんと居るじゃない。 一緒に歩いてくれる子が……。 ね?」
???「っ!?」
茶目っ気たっぷりの口調に、ウィンクのオマケもつけながら幽々子は逆に問い返した。
幽々子の言わんとしている事を察した少女が、顔を赤らめつつも小さく頷いた直後、白玉楼に別の少女の声が響く。
幽々子にとっては聞き慣れた、少女にとっては久方ぶりに聞く声が……。
幽々子「あら?どうやら来たみたいね。 さ、出迎えてあげましょう? 貴女の大切な友達を……」
幽々子が手を伸ばすと、少女は差し出された手をしっかりと握った。
そこに不安や戸惑いの色と言ったモノは、最早微塵も無かった。
これが貴女の幻想郷での第一歩。
さあ、貴女の物語を魅せて頂戴?
私たちと紡ぐ、幻想の夢物語を……
東方円鹿目シリーズ 完
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幽々子「……とまあこんな感じかしら」
白玉楼の応接間。
そこで話を区切った幽々子はパタリと広げていた扇を閉じる。
その仕草が何を意味するのか、すぐに覚ったのだろう、幽々子と正対して話を聞いていた少女が思い出したように息を吐く。
???「クリームヒルトたちも色々あったのね……。 最初の一年でそんなに……」
幽々子「あったわよ~。 曲者揃いの幻想郷ですもの。 何か無い方がおかしいわ」
???「どうしよう、こっちでやっていけるのか不安になってきたわ……」
茶化すように幽々子が言うと、少女は不安げに眉を寄せる。
落ち着いたと言うか、ともすればクールな印象すら受ける少女のそんな表情に幽々子はふっと苦笑する。
幽々子「それは貴女の努力次第ね……。 と、言いたいところなんだけど、貴女なら大丈夫だと思うわ」
???「? どうしてです?」
やけに自信たっぷりな様子で幽々子が断言したからだろう、少女は「何故?」と言うように小首を傾げてみせる。
問い掛けつつも不安の色を滲ませる少女とは対照的に、幽々子は落ち着いた様子でお茶を一口啜ってみせる。
幽々子「だって貴女にはちゃんと居るじゃない。 一緒に歩いてくれる子が……。 ね?」
???「っ!?」
茶目っ気たっぷりの口調に、ウィンクのオマケもつけながら幽々子は逆に問い返した。
幽々子の言わんとしている事を察した少女が、顔を赤らめつつも小さく頷いた直後、白玉楼に別の少女の声が響く。
幽々子にとっては聞き慣れた、少女にとっては久方ぶりに聞く声が……。
幽々子「あら?どうやら来たみたいね。 さ、出迎えてあげましょう? 貴女の大切な友達を……」
幽々子が手を伸ばすと、少女は差し出された手をしっかりと握った。
そこに不安や戸惑いの色と言ったモノは、最早微塵も無かった。
これが貴女の幻想郷での第一歩。
さあ、貴女の物語を魅せて頂戴?
私たちと紡ぐ、幻想の夢物語を……
東方円鹿目シリーズ 完
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