【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】 前編 

【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】 中編 

【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】 後編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】 前編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】 中編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】 後編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】 前編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】 中編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】 後編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「これが私たちの答えです」【安価進行】 完結 

【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】  前編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 中編

【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 後編 

【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 二章


328: ◆vqFdMa6h2. 2022/02/26(土) 23:04:57.72 ID:OPDxX83e0
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GAMEOVER

クワヤマさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。



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329: ◆vqFdMa6h2. 2022/02/26(土) 23:06:06.02 ID:OPDxX83e0

月へと向かうキャラバンの一行。
彼らは全員その身をフードのついたケープに身を隠し、ラクダたちに乗って進んでいきます。

人里も森もない広大な砂漠、後ろを振り返っても自分たちのつけた足跡の他には何もなし。
そんな寂寥な旅路を導くのは、先導をいく桑山さんの腰につけた巾着袋。

鈴を模したその巾着には、『C.K』の刺繍が施されていました。

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ハンマープライス!

超社会人級の手芸部 桑山千雪処刑執行




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330: ◆vqFdMa6h2. 2022/02/26(土) 23:08:08.53 ID:OPDxX83e0

あと少しでオアシス、もう少し頑張りましょうね!

そう言って後続部隊を励ます桑山さん。
ですが、そんな激励を聞きながらも隊の一人が前方を指差します。

なんとそこに居たのはモヒカンが体躯の倍はあろうかという立派なヘアスタイルの荒くれモノクマたち!!

砂漠だろうとなんのそので進んでくるバギーにキャラバンは囲まれてしまいました。
荒くれモノクマはキャラバンのメンバーを次々に荷台の牢屋に積み込んでいきます。
彼らは立派な労働力、王国まで連れていけば奴隷として買い手は引く手数多でしょう。
一人、また一人と消えていきます。

荒くれモノクマにとっては一人一人が誰かなんてどうでも良いのです、所詮は社会の歯車の一つ。
大企業の社長が役員未満の社員の顔を誰一人として覚えていないように、奴隷に売り払う人間など押し並べて同じなのです。


そしていよいよ桑山さんのところへ荒くれモノクマがやってきて、ついにその腕を引ったくりました!
ああ、このうら若き乙女も奴隷としてその生涯を終えてしまうのでしょうか!

その瞬間、腰につけた巾着が地面に落ちました。
それは、アイドルでもなんでもないただの『桑山千雪』の作った巾着袋。
原価がどれだけかかっていても、所詮1円で売り叩かれてしまうような『誰かの作った』巾着袋。


……でも、それに荒くれモノクマは『値』をつけました。


331: ◆vqFdMa6h2. 2022/02/26(土) 23:08:57.21 ID:OPDxX83e0



バキューン!!



拾い上げようとした桑山さんを一発の弾丸が貫きました。
巾着袋を亡骸から引ったくる荒くれモノクマ。
略奪した金を入れておく分にはちょうどいいぐらいの巾着袋、これはいい掘り出し物でした。
別に、誰が作ったとかそういうのはどうでも良かったんですよね。

……え? 代金?
お金の代わりに桑山さんの命で支払ったんです。
なんたって、今の時代はキャッシュレスですからね!


335: 更新前に現在までの状況を整理します ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 21:57:03.85 ID:aUuuDLZd0
【3章段階での主人公の情報】

【超社会人級のシンガー】斑鳩ルカ
‣習得スキル…特になし
‣現在のモノクマメダル枚数…89枚
‣現在の希望のカケラ…24個

‣現在の所持品
【ココナッツジュース】
【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【ドライビングニトロ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

336: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 21:57:57.19 ID:aUuuDLZd0
‣通信簿および親愛度

【超高校級の占い師】風野灯織…0【DEAD】
【超社会人級の料理人】 月岡恋鐘…1.5
【超大学生級の写真部】 三峰結華…0
【超高校級の服飾委員】 田中摩美々…0【DEAD】
【超小学生級の道徳の時間】 小宮果穂…1.0
【超高校級のインフルエンサー】 園田智代子…0.5
【超大学生級の令嬢】 有栖川夏葉…0
【超社会人級の手芸部】 桑山千雪…10.5【DEAD】
【超中学生級の総合の時間】 芹沢あさひ…2.0
【超専門学校生級の広報委員】 黛冬優子…0.5
【超高校級のギャル】 和泉愛依…0
【超高校級の???】 浅倉透…0
【超高校級の帰宅部】 市川雛菜…0
【超高校級の幸運】 七草にちか…0【DEAD】
【超社会人級のダンサー】 緋田美琴…0

337: それでは3章、始めます ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:00:10.16 ID:aUuuDLZd0




冬優子「……で? あの脅迫状、あんたはどう思う訳?」





338: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:01:22.32 ID:aUuuDLZd0

あさひ「え? どう思うってどういう意味っすか?」

冬優子「……ふゆの性格について書かれた脅迫状。ふゆはあんたたちにしか元々この性格は見せちゃいなかった、それなのにそれ以外の人間があんな文章書いてよこすなんて、怪しすぎるじゃない」

愛依「あれ? うちもヨーギシャから外してもらえてる感じ?!」

冬優子「当たり前でしょ、あんたがあんな手の込んだ真似できるわけないし……問題外よ問題外」

あさひ「……わたしたちに見せてた冬優子ちゃんとほかに見せてた冬優子ちゃんが違うってこと、わたしたち以外にも知ってる人はいるっすよね?」

冬優子「はぁ? 何よそれ、誰のこと言ってんの?」

愛依「あ、もしかして冬優子ちゃんのお母さん的な~!?」

冬優子「……この島にうちの親がいるならここに連れてきてちょうだい」

あさひ「冬優子ちゃんのお母さんでも、お父さんでもないっす」

愛依「え? じゃあ誰なん? もしかして、アイドルの他の子にバレてたりしちゃってた感じ!?」

冬優子「……そんなわけない、ふゆは完璧に隠し通してたはずよ」

あさひ「……?」

あさひ「何言ってるっすか? いるじゃないっすか、わたしたちの近くに」

あさひ「冬優子ちゃんのことも、愛依ちゃんのことも、わたしのことも、全部全部知ってる人が」

冬優子「あんた、それってもしかして……」

339: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:02:55.71 ID:aUuuDLZd0





あさひ「プロデューサーさんっす」






340: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:04:18.60 ID:aUuuDLZd0
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CHAPTER 03

Hang the IDOL!!~弾劾絶叫チュパカブラ~

(非)日常編


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341: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:06:28.70 ID:aUuuDLZd0
=========
≪island life:day 11≫
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【美琴の部屋】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


昨晩の決起集会じみた部屋飲みから目を覚まして、その気分はあまり良いものではなかった。
二日酔いの反動があるというのもそうだが、それ以前に裁判終わりの私たちの惨状。
ユニットごとの孤立を極め、この島に来ていない人間の安否不明による漠然とした不安感。
私がいつも鬱陶しがっていた283プロの結束が失せてしまっていたようなあの空気感が、今も頭に纏わりついている。
酒を飲めば忘れられるかと思ったが、その効果は寝るまでの間ですっかり切れてしまったらしい。
妙に冴えた朝が、かえって苦しい。

342: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:08:21.10 ID:aUuuDLZd0

「……ふぅ」

肺に溜まった空気をゆっくり吐き出した。
チャイムも鳴ったし、本来ならじきにレストランで朝食会の時間だ。
今日はあるのかどうかも分からないが。

ひとまず美琴を起こしてから向かうとするか。
そう思ってベッドの方に目を向けたが、美琴の姿はない。
きょろきょろとあたりを見渡すと、掛けてあったジャージも姿を消している。

……あいつめ、私をほっぽいて早速朝練してやがった。

相棒の相変わらずの傍若無人っぷりにため息をつきながら、私はキッチンに立つ。
鍵も持っていないのにここを空けるわけにはいかないだろう。
インスタントのコーヒーでもすすりながら、美琴の帰りを待つことにした。

珈琲のあてには、昨日の飲みで余ったミックスナッツを採用した。
カシューナッツの小気味いい食感が、ぽりぽりと音を立てて私の眠気をそぎ落とす。

343: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:09:44.54 ID:aUuuDLZd0

「……しかし、どうしたもんかな」

昨日の酒の場の勢いで、美琴に今の283プロの状況をどうにかすると啖呵を切ってしまった。
美琴のことだし、別にそれに拘るようなことはないだろうがこれは私の面子の問題だ。

アンティーカの二人は田中摩美々という中核を失ったことで不安感に襲われているし、放課後クライマックスガールズの三人は他のメンバーの安否がわからず今も戸惑い続けている。
ストレイライトに関しては……かなり厳しい。事件をさんざん引っ掻き回した芹沢あさひ……あいつだけはどうにか無力化させねばならないが、それを阻むのが残り二人。あの二人にどうにか芹沢あさひの危険性を理解してもらう必要がある。
そしてノクチルの二人は、あのユニット内でも変わりつつある。樋口円香と福丸小糸、今この島にいない面子への心配もそうだが、幼馴染相手でも頑なに口を開かない浅倉透に対し、能天気女もこれまでの認識のままでいいのか不安を抱き始めている。

それぞれのユニットごとに抱えた課題、これを私と美琴でどうにかできるのか……?

「千雪だったらこんなときでも動けたんだろうけどな……」

少し前の自分なら、こんなことを思案なんてしなかっただろうと思う。


344: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:11:11.81 ID:aUuuDLZd0

領域外のことに頭を悩ませて、珈琲3口目。
部屋の扉がガチャリと開いた。


美琴「あ、起きたんだね」

ルカ「……出るなら起こしてから出るか、鍵置いて出てってくれ。帰ろうにも帰れねーだろ」

美琴「ごめん、すぐ戻ってくるつもりだったから」

ルカ「よく言うぜ……ったく。さっさとシャワー浴びて着替えろ、朝飯食いに行くぞ」

美琴「あっ……そっか。わかった。急いで用意するね」


本当、練習となるとそれ以外のことが頭からすっぽ抜けてしまう癖は相変わらずのようだ。
幸い珈琲はまだ残っている。美琴の支度を待つ時間くらいは潰せる。

____
______
________


ルカ「……どうだろうな、今日は」

美琴「どうって、何が?」

ルカ「朝食会……この集まり自体だよ、昨日の今日であのメガネ女もだいぶ参ってるだろうし、もしかすると私たち以外誰も来てない可能性もあるんじゃねーか?」

美琴「……その可能性は、あるかもしれないけど私たちがいかない理由にはならないでしょ?」

ルカ「……」

美琴「私たちがどうにかする……だったよね」

ルカ「あー、わかったわかった。それ以上言うな……はぁ」

美琴「……?」

345: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:13:04.56 ID:aUuuDLZd0
-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】

道中美琴と話した通り、今日は流石にこの朝食会もその体をなしていないだろうと思っていたのだが……
意外にも、レストランにはノクチルの二人以外の全員の姿があった。
みんなが卓を囲んで、談笑しながら食事を口に運ぶ平常。


結華「あ、ルカルカ。おはよう」

ルカ「お、おう……おはよう」

夏葉「二人とも遅かったわね、どうしたの?」

美琴「ごめんね、私が自主練に夢中になって時間を忘れていたから」

智代子「あはは、美琴さんらしいな」


だが、それはいつも通りの平穏を装うとする、痛々しさをむき出しにした【平常】だった。
貼りついたような笑顔を283の連中が浮かべる度に、胸がチクチクするような心地悪さを抱かずにはいられない。

346: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:14:09.49 ID:aUuuDLZd0

恋鐘「はい、追加のパンケーキも焼けたばい~!」

結華「おっ、こがたんありがとう! えっと、一人一枚で……」

結華「……二枚余ってるから、果穂ちゃんとあさたんにもう一枚ずつかな」

恋鐘「……あっ、ご、ごめん結華……」

結華「ううん、気にしないでこがたん。そりゃ昨日の今日だもん、まだ実感もわかないって」

(……チッ)


この朝食会の場の雰囲気をいつも作っていたのは、あのアンティーカの二人だ。
メガネ女も長崎女もどう見ても本調子じゃない、他の連中もそれに影響されている節はありそうだ。


あさひ「あ、冬優子ちゃん。そっちのフルーツも取ってほしいっす」

果穂「あさひさん、これですか?」

夏葉「……!! 冬優子、とってやってちょうだい」

冬優子「……はい、これ」

あさひ「ありがとうっす、冬優子ちゃん」


そして、芹沢あさひが動くたびに食事の場に緊張が走る。
実際私にもどの面下げてこの場に来ているんだ、という苛立ちはあったのだが、
この場にそれを持ち込めば空気が再び昨晩のようになることが容易に想像できるため、無理やりに押しとどめた。


347: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:15:49.42 ID:aUuuDLZd0

そんな全員が全員ぎくしゃくした食事を続けること、数分。
タイミングがいいのか悪いのか、やたら騒がしいあいつが姿を現した。


モノミ「はー、はーッ! はげしい たたかい でちた!」

果穂「あ、モノミ……ど、どうしたんですか?! ぜ、ぜんしん血まみれです!!」

智代子「あ、あれって血なの……? 血なんて絶対流れてないよねあの体!?」

あさひ「もしかして、またっすか?」

冬優子「また……ってもしかして、別の島への橋を解放してきたの!?」

モノミ「はいっ! その通りでちゅ! モノクマの配下であるモノケモノをまた一体倒してきまちたよ!」

愛依「やるじゃん! これでまた手掛かりが手に入る系!」

モノミ「もともとはミナサンのために用意された施設なんでちゅ……待ってくだちゃい、あちしが必ずすべてのモノケモノを倒して、ジャバウォック島をもとの美しい姿に戻して見せまちゅからね!」


新しい島の開放。
自分たちの身の上、そして近しい存在の安否という不安の空気に呑まれていたところに差し込んだ一筋の光。
私たちはそれに縋った。例え求めるようなものがそこになかったとしても、新しい何かを頭の中に詰め込むことができれば、それでよかった。
この鬱屈とした気持ちを忘れるだけの理由に飢えていたのである。

348: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:17:26.65 ID:aUuuDLZd0

恋鐘「そうと決まったら、朝ごはん食べたら早速出発ばい! 中央の島からまた行けばよかとやろ?」

結華「ねえ、モノミ。今回もとおるんとひななんに伝達お願いできるかな?」

モノミ「お任せくだちゃい! ばっちり伝えてきまちゅよ~!」

美琴「今回の分担は……ユニットごとで大丈夫そう?」

夏葉「ええ、そうね。ルカは今回は美琴と一緒でお願いできるかしら」

ルカ「……おう」


そういえば、前回の探索の時は……まだ美琴とも和解していなかったんだったか。
千雪が無理やりに私に近づいてきて、探索にも勝手についてきやがった。
その結果で今は美琴と一緒に行動しているのだから、分からないものだ。


私たちはてきぱきと無言で食事を食べ終えると、すぐにレストランを後にして新しく解禁された【第3の島】へと渡った。


349: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:19:12.75 ID:aUuuDLZd0
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【第3の島】

ルカ「ここが第3の島……またこれまでの二つとは雰囲気が大違いだな……」


これまでの島はあくまで南国の島という風体は共通していた。
だが、この島はどうだろうか、吹く風はなんだか乾いていて、そこらに見える地面も潤いを失った荒野のよう。
照り付ける太陽はなんだかやたらと体の水分を奪っていく。
私もあまり詳しいわけではないが、西部劇の舞台なんかはきっとこういう気候なのだろうと思った。

この第3の島で目につくのは【病院】【モーテル】【ライブハウス】【電気街】【映画館】だろうか。

これまでまともな医療設備がない暮らしを送っていた分、【病院】への期待は高まるな。私たちの生存率に直結する施設、ここは外せない。
【モーテル】は宿泊施設のことだったか? ホテル以外でもここで寝泊まりができるなら、何か便利になるかもしれない。
【ライブハウス】……職業柄血が湧いちまうな。特にソロ活動を始めてからは箱での仕事も多かった、いっちょどんなもんか見ておこう。
【電気街】、そういうのは専門外だな。美琴が扱えもしない家電を下手に持ち帰らないように、注意しておかないと……
娯楽らしい娯楽はなかったが、【映画館】はどんなもんだろうか。時間つぶしにもなるだろうし、何か一個ぐらい見れたらいいな。

さて、どこから調査するかな。


【探索開始】

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【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.病院
2.モーテル
3.ライブハウス
4.電気街
5.映画館

↓1

350: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/02(水) 22:40:55.41 ID:jj/6TTEb0
まず3が一番自然な流れだと思うの

351: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:45:20.31 ID:aUuuDLZd0
3 選択

【コンマ判定 41】

【モノクマメダル1枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…90枚】

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【ライブハウス】

私のような人間からすればホームグラウンドのような空間だ。
この前のクリスマスにもライブをこんな感じの箱で開いたっけ。
都会の鬱陶しいほどの華々しさ、同僚同士の付き合いとか上限関係とかのわずらわしさ、そういう息が詰まりそうなストレスを抱えた人間が逃げ込んで息継ぎをする空間がここだ。


ルカ「美琴もちょくちょくライブハウスは行ってたよな」

美琴「うん、音楽関係の繋がりもあるしね。立たせてもらったことも何回か」

ルカ「へぇ……」


コンビを解消してからの間、何回そういうことがあったのだろうと思った。
私の知らない、私の見ていない美琴のステージがあったのだと思うと少しだけ心寂しい。
私はと言うとステージの上から鬱憤をまき散らすだけだったが、美琴はきっとそうじゃない。
この小さな箱の中でも、そこにいる全員を魅了するようなパフォーマンスを追求し続けていたはずだ。
……それこそ、見る側が息苦しくなるほどの努力で。

設備自体は割としっかりしている。
コンポやスピーカーは有名なところのものを採用しているし、防音設備も充実している。
デコレーション、イルミネーションのための材料も整っているし、照明を適宜弄ることも可能だ。


352: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:47:09.85 ID:aUuuDLZd0

結華「こういうのまみみん結構好きそうじゃない?」

恋鐘「そうやね、こういうなんかごちゃついとる……アウトローな感じとかよく雑誌で見とったばい!」

美琴「……あの二人」

ルカ「……おい、てめェら」

結華「……! なんだ、ルカルカか……どったの? 調査中?」

ルカ「ああ、まあな。てめェらの話声が聞こえたからよ、そっちは順調か?」

結華「え? あー……うん、ぼちぼち?」


そのおぼつかない解答に、アンティーカの“遺された二人”の感情が透けて見えた。
今一番苦しんでいるのは、間違いなくこいつらだ。
ただでさえ友人が苦しみ悶えて死ぬ様子を目の当たりにしたというのに、その友人は無念の果てになくなったという事実、
そしてユニットの仲間がこのコロシアイ以前にあったコロシアイに参加しており、他の人間を裏切り手にかけていたかもしれないという可能性。
一度に背負うには重たすぎる荷物が一夜のうちにのしかかってきたのだから。
朝から無理している様子が随分と痛々しかった。


ルカ「……なあ、あいつはどんな歌を歌ってたんだ」


だから、少しだけでもその荷物を下ろしてやろうと思った。
少しでも胸の内を語れば楽になるだろうと思って、千雪がかつて私にしたように耳を傾けようと努力した。


353: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:48:53.22 ID:aUuuDLZd0


結華「……気持ちは嬉しいよ、ルカルカ」


……でも。




結華「でもさ……三峰には言えないな、まみみんがどんなアイドルだったのか、なんて」




それは下手に真似ていいものではなかったらしい。
私の一言を皮切りに、溢れ出したように言葉がつらつらと並んだ。


354: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:50:11.73 ID:aUuuDLZd0

結華「あー……なんかダメだな、やっぱり……自分でも思ってた以上に来ちゃうかも」


一言、一言と口にするたびにその目元は潤んでいく。


結華「新しいもの見れば、どうにかなるかと思ったけど、逆かも。可愛かった“妹”たちが、これを見たらどんな反応したかなとか、これは好きそうだなとか、そういうのばっか思っちゃうし」


声も震えて、か細いものになっていき、最終的に絞り出したのは純然たる拒絶だった。


結華「……下手に踏み込んでほしくないかも、アンティーカの領域に」

ルカ「……悪い」


私は自分の無配慮と不器用さを詫びることしかできなかった。


結華「ううん、ルカルカは悪くないって。三峰がメンタル弱いのが問題ですし」

恋鐘「結華……二人ともごめん、ちょっと出てくれんね?」

美琴「ルカ、ここは二人にしてあげようか」

ルカ「……ああ」


355: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 22:51:52.58 ID:aUuuDLZd0

下手を踏んでしまった。
ちゃんと考えてみればそうだ、私たちは結局ユニットというくくりで見ればただの外部の存在。
今失ったばかりの存在をたずねるような真似をしても、それはただの好奇のもとに伺ったように見えてしまうだろう。
私がやったのはむしろ傷に塩を塗りこむような行為。
相手の領域に踏み込むときには、それに足る誠意と覚悟とを持っていなければならない。
今の私には、まだそれは足りちゃいない。


美琴「ルカは悪くないよ……どっちも悪くない」

ルカ「……慰めなんかいらねえ」

美琴「……ごめんね、私も口下手だから」

ルカ「慰めがいらねえのは、きっとあいつもそうだったんだろうな」

美琴「ルカ……」



……一体、どうすればいいんだよ。


-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.病院
2.モーテル
3.電気街
4.映画館

↓1

356: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/02(水) 23:11:21.23 ID:agHwiFyR0
1

357: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:16:28.17 ID:aUuuDLZd0
1 選択

【コンマ判定 23】

【モノクマメダル3枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…93枚】

-------------------------------------------------
【病院】

この島での暮らしにまともな医療設備はなく、第2の島が解禁されてやっとドラッグストアが利用可能になった程度。
それも実用的かと言われたら微妙なところで、今回の病院は待望のものだと言える。
私たちのイメージする通りの設備があればの話だが。


ルカ「……結構でかいな」


ぱっと見の外装はよくある病院と変わらない。
車などないのにご丁寧に駐車場まで用意してある。
どこか緊張感を覚えながら扉を開けると、病院特有の鼻を刺すような医薬品の匂いがした。


あさひ「あ、ルカさん」

ルカ「……!! お前……!!」


思わず身構えてしまった。
人の生死をつかさどる場所に、現状最も警戒すべき対象がいたのだから無理もない。

358: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:18:22.99 ID:aUuuDLZd0

冬優子「待って。ふゆたちもただ探索に来てるだけ、それに二人がかりでこいつには目を光らせてるから安心して」


そんな私の素振りを見かねて黛冬優子が割って出た。
中学生の頬をむにっとつねりながらそう弁解する。


ルカ「……本当だな?」


私としても今ここで事を荒立てたくはない。
ここは黛冬優子の言い分を信用することにした。
黛冬優子は千雪の事件で罪を擦り付けられかけた側の人間、いわば被害者のスタンスに立つ人間であり、証言や行動の妥当性では高く見ることができるからだ。


冬優子「あさひの手荷物もついさっき検査したけど、何も持ち出した様子はないわ。愛依とふゆが保証する」

ルカ「……お前のその手に抱えてるのは違うのか?」

冬優子「これは……水素の吸引機よ。ふゆが普段使いする用で持ち出すだけ」

(それはいいのかよ……)

359: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:19:25.11 ID:aUuuDLZd0

愛依「あさひちゃん、別になんにも怪しいことなんかしてなかったよ! やっぱ、タヌキ?なんかじゃないって……!」

ルカ「……悪い、それを取り下げることはまだできない」

愛依「な、なんで……!」

冬優子「愛依、いいから」

愛依「でも……!」

美琴「……みんなはもう病院の中は探索したのかな」

あさひ「はいっす、ここ、どうやら泊まれるみたいっすよ!」

美琴「泊まれる……?」

冬優子「そこの『病院のルール』ってのを見ればわかるわ。『入院を要する重篤な病気の患者がいる場合、その患者と同数まで付き添いの人間の宿泊を認める』って書いてある」


黛冬優子の言うことはどうやら本当のようだ。
受付の上にあるクリップボードに印刷された文面には今言った通りの文言が書いてあった。


美琴「……治療もしてもらえるんだね」

ルカ「みたいだな、『コロシアイの進行において支障をきたすと判断される重大な事故については手術をモノクマドクターが行います』……これならしてもらわない方がマシな気もするけど」

あさひ「でも、病気は直してもらえないみたいっすね」

ルカ「……確かに、そういう文言はないな」

愛依「まあビョーキもケガもしないのが一番なんじゃん!?」

美琴「そうだね、無理はしないように」

(……美琴がそれを言うのか……)


私たちはストレイライトの三人と情報を共有を行い、三人を見送った。
中学生についていろいろと思うところはあるが、ここで追及しても仕方ない。
ひとまずは触れないという選択を取った。

360: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:21:09.96 ID:aUuuDLZd0

美琴「……ねえ、ルカ」


でも、二人残された室内で美琴は突然口を開いた。


美琴「あの子は最初の事件から関与していたんだよね」

ルカ「……そのはずだ」

美琴「……なら、にちかちゃんはあの子がいなければ今頃」

ルカ「それは違う」

美琴「……!」

ルカ「あいつがいようがいまいが、七草にちかは人を殺そうとしていた。その恨みをあいつにぶつけるのはお門違いだ」


そう、決してあいつは殺人教唆をしたわけでも、まして手を汚したわけでもない。
あくまであいつがやったのは事態をひっかきまわして、混乱している私たちを見世物代わりにしたということ。
誰かを喪失したことに対する恨みをぶつけるのは文脈が違う。
そのことだけはしっかりと訂正した。
この島では感情の暴走ですぐに足を踏み外す。あくまで冷静さを崩してはならないのだ。


美琴「……そうだね、ごめん。視野が狭くなっていたみたい」

ルカ「気にすんな、色々とありすぎて頭が混乱するのも仕方ねえんだ」


361: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:22:09.12 ID:aUuuDLZd0

私は美琴を窘めてから病院の探索を再開した。
ストレイライトの報告通り、入院が可能な病室が一階に数部屋、二階に付き合いの人間用の仮眠室が備えられていた。
薬品棚なども確認することができ、素人判断にはなるが薬の処方、簡単な治療なら行える施設のようだ。
勿論ケガについても同様。消毒薬や包帯、ガーゼはしっかりと完備されている。


ルカ「有事の際には積極的に利用できそうだな」

美琴「うん、少し安心した。モノクマのことだし、廃墟の病院なのかと少しだけ思っていたから」

ルカ「……あいつならやりかねないところだな」


ひとまずは信頼して良さそうだ。
お世話にならないに越したことはないが、私たちにとって一つ大きな安息地にはなるはず。

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.モーテル
2.電気街
3.映画館

↓1

362: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/02(水) 23:22:40.57 ID:agHwiFyR0
3

363: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:26:33.35 ID:aUuuDLZd0
3 選択

【コンマ判定 57】

【モノクマメダル7枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…100枚】

-------------------------------------------------

【電気街】

島にはどこか荒れた雰囲気が漂っているが、ここはまた違った方向性で荒れているな。
まるで人類が投げ出した後の文明のディストピアというか、砂嵐のテレビがこうもいくつも並んでいると言い知れぬ恐怖を感じてしまう。


美琴「ルカ、見て。二層式洗濯機だって」

ルカ「今時そんなの誰が使うんだよ……おい、まさかそれ持ち帰る気じゃねえだろうな」


何か使えるものがないかと見て回る。
美琴ではないが、家電なんかは一通り使えそうな雰囲気はある。
掃除機も洗濯機も、いずれにおいても旧型というわけではなく、最新式のものまで一応抑えてはあるらしい。
ただ、ここから自分の部屋に運ぶとなると、島を二つわたる必要があるわけで。
車も何もないのに持ち帰るのは現実的じゃないかもしれないな。


夏葉「ルカと美琴もやってきたのね」

ルカ「あ? おう、何か使えるモンでもあればいいかと思ったが……」

夏葉「ええ、私もパソコン類を見てみたけど……ダメね、どれもインターネットが機能しておらず、外部の情報は遮断されているわ」

美琴「? わいふぁい……とかいうのは無いの?」

夏葉「えっと……そうね、まずパソコンというのは……」

ルカ「いい、いい! こいつに逐一説明してたらキリがねえ!」

364: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:28:03.16 ID:aUuuDLZd0

夏葉「あ、それでも一つ気になるものはあったわ。そこのジャンク品店の品物の一つ……【中古のパソコン】はパスワードがかけられていたの!」

ルカ「パスワード付きのパソコンか……中は見れたのか?」

夏葉「いえ、パスワードに見当もつかないもの……今は触れないようにしておいたわ」


中古のパソコンか……どこから持ち込まれたのかはわからねーが、もしかすると中に外の情報が入っているかもしれない。
開錠ができれば私たちにとって何か大きなメリットになる可能性はあるな。


美琴「そういえば、果穂ちゃんと智代子ちゃんは一緒じゃないの?」

夏葉「いえ、一緒に調査中よ。二人は……あ、いたわ。あそこね」


小金持ちが指さした先、あれは電気街のうちの一つ、玩具屋だ。
なるほどラジコンなどを扱っているところらしく、小学生とチョコ女が子供っぽく遊んでいる様子が目に入った。


果穂「夏葉さーーーーーーん! 見てください、これすごい早さで走るんですーーーーーーー!」

智代子「すごいよ夏葉ちゃん! これ、音と砲台が動くよ!」

夏葉「ええ、後でそちらに行くわ!」


二人に向かって手を振る小金持ち。その横顔は、どこか物悲し気だった。


夏葉「……樹里と凛世。他のみんなのことも気がかりだけど、それ以上にあの二人が気を病んでしまうことの方が私は心配なの」

夏葉「ああして何か気を紛らわせるものでもあれば、と思ってここにやってきたのよ」


こいつのところのユニットはメンバーの間で年齢の幅が広いことがウリの一つだった。
それがゆえに、年長者である小金持ちは他のユニットとはまた別の所で、今の状況に思うところがあるらしい。

365: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:30:03.97 ID:aUuuDLZd0

夏葉「そして……ルカ、ちょうどいい機会だわ。あなたに話をしておきたかったの」

ルカ「……あ? 私にか?」

夏葉「あさひのことよ」

ルカ「……!!」

夏葉「……あなたは摩美々の裁判であさひを、事件をかき乱す【狸】だと告発した。そのことに訂正はないのよね?」


私の目を真正面から見つめてゆるぎない瞳。
凪いだ海面のように微塵も動かない黒目に、思わず唾をのむ。
並大抵の気迫ではない。それは敵意でもなく、ましてや疑いをかけているわけでもない。
他二人の命を預かる身として、真実を見極めようという戦意に近しい感情だ。


だが、私も確信のもとにあの中学生を告発したんだ。
そこから逃げるわけにもいかない。


ルカ「……ああ、現場の状況、黛冬優子の受け取った脅迫状を併せてみても、事件をかき乱しているのはあの中学生なのはほぼ間違いないはずだ」

夏葉「……わかったわ」

366: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:31:37.14 ID:aUuuDLZd0

夏葉「あさひのことは良く知っていたつもりだった、でもそれが事実なら認識を改めねばならないわね」

ルカ「……」

夏葉「共有する情報にも制限をかけたほうがいいかもしれない……危険を及ぼす可能性のあるものは、事前に排除しておく必要があるかしら」

ルカ「そこまでやるのか……?」

夏葉「警戒はしておく。……でも、私たちがこの島で生きていく以上は、ストレイライトの協力も必要。難しいところね」


小金持ちは複雑な表情を浮かべた。
自分自身これまで中学生との間で積み重ねてきた時間と信頼、そして今この島で他二人の命を預かる立場となった責務と緊張。
その間で板挟みとなって彼女の苦悩が、その額に顕れる。


果穂「夏葉さん、これみてください! おっきなラジコンヘリです……!」


私たちとの会話で一向に場を離れない小金持ちを待ちかねたのか、小学生と甘党女が自ら駆け寄ってきた。
手にはラジコンヘリと言うには洗練されたデザインの、回転翼の機体。


夏葉「これは……ドローンね?」

智代子「これが、ドローン……! 本物は初めて見たよ……!」

ルカ「ライブカメラとかでたまに使ったりはあるが、運転はしたことねーな……」

夏葉「……」

美琴「夏葉ちゃん……?」

367: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:33:10.80 ID:aUuuDLZd0

夏葉「果穂、智代子。悪いのだけれど、このドローンは私が回収してもいいかしら」

果穂「えっ……!」

夏葉「……ドローンなんて、いくらでも使いようがあるわ。武器を乗せた軍用ドローンも戦場に登用されて久しいし、このコロシアイに悪用されないとも限らないの」


どうやらさっき話していた覚悟に偽りはないらしい。少しでも危険な可能性のあるものは、文字通り徹底的に排除していくようだ。
小学生と甘党女は一度は顔を見合わせたが、そのままドローンを小金持ちへと手渡した。


果穂「夏葉さん、わかりました! おねがいします!」

夏葉「悪いわね二人とも……それと、この情報はこの場にいる人間だけのものにしておきましょうね」

智代子「美琴さんとルカちゃんなら信用できるもんね!」

ルカ「……そうなのか?」

夏葉「この島に来た当初のあなたなら、そうはいかなかったけれど……千雪の事件で私たちを引っ張ってくれた今のあなたなら大丈夫だと思っているの」

美琴「よかったね、ルカ」

ルカ「……ハッ」


その場でのドローンを秘匿するという取り決めには私たちも賛同。情報交換会でも明かさないこととなった。
283プロの人間がこうした結論に至ったことは少し意外ではあったが、この異常時だ。
信じられるもの、そうでないものを見極めるのに慎重になるのは致し方ない。

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.モーテル
2.映画館

↓1

368: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/02(水) 23:34:46.74 ID:PeuVYNz00
1

370: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:36:46.47 ID:aUuuDLZd0
1 選択

【コンマ判定 74】

【モノクマメダル4枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…104枚】

-------------------------------------------------

【モーテル】

モーテルとは確かモーターホテルの略で、自動車で広域の旅行をするアメリカ人向けに建てられたホテルのこと……だったか。
平屋づくりの扁平とした形に、ドアがいくつも並んで個別の部屋になっている様相は日本ではあまり見慣れない形だ。
この部屋一つ一つが宿泊設備になっているんだろう。


雛菜「あ、お疲れ様です~」

ルカ「……今回はお前ひとりなんだな」


声をかけてきたのは能天気女、いつも追いかけまわしていた適当女の姿はそこにはない。


雛菜「映画館で映画を見たいって言ってたので、雛菜は興味ないし他の探索に来たんですよ~。絶対あの映画つまんなそ~な感じがしたのにな~」

(……そんなにか?)


そういえばこの島には映画館もあった、そこで二手に分かれたということなのだろう。


371: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:38:23.68 ID:aUuuDLZd0

ルカ「お前はもうここのモーテルは見たのか?」

雛菜「はい、一応は見ましたけど……なんか、ここホテル代わりに泊まってもいいみたいですよ~?」

美琴「そうなんだ……」

雛菜「でも、なんかあんまり綺麗そうじゃなさそうですし、お布団に虫とかいるかもって感じです~」

ルカ「ま、マジか……」

雛菜「ぱっと見の感想ですけどね~」


適当女の言葉もそうだが、こいつの発言も大概だ。
感覚で物を言う女の発言だし、話半分で聞いておかないとな。
能天気女は好きなだけ物を言うと、そのまま掃けていってしまった。
相変わらず掴みどころのない女だ。


美琴「一応私たちでも見ておこうか」

ルカ「おう、そうしとくか」


手近な部屋を除いてみた。
なるほど、確かに泊まれるだけの設備は十分にそろっている。
生活用品や家電もあるし、電気や水道もしっかり通っている。
まあ、ホテルでの暮らしに不自由も感じていないしお世話になることはなさそうだな。


美琴「……ここだとライブハウスにもすぐに行けるよね」

ルカ「ん? まあ、そうかもな」

美琴「……ボイストレーニングならここに泊まったほうが練習効率は良さそうだね」

ルカ「ハッ……変わんねーな」

-------------------------------------------------
【残り選択肢が一つになったので自動で進行します】

【コンマ判定によりモノクマメダルの獲得枚数を決定します】

↓1

372: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/02(水) 23:39:00.34 ID:agHwiFyR0
ばちーん

374: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:44:07.69 ID:aUuuDLZd0

【コンマ判定 34】

【モノクマメダル4枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…107枚】

-------------------------------------------------

【映画館】

島の広い面積をとっている映画館。当然だが、来客は私たちの他にはなし。
受付でポップコーンを売っている店員もいないため、無駄に広い規模感ゆえに、閑散としている印象が強まっている。


ルカ「美琴は映画とか見たりするのか?」

美琴「たまに、お仕事で一緒になる方とか、昔一緒に頑張ってた子の出演作とかは見に行くかな」

ルカ「ハッ、律儀なこった」


昔からそんな感じで、美琴の趣味嗜好というのは今でもいまいち掴み切れていない。
おそらく正確にはどんなものでもほどほど楽しめる、ということなのだろうけど。
私も大体の物は楽しめる。そう映画マニアという訳でもないし、CMをしていて気になれば見に行く程度のミーハーの深度だ。

そういえば、この映画館では何を上映しているのだろうか。
ふとした興味で劇場ポスターに視線を向ける。

『モノ太郎 THE MOVIE』


……すぐに見たことを後悔した。
なるほど、当然と言えば当然か。この島でまともな映画が見れるわけなどないのだ。
どこまでいってもモノクマモノクマ、自己顕示欲もここまで行くと見上げたものだ。


375: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:45:47.92 ID:aUuuDLZd0

モノクマ「ようこそいらっしゃいました! モノクマーズシネマへ!」

ルカ「美琴、次行くぞ」

モノクマ「あーっ! なんでそんなひどいこと言うのさ、せっかくだからちょっとぐらい見て行ってよ!」

ルカ「誰が見るかこんなクソ映画」

モノクマ「見る前から評価を下すなんて偉そうに! カミサマなんて言われて、調子に乗るなよな!」

美琴「じゃあ、どんな映画なの?」

ルカ「おい、聞く必要ないって。さっさと行こうぜ」

モノクマ「よくぞ聞いてくれました! なんとこの映画は製作費に10億円もの大金をつぎ込まれた超傑作アクションスペクタクルムービー!」

モノクマ「疾風怒濤の勢いで展開する爆発の数々、そしてヒロインとのラブロマンスには胸がキュンキュンすること必至!」

モノクマ「そして主人公が直面する世紀の大事件とは一体……!?」

モノクマ「どう、見たくなったでしょ?」

ルカ「アクションなのか恋愛ものなのかミステリーなのかはっきりしねーな」

美琴「でも、なんだか面白そうじゃない? 色々詰め込んだおせちみたいで」

ルカ「モノクマ主演って言う台無しな要素が入ってる時点で精々小学生のお道具箱だよ」

モノクマ「なんてこと言うんだ! 見る前からそんな文句言うお客さんはオマエラがはじめてだよ!」

美琴「……ってことは、見てくれたお客さんもいるの?」

モノクマ「ていうか、大絶賛視聴中だよ? もうすぐ回が終わるから戻ってくると思うけど」

ルカ「……マジか、イかれてんな」


こんな地雷とわかり切ってる映画をわざわざ見に行くなんて、とんだもの好きもいたもんだ。
私なんかは既にモノクマの説明を聞いただけで頭痛がしそうだというのに。

それからその物好きを待つこと数分、すぐにそいつは姿を現した。

376: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:46:49.28 ID:aUuuDLZd0



透「あー、ヤバいわ。これ」



ルカ「お前かよ……」


シアターから出てきた適当女は額に手を当て、いつもより多めに息を吐いている。
一目でわかる、明らかに映画を見たことを後悔している反応だ。
いつものような余裕ぶった態度もどこ吹く風、苦虫を嚙み潰したような表情。


モノクマ「ようこそいらっしゃいました! どうでした、全米も涙した傑作の感想を是非ともお聞かせくださいな!」

透「……あ、もしかして二人ともこれから見る感じですか」

美琴「どうしようかと思って」

透「やめとき。マジで。時間の無駄」

ルカ「……だろうな」

モノクマ「またまた~、感動の大傑作だったでしょ?」

透「これ見るくらいなら、アリの巣眺めてた方がマシ。ガチで」


あの適当女がここまでの拒絶反応を示すとは、相当なんだろう。
逆に興味すら湧いてくる。


377: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:47:48.03 ID:aUuuDLZd0

モノクマ「映画グッズの物販なんかもありますけど?」

透「やめて、買わないって」

モノクマ「じゃあ、とりあえず来場者特典のシールだけでもどうぞ!」

透「あー……トラウマになりそう」

(……どんだけだよ)


適当女は千鳥足の様相で劇場を後にした。
これは……私たちも今のところは見ない方がよさそうだな。


モノクマ「ささ、もうすぐ次の回が始まりますよ! ぜひお二人も中へ中へ!」

ルカ「行くかよバーカ」

モノクマ「あっ、ま、待ってよー!」


私は美琴の手を引いて、背後から聞こえてくるモノクマの懇願するような声の悉くを無視して走り出した。

◆◇◆◇◆◇◆◇

新しい島の探索を一通り終えたが、私たちの心中は曇っていた。
途中で顔を合わせた連中の全員という全員が前回の裁判での禍根を引きずっている。
手掛かりらしい手掛かりもなかったことが、彼女たちの消沈っぷりに拍車をかけているようだった。


ルカ「……とりあえず、レストランに戻るか」

美琴「うん、そうだね……情報共有、大事だから」


この状況をどうすれば好転できるのか、私にはまだ視界が開けそうにはなかった。


378: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:49:53.19 ID:aUuuDLZd0
-------------------------------------------------

【第1の島:ホテル レストラン】


レストランには調査を終えた者が徐々に集い始めていた。
どれもこれも表情は明るくない、沈黙が訪れればどこかからため息が噴き出す、お世辞にもいい空気とは言えない空間だ。


夏葉「……あら、結華はどうしたのかしら」

恋鐘「ちょっと疲れとるみたいやけん、部屋で休ませてきたばい。アンティーカの分はうちがバッチリ報告するから心配いらんよ!」

(……心配はそこじゃねーだろ)

冬優子「……黙ってても仕方ないし、さっさと報告会を始めましょ。それぞれ探索した場所と発見したことを発表してちょうだい」

ルカ「……」

冬優子「……何よ」

ルカ「いや、素のお前って結構グイグイ引っ張るタイプなんだなって思ってよ」

冬優子「……はぁ、三峰結華がダウンしてるから致し方なしによ。分かるでしょ?」

愛依「じゃあ、ストレイライトからはっぴょー! はい、あさひちゃん……どうぞ!」


中学生への信用を回復させようとたくらんでいるのか、ギャル女はわざわざ挙手をしたのち、その役目を中学生に譲った。


379: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:51:38.93 ID:aUuuDLZd0

あさひ「えっと……そうっすね、わたしたちは病院を見てきたっす。ひどいケガとか病気をしたときは泊まれるみたいっす。患者さんと同じ数までなら、付き添いの人も泊まれるらしいっすよ!」

果穂「病院、これで安心ですね!」

あさひ「それに、緊急性が高い怪我なら手術も受けられるみたいっす!」

冬優子「あくまでコロシアイに支障が出る場合……だけどね」

恋鐘「命ば救う病院でもコロシアイのことばっかり……モノクマも抜け目なかね~」

夏葉「お世話になる用事ができないことを祈るばかりね、モノクマの腕なんてどれほど信用できるか怪しいものだわ」


ルカ「そういえば……宿泊可能で言えば、モーテルもあったな。あそこもホテルと同様に使っていいみたいだぞ」

智代子「モーテル、洋画でしか聞いたことないよ!」

美琴「部屋も覗いたけど、ベッドもシャワーも冷蔵庫も……生活に必要なものは一通りそろっていたから。気分転換に使う分にはちょうどいいかもしれないね」

あさひ「わたし、泊まってみたいっす!」

愛依「お泊り会でもやる感じでそのモーテル?お邪魔すんのもありかもね~」


果穂「放課後クライマックスガールズからのほう告です! 第3の島には、電気街があって、家電とか、パソコンとか、いろんな電化せい品がそろってました!」

美琴「古いものから最新鋭のものまで、幅広く揃ってたね」

智代子「持ち出すのは自由みたいだから、何か困ったことがあれば使ってみてもいいかもしれません!」

夏葉「電気街ではほかにも興味深い発見があったわ。ジャンク品が集められている中で、中古品のパソコン……しかもパスワードで鍵がされているものがあったの」

ルカ「外の情報が遮断されてる今、手掛かりになるかもしれない重要な品だな」

夏葉「一応持ち出して私の部屋で保管しているから……パスワードに心当たりがあれば申し出てちょうだい」

恋鐘「誰の持ち物かもわからんし、そう簡単には開けれなさそうばい……」


380: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:52:52.65 ID:aUuuDLZd0
美琴「そういえば、映画館には誰か行った?」

ルカ「私と美琴で見て来たけど……あそこはいかねー方がよさそうだ、ノクチルの適当女が映画を見た後満身創痍で出てきやがった」

智代子「満身創痍って……映画館なんだよね……?」

美琴「特に手掛かりもないし、時間をつぶすにしてももっと他の方法があるかな」

あさひ「そういわれると、逆に興味が出るっす!」


恋鐘「じゃあ最後はうちらアンティーカから報告! うちと結華はライブハウスをみとったばい!」

ルカ「ああ……そうだったな」

(そんで、私が不用意に踏み込んでメガネ女を傷つけちまった……)

恋鐘「設備はだいぶよかもんが揃うとったばい、ライブもやろうと思えば今すぐにでもできるぐらいやったよ!」

美琴「……本番を想定したレッスンなんかに使えるかもね」

ルカ「お前はぶれないな、美琴」

智代子「そうだねぇ、この島に来てからボイストレーニングもあんまりできてないし、たまにはいいかもね!」

夏葉「あら、いい心がけね智代子。それなら今夜にでも予定を入れましょうか」

智代子「き、気が早いよ! たまにはいいかもって言っただけで……」

夏葉「その“たま”は今なのよ、智代子!」

智代子「ひゃ~~~~~!」

381: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:54:02.15 ID:aUuuDLZd0
◆◇◆◇◆◇◆◇

一通りの報告が終わった。
目立った進展は今回もナシ、そうなるとまたあの沈黙が訪れてしまう。
不安ばかりが幅を利かせる、胸騒ぎばかりがやかましい静寂だ。


夏葉「ここでじっとしても仕方ないわ、ひとまず今日は解散にしましょう」

冬優子「……そうね、お互いこうしてても疲れるだけだし」


別に敵対をしているわけではないが、どこか角が立ったような表現。
ユニットの仲間を庇っている立場上、どうしても小金持ちの警戒心には敏感になるらしい。


ルカ「……そうするか、昨日の疲れもまだ抜けてねーみたいだしな」


私も小金持ちの提案に賛同した。疲れとは言ったが、その指すところが肉体的なものでないことは誰の目にも明らかだった。


智代子「明日はどうしよっか……朝食会は、やるんだよね……?」

夏葉「……ええ、もちろんよ」


質問する側も解答する側もどこか弱弱しい。
こんな状況だ、毎日の習慣まで崩してしまえばずるずると別の所にも影響が及ぶことは容易に想像できる。


ルカ「……じゃあ、明日も朝のチャイムの後にレストラン集合で」


誰からもその返事が返ってくることはなく、私たちは無言のままに解散をした。


382: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:55:38.34 ID:aUuuDLZd0
-------------------------------------------------

【ルカの部屋】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


自分の部屋に戻って、ドッと疲れが溢れてきた。
私自身が不安を抱いていなくても、他の連中があんな調子だと、かかわっていても気を遣うし、妙なところに力が入る。


「……どうすんのが正解なんだよ」


千雪の命令、初日の遂行状況は最悪。
他の連中との仲を取り持つようなことは一切できず、腫れ物に触るような立ち回りしかできなかった。
しかも一部では私のせいで余計に悪化させた節さえある。
美琴とのコンビを解消してから、ずっと孤独の道をひた走っていた。
手を差し伸べようとする連中には嫌疑の視線を送り、その手を振りほどくことに躍起だった。
救いなんて、全部が全部まがい物。
そう思い込んでいた私に、何ができるというのだろう。


「……わっかんねえっての……」


そう呟いて、ベッドにぶっ倒れた。

383: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:57:17.89 ID:aUuuDLZd0



___丁度そのタイミングだった。



ピンポーン


来客だ。
こんな時間に、しかも私の部屋に来るなんて輩は美琴しかいないだろう。
そう思って後頭部を搔きながら、煩わしそうな表情をわざと浮かべながら扉を開けてやった。


ガチャ



冬優子「……もしかして、なんか邪魔した?」




384: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/02(水) 23:59:01.38 ID:aUuuDLZd0

そこに立っていたのは黛冬優子だった。
到底客を向かい入れる態度ではない私を見ると、彼女は少しばかり申し訳なさそうに肩をすくめる。


ルカ「お、お前かよ……なんだよ、急に」

冬優子「ちょっと話、入ってもいい?」


こいつが訪問してくるのは予想外だった。
訪問の理由をたずねてはみたものの、この場で述べようとしない。
概ねあの中学生にまつわる話だろうと察しはついた。
前回の裁判で衆目の中私が糾弾したことにより、今こいつらの立ち位置は非常によろしくない。
その文句でもつけに来たと見るのが妥当なところだろう。
こいつの立場から考えれば、私に言いたいことがあるのも理解はできる。
それに、私にもその責任がある。私はこいつの話を正面から受け止めることに決めた。


ルカ「あー、クソ。ちょっと待て、片付ける」

冬優子「ん、早いとこ頼むわよ」


だが、生憎私の部屋にはずっと来客もなかったため、今は人を到底入れるような環境ではない。
急ぎ足で机の上の缶を袋にぶち込み、ごみは強引にクローゼットへと押し込めた。

385: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 00:00:43.22 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「お邪魔しまーす……」


部屋を見定めるようにしながら入室した黛冬優子は近くにあったクッションの上に腰かけた。
別にこいつと卓を囲むつもりはない、私はベッドの上にどっしりと座り込む。


ルカ「で、何の話だ」


分かり切っていることをあえて尋ねる。


冬優子「……この前の裁判の話よ」


ああ、やっぱりなと覚悟を決めた。
どんな罵詈雑言が来ても反論せず受け入れよう、そう思って身構えた。



冬優子「……三峰結華、あの子の抱え込んでるものをどうにかしてやりたいのよね」



だが、そこに続く言葉は意外なものだった。

386: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 00:02:55.84 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「……何よ、馬鹿みたいに口ぽっかり開けちゃって」

ルカ「な、バカってな……てっきりこっちは中学生のことで文句でも言いに来たのかと……」

冬優子「あんたバカ? あさひのことで今更文句言ったってどうなんのよ、物証が揃えられてる以上は感情論で反論しても無意味」

冬優子「こっちもこっちできっちり反証するから、それまで首を洗って待ってなさい」


随分と余裕たっぷりに事も無げな様子で切り返されてしまった。
どうやらこちらの見立てが甘かったらしい。こいつらの間にある信頼というのは並大抵のものではないようだ。
たとえその展望がなくても、確信を持った返答ができてしまうほどの信頼、もはや妄信と呼び変えてもいいかもしれない。


冬優子「で、本題。三峰結華、あの子今、かなり危ういでしょう?」


黛冬優子の危惧通り、今のあいつの状況は生存者の中でも最も危ういだろうと思う。
前回の裁判で、田中摩美々がクロと確定した時に一度あいつは確かな覚悟を決めた。
田中摩美々の心中を受け止めて、それに事件が起きる前に向き合ってやれなかった自分の未熟さを認めた。

でも、そのうえでモノクマはあいつらを引っ搔き回した。
田中摩美々の知識欲とそれと紙一重の恐怖を引きずり出し、やつの死に際を惨たらしく飾り付けた。
更には他のメンバーがこのコロシアイ以前に犯したかもしれない裏切り行為を白日の下に晒した。
あいつはその時思ったはずだ、『私は全然ユニットの仲間のことを分かっていない』、と。

あのゲームの中の幽谷霧子の様子、あれは外部の人間から見ても異常だった。
ユニットの仲間の張本人、そしてその年長者ともなると受ける精神的なショックは私たちの想像を超えるだろう。
そして実際、あいつは私からの干渉を拒絶し、とうとう自分の殻に閉じこもってしまった。


387: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 00:04:06.36 ID:cC0CFlEJ0

ルカ「……私のせいだ、私が何も考えないで、あいつに踏み込んだから」

冬優子「別にあんたを責めに来たんじゃないんだけど、あんた何かしたの?」

ルカ「下手に生前の田中摩美々を思い出させちまった」

冬優子「……はぁ、緋田美琴とあんたがコンビ解消した理由がよくわかるわ」

ルカ「は、はぁ?! お前、適当なこと言ってんじゃねえぞ!」

冬優子「手順をすっ飛ばしすぎなのよ、はじめっから本題で入っていいわけないでしょ。特に三峰結華みたいな面倒なタイプはね」

ルカ「おいおい、面倒なタイプって随分な物言いだな」

冬優子「あら、違った?」


本人がいないからってずけずけと物を言う。
本当、猫をかぶっていた時と比べるとまるで別人だ。


冬優子「あの子は田中摩美々にも言ってたけど、自分の心を打ち明けるのが苦手なタイプなのよ。それこそ自分でも上手く言語化できないんじゃないかしら」

(……どっかで聞いたような話だな)


視線をそらし、静かに心中で自嘲した。


388: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 00:06:06.08 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「自分の今感じてる不安を、恐怖を、仲間に打ち明けられたらいい。そんなことは自分でも分かり切ってる……でも、それには大きな大きな壁がある」

冬優子「ああいう女は、そういうタイプよ」

(……ああ、そういうことか)


こいつは、何も同情で口にしているんじゃない。
出会ってから、この島に来るまでずっと本当の自分を隠し、偽ってきたこいつだからこそ理解できる領域における、【同調】で言葉を口にしている。
私の部屋を訪ねてきた理由もそれで合点がいった。
意地や沽券なんてくだらないもので本音を隠し続けてきた私が、今や美琴と再び肩を並べている。
黛冬優子の論点でいえば、私を協力者に据えることは確かに道理にかなっている。


冬優子「三峰結華が超えるべき壁、あんたなら分かんでしょ」


その壁は、千雪が超えさせてくれた壁。
私たちが大人ではなく、子どもであるということを教えてくれたからこそ超えられた壁。
それと同じことを、あいつにしてやれと黛冬優子は言う。


389: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 00:07:14.92 ID:cC0CFlEJ0

ルカ「……簡単に言ってくれんな」

冬優子「大丈夫、ふゆが保証する。あんたはできるって」

ルカ「ハッ、無責任なこった」

冬優子「あら、ふゆが今こうやってふゆとして話してる責任の一端、あんたも担ってるはずでしょ? あんたが裁判でふゆの嘘を糾弾したからふゆは素を曝け出さざるを得なかったの忘れた?」

ルカ「……最終的に問い詰めてたのは能天気女だ」

冬優子「まあ、それはそうだけど……ふゆはあんたに協力してほしいの、それじゃ不満?」


随分と横柄なやつを目覚めさせてしまったものだ。
どうしてこうも283の連中は強引なやつばっかりなのか。
こんなところに入って平気な顔をしている美琴のことがわからなくなりそうだ。
……でも、この島の暮らしという異常事態においては、これくらいがちょうどいいのかもしれないけどな。



ルカ「……最終的には私が生き残るためだからな」

冬優子「上等。利用させてもらうわよ」



失意の夜に交わされた密約、何とも奇妙な関係が始まった。


390: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 00:09:02.59 ID:cC0CFlEJ0

というわけで今回はここまで。
色々とフラグが立った感じがありますね。
次回更新は本日3/3(木)、また10時前後で考えています。
次からは自由行動に入ります。
それではお疲れさまでした、また暫くよろしくお願いいたします。

393: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 22:04:14.35 ID:cC0CFlEJ0
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=========
≪island life:day 12≫
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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


昨日の夜は予想外な来客があったせいか、なんだか眠りが浅かった。
異物感が一日経ってもぬぐえていないんだろう、
妙に気が立ち、起床までに何度か目を覚ました。
その度に無理やりに寝付こうとしたのだが、いずれも長く続かない。
睡眠不足に寝起き早々あくびを打った。

さて、今日からはメガネ女の再起のために黛冬優子との協力が始まる。
千雪の命令を守るため、向き合わねばならない難題中の難題だったがゆえに、協力関係をこぎつけたことはこちらとしても幾分か助かる。
やつらの間に立ち込める漠然とした不安感を切り開く糸口になってくれそうだ。
ただ、あいつの物言いは少しばかりこっちの癇に障るけどな。

別段状況が好転したわけでもないが、私はそんなのんきなことを考えながらレストランへと向かった。

394: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 22:05:55.38 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】

レストランには既に大方の人間が集まっていたが、やはりあいつの姿だけは見えていなかった。


恋鐘「結華は今日もちょっと調子が悪かやけん、この会には参加できんらしいたい……食事は後でうちが運んでいくから、そいは気にせんとって!」

智代子「やっぱり結華ちゃん、相当堪えてるみたいだね……」


長崎女の報告を聞いて、黛冬優子はしきりにこちらに視線を送ってきた。
わかってるっての。こっちも頷いて合図を送る。


愛依「ノクチルの二人はずっと来てくれてないし、一人でも減っちゃうとやっぱ寂しいね……」

果穂「はい……結華さんにも早く元気になってほしいです……!」

あさひ「それならみんなで応援しに行くっすよ! わたし、この前スーパーで面白いもの___」

冬優子「はーいはい、後で愛依が見てくれるってー」


中学生が口を開いた瞬間に小金持ちが警戒を露わにした。
流石の黛冬優子、下手に刺激をしないように、そこのフォローは手早い。

395: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 22:07:16.53 ID:cC0CFlEJ0

智代子「でも、実際どうしよっか。結華ちゃんナシはやっぱり寂しいよ」

夏葉「ずっとこのままというわけにいかないのも確かだけど……下手に干渉すべきじゃないのは確かよね」

(うっ……)


まるで自分のことを名指しされているかのように感じて、少しばかり胸が痛い。


美琴「彼女のことは彼女のこと、自分自身で克服するしかないんじゃない?」

ルカ「……まあ、それはそうだけどな」

果穂「はい! それならお手紙を書くのがいいと思います!」

夏葉「手紙……? 果穂、詳しく聞いてもいいかしら」

果穂「えっと、前に国語の時間のお話で読んだんですけど、カエルの友だち二人がけんかをしちゃうお話で……おたがいになか直りしたいのに、なかなかすなおに言えないから、お手紙をかいたんです」

果穂「お手紙だったら、直せつ顔を合わせなくても思いが伝えられるので、話す側も聞く側も、気持ちがちょっと楽になるかなって思いました!」

智代子「それ、すごくいいアイデアだよ果穂! 直接お邪魔しちゃうと負担になっちゃうかもしれないけど、手紙だったら喜んでくれるかも!」

(手紙、か……)


存外いい案が出たな、と感嘆していたが黛冬優子の反応はそうではなかった。
胸の辺りを抑えて、口元には緊張すら漂っていた。
私はそれとなく近づいて、その真意を問う。

396: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 22:08:58.70 ID:cC0CFlEJ0
ルカ「……おい、どうした。何かまずいのかよ」

冬優子「……別にダメってわけじゃないけど……自分がへこんでるからって、あんな小さい子にまで気を遣った手紙を書かせちゃって、受け取った側はどう思うかしら?」

ルカ「……別に、素直に受け取ればいいんじゃねーのか?」

冬優子「……はぁ、分かんない? 『自分が迷惑かけてるんだ―』からはじまる自己嫌悪。ただでさえふさぎ込んでるんだから、ドツボにハマるときついわよ」

ルカ「おいおい、それじゃどうしろってんだよ。手紙をやめさせろってか」

冬優子「そんなことできるわけないじゃない、逆にあの子を悲しませることになるわ」

ルカ「……詰んでんじゃねーか」

冬優子「早いとこ荒療治が必要ね」


それは私に向けた返事というより、自分自身で確かめるための言葉だった。
自分の口から出た言葉を、その場で読み返すようにして、その手を顎先にあてた。
私に対する口ぶりこそ荒々しいが、こいつの思い悩んでいる様子は真剣そのものだ。
メガネ女を再起させることに対する熱意は本物らしい。

397: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 22:10:33.47 ID:cC0CFlEJ0
だが、それを見ていると少しばかりの疑問もわいてくるというもの。


ルカ「……なんでユニットのメンバーでもないお前がそうまでして気にかけんだよ」


同じプロダクションの仲間だ、という理由だけではないように思った。
ユニットでもない相手のことに普通首をうんうん捻ってまで時間を当てるだろうか。
こいつには、それだけでない他の理由があるはずだ。
私が確信の下たずねると、なんだか返答に詰まりつつ、あいまいな答えを返した。


冬優子「それは……その……同族だからよ」

ルカ「ど、同族……?」


同族、という言葉の意味は測りかねたが、それ以上の追及は断るという様子で黛冬優子は離れて行ってしまった。
その反応はどこか照れくささを滲ませているようにも思え、ますますあいつのことがわからなくなった。


ルカ「……はぁ」


本当にあいつと協力して、なんとかなるのだろうか。

398: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 22:12:18.82 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

メガネ女を引きずり出す、そうは決めたもののどうもやりづらい。
千雪が私にしたような強行策はかえって逆効果、小学生の手紙のような歩み寄りも追い詰めてしまう可能性がある。
一筋縄ではいかないその歯がゆさに思わずため息が出る。

「……そう考えると、私はまだ単純な方なのかもな」

部屋の水槽を忙しなく動くヤドカリを指でつついて、言葉を零した。

【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…24個】

1.交流する【人物指定安価】※透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

399: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/03(木) 22:12:56.81 ID:sTW8kTND0
夏葉

400: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 22:20:52.80 ID:cC0CFlEJ0
1 夏葉選択

【第1の島 ホテル 夏葉の部屋】


時間をつぶしに島をぶらつくかと部屋を出たところで、箱を大事そうに抱えて歩く小金持ちの姿が目に入る。
何やらガチャガチャと機械同士がぶつかりあうような音、近づいてみるとその箱の中には例のドローンが詰め込まれていた。


ルカ「お前、これ……」

夏葉「ええ、昨日の探索で見つかった危険因子よ。……念には念を、私の目の届くところで管理しておきたいの」

ルカ「んなこと、そういえば言ってたな。……重たくねーか?」

夏葉「ふふっ、ご心配には及ばないわ。それなりに自分の体の鍛え方には自信があるのよ?」


部屋にドローンを持ち込むところにたまたま出くわし、別に手伝うでもないがそのまま流れで時間つぶしに一緒に過ごすことになった。
……そういや、こいつと過ごしたことってそんなにないな。カロリーを使いそうな相手だが、大丈夫か……?

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‣現在の所持品

【ココナッツジュース】
【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【ドライビングニトロ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

401: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/03(木) 22:22:08.67 ID:sTW8kTND0
ドライビングニトロ

402: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 22:33:21.10 ID:cC0CFlEJ0
【ドライビングニトロを渡した……】


夏葉「こ、これは何!? ルカ!?」

ルカ「うおっ……急にでけー声出すなよ……なんか、数十年前にはやったガキのおもちゃらしいぞ。車のシュミレータみたいなことができる……まあ、ごっこマシーンだな」

夏葉「ルカ、あなた素晴らしいわ! 私が車好きと知っていたうえでのプレゼントの選択……センスが光っているわね!」

ルカ「いや、知らねーけど……」

夏葉「ふふっ、有栖川の名に懸けてこの車も乗りこなして見せるわよ!」

(妙に気に入られてしまった……)


【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------


ルカ「はぁ……29……はぁ……30……」

(お、おかしい……なんで……なんで私はこいつの部屋で、腕立てさせられてんだ……?!)


こいつと過ごすことにしてから、ものの数分と経っていないはずだ。
それなのに私は苦悶の表情で床とにらめっこしながら腕をプルプルと振るわせながら息を荒げていた。
そのすぐ横で、ストップウォッチ片手に私を見つめる小金持ち。
カウントが一区切りしたところで、私にタオル片手に寄り添った。


夏葉「お疲れさま、流石ルカ……私の見込んだ通り、よく鍛えられているのね!」

ルカ「あ? お、おう……」

夏葉「痩身ではあるものの、芯がしっかりとしていてぶれていない。それでいてパフォーマンスの迫力と勢いは一級品。やはりインナーマッスルが育っていたのね。普段からトレーニングは欠かさないのかしら?」

ルカ「いや……別になんもしてねーよ」


本当に私は何も特別なことはしていない。
日々の『斑鳩ルカ』としてのパフォーマンスの練習、それと……あいつの隣に立つための特訓だけだ。
あいつの水準が余りにも高いので、その特訓の副産物で体が育っていたのだろうと自分では納得した。
ただ、それを別のやつに語るほど私はおしゃべりな人間でもない。それ以上は口を噤んだ。


ルカ「お前、そんなに人の身体に興味あるのか?」

夏葉「ええ、もちろんよ。人間の身体はその個人個人によって違う。もちろん生まれ育ったものもあるけれど、後天的に培われた筋肉や脂肪などはその人の人生を形作る重要な要素でもある。それがよく磨き上げられているということは、それだけその人の歩んできた人生がひたむきなものだったことの証左」

夏葉「ルカ、隠したところで私にはわかるわ。あなたがどれだけストイックな人生を過ごしてきたかということはね」

(……こいつ)


1.お前って美琴と相性よさそうだよな
2.その言葉はそっくりそのままお前に返す
3.自由安価

↓1

403: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/03(木) 22:36:11.36 ID:ysy8bXIg0
1

405: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 22:47:08.43 ID:cC0CFlEJ0
1 選択

ルカ「お前って、美琴と相性よさそうだよな」

夏葉「あら、あなたの目にはそう映ったのね」

ルカ「なんつーか、お前の話を聞いてるとあいつが被んだよ」


美琴とコンビを組んでいた頃、あいつは私の生活にも口出しをしてくることがあった。
突き詰めれば結局『私の隣に立つ人間がそんなだらしのない真似をすんな』の文脈ではあったものの、あいつのストイックさが滲み出ているような気がして、
そのアドバイスが妙にこそばゆかったのを覚えている。
今のこいつから感じているのはそれに近しい感覚だ。


ルカ「ストイックなところっつーか、時にこっちを見透かしたようなことを言ってくるとこっつーか……まあお前は美琴より数倍暑苦しいけどな」

夏葉「そうね……美琴とは通じるところを私自身感じる部分もあるわ。最近ではレッスンで一緒になることも多いからよく私から美琴に指導を乞うているのよ」

ルカ「あーそうですか……」

(なるほどな……美琴のやつが前よりも妙に人間くさいのはこいつを筆頭とした周囲の連中の影響があってか……)

夏葉「美琴は私よりもアイドルとしての歴も長い……体の洗練され具合も事務所の中では別格ね」

ルカ「へぇ……そうなのか」

夏葉「一切無駄がないんだもの。もはや芸術品としての領域……私の目指すところでもあるわ」

ルカ「ハッ、お前まで美琴と同じになったら事務所なのか美術館なのかわかんなくなっちまうな」

夏葉「ふふっ、ルカも冗談を言うのね」


美琴の283での在り方……少しだけ垣間見えたような気がする。
それに、なんだか事務所の他のやつに評価をされているってのは私としても鼻が高い。

また、話くらい聞いてやってもいいかもな。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【有栖川夏葉の親愛度レベル…2.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…25個】

406: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 22:50:51.80 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】


「はぁ……美琴といい、小金持ちといい付き合わされる人間の身にもなってみろってんだ」


すっかり汗だくになってしまってシャツも体にべったりとくっついていて、帰るなり速攻でシャワーを浴びた。
朝飯を食って間もないってのに、どこからあの種族の人間は動くだけの活力が湧いてくるんだ?
いや、朝食をとってすぐだから……か。
随分と稼働効率がいい身体をしているもんだなと息をつく。

既に体は若干疲れているが、流石に寝るにはまだ早い。
それに、今夜はかなり神経を使うであろう例の『説得』も待っている。


「寝てる場合じゃねーよな……」


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…25個】

1.交流する【人物指定安価】※透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

407: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/03(木) 22:56:36.97 ID:sTW8kTND0
ふゆ

408: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:03:22.21 ID:cC0CFlEJ0
1 冬優子選択

【第1の島 砂浜】


冬優子「……何よ、このガラクタ……こんなのダメに決まってんじゃない……」ブツブツ

ルカ「……何やってんだ、お前」

冬優子「ひゃうん!? ……何よ、あんたか……びっくりさせないでよ」

ルカ「いや、知らねーけど……何をこんなところでぶつくさやってんだよ」

冬優子「別に、あんたに関係ないでしょ」

ルカ「いや今夜お前と一緒にカチコミかけんだろーが……」


とはいえ大体こいつが何をしようとしてたかは察しが付く。
とっさに隠したせいで不格好になっているプレゼントの山。
出来るだけ触れられないようにしているこいつの態度……

これは多分、メガネ女に渡す物でも見繕ってたんだろう。


ルカ「……はぁ、まあいいや。今晩の作戦会議でもするか?」

冬優子「え……え、ええ……そうね、そうしましょうか」


……それに触れるほど、野暮でもない。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ココナッツジュース】
【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

409: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/03(木) 23:09:04.21 ID:bIuzdG8eO
ココナッツジュース

410: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:18:09.15 ID:cC0CFlEJ0
【ココナッツジュースを渡した……】

冬優子「へぇ……あんた案外気が利くのね、いいチョイスよ」

ルカ「あ? ただこっちはあまりもん渡しただけなんだけどな」

冬優子「じゃあ、いいこと教えたげるわ。いい? ココナッツはカリウムが豊富に含まれてるの。このカリウムはデトックスにも効果的で、むくみの解消にも役立つわけ」

冬優子「あんたが意図せず渡したこの『あまりもん』は美容グルメとしては高得点。いいプレゼントだったわよ」

ルカ「なんでそんな偉そうなんだよ……」

冬優子「せいぜい今後の役に立てなさい、そんなんじゃ乙女心はつかめないわよ」

ルカ「私も女だろが……!!」

【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------


ルカ「さて、この後メガネ女を引きずり出す例の計画についてなんだが……」

冬優子「……」

ルカ「実際、どうなんだ。なにをすればあいつに届くんだ?」


これは私自身の義務にも関係する話。千雪が生前下した命令、それの遂行のためには必要不可欠なタスク。
だが、私は一度完全に下手を打っている。見よう見まねで千雪をまねたところで、私にはその資格がなかった。
踏み越えてしまった一線は、いわゆるタブーだったらしく、強い拒絶の前に私は言葉を失って、何一つとしてしてやれなかった。
そんな私を仲間に抱き込んで、黛冬優子は。


冬優子「さあね……どうしたもんかしら、ったく」

ルカ「の、ノープランなのか!?」

冬優子「当たり前でしょ……ふゆも流石に仲間と死別した相手を励ますなんて経験したことないんだから。その場その場でどうにかするしかないでしょ」

ルカ「よくお前そんなで私を誘ったな……」

冬優子「ノープランなのはあくまで説得の段階に移っての話。あんたを仲間にしたのは明確な意図があっての事よ」

冬優子「……前も言ったけど、あんたは本音を口に出す辛さをこの島で一番よく知ってる人間。ふゆと、三峰結華とおんなじでね」


そういえば今朝がたこいつはメガネ女を指して同族と言っていたか。
その真意はいまだ測りかねているが、その一端は言葉の節に見て取れた。


冬優子「ま、あいつが本音を出せるように……ふゆたちも本音をぶつけてやりましょ、それが一番でしょ」

ルカ「適当だな……」

冬優子「ちょうどよく合うほうの、『適当』ね」


1.どっからそんな自信がわいてくんだ
2.本当にできんのか……?
3.自由安価

↓1

411: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/03(木) 23:24:21.50 ID:bIuzdG8eO
1

412: 一旦離席します ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:34:59.49 ID:cC0CFlEJ0
1 選択


ルカ「……ったく、どこからそんな自信がわいてくんだよ。説得の文言の一つも用意しないでよ」

冬優子「さあね、ふゆも不思議なもんだわ。まあ、アドリブには職業柄慣れっこだからかしらね」

ルカ「アドリブ?」

冬優子「ええ、どっかの誰かさんがステージ上でよく無茶をするから。自然とアドリブもうまくなるわ」

(……あいつのことか)

冬優子「……それにね、飾り立てた言葉なんかよりももっと届く言葉があるってことふゆはよく知ってんのよ」

冬優子「等身大の心からの言葉……なんて言ったら綺麗ごとかもしれないけど、ふゆは何度もそれに救われてきた。お節介な直情野郎の言葉でね」

ルカ「……?」

冬優子「……コホン。まあ、いい。ノープランだとは言ったけど、あんたがあの子に伝えたい言葉……想い。それぐらいはなんとなく考えておいて」

冬優子「今のあの子はそう簡単には響かない……その覚悟もしておいてちょうだいね」

ルカ「……おう」


……どこまでも不器用なもんだ。
これだけ私相手に余裕ぶった態度をとっているが、その震えは隠せていない。
メガネ女の感情に正面からぶつかっていくという、どうなるかの予測もつかない、前例すらない挑戦。
それを前にして不安を隠しきることはできなかった。

でも、その虚勢を咎める気も毛頭ない。
こいつの気持ちは痛いほどよくわかる。美琴の前に立つときにも、ずっと同じ衝動を感じていたのが私だ。

……今夜は、長い夜になりそうだな。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【黛冬優子の親愛度レベル…2.5】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…26個】

413: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:43:19.47 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


夜も深まり、一息ついて床につこうかという時間帯。
だが、私は寝るつもりなど毛頭ない。今夜は黛冬優子とメガネ女の元で事を起こす予定なのだ。
スーパーから箱で持ってきたエナドリを飲んで眠気をぶっ飛ばして、ベッドの上で膝を貧乏ゆすりさせながらその時を待っていた。

ピンポーン

こちらはなんだかずっと落ち着かず、アナウンスの前から待機していた。待ちかねた来訪といったところですぐに扉を開放した。

ガチャ


ルカ「……よう」

冬優子「あら、早いわね。そんなにふゆが来るのが待ち遠しかった?」

ルカ「バカ言ってんじゃねえよ、こっちは結構前からスタンバってたんだよ。てめェもさっさと来い」

冬優子「あんたも結構短気なタチなのね。短気結構、事をなすにはせっかちぐらいでちょうどいいわ」

ルカ「……ハッ」


特に黛冬優子は悪びれる様子もなく、私の前で手をひらひらと振ってついてくるように促した。
数日前までの猫をかぶっていた頃を思うと、本当にこの面の皮の厚さは信じ難いものがある。

414: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:45:08.64 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------

【ホテル 結華のコテージ前】


ルカ「……一体何分そうしてるつもりなんだよ」


黛冬優子に連れられてメガネ女のコテージ前まで来て、幾数分。未だに私たちはメガネ女の顔を拝むことができずにいた。


冬優子「う、うっさいわね! ちょっと待ちなさいよ、こっちにも準備ってもんがあんでしょうが!」


……こいつがインターホンを押すのを妙に躊躇うせいで。


ルカ「私の部屋のインターホン押す時にも毎回そんな時間かけてたのか?」

冬優子「そんなわけないじゃない……誰があんたなんかに緊張すんのよ」

ルカ「あんたなんか、っつー物言いはこの際目をつぶるとして。お前緊張してんのか?」

冬優子「は、はぁ?! 誰が緊張なんか……」

ルカ「いや、今自分で言ったんだろ……」


415: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:45:46.69 ID:cC0CFlEJ0

確かに言われてみれば口元は変に吊り上がっているし、肩も妙に強張って力が入っている様子だ。
ずっと強い口調で話す女だが、心臓は人並みらしい。

こいつが感じている緊張というのも私には理解できた。
今からこいつがやろうとしているのは、自分の殻に閉じこもってしまったやつを無理やり引き摺り出すための交渉。
そいつが自分でも無自覚のうちに仕舞い込んでしまった感情をほじくり返すために私たちはここにいる。
ずっと本音を隠してきた二人が、他の人間の本音を聞き出そうと言うのだ。
そりゃ緊張もするし不安にもなる。

だから、私は黛冬優子を責め立てはしなかった。
ボタンの前で指を止めてしまうのも、ため息を何度も繰り返しては顔を上げて数秒後にまた下げるのも、その逡巡には理解ができたから。


ルカ「……」






ピンポーン

冬優子「えっ、ちょっ、あんた?!」


まあ、それとは別にインターホンは押すが。

416: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:47:51.70 ID:cC0CFlEJ0

ルカ「いつまでもうだうだ言ってても仕方ねーだろ、ほらさっさと腹括れ」

冬優子「にしても方法ってもんが……」


「「……」」


冬優子「……反応ないわね」

ルカ「まあ、これも想定の内だろ。他の連中との交流を拒んで自分の部屋に閉じてるやつが一発で部屋に入れてくれるんだったら苦労しねー」


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン


冬優子「あ、あんた……こういうとこは見た目通りね」

ルカ「荒療治っつったのはそっちだろ」


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン


冬優子「……出ないわね」

ルカ「心配すんな、出す」


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピ

417: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:48:48.06 ID:cC0CFlEJ0




ガチャ



結華「もうっ何!? 誰……!?」


ルカ「おっ、出た出た」

結華「ル、ルカルカ……? それに、ふゆゆ……!?」

冬優子「……こんばんは、元気そうね」


私のインターホン鬼の連打にとうとう痺れを切らしたのかメガネ女が半ばキレ気味に姿を現した。
だが、私と黛冬優子の姿を見てすぐにその表情は曇った。
招かれざる客、ということらしい。

418: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:49:50.18 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「……ポストの、見た?」

結華「ポスト……?」


どうやら小学生たちの書いた手紙は読むどころか存在にも気づいていなかったようだ。
ポストがパンパンになっているのを見て驚いているあたり、どうやら本当にこのコテージから出ずに閉じこもっているらしい。


結華「……あはは、ホント心配かけちゃってるよね。何やってんだか」

冬優子「……そう思うなら顔の一つくらい見せなさいよ」

結華「……ごめんね、ふゆゆ」

冬優子「ふゆに謝られても困る」

結華「……えっと」


どこか緊迫した空気が張り詰めて、思わず唾を一つ呑んだ。
荒療治、とは言ったが別に𠮟責しに来たわけではないはずだ。
だが、実際顔を突き合わせてみると黛冬優子はメガネ女の様子に多少の苛立ちを感じずにはいられないらしい。
明らかに語気の強い言い方に、思わず仲裁に入る。


ルカ「待て待て、もうちょっと順序ってのがあるだろ。メガネ女がビビってんじゃねーか」

冬優子「……! そ、そうね」

419: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:50:57.96 ID:cC0CFlEJ0

結華「……」

ルカ「……その、せっかくだ。一応菓子ぐらいは持ってきたから中で食わせてくれよ」

結華「……」


メガネ女は答えは返さず、後方の自分の部屋を覗いた。
部屋を全く出ない生活を送っていたんだ、その内部の惨状はなんとなく察しが付く。
……私も、美琴と解散した当初はそうだった。


ルカ「別に散らかってても気にしねーから」

結華「……わかった、ちょっとだけ片付けるから待ってて」

ルカ「……扉は開けたまんまな」

結華「う、うん……」


片付けの様子は覗かないと約束して、扉を手で開けたままにした。


結華「……入って」


メガネ女が私たちを部屋に入れたのは、その数分後だった。

420: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:53:00.72 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------

【結華のコテージ】

ルカ「……このポテトチップス、味付けはくどいけど案外いけんだぜ」


部屋には炭火焼ステーキ味のポテトチップスの香ばしいにおいが充満する。
酒なんかが欲しくなる味付けだが、一応二人はまだ未成年だ、今回はお預け。
つくづく面倒くさい。酒を使うことができたなら、もっと話も円滑に進んでいただろうにと思う。
酒の力でうっかり口を滑らせてしまう効用は私が実証済み、アルコールが進めばメガネ女の深く閉ざした心を開け放つその心ばかりの助けにもなっただろう。


冬優子「……ほんとね、いかにも体に悪いもの食べてますって感じの味だけど」

ルカ「そのジャンキーさがいいんだろ! ……美琴だったら一生食わないだろうけど」

結華「……」


メガネ女がまったく口を開かないので、私と黛冬優子がポテトチップスをつつくだけの無為な時間が過ぎていく。
さっきも言った通り、このポテトチップスの味付けは過ぎるほどにくどい。私と黛冬優子も、じきにその袋に伸ばす手は止まりつつあった。
お菓子がなくなると、この部屋に居座る名分もなくなってしまう。



……そろそろ、踏み込まないといけないんだろう。


421: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:55:18.43 ID:cC0CFlEJ0

ルカ「……なあ、メガネ女。この前は悪かったな」

結華「……この前?」

ルカ「……ライブハウスで、お前の傷も癒えてないってのに田中摩美々のことをほじくり返すような真似して」

結華「……うん、気にしないで」

(『気にしないで』ってなぁ……)


人が変わったようなしおらしさに私も二の口が継げない。
謝りはしたのだが、メガネ女自身が田中摩美々の死を直視し、受け入れなければきっとこの状態は進展することはない。
さて、どうしたものか。千雪が私にやったように小学生と中学生に会わせてみる?
いや、黛冬優子が手紙を案じたように、きっとこれも逆効果なんだろう。
そもそも他人からの働きかけを受けること自体が、こいつにとっては負担になる。


結華「あ、あのさ……二人が来てくれたのは嬉しい、けど……これは自分で向き合わなきゃいけない問題だから」

ルカ「それはそうかもしれねーけど……お前は一人で向き合えんのか?」

結華「……」

ルカ「私には、お前がそんなに強いようには____」


そこで、黛冬優子が私の前に左手を出して制した。
どうやら私はまた危険な一歩を踏み出しかけていたらしい。
三峰結華の地雷原においてはこいつの方がよく見えているようだ。
私は出かけた言葉を慌てて戻して、一歩引くことにした。


422: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:57:23.00 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「……あんたね、いつまでそうやってるつもりなのよ」


先陣に立った黛冬優子はため息交じりにそう言い放った。
組んだ左腕を掴む右手、服には皺が寄った。


冬優子「自分の殻に閉じこもってれば傷つくことがないとでも思ってんのかもしんないけどね、あんたのその刺々しい殻のせいで傷ついてる人間だっていんのよ」

冬優子「月岡恋鐘はあんたが顔を見せなくなってからも隣にあんたが座る日を待ち続けて、料理だってあんたの大好物ばっかり作ってる。今あんたがやってるのは、その大事なお仲間に対する裏切りよ」


あえて黛冬優子は『裏切り』という言葉を使った。
それはメガネ女自身が今直面している信じがたい現実を象徴するような言葉だ。その言葉にはぴくりと眉を動かして、明確な反応を示した。


結華「裏切りって……ふゆゆはアンティーカがどんなユニットだったのかも分かってないでしょ、外部の人間が勝手に推し量って非難なんかしてこないでよ……!」

冬優子「そうね、一個もわかんないわ」



冬優子「____あの幽谷霧子がどうして人質をとったり、大崎甘奈を殺害したりしたのかなんかもふゆにはサッパリ」




423: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:58:22.70 ID:cC0CFlEJ0

更に黛冬優子は詰めていく手を止めなかった。
ここまでくると私ももう言葉を挟み込むことは諦めていた、邪魔をしてはいけないと思った。
黛冬優子はこいつの地雷を見えたうえで、それに踏み込む覚悟を決めた。
そうしないと、言葉が届かない。捨て身の覚悟で踏み込んで、双方が共倒れになろうとも言葉を届けないといけない、そう判断したらしい。


結華「……ちょっと、それは流石にないでしょ」


メガネ女も黛冬優子の言葉には流石に不快感をあらわにした。
だが、その反応は織り込み済みだ。



冬優子「でも、三峰結華。あんたならそれが分かってあげられるんじゃないの? 今わかんないからって何なの、あんたは幽谷霧子の何を見てきたわけ?」




424: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/03(木) 23:59:35.84 ID:cC0CFlEJ0

結華「は、はぁ……!?」

冬優子「そりゃ人なんだもの、知らない一面、理解できない一面だってあるでしょうよ。でも、そこから向き合うのを逃げてちゃ、一生あんたは一人なのよ」

結華「……!」

冬優子「あんたがいっつも周りのために自分を押し殺したり、場を回すために苦心したりしてんのはふゆも知ってる。てか、見りゃわかんのよそんなこと」

冬優子「でも、それってあんたが他の人の気持ちや考えに人一倍敏感なことの証拠でしょ? あんたは他の人のことを理解して、歩もうとすることができる、それだけの強さを持った人間だってことなのよ」


それは黛冬優子でなければ言えない、言ったところで意味のない言葉だった。
メガネ女が常日頃から背負い込んでいる役目とその苦労、それは近くにいる者が気取ってはならぬものであり、他の人間から指摘するのも望ましくないもの。同じ苦労を背負うものでなければ、その言葉に裏打ちはない。
他の人間のために自分の考えや感情をベールに包みこんできた黛冬優子は、あの裁判ですべてを白日の下に晒した。
そして、三峰結華もそのありのままを自分の目で見た。

黛冬優子の言っていた『同族』、その言葉の意味を私はここでようやくつかんだのだ。


425: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/04(金) 00:01:11.15 ID:6V+DEOK70




____そして、黛冬優子はもう一歩踏み出した。





426: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/04(金) 00:02:26.16 ID:6V+DEOK70

冬優子「だから、あんたも信じなさい。あんたがそうしてるように、他の連中だってあんたの気持ちを分かろうとしてる、あんたに歩み寄ろうとしてんだから」


その一歩は軽やかで、まるで羽が落ちてきたように、ふんわりとした着地。


冬優子「……そのことに自信が持てないってんなら、ふゆが第一号になるから」


きっとこの一歩も彼女の地雷の上にあったはずだ、それでも……爆発は起きなかった。


冬優子「事なかれ主義の果てに『ふゆ』を演じ続けることになったふゆなら、あんたの理解者第一号にもうってつけなんじゃない?」


すっかり彼女の地雷は湿気てしまったようだ。


427: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/04(金) 00:03:37.45 ID:6V+DEOK70

結華「……ぷっ、あはは!」

冬優子「ちょっと、何笑ってんのよ」

結華「だって、三峰の理解者第一号なんて……Pたんみたいなこと言うから」

冬優子「……はぁ? あいつ、こんなくっさいこと言ってたわけ?」

結華「まあでも、理解者第一号は流石にもううちの家族が取ってるからちょっとふゆゆは遅いけどね!」

冬優子「あら、それじゃあ……第何号になるのかしら?」

結華「六……か七ぐらい?」

冬優子「微妙な数字ね」


指を折って数えると、あいつの言う『家族』がなんなのかはなんとなく察しがついた。
向き合うのが辛いだのなんだの言っていた割に、随分と自信満々じゃねえか。
……いやきっと、答えはずっと決まってはいたんだろうな。
ただ、それを解答として決めてしまうことが怖かった。そういうことなんだ。

428: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/04(金) 00:04:57.73 ID:6V+DEOK70

結華「はぁ、天下のアイドル黛冬優子にここまで譲歩されたんだったら、三峰もそろそろ動かなきゃだなー」

冬優子「そうよ、ふゆがここまで譲歩するなんてそうそうないんだから」

冬優子「ほら、明日から一緒に頑張ろう? ゆいにゃん♡」

結華「はわわ……こんなレス貰っちゃって、ファンとしては嬉しくも畏れ多い……」

冬優子「普通だったらCD何枚積んでもやったげないんだから、家宝にでもしなさい」

結華「じゃあ家宝用に一枚、撮ってもいい? ほら、ルカルカ撮って撮って!」

ルカ「あ? おう……まあ、いいけど……」

ルカ「……はい、チーズ」


笑顔がいけ好かねえ女だと思ってた。
軽妙なトークとその表情の裏には、何か算段が透けて見えるようで、距離を詰めているようでこちら側からは踏み込ませないような圧を感じていた。
それは決して間違ってはいなかったわけだが、いつまでもその色眼鏡のもとにこいつを見るのはどうやら不適切らしい。


カシャ


デジタルカメラのモニターに映ったその笑顔は、裏に何の考えもなく友情を見せびらかすみたいなバカ丸出しの表情だ。


429: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/04(金) 00:06:31.03 ID:6V+DEOK70
-------------------------------------------------

【ホテル 結華のコテージ前】


冬優子「サンキュ、あんたのおかげでなんとかなったわ」

ルカ「私は何もしてねー、ただポテチ持ってっただけだ」

冬優子「そうね、あのポテチもひどいもんだったわ。今でも口に味が残ってる」

ルカ「うっせ、だったら食った分返せ」


三峰結華の説得を無事成功せしめた私たちはコテージ前で労いをかけあっていた。
つくづく283プロの連中は強引すぎるしお節介すぎると思う。千雪にしかり、こいつにしかり、人との距離の取り方ってものをまるで知らない。
ちょっとの間も一人にしてくれないんだから、まるで気が休まらない。


冬優子「……ありがとね、ふゆ一人じゃこうはならなかった。それは本当」

ルカ「あ?」

冬優子「ふゆはあのインターホンを鳴らす勇気もなかったし、ヒートアップしたところを諫めてくれるやつがいなきゃ余計なことを口走ってたと思う」

(余計なことは割と言ってたと思うけど……)

430: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/04(金) 00:07:22.74 ID:6V+DEOK70

冬優子「……そこにいるだけで救われる人もいるってことよ」

ルカ「『救われる』、なんて……話してる相手が私だって分かって口にしてるんだとすれば相当に性格悪いな」

冬優子「あら、ふゆの性格はこの島でもピカイチにいいわよ?」

ルカ「ハッ……いい性格してんな」


勿論私の言う『いい性格』は皮肉だ。
それはこいつもわかってのこと、分かったうえでむしろ機嫌よくしたように高笑いしてみせた。


冬優子「あんた、結構話せんじゃない。見直したわ」

ルカ「ケッ、そんならケッコー」


こうして私と黛冬優子の共同戦線は幕を下ろすこととなった。
戦友たちは背を向けてそれぞれのコテージへと戻っていく。
もうこれで、私たちの関係も終わり。明日からは____

431: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/04(金) 00:08:21.18 ID:6V+DEOK70





冬優子「じゃ、また明日。朝、朝食会で会いましょ……【ルカ】」






432: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/04(金) 00:09:03.25 ID:6V+DEOK70

≪千雪「じゃあルカちゃんには、お友達を作ってもらおうかな」

ルカ「は、はぁ……?」

千雪「283プロのみんなともっと仲良くしましょう!」≫



(……ったく、しゃあねえな)




ルカ「おう、じゃあな……【冬優子】」




____友達同士、ってことらしい。




435: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 21:58:04.03 ID:/22W6gE+0
____
______
________

=========
≪island life:day 13≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


ずっと私たちの前に立ち込めていた不安の薄靄は、少しだけだが晴れて行っているような気がする。
私たち以前に行われていたかもしれない、283プロ連中のコロシアイ、その真偽はいまだわかってはいないし、何の手掛かりもない。
だとしても、それにいつまでも囚われて足踏みするだけの時間は終わりつつある。

昨晩の冬優子との三峰結華の説得もうまくいった。
今日からはあいつも朝食会にまた顔を出すはずだ。
いなくなっていた人間が戻ってくる、それだけで沈んだ気分を取り戻す効用としては大きいものが見込める。
特に、あの長崎女。あいつの煩いまでの声量もきっと戻ってくるだろう。

さ、支度をしたらさっさとレストランに行くか。


436: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 21:59:45.98 ID:/22W6gE+0
-------------------------------------------------

【ホテル レストラン】

レストランにつくと、待っていたのはここ二日顔を見せていなかった三峰結華だった。
あいつは前までと同じように、朝から気軽いしゃべり口で私を出迎え……



……はしなかった。




結華「ル、ルカルカ! ど、どうしよう……大変、大変なんだよ!」

ルカ「は、はぁ……? なんだよ、久々に参加してすぐに……なんか悪いもんでも食べたか?」

結華「う、うん……実はそうなんだよね」

ルカ「マジか……胃腸薬は呑んだのか?」

結華「ってそうじゃなくて! とにかくこっち、来て!」


説明しようにもできないといった感じで三峰結華はもどかしそうにしながら、最終的には私の手を引いてレストランの中に連れ込んだ。
別にレストランの中におかしなところはない。いつも通り、卓と椅子が並んで、その上には朝食も用意されている。
出席しているメンバーの頭数も、三峰結華が参加していることを除けば何も変化はない。



……ただ、何人かの様子は明らかにおかしかった。

437: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:01:09.69 ID:/22W6gE+0

恋鐘「ルカさん、おはようございます!」

私の姿を見るなり、方言の影も形もない標準語で挨拶を私にぶつけてくる長崎女。



夏葉「……なんかもう、食事をするのも面倒ね。誰か口に運んでちょうだい」

まるで溶けるかのように机に突っ伏してやたら怠惰な様子の小金持ち。



愛依「ルカさん、私と一緒に香草茶はいかがでしょうか。朝の爽やかな目覚めにうってつけですの」

頭の悪そうな言い回しから一転、上品が過ぎる言い回しで小指を立てながらティーカップを啜るギャル女。




ルカ「……は?」


理解が、追いつかなかった。

438: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:02:12.45 ID:/22W6gE+0

結華「こがたんとなっちゃんとめいめいが朝から様子がおかしいんだよ~!」

恋鐘「結華さん、どうしたんですか? そんなに取り乱して……もしかして、お腹が空いていらっしゃるんですか?」

恋鐘「でしたら私が腕によりをかけて中華そばをおつくり致します! こう見えて、結構自信あるんですよ!」

結華「ちゃ、ちゃんぽんじゃない……だと……?!」


夏葉「ふぁあああ……まだ朝早いし寝ててもいいかしら、人間14時間は睡眠をとった方が健康でいられるのよ」

果穂「だ、ダメです夏葉さん! ちゃんと寝るときは自分のコテージで寝てください!」

智代子「そ、それ以前に寝すぎだよ夏葉ちゃん!?」


あさひ「愛依ちゃん、今日のご飯も美味しいっすよ! 食べないっすか?」モッソモッソ

愛依「ふふ、あさひさん口元にソースが着いてますよ。今私のハンカチーフで拭いて差し上げますわね」

冬優子「ハンカチーフって今時おっさんでも言わないわよ……」


まるで地獄のような光景に、思わず頭を抱えた。


美琴「ルカ……これって」

ルカ「わけがわかんねー……な、何が起きてんだよ……!?」

439: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:03:37.73 ID:/22W6gE+0

バンッ!!

変わり果てた連中の様子に戸惑っているのもつかの間。
今度はレストランの扉が乱暴に開かれた。


透「……はぁ……はぁ……」

結華「あ、とおるん!? ど、どったの……そんな焦って!」

ルカ「お、おい……まさか……」

透「ひ、雛菜が……なんか、めっちゃ変」


適当女が抱きかかえるようにしているのはあの能天気女。
だが、こいつの様子の異常さも遠巻きに見てすぐに分かった。
にへらとした表情はどんよりと曇り、どこでもない遠くを見つめてため息を吐く。
けだるげな体にはまるで力がこもっていない。


雛菜「……どうせみんな死ぬんだし、もうどうでもよくないですか~」


こいつの様子は、いつもと違うとかそういう次元じゃなかった。


結華「た、大変だ! ひななんが一番重症だよ!」

透「いつもは朝から部屋に来るんだけど、今日来なかったから。見に行ったらこれだった」

冬優子「……ったく、何がどうなってんのよ!? この愛依、めっちゃくちゃに気色悪いんだけど!?」


まさに阿鼻叫喚の一言に尽きた。
言動がまるで別物になってしまった仲間に振り回されててんやわんや。
もうこれでは朝食会どころではない。
私と美琴は二人並んで呆然と立ち尽くし、その状況を見つめることしかできなかった。

440: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:04:48.48 ID:/22W6gE+0

と、その時。放課後クライマックスガールズの連中が異様な騒ぎ方をしていた。
どうやら小金持ちが本格的にごね始めたらしく、無理やり二人係で机からひっぺがそうとしはじめたようだ。


夏葉「はぁ……なんだか体がだるいわ、なんか足も痛いし今日はもう帰ってもいい?」

智代子「あ、足が痛いって……小学生がサボる時の常とう句だよ……」

夏葉「果穂、歩けないから私を部屋まで運んでちょうだい」

果穂「こんなにぐでっとした夏葉さん見るのはじめてで……す……!?」

智代子「ど、どうしたの果穂!?」





果穂「夏葉さんの身体、すっごくあついです……!」





441: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:06:18.66 ID:/22W6gE+0

智代子「えっ!? ……ほんとだ、おでこがすごく熱い……熱があるよ!」

ルカ「……!? お、おい、てめェら!」


慌てて他の連中の方を見やった。
放クラから上がった報告を受ける否や、それぞれのユニットですぐに触診による検温が始まった。
額に手を当て、じっと待つ。そしてそのいずれも結果は。


結華「こがたんも発熱してる……しかもとんでもないの!」

冬優子「愛依もダメね……こりゃ相当きてるわ」

透「雛菜もやばいぐらい出てる」


同時多発的に極度の高熱、そして性格がまるで変わり果ててしまう現象が起きた。
これは明らかに……何かが起きている。


ルカ「おい、モノクマ……! てめェが何かやったんだろ……出てこい!」


私が声を上げると、やつは待っていましたと言わんばかりにすぐその姿を現した。

442: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:07:44.98 ID:/22W6gE+0

バビューン!!


モノクマ「はいはい、お呼びですかー!?」

結華「お呼びどころじゃないよ……これ、何が起きてるの?! みんな様子がおかしくなって、熱まで出てるんだよ!?」

モノクマ「おやおや、これはこれは……皆さん大変お辛そうですね」

恋鐘「はい! すごい熱が出ているので、正直立っているのもしんどいです!」

結華「なら座ろっかこがたん!?」

ルカ「おい、このツッコミが追い付かない状況はどういうことなのか説明してもらうぞ」

モノクマ「説明も何もオマエラの予想通りだよ。これはとある病気に集団感染しているからこうなってるんですよ」

美琴「病気に集団感染……でも、これまで誰も病気らしい病気なんか罹患してなかったと思うけど」

モノクマ「そりゃそうですわ、この病気が生まれたのはつい昨晩のこと! とある研究施設からウイルスが流出しちゃいましてね、それがこの島に入り込んじゃったみたいなんです」

愛依「まあ、ウイルスだなんて……私、怖いです……」

冬優子「……あんたはもう感染してんのよ」


443: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:08:52.70 ID:/22W6gE+0





モノクマ「そして、そのウイルスこそが今回の動機……【絶望病】なのです!」






444: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:09:47.41 ID:/22W6gE+0

ルカ「ぜつぼう、びょう……?」

モノクマ「そっ! この島に生息している蚊が媒介する病気でね、感染した人は極度の高熱になって、更には性格も全くの別人になっちゃうって言う病気なんだ!」

あさひ「じゃあみんなはその蚊に刺されちゃったからこうなってるってことっすか?」

モノクマ「そうだね、差し詰め月岡さんは【標準語病】、有栖川さんは【ぐうたら病】、和泉さんは【お嬢様病】そして市川さんは【ネガティブ病】って言ったところかな」

美琴「高熱が出た時に普段よりしおらしくなる人とかいるけど、そういうことなのかな」

ルカ「いや、そんなレベルの変化じゃねーだろ……これは症状の一つだ」

モノクマ「今回はこのパンデミックの状況下でオマエラが耐えられるかどうかを見物しようかなって思って!」

智代子「ね、ねえこの病気って治るんだよね?! それに……感染症ってことは……まだまだ広がる可能性もあるんでしょ? ワクチンとか、特効薬とか……ドラッグストアにあるの?」

モノクマ「え? 言わなかったっけ? この病気はつい昨日生まれたばっかの新病なんだよ?」


445: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:10:52.41 ID:/22W6gE+0



モノクマ「治るわけないじゃん! ワクチンなんかもあるわけないよ~!」



ルカ「……は?」


それは最悪の宣告だった。
治療法も、対策法も不明な感染症……これまでの遠回しな圧をかけてくる動機とは全くの別物。
モノクマは私の命を材料に、直接的な圧をかけてきた。
コロシアイをせずとも、このままではいずれ絶望病に感染してしまう。
高熱の中で、自我を崩壊させながら衰弱し、息絶える。
そんな末路は想像しただけで身の毛がよだつ。
医療設備もまともにない環境で、得体のしれない病にかかってしまう恐怖。

____私たちの不安に更なる根源的な恐怖を上乗せしてきたのだ。


446: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:12:27.81 ID:/22W6gE+0

雛菜「どうせ無理だって~……全員ここで死んじゃうって~……」

モノクマ「こんな変な病気で死にたくなかったら、さっさと誰かを殺して歌姫計画の成功者になるのが一番! 舟だってすぐにチャーターしてあげるからね!」

ルカ「てめェ……舐めた真似しやがって……!」

結華「ルカルカ! 今はそれどころじゃないよ……とにかく、みんなを休ませてあげないと……」

ルカ「……クソッ!」

モノクマ「まあ病院の入院に足る重病だとは思うからさ、病院までは運んであげる! そこから先のことはオマエラにマルっとおまかせしまーす」


モノクマの言葉通り、絶望病にかかった四人はすぐに病院へと搬送されていった。
まだ感染していない残りの連中も、対処法が見当たらぬ中狼狽するばかり。ひとまずは病院に行って方針を立てることにした。

447: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:14:58.77 ID:/22W6gE+0
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【第3の島 病院】

美琴「……とりあえず、今は四人とも眠っているみたい。かなりの高熱が今も出ているようだから、まだ当分は安心できないね」

ルカ「そうか……きついな」

果穂「みなさん……だいじょうぶでしょうか……」

冬優子「ふゆたちは医学の専門知識も全くない……祈ることしかできないわね」

結華「……それこそ、きりりんでもいれば話は違ったんだけどね」


病院に到着した私たちは、四人の容態を確認。
未だ熱の引かぬ様子は予断を許さない状況、とはいえ私たちは素人で出来ることも限られている。
ロビーの対策会議は、ピンと張りつめた空気だった。
そして、懸念材料はこの四人だけでなく、私たち自身にも及ぶ。


あさひ「でも、わたしたちこそどうするっすか? モノクマも言ってたっすけど、これって感染症なんっすよね?」

智代子「そうだね……わたしたちみんなが罹っちゃったらそれこそどうしようもないし……」

美琴「とにかく、隔離が必要かな。果穂ちゃんとあさひちゃんは年齢も低いし、感染リスクが大きいし……居住空間を分けておくだけでも感染する可能性はぐっと減らせると思う」

ルカ「……だな、この病院は入院患者と同数まで付き添いの人間が宿泊可能らしいから。ちょうど四対四で分けるのがいいか」

冬優子「病院に泊まる人間と、近くのモーテルに泊まる人間に分けるべきね。情報はいつでも共有できるようにしておきましょ」

あさひ「モーテルに泊まるっすか!? やった! ずっと泊まってみたかったっす!」


冬優子の言う通り、活動の拠点そのものを当分はこの第2の島に移すべきだろう。
いつ緊急事態になっても駆けつけられるように、病院に留まらない人間も近くに置いておくことには全員の合意が取れた。
後はその割り振りだ。面倒を見る人間には感染のリスクが伴う。慎重な判断の元決定せねばならない。


448: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:16:37.15 ID:/22W6gE+0

結華「果穂ちゃんとあさたんはモーテル組で確定として……後はどうする?」

ルカ「ガキ連中の面倒見るんだったら冬優子、お前はモーテルに行っとけ」

冬優子「……そうね、果穂ちゃんはともかくあさひの面倒はふゆじゃないと見れないだろうし」

あさひ「あはは、冬優子ちゃんとまた一緒っすね」

冬優子「……」

智代子「それじゃあわたしは病院に残ろうかな、夏葉ちゃんのことが心配だし……」

透「それなら、私も残りたい……かも。雛菜のこと、心配だし」

(……こいつが泊まるんだったら、監視役がいるか)

ルカ「……じゃ、私も病院だ。美琴、お前はどうする?」

美琴「……それじゃ、ルカの手伝いをしようかな」

ルカ「決まりだな」

結華「えっ、ちょっと待ってよ……三峰もこがたんの看病したいんだけど……」

冬優子「結華、あんたはこっちに来なさい」

結華「え、ふゆゆ?! なんで……」


449: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:17:49.03 ID:/22W6gE+0

冬優子「ふゆはこの子たちの面倒見るので手いっぱいなの。情報共有するにしても、ふゆの分も担ってくれるしっかり者が一人必要になると思うのよね」

冬優子「それに……病院の側は心配しなくとも、ルカがいるわ。あいつもなんだかんだ言って面倒見良いんだから大丈夫よ、それはあんたも知ってのことでしょ」

ルカ「……ケッ」

結華「……」

結華「わかった、ルカルカ。こがたんをよろしくね」

ルカ「おう」


緊急の事態ではあったが、とりあえずの対策の方針は定まった。
患者四人と同数の四人、私、美琴、適当女、甘党女の四人が病院にとどまり看病を行う。
小学生、中学生、冬優子、三峰結華の四人がモーテルで待機しておく。
後でどうにか両者間で連絡を取る手段も用意するらしい。

先行きの見えぬ混迷のパンデミック、誰しもその表情は薄暗かった。

そして、すぐに私たちは割り振り通りに分かれて行動を開始した。
私たち看病班はこれからずっと病院に泊まって交代交代に患者の様子を見ることになる。
かなりの長期戦になりそうだな。

450: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:18:50.26 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

結華『よっと……ちゃんと映ってるかな?』

ルカ「おう、見えてるぞ。こっちの音声も問題なしか?」

結華『うん、バッチリ。こういうのは初めて使うんだけど、設定とかもこれでよさそうだね』

美琴「それにしてもいいアイデアだね。こうやってリモートで情報共有ができるようにしておけば直接会わなくても済むから、感染の可能性を少しでも減らせる」

結華『それこそインターネット環境があれば話は早かったんだけど、そういうわけにもいかないから電波の送受信どまりだけどね』


あれから数時間、私たちはそれぞれの支度をした。
病院に長期で残ることを見越し、食料をスーパーから大量に運搬。
病院には看病人用の休憩室があったものの、人数分全員のベッドはないし、隙間時間での仮眠も必要となるだろうからブランケットも併せて用意した。
そしてモーテル組が用意したのがこの【テレビ通話】だ。
インターネット環境がないこの島でも、同一規格の機械を使えば電波の届く範囲内で映像付きで通話が可能になる。
元々は高齢者介護の場などで使われるものらしいが、今回はちょうどよかった。

451: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:20:23.35 ID:/22W6gE+0

冬優子『看病は完全に任せっきりになる。やっぱりこっちとしても容体は気になるところだから随時知らせてちょうだい』

果穂『何か必要なものがあればあたしたちで調たつしてきます!』

透「おー、通販じゃん。超便利」

智代子「もしや、食べたいものをオーダーすれば作ってくれたりなんかは……?」

冬優子『……そんな引っ切り無しに呼び出されたら隔離の意味がないと思うんだけど?』

智代子「うぅ……面目ないです」

冬優子『まあ、たまには作ったげるわよ。どうせこいつらの分も用意しなきゃなんだしね』

あさひ『冬優子ちゃん、今日はオムライスがいいっす!』

美琴「ホテルのレストランにはいかないの?」

結華『流石に食事のたびに島を渡るのは負担だからねー。各部屋にキッチンはあるからこっちで済ませようかと思ってるよ』


452: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:21:15.52 ID:/22W6gE+0

ルカ「……あれ、そういえばお前ら今どこから通話してんだ? モーテルの内装とはちょっと違うよな?」

あさひ『今はライブハウスっすよ。モーテルだと遠すぎて電波が届かなかったっす』

透「まあ古いやつだし、しょうがないか」

智代子「今はこうやって通話ができるだけでも感謝だもんね!」

冬優子『それじゃとりあえずはこれでやりとりをすることに決定でいいわね? 連絡を取るのは【朝と晩の8時】の一日二回』

ルカ「ん、了解」


一日二回の定期連絡。私たちは病院に籠りっぱなしになるわけだし、顔を突き合わせる機会もなくなる分このテレビ通話は貴重だな。


ルカ「さて、そろそろ連中の様子を見に行くか。目を覚ます頃合いだろ」

美琴「そうだね……私たちも万全の注意を払って看病するようにしよう」

智代子「マスクと消毒液もばっちりあるから、適宜使っていこうね!」

透「うがい手洗い、バッチグー」

453: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:23:16.39 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【恋鐘の病室】


恋鐘「おや、みなさん……ここは一体?」

智代子「ああ、恋鐘ちゃん待って。ベッドに座ったままでいいから、ゆっくり落ち着いて!」

美琴「熱は……まだ下がってないみたいだね」

恋鐘「部屋の雰囲気から察してみるに、私が意識を失っている間に病室に運び込まれたようですね。私は入院中、ということでしょうか」

ルカ「……いつになく冷静で気持ち悪いな」

透「モノクマの動機でウイルスにやられてるみたいなんで。しばらくは入院」

恋鐘「そうですか……申し訳ないです、私がもっと衛生に気を配っていればこんなことには……」

智代子「ううん、しょうがないよ! 悪いのはモノクマなんだもん!」

恋鐘「いえ、そういうわけにはいきません! 私も誠意をお見せしないと……何か手伝えることはございますか? 料理に掃除、なんでも致します!」

ルカ「それなら感染を広げねーためにまずはベッドで横になってくれ」

智代子「こんなに元気そうなのにウイルスに体は侵されてるんだよね……」

美琴「これはちゃんと様子を見ておかないとだめだね……」

454: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:24:11.18 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【夏葉の病室】


夏葉「入院ってすごいのよ……ずっと寝たまんまでいいし、料理も勝手に出てくるし……」

ルカ「その料理を作って運ぶ人間がいるんだけどな」

智代子「何度見ても別人ってレベルじゃないよ……こんなだらしない夏葉ちゃん……面白すぎるよ」

ルカ「おい!」

夏葉「智代子、あなたチョコレートを持っていないかしら? 体が糖分を欲しているの、なんでもいいから甘いものが食べたいわ」

透「こらー、寝たまんまで甘いもの食べたら太るぞー」

夏葉「いいのよ、それならそれで。欲望を満たし、私腹を肥やしてぶくぶくと膨れ上がって最終的にはじけ飛ぶ……そんな風船みたいな人生を私は送りたいわ」

美琴「高熱でうなされてるときに見る夢みたいな話だね」

ルカ「……なんか知能指数まで下がってねーか」

夏葉「ふぁああ……それじゃ、私はまた寝るから……後はよろしく……」

透「うわ、三秒で寝た」

智代子「ちょっとぐらいリハビリさせないと治った後が心配だね……」

455: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:25:14.37 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【愛依の病室】


智代子「なんだか入った瞬間ハーブのいい匂いがしてるんだけど!?」

愛依「あら、丁度紅茶が入りましたの。皆さんご一緒にアフターヌーンティでもいただきませんか?」

ルカ「おいどこからこんなティーセット用意したんだこいつ!」

美琴「すごいね……おいしそうなケーキ」

愛依「ふふっ、野イチゴをあしらった卵黄ケーキですのよ。うちのパティシエールが皆様のために用意してくださいましたわ」

ルカ「おいもうツッコミが追い付かねーぞこいつ」

透「おー、すご。スポンジフワフワ」

智代子「えっ、本当に?! それじゃあわたしも失礼して……」

愛依「小鳥の囀りも聞こえてきました……今日は本当に暖かで心休まる晴天でございますね……」

ルカ「おい病人! 窓際に行くな! 戻ってこい!」

美琴「へぇ……カモミールティなんだ」

愛依「カモミールにはリラックス効果がありますの。美琴さんはダンスのレッスン終わりにいただくとよいかもしれませんね」

ルカ「看病人も正気に戻れ!!」

456: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:26:19.35 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【雛菜の病室】


智代子「こ、今度は部屋一帯がなんだかじめじめしてるよ……」

雛菜「あ、誰か来た……きっと雛菜をみんなしてバカにするためだよね~……」

ルカ「おいコラ、カーテンぐらい開けろって」

シャアアア…

雛菜「眩しい……こんな昼間から太陽の光なんて浴びたら雛菜灰になっちゃう~……」

ルカ「お前はドラキュアか」

透「雛菜、大丈夫? ほら、熱さまシート持ってきたよ」

雛菜「透先輩……優しい……」

雛菜「でもきっと雛菜以外にも同じことしてる……雛菜だけ特別だって勘違いしちゃダメだよね……」

ルカ「看病なんだから当たり前だろーが」

雛菜「はぁ……どうせ病気も治んないし、雛菜死んじゃうんだろうな~……」

雛菜「もっといろいろしたかったな……自分の足で走り回ったり、誰かとピクニックしたり……幸せな人生を送りたかった……」

透「病気になる前に全部やってるじゃん」

ルカ「……はぁ、こっちが胃もたれしそうだ」

457: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:27:14.59 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「とりあえず全員の様子をみたが、こりゃしんどそうだな」

智代子「うん……見た目上は元気でも、熱は全然下がってない。いつ急変するかもわからないよ」

美琴「とにかくいつでも動けるようにはしておいた方がよさそうだね」

ルカ「おう、深夜の時間帯以外はかわるがわる面倒を見るぞ、ロビーと休憩室でお前らも無理せず休め」

透「うぃー」


そこからはつきっきりの看病だ。
私たちに医療知識はまるでないので、無茶をしないように行動の監視や食事などの補助が主となるがそれだけでも結構な重労働。
それが四人ともなると流石に堪えるところだ。

458: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:29:05.69 ID:/22W6gE+0
-------------------------------------------------
【病院 ロビー】


「ふぅ……」


つかの間の休憩、疲労がため息となってどっとあふれ出す。
昨晩はこんなことになるとは夢にも思わなかった。
メガネ女を引きずり出すことに成功して……とりあえずは一歩前進と思っていた矢先にこれだ。

だけどウダウダ言っていたところで始まらない。
私が足踏みをしているその瞬間にも着実に病魔に蝕まれていく連中がいる。
これからはとにかく看病に集中しないといけないな。


「さて、どうするか……」


【自由行動開始】

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
☆看病期間中の自由行動について
病院に滞在中でもこれまで通り自由行動は一定の回数で可能になっています。
ただし、その仕様が通常時と少しだけ異なります。
病院にいるメンバーとはこれまで通り交流+プレゼントの進呈が可能ですが、
モーテル組とはテレビ通話での交流となるため、プレゼントを渡すことはできません。
親愛度の上昇に補正がかかることもないので、ご注意ください。

加えて、このパンデミック期間中は浅倉様と市川様との交流も解放されています。興味があればぜひお試し下さい。
また、モノモノヤシーンや自動販売機も病院内に用意しておりますのでご自由にご利用くださいませ。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…25個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

459: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/05(土) 22:32:46.34 ID:5+1aEVnm0
雛菜

461: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:39:28.21 ID:/22W6gE+0
1 雛菜選択

【雛菜の病室】

コンコン

ルカ「うーす、入るぞー……うお……」


つい先ほどあけたばかりのカーテンは閉め切られ、上からガムテープまで貼られている。
どこまで日の明かりが嫌なんだ、こいつは……
あんなにお気楽で日向ぼっこが大好きですって面をしていた平常時からはとても考えられないありさまだ。
なにやらぶつくさ文句を並べるこいつを他所に、もう一度無理やりにカーテンを開けてやる。


雛菜「あぁ~……雛菜の肌が黒焦げになっちゃう~……オーブンに入れすぎた食パンみたいになっちゃうよ~……」

ルカ「どんだけ虚弱な肌してんだよ……」


だが、平常時からの変化として、こうして私を抵抗なく受け入れているという点もある。
もはや抵抗するほどの余力もない、ということなのだろうが……
これはチャンスかもしれない。今ここで踏み込むことができれば、あるいは……


-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

462: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/05(土) 22:46:09.42 ID:TrlXK+3m0
1 【ひまわりの種】

463: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 22:53:39.26 ID:/22W6gE+0
【ひまわりの種を渡した……】

雛菜「え……」

雛菜「そっか……今の雛菜は人間以下……家畜と一緒だもんね~……」

雛菜「これくらいの食事でちょうどいいってことなんだ~……」

雛菜「あは~……こんな雛菜のために、わざわざ用意してくれてありがとうございます……」

雛菜「嬉しくてうれしくて、ガッツいてのどに詰まらせて死んじゃったらごめんなさい~……」

ルカ「ま、待て待て! 他にもちゃんと病院食は用意してるから! 早まんじゃねえ!」

(な、なんだこいつ……)

(……これは、渡すのに成功……は、してねえか)

-------------------------------------------------

身体に噴出している汗をタオルで拭うのも、能天気女はされるがまま。
口では嫌だの死んじゃうだの何かとうるさく申し立ててはいるが、体に力がこもっていないのだからお構いなし。
そのままちゃっちゃと看病を終えて、体をベッドの上に横たえた。


雛菜「あは~……雛菜、もうダメなのかな~」

ルカ「まだ発症して数時間と経たねえだろうが、黙って寝てろ」

雛菜「……」

ルカ「……」

ルカ「……なあ。こんな弱ってる状態の時に訊くべきなのかはわからねえが……お前は、実際どう思ってるんだ」

雛菜「……って言うと~?」


私の問いかけの所在を求めて、虚ろな目を私に寝台の上から向ける能天気女。
その回答はずばり、前回の学級裁判。その終わりに、ゲームの内容について仔細を知っているかどうかをたずねられ、なおも口を閉ざした浅倉透への感情だ。
あのときのこいつの瞳は、決して信頼だけではなかった。
七草にちかの糾弾に反発こそすれ、こいつ自身も信頼を寄せるべき相手に、ずっと解答をはぐらかされづけている。
大好きな幼馴染に向けるべき感情はどうなのか。それをこいつ自身はどう考えているのか、それを知りたかった。


ルカ「浅倉透、あいつは信用できるのか?」

雛菜「……」

雛菜「ワラジムシって知ってる~?」

ルカ「……あ?」

雛菜「ダンゴムシみたいな見た目なんだけどね~……自分の力じゃ丸くなることもできない、自分の身体を守ることもできない、弱っちい虫の事なんだけど~……」

雛菜「今の雛菜は、そのワラジムシよりもずっと弱い……虫よりもへなちょこなんだけど……」

雛菜「それでも、透先輩はずっと雛菜のそばにいてくれるし、守ってくれてる……だから、透先輩のことは……信じたい……」

雛菜「もしかしたら雛菜は透先輩からすればたくさんいる中の一人かもしれないけどね~……」

(……こいつ)


病気のせいでネガティブな接頭語、接尾語がついてはいたものの、その真意は分かりやすい。

……「信じたいと思っている」

今現在も浅倉透への信頼を失ったわけではない。ただ、その感情には少しずつ揺らぎが生じている。
私の見立て通りの反応だった。

(……今なら、もっと探りを入れられるかもな)


1.お前から見て浅倉透に怪しいところはないか?
2.本当にお前は浅倉透を信じているのか?
3.自由安価

↓1

464: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/05(土) 22:57:39.45 ID:5+1aEVnm0
1

465: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 23:07:00.93 ID:/22W6gE+0
1 選択


能天気女がやっと一瞬のぞかせた本音。
思わず私はそれに飛びついた。

ルカ「……なあ、お前から見てあいつには、浅倉透には怪しいところはないか?」

雛菜「え……」

ルカ「お前だってそうなんだろ……? あいつは、なんか変だって……そう思ってんだろ?」

雛菜「……」


だが、その反応は鈍い。
熱で頭が回っていないこともあるだろう、私の質問を何度も咀嚼するようなそぶりを見せて、口ごもる。


雛菜「わかんない、わかんないよ……雛菜は何にも……」

(……ダメか)


思わず諦めかけた、その瞬間。


雛菜「……でも、透先輩は……雛菜と一緒にいるときでも、いっつも何か焦ってる」

ルカ「……え?」

雛菜「なにか、大事なものをなくしたって……そう言ってたような……」

ルカ「お、おい……それって____」

雛菜「……あ」

バタン!!

ルカ「お、おい!?」


能天気女はそれだけ口走るとバタンと音を立てて寝台の上に倒れ込んでしまった。
慌てて容体を見たが……どうやら病気の影響もあって意識がもうろうとしていたらしい。
私の問いかけに脳がショートしてしまったようで、一時的に気絶してしまったようだ。

……くそっ、焦っちまったか。
だけど、ノクチルの二人の結束は必ずしもカンペキじゃないことの確認が取れたのはそれなりの収穫かもしれない。
あいつ自身自分のことは敵ではないと主張してはいるものの……場合によっては、この能天気女をこちら側に引き込むことも考えるべきかもしれないな。

それもこれも、とにかくはこのパンデミックが収まってからの事にはなるんだが。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【市川雛菜の親愛度レベル…1.5】

466: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 23:12:00.30 ID:/22W6gE+0
-------------------------------------------------
【病院ロビー】


「なにか、なくしている……か」


看病としては失敗、捜査としては成功……だろうか。
病気で沸騰しているところに頭を使わせるような真似をしてしまい気絶までさせてしまった能天気女本人には悪いが、浅倉透に対する嫌疑の足掛かりとなるような証言は得られたような気がする。
別にあいつを問いただすわけではないが、この有効な証言は頭に入れておいた方がいいものだろうな。

パンデミックだからと言って手をこまねいているつもりは毛頭ない。
この病院の中で出来ることはすべてやりつくす。

私自身が生き残るのが、最優先だからな。


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…25個】

1.交流する【人物指定安価】※気絶してしまった雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

467: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/05(土) 23:16:06.03 ID:5+1aEVnm0

468: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 23:21:05.97 ID:/22W6gE+0
1 透選択

【病院 仮眠室】


ルカ「……ん、休憩中悪いな」

透「あ、うん。そっちも休憩?」

ルカ「……まあな」


浅倉透が一人で休憩に入る瞬間を見つけ、看病の合間に抜け出してきた。
これまでは中々接触ができなかった絶好の好機。
……逃すわけにはいかねえよな。


透「あ、これ……いる?」

ルカ「あ? んだこれ……」

透「エナジーゼリー。結構あるから、腹ごなしにちょうどいいよ」


……なんか、気が抜けるな。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

469: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/05(土) 23:25:58.52 ID:VLI9zLx+O
メスシリンダー

470: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 23:33:16.56 ID:/22W6gE+0
【メスシリンダーを渡した……】

透「あ、これ理科の実験で使ったやつ」

ルカ「おう、なんか水の量を測ったり……微生物を観察したりだったか?」

透「……ミジンコ、これの中に入れたら浮くのかな」

ルカ「あ? んなもん、知らねーけど……」

透「これ、貰っていいですか。なんか、ちょっと、試したい」

ルカ「お、おう……」

(……随分と妙なもんを気に入るな)


【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

透「とりあえず、なんとか四人で看病回せば何とかなる感じですよね」

ルカ「……まあ、今のところはな。病気の実態も何もわかんねーから、滅多なことは言えねーけどよ」

透「……だよね」


仮眠室には不思議な緊張感が漂っていた。
私とこいつは何もない仲ではない。過去二回の学級裁判のいずれにおいても衝突を行っている。
それをお互い意識しないはずもなく、肌がピりつくような空気を感じずにはいられない。


ルカ「……お前も、分かってんだろ?」

透「え……」

ルカ「私が、わざわざお前のもとにやってきた。その意味が分からないとは言わせねーからな」

透「……」

ルカ「話す気はない。でも、敵じゃない。いつまでその一本で行く気なんだよ」

透「……」

ルカ「……都合が悪くなるとすぐにだんまりか、そんな真似されるとこっちもどうしようもねーんだよな」

ルカ「……さっき、お前の幼馴染の病室に行ってきた」

透「雛菜の、病室……」

ルカ「あいつは言ってたぞ、お前は何か大事なものをなくしたって」

ルカ「更にはこうも言ってた、お前への信頼は少し揺らぎかけてるって」


正確にはそんな証言が取れたわけではない。
ただ、意訳すればそれと大差はない。
なんにせよ、やっと手に入った武器を振り回すのを我慢できるほど私も大人ではない。
咽喉元にそのナイフを突き立てたくて突き立てたくて、ずっとウズウズしていたのだ。


透「……えっと」


さあ、ここまで来たらあと一歩。
……攻め手を、間違えるな。


1.お前は幼馴染も騙し続けるのか?
2.そのままだと、お前はもっと大事なものをなくすんじゃねーのか?

↓1


471: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/05(土) 23:39:46.85 ID:C1ESk1VB0
2

472: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 23:49:34.23 ID:/22W6gE+0
2 選択

ルカ「……お前がずっと口を閉ざすのは、別に自由だ」

ルカ「でも、それをすればするほど……お前はもっと大事なものをなくすんじゃねーのか?」

透「……!!」

ルカ「……市川雛菜、お前にとっても大切な幼馴染なんだろ」


……真実をひた隠しにすることで、何か大事なものを失ってしまう。
そんな経験は嫌と言うほどよく知っている。
こいつと私の経験とでは内容も、状況もまるで違うし、私にも到底はかり切れない。
でも、もし、千雪なら……


ルカ「失ってから後悔するんじゃ、遅い。そう思うぞ」


真実を追求する、その前段階としてこの一言は確実に言っていただろうと思う。


透「……あー」

透「そっか……そこまで言われちゃうか」

ルカ「駆け引きだとかそういうんじゃなくてな、ただ単純に、私の視点から観測したすべてを口にしただけだ」

ルカ「だから、そこから判断するのはお前。話すも話さないも、お前の自由だよ」

透「……ちょっと、時間をくれないかな」

ルカ「おい、また____」

透「この病院にいる限り、逃げ道もないでしょ」

ルカ「お前……!」


明らかに、これまでとは違っていた。
ただ真実をはぐらかすだけではない、何かもっと別の覚悟を決めた……そんな瞳。
空気が一瞬にして書き換えられたのを肌で感じた。

やっぱり……こいつは、ただ敵だとか味方だとか、そういうラベリングをする対象じゃないんだと思う。


透「……ん」

透「じゃ、いったん看病で抜けるから」

ルカ「……おう」


あいつの中で、何かが動いたのなら。

……多分、私の選択は間違えてなかった。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【浅倉透の親愛度レベル…2.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…27個】

473: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 23:50:52.34 ID:/22W6gE+0
____
______
_________


冬優子『夜8時の定期連絡始めるわよー……って、既に結構しんどそうね。大丈夫?』

ルカ「……なんとか、いっぱいいっぱいだよ」

智代子「うん……恋鐘ちゃんは放っておくとすぐに無茶して手伝いをしようとするから見とかなくちゃいけないし、夏葉ちゃんは食事すらも面倒くさがるし……」

智代子「愛依ちゃんは急にティータイムを始めちゃうし、雛菜ちゃんは気が付いたら部屋の隅っこでいじけちゃうし……」

智代子「なかなか気が休まりません……がくっ」

冬優子『……そういえばあんたんとこのパートナーと、浅倉透が見えないけど休憩中?』

ルカ「おう、交代交代で休憩をとるようにしたからな。いまは私たちの番だ」

智代子「ふゆちゃんたちの方は大丈夫?」

冬優子『ええ、今は結華があさひと果穂ちゃんの相手をしてくれてるし、特に困ったこともないわ』

智代子「それならよかったよ、お互い頑張ろうね!」

冬優子『うん、チョコちゃんもファイトだよ♡』

ルカ「ハッ、それじゃ切るぞ。そろそろあいつらの様子をまた見に行かねーとだからな」

冬優子『了解、あんたも頑張んなさいよ、ルカ』

ルカ「すげー落差だなおい……」


プツッ

474: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 23:51:42.75 ID:/22W6gE+0

智代子「よし、それじゃあまた気合入れて頑張らないとだね!」

ルカ「ん、晩飯片付けて、寝るように促すとこだな」

智代子「……」

ルカ「……どうした?」

智代子「いや、前から思ってたけど……ルカちゃんなんだかふゆちゃんと仲いいよね?」

ルカ「え……あー、それは……その……」

智代子「いいなー、ずるいよ! わたしもルカちゃんと仲よくなりたい!」

ルカ「はぁ? 別に、冬優子とはそんなんじゃねーよ、ただちょっと顔なじみっつーかなんつーか……」

智代子「乙女の秘密ってやつですか……?」

ルカ「乙女なんてガラじゃねーだろ……少なくとも私は」

智代子「でも、本当になんだかルカちゃん丸くなったよね」

ルカ「お前もだろ、お菓子食いすぎなんだよ」

智代子「そ、そっちの話ではなくてですね!? ……ほら、この島に来た初めはわたしたちとお話もほとんどしてくれなかったじゃないですか」

ルカ「それは……確かにな」

智代子「でも、今はこうやってわたしの冗談にも付き合ってくれるし……やっぱり、変化があったのかな」

ルカ「まあ……そうだな、千雪が私の面倒を無理やりにでも見て来たから、気が付けばお前らと話すことにも慣れちまったって感じだよ」

智代子「千雪さんが……そっか、そうだったんだね」

ルカ「……悪いな、なんか思い出させるような真似しちまって」

智代子「ううん、ルカちゃんの大切な思い出だもん、聞かせてもらえてむしろ嬉しいよ」

ルカ「……ケッ」

ルカ「ほら、無駄話してる時間はねーぞ。さっさとあいつらの様子見ねーと何しでかすかわかんねーって」

智代子「はーい!」

475: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 23:52:46.77 ID:/22W6gE+0
____
______
________

【病院 ロビー】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


連中の食事を片付け、寝るまでの世話をしてやって、ようやく一日目の看病は終了。
私たちにもやっと休息の時間が回ってくる。


ルカ「……ふぅ、とりあえずは終わりだな」

美琴「みんなお疲れ様、四人とも寝たみたいだからひとまずは睡眠をとっておいて」

智代子「うん、そうさせてもらおうかな……右に左に行ったり来たりだったからなんだか想像以上に疲れてるかも……」

透「でも、深夜は看病大丈夫? 急変とか、ないかな」

ルカ「あー……確かにそれはそうだけどよ」

476: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/05(土) 23:53:47.32 ID:/22W6gE+0

透「じゃ、私起きとくよ。まだあんま眠くないし」

智代子「えっ、だ、大丈夫? 透ちゃんも、結構頑張ってくれてたよね?!」

透「まあ、まだ若いし。エネルギッシュなティーンだから」

美琴「……だったら、私も起きてる」

ルカ「美琴……お前」

美琴「大丈夫、何もしない。彼女が何かしないか見てるだけだから」

ルカ「……信用していいのか?」

美琴「うん」

ルカ「……わーったよ、私はロビーで寝てっから何かあったら言えよ」

智代子「えっ、ルカちゃん……悪いよ、仮眠室譲るよ?」

ルカ「いい、いい。私はもともと固い寝床の方がよく寝れんだ、ベッドはお前が使え」

智代子「そ、そう……?」

透「じゃ、夜番は私らで頑張るから。いい夢見てよ」

美琴「私たちも合間合間では仮眠をとると思うから、気兼ねしなくて大丈夫だからね」

ルカ「おう……悪いな」


私は初日の夜番を二人にゆだね、ロビーでそのまま眠りについた。
問診の時に座るスツールを並べた即席のベッドのようなものだが、疲労もあってか私はすぐにその意識を手放した。
貴重な休息、少しでも疲労を和らげるための睡眠。
夢なんて全く見ない熟睡だった。

480: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:01:49.40 ID:6WraeaE50
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≪island life:day 14≫
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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


アナウンスとともに目を覚ました。
眠り自体はそう不快でもなかったが、体はやはり少し負担だったか。体を起こすとバキバキと音が鳴った。
だが弱音も吐いていられない。ここからは私の出番だ、託されてる分はしっかり働いておかねーとな。


美琴「おはよう、ルカ」

ルカ「おう……美琴、いたのか」

美琴「うん、明け方まで様子は見てたけど四人とも特に異常はなかったよ。もちろん、彼女もね」

ルカ「そうか……ならよかったよ、私も起きたんだ、お前もしっかり休めよ」

美琴「うん、大丈夫。途中で仮眠は少し取らせてもらったから」

ルカ「他の連中は?」

美琴「智代子ちゃんが早めに起きて来たから今は彼女が。後は仮眠室」

(……【後】と来たか)


どうやら朝までずっと寝てたのは私だけだったらしい。
なんとなしに気恥ずかしさを覚えたが……その分働いて返さないといけないな。
まずは朝の様子を一通り観察するとこから始めるか。

481: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:02:50.08 ID:6WraeaE50
◆◇◆◇◆◇◆◇

【恋鐘の病室】


恋鐘「おはようございます!」

ルカ「おう、わかったからベッドに横になれって」

恋鐘「清々しい目覚めです、これも皆さんに看病いただいているおかげですね!」

ルカ「朝からテンションたけーな、なんだお前」

美琴「深夜でもこの感じだから体力を下手に使ってそうで心配になるんだよね……」

恋鐘「ご心配いただきありがとうございます」

ルカ「はぁ……とりあえず朝飯食って、ちゃんと養生すんだぞ。それが一番のお礼になんだから」

恋鐘「はい、お任せください」

ルカ「……ったく」

482: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:03:37.44 ID:6WraeaE50
◆◇◆◇◆◇◆◇

【夏葉の病室】


夏葉「……ぐがー」

ルカ「……まあ、やっぱこいつは寝てんな。このまま放置でいいか」

美琴「元から彼女、朝はあまり強くないみたいだから」

ルカ「そうなのか?」

美琴「うん、この島に来てからは果穂ちゃんと智代子ちゃんもいるから早く起きるように努めてたみたい。病気になって性格が変わって、その分の枷が外れちゃったのかな」

ルカ「はは……そうかもな」

夏葉「むにゃむにゃ……もう持ち上がらないわ……重量をやみくもに増やしたところでトレーニング効率は悪い……」

ルカ「……どうやら見てる夢は元の性格準拠みてーだぞ」

美琴「……なんだか暑苦しそうな夢を見てるんだね」


483: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:04:48.15 ID:6WraeaE50
◆◇◆◇◆◇◆◇

【愛依の病室】


ルカ「……なあ、なんでこいつのベッドは天蓋付きなんだ」

美琴「なんだか入るたびに部屋の様子が変わってるんだよね……」

ルカ「アロマポットまで焚きやがって……病人の自覚が一番ないのはこいつなんじゃねーか」

愛依「あら、セバスチャン……もう起きる時間かしら……?」

ルカ「誰がセバスチャンだ。……別に、寝てて大丈夫だ。朝飯はお前の好きなタイミングで食えばいいからな」

愛依「お気遣いいただきありがとうございます、後でお礼にアップルパイを焼いて差し上げます」

美琴「アップルパイはお嬢様なのかな……」

ルカ「そもそも菓子作りなんかすんな、ほらおとなしくしてろ」

484: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:06:02.49 ID:6WraeaE50
◆◇◆◇◆◇◆◇

【雛菜の部屋】


智代子「ひ、雛菜ちゃん! そんなことないよ、ほら、ファイト!」

ルカ「……おい、何やってんだ」

智代子「あ、ルカちゃんおはよう! あのね……雛菜ちゃんがまた例の発作を起こしてて」

雛菜「雛菜が地球にいることで、アフリカの恵まれない子供の分の酸素がさらに減っちゃうんだよね~……」

ルカ「……こりゃ深刻だな」

ルカ「おら、とりあえずベッドに戻れ。てめェが使う酸素の心配するぐらいならそのエネルギーを植樹に使え」

雛菜「でも雛菜の血液は毒だから……きっと植物も雛菜に触られるの嫌だと思う~……」

智代子「そんなことないよ、ほら! 朝ご飯もあることだし、野菜食べて食物繊維で毒素を抜こうよ!」

美琴「昨日の晩もこんな感じで星を眺めながら『隕石が落ちてきたら全部終わり』って嘆いてたんだよね」

ルカ「かもしれない運転が過ぎんのも考えもんだな……」

485: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:07:55.63 ID:6WraeaE50
◆◇◆◇◆◇◆◇

結華『なるほど……とりあえずは異常なしなんだね、安心した!』

ルカ「性格がひん曲がっちまったせいで予測不能な行動に出るのだけ気になるけどな」

あさひ『話聞いてたらなんだか面白そうっす~……わたしも看病に回りたかったっす~』

(……)

果穂『みなさん、つかれてないですか? 休けいはしっかりとって、無理しないでください!』

美琴「うん、ありがとう。ちゃんとみんな睡眠もとってるから大丈夫だよ」

透「そっちは大丈夫? なんか、事故とか」

冬優子『ええ、特には何もないわ。ただ一つ問題があるとすればこいつがうるさいだけ』

あさひ『冬優子ちゃん、電気街にラジコンあるらしいっすよ! 取りに行くっす!』

智代子「あはは……頑張って」

ルカ「まあなんかあったら連絡してくれ、誰かしらはロビーにいるだろうから」

結華『オッケー、こっちも定期連絡以外にもちょくちょくライブハウスに様子を見には行くようにするね!』

プツッ

486: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:09:05.25 ID:6WraeaE50

ルカ「さて、そんじゃまた看病に戻るか」

智代子「うん、今日も頑張ろうね!」

ルカ「美琴とお前は寝てていいぞ、あれからずっとだったんだろ?」

美琴「ううん、大丈夫。深夜当番って言ってもずっとじゃなかったし、今もそう眠くはないの」

透「私は寝とこうかな。いいですか、仮眠室」

智代子「うん、大丈夫だよ! わたしたち三人で頑張るから、透ちゃんはとりあえずゆっくり休んでて!」

ルカ「おう……無理はすんな」

美琴「……」

ルカ「美琴、やっぱあいつは気になるか?」

美琴「……夜の間は特に目立ったことはしてなかった。昼も寝ておいてくれるんだったらそっちの方が安心だから」

(……やれやれ)


そういうわけで昼の間は基本的には三人で看病を回すことに。
定期的な見回り、食事なんかの世話、昨日とやっていることは変わらない。
ただ、どれほど熱心に看病をしてもこいつらの病状がよくなるわけじゃない。
熱もまるで下がらず、性格も戻る気配もない。
自分たちのこの看病に果たしてどれほどの意味があるのか、それを疑問に思わないように、必死に目を瞑って看病を続けた。


487: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:10:39.08 ID:6WraeaE50
-------------------------------------------------
【病院 ロビー】

とりあえず朝の観察では異常はなし。
とはいえ油断なんか微塵もできやしない。
完全に未知の病気で、その症状も聞いたことがない。ここからどう転がるのかは医者ですらも分からないだろう。
そして、こうして看病を行っている私たちだって感染リスクからは逃れられないわけで……実際この生活もいつまで続けられるのかは甚だ疑問だ。

「……はぁ」

気を抜けばすぐにため息が漏れ出る。
私は口からこぼれた息を吸い上げるようにして立ち上がった。
嘆いても時間の無駄、それだけを頭で復唱して、考えることをやめた。

【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…27個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

488: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/06(日) 22:12:23.94 ID:PcuD0/db0
1 夏葉

489: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:18:14.93 ID:6WraeaE50
1 夏葉選択

【夏葉の病室】

コンコン ガララ

夏葉「あ……よく来てくれたわね、お菓子ならそこにおいといてちょうだい……」

ルカ「それが人を出迎える態度か……それに病人に菓子は用意しない、大人しくしてろ」

夏葉「えぇ……体が、体がチョコレートを欲しているの……お願いよ……ギブミーチョコレート……」

ルカ「私は米兵かよ……おら、諦めな」


本当に見る度見る度だらけっぷりが加速していく。
もはやシーツと一体化しているような、満足そうな表情を浮かべて横になっているさまは中々滑稽だ。
とはいえ、こんな状態でも額に手を当てると火傷しそうなぐらいに熱い。
本音では、相当に苦しんでいるんだろう。

……どうにか楽にしてやれないものか。

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‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【トイカメラ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

490: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/06(日) 22:22:27.18 ID:QLxva49a0
トイカメラ

491: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:31:14.00 ID:6WraeaE50
【トイカメラを渡した……】

ルカ「ガキ向けのちゃちなカメラだけどよ、お前なら結構楽しめんじゃねーか?」

夏葉「まず、立たないとダメでしょ?」

ルカ「……あ?」

夏葉「それに、被写体を探して……シャッターを切る」

夏葉「見たいと思ったら現像までしなくちゃいけない。そんな工程が無駄にかさむ動作、私はやりたくないわ」

ルカ「……お、おいおい」

夏葉「そんな無駄を踏むぐらいなら、私は一分一秒でも長く眠ることを選ぶわ!」

(チッ、普段のこいつなら喜んだだろうに……)

-------------------------------------------------

他の連中に比べると、こいつの世話はだいぶん楽。
素行がぐうたらな分、寝かしつけたり、暴走を行ったりしないように監視する手間はだいぶん省けている。
とはいえ、容体が急変するとも限らないのでそばに入れる限りはちゃんと見てやらないとな……

夏葉「……ぐごご」

ルカ「……ったく、こんなアホ面こいて寝てるってのにやべえぐらいの高熱なんだもんな」

ルカ「……」

ルカ「そろそろ氷嚢の氷も溶けんな、入れ替えてやるか」


そう思って席を立ち、背を向け、冷蔵庫に向かおうとした瞬間。


夏葉「……ルカ?」


背後から私を呼び止める声。
ただ、その声色は病院に来てから聞き続けたそれとは違う。
私を小間使いにしようとする、怠惰な呼び声ではない。
数日前までの、私たち生き残っているメンバーを引っ張っていくリーダーとしての声色。
いつもの小金持ちの声を、そこに写し取っているように感じた。
思わず私は即座に振り向いた。


ルカ「ど、どうした……!?」


だが、そこににいた小金持ちの姿は……想像とは違っていた。
布団をくしゃくしゃに手繰り寄せるようにして、しおらしく肩を落としている……落胆の表情だった。


夏葉「ごめんなさい……こんなことになってしまって」


時々私も病気でうなされているときに、妙に冴えてしまう瞬間がある。
たいていが未明だとか深夜だとか、そういう冴えても仕方がないタイミングで、自分の身の上を呪うほかにやることもないそれ。
今のこいつはその妙な冴えのせいで、隠しているはずの本音を吐露してしまっていた。


夏葉「智代子に果穂……そして、283プロのみんな……この島にいるのは多くが私よりも年下でしょ……?」

夏葉「だから……私が、守らないと……助けてあげないと……その責任があるって言うのに……」

夏葉「こんな、病気なんかに……侵されて……」

ルカ「……お前」


私よりも背丈もそれなりに大きいはずの小金持ちの姿が、なんだか妙に小さく見えた。


1.いつ誰がお前にそんな責任背負わせたんだよ
2.自分を追い込む必要なんかない
3.自由安価

↓1


492: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/06(日) 22:33:59.69 ID:carM39qF0
2

493: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:41:50.24 ID:6WraeaE50
2 選択

ルカ「……お前は確かに立派だよ、自分だけじゃなくいつも他の連中のことも気にかけて。そんだけの責任感があってこその行動なんだろうなって私でも思う」

ルカ「だけど……だからこそ、そんな風に自分を追い込む必要なんかないんじゃねーのか」

夏葉「……えっ」


実際、私もそうだ。
世話を直接焼かれるようなことはないにせよ、学級裁判でもいつも議論の流れを生み出してくれるのはこいつ。
こいつがいなければたどり着けなかった真実だってあるだろう。
だからこそ、こんな不慮の事態で自分を追い詰めるような真似をしているのは私としても見ていられなかった。
病気の症状で私たちを道具にしたとしても、普段の行動で十分おつりがくる。
少なくとも甘党女と小学生は、きっとそう思っていることだろう。


ルカ「お前がいっつも他の連中にしてやってる分の施し、その恩返しでもしてもらってるつもりでよ」

ルカ「看病してもらうんだったら存分に利用し尽くせよ、丁度お誂え向きにお前は【ぐうたら病】なんだ」

ルカ「甘党女、張り切ってたぞ。いつも助けられてる分私が頑張るんだ~ってな」

夏葉「……そう、なのね」

ルカ「……まあ、私としては癪だけどよ。なんか用があればちょっとぐらいは聞いてやるぞ」

夏葉「……じゃあ」

ルカ「おう」

夏葉「なんか電気街からゲーム機とか持ってきてもらえないかしら、寝てばっかりだと退屈なのよ」

ルカ「……はぁ」


クソッ、今の一瞬ですぐに冴えは消え失せてしまったらしい。
すっかり絶望病のぐうたらモードに逆戻り。

でも、一瞬だけでもこいつの本音を見れたのは、価値があったかもしれないな。
それこそ、甘党女に伝えてやってもいいかもしれない。

……いや、そいつは野暮ってもんか。

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【親愛度が上昇しました!】

【有栖川夏葉の親愛度レベル…3.5】

494: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:45:41.67 ID:6WraeaE50
【病院 ロビー】


小金持ちの看病を終えて一度ロビーに戻る。
あれからまた暫く粘ってはみたものの、冴えは二度とはやってこず。
深い眠りに入った様子で、起こすわけにもいかないのであきらめることとした。

この病気はかなりの高熱を発生させ、性格も捻じ曲げる。
でも、能天気女のことといい、小金持ちのことといい、それ以外にも……本人の弱いところを掘り起こすようなそんな症状もあるのかもしれないな。
ただの偶然なのかもしれないが。
もし、本当にそんな症状があるのなら……私が感染したらどうなるんだろう。

「チッ」

滅多なことを考えてしまった。
もしここで私まで感染しちまったら始末は誰がどうつけるって言うんだよ……


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…27個】

【事件発生前最後の自由行動です】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

495: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/06(日) 22:48:40.41 ID:2BUkC5p30
ひなな

496: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 22:55:26.35 ID:6WraeaE50
1 雛菜選択

【雛菜の病室】

コンコン ガララ……

ルカ「……うおお!?」


部屋が真っ暗になっていることはもはや触れる必要すらないとして。
入った瞬間私の鼻をくすぐる臭い。これは……葬式の時の匂い、か……?
臭いの元を探ると、能天気女が部屋の隅で何かを手に持っている。


雛菜「あは~……この匂い……すごく落ち着く~……」

ルカ「お、お前……それ、線香じゃねえか……」

雛菜「人って、いつかはみんな同じように焼かれて、同じように埋められて……同じように、このお線香の匂いに包まれるんだ~」

雛菜「だから、この匂いを嗅いでると、雛菜もみんなとおんなじだって思えて……」

ルカ「……換気するぞ」


……これ以上こいつの話を聞いてるとこっちの頭が先に参りそうだ。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1


497: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/06(日) 23:01:23.00 ID:QLxva49a0
エプロンドレス

498: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:07:50.62 ID:6WraeaE50
【エプロンドレスを渡した……】

ルカ「……私の趣味じゃねーけど、普段のお前ならこういうの似合うんじゃねーか?」

雛菜「エプロンドレス……これってメイドさんのやつですよね~……」

雛菜「あ、そっか……雛菜を冥途送りにしてやるっていうメッセージなんですね~……」

ルカ「下種の癇繰りが過ぎるぞ……ただのプレゼントだ、着てみて嫌だったら捨てな」

雛菜「……」

雛菜「あは~……かわいいかも~……」

(……喜んだん、だよな?)

【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

雛菜「雛菜のためにこんな病室一個も使っちゃって……これだけの敷地があれば、もっと愛されている誰かのお墓を建てられたはずなのにな~……」

ルカ「不動産会社にそういう文句は言え。ほら、シーツ交換するからどいてろ」


息をするように口から綴られるネガティブな文言はもはやスルー。
部屋の隅っこにいるのをいいことに、病室の設備周りを綺麗に整えてやった。


ルカ「……あ、そうだ。昨日は、悪かったな」

雛菜「はい~?」

ルカ「病気のとこに、無理やり問いただすような真似しちまってよ。あれで病気が悪化でもしたらこっちの責任だしな」

雛菜「……」

雛菜「いえいえ~、むしろこんな雛菜と会話してくれたなんて……酸素の無駄遣いをさせてしまって申し訳ないです~」

ルカ「どんなへりくだり方だよ……」


こうもいつもと違うと、やはりどうしても調子が狂う。
ネガティブになって聞き分けがよくなったというべきか、それとも言葉が余計に響かなくなったとみるべきか。
だが、私たちから距離をひたすらに置こうとするのがなくなっただけでも大分大きいのは確か。
ノクチルの二人でも、こっちの方が距離をとりたがる節はあった。

(……どうしよう、もう一度何か探ってみるか?)


1.もう一度浅倉透に対して怪しいところはないか聞いてみる
2.昨日浅倉透と話したと報告してみる
3.自由安価

↓1

499: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/03/06(日) 23:14:37.50 ID:carM39qF0
2

500: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:24:56.78 ID:6WraeaE50
2 選択

ルカ「……昨日よ、お前と話してから浅倉透と話してみたよ」

雛菜「……透先輩と?」

(……!!)

絶望病にかかっているというのに、私の口からその名前が出た瞬間に空気が俄かに変わる。
とはいえ、これまでの敵意や殺意に塗れたそれには完全には満たない。
やはり本調子ではない、ということなのだろう。

ルカ「お前が言っていた、あいつが何かを“なくしている”っての。本人に少しだけ訊いてみた」

雛菜「それで、透先輩はなんて言ってました~……?」

ルカ「……その場では解答はもらえなかった。でも、この病院にいる限り、逃げ場はないって」

雛菜「それって、近いうちに話すってことですよね~……?」

ルカ「……だと、思っていいはずだ」

雛菜「……そっか、透先輩が……」

雛菜「雛菜も、それ……何を指してるかまでは知らないんですよね~……そっか、幼馴染の雛菜も知らないのに、そうなんだ~……」

(うっ……)

身に纏わりつくような、嫌に粘着質な気配。
べたべたとして心地の悪い感触、この感情のことを私は良く知っている。
嫉妬と恨み……そのブレンドだ。
普段のこいつなら、こんな感情は向けてこないだろうにと思う。
この感触も、絶望病由来の物なんだ。


ルカ「……確かに、お前よりも先にわたしが聞くこともあるかもしれない」


致し方ないものと割り切って、私はそれを拒絶はしなかった。
相手が病人だからということもあるが、これは千雪の命令を遂行するためでもある。
私はこいつらの感情に向き合う義務と責任とがある。
そこから逃げ出すようじゃ、まだまだだ。


ルカ「だから、話聞けたら、お前にも共有する」

ルカ「お前も、この島で暮らす……一応、一員なんだからな」

雛菜「……あは~」


私の返答に、能天気女は幾分かの納得はした様子で、布団の中に頭を引っ込めた。
危ないところだった。この手を間違えていれば、こいつとの間の溝はまた別のかたちで広がってしまうこともあっただろう。

……立ち振る舞いは慎重に。
人づきあいと言うのはなかなか面倒なものだ。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【市川雛菜の親愛度レベル…3.5】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…28個】

501: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:26:38.75 ID:6WraeaE50
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結華『そっか……まだみんなの病気はよくなんないか……』

ルカ「正直知識も何もないからな、全部結局はあいつら次第だ」

あさひ『風邪薬とかも、効かないっすか?』

透「風邪とかじゃないしね、ウイルスにはウイルスの薬使わなきゃダメじゃん」

結華『熱も下がってないんだよね?』

ルカ「ああ、全然変わらねえ。あいつらあんな平気な風して余裕で39度台の熱出してやがるからな……せめて熱でも下がらねえと衰弱しちまうぞ」

あさひ『……愛依ちゃんに会いたいっす』

結華『あさたん……もうちょっとの我慢だよ、きっとよくなるから』

透「そっちは何かありますか」

結華『いや、こっちは何も変化はないよ! 時々島の探索もできる範囲でやってはいるけど、新しい発見はないかな』

ルカ「チッ……いやな停滞だな」

結華『ルカルカ、完全にそっちに任せちゃってるけど、何か必要なこととかあったら気軽に言ってくれていいからね! ルカルカの力になれるコトなら、なんでも協力するから!』

ルカ「おう、わかった」

透「なにかあったらまた連絡します。それじゃ、また明日」

あさひ『また明日っす~!』

プツッ

502: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:28:09.93 ID:6WraeaE50

今日の夜の間の看病は私とこいつの二人で引き受けることになった。
私は昨日朝まで熟睡していたし、こいつも日中はよく眠っていたらしく、体力に余裕がある。
それに、私自身こいつと今一度話したいとも思っていたからだ。

看病に行く前、通信を終えて静まり返ったロビーで私は話しかけた。


ルカ「……この前は悪かったな」

透「え、急に何」

ルカ「千雪の裁判終わり、急に胸ぐら掴んで恫喝なんかしちまってよ」

透「あー……いいよ、別に」

ルカ「……私も動転してた」


でも、その動転はこいつへの疑念からの派生だ。
私たちにひた隠しにする、外部の人間とのつながり。
そこに私たちの求める回答の一つがあるであろうことは容易に想像がつく。
その気持ちが私に焦らせた。

今は一旦その時の非礼を詫びることにした。
こいつだって、私たちと全員と一蓮托生の一人。
中学生のように悪意が表に出ていないうちから敵対を続けるのは得策ではないと気付いたのだ。

そして、何より私にとってこいつへの認識を改める要因になったのがこの絶望病だ。
あんなに血相を変えて飛び込んできて幼馴染の容体を案ずる。コロシアイに加担している人間とは思いがたい行動ではなかろうか。



だから、私はここで見極めたい。
浅倉透という人間の真意を、七草にちかがぶつけた敵意が適正だったのかを。

503: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:29:12.94 ID:6WraeaE50

ルカ「幼馴染がやっぱ心配か」

透「そりゃね、雛菜しかこの島にはいないからさ。病気してたら落ち着かないよ」

ルカ「これまでずっと別行動だったのに、助けを求めてくるぐらいだもんな」

透「……それは、ごめん」

ルカ「……別に責めようってわけじゃねーんだ。お前ら幼馴染同士の結束ってのは確かなもんなんだろうなと思ってよ」

透「ずっと一緒だからさ、うちら。小糸ちゃんは一回中学校だけ別だったけど、それ以外は変わんない」

透「……変わんない」

ルカ「……どうした?」

透「……いや、別に」


何か意味ありげにポツリと言葉を繰り返すと、浅倉透は視線を逸らした。
そこに内在するニュアンスを掴みたくて、私はさらに探りを入れた。


504: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:30:18.37 ID:6WraeaE50

ルカ「お前よ、病院に残る側になった目的って本当にそれだけなのか?」

透「え」

ルカ「お前、幼馴染のことを随分と信用してるようだけど、こいつにはもしかして話してるんじゃねーか? お前がつながってる、外の世界のやつっての」

透「……!」

ルカ「私たちが看病している間に、ついうっかり口にしやしまいかって」

透「いや、そうじゃない……違うって」


強い言葉で否定した。
こいつとしてもどうにか誤解を解きたいと言う気持ちはあるらしい。
確かに、今にして思えばこいつが私たちと距離を取ったのはあの能天気女の暴走によるところがあった。
まるで信用しない私たちに豪を煮やして単独行動を開始した。そこからも目立った動きはないし、そこを咎める必要はきっとないんだろう。


505: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:32:08.25 ID:6WraeaE50

ルカ「七草にちかが言ってたこと、お前が外の人間と繋がってるってのは……結局本当なんだよな?」

透「……うん、本当だよ」

ルカ「そいつとは、まだ連絡は取ってるのか?」

透「……ううん、取れなくなっちゃった」

ルカ「……そうなのか?」

透「あの裁判以降一度もね、モノクマがなんかしちゃったみたい」

(……もしかして、七草にちかが告発したことで明るみになっちまったからか?)

ルカ「そいつは、私たちにとって敵ではないんだよな」

透「うん、味方だよ。このコロシアイとは無関係」

ルカ「でも、誰かは言えない……」

透「……」

ルカ「……なあ、なんで言えないんだ? その理由を聞かせてくれよ、別にお前を疑ってるわけじゃねーんだ、お前を信用するために、信用に足る情報をくれよ」

透「……えっと」

ルカ「いい、ゆっくり話せ」


506: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:33:05.43 ID:6WraeaE50

今この場には私とこいつしかいない。
病院から逃げ出すことは不可能。
詰問には正に打って付け、浅倉透も観念した様子で慎重に言葉を選びながら語り始めた。


透「……そもそも、私が連絡取れてたのはモノクマからの干渉を拒める手段があったからなんだよね」

透「この島にいる限り、モノクマには全部知られちゃうんだよね。何をしてるか、何を話してるのかも。全部」

透「だから、そこら辺をクリアにする機能を持ったのがあったんだけど……今はもう使えない、取り上げられちゃったから」

透「だから、伝えられないんだ。モノクマに知られたらまずいから」

ルカ「結局、私たちに言えることは何もないってのは変わんねーのか」

透「……ごめん」


情報には何も進展はなし。
モノクマへの抵抗手段があったと言うことは知れたが、今はもうそれも手元にないと言うのだから仕方ない。
ただ、進展はなくとも、浅倉透という人間は少し見えた。
声の調子、視線、息遣い。それをすぐ間近で改めて観察することで、こいつが嘘をついていないことは分かる。


507: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:34:00.67 ID:6WraeaE50

ルカ「じゃあ具体的な話をしなくてもいい、これだけ聴かせてくれ。お前は一体、どこまで知ってるんだ?」

透「……」

ルカ「この前のゲームといい、最初の動機といい、私たちの失った記憶ってのが重要な意味をもってんのは確かだ。お前はその私たちの失った記憶を……知ってるのか?」

透「……私は、あのゲームの中のコロシアイは何にも知らないよ。それは事実」

透「でも……みんなが失った記憶は、ちょっとだけわかる」

ルカ「……!? ま、マジか……?!」

透「でも……それは言えないんだ、言っちゃうと……全部、これまでが無駄になっちゃうから」

ルカ「これまでが無駄になる……?」

透「ねえ、記憶ってどこまである? この島に来る前の一番新しい記憶って?」

(この島に来る前の、一番新しい記憶……?)


確か、私はいつも通りソロライブを終えて、マネージャーが運転する帰りの車に乗ってた。
それでついついうたた寝しちまって……目が覚めたらこれだ。


508: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:35:59.42 ID:6WraeaE50

透「……そっか、それなら大丈夫」

透「あのさ、それが本来あるべき姿なんだよね。みんなは記憶がすっぽり抜け落ちている……それで、いいんだよ」

ルカ「お前……それってどういう意味なんだ」

透「思い出しちゃ、ダメなんだよ」

透「忘れといて、そのまま」


自らの胸に手を当てて、説き伏せるようにして浅倉透はそう言った。
失った記憶はそのままでいろだなんて、正直理解はできない。
でも、道理や理論じゃなくて、こいつの言葉には信じてみようと思わせるような妙な説得力があった。
その澄んだ瞳の奥底には、どっしりとして揺るがない軸のようなものがあり、その不思議な引力に引き寄せられるのだ。

……でも、だからといって見逃しはしない。
こいつの言葉を追っていけば必然的に結ばれる結論がある。



それは、




509: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:36:52.93 ID:6WraeaE50





ルカ「……お前が私たちの記憶を奪ったのか?」






510: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:38:04.47 ID:6WraeaE50

透「……」

ルカ「いつからの記憶がないかを把握してるってことはそういうことだろ? お前はこの希望ヶ峰学園歌姫計画の参加者じゃなくて……運営する側の人間なんじゃないか?」



透「……私が奪ったって言うか」





透「私たちが、奪った」





511: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:39:18.15 ID:6WraeaE50

ルカ「……マジかよ」

透「でも、信じてほしいんだ。モノクマの言葉に載せられちゃダメ。あいつは、悪者だよ」

ルカ「んなことは分かってる、このコロシアイは希望ヶ峰学園歌姫計画をあいつが乗っ取ったからこうなってるだけ、つまりは本来の歌姫計画はそうじゃなかった」

ルカ「だから……てめェはその本来の歌姫計画の実行者……その一人ってことなんだろ?」

透「……うん」


希望ヶ峰学園歌姫計画の実行者ということは、この島に私たちを集めた張本人ということになる。
でも、どうして?
他の283プロの連中とは別に、どうしてこいつだけがそんな役目を担っている?
他の連中はどうしてこいつのように希望ヶ峰学園歌姫計画を知らない?
そして、その歌姫計画はどうして私たちの記憶を奪うような工程が含まれている?
浅倉透が口にした言葉は、謎への解放なんかじゃない、新たな謎への導線だったのだ。


512: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:40:28.18 ID:6WraeaE50

透「……多分、今めちゃくちゃだよね。頭ん中」

ルカ「当たり前だ、お前……新しいことは言えないとか言った割に、疑問ばかり言いやがって」

透「ごめんって。……でもさ、私がみんなの味方だっていうのは変わんないから」

ルカ「そればっかだな……」


そもそもの『希望ヶ峰学園歌姫計画』とやらの実体も私たちにはよくわかっていない。
それの実行者がいくら味方だ敵だと言っても、信じるか否かの議論の上に載せることすら危うい証言だ。
でも、この状況においてなお、浅倉透は私から視線をずらそうとはしなかった。
ここにきて初めて私が耳を傾けた、この状況をこいつ自身も好機だと考えたんだろう。
自分自身を知ってもらうための、好機。
誤解を解くための、好機。


____後は私がこの瞳を信用するかどうかがすべてだ。



513: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:41:57.10 ID:6WraeaE50

七草にちかの命を懸けた糾弾、そしてそれに突き動かされた美琴。
それを思えば、こいつの主張など斥けてしまうべきなのかもしれない。

……でも、それは今ある信頼に縋り続けるだけの逃避に変わりない。
現実に向き合うことから逃げ続けても、私たちは真実にはたどり着かない。





ルカ「……だけど、わかった。私はとりあえずお前のことを一度信用することにする」





透「……!」


514: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/06(日) 23:42:56.67 ID:6WraeaE50

ルカ「だから、お前も私たちのことを信用して……お前の幼馴染を説得しろ。あいつだって283プロの連中の人の好さは知ってんだ。今はこの状況下で視野が狭窄しちまってるだけ」

ルカ「そんで、私たちからも逃げんな。信用が欲しいなら、行動で勝ち取れ。……ま、私が言えたことでもないけどな」

透「……うん、そうだね」

ルカ「こういう言い方をしちゃ悪いが、今の看病の状況はうってつけだろ。精々張り切って面倒見てやるんだな。その分私の手も空くし」

透「ふふ、なにそれ、サボりじゃん。……でも、任せてよ。うちら、ナースの衣装着たこともあるし」

ルカ「なんだそれ、関係あんのかよ」

透「アリよりのナシ」

ルカ「……ハッ」


浅倉透という人間の感情に、今私は初めて触れたような気がした。
こいつだって283プロの人間で、人並みに笑うし、人並みに苦しむ。
今こうして肩を並べて笑う姿を見て、私は自分のこれまで持っていた敵意がどれだけあやふやなものだったのかを身につままされた。
まだ完全な信用をしたわけではない、でも、信用するにしてもしないにしても、見極めずに判断を下すことは避けるべき短慮だ。


ルカ「じゃ、また様子見に行くぞ。ベッドから抜け出してないとも限らねえ」

透「しゃー、看るか―」


____これで、少しは千雪の命令をまた遂行できただろうか。




【浅倉透・市川雛菜との通常時での交流が解禁されました!】




522: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 21:56:32.16 ID:7xcqTvao0
-------------------------------------------------
【病院 廊下】


恋鐘「こんばんは!」

ルカ「うわああ!? お、お前何やってんだよ……ちゃんと部屋で寝とけって」

恋鐘「昼間充分寝ているので、どうも目が覚めてしまいまして……少し夜風に当たりたいのですがダメでしょうか!」

ルカ「あのな、何度も言うけど今お前は病気なんだよ。外にそうホイホイ出せるわけないだろ」

恋鐘「わかりました! 自分の部屋で待機しておきます!」

ルカ「……ったく、心臓に悪いぞ……」

透「止まったかも、心臓。マジで」

ルカ「これ以上看病対象を増やすんじゃねーよ……長崎女はまあ確認できた、後の三人、行くぞ」

523: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 21:57:53.57 ID:7xcqTvao0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【愛依の病室】


ルカ「だからお前はどこからこんなの持ってきてんだよ!」

透「おー、なんか咲いてんじゃん。めっちゃ」

愛依「こちらのお花はゲッカビジンと言いますの、ほんの一夜のみにその花を咲かせる姿から、その花言葉は『儚い美しさ』……今こうしてお二方と見れたこと、恐悦至極に存じますわ」

ルカ「いや知らねーけど……花をいつ調達していつ育てたんだよ」

愛依「あら、セバスチャン? 乙女の秘密を詮索するのは野暮というものですのよ」

ルカ「だから誰がセバスチャンだ」

透「おーい、セバスチャン。茶淹れてよ」

ルカ「おい、お前もベッドに横になりてえか」

透「ごめんて」

524: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 21:58:42.00 ID:7xcqTvao0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【夏葉の部屋】


夏葉「クワトロチーズLサイズに、あとバニラフロートもお願いするわね」

ルカ「うおおお!? 何お前出前頼んでんだバカ、病人がそんなもん食うんじゃねえ!」

透「ていうか電話線繋がってないじゃん」

夏葉「食べたいのよ、暴飲暴食の限りを尽くしたいのよ……机に並んだ空き箱の数々、ソースと生地の粉に塗れた指先、ベッドにもたれかかる私……そのまま意識を失い、翌朝まで眠りこける……」

夏葉「そんな怠惰なOLの金曜日を送りたいのよ!」

ルカ「なんだその具体的かつ終わりの生活は……」

透「なんかもうただの我儘みたいになってきたね」

夏葉「入院も飽きて来たし、そろそろこの部屋にもゲームとか置いてもらえないかしら。退屈なのよ」

ルカ「だからおとなしく寝てろって、病気でゲームしてもろくなことにならねーぞ」

透「昔さ、熱ある時暇だったからレベル100にしてた。テレビ見ながら」

ルカ「ろくなガキじゃねえな」

525: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 21:59:40.48 ID:7xcqTvao0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【雛菜の部屋】


雛菜「はぁ、行くところまで行っちゃったな~……透先輩の幻覚まで見始めちゃったし雛菜ってホント救えない~……」

透「リアルだよ、実在」

ルカ「だから、そんな隅っこで埃いじってないで早くベッドに戻れって」

雛菜「はぁ……いいですよ、雛菜のために使う時間があるなら、資格試験の勉強とかに使ってください~……雛菜と関わってもメリット無いですって~……」

透「大丈夫大丈夫、勉強しても変わんないから」

ルカ「フォローになってねーぞ」

雛菜「ペン習字とかおすすめです~……香典書くときとかに便利ですよ~……」

ルカ「習う気はないから安心しろ、おら、さっさと動け」

透「かっこよくない、筆ペン使えたら」

ルカ「知らねーよ」


526: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:00:43.76 ID:7xcqTvao0
◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「……あいつら、やっと寝たみたいだな」

透「みんなあれで熱あるんだからすごいよね、超エネルギッシュ」

ルカ「そのくせ体力は減る一方なんだけどな、無茶してんだよ」

透「でも、どうする? みんな寝たけど、うちらは」

ルカ「昨日美琴とやってた時はどうだったんだよ」

透「あー、まあ、ロビーで寝たり? 病室に入って寝てるの邪魔してもいけないし」

ルカ「それはそうだな……見るとしても廊下ぐらいにしとくか?」

透「ん、そうしよ」


ひとまずは夜の時間帯の看病もおえて、私たちも休憩の時間。
がっつり寝るわけにはいかないが、少しぐらい微睡む余裕はあるだろう。


それくらいに考えて、仮眠をとろうとしたその瞬間。

527: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:02:13.40 ID:7xcqTvao0


ビー! ビー!


突如としてロビーに響き渡るブザー音。
これまでに一度も聞いた覚えのない甲高い音とともに、受付の内線が赤く点滅している。
私たちは慌ててその内線をとった。


ルカ「……これ、小金持ちからのナースコールだぞ……!」

透「え、マジ……ヤバ」

ルカ「……クソッ、急ぐぞ!」


ついさっき病室を除いたときには平気そうな顔をしてやがったのに、容体が急変してしまったのか。
内線を乱暴にその場に放り、慌てて病室へと駆けつけた。

528: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:03:57.85 ID:7xcqTvao0
-------------------------------------------------
【夏葉の病室】


ルカ「お、おい……! 大丈夫か!?」


扉を開けるとすぐ目に入ったのは、ベッドから転げ落ちるようにして床に倒れ込んでいる小金持ちの姿。
病気にかかってきてからというもの、こいつはぐうたらな生活を送ってはいたが、どうやらそれとは雰囲気が違う。
瞳を無力に閉ざし、そしてその胸部はまるで動いていない。


ルカ「こいつ……呼吸してねえのか……!?」


胸に耳を当てた。
……そこに、本来あるはずの鼓動は聞こえてこなかった。


透「心停止……」

ルカ「畜生……なんてこった……」


ここは病院、それなりの設備があるとはいえ私たちに扱えるような代物ではない。
心停止してしまっている人間を回復させる術など、私たちは見当もつかない。


529: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:05:41.42 ID:7xcqTvao0

(……クソッ)

この状況において、頼るべき存在は一つしかない。
随分と癪なもので、出来るコトなら一生頼りにしたくはなかったが、背に腹は代えられない。
監視カメラに目を向けて、私はその名前を呼んだ。


ルカ「モノミ……お前ならなんとかしてくれんじゃねーのか!?」


モノクマは絶望病を振りまいた張本人。しかも今回の動機は病気で命を落とす前に誰かを殺せと言う指示も出ていた。
ここで心停止をして命を落とすというのなら、それは目論見の内だともいえるはずだ。
だからあいつはきっと手を貸してはくれない……でも、モノミなら。
あいつは一応口先では私たちの味方を自称している。
ここで信頼を勝ち取れるのなら、乗ってこない理由がないはずだ。


ルカ「さっさとしろよ……こいつ、死んじまうぞ!?」






コンコンッ


530: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:06:31.22 ID:7xcqTvao0

焦りをぶちまけ始めた時、背後で乾いた音がした。
病室の奥、その窓からだ。
音の正体を探ろうと近づいてみると、窓のサッシ、その下にピンク色の物体が目に入った。
ソーセージみたいな不格好な形に、しょぼい耳のついたぬいぐるみ……モノミだ。


モノミ「斑鳩さん、あちしでちゅ! 有栖川さんを助けに参りまちた!」


私たちはガラス窓をあけて、その寸胴を無理やり引き上げた。


透「モノミ……お願い、助けて。私たちじゃどうにもできない」

モノミ「了解でちゅ! 医龍の名をほしいままにするあちしにお任せあれ!」

ルカ「なあ……本当にお前にできんのか? こいつは……助かるのか?」

モノミ「はい! ちゃんと医師免許も持ってまちゅから! あちしの偏差値70の灰色の中綿を今こそ活性化させる時でちゅ!」


なんとも信頼しづらいが……今は任せるしかない。
私たちはモノミにその場を任せて、病室の外、廊下で待機した。

531: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:08:36.71 ID:7xcqTvao0
______
________
__________

モノミ「ふぅ……なんとかなりまちた……有栖川さんは無事でちゅよ」


しばらくしてから、モノミが病室の扉を開けて出てきた。手をこまねいて入室を促す。
私たちを顔を見合わせてから、静かに病室へと入っていった。


モノミ「今は寝てまちゅ……とりあえず、体外式のペースメーカーを使うことで一命はとりとめまちた。安静にしておけばきっと元気になりまちゅよ」


モノミの言う通り、小金持ちの胸部にはコードで何か機械が繋がれている。
多分そこから電気を流したりして、心臓の鼓動を確保しているんだろう。
瞳は変わらず閉じたままだが、心なしかさっきよりも血色がいい。
なんとか事なきを得た、というところなのだろう。


532: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:10:09.56 ID:7xcqTvao0

モノミ「そうだ、ペースメーカーなんでちゅが、電波の干渉を受けやすい機械でちゅ。電子生徒手帳なんかを使うときもできる限り、有栖川さんからは離れて使うようにしてくだちゃいね」

透「はーい」

ルカ「……おう」


とはいえペースメーカーが付けられた状態では安心もまだまだできそうにはない。
モノミの言う通り、機械が少しでも狂ってしまわないように細心の注意が必要だ。


ルカ「……とりあえず、助かった」

透「ありがとう、モノミ」

モノミ「いえいえ、あちしにできるのはこれくらいでちゅから。本当は病気そのものを直してあげたいんでちゅけど、あちしにもわからない未知の病気なので、対処の仕方も分からないんでちゅ……」

ルカ「まあ、そこまでは期待してねーよ」

モノミ「うぅ……面目ないでちゅ」


533: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:11:35.82 ID:7xcqTvao0

ルカ「そもそもこっちは治療できるかどうかも半信半疑だったぐらいだ。そんなことでへこまれてもこちらとしても困る」

モノミ「そうでちゅね……まずはこういう信頼の積み重ねが大事なんでちゅよね」

ルカ「……ああ、そうだな。そういうわけだから」


ポイッ


ルカ「用件は済んだ、じゃあな。おやすみ」

モノミ「え……あちしの出番これだけ? あちし、ミナサンの都合が悪い時に治療をするだけの関係なんでちゅか? 治療フレンドなんでちゅか?」

ルカ「おう、また困ったら呼ぶわ。そん時まで待ってろ」

ガチャッ

透「……ドライじゃん、めっちゃ」

ルカ「十分だろ、これくらいで」


モノミを締め出して施錠。
なんだか目を潤ませていたような気もするが、知ったことではない。
あいつだって私たちからすれば得体のしれない存在のうちの一つ。
今命を救ってくれたからと言って、ずっとそばに置いておくほど私は単純ではない。
これは引いては自分たちの命を守るためでもあるのだ。
治療をしてくれたなら、もう用済みだ。


534: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:13:25.20 ID:7xcqTvao0
-------------------------------------------------
【病院 廊下】


透「今回は焦ったね、流石に」

ルカ「ああ、心停止までいってたからな……なんとか持ち直してよかったよ」


小金持ちの病室から出た私たちは大きなため息をついて、壁にもたれかかった。
そのままずるずると壁を伝って座り込む。


ルカ「未知の病気だからな、何があるかこっちも分からねーことだらけだ」

透「うん……症状の全部もまだ把握してないもんね」

ルカ「あそこまで高熱がでるってだけでも体力を使うし、体にはよくない影響が出るからな。今回はモノミがいて何とかなったけど……」

透「……わかんないな、次同じことが起きたらどうなるか」

ルカ「……ああ」


未知の島で道の病気のパンデミック。
ここから先どうなるかなんてわからない。その漠然とした不安がまた息を吹き返す。
何もせずこのまま時間が経てば、その不安に飲み込まれてしまうかもしれない。
そう考えたのか、浅倉透はすくりと立ち上がる。


535: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:15:02.02 ID:7xcqTvao0

透「……とりあえず、休んどこうかな」

ルカ「おう、休んどけ休んどけ。また誰の容体が急変するとも限らねえんだ。寝れるうちに寝とかねーとな」


もともとさっきも一時は仮眠を取ろうとしていた時に起きたこと。
すでに私たちの瞼はかなり重たくなってきているし、さっきの対応で体力を結構使ってしまった。


透「じゃ、お言葉に甘えて。仮眠室、使ってもいい?」

ルカ「おう、大丈夫だ。私がロビーで寝とくよ」


ロビーで寝ることを申し出たのは、若干の警戒心から。
以前よりは信頼を置くようにはなったとはいえ、ここは私が死守すべきラインなような気もする。


透「それじゃあ……おやすみ」

ルカ「おう、おやすみ」


浅倉透の背中が廊下の奥へ消え、階段を上る時の靴の音が聞こえなくなるまで、私はじっとその場に座り込んでいた。
なんだかこの一夜に、いろんなことが起きて、いろんなものが変わった様な気がする。

その不思議な感覚を、時間をかけてかみしめていた。

536: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:16:00.55 ID:7xcqTvao0





____その感覚は、虫の知らせだったのかもしれない。





537: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:17:21.86 ID:7xcqTvao0
____
______
________

=========
≪island life:day 15≫
=========

【病院 ロビー】


(……ん?)


目を覚まして時計を見ると午前三時。
まだ朝のアナウンスもなっていないし、定期連絡までは4時間も時間がある。
勿論看病のために早めに起きようとは思っていたが、それにしても目を覚ますにしては早すぎる。

私の異様なまでの早い目覚めには理由がある、それはテレビ通話の送受信機の【ランプの点滅】だ。
着信があった時にはこのように緑色のランプが点滅し、画面にポップアップする応答のアイコンを押すことで私たちは電話を受けることが可能だ。
本来なら、時間も決まった通信なのでそこまでランプを気にかけることはないのだが……こんな時間に着信があるとなると話は別だ。


____それが意味しているのは疑いようもない【非常事態】。


背筋を何か冷たいものが撫でた。

538: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:18:40.18 ID:7xcqTvao0

「……もしもし! どうした、何かあったのか!?」


急ぎ応答すると、通話相手に出てきたのは冬優子と小学生だった。


『ルカ! ごめん、そっちにあさひと結華来てないかしら!?』

「え……? なんで、どうしたんだ急に」

『さっき、あたしたちの部屋のドアノブがガチャガチャってなって……それでふゆさんがあたしのことを心配してむかえに来てくれたんです……』

『でも、あさひと結華は一向に出てこなくて……行方知らずなのよ。部屋が防音って言っても流石にインターホンを鳴らしたら気づくと思うんだけど』

「……悪いけど、こっちじゃ見てねえぞ」

『どうしたんでしょうか……まさか、誰かにゆうかいを____』


突然の中学生と三峰結華の失踪。
こんな深夜にわざわざテレビ通話を繋いでまで相談しに来たのだから、その緊急性は高い。
部屋のドアノブをガチャガチャと開けようとしてきた不審者の存在も気になる。
もしかして、二人は何者かに……?


そんな不吉な考えが私の頭に浮上しかけた、その瞬間。

539: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:20:09.68 ID:7xcqTvao0





ガッチャーン!!





540: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:21:50.70 ID:7xcqTvao0

「な、なんだ!?」

『なによ今の大きな音……ガラスが割れたみたいな音だったけど!?』

「今の……【病室】の方からだぞ」


背後から聞こえてきたその音は病院一帯に響き渡るほど、通話相手にも聞こえるほど大きく、並大抵のことが起きたものではないことが直感的に分かった。
これまでに二度体験してきた、あの感覚がこみあげてくる。
何か良くないことが起きている、しかも最悪の形で。
その予感が私の足を走らせた。


『あっ、ルカ! ちょっと……!』


通話もつなぎっぱなしだが知ったことではない。
今は、何が起きているのかを見極めなければならない……たとえどんな形であろうとも。

廊下に出たが、いずれの病室も扉が開いてはいなかった。
でも、この中のいずれかで異変が起きていることは間違いない。

どれだ……どこで、何が起きているんだ……?

-------------------------------------------------
【確かめる病室を選んでください】

・恋鐘の病室
・夏葉の病室
・愛依の病室
・雛菜の病室

※死亡者が変わる選択ではありません

↓1

542: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:27:06.65 ID:7xcqTvao0
-------------------------------------------------

【夏葉の病室】

さっきの今、こいつの容態は急変したばかり。
私が真っ先に飛びついたのは小金持ちの部屋だった。
あのガラスが割れるようなとても大きな音、もしやペースメーカー周りが破壊でもされたんじゃ……
そんな胸騒ぎとともに扉を勢いよく開けた。



ガララッ!!



ピッ ピッ ピッ

無機質な音とともに動くペースメーカー、その波形は変わってはいなかった。
部屋を見渡しても差し当たっての異常はなし。

肝心の小金持ちも……そのままだ。
口元に耳を当てても変わらず。
呼吸もしっかりとしている。

……よかった、ここではなかった。

だが、安堵している場合などではない。
ここでないのなら……【別のどこか】だ。

-------------------------------------------------
【確かめる病室を選んでください】

・恋鐘の病室
・愛依の病室
・雛菜の病室

※死亡者が変わる選択ではありません

↓1

544: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:30:40.12 ID:7xcqTvao0



……そのドアノブに手をかけた瞬間に、なぜだかそれがすぐにわかった。



別に妙に冷たかったとか、変な液体がついていたとか、そんな物証的な話ではない。
これは、人間という生物が本能的に嗅ぎつけたもの。


私が、今確かめようとしているものは、この中にある。
この中で、それは起きて、そして……終わっている。


私たちには、その顛末を見届ける義務がある。
否応なしに、選ぶ権利さえも与えられないのだ。



その最悪の義務感がガラガラと音を立ててその扉を開いた。



545: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:31:26.59 ID:7xcqTvao0





【満月が煌々と照らす窓の近くで首から大量の血を流して息絶えているのは、超高校級のギャル・和泉愛依だった】






546: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:32:58.13 ID:7xcqTvao0

「……う、嘘……だろ……」

ついさっきのことだ。
私たちが看病しに来たとき、こいつはどこから持ち込んだともわからない花を嬉しそうに見せてくれた。
その花は混じりっ気のない純白の花弁を広げていて、私のように花を愛でる習慣のない者でも思わず見とれてしまうほどだった。
そんな花は、その持ち主の首から噴き出したであろう血で紅に染まっている。

「……クソッ」



____だが、事態はそれでは終わらない。

死体に完全に気を取られてしまっていたが、一度視野を広げてみてみるとこの現場の異常さに気が付いた。
お嬢様病の影響ですっかり様変わりした病室ももちろん異常ではあるのだが、この部屋には荒らされた痕跡がある。



……もっと言えば、【窓が割られている】のだ。



547: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:34:38.65 ID:7xcqTvao0

その結論に行きつくまでにはそう時間はかからない。
こんな殺人現場でわざわざ窓を割る、しかも病室の扉は閉まっていた。
それならこの割れた窓が犯人の脱出経路であることは間違いない。
破壊された窓のその隙間から首を出してみると、すぐ出たところにガラスが散乱している。
やはりこれは犯人が脱出するために内側から割ったものとみて間違いないだろう。

音が鳴ってからまだそう時間は経っていない。
ともなると、犯人はまだ近くにいることになる。


「……逃がさねえ!」


私はすぐに病室を飛び出し、ロビーへと向かった。
病院を出入りする唯一の玄関口が、ここだ。


『なにがあったの! ルカ、答えなさい!』
『ルカさん、どうしたんですか!?』


画面を横切る私の姿を目撃したのか、冬優子たちの声が聞こえてきた。
でも、それの相手をしている余裕なんかない。
犯人はすぐにでもこの場を立ち去ってしまうかもしれない。
その前に確固たる証拠を、犯人自身を捕まえてやらなくては。
それができるのは私だけなのだから。

548: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:35:31.63 ID:7xcqTvao0



ガチャ



私は観音開きのその扉の取っ手を掴んで、すぐに開け放した。



なんとしても犯人を捕まえなくちゃいけない、ただその一心で他のことは一切考えていなかった。
勿論、今更考えたってどうにかなるものではない。


でも、覚悟の一つでも決めておくべきだったかもしれないと今なら思う。


549: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:36:01.69 ID:7xcqTvao0





扉を開けた先に待っている、もう一つの絶望的な状況に直面するための、覚悟を。






550: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:36:50.63 ID:7xcqTvao0





【病院の入り口の扉を開け、駐車場で血の海に沈む三峰結華の姿を目撃した】






551: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:39:21.38 ID:7xcqTvao0
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CHAPTER 03

Hang the IDOL!!~弾劾絶叫チュパカブラ~

非日常編


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552: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:40:51.54 ID:7xcqTvao0

理解というのはいつも遅れて来る。
浅い眠りに落ちていた間に少しばかり停止していたシナプスにはこのものの数分の間に目の前に現れた現実というものが受容しがたく、私は暫く呆然と立ち尽くしていた。
悲嘆にくれるでもない、絶望に陥るでもない、困惑に喚くでもなく、ただ感情に自我がたどり着くまでに時間を要していたのだ。


「……は?」


目の前に広がる赤、その中に沈む“何か”。
その理解は、背後から聞こえてくる怒声のような叫び声とともにやってきた。


『ルカ、何があったの?! いい加減教えなさい!』

「え……あ、えっと……」


冬優子の問いかけに自分の言葉で説明をしようとして、初めて私は理解を手にした。
今のこの数分の間に二人の人間が命を落としたこと、またそれが始まってしまったこと。
本能にようやっと理性が追い付いたのだ。
私はふらつく足取りでなんとかモニタの前に辿り着き、なんとかその一言だけを絞り出した。




「……死んでる」



553: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:42:01.65 ID:7xcqTvao0
____
______
_________

ピンポンパンポーン!

『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


病院の駐車場にはほとんど全員が揃っていた。
あの通話の後にすぐに冬優子と小学生は合流し、中学生もどこかから姿を現した。
私もなんとか二階の休憩室の二人を叩き起こし、駐車場に戻ってきた。


果穂「結華さん……!? な、なんで……」

智代子「な、なんでまた起きちゃうの……」

冬優子「嘘……結華が、どうして……!?」


一段と受けているショックが大きかったのはやはり冬優子だった。
私も冬優子と数日前に、三峰結華の説得に同伴した身。あの時にようやっとの思いで心を開かせ、
外に連れ出したというのにこんな事となってしまうなんてなんと報われないことか。
まるで力なく膝から砕け落ちる冬優子には、その心中に冷たくドロドロとした何かが広がっているのが透けて見えるようだった。

554: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:43:23.83 ID:7xcqTvao0

……だが、彼女が受けるショックはこれでは終わらない。
この事件は三峰結華の一つで終わらない、より近くにいた存在が喪われてしまったことを、私は冬優子に伝えなくてはならない。


ルカ「……今回は、一人じゃねえんだ」

美琴「一人じゃないって……まさか」

ルカ「……ああ、病院の中で……和泉愛依も死んでる」

冬優子「……は?」

あさひ「愛依、ちゃん……?」


私がその名前を口にしたとたん、冬優子は私の胸倉をつかみ上げた。
眉間には一瞬にして皺が寄り、奥歯を噛み砕きそうなほどにその口元には力がこもっている。


冬優子「ふざけんじゃないわよ……アンタ、そんな冗談言っていいと思ってんの!?」


冬優子の憤怒はもっともだ。三峰結華の死に加えて、和泉愛依も事切れたことなど到底受け入れられるものではない。
ただ、どれだけ怒ろうとも現実は変わらない。私があの病室で見た惨状を否定するに足る言葉などどこを探して見つからないのだ。
私は返す言葉が見つからず、ただ視線を逸らしてうなだれた。

555: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:44:48.43 ID:7xcqTvao0

冬優子「……チッ!」


私の反応に業を煮やしたのか冬優子はその手を離し、ツカツカと音を鳴らしながら病院の中に入っていった。
おそらく、私の言葉の真偽のほどを確かめに行ったのだろう。


あさひ「……ルカさん、本当……なんっすか?」

ルカ「……おう」


そして、ストレイライトのメンバーは冬優子だけではない。
私たちを散々かき乱してきたはずの狸も、その仲間の死をすぐには飲み込めず、私に確認をしてきた。


あさひ「……愛依ちゃんが、死んじゃった」


私の言葉を反芻して、その場にぺたりと座り込む。
冬優子の激情とは対照的に、まるで魂が抜け落ちたような反応だ。ぼうっと地面を見つめて、それ以上は動こうとはしない。
こいつには散々煮え湯を飲まされてきたが、この反応を見ていると少し胸が痛む。
14歳という未成熟な器、その容量から溢れ出たものがそこら中にまき散らされている。


智代子「そんな……二人同時に死んじゃうなんて……」


でも、私たちに悲嘆にくれる時間は与えられていない。
誰かが死んだということは、今私たちの命も生きるか死ぬかの瀬戸際にあるということ。
載せられた天秤が正しい方向に傾かないと、私たちもこの二人とともにあの世行きだ。


ルカ「とりあえず、もう一つの事件現場に行くぞ。……やらなきゃ、死ぬのは私たちなんだ」

556: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:46:13.53 ID:7xcqTvao0
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【愛依の病室】

病室の扉は今度は開かれていた。
恐らく冬優子が先に来て、その死を確かめているのだろう。
そう思って他の連中に先行して中の様子を伺った。


ルカ「……待て」


私はそこで美琴たちを制した。


ルカ「……中学生以外は一旦ここで待機、三分だけ時間をやるぞ」

あさひ「……ルカさん」

ルカ「早く行ってこい、時間はそう残ってねえんだ」


こいつにかける情けも容赦もない、あの裁判以降そう思っていた。
だが、和泉愛依の死を聞いた瞬間のあの力の抜けようは演技のそれではなかった。
何か大事なものが崩れ去ったような、足を絶望にからめとられた時のような、そんな言い表しようもない感情を見せていた。

私は、その感情には救済を与えたいと思った。
今のこいつは分からないが、かつてのこいつが仲間とともに笑いあった時間があったのは確かだ。
なら、その時間に見合うだけの対話はあってしかるべきだと思う。

557: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:47:52.90 ID:7xcqTvao0

冬優子「……あんた、何馬鹿なことしてんのよ。あんたはふゆのライバルで……アイドルの頂点目指すんでしょ……? なんで、こんなとこで死んでんのよ……」

あさひ「愛依ちゃん……嘘っすよね……わたし、まだ愛依ちゃんとしたいことがいっぱいあるっすよ……? まだまだいっしょに行きたいところがいっぱいあるっすよ……」


骸は何の言葉も返さない。
瞳を閉じて、口元を苦痛に歪ませたその表情ばかりを月明かりが照らす。


冬優子「許さない……許さないんだから……ふゆとまともに闘いもせずに舞台から降りるなんて……不戦勝なんてふゆが喜ぶと思う……!?」

あさひ「愛依ちゃんに頭撫でてもらった時のふわふわする感じ、もう感じられないっすか……? 愛依ちゃんとギュッてしたときのあの匂い、もう嗅げないっすか……?」


死とはどこまでも非情だ。
突然舞い降りて、その人間を連れて行ってしまうがために、周りの人間にはお別れの言葉すら許さない。
遺された者たちは悔やんでも悔やみきれない思いを抱き、ただ自分の身を傷つける以外の術を持たない。
しても仕方のない後悔がこみあげることを食い止めるのは叶わず、全身から抜け落ちたものがその虚空にばかり吐き出される。


冬優子「いつもうるさいくせして、急に静かになってんじゃないわよ……愛依」


彼女たちも、その感情をただ霧散して終わってしまう。そう思われた。



冬優子「……」



558: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:50:30.05 ID:7xcqTvao0



____でも、彼女が私たちに見せた姿はそうではない。




冬優子「あさひ、立ちなさい。いつまでもこんなことやってる時間はないわ」

あさひ「……冬優子ちゃん」


黛冬優子という人間は、悲劇のヒロインなんて器ではない。
自分の身に降りかかった悲運を嘆き、身をよじり苦しむばかりで同情を買うなんて性に合わない。
そんな悲運があるというのなら、自分自身の手で切り開きたい。

彼女はそういう人間だ。

田中摩美々の裁判の時だってそうだ、あらぬ疑いをかけられ追い詰められた果てに黛冬優子という人間はその内をすべて暴露した。
彼女にとってそれはイレギュラーに他ならなかったが、そのイレギュラーさえも武器にして、彼女は大立ち回りをしてみせた。


冬優子「上等じゃないの、ふゆにこんな挑戦しかけておいて。犯人はとっくに覚悟はできてるんでしょうね」


559: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:51:27.21 ID:7xcqTvao0

なら、今だってそうだ。
他にないパートナー、ライバルとして認めていた存在、そして自分自身の内面と近しいものを感じ取り、同族としてシンパシー以上のものを感じていた存在の二つを同時に喪ったが、彼女はそれだからと言って折れたりはしない。
奪われたのなら、それに見合うだけの報いを受けさせるまで。
彼女からその二つを奪い去った人物に、自分自身の手でやり返してやらないと気が済まない。


冬優子「いいわ、ふゆがやる。ふゆがこの手で、犯人を処刑台に送ってやるわよ」


この状況で彼女に顕れたのは、そういう負けん気だった。
そんな彼女の奮起に応えるかのようなタイミングで、死体発見アナウンスが鳴り響いた。

ピンポンパンポーン!

『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


先ほどのは三峰結華のもので、今回が和泉愛依のものということなのだろう。
月光に照らされる冬優子の後ろ姿、そのアナウンスは決戦の合図のようにも聞こえてしまった。

560: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:54:07.42 ID:7xcqTvao0

バビューン!!


モノクマ「あーらあーらやっちゃったー! ついに三回目の事件発生だね!」


モノクマが出てくるのを見て、私たちも病室に踏み入った。
冬優子と中学生、二人の様子を暫く見届けた私たちの中にも、この事件に挑むにあたっての闘志の火種のようなものが芽生えていた。
モノクマと相対するその心持は、これまでの裁判以上に前のめりだ。


ルカ「モノクマ……またしてもてめェの思い通りってか」

モノクマ「いやぁ、やっぱりオマエラを信じて正解だったよ! せっかくばらまいた病気が何の意味もナシに終わっちゃうんじゃやっぱり退屈だからね。事件を起こしてくれた犯人さんには花丸をあげましょう!」

冬優子「御託はいい、さっさとモノクマファイルをちょうだい。ふゆは今最高にイラついてんのよ」

モノクマ「おー、怖い怖い……前回までの黛さんとは大違いですね……これまでが猫をかぶってたなら今はサーベルタイガーみたいですよ」

モノクマ「でもね、モノクマファイルを共有するにしても、一気にやっちゃいたいんですよね。なので、【全員】がこの場に揃ってからでないと」

智代子「全員って……絶望病にかかってた人も?」

果穂「え!? でも、夏葉さんたちはすっごく高いねつが出てます……今回のさいばんは……あたしたちだけでどうにかなりませんか?」

美琴「確かに……病気の時にあの裁判はかなり堪えそうだよね」

モノクマ「ん? あー……そうか、そのことね。それならもう心配いらないよ!」

ルカ「あ? どういう意味だよ」

モノクマ「まあすぐに分かるって……ホラ!」

561: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:55:05.30 ID:7xcqTvao0

そう言ってモノクマたちは私たちの後の扉を指さした。
廊下に面する病室の扉、そこは私たちの視線が集まると同時にガラガラと勢いよく開かれて、彼女たちが現れた。


夏葉「みんな!? 今のアナウンスって一体!?」

恋鐘「また事件ば起きとーと!?」

透「え、嘘じゃん」

雛菜「透先輩……また事件、起きちゃったの~……?」


そこに立っていたのは病魔に侵され、本来なら今もベッドの上で眠っているはずの連中。
彼女たちはいつもと変わらぬ様子で現れ、そして私たち同様に凄惨な現実を前に驚愕を示した。


果穂「みなさんもう病気はなおったんですか!?」

智代子「つ、つい数時間前まで39度の熱が出てたはずだよ!? そんな急に治る!?」

モノクマ「まあもう事件は起きたし、病気のお役目もおしまいだよねってことで。さっさと全員治させていただきましたぞ!」


手の打ちようもなく、ただ体力が失われてしないように右往左往して世話をしていたというのに、そんな思い付きで治してしまったというのか?
私たちの苦労を嘲笑うような発言に戸惑いを隠せない。

562: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:56:29.62 ID:7xcqTvao0

果穂「とっこう薬……ですか?」

透「マジだ。雛菜ももう熱出てない」

雛菜「透先輩? ていうか、雛菜たちまるで状況が分からないんですけど~?」

夏葉「……私もよ、ここ数日の記憶が何だか朦朧としているの。モノクマ、少しみんなと状況を整理してもいいかしら」

モノクマ「う~ん、ボクとしては早いとこ裁判を見たい気持ちもあるんだけど……情報の前段階で差があるとフェアじゃないもんね。なるはやで頼むよ」

夏葉「ありがとう、みんな、ここ数日のことに関して教えてもらえるかしら」


小金持ちたちは本当に状況がわかっていないらしい。
どうやら自分たちが病気にかかっていたことすらも定かではないらしく、病院とモーテルに分かれて看病をしていたことから説明は始まった。
数日に及ぶ看病、そしてそんな生活の中に突然起きた事件。
三峰結華と和泉愛依の死、それを短い時間でできる限り詳細に伝えた。

小金持ちと能天気女は説明をある程度噛み砕けたらしいが、長崎女は流石に別。
三峰結華の死という言葉でつまずき、そこから先が入ってこない。

563: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:57:39.36 ID:7xcqTvao0

恋鐘「ゆ、結華が死んだ……?! そ、そげなわけなか! だ、だってこの前摩美々が……摩美々が殺されて……結華まで死んでしもうたら、うち、うち……!」

冬優子「しっかりしなさいよ! あんたがそんなんなら、誰が結華の仇を討つの?!」

恋鐘「ふ、冬優子……?」

冬優子「泣くんなら全部終わった後、分かった?」


だが、そんな長崎女も冬優子は強引に引き戻す。


冬優子「結華があんたたちをどれだけ思って動いてたか、分からないわけじゃないでしょ? なら、今あんたがすべきなのは、そのための恩返しじゃないの」

恋鐘「……そうばい、もう今、アンティーカはうちしか残っとらん……それなら、うちがしっかりせんといかんとよ!」

冬優子「その意気よ、あんたみたいな肝っ玉なら犯人だって見つけられるわ」


仲間の心情を読み取り、抜群の鼓舞をかけるのは猫をかぶっていた時期に培ったスキルでもあるんだろう。
誰よりも人の心の機微に敏感な冬優子はそのリーダーシップをいかんなくふるった。
長崎女の戸惑いも一転、すぐにその決意は固まったようだ。
その表情の移り変わりを確認すると、冬優子は私たちに向き直り、今度はその頭を下げてみせた。

564: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 22:59:20.47 ID:7xcqTvao0

冬優子「……お願い、この事件の解決のために……あんたたちの力を貸してほしい。結華に愛依……ふゆにとって、これ以上なくかけがえのない存在だった二人を奪い去った犯人を……ふゆはなんとしても見つけ出したいの」

ルカ「冬優子、お前……」

冬優子「……今回ばかりは、負けてらんないのよ」


冬優子からは、なりふり構っていられないという切迫した雰囲気を感じた。
数日前、二人で三峰結華の部屋に踏み込んだ時。あの時と近しいものを私は感じていた。
あの時も、あいつは三峰結華を救い出すには同族である自分がやらなくてはならないという義務感を帯びていた。
でもそれは、他人に与えられるようなものではなく、ストイックな彼女だからこそ自分で自分に課す義務の意味合いが強い。

この事件もその通り。三峰結華と和泉愛依。
すぐそばで支え、そして足りないものを補い合ってきた存在を同時に喪った彼女だからこそ、この事件を解決する殿に着くのは自分でなければならない。
その義務を課していたのだろう。
彼女は、私たちの先導に立ち、その旗を振りかざしたのだった。


565: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:01:59.45 ID:7xcqTvao0

その場に居合わせた者はすぐに感じ取る。
彼女の抱く闘志、そして執念。
それに呼応するように、気が付けば私たちはその拳を振り上げていた。
共に戦地に赴く同胞として、共にその真実を追い求める迷い子として。
全員がその旗手のもとに名乗りを上げた。


ルカ「ハッ、お願いされなくてもそのつもりだ。間違えたら私も死んじまうんだからな」

美琴「うん、頑張ろう」

恋鐘「冬優子……うちも、絶対に結華の仇を取りたか! ぜったいぜ~~~~~ったい! 今回の裁判は勝たんといかん!」

果穂「ふゆさん……ぜったい、ぜったいになぞを解き明かしましょう! 結華さんと、愛依さんの無ねんを晴らさないと!」

夏葉「冬優子、あなたの想い……受け取ったわ。ぜひ協力させてちょうだい。あなたのため、そして私たち自身のために真実を見つけ出すのよ」

智代子「もちろんだよ! 絶対犯人を見つけ出そうね!」

あさひ「冬優子ちゃん、わたしもやるっす。絶対、絶対……愛依ちゃんを殺した犯人を見つけるっす」

透「うちらも手伝う。脳細胞フル稼働さすわ」

雛菜「透先輩いつになくやる気だし、雛菜もがんばろっかな~」


566: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:03:18.32 ID:7xcqTvao0

その奮起の声を聴いて、冬優子はその顔を上げる。


冬優子「……ありがとう、あんたたち」


私たちの心は『なんとしても犯人を見つけ出す』、それで一つになっていた。
でも、間違いなくこの中に一人、二人を殺しておきながら大ホラを吹いている人間がいる。
私たちの奮起を茶番だと嘲笑っているのかもしれない。
それならそれでせいぜい今のうちに笑っておけばいい。
今にその顔は苦悶に歪むことになる。


私たちはそれぞれの戦う理由のために、今回も真実を解き明かす。



_____絶対に。




【捜査開始】




567: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:05:33.58 ID:7xcqTvao0
-------------------------------------------------

モノクマ「さて、そちらもお話は済んだようですね、それではさっそく参りましょう!」

ピピッ


モノクマが指を鳴らすとすぐに端末が反応した。
私たちもそれに応じて懐から端末を取り出し、画面へと目を落とした。


『被害者は和泉愛依。死因は頸動脈を刃物で裂かれたことにより失血およびショック死。死因となった裂傷は背後から刃物を首筋に沿わして切りつけたような傷跡となっている。衣服にも乱れた様子はなく、目立った抵抗の痕も見られないため、即死だったものと思われる』


ルカ「背後に立たれて、そのまま首を斬られたって感じか……?」

美琴「犯人は不意打ちで殺害したってことなのかな。刃物を持っている犯人を目撃すれば、普通は抵抗するよね」

ルカ「そうなるだろうな……抵抗も何もしないなんてのは流石に考えづらい」

ルカ「それかもしくは、犯人に完全に油断しきっていたパターンか。犯人がまさか殺してくるとは思わず、背を向けたところで突然襲われたとかな」

美琴「そうか……そういう方法もあるんだ」


568: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:07:30.88 ID:7xcqTvao0

モノクマ「今回の事件は被害者がお二人なので、両方の情報を記載しています! しっかりと両方に目を通すように!」


『被害者は三峰結華。死因は正面から頭部に強い衝撃を受けたことによる脳挫傷。頭部からは出血も激しく、即死だったものと思われる。死因となった傷のほかに、全身に及ぶ打撲痕があり、一部は骨折もしている』


ルカ「……胸糞悪いな」

美琴「即死だったのに、それに更に何度も殴りつけた痕があるなんて……」

ルカ「よっぽど殺害できたかどうか不安だったんだろうな、夜中に起きた事件で、よく見えてなかっただろうし」

美琴「それにしても酷い……もしかして、犯人は結華ちゃんに恨みでもあったんじゃないかな」

(あいつに恨みだと……?)

(あいつが恨まれるようなことなんてまるで心当たりはないな……)


コトダマゲット!【モノクマファイル3】
〔被害者は和泉愛依。死因は頸動脈を刃物で裂かれたことにより失血およびショック死。死因となった裂傷は背後から刃物を首筋に沿わして切りつけたような傷跡となっている。衣服にも乱れた様子はなく、目立った抵抗の痕も見られないため、即死だったものと思われる。
被害者は三峰結華。死因は正面から頭部に強い衝撃を受けたことによる脳挫傷。頭部からは出血も激しく、即死だったものと思われる。死因となった傷のほかに、全身に及ぶ打撲痕があり、一部は骨折もしている〕

569: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:09:41.95 ID:7xcqTvao0
-------------------------------------------------

モノクマ「ほいじゃ、今回も捜査の時間はボクは高みの見物と行きますかね。精々セコセコ頑張って真実求めて駆けずり回れば~?」

バビューン!!


モノクマもいなくなり、私たちは事件に集中。
今回の事件は二人の犠牲者が出ている、効率よく調べないと前回の事件のゲームの時のように時間オーバーにもなりかねない。


調べる現場は【和泉愛依の病室】と【病院前の駐車場】の二つだよな。
どちらもその【死体周辺】には情報が多く残されている、見落としがないように調べないとな。
そして、病室の方は【割られている窓】も気になる。犯人に繋がる手掛かりは何か残されていないだろうか?
今回は私たちは病院とモーテルに分断されている間に起きた事件だ、双方の情報・状況は整理しておく必要がある。【聞き込み】もいつもより多めにした方がいいかもな。


ルカ「美琴、今回もよろしく頼むぞ」

美琴「うん、こちらこそ」

さて、どこから動くとするか……



570: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:11:38.69 ID:7xcqTvao0
安価ミス

今回は病室と駐車場、二つの捜査場所をどちらから先に調べるか選ぶところから始まります


1.病室【愛依の死体発見現場】
2.駐車場【結華の死体発見現場】

↓1

572: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:20:06.60 ID:7xcqTvao0
1 選択
-------------------------------------------------
【愛依の病室】


死体発見現場となった病室では、冬優子がせわしなく動いて調査を進めている。
つい先ほどの私たちの協力を仰ぐ大演説の後、彼女自身その言葉に鼓舞されているところもあるだろうが、私にはどこか焦っているようにも感じられた。
自分自身がこの事件の真実にはたどり着かなければならない。
そのモチベーションはプラスでありマイナスだ。
過ぎた義務感は時に視界を曇らせる。

……その曇りを拭い去ってやるのが、私たちの役目でもある。
可能な限り、こいつには協力してやらないとな。

さて、調べるべきところは【和泉愛依の死体周辺】、そして【割れた窓ガラス】だ。
そして、今現在この病室にいる【小学生】、【冬優子】……そして【モノミへの聞き込み】も一応やっておくか……?

-------------------------------------------------

1.死体周辺を調べる
2.割れた窓ガラスを調べる
3.果穂に聞き込みする
4.冬優子に聞き込みする
5.モノミに聞き込みする

↓1

574: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:26:28.76 ID:7xcqTvao0
1 選択

【死体周辺】


和泉愛依の死体は窓のある壁に力なくもたれかかるようにしている。
流れた血は壁を汚しながら伝い、その床にシミを作っている。
どうやら死亡現場はここで動かされた形跡などもないようだ。


冬優子「愛依のやつ、犯人に押し入られて殺されたのかしらね」

ルカ「……」

冬優子「……何? 変に気使われるとこっちもやりづらいんだけど。大体あんたそういうの苦手でしょ、ルカ」

ルカ「お、おう……」

冬優子「こいつも絶望病なんかじゃなければ犯人の入室をみすみす見逃したりなんか……いや、そうでもないか……」

冬優子「……ホント、どこまでもお人好しなやつだったのよ。このギャルは」

ルカ「……」

冬優子「自分の事なんかそっちのけで他人の事ばっか優先するようなやつで、それでいて本人も気づいてないようなところまでよく見てやがんの。生意気ったらありゃしないわ」

(……こいつ、気丈にふるまってるようでも口を開けば思い出話)

(やっぱり心の中では喪失感から脱しきれてないんだろうな)


冬優子は私たちが捜査することは別段咎める気はないらしい。
真実を追い求めるための協力なら惜しまないという体勢。
その好意には甘えさせてもらおう。


575: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:28:16.17 ID:7xcqTvao0

死因となった首元の切り傷……特に不自然な点はないな。
衣服にも目立った乱れはないし、やはり不意を突かれて切られてしまったようだ。


美琴「だいぶ油断をしてたのかな……後ろから首筋を裂かれてるようだけど」

ルカ「不意打ちか……相当に油断してた相手だったか、ってとこだろうな。それこそ気心の知れた相手とか……」

美琴「でも、彼女大体の相手には心を開いてたよね」

ルカ「正直、これじゃ絞れそうにはないな。人の好さに絶望病で判断能力もかなり低下してたと来たら、いよいよ誰でもありだ」


和泉愛依の死体には残念ながら目立った手掛かりはなさそうだ。
その命を奪った犯人の手さばきも相当なものらしい。


ルカ「ちょっと死体動かしてみるか……冬優子、大丈夫か?」

冬優子「え、ええ……いいわよ」

ルカ「……よっと」


死体そのものではなくその付近に何か手掛かりはないか、私と美琴は二人係で丁重に死体を動かして、検証してみた。
死体そのものがあった場所にダイイングメッセージなんてものはないが……死体の影になっていた部分。そこに妙な【水たまり】を見つけた。

576: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:31:51.57 ID:7xcqTvao0

ルカ「なんだ? この水……やけに冷てぇ気がするけど」

美琴「窓が開けっぱなしだから冷えちゃったのかな」

冬優子「……というか、この水は一体なんなのよ。どこから来たわけ?」

ルカ「んー……?」


部屋を見渡してその水の出元を探る。
ぐるりと見渡して、自分の記憶とも照らし合わせると、一つだけ心当たりがあった。


ルカ「……これ、もしかしてあの時の花瓶か?」

美琴「……花瓶?」


≪ルカ「だからお前はどこからこんなの持ってきてんだよ!」

透「おー、なんか咲いてんじゃん。めっちゃ」

愛依「こちらのお花はゲッカビジンと言いますの、ほんの一夜のみにその花を咲かせる姿から、その花言葉は『儚い美しさ』……今こうしてお二方と見れたこと、恐悦至極に存じますわ」

ルカ「いや知らねーけど……花をいつ調達していつ育てたんだよ」≫


577: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:33:09.90 ID:7xcqTvao0

ルカ「ああ、そうか……あの時は浅倉透との夜番だったから美琴も知らないか。こいつ、病室に何かと持ち込む癖があっただろ?」

冬優子「ちょっと待ちなさいよ、何よその癖」

美琴「癖というか、彼女の症状の一つなんだと思う。目を離したすきに病室にお嬢様っぽい何かが持ち込まれてしまっていることがよくあったの」

ルカ「ティーセットやら、天蓋付きベッドやら……その中の一つに、この花瓶があったんだ」


よく見ると、水たまりの周辺には陶器の割れた破片も散乱している。
欠片はあちらこちらに散らばっているので、復元こそ適わないがその表面の模様には見覚えがあった。
あの時、ゲッカビジンを飾っていたアンティーク調の花瓶のなれの果てがどうやらこれということらしい。


ルカ「犯人と争った時にでも落ちたのか?」

美琴「でも、愛依ちゃんの衣服には乱れはなく、争った形跡もないんだよね? だとすれば、それは落ちた理由としては不自然なんじゃないかな」

ルカ「それはそうか……なら、なんで割れてるんだ?」

冬優子「……妙な話ね、いつ割れたのかわからない花瓶なんて」


コトダマゲット!【割れた花瓶】
〔愛依の病室で割れていた花瓶。前日に愛依が病室に飾ったもので、ゲッカビジンを元々飾っていた。愛依は犯人と争った形跡もないが、一体何の拍子に割れたのだろうか……〕

578: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:34:35.95 ID:7xcqTvao0

冬優子「とりあえず、このままにしておくと誰かが踏んでしまってもいけないし片付けておくわよ」

ルカ「おう、頼んだ」


花瓶の破片という手掛かりは一応抑えておいたし、冬優子の片付けの進言をそのまま承諾。
すぐに冬優子はその場にしゃがみこんで破片を集め出した。


(やっぱり、何か行動をしていないと気がまぎれないんだろうか)


そんな下種な勘繰りをするのもつかの間、すぐに冬優子は何か気づいた様子でこちらに向き直る。
その手には何か透明な薄いものを拾い上げている。


冬優子「これ、何かしら……花瓶の破片の中に混ざってたわよ」

ルカ「あ? ……ただのゴミじゃねえのか?」


手に取ってみると、それはビニール袋の切れ端のようなものだとわかった。
花瓶の水に塗れて濡れてしまっているが、それ以上でもそれ以下でもない。
部屋を掃除していたら、どこからともなく顔を出しそうな、そんなありふれた切れ端だ。


579: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:35:37.01 ID:7xcqTvao0

冬優子「これだけじゃ特に見覚えも……ないわよね」

ルカ「まあ、な……」

冬優子「捨てちゃってもいい? 役に立ちそうもないし……」

美琴「待って。一応私が回収しておく」

ルカ「美琴……」

美琴「現場にあるものは勝手な判断で除外しない方がいいと思うから。全部集められるものは集めておこう」


そうだった、こいつは妙に慎重なところがあるんだった。
万全な準備ができているステージの前でも念には念を重ねるところがあって、それに私も少し辟易しているところがあった。
久しぶりに見た相方の慎重癖に小さなため息をつきつつ、私もその情報だけは記録しておくことにした。


コトダマゲット!【ビニール片】
〔愛依の病室で割れていた花瓶の近くに落ちていたビニール片。花瓶の中の水をかぶったのか、全体が濡れている〕

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1.割れた窓ガラスを調べる
2.果穂に聞き込みする
3.冬優子に聞き込みする
4.モノミに聞き込みする

↓1

581: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:41:28.27 ID:7xcqTvao0
2 選択
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【果穂に聞き込み】

今回も事件について情報は他の連中からもかき集めねーとならないな。
特に病院とモーテルの二手に分かれていたさなかに起きていた事件ということもあり、お互いの認識、知っている事実には違いも多々あるはずだ。
私の知らない情報、知っている情報。それぞれちゃんと整理しておく必要がある。


ルカ「大丈夫か、辛かったら無理すんじゃねーぞ」

果穂「ルカさん……いえ、だいじょうぶです! あたしもみなさんといっしょにたたかうので、こんなことで弱音を上げてちゃいけませんから!」

美琴「えらいね、果穂ちゃん」

果穂「え、えへへ……そうですか」


こいつとは私は事件当時、一緒にテレビ通話をしていた。
冬優子と私と一緒にアリバイが確実に存在する人間の一人ということになる。
こいつの視点から見た事件について、確認しておくか。

582: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:42:46.81 ID:7xcqTvao0

ルカ「じゃあ、協力してもらうぞ。お前、今回の事件の発生中……私と一緒にテレビ通話をしてたよな」

果穂「はい、ふゆさんといっしょにお話してました!」

ルカ「私がロビーで仮眠をとっているときにこいつらから深夜三時ごろに着信があってな、慌てて繋いだんだよ」

美琴「そんなに遅い時間に……? 何があったの?」

ルカ「確か……中学生と三峰結華が姿を消したんだったか?」

果穂「はい……えっと、ルカさんにはいちどお話したんですけど、そのまえにあたしたちのモーテルで変なことが起きたんです」

美琴「変なこと……」

果穂「寝るときはみんなそれぞれ自分の部屋で寝てたんですけど、深夜になって、だれかがあたしの部屋のドアノブをガチャガチャってひねってきたんです!」

果穂「だれかが来る用事もなかったので、もしかしてだれかがころしにきたのかなって……そう思うとこわくて動けなくて……」

果穂「しばらくじっとしてたら、インターホンが鳴って……それで出てみたらふゆさんだったんです」

ルカ「それで冬優子と合流して、ライブハウスまで来たわけか」

583: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/08(火) 23:43:50.09 ID:7xcqTvao0

果穂「行く前にあさひさんと結華さんの部屋のインターホンも鳴らしたんですけど、まるで反応がなくて、おかしいので……病院にいるみなさんはなにか知らないかなって思って、急いで連らくしたんです」

美琴「ちょうどそのタイミングで事件が起きちゃったんだね」

ルカ「十中八九そのドアノブを捻ったやつが二人を殺した犯人だな……手掛かりとかは他にねーのか?」

果穂「す、すみません……あたし、こわくて動けなかったので……」

美琴「ううん、大丈夫。果穂ちゃんの選択は間違ってない。下手に部屋を出ていたらそれこそ危険なのは果穂ちゃんの方だから」

果穂「美琴さん……ありがとうございます!」


事件直前にモーテルを訪れていた不審者か……
三峰結華はきっとそいつに襲われてしまったんだろう……
だが、それと同時に行方をくらましていた中学生。
あいつが【狸】だと確定している以上……これが偶然の符合だとは思えないな。

コトダマゲット!【果穂の証言】
〔事件発生前、モーテルの各部屋を何者かが訪問し、ドアノブを捻っていた。恐怖を感じ動けずにいたところ、冬優子が助けに来てくれ、所在のわからないあさひと結華について尋ねるために病院にテレビ通話を繋いだ〕

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1.割れた窓ガラスを調べる
2.冬優子に聞き込みする
3.モノミに聞き込みする

↓1

591: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/09(水) 21:59:40.23 ID:igcFWV240
2 選択
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【冬優子に聞き込み】


ルカ「……なあ、冬優子。今ちょっと大丈夫か?」

冬優子「え? ……ええ、何? 何かふゆに訊きたいことでも?」

ルカ「私たちが病院にいた間、モーテル組が何をしてたのか聞きたいんだけどよ」


私たちはここ数日この病院に籠りっぱなしで看病していたため、その外で何が起きていたかについてはまるで情報を持っていない。
朝と晩の定期通信もあったが、限られた時間で話すことも絞られていてはこちらの知らないこともあるだろう。
モーテル組の動向をたずねるうえで、冬優子以上の適任はいない。


冬優子「そうね……といっても、特になにも無いわよ? ふゆと結華であさひと果穂ちゃんの面倒を見てただけで、変わったことも何も」

ルカ「そうなのか?」

冬優子「あさひがやりたいって言うことに付き合ってやるのが主だったかしら。花火とか、虫取りとか……やりたくもないけど付き合わされたわね」

美琴「事件の前日には何をしたの?」

冬優子「昨日は……そうね、四人で一緒に海に行ったわ。あさひが泳ぎたいっす~って言いだすから、二人を泳がせてふゆと結華はビーチでパラソル広げて寛いでた」

冬優子「……あの時、もっと結華と話しとけばよかったのかしらね」

ルカ「……」

冬優子「冗談、気にしないで。ふゆから話せるのはこんなとこだから、もっと別のとこ調べなさい」


なるほど、病院の外の連中はほとんど行動らしい行動はしてなかったらしい。
私たちが戻ってくるまでの間の面倒を見ることで終始していたようだ。
あの年下二人が不安に感じないように、必死に日常というものを守り続け、その結果三峰結華は命を落とした。
……なんともやるせないものを感じるな。


コトダマゲット!【冬優子の証言】
〔隔離生活が始まってから、モーテル組はほとんどあさひと果穂の面倒を見るので手いっぱいだった。事件の前日にも、二人を連れて海で遊んでいたらしい〕

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1.割れた窓ガラスを調べる
2.モノミに聞き込みする

↓1

593: ◆vqFdMa6h2. 2022/03/09(水) 22:04:46.19 ID:igcFWV240
1 選択

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【割れた窓ガラス】


この部屋に入って死体と同じくらいに目につくのが、この窓だ。
乱暴にこじ開けられたであろう窓は、ギザギザの鋭利な断面が剥き出しになっており、指を少しでも触れようものなら鮮血が流れてしまうだろう。


美琴「大胆な犯人だよね、窓ガラスを割っちゃうなんて」

ルカ「おう……音もかなり大きかったし、だいぶ乱暴したみたいだな」

美琴「これまでの二つの事件とは少し毛色が違うね、やっぱり」


七草にちかと田中摩美々。私たちはこれまで二つの事件を経験し、彼女たちの犯行を全て解き明かしてきた。
だが、ここまでの『悪意』を感じる凶行は初めてだ。
明確に犯人がその手を汚し、己がエゴイズムのために重ねた犯行。それを象徴するのがこの割れた窓ガラスだ。
しかし事件を解き明かす上ではその『悪意』も重要な手掛かりになるはずだ。この割られた窓に隠された真実を私たちの手で突き止めねば。


美琴「ガラス窓が割られた時、ルカは冬優子ちゃんと果穂ちゃんの二人とテレビ通話を繋いでたんだっけ」

ルカ「おう、あいつらから緊急の連絡があってな。ちょうどそのタイミングで背後からこの窓が割れるでけー音がしたんだよ」

美琴「その音自体は二階にいた私たちも気づいたな、汗をかいてたからそれを拭ってから階段を下りたんだけど」

ルカ「汗をかいてた?」