1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 15:45:07.69 ID:gJsDt4eH0
貴音「いま溢れるキミはメロディ~……♪」

ぽんっ!

P「うわわっ!」ドテッ

貴音「はて、プロデューサー?」

P「いたたた……な、なんだ? ここは……レッスンスタジオ?」

貴音「突然現れて、どうしたのですか?」

P「貴音? いやー、何がなんだか俺にもさっぱりわからないんだけどさ……
 ついさっきまで事務所にいたんだけどなぁ」ポリポリ

貴音「面妖な……」

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 15:50:07.42 ID:gJsDt4eH0
P「せっかくだし、貴音の歌うところでも見ていこうかな」

貴音「レッスンを見てくださるのですか?」

P「ああ。まぁ、俺が出来るアドバイスなんて、もうほとんど無いだろうけど……いいか?」

貴音「……ええ、構いませんよ。では……」


……今溢れるキミはメロディ

     誰も止められないメロディ……♪


P「……」

貴音(……こうしてあなた様にレッスンを見てもらうのも、随分と久しぶりですね)

貴音(私、なんだか、緊張してしまいます……)

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 15:57:32.12 ID:gJsDt4eH0
 
……

P「……良い歌だった、掛け値なしに」パチパチ

貴音「ふふっ。ありがとうございます」

P「じゃ、俺はそろそろ事務所に戻るよ。仕事も残ってるからさ」

貴音「あっ、あの……」

P「どうした?」

貴音「……いえ。それでは、また後ほど」

P「ああ。レッスンが終わったら、報告に来てくれ」

貴音「はい……」

P「このあともレッスン、頑張れよ。それじゃ!」

貴音(行ってしまいました……)

貴音(……しかたありませんね。昔と違って、今のプロデューサーは、大変にお忙しい身なのですから)

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 16:10:31.41 ID:gJsDt4eH0
 
……

貴音「……。もう、こんな時間ですね」

貴音「私もそろそろ、帰るといたしましょう」

……

【街中】

テクテク……

貴音(765プロでアイドルとしてデビューして、あのお方と出会い……)

貴音(私達は共に、頂点を目指して尽力して参りました)

貴音(……光陰矢のごとし。気が付けば、あれから、
   およそ一年の時間が経過していて……)

貴音「……」チラッ


街頭テレビ『……ねぇ いいかな ずっと願い続けてて……』


貴音(私、四条貴音の名は確かに、それまでとは比べ物にならないほど、
   多くの人々の間で知れ渡るようになりました)

貴音(けれど……)

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 16:23:36.09 ID:gJsDt4eH0
貴音(けれど……)


 『貴音、次はテレビ局に営業に行こうか』

 『良い仕事、取れるといいんだけど……あ、いや、ごめんごめん。俺がこんな弱気じゃいけないよな』

 『そうだな。俺たちなら、絶対にいける! 一緒に頑張ろう!』


貴音(……、そんなやり取りをしたのも、もう随分と、昔のこと)

貴音(今私が歩むその隣に、あなた様はおりません……)

貴音(あなた様は今では、押しも押されぬ有名プロデューサー。
   もう、私だけに構っている時間など、ないのです……)


貴音「……」


貴音(……私はいつから、再びこんなにも、弱くなってしまったのでしょうか)

貴音(プロデューサーと共に多くの苦難を乗り越え、
   希薄だった自分の存在に、価値を見出すことが出来て……)

貴音(もう……、昔のままの私では無くなったはずなのに……)

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 16:34:19.42 ID:gJsDt4eH0
【765プロ事務所】

ガチャッ

貴音「ただいま戻りました」

小鳥「あら、貴音ちゃんじゃない!」

貴音「小鳥嬢……」

小鳥「レッスン、お疲れ様。報告に来てくれたのね」

貴音「ええ。あの……プロデューサーはどこに?」

小鳥「ああ、プロデューサーさんなら、やよいちゃん達を連れて外に行っちゃったわよ」

貴音「……、ここには、いないのですか?」

小鳥「うん、さっき急に仕事が入ってきてね。イベントがあったんだけど、人手が足りなくなっちゃったらしくて……
   それで、ちょうど事務所にいたやよいちゃんに……」

貴音「……」

小鳥「……貴音ちゃん?」

貴音「……! は、はい」

小鳥「どうしたの? なんだかぼんやりとしてるみたいだけど……」

貴音「……いえ」

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 16:43:01.13 ID:gJsDt4eH0
小鳥「それにしても、凄いわね、貴音ちゃん」

貴音「はて……、凄い、とは……なんのことでしょうか?」

小鳥「新曲。発売までまだ一ヶ月もあるのに、もうどの店舗も予約でいっぱいだって、
   プロデューサーさんも喜んでたわよ」

貴音「……」

小鳥「……あ、あら? 貴音ちゃんはあんまり、嬉しくない?」

貴音「……いいえ。大変光栄に思います」

小鳥「そ、そう……」

貴音「……」

小鳥(うう、なんだか気まずい)

小鳥「え、えっと、どんな感じだったかしら。新曲の出だし……」

小鳥「いま重なるキミはメロディ~……?」

貴音「……ふふっ。違いますよ、小鳥嬢」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 16:51:01.14 ID:gJsDt4eH0
貴音(……私の顔を見て、小鳥嬢は何やら察したようです)

貴音(……ありがとうございます。そして……申し訳ありません)


貴音「重なる、ではなく……正しくは……」

スゥ……


……今 溢れるキミはメロディ……♪


小鳥「ああ、そうだったわね──

ぽぽんっ!

P「フレーフレーガンバレ さぁ行こお……、お、うおぉっ!?」ドテッ

小鳥「……!? ぷ、プロデューサーさん!?」

貴音「まぁ……!」

P「な、なんだなんだ……!? ここは……事務所!?」

小鳥「な、何でここに? やよいちゃん達はどうしたんです?」

P「こっちが聞きたいですよ……あいたたた」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 16:59:13.21 ID:gJsDt4eH0
貴音「あなた様……!」

P「あ、貴音……レッスン、終わったのか?」

貴音「は、はい……」

P「そっかそっか。お疲れ様!」

貴音「……」モジモジ

P「……貴音?」

貴音(……不思議なものです。一体なぜでしょうか……。
   先ほどまで、あれほど、あなた様のお顔を一目見たいと、そう思っていたのに)

貴音(いざ、目の前にしてみると……言葉が、見つかりません)


小鳥「プロデューサーさん。はやく会場に戻ったほうが、いいんじゃないですか?」

P「そうですね……」

貴音「あっ、あの!」

P「ん? どうした?」

貴音「……」

貴音「……私も、あなた様と一緒に行って、よろしいでしょうか……?」

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 17:08:48.51 ID:gJsDt4eH0
【イベント会場】

やよい「……あっ! プロデューサー!」トテテ

P「おお、やよい! 突然のステージだったけど、どうだった?」

やよい「えっへへー、ばっちりでしたっ!
   お客さんみーんな喜んでくれて、思わず私も嬉しくなっちゃって、うっうーって!」

貴音「やよい、お疲れ様です」

やよい「ああっ! 貴音さんも! えへへー……こんにちは!」

貴音(やよいはいつでも、元気に満ち溢れていますね……)

貴音(……私は……そんなあなたのことを、とても羨ましく思います)


P「突然いなくなっちゃって、ごめんな」

やよい「へーきです! でも、どこに行ってたんですか?」

P「事務所だよ。気が付いたらあっちに行ってて」

やよい「へー……フシギですねっ!」

P「そうだなぁ……ま、やよいが一人でもちゃんとやれたみたいで、良かったよ」


貴音(……)

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 17:17:56.28 ID:gJsDt4eH0
やよい「あれ? でも……」

貴音「……? どうしたのですか、私の顔に何か……」

やよい「あのっ! 貴音さん、なんだか元気がないかなーって……」

貴音「そ、そう……でしょうか」

やよい「あぅ……そ、それじゃあ! 元気がないなら、アレをしましょーうっ!」

貴音「はて……アレ、とは?」

やよい「えへへー……」

スッ

貴音「……ふふ。アレ、ですね」スッ

やよい「ハイ、ターッチ!」

貴音「たーっち!」

パチンッ……

やよい・貴音「yeah!!!」


貴音(……きっと、私は……。やよいの元気を羨ましく思ったのでは、ありませんね)

貴音(私が真に羨ましかったのは……プロデューサーの瞳にうつるあなたの姿、なのでしょう……)

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 17:26:57.25 ID:gJsDt4eH0
P「さて、それじゃあ……帰ろうか」

やよい・貴音「はい!」


……


【車の中】

ブロロロロ……

P「……しっかしどうしようかな。しかたないからもう一個車出しちゃったけど、
 会場近くの駐車場にも……明日取りに行くしかないか……」ブツブツ

やよい「すぅ……すぅ……」

貴音「……寝てしまいました」

P「ん? そっか……なんだかんだ言って、疲れてたんだろうね。
 やよいはいつもパワフルだけど、ここのところずっと、仕事であっちこっち行ってたから」

貴音「……ふふっ」ナデナデ

やよい「むにゃむにゃ……」

貴音「まるで、天使のようですね……」

P「……ああ、そうだな」

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 17:37:02.21 ID:gJsDt4eH0
ブロロロ……

P「……そういえば、貴音。さっきはどうして、ついてくるなんて言い出したんだ?」

貴音「……あの、ご迷惑、だったでしょうか……?」

P「い、いやいや! そんなことはないけど……
 でも貴音だって、今日はレッスンだけだったけど、最近休みもほとんどないじゃないか」

P「だから、スケジュールが済んだなら、もう帰って休んでても良かったんだぞ」

貴音「……プロデューサー」

P「ん?」

貴音「ふふっ……相変わらずのようですね」

P「相変わらずって……なんのこと?」

貴音「……いえ」

貴音(あなた様は……相変わらず、いけずです。あの頃から、ずっと……。
   少し考えれば、私の思いなど、すぐに気付くことも出来るはずなのに……)


貴音「……たまには、あなた様のご活躍ぶりを、この目で見ておきたいと思ったから……。それだけですよ」

P「そ、そっか……」

貴音「ええ……」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 17:45:56.22 ID:gJsDt4eH0
 
……

P「それじゃ、また」

貴音「はい。ここまで送っていただき、ありがとうございました」

P「……なぁ、貴音」

貴音「……?」

P「何か……、俺に言いたいことが、あるんじゃないか?」

貴音「……」

P「勘違いだったらごめん。でもさっきからさ、心ここにあらずって感じだったからさ。
 俺でよかったら、いつでも相談に乗るぞ」

貴音「……ふふっ」ニコッ

P「……」

貴音「何も……、ありませんよ。心配には及びません」

P「……そっか」


貴音(……今の私は)

貴音(少しでも、あなた様のおそばにいられたなら……それで、十分なのですから)

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 17:59:39.03 ID:gJsDt4eH0
 
……

貴音「……」


リーンリーン……


貴音「……」

貴音(……ふと見上げた月は、とてもさみしがっているように感じられました)

貴音(身体の一部がぽっかりと欠けてしまった、三日月……)


貴音(それはまるで、今の私の心のようで)

貴音(真夜中の迷路に、ひとり迷い込み……彷徨っている)

貴音(……そんな風に、見えました)

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 18:08:13.17 ID:gJsDt4eH0
 
……音も無く散るのは、枯葉なのか 夢か

                  この道を 紅く染める……


……ひび割れた願いに 傷ついた心は

                  帰る場所 無くしたまま……


貴音「……」


 『お帰り、貴音。今日もお疲れ様。良いステージだったみたいじゃないか!』

 『ああ、ごめん……今からまた、出なくちゃいけないから……、報告はあとで聞かせてくれ』


貴音(私の帰る場所は……ただひとつ、あなた様のおそばなのです)

貴音(それでも、今の私には……そんな気持ちを伝えられぬまま……)

貴音(三日月の輝きを抱きしめることしか、出来ません)


貴音(……あなた様)

貴音(あなた様はいま、何をしておられるのでしょうか……)

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 18:18:10.06 ID:gJsDt4eH0
貴音(……少しでも)


貴音「……っ、……」


貴音(少しでも、私のことを……、考えていてくれますか?)


 ぽろぽろ……


貴音(貴音は今、こんなにも……あなた様のことを、想っています)

貴音(大きくなりすぎた気持ちが、心から溢れて……
   涙という形になって、この瞳から零れてしまうくらいに……)


貴音「う、うぅ……!」ポロポロ


貴音(この想いの、十分の一でも……いえ、百分の一でも、
   私達が、同じ気持ちなら……)


貴音「それ、だけで……」

貴音「……それだけで……っ、十分、なのに……」

貴音「……あなた様……!」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 18:25:56.81 ID:gJsDt4eH0
 

ジー……

    ジ、ジー……


貴音「……?」


  ピッ……!


貴音「はて……テレビが、勝手に……?」


『……それではお聞きください。来月発売、四条貴音ちゃんの新曲……』

『「キミはメロディ」です……どうぞ』


……──♪

……Come out,Spread your heart,

               You're my melody……


貴音「……」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 18:35:10.42 ID:gJsDt4eH0
 
……今 溢れるキミはメロディ

       誰も止められないメロディ……


貴音(……そういえば、本日は……)

貴音(私がこの歌を口ずさむと、なぜか、あなた様が近くに現れましたね……)


……窓の外の陽だまりに咲く 風にそよぐ太陽の薫り

      触れた指が届けてくれる 世界中を照らすドキドキ……



貴音(……あれは一体、なんだったのでしょうか)

貴音(高木殿お得意の手品? それとも……)

貴音(……)


……──♪


貴音「……」

貴音「……──れる、キミはメロディ……♪」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 18:40:59.02 ID:gJsDt4eH0
 
……今溢れるキミはメロディ 

       言葉より確かな物は

   キミと紡ぐメモリー

       二人で描いたストーリー……


貴音(……思い出が、溢れてきます)

貴音(そのどれもが……輝かしいあの日の、二人で描いた物語)


……キラキラひかるキミの瞳の中には

       天使がくれた生まれたての涙……


貴音(今、あなた様の瞳には……、私の姿など、うつっていないのでしょう)

貴音(けれど……、けれど、私は……!)


貴音「……、……!」


ぽろぽろ……

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 18:45:47.61 ID:gJsDt4eH0
 
……──♪


貴音「……あ、なた……さま……!」

貴音「う、うぅ……!」


P「……貴音」

貴音「……!?」


P「……泣いているのか?」

貴音「え、え……!?」

P「……」

貴音「あなたさ、ま……なぜ、ここに?」

P「あはは……、実は俺にも、よくわかってなくて」

貴音「……っ、……」ゴシゴシ

貴音「それは……真、面妖なこと、ですね……」

P「本当だよなぁ……」ポリポリ

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 18:50:10.59 ID:gJsDt4eH0
P「と、とにかく! 急にお邪魔してごめん。すぐ帰るから……」

貴音「……! ま、待ってくださいっ!」

P「え?」

貴音「……あの……もう少し、ここに」

貴音「私のそばに……、いてくださいませんか……?」

P「……ああ。貴音がいいなら、もちろん」

貴音「……」

貴音「……ありがとう、ございます……」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 19:01:00.15 ID:gJsDt4eH0
 
P「……なんか、ふっと聞こえたんだよ」

貴音「聞こえた、とは?」

P「貴音の歌。今日事務所にいたときも、イベント会場でも……それに、今も」

貴音「……」

P「やよいが大きな声でキラメキラリを歌っていたときも、
 まるで心に直接届いてるみたいに、はっきりと聞こえた気がして……」

P「それで、その歌声をもっとよく聞こうと思って、耳を澄ますんだけど……
 気が付いたら、お前の近くに飛んできてたんだ」

貴音「……そう、なのですか」

P「今日はなんだか、フシギなことがよく起こるよなー……」

貴音「……ふふっ」

P「……まぁ、いいか。細かいことは」

貴音「……そうですね」


貴音(本当に……細かいことなど、どうでも良いのです)

貴音(あなた様が、私のそばにいる……。それだけで、私は……十分なのですから)

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 19:08:51.08 ID:gJsDt4eH0
貴音(きっとこれは、神さまが与えてくれた奇蹟なのでしょう)

貴音(それならば、私は──!)


貴音「……あなた様」

P「ん?」

貴音「今宵は、月がよく見えていますね」

P「そうだな……」

貴音「ですから……久しぶりに、ふたりで……お月見でも、いたしませんか?」

P「……ああ」



貴音(……二人で見上げた三日月は)

貴音(先ほどとは打って変わって、とても明るく、輝いて見えました)


貴音(あなたも、また……出会えたのでしょうか。見つけ出して、もらえたのでしょうか)

貴音(この真夜中の迷宮の中で……)

貴音(欠けた心を満たす、大切な何かと……)

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 19:18:27.70 ID:gJsDt4eH0
 
貴音(……それから私達は、月を眺めながら、今日までの思い出を語り合いました)

貴音(それは、二人で紡いできた、大切な記憶)

貴音(それは……二人で描き、選んできた……大切な物語)


貴音(……もう、先程の私とは違います)

貴音(言葉が溢れて、いくら語っても、話題が尽きることなどありません)


貴音(……そして、やがて──)


  *  *  *


P「ん……ああ、ほら、貴音」

貴音「え? あぁ……」


貴音(二人の瞳にうつった、眩しく輝く、あの光は──……)


P「……あはは。朝になっちゃったな」

貴音「……ふふっ……、もう、こんなにも……時間が経っていたのですね……」

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 19:26:13.00 ID:gJsDt4eH0
貴音「……あなた様」

P「どうした?」

貴音「覚えていますか? 前にも、一度、このようなことが……」

P「……もちろん。二人で、初めて、いっしょに月見をした日だよな」

貴音「……あれから、本当に……たくさんの時間が経ちましたね」

P「そうだな……」

貴音「……私は、太陽に、なれたでしょうか」

P「……」

貴音「照らされるだけではない……自ら光り輝く、あの太陽のように……」

貴音「今のあなた様の瞳には、私は……、そんな風に、うつっていますか?」

P「……ああ。貴音は……、俺の誇りだよ」

貴音「……。……ほんとう、に……?」

P「俺が貴音に嘘ついたこと、ないだろ?」

貴音「……」

貴音「……ふふっ、ふふふ……そう、でしたね……!」

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 19:39:18.23 ID:gJsDt4eH0
 
貴音(……あなた様は、いつだって……私にそれを、教えてくれます)

貴音(明けない夜は無い。たとえ真夜中の迷宮に迷い込んでも、
   二人で手を取り合えば、必ず……朝が訪れ、果ての無い道が開かれると)


貴音「私にとっても……あなた様は、誇りです」

貴音「私を救い出し、見つけ出して……あなた様がいなかったら、今の私は、おりません」

P「あはは……それは大げさじゃないか?」

貴音「……」

P「……貴音?」

貴音「……大げさなどということは、ありませんよ」

貴音「なぜなら……、私は、あなたさまのこ────……!」


ぐ~


貴音「……あ」

P「……あ、あはは……」

貴音「……!!」カァァ

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 19:39:46.14 ID:gJsDt4eH0
夜ご飯を食べてきます

48: 保守ありがとうございました 2013/03/14(木) 20:10:30.39 ID:gJsDt4eH0
P「……一晩経ったけど、そういえば何も食べてなかったもんな」

貴音「……」

P「えーっと……まぁ、しかたない! うん、だから……」

貴音「……」

P「た、貴音さん……?」

貴音「わ、私は……」ボッ

P「そんなに気にするなって……貴音のお腹の音なんて、俺は聞きなれてるしさ」

貴音「そういうことではありませんっ!!」

P「えっ……」


貴音(……わ、私は……)

貴音(今、何を言おうとしていたのでしょうか……)プルプル

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 20:16:51.62 ID:gJsDt4eH0
P「……あ、あはは……朝ごはん、食べにいこうか」

貴音「……らーめん」

P「マジか……朝から……?」

貴音「私の胃袋は、二十四時間準備万端ですので……」プルプル

P「嫌な胃袋だな……い、いや、付き合うよ! だからそんな、泣きそうな顔するなって!」


  *  *  *


貴音(……それからの私は)

貴音(まともに、プロデューサーのお顔を見ることが、出来ませんでした)


貴音「……」チュルチュル

P「……」ズルズル


貴音(……それでも、あなた様は……)

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 20:24:38.09 ID:gJsDt4eH0
 

  *  *  *


貴音「ふぅ……ごちそうさまでした」

P「ほら」スッ

貴音「え? これは……お水、ですか?」

P「水、飲みたそうな顔してたから。好きだったろ?」

貴音「……ふふっ。ありがとうございます」


貴音(あなた様は、いつだって……こんな私のことを……)

貴音(たとえ離れていても、考えてくださって……)

貴音(決して、見捨てずに……見放さずに、いてくれたのですね)


貴音「……」コクコク

貴音「はやー……」

P「あはは、相変わらず、美味そうに水を飲むんだな」

貴音「そ、そんなに、見ないでください……」

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 20:27:40.93 ID:gJsDt4eH0
  *  *  *


「……それでは、歌っていただきましょう!」

「リリース以来、常にランキングトップに輝き続けている、
四条貴音さんのニューシングル……」


キャー……!


「……『キミはメロディ』ですっ! どうぞー!」


ワァァ……!

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 20:29:48.50 ID:gJsDt4eH0
 

……Come out,Spread your heart,

             You're my melody……

 

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 20:35:12.93 ID:gJsDt4eH0
 
貴音(それから……)

貴音(二人で月を見上げた、あの日から……、また、幾日もの時間が経ちました)



  今溢れるキミはメロディ

     誰も止められないメロディ……♪



貴音(私は、今も変わらずに……、アイドルを続けています)



  窓の外の陽だまりに咲く

       風にそよぐ太陽の薫り……♪



貴音(……いえ、変わらず、というのは……少し違いますね)



  触れた指が届けてくれる

       世界中を照らすドキドキ──……♪

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 20:43:22.85 ID:gJsDt4eH0
 
  無理に笑顔作らないでよ

      ありのままを受け入れたら 今日も素敵な朝がはじまるよ



貴音(私の心は、今この瞬間も……、様々な色に染まっていっているのですから)



  今 溢れるキミはメロディ

          言葉より確かな物は……♪



貴音(……この歌を歌っても、もう、何も起こりません。
   神さまが与えてくれた奇蹟は、終わってしまったようです)



  キミと紡ぐメモリー

          二人で描いたストーリー……♪
 

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 20:46:05.20 ID:gJsDt4eH0
 

  キラキラ輝るキミの瞳の中には

          天使がくれた 生まれたての涙……♪


貴音(……それでも)

貴音(今の私には、誰かが与えてくれた奇蹟など……、必要ないのかもしれませんね)


貴音「……」ニコッ


 ワァァ……!!

      キャー……!!



貴音(なぜなら……今の私は────)


──────
────
──

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/14(木) 21:02:34.41 ID:gJsDt4eH0
 
  *  *  *

貴音「……もしもし」

貴音「はい……今、無事に収録が終わりました。はい、ええ……」


貴音(──なぜなら、今の私の心は……、音で彩られているから)


貴音「あの……あなた様?」

貴音「……迎えに、来てくれませんか?」


貴音(あなた様と私が奏でる、このメロディ)

貴音(この音に耳を傾けているだけで、私は……世界中の誰よりも、幸せになれるのですから)


貴音「……ありがとうございます」

貴音「あの、出来るだけ早く……来てくださいね? 私、心待ちにしていますので……」

貴音「ふふっ……それでは、また、後ほど……」

ピッ……

おわり

引用元: P「俺はメロディ」