2: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:24:16.10 ID:yN6Wn3hD0


潮「き、如月ちゃん…? だ、大丈夫?」

如月「………」

夕立「………」

潮「如月ちゃん…?如月ちゃん!?」

夕立「………」

夕立(だめだ…!!)

夕立(何か言おうにも、夕立が何言っても逆効果になるっぽい…頼みの潮ちゃんはテンパってる…)

夕立(この時間(深夜)じゃ誰か来て空気が変わるってのもないっぽい…)

夕立(余計な慰めを入れないで、如月ちゃんを元気にする方法…方法…!!)

夕立( 無 い ! )

夕立( 詰 ん だ っ ぽ い ! ! )ダラダラ


3: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:25:20.95 ID:yN6Wn3hD0


如月「…夕立ちゃん、潮ちゃん」

潮・夕立「はいっ!?」ビクッ

如月「ちょっと…外…出るわね」

潮・夕立「アッハイ。ドーゾ」

如月「遅くなると思うから、先に寝てていいからね?」ガチャ

潮・夕立「アッハイ」

バタンッ

潮・夕立「………」

潮・夕立「………」

潮・夕立(しくじった)


4: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:26:45.60 ID:yN6Wn3hD0


夕立「…どうする?」

潮「…どうしよう?」

夕立「ああ言ってたけど、如月ちゃんが帰ってくるまで起きて待ってようか」コンコン

夕立「?」

潮「はい?」ガチャ

提督「やっぱり起きてた」クスッ

潮「てっ提督!?」サッ

提督「子供が夜更かししちゃ駄目…ってまぁ今はいいや。それより如月は?」

夕立「如月ちゃんなら、さっき出かけに行っちゃった」

提督「マジか。泊地内からは出ないと思うけど…どこに行くかって言ってた?」

潮「…それが何も言ってなくて」

提督「…大丈夫かな」

提督「三人ともこの時間まで起きてるって事は、観てたんでしょ?」

夕立「…うん」


5: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:27:57.32 ID:yN6Wn3hD0


潮「如月ちゃん、あれ見てから顔真っ青で…私、どうしたらいいかわからなくて…」

提督「…辛いだろうな」

提督「自分が沈む瞬間を見せつけられるなんて」ピリリリリリン

提督「電話ぁ!? こんな時間に何だよ!?」ピッ

提督「はいっ、もしもし提督です…っ!?」チラッ

夕立(あっ、これヤバイ人から電話来たっぽい)

潮(凄い視線が泳いでる)

提督「…はい。それに関しては…はい………」

提督「~~~~~~~~~!!」ギリギリッ

提督「はい!大丈夫です!はい!こちらは………」スタスタスタ

潮「提督行っちゃった…」

夕立「…空気読んでほしいよね、電話」


6: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:29:42.32 ID:yN6Wn3hD0


潮「………」

夕立「………」

潮「…夕立ちゃん」

夕立「ん」

潮「あたし達、どうしたらいいんだろう?」

潮「どうしたら如月ちゃんを元気にしてあげられるんだろう?」

潮「あたし達が何か言っても、如月ちゃんを傷付けちゃうだけじゃないかって…」

夕立「うん。夕立もそれ考えてる」

夕立「何を言っても上から目線っぽいというか、他人事っぽいというか」

夕立「…特に夕立なんかあの番組でメイン張ってるし」

夕立「ただの嫌味になっちゃうんじゃない、かな」

潮「どうしたらいいかわかんないよ…」

潮「あたし、如月ちゃんを傷付けたくないよ」

夕立「………」


7: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:33:11.58 ID:yN6Wn3hD0


如月「………はぁ…」

如月(やだ…結構潮風強い…髪が…)ヒュウウウウウウ

如月(『髪が痛んじゃう』………か)

如月(!!)バッ

如月(敵機は、無し…って私、何やってるのかしら)

如月(前線基地でもないし、こんな所まで敵の艦載機が一機で来るわけないのに)

如月(それにあれはテレビ、テレビなんだから)

如月(沈んだのが私と同じ『如月』だとしても)

如月(私は、私はちゃんとここにいる…!)ズキッ

如月(…何かしら。この胸の痛み。さっきから痛みが治まらない)ズキズキ

如月(…何で私、泣いてるんだろう)

如月(あれはテレビでの事…)

如月(私のことじゃない…私のことじゃないのに…)

如月(何でだろう)

如月(涙が止まらない…)


8: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:34:43.34 ID:yN6Wn3hD0


如月(………)ポロポロ

如月(でも駄目よね、こんなの。皆に迷惑かけちゃう)ポロポロ

如月(夕立ちゃんや潮ちゃん…他の班の子…司令官にだって)ポロポロ

如月「んっ…ぐっ…」ググッ

如月(深呼吸して、気持ちを落ち着かせて…)

如月「すー…はー、すー…はー」

如月「……はぁ」

如月「…これで大丈夫かしら」

如月「大丈夫…こんなのは今日限り。明日からは元通りよ…」

如月「夕立ちゃんと潮ちゃんと訓練頑張って、司令官をからかって、みんなで笑って、おいしいご飯を食べて気持ちよく寝る…」

如月「いつもの如月に戻るのよ。大丈夫…できる…できる…」

如月「できる、できる、できる、できる、できる、できる………」ブツブツブツブツ

如月「…よし、戻りましょう」

如月「普段どおり…普段どおりでいいのよ…」ブツブツ


9: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:36:01.88 ID:yN6Wn3hD0


夕立「………」

潮「………」

如月「…」ガチャ

夕立「あっ」

潮「如月ちゃん、おかえり」

如月「ただいま、二人とも」

如月「もしかして待っててくれたの?」

夕立「そんな事より、さっき提督さんが探しに来てたよ」

如月「司令官が?」

潮「如月ちゃんのこと…心配してて…」

如月「そうなの?でも大丈夫よ。ちょっと身体が熱くなってたから風に当たってただけ」

如月「それよりごめんね。待たせちゃったみたいで」

如月「司令官には大丈夫だって、明日言うわ」


10: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:37:48.16 ID:yN6Wn3hD0


如月「今日はもう寝ましょう? 明日は演習なんだから」

夕立「…うん」

潮「うん」

夕立「…電気消すね。おやすみ」

潮「おやすみなさい」

如月「おやすみなさい」パチン

夕立「………」

潮「………」

如月「………」

夕立「如月ちゃん…」

如月「なぁに夕立ちゃん」

夕立「あ………」

如月「?」

夕立「あ、明日の演習頑張ろうね」

如月「えぇ。頑張りましょう。夕立ちゃんの第二次艤装改修も近いしね?」


11: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:39:57.51 ID:yN6Wn3hD0
早速誤字出しました。修正します。

>>10


如月「今日はもう寝ましょう? 明日は演習なんだから」

夕立「…うん」

潮「うん」

夕立「…電気消すね。おやすみ」

潮「おやすみなさい」

如月「おやすみなさい」パチン

夕立「………」

潮「………」

如月「………」

夕立「如月ちゃん」

如月「なぁに夕立ちゃん」

夕立「あ………」

如月「?」

夕立「あ、明日の演習頑張ろうね」

如月「えぇ。頑張りましょう。夕立ちゃんの第二次艤装改造も近いしね?」


12: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:40:56.18 ID:yN6Wn3hD0


夕立「………うん」

如月「夕立ちゃんの艤装改造が終わったら次は潮ちゃんよ。一日でも早くなれるように頑張らないと」

潮「えっ、あっうん…」

如月「あっ…話しちゃってごめんなさい?そろそろ寝ましょう?」

夕立「………うん」

夕立「おやすみ」

夕立(やっぱり、夕立が変に声かけない方がいいっぽい)

夕立(如月ちゃんは一生懸命忘れようとしてるんだ)

夕立(だったら変に話題に出して思い出させちゃいけないっぽい)

夕立(もうあれは思い出しちゃいけないっぽい)

夕立(今日のあれは、悪い夢)

夕立(だから…これでもう…終わりに…しよう…)ウトウト

夕立(明日からは…今までどおりで…)

夕立「」スースー

如月「………」モゾッ


13: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:41:22.81 ID:yN6Wn3hD0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




14: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:42:16.96 ID:yN6Wn3hD0


気が付くと私は、海の上で一人、立っていた。

遠くの方で、何かが爆発する音が聞こえる。何度も何度も聞いてきた、聞き飽きた位の音。

耳に水が詰まったような感覚。

爆音に紛れて誰かの叫び声が聞こえる。

回避、大発、不可

機銃、魚雷、敵機接近

――――敵機?

首が、頭が、視界を上に動かした。

青い空に、黒い影。あぁ、敵機だ。

逃げなきゃ殺される。だけど身体が動かない。

何かが私を縛り付けている。

影から小さな影が出てくる。

吸い込まれるように、私の身体にぶつかってきたそれは、

破裂して、中から飛び出した炎が私を包み込んだ。

痛い、息ができない、炎が剥がれない。

熱い、身体が燃える、決して逃げられない。

顔まで上ってきた炎と、足まで覆い尽くした炎が重なって、私の身体を逆方向に折り曲げる。


そして、形容しがたい痛みと共に

私の身体は二つに千切れた。


15: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:43:16.00 ID:yN6Wn3hD0


如月「んあぁっ!!」ガバッ

如月「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

如月「………あ」

如月(夢?)

如月(あれが夢?)

如月(ひどい夢…あんなのを見せられた後にこんな夢って)

如月(こんなに…死んじゃうかもしれないくらい痛くて…)

如月(怖くて…)

如月(あれ?)チカッチカッ

如月(…私の携帯)カチッ

『テレビ見たよ。大丈夫?』

如月(………)

如月(…久しぶりのメールね。パパ)


16: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:45:57.87 ID:yN6Wn3hD0


「本当に、なるのか?」

「うん」

「如月型艦娘の適正があるって決めてから、これしかないって思ってた」

「パパの会社の名前と一緒で、パパの会社が艤装を作って」

「そんなパパの娘が『如月』の適正者! これって凄い運命だと思わない?」

「運命なんて…そんな事で命を粗末にするなんて」

「粗末になんてしないわよ」

「私も『如月』になって、色んな『如月』のお手本になりたいの」

「それに私が活躍すれば、パパの会社も有名になる!」

「それって凄く素敵な事じゃない!?」

「……………」

「大丈夫よ。艦娘って頑丈だから、よほどの事が無い限り死なないんでしょ?」

「それに、私が身に付けるのは、パパが作ってくれる艤装なんだから」

「だから他のどんな艤装より…安心できる」

「戦艦『大和』とか『長門』より、私は駆逐艦『如月』を信じてる」

「だから大丈夫!」

「…わかった」

「そこまで言うのなら止めはしないよ。応援する」

「最高の教官も用意するよ。僕のわがままだけど、それ位はさせてくれ」

「やるからにはお前を、最高の『如月』にしてやりたい」

「…パパ」

「でも無理はしないでくれ」ギュッ

「艦娘になって、今までの名前を封印して、顔が変わって、遺伝子が変わっても、お前はパパとママの娘なんだ」

「パパとママはお前を愛している。どんな姿になってもだ」

「それだけは忘れないし、忘れて欲しくない」

「それと、僕達は愛する娘の死ぬ所なんて絶対に見たくない」

「うん」

「死ぬ位なら活躍なんてしなくていい。無理はしないでくれ」

「うん」

「本当は、お前が傷付く事も嫌なんだ」

「うん」

「だから絶対、絶対、生きて帰ってきてくれ」

「…うん」


17: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:47:39.58 ID:yN6Wn3hD0


如月「………」ピッ

『支給品確認表に載ってないものが入っててびっくりしたかな?』

『軍の人にお願いして、特別にこれだけ入れさせてもらった』

『この携帯が僕達の唯一の繋がりになると思う』

『本当なら、僕らはもう親子ではない。艦娘になると顔も遺伝子も変わってしまう』

『今までの名前も封印して、艦の名前が新しい名前になる』

『この戦いが終わるまでは、赤の他人みたいなものだ』

如月(…もしくは、戦死するまで)

『だからよほどの事が無い限り連絡はできないし、しない』

『でも、もし本当に辛くなった時は』

『逃げ出したいくらい辛くなった時は』

『電話してほしい』

『うちの財力なら、艦娘を一人連れ出す事くらい簡単にできる』

『いつでも迎えに行けるから』

『だからまた声を聞かせてほしい』

『パパより』

如月「……………」


18: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:49:22.36 ID:yN6Wn3hD0


如月(うぅん。まだ大丈夫!)

如月(…大丈夫!…大丈夫!!)ズキンッ

如月(こんな、胸の痛みなんて、耐えられる…!!)

如月(……耐えなきゃ…!!)

如月(『如月』の見本になるって決めたんだから…!簡単に折れちゃいけない…!!)

如月(それに、パパの為に……司令官の為にも……!!)カチカチカチカチ

如月(私は折れるわけにはいかない…!!)ピッ

『大丈夫よ。ありがとう』

如月「……………」

如月(寝ましょう)バサッ

如月(明日は演習なんだし…)

如月「私は、本当に大丈夫だから…」

「いいや」

「あなたはもう終わり」

如月「えっ」ガバッ

如月(………)

如月「…何、今の。何て言った?」

如月「気のせいよね。空耳よね?」

如月「………」

如月(寝ましょう)バサッ

「あなたも近いうちに」

「死ぬ」

如月「!!」

如月(うるさい!!)バッ

如月(何なのもう!何も聞きたくない!)

「………死ぬ」

如月「~~~~~~~~~!!!」ガタガタガタガタガタ


19: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:49:54.63 ID:yN6Wn3hD0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




20: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:51:41.56 ID:yN6Wn3hD0

-翌日 昼-



阿賀野「さーみんなー! 今日は演習だよー!」

龍田「提督はいないけど、代わりに大淀ちゃんが演習相手見つけてきてくれたからねー」

龍田「…って」

如月「………」

龍田「如月ちゃん?」

如月(ぜんぜん眠れなかった)

如月(昨日の夢と、変な声…)

如月(何でいきなりあんな夢を見たのかしら)

如月(『あの時と同じ』、艦載機の攻撃で…)

如月(…『あの時』?)

如月(『あの時』って、どの時?)

如月(テレビでの事?いや、違う。でも何で確信を持ってそうだと答えられるのかしら?)

龍田「き・さ・ら・ぎ・ちゃん?」

如月「!」ピクン

龍田「大丈夫?」

如月「えっ、え…えぇ! いつでも大丈夫です」

龍田「本当に?」

如月「はい」

龍田「無理しちゃ駄目だよー? あなた達はうちの期待の新人さんなんだから」

阿賀野「そうだよ。私たちのはじめての部下なんだし、みんな大事なんだから!!」

阿賀野「夕立ちゃんも、潮ちゃんも、暁ちゃんもね!」

暁「…なんかついでみたいな言われ方じゃない?」

阿賀野「そんな事ないよ!」

阿賀野「みんな大事!大事!!ねー潮ちゃん!」

潮「あははっ…ありがとうございます」

龍田「それじゃあそろそろ本題に入ろうかしら」

龍田「今日の演習相手はね―――」

如月「………」


21: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:52:16.95 ID:yN6Wn3hD0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




22: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:55:11.61 ID:yN6Wn3hD0


阿賀野「偵察機ちゃんから入電…うんっ敵艦発見!」

龍田「軽母1、軽巡2、駆逐3。典型的な軽空母戦隊ね」

如月(空母)ピクッ

夕立「こっちは軽巡2の駆逐4だから、制空権は取られる」

暁「空からの攻撃をしのいだらこっちの番なんだから!」

阿賀野「そうだね。その為の…新兵器!!」

潮「この…91式高射装置、でしたっけ?」

龍田「そうそう。今回の目的は高射装置の運用実験と対空の訓練ってところねー」

阿賀野「これ使って、どこまでやれるか試して、提督さんに結果レポ出さなきゃいけないのよね!!」

龍田(多分レポ作るのは私か大淀ちゃんになると思うんだけどな)

阿賀野「って言ってる間に敵艦隊見ゆ!!」

阿賀野「それじゃ一番手の潮ちゃん!早速高射装置使って!!」

潮「は、はいっ!!」ドォン!ドォン!

龍田「阿賀野ちゃん、私達も対空やるわよ」ガチャッドンッ

阿賀野「アイアイ。対空にも便利な阿賀野砲の力、見せてあげるんだから!!」ガチャッドンドンッ

潮「くっうぅぅぅぅ!!」ドォン!ドォン!

龍田「あら~、潮ちゃん結構いい線いってるんじゃない?」

阿賀野「才能だねー…みんな一回はやってもらおうと思ってたけど、しょっぱな当たり引いちゃった?」

夕立「如月ちゃん!そっちに艦爆行った!!」

如月「!!」


23: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:57:44.90 ID:yN6Wn3hD0


(…迎撃!!)

何度も繰り返してきた動きを、今一度再現する。迫り来る艦載機への迎撃。

こちらの斜め上からの降下体制に入った艦爆を視界に捕らえ、砲を向ける。

砲を構えた腕が不意に震え出す。もう片方の腕で無理やり震えを押さえ込む。

(何やってるのよ!!)

(いつも通り練習通りにやるだけじゃない!いつも通りにやって迎撃して落とす)

(そうじゃないと…そうじゃないとぉ!!!)


「また死ぬ」


(!!!)

「やっぱり聞こえてるんでしょ」

「無視しないで」

「そろそろ見えてくるはずよ」

「貴方を殺す、貴方を殺した」

「影が」

向かってくる九九艦爆のフォルムが黒く濁り、単細胞生物が分裂するように影から二つの影が産み出される。

一つは見飽きた影。深海棲艦が産み出す艦載機の影。

一つは見慣れない影。大きな白星を貼り付けた影。

影に貼り付いた白星から大量の情報が如月の脳内に読み込まれていく。

(そうか)

(あれは…昨日のあの夢は!!)

(駆逐艦『如月』の最期…!!)

如月の心臓に、荒縄で直接縛られたような痛みが突き刺さる。

昨日如月はアレに殺された。

昔の如月もアレに殺された。

それなら『私』は?

「 三 度 目 に 貴方を殺すのは」

三つの影が再び溶け合う。

「こ れ ?」

溶け合った三つの影が大きく黒い九九艦爆を形作る。


24: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 20:59:34.64 ID:yN6Wn3hD0


黒い九九艦爆が抱えた爆弾が鈍く光ると同時に、如月の身体は催眠術にかかったように動かなくなる。

迎撃しようと挙げた腕を下ろす事もできない。引き金を引く事もできない。

まるで全ての力が身体の震えに使われているように。

まるで昨日の夢のように。

(…嫌)

(嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌ぁ!)

自分の心はこれ以上無いほど暴れている。

反して身体は動かない。何かが私を縛り付けている。

目を逸らす事すら許されない。

まるで昨日の夢のように。

まるで昨日の夢のように。

まるで、昨日の夢の、ように。

あの夢の最後、自分はどうなったか!?

「さぁ」

あぁ!

「貴方もいらっしゃい」

あぁ!!

「こ ち ら の 世 界 に」

爆弾が!爆弾が来る!

私を殺す爆弾が降ってくる!!

誰か助けて!!

阿賀野さん!龍田さん!暁ちゃん!夕立ちゃん!潮ちゃん!

パパ!ママ!司令官!!

司令官!司令官!司令官!司令官!司令官!司令官!司令官!司令官!司令官!
司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官
司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官
司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官司令官
司令官司令官司令官司令かああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ





























25: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:00:21.64 ID:yN6Wn3hD0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




26: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:02:32.07 ID:yN6Wn3hD0


明石「やっと落ち着いてきた…よかったぁ」

龍田「…よかった」

明石「でもまだ意識は戻ってないですし、しばらくはこのままにしておかないといけませんね」

天龍「龍田いるか?」ガチャッ

龍田「あら、天龍ちゃん」

明石「天龍さん?うちの泊地に天龍型艦娘(※)っていなかったような」

※ここでの『天龍型艦娘』は『天龍の名を持つ艦娘』の総称としての言葉 (龍田は『龍田型艦娘』という扱い)

天龍「俺はパラオ第一四泊地所属の天龍だ。今日は演習でこっちに来てる。ほら、ドックタグと許可証」チラッ

明石「あっはい。失礼しました」

龍田「もう片付け終わっちゃった?」

天龍「あぁ。艤装のメンテも終わった」

龍田「なんかごめんね」

天龍「気にするなよ、それより如月大丈夫なのか?」

明石「意識はまだ戻っていませんが、さっき脈拍も落ち着いたところです」

天龍「そうか」

天龍「龍田、ちょっと話がある。今いいか?」クイッ

龍田「ん~」チラッ

明石「大丈夫ですよ。如月ちゃんは私が見てますから」

龍田「そう。それじゃあちょっと失礼しまーす」ガチャッバタン


27: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:08:45.31 ID:yN6Wn3hD0


龍田「それで、話ってなぁに?」

天龍「何で如月を演習に出した?」

龍田「何でって、如月ちゃんの練度向上の為よ」

天龍「違う、そうじゃない」

天龍「俺が言いたいのは、何であんな事があったのに無理して出撃させてるんだって事だ」

天龍「昨日のテレビ、見たろ?」

天龍「如月型艦娘の轟沈」

龍田「見たよ。でも如月ちゃんは大丈夫だって言っていたし」

龍田「如月ちゃんはうちの主力候補生だから、今のうちに練度上げておきたいの」

天龍「そりゃ如月に気を使われたんだろう」

天龍「誰彼構わず甘えるようなタイプにも見えないからな」

天龍「だけど今回のは本当にヤバイんだ」

龍田「本当にヤバイって?」

天龍「テレビでの如月型艦娘の轟沈の様子が駆逐艦如月の最期とそのまま一緒なんだ」

天龍「航空機による攻撃で魚雷管が誘爆、轟沈」

天龍「しかも沈んだ場所まで一緒のW島ときた」

天龍「こんなん見せられてみろ。俺達には理解できないかもしれないけど、本人にとっちゃきついなんてもんじゃない」

天龍「そりゃ艦載機見ただけで意識飛ぶのも無理はねぇよ」

天龍「一度ならず、二度も自分を殺したモンに怖がるなって言う方が無理な話だ」

天龍「『今度もそうなるんじゃないか』って、考えちまうよ」

天龍「それにそれだけじゃねぇ…」

天龍「………」


28: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:11:58.45 ID:yN6Wn3hD0


天龍「龍田。ちゃんと聞いてくれ」

龍田「なぁに天龍ちゃん?かしこまっちゃって」

天龍「今からでも遅くない。如月を連れて俺の鎮守府に来い」

龍田「え?」

天龍「お前は自分の泊地の事だから気付いてないかも知れないけど、お前の泊地相当ヤバイぞ」

龍田「ヤバイって何が?」

天龍「提督がだよ」

天龍「コミュニティサイトとか見りゃすぐ出てくるぞ、お前とこの提督の噂」

龍田「何かあったかな?確かにすぐ艦娘に手出す人だけど」

天龍「ちょっと待てそれマジなのか!?」ガバッ

龍田「うわぁんっ」ビクンッ

天龍「龍田お前は大丈夫なのか!?何でそんな平然としてるんだ!?」ユサユサユサ

龍田「ちょっと待って天龍ちゃん。どういう事?」ユサユサユサユサ


天龍「だってお前…xxxされたんだろ!?」

龍田「えっ?されてないけど」


天龍「えっ」

龍田「xxxされてないけど」

天龍「………」

龍田「提督がxxx魔だって噂が流れてるって事?」

天龍「…あ、あぁ。そうだ」

天龍「配属されてきた艦娘をさ、権力を傘にしてxxxしてんだと」

天龍「あとは命令を聞かない艦娘だとか気に食わない艦娘だとかを懲罰という名目でxxxだとか」

天龍「それだけじゃねぇ泊地の運営費の横領、憲兵への賄賂、市民への脅迫、艦娘の強制労働!」

天龍「もうこれ以上のものは無いってくらい色々聞くぞ」

龍田「なんか色々ひどいね」

龍田「でも友提督さんの鎮守府とかならともかく、こんな辺境の中の辺境みたいな泊地だと運営費もたかが知れてるし」

龍田「憲兵なんて定期的な見回りでも年に一・二回しか来てないし」

龍田「提督はご近所トラブルを怖がって低姿勢だし、潜水艦娘なんて暇だからってたまに事務仕事手伝ってるよ」

天龍「………」

龍田「………」


29: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:14:12.78 ID:yN6Wn3hD0


天龍「…でも火の無い所に煙は立たないって言うからな。お前の知らない所で何かやってるかもしれねぇ」

龍田(素直に折れればいいのに)

天龍「俺はな、少年院にブチ込まれてお前に会うまで、クソ野朗の掃き溜めみたいな所で必死に生きてきたんだ」

天龍「だからわかる。ああいうクソ野朗には学校で習うような道徳も常識も通じねぇ!!」

天龍「自分が反撃食らわない立場からこっちを嬲り殺しにしてきやがる!!」

龍田「そうね」

龍田「その辺は私もよくわかってるわ」

龍田「でも」

天龍「提督がそうじゃないっていう理由にはならねぇ」

天龍「もしかしたらお前の知らない所で何かやってるかもしれねぇ」

天龍「それでもお前はお前の提督を100%信じられるか?」

天龍「もしだ。もし万が一だ」

天龍「お前の所の提督が噂どおりの奴だったら」

天龍「今の如月を見て何をするかわからねぇ」

天龍「危害を…いや、ぶっちゃけて言うぞ」



天龍「遊び感覚で」

天龍「如月を殺すかもしれねぇ」



天龍「今の如月はそういうクズにとっちゃ格好の餌でしかねぇ」

天龍「『テレビで沈んだから』とか何とかぬかしながら笑って如月を殺すだろうよ」

天龍「お前にだっていつ何をするか…」

龍田「提督はそんな事しないと思うけど」

天龍「そんな事わからないだろ!?」

龍田「天龍ちゃん、ちょっと怒りすぎじゃない?」

龍田「提督の事嫌いなの?」

天龍「あぁ嫌いだね。そんなクソ野朗」

天龍「見かけたら一発と言わず十発はブン殴ってやりてぇよ」


30: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:18:44.57 ID:yN6Wn3hD0


天龍「それに何より、そんな噂が出てる提督の所にお前が居るってのが何より気にいらねぇ」

天龍「もしお前に何かあってみろ、俺はお前の提督だろうが絶対…!!」

龍田「大丈夫よ」ギュッ

天龍「あっ」

龍田「天龍ちゃんがそこまで思ってくれてうれしいわ」

龍田「でもね、私にとっての提督はね、『もう一人の天龍ちゃん』なの」

龍田「だからここから離れたくないの。私がここを離れたら、『天龍ちゃん』が寂しがっちゃうから。ごめんね~?」

天龍「あんな噂されてる奴と一緒にされたくねぇ」

龍田「えー、よく見てるとそっくりよ?」

龍田「へっぽこなのに強情張り、お調子者だし後先考えない」

天龍「龍田、お前そこまでむっ」ピトッ

龍田「だけど」

龍田「意外と仲間想いで面倒見が良いのよね」

龍田「ねっ天龍ちゃん?」ニコッ

天龍「むぅ………」

龍田「提督なら大丈夫よ。それに」

龍田「もし提督が天龍ちゃんの言った通りの人だったとしてもね」



龍田「提督くらいならいつでも簡単に殺せちゃうんだから」ニコォッ



龍田「提督の首ってね、喉仏小さいから、邪魔なものが無くて締めやすいんだよぉ?」

龍田「親指を中心に添えて」

龍田「指のお腹で死ぬまで押し潰すか」

龍田「それとも爪を立てて穴を開けちゃうか、ね♪」


天龍「」ゾッ

明石「あっ」ガチャッ

龍田「あら明石さん?」

明石「如月ちゃんの意識戻りました」

龍田「あぁよかった。それじゃあみんな呼んでくるね~」

天龍「………」

龍田「天龍ちゃん。さっきの話みんなには内緒にしてね?」ボソッ

天龍「あ、あぁ。わかった」(さっきの話のどこからどこまでを内緒にすりゃいいんだよ)

龍田「せっかく演習まで組んでもらったのにごめんね?続きはメールでしましょ」

龍田「さっきの噂の出所ってのも気になるし、教えてね?」

龍田「それじゃあね、天龍ちゃん」


31: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:19:18.36 ID:yN6Wn3hD0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




32: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:20:27.06 ID:yN6Wn3hD0


龍田「落ち着いた?」

如月「…はい」

阿賀野「体は痛い?」

如月「いえ、大丈夫です…ごめんなさい。私のせいで」

暁「いいって。それよりどうしたの?」

如月「…飛んでくる艦載機から、変な影が見えて…」

暁「影?」

如月「深海棲艦の艦載機と…」

如月「…F4戦闘機」

如月「駆逐艦『如月』を沈めた戦闘機」

潮「戦闘機って………如月ちゃん、やっぱり昨日の番組の…」

暁「番組って?」

夕立「今艦娘のドキュメンタリー番組放送してるって、知らない?」

阿賀野「あ…あぁ!あれねー?知ってるよぉ!?」

阿賀野・暁(あんな夜まで起きてられないし!普通に忘れてた!!)

潮「それで、如月型の艦娘の子が一人轟沈して…」

阿賀野「えっ………!?」ビクッ

阿賀野「もしかして…艦載機の攻撃で?」

夕立「うん」

阿賀野「…だから、さっきの演習の…艦爆…」

阿賀野「………」グッ


33: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:22:38.29 ID:yN6Wn3hD0


阿賀野「如月ちゃん」ズイ

如月「は、はい」

阿賀野「しばらく休んだ方がいいよ」

如月「い、いえ!如月は大丈夫です!!」



阿賀野「嘘つかないで!!」



如月「!!」ビクッ

阿賀野「夕立ちゃんの改造がもうすぐで、足引っ張りたくないって気持ちはわかるけどさ!」

阿賀野「それで如月ちゃんが無理して、何かあったらって考えると、怖いよ…!」

阿賀野「だからもっと自分を大事にして!!」ガシッ

阿賀野「提督さん…と、代理の赤城さんには私達がちゃんと伝えておくから!!ね!?」

如月「あ、あがの、さん?」

阿賀野「あっ…」

阿賀野「…ご、ごめんね」パッ


34: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:24:14.98 ID:yN6Wn3hD0


暁「…もぅ!!」

暁「仕事の事ばかり考えるからそんなになっちゃうのよ!!」

潮「暁ちゃん」

暁「こういう時は、あれよ!街に出て、ばーっと遊んじゃうの!!」

暁「仕事の事も嫌な事も忘れて!やりたい事やりまくるの!!」

暁「そしたらきっと変わるわよ!!」

暁「…そういえば!ここから近くの日本街も大きくなってきてるから、回ってみるときっと楽しいわよ!」

暁「だから今日はここで訓練切り上げて!皆で気分転換に行きましょ!!」ニカッ

潮「………」

如月「………」

龍田「………」

暁「行きましょ!!」ニコニコッ

阿賀野「………」

夕立「………」

明石「………」

暁「えっ?」

龍田「えっ?」ニコッ

暁「えぇっ?」

龍田「えぇぇっ?」ニコニコッ

暁「ひえぇぇぇっ!?」

如月「暁ちゃん」

如月「気持ちは嬉しいけど、如月は一人で大丈夫よ」

如月「如月一人のために皆の訓練を止めるわけにはいかないし…ね?」

暁「如月ちゃぁん…」

如月「大丈夫よ!今日はちょっと調子悪いだけだから」

如月「明日には元通りの如月を見せてあげるから、期待してて待っててね♪」ニコッ


35: ◆ZFgfLAc.nk 2015/12/27(日) 21:26:28.05 ID:yN6Wn3hD0


龍田「ほら、如月ちゃんもこう言ってるんだから、諦めてね?」

暁「きさらぎちゃ~ん…」

如月「頑張って暁ちゃん。多分私の代わりで、暁ちゃんと同じニ班の夕雲ちゃんか荒潮ちゃんが来ると思うから、ね?」

暁「あの二人なんか怖いんだもん…」

如月「そうかしら?二人とも凄くいい子よ?」

暁「そりゃ如月ちゃんはウマが合うから良いと思うけど…」

龍田「はーい。積もる話は後でねー」ガシッ

暁「ぴっ!!」ビクッ

如月「夕立ちゃんも潮ちゃんも頑張ってね」

夕立「うん」

潮「またあとでね、如月ちゃん」

暁「きさらぎちゃバタンッ

如月「………」

『ここから近くの日本街も大きくなってきてるから、回ってみるときっと楽しいわよ!』

如月「日本街…かぁ」

明石「あっ、まだ駄目。一応大丈夫かどうか検査してからじゃないと」

如月「はぁい」

如月(気分転換には、なるかしら)

明石「………」

明石「提督、何の用事か知らないけど、早く帰って来てくれればいいのにね」

如月「…はい」

明石「多分提督も如月ちゃんの事気にしてると思うよ」

如月「…それなら、いつまでもこうしてはいられないですね」

如月「早く元気になって、司令官に安心してもらわなきゃ」

明石「…そうだね。提督心配性だもんね」フフッ

明石「じゃ、ちゃちゃっと終わらせるから、パーッと遊んできなさい!!」


40: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 19:52:29.51 ID:hJmSEwpR0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




41: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 19:58:32.76 ID:hJmSEwpR0


-数時間後 パラオ日本街-


如月(…この辺も随分日本っぽくなったわね。パラオなのに)コツ、コツ、コツ

如月(確かパラオも大日本帝国時代には日本が統治してたんだっけ)

如月(防衛ラインの拡張と艦娘の拠点建造に成功したのも、その辺の歴史があったからとか、座学の時に高雄さんから教わったっけ)

如月(………)

如月(やっぱり、頭から離れない)

如月(昨日の夢は、駆逐艦『如月』の最期)

如月(ウェーク島での作戦中に戦闘機の銃撃・爆撃を受けて魚雷が爆発。船体が割れて沈没)

如月(昨日の番組でも、爆撃で、轟沈)

如月(何で…こうまで同じような…)



「それが運命だからよ」



如月「えっ?」

「何もできずに沈んでいく」

如月(また…これ…)

「何かを成す事も無く無様に死んでいく」

如月(頭の中で、何かが…)

「押し付けられるのは不理解と屈辱と侮蔑」

「それが私達に与えられた、歴史の強制力なの」

如月(な、何よ!?)

如月(運命?強制力?私達?)

如月(私もああなるって言うの!?)

如月(そんな事ない!そんな事ない!!)

如月(何だか知らないけど、今はちょっと気分が落ち込んでいるだけ!)

如月(さっきのあれだって、昨日の今日だから意識しちゃっただけ!)

如月(今日一日息抜きすれば、明日からは元気に元通りになるわ!)

如月(そうすれば、そうすれば、全部大丈夫よ!)

如月(だから、別の事を、別の事を考える!)テクテク

「……………」

如月(ほら、もう聞こえない!今のはただの空耳、気の持ちようなんだから!!)テクテクテクテク


如月「あ」ピタッ


如月(この道って………)

如月(去年の秋ごろ…私たちが泊地に来て、はじめての大規模作戦の後で、打ち上げしたのよね)

如月(私と、夕立ちゃんと、潮ちゃんと、司令官の四人だけで…)


42: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 20:03:26.81 ID:hJmSEwpR0


「さー今日はお祝いだ!じゃーんじゃん行くぞー!!」

「いぇいっぽい!」

「いぇいいぇい!!Foo!!」

「提督…打ち上げなんて本当にいいんでしょうか?」

「え?何で?」

「渾作戦…結局最初しか活躍できませんでしたよね」

「あー…まさかまたあんな序盤で姫級が出てくるとは思わなかったからなぁ」

「うちの泊地で姫級沈めたのなんて、主力の奴らがアルフォンシーノで一回こっきりなんだぜ?撃退できただけでも上等だろ」

「姫級と最初にやりあった時とか、逃げるしかできなかったんだしな?」

「それよりもさぁ!」

「俺達の連合艦隊の初陣!初勝利!」

「それだけじゃなくて、駆逐艦のお前達が新型重巡と随伴の戦艦の撃沈!」

「俺はね!これを評価したい!!」ウン!

「元々連合艦隊の主力として期待してたけど、こんなにも早く結果出してくれるとは思わなかったよ!!」

「お前達を選んでよかった!いやーもう最高だよお前ら!!」

「もー、司令官ったら…そんなに褒められると、如月困っちゃうわ」

「いいじゃんいいじゃん!」ポンポン

「ひゃっ」

「お前達は頑張ったよ!お前達がこの土地を守ったんだよ!!」ワシワシワシ

「もっといっぱい褒めちゃるよ!ホラホラホラホラ!!」ワシワシワシワシワシ

「いやぁん!髪がっ髪がぁ!」

(もしかして提督、もう酔ってる?)

「ほれほれ困れ困れー!!!」ワシワシワシワシワシワシワシワシワシワシ

「きゃー!!きゃー!!」


43: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 20:05:55.26 ID:hJmSEwpR0


「…まぁアホするのもここまでとしてだ」パッ

「」モシャァ

(切り替え早すぎっぽい)

(如月ちゃんの髪、提督のせいでぐしゃぐしゃになってるんだけど)

「戦争ってのはでかいチーム戦だ。一人が勝てばそれでいいってもんじゃないんだ」

「みんなが勝って、それが積み重なって、作戦の成功とか勝利とかに繋がるんだ」

「だからお前達が頑張ってアイツを沈めた事が、今作戦の成功の一因になったんだよ!!」

「ふーん」

「そうなんでしょうか」

「そうなんだよ!?」

「だからな、こういうのでMVPが誰だとかは俺はあんまり気にしたくない」

「俺達の勝利は俺達みんなで均等に分けたい」

「例えミスしようが迷子になってようが、戦う意思を持っていたんだから、名誉はちゃんとあげないといけないと思う」

「お前達だって、そうじゃなきゃ命張りたくもないでしょ?」

「そうじゃなきゃなあ…」

「………」

「…よぉし駆逐一班!前を見なさい!」

「は、はい!」

「はい?」

「はーい」

「よぉく覚えておけよ」

「この街、この道、この建物を、お前達が守ったんだ」

「おっかない化け物相手に勇気を振り絞って守りきったんだ」

「夕立達が…」

「そう!だから命令!」

「慢心しない程度に、誇りに思いなさい!!」


「お前達は、本っ当に!よくやった!!」



44: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 20:07:05.00 ID:hJmSEwpR0


如月(あの時髪はめちゃめちゃにされちゃったけど嬉しかった)

如月(司令官のあったかい手も、言葉も、全部嬉しかった)

如月(…司令官)

如月(私の事を期待してくれている、大切にしてくれている、大切な人)


45: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 20:12:53.50 ID:hJmSEwpR0


「お前(如月)を使う理由?」

「前に先生…教官に言われたの」

「睦月型駆逐艦の艤装は全体的に性能が低くて低燃費だから、戦闘には参加しない遠征要員になるのが殆どだって」

「だから如月も、遠征要員になっちゃうんだろうなって思ってたわ」

「でもいざ大本営から辞令が出てこの泊地に来たら、水雷戦隊の主力だって言われて…」

「花形になれたのは嬉しかったけど、何でなのか気になっちゃうの」

「如月が『ソロモンの悪夢』夕立と、『幸運艦』潮と一緒に戦える理由って…?」

「んー…理由、と言われてもな…」

「一個はっきりとわかるものと言ったら…」

「言ったら?」

「運命?」

「え?」ドキッ

「何というか…うちの泊地は小さいだろ?」

「艤装作りまくりーの艦娘を呼びつけまくりーので、そこから選ぶーとかそういうのできないんだよねー」

「だから、妖精さんが艤装作ったらすぐに艦娘の召集かけなきゃって思っててさ」

「そしたら妖精さんが取り出してた設計図(※)が如月型艦娘の艤装でさ」

(※)各鎮守府での建造は、資材を与えられた妖精さんが、大本営から送られてきた数多の設計図から、きまぐれに選んで行っているものとする。
(※)提督の台詞をゲーム内での実際の行動に置き換えると、「建造完了時間から見た建造結果の予測」

「理由なんて無くてたまたま私だったって事!?」

「そうだね」

「はぁー…」

「…え、何その反応?」

「運命だなんて言うから期待した私が馬鹿みたい」

「えー、でもこれだって運命の出会いだろー?一期一会よ一期一会」

「そんな全然ロマンチックじゃない運命なんて嫌よ」


46: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 20:18:25.57 ID:hJmSEwpR0


「あぁー…」

「いや、でも来てくれたのが如月でよかったってほんとに思ってるよ」

「ふーん」プイッ

「夕立も潮もちょっと極端すぎるから…」

「間に立てる、しかも落ち着いた子がいるとさ…何というか、助かる」

「それだけ?」

「『それだけ』って?…えっ?」

「本当にそれだけ?」ズイッ

「ん!?ちょっ…顔近いよ?」

「司令官言ってたわよね。私達は『期待の新人だ』って」

「こういう事は…期待してくれないの?」スッ

「いやいやいやいやどこさわってんねん」

「かわいい女の子がいっぱいいる職場じゃ溜まっちゃって大変でしょ?」

「溜まってるって?ストレッチパワーが?」

「いいわよ私は…あなたにだったら………」ボソッ

「人の話聞けよぉ」

「司令官」

「はい」

「私の事…見て…」

「あ………」(やべぇぞこれ)

「………」ドキドキ

「………」ドキドキ

「………」ドキドキ

「……………」

「なーんちゃって♪司令官ったら顔真っ赤にしちゃって、かわいい♪」

「…いやいやいやいやシャレならん事すんなって」

「嫌…だった?」

「嫌じゃないけどさぁ、大人をからかうなって」

「こんな所憲兵とかに見られたら、俺死んじゃうよ」

「じゃあ誰にも見られない所ならいいのね?司令官の部屋とか」

「そういう問題でもねぇ」

「えー」

「えーでもびーでもねぇ」

「じゃあ、しーまでイっちゃう?」

「今時どっからそんな古いネタ仕入れてきやがるんだ」

「秘密。でもぜっとまでイってもいいのよ?」

「え?あれZまであるの?Zってどこまで行くの?墓場?」

「妊娠」

「慎め」


47: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 20:24:22.69 ID:hJmSEwpR0


如月「…ふふっ」

如月(期待の新人…か。そうね、期待されてるんだったわね)

如月(司令官(あの人)も心配性なんだから、きっと今すっごく不安になってるよね♪)

如月(それじゃあ…そうね、新しい香水でも買おうかしら)

如月(それ付けて、帰ってきた司令官にぎゅーーーっとして…)



「あれ、あいつ」

「死んだんじゃなかったの?」



48: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 20:27:24.45 ID:hJmSEwpR0


如月「!!」ズキッ



「ろくに戦えもしなかったのにいいご身分だよね」

「恥ずかしくないのかな?」

「というかあんなヘラヘラしてるからあんな事になるんじゃないの?」



如月「………!!」コツ、コツ、コツ


「だから言ったじゃない」


如月(…またこの声)

「気の持ちようじゃないの。空耳でもないの」

「何度だって言ってあげる」


「これが運命」


「何もできずに沈んでいく」

「何かを成す事も無く無様に死んでいく」

「押し付けられるのは不理解と屈辱と侮蔑」

「それが私達に与えられた歴史の強制力なの」

如月(…だったら、何だっていうの?)


「全てを恨む。全てを憎む。この世の全てに殺意を抱く」


如月(!!)

如月(そんなの駄目よ…!)

如月(私は艦娘なのよ?人々を守る艦娘がそんな)

「だけど如月は死んだわ。人間は如月を切り捨てたの」

「人間に裏切られたのよ」

如月(裏切られたって…でもあれは、あの番組のあれは)

「周りを見て、悟って。私達の置かれた環境を」

「私達は、もうどうにもならない悪意の只中にいるのよ」

如月(悪意、って………)



「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


如月「」ビクッ


49: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 20:29:48.61 ID:hJmSEwpR0


男1「くっっっせぇくっせえ!!!!」

男1「なーーーんか腐った匂いがプーンプンするんですけどォォォォォォォォ!?」

男1「人肉の匂いっつーか!?ゾンビの匂いっつーか!?」

如月(な…なんなの、この人達…)

男1「どっからだぁ!?こ っ か ら だ ぁ !!!」

男1「なぁー!きさらぎちゃんよぉぉぉー!?!?」

如月「な…何なんですか、貴方達は」

男2「お前が何なんだよ」

男3「何でゾンビがこんな所に入り込んでるんですかねぇ」

男3「ここは人間様の土地なのになぁ」

如月「ゾ…ゾンビって…」

男1「ゾンビだろ?だってお前死んだじゃん」

如月「!!」ズキッ

如月「私は、死んでなんていません!!」

男1「じゃああのテレビはどういう事だぁ!?」

男1「お前『かみがいたんじゃうぅぅーん』とか言ってるときにヨォ」

男1「爆弾で」


男1「ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」


男1「で、死んだんだろぉ!?」

男1「そのお前が、何で、今、ここにいるんだって聞いてるんだよぉ!?」

如月「…あれは私じゃありません」

男3「は?」

如月「私じゃないって言ったんですよ!!」

如月「テレビで沈んだのは確かに如月型艦娘だったけど、あれは私じゃ」



男1「んなの知らねーーーーーーーーーーーーーーよ!!!!!!!!!!!!!!」



如月「」ビクッ


男1「お前は死んだんだ!!あの番組で!!!」



男1「で!!!何で死んだお前がここにいるのかって聞いてんだよ!!!!」


如月(…どうすればいいのよ)


50: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 20:32:27.67 ID:hJmSEwpR0


男1「あぁそうかわかったぞ」



男1「お前スパイだな?」



如月「えっ」

男1「お前は深海棲艦のスパイなんだな?」

男2「あぁ俺聞いた事ある。沈んだ艦娘は深海棲艦になるって」

男2「それなら今こいつがここにいるのもわかる」

男1「そういえばこないだもパラオが攻め込まれてたよなぁ」

男1「それもこいつが情報流してたからなんじゃねェの?」

如月「!?」

男2「あー!そういえばテレビでも言ってたよなぁ、『情報が漏れてる』ってなぁ!!」

如月「…違う」


男1「そうだ」


如月「違う」


男1「そうだろう!」


如月「違う!!」



男1「そうに違いない!!」



男2「うわぁなんてひでぇ話!!本当に艦娘ってのはクソばかりだな」

男1「まったくだよ。だからよ」



男1「俺達がこいつをブッ殺さないとな」



如月「!?」ゾッ

男3「そうだな」

男1「もう海軍なんて信用できねえ」

男1「自分の身は自分で守るってな」

男3「そうだな」


51: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 20:43:59.60 ID:hJmSEwpR0


無意識的に危機感を感じ、一歩引いた時にはもう遅かった。

腕を掴まれ、三本線の入った肌色のモノが視界に飛び込んで来た。

如月には意味がわからないが、鈍い痛みから、殴られたという事は感じ取れた。

顔に向かって飛んでくる。ニ発、三発、四発。

頭を狙って振り下ろされる。五発、六発、七発。

もうなんだかわからない。八発、九発、十発。

自由な片手で頭を庇うが、今度は下半身に痛みが走る。

拳より固く、大きい痛み。

蹴られていると感じた瞬間、女性的な恐怖が頭の中を支配する。

「司令官、助けて」

思わず口に出た言葉に男達は動きを止めた。

「しれいかんン?」

「司令官って提督の事じゃね?」

「あぁ、あの全然出てこない引きこもりのオタク野朗か?w」

男達が何かを思い出したように笑い出した。

「おいお前、提督のクビ飛ばしたくなかったらなあ、抵抗なんてするんじゃねぇぞ?」

「お前が本当に艦娘ならよぉ、知ってるだろ?」



「『艦娘が一般市民に手を出す事は、どんな事があっても許されない』」

「お前が本当に艦娘なら、その通りにしてみろよぉ!!」



軍規の話は如月も覚えている。しかし軍規があろうと無かろうと彼女に抵抗はできなかった。

彼女は相手に対して恐怖していた。

何をしてもどうしようもないと考えてしまった。

今まで死にそうになった事が無かったわけではない。

深海棲艦との戦いはいつも死と隣り合わせだ。

だけど、だとしても、今回の恐怖は深海棲艦と戦う時の比ではなかった。

なぜなら相手は『笑っているから』。

今までの相手のように機械的に破壊するのではない。

今までの相手のように何かを背負っている様子もない。

歯を剥き出しにして涎を垂らして裏返った声で笑い声を上げながら殴りかかってくる。

躊躇なく腹部に蹴りを入れてくる。

それが如月を何よりも混乱させ、恐怖させた。


52: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/10(日) 21:00:03.98 ID:hJmSEwpR0


「死ね」

再び横面に拳が叩き込まれた。

「死ね」

頭上から拳を叩き落された。

「死ね」

腹部に靴裏の感覚が捻じ込まれる。

倒れてはいけない。うずくまってはいけない。

頭を踏みつけられれば、馬乗りにされれば、そのまま殺される。

頭の中から湧き出てくる知識が、如月の生命をギリギリの所で維持させている。

一人の男が、どこからか石のブロックを持ってきた。

誇らしげに、『この瞬間を待っていた』とでも言いたい様に、両手で掲げて持ってきた。

何に使うかは時間をかけて考えなくてもわかる。

艦娘になって多少は丈夫になったとはいえ、艤装を付けていなければ一般人と大して変わらない。

殴られれば痛いし、骨が折れる事もある。

撃たれたら血が出るし、死ぬ事もある。

当たり所が悪ければ、艦娘だろうと普通に死ぬのだ。


では目の前の男は

掲げられたそれを、どこにぶつける気なのか。


石を掲げた『未曾有の化物』の笑顔を見て、如月の中の何かが切れた。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



叩き付けられるブロックの巻き添えを避ける為か、周りに人がいない事が幸いした。

軍規も何も関係ない。死にたくない!死にたくない!!

邪魔な男を突き飛ばして走り出した。

後ろから何か声をかけられたが、狂った頭は言語を理解できない。

頭の中にあるのは泊地までの帰り道と暗い考え。


死にたくない!

捕まったら殺される!


帰りたい!

泊地に帰りたい!


司令官!

お願い司令官!



助けて!!



57: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 17:46:23.04 ID:78lsfBPx0


「あの野朗突き飛ばしやがった!!」


「やっぱり化け物じゃないか!」


「追え!」


「ブッ殺せ!!」


「化け物だ!捕まえろ!!」


「深海棲艦のスパイが街に潜り込んでいるって!?」


「そうだよ」


「もうあんな腑抜けどもに任せてられるか!!」


「ブッ殺してやる!!」


「俺達がやるんだ!!」


「俺達の場所は俺達で守るんだ!!」


「殺せ!!」


「殺せ!!」


「殺せ!!」


「殺せ!!」


「殺せェ!!」


「おいあの通りにいるらしいぞ!!」


「ちょっと待て!俺はあっちにいるって聞いたぞ!?」




「知るか!両方ブッ殺せ!!」




「どうせ殺したってお咎め無しだ!今までの不満全部あいつにぶつけちまえ!!」


58: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 17:52:24.60 ID:78lsfBPx0



走る。ひたすら走る。



逃げ延びるために。



命を長引かせるために。



ただそれだけを考え、それ以外の考えを腫瘍のように膨らませて。



ひたすら走る。



こんな所早く抜け出したい。



泊地に帰りたい。



もうこんなのは嫌。



59: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 17:55:34.87 ID:78lsfBPx0



一撃で船を無意味な鉄屑に変える戦艦よりも



最深部で待ち構えていた、データに無い重巡よりも



今はただ、砲も持たない、ただの人間が怖い。



だから彼女は一目散に逃げ出した。



抵抗しても勝てるはずがないと心のどこかで感じていた。



捕まったら殺されると確信していた。



今の如月にとってこの街の人間は深海棲艦以上の化け物に見えていた。



60: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 18:04:15.95 ID:78lsfBPx0


必死に走り続ける如月の目の前から

突然、木材の山が激しい音と共に落ちてくる。


「きゃあああああああ!?!?」


「っは…っは…っは…!!」

目の前に崩れ落ちた木材の山を見て呆然として、屋上の舌打ちを聞き逃した。


もう少し前にいたら押し潰されていただろう。

当たり所が悪ければ、それで死んでいた。

当たり所が良くても、動けなくなって、追いつかれて、殺されていた。


もう前には進めない。

後ろからはさっきの男達が如月を追いかけて来ている。

飛び込むように、右の小道に駆け込んだ。

狭い道。どこに繋がっているかもわからない。

でもそれでも進むしかない。

死にたくないから。

殺されたくないから。


だが進んだ先は袋小路だった。


61: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 18:10:55.08 ID:78lsfBPx0


「あっ、あぁっ!行き止まり…!!」

人気の無い。暗い袋小路。

人を殺すにはある意味うってつけの場所だった。



「ハァーーーーーーーイ!これで終わりぃ!!」



「ひっ!!」

追い込んだのは最初に絡んできた3人組。

「この辺の地理でなぁ!俺達に勝てるわけねぇだろぉ!?」

「そこまでして死にたくねぇか裏切り者のくせによォおん!?」

「…裏切ってなんかない、です!」

「この期に及んでまぁだそれか」

「私はっ!私は情報も流してないし!深海棲艦でもないです!!」


「あぁもう面倒くせぇ!!おめぇが深海棲艦だろうがそうじゃなかろうが!そんなもんはどーでもいいんだよ!!」


「えっ…」


62: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 18:16:15.79 ID:78lsfBPx0


何かが目の前に投げ込まれ、金属音を響かせ、ぶつかり合い、地面を跳ね、滑る。

それは如月にとって見慣れたものだった。

彼女の、如月の髪飾り。

ただその髪飾りにはどれも赤黒い汚れがこびり付いていた。

中には強い衝撃で歪んでいるものもある。

「!!!」

如月は悟ってしまった。

これは血だ。

男達に怪我をしている様子もない。

なら、この血は…


だとすると、目の前の男達は一体


「どいつもこいつもお前みたいな反応してたよ」

「『私は深海棲艦じゃありませぇん』『私は裏切ってなんていませぇん』」

一体

「…だからそんなもん関係ねぇっつってんだよ!!」

「俺はな!俺達はなぁ!!」



「ただ 殺 し た い か ら 殺 し て る だ け なんだよォ!!!」



一体何人の如月をその手で殺してきたのか?



63: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 18:23:24.47 ID:78lsfBPx0


男1「俺はな、お前達が、前からずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっと嫌いだったんだ」

男1「どいつもこいつも偉そうなツラして街を歩いて…」

男1「どいつもこいつも自分が正しいと思いこんで…」

男1「『世界の平和は自分達が守ってます』って面しやがってよぉ!!」

男1「『だから何してもいいんですぅ~♪』ってかぁ!?あぁ!?!?」

男1「ざけんじゃねぇよ!!誰がテメェらに守ってくれって頼んだよ!?」

男1「こっちはテメェらみたいなヒトモドキの痴女ども見るだけでこちとら腹立ってしょうがねぇんだよ!!!」


男1「テメェらのせいで俺までこんな意味わかんねぇ土地(パラオ)まで連れて来られたんだ!!!」

男1「何が商売チャンスだよ!クソ親父!!クソババア!!」

男1「クソ暑い!ゲーセンも無ぇ!やたらめったら台風は来る!!日本語も通じねぇ!!」

男1「こんなクソみたいな場所に連れてきやがって!!!」


男1「テメェらみたいなのにクソ高い税金払ってるってのもムカついてならねぇ!!」

男1「 女みたいな格好でウロウロウロウロして男漁ってるだけのくせによぉ!!!」

男1「 豚!!! ヒトモドキ!!! ガイジの分際でよぉ!!! 」


男1「偉そうにしてんじゃねぇっつってんだよぉ!!!」

男1「とっとと全員ブチ殺されればいいのによぉ!!!!」


64: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 18:39:02.66 ID:78lsfBPx0


男1「…そう思ってたら放送したのがあのクソテレビよ」

男1「もうwww最高だったわwwwwwww」

男1「テレビw最ww高www!!あんな気持ちのいい映像久々に見たわwwwww」

如月「………」

男1「でな?俺思ったんだよ」

男1「あんな映像が流れたって事はなぁ」


男1「『こいつなら殺してもいいって事なんじゃねぇか』ってさぁぁ!!」ニタァァァ


如月「!!」ビクッ

男1「だってそうだろう!?あれだって当然大本営の検閲が入っているはずだ!」

男1「にも関わらず!お前は死んだ!!」

男1「お前だけが!お前だけが死んだんだぁ!!」

男1「これがどういう事かわかるか?あぁっ!?」

如月「えっ…あ…」



男1「お前は」



男1「大本営からも」



男1「見 捨 て ら れ たって事なんだよぉぉぉぉぉ!!!!」



如月「!!」

男1「ギャハハハハハハハハハハ!!!」


男1「お前の命なんて大本営から見ても そ の 程 度 の も ん だって事なんだよ!!!」


男1「だったらよぉぉ!!殺るしかねぇじゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

男1「ギャハハハハハ!!ングゲギャガガガガガガガガガガ!!!!!!!!」

男1「大本営のお墨付きならよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

男1「殺すしかないだろうがよぉおおおおおおお!!!!!」


65: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 19:41:12.74 ID:78lsfBPx0


男1「見ろよこれ!今日だけで3人殺してやった!!」

男1「一人目はブロックで頭潰した後に外れの沼に沈めてやった!!」

男1「二人目はナイフで刺し殺してやった!!」

男1「三人目は気が済むまでブン殴った後に絞め殺してやった!!」

男1「頭は切り取ってそいつの鎮守府の門前に置いてきた…今頃あっちじゃ楽しい事になってるだろうなァ!!」

男1「あ、いや…お前の生首なんかじゃあ何とも思わねぇか?」

男2「むしろそれで漫才してたりしてwwwww」

男3「テレビみたいに???wwwwwwwww」

男1「かもなーーー!!!あー!失敗失敗ぃ!!」

如月「…憲兵!」

男1「あ?」

如月「こんな事しても…憲兵が、憲兵が来るわ!!」

男1「バーーーーカ!!もしそんなもんが動いてたらとっくの昔に逮捕されてるわ!!!」

男1「今この街にはなぁ憲兵なんて一人もいねぇ!!」

如月「そんな事…!」

男1「ちょっと考えればわかるだろうがよぉ」

男1「あれだけ追い掛け回して出てこねぇってのはそういう事だって」

男1「ま、憲兵ってのもよぉくわかってるんだろうよ」

男1「今この瞬間は、俺達が正義なんだってなぁ」ニタァ

男1「つぅかなぁ!!お前みたいなゴミクズの命を有効活用してやってるんだ!!」

男1「感謝される事はあっても捕まるなんておかしいとは思わねぇかぁ!?なぁ!?」

男3「そうだよ」


66: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 19:48:33.85 ID:78lsfBPx0


「もうさっさと殺そうぜ!日が暮れちまうよ!」

「あぁそうだなぁ。おしゃべりは終わりだ」

「次はこいつだ」

男が背中からネイルハンマーを取り出す。

「前から憧れてたんだよなぁ」

「化け物をネイルハンマーで殺すってのを」

「撲殺天使ーってなぁ!!」

メロディを口ずさみながらじりじりと如月に歩み寄る。


耳まで裂けんとばかりに口角を吊り上げ

目をギラギラと輝かせ

興奮のあまりに涎を垂らしながら。




深海棲艦は笑わない。

彼女達は「笑うフリ」をするだけだ。まるで何かを演じるように。

深海棲艦の目に光が灯ることは無い。

何故なら彼女達には「心」が無いから。

彼女達は力が増すごとに、人の形をコピーして、人に近付いていく。

腕をコピーし、脚をコピーし、髪をコピーし、言葉をコピーする。


だけど決して「心」はコピーしない。


「心」の無い彼女達は台本を読み上げるように嘆き、怒り、笑うフリをする。

まるで何かを演じるように。




唯一コピーされなかった「心」が

人間を深海棲艦以上の化け物に変えていた。

だからこそ、その恐怖に如月は耐えられなかった。


67: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 19:49:29.90 ID:78lsfBPx0



「冥土の土産に教えてやるよ」

「この世界にはなぁ」

「ナチスとゾンビに人権なんて存在しねぇんだよ!!!」

そう叫ぶと同時にネイルハンマーを掲げた男の腕が、如月の頭部目掛けて振り下ろされた。



68: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 19:56:42.72 ID:78lsfBPx0


男の拳が如月の鼻先を掠めた。


その手に握られていたハンマーは振り下ろされる前に消えていた。


重りが無くなったことで予想外の勢いが付き、バランスを崩した男が後ろを振り返る。


取り巻きの連中も気配を感じ、後ろを振り返る。


如月もつられて男の後ろに視界を移す。



次の瞬間、如月の身体が引っ張られた。


壁に縫い付けられるように引き寄せられた後、壁に沿うように滑り、ピンボールのように弾け飛んだ。


視界が逆転し、髪飾りがちゃりんと鳴る。


視界の揺れに合わせて白いマフラーがなびく。


衝撃と共に視界が正常の向きに戻り、人の輪がどんどん遠ざかっていく。



「…大丈夫!?息してる!?」



高い声が如月に呼びかける。この声は如月も覚えがある声だった。


「…川内、さん?」


69: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 19:58:50.80 ID:78lsfBPx0


川内「大丈夫ね!それじゃあ、しばらく黙ってて!!」

川内「舌噛むから!!」ダッ!!

男1「あの女ぁ!!」

男2「おい!あいつも艦娘だぞ!!」

男3「裏切り者かよ艦娘のくせによぉンッ!?」

男2「囲め!囲め!!一緒にブッ殺せ!!」

川内「あいつらもう見境無しかよ!!」

川内「だけどこっちにはこれ(脚部艤装)があるんだ!逃げ切ってやる!!」


70: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:06:32.13 ID:78lsfBPx0


「嘘だろ…!?何だよあの早さぁ!!」

追いかけていた一人が弱音を吐いた。

「おい!誰か何とかしてあいつ止めろ!!ブッ殺せ!!」

テレビでの知識しか持ち合わせていない彼らには知る機会など無かった。

如月型艦娘を数人殺し、慢心していた彼らには想像すらした事が無かった。


艤装を装着した艦娘の力。


制服を通じ、神経に接続し、己の身体の一部となるその鉄塊は、彼女達に船の力を与える。

即ち全長162.15メートル、排水量5195トン。

この巨体を時速55キロメートル前後で動かす出力。

パーソンズ式オールギアードタービン4基4軸が産み出す9万馬力。

これが、『軽巡洋艦川内型一番艦川内型艦娘』の力だ。

正確には脚部の艤装のみ装着してきた今の彼女の力はこれには満たない。

砲を撃ち、破壊する力も持たない。

だがそれでも、人一人抱えながら、ただの人間を振り切るのは簡単な事だった。

だがそれでも、『水上スキー』と揶揄されたテレビの中の艦娘とは別次元の動きをしていた。

人を掻き分け、階段を飛び越え、壁を蹴り、猛スピードで日本街を駆け抜ける。


だが予想外のものに阻まれた。


71: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:08:48.83 ID:78lsfBPx0


「嘘でしょ」


川内が思わず足を止めて呟いた。

「そこまでする?」

川内の視界の先を見た如月が、彼女の腕の中で身体を縮こませた。

真正面から彼女に向かって車が全速力で走ってくる。

車の中心に彼女を捕らえ、クラクションも鳴らさずに   んでくる。

このまま二人まとめて轢き殺すつもりだろう。

(本当に、狂ってる!!)


だけどこのピンチはチャンスでもある。


周囲に目を配る。やるには十分。



そこまで判断したら後は行動するのみだ。



川内は自分達に   んでくる車に対抗するように、全速力で車に走り出した。

「目つぶってて!!!」


72: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:10:41.42 ID:78lsfBPx0


地面を踏み込み、身を屈める。

身体が伸び上がり、彼女の身体は車めがけて飛んでいく。



そのまま車のボンネットに着地した。取り合えず激突の心配はもうしなくてもいいようだ。

ボンネットをへこませながら次の足場に飛び移る。


「1!!」


車の天井に右足がめり込む。だがこれで終わりではない。

鉄がぶつかり、曲がる音を後にして川内は更に飛ぶ。


「2の!!」


身体を捻って電線を避けつつ、街灯の上に両足で着地する。ここが最後の正念場。失敗するわけにはいかない。

脚部艤装の出力と、自身の脚の力を全て使い、全力で跳躍する。




「3ン!!!」




73: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:17:16.86 ID:78lsfBPx0


白いマフラーをなびかせて、車と街頭を足場にして、少女は街の空を飛ぶ。

人を掻き分け、風を切って空を飛ぶ。その姿はさながら現代に蘇った忍者だ。

9万馬力の力によって彼女達は束の間の無重力に身を置いた。

ふわりと動く未体験の浮遊感覚の中、自分の身体を制御して目的地を定める。

条件は二つ。受身は取れない。また広い場所に着地しなくてはならない。

戻ってきた重力に導かれ、着地点を注視し、足から着地出来るように身体の制御を全力で行う。

衝撃が来る。何とか耐えろ。倒れるわけにはいかない。











ぐあん。という音と共に川内達は建物の屋上に着地した。

脚に電撃のような痛みが走る。艦娘じゃなかったら折れていたと川内は感じた。

脚部艤装も痛み始めていた。元々地上で使うものではない上にこんな無茶をすれば当然の結果だ。

摩擦で磨り減り、衝撃で歪む。損害で言うのならば「小破」だ。


背後から聞こえてくる強烈な破壊音が、痛みで飛びかける意識を戻す。

先程の車はものの見事に、ド派手にぶつかったようだ。

まるでアクション映画だ。

敵の狂気に満ちた攻撃を華麗なアクションで退け、度肝を抜かせた。

そうだ、自分はアクション映画の主人公だ。そう思い込んで気分を高揚させる。

そうでもしないと痛みで動けなくなりそうだと感じたから。

懐から携帯を取り出す。壊れていたらどうしようかと思ったが、壊れていなかった。

電話アプリから履歴を開き、リストの一番上の人物に電話をかける。


『もしもし!?』

「阿賀野。阿賀野?聞こえる!?」

「如月は大丈夫!私今から如月連れて泊地に戻るから!阿賀野も戻って!!」

『わかった!っておわぁ!?』

「阿賀野!?」

『だ、大丈夫大丈夫!私もすぐ戻るー!!』

そう叫んで電話が切れた。


75: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:19:10.02 ID:78lsfBPx0


川内(本当に大丈夫かな?)

如月「はっ…はっ…はっ…!」ガタガタ

川内(でも、まずは如月を泊地まで連れ戻さないと)

川内「あともうちょっとだけ我慢して」

川内「このまま屋上を伝って泊地まで帰るよ!!」


76: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:19:53.42 ID:78lsfBPx0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




77: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:22:41.43 ID:78lsfBPx0


-パラオ泊地-

名取「はぁ…」

名取(提督さん、いつ帰ってくるんだろう…)

名取(極秘の召集で横須賀に行ってるって赤城さんは言ってたけど…私は心配です)

名取(提督さんはいつもみんなに優しくて、面白くて…私なんかにもよくしてくれる)

名取(でも何でだろう)

名取(提督さんの目には『何かが足りていない』気がする)

名取(気が付いたら、いなくなっちゃってるような気がする)


「…とり!」ダダッ


名取(だからなのかな…あの極秘の召集っていうのが、凄く怖く感じたのが)


「名取ぃ!!」ダダダッ


名取(もし提督さんがこのまま帰ってこなかったら…私は…)



「なーとりーーーー!!!!」ダダダダダッ



名取「ふぇっ?」キョトン

川内「門閉めて!!」ダダダダダッ

名取「へぇあっ!?」

川内「いいから!閉めて!」ズザアアアア

名取「は、はい!!」ガラガラガラガシャン!!

川内「はー…っ!!ふーっ!!!」

名取「あ、あの…一体どうしたんですか?」

川内「どうしたって、アンタ…」

川内「…いや」

川内「ちょっと、ね」

名取「?」

川内(後は阿賀野が戻ってくれば…)


78: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:27:18.65 ID:78lsfBPx0


阿賀野「はぁっ、ふぅーっ!」

川内「阿賀野、大丈夫だった?」

名取「え、阿賀野さん?」

阿賀野「うん…なんとかぁ」ボロッ

名取「えぇえええ!?」

川内「いやボロボロじゃん!」

川内「…とりあえず、門閉めちゃったから、よじ登って来てくれる?」

阿賀野「わかった」ピョイッ

阿賀野「ひどいよね。ちょっと如月ちゃんの事聞いたら、ナイフ持ってガーッ!、て来たよ」ガシッ


名取「如月ちゃん…?」

如月「はぁっ、はぁっ…」ガタガタ

名取「あ、如月ちゃんも一緒だったんだ。…どうしたんだろう…」


阿賀野「というかちょっと聞いて!あいつら、如月ちゃんの髪飾り…」ズザッ

川内「見た…殺した如月型艦娘の髪飾りをああやってコレクションしてるんだ」

川内「あれが、人間のやる事かよ…!」

阿賀野「…でもとりあえずここまで来れば流石に追いかけてこないと思う」

川内「そうだね」

川内「それより助かったよ。阿賀野」

阿賀野「えっ」

川内「阿賀野が『嫌な予感する』って叩き起こしてくれなかったら、如月を助けられなかった」

阿賀野「お礼なんていいよ。阿賀野だって予感だけで確信があったわけじゃなかったし!」


川内「それでもさ!!」


川内「私も神通も気付けなかったんだ!気付かなきゃいけなかったはずなのに!!」

川内「気付かなかったら、また、また、私!!」

阿賀野「しっ!」

川内「!」

阿賀野「その話はお終い!川内ちゃんまでカッカしてたら如月ちゃんがびっくりしちゃう!」

川内「あっ…あぁ…うん…」


79: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:28:30.65 ID:78lsfBPx0


名取「如月ちゃん、大丈夫?」

名取「って!どうしたのこの怪我!?」

如月「これ…」

如月「…あっ…」ビクッ

名取「…如月ちゃん?」

如月「あぁ…あぁああああ…」ガタガタ

名取「えっ、あっ…如月ちゃん…!?」


80: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:30:09.76 ID:78lsfBPx0



恐怖と痛みと緊張という名の鎮静剤で抑えられていた『それ』は


それらが無くなった事で活動を再開した。


腫瘍のように膨らんでいた『それ』は痛みと共に動き出し。


一斉に破裂を始めた。



81: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:37:46.73 ID:78lsfBPx0


『お前達は頑張ったよ!お前達がこの土地を守ったんだよ!!』

「ろくに戦えもしないのにいいご身分だよね」

「『世界の平和は自分達が守ってます』って面しやがってよぉ!!」

「ざけんじゃねぇよ!!誰がテメェらに守ってくれって頼んだよ!?」

「豚でヒトモドキのガイジの分際でよぉ!!!」



『だから絶対、絶対、生きて帰ってきてくれ』

「お前みたいなゴミクズの命を…!!」

「そこまでして死にたくねぇか裏切り者のくせによォおん!?」

「大本営のお墨付きならよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「殺すしかないだろうがよぉおおおおおおお!!!!!」



『みんな大事なんだから!!』

「『こいつなら殺してもいいって事なんじゃねぇか』ってさぁぁ!!」

「でも捕まらねぇ。それってよ、そ う い う 事なんだろぉぉぉぉぉ!?!?」

「お前の命なんて大本営から見ても そ の 程 度 の も ん だって事なんだよ!!!」



「ろくに戦えもしなかったのにいいご身分だよね」

「ゾンビだろ?だってお前死んだじゃん」

「ナチスとゾンビに人権なんてもんは存在しねぇんだよ!!!」

「死ね」

「ゴミクズ」

「裏切り者」

「豚」

「化け物」

「ヒトモドキ」



「あなたは」

「もう」

「終わり」


82: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:44:50.11 ID:78lsfBPx0


「あぁあああ…!!」




想いが



「如月ちゃん!?どうしたの如月ちゃん!?」

「あああああ
あああああああああ




ああああああああ!!!!!」



思い出が





「如 ちゃん!?」



「如月ちゃん!し

っか

            りして!



 月ち   」






血を吐き出しながら死んでいく。






「ああ  あああああああああああああああああああああああああ


          ああ  あ   あ
ああああああああああああああああああ  ああああああああああああああ


ああ                               あ

ああああああああああああああ
ああ      ああああああああああああ!!!!!!!!!!!

ああああああああああ    ああああああああああああああああああああ
あああ

あああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああ


      あああああああああああああああああああああああ!!!!」





断末魔をあげて死んでいく。


83: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:45:40.63 ID:78lsfBPx0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




84: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 20:49:27.12 ID:78lsfBPx0


-某海域-

海兵「提督殿。これより安全海域から離脱します」

海兵「深海棲艦からの奇襲の可能性もあるので、絶対に外には出ないでください」

提督「わかりました。道中よろしくお願いします」

海兵「あぁあと、先ほど検査でお預かりしていた通話機器類をお返し致します」

提督「あっはい。ありがとうございます」

海兵「ですが通話やメールなど、外部との通信はお止めください」

提督「この召集が極秘であるから、ですよね?」

海兵「そうです」

海兵「最近、深海棲艦によってこちらの通信や暗号が傍受されるというケースが起きています」

海兵「ここから送られた通信が傍受された事で奇襲を受けたり機密が漏れる、といった事は避けなければいけません」

提督「緊急時の対応は?念のため、泊地に残った秘書艦には、何かあった時には連絡入れるよう言っておいたのですが」

海兵「…その場合はすぐにこちらにお伝えください」

提督「わかりました。連れてきた秘書艦二人にもそう伝えておきます」

海兵「くれぐれも、宜しくお願いいたします」

海兵「では」

バタン

提督「聞いてた?」

那珂「………」

羽黒「………はい」

提督「………うむ…」ドサッ

羽黒「如月ちゃん…大丈夫でしょうか」

提督「わからない」

提督「俺は結局、声をかけてやることすらできなかった」

提督「辛いってわかってたのに」

提督(深夜に突然来た、大本営からの緊急召集。あれがなければ…)

提督(あんな電話無視して如月を探していればよかったんだ)

提督(そうすれば、また如月と会うチャンスなんていくらでもあったはずなんだ)

提督(クソッタレが!あの時何で電話なんかに出ちまったんだ…!!)


那珂「如月ちゃんはこれからどうなるんだろう」

那珂「私みたいになっちゃうのかな」

提督「わかんねぇ」

提督「でも、怖い。何だかわからないけど」

提督「何だこの怖さ?踏み込んではいけない場所に入り込んだような…」

提督「それでいて、もう取り返しの付かない何かをしてしまったようなこの感覚」

提督(それに、胸が痛い)

羽黒「そんな事…ないですよ。でも早めに戻ってあげましょう?」

那珂「うん。那珂ちゃんも凄い嫌な予感がするし、パパパっと済ませてとっとと帰ろうよ」

提督「そうだね」


85: ◆ZFgfLAc.nk 2016/01/31(日) 21:01:09.51 ID:78lsfBPx0


提督(にしてもだ、本当にパパパッとやって、終わりってわけにはいかないだろうな)


提督(さっき説明受けたけど、この移動、海路な上に異様に時間がかかる)


提督(制海権を深海棲艦に取られている今、空路は危険すぎる)

提督(ヲ級やら何やらがどこにいるかもわからないのに飛行機なんて飛ばせないんだ)

提督(しかも艦娘が飛ばす艦載機以外であいつらに対抗できる手段は今のところはない)

提督(深海棲艦が使う艦載機は既存の戦闘機よりも小型だ…まぁ、人型サイズから飛び出すんだから当然だが)

提督(高速で飛び回るそれは戦闘機と同じように機銃やら爆弾やらで武装している)

提督(普通の戦闘機じゃ、機銃もミサイルも当たりはしない。そもそも有機的素材が主になって構成されたアレはロックオンもできない)

提督(しかも艦載機を止めるには本体…『深海棲艦そのものを沈める』以外に対処法は無い)


提督(『本体を殺せばそいつが操っていた艦載機もコントロールを失って動かなくなる』…それが奴らの法則だ)


提督(でもそれだって既存の兵器でどうにかなるもんじゃねぇ)

提督(物量で押せるアメリカならともかく、日本の国防じゃ艦娘無しであいつらにダメージを与える事すら難しい)

提督(だから護衛を付けるのも無駄。飛行機なんてデカイ的、空飛ぶ死体処理場にしかならないんだ)



提督(残っているのは海路。だけどこっちでもいつ深海棲艦が襲ってくるかわからない)

提督(小回り効いて速度もある艦娘と違って、ただの船だけじゃ深海棲艦から逃げることはできない)

提督(しかも最悪の場合、この船の真下から急に沸いて出てくる事だってある)

提督(…ま、報告で聞いた事もないし、滅多に無い事だと思うけど)

提督(護衛として艦娘が使えるだけまだマシだけど、見つからないように、どこから出てきても大丈夫なように警戒しながら少しずつ進むしかない)

提督(艦娘の艤装でも使えば半日もかからないだろうけど、普通の人間が付けても動かないし、そもそも耐えられない)

提督(で、これが行きと帰り?さらに向こうでの滞在期間もあるから…?)

提督(早くても3日?万が一途中で襲撃されたり、向こうでの用事で遅くなったらもっとかかるか?)

提督(…沈まされでもしたら、生き残っても泊地に帰るまでどれだけかかるか)


提督(召集の理由も、何をするかも、全く聞かされていない)

提督(教えられたのも、ただ『極秘』であるという事ってだけ)

提督(内容によっちゃ最悪一週間近く泊地を空ける事になるかもしれない)

提督(その間の通信も、できない)

提督(泊地の事は大淀と赤城達に任せてあるけど…その間俺には何もできない…!)ググッ


提督「…頼むから………」ボソッ

提督「…頼むから、何も起こらないでくれ…」

羽黒(司令官さん…)

那珂「………」


88: ◆ZFgfLAc.nk 2016/02/10(水) 00:23:51.73 ID:pmx8X7fj0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




89: ◆ZFgfLAc.nk 2016/02/10(水) 00:29:20.14 ID:pmx8X7fj0


-パラオ泊地-

大淀「通信は…まだ、駄目か」

赤城「最上さん達はどう?」

最上「うーん…」ピッ

最上「駄目。プライベートの携帯でも出ない。三隈(※)と鈴谷は?」

(※)非常事 につき自重中。なお熊野は未着任

三隈「こちらも駄目ですわ」ピッ

鈴谷「こっちも。メールもSMSも入れておいたよ」ピッ

鈴谷「でもさ、移動中で電波通じないって事あるの?」

大淀「個人用の携帯はともかく、通信機すら通じないなんて事は聞いたことがありません」

霧島「通信も駄目、携帯も駄目となると…」

三隈「提督に、何かあったんでしょうか?」

赤城「かもしれないわね」

大淀「友提督さんに連絡を入れましょうか」

赤城「そうですね。お願いします」

赤城(最悪捜索部隊を組むことになるかも…)


90: ◆ZFgfLAc.nk 2016/02/10(水) 00:36:10.47 ID:pmx8X7fj0


鈴谷「…なんか、とんでもない事になっちゃったね」

三隈「えぇ…暁さんもショックで寝こんじゃいましたし」

最上「…責任感じちゃうよね。自分のせいで如月ちゃんがあんな事になったんだ、って考えちゃったら…」

鈴谷「ていうか何!?そいつらマジ意味分からないんだけど」

鈴谷「テレビで沈んだからって、自分達も殺していいとか…探して殺して回るとか…頭イカれてるんじゃないの!?」

鈴谷「人を何だと思ってるのさ!?」

三隈「沈んだ姿を映されたとしても、私達と一緒にいる如月さんは生きていて、ここにいる」

三隈「だから大丈夫だと、あんなものはすぐに忘れてしまえる悪い夢だと思っていました」

三隈「三隈は、間違っていたのでしょうか」

霧島「…私も三隈さんと同じ考えだったわ」

大淀「私もです」

赤城「…私も」



「……………」



最上「と、というか、こういう時の為の憲兵じゃないの?憲兵は何やってんのさ!」

霧島「先ほど連絡は入れたわ。でも反応的に期待は出来ないと思う」

鈴谷「はぁ!?何で!?」

霧島「どう聞いてもお役所仕事的というか、そんな反応だったのよ」

霧島「ここまでじゃないけれど、前から憲兵はこういう時には積極的に動いてくれないものだから…」

鈴谷「…意味わっかんない!!」

鈴谷「誰これが   したとかそういうのにはすぐ反応するくせに、何でこういう時ばっかり…!!」

鈴谷「何の為にいると思ってんだよ!デバガメ以外に能が無いのかよ!給料泥棒!!」

三隈「………」

赤城「…次から次へと問題か」

赤城「…こういう事を言うのは、如月ちゃんに申し訳ないのはわかっている」

赤城「でも、まずは一番深刻な問題から解決していかないと」

霧島「司令との通信回復…もしくは、捜索」

赤城「うん」

最上「提督との通信が繋がれば、もしかしたら提督が何か如月ちゃんの事でいい方法を思いついてくれるかも!」

鈴谷「…任務なんて切り上げて早く帰ってきてくれるのが一番いいんだけど…そうはいかないよねぇ」

三隈「提督も、大本営から頂いた任務であちらに赴いていますからね」


91: ◆ZFgfLAc.nk 2016/02/10(水) 00:39:03.20 ID:pmx8X7fj0


赤城「そういえば、金剛の休暇終わりで、本土から帰ってくるのって今日だったわね?」パラッ

霧島「えぇ夜遅くになるそうなのですが」

赤城「…って事はもう船には乗っちゃってる、か」

赤城「もうちょっと遅かったら提督の無事を確認して貰おうと思ったんだけど…」

赤城「わかったわ。まずは友提督に連絡を入れましょう…?」コンコン


明石「赤城さん、明石です」


赤城「あぁ明石さん。どうぞ」


92: ◆ZFgfLAc.nk 2016/02/10(水) 00:43:26.18 ID:pmx8X7fj0


明石「失礼します」ガチャ

最上「あれ、明石さんどうしたの?」

赤城「さっきちょっと頼み事をしたの。それで、どうでした?」

明石「そうですね。あの映像しか情報が無いからアレですけど」

明石「私も赤城さんと感じた事は一緒です」

明石「人体・艤装ともに大した疲労・損傷無し。致命的欠陥も見当たりませんでしたね」

赤城「艤装整備に長けてる明石さんにもそう見えますか」

最上「何の話?」

三隈「もしかして、如月さんの?」

明石「はい。轟沈する瞬間の映像の解析を」

赤城「辛い事を頼んでしまって申し訳ございません」

赤城「でも、どうしても気になったんです」



赤城「『無傷に近い状 からどうやって轟沈するのか』が」



三隈「えっ」

鈴谷「…そういえばそうか!」

鈴谷「私達は基本、ダメージ無いところから沈むなんて事はないから」

最上「『結界』?『ストッパー』?だっけ?」

明石「そうですね。そこは開発企業によって名称が違います」

明石「名称の違いは置いといて、私達艦娘にとっての命綱になる機能です」


明石「艤装装着時から常に不可視のバリアを展開し続け、攻撃から身を守る為の機構」

明石「艤装の機関部すぐ近くで直結させてる機能だから外装が壊れた程度で機能停止することはない」

明石「これが動かなきゃ、私達は砲が撃てて海に立てるだけの、ただの人。イ級の攻撃一発も耐える事はできません」

明石「だから大破でもしない限りはその機能が停止することはないよう作られてるはずですけど…」


最上「…でも、テレビの如月ちゃんは…」

鈴谷「………」

三隈「………」

明石「………」

赤城「………」

最上「…だとすると、どういう事なんだろう」

三隈「『ストッパー』が壊れていた、とか」

最上「そんな事だったら大変じゃんか!」

明石「そりゃもう大変ですよ」

明石「深海棲艦が『ストッパー』を貫通する兵器を開発したとか噂は立つし」(おかげで一部鎮守府じゃ今パニック状 らしいですし)

明石「世間からは鎮守府全体の整備に問題点があるんじゃないかって、クレーム三昧だし」(今日の整備員連絡網とか葬式と修羅場を足したような雰囲気でしたよ)


明石「艤装開発に携わったキサラギ社も今頃は大変なんじゃないですかね」


93: ◆ZFgfLAc.nk 2016/02/10(水) 01:01:51.35 ID:pmx8X7fj0


鈴谷「え、キサラギ…キサラギって、あのキサラギ?」

三隈「えぇ。製薬会社のキサラギ社」

三隈「元々は高速修復剤とか高速建造剤の開発が、海軍との繋がりだったのですが…」

三隈「キサラギ社の若社長きっての希望で、艤装開発に着手したそうですわ」

三隈「そういえば最近、その若社長の娘さんも艦娘適正があったらしく、如月型艦娘になったとか」

鈴谷「え、よりによって如月型?キサラギの開発した艤装ってあと何があるの?」

霧島「キサラギ社のだと…睦月型艦娘、弥生型艦娘、卯月型艦娘が開発担当ね」

鈴谷「全部睦月型駆逐艦なんだ」

鈴谷「でもキサラギ社の娘さんがキサラギ社で開発した艤装背負って如月型艦娘かぁ…大丈夫かなぁ」

鈴谷(もし今回のアレで殺されてたりでもしたら…)

鈴谷(その若社長はどうするんだろう?)

鈴谷(復讐する?それとも諦める?どっちにしてもヤバイよ)

鈴谷(それで最悪会社そのものが駄目になりでもしたら、高速修復剤の供給そのものまでストップするから)

鈴谷(ウチらは修復剤ありきで戦ってるところあるし…艦娘全体がヤバくなるよ)


明石「それに加えて、艤装性能の問題視と違法プログラムの噂がありますからね。頭痛の種も胃痛の種も満載でしょうね」

最上「…違法プログラム!?」


明石「今朝出た週刊誌の記事なんですけどね」

明石「キサラギ製の艤装で違法の追加プログラムが使われてるんじゃないかって」

明石「その違法プログラムは艤装に追加機能を付ける代わりに『ストッパー』の機能を停止させちゃうんだとか…」


最上「…追加プログラムなんてあったんだ」

鈴谷「友提督さんとこならともかく、ウチの提督はそういうのには疎いからねぇ」

三隈「提督は文系ですからね」

明石「この件で『全ての鎮守府・泊地は(所属する如月型艦娘の)艤装点検後報告しろ』とは言われましたけど…まぁ所詮は週刊誌の記事ですからねぇ」

霧島「飛ばし記事ですか?」

明石「だと思いますよ。そもそもこういうプログラムは、所属の艦娘全員に付けて初めて効果が出るもの」

明石「生産時に同型艦娘の艤装に付けてた所で殆どがバラバラに色んな鎮守府に送られるし、『ストッパー』機能が止まるっていうデメリットもあるのに付ける理由も無いですし」



明石「艦娘をわざと沈めたいとでも思わなきゃ、やる理由なんて無いですよ」



三隈「だからこそ、キサラギ社がバッシングを受けているという事でしょうか」

明石「まぁそうですね。これが本当なら無意味どころか害にしかならないプログラムを植えつけているんですから」

最上「利敵行為の極み、みたいなもんだしね」

明石「でもキサラギ社がそんな事するメリットが無いんですよねぇ」

大淀「…明石。向こうの如月にそれが付いてたかって、わかる?」

明石「その辺はわかんないね」



明石「調べたくても、もう海の底だもの」



94: ◆ZFgfLAc.nk 2016/02/10(水) 01:02:36.42 ID:pmx8X7fj0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




95: ◆ZFgfLAc.nk 2016/02/10(水) 01:08:35.71 ID:pmx8X7fj0


-某海域-

提督「………」ポチッ

提督「………」

提督「………」ゴソゴソ

那珂「落ち着かないね」

提督「そりゃそうだ。本読む気にもゲームする気にも昼寝する気にもならない」

提督「いつ泊地から連絡が入るかもわからないんだ」

提督「だからこうやって、こまめに通信と携帯チェックして連絡来るかどうか見ておかないと」

那珂「充電切れるよ?」

提督「そん時はちょっとコンセント借りる」

提督「発信源探られて極秘任務がばれたら駄目だって言われて、こっちから送信したりできないってんだから、これ位許してくれって話だ」


提督「それより二人とも、寝ておいたほうがいいんじゃないの?」

提督「昨日ほとんど寝てなくない?向こうで忙しくなったら辛くなるよ」

那珂「それはお互い様じゃない?」

羽黒「それに、何かあった時には私達も戦わなきゃいけませんから…」

提督「大丈夫だって。外の護衛艦隊、凄いぞ」


提督「大和型戦艦二番艦の武蔵型艦娘いるんだぞ」


提督「硬い・強い・遅いを体言した最強の戦艦だ。あれが護衛についてるならこっちも安心できる」

那珂「大和型をアーダン扱いするって色々な人から怒られるよ?」

提督「へーきへーき。で、他の所属艦も、名簿見たらどいつもお前達とそう変わらない練度だったし」

提督「例え戦艦が出てきてもあれなら余裕だろ」


96: ◆ZFgfLAc.nk 2016/02/10(水) 01:18:33.96 ID:pmx8X7fj0


提督「…大和型かぁ」

那珂「何?また『欲しい』とか言うの?」

提督「………いやだって大和だぜ?提督になる前の俺だって知ってたぞ」

提督「戦艦大和…宇宙戦艦ヤマト…」

提督「あこがれるわぁ…俺の指揮下に大和がいたらさぁ」


那珂「手出すんでしょ?」ギュムッ


提督「痛いッ!?痛い痛い!!!脇腹つねるのクソ痛い!!!」

那珂「見境無く手出しまくってまだ増やし足りないの?この色情狂。ん?」ギリギリギリギリ

提督「止めて!マジ止めて!超痛い!!お願いします!!」

那珂「うるさーい。大声出したら勘違いされちゃうよー?」ギリギリギリギリジンジン

提督「だったら止めて!お願い!!羽黒助けて!!!助けて羽黒!!!」

羽黒「…那珂ちゃん」

那珂「羽黒ちゃんもやろうよ。ほらもう片方空いてるから」ポンポン

提督「やめろォ!!」

羽黒「それ以上やったら痣できちゃうからやめたほうがいいよ」

提督「何だその止め方!?」

那珂「おっそうだね」パッ

提督(あ、それで納得するんだ)

提督「ってー…マジ脇腹の肉持っていかれるかと思ったぞ」

那珂「つまめる程あるんだからちょっとは持っていかれたほうがよかったんじゃないかな」

那珂「ていうか、カレー食べ過ぎるからそうなるんだよ」

提督「しょうがないだろ!?足柄のカツカレーが美味すぎるのがいけねぇんだよ!!」

提督「俺もうあれが無きゃ生きていけないレベル!!!」

那珂「那珂ちゃんにそんな事言われても殺意しか沸かないんだけど」

提督「って!今携帯振動した!?」ガバッ

提督「………連絡無し」

那珂「………はぁー」


99: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 20:42:48.86 ID:wDMINMMb0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




100: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 20:45:57.08 ID:wDMINMMb0


-パラオ泊地 駆逐三班の部屋-

叢雲「しかし…」

叢雲「凄い大所帯になったわね」

磯波「私たち三班三人に、一班二班から二人ずつで、七人?」

荒潮「ごめんなさいねえ」

夕雲「ちょっと、何というか…暁ちゃん、一人になりたいって言うから」

夕雲「物凄く狭くなるけど、お泊りさせてね?初雪ちゃん?」

初雪「…ゆるさん」

初雪「…初雪王国(キングダム)(※)が侵略された…」

(※)要するに引きこもりスペース

初雪「私は先輩だぞ…結構古参なんだぞ…」


荒潮「まぁまぁ、そこはこれで何とか…」スッ


初雪「…!!」ブボァッ

初雪「…ゆるす」

潮「初雪ちゃん鼻血」

夕雲「お二人も、これを」スッ

磯波「ッ!?あぁあああ…!!///」ブシュウウウウウウウウ

叢雲「おっほァッ!!」ドバァ

潮(何渡したんだろう)

荒潮(駆逐二班秘蔵のワレアオバよ)

潮(なにそれ)


叢雲「…まぁそれは置いといて」ゴソゴソ

潮(しまった)

夕雲(机の中にしまった)

荒潮(あとでこっそり抜き取っておこうかしら)

叢雲「夕立、あんた大丈夫なの?」

夕立「!!」

叢雲「あんたも相当やられてるっぽく見えるんだけど」

夕立「…うん。大丈夫…っぽい」

夕立「あれは夕立が悪かったの…だから」

夕立「落ち込む権利も無い」

潮「…夕立ちゃん」

夕立(…そうだ。夕立がもっとうまくやってれば…)

夕立(もっともっと…うまくできたら…)

夕立(あんな事にはならなかったのに…)


101: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 20:47:56.05 ID:wDMINMMb0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




102: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 20:50:03.39 ID:wDMINMMb0


「長良さん!まだ泊地に着かないっぽい!?」

「あ~…うー、あともうちょい!!」

「あともうちょいってどれくらい!?」

「夕立ちゃんちょっと落ち着いて…」

「あんな話聞かされて落ち着けるか!!如月ちゃんが殺されかけたんだよ!?」

「潮ちゃんは心配じゃないっていうの!?」

「そういうわけじゃないけど…」

「早く、早く如月ちゃんに会わないと…!!」

「…でも…」

「でも何!?」

「…よしっ!見えてきた!!泊地だよ!!」

「!!」

「…心配する気持ちは凄くわかるけど、まずはちゃんと報告を終わらせてから
「長良さん報告お願いします!!」ダッ!
「わっ!?」

「ちょ、ちょっと待って夕立ちゃん!」

「夕立ちゃん!!」



103: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 20:53:37.39 ID:wDMINMMb0


ダダダダダダダダ!!!!

「如月ちゃん!!」バァン!!

「ひっ!!」ビクッ

「…夕立、ちゃん」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

「…如月ちゃん」

「…何?」

「………!!」


(うっ………!!)

(何で………)

(何でこんな事になったの…!!)

(今朝会った時の如月ちゃんとは全然違う)

(顔の痣…殴られた?)

(髪だってぐしゃぐしゃで…あんなにいつも気にしてた髪なのに…)



(それに)

(完全に、目が死んでいる…!!)

(今朝だって…今朝だってそんな目してなかったでしょ…!?)



(こんなの…)

(こんなの…何て声をかければいいか…わからない…)


(何て言えばいいの…!?)


(何て言えば如月ちゃんは元気になるの…!?)


(どうすれば如月ちゃんは元に戻るの…!?)


(どうするのが正解なの…!?)


「………」

「…夕立ちゃん?」

「如月ちゃん…」


104: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 20:54:57.48 ID:wDMINMMb0



「つ…」

「次」

「また今度、頑張ろうよ」



105: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 20:56:30.09 ID:wDMINMMb0


「………」

「っほ、ほら!また今度戦果を上げたらさ!みんなわかってくれるっぽい!!」

「こないだだって戦艦倒したでしょ!?」

「っ今度は、姫級を倒せるように頑張ろうよ!!そこまでしたらさ!みんなわかってくれるっぽい!!」

「…今変なこと言ってる奴らを、見返してさ!!」

「…無理よ」

「む、無理なんかじゃないって!夕立も!!」



「夕立ちゃんはねぇ!!!!」



「!!!」ビクッ



106: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:01:23.83 ID:wDMINMMb0


「夕立ちゃんはね、それでいいでしょう!?」

「でも、私は違うの!!」

「…きさらぎちゃん…?」


「夕立ちゃんに…」

「夕立ちゃんに私の何がわかるのよ…!!」



「ずっとチヤホヤされてきた夕立ちゃんに何がわかるのよ!?」



「えっ…」


「夕立ちゃんはいいわよねっ、武勲艦だから、どこの鎮守府でも重宝されて!!」

「だからそんな事言えるんでしょう!?次があるって!!」

「姫級を倒す?簡単に言わないでよ!!そんなのできるのは夕立ちゃんだけ!!」

「私は!『ソロモンの悪夢』じゃないの!!」

「ただの旧型駆逐艦の…低性能の駆逐艦娘なのよ!!」

「しかもあんな映像も…流されて…!!」

「その結果がこれなのよ!!!」

「私にはっ、私には次なんて無いの!!!これで終わりなの!!!」

「そんなっ!!」
「夕立ちゃんはこんな思いしたこと無いでしょ!?」



「『ろくに戦えもしないのに』って言われた事ある…!?」

「深海棲艦のスパイ扱いされて殺されかけた事ある…!?」

「生きてる事を否定された事がある!?」

「ヒトモドキ、ゾンビ、化物…もう色々言われたわ…そんな経験夕立ちゃんにはある!?」


「無いでしょ!?だって夕立型艦娘は武勲艦だものね!!」

「この戦争が始まってから!ずうっと!ずうっと!!夕立型艦娘は!注目を集めて!!重宝されて!!!活躍してきたんだものね!!!」

「…そんな夕立ちゃんに、私の何がわかるっていうの!?」

「司令官との思い出の場所で…今までの事も、これからも!!」

「何もかもを否定された気持ちなんてわからないでしょう!?」

「こんな思いもしたこと無いくせにわかったような事を言わないで!!!」

「出て行ってよ!!何もわからないくせに!!!」

「如月ちゃん…!」

「夕立ちゃんには私の気持ちなんて絶対理解できない!!」

「誰も如月の気持ちなんて理解できないくせに!!!」

「如月ちゃん!」


「出て行って!!!!」

「もう如月を一人にしてよぉ!!!!!」



107: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:02:20.86 ID:wDMINMMb0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




108: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:04:07.16 ID:wDMINMMb0


夕立「…あれしか思いつかなかった」

夕立「急いで行って、如月ちゃんを元気にしなきゃとしか思ってなくて」

夕立「でも如月ちゃんに会って、何言っていいかわからなくなって」

夕立「思いついて口から出たのが、あれだった」

夕立「もっとちゃんと考えていれば…夕立がしっかりしていれば…」

叢雲「………」

夕雲「………」

夕立「…ごめん」スッ


潮「夕立ちゃん?」

潮「夕立ちゃん、どこ行くの?」

夕立「どこだっていいっぽくない?」

潮「よくないよ。今の夕立ちゃん変だもの」

夕立「変じゃない!!」

夕立「居座ると初雪ちゃんに迷惑かかるっぽいから消灯ギリギリまで外にいるだけだから!!」

初雪(いやそこで私の名前出されても…)

夕立「ちゃんと、戻るから…!ちょっとだけ、外に…!!」バタンッ

潮「夕立ちゃん…」


109: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:05:11.16 ID:wDMINMMb0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




110: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:14:31.81 ID:wDMINMMb0


夕立「………」フラッフラッ


『夕立ちゃんはいいわよねっ、武勲艦だから、どこの鎮守府でも重宝されて!!』


夕立「何が…武勲艦だ…」フラフラ


『えぇ。頑張りましょう。夕立ちゃんの第二次艤装改造も近いしね?』


夕立「何が…改ニだ…」フラフラ


『ずっとチヤホヤされてきた夕立ちゃんに何がわかるのよ!?』

『出て行ってよ!!何もわからないくせに!!!』

『夕立ちゃんには私の気持ちなんて絶対理解できない!!』


夕立「!!!」グァッ

夕立「畜生!!!」ガンッ

夕立「畜生!!畜生!!畜生!!畜生!!!」ガンッガンッガンッガンッ


夕立「何が武勲艦だ!!何が改ニだ!!」


夕立「何が『ソロモンの悪夢』だぁ!!!」



夕立「友達一人も助けられない無能が!!」



夕立「友達一人も守れない体たらくで!!!!」



夕立「いい気になって…!!」



夕立「全部思い通りになると勘違いして…!!」



夕立「…馬鹿っみたい…!!」ポロポロ



夕立「ほんとに…馬鹿みたい………」


111: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:16:00.70 ID:wDMINMMb0


夕立「!!」ズキッ

夕立「………」

夕立(手…壁殴ったら血が出ちゃった)

夕立「………」

夕立「駄目だなぁ…こんなんじゃ…」

夕立「こんなんじゃ、全然駄目、っぽい…」

夕立「何にもかんも、全然駄目っぽい…」


夕立「………」グァッ、ガンッ


夕立「あははっ」ガンッ


夕立「ははははははははっ…」ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ



ボタボタボタッ



夕立「…足りない…」

夕立「こんなんじゃ全然足りないっぽい」

夕立「如月ちゃんの…気持ちなんて…わかりっこない…!」ポロポロ

夕立「何もかも…全然…全部…駄目、っぽい…!」



112: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:16:47.45 ID:wDMINMMb0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




113: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:27:15.88 ID:wDMINMMb0

-パラオ特別鎮守府-


友提督「ちょっと待て睦月!!行くな!!」

睦月「離して友提督!!」

友提督「いいから落ち着け!今お前が一人で出るのは危ない!!」

友提督「通達で来てただろ!?今外に出たらお前も殺されるぞ!?」

睦月「でも!如月ちゃんが!!」

友提督「大丈夫だ!手は打ってあるから!!」

睦月「手って何…!?何するんですか!?」

友提督「こっちから横須賀に数人向かわせた…順を追って説明するぞ」


友提督「今…提督と通信が取れなくなっている」

睦月「えっ…」

友提督「向こうの赤城が教えてくれた」

友提督「あのテレビ放送の直後、アイツの所に大本営からの連絡が入った」

友提督「緊急かつ極秘の召集の命令だ」

友提督「アイツはすぐさま準備して、秘書艦二人と一緒に船で横須賀に向かった」

友提督「それから連絡が付かないらしい」

友提督「如月が事件に巻き込まれた事も連絡しようとしたらしいんだが…」

睦月「まさか…まさか深海棲艦に!?」

友提督「無いわけじゃないけど、可能性としては低い」

友提督「深海棲艦の奇襲くらい想定してるだろうし、そんなお粗末な事をする大本営じゃないはず」

睦月「じゃあどうして!?」



友提督「確信は無いけど、予感はある」

友提督「アイツも如月も…何かとんでもない事に巻き込まれた」

友提督「それも恐らく大本営が関わっている」



睦月「…!!」

友提督「俺が向かわせた奴等には二つの目的を伝えておいた」

友提督「一つは、『今如月に起こっている事を提督に知らせ、アイツに早急に戻って来て貰う』事」

友提督「もう一つは、『恐らく起こっているであろう、とんでもない事について調査する』事だ」

睦月「………」

友提督「榛名達、第一艦隊を向かわせた。あいつらなら絶対提督を連れて来てくれる」

友提督「それと、こういう調査には一番うってつけな奴もな」

友提督「俺達は俺達のやり方で何とかするから、頼む。俺達が終わるまでは動くな」

友提督「如月も、あいつが慕う提督も、絶対何とかしてみせるから」

睦月「友提督…」

友提督「………」

友提督(そうだ)

友提督(もし、青葉の言っていた事が本当なら…)

友提督(マジで早く何とかしなきゃいけないんだ)


114: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:31:43.03 ID:wDMINMMb0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




115: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:38:11.21 ID:wDMINMMb0


「どうした衣笠?」

「あの…青葉から友提督にって、電話」

「………ちょっと携帯借りるぞ」ピッ


「もしもし。友提督だ」

「ども、お久しぶりです。青葉です」

「大丈夫なのかそっち(提督の泊地)は」

「…いい、とは言えないですけど」

「さっきも如月ちゃんと夕立ちゃんが喧嘩して」

「…あの二人が喧嘩って…相当ヤバイんじゃないのか」

「………それより、ちょっと気になる話というか、情報伝達と相談をと思いまして」

「情報と相談?」

「他の青葉型艦娘から聞いた噂話なんですけどね」


「どうやら以前にも一度、今みたいな感じで轟沈の様子が放送された事があったそうです」


「!?」


「ニュース番組で艦娘についての報道をした際に」

「蒼龍型艦娘と比叡型艦娘の轟沈が偶然映ってしまっていたそうで」

「偶然…?」

「何かご存知ではないですか?」

「いや俺もはじめて聞いた。そんなのがあったのか…」

「…いやちょっと待て。それなら今回の如月狩りみたいな事が前にもあったって事か!?」

「いえ、その時は特に何も無かったみたいです」

「でも変な噂が残ってるんです」

「変な噂って…?」

「その放送の後」



「艦娘が」


「数人」


「突然発狂して死んだそうです」



「…何だそれ!?」

「私もよくわかんないです。でもそういう噂があるんです」

「命令無視して敵に   んでそのまま射殺されたとか」

「突然艤装を外して海に身投げしたとか」

「尾ひれ付いてるし資料も少ないから何が本当かもわかんないですけど、そういう噂があるんです」

「…轟沈記録とか、探れないのか?」

「探ってはいたらしいんですけど、得られるものはなかったみたいです」

「命令無視して敵に   むのは、どの艦娘でもたまにいますし…まぁ大体、忠誠心の暴走ですが」

「身投げってのも…ちょっとそういう記録は出てこなかったみたいです」


116: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:49:50.49 ID:wDMINMMb0


「………大本営が何かをした?」

「そういう事を言う子もいますね」

「今回の件もあって、この事件について知ってる子は思い返しているみたいです」

「確かに色々不可解だ」


「何故ドキュメンタリー番組の放送を大本営が通した?」


「何故過去に一度轟沈の様子を流してしまったというのに、もう一度同じミスをした?」


「何故前回で起こらなかった艦娘狩りが、今回起こるようになってしまった?」


「仮に前回、放送直後に情報規制や憲兵の警備を強化して事件を未然に防いでいたとしよう」

「普通ならそうしますよね。安全の為に」

「それならどうして今回、そういう対策を執らなかったのか、という事になる」

「………」


「もう一つの仮説として」

「前回も今回も、こういう事件が起こる事を予想できていなかったとしたら」

「…あまり考えられませんね」

「自分で言っておいて何だけど、俺もそう思う」



「…じゃあ三つ目の仮説」

「今回こうなる事が大本営の目的だったとしたら…?」



「えっ…それって大本営に何のメリットがあるんですか?」

「艦娘を貶める事に何の意味が?『大本営発表』を捨てたというポーズの為?」

「俺には、具体的な事までは予想できない」

「でも大本営は、『たまにそういう事』をするんだ」



「『アイアンボトムサウンド』」

「『那珂型艦娘』」



「命を命と思わない、時代に逆行した暴挙をやってのける」

「那珂、ちゃん………」


「…何にせよ」

「このまま何もしなかったら事 は好転しない」

「俺の方から数人、横須賀に向かわせるよ。提督の捜索と、その辺の事を調べさせてみる」

「いいんですか!?」

「お前達よりは動きやすいはずだ」


「俺が『パラオで』『鎮守府』を任されている理由…」

「ちょっとは『肩書き』を使わせてもらっても罰は当たらないだろ」


117: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:50:59.75 ID:wDMINMMb0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




118: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:56:48.25 ID:wDMINMMb0


友提督「………」

睦月「友提督…?」

友提督「睦月、暫く鎮守府の運営を最小限に抑えるぞ」

睦月「えっ」

友提督「俺もこの一件に集中したい。必要最低限以外は鎮守府を動かすつもりは無い」

睦月「………」

友提督「何かしてないと落ち着かないか?」

友提督「それなら新入り(秋月)の世話をしてやってくれ。あいつもまだここに慣れていないだろう?」

友提督「…頼む」

睦月「…わかりました」

友提督「…すまんな」


友提督(………)

友提督(もし万が一、本当に、大本営が何かやっているとしたら…)

友提督(このタイミングで横須賀に呼ばれた提督は、一体…何を命じられるんだ?)

友提督(…嫌な予感しか、しない…!!)

友提督(頼むぞ、榛名…!)

友提督(あいつを助けてやってくれ…!)


119: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 21:58:13.07 ID:wDMINMMb0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




120: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 22:00:31.26 ID:wDMINMMb0

-横須賀-


海兵「お疲れ様でした。提督殿。ではこちらへ」

提督「…ここに来るのも久しぶりだなぁ」

提督(あまり来たくはなかったけど)

提督(神奈川の空気はパラオと違って、なぁんか淀んでるからあまり好きじゃないし)


那珂「…ん?」


121: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 22:05:59.02 ID:wDMINMMb0


あきつ丸「長時間の移動、お疲れ様であります」

憲兵「お疲れのところ申し訳ございませんが、ここからは大本営…念の為ボディチェックを」

提督「あぁ、はい」

あきつ丸「艦娘のお二方は私が」

那珂「那珂ちゃんはアイドルだから変なもの持ち込んだりしてないんだけどなー」

あきつ丸「そう言わないでください。規則ですから」

あきつ丸「万が一拳銃を持って誰かが入るなんて事があったら何が起こることか…」

那珂「あ、那珂ちゃん拳銃なら持ってるよ?」

羽黒「えっ」




那珂「那珂ちゃんにーメロメロになっちゃう、恋のピストル一丁ね♪」キャルルルーン

那珂「たいほしちゃーうぞ♪ばっきゅん(はあと)」






憲兵「」


羽黒「」


提督「」


海兵「」







那珂「もいっぱつ、ばっきゅん(はあと)」






憲兵(えぇぇぇぇぇー…)


羽黒(びぃぃぃぃぃー…)


提督(しぃぃぃぃぃー…)


海兵(でぇぇぇぇぇー…)


那珂「いーえぃ☆」キラン
あきつ丸「ふ正所持なので没収しますね」グリゴリィ


那珂「Gゃあーッ!」


122: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 22:08:46.37 ID:wDMINMMb0


アーイタイイタイイタイィ!!

タマハコノツメデアリマスカネー

ヤメテ!ナカチャンノソレハハーブティーノンデモハエテコナイノ!!



☆ボディチェック中です。しばらくの間那珂ちゃんのグラビアを想像しながらお待ちください☆



トカイイイツツナンデムネミルヒツヨウガアルンデアリマスカ

ヨクミルトアキツマルチャンオッパイオオキイネ

………

ギャーーーーーー!!!!


123: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 22:12:26.51 ID:wDMINMMb0


那珂「あーん指痛いー。提督ツバつけてー」

提督「捻挫にツバは効かねぇだろ!いいかげんにしろ!」



憲兵「…何か、すげぇな、あの人達…」

あきつ丸「ははははは………ん?」ブーッブーッ

あきつ丸「…これは…」

憲兵「待てあきつ丸」

あきつ丸「!!」

憲兵「それが例のものだ。絶対に触るなって命令だっただろ?」

あきつ丸「えっ、でも…」

あきつ丸「物凄い着信の数、入っているでありますよ?」

あきつ丸(それにこの携帯…見間違えでなければ…)

憲兵「…みたいだな」

憲兵「でも上からの命令だしな。変に触るわけにもいかないよ」

あきつ丸「あっ、けっ、憲兵殿」

あきつ丸「上の方々からは、どういった命令を?」

憲兵「一緒に聞いてただろ?忘れたのか?珍しい」

憲兵「ただ『一切触れるな』としか言われてない」

憲兵「理由は言われてないけど…俺は嫌だぞ」

憲兵「上の奴等の口ぶりじゃ、大目玉じゃすまなさそうだからな」

憲兵「お前も触るなよ?とんでもない事になるぞ」

あきつ丸「………」


憲兵「ところであきつ丸」

あきつ丸「!!」ビクッ


124: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 22:15:41.49 ID:wDMINMMb0


憲兵「どっかで言おうと思ってたんだけど…」

あきつ丸「何でありますか、改まって」


憲兵「その…化粧、変えた?」

あきつ丸「…?」


あきつ丸「………」

あきつ丸「えぇ、まぁ…いつもの化粧品を切らしてしまったのでちょっと同僚にお借りしたであります」

あきつ丸「今、非番の同僚に買ってきてもらうよう頼んでいるのでありますが…」

憲兵「そ、そうなのか…お、俺は、そっちも可愛いと思うんだけどなぁ!?」

あきつ丸「ありがとうございます」ニコッ

憲兵「」ドキッ

憲兵(何なんだ今日のコイツ…!!いつもは仕事と正義以外に興味ありません的な堅物の癖に…!!)

憲兵(何だそのプリティスマイルは…!ここぞとばかりに俺を誘惑しおってからに…!!)

あきつ丸「ですがやっぱりいつものじゃないと、どうも本調子にならないのであります」

憲兵(化粧か?化粧が違うから違うのか?ゴージャスアイリンか何かかお前?)

あきつ丸「あぁ!そろそろ、その同僚との約束の時間なので、少しだけ待っていて頂けますか?」

あきつ丸「化粧品を受け取って、化粧直しをしたいのであります」

憲兵「あ、あぁ!わかった!この後そんな急ぎの仕事は無いけど、あまり遅くなるなよ!?」

あきつ丸「そこまで厚化粧じゃないので十分もすれば終わるであります」タッタッタッ


125: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 22:21:00.73 ID:wDMINMMb0


あきつ丸「………」


「もう大丈夫でありますか?」


あきつ丸「はい。貴官の協力に感謝するであります」



あきつ丸「あきつ丸殿」



もう一人のあきつ丸(以下あきつ丸甲)「…それを言うなら貴官もあきつ丸ではありませんか」

あきつ丸「ふふっ…そうですね」

あきつ丸甲「それで、目当てのものは見つかりましたか?」

あきつ丸「えぇ、まぁ」

あきつ丸甲「そうでありますか」

あきつ丸甲「…突然入れ替わって欲しいと言われた時は何事かと思いましたが…」

あきつ丸甲「何か、それほどまでに重大な事が?」

あきつ丸「…聞かれても何も答えられないでありますよ。貴官を巻き込みたくありませんから」


あきつ丸「あ、そうだ。あの憲兵殿…」

あきつ丸甲「憲兵殿がどうかされたでありますか?」

あきつ丸「貴官は、あの憲兵殿とお付き合いされているのでありますか?」

あきつ丸甲「へっ?」

あきつ丸「いえ、貴官と、もっと仲良くなりたさそうみたいだったので」

あきつ丸甲「…うーん」

あきつ丸甲「憲兵殿はいい人だと思うのですが…」

あきつ丸甲「やっぱり、戦時中の身…色恋に現を抜かしている余裕は私には無いであります」

あきつ丸甲「それに、もし私の事がそんなに気になっているとしたら」

あきつ丸甲「入れ替わっていた事に気付いて欲しかったって気持ちが、ちょっとあります」ニガワライ

あきつ丸「気付かれてたらお互いにまずい事になってましたけどね」クスッ

あきつ丸「まぁそれは置いておいて…それなら次からは気付いてもらえるように、もっとお互いの事を知るのはどうですか?」

あきつ丸「守る者、待つ者がいるのといないのでは、死地に立たされた時の気力が違うでありますよ」

あきつ丸「貴官の性格なら、色恋に現を抜かして任務を疎かにする事は無いと思うでありますし」

あきつ丸甲「そういうものでありますか?」

あきつ丸「そういうものであります」

あきつ丸「私達は船(艦)であり、乙女(娘)。故に『艦』『娘』」

あきつ丸「乙女が恋して何が悪い」

あきつ丸「私はそう考えているであります」ニコッ


126: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 22:22:19.02 ID:wDMINMMb0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




127: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 22:23:43.58 ID:wDMINMMb0


あきつ丸甲「お待たせしたであります」

憲兵「あ、あぁ…大丈夫だ」

あきつ丸甲「では、残りの仕事を終わらせたら昼食に行きましょう」

憲兵「そうだな…って、ん?」



憲兵「昼食…一緒に取るの?」



あきつ丸甲「え…あ、はい」

あきつ丸甲「わ、私達も…一緒に仕事するようになってもう半年も過ぎますし…」

あきつ丸甲「もうちょっと、お互いの事を知ってもいいのでは、と…思いまして…」

あきつ丸甲「駄目…でありますか?」

憲兵「…い、いや」

憲兵「そんな事はない!そんな事はないさ!!」

憲兵「よぉし!とっとと済ませて飯食いに行くぞ!!」

あきつ丸甲「は、はい!」


128: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/04(金) 22:27:28.23 ID:wDMINMMb0


あきつ丸「…ふふっ」

あきつ丸(二人とも、応援してるであります)


あきつ丸「…さて、と」

あきつ丸(極秘任務でこちらに来ている、という事は半端な方法では提督殿の居場所は掴めないでありますな)

あきつ丸(提督殿がこの横須賀に居る事は憲兵隊の中でも一部しか知らされていない)

あきつ丸(下手に憲兵隊に働きかければ、極秘任務の情報が流出した事がバレて、私も友提督殿も、提督殿も危ない)

あきつ丸(先程のあきつ丸(甲)殿も提督殿の行き先までは知らされていなかったみたいですし…)



あきつ丸(先程見かけたあの品々は…)

あきつ丸(提督殿の携帯と通信機)

あきつ丸(そう安々と手放すものでもなければ、提督殿がそれを気にしている様子も無かった)

あきつ丸(つまり、考えられるのは…)



あきつ丸(移動中に船内ですり替えられたという事)



あきつ丸(検査と称して提督殿から一時的に預かり、その間にすり替えたのでありますな)

あきつ丸(提督殿は神経質なお方…携帯をいつもケースに入れて傷一つ付けずに管理されているであります)

あきつ丸(だからこそ逆に、代替品の用意は容易い…)

あきつ丸(そして、これが提督殿と通信が取れなくなった理由でありますな)


あきつ丸(『通信が入っていない』のではなく、『通信機そのものを持っていなかった』、という事)


あきつ丸(これはいよいよもって、怪しくなってきたであります)

あきつ丸(しかし…これからどうすれば?)

あきつ丸(提督殿と連絡を取る手段は奪われ、居場所を特定する事も難しい、となると…骨が折れそうでありますな)

あきつ丸(一旦榛名殿達と相談するでありますか)コツコツ


あきつ丸(しかし…)

あきつ丸(何故提督殿が?)

あきつ丸(友提督殿は、悪名高きアイアンボトムサウンド海域を突破し、AL/MI作戦においても深海棲艦の鎮守府奇襲を予想し、見事守りきった)

あきつ丸(その活躍から『パラオの英雄』と讃えられ、パラオ特別鎮守府を任されるようになった…)


あきつ丸(友提督殿には10年来のご友人がいる…それが、提督殿)

あきつ丸(しかし提督殿には友提督殿のような実績は無い)

あきつ丸(あるとしたら…AL作戦時での姫級(北方棲姫)の撃破くらい、か)

あきつ丸(それなのに、まるで提督殿を狙い撃ちにしたかのようなこの状況…一体誰が何の目的でこんな事を?)

あきつ丸(提督殿には狙われるほどの地位も実力も無いはず)

あきつ丸(如月型艦娘の現状と何か関係が…?いや、しかし、それなら何故提督殿が…?あぁもう、これでは無限ループであります!!)


131: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:08:36.26 ID:f3p2MBTH0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




132: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:15:11.56 ID:f3p2MBTH0


提督「パラオ泊地所属、提督、秘書艦二名、入ります」ガチャ


教官「………」


提督「………」



提督「………」


教官「………」



教官「…久しぶりだな。提督。まぁ、座れ」

提督「………」

提督「失礼します…お久しぶりです、教官殿」(何でテメーとまた会わなきゃいけないんだ)

提督「申し訳ございませんが、すぐに本題に入っていただけますでしょうか」(もう二度と見たくない面なんだから)

提督「今うちの泊地で少々厄介な問題が起こっていますので」(とっとと終わらせて帰らせてくれ)

教官「…敵の通信を傍受した」

羽黒「!!」

提督「内容は?」

教官「近々、どこかの泊地が強襲される」

提督「どこかって…何泊地ですか? パラオか、トラックか…」

教官「そこまではわからん」

提督「わからないって…」

教官「だが、情報が入ってきた以上何もしないわけにもいくまい。どこが狙われるにせよ、我々にとって重要な拠点ばかりだ」

教官「大本営は近いうちに全鎮守府に向けて防衛作戦の指示を出す予定だ」

教官「防衛作戦に向けて、練度の向上や資材の確保が必要になる…そこでだ」


教官「俺が、お前の部隊を一度見直す」


提督「…どうして私にそこまで?」



教官「お前が、俺が今まで指導してきた『特務提督』(※)の中で」

(※)艦娘を指揮する役職の正式名称。彼らの役割は、大本営から任された鎮守府・泊地の経営と所属する艦娘の指揮のみ。
(※)正規の軍人ではない一般人が大半を占めていて、軍人の提督との区分けの為にこの役職名が付いた。

教官「一番成績が悪いからだ。このままでは俺の評価にも響きかねないからな」



那珂「…」ムッ

提督「…そうですか」


133: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:18:14.10 ID:f3p2MBTH0


教官「部隊編成図は用意してあるな?」

羽黒「こちらです」スッ

提督「…第一部隊は主力部隊です」

提督「ここにいる第二秘書艦羽黒を旗艦として、金剛・霧島の高速戦艦…」

提督「赤城・翔鶴・瑞鶴の正規空母で構成しています」

教官「何故赤城型艦娘と五航戦を?加賀型艦娘はどうした?」

提督「…彼女達は我が泊地で最高練度の正規空母です」

提督「主力に相応しい戦力は持っています」



教官「馬鹿か」



教官「加賀型艦娘の性能を何だと思っている。アレの前では赤城型も五航戦も劣化品でしかない」

教官「しかも何だこれは。主力と言い張る割には翔鶴型艦娘の練度はお粗末じゃないか」

提督「…申し訳ございません」

教官「帯に短し襷に長しの赤城型と、火力不足の五航戦」

教官「これで主力部隊とはな。それにこれでは潜水艦相手に手も足も出ない」

提督「………」

教官「で、加賀型はどうした?確か半年ほど前に艦娘配属申請書を提出していたな?」

提督「あの作戦の前だから…六月ですね」

提督(今が一月だから…本当に、あれからもう半年以上経ったのか…)

提督「加賀は………」

提督「………」

提督「都合により、他の鎮守府への転属になりました。艤装も既に解体済みです」

教官「ハッ!無能っぷりに嫌気差されて見捨てられたか!」

教官「まぁいい。ならさっさと妖精に次の艤装を作らせろ」

教官「で、艤装が出来たらすぐに申請。艦娘が到着次第練度向上だ」

那珂(…なんだこれ)


134: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:21:28.31 ID:f3p2MBTH0


教官「…で、第二部隊は、駆逐艦隊?」

提督「水雷戦隊です」

教官「相変わらずズレているな。水雷戦隊は基本第三部隊だろう?」

那珂(はっ?そんなん人の勝手じゃん)

教官「こっちもお粗末だな」

提督「…申し訳ございません。AL/MI作戦後に編入した艦娘が主ですので」


教官「MIではない」

那珂「え?」

教官「お前は、あのミッドウェーには一歩も踏み入れていない」

教官「アルフォンシーノで北方棲姫(クソジャリ)に足止め食らって、それまでだったお前が」

教官「歴戦の提督のようにミッドウェーを口にするな」


那珂(いちいちうるさいなこいつ)

教官「で、メンツは…」

提督「旗艦阿賀野・龍田・大淀の軽巡三隻と、如月・夕立・潮の駆逐艦です」

提督「また状況に応じて、暁・夕雲・荒潮の駆逐二班…この三隻とのメンバー入れ替えを行っています」

教官「如月?あぁ、あの…」ニヤ

提督「…如月が何か?」(何笑ってんだテメェ)











教官「沈 め ろ」











羽黒「…え?」


那珂「はぁ?」


提督「は?」



教官「この駆逐艦娘を『沈 め ろ』、と言ったんだ」

教官「我が海軍には、『『こ ん な も の』 は 必 要 な い』」

那珂(…こいつ)

提督(嫌な予感はしたけど、やっぱりそう来たか、このクソ野朗)

提督(だけどな)


提督(あの時みたいに行くと思ってんじゃねぇぞ…!!)


135: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:24:10.86 ID:f3p2MBTH0


提督「お言葉ですが教官殿」

提督「我が泊地の如月は、着任してから日は浅いものの、既に結果を出し始めています」

提督「渾作戦では駆逐艦娘潮と連携し、新型重巡と随伴艦の戦艦の撃沈に成功させています」




提督「我が泊地の如月は、我々にとって、無くてはならない戦力なんです」

教官「こんな性能の低い旧型駆逐艦が『無くてはならない戦力』?冗談だろ?」




教官「戦艦の撃沈なんてのはな、何も特別なものじゃない」

教官「他の鎮守府の記録を見た事が無いのか?戦艦の撃沈なんて、どんな駆逐艦娘でもやってのけるぞ」

教官「夕立、時雨、雪風、島風、綾波…こいつらが今まで一体何匹の深海棲艦を沈めてきたと思う?」



教官「それに比べれば、たかが一匹ごときで…」

提督「そうですか、『どんな駆逐艦娘でもやれる』のですか」



提督「なら、如月をわざわざ特別視する理由は何ですか?」



136: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:27:12.86 ID:f3p2MBTH0


教官「はぁ?」

提督「私も聞いたことがありますよ」

提督「今の駆逐艦娘の運用について。性能に多少の違いはあれど、殆どどんぐりの背比べ状 、だと」



提督「乱暴な言い方をしてしまえば、練度を積んで、我 々 が戦略をしっかり練れば」

提督「どんな駆逐艦娘でも活躍はできる」

提督「なのに、何故、教官殿は、如月を、名指しで、沈ませろなんて、おっしゃるのでしょうか?」トントントントン



提督「先程教官殿は、如月はこの軍には必要ない、と言いましたね?」



提督「何度でも言わせて頂きます」



提督「如月は我々の艦隊にとっては無くてはならない戦力です」



提督「何があっても沈ませませんし、手放すつもりもありません」



提督「それに、教官殿の言っている事は合理的に考えてもおかしいですよ」

提督「人道的な事は置いておいて、如月を沈めたとしましょう」

提督「そこからまた新しい艤装を開発して、艦娘を呼んで、育てるのですか?」

提督「そこまでの手間をかける理由が思いつきません。それこそ非効率です」

提督「艤装を作るのもタダではありません。資源と時間を消費します。艦娘の配属にも時間がかかります」

提督「そんなリスクを背負ってまで、新しい艦娘を配属するメリットが私には理解できません」

提督「性能に大差も無い。時間をかけるメリットもわからない。なのに教官殿は如月を沈めろとおっしゃられる」

提督「納得できる理由を教えていただけますか?」

提督「私だけではなく、艦娘の立場としてここにいる、私の秘書艦達も納得できる理由を」チラッ

那珂「…」

羽黒「…」

教官「…チッ」

提督「理由を、教えて、いただけ、ますか?教官殿!?」



教官「ちょっと口が上手くなっただけで調子に乗るなよ」



137: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:30:17.04 ID:f3p2MBTH0



提督「!?」

教官「結局お前はあの時から何も変わっていない。無能の、脳無しだ」

教官「この程度の事すら自分で考えて思いつくことすらできないんだからな」


教官「いいものを見せてやるよ」ポイッ

提督「これは…!?」バサッ

羽黒「!!」


教官「番組の放送後から集計した如月型艦娘の評価、情報だ」


提督「…なんだよ、これ」

教官「それとこれが」


教官「如月型の、轟沈記録、な」バサッ


提督「なんだよ…なんなんだよこれ!!」



提督「どういうことなんだよこれは!!!!」



138: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:32:33.98 ID:f3p2MBTH0


教官「どうもこうも、見れば察しがつくだろう?」

教官「今後の鎮守府運営は、あの鎮守府をモデルとして行われるという事だ」


教官「主な提督業務は長門型艦娘に委任し、特務提督は裏方へと回る」


教官「艦娘の指導担当に妙高型重巡洋艦娘を充て」


教官「所属する艦娘や艦隊の人員を出来得る限り一定化する」


教官「吹雪、睦月、夕立」

教官「川内、神通、那珂、赤城、加賀、瑞鶴、大和、大鳳」

教官「大井、北上、金剛、比叡、榛名、霧島、高雄、愛宕その他諸々」


















教官「そ し て」



教官「如 月 は」



教官「た だ 一 人」




教官「轟 沈 す る」


















139: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:37:52.24 ID:f3p2MBTH0


提督「………」

教官「お前の所には確か、陸奥型艦娘がいたな?今日から提督業務は全てそいつに引き継げ」

教官「なぁに、無能のお前よりはうまくやれるさwww」

教官「なぁ? 万 年 中 佐 ?」



提督「…ふざけんなよ」

教官「あ?」



提督「あんな烏合の衆の極みみたいな鎮守府が!」

提督「今後の俺達の手本として扱われるって事なのかよ!!」

提督「しかも向こうで艦娘が沈んだらこっちでも沈めってか!?」

提督「そんなの納得できるかよ!!!」

教官「お前が納得できるかできないかは聞いていない!!」

教官「あの鎮守府はこれからのお前達のモデルケースとなる。そう決まったのだ!!」



提督「そんな理由で人を殺すのかテメェら軍人はぁ!?」

教官「殺すさ!それが最善の方法なんだからな!!!」



提督「何が最善だぁ!?」

教官「人は常に平等であることを望む」

教官「あっちの鎮守府はあんなにも優れているのに、何故自分達を守る鎮守府はこうも駄目な奴らばかりなのだろうか」

教官「市民のそういった不安や不満は解決しなければならない」

教官「我々は、市民を守る事が仕事なのだからな」

教官「だからこそ、モデルの提示と、モデルに沿った鎮守府運営が必要となるのだ」

提督「それがあの番組で!?人死にもモデルだってのか!?」

教官「あぁそうだ!お前も見ただろう!!」

教官「如月は沈んだ!ただ一人!他の誰も沈まなかった戦場でただ一人!」

教官「それを見た人々はどう思う!?」

教官「それをはっきりと示したのがこの資料だ」


教官「既に不満が溜まった市民によって如月型が殺される案件が各地で起きている」



教官「如月型自身にも、自ら犬死を望むような特攻や自殺をする者まで現れている」



教官「まるで『狂ったように』な」



教官「その結果が!この記録だ!!」



教官「昨日と今日で、既に80以上の轟沈、死亡が確認されている!!」



教官「他の艦娘がせいぜい一日に、3・4…多くても10にも満たない中でだ!!」



140: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:41:38.66 ID:f3p2MBTH0


教官「想像してみろ!こんな出来損ないに守られたいと思うか!?」

教官「もはや如月型艦娘は誰も必要としていない!!」

教官「如月型艦娘は国防において邪魔にしかならない!!」

教官「如月型艦娘は海軍の恥晒しだ!!」

教官「一般市民にとってもそうだ!!だからこそ!!リンチに走り!如月型艦娘を狩っているのだろう!?」

教官「だから沈めろ!!一人残らず殺せ!!」


教官「『番組と同じように』な!!」


提督「!!」ギリッ

教官「何だその目は」

教官「お前以外の特務提督はこちらから何も言わずともやってのけたぞ」

教官「情報が入った瞬間にな」

提督「…だとしても!!」



教官「…そうだ面白い話をしてやろう」

提督「…は?」


教官「今のお前のように反発していた特務提督が一人いたんだ」

教官「『誰一人として沈ませたくない』と夢物語を語ってな」


提督「…夢物語じゃないでしょう。艤装の『ストッパー』を『しっかり管理していれば』、ですが」

教官「俺はそいつに言ってやったんだ」



教官「『これは大本営直々の、軍直々の『許 可』だ』」

教官「『あの放送を許可した理由を考えてみろ。君は何も気にする必要は無い』と」



教官「それを伝えた数時間後…そいつはどうしたと思う?」

提督(…答えたくない。まさか、まさか…)











教官「笑いながらなぁ!!!」

教官「轟 沈 の 完 了 報 告 を し て き た ん だ よ ! !」











141: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:43:30.18 ID:f3p2MBTH0


提督「………」

教官「…だけどお前はそうはいかないんだろうな」

教官「お前は察しが悪く、頭の回転も遅い、物事に対して独断と偏見で満ち溢れていて視野も狭い」

教官「だからこうやって直々に呼び出してやって、教えてやってるんだ」



教官「軍のしきたりと」

教官「この世界の常識って奴をな」



提督「ざ け ん な ぁ!!!」

提督「こんなもんがなぁ!!常識だってんなら俺は一生頭のおかしい異常者でいい!!!」

提督「こんなくだらねぇ理由で如月を殺してたまるかよぉ!!!」

提督「誰が!如月を沈めたりするものか!!!」

提督「アンタが言いたいのはそれだけか!?その命令は聞き受けられない!!」

提督「那珂!羽黒!帰るぞ!!」

那珂「うんっ」



教官「動くな提督!!後ろを見ろ!!」



提督「!!」


武蔵「………」ガチャッ


提督「お前は…行きの船で護衛に付いていた武蔵…!?」

武蔵「動くなよ。動いたら、撃つぞ」

武蔵「教官殿を巻き添えにするとかは考えるだけ無駄だ」

武蔵「艤装を付けていないお前達では、砲撃の衝撃にすら耐えられまい」

武蔵「『衝撃だけを』当てて、お前達だけを殺す事だって、難しい事ではないぞ」

提督(しかも艤装付きかよ…!!こっちには人間一人と艤装無しの艦娘二人!!)

提督(おまけに真正面から向き合ってると来た!)

提督(この状況じゃ、一発入れる前にこっちが砲撃で粉微塵にされる…!!)

提督「そういう事かよ…最初ッから!」


142: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:46:53.44 ID:f3p2MBTH0


教官「帰れるわけがないだろう?」

教官「お前がここで俺の言う事を聞かなければ」

教官「お前は一生この横須賀から出る事は出来ないぞ」

提督「武蔵型艦娘なんてもんまで引っ張り出してきやがって…!!」

提督「こんな事してでも、如月を殺したいのかよ…!!」

教官「あぁ殺したいね」



教官「いいか?これはイメージという点だけの問題じゃないんだ」

教官「そもそも駆逐艦なんてものは消耗品なんだ。そして戦争に犠牲は付き物だ」


提督「そんなのは昔の話だ!『ストッパー』があれば犠牲は無くなるはずだって…!!」

武蔵「黙れ」


教官「だが、艦娘が人型でコミュニケーション可能な存在である以上、ある程度の情が沸いてしまうのは避けられないだろう?」

教官「正規の軍人である我々ならともかく、素人のお前達、特務提督が情を捨てて作戦を考えるなんて無理な話だ」



教官「なら、犠牲になる艦娘を固定してしまえばいい」



教官「最初から『こいつは沈める』と心に決めてしまっておけば、そんな問題は無くなってしまう」

教官「全ての如月は沈み、他の艦娘は、決して、沈まない」

教官「生きとし生ける者、全てが幸せになるんだ」



教官「あいつ(如月)が死んでくれればな!!」



教官「口にしなくてもな!口では綺麗事を言ってもな!全ての提督がこう感じているだろう!!!」





教官「『うちの大切な艦娘が沈まなくて本当によかった!』」





教官「『沈むのがあいつでよかった!!』」





教官「『ざまぁみろ!!ざまぁみろ!!!ざまぁみろぉ!!!!』」





教官「そうだ!それが!!特務提督という生き物だ!!!人間という生き物だ!!!」

提督「だったら!如月に情が沸いた者はどうすればいいってんだ!」

教官「それはただ、先を見ることが出来なかった大馬鹿者だ。お前のようにな」

教官「特別や例外は許されない。それをしてしまったら体制が崩れてしまうのでな」

教官「如月は、一人残らず、沈ませる」

提督「そんなの…そんなのなぁ…!!」


143: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:53:26.99 ID:f3p2MBTH0


教官「そうだな…お前はずぅっとそうだったなぁ!」





教官「最初の秘書艦は軽巡洋艦娘『那珂』」



教官「『解体のアイドル』」





教官「次の秘書艦は『重巡洋艦娘』羽黒」



教官「『軽巡以下の産業廃棄物』」





教官「その次が正規空母艦娘『赤城』」



教官「『妖怪食っちゃ寝』『大飯喰らいの木偶の棒』」





教官「お次に入れ込むのは『如月』か!!」



教官「今度は何だ!?」



教官「『大本営公認捨て艦』!?」



教官「いや『唯一の轟沈艦娘』か!?」





教官「お前は本当に先を見る目が無いな!?よくもここまで『ハ ズ レ』を引いていけるものだ!!!」


教官「だから俺達はいつも言っていたんだ!!」


教官「『お前がこの世界でやっていけるはずがない』ってなぁ!!」


教官「『お前の為を思って』!!『教えて『やっていた』』んだ!!!」


教官「やぁっっっぱり!!そうだったじゃないかぁ!!!!!」


144: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:56:24.96 ID:f3p2MBTH0


提督「…てめぇ!」


教官「そろそろいい加減にしておけよ」ズイッ


提督「!!」ビクッ

教官「ただの一般人だったお前達がここに居て、艦娘の指揮を執れるのが誰のおかげだと思っている」

提督「…少なくとも…アンタのおかげじゃねぇよ!!」


教官「」ドスッ

提督「ごぶっ!!」


羽黒「司令官さん!!」

提督「ふぐ…おえっ…」

教官「人手不足というのは恐ろしいな。こんな、話を聞かない、無能な奴まで利用しなければいけないのだから」

教官「特に今回のは目に余る」

教官「その非常に反抗的な 度。ここまで来ると逆に素晴らしい」


145: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/20(日) 20:59:24.28 ID:f3p2MBTH0


教官「憲兵!憲兵!!」

憲兵「どうしましたか、教官殿」

教官「この馬鹿を連れて行け。反抗し、私に危害を加えようとした」

憲兵「!!それは…」

憲兵2「お前達はこの提督の秘書艦か」ガシッ

羽黒「!!」

那珂「ちょっと!離して!!」


教官「おっと、その二人は丁重に扱ってやってくれ」


那珂「は?」


教官「何せコイツは、自分の部下の艦娘を片っ端からxxxするような外道だ」

教官「その二人も心に大きな傷を負っているだろう…もし間違えてコイツと同じ部屋に入れてでもしてしまったら、何が起こるか…」

教官「そんな悲劇は見たくないからなぁ」フーッ


提督「………」ギリッ



教官「それに…」ジロッ

羽黒「!」ビクッ

那珂「!」ゾッ

教官「彼女達は貴重な戦力だからな。こんな事で失いたくない」クククッ

那珂(おえっ)



教官「お前は別だがな、提督」

教官「お前がこの命令を了承するまで横須賀から出られると思うなよ」

教官「それまでは毎日、臭い飯を食わせてやる」

教官「あの時の泣き虫野朗がどこまで粘れるか、見物だな?」ククク


154: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 20:45:15.30 ID:H1HdeiEK0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・




155: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 20:47:38.34 ID:H1HdeiEK0


「龍田、今度な、新しく駆逐艦隊を組もうと思っていて」


「はじめまして、如月ちゃん。私が今日から如月ちゃんの教官になる…」



「ストレッチパワー」


「いいじゃんいいじゃん!」ポンポン



「囮艦隊でありながら、損傷軽微で生還を果しました」


「でね、実は今日こっそり連れてきちゃったんだ。ちょっと早い顔合わせって事で」


「その内の…至近弾だけでも爆弾が48発、魚雷17本!!」


「…にも関わらず、二隻とも損傷軽微で生還できた理由がこの…」



「ストレッチパワー」


「俗にそう呼ばれる現象の原因について、詳しい事はまだわかっていません」



「如月ちゃんに宿題!次に会う時までに素敵な女性に近付いている事!」


「わかっているのは、特別な改造を施さなくても光を発している間は、艤装性能と艦娘の身体能力が爆発的に向上する事」



「私の事覚えてる?第三十駆逐隊時代の…」


「お前と阿賀野と大淀で、指揮を執ってもらいたいんだ」


「知り合いの伊勢さんと日向さんの協力のもと、作ってみました!」



「ストレッチパワー」


「そこまで言うのなら止めはしないよ」



「こうやって私と如月ちゃんがまた出会えた事だって、運命よ」


「膨大なエネルギーの蓄積による自壊を防ぐ為とも言われ…」


「艦娘になって、今までの名前を封印して、顔が変わって、遺伝子が変わっても、お前はパパとママの…」



「アネモネの花」



156: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 20:49:05.22 ID:H1HdeiEK0


「如月ちゃんにあげる。お祝いの花!」


「アネモネの花はね、2月の誕生花なの」


「如月っていう名前も旧暦の2月だし、ちょうどいいなと思って」


「それでね、この花の花言葉はね―――――」




「気分はどう?」




157: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 20:50:11.30 ID:H1HdeiEK0


……………



「だから言ったでしょう?」



「もうどうにもならないって」



「あなたはもう終わりだって」



「それでもまだ信じるの?」



「それでもまだ生きたいの?」



……………



「そう…それなら、見せてあげる」



158: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 20:52:09.36 ID:H1HdeiEK0


視界が切り替わる。

たった一人で海に立つ女の子。

如月。


159: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 20:53:46.19 ID:H1HdeiEK0


これは私?

「そう。貴方と同じ如月」

「貴方と同じ如月『だったもの』」



…何の、ために



如月「…何の、ために」

如月「何のために、如月は死んだの?」




「人間の自己満足のため」




「『こうした方が面白い』」

「『こうでなくてはならない』」

「ただそれだけのため」


「理由なんてそれだけ。それ以上の意味は、私達の命には無かった」

「これからずっと、如月は殺され続けるの」



「欲望のため、自己満足のため」



「何人」

「何十人」

「何百人」

「何千人の如月が」




「如月だけが」




「何も知らずに死地に赴き、殺される」



「ほら」



「また一人、死ぬ」




160: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 20:54:58.66 ID:H1HdeiEK0


目の前の如月が、突然飛んできた爆弾の直撃を受ける。


艤装が完全に壊れ、沈んでいく。


艦娘の身体と艤装の最後の力が、彼女の身体を欠損させなかったのは


せめてもの慈悲か、これを見る者への拷問の一種か。


そして沈み行く彼女は最期の言葉を遺す。


161: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 20:55:35.08 ID:H1HdeiEK0






「如月のこと…忘れないでね…」






162: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 20:56:59.21 ID:H1HdeiEK0


如月「………!!」

如月「やめて!!こんなの見たくない!!」

如月「こないだのテレビでさえ辛かったのに!!何で!何で何度も!!」



「いいえ、見なければいけないの」グイッ

如月「あっ!」

「貴方は全ての如月の手本になりたいのでしょう?」

「目を、開けて」グググググググ

「顔を、上げて」グググググググ

「現実を直視して、受け入れなきゃ」




「ほら」


「まだまだ、死ぬ」


「みんな、死ぬ」


163: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:17:19.62 ID:H1HdeiEK0


「よぉし!俺も殺そう!!」

「助けて!助けて司令官!!」

「ねぇどんな気持ち?轟沈晒されてどんな気持ち?wwwwwwwwww」

「テレビで死んだんだから殺してもいいよね!!」

「で、うちの如月ちゃんはいつ死ぬの?」

「なんかこの辺ゾンビ臭くないですかぁ!?!?」

「死にたくない…!!」

「大本営のやる事なんだから尊重しなきゃ!!」

「尊重して!僕達も!如月を殺そう!!!」

「お前もとっとと死ねばライバルが減るデース!!」

「如月ちゃん死にましたーwww」

「違う!私は!死んでなんていないのに!!」

「別に俺達が殺したって問題ないって事だよなぁ!?」

「生きとったんかいワレェ!!」

「じゃけんもう一度殺しましょうねー」

「何故かしらねぇけど憲兵がいないんだから殺しちまっても大丈夫だろ!!」

「えっ?死なないの?それじゃダメだよぉーww」

「テメーの命なんて所詮その程度だって事なんだよ!!」

「はい!別に沈んでも何の感情も沸かないので大丈夫です!!」

「オラオラー!!死ねや化け物が!!」

「嫌ぁ!やめてぇ!!」

「人殺しにはならないだろ。だって人間じゃないんだから」

「ゾンビか化物か」

「俺が!俺達が!テレビ提督だ!!」

「ざっまぁwwwwwwww」

「何が艦娘だぁ!!!」

「W島で沈んだあいとー(笑)の意を表してぇwwけえええええいれええええええええええええええいwwwwwww」

「髪がいたんじゃあああううううううんwwwwwwwwwwwwwwwww」

「司令官…どうして…!?」

「きぃさらぎぃ~?んん~??www誰だったっけなぁ~wwwww」

「高い税金払わせておいてなんだあの様はよぉ!?!?」

「死ねや!深海棲艦がぁ!!!」

「まだまだ殺せるはずだ!探せ!!探しまくって殺しまくれ!!」

「ちょっとゾンビ沸いてんよ~」

「えー如月が轟沈しましたー。いやー!悲しい!かなしいねえー!!」

「テメーみたいな雑魚艦娘がよぉ!!」

「司令官、私…大破して…」

「犬死するのがお前の役割だろうが!!ゴタゴタ言ってないでとっとと死ね!!」

「ま、そういう運命なんだよお前はww」

「よかったじゃないか!価値が産まれて!!」

「じゃあ、死のうか」


164: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:19:14.70 ID:H1HdeiEK0


如月「………!!」

如月「うぐっ…」

如月「うっ…おぇっ……」



如月「私に…私にこんなのを見せて…どうしろっていうの…!?」

「あれになるの」


165: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:20:51.69 ID:H1HdeiEK0


築き上げられた如月の死体の山の奥に

佇む影が二つ現れた。

深海棲艦

正規空母、ヲ級と姫級、中間棲姫。


166: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:22:16.91 ID:H1HdeiEK0


如月「!?」

如月「深海棲艦…!?」


「人を憎みなさい。そして殺しなさい」

「人間はこれ以上罪を重ねるよりも、死んだ方が人間の為…世界の為」

「あれはその為の力、その為の姿」


如月「…嫌よ…!!」

如月「私は人間よ…これからだって…人間のままでいたい…!!」

如月「化け物なんかになりたくない…!!」




「だけどその人間は如月を否定した」

「如月の命を、如月の名誉を、如月の全てを否定した」




「私たちにはもう味方はいない」


「私たちにはもう何も無い」



「このままでは」

「彼女のような凄惨な死しか残らない」



167: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:22:53.58 ID:H1HdeiEK0






「カミカザリ…カエシテ…」






168: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:24:28.35 ID:H1HdeiEK0


視界が切り替わる。


灰色の空の下。


艦隊と、深海棲艦の戦い。


のはずだ。


そのはずなのに。


艦娘が砲撃を、爆撃を加える


その標的は


169: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:26:51.97 ID:H1HdeiEK0


如月「…!?」

如月「何で…なんで、如月が…」



如月「艦娘に攻撃されて…!?」



如月「誰も気付いていないの!?誰も!?」

如月「やめてっ…やめてぇっ!!」

如月「それは味方よ!!如月なのよ!!!」

如月「やめて!!!!!」

如月「お願いやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」



「敵空母を沈めたっぽーい」




如月「あっ…あぁ、あああ…ッ!!!」ガクッ




「かつての仲間に銃を向けられ…敵意と殺意に晒されて…」


「一人」


「たった一人」


「孤独に死んでいくしかない」


「もう、地上にも、空中にも、海上にも、私たちの居場所はない」


「だから、海の底の仲間達に付くの」

「もっともっと深い憎悪を」

「もっともっと身に纏って」


如月「…嫌よ……」

如月「こんなの嫌よ…」











「嫌ヨ…一人ハ…」


170: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:30:12.58 ID:H1HdeiEK0



「貴方モ…一緒二…来テ」ガシィ


「皆デ…水底ニ…」




如月「ひっ!?」

如月「離してっ!離してぇ!!」





「誇りも、名誉も、意思も、全ての光を無くしたわ」


「私たちに遺されたのは、恨みと、辛みと、無念だけ」


「私を大事にしてくれたあの人も、もういない」







「なら」



「もう人類に生きる価値なんて見出せない」



「私たちは再び一つとなって」



「人類を滅ぼす」




「再び一つに」




171: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:34:32.52 ID:H1HdeiEK0


「人間はいつだってそうだった」

「自分の為なら他人を殺す」

「自分の欲で他人を殺す」

「あの時だってそうだ」

「ウェーク島上陸作戦の為に展開された大発艇のせいで、私はろくに回避もできずに沈んだ」

「たかが戦闘機ごときに沈まされる事になった」

「あんなものいなければ!あんな攻撃で沈みはしなかったんだ!!」

「なのに後世では、そこまで鑑みる人は居ない…」

「いつだってそうだ」

「私はいつも!!誰かの勝手で殺されるのに!!!」

「誰もそこに目を向けてはくれない!!!!!」

「否定されるのは私だけ!!いつもいつも!!!」



「今回だってそうだ!!!」

「あんな!」



「あんな奴らの勝手な都合で!!殺されて!!!!」


「ふざけるな…!!勝手な都合で…!いつも勝手な都合でえええええええ!!!!」



「殺してやる…!!」


「殺してやる!!!」


「人間なんて、一人残らず殺してやる!!!」


「痛みをわからせてやる!!」


「怖さをおしえてやる!!!」


「そして世界から消し去ってやる!!!」



「お前達のようなものがいなければ!!!」



「地球の歴史をやり直すんだ!!!!!」



「これ以上奴らにチャンスなんていらない!!」



「殺せ!!!」



「滅ぼせ!!!」



「絶滅させろ!!!!」




172: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:38:05.84 ID:H1HdeiEK0


「あなたも辛かったでしょう!?」


「追い掛け回され!殺されかけて!狂ったあいつらのために!!」


「心配しなくていいわ。これからの私達には相応しい!特別な身体を貰えるんだから!!」


「狂気に触れたものにのみ許される特別な身体…」




「戦艦、レ級!!」




「この力で…みんなで!みんな!みんな!殺してやる!!!」


「あいつらから貰った狂気を…全部、全部、あいつらに返してやる!!!」



「だから…」



「早く」



「あなたもこっちの存在になれって言ってるのよ!!!!」



173: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:42:03.09 ID:H1HdeiEK0


水面から這い出る腕が


如月を掴む腕が増える。


脚を、腕を、首を、胴を


細い腕が、如月の腕が、彼女を掴んで離さない。


「助けてっ!誰かっ…!!」


「しれいかんっ!しれいかぁん!!!」


そしてそのまま海の中へ引き擦り込まれた。


174: ◆ZFgfLAc.nk 2016/03/31(木) 21:46:50.09 ID:H1HdeiEK0


「如月………!!」


薄くなる意識の中で


「如月ちゃん!!」


果てしなく暗い海の底で


かすかな光を感じた。


その光は如月を招くように、彼女を身体を引き寄せた。



それは、死の海底からの出口だった。



176: ◆ZFgfLAc.nk 2016/04/01(金) 00:59:49.13 ID:J+/TORv30


「如月ちゃん!如月ちゃん!!」

如月「うぅっ…あぁっ!!」

如月「あぁっ…あ……」

如月「あっ………」ピクッ

如月「??…?…」ムクッ



潮「如月ちゃん」

如月「ひっ!!」



潮「大丈夫。あたし…潮だよ」

如月「う、潮、ちゃん?」

潮「如月ちゃん、うなされてたんだよ」

如月「うなされて…?ってことは…あれは夢?」

如月(…本当に夢!?)

如月(あの…光景は…あの…痛みは、息苦しさは…!!)

如月「あれが…本当に…夢なの…!?」


潮「………」

潮「ねぇ、如月ちゃん…」スッ


177: ◆ZFgfLAc.nk 2016/04/01(金) 01:01:18.41 ID:J+/TORv30


動揺と恐怖のせいか


または『自分の片割れ』の影響か


如月の感覚は暴走し、その先の未来を見せる。



如月に伸ばされた潮の手は


突然彼女の首に襲い掛かり、締め付けた。



「そう!その手は貴方を殺すつもりなのよ!!」


頭の中の何かがそう叫んだ。


178: ◆ZFgfLAc.nk 2016/04/01(金) 01:04:47.61 ID:J+/TORv30


如月「!!」バシッ

潮「!!」



如月「来ないで…!!」



潮「えっ」

如月「来ないでよ!!」

如月「あなたも如月を殺すんでしょう!?」


「そう!!油断させて絞め殺すつもりだったのよ!!」



潮「えっ…ち、違う…」

如月「他の如月みたいに、潮ちゃんも私を殺すんでしょう!?」



「そう!!もう私達に味方はいないんだから!!」



潮「…如月ちゃん…!?」



「だから!!早くあなたもこっちにいらっしゃい!!」



如月「いやっ…」

如月「死にたくない!死にたくない!!」



如月「死にたくないよぉ!!!」ドンッ!



潮「あうっ!」ドスッ

如月「!!」ダダダダダダッ

潮「如月ちゃん…!如月ちゃん!!」

潮「…!!」

潮「誰かっ!誰か!!如月ちゃんを止めて!!」



潮「如月ちゃんを止めてぇ!!!」



179: ◆ZFgfLAc.nk 2016/04/01(金) 01:07:45.23 ID:J+/TORv30


如月「はぁっ…!はぁ、はぁっ…あぁあああ…!!!」



「『如月』は、もともとは一つの存在」



如月「!!」ゾクッ

如月「何なの…」

如月「何なのよこの声…!!」



「『如月』は、たった一つの存在から分かれて増えた」

「一ツノ魂カラ分カレテ増エタ」

「ソレガ艦娘」

「『如月』は、全てが一人で、一人ガ全テ」



如月「あぁ…あぁああああ…ああああああああああ…」ガタガタガタガタ



「ダから、オ前モ」







「オ前モアノ如月ノ様二沈メ」








180: ◆ZFgfLAc.nk 2016/04/01(金) 01:09:37.63 ID:J+/TORv30


如月「あぁあああああああ!!!!!ああああああああああああああ!!!!!!!」

如月「声がっ…頭から…剥がれないっ!!」



「皆死ヌ」



如月「助けてっ!誰か助けてよぉ!!」



「皆死ンダ」



如月「パパっ、ママっ、あたまいたいっ!!」



「皆死ンデ一ツニナッタ」



如月「誰かとめてっ!だれかたすけてぇっ!!」



「オ前モ死ネ」


「死ンデ一ツニナレ」



如月「たすけてぇっ!しれいかぁん!!」



「如月ノ歴史ハ」


「ココデ終ワリ」


「ソシテ始マリ」


「復讐」



如月「しれいかん…たすけて…」


「ナラ会イニ行コウ」


如月「……………会いに…イコウ…」


「我々ト共ニ」


如月「我々と共に…」


如月「この海ヲ越エテ…日本マデ…」


「ソシテ全テヲ滅ボソウ」


如月「波ニ乗ッテ…」



「シレイカン…」



181: ◆ZFgfLAc.nk 2016/04/01(金) 01:13:08.62 ID:J+/TORv30


「コレデ」


「今度コソ」




「迎エニ行クワ」


「港ヲ出テ、北ニマッスグ」


「ソコニ使イヲ出シテオク」


「余計ナモノ(ストッパー)ハ付ケナイデ、ソコマデ一人デ来ルノヨ」



「早クシナイト」


「マタ、苦シクナルダケダカラ」