30: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 01:06:08.19 ID:w34FEFhi0
ある日、榛名を旗艦とする艦隊が出撃から帰ってきた時のことだ。

榛名「提督、艦隊が帰投しました。我が軍の勝利です!」

提督「榛名おかえり…って、すごい怪我をしてるじゃないか‼今すぐ入渠しといでよ!」

榛名「提督は優しいのですね。榛名にまで気を遣ってくれて。でも榛名は大丈夫です。先に他の子たちから入渠させてあげてください。」

電「はわわわ、榛名さんの方が怪我してるのです。すぐお風呂入ってきた方がいいのです。」

摩耶「そうだ榛名、あんたから先に入ってこいよ?うちらはまだかすり傷みたいなもんだし。旗艦のあんたが1番怪我してるだろ?」

榛名「みなさんありがとうございます。でも、榛名は戦艦です。これくらいの傷なんてことありません!」

雷「榛名さん…。」

この後みんなで説得しても聞かなかったので結局、提督は1人出てきたらすぐに榛名も入渠する条件つきで、榛名の意思を尊重することにした。


33: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 02:03:38.63 ID:w34FEFhi0
提督「なぜそこまでして他人を優先させる?実際結構怪我してるだろ…。」



榛名「ご親切にありがとうございます。でも、まず先に提督の顔を見たくて…。」



このように言われた時の返し方を提督は知らない。ただ黙って下を見るしかなかった。


34: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 02:10:29.28 ID:w34FEFhi0
気配りの細やかな人だった。榛名が秘書艦の日は、提督はいつもリラックスして仕事ができた。

周りをよく見ていて、今何が必要で何が必要でないかを分かっていた。

金剛お姉様が持たせてくれました、と言いながらよくケーキやクッキーを持ってきた。

実際は嘘で、榛名が作ってきてくれていたことは知っていた。金剛にお礼を言ったら

それは榛名が作ったと言っていたからだ。

ただ、それを榛名に言う勇気はなかった。

彼女のことを何か詮索しているのではと思われたくなかったし、彼女がもしそれを隠したいのなら

彼女の意思を尊重したかったからだ。


40: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 08:59:43.41 ID:w34FEFhi0
  





 仕事ばかりでなく、適度にコミュニケーションをとって提督を楽しませてくれた。



 なんとなく恥ずかしくて、提督から榛名には中々話しかけられなかった。

それでも、いつも榛名から話しかけてきてくれた。



 おしとやかで気品のある振る舞いをしていた。

それでいて確固とした自分をしっかり持っていた。


42: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 12:08:54.07 ID:w34FEFhi0
 





 戦闘に勝利するといつも喜んで、そして必ずこう言うのだった。



 「ありがとうございます、提督。提督の作戦のおかげです!」



 それは違う、と提督は思った。

違う。自分は単に作戦を立案しているだけで、実際に前線に出て戦っているのは彼女達なのだ。

それに自分はいつも榛名に助けられてきた。仕事に追われてストレスで参ってしまいそうになった時でも、

彼女の笑顔にいつも救われてきた。



 他の秘書艦もやらないような仕事を、榛名は遅くまでずっとやってくれる。

もう休んで、と言っても提督がお仕事なさってるのに榛名だけ先に寝る訳には参りません、と聞かないのだ。

最近は仕事にも慣れてきてそんなことはなくなってきたけど。



 彼女になにかお礼をしたい、と思った。

 


43: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 13:26:04.46 ID:w34FEFhi0
 12月14日は彼女が1年前に着任してきた日だった。



 あれから鎮守府はかなり大きくなり、艦隊の艦種も充実してきた。

提督も階級を一つ上げ、榛名は練度MAX、鎮守府の最高戦力になっていた。



 その日提督は榛名を食事に誘ってみた。

OKの返事がもらえた時は一日中顔がにやけていて、瑞鶴に気持ち悪いと爆撃されたのも今となっては懐かしい。


45: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 21:13:13.47 ID:w34FEFhi0
 提督「ありがとな、榛名。無理やり呼び出したりしちゃって」



 榛名「いえ!ただ、榛名だけこんな特別扱いでいいのでしょうか」



 提督「榛名だから特別扱いしたいんだ。君はうちの鎮守府のルーキーだ。今日はいつものお礼をしたくて、さ」



 榛名「お礼?榛名に、ですか?」



 提督「そうだ。榛名のおかげで毎回の作戦も成功に終わる。それだけじゃないぞ?毎回毎回細かなとこまで気を配ってて、秘書艦としてもいつもお世話になったよ」



 榛名「提督……褒めすぎです///」



 提督(なにこの生き物可愛い)



 舞鶴の冬は寒い。予報によると、夜から雪が降るらしい。


46: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 21:21:53.46 ID:w34FEFhi0
 店は鎮守府からさほど遠くないところにあった。



 予約していたのですぐ席に案内される。



 席につくと提督はソワソワしてきた。

どのタイミングで渡そう?どんな感じで話を切り出そう?

失敗したら?てか、失敗ってなんだ?断られること⁇



 断られることを考えたら一気に気持ちが萎えてきた。その可能性を全く考慮に入れていなかったのだ。


48: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 02:21:11.48 ID:uNNC7o0z0
 榛名「提督?お体の具合でも悪いのですか⁇」



 提督「いや、違うんだ。ちょっと考え事をしていたもんで。しかし、榛名と来れてよかったよ」



 それを聞いて彼女の顔がパッと輝く。

だから、その笑顔やめてくれって。破壊力高すぎるんだよ。

まあ、見れたら見れたで目の保養なんだけど。



 榛名「榛名も、提督と一緒に来れてよかったです‼」



 多分、提督の顔は茹でだこのようになっていただろう。


49: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 02:25:09.85 ID:uNNC7o0z0
 しかし、店内の様子といい料理といい、とてもいい感じだ。

これからプロポーズをする時のレストランとしては申し分ないな。



 当たり前だ、と苦笑した。いくら払ったと思ってる。

この日のために半年前からネットで予約してやっと来れたんだぞ。

食べログ評価

4.8は伊達じゃない。


50: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 02:31:39.01 ID:uNNC7o0z0
 榛名「みてください提督、あそこ」



 提督「ん⁇」



 榛名「ほら、あそこ。あそこです。見えますか?」



 提督「……あぁ!見えたよ」



 見ると、反対側の壁側の席に正規空母の加賀と正装した軍人がいた。

まさか、同業者に出くわすとはな。

距離はあるし、ばれなければいいが。


51: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 02:36:24.82 ID:uNNC7o0z0
 コースもどんどん進んできて、提督の心にも若干の余裕が出てきた。



 会話に乗りつつ、さりげなく榛名の様子を伺う。



 今日の彼女はいつもの巫女服のような装束ではなく、紺色のワンピースだった。

つまり私服なわけで、それがまた一層提督を緊張させた。



 やばい榛名かわいい。



 なんだかデートみたいだ。

まあ、デートなんだけど。


53: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 13:45:06.82 ID:uNNC7o0z0
 



榛名「……どうかなさいました?」



提督「……いや、なんでもないよ!」



 ダメだ、意識するとまともに顔を合わせられない。

結局また下を向く羽目になった。



 一方の榛名はというと、そのようなそぶりを全くみせずむしろ余裕さえ感じられる。

もしかしたら榛名は自分に全く気などなく、今回のも本当にただの食事として来たのか?

マイナス思考ばかり続きそうになる。

なんだか主導権がだんだん向こうに握られつつあって、男として非常に情けない気分だ。



 ヘタレな自分を雷撃処分してやりたい。


54: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 14:07:27.22 ID:uNNC7o0z0
 デザートが終わっていよいよ最後のコーヒーが運ばれてきた。

美味しい料理と素敵な店内の雰囲気も合わさり、中々いい感じで進んでいると思った。

店を出でからのプランはもう考えてある。ここで行かねば男が廃れる。

俺は軍人なのだ、と自分で自分を励ました。



提督「……榛名?この後さ、ちょっと寄ってきたい場所があるんだけど、時間ある?」



榛名「榛名は大丈夫ですけど……。どこですか?」



提督「そこは着いてきてのお楽しみってことで」



榛名「そうですか。楽しみにしてますね」



 つくづく可愛い。


56: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 16:21:47.72 ID:uNNC7o0z0
見てくれている人がいると励みになりますね!レポート書きながらのSSですww







 会計を済ませ(強引に奢らさせた)、提督は海を目指した。



榛名「普段慣れ親しんでいる海も、昼と夜では全く雰囲気が異なりますね。

 船や建物の灯が綺麗ですね」



提督「だろ?港町は夜景が綺麗だよな。これを見せたかったんだ」



榛名「この景色……私たちが守ってるんですよね。私たちが」



提督「そうだ。この灯を絶対に消してはいけない。これを守るためにみんな戦っているんだ」



榛名「そうですね……。なんだか、感慨深い気分になります。榛名、この景色目に焼き付けておきます」



 しばしの間訪れる沈黙。



 話を切り出すなら、今しかない。



 緊張とプレッシャーを押し殺して、深呼吸した。





61: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:21:40.52 ID:uNNC7o0z0
提督「………榛名」



榛名「はい」



提督「……多分、さ」



榛名「はい」



提督「これから俺が何を言うのか多分大体分かってるよな。でも、最後まで話聞いてくれるか?」



榛名「ええ、なんとなく分かります。でも、提督から直接お聞きしたいです。ゆっくりでいいので、話してくださいね」



 何を言っているんだ自分は‼‼

ダメだ、緊張がMAXに達している。



 それでも口を開く。


62: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:27:02.44 ID:uNNC7o0z0
「今日で榛名がうちに来て、ちょうど1年になる。この1年間いろんなことがあったな。

 榛名は本当によく働いてくれた。感謝してる」



榛名「そんな……。みんなでがんばってきました」



「でも、間違いなく榛名が一番の功労者だ。

俺がなんで榛名、君を秘書艦にすることが多かったか知ってる?」


63: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:29:44.53 ID:uNNC7o0z0






























 今だ。今しかない。



























86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/24(日) 13:33:24.36 ID:W/hyPuyS0
完結だけはさせます。





提督「…榛名?」



榛名「……なんででしょう、守りたい気持ちが、溢れてしまいます。みんなのことも…そして提督、あなたのことも」



 それを聞いた瞬間、急に彼女が今までで一番愛おしく思えて、思わず抱きしめた。



「逆だよ。俺が榛名とみんなを守る。アホな作戦で君たちを死なせたりしない。

 死なせるもんか、一人たりとも。だから榛名、榛名は俺の横で見てて。俺についてきて」



 ぎゅっと抱きしめたら折れてしまうんじゃないかと思うほど華奢な肩だった。こんなか細い身体でいつも戦っていたのか。



 この子を失いたくない。



 自分のそばに居てほしい。


90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/24(日) 19:16:40.83 ID:W/hyPuyS0
 ふと、榛名の腕が背中にまわされる。



榛名「ええ…。一緒に平和な海を、作りましょう。そして提督、榛名はいつまでも提督のそばに」



 全く、泣いてたらせっかくの可愛い顔が台無しだよ。俺の榛名は笑っている方が絶対にいい。



 涙を指で拭ってやる。そうしてやっと榛名は笑い、それから手を差し伸べてきた。



 細い、綺麗な薬指に指輪をはめてやる。



 提督と榛名の特別な絆の印。


91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/24(日) 19:21:11.81 ID:W/hyPuyS0
「ありがとう。これからもよろしくね、榛名」



榛名「こちらこそ。よろしくお願いします、提督!」



 急に改まった感じになったのがなんだかおかしくて、恥ずかしくて、顔を見合わせてお互い笑ってしまった。

榛名がぶるぶるっと身体を震わせる。そっか、寒いよな。悪いことをした。


92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/24(日) 19:34:20.96 ID:W/hyPuyS0
 もう一度抱きしめる。



榛名「提督…暖かいです、ね」



「ああ。2人だと寒くないね」



 榛名がもう一度こちらを見る。提督も榛名を見つめる。



 いつのまにか雪が降っていた。今年はホワイトクリスマスになりそうだ。



 一瞬の沈黙の後、榛名が目を瞑った。



 提督は恐らく顔を真っ赤にしながら、瞬時に意味を理解し、目を瞑ってー。





  【終わり】



引用元: 【艦これ】ヘタレ提督と榛名