2010年8月14日(土)12時07分
未来ガジェット研究所 開発室


倫子「……ラボ、か。まるで瞬間移動だな」

倫子「(頬に残るやわらかい温もりは消えていない……もちろん、記憶としてではあるが……)」

倫子「済まない、フェイリス……」ウルッ

フェイリス「フェイリスがどうかしたニャン?」

倫子「ああ、フェイリスか……って、ほぁっ!? ど、どど、どうしてフェイリスがここにっ!?」

フェイリス「ニャッフッフー。それは、フェイリスが凶真を守護する天使だからニャン♪」

倫子「…………」

倫子「…………」ウルッ

  ダキッ

フェイリス「……ニ゛ャァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!?」ドッキン ドッキン


ガララッ


まゆり「フェ、フェリスちゃん!? 突然大声出してどうし……」

紅莉栖「フェイリス!? 何があっ……」

倫子「…………」ギュゥ

フェイリス「あっ!? こ、これは違うニャ!? 凶真が突然――」

紅莉栖「血の盟約第360条。鳳凰院凶真の意志に関わらず、過度なスキンシップを取ってはならない……っ」ギリリッ

倫子「……お前がオレをずっと守ってくれていたんだよな。ありがとう……」グスッ

フェイリス「―――――」

まゆり「フェリスちゃん? 気を失ってる……」

3: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 21:50:56.73 ID:VBBZKhMUo
未来ガジェット研究所 談話室


紅莉栖「ちょ、ちょっとさっきのアレなんなの!? 愛のあるハグだったし! 羨ましすぎだろマジで……あ、いや、岡部にハグされるのも羨ましいけど、愛のあるハグができる同性がいるっていうのが羨ましいんだからな! 勘違いするなよ! というかなんなのどういうことなの? 証明して説明!」

倫子「お、落ち着けー……」

フェイリス「フェイリスだってわけわかんニャいニャ。で、でも、一生記憶に残る出来事だったニャ……」ポワポワ

まゆり「フェリスちゃんいいなぁ」

倫子「そう妬くなまゆりよ。お前もぎゅってしてやろう」ギュッ

まゆり「はわわ……えへへ……」ニコニコ

倫子「(温かい……まゆりは、生きている……)」ウルッ

紅莉栖「え、えっと、この順番で行くと次は私も……」エヘエヘ

倫子「だが断る」

??「皆さん、落ち着いてください。コーヒー淹れましたよ。あ、所長にはドクペです」

倫子「気が利くな。ご苦労――ん?」

倫子「あ、あなたは誰だ? 見たところ、高校生か? まゆりの友達?」

??「はい? 何を言ってるんです?」

まゆり「ケイさんありがとー♪」

4: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 21:52:50.67 ID:VBBZKhMUo

倫子「紅莉栖。オレは世界線を移動してきた。この意味がわかるか?」

紅莉栖「ふぇっ!? い、いま私の名前を普通に呼んだ……? フラグktkr……?」

倫子「同じことを何度も言うな……」ハァ

紅莉栖「……つまり、またDメールを送ったのね? それでこの世界線の記憶がない、と」

倫子「その通りだ。だから、オレの主観としてはその人と初対面なのだ」

??「本当にタイムマシンを使って世界線移動を? やっぱり牧瀬博士は天才ですね……」

紅莉栖「それじゃ、改めて紹介するわ。この子は久野里澪ちゃん。結構大人っぽいけど、今年で13歳よ」

久野里「不思議な感じがしますが……。初めまして、鳳凰院凶真所長。久野里です」

倫子「中学生なのか!? それにしては非常に発 がいいな……」

倫子「背も高いし、胸も助手くらいは育っている……」ムムム

紅莉栖「ちょ、 比べすんなっ!」

久野里「ふふっ。昨日と同じ反応ですね」

倫子「なにより、声がとても優しい。ラジオパーソナリティーでも目指したらどうだ?」

紅莉栖「3月に小学校を卒業して、今年の秋からアメリカの全寮制スクールに進学するんだって」

久野里「いつかは牧瀬博士の元で研究したいと考えています」

倫子「ほう、天才少女2号だったか」

久野里「い、いえ、私は天才では……」

フェイリス「マユシィはケイさんって呼んでるニャ」

久野里「私のバッグについてる、久野里のイニシャル"K"の刺繍を見たんですよね」

まゆり「なんかね~、"ケイさん"って感じがしたのです」

倫子「確かに、見た目も声も雰囲気も、まゆりより年上に見えておかしくないな」

倫子「それで、どうして天才少女2号が我がラボに? もしかしてラボメンなのか?」

久野里「あ、いえ、その……」

フェイリス「ミオニャンはクーニャンの大ファンだったのニャ!」

5: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 21:53:50.79 ID:VBBZKhMUo
※ドラマCD「間に合わぬ愚者の微睡-FOOLS」によると
(SG世界線では)久野里澪が牧瀬紅莉栖論文に興味を持つのは飛び級でハイスクールへ進学した後のこと。

7: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 21:54:52.64 ID:VBBZKhMUo

倫子「(話を整理すると、この世界線の昨日、8月13日には次のようなことがあったらしい)」


・・・

2010年8月13日(金)14時32分
未来ガジェット研究所


紅莉栖「突然実験は中止だ、なんて言って急に出て行っちゃうし……。私はちょっとここで眠らせて……」

ダル「僕はフェイリスたん成分を補充しにメイクイーンに行ってくるお」

まゆり「まゆしぃはるかちゃんを説得しないとなぁ。ねぇねぇダルくん、コスプレは恥ずかしくないよーって、どうすれば伝わるかなぁ?」

ダル「パンツじゃないから恥ずかしくないもん! と同じ精神ですねわかります」

紅莉栖「まるで意味がわからんぞ。でも、まゆりだって恥ずかしくてコスプレしないんでしょ?」

まゆり「うーん、それもあるけど、まゆしぃは作る方が楽しいのです」

紅莉栖「でも不思議よね。そんなまゆりが猫耳つけてバイトしてるんだから」

まゆり「あれはコスプレじゃなくて制服だもん」

まゆり「……あぁーーーっ! まゆしぃはひらめいちゃったのです☆」

8: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 21:55:40.07 ID:VBBZKhMUo
柳林神社


るか「え、ええーっ!? ボクがメイド喫茶でメイドさんを!?」

まゆり「そしたらね、コスプレも悪くないかもーって思ってくれるかなぁって」

るか「で、でも、やっぱり恥ずかしいよ、まゆりちゃん……」

まゆり「メイクイーンのお洋服はね、コスプレじゃなくて制服だから、恥ずかしくないよー」

るか「そんなぁ……」

栄輔「いいじゃないか、るか。メイドとして働くのも、バイトをするのも、きっとお前のためになる経験になるだろう」

栄輔「花嫁修行だと思って、まゆりちゃんの頼みを聞いてあげたらどうだい?」

るか「うぅ……そんなことならボク、男の子に生まれてくればよかった……」

フェイリス「もちろんお手当は出すニャ」

フェイリス「今日はマユシィにはチラシ配りをしてもらう予定ニャン。一緒に手伝ってくれるかニャ?」

るか「チラシ配りくらいなら……」

まゆり「わーい♪ まゆしぃ大勝利なのです☆」

9: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 21:56:21.60 ID:VBBZKhMUo
NR秋葉原駅電気街口前


フェイリス「メイクイーン+ニャン2ですニャ~! よろしくお願いしますニャ~!」

まゆり「みなさんで、遊びに来てくださいニャ~~ン♪」

フェイリス「とまあ、こんな感じニャ。それじゃ、フェイリスはお店の方に戻るニャン」

フェイリス「ルカニャン・ニャンニャン、がんばってニャ!」

るか「メ、メイクイーン+ニャン2です、にゃぁ~……」ウルウル

まゆり「るかちゃん、かわいいよぉ~えっへへ~」

るか「う、うぅ……。あ、あの、チラシもらってくださ~い……」スッ

久野里「…………」パシッ

るか「あ、ありがとうございます、にゃんにゃん……」ウルウル

まゆり「ぜひ来てね~♪ ニャンニャン♪」

久野里「あの、すいません。秋葉原に牧瀬紅莉栖が居る、ということについて、何か知りませんか?」

るか「え? ま、牧瀬さん、ですか?」

久野里「……っ! 知っているんですか!」

10: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 21:57:07.89 ID:VBBZKhMUo
未来ガジェット研究所


紅莉栖「うへへぇ……ほかべぇ……」zzz

まゆり「クリスちゃーん。お客さんだよー」

るか「気持ちよさそうに寝てますね……」

久野里「(いよいよあの天才牧瀬紅莉栖と会える……っ! 例の論文は何度も読み直してもう暗唱できるほど……!)」ドキドキ

久野里「(7月28日のUPXでの講演は、専門とは違ったけど大変有意義なものだった。途中で白衣の女性が泣いちゃってたけど……)」ワクワク

久野里「(あの時はあまりにも緊張して声を掛けることができなかった。だ、だが、あそこに居た教授っぽい人から聞いた情報通り、牧瀬紅莉栖は秋葉原に居た!)」ソワソワ

久野里「し、失礼します! あの、は、は、初めまして!」

紅莉栖「んごっ……。えっと、誰ぞ?」

まゆり「ケイさんだよ~」

るか「牧瀬さんのファン、みたいですよ」

紅莉栖「ふぇ……?」

13: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:00:12.53 ID:VBBZKhMUo

久野里「わ、私、ゆくゆくは牧瀬博士のいるヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所で研究したいと考えています!」

紅莉栖「……なんか久しぶりに天才少女牧瀬紅莉栖というキャラを思い出した件について」ポリポリ

久野里「すいません、お休み中のところ押しかけてしまって……」

紅莉栖「ううん、いいのよ! 私もあなたみたいな可愛い女の子とお話できて嬉しい。それに未来の後輩だっていうならなおさら」ネットリ

久野里「か、可愛いだなんて、そんな……」テレッ

まゆり「じゃあオカリンはまゆしぃがもらっていくね~」ニッコリ

紅莉栖「ちょ!? まゆりが橋田みたいなことを言い出した……って、ダメよ! 岡部はみんなのものなの!」

紅莉栖「ようやく裏マーケットに加入できたんだから……」ブツブツ

久野里「えっと、岡部さんというのは?」

紅莉栖「岡部倫子。またの名を鳳凰院凶真。このラボの所長であり象徴、私が心から愛しているカリスマ的存在よっ!」

るか「突然元気になりましたね、牧瀬さん」ニコ

紅莉栖「というか、漆原さんがメイド服! うん、とっても素敵……うふふ」

久野里「(あの牧瀬紅莉栖が崇敬している存在……鳳凰院凶真、一体どんな人物なんだ?)」

久野里「って、えっ? ここって、ラボだったんですか?」キョロキョロ

紅莉栖「……あぁ、そっか。それが普通の反応よね」

紅莉栖「いいわ、せっかくだし色々紹介してあげる」

久野里「ほ、本当ですかっ!?」パァァ

まゆり「それじゃ、まゆしぃたちはバイトに戻るね」

るか「失礼します」ペコリ

14: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:01:17.71 ID:VBBZKhMUo

久野里「タイムリープマシン……そ、そんな、すごすぎる……っ!」

紅莉栖「今話したタイムトラベル理論は未来人から教えてもらった眉唾なんだけどね。もっとちゃんとした施設で研究しないと仮説すら作れない」

久野里「あ、あのっ! 失礼を承知でお願いがあります!」

久野里「このラボの研究についてもっと教えてもらえませんか! 牧瀬博士とお話したいことがたくさんあります!」

紅莉栖「うーん……それをオーケーするのはやっぱり岡部よね……」

久野里「(なんとかして岡部所長に気に入られなければ……!)」

ガチャ バタン

倫子「ただいま帰ったぞ……む? どちら様だ?」

倫子「見たところ、高校生か? まゆりの友達?」

久野里「は、初めまして! 久野里澪と言い……あっ、UPXでの講演の時に居た白衣の女性!」

紅莉栖「ちょうどいいところに。岡部、この子がね、ラボメンになりたいって」

倫子「なん……だと……?」


・・・


15: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:03:22.55 ID:VBBZKhMUo
2010年8月14日(土)
未来ガジェット研究所


倫子「(それでこの子はラボに居ついて、オレたちの雑事を手伝う代わりに牧瀬博士(笑)から直々に量子脳論だの世界線理論だのをレクチャーしてもらっていたのだとか)」

紅莉栖「(笑)って何よ」

倫子「お前がクソレ で腐女子でファザコンで、誰も居ないラボで全力xxxxに勤しむネラーだということは隠しておいてやろう」ヒソヒソ

紅莉栖「」

フェイリス「フェイリスは昨日お店でルカニャンたちから話を聞いて、今日顔を見にきたってわけニャン」

倫子「それで、お前はラボメンなのか?」

久野里「いえ、歳が若いからということで辞退させていただきました」

倫子「(どう見ても綯の一個上には見えん……)」

久野里「でも、こうして遊びにくることは許可していただきました……本当にありがとうございます、所長」

倫子「わかっているとは思うが、ここでのことは全て部外秘、トップシークレットゥ!」

倫子「陰謀の魔の手は思った以上にずっと身近にあって、いつもオレたちを陥れようと手ぐすね引いているのだっ!」

久野里「それも昨日話してもらいましたね。警戒は怠りません!」

倫子「(きっとその忠告は厨二病で済まされるものだったんだろうが……あの時のオレに言ってやりたい。軽率なことをするなと。もっと注意を払えと)」

倫子「良かったな助手。可愛い後輩ができて」

紅莉栖「う、うん。結構、嬉しいものね。……えへへ」ニヘラ

倫子「そのだらしない顔は久野里さんに見せるなよ……?」

16: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:04:55.76 ID:VBBZKhMUo

倫子「(取りあえずこの世界線のIBN5100の状態を確認しにいかなければ)」

倫子「フェイリスよ、ルカ子は今日もバイトなのか?」

フェイリス「ルカニャンは昨日1日だけの体験バイトだったニャン」

まゆり「コミマでコスしてくれるといいなぁ~」

倫子「わかった。オレはこれから柳林神社まで行ってくる」

まゆり「いってらっしゃ~い、オカリーン」

久野里「いってらっしゃいませ、所長!」



柳林神社


栄輔「……古いパソコン。ふむ、確かにそんな記憶がありますね」

倫子「本当ですか! ぜひ見せてもらいたいのですが!」

栄輔「ちょっと探してきましょう」

倫子「(よし、確実に成功しているぞ! まだ全てのDメールを取り消せたわけではないが、オレは戻ってきている!)」

倫子「(ここで手に入ってしまえば、もうDメール取り消しをしなくて済む……)」

倫子「(ルカ子を女の子のままでいさせることができるかもしれない……!)」

るか「…………」ソワソワ

倫子「どうしてルカ子は申し訳なさそうな顔をしているのだ?」

るか「あ、いえ、その……」オドオド

倫子「……ああ、そういうことか」

17: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:06:23.62 ID:VBBZKhMUo

倫子「あの時は済まなかった。お前を、男だなんだと言ってしまって……」

るか「い、いえ、そのことについては牧瀬さんから丁寧にご説明していただきましたので」

倫子「……理解、できたのか?」

るか「いえ……ごめんなさい」シュン

倫子「ふっ。ルカ子は生真面目だな。さすが我が一番弟子。だがお――」

倫子「……お、おんなだ」アセッ

るか「……未だに自分が男だったなんて信じられません」

倫子「それは、そうだよな……」

るか「ボクが男の子でも、凶真さんはボクを弟子にしてくれたんですよね?」

倫子「ああ。正直に言えば、最初は女の子だと思った」

倫子「男だとわかってからも、ルカ子の本質を知って、オレが鍛えてやろうと思ったのだ」

倫子「オレは確かに男が嫌いだ。だが、ルカ子をそういう目で見るような男が嫌いなだけだ」

倫子「ルカ子が男であろうとも、ルカ子はルカ子だ」

るか「凶真さん……。ボク、その時の記憶はないですけど、たぶん嬉しかったんだと思います……」

倫子「(さて、どうやって話を切り出したものか……。まゆりはルカ子の親友でもあるからな……)」

栄輔「おかしいですねぇ、私の秘蔵コレクションしか見つかりませんでした。鳳凰院くん、ちょっと着てみませんか?」スッ

倫子「おのれは探す気があったのかぁっ!?」

18: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:07:57.96 ID:VBBZKhMUo

倫子「やっぱりIBN5100は手に入らない、か。この神社にはフェイリ……秋葉留未穂が奉納したんですよね?」

栄輔「おや、お知り合いでしたか。留未穂ちゃんは、とても立派な女性になられましたなぁ」

倫子「…………」ゾワワァ

栄輔「彼女が小学生の時でした。執事の黒木さんと一緒にこの神社を訪ねて来てくれましてね」

倫子「その手に持ったランドセルを地面に置いてからしゃべってください」

栄輔「しかし、パソコンはなぜ消えたのでしょう。宝物殿の鍵が壊されてもいなかったですし……」

るか「…………」キョドキョド

栄輔「るかはなにか知らないかな? 毎年年末の大掃除の日に宝物殿の掃除をしているだろう?」

るか「……なにも知りません」

倫子「(これは明らかに知っている風だな。なぜルカ子は嘘を吐いているのだ?)」

倫子「(まあ、実際そんなことはどうでもいいか。Dメールさえ取り消せば、IBN5100は嫌でも手許に戻ってくるのだから)」

倫子「……ちょっと考えさせてくれ」

19: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:09:23.78 ID:VBBZKhMUo
新御徒町 天王寺家


倫子「(天王寺は前にオレがここにきた時とほとんど同じ橋田鈴との想い出を語ってくれた。2度目だと言うのにオレはまた涙腺が緩んでしまった)」

【 0.46914 】

倫子「(世界線変動率は確実に1%へと近づいていた。これはオレにとって勇気になる)」

天王寺「そういや、鈴さんが毎日こつこつと書いてた手記があるんだが、俺にはさっぱりでな。お前さんにやるよ」

倫子「へ? いいのですか?」

天王寺「お前みたいなのが好きそうな内容なんだよな……まさか鈴さんにそんな趣味があったなんて、死ぬまで気づかなかったが。ほれ」スッ

倫子「"レジェンド・オブ・ワルキューレ"……だと……」ゾクッ

倫子「(タイトルだけで中身が容易に想像できてしまう……)」プルプル

倫子「せっかくなので頂いておきましょう! これはいずれ世界に災いをもたらす禁書ですからねっ! ……ではっ!」ダッ

20: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:10:39.71 ID:VBBZKhMUo
未来ガジェット研究所


まゆり「トゥットゥルー♪ オカリン、おかえりン♪」

久野里「お、お帰りなさいませ、ご、ご、ご主人様……」カァァ

倫子「なっ!? それって、確かドリームクラブの……」

まゆり「えっへへー、ケイさんにね、今度のコミマでカエデちゃんに来てもらうコスプレを試着してもらっていたのです☆」

倫子「い、いや、明らかに天才少女2号が恥ずかしそうにしているのだが……」

久野里「こうしたら所長に喜んでもらえるという事で……」プルプル

紅莉栖「所長に気に入られないと追い出されちゃうかもしれないものねっ!」ドヤァ

倫子「明らかにパワハラではないかぁっ!! 今すぐやめろぉ!! うわぁん!!」

21: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:11:29.67 ID:VBBZKhMUo
未来ガジェット研究所 開発室


倫子「さて、今日は14日の土曜日。今までの法則で行けば、まゆりが死ぬのは明日15日の日曜日ということになる」

倫子「……確認する気にはなれない」

倫子「無理矢理ルカ子から母親のポケベル番号を聞き出すこともできる。なかったことになるのだから」

倫子「……いや、絶対にダメだ。それだけはやっちゃいけない」

倫子「フェイリスとまゆりとカラオケに行った時、オレの心の中で越えてはいけない一線を越えてしまった気がするんだ……」

倫子「取りあえず、時間を稼ごう。話はそれからだ」スッ


バチバチバチバチッ


紅莉栖「岡部? なによ、なんで1人で勝手に実験を――」

22: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:12:52.98 ID:VBBZKhMUo

―――――――――――――――――――――――

2010年8月14日18時19分 → 2010年8月13日10時19分

―――――――――――――――――――――――

23: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:13:58.08 ID:VBBZKhMUo
2010年8月13日(金)10時19分
未来ガジェット研究所


倫子「……ふぅ」

紅莉栖「どうしたの? 賢者タイム?」

倫子「……クリスティーナよ、もしかして貴様、世界線変動率が1%に近づくごとに恥じらいを失っているのではないか?」

紅莉栖「へ?」

倫子「相談に乗ってほしい。下のベンチに行こう」

紅莉栖「……フラグktkr!!」ッシ

倫子「あーもう。それでいいから。紅莉栖のこと頼りにしてるから、うん」

24: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:15:34.56 ID:VBBZKhMUo

・・・

大檜山ビル前 ベンチ


紅莉栖「……だいたいわかった。だけど、1つだけ言わせて」

倫子「なんだ?」

紅莉栖「あんなに可愛い女の子が男の子のはずがない」

倫子「頭を叩きつけてオレに土下座したのはなんだったのだ……」

倫子「それに、見た目も仕草も女より女らしい男だったと説明しただろう」

紅莉栖「…………」

紅莉栖「なら許す」ニヘラ

倫子「簡単に言えば、●●にxxxxがあるかないか程度しか世界に影響は無い」

紅莉栖「そのせいでIBN5100が宝物殿から消滅した……。漆原さんの●●ってどうなってるのかしら」

倫子「いや、普通に考えて脳の仕組みとかも性別で違うからな? ●●だけのせいじゃないからな?」

25: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:16:58.40 ID:VBBZKhMUo

紅莉栖「で、あんたは彼女に男に戻ってほしい、と」

倫子「そうでなければまゆりは助からない」

紅莉栖「まゆりの命と、漆原さんの●●か……。実感が湧かないけど、あんたの中では解は出てるわけね?」

倫子「無論だ。ルカ子には男に戻ってもらう」

紅莉栖「ある意味、残酷な仕打ちね。自分に置き換えて考えてみたら?」

倫子「オレが男だったら……?」


  フゥーハハハ!


紅莉栖「……簡単に想像できてしまった」orz

倫子「う、うむ。オレの場合も、特殊だからな……」

紅莉栖「LGBTって言うくらいで、セクシャリティの有り方はいろいろあるわ。人間なんだから当たり前よね」

倫子「さすがアメリカ帰りの帰国子女、説得力が違う」

紅莉栖「アメリカでなら倫子ちゃんと夫婦に……ウフフ」ニヤニヤ

倫子「だが、ルカ子は女になりたくて女になり、男としての記憶を忘れたのだ」

倫子「だからこそこうして、なるべく傷付けないようにするにはどうすべきかと助手に相談しているわけだ」

倫子「無論、ルカ子を説得した上で行動したい。あいつの気持ちを無視して世界線を変えることは……」

倫子「たぶん、オレの心が、持たない……」ウルッ

紅莉栖「こいつはヘビーね……」

26: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:19:08.94 ID:VBBZKhMUo

紅莉栖「心優しい倫子ちゃんはマッドサイエンティストにはなれませんでした、以上」

倫子「ぐぬぬぅ……倫子ちゃん言うなぁ……」

紅莉栖「(かわいい)」

紅莉栖「でも、それもある意味で真よね。改変者の精神力が削られるなら、時間移動や世界線変動の保険なんて無意味になる」

倫子「タイムリープやDメールで"なかったことにする"と言うのは、言い換えればその世界をオレの脳内に収納することだ」

倫子「オレは、オレだけはどこへ行こうとも、その事実を事実として背負わなければならない」

紅莉栖「だったら私に相談する必要なんて無かっ――」

倫子「……一緒に来てほしい」ギュッ

紅莉栖「(袖掴みキタ――――(゚∀゚)――――!!!)」ドピュッ!!

倫子「きゃぁっ!? 鼻血っ!? 紅莉栖、大丈夫かぁっ!?」

紅莉栖「」 

倫子「白衣が紅莉栖の血で真っ赤に染まってしまった……」

27: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:20:21.21 ID:VBBZKhMUo
柳林神社


紅莉栖「鳳凰院ちゃんが私の白衣を着ている……ハァハァ」

倫子「徹底的に漂白洗浄してから返してやろう。あとちゃん付けをするなっ」

るか「あ、岡部さんと牧瀬さん……どうかしたんですか?」

倫子「い、いや、その……」

紅莉栖「ったく。私から言いましょうか?」

倫子「(こいつに任せたら開口一番、『男性と女性で脳の働きって違うって知ってた?』などと遠回りも遠回りなことを言いそうだ……)」

倫子「……ルカ子よ!」ガシッ

るか「は、はいっ!」ドキッ

倫子「お、おち、おちついて聞いてくれ……。実は、お前は、本当は……」

倫子「男だったんだよぉっ!!!」

るか「…………」

紅莉栖「…………」

るか「えっと……それは、も、もしかして……」

るか「凶真さんは、男の子のボクが好きだったんですか……?」

紅莉栖「は?」

倫子「へ?」

るか「あっ! えっと、そうじゃなくて、男の子だったら恋愛対象だったのかなって、あ、いや、そうでもなくてですね……」アタフタ

紅莉栖「どうなの?」

倫子「……ノーコメントで」

28: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:21:53.75 ID:VBBZKhMUo

紅莉栖「はっ! そういうこと! そういうことですか! とんだピエロね私っ!」

倫子「落ち着け助手ぅ! 何を勘違いしているっ! それは機関の洗脳攻撃だぁっ!」

紅莉栖「よくよく考えればおかしかったのよね! 男嫌いの倫子ちゃんが男の漆原さんを弟子にして仲良くしてるなんて!」

倫子「だから倫子ちゃん言うなぁ!」

紅莉栖「つまりそういうことなんでしょ! 中性的な見た目の漆原さんなら倫子ちゃんでも恋愛対象だったんでしょ!」

紅莉栖「好きだったんでしょ!! 男の子の漆原さんのことがっ!!」

るか「――っ!!!」

倫子「そんなわけあるか! そんなわけあるか! 大事なことなので2回言いました!」

紅莉栖「私の真似して茶化さないでよ! 百合っぽい素振りして私の事をもてあそんでたんでしょ!?」

倫子「だからオレはノーマルだと言っているだろぉ!」

紅莉栖「はい言いましたー言っちゃいましたー! つまり男の漆原さんが好きだったんじゃない! リア充爆発しろっ!」

倫子「地獄の果てまでも面倒くさい女だな貴様は……っ!」

るか「あ、あの、ボクっ!」

るか「男の子に戻りますっ!!」

倫子「……は?」

29: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:23:13.59 ID:VBBZKhMUo

るか「おか……凶真さんがそう望むなら、ボクは……凶真さんの、こ、恋人に……」カァァ

倫子「ま、待て待てぇ! 話は最後まで聞いてくれぇ!」

倫子「お前が男に戻らないとまゆりの命が危ないから戻ってほしいのであって、オレがお前を積極的に男にしたいわけではだなっ!」

るか「凶真さんにふさわしい男になれるかはわかりませんが、ボク、頑張りたいです……って、えっ? まゆりちゃんが?」

紅莉栖「それについては私から説明するわ」

・・・

るか「そんなの……全然信じられないですよ……」

紅莉栖「信じられなくても漆原さんは岡部のために男になるんでしょ? はい議論終了」

紅莉栖「ちなみに世界線が変わると漆原さんの今の記憶は無くなるので2人は恋人にはなれません。はい論破終了」

倫子「ちょっと待てって! ルカ子も混乱しているはずだ、話をゆっくり整理してだな……」

るか「だって、まゆりちゃんは、今、生きているじゃないですか……」

倫子「……オレは、何度もあいつの死の場面を見てきた」

倫子「時間を遡るたびに、あいつの温もりを確かめずにはいられなかった……」グッ

るか「凶真さん……」

30: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:23:59.18 ID:VBBZKhMUo

るか「わかりました、お母さんにポケベルの番号を聞いてきます」

倫子「済まない……」

るか「たぶん、男の子のボクは、物心ついた時から自分の見た目とか雰囲気が嫌いだったんだと思います」

るか「でも、キッカケは、牧瀬さんやまゆりちゃん、フェイリスさんたちに囲まれた岡部さんを見て、女の子になった方が凶真さんと仲良くなれると思ったことだったんじゃないでしょうか」

倫子「そうなの、か……?」

るか「今の凶真さんなら、両方のボクを知っていてくれるんですよね。それなら、ボクは喜んで男に戻ります」

るか「まゆりちゃんのためにも……」

るか「ちょっと恥ずかしいですけど、変わらず仲良くしてくださると嬉しいです」

倫子「……このやりとりをお前は忘れてしまうだろう。だが、オレは絶対に忘れたりはしないからな」

るか「……はい、師匠」グスッ

紅莉栖「スピード解決おめでとう。さ、早いうちに次の世界線へ移動しなさ――」



??「おっと、そうはいきませんよ」



31: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:25:34.61 ID:VBBZKhMUo

倫子「なにやつ!? ……って、ルカパパではないかっ!」

栄輔「私の娘を勝手に息子にされてはたまったものではありませんな」

るか「お、お父さん!? でも、これにはまゆりちゃんの命が……」

栄輔「人はいずれ死ぬ。生きるという事は、死へと向かうことだ」

るか「お父さん!?」

栄輔「鳳凰院くん。そんなに我が娘を息子にしたいと言うならば、まずは私を倒していきなさい」

倫子「はぁ!?」

るか「ちょ、ちょっと待ってお父さん! ボクは凶真さんの味方です!」

栄輔「よろしい。ならば2人して私にかかってくるといい」

紅莉栖「……もしかして、パパさんもそっち系の人?」

栄輔「家内には何があってもポケベル番号を言わないよう伝えておこう。私を倒したなら教えてあげよう」

栄輔「決闘の時刻は明後日15日でいいかな? それまでせいぜい準備しておくといいよ。ふっはっはっは……」スタスタ

倫子「…………」

紅莉栖「…………」

るか「…………」

まゆり「トゥットゥルー♪ るかちゃん、メイクイーンでメイドさんバイトしないー?」

倫子「(ああ、そういやそんなイベントがあったな……ラボに帰るついでに駅前に居る天才少女2号を回収してくるか……)」

32: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:26:36.76 ID:VBBZKhMUo
未来ガジェット研究所


倫子「どうしてこうなった……」ガックリ

るか「うちの父が御迷惑をおかけして、本当にすいません……。たぶん、阿万音さんがうちを出て行ってしまってから、寂しいんだと思います……」

倫子「(そう言えばこの世界線の鈴羽も巫女服のまま1975年に跳んだんだったな……)」

まゆり「けっとーがあるなら、コスプレは無理だねぇ……」

倫子「(一応ルカ子と紅莉栖には、まゆりの死について口外しないよう釘を刺しておいた)」

紅莉栖「岡部。15日のお昼過ぎに未来の私がタイムリープしてくるのよね?」

倫子「ああ。順調に行けばそういうことになってるはずだ」

紅莉栖「ねえ久野里さん。ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど……」

久野里「は、はい! 牧瀬博士のお手伝いができるなら光栄です!」

倫子「というか、決闘と言ったって、何をするんだ。宮本武蔵と佐々木小次郎でもあるまいし」

紅莉栖「それについて、私にいい考えがあるわ」

33: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:28:17.77 ID:VBBZKhMUo

紅莉栖「VR技術を応用した新作ガジェットを作ろうと考えているのだけど」

倫子「ん突然どうした助手ぅ。新作ガジェット、だとぉ?」ワクワク

紅莉栖「(かわいい)」

紅莉栖「今の私って、あと2日したら未来の私に上書きされちゃうんでしょ? それってなんか悔しい」

紅莉栖「だから、今の私にできることを形にして残しておきたいと思った。これでいい?」

倫子「ふむ、それで未来ガジェット9号機か。それを使って決闘を?」

紅莉栖「そう。えっと、漆原さんっていつも模擬刀の素振りを練習してたでしょ?」

倫子「妖刀・五月雨だっ」

紅莉栖「せっかくだから、斬撃バトル、とかできたら面白いんじゃないかと思って」

倫子「斬撃バトルぅ?」

紅莉栖「好きでしょ、そういうの」

倫子「い、いやいや、確かに嫌いではない、というかむしろ好きだが、何をどうやってどうするのだ?」

紅莉栖「それはこれから説明する」

34: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:30:40.81 ID:VBBZKhMUo

紅莉栖「簡単に言うと、脳内で想像した映像を他人の脳に投影する。妄想を送り込むの」

紅莉栖「脳が認識した映像をデータ化して、そのデータをまた他の脳に送ることで映像は共有される。後半はVR技術によって確立している」

倫子「つまり、妄想が、実現される……?」

久野里「VR技術は、映像データを神経パルス信号にコンバートする技術のことでしたよね。タイムリープマシンで使っているという」

紅莉栖「そう。ホントはうちの大学内でも極秘扱いの技術なんだけど、未来の後輩だし問題ないわよね」

紅莉栖「これを使えば、実際には目にしていない映像を、あたかも目の前で見ているかのように認識することが出来るわ」

倫子「だが、そもそも妄想をデータ化するなどできるのか?」

久野里「……そうか。そこで牧瀬博士の研究、神経パルスの解析が役に立つわけですね」

紅莉栖「私の仮説が正しければ、頭の中で描いた心象風景や思考なんかもデータとして取り出せる」

紅莉栖「それでね、決闘の場に居る人間が全員ヘッドセットをかぶって、妄想を共有した状態にしてね」

紅莉栖「例えば岡部が漆原さんの五月雨から斬撃が出る妄想をすれば、それはヘッドセットをかぶった人間全員に見えるってわけ」

るか「ボ、ボクの五月雨から、出ちゃうんですか……」

倫子「(きわどい発言……この場にダルがいなくて本当によかった)」

紅莉栖「もちろん実体は無いから実害は無い。まあ、ただの演出ってだけね」

倫子「ほう……これはまた、タイムリープマシンに続いてとんでもないものを作ろうというのだなぁ」ニヤニヤ

紅莉栖「期限は2日か。久野里さん、お手伝いよろしく」ニコ

久野里「はい! 牧瀬博士、任せてください!」

紅莉栖「まずはこの血まみれの白衣、洗っといて」

久野里「……は、はい!」

倫子「鬼か貴様は……」

35: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:32:15.51 ID:VBBZKhMUo
柳林神社


倫子「(それからオレは紅莉栖のガジェット開発のことをルカパパに説明し、了承をもらった)」

栄輔『なかなか粋な演出をしてくれますね。楽しみにしていますよ』フフフ

倫子「(なぜかノリノリだった)」

倫子「というか、イマイチなにをどうしたら勝ったことになるのかがわからんな……」

るか「でも、ボク、お父さんに勝つことなんてできるんでしょうか」

るか「今までずっとお父さんの言いつけを守ってきて、反抗期とかも無かったので。お父さんに逆らうなんて、ボク……」

倫子「……やりもしないことを最初から出来ないと諦めるのは簡単だ。だが、父を乗り越えてでも成し遂げたい心があるなら、やるしかない」

倫子「出来るかどうかは後々結果として付いてくる。だが、端から諦めたのでは、たとえできるものでもできなくなるぞ」

るか「岡部さんっ……!」パァァ

倫子「凶真だ」

るか「ボク、どれだけ通用するかわからないけど、自分に出来ることを精いっぱい頑張ろうと思いますっ!」

るか「となると、やっぱり修行ですよねっ!」

倫子「素振りはいつもやっているしな……」フム

るか「あの、おか、凶真さん。実はさっき宝物殿でこんなものを見つけてきたんです……」

倫子「これは……巻き物<スクロール>か? これは……っ!」

倫子「達筆すぎて読めない……っ!」ウルッ

るか「え、えっと、ですね……」アセッ

るか「300年以上前に秋葉原に竜が出たそうで、それを封印するための方法が書いてある、みたいです」

倫子「なんだそのトンデモは……。さすがにフィクションか妄想の類だろう」

倫子「妄想……? そ、そうか。仮にそれが妄想だとしても、オレたちはこれから妄想を武器にしなければならないっ!」キラキラ

36: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:33:13.72 ID:VBBZKhMUo

倫子「それで、その竜を封印する方法とはっ!?」

るか「は、はいっ! えっと、柳林神社の巫女の力を借りて……、剣を振るう事……」

倫子「なんだか今の状況に嵌りすぎてて怪しいが……まあいい。とにかく修行だっ! 五月雨を持てぃ!」

るか「えっと、素振りは今日、30回ほどやりましたっ!」

倫子「そ、そうか。オレの言いつけをちゃんと守っているようだなぁ。えらいぞぉ」アセッ

るか「はいっ! 師匠!」キラキラ

倫子「むむむ……となると、次は何をすべきか」

倫子「修行と言ったらやはり……滝行、だな」ニヤリ

るか「滝行、というと、水垢離ですか?」

るか「でもどうしましょう。この辺りに滝なんてありませんし……」

倫子「無いなら作ればいいじゃないと、偉大なる先人は言った……"知恵の泉"作戦<オペレーション・ミーミル>を発動するっ!」

るか「は、はいっ!」

倫子「体操着に着替えてこいっ!」

37: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:35:15.75 ID:VBBZKhMUo

るか「お待たせしましたっ!」

倫子「(しまった……てっきり男物の体操服を着てくるかと思っていたが、普通にブルマだ。この暑さで既に汗ばんでいるのだろう、上着にブラがうっすら浮かび上がって見える)」

倫子「(というかルカ子お前、ブラしてたのか……あ、いや、女の子なんだから当然なのか……?)」

るか「岡部さん?」

倫子「だぁはっ!! い、いかんいかんオレとしたことが、邪心に支配されていたようだ……」ドキドキ

るか「それで、このホースで水をかぶればいいんですよねっ!」

倫子「お、おう……そうだ。冷水に身をさらすことで己の精神を極限まで研ぎ澄まし、真実の力に開眼するの、だ……」

チョロチョロ……

るか「ひゃうっ」

倫子「(……あれ? これってもしかして犯罪係数高くないか?)」

倫子「(水に濡れたルカ子の肌色が体操着に浮かび上がって……)」

倫子「(だが、お、お、女だ……というか、誰よりも儚げな大和撫子の総天然色見本だ……)」ワナワナ

るか「あの、岡部さん?」

倫子「凶真だ……。いや、今日の修行はここまでとしよう。早く着替えてこい」ハァ

38: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:36:51.37 ID:VBBZKhMUo
2010年8月14日土曜日
未来ガジェット研究所


チュンチュン……

倫子「ふわぁ……完全に睡眠周期が狂ってしまった。まあ、身体の方はちゃんと毎日寝ていることになってはいるが……」

ガチャ

紅莉栖「お邪魔します。さあ、今日も開発頑張るわよ」

久野里「はい、牧瀬博士! 所長もよろしくお願いします!」

倫子「いよいよラボらしくなったな、感心感心……って、天才少女2号よ、その白衣は……っ!!」プルプル

久野里「あ、これですか? お二人を見習おうと思いまして、ここに来る途中で買って――」

倫子「素晴らしいっ!!」ガシッ

久野里「ふぉっ!?」ドキドキ

紅莉栖「キマシッ!」

倫子「ああ、まさにこれがオレの理想としたラボ……なんと完璧な世界線なのだ、ここは……」ウットリ

紅莉栖「ほら、あんたの白衣も久野里さんが綺麗にしてくれたわよ。そ、それじゃ、白衣を交換しましょ……」ウヘヘ

倫子「開発は順調か? 久野里研究員」キリッ

紅莉栖「」

久野里「はい、所長。予定通り、明日のお昼までには完成しそうです」

倫子「(『はい、所長』だって! なんと蠱惑的な響き……!)」ニヘラ

紅莉栖「橋田は呼ばなくていいわよ、むしろ要らない。久野里さんをオモチャにされたらたまったもんじゃないわ」

倫子「JCと2人きりの時間を邪魔されたくないだけだろうこの百合スティーナめ」

紅莉栖「ち、ちがうわよぉ?」(裏声)

久野里「橋田さん、ですか?」

紅莉栖「LHCにハッキングできちゃうレベルの天才ハッカーなんだけど、どうしようもないHE   なのよね……」ハァ

倫子「我が頼れる右腕<マイフェイバリットライトアーム>を愚弄するでない。奴は真性のキモオタだが、いざとなったら頼るといいぞ」

久野里「は、はい」

39: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:37:52.72 ID:VBBZKhMUo

倫子「さて、今日はどうするか……。やはり、ルカ子に修行をつけた方がいいのだろうか」

紅莉栖「漆原さんと仲良くなっておくに越したことは無いわ。意志疎通がどれだけできるか、ってのも未来ガジェット9号機の重要な要素になるから」

倫子「そもそもルカパパとの対決は、一体なにをどうしたら勝ちなのだ?」

紅莉栖「ノリじゃない?」

倫子「な、なるほど……納得できるオレが悲しい」ガックリ

紅莉栖「漆原さんのパパさん、本気でまゆりのことをないがしろにしてるはずはないのよ」

紅莉栖「だから、ポケベルの番号は何があっても教えてくれると思う」

紅莉栖「自分の趣味もあるんだろうけど、それ以上に私たちに精神的なキッカケを作ってくれてるんじゃないかしら」

倫子「キッカケ……?」

紅莉栖「性別が変わる、世界線が変わる。そういう節目に達成感のあるイベントを持ってくることで気持ちを切り替えさせようってこと」

紅莉栖「文化人類学で言うところのイニシエーションってやつね」

倫子「そこまで考えていたのか、あのコスプレ大好き神主は」

紅莉栖「大人ってずるいわ。いつまでも私たちの事を子ども扱いしてくる」フフッ

倫子「では、オレはルカ子に修行をつけてくる。くれぐれも機関に研究をリークされぬよう、気を付けるのだぞ」

久野里「はい。行ってらっしゃいませ、所長」

40: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:39:02.27 ID:VBBZKhMUo

ガチャ

天王寺「よお、岡部の奴は居るか?」

紅莉栖「店長さん。岡部ならちょうど今出て行ったところです」

天王寺「おっと、ニアミスだったか」

天王寺「まあいい。実は岡部に渡そうと思ってたものを思い出してな。ずっと忘れてたんだが、今朝夢に見てよ」スッ

久野里「これは……"レジェンド・オブ・ワルキューレ"?」

天王寺「このビルの元オーナーの手記なんだが、あいつならこういうの好きだろうと思ってな」

紅莉栖「(阿万音さんが言ってたアレか……。橋田が捏造した鳳凰院凶真の伝説集、ってところよね、コレ)」

紅莉栖「はい、岡部に渡しておきます。わざわざありがとうございます」

天王寺「おう、じゃあな」

久野里「あの、牧瀬博士。これは一体……?」

紅莉栖「んーと、未来人が過去に行って書いた、未来の岡部の伝記、みたいなところかしらね」

久野里「そんなレアアイテムなんですか、コレ! なになに……ふむふむ……おぉ、これは……っ!」ペラッ ペラッ

41: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:39:47.45 ID:VBBZKhMUo
柳林神社


るか「おか、凶真さん! 今日もよろしくお願いします」

倫子「うむ。しかして、今日はどのような修行をすべきだろうか……」

るか「あの、また宝物殿でこんなものを見つけちゃったんですけど」スッ

倫子「これは、桐箱か? どうやら中身は和綴じ本だな。内容は……っ!?」

倫子「例によって読めない……読んでくれルカ子……」ウルッ

るか「は、はいっ。えっと……書いてあるのは、特訓方法みたいです」

倫子「お、おおっ!! まさにオレたちが求めている書物ではないかぁっ!!」

るか「なんだか出来過ぎているような気がしますね……」

倫子「ククク……これこそが運命石<シュタインズ・ゲート>の扉の選択なのだぁ、ルカ子よ」

倫子「運命すら、偶然すら我が力に変えてしまう鳳凰院凶真の力っ! ふふ、自分の力が恐ろしいぞ……」ニヤリ

るか「さ、さすがです師匠!」

倫子「それで、何をやればいいのだ?」

るか「えっとですね……」

42: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:40:45.21 ID:VBBZKhMUo

・・・

倫子「っ……えっと、ここか?」

るか「あっ、やだ! ダメです、そんなところ……」

倫子「ええい、ならば……ここだっ!」

るか「あっ! ダメっ! そんな無理矢理っ、むぐっ……むうぅっ……」

倫子「はあっ! はぁっ、はぁっ……」

るか「……凶真、しゃん?」モグモグ

倫子「……これは、なんだ。オレたちは一体なにをやっているのだ……」

倫子「どう考えても二人羽織ではないかぁっ!!」クワッ

るか「……ちくわ、おいしかったです」ゴクン

倫子「真夏の炎天下、神社の境内で美少女巫女とくんずほぐれつ汗を絡めながらおでん缶のちくわを口に咥えさせるというxxx……っ! 誰だこんなことを考えたバカモノはぁっ!!」

パシャ

倫子「(……今物陰からシャッター音が聞こえたような気がしたが、気のせいか?)」

倫子「……フェイリスっ! そこに居るのはわかっているぞ! 出てこいっ!」

シーン……

るか「えっ? フェイリスさんが居るんですか?」

倫子「……オレの勘違いか?」

43: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:42:16.26 ID:VBBZKhMUo

prrrr prrrr

フェイリス『ニャンニャーン♪ 凶真から電話かけてきてくれるなんて、フェイリスは幸せ者ニャ♪』

倫子「(そう言えばこいつに抱きついたことはなかったことになってしまったのか……なんだか寂しいな)」

倫子「あー、フェイリス。今お前はどこにいる?」

フェイリス『どこって、メイクイーンでお仕事中だニャ。今日を乗り切れば、明日から3日間は昼間のお客さんが減るのニャン』

フェイリス『だからぁ、デートのお誘いなら明日以降でお願いし』ピッ

倫子「となると、さっきのはフェイリスのカメラのシャッター音では無かったのか。ふーむ……」

るか「えっと、おか、凶真さん。次はどうしますか?」

倫子「誰かの陰謀に巻き込まれている気もするが……。ククク、この鳳凰院凶真を嵌めようと言うのだな、そうはいくかっ!」

倫子「良いだろう……貴様がそのつもりなら、全力で応えてやろう。ルカ子よ、続きだっ! 指南書の続きを行うっ!」

るか「は、はいっ!」

44: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:43:56.11 ID:VBBZKhMUo

・・・

倫子「あついっ! そ、そこじゃないぞルカ子!」

るか「す、すみません。じゃあ、この辺ですか?」ピトッ

倫子「あっつうううういっ!!」ジタバタ

るか「すみませんすみませんすみませーん!」

倫子「(指南書に書いてあったのは、今度はポジション逆でお願いしまーすというカメ小並の指示だった)」

倫子「(後ろ側だった時は別段何も感じなかったが……今はルカ子の身体が密着してきている)」

倫子「(うなじに吐息を感じる……背中に柔らかさを感じる……)」ドキドキ

るか「あれ? 凶真さんの心臓の音、急に激しくなりました……」

倫子「ち、違うぞルカ子っ! オレはノーマルだっ!!」アセッ

るか「え?」

倫子「あ、いや、何でもない……」ドキドキ

倫子「(ルカ子は純真可憐の権化と言ってもいい。まさか、オレの心の中の男性的な部分が、彼女にトキメキ始めているのか……!?)」ドキドキドキドキ

るか「それじゃ、次行きますね。はい、あーん」

倫子「あ、あー……///」







紅莉栖「へえ、所長様は女子高生と   の真っ最中でしたかそうでしたかこっちが一生懸命クソ暑いラボでガジェット作ってるっていうのによくもまあそんなHE   が思いつくもんだと感心してしまいますすごいですねさすがレジェンドオブワルキューレ(笑)と言ったところでしょうかあーんまでしてもらってさぞやおいしいお昼ご飯になったんでしょうねえこちとらカップ麺ですよええ私が好きで食べてるんですからこれは別にいいですけどおでんみたいにアツアツカップルってか(爆)ふざけんなふざけんな大事なことなので2回言いましたってゆーか漆原さんには凶真守護天使団の掟について小一時間説かなければならないみたいですからゆっくり屋上でお話しましょう久々にキレちまったぜ……」ゴゴゴゴゴゴ

45: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:44:59.19 ID:VBBZKhMUo

・・・
一方その頃
未来ガジェット研究所


久野里「(今なら誰も居ない……やるなら今のうちっ!)」

久野里「レジェンドオブワルキューレ第一章第三節……暗黒微笑」ペラッ ペラッ

久野里「ふ……ふーはは、いや、違うな……こうか? ふぅーははぁ!」

久野里「ふぅーはははぁ! そう、こんな感じ……!」パァッ

久野里「それと、決めポーズは……こう?」ババッ

久野里「それからこうして……」ババッ

久野里「……フゥーハハハ! オレを誰だと思っている……!」バババッ

久野里「世界を混沌に陥れ、支配構造を変革する者……ッ!!」

久野里「我が名はッ! ほーおーいんっ!!」

ガチャ

久野里「キョッ……」

ダル「…………」

久野里「…………」

ダル「……あ、いや、どうぞ。続けて?」

久野里「…………」カァァ

・・・

46: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:45:36.03 ID:VBBZKhMUo

・・・
柳林神社


るか「す、すみませんでした……」

紅莉栖「悪気があってやってたわけじゃないってのがね……。でも本気で私への当てつけかと思ったわよ、さすがに」

倫子「う、うむ。すまん……」

紅莉栖「まあ、美少女2人に免じて許す。でも裏で動いてるアレは後でシメる」

倫子「ん? 何か言ったか?」

紅莉栖「それで、未来ガジェット9号機のβ版が仕上がったから実際使いながら訓練してもらおうと思って呼びに来たのだけど」

倫子「なるほど、そういうことだったか。ならばルカ子よ、ラボへ急ぐぞっ!」

るか「は、はい師匠!」

47: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:46:59.97 ID:VBBZKhMUo
未来ガジェット研究所


まゆり「ただいまゆしぃ☆ あれー、みんな集まってるー!」

倫子「バイトご苦労、まゆり」

るか「お邪魔してます、まゆりちゃん」

ダル「まゆ氏、乙ー。ちょうどBCI実験装置が完成したんだお」

久野里「こんな短時間で作るなんてすごい……さすがレジェンドの右腕……」

ダル「まあ、設計図自体は牧瀬氏の理論のおかげだから、パーツショップ行って買ってきて組み立てるだけだったわけですしおすし」

ダル「ラボに戻ってきたら貴重なシーンが御開帳だったし、役得っつーか?」

久野里「そ、その話はやめてください……」

紅莉栖「結果論だけど橋田が手伝ってくれて助かったわ」

ダル「こんなに可愛い3次元の、去年までランドセルおにゃのこを僕から遠ざけようとしたことは許さない絶対にだ」

紅莉栖「全部久野里さんのおかげね、ありがとう」ニコ

ダル「ちょ」

久野里「い、いえ、そんな……」テレッ

倫子「(天才が3人集まるとちょちょいとすごいものが出来上がってしまうのだな)」

るか「これ、オーディオセット、ですか?」

倫子「一見ヘッドセットがPCから伸びているだけに見えるが……。それで、BCI実験とはなんなのだ?」

紅莉栖「Brain-Computer Interfaceの略。脳とコンピュータを繋ぐ技術のこと」

るか「たしか、SF映画でありましたよね、そういうの」

倫子「ふむ、脳と脳を繋ぐ前段階として、まずはコンピュータと繋いでみよう、と言ったところか」

紅莉栖「入眠時催眠、って知ってる?」

まゆり「にゅうみん? なにかなー」

紅莉栖「眠りに入ろうとする直前、うとうとするでしょう? あの時の脳って、現実の認識と夢との境が曖昧になっててね」

紅莉栖「幻覚を見たり、幻聴を聞いたりしやすいの。いわゆる寝ぼけてる状態」

紅莉栖「幽霊を目撃したと言う人のほとんどが、入眠時催眠によるものなのよ」

るか「それじゃ、時々ラボの中をうろうろしてるアレもそうなのかな……」

倫子「……どさくさに紛れておっかないことを言うんじゃない」ビクビク

48: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:48:22.23 ID:VBBZKhMUo

ダル「で、寝ぼけてる状態の脳に、コンピュータのデータを送り込むってのがBCI実験ってわけ」

倫子「要は明日の決闘を仮想現実上でシュミレートしよう、ということか」

紅莉栖「そういうこと。これなら修行の効率化も図れるし、私は未来ガジェット9号機用のテストデータが取れるしで一石二鳥でしょ?」

るか「でも、なんだか怖いです……」

紅莉栖「大丈夫よ。脳波マッピングするようなものだし、全然痛くないから安心して?」

倫子「その言い方で安心できると本気で思っているのかこの助手は……まあいい。善は急げだ、今すぐ実験を開始せよっ!」

まゆり「そんなに意気込んでたらねー、うとうとできないと思うなー」

倫子「そ、そうだった。オレとルカ子は寝ればいいのか?」

紅莉栖「わ、わ、わ、私の膝で、膝枕、する……?」

倫子「だが断る」

久野里「(出た! レジェンドの秘奥義その参百参、『だが断る』ッ!)」キラキラ

紅莉栖「ウフフ……そうくると思ったわ……」ジュルリ

ダル「牧瀬□。ドMの鑑だお」

まゆり「それじゃーねー、まゆしぃがお歌を歌ってあげるのです☆」

倫子「や、やめろォ! この前カラオケ行った時もそうだったが、まゆりの"音程との握手<バックボーン・シェイクハンド>"の威力は、聞く者の三半規管を破壊する……っ!」

まゆり「オカリ~ン、恥ずかしいよぅ。アニソンはちょっと難しいけど、子守唄くらいは歌えるよー?」

倫子「(ホントか……!?)」

49: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:49:22.98 ID:VBBZKhMUo
???


倫子「(脳がガンガン揺さぶられている……ある意味でまゆりの歌は導眠効果があるな……)」ズキズキ

倫子「ん……ここは……?」パチクリ

るか「あ、おか、凶真さん。よかった、目が覚めたんですね」

倫子「あ、ああ、ルカ子か。ということは、ここはもしや仮想現実の中なのか?」

紅莉栖『そういうこと。声、聞こえてる?』

倫子「おおっ! オレのケータイから助手の声がっ! すごいぞ、まるでゲームの世界だなぁ!」パァァ

紅莉栖『倫子ちゃんが喜んでくれただけで頑張った甲斐がありますた……』ゴフッ

倫子「倫子ちゃん言うなぁ!」

まゆり『すごーい。ゲームの中にオカリンとるかちゃんが居るー』

久野里『これは代用の簡易アバターですけど、お2人の脳内モーションのトレースまでできるなんて、本当にすごいですね……』

倫子「それで、ここでオレたちは何をすればいい?」

ダル『安く売ってた格ゲーの練習プレイ用フィールドデータを送ったからさ、周り見てみ』

倫子「お……おおおっ! 突然闘技場が現れたぁ! そして、色んな武器が整列している……っ!」ドキドキ

るか「すごい……瞬きするうちに世界が変わりました……」

倫子「よし、ルカ子よ! 剣を持てぃ!」

るか「は、はい師匠!」

50: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:51:09.75 ID:VBBZKhMUo

ダル『ゲームデータをそのまま引用してるから、適当に刀を振り回すだけで技になるはずだお』

倫子「らしいので、早速振ってみるのだっ」ワクワク

るか「えっと……えいっ!」ブンッ

ズシャァァァァァァァッ!!!

るか「ひっ!?」

倫子「おおおおっ!! すごいすごいっ!! 剣から青白い斬撃がっ!!」ピョンピョン

倫子「かっこよすぎるだろ……なんだこの技術……」ワナワナ

倫子「よし、ルカ子よ。斬撃に慣れるためにも引き続き特訓だぁっ!」

るか「は、はい師匠!」

紅莉栖『倫子ちゃんが楽しそうでなによりです』

倫子「ふふふ、今だけは倫子ちゃん呼びを許してやろう……ふぅーはははぁ!」キラキラ

51: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:53:31.37 ID:VBBZKhMUo

るか「はぁ……はぁ……ようやく、斬撃にビックリすることもなくなってきました……」

倫子「よくやったぞ、ルカ子。おいダル! そろそろ敵キャラを出してくれっ!」

ダル『オーキードーキー。んーと、ほい』

シュン!!

紅莉栖「カイバニデンキョクブッササレタイカ」

倫子「って、クリスティーナではないか!?」

るか「あ、あれ? 周りの景色が……ここって、中央通りの、車道ですか? 歩行者天国なんでしょうか……」


  GET READY?


倫子「……は?」

ダル『あ、しまった』


    FIGHT


るか「えっ?」

紅莉栖「ハァッ!」

ビュン!!

倫子「のぉわぁっ!? 未来ガジェット1号機『ビット粒子砲』(希望価格1,098円)からビームが!?」

紅莉栖「エイッ! ヤアッ!」

ブォン!!

倫子「やめろぉ! 未来ガジェット6号機『サイリウム・セーバー』(希望価格1,480円)を振り回すんじゃないっ! というか、なぜオレを狙う!?」

るか「よ、避けてください、凶真さぁん!」

ダル『ごめんオカリン、普通に対戦モードになっちゃったお』

紅莉栖「ミライガジェットゴゴウ! モエロー!」

ブォォ!!

倫子「ひぃっ! 未来ガジェット5号機『またつまらぬ物を繋げてしまったby五右衛門』(希望価格7,800円)から何故火炎放射が出るのだぁっ!! うわぁん!!」ダッ

52: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:54:48.71 ID:VBBZKhMUo

倫子「おいダルぅ! 現実の紅莉栖ぅ! 今すぐここから出してくれぇ! クリスティーナに殺されるぅ!」タッ タッ

紅莉栖「コドモダマシダケドッ!」タッ タッ

るか「ま、待ってくださぁい」タッ タッ


紅莉栖『ちょっと橋田、何やってんのよ! えっと、脳を急に覚醒させるのは危険だから……』

まゆり『それなら、別のゲームに変えちゃえばいいんじゃないかなー?』

紅莉栖『あ、だめ、まゆりっ! そんなことしたら混線して――』


紅莉栖「…………」

倫子「はぁっ……はぁ……、と、止まった……?」

るか「えっと、終わったんでしょうか……?」

倫子「もしもし、ダル? 紅莉栖? 何がどうなったんだ? おいっ! もしも――」


紅莉栖「ねえ、誰と電話してるの?」ネットリ


倫子「……はっ!?」

紅莉栖「……わかった。相手は女の子ね、私よりも好きな娘いるんだ……」ゴゴゴ

倫子「……ヒェッ」プルプル

53: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:56:47.16 ID:VBBZKhMUo

紅莉栖「まゆり? それとも桐生さんかな。……阿万音さんかな、フェイリスさんかな」

紅莉栖「まさか、漆原さんってことは無いわよねぇ?」

るか「えっ……」ドキッ

倫子「ダルっ!!! ダアアアルウウウ!!!!」ピィィ

ダル『今オカリンが居るの、有名な修羅場ゲーの中だお。しかもBad Endのセーブデータ』

倫子「ふぉぉぉぉいっっっ!!!!!」

紅莉栖「嫌……岡部は誰にも渡さない……絶対に渡さない……」ブツブツ

倫子「なんでそんなゲームのデータがあるんだよぉっ!!」

ダル『僕の趣味wwwフヒヒwwwサーセンwww』

紅莉栖「こうなったら、岡部の前頭葉を切除して、私の奴隷にするしかないわ……。あるいは、海馬に電極ぶっ刺して、私以外の女の子の記憶を抹消するしかっ!」ピタッ

倫子「……ク、クリスティーナ?」

紅莉栖「ウフフフフ、サッソクジッケンヨ?」ニコッ


ギュィィィィィィィィン!!


倫子「ふわぁ!? 電ノコなんてどこから出したぁっ!?」

紅莉栖「アハハッ、だいじょうぶぅ、痛くしないわよぉ?」ギュィィィィィィィィン!!

紅莉栖「だってぇ、私は脳科学の天才ぃ、そしてぇ、狂気のマッドサイエンティストなんだからぁっ! フゥーハハハ!」ギュィィィィィィィィン!!

倫子「こ、腰が砕けて、動けん……っ!!」ポロポロ

紅莉栖『落ち着いて岡部! 今脳に送ったデータを消去してるから!』

るか「こ、ここはボクが食い止めますっ!」

倫子「ルカ子ぉ……!!」ウルウル

紅莉栖「フフフ、フワァーッハッハッハァー!!」ギュィィィィィィィィン!!

るか「えいやぁーっ!!」ズシャァァァァァァァッ!!


ガキィィィィィィン!!

54: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:57:37.07 ID:VBBZKhMUo
未来ガジェット研究所


紅莉栖「……かべ? おかべ?」

久野里「レジェンド! 大丈夫ですか!」

るか「岡部さん……っ!」

まゆり「しっかりして、オカリン! 目を覚ましてぇ!」

倫子「……ハッ」パチクリ

紅莉栖「岡部っ!」

久野里「レジェンド!」

まゆり「オカリン!」

るか「岡部さんっ!」

倫子「あ、ああ……帰ってきたのか」ホッ

倫子「ルカ子よ、助手の魔の手からオレを守ってくれてありがとう……本当に、ありがとう……」ウルウル

ダル「おお、貴重なオカリンのありがとうシーン頂きますた」

まゆり「いつもは『ご苦労』なのにねー」

るか「い、いえ、弟子として当然のことをしたまでです……」

紅莉栖「わ、私が岡部を襲ったわけじゃないからな! 悪いのはあんなデータを用意してた橋田だから!」

ダル「ちょ」

久野里「でも、無事実験が終了してよかったです。さすがレジェンド」

倫子「まあ、無事には違いないが……最悪だったぞ、ホント……」クタァ

55: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:58:36.78 ID:VBBZKhMUo
中央通り


倫子「(実験データを整理するために天才少女ペアはラボに残り、まゆりとダルは明日のコミマの準備のために家に帰った)」

倫子「(オレはまあ、弟子を神社まで送ることにした。明日が本番だしな)」

倫子「……なぁ、ルカ子。1つ訊いておきたかったんだが」

るか「はい、なんでしょうか」

倫子「お前、オレのこと、好きなのか?」

るか「え……ええっ!? えっと、いや、その、もちろん、お慕い申し上げていますけど、その……」アタフタ

倫子「男に戻って、恋人になりたいと考えているのか?」

るか「あうぅ……恥ずかしい、です……」

倫子「だが、それならなぜ男だったお前は女を選んだのか、と思うのだが」

るか「それは……。やっぱり、自分ではおか、凶真さんの恋人になんかなれないと諦めてしまったからだと思います。今でもそう思ってますから……」

倫子「そ、そうか……」

るか「……覚えて、いますか?」

るか「ボクと岡部さんが、初めて出会った時のこと」

倫子「……ああ。あれはたしか5月のゴールデンウィークのことだった」

56: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 22:59:44.69 ID:VBBZKhMUo

・・・


倫子「そこのカメラ小僧ども! 神聖なる巫女を撮影するなど、神を穢す行為っ! 断じて許せんっ!」プルプル

カメ小A「な、なんだよキミは……って、コスプレ仲間か」

倫子「この白衣はコスプレなどではないわっ! どたわけが!」

カメ小B「い、いまのって、ブラチューのエリンでは……」

倫子「オレの名は鳳凰院凶真。神が地上に具現せし灰色の脳細胞の持ち主にして、世界に混沌をもたらす狂気のマッドサイエンティストだ! ふぅーははは!」ドキドキ

カメ小C「ちょ、なんという厨二病。だがそれがいい」

カメ小B「オレっ娘はポイント高いすなぁ、フヒヒ」

倫子「というかだな。貴様らがオタクだかカメ小だか知らんが、女の子が嫌がっているのに囲んで撮影とか、普通に通報ものだぞっ」ガクガク

カメ小A「はぁ? レイヤーをローアングってなにが悪いんだよ。もしかしてキミも素人?」

カメ小C「素体は良いのに衣装が残念でござる。だがそれがいい」

カメ小B「残念美人の理系厨二女子とか、今どき萌えねーんだよ! それより巫女服美少女は王道、これは譲れない」

るか「あ、あの、ボクは……」

倫子「警察が許しても、このオレが許さんっ! 可憐な少女に変 写真を懇願するような変質者は恥を知れ!」ワナワナ

るか「ち、違うんです……ボクは、ボクは……っ」

るか「男です……!」

カメ小たち「「「えっ……」」」

57: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:00:15.16 ID:VBBZKhMUo

カメ小C「もしかして、下もついてるんですか?」

るか「…………」コクッ

カメ小B「な、なんだよぅ、紛らわしすぎだろふざくんな!」

カメ小A「男なのに巫女服着てるとか、マジキチだろ……帰ろ帰ろ」

倫子「……散ったか。下衆どもが」ホッ

倫子「大丈夫か?」

るか「……ありがとうございます。でも、男なのに、女の人に助けられるなんて、みっともないですよね……」

倫子「お前、名前は?」

るか「え? 漆原、るかです」

倫子「なぜみっともないと思った」

るか「だって……ボク、こんな顔なのに、男だし……」

倫子「そんなことはどうでもいい」

るか「……!?」

58: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:02:15.45 ID:VBBZKhMUo

倫子「お前が男だろうが女だろうが関係ない」

倫子「実際、オレも男だか女だかどうでもいい存在だしな」

るか「あっ……す、すいません……」

倫子「だがその僻んだ根性、気に入らないな」

るか「え? え……?」

倫子「ついてこい! お前に、いいものをやる! そのアイテムさえあれば、お前は勇気を得るだろう。お前の中に眠る真の力の存在にも気づくはずだ」

るか「えええ……」

倫子「どうした? 力が……欲しくないのか?」ククク


・・・


るか「その後、『武器屋本舗』に行って五月雨を買ってもらったんですよね」

倫子「(内心ビビりまくりだったのを厨二病で乗り切ろうとしたらブレーキが利かなくなっただけなんだがな……)」

るか「"そんなことはどうでもいい"……あの言葉があったから、ボクは岡部さんを好きになったんです」

倫子「だがそれは、お前が男だった時の記憶のはずだ。……ということは、男の世界線でもお前は……」

るか「えっ……あ、あれ? ど、どうしてでしょう? おかしいな……記憶が……」

倫子「(もしや、ルカ子にもリーディングシュタイナーが? フェイリスの時と同じように……)」

59: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:03:36.13 ID:VBBZKhMUo

るか「ボク、思い出しました……いえ、思い出したというか、なんて言ったらいいのか……」

るか「とても……儚い感じ」

るか「はっきり思い出したわけじゃなくて、記憶の海の底の方、というか……頭の、ええと……」

るか「この辺にあるような感じです」ピッ

倫子「(そこは頭の上、中空だな)」

倫子「だが、ある意味で真か。その記憶は本来お前の脳内にあるはずのない記憶なのだからな……」

るか「それで、思い出しちゃいました。お母さんの、ポケベル番号も……」

倫子「……な、なにっ!? ということは、ルカパパとの決闘をしなくてもDメールを送ることができるということか!?」

るか「は、はい。そうなると思います」

倫子「……いや、助手は言っていた。これは一種の通過儀礼<イニシエーション>なのだと」

倫子「何より我がラボの新作ガジェットのお披露目も兼ねているからな! 明日は共に父上殿を倒すぞっ!」

るか「は、はい師匠!」

60: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:04:55.04 ID:VBBZKhMUo
2010年8月15日日曜日
柳林神社


倫子「(そんなこんなで決戦の日を迎えてしまった)」

紅莉栖「それじゃ、このヘッドギアをかぶってください」

栄輔「ふむ。こうかな?」スチャ

久野里「レジェンド……じゃなかった、凶真所長と漆原さんも、どうぞ」

るか「は、はい」スチャ

倫子「天才少女ペアもかぶるのか?」スチャ

紅莉栖「私たちは受信機だけね。あんたたちがどんな世界を見ているのか、もちろんモニターに出力もしてるけど、生でも見たいから」

久野里「牧瀬博士、準備できました。いつでも大丈夫です」

倫子「(いまや柳林神社の本殿はNPCやらモニターやら配線やらでちょっとした秘密基地状態になっていた)」

栄輔「それじゃ、るか。刀を構えなさい」

倫子「あなたの武器は……その、えっと、白いふさふさですか? てっきり剣戟になるのかと」

栄輔「大幣(おおぬさ)と言うんだ。僕はどちらかというと魔法使いタイプが好きでね、剣士や格闘家タイプは苦手なんだよ」

倫子「なんの話だ……」

栄輔「例えば……こんな風にね!」


ブォン!!


るか「――っ!!」

61: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:05:53.92 ID:VBBZKhMUo

倫子「火炎弾っ!? ルカ子、避けろぉっ!」

るか「きゃぁぁっ!!」ズテーン

倫子「ルカ子ぉっ!! 大丈夫かっ!? 火傷は……して、ない?」

紅莉栖「その炎はニセモノよ! パパさんの妄想攻撃!」

久野里「熱さを感じたとしても錯覚です! 脳が混乱しているだけです!」

倫子「そ、そうだった。ルカ子、ほら、立て。反撃するぞ!」

るか「は、はい……」ビクビク

倫子「怯える必要はない。所詮は妄想の攻撃、大丈夫だ」

栄輔「果たしてそうでしょうかねぇ。るかの精神力がどこまで持つか……」

倫子「ルカ子は刀を振るうだけでいいっ! 妄想はオレに任せろっ!」ガシッ

るか「は、はい師匠!」

栄輔「次はもっと大きいですよっ!」ブォン!!

倫子「いけ、ルカ子っ! 今こそお前の力の全てを込めてっ! 五月雨を振り下ろせぇっ!」

倫子「清心斬魔流奥義、『参拾弐式・桜暴』ッ!!」

るか「いやああああああっ!」


ズシャァァァァァァァァァッ!!


栄輔「なに――――ぐわぁっ!!」ズテーン!!

倫子「よ、よしっ! 青白い斬撃が飛んでいった!」

紅莉栖「妄想同士が衝突して爆発した!? そっか、より強い妄想の方が認識に影響を上書きしているのね! さすが倫子ちゃんの妄想力!」

倫子「いちいち倫子ちゃん言うなっ!」

久野里「でもこれ、ヘッドギア外したらオーバーリアクションなチャンバラごっこなんですよね……」

62: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:10:42.69 ID:VBBZKhMUo

るか「凶真さんに仇をなす輩は、たとえお父さんだろうと、このボクが許しません!」キリッ

紅莉栖「漆原さんの雰囲気が変わった!?」

栄輔「良い目をするようになったな、我が娘、るかよ……」

倫子「おお。なんだかRPGのラストシーンっぽい雰囲気だ」

パァァァァァァァァッ

紅莉栖「って、あれ? 漆原さんの模擬刀が、青白く光ってる……?」

倫子「……妖刀・五月雨が目覚めたのだ」ククッ

紅莉栖「(おっとー、倫子ちゃんの厨二病舞台が始まるかな?)」

るか「ついに、ボク、会得したんですね。凶真さんのために……」

倫子「清心斬魔流が操るのは浄化の力だ。コスプレ欲という穢れたに塗れたルカパパの精神にとっては、まさに天敵ということだなっ!」ビシッ!!

栄輔「……なるほど、そういうことでしたか。ならば、"無の力"ならどうでしょう」スッ

倫子「無の力、だと……?」ゴクリ

栄輔「私はこれでも神に仕える者、精霊をも使役する……。いでよ、無の精王、ルカノーン!」

ヒュン! ヒュン! ヒュン!

倫子「左右と前方の三方向からの疾風攻撃!? ルカ子、避け――」

るか「てやぁぁっ!!」ビュン ビュン ビュン

倫子「全部受けきった!?」

紅莉栖「今までの漆原さんからは想像もできない俊敏な動き……っ!」

栄輔「なんだと!?」

倫子「よ、よし! 今だっ! オレたちの妄想をシンクロさせるぞっ!」

るか「はいっ! 修行の成果、出し切りますっ!」


倫子&るか「「清心斬魔流、蒼炎波ーッ!」」


ズオオオオオオオオオオオオオッ!!


紅莉栖「斬撃が完全燃焼の青白い炎を纏って飛んでいく!」

久野里「すごい力だ……!」

栄輔「し、しまっ――――」


ガキィィィィィィィイン!!


倫子「は?」

るか「え?」



??「お前達……一体、何をしているんだ……」



63: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:12:35.55 ID:VBBZKhMUo

倫子「(な、なんだあの黒髪ロング女……突然現れて、ルカ子の炎の斬撃をその手に持った巨大な剣で受けた、だと……?)」

??「何をしているのかと……聞いている……」ゴゴゴ

倫子「(しかもひどく怒ってらっしゃる!?)」ビクッ

紅莉栖「ちょ、ちょっと待って。あなた、この妄想が見えてたの!?」

倫子「(そ、そうだ! あの超リアルな立体映像は、ヘッドギアをかぶった人間にしか見えないはず!)」

??「貴様ら、希テクノロジーの人間か……?」

紅莉栖「のぞみ? 違います。あの、危ないから立ち入らないでほしいんですけど」

倫子「ん……って、ちょっと待てよ? あの顔、どこかで見た覚えが……?」

倫子「……あ、あああーーーっ!!! 貴様は、あの時の、渋谷で会ったガルガリ女ではないかっ!?」

ガルガリ女「お前は……ああ、白衣を着ているからわからなかったが、あの時の妄想垂れ流し女か」

倫子「誰が妄想垂れ流し女かっ! お前だってでっかい剣を持ち歩くとかおもっくそ恥ずかしいことをしているくせにっ!」プンスカ

セナ「私の名前は蒼井セナだ、ガルガリ女ではない」

倫子「やはり貴様は"機関"に属する戦士だったのだなぁっ!? そしてその剣は"妖刀・朧雪月花"……っ!」

セナ「これ以上妄想はするなと警告したはずだ」

るか「えっと、凶真さんのお知り合いの方、ですか?」

倫子「忘れもしない……。去年、まだ高校生だったオレは、この女に……この女に……っ!」プルプル

倫子「●●を、踏まれたのだ……」グスッ

紅莉栖「!?」

久野里「!?」

るか「!?」

栄輔「!?」

萌郁「!?」

64: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:14:45.64 ID:VBBZKhMUo

セナ「そんなことはどうでもいい。希の人間じゃないというなら、お前らは何者……ま、牧瀬紅莉栖っ!?」

紅莉栖「ふぇっ? えっと……?」

倫子「なにっ!? クリスティーナ、お前もこいつと知り合いだったのか!?」

セナ「(弱冠17歳にしてサイエンス誌に論文が載った天才……しかしそれはVR技術と組み合わせてはいけない危険なものだった……)」グッ

セナ「(だが、ここで偶然会えたのも何かの因果か? もしこいつに近づくことができたなら――)」キィィィィィィィン

紅莉栖「い、いえ、私はこんな人知らないから、初めまし……あら、セナじゃない。元気?」

セナ「っ、しまっ――」

るか「牧瀬さんの知り合いでもあるんですか?」

紅莉栖「知り合いも何も、セナはヴィクコンを目指して勉強中なのよね。1つ上だけど、私の未来の後輩」

久野里「ええっ? 蒼井さんもそうなんですか?」

セナ「(くそっ、無意識のうちに咲畑のような真似をしてしまうとは……。これが私の望んだ妄想か)」

紅莉栖「お父さんの研究を引き継いで、みんなを幸せにする道を探したいって言ってたっけ。それって、とっても素敵なことだと思うわ」

セナ「あ、ああ。来年の秋にはヴィクコンへ入学するつもりでいる」テレッ

紅莉栖「頑張ってね。応援してる」ニコ

セナ「(……心から私を応援してくれているのか。良いやつだな、牧瀬紅莉栖)」

65: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:16:14.89 ID:VBBZKhMUo

セナ「……食うか? 夏に食べるこれは、最高だぞ」スッ

紅莉栖「えっ? あ、ガルガリ君……」

セナ「ガルガリ君は、おいしさと可愛らしさを兼ね備えた貴重な存在だ」

セナ「疲れた脳細胞に栄養を与え、適度な冷たさと清涼感が脳細胞を活発にする」

セナ「ガールガーリー君♪ ガールガーリー君♪ ガールガーリー……」

セナ「……ハッ。"私はガルガリ君をかじっていたと思ったらいつの間にか歌っていた"」

久野里「す、好きなんですね、ガルガリ君」

セナ「かわいいだろ? あのイガグリ頭が最高だ」

セナ「ガルガリ君には色々な味があるが、ソーダ味が一番おいしい」

セナ「やはりソーダ味は最高だ。透き通るような甘みと、さわやかな酸味。シンプルにして奥深い味わい。すべての始まりにして究極のガルガリ」

セナ「それが、ソーダ味だ」キリッ

倫子「(溶けてそう)」

紅莉栖「あ、ありがとう。いただくわ」パクッ

セナ「お前たちにはこれをやろう」スッ

倫子「アタリ棒……」

久野里「あ、ありがとうございます。(レジェンドとお揃い……!)」

セナ「それで、牧瀬。ここで何をやっていたのだ?」

紅莉栖「ええっとね、今やってた実験は脳内データを映像化して……かくかく……しかじか……」

66: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:17:35.64 ID:VBBZKhMUo

セナ「(やはり牧瀬紅莉栖は天才だな……。あとはIr2の公式さえ当てはめてしまえば、それこそ野呂瀬の作り上げたノアⅡと寸分変わらないものが完成してしまう)」

セナ「(あの巫女が持っていた青白い剣はディソードでは無かったのか。現に今はただの模擬刀になっている。紛らわしい真似を)」

紅莉栖「でも、セナの持ってる剣って本物じゃないわよね? 見るからに現実のものとは思えない」

倫子「なんだと? ……ということは、これはヘッドギアが見せている妄想の剣?」

倫子「(確かに剣にしてはかなり独特な形だ。ダルあたりなら喜びそうな形状だが、リアルで使おうと思ったらまったく役に立たないだろう)」

セナ「そうなるな。だから、私が妄想を止めれば消える」フッ

栄輔「おお、一瞬にして大剣が消えた。まるで手品ですな」

セナ「(ほう、ディソードをディラックの海に戻したことを認識できるのか)」

セナ「(この珍妙なヘッドギアをかぶることで一時的にギガロマニアックスのような状態になっている。たしかに興味深い)」

紅莉栖「ってことは、セナの脳内映像がヘッドギアの発信機なしで未来ガジェット9号機に入って妄想を共通認識化してしまったってことなのかしら。機器の電磁波と脳波がシンクロしちゃったのかな……」

セナ「その実験は危険だ。人間の脳にどういう影響があるか、まだ必要数のサンプルを取ったわけじゃないだろう」

倫子「この実験大好きっ娘を止めようと言うのは無駄だぞ」

セナ「少なくとも動物実験を挟むべきだった。正直に言おう。今私は牧瀬紅莉栖を科学者として軽蔑している」

紅莉栖「う゛ぅ゛っ」グサッ

倫子「ふん。オレはマッドサイエンティストとして尊敬しているっ!」

紅莉栖「う、うれしくない……」

久野里「で、ですが、牧瀬博士の理論は完璧でした!」

セナ「完璧であればあるほど危険だと何故気付かない」

るか「あ、あの、喧嘩は、やめてくださぁい」ウルッ

67: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:20:16.85 ID:VBBZKhMUo

??「お、おーい、セナー。か、勝手にどっか、行くなよぅ……」ハァハァ

セナ「遅かったな西條。用事は済んだのか?」

拓巳「う、うん。星来フィギュアの新作、しかもこれまでなかった、1/4スケールの。わざわざアキバで予約した甲斐があったよ」

拓巳「コミマで人が減った時に買いに来てよかったぁぁぁ……DQNに絡まれて星来たんに何かあったらマジふざくんなって感じだからね」

拓巳「セナを用心棒として連れてきた意味は無くなったけど、それはそれで、よし」

セナ「そうか。用事が済んだならすぐ帰――」

拓巳「って、ふおおおっ!? リ、リアル巫女に、は、白衣の美少女が3人……!?」

倫子「なんだこいつ……」

拓巳「さ、3次元のくせに生意気だ。謎のハーレム神社ここに現る」

拓巳「し、し、しかも●●セナしゃんを筆頭にちっ  天国である……ふひ、ひ、●●はステータスだっ! 希少価値だぁっ!」

倫子「オ、オレは●●じゃないっ! 一緒にするなっ!」

拓巳「オレっ娘ktkr!! テンプレなリアクションありがとうございますフヒヒwww」

栄輔「君、なかなか見る目があるようだね」

拓巳「か、神主公認とか、アキバ始まり杉ワロタ」

セナ「っ! ほら、とっとと帰るぞ西條!」グイッ

拓巳「ぐわぁっ! ぼ、暴力反対っ! ちょ、自分で歩けるから、引っ張るのやめれぇ!」ズルズル

セナ「いずれまた会おう。牧瀬紅莉栖」スタスタ



倫子「……一体なんだったんだ?」

紅莉栖「さぁ……?」

68: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:22:10.78 ID:VBBZKhMUo

るか「えっと、決闘はどうなったんでしょうか」

倫子「部外者の闖入で中断されてしまったな」

栄輔「いや、私の負けだよ。るかがまた1つ大人になったようで、親としてこれほどうれしいことはない」

るか「お父さん……」

栄輔「ポケベルの番号はここに。まさかあれが別の世界のるかから送られてきたメッセージだったとはねえ」

倫子「そう言えば、やっぱりルカ子の母上は野菜をたくさん食べたのですか?」

栄輔「たしか、『やさいくうとげんきなこをうめる』、だったかな。あれを読んだ当時の私たちは、野菜を食べないと元気な子が産まれないかもしれない、と心から心配してね」

るか「あっ……ご、ごめんなさい、そんなつもりは……」シュン

栄輔「もちろん、家内には野菜を多く食べてもらった。同時に私は、この神社で朝から晩まで毎日、『元気な娘が産まれますように』と祈祷をし続けたんだ」

るか「そう言えば、お姉ちゃんからそんな話を聞いた覚えがあります。お父さんが不眠不休で安産祈願をしていた、って」

倫子「その想いが神に通じて、ルカ子が娘として産まれたというわけか。なるほど、さすが本職……」

紅莉栖「神に願っただけで性別が変わったら科学の敗北ね」

久野里「あるいは、神主さんの妄想が現実を改変した……?」

69: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:23:44.39 ID:VBBZKhMUo

栄輔「そう言えば、るかが男の子の世界ではどんな子だったんですかな」

倫子「見た目はそのまま、女より女らしい立派な巫女でした」

栄輔「ふむ。男の娘か、悪くない」

久野里「え、男なのに巫女なんですか?」

倫子「……つまりあなたは、自分の息子に巫女服を着せるようなHE   だったんだよぉっ!」

栄輔「……はは、鳳凰院くんは冗談が上手いですね」

紅莉栖「HE   が冗談で済めば良かったんだけどね……。いい加減出てきなさいよ、桐生さん」

倫子「なに? 閃光の指圧師<シャイニングフィンガー>が居るのか?」


ガサガサッ


萌郁「…………」パシャ

倫子「……そうか! あの時のシャッター音は萌郁だったのか!」

萌郁「私は……凶真守護天使団の……撮影担当……(カメラは任せて!(≧▽≦) )」パシャ

倫子「お前も入団していたのか、アレに……」ハァ

萌郁「今日は……神主さんに、頼まれて……(バイト代もらっちゃった(/・ω・)/ )」パシャ

紅莉栖「で、漆原さんのお父さん。良い写真は撮れましたか?」ニコッ

栄輔「え、えっと、なんの話かな、あはは……」ダラダラ

70: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:24:51.24 ID:VBBZKhMUo

紅莉栖「このあからさまな巻き物と和綴じ本。見つかったタイミングが良すぎたと思わなかったの?」

るか「た、たしかに思いました……内容もおかしかったですし……」

紅莉栖「これ、全部漆原さんのお父さんのお手製よ」

倫子「ぬぁにぃっ!?」

るか「……そう言えば、筆跡がお父さんのものに似ていました」

栄輔「ちょ、ちょっとした若気の至りだよ、はは……」

倫子「秋葉ノ原の地に竜が顕現せり、は創作だったというのか……なんという厨二病……」

倫子「それに、あのイミフな二人羽織は……」チラッ

萌郁「ベストショット……(一番良く撮れてるよヾ(*´∀`*)ノ )」パシャ

倫子「消せぇっ!! 今すぐにっ!! うわぁん!!」

萌郁「美しい、師弟愛……(私も目覚めそうになっちゃったよー(≧▽≦) )」パシャ

倫子「こうなったら無理矢理にでも奪ってやるっ!」ガシッ

萌郁「っ!? ……い、や……っ!」ビクッ

倫子「そのっ! ケータイをっ! よこせぇっ!」グイッ

萌郁「い、いやああああああああっ!!!!!!!」ブンブン

倫子「きゃっ!?」

るか「き、桐生さん!?」

紅莉栖「ちょっと!? 大丈夫!?」

71: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:26:44.95 ID:VBBZKhMUo

倫子「す、済まなかった。いや、オレが謝るのは釈然としないんだが……」

久野里「ケータイ依存症、という奴ですよね。でも、ここまで極端な症例は初めて見ました」

紅莉栖「そうね……もしかしたら治療が必要かも」

桐生「はぁっ……はぁっ……」ウルウル

倫子「ま、まあ、悪用しないならいいんだ。ホントはよくないが……」

桐生「悪用は……しない……」グスッ

倫子「(……世界線が変われば写真もなかったことになるのだから、あまり気にすることはない、か)」

倫子「う、うむ。ならばよしっ! では、目的も達成したことだし、ラボに戻ってDメールを送るぞっ」アセッ

るか「……はい、凶真さん」

倫子「……ルカ子?」

るか「覚悟はできています。お父さん、行ってきます」

るか「……今まで、ありがとうございました」ペコリ

栄輔「……ああ。いってらっしゃい、るか」

72: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:28:39.46 ID:VBBZKhMUo
中央通り


倫子「(萌郁とは途中で別れた。大方フェイリスに写真を見せに行くのだろう……)」ハァ

紅莉栖「打消しDメールを送ればIBN5100が手許に戻ってくるとは言っても、この世界線のIBN5100は結局どこに行ったのかしらね」

るか「そ、それなんですが、実は……ボクが、壊しちゃったんです。去年のお正月に」ウルッ

倫子「な、なんだと!?」

るか「ボクのせいなんです。ボクが、神事のお手伝いで、宝物殿の倉庫をお掃除していた時に……」

るか「でも、男だったボクはパソコンを壊していません。倉庫掃除の代わりに、本殿のお掃除をしていたから……」

久野里「……なるほど。性別が変わったことでバタフライ効果が発生、漆原さんがIBN5100を壊してしまう世界線になってた、ということですね」

るか「お父さんに怒られると思って、大ビル横のコインロッカーの中に隠したんです。今頃はもう管理会社に回収されて捨てられているかと……」

倫子「ま、まあSERNの手に渡らなかっただけ良しとしよう」

るか「凶真さんが探してるって聞いたとき、ボク、すごくビックリして……」

るか「本当のこと、ずっと話そう話そうって思ってたんですけど、嫌われるかもしれないって考えたら、言い出せませんでした……」

倫子「バカだな。そんなことでお前を嫌うわけがないだろ。お前は、オレの弟子なのだからな」

るか「凶真さん……」トゥンク

紅莉栖「ごほんごほん!」

紅莉栖「一応言っておくけど、去年のお正月の漆原さんへ向けて"倉庫の掃除はするな"っていうDメールを送るのは最後の手段だからね」

倫子「それはフェイリスのパパさんから聞いた」

紅莉栖「くっ……」

73: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:29:30.11 ID:VBBZKhMUo
未来ガジェット研究所 開発室


るか「……まゆりちゃんのこと、助けてあげてください」

倫子「ああ。オレは必ず、まゆりを救ってみせる」

るか「こういうときは、例の合言葉ですよね……」

るか「ええと、エル・プサイ・コンガリィ……」

倫子「……コングルゥだ」フフッ

紅莉栖「『*2*2292983183129298318312929』、準備できたわ」

久野里「いよいよ世界線が変動するんですね……」ドキドキ

るか「これでお父さんとお母さんが、イタズラだと思ってくれれば、心配させることもないですよね……」

倫子「1通で変わらなかったらイタズラだと確信してくれるまで迷惑メールのごとく何通も送ればいいだけだ」

るか「でも、今日までの記憶がなくなっちゃうのは、やっぱり寂しいです……」

倫子「……オレが覚えているさ」

倫子「だが、ルカ子の女としての17年間を、オレは、無かったことにしてしまうんだよな……」プルプル

紅莉栖「……またこの子は」ハァ

74: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:34:33.86 ID:VBBZKhMUo

紅莉栖「ねえ、岡部。漆原さんの心配をするのもいいけど、私の心配もしてほしい」

倫子「え……?」

紅莉栖「多分、あと何分もしないうちに24年後から"私"がやってくる」

紅莉栖「その前に世界線を変えて」

紅莉栖「そうしないと……"私"の暗い24年間が確定してしまうから」

倫子「……それは既に確定しているのではないのか?」

紅莉栖「それは違うわ。まだ世界の現在はそれを観測していない。因果が成立していない」

久野里「未来は完全には確定していない、ということですか?」

紅莉栖「確かに、ある世界線においては過去から未来までが確定している。だけど、世界線は常に振幅を持っていて、分岐、変動する可能性を秘めている」

紅莉栖「だから、私の主観では未来は確定していないことになる。まあ、阿万音さんの理論が正しければ、だけど」

倫子「"オレが観測した世界線"がアクティブ化するのと同様に、オレが24年後から来た紅莉栖を観測した瞬間、紅莉栖の24年間がアクティブ化してしまう、と……」

紅莉栖「お願い。"私"がやってくる前に、早く」

倫子「……わかった」

るか「男の子のボクのことも、よろしくお願いします」スッ

倫子「(ルカ子の指が、ケータイを持つオレの指に重ねられる)」

倫子「……無論だ。たとえ世界が変わろうとも、お前はオレの弟子だ! ふぅーはっはっは!」

るか「ありがとう……岡部さん」ピッ

75: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:35:00.37 ID:VBBZKhMUo

―――――――――――――――――――
    0.46914  →  0.50311
―――――――――――――――――――

76: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:35:36.24 ID:VBBZKhMUo
第9章 無限連鎖のアポトーシス♀

未来ガジェット研究所


倫子「(――重ねられていた、温かい手の感触が)」

倫子「(強烈な目眩とともに、オレの指の間からすり抜けていった)」

るか「どうされたんですか、おか、凶真さん」

倫子「……ルカ子、ラボにいたのか」

るか「えっと……? 今日はまゆりちゃんのコスプレの誘いから匿ってもらってました。そろそろお暇しますね」

倫子「お前は……男だよな?」

るか「えっ? はい、そうですけど……ハッ!?///」

るか「い、いえ、ある意味では、その、ボクはまだ、男じゃない、というか……」カァァ

紅莉栖「逆セクハラ、だと……っ!?」

倫子「いや、実はだな……」

77: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:37:15.66 ID:VBBZKhMUo

・・・

紅莉栖「つまり、男の漆原さんは女の岡部の男らしさに惚れ、女の岡部は男の漆原さんの女らしさに惚れてる、と」

倫子「どうしてそうなった!? 貴様、話を聞いていたのかこの脳内お花畑女がっ!」

るか「え、えっと……」テレッ

倫子「(仮に、だ。仮に、ルカ子の中のリビドーがオレに向けられていたとして……)」

倫子「(オレは、そんなルカ子の心に踏み込むことはできない……)」

倫子「(向き合うべきなのかもしれない。でもオレは、そこまで器の大きい女じゃない)」

倫子「(踏み込めば、ルカ子を傷つけるだろう。すまない、ルカ子……)」

ガチャ

栄輔「鳳凰院くん! うちの宝物殿に秘蔵コレクションがあるのを思い出したんだけど、着てみないかな?」

倫子「なんで居るんだよっ!! 帰れよっ!! うわぁん!!」

78: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:38:21.35 ID:VBBZKhMUo

倫子「他に変わったところは……さっきまで巫女服だったルカ子が私服に変わっているくらいか」

倫子「そう言えば、ルカ子の私服は中性的なファッションだよな」

るか「はい。お姉ちゃんが昔からボクに可愛い服を着せるのが好きで、その影響ってのもあるんですけど……」

紅莉栖「(漆原家の闇は深い……)」

るか「最近になってまた、自分の好きな服を着れるようになったんです。凶真さんのおかげなんですよ」

倫子「オレの?」

るか「ボク、昔からよく痴漢に遭って……男なのに痴漢されるなんて、恥ずかしくて誰にも言えませんでした」

るか「だから、目立つのが嫌で、いつも地味な服を着ていたんです」

るか「でも、おか、凶真さんと出会って、そんなことはどうでもいいって気付いてからは、自分の好きな服を着るようにしたんです。鏡を見るのも嫌いじゃなくなりました」

紅莉栖「発想は岡部と一緒なのにやってることは真逆ね」

倫子「何度も言うが、オレの白衣は世界を欺くためのカモフラージュなのだっ。無論、オレの理想とするマッドなファッションスタイルでもあるがなっ! ふぅーははは!」

紅莉栖「はいはいかわいいかわいい」

倫子「こいつ……」

79: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:39:51.09 ID:VBBZKhMUo

倫子「それと、久野里さんが居なくなっているのか。ルカ子が男になったことで、久野里さんがここを訪れる因果が消滅した、と」

紅莉栖「また女?」

倫子「久野里澪。お前の未来の可愛い後輩だ。お前のことを天才牧瀬博士として慕う、13歳にして発 の良い美少女」

紅莉栖「なん……だと……? どうしてそんな大切なことを忘れてしまったんだ私の脳ミソォ!!」

倫子「飛び級してもお前が彼女と出会えるのは早くても5年後くらいだろう」

倫子「……って、そうだった。この世界線では来年にはオレたちはSERNに拉致されるから、結局会うことは無いのか」

紅莉栖「OMG!! 澪たんのためにも1%の壁を越えてね、岡部……」プルプル

倫子「まあ、そうなったところで天才少女ペアの仲睦まじいガジェット開発はなかったことになったのだがな……」

紅莉栖「何がリーディングシュタイナーだ、都合よく発動しろオラァ!!」ゴンッ ゴンッ

倫子「ダルのPCデスクに頭をうちつけるのはやめろ?」

栄輔「PCと言えば、先ほど宝物殿に入った時にわかったのですが、鍵が壊されていましてね」

栄輔「秋葉さんから預かっていたPCが何者かに盗まれてしまっていたようです」

倫子「な……っ。盗まれていた、だとぉ!?」

倫子「(いや、たしかにそれならこの世界線でIBN5100をオレが入手できていない理由に説明がつくが、一体誰が!? 何のために!?)」

栄輔「重い物を引きずったような跡がありました。1か月前に確認したときは鍵は壊れていなかったので、ここ最近の出来事かと」

るか「け、警察に届けないと……」

80: ◆/CNkusgt9A 2016/01/10(日) 23:41:24.55 ID:VBBZKhMUo

倫子「おそらく、残りの取り消すべきDメールは、オレが送った写真集奪還Dメールと、ロトくじのDメールだ」

倫子「逆に言えば、このどちらかのDメールのせいで柳林神社に泥棒が入ったことになるな……」

紅莉栖「便利な言葉すぎて乱用は避けたいけど、それもバタフライ効果ね。予測不能なカオス的変動」

倫子「まるで現在が過去に侵食されているようだ。カオスに飲み込まれそうになる……」ハァ

紅莉栖「でも、原因が全くわからなくても、もう後の話は簡単よ。その2通とも岡部が過去の自分に送ったDメールなんでしょ?」

倫子「あ、ああ。ゆえに打消しDメールを送ることは今すぐにでも可能だ」

紅莉栖「でも、一応調べておいた方がいいのかしら? 打消しDメールはいつでも送れるけど、どうしてこうなったかわかっていた方が次の世界線の状況を理解しやすいかも」

倫子「一理あるな。それに、法則によればまゆりの……えっと、タイムリミットは16日の夜20時頃だろうから、まだ時間はある」

紅莉栖「使おうと思えばタイムリープマシンも使えるしね」

倫子「まずは写真集Dメールの線を当たってみるか……。となると、フェイリスに聞き込みだな。ゆくぞ、ワトスン!」

紅莉栖「美少女探偵鳳凰院ちゃんの誕生ねっ! 私はその助手ってことで」フンス

倫子「ちゃん付けするなっ!」

97: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:05:38.21 ID:hJ8u+9qPo
メイクイーン+ニャン2


ガヤガヤ ガヤガヤ


紅莉栖「なによこの人ごみっ!?」

倫子「そ、そうか。昼間は客が少ないと言っていたが、今はもう夕方。コミマ帰りの"ご主人様"で溢れているということか……!」ドキドキ

フェイリス「凶真! クーニャン! 丁度いいところに来てくれたニャ! 着替えは更衣室に用意してあるから早く着替えてくるニャ!」

紅莉栖「は?」

倫子「へ?」

フェイリス「どうせフェイリスに何か頼みに来たニャ? 聞いてあげるから代わりに今はお店を手伝ってほしいニャ!」

フェイリス「猫の手も借りたいほど忙しいんだニャーン! ウニャ~!」

倫子「わ、わかった! 手伝うから泣くなっ! ああもう、実際世話になってるから無下に断れない……っ!」

フェイリス「ニャフフ。凶真のそういうところ、大好きだニャン♪」

紅莉栖「……え? わ、私もなのっ!?」

フェイリス「凶真を護るためニャ!」ビシッ

紅莉栖「ぐぬぬ……いいように使われている……」

98: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:06:40.73 ID:hJ8u+9qPo

・・・

紅莉栖「オムライスが待ちきれないですって? お前は本当に卑しい豚ね」

ご主人様A「ハァハァ」

フェイリス「クリス・ニャンニャーン! 3番テーブルさんにオムライス運んでニャ!」

紅莉栖「今持ってきてあげるから、それまでコップの底の氷でも舐めていなさい。それとも私の靴の裏がいいかしら?」

ご主人様B「ハァハァ」

紅莉栖「xxの分際で私を指名なんて。おまえってほんとうに最低のクズね。気持ち悪い」スッ

【 死ね 】 ←オムライスのケチャップ文字


倫子「……なんなのだアレは。猫耳を付けた瞬間人格が変わったぞ?」

フェイリス「クリス・ニャンニャンはツンドラって設定なんだニャ」

倫子「お、おう?」

フェイリス「リンリン・ニャンニャンはいつも通りでいいニャ。勝気なオレっ娘はそれだけでポイント高いニャ!」

倫子「まったく嬉しくない……ってかその名前、鈴羽用の源氏名だったんじゃ……」ジトーッ

フェイリス「~♪」

99: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:07:30.07 ID:hJ8u+9qPo
【 死ね 】 ←オムライスのケチャップ文字

100: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:08:31.61 ID:hJ8u+9qPo

ご主人様C「す、すみませぬ、注文よろしいでござるか?」

倫子「ヒッ。な、なんだ注文か。ほら、早く言え」ドキドキ

ご主人様C「アイスコーヒーとオムライスplz。無論オプション付きで、これは譲れない」

倫子「オプション……というと、アレか。おいしくなーれ、とかいう」

倫子「くそっ、どうしてこのオレがこんなことを……鎮まれ、オレの右腕……」プルプル

フェイリス「はーいオムライスお待たせニャン! ケチャップは自由に使っていいニャ!」

倫子「……ええい、テキトーにグリグリ塗りたくってやるっ!」ブチュブチュ

倫子「ほら、お待たせしました、だっ!」ゴトッ

ご主人様C「おうふ……」

倫子「そ、それで、やるんだよな、アレ……」ワナワナ

倫子「これは世界を欺くための演技……そう、ハニートラップなのだ……」プルプル

倫子「お、おいしくなーれ……ニャンニャン、ニャン……っ」カァァ

倫子「がぁーっ!! 狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真ともあろうものが何故このような真似をせねばならんのだぁっ!!」ドンガラガッシャーン

ベチョッ

ご主人様C「ああっ、倫子ちゃんのオムライスがっ!」

倫子「あっ……。ご、ごめん、なさい……」ウルッ

紅莉栖「お前、オムライス1つ運ぶこともできないのね。このグズ」

倫子「ふぇぇ……」グスッ

紅莉栖「(かわいい)」

ご主人様C「ハァハァ」

フェイリス「(ヤ、ヤバイ、フェイリスも持っていかれそうになったニャ……)」ドキドキ

101: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:09:25.34 ID:hJ8u+9qPo
秋葉原タイムスタワー
秋葉邸


フェイリス「今日は本当に助かったニャン! フェイリスは本当に素敵な友達を持ったニャン♪」

紅莉栖「はぁ……り、倫子たんのメイド姿が見られただけでも儲けものよね……」グッタリ

倫子「もうツッコむ気力も残っとらんわ……」グッタリ

フェイリス「……迷惑かけちゃってごめんニャ。フェイリスのために……」シュン

倫子「……まったくお前は。そういうのは言いっこなしだ」

フェイリス「……フニャ?」

倫子「オレたちは仲間なのだ。お前が困っていたら助ける、当たり前だ」

紅莉栖「そうね。フェイリスさんもラボメンだものね」

フェイリス「あ……ありがとう///」

倫子「それに、クリスティーナとフェイリスは幼馴染でもあるんだろう?」

紅莉栖「えっ?」

フェイリス「ハニャ?」

102: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:10:18.53 ID:hJ8u+9qPo

倫子「……あれ? この世界線ではまだ気付いてないのか? そう言えば、いつの間にか助手がフェイリスにさん付けをしているし……」

紅莉栖「えっと……どういうこと? フェイリスさんが、私の、幼馴染……?」

フェイリス「牧瀬……紅莉栖……あぁーーっ!! 思い出した!! クリスちゃんだぁ!!」ダキッ

紅莉栖「ふぉゎっ!?」ドキドキ

倫子「(そうか。パパさんが亡くなってしまって、2人が2人であると気付くキッカケが無くなっていたのか)」

フェイリス「留未穂だよっ! 秋葉留未穂っ!」スリスリ

紅莉栖「え、ええっ!? フェイリスさんって、留未穂ちゃんなの!? で、でも、前に留未穂ちゃん家に遊びに行った時は、たしか御茶ノ水の一軒家だったはず……」

倫子「さすがクリスティーナ、記憶力が良いな」

フェイリス「あの家はパパの会社が傾きかけた時に売っちゃったの」

紅莉栖「ってことは、ってことは、待って、お願い、整理する時間をちょうだい……」アセッ

紅莉栖「フェイリスさんは、パパさんの亡くなった2000年から岡部のことを見守ってたんだったっけ……」

フェイリス「そうだよ」

紅莉栖「ってことは……忘れもしない、2003年夏、久々に青森から遊びに来た東京で私の留学の相談に乗ってくれた、留未穂ちゃんの友達、この世のものとは思えないほどの美少女って……」プルプル

フェイリス「凶真だよ」

紅莉栖「――――――――――」バタッ

倫子「ちょっ!? お、おおい!? 大丈夫か!? クリスティーナ!?」ユサユサ

103: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:12:44.88 ID:hJ8u+9qPo

紅莉栖「やっと……会えた……っ」ポロポロ

倫子「お、おう……だが、7年前のことなどもう忘れてしまった」

紅莉栖「ううん、いいの……そっか、そっかぁ……グスッ……あの時の、岡部だったんだ……」ウルウル

紅莉栖「私ね、岡部のおかげでアメリカでもやっていけたよ……岡部の言葉があったから、ここまでやってこれたんだよ……」ヒグッ

倫子「…………」

フェイリス「凶真、ホントに覚えてないニャ?」

倫子「(α世界線に分岐したのは2010年7月のことだ。それ以前の世界線の過去と、この世界線の過去とは違っているはず)」

倫子「(それはおそらく、鈴羽の影響だ。鈴羽がディストピアから2010年に寄り道し、1975年に行くことでフェイリスはオレを見守ることになり、それがキッカケで紅莉栖はオレと出会っていた……)」

倫子「(ディストピアは、α世界線の話だ。β世界線の話ではない)」

倫子「(ということは、オレが知っている2003年ではオレと紅莉栖は出会っていない。母親のススメか何かで渡米したのだろう)」

倫子「(だから、"オレ"はお前と出会っていないんだよ、紅莉栖……)」グッ

倫子「……いつまで泣いているのだ、我が助手よ」

紅莉栖「ふぇ……?」

倫子「お前がかつてのオレにどんな感情を抱いていようと知ったことではないっ! 今のオレは、目的のためなら仲間をも犠牲にする冷酷非道なマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だっ!」

倫子「我が野望は世界の支配構造の変革であり、そして、ダイバージェンス1%の壁を突破することっ!」

倫子「貴様はっ! 我が助手として最高の働きをする必要があるっ! だから泣くな、助手よっ!」

紅莉栖「……う、うん。うんっ!」パァァ

104: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:14:00.13 ID:hJ8u+9qPo

紅莉栖「おかべぇ……えへへぇ……」ポワポワ

倫子「結局助手は使い物にならなくなってしまった」ハァ

フェイリス「しばらく幸せモードにしておいてあげるのがいいと思うニャ」

倫子「そう言えば、フェイリスは次の雷ネットABの公式大会に出ないのか? いくら仕事が忙しいとはいえ、調整くらいできるだろう?」

フェイリス「もしかして凶真、忙しそうにしてるフェイリスのことを気遣ってくれてるニャ?」

フェイリス「その気持ちはと~っても嬉しいんニャけど、それはできないのニャ」

倫子「なにか理由でもあるのか?」

フェイリス「フェイリスは主催者側なんだニャ。秋葉原で雷ネットイベントをやる時は必ずフェイリスに話が回ってくるのニャン」

倫子「そんなに権力者だったのかお前……。そうか、それで内内でフェイリス杯を開催していたんだな」

フェイリス「あれはフェイリスにとっては世界最高峰の大会なんだニャ!」

倫子「(実際チャンピオン級の実力を持っていて、それを発揮できる唯一の場だった、ということか)」

フェイリス「だから優勝賞品は世界で一番価値のあるもの、フェイリスが誰にも渡したくないものにしたんだニャ」

倫子「(写真集か……。真実がわかった今では愛おしいものにも思えるが、ぶっちゃけJS~JK盗撮写真集なんだよな……)」ガックリ

フェイリス「ニャ? くずおれてどうしたニャ?」

105: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:14:46.18 ID:hJ8u+9qPo

倫子「そう言えば、この世界線でも閃光の指圧師<シャイニングフィンガー>は凶真守護天使団とかいう恥ずかしい名前の集団の撮影隊長なのか?」

フェイリス「シャイニングフィンガー? 誰ニャ?」

倫子「桐生萌郁だ。ラボメンナンバー005」

フェイリス「……ウニャ! 思い出したニャ!」

倫子「(そんなに存在感が無いのか、あいつ……)」

倫子「というか、記憶にすら無いということは、あいつは守護天使団には入っていないんだな」

フェイリス「そういうことになるニャ。最近加入したのはクーニャンだけニャ」

倫子「(この世界線では萌郁の行動が変わっている?)」

倫子「(オレが写真集奪還Dメールを送った先は8月1日の昼頃……ちょうど萌郁をラボメンにした後だ)」

倫子「(……待てよ。あの時、なにか重大なことをフェイリスから聞いたんじゃなかったか……?)」


―――――

  「実は……凶真にだけ特別に教えるけど、フェイリスが子どもの時、柳林神社に奉納したのニャ」

  「……世界を混沌に陥れるマスターアイテム、IBN5100」

  「『いつかこれを必要とする若者が現れるから、それを快く貸してあげてほしい』」

  「……これって、モエニャンか凶真のことだと思うニャ」

―――――


106: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:16:04.85 ID:hJ8u+9qPo

倫子「(あの時はまだ萌郁に、IBN5100を使い終わったら貸す、という約束はしていなかった)」

倫子「(それでいて、あいつは自分の人生をかけてIBN5100を探していたんだ……)」

倫子「(……やはり、犯人は……)」ゴクリ

倫子「な、なあフェイリス。これを見て欲しい」スッ


『フェイリス杯 優勝賞品は オレの写真』


フェイリス「ニャ? 凶真のケータイの受信履歴?」

倫子「8月1日の昼、オレは別の世界線の未来から来たこのメールを受信したことでフェイリス杯の優勝賞品があの盗撮写真集だという事を知った」

フェイリス「ニャニャ!? って、例のタイムマシン実験、成功してたのかニャ!?」

倫子「それについては後で話すから、教えて欲しい」

倫子「あの時のオレの状況と、そして――」

倫子「桐生萌郁の行動を」

107: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:18:01.61 ID:hJ8u+9qPo

倫子「(フェイリスの話を整理すると、8月1日の流れは相当に変わっていた)」

倫子「(萌郁をラボメンにし、握手をしたあたりでオレはDメールを受信、フェイリスに詰め寄ったらしい)」

倫子「(はぐらかすフェイリスを締め上げ、更衣室に隠してあった例の写真集を強奪したオレは肩を怒らせてラボに帰った)」

倫子「(オレに嫌われたと思って絶望したフェイリスは、なんとかしてオレにIBN5100を在り処を伝えようとした。元々教えるつもりだったらしい)」

倫子「(それで、そのためにIBN5100を探しているという萌郁に場所を教え、自分が使い終わったらオレに渡すよう命じた)」

倫子「ということは、萌郁はその後柳林神社にIBN5100を取りに行ったんだな?」

フェイリス「そういうことになるはずだニャ」

倫子「(無論、これだけで萌郁が窃盗犯だと確信は持てないが、事象改変がDメール由来である限り、ここしか変数が無いのも事実……)」

倫子「(それにだ。8月4日、オレがDメール実験のために萌郁を呼び出した時、ケータイの受信履歴には8月3日以降の萌郁からのメールが存在しなかった)」

倫子「(これが意味しているのは……8月1日以来、萌郁はオレと距離を取っていた?)」

倫子「(言われて見れば8月4日、萌郁の機種変メール送信の時、なんとなくよそよそしかったような……)」

倫子「ん? だが、そうなるとこの世界線の鈴羽はどうやってオレが警官に襲われた話を知ったんだ? あれは萌郁に話したはずだが」

108: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:19:13.42 ID:hJ8u+9qPo

倫子「(ネットで調べてみたが、やっぱり例の事件は起きていなかった。というか、それを防いだ張本人が目の前に居る。ふむ……)」

倫子「おい助手。そろそろ再起動しろ。お前ならどう推理する?」ユサユサ

紅莉栖「……ハッ。あ、あれ? ここどこ? 天国?」

倫子「まだ地獄だ。1%の壁を越えるまではな」

紅莉栖「そ、そうよね……それで、えっと、何の話?」


・・・


紅莉栖「つまり、一体どうやって阿万音さんがフェイリスに岡部を護れ、って命令を出せるのか、っていう話か」

倫子「いや、それ自体は疑問じゃないんだ。この世界線の橋田鈴は、オレがさっきまで居た世界線の2010年に居た阿万音鈴羽なのだから」

紅莉栖「ううん、そうじゃない。"その阿万音さん"はたぶん、この世界線の阿万音さんに再構成されてる」

紅莉栖「この世界線の橋田鈴さんは、私の知ってる8月9日まで居た阿万音さんと記憶を連続させている、全くの同一人物のはず」


―――――

  倫子「済まない、時間が無かったんだ。それで、メーターは……」


   【 0.33871 】


  倫子「変わっていない、か……」

  ダル「だけど、過去に事象が増えたのは間違いない。メーターで検知できないレベルで世界線は変動したはず」

  ダル「だから、仮に初老の女性がこのラボを訪れるとしたら、それは間違いなくオカリンの記憶と全くの同一人物のはずだ」

―――――

109: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:21:07.89 ID:hJ8u+9qPo

倫子「……8月9日に鈴羽が1975年へ跳んだ時、わずかではあるが世界線変動が起こっていたことになっているのだな」

倫子「そして今オレたちがいる世界線へと再構成されたことになっていた……と言っても、記憶に全く齟齬はないんだろう」

紅莉栖「極小の世界線変動の場合、私たちの記憶は再構成されない。例えばバナナをフラクタル化させて過去に送った時もそうだった」

倫子「ゲルバナか……。ということは、から揚げが凍った時も、塩を過去に送った時も、記憶が再構成されない程度の過去改変だったわけだ」

紅莉栖「ともかく、"この私が初めて会った時の阿万音さん"が、"今の世界線に居る橋田鈴さん"になっている」

紅莉栖「あんたが経験したっていう、ラボが大檜山ビルから無くなってた時の世界線はまた特殊よね。Dメールを打ち消したのが阿万音さん自身だったから、阿万音さんが過去に跳んだ時点で大幅な世界線変動が発生した」

倫子「そ、そうか。その時だけは、前の世界線の鈴羽が大幅に世界線を移動していたことになるのか……」

紅莉栖「多分、綯ちゃんが送ったDメールを打ち消すタイミングの2000年5月18日の時点で世界線は大きく分岐した。存命してればだけど、橋田鈴さんはその時、世界線分岐を体感したはずよ」

フェイリス「ウニュ~、ちんぷんかんぷんだニャァ~」

110: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:22:19.37 ID:hJ8u+9qPo

フェイリス「そんなに難しく考えニャくても、この世界線にこの間まで居たスズニャンは、どうやって凶真の話を知ったのか、って考えればいいニャン」

倫子「あんまり知られたくない話ではあるが、既にフェイリスには知られているんだよな。守ってくれた張本人なわけだし」

倫子「……そう言えば、この世界線ではまだ言っていなかったな」ポリポリ

倫子「あの時、オレを守ってくれて、その、……ありがとう」ボソッ

フェイリス「ニャフフ。ニャ……ニャフ……ニャフフゥ///」

紅莉栖「話の辻褄を合わせるのに一番有力な説は、私が岡部から例の"ブチ殺し確定話"をしてもらった8月3日の午前中、阿万音さんが盗み聞きしてた。これね」

倫子「……そうかっ! この世界線では萌郁にじゃなく、お前に話したことになっていたのかっ!」ガバッ

紅莉栖「えっ、そこなの? ……リーディングシュタイナーってのは厄介ね」ハァ

倫子「ククッ。なかなかに良い推理を叩きだしてくれたではないかっ! さすがは天才HE   少女っ!」

紅莉栖「HE   ちゃうわっ! でも、可愛いホームズさんにお褒め頂き光栄です」フフッ

倫子「全ての話は繋がった。あとは、萌郁がIBN5100をどうしたのか、だな」

倫子「……本人に会って直接聞いてみるか」

111: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:23:57.57 ID:hJ8u+9qPo
未来ガジェット研究所


倫子「ぐぬぬ……あのメール魔め、こういう時だけ返信を寄越さないとは……っ」プルプル

まゆり「ふはぁ、お腹いっぱーい。もぐもぐうーぱタイムしゅ~りょ~♪」

まゆり「まゆしぃは今日はほとんどなにも食べてなかったから、ずっとペコペコだったんだよー」

紅莉栖「メイクイーンの方は大丈夫だったから、明日も全力でコミマを楽しんでくるといいわ」

まゆり「うん! さてさてー、まゆしぃは明日早いから、もう帰るねー」

まゆり「ねぇねぇ、クリスちゃんとオカリンはコミマ行かないの?」

倫子「オレはパスだが、助手は行きたいそうだ」

紅莉栖「はあ?」

倫子「ノリノリで地獄メイドを楽しんでいたではないか」

紅莉栖「それは、そのっ……というか、岡部は探偵ごっこの続きをやるんでしょ? 私には助手として補佐する役目がある」

倫子「"ごっこ"ではないっ! これは、改変された世界の真実を探求するための崇高な使命であってだなっ!」

紅莉栖「厨二病乙」フフッ

まゆり「探偵ごっこ~? いいなぁ、まゆしぃもやりたかったなぁ」

倫子「まゆりには探偵犬がお似合いだな。自分のしっぽをいつまでも追いかけて居ろっ!」

ヽ(*゚д゚)ノ.。oO(しっぽを追いかける……?)


~~~~~~~~~~
メイクイーン+ニャン2


まゆり「大変だよ~~。マユシィの後ろからバタバタ変な音がするんだ~~」

まゆり「もしかして敵かもしれないよ~~」

まゆり「はわ~~これはマユシィのポニーテールかぁ。うっかりうっかり」

~~~~~~~~~~


紅莉栖「……さすがのまゆりでもそんなにおバカさんじゃないでしょ」

まゆり「えっへへー、この間ウィッグがずれてクルクル回っちゃったことがあったのです」

倫子「まゆり……」ブワッ

112: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:24:32.08 ID:hJ8u+9qPo

まゆり「あのね、最近オカリンとクリスちゃん、仲良しさんだよね? いつも2人で話し込んでるもん」

倫子「いつも? ここ最近もそんなことがあったのか?」

紅莉栖「えっと、私の記憶ではもう4、5回は岡部とタイムリープ実験について協議してる。多分、そう言う風に"再構成"されたんでしょうね」

倫子「なるほど……」

まゆり「さいこーせー?」

倫子「まゆりは気にするな。話を聞いてもわけがわからないと思うぞ」

まゆり「そっかー……」

紅莉栖「まゆり、ごめんね。でも、終わったらまた岡部との時間が作れるはずよ」

紅莉栖「今はちょっと寂しいかもだけど、岡部は必ずまゆりの側に戻ってくる」

倫子「フン、当たり前だ。なぜなら、まゆりはオレの人質なのだからなっ! ふぅーはははぁ!」

まゆり「……うん、わかったー♪ がんばってね、オカリン! クリスちゃん!」

倫子「……ああ」ニコ

113: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:25:16.86 ID:hJ8u+9qPo
2010年8月16日月曜日
未来ガジェット研究所


チュンチュン……

紅莉栖「(ハァ……ハァ……)」ワキワキ

倫子「んむぅ……」zzz

紅莉栖「(まゆりに合わせて朝早くラボに来た甲斐があった……っ! め、め、目の前に天使がっ! 天使の寝顔がぁっ!!)」キャッホーイ

紅莉栖「倫子たんかわいいよ倫子たん。クンカクンカ、スーハースーハー」

倫子「ん……」

紅莉栖「倫子たんぺ  ろ。倫子たんぺ  ろ」

倫子「ん゛ぅ……」イラッ

紅莉栖「ふぅ」ツヤツヤ

紅莉栖「でも、あの時のあの子が岡部だったなんてね……私は運命論者じゃないけど、これもシュタインズゲートの選択、なのかな……」トゥンク

紅莉栖「な、なんちゃってー! あはは……」

倫子「……ぐぅ」zzz

紅莉栖「…………」

紅莉栖「おはよう、岡部」トントン

倫子「んむ……ふゎぁ。助手か、今日はまた一段と早いな」

紅莉栖「まゆりならもうここに立ち寄って有明に行ったわ」

倫子「そうか……ちょっと待ってろ。顔洗ってくる」

紅莉栖「いってら」

114: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:26:26.08 ID:hJ8u+9qPo

紅莉栖「それで、桐生さんの行方についてはどうするの?」

倫子「メールの返信は……ないか。手掛かりは、奴が住んでいるボロアパートと、『アーク・リライト』とかいう編プロの名前くらいだな」

紅莉栖「あの人のバイト先か。ちょっとググってみる……ここね」

倫子「なんだ、事務所はアキバにあるのか」

紅莉栖「電話してみましょう……って、留守電になってる。お盆休み中か」

倫子「直接訪ねてみるしかないか」

紅莉栖「オーケー。それじゃ、出掛けましょう」スッ

倫子「……なんだ、その手は」

紅莉栖「……打消しDメールを送ったら、この世界線の記憶は無くなっちゃうんでしょ」

紅莉栖「私は……今ここで自我を認識しているこの私は、岡部の1マイクロメートルでも近くに居たい」

紅莉栖「世界が消えてなくなるまで……グスッ……」チラッ

倫子「……だ、だが断る」プイッ

紅莉栖「ぐはぁっ!」

倫子「誰が好き好んで女とおてて繋いでアキバを歩くかバカモノっ! 黙ってオレについてこいっ!」ガチャ バタン

紅莉栖「ああっ! 待っておかべぇ!」タッ

115: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:27:02.88 ID:hJ8u+9qPo
アーク・リライト事務所前


男性スタッフ「確かに居たな、そんなバイト。2日だけ来て音信不通になった女の名前が桐生だったと思うぞ」

紅莉栖「ありがとうございます」

倫子「(……IBN5100を手に入れたことでバイトを辞めることにしたのか?)」

紅莉栖「それじゃ、次は彼女の家ね」



ハイツホワイト


紅莉栖「こ、こんなボロアパートに住んでるの……!?」

倫子「お前はまたそうやって人の反感を買うことを言うー」

紅莉栖「……大丈夫よね? 今の、ここの住人に聞こえてなかったわよね?」オドオド

倫子「って、規制線か? ……警官にパトカーまで!? 事件でもあったのか!?」

116: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:27:52.36 ID:hJ8u+9qPo

紅莉栖「すいません。何かあったんですか?」

警官「ん? 君たち、関係者?」

紅莉栖「……たぶん、そうです」

警官「……自殺だよ」

倫子「じさ……つ……?」ドクン

紅莉栖「そ、それはいつですか!?」

警官「昨日だ。ご遺体は、近くの千代田第三病院に運ばれているはずだから、会いに行ってやってくれないかな?」

倫子「萌郁が……死んだ……? なんだよそれ。訳が分からないぞ……」ワナワナ

倫子「あいつはまだラボを襲撃していない……なのになぜ……」プルプル

??「…………」トントン

倫子「えっ――――」

萌郁「会いに……きてくれたの……?」

倫子「」

倫子「」

倫子「でたああああああああああっ!!!!!!!!!」ジョボボボボ

117: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:28:51.23 ID:hJ8u+9qPo
ハイツホワイト202号室


紅莉栖「もう! 紛らわしい真似はやめてください! 女の子が泣いてるんですよ!」

萌郁「自殺があったのは、201号室……202号室じゃない……」

萌郁「私は……幽霊じゃ、ない……」

倫子「ひぅっ……うぇぇっ……」グスッ

紅莉栖「(しかし、すごい部屋ね……桐生さんって、片付けられない女……?)」

萌郁「ショーツ……使ってないのがあるから、あげる……」ガサゴソ

萌郁「確かこの辺に……えっと……あった……」ポイッ

紅莉栖「ど、どこから出した!?」

紅莉栖「あと、そこに落ちてるブラウスとスカートも借りるわよ。ほら岡部? お着換えしようね?」

倫子「うん……」ヒグッ

紅莉栖「(かわいい)」

118: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:29:57.71 ID:hJ8u+9qPo

・・・

倫子「完全にOL風な格好になってしまった……マッド要素皆無ではないかぁ……」グヌヌ

紅莉栖「似合ってるわよ。機関の送り込んだスパイみたい」

倫子「そ、そうか?」パァァ

紅莉栖「(かわいい)」

萌郁「(かわいい)」

倫子「それで、萌郁は8月1日、柳林神社に盗みに入ったのか?」

萌郁「……ごめん、なさい」

紅莉栖「謝って済む問題じゃないわよ。普通に犯罪」

倫子「それもFBの命令だったんだな」

萌郁「っ!? FBを知っているの!?」

紅莉栖「まずはあなたが知っている情報を話しなさい。これは取り引きよ」

萌郁「FB……FBから、連絡が来ないの……もう2週間……」プルプル

萌郁「やること……無くなっちゃって……自殺しようかとも思ったけど……」

萌郁「そんなことより……岡部さんの写真を撮ってた……」

倫子「結局オレの写真を撮っていたのかよっ!」

紅莉栖「大天使リンコエルのエロスが桐生さんのタナトスに勝った……!」

倫子「伝説を増やすなぁっ!」

萌郁「今日は……メモリ、買いに行ってた……」

倫子「(一体何GB撮影したんだ……)」ガクガク

萌郁「姉さんにバレちゃったね……恥ずかしいな……」テレッ

倫子「……いや、オレももう慣れてきたから別にいい」ハァ

紅莉栖「で、IBN5100はFBに渡したの?」

萌郁「知らない……たぶん、他のラウンダーが持って行った……」

紅莉栖「役割分担してるわけか。まるで転売ヤーみたいな組織ね」

119: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:30:30.20 ID:hJ8u+9qPo

萌郁「あ、あの……岡部さん……」

倫子「む? どうした?」

萌郁「その……裏切って、ごめんなさい……」

倫子「(……いや、こいつはラボが襲撃された時、身を挺してオレたちを守ってくれたはずなんだ)」

萌郁「IBN5100……岡部さんに、渡せなかった……」

萌郁「そう思うと……メールにも返信できなくて……今日も、メール無視して……」

倫子「なんだ、そのことか。気にするな、もはや手に入ったも同然なのだからな! ふぅーははは!」

萌郁「……?」

倫子「(だが、萌郁の行動はなんか変だ。本当にオレにIBN5100を渡そうと思っていたのか? そりゃ、当然ラウンダーとしての任務を優先すべきだったのだろうが……)」


prrrr prrrr


紅莉栖「ん、私だ。ごめん、ちょっと出てくる」スタッ

倫子「……もしや、タイムリープか?」

萌郁「タイム……リープ……?」

120: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:30:59.22 ID:hJ8u+9qPo

紅莉栖「……そのまさかよ。ただいま、岡部」ニコ

倫子「フッ。なかなか渋みのある笑顔だな、アラフィフティーナよ」

紅莉栖「ま、まだ42だから! ううん、心は永遠のセブンティーンだからぁっ!」

倫子「(……またオレは、お前に助けられるのだな)」

紅莉栖「それで、岡部。まずはやること済ませちゃうわよ」

倫子「ああ……ああ?」

紅莉栖「ほかべえええええええええええ!!!!!!!!!」スリスリスリスリ

倫子「やることってそれかよぉ!? はなれっ、離れろぉっ!! うわぁん!!」

紅莉栖「倫子たんチュッチュ! 倫子たんチュッチュ!」

西田「ちょっとー、203の西田だけど大丈夫ー? 警察呼ぶ?」

倫子「だっ、大丈夫ですのでぇっ! イチャついているだけですのでぇっ!」

西田「まったく、最近の若い子は……」

121: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:32:05.02 ID:hJ8u+9qPo

紅莉栖「真面目な話をするわよ。急いで用件を済ませないと」ツヤツヤ

倫子「どの口が言うのだ……」ゲンナリ

紅莉栖「昨日の201号室の自殺……あれは、ラウンダーの仕業よ。本当は桐生さんが殺される予定だった」

萌郁「……っ!?」

倫子「なんだと……!?」

紅莉栖「私の若い頃の記憶では、昨日このアパートで自殺に見せかけて殺されたのは桐生さんだった」

紅莉栖「そこで私は未来のSERNから2010年のラウンダーに間違った指示を与えてみた。どうやら成功していたみたいね」


  『本来ラウンダーってのは、任務を達成したら消されるんだ』


倫子「……そう、だったのか」プルプル

萌郁「どういう……こと……?」

紅莉栖「だけど、私の小細工も時間稼ぎにしかならない。遅かれ早かれ桐生さんは証拠隠滅のために消される」

萌郁「ひっ……」

倫子「もしや、α世界線の収束なのか!?」

紅莉栖「世界線収束範囲<アトラクタフィールド>としてのα世界線の収束では無いことがわかってる。ただ、本来この世界線では桐生さんの8月15日の死は確定していたのよ」

紅莉栖「収束のブレ、奇跡的に死期を伸ばせたところで24時間以内には、ってところね」

萌郁「24時間……ってことは、私は、今日中に……」プルプル

紅莉栖「それからもう一つ。桐生さんがケータイ依存症という名の、ラウンダー依存症になっている理由」

倫子「ラウンダー依存症……? ケータイ依存症は萌郁の元々の病気みたいなものじゃないのか?」

紅莉栖「ううん、病気なんて生易しいものじゃない。これはね――」

紅莉栖「300人委員会による洗脳だったのよ」

倫子「洗脳だと……!?」

萌郁「……?」

122: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:33:58.30 ID:hJ8u+9qPo

紅莉栖「ラウンダーは無差別ダイレクトメールでメンバーを募集していた。それにはちゃんと理由があったの」

紅莉栖「あの迷惑メールには、実は断片的記憶データと神経パルス信号が添付されていた」

倫子「神経パルス……って、タイムリープ時の!?」

紅莉栖「前にも話したわよね。脳は記憶を思い出すときに前頭葉から信号が発信される」

紅莉栖「前頭葉を刺激する神経パルスを放射することで、トップダウン記憶検索信号を意図的に発信させることができる」

紅莉栖「これによって送られた記憶データを受信者に強制的に思い出させるという作用が発生する」

紅莉栖「理論上これを使えば、ありもしない記憶、想い出、感情、世界観や思考の癖に至るまで、脳に埋め込むことができる」

倫子「そんなことが可能なのか……。まさか、紅莉栖の論文が悪用されたのか!?」

紅莉栖「これ自体は私の理論じゃない。これは、VR技術よ」

倫子「VR技術……! またそれなのか……」

紅莉栖「うちの大学の精神生理学研究所の長年の研究成果ね。特許も持ってる」

紅莉栖「ある意図的な情報を神経パルスへコンバートする技術。それは、映像データや記憶データを脳に入れることができるということ」

紅莉栖「医療分野での運用が期待されていたけど、軍事転用や洗脳としての使い方が危惧されて、1997年にはアメリカ大統領が行政命令を出すほどのシロモノ」

倫子「1997年……。萌郁がラウンダー募集メールを受信したのが、2006年だったな……」

萌郁「…………」コクッ

紅莉栖「時期からして天王寺裕吾がラウンダーになったのは洗脳とは別の経緯でしょうけど、多くのラウンダーは多かれ少なかれこの洗脳メールによって思考誘導されているはずよ」

倫子「だ、だが、メールに洗脳情報を添付させるなど、どういう原理なのだ!?」

紅莉栖「私の研究で判明したのは、実は世界が非常にデジタルに近い物で構成されているということだった」

倫子「世界も人間の脳も、アナログベースのはずだろう!? 1と0の間にスキマがあるとでもいうのか!?」

紅莉栖「まさにそういうことよ。世界は電気仕掛けだった、っていうオチ」

紅莉栖「人間の記憶をまるごとデータとして取り出す理論を技術的に確立できたのもこのおかげね」

倫子「なぁっ……」

123: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:36:36.38 ID:hJ8u+9qPo

紅莉栖「電気仕掛けの世界なら、メール受信時に解凍されたパルスをケータイから放射することも可能ってわけ」

倫子「携帯電話にそんな機能があったなんてな……」

紅莉栖「もしかしたらこれも300人委員会の陰謀かもね。こういうことが可能な携帯電話端末の開発と一般普及を誘導した、とか」

倫子「内部の人間にトンデモ陰謀論を語られると、もうなにも信じられん……」

紅莉栖「でもね、添付された洗脳データは健康な状態の脳にはあまり影響がないの」

紅莉栖「タイムリープと違ってメールだから、こめかみ付近にケータイを近づけることも普通は無いしね」

紅莉栖「だけど、これは精神的に不安定であればあるほど効力を発揮する」

紅莉栖「桐生さんが例のメールを受信した時は、自殺をしようとしていた時だったのよね?」

萌郁「……自分の部屋で……睡眠薬、大量に飲んで」

萌郁「でも、死ぬのを失敗して……」

萌郁「……そこに、メールが。"ラウンダー募集"って。個人宛じゃなくて……一斉送信の」

萌郁「……気づいたら、返信してた……」

紅莉栖「不安定な状態の脳には断片的記憶データが埋め込まれやすくなる。思考が誘導されやすくなる。メールの情報に依存しやすくなる」

倫子「SERNめ、どこまでも卑劣な真似を……っ!」

倫子「……待てよ。1%の壁を越えれば、萌郁は洗脳されず、ラウンダーじゃなくなるのか?」

紅莉栖「いいえ、それはないわ。遅くても2005年には既に洗脳メールは発信されていることがわかってる」

倫子「当時のSERNがどうやってそんなことを……?」

紅莉栖「タイムリープ時の記憶の圧縮と原理は同じでしょうね。SERNはLHCでブラックホールを作ること自体は2001年時点で成功しているわけだから、洗脳用データの超圧縮自体は可能」

紅莉栖「洗脳用データ本体がどうやって作られていたのかって点は、300人委員会の息がかかったタヴィストック研究所――別名、洗脳研究所――との技術提携があったみたい」

紅莉栖「ともかく、そのデータを無差別に大量に飛ばせば、偶然受信した心を病んでいる人がラウンダー依存症を発症する、っていう仕組み」

紅莉栖「発症したら最後、通常のメールのやり取りだけで依存度は増幅していく」

紅莉栖「……試してないけど、例えば今、桐生さんのケータイ電話をへし折ったら、彼女は発狂して死ぬと思う」

萌郁「ケータイは……渡さない……」ギュッ

倫子「……例え話でもやめてくれ、紅莉栖……うぅ……」プルプル

124: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:38:04.86 ID:hJ8u+9qPo

紅莉栖「だからね、打消しDメールを送っても、1%の壁を越えても、2010年の桐生さんは300人委員会に洗脳された状態にある」

紅莉栖「できれば彼女を専門の病院に入院、いえ、通院でも大丈夫かな? とにかく、長期的なスパンでの治療が必要なの」

紅莉栖「……アトラクタフィールドを跨いだら、岡部と桐生さんの接点そのものが無くなる可能性もあるけど、もしどこかで出会ったなら彼女を病院に連れて行ってあげて」

倫子「わかった……が、オレがSERNの支配構造を破壊できたとしても、依然として300人委員会の陰謀は渦巻いているということか……」プルプル

紅莉栖「300人委員会の陰謀は、正直言って岡部1人でなんとかできるものじゃない」

紅莉栖「2010年時点でも、プロジェクト・マルス、プロジェクト・アトゥム、それからプロジェクト・ノアの事後処理の箱庭実験とか、同時並行的に人類牧場化計画が進んでいる」

紅莉栖「新世界秩序、ワン・ワールド・オーダーの流れは既に存在している」

倫子「くっ……」

紅莉栖「だけど、それはまだ確定はしていない。このα世界線と違って、ディストピアは確定していないの」

紅莉栖「何があっても1%の壁の向こう側を目指すんでしょ? 狂気のマッドサイエンティストさん」

倫子「……無論だ」グスッ

125: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:38:50.01 ID:hJ8u+9qPo

萌郁「……私が……洗脳……?」

萌郁「違う……FBへの想いは……洗脳なんかじゃ……」ワナワナ

倫子「なあ、萌郁。その、FB、ってのは、どんな人なんだ?」

萌郁「……FBは……お母さん……みたいに……私に優しくて……」

萌郁「私は……やっと心地良い……居場所を……」

萌郁「悩みを相談したり……いつも、すぐに返事くれた……」

萌郁「友達みたいで、でも包み込む優しさが……あって……」

萌郁「でも、会ったら……幻滅される……だから、会いたいなんて……思わない……」

紅莉栖「……重症ね」

萌郁「今は、岡部姉さんの……優しさに、助けられてる……けど……」

倫子「……ああ。オレでいいならお前の姉にでも母にでもなってやる」

倫子「得体の知れない奴なんかより、オレに依存してくれ」ダキッ

萌郁「ねえ、さん……うぅ……っ」グスッ

紅莉栖「……そうね。ラウンダー絶ちができるなら、桐生さんの脳にとってその方が良い」

126: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:41:47.95 ID:hJ8u+9qPo

倫子「……萌郁。教えて欲しい」

倫子「IBN5100を入手した後、FBから指令があったはずだ。それは、なんだったんだ?」

萌郁「……指定された場所に、置いておけ」

倫子「その場所は……?」

萌郁「コインロッカー……大ビル……前の……」

倫子「またあそこか……」

紅莉栖「秋葉原のIBN5100がFBの手許を離れるのは8月15日、昨日の午前3時頃よ」

倫子「知ってるのか!?」

紅莉栖「私を誰だと思っている。300人委員会序列持ちだぞ?」

紅莉栖「FBの正体も知ってる。居場所も、IBN5100の在り処も」

紅莉栖「と言っても、この世界線では岡部がIBN5100を手に入れることは絶対に不可能なんだけど」ハァ

倫子「……萌郁。一緒にFBに会いに行くぞ」

紅莉栖「はぁっ!?」

倫子「そして一言言ってやるんだ。萌郁を、オレの大事なラボメンを、こんな扱いしやがって、ふざけんなと……!」

萌郁「……い、いや……そんなの……できない……」

紅莉栖「どれだけ危険かわかってるの!? まかり間違って岡部が殺されでもしたら――」

倫子「オレは死なないっ! 何故なら、優秀な助手を始め、仲間たちがついているからだっ!」

紅莉栖「……っ。まぁ、でも、うん。あの人なら、岡部を狙ったりしないか……」ブツブツ

萌郁「……今の私には、姉さんしか、いない……」ブツブツ

倫子「オレは過去へ行く。萌郁、また後で、いや、また前で会おう」

萌郁「……わかった……」

127: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:45:05.59 ID:hJ8u+9qPo
大檜山ビル前


紅莉栖「……さっきは桐生さんが居たから言えなかったけど、FBの正体は天王寺裕吾、ブラウン管工房の店長さんよ」

倫子「……それはマジで言ってるのか?」

紅莉栖「えらくマジ」

倫子「だ、だが奴はかつての世界線で自分はFBではなくM2だと……いや、あの世界線ではラウンダーから足を洗っていたのだったな……」

倫子「それがこの世界線では足を洗わず昇進していた、と……信じられない、いや、信じたくないが……」プルプル

倫子「どの時点だ……綯のメールか? フェイリスか? まさかルカ子のメールの取り消しのせいで……考えてもわからんな」


  『……別に、俺は何もしてねえ。いや、"何もしない"をした、ってのが正解だな』


倫子「理由があるならそれはなんだ? 確認できるなら確認しておきたい……」

紅莉栖「危険な賭けになるけど、天王寺裕吾には私も岡部も殺せない可能性が高い」

倫子「……世界線の収束、だな」

紅莉栖「でも、どんなイレギュラーが発生するかわからない」

紅莉栖「あんたはスズちゃんから2025年に自分が死ぬって聞いてるみたいだけど、それはイコール2025年まで死なないとは限らない」

紅莉栖「アトラクタフィールド理論だって、完全な理論とは限らない。別の理論で打ち消されるかもしれない。プログラムは不完全かも知れない」

紅莉栖「忘れないで。世界は神が創り出した完全なものなんかじゃないってことを」

倫子「……わかった」


バチバチバチバチッ

グラグラグラグラ……


倫子「なっ!? 2階で放電現象が!?」

紅莉栖「ど、どういうこと!?」

128: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:46:43.21 ID:hJ8u+9qPo
未来ガジェット研究所


ダッ ダッ ダッ ガチャッ

倫子「(鍵が開いている……って、出る時に紅莉栖ともめたせいで閉め忘れたのか……くそっ!)」

倫子「誰だっ! 勝手にタイムリープマシンを使っているのはっ!?」

紅莉栖「……お、岡部。急に走り出してどうしたのよ」

倫子「……は? いや、さっき放電現象が起こったのを見ただろう!? 誰かがタイムリープマシンを――」

紅莉栖「見てないし、誰も居ないわよ?」

倫子「なにっ!? た、確かに誰も居ない……だ、だ、だが、お前とさっき一緒に見たぞ! 本当だっ!!」ワナワナ

紅莉栖「落ち着け。私はあんたを信じてる」

倫子「紅莉栖ぅ……」ウルッ

紅莉栖「……この一瞬で世界線が変動したか。タイムリープではメーターに表示されるほどの変化はないんだったっけ。でも、私の記憶が再構成されてる」

倫子「世界線が……変動した、だと……?」

紅莉栖「仮に誰かがタイムリープしていたとして、跳んだ瞬間、今日この時間ここでその人がタイムリープする歴史は消滅するわけだから、当然タイムリーパーはこの場に存在しなくなる」

倫子「な、なるほど……Dメールの送信履歴が消えるのと同じか」

倫子「だが、めまいは起きていないぞ……?」

紅莉栖「急激な脳内情報の変化が起こらなかったのね。変動前後で岡部の脳にほとんど違いが無く、めまいが起こらなかった可能性」

倫子「つまり、オレの脳内にしかさっきの光景は無いが、オレの行動はそれほど変わっていない、と……」

紅莉栖「でもあんたの記憶にあるってことは、それは間違いなく誰かがタイムリープしたということ」

倫子「……まさか綯かっ!? この世界線でも綯はワルキューレを裏切るのかぁっ!?」プルプル

紅莉栖「わからない……私にはそういう記憶は無いけれど……」

倫子「……くそっ! とにかく、とにかくタイムリープだっ! 萌郁が殺される前にっ!」

紅莉栖「……オーケー。準備できた。向こうの私によろしくね」

129: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:47:49.33 ID:hJ8u+9qPo

――――――――――――――――――――――

2010年8月16日12時36分 → 2010年8月15日06時36分

――――――――――――――――――――――

130: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:48:17.72 ID:hJ8u+9qPo

・・・
同世界線 4日前の記憶
2010年8月11日水曜日
新御徒町 天王寺家


天王寺「……綯。綯!」

綯「……お父……さん?」パチッ

天王寺「疲れちまったのか? ずっと車で移動だったから無理もねぇが、こんなところで寝てると風邪引くぜ」

天王寺「まぁメインが墓参りみたいになっちまったし楽しくはなかったよな。……ごめんな」

綯「…………」ジワッ

天王寺「今度近場でどっか……」

綯「…………」ダキッ

天王寺「わっ!? っとと」

綯「旅行……楽しかった。ありがとう、お父さん……」ギュッ

131: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:49:10.55 ID:hJ8u+9qPo

危険を冒した甲斐はあった。

記憶にある"私"は『遊園地も行きたかった』とその時言ったのだ。

それは実現しないということを私は"思い出して"いる。なぜなら私の父、天王寺裕吾は4日後、8月15日に死ぬのだから。

……鳳凰院凶真。私は、ヤツの計画に乗った。ワルキューレのメンバーの一員になった。

それは元々父に言いつけられていたことだからでもあったが、小さい時からの憧れも少なからずあった。

いや、正直に言おう。私は彼女に惚れていた。性別を超える恋をしていた。

幼い恋がそのまま、大人になった私の心に居座り続けた。

私はレジェンドの右腕になりたかった。だから、どんなことでも一生懸命に遂行した。

そして、裏切られた。

天王寺裕吾をあの日自殺に追い込んだのは、他でもない。鳳凰院凶真だったのだ。

世界の未来をディストピアから救う。その崇高な精神の陰に、ヤツの本性は隠されていた。

ヤツは、自分の幼馴染の命を救うためだけに、たった1人の少女を救うためだけに……

何十、何百という人間の、あらゆる犠牲を払ってきたのだ。

父の自殺さえ、計画のうちだったのだ。

ヤツは父を憐れんだことなどなかったのだ。心の奥底ではほくそ笑んでいたのだ。

ヤツは英雄なんかじゃなかった。ただのサイコパスだった。

ヤツのエゴが許せなかった。私のエゴが許さなかった。

132: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:50:44.79 ID:hJ8u+9qPo

私はワルキューレを抜け、情報とタイムリープマシンを売ってラウンダーになった。

父を殺したラウンダーに。父の所属していたラウンダーに。

ただ、鳳凰院凶真に復讐するためだけに。

2025年、念願叶って私はヤツを拉致して監禁して殺した。

いたぶって、じらして、ねぶって、人としての尊厳をすべて削ぎ落した上で惨殺した。

最後は私自身の手で喉を掻き切ってやった後、気が済むまでめった刺しにした。

満足した私は、SERNが回収したワルキューレのタイムリープマシンで過去へ跳んだ。

単純計算で2738回、実際はその倍以上。

タイムリープの影響でいくらか記憶が抜け落ちているとしても、これだけはハッキリ思い出せる。

拷問に泣き叫ぶ悲鳴、命乞いする哀れな姿。

……それでもヤツは、血管に直接鎮痛剤のミルクを注がれた幻覚の中で嗤っていた。


"オレが死のうとも、どこかの世界線のオレが立ち上がる"

"鳳凰院凶真は、何度でも蘇るのだ"


父を救うため、そして鳳凰院凶真に更なる復讐をするために、私はワルキューレのタイムリープマシンを使って2010年へと跳んだ。

待っててね、お父さん。今、助けてあげるから。

今日を入れてあと4日。鳳凰院凶真の行動把握、凶器の準備、肉体の調整……

そして当日、FBのケータイから他のラウンダーたちにでしゃばらないよう命令する。

裏切り者の1人、桐生萌郁は私の手で殺す。

仮に失敗しても、またタイムリープをすればいい。

成功するまで、何度でも。

何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも……



――私は、復讐者、天王寺綯。

133: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:51:52.19 ID:hJ8u+9qPo

・・・
2010年8月15日日曜日
未来ガジェット研究所


倫子「……服が萌郁から借りたOLファッションではなく、いつものオレの格好になっている。よしっ」

倫子「まだルカ子は来ていないか。紅莉栖! 起きろ! オレはタイムリープしてきた!」

紅莉栖「ふぇっ!? い、今、私の名前を――」

倫子「いいか、今すぐ電話レンジの準備をしろ! そうだな、お前のケータイから遠隔でいつでも放電現象を起こせるようにしておいてほしい」

紅莉栖「できるけど、あれカッコカリはどうし――」

倫子「オレから合図があったら起動するんだ! その時オレのケータイからDメールを送る。文面は、『写真集は嘘メ ールはSERNの 罠無視せよ!』だっ!」

紅莉栖「わ、わかったから、ちょっと時間を――」

倫子「オレは出かけてくる! 準備が終わったら合流するぞっ!」ガチャ バタン

紅莉栖「……な、なんぞ」ポカン

134: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:53:41.36 ID:hJ8u+9qPo
ハイツホワイト202号室


倫子「……というわけで、萌郁。これからFBこと天王寺裕吾に会いに行くぞ」

萌郁「……FBから、連絡がもらえるなら……私は……」ブツブツ

倫子「オレを、信じて欲しい」ギュッ

萌郁「っ……わかった、姉さん……(手、やわらかい……)」


ゴンッ ゴンッ


倫子「(その時、ボロアパートの鉄階段を慎重に上がる音が聞こえた)」ビクッ

倫子「萌郁、静かに……って、お前はいつでも静かだったな」

萌郁「……?」


ゴンッ ゴンッ


倫子「(来たか……だが、ヤツらの陰謀は未来の紅莉栖によって阻止されている)」

倫子「(今日ヤツらに殺されるのは隣の、えっと、西田さんじゃ無いほうのお隣さんだ)」

倫子「(……本当か? オレがあの時見た放電現象を紅莉栖が知らなかったように、既に紅莉栖の工作はバレていて、裏をつかれているのではないか……?)」プルプル

135: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:56:41.90 ID:hJ8u+9qPo


コツッ コツッ


倫子「(足音は外の廊下に差し掛かった。が……)」


コツッ コツッ ピタッ


倫子「(おかしい。202号室の手前に201号室があるはずなのに、何故ここまで来る……っ!)」

倫子「(ま、まずい! この周回の世界線では、何かが変わってしまっていたんだ!)」ダラダラ


ガチャガチャガチャガチャ


倫子「(ヒィィィィィッ! か、鍵は掛かっているが、このボロさからすると時間の問題かっ!)」ドキドキ

萌郁「……っ!」ダッ

倫子「おまっ……!」

萌郁「……っ」スッ

倫子「(玄関に置いてあったオレのサンダルと萌郁のヒールを音も立てずに取ってきた、だと……? さすが隠密部隊……)」

萌郁「……隠れて。押し入れ。早く」ギュッ

倫子「……い、痛いっ。押すなっ。蹴るなっ!」ヒソヒソ

136: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 10:58:30.30 ID:hJ8u+9qPo


ガチャ キィ……


倫子「(か、間一髪だった……立て付けの悪い玄関扉が開く前に、なんとか萌郁と押し入れに身を隠すことができた……)」ハァハァ

萌郁「…………」ハァハァ


ヒタ ヒタ ヒタ


倫子「(間違いない、闖入者はラウンダーだ……萌郁を自殺に見せかけて殺すためにやってきたんだ……)」ドキドキ

萌郁「…………」ドキドキ


ヒタ ヒタ ヒタ


倫子「(どうやらオレは布団か何かに頭を突っ込んでいる体勢らしい……オレのケツは萌郁の豊満なバストによって抑え込まれている)」フゥフゥ

萌郁「…………」フゥフゥ

倫子「(このとんでもない状況……隠れたからと言って、なんとかなるとは思えない……)」プルプル


ヒタ ヒタ ヒタ ピタ


倫子「(帰ってくれ帰ってくれ帰ってくれ帰ってくれ帰ってくれぇ……っ!!)」ウルウル


シュバーッ


倫子「(嗚呼、オワった……。無慈悲にも押し入れの襖が横に引かれ―――)」

137: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 11:00:04.68 ID:hJ8u+9qPo


ドササササァッ!!


倫子「っ!?」

萌郁「…………」

倫子「(それは、すごい音を立てて雪崩堕ちた)」

倫子「(ヤツが引いたのは、オレたちが押し入れに入った時とは逆の襖だった)」

倫子「(後でわかったが、オレたちが今居る逆サイドは、布団だけじゃなく、衣類全般を始め、文庫本、時計、カップ焼きそば、電気ポットなど、あらゆるものがカオスに侵食されていたのだ)」

倫子「(萌郁のずぼらな性格が勝ったのだ)」


??「くっ……どこに行った……」

??「タイムリープされたせいで足取りがつかめなくなったから、裏切者の家かと思ったが……」


倫子「(奴の声が少し漏れた。オレはケツからしか外界の様子を感知することができないが
おそらく女性の声だ)」

倫子「(それもかなり若い……。萌郁のような女ラウンダーが他にも居る、ということか?)」

萌郁「……次、動いたら、抑え込む……姉さんは、守る……」パクパク

倫子「(萌郁が蚊の鳴くような声で言う。だがっ!)」

倫子「(それはだめだっ! お前が狙われているんだぞ! そんなことをしたら―――)」


ピピピピピピピピピピピピ


倫子「(ヒィィィィィィィィィィィッッ!!!)」ビクビクビクッ

138: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 11:01:11.16 ID:hJ8u+9qPo


ピッ


??「…………」

??『…………』


倫子「(お、脅かすなぁ……。電話がオレや萌郁のものじゃなくてよかったぁ……)」ヘロヘロ


??「…………」

??『…………』


倫子「(ヤツは電話で通話相手と何やら会話しているが、日本語じゃない? これはもしや……フランス語か?)」


??「…………」

??『……FB』


萌郁「……っ!」ドキッ

倫子「(オレのケツを圧迫している萌郁の胸がはずんだ。心臓の音が、今になってようやく高鳴るのを感じる……)」

倫子「(それは、通話相手の発した『FB』という単語に対してだろう。というか、この状況自体には冷静に対応していると思うと、さすがM4と言わざるを得ない)」


??「…………」ピッ


ヒタ ヒタ 

ガチャ バタン

ゴンッ ゴンッ ゴンッ ……



シュバーッ

倫子「……死ぬかと、思ったぁ……」ヘナヘナ

萌郁「FB……」

139: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 16:54:39.92 ID:hJ8u+9qPo
秋葉原駅前ロータリー


紅莉栖「少しは連絡しろこのバカ岡部っ!」

倫子「バっ……!? バカとはなんだっ! 助手の分際でっ!」

紅莉栖「バカぁっ!! 心配したんだからなぁっ!!」ダキッ

倫子「ふごっ!? こ、公衆の面前でなにをやらかしとるか貴様っ! やめ、やめろぉっ!」

萌郁「…………」パシャ

倫子「撮るなぁ!! うわぁん!!」

紅莉栖「私だけじゃない! あの後まゆりがラボに来て、あんたが居なくて心配してたっ!」

倫子「……まゆりが? あいつは、だってコミマに行ってたんじゃ……」

倫子「いや、それでも、もう少しで手が届くんだ」

紅莉栖「だったら! 今すぐにでもDメールを送るべきよ!」

倫子「おまっ! 言ってることがタイムリープ前と逆ではないかぁっ!」

紅莉栖「未来の私のことなんて知らないわっ! FBなんてもっとどうでもいいっ!」ピィィ

萌郁「…………」

倫子「……落ち着け紅莉栖。オレはあのタコ坊主と話をつけなきゃならないんだ」

倫子「心配してくれて感謝している。お前と青森行きの約束がある以上、オレは死なない。だから案ずるな」

紅莉栖「岡部……」ジュン

紅莉栖「……少しでも危険だと判断したらすぐDメールよ。いいわね?」グスッ

140: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 16:55:25.85 ID:hJ8u+9qPo
新御徒町 天王寺家


倫子「(店長の家にはオレと萌郁で突入する手はずになった。紅莉栖には外で見張っていてもらう)」ピンポーン

天王寺「おう、岡部か。それと……まあいい。上がれや」

倫子「失礼します」

萌郁「…………」


【0.50311】


倫子「(世界線変動率メーターは着実に変動しているが……しかし……)」

倫子「綯はいますか?」

天王寺「綯? 綯なら近所の公園でやってるラジオ体操に行ったぞ」

天王寺「うちの娘は偉い。毎日欠かさずハンコをもらってるんだぜ?」ドヤァ

倫子「そ、そうですか」

天王寺「それだけじゃなく、最近はなんだか体を鍛えてるみたいでな……お前さん、まさかとは思うが、何か変なことを吹き込んだんじゃねぇだろうなぁ?」ギロッ

倫子「ヒッ。そ、そんなわけないでしょう」

倫子「(オレはミスターブラウンと世間話をしにきたのではないのだぞ……)」ドキドキ

141: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 16:56:31.22 ID:hJ8u+9qPo

倫子「単刀直入に聞きたい。あなたは、FB、ですね?」

天王寺「…………」

倫子「(一瞬鼻白んだが、顔つきが変わったな……やはりか……)」グッ

天王寺「……裏切ったな、M4」

萌郁「……!?」ビクッ

天王寺「フェルディナント・ブラウンって知ってるか?」

倫子「その頭文字が、『FB』……なんですね」

天王寺「ほう。だてに白衣を着てねぇな。頭の回転が速いこって」

倫子「別の世界のあなたから聞いたんですよ。ラウンダーから足を洗った世界のあなたからね」

天王寺「ハハ、今までにない傑作だな。この俺がラウンダーから足を洗うなんて、天地がひっくり返ってもねぇよ」

萌郁「そんな……だ、だって、FBは……私の、お母さん……みたいな存在で……」

天王寺「依存の次は現実逃避か? お前はもう用済みなんだよ」

天王寺「こんな俺でもそういう訓練は受けてるんだ……社会に居場所が無いやつを利用するなんて朝飯前だ」

倫子「……橋田鈴は、そんなことをさせるために貴方の世話をしたんじゃないっ!!」

天王寺「……!」

倫子「橋田鈴はタイムトラベラーだった……SERNのZプログラムについて知っていれば、それがいかに現実的な話か理解できるはず」

天王寺「……場所を変えよう。仏さんの居る前でするような話じゃねぇ」

萌郁「…………」





紅莉栖「(え!? 移動すんの!?)」コソッ

142: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 16:57:32.94 ID:hJ8u+9qPo
建築現場


天王寺「この街も随分変わっちまったな……」

倫子「……まずは、オレの与太話に付き合ってくれませんか」

天王寺「……いいぜ。教えてくれよ、異世界の俺のことを」

倫子「オレがかつて居た世界のあんたは、さっきも言ったがラウンダーから足を洗っていた」

天王寺「それで?」

倫子「綴さんと、もう一人の娘、綯の妹『結』と、4人で仲睦まじく暮らしていましたよ」

天王寺「……っ。創作にしては上出来だ」

倫子「教えてください。この世界では、どうして綴さんは死んだんだっ!! あんたが、なんらかの任務を達成しなかったからなのか!?」

天王寺「お前になにが分かる!!」ジャキッ

倫子「拳銃……っ」プルプル

萌郁「…………」

天王寺「……ほう。泣き虫嬢ちゃんのわりには落ち着いているじゃねぇか。それとも、何か秘策でもあるのか?」

天王寺「例えば、その白衣のポケットに突っ込まれた右手とかによ」

倫子「(紅莉栖への連絡はこのケータイからいつでも可能だ……それに大丈夫、こいつはオレを撃てない……)」ガクガク

143: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 16:58:24.99 ID:hJ8u+9qPo

倫子「橋田鈴は、ついこの間まで秋葉原に居た……」プルプル

天王寺「タイムトラベラーだから、ってか。確かにあの人には未来予知みてぇな力があった」

倫子「貴方のすぐそばに居たんだよ、彼女は……気づかなかったのか?」

天王寺「……?」

倫子「橋田鈴……いや、阿万音鈴羽は、SERNと戦うためにこの時代にやってきたタイムトラベラーだ……」

天王寺「バイトが……だと……!?」

倫子「貴方の恩人は、SERNに支配された未来を変えるために2036年からやってきたんだっ!」

倫子「IBN5100を確保するために、1975年へと跳んだんだっ!」

倫子「よく思い出せ……風貌だけじゃない、父親譲りの口癖、頭を掻く仕草、その身のこなし、自転車の趣味……思い当たる節はいくらでもあるだろうが……!」

天王寺「そう、だったのか……」

倫子「異世界の貴方は……"何もしなかった"と言った。何もしなかったから、ラウンダーから足を洗った、と」

天王寺「……そうか。そういうことかよ……クソ、なんだこの光景は……この記憶は……」ガクッ

倫子「(っ、店長にもリーディングシュタイナーが……!)」

天王寺「違う……違うんだ、岡部……待ってくれ……」

天王寺「その俺は……そいつは……」

天王寺「てめぇの家族と引き換えに、橋田鈴のすべてをSERNに売った男だ……」ポロポロ

倫子「えっ……」

萌郁「…………」

144: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 16:59:31.17 ID:hJ8u+9qPo

・・・


天王寺裕吾へ

君がこれを読む頃にはたぶんあたしはもうこの世にはいない

けど――キミにお願いがあってこの文章を遺そうと思う

将来、岡部倫子という人が訪ねてきたら大檜山ビルの2階を貸してあげて欲しい

美人だからって手を出すんじゃないよ、そんなことしたら末代まで呪ってやる

最後に、キミやキミの家族と過ごした3年と数週間は楽しい時間だった

こんな日々がいつまでも続いてくれたら――いつもそう思っていた

あたしにはどっちが正しかったのかはわからない

でも、キミの選択はどっちにしても正しかったんだよ

本当にありがとう

本当に

さようなら            橋田鈴   2000年5月18日


・・・

145: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:00:41.65 ID:hJ8u+9qPo

天王寺「だが、違うッ!! 俺は、この俺は、それができなかったんだッ!!」

天王寺「鈴さんを売ることなんてできるわけねぇ!! 恩を讐で返すような、そんな真似……っ!!」

倫子「(そういうことだったのか……ようやく綯のDメールによる過去改変の全貌が見えたが、こんなことって……)」グスッ

天王寺「だけど、だけどな、綯だけは奪われるわけには行かねぇ……」

天王寺「あのIBN5100が鈴さんの守ってきたモノだってのはな、ああ、そりゃぁよくわかってたぜ……」

倫子「(未来紅莉栖の話だと、今日の午前3時頃までソレは天王寺家にあったらしい……)」

天王寺「……笑えるぜ。あの時綴を救ったところで、結局こういう結末だったわけだ」

倫子「……ラウンダーは使い捨ての駒だとかつての"貴方"は言った。だから萌郁は今日殺される」

倫子「貴方が直接手を下さないのは、情が移ったからか」

天王寺「……ああ。違ぇねぇ。できることなら、M4を救ってやりたかった。鈴さんや綴が俺にしてくれたみたいにな」

萌郁「え……っ!」

天王寺「鈴さんならこいつにどう接するか考えたんだ。綴ならこいつにどう話しかけるか考えた」

倫子「それで女言葉を……」

天王寺「連絡を取らなくなったのも、それで依存から抜け出してもらいたかったからだ。まあ、それで見逃してくれるSERNじゃねぇってのはわかってるんだが、万が一があるかと思ってな」

天王寺「だからな、M4。お前が感じてた母性ってのは、俺のものじゃねぇ。今は亡き鈴さん……あのバイトと、綴のものだ」

萌郁「……私、FBに……嫌われて……なかった……」グスッ

146: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:02:06.47 ID:hJ8u+9qPo

天王寺「そうか……岡部と初めて会った時、鈴さんと同じ匂いがしたのは、バイトが岡部に憧れていたからだったのか……」

天王寺「なるほど……巡り巡って、ね……」

倫子「……橋田鈴は、貴方にとって母親代わりだったのですね」

天王寺「俺の母親は早くに死んだよ。日本人だったんだがな、最期はフランスだった」

倫子「貴方はどうしてラウンダーなんかに……っ」

天王寺「……ネズミが寄ってくるんだよ。死体と間違えてな」

天王寺「そんな生活から抜け出すチャンスが目の前に現れたら……飛びつくしかねぇだろ?」

天王寺「たとえその先で永遠に操られ続けるとしても……」

萌郁「……私は……洗脳でも、構わない……」

天王寺「……なぁ岡部」

倫子「……はい」

天王寺「俺は……どうすればよかったんだ……?」

倫子「それは……わかりません……」

天王寺「……岡部。綯のこと、頼むわ」

倫子「(綯のことを……? そうか、やはりあの時の放電現象は……っ! このままでは天王寺がっ!)」

天王寺「お前がダメ親父の代わりによ、母親代わりになってやってくれや」

倫子「――勝手なことをっ!!」ダッ



天王寺「どうしてこんなことになっちまったんだろうなぁ」スチャ



倫子「ミスターブラウンッ!!!」




147: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:04:41.96 ID:hJ8u+9qPo

―――――――――――――――――――
    0.50311  →  0.50988
―――――――――――――――――――

148: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:05:29.65 ID:hJ8u+9qPo

天王寺「…………」

倫子「はぁっ……はぁっ……」ダキッ

天王寺「てめぇ……何を……」

倫子「貴方はバカだ……っ! 綯の父親は、この世に貴方しか居ないっ!」ウルッ

倫子「代わりなんて、どこにも居ないんだよ……っ!」

倫子「だから勝手に死ぬなぁっ!! バカぁぁぁっ!!」ギューッ

天王寺「……白衣に、染みついてやがるな……埃っぽい匂いがよぉ……」

天王寺「懐かしいじゃねぇか……」ポロポロ

萌郁「えふ……びー……」

天王寺「……だが、俺の自殺を止めたところで、俺らが他のラウンダーに殺されるのは時間の問題だ」

倫子「わかっているっ! それはっ、オレがこれからDメールを――」





ラウンダーF「偽のFBを用意するなんて随分と賢くなったじゃないか。ドブネズミ」ガチャッ

149: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:06:49.15 ID:hJ8u+9qPo

倫子「(偽のFB……? 一体なんの話――)」

天王寺「お前は……ッ!!! お前らッ、逃げろッ!!!」

ラウンダーF「そうはいかない」

ラウンダーたち「「「…………」」」ゾロゾロ

天王寺「クソッ……」

倫子「な、なに……っ!? 紅莉栖は……おいっ! 紅莉栖はどうした!?」

ラウンダーF「本来なら明日の予定だったが……岡部倫子と牧瀬紅莉栖の身柄は拘束させてもらう」

紅莉栖「ん~~っ!! んんん~~っ!!」ジタバタ

倫子「紅莉栖っ!!!」

ラウンダーF「FBとM4は必要ない……殺せ」

ラウンダーたち「「「…………」」」ガチャッ

萌郁「ひっ……」

天王寺「…………」

倫子「やめてよ……やめて……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」





??「お父さんに、手を出すなぁぁぁぁぁぁッ!!!!」





ラウンダーF「……ッ!?」


150: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:08:24.87 ID:hJ8u+9qPo

ラウンダーたち「「「ぐわっ!? ぐほぉ!? ぐふぅ!!」」」バタッ バタッ バタッ

ラウンダーF「な、なんだ!? 何が起こっている!?」

綯「呼んでも応えませんよ。ひと眠りしてもらいましたので♪」ヒュン

倫子「お前は……綯っ!?!?」

天王寺「な……!?」

綯「いくら戦闘のプロでも、こんな低身長な対象相手の訓練は受けて無いでしょう?」ヒュン

綯「跳ぶ前に、手足を切り落として、低身長での戦闘シュミレートをしておいてよかった……」ヒュン

ラウンダーF「どこだっ!? どこから――ごほぉっ!!!」バタッ

綯「……お父さんとお母さんを殺した罪。お前は死ね」グサッ

ラウンダーF「―――――」 

倫子「あ……あ……」プルプル

萌郁「すごい……動き……」

綯「ふぅー。もう大丈夫です♪」パンッ パンッ

紅莉栖「げほっ! がほっ! た、助かったけど、どういうこと……」

綯「強いでしょう? タイムリープを繰り返して訓練に励んだ甲斐がありました」

綯「……鳳凰院凶真様、ご無事ですか?」

倫子「――――えっ?」

綯「今すぐ安全な場所に……ラボに戻りましょう。そこで次の作戦<オペレーション>の準備をっ」

151: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:10:05.94 ID:hJ8u+9qPo
未来ガジェット研究所


紅莉栖「電話レンジ(仮)の準備はいつでもオーケーよ。すぐにでもDメールは送れる」

紅莉栖「それと、フェイリスさんに連絡して秋葉原中に警戒網を敷いてもらった。けど、どこまで持つか……」

綯「私が今朝お父さんの携帯からラウンダーたちに誤報を出しておいたので多少は時間が稼げるかと!」エヘン

天王寺「なっ!? いつの間に俺のケータイを!?」

倫子「(偽のFBってのはこのことだったか……)」

綯「それに、やつらがここに攻めてきたら私が食い止めますっ!」

倫子「えっと……綯はタイムリーパーなんだよな?」

綯「はいっ! 中身はワルキューレメンバー011、コードネームエスブラウンですっ!」ビシィ!

倫子「敬礼はいい……そうか、ワルキューレメンバーなのか、良かったぁ……」ヘナッ

紅莉栖「エス……シスターブラウン、ってことね」

天王寺「綯が、俺の娘が、タイムリーパーだと!?」

綯「実年齢は26歳ですよ、お父さん♪」

萌郁「……?」

綯「私エスブラウンは、鳳凰院凶真様の命を受け、黄泉還り作戦<オペレーション・ヘル>を遂行しに来ましたっ」

紅莉栖「ヘル……北欧神話で、死者を生者に戻すことができるんだったっけ。ってことは、あなたの目的は……」

綯「お父さんを救うことです。ついでに桐生萌郁も」

萌郁「ついで……」

倫子「それを未来のオレが指示した、と……?」

綯「他でもない、お父さん……父の自殺を止めてくれたのは、鳳凰院凶真様じゃないですかっ!」

天王寺「あ、ああ。まあ、そうだな」

綯「私の知っている2010年8月15日には、あのフランス人のラウンダー、仮にラウンダーFとしますが、あいつによって父は殺されていたんです」

紅莉栖「岡部から聞いた話と違う……? あそっか、世界線が変動したのね!」

152: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:11:33.28 ID:hJ8u+9qPo

倫子「ど、どういうことだ、助手」

紅莉栖「店長さんに抱きついた時、岡部はめまいを感じなかった?」

倫子「あ、あの時は必死だったからよくわからん……言われてみればそんな気もするが……」

紅莉栖「ふむん。これは推測なんだけど、あんたがタイムリープする前に見たって言う放電現象は、未来から来た綯ちゃんがタイムリープした時に発生したものだったんだと思う」

紅莉栖「だけど、"その綯ちゃん"が15年間を跳び始める前の世界線では、多分店長さんは自殺してた」

紅莉栖「"その綯ちゃん"の目的は、自殺の原因を作った岡部を狙うこと。これは、あんたの経験した世界線でも似たようなことがあったことからの推測」

倫子「オレが店長を止められなかった可能性世界、ということか?」

紅莉栖「だって、あんたは例の放電現象を見たことが原因で、綯ちゃんがタイムリープしてきたと推測ができた」

紅莉栖「それがキッカケで店長さんの自殺も推測できて、だから自殺を止めることができたんでしょう?」

倫子「た、たしかにそうだ……」

紅莉栖「ってことは、"その綯ちゃん"からすれば15年前の2010年に"自分"はタイムリープしてきてないんだから、当然その時の岡部は放電現象を確認できない」

紅莉栖「ゆえに、その周回世界線では店長さんは自殺していないとおかしい」

倫子「……バタフライ効果。綯のタイムリープ行為それ自体がオレを通して世界改変を生み出した、と……」

紅莉栖「そして、岡部が店長さんの自殺を防ぐ選択をしたことで未来が再構成された。そこではラウンダーFによって店長さんは殺されることになった」

153: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:12:26.13 ID:hJ8u+9qPo

倫子「ま、待て待て。世界線は過去から未来まで確定しているのではないのか? それなのに選択ができるのか?」

紅莉栖「いつもシュタインズゲートの選択ガーとか言ってたのはどこのどいつだ。というか、その選択ができたのはリーディングシュタイナーのおかげでしょうが」

倫子「あ、そうか……この世界線に、この時代に存在しない知識を持つがゆえに、確定した因果に背く"選択"という行為が可能なのか……」

紅莉栖「ともかく、自殺を防ぐ選択をしたことで発生した世界線変動、未来の再構成によって、タイムリーパーの綯ちゃんの記憶も再構成された」

紅莉栖「彼女の目的も、岡部を狙う事からラウンダーFを倒すことに変わった」

倫子「オレの選択によって未来が変わり、同時に現在に居る未来人綯も変化した、と……」

紅莉栖「その結果、綯ちゃんは今日、ラウンダーFを倒した」

紅莉栖「店長さんと桐生さんがラウンダーFに殺されることは無くなった、というわけ」

綯「私、がんばりました!」ニコ

天王寺「…………」

154: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:14:39.12 ID:hJ8u+9qPo

倫子「……世界線はどの程度変動したんだ?」

紅莉栖「阿万音さん、というか、ジョンタイターの言う事が正しいなら、少なくとも0.000002%程度は変動したことになる」

紅莉栖「でも、まだ店長さんはラウンダーに狙われているはずから、大きくは変動していないのかも。もしかしたら24時間以内に死ぬことが確定しているかもしれない」

倫子「……α世界線である限り、未来のSERNがミスターブラウンや萌郁を仕留めにやってくる」

綯「そのたびに私はタイムリープで解決します。何万回、何億回かけてでも」

紅莉栖「今後、綯ちゃんがタイムリープっていう過去改変によってラウンダーを退け続けるたびに、世界線はわずかならが変わっていくのかも知れない」

紅莉栖「未来のSERNはそれを見込んで、店長さんを狙うリスクや費用対効果を考慮して見逃すかもしれない」

綯「こればかりはやってみなければわからないと鳳凰院凶真様も申しておりました」

倫子「オ、オレが……?」

紅莉栖「確かに店長さんと桐生さんの死亡はα世界線の収束というわけじゃない」

紅莉栖「例えば、今から天王寺さんと桐生さんが完全に地下に潜伏して、一切他者と交流をしないとかすれば……」

紅莉栖「それは世界の因果律にとって2人が消滅したも同然になるわけだし、生命確保だけは可能かもしれない」

紅莉栖「と言っても、それと1%の壁を越えることとは全く関係ない。SERNのディストピアを阻止しなければ、SERNが時間を支配するっていうアトラクタフィールドは越えられない」

紅莉栖「……完全に解説役になってるな、私」

倫子「……助手にしかできないことだ。助かっているぞ、もっと胸を張れ」

紅莉栖「無い胸のくせにってかやかましいわ! というか私は●●じゃないぞ西條っ!」

倫子「ヒッ。中途半端にリーディングシュタイナるなよ……」ビクビク

紅莉栖「……もうこの世界線に未練は無いわよね、岡部」

倫子「ああ……ミスターブラウンの真実、綯のDメールの過去改変の全貌もわかったことだしな……」

155: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:17:31.99 ID:hJ8u+9qPo


バチバチバチバチッ


紅莉栖「さあ、岡部。Dメールを」

綯「この世界線の未来は私に任せてくださいっ! 鳳凰院凶真様は1%の壁を越えるためにっ!」

倫子「……わかっている。わかっているとも……」

倫子「だが、オレの手で、こんなにも簡単に、まだ11歳の少女の人生を狂わせてしまうほどのことが起きてしまうなんて……」プルプル

紅莉栖「……この次の世界線なら桐生さんも店長さんも命を狙われない。IBN5100をあんたが確保している限りね」

紅莉栖「綯ちゃんだって、元気いっぱいな小学生のままよ」

紅莉栖「1%の壁を越えた向こう側も同じ。3人は大丈夫なはず」

綯「……凶真様。貴女が思っているほど、私は弱くない」

倫子「悪いな、綯……」

天王寺「……力になれなくて、すまねぇな」

倫子「何をそんな……。だったら、次の世界線では家賃を下げてくださいよ」フッ

天王寺「ああ、覚えてたらな」

萌郁「…………」ピロリン♪

『迷惑ばかりかけてごめんね><。 萌郁』

倫子「萌郁……。お前はもっと、幸せになるべきだよ……」


ピッ



156: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:18:40.73 ID:hJ8u+9qPo

―――――――――――――――――――
    0.50988  →  0.52072
―――――――――――――――――――

157: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:20:02.81 ID:hJ8u+9qPo


ガヤガヤ ガヤガヤ


倫子「(……目眩の減衰と共に音が聞こえてきた。とてもうるさい……ここは?)」


  K.O.!!


綯「バッタかよてめー這いつくばれよなんだそのウルキャンセビって追い打ち地上PP対空二択とか見え見えだっつーの今さらブッパとかクソかダブルピースでキメとけオラッ……」デュクシ デュクシ(※死体蹴り)

倫子「綯っ!? ま、まさかまだ中身は殺戮未来人なのか……?」プルプル

綯「あ、凶真お姉ちゃん♪ 私勝ったよー!」ダッ

倫子「ぐほぅっ……タックルはやめろ、タックルは……」ゲフッ

倫子「というか、ここは……ゲーセン、か?」キョロキョロ

倫子「(さっきまで綯と対戦していたであろう若い男は茫然自失といった感じでフラフラとその場を後にした)」

倫子「し、しかしスゴイ指の動きだったな。しかも顔色1つ変えずに」

倫子「(というか、完全に無表情<フラットアウト>だった……人殺しの目をしていたような……)」プルプル

綯「なんとなく……身体が動いたの。自分でもびっくりしました」

綯「凶真お姉ちゃんが見ててくれたからかな……えへへ……」

倫子「("リーディングシュタイナーは誰もが持っている"……いや、まさかな)」

倫子「だが、どうしてオレは小動物とこんなところに?」

綯「お父さんがね、映画でも見に行ってこいって。忘れちゃったんですか?」

倫子「店長が? 映画? オレと綯で?」

綯「ううん、そうじゃなくて……」

萌郁「……待った?」

倫子「……お?」

158: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:22:00.83 ID:hJ8u+9qPo
UPX オープンカフェ


倫子「(話を聞くに、どうやら今日ミスターブラウンは近所の老夫婦の家へ無料出張サービスで出向いており、オレと指圧師にシスターブラウンの面倒を見るよう押し付けていたらしい)」

倫子「(まあ、指圧師1人に暴走小動物を任せきれないという判断は妥当だろうが、どうしてオレが……もしかして家賃引き下げ交渉の結果か?)」

倫子「だ、だが、そもそも何故ミスターブラウンは指圧師と知り合いになっている。2人にそんなにかかわりは無かったはずだ」

倫子「(無論、裏稼業を除く)」

萌郁「今……ブラウン管工房で……バイトしてる、から……(子守りもお仕事のうちだよ(^o^) )」

倫子「お前がブラウン管工房でバイト!? アークリライトはどうしたんだ!?」

萌郁「今は、ライターになったから……掛け持ち……(時間は有効に使わないと(`・ω・´) )」

綯「萌郁お姉ちゃん、小説書いてるんだよね。今日も小説の、ネタ? 探してるって言ってた」

萌郁「さっき、ちょっと書いてみた……(さっそくダメ出しが欲しいなぁ( *´艸`) )」スッ

倫子「(あ、あの指圧師が、オレに自分のケータイの画面を見せた、だと!? 洗脳が解けつつあるのか……?)」ゴクリ

倫子「これは、ケータイ小説か……『あたしの虹』……」フムフム

倫子「……いいんじゃないか。すごく、幸せそうだ」

萌郁「……ありがとう……(姉さんに褒められたー!(≧▽≦) )」

倫子「(なんなんだ、ここは……さっきまで居た世界線とまるで雲泥の差じゃないか……)」

倫子「(Dメールを打ち消して良かった……)」ツーッ

綯「凶真お姉ちゃん!? 泣いてるの!?」

萌郁「えっと……(そ、そんなに名文だったかな?(´・ω・) )」

倫子「あ、ああ、いや、気にするな。萌郁の、いや、指圧師の成長ぶりに感動してな……」ゴシゴシ

159: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:23:17.36 ID:hJ8u+9qPo

倫子「なあ、指圧師よ。例のアレ……IBN5100は、まだ追いかけているのか」

萌郁「…………」ピロリン♪

倫子「『上司からストップがかかっちゃって 萌郁』……つまり、必要無くなったのだな」

萌郁「」コクッ

倫子「(IBN5100が8月1日から我がラボにあるとするなら、その理由を考えるのはたやすい)」

倫子「(盗聴器を仕込み、かつ聞き耳を立てていたFBが、うちのラボに橋田鈴のIBN5100があることを把握したのだ。というか、実際あのダンボール箱を抱えてラボに運び入れたのはFB本人だったな)」

倫子「(その時点でこれ以上M4に任務をさせる意味はないと判断したのだろう。萌郁を守るために……)」

倫子「(例の法則からすると、ラウンダーの襲撃は明後日8月17日の夜8時前になるはずだ。それと同時にIBN5100を回収するつもりなのかも知れない)」

倫子「(綯がタイムリープしてきていないということは、天王寺は生き残るのか? いや、きっとそうだ。前の世界線で綯がしっかりそういう因果を築いてくれたに違いない)」

倫子「(……希望的観測が過ぎるな)」フッ

倫子「だが、貴様は既にラボメンだ。今後とも我がラボの研究のためにその能力を捧げるように」

萌郁「姉さんの力に……なれるなら……(仕事場と近くてラッキーだよヾ(*´∀`*)ノ )」

倫子「ところで、どうして指圧師はミスターブラウンの世話になっているのだ?」

160: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:24:50.35 ID:hJ8u+9qPo

小動物の子どもらしくふんわりした話と、指圧師の言葉少ななつぶやきを聞き続けること小一時間、ようやくこの世界線の様相が見えてきた。

どうもこの世界線では8月5日頃に綯が交通事故に遭ったところを萌郁が助けたらしい。

まあ、事故と言うほどのことでもないかもしれない。

車道を走ってきた自転車が、横断歩道を渡ろうとした小学生の女の子とぶつかりそうになったのだ。

ギリギリで自転車の方がブレーキをかけたが、間に合わなくて、綯に激突してしまった。

怪我自体はどちらも大したことはなかった。ただ小動物はショック状態で泣いていて、1人では立てない状態だったので、偶然現場に居合わせた指圧師が付き添って家まで送ってあげることになった。

それが縁で、指圧師は店長によくしてもらっているのだとか。

店長は店長で鈴羽がバイトをやめてしまったせいで綯の面倒を見る担当が居なくなったため、このままではせっかく入れた出張サービス業を断らないといけないという危機に瀕していた。

小動物もバイト戦士が居なくなった寂しさのせいか、すぐ指圧師に懐いたようだ。

萌郁の存在は天王寺家にとって渡りに船だった。

指圧師は指圧師でヒマな店番時間を使ってケータイ小説のゴーストライターをやっているのだとか。ちゃっかりしている。

……もう、ラウンダーの影におびえる必要なんて、微塵も無い。

161: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:26:53.43 ID:hJ8u+9qPo

倫子「(しかし、オレが知っている8月5日には小動物は事故に遭ってなど居なかったはずだが……)」

倫子「なあ、綯はどうして自転車にぶつかってしまったんだ?」

綯「えっとね、歩いてたら向こうに白衣が見えて、凶真お姉ちゃんだーって思ったら走っちゃって……」

倫子「……それで自転車に気付かずに猪突猛進してしまった、と。オレは事故には気付かなかったのか?」

綯「うん。すぐ角を曲がっちゃってたから」

倫子「(この世界線のオレはロトくじを除くすべての過去を司る女神作戦<オペレーション・ウルド>に成功していないことになっているはずだ。オレが取り消したのだから)」

倫子「(さぞオレは落ち込んでいただろうな。実験は進まず、助手にラボの主導権を奪われつつあったのだから。なんらかのヒントを求めて魔境秋葉原の街を徘徊していたのかもしれない)」

倫子「(オレの記憶にある8月5日はたしか、ルカ子が我がラボを訪ねて来て女の子になりたいと言い、その後ダルとメイクイーンに行って、まゆりにカレーを奢って、そして……)」

倫子「(……そうだ。綯がDメールを送ると言い出したんだ。綯とオレが交差する因果は変わっていなかったということか)」

倫子「(それが過去改変ではなく交通事故という形に変わった、と……)」

倫子「ともかく、近くに指圧師が偶然居合わせてくれてよかったな」

綯「うん!」

萌郁「私は……岡部姉さんをスト、後を追いかけて盗さ、写真を撮ろうと思って……」

倫子「結局それかよぉっ! うわぁん!」

162: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:28:10.44 ID:hJ8u+9qPo

倫子「しかし綯は危なっかしいな。その暴走っぷりはなんとかならんのか」

綯「ご、ごめんなさい……」ウルッ

萌郁「もう、終わったこと……(綯さんを怒らないであげてー!><。 )」

倫子「ふふ、くくく、ふぅーはははぁ! いいだろう小動物!」

倫子「この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真が直々に交通安全のなんたるかをその小さな脳髄に刻み込んでやるっ!」シュババッ

綯「えっ……は、はいっ!」キラキラ

萌郁「姉さん……恥ずかしい……(ここオープンカフェだよぉ( ;∀;) )」

倫子「よく聞けシスターブラウン。世界は陰謀で満ち溢れているのだ、常に警戒を怠るなっ!」

綯「凶真様! はいっ! 凶真様!」

倫子「あの交差点の角からMI6の工作官がボンドカーでミサイルを発射するかもしれないっ!」

倫子「あるいは突如としてデロリアンが時速88マイルで時空を裂いて出現するかもしれないっ!」

綯「凶真様! はいっ! 凶真様!」

萌郁「姉さん……映画、好きなの……?」

倫子「かもしれないかもしれないっ! これがかもしれない運転だっ!」ドヤァ

綯「凶真様! はいっ! 凶真様!」

萌郁「違うと……思う……」

天王寺「おう岡部。仕事の途中で時間が空いたから戻って来てみたら、何してんだコラ」

倫子「だあああはっ!!」ビクゥ!!

綯「あ、おとーさん!」ダキッ

天王寺「綯~、いい子にしてたか~」ヨシヨシ

倫子「(お、落ち着けー! このハゲは拳銃など持っていないただの子煩悩パパだっ!)」ハーッ ハーッ

天王寺「今度綯に変なこと教えたら家賃倍にするって言ったよなぁ……あぁん!?」ゴキッ バキッ

倫子「マザコンマッチョの敵襲だっ、ラボに退避っ!」ダッ

天王寺「あっ、おいコラ! 誰がマザコンだっ! 待ちやがれっ!」

綯「走ったら危ないんだよー!」

163: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:28:47.20 ID:hJ8u+9qPo
未来ガジェット研究所


倫子「…………」

紅莉栖「『おまいは脳みそつるつるでつねw エアプは黙ってROMってろカス』っと……」カタカタ ッターン

倫子「るみぽ」

紅莉栖「ニャッ」

倫子「お前ギャルゲースレ民だったのか……」

紅莉栖「……お帰り、岡部。ドクペ冷えてるけど、飲む?」

倫子「なかったことにしてはいけない」

紅莉栖「あっ、私の飲みかけしかなかったわ。べ、別に私はいいけど、岡部はその、これでいい?」

倫子「なかったことにしてはいけない」

164: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:31:57.96 ID:hJ8u+9qPo

倫子「ゴクッ ゴクッ ぷはーっ。ひとっ走りした後のドクペは最高だなっ! 脳細胞が活性化していくのを感じるっ」

紅莉栖「間接キスを恥じらいなくやってのけるとは、さすがね」ハァハァ

倫子「同性だし、助手だし、別に問題なかろう。それで、お前はここで何をやっている?」

紅莉栖「まゆりと橋田がコミマに行っちゃったから、岡部と2人きりになってワンチャ……新しい未来ガジェットの開発でもしようかなって」

倫子「そうか、いい心がけだ。それで、例のSERNの擬似スタンドアロンサーバはどうなった?」

紅莉栖「ああ、あれ。橋田はLHCの方に夢中になってたけど、もしかしたらもうあの謎言語を解析し終わってるのかも」

紅莉栖「あのHE   、無駄にスペック高いのよね……」

倫子「……ということは、あるのだな。このラボに。IBN5100が」

紅莉栖「はぁ? 一緒に運んだでしょ? コスプレ神主の魔の手から逃げるために」

紅莉栖「ほら、ここにあるわよ」

倫子「おお……っ! ようやくたどり着いたっ! これで我が目的は達成されるっ!」パァァ

紅莉栖「目的? 何それ」

倫子「それは……えっと、あれ? ちょっと待て、むむむ……」

倫子「たしか、SERNをハッキングして、それから、えっと……」

紅莉栖「お、岡部……?」

倫子「バイト戦士から頼まれたんだったな。えー、たしか、最初のDメールのデータを消すんだ」

倫子「あー、それがディストピアの原因で、それが無くなるからラボは監視されず……」

倫子「そうだっ! オレたち3人が拉致されなくなるっ! お前も天才少女2号に会いたがっていたしなっ!」

紅莉栖「……大丈夫? 言ってること、いつもに増して滅茶苦茶だけど……」

倫子「いいからタイムリープだっ! ダルがコミマから帰ってくるのを待ってなど居られないっ!」

165: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:34:21.92 ID:hJ8u+9qPo

――――――――――――――――――――――

2010年8月15日11時27分 → 2010年8月13日15時27分

――――――――――――――――――――――

166: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:36:22.90 ID:hJ8u+9qPo
2010年8月13日金曜日
未来ガジェット研究所


倫子「ダル! クリスティーナ! これより現在を司る女神作戦<オペレーション・ベルダンディ>最終フェイズを開始する!」

紅莉栖「徹夜明けで、今まさに寝ようとしてたところにコレとか、我々の業界ではご褒美です……」ウヘヘ

ダル「牧瀬氏、かなりランク上がったな。既にS級か。ドMだけど」

倫子「ダル、IBN5100を!」

ダル「お、おう?」

倫子「長き戦いにいよいよ決着をつけるときが来た! すなわち最終聖戦<ラグナロック>が開始されるのだっ!」

倫子「本作戦の概要はすなわち、SERN本部の最深部に隠された極秘データを、IBN5100によるクラッキングで破壊することであるっ!」

倫子「(大声だっ! FBに聞こえるほどの大声を出せ、鳳凰院凶真ぁっ!)」

倫子「(世界の研究者を牛耳った未来のSERNならば、今がどういう状況か理解できるはずだ! ディストピアの首は既にギロチンにかけられているのだと!)」

倫子「(この宣言だけでもヤツらはオレたちを下手に刺激できなくなるはずだっ!)」

倫子「真の時空の支配者がどちらなのか、ヤツらの目にしかと刻み付けてやれ!」

倫子「戦いが終わった時、世界を陰で牛耳る支配構造はついに崩壊し、再構成されるだろう! そう、我らが望んだ混沌がついに訪れるのだぁ! ふぅーはははぁ!」

167: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:37:39.73 ID:hJ8u+9qPo

紅莉栖「クラッキングはよくないと思う」

倫子「な、なんという優等生的発言……! この世界線のオレはここまで発言力がなくなっているのか……」ガクッ

紅莉栖「でも既にハッキングしてるわけだし、SERNの研究態度は問題もあるから、私個人としては岡部に賛成する」

ダル「オカリンオカリン」トントン

倫子「ダル……?」ウルッ

ダル「ベ、別にあんたのためにクラッキングするんじゃないんだからね!」ニッ

倫子「……ダルぅっ!!」ダキッ

ダル「うおおおわああああっ!!!!!」バターン!!

紅莉栖「ぬああっ!? うらやまけしからんぞこのクソピザ!!」

ダル「ひどすぎワロタ、いや、ってかオカリン離れて、うおおうなじからほのかな汗のにおひが……」クンカクンカ

倫子「ありがとう……グスッ、さすが我が頼れる右腕<マイフェイバリットライトアーム>だっ!」エヘヘ

ダル「あ、やば、僕の●●がエクステンドしそうな件」

紅莉栖「その汚いxxxxを踏みつぶすッ!!」ゲシッ ゲシッ

ダル「ごほぉっ! ぐはぁっ! おぼぇっ!」

倫子「や、やめろっ! 鈴羽が産まれなくなるっ!」

168: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:49:07.19 ID:hJ8u+9qPo

・・・

ダル「もうお嫁にいけない……」シクシク


紅莉栖「……だいたいわかった。つまり、すべての元凶は最初のDメールだった、ってわけね」

倫子「そうだ。世界はアトラクタフィールド理論により、同じ結末へと収束してしまう」

倫子「ディストピアを回避するためにはα世界線から脱出するしかない。これまでに因果律をゆがませてしまった事象をすべて"取り消す"ことでそれは可能になるはずだ」

倫子「目指すべきは、オレがダルに最初のDメールを送る前の、β世界線」

倫子「エシュロンに捉えられたそのメールデータをSERNのデータベースから削除することで、歪んだ因果律はなかったことになる」

紅莉栖「見かけ上はね。今回は今までみたいに打消しDメールを送るわけじゃないから、改変された事象を元に戻すというより、最初のDメールなんて送られてませんでした、って世界に嘘を吐くようなもの」

倫子「そもそもあのDメールを受信したダルがなにか行動をしたわけじゃないしな。あのDメールの存在そのものがアトラクタフィールドを超越するほどの影響を及ぼしたのだ」

紅莉栖「そう。具体的にはエシュロンに捕捉されたデータを未来のSERNが分析することで、現在のラボが監視されることになってしまった」

紅莉栖「だから、Dメールなんて存在しませんでした、って隠ぺいするだけで世界の因果は元あったβ世界線に再構成される」

紅莉栖「とは言っても、β世界線でも例のDメール自体は送られている。でも、エシュロンにデータがない歴史を作るわけだから、橋田と岡部以外の全人類はその存在を知ることができない」

倫子「その世界ではオレもダルも、そのメールがタイムトラベラーだということにさえ気づかないかもしれないな」

紅莉栖「そして、例のDメールが疑似的に"なかったこと"になっている世界が誕生する」

紅莉栖「それを今居るこのα世界線で実現させることができれば、世界はβ世界線へと都合よく再構成されることになる、と」

紅莉栖「でも、クラッキング時に邪魔が入らないってのは少し不思議ね。阿万音さんは未来の橋田の研究の成果とか言ってたらしいけど、この行為だけが2036年への収束を潜り抜ける唯一の抜け穴だった、ってことよね」

倫子「それは不思議ではない。別の世界線で得た知識がオレに備わっているおかげで、クラッキングを行う選択が可能になっているのだ。この世界線が持つ収束の力によって邪魔されるわけがない」

倫子「……信じられないか?」

紅莉栖「ううん、とても興味深い。できれば客観的データが欲しいところだけど、それは岡部の脳を開頭しないと無理そうだし」

倫子「ヒッ」

紅莉栖「(かわいい)」

ダル「グロは勘弁なオカリンの性格を逆手に取るとか、お主やりおる」

倫子「助手は本当にマッドサイエンティストだな……だがそれがいい……」プルプル

169: ◆/CNkusgt9A 2016/01/25(月) 17:51:24.97 ID:hJ8u+9qPo

ダル「繋ぎ終わったお。ちょっと設定いじらないとダメだけど、10分しないうちに始められる」

倫子「よし……っ!」

紅莉栖「それにしても、元凶となった最初のメールねえ……」

紅莉栖「それってあれでしょ? ATFで言ってたヤツ」

紅莉栖「私が死んでたとかなんとか」

倫子「そうだ。ラジ館でお前が殺されているのを目撃したオレは、ダルにそれを伝えるメールを送った」

倫子「ダルはたまたま電話レンジ(仮)の実験中で、放電現象が起……き……て――」

倫子「……あ、あれ? おかしいな、記憶が、混乱して……いや、そんなはずは……まゆりは? いや、まゆりは関係ないだろ……」ブツブツ

ダル「オ、オカリン?」

紅莉栖「……大丈夫?」

倫子「……クリスティーナ。お前、さっき、"β世界線でも例のDメール自体は送られている"と言ったな……?」

紅莉栖「え、ええ。Dメールを送らないように過去改変するわけじゃなくて、現在を改変することで因果律を正して歴史の修正力に再構成を任せるんだから、そうなってないとおかしいって」

倫子「……オレは、β世界線でも、あの文面のメールを書くんだな……?」

紅莉栖「だからそう言って……あっ」

ダル「な、なになに? どしたん?」

紅莉栖「そのメールの文面を岡部がケータイに打ち込むためには、当然、私は……」

倫子「……ラジ館の8階で」

倫子「……牧瀬紅莉栖は」

倫子「……死んでい―――」バタッ

紅莉栖「岡部!? おか―――」

ダル「ふぉ!? オカリ―――」

199: ◆/CNkusgt9A 2016/02/08(月) 00:36:41.04 ID:bFHfa8Mco
 

紅莉栖「いいえ、それはないわ。遅くても2005年には既に洗脳メールは発信されていることがわかってる」

倫子「当時のSERNがどうやってそんなことを……?」

紅莉栖「タイムリープ時の記憶の圧縮と原理は同じでしょうね。SERNはLHCでブラックホールを作ること自体は2005年時点で成功しているわけだから、洗脳用データの超圧縮自体は可能」