6: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:29:41.79 ID:pgFF7c9+
—————

———



あゆむ 「ゆうちゃん? なにしてるの〜?」

ゆう 「え、かいてる!」

あゆむ 「え?」

ゆう 「まおうをたおすものがたりだよ!」

あゆむ 「まおう?」

7: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:30:14.96 ID:pgFF7c9+
ゆう 「……わたし、ぜったいあゆむをまもるから!」

あゆむ 「あ、あゆむもゆうちゃんのこと、まもるよ!!」

ゆう 「……わたしたち、にたものどうしだね」

あゆむ 「……うん」

ゆう・あゆむ 「「えへへ」」



———

—————

8: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:30:51.18 ID:pgFF7c9+
歩夢 「……ん……夢?」 パチッ

歩夢 「早く学校行かないと、行こう侑ちゃん!」

侑 「うん!」

タタタタ

タタタタ

タタタタ

歩夢 (……私の名前は上原歩夢。虹ヶ咲学園の普通科、二年生。普通の女の子。いつも幼馴染の一人である侑ちゃんと行動を共にしてる)

10: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:33:29.90 ID:pgFF7c9+
先生 「こら、上原。ぼっーとしてるんじゃない。早く指定されたページを読みなさい」

歩夢 「……っ、あっごめんなさい! え、えっと」

侑 「歩夢。35ページだよ」

歩夢 「ありがとう。侑ちゃん。えっと、『猪を捕まえに行く前に、高丸は川へ洗濯物に行きました。そして……』」

先生 「……」

先生 「……話を聞いてないように見えたが、相変わらず不思議な生徒だ」 ボソッ






11: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:34:06.65 ID:pgFF7c9+
歩夢 「侑ちゃん、それでこないだのテレビでね」

侑 「ふふ、私も一緒に見てたんだから分かるよ、歩夢」

ザワザワ

ザワザワ

かすみ 「昼休みは本当に騒がしいというかなんというか……って、あれ、あの人は」

かすみ (めちゃくちゃ可愛いじゃないですか!? ええっ!?)

かすみ 「……」 ムムム

かすみ 「思い立ったら吉日! スクールアイドルに誘うなら今!」

13: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:34:58.21 ID:pgFF7c9+
タタタタ

かすみ 「あ、あの〜……」

生徒A 「かすみちゃん?」

かすみ 「あっ、クラスメイトの」

生徒A 「もしかしてあの人に話しかけるつもり?」

かすみ 「えっ、そうだけど……」

生徒A 「まだ知らない人もいたんだ……あの先輩ね、上原歩夢さんって言うんだけど、いつも一人でぶつぶつ喋ってるんだよ。誰かに語りかけてるみたいに。だから一年の中でも話しかけちゃいけない先輩として噂が広がってるんだ」

15: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:36:10.73 ID:pgFF7c9+
かすみ 「そうなんだ……で、でも、かすみんは気になるなぁ。話しかけようかな」

生徒A 「話しかけるの? かすみちゃんも変わってるね」

タタタタ

タタタタ

かすみ 「あ、あの!」

歩夢 「? あなたは?」

かすみ 「えっと、一年生の中須かすみと言います! 急ですけどお願いがあります!」

歩夢 「お願い?」

17: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:37:13.58 ID:pgFF7c9+
侑 「悪いけど歩夢にはマネージャーである私を通してから……」

歩夢 「もう! 何言ってるの!」

かすみ (本当に独り言……でも、これもキャラ的にはありっちゃあり?)

歩夢 「それでお願いって、何かな……?」

かすみ 「私と一緒にスクールアイドルになってください!!!!」

歩夢 「えっ? スクールアイドル?」

侑 「前に読んでた雑誌に載ってたでしょ。学校のアイドルのことだよ!」

18: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:38:09.92 ID:pgFF7c9+
歩夢 「……えっと、なんで私に?」

かすみ 「それはもちろんすごく可愛いからですよ!!」

歩夢 「へぇー……って私が可愛い!?///」

かすみ 「お願いしますっ!! 私と一緒にスクールアイドルになってください!!」 ガシッ

歩夢 「ええっ!?///」

侑 「なかなか積極的な子だね……それにしてもスクールアイドルか。よく見ればこの子もすごく可愛い……」

歩夢 「侑ちゃん?」

19: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:38:56.34 ID:pgFF7c9+
侑 「ひっ! なんでもない!」

かすみ 「! ゆうちゃん?」

歩夢 「? あっ、紹介してなかったね、私の幼馴染だよ」

かすみ 「……」

歩夢 「どうしたの?」

かすみ 「ゆうさんってどんな漢字?」

かすみ (ゆうさんって……まさか……)

歩夢 「感じ? 侑ちゃんは優しい感じだよ」

かすみ (優ちゃん、か……なら別人か……)

21: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:40:03.12 ID:pgFF7c9+
歩夢 「……えっと、さっきの話だけど、いきなりスクールアイドルは少し恥ずかしいというか、難しいというか」

かすみ 「!」

かすみ (こんなに可愛い子をみすみす見逃すわけには! それに話してて確信した! この人は間違いなくスクールアイドルの素質がある!)

かすみ 「じゃあスクールアイドルにとは言いません! まずはかすみんと友達になってくれませんか?」

歩夢 「友達?」

かすみ 「ちょうど先輩の友達が欲しかったんですよね〜」

22: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:40:43.60 ID:pgFF7c9+
歩夢 「……」

歩夢 (友達か……よく考えたら私も侑ちゃん以外いないや……)

歩夢 「スクールアイドルは、まだ返事はできないけど、友達なら大歓迎だよ。よろしくね、かすみさん」

かすみ 「先輩なんですから、ちゃん付けで良いですよ!」

歩夢 「そう? ならかすみちゃん、これからよろしくね!」 ニコッ

かすみ 「はい!」 ニコッ






23: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:41:25.56 ID:pgFF7c9+
?? 「かすみさん」

かすみ 「……なに、しず子」

?? 「噂が届いたよ。二年生の、変わり者で有名な上原歩夢さんと友達になったんだって。その人が次のターゲットなの?」

かすみ 「違うよ。あの人はそうじゃない。単純に、かすみんのアイドル活動の方で関わりたい人」

?? 「そっか。私は上原さんの顔を知らないけど、かすみさんの眼鏡にかなうくらいに可愛い人なんだね」

かすみ 「うん! ビビッときた!」

25: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:42:09.59 ID:pgFF7c9+
?? 「……少し妬けちゃうなぁ。それと、今日の放課後のターゲットなんだけど」

かすみ 「細かいことはしず子に任せるよ。私の『能力』は使うときに声かけて」

?? 「分かった。選抜等は私に一任してもいいんだね?」

かすみ 「もちろん。期待してるよ」

?? 「……ありがとう」






26: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:44:29.14 ID:pgFF7c9+
璃奈 (……私の名前は天王寺璃奈。情報処理学科の一年。普通の女の子……であれたら良かったのに)

璃奈 「……今日もうまく気持ちが伝わらなかった」

璃奈 (心では、みんなと話せてすごく嬉しいのに、まるでつまらないかのように誤解される。それがとても悲しい)

?? 「感情が豊かでも、それを見せられなければ無と同じ」

璃奈 「! だれ!」

28: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:45:26.07 ID:pgFF7c9+
?? 「悲しき少女は、そう悩んでいた。人は感情を隠したいとき、ポーカーフェイスを気取る。でも、ポーカーフェイスが上手くたって、全然嬉しくない。よっぽど感情を表情に出せない方が損だ」

璃奈 「……誰かは分からないけど、怒るよ」

?? 「でも、切望してるあなたには、希望をあげましょう。力が欲しいですか? 欲しいですよね」

璃奈 「力、なんていらない」

?? 「あぁ……言い方が悪かったですね。『感情を伝えられる力』です」

璃奈 「!」

?? 「私、不思議な機会を持ってるのです。あなたにその力、差し上げられる。でも、その代わり条件があります」

璃奈 「……条件?」

?? 「ふふ、聞く気になりましたか。条件とは」






29: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:46:18.81 ID:pgFF7c9+
歩夢 (……昨日は色々あったなぁ。まさか新しい友達ができるなんて。まるで夢みたい。もしかして夢?)

かすみ 「歩夢先輩!」 ガラッ

歩夢 (……どうやら夢じゃないみたい)

歩夢 「あっ、かすみちゃん。わざわざ二年生の教室まで来たの?」

かすみ 「当たり前ですよ! 友達なんですから!」

歩夢 「ふふ、そっか」

かすみ 「さて学校が終わり放課後となったわけですが……放課後といえば、学生にとって数少ない自由な時間ですよね!?」

歩夢 「? まあ、そうだね」

30: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:46:58.47 ID:pgFF7c9+
かすみ 「歩夢先輩のこれからの予定は!」

歩夢 「……家に帰って課題をやる?」

かすみ 「違います!! かすみんと一緒に話題のパフェを食べに行くです!!」

歩夢 「パフェ? 今から?」

かすみ 「今から!!」

歩夢 「うーん……」

かすみ 「昨日は友達になったばかりですから放課後誘わなかったですけど、今日からはもう遠慮しませんからね!!」

31: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:47:46.85 ID:pgFF7c9+
侑 「行ってくればいいじゃん、歩夢」

歩夢 「でも、パフェなんてあんまり行ったことないよ?」

侑 「友達が増えれば、必然と行く機会は増えるよ。その一回目だと思えばいいじゃない」

かすみ 「パフェ、行ったことないんですか?」

歩夢 「そうだねー……ああいうところってなぜか入りにくくて」

かすみ 「分かりました。かすみんが、パフェの魅力、一から百まで丁寧に教えます!! ついてきてください!!」 タタタタ

歩夢 「かすみちゃん!? ちょっと待って」 タタタタ

32: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:48:36.97 ID:pgFF7c9+
生徒B 「……あの子にも、友達ができたんだね。しかも後輩」

生徒C 「でも歩夢ちゃんは良い子だし可愛いし友達ができない理由はないんだけどさ」

生徒B 「イマジナリーフレンドってやつ? 頭に友達がいるんじゃねぇ、その友達と比べられても嫌だし」

生徒C 「だねぇ」

ザワザワ

ザワザワ

生徒B 「ん? なんか外騒がしくない? 人集まってるよ。中心にいるのは……」

生徒C 「あの子は一年生の天王寺璃奈って子だよ。可愛くて優しくて、元々人気はあったみたいだけど……今朝から普段無表情なのに急に表情豊かになったみたいで、ギャップでさらに大人気になったみたいだよ」

生徒B 「へぇ。人って急に変われるんだねぇ」






33: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 20:49:18.77 ID:pgFF7c9+
歩夢 「……美味しいっ!」 パァァ

かすみ 「女子高生で嫌いな人なんていませんよ!! パフェは夢のようなスイーツなんですから!!」

侑 「ふふ、良かったね。歩夢」

歩夢 「侑ちゃんは食べないの?」

侑 「私は見てるだけで十分だよ。実はダイエットしてて……」

歩夢 「ダイエット? そ、そんなこと言ったら私だって少し痩せないとダメかも……」

38: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:11:01.50 ID:pgFF7c9+
侑 「歩夢は十分良いスタイルだよ。だから気にしないで」

歩夢 「も、もう侑ちゃんったら!」

かすみ (……優ちゃん。奇しくも、あの人と似ている名前。いや似てるだけだから関係ないんですけどね)

かすみ (それにしても、確かに頭の中に友達が一人いるみたいですね。幸せそうですし、キャラ的に抜群ですから、全然構わないんですが……さて)

かすみ (どうやってスクールアイドルに勧誘しようかな)

かすみ 「そういえば! パフェといえば、この動画見てくださいよーー!」

歩夢 「パフェの紹介動画?」

39: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:11:56.27 ID:pgFF7c9+
かすみ 「はい! 可愛い女の子が食レポしてます!」

遥 『このパフェ……すごく美味しいです! 特に中に入ってるバナナとチョコが甘くて良いですね』

店主 『そう言ってくださると嬉しいです。材料にはこだわってるんですよ』

遥 『なんだかお姉ちゃんのチョコバナナ蒸しケーキを思い出すなぁ……』

店主 『……お姉ちゃん?』

遥 『はっ! なんでもありません!』

歩夢 「美味しそうだなぁ、このパフェ……」

40: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:12:53.02 ID:pgFF7c9+
かすみ 「それもそうですけど、この子もなかなか可愛いですよね」

歩夢 「そうだね、まだ若そうなのに食レポに抜擢されるなんてすごいなぁ」

かすみ 「東雲学院のスクールアイドルなんですよ。今じゃスクールアイドルは芸能人みたいなものですからね」

歩夢 「へぇ……ってスクールアイドル? わ、私まだスクールアイドルになる気はないからね!!」

かすみ 「そこをなんとか!」

歩夢 「無理だよっーーー!!」

侑 「ふふ、仲良しで微笑ましいなぁ」






41: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:13:45.14 ID:pgFF7c9+
グスグス

グスグス

生徒D 「うぅ……」 ポロポロ

璃奈 「大丈夫? どうしたの?」

生徒D 「えっと、あなたは……」

璃奈 「私の名前は天王寺璃奈。あなたはどうして泣いてるの?」

生徒D 「……クラスメイトのEちゃんって子がいるんだけど、Eちゃんのいるグループの何人かに毎日放課後にお金を取られるの」

璃奈 「! どうして」

42: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:14:27.27 ID:pgFF7c9+
生徒D 「友達料だって……それに、なんだか最近いつもイライラしてて、誰かに当たりたいみたい……」

璃奈 「……あなたは嫌じゃないの?」

生徒D 「で、でも! 友達だし」

璃奈 「お金を奪うような子が?」

生徒D 「……」

璃奈 「表情が悲しんでる。表情は嘘をつけないよ」

生徒D 「……本当はつらい。つらいよぉ」 ポロポロ

43: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:15:15.01 ID:pgFF7c9+
璃奈 「そう。分かった、私がなんとかする」

生徒D 「えっ?」

璃奈 「……悩んでいたけれど、そういう人なら仕方ない。そうだよね……」 ボソッ

生徒D 「どこに行くの?」

璃奈 「あなたは心配しなくていい。私はただ、自分の意志でその子を止めるだけだから」

生徒D 「で、でも!」

璃奈 「大丈夫だよ」 ニコッ

生徒D 「!」 ドキッ

生徒D (すごく可愛い笑顔……!)

璃奈 「安心して、待っててね」

タッタッ

タッタッ






44: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:16:11.53 ID:pgFF7c9+
歩夢 「今日は疲れたなぁ……ねぇ、侑ちゃん」

侑 「そうだねぇ。歩夢の日常も、すっかりかすみちゃんのおかげで変わりそうだ」

歩夢 「……かすみちゃん、良い子だよね」

侑 「少し強引だけどね」

歩夢 「……でも嬉しいんだ。私をあんなに可愛いって言ってくれるなんて。スクールアイドルに誘われたのも、恥ずかしいけどでも」

侑 「やってみればいいんじゃない?」

歩夢 「!」

45: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:16:48.46 ID:pgFF7c9+
侑 「歩夢ならできると思うし、それに、少しでもやってみたい気持ちがあるなら、した方が絶対良いよ!」

歩夢 「侑ちゃん……」

侑 「! 歩夢!」

歩夢 「? どうしたの?」

侑 「……久しぶりに感じたよ。能力者の気配」

歩夢 「! どこにいるの!」

侑 「虹ヶ咲学園だ、行こう!」

歩夢 「うん!!」






46: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:17:43.51 ID:pgFF7c9+
生徒E 「ふん、こんなにお金が貯まってるなんて、使ってやらないと可哀想だよ」

生徒F 「それにしてもさっきのEちゃん、カッコよかったな〜! 壁にドンっ、ってしちゃってさー」

生徒G 「相手なんか、ハムスターみたいに泣きそうになってたぜ」

一同 「「あはははは」」

璃奈 「……あなたたち」

生徒E 「! あんた誰だ?」

47: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:18:31.16 ID:pgFF7c9+
生徒F 「こいつはあれですよ、一年の天王寺璃奈」

生徒G 「あぁ……ずっと無表情だったくせに、今日急に表情豊かになったやつね」

生徒E 「なんだそれ、おかしなもんだな」

璃奈 「……感情は素晴らしいもの。それを表現できる表情も素晴らしいもの」

生徒E 「!」

璃奈 「でも、あなたたちの感情はただ、ただ、醜い。許せない」

生徒F 「あぁ!? 私たちに喧嘩売ってんのか!?」

48: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:19:12.47 ID:pgFF7c9+
璃奈 「あなたたちの人を嘲る『楽』それはそういうために使うものじゃない。だから没収する」

生徒G 「没収?」

璃奈 「……能力『喜怒哀楽』」 ゴゴゴゴ

生徒E 「!? なんだ!? 急に空気が変わった!?」

璃奈 「それと、最近イライラしてるみたいだから、『怒』も私が貰ってあげる」 ゴゴゴゴ

生徒F 「な、なんだかやばい気がしますよ……早く逃げましょう!!」

璃奈 「……遅いよ。逃げるのも、償うのも」

ギャァァァァーーーーーー!

ヤメテクレーーーーー!






50: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:56:28.83 ID:pgFF7c9+
侑 「こ、これは……」

歩夢 「一体なにが起きたの?」

生徒E 「……あいつなんだったんだろう。でもいいや、怒るのも馬鹿馬鹿しいし」

生徒F 「楽しくない。全然楽しくないよ……ああ、哀しいなぁ。哀しい」

生徒G 「あははは、あははは、なんだか分からないけど、分からないけど笑っちゃうな」

侑 「……おそらく能力によるものだね。見たところ、精神的作用があるみたい」

歩夢 「ひどい、誰がこんなことを……」

51: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:57:58.72 ID:pgFF7c9+
侑 「やっぱり家からじゃ間に合わなかったみたいだ。仕方ない、今日はここを少し調べたら一回撤退しよう」

歩夢 「でも……」

侑 「ほら、歩夢。周りを調べて」

歩夢 「う、うん」

侑 「うーん、それにしても、いくら普通の人間が相手とはいえ、周りが壊れたりしてないということは、一瞬の勝負だったってことか。いやーこれは厄介な敵だね」

歩夢 「えっと……あっ!」

歩夢 (この人たちの財布から、お金が抜き取られてる……まさかお金目的の犯行なの?)

52: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:59:13.97 ID:pgFF7c9+
侑 「よく見て歩夢。全部は抜き取られてないから残った札で確認できるけど、それぞれ折り方がバラバラだよ?」

歩夢 「本当だ……綺麗なお札もあれば、四つ折りされてるものもあるし……いくら循環していくものとはいえ、こうもバラバラになるものなの?」

侑 「もしくは、元々このお金たちは、色んな人の財布から奪ったものだったり」

歩夢 「! それって!」

侑 「……見て。手帳がある」

歩夢 「色んな人の名前と、金額? 日付とか書いてあるね」

53: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 22:59:53.33 ID:pgFF7c9+
侑 「この人とは、この曜日に、この金額を貰う約束をしてる……って感じかな」

歩夢 「! そ、そんなの」

侑 「許せないね。じゃあ、この状態になっても致し方なしかな?」

歩夢 「……だけどそれも違うと思う。悪いことをしてたかもだけど、だからって、こんなことしちゃいけないよ」

侑 「だね。また新しい被害が出るかも分からないから、明日の放課後には決着をつけよう。どちらにせよ、私たちは能力者と戦わなくちゃいけないんだから」

歩夢 「うん……」






55: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:01:20.25 ID:pgFF7c9+
?? 「かすみさん、一人の能力者を覚醒させました」

かすみ 「ありがとうしず子。それでその能力名は」

?? 「『喜怒哀楽』感情を司る能力です。さらにいえば、その感情を具現化し、武器にすることもできる」

かすみ 「……強そうだね」

?? 「はい、感情に強いこだわりがあるものが、手に入れられる能力。これはなかなか強力でしょう」

かすみ 「じゃあ進化する可能性は?」

56: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:02:45.89 ID:pgFF7c9+
?? 「あるから私が選んだんじゃん。かすみさんったら」

かすみ 「そ、そうかもしれないけど! 一応だよ、一応!」

?? 「彼女の能力は、『人の感情を奪っただけ強くなる』正確にいえば『奪った感情の部分が強力になる』怒りを人から奪えば、彼女は喜怒哀楽の『怒』を強く発動できる」

かすみ 「じゃあその人の進化する条件は、『人から感情を奪うこと』か……」

?? 「だから、『感情を定期的に奪わないと、あなたのその表情はまた戻ってしまう』と嘘の条件を言って脅してます」

57: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:03:19.30 ID:pgFF7c9+
かすみ 「戻る? 表情で悩みがある子なの?」

?? 「それは……」

かすみ 「いや、それはいいや。人の悩みに構ってたらキリないもん」

?? (……いつも能力者の能力は聞いても、名前や素性は聞かない。かすみさんは興味がないのだろうか? いや)

?? (単純に怖いのかもしれない。目的のためとはいえ、人の人生を変えてしまってることに、目を伏せて……)

かすみ 「引き続きよろしくね、しず子」

?? 「もちろんだよ、かすみさん」






59: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:09:07.76 ID:pgFF7c9+
侑 「うーん! 良い朝だね!」

歩夢 「そうだね、侑ちゃん……」

侑 「? 少し元気がないみたいだけど、どうしたの歩夢? もしかして昨日のこと気にしてるの?」

歩夢 「……うん。あの子たち、どうなっちゃうのかなって」

侑 「大丈夫だよ。私たちが能力者を打ち倒して、能力者に『戻して』って言えばいいんだから」

歩夢 「そ、そうだよね……私たちが止めればいいんだよね」

60: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:11:09.14 ID:pgFF7c9+
かすみ 「あっ、歩夢先輩! おはようございます!」

歩夢 「あ、かすみちゃん」

かすみ 「今日の放課後はどこに行きましょうか!! ふふ、食べ物でも良いですし、テーマパークに行くのも良いですよね」

歩夢 「えっと、ごめんね、今日の放課後は少し予定があるんだ」

かすみ 「……そ、そうなんですね。なら仕方ないですね」 ショボーン

歩夢 (かすみちゃん、明らかに落ち込んじゃった!?)

61: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:11:49.50 ID:pgFF7c9+
歩夢 「あ、でもね、かすみちゃん……良い知らせというか、伝えたいことがあって……」 アセアセ

かすみ 「伝えたいこと?」

歩夢 「……私、かすみちゃんと一緒にスクールアイドルをやりたい」

かすみ 「えっ、本当ですか!?」 パァァ

歩夢 「うん。可愛いって言ってくれたから、頑張りたいんだ」

かすみ 「やったーーーーーー!!! ありがとうございます歩夢先輩ーーーー!!」 ダキッ

歩夢 「かすみちゃん!?///」

侑 「ふふ、良かった良かった……」

62: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:12:20.89 ID:pgFF7c9+
キンコンカンコーン

かすみ 「って授業始まってしまいますよ!?」

歩夢 「大変っ、またね、かすみちゃん!」

かすみ 「歩夢先輩! 絶対明日こそは遊びましょうね!」

歩夢 「もちろんだよーー!」

タタタタ

タタタタ






63: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:13:29.67 ID:pgFF7c9+
生徒D 「あ、あの璃奈さん……!」

璃奈 「? あなたは昨日の」

生徒D 「ありがとう!!」 ペコッ

璃奈 「……急にお礼なんてどうしたの」

生徒D 「昨日、Eちゃんからお金を盗まれた人たちみんなの机に、盗まれた分のお金が置いてあったんだって……それに、Eちゃんは今日は休み……璃奈さんがやっつけてくれたんでしょ!?」

璃奈 「別に私は何もやってない」

生徒D 「えっ、でも!」

64: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:16:04.36 ID:pgFF7c9+
璃奈 「……少しでも、みんなの笑顔を守りたかっただけ。あなたの笑顔が守られたなら良かった」

生徒D 「璃奈さん……」

璃奈 「それに、私は決して感謝されるような正しい人間じゃない」 ボソッ

生徒D 「えっ」

璃奈 「……じゃあね。お礼を言いにきてくれてありがとう。移動教室だからもう行かなくちゃ」

生徒D 「璃奈さん!!」

璃奈 「?」

65: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:16:50.35 ID:pgFF7c9+
生徒D 「璃奈さんはどう思ってるかは分かりません、でも、私にとって璃奈さんはカッコよくて笑顔が素敵で」

璃奈 「!」

生徒D 「私は璃奈さんに救われました。だから改めて言わせてください。ありがとう、璃奈さん!!」 ペコッ

タッタッ

タッタッ

璃奈 「……」 チラッ

璃奈 (……まだ頭を下げてる。本当に良い子だ。だからこそ、私には関わっちゃいけない)

璃奈 (私はヒーローなんかじゃない。自分の表情のために、人の感情を奪った悪魔だ。偶然、助かった人たちがいただけ)

璃奈 (なのにそれが正直に言えないのは、やっぱり嫌われたくないからかもしれない)

璃奈 「……移動教室、遅刻しちゃう」






66: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:20:01.73 ID:pgFF7c9+
歩夢 「……やっぱりそうなんだね」

侑 「うん。あの人たちの評判は良くなかった。歩夢と私が一緒に聞き取り調査をした結果だよ。みんな酷い言いようだったでしょ?」

歩夢 「そうだね。お金を盗まれたり、殴られたり……だけどそれでも、あんな状態にするなんていけないことだよ」

侑 「能力者は、彼女たちに強い恨みを持つものなのか……それとも正義のヒーローなのか」

歩夢 「正義のヒーロー?」

67: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:20:50.50 ID:pgFF7c9+
侑 「彼女たちの被害者みんなの机に、盗まれた分だけのお金が置いてあった、って話聞いたでしょ?」

歩夢 「う、うん」

侑 「おそらく、あの手帳を読んだんだろうね。それにしたって、みんなの机にお金を置いて回るなんて、相当大変だと思うけど……」

歩夢 「……」

侑 「歩夢? どう? 戦える?」

歩夢 「……仮に犯人が悪い人じゃなかったとしても、能力によっておかしくなってしまった人たちを放っておくわけにはいかないよ」

侑 「……だね」

歩夢 「行こう、侑ちゃん。能力者を倒しに」

侑 「腕が鳴るね」






69: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:32:39.36 ID:pgFF7c9+
璃奈 「……あなたちたちは?」

生徒H 「Eがこないだはお世話になったな」

生徒I 「おまえみたいなチビになぜあんな風にさせられたかは分からないが……ダチが困ってるんだ。来てもらうぜ」

璃奈 (……この人たちはきっと、直接あの子を苦しめた人たちじゃない。なら私の出る幕ではない。それに、もうあの能力はなるべく使いたくない)

璃奈 「ごめんなさい。でも、彼女たちは悪いことをした。多くの人たちからお金を奪ったり、抵抗もしない人たちを殴ったりした。それなのに、被害者になった途端に贔屓することはできない」

71: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:44:41.70 ID:pgFF7c9+
生徒H 「……うるさいな」

璃奈 「えっ」

生徒I 「弱いから取られただけだろ? Eたちの何が悪い?」

璃奈 「……何を言ってるの?」

生徒H 「はは、Eを苦しめた犯人を探すの、大変だったんだぜ? まずはEがその日に会ってたであろうDってやつをボコボコに殴って」

璃奈 「……は?」

生徒I 「でもいくら殴っても教えてくれないから、しょうがないから、そいつは諦めて……Eが友達料を貰ってたやつらを片っ端から殴っていってな。そしたら机にお金を置くお前の姿を見たやつがいたってわけ」

72: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:46:36.30 ID:pgFF7c9+
璃奈 「……な、なんで」

生徒D 『私は璃奈さんに救われました。だから改めて言わせてください。ありがとう、璃奈さん!!』 ペコッ

璃奈 「なんであんなに良い子を……! 許せないっ……!!!」 ゴゴゴゴ

生徒H 「!? なんだ急にこいつ雰囲気が」

璃奈 「……喜怒哀楽、全てを奪っても良いけど、他人を哀しめる『哀』が足りてないみたいだから、『喜』『怒』『楽』を没収させてもらう!」 ゴゴゴゴ

生徒I 「と、とにかく逃げ……」

璃奈 「……能力『喜怒哀楽』」 ゴゴゴゴ

ウギャァァァァーーーーー!

タスケテェェェェーーーー!






73: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:47:30.87 ID:pgFF7c9+
生徒H 「……」

生徒I 「……」

璃奈 「……っ、ただ、ただ、反省して。そしたらいつか返すから」

璃奈 (また私は感情を奪ってしまった……正義感からじゃない。ただ、自分の表情のために……っ!)

歩夢 「待って!」

璃奈 「!?」

侑 「……ようやく出会えたね、能力者」

74: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:48:45.54 ID:pgFF7c9+
歩夢 「あなた能力者でしょ!?」

璃奈 「! なんで」

歩夢 「お願い! もうこんなことはやめて!」

璃奈 「……」

歩夢 「その人たちのことは知ってる……酷いことをしてるってことも。でも! だからってあんな状態じゃ!」

璃奈 「私が間違ってることは分かってる……でも、もう戻れないっ!」

歩夢 「……っ、それなら仕方ないね。侑ちゃん!」

侑 「分かった。歩夢、能力を発動するんだ!」

75: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:49:53.31 ID:pgFF7c9+
歩夢 「能力『イマジナリーフレンド』!!」


璃奈 「!? あなたは誰!? さっきまでいなかったはずなのに!」

侑 「……さっきからいたんだけどなぁ。でも、姿を見せるのは、能力発動が必要だからね」

歩夢 「侑ちゃん! 私に力を貸して!」

侑 「もちろん!!」

璃奈 「能力……もしかしてあなたも能力を貰ったの?」

歩夢 「能力を貰う? どういうこと?」

76: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:51:11.84 ID:pgFF7c9+
璃奈 「どちらにせよ、そっちがその気ならこっちも戦うしかない。でも罪なき人の感情は奪ったりしない」

璃奈 「だけど、痛い目には遭うかもしれないよ。まずは『怒』!!」

侑 「……怒? あの子の周りに巨大な腕が二つ見えるけど」

歩夢 「あれ当たったら痛そうだよね……」

璃奈 「なるべくなら避けて!」 ブンッ

歩夢 「っ、危ないっ!」

ドゴーーーンッ

77: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:52:26.07 ID:pgFF7c9+
侑 「……あれ? 壁が凹んでるように見えるけど、気のせいですよね?」

歩夢 「気のせいじゃないよ侑ちゃん!! あのパンチは当たったら骨折じゃ済まないよ!!」

璃奈 「……」

璃奈 (これで諦めてくれたら良いけど……)

侑 「どうする? 歩夢、逃げる?」

歩夢 「……逃げないよ。逃げたら、あの人たちを助けられないし、何より」

78: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:54:00.16 ID:pgFF7c9+
璃奈 『私が間違ってることは分かってる……でも、もう戻れないっ!』

歩夢 「あの子を助けたいっ!!」

璃奈 「……諦めないみたいだね」

璃奈 (『怒』はダメだ、あれは威嚇にしか使っちゃダメ。なら『喜』を使う……でもあと一回くらいはやってみるか……諦めてくれるかもだし……)

璃奈 「もう一回行くよ! 避けてねっ!」

79: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:54:44.56 ID:pgFF7c9+
歩夢 「あんなの受けたら大変だよ、侑ちゃん!」

侑 「まあ能力発動してる私なら、耐えられるけどね」

歩夢 「じゃあよろしく」 スッ

侑 「ぐはっっ!!」

璃奈 「!?」

侑 「……あのね? 痛くないわけではないんだよ?」

歩夢 「あはは、ごめん、つい」

80: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/07(月) 23:55:29.35 ID:pgFF7c9+
歩夢 (……でも当てるつもりがなかったパンチが当たって、少し気が動転してる、今がチャンス!)

歩夢 「侑ちゃん! 一気に近付いて!」

侑 「ラジャーー!!」 タタタタ

璃奈 「……! まずい、近くに」

侑 「くらぇぇぇぇぇーーーーー!!! 侑ちゃんパンチぃぃぃぃーーーー!!」

璃奈 「『喜』っ!」

侑 「ありゃ?」

璃奈 (……怒りほど強力な攻撃ではないけど、喜びは人の幸せを願う心。守るためなら、武器となる!)

82: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/08(火) 00:01:54.61 ID:+YNebb/l
歩夢 「剣!?」

侑 「……せっかくのパンチだったのに、止められちゃったなぁ」

璃奈 「……『怒』と違って、強力な武器ではないけど、小回りが利くし、振りも大きくない。こうして、防御もできるし攻撃もできる。万能の武器」 グググ

侑 「致命傷を負わせない守るための武器……なるほど、『喜』の要素はあるね」

璃奈 「さらに『楽』。知ってる? 薬って漢字には楽って漢字が入ってるんだよ?」

侑 「つまり?」

83: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/08(火) 00:02:51.34 ID:+YNebb/l
璃奈 「……楽しむ心は、苦痛を和らげる。人の幸せを願う『喜』とはまた少し違う。『楽』を使えば私は攻撃力、防御力、あらゆる能力が高くなり、それにダメージもあまりすぐ回復し負わなくなる」

歩夢 「……っ、どんどん不利になってる」

歩夢 (侑ちゃん……!)

侑 「剣には剣だよね……歩夢! 思い出一つよろしく!」

歩夢 「そういえば昔、侑ちゃんと一緒にアイスを買ったよね。棒アイスなんだけど、侑ちゃんが当たりを当てて……」

璃奈 「アイス? 突然なぜ?」

84: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/08(火) 00:04:29.80 ID:+YNebb/l
歩夢 「でも、侑ちゃんが一緒に食べようって言ってくれて、私にも当たりのアイスを食べさせてくれたんだ……ふふ、良い思い出だよね」

侑 「ふむふむ、棒アイスの思い出なんて、センスがあるね、歩夢」 ギシッ

璃奈 「剣!? いつのまに……いやこれは巨大なアイス棒!?」

侑 「『イマジナリーフレンド』は想像力に影響される能力。歩夢が覚えてるエピソードの数だけ、私の武器は増える!!」

璃奈 「なっ!?」

90: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/08(火) 14:05:55.40 ID:+YNebb/l
侑 「悪いけどこの勝負勝たせてもらう! そしたら、あの子たちを戻してもらうからね!」

璃奈 「戻す……」

璃奈 (戻したらどうなるの?)

璃奈 (戻したら私は……またあの無表情の日々に……)

生徒D 『璃奈さんはどう思ってるかは分かりません、でも、私にとって璃奈さんはカッコよくて笑顔が素敵で』

璃奈 (笑顔が素敵で……。そうか、彼女は私が笑ったから……なら、絶対に、この笑顔を消すわけにはいかないっ!!)

91: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/08(火) 14:07:19.38 ID:+YNebb/l
璃奈 「負けないっ、この勝負、絶対に勝つ!!」 グググ

侑 「っ!」

歩夢 「侑ちゃん!!」

歩夢 (侑ちゃんが押し負けてる……やっぱり『楽』の力がでかいんだ……! どうすれば)

侑 「歩夢!」

歩夢 「!」

侑 「あの能力を使う! だから歩夢は気を逸らしてほしい」

92: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/08(火) 14:08:38.92 ID:+YNebb/l
歩夢 「分かったよ侑ちゃん!」

璃奈 「……あの能力?」

璃奈 (イマジナリーフレンド以外に何か能力があるの……? いや、そんなはずない)

璃奈 (だけど想像が実現する能力なら……いくらでも応用が利く? でも、もしそうだとしたら勝つ想像をすれば良い話……それができないなら、そんな完璧な能力ではないはず。気にしてもダメだ、相手が何かを仕掛けてくる前にここで勝負を決めないと!)

璃奈 「何かしたいみたいだけど、させないっ!!」 グググ

侑 「……私だって負けない!!」 グググ

93: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/08(火) 14:09:47.95 ID:+YNebb/l
歩夢 (……気を逸らす。分かったとは言ったものの、具体的にはどうやってすれば……)

歩夢 「あの!」

璃奈 「……」 グググ

璃奈 (耳を貸しちゃいけない……!)

歩夢 「きっとあの人たちは盗んだお金を使っていたんだと思うんです……それに財布にも僅かにお金が残ってたし……なら、被害者全員に返す分のお金は足りなかったはず」

璃奈 「……」 グググ

94: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/08(火) 14:10:48.13 ID:+YNebb/l
歩夢 「あなたがその分を補填したんだよね? それも学生には安くない額の……両親に貸してもらったの?」

璃奈 「! 家族は関係ないっ! 私がパソコンを組み立てて稼いだお金があったから……」

歩夢 「自分で稼いだお金だったとしても、それでも大切なお金でしょ? ……あなた、すごく良い人なんだね」

璃奈 「……」 グググ

歩夢 (本当は良い子のはずなんだ……だからそこを意識すれば上手くいくと思ったけど……隙が生まれない……)

100: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 13:42:04.56 ID:Eo31DxvS
璃奈 「あなたはもう勝てないっ! 潔く帰るのがベストっ!」 グググ

侑 「……悪いけど、私たちにも私たちなりのプライドがあるからね。はい、分かりました、と帰るわけにはいかないんだっ」 グググ

歩夢 「ねえ!」

璃奈 「……っ、しつこいっ! 私はあなたの話を聞く気なんて」

歩夢 「あなたはすごく良い人なのに、どうして感情を奪うの!? どうしてそんなに怒ってるの!?」

101: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 13:42:42.78 ID:Eo31DxvS
璃奈 「……どうしてそんなに怒ってる? なぜそう思うの」

歩夢 「……」

璃奈 「たしかに、あの人たちには怒っていた。でも今の私は至って冷静。それにあなたたちには全く怒ってなんか……」

歩夢 「だって、顔が怒ってるから……」

璃奈 「!?」

璃奈 (えっ……)

102: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 13:43:47.88 ID:Eo31DxvS
侑 「そういえば、仮に『喜怒哀楽』だとしたら、あと一つ『哀』が足りないよね」

璃奈 「! それがどうしたの」

侑 「もしかしてその能力、感情にまつわる能力で、おかしくなってしまった人たちは感情を奪われてしまったんじゃないかな?」

璃奈 「……っ、能力がバレたところで関係ない。このままあなたは負けるの!」

侑 「さらに言えば、奪った感情の部分が強まるとか? そして、感情を奪われた人たちを見たところ、哀しむ心『哀』は残ってるように見えた。その感情は奪ってないよね? だからこそ、他の感情より弱い武器になる」

103: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 13:44:50.29 ID:Eo31DxvS
璃奈 「それがどうしたの。このまま十分『喜』『怒』『楽』だけで勝てる。問題はない」

歩夢 「……もし、奪った感情の分だけあなたの感情も左右されるなら、あなたは今、『哀』に比べてその三つの感情が異様に強くなってるはず。人を哀しむ心が弱くなって、そのいっときの感情で衝動的に動くように……だって、本来のあなたなら、いくら理不尽な相手でも、こんな残酷なことはしない」

璃奈 「!」

侑 「隙ありっ!」 シュッ

璃奈 「!?」

バーンッ

104: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 13:45:30.86 ID:Eo31DxvS
璃奈 「……っ! 地面に吹き飛ばされたけど、すぐに回復してる。まだ戦えるっ!」

侑 「建物のフロートガラス、見てみて」

璃奈 「えっ……」

璃奈 「!」

璃奈 (わ、私、こんなに怒ってる顔を……せっかく表情に出るようになったのに、全然笑顔なんかじゃ……)

歩夢 「侑ちゃん!! 今だよっ!!」

璃奈 「!? な、なにを」

侑 「能力『ときめきを共有して』」

105: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 14:12:00.77 ID:Eo31DxvS
—————

———



助けてっ

つらいっ

私はなんでみんなに伝えられない

楽しいのに

哀しいのに

誰も分かってくれない

106: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 14:12:27.87 ID:Eo31DxvS
いや私が悪いんだ

私が表情にできないから

言葉だけじゃダメかな?

こんなに届けたい気持ちたくさんあるのに!



———

—————

107: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 14:13:18.16 ID:Eo31DxvS
璃奈 「……今のは」

歩夢 「『イマジナリーフレンド』は私の能力。侑ちゃんの能力は『ときめきを共有して』……優しい侑ちゃんだからこそ、みんなの気持ちを解ろうとした侑ちゃんだからこそ、生まれた能力だよ」

侑 「……断片的ではあるけど、相手の気持ちを読み取ることができるんだ。鮮明なものではないけど、それでもちゃんと届いたよ。あなたの気持ち」

璃奈 「っ、あなたに私の何が」

歩夢 「私にも届いたよ」

璃奈 「!」

108: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 14:14:12.03 ID:Eo31DxvS
歩夢 「侑ちゃんの能力で、私にも同じビジョンが見えたの……あなたの願い、叫び、哀しみ。伝えられないと、嘆いてたけれど、私と侑ちゃんには分かったよ!! あなたの気持ちっ!!!」

璃奈 「……いくら言ったって、信じない。そんな能力でわかる思いなんかっ」

侑 「信じてほしい」

璃奈 「!」

侑 「……歩夢にはあんまり言わないでほしいんだけど、私ってイマジナリー、まあ想像じゃん?」 ヒソヒソ

璃奈 「う、うん……」

109: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 14:15:04.39 ID:Eo31DxvS
侑 「その歩夢が願った通りの存在が私ってわけ。歩夢から見たら私は、『優しくてどんなつらさも心から共感できる』子らしいんだ。想像って常に完璧じゃん?」 ヒソヒソ

璃奈 「……」

侑 「そんな完璧な能力が『ときめきを共有して』そう思うと、その能力で歩夢と私に伝わったそれは、本物だと思わない?」 ヒソヒソ

璃奈 「そ、それは……」

侑 「だから信じてよ。あなたの思い、ちゃんと届いたって。届いたことを信じてくれないと、いつまでも気持ちは届けられないよ?」

璃奈 「届いたことを信じる……」

110: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 14:15:48.85 ID:Eo31DxvS
侑 「断片的にしか見えなかったけど、明確に見えたのは、Dちゃんって子だった」

璃奈 「!」

侑 「あなたのために、怪我までしたあの子。早く行ってあげて、あなたを待ってるよ」

璃奈 「で、でも、笑顔を見せられなくなった私じゃ……」

侑 「大丈夫。その子なら、たとえあなたが笑顔を見せられなくても、ちゃんと思いが伝わるから……怖がらなくてもいい」

璃奈 (笑顔を見せられなくても……思いが伝わる……)

111: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 14:17:05.34 ID:Eo31DxvS
侑 「もし、またあの人たちが悪いことをしようとしたら、私たちが必死に止める。だから、あなたはただ、今の気持ちに正直になって。ここで止まらないで」

璃奈 「……ごめんなさい。そして、ありがとう」

歩夢 「こっちこそありがとう!」

璃奈 「! なぜあなたがお礼を言うの?」

歩夢 「えっと……私たちの知らないところで、あなたがこの学校の人を助けてくれたから……かな? ううん、本当はパッとした理由なんてなくて、なんとなく。なんとなくお礼が言いたくなっちゃったの!」 エヘヘ

112: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 14:17:38.26 ID:Eo31DxvS
璃奈 「……」

歩夢 「だからありがとう!」 ニコッ

璃奈 「……あなたたちには必ず恩を返す。でも今は」

侑 「うん、いってらっしゃい」 ニコッ

璃奈 (待ってて!)

タタタタ

タタタタ






116: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 17:59:05.97 ID:Eo31DxvS
生徒D 「……」 ドキドキ

生徒D 「大丈夫かな、璃奈さん……」

璃奈 「あのっ!」

生徒D 「! 璃奈さん!」

璃奈 「えっと、その……」

璃奈 (傷だらけになってる……やっぱり私を庇ってくれたから……)

生徒D 「あっ、傷のことは気にしないで! 私は璃奈さんにお世話になりっぱなしだから、このくらい」

ダキッ

117: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 17:59:50.52 ID:Eo31DxvS
璃奈 「……ありがとう。でも無理しないで」

生徒D 「璃奈さん……?」

璃奈 「言いたいことがあるの」

生徒D 「言いたいこと……?」

璃奈 「あなたに、表情は嘘をつけないって言ったよね」

生徒D 「う、うん」

璃奈 「でも、違うの、私は表情で嘘をついちゃったんだ……。私は本当は、感情が上手く表情に出せなくて、あなたが褒めてくれた笑顔も、手品みたいなもの。つまり偽りの笑顔だったの」

118: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 18:01:00.29 ID:Eo31DxvS
生徒D 「あの笑顔が手品?」

璃奈 「……そう。本当の私は、どんな思いも顔に出せない、そんな手品に頼ってしまうような弱い人間。ごめんなさい、あなたを騙すようなことを」

生徒D 「それならあの言葉も、あの思いも、璃奈さんが私を助けてくれたのも、全部嘘なの?」

璃奈 「そ、それは!」

生徒D 「分かってる。嘘じゃないよね。だって見えたんだもん、璃奈さんの笑顔が」

璃奈 「? どういうこと、私の笑顔は嘘っぱちで……」

120: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 18:20:18.34 ID:Eo31DxvS
生徒D 「心が笑ってるっていうのかな、璃奈さん、私には見えたよ、本当の璃奈さんの笑顔が!」

侑 『大丈夫。その子なら、たとえあなたが笑顔を見せられなくても、ちゃんと思いが伝わるから……怖がらなくてもいい』

璃奈 「!」

生徒D 「璃奈さんは表情に出せないって悩んでるけど、璃奈さんの心、ちゃんと通じたよ。だからほら笑って。明るい璃奈さんと話したい!」 ニコッ

璃奈 「……」 ポロポロ

生徒D 「ええっ!? 泣いてる!?」

121: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 18:20:50.45 ID:Eo31DxvS
璃奈 (……そうか。ちゃんと、ちゃんと、思いは届いてたんだ。心でちゃんと)

璃奈 「……ありがとう」 ポロポロ

生徒D 「璃奈さん……」

生徒D 「……」

生徒D 「うん! どういたしまして!」 ニコッ

璃奈 (本当に私の笑顔が彼女に見えたかどうかなんて分からない。表情に出ない私でも、心が反映されたかどうかなんて……)

璃奈 (でも、いい。そんなのいい。根拠なんかいらない。信じてみよう)

璃奈 (私の思い、願い。届いたことを……信じてみよう)

璃奈 (ありがとう……)






123: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 18:25:24.15 ID:Eo31DxvS
かすみ 「……それで、『喜怒哀楽』の子は進化しそうなの?」 プクー

?? 「なんだか機嫌が悪そうだね、かすみさん。何かあったの?」

かすみ 「歩夢先輩に今日の放課後遊ぼうって言ったけど、断られちゃったんだ」

?? 「そ、そうなんだ……相変わらず子供みたいだね」

かすみ 「こ、子供!?」

?? 「だって遊びの誘いを断られただけでそんなに拗ねてるんでしょ?」

かすみ 「それはそうだけど……でも流石に子供はひどくない!?」

124: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 18:26:52.08 ID:Eo31DxvS
?? (……はぁ。かすみさんはこういうところがあるからなぁ)

?? (それにしても、なんて説明しよう。進化するチャンスだったのに、何者かに邪魔されて感情を奪うのをやめちゃったって……)

?? (しかも何人も同時に監視してるから仕方ないとはいえ、見てないときだったから邪魔した人も分からないし)

?? (もうめんどくさいから、適当言っちゃおうかな。目的としては、誰か一人でも完全に進化してくれれば良いわけだから……他の優秀な候補者を探せば大丈夫だよね?)

?? 「それで、その能力者のことなんだけど……」

125: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/09(水) 18:28:20.91 ID:Eo31DxvS
かすみ 「そうだ、『喜怒哀楽』の能力者はどうなったのさ!」

?? 「時間はかかりそうだけど順調に進化してきてるよ……でも獲物は吟味してるみたいで、自分が欲しい感情は違うところにあるってかなり遠いところに引越ししちゃった」

かすみ 「ええっ!?」

?? 「安心して。ちゃんと監視してるから」

かすみ 「ならいいけど……」

?? (ふんっ、普段私をこき使ってるくせに、その上原さんって人に夢中になってるからこれは罰だよかすみさん……かすみさんのバカっ!)






130: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 01:40:44.07 ID:zP/iI+Ja
侑 「うーん! 今日も良い朝だね!」

歩夢 「そうだね、侑ちゃん……」

侑 「? また歩夢元気ないみたいだけど……どうしたの? あの人たちにも感情は返したし、無事解決したじゃん」

歩夢 「えっとね、私たち、これで良かったのかなぁ……って」

侑 「というと?」

131: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 01:41:41.55 ID:zP/iI+Ja
歩夢 「あの子は間違ってたと思う……でも、あの子の悩みや助けたいって気持ち、それに偽りはないと思うんだ」

侑 「そうだね……あの子は、やり方は間違ってたけれど、でも、良い子だよ」

歩夢 「無事Dちゃんって子と分かり合えたのかな? ちゃんと表情に出なくても通じ合えたのかな?」

侑 「……」

歩夢 「私たちが彼女を止めたこと、それが正解だったのかなって」

132: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 01:42:42.09 ID:zP/iI+Ja
侑 「……能力をコントロールし切れない人は、必ず苦しむことになる」

歩夢 「!」

侑 「だから私たちにできることをしよう、そう決めたのは歩夢でしょ?」

歩夢 「うん……」

侑 「それに、悪いことをしてた人たちも、『哀』の感情だけにしばらくなっていたからか、すごく反省してたし、もう悪いことはしないと思うよ? あの子のやったことも、それを止めた私たちも、決して無駄じゃなかったんだよ」

侑 「……まあ逆に言えば、良くも悪くも、人はそこまでしないと変われないってことだけどね」 ボソッ

133: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 01:44:12.06 ID:zP/iI+Ja
かすみ 「歩夢先輩! おはようございます!」

歩夢 「あっ、かすみちゃん、おはよう……」

かすみ 「今日こそは私と一緒に遊んでくださいね!?」

歩夢 「うん、もちろんだよ」

かすみ 「えっとじゃあ二人でゲームセンターに行きましょう! 次にパフェを食べに寄って」

歩夢 「……またパフェなんて、かすみちゃん、太っちゃうよ?」 フフ

かすみ 「なっ! アイドルは太らないんです!」

侑 「それはないでしょ」

134: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 01:45:53.62 ID:zP/iI+Ja
キンコンカンコーン

かすみ 「ってまた相変わらず歩夢先輩との時間を邪魔するチャイムの鐘!!」

歩夢 「ふふ、じゃあまた放課後だね、かすみちゃん」

かすみ 「それと!」

歩夢 「?」

かすみ 「歩夢先輩の思い、しっかり受け取りましたから! 頑張りましょう、スクールアイドル! 今日は精一杯遊んで、明日からは練習の日々ですから!」

歩夢 (……スクールアイドル!)

136: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 01:58:18.98 ID:zP/iI+Ja
侑 「これからたくさんやることいっぱいだし、悩んでる暇はないよ歩夢!」

歩夢 「侑ちゃん……」

侑 「大丈夫! 歩夢のやったことは間違いじゃない!」

歩夢 「……うん、そうだね。頑張るよ! かすみちゃん頑張ろう!」

かすみ 「はい、もちろんです!!」

137: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 01:59:22.74 ID:zP/iI+Ja
歩夢 「……」

かすみ 「……」

侑 「……とっくにチャイム鳴ってるけど大丈夫?」

歩夢 「って遅刻しちゃうよ!?」

かすみ 「た、大変です!!」

タタタタ

タタタタ






138: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:00:34.60 ID:zP/iI+Ja
璃奈 「あの……」

歩夢 「! あなたは……」

璃奈 「改めてお礼を言わせてほしい」

歩夢 「えっ、大丈夫だよ! あのときも言ったでしょ? 私もあなたにお礼を言いたかったんだから!」

璃奈 「……私は天王寺璃奈」

歩夢 「!」

璃奈 「名前で呼んでほしい。そして、もし良かったら、あなたと、友達になりたい。それと、そこにいるんだよね?」

侑 「!」

139: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:01:58.63 ID:zP/iI+Ja
璃奈 「……あなたもありがとう。あなたとも、友達になりたい」

歩夢 「璃奈ちゃん……! えっと、私の名前は上原歩夢。こっちにいるのは私の幼馴染の高咲侑ちゃん!」

侑 「よろしくね、璃奈ちゃん!」

歩夢 「……よろしくね、璃奈ちゃん。これから仲良くしてね?」 ニコッ

璃奈 「うん!!」

歩夢 (……もうあの能力は使わないんだね。表情が変わらない。でも、なんとなくだけど、笑ってる気がするよ)

歩夢 (良かったね、璃奈ちゃん)

140: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:04:46.42 ID:zP/iI+Ja
生徒D 「璃奈ちゃん?」

璃奈 「! あ、ごめんね、すぐ行くよ!」

侑 「……共有したときに聞こえた声は、『さん』だったのに、いつのまにか『ちゃん』になってる。仲良くなれたんだね」

歩夢 「ふふ、璃奈ちゃん、Dちゃんが待ってるよ?」

璃奈 「で、でもまだ私はあなたたちに恩返しができてない。お礼もまだ不十分……」

歩夢 「友達が増えた。それだけで私にはすごく嬉しいプレゼントだよ、ねえ侑ちゃん?」

141: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:05:58.67 ID:zP/iI+Ja
侑 「……うん、歩夢は依存しすぎるところがあるから、最近は友達が他に増えてて安心したよ」

歩夢 「ちょっと侑ちゃん?」 ジッー

侑 「ひっ! なんでもないです!」

歩夢 「ふふ。だから璃奈ちゃんは気にしないで大丈夫だよ。もし気になるなら、今度は一緒にどこか遊びに行こう? それだけですごく私は嬉しい!」

璃奈 「……歩夢さんも、侑さんも、とても良い人。もしも、あなたたちが困ったときは絶対に助ける」

璃奈 「私は、あなたたちのおかげで、表情が全てじゃないって分かったから。そして……私の思いに気付いてくれてありがとう」

142: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:06:46.22 ID:zP/iI+Ja
タタタタ

タタタタ

侑 「……どう、歩夢。これでも私たちは余計なことをしちゃったと思う?」

歩夢 「……ううん。頑張って良かったって思う」

侑 「だね。ほら放課後はかすみちゃんが待ってるし、もう少し頑張ろう?」

歩夢 「うん!」






143: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:10:56.21 ID:zP/iI+Ja
かすみ 「よしっ! そこだ!」

歩夢 「負けないよーーっ!」 カンッ

かすみ 「って、うぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」

歩夢 「やった、私の勝ちっ!」

かすみ 「ぐぬぬぬ……エアホッケーにも勝てないなんて……歩夢先輩、ゲーム強すぎですよ!!」

歩夢 「まあクソゲーで鍛えてるからね」

かすみ 「?? 聞き間違えですか?」

144: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:11:53.56 ID:zP/iI+Ja
テッテレーー!

生徒J 「愛! すごいじゃん!」

生徒K 「最高得点だって!」

愛 「ふふっ、愛さん、こういうゲーム得意だからね!」

かすみ 「うわっ、すごいですよ! 最高得点!」

歩夢 「あのゲーム……結構難しいのに。同じ虹ヶ先の制服だし今度一緒に勝負したいなぁ……まあとりあえずかすみちゃんを倒しまくろう」

かすみ 「なんでですか!?」

145: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:13:38.36 ID:zP/iI+Ja
生徒J 「これで愛、大体ここのゲーム制覇したんじゃない?」

生徒K 「スポーツもできるし、勉強もできるし、はたまた人気者だし、本当愛って完璧だよね」

愛 「あはは、そんなに褒めないでよ。完璧なんかじゃないって。それより今度は向こうのゲームセンターに行ってみない? いっちょカートで勝負だ!」

生徒J 「おっ、いいね! 行こう行こう」

生徒K 「よしー! 出発っ!」

146: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:15:11.26 ID:zP/iI+Ja
かすみ 「かすみんたちもそろそろ移動しましょうか。今日もあそこのお店のパフェを食べましょう!」

歩夢 「かすみちゃん、よっぽどあのパフェが美味しかったんだね」

かすみ 「そうなんですよ。普段パフェはよく食べてるはずなのに、こないだ行ったあそこのパフェは特別美味しく感じて……なんでだろう」

生徒J 「その前に食べ物屋行かない? お腹空いちゃった。あそこのハンバーガー屋とかどう?」

生徒K 「あそこのハンバーガー屋なら一人ででも別に行けるでしょ。わざわざ友達がいるときに行かなくても……」

147: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:15:56.70 ID:zP/iI+Ja
愛 「いや行こうよ! これはね、愛さんの経験則なんだけど、同じ食べ物でも、仲の良い友達と一緒に食べると数倍美味しく感じるの!」

生徒J 「あっ、それ分かる気がする!」

生徒K 「ふふ、そんなこと言われちゃったら、行くしかないよね」

かすみ 「……」

歩夢 「……」

侑 「ふふっ」

歩夢 「えっと、かすみちゃん、特別美味しく感じてくれてるのは私と侑ちゃんが一緒にいたからだったりするのかな……?」

かすみ 「もう何も聞かないでください……///」 カァァ






149: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:16:49.07 ID:zP/iI+Ja
歩夢 「うんっ、やっぱりすごく美味しい」

かすみ 「そうですよ! このパフェが特別美味しいんです!! 決して歩夢先輩と一緒にいたからではなく……」

歩夢 「そうなの?」

かすみ 「……あ、いや、別に歩夢先輩と一緒にいることが嫌なわけじゃなくて、えっと、その」 アセアセ

歩夢 「ふふ。かすみちゃん、面白いね」

かすみ 「あーー!! 歩夢先輩!! かすみんをからかいましたね!?」

歩夢 「そんなことないよ……多分」

かすみ 「むぅ……!」

150: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:19:45.99 ID:zP/iI+Ja
侑 「相変わらず美味しそうだね」

歩夢 「だから侑ちゃんも食べればいいのに」

侑 「ダイエットの道は長いのだ」

歩夢 「またそんなこと言って!」

かすみ 「そういえば、歩夢先輩! この動画を見てください!」

歩夢 「また同じパフェの動画?」

かすみ 「そうです! 東雲学院の大人気スクールアイドル! 近江遥ちゃんのパフェ紹介動画ですよ!」

151: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:20:50.28 ID:zP/iI+Ja
歩夢 「パフェの魅力は十分分かったよ?」

かすみ 「そういうことではなく……歩夢先輩はスクールアイドルを目指すんですよね?」

歩夢 「!」

かすみ 「本格的な練習は明日からですけど、もう大人気アイドルへのスタートダッシュは始まってるんですよ! 人気なスクールアイドルのこういう動画から、学べることは学ぶんですっ!」

歩夢 「……なるほど、そうだよね。ごめんね、かすみちゃん。私、改めてちゃんと見てみるよ!!」

かすみ 「その意気ですっ!!」

152: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:21:45.99 ID:zP/iI+Ja
遥 『このパフェ……すごく美味しいです! 特に中に入ってるバナナとチョコが甘くて良いですね』

歩夢 「食レポが上手だね」

かすみ 「それもそうですけど、ポイントはこの顔ですよ。美味しそうに食べる表情が最高に可愛いんです」

店員 「……」 ジッー

153: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:22:31.80 ID:zP/iI+Ja
店主 『そう言ってくださると嬉しいです。材料にはこだわってるんですよ』

遥 『なんだかお姉ちゃんのチョコバナナ蒸しケーキを思い出すなぁ……』

歩夢 「お姉ちゃんがいるんだね」

かすみ 「こうやってお姉ちゃんっ子アピールをするところも最高に上手いですし、何よりお姉ちゃんの作ってくれるケーキが好きっていうことを言うことで、良い子アピールができるんですよ。これを素でやってそうなのが恐ろしい」

店員 「流石遥ちゃん……!」

154: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:23:44.74 ID:zP/iI+Ja
店主 『……お姉ちゃん?』

遥 『はっ! なんでもありません!』

歩夢 「天然? なのかな」

かすみ 「くぅ、憎いっ。真面目な天然ほど人気の出るものはないんですよ。出るべくして出たスクールアイドルですね」

店員 「分かってるじゃないか、君」

歩夢 「……」

かすみ 「……」

店員 「……」

かすみ 「いや普通に話しかけてきてるけど誰!?」

155: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:25:00.61 ID:zP/iI+Ja
店員 「……仕事中なのすっかり忘れちゃってたよぉ。えっと、その制服、虹ヶ先学園だよね?」

歩夢 「? そうですけど、あなたもそうなんですか?」

店員 「ふっふっふっ、私はね」

彼方 「近江彼方。ライフデザイン学科の三年生で、その遥ちゃんのお姉ちゃんだよ」

かすみ 「お姉ちゃん……? 近江……?」

彼方 「その動画の再生数の千回くらいは彼方ちゃんの自信があるよ〜!」

かすみ 「ええっ!? 近江遥ちゃんのお姉ちゃん!?」

156: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:26:52.55 ID:zP/iI+Ja
彼方 「君たち、こないだも来てたよね。そのときも遥ちゃんの動画を見てたから気になってはいたんだけど、今回はついに話しかけちゃった」

歩夢 「すごい……! まさかこの子のお姉ちゃんに会えるなんて……」

彼方 「えっと、君たち、このお店を気に入ってくれたの?」

かすみ 「気に入ったというかまだ二回目ですけど……でも多分、これからは練習帰りによく寄ると思います」

彼方 「なら嬉しいな〜。まさか仕事場で遥ちゃんの話が聞けるとは思ってなかったよ」

158: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:29:01.29 ID:zP/iI+Ja
歩夢 「妹さんのこと、大好きなんですね」

彼方 「うん!! それこそ遥ちゃんがいるから、毎日頑張れてるようなものだから!!」

かすみ (……近江遥ちゃんのお姉ちゃん)

かすみ (もしかして大人気スクールアイドルの秘訣とか聞けるのでは!?)

かすみ 「彼方先輩!」

彼方 「うーん? なんだい?」

159: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:30:23.24 ID:zP/iI+Ja
かすみ 「きっとかすみんたち、このお店のこの時間に、これからも何度も来ると思います……だから、彼方先輩からも遥ちゃんについて教えてくれませんか?」

彼方 「彼方ちゃんが遥ちゃんのことをあなたに?」

かすみ 「はい! かすみんたちスクールアイドルを目指してるんです! ね? 歩夢先輩!」

歩夢 「う、うん!」

彼方 「ほほぅ〜。遥ちゃんと同業者ってことだね」

彼方 (遥ちゃんのことを知って、自分たちも人気になりたいって感じかな)

160: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:31:27.38 ID:zP/iI+Ja
彼方 (うーん……プライベートまで知りたがるファンってわけでも、相手の弱みを握ろうとする悪質なライバルってわけでもなさそうだし……そもそも成功するには多大な努力が必要で裏技なんかないわけだし……問題ないかな。それにこの子たちから見た遥ちゃんも知りたい!)

彼方 「よしっ、いいよ! そのかわり二人から見た遥ちゃんも教えてねー? 彼方ちゃん、遥ちゃんのこと、もっと分かりたいんだ!」

かすみ 「もちろんです! よろしくお願いします、彼方先輩!」

歩夢 「よろしくお願いします」 ペコッ

彼方 「ふふ、苦しゅうない、苦しゅうない」

161: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 02:32:40.40 ID:zP/iI+Ja
店長 「近江さん」

彼方 「……」

かすみ 「……」

歩夢 「……」

店長 「聞こえなかったのかな、もう一度言うね……近江さん」

彼方 「はい」

店長 「あとちょっとで終わりだから気が抜けてるのかもしれないけど、まだ彼方さんの仕事終わってないから」

彼方 「……すみません」






162: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 03:10:43.25 ID:zP/iI+Ja
彼方 「あはは、さっきはどうなることかと思ったけど、バイトが終わった後にこんなに遥ちゃんについて話せるなんて……すごく楽しかったよ。ありがとう二人とも」

かすみ 「いえいえ、かすみんも学ぶことがたくさんありましたし、彼方先輩と話すのとっても楽しかったです!!」

彼方 「そう言ってくれると嬉しいよ〜。歩夢ちゃんも、話してくれてありがとう。学校とかでも見かけたら話しかけてくれたら嬉しいな」

歩夢 「私も彼方さんと話せてとても楽しかったです! 学校でもぜひ話してください!」

163: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 03:11:33.14 ID:zP/iI+Ja
彼方 「……あっ、そろそろスーパーのバイトの時間だ。ごめんね、二人とも」

かすみ 「ええっ!? さっきバイトが終わったのにまたバイトがあるんですか!?」

彼方 「働いた分だけお金が貰えるからね〜。そりゃあ、頑張るよ」

歩夢 「あ、あの今日はありがとうございました、彼方さん!」 ペコッ

かすみ 「彼方先輩とのお話、すごく楽しかったです!」

彼方 「ふふ、こちらこそだよ。じゃあまたね、二人とも〜!」 ニコッ

タタタタ

タタタタ






164: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 03:12:21.58 ID:zP/iI+Ja
イラッシャイマセー

コノショウヒン ナラベテクレル?

ワカリマシタ!

彼方 「ふぅ、最近は不景気だけど、仕事の忙しさは変わらないよぉ」

店長 「……あの、近江さん」

彼方 「? どうしたんですか、店長?」

店長 「少し話があるんだけど、大丈夫かな」

彼方 「もちろん大丈夫ですよ」

タッタッ

タッタッ

165: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 03:13:15.36 ID:zP/iI+Ja
店長 「……」

彼方 「?」

店長 「率直に言うとね」

彼方 「は、はい!」

彼方 (もしかして彼方ちゃん、何かミスでもしちゃったのかな……)

店長 「近江さんは、今月いっぱいでこのお店を辞めてもらいたいんだ」

彼方 「えっ……」

166: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 03:13:59.02 ID:zP/iI+Ja
店長 「申し訳ない。不景気の今、削減するとしたら人件費。それも一番若い人になってしまうんだ……」

彼方 「えっと……あっ、クビということですよね……」

店長 「本当に申し訳ない。君の仕事には何も問題はないんだ、むしろ本当に頑張ってくれていると思う。なのに、こんなことになってしまって……すまない」 ペコッ

彼方 「て、店長、頭を下げないでください……! 事情は分かりますから」

店長 「本当にすまない……っ!!」

彼方 「……」






167: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 03:15:39.42 ID:zP/iI+Ja
彼方 「……これからどうしようかな」

彼方 (貯金も少しあるし、バイトだって他にやってるの何個もあるし、大丈夫だとは思うけど……)

彼方 「特に給料のいいバイトだったから、やっぱり痛いよね……」

彼方 (でも遥ちゃんが安心して学校に通えるために。のびのびとスクールアイドルができるように。もっと頑張らなくちゃダメなんだ)

彼方 「えっと、まずは、募集してるところを探して……」

?? 「何かをするにはお金が必要。でも、お金を手に入れるには何かをしなくちゃいけない。なんとも、矛盾を感じる概念です」

彼方 「! だ、誰!?」

168: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 03:16:41.55 ID:zP/iI+Ja
?? 「しかし、そんなのお金があれば悩むことはありません! お金があれば、あなたは自由! 大切な人に笑顔を届けることも余裕にできる!」

彼方 「……怪しい商法とかなら、結構ですっ!!」

?? 「怪しい商法……まあ似てはいますが、こちらは本物。似て非なるものですよ。お金が無限に出せる力、欲しくないですか?」

彼方 「! お金が無限に出せる……?」

?? 「私、あなたにその力を差し上げられる、不思議な機会を持ってるのです。どうです? 悪くないでしょう。乗ってみませんか?」

彼方 「……断る」

169: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 03:17:58.35 ID:zP/iI+Ja
?? 「安心してください。契約書などは一切書いていただかなくて構いません。ただの善意ですから」

彼方 「……っ、それでも断るよ。仮にお金が出せたとしても、そんなの申し訳なくて受け取れない。自分で稼いだものじゃないとお金は使えないよ」

?? 「何を言ってるのです? 私は能力を発動させるきっかけを与えるだけ。そのお金を無限に増やせる力を元々秘めてたのは、あなたなんですよ?」

彼方 「彼方ちゃんが……そんな能力を……?」

170: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/10(木) 03:19:18.20 ID:zP/iI+Ja
?? 「自分の能力を使うだけの何が悪いんですか。ライオンがその牙を使うことを、熊がその爪を使うことを、禁止されるようなものです。自然の摂理を理解することこそ、お金を手に入られるチャンスですよ」

彼方 「で、でも……」

?? 「どうです? クーリングオフできるかは分かりませんが、あなたの家の押し入れの奥にある、掘り出し物を使うようなもの。損はないはずですよ?」

彼方 「……」

?? 「ふふ、答えは決まったみたいですね。頑張ってください、大切な誰かのためにも……」






178: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 00:46:46.05 ID:u+ZTOdwA
侑 「今日も色々あったねぇ……良かったね、歩夢。また友達ができて」

歩夢 「うん。璃奈ちゃんも彼方さんも、すごく良い人たちで、これからもっと仲良くなれるよう頑張らなくちゃ!」

侑 「彼方さんに関しては本当に会ったばかりだったのに、かすみちゃんも歩夢もすぐ打ち解けたよね」

歩夢 「そうだね。かすみちゃんは近江遥ちゃんの話がたくさん聞けるってワクワクしてたし、私は単純に彼方さんと話すのがすごく楽しかったなぁ」

179: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 00:49:08.26 ID:u+ZTOdwA
侑 「ふふ、良かったね、歩夢。明日からはスクールアイドルの練習が始まるんでしょ? そこから帰りにあそこのお店に寄るって感じかな」

歩夢 「そうだと思う。そういえばスクールアイドルの練習って具体的にはどんなことをするんだろう?」

侑 「うーん、それはかすみちゃんに聞いてみないとね。たしか明日は昼休みに会うんだったっけ?」

歩夢 「うん。明日からは昼休みと放課後が練習時間の予定だよ」

侑 「おおっー、本格的に忙しくなってくんだね。歩夢、私も全力で応援するから、頑張っていこうね!!」

歩夢 「うん!!」

180: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 00:50:09.28 ID:u+ZTOdwA
歩夢 (璃奈ちゃんとも友達になれて、彼方さんとも友達になれた。明日からはかすみちゃんとスクールアイドルを目指す日々)

歩夢 (学校でもたくさん話せたらいいな。璃奈ちゃんと遊んだり、彼方さんとお喋りしたりして、それでいて、かすみちゃんと楽しく頑張れたらいい……。選択肢がたくさんある……!)

歩夢 (なんだかすごい幸せな気分……)

歩夢 (だけど、友達の輪が広がるたび思う。それでも私にとって侑ちゃんは)

181: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 00:50:58.00 ID:u+ZTOdwA
歩夢 「侑ちゃん」

侑 「? どうしたの、歩夢?」

歩夢 「侑ちゃんはずっと、私の幼馴染だよ」

侑 「……? 当たり前じゃない」

歩夢 「……あっ、そうだよね」

侑 「ふふ、今の歩夢、ちょっと面白かった」

歩夢 「侑ちゃん? 私ネタで言ったわけじゃないよ?」

侑 「知ってるよ」

182: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 00:51:41.52 ID:u+ZTOdwA
歩夢 「ほんと?」

侑 「うん」

歩夢 「……」 ジッー

侑 「……」

歩夢 「ほんとにほんと?」

侑 「あはは、ごめん。少しからかったかも」

歩夢 「もう侑ちゃんったら!」

侑 「……ふふ、まあともかく、これからもよろしくね、歩夢」

歩夢 「もちろんだよ、侑ちゃん」






183: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 00:53:00.44 ID:u+ZTOdwA
ガチャ

彼方 「遥ちゃん、ただいま〜」

遥 「おかえり、お姉ちゃん! バイトお疲れ様」

彼方 「うん。ありがとう。遥ちゃんは勉強?」

遥 「えっと、次のライブのアイデアをまとめてるの」

彼方 「ライブ!? 彼方ちゃん、その日は他に何も予定を入れないでおくよ!! 何日か教えて?」

185: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 00:54:30.12 ID:u+ZTOdwA
遥 「あはは、お姉ちゃんまだ日付は決まってないよ」

彼方 「えっ、そうなの? えへへ、彼方ちゃん早とちりしちゃった。じゃあ着替えてくるからちょっと待っててね」

遥 「うん。あっ、お姉ちゃん! 実は後で一つ相談があって……」

彼方 「相談? うん、全然問題ないよ!」

遥 「ありがとう。じゃあ待ってるね」

彼方 「うん! すぐ戻ってくるよ!」

タッタッ

タッタッ

186: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 00:55:55.20 ID:u+ZTOdwA
遥 「……」

遥 (お姉ちゃん。今日もバイトを二つも連続でして帰ってきた)

遥 (私のためだって分かってる。でも、それでも!)

タッタッ

タッタッ

彼方 「おまたせ、遥ちゃん! それで相談って何かな?」

遥 「お姉ちゃん、あのね」

彼方 「うん」

187: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 00:57:32.00 ID:u+ZTOdwA
遥 「私、お姉ちゃんのお手伝いをしたいの」

彼方 「!」

遥 「このままじゃお姉ちゃん、体壊しちゃうよ……私より早く起きて、家事もほとんどやってくれて、アルバイトもして、奨学金のことがあるから夜遅くまでずっと勉強を頑張ってて、いつも寝るのは私よりもずっと後……」

彼方 「そ、そんな彼方ちゃんは全然平気だよ!? 遥ちゃんはスクールアイドルで忙しいでしょ? 家事やお金のことは気にしなくていいから、遥ちゃんには夢を追いかけてほしいんだ」

遥 「でもそしたらお姉ちゃんが!」

188: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 00:59:15.46 ID:u+ZTOdwA
彼方 「お願いっ」

遥 「!」

彼方 「彼方ちゃんは、遥ちゃんの幸せが一番なの。彼方ちゃんが頑張れるのも遥ちゃんのおかげ。だから、遥ちゃんに手伝わせちゃったら本末転倒なんだ。だからお願いっ」

遥 「で、でも」

彼方 「ね?」

遥 「……う、うん」

彼方 「ほらご飯にしよう? すぐ作れるように朝のうちに仕込んであったのがあるから」

189: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 01:00:30.17 ID:u+ZTOdwA
遥 「……」

彼方 「遥ちゃん?」

彼方 (遥ちゃんは私に気を遣ってくれたんだよね……それを無下にするなんてダメだよ!)

彼方 「彼方ちゃんは料理を作るけど、食器を用意するのは大変だな〜」

遥 「! 今運ぶね!」

彼方 「ふふ、ありがとう遥ちゃん」

190: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 01:01:52.13 ID:u+ZTOdwA
彼方 (こんなに優しい子に育ってくれたなんて、彼方ちゃんすごく嬉しい)

彼方 (でも、そんな遥ちゃんを心配させるなんて、彼方ちゃんはお姉ちゃん失格だよ……)

彼方 (彼方ちゃんの能力『ライフイズマネー』……お金が無限に出せる力らしいけど、やっぱり少し怖い)

彼方 「彼方ちゃん……一体どうすればいいんだろう……」 ボソッ






193: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 01:38:14.37 ID:u+ZTOdwA
?? 「かすみさん、一人の能力者を覚醒させました。まだ、能力を使うことにかなり抵抗がありそうですが……」

かすみ 「ありがとう。しず子。それでその能力名は」

?? 「『ライフイズマネー』強く願えば、一円玉でも、一万円札でも、いくらでもお金が出せる能力です。もちろん、ドル等にも対応しています」

かすみ 「お金が出せる……。なんていうか、学生には喉から手が出るほど欲しい能力だね……。でも現時点で無限にお金が出せるんでしょ? それって進化の余地はあるの?」

194: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 01:39:58.02 ID:u+ZTOdwA
?? 「あの能力は、進化することはないでしょうね」

かすみ 「はぁ? それじゃ能力を覚醒させる意味がないじゃん。私たちは能力の進化の果てを求めてるんだから」

?? 「ええ。『ライフイズマネー』には進化の余地は残されてません」

かすみ 「……その言い方少し気になるね。もしかして世にも珍しい二刀流?」

?? 「勘がいいですね、かすみさん。その通りです、彼女はもう一つ能力を持ってる二刀流なんです」

かすみ 「そして、そちらの方の能力は進化する可能性があると」

?? 「はい。私の目に狂いはありません」

195: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 01:40:52.46 ID:u+ZTOdwA
かすみ 「……なるほどね。そっちの能力も覚醒させたの?」

?? 「ええ、彼女には話してませんが。それにあの能力は進化させてからが本番の能力。条件もあまり単純じゃないので、彼女には秘密にして自然にそうなるように願うだけにしました」

かすみ 「……まあその能力の具体的な内容はおいおい聞くことにして、その条件っていうのは?」

?? 「『明確な現実逃避』彼女が完全に現実逃避へ走ったときに、ようやくその能力は芽を伸ばすのです……」






198: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 15:46:12.69 ID:u+ZTOdwA
キンコンカンコーン

侑 「あっ、昼休みだね、歩夢」

歩夢 「うん。そろそろかすみちゃん、来るかな?」

ガラッ

かすみ 「歩夢先輩ーー! お待たせしましたーー! 早速練習ですよ!」

歩夢 「うん。頑張ろう! かすみちゃん! ところで練習って具体的に何をするの?」

かすみ 「それはですね、ダンスの練習だったり、歌の練習だったり、可愛さの練習だったりするんですが……まずは」

歩夢 「まずは?」

199: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 15:47:29.81 ID:u+ZTOdwA
かすみ 「基礎練習ですっ! 体力がないと大変ですから!」

歩夢 「基礎練習……大変そうだね」

侑 「もしかして歩夢、怖気ついちゃった?」

歩夢 「そんなことないよ。確かに大変そうだけど、基礎練習が大切なのは分かるから……頑張るよ!」

かすみ 「しかし、残念ながらかすみんたちには練習メニューというものが存在しません。かすみんなりの独自メニューはあるにはありますが、これも理にかなってるかは分かりませんし……」 ムムム

かすみ 「そこで特別ゲストをお呼びしました!」

歩夢 「特別ゲスト?」

200: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 15:48:57.37 ID:u+ZTOdwA
彼方 「ふっふっふっ、やる気十分だね、二人とも!」 サッ

歩夢 「彼方さん!」

彼方 「東雲学院の練習メニューを彼方ちゃんが一部アレンジした特別メニュー。それを二人にはやってもらうよ? あ、一応遥ちゃんたちにも許可を貰ってるから安心してね」

かすみ 「東雲学院の練習メニュー……! 遥ちゃんもそうですが、なぜ他のみなさんも許可をくれたんでしょうか。普通ライバルに教えたくないですよね?」

彼方 「うーん、まあ練習が全てってわけではないし、何も特別なことはしてない、努力がものを言うタイプの練習メニューだからじゃないかな?」

かすみ 「な、なるほど……つまりかすみんたちじゃ真似できないって、なめられてるってことですよね……! 燃えてきましたーー! 絶対に負けるわけにはいかないですっ!!」 ゴゴゴゴ

彼方 「そうは言ってないよぉ」

201: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 15:49:40.91 ID:u+ZTOdwA
歩夢 「あ、あの、彼方さんが練習を見てくれるんですか?」

彼方 「うん、そのつもりだよ。遥ちゃんのことを二人からもっと聞きたいしまさにwin-winの関係だよ〜」

歩夢 「そうなんですね!」

彼方 「ん? 彼方ちゃんの指導じゃ物足りなかったかな?」

歩夢 「そんなことないです! ただ、彼方さんとまた喋られるのが嬉しくて……」

彼方 「あっ、そうなんだね……ありがとう……」

彼方 (歩夢ちゃん、分かってはいたけどめちゃくちゃ良い子だよぉ! 彼方ちゃん、嬉しくて涙出そうだもん!)

202: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 15:50:29.88 ID:u+ZTOdwA
かすみ 「それで早速練習ですが、何をすればいいんでしょう?」

彼方 「じゃあまずは、十分間、結構なスピードで走ってもらうよ」

かすみ 「十分間!?」

彼方 「……スクールアイドルを目指すなら短い方だよね?」

かすみ 「! そ、そうですよ! 当たり前じゃないですか! 行きましょう歩夢先輩!」 タタタタ

歩夢 「う、うん!」 タタタタ

彼方 「呼吸をしっかり意識してね〜。スクールアイドルは笑顔のまま頑張らなくちゃいけない。簡単に息が上がっちゃダメなんだ」

203: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 15:51:53.65 ID:u+ZTOdwA
かすみ 「分かってますよ! ふっ、ふっ!」 タタタタ

侑 「歩夢。ペースを大事にね」

歩夢 「うん! ありがとう侑ちゃん!」 タタタタ

彼方 (……なんだか頑張ってる人たちを見るのは良いなぁ。彼方ちゃんも頑張ろうって気持ちになるよ)

プルル

彼方 「! ごめん、少し電話が来たから離れるね。十分後には戻るから」

かすみ 「了解です!」 タタタタ

204: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 15:54:49.63 ID:u+ZTOdwA
タッタッ

タッタッ

彼方 「はい、もしもし。近江です」

近所の人 『あ、近江さん? 悪いんだけど集金の件なんだけど』

彼方 「集金?」

近所の人 『ゴミ捨て場の整備のために、みんなで集めようってなったお金のことなんだけど……近江さん家からまだ貰ってなくて』

彼方 「あっ!」

彼方 (すっかり忘れてた……どうしよう……)

205: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 15:56:18.38 ID:u+ZTOdwA
近所の人 『今日か明日に取りに行っても大丈夫かしら』

彼方 「えっと……は、はい、大丈夫ですよ! でも帰ってくるのが遅くなるので明日の朝で大丈夫ですか?」

近所の人 『ええ、大丈夫よ。じゃあよろしくね、近江さん』 ピッ

彼方 「……」

彼方 (決して高い額ではないけど、バイトを一つ失った今、結構心にくるなぁ……お金があればなぁ……お金か……)

彼方 「『ライフイズマネー』……強く願えばいいんだよね。じゃあ二千円とか?」

彼方 (いやでもやっぱり悪い夢だったんだよ。そんなことありえない)

206: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 15:57:24.43 ID:u+ZTOdwA
彼方 「でも一度くらいならやってみてもいいかも……それで何もなかったら、諦めればいいわけだし」

彼方 (二千円……二千円……二千円……っ!) グググ

パッ

彼方 「!」

彼方 「えっ……えっ?」

彼方 (彼方ちゃんの手元に千円札が二枚がある……なんで? どうして?)

彼方 「本当に、本当なの?」

彼方 「……」

彼方 「……あっ、そろそろ十分経つ。戻らないと!」

タタタタ

タタタタ






207: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:08:58.78 ID:u+ZTOdwA
かすみ 「はぁ、はぁ、きついですね……」

歩夢 「……」 フラフラ

かすみ 「歩夢先輩、大丈夫ですか?」

歩夢 「……かすみちゃんはすごいね、私はもう立つのが精一杯で」

かすみ 「まあ一応、スクールアイドルになりたくて頑張ってきましたからね。だけど」

歩夢 「だけど?」

208: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:09:39.54 ID:u+ZTOdwA
かすみ 「これからは歩夢先輩も目指すんですから、同じ土俵、同じスタートラインですよ!」

歩夢 「!」

かすみ 「人を褒める前にもっと頑張ってください」

歩夢 「……そうだね、頑張るよ」

タッタッ

タッタッ

彼方 「お疲れ様〜。じゃあ次の練習をいってみようか!」

209: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:10:18.99 ID:u+ZTOdwA
かすみ 「ええっ!? 少し休憩が欲しいんですけど!?」

歩夢 「かすみちゃん?」

侑 「ふふ、さっきまではカッコよかったのにね」

彼方 「そんな暇ないよ! 次は階段ダッシュをやってみようか!」

かすみ 「ひぃぃぃ! 階段ダッシュ!?」

彼方 「むむ、かすみちゃん……もしかして心折れかけてるんじゃないの?」

かすみ 「なっ! そ、そんなことは!」

211: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:11:32.96 ID:u+ZTOdwA
彼方 「一応渡しておくね、紙」 スッ

かすみ 「……これは?」

彼方 「今日から毎日やる練習メニュー。放課後の分も書いてあるよ」

かすみ 「!?」

彼方 「階段ダッシュなんて、その紙の中では序盤中の序盤。遥ちゃんに負けたくないなら、最低これくらいはしないとねぇ」

かすみ 「彼方先輩、遥ちゃんのライバルを減らそうとしてわざと厳しくしてません!?」

212: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:12:33.99 ID:u+ZTOdwA
彼方 「違うよ〜。本当に、遥ちゃんたちは毎日これくらい頑張ってるの」

歩夢 「頑張ろう、かすみちゃん……!」

かすみ 「歩夢先輩!?」

歩夢 「私、燃えてきたよっ……!!!!」 ゴゴゴゴ

かすみ 「意外と熱血派!?」

彼方 「放課後はバイトがあるから少し早めに帰っちゃうけど、それまではちゃんと二人を見守ってるから安心して頑張ってね」

213: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:14:38.64 ID:u+ZTOdwA
歩夢 「走るよっ! かすみちゃん! ほら引っ張ってあげる!」 ギュッ

かすみ 「いやだぁぁぁぁぁーーーーー!!!」 ズズズズ

侑 「歩夢が楽しそうで良かった」

彼方 「頑張ってね、二人とも〜」

彼方 (……この二千円があれば、問題なく集金は渡せるよね。いや、それどころか、もっとお金が出せれば遥ちゃんのために何でもできるんじゃ)

彼方 「……」






214: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:16:57.53 ID:u+ZTOdwA
かすみ 「いやー……あれから大変でした。彼方先輩が帰った後も厳しいトレーニングばかり。まさかあんなに基礎練習が大変だなんて。かすみんが一人でやってたやつより何倍も大変ですよ」

歩夢 「でも、自分じゃついつい甘やかしちゃうから、良かったよね、かすみちゃん」

かすみ 「良くはないですよ! あんな優しそうな顔して彼方先輩、鬼みたいな厳しさなんですから……」

歩夢 「……」 アセアセ

かすみ 「? 歩夢先輩? どうしたんですか急に黙っちゃって」

歩夢 「かすみちゃん、後ろ……」

215: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:18:04.04 ID:u+ZTOdwA
かすみ 「後ろ?」 チラッ

彼方 「彼方ちゃんのバイト先で彼方ちゃんの悪口を言うなんて、いい度胸してるね、かすみちゃん……!」 ゴゴゴゴ

かすみ 「ひぃぃぃ! そうだ、忘れてた! ここのお店、彼方先輩が働いてるんだった!」

彼方 「まあ冗談だよ、彼方ちゃんが厳しかったのは本当だし。二人とも彼方ちゃんが離れた後もちゃんと頑張ったんだね、お疲れ様〜。はい、クリームソーダ二つ」 スッ

歩夢 「? 私、クリームソーダは頼んでませんよ?」

かすみ 「かすみんも頼んでませんよ?」

216: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:19:16.49 ID:u+ZTOdwA
彼方 「いいの、いいの。これは頑張った二人へのサービスだから」

かすみ 「ええっ!? 悪いですよ!? それにお店は大丈夫なんですか!?」

彼方 「うん、彼方ちゃんが払うから気にしないで」

かすみ 「いやそれはそれで気にしますよ!?」

歩夢 「本当に大丈夫なんですか? 彼方さん」

彼方 「うん。頑張った後輩たちにプレゼントをしたいと思ったんだ! 厚意は受け取らないとダメだよ!」

217: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:20:01.18 ID:u+ZTOdwA
かすみ 「うぅ……そこまで言うならありがたく受け取りますけどぉ……」

彼方 「その代わり……」

かすみ 「その代わり!? まさかの見返りを要求するタイプの厚意!?」

彼方 「あと三十分でバイトが終わるから、そしたら昨日みたいに二人から見た『スクールアイドル遥ちゃん』について教えてね?」

かすみ 「そ、そんなの! お安い御用ですよ! 任せてください! 」 エッヘン

彼方 「……それは遥ちゃんの魅力が簡潔に言える程度ってこと?」 ゴゴゴゴ

かすみ 「違いますよ!?」

218: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 16:20:35.66 ID:u+ZTOdwA
侑 「なんだか賑やかだねぇ。歩夢、アイスクリーム美味しい?」

歩夢 「うん」 パクパク

侑 「……そういえば歩夢」

歩夢 「どうしたの? 侑ちゃん?」

侑 「ほんの少しだけど、学校で能力の気配を感じた」

歩夢 「!」

侑 「……気のせいかもしれないけど、念のため気にしておいて。近いうちにまた、璃奈ちゃんみたいに戦うかもしれない」

歩夢 「……うん、分かった」






223: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:17:29.14 ID:u+ZTOdwA
彼方 (今日も楽しかったなぁ……)

彼方 (かすみちゃんと歩夢ちゃん。二人も友達ができて、スクールアイドルのこと、学校のこと、遥ちゃんのこと、たくさん話せてすごく楽しかった)

彼方 (果林ちゃんとか同学年の友達はいたけど、年下の友達は新鮮だなぁ……)

彼方 「楽しかった、楽しかったはずなのに」

224: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:18:16.48 ID:u+ZTOdwA
彼方 「なんでこんなに手が震えてるんだろう」 ガクガク

彼方 「……やっぱり、怖いのかな。やっぱり罪悪感があるのかな」 ガクガク

彼方 (集金のお金。クリームソーダ二人分。何万とかではないけど、能力で作ったお金を使ってしまった……)

彼方 (ダメだ、絶対ダメだよ。みんな一生懸命頑張って稼いでるのに、彼方ちゃんだけこんなに簡単に……!)

225: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:18:59.17 ID:u+ZTOdwA
彼方 「えっと、スーパーはこっち……」

彼方 「! そ、そうだ、スーパーは行く必要がなくなったんだっけ……」

彼方 「……」

彼方 「ううん、悩んでも仕方ないよね」

彼方 (バイトがないということは、早く帰れるってこと。つまり遥ちゃんと過ごせる時間が増えるってことだよ!」

彼方 「悩みは棚に置いて、今は遥ちゃんといれる時間を大切にしよう!」

タタタタ

タタタタ






226: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:21:16.02 ID:u+ZTOdwA
ガチャ

彼方 「ただいま遥ちゃ……」

遥 「! お姉ちゃん!?」 スッ

彼方 (今机で何か書いてたよね? 後ろに隠した?)

遥 「お姉ちゃん、お疲れ様。今日は早かったね」

彼方 「……」

遥 「お姉ちゃん?」

彼方 「遥ちゃんのことだから、そんなに危ないものではないと思うけど、後ろに隠したもの……彼方ちゃんに見せてくれる?」

遥 「!」

227: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:22:17.55 ID:u+ZTOdwA
彼方 「彼方ちゃん、隠し事は嫌だな」

遥 「……」

彼方 「……」

遥 「……はい、これ」 スッ

彼方 「!? これって履歴書……」

遥 「うん……」

彼方 「……バイトってこと?」

遥 「……っ、やっぱり私耐えられないよ、お姉ちゃん!! 私もお姉ちゃんの手助けを少しでもしたいっ!」

彼方 「遥ちゃん……」

228: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:24:16.96 ID:u+ZTOdwA
彼方 (遥ちゃん……なんでそんなに頑張ろうとしてくれるの? そんなに彼方ちゃんには余裕がないように見える? お金がないように見えるの?)

彼方 「……」

遥 「……」

彼方 「ダメだよ」

遥 「な、なんで……!」

彼方 「過保護なのはダメだって知ってる。欲しいものがあるだとか、友達と一緒にバイトをしてみたいだとか、そんな理由だったら彼方ちゃんも良いって言うよ。でもね」

229: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:25:12.49 ID:u+ZTOdwA
彼方 「もしも、彼方ちゃんのために好きな夢を蔑ろにする気なら、遥ちゃんでも、許可はできない」

遥 「!」

彼方 「ごめんね……でも、それは認められないの」

遥 「お姉ちゃん……」

彼方 (なんとか遥ちゃんに心配しなくても大丈夫だって、伝えないと……でもどうすれば……)

彼方 「!」

彼方 (今財布に入ってる二千円……能力で増やしたお金……そうだ、お金があることさえ伝えられれば……)

230: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:26:00.38 ID:u+ZTOdwA
彼方 「……遥ちゃん、最近新しい服を買ってなかったよね。日曜日、一緒に近くの服屋で服でも買いに行こうよ」

遥 「……! ふ、服なんて今あるものだけで十分だよ!」

彼方 「彼方ちゃんもちょうど買いたかったんだよね」

遥 「えっ、お姉ちゃんも……?」

彼方 「うん。だから一緒に行こうって言ったじゃん」

遥 「……えっと、お姉ちゃんも一緒に買うなら、私も買おうかな。ずっと欲しかった服があるんだ」

231: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:26:47.89 ID:u+ZTOdwA
彼方 「ふふ、ならそれを買いに行こう、日曜日が楽しみだね、遥ちゃん!」

遥 「う、うん……!」

彼方 (欲しい服があったなんて知らなかったよ……我慢してくれてたんだね……)

彼方 (彼方ちゃんと遥ちゃん、ずっと二人で頑張ってきた。でも、これ以上、遥ちゃんを悩ませたくない。やっと彼方ちゃんでも)

彼方 (本当の意味で、役に立てる日が来たんだね……)






232: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:30:16.43 ID:u+ZTOdwA
先生 「では、この教科書の子の生活では、どんな栄養素が特に欠けてるか答えられる人、いますか?」

一同 「「……」」 シーン

先生 「じゃあランダムに選びますよ? えっと、近江さん。近江さんは分かりますか?」

彼方 「……」 スゥスゥ

先生 「近江さん?」

彼方 「遥ちゃん……」 スゥスゥ

233: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:31:01.50 ID:u+ZTOdwA
—————

——



遥 『お姉ちゃん! こっちに来て一緒に紅茶を飲もうよ!』

彼方 『いいね〜。流石遥ちゃん!』

遥 『お菓子もたくさんあるよ! 私頑張って作ったんだ』

彼方 『遥ちゃんの手作り!? 彼方ちゃん、嬉しくて泣いちゃいそうだよぉ〜!!』

234: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:32:08.42 ID:u+ZTOdwA
遥 『えへへ、お姉ちゃんが喜んでくれて良かった』

彼方 『じゃあまずはこのクッキーから貰おうかな……嬉しいなぁ、遥ちゃんの手作りが食べられるなんて……』

彼方 『彼方ちゃん。こんなに幸せなことないよぉ』



———

—————

235: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/11(金) 23:32:53.20 ID:u+ZTOdwA
先生 「いくら実習じゃないからって起きなさい! 近江さん!」

彼方 「……えっ?」 ピクッ

先生 「珍しいわね。近江さんが居眠りなんて……」

彼方 「あれは夢だったの……?」

彼方 (あんなにはっきりと遥ちゃんがいてくれたのに……手作りお菓子だってすぐそばに……)

彼方 「お菓子、お菓子が足りない……」 グスッ

先生 「お菓子は栄養素ではありませんよ、彼方さん」






245: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/13(日) 23:33:27.32 ID:onf3S+X3
彼方 「遅れてごめんね〜」 タタタタ

かすみ 「土曜日なのに授業があるなんて珍しいですね」

彼方 「ライフデザイン学科は普段は実習がメインなんだけど、筆記ももちろん大事だから、こうして土曜日に度々補修があるんだよね。でも今日は呑気に寝ちゃった……あはは」

かすみ 「安心してください! かすみんも同じですから!」 エッヘン

歩夢 「大丈夫な要素がない……」

246: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/13(日) 23:35:04.63 ID:onf3S+X3
彼方 「今日は時間が多めに取れるから、基礎練はもう結構終わったかな?」

かすみ 「時間があるとはいえ練習始めたの昨日からですよ? まだ全然慣れてないから時間がかかりますよ!」

彼方 「そっか、じゃあ今日は彼方ちゃんも基礎練一緒にやろうかな!」

かすみ 「ええっ!? 彼方先輩もですか!?」

247: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/13(日) 23:35:53.87 ID:onf3S+X3
彼方 「やっぱり指導する身としては、自分でも練習内容を体感しないとね!」

かすみ 「なんて指導者の鏡……! 頼んで良かった……!!」 グスッ

彼方 「ほら歩夢ちゃんも頑張るよ!」

歩夢 「は、はい!」

彼方 (それに授業で居眠りしちゃうなんて本当に珍しいし……きっと弛んでるんだよね。少し体動かさないと!)

248: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/13(日) 23:37:18.87 ID:onf3S+X3
彼方 「よしっ! 今度はダッシュを五本行こうかっ!」

かすみ 「ひぃぃぃ! スパルタ!」

彼方 「あ、それと、今日も彼方ちゃん先に帰っちゃうけど、それまではちゃんと一緒に頑張るから安心してね」

かすみ 「ええっ!? 土曜日もバイトあるんですか!?」

彼方 「まあ平日とは違うバイトだったり、時間帯も少し早いけどね」

249: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/13(日) 23:37:50.06 ID:onf3S+X3
歩夢 「あ、あの彼方さん……」

彼方 「うーん? どうしたの歩夢ちゃん?」

歩夢 「私たちの練習……負担になってないでしょうか……」

かすみ 「そ、そうですよ! そんなに忙しいだなんて、もしかしてかすみんたち迷惑をかけてるんじゃ……」

彼方 「ううん、全然迷惑なんかじゃないよ。気にしないで」

歩夢 「で、でも……」

250: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/13(日) 23:40:22.80 ID:onf3S+X3
彼方 「言ったでしょ? 妹である遥ちゃんとはまた違った、『スクールアイドル遥ちゃん』のことを教えてもらえてるだけですごくありがたいって。それに、好きなんだ〜。かすみちゃんと歩夢ちゃんといる時間」

歩夢 「彼方さん……」

彼方 「人が頑張る姿って勇気をもらえるよね。逆にもらってばかりで彼方ちゃんが申し訳ないよぉ、彼方ちゃん迷惑だったかな?」

歩夢 「そ、そんな! 彼方さんは迷惑なんかじゃ!」

かすみ 「むしろ助かってますし、それにかすみんも彼方先輩との時間が好きなんです! お願いですから迷惑だなんて思わないでください!」

253: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:15:04.58 ID:7LTWfL3p
彼方 「ふふ、二人ともありがとう〜。彼方ちゃん、また元気をもらっちゃった」

彼方 (本当にありがとう、二人とも)

彼方 (彼方ちゃん、遥ちゃんと二人のおかげで、もっと頑張れるよ)

彼方 「えっとそれで明日の日曜日は、まだ練習も慣れないだろうし無理しないで二人とも休んでね」

かすみ 「休みってことですか?」

254: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:16:10.74 ID:7LTWfL3p
彼方 「うん。それと単純に彼方ちゃんの事情があってね、ふふ」

歩夢 「? なんだか嬉しそうですね」

彼方 「明日遥ちゃんと服を買いに行くんだ〜遥ちゃんと出かけるなんて久しぶりだから嬉しくて」

かすみ 「近江遥ちゃんと買い物ですか!? 姉妹だから当たり前っちゃ当たり前ですけど……なんというか羨ましいですね」

歩夢 (彼方さん……本当に嬉しそうで良かった……。私たちが迷惑をかけてるかもしれないけど、彼方さんが私たちを応援してくれるのがすごく嬉しい自分もいる。どうすればいいんだろう……)

255: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:16:59.58 ID:7LTWfL3p
彼方 「ふふっ、羨ましかろう。羨ましかろう。ただし、遥ちゃんにも負けないスクールアイドルになるんだよね二人は?」

かすみ 「! 当たり前です!! ですよね歩夢先輩!?」

歩夢 「も、もちろん!」

彼方 「なら遥ちゃんのことばっか考えてる場合じゃないよ。道のりはまだまだ長いと思うけど、一緒に頑張ろう? 頑張るぞーー」

かすみ・歩夢 「「おおっーーー!」」






256: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:18:09.76 ID:7LTWfL3p
かすみ 「なんか良い感じの雰囲気で話を締めてましたけど……その後の練習めちゃくちゃスパルタでしたし、やっぱり彼方先輩は鬼ですよっ!! 厳しさの鬼!」

歩夢 「でも彼方さんは私たちのことを本気で考えてくれてるから、練習も厳しいんだと思うよ?」

かすみ 「いやそれは分かってますけどぉ……にしたって厳しすぎる……はっ!?」

歩夢 「どうしたの? かすみちゃん?」

257: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:19:08.17 ID:7LTWfL3p
かすみ 「も、もしかして後ろにいるんじゃ……そういえば彼方先輩が働いてるお店だったんだ……」 ガクガク

歩夢 「今日は土曜日だし違うバイトなんじゃないかなぁ」

かすみ 「あっ、そういえばそんなこと言ってましたね。ふぅ、怒られずに済みました……」

歩夢 「……」

かすみ 「……」

258: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:20:32.87 ID:7LTWfL3p
歩夢 「……なにか静かだね」

かすみ 「……はい、彼方先輩と出会ってからまだ何日も経ってないのに」

歩夢 「彼方さんがいないと寂しいね」

かすみ 「ですね。バイト終わりに一緒に喋る時間、今日はないと思うとやけに寂しく感じます」

歩夢 「……」

かすみ 「……ってなに寂しがってるんですか!? どうせ来週が来て平日になったらまた彼方先輩とここで会えるんですよ!? それを子供みたいにちょっと会えなかっただけで寂しがって!」

侑 「自問自答してる……」

259: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:23:32.94 ID:7LTWfL3p
かすみ 「かすみんは大人なんです! 寂しくなんかありませんっ!」

歩夢 「ふふ、かすみちゃん子供っぽいもんね」

かすみ 「どういうことですか!?」

歩夢 「……」

歩夢 (それにしても……)

歩夢 「っ」 ズキッ

歩夢 (なんだろう、この胸騒ぎ……)

歩夢 (なんだか嫌な予感がする……)






260: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:25:14.24 ID:7LTWfL3p
彼方 「うーん……ちょっと眠い……」

彼方 (バイト先でもウトウトしちゃった……おかしいなぁ、睡眠不足ではあるけど、別に最近に限ったことじゃないし……)

彼方 (急になんでだろう?)

彼方 「理由は分からないけど……とりあえず遥ちゃんには心配させちゃってるからね、遥ちゃんの前でくらいは元気よく振る舞わないと!」

ガチャ

彼方 「ただいま遥ちゃん!」

遥 「おかえりお姉ちゃん。お疲れ様」

263: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:53:04.71 ID:7LTWfL3p
彼方 「遥ちゃんの顔を見ると家に帰った感じがするよぉ……じゃあ早速料理作っちゃうかな。いや、それとも」

遥 「?」

彼方 「今日は外食にでも行く?」

遥 「えっ!?」

彼方 「最近贅沢してなかったし、たまには変わったものも食べたいよね〜」

遥 「でもお姉ちゃんが頑張って働いたお金で、ってことでしょ!? 悪いよ、それなら私が全部払うよ! そのくらいのお金なら……」

彼方 「遥ちゃん、約束でしょ?」

遥 「!」

264: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:54:38.02 ID:7LTWfL3p
彼方 「遥ちゃんがテレビや動画の案件で稼いだ分のお金……その半分はありがたく生活費にもらう。でも残り半分は、遥ちゃんが頑張った証として遥ちゃんの欲しいものに使ってっていう約束。覚えてるよね?」

遥 「で、でもお姉ちゃんが働いて稼いだお金は全部学費や生活費に……!」

彼方 「遥ちゃん、正直言うね」

遥 「お姉ちゃん……?」

彼方 「お金のことなんて気にしなくていいの。悩まなくていい。もう彼方ちゃんが悩ませたりしない。大丈夫、外食に行くくらい全然平気だから。別に高級レストランに行くわけじゃないんだよ?」

遥 「だ、だけど」

265: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:56:02.96 ID:7LTWfL3p
彼方 「それに彼方ちゃん知ってるんだ、遥ちゃんが貯めたお金をあまり使ってないこと。彼方ちゃんのことを考えて、貯金してくれてるんだよね?」

遥 「そ、それは」

彼方 「大丈夫。その優しさだけで本当に満足なんだ。遥ちゃんは彼方ちゃんの大事な妹。甘えたっていいんだよ」

遥 「……」

彼方 「じゃあ近くのファミレスに行こう? 明日は服屋さんに行くわけだし、週末は楽しまないと!」

遥 「う、うん!」

266: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 00:57:00.26 ID:7LTWfL3p
遥 (……最近のお姉ちゃん、少し変な気がする。でも、何も言えないよ。私のことをこんなに思ってくれてるんだもん)

遥 「楽しみだね! お姉ちゃん!!」 ニコッ

遥 (だけど、明日はちゃんと聞こう。お姉ちゃんが一人で抱え込まないように、明日こそはちゃんと聞こう)

遥 (お姉ちゃんは『妹なんだから甘えたっていい』って言ってくれた。でも違うんだよ、お姉ちゃん、私はね……)






267: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 01:08:10.45 ID:7LTWfL3p
侑 「! 歩夢!」

歩夢 「どうしたの、侑ちゃん……もしかして……!」

侑 「また能力の気配を感じた。相変わらず微弱だから居場所を特定できないけど……なんというか違和感を感じる」

歩夢 「違和感?」

侑 「度々感じてる能力とはまた違った能力を、感じたの。それもより強力な能力が少しずつ膨れ上がってるような……」

歩夢 「……」

268: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 01:09:20.87 ID:7LTWfL3p
侑 「ごめん、分かりにくいよね。でもあまりに微弱すぎて気配を掴めないの」

歩夢 「侑ちゃん、謝らないで。能力は分からないことが多い、仕方ないよ」

歩夢 「っ」 ズキッ

歩夢 (この胸騒ぎと関係があるのかな……)

歩夢 (取り返しのつかない、不安が、近付いてきてるようで怖い……っ!)






269: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 01:11:23.89 ID:7LTWfL3p
遥 「お姉ちゃん、朝だよ? 今日は一緒に買い物に行くんだよね?」

彼方 「遥ちゃん……もう少し布団の中にいさせて……」 スゥスゥ

—————

———



遥 『お姉ちゃん! 今日もこっちに来て一緒に紅茶を飲もうよ!』

彼方 『いいね〜。遥ちゃんとのティータイムは最高だよ』

遥 『ふふ、私もお姉ちゃんといれる時間が大好きっ!』

彼方 『遥ちゃんの淹れてくれた紅茶と、遥ちゃんの手作りお菓子、こんなの夢のような時間だよ〜』

270: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 01:12:36.49 ID:7LTWfL3p
遥 『……夢、夢も良いよね』

彼方 『えっ?』

遥 『夢だって良いじゃん。お姉ちゃんの気持ちを分かってくれない私なんかより、よっぽど……』 ボソッ

彼方 『えっと、遥ちゃん、今なんて』

遥 『お姉ちゃんが大切だって言ったの! ほらティータイムの続きしよ?』

彼方 『そんな嬉しいこと言ってくれるなんて……うぅ、遥ちゃんのお姉ちゃんで良かった』

彼方 『彼方ちゃん。こんなに幸せなことないよぉ』



———

—————

遥 「お姉ちゃん?」

271: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 01:13:17.34 ID:7LTWfL3p
彼方 「……は、遥ちゃん?」 ピクッ

遥 「ごめんね、疲れてるのに起こしちゃって。でもお姉ちゃんが朝から出かける予定だって言ってたから……」

彼方 「ううん、大丈夫だよ。せっかくの遥ちゃんとのお出かけなんだもん。寝過ごしちゃったらもったいないよ。じゃあ準備して行こうか、服屋さん」

遥 「うん!」






277: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:24:57.56 ID:7LTWfL3p
彼方 「遥ちゃんにはこの服が似合うんじゃないかな?」

遥 「この服はお姉ちゃんの方が似合うよ!」

彼方 「彼方ちゃんは大丈夫だよぉ、それより遥ちゃんの服を……」

遥 「お姉ちゃん!!」

彼方 「!?」

遥 「言ったよね、お姉ちゃんも服を買いたかったって」

彼方 「い、言ったは言ったかもしれないけど……」

278: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:26:04.04 ID:7LTWfL3p
遥 「ならお姉ちゃんも服を買って! じゃないと私も服を買わないっ!」

彼方 「えっ、うーん、困ったなぁ……」

遥 「お姉ちゃん……?」 ジッー

彼方 「……うぅ、分かったよ、この服は彼方ちゃんが買うね?」

遥 「うん!! きっとお姉ちゃんに似合うよっ!!」 ニコッ

280: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:28:44.23 ID:7LTWfL3p
彼方 「あ、そういえば遥ちゃん、買いたかった服があるんだよね? どの服なの?」

遥 「えっとこないだ見つけたんだ……確かこの服だったかな?」 スッ

遥 (えっ、数万円もする……こんなに、この服高かったっけ? もしかしてこないだはセールだったから……)

遥 「あはは、間違えちゃった。この服じゃなくてこっちの服だった! どう似合ってる?」

彼方 「正直遥ちゃんならどんな服も似合うと思うけど、その服すごく良いと思う! それを買おう、遥ちゃん!」

遥 「うん……ありがとう! お姉ちゃん!」






281: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:30:33.19 ID:7LTWfL3p
彼方 「服を買ったの久しぶりだなぁ。遥ちゃんも嬉しそうで良かったよ」

彼方 (それにしてもまた能力を使っちゃった……『ライフイズマネー』人生はお金か。こんな間違ったやり方でお金を手に入れるなんて、それは悪いことだと分かってるのに、こうして遥ちゃんの服を買えたりして……結局やめられない)

彼方 (『ライフイズマネー』この言葉が苦しい……間違ってるって強く否定できなくなっちゃったからより……)

彼方 「……じゃあ服も買い終わったし、予定は無くなったわけだけど、遥ちゃん」

遥 「なに? お姉ちゃん?」

282: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:31:14.82 ID:7LTWfL3p
彼方 「まだまだ休日は長いからこのまま映画でも見に行かない?」

遥 「映画!?」

彼方 「遥ちゃんはアイドルとして最高の魅力があるからね〜もしかしていつか女優さんデビューもしちゃうかも!? その練習も兼ねて行こうっ!」 ギュッ

遥 「お姉ちゃん!?」

彼方 「思ったうちに行動だよ!」 タタタタ

遥 「ちょっと待ってよ〜!!」 タタタタ






283: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:39:15.79 ID:7LTWfL3p
彼方 「あっという間に暗くなっちゃったね、遥ちゃん」

遥 「うん……」

彼方 「今日は楽しかった? 遥ちゃん」

遥 「すごく楽しかったよ……ありがとうお姉ちゃん……」

彼方 「!」

遥 「すごく楽しかった……!」

彼方 「……ふふ、良かった」

284: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:39:59.95 ID:7LTWfL3p
彼方 (今日は彼方ちゃんもすごく楽しかったなぁ)

彼方 (あの後二人で映画館に行って……笑ったり泣いたり良いコメディで……遥ちゃんの色んな表情も見れて……)

彼方 (映画館の後はレストランのランチメニューを食べて、次に屋上の小さな遊園地に行って……二人で動くパンダちゃんに乗ったんだ。遥ちゃんは高校生なのにって恥ずかしがってたけど……)

彼方 「ずっと昔に行ったよね、屋上遊園地……」

遥 「そうだね、私はすごく小さかったから曖昧にしか覚えてないけど……行った気がする」

285: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:41:51.27 ID:7LTWfL3p
彼方 「あのときを思い出せて良かったなぁ」

遥 「? お姉ちゃん?」

彼方 (……お金はいつか、誰に返せばいいのかも分からないけど、ちゃんと返そう。少なくとも、彼方ちゃんが自由に使っていいものじゃない。でも、せめて、今このときだけは)

彼方 「遥ちゃん、おうちに帰ろっか」

遥 「う、うん」

286: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:42:37.75 ID:7LTWfL3p
彼方 「でも彼方ちゃん、少し用事があるから先に帰ってて?」

遥 「えっ?」

彼方 「大丈夫。すぐ戻るから」

遥 「な、なら私も一緒に行くよ!」

彼方 「本当に大丈夫だから。遥ちゃんは先に戻ってて」

遥 「だけど!」

287: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:43:53.20 ID:7LTWfL3p
彼方 「約束だよっ!」 タタタタ

遥 「あっ!」

遥 「……」

遥 「ううん、お姉ちゃんを疑うなんて間違ってるよ。大丈夫、お姉ちゃんが早く戻るって言ったんだからすぐ帰ってくるよ」

遥 (お姉ちゃんが帰ってきたときにゆっくりできるように、お風呂を沸かしておかないと!)

タタタタ

タタタタ






288: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:45:43.78 ID:7LTWfL3p
ガチャ

彼方 「ただいま〜」

遥 「おかえりお姉ちゃん! お風呂入れてあるよ」

彼方 「ほんと!? ふふ、遥ちゃんは優しいね」

遥 「って、その袋は……?」

彼方 「いいから、いいから。とりあえず奥に入って?」

遥 「う、うん……?」

タッタッ

タッタッ

289: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:46:54.38 ID:7LTWfL3p
彼方 「……」

遥 「……えっと、それでその袋は」

彼方 「ふふ、開けてみてからの楽しみだよ。じゃーーん!」 シュッ

遥 「これって……!」

彼方 「遥ちゃんが欲しがってた服だよ〜! きっとこれも欲しいのかなって思って、つい買ってきちゃった!」

彼方 (私にできることをしよう。遥ちゃんのしてほしいことはなるべくたくさん……美味しいものも、欲しいものも、できるだけプレゼントしてあげたい)

彼方 (ふふっ……遥ちゃんきっと喜んでくれるよー嬉しいなぁ……)

290: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:48:12.27 ID:7LTWfL3p
遥 「……お姉ちゃん」

彼方 「うーん? なにかな遥ちゃん?」 ニコニコ

遥 「これ、どうしたの?」

彼方 「どうしたって、もちろんさっきの服屋で買ったけど……」

遥 「……」

彼方 「遥ちゃん?」

遥 「お姉ちゃん。私に隠し事あるでしょ」

彼方 「えっ?」 ドキッ

291: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:49:12.65 ID:7LTWfL3p
遥 「聞こうと思ってたんだ。最近のお姉ちゃん、少し変だよ……悩みがあるなら言ってよ? 姉妹でしょ!?」

彼方 「べ、別に悩みなんか……」

遥 「嘘。お姉ちゃん、正直に言って」

彼方 「だから本当に何も」

遥 「私のためなの……?」 グスッ

彼方 「ええっ!? 遥ちゃん!?」

彼方 (泣いてる……なんで!? どうして!?)

292: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:50:23.04 ID:7LTWfL3p
遥 「私はお姉ちゃんに助けてもらってばかりで、言える権利なんかないのは分かってる。でも、それでもやっぱりおかしいよ……急にお金をこんなに使うなんて……! やっぱり私が無理をさせてるの? お姉ちゃんは私のためにまた自分の身を……」

彼方 「そ、それは違うよっ! バイトで稼いだお金が実はすごく貯まってて、たまには使いたいなって……」

遥 「違うよね……?」

彼方 「!」

遥 「一昨日早く帰ってきたよね……スーパーのバイトはどうしたの?」

彼方 「そ、それは……そうだ、そうだった、実は彼方ちゃん、宝くじで結構良い額を当てて……!」

293: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:51:17.21 ID:7LTWfL3p
遥 「なんで私に本当のことを言ってくれないのお姉ちゃん!!!!」

彼方 「遥ちゃん……!」

遥 「お姉ちゃんは宝くじ、買ったことないでしょ!!」

彼方 「っ、そ、そうだったかな……遥ちゃんの知らないところでこっそり買ってる可能性だって……」

遥 「……」

彼方 「……」 ドキドキ

294: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:52:03.67 ID:7LTWfL3p
遥 「お姉ちゃんは、私に隠し事をするんだね」

彼方 『彼方ちゃん、隠し事は嫌だな』

遥 「私も、隠し事は嫌なのに……」

彼方 「……」

彼方 (遥ちゃんが怒ってる……傷ついてる……どうすれば、どうすれば……)

彼方 (とりあえず誤魔化さないと……そうだよ、さっきまであんなに楽しかったんだから、今日の思い出を……!)

295: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:54:34.44 ID:7LTWfL3p
彼方 「遥ちゃん、今日は楽しかったんでしょ? だって普段あんまり行かない映画館だってレストランだって遊園地だって行ったんだよ……楽しくないはずないよね!?」

遥 「それは楽しかったけど、そうじゃないんだよ、お姉ちゃん……!」

彼方 「えっ?」

彼方 (なんで、どうして遥ちゃんは怒ってるの? 楽しかったけど、それじゃダメなの? なんで、なんで!!)

彼方 (……そうだ)

彼方 「遥ちゃん。彼方ちゃん分かったよ」

遥 「! お姉ちゃん、やっと分かってくれて……!」

296: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:56:42.52 ID:7LTWfL3p
彼方 「お金が足りないんだね?」

遥 「……え?」

彼方 「お金があれば、もっとあれば、きっと遥ちゃんは彼方ちゃんを分かってくれる。そしたら彼方ちゃんも遥ちゃんの気持ちが分かって……お金が足りないから、彼方ちゃんは遥ちゃんを喜ばせてあげられないんだね?」

遥 「ち、違っ……!」

彼方 「このさっき服を入れてた袋があるよね?」

遥 「そ、それがいったい……」

297: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:57:59.95 ID:7LTWfL3p
彼方 「ここに彼方ちゃんが宝くじで当てたお金が山ほど入ってるんだ」 ニコッ

遥 「! お姉ちゃん!! 嘘はもうやめて!」

彼方 「嘘なんかじゃないっ!!」

彼方 (百万円……百万円……百万円……っ!) グググ

パッ

ドドドドドッ

遥 「!?」

遥 (袋が一気に膨らんで……!?)

298: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/14(月) 23:59:15.83 ID:7LTWfL3p
彼方 「ほら、取り出してみるよ?」 バッ

遥 「そ、そんな」

彼方 「こんなにたくさんっ!! こんなにたくさんお金がある!! もう遥ちゃんはお金で困ることがないんだよ!? 彼方ちゃんだってバイトをしないでずっと家にいれる。家事だってやるし、遥ちゃんをずっと見守れるっ!! みんな幸せでしょ!? ハッピーでしょ!?」

遥 「ひっ……」

彼方 「今日のような、自由に買い物して、自由に遊びに行って、そんなのが毎日できるんだよ!? ねぇ、遥ちゃん、それで大丈夫でしょ!?」

299: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 00:14:05.68 ID:UERDbgXB
遥 「……ち、違う」 ポロポロ

彼方 「えっ?」

遥 「私は、今日はすごく楽しかったけど、映画館だって、レストランだって、遊園地だって、それが一番の理由じゃないよ」 ポロポロ

彼方 「じゃあ、なんで……」

遥 「お姉ちゃんと、一日過ごせたから楽しかったんだよぉ」 ポロポロ

彼方 「!」

遥 「ごめん、お姉ちゃん……少し一人にさせて……っ」 タタタタ

彼方 「遥ちゃん!?」

300: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 00:14:52.43 ID:UERDbgXB
ガチャ

タタタタ

タタタタ

彼方 「……」

彼方 「……遥ちゃんが、こんな夜に外に出ていっちゃった」

彼方 「……お願いだよ、遥ちゃん」

彼方 「彼方ちゃんを見捨てないでよぉ……」 ポロポロ

彼方 (お、追いかけないと……) フラフラ

タタタタ

タタタタ






306: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:44:23.45 ID:UERDbgXB
侑 「歩夢? なにやってるの?」

歩夢 「……クソゲートレーニングだよ、侑ちゃん」 ポチポチ

侑 「なんて?」

歩夢 「こないだゲームセンターですごく強い子がいたでしょ?」 ポチポチ

侑 「うん、いたね」

歩夢 「あらゆるゲームの勝利の道は、クソゲーに通ずるんだよ」

侑 「そんなローマみたいに言われても」

307: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:45:26.02 ID:UERDbgXB
歩夢 「いつか勝てるように、訓練してるの。操作性の悪いクソゲーに慣れてゆくことで、普通のゲームでもテンポ良くプレイできるんだよ」 ポチポチ

侑 「な、なるほど……ちなみに、このクソゲーはどうやったらクリアするの?」

歩夢 「普通にクリアしてもスコアが低いけど、序盤でジャンプを二百回したらスコアカンストで完全クリアだよ」 ポチポチ

侑 「クソゲーじゃん」

歩夢 「そう言ってるじゃん」 ポチポチ

308: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:46:13.43 ID:UERDbgXB
侑 「! 歩夢!」

歩夢 「どうしたの、侑ちゃん……もしかして……」

侑 「前から微弱に感じてた能力……今確実に掴んだ。行こう、歩夢。誰かを止めて、そして、助けるんだ」

歩夢 「分かったよ、侑ちゃんっ!!」






309: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:47:10.11 ID:UERDbgXB
彼方 「遥ちゃん! 遥ちゃん!」

彼方 「遥ちゃん、一体どこに……」

彼方 (とにかく見つけないと! 走らないと!)

タタタタ

タタタタ

果林 「……えっと、ここどこかしら?」

ドンッ

果林 「いたっ……今誰かとぶつかった?」

果林 「って、あの後ろ姿は彼方?」

310: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:48:08.15 ID:UERDbgXB
侑 「さっきの能力はもう使ってないみたい……でも、徐々に徐々にだけど、前に感じたより強力な能力が存在を増してる……!」 タタタタ

歩夢 「じゃあその能力の気配を頼りに見つけよう!」 タタタタ

侑 「あっちに向かってるはず!」 タタタタ

果林 「ん? あっちから誰か来るわね?」

侑 「歩夢! 念のためあの人に聞いてみよう!」 タタタタ

311: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:48:47.27 ID:UERDbgXB
歩夢 「すいません! さっきここを誰か通りませんでしたか!?」

侑 「相当ダッシュで移動してるはず……」

歩夢 「すごく速く走ってたと思うんですけど!」

果林 「えっと、さっきあっちの方へ一人走っていったわ」

歩夢 「ありがとうございます!」 タタタタ

果林 「……」

果林 「……今のって歩夢よね?」






312: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:50:17.55 ID:UERDbgXB
彼方 「遥ちゃん……遥ちゃん……!」 フラフラ

彼方 「お姉ちゃんが間違ってたから、悪かったから、帰ってきてよぉ……遥ちゃん……」

彼方 「……」

彼方 「……ってここは公園?」

彼方 (ここはよく遥ちゃんと来てた公園……)

彼方 「昔から彼方ちゃんは寝てばっかりで、よくこのベンチで寝てたなぁ……遥ちゃんが膝枕してくれて、その時間がすごく好きだった……」

313: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:52:11.92 ID:UERDbgXB
彼方 「あの頃に戻りたい……彼方ちゃんがバカなことをする前に、遥ちゃんがそばにいてくれたあの日々に……」

彼方 「……でも、もう戻ってこない。彼方ちゃんがバカなことをしちゃったから」 ボソッ

彼方 「ふふ、もう嫌だなぁ。こんな現実」

彼方 「……」 ウトウト

彼方 (あれ眠くなっちゃった……どうしてだろう? 色々あって疲れちゃったのかなぁ……でもこんな夜のベンチで寝ちゃったら風邪引いちゃうよ……)

314: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:53:29.68 ID:UERDbgXB
彼方 「まあ、もういいや」 バタッ

彼方 「……」

彼方 「遥ちゃん……」 スゥスゥ

—————

———



遥 『お姉ちゃん! やっと来てくれたんだね!』

彼方 『? 遥ちゃんとはいつも一緒にいるよ?』

遥 『ふふ、そういうことじゃなくて……お姉ちゃん、これからはここでずっと一緒にいようね!』

彼方 『もちろんだよ、遥ちゃん』

315: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:54:21.75 ID:UERDbgXB
遥 『ほら、ここにはなんでもある! お姉ちゃんのために作った手作りのお菓子はもちろん、お姉ちゃんの好きなものならなんでも!』

彼方 『彼方ちゃんは良いよぉ、それより遥ちゃんの好きなものを……』

遥 『もう! またそんなこと言って! 私は幸せだから、お姉ちゃんは自由にしていいんだよ?』

彼方 『遥ちゃんは幸せなの……? こんなお姉ちゃんなのに……?』

316: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:54:51.01 ID:UERDbgXB
遥 『当たり前だよ! お姉ちゃんだから、良いんだよ!』

彼方 『そんな嬉しいこと言ってくれるなんて……うぅ、遥ちゃんのお姉ちゃんで良かった』

彼方 『彼方ちゃん。こんなに幸せなことないよぉ』

遥 『……うん、幸せでいて。ここでずっと』 ボソッ






317: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:57:06.55 ID:UERDbgXB
彼方 「……」 スゥスゥ

?? 「寝てしまいましたか……」

?? (完全な現実逃避によって進化した能力……『夢の住人』もう彼女は目覚めることはないでしょう……)

?? 「人の夢を渡り歩く、概念。夢の中でしか会えない存在……現実の彼女は眠ったまま……」

?? 「しかし、あともう一つ、条件を突破さえすれば」

?? 「ついにあの能力が手に入る……そうすればかすみさんだってきっと」

318: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 14:58:36.14 ID:UERDbgXB
彼方 「遥ちゃん……」 スゥスゥ

?? 「!」

?? 「妹さんの名前ですか……」

?? (私は何を躊躇ってるのですか……覚悟は決めていたというのに……それに、もうこの状態では今更何をしても遅い)

?? 「……寝てしまえば、もう私には何もできない。そう、目的のための、致し方ない犠牲……」

?? (……私は非情でしょうか? 残酷でしょうか? ええ、そうでしょう。彼女の能力は、その強さゆえにあまりに大きな代償を得る)

?? 「もう覚悟はできています。かすみさんは非情になりきれないでしょう……だから、私だけは、かすみさんのためならば、全てを賭けて」

319: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 15:00:47.94 ID:UERDbgXB
彼方 「……」 スゥスゥ

?? 「ごめんなさい。せめて、夢の中で幸せに……」

?? (この状態ならば誰にも邪魔はできない。夢の中に干渉できる、なんて能力さえなければ)

?? 「では後は待つことしかできませんし、他の能力者を監視しに行きましょうか……」

?? (なんて、結末を直視しないための口実でしょうか)

?? 「……っ、こんな私を許してください」

タタタタ

タタタタ






320: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 15:11:04.59 ID:UERDbgXB
歩夢 「はぁ……はぁ……さっきの人の言う通りに進んだら、公園に辿り着いたけど……こんな夜に公園に人なんているのかな?」

侑 「でも能力の強い気配を感じる。ここで間違いないよ」

歩夢 「うーん……見た感じ誰もいないけどなぁ……」 ウロウロ

歩夢 「えっ?」

侑 「歩夢? 誰か見つけたの!?」 タッタッ

歩夢 「……うん。でも、そんな」

321: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 15:12:29.78 ID:UERDbgXB
彼方 「……」 スゥスゥ

侑 「……寝てるね」

歩夢 「……うん」

歩夢 (彼方さんが能力者だったってこと……!? いったいどんな能力を……)

歩夢 「! とりあえずこんなところで寝てたら風邪引いちゃうよ! 彼方さん、彼方さん! 起きてください!」 ユサユサ

彼方 「……」 スゥスゥ

歩夢 「妹さんが家で待ってるんじゃないですか!? 彼方さん、起きてください!」 ユサユサ

322: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 15:14:27.38 ID:UERDbgXB
侑 「……」

歩夢 「あれ? おかしいな、起きないな……彼方さん……?」

侑 「これは能力の影響かもしれない」

歩夢 「えっ!?」

侑 「……もしかしたら、二度と起きないなんてことも」

歩夢 「そ、そんな……」

侑 「起きないなら普通、周りの人にできることはない」

323: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 15:15:00.95 ID:UERDbgXB
歩夢 「じゃ、じゃあ彼方さんはずっとこのままってこと……?」

侑 「普通ならね。でも私たちには、彼方さんを助ける方法があるよ」

歩夢 「! そっか……!」

侑 「歩夢っ! 能力を発動してっ! そしたら私も発動するからっ!」

歩夢 「分かったっ!!」

324: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 15:16:22.65 ID:UERDbgXB
歩夢 「能力『イマジナリーフレンド』!!」


侑 「能力『ときめきを共有して』!!」


侑 「歩夢っ! 勝負に行くよっーーー!」

歩夢 「うんっ!!」

—————

———



侑 「能力『ときめきを共有して』は、相手への強い共感によって、相手の気持ちを読み取る能力……これを上手く応用すれば……」

歩夢 「夢の中に入れるってことだね」

325: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 15:17:25.39 ID:UERDbgXB
遥 「! 侵入者だ、お姉ちゃん……」

彼方 「えっ? 侵入者?」

遥 「お姉ちゃんと私の、この夢の空間を壊そうとするやつらのことだよ」

彼方 「……そ、そんな、彼方ちゃん、ここまで奪われちゃったら」

遥 「大丈夫。お姉ちゃんなら、追い返すことができる。強く願うんだ、願えば、要らないものは排除できるよ」

彼方 「排除……」

遥 「ね? 頑張ろう、お姉ちゃん。私とお姉ちゃんの幸せのために」

彼方 「うん、頑張るよ……誰にも邪魔なんかさせない、絶対にっ!!」

326: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 15:18:42.49 ID:UERDbgXB
歩夢 「彼方さん!」

彼方 「! あなたは……」

侑 「少し様子が変だね……それに、隣にいるのは妹さんかな」

歩夢 「彼方さん! 早く帰ろう? 夢じゃなくて、現実にっ! 遥ちゃんだって彼方さんの帰りを待ってるよ!!」

彼方 「……あなたは誰? それに、遥ちゃんはここにいるよ? 嘘つかないで」

歩夢 「彼方さん私が分からないんですか!?」

327: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 15:20:28.87 ID:UERDbgXB
侑 「元々ここは夢の中だからね……記憶も意識も曖昧になっててもおかしくない……」

歩夢 「あそこにいる遥ちゃんは、彼方さんが夢で作り出した存在なの?」

侑 「でも、あの子から恐ろしい力を感じる。なるほど、あの子がこの能力の本体。能力を完全に発動したい能力自身が、夢の中でついに意志を持ち始めてる……」

歩夢 「能力が意志を……!?」

330: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 23:55:11.58 ID:UERDbgXB
遥 「お姉ちゃん。私を守って。お姉ちゃんの強い願いで、あの人たちを追い払うの」

彼方 「うん、分かったよ遥ちゃん……!」

ガシャ

ガシャ

歩夢 「!? なんの音!?」

侑 「見て、歩夢!」

歩夢 「……遥ちゃんの周りに巨大な壁が構築されてる!?」

331: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/15(火) 23:58:08.64 ID:UERDbgXB
彼方 「遥ちゃんは彼方ちゃんが絶対に守る……っ、指一本も触れさせないっ!!」

侑 「夢の中ならなんでもありってことだね……歩夢、まずは彼方さんを止めるんだ。そして能力の根源である遥ちゃんを止める!」

歩夢 「う、うんっ!」

彼方 「そういえば、今日遥ちゃんとパンダカーに乗ったんだ。楽しかったなぁ」

ゴゴゴ

侑 「! 歩夢、横っ!!」

歩夢 「!? 危ないっ!」 スッ

333: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 00:12:26.58 ID:A6jzHKK4
侑 「こ、これは……左右から大量のパンダカーが突撃してきてる……!」

ゴゴゴ

ゴゴゴ

侑 「急いで彼方さんを止めないと……!」

歩夢 「侑ちゃん! 彼方さんに近付いて!」

侑 「ラジャーー!」 タタタタ

彼方 「させないよっ!」 フワッ

歩夢 「ええっ!?」

334: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 00:13:40.99 ID:A6jzHKK4
彼方 「ふふ、これで攻撃は届かないよね……」 フワフワ

侑 「浮いてる……あの高さは届かない……っ!」

彼方 「昔、遥ちゃんはね、くまのぬいぐるみが大好きで、寝てる時も離さなかったんだ〜」

ドシッ

ドシッ

侑 「……まさかだけど」

歩夢 「そのまさかだね……巨大なくまのぬいぐるみが……」

335: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 00:15:11.28 ID:A6jzHKK4
彼方 「遥ちゃんとの時間を邪魔するなら……手加減しないよっ!」

ブンッ

侑 「っ、危な……あれ当たったらただじゃ済まないよ……!」

歩夢 「でも浮いてるんじゃ私たちからは近付けないよ!?」

侑 「こうなったら、歩夢。思い出ひとつよろしく!」

歩夢 「うん……分かったよ、侑ちゃん!」

歩夢 (浮いてる相手に近付ける思い出……それなら!)

336: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 00:17:16.99 ID:A6jzHKK4
歩夢 「そういえば昔、侑ちゃんと一緒にシャボン玉で遊んだよね。でも作ってもすぐ割れちゃうシャボン玉に……私、悲しくなっちゃって、思わず泣いちゃったんだ……」

彼方 「シャボン玉? どうして急に……」

歩夢 「でも、侑ちゃんが割れないようにってフーフーしながらシャボン玉をそれから三十分も浮かせてくれたの……ふふ、良い思い出だよね」

侑 「なるほど! さすが歩夢! ナイスチョイスだよっ!!」

フワフワ

フワフワ

フワフワ

彼方 「シャボン玉がいろんな所に……!?」

337: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 00:18:37.88 ID:A6jzHKK4
侑 「シャボン玉を渡り歩いて、彼方さんのすぐそばまで行くよーーーーっ!!」 タタタタ

ポヨンッ

ポンッ

プヨッ

侑 「目の前っ!!」

彼方 「!?」

侑 「少し痛いかもしれないけど我慢してね、彼方さん! 下に落とさないと勝負できないから!」

侑 「くらぇぇぇぇぇーーーーー!!! 侑ちゃんパンチぃぃぃぃーーーー!!」

彼方 「っ……!」

ドンッ

340: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:00:09.03 ID:A6jzHKK4
侑 「ふぅ、ようやく地上戦だね」

彼方 「……で、でも、また隙をついて浮けばいいだけだから、まだ彼方ちゃんは負けたわけじゃないっ!!」

歩夢 「……彼方さんはそれでいいの?」

彼方 「! どういうこと?」

歩夢 「彼方さんは気付いてるんだよね、これが夢って」

彼方 「な、何を……」

341: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:02:12.78 ID:A6jzHKK4
歩夢 「私の知ってる彼方さんなら、いくら現実が悲しくても、現実を捨てたりしない。夢に逃げやしないよ」

遥 「……っ、お姉ちゃんダメっ!! その人の話を聞いちゃいけないっ!!」

歩夢 「きっと彼方さんなら、夢がいくら幸せでも、遥ちゃんがいる限り、現実に戻ろうとする。彼方さんが幸せでも、遥ちゃんが不幸になるなら……それを望まないはずだよ」

彼方 「ゆ、夢……遥ちゃん……?」

遥 「私はここにいるでしょ!? 騙されないでお姉ちゃんっ!!」

342: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:02:44.64 ID:A6jzHKK4
彼方 「……」

歩夢 「……」

遥 「お姉ちゃんっ!!」

彼方 (夢……現実……遥ちゃんは……そうだ、遥ちゃんは彼方ちゃんが傷つけて……)

彼方 「……そ、そっか、これは夢」

遥 「違う、違うよお姉ちゃんっ!!」

343: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:03:45.63 ID:A6jzHKK4
歩夢 「夢じゃなくて、現実で……遥ちゃんが待ってる!! だから帰ろう? 彼方さん!」

遥 「……っ」

彼方 「……」

彼方 「でも、現実には戻りたくない……!」

歩夢 「え?」

344: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:05:28.78 ID:A6jzHKK4
彼方 「現実の遥ちゃんに、彼方ちゃん……嫌われちゃったんだ。遥ちゃんの気持ち、何も考えないで自分の考えばかり優先して……だから、遥ちゃんに嫌われた世界なんて耐えられないから……帰りたくないのっ」

歩夢 「彼方さん……」

彼方 「偽物の世界にいたら遥ちゃんを悲しませる、だけど現実に帰ったら彼方ちゃんは遥ちゃんに否定される……」

歩夢 「そ、そんな遥ちゃんは彼方さんを否定なんか!」

彼方 「……どっちも嫌だ。何も考えたくないっ!!」

侑 「! まずい力がより強くなってる!」

345: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:09:58.60 ID:A6jzHKK4
彼方 (もう何も考えたくない。こんなつらい現実なら要らない)

彼方 (でも、そんな彼方ちゃんに夢を見る資格なんてものもない。何も、何も……)

彼方 「……」 ウトウト

彼方 (あれ? また眠気が……)

彼方 「……」パタッ

歩夢 「彼方さん!?」 タッタッ

侑 「……っ」

346: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:10:57.54 ID:A6jzHKK4
歩夢 「彼方さん! 起きてください!! 遥ちゃんが……それに私もかすみちゃんも、待ってるんです!! だから!!」 ユサユサ

侑 「……だめ、寝ちゃったみたいだ」

歩夢 「そ、そんな」

ガラガラ

ガラガラ

歩夢 「!」

遥 「……壁が崩れたみたいですね」

347: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:11:26.27 ID:A6jzHKK4
歩夢 「侑ちゃん!」

侑 「任せてっ!」 タタタタ

ガシッ

侑 「捕まえたよっ!! 彼方さんを戻して!!」

遥 「……」

侑 「? なんで抵抗しないで……」

遥 「……抵抗する意味がないからかな」

歩夢 「どういうことなの」

348: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:14:44.89 ID:A6jzHKK4
遥 「もう、私はあと少しで消える。お姉ちゃんは……近江彼方は、新しい能力を手に入れるから」

侑 「新しい能力?」

遥 「夢の中で眠ったらどうなると思う……?」

歩夢 「早く教えて……!」

遥 「現実逃避によって進化する能力『夢の住人』……それは夢の中へ逃げることが可能な能力。でも、お姉ちゃんは夢の中ですら、現実逃避をしてしまった。現実と夢、どちらにいるのも耐えられなくなって……また新しい逃避をしてしまった。だから夢の中で眠ってしまったの」

歩夢 「……それは、どうなるの」

349: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:16:10.31 ID:A6jzHKK4
遥 「『能力が完全に進化した行き先は、すべて同じ』……私もそれ以外はあまり知らない。なってみないと分からない。でも、別物になるのは確か。能力の意識である私も消える。こんなの、決して望んだ結果じゃない」

侑 「……じゃあ止め方も知らないってこと?」

遥 「そういうことかな。私を消したいなら、消してもいい。どうせ、消えるんだから」

侑 「……歩夢。もう一度、彼方さんの夢に入るんだ」

歩夢 「!」

350: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:35:52.28 ID:A6jzHKK4
侑 「彼方さんが向かった行き先が、どんなところなのかは分からない。でも、連れ戻さなくちゃ」

歩夢 「……うん、行こうっ、侑ちゃん!」

彼方 「……」 スゥスゥ

歩夢 「彼方さん……」

遥 「いい寝顔だね」

歩夢 「……あなたが彼方さんを夢の中へ連れてきたからこうなったんだよ? なんでそんなことを言えるの」

351: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:37:49.57 ID:A6jzHKK4
遥 「……私だって、お姉ちゃんが好きだよ。姿を具現化する際に、お姉ちゃんの中にある一番大事なものを参考にした。そしたらこうなった……本当に、二人でずっとここにいれたら良かったのに」

歩夢 「っ……」

侑 「歩夢、考えてる場合じゃないよ」

歩夢 「! そうだね、行こう侑ちゃん!」

歩夢 (絶対に彼方さんを連れ戻してくるっ!!)

侑 「能力『ときめきを共有して』」

352: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:38:57.67 ID:A6jzHKK4
—————

———



遥ちゃん

ごめんね

彼方ちゃんがダメだから

かすみちゃんも

歩夢ちゃんも

ごめんなさい

353: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 13:39:33.75 ID:A6jzHKK4
自分に都合のいい夢も

運命なのかってくらいつらい現実も

逃げてばかりで

だけどせめてワガママが

許されるなら

もう一度みんなに会いたかったな






355: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:04:09.14 ID:A6jzHKK4
彼方 「……ん?」 ムニャムニャ

彼方 「ここはどこ? 花畑?」

彼方 (なんだか綺麗だなぁ……それに風が心地いい……ひと眠りするのに絶妙なスポットだよ……)

?? 「……ここに来たということは、能力が完全に進化したということだね」

彼方 「あなたは?」

?? 「どうせ忘れるだろうから、名前を言ってもいいだろうけど……それはやめておくよ。見えるんだ、あなたがこれからどうなるか」

彼方 「?」

356: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:04:57.36 ID:A6jzHKK4
?? 「あなたはもうすぐ、目が覚める。能力が変わることはないし、現実と向き合わなくちゃいけない。少なくとも、あなたに私は能力を渡すことができない」

彼方 「……彼方ちゃんは、現実と向き合わなくちゃいけないの?」

?? 「苦しそうな顔だね、現実と向き合うのがそんなに嫌なの?」

彼方 「うん……遥ちゃんに嫌われるなんて、そんなの……」

?? 「だけど一人じゃないなら、運命は嫌でもあなたを運ぶ。安心して、ほら迎えが来たよ」

彼方 「えっ?」

357: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:07:37.80 ID:A6jzHKK4
?? 「Butterfly……羽を広げて、ハルカカナタに高く飛んで、あの二人を導いてあげて」 スッ

彼方 (手から蝶が……)

ヒラヒラ

ヒラヒラ

?? 「あの蝶が、あなたを連れ戻してくれる人たちをここに連れてきてくれる。そしたらきっと、現実と向き合えるようになるよ」

彼方 「……」

ヒラヒラ

ヒラヒラ






358: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:09:03.94 ID:A6jzHKK4
侑 「ここは……」

歩夢 「綺麗な花畑だね。彼方さんの夢なのかな?」

侑 「正確には夢の中の夢だけどね……でも」

歩夢 「?」

侑 「彼方さんの能力内だとしても、ここは少し異質に感じる。さっきの能力の発言もそうだけど、ここは能力者共通の空間なのかもしれない」

歩夢 「能力者共通の空間……?」

359: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:09:52.77 ID:A6jzHKK4
ヒラヒラ

ヒラヒラ

歩夢 「って蝶だよ、侑ちゃん!」

侑 「? 少し動きが……私たちに、こっちに来てって言ってるみたいだ。ついていってみる? 歩夢?」

歩夢 「う、うん……!」

タッタッ

タッタッ

歩夢 「! 彼方さん!」

彼方 「んー? 君たちは誰?」

侑 「……またさらに眠ったことで、さっきの戦いすら覚えてないみたいだね」

360: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:11:27.87 ID:A6jzHKK4
歩夢 「……」

彼方 「どうしたのー? こんなにリラックスできる場所だし、せっかくだから一緒に彼方ちゃんとお昼寝する?」

歩夢 「彼方さん、帰りましょう」

彼方 「!」

歩夢 「遥ちゃんが待っています。私も、かすみちゃんも……!」

彼方 「君は知らないと思うけど」

歩夢 「……!」

361: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:15:06.65 ID:A6jzHKK4
彼方 「彼方ちゃんは、バイトに学業に家事に、とても忙しいんだ。もちろん、遥ちゃんのためだし、進んでやってるから嫌なわけじゃない。でも、その遥ちゃんを傷つけて、お金に目が眩んで、そんな自分に心底呆れちゃったんだよ……」

歩夢 「彼方さん……」

彼方 「なんでこんなに現実ってひどいのかな、彼方ちゃん、頑張ってるだけじゃダメなのかな……報われたいなんて思ってない。ただ、今ある幸せが無くなることが……」

彼方 「こんなにもつらい……」 ポロポロ

歩夢 「……」

362: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:18:15.17 ID:A6jzHKK4
彼方 「だからもう、帰れない。夢の中から出れない。現実と向き合いたくない。こんな不条理な現実には……っ!」

歩夢 「でもっ!」

彼方 「!?」

歩夢 「だけど!! 違うでしょ彼方さん!?」

彼方 「な、何が……」

363: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:19:16.93 ID:A6jzHKK4
侑 「彼方さんの気持ちを読み取ったとき、断片的だけどちゃんと聞こえたよ」

彼方 「!」

侑 「『もう一度みんなに会いたかったな』って。もし後悔してるなら、きっとそれが本音……彼方さん、現実を諦められてないなら帰らなくちゃ!」

歩夢 「たしかに現実に行けば、彼方さんは自分の失敗に向き合わないといけないかもしれない……自分が傷つけてしまった遥ちゃんと向き合わないといけないかもしれない……そんな現実が嫌なのかもしれないっ。だけど!!」

364: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:20:24.82 ID:A6jzHKK4
歩夢 「現実の遥ちゃんを笑わせたい、だから彼方さんは笑えない現実を一生懸命生きてたんじゃないの!?」

彼方 「!」

歩夢 「どんなに現実がつらくても、ここまで頑張れたのは遥ちゃんがいたから……今現実で泣いている遥ちゃんがいたからじゃないんですか!? 言ってたじゃないですか!!」

歩夢 『妹さんのこと、大好きなんですね』

彼方 『うん!! それこそ遥ちゃんがいるから、毎日頑張れてるようなものだから!!』

歩夢 「……って」

彼方 「……!」

365: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:22:48.80 ID:A6jzHKK4
歩夢 「だから戻りましょう、彼方さん……あなたを待ってる人たちがいるから」

彼方 (私を待ってる人たち……!)

彼方 「……」

歩夢 「……」

彼方 「……現実はつらいけど、遥ちゃんがいて、かすみちゃんがいて、歩夢ちゃんがいる」

歩夢 「! 彼方さん、思い出して……」

366: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:29:39.93 ID:A6jzHKK4
彼方 「ごめんね……ありがとう、彼方ちゃん、やっと思い出せたよ。あなたは?」

侑 「!」

侑 「……私の名前は高咲侑。歩夢の親友で幼馴染で」

彼方 「……」

侑 「いつもあなたたちを見守ってるもう一人の友達」

彼方 「……」

侑 「そう、覚えててほしいな」

彼方 「……うん、分かった」

367: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 14:30:51.66 ID:A6jzHKK4
彼方 (そういえば、顔は思い出せないけどさっき誰かと喋ってたような……)

彼方 「あなたの言う通り、私を連れてきてくれる人たちが来てくれたよ……」 チラッ

彼方 「……? いない」

侑 「……そこにもう一人いたの?」

彼方 「いや……多分気のせいだよ。それより歩夢ちゃん、侑ちゃん」

歩夢 「!」

彼方 「心配かけてごめんね。遥ちゃんにも謝りたいな……。帰ろう、現実に」

歩夢 「彼方さん……もちろんですっ!!」

侑 「じゃあ帰ろう、二人とも。夢の中の幸せは、過去の幸せだから。新しい幸せは現実にしかないから……」



———

—————

368: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:17:39.57 ID:A6jzHKK4
彼方 「……ん?」 ムニャムニャ

歩夢 「……」 スゥスゥ

侑 「歩夢、起きて」

歩夢 「……侑ちゃん?」

遥 「うぅ……お姉ちゃん……」 ポロポロ

彼方 「遥ちゃん!?」

369: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:21:01.85 ID:A6jzHKK4
遥 「家に帰ってきて……お姉ちゃんがいなくて……公園で見つけて……そしたらベンチで寝てて……ずっと起きなくてっ……」 ポロポロ

彼方 「……」

遥 「一緒に女の人も倒れてるし……どうすればいいか分からなくて……私、このままお姉ちゃんとずっと喋れないんじゃ、って……」 ポロポロ

彼方 「……遥ちゃん、ごめんね」

遥 「! お姉ちゃんが悪いわけじゃ」

370: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:25:57.62 ID:A6jzHKK4
彼方 「彼方ちゃんにとって、大事だったのはお金じゃない。環境や時間、お金で買える幸せもあるけど……その幸せは、遥ちゃんと彼方ちゃん、二人がいてこそだったのに……」

遥 「お姉ちゃん……」

彼方 「今度こそ、私が遥ちゃんを支えるから。変なものに頼らずに、お姉ちゃんとして、立派に……」

遥 「違うよ、お姉ちゃん」

彼方 「えっ?」

遥 「お姉ちゃんは『妹なんだから甘えたっていい』って言ってくれたよね。でも違うんだよ、お姉ちゃん、私はね……」

371: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:26:59.39 ID:A6jzHKK4
遥 「甘えるじゃなくて、支え合いたいの!!」

彼方 「!」

遥 「お姉ちゃんが私を守りたいように、私もお姉ちゃんを守りたいっ! だから、支え合って頑張ろうよ、助け合っていこうよっ! 一人で抱え込まないでよ……!!」

彼方 (遥ちゃん……)

彼方 (なんで、なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう……二人で支え合って生きていきたい、そう思ってたはずなのに……)

彼方 「ただいま、遥ちゃん。寂しい思いをさせてごめんね、これからも一緒だよ」 ダキッ

遥 「……お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!!」 ポロポロ

372: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:28:22.53 ID:A6jzHKK4
歩夢 「……」

侑 「……歩夢」

歩夢 「? なに侑ちゃん?」

侑 「幸せって難しいよね。知らなくていい真実も山ほどあるだろうし」

歩夢 「……」

侑 「だけど、今の幸せを大事にできたらいいよね。ね、歩夢!」

歩夢 「そうだね、侑ちゃん……!」






373: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:29:55.23 ID:A6jzHKK4
彼方 「……」 スゥスゥ

遥 「お姉ちゃん、起きてっ!」

彼方 「……もう一眠り」 スゥスゥ

遥 「ダメだよお姉ちゃん! 今日は早起きしたいって言ってたでしょ!?」

彼方 「もうちょっとだけ……」 スゥスゥ

—————

———



遥 『……お姉ちゃん』

彼方 『んー? なに遥ちゃん?』

374: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:31:44.17 ID:A6jzHKK4
遥 『……私はあの人たちのおかげで助かった。だからってわけじゃないけど、もう、無理矢理夢の世界へ連れて行ったりしない。お姉ちゃんの幸せが第一だもん』

彼方 『遥ちゃん……』

遥 『その名前は私に言う名前じゃないでしょ? いいの、近江遥は現実にいるんだから。でもひとつだけ良い?』

彼方 『……うん、良いよ』

遥 『たまにこうして夢の中で、一緒にお茶会をしてほしいの。たくさん、お菓子を用意するから』

彼方 『もちろんだよ、遥ちゃん!』 ニコッ

375: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:36:00.81 ID:A6jzHKK4
遥 『だからそれは私に言う名前じゃ……。いやまあお姉ちゃんが良いなら良いけど、それより現実の近江遥が呼んでるよ?』

彼方 『遥ちゃんが?』

遥 『私はいつでもお姉ちゃんの味方。能力が必要になったら、いつでも呼んで。大丈夫、もうワガママ言わないから。ありがとう……お姉ちゃん』

遥 『私は幸せだよ、だから向こうの近江遥をもっと、幸せにしてあげて!』 ニコッ



———

—————

彼方 「ん? おはよう、遥ちゃん……ってあれ? 遥ちゃん、私より早く起きてる?」

遥 「昨日話したでしょ?」

376: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:38:29.98 ID:A6jzHKK4
彼方 「あっ、そうか……今日は遥ちゃんが担当だっけ」

遥 「うん。まだ料理は苦手だからチンしたものが多いけど……」

彼方 「ふふ、大丈夫だよ。彼方ちゃんが少しずつ教えていくから。頑張ろう? 遥ちゃん」

遥 「うんっ!」

彼方 (昨日の夜、歩夢ちゃんと話した後、家に帰って遥ちゃんと、これからのことを話した。能力のことは上手く誤魔化したけど……遥ちゃんは私の力になりたいって、考えを曲げなかった)

遥 「それよりお姉ちゃん。私が担当で早く起きたから、起こせたけど、お姉ちゃんが早起きしたいって言ったんだよ?」

彼方 「ごめんごめん、可愛い後輩たちの練習メニューをもう少し練りたくて……」 エヘヘ

377: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:39:51.91 ID:A6jzHKK4
遥 「またお姉ちゃんったら、自分から忙しくて……でも、どんなことよりお姉ちゃん楽しそう。それなら文句言えないよ」

彼方 「そんなに楽しそう? そっかー……そんなに彼方ちゃん、楽しんでるんだねぇ……」

彼方 (これから家事は遥ちゃんと分担ですることになった。バイトはさせられない、それは彼方ちゃんも絶対譲れないところだった。だけど家事が分担になるだけですごく楽になると思う……ありがとう遥ちゃん)

彼方 「うん! このおかず美味しいよ!」

遥 「あはは、冷凍食品が多いけどね……」

彼方 「いや遥ちゃんの思いが入ってるから数倍美味しいっ!!」

遥 「お姉ちゃんったら、本当親子バカというか……姉妹バカというか……でもありがとう」

遥 (お姉ちゃん……元気になってよかった……)






378: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:47:40.85 ID:A6jzHKK4
彼方 「はぁ、金欠だよぉ」

かすみ 「急にどうしたんですか、彼方先輩?」

彼方 「色々あってね、出費があるんだよ」

彼方 (能力で出したお金は全部消しちゃったから……払ったお金は払い忘れたって言って自費でちゃんと返すことにしたんだよね)

かすみ 「にしては顔が笑ってますけど?」

彼方 「そう? ふふ、そうかもしれないねぇ」

かすみ 「いやどういうことですか……」

379: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 16:49:21.50 ID:A6jzHKK4
彼方 (これからも、遥ちゃんと一緒に頑張れる気がするし、私には大事な後輩たちがいるからね、人生楽しみいっぱいだよーーっ!!)

歩夢 「おはようございます、彼方さん、かすみちゃん」

かすみ 「おはようございます! 歩夢先輩!」

彼方 「おはよう、歩夢ちゃん……それと」

歩夢 「?」

彼方 「たしか侑ちゃんだったかな、おはよう二人ともっ!」 ニコッ

侑 「彼方さん、覚えてくれてたんだ……ふふ、嬉しいな。ほら遅刻しちゃうよ、行こっ、歩夢」

歩夢 「うんっ!!」






385: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 23:51:38.09 ID:A6jzHKK4
キンコンカンコーン

彼方 「じゃあ昼休みの練習、早速頑張ろう〜!!」

かすみ 「……」

歩夢 「おおっーー!」

彼方 「?」

歩夢 「かすみちゃん? どうしたの?」

386: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 23:53:01.08 ID:A6jzHKK4
かすみ 「……歩夢先輩、かすみんはとんでもないことに気付いてしまいました」

歩夢 「とんでもないこと?」

かすみ 「かすみんたちには実際のライブ経験がありませんっ!!」

彼方 「それはそうだよ〜、練習始めてそんなに経ってないんだから」

かすみ 「しかし、いずれステージで歌う以上、やはりライブをイメージしないといけないと思うんです」

彼方 「単純に基礎練に飽きただけじゃないの?」

かすみ 「そ、そ、そ、そんなわけありませんけど!?」 アセアセ

歩夢 「なんて分かりやすい図星……」

387: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 23:54:10.00 ID:A6jzHKK4
かすみ 「いずれかすみんたちはたった一人でステージに立たなくちゃいけないんです!! なのにステージに立つどころか、人のライブもあまり見てない状態じゃ……」

歩夢 「……? 一人で立つ?」

かすみ 「何かおかしいこと言いました?」

歩夢 「一人で立つって私は?」

かすみ 「だってソロアイドルですし」

歩夢 「……」

かすみ 「……」

歩夢 「ええっ!?」

かすみ 「急に驚かないでくださいよ!?」

388: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 23:55:09.73 ID:A6jzHKK4
歩夢 「かすみちゃん私と一緒にスクールアイドルをしてくれるって……!!」

かすみ 「一緒にはしますよ、練習とか、たまにコラボも良いかもですね」

歩夢 「グループというわけでは……?」

かすみ 「ないですね」

歩夢 「……」

かすみ 「……」

歩夢 「ええっ!?」

かすみ 「だから急に驚かないでくださいよ!? 心臓に悪いです!」

389: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 23:56:32.47 ID:A6jzHKK4
歩夢 「だって、わ、私がソロアイドル……? 一人でステージに立つの?」

かすみ 「ライバルですからね、いくら歩夢先輩が可愛くたって負けませんよ……っ!!」

歩夢 「いやいや勝手にライバルにしないでよ! 私は一人じゃライブなんて……」

彼方 「かすみちゃん? なんでそんな大事なこと、歩夢ちゃんに話してなかったの? てっきりもう知ってることだと……」

かすみ 「いやなんとなく話してた気になってました……」

390: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/16(水) 23:58:10.04 ID:A6jzHKK4
歩夢 「……」 ボッー

侑 「呆然としてるけど、大丈夫? 歩夢?」

歩夢 「……辞めようかな」 ボソッ

かすみ・彼方 「「!?」」

かすみ 「歩夢先輩!?」

彼方 「歩夢ちゃん!? 落ち着いて!?」

歩夢 「うぅ……だって一人じゃ恥ずかしいし、無理だよぉ……」 シクシク

かすみ 「だ、大丈夫ですよ! 練習は嘘つきませんから!!」

彼方 「その理論でいくと練習は不足気味だけどね」

392: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/17(木) 00:05:43.39 ID:kyUu0B2u
かすみ 「そうだ!!」

歩夢 「……?」

かすみ 「ならもう一人スクールアイドルをスカウトしましょう! そして、ライブを見に行くことで、ソロライブの楽しみというものを知ってもらいます!」

彼方 「スカウト? 心当たりがあるの?」

かすみ 「じゃーーーん!! ここに三枚、あの伝説のスクールアイドルのチケットがありますぅ!!」 ジャジャーン

歩夢 「伝説のスクールアイドル?」

393: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/17(木) 00:07:43.16 ID:kyUu0B2u
かすみ 「伝説というか幻に近いですけど……虹ヶ咲学園のスクールアイドルなのにもかかわらず、普段校舎で見たものはいないと言われている、あのスクールアイドル!」

かすみ 「『優木せつ菜』の今日の放課後のライブチケットです!!」

歩夢 「優木せつ菜……?」

かすみ 「むむ、知らないならば教えましょう。この虹ヶ咲でスクールアイドルを目指すなら、必ず知っておくべき人ですよ!」

394: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/17(木) 00:13:42.98 ID:kyUu0B2u
かすみ 「突如現れたスクールアイドル、優木せつ菜……その伸びのある歌声に華麗な動き、何より『大好き』が伝わってくる有り余る情熱! その姿は多くの人を魅了しました!」

かすみ 「しかし、学内では誰も見たことがないというミステリアスさも残しています……悔しいくらい特徴のあるスクールアイドルです」

かすみ 「彼女は一匹狼の印象がありますが、なんとか私たちがスカウトすることで、一緒に練習をしてもらい……ライブ経験のある彼女から多くを学ぶことで、歩夢先輩のソロライブへの自信をつけようという魂胆ですっ!!」

395: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/17(木) 00:16:46.64 ID:kyUu0B2u
彼方 「なるほど〜。それでそのライブチケットというのは?」

かすみ 「これは優木せつ菜さんのライブチケットです。三人分用意しておきました!」

歩夢 「まだ高校生なのにチケットまで用意されてるなんて……よっぽど人気なんだね」

かすみ 「まあどこかに所属してるわけではないので、商業というよりは、会場の人数規制の整理券みたいなものですが……なんとか抽選に勝ちました」

396: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/17(木) 00:19:24.08 ID:kyUu0B2u
かすみ 「このライブを見に行くことで、かすみんたちはライブがどういうものかを学べますし、普段姿を見せない彼女に話しかけてスカウトすることもできます……どうですか! 一朝一夕でしょう!」

彼方 「それを言うなら一石二鳥じゃないかな……? というか、かすみちゃん」

かすみ 「? どうしました? 彼方先輩」

彼方 「今日の放課後のライブチケットを事前に、しかも三枚も用意してるなんて……もしかして、いかにも自然に話題に持ってきてたけど、最初から彼方ちゃんと歩夢ちゃんを連れていく予定だったんじゃ……」

かすみ 「そ、そ、そ、そんなわけありませんけど!?」 アセアセ

歩夢 「だからバレバレだよ、かすみちゃん……」

397: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/17(木) 00:22:19.14 ID:kyUu0B2u
彼方 「でも悪いんだけど彼方ちゃんは難しいかも……」

かすみ 「ええっ!?」

彼方 「そのライブの途中でバイトの時間が来ちゃうし、家に帰ったら遥ちゃんに料理を教えてあげたいんだ」

かすみ 「そ、そんな……! それじゃチケットが」

歩夢 「! それなら私誘いたい人がいるんだけど大丈夫かな?」

かすみ 「えっ? まあ少なくとも歩夢先輩が来てくれれば意味はあると思いますし……大丈夫ですけど……」

歩夢 「私の友達でね……」






400: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/17(木) 01:07:41.43 ID:kyUu0B2u
璃奈 「ありがとう、歩夢さん。私を誘ってくれて」

歩夢 「ふふ、今度一緒にどこか遊びに行こうって言ったでしょ? こちらこそ急に誘っちゃってごめんね」

璃奈 「大丈夫。今日はDちゃんが用事があって、放課後は暇だったから」

かすみ 「えっと……はじめまして……あ、あの!」

璃奈 「私は天王寺璃奈」

かすみ 「!」

璃奈 「一年、情報処理学科。よろしくね」

かすみ 「中須かすみ、一年の普通科です! こちらこそ、よろしくお願いします!」

405: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 00:51:26.31 ID:jjRg1rXJ
璃奈 「……ところで歩夢さん、私はあまりスクールアイドルに詳しくないけど、大丈夫なのかな?」

歩夢 「うん、大丈夫だよ。スクールアイドルは詳しいとか詳しくないとか、そういうのじゃないと思うんだ。ライブは何も気にしないで楽しめばいいと思うよ! それに、正直私もあんまりスクールアイドルに詳しくないから……あはは」

かすみ 「いや歩夢先輩はもっとライバルたちのことを研究してくださいよ……」

璃奈 「侑さんもここに来てるの?」

歩夢 「うん、来てるよそこに」

璃奈 「……そっか、良かった」

侑 「ほら、歩夢。その伝説のスクールアイドルっぽい子がステージに立ったよ」

406: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 00:55:36.60 ID:jjRg1rXJ
せつ菜 「みなさん今日はライブに来てくれてありがとうございます!!!!!」

キャアーーーーッ!

セツナチャーーーーン!!

かすみ 「すごい盛り上がりですね……!」

歩夢 「緊張しないでステージに堂々と立ってて……すごいなぁ……」

生徒L 「きゃぁーーーーー!!! せつ菜ちゃんかっこいいよぉぉぉーー!!」

407: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 00:56:57.34 ID:jjRg1rXJ
かすみ 「……」

歩夢 「……」

生徒L 「はっ!?」

かすみ 「あっ、えっと、かすみんたちは気にしないで大丈夫ですよ」

歩夢 「ご、ごめんなさい、私たち初めて来たので、ライブのノリが分からないというか……」

408: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 00:59:23.54 ID:jjRg1rXJ
生徒L 「……いえ、私も羽目を外しすぎました。本来はこのような性格ではないのですが、せつ菜ちゃんが関わるとつい」

歩夢 「その制服……同じ虹ヶ咲だよね? 優木せつ菜ちゃんのファンなの?」

生徒L 「ファンなんてものではありません……大ファンです!! せつ菜ちゃんは勉強しか取り柄のなかった私の生きる希望ですから! ほら、そろそろ曲が始まりますよ、初めてなら是非、せつ菜ちゃんの魅力を楽しんでいってください!!」

せつ菜 「みなさんに『大好き』を届けますよっーーーーー!!!!」






409: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 01:13:24.92 ID:jjRg1rXJ
歩夢 「……」

かすみ 「……」

生徒L 「うぅ……せつ菜ちゃん……今日も最高だったよぉ」 ポロポロ

生徒L 「メガネじゃなくて裸眼で見たかったな……もう、なんというか、何も通さないで直に見たかった……最高のライブだった……」 ポロポロ

410: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 01:15:28.76 ID:jjRg1rXJ
かすみ 「……どうでしたか、歩夢先輩。初めてのスクールアイドルのライブは」

歩夢 「……私が同じようにできるかは分からないけど、スクールアイドルがこんなにも力をくれるものなら」

かすみ 「……」

歩夢 「私もやってみたい。そう、改めて確信したよ」

侑 「歩夢……」

412: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 01:16:28.27 ID:jjRg1rXJ
かすみ 「かすみんも、悔しいくらい最高なライブでした」

歩夢 「!」

かすみ 「これが、スクールアイドルなんですね……『可愛い』を目指すかすみんとはまた違う方向性でしたが、素敵なライブでした」

歩夢 「……お互い、これからも練習だね」

かすみ 「はい! そのためにも今から優木せつ菜さんをスカウトしに行きますよーー!!」

413: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 01:19:43.38 ID:jjRg1rXJ
歩夢 「うん。璃奈ちゃんも一緒に行こう?」

璃奈 「……」 ボォー

歩夢 「璃奈ちゃん?」

璃奈 (……みんなが笑顔だった。幸せだった。スクールアイドルって、こんなにすごいんだ。こんなに力をくれる、こんなにみんなを笑顔にできる)

璃奈 「歩夢さん、歩夢さんはスクールアイドルを目指してるんだよね?」

歩夢 「う、うん。ここにいるかすみちゃんと、あとは彼方さんっていう先輩がいて、三人で練習を頑張ってるんだ!」

414: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 01:21:17.81 ID:jjRg1rXJ
璃奈 「……」

歩夢 「それがどうかしたの?」

璃奈 「……私も一緒に活動していいかな」

歩夢 「!」

璃奈 「私は表情を作ることが苦手なことをずっと気にしてたけど、こないだから前向きに考えられるようになった。でも、もう一歩進みたい。自分が笑顔になれなくても、みんなを笑顔にできたなら……こんなに嬉しいことはないと思う」

歩夢 「璃奈ちゃん……。うん、分かったよ、璃奈ちゃんも練習一緒に頑張ろう! ね、大丈夫だよね、かすみちゃ……」

415: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 01:21:53.82 ID:jjRg1rXJ
シーン

歩夢 「かすみちゃん?」

璃奈 「……いないね」

侑 「さっき優木せつ菜ちゃんのところに向かってたよ。すぐスカウトしないと帰っちゃうって」

歩夢 「……とりあえず優木せつ菜ちゃんのところへ行こうか。話は後でだね」

璃奈 「うん」






418: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 23:50:07.39 ID:jjRg1rXJ
かすみ 「すいませんっ!」 タタタタ

せつ菜 「? あなたは?」

かすみ 「普通科一年の中須かすみです! それで、こっちにいるのは……」

シーン

かすみ 「ってあれ?」

歩夢 「ちょっとかすみちゃん! 置いていかないでよぉ」 タタタタ

かすみ 「歩夢先輩! 遅いですよ!」

419: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 23:56:57.61 ID:jjRg1rXJ
歩夢 「はぁ……はぁ……かすみちゃんが急にいなくなったんだよ、えっと、普通科二年の上原歩夢です」

璃奈 「一年、情報処理学科の天王寺璃奈です」

かすみ 「優木せつ菜さん、急で申し訳ないですけど、お願いがあります!」

せつ菜 「お願い、ですか?」

かすみ 「実はかすみんたち、スクールアイドルを目指して日々頑張ってるんですが……せつ菜さんにも一緒に練習してほしいんです!」

せつ菜 「! なるほど……」

歩夢 「急に知らない人たちからこんなことをお願いされて、迷惑なのは重々承知しています……。でも、優木せつ菜ちゃんのライブを見て、私、すごく感動して! そんなせつ菜ちゃんと一緒に活動できたら、きっと大きな一歩になる! お願いします、どうか一緒に活動してください!!」 ペコッ

璃奈 「私からもお願いします」 ペコッ

420: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/18(金) 23:58:58.10 ID:jjRg1rXJ
せつ菜 「……」

歩夢 「お願いしますっ!」 ペコッ

せつ菜 「そんな、頭を上げてください……それに全く知らないわけではありませんよ」

かすみ 「えっ?」

せつ菜 「虹ヶ咲に、私以外にスクールアイドルを始めた人たちがいる、その情報は私も知ってました。そうですか、あなたたちが……」

せつ菜 (私をスカウトしたい、そしてスクールアイドルのライブを見たい、おそらくはその辺りがここに来た理由だと思いますが……それにしたって、直接スカウトするなんて、行動力があります。それに、あの瞳から強い情熱を感じる……)

421: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/19(土) 00:00:06.06 ID:xvQLRDKK
せつ菜 「ええ、構いませんよ。私も一人の練習には少し飽きていたところです。これから私でよければ、是非一緒に練習させてください!」

かすみ 「……?」

歩夢 「……?」

せつ菜 「いやなんであなたたちが驚いてるんですか、頼んできたのはそちらでしょ?」

かすみ 「いや、え、えっ? 本当にあの優木せつ菜さんが私たちと練習を?」

歩夢 「思ったよりもあっさり承諾してくれたから驚いちゃって……」

422: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/19(土) 00:01:56.51 ID:xvQLRDKK
せつ菜 「私は、『大好き』な気持ちなら、決して蔑ろにしません。それに、あなたたちのその情熱はきっと本物でしょう? ですから、あなたたちと練習をしていけば、きっと私の進歩にもなるはずです。ほらwin-winじゃないですか!!」

せつ菜 「改めてよろしくお願いします!」

かすみ 「……や、や」 プルプル

かすみ 「やったぁぁぁぁぁぁぁーー!!! これからはあの優木せつ菜さんと練習ができるなんて!」

歩夢 「ふふ、良かったね、かすみちゃん……それに私もすごく嬉しいな」

427: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 01:13:01.71 ID:q1tQMOTb
璃奈 「……」 モジモジ

せつ菜 (? 何か言いたそうな……)

せつ菜 「天王寺璃奈さん、ですよね。何か言いたそうな素振りを見せてますが、私のことは気にしないで大丈夫ですよ」

璃奈 「!」

せつ菜 「きっとこのタイミングで言うのがベストなことなのでしょう?」

璃奈 「……」

せつ菜 「なら言ったほうがいいです!」

428: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 01:14:09.79 ID:q1tQMOTb
璃奈 「……かすみさん」

かすみ 「! なんですか、りな子?」

璃奈 「りな子?」

かすみ 「あっ、えっと、同い年でしょ? ならあだ名で呼んでもいいかなって」

歩夢 「急に? 流石に早いような……」

かすみ 「あんなに素敵なライブを、空間を、共有して楽しんだ仲なんです。もう立派な友達ですよ! あ、でも、もし嫌なら変えますけど……」

璃奈 「いやそれで大丈夫、むしろその方が嬉しい。それで伝えたいことなんだけど……」

かすみ 「は、はい!」

429: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 01:25:29.61 ID:q1tQMOTb
璃奈 「私もせつ菜さんのライブを見て、スクールアイドルをやりたくなったんだ」

かすみ 「!」

璃奈 「……私はせつ菜さんみたいに、スクールアイドル経験者でも、詳しいわけでもないけど、だけど、このやりたい気持ちは本物。お願い! 私も一緒に練習させて!」

かすみ 「……」

璃奈 「……」

かすみ 「もちろんですよ、りな子。遠慮なんかしないでください。歩夢先輩も言ってたでしょ? 詳しいとか詳しくないとかじゃなくて、気持ちが大事だって!」 ニコッ

璃奈 「かすみさん……!」

433: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 17:43:22.91 ID:q1tQMOTb
かすみ 「あ、それと、『さん』じゃなくて『ちゃん』でよろしくお願いします! かすみんがあだ名で呼んでるんですから、堅苦しいのはダメですよっ」

璃奈 「か、かすみちゃん……? これでいいのかな、これからよろしくね」

かすみ 「はい!! 一緒に頑張りましょう!!」

せつ菜 (……私の目の前で『大好き』が生まれる、なんて素晴らしい光景なんでしょうか。こういうとき、スクールアイドルをやってて良かったなと感じます)

434: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 17:45:04.27 ID:q1tQMOTb
ピコーン

せつ菜 「!」

せつ菜 (……母からのメール? 今はとりあえず彼女たちとの話に集中しなければ)

せつ菜 「では、明日からよろしくお願いしますね、みなさん」 ニコッ

かすみ 「急にメンバーが二人も増えるなんて……明日からもっと楽しみになりました!」

璃奈 「私も、新しいことが始まりそうで、すごくワクワクしている」

435: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 17:45:40.28 ID:q1tQMOTb
侑 「……なんだか益々賑やかになって良かったね、歩夢」

歩夢 「うん!」

かすみ 「じゃあせつ菜先輩、早速なんですけど、明日の集合場所はあそこの広場で……」

せつ菜 「なるほど。そこで活動をしてるのですね。時間帯は?」

かすみ 「昼休みと放課後です」

せつ菜 「分かりました。明日から私もその場所に行きますね!!」






436: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 17:47:09.07 ID:q1tQMOTb
タッタッ

タッタッ

菜々 「……ふふ」

菜々 (まさか、一緒に練習してくれる仲間たちと出会えるなんて……ライブも無事成功しましたし、今日はとても素晴らしい日です)

菜々 「というか、これって青春モノにある仲間と高め合うシチュエーションですよね……なんというか憧れていたのですごく嬉しいです。せっかくならラノベ風なナレーションでも導入しておきましょうか……!」

菜々 (私の名前は中川菜々。普通科の二年生……そして、幻のスクールアイドル『優木せつ菜』の正体です)

437: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 17:48:10.58 ID:q1tQMOTb
菜々 (ずっと一人狼だった私……でも、私のライブにまで来て、『一緒に練習をしてください』と言ってくれた人たちがいた。そこから私たちは時に喧嘩をしても強い絆で壁を乗り越え、そして念願のラブライブ優勝へ一歩踏み出すのであった……)

菜々 「これは感動物語の予感がします……!」 ワクワク

タッタッ

タッタッ

菜々 「……それにしても、『話したいことがあるから早く帰ってきなさい』なんて、お母さん、一体どうしたんだろう」

ガチャ

438: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 17:49:08.25 ID:q1tQMOTb
菜々 「ただいま、お母さん」

中川母 「おかえり、菜々。今日も生徒会で遅かったの?」

菜々 「うん」

菜々 (……中川家では、ライトノベルはもちろんのこと、アニメや漫画など勉強を阻害するようなものには何でも厳しく、スクールアイドル活動なんてもってのほか。なので私は『優木せつ菜』という名前で家族に隠れてアイドル活動をしています)

菜々 (また、生徒会長という立場を利用し、アイドル活動によって遅くなった日や、土日の活動は生徒会の用事だと家族には上手く誤魔化してきました)

中川母 「……少し話したいことがあるんだけど大丈夫?」

菜々 「? もちろん大丈夫だけど」

439: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 17:50:08.59 ID:q1tQMOTb
タッタッ

タッタッ

中川母 「そこに座って?」 ガラッ

菜々 「う、うん」

菜々 (お母さん、怒ってるのかな、そう見えるような……なんで? もしかしてスクールアイドルの活動がバレたんじゃ……)

中川母 「これ、こないだの模試」

菜々 「!」

中川母 「菜々のことだから心配してないけど、少し成績が下がってるわよ?」

菜々 「……あ、えっと、ごめんなさい」

440: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 17:50:52.98 ID:q1tQMOTb
中川母 「怒ってるわけじゃないのよ、ただ……もう少し勉強時間を増やさないとね。生徒会を早めに切り上げなさい」

菜々 「えっ……?」

中川母 「いくら生徒数の多い学校だからって、毎回こんなに遅くまで生徒会が忙しいだなんて……正直おかしいと思うのよ。多分、周りがあなたに甘えてるのでしょう? 昔から菜々は頼られることが多かったし……」

菜々 「……つまりどういうことですか」

中川母 「断りなさい。頼み事はなるべく断って、最低限の生徒会活動だけして、早めに帰ってきなさい」

菜々 「そ、そんなのできないよ、生徒会長なんだから……」

441: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 17:52:13.33 ID:q1tQMOTb
中川母 「なら学校に連絡しましょう。いくらなんでも毎度忙しすぎるわよ」

菜々 「そ、それはやめてください!!」

中川母 「? 急に叫んでどうしたのよ」

菜々 (学校に電話なんかしてしまったら、私が遅くなってる理由が生徒会じゃないのがバレてしまう……!)

菜々 「……えっと、私自身でしっかり、仕事を早めに終わらせますから。わざわざ先生たちに文句を言って評価が下がるのも嫌でしょ、お母さん?」

中川母 「まあ、それはそうね……」

菜々 「じゃあ、私は部屋で勉強するから」

中川母 「分かったわ、頑張ってね。それと、明日からは早く帰ってくるのよ」

442: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 18:17:47.37 ID:q1tQMOTb
タッタッ

タッタッ

菜々 「……」

菜々 「……スクールアイドルの活動。せっかく明日からは仲間ができたのに……」

菜々 (昼休みと放課後……でしたよね。昼休みは出れるでしょうか? 放課後は生徒会の活動を急いで終わらせて練習に行けば……いやダメですね。早く帰ってこいと言われたんですから)

菜々 「そもそも成績が下がったのが失敗なんです……。生徒会も忙しい上に、そこにスクールアイドルの活動まで……勉強時間を減らして帰宅時間を遅くして、それでやっと今の日々が成り立っていた……」

菜々 「成績が下がるのも当たり前ですし、そうなれば母が黙ってるはずがない」

443: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 18:18:18.45 ID:q1tQMOTb
菜々 (分かっていたことでしょう。私はそういう家庭なのですから……)

ピコーン

菜々 「ん?」

菜々 「あっ……コンビニ受け取りにしてた新刊!? すっかり忘れてました……帰り道に取りにいく予定だったのに……」

菜々 (参考書、と言えば誤魔化せるでしょうか……)






444: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 18:20:00.28 ID:q1tQMOTb
ウィーン

アリガトウゴザイマシター

菜々 「ふぅ、なんとか受け取れました……あとは家に帰って、お母さんに見られないように部屋にしまうだけ」

菜々 (それにしても……)

菜々 「……好きなラノベも、漫画もアニメも、家族の前で全て隠さないといけない。我ながら、不思議なことをしてるものです」

菜々 「こんなに『大好き』を伝えることにこだわってるのに、家ではこそこそ隠れてこんなことをやっている……隠し事をしてる点で家族に、自分のポリシーを無視してる点で自分に、大変失礼な気がします……」

445: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 18:20:45.23 ID:q1tQMOTb
菜々 (好きなことはしたい、でも、家族の期待を裏切りたくない。あぁ、私が二人いたなら、良かったのに)

?? 「私が二人いたなら、良かったのに」

菜々 「!」

?? 「そう思うこと、ありますよね」

菜々 「……誰ですか」

?? 「私? 私は別に誰でもないですから、どうでもいいのです。それよりあなた、このままじゃ時間が足りないんじゃないですか?」

菜々 「……時間、ですか」

446: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 18:21:38.46 ID:q1tQMOTb
?? 「やるべきことが山ほどあるのに、体は一つしかないからどうしようもない……そんな顔をしていますよ」

菜々 「構わないでください。どうしようもないことです」

??「いいえ、奇跡的にあなたにはその能力がある」

菜々 「能力?」

菜々 (……まるで漫画みたいなことを言いますね)

?? 「ええ。正義のヒーローは二つ顔を持ってるものですが、あなたには顔だけじゃなく体まで、要するに分身能力があるのです」

菜々 「分身能力ですか……!?」 ドキッ

447: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/20(日) 18:22:39.91 ID:q1tQMOTb
菜々 (どう見ても怪しいのに、つい魅かれてしまう自分がいる……)

?? 「ふふ、気になりますか? 当然でしょう、正しく使えばノーリスク・ハイリターンなんですから!」

菜々 「ノーリスク・ハイリターン……」

?? 「人間誰しも忙しさが原因で諦めないといけないことがある……」

菜々 「!」

?? 「それは夢だったり、幸せだったり、大事な人だったり……でも二兎を追うものが二人いたら、結果的には一人に一兎。何も問題はありません。さあ、あなたの能力を使うときが来たんです……!」

菜々 「私の能力を使うときが……!」

?? 「ふふ、もう一人の自分にも、納得できるような道を選ぶことを期待してますよ……」 ボソッ






451: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:13:40.71 ID:KUhT8+Jt
ガチャ

中川母 「おかえり、菜々。参考書は受け取れた?」

菜々 「うん、ありがとう、お母さん」

中川母 「……あなた」

菜々 「?」

中川母 「何か変わった? いや、何も変なところはないのだけど……少し変わった気がして……」

452: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:14:53.05 ID:KUhT8+Jt
菜々 「気のせいだよ、じゃあ今度こそ勉強するね」

中川母 「そうよね気のせいよね、ごめんなさい、勉強頑張ってね」

タッタッ

タッタッ

菜々 「……」

菜々 「これで問題はないはずです……家族の期待を裏切らずに済む。あとはもう一人の自分と折り合いをつけてゆければ……」