歩夢 「イマジナリーフレンド」 その1

453: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:18:05.26 ID:KUhT8+Jt
キンコンカンコーン

歩夢 「昼休みだね、侑ちゃん」

侑 「そうだね」

ガラッ

かすみ 「歩夢先輩! 練習行きましょう!」

歩夢 「うん。今日はせつ菜ちゃんと璃奈ちゃんもいるし、待たせたら悪いから早く行こう」

タッタッ

タッタッ

454: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:19:09.59 ID:KUhT8+Jt
かすみ 「それにしてもせつ菜先輩、無事に来れるんでしょうか?」

歩夢 「? どういうこと?」

かすみ 「いやせつ菜先輩って、クラスも学科も不明なんですよ……だから歩夢先輩みたいに迎えに行くこともできなくて、昨日はとりあえず場所と時間だけ伝えたんですが」

歩夢 「……なら問題ないんじゃ?」

かすみ 「ミステリアスなのは魅力ですけど、そこまで隠し通すって……もしかして何か事情があるのかなって。今まで一匹狼だったのも……もしかして」

歩夢 「うーん、言われてみるとそうかも」

455: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:20:03.74 ID:KUhT8+Jt
かすみ 「だから約束をドタキャンするとは思いませんが、その事情のせいで来れない可能性はあるんじゃないかなって」

歩夢 「……でも、昨日のせつ菜ちゃん、すごく素敵な笑顔で私たちと話してくれたよ? 仮に事情があったとしても、一緒に練習したいって気持ちは本当なんだと思う」

かすみ 「!」

歩夢 「だから大丈夫なんじゃないかな」 ニコッ

かすみ 「……まあそうですね、かすみんたちが悩んでも仕方ありませんし、早く練習に行きましょう!」 タタタタ

歩夢 「ちょ、ちょっと待ってよ! かすみちゃん!」 タタタタ






456: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:22:11.23 ID:KUhT8+Jt
彼方 「ふむふむ、今日から二人もメンバーが増えるなんて……彼方ちゃんも嬉しいよ」

せつ菜 「優木せつ菜です!! よろしくお願いします!!」

璃奈 「天王寺璃奈です。よろしくお願いします」

彼方 「彼方ちゃんは彼方ちゃんだよ、よろしくね」

璃奈 「?」

かすみ 「彼方先輩!? しっかり自己紹介してくださいよ!? こちらは、かすみんたちの顧問の、近江彼方先輩です!」

457: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:23:50.34 ID:KUhT8+Jt
彼方 「顧問なんて偉い立場じゃないけどね〜。歩夢ちゃんとかすみちゃんに、スクールアイドルについて教えてるんだ」

歩夢 「彼方さんは妹さんがスクールアイドルで、だからスクールアイドルにも詳しいんだ」

せつ菜 「!? 近江ってもしかして……!?」

彼方 「む? もしかしてその表情……遥ちゃんをご存知か?」

せつ菜 「ご存知なんてものではありません!! 近江遥さんは私が大好きなスクールアイドルの一人です!! まさか遥さんのお姉さんに会えるだなんて!!」 キラキラ

459: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:27:41.40 ID:KUhT8+Jt
かすみ 「意外ですね……せつ菜先輩は周りを気にせず自由に活動しているイメージがありましたが、思ったよりスクールアイドルに詳しいんですね……」

せつ菜 「当然です!! 好きだからこそ自分でもやりたくなったんですから」

かすみ 「特に好きなスクールアイドルがいたわけじゃないのに、活動をちゃっかりしちゃってる人もいますけどね」 チラッ

歩夢 「あはは……」

侑 「でも歩夢、せつ菜ちゃんのライブを見て、辞めようかなって迷いが消えたんでしょ? だったらせつ菜ちゃんが、歩夢にとっての憧れのスクールアイドル、でもいいんじゃないの?」

歩夢 「……えっ、そ、そうなのかなぁ?」

せつ菜 「独り言ですか?」

かすみ 「あっ、えっと、気にしないでください。歩夢先輩は時々こうなるんです」

460: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:29:35.64 ID:KUhT8+Jt
彼方 「ところでせつ菜ちゃん、せつ菜ちゃんはどれだけスクールアイドルに詳しいの? ずっと一人で活動してきたみたいだけど、練習方法とか良ければ教えてほしいな。参考にしてまた練習メニューを練るから」

せつ菜 「彼方さんの練習メニューを軽く確認させてもらいましたが、基本的には一緒ですよ? 基礎練重視のメニューです。ですから、彼方さんの方針で問題ないと思います」

彼方 「そっか……じゃあもう一つ聞きたいことがあるんだけど」

せつ菜 「なんですか?」

彼方 「せつ菜ちゃんから見た、『スクールアイドル近江遥』ちゃんについて教えてほしいんだ!」

せつ菜 「良いんですか? 長くなりますけど」

彼方 「是非っ!!」

461: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:30:51.14 ID:KUhT8+Jt
せつ菜 「まずはあの健気なところが最高ですよねっ!! 良い子感が伝わってきますし!!」

彼方 「そうなんだよ!! 正確に言えば遥ちゃんは実際に良い子だけどね!! 超良い子だけどね!!」

せつ菜 「あとダンスも華麗というか……軽やかというか……学ぶところがたくさんあります。きっと、相当努力を重ねてきたんだと思います」

彼方 「フフフ、分かるよせつ菜ちゃん。遥ちゃんはとにかく最高なんだよ」

せつ菜・彼方 「「ペラペラ」」 ワイワイ!

璃奈 「……この二人の情熱がすごい。私も見習わないと!」

かすみ 「彼方先輩に関してはスクールアイドルというより、遥ちゃんへの情熱ですけどね」

462: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:32:43.43 ID:KUhT8+Jt
歩夢 「あはは、それにしても賑やかで、これからも練習が楽しそうだね、侑ちゃん」

侑 「……歩夢」

歩夢 「侑ちゃん?」

侑 「また微弱だけど、能力の気配を感じた」

歩夢 「えっ!?」

侑 「しかもすぐ近くから……辺りを見渡してみて? 変な動きをしてる人がいない?」

歩夢 「うーん、変な動きなんて……」 チラッ チラッ

463: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:34:11.33 ID:KUhT8+Jt
菜々 「……」 ジッー

歩夢 「わっ、あの人、遠くから私たちをすごく見てる……」

かすみ 「げっ、あれは生徒会長ですよ!」

歩夢 「生徒会長?」

せつ菜 「! 生徒会長ですか?」

彼方 「もう! 話の途中だったのに」

かすみ 「あまり話したことはないんですが、噂によるとすごい堅物で厄介な人らしいですよ!!」

せつ菜 「……あはは、そうなんですね」

464: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/21(月) 16:35:14.75 ID:KUhT8+Jt
歩夢 「へぇ……なんだか学校にずっといるのに、生徒会長の顔なんてあんまり知らなかったなぁ」

菜々 「っ!」 タタタタ

かすみ 「あっ、どっか行っちゃった……? うぅ、なんだか知りませんが生徒会に目をつけられたら大変ですよぉ……」

歩夢 「あの人がそうなのかな、侑ちゃん」

侑 「どうだろう……とりあえず様子見だね。邪魔しちゃってごめんね、そろそろ練習でしょ?」

璃奈 「まずはストレッチだね……ぐぬぬ」

彼方 「璃奈ちゃん、全然曲がってないよ」

璃奈 「なぜ……」

せつ菜 「まあ最初はそんなものですよ、これからの鍛錬あるのみです!! ではみなさん練習頑張りましょうーーー!!」

一同 「「おおっ!」」






469: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 00:48:32.31 ID:lfnvB/1X
かすみ 「ふぅ、練習大変だったぁ。でも放課後もあるし頑張らないと……!」

?? 「ねえ」

かすみ 「へっ!? 誰!?」

?? 「かすみさん」

かすみ 「あ、なんだしず子か……いつもと姿が違うから気付かなかったよ」

?? 「私は本来の姿なんてないから……それで能力者のことなんだけど」

470: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 00:50:34.14 ID:lfnvB/1X
かすみ 「! そうだ、『夢の住人』……」

?? 「残念ながら失敗したよ」

かすみ 「……そ、そう、失敗したんだ」

?? 「うん。夢の中に入ったなら、もう絶対にあの能力が手に入ると思ってたんだけどなぁ……なぜかね」

かすみ 「そっか、失敗したんだ……」

?? 「……」

?? (正直ホッとしたんでしょう、かすみさん。分かるよ、私もそうだから)

471: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 00:51:59.53 ID:lfnvB/1X
?? (あの能力は進化と代償に、現実を捨てることになる……今までも自分たちの目的のために人を傷つけたことはあるけど、今回は格が違った。だって人生を終わらせてしまうから)

?? (だからそんな責任を、そんな罪悪感を、背負わずに済んで安心したんでしょう? ああ、許せない、許せない……!!!) ガタガタ

?? 「許せない、私が」 ボソッ

かすみ 「? しず子、今なんて……」

?? (かすみさんには二つの目標がある。それは『最高に可愛くなること』と『能力を進化させあの人に出会うこと』……でも、後者の願いのためには、このままじゃかすみさんは前者を諦めなくちゃいけない)

472: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 00:54:12.74 ID:lfnvB/1X
?? (そのために私はある。かすみさんには抵抗があることも、耐えられないことも、代わりに全て私がやって、それでかすみさんの願いを二つとも叶える……っ! だから私だけはホッとしてはいけなかった)

?? (私だけはかすみさんのために、全てを犠牲にしないといけないんだ。じゃないと、返せない、この気持ちを返せない)

?? 「そういえば、新しい能力者を覚醒させたの……」

かすみ 「! その能力名は?」

?? 「『ひとりでふたつ』自分を何人も抱えている人にだからこそ掴めた能力……」






473: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 00:56:39.25 ID:lfnvB/1X
菜々 「……」

書記A 「生徒会長」

菜々 「! は、はい、なんでしょう」

書記A 「動きが止まってますよ? どうしました?」

菜々 「すいません、ぼっーとしていたようです……すぐ再開しますね」

菜々 (……誰も私が二人いることに気付いてない、いや、当たり前か。そもそも優木せつ菜と中川菜々が同一人物であることを知る人物がいないのだから)

菜々 「……」

菜々 (昨日、私は二人になったんですよね……)

—————

———


475: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:09:23.55 ID:lfnvB/1X
菜々 「……私の能力は『ひとりでふたつ』という分身能力。先程教えてもらったことが本当なら、能力を発動した時点で、私と優木せつ菜で、それぞれ独立し分かれるはずですが」

菜々 (優木せつ菜も、中川菜々も、同じ私……それが分かれるとはどういう感覚なのでしょう? 仮に分かれたとして、それはもはや私と呼べる存在なのでしょうか……)

菜々 「しかし、分身でもしなければ、この現状を突破できるとは思えませんし、突破できなければスクールアイドルを諦めなければいけない。最初から選択肢はないのです」

菜々 「では早速……能力『ひとりでふたつ』」

476: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:10:27.53 ID:lfnvB/1X
パッ

せつ菜 「……」

菜々 「……」

せつ菜 「目を開けても良いですか?」 ギュ

菜々 「大丈夫ですよ」

せつ菜 「……はっ!? 本当に私たちが分かれてますよ!?」

菜々 「……信じられませんが、本当みたいですね」

477: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:12:00.84 ID:lfnvB/1X
せつ菜 「でも、これなら! スクールアイドルも生徒会の活動も勉強も! 全てがうまくいきます!!」

菜々 「ええ、そしたら自分にも、家族にも、裏切らずに過ごすことができる……! 本当に良かった……」

せつ菜 「明日からはかすみさんたちと練習できるようになりましたし、悩み事も解決しそうで気分爽快です!!」

菜々 「しかし、せつ菜さん」

せつ菜 「なんでしょう?」

菜々 (せつ菜さん、って呼ぶの抵抗ありますね……私ですし……)

478: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:13:03.99 ID:lfnvB/1X
菜々 「今日の寝る場所はどうするのですか? 流石に家に二人で帰るのは難しいかと……」

せつ菜 「それは考えています。ていうか分身前から考えていたのであなたも大体分かってるでしょう」

菜々 「まあそうなんですが……一応」

せつ菜 「昔から念願だった24時間営業の漫画喫茶に泊まる! 風呂は銭湯! 学生にはなかなかできない暮らしですよ!」

菜々 (……未成年が漫画喫茶に泊まる。普通、警察官に話を聞かれそうですが大丈夫なんでしょうか)

479: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:14:21.50 ID:lfnvB/1X
せつ菜 「家族に会えないのは寂しいですが、お互い、これからの自由のため、頑張りましょう、中川菜々さん!」

菜々 「はい。私もやれることを全力で頑張ります」

せつ菜 「……」

菜々 「……」

せつ菜 「……自分の名前を呼ぶのって少し恥ずかしいですよね///」

菜々 「……あっ、やっぱりそうですよね」



———

—————

480: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:15:53.08 ID:lfnvB/1X
菜々 (服等は私が渡してますし、どうやらせつ菜さんは問題なく昨日の夜を過ごせたようです……先程こっそり見に行きましたが、練習もちゃんとできてたように見えました)

菜々 「……」

書記A 「会長。この書類を確認してほしいのですが」

菜々 「……はっ!? すいません、どの書類ですか?」

書記A 「この書類です」

書記A (またぼっーとしてる……会長がこんなに仕事をこなせてないのは珍しい……)

481: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:17:30.96 ID:lfnvB/1X
トントン

菜々 「! はい、どうぞ」

ガチャ

書記B 「会長。部活の設立申請をしたいという方が」

菜々 「分かりました。通してください」

タッタッ

タッタッ

生徒L 「はじめまして、生徒会長。私の名前は……」

菜々 「知ってます、Lさんでしょ?」

482: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:18:22.15 ID:lfnvB/1X
生徒L 「! 以前に話してましたっけ?」

菜々 「……いえ、そういうわけではありませんが、私は生徒会長として、生徒全員の名前と顔を覚えているんです」

生徒L 「そ、それはすごいですね……」

菜々 「それで、部活の設立を希望してるようですね。どんな内容の部を予定してるか、教えてくれますか」

生徒L 「はっきりと言ってもいいですか?」

菜々 「? ええ、構いませんが……」

483: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:19:47.24 ID:lfnvB/1X
生徒L 「『優木せつ菜ちゃんを応援しよう同好会』です」

菜々 「はい?」

生徒L 「『優木せつ菜ちゃんを愛でよう同好会』です」

菜々 「いや聞こえてないわけではなくてですね……それになぜちょっとだけ変えたんですか」

生徒L 「優木せつ菜ちゃんというとんでもなく可愛くて、カッコいいスクールアイドルがいるんですが……その同志たちで同好会を作ろうかと……」

484: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:20:27.52 ID:lfnvB/1X
菜々 「却下です」

生徒L 「えっ?」

菜々 「……却下に決まってるでしょう。一個人を応援する同好会なんて、聞いたことがありません。申し訳ないですが却下です」

生徒L 「そ、そこをどうにか!」

菜々 「ダメです。申し訳ないですが、彼女を連れて行ってください」

485: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 01:21:33.17 ID:lfnvB/1X
書記B 「分かりました。ほら、現実見なさい」 ガシッ

生徒L 「お願いです、生徒会長ぉぉ!!」 ズズズズ

ガチャ

書記A 「……大変ですね、会長」

菜々 「まあ虹ヶ咲は個性的な人が多いですから、慣れたことです」

菜々 (それに、正直学校内で私のファンクラブのようなものが部室を持つのは、正体を隠すのにおいて少し困りますから……)






491: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:23:22.24 ID:lfnvB/1X
彼方 「これで一日の練習が終わったわけだけど、どうだったかな、初めての練習は?」

璃奈 「……正直に言うと、大変だった。でも頑張ることは楽しいし、明日からもっとできるようになりたいっ」

せつ菜 「私はメニューが以前のと近かったのもあって、思ったよりスムーズにできました。しかし、やはり基礎練あってこそですね、自分の足りない部分もとても実感しました」

かすみ 「いや二人とも謙遜してますが、かすみんと同じくらい動けてたじゃないですか……かすみんたちの方がこのメニューの練習歴長いのにぃ」

歩夢 「まあ私たちもちょっと前から始めたばかりだからね」

492: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:29:29.15 ID:lfnvB/1X
彼方 「さて今日はこれで解散でいいかな、お疲れ様〜。彼方ちゃんは今日はバイトを休んで遥ちゃんにお料理を教える日なんだ、ふふ楽しみだなぁ」

せつ菜 「お料理ですか!? 実は私も料理が好きなんです! 良ければ今度一緒に作りませんか!?」

彼方 「一緒に? うん、もちろんいいよ〜」

璃奈 「じゃあ私は約束してる人がいるから……今日はありがとう。また明日ね」 バイバイ

歩夢 「うん、また明日ね、璃奈ちゃん」 バイバイ

493: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:30:52.52 ID:lfnvB/1X
歩夢 「……それで今日はどうしようか、侑ちゃん」

侑 「生徒会長のこと?」

歩夢 「うん」

侑 「まあ昼も言ったけど、様子見で良いんじゃないかな? もし見当違いだったら、何も関係ない人を巻き込みかねないし」

歩夢 「それもそうだね」

かすみ 「歩夢先輩!」

歩夢 「! どうしたの、かすみちゃん?」

495: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:31:58.30 ID:lfnvB/1X
かすみ 「ひとつ提案なんですけど」

歩夢 「提案?」

かすみ 「……せつ菜先輩にこっそりついていきませんか?」 ヒソヒソ

歩夢 「ええっ!?」

かすみ 「しっ、声が大きいですよ。だって全く情報がないんですよ? 少しくらい知りたくないですか?」

歩夢 「それはそうかもしれないだけど……だからって、こっそりついていくって無断でってことでしょ?」

496: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:33:59.47 ID:lfnvB/1X
かすみ 「事前に許可をもらったら、相手に対策されちゃうじゃないですか」

歩夢 「で、でも」

せつ菜 「今日はありがとうございました!! また明日の昼休みからよろしくお願いします!!」 ペカー

かすみ 「ほら行きますよ、歩夢先輩」 タッタッ

歩夢 「うーん……良いのかなぁ……?」 タッタッ






497: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:35:52.47 ID:lfnvB/1X
ウィーン

アリガトウゴザイマシター

せつ菜 (今日はラノベもたくさん読みます!!)

かすみ 「……どうやら本をたくさん買ってますね」

歩夢 「勉強の本かな?」

かすみ 「いや、ここはアニメの専門店ですから、あったとしても小説……ライトノベルですね」

歩夢 「ライトノベル?」

かすみ 「それにしても意外中の意外です……! せつ菜先輩はアイドルにライトノベルに、思ったよりサブカルチャーに詳しいみたいですね」

498: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:37:33.32 ID:lfnvB/1X
歩夢 「次はどこに寄るのかな?」

かすみ 「特に予定がないなら家なんじゃないんですか?」

歩夢 「家!? 家は絶対ダメだよ! プライバシーだよ、かすみちゃん!」

かすみ 「それも分かりますが……あまりにも存在が謎なせつ菜先輩を、知りたい気持ちが勝ってしまいます!! ほら行きましょう、歩夢先輩!」 タッタッ

歩夢 「うぅ……良いのかなぁ……?」 タッタッ

侑 「なんやかんや止める気はないよね、歩夢は」

歩夢 「だってかすみちゃんが〜……」 タッタッ






499: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:40:42.65 ID:lfnvB/1X
イラッシャイマセー

かすみ 「せつ菜先輩、ここに入っていきましたね……」

歩夢 「でもここって……」

かすみ 「銭湯」

歩夢 「だよね?」

かすみ 「……今なかなか学校帰りに銭湯に入る女子高生っていなくないですか? 歩夢先輩は最後に銭湯に行ったのいつです?」

歩夢 「随分昔かなぁ……侑ちゃんも一緒に……」

502: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:42:05.56 ID:lfnvB/1X
かすみ 「優さんと行ったんですか?」

歩夢 「うん、銭湯……水……侑ちゃ……」

ズキッ

あゆむ 『ゆうちゃん!! あぶないよっ!!』

ゆう 『でも、たすけないと!』

歩夢 「……」

かすみ 「歩夢先輩、どうかしたんですか?」

歩夢 「! えっ、いや、なんでもないよ?」

かすみ 「なら良いですけど……」

503: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:43:19.44 ID:lfnvB/1X
歩夢 (今の記憶はなんだろう。侑ちゃんが何かあったような……いやそんなはずはない。だって)

歩夢 「侑ちゃん」

侑 「? どうしたの歩夢?」

歩夢 「……ううん、なんでもない」

歩夢 (侑ちゃんはここにいるもん)

かすみ 「それにしても、どうしましょうか、流石に銭湯の中に入られてしまうと……」

504: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/22(火) 23:44:55.60 ID:lfnvB/1X
歩夢 「いや、入ってみようよ銭湯」

かすみ 「ええっ!?」

歩夢 「……なんとなく銭湯でさっぱりしたい気分になっちゃった。ここまでついてきたんだし、せっかくだから良いんじゃない?」

かすみ 「なんというかさっきまで嫌々だったのに、いつのまにかノリノリになってません?」

歩夢 「ふふ、まさか」

かすみ 「……まあでも、かすみんも銭湯に久しぶりに入ってみたい気もしますし、行きましょうか。銭湯」

歩夢 「うん!」






506: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/23(水) 00:30:50.63 ID:tNQNlDcI
カランッ

かすみ 「ふぅ〜、気持ち良いですねぇ」

歩夢 「温まるね〜」

せつ菜 「ですね〜」

かすみ 「……」

歩夢 「……」

せつ菜 「……」

507: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/23(水) 00:31:29.77 ID:tNQNlDcI
かすみ 「せつ菜先輩!?」

せつ菜 「偶然ですね、同じ銭湯で会うだなんて」

かすみ 「あはは、そ、そうですね! 本当に偶然ですね、すごく偶然!」

歩夢 「そんなんじゃ騙せるものも騙せないよ、かすみちゃん……」

侑 「歩夢、声に出てるよ」

508: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/23(水) 00:33:14.11 ID:tNQNlDcI
せつ菜 「それにしても、銭湯って本当に気持ちいいものなんですね。なんだかポカポカします」

かすみ 「? 銭湯初めてなんですか?」

せつ菜 「いえ……そういうわけではありませんが、通い始めたのが昨日からなんです。普段はこういうところに来れる機会がなかったものですから」

歩夢 「もしかして家が銭湯屋さんでライバル店に入れなかったとか?」

かすみ 「ライバル意識が高いですね」

509: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/23(水) 00:35:37.23 ID:tNQNlDcI
せつ菜 「私の家は銭湯屋さんではありませんよ、単純に家が厳しかったんです。一人でこういうところに遊びに来ることもできなかった……」

歩夢 「……」

かすみ 「……」

せつ菜 「ずっと憧れだったんです、友達と一緒に銭湯に行って、風呂上がりにコーヒー牛乳を飲むの!」

歩夢 「……うぅ」 ポロポロ

かすみ 「……せつ菜先輩っ」 ポロポロ

せつ菜 「って二人ともどうしたんですか!?」

歩夢 「これから私たちもっと仲良くなろうね……!!」 ポロポロ

かすみ 「こんな純粋な人のプライバシーを暴こうとしたかすみんを殴ってください……!!」 ポロポロ

せつ菜 「ええっ!? と、とりあえず二人とも泣くのをやめてください!?」 アセアセ






516: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 00:24:55.54 ID:QPWqqB+n
せつ菜 「あれから三人でたくさん話してたら……」

歩夢 「見事にのぼせちゃったね……」

かすみ 「うぅ、少しふらふらします……」

せつ菜 「でも、水分不足だったからかコーヒー牛乳は人一倍美味しく感じました!!」

かすみ 「ですね。それになんというか……せつ菜先輩のこと、たくさん知れた気がして良かったです」

517: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 00:26:38.58 ID:QPWqqB+n
歩夢 「私はあまりそういう番組を見たことがなかったから、逆にせつ菜ちゃんの特撮の話が新鮮で楽しかったなぁ」

せつ菜 「あはは、つい話し過ぎてしまいました……すいません、好きなことに夢中になると止まらなくなるんです。直そうとは思ってるんですがなかなか直らなくて」

歩夢 「ううん、謝らないで。私は楽しかったし、それにきっとそれは長所だよせつ菜ちゃん」

せつ菜 「長所、ですか?」

歩夢 「うん。だって好きなことに夢中になれるのも、好きなことをそんなにたくさん話せるのも、すごく特別なことだから」

せつ菜 「歩夢さん……」

518: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 00:27:59.91 ID:QPWqqB+n
歩夢 「だから無理に直さなくても大丈夫なんじゃないかな」

かすみ 「かすみんもそう思います。最初はクールなイメージでしたから意外でしたけど、好きなことを語ってるせつ菜先輩の笑顔がスクールアイドルとしては満点でしたから、直すなんてもったいないですよ!」

せつ菜 「かすみさんも……二人とも、ありがとうございます」

せつ菜 (私は、とても良い人たちと出会えたようです……)

520: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 00:33:49.66 ID:QPWqqB+n
かすみ 「あっ、分かれ道……」

歩夢 「じゃあ今日も暗くなってきちゃったし、ここでお別れだね」

せつ菜 「はい! 二人ともまた明日!」 ペカー

歩夢 「……そういえば、せつ菜ちゃんにこっそりついていくのはやめたの、かすみちゃん?」 ヒソヒソ

かすみ 「はい。十分、せつ菜先輩のことは知れましたから」

歩夢 「……ふふ、そっか」

タッタッ

タッタッ

521: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 00:35:15.96 ID:QPWqqB+n
せつ菜 「さて、今日はあそこの漫画喫茶に行ってみましょうか」

せつ菜 「あそこは漫画のジャンルが偏ってますが……漫画に飽きても今日は買ってきたラノベがありますからね! 準備はバッチリです!!」

ウィーン

イラッシャイマセー

せつ菜 「……えっと、時間は」

せつ菜 (そういえば昨日もそうですが、未成年なのにもかかわらず、道で職務質問を受けたりはしなかったですし、漫画喫茶の中ででも別に年齢を聞かれなかったような……というより……)

せつ菜 (そもそも私の影が薄かったような……気のせいでしょうか……?)

せつ菜 「……まあ変に悩むより、今までできなかったことを自由に楽しむことを優先しましょう!」






522: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 00:39:15.53 ID:QPWqqB+n
ガチャ

菜々 「ただいま、お母さん」

中川母 「生徒会、今日は早いわね」

菜々 「……約束だからね」

中川母 「ふふ、ありがとう」

菜々 「じゃあまた勉強頑張るね」

中川母 「うん、お疲れ様。勉強は将来のあなたのためになるんだからね、ちゃんと頑張るのよ」

菜々 「もちろん」

タッタッ

タッタッ

523: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 00:44:36.33 ID:QPWqqB+n
菜々 「さて、まずは今日の復習と明日の宿題を……」

菜々 「……」

菜々 「……せつ菜さん、今日、すごく楽しそうに練習してましたね」

菜々 「かすみさんも、歩夢さんも、彼方さんも、璃奈さんも……とても楽しそうでした」

菜々 (まだ二人に分かれる前だったから私にも記憶があります)

524: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 00:46:26.91 ID:QPWqqB+n
かすみ 『やったぁぁぁぁぁぁぁーー!!! これからはあの優木せつ菜さんと練習ができるなんて!』

歩夢 『ふふ、良かったね、かすみちゃん……それに私もすごく嬉しいな』

菜々 「そうです、私はこれから、仲間たちと大変ながらも楽しく頑張れる……そんな日々が待っているはずでした」

菜々 (しかし分身をきっかけに全てが変わった……)

菜々 「……いえ、違う」

菜々 「彼女たちが求めたのは『優木せつ菜』であり断じて中川菜々ではない。それに、彼女を羨んでも仕方ありません……だって分身しなければどっちみちもうダメだったのですから」

525: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 00:47:48.67 ID:QPWqqB+n
菜々 (でも、みなさんがスカウトしてくれた時の私は、分身する前の私は、中川菜々も含めた『私』だった……)

菜々 「……悩んでも仕方ありません。早く課題をしましょう。ぼっーとしてたら時間はあっという間です」

カチカチ

カチカチ

菜々 「ここはあの式を使って……」

カチカチ

カチカチ

菜々 「えっと、なるほど、あそこで間違っていたんだ……」

526: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 00:49:13.28 ID:QPWqqB+n
カチカチ

カチカチ

菜々 「……あっ、もうこんな時間」

菜々 (スクールアイドルの活動をしてない分、時間が取れるかと思いましたが……勉強はいくら時間をかけても足りない。集中してたら、ラノベを読む時間もありませんね)

菜々 「もう少しだけ勉強を……」

ブルル

菜々 「! 振動音? 電話ですか? そういえば、マナーモードにしてましたっけ」

530: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 17:40:58.70 ID:QPWqqB+n
菜々 「はい、もしもし」

せつ菜 『いま大丈夫ですか? 優木せつ菜です』

菜々 「はい。ちゃんと約束通りにかけてくれましたね、ありがとうございます」

せつ菜 『電話ボックスからかけてますが、これからはこうして夜に一日の報告を互いにし合う、で良いんですよね?』

菜々 「ええ、お互いの状況は知っていた方が良いと思いますので」

531: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 17:49:07.46 ID:QPWqqB+n
せつ菜 『どっちから話しますか?』

菜々 「……別にどっちでも構いませんよ」

菜々 (どうせ練習した、生徒会活動と勉強した、くらいだと思いますが)

せつ菜 『では私から良いですか?』

菜々 「大丈夫ですよ」

せつ菜 『今日はですね、学校は菜々さんが出てくれてますから、昼休みと放課後の練習以外は街をぶらぶらしたり、個人練をしてました。昼休みと放課後は、みなさんと一緒に全力で頑張りました!!』

菜々 「なるほど。昼休みは私も少し遠くから覗きましたけど、楽しそうでしたね」

せつ菜 『はい!! すごく楽しかったです!!』

532: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 17:50:12.95 ID:QPWqqB+n
菜々 「……放課後の練習が終わった後は、昨日同様、銭湯に行き漫画喫茶に泊まったんですか?」

せつ菜 『そうですね、でも銭湯の前にラノベを何冊か買いました!』

菜々 「ラノベ、ですか?」

せつ菜 『もちろん菜々さんにも貸しますよ!』

菜々 「ありがたいです」

せつ菜 『あっ、じゃあ明日学校で渡しましょうか? それと良ければなんですが』

菜々 「? なんでしょう?」

533: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 17:51:55.02 ID:QPWqqB+n
せつ菜 『家にあるラノベを何冊か、読み返したくなっちゃって……良ければ明日私が渡す際に、そちらを貸してくれませんでしょうか』

菜々 「もちろんです。そもそも貸すも何も、どちらも同じ人の所有物なんですから」

せつ菜 『あはは……そうでしたね……』

菜々 「……」

せつ菜 『……』

菜々 「とにかく、せつ菜さんに何も問題が起きてなかったようで良かったです。後は銭湯へ行って漫画喫茶に行っただけですもんね」

534: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 17:53:15.53 ID:QPWqqB+n
せつ菜 『はい! あ、でも、銭湯は歩夢さんとかすみさんと三人で入ったんですよ!!』

菜々 「……はい?」

せつ菜 『偶然会ったんですけど、つい話が盛り上がっちゃって……好きな特撮の話までしてしまいました!』

菜々 「そこまで、このちょっとで仲良くなってたんですね」

せつ菜 『というより、この銭湯でより仲良くなれた感じですね! 念願の、友達と一緒に風呂上がりにコーヒー牛乳を飲むのも叶えられましたし!』

菜々 「……」

せつ菜 『? 聞こえてますか、どうかしました?』

菜々 (……それは私の憧れでもあるんですよ、せつ菜さん)

535: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 17:54:32.97 ID:QPWqqB+n
菜々 「……いえ、なんでもありません。では明日、朝に、校門の近くでラノベを交換しましょう」

せつ菜 『はい!! 楽しみにしてます!! それで次は菜々さんの方ですが……』

菜々 「私の方はあまり変わりませんよ、授業を受けて、生徒会で仕事をし、家に帰った後は勉強をしました」

せつ菜 『そうですか、お母さんはどうでしたか?』

菜々 「……早く帰ってきて安心してましたよ。ではまた明日の朝に」

せつ菜 『なら良かったです。はい! また明日に!』

536: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 17:55:48.71 ID:QPWqqB+n
菜々 「……」 ピッ

カチカチ

カチカチ

菜々 「時計の針の音しか聞こえないくらい、この部屋は静かですね……。銭湯だったら、騒がしいし声も反響するしで、相当うるさいのでしょうが……」

菜々 (羨ましいなんて思ってはダメなんです。適材適所、中川菜々には中川菜々の場所が。優木せつ菜には優木せつ菜の場所がある)

菜々 「……もう少しだけ勉強しましょう」

カチカチ

カチカチ






539: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 23:40:58.46 ID:QPWqqB+n
菜々 「よし、全部持ってる」

中川母 「菜々ー? 早くしないと遅刻しちゃうわよ?」

菜々 「うん、大丈夫だよ、今行く」

菜々 (……あ、そういえば)

菜々 「今日ラノベを渡すんだった。渡すラノベはこれとこれかな……?」 パッ パッ

中川母 「菜々ー?」

540: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 23:42:17.03 ID:QPWqqB+n
菜々 「うん、大丈夫。お母さん、いってきます」

中川母 「はい、いってらっしゃい」 ニコッ

ガチャ

菜々 「余裕を持って出てるから、問題なく間に合うけど、渡す時間があるから少し急がないと……」

せつ菜 「菜々さん?」 ヒョコ

菜々 「せつ菜さん!?」

541: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 23:43:44.61 ID:QPWqqB+n
せつ菜 「あはは……つい家の近くまで来ちゃいました」

菜々 「いや何が『来ちゃいました』ですか!? 母に見つかったら大変ですよ!?」

せつ菜 「私は目立つ格好をしてますから、学校でこっそりラノベを受け渡すよりは、マシかなと思いまして……」

菜々 「それはそうかもしれないけど……!」

せつ菜 (それに少しお母さんの姿を見たかったり……)

菜々 「仕方ありません。ほら早く走ってください! とりあえず家を離れないと!」 グググ

せつ菜 「えっ!? いや引っ張らなくても大丈夫ですよ!」

542: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 23:44:27.64 ID:QPWqqB+n
菜々 「いいから!」

せつ菜 「分かりました、早く家から離れますから!!」

せつ菜 (まあ次の機会まで待ちましょう……いくらでも機会はあるんですから)

せつ菜 (……あれ?)

せつ菜 (……機会あるんでしょうか? そもそもこの状態はいつ戻るんだろう)

543: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/25(金) 23:45:24.59 ID:QPWqqB+n
せつ菜 「……」 ムムム

菜々 「ほら悩んでないで早く行かないと、学校にも遅刻しちゃいますよ!!」 グググ

タタタタ

タタタタ

中川母 「それにしても放課後、無事早く帰ってきてくれるようになって一安心ね……勉強も昨日は頑張ったみたいだし」

中川母 「ん? 菜々の棚から本が一冊落ちてる……?」

中川母 「! こんな本見たことなんか……」






549: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/28(月) 00:45:10.18 ID:gk8sTSAG
キンコンカンコーン

せつ菜 「早速昼の練習の始まりですね!! 今日も頑張りましょう!!」

かすみ 「せつ菜先輩は元気ですね〜。もしかして授業ちゃんと受けてないんじゃないですか?」 ニヤニヤ

せつ菜 「!」 ギクッ

歩夢 「そんなことないよ、かすみちゃんじゃないんだから」

かすみ 「いやなんでかすみんが授業ちゃんと受けてない前提なんですか!? 憶測でモノを言わないでくださいよ!」

歩夢 「あはは、ごめんね、ついイメージで……」

かすみ 「それはそれで傷つくし!!」 ガーン

550: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/28(月) 00:47:21.67 ID:gk8sTSAG
彼方 「ふふ、三人とも元気だね〜」

璃奈 「ごめんなさい、少し遅れた」 タッタッ

彼方 「大丈夫だよ? まだ始まったばかりだから」

璃奈 「それなら良かった……荷物はどこに置けばいい?」

かすみ 「別にそこら辺で良いですよ。決まった場所なんかないですし」

歩夢 「うん、私たちあそこにまとめて置いてるからそこで良いんじゃないかな」

璃奈 「ありがとう……ところで」

かすみ 「?」

歩夢 「どうしたの? 璃奈ちゃん?」

551: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/28(月) 00:48:16.51 ID:gk8sTSAG
璃奈 「……前から聞きたかったのだけど、私たちには部室はないの?」

かすみ 「部室……?」

歩夢 「言われてみると……?」

彼方 「彼方ちゃんたち、部活動なわけではない……?」

かすみ 「そうですよ!? 生徒会に部活動申請してないじゃないですか!?」

せつ菜 「そういえば、申請されてませんでしたね……」

かすみ 「……なんでせつ菜先輩が知ってるんですか?」

せつ菜 「い、いえ! なんでもありません!」

552: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/28(月) 00:49:32.93 ID:gk8sTSAG
歩夢 「部活動申請したら何か変わるのかな?」

かすみ 「まず部室が用意されます!」

彼方 「部室! 気持ちよく寝れる、太陽の光が差し込む部屋が良いなぁ〜」

かすみ 「それに部費も出ます!」

せつ菜 「もしこれから大きなライブをやりたいのであれば、より部費が必要になりますね」

554: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/28(月) 00:51:12.88 ID:gk8sTSAG
かすみ 「申請しない理由なんかありません!!」

歩夢 「……じゃあなんでしてなかったの?」

かすみ 「うぅ、完全に忘れてました……」

彼方 「でも確か、申請には必要な部員人数があるんじゃなかったっけ? 何人だったかなぁ」

せつ菜 「五人です!」

かすみ 「五人なら問題ありませんね!! 早速、申請しに行きましょう!!」 タタタタ

歩夢 「あっ、かすみちゃん! もう行っちゃった」

せつ菜 「かすみさん、なんて素晴らしい行動力なんでしょう!!」 キラキラ

彼方 「かすみちゃん基礎練苦手だから、隙あればサボろうとするんだよね〜」






555: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/28(月) 00:52:25.22 ID:gk8sTSAG
かすみ 「ここが生徒会室……! むむっ、謎の緊張感がありますね……!」

歩夢 「ここにあの生徒会長がいるんだね」

侑 「……歩夢。あの会長は少し怪しい、油断しないでね」

歩夢 「うん、ありがとう、侑ちゃん。でも今回は部活の設立申請をするだけだから大丈夫だよ」

彼方 「ここは年長として、彼方ちゃんが前に立ちたいところだけど、かすみちゃんに任せるよ」 キリッ

かすみ 「いやキリッとカッコつけてますけど、そこは名乗り出てくださいよ」

璃奈 「……どうやら先客がいるみたい」

歩夢 「えっ?」






557: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/28(月) 01:10:05.70 ID:gk8sTSAG
生徒L 「お願いします!! どうか同好会設立を!」

書記B 「すいません会長。帰っていただくよう努力はしたのですが……」

菜々 「いえ。部活を設立したい気持ちを否定する権利は誰にもありませんから、話す機会はしっかり用意するべきです……だから大丈夫です」

書記B 「会長がよろしいなら……」

書記A (最近、会長は仕事に集中力が向かってないように見える。だからこのようなことに構ってる余裕はないはずなのに……やっぱりお優しい方ですね)

558: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/28(月) 01:11:22.52 ID:gk8sTSAG
菜々 「ですが、設立できるかはまた別の話です。そもそも最低五人は設立の時に必要なんですよ? なのにあなたはいつも一人で来るじゃないですか」

生徒L 「そ、それは……残念ながら友達作りが苦手でして……」 アハハ

菜々 「どちらにせよ、ルールはルールです。申し訳ありませんが」

生徒L 「ちょっと待ってください! ここに私含め五人分の名前が書いてある書類があります! これなら問題ないはずですよね!?」

菜々 「……それがちゃんと部活動に参加する五人であれば」

生徒L 「!」 ドキッ

559: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/02/28(月) 01:12:31.54 ID:gk8sTSAG
菜々 「私は生徒たちのことを、ある程度は知っているつもりです。あなたが、友達と言える人は少ないかもしれませんが、真面目で努力家で、人望がある方なのはよく知っています。その五人も、あなたの熱意に応えて名前を貸してくれたのだと思います」

生徒L 「そ、それは……!」

菜々 「しかし、善意だとしても、名前だけ貸して部活動を設立させるのは、立派なルール違反です。残念ながら承認することはできません」

生徒L 「……っ」

菜々 「それに、きっと『優木せつ菜』さんも望んでおりません」

生徒L 「えっ?」

563: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:03:47.97 ID:0c8zQUpZ
菜々 「……彼女のことは知っているでしょう? 謎の多い方で、学校ではあまり姿を見ないとか。それってもしかして、自分の身辺を知られたくないのかもしれませんよ?」

生徒L 「つまり何が言いたいのです」

菜々 「彼女もファンのことはとても大切にしています。ですが、スクールアイドルの活動とは違った、学校での自分は、ファンのみなさんに知られたくないのかも。それなのに学校内でファンクラブのような部活動ができたら……分かるでしょ?」

生徒L 「……優木せつ菜ちゃんのために、部活の設立は諦めろってことですか」

564: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:05:05.43 ID:0c8zQUpZ
菜々 「ええ。それに、五人も集まらなかったということは、それまでということです」

生徒L 「なっ……!」

生徒L (違うっ! せつ菜ちゃんのファンは、学校の外だけじゃなく、中にもたくさんいる!! だけど私の力不足で……!)

生徒L 「否定しないでくださいっ!!」 ドンッ

書記B 「……会長、止めた方がいいですか」

菜々 「いえ、任せてください」

565: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:05:54.40 ID:0c8zQUpZ
生徒L 「私は否定しても構いません。でも、勉強しか取り柄のなかった私に生きる希望をくれた……私の大好きな優木せつ菜ちゃんだけは否定しないでくださいっ!!」

菜々 (……勉強しか取り柄のなかった、ですか)

菜々 「ふふ、まるで私のようですね」 ボソッ

生徒L 「? いまなんて……」

菜々 (しかし、私には優木せつ菜はいない。自ら引き離してしまったのだから)

566: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:06:44.17 ID:0c8zQUpZ
菜々 「ごめんなさい、彼女を否定するつもりはなかったんです。私も、優木せつ菜さんのことはよく知っています。今までたくさん頑張ってきたことも……。でも、生徒会長として、中途半端にルールを甘くすることはできないのです。分かってください」

生徒L 「会長……」

菜々 「……」

生徒L 「……」

書記B 「ではそろそろ昼休みが終わってしまいますので、帰っていただいて……」

生徒L 「待ってください」

菜々 「? なんでしょう?」

567: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:08:22.56 ID:0c8zQUpZ
生徒L 「……もしかして、会長もせつ菜ちゃんのファンなんですか?」

菜々 「はい?」

生徒L 「ところどころ、私の方がせつ菜ちゃんを知ってるアピールしてましたし」

菜々 「アピールって……いや、さっき私は優木せつ菜さんに対して酷いことを言ったんですよ? ファンなわけが……」

生徒L 「ツンデレだとか?」

菜々 「……本気で言ってます?」

568: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:10:38.00 ID:0c8zQUpZ
生徒L 「とにかく、あなたの優木せつ菜ちゃんへの愛は伝わりました」

菜々 「伝えてませんが」

生徒L 「そこで提案があります」

菜々 「提案?」

生徒L 「その提案に乗ってくれれば、私は『優木せつ菜ちゃんを応援しようついでに深夜まで語り合おう同好会』の設立を諦めます」

菜々 「同好会の名前、長くなってません?」

菜々 (……それにしても諦める、ですか。本当でしょうか? もし本当なら、内容次第ですが提案に乗る価値はありますね)

569: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:11:58.54 ID:0c8zQUpZ
菜々 「それでその提案というのは?」

生徒L 「はっきりと言ってもいいですか?」

菜々 「ええ、構いませんが……」

生徒L 「では言わせてもらいます。同じく優木せつ菜ちゃんのファンである会長に、同好会の代わりになってほしいのです!!」

菜々 「……もう少し分かりやすく説明してくれませんか」

生徒L 「つまり私と友達になってほしいのです!」

菜々 「あなたと友達に?」

570: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:13:45.11 ID:0c8zQUpZ
生徒L 「はい。同好会は諦めます。でも、同じくせつ菜ちゃんのファンである会長と、たくさん話したいんです、せつ菜ちゃんのこと。だから友達になってください!」

菜々 「……」

生徒L 「お願いします!!」 ペコッ

菜々 (……友達、ですか。まさかこんなお願い事をされるとは予想外でした)

菜々 (ですが、同好会を作られるより、私相手に話してくれた方が、優木せつ菜の正体もバレにくい? それに何より友達ができるんです……今の私の優木せつ菜への嫉妬を、なんとか無くすためにも、この提案には乗った方がいい)

572: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:43:55.23 ID:0c8zQUpZ
菜々 「……あなたはもう少し、真面目な人だと思ってましたが、まさか同好会を作れないなら友達になってほしい、なんて言う方とは思いませんでした」

生徒L 「! た、たしかに失礼だったかもしれないですね……ごめんなさい! でも会長と友達になりたい気持ちは本物で……!」

菜々 「でもまあ、友達になるきっかけなんてどうでもよくて、その後が肝心なのも事実ですし」

生徒L 「えっ?」

573: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:44:27.37 ID:0c8zQUpZ
菜々 「……私で良ければ、是非友達になってください。優木せつ菜さんについて語り合いましょう」

生徒L 「本当に良いんですか……?」

菜々 「嘘をついてどうするのです」

生徒L 「……や、や」 プルプル

生徒L 「やったぁぁーーーーーーー!!」

菜々 「……ふふ、喜んでくれて良かったです」






574: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:45:44.65 ID:0c8zQUpZ
歩夢 「ところどころしか聞こえなかったけど……せつ菜ちゃんの名前が出てたよね?」

せつ菜 「ええ、何回か聞こえましたね」

璃奈 「せつ菜さんに関する用事だったのかな」

かすみ 「というかこのままじゃ昼休み終わっちゃいますよ!? 生徒会に来た損じゃないですか!?」

575: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/01(火) 00:46:19.49 ID:0c8zQUpZ
彼方 「まあいいじゃない、かすみちゃん。かすみちゃんの計画通り基礎練はサボれたんだから」

かすみ 「まあそれはそうですけど……」

彼方 「……」

かすみ 「あっ」

彼方 「やっぱりそうだったんだね」 ゴゴゴゴ

かすみ 「ひぃぃぃ!」

581: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/02(水) 23:22:07.15 ID:jKvQaTpg
ガチャ

生徒L 「……まさか会長もせつ菜ちゃんのファンだったなんて。嬉しいなぁ」

かすみ 「あっ、彼方先輩! 生徒会室から人が出てきましたよ! かすみんに怒ってる場合じゃないですよ!!」

彼方 「そうだね、昼休み終わっちゃうし」

かすみ 「助かりました……」 ホッ

彼方 「説教は後でね」 ゴゴゴゴ

かすみ 「ひぃぃぃ! ごめんなさいぃぃ!!」

582: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/02(水) 23:23:38.10 ID:jKvQaTpg
生徒L 「! あなたたちは!」

歩夢 「あれ、あなたは……」

かすみ 「あのせつ菜先輩のライブ会場にいた!」

生徒L (待てよ? たしかあのときいたのは三人……私と会長を合わせたら、五人いくんじゃ……?)

生徒L 「あなたたちもせつ菜ちゃんのファンだよね!? いやあのライブ会場にいたんだもん、ファンじゃなかったとしても、もうファンになってるはず!! そこでお願いがあるんだけど……」

せつ菜 「……」

生徒L 「って、えっ」

583: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/02(水) 23:24:26.35 ID:jKvQaTpg
せつ菜 「あはは……応援ありがとうございます」

生徒L 「せ、せ、せ、せ、せせせつ菜ちゃん!?」

せつ菜 「はい、優木せつ菜ですよ!」 ペカー

生徒L (これは夢……いや幻……?)

生徒L 「あばばばばばば」

生徒L 「」 バタッ

かすみ 「ってこの人、気絶しましたよ!?」

彼方 「大変! 早く保健室に運ばないと!」

584: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/02(水) 23:41:05.06 ID:jKvQaTpg
せつ菜 「任せてくださいっ」 グッ

せつ菜 「私がおんぶして運びますから」

かすみ 「一人で大丈夫ですか?」

せつ菜 「運ぶのは大丈夫ですが、保健室で彼女を見守ってくれる人が他に必要ですね……」

彼方 「保健室の先生はいると思うけど、きっと心細いだろうし、確かに事情を知ってる人が一人くらいいた方がいいかもね」

585: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/02(水) 23:44:20.63 ID:jKvQaTpg
せつ菜 「私は見守り役をすることができませんし、どうすれば」

かすみ 「えっ、なんでですか?」

生徒L 「……」 スゥスゥ

せつ菜 「えっと、目覚めた瞬間に私を見たらまた倒れてしまいそうなので……」

かすみ 「そ、それもそうかもですね……」

歩夢 「じゃあ私と侑ちゃんが一緒に行くよ」

彼方 「でも授業に出ないのは大丈夫なの? 歩夢ちゃん?」

586: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/02(水) 23:46:03.78 ID:jKvQaTpg
歩夢 「後でクラスの人にノートを見せてもらうので大丈夫ですよ。彼方さんは実習がメインだから休みにくいだろうし、かすみちゃんや璃奈ちゃんは一年生からサボり癖がついちゃったら大変だから……二年生の私が一番ぴったりだと思うな」

かすみ 「いや歩夢先輩! ここはかすみんに任せてください!」

歩夢 「ダメ! かすみちゃん、どう見ても午後の授業サボりたいのが見え見えだもん」

かすみ 「そ、そ、そ、そんなわけありませんけど!?」 アセアセ

歩夢 「相変わらず図星なの分かりやすいなぁ……」

587: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/02(水) 23:47:28.66 ID:jKvQaTpg
彼方 「本当に良いの歩夢ちゃん? たしかに実習が多いのは事実だけど……それでも」

歩夢 「心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。先生にもしっかり事情を話すので、先生も怒らないと思いますし」 ニコッ

彼方 (相変わらず歩夢ちゃん、めちゃくちゃ良い子で彼方ちゃん涙出そうだよぉ……!)

かすみ 「うぅ……かすみんが授業をサボったら、事情があっても信じてもらえないかもですし、これは良い子感が半端ない歩夢先輩じゃないと通じませんね……」

588: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/02(水) 23:47:55.37 ID:jKvQaTpg
璃奈 「歩夢さん……」

歩夢 「璃奈ちゃんも本当に気にしないでね? 誰も悪くないことなんだから」

璃奈 「……うん。ありがとう」

せつ菜 「じゃあ行きましょうか、歩夢さん」

歩夢 「うん」






590: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 00:54:05.02 ID:dzfBalEn
ガラッ

せつ菜 「あれ? ……誰もいないですね。でも保健室の先生だったら、すぐ戻ってくるはずですし、一旦ベッドを借りましょう」 スッ

歩夢 「お疲れ様、せつ菜ちゃん」

せつ菜 「いえいえ、お安い御用です。それに、この方は実はちょっと特別なんです」

歩夢 「特別?」

せつ菜 「……私は今ではある程度知名度のあるスクールアイドルになれましたが、当然ながら全く知られてなかった時期もあります」

歩夢 「……」

歩夢 (あんなにすごいライブができる、せつ菜ちゃんでもそんな時期が……)

591: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 00:58:31.25 ID:dzfBalEn
せつ菜 「そして最初のライブのとき。忘れもしません、ある公園の小さな舞台で、気まぐれで来てくれた人も含め、二、三人しかいなかったあのライブで……」

—————

———



せつ菜 「……!」

せつ菜 (誰もこっちを見てないっ……でも、私はこれからあの『大好き』なスクールアイドルになるんです! こんなところで怖気付いてる場合じゃ……)

せつ菜 (だけど……)

せつ菜 (震えが、震えが止まらない……) ガクガク

592: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 00:59:26.26 ID:dzfBalEn
生徒L 「せつ菜ちゃん!!!!」

せつ菜 「!」

生徒L 「頑張ってーーーー!!」

せつ菜 (一人……私をしっかり見てくれてる人がいた……!)

せつ菜 (そうだ。スクールアイドルになりたい一心で、自分で動画を作ったり地道に頑張ってきて、今回やっとライブができたんだ!! 一人でも見てくれる人がいるなら、全力で『大好き』を届けないと!!)

せつ菜 (はんぱな気持ちで挑みたくはないから……ステージには一つも悔いは残さない!!)

せつ菜 「聞いてください!! 私のまっすぐな想いっ!!」



———

—————

593: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:04:56.56 ID:dzfBalEn
せつ菜 「応援グッズまで作ってくれて、全力で、私を見るためだけに来てくれたのが、彼女なんです」

歩夢 「……そうだったんだね」

せつ菜 「それから私のライブには一度も欠かさず来てくれています。もしかしたら、同じ学校だからという理由もあるかもしれません……でも、それでも、最初から応援し続けてくれた、この人は特別なんです」

歩夢 「……」

せつ菜 「あっ、ご、ごめんなさい! つい話し過ぎてしまいました……」

594: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:05:49.25 ID:dzfBalEn
歩夢 「……なんだか、そこまで一途に応援してくれる人がいるのって、羨ましいな」

せつ菜 「!」

歩夢 「だからせつ菜ちゃんが、そんなに嬉しそうに語るのも分かるよ。私だったらすごく嬉しいもん」

せつ菜 「歩夢さん……」

歩夢 「……」

595: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:10:42.25 ID:dzfBalEn
せつ菜 「でも歩夢さんも、スクールアイドルを全力で頑張ってますよね」

歩夢 「!」

せつ菜 「それなら、いつか必ず出てきてくれるはずです! 歩夢さんを心から応援してくれる素敵なファンが!」 ニコッ

歩夢 「せつ菜ちゃん……」

せつ菜 「そして、たくさんのファンがついた歩夢さんは、私の良きライバルになる。ふふ、ライバルがいると燃えますね、これからたくさん、高め合っていきましょう歩夢さん!!」

歩夢 「……そうだね、私も頑張らなくちゃ!」

596: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:12:47.49 ID:dzfBalEn
キンコンカンコーン

歩夢 「あっ……授業が始まっちゃう……」

せつ菜 (私は授業に参加するわけではありませんが、流石にそれはバレるわけにはいかないので……。少し罪悪感も感じるけれど仕方ありません。退室しましょう)

せつ菜 「そうですね、行かないと……ではまた放課後会いましょう、歩夢さん」

歩夢 「うん、放課後も頑張ろうね、せつ菜ちゃん」

ガラッ

歩夢 「……じゃあこの子が起きるまで、話でもしておこうか、侑ちゃん」

侑 「……ふふ、そうだね、歩夢」






597: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:13:57.70 ID:dzfBalEn
歩夢 「あはは……ずっと喋ってたら放課後になっちゃったね」

侑 「うん。彼方さんも事情を知ってるから大丈夫だとは思うけど……少し練習は遅れちゃうだろうね」

歩夢 「それにしても、保健室の先生、さっき倒れてる子じゃなくて私を心配してたけど、どうしたのかな?」

侑 「うーん……ほら歩夢って、少し天然というか、ぼっーとしてるところがあるからそこを心配したんじゃないの?」

歩夢 「侑ちゃんったら、そんなに私だってぼっーとしてるわけじゃないよ!」

侑 「歩夢は結構ぼっーとしてると思うけどなぁ」

598: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:19:12.29 ID:dzfBalEn
ガラッ

歩夢 「え?」

侑 「誰か入ってきたね」

菜々 「! あなたは……!」

歩夢 「生徒会長さん……?」

菜々 (……歩夢さん。中川菜々としては初対面でしたね)

菜々 「はじめまして。生徒会長の中川菜々と言います。こちらにLさんが休んでると聞いたのですが……」

歩夢 「Lさんはこのベッドで寝てますよ」

599: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:20:31.85 ID:dzfBalEn
菜々 「上原歩夢、さんですよね」

歩夢 「! 私を知ってるんですか?」

菜々 「……ええ、まあ」

侑 「……歩夢、生徒会長さんには最大限注意してね」

歩夢 「う、うん」

菜々 「事情は知ってます。こういうとき生徒会には連絡が入るので。憧れの優木せつ菜さんに出会い、倒れてしまったとか」

歩夢 「はい、よっぽど嬉しかったんだと思います」

600: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:21:50.92 ID:dzfBalEn
菜々 「……なんというか、あなたらしいですね、Lさん」 ボソッ

歩夢 「?」

菜々 (……ずっと『優木せつ菜』として頑張れた理由の一つ、あの最初のライブのとき、全力で応援してくれたあなたの姿。今でも忘れません)

菜々 (そして今度は、『中川菜々』の友達であろうとしてくれてる……まあ友達になったのは今さっきですが、それでも嬉しいことには変わりありません)

菜々 「歩夢さん。あなたは練習があるでしょう? 彼女は私の友達なんです。事情も知ってますし、ここは私に任せて練習に行ってください」

601: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:23:31.83 ID:dzfBalEn
歩夢 「え、でも……」

菜々 「『大好き』を貫くあなたの姿」

歩夢 「!」

菜々 「陰ながら、応援してますよ」

歩夢 (大好き……まるでせつ菜ちゃんみたい?)

歩夢 「あ、ありがとうございます! 生徒会長!」 ペコッ

菜々 「ではまた機会があれば」

ガラッ

菜々 「……」

菜々 「……彼女が目覚めるまで、少し勉強でもしましょうか」 サッ






602: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:25:08.51 ID:dzfBalEn
タッタッ

タッタッ

歩夢 「なんだか生徒会長さん……良い人だったね」

侑 「確かに優しそうな人だったね。でも歩夢」

歩夢 「?」

侑 「璃奈ちゃんも、彼方さんも、みんな良い人だったけど何かに追い詰められていた。良い人だから能力者ではない、暴走はしない、そんなことはないんだよ」

歩夢 「!……そうだったね、侑ちゃん」

603: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:26:22.18 ID:dzfBalEn
かすみ 「あっ、歩夢先輩! 帰ってきたんですね!」

彼方 「お疲れ様〜、歩夢ちゃん」

璃奈 「歩夢さん!」

せつ菜 「良かった。歩夢さんが帰ってきたということは、無事彼女も目覚めたということですね」

歩夢 「そういうわけじゃないけど……でも、きっと大丈夫だよ」

せつ菜 「?」

604: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:28:40.32 ID:dzfBalEn
歩夢 「あれ、そういえばかすみちゃん。結局部活の申請はしなかったの?」

かすみ 「歩夢先輩がいなかったんですから、申請なんてするわけないですよ! きっとあの意地悪で有名な会長さんだったら、五人全員で行かないと追い返されるだろうし……」

歩夢 「それは意地悪と関係ないと思うけど……」

かすみ 「あと彼方先輩に、昼だけじゃなく放課後の練習まで、休んだら絶対ダメだって怒られたんです」

彼方 「スポーツ選手が少しの休みだけでいつもの調子を見失ってしまうことがあるように、しっかり休むってメリハリをつけてる日以外は、練習を怠けちゃダメなんだと思うんだ。だから、昼休み練習しなかった分、放課後はしっかり頑張らないと!」

605: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:29:45.91 ID:dzfBalEn
せつ菜 「ということで、申請はまた明日の昼休みに行くことに決めました」

歩夢 「そっか……じゃあ今日の練習はより頑張らないとね!」

璃奈 「見て、歩夢さん」

歩夢 「どうしたの璃奈ちゃん?」

璃奈 「ストレッチ、少し曲がるようになったんだ。ぐぬぬ」

歩夢 「……変わってないけど、璃奈ちゃんこれからだよ! ファイト!」

璃奈 「なぜ……」

607: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:55:06.46 ID:dzfBalEn
歩夢 (さっきの侑ちゃんの言葉)

歩夢 (良い人だったとしても、暴走することはあり得る、か……)

歩夢 (もし、あの生徒会長さんが能力者で、私たちが戦わなくちゃいけなくなったら……璃奈ちゃんや彼方さんのときのように)

歩夢 (私は止められるだろうか……? 本当に守れるんだろうか……? 今までが奇跡だったりしないだろうか……?)

608: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:57:30.46 ID:dzfBalEn
歩夢 (『もし守れなかったらの痛み』この震えばかりは、どうにもならない……)

ゆう 『だいじょうぶ!? はやくてをつかんで!』

?? 『だ、だけど! あしがうごかなくて……』

ゆう 『じぶんをしんじて、そしてわたしをしんじて! ぜったいにきみをたすけるからっ!』

609: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 01:59:08.99 ID:dzfBalEn
歩夢 (この記憶は何? 誰かが川で溺れてる?)

?? 『で、でも』

ゆう 『いまいくから、まっててねっ!』

あゆむ 『ゆうちゃん!! あぶないよっ!!』

ゆう 『でも、たすけないと!』

?? 『み、みずが……』

610: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 02:00:31.46 ID:dzfBalEn
歩夢 (溺れてるのは誰……? 顔が見えない……なぜか顔の部分だけ、ぼやけて……でも、もしかしてあの子は……見覚えがあるんだ……そう……!)

歩夢 (思い出せない。思い出せないけど分かる……もう一人の幼馴染の……)

璃奈 「歩夢さん?」

歩夢 「……」 ボッー

かすみ 「聞こえてますかー? 歩夢先輩ー?」

歩夢 「はっ!? な、なんでもないよ!?」

611: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/03(木) 02:01:25.17 ID:dzfBalEn
かすみ 「歩夢先輩、ぼっーとしすぎですよ〜! 練習に集中できてないんじゃないですか?」

歩夢 「えっと、あの、ごめんね?」

侑 「ほら、歩夢は結構ぼっーとしてるって言ったでしょ?」

歩夢 「……うぅ、言い返せないです」

侑 「じゃあ『あゆぴょん』やってよ、ぴょんって!」

歩夢 「侑ちゃん?」

侑 「ひっ! なんでもありません!」






616: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:13:03.76 ID:o3fsbJBI
菜々 「過去形だからこの訳は……」 カキカキ

生徒L 「……ん?」 パチッ

菜々 「えっと、この単語はどういう意味でしたっけ……はぁ、まだまだ勉強が足りませんね……」 カキカキ

生徒L 「生徒会長?」

菜々 「目を覚ましたか?」

生徒L 「なぜ私は保健室に……」

617: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:14:00.03 ID:o3fsbJBI
菜々 (せつ菜さんの話はしない方が、混乱せずに済むでしょうか)

菜々 「疲労気味だったのかもしれませんね、突然倒れたんですよ。たまたま通りかかった上原歩夢さんという方が助けてくれましたが……」

生徒L 「そうだったんですね……あとでその上原歩夢さんという方にお礼を言わないと……。そういえばなぜ会長はここに?」

菜々 「……当たり前じゃないですか。友達なんですから」

生徒L 「!」

菜々 「倒れたら心配するのは当然でしょう?」

生徒L 「会長……」

618: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:14:46.83 ID:o3fsbJBI
菜々 「でも無事なようで良かったです。では私はまだ生徒会の仕事があるので」 スッ

生徒L 「待ってください!」

菜々 「? なんですか?」

生徒L 「今日、生徒会が終わったらで構いません。一緒にどこか遊びに行きませんか?」

菜々 「……なぜです? 私と遊んだところで楽しいことなんて」

619: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:15:32.74 ID:o3fsbJBI
生徒L 「楽しいに決まってますよ。友達なんですから」

菜々 「!」

生徒L 「それに、遊ぶ理由なんてきっかけなんてどうでもよくて、その後どれだけ楽しめるか、仲良くなれるかが肝心ですよ!」

菜々 「……ふふ、なんですかそれ。もしかして、さっき私が言ったこと真似してます?」

生徒L 「……えっと、バレちゃいました?」

菜々 「バレバレです。やっぱりあなたは真面目ではないみたいですね」

620: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:16:14.78 ID:o3fsbJBI
生徒L 「でも友達とせつ菜ちゃんには全力で真面目ですから!」

菜々 「そうですか、じゃあ真面目なのかも」

生徒L 「なっ、雑に返さないでくださいよ!」

菜々 「あははっ、すみません、つい揶揄いたくなっちゃって」

生徒L 「もう!」

菜々 (……スクールアイドルをしてる時以外で、こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない)

菜々 (……あぁ、楽しいなぁ)






621: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:26:24.28 ID:o3fsbJBI
菜々 (生徒会が終わった後、言われるがままについてきましたが……)

菜々 「……えっと、ここは?」

生徒L 「知らないんですか会長? カラオケですよ! カラオケ!」

菜々 「いやまあ知ってはいますが……」

生徒L 「せっかく友達になったので、今日はカラオケとゲームセンターに行きたいと思います!」

622: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:30:22.35 ID:o3fsbJBI
菜々 (カラオケですか……。あまり歌う姿をじっと見られるのも抵抗があるかも……)

菜々 (せつ菜だったら平気だと思うんですが……)

生徒L 「ほら早く入りましょう?」 グッ

菜々 「ちょ、ちょっと待ってください!」 タッタッ

菜々 (ちゃんと歌えるでしょうか……?)






623: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:45:50.82 ID:o3fsbJBI
菜々 「〜してるよ、いぇーーーーいっ!!」

バンッ

菜々 「……」

生徒L 「……」

菜々 (普通にテンション上げて歌ってしまいました……っ!!)

生徒L 「おおっ! 会長意外に熱が入った歌い方をするんですね!」 パチパチ

菜々 「あはは……ありがとうございます」

生徒L 「それにしても、似てるような……」

菜々 「はい? 誰にです?」

624: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:47:01.02 ID:o3fsbJBI
生徒L 「せつ菜ちゃんにですよ」

菜々 「!?」 ドキッ

生徒L 「うーん? 歌い方どころか、歌声までそっくり……よくよく見れば顔もせつ菜ちゃんに似てるような……?」 ジッー

菜々 「え、えっと……」 アセアセ

菜々 (ご、誤魔化さなければ!!)

菜々 「モノマネですよ! モノマネ! ほら、私せつ菜さんのファンですから!」

生徒L 「モノマネ……?」

菜々 「ええ! どうですか似てましたか?」

625: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:48:10.16 ID:o3fsbJBI
生徒L 「……」

菜々 「……」 ドキドキ

生徒L 「そうだったんですね、すごいです会長!! ものすごく似てましたよ!! かなり研究したんですね!!」

菜々 「あはは……頑張った甲斐がありました」

菜々 (危なかった……) ホッ

生徒L 「じゃあ今度は私の番ですね、こないだせつ菜ちゃんがライブで好きだと言っていたアニソンがあるんですけど」

菜々 「! もしかしてあのアニメの……?」

生徒L 「知ってるんですか!?」

626: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:50:11.67 ID:o3fsbJBI
菜々 「ええ、まあ」

生徒L 「ということは会長さん、あのライブ会場にいたんですね」

菜々 「そ、そうなりますね」

菜々 (出る側でしたが……)

生徒L 「なんだ〜、会長さん、謙遜してた割には本当に詳しいじゃないですか! まさかここまでせつ菜ちゃんを語れる友達ができるなんて、すごく嬉しいです!」

菜々 「ふふ、私もあなたからせつ菜さんのことを聞けるのは嬉しいですよ」

627: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:52:11.74 ID:o3fsbJBI
生徒L 「あ、でも、一つお願いがあります」

菜々 「お願い?」

生徒L 「確かに共通の趣味があって友達になりましたが、せっかくなら、会長とはもっと仲良くなりたいんです。だから、これからも、せつ菜ちゃんトークはもちろんしますが、それ以外でも、友達らしいことをたくさんしてくれませんか?」

菜々 「友達らしいこと?」

生徒L 「こんなふうにカラオケに行ったり、今から行く予定ですがこれからもゲームセンターに行ったり、スイーツを食べに行くのも良いかも……とにかく、せつ菜ちゃんのこともたくさん話したいけれど、それ以前に、本当の意味で友達になりたいんです」

菜々 「なるほど……」

628: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:52:54.72 ID:o3fsbJBI
菜々 (私たちが関わるきっかけはせつ菜さんでも、これから仲良くなっていく理由は、それだけじゃなく、もっと互いのことを知って本当の友達になりたい。そういうことですか)

菜々 「……」

生徒L 「会長?」

菜々 「ふふ、もちろんですよ」

生徒L 「!」

菜々 「これからもよろしくお願いしますね、Lさん」 ニコッ

生徒L 「はい!」 パァァ

629: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:53:46.04 ID:o3fsbJBI
菜々 (……私は自ら優木せつ菜を手放してしまった。それゆえに、己の弱さを憎く感じることもある。優木せつ菜の影になってしまう己を)

菜々 (だけど、優木せつ菜じゃない、彼女は『私』中川菜々と仲良くなりたいと言ってくれたんだ)

菜々 (なんて嬉しいことだろう……)

生徒L 「では、歌わせてもらいますね。うぅ、いざ歌うとなると緊張するなぁ」

菜々 「応援してますよ」

生徒L 「……よし! 頑張るぞ!」






630: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 13:57:42.20 ID:o3fsbJBI
かすみ 「今日も大変でした……!」 フラフラ

歩夢 「ふふ、お疲れ様、かすみちゃん」

せつ菜 「でもこの練習を続けてゆけば、きっと、素晴らしいライブができるはずです。明日も頑張りましょう!」

璃奈 「素晴らしいライブ……私にもせつ菜さんみたいなライブができるかな」

せつ菜 「もちろんです!! 璃奈さんの努力は近くで見てる私が一番分かってますから!!」

璃奈 「……ありがとう。嬉しい」

634: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 19:03:43.96 ID:o3fsbJBI
かすみ 「さて、これからどうしましょうか。いつものパフェを食べに行きます?」

せつ菜 「いつものパフェ?」

璃奈 「?」

かすみ 「あっ、そういえば、せつ菜先輩とりな子はまだ行ったことなかったっけ……彼方先輩が働いてるお店があって、そこのパフェが絶品なんですよ」

璃奈 「パフェ……!」

歩夢 「うん、すごく美味しかったよ。それに彼方さんが仕事が終わったら、一緒に近江遥ちゃんトークをするのがルーティンなんだ」

せつ菜 「遥さんトークですか……!?」

635: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 19:05:07.62 ID:o3fsbJBI
かすみ 「二人も一緒に来ます?」

璃奈 「うん。行きたい」

せつ菜 「わ、私は……」

せつ菜 「……」

せつ菜 (……そうだった。今の私なら、友達と遊びに出かけるのも、パフェを食べに行くことも、全然大丈夫なんだ)

せつ菜 「私も行きます!!」

かすみ 「じゃあみんなで行きましょう! レッツゴー!」

歩夢 「ふふ、かすみちゃん嬉しそうだね」

侑 「だね。こんな賑やかなんだもん、楽しいに決まってるよ」

636: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 19:06:46.03 ID:o3fsbJBI
ドンッ ドンッ

璃奈 「何の音?」

せつ菜 「この音は、バスケットボールですね。ドリブルをしてる音です。どうやらバスケ部がまだ練習してるようですね」

生徒J 「愛、パスっ!!」

愛 「よし受け取った! 任せてっ!」

生徒K 「ちょ、そこから打つ気!?」

愛 「左手は添えるだけ……右手は軽く投げる感じで! ライトだけに!」 パッ

637: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 19:08:00.74 ID:o3fsbJBI
パシュンッ

愛 「やった!」

生徒K 「相変わらず愛はすごいなぁ」

愛 「あはは、そんなことないって」

かすみ 「あの人たちは……」

歩夢 「こないだゲームセンターで見た人たちだよね。バスケ部だったんだ」

せつ菜 「確かにあの二人はバスケ部ですけど、今ゴールを決めた人はバスケ部ではありませんよ?」

かすみ 「えっ?」

638: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 19:08:52.80 ID:o3fsbJBI
せつ菜 「あの方は宮下愛さんと言って、部活には所属してないのですが、あらゆる運動部に助っ人としてよく呼ばれてるんです。どんなことも完璧にこなしてしまうらしいですよ」

かすみ 「どんなスポーツも完璧に……! まあそう言っても、文武両道なわけではないですし……別にかすみんの敵では……」

せつ菜 「成績もとても優秀ですよ」

かすみ 「か、勝ち目がない……」 ガーン

歩夢 「せつ菜ちゃん、あの人のことよく知ってるんだね」

璃奈 「もしかして知り合いなの?」

639: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 19:10:01.79 ID:o3fsbJBI
せつ菜 「あ、いや、そういうわけでは……やはり私のような立場だと、生徒の顔や名前、情報はちゃんと覚えておかないといけないので……」

かすみ 「立場?」

せつ菜 「! えっと、ほらやっぱりスクールアイドルですから! ファンになってくれる可能性のある人は全て覚えておかないと、と思いまして!」

璃奈 「そこまで徹底してるなんて……せつ菜さん、すごい……!」 キラキラ

かすみ 「いや流石にいくらスクールアイドルのためとはいえ、そこまではできませんよ!?」

640: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 19:11:04.36 ID:o3fsbJBI
せつ菜 「まあ、とりあえず、ほら早く行きましょう! そのパフェを食べに行きに!」 タッタッ

かすみ 「ちょっと待ってくださいよぉ! せつ菜先輩!」 タッタッ

歩夢 「それにしても、なんでも完璧だなんて、すごいなぁ……だけどゲームの腕なら負けないからね」 ゴゴゴゴ

侑 「おおっ、歩夢、対抗心を燃やしてるね……。でもなんでも完璧って、それはそれで怖いかもね」

歩夢 「えっ?」

侑 「ほらさ、完璧であるってことは、周りからのハードルも高いってことでしょ?」

歩夢 「それはそうかも……」

641: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/04(金) 19:12:21.70 ID:o3fsbJBI
侑 「完璧であろうとすると、少しのミスでも評価が変わってしまう場合がある。時に失敗して、時に成功して、それが人として一番元気よく生きられる状態なんじゃないかな。まあ人それぞれだとは思うけど」

歩夢 「……うーん、難しいね」

侑 「ほら歩夢もさ、完璧なスクールアイドルもいいけど、『あゆぴょん』をやることによってちょっと路線の違う魅力を……」

歩夢 「侑ちゃん、バスケットボールが顔に当たったらどれくらい痛いと思う?」

侑 「ごめんなさい。静かにします」






643: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:19:19.63 ID:8cNsb5L3
生徒L 「ゲームセンターも楽しかったですね……こんなに遊んだの久しぶりかも」

菜々 「私もそうですよ。あなたのおかげでとても楽しい一日を過ごすことができました。本当にありがとう」

生徒L 「会長……」

菜々 (なんだか、こんなに笑ったのも、こんなに楽しかったのも、本当に久々に感じて……まだ二人に分かれて全然経ってないのに、遠い過去のように思えます)

菜々 「あ、あの!」

生徒L 「なんでしょう?」

644: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:24:56.75 ID:8cNsb5L3
菜々 「今日はもう遅くなってしまいましたし暗くなってきたので、できませんが、次遊ぶ機会があったら……」

生徒L 「?」

菜々 「私と銭湯に行ってくれませんか!?」

生徒L 「銭湯ですか?」

菜々 「ずっと憧れだったんです。友達と一緒に銭湯に行って、風呂上がりにコーヒー牛乳を飲むのが……だから!」

生徒L 「……」

菜々 「あっ、えっと、その、急に銭湯に行こうだなんて、失礼でしたよね……ごめんなさい……」

645: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:27:25.42 ID:8cNsb5L3
生徒L 「会長、謝らないでください。失礼だなんて全く思ってませんよ」

菜々 「で、でも」

生徒L 「行きましょう、銭湯。私も、友達と銭湯に行けるなんて初めてで、ワクワクします!」

菜々 「! 本当ですか!?」 パァァ

生徒L 「もちろんです。私はいつでも大丈夫ですから、会長の予定が空いてる放課後に言ってください。一緒に銭湯に行きましょう」

菜々 「……ありがとうございます。では行ける日にすぐ連絡しますね!!」

生徒L 「はい、楽しみに待ってますから」 ニコッ

646: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:28:21.88 ID:8cNsb5L3
菜々 (良かった……)

菜々 (せつ菜さんは、銭湯でかすみさんと歩夢さんと、より仲良くなれたと言ってました……私もきっと、もっと仲良くなれるはずです……)

菜々 (勇気を出して良かった……)

ピコーン

ピコーン

ピコーン






648: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:30:04.95 ID:8cNsb5L3
タッタッ

タッタッ

中川母 「……足音。あの子が帰ってきたのかしら」

中川母 「晩御飯、早く準備しすぎたみたいね……温め直さないと……」

ガチャ

菜々 「ただいま、お母さん」

中川母 「おかえり、菜々」

菜々 (友達と銭湯に行くくらいなら、真剣にお願いすれば許してもらえるかな……やっぱり嘘ばっかりじゃ流石に申し訳ない……スクールアイドルのことは言えないけど、このくらいなら)

649: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:31:49.42 ID:8cNsb5L3
中川母 「約束、もう破ったのね」

菜々 「えっ……」

中川母 「もしかして、忘れてたの? 『早く帰ってくる』約束」

菜々 「あっ……」

中川母 「……」

菜々 「ご、ごめんなさい!! 今日は」

中川母 「別にそれに関しては気になっただけで、もう怒ってないから、良いの、そういう言葉は」

菜々 「えっ」

650: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:32:56.48 ID:8cNsb5L3
中川母 「毎日守れるだなんて思ってない、失敗することだってあるもの」

菜々 「……」

中川母 「でも、しばらくはどうか約束を守ってちょうだい。勉強はもちろんのこと、暗くなってから帰ってくるのがとても心配だから」

菜々 「お母さん……」

菜々 (……そうです、私は自分のことばかりで、お母さんの気持ちを何も……)

651: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:34:32.71 ID:8cNsb5L3
中川母 「ただ、あなたが持っていた本」

菜々 「本?」

中川母 「朝見つけたの、ライトノベル? って言うのかしら」

菜々 「!」

菜々 (そ、そんな……見つからないようにしてたのになんで……!)

菜々 『今日ラノベを渡すんだった。渡すラノベはこれとこれかな……?』 パッ パッ

菜々 (そっか、朝、せつ菜さんに渡そうとして取り出したのが……!)

652: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:36:05.32 ID:8cNsb5L3
中川母 「あれ、全部捨てたから」

菜々 「……えっ?」

中川母 「ごめんなさい。でも、あなたのためなの、分かってちょうだい」

菜々 「……」

中川母 「菜々……?」

菜々 (捨てた……? あの本たちを、全部……?)

中川母 「……ごはんにしましょう。ちょっと待っててね、少し温めるから。その間手洗いや着替えをしておいて」

菜々 「う、うん……」

653: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:37:05.03 ID:8cNsb5L3
タッタッ

タッタッ

菜々 「……」

菜々 「……」

菜々 「えっと、着替えないと……まずは携帯を置いて……」

菜々 「! メールが何通も……」

菜々 (お母さんから……気付かなかった……。『今日は遅くなるの?』『昨日は勉強頑張ってたから、晩御飯はあなたの好きなものをたくさん用意したわ』『早く帰っておいで』『夜道は気をつけるのよ』)

菜々 「……」 ポロポロ

菜々 「あっ、涙が……止まらない……」 ポロポロ

菜々 (私と友達になってくれたLさん……私をいつも思ってくれたお母さん……そのどちらの優しさにも、私は応え切れてない……)

菜々 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」 ポロポロ






654: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:38:08.07 ID:8cNsb5L3
菜々 「ごちそうさまでした……じゃあ部屋に戻って勉強頑張るね」

中川母 「……うん、お疲れ様」

タッタッ

タッタッ

中川母 (やっぱり、間違ってたのかしら……)

中川母 (本当は捨ててないし、隠してるだけなのだから、没収します、とだけ言えば良かったのに……)

655: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:39:45.45 ID:8cNsb5L3
中川母 (いえ、何度メールしても、返信も来なかったのよ。厳しくしないとダメ。このくらいしないと、菜々のためにならない。捨てたと嘘を言わなくちゃいけなかったのよ)

中川母 (だけど本当に……本当に、これで良かったの?)

中川母 (菜々から笑顔を奪うことを、親なりの優しさと、その言葉だけで済ませることは許されるの? できるの?)

中川母 「ごめんなさい、菜々……」

656: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:40:36.95 ID:8cNsb5L3
タッタッ

タッタッ

菜々 「……元々は全て『私』のせいなんです。私が周りの人たちを、困らせた。だから、せめて今は私ができることを」

ブルル

菜々 「電話? そっか、せつ菜さんから……」

菜々 「はい、もしもし」

せつ菜 『いま大丈夫ですか? 優木せつ菜です』

菜々 「ええ、大丈夫ですよ」

658: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:42:01.42 ID:8cNsb5L3
せつ菜 『では今日も報告会を始めましょうか。どちらが先に話しますか?』

菜々 「……私は昨日と同じなので、今日はせつ菜さんの話だけ聞かせてください」

せつ菜 『そうですか? 分かりました。今日は朝、家の前で菜々さんと合流しました!』

菜々 「いやそれは私も知ってるじゃないですか。知らないことを報告してください」

せつ菜 『えっと、昼は……』

せつ菜 (生徒会室の前に行って、Lさんに出会って、Lさんが気絶して保健室に運んだことは……生徒会長なら知ってる? 話さない方がいいですかね)

659: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:43:27.06 ID:8cNsb5L3
せつ菜 『昼は多分、菜々さんも知ってますよね?』

菜々 「……ええ、事情は知ってます」

せつ菜 『じゃあ放課後の話をしましょう。今日は練習を頑張って、その後はみんなでパフェを食べに行ったんです!!』

菜々 「パフェですか?」

せつ菜 『ええ。とても美味しかったですし、みなさんとたくさん喋れて、すごく楽しかったです!! 最高でした!!』

菜々 「……最高、ですか」

660: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:44:37.30 ID:8cNsb5L3
せつ菜 『はい!! それと、今、菜々さんから借りたラノベを読んでますが、やっぱり久しぶりに見返しても面白いですね!! 菜々さんは私が買った本は読んでくれましたか?』

菜々 「今はまだ時間がないので……」

せつ菜 『あっ、えっと、すいません……!』

菜々 「なるべく早く返しますから……」

せつ菜 『いえいえ、気にしないでください。そもそも返すも何も、どちらも同じ人の所有物なんですから!』

菜々 「……そうでしたね、同じ『私』でしたね」

せつ菜 『……』

菜々 「……」

661: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:46:11.55 ID:8cNsb5L3
せつ菜 『とりあえず、私の報告はこんな感じで良いですかね?』

菜々 「ええ、十分ですよ。では、明日もお互い頑張らないといけないですし……電話はこれくらいにしておきましょうか。報告はまた明日の夜に」

せつ菜 『はい! また明日の夜に!』

菜々 「……」 ピッ

カチカチ

カチカチ

菜々 「同じ『私』? 本当に? それは本当ですか……?」

菜々 (『私』は『私』が憎い。誰の期待にも応えられず、傷つけてばかりの私が)

菜々 (そして『私』は『私』が憎い。同じ自分なのに、いつのまにか光となってる優木せつ菜が。私が手を取り合うはずだったかすみさんたちと、一緒に過ごしてる私が)

662: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:47:09.80 ID:8cNsb5L3
カチカチ

カチカチ

菜々 「時計の音しかしないこの部屋で、私はスクールアイドルになれるの? あのスクールアイドルだった私は、もしかして本当に幻だったんじゃ……」

菜々 (中川菜々には中川菜々の、優木せつ菜には優木せつ菜の場所がある? 適材適所? そんなことを言ってたら、『私』はいずれいなくなる。だって、私は影なんだから)

663: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/05(土) 00:48:02.43 ID:8cNsb5L3
菜々 「……」 ポロポロ

菜々 (こんなの、同じ『私』だなんて思えるはずがない……あぁ)

菜々 (自分でも嫌なくらい醜い心を持つ私を、どうか許してください……せつ菜さん……。醜いと分かってても、どうしても)

菜々 「羨ましくて、悲しくて、許せないのです……っ」 ポロポロ

カチカチ

カチカチ






672: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/07(月) 23:37:57.66 ID:EN9Eqg3f
?? 「『ひとりでふたつ』はアイデンティティの暴走による能力。自分を明確に決められず、不安定になればなるほど、それは強力になる」

?? 「つまり、アイデンティティの崩壊こそがこの能力の要。進化する条件。『自分の理から外れたことをするとき』彼女のアイデンティティは無数に分裂し、完全に自分を見失う」

?? 「そして一番肝心なことは、いつも私はただ覚醒させるだけで、その能力は元々本人たちが秘めてたものであること」

673: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/07(月) 23:40:22.36 ID:EN9Eqg3f
?? 「……ならば当然、本人たちの欲望や意志に通じた能力が生まれるのが必然であり、進化する条件も能力者の願望に通ずる」

?? 「だからでしょうか、酷なものです。進化には必ずその人にとって大きな代償がある……」

?? (さて、あなたの代償はなんでしょう?)

?? 「そろそろ『ひとりでふたつ』は進化するとき。もう一人、ちょっと昔に蒔いた種がようやく芽生えそうですが……まずはこちらですね」






675: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:21:02.68 ID:w51yRVBa
キンコンカンコーン

かすみ 「さて昼休みですが……ついにあの生徒会長と直接対決ですっ!!」

璃奈 「緊張する……」 ドキドキ

彼方 「最低人数の五人も守ってるし、そんなに気を張らなくても大丈夫だと思うけど……」

かすみ 「彼方先輩は甘いんですっ! その油断が命取りになりますよ!」

歩夢 「あはは……かすみちゃんは逆に疑いすぎなんじゃないかな……?」

676: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:22:18.52 ID:w51yRVBa
せつ菜 「たしかにかすみさんの言う通り、生徒会長は頑固なところはあると思いますが、真面目な人に対しては真摯な対応を取る。そういう方なので問題はないと思いますよ」

せつ菜 (私のことですからね、私が一番分かってます。彼女なら、必ず部活設立を認めてくれるはずです)

かすみ 「ではいざ出陣です!!」

トントン

菜々 「……どうぞ」

ガチャ

677: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:23:21.96 ID:w51yRVBa
かすみ 「一年普通科の中須かすみと言います! 部活の設立申請をしに来ました!」

菜々 「どのような部活を?」

かすみ 「『スクールアイドル同好会』ですっ!!」

菜々 「部活申請は少なくとも五人は必要ですが、それは大丈夫ですか?」

かすみ 「はい問題ありません! ここに五人いますし、書類にも五人分の名前をちゃんと記入してます!」

書記B 「確認させてもらいますね」 スッ

菜々 「どうですか、不備はありませんか?」

678: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:24:47.21 ID:w51yRVBa
書記B 「ええ、五人分書かれています。一部書いてないところもありますが……」

菜々 「書いてないところ?」

書記B 「こちらです」

菜々 「……」ジッー

かすみ 「すごく睨んでるみたいですけど、大丈夫ですかね……?」

歩夢 「うーん、私たちにはどうしようもないし、祈るしかないよ……」

679: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:35:17.38 ID:w51yRVBa
菜々 「ダメですね」

かすみ 「ええっ!?」

彼方 「……生徒会長さん。理由を教えてもらえますか?」

菜々 「……中須かすみさん、天王寺璃奈さん、上原歩夢さん、近江彼方さんは問題ありません。ただ、優木せつ菜さん、あなたの欄には学科が書かれてないようですが」

せつ菜 「そ、それは……えっと、事情がありまして……」

菜々 「事情? 具体的に教えてくれますか?」

680: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:36:34.01 ID:w51yRVBa
せつ菜 「なっ!?」

せつ菜 (菜々さん……! あなたはよく事情を知ってるはずでしょう……!)

せつ菜 (いや、これは想定内です。生徒会長の私は、ルールを徹底的に守りますからね、でも)

せつ菜 「生徒会長さん」 タッタッ

書記B 「! ちょっと会長に何するつもりですか!?」

せつ菜 「いえ、少し小声で話したいだけなので別に何かするつもりはありません」

書記B 「いやしかし……」

681: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:38:08.71 ID:w51yRVBa
菜々 「構いません。ですが怪しい行動はしない方が賢明ですよ、せつ菜さん」

せつ菜 「……あの」 コショコショ

菜々 「……なんでしょう」

せつ菜 「私の事情は分かるでしょ? お願いします。そこはスルーでお願いします」 コショコショ

菜々 「……し、しかし」

せつ菜 「私同士の仲ということで…… 頼みますね、私」 チラッ チラッ

菜々 「……」

菜々 (ええ、十分、分かってます。あなたがミステリアスであるのは、優木せつ菜の正体が私なのを隠すためなのですから……)

菜々 (ですが、あなたへの嫉妬が、強い羨望が、どうしても……抑えられないのです)

682: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:39:16.04 ID:w51yRVBa
菜々 「申し訳ありませんが、どんな事情があれど詳細不明な生徒を一人としてはカウントできません。優木せつ菜名義は使えないということです。また、その場合五人を満たさないため、スクールアイドル同好会の設立も認めることができません」

せつ菜 「ええっ!?」

せつ菜 (な、なぜ……? 私なら、誰かの大好きを邪魔なんかするはずが……)

歩夢 「? 五人はいると思うけどなぁ、ねえ、かすみちゃん?」

かすみ 「!?」

683: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:40:05.37 ID:w51yRVBa
歩夢 「侑ちゃんがいるよね、なぜか書類には名前書いてないけど」

かすみ 「あ、いや、そ、その」

かすみ (……優ちゃん!? 流石に歩夢先輩の脳内にいる人を正式部員としてカウントするのはちょっと)

侑 「歩夢、私はね、部活に縛られるような器じゃない。世界を飛ぶ渡り鳥のように決まった所属はないんだよ」

歩夢 「何言ってるの?」

685: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:41:38.84 ID:w51yRVBa
せつ菜 「お願いします!! そこをなんとか!!」

菜々 「ダメなものはダメです。いい加減にしてください」 ギロッ

せつ菜 「!」

せつ菜 (そ、そんな怖い顔を……どうして……)

歩夢 「……ねえ、侑ちゃん」

侑 「どうしたの歩夢?」

歩夢 「……ううん、ごめんね、なんでもない」

歩夢 (同じ生徒会長なんだよね? まるで保健室で会ったときとは別人みたいに……)

686: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:43:25.86 ID:w51yRVBa
菜々 「とにかく、申し訳ありませんが、スクールアイドル同好会の申請は認められません。また五人集まる目処がついたら来てください」

書記B 「では次の人も待ってるので……」

かすみ 「なっ!? むっ、ちゃんと五人集めたのに追い返すなんて! 生徒会長さんの意地悪! 頑固!」

菜々 「……なんとでも言いなさい」

かすみ 「絶対スクールアイドル同好会は設立させますからねーーーーーっ!!!」

ガチャ

書記B 「はぁ、今日も滅茶苦茶な申請ばかりですね……昨日の人は会長と友達? になる? で諦めてくれたようですが……」

菜々 「どんな申請にも、真面目に向き合う。それが私の仕事ですから仕方ありませんよ」

687: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/08(火) 00:44:58.31 ID:w51yRVBa
書記A 「……」

書記A (たしかに相手側に不備があったけど……でも、どうやら事情があったようだし、会長なら学科も把握してるのでは?)

書記A (少し強引だった? 優しい会長らしくなかったような……)

菜々 「大丈夫ですか? ぼっーとしてるみたいですが」

書記A 「あっ、なんでもありません!」

菜々 「なら良かったです。適度に休みはとってくださいね?」

書記A 「お気遣いありがとうございます」

書記A (いつも通りの優しい会長……やっぱり気のせいだったのかな……)






693: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/10(木) 01:01:53.58 ID:EKGBfw+T
タッタッ

タッタッ

かすみ 「やっぱり意地悪生徒会長でした!!」 プンプン

せつ菜 「……しかし、私が記入不足なのは確かです。彼女に非はありません」

かすみ 「それはそうかもしれませんが……だからってあの態度はひどいですよ!!」

彼方 「うーん……この場合、どうすればいいんだろう、もう一人部員を集めれば設立はできるみたいだけど……結局せつ菜ちゃんが加入できなきゃ意味ないよね?」

694: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/10(木) 01:03:20.40 ID:EKGBfw+T
せつ菜 「みなさん、本当に申し訳ありません……っ」 ペコッ

彼方 「! せつ菜ちゃん、頭を上げて。せつ菜ちゃんが謝ることはないんだよ」

せつ菜 「でも、私が誤魔化したから……スクールアイドル同好会の設立が……!」 プルプル

歩夢 「せつ菜ちゃん」

せつ菜 「歩夢さん……」

歩夢 「せつ菜ちゃんには言えない事情があるんでしょ? なら仕方ないよ」

せつ菜 「で、でも!」

695: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/10(木) 01:05:00.39 ID:EKGBfw+T
歩夢 「……実はせつ菜ちゃんが来る最初の練習のとき、かすみちゃんと話をしてたんだ。せつ菜ちゃんは本当に練習に来れるのかなって」

せつ菜 「えっ?」

歩夢 「学科もクラスも不明で、せつ菜ちゃんって謎が多いでしょ? だから隠し通すだけの事情があるんじゃないかなって思ったの。そう考えたら、その事情によってせつ菜ちゃんが練習に来れない可能性も十分あるよねって二人で話してて……」

せつ菜 「……」

かすみ 「でも歩夢先輩が言ったんです」

せつ菜 「!」

696: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/10(木) 01:06:49.08 ID:EKGBfw+T
かすみ 「仮にどんな事情があったとしても、せつ菜先輩の一緒に練習したいって気持ちは絶対本物だって。だから、きっと大丈夫だって」

歩夢 「今でもその思いは変わらないよ。せつ菜ちゃんがたとえ話せない事情があっても関係ない。せつ菜ちゃんの『大好き』はちゃんと伝わってるから」

璃奈 「……私はせつ菜さんに勇気をもらった。あのライブは私に希望を与えてくれた。だから、せつ菜さんがいない同好会なんてそもそも要らない。部室も関係ない」

彼方 「うん、その通りだよ。良いじゃん、みんながいれば部室なんてなくても、部費なんてなくても。環境が全てじゃないしお金が全てじゃない。最近彼方ちゃんもよく分かるんだ。だから、同好会が設立できなくても気を病む必要はないんだよ、せつ菜ちゃん」

697: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/10(木) 01:09:46.47 ID:EKGBfw+T
せつ菜 「みなさん……」 ポロポロ

かすみ 「……今まで部室がなくても練習できてたわけですし、あるならあった方がいいかもですが、なくても構いません! ほら、泣いてたらまた昼休みが終わっちゃいますよ! 練習頑張りましょう、せつ菜先輩!」

歩夢 「そうだね、これからもみんなで頑張っていこうよ! せつ菜ちゃん!」

せつ菜 「……本当に、本当にありがとうございます」 ポロポロ

せつ菜 (これが仲間なんですね……)

698: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/10(木) 01:11:03.98 ID:EKGBfw+T
菜々 『というか、これって青春モノにある仲間と高め合うシチュエーションですよね……なんというか憧れていたのですごく嬉しいです。せっかくならラノベ風なナレーションでも導入しておきましょうか……!』

せつ菜 (あのとき私が浮かべた言葉は、強い絆で壁を乗り越える。たしかに、絆だけがくれる、勇気と力があるようです……)

せつ菜 「そうですね……私が泣いてるなんてらしくありません!! 優木せつ菜、改めてスクールアイドルを全力で頑張らせてもらいます!! 『大好き』を世界中に届けられるように!!」

歩夢 「ふふ、その意気だよせつ菜ちゃん!」

699: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/10(木) 01:12:28.36 ID:EKGBfw+T
歩夢 (せつ菜ちゃんが元気になって良かった……でも)

菜々 『陰ながら、応援してますよ』

菜々 『ダメなものはダメです。いい加減にしてください』 ギロッ

歩夢 (もしも生徒会長さんが何か変わってしまったなら……それが能力によるものなら……止めないと。私がやらないとダメなんだ)

歩夢 「……」 ガクガク

侑 「歩夢」

歩夢 「! 侑ちゃん?」

700: 名無しで叶える物語(もんじゃ) 2022/03/10(木) 01:13:40.25 ID:EKGBfw+T
侑 「……『もし守れなかったらの痛み』それで震えてるの?」

歩夢 「……やっぱり侑ちゃんには全部お見通しだよね」

侑 「歩夢、自信を持っても良いんだよ。能力者の暴走を今まで止めてきたじゃない。それに、能力なしでも、今のように、優しさと向き合う強さで、誰かの心を救ってきた。大丈夫、歩夢ならきっとみんなを笑顔にできる。それに、私がついてるよ」

歩夢 「……!」

侑 「二人で戦うのが、私たちなんだから」

歩夢 「侑ちゃん……」

歩夢 「……」

歩夢 「うん、頑張るよ。それで誰かを悲しみから助けられるなら」

かすみ 「歩夢先輩ー? 何やってるんですか、みんなもう練習始めちゃいますよー?」

歩夢 「今行くよ、かすみちゃん!」 タッタッ






705: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/11(金) 23:43:18.52 ID:emmJnndC
先生 「ここの関数は、少し応用が必要だが、今まで習ったことをちゃんと使えば解ける問題だ」

菜々 (……私は、生徒会長の権限を私利私欲に使った。優木せつ菜だけが、何もかも上手くいくことに嫉妬して、邪魔するためだけに権限を利用して)

菜々 (はぁ、公私混同も甚だしい)

かすみ 『なっ!? むっ、ちゃんと五人集めたのに追い返すなんて! 生徒会長さんの意地悪! 頑固!』

菜々 「……」 ズキッ

菜々 (私をスカウトしたときは、あんなに嬉しそうだったのに……今では私を相当憎んでいるでしょうね……)

菜々 (でもそれは自分が招いたこと……)

706: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/11(金) 23:48:17.78 ID:emmJnndC
キンコンカンコーン

先生 「じゃあ授業は終わり。しっかり復習しておくんだぞ」

菜々 「はっ!?」

菜々 (やってしまいました……授業を全然聞いてなかった……)

菜々 (ただでさえ、自分の苦手な分野だったのに……!)

菜々 「……」

菜々 (しっかり勉強をしないと、お母さんを悲しませてしまう……もっと頑張らなければいけないのに……)

菜々 (あぁ、なぜ『私』ばかりが……)

菜々 「!」

菜々 (同好会の設立を必要以上に厳しくして認めなかった。それだけでもこれほど後悔してるのにまだ、私は彼女を、憎んで羨んでるのですか……)






707: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/11(金) 23:51:15.34 ID:emmJnndC
書記A 「会長。こちらの書類を確認してほしいのですが……」

菜々 「分かりました。そこに置いておいてください」

書記B 「会長。美術部から近いうちに備品のチェックについて話したいことがあるそうです」

菜々 「了解です。なるべく時間を合わせますから、そちらで時間がとれる日をリストアップしておいてください」

菜々 「……」 カキカキ

菜々 「……」 カタカタ

708: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/11(金) 23:52:11.89 ID:emmJnndC
なぜかもんじゃから、らっかせいに表記が変わってますが、気にしないでください。

709: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/11(金) 23:54:24.71 ID:emmJnndC
書記B 「相変わらず会長はすごいなぁ……昼休みと放課後どちらも仕事してるとはいえ、普通だったらもっと遅くなってるよ……」

書記A 「……二人分の仕事ですからね」

書記B 「!」

書記A 「……生徒会役員を決めるとき、会長と書記は立候補者がいたけど、副会長は誰も立候補しなかった。その結果、この生徒会には会長の補佐的立場である副会長がいない」

書記B 「……」

書記A 「でも、だからといって私たちがこれ以上手伝いたいと言えば、会長は拒否するでしょう。私たちはあくまで書記。それに、書記の仕事も忙しく、会長を手伝える余裕はあまりないとおそらく見抜かれているだろうから……」

710: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/11(金) 23:55:25.49 ID:emmJnndC
書記B 「やっぱり無理矢理でも、副会長を決めた方が良いんじゃ……今は大丈夫でも、このままじゃいつか会長が……!」

書記A 「でも。あの人は優しい。強制的ではなく、あくまで立候補で副会長になってくれる人が出てこないとダメなんだ」

書記B 「それは、そうだろうけど……」

書記A 「とりあえず、私たちにできることをしよう? 今は、少しでも会長の仕事を減らせるように努力しなきゃ」

書記B 「……そうだね」






711: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/11(金) 23:56:28.72 ID:emmJnndC
生徒L 「あの! 上原歩夢さんですよね!」

歩夢 「えっ?」

生徒L 「こないだ、倒れた私を助けてくれたそうで……」

歩夢 「あっ、いや、それはせつ菜ちゃんが……」

生徒L 「!? 今なんて!? 私の妄想が反映された幻聴!?」

歩夢 「えっと、じゃなくて、たしかに私が助けましたけど……」

歩夢 (せつ菜ちゃんが助けたって言ったら、また気絶しちゃうかもしれないよね……)

712: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/11(金) 23:58:15.68 ID:emmJnndC
生徒L 「そ、そうですよね、あはは、最近本当に疲れ気味だったみたい。倒れる前の記憶も曖昧だし……ってあれ?」

歩夢 「?」

生徒L 「あなた、こないだせつ菜ちゃんのライブに来てましたよね!?」

歩夢 「すごく素敵なライブだったよね」

生徒L 「ですよね!! やっぱりせつ菜ちゃんのライブは最高ですよね!!」

716: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/12(土) 22:19:20.98 ID:3BoSr1tq
侑 「……たしか会長さん、この子のこと友達って言ってたよね。歩夢、怪しまれない程度に少し情報を探れない?」

歩夢 「えっ? 情報?」

侑 「うん。歩夢の不安を減らすためにも、確実に能力者を救うためにも、情報はあった方がいいよ」

歩夢 「……分かった、やってみる」

生徒L 「? どうかしたんですか? もしかして私、また一人で盛り上がりすぎちゃったかな……ごめんなさい、せつ菜ちゃんのことになるとつい……」

717: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/12(土) 22:20:28.89 ID:3BoSr1tq
歩夢 「ううん、気にしないで。そういえば、Lちゃんだったよね?」

生徒L 「はい。そうですが……」

歩夢 「会長さんとは友達なんだよね?」

生徒L 「はい! 昨日なったばかりですけど、カラオケにもゲームセンターにも行って、すごく楽しくて……時間なんて関係ない、大切な友達です!」

718: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/12(土) 22:21:21.16 ID:3BoSr1tq
歩夢 「実は私も会長さんと友達になりたくて……会長さん、何か好きなものはないかな?」

生徒L 「好きなもの?」

侑 「なんで情報を聞き出してって頼んでるのに、好きなものを聞くの?」

歩夢 「やっぱり最初は好きなものかなって……」

侑 「そんな新学期のクラスの初めての自己紹介じゃないんだよ?」

719: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/12(土) 22:22:43.26 ID:3BoSr1tq
生徒L 「会長さんは、アニメに詳しいんですよ。せつ菜ちゃんのファンだから、詳しいだけかもしれませんが」

歩夢 「! 会長さん、せつ菜ちゃんのファンなんだね」

生徒L 「ええ、最初は謙遜してましたが、おそらく私と同じくらい、いや私以上にもしかしたらせつ菜ちゃんに詳しいかもしれません……。それと、あと、会長さんの好きそうなもので言うと……」

侑 「これは意外な繋がりだね、歩夢……」

歩夢 「ほら、好きなものを聞くのも無駄じゃなかったでしょ?」

侑 「……まあね」

720: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/12(土) 22:23:59.60 ID:3BoSr1tq
生徒L 「銭湯が好きなんじゃないかな」

歩夢 「銭湯?」

生徒L 「次に遊べる日に会長と一緒に行く約束をしてるんです! 風呂上がりのコーヒー牛乳がすごく楽しみだって言ってたし、きっと銭湯が好きなんだと思うな。だから友達になりたいなら銭湯の話題とか良いかも!」

歩夢 「……」

せつ菜 『ずっと憧れだったんです、友達と一緒に銭湯に行って、風呂上がりにコーヒー牛乳を飲むの!』

歩夢 「……偶然だと思う? 侑ちゃん?」

721: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/12(土) 22:25:09.21 ID:3BoSr1tq
侑 「……分からない。でも、ずっと近くで微弱な能力の気配を感じてたのに、いまいち把握できなかった理由がそれなら説明できる気がする」

歩夢 「それって……」

歩夢 (せつ菜ちゃんが何かしら関係あるってこと? いや、そもそも会長さんが能力者なのかすら確定してないし、今は全て憶測にすぎないんだ)

歩夢 (せつ菜ちゃんを疑うなんて、あまりしたくない……)






722: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/12(土) 22:27:06.15 ID:3BoSr1tq
菜々 「……今日の分の仕事は終わりましたね。二人とも、お疲れ様」

書記B 「いえ、会長に比べたら私たちの仕事なんて全然……ぐっ!?」

書記A 「……余計なことを喋らない」 ググ

書記B 「口を手でおさえないでよ!」

菜々 「あはは……心配してくれてありがとうございます。でも、仕事に差はありません。あなたたちの仕事もとても大変で、だからこそ大変助かっています。いつもありがとう」

723: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/12(土) 22:39:32.13 ID:3BoSr1tq
書記B 「会長……」

書記A 「……明日も、私たち頑張りますので、会長も無理をしないでください」

菜々 「!」

書記A 「言いたいことは以上です。では、今日は帰りましょうか」

菜々 「……ふふ、そうですね」

ガチャ

タッタッ

タッタッ

724: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/12(土) 22:40:55.10 ID:3BoSr1tq
菜々 「ん? 廊下の向こうに誰かいますね……ってLさん!?」

生徒L 「生徒会お疲れ様です、会長。一緒に帰りましょう!」

菜々 「……終わるまで待っててくれたんですか?」

生徒L 「当然です、友達ですから!」

菜々 「……」

菜々 (やっぱり、良いものですね友達というものは……)

725: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/12(土) 22:41:47.46 ID:3BoSr1tq
菜々 「……ありがとうございます。では一緒に帰りましょうか」

生徒L 「はい!」

書記B 「……会長、嬉しそうだね」 ヒソヒソ

書記A 「……最近の会長はどこか悩んでるようだったけれど、もしかしたら私たちの杞憂だったかもしれないね。それなら良かった」






731: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:33:30.45 ID:SvJu2VnH
タッタッ

タッタッ

生徒L 「それで眼鏡はどこだろうと探してたら、実は私の頭に乗っかってたんですよ!」

菜々 「ふふ、Lさんの話は面白いですね」

生徒L 「そうですか? 私の話はそんなに面白くないと思いますが……初めて言われましたし……」

菜々 「卑下しないでください。少なくとも、私は面白く感じたんですから」

生徒L 「……会長、ありがとうございます。ふふ、すごく嬉しいです」

732: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:35:00.89 ID:SvJu2VnH
菜々 (……彼女だけは『私』を『中川菜々』として見てくれる。『謎のスクールアイドルの正体』でもなく、『生徒会長』でもなく)

菜々 (それがどれだけ幸せなことか、今ならはっきり分かります)

かすみ 「もう、くたくたですよ〜!」 フラフラ

彼方 「ほらかすみちゃん! 気合いだよ、気合い!」

菜々 「!」

生徒L 「あちらで何人かがランニングをしてますね。何の運動部なんだろう」

菜々 (……スクールアイドル。中川菜々ではそれにはなれない。でも良いんです、私には私の幸せがあるから)

733: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:35:51.29 ID:SvJu2VnH
せつ菜 「かすみさん!! ほら手を繋いで一緒に走りましょう!!」 ギュッ

かすみ 「ちょ……」

せつ菜 「全力投球ですよぉぉーーーー!!!」 タタタタ

かすみ 「ひぃぃぃ! 休ませてぇぇ!」 タタタタ

菜々 「……ここはまだ帰宅してない部活動の人たちも多いですし、別の道を通りましょうかLさん」

生徒L 「……」

菜々 「Lさん?」

734: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:36:49.36 ID:SvJu2VnH
生徒L 「せつ菜ちゃんの練習を見れるなんて……!」 キラキラ

菜々 「……」 ズキッ

菜々 (その名前を、今は聞きたくない……っ)

菜々 「ほら邪魔になっては悪いですし、早く学校を出て……」

生徒L 「近くで見たらきっと眩しすぎて倒れちゃうだろうなぁ……そのくらい遠くからでもせつ菜ちゃんのオーラが伝わってくる……」

菜々 「えっとLさん?」

735: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:41:10.12 ID:SvJu2VnH
生徒L 「せつ菜ちゃんをライブ以外で、しかも練習風景を見れるなんてレアなんてものじゃありませんよ! 会長もファンならば分かるでしょ!? このすごさが!」

菜々 (今まではずっと部活も作らず一人で活動してきましたからね……なかなか見かける機会もなかったでしょう)

菜々 「……たしかに彼女を、ライブ以外で見れるのはとても貴重ですね。しかし、練習してる部活動の邪魔になってしまうかもしれませんよ? 心惜しいですが早く離れましょう」

736: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:42:19.80 ID:SvJu2VnH
生徒L 「そ、それはそうかもしれませんが、それでも優木せつ菜ちゃんですよ!? ずっと応援してきた!」

菜々 (その名を呼ばないでください)

生徒L 「少しくらい、一瞬くらい、練習風景を見たって……! それに端っこにいれば他の部活動の邪魔にもなりませんよ!」

菜々 「ダメです」

生徒L 「で、でも」

菜々 「ほら早く帰りましょう」

737: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:43:42.54 ID:SvJu2VnH
菜々 (彼女だけは『私』を『中川菜々』として……。それは本当に?)

生徒L 『私は否定しても構いません。でも、勉強しか取り柄のなかった私に生きる希望をくれた……私の大好きな優木せつ菜ちゃんだけは否定しないでくださいっ!!』

菜々 (違う。彼女の生きる希望は、私じゃない。『優木せつ菜』なんだ)

菜々 (私が友達になれたのだって、優木せつ菜という繋がりがあったから。所詮、天秤は優木せつ菜に傾いてる)

738: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:44:51.93 ID:SvJu2VnH
菜々 「実は、事情があって早めに家に帰らなくてはいけないんです。なので寄り道してる余裕はないというか……生徒会が終わるまで待ってくれていたのに、こんなこと、申し訳ありません……」

生徒L 「か、会長、謝らないでください! 用事があるなら仕方ありませんよ! せつ菜ちゃんは少し名残惜しいけれど……次のライブで胸に刻むから良しとしよう……」

菜々 「……」

菜々 (『私』を一番分かってくれた彼女すらも、また『私』じゃない方を選ぶ。いつも優木せつ菜に対して中川菜々は影だ。そしてそれは当然だ、中川菜々ができなかったことをするために、優木せつ菜は生まれたのだから)

739: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:50:29.18 ID:SvJu2VnH
菜々 (理屈では分かる。逆恨みに近いことも分かってる。でも、この遠くから見てる練習風景だけでも、十分だ。十分、私の欲しかったものが彼女には手に入っている。そして唯一彼女ではなく私にしかなかったものも)

菜々 (それすらも今、いや、最初からとっくに奪われていたんだ……元々一人だったときすら、影の自分を嫌っていたのに、二人に分かれたらはっきり気付いた)

菜々 (イヤだ……全部、全部、つらいものは中川菜々が背負って、大好きなことは全部優木せつ菜が掴んで……自分で作った運命だとしても、こんなことって……!!)

菜々 「……」

生徒L 「……会長、大丈夫ですか?」

740: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:55:06.28 ID:SvJu2VnH
菜々 「……Lさん。一つ質問してもよろしいですか?」

生徒L 「? ええ、大丈夫ですが……」

菜々 (『私』が優木せつ菜になったら、あなたはどう思いますか?)

菜々 「いえ……やっぱりなんでもありません」

菜々 (なんて、思っても言えませんよ……)

生徒L 「えっと、私には会長の気持ちが完璧に分かるわけではありません、でも!」

菜々 「!」

741: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/15(火) 01:56:48.49 ID:SvJu2VnH
生徒L 「悩みがあるなら、今すぐじゃなくてもいい、だけど、私を頼ってください。私はいつでもあなたの味方ですから」 ニコッ

菜々 「……」

菜々 「……ありがとうございます、Lさん」

菜々 (これでようやく覚悟ができました……)

菜々 (中川菜々ができなかったことをするために、優木せつ菜は生まれた……ならば、『私』は『優木せつ菜』を取り戻さなければいけないっ……!)






747: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/16(水) 23:29:02.01 ID:AZSX/vRr
せつ菜 「今日も練習を全力で頑張れました」

せつ菜 (それは良かったんですが……しかし、悩むこともありますね……)

せつ菜 「みなさんは構わないと言ってくれましたが、やはり部活として認められないのはこれからを考えると厳しいですし、何よりそれが私のせいなのが申し訳ない……」

せつ菜 「……それに後で菜々さんに電話するのも、あんなことがありましたから気まずいですし、悩みの種は尽きないですね」

せつ菜 「はぁ、菜々さん、一体どうしたんだろう……」

せつ菜 (そういえば、今日は歩夢さんも少し変でしたね……)

748: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/16(水) 23:30:01.68 ID:AZSX/vRr
歩夢 『せ、せつ菜ちゃん!』

せつ菜 『どうかしましたか?』

歩夢 『あ、あのね、かい……』

せつ菜 『かい……?』

歩夢 『貝殻って好きかな!?』

せつ菜 『? 嫌いではありませんが……』

せつ菜 「急に貝殻のことを聞いてきたり」

750: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/16(水) 23:31:28.02 ID:AZSX/vRr
歩夢 『あの、せつ菜ちゃんって私たち以外に知り合いっているのかな?』

せつ菜 『……えっと? どういう意味です?』

歩夢 『あっ、えっと、あのね!? べ、別にせつ菜ちゃんが友達がいなそうに見えるとかじゃなくて!! そ、その!』

せつ菜 『?』

歩夢 『もしかして、かい……』

せつ菜 『かい……?』

歩夢 『回転焼きって好きかな?』

せつ菜 『はい?』

歩夢 『えっとね、ちなみに回転焼きって今川焼きとか小判焼きのことなんだけど……!』

せつ菜 「なぜ知り合いの話から食べ物の話になったんでしょう……」

751: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/16(水) 23:32:59.58 ID:AZSX/vRr
せつ菜 (食べ物といえば、今日のご飯のこと考えてなかったですね。コンビニに寄りましょう)

ウィーン

イラッシャイマセー

せつ菜 「……これと、これと、それと」 スッ

タッタッ

タッタッ

せつ菜 「お願いします」

752: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/16(水) 23:34:01.59 ID:AZSX/vRr
店員 「……」

せつ菜 「あの?」

店員 「……」

せつ菜 「えっと、目の前にいるのですが……すいません!」

店員 「……ってお客様!? 申し訳ありません。今すぐにお会計しますので」

せつ菜 (ぼっーとしてたんでしょうか……そういうこともありますよね)

753: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/16(水) 23:36:32.64 ID:AZSX/vRr
ウィーン

アリガトウゴザイマシター

せつ菜 「ん? あれは……」

警察官 「……」

せつ菜 (パトロールの警察官ですかね。真夜中というわけではありませんが、この周辺は家もあまりないですし、高校生一人がうろついていたら流石に話しかけられるでしょうか)

警察官 「……ここは問題なし、と」 チャリンチャリン

せつ菜 「って行ってしまいました……私ってもしかして案外大人に見えるんでしょうか?」

760: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 22:44:51.06 ID:Ld2diOwH
せつ菜 (ずっと子供っぽいのを気にしてしましたが、ついに私にも大人らしさが……!) ドキッ

せつ菜 「……!」 チラッ

せつ菜 「……」

せつ菜 「……はて、ガラスに映る自分を見たところでは何も変わってませんね」

せつ菜 「あっ、あそこに電話ボックスが……少し早いかもですが、報告の連絡をしましょう」

761: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 22:45:56.54 ID:Ld2diOwH
タッタッ

タッタッ

せつ菜 (……昼のことで気まずいのは確かだけれど、気にしても仕方ありません。平常心で!)

ガラッ

プルル

せつ菜 「もしもし優木せつ菜です。今日の報告なんですが……」

せつ菜 「えっ? 同好会設立を許可する!? 本当ですか!?」

せつ菜 「それに関する話をしたいから学校の体育館に来てほしい……はい、もちろんです、いえ、全然構いませんよ!」

762: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 22:46:59.28 ID:Ld2diOwH
せつ菜 「二人が会ってることがバレないように、なるべく人に会わないようにこっそりと……鍵は開けておくから? 了解です。ふふ、ありがとうございます。まさか設立を許してくれるなんて。やっぱりさすが私ですね!」

せつ菜 「あっ、えっと、自画自賛というわけではありませんよ!?」

せつ菜 「……それで、はい、その時間ですね。ところで持ち物等は……あっ、大丈夫ですか。分かりました、ではまた後で!」

せつ菜 (良かった…… 菜々さんも怒ってはなさそうでしたし、これで一安心ですね……)

せつ菜 (後の悩みは歩夢さんの様子が少し変だったことだけですが……今度、貝殻のアクセサリーと今川焼きでもプレゼントしましょうか)






763: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 22:48:31.18 ID:Ld2diOwH
侑 「歩夢のバカっ! なんでせつ菜ちゃんに何も聞けないのっ!」

歩夢 「うぅ……ごめんなさい……だって聞きにくいんだもん……」

侑 「会長さんが能力者かもしれなくて、せつ菜ちゃんも関係あるかもしれないんだよ!? なんで貝殻とか今川焼きとか聞いてるの!」

歩夢 「つい……『かい』までは声を出せたんだけど……」

侑 「『ちょう』まで頑張ってよ!」

歩夢 「ちょう……」

侑 「いや『ちょう』だけ言っても意味ないでしょ!」

764: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 22:49:21.28 ID:Ld2diOwH
歩夢 「すいません……」

侑 「せめて『ぴょん』まで言っ」

歩夢 「侑ちゃん、しつこいよ?」 ゴゴゴゴ

侑 「……許してぴょん」

歩夢 「ダメ」

侑 「……」 アセアセ

歩夢 「……」 ゴゴゴゴ

765: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 22:50:22.66 ID:Ld2diOwH
侑 「!」

歩夢 「? どうしたの侑ちゃん? 今更言い訳しても許さないからね?」

侑 「違うよっ!! 能力! 能力の気配を感じたの! 能力者がいる、学校の方向だよ」

歩夢 「それ本当? 誤魔化そうとしてない?」

侑 「それだったらもっと違う嘘つくよ! 行こう、歩夢!」

歩夢 「……分かった。行こう、侑ちゃん!」






767: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:10:39.83 ID:Ld2diOwH
ガラッ

せつ菜 「夜の学校はやっぱり怖いですね……それと、パトロールの夜間警備さんと出会わなかったのは運が良かった……」

菜々 「会いませんよ。体育館に向かってるんだったら」

せつ菜 「あっ、菜々さん! ……えっと、どういうことですか?」

菜々 「私が生徒会を通して連絡したんです。近いうちに体育館でイベントをやる予定なので、準備したものを壊さないように夜は近寄らないように、と。もちろん、せつ菜さんと会うための嘘ですが」

せつ菜 「嘘はあまり良くありませんが、さすが菜々さんですね。それなら、二人が会ってるのが誰にもバレずに済みます!」

768: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:11:40.54 ID:Ld2diOwH
菜々 「……そう、誰にもバレずに済む」

せつ菜 「えっ?」

ギュッ

菜々 「……しっかりインターネットで調べたので、なかなか外れませんよ」

せつ菜 「えっと? なぜ私の腕にロープを縛ってるんですか? もしかしてそのイベントってマジックの練習だったり?」

菜々 「イベントは嘘だって言ってるじゃないですか」

せつ菜 「……それはそうですけど、じゃあなんで」

769: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:12:38.78 ID:Ld2diOwH
ギュッ ギュッ

せつ菜 「! こんなきつく縛るなんて……少しおかしくないですか? 冗談にしては……」

菜々 「そこの椅子に座ってください」

せつ菜 「椅子? さすがにそんなあからさまな……」

菜々 「申し訳ありません、せつ菜さん」 ドンッ

せつ菜 「えっ」

せつ菜 (突き飛ばされた……!?)

770: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:14:06.99 ID:Ld2diOwH
菜々 「動かないでくださいね。今、足も縛るので」

ギュッ ギュッ

せつ菜 「ちょ、ちょっと! 菜々さん、私の話を聞いてください!」 ドタバタ

菜々 「……そうだ、私の眼鏡をあなたにあげましょう」 スッ

せつ菜 「! それは菜々さんのものでしょう! せつ菜のときは眼鏡は……」

菜々 「安心してください。『私』が優木せつ菜になりますから」

せつ菜 「!?」

771: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:46:15.86 ID:Ld2diOwH
菜々 「……勉強、家、生徒会。全てのつらいことは私は引き受けたも同然。それはあまりに不公平ではありませんか?」

せつ菜 「で、ですが……! それは菜々さんにしかできないことじゃないですか! 私には私しかできないことがあるように、適材適所というか……」

菜々 「あなたは、みんなと楽しそうに練習している。ずっと、羨ましかった。かすみさんたちと仲良くなったのは『私』もそうなのに……中川菜々はその後を知らない。その後は全て優木せつ菜しか知らない」

せつ菜 「それはそうかもしれませんが……! いつか戻るときに、また過ごせばいいじゃないですか! あなただって分かってるでしょ!? 今は分身でもしなければ……」

772: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:47:22.40 ID:Ld2diOwH
菜々 「……」

せつ菜 「それに! あなたは、元々の私の『中川菜々』の部分が独立したもの、そんなあなたが優木せつ菜になるのは無理がありますよ!!」

菜々 「……大丈夫です。元々、私は一人で二人分できていたんです。あなたはどこか遠くに閉じ込めて、私だけで二人を演じてみせますよ」

せつ菜 「っ!」

菜々 「それと、今更動いても無駄ですよ。もう椅子に縛り付けましたから。では倉庫の奥に……一応言っておきますが、今日は先程も述べたように、夜間警備は来ないので、叫んでも誰も来ません」

せつ菜 「菜々さん……!」

773: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:48:48.30 ID:Ld2diOwH
菜々 「……悪いとは思ってます。しかし、私はあなたが本当に羨ましかった。しばらくしたら解放します……それがせめてもの償いです」

せつ菜 「……そんなことを言うのなら」 ボソッ

菜々 「?」

せつ菜 「私だって!! 私だって!! あなたが羨ましかった!!」

菜々 「な、何を……私の日々において、あなたと比べて羨ましいところなんてどこにも……」

774: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:49:33.09 ID:Ld2diOwH
せつ菜 「ずっとお母さんに会いたかったのに……」 ポロポロ

菜々 「!?」

せつ菜 「自由に漫画も読めました。ライトノベルだって何冊も読めました。でも、寂しいんです……家が、家が恋しかった……」 ポロポロ

菜々 「……」

せつ菜 「……」 ポロポロ

菜々 「……それでも、私の方が羨ましかった」

ギュッ

775: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:50:41.28 ID:Ld2diOwH
菜々 「これであなた一人の力では、動くことは完全にできなくなりました。では、私は……」

せつ菜 「待ってください……!」

菜々 「……なんです」

せつ菜 「嫌な予感がするんです……なんというか、もし、中川菜々が優木せつ菜をやったら、全てがおかしくなるような……アイデンティティが崩れてしまうような……そんな嫌な予感がするんです」

菜々 「……出鱈目言わないでください」

せつ菜 「出鱈目ではありません!! 本当に感じるんです!!」

776: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:53:49.68 ID:Ld2diOwH
菜々 「……」

せつ菜 「お願いです!! 信じてください!!」

菜々 「……私が本体なんです。私が優木せつ菜になろうと、問題はないはずです」

せつ菜 「本体? 本体なんてありませんよ、私とあなた、両方とも『私』じゃないですか!」

菜々 「……では一つ聞いてもいいですか。この数日の中で、一度も、職務質問等は受けてないんですよね?」

せつ菜 「えっ? 確かになぜか度々スルーされることはありましたが……」

777: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:55:26.45 ID:Ld2diOwH
菜々 「正直言いたくはありませんでしたが、言わせてもらいます。それは『優木せつ菜』は『中川菜々』が作り出した虚構だからです」

せつ菜 「虚構……? 私が……?」

菜々 「ええ。ならば、私が本体なのは当たり前でしょう。そして、虚構のアイドルである『優木せつ菜』は、あなたを知っている人ならまだしも、あなたのことを全く知らない人からしたらいないも同然。だから、存在感が薄くなる。影が薄くなる。それが虚構である証拠です」

せつ菜 「で、でも、私はここにいるじゃないですか、それはどうやって説明するんですか……!」

菜々 「もうこれ以上、言うのはやめてください。自分でも分かってるのでしょう? せつ菜は本来は肉体を持たない存在なのだから……」

778: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:56:29.98 ID:Ld2diOwH
せつ菜 「そ、そんな……私が虚構だなんて……」

菜々 「……」

せつ菜 「……」

菜々 (静かになりましたかね……どんなに憎くとも、もう一人の自分。そんな自分に対してこれだけは言いたくありませんでしたが、黙ってもらうためには仕方ありません)

菜々 「では、変わるなら髪型も合わせないと……軽く髪を結びますね」 シュッ

せつ菜 「……」

779: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:57:43.26 ID:Ld2diOwH
菜々 「あとは私が髪を解けば優木せつ菜になれる……」

せつ菜 「……」

せつ菜 「……最後にもう一度だけ聞かせてください」

菜々 「! ……分かりました。どうぞ」

せつ菜 「……本当に優木せつ菜になるつもりですか?」

菜々 「ええ、もう覚悟は決めました」

シュッ

780: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/18(金) 23:58:51.09 ID:Ld2diOwH
菜々 「これでようやく『私』は『優木せつ菜』を取り戻して……っ!?」 ピクッ

せつ菜 「……っ!? あ、頭が痛い……っ!!」 グググ

菜々 「……ど、どうしてっ」 グググ

菜々 (まるで自分の頭の中に何十人もいるかのような感覚……く、苦しいっ……!!)

せつ菜 「は、早く、髪を結んで『中川菜々』に戻ってください……っ!!」 グググ

菜々 「イヤだっ!! もう絶対に私は戻りたくないっ!! これ以上……」 グググ

菜々 (羨むばかりの私でいたくない……!!)






787: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:44:33.13 ID:WV3q6MLA
タタタタ

タタタタ

歩夢 「学校に着いたけどなぜか門は開いてたし……やっぱり何かが起きてるんだね……」

侑 「うん。能力の気配がとんでもなく強くなった。今まで感じてた微弱なものとは桁違いだよ」

歩夢 「侑ちゃん、その能力は学校のどの辺から感じる?」

侑 「あっち側だけど……」

788: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:45:24.47 ID:WV3q6MLA
ワイワイ

ワイワイ

ワイワイ

歩夢 「夜中の体育館なのに、なぜか中から人の声がたくさんするね……」

侑 「能力の位置を探る必要はないみたい。歩夢、気をつけて」

歩夢 「……もちろんだよ、侑ちゃん」

ガラッ

歩夢 「えっ!?」

侑 「こ、これは……!」

789: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:46:25.76 ID:WV3q6MLA
せつ菜 「なぜ歩夢さんがここにいるんですか!?」

せつ菜 「聞いてください! 私の大好き!!」

せつ菜 「この特撮のポーズどうですか! かっこいいですよね!?」

せつ菜 「そのポーズなら、もう少し手は上の方ですかね」

せつ菜 「思いっきり走りますよぉぉーー」

せつ菜 「夜の学校ってテンション上がりますよね!!」

790: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:47:23.77 ID:WV3q6MLA
歩夢 「せつ菜ちゃんが四方八方……とにかくいっぱい……?」

侑 「どうやら、せつ菜ちゃんが能力者だったみたいだけど……これは一体どんな能力なんだろう」

ンーンー

ンーンー

歩夢 「誰かの声?」

侑 「でもまるで、口が塞がれてるような……?」

歩夢 「ってあそこに誰かいるよ!?」

侑 「早く助けに行かないと!」

タタタタ

タタタタ

791: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:48:28.50 ID:WV3q6MLA
歩夢 「ええっ!? 今度は会長さん!?」

菜々? 「んーー! んーー!」 ドタバタ

侑 「歩夢! まずは口に貼ってあるガムテープを外して、次にロープを解かないと!」

歩夢 「分かった!」 ペラッ

菜々? 「違います!! 私ですよ、優木せつ菜です!!」

歩夢 「せつ菜ちゃんなの……!?」

せつ菜 「はい……訳あって生徒会長の姿にさせられていたんです。そして、この中に優木せつ菜の姿に扮した生徒会長がいます!」

792: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:49:23.94 ID:WV3q6MLA
歩夢 「この中に生徒会長さんが……」

侑 「事情は分からないけど、見た目を少し変えただけでここまでせつ菜ちゃんが生徒会長に似てるということは、逆も然り。この大量にいるせつ菜ちゃんの中から、生徒会長を見つけるのは困難だよ?」

歩夢 「ど、どうすれば……」

せつ菜 「……なぜここに歩夢さんが来てくれたのかは分かりません。ですが、偶然にも巻き込んでしまったのなら、話さなければいけないことがあります」

歩夢 「? 話さなければいけないこと?」

793: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:51:08.34 ID:WV3q6MLA
せつ菜 「……私と生徒会長は同一人物なんです」

歩夢 「生徒会長とせつ菜ちゃんが?」

せつ菜 「はい」

歩夢 「……」

せつ菜 「……」

歩夢 「ええっ!?」

せつ菜 「そして不思議な能力をある日手に入れたことで、『中川菜々』と『優木せつ菜』は体も分かれた……しかし、お互いの役目がすれ違い暴走してしまった結果……こんなことに……」

侑 「……能力の暴走、か」

794: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:52:28.82 ID:WV3q6MLA
歩夢 「えっと、それでなんでこんなせつ菜ちゃんがたくさんいるの?」

せつ菜 「……おそらくですが、中川菜々の中にある優木せつ菜への強い憧れが、まるで人格となり、無数の優木せつ菜を作り出したんだと思います。同じ『私』ですから、なんとなく分かるんです」

歩夢 「……うーん、じゃあ生徒会長さんにお願いして、止めてもらうしかないってこと?」

せつ菜 「そういうことになります……しかし、彼女は戻りたくないと言ってました。だから意地でも優木せつ菜のフリをし続けて、歩夢さんに見つからないようにすると思います」

796: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:54:18.53 ID:WV3q6MLA
侑 「これは参ったね……一人ずつ確認していくのも骨が折れそうだし」

歩夢 「せめて他のせつ菜ちゃんとの違いがあれば……」

せつ菜 「残念ながら、大量に現れた私も、優木せつ菜の性格を強く反映したもの……むしろ誇張されてるぐらい、優木せつ菜でしょうからこれといって偽物感もないでしょうし、菜々さんに完璧にせつ菜を演じられたら、区別することは難しいでしょう……」

侑 「でも、このままにするわけにはいかないよ」

歩夢 「三人もいるんだから、きっと良い考えが浮かぶよ!」

せつ菜 「……三人?」

797: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:55:45.16 ID:WV3q6MLA
歩夢 「……」 ムム

侑 「……」 ムム

せつ菜 「……」 ムム

歩夢 「やっぱり難しいね……みんなちゃんとせつ菜ちゃんなんでしょ? 生徒会長さんも自分のよく知ってるせつ菜ちゃんを演じてるなら、それを区別する方法だなんて……」

侑 「あっ! そうだよ! 逆だよ、歩夢!」

歩夢 「えっ?」

侑 「誇張されてるんだったら!」






798: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:58:42.36 ID:WV3q6MLA
タッタッ

タッタッ

ガラッ

せつ菜 「せつ菜がたくさんいますよーー!」

せつ菜 「今度の創作料理のアイデアが浮かびました! 違う私で試しましょう!」

せつ菜 「やめてください!!」

?? 「……ついに能力が進化しましたか。『ひとりでふたつ』が進化すれば、一人で何人にもなれる。しかし、その分アイデンティティは揺るぎ始める」

?? 「まさに分裂した、と言ってもいいでしょう……自分の理を越えて、別人になろうとしたがゆえの暴走」

799: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 19:59:48.59 ID:WV3q6MLA
?? 「あとはこのまま増え続ければ、いずれは完全に進化を遂げ、あの能力に行き着く……私はそれを近くで見守ってるだけ」

?? 「……ん?」

?? (向こうの入り口に誰かがいる?)

?? 「……もしかして」

?? (今まで私たちを邪魔し続けた、何者かなんじゃ……!)

?? 「かすみさんの目的のため、これ以上邪魔はさせない。ここで私が消し去ってみせる」

タッタッ

タッタッ

800: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 20:00:35.10 ID:WV3q6MLA
せつ菜 「そんな怒った顔をしてどうしたんですか?」

せつ菜 「私たちと一緒にゲームをしませんか!」

?? 「ちょっと! どいてください!」

せつ菜 「ゲームのルールは簡単です! というか山手線ゲームです! 交互に連想する言葉を言っていって、行き詰まったら負けです!」

?? 「……子供のような遊び心、それが誇張されてるみたいですね。どいてくれないなら、良いでしょう。やってあげます。ただし、勝っても負けても一回だけですよ?」

801: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 20:01:38.68 ID:WV3q6MLA
せつ菜 「一回だけですね! では最初は『ヒーロー』です! ヒーローといえば特撮! 特撮といえば?」

?? (わざと負けて早く終わらせましょう)

せつ菜 「次は私ですね!! 特撮といえばロボット刑事!」

?? 「は?」

せつ菜 「刑事といえば探偵ですね!」

せつ菜 「探偵といえば……うーん、ホームズですかね!」

せつ菜 「ホームズといえばライハンバッハでしょう!」

802: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 20:05:13.88 ID:WV3q6MLA
>>801
すいません、誤字ですね。
『ライハンバッハ』→『ライヘンバッハ』

803: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 20:06:43.00 ID:WV3q6MLA
せつ菜 「一回だけですね! では最初は『ヒーロー』です! ヒーローといえば特撮! 特撮といえば?」

?? (わざと負けて早く終わらせましょう)

せつ菜 「次は私ですね!! 特撮といえばロボット刑事!」

?? 「は?」

せつ菜 「刑事といえば探偵ですね!」

せつ菜 「探偵といえば……うーん、ホームズですかね!」

せつ菜 「ホームズといえばライヘンバッハでしょう!」

805: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 20:08:16.30 ID:WV3q6MLA
せつ菜 「滝といえばやっぱり、修行ですね」

?? 「ちょっと待ってください!?」

せつ菜 「……どうかしましたか? もしかしてロボット刑事じゃなくて人造人間キカイダーの方が良かったですか?」

?? 「特撮詳しくないのでちょっと分からないですけどっ! そういうことじゃなくて、まさか私とあなたとの勝負じゃなくて……」

せつ菜 「ええ、言ってく順番は、この輪を一周していく感じですよ! あなたの順番は、このまま誰も間違えないで進めば、三十六番目くらいですね!」

?? 「……」

806: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/21(月) 20:09:45.30 ID:WV3q6MLA
?? 「どいてください!! お願いです、通してーー!!」

せつ菜 「ちょ、一回きりも我慢できないんですか? 勝負を逃げ出すなんてヒーローじゃないですよ!!」

せつ菜 「終わるまでここは通しません!!」

せつ菜 「特撮を見てきた人なら、逃げ出す重さが分かるはずですよね!?」

?? 「……っ! だから詳しくないんですよ!!」






814: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/25(金) 00:09:14.26 ID:R4TQnfdI
シュッ

せつ菜 「ロープを解いてくれてありがとうございます、歩夢さん。それで、方法が思い付いたというのは本当なのですか?」

歩夢 「うん。侑ちゃんが教えてくれたんだ」

せつ菜 「侑ちゃん?」

侑 「歩夢、能力を発動して生徒会長を見つけ出そう!」

歩夢 「うん!!」

815: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/25(金) 00:10:30.79 ID:R4TQnfdI
歩夢 「能力『イマジナリーフレンド』!!」


せつ菜 「ってあなたは!?」

侑 「……高咲侑。歩夢の幼馴染で親友だよ。ゆっくり喋りたいところだけど、今は時間がない。早速だけど歩夢、思い出をひとつよろしく」

歩夢 「うん、頑張るよ!」

せつ菜 「ちょ、ちょっと待ってください!? こんなにたくさん優木せつ菜がいるんですよ? しかも生徒会長はせつ菜のフリをし続ける。どうやってそこから一人だけを見つけ出すつもりなんですか?」

816: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/25(金) 00:12:09.25 ID:R4TQnfdI
侑 「……このせつ菜ちゃんたちは、まさにせつ菜ちゃんって要素が誇張されてるぐらい出てるんだよね」

せつ菜 「そ、そうですがそれがどうしたのです」

歩夢 「侑ちゃんが言ったんだ。その一方でせつ菜ちゃんのフリをする会長さんは、中川菜々さんの部分が独立したものだから、演技はしてもやっぱり完全なせつ菜ちゃんにはならないんじゃないかなって。なら」

侑 「せつ菜ちゃんなら……しかも誇張されたせつ菜ちゃんなら、確実に瞬時に反応するものをこの場に用意すれば、生徒会長の反応だけが遅れるかもしれない。そこを見抜くんだ」

817: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/25(金) 00:12:59.80 ID:R4TQnfdI
せつ菜 「せつ菜なら確実に瞬時に反応するもの、ですか……」

侑 「うん。でもそれが難しいんだよねぇ、そんなもの持ってないし……せつ菜ちゃんなら特撮のアイテムとかが良いとは思うんだけど……」

歩夢 「特撮はあまり見てこなかったからね……でも思い出したよ。せつ菜ちゃんが反応しそうな思い出!」

侑 「おおっ! さすが歩夢!」

818: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/25(金) 00:14:07.31 ID:R4TQnfdI
歩夢 「そういえば昔、侑ちゃんと一緒にお祭りに行ったことがあったよね。くじ引きがあって、侑ちゃんと一緒に手を入れて取り出したんだ」

せつ菜 「くじ引き……?」

歩夢 「そしたら、カッコいい変身ベルトが当たって、何のヒーローのかは分からなかったけど、今でも見た目は鮮明に覚えてるよ。侑ちゃんが気に入って、これでヒーローに変身して歩夢を守ってみせる! なんて言ってくれて、嬉しかったなぁ」

パァァ

侑 「よしっ! 無事に再現できたかな。どう、せつ菜ちゃん? せつ菜ちゃんは見覚えある?」

せつ菜 「そ、それは! あのヒーローの!」

819: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/25(金) 00:15:38.00 ID:R4TQnfdI
侑 「問題なさそうだね。あとはこれを適当な方向にぶん投げれば、せつ菜ちゃんのフリをしてる会長が分かるはずっ!!」 ブンッ

ヒューーーーン

せつ菜 「昭和ウルトラマンといえば、やっぱりウルトラマンタロウですよね!」

せつ菜 「いや、ウルトラセブンですよ!? 一番有名じゃないですか!」

せつ菜 「有名度で決めるならウルトラマンに決まってますよね?」

せつ菜 「一人に決めるのがダメなんですよ! ウルトラ兄弟! これで文句なしです!」

?? 「山手線ゲームで解釈違い起こさないでくださいよ!! 早く出番回してください!!」

820: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/25(金) 00:16:55.07 ID:R4TQnfdI
ヒューーーーン

ストン

?? 「ん? 何かが転がってきた……?」

せつ菜 「ってそれは!?」

ダダダダダ

ダダダダダ

?? 「ひぃぃ! さらに集まってきた!?」

せつ菜 「そのベルトといえばやっぱりあの回を思い出しますよね!」

せつ菜 「細部まで作られていて好感が持てます!!」

せつ菜 「あの最後のシーンを思い浮かべるだけで涙が……!」

?? 「か、囲まれている……」

821: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/25(金) 00:17:56.63 ID:R4TQnfdI
ギャーーーーー!

コンナトコロデミツケルナンテ!

イマデハカナリレアデスヨ!

侑 「……」

歩夢 「……」

せつ菜 「……」

侑 「みんな瞬時に飛んでいったね……」

歩夢 「誰が会長さんか分からなかったね……」

827: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:12:04.21 ID:3Yhsn2ho
せつ菜 「ということは、生徒会長は捕まらないようにもうとっくに体育館から逃げ出してしまったということでしょうか……?」

侑 「……いや」

せつ菜 「えっ?」

侑 「歩夢。せつ菜ちゃんが一箇所に移動したおかげで、こっち側は少し静かになった。耳を澄ませてみて?」

歩夢 「う、うん、分かった」

シーン

侑 「……」

歩夢 「……」

せつ菜 「ふ、二人は一体何を……?」

828: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:13:24.15 ID:3Yhsn2ho
侑 「歩夢!」

歩夢 「うん、あそこの倉庫だね!」

タッタッ

タッタッ

ガラッ

せつ菜 「んーー! んーー!」 ドタバタ

歩夢 「今ガムテープを外すよせつ菜ちゃん!」 ペラッ

せつ菜 「歩夢さん!? 私を助けに来てくれたんですか!? しかしなぜここが……」

829: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:14:48.23 ID:3Yhsn2ho
侑 「ロープで足も腕も縛られてるみたいだね……ところで」

せつ菜? 「……」

侑 「あそこにせつ菜ちゃんがいるとなると、君は誰なんだろうね。ねえ、せつ菜ちゃん」

せつ菜? 「……」

侑 「いや、中川菜々さん」

せつ菜? 「……なぜ」

菜々 「バレてしまったんでしょう……はぁ、誤魔化すのはもう無理なようですね」

830: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:16:36.93 ID:3Yhsn2ho
歩夢 「えっと、これはどういうことなの侑ちゃん?」

侑 「とりあえず今はせつ菜ちゃんのロープを解いて、早くここから離れよう。他の大量のせつ菜ちゃんに追いかけられたら大変だし」

タッタッ

タッタッ

?? 「!」

?? (隙間から少ししか見えませんが、体育館から出ようとしてるのは分かる! このままじゃ私たちを邪魔する誰かに逃げられてしまう!!)

?? 「ほら、そのベルトはもう十分楽しんだでしょ! 私をここから解放してください!!」

831: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:17:29.78 ID:3Yhsn2ho
せつ菜 「ベルトはもちろん後で改めてゆっくり鑑賞する予定ですが……それはさておき、まだ山手線ゲームは終わってませんよ!」

せつ菜 「ウルトラ兄弟でしたよね? ウルトラ兄弟といえばウルトラマンジャックでしょう! やっぱり帰ってきたウルトラマンという言葉自体が半端なくかっこいいですし」

せつ菜 「多彩な技を使うエースですよ!!」

せつ菜 「やはり時代的に近いメビウスじゃないですか?」

832: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:19:19.11 ID:3Yhsn2ho
?? 「くっ……! 相変わらず解釈違いでロスタイムが発生してる……」

?? (せめて相手の顔だけでも……!)

?? (っ、顔は見えなかったけど、黒髪、ツインテール、毛先が緑グラデーション、特徴は把握しました。そしてリボンは赤……つまり二年生!)

?? 「私の能力を使えば、この情報だけでもすぐに何者か分かる……ふふ、逃げられるのは今だけですよ……」






833: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:20:53.26 ID:3Yhsn2ho
タッタッ

タッタッ

歩夢 「はぁ、はぁ、ここまで来れば大丈夫かな……?」

菜々 「……この手を離してくれませんか。強く引っ張られると痛いのですが」

侑 「逃げられたら困るからね、それは無理な相談だよ」

せつ菜 「歩夢さん、ロープを解いてくれてありがとうございます。きつく縛ってあって大変でしたよね」

歩夢 「ううん、気にしないで。ハサミを使ったからそこまで大変じゃなかったよ」

菜々 「……想像したものを再現する能力。恐ろしい能力ですね」

侑 「能力は使いようだよ。正しく使えば、それは誰にも恐ろしい思いなんかさせない」

836: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:30:14.10 ID:3Yhsn2ho
歩夢 「ねえ、侑ちゃん。侑ちゃんはこの状況を分かってるんでしょ? 説明してほしいな、急に色んなことがあって難しくて……」

侑 「あくまで推測だけど、会長は、『中川菜々に変装させられた優木せつ菜』を演じることで、この場を切り抜けようとしたんだ」

せつ菜 「……菜々さんは大量の私が現れた後、慌てて私の髪を解き、自分の髪を結びました。そして、眼鏡も私から取り変装を戻すことで、一旦でもいい、この状況を止めようとしたんです。しかし、一度ずれてしまったアイデンティティは戻らなかった。大量の私が消えることはなかった」

菜々 「そこに足音が聞こえるものですから、本当に焦りましたよ……この大量のせつ菜ももちろんですが、何より倉庫に閉じ込めたせつ菜の存在が見つかったら、大変なことになる……と」

837: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:32:15.33 ID:3Yhsn2ho
侑 「それで機転を利かせて、あたかも自分が会長に変装させられ椅子に縛り付けられた『優木せつ菜』であるかのように、振る舞った……」

菜々 「ちょうど格好は戻してましたからね。それに、どうせ格好の違いを無くした中川菜々と優木せつ菜を見分けることなんて誰もできない……そう思ってましたから、『この大量のせつ菜の中に中川菜々が隠れている』という嘘で切り抜けると思ってたんです」

歩夢 「だから能力のことも、生徒会長さんとせつ菜ちゃんが同一人物なことも、あっさり私たちに教えたんだね……」

838: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:34:10.63 ID:3Yhsn2ho
菜々 「ええ。せつ菜に扮する中川菜々は見つからないまま、そのまま行方不明になったことにさえすれば、『仕方なく優木せつ菜が中川菜々も演じて過ごす』という状況が出来上がりますからね……しかし上手くはいかなかった。なぜ、私が中川菜々だと分かったんです」

侑 「……」

菜々 「やはり、歩夢さんが諦めて帰った後にせつ菜さんの場所を移動させようとしてたのもあって、早めに帰らせたい雰囲気でも伝わってしまいましたかね……演技は完璧だと思ったんですが」

侑 「いや、演技は完璧だったよ。本当にせつ菜ちゃんだと思ってた」

菜々 「では、なぜ……」

839: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:36:55.08 ID:3Yhsn2ho
侑 「まず、会長さんがせつ菜ちゃんを逃さないように椅子に縛り付けてるにしては、腕も足も縛ってなくて、しかもたった一つの結んだロープも歩夢が手で解けるくらいには緩かったことが気になった。こんなんじゃ簡単に逃げられちゃうよ」

菜々 「……なるほど」

侑 「そして、決め手はさっきのせつ菜ちゃんたちの反応かな。反応が遅い人が生徒会長だって思ってたのに、みんな反応があまりにも早かったから、もしかしたらこの中に生徒会長はいないんじゃないかなって思い至ったんだ。案の定耳を澄ませてみたら倉庫の方からドタバタ聞こえたし」

840: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:38:15.52 ID:3Yhsn2ho
歩夢 「会長さん……いや、菜々ちゃん。なぜこんなことをしたんですか。同じ自分であるせつ菜ちゃんをロープで縛るなんて!」

菜々 「……歩夢さん。あなたには分かりませんよ」

歩夢 「っ……」

菜々 「私は失敗したことは後悔しても、やったことは後悔してません。せつ菜が手にしたものを、私も手にしたかっただけですから」

侑 「……」

歩夢 「……」

歩夢 (後悔してない……それが本当なら、ここから私たちが説得できることなんて……)

841: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:40:49.69 ID:3Yhsn2ho
侑 「歩夢、どうする?」

歩夢 「えっ?」

侑 「生徒会長さん……自分を偽ってる、そんな風に見えたから。それなら私たちにできることは、たった一つ。その隠した気持ちを掬いだすことだけ」

歩夢 「侑ちゃん……」

侑 「過干渉かもね。能力の暴走を止めるためであったとしても、その人の悩みまで解決しようなんてね。でも、関わった以上は歩夢にも後悔のない選択をしてほしい。仮に『ときめきを共有して』を使うとしたら、読み取った感情は歩夢とも共有されるから、そこからどうするかは歩夢に任せるよ」

歩夢 「……」

842: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/03/27(日) 00:49:16.54 ID:3Yhsn2ho
侑 「改めて聞くね。能力を使う? そして、読み取った感情を通して、歩夢はどうしたい?」

歩夢 「……私の気持ちはいつだって変わらない」

侑 「!」

歩夢 「せつ菜ちゃんにも、菜々ちゃんにも、目に映るすべての人に、笑顔でいてほしい」

侑 「……」

歩夢 「侑ちゃん! 能力を発動して!」

侑 「任せて!! 歩夢っ!!」

菜々 「! なにを……!」

侑 「能力『ときめきを共有して』!!」

874: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:36:00.87 ID:hzJrQ04I
—————

———



私だってスクールアイドルをやりたい

みんなと一緒に練習をしたい

もっと『大好きなこと』をそのままに

隠すことも誤魔化すこともなく

でもお母さんには笑顔でいてほしい

私も分かってる仕方ないって

875: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:36:34.72 ID:hzJrQ04I
大丈夫『私』には『私』の幸せがある

ほら大切な友達がそこに

でもその人すら彼女に奪われる

あなたが羨ましい

あなたが憎い

ごめんなさい



———

—————

876: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:37:17.04 ID:hzJrQ04I
菜々 「あっ……」 ポロポロ

菜々 「な、なんで、涙が止まらな……」 ポロポロ

歩夢 「うぅ……」 ポロポロ

菜々 「って、なんであなたも泣くんですか……!」 ポロポロ

歩夢 「だって……っ、菜々ちゃんの心が分かるから……!!」 ポロポロ

菜々 「っ……同情ですか!? やめてください!! 私はせつ菜さんを閉じ込めて成り代わろうとしたんですよ!? そんな私に同情なんか」

877: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:38:11.89 ID:hzJrQ04I
侑 「……能力を使って少し生徒会長の気持ちを読み取ったよ。そしたら、羨ましいって気持ち。それがすごく伝わってきた」

菜々 「っ! そうです、私はきっと、ずっと羨ましかったんです。それは分離した後に限らず、分かれる前からもずっと……」

せつ菜 「菜々さん……」

菜々 「菜々の姿のときの私は自由じゃない証だったから。そんな私の浅ましい嫉妬。そんなものに同情なんか……っ」

侑 「だけどもう一つ聞こえたんだ」

菜々 「えっ……?」

878: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:39:20.62 ID:hzJrQ04I
せつ菜 「『ごめんなさい』」

菜々 「!」

せつ菜 「『ごめんなさい』」

菜々 「今更謝ったって……!」

せつ菜 「いえ、そう聞こえたんです、私にも」

歩夢 「菜々ちゃんは、ずっと苦しかったんだよね。止められない思いもあったんだろうけど、せつ菜ちゃんを傷付ける度、感じる罪悪感もあって……」

菜々 「なっ、言ったでしょう! 私には後悔なんてないんです!! だってこれ以上、私は彼女から奪われたくなかったんだから!! そのために選んだこの道を、間違いだとは思ってません!!」

侑 「ううん、生徒会長さんは後悔してるよ」

菜々 「! 何を根拠に……!」

879: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:40:23.24 ID:hzJrQ04I
せつ菜 「もう、嘘をつくのはやめてください……私……っ!」

菜々 「!」

せつ菜 「根拠ならあるじゃないですか。今、何か不思議なものを感じたでしょう。きっとそれが根拠なんです」

菜々 「能力で私の感情を完全に読み取ったとでも!? 後悔なんてしてません!!」

せつ菜 「それに、能力を使わなくたって私には、菜々さんの気持ちが分かります……! 同じ『私』なんですから」

菜々 「っ……」

歩夢 「菜々ちゃん……感情の表面を読み取っただけだけど、それでもたくさんの後悔が見えたよ。『大好き』を我慢しないといけないこと、誰も悲しませたくないこと、そして、Lちゃんのこと……」

880: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:43:02.41 ID:hzJrQ04I
菜々 「なぜそこでLさんが出るんですか……!」

歩夢 「だけど、それは後悔しなくて良いんだよっ!!」

菜々 「! どういうことです……?」

侑 「……生徒会長のせつ菜ちゃんに対する嫉妬の中心は、おそらく彼女のことなんだと思う。でもそれなら、生徒会長は嫉妬する必要なんてない。だってこう言ってたから」

歩夢 『会長さんとは友達なんだよね?』

生徒L 『はい! 昨日なったばかりですけど、カラオケにもゲームセンターにも行って、すごく楽しくて……時間なんて関係ない、大切な友達です!』

菜々 「大切な友達……」

881: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:45:21.09 ID:hzJrQ04I
侑 「きっと、Lちゃんはせつ菜ちゃんの大ファンだから、彼女もせつ菜ちゃんに奪われるのかと思ったのかもしれないけど、違うよ。『大好きなアイドル』と『大切な友達』そんなの、同じ天秤にかけるものじゃない!」

歩夢 「Lちゃんは『せつ菜ちゃん』のことが大好きだけど、Lちゃんと友達なのは、『菜々ちゃん』だけ……菜々ちゃんだけの特権なんだよ!!」

菜々 「!」

歩夢 「もう嘘はつかなくていい……正直な思いを教えて菜々ちゃん……!!」

菜々 「……」

せつ菜 「菜々さん……」

882: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:46:38.24 ID:hzJrQ04I
菜々 「……私は、焦りすぎたのかもしれません。せつ菜さんと比べなくたって、こんなにも幸せなことはあった」

菜々 (……羨ましかった。ずっとあなたが羨ましかった。でも、『私』にも大切なものはあった。あたかも何もないように、思い込んでしまっていただけだった)

菜々 「人と比べるというのは、あまり良くないことですね……自分に無いものばかりが見えてしまう。それこそ適材適所という言葉があるように、『中川菜々には中川菜々の、優木せつ菜には優木せつ菜の場所がある』それぞれの幸せはあったはずなのに」

せつ菜 「……」

菜々 「……」

883: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:47:51.48 ID:hzJrQ04I
せつ菜 「……バカみたいですね」

菜々 「えっ?」

せつ菜 「だってお互いがお互い、自分自身に嫉妬してるんですよ。バカみたいじゃないですか」

菜々 「せつ菜さん……」

せつ菜 「私もあなたが羨ましかった。あなたの嫉妬に全く気付かないで。本当バカなものです」

菜々 「……」

せつ菜 「でも、自分自身に嫉妬し合うだなんて、そんな経験をしたのは世界で私たちだけ……そう思うと少し得した気分になりません?」 チラッ

菜々 「……ふふ、ですね」 チラッ

884: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:48:26.00 ID:hzJrQ04I
せつ菜・菜々 「「っ」」

せつ菜・菜々 「「あはははははは」」

侑 「……仲直りしたのかな」

歩夢 「……分からないよ。きっと、二人のことは二人にしか。でも」

侑 「?」

歩夢 「二人とも笑ってる……それだけで十分だよ」

侑 「……だね」






885: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:56:36.38 ID:hzJrQ04I
せつ菜 「菜々さん、ごめんなさい。あなたの気持ちをもっと理解するべきでした……『大好き』は二人一緒なのに……」

菜々 「謝るべきなのは私の方ですよ……ありがとう、せつ菜さん。こんな私にそんな優しくしてくれて……」

侑 「……やっぱり分かり合うことは大事だね。でもまだ解決してるわけじゃない」

ワイワイ

ワイワイ

ワイワイ

侑 「……体育館から声がたくさん聞こえる」

歩夢 「! 侑ちゃん!?」

886: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:57:29.14 ID:hzJrQ04I
侑 「あのせつ菜ちゃんたちを、暴走した能力を、止めないと、また問題が起きるかもしれない。放っておくわけにはいかないよ」

せつ菜・菜々 「「……」」

せつ菜 「菜々さん、今回のことに関しては、私の責任も大きくあると思います。だから、改めて話し合って、二人とも納得できる道を探しましょう」

菜々 「……二人とも納得できる道?」

せつ菜 「はい。やっぱり能力なんかに頼ってはいけなかったんです。どんなに苦しくても、自分らしさを変えるべきじゃなかった」

菜々 「それって……」

887: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 19:58:35.81 ID:hzJrQ04I
せつ菜 「戻りましょう。『優木せつ菜』が虚構なら、消えても構いません。あなたが私の意志を継いでくれるなら……!」

菜々 「!」

歩夢 「せつ菜ちゃん!?」

せつ菜 「さっき、菜々さんが姿を戻しても、大量のせつ菜は消えることはなかった。和解した今でも消えてない。きっと、このままでは永遠に分離し続ける。能力は暴走し続ける」

歩夢 「それはそうかもしれないけど、だからって……!」

せつ菜 「……今更一人に戻っても、ここまで二人の人格が乖離してしまっては、もう普通には戻れない。そして、アイデンティティの不安定さが能力の暴走を招くなら、どちらかが消えるしかない。それならば」

歩夢 「そ、そんな……」

888: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:00:02.53 ID:hzJrQ04I
せつ菜 「『優木せつ菜』が消える、これが正しい選択なんです」

菜々 「せつ菜さん……」

歩夢 「う、嘘だよね? 元々『菜々ちゃん』も『せつ菜ちゃん』も、どちらも欠かせない存在として過ごせてたんだよね? それなのに、いざ戻ろうとしたらどっちかが消えなくちゃいけないんだなんて……」

せつ菜 「歩夢さん、分かってください。私たちは分離した後、あまりにも個々の人格が独立してしまったんです。もはや『中川菜々』と『優木せつ菜』は別人。もう暴走を止めるには、これしか……!」

菜々 「……いえ、消えるなら私です」

せつ菜 「!」

889: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:01:07.86 ID:hzJrQ04I
菜々 「今回の騒動の原因は私です。それに、せつ菜さんはこれからも多くの人を笑顔にする役目がある。消える方は明白でしょう」

せつ菜 「そんなこと言わないでください……!!」

菜々 「これがせめてもの、償い。そして、あなたへの恩返しです」

せつ菜 「なっ!? 良い加減にしてください!! あなたにも『大好きなもの』がある!! そうさっき気付いたばかりなんじゃないですか!?」

歩夢 「……」 プルプル

890: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:01:54.46 ID:hzJrQ04I
菜々 「っ、だとしても!! 私があなたに嫉妬して成り代わろうとしなければ、こんなことにならなかった!! 責任として私が消えるべきなんです!!」

せつ菜 「大切な友達はどうするんですか!? 生徒会のみなさんはどうするんですか!? 菜々さんを信じてる人たちがたくさんいるのに!!」

菜々 「……せつ菜さんに託します。無責任なのは申し訳ありませんが、あなたが消えるわけにはいかないんです!!」

せつ菜 「っっ、素直になれない頑固者!! あなたはおバカさんです!!」

891: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:02:43.38 ID:hzJrQ04I
歩夢 「二人ともバカだよっ!!!」

菜々・せつ菜 「「!?」」

歩夢 「なんでもう諦めちゃってるの!? 菜々ちゃんも、せつ菜ちゃんも、二人とも助かる道がまだあるかもしれないのにっ!!」

菜々 「……」

せつ菜 「歩夢さん……」

侑 「……アイデンティティが完全に分離してしまったから、もう戻れない。でもこの暴走を止めて、大量のせつ菜ちゃんをなんとかするためには、アイデンティティの揺らぎを止めなくちゃいけない」

菜々 「ええ、そうです。だから、どちらかが消えて、アイデンティティを安定させる必要が……」

892: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:04:03.20 ID:hzJrQ04I
侑 「なら、心を合わせれば良いんじゃないかな」

菜々 「えっ?」

侑 「元々二人は一人だったんだ。もう一度、心を合わせて強く願えば、もしかしたら」

歩夢 「そ、そうだよ! そうすれば、今とは変わっちゃうかもしれないけど、どっちかが消えることは無くなるよ!!」

せつ菜 「し、しかし……先程から私は分かり合えたつもりでした。それでも戻らないということは不可能なのでは……もしかして菜々さん、心の底ではまだ私のこと怒ってます?」

893: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:04:58.57 ID:hzJrQ04I
菜々 「そ、そんなわけありません! もうせつ菜さんを怒ったり、憎んだりしてる気持ちはありませんよ!!」

歩夢 「まだ心の繋がりが弱いのかな……?」

侑 「うーん、だとしたら……どうすれば……」

ボワッ

歩夢 「えっ? 急に黒い霧が?」

侑 「っ、危ない歩夢っ!!」 スッ

ドカーーーンッ

侑 「がはっ!?」

894: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:06:32.29 ID:hzJrQ04I
歩夢 「侑ちゃん!?」

菜々 「侑さんが吹き飛ばされた!?」

せつ菜 「いったい何が……ってあのシルエットは……」

せつ菜影 「……」

せつ菜 「なんだか色が暗いですが、あの姿形は私……!?」

菜々 「……もしかして能力がさらに暴走して」

せつ菜 (何か、心が不安になるような、どよめきを感じます。もしかして)

せつ菜 「大量のせつ菜が『菜々さんの優木せつ菜への憧れ』なら、あの影のようなせつ菜は『心の不安』が形になったものなんじゃ……」

895: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:07:18.58 ID:hzJrQ04I
歩夢 「侑ちゃん、大丈夫!?」 タッタッ

侑 「うん、大丈夫だよ……でも、あの影、普通の人間が食らったらタダじゃ済まないだろうね……」

歩夢 「そ、そんな……せつ菜ちゃん! 菜々ちゃん! 早くそこから逃げて!!」

せつ菜影 「……」 シュッ

せつ菜 「!?」

菜々 「せつ菜さんっ!!」

せつ菜 (まずい、逃げられないっ!!)

896: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:07:57.57 ID:hzJrQ04I
侑 「歩夢!! アイス棒!! ここからぶん投げるから!!」

歩夢 「分かった!」 ムムム

侑 「よしっ、くらえっ!!」 ブンッ

せつ菜影 「!」

侑 「一度使った技はイメージしやすいから、すぐ出せるんだよ!!」

せつ菜影 「……」 スッ

侑 「ええっ!? すり抜けた!?」

897: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:09:14.62 ID:hzJrQ04I
菜々 「でも相手が動じてます、せつ菜さん早く!!」 ギュッ

せつ菜 「は、はい!!」 タッタッ

侑 「とりあえず距離は取ったけど……」

歩夢 「すり抜ける相手にどうすれば……」

せつ菜 「しかも先程の攻撃を見るに、あっちからの攻撃は通るようですね……」

ボワッ

せつ菜影2 「……」

菜々 「ってもう一人!?」

898: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:10:11.39 ID:hzJrQ04I
侑 「能力の暴走が悪化してるみたいだね……体育館にいるせつ菜ちゃんたちに追いつかれたらどうしようもなくなるし、なんとかして早く決着をつけないと……」

せつ菜影2 「!」 シュッ

せつ菜 「こっちに来ましたよ!?」

侑 「とりあえず私が止める!! 防戦一方なのはしんどいけど仕方ない!」

せつ菜影2 「……!」 タッタッ

侑 「おりゃぁぁぁーーーーー!!! 侑ちゃんガードぉぉぉーーーー!!」

899: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:11:08.66 ID:hzJrQ04I
せつ菜影2 「……」 グググ

侑 「って、やっぱりどんどん力強くなるよねぇ……うーん、どうすれば……」 グググ

せつ菜 (私だって何もしないで見てるわけじゃありません!!)

せつ菜 「くらぇぇぇぇぇーーーーー!!! せつ菜パンチぃぃぃぃーーーー!!」

侑 「ええっ!? せつ菜ちゃん!?」

せつ菜影2 「!?」 ドカッ

歩夢 「えっ、よろめいた……?」

900: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/10(日) 20:11:53.68 ID:hzJrQ04I
侑 「もしかして……! せつ菜ちゃんの攻撃は当たる!?」

せつ菜影 「!」 シュッ

せつ菜 「もう一人いつのまに!?」

菜々 「させません!!」 パンチ

せつ菜影 「!?」 ドカッ

菜々 「……なるほど、どうやら私のパンチも効くようですね」

911: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/13(水) 23:06:36.23 ID:j13uq1YZ
歩夢 「でもあの攻撃が当たったらタダじゃ済まないんだよね……? 二人を前線に立たせるわけにはいかないよ!」

せつ菜 「それに……」 ガクガク

歩夢 「せつ菜ちゃん!? 震えてるよ!? 大丈夫!?」

菜々 「特撮を見てたとはいえ、やはり戦闘経験がありませんから……怖いのかもしれません」 ガクガク

侑 「ふ、二人とも……」

912: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/13(水) 23:07:48.20 ID:j13uq1YZ
せつ菜影・せつ菜影2 「「!!」」 タッタッ

歩夢 「侑ちゃん!! 今度は二人同時だよ!?」

侑 「っ、二人は防げるか!? いや、防ぐしか道はないんだ!!」

菜々 「……」

せつ菜 「……」

菜々 「せつ菜さん。分離してから、ずっとお互いの気持ちが分からなかった私たちですが……今のあなたの気持ちは、分かりますよ」

せつ菜 「同じくです。私にも分かります。菜々さんの悔しさ、そして願っているものが」

913: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/13(水) 23:08:39.26 ID:j13uq1YZ
菜々・せつ菜 ((何もできない自分がもどかしいっ……))

菜々・せつ菜 ((そう、立ち上がれる勇気が欲しい))

菜々 「私たちが勇気を貰うと言ったら、やっぱりあれですよね」

せつ菜 「……はいっ、特撮ですっ!!」

菜々 「侑さん!!」

侑 「えっ!? どうしたの!?」

914: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/13(水) 23:09:31.33 ID:j13uq1YZ
菜々 「さっき投げたベルト……また出せますか?」

侑 「もちろん、出せるけど……」

菜々 「お願いがあります。それを私たちにください。勇気を貰いたいんです、立ち向かう勇気が!!」

侑 「!」

せつ菜 「お願いします!!」

侑 「……どう転ぶかは分からないけど、なんだか信じたくなったよ。歩夢!」

歩夢 「うん!!」

パァァ

915: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/13(水) 23:10:28.03 ID:j13uq1YZ
せつ菜 「よし、ベルト装着ですっ!」 ガチャ

菜々 「やっぱりせつ菜さんの方が付け慣れてますね。でも特撮好きなら負けませんよ!!」 ガチャ

せつ菜 「では、かっこよく行かせてもらいます!!」

バンッ!

せつ菜 「幻のスクールアイドルは正義のヒーローでもある!! 悪は許さない!! 優木せつ菜!!」

侑 「おおっ、せつ菜ちゃんかっこいい!」

せつ菜 「ほら菜々さんも!」

916: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/13(水) 23:11:12.38 ID:j13uq1YZ
菜々 「ええっ!? それ私もやるんですか!?」

せつ菜 「時間がありません!!」

菜々 「うぅ……///」

バンッ!

菜々 「眼鏡の奥には燃え上がる熱い瞳!! みんなの笑顔を守るため!! 中川菜々!!」

菜々 「絶対にっ!!」

せつ菜 「負けませんっ!!」

918: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/13(水) 23:12:05.86 ID:j13uq1YZ
菜々 「……」

せつ菜 「……」

侑 「……すごいよ、二人とも!!」

歩夢 「……まるで本物の特撮を見てるみたいだったよ!!」

菜々 「うぅ……/// 恥ずかしすぎます……///」

せつ菜 「いや意外に乗り気だったじゃないですか! しかも即興の割に凝ってたし、普段から考えてたでしょ!!」

919: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/13(水) 23:13:02.72 ID:j13uq1YZ
ゴゴゴゴ

せつ菜 「それにしても、なんだか力が湧いてきます……! やっぱり勇気を貰えたんでしょうか!!」

菜々 「これならきっと勝てます!!」

せつ菜 「今度こそくらいなさい!! せつ菜パンチぃぃぃぃーーーーーーーー!!!」

ドカーーーンッ

せつ菜影 「っっ!?」

せつ菜影 「……」 バタンッ

920: 名無しで叶える物語(らっかせい) 2022/04/13(水) 23:13:48.76 ID:j13uq1YZ
ボワッ

歩夢 「消えた……!? 倒せたってこと!?」

侑 「ど、どうして……せつ菜ちゃんの能力は別に身体強化とかではないはずなのに……」

せつ菜 「これこそ、私に秘められた真の力です!! 能力者以前に私は選ばれたヒーローだったんですよ!! 違いありません!!」 ペカー

侑 「いや違う。歩夢が召喚したベルトに私たちの力が込められていて、そのベルトでパワーアップしたんだ。せつ菜ちゃんたちの攻撃しか当たらないなら、これが一番有効な案……」

歩夢 「そこまで考えてたなんて……さすがせつ菜ちゃんだね!!」

せつ菜 「いや……私は選ばれたヒーローで……」

929: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:11:23.87 ID:6hKKgo7B
せつ菜影2 「!」 シュッ

歩夢 「ってせつ菜ちゃん! 後ろ! 影が近付いてるよっ!」

せつ菜 「ふふ、大丈夫ですよ、歩夢さん」

歩夢 「えっ?」

菜々 「……私がいますからっ!!」

ドカーーーンッ

せつ菜影2 「っっ!」

せつ菜影2 「……」 バタンッ

ボワッ

930: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:12:59.70 ID:6hKKgo7B
なぜからっかせいから、やわらか銀行に表記が変わってますが、気にしないでください。

931: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:19:05.42 ID:6hKKgo7B
せつ菜 「……自分を信頼できなければ、何事もできません。背中は任せてましたから」

菜々 「……自分を信頼できなければ、ですか。あはは、耳が痛いですね。でも、頼ってくれてるなら嬉しいです、ありがとう」

歩夢 「とりあえずこれで影は消えたのかな……」

侑 「いや、まだだよっ、歩夢!」

ボワッ

ボワッ

せつ菜影3・せつ菜影4 「「……」」

せつ菜 「仮にどんなに敵が現れたとしても、私たちは負けませんよっ!!」

932: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:20:05.76 ID:6hKKgo7B
ゴゴゴゴ

せつ菜 「ん?」

菜々 「なっ! 黒い霧が集まって影たちが……!」

巨大せつ菜影 「!!」 ドンッ

せつ菜 「ちょ、それは反則じゃないですか!! こっちは合体ロボットとかないのにっ!!」

歩夢 「彼方さんのときの巨大ぬいぐるみと言い、私たちってもしかして巨大な敵に縁でもあるのかな……?」

侑 「そんな縁があったら、これからも厳しい戦いが続きそうだね……」 アハハ

933: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:20:55.66 ID:6hKKgo7B
菜々 「ど、どうすれば……」

せつ菜 「歩夢さん!! さっきみたいなやり方で、合体ロボットを能力で出せないんですか!?」

歩夢 「む、無理だよ! 戦隊なんてほとんど見たことないもん!」

侑 「良くも悪くも、歩夢の能力は歩夢の思い出次第だからね……無いものは出せないよ」

せつ菜 「し、しかし、流石にあんな相手、合体ロボットも無しで戦うのは……」

菜々 「……せつ菜さん」

せつ菜 「菜々さん?」

934: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:22:25.61 ID:6hKKgo7B
菜々 「ロボットではないですが、合体はできます」

せつ菜 「えっ?」

菜々 「先程の話の続きです。心を合わせるんです。今度こそ!!」

せつ菜 「!」

菜々 「今回の騒動を起こした私が言えることではないかもしれません……でも、それでも、自分の幸せに気付いた今、願うことがたった一つあります。やっぱり、二人合わせて『私』だから」

せつ菜 「……」

935: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:23:31.29 ID:6hKKgo7B
菜々 「私に力を貸してくれませんか?」

せつ菜 「……」

菜々 「……」

歩夢 「菜々ちゃん……」

菜々 「もちろん、今更手を取り合おうなんて、傲慢なのは分かって……」

せつ菜 「なぜ、あの影は私たちの攻撃にだけ当たるか分かりますか?」

菜々 「えっ?」

せつ菜 「それはきっと、こういうことです」

936: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:25:03.90 ID:6hKKgo7B
せつ菜 「『自分の闇を倒せるのは、自分だけ』」

菜々 「!」

せつ菜 「そして、その闇を倒す責任は、どちらか一方ではなく、『優木せつ菜』にも『中川菜々』にもある。だってどちらも同じ『私』だから!!」

菜々 「せつ菜さん……」

せつ菜 「もしかしたら、もう分離した二人は戻らないのかもしれない……でも、強く願って心を合わせれば、何かが変わるかもしれない。これ以上後悔することは無しですよ!! 菜々さん!!」

菜々 「!」

菜々 「はいっ!!」

937: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:27:50.26 ID:6hKKgo7B
巨大せつ菜影 「っ!!」 ダッダッダッ

歩夢 「せつ菜ちゃん! 菜々ちゃん! 影が襲ってくるよっ!!」

侑 「あんなにでかいと流石にガードできないよね……なら、ここで決着をつけないと」

せつ菜 (ここが、ラストスパート)

せつ菜 「私たちの能力名は……『ひとりでふたつ』でしたね……」

菜々 「ええ、今思えば、その能力を手にした日から、全てが変わりました……そんなに昔ではないのに、遥か前のことに感じます」

938: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:30:07.65 ID:6hKKgo7B
せつ菜 「でもまあ、何事も前向きに考えるなら……今回のことも、二人の自分との向き合い方を学べる良い機会でしたかね?」

菜々 「ふふ、それは流石に前向き過ぎませんか?」

せつ菜 「じゃあ後ろ向きに考えますか?」

菜々 「……それは私の役なので、せつ菜さんは前だけ向いて歩いてください」

せつ菜 「またそうやって、自分を卑下して……!」

菜々 「違いますよ」

せつ菜 「!」

939: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:31:28.21 ID:6hKKgo7B
菜々 「適材適所、です。後ろ向きでも、上を向いて歩くことはできますから」

せつ菜 「……あはは、確かにその通りですね。それに、それならお互い背中を任せられそうですし、win-winです!」

菜々 「『中川菜々』と『優木せつ菜』はまさに背中合わせの関係。片方が前に出るときは、もう片方は裏に回っていた。でも、いつでも背中を守り切ってくれるから、何も悩まず進めていた……そんな私たちを取り戻すべきです!」

せつ菜 「ええ、一緒の日々に戻りましょう。そう、私たちの関係は『ひとりでふたつ』じゃない!!」

菜々 「はいっ、『ふたりでひとつ』ですっ!!」

940: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:32:32.15 ID:6hKKgo7B
せつ菜 「おりゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!」 タタタタ

菜々 「『ふたりでひとつ』! 二人が一緒にいるときは絶対に私たちは」 タタタタ

せつ菜・菜々 「「負けないっ!!」」 パァァ

菜々 (せつ菜さん)

菜々 (私が言った、言葉。訂正させてください)

菜々 (あなたは虚構なんかじゃない)

菜々 (私に勇気をくれた、『ヒーロー』!!)

941: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:33:16.89 ID:6hKKgo7B
菜々 「おりゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!」

巨大せつ菜影 「!?」

ドカーーーーーーーーーンッ

モクモク

モクモク

モクモク

巨大せつ菜影 「……」 バタンッ

ボワッ

942: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:34:22.68 ID:6hKKgo7B
モクモク

モクモク

モクモク

歩夢 「けほけほっ、砂埃で何も見えないよ……!」

侑 「二人とも大丈夫!?」

?? 「ええ、『私』はいつだって大丈夫です」

歩夢 「せつ菜ちゃん……? いや菜々ちゃん……?」

?? 「ふふ、どっちもですよ。でも今は彼女が表彰台を譲ってくれました」

943: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/17(日) 14:35:55.68 ID:6hKKgo7B
せつ菜 「無事、私たちは勝てたようです!」 ペカー

菜々 (……)

菜々 (どちらも消えることはない。そして、分離してた頃の両者の記憶や感情は共有される)

菜々 (今はまだ二つの人格が共存してるけれど、あと数日経てば同じ『私』として統一されるだろう)

菜々 (私が嫉妬してた隣で、彼女はこんなことを思ってたんですね……こんなに切ないんじゃ、いくら楽しくても、つらいですよね。お母さんにただいまって言いたいなぁ)

菜々 (ありがとう。私が生み出した『ヒーロー』。そしてこれからも、二人で頑張っていこう。待ってくれてる人たちがいるから……)






959: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/25(月) 19:25:38.73 ID:N4RCOeSj
せつ菜 「ほら、次はあなたの出番ですよ!!」

?? 「や、やっと……やっと私の順番が……」 フラフラ

?? (早く終わらせてさっきの人を追いかけないと!)

ボワッ

?? 「へっ?」

960: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/25(月) 19:26:22.97 ID:N4RCOeSj
ボワッ

ボワッ

せつ菜 「どうやら暴走は止まったみたいですね……ふふ、良かった」

ボワッ

ボワッ

?? 「……みんな消えた?」

シーン

?? 「ええっ!? せっかく順番を待ったのに!? ここで!?」

961: 名無しで叶える物語(やわらか銀行) 2022/04/25(月) 19:27:02.15 ID:N4RCOeSj
?? (しかも、また進化を止められた……! 一体何者なの!?)

?? 「許さない……っ! 絶対に正体を暴いてみせるっ!」 ギリッ

?? (特徴は分かってる。あとは調べればすぐに……)

?? 「……」

?? 「それにしても……楽しそうに語ってたなぁ……特撮、見てみようかな……」






引用元: 歩夢 「イマジナリーフレンド」