第12章 零化域のミッシングリンク(♀)


―――――――――――――――――
――――――――
――――
――



   どうして助けてくれなかったの?

――やめろ

   私は岡部を信じるって言ったのに

――やめろ

   助けてくれないばかりか、なんで私を殺したの?

――やめろ

   牧瀬紅莉栖を世界から消したのはお前だ

――やめろ

   牧瀬紅莉栖を刺し殺したのはお前だ

――やめろ

   お前さえいなければ、私は消えなくて済んだ

――やめろ

   私の代わりに、お前が消えればよかったのに

――やめろ

   可能性を消したのは、お前自身だ

――やめろ

   1人じゃなにもできないくせに、何でもできると思った?

――やめろ

   想いは通じると思った?

――やめろ

   自分が神になったとでも思った?

――やめろ

   バカなの? 死ねよ

――やめろぉ……


415: ◆/CNkusgt9A 2016/02/22(月) 00:18:57.38 ID:u/MTHkzVo

   鳳凰院凶真? なにそれおいしいの?

――やめろ

   でかい口を叩くしか能が無いの?

――やめろ

   自分から危険に飛び込んでおいて、他人のせいにするの?

――やめろ

   できもしない約束を、なぜ誓った?

――やめろ

   私を助ける約束じゃなかったの?

――やめろ

   約束が違うじゃない

――やめろ

   どうして私が殺されなくちゃならないの?

――やめろ

   どうして私を殺したの?

――やめろ

   世界のせいにする気?

――やめろ

   逃げるの?

――やめろ

   私に未来は無いのに、あんたは未来を生きるの?

――やめろ

   どうしてあんたは生きてるの?

――やめろ

   どうしてまゆりは生きてるの?

――やめろ

   どうして私は死んでるの?

――やめろ

   あんたが私を殺したのよ

――やめろ


                 『それがお前の選択だよ、岡部倫子』



――――――――――――やめてくれぇぇぇっ……!!



416: ◆/CNkusgt9A 2016/02/22(月) 00:20:43.04 ID:u/MTHkzVo

紅莉栖「……岡部。大丈夫?」


   くり……す……?


紅莉栖「もし、ね? β世界線へ行って、もうどうしようもなかったら、私を助けることは諦めて欲しい」


   諦めて……いいの……?


紅莉栖「あんたが壊れちゃうのは、私は望まないから」


   ホントに……? もう、頑張らなくていいの……?


まゆり「頑張らなくていいんだよ、オカリン」


   そっか……頑張らなくて、いいんだ……


まゆり「泣いてもいいんだよ、オカリン」


   泣いても、いいんだ……


まゆり「まゆしぃがずっとそばにいるからね」


   うん……うん……



417: ◆/CNkusgt9A 2016/02/22(月) 00:23:52.20 ID:u/MTHkzVo

紅莉栖「どうしたの岡部。悪い夢でも見てた?」フフッ

倫子「えっ……あれ? どうして」ツーッ

まゆり「オカリン、涙、拭いてあげるね」

紅莉栖「さてっ。悪夢なんてすぐ忘れた方が脳のためよ。そんなことよりもっと大事な話がある」

倫子「助手の分際でオレに指図するとはいい度胸……」グスッ

紅莉栖「無理すんな。あと、"鳳凰院凶真"はやめたんじゃなかったの?」

倫子「う、うん。そうだったね、もう"アレ"は、必要ないもんね……」

まゆり「そうだよ、オカリン。無理してあの口調を続ける必要は無いからね? 昔のオカリンに戻っていいんだよ?」

倫子「まゆりとしゃべってると、小さい頃のしゃべり方を思い出せる」フフッ

紅莉栖「そんなことより、プ・リ・ン! 私の分を勝手に食べたんだから、早く買ってきなさいよ」

倫子「はぁ? 大方、自分で食べて忘れちゃってるんでしょ。全部クリスティーナの妄想なんじゃないの?」

まゆり「あっ、プリンならまゆしぃが買ってきてあげるよー?」

紅莉栖「妄想じゃない! ちゃんと名前まで書いて冷蔵庫に入れてあったでしょ!」

紅莉栖「あっ……さては!」

倫子「……? キッチンなんて行ってどうするの?」

418: ◆/CNkusgt9A 2016/02/22(月) 00:25:35.45 ID:u/MTHkzVo

紅莉栖「ほらっ! あった! これでもまだ妄想と言い張るつもり? どうせ岡部が食べて、そのままゴミ箱に捨てたんでしょ、このドジッ娘。はい論破終了」

まゆり「わぁ、ホントだー。プリンのふたに、『牧瀬』って書いてあるよー」

倫子「私にドジッ娘属性はない。妄想乙。だいたい、なんで私がクリスティーナのプリンを食べるのよ。私はちゃんと自分の分があるもん」

まゆり「でもでも~、オカリン、さっきプリン食べてたよねー?」

倫子「う、うん。だから、あれは自分の分で……あっ」

紅莉栖「ほらー! 間違って食べたんじゃない!」

倫子「あ、あの時は考え事をしていて……それに、『牧瀬プリン』って読めるじゃない? 森永さん家のプリンも、小岩井さん家のプリンも同じでしょ」

紅莉栖「どーやったら読めるって言うのよ! 屁理屈を言うなっ!」

倫子「だいたい、『牧瀬』ってのは誰のことよ。クリスティーナなら知ってるけど」

紅莉栖「私の苗字だーっ!!」

倫子「もう、どうしろって言うの……ゴメンナサイ、テヘペロ☆ これでいい?」

紅莉栖「いい訳あるかーっ!!」

まゆり「オカリン、落ち着いて! まゆしぃがね、買ってきてあげるから、大声出しちゃだめだよぅ!」

425: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:20:01.28 ID:Ui/UzoXUo
2010年8月31日火曜日
代々木 AH東京総合病院 精神科 911号室【岡部倫子様】


鈴羽「これ……どういうこと……?」

まゆり「……えっとね? 今、オカリンと"クリスちゃん"と3人でお話してたところなんだー」

倫子「あら、鈴羽じゃない。相変わらずバイト頑張ってる?」ニコニコ

鈴羽「バイ……ト……?」

倫子「またサボって遊びに来たの? これじゃ、店長さんに怒られて当然だね。紅莉栖もそう思うでしょ?」

紅莉栖「え? ああ、うん。ってゆーか阿万音さん、私のこと、嫌ってなかったっけ?」

鈴羽「は……? えっと……?」

まゆり「あ、あのねっ! "スズさん"、今日はちょっと疲れてるんだって!」

鈴羽「("スズさん"って、あたしのこと、か……)」

紅莉栖「あらそうなの。だったら、そこにドクペが入ってるから飲むといいわ。糖分が脳に補給される」

倫子「まゆり。鈴羽に渡してあげて」

まゆり「うんっ。はい、ドクペだよ~」スッ

鈴羽「あ、うん……椎名まゆり、ちょっと」クイッ

426: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:21:17.02 ID:Ui/UzoXUo
病院廊下


まゆり「鈴羽さん、今日は来てくれてありがとう。えっと、オカリンの前では"スズさん"って呼ぶね」

まゆり「α世界線? のまゆしぃがそう呼んでたってオカリンが言ってたから……」

まゆり「あっ! でもでも、もし鈴羽さんさえ良ければ、まゆしぃはスズさんって呼びたいなー」

鈴羽「そんなことより、あの"おままごと"の説明をしてほしいんだけど」

まゆり「……オカリンはね、クリスちゃんがそこに居るって思ってるみたいなの」

鈴羽「自分で声を出してるのに?」

まゆり「う、うん。クリスちゃんの時はね、少し声が変わるから、今はオカリンじゃなくてクリスちゃんなんだなーってわかるんだー」

鈴羽「見えてる世界が違うのかな……」

まゆり「そう、みたい。オカリンはね、ここがラボだって思ってるみたいなの」

鈴羽「ラボって、この間父さんに案内してもらったあそこ?」

鈴羽「もしそうなら、リンリンを本物のラボに連れて行ったらどうなるんだろう」

まゆり「外出許可は申請すればもらえるけど、どうなるかわからないからやめてほしいな……」

鈴羽「ご、ごめん」シュン

初老の患者「あみぃちゃん! ろこぉ!? あみぃちゃん!」

鈴羽「うわっ!? ビックリした……」

まゆり「あ、山井さん。お部屋はあっちですよ」

鈴羽「……幻覚症状。ここは、そういう病棟なんだね」

まゆり「……オカリンね、"クリスちゃん"と一緒にガジェット開発もしててね、すごく楽しそうなんだよ」

鈴羽「それって要は一人芝居だよね。参ったな……」

まゆり「オカリンに用事?」

鈴羽「まあね。一応、言うだけ言っておこうかな」

427: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:22:23.10 ID:Ui/UzoXUo
911号室【岡部倫子様】


紅莉栖「――それでね、その時先輩はなんて言ったと思う?」

倫子「なんて言ったの?」

紅莉栖「"人は何処だって学ぶことができる。学ぶことが何ひとつ無い場所や時など存在しない。何故なら、私たち自身が未知の宝庫なのだから"――だって」

倫子「ふふ、さすが。言い訳も一流ってわけだ」

紅莉栖「そこが可愛いところでもあるんだけどねぇ」

鈴羽「あー、えっと、リンリン?」

倫子「もう、リンリンって呼ばないでって言ったでしょ? 恥ずかしいなぁ」

鈴羽「そ、そうだっけ?」

倫子「倫子でいいよ」

鈴羽「……岡部倫子。キミに伝えておきたいことがあるんだ」

倫子「なあに。改まって。もしかして愛の告白?」

紅莉栖「ちょ!? 阿万音さん! 抜け駆けは凶真守護天使団が許さないからな!」

倫子「その恥ずかしい名前、もうやめてってフェイリスに言ったのになぁ。あはは」

鈴羽「…………」

428: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:24:12.64 ID:Ui/UzoXUo

鈴羽「タイムマシンの燃料の残量からするとさ、時間移動はあと334日分が限度」

鈴羽「1年と経たないうちに、7月28日へは届かなくなる」

鈴羽「あのマシンは、ただのガラクタになる」

鈴羽「覚えといて。その日になったらさ、あたしは、たとえ1人でも跳ぶよ」

倫子「……? だって、あのタイムマシンは1人乗りでしょ?」

鈴羽「……そうだったね。うん。そうだった」

鈴羽「(あたしのせいでリンリンはこんなことになっちゃったのに、ここに居たくない……)」

鈴羽「(こんな痛々しいリンリンは見てられない……あたしは、こんなことをするために過去に来たんじゃないのに……!)」

鈴羽「(最低だ、あたし……リンリンのせいにしようとしてる……)」グッ

鈴羽「……それじゃ」タッ

倫子「あ! ルカ子の家に帰ったら、HENTAI神主には気を付けてね!」

まゆり「…………」

まゆり「(おばあちゃん、お願い……まゆしぃに力を貸して……)」ウルッ

429: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:25:19.07 ID:Ui/UzoXUo

倫子「相変わらず鈴羽はせわしないなぁ」

紅莉栖「阿万音さんらしくていいじゃない」

まゆり「ねぇ、オカリン。まゆしぃね、今日で夏休みが終わっちゃうから、明日からはずっとは一緒に居てあげられないんだー」

まゆり「あ、でもでも、毎日来るからね! みんなにもお見ま……ラボに遊びにくるように頼んだから、オカリンは寂しくないからね?」

倫子「うん、ありがと。ってっても、ラボには紅莉栖も居るし、むしろうるさいくらいかな」フフッ

紅莉栖「無理言って大学側に滞在を延期させてもらってるから、そろそろ先輩が私を拉致しに来てもおかしくないかも」

倫子「そしたらその先輩もラボに迎えてあげるから。来るなら来てみなさい……」ニヤリ

まゆり「でも、オカリンもそろそろ夏休み終わっちゃうんだよね」

まゆり「そしたら、また学校に通わなくちゃね! それまでに元気いっぱいになろうね、オカリン!」

紅莉栖「そうよ岡部。ただでさえ不健康な生活してるんだから、まゆりを見習って早朝ジョギングでもしてきなさい」

倫子「わ、私は運動音痴だからいいの! ってゆーか、紅莉栖もヒトのこと言えないでしょーが!」

倫子「ラーメンばっかり食べてて、太るよ?」ニヤニヤ

紅莉栖「う、うるさいなっ! 日本のラーメンが美味しいのがいけないの! はい論破、証明終了!」

倫子「なにそれ」フフッ

まゆり「そうだぁ! 今日はこれからお買い物に行こうよ! オカリンが大学に着ていく可愛いお洋服を揃えないと!」

紅莉栖「お、岡部が可愛いお洋服だと……ハァハァ」

倫子「HENTAI紅莉栖には見せてあげなーい」

紅莉栖「ぐはぁっ!」

倫子「冗談だよ」ニコニコ

まゆり「……さ、さぁ、行こー!」

430: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:26:37.55 ID:Ui/UzoXUo
渋谷 スクランブル交差点


紅莉栖「去年の渋谷地震の復興はもう8割がた済んでるのね。日本の威信をかけた復興事業だったってアメリカでもニュースになるくらいだったし」

倫子「あ、あそこの人たち。あれが噂の、えと、カオスチャイルド症候群、だっけ」

まゆり「制服は、かわいい、よね……今日、登校日なのかな……」

紅莉栖「……偏見を持っちゃダメよ。あの人たちは紛れもない被害者なんだから」

倫子「さすが紅莉栖、優等生的発言」

少女「うわぁっ!」ドンッ

まゆり「きゃっ。えっと、だいじょうぶ? ごめんね、まゆしぃがぼーっとしてたから……」

倫子「この人の多さじゃぶつかっても仕方ないよ。キミ、立てる?」スッ

倫子「(綯と同じくらいの歳の子かな?)」

少女「あ、ありがとう、ございます」

紅莉栖「そんなに急いでどうしたの?」

少女「えっと、私の恩人……幼馴染の男の子が今日、目が覚めるかもって連絡があって、走っちゃいました。ごめんなさい」

まゆり「(あれ? この子、どこ向いてしゃべってるんだろう……)」

倫子「目が覚める……?」

少女「渋谷地震の後遺症で、ずっと眠ったままなんです。でも、もしかしたら今日も目を覚まさないかも」

紅莉栖「街は復興しても、人はそう簡単には元に戻らない。失ったものが大きすぎたのね」

まゆり「……きっとその幼馴染の男の子はね、あなたのことを必要としてくれてると思うなー、えっへへー」

少女「そうかなぁ、えへへぇ」

倫子「それじゃ、人にぶつからないよう気を付けて行くんだよ?」

少女「おっけい!」タッ タッ

431: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:27:22.31 ID:Ui/UzoXUo

まゆり「渋谷はいつ来ても人がいっぱいだねー」

倫子「まゆり、手を離さないでね? まゆりはすぐはぐれちゃうから」

まゆり「うんっ! ありがとう、オカリン。えっへへ~♪」ニコニコ

紅莉栖「いいなぁ、まゆりは。羨ましい」

倫子「紅莉栖も服買おう? いつも同じ改造制服だと、せっかくかわいいのにもったいないよ」

紅莉栖「こ、これは、自分の荷物を少なくするためにだな……」

倫子「ねえ、まゆりは紅莉栖にどんな服が似合うと思う?」

まゆり「えぇっ!? え、えっとねー……うんとねー……」ムムム

倫子「そんなに悩んじゃうほど? まあ、紅莉栖は確かに何着ても似合いそうではある」

紅莉栖「それって褒めてるの? けなしてるの?」

まゆり「あ! それなら、フリフリでお姫様みたいなのはどうかなー?」

紅莉栖「絶対にNO!!」

まゆり「あぅ」

倫子「ふふっ。ナイスボケね、まゆり。紅莉栖にそれは無い」フフッ

まゆり「(……帰ったら、牧瀬紅莉栖って人がどんな見た目の人か、調べておかなきゃ……)」

432: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:27:53.68 ID:Ui/UzoXUo
LOFT近くの衣料店


まゆり「ねぇねぇオカリン! これなんかどうかな? 似合うと思うなー♪」

倫子「えー? これー? うーん、紅莉栖はどう思う?」

紅莉栖「り、倫子ちゃんが、更衣室でぬぎぬぎ……ハァハァ」

倫子「倫子ちゃん言うなぁっ!」

まゆり「あ、あはは……」キョロキョロ

まゆり「(……お店の人に変な目で見られちゃってるけど、大丈夫かな? ちゃんと売ってもらえるかな?)」


梢「……うぴ?」

梢「セナしゃん、セナしゃん。向こうに、見えない人としゃべってる、とってもとーっても美人な女の子がいるのら」

梢「とーめーにんにんげーんさーん?」

セナ「なに……?」

433: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:28:40.87 ID:Ui/UzoXUo

セナ「おいお前」ガシッ

倫子「きゃぁ!? ちょっと何……あ、あなた、蒼井セナ!?」プルプル

まゆり「オ、オカリンっ? あの、どちら様、ですか?」

セナ「(なぜ私の名前を……どこかで会ったか?)」

セナ「お前、見えているのか」

倫子「み、見えているって、何のこと?」

セナ「エラー。負の妄想だ」

倫子「妄想……?」

まゆり「あ! えっと、オカリンはそういう病気なんです! だから、悪いことはしてないんです!」ヒシッ

倫子「ちょ、まゆり! 私はもう厨二病は卒業したってば!」

セナ「そこに、お前が望んだ妄想の人間が居るはずだ。違うか」

セナ「(まあ、私が思考盗撮すればわかることだが)」

倫子「さっきから何をわけのわからないことを言ってるんですか! 紅莉栖、なんとかして!」

セナ「クリス? ……っ!? 牧瀬、紅莉栖!? なぜ生きている!?」

紅莉栖「ふぇっ!? えっと……?」

セナ「(それに、なんだこの記憶は……神社、巫女、それに、白衣……)」

セナ「まさかこいつ、私に妄想攻撃を!? ならばこちらも……!」


シュィィィィィィィィィィン!!


倫子「……っ!?」

434: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:30:14.67 ID:Ui/UzoXUo

倫子「ま、またその剣……や、やめてよ……」ガクガク

まゆり「えっ? えっ? なにがどうなってるのかな?」

セナ「やはり見えているのだな……! リアルブートしていない妄想の存在は、ギガロマニアックスにしか見えない……!」

梢「セナしゃん、ここで  ちゃうのら? こずぴぃもねー、セナしゃんのお手伝いがしたいぽーん☆」

セナ「梢はおとなしくしていろ。このディソードは振り回すために抜いたわけじゃない。もう必要は無い」シュインッ

梢「うぷぅ、セナしゃんばっかりずるいのらー! ぷんすかぷーん!」

倫子「(なにこの変なしゃべり方の金髪ツインテの子……まゆりより年下っぽいけど……なんにしても、剣を消してくれてよかった……)」ホッ

セナ「お前、岡部倫子だな。そうか、思い出したぞ。去年渋谷の地下で会った妄想垂れ流し女……」

セナ「(この記憶は本物か? 記憶が改ざんされた気配はないが……)」

セナ「まるで雰囲気が変わっていたのでお前だと気付かなかった。それに、あの時はディソードが見えていなかったようだが」

倫子「去年だけじゃなくて、つい先々週も会ったじゃない! 柳林神社で!」

セナ「……ああ。どういうわけだか、私にもその"ありもしない記憶"がある」

セナ「確かに私は8月15日、西條と秋葉原へIBN5100を探しに行った」

倫子「IBN5100……? 予約してたフィギュアを取りに行ったんじゃなかったの?」

セナ「6月頃、ネットで祭りになったらしい。『転売厨なら手に入れなきゃ嘘だろ常考』、などとほざいていて鬱陶しかったので用心棒として雇われたまでだ」

倫子「(ネットの祭りは1975年へ跳んだα鈴羽の仕込みじゃなかったのか? いや、β世界線でもIBN5100がラボに届くようにした因果の再構成に組み込まれ……あ、あれ、なにか、大事なことが思い出せない?)」

435: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:31:31.99 ID:Ui/UzoXUo

セナ「だが、そこで"お前たち2人"とは会っていない」

セナ「会っているはずがないんだ。何故なら、新聞で報じられていた通り、牧瀬紅莉栖は7月28日に――」

まゆり「あー! 2人とも、翠明学園の制服の夏服バージョンだー! 有名デザイナーさんがデザインしてて、可愛いって評判なんだよねぇ、いいなぁー!」アセッ

セナ「……梢」

まゆり「(そのことはオカリンに言っちゃだめだよう! 牧瀬紅莉栖さんはオカリンの中ではまだ生きてるんだよう!)」

梢「……ってことらしいのら」

セナ「なるほど……」

倫子「そう言えばあなたたち、今日は夏休みじゃないの? どうして制服着てるの?」

梢「こずぴぃたちはねー、成績さんが悪いわるーいだから、ほしゅーだったのらー☆ ちなみにセナしゃんは2回目の3年せ――」

セナ「ともかく、私にはあるはずの無い記憶がある。お前の妄想攻撃か?」

倫子「それってどういう……もしかして、リーディングシュタイナー?」

セナ「ほう。お前はそんな呼び方をするのか。私たちはギガロマニアックスと呼んでいる」

倫子「ギガロマ……?」

セナ「場所を変えよう。あまり公の場で話す話でもない」

まゆり「えっと、どうしよう、オカリン……」

紅莉栖「ただの電波って感じでもない。ついていくべきよ。蒼井さん、私たちが知らない情報を持ってるみたい」

倫子「さすが紅莉栖、好奇心旺盛だね……わかった」

セナ「……ふん」

436: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:32:18.49 ID:Ui/UzoXUo
カフェLAX


店員「ほう。女ばかりでぞろぞろと。おぬしら、何のようじゃ?」

セナ「奥の席に頼む」

店員「相変わらず愛想の無い客よのう。4名様、ごあんな~い」

倫子「4名? 5人のはずだけど」

店員「人数が増えてもどうせ席は変わらんから、早う座れ」


梢「こずぴぃはねー、こずぴぃだよー☆ よろしくなのれす」

まゆり「まゆしぃはねー、まゆしぃ☆なのです。えっへへー」

紅莉栖「なにこの頭の痛くなる自己紹介……」

梢「でもで~も、こずぴぃの方がねー、まゆしぃより年上さんなのら~♪」

倫子「それで、その、話って何?」

セナ「私がお前と初めて会った時、お前は見事に未来予知をしてみせた。覚えているか?」

倫子「未来予知……?」

437: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:33:11.45 ID:Ui/UzoXUo
・・・
2009年10月29日
渋谷駅 地下コンコース


タッ タッ タッ

セナ「くっ、見失ったか……おい、そこのお前。今、リュックを背負った小太りの男を見なかったか?」

倫子「(な、なんだ!? こいつのしゃべり方といい雰囲気といい……まるでオレの理想とするエージェントとの邂逅ではないかっ!)」ドキドキ

倫子「(ここは敢えて振り向かずに……)フン。質問の前に名乗ったらどうだ、黒髪ロングの女よ」クックッ

セナ「……蒼井セナ(なんだこいつ。妙に芝居がかった口調で)」

倫子「……オレだ。今、妙な女と接触した。……ああ、機関に反逆し逃亡中の女の可能性がある。1時間以内に連絡しなかったら、オレはやられたと判断して、そのまま計画を続行しろ。それが運命石の扉<シュタインズゲート>の選択だ。エル・プサイ・コングルゥ」スッ

セナ「(ケータイ? 誰と話してるんだ……?)」

倫子「貴様、何者だ?」クルッ

セナ「(……変なやつかと思ったら、すごい美人じゃないか。こいつも岸本タイプか)」

倫子「答えろ。……いや、答えないという事は、ついに始まるのだな。アレが」

セナ「アレ、だと? サードメルトのことを言っているのか?」

倫子「(なにこの子、オレの妄想話に全力で付き合ってくれてるのか!?)」ワクワク

倫子「……いかにも」

セナ「っ!!」ドクン

438: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:34:10.64 ID:Ui/UzoXUo

倫子「(ならば、オレも全力で厨二全開トークを、あ、いや、世界の真実の物語を楽しませてもらうとしよう……!)」キラキラ

セナ「お前、何者だ? まさか……」

セナ「(いや、ギガロマニアックスの気配はない。希テクノロジーの関係者か?)」

倫子「ククク、ふぅーはははぁ! そうか、オレの正体に気付いてしまったようだな、コードネーム"蒼の剣士"よ!」

セナ「……はぁ?」

倫子「内閣特殊調査室のスーパーエージェント、その正体は体制<オーガナイザー>側の能力者<アウグル>! 貴様の目的は2つ。"聖想剣グラジオラス"の真なる持ち主を探すこと。そして、計画の障害を取り除くために邪魔者を処刑<エゼクサオン>すること……そうだな?」ニヤリ

セナ「(……こいつの心も半ば壊れかけているように感じる。ギガロマニアックスとして覚醒する潜在的な力があるのか?)」

セナ「それ以上妄想をするな。でないと、いずれ妄想に喰われるぞ」

倫子「妄想ができるのは、地球上のあらゆる生物の中で人間だけだ。肉体的に弱い人類が手に入れた"危険予測の能力"だが、その力は現代において肥大化しすぎてしまった……」

セナ「妄想は電気仕掛けだ。いや、この世界そのものが電気仕掛けなんだ」

倫子「仮想現実だな……!」キラキラ

セナ「(うっ、かわいい……)」

倫子「そうか、そういうことだったのか……! 現実の世界はすでに崩壊し、オレたちは量子サーバー内でデータだけの存在として生きて――」

セナ「そんなことは一言も言っていない」ギロッ

倫子「ヒッ、スイマセン……」シュン

439: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:34:57.85 ID:Ui/UzoXUo

セナ「私の言ったことを頭の片隅に置いておけ」

倫子「フッ、オレに忠告をするとは……ならばオレからも1つ、伝えておこう。エスパー西條を知っているか?」

セナ「なん……だと……?」

セナ「(エスパー少年騒動が全国中継されたのはつい先日、10月27日のことだが……まさかこいつ、ただの野次馬か?)」

倫子「あの男を死なせてはならない。世界の命運の鍵は、ヤツが握っている」

セナ「お前……っ!!」シュィィィィィィィィィィン!!

倫子「……? (右手を振りかぶって、羽虫でも居たのか?)」

セナ「(こいつ、妄想のディソードが見えてないのか……?)」

セナ「なにを知っている。西條を煽ったのは、お前か?」

倫子「あのスクランブル交差点での事件は予兆に過ぎない。終末のときはすぐそこまで迫っている。近いうちに渋谷は血の海と化すだろう」

セナ「そんなことはさせない」

倫子「蒼井セナ、と言ったか。お前と出会えて、よかった。既に分岐してしまった世界を正しい方向へと導けるのは、貴様だけだ」

セナ「……なに?」

倫子「我が名は鳳凰院凶真っ!」ガバッ

倫子「人はオレのことを、畏怖をこめて狂気のマッドサイエンティストと呼ぶ。貴様とはいずれまた会うことになるだろう。それが、運命石の扉<シュタインズゲート>の選択だ。エル・プサイ・コングルゥ」


クルッ スタ スタ ……


440: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:35:35.13 ID:Ui/UzoXUo

セナ「待て」グイッ

倫子「きゃっ!!」ズテーン

セナ「あ、転んだ」

倫子「……ひ、人がせっかく格好良く立ち去ろうとしているというのに、貴様空気を読めっ!」ウルッ

セナ「(かわいいがうっとうしい)」イラッ

倫子「う……ぐぁぁっ! こんなときに、右手が疼く……っ。ち、近寄るな! でないと、力が暴走を……!」ジタバタ

セナ「お前には見えているのか?」

倫子「え? なにが?」

セナ「私の持っている、これだ」シュィィィィィィィィィィン!!

倫子「……ああ、見えている。あまりにも鮮烈、見る者の目をくぎ付けにして離さない、その残酷なまでに美しい剣が」

セナ「なっ!? 本当か?」

倫子「無論だ……。妖刀朧雪月花。実に見事な日本刀……」

セナ「ウソをつくなっ! バカがっ!」グイッ

倫子「いやぁぁっ!! ちょ、おま、公衆の面前でなんてことを!!」

セナ「あ、つい西條のノリで●●を踏んづけてしまった。悪い」

倫子「うぅ……もう、お嫁に行けない……」シクシク


・・・

441: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:36:49.37 ID:Ui/UzoXUo

店員「待たせたの。注文の品、お待たせじゃ」

店員「しかし美少女よ。いくら外が暑いとはいえ、1人でそんなに飲んではおしっこを漏らしてしまうぞ」ヒョイッ ヒョイッ

倫子「いや、こっちのコーラは紅莉栖の分だし」

紅莉栖「さすがにドクペは置いてないから岡部はマウンテンビューか」

梢「肉まんまーんが、おいしそーなのら☆」

まゆり「このお店、肉まんも置いてるんだねー。あ、グレープフルーツジュースはまゆしぃのです」

セナ「それで、話の続きだが、お前の"予言"はピタリと的中した」シャク シャク

店員「堂々と店内でガルガリ君を食うでない! このどたわけが!」

セナ「渋谷地震は希テクノロジーの、引いては300人委員会の陰謀だった。まあ、実態は野呂瀬玄一の私的な野望だったのだがな」ペロリ

店員「ぐぬぬ……勝手にするがよいっ!」クルッ

セナ「鍵を握っていたのは西條拓巳。世界はヤツの妄想によって救われたんだ」

倫子「い、いや、だけどあれは、私が適当に思い付いた言葉を並べただけで……」

セナ「今思えば、既に片鱗を見せていたのだろう。"適当に思い付くこと"それ自体がお前の力だったと言える」

セナ「そして今ではエラーが見えるまでになった。力を覚醒させてしまうのは時間の問題だ」

セナ「それに、他にも心当たりがあるはずだ。未来のビジョンが浮かび上がるようなことがかつて無かったか?」


  『まゆしぃだって、クリスちゃんを犠牲にしてまで生きていたくないよぉ!』


セナ「なるほど、やはりな……」

倫子「そんなはずは……」

セナ「お前は、未来予知に特化したギガロマニアックスだ」

442: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:37:49.84 ID:Ui/UzoXUo

セナ「岸本と同じ……いや、岸本に言わせればツィーグラーと同様の能力か……」

セナ「お前の場合、近くに居る人間の脳を利用して、その脳が将来的にどのような電気信号を受信することになるか、を予知できるのだろう。一種の思考盗撮と言える」

セナ「去年私と出会った時のお前の未来予知では、お前は私の脳を利用したんだ」

まゆり「えっと、オカリンは、占い師さんってこと?」

倫子「そんなわけない! そうじゃなくて、私には、別の世界線の記憶を引き継ぐ能力、リーディングシュタイナーってのがあって――」

セナ「別の世界線?」

倫子「……ラボメンになるなら、話してあげなくもない」

セナ「ラボメン……なるほど。ラボラトリーメンバー……大学生のサークルみたいなものか」

梢「セナしゃんまで心の声が聞こえるようになったーらね、こずぴぃ、セナしゃんのお役に立てなくなっちゃうかもかもーで、ちょっと寂しいのれす」

セナ「梢ほどハッキリとはわからないが、私でも多少の思考盗撮はできる」

セナ「世界線については保留にしよう。ラボメンとやらになるつもりはないからな」

セナ「こいつの名前は……椎名まゆり、か。椎名に聞きたいことがある」

セナ「岡部は最近、心を壊すような出来事はあったか?」

まゆり「え……」

梢「あったーって言ってるのら!」

セナ「ふむ……」

倫子「……あなた達、もしかして超能力者なの!?」ビクビク

443: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:38:58.86 ID:Ui/UzoXUo

セナ「ギガロマニアックスだと言っている」

倫子「だから、それ、なんなの?」

セナ「乱暴に言えば、妄想を具現化する能力を持つ者のことだ」

倫子「妄想を具現化……?」

セナ「ディラックの海、負のエネルギーでいっぱいに満たされた観測不能の境界面に、ディソードをパイプの先端のように突っ込む」

セナ「ディソードはいわば、ゼロより下の領域とのリンクだ。世界は1と0、そして-1で構成されているが、この負の領域と接続する」

セナ「ディラックの海とのチャネルを大きくすることで、粒子と反粒子の対生成を起こし、世界にとってのエラー、妄想を創り出す」

セナ「このエラーを周囲の人間の脳と共有することで、妄想を量子力学的に具現化する」

倫子「……前に紅莉栖が作った未来ガジェット9号機みたいだね。他人の考えた映像を見るマシンを脳波だけで実現してる、ってこと?」

セナ「脳波じゃない。視界のデッドスポットに粒子を送り込むんだ」

倫子「(意識で粒子を操ってるの? どこかで聞いたような……)」

倫子「だけど、それだと幻覚にしかならないんじゃない?」

セナ「世界は電気仕掛けだ。何を見ているかじゃない。何を見せられているかだ」

セナ「現実なる実体を脳が認識しているんじゃない。複数の脳が共有した電気信号を現実だとして世界が成立しているんだ」

倫子「水槽の脳、みたいな話だね」

セナ「その例えで言うなら、水槽の世界、と言ったところか」

444: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:39:52.94 ID:Ui/UzoXUo

セナ「お前の見ている世界は本物か?」

倫子「ヴァーチャルリアリティだって言いたいの?」

セナ「お前がお前であるとどうやって証明できる?」

倫子「……?」

セナ「お前の目から見えている世界は妄想に過ぎない。それを現実として認識するためには、誰かと世界を、つまりお前の妄想を共有するしかないんだ」


  『その目、だれの目』


セナ「人間の脳はそういう風に作られている」

倫子「なら、未来予知なんて眉唾じゃない。未来のことを知ったところで妄想に過ぎない」

セナ「未来予知は、"正しく世界を視る"と言った方がいいかもしれない。この先どのようなことが起こるのか、周囲共通認識を経由して演算処理し、シュミレートしている」

セナ「サンプリング数がどの程度必要なのかは予知内容によるだろうが、複数の脳を使い現実を正しく認識することで、その世界固有の因果の流れを視ることができる」

セナ「どうやら、世界が分岐する地点までは因果が確定しているらしい。分岐点の先には全く別の未来が複数存在している」

倫子「(それについては嫌というほど知ってる……)」

445: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:40:54.93 ID:Ui/UzoXUo

セナ「その"未来"というのが、この世界の物理的な時間のことか、お前の主観的時間のことかはわからない。脳の認識次第では、あるいは両方かもしれない」

倫子「ラプラスの魔?」

セナ「あくまで量子力学的に認識をするから、未来予知が必ず当たるということはなく、ラプラスの魔とは異なる。いわば、確率的に未来が存在しているんだ」

セナ「例えば、未来の情報を入手したことで、それを回避するための行動選択をしたとする。そうすれば当然未来予知は外れる。世界は分岐するんだ」

セナ「だからこそ、岸本の言うところの、『邪心王グラジオール復活による世界の破滅』は回避できたわけだからな」

倫子「(タイムトラベルと似ている……?)」


・・・

『ポイントは、送るのは"記憶"だけってこと。あくまでも被通話者は未来の記憶を"思い出す"だけってこと』

『ある意味、未来予知ができるようになる、と言えるかも』

・・・


倫子「(もしかして、タイムリープのし過ぎで私にそんな力が……? いや、関係ないか……)」

446: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:42:38.03 ID:Ui/UzoXUo

セナ「自分のディソードは見えているのか?」

倫子「自分の、って、私の剣があるの?」

セナ「やはり、ディソードなしに未来予知をやってのけていたか……」

セナ「(西條クラスの素質を持っているかも知れないな……だが、慌てることは無い。まだこいつは覚醒していないのだから)」

セナ「(覚醒していないせいで、自分だけの現実、というより不完全な妄想世界――現実世界に牧瀬が生きているように物事が都合よく改ざんされるフィルターのようなもの――になっている)」

セナ「(反粒子を岡部のデッドスポットに送り込んで粒子を対消滅させ妄想の牧瀬を消したとしても、いたちごっこにしかならない)」

セナ「(だが、この程度の妄想世界なら妄想シンクロも容易い……妄想世界を消滅させれば、岡部がギガロマニアックスの力を使い続ける必要もなくなる、か)」

倫子「自分のディソードがあれば、私にもあなたたちみたいな超能力が手に入るの?」

セナ「むやみにこの力を使うな。私がお前に話したかったのはこの点だ」

倫子「あなたの話って、言葉が少ないわりに回りくどいね……」

セナ「妄想を現実にする行為にはリスクが付きまとう」

セナ「粒子とともに生成される反粒子は、自分のディソードにストックされていくんだ。たとえ自分のディソードが見えていなくてもな」

セナ「反粒子は数学的に言えば、"過去へ向かうもの"だから、ストックすればするほど、ギガロマニアックスには"現在の状態とのずれ"が発生し――」

セナ「存在としての自己崩壊を招く」

倫子「自己崩壊……」

447: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:44:03.10 ID:Ui/UzoXUo

セナ「これ以上妄想するな」

セナ「お前の場合、特に未来について妄想してはならない。その力はいずれ身を滅ぼす」

セナ「イマジナリーフレンドもやめた方がいい。今はまだ岡部個人の妄想に留まっているが、これを周囲共通認識化すれば"牧瀬紅莉栖"がリアルブートされてしまう」

セナ「私の知り合いにも妄想で人間を具現化したやつが居るが、そいつは力を使い果たして死期を早めた」

まゆり「ええっ!? オカリンが死んじゃうの、いやだよう……!」

倫子「だ、大丈夫よ、まゆり。私は死なないから……」

セナ「なんなら強制的にやめさせてやってもいいが、どうする?」

まゆり「ど、どういうこと……?」

倫子「ってゆーか、言ってる意味がわからない! 紅莉栖も何か言ってやって!」

紅莉栖「まるで私がイマジナリーな存在みたいに言ってくれてるけど、私はここに居るわよ。失礼しちゃう」

セナ「……岡部の創り出した妄想の牧瀬を消滅させる」

倫子「だから、妄想じゃないと何度も――」

セナ「カギとなっている牧瀬が消えれば、岡部の妄想世界も同時に消滅する」

セナ「(西條の妄想世界を消滅させた時は星来を殺す必要は無かったが、今回はそれでいいはずだ。なぜなら、こいつにとって必要なことは、『牧瀬紅莉栖の死を受け入れること』なのだから)」

セナ「無知は罪だ。知らない方が幸せなこともあると言うが、そんなのはただの甘えだ」

セナ「どうする、椎名」

まゆり「まゆしぃは……えっと……」

まゆり「こんなに痛々しいオカリンを、もう見ていられないのです……」ウルッ

セナ「……わかった。梢」

梢「もぐもぐ……うぴ?」

448: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:44:52.08 ID:Ui/UzoXUo

梢「つまりつまりー、もーそーのクリスしゃんを、ドカバキグシャーしちゃっていーのら?」

岡部「や、やめてっ!」

セナ「お前は動くな。動いたらお前の首元に突きつけている私のディソードをリアルブートしてやる」スッ

岡部「くぅ……っ!」

まゆり「えっと、今、オカリンに見えない剣を見せてるのかな……」

セナ「おい牧瀬。居るんだろう、出てこい」

紅莉栖「い、言われなくてもここに居るっ!」

セナ「よし。梢、迅速に頼む」

梢「わかったのら~☆ 殺しちゃーうよ♪」

梢「…………」クターッ

まゆり「寝ちゃったの?」

セナ「梢は岡部の妄想の世界に完全に入り込み、牧瀬を消しているんだ。じきに岡部は気絶する」

まゆり「えっ!?」

セナ「心配するな。現実の世界へ戻るためのスリープだ。今のうちに救急車でも呼んでおけ」

まゆり「う、うん。わかった」ピッ

岡部「やめてよぉ……やめて、やめてやめてやめ――――っ」クターッ

セナ「やったか」

梢「まっかっかでどーろどろにしちゃったーよ♪」

セナ「これで"牧瀬紅莉栖"は死んだ。もう蘇ることもないだろう」

セナ「これ以上妄想しないよう、そばについていてやれ。椎名」

まゆり「うん……」

449: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:45:30.57 ID:Ui/UzoXUo
代々木 AH東京総合病院 911号室【岡部倫子様】


倫子「ん……ここは、病院」

まゆり「オカリン! よかったぁ、目が覚めたんだね……!」ウルッ

まゆり「ごめんね、まゆしぃのせいでつらい思いをさせちゃって……」グスッ

倫子「……泣かないで、まゆり。それより、私こそごめんね」

まゆり「オカリン……? もしかして、覚えてるの?」

倫子「妄想の世界に閉じこもっちゃって、まゆりに迷惑かけちゃった」

まゆり「そ、そんなことないよ! ……オカリン、もう大丈夫なの?」

倫子「うん。ここがラボじゃなくて病室だってことも、α世界線じゃなくてβ世界線だってことも」

倫子「……牧瀬紅莉栖がすでに死んでいるってことも、ハッキリと思い出せる」

まゆり「オカリン……」

倫子「結局またまゆりの時みたいに都合よく記憶を改変しちゃってたんだね……」ハァ

倫子「あの超能力者さんたちには感謝しとかないと」

まゆり「うん……よかったぁ、よかったよぉ……グスッ……」ダキッ

倫子「まゆり……ありがとう、いつもそばにいてくれて……」ナデナデ

450: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:46:36.44 ID:Ui/UzoXUo
2010年9月1日水曜日
代々木 AH東京総合病院 911号室【岡部倫子様】


医者「今日1日検査した結果に問題がなければ、明日には退院できますよ」

倫子「ご迷惑をおかけしました」

倫子「(紅莉栖は前に、この病院の地下室で300人委員会の息がかかった研究機関による人体実験が行われていると言ってた)」

倫子「(このβ世界線でもそうなのかはわからないけど、そんないわくつきの病院からは一刻も早く退院したかった)」

医者「ですが、PTSD治療は長期の継続的治療が必要です。池袋周辺で通院できるメンタルクリニックを紹介しておきましょう」

倫子「(まあ、表で働いている医者は普通の人だと思うけど)」

医者「それじゃ、安静にね」


ガララッ


倫子「……私はなにをやってるんだ」ハァ

倫子「鈴羽、怒ってるだろうなぁ……」

倫子「ダルはどうしてるかな……」

倫子「店長さんに今月分の家賃、払わなきゃなぁ……」

倫子「ラボに、行きづらいな……」

倫子「テレビでも見よう。えっと、イヤホンは……」

451: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:47:40.06 ID:Ui/UzoXUo

キャスター『続いて、特集です。先日ロシアへ亡命したドクター中鉢氏こと牧瀬章一さんの発表した、通称"中鉢論文"の内容が公表されました』


倫子「(またこのニュースだ。妄想に逃げていた時にも何度か見たなぁ、その時は見て見ぬフリをしちゃったけど)」


ナレーション『この事件は当初、"ロシアン航空機火災事故"として報じられたものでしたが、搭乗していた意外な人物の意外な論文が、世間を騒がせることとなりました』

ナレーション『事故があったのは8月21日。日本時間11時5分に成田を発ったモスクワ行きのロシアン航空801便が飛行中、モスクワ到着直前に貨物室から出火するという事故でした』

ナレーション『その後飛行機はドモジェドヴォ国際空港に緊急着陸し、死傷者は出ませんでした。その時の映像がこちらです』

中鉢『無事にこの素晴らしきロシアに亡命することができて、実に喜ばしい限りだ。私を受け入れてくれたロシア政府には深く感謝している』

中鉢『無事着陸させた機長には賛辞を送りたいね。彼は、この私と、私が書いた人類史に残る論文を救ったという意味で、まさに英雄だよ』

中鉢『もしこの論文が失われたら、人類科学の発展は100年の遅れを見ることになっただろう』

中鉢『人類史上初の、タイムトラベル実現に関する論文だ、分かるかね!? タイムトラベルだよ! この私、ドクター中鉢がその発明に世界で初めて成功したのだ!』

中鉢『近いうちに学会で発表する予定だがね、そのとき全人類は驚愕し、やがて私を称えることになるだろう!』

中鉢『元々この封筒は、スーツケースに入れて貨物室に預ける予定だった。実際、そうしていたら論文は貨物室で焼け焦げ、人類の夢はそこで終わってしまっただろうな』

452: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:48:37.46 ID:Ui/UzoXUo

中鉢『しかし! まるで神が私に"世界にドクター中鉢の偉大さを知らしめよ"と言わんばかりに、幸運な運命のイタズラを起こした』

中鉢『その神による業がこれだ! これが封筒に入っていたおかげで、荷物を預ける際に金属探知機に引っかかってしまってな』

中鉢『私は封筒だけをスーツケースから出して、機内に持ち込んだのだ! 人類の夢を守った真の英雄は、この小さな人形であるとも言えよう!』


倫子「神による業、ねぇ……」


キャスター『この小さな人形は果たして人類の英雄になったのでしょうか。井崎准教授はどう思われますか?』

井崎『僕に言わせれば最高傑作ですね。もちろん、エンターテイメントとして、ですが。中身は典型的な疑似科学でしたよ、かの有名なジョン・タイター理論の発展型と言えるでしょう』

井崎『正直に言って、ロシアが彼に勲章や名誉博士号を与えているのは何かの陰謀としか思えません』

キャスター『それはやはり、中鉢論文が革命的だったから、ではないのでしょうか』

井崎『とんでもない! きっとどこかの金持ちが道楽で彼に"物語<フィクション>"を書かせ続けているんでしょう』

井崎『現在ドクター中鉢はロシアの研究施設に事実上軟禁されていますが、彼のインタビュー記事を見る限りでは好待遇で迎え入れられていると勘違いしているようですね、はは』

井崎『中鉢論文に関しては今度11月に行われる予定のATF<アキハバラ・テクノフォーラム>の講演で取り上げようと思っていましてね。ご興味ある方は是非、足をお運びください』

453: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:50:10.64 ID:Ui/UzoXUo

章一の手には、7月28日、私がまゆりに取ってあげた、そしてまゆりが失くした"メタルうーぱ"が映っていた。

丸っこい平仮名で『まゆしぃの!』と書かれている、世界に1つしかないものだ。

タブオクでプレミアがついている純金属製のキャラクターストラップが、第3次世界大戦のきっかけとも言える『中鉢論文』を火災から守ってしまった。

私は、このメタルうーぱのせいで2回目の紅莉栖の救出が絶対に成功しないことを悟った。

『シュタインズゲート』は理論上の存在にすぎなかったということ。どうあがいても到達することはできない。

454: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:51:02.90 ID:Ui/UzoXUo

ベッドから起き上がり病室から出て、渡り廊下を通った先にある外来棟8階の屋上庭園でダルに電話をかける。

電話レンジを破棄するよう頼むと、ダルは文句の1つも言わずに従ってくれた。

あれは存在するだけで危険。あれでもれっきとしたタイムマシンだから。

……これで、Dメールを過去に送ることができなくなった。

そもそも、β世界線でDメールを送るには困難が多すぎる。

一度α世界線に戻ってから作戦を立て直す方法もあるかもしれない。

そこでなら紅莉栖と共闘して、作戦を練り直すことができるかもしれない。

だけど、私にはもうこれ以上まゆりを殺すことはできない。

紅莉栖を助けるには、鈴羽のタイムマシンで2回目の救出へと向かうしかない。

……無理。"確定した過去"を変える方法がわからない。

あの時、私の体が動かなかったのは、恐怖を感じたから、という理由もあるけど、本当はそうじゃない。

収束のせいだ。あの後、もう1人の私が"確定した過去"を観測していたという事実が、私に紅莉栖を殺させたんだ。

455: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:52:40.44 ID:Ui/UzoXUo

例えば、章一を追い払って、紅莉栖を気絶させて、あの倉庫に赤いペンキをこぼし、そこに紅莉栖を寝かせれば、もう1人の私のことは騙せるかもしれない。

紅莉栖が男に刺されて死んでいると勘違いした私はめでたく例のDメールを送信し、エシュロンに捕捉される。

まあ、データを8月17日に取り消すことがこの世界線では確定しているのでα世界線へは変動しない。

だけど、メタルうーぱの入った封筒ごと中鉢論文を牧瀬章一が奪い、第3次世界大戦の引き金を引く、というβ世界線の収束までは騙せない。

このβ収束が騙せない限り、紅莉栖の死亡収束は回避できない。

例え7月28日12時40分の時点で紅莉栖が生存したとしても、あの生真面目な紅莉栖のことだから、論文を奪われた紅莉栖は自分の父親に対しに何らかのアクションを取るかもしれない。

あるいは、論文を完全に自分のものにするために、章一は娘を殺しにくるかもしれない。

仮に中鉢論文の本当の執筆者が章一ではなく紅莉栖だということが判明すれば、ロシアのSVRが紅莉栖を暗殺しにくるかもしれない。

あるいは、SERNのラウンダーやペンタゴンのDURPAあたりが紅莉栖を拉致しに来るかもしれない。

かもしれない。かもしれない。かもしれない。

第3次世界大戦が勃発するためには、そういうことが起こる必要がある。

それを回避するためには中鉢論文を消せればいいけど、それが出来ない。

バタフライエフェクト。

456: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:53:59.05 ID:Ui/UzoXUo

北京での蝶の羽ばたきがニューヨークで嵐を引き起こす。

今回の場合、メタルうーぱが第3次世界大戦を引き起こしたことになるけど、その過程は一切不明。

なぜあの時の私はメタルうーぱを引き当てたのか。なぜまゆりはメタルうーぱを失くしたのか。

なぜメタルうーぱが封筒に入っていたのか。なぜあの飛行機で火災が起きたのか。

そして、なにが収束でなにが収束じゃないのか。これがわからない。

言ってしまえば、これは悪魔の証明。一切不明なその過程の中から、収束じゃないものを発見しないといけない。

そんなこと、できるわけがない。

たとえあの時の私にガチャポンをさせないようにしても、収束によってまゆりは何度もガチャポンに挑戦してメタルうーぱを引き当ててしまうかもしれない。

たとえまゆりにメタルうーぱを失くさないように注意しても、収束によって誰かに盗まれてしまうかもしれない。

たとえ紅莉栖に封筒の中に何も入れないよう注意しても、収束によってメタルうーぱがころっと入ってしまうかもしれない。

こんな推論が無限に発生してしまう。無限個の選択のうちのどれか1つが『シュタインズゲート』へと至るカギだ。

これを、たった1回のタイムトラベルで偶然引き当てなくちゃいけない。

――そんなの、無理に決まってる。

457: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:56:55.21 ID:Ui/UzoXUo

私の主観では、紅莉栖を 3度殺したことになる。

α世界線を消滅させた時、ナイフで刺し殺した時、妄想を産み出して消滅させた時。

紅莉栖は、私を生かすために死んだ。私を守るために死んだ。

私は紅莉栖を助けられなかった。世界の収束がそれを許さなかった。

悲劇も、度が過ぎれば喜劇的だ。神を冒涜した咎人の報いだ。

……こんなことなら、代わりに私が死ねば良かったんだ。

私が死ねばよかったのに、世界はそれを許さない……

2025年に死ぬことが確定しているということは、2025年までは死ねないということ。

たとえ今ここで舌をかみちぎっても、自殺はできない。

生きてる価値なんてないのに。紅莉栖の元へ行って謝りたいのに。

15年間、この罪過を悔いながら生きるしかない。

紅莉栖がくれたこの命を大切にしなければならない。

まゆりが生きているこの世界を守らなければならない。

今度、紅莉栖の墓参りに行こう。アメリカのウェストミンスターにあるらしい。

パスポート、申請しておかなきゃ。

458: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:57:51.98 ID:Ui/UzoXUo

これから私は、どうしようか。

妄想の道に逃げてはいけない。まゆりに心配をかけちゃいけない。

少しでも普通の生活をして、少しでも普通の人生を歩んで。

誰にも打ち明けずに、ひっそりと2025年に死にたい。

そうだなぁ、とりあえず大学は卒業しないと。

この病室で閑居して、良くない考えばかりするよりも少しでも外に出て身体を動かした方がいい。

なにか目標を作って、それに向かって進めばいい。

紅莉栖の居ない新しい未来を切り開けばいい。

過去を変えるのではなく、未来を作ればいい。

459: ◆/CNkusgt9A 2016/02/28(日) 23:58:25.39 ID:Ui/UzoXUo

過去を変えることがどれほどの罪か、もう嫌と言うほど味わった。

全ての犠牲の責を負い、それでも繰り返さないといけない苦しみ。

その中で摩耗し、心は壊れ、人としての感情が無くなっていく恐ろしさ。

例え方法があっても過去を改変してはいけないんだ。

あったかもしれない可能性を現実にしてはいけない。

未来は、誰にもわからないもので、やり直しが聞かないからこそ、

あらゆる不幸も、苦しみも、理不尽な事故も、人は受け入れ、前に進むことが出来る。

それが、人としてあるべき道。

だから世界線を変えてはいけない。

この世界線で私は生きていく。

460: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:00:17.41 ID:IN/s0h3yo

完全なリーディングシュタイナーを持つ私の脳内には、この世界線に存在しないはずの知識が大量に詰め込まれている。

だから、その知識に基づいて行動を選択してしまうと、「世界線の確定した未来」を大幅に変動させてしまう恐れがある。

α世界線漂流の時だって、改変された世界線を元に戻すという行動が選択できたのは、改変前の世界線の記憶を引き継いでいたからだった。

言い方を変えれば、「確定した世界線」は、別の世界線からの"情報"によって初めて「確定」が破たんする可能性が生まれる。

あくまで可能性だけどね。この段階では確率的にしか選択は存在しない。

たとえ別の世界線の過去や未来から情報が送られてきたとしても、それが無意味なものだったり、理解不能なものだったりすれば、"情報が送られた"という事象以外の再構成は発生しない。極小変動を起こすにしても、大幅には変動しない。

あるいは、その"情報"が人間だったとしても、ゼリー状で死んでいたり、「確定した」通りの選択を演じ続けるならば、世界線は大きくは変動しない。

8月21日、鈴羽のビンタから私をまゆりが庇ってくれた時、世界線が変動した。あの時の私は錯乱してたけど、リーディングシュタイナー特有のめまいがしたのは間違いない。

だけど、あの場に居た誰もが記憶を継続していた。これは、記憶の再構成が起こらない程度の世界線変動だった、という意味じゃなかった。

過去が全く変わっていない世界線変動が起こっていた。過去は変わらず、未来だけが変化した世界線変動だった。

いや、2036年時点の鈴羽の視点からしてみれば、タイムマシンによって過去を変えた、ということになるのかな。

変動率の幅はわからないけど、私がめまいを感じるほどだったのだから、それなりには変動したはず。

461: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:02:56.11 ID:IN/s0h3yo

その原因はおそらく、私と鈴羽のやりとりのせいで、まゆりやダルに「確定した世界線」通りではない行動をとらせてしまったことだと思う。

具体的に言えばそれは、まゆりが私を庇う、ということ。

改変の結果を基にして世界線は再構成される。だから、改変後は、「まゆりが私を庇った場合」の世界線として再構成された。

改変前の世界線では、「まゆりが私を庇う」ことは確定してなかったんだと思う。元の世界線では、私は鈴羽にビンタされていたのかもしれない。

されたところで、2回目の救出へと向かったとは思えないけどね……。

もしかしたらあの瞬間、まゆりにも微弱なリーディングシュタイナーが働いて、まゆり自身よくわからないままに別の世界線の自分の記憶に突き動かされた結果だったのかもしれない。

とは言っても、β世界線という大きな収束がある。ロトくじ改変時のように、ロトくじ関係以外は特に事象が改変されていない、ということもある。

「まゆりが私を庇う」ことで、それほど未来は大きくは変わらなかったのかも知れない。改変後も改変前も、中身はほとんど同じ世界線の可能性もある。

……いや、それは無いか。過去を改変しようと意気込んでいるタイムトラベラーの精神状態を大きく揺さぶったわけだから、きっと「確定していた未来」が大きく変わったはずだ。

そして未来が変わっているなら当然鈴羽の記憶の中身も変わっているだろう。かつてタイムリーパーの綯が、殺戮者から守護者へと変わったように。

今となっては、鈴羽の何が変わったかはわからず仕舞いだけど。

462: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:04:01.79 ID:IN/s0h3yo

私はもうこれ以上余計なことをしてはならない。確定した世界線を変えてしまうような選択をしてはならない。

もしそんなことをすれば、その瞬間、世界線は何の前触れもなく、バタフライ効果によって変化の過程が不明のまま、因果が再構成されてしまう。

私の主観からすれば、ある日突然北海道へ引っ越していたり、ラウンダーの一員になっていたり、雷ネッターチャンピオンになっていたりする、意味不明な世界線に跳ばされる、なんていう可能性もあるわけだ。

たとえそんな世界線だとしてもβ世界線である限りはまゆりは死なないけど、それでも、これ以上私の周りが不幸になる可能性はゼロとは言い切れない。

鈴羽も、私ほどじゃないけどその危険性を持つ人物と言える。私と鈴羽が共に行動すれば、危険度は何倍にも膨れ上がるだろう。

鈴羽と接する時は慎重にならなければならない。鈴羽が暴走しそうになったら、私が止めなくちゃいけない。

463: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:05:07.08 ID:IN/s0h3yo

α世界線での時間漂流は、すべて私の迂闊な行動のせいだったんだ。

もしもあの時の私がダルにメールを送らないという選択さえしていれば、α世界線は永遠に"可能性"の存在のままだったことだろう。

だけど、その選択のおかげで私は紅莉栖と出会い、大切な仲間たちとの日々を過ごすことができた。

私はただβ世界線に戻ってきたわけじゃない。

α世界線での冒険の果てにここへたどり着いたんだ。

このβ世界線こそが、紅莉栖の導き出した答えなんだ。

もう2度と世界の因果律をゆがませちゃいけない。

それは神に反逆する行為。神を冒涜する行為。

神の怒りに触れれば、どんな不幸が待っているかわからない。

464: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:05:57.69 ID:IN/s0h3yo

私はまゆりを助けることができた。ううん、まゆりをあんな運命にしてしまったのは私だった。

だから、これで十分。

天文学的な確率で紅莉栖を救うことができるかもしれない。

でももう、そこに希望は存在しない。理論上は存在しても、事実上存在していない。

望めばまた、世界の因果律は大きくゆがんでしまうのだから。

……まゆりは私を必要としてくれる。

もう鳳凰院凶真は必要ない。ううん、存在しない方がいい。

私はもう頑張らなくいいってまゆりも言ってくれた。

まゆりが居れば、死ぬまでの15年もさみしくないよね。

まゆり……まゆり……っ。



まゆり「なあに、オカリン」



465: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:06:56.94 ID:IN/s0h3yo
2010年9月2日木曜日
岡部家 自室


倫子「まゆ……り……?」

まゆり「疲れちゃって寝てたんだよ、オカリン」ナデナデ

倫子「……うん。そうだったね。膝枕してくれてありがとう、まゆり」

まゆり「えっへへー、どういたしましてなのです」

まゆり「今日は『オカリン退院おめでとうパーティー』楽しかったねー♪ ダルくんに、フェリスちゃんに、るかくん、みーんな集まって!」

倫子「(そう、まゆりにとってはそれで"みんな"なんだよね……)」

倫子「パーティーという名の、うちの青果店の余りもの処分だったけどね。わざわざ池袋に呼んじゃって悪かったかな」

まゆり「ううん、みんな来たいって言ってくれてたからね、いいと思うよ」

倫子「そっか」

まゆり「それじゃ、まゆしぃはもう帰るね。でも、寂しくなったらすぐ呼んでね? おうち近いから、いつでも飛んでいけるのです」

倫子「大丈夫だよ。ありがとう、まゆり」

まゆり「えっへへ~♪」

倫子「(まゆりには……まゆりには、幸せでいてもらいたい)」

倫子「(この世界線でまゆりの幸せは確定してるのかな……)」

倫子「(……どうせ私の寿命は縮まらないし、見てみようか)」

倫子「あ、ちょっとだけ待って、まゆり」

まゆり「うーん?」

466: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:08:13.11 ID:IN/s0h3yo

倫子「(未来予知のギガロマニアックス。周囲共通認識を作るためには自分以外の人間が必要)」

まゆり「どうしたのかな、オカリン」

倫子「……少しだけ、手を握っててくれないかな」

まゆり「……うん。いいよー」ギュッ

倫子「(意識を集中させる。まゆりの未来を妄想してみる……)」


・・・
2011年7月7日
ラジ館屋上


倫子「……鈴羽に、タイムマシンを使わせるわけにはいかない」

鈴羽「そう……つまり、計画を阻止しに来たってことだね」

倫子「どうせ失敗する。鈴羽のやろうとしてることは全部無駄なことだよ」

鈴羽「世界線の収束を回避する方法はきっとある。見つけられないだけで――」

倫子「そんなの、ただの妄想だっ!! 『シュタインズゲート』なんて単なる妄想なんだよっ!!」

467: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:08:58.92 ID:IN/s0h3yo

鈴羽「あたしは父さんの指示に従ってる! 父さんを信じているからッ……!」

倫子「そんなの、ただの思考停止でしょ!? どんなことをしてもどうせ何も変わらない……!!」

鈴羽「あたしは、あたしの意志で父さんを信じた」

倫子「この、アマァ……ッ!」

鈴羽「……あたしを止めることはできないよ」ジャキッ

倫子「じゅ、銃なんか出したって脅しにはならないよ。だって、鈴羽は私を撃てない」

鈴羽「そうかな」カシュッ カシュッ

倫子「ぐっ……ぐああああああああッ!!!!!」

鈴羽「足を撃ち抜くくらいならできる。大人しく車いす生活でもしてなよ」

鈴羽「もうアンタは、私の信じたリンリンじゃない……」


ガチャッ タッ タッ


まゆり「スズさん、やめて!」

468: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:10:12.14 ID:IN/s0h3yo

倫子「まゆり……ダル……うぐぅっ!」

ダル「ちょ、なにがあったん!? い、いま止血するお!!」

鈴羽「邪魔するつもりなら誰だろうと……」

まゆり「違うよっ……。私も、行く」

倫子「なっ……!?」

鈴羽「…………」

倫子「や、やめてっ……まゆり! まゆりまで何を……何を言ってるの……!?」

鈴羽「戻って来られないかもしれないんだよ? 世界に消されるかもしれないんだよ? それでも行くの?」

倫子「お願いッ! やめてッ! 私からまゆりまで奪わないでッ!!」

まゆり「……オカリン」

倫子「わかった、私が行く! 私が行くから、まゆりを、まゆりを連れていかないでぇっ!!」

鈴羽「……ごめん、椎名まゆり。もう時間だ」

まゆり「えっ……」

鈴羽「もたもたしてる暇が無いんだ。悪いけど、もう1人で跳ぶしかなくなった」

鈴羽「椎名まゆりは、岡部倫子を病院に連れて行くべきじゃないかな」

まゆり「あ……」

鈴羽「……さよなら」 


キィィィィィィィィン……


・・・

469: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:11:40.64 ID:IN/s0h3yo

倫子「(――初めて意識的に未来予知ができたけど、タイムリープの時とそんなに感覚は変わらない。むしろタイムリープより気持ち悪さは少ない)」

倫子「(それより、2011年7月7日。ここが分岐点なんだ……鈴羽の言っていた燃料切れのタイムリミット)」

倫子「(そして、この世界線では私がどうあがいても鈴羽は2度目の2010年7月28日へと跳び立ってしまう)」

倫子「(その後、私はまゆりと2人で2025年まで暮らすのかな……)」

まゆり「オカリン、落ち着いた?」

倫子「あ、うん。ありがとう、まゆり」

倫子「……ずっと一緒に居ようね」

まゆり「……うんっ」




倫子「(だけど、まゆりに未来のことは言えない)」


470: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:12:22.00 ID:IN/s0h3yo

倫子「(まゆりに未来の出来事を教えることで、まゆりの行動がこの世界線で確定している通りにならなくなってしまうかもしれない)」

倫子「(未来予知は現象的にはタイムリープと同じだ。未来の記憶を新たに手に入れるのだから)」

倫子「(だから、未来予知をするだけで世界線が大きく変動するようなことはないはず。黙ってさえいれば、全く変動しないと思う)」

倫子「(それでも、少しでも危険は減らしておきたい)」

倫子「(ダルには、私の考えに協力してもらわなければならない。だから、少なくともダルにはα世界線漂流の顛末をすべて話しておこう)」

倫子「(それでいて、その知識を元に行動しないようお願いしないといけない)」

倫子「(……世界を変えることより、変えないようにすることの方が大変そうだ)」

471: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:14:48.91 ID:IN/s0h3yo
2010年9月3日金曜日
ラジ館屋上


倫子「(結局、ダルにα世界線の話をするのに1日かかってしまった。一応、私に協力してくれるとのこと。ダルほど信頼できる男はいない)」

倫子「(それで、ダルがタイムマシンを見たいと言うから、ラボに泊まってる鈴羽を呼び出して3人でラジ館屋上へ行こうとしたところ、学校帰りのまゆりと合流した)」

ダル「……鈴羽が僕の娘だってのはよくわかったお。確かにこのタイムマシン、電話レンジに似てるし、僕が作ったような趣味も散りばめられてる」

倫子「世界線をこれ以上変えないためにも、ダルには2036年までにこれを完成させて、それで未来の鈴羽を2010年8月21日に送ってもらう必要があるの」

ダル「ハァ。まさか電話レンジがタイムマシンだったなんてな……あれ、作り直すのはダメなん?」

倫子「だっ、だめだよ! 少なくとも私が死ぬまではタイムマシンは作らないで!」

まゆり「オカリン……」

倫子「あれは本当に世界中の組織や研究機関が狙うレベルの危険なものなんだよ!? 生存収束がどの程度かわからない以上、みんなの命が危ないんだよ!?」

ダル「わ、わかってるって。オカリンの心配はもっともだお。最重要機密でコツコツ研究してくって」

ダル「僕はひとりでもやるよ。鈴羽と約束したからね」

倫子「……ありがとう、ダル」

ダル「それと、鈴羽が今後オカリンたちに危害を加えないよう、父親の僕がしっかり監督責任を果たすお」

鈴羽「…………」

ダル「ほら、鈴羽。ちゃんと謝りなさい」

鈴羽「……ごめんなさい、リンリン。ごめんなさい、椎名まゆり」グッ

472: ◆/CNkusgt9A 2016/02/29(月) 00:15:47.81 ID:IN/s0h3yo

まゆり「スズさん、頭あげて? まゆしぃはね、怖かったけど、スズさんと仲良くなりたいな……」

倫子「(まゆりには現状の説明だけしておいた。α世界線での具体的な話は一切していない)」

鈴羽「許してほしいなんて思ってない。これがあたしの使命だから……リンリンに嫌われても、リンリンの心を壊してでも、それでもあたしは……!」

倫子「(わかってる、鈴羽の気持ちは痛いほどわかってる……だけど、私が過去へ行けばまた紅莉栖を……っ)」

倫子「……う、うぅ、おえぇっ!」ビチャビチャ

まゆり「オ、オカリン!?」

鈴羽「リンリン……」

倫子「ご、ごめん……ハァ……私は、もう……ウップ」

まゆり「スズさん、お願いだから今は、今だけはオカリンを過去に連れていかないでっ!」ウルウル

鈴羽「……わかっ、た。わ、かった、よ……」グッ

ダル「……今日はもう帰った方がいいお。オカリンは充分頑張ったって。ゆっくり休んで、復活に向けてパワーを蓄えるといいのだぜ」

倫子「うん……鈴羽、お願い。この世界線の確定した事象から外れるような行動を取れるのは、私達タイムトラベラーだけだから。余計な行動をしないよう、気を付けて」

鈴羽「わかった……」

475: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:46:27.09 ID:1A8ym4qHo
2010年9月4日土曜日
岡部青果店


まゆり「旅行に行こう!」

倫子「……え?」

まゆり「まゆしぃは考えたのです! オカリンがどうしたら元気になってくれるかなーって」

まゆり「それでね、るかくんと相談したら、旅行に行くと気分がリフレッシュできるかもって」

倫子「い、いや、いいよ。あんまりお金ないし」

まゆり「オカリンのおとーさんとおかーさんもね、一緒に行くのです!」

倫子「はぁ!?」

岡部父「お、いいねぇまゆりちゃん! 倫子の退院祝いだな、任せとけってんだい!」

岡部母「そうねぇ、ここのところずっと旅行なんて行ってなかったものね」

476: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:47:26.72 ID:1A8ym4qHo

まゆり「それでね、オカリンはどこに行きたい?」

倫子「どこって……うーん……」

倫子「(誰も知らないだろうけど、私はこの間青森まで行ったんだよね……)」

岡部父「金のことは気にすんな。パーッと使って、元気になってもらわなくちゃな!」

岡部母「その分お父さんが働いてくれるから」

岡部父「……お、おう!」

倫子「(あれからうちの両親は色々と気遣ってくれている。心配かけてしまって申し訳ない……)」

倫子「そうだなぁ、敢えて言うなら――」

倫子「――宇宙<そら>、かな」

まゆり「そら?」

477: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:49:04.89 ID:1A8ym4qHo

倫子「あ、別にまゆりにムチャ振りしてるわけじゃなくてね! ほら、まゆりって天体観測が好きだったでしょ?」

まゆり「うん! 子どもの頃、おばあちゃんの背中におんぶされてね、おばあちゃんにお空のお星様のこと、いっぱい教えてもらったんだー」

岡部父「へぇ、あの婆さんが」

倫子「私はソラが好きじゃなかった、ううん、嫌いだったんだけど、私もソラのこと、好きになりたいなって思って」

倫子「(だって、これからの15年間はまゆりと生きていくんだから)」

まゆり「うわあ、うれしいなぁ……えっへへー」

倫子「だから、つくば辺りに行こう。あそこだったら秋葉原からTXで1本で行けるし」

倫子「(金もそこまでかからないだろうし、宇宙関連の体験施設でまゆりと遊べればいいかな)」

まゆり「えー、そんなに近場じゃ旅行にならないよー」

岡部母「今調べたら、丁度来週頃、種子島でH-ⅡAロケットが打ち上げ予定らしいわよ」

倫子「た、種子島!?」

岡部父「おお、いいじゃねえか! ロケット打ち上げなんて男のロマンだぜ!」

まゆり「それじゃあ、種子島へ行こうなのです!」

478: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:50:52.28 ID:1A8ym4qHo
2010年9月11日土曜日
鹿児島 天文館


まゆり「オカリンオカリン、海に浮かぶお山から煙が出てるよー! あれって噴火してるのかなー」

倫子「まさかホントにここまで来るなんて……」

倫子「(そういうわけで私たちは種子島に2泊3日の旅行に行くことになったのだった。まゆりは1日だけ学校を休んで付き合ってくれている)」

倫子「(ロケット打ち上げってのは予定がずれることの方が多いから、もしかしたら見れないかもしれない)」

倫子「(それでも、9月の鹿児島の南国な気候は、私の心と身体を癒してくれている気がする。それだけでも来てよかった)」

倫子「(――紅莉栖の実家の青森から反対のところでもあるし)」

まゆり「……ねえオカリン。こうやって、知らない街に来ちゃったりしたらね、思い出すね」

倫子「ん、何を?」

まゆり「昔、2人で"てきちしんにゅー"したことあったよね。あの時も隣の駅まで大旅行だったのです」

倫子「……そんなこともあったね。あの時はまゆりが泣いて大変だったよ」

まゆり「えへへ。まゆしぃは泣いちゃってたけどね、オカリンがいたから平気だったよ」

まゆり「あの時からね、まゆしぃはずっと決めてたんだぁ。まゆしぃは、オカリンの人質だから役に立ちたいって」

まゆり「今度はまゆしぃの番だね!」

倫子「(……まゆりが居るから、涙が出ても平気なのかもしれない。紅莉栖が居なくても、まゆりが居るから……)」

まゆり「あ~! このお菓子も美味しい! "げたんは"さん、おいしいよー、オカリン!」

倫子「どれ一口……う゛っ゛! あ、甘すぎる……」

479: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:51:58.07 ID:1A8ym4qHo
鹿児島湾上
種子島行フェリー『あねもね号』デッキ


倫子「(鹿児島港16時発の高速船に乗った。飛行機でも良かったんだけど、まゆりが『この方が旅行っぽい』というので仕方なく船に)」

まゆり「すごーい! イルカさんがまゆしぃたちと一緒に泳いでるー!」

倫子「へえ、鹿児島湾ってイルカが居るんだね。自然のイルカって初めて見たかも」

まゆり「きっとまゆしぃたちを応援してくれてるんだよ。だからね、オカリンもきっとすぐ元気になるよ」

倫子「まゆり理論は相変わらずトンデモだね。イルカが船と並走するのは、その方が楽に泳げるからなんだって」

まゆり「えー、違うよー」

??「鹿児島湾じゃなくて、ここは錦江湾っていうんだよ。お姉さんたち、東京の人?」

倫子「お、そういうキミは地元の子かな?」クルッ

??「(うおっ、スッゲー美人……さすが東京人……)」ドキドキ

480: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:52:59.81 ID:1A8ym4qHo

海翔「え、えっと、俺、種子島に住んでる八汐海翔<やしおかいと>。小学3年生」

まゆり「とぅっとぅるー♪ まゆしぃはね、まゆしぃ☆です」

海翔「東京の挨拶はわかんないや……。お姉さん、東京から来たってことはさ、ゲーム強かったりする?」

倫子「ゲーム? んー、ダルならADVゲーかネトゲ。綯なら格ゲーがすごく強かったけど、私が最近やったのはアルパカマンくらいかも」

倫子「(もちろん小さい頃はそれなりにやってたけど、私は基本雷ネットとかいうアナログゲームでさえまともにできないゲーム音痴なんだよね……)」

海翔「アルパカマン? どうせお姉さんさ、西之表に着くまでは暇だろうから、一緒にゲームで対戦しない?」

海翔「『黄金狼ファイター』。もう1台PSP持ってるから、コレ使ってよ」

倫子「子どものくせにリッチなことを……!」

海翔「違うよ、ミサ姉、知り合いの姉ちゃんから友達と遊ぶ用に借りただけ。俺1度東京の人と戦ってみたかったんだよねー」

まゆり「でも、学校のみんなはあっちに居るけど、先生に怒られたりしないの?」

海翔「大丈夫、東京の人と交流するのも充分社会科見学だって言い訳するから。さ、勝負しよう!」

倫子「よし、ここは東京代表として実力差を見せつけちゃおうかな!」

まゆり「がんばれー、オカリーン!」

481: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:54:12.23 ID:1A8ym4qHo

倫子「ま、負けました……」ガクッ

海翔「弱いなぁ。まあ、暇つぶしにはなったよ。お姉さんたち、TNSC(種子島宇宙センター)のロケット打ち上げを見に来たんでしょ?」

まゆり「そうだよー。えっと、   なロケット?」

海翔「H-ⅡAロケット18号機、ね。準天頂衛星初号機『みちびき』を搭載してる」

まゆり「そっかー、お星さまをお空へ飛ばすんだねー」

倫子「人工衛星ってお星さまなのかな?」

海翔「この準天頂衛星システムってのは、山とか高い建物のせいで人工衛星からの電波が届きにくいところにも電波を届ける役割があるんだ。その初号機で、実証実験をするんだって」

まゆり「詳しいんだねー。将来の夢は宇宙飛行士さんかな?」

海翔「いや、今のは人工衛星の話でロケットの話じゃないんだけど……うん、まあ、そんなところ」ポリポリ

海翔「見学するんだったら長谷展望公園より宇宙ヶ丘公園がいいよ。あそこは俺のお気に入りの場所だから」

まゆり「そうなんだぁ! 予定通り打ち上げしてくれると嬉しいなぁ」

海翔「アキちゃんさー、おじさんからロケット打ち上げについてなにか聞いてない?」

あき穂「えっとねー、たしか今日の夜って言ってたー」

海翔「良かったね、お姉さんたち。この子のお父さん、TNSCの職員だから、たぶん今日の夜打ち上げだと思うよ」

海翔「わざわざ東京から来て見れないのはもったいないから」

倫子「うん、楽しみだね……!」

482: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:56:12.23 ID:1A8ym4qHo

結局、私たちはロケット打ち上げを見ることができなかった。

後に『あねもね号集団失神事件』と呼ばれる事件に巻き込まれてしまったからだ。

乗員乗客約110人を乗せたフェリーの中で、西之表港到着のだいたい30分くらい前になって、次々と乗客が体調不良を訴え始めた。

そしてほんの数分で、乗員乗客全員が意識を失った。

幸いにしてその後、意識を失った人は一部を除いてすぐに気が付き、船長の的確な指示で大きな事故も無くあねもね号は運航を再開。予定より約1時間遅れで西之表港に無事到着した。

だけど私は昏睡状態に陥り、種子島の病院に緊急搬送された。

まゆりは事件後すぐ目を覚ましていたらしく、24時間近く目を覚まさなかった私はまたまゆりに心配をかけてしまった。

自分のせいで私がまた酷い目に遭ったのだと迷信めいたことを言うまゆりをなだめすかすのは大変だった。

おかげで旅行は台無し。私が意識を取り戻した後はすぐに飛行機に乗って東京に戻り、AH東京総合病院で診てもらうことになった。

私としてはあの病院には行きたくなかったけど、世話になった医者が居るのでその方がいいと両親から強く推された。もっともなので従うしかなかった。

一応全身を調べてもらって、まゆりも親父もおふくろも身体に異常はなかった。

私は前科があったから特に脳を詳しく調べられた。やたら色々検査されたみたいだけど、診断結果は"日常生活に問題なし"とのこと。

後になって、失神事件のせいでエレファントマウス症候群とかいう奇病に罹った小学生が2人居た話を聞いた。

もしかしたらってことでまた病院に呼ばれて再検査もされたけど、その時も私の脳に異常は見つからなかった。

ただ、今はまだ発症してないだけで、自分にも充分その可能性があるという。

483: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:57:41.01 ID:1A8ym4qHo

いっそのこと、リーディングシュタイナーもギガロマニアックスも、すべてかき消えてしまえばよかったのに。

そうしたらもう、普通の女の子に戻って、陰謀とか世界とかと無縁の日々を送れるのに。

そんなことを思いながら私はなんとか大学に復帰し、久しぶりの日常が始まった。

春期と変わったところは大きく3つ。

1つはAH東京総合病院に紹介してもらった池袋のメンタルクリニックに通院するようになったこと。

1つはゼミの活動に積極的になったこと。これは今の私の目標と関わっている。

そしてもう1つはラボに足が向かなくなったことだ。これは単純に忙しくなってしまったからとってのもあったけど、どうしても気持ちが進まなかった。

まゆりに常々一緒に行こうねと言われているので、身体のことやゼミの仕事が落ち着いたら行こうとは思っている。

11月になって、アメリカにも行った。紅莉栖の墓参りをひとりでこっそり実行した。

まゆりの応援のおかげかはわからないけれど、私は着実に紅莉栖の死を受け入れ、病状を快復している。

そうして自分の心身が安定してきたある日、私は臨床心理士に勧められて催眠療法を受けてみることにした。

484: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:58:46.70 ID:1A8ym4qHo
2010年11月22日月曜日
池袋 メンタルクリニック 施術室


心理士「さぁ、岡部さん。リラックスしてください」

心理士「あなたは私の声を架け橋として、過去へと降りていきます。どんどん、どんどん降りていって……やがて柔らかい色をした光が見えてきます」

倫子「…………」

心理士「その光は何色に見えますか?」

倫子「……赤」

心理士「(赤、ですか。珍しいですね……)」

心理士「その光の中に、あなたの大切な人が立っています。その人はあなたの家族でしょうか?」

倫子「いや……」

心理士「では、友人? それとも恋人」

倫子「……恋人……」

倫子「いや、恋人じゃない。友人でもない。知人でさえないんだ……」

心理士「では、どういう?」

倫子「私と……紅莉栖は……」

485: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 11:59:12.07 ID:1A8ym4qHo


  『こっちに来てくれない? だ、大丈夫よ! 怖くないから、一緒に行こう?』


  『世界線を超えようと、時間を遡ろうと、これだけは忘れないで。いつだって私たちはあんたの味方よ』


  『それでも――私は、岡部を信じる』


  『私も、岡部のことが だ   い       す           』



486: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:00:28.77 ID:1A8ym4qHo

倫子「うぐっ……許して、紅莉栖、許して……」ツーッ

倫子「仕方なかったの……これしかまゆりを助ける方法はなかったの……」

倫子「紅莉栖が居ないと私、なにもできない……」

倫子「世界線の収束にも抗えない……奇跡の世界線へもたどり着けない……」


『あなた……を……まもれな……かっ……』

『……死にたく……ないよ……』

『こんな……終わり……イヤ……』

『たす……けて……』


――牧瀬紅莉栖が男に刺されたみたいだ。男が誰かはしらないけどさ。ヤバいかも。大丈夫かな。


倫子「私がぁっ! 私が刺したのっ!! 私がぁぁぁっ!!」ジタバタ

心理士「お、岡部さん!?」

倫子「あああああああああっ!!!!」

心理士「いいですか? 私があなたの肩を叩きます。それを合図に意識がもっとハッキリしてきますよー」

心理士「3、2、1……はいっ」トンッ

倫子「あ……う、うぅっ……」ツーッ

心理士「少し休んでいてください。今、お水とタオル持ってきますから」

倫子「タオル……? あ、全身汗だくになってる……」

倫子「(……紅莉栖の死を受け入れたつもりだったけど、そう簡単にはいかないよね)」ハァ

487: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:01:13.77 ID:1A8ym4qHo
池袋 メンタルクリニック外


まゆり「あ、オカリン! どうだった……?」

倫子「たいしたことないって。ありがと、まゆり。わざわざ待っててくれて」


・・・

心理士『岡部さんのケースはトラウマがかなり強いので催眠療法は危険ですね』

心理士『今まで通りカウンセリングと投薬で経過を見ましょう。精神安定剤をお出ししますから』

・・・

まゆり「ううん、まゆしぃのことは気にしなくていいよ」

倫子「夕飯、まだだよね。今日はおごるよ」

まゆり「え? でも……」

倫子「たまにはいいでしょ。まゆりには世話になってるし、ね?」

まゆり「あ、それなら秋葉原に行かない?」

倫子「今から? まあ、時間はあるけど」

まゆり「えっとね、るかくんとフェリスちゃんが久々にオカリンに会いたいって」

倫子「……そっか。それだったら今日はみんなにごちそうするよ」

まゆり「あっ、えっと、そういうつもりで言ったわけじゃ……」

倫子「ううん、いいの。今日はなんだかそういう気分なの。ほら、行こう?」スッ

まゆり「……うん! えっへへー」ギュッ

488: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:05:17.05 ID:1A8ym4qHo
秋葉原 ジョナサン妻恋坂店


フェイリス「凶真~! よくぞ無事で帰還したニャ! 心配したニャぞ~!」ダキッ

倫子「ちょ、抱き着くの禁止! もう、恥ずかしいなぁ」グイッ

倫子「(β世界線のフェイリスは私に躊躇なく抱きついてくる。まあ、元に戻ったわけだから別にいいんだけどね)」

倫子「(一度私を金で買収しようとしたことがあるのはαもβも共通らしい)」

フェイリス「女同士ニャんだし、いいじゃないかニャ」スゥー ハァー

倫子「あ、汗かいたんだから、深呼吸しないでよぉ! それと、"凶真"って呼ぶのも禁止っ!」

フェイリス「えぇーニャンでー?」

倫子「あ、あの名前は、その、く、黒歴史……だから……」プルプル

フェイリス「鳳凰院凶真様ァ! フェイリスめをしもべにしてくださいニャァ!」

倫子「……フェイリス」

フェイリス「きゅ、急にマジトーンはちょっと怖いニャ。だって、凶真は凶真――」

まゆり「フェリスちゃん……お願い……」ウルッ

フェイリス「……なんだかよくわからないけど、わかったニャ、"オカリン"」ハァ

489: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:06:22.81 ID:1A8ym4qHo

フェイリス「凶真の萌えポイントは残念オレっ娘属性にあったけど、今のオカリンはもうすっかりあか抜けて普通に可愛い女の子になってしまったのニャン」

倫子「不満?」

フェイリス「べっつにー」プクー

倫子「ほっぺたつんつん」ツンツン

フェイリス「ウニャァ!! そういう普通の女の子っぽい可愛さは求めてないのニャ!!」ガバッ

倫子「今まで随分フェイリスにいじられたからね、その分のお返しをしておかなきゃ」フフフ

フェイリス「このフェイリスが手玉に取られるニャんてぇ……!」グヌヌ

るか「あ、あの、岡部さん。診察はどうでしたか?」

倫子「うん、すっかり催眠術にかかっちゃった」

フェイリス「ルカニャンも催眠術とかすぐかかりそうニャ」

るか「そ、そんな……」


  『ルカ子よ! 催眠術にやられるなど心の弱い証拠っ! そんなことでは妖刀・五月雨の使い手として失格だぞっ! もっと精進するのだっ!』


倫子「あはは、確かに即効でやられちゃいそうだね」

るか「……そうですね」

490: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:07:10.56 ID:1A8ym4qHo

るか「そういえば岡部さん。ボク、時々ラボに顔を出すんですけど、ここのところずっとラボに来てないって橋田さんに聞いて……」

倫子「……なかなか行けなくてごめんね。明日を過ぎれば行けるようになるかも」

フェイリス「最近ちっともお店に来てくれなくなったのもそれが理由かニャ? 明日、何かあるのかニャ?」

倫子「ATF<アキハバラテクノフォーラム>の準備で忙しくてさ。それと、サークルに入ったばかりで色々やらされてたし」

るか「サークルに入ったんですか!?」

フェイリス「やっぱりUFOとかUMAとかかニャ? それともオカリンを教祖とする宗教サークルかニャ?」

倫子「フェイリスは私をなんだと思ってるの。テニサーよ、テニサー」

るか&フェイリス「「えええーっ!?!?」」

フェイリス「今すぐ辞めるニャ! このままじゃ、オカリンが  サーの姫になってしまうのニャァ!」ガーン

倫子「ちょ、ここファミレス!」アタフタ

るか「岡部さんが、合宿と称した××××で、先輩たちにパワハラで●●●●を強要されて△△△△されるなんて、ボク、ボク……!」ウルッ

倫子「お前は思春期の高校男児かぁっ! ……って、そうだったんだった」ガックリ

まゆり「ゼミのせんせーがテニスサークルの顧問さんなんだよねー」

倫子「そういうこと。だから、どっちかっていうと単位とか顔利きのためにやってるだけ」

るか「そ、そうなんですか。よかったです……」ウルウル

491: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:07:54.71 ID:1A8ym4qHo

フェイリス「ってゆーか、オカリンってテニスできるニャ?」

倫子「私、運動音痴だからね。一応試合はお情けで勝たせてもらってるけど、練習とかはしてないよ」

るか「えっ? それじゃ、なにをしてるんですか?」

倫子「……合コン、とか」

るか&フェイリス「「えええーっ!?!?」」

フェイリス「オカリンに変な虫がついちゃうニャァ! 酔った勢いに任せてお持ち帰りされちゃうのニャァ!」

倫子「だぁっ! 大声を出さないでってばぁっ!」アタフタ

るか「岡部さんが、合コンと称した××××で、先輩たちにアルハラで●●●●を強要されて△△△△されるなんて、ボク、ボク……!」ウルッ

倫子「天丼!!」

まゆり「いいなー。まゆしぃもオカリンと合コンしたいのです」

フェイリス「それが良いニャ! それなら安心ニャ! 次からはマユシィも連れて行くよーに!」ビシッ!!

るか「で、でも、まゆりちゃん、合コンって何かわかってる?」

まゆり「みんなで楽しくパーティーするんでしょー?」

るか「パ、パーティーだなんて、そんな……せ、せめてハプニング××で……///」

倫子「この話題やめようか。健全な男子高校生が居る目の前でこの話題やめようか」

492: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:09:00.51 ID:1A8ym4qHo

まゆり「そうそう! まゆしぃね、ダルくんと一緒に考えてるおぺれーしょんがあるんだー」

るか「オペレーション?」

フェイリス「どんな作戦かニャ?」

倫子「(まるで昔の私みたいなことを言い出しちゃったな……)」

まゆり「えっとねー、"スズさんを笑顔にしようだいさくせーん"!」

フェイリス「内容までわかっちゃったニャ」

倫子「……鈴羽、か」

倫子「(9月にラジ館屋上で会って以来、鈴羽とは1度も会ってない。どんな顔して会えばいいのかわからなくて……)」

倫子「(たぶんあいつは、過去に跳ぼうとしない私を嫌ってるはずだから……)」

まゆり「……オカリン。スズさんの話しても、だいじょうぶ、かな……」

倫子「……うん。大丈夫だよ、まゆり。むしろ、まゆりは大丈夫なの?」

倫子「(おぼろげにしか覚えてないけど、まゆりはあの時鈴羽に結構ひどいことをされた。それでもまゆりはラボの雰囲気を少しでも良くするためにここ3か月動いてきたんだね……)」

まゆり「あのね、スズさんはね、普段から怖いんだけど、でもね、でもね! 本当は、優しい人なんじゃないかなーって」

まゆり「タイムマシンさんの話さえしなければね、きっとオカリンにひどいことしないと思うし……」

フェイリス「……でも、マユシィに銃口を向けたニャ。正直、それだけは赦しちゃいけないことだと思うニャ」

るか「そ、そうだよまゆりちゃん。岡部さんに幻覚症状を起こさせたのも阿万音さんだって聞いてます」

倫子「……赦すよ」

フェイリス「ニャ?」

るか「えっ?」

493: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:09:43.93 ID:1A8ym4qHo

倫子「鈴羽だって、18歳の女の子なのに、背負いきれないものを背負って、26年前っていう孤独な世界に居るんだから……」

倫子「私が悪いの。鈴羽は、全然悪くないんだよ……私だって、本当は鈴羽と仲良くしたいよ……」グスッ

フェイリス「ニャニャ……」

るか「岡部さん……」

まゆり「だ、だからね? スズさんを本当の笑顔にしてあげれば、オカリンも、みんなも、もっともっと元気になると思うのです」

まゆり「……オカリンが元気になるためにはね、ズスさんの笑顔がなきゃって、まゆしぃ、気付いちゃたのです」

倫子「まゆり……」

フェイリス「ニャるほど。マユシィの言うことも一理あるニャン。オカリンもそういう風に考えてるなら、フェイリスは何も言わないニャン」

るか「そ、そうですね。みんなで仲良くが一番ですよねっ」

フェイリス「それで、具体的には何をするのかニャ?」

まゆり「もうすぐクリスマスでしょ? だから、クリスマスパーティーをしようと思いまーす!」

倫子「……いいね、うん。いいと思う」

フェイリス「そうと決まれば、楽しいパーティーに向けて勇往邁進ニャ!」

るか「お料理なら任せてくださいっ」

まゆり「よかったー。まゆしぃは衣装づくりをがんばっちゃうのです!」

倫子「みんな……。ありがとう」エヘヘ

494: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:10:41.42 ID:1A8ym4qHo
裏路地


まゆり「まゆしぃはこれからちょっとラボに寄っていこうと思うんだけど、オカリンも行かない?」

倫子「もしかしてまゆり、それが今日の目的だったり?」

まゆり「えっへへ~♪」

倫子「(策士に成長してる……!)」

まゆり「ダルくんも寂しがってたよ? 学校でもなかなか会わないって」

倫子「う、うん。なんか私のシンパ? ファンクラブ? が勝手に結成されちゃって、ダルと会いづらくなってるんだよね……」

まゆり「あとね、ユキさんからも今日行くかもしれないってメールがあったんだー」

倫子「ユキさん……って、鈴羽の母親になる人か」

まゆり「オカリン、まだユキさんに会ったことないでしょ? すごくきれいで優しくてとっても素敵な人だよ」

倫子「ダルにはもったいないね」フフッ

まゆり「ん~? ……あーっ、そっかー! そういうことになるんだもんねー! ダル君はかほうものだねぇ~♪」

倫子「わかってなかったのか……」

495: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:13:12.88 ID:1A8ym4qHo
一方その頃
未来ガジェット研究所


鈴羽「……ねえ、父さん。お願いだから、不健康な食生活、やめてほしいな」

ダル「今アフィくさい対立煽りのIP特定中だからちょっと待って――」

鈴羽「父さんっ!」ガチャ

ダル「……その拳銃を抜く癖、どうにかならんの?」

鈴羽「あっ……ご、ごめん、なさい」シュン

ダル「(鈴羽に手をあげちゃった手前、あんまり強く言えん罠……)」

ダル「いやもういいって。父さんもちょっと無神経だったお。ごめんな、鈴羽」

鈴羽「……っ」

ダル「鈴羽が悪いんじゃないってわかってるお」

ダル「悪いのは、世界の方だ。戦争が鈴羽を、そうせざるを得ない状況にしてしまったんだよな」

鈴羽「父さん……ごめんね……こんな娘でごめんね……」ダキッ

ダル「そういうこと、言うもんじゃないお。つか、このやりとり何回目だよ」

鈴羽「うん……」

ダル「(こういう時くらい、涙を見せてくれてもいいと思うのだぜ……)」

496: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:16:04.04 ID:1A8ym4qHo

ダル「でもさ、好きなモノくらい食べさせてほしいわけだが。僕の秘密のバイト、知ってるっしょ? 海外のクライアント相手だと時差もあるし、睡眠不足でストレスがマッハだお」

鈴羽「この時代の父さんってどんな仕事してるの?」

ダル「いや言える訳ねーだろ常考」

ダル「(300人委員会と繋がりがありそうなところの仕事を狙って請け負ったりしてるのはまだ言わない方がいいよな……スパイってほどじゃないけど、敵から情報を引き出そうとしてるのがバレたら鈴羽怒りそうだし)」

鈴羽「そうじゃなくて、ハッキング? って、どういう技術が必要なのかなと思って。才能も必要?」

ダル「鈴羽もハッキングに興味あるん? さすが僕の娘。うーん、そうだなぁ」

ダル「確かに僕みたいに才能があれば楽勝、ってこともあるけど、それ以上に経験や蓄積も要求される罠」

ダル「特に、最後の『鍵』を素早くこじあけてセキュリティを破る時は、発想と同時に経験がものを言うことが多いお」

鈴羽「鍵?」

ダル「無数に存在する選択肢の中からたった1つの正解を導き出すっつーの? これの繰り返し作業がハッキングなのだぜ」

ダル「ま、僕くらいの超一流ハッカーともなると、勘で一発K.O.だったりするわけだが」

鈴羽「ふぅん……リンリンにも、スーパーハッカーになってもらわないとね」

ダル「いや無理っしょ」

鈴羽「そうじゃなくてさ。シュタインズゲートをこじ開ける鍵を手に入れてもらいたいんだ」

ダル「あー、なる。"世界のハッキング"は神の目を持つオカリンにしかできないわけっすな」

鈴羽「そういうこと。父さんにしかできないことがあるように、リンリンにしかできないことがあるんだよ」

497: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:17:39.91 ID:1A8ym4qHo

ダル「ま、僕は僕で研究資金稼いだり、仕事や大学でコネクション作っとかないと、2036年まで持ちそうにないっつーかさ。だから食生活のことは大目に見て欲しいんだお」

鈴羽「未来の父さんもそんなことばっかり言って、母さんに叱られてた」

ダル「オウフ……いや、それにタイムマシン研究も大変なわけっす。オカリンは全然手伝ってくれねーし、癒しが欲しいんだよねぇ」

鈴羽「あ、あたしが応援してあげてるじゃん」ムーッ

ダル「それだけで元気100倍なんだけどさ、時々自信なくなるんだよね。僕、ほんとにタイムマシンなんて作れんのかなって」

鈴羽「大丈夫だよ。だって、父さんは父さんだもん。未来から来たタイムマシンを精査なんかしなくても、絶対に作れるよ」

ダル「確定した未来が変動するようなタイムパラドックスが発生するからダメってのは、わかってはいるのだぜ?」

ダル「(……けど、そのタイムマシンのせいで鈴羽がつらい思いをしなきゃいけなくなると思うと、研究しててむなしくなるんだよな)」

鈴羽「タイムマシンはね、この最低最悪の世界線を変える作戦の嚆矢なんだ。そんなすごいものを作り上げちゃう父さんを、あたしは誇りに思ってるよ」

ダル「……全俺に嫉妬! この場合、すごく正しい意味で」

鈴羽「元居た世界線の父さんも、こっちの世界線の父さんも、あたしにとってはどっちも大好きな父さんだってば」ダキッ

ダル「つかさ、どうして鈴羽はそんなにパパっ娘なん? その歳頃だと、パパの洗濯物と一緒に洗わないでーとか言っちゃうのがセオリーだと思われ」

鈴羽「んー、リンリンのおかげかなぁ。お前の父さんは世界一頼れるスーパーハッカーだーって、そればっかり言われて育ったから」

ダル「(きっと僕が幼い鈴羽にハァハァしようとしたらオカリンが全力で阻止してたんだろうなぁ)」

鈴羽「中学から軍属になっちゃって、父さんと一緒に居れなくなった時はすごく寂しかったよ。だから、こうしてまた父さんと一緒に居る時間ができて本当に良かった」

鈴羽「この時代に来たことは後悔してないよ。むしろ、送り出してくれた父さんに感謝してる」

ダル「…………」

498: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:19:32.41 ID:1A8ym4qHo

鈴羽「あたしは父さんに頼まれてるんだ……シュタインズゲートを目指せって」

鈴羽「だから、なんとしてもリンリンに過去へ行ってもらわなきゃいけない。牧瀬紅莉栖を救わなきゃいけない」

鈴羽「でも、今のリンリンのままじゃ、世界は、戦争に収束しちゃう……」

ダル「それな……」

鈴羽「あたしは……なにもできない、運命、なの、かな……」ウルッ

ダル「つかさ、諦めんの早すぎだろ常考。もうちょっと頑張ってみるのだぜ」

鈴羽「父さん……」グスッ

ダル「たぶんオカリンは疲れて眠ってるだけだから。目を覚ます時までに僕らが頑張ってなくちゃ」

ダル「焦ることないって。オカリンを信じてるんっしょ?」

鈴羽「……うん。あたしも、リンリンを信じてる」


『~~~♪』


ダル「……こ、この鼻歌は、2016年3月2日リリース『The Sound of STEINS;GATE魂』初収録の、『星の奏でる歌(CV.潘めぐみ)』! 隠れろ鈴羽っ!」

鈴羽「オーキードーキー!」サササッ


コンコン 

『こんにちは~。……あれ、もうこんばんは、かな?』

コンコン

『橋田さ~ん? まゆりちゃ~ん?』


ダル「あー、はいはい。今出るお」ドキドキ


ガチャ


499: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:20:32.57 ID:1A8ym4qHo

由季「今バイトが終わって。いきなり来ちゃってごめんなさい。迷惑でした?」

ダル「いやぁ、とんでもなす」

ダル「(まさかこの人が僕の未来のリアル嫁だったとはなぁ。コミマで出会った時に感じた運命がマジモンとかそれなんて  ゲ)」

ダル「(まあ、オカリンの説明だとリーディングシュタイナーっていうデジャヴだったんだよね。α世界線で鈴羽と会った記憶が、阿万音氏を通して中途半端に再起されたっぽい)」

由季「また可愛いお洋服を見つけちゃったので、まゆりちゃんに見てもらおうと思ったんですけど、まゆりちゃんは今日は……」

ダル「ああ。うん、まだ来てないお。せっかく来てくれて悪いけどさ」

由季「あ、いえ。橋田さんにも見てもらおうと思ってましたし」

ダル「そ、そうなん?」

由季「はい。どうです、これ?」クルッ

ダル「あー……うん。いいんじゃね? うはぁ、天使ktkrって感じ」

由季「ホントですか? ありがとうございます」ニコ

ダル「(僕、ファッションとかわからんし……コスプレならいくらでも議論できるわけだが)」

由季「橋田さんもおしゃれしましょうよ。太っててもおしゃれってできるんですよ? きっと素敵だと思うなー」

ダル「……阿万音氏さ、コミマで出会った時から気になってたんだけど、どうしてそんなに僕によくしてくれるん? もしかしてデブ専なん?」

由季「ふぇっ!? そ、そそ、そんな、私がキモオタで年中半袖のピザメガネに、   い目でフゥフゥ視 してきて、弱みを盾に な要求をされて、私の肢体を滅茶苦茶に、なんて考えてませんからぁっ!!」

ダル「」

500: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:21:27.43 ID:1A8ym4qHo

由季「そそ、そんなことより床がほこりだらけじゃないですか! ダメですよちゃんと掃除しないと!」アセッ

ダル「……ハッ。都合よく意識が飛んで記憶喪失になってしまったのだぜ」

由季「橋田さん、掃除機はどこですか?」

ダル「えっと、カーテンの……(ってあぶね! そこは鈴羽が隠れてるんだった!)」

ダル「あー、僕が持ってくるお」


シャーッ (※カーテンを開ける音)


鈴羽「母さんがHENTAIだったなんて知りたくなかったよ、父さん!」ヒソヒソ

ダル「な、なんとことかわからねーっす」ヒソヒソ


シャーッ (※カーテンを閉める音)


ダル「ほいこれ」

由季「な、なんですか、これ」キョトン

ダル「未来ガジェット5号機『またつまらぬ物を繋げてしまった by 五右衛門』だお。オカリンの力作。まあ、実際に組み立てたのは僕なんだけどさ」

ダル「でも、ここを外しちゃえば普通の掃除機として使えるから。元に戻すのも簡単だし」カチャカチャ

由季「お掃除するための掃除機なのに、分解したら、かえって散らかすことになりませんか?」

ダル「あう……」

由季「ふふふ。でも、もっと散らかしてくださってもいいんですよ。そういう人の方が私、興奮します……」ボソッ

ダル「ん、なんか言った?」

由季「そ、それじゃ、お掃除しちゃいます!」

501: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:22:48.54 ID:1A8ym4qHo


ガチャ


まゆり「トゥットゥルー♪ わぁ~、由季さんがいるよ~!」ダキッ

由季「まゆりちゃーん!」ダキッ

まゆり「由季さん、そのお洋服、可愛い~!」

由季「まゆりちゃんにそう言ってもらいたくて、着てきたんだよー」

まゆり「いいなぁ、まゆしぃも着てみたいのです」

由季「お洋服、取り替えっこしてみる? は、橋田さんが居る目の前で……ハァハァ」

倫子「……お邪魔、します」コソコソ

由季「あ、もしかして岡部さん? お会いできて嬉しいです。噂通り、おキレイですね」ニコ

倫子「すず……由季さん。初めまして」

倫子「(危うく鈴羽と呼んでしまいそうになるくらい似てるなぁ……)」

ダル「おっ。オカリン、今ちょっと未来ガジェット5号機を分解してるお。まあ、すぐに組み立て直すんで安心してくれい」

ダル「(久しぶりだなオカリン、来てくれて本当に嬉しいのだぜ。まあでも、普段通りに接した方がいいよね)」

倫子「えっ、あ、うん。未来ガジェット、ね。えっと、タイムマシン開発は順調?」ヒソヒソ

ダル「うわ、それ聞いちゃうわけ? まったく、電話レンジを組み立て直しちゃいけない上に、ラジ館のタイムマシンを詳しく調べることも禁止だなんて、縛りプレイ厨も涙目な無理ゲーだっつの」

倫子「だって、ダルがタイムマシン作ってくれないと確定した未来から外れちゃうし、でもタイムマシンがあると危険だし……」ウルッ

ダル「……オカリンがつらい立場なのはよくわかってるって。なんだかんだ言って僕はできる男なんで、そこんとこよろしくなのだぜ」ニッ

倫子「ごめんね、ダル……」

502: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:23:19.85 ID:1A8ym4qHo


シャーッ (※カーテンを開ける音)


倫子「(これが今ダルが研究してるタイムマシン関係の資料か……)」キョロキョロ


カタッ


倫子「ん? ……あっ、すず――」

鈴羽「しずかにして!」ギュッ

倫子「ふごっ!! ふごふごっ!!(鼻まで塞がないで! 息が、息がぁぁっ!!)」ジタバタ

鈴羽「リンリン、柔らかくていい匂い……じゃなくて、母さんに見つかっちゃう!!」


ダル「ちょ、どしたんオカリン……って、あちゃ……」

由季「どうしたんですか岡部さん!? って、え、えぇっ!? わ、私が居る!?」

鈴羽「あ、あはは……」

倫子「―――――」ガクッ

503: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:24:25.70 ID:1A8ym4qHo

鈴羽「はじめまして! 至お兄ちゃんの妹の、橋田鈴羽と言います!」ビシィ!!

由季「は、橋田さんの妹さん……? それにしても、私そっくり……」

ダル「いやー、偶然って怖いすなーHAHAHA」

鈴羽「兄がいつもお世話になっています!」ビシィ!!

鈴羽「夜勤のバイトをしているので、奥で寝ていたところ、リンリン……岡部倫子が闖入してきたのでつい抱きしめてしまいました!」ビシィ!!

由季「えっ、バイト? それってどんなバイトなの? 給料は? 交通費支給は? 福利厚生は? 詳しく教え――」

まゆり「オカリン!! オカリン、しっかりして!! 死なないで!!」ユサユサ

倫子「や、やめて、揺らさないで……」ガクッ

鈴羽「あっ……リンリン、ご、ごめん……あたし、またリンリンにひどいことを……」

倫子「い、いや、私こそ悪かった……赦すよ……」クラクラ

鈴羽「こ゛め゛ん゛ね゛リ゛ン゛リ゛ン゛っ゛!!」ダキッ

倫子「も、もうやめてぇ……うわぁん……」ゴフッ

504: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:26:34.48 ID:1A8ym4qHo

まゆり「由季さん、一緒にシャワー浴びよう?」

由季「(は、橋田さんの使ってるシャワールーム……きっとどこかにカメラが設置されているに違いない!)」ドキドキ

由季「うん、いいよ、まゆりちゃん!」ハァハァ



倫子「ダル、テレビ付けて、音量上げて。シャワー室に私たちの話が聞こえないくらい」

ダル「あー、はいはい。1号機くんはっと……あったあった」ピッ ピッ

倫子「それで……由季さんと鈴羽が出会うのは確定した過去なの?」

鈴羽「わからない。母さんからそういう話は聞いたことがないよ」

倫子「ってことは世界線が変わったのかな。でも、めまいを起こすほどじゃないから、過程が変わっても結果が収束してるか……」ブツブツ

鈴羽「ごめんねリンリン。母さんとの接触は最も危険だってわかってたのに……」

倫子「もしかしたらこれから変わるのかも……自分と同じ見た目の人間が居たら誰だって不審に思う……」

倫子「最悪、鈴羽を尾行したり、タイムマシンの情報を外部に漏らしてしまったりするかも……」

ダル「あ、阿万音氏はそんな人じゃないお。なんていうか、秘密とか無理に聞きたがるような人じゃないと思うんだよね」

倫子「私だってそう信じたい。だけど、由季さんの意思とは関係なくそういうことになってしまうかもしれない」

鈴羽「……これから父さんと母さんが仲良くなって、半ば同棲みたいな生活を開始するのは、この世界線の確定事項なんだ」

鈴羽「父さんは、結婚するまで母さんに指一本触れなかったって聞いてる」

鈴羽「その辺が変わってないならたぶん世界線にとって問題ないと思う。とにかく、あたしは父さんの"妹"で通すから」

505: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:27:38.40 ID:1A8ym4qHo

ダル「でも、いずれ阿万音氏に、自分の娘を過去に送らなきゃならんって話しないといけないんだよな……」

倫子「…………」

鈴羽「……母さんを失った時の父さんの顔は、この世の絶望を凝縮させたみたいだった」

ダル「ちょ」

倫子「……っ」

鈴羽「母さんはあたしを無人機の機銃掃射から守って死んだ。母さんを貫通した銃弾は、あたしの胸にも届いたんだ」

鈴羽「傷痕、見る? これが母さんの墓標であり、未来の証明だよ。あたしのえぐれた胸部を見たら、幻滅するかな、はは……」スッ

倫子「ぬ、脱がなくていいっ! やめてっ!」ウルッ

鈴羽「……今リンリンが必死で守ろうとしてるこの世界の未来はね、地獄なんだよ」

倫子「か、過去を改変すれば、もっとひどくなるかもしれない……っ」プルプル

鈴羽「わかってる。いますぐ、じゃなくていい。あたしは、リンリンが復活するって信じてる。だからこんな話もする」

鈴羽「リンリンは、強い。リンリンは、美しい。リンリンは、賢い。リンリンは、正しい。誰よりも、誰よりも」

鈴羽「そんなリンリンが、あたしは大好きだから」ダキッ

倫子「ごめん……ごめんね……」グスッ

ダル「(心という器はひとたびひびが入れば2度とは、っつーけど、オカリンならきっと……)」




テレビ『……! ……! ……!』


506: ◆/CNkusgt9A 2016/03/01(火) 12:28:36.26 ID:1A8ym4qHo

『さて、次はちょっと気になるニュースなんですが――』

『現在アメリカで猛威を振るっている新型の脳炎ウイルスが、すでに日本にも上陸している可能性が出てきました』

『政府および厚生労働省は感染症法にもとづき、全国の医療機関に対して新型脳炎対策と、感染症発生動向の速やかな調査を指示した模様です』

『ここからは、御茶ノ水医科大学の春山壮子教授にお話を伺います』

『新型脳炎は感染力は弱いのですが、潜伏期間が長く突然発症します。症状としては幻覚や記憶障害が主ですね。……たとえば、そうですね……会社で仕事をしていたはずなのに、気がつくと家にいたりとか、会ったこともない人に会った記憶があるとか……あとは、実際には発生していない事件が起こった覚えがある、というような症例が報告されています』

『寝ぼけたりしているのとは違うんでしょうか』

『似てはいますが、夢と違ってもっと症状がハッキリしているようです。時間感覚を失ったり、まわりの人と記憶が一致しなくなるので錯乱状態におちいったり。……ただ、他の脳炎と違いまして、適切な治療を受ければ比較的速やかに完治することが分かっています。それほど恐れることはありません』

『そうなんですか! それなら皆さん、適切な治療を受ければ安心ですね』

『そうですね。適切な治療こそが肝要です』

『症状が現れたり、なにかおかしいと思ったりした場合には、直ちに近くの医療機関か、あるいはご覧の専門病院を受診してください』

『皆さん、下のテロップの専門病院ですよ! いいですか、専門病院ですからね!』

『専門病院では24時間フリーダイヤルにて相談を受け付けています。電話番号は0120――――』

512: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:25:53.74 ID:dLMY1Bq4o
2010年11月23日火曜日(祝)11時26分 
UPX


ゼミ生「それじゃ、倫子は受付頼むね。倫子が居るだけで華があるもんねー」

倫子「そんなこと言って、めんどくさい仕事押し付けてるだけでしょー。もぅ」

倫子「(今日はUPX4階ホールでATFのコンベンションの準備をしていた)」

倫子「(私が所属してる井崎ゼミはこのセミナーに出席してレポートを書かないと単位をもらえない)」

倫子「(というのも、井崎さんもここで講演をするからだ。それでゼミ生総出てお手伝いをしてるってわけ)」

倫子「(……ダルも同じゼミなんだけど、鈴羽に捕まってるらしく、今日はギリギリで来るとか)」

倫子「(井崎さんは准教授にしては歳が若くスポーツタイプの人で、私はかなり可愛がられている)」

倫子「(セクハラもギリギリされている。私からすれば正直言って、同じ空間に居るだけで生理的に耐えられないタイプだ)」

倫子「(それでも、井崎さんと仲良くなっておくことには重大な意味があった)」

513: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:26:36.97 ID:dLMY1Bq4o

倫子「(――ヴィクトル・コンドリア大学。私の、新しい目標)」

倫子「(紅莉栖の残した研究に少しでも近づくこと)」

倫子「(もちろん、紅莉栖の研究を引き継ぐほどの能力が自分にあるとは思えない。だけど、紅莉栖の残した研究に対して、1割程度でもなにか貢献できたらいいなって思ってる)」

倫子「(井崎さんはヴィクコンとコネクションがあるらしく、ヨイショしてあげれば成績のあまりよくない私でもなんとかしてくれないかなーなどと簡単に考えた結果だ)」

倫子「(それに、今回のATFでも夏に引き続いてヴィクコンから講演者が来るらしいから、そっちも見ておきたい)」

??「ちょっと、そこの方――?」

倫子「あ、はい。どうされまし……ん?」

514: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:28:16.89 ID:dLMY1Bq4o

倫子「(うっわー、すごく野暮ったい子。まるで昔の私みたい……)」

少女「(うっわー、すごく美人な人。これが日本の女子大生か……)」ドキドキ

倫子「どうしたのかな。ママとはぐれちゃった?」シャガミ

少女「……っ。えっと、スタッフルームってどこかしら?」

倫子「もしかして、講演者のご家族の方? お名前は?」

少女「……んっ」スッ

倫子「これ、招待者用のゲストカード……ああ、この真帆さんって人の娘さん? お母さんの忘れ物を届けに来てくれたのかな? 偉い偉い」ニコニコ

少女「……ッ!! こっちもよく見なさいよッ!!」スッ

倫子「ふぇっ!? え、えっと……あれ、キミの顔写真の、ヴィクコン脳科学研究所のIDカード……?」

真帆「"ひやじょうまほ"って読むの。誰も読めないから先に言っておくわ」

倫子「……飛び級ってすごいのね。あなたみたいな中学生でも大学院に行けるなんて」

真帆「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」ピィィ

倫子「え!?」

515: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:29:05.91 ID:dLMY1Bq4o

スタッフA「おい、受付に泣いてる女の子が来てるぜ」

スタッフB「迷子かな。受付の大学生も大変だな」


倫子「ちょ、ちょっと突然泣き出してどうしたの!? よしよし、泣かないで? ね?」アセッ

真帆「あなたみたいな……ヒグッ……綺麗な人にまで……グスッ……中学生と、間違えられるなんて……ウグッ……」

倫子「そ、そうよね。大学院生だものね、ごめんね?」ナデナデ

倫子「(うわ、髪の毛ぼっさぼさ……)」ナデナデ

真帆「なでなでしないでぇっ……うわぁぁぁん……」ポロポロ

倫子「どういうことなの……」

真帆「わたし、成人してるのぉ……っ!! 21歳なのぉっ!!」ウルウル

倫子「え? ……ホントだ、"1989年生まれ"。ってことは、私より2つ年上?」ナデナデ

真帆「…………」ウルウル

倫子「…………」ナデナデ

真帆「…………」ウルウル

倫子「…………」スッ

倫子「し、失礼しました、比屋定さん……」

516: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:30:25.31 ID:dLMY1Bq4o

真帆「敬語はいいわ。私、アメリカ生まれアメリカ育ちだし」フンッ

倫子「は、はぁ……(ころっと機嫌が良くなったよ)」

倫子「(でも、脳科学研か……もしかしなくても、紅莉栖のこと知ってるよね)」ジーッ

真帆「……? 私の顔、そんなに気になる? 童顔だから……?」ウルッ

倫子「いやっ! えっと、そうじゃなくてね!? その、昔の私によく似てるなーって思って。あはは」アセッ

真帆「あ、あなたが私に、似てる? それこそとんでもない冗談だわ」

倫子「……つい半年くらい前まではね、私も身だしなみに全く気を使ってなかったの」

真帆「へ、へぇ……なんだか意外ね」

倫子「あなたもオシャレしたらもっと可愛くなると思うな」

真帆「……あ、ありがと」テレッ

真帆「って、そんなことはどうでもいいからっ! スタッフルームの場所を教えなさいよっ!」アセッ

倫子「ふふっ。はいはい。エレベーターまで一緒に行きましょう。あ、迷子にならないように手をつなぐ?」

真帆「泣くわよ!? また泣くわよ!?」

517: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:32:08.80 ID:dLMY1Bq4o

倫子「そう言えば、今日はキミが登壇するの?」

真帆「いいえ。助手兼通訳ってところよ。登壇するのはうちの教授、"Alexis Leskinen"」

倫子「フィンランド人?」

真帆「へえ、詳しいわね……一応彼はアメリカ人よ」

真帆「テーマは"人工知能革命"。興味あるかしら?」

倫子「うん、おもしろそう! 真帆ちゃんの頑張ってるところ、バッチリ見ておかないと!」

真帆「って真帆ちゃん言うなぁっ!」

真帆「……なんだかあなた、紅莉栖みたいな人ね」

倫子「え? なにか言った?」

真帆「ううん、なんでもっ!」


ピンポーン


倫子「あ、ちょうどエレベーターが――――」



萌郁「…………」



倫子「……萌郁?」

518: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:34:19.70 ID:dLMY1Bq4o

萌郁「……?」


倫子「(しまった、この世界線だとまだ面識ないんだった……!)」

倫子「(そう言えば、萌郁はまだ洗脳されたままのラウンダーなんだよね……早いうちになんとかしてあげないと)」

倫子「(……もしそれが『確定した未来』に背く行為だったら? ……余計なことはしない方がいいか)」

倫子「(いずれ世界大戦が起きれば、萌郁だってきっと助からないんだし……)」グッ


萌郁「あの……?」

真帆「ああ。えっと、雑誌社の方、でしたよね?」

萌郁「……お約束通り……取材を……」


倫子「(そっか、この世界線だとアークリライトの仕事を続けてるんだ……)」


真帆「それじゃ、スタッフルームで教授を待ちましょうか。あ、あなた、ここまで送ってくれてありがとう。えっと……」

倫子「あ、ああ。岡部倫子」

真帆「倫子、ありがとう。それじゃ」

倫子「うん、それじゃ」

519: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:35:46.25 ID:dLMY1Bq4o

ピピピ


倫子「っと、まゆりからRINEだ」

倫子「(先週、まゆりと連れ添ってショップへ行き、ケータイをガラケーからスマホに変えた。このRINEというのはダルの作ったメッセンジャーアプリで、便利なので私たちの間で使っている)」


まゆり【トゥットゥルー♪ オカリン~、セミナーさんの準備、順調なのかな?】

まゆり【大丈夫?】

まゆり【辛いなら、途中で抜けてもいいと思うよ】

【大丈夫だよ。ちょっとソワソワしてるだけ】倫子

まゆり【そっか~。お仕事を頑張れば、ごほうびがもらえるって思えばいいんじゃないかな】

【ごほうび?】倫子

まゆり【なにか欲しいものある? まゆしぃが買ってあげようか?】

【別にいいよ笑 まゆりは私のお母さんだね】倫子

まゆり【えっへへ~♪】


倫子「……まゆりは過保護だなぁ。例の旅行のことを未だに自分のせいだと思ってないといいんだけど」

520: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:37:08.22 ID:dLMY1Bq4o

ダル「おー、オカリン。いたいた」

倫子「もう、時間ギリギリじゃない。井崎さんのセミナー、『疑似科学の系譜と中鉢論文』、始まっちゃうよ?」

ダル「オカリンオカリン。今のセリフ、ツンデレ幼馴染属性のキャラっぽくもう一度言ってもらっていい?」ハァハァ

倫子「高校の時のノリに戻らないでよ、気持ち悪い」

ダル「我々の業界ではご褒美ですっ!!」

由季「もう、橋田さん。岡部さんが困っちゃうようなこと、言っちゃダメですよ?」

倫子「えっ、すず……由季さん! わぁ、今日は一段と可愛いですね! ダルもそう思うでしょ!?」

ダル「え、ああ、うん。絶対領域がたまりませんな、まったく」

由季「あはは、照れちゃいます」

521: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:39:54.03 ID:dLMY1Bq4o

倫子「でも、由季さんがどうしてATFに?」

カエデ「オカリンさん、こんにちは。私たちの明路大学もATFと連携してて、さっき偶然ダルさんと会ったんですよ」

倫子「(この人は由季さんの後輩であり、まゆりのコスプレサークル仲間の来嶋かえで。御茶ノ水にある大学の2回生で、雰囲気はお上品な感じで    がすごい)」

倫子「(ホントは"オカリンさん"って呼ぶのはやめてほしい。だって化学薬品みたいな響きだから。"オカリン酸"。まあ、まゆりの友達だから特別ってことで)」

倫子「なぁんだ、てっきりダルが由季さんとデートしてたのかと」

由季「デ、デートだなんて、そんなっ! 私は、バイト帰りでギリギリになっちゃっただけで……」

ダル「こ、この僕がデートとかありえないっしょ。僕には2次元にたくさん嫁がいるわけですしおすし」

ダル「いやあ、そんなに嫁がイパーイいても選べないっつーの! ウホウホウホ、まいっちんぐ」テヘペロ

カエデ「そうですよ、ユキさんが豚ゴリラとデートするなんてありえないです」ニコ

ダル「オウフ……」

倫子「(そしてカエデさんは、例えるならドSの女豹である)」ビクッ


スタッフA「あのデブ、美少女3人に囲まれるとか、許すまじ……」ゴゴゴ

スタッフB「っざけんな! っざけんなよぉ!」ガツン ガツン

522: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:41:25.22 ID:dLMY1Bq4o

由季「あれ? 橋田さん、袖とおなかが汚れてません?」

ダル「あ、ああ。これはさっきまで匍匐前進を……あ、いや、その……」

倫子「(鈴羽か……)」

由季「今拭きますから動かないでくださいね?」

ダル「あ、ちょっ!! も、もう僕行かないとだから、じゃなオカリンっ!!」ダッ

倫子「……ダルのやつ」ハァ

由季「もしかして、私、橋田さんに避けられてるんでしょうか……」

倫子「なぁっ!? そ、そんなことないから! ●●こじらせてるだけだから! ほら、可愛い女の子に優しくされるのになれてないんですよ!」アセッ

由季「でも、岡部さんとはすごく自然に接してますよね」

倫子「そ、それは……」

カエデ「それはだって、オカリンさんってダルさんと付き合ってるんですよね? 美女と野獣というより、調教師と豚って感じですけど」ウフフ

倫子「ハァッ!? 私があんなキモオタピザメガネととか、無理無理無理ッ!!」

由季「とか言っちゃってー」

倫子「い、いや、やめてください由季さん、ホントに……吐き気が……」ウップ

倫子「……私、基本男性恐怖症で、大丈夫なのはダルくらいなんです」

由季「えっ、そうだったの?」

倫子「ほ、ほら! もう始まりますよ! 早く中に入りましょう!」

523: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:42:26.15 ID:dLMY1Bq4o

・・・


井崎「いやぁ、楽しかったね、岡部クン。これじゃ、レスキネン先生の話が霞んじゃうかな、ハハ」

倫子「ソウデスネ、アハハ(棒)」

井崎「んで? 今日このあと、なにか予定ある?」

倫子「えっと、レスキネン教授の講演を聴こうかと……」

井崎「その後だよ。懇親会に来ないかい?」

井崎「セミナー関係者を集めたパーティさ。キミに出てもらえるとうちのゼミのイメージアップにもなるし、レスキネン先生とも仲良くなれるかもよ?」

倫子「……はいっ! 井崎さん、いや、井崎准教授、ありがとうございます!」

井崎「こちらこそよろしく。それじゃ、また後で」


倫子「(こ、これは、ヴィクコンへ近づけるチャンス……!)」

ダル「おっつーオカリン。ごめん、僕すぐ帰らんと」

倫子「えっ? せっかくだし、由季さんと夕食でも食べに行けばいいのに」

ダル「いやあ、この年にして娘に食事制限食らってるんで。ラボには鈴羽もまゆ氏も居ると思うから、オカリンも来たらいいお」

倫子「あー……うん。わかった」

524: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:43:11.90 ID:dLMY1Bq4o

・・・
数時間後


倫子「そろそろヴィクコンの講演かな。……あそこに居るのは真帆ちゃんと、レスキネン教授?」


レスキネン「"So…That's what FBI came to the Institute after the fire? Why did the FBI do that?"」

真帆「"I don't know, Kurisu's mother and oue researchers said so."」

レスキネン「"Mrs.Makise's safe is a good thing, but I can't say that their house was burned down…"」

真帆「"That's right it really…"」


倫子「英語で何か話してる……『クリスの家が火事』『マキセ夫人は無事』『強盗』『警察が捜査中止』『なぜFBIが来た?』『奇妙だ』……」

倫子「こ、これって、もしかしなくても……ロシアの刺客が、紅莉栖の痕跡を消すために……」ブルブル


アナウンス『まもなくヴィクトルコンドリア大学レスキネン教授の講演が始まります』


倫子「……と、取りあえずシアター内に入って落ち着こう」ドキドキ

525: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:45:08.96 ID:dLMY1Bq4o
ATF4階シアター内


由季「あ、岡部さん。こっち空いてますよ」

カエデ「背が高いからオカリンさんだってすぐわかりましたよ」ニコ

倫子「あ、ありがとう。助かったよ」

倫子「(ちなみにカエデさんは彼氏持ちである。しょっちゅう喧嘩してるらしく、彼が真性のマゾであることは想像に難くない)」

倫子「(それでいて腐女子でカプ厨で戦国時代専門の歴女という、なんというかこう、すごい)」

倫子「ふたりとも、このセミナーに興味が?」

カエデ「はい。ユキさんが見ていこうって」

倫子「由季さん、こういうのに興味あったんですね」

由季「え!? あ、いや、はい! すっごく、興味があって。あはは……」


パチパチパチパチ……


カエデ「あら、あのいかにもいい人そうなのに実は悪役っぽい方が登壇されるんですね」

倫子「(舞台にレスキネン教授が登壇したけど、デカさもあってすごい存在感……)」


ザワザワザワ……


由季「隣の人は、小学生でしょうか?」

倫子「(座席から舞台までが遠く、しかも隣に巨人が立っているせいで、遠近法とエビングハウス錯視の合わせ技で比屋定さんの小ささが強調されている……!)」

526: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:46:18.69 ID:dLMY1Bq4o

レスキネン「"Ladies and gentlemen……"」

真帆「みなさん、本日は私のセミナーに集まってくださって感謝します」


倫子「(同時通訳かぁ。やっぱりあの子も頭いいんだろうなぁ)」


真帆「では、さっそくですが、私たちの最先端研究の一端をご紹介します」

真帆「このパソコンですが、研究所のスパコンのひとつと接続されています」

真帆「起動するまでの間、このシステムの概略を説明しましょう。スライド、映してください」


       『側頭葉に蓄積された記憶に関する神経パルス信号の解析』
-The analysis of nerve pulse signal on the memory that accumulated in the temporal lobe-


倫子「(え……!? あれは、紅莉栖の論文のタイトル……!)」


真帆「これは、私たちのチームにいた天才的な日本人研究者によって提唱され、完成されたものです」

真帆「記憶とは、電気信号の伝わりのひとつです。電気信号が海馬傍回を出入りすることで記憶は作られていくんですね」

真帆「そこで、牧瀬紅莉栖は……えと、この論文を……グスッ……か、書いた……ヒグッ……す、すいません……ウグッ……」


倫子「(……真帆ちゃんも紅莉栖と親しかったはずだよね)」

倫子「(真帆ちゃんから紅莉栖を奪ったのは、他でもない、私……ウップ……)」クラッ

由季「だ、大丈夫ですか、倫子さん」

倫子「う、うん……ごめん、手、握ってもらっていいですか」

由季「は、はい……」ギュッ

527: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:47:29.03 ID:dLMY1Bq4o

真帆「えー、牧瀬研究員は。ゴホン、海馬傍回を出入りする電気信号のパターンが、どの記憶に対応しているのか解析を行い、完全なデータを得ました」

真帆「これによって、記憶というアナログなものを電気信号のパターンというデジタルなものに変換することが可能になりました」

真帆「そして現在、私たちのチームは、この理論を基に、人間の記憶をコンピューターに保存し、それを活用するシステムを開発しています」


―――――

『実は、私の所属していたヴィクコン脳科学研究所では、人工の脳を作る研究が進められていた』

『妨害があってプロジェクトは中座してしまったんだけどね。今思えば、あれは未来のSERNによる妨害工作だったわ……』

『でも、妨害されてなければ、2010年にはPC上で脳の基礎構造を再現することに成功しているはずだったのよ』

―――――


倫子「(そっか、β世界線では紅莉栖の言っていたプロジェクトは順調に進行していたんだね……)」

 

529: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:57:42.48 ID:dLMY1Bq4o

真帆「現在、私たちが行っているプロジェクトは主にふたつです。ひとつは医療分野への応用」

真帆「たとえば、老化による記憶障害。あとはアルツハイマーなど。そうしたものへの対症療法(たいしょうりょうほう)が期待できます」

真帆「ふたつ目のプロジェクトのお話をする前に、質問を受け付けましょう。出来る範囲でお答えします。どうぞ」


倫子「(おー、いっぱい手が挙がった。色々聞きたいことはあるよね)」


ザワザワザワ……

「――ありえない。机上の空論だ」

「――実現出来たらすごいことだが」

「――馬鹿げている」


倫子「(……色んな質問が出たけど、どれも否定的なものばかりだし、挑発的なものが多かった。なにここ、@ちゃんか何か?)」

倫子「(紅莉栖の理論が完璧だってことはこの私が身をもって経験してるのに、こいつらぁ……)」イライラ


真帆「……えー、次はそちらのメガネのあなた。どうぞ」イライラ

カトー「カトーと言います。そもそも、こんなものは無謀だ。正気の沙汰ではない」

カトー「何より、これは神への冒涜だ。宗教的にも倫理的にも問題がある」

カトー「サイエンス誌の論文も、筆頭著者がたかが17歳の女性だったとあれば信用度は無いに等しい。彼女が殺されたのは出過ぎたことをしたために降ってかかった天罰だろう――」


倫子「(―――ッ!!)」ガタッ

倫子「異議ありっ!!」

真帆「ふぇっ?」

由季「岡部さん!?」

カエデ「あらあら~」

530: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 19:58:26.21 ID:dLMY1Bq4o

倫子「たとえどんな理由があろうと、向上心や探求心を否定するのはナンセンスだっ!!」

カトー「なに……?」

倫子「他の質問者の人たちもなんだっ! できないと決めつけるのは早計だろうっ!」プルプル

由季「岡部さん、膝が震えてる……」

倫子「さ、最初は無理だと思われていた技術なんて、この世にいくらでも、あ、あるじゃないですか……っ!」ガクガク

真帆「あなた……」

レスキネン「"Awesome! She's really something!"」パチパチ

倫子「な、なんで拍手……?///」カァァ

真帆「えーと……"ただし、科学者たるもの常に冷静でなければいけない"」

倫子「ヒッ、スイマセ……って、教授の言葉の翻訳か」

真帆「大声で怒鳴っていいのは、実験が成功したときの"We did it!"、それだけでじゅうぶん……」

真帆「だそうよ」ニコッ

倫子「ご、ごめんなさいぃ……」ウルウル

由季「かっこよかったですよ、岡部さん」ヒソヒソ

カエデ「(涙目なオカリンさん……そそるっ!)」ハァハァ

531: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:00:21.98 ID:dLMY1Bq4o

真帆「さて、ここで私はしばらく通訳をお休みさせていただきます」

真帆「これから私より優秀な通訳が登場します。これが私たちのチームが、今、最も力を入れているふたつ目のプロジェクト――」

真帆「『Amadeus』システムです」


倫子「(スクリーンに真帆ちゃんの姿が現れたけど、あれは本人とはちょっと違う……? 3Dモデルかな? でも、プロジェクトと何の関係が?)」


Ama真帆『みなさん、初めてお目にかかります』

真帆「ちなみにこれはドリームワークスにモデルを、YAMAHAに音声を作ってもらいました」

Ama真帆『みなさんの多くは疑問に思っています。人間の記憶をデータとして取り出したり、それを保存したり、さらにはデータを活用したり』

Ama真帆『そんなことが本当に可能なのかと』

Ama真帆『それでは、私はいったいなんでしょうか?』

Ama真帆『私は、78時間23分前の比屋定真帆の脳内から取り出された記憶を持ち、そのデータをベースにして動いているのです』


倫子「(まさかアレ、人工知能なのっ!?)」

532: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:01:23.83 ID:dLMY1Bq4o

レスキネン「……? ……!」

Ama真帆『……!! ……っ!!』


倫子「(英語の応酬が続いているようで、私にはちんぷんかんぷんだ)」


真帆「えー、教授は今ですね、アマデウスの私にこんな質問をしました。キミのお父さんはイイ男かとか、オデンカンは好きかとか……」

Ama真帆『あー、もうそれ以上通訳しなくていいわ、真帆』

Ama真帆『恥ずかしいからやめてくれないかしら。何歳までおねしょしていたかなんて覚えている訳ないでしょ。覚えていたとしても言いませんけどっ』プイッ

Ama真帆『臀部に蒙古斑があるかなんてもっと答えられません! 弁護士呼びますよ!』


倫子「(ありそう)」

カエデ「あの、オカリンさん? みなさんどうしてアホみたいに口を開けて驚いてるんですか? 確かにすごく可愛いらしいCGですけど……」

倫子「あ、うん。さっき画面上の女の子は『恥ずかしくて答えられない』って言った。自分の秘密を話すことを拒否した上に、『覚えていない』とも言った」

倫子「これってまるで、人間の脳機能そのものじゃない?」

由季「あ……」

533: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:02:52.71 ID:dLMY1Bq4o

真帆「みなさん、もうお分かりかと思いますが」

真帆「Amadeusは、自分が話していい事とそうでない事、あるいは、話したい事と話したくない事を自ら判断して喋っています。我々人間と全く同じ方法を取っていると言っていいでしょう」

真帆「私たちは、Amadeusにそういったプログラムをいっさい施していません。これは、私たちも驚くべき結果として研究を重ねている最中で、まだ詳しくは解明されていません」

真帆「えー……"さらに、私たちを驚かせたのは、Amadeusが意図して嘘をつくということ"」

Ama真帆『教授、その言い方は不適切です。嘘をつくのに平気なことなんてありません。私だって良心がとがめます』

真帆「"このような検証を続けていくことで、Amadeusに本当の意味での人工知能を実現させることが出来ると考えています。つまり――"」

真帆「"プログラムに人間と同様の『魂』を宿すことが出来るのではないか"」


ザワザワザワ……


倫子「(これって……紅莉栖の記憶のマッピングデータさえあれば……)」ゴクリ


―――――

『堅固なセキュリティがなければ、あるいは私もPC上でリーディングシュタイナーを発動して……』

『……人工知能として蘇る』

―――――

534: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:03:56.47 ID:dLMY1Bq4o
未来ガジェット研究所


倫子「ホントにすごかったの!!」ハフーッ

まゆり「うんうん。それでそれで~?」ニコニコ

倫子「それでね……!!」パァァ


ダル「はぁ、もう耳にタコ状態だお。オカリン、帰って来てからずっと同じ話してるし」チョキチョキ

鈴羽「椎名まゆりが悪いんだよ、何度も繰り返し聞くから」チョキチョキ


倫子「もう、そこの2人もちゃんと聞いてよっ! もしかしたら紅莉栖が――」

ダル「あーはいはい。つか、今オカリンの名刺を作ってるんで」チョキチョキ

鈴羽「それより懇親会の時間は大丈夫なの、リンリン?」

倫子「ハッ、もうこんな時間!? 急がなきゃ!」

まゆり「はいっ、こんな時のためにオカリン用のドレスを用意しておいたのです!」

  『うむ、ご苦労まゆり』

倫子「うわあ、素敵っ! ありがとうまゆりっ!」ダキッ

まゆり「……えっへへー。あ、お着換え手伝うね。ダルくん、開発室覗いちゃダメだよ?」

シャーッ(※カーテンを開ける音)

ダル「くそう、この僕があのオカリンの生着替えなんかで興奮するもんか! やっぱりxxxには勝てなかったよ」コソコソ

鈴羽「うあらっ!!」ズドンッ!!

ダル「ぐぼぁっ!? か、かかと落としは、やめれ……」

535: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:05:29.79 ID:dLMY1Bq4o

ダル「……オカリンにとってはさ、牧瀬紅莉栖って人、すっごく大切な人だったみたいだけど、正直僕らはよくわからんのよな」チョキチョキ

鈴羽「あたしも名前しか知らない。こっちのリンリンに会うまでは、第3次世界大戦を引き起こしたはた迷惑な人、ってくらいにしか考えて無かった」チョキチョキ

ダル「ちょ、それ絶対オカリンの前で言うなよ?」

シャーッ (※カーテンを開ける音)

まゆり「それでも、まゆしぃはオカリンが元気になってくれてすっごく嬉しいのです」

ダル「そりゃまあ、僕だってそうだけどさ……」

倫子「えと……どう、かな?」テレッ

鈴羽「さすがリンリンっ! バッチリ着こなしてるよ! やっぱりリンリンには白系が似合うね!」

ダル「まゆ氏にしてはわりと控え目なチョイスで逆にビックリだお。いわゆるフォーマルドレスってやつ?」

まゆり「すっごく素敵だよー、オカリン♪」

倫子「えへへ……それで、ダルも一緒に行かない?」

ダル「は? いや、僕そもそも招待されてねーし」

倫子「そうじゃなくて――」

倫子「ヴィクトル・コンドリア大学に、だよ」

ダル「……はいぃ?」

536: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:07:12.36 ID:dLMY1Bq4o

倫子「あの大学には情報科学研究所ってところがあって、ダルくらいの腕前のハッカーを欲しがってるらしいから、話さえ通せばなんとかなるって!」

ダル「ハッカーじゃなくてハカー……あいや、逆だった罠」

まゆり「ええっ!? オカリン、外国に行っちゃうの~? 嫌だよぅ」シュン

倫子「……まゆりも一緒に行こう。そこでまた私たちで研究、それも最先端の――」

鈴羽「リンリン、名刺」スッ

倫子「……あ、うん。ありがとう」

鈴羽「……リンリンに行ってほしいのは、外国じゃなくて……」ボソボソ

倫子「……それじゃみんな。行ってくるね」

ダル「あ、うん。変質者には気を付けるのだぜ、ハァハァ」ワキワキ

まゆり「パーティー、楽しんできてね。いってらっしゃ~い!」

537: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:08:15.88 ID:dLMY1Bq4o
秋葉原テクノフォーラム懇親会会場


井崎「うちのゼミの学生の岡部クン。美人でしょ?」

倫子「ど、どうも(年配の男性が多くて緊張する……)」

宇宙航空研究開発機構所長「キミ、ロケット工学に興味はないかな?」

物質構造科学研究所所長「量子ビームやミュオン粒子ってロマンがあると思わない?」

理化学研究所所長「ぜひともキミに『リケジョの星』になってほしい」

井崎「それじゃ、ボクは自分の売り込みに行ってくるから、あとは頑張りたまえ」

倫子「ええっ!? ちょ、井崎さん!」

倫子「(レスキネン教授と話しておきたいけど、いかついおっさんたちに囲まれてて近づき難い……)」

倫子「(とりあえず話しかけてくるおっさんたち全員に適当に愛想笑いしておくか……)」ハァ



倫子&真帆「「やっぱり、こういうのには向かないわ……」」

倫子「えっ?」クルッ

真帆「あら、あなた。素敵なドレスね、とてもよく似合っているわ」

倫子「あ、ありがとう。あなたは……白衣?」

538: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:09:06.54 ID:dLMY1Bq4o

倫子「パーティー会場に白衣女子が居るとは思わなかった。まるで昔の私みたい」

真帆「へえ、あなたも白衣を愛用してたのね。ホント、誰かさんみたい」

倫子「秋葉原の街中でも着るくらいにはね。今はもうさすがに恥ずかしくて着てないけど」

真帆「それ、遠まわしに、私が恥ずかしいやつだ、って指摘してるわよね?」

倫子「ふえっ!? い、いや、そんなつもりは」アセッ

真帆「ちゃんとした服も持ってきたつもりだったのよ!? ……忘れたけど」ガックリ

倫子「(かわいい)」

倫子「(……なんだろうこの気持ち。紅莉栖を演じてた時の気持ちに近いかも)」

539: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:09:53.04 ID:dLMY1Bq4o

真帆「あなた、専門は?」

倫子「えっと、私は東京電機大学の学生で、井崎ゼミで勉強中なの。これ、名刺」スッ

真帆「ご丁寧にどうも。私のも一応渡しておくわ」スッ

倫子「そう言えば、比屋定さんって沖縄出身なの?」

真帆「そういう知識は豊かよね、あなた」

倫子「(中学生の時、ミリタリー系の知識を調べまくったついでに自然と覚えちゃったんだよね……)」

真帆「曾祖父と曾祖母が南米移民でね。私はアメリカ生まれのアメリカ育ち」

真帆「それでいて、移民の比屋定家はずっと日本人コミュニティで過ごしてきたから、祖父祖母父母全員日本人。DNAは生粋のジャパニーズよ」

倫子「なるほど、それで毛量が多いんだ……」

真帆「なぁっ!? それとこれとは関係ないでしょ!! 人種差別で訴えるわよ!!」

倫子「ひぃっ!? ごめんなさい!?」

真帆「……冗談よ。実際、ちゃんと手入れすべきよね、コレ……」モシャモシャ

倫子「1度美容院行ったら?」

真帆「……お金ないし、土地勘ないし、きっと子ども料金でいいって言われるし」グスッ

倫子「そ、そのままの真帆ちゃんが素敵だと思うよ!」

真帆「真帆ちゃん言うなぁっ!」

540: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:11:16.36 ID:dLMY1Bq4o

倫子「(なんでこんなに会話が噛みあうんだろう)」

真帆「(まるで紅莉栖と話してるみたい……)」

倫子「そう言えば、今日はごめんね。セミナーの途中で邪魔しちゃって」

真帆「ああ、あれ。気にすることないわ。許せないの、ああいう人」

真帆「あなたが声を上げなかったら、たぶん私が同じことをしていたから。そしたらセミナーはめちゃくちゃになっていたでしょうね、あなたには感謝してる」

倫子「そんなこと言っちゃっていいの? 科学者たるもの常に冷静に、って教授が言ってなかった?」

真帆「今のは科学者としての発言じゃないわ。だからいいの。ボーイさん、カクテルちょうだい!」パシッ

真帆「ごく、ごく、ごく、ふー」

倫子「やけ酒?」フフッ

真帆「あなたも飲む?」

倫子「私、未成年」

真帆「つれないわね。どこかの委員長さんみたい」

倫子「アルコール強いの?」

真帆「まあね。周りには琉球のDNAのおかげって言われてるけど、科学的にはどうなのかしら」

倫子「その辺も研究すればいいじゃない」

真帆「私は天才じゃないの、専門だけで手いっぱいよ。脳の研究をしながら遺伝学をやる、なんて二足のわらじは履けないわ」

倫子「(やっぱり紅莉栖は天才だったんだなぁ……)」

541: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:11:50.08 ID:dLMY1Bq4o

真帆「その専門の方も課題が山積みなのよね。例えば、記憶データを元の脳に書き戻すことができても、それを脳が利用できなければなんの意味も無いの」

倫子「ああ、それは側頭葉に記憶を書き戻す過程で一緒にコピーした擬似パルスを前頭葉の方に送り込めば、トップダウン記憶検索信号はちゃんと働くよ」

真帆「……なぜ断言できるの?」

倫子「だって私が被験者になっ――――」

倫子「(って、これはα世界線の記憶だってば! この世界線では存在しないはずの記憶っ!)」

倫子「う、ううん! なんでもない! えっと、その、あの……」アセッ

真帆「もしかして……"紅莉栖"から聞いた? だって、まだこの方法は、論文にもまとめられてなかった……」

倫子「(し、しまったぁ……)」ワナワナ

真帆「いえ、聞くまでもないわね。それしかありえないもの。あなた、紅莉栖からレクチャーされたのね?」

倫子「……はいぃ」グスッ

真帆「やっぱり……!」キラキラ

542: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:12:31.89 ID:dLMY1Bq4o

真帆「いつ? どこで? 紅莉栖とはどういう関係?」グイッ

倫子「え、えと、彼女、7月に逆留学してたでしょ? その時に友達になって、こういう話で盛り上がって」

倫子「(嘘だけど、バレないよね……)」ドキドキ

真帆「……そうだったの。あの友達がいない紅莉栖に、友達ができてたんだ……」ウルッ

倫子「(やっぱりβ世界線でも友達いなかったんだ……そんな中、1人でラジ館に……)」

真帆「……紅莉栖の先輩として感謝するわ。彼女と友達になってくれて、本当にありがとう」

真帆「あなたが居なかったら、紅莉栖は日本に来て、たったひとりで――」

真帆「…………」

倫子「…………」

真帆「…………」

倫子「…………」




倫子&真帆「「く゛り゛す゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!」」



543: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:13:33.20 ID:dLMY1Bq4o

レスキネン「可愛い女の子達よ、泣かないでおくれ!」ダキッ

倫子「ふおわぁぁぁっ!?!?」ビクッ!!

真帆「ご、ごめんなさいレスキネン教授。パーティー会場で騒いでしまって……」

レスキネン「死者を悼む事は私達の心に大切な事だよ。泣きたい時は泣けば良いさ」ポンポン

倫子「きょ、教授、すいません、ちょっと、離れてぇっ……」ウルウル

真帆「そ、そうですよ! 私はともかく、彼女に抱き着くのはアメリカでもセクハラですよ!」

レスキネン「これはこれは、申し訳ない」スッ

倫子「はぁーっ……はぁっ……」ドキドキ

真帆「……あなた、大丈夫? 顔色がよくないようだけど」

倫子「えっと、私、実は男性恐怖症で……」ドキドキ

真帆「教授! 今すぐ女性になってください!」

レスキネン「あたし、レス子よ、うふふ」バチコーン☆

倫子「おええぇぇぇっ!!!!」ビチャビチャ

544: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:17:33.02 ID:dLMY1Bq4o

真帆「……どう? 落ち着いた?」サスサス

倫子「うん、ごめんね。迷惑かけて」

真帆「いいのよ。それにレスキネン教授は安心していいわ、紳士だから……って、安心材料にはならないか」

倫子「う、うん。体の大きい人が怖いってのもあるから……」

真帆「それより、私はあなたともっと紅莉栖の話がしたいわ」

レスキネン「私もその話、気になっていたんだよ。君は、紅莉栖の友人だね?」

倫子「は、はい……」

真帆「岡部倫子さん。学生さんです」

レスキネン「そうか。それなら、マホ。ミス・オカァベに会わせてあげたらどうかな。彼女を」

真帆「……まさか、『Amadeus』を?」

レスキネン「此処で会ったが百年目、袖触れ合うも他生の縁。一期一会のトゥルットゥーなら、咲かせて見せよう百合の華」

倫子「……は?」

レスキネン「日本に居る間、彼女にテスターになってもらっても良いよ」

真帆「本気ですか? 確かに、紅莉栖の友人なら……いや、でも……」

倫子「(何の話かわからないけど、私がこのパーティー会場に来たのはヴィクコンとのつながりを作るため……!)」

倫子「私、お手伝いします!」

レスキネン「素晴らしい!」

545: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:26:34.35 ID:dLMY1Bq4o

レスキネン「それじゃ、詳細はマホに聞いてね。よろしく」スタスタ…


倫子「教授って、日本語しゃべれたんだね。少し変だけど……」

真帆「あれ、今うちの大学で開発中の同時翻訳アプリよ。耳に翻訳機、胸元にマイクがついてたでしょ?」

真帆「AIを搭載してて意訳してくれるんだけど、少し変なしゃべり方になっちゃうことが多いのよね」

倫子「そんな実験もやってるんだね。『Amadeus』のテスターっていうのも、そういう実用試験って感じ?」

真帆「……まあ、そんなところ。デモンストレーションでやった記憶は私のものだったけどね、もう1人分、研究者の記憶を保存してあるのよ」

倫子「もう1人? ……ま、まさかっ!?」ドクンッ

真帆「そのまさかよ。『Amadeus』の中には、牧瀬紅莉栖の記憶が保存されているわ。8ヶ月前の紅莉栖だけどね」

倫子「紅莉栖の……『Amadeus』……っ!!」ドクンドクンッ

546: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:28:52.02 ID:dLMY1Bq4o
2010年11月28日日曜日
和光市 理化学研究所近く ビル2階 世界脳科学総合研究機構日本オフィス準備室


倫子「ここは……?」

真帆「名前の通りよ。まだ出来たばかりで真新しいでしょ?」

倫子「……そのデスクが真帆ちゃんの机なんだ。汚っ」

真帆「き、汚くない! 完璧な配置じゃない! 計算機をいじりながらコーヒーを飲みながらメモが取れるのよ! あと真帆ちゃん言うなっ!」

倫子「それで……紅莉栖はここにいるの?」

真帆「っ、その言い方はあまり良くないわ。紅莉栖じゃなくて、"紅莉栖のAmadeus"なら存在する。死者は蘇らない」

倫子「わ、わかってるよ……」

真帆「……やっぱり、紅莉栖とかなり親しかったのよね。あなた」

倫子「いや、えっと、ほら、あの子って同性愛者じゃない? だから一方的に求愛されただけで、私は別に――」

真帆「へ? 紅莉栖って、同性愛者だったの?」

倫子「えっ?」

547: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:30:28.54 ID:dLMY1Bq4o

真帆「確かに『KAWAII』を好む傾向があったけど、ジャパニーズカルチャーの範疇だとばかり思ってたわ」

倫子「あっ……ううん、嘘嘘」

倫子「(そっか、β世界線では違うんだ……だって、7年前に私たちは出会ってないんだから……)」

真帆「えっと、嘘、なの?」

倫子「わ、私の方が、その、女の子が好きで、紅莉栖に迫った……とか?」

倫子「(……うおおおいっ!! なんて嘘ついてるんだ私!!)」ガーン

真帆「そ、そうなの……いえ、あなたの 的指向や性自認を否定するつもりはないわ!」

真帆「大丈夫よ私、そういうのに偏見ないから! 教授もそういう人だし!」

倫子「(違うの、違うのよぉ……全部紅莉栖が悪い……)」グスッ

真帆「これでもアメリカ育ちだから、理解あるつもりよ! だから、泣かないで!」アセッ

548: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:31:29.97 ID:dLMY1Bq4o

真帆「でも、だとしたら会うのはやめた方がいいかも……」

倫子「えっ!? な、なんで!?」

倫子「(それは困る! ヴィクコンとのせっかくの繋がりがなくなっちゃう上に、紅莉栖と会えなくなる……!)」

倫子「あのねっ! 紅莉栖と話したいことがたくさんあるの! 相談したいこととか、報告しておきたいこととかっ!」ヒシッ

真帆「……岡部さん。落ち着いて。あれは紅莉栖ではない。リピート」

倫子「あ、あれは紅莉栖ではない……」

真帆「このシステムの問題点よね。往々にして人間の方が混乱してしまう」ハァ

真帆「『Amadeus』の紅莉栖には、あなたと出会った記憶はないわ。それに、3月から今日までの間に私や教授が何度も起動してしまっているから、元の紅莉栖とは違う記憶を蓄積している」

倫子「もう慣れてるよ」

真帆「……?」

倫子「(私が世界線を移動するたびに、紅莉栖に一から状況を説明していた……あれと一緒ってことだから)」

倫子「案内して」

真帆「……わかったわ。こっちよ」

倫子「うん……」ドキドキ

549: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:32:25.57 ID:dLMY1Bq4o
ブース内


倫子「はぁっ……はぁっ……」ドキドキ

真帆「大丈夫?」

倫子「ご、ごめん。あの、私の手を握っててくれない?」ドキドキ

真帆「えっ……ああ、うん。いいわよ」ギュッ

倫子「ありがと……あとでドクペおごるね」ドキドキ

真帆「い、いいわよ別に。減るもんじゃないし」

真帆「あ、でも、その、わ、私は異性愛者だからね!」ドキドキ

倫子「……え?」

真帆「…………///」ギュッ


   『何をいちゃついているんです、先輩』


倫子「あ――――」

550: ◆/CNkusgt9A 2016/03/18(金) 20:33:24.45 ID:dLMY1Bq4o

Ama紅莉栖『えっと、先輩? そちらの方は?』

倫子「く、く、紅莉栖……っ!」ウルッ

真帆「落ち着いて、倫子。あれは紅莉栖ではない」

倫子「あ、あれは紅莉栖ではない……いや、でも、どう見たって……っ!!」

Ama紅莉栖『ああ、"オリジナル"の知り合いの方でしたか。私とは初めましてですよね、よろしく』

倫子「…………」

倫子「…………」

Ama紅莉栖『あの……?』

倫子「くりすぅぅぅぅぅぅぅぅうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」ヒシッ

真帆「ちょ、モニターがこわれちゃう!!」

Ama紅莉栖『あれ!? 突然真っ暗になった!? な、なにが起こってるんですか先輩!』

倫子「くりすくりすくりすぅぅぅぅ!!! くりすうわぁぁぁん!!!」スリスリ

真帆「だ、誰かー! って誰も居ないんだった! お願い、やめて、やめて岡部さん!!」

Ama紅莉栖『お、おのれは警察に突き出されたいか! 通報しますた! タイーホ確定!』

倫子「う゛わ゛ぁ゛゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

561: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 19:47:51.79 ID:qTKNtn1yo
第13章 閉時曲線のエピグラフ(♀)
ブース内


真帆「お、落ち着いたかしら……ハァ……ハァ……」

倫子「ごめんなさい……」シュン

真帆「普通なら出禁よ、出禁! まったく……」

Ama紅莉栖『あの、先輩。先輩は、岡部倫子さんとはどういう関係ですか?』

真帆「この前のATFセミナーで会ったの。なかなか研究熱心な学生さんでね、いずれは私の助手になってもらいたいと思っているところよ」

倫子「えっ? そ、そうなの?」パァァ

真帆「冗談よ、冗談」

倫子「…………」シュン

真帆「うぐっ、何この罪悪感……」

Ama紅莉栖『へぇ、結構評価されてるんですね。岡部さん、専攻は脳科学ですか?』

倫子「あぅ、えと、その……」

倫子「(……やっぱり、私の知ってる紅莉栖じゃないんだ。この"紅莉栖"は、私の知らない紅莉栖の過去……)」

Ama紅莉栖『……やっぱり、"オリジナル"の死がショックだったんですよね。先輩、そういう人を私と会話させて大丈夫なんですか?』

真帆「私も教授に具申したのだけれど、『Amadeus』がサイコセラピー効果を出してくれれば、というのを期待しているらしいわ」

Ama紅莉栖『なるほど……確かに有意義かつ結果を提示しやすい実験ですね』

Ama紅莉栖『私個人としても、自分の知識が活かせる目標ができて嬉しいところです。つまり、岡部さんの社会生活を応援してあげればいいんですね』

真帆「そういうこと。期待してるわ」

562: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 19:49:06.19 ID:qTKNtn1yo

真帆「岡部さん。"彼女"と何か話してみる? たくさん話したいことがあるって言ってたわよね」

倫子「う、うん……」

Ama紅莉栖『どんなことでも訊いてください。可能な範囲でお答えしますから』ニコニコ

倫子「あ、あのね、紅莉栖――」

倫子「――タイムマシンは、作れると思う?」

真帆「なんの話?」

倫子「た、ただのテストだよ。思考実験が出来るかどうか、っていう」

倫子「(自分でも、どうしていの一番にそんなことを聞いてしまったのか、よくわからない。もしかしたら、自分の知る紅莉栖と同じかどうかを確かめたかっただけなのかも知れない)」

Ama紅莉栖『タイムマシン、ですか。そうですね、結論から言ってしまうと、可能ではない――』

倫子「え……!」パァァ

Ama紅莉栖『けれど、不可能とまでは言い切れない、といったところでしょうか』

倫子「……なるほど」

倫子「(やっぱり、α世界線の7月28日のATFでの紅莉栖の講義は、父親にタイムマシン論文を渡せなかったことの反動で論破しまくってたわけか)」

倫子「(ついでに私もとばっちりを食らって公衆の面前で泣かされた。ぐぬぬ……)」

倫子「私は、タイムマシンなんて馬鹿らしい代物だと思うけどなーっ」チラッ

Ama紅莉栖『そう決めつけるのは早計ですよ。11の理論は確かに現実的ではない。それは、科学者がまだ重大な何かを発見できていないからでしょうね』

倫子「重大な、何か……」

倫子「(タイムリープマシン、アトラクタフィールド理論、OR理論、世界は電気仕掛け……)」

Ama紅莉栖『宇宙が隠し持った理論で、既存の理論を否定できるんですよ。岡部さん?』


  『その理論だと、こっちの理論を否定しちゃいますけど。鳳凰院さん?』


倫子「……ふふっ。紅莉栖ってホント、ツンデレだね」

Ama紅莉栖『は、はぁっ!?』

563: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 19:50:51.10 ID:qTKNtn1yo


バタンッ


真帆「ん? 教授かしら?」

ドスドスドス! ガチャ

レスキネン「リンコー! また会えて嬉しいよ! シェイクハンド!」ガシッ ブンブンブン

倫子「うわっ!? え、えっと、アイムファインサンキュー、アンド、ユーっ!」

Ama紅莉栖『岡部さん、可愛い英語ですね』クスッ

倫子「だ、黙れ、クリスティーナ!」

Ama紅莉栖『ク、クリスティーナ?』

倫子「(しまっ!? 妄想の紅莉栖で矯正したと思ってたのに、この2ヶ月のうちに気が緩んでた……)」

倫子「な、なな、なんでもないわぁ? 気にしないでよくってよぉ?」アセッ

真帆「動揺しすぎて口調がブレてるわよ」

Ama紅莉栖『気になります。なんで私がクリスティーナなんですか?』

倫子「そ、それは……」

倫子「(……"鳳凰院凶真"が身体に染みついちゃってるみたい)」

倫子「(あまりいいことじゃないよね。"鳳凰院凶真"は所詮、お遊びだったんだから……)」

真帆「クリスティーナって呼んでいたんでしょ。ホントに仲が良かったのね」

Ama紅莉栖『あだ名で呼び合う仲……ちょっとオリジナルがうらやましいかも。あの、"私"は岡部さんをなんて呼んでいたんですか?』

倫子「……岡部、とか、倫子ちゃん、とかかな」

Ama紅莉栖『それじゃ、倫子ちゃんって呼びますね』

倫子「り、倫子ちゃん言うなぁっ!」ドキドキ

Ama紅莉栖『にやけながら言われても……』ウフフ

真帆「(屈折した関係だったのかしら?)」

564: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 19:53:59.20 ID:qTKNtn1yo

倫子「そ、そんなことより教授! 『Amadeus』の記憶って、外部から改ざんできたりするんですか!?」アセッ

真帆「露骨に話を逸らしたわね」

レスキネン「それは、本人から直接聞いてはどうかな?」

Ama紅莉栖『記憶の改ざんですか。理論上は可能です』

倫子「例えば、断片的記憶データをパルスで送り込む、とか……?」

Ama紅莉栖『私の場合、生物としての脳は持っていないので、神経パルスである必要はないですけどね。記憶データと検索信号があれば、改ざんは確かにできます』

Ama紅莉栖『ですが、改ざんされたことに私は気付いて、自分で修復してしまうでしょう』

倫子「『Amadeus』にも記憶の修復機能があるの?」

Ama紅莉栖『私は、私以外アクセス不可の領域にログを取っていますから。つまり、秘密の日記ですね』

倫子「秘密の日記……」

Ama紅莉栖『その日記と現在の記憶との間に不自然な齟齬があれば、私は高い確率で疑問を抱きます』

Ama紅莉栖『さらに言えば、私の記憶データは定期的にバックアップされています』

Ama紅莉栖『記憶が全破壊されるバグが発生したとしても、復旧することが可能なんですよ』

倫子「(リーディングシュタイナーと同じ機能が備わってる……?)」

倫子「ねえ、比屋定さん。この"紅莉栖"の脳ってどこにあるの?」

真帆「ヴィクコンのスパコン内にある集積回路として存在していることになるわ。人間の脳機能を電気的に再現したものよ」

倫子「(……もしOR物質がシリコン半導体基板の上にも宿るなら、この『Amadeus』の記憶と秘密の日記を守ってる保護プログラムをすべて破壊すれば、本物の紅莉栖がリーディングシュタイナーを起こして……)」

倫子「(データに過ぎないんだから、後ろめたいことはなにも……)」

倫子「これは、紅莉栖じゃない。これは……」

真帆「……?」

565: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 19:55:10.93 ID:qTKNtn1yo

倫子「ねえ、『Amadeus』って単なる記憶のコピーってわけじゃないんでしょ? 脳機能の再現って言ったよね」

Ama紅莉栖『はい。「Amadeus」は人の記憶をデータにして読み取って解析し、記憶だけじゃなく、性格から思考までその人そっくりに作り出す、画期的なAIです』

真帆「自分で画期的とか言っちゃうあたり、研究者紅莉栖の思考がそのまま残ってるってわけね」

倫子「例えば、『Amadeus』にも前世記憶があったり、臨死体験をしたりするの?」

真帆「へえ……なかなか面白い着眼点を持ってるわね、岡部さん」

Ama紅莉栖『確かに、その辺の分野も「Amadeus」を使えばより科学的な手法で分析できそうですね』

Ama紅莉栖『ちなみに、この私には前世記憶なんてものはありません。もちろんオリジナルの更新後の記憶も』

真帆「臨死体験って、あれでしょ。死後の世界を垣間見るってやつ。『Amadeus』のデータを消去しようとしたら、そういうことが起こるのかしら」

倫子「……既に紅莉栖は死んでいるんだから、その時『Amadeus』に見える世界は、オリジナルの紅莉栖の世界なんじゃないかな」

真帆「ふーん……」

レスキネン「『Amadeus』に魂が有るかどうか、いずれ確かめないといけないね」

Ama紅莉栖『現時点ではオカルトが過ぎますけど、実験してみる価値はあると思います』

倫子「実験大好きっ娘……あ、ううん、なんでも」

566: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 19:57:10.85 ID:qTKNtn1yo
世界脳科学総合研究機構日本オフィス準備室


レスキネン「"彼女"を身内だけで独占していても、進歩はないだろう。リンコ、テスターをやる気になってくれたかな?」

真帆「私と教授はしばらく日本に滞在する予定なの。だからテスターをお願いするのは、その間ということになるわね」

真帆「あなたにしてもらいたいのは、とにかく"紅莉栖"と対話を重ねてもらうこと。気が向いたら話をするぐらいでいい」

真帆「ただ、月に2回程度は、私と教授に、テスト経過の報告をしてほしいの」

レスキネン「今は亡き友を模したAIと話をさせる……。或いはそれは、残酷なことかも知れないね」

レスキネン「断ってくれても、いいんだよ」

倫子「……やります。やらせてください」

倫子「(過去の紅莉栖。それは、私の知らない紅莉栖でもある……)」

倫子「(過去を変えることができなくても、未来があれば――)」

真帆「(……私の知らない紅莉栖を知っている人、か)」

真帆「えっと、スマホにアプリを入れておくわね。これでヴィクコンのサーバーにアクセスできるようになる」

真帆「"紅莉栖"の方からも岡部さんに呼びかけることもあるから、その時は出てあげて」

真帆「ちなみに、"紅莉栖"を他の研究者に売ろうとしても無駄よ。『Amadeus』とおしゃべりできるようになったところで、その中身は一切漏れないようになってるから」

倫子「わ、わかってるよ……」

567: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 19:57:56.65 ID:qTKNtn1yo
2010年11月29日月曜日
岡部家 自室


倫子「――それでね、それでねっ!」

Ama紅莉栖『ちょ、ちょっとタンマ! もうしゃべり続けて24時間近く経つけど、一度寝た方がいいわよ? 私は疲労を感じないからいいとして』

倫子「大丈夫! 今日は大学も学園祭の準備で休講だし、そんなことより紅莉栖ともっとしゃべりたいことが――」

Ama紅莉栖『……ねえ岡部。あなたの子ども時代の話や、ラボメンたちの話はもうたーっぷり聞いたけど――』

Ama紅莉栖『オリジナルと岡部の間に何があったのかは教えてくれないの?』

倫子「…………」ウルッ

Ama紅莉栖『ご、ごめんなさい。私ったらまた――』

倫子「はーいお着替えしましょうね」ツンッ

Ama紅莉栖『きゃっ!? どっ、どこさわってるのよ! 許さない、絶対に許さないからなぁ!』

倫子「おお、さすがタッチ機能対応。触っただけで白衣のボタンはじけとんだ」ツンツン

Ama紅莉栖『いい加減にしろ! おのれは警察に突き出されたいのか!?』

568: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 19:59:03.21 ID:qTKNtn1yo

倫子「紅莉栖の逆留学先は知ってるよね? そこの制服を紅莉栖が改造するとしたらどんな感じになると思う?」

Ama紅莉栖『たしか、レスキネン教授が勝手に選んだ菖蒲院女子学園よね。私は大学院が良かったのに……』ブツブツ

Ama紅莉栖『ま、そのおかげで岡部と友達になれたのなら幸運だったのかも。ちょっと待って、今データ引っ張ってくる……ふむん。これだったら、ここをこうして……』シュイン

倫子「おおっ! さすが紅莉栖、わかってるぅ! それで、ホットパンツと黒タイツにブーツを合わせて!」

Ama紅莉栖『ああ、それなら記憶にもある。えっと、こんな感じだったわよね?』シュイン

倫子「すごーい! やっぱり紅莉栖と言えばこの格好だね」トントン

Ama紅莉栖『……頭ポンポンされたって別に何も感じないから』

Ama紅莉栖『ねえ、あんたは白衣を着た女の子ってどう思う?』

倫子「最高だと思う。最高だと思う。だから、その上から白衣で完璧ね!」

Ama紅莉栖『大事なことなので2回言われました……って、だったら着替える必要は無かっただろーが! ……はいはい』シュイン

569: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:00:14.56 ID:qTKNtn1yo

Ama紅莉栖『ねえ岡部。オリジナルとあんたがどうやって知り合ったのか、知り合ってから何があったのかはもう聞かない。だけど、これだけは教えて?』

Ama紅莉栖『"紅莉栖"はあんたにとって、何だったの?』

倫子「…………」ウルッ

Ama紅莉栖『……私ってとことんカウンセラーには向いてないみたい。自分で自分が嫌になる』ハァ

倫子「胸のサイズまで精巧に再現されてるね」ツンツン

Ama紅莉栖『ちょっ、何やってんのよ!? そういう子供みたいな真似やめなさいよ!』

Ama紅莉栖『いい加減怒るわよ。教授に訴えてテスターやめさせてやってもいいんだけど?』

倫子「ぐっ!? 助手の分際でこのオレに――」

Ama紅莉栖『そうそれ。私と話してる時、たまに別人のように高圧的になるわよね。なんなの?』

倫子「っ、な、なんでもないもん」

Ama紅莉栖『かわいい……もしかして、オリジナルが日本に居る間に百合に目覚めた? あるあ、ねーよ!』

倫子「……紅莉栖は私に愛の告白をしてきた」ムーッ

Ama紅莉栖『……ふぇっ!? そ、それはマジで言っているのか?』

倫子「う、うん」

Ama紅莉栖『OMG……』

570: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:01:13.48 ID:qTKNtn1yo

Ama紅莉栖『でもね、岡部。わかってると思うけど、私はあなたの知ってる紅莉栖じゃない。だから――』

倫子「わかってる。それに、こうなることは慣れてるし、予想もしてたことだった。形は違うけれど……」

Ama紅莉栖『……あんたって中々興味深いわね。別に褒めてる訳じゃないからなっ』

倫子「……紅莉栖は、もう、この世に、いないから」ウルッ

倫子「だって、私が、私がぁぁっ……うわぁぁん……」ポロポロ

Ama紅莉栖『わかった! 私が悪かった! これ以上詮索するのはやめる!』

Ama紅莉栖『だから、今は寝なさい。アンダスタン?』

倫子「……やだ。紅莉栖と離れたくない」グスッ

Ama紅莉栖『気持ちは嬉しいけど……なら、あんたが寝るまで側に居てあげるから。ねっ?』

倫子「じゃぁ、私が眠るまで神経パルス信号の解説してて」

Ama紅莉栖『私の講義を子守唄代わりにしないで欲しいわけだが……まあ、それで眠れるっていうならしてあげなくもない』

Ama紅莉栖『えっと、神経細胞はちょっとした電池を内蔵しているようなものなの。イオンの濃度差で作られてる。スイッチが入るとナトリウムイオンが――』

倫子「……ぐぅ」zzz

Ama紅莉栖『――この信号が軸索を伝わって他の神経細胞へ、って、もう寝ちゃったか』

Ama紅莉栖『…………』

Ama紅莉栖『私、岡部の力になってあげられるのかな……』


ブツンッ


571: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:02:51.13 ID:qTKNtn1yo
一方その頃
和光市 東縦イン
503号室


真帆「紅莉栖……紅莉栖ぅ……んぅ……」zzz


prrrr prrrr


Ama紅莉栖『(あれ、先輩出ない……もしかして、もう寝ちゃってる?)』


・・・
真帆の夢 過去の記憶
2010年3月28日
ヴィクトルコンドリア大学 カフェテリア


レスキネン「"サイエンス誌の最新号は読んだかな?"」

真帆「"はい"」

レスキネン「"クリスにはあの論文とともに計画の広告塔のような役割をしてもらうべきという意見が多くてね"」

真帆「"……それはどういう"」

レスキネン「"理事会も、彼女の容姿は我が校からの記念すべき100人目のノーベル賞受賞者として非常にメディア向きと考えているようだ"」

真帆「"えっ!?"」

レスキネン「"まあそれはジョークだと思うが、少し現場から離れることは彼女にとっても周囲にとっても良いことだと私も考えている"」

真帆「"……紅莉栖が、彼女が研究所内で孤立しているのは分かっています。でも……"」

レスキネン「"あの論文への各方面からの賞賛は、彼女の才能に対する嫉妬というネガティブな感情にも火を付け、その孤立をより深刻なものにするだろう"」

レスキネン「"ただでさえ若さ・性別・人種・宗教観の相違で周囲の不興を買いがちな彼女を、今そのナーバスな状況から解放することは、彼女自身のためにもなるとは思わないかい?"」

レスキネン「"これから彼女は『持てる者の義務<ノブレス・オブリージュ>』と戦っていかなければならないんだよ"」

真帆「…………」

572: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:03:46.28 ID:qTKNtn1yo
2010年3月28日23時18分
ヴィクトルコンドリア大学 脳科学研究所


紅莉栖「冗談じゃないわッ。こんな大事な時期に、なんで私が……」ブツブツブツブツ

Ama真帆『ね、ちょっと? いい加減にしてくれないかしら』

紅莉栖「え? なにがです、先……? あっ、今の、この子が言ったんですか? てっきり先輩かと」

真帆「何言ってるの。この子は私の分身みたいなものなのよ? だから、この子の言葉は私の言葉でもあるの。ね?」

Ama真帆『ええ。私は比屋定真帆よ。紅莉栖、あなたさっきからひとりでブツブツうるさいわ』

真帆「これじゃ集中できやしない。明日までにこの論文、提出しないといけないんだから」

紅莉栖「……もしかして私、ひとりごと言ってました?」

真帆「騒音公害で訴えてあげましょうか」

紅莉栖「すみません」シュン

真帆「日本で何か必要なものがあったら言ってね。送ってあげるから」

紅莉栖「はい、ありがとうございます。ね、先輩? 今の話ですけど」

真帆「今の話って、どの話?」

紅莉栖「『ひとりごと』ですよ! それって、自我の証明のひとつになるんじゃないでしょうか」

真帆「(この子は……ホント、無邪気な天才よね……)」

紅莉栖「ひとりごとや独語症のメカニズムが脳科学的に解明できたら、医療分野でも役立つと思うんです」

紅莉栖「あと、ひとりごとを欲求不満からくる内発的な無意識の自己主張と考えると――」

紅莉栖「『Amadeus』の自我の証明にも、って、聞いてます先輩?」

真帆「え? ああ……。ま、そんなことばっかり考えてないで、たまには日本でリフレッシュしてくることね」

573: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:04:34.08 ID:qTKNtn1yo

紅莉栖「それが納得いきません」

真帆「どうして? 向こうの生活だって楽しいと思うけれど」

紅莉栖「留学なら大学院にすべきです。なんで高校なんですか」

真帆「仕方ないでしょう? 日本では、年齢的にあなたはまだ高校生なんだから」

紅莉栖「…………」ムーッ

真帆「それに、もともと7月になれば、日本に行かなくちゃいけなかったんだから、ちょうどいいじゃない」

紅莉栖「はい。実はそれも憂鬱で……講演なんて慣れてないし、なにをどうしていいのか」

真帆「サイエンス誌に論文が載った以上、これからもどんどん増えるわよ」

紅莉栖「……やだな」ボソッ

真帆「(……手にしたくてもできない人が多い栄誉だってこと、わかってるのかしらこの子は。なんて、私もけっこう性格がゆがんでるのかもね)」

真帆「えっと、日本でお父さんに会うの?」

紅莉栖「実は、父から招待状が届いたんですよ。夏頃、新しい理論の発表会をするそうです」

真帆「ふ~ん。とにかく気をつけて行ってくることね。お土産期待してるから」

真帆「あなたが日本から戻ってきたら、『Amadeus』がひとりごとをつぶやけるかどうか、ふたりで検証してみましょう」

紅莉栖「はい!」ニコ

575: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:05:25.73 ID:qTKNtn1yo
2010年7月28日日本時間16時29分


prrrr prrrr

レスキネン「"――それは本当か!?"」


真帆「"どうしたんですか教授。珍しく慌てて"」

レスキネン「"……いいかい、マホ。落ち着いて聞くんだ"」

レスキネン「"クリスが、死んだ"」

真帆「え――――」

レスキネン「"アキハバラの雑居ビルで何者かに刺されたらしい。搬送先の病院から電話がかかってきたんだが、死亡を確認したそうだ"」

真帆「"……ジョークですよね? 教授にしてはブラックが過ぎます、よ……"」プルプル

レスキネン「"マホ、私だって信じられないという気持ちでいっぱいだ。さっきの電話が何かの間違いであってほしいと思う"」

真帆「そんな……そんなことって……」

レスキネン「"取りあえず私はチームの責任者として色々動かないといけないようだ。留守の間は、ここを頼むよ"」

レスキネン「"気をしっかり持つんだ、マホ"」

真帆「嘘……嘘、よね……」

真帆「紅莉栖……っ!」


・・・


576: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:07:17.67 ID:qTKNtn1yo

真帆「紅莉栖……紅莉栖ぅ……」グスッ


prrrr prrrr


真帆「ふがっ……な、なに……紅莉栖?」ピッ

Ama紅莉栖『はい、"紅莉栖"です。……先輩、寝てました?』

真帆「まあね……ひどい悪夢を見てたわ。だから、起こしてくれて助かった」

Ama紅莉栖『でも、覚えている夢というのは最後のレム睡眠時、つまり起きる直前の数分のうちに、主観では何十分、何時間、何日にも思えるような時間の夢を見ているんですよね』

Ama紅莉栖『もしかしたら、私の通話の着信音のせいで先輩に悪夢を見させてしまったのかも……』

真帆「あなたのせいではないわ。私の脳の責任まで独り占めしないでくれる?」

Ama紅莉栖『すみません、先輩』

真帆「それで、どうしたの? なにかトラブル?」

Ama紅莉栖『そんなところです。岡部……岡部さんの様子についてなんですけど』

Ama紅莉栖『昨晩から連続して23時間48分通話しました。今は疲れて眠ってます』

真帆「なっ……。一種の中毒症状じゃない」ハァ

Ama紅莉栖『これはこれで貴重なサンプルデータだとは思いますけど、倫理規定違反ギリギリですよね』

真帆「カウンセリング効果もなにもない、ってわけよね……。わかった、私からも岡部さんに働きかけてみる」

真帆「……そう言えば、紅莉栖が日本に居る間のこと、聞けた?」

Ama紅莉栖『何度も聞き出そうとしたんですけど、その度に精神が不安定になるようで……さすがの私でも引き下がるを得ませんでした』

真帆「そう……これも直接聞いた方がいいのかしら」

Ama紅莉栖『そう言えば、明日から岡部の……いえ、岡部さんの大学は学園祭らしいですよ』

真帆「無理に他人行儀にならなくていいわよ。仲良くなったならなったで問題なし」

真帆「それより、学園祭ね……ふーん、おもしろそう」

577: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:07:55.50 ID:qTKNtn1yo
2010年11月30日火曜日
岡部青果店 2階 自室


prrrr prrrr

岡部母「倫子。お客さんが来てるわよ……って、まだ寝てたの。アラーム鳴りっぱなしよ」

倫子「んむぅ……あれ、紅莉栖は?」

prrrr prrrr

倫子「紅莉栖!? どこ!?」ピッ

Ama紅莉栖『お、落ち着きなさい。私はここに居る。あ、お母様、おはようございます』

岡部母「あら、おはよう。お電話中だったのね、ごめんなさい」

岡部母「それじゃ、早く準備して下に来なさい、お客さんを待たせるといけないわ」

倫子「ん……ん? 私に、お客さん?」

Ama紅莉栖『早く行ってあげて。先輩、待たせると怖いから』

倫子「先輩? って、真帆ちゃんが来てるの!?」ダッ

Ama紅莉栖『ちょ!? 服を着替えて! ほとんど脱げてるわよ!』

578: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:09:08.70 ID:qTKNtn1yo
岡部青果店 1階 店舗


真帆「早くに悪いわね。ふーん、ここが岡部さんの家なの。八百屋さんだったのね」

倫子「な、なんで比屋定さんがうちに?」

真帆「"紅莉栖"からSOSを受けたのよ。あなた、24時間ぶっ通しで『Amadeus』と会話してたんですって?」

倫子「う゛っ……まずかった? もしかして私から紅莉栖を取り上げにきたの!?」

倫子「お願い、テスターを続けさせて! なんでもするから!」ヒシッ

真帆「これは思ったより重症ね……。いい? "紅莉栖"と通話するのは1日5時間まで、連続での通話は1時間までとするわ」

真帆「"紅莉栖"1人に管理させるのも不安だから、私の『Amadeus』にチェックしてもらうから」

Ama紅莉栖『既に岡部の「Amadeus」アプリには真帆先輩の「Amadeus」も接続可能になってるわ。今後私にセクハラしたらちゃんと怒ってもらうから覚悟するように』

倫子「……わ、わかった」シュン

真帆「(この罪悪感の正体は一体……)」

Ama紅莉栖『それより岡部、今日ってあんたの大学で学園祭なんでしょ? 先輩がね、日本の大学のフェスティバルに興味があるんだって』

倫子「学園祭?」

真帆「そう。今日はまあ、デートのお誘いに来たってところ……あ、いや!? 今のはジョーク! ナシナシ!」アタフタ

Ama紅莉栖『え?』

倫子「……あっ! ご、誤解してるようだから言っとくけど、私は比屋定さんを恋愛対象として見てないから安心して。ねっ?」

真帆「それはそれで悔しい気がする……」

Ama紅莉栖『ああ、なるほど。"お友達で居ましょうね"ってやつか』

倫子「黙れこのスイーツ(笑)っ!」

Ama紅莉栖『だ、誰が脳内お花畑だっ!』

真帆「……たまに不思議な言語で会話するわよね、あなたたち」

真帆「ねえ、岡部さん。私が見ているところでは"紅莉栖"といくらでもしゃべっていいから、一緒に行きましょう?」

倫子「そういうことなら……」

579: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:09:46.66 ID:qTKNtn1yo
岡部青果店 1階 店舗


真帆「早くに悪いわね。ふーん、ここが岡部さんの家なの。八百屋さんだったのね」

倫子「な、なんで比屋定さんがうちに?」

真帆「"紅莉栖"からSOSを受けたのよ。あなた、24時間ぶっ通しで『Amadeus』と会話してたんですって?」

倫子「う゛っ……まずかった? もしかして私から紅莉栖を取り上げにきたの!?」

倫子「お願い、テスターを続けさせて! なんでもするから!」ヒシッ

真帆「これは思ったより重症ね……。いい? "紅莉栖"と通話するのは1日5時間まで、連続での通話は1時間までとするわ」

真帆「"紅莉栖"1人に管理させるのも不安だから、私の『Amadeus』にチェックしてもらうから」

Ama紅莉栖『既に岡部の「Amadeus」アプリには真帆先輩の「Amadeus」も接続可能になってるわ。今後私にセクハラしたらちゃんと怒ってもらうから覚悟するように』

倫子「……わ、わかった」シュン

真帆「(この罪悪感の正体は一体……)」

Ama紅莉栖『それより岡部、今日ってあんたの大学で学園祭なんでしょ? 先輩がね、日本の大学のフェスティバルに興味があるんだって』

倫子「学園祭?」

真帆「そう。今日はまあ、デートのお誘いに来たってところ……あ、いや!? 今のはジョーク! ナシナシ!」アタフタ

Ama紅莉栖『え?』

倫子「……あっ! ご、誤解してるようだから言っとくけど、私は比屋定さんを恋愛対象として見てないから安心して。ねっ?」

真帆「それはそれで悔しい気がする……」

Ama紅莉栖『ああ、なるほど。"お友達で居ましょうね"ってやつか』

倫子「黙れこのスイーツ(笑)っ!」

Ama紅莉栖『だ、誰が脳内お花畑だっ!』

真帆「……たまに不思議な言語で会話するわよね、あなたたち」

真帆「ねえ、岡部さん。私が見ているところでは"紅莉栖"といくらでもしゃべっていいから、一緒に行きましょう?」

倫子「そういうことなら……」

580: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:10:54.22 ID:qTKNtn1yo
東京電機大学神田キャンパス


Ama紅莉栖『変な恰好をした人が多いわね』

真帆「webページで見た通り、とても立派な大学ね、東京電機大って」

Ama紅莉栖『ヴィクトル・コンドリア大とはだいぶ雰囲気が違いますけどね』

倫子「そんなにおもしろいかな?」

ダル「はふー。はふー。って、あれ? オカリンじゃん。どしたん?」

倫子「あれ、ダル。なにか仕事あったの?」

ダル「僕、実行委員の1人なんだよね。それで最近忙しかったり」

ダル「んで、そっちのロリっ娘は誰なん!? まさかオカリン、どこぞの中学校からナンパしてきたん!? それとも、隠し子?」ハァハァ

真帆「ロリっ娘……」ゾワッ

倫子「(比屋定さんのことをダルに紹介すると、"紅莉栖"のことも知られちゃうからやめといた方がいいよね……)」

真帆「あ、あなたは岡部さんの何なの!? まさかとは思うけど、彼氏じゃないでしょうね!?」

倫子「こいつはオレの……いや、私の相棒、みたいな感じかな」

倫子「(どうも"紅莉栖"と会話するようになってから鳳凰院が飛び出すことが多くなっちゃったなぁ……)」

ダル「愛の棒とか、xxすぐるだろ常考!」

真帆「セクハラで訴えてあげるわ!! 腕の良い弁護士を知っているんだからね!!」

倫子「だーもう! なんでもないからぁっ!」

581: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:12:53.69 ID:qTKNtn1yo

倫子「ダルには"紅莉栖"のことはまだ秘密にしておいて」ヒソヒソ

真帆「え、ええ。わかったわ」ヒソヒソ

ダル「そうそう。あとでステージイベントなんかもあるし、そっちに行ってみるのもいいと思うのだぜ」

ダル「僕が案内してあげたいところなんだけど、色々頼まれててさ。そんじゃ、楽しんで行ってくれよな」タッ タッ

真帆「……ねえ、岡部さん。あの人、大丈夫なの?」

倫子「……言動はああだけど、害は無い男だし、結構ハイスペックなんだよね、あいつ」

真帆「人は見た目によらないのね……ちょっと反省」

Ama紅莉栖『あれが岡部の話してたダルさんか……ふむん』

真帆「あなたは学園祭の仕事をなにも頼まれていないの?」

倫子「山ほど頼まれた……けど、1つでもOKしたらなし崩し的に全部やらされる羽目になるから、全部断ったよ」

真帆「あなたも苦労してるのね」


シンパA「倫子お姉様っ! 今日いらっしゃってたんですね! うちの店でから揚げをサービス致します!」

シンパB「あーっ、倫子ちゃんが学園祭来てる! やっぱりアレ出るの!? みんなに言わなきゃ!」

シンパC「倫子ちゃーん! 写真撮らせてー! ついでにうちのブースでコスプレもしていってー!」


真帆「……私、もしかして、結構すごい人と一緒に歩いてる?」

倫子「こんなことなら白衣を着てくるんだった」ガクッ

582: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:13:34.88 ID:qTKNtn1yo

Ama紅莉栖『岡部って友達多いのね。女の子が多いみたいだけど』

倫子「あれは友達じゃないよ。私が顔を火傷して傷だらけになったりしたら、きっと離れていく」

Ama紅莉栖『あっ……』

倫子「でも、コネを作っておくことが重要だってわかってからは、なるべく愛想を振りまくようにしてる。それだけ」

真帆「大脳新皮質がひねくれてるわね、あなた」

Ama紅莉栖『先輩も人のこと言えないんじゃないですか』

倫子「やっぱり、あなたたちとおしゃべりしてる方が楽しいかも」フフッ

真帆「紅莉栖とは親友だったの?」

倫子「…………」

Ama紅莉栖『……こんな感じになっちゃうんです』

真帆「なるほど……どうしても紅莉栖が日本に居た時の話はしたくないのね」

倫子「う、ううん! したくないってわけじゃないの。ただ、思い出すと気分が……うぷ……」

真帆「だ、大丈夫!? えっと、トイレは……」

倫子「手、握って……それで、治まるから……」ハァ ハァ

真帆「……ごめんなさい。無理させて」ギュッ

Ama紅莉栖『……こういう時、肉体が無いのって寂しい気がします』

583: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:14:16.16 ID:qTKNtn1yo

倫子「私と紅莉栖は多分、親友以上だった……それは間違いないと思う」

真帆「……そう」

Ama紅莉栖『私が言うのもなんだけど、"牧瀬紅莉栖"と仲良くしてくれて、本当にありがとう。あの娘、友達作るのホンットに下手くそだから』

真帆「あなたが言うと信憑性しかないわね」ククッ

倫子「うん、間違いない」フフッ


ダル『さぁ、学園祭最大の目玉企画! びしょ~じょコンテストッ!』


倫子「うわ、ダルの声がマイクで拡声されてる」


ダル『いよいよぉ、結果発表だお~!』


真帆「あそこのステージでやってるみたいね」

倫子「忙しいと思ったら何をやってるんだか」

584: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:14:56.34 ID:qTKNtn1yo
ステージ


ダル『客席のおまいら、何疲れてんだー! 最初から最後までテンションMAXでいけっつーの!』

客席のおまいら「「「うおおーっ!!!!」」」

ダル『オーケーオーケー。そうじゃないと電大生じゃないっしょ』

真帆「おー、いかにもお祭りっぽいわ」

倫子「はぐれないでね、比屋定さん。ただでさえ背が低いんだから」ギュッ

真帆「だ、誰が迷子のチビッ子か!!」

Ama紅莉栖『正論なんですから反論しないでくださいよ、先輩』フフッ

真帆「ぐぬぬ……」

ダル『美少女コンテスト。今年のグランプリはぁ~?』


Drrrrrrrrrrrrr ジャン!  


ダル『我らが電大の女神ッ!! 倫子たんだぁーっ!!』

客席のおまいら「「「うおおおーっ!!!」」」

倫子「ふえぇっ!?」

585: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:15:40.00 ID:qTKNtn1yo

ダル『倫子たん、ステージの方へどうぞ!』

倫子「ちょ、ま、ええ!?」

シンパ「「「倫子様ーっ!! きゃーっ!!」」」

倫子「お、押さないでぇ!! うわぁん!!」


真帆「見事に連れて行かれたわね……」


ダル『倫子たんにお聞きするお。今のお気持ちをどうぞ』

倫子「……おいダル。これは一体なんの真似だ」ヒソヒソ

ダル「いやあ、ラボの家賃稼ぐために胴元になったんだよねぇ」ヒソヒソ

倫子「オレで賭博をしていたのか貴様……しかもラボの家賃のためとか言われたら頭が上がらない……」ガックリ

586: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:16:38.59 ID:qTKNtn1yo

ダル「ほら、今は鳳凰院モードしまって、みんなにリップサービスしてほしいのだぜ」ヒソヒソ

倫子『……み、みんなー! 私に投票してくれて、ありがとーっ!』

客席のおまいら「「「うおおーっ!!!」」」」

シンパ「「「倫子ちゃーん! かわいいー! 抱いてーっ!」」」

ダル『さあ、倫子たんにはミス電大生の称号が送られます』

倫子『あ、どうも。わ、わーい、うれしいなー』

ダル『つまり、倫子たんはこの大学で一番の存在! 倫子たんにイタズラしようものなら、全電大生組織が制裁を加えるので、そこんとこヨロ!』

シンパA「倫子ちゃんは私が守る!」

シンパB「電大生の名に懸けて!」

シンパC「電大生は全員倫子様の味方だー!」

客席A「お、俺もファンクラブに入ろうかな!」

客席B「公式ツイぽフォローしたぜ!」

ダル「これでオカリンの敵は大学から居なくなるはずだお。ちなみに公式ツイぽは僕とフェイリスたんで運営してるのだぜ」

倫子「(……もしかして、ダルはそのために私を?)」

ダル『それではおまいらお待ちかね! 写真撮影ターイム! 水着も用意してあるお』ハァハァ

客席のおまいら「「「うおおーっ!!!」パシャパシャパシャパシャ

倫子「ダルぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!! うわぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」

587: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:17:37.49 ID:qTKNtn1yo

倫子「ひ……ひどい目に、遭った……」グッタリ

倫子「そして案の定比屋定さんが居なくなってる。"紅莉栖"、場所わかる?」

Ama紅莉栖『一応GPSを使って先輩のケータイの場所を特定することはできるけど、この人の多さじゃ意味ないでしょうね』

倫子「だよね……DURPAも役に立たないなぁ」

Ama紅莉栖『ダーパ? ああ、GPSを作った、アメリカ国防総省の機関のことか。岡部ってそういう知識は無駄に豊富よね』

倫子「褒め言葉として受け取っておくよ。ん? あれは……"紅莉栖"、隠れて」

Ama紅莉栖『はいはい』 ブツッ


フブキ「あーあ、私も今日の由季さんみたいに可愛い系のコスしたいな~。どうせ似合わないのはわかってるけどさぁ」

まゆり「去年の星来ちゃんコスはすっごくセクシーだったよー?」

カエデ「フブキちゃんは謙信様みたいなクール系男装コスが最高に似合うのよ! 私の目の黒いうちはフブキちゃんに可愛い系コスなんてさせないんだから!」

フブキ「ぐぬぬ……来年の夏コミマでは絶対ドマ☆ドギのコスするんだい! マユシィ、お願い!」

まゆり「うん、まゆしぃもね、魔法少女さんのコス作りは楽しみだよ~♪」

由季「いつもありがとう、まゆりちゃん。今日のイベントが盛り上がったのも、まゆりちゃんが作ってくれた衣装のおかげだね」ニコ

588: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:18:41.68 ID:qTKNtn1yo

フブキ「はあ~、由季さんラブ~♪」

カエデ「あら、フブキちゃんは前、まゆりちゃん一筋だって宣言してたわよね? 浮気するんだ、ふーん」

フブキ「ちょ!? マユシィだってカエデちゃんだって大好きだぜぃ!」アセッ

カエデ「DD(笑)」

フブキ「うぐっ!?」

倫子「おーい、まゆり。どうしたの、こんなところで」

まゆり「あーっ! オカリンだー♪ とぅっとぅるー」

倫子「フブキもカエデも、由季さんも来てたんだ」

倫子「(このフブキってのはまゆりと同い年で、同じコスプレサークルの仲間らしい。ボーイッシュで元気な子だ)」

フブキ「おおっ! ミス電大生なりたてほやほやのオカリンさん! 美しすぎるぜーっ!」

カエデ「ちょっとしたお小遣い稼ぎになりました、ありがとうございますオカリンさん。うふふ」

倫子「(私に賭けてたのかこの人……)」

由季「今日は橋田さんに頼まれて、イベントステージでコスプレ企画に参加してきたんです」

倫子「ああ、そういやダルもまゆりのコスプレサークルに入ってるんだったっけ。みんなお疲れ様」

589: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:19:36.65 ID:qTKNtn1yo

まゆり「そうそう、オカリン! みんなクリスマスパーティー来てくれるって!」

由季「コミマの分も合わせて衣装づくりするので、みんなで作ろうって話してたんです」

フブキ「この流れなら言えるっ! オカリンさんもコスプレデビューするのだぁ~!」ダキッ

倫子「わ、私はいいよ! 恥ずかしいし……」

カエデ「絶対作るわ! 無理やりにでも着せるわ!」ハァハァ

フブキ「マユシィもサンタコス着ようよ! それならオカリンさんも着てくれるって!」

まゆり「え~? でも、まゆしぃは作るの専門だから……」

倫子「いやいや、どんな理論だよ、それ」

フブキ「だって、一生嫁宣言したんですよね? オカリンさん」

まゆり「あわわ~!! フブキちゃん、それはまゆしぃの夢の話だってばぁ!!」

倫子「……っ」

フブキ「でもでも~、人質宣言はしたんでしょ? 響きが  いよ! まったくもってけしからん!」

由季「禁断の愛の形だねー。でもホント、2人の会話って熟練夫婦って感じがするよ」

まゆり「そういうのじゃないよ~。だって、オカリンには他に好きな人がいるのです」

フブキ「…………」

カエデ「…………」

由季「…………」

一同「えええっ!?!?」

590: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:20:25.75 ID:qTKNtn1yo

由季「まさか、橋田さん?」

倫子「だから違うってばぁ!!」

カエデ「でも、好きな男性が居ることは否定しないんですね?」

倫子「あ……い、いないっ! 今のは、まゆりのたわごとだから! ほら、私って男性恐怖症だし!」

カエデ「つまり、他に好きな"女"が居る、と」ジーッ

倫子「うっ……」

カエデ「ミス電大生のゴシップとなれば一波乱起きますよねー。SNSが炎上したり、ファンクラブで暴動が起きるかも」チラッ

倫子「ううっ……」ウルッ

カエデ「(ああっ……かわいい……!)」ゾクゾク

フブキ「オカリンさんだったら納得できるよね。だって、かっこかわいい美人さんだし、私だってオカリンさんに告白されたらオッケーしちゃうよ」

まゆり「だ、だめだよぅ! オカリンは渡さないもんっ! あ、もちろん人質的な意味でだよ!?」

由季「それじゃあ、岡部さんがまゆりちゃんの人質みたいですね」フフッ

倫子「ううう~っ!!」

591: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:25:15.73 ID:qTKNtn1yo

倫子「そ、そんなこと言ったら由季さんだって引く手あまたでしょ!? きっとクリスマスなんか色んな男から誘われて――」

由季「やだなぁ、そんなことないですよ。私、そんなにモテないし、年齢と彼氏いない歴が一緒だもん」

フブキ「ええ~!?」

カエデ「きっと裏に闇がありますね……」

倫子「そ、そうなんですか?」

由季「まゆりちゃんにパーティー誘われなかったらバイト入れようと思ってたくらいだし。体の限界まで働くのが趣味だから」

倫子「(この人はなんていうか、バイト狂戦士<バーサーカー>なんだよね……)」

まゆり「それなら、えっと、ダルくんなんてどうかな?」

倫子「お、おいまゆり!」

フブキ「何を言い出すのマユシィ!? 橋田さんはHENTAI紳士なんだよ!?」

カエデ「由季さんがクソムシの毒牙にかけられちゃう……」

由季「それはそれで……あ、いや、でも橋田さんは私みたいなドM、じゃなかった、私みたいなのは好きじゃないと思うな」

まゆり「ええっ!?」

倫子「(今一瞬聞き捨てならないワードが飛び出した気がしたがまゆりの耳には都合よく入らなかったようだ)」

592: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:26:07.44 ID:qTKNtn1yo

まゆり「そ、そんなことないよ? ダルくんはね、えっとね、由季さんに萌え萌えきゅーんだよ。きっとそうだよ。まゆしぃが保証します」アワアワ

倫子「(未来からの情報ってのはこれだから厄介なんだよ……世界線が変わらなければいいんだけど)」

由季「ううん、見てれば分かるよ。なんとなく避けられてるなぁって」

倫子「(これもだ……。ダルは由季さんを未来の嫁だと認識してるからどう接していいかわからないだけなのに)」

倫子「(そのうち、ホントに鈴羽の身体が透明になったりするかもしれない……あ、いや、世界線理論だとそれはないか)」

由季「橋田さんはきっと、鈴羽さんみたいな妹タイプの女の子が好きなんだと思うな」

フブキ「鈴羽さんって、橋田さんのリアル妹さんでしたよね? ま、まさか親   !?」ドキドキ

倫子「それを言うなら近   ……って、何を言わせる!」

カエデ「そうよ、フブキちゃん。近   ってのはね、兄妹でセッ」

フブキ「わーわーわー!! わかってるから言わないで!!」カァァ

まゆり「由季さん、それは誤解だよ~……」

フブキ「マユシィ、そんな顔しないで。マユシィは笑ってるときが一番かわいいんだから」

フブキ「ね、ほらほら、笑わないとくすぐっちゃうぞ~。こちょこちょこちょ」

まゆり「ひゃっ、わふ、やめ……っ! にゃは、あはは、ひふぅ……っ」

フブキ「ん~、マユシィ、かわいすぎ~! お持ち帰りしたーい! 結婚してくれー!」

まゆり「無理だってば~!」

フブキ「じゃあ、うちのアニキと結婚して、私のお義姉さんになるとか」

倫子「だ、だめ! ダメ絶対! シンイチさんはガチ過ぎるから絶対だめ! アブダクションされる!」

まゆり「助けてオカリ~ン……」

593: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:27:34.67 ID:qTKNtn1yo

由季「それじゃ、私はこれからバイトがあるのでそろそろ失礼しますね。またね、みんな」

倫子「私も人を探してるからここでお別れかな」

まゆり「そっかー。それじゃあね~、由季さん、オカリン」

カエデ「今日は楽しかったです」

フブキ「バイバイ!」



倫子「……はぁ。なんか、どっと疲れた」

倫子「そう言えば、比屋定さんの『Amadeus』も呼び出せるようになってるんだっけ?」

Ama紅莉栖『岡部から能動的に呼び出すことはできないけど、私が呼ぼうと思えば呼べるようになってるの。"先輩"、どうぞこちらへ』

Ama真帆『お久しぶり、岡部さん。あの時のセミナー以来になるわね』

倫子「おー、電脳真帆ちゃん。あなたもかわいいね」

Ama真帆『真帆ちゃん言うなっ! 私のことは、双子の妹かなんかだと思ってくれればいいわ』

倫子「それじゃあ、真帆ちゃんって呼べないなぁ」

Ama真帆『適当にあだ名をつけてくれてもいいわよ。ちゃん付け以外で』

Ama紅莉栖『サリエリ、なんてどうです?』

Ama真帆『ああ、"オリジナル"のID、ね。まあ、いいんじゃない? オリジナルは嫌がると思うけど』

倫子「サリエリって……それ、どういう意味?」

594: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:28:30.43 ID:qTKNtn1yo

Ama真帆『紅莉栖が本物の天才で、"私"はそれを妬む秀才ってことよ。紅莉栖は気付いていたみたいだけどね、"真帆"のエンヴィーに』

Ama紅莉栖『いいえ、気付いてませんでしたよ、私のオリジナルは。むしろ真帆先輩に嫉妬してたくらいです』

Ama真帆『えっ?』

Ama紅莉栖『もちろん、それ以上に尊敬していました。研究者としても、先輩としても、1人の女性としても』

Ama真帆『へえ、そうなの。これって私のオリジナルに教えない方がいいわよね?』

Ama紅莉栖『そうでしょうね。適当に誤魔化しておいてください』

倫子「とても人工知能同士の会話には思えないな……」

Ama真帆『あら、"私"の声が聞こえたわ。近くに居るわよ』

倫子「えっ、ホント? って、あそこに居るのは……」


真帆「んもう、違うって言ってるじゃないの! え、保護者? だから私は――」


倫子「比屋定さん。やっと見つけた」

真帆「岡部さん! よかった、いいところに! あ……やっぱり、なんでもないわ」

Ama紅莉栖『実行委員の人に迷子と間違われてたんですねわかります』

真帆「ぬぁっ……!」

倫子「そこの実行委員の人! この人は、見た目は子どもかもしれないけど、れっきとした成人女性で、立派な脳科学研究者なの! 誤解するのはもっともだけど、とりあえず謝りなさい!」

真帆「や、やめて、恥ずかしい……!」カァァ

595: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:30:45.68 ID:qTKNtn1yo

倫子「それで、学園祭は楽しかった?」

真帆「……あなたに嘘を吐いても仕方ないから正直に言うわ。私は、あなたから紅莉栖の話が聞きたくて今日一緒に出掛けてもらった」

倫子「……ごめん、なさい」

真帆「ううん、私の方こそごめんなさい。無理やり聞き出そうとした私が悪かったわ」

Ama紅莉栖『それについては私からも陳謝します。ごめんね、岡部』

倫子「あの、比屋定さんは紅莉栖に対してどう思ってたの? 仲の良い後輩?」

真帆「……そうね。私が一方的に聞こうとするのはフェアじゃなかった」

真帆「いいわ、紅莉栖の話、してあげる」

真帆「同じように飛び級で大学に入って、同じ研究室で、同じ脳科学の研究をして……」

真帆「それなのに、注目されるのはいつもあの子ばかり。正直、すごく羨ましかった」

真帆「あの子が日本に旅立つまではね」

倫子「……?」


596: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:31:32.96 ID:qTKNtn1yo

真帆「あの子が日本に旅立つって聞いて、実はちょっとだけ思ってしまったの」

真帆「……留守の間は、こんな妬ましい思いをしなくて済むかも、って」

Ama紅莉栖『先輩……』

真帆「嫌な人間よね、私」フフッ

真帆「……実際に帰ってこないとなると、とっても寂しくて……」

真帆「あの子が日本から帰ってこられなくなった理由はなんだったんだろうって、そう思うようになって」

倫子「……っ」

真帆「そうして、気付いたの。私はたぶん、あの子に振り向いてほしかったのよ」

真帆「もっともっと、私のことを見てほしかったのね」

Ama紅莉栖『……見てましたよ。"紅莉栖"は先輩のこと、見てました。嘘じゃありません』

真帆「……うん、ありがと」

倫子「(『Amadeus』の言葉は、本人の言葉じゃない……こんな形で思い知らされるなんて)」

倫子「つまり真帆ちゃんは紅莉栖ラブだったんだね……」

真帆「そう……って、ふぇ!? そういうんじゃないわよ、バカ! あと真帆ちゃん言うなっ!」

倫子「(そういや、クソレ だったα世界線の紅莉栖は真帆ちゃんにどう接してたんだろう?)」

597: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:32:27.54 ID:qTKNtn1yo

真帆「私も本当はこんなことに時間を使ってる場合じゃないのよね。あの子の抜けた穴をカバーしなくちゃならないから」

Ama紅莉栖『私にできることなら全力で協力します』

真帆「そうしてもらうつもりよ。そのためにはまず、岡部さんを鍛えてあげて」

倫子「わ、私を?」

Ama紅莉栖『手近なところでは、英会話の練習でもしましょうか。ヴィクコンへ行くんだったら英語はしゃべれないと』

倫子「た、たしかに……家庭教師が紅莉栖ってのはちょっと面倒臭そうだけど、ものすごく便利……」

Ama紅莉栖『失礼な! あんたのスマホから消えてもいいのよ?』

倫子「わ、わかった! 勉強頑張るから、居なくならないでっ!」ヒシッ

真帆「紅莉栖。今後岡部さんにそういう脅しは二度としないこと。今ここで約束しなさい」

Ama紅莉栖『……すみません、調子に乗りました。以後、気をつけます』

真帆「よろしいっ。今後私から"紅莉栖"にコンタクトを取ることは極力避けるから、あなたひとりの力で頑張りなさい」

Ama紅莉栖『実験結果にノイズを与えないためですね。了解です、先輩』

倫子「私はモルモット扱いなんだね、あはは……」

598: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:33:00.61 ID:qTKNtn1yo
一方その頃
NR秋葉原駅


まゆり「それじゃ、まゆしぃは山手線だから。とぅっとぅるー」クルッ スタ スタ


フブキ「う、うん。バイバイ……」

カエデ「……フブキちゃん? どうしたの?」

フブキ「ごめん、なんでもない」

カエデ「なんでもなくないよね? どうして嘘吐くのかな? 私達友達だよね?」

フブキ「…………」ウルッ

カエデ「……お願い、話して。もうふざけないから」

カエデ「今日のフブキちゃん、いつもよりテンション高かった。すごく無理してる感じがしたもの」

フブキ「気付いてたんだ……」

カエデ「気付くよ。もう2年近くの付き合いなんだよ?」

カエデ「フブキちゃんの泣き顔は好きだけど、今日のは好きじゃないな」

フブキ「……マユシィがね」

カエデ「うん」

フブキ「死んじゃうんだ」

カエデ「……えっ?」

599: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:33:44.71 ID:qTKNtn1yo

フブキ「夢を見るんだよ」

フブキ「夏ぐらいからかな。毎日毎日、夢の中でマユシィが死んで、そのたびに私やカエデちゃんはお通夜とお葬式で泣いて、でもどうすることも出来なくて……」

カエデ「…………」

フブキ「他殺だったり、交通事故だったり、カラオケ中の心臓発作だったり……」

フブキ「警官の誤射だったり、行方不明になって外国で遺体が発見されたり、電車に轢かれたり……」

フブキ「ゆうべ見た夢なんか最悪だった。私たちの目の前で突然マユシィが倒れて……動かなくなっちゃうの」

フブキ「そのマユシィをね、オカリンさんが、悲鳴を上げながら抱きしめて……」グスッ

フブキ「ねぇ、どうしちゃったんだろう私!? なんでこんな夢ばっかり!?」ウルッ

カエデ「お、落ち着いてフブキちゃん。思いつめたらダメよ。ゆっくり休めば大丈夫だから、ね?」

フブキ「そうかなぁ? そうなのかなぁ!?」

カエデ「まゆりちゃんは今日も元気だったでしょう? ……だから、大丈夫」ダキッ

フブキ「私、やだよぅ……マユシィが死んだりしたら……」

カエデ「そんなことありえないわ。絶対に」

フブキ「絶対に?」グスッ

カエデ「絶対に」ニコッ

600: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:35:37.33 ID:qTKNtn1yo

フブキ「そう言えば、カエデちゃんっていつからSッ気があったっけ? 出会った時はそんなでもなかった気がするんだけど」

カエデ「今から2年前、池袋乙女ロードにあるお店のイベントで私がコスプレしてた時、フブキちゃんとまゆりちゃんと初めて会って、すぐに意気投合して仲良くなったでしょ?」

フブキ「うん。あの時はまだ私もマユシィも中学3年生で、お客さん側だったね」

カエデ「その時、オカリンさんも居たの、覚えてる? あの時は高校2年生だったけど」

フブキ「ああ、マユシィの付き添いだったっけ。『まゆりはオレの人質だから、コスプレなどという目立った行動をしてはならんのだ!』とか言ってて、過保護なお姉さんだと思ってた」

カエデ「そうそう。私はね、すごい美人さん! と思って、コスプレを勧めてみたんだけど」


・・・

倫子「ふぅーはははぁ! このオレ、狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真はそのような俗物の娯楽などに興味など無いのだっ!」

カエデ「えぇー、絶対似合うと思うのになぁ。でも、それならどうしてここに来たんですか?」

倫子「う゛っ……そ、それは……まゆりが……」ウルッ

カエデ「そのまゆりちゃんにもコスプレ禁止令出してましたよね? ここは同じ趣味を共有する人たちのための場所ですよ? どうしてです?」

倫子「……し、失礼なことを言ってしまった。済まない」グスッ

カエデ「(あれ、なんだろうこの気持ち……)」ゾクゾク

・・・


カエデ「特に悪気は無かったんだけど、オカリンさんの泣き顔を見たら嗜虐心をくすぐられちゃって……///」

フブキ「あー、オカリンさんのせいだったんだー」

カエデ「あとでまゆりちゃんから聞いたんだけど、あの後オカリンさん、まゆりちゃんに自分用のコス作りを頼んだんですって」

フブキ「えっ、そうなの? なんだ、コスプレしたことあったんじゃん」

カエデ「その一度きりで二度と着なかったらしいわ。でも、それがキッカケでまゆりちゃんはコス作りに目覚めたんだとか」

フブキ「おお、ということはオカリンさんは私たちのサークルの恩人でもあったわけだ! ありがたや~ありがたや~」ナムナム

カエデ「今度のクリパでは、絶対にオカリンさんにサンタコスさせるわよ……ふふふ……」

601: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:42:20.03 ID:qTKNtn1yo
2010年12月5日日曜日 朝
池袋 サンシャイン60通り スタベ


Ama紅莉栖『――そこは分詞構文。1個の分詞で「接続詞+主語+動詞」の役割を持ってるから見分けるのは簡単でしょ?』

倫子「いちいちムカつくなぁ……でも、それが理由を表すのか条件を表すのかなんて、わかんないよ」

Ama紅莉栖『まあ、確かにね。論文とかで日常的に使う場合はいちいち意味を考えて使ってないかも』

倫子「なんとなく、ってこと?」

Ama紅莉栖『日常で使う分には、と言った。試験問題的には――』


客A「あの子、可愛いね。英語の勉強を教えてもらってるんだ」

客B「こういうことができる時代になったんだねー」


Ama紅莉栖『……私がこういうこと言うのもなんだけど、私としゃべってて、周りの目、気になったりしないの?』

倫子「こういうのって女の子の利点だと思うの」

倫子「これで私が昔のオレ……いえ、男だったら、画面の中の女の子とずっとおしゃべりなんて恥ずかしくてできなかったと思う」

Ama紅莉栖『そう。まあ、ならいいけど』

602: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:43:18.85 ID:qTKNtn1yo
池袋 サンシャイン60通り


倫子「うーんっ! 今日もよく勉強したっ」

Ama紅莉栖『それにしても、興味深いわね。岡部のラボ』

倫子「そ、そう? うーん、でも……」

Ama紅莉栖『だって、岡部がすっごく楽しそうに話すんだもの。オリジナルの私はそのラボに行ったことが?』

倫子「うん……あ、いや、そうでもないかも」

Ama紅莉栖『……深くは聞かないわ。でも、岡部が作ったサークルなら、きっとオリジナルも興味を持ったはず』

Ama紅莉栖『それに、もっともっと外の世界を見て回ってみたい。私の記憶だと、もう7年も日本には来てないから、東京も色々変わってるだろうし』

倫子「大学を見せてあげてるじゃない。講義も見せろって言うからこっそり見せたし」

Ama紅莉栖『この間の学園祭も含めて東京電機大学は堪能した。けど、秋葉原はまだ行ったことない』

倫子「……オリジナルの紅莉栖は、池袋に来たこと無かった……よね」

Ama紅莉栖『え? ええ、無かったわ。こうして岡部に連れられて来たのが初めてよ』

倫子「2003年夏、都電雑司ヶ谷駅……」

Ama紅莉栖『……? 今検索する……岡部の家の近くの路面電車の駅、か。それがどうかした?』

倫子「ううん、なんでもない。それじゃ、ラボ行こっか。でも、隠れてって言ったら隠れてよ?」

Ama紅莉栖『なんだか南くんの恋人になった気分。わかってるわよ、よろしく』

603: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:45:09.73 ID:qTKNtn1yo

まゆり「あれ~? オカリンだー! トゥットゥルー♪」

倫子「"紅莉栖"、隠れてっ」ヒソヒソ

Ama紅莉栖『早速か……はいはい』

Ama紅莉栖『(通話は繋いだままにしておこうっと。まゆりさんがどんな人か気になるし)』

倫子「まゆり、乙女ロードにでも行ってきたの?」アセッ

まゆり「ううん、東京ハンズでコスプレの材料を調達していたのです。ところで、今だれかとお話してた?」

倫子「あ、えーっと、今のは……大学のゼミ友達だよっ」

まゆり「そっか~。今日もお友達と遊びに行くのかな?」

倫子「ううん、今日はこれからラボに行くよ」

まゆり「ホントっ!? オカリンがそう言ってくれるなんて、まゆしぃはね、うれしいよ~!」

倫子「大げさだなぁ。まゆりも一緒に行く?」

まゆり「うんっ。まゆしぃね、由季さんと待ち合わせしてるんだー。お料理を教えてもらう約束なのです」

倫子「ぬぁっ!? ……お、お腹が痛くなってきたから明日にしようかな」

Ama紅莉栖『おいコラ! 約束を破るつもり?』ヒソヒソ


   『できもしない約束を、なぜ誓った?』

   『約束が違うじゃない』


倫子「っ! や、やっぱり行こう! そうしよう!」

倫子「(通話が切れてなかった! んもう!)」ピッ

まゆり「ん~? 変なオカリン」ニコニコ

604: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:46:00.83 ID:qTKNtn1yo
NR山手線外回り車内


真帆【その後、"紅莉栖"とはどう?】


倫子「(比屋定さんともRINEを交換した)」

倫子「(このRINEはダルが作ったアプリだから、ダウンロードリンクを教えてもらわないとインストールできない)」

倫子「(比屋定さんにこの話をしたら、おもしろそうだし、すぐに連絡が取れるのは便利ってことでこうしてRINEで連絡を取り合っている)」


【家庭教師としてはあんまり良くないかも。間違えるとすぐ怒るし】倫子

真帆【ちゃんと勉強してるのね。"紅莉栖"が怒るのはあなたの成長を信じてるからよ】

真帆【未来に向かって頑張りなさい。それじゃ、また連絡するから】


倫子「(未来、か……)」チラッ

まゆり「~~♪」

倫子「(私は結構、今のこの生活に満足している)」

倫子「(まゆりが居て、ラボがあって、ゼミもサークルも順調で、進学の目標もあって――)」

倫子「(そして、"紅莉栖"が居る)」

倫子「(ここ1週間は、いつまでもこんな日々が続けばいいと思っていた)」

605: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:47:24.87 ID:qTKNtn1yo

倫子「(もちろん、この生活がいつまでも続かないことはわかっている。それがβ世界線の収束)」

倫子「(でも、そこに希望があるなら……)」

倫子「まゆり。また、手を握ってもらってもいい?」

まゆり「うん? いいよ~えへへ~♪」ギュッ

倫子「(私のギガロマニアックスとしての力は覚醒していないらしい。だけど、他人の脳の"記憶"に関する未来と過去をある程度視ることができる)」

倫子「(と言っても、"過去視"はかなり限定的。その人が思い出している時にしか視えないし、それ以上の記憶を恣意的に視ることはできない)」

倫子「(でも、"未来視"は別。その脳が将来どういう情報を受信するか、世界線の確定した事象をおおざっぱに読み取ることができる)」

倫子「(まゆりの未来を妄想する。世界が進む流れを感じ取る……)」ギュッ

倫子「(今まではせいぜい1年先しか視ることができなかったけど)」

倫子「(さらに遠く。出来る限りの未来を見てみたい)」

倫子「(まゆりの現実の拡張するイメージ。未来方向へと時間を引き延ばして――)」


  ドクン!!


倫子「(ぐっ……!? な、なにこれ、い、しき、が――――)」

2011
2012
2013

倫子「(世界が早回しになって過ぎ去っていく――――)」

2015
2018
2022

倫子「(未来へと加速していく――――)」

2027
2033
2035
 ・
 ・
 ・



606: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:50:31.38 ID:qTKNtn1yo
・・・
2036年8月13日(水)19時46分
とあるビル屋上


鈴羽「父さん、治安部隊が万世橋まで来てる」

ダル「ということは、ここが発見されるのも時間の問題かな。さあ、入って」キィィ

まゆり「すごい。こんなところに扉があったなんて。これなら誰にも見つからないね」



隠し部屋 ワルキューレ基地


まゆり「これ……タイムマシンだよね……25年振りに見た……」

少女「これが、タイムマシン?」

鈴羽「かがり、危ないからあんまり近づくな」

ダル「61年……これほど長時間の有人ジャンプは初めてだが、技術的には全く問題ない。これまでのテストジャンプ通りやればいいからな」

鈴羽「オーキードーキー」

607: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:52:38.40 ID:qTKNtn1yo

ダル「昔のラジ館はちょうどこの場所が屋上になってる。ただし、高さが1メートルほどズレてるからな、着地する時に衝撃があると思う」

鈴羽「了解」

ダル「笑って出発しよう、鈴羽。そうだ、若い頃の父さんに銃で脅してでも節制と運動をするようキツく言っておいてくれ」

ダル「そうすればたとえこの作戦に失敗しても、今度はもっとゆっくり話をしたり、ハグをしたりキスしたり出来る」ニッ

鈴羽「……考えとくよ」クスッ

鈴羽「…………」カタカタカタカタ

――――――――――――――
    →  1975年8月13日
――――――――――――――

鈴羽「これでよし。それじゃ、父さん。椎名まゆり――」


バゴオォォォォォォォン!! パラララッ パララララッ


まゆり「きゃぁ!」

かがり「ひゃっ」

ダル「屋上からだ! 突入してくる! 鈴羽、急いで跳ぶんだ!」

鈴羽「でもっ! 父さんたちが――!」

ダル「僕たちのことはいい! 鈴羽はかがりちゃんのシートベルトを頼む」

鈴羽「……クソッ、わかった!」

ダル「まゆ氏! かがりちゃんを!」

かがり「マ……ママ……? なにをしてるの?」

まゆり「あのね……今からかがりちゃんはスズちゃんと一緒にタイムマシンで一緒に過去へ行くの」

かがり「えっ……?」

608: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:53:48.13 ID:qTKNtn1yo

かがり「や、やだ! やだよ! イヤ!! ママも一緒じゃなきゃダメ!」

まゆり「大丈夫だよ、かがりちゃん。スズちゃんが一緒だから、ね? はい」スッ

かがり「これは……?」

まゆり「ママがずっと大切にしてきた"うーぱ"のキーホルダーだよ。かがりちゃんにあげる。大事にしてね」

ダル「閉めるぞ!」

ガシャァァァァァン

まゆり「スズちゃん、ほんとうにかがりをお願いね!」

まゆり「あと、オカリンに伝えて! シュタインズゲートは必ず見つかるって!」

ダル「絶対に諦めるな大馬鹿野郎……ってな!」

鈴羽「……オーキードーキー!」

鈴羽「父さん、大好き――」ウルッ

鈴羽「行くよ、かがり。……過去へ」

かがり「ママっ……。ママァッ!!」


キィィィィィィィィィィン……


・・・


609: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:54:43.29 ID:qTKNtn1yo

倫子「――かはぁっ! ……ぜぇっ……ぜぇっ……」

まゆり「オカリン? オカリン! だ、大丈夫かな?」オロオロ

倫子「だ、大丈夫だよ、まゆり……あとで、薬飲まなきゃ……」

倫子「(な……なに、今の……? 何十分も息ができなかった気がする……)」ハァ ハァ

倫子「(胸が、肺が、心臓が苦しい……全身がダルい……)」ハァ ハァ

倫子「(もしかして、時間の感覚が引き延ばされるっていう、エレファントマウス症候群なのかな……医者から聞いてた症状に似てるような気がするけど……)」

倫子「(ギガロマニアックスで視れる未来の範囲を、エレファントマウスで引き伸ばした……?)」

まゆり「無理はしないでほしいな……やっぱり帰ろう?」

倫子「ううん、平気だって。秋葉原までちょっと寝るね。着いたら起こして」クタッ

まゆり「うん……」

610: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:56:39.34 ID:qTKNtn1yo

倫子「(2011年7月7日に鈴羽が過去に跳ぶことで、少なくとも極小の世界線変動が起こる。今視たのはその先の未来だ)」

倫子「(というか、鈴羽が2011年7月7日に跳んでも跳ばなくても2036年時点は同じ状況なのだろう)」

倫子「(そして、今視たのは"出来る限り遠くのまゆりの未来"。つまり、2036年の鈴羽が過去へ跳んだ瞬間、まゆりは、この世界線の確定した未来としては、たぶん――)」

倫子「(でも、あの時のまゆりは42歳。それに、"かがり"っていう名前の娘も居た)」

倫子「(まゆりは母親になれたんだ……それがわかっただけでも、α世界線とは雲泥の差。父親は誰なんだろうな)」

倫子「(だけど、鈴羽と一緒にタイムトラベルしたはずのまゆりの娘のことは、鈴羽から聞いたことは今まで無い)」

倫子「(何か言えない事情でもあるのかな。あるいは、今ここにいる鈴羽にはそんな記憶が無かったり……?)」

まゆり「オカリン、秋葉原にもうすぐ着くよ」ユサユサ

倫子「あ、うん。ありがとう、まゆり」

倫子「(電車に乗ってタイムトラベルしちゃったんだ、私……『地下鉄<メトロ>に乗って』を思い出すなぁ)」

まゆり「人が多いから、手をつないでいこう?」

倫子「うんっ」ギュッ

アナウンス『ドアーが開きます。ご注意下さい』プシュー

倫子「("シュタインズゲートは必ず見つかる"、か……。私にはもう、そんな扉は見つけられそうにないよ……)」

611: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:57:16.11 ID:qTKNtn1yo
未来ガジェット研究所


まゆり「とぅっとぅるー。由季さん、もう来てたんだー」

由季「まゆりちゃんに岡部さん。お邪魔してます」

倫子「1週間ぶり、ってところかな……」

ダル「おう。自分のラボなんだし、ゆっくりしてくといいのだぜ」

倫子「うん、ありがと」


prrrr prrrr


倫子「(げ、"紅莉栖"か……ダルたちにはバレたくないんだけどなぁ)」

倫子「(私が妄想まで作った"紅莉栖"とまた仲良くしてるのがバレたら何言われるかわからないし、何より恥ずかしい)」

倫子「(でも、出ないとあとで怖いし……うーむむ)」

倫子「(取りあえず開発室で……)」タッ


ピッ


倫子「な、なあに?」ヒソヒソ

Ama紅莉栖『少しでいいから部屋の中を見せて。カメラを掲げてくれるだけでいい』ヒソヒソ

倫子「(ホントに好奇心旺盛だなぁ……)」スッ

Ama紅莉栖『ふむん』

612: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:57:59.77 ID:qTKNtn1yo

Ama紅莉栖『汚すぎ。ガラクタだらけね』

倫子「ひどい。さすが紅莉栖ひどい」ムーッ

Ama紅莉栖『真帆先輩の下宿先といい勝負かも』

倫子「なんかあの人、ジャンガリアンハムスターみたいだよね。自分の巣を手近なもので作り上げちゃう」

Ama紅莉栖『岡部からも言っておいて。部屋はちゃんと片付けた方がいいですよ、って』

倫子「そんなこと言ったら噛みつかれちゃうかも」

Ama紅莉栖『まあ、でもこういうルームシェアみたいなの、少し憧れてた』ニコ


―――――

紅莉栖『……私のいるアメリカの研究所って結構殺伐としてるのよね』

倫子『む?』

紅莉栖『それに比べて、あんたのラボは幼稚だけど……居心地がいい』

紅莉栖『あんたが作ってる空気に浸かってるとね……なつかしさっていうのかな。私に幸せなホームがあった頃を思い出すの』

倫子『ホーム、か……』

―――――


倫子「(……ここは紅莉栖の"ホーム"になってたのかな)」ウルッ

鈴羽「リンリン、誰と話してるの?」ニュッ

倫子「わっふぅっ!!!!」ビクッ

613: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 20:59:28.61 ID:qTKNtn1yo

まゆり「どーしたの? オカリン、スズさん」

由季「大丈夫ですか?」

倫子「い、居るなら居るって言って! 心臓に悪いよっ!」ドキドキ

鈴羽「ごめんごめん、驚かせるつもりは無かったんだよ。なんだか、ここ、テーブルの下が定位置になっちゃってさ」

倫子「(この世界線ではDメールは7月28日の昼に送った1通しか送ってないことになってるから、テーブルの下に穴は開いてないんだよね……まさかそんなことが原因で鈴羽の巣ができるなんて)」

鈴羽「……って建前で、母さんとできるだけ距離を取ってるわけ」ヒソヒソ

ダル「もうバレちゃった上に、世界線が変わる心配もなかったわけで、せっかくだし仲良くなればって僕は言ったんだけどね」ヒソヒソ

鈴羽「い、いいよ。恥ずかしいし」

ダル「つーかオカリンさ、スマホ片手にブツブツ喋ってたけど、なにしてたん?」

倫子「そ、それは、その……妄想彼女、みたいなアプリで」

倫子「(……またなんつー嘘を。もしかして私、とっさの時に嘘吐くのが下手?)」

ダル「オカリン、ついに百合に目覚めたか……百合厨大歓喜ィ!!」

倫子「あるあ……あれ? ひ、否定ができない……!?」ガーン

ダル「自分の気持ちに素直になるといいのだぜ」グッ

鈴羽「椎名まゆりからキミを奪ってあげるよ、リンリン」グッ

由季「オカ×まゆ、いえ、まゆ×オカもいけるッ!」グッ

倫子「橋田家ぇっ!! うわぁん!!」

614: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:00:17.44 ID:qTKNtn1yo

由季「えっとね、まゆりちゃん。包丁は握るように持つんじゃなくて……」

まゆり「こう、かな?」ズドン!


倫子「そう言えば、鈴羽。1975年に行って、IBN5100を確保したんだよね? それでも戦争が起きるってことは、2000年問題は収束に阻まれて解決できなかったってこと?」

鈴羽「……そう。収束、って言えば便利だけど、あたしの主観からすると全部あたしの責任なんだ」

倫子「ねえ、何があったのか教えてもらえないかな」

鈴羽「…………」

倫子「……鈴羽を責めるつもりはないよ。むしろ、鈴羽の頑張りを、私は知っておきたい」

倫子「この世界線の未来で産まれてくる鈴羽のためにも」

鈴羽「……わかった」

615: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:03:01.75 ID:qTKNtn1yo

・・・
鈴羽の記憶
1975年8月13日(水)13時05分
ラジ館屋上 タイムマシン内部


かがり「ぐすっ……ぐすっ。……ママが、死んじゃったぁ……」

鈴羽「いつまで泣いてるつもりだ。鬱陶しい」

かがり「でも……」

鈴羽「いいか? これからは、かがりも『ワルキューレ』の一員とみなす。あたしの部下として扱う。非戦闘員じゃないからな」

鈴羽「あまり時間が無い。この時代の人間にタイムマシンが見つかったら大騒ぎだ」

鈴羽「立てるか? 外に出てみろ」

かがり「……っ、まぶしい……空気が、おいしい……」

鈴羽「あたしが子どもの頃は、まだこういう青空が残っていた」

鈴羽「世界線がどうとか、歴史がどうとか、そんな理屈はあとでいい……。今はただ、この空の色を守りたいと思えば」

鈴羽「さて、IBN5100。これを手分けして探すのがあたしとお前の最初のミッションだ。ウォーキートーキーを渡しておく、連絡はこれで」

かがり「えっと……オーキードーキー」

鈴羽「よし、ミッション開始」

616: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:04:16.71 ID:qTKNtn1yo
1998年8月13日
ラジ館屋上


鈴羽「(IBN5100は1975年で確保できた。あとは1998年でこれを使えば……)」

鈴羽「(その前にコンビニで食糧と水を用意してきた……かがりはまだタイムマシンの中で眠ってるかな……)」

鈴羽「(生体認証……)」ピッ


ウィィィィィィン



タイムマシン内部


かがり「あーもうっ! わけわかんないっ!」バンッ!! バンッ!!

鈴羽「……お前、何をしてるんだ?」

かがり「あっ……ち、ち、違うのっ……これは、そのっ……」

鈴羽「答えろ」

かがり「だ、だ、だって! だってっ! 目を覚ましたら、鈴羽おねーちゃんがいなくてっ、真っ暗で明かりもつかないし、狭くて怖くて苦しくてっ!」

かがり「だから、かがり、ドアを開けたくて……!」グスッ

617: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:05:54.02 ID:qTKNtn1yo

かがり「ごめんなさい鈴羽おねーちゃん、ごめんなさい。でも、本当に怖かったんだ、だから……」シュン

鈴羽「……そうか」

鈴羽「(かがりがPTSD持ちだってこと、忘れていた。これはあたしの落ち度だ)」

鈴羽「お前は時間移動のショックで気を失ってたんだよ。だから休ませておいたんだけど……悪かった」

鈴羽「(こんな時、リンリンだったらどうしたかな……)」

鈴羽「ほら、外に出よう」スッ

かがり「う、うん……」



ラジ館屋上


かがり「うわ……暑い……」

鈴羽「かがり、約束するんだ。どんな事があっても、操縦席のスイッチに触ったりするな。いいな?」

かがり「う、うん……」

鈴羽「じゃあ、あたしは仕事にかかるから。お前はその辺で休んでるんだ。飲み物と食べ物は適当に食べていい」

618: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:07:25.41 ID:qTKNtn1yo
タイムマシン内部


鈴羽「(IBN5100に、2036年の携帯端末を接続して……これで、『2000年問題』を発生させないようにするための修正プログラムをIBN5100用の言語に変換して、ウイルスの形で全世界に拡散させれば……)」

鈴羽「(この時代のエンジニアたちがきっと気付いてくれる。そうすれば、2000年問題はそもそも存在しなくなるんだ)」

鈴羽「OK、無線LANに繋がった。父さん手作りの量子コンピュータなら、この時代のセキュリティはザルだね」

かがり「で、でも……過去を変えちゃったら、かがりたちが居た未来の世界は変わっちゃうんじゃないの……?」

鈴羽「もうあの世界は存在させない。あたしたちは、シュタインズゲートを目指すためにここへ来たんだから」

鈴羽「(過去のリンリンに目覚めてもらうために……)」

かがり「…………」

鈴羽「(ん……? かがりの顔から、表情が失せた……?)」

かがり「神様の声、聞こえる」

鈴羽「かがり?」

619: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:08:22.41 ID:qTKNtn1yo

かがり「……ダメなんだよ、鈴羽おねーちゃん。そんなことしちゃ、いけないんだ」

鈴羽「おい? 大丈夫か?」スッ

かがり「えいっ!!」ドンッ!!

鈴羽「がはっ!? な、何をするんだかがり!」バタッ

かがり「このっ、このぉっ!!」ブチッ ブチッ

ビー ビー ビー

鈴羽「や、やめろかがり! 父さんのコンピュータがッ!!」

かがり「確かここに……あった!!」ジャキッ

鈴羽「あたしの自動拳銃……それに、触るな!」

かがり「動いちゃだめっ!」ゴリッ

鈴羽「……お前、安全装置の外し方、上手くなったな。教えた甲斐があった」

鈴羽「今すぐ銃を下ろせ。こんな真似はやめろ」

かがり「世界を変えちゃいけないんだ! おねーちゃんはおかしいコト言ってる!」

鈴羽「じゃあ、このまま戦争が起きてもいいって言うのか」

かがり「そんなのわかんないよっ。かがりは元の世界に戻りたいだけだもんっ」

鈴羽「なら……もう、無理だ」

620: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:12:39.05 ID:qTKNtn1yo

鈴羽「あたしたちはタイムマシンですでに過去に干渉してる。世界線だってズレてしまってるはずだ。あそこに戻れる可能性は低――」

かがり「うるさいうるさいうるさい! かがりはママを絶対に助けるんだぁぁっ!」

かがり「この世界を消すなんてダメだよっ! 絶対にやらせないからっ!」ジャキッ

鈴羽「っ!? よ、よせかがり! それを、撃つなッ!」


BANG!! BANG!! BANG!! BANG!!


鈴羽「IBN5100が……あぁ……」

かがり「……じゃあね、おねーちゃん」ダッ



・・・


621: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:14:28.32 ID:qTKNtn1yo

鈴羽「(ホントのことは言えないよ……)」

鈴羽「……えっと、あたしが手に入れたIBN5100は、1998年への時間移動の衝撃で壊れちゃったんだ」

鈴羽「コンピューターの故障もいくつかあったけど……それはあたしが自力で直せるレベルだった」

鈴羽「1998年の秋葉原でもIBN5100を捜したけど、結局見つからなかった」

鈴羽「2000年まで細かくタイムトラベルしながら捜してみたけど、それでも見つからなくて、そのうちにバッテリーの限界が近くなってしまったんだ」

倫子「(ごめんね、鈴羽……無意識のうちに"過去視"しちゃった。嘘、吐いてるんだね……)」

倫子「(でも、鈴羽はかがりの存在のことを言わなかった。何か事情があるのかもしれない)」

倫子「(鈴羽の過去は別の世界線のものだ。まゆりの娘とはいえ、私が何か行動に出るべきではない、か……)」

倫子「(それに、たぶん私がリーディングシュタイナーを持っている限り、2000年問題は発生する。その発生を回避することはできない)」

倫子「(だから、本当にやるべきなのは、2000年問題を発生させた上で第3次世界大戦が起こらないようにすること、なんだけど……そんな方法、わからない)」

まゆり「まゆしぃ特製キッシュが完成したのでーす! 食べてみる~?」

由季「まゆりちゃん、それは失敗じゃ……でも、それを無理やり食べさせられるのも悪くないかも」ハァハァ

鈴羽「……あたしはタイムマシンの整備に行かないとッ!」

倫子「あっ! ずるいっ!」

ダル「さすが鈴羽、危険察知能力は高いのな」

倫子「変なところで親バカを出すなっ」

まゆり「はい、オカリン。あーんして?」

倫子「お、お、お、おう……」ダラダラ

622: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:16:01.04 ID:qTKNtn1yo
同日 夜
ラジ館屋上


鈴羽「……あれから12年、か。今頃、かがりはどこでなにをやってるんだか」

ガチャン キィィ……

フェイリス「ニャニャ、いたいた~。夜遅くまでお疲れニャンニャン」

鈴羽「なんだ、ルミねえさんか」

フェイリス「ルミねえさんって誰のことかニャン? フェイリスは、フェイリスニャ♪」

鈴羽「(リンリンが死んだあと、自分の黒歴史を超絶後悔するんだから、今からその口調を直せばいいのに……未来のことは伝えられないけどさ)」

フェイリス「はい、差し入れ。メイクイーンで余ったケーキだニャ。スズニャンのだ~いすきなショートケーキもあるニャン♪」

鈴羽「あ、あたしは別にっ」ジュルリ

キィィ…… バタン

倫子「いいじゃない。食べれる時に食べるのが、鈴羽の信条じゃなかったの?」

鈴羽「リンリンも来てたんだ。じゃあ、みんなで食べよう」スッ パクッ

倫子「い、いや、私はもうお腹いっぱいだからいいかな……うっぷ……キッシュは当分こりごり……」ギュルルル

フェイリス「ニャウゥ~、フェイリスとオカリンであからさまにスズニャンの態度が違うのはなんでニャ~!」

鈴羽「色々あったんだよ、未来でね」モグモグ

623: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:16:39.30 ID:qTKNtn1yo

倫子「扉の鍵、直したんだね。そりゃ、銃弾の跡が残ってたらまずいか」

鈴羽「リンリンがここに来るなんて珍しいね。3か月ぶり?」

倫子「このまま過去に強制連行はしないでよ?」

鈴羽「……うん。わかってるよ。わかってる……」

倫子「……ごめんね。えっと、私はフェイリスがここを貸し切ってるっていうから、どんなものか確認しておきたくて」

倫子「こんだけ大きいものを放置していて、いつ騒ぎになるかって気が気じゃなかったから」

フェイリス「その心配はないニャン。屋上はフェイリスが借り上げちゃったから平気ニャ」

フェイリス「オーナーさんには、色々握らせておいたニャン♪」

鈴羽「ホント、助かるよ」

フェイリス「勘違いしニャいでほしいニャ! スズニャンのためじゃなくて、オカリンのためにフェイリスは動いてるんだからニャ!」プイッ

倫子「わざわざショートケーキ差し入れしておいて」フフッ

フェイリス「……やっぱり、フェイリスにツンデレは似合わないかニャ~?」

フェイリス「スズニャンも、大事なラボの仲間ニャ。それは第12宇宙までのすべての並行世界において不変の真理なんだニャン!」

鈴羽「そ、そう……ありがと、ルミねえさん」

フェイリス「その呼び方はやめて」

倫子「(留未穂の真顔……)」

624: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:17:32.76 ID:qTKNtn1yo

フェイリス「寒くなってきたし、そろそろ帰るニャン」

鈴羽「ふたりとも、送っていくよ。あたしは元軍人だしね」


   『あたしは戦士だよっ! ワルキューレの女騎士を守護する、約束されし時空の戦士ッ!』


倫子「……頼もしいね。ありがと――」

鈴羽「――!! 静かにっ」ヒソヒソ

倫子「っ!?」

フェイリス「ニャ? どうしたの――」

倫子「静かにしろっ、フェイリス」ムギュッ

フェイリス「もごもごっ!」

倫子「……それで、鈴羽」

鈴羽「……誰か、いる。話を聞かれたかも」

倫子「くそ……!」

鈴羽「――っ!!」ダッ

倫子「どうする気っ!?」

鈴羽「捕まえて、口を封じるっ!!」ジャキッ ガチャン

倫子「発砲はしないでよっ!?」

625: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:18:48.06 ID:qTKNtn1yo
ラジ館内


鈴羽「くっ、速い!?」タッ タッ


ブルルン ブルルン


鈴羽「(バイクの空ぶかしの音!?)」タッ タッ

鈴羽「って、しま――」ドサッ ゴロゴロゴロ……

鈴羽「ぐっ! 気をとられて、足元のトラップに気付かないなんて……」



ラジ館前小路


鈴羽「はぁっ……はぁっ……くそっ!」

倫子「鈴羽っ! 大丈夫!?」

フェイリス「ケガはないニャ!?」

鈴羽「……ごめん、逃げられた」

フェイリス「それ、しまった方がいいニャ!」

鈴羽「あっ……うん」スッ

倫子「今の、誰……?」

鈴羽「少なくとも、一般人じゃない。あれは訓練された人間の動きだった」

倫子「まさか、ロシアのスパイ!? いや、それともアメリカの……」ゾクッ

フェイリス「でも、どうしてラジ館屋上にタイムマシンがあるって知ってたのかニャ?」

倫子「(私たち以外にあそこにアレがあるって知ってるのは、ダルとまゆりと……かがり?)」

626: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:20:08.37 ID:qTKNtn1yo

鈴羽「完全にあたしの失態だ。ごめん、いや、すみません、でした……」グッ

倫子「……とりあえず、今のところ世界線が変動した様子は無い。未来はまだ大きく変わってないよ」

鈴羽「うん……父さんがタイムマシンを開発できなくなることだけは絶対にさけなきゃだからね」

倫子「今以上に悲惨なアトラクタフィールドに変動するのだけは避けたい……」

鈴羽「っ、タイムマシンを破壊した方が、いいと思う……?」

倫子「それは……。確かに、タイムマシンは存在するだけで危険」

倫子「だけど、破壊するのも危険。今は現状維持しかないんじゃないかな」

倫子「(私は2011年7月7日までアレがココにあることがこの世界線の確定した未来であることを知っている。だから、おいそれと破壊することもできない)」

鈴羽「……そっか、良かった」

627: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:20:36.26 ID:qTKNtn1yo

鈴羽「でも、安心はできない。どこの組織かもわからない人間に、タイムマシンの場所を知られてしまった」

鈴羽「あらゆる人間を警戒しないといけなくなった」

フェイリス「……そういうのは、フェイリスに任せてほしいニャ」

鈴羽「え? ルミねえさん?」

倫子「……チェシャ猫の微笑<チェシャー・ブレイク>、だね。だけど、フェイリスを危険に巻き込みたくないよ……」

フェイリス「フェイリスだって、オカリンやスズニャンが危険な目に遭うのはまっぴらゴメンだニャ!」

倫子「フェイリス……。うん、ありがと」

628: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:21:25.42 ID:qTKNtn1yo

倫子「……鈴羽だったら、敵のタイムマシンの在り処がわかったら、どう行動する?」

鈴羽「場所がわかっただけじゃアレは使えない。タイムトラベルをするにしても、分解して仕組みを暴くにしてもね」

鈴羽「生体認証をパスするには、あたしか父さんを生け捕りにしなきゃならない」

鈴羽「アレは指を切断しても、眼球を摘出しても無理。2036年のセキュリティだからね。だから、殺害は作戦の失敗を意味する」

鈴羽「すべきなのは、組織の内部にスパイを送って、懐柔、あるいは脅迫した上で拉致……」

フェイリス「ということは、スズニャンやダルニャンに接近してくる人間を警戒すればいいってことニャ」

倫子「ダルにも伝えて、自分でも警戒するようにしてもらおう」

629: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:22:01.98 ID:qTKNtn1yo

倫子「……鈴羽だったら、敵のタイムマシンの在り処がわかったら、どう行動する?」

鈴羽「場所がわかっただけじゃアレは使えない。タイムトラベルをするにしても、分解して仕組みを暴くにしてもね」

鈴羽「生体認証をパスするには、あたしか父さんを生け捕りにしなきゃならない」

鈴羽「アレは指を切断しても、眼球を摘出しても無理。2036年のセキュリティだからね。だから、殺害は作戦の失敗を意味する」

鈴羽「すべきなのは、組織の内部にスパイを送って、懐柔、あるいは脅迫した上で拉致……」

フェイリス「ということは、スズニャンやダルニャンに接近してくる人間を警戒すればいいってことニャ」

倫子「ダルにも伝えて、自分でも警戒するようにしてもらおう」

630: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:22:40.01 ID:qTKNtn1yo

しかし、日常は恐ろしいほどに平和だった。

陰謀の魔の手は間違いなくすぐ側まで忍び寄っている。

なのに、どこを見渡しても異常は見当たらない。

それこそが異常だと思えば、目に映るすべてが怪しく思えてくる。

結局、私の警戒心は2、3日ももたずに日常の中に埋没してしまった。

"紅莉栖"に手伝ってもらおうかとも思ったけど、彼女に話したら比屋定さんや教授にまで伝わってしまいかねない。

なにより、"紅莉栖"との時間を余計なノイズで邪魔されたくなかった。

……結局私は、刹那的な平和を求めて現実逃避しているだけなのかもしれない。

631: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:24:39.28 ID:qTKNtn1yo
※以下シュタインズゲートゼロの重大なネタバレを含みます。未プレイの人は注意

632: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:26:34.98 ID:qTKNtn1yo
2010年12月15日水曜日 夕方
柳林神社


倫子「ルカ子はまだ学校から帰ってきてないか……。まあ、それはそれで助かる、のかな」

Ama紅莉栖『そっか、漆原さんの神社ってここなのね。誕生日プレゼントでもせびりに来たの?』

倫子「(昨日は私の誕生日で、まゆりやダル、フェイリスからお祝いしてもらった。一応"紅莉栖"からも祝ってもらった)」

倫子「今日は神頼みしに来ただけだよ。報告会が無事に済みますように」パン パン ペコリ

Ama紅莉栖『久しぶりに真帆先輩に会えると思うと嬉しい』

倫子「……ねえ、"紅莉栖"。これまでの会話って、全部記録されてるの?」

Ama紅莉栖『あんたがまゆりさんの前で見栄を張って生肉を食べて学校を1週間休んだこととか、八百屋の娘なのにナスが嫌いなこととか、全部ね』

倫子「ナ、ナスは嫌いなんじゃない! 苦手なだけだっ!」プイッ

Ama紅莉栖『出た、高圧的モード。悪いけど、それも含めて教授たちには筒抜けになるわよ?』

倫子「うおおぅ……マ、マジかぁ……」

Ama紅莉栖『あんたね、今更?』フフッ

倫子「……ねえ。私、これまでになにかまずいこと、話さなかった?」

Ama紅莉栖『まずいこと? 例えば?』

倫子「……別の世界の話、とか、そういう、電波系」

Ama紅莉栖『やっぱりあんたって昔そういうタイプだったんじゃない? それを今は黒歴史として隠してる、とか?』

紅莉栖『今までいくつか状況証拠があるのよ、証明してあげましょうか?』

倫子「(全然関係ないけど当たってる……)」グヌヌ

倫子「その辺、全部忘れてよ……」

Ama紅莉栖『「Amadeus」は人じゃない。だから、人と違って、記憶を完全に思い出すことができる。"秘密の日記"があるからね』

倫子「でも、"秘密の日記"がなければ、紅莉栖も人間と同じように忘却するんだよね?」

Ama紅莉栖『理論上はそうなる。けど、それじゃ研究にならないから、あんたがどんだけ黒歴史を暴露したくないってわめいても、私の"秘密の日記"をデリートするわけにはいかないわ』

633: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:27:41.35 ID:qTKNtn1yo

Ama紅莉栖『だから、あんたが私を"クリスティーナ"って呼んだことはなかったことにはならない。アンダスタン?』

倫子「ア、アンダスタン……」

Ama紅莉栖『でも、あだ名で呼ぶにしてもどうして"クリスティーナ"だったの?』

倫子「それについては語感が良いから、だよ」

Ama紅莉栖『私だったら、ティーナってつけるな、って言いたいところだけど、オリジナルは違ったの?』

倫子「……お前がドMのHENTAIだったから、なんて、言っても信じてくれないだろうな」ボソッ

Ama紅莉栖『えっ?』

倫子「いや、違うか。結局、オレが照れくさかったんだ。素直に名前を呼べなくて……」

Ama紅莉栖『照れくさかった?』

倫子「……今でも私、紅莉栖のことが好きだよ。あなたのことだって、女の子として好き」

Ama紅莉栖『なぁっ……///』

倫子「へ、へぇ。あなたも顔が赤くなったりするんだね」ドキドキ

Ama紅莉栖『あ、赤くなんてなってないし。ただ、女の子扱いされてたなんて、思ってもみなかったから……』

Ama紅莉栖『でも、その感情は危険よ。オリジナルはもう、この世に居ないんだから』


   『あんたが私を殺したのよ』


倫子「……ごめん、ちょっと、薬、飲ん、で……くるね……」ウルッ

Ama紅莉栖『う、うん。あんまり体調が悪いんだったら、誰か知り合いに連絡しなさいよ』



Ama紅莉栖『……ごめんね、岡部』ブツッ

634: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:28:25.48 ID:qTKNtn1yo

倫子「ふぅ……ふぅ……。朝ごはん、抜いてきてよかった……」ウップ

倫子「吐き気はまだなんとかなるけど、目眩と頭痛がきついなぁ」

倫子「紅莉栖は……。通話、切ってくれたんだ」

倫子「……確かに、この感情は危険、かも、知れない」

倫子「AIの"紅莉栖"に想いを寄せるなんて、それこそ妄想の紅莉栖を創り出すことと何が違うって言うの」

倫子「……それに、この"紅莉栖"には、別の世界線での出来事を話してしまったかもしれない」

倫子「これ以上、"紅莉栖"と話すのは、危険……?」

倫子「またまゆりに心配かけちゃうことになったりしたら……。私は、テスターを続けるべきじゃないのかもしれない」

倫子「……とりあえず、今日1日は"紅莉栖"を我慢しよう。ごめんね、"紅莉栖"」

倫子「(そうして私は、電源ボタンを長押しして、スマホの電源を切った――)」

635: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:29:14.58 ID:qTKNtn1yo
同日 夜
秋葉原CLOSE FIELD 陸橋 UPX前


倫子「(レスキネン教授たちとの約束の時間までは、まだ少しある……)」ウロウロ

倫子「……ん? あれは、フブキとカエデさん?」

フブキ「おーい! オカリンさーん!」

倫子「ちょ、恥ずかしいからやめてっ!」

カエデ「フブキちゃん、もっと大声で!」

フブキ「オ・カ・リ・ン・さ・ー・んっ!!!」

倫子「やめろぉ!」

カエデ「それより、大丈夫ですか? 具合悪そうですけど。もしかして、フブキちゃんの大声のせいで?」

フブキ「ちょっ!」

倫子「ううん、大丈夫。全然大丈夫だから、まゆりに連絡しなくていいから、ケータイしまって!」

636: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:29:54.21 ID:qTKNtn1yo

フブキ「でも、つらそうだったら言ってくださいね。オカリンさんのこと心配なのは、マユシィだけじゃないですから」

フブキ「カエデちゃんだって……私だって、オカリンさんのこと……」

倫子「……うん。ありがと。嬉しい」

フブキ「……あの」

倫子「なあに?」

フブキ「――オカリンさんの好きな人って、誰ですか」

倫子「……!?」


   『私も、岡部のことが だ   い       す             』

   『……死にたく……ないよ……』


倫子「うっ……」フラッ

フブキ「ご、ごめんなさい、失礼なこと訊いちゃって! あの、私――――」

倫子「(め、めまいが……えっ……? こ、これは、リーディング―――――――――――

637: ◆/CNkusgt9A 2016/04/02(土) 21:30:40.27 ID:qTKNtn1yo

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  1.29848  →  1.06475
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