第14章 亡失流転のソリチュード(♀)


倫子「(くっ……! やっぱり、このめまいは……!)」フラッ

倫子「(精神が不安定になった時の目眩や頭痛なんかとは全然違う……この、2度と思い出したくなかった気持ち悪さは……っ!)」

倫子「(……リーディング、シュタイナー!!)」ガクッ

カエデ「オ、オカリンさん!? 汗がすごい……フブキちゃん!」

フブキ「うっ……」クラッ

カエデ「ふ、ふたりとも!? えっと、救急車は……119……」ピッ ピッ

倫子「ま、待って……大丈夫、大丈夫だから……」

フブキ「う、うん。私も、なんともないよ」

カエデ「いいえ、大丈夫なわけありません。せめてご家族に連絡しなきゃダメです」

倫子「いいって……ほら、もう平気だし……」

フブキ「私はともかく、オカリンさんはダメだよ!」

カエデ「オカリンさん? フブキちゃんもね?」ジーッ

倫子「うっ……。わ、わかったよ、親に連絡入れとくから」

フブキ「は、はーい」

カエデ「それでよし」

フブキ「(やっぱりカエデの方がオカリンさんより年上さんなんだなぁ)」

658: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:34:43.83 ID:hHWGS9LVo

カエデ「……取りあえず、ふたりとも落ち着いたみたいですね」

フブキ「最初っから大丈夫だって言ってるのにー」

倫子「心配かけて本当にごめんね。私、これから人と会う約束があるから」

フブキ「それじゃあ、次に会うのはクリスマスパーティーだね」

カエデ「今度のパーティー、楽しみにしててくださいね」ウフフ

倫子「……まさか、ホントに私のサンタコス作ったの?」ゾクッ

フブキ「さ~あ? それは当日のお楽しみ~♪ バイバ~イ!」

659: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:37:12.37 ID:hHWGS9LVo

倫子「……今、どうして世界線が変わったんだろ?」

倫子「(私か鈴羽がこの世界線でとるべき行動から外れた? あるいは、ダル? まゆり?)」

倫子「(鈴羽じゃないなら、そう。同乗者だった"かがり"の行動が変わって、未来に起因する過去の現象が大幅に塗り替えられた、とか?)」

倫子「(……いや、待てよ。電話レンジ(仮)がなくたって、ダル製のタイムマシンがなくったって、過去を、未来を、世界線を改変できる奴が居たじゃないか!)」ドクン

倫子「(ラジ館でタイムマシンを盗み見たアイツ……もしアイツが、ラウンダーだったなら……)」ドクンドクン

倫子「(Zプログラム、ゼリーマンズレポート、SERN……α世界線っ!?)」ドクンッ!


   『やっと、まゆ……しぃ、は、……オカリンの……役に……立て……たよ……』


倫子「まゆりはっ!? まゆりは無事なのかっ!?」ピッ ピッ

660: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:38:37.35 ID:hHWGS9LVo


prrr prrr


まゆり『トゥットゥルー♪ まゆしぃです』

倫子「まゆり! まゆりか!? 本当にまゆりなんだな!?」

まゆり『オ、オカリン? どうしたの、そんなに慌てて』

倫子「よかったぁ……グスッ……まゆりが、居る……」ウルッ

まゆり『どうしちゃったのかな? もしかして、寂しくなった?』

倫子「……べ、べつに、オレは寂しくなんかないぞ。それより、今どこだ? 誰かと一緒か?」

まゆり『これからバイトだよ~』

倫子「何時までだ?」

まゆり『8時過ぎぐらいまで。オカリンもメイクイーン来る?』

倫子「いや、オレは……あ、えっと、私はこれから人と会うから」

まゆり『そっかー。まゆしぃはね、バイトが終わったらラボに顔を出すつもりだよ』

倫子「わかった。そこで合流して一緒に帰ろう」

まゆり『今日は珍しいね~、えっへへ~』

倫子「じゃあ、バイト頑張ってね」ピッ

倫子「……取りあえず、まゆりは無関係。それに、スマホの画面に"Amadeus"アプリもある……」ホッ

661: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:43:09.73 ID:hHWGS9LVo


prrrr prrrr


Ama紅莉栖『なに? 言い忘れたことでもあった?』

倫子「さっきは話を遮っちゃってごめんね。もう気分、大丈夫だから」

Ama紅莉栖『それについてはさっき謝ってもらったし、岡部の体調が良くなったなら問題ない。というか、私の方こそごめんなさい』

倫子「さっき私が、謝った……?」

Ama紅莉栖『ええ。かけ直してきたじゃない。7分43秒前に』

倫子「(フブキたちと会う前辺りだ。この世界線の私は、そういうことになっている……?)」

倫子「(……過去が改変されているんだ。私の行動が微妙に変わるような、なんらかの過去改変……)」プルプル

倫子「(待てよ? ってことは、私の状況も変化してるんだ。変化している点は、そう。スマホの電源のonoff)」

倫子「(スマホの電源を切ったことが、変動前の世界線の確定した事象じゃなかった?)」

倫子「(でも、それがキッカケで世界線が改変されたとは考えにくい。改変の結果は、改変後にも引き継がれるから、この世界線でもスマホの電源が切れてないとおかしい)」

倫子「(ってことは、私の行動の変化のせいで、あの世界線の未来でタイムトラベルすることになっていたタイムトラベラーの行動を変えた……?)」

倫子「(それは意図的なものか、あるいは偶然の産物なのか……)」プルプル

Ama紅莉栖『……また顔色が悪くなってる。どこかで休んだ方がいいわ』

662: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:44:31.25 ID:hHWGS9LVo

倫子「……ねえ、"紅莉栖"。ひとつ、訊いてもいい? さっき電話した後、私が何をしようとしてたか、わかる?」

Ama紅莉栖『……記憶の混濁? えっと、レスキネン教授と真帆先輩と、このあと待ち合わせでしょう? 私について報告する予定じゃない』

倫子「(そこについては変わっていない。ってことは、ほとんど同じ世界のままか)」

倫子「(なんでこの世界線の私はスマホの電源を切らなかったんだろ……?)」

倫子「(たかがスマホの電源だし、大きく分岐するような事象とも思えない。だけど……)」

倫子「(Dメールやタイムリープを携帯電話で実行する限り、電源のonoffは大規模な可能性の振幅を持っていると言える)」

倫子「(例えば、元居た世界線の確定した事象として、あの時点で未来の誰かからDメールを受信することが確定していたとしたら)」

倫子「(スマホの電源は、切ったはずなのに入っていた。この世界線の未来で、私がそのDメールをここに送ることになるとしたら――)」

663: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:46:00.73 ID:hHWGS9LVo

倫子「(……いや、それはありえないか。だってもう電話レンジ(仮)は無いんだから、私が過去改変することはできない)」

倫子「(仮に送ったとしても、その瞬間エシュロンに捕捉されてSERNによる世界支配が確定、アトラクタフィールドはαへと切り替わってしまう)」

倫子「(考えられるとすれば、電源をoffにしたことがバタフライ効果で2036年の鈴羽とかがりに影響し、2010年へと跳んで以降の鈴羽とかがりの行動が私に影響して電源がonになっていた)」

倫子「(やっぱり鈴羽と接触することは避けた方が良かった……まあ、まゆりが無事ならβ世界線のままってことだし、とりあえずは安心かな)」

Ama紅莉栖『ねえ、聞いてる? 真帆先輩にあなたの体調のこと、話しておきましょうか?』

倫子「えっ? あ、ああ。うん、お願いしようかな。心配かけてごめんね」

Ama真帆『話は聞かせてもらったわ。私のオリジナルにそのこと、伝えておくわね』

Ama紅莉栖『"先輩"、お願いします。岡部、あんまり無理しないでよ?』

Ama紅莉栖『あんたと最期に話したのが私でした、なんて結果になるのはゴメンだからね……あっ』

倫子「……そうだね、気を付ける」ウルッ

Ama紅莉栖『ごめん……それじゃ』ピッ

664: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:47:12.45 ID:hHWGS9LVo
都内高級ホテル レスキネン教授の宿泊部屋


倫子「(ダルに確認したところ、やっぱり変わっていたのは私のスマホの電源のonoffだけだった。世界線変動は問題ないレベルだったと信じたい)」

真帆「『Amadeus』から聞いたけど、体調が悪いなら無理させるわけには……」

倫子「ううん、もうほとんど平気。比屋定さん、少し、手、握ってもらっていい?」

真帆「ふえっ!? って、ああ、そうだったわね……いいわよ、はい」ギュッ

倫子「(ごめんね、真帆ちゃん。あなたの脳、借りるよ……)」シュィン

倫子「(全力で未来予知をする必要は無い。あれやると、また少し体調が悪くなっちゃうし)」

倫子「(私が前に視た時とだいたい同じかどうかを確かめるだけ。これくらいなら真帆ちゃんの脳でも可能なはず)」

倫子「(2011年7月7日……鈴羽が……過去へタイムトラベル……)」

倫子「(まゆりは……安全……それなら、この世界線でも問題ない、かな)」ホッ

真帆「もう大丈夫なの?」

倫子「うん、だいぶ落ち着いた。ありがと――」

ガチャ バタン

レスキネン「リンコー! まさかマホとデキていたなんて!」

真帆「教授!? こ、これは違いますっ!!」

倫子「真帆ちゃんって、手もちっちゃいんだね」ニギニギ

真帆「や、やめてぇっ!」

665: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:48:56.98 ID:hHWGS9LVo

・・・

レスキネン「それじゃあ、今のところ順調ということでいいんだね、リンコ」

倫子「……はい。会話に齟齬が出ることもありませんし」

レスキネン「"クリス"との距離感はどうだい? 親しくなったかな?」

倫子「私が、あなたのこと好きだよって伝えたら、赤面してました」

真帆「中々おもしろい冗談だわ……冗談よね?」

レスキネン「Fmm…AIとの愛、というわけだね! それは喜ばしい」

レスキネン「私は期待しているんだよ。彼女が君に対して友情を――もっと言えば、恋愛感情を持ってくれないか、とね」

真帆「教授や岡部さんと違って"紅莉栖"はノーマルです……最近、ちょっと自信なくなってきたけれど」ハァ

レスキネン「やっぱり、リンコにテスターを頼んで正解だったようだ。"クリス"にはガールズラブもイケる気がしていたんだよ!」

倫子「い、いや、百歩譲って私が百合属性だったとしても、機械属性はっ!」

レスキネン「無いのなら、開発すれば、いいじゃない」ニッ

倫子「("紅莉栖"には危険って言われたけど、教授がそういうなら、この気持ちのままでもいいのかな……)」

真帆「私の"紅莉栖"が、岡部さんに、開発されていく……」ゴゴゴ

レスキネン「Oh! そういえば私はジュディに連絡をしなければならないんだった。リンコ、少し失礼するよ」ガチャ バタン

倫子「(逃げたな)」

666: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:52:18.19 ID:hHWGS9LVo

真帆「まったく。あ、そうだ。岡部さん、ちょっと聞きたいんだけど、紅莉栖が好きな言葉って、なにか知ってる?」

倫子「えっとね、比屋定でしょ、真帆でしょ、先輩でしょ、ちっちゃいでしょ」

真帆「ちっちゃい言うなぁっ!! というか、そういう意味じゃない!!」ウガーッ

倫子「わ、わかってるよ。けど、どうして?」

真帆「……紅莉栖の私物、実家にあったノートPCとポータブルハードディスクのパスを解除したくて。形見分けで譲ってもらったの、紅莉栖のお母さんに」

倫子「パスがかかってるってことは、見られたくないものなんじゃないの?」

真帆「もちろん、プライバシーをのぞき見ようってわけじゃないの。そうじゃなくて、『Amadeus』の"紅莉栖"をより本物に近づけるために必要な情報があるはずなのよ」

真帆「未発表の論文とか、実験メモとかね。ダイアリーなんかがあったら最高だわ」

倫子「ごめん、心当たりはないよ。知ってたとしても、私は教えないと思う」

倫子「(仮にCドライブに腐ったフォルダが発見されでもしたら目も当てられない)」

真帆「そう……」

倫子「私は帰るね。もう遅いから、気を付けてね、真帆ちゃん」

真帆「補導されないようにって言いたいのかしら!? それと真帆ちゃん言うなっ!」

667: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:54:27.88 ID:hHWGS9LVo
未来ガジェット研究所


倫子「まゆり、居る――――」

ドンッ ムニュ

倫子「ふごっ!?」

るか「きゃっ! ご、ごめんなさい凶真、じゃなかった、岡部さんっ!」ペコリ

るか「(岡部さんの、やわらかな感触が……!)」ドキドキ

倫子「(ルカ子って思ったより身体が固いんだなぁ……男の子だもんね)」

倫子「い、いや、こっちこそごめんね。えっと、もう帰るところだった?」

るか「あ、はい。でも、岡部さんにお会いできてよかったです。差し入れを持ってきたので、どうぞ召し上がってください」ニコ

ダル「おまんじゅう、もらったお」モグモグ

倫子「……そう言えば前に、まゆりがうーぱまんじゅうをレイヤー仲間からもらってきたことがあったね。まゆりは?」

るか「まゆりちゃんは、まだバイト中かと……」

ダル「つか、るか氏、時間大丈夫なん?」

るか「あっ! えっと、実はこの後、おうちに父のお客さんが来ることになってるんです。なぜかボクにも同席してほしいと言われまして……」

倫子「(あの神主のHE  仲間じゃないことを祈ろう)」

るか「それじゃあボクはこれで。また来ますね」ガチャ バタン


ダル「……今思ったんだけどさ、オカリンがノーマルだったとしても百合だったとしても、どっちつかずなるか氏は恋愛対象にはならないんだよな。それってなんか切なくね?」モグモグ

倫子「属性なんか関係ない。大事なのは中身でしょ」

ダル「ほほう、これはいいことを聞きますた」

倫子「(そう、大事なのは中身……それでいいんだよね、"紅莉栖"……)」

668: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 20:58:25.49 ID:hHWGS9LVo

ガチャ

鈴羽「ただいま。あれ、リンリン、来てたんだ」

倫子「あっ……」

鈴羽「……そんな顔、しないでよ。今のところ、問題は起きてないよ」

倫子「(鈴羽は世界線変動を感じ取れない……だけど、世界線が変わったって言ったら、また私は鈴羽を責めることになっちゃう……)」グッ

ダル「鈴羽。こんな遅くまで何してたん?」

鈴羽「っ……」

ダル「言えないようなこと? ま、まさか男――」

倫子「ダル、黙って」

ダル「うおう……こうやって僕はオカリンと鈴羽とゆくゆくは由季たんの3人の尻に敷かれていくんだなぁ……それなんて俺得ッ!!」ハァハァ

倫子「タイムマシンの整備?」

鈴羽「ううん……実はね、人を捜していたんだ」

ダル「人? それってやっぱり男――」

倫子「ダル」ジーッ

ダル「女の子モードのオカリンの冷たい視線たまらねぇっす」ハァハァ

669: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:01:02.03 ID:hHWGS9LVo

鈴羽「小さな女の子……今はもう、あたしより年上になっちゃってるか……」

鈴羽「実はさ……、あたしが乗ってきたタイムマシンには、もうひとり、乗っていたんだ」

倫子「……"かがり"?」

鈴羽「そう……って、えっ? あたし、どこかで話したっけ?」

倫子「あ、いや、えっと……」

鈴羽「……ああ、リーディングシュタイナーか。α世界線でも同じ名前の同乗者が居たってことだね」

鈴羽「そっか、あの子は椎名まゆりが居なくても、かがりっていう名前になってたんだ」

倫子「(まあ、そう思ってくれるならそれでいっか……)」

ダル「それで、その女の子って、今はどうしてるん?」

鈴羽「わからない。はぐれちゃったんだよね、1998年に。ここ秋葉原で」

倫子「(……前視た鈴羽の記憶と一緒だ。ってことは、この世界線でも、前の世界線でも、かがりは1998年に居なくなったんだ)」

倫子「(鈴羽とはぐれたあとのかがりの行動が変わったせいで世界線が変動したのかな。だとすれば、どうしてかがりの行動が変わったのか、って話になるけど、うーん、わかんない……)」

ダル「なんでそんなことになったん?」

鈴羽「2000年問題を解決するために、1975年から跳んできたんだけど、そこでトラブルが起きた」

鈴羽「あの子は自分からタイムマシンを飛び出して――」グッ

鈴羽「あたしは、燃料が許す限り、何度も細かいタイムトラベルを繰り返して、あの子の姿を捜し回った」

倫子「そ、そんなことをしてたから紅莉栖の救出回数が――」

倫子「(言いかけて気付いた。これもまた、収束の結果なんだ)」

鈴羽「子守りひとつまともにできないせいで、世界が救えないなんて思ってもみなかった……」プルプル

670: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:03:47.35 ID:hHWGS9LVo

ダル「だいたいの事情はわかったけどさ、どうして今まで黙ってたん?」

鈴羽「……ちゃんと自分で責任を取りたかったんだ。全部、あたしの落ち度だから」

倫子「(違う。そのせいで、紅莉栖救出のチャンスが、たった2回に減ったわけじゃない)」

倫子「(そこに因果関係は、あったとしても無いんだ……くそぅ……)」グッ

倫子「……鈴羽のせいじゃないよ」

鈴羽「ううん、それでも謝らせてほしい。ごめん、リンリン。父さん」

ダル「ま、起こったことは仕方ないっしょ。今鈴羽が困ってるなら、僕は全力で手伝うお」

鈴羽「で、でも――」

ダル「僕たち親子だろ?」

鈴羽「父さん……」

ダル「その子を捜そう。きっと見つかるって、な、オカリン?」

倫子「(やっぱりダルは娘のために頑張るんだね。αの時もそうだった――)」

倫子「……わかった。未来人を好き勝手させておくわけにはいかないからね」

鈴羽「リンリン……。ふたりとも、ありがとう」

倫子「別に、鈴羽のためじゃないから。世界線をこれ以上変えられたら困るだけだから」プイッ

ダル「謎のツンデレ頂きました」

鈴羽「ふふっ。珍しいものが見れた」

倫子「ぐぬぬ……」

671: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:10:46.89 ID:hHWGS9LVo

ダル「で、その子の名前と年齢は?」

倫子「かがり……たしか、10歳くらい、だったかな」

鈴羽「そう。椎名かがり。今は22歳になってるはず」

ダル「椎名? ま、まさかその子って……」

鈴羽「椎名まゆりの娘だよ」

ダル「うぇ? マジ?」

倫子「ふふっ。やっぱり驚くよね」

倫子「(ねえ、紅莉栖? あのまゆりの子どもだってさ。あいつ、ちゃんと子育てなんて出来てたのかな? 紅莉栖も見てみたいよね)」

倫子「父親は誰なの? それに、鈴羽と一緒で母親の姓を名乗ってるのはどうして?」

鈴羽「かがりは戦災孤児だよ。身寄りのなかった彼女を、施設で働いていた椎名まゆりが引き取って育てたんだ」

ダル「あー……なんかそれ、まゆ氏らしいかも」

倫子「……そっか。でも、まゆりは母親になれたんだね。よかった」ニコ

672: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:12:58.33 ID:hHWGS9LVo

鈴羽「あたしは、椎名まゆりのことは許せないけど、でも、かがりとは関係ない」

鈴羽「世界線のことが第一だけど、できれば助けてやりたいんだ」

ダル「その子の写真とかはある?」

鈴羽「うん。これ」スッ

倫子「この子が……って、隣の人は、まゆり?」

鈴羽「40代になっても椎名まゆりは歳を感じさせない風貌だったよ」

ダル「大人まゆ氏と手を繋いでる、この子に似た人を捜せばいいわけっすな」

倫子「難しそうだけど、手を貸すよ。まゆりの養女だしね」

倫子「(こんなことで私が過去へ跳ばないことの贖罪になるとは思えないけど……)」

倫子「(でも、ここで鈴羽を拒否してしまえば、私も鈴羽も、群れからはぐれた羊みたいになってしまう……)」

鈴羽「……ありがとう、リンリン」

ガチャ

まゆり「まゆしぃがようじょなの~?」

倫子「」ビクッ!!

ダル「よ、よよ、幼女化最強って話だお、あはは」アセッ

まゆり「トゥットゥルー♪ 最強幼女、まゆしぃです☆」

鈴羽「」イラッ

673: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:16:41.61 ID:hHWGS9LVo

倫子「まゆり……おかえり」ウルッ

まゆり「オカリン、待っててくれたんだ、ありがとう」ニコニコ

倫子「よかった……生きてる……」ダキッ

まゆり「わ、わわ? もう、今日は甘えん坊さんなのかな? 良い子良い子」ナデナデ

倫子「ふぇぇ……」グスッ

ダル「オカリン養女説は?」

鈴羽「むしろ父さんが養女に取ってよ。そしたらリンリンとあたしは姉妹に……」グッ

まゆり「オカリンが幼女だった頃はね~、さいきょうだったよ~♪ 写真、見る?」

倫子「写真なんてあるわけ――」

まゆり「スマホにいっぱい入ってるんだー♪」スッ

倫子「あったーっ!? まゆり、これ、私の子どもの頃の写真じゃない!! いつの間に……」ゾワァ

まゆり「えっへへ~」

ダル「さすまゆ。幼馴染属性をフルに活かしてますなぁ」

鈴羽「えっと、椎名まゆりがリンリンの部屋にしのびこんで、アルバム写真をケータイで撮ったのをスマホに移植したってこと?」

倫子「これ、子どもの頃、一緒によく行った豊島園のプールの写真……私の水着姿っ!?」

ダル「幼女オカリンの水着姿とか……犯罪臭がハンパないお」ハァハァ

鈴羽「これは、いいものだね……」ゴクリ

倫子「い、今すぐスマホを貸しなさいっ! まゆりっ!」

まゆり「まゆしぃのPCにも外付けHDDにもクラウドにもバックアップ取ってあるから、消しても意味ないよ~?」ニコニコ

ダル「VR技術とか言うのを使えば、まゆ氏の記憶の中の写真をいつでも現像できるし、無駄なのだぜオカリン」ニヤリ

鈴羽「タイムマシンがある限り、いくらでも写真を手に入れられる世界に改変できるからね」フッ

倫子「こいつら……!!」

674: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:19:24.36 ID:hHWGS9LVo
池袋 サンシャイン60通り


倫子「(まゆりの娘という少女が過去へ投げ出されたら、それこそ"椎名まゆり"という人物を求めて彷徨い歩きそうなもんだ)」

倫子「(警察に聞いたりすれば、当時4歳のまゆりに出会えたかもしれない)」

倫子「(そう思って、まゆり本人にそれとなく聞いてみたけど、そんな少女の存在は記憶に無いらしい)」

倫子「(当時まゆりとベッタリだった私の記憶にも無いんだから当然かとも思ったけど、世界線が変わってるからそうとも言い切れないか)」

倫子「(ともかく、今日に至るまでかがりは池袋に現れていない。それは逆に不可解な気もした)」

倫子「(まゆりを家まで送って、私はなんとなく夜の池袋をふらふらしていた。まあ、かがりが見つかるとは思えないけど……)」


prrrr prrrr


Ama紅莉栖『ハロー。報告はどうだった?』

倫子「え? あ、うん。普通に話しただけだよ」

倫子「("紅莉栖"と恋愛関係を築け、って言われたことはさすがに言えない、よね……)」ドキドキ

675: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:20:40.09 ID:hHWGS9LVo

倫子「それより、ちょっと相談なんだけど……消息不明になった人を捜すには、どうすればいいかな?」

Ama紅莉栖『随分と唐突ね。詳しく教えて』

倫子「えっと、母親のまゆりの娘が……あ、いや、えっと……」

Ama紅莉栖『まゆりさんのお母さんの娘って、それ、まゆりさんじゃないの? もしかして、腹違いの義理の姉妹、ってこと?』

倫子「……まあ、そんなところ。その子、椎名かがりって言うんだけど、98年に秋葉原で確認されてから行方がわからなくなってて」

Ama紅莉栖『ふむん……まず、警察に行って、それから興信所に頼むとか。まあ、そういうことはもうやってるか』

倫子「(警察が発表してる身元不明者の確認くらいならやってると思うけど、戸籍を持ってない鈴羽が公的機関を利用したとは思えない)」

Ama紅莉栖『椎名かがりさんね。一応、私の方でもネットの海を漁ってみる』

Ama紅莉栖『国会図書館のデジタル新聞とか、各病院の入院者リストとか、警察のデータベース上で事件に巻き込まれていないかとかね』


   『世界線を超えようと、時間を遡ろうと、これだけは忘れないで』

   『いつだって私たちはあんたの味方よ』


倫子「……うん、ありがと。"紅莉栖"」

676: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:22:16.22 ID:hHWGS9LVo
2010年12月16日木曜日
秋葉原CLOSE FIELD 陸橋


Ama紅莉栖『時間の許す限り、ありとあらゆるデータベースに侵入して情報をリサーチしたけど、該当者なしだったわ。一応、足はついてない』

倫子「(今の"紅莉栖"は、正確無比な天才少女にダル並のハッキング能力が加わったような状態なのか)」

倫子「うん、ありがとう」

Ama紅莉栖『私に出来ることは以上かな。あとはあんたたちにしか出来ないやり方で捜すしかないわね』

倫子「足で稼げ、ってことかぁ……いつの刑事ドラマだよ」ハァ

フェイリス「ニャニャ? キョー、じゃなかった、オッカリーン!」トンッ

倫子「ふぉぁっ!? フェイリス、おどかさないでよっ!」ドキドキ

るか「こんにちは、岡部さん」ニコ

倫子「ルカ子も。珍しい組み合わせだね、デート?」

るか「デ!? い、いえ、そんなことはっ」アタフタ

フェイリス「ニャフフ。ルカニャンもそろそろ女の子に興味を持ってもいい頃合いだと思うニャけど、実際どうなんだニャ?」ニヤニヤ

るか「フェイリスさん! ボクは、そういうのじゃないです……」モジモジ

倫子「(実際どうなんだろう?)」

677: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:24:17.79 ID:hHWGS9LVo

るか「さっきそこでフェイリスさんに会って、ボクの荷物を持ってもらったんです」

倫子「あ、それなら私も手伝うよ」スッ

Ama紅莉栖『ちょっと! 私との話の途中で……また隠れてろってか。倫子ちゃんは人気者よね!』プンプン

るか「あれ? 今、誰かと通話中でしたか?」

倫子「ああ、いいのいいの。ちょっと相談ごとをね」ピッ

フェイリス「もしかして凶真の定時報告が復活したのかと思ったのに、がっかりだニャ」

倫子「フェイリス」ムーッ

フェイリス「わかってるニャ。オカリンは普通の可愛い女子大生ニャ!」プイッ

るか「相談って、岡部さん、何か困ってるんですか?」

倫子「あ、うん。実は今、人を捜しててね――」

678: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:26:27.51 ID:hHWGS9LVo

・・・

フェイリス「ニャるほど、だいたいわかったニャ。フェイリスの方は黒木や"ご主人様たち"に聞いてみるニャ!」

るか「ボクの方もお父さんと、氏子の方たちにも聞いてみます」

倫子「ありがと。そうしてくれると助かる」

フェイリス「そういえば、関係あるかわかんニャいけど、ラジ館に出るおさげの幽霊の話なら聞いたことあるニャ」

るか「ゆ、幽霊、ですか……」プルプル

倫子「おさげの幽霊?」

フェイリス「なんでもその幽霊は、何年か一度に現れて、小さな女の子を見なかったかと色んな人に聞いて回っているそうなのニャ」

フェイリス「何年経ってもその姿が変わらないから、最近になっておさげの幽霊だって言われてるニャ。座敷童の都市伝説版だと思うんニャけど」

倫子「……ふふっ。ってことは、すず、じゃなかった、おさげの幽霊が現れたお店は、きっと商売繁盛するんだね」

るか「あっ、そういう守り神様なら良かったです。悪霊だったらどうしようかと」

倫子「それにしてもこの荷物重たいね……どうしたの、これ?」

るか「これはその……昨日の話の続きになるんですけど、例のお客さんのひとりがしばらくうちに滞在することになって」

フェイリス「それで、必要なものを買いそろえていたそうニャ」

倫子「それじゃ、漆原神社まで行きますか。よいしょ」

フェイリス「ご神体はルカニャン大明神だニャ」

るか「や、柳林神社ですよ、岡部さん!」

679: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:27:03.00 ID:hHWGS9LVo
柳林神社


倫子「それじゃ、私はこれで」

るか「本当にありがとうございました」ペコリ

フェイリス「……ねえ、ルカニャン」

るか「え? あ、はい。なんでしょう、フェイリスさん」

フェイリス「ルカニャンは、凶真のどこに惚れたニャ?」

るか「え……え゛え゛っ゛!?!?」ドキッ

るか「えと、そんなことは、あの、ボクなんかが、そのっ!」アタフタ

フェイリス「――フェイリスにとって凶真は、初めて出会ったフェイリスと"同じ人"だったんだニャ」

るか「……え?」

680: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:28:27.72 ID:hHWGS9LVo

フェイリス「普通、厨二病って、本当の自分を見失ってるのが普通ニャ。"本当の自分"はもっとすごい人間で、誰にも負けない存在だって思い込むのニャ」

るか「あ……」

フェイリス「自分ひとりの力だけじゃ戦えないから、別の何かの力が欲しい。自分に"設定"を作り上げることで、自分の弱さを覆い隠すの」

フェイリス「でもね。結局どこまで行っても自分は自分。弱い自分を受け入れられなければ、本当の自分は消えてなくなっちゃう」

るか「……はい。よく、わかります。僕も、弱い自分を受け入れることができませんでした」

フェイリス「フェイリスはそれが嫌だったニャ。フェイリスは"フェイリス"だけど、"秋葉留未穂"でもあるのニャ」

フェイリス「そして凶真は、フェイリスと同じように、弱い人間である"岡部倫子"を捨てていないし、見失っていない人だったニャ」

フェイリス「そんな凶真が、フェイリスは好きだったのニャン」

るか「好……っ!? あ、いえ……でも、それは、そのっ」

フェイリス「そう。"倫子ちゃん"は、大いなる戦いに敗れて、"凶真"を忌むべき存在として封印してしまった」

フェイリス「留未穂はね、フェイリスは、"凶真"が復活するその日を信じてる。たとえ倫子ちゃんが拒否しても、フェイリスは"凶真"が好きだから」

フェイリス「"本当の自分"である"凶真"を、取り戻してもらいたいから」

681: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:31:25.39 ID:hHWGS9LVo

るか「……フェイリスさんは、すごい人ですね。ボクには、岡部さんが望んだことなら、仕方ないかなと思っていました」

フェイリス「でも、"凶真"のことが好きニャ?」

るか「……ボクは、そういう"設定"を口にする時の岡部さんが。生き生きとして、強気で何ものにも負けない気持ちでいる岡部さんが好きだったんです」

るか「初めは、ボクに似た人だと思いました。女性なのに男らしく振る舞っていて……でも、ボクが持っていないものをすべて持っていたんです」

るか「ボクはいつも、変わらなきゃ、変わらなきゃって思い続けるだけの、勇気のない意気地なしで……岡部さんはそんなボクを、"そんなことはどうでもいい"って肯定してくれて」

るか「いつの間にか、岡部さんの"設定"の中にボクが巻き込まれていました。秋葉の地の防人として、清心斬魔流の奥義を取得するための修行を続ける巫女であり、鳳凰院凶真の弟子、という」

るか「ちょっと困惑もしましたけど、でも、ボクは、岡部さんの"設定"の一部になっているのが、とても居心地よくて……」

るか「目を閉じて、頭の少し上の方に意識を集中させると、一緒に実験をしたり、妖刀五月雨から斬撃を放ったり……」

るか「自然に岡部さんのお婿さんになって、自然に赤ちゃんが産まれて、自然に岡部さんと家族になっていく光景が目に浮かんで……なんて、これは夢の話なんですけどね」

フェイリス「ルカニャンも誇大妄想家だったのニャ?」

るか「……そうなん、ですかね」

フェイリス「凶真はきっと、ラプラスの悪魔に封印されてしまっただけなのニャ。いずれその時が来れば、負けちゃいけない何かと戦うために、真の力を呼び覚ますはずニャ!」

るか「えぇっ!? あ、悪魔ですか!? ボクがお祓いしないと……!」

フェイリス「秋葉原の守護天使と防人のふたりの力で、凶真を運命の女神たち<ノルニル>の元へと導くのニャ!」

るか「は、はいっ!!」

682: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:31:53.78 ID:hHWGS9LVo
2010年12月17日金曜日
未来ガジェット研究所


ダル「かがりたん、全然見つからんので、裏稼業の人に頼んでみることにしたお」

鈴羽「さっすが父さん」

倫子「大丈夫なの、その人」

ダル「もう来るはずだけど……」


コツ コツ コツ コンコン


ダル「はい、どうぞー」


ガチャ


倫子「……ああっ!?」

683: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:32:54.24 ID:hHWGS9LVo

倫子「閃光の指圧師<シャイニングフィンガー>っ!」ダキッ

萌郁「わっ……?」キョトン

ダル「え、何? オカリン、知り合いなん?」

倫子「あ、いや……その、αでね」アセッ

ダル「え? ああ、なるほ。ってことは、βでは初対面なわけっすな」

倫子「う、うん……えっと、さっきは失礼しました……」

萌郁「べつに……気にしてない……」ドキドキ

倫子「(萌郁はやっぱりラウンダーのはずだよね……でも、IBN5100はもう無いし、タイムマシンの話さえしなければ問題ないはず)」

倫子「(まだ店長に騙され続けてるのかな……)」

鈴羽「お茶、どうぞ」

萌郁「どう……も……」

684: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:35:18.40 ID:hHWGS9LVo

倫子「それで、ダル。説明して」

ダル「あぁ、この人は桐生氏。編プロのライターさんだお」

萌郁「桐生……萌郁です……」

倫子「ダルはどうしてこの人と知り合いに?」

ダル「前にさ、桐生氏が担当してる雑誌で、アキバ関係の都市伝説を扱った特集があったんだよね」

ダル「その時に、僕のバイトのこと取材したいって申し出があって。それに関しては丁重にお断りしたんだけど」

ダル「ただ、僕って普段から足がつかないようにかなり注意してるじゃん? なのに桐生氏は、その僕に辿り着いた。それが気になって」

萌郁「情報収集は……任せて……」

ダル「で、会ってみたらこの通り、すげー美人さんだったわけだお。萌えざるを得ないだろ常考!」

倫子「ホントにちょん切ってやろうか?」ニコニコ

ダル「ふ、ふふ。僕には鈴羽という人質が居るから、それは不可能なのだぜ」ゴクリ

倫子「ゴミ箱を漁ればティッシュに包まれた例のアレが出てくるでしょ、それを手に入れれば鈴羽が産まれる収束を利用して……ゴニョゴニョ」

鈴羽「そんな誕生の仕方嫌だよ、父さん」

ダル「す、すみませんでした……」orz

萌郁「……?」

685: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:36:00.59 ID:hHWGS9LVo

萌郁「……人捜し……そう聞いた……」

倫子「(確かにラウンダーの萌郁なら、その辺の能力はあるんだろう。どういう情報網を持ってるのか聞くのはちょっと怖いけど)」

倫子「(SERNとのつながりがある以上、迂闊に近づくことができなくてもどかしい)」グッ

倫子「(……あるいは、前にラジ館のタイムマシンを覗いたのがラウンダーだったかどうか聞き出してみる? 危険だけど……萌郁に近づく価値はある)」

ダル「えっと、12年前に失踪した少女のことなんだけど――」


・・・


萌郁「……だいたい……わかった……やってみる……」

ダル「マジ? トンクス。んじゃ、報酬は成功報酬でヨロ」

萌郁「……了解した」

ダル「契約成立!」

686: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:37:07.55 ID:hHWGS9LVo

・・・

倫子「ふぅ……どうしたものかなぁ」

鈴羽「リンリン。α世界線での桐生萌郁の話、聞かせてもらっていい?」

倫子「未来の私は話さなかったの?」

鈴羽「話してたかもしれないけど、忘れちゃったよ。あの頃は夢物語として、子守唄代わりに聞いてたから」

倫子「……下に店長さん、居る?」

ダル「え? いや、たしかさっき出掛けてったと思うけど……うん。軽トラ停まってないし、まだ帰ってきてないお」

倫子「……ラボメンナンバー005、桐生萌郁。300人委員会の陰謀に巻き込まれて洗脳された、ラウンダーっていうSERNの実働部隊の尖兵、ってところかな」ヒソヒソ

倫子「目的のためなら街を封鎖したり人を殺したりする、危険な奴らだよ」

ダル「ちょ!? それマジ!?」

鈴羽「洗脳兵士……この時代から既にあったんだね」

倫子「でも、大丈夫。奴らの目的は、タイムマシン研究の独占と、IBN5100の回収の2つだから、それらに関係なければ動かない」

ダル「IBN5100を破棄したのはそういう理由だったんか……いや、つか僕ってまさにタイムマシン研究をやってるわけだが」

倫子「絶対足はつかないんでしょ? スーパーハッカーさん」ニコ

ダル「あぅ……うん。いやあ、メガネ属性持ちのスタイル抜群美女かと思ったらとんでもねー伏兵だったっす……」ガックリ

倫子「私としては、彼女の洗脳を解いてあげたいくらいけど……」

鈴羽「これから世界が戦争に突き進むって言うのに、そんな悠長なことをしてる暇はないよ。あたしに言わせれば、敵兵だとわかってるなら今のうちに潰しておきたいくらい」

倫子「鈴羽……」

鈴羽「……もちろん、そんな目立つ行動はしないよ。安心して」

687: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:37:48.09 ID:hHWGS9LVo
2010年12月20日月曜日
未来ガジェット研究所


倫子「これは……」

萌郁「……報告書」

鈴羽「どう、リンリン」

倫子「やっぱり、そう簡単に見つかるもんじゃないよね……」ペラッ ペラッ

鈴羽「そう……。かがり、どこで何してるんだろう……」

倫子「ん? 『調査の中でひとつ、興味深い事実が浮かび上がった』……?」

鈴羽「なになに? 『この1、2か月の間で、椎名かがりという名の女性を捜している人物が、私達以外にも存在するらしい』……どういうこと?」

倫子「(そんなバカな……椎名かがりは未来人だよ? どうしてこの時代に彼女を捜そうと思う人間がいる――)」


prrrr prrrr



688: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:39:28.64 ID:hHWGS9LVo

倫子「もしもし?」ピッ

真帆『もしもし、岡部さん!? 私、比屋定ですっ!』

倫子「っ!? ど、どうしたの!?」ガタッ

真帆『今、あなたのラボのすぐ近くまで――』

ドンッ!!

倫子「比屋定さん!? 真帆ちゃん、どうしたのっ!?」

プツッ ……

倫子「嘘……でしょ……」プルプル

ダル「オカリン? 何かあったん?」

倫子「真帆ちゃんが誰かに襲われてる……」ワナワナ

ダル「真帆ちゃん……?」

倫子「ダルも会ったことあるでしょ!? 学園祭の時の!」

ダル「……ああ! あの中学生かお!?」

倫子「(私が……オレが、助けないと……っ!)」グッ

689: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:40:52.57 ID:hHWGS9LVo

倫子「鈴羽はここで待機っ! オレたちからの連絡を待て!」

倫子「(ラボとタイムマシン研究を守ってもらわないと!)」

鈴羽「オーキードーキー! 何かあったらすぐ飛んでくよ!」

倫子「真帆の顔を知ってるダルは来いっ! 二手に別れて捜索するぞっ!」ダッ

ダル「オ、オカリン、これ! サイリウム・セーバーしかなかったけど、持ってくべき!」

倫子「こけおどしになるか……よしっ!」ガチャ タッ タッ タッ

690: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:42:08.04 ID:hHWGS9LVo
裏路地


倫子「(どこだ!? ラボの近くとは言っていたが……駅からの動線を考えるとこの辺のはず……)」キョロキョロ

倫子「(……っ!? あ、あそこに居るのはっ!)」


真帆「やめて……離してってばっ……!」

??「……!! ……?」ギューッ


倫子「(何者かに締め上げられてる!? ……日本人じゃない!?)」プルプル

倫子「("未来人を捜す外国人"……っ!! このままじゃ……くそっ!)」ダッ

倫子「真帆っ!!」

真帆「ふえっ!?」

??「―――!?」

倫子「お、おお、おいっ、真帆を離せぇっ!! この得物が目に入らないのかぁっ!?」ガクガク

??「…………」


   『……死にたく……ないよ……』


倫子「(あんな思いは、あんな思いは二度としたくない……っ!)」ポロポロ

691: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:43:52.48 ID:hHWGS9LVo

倫子「も、もう一度言うっ! その子を――」ガタガタ

真帆「ち、違うの、岡部さん」アセッ

倫子「はな……えっ?」

??「"Oh!! So cute! KAWAII!"」ダキッ

倫子「ふおわぁっ!? な、なな、なんぞ~!?」ジタバタ

真帆「きょ、教授! 岡部さんが    で窒息しちゃいますっ!」


・・・


倫子「……えっと、この人は比屋定さんの知り合いなの?」

真帆「ごめんなさい。私が早とちりしたせいで……」

レイエス「どうも~♪」

倫子「ああっ、え、ええと……ナイス、トゥ、ミーチュー……」

真帆「……今度"紅莉栖"に日常英会話も教えるよう言っておかないといけないね」ハァ

レイエス「フフ、日本語でいいわよ」

真帆「え? 教授って日本語喋れたんですか?」

レイエス「女にはね、色々秘密があるの」ンフ

倫子「えっと、岡部倫子です。教授……なんですか?」

レイエス「"psychophysiology"、精神生理学を研究しているわ」

真帆「レイエス教授は、今度日本で開かれるAI関係の学会に出席するために、来日したんですって」

倫子「(なぁんだ……てっきり、かがりを探してる外国人かと)」ホッ

692: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:45:50.51 ID:hHWGS9LVo

真帆「でも、レイエス教授も人が悪いですよ。駅からつけてくるなんて」

レイエス「ナンノコトアルカ? ソンナコト、シテナイヨロシ」

倫子「(誤魔化し方下手くそ過ぎか!)」

レイエス「美人なお嬢さんと、もっといっぱいおしゃべりしたいところだけど、マホに悪いし、ワタシは行くわね。Bye!」スタ スタ

倫子「……真帆ちゃんの周りは変人ばっかりだね」

真帆「変人じゃないと科学者なんてやってられないわ……というか真帆ちゃん言うなっ! さっきも、お、大きな声でぇっ……」プルプル

倫子「そ、それは、だって比屋定さんが!」

真帆「……そうだったわね。その、勘違いさせてごめんなさい。それと……ありがとう」

倫子「あ、そうだ! ダルに大丈夫だったって連絡しなきゃ……え、なに? なにか言った?」

真帆「い、いえ! なんでもないわ! なんでもないわよ!?」アセッ

倫子「せっかくラボの近くまできたし、安全だったことを報告しがてら、寄っていかない?」

真帆「え、ええ。元々ラボに行くつもりだったし。岡部さんに聞きたいことがあって」


天王寺「おう、岡部。何やら慌ただしくしてたみたいだが……おっと、そっちは綯のお友達か?」

真帆「えっ?」

倫子「(ぷくくっ……)」プルプル

693: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:48:36.08 ID:hHWGS9LVo
未来ガジェット研究所


真帆「お騒がせしました」ペコリ

ダル「いやいや、真帆たんが無事ならモーマンタイなのだぜ」

真帆「ま、まほ……たん……」プルプル

鈴羽「それじゃ、話を戻した方がいいかな? かがりを捜してる人間が他にも居るって話」

萌郁「……中には外国人も……ここ1、2か月の出来事……」

倫子「ふむん……椎名かがりは、こっちに来てもう12年にもなる。その間、知り合いが出来たとしてもおかしいことじゃない……」

ダル「つーか、むしろ誰かの世話にならないと生きていけないっしょ」

倫子「それならどこかのデータベースに名前が載ってそうなもんだよ。入院記録、施設利用記録……世話人は、かがりを世間から隔離し、監禁していた?」

鈴羽「最近になってそこから脱走して、世話人がそれを捜索してるってこと?」

倫子「そこに外国人が居る……ラウン、じゃなかった、マフィアとかと関わってたりしなければいいんだけどな……」

倫子「もえ、いや、桐生さん。引き続き調査をお願いできますか?」

萌郁「……わかった」

ガチャ バタン ……

694: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:50:23.11 ID:hHWGS9LVo

真帆「なんだか物騒な話をしていたみたいだけど……」

倫子「えっと、うん。知人を捜してて」

倫子「(冷静に考えて、10歳の女の子が突然26年前の世界に投げ出されたらどうなるか)」

倫子「(……通常の時間進行や因果律から切り離された、絶対の孤独。少女の身に余りある絶望だ、想像を絶する)」

倫子「(最近まで生きていた事実が発見できただけでも奇跡。あるいは、生かされていた?)」

倫子「(10歳の少女に自分が未来人であることを隠し通せるとは思えない。SERNじゃなくても、どこかの研究機関の手に渡ってしまえば、その未来的言動を精査されるかもしれない)」

倫子「(そしていずれは陰謀の魔の手に……これが絵空事じゃないんだから嫌になる)」グッ

倫子「(その外国人組織とやらが、未来の情報をかがりから手に入れてしまったらどうなる?)」

倫子「(……それは、世界線の確定事項に反する選択ができるようになる、ってことなんじゃないか?)」ブルブル

倫子「(また私の気付かないところで世界線が変動する可能性がある……っ。世界が……ヤバイ……)」ガクガク

695: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:51:53.05 ID:hHWGS9LVo

鈴羽「えっと、それで、その、比屋定さんってのは……どちらさん?」

倫子「えっ? ……ああ、今私がテスターをやってる研究の、主任研究員なんだ」

真帆「ヴィクコン脳科学研所属の比屋定真帆、こう見えても21歳よ」

ダル「ほう、合法ロリですたかブフォ!!」バタッ

鈴羽「――――っ。ごめん、続けて」

ダル「あぁ、娘に無言で肘鉄を食らわされるとか、それなんてご褒美……ハァハァ」

鈴羽「眼球を嘗め回してあげようか、父さん」ジトーッ

ダル「い、いや、そこまでハードなのはちょっと……」

真帆「……どういう関係?」

倫子「そういうxxxなんだよ、気にしないで」

696: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:52:42.22 ID:hHWGS9LVo

倫子「それで、私に話って?」

真帆「……最近、通話してる時、なんだかよそよそしいじゃない? この間なんか、他の女の子と話し始めちゃったし」

倫子「うぐっ!? あの子から聞いたんだ……」

真帆「もしかして、一緒に話すの、つらい?」

倫子「い、いや、そういうわけじゃないよ。ただ、教授から恋愛だなんだって言われて、つい意識しちゃって……」

真帆「私だってつらいのよ!? 女の子のあなたに、好意をよせるようにするなんて、どうしたらいいか……」グスッ

倫子「な、泣かないでよ。……ごめん、今までの関係でいられるよう、努力する」

真帆「岡部さん……」ウルッ


鈴羽「……修羅場?」

ダル「……三角関係?」

萌郁「……痴情のもつれ?」

倫子「ちっがーうっ!! というか萌郁は帰ってよっ!!」

697: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:56:17.45 ID:hHWGS9LVo
2010年12月23日(祝)木曜日
未来ガジェット研究所


倫子「(今日から大学は冬休みなので、まゆりとふたりで池袋からラボまでやってきた)」

ガチャ

倫子「入るよー……あれ、鈴羽はもう出かけたのかな」

まゆり「はふぅ、今日も寒いね~。ちょっと暖まってからまゆしぃは買い物に行くね」

倫子「(冷房設備の乏しいラボだったけど、鈴羽が暮らし始めてからはいつの間にか暖房が整っていた。ダルあたりが娘の為に買ったんだと思う)」

倫子「(かがりを捜し始めて1週間経ったけど、未だ進展なし、かぁ……でも、こうして鈴羽と同じ目的の行動を取れることは、少し嬉しい)」

まゆり「あのね、まゆしぃはとっても残念なのです」

倫子「なにが?」

まゆり「オカリンが色んな女の子と仲良くしてるのは嬉しいんだけどね?」

まゆり「そのせいで寂しい思いをさせちゃうのは、よくないと思うな……あっ、まゆしぃのことは別にいいんだよ?」

倫子「……ダルか」ギリッ

698: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:57:47.62 ID:hHWGS9LVo

まゆり「それと、クリスマスパーティーもできなくなっちゃって残念だよ~。フブキちゃんもカエデちゃんも急用が入っちゃうなんて……」

倫子「(昔の私だったら、なにかの陰謀か! とか言って喚いてただろうけど、まあ、偶然だよね)」

倫子「ダルは由季さんとクリスマスデートだったね。それはいいことなんだけど、そろそろあの口軽デブは一発シメとかないと……」

まゆり「オカリンさえ良かったら、まゆしぃの家でお食事しない? お父さんが大きなケーキを買ってくるって言ってたから」

倫子「あー……」

まゆり「オカリンも予定入ってるのかな?」

倫子「えっと、大学のシンパ、じゃなかった、友達に誘われてるんだけど……そっちは断るよ」

まゆり「えぇー!? 悪いよぅ」

倫子「私がいいって言うんだからいいの! 今年のクリスマスはまゆりと一緒に過ごしたい」ダキッ

まゆり「……えっへへ~。まゆしぃは幸せ者だね~」ホカホカ

699: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 21:59:22.87 ID:hHWGS9LVo

まゆり「そうだ! ねぇ、オカリン。ラボでクリスマスパーティーはできないけど、お正月パーティーをするのはどうかな?」

倫子「うん、いいんじゃない」

まゆり「だよねだよね~。あとでみんなに聞いてみるね~」

まゆり「さてと、まゆしぃはそろそろ行くね。フブキちゃんのコミマ用のコスで急に小物が必要になっちゃって」

倫子「もうそんな季節か……気を付けて行ってきてね」

まゆり「はーい」トテトテ

ガチャ バタン 

700: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 22:00:46.77 ID:hHWGS9LVo


・・・


コツ コツ コツ コンコン


倫子「ん? 誰だろう……どうぞー」

ガチャ

るか「こんにちは……」

倫子「ああ、ルカ子。寒いでしょ、入って入って」

るか「あの、岡部さん。その……相談があって……」

るか「実は、会ってもらいたい人がいて、連れてきたんですけど、いいですか?」

倫子「会ってもらいたい人?」



??「あの……はじめまして……」



倫子「え――――――」ドクン



倫子「嘘、でしょ……!?」ドクドクン



??「……あ、あの……?」



倫子「――紅莉栖……っ!!」ドクンドクンドクン

701: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 22:01:29.25 ID:hHWGS9LVo

倫子「(――よく見ると全然紅莉栖じゃなかった。確かに顔は似てるけど……ある一カ所が似ても似つかない)」ジーッ

巨 の女性「……?」

倫子「で、ルカ子。この人は?」

るか「その、前に話したことがありましたよね? お父さんのお客さんが泊まってるって。この人がそうなんです」

倫子「ああ、前に荷物を運んだ」

るか「正確に言うと、お父さんの知人が連れてこられた方で……」

倫子「えっと、お名前は?」

るか「……実は、相談というのはそのことなんです」

女性「…………」シュン

倫子「……?」

るか「あの、この人が誰なのかを、その、知るには、どうしたらいいでしょうか……」

倫子「え、えっと、どういうこと……?」

るか「記憶喪失、なんだそうです」

倫子「記憶、喪失? それじゃ、名前も?」

女性「……はい」

702: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 22:05:30.29 ID:hHWGS9LVo

倫子「でもルカ子。どうして私に?」

るか「岡部さんなら記憶を取り戻すいい方法を知っているんじゃないかと思いまして」

るか「ほら、岡部さん、よく人間の脳とか記憶とか、すごく難しい話をたくさんしてたから……」

るか「(本当は、『凶真さん』をやめた岡部さんに、こういうことを相談するのはどうかと思ってたんだけど……フェイリスさんとの約束を信じよう)」グッ

倫子「(この私がβ世界線のルカ子にそんな話をした記憶はないけど、SERNにクラッキングを仕掛けた頃の私がきっとしていたんだろう)」

女性「なんでもいいんです! 私が自分のことを取り戻せる方法があれば!」ヒシッ

倫子「(うっ……やっぱり顔は紅莉栖に似てる……)」ドキドキ

倫子「(一応、私だって知識が無いわけじゃない。OR物質を励起状態にさせるために、記憶のバックアップと類似の電気信号を脳に流してやればいいんだ)」

倫子「つまり、記憶を失う前と同じような行動をすれば、記憶は戻りやすくなる……」

703: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 22:06:22.89 ID:hHWGS9LVo

倫子「……と言っても、その記憶さえないんだよね?」

女性「はい……」

倫子「それじゃあ手詰まりだね……」

るか「だったら、なにか身元を調べることはできないでしょうか。カナさん、本当に辛そうで……」

倫子「カナさん?」

カナ「仮の名前だからカナと、るかさんのお父さんが……。名前がないと不便だからって」

倫子「……カナさん。漆原家で、なにかその、衣装を着るように強制されたりはしてませんか?」

カナ「え、えっと?」

るか「それはボクが全力で阻止しています」キリッ

倫子「ルカ子、強くなったね……」

704: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 22:07:26.52 ID:hHWGS9LVo

倫子「ホントに全部記憶がないの? なにか印象的なことが残ってたりとかは?」

カナ「えっと……これが記憶なのかはわからないんですけど、私、男の人と居るより、女の人と居る方が、その、安心するんです」

るか「は、はい。それで歳の近いボクが居る神社を紹介されたとも言ってましたね」

倫子「(知らぬが仏ってこともある……それに、これは記憶というより本能的なものかもしれない)」

カナ「それと、あの、岡部さん? と初めて会った気がしなかった、というか……岡部さんを見ると、少し、ドキドキします……」

るか「ボ、ボクも岡部さんと一緒に居るとドキドキしちゃいます」テレッ

倫子「(もしかしてこの子、紅莉栖と似てるだけじゃなくて、百合属性まで……いや、どうでもいいか)」

倫子「持ち物とかから、記憶喪失前の行動を推測できればいいんだけど」

倫子「(身分証なんかを持ち歩いていたなら、そもそもこういうことで悩んだりしないはずだよね)」

カナ「……ひとつだけ……ただ、これが手掛かりになるのかどうかは……」スッ

倫子「これは……?」

705: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 22:09:59.94 ID:hHWGS9LVo

ガチャ

まゆり「あれー? もしかして、お客さんかなぁ?」

鈴羽「…………」

倫子「ああ、まゆり。鈴羽も。お帰り」

るか「あ、まゆりちゃん!」

まゆり「るかくん! トゥットゥルー♪」

鈴羽「るか兄さん、そちらの人は?」

カナ「(兄さん?)」

るか「ええと……かくかくしかじかで……」

まゆり「わぁー! その手に持ってるの、うーぱですよね? まゆしぃも大好きなのです♪」

倫子「そうそう、これ、うーぱのキーホルダーだね。ちょっと色褪せてるけど」

カナ「あ……」プルプル

706: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 22:10:38.49 ID:hHWGS9LVo

まゆり「でも、このうーぱ、随分古いみたいだけど、この前の劇場版の"森の妖精さん"バージョンだよー?」

まゆり「まゆしぃも持ってるんだー。るかくんが見つけて買ってきてくれたの。ねー」

るか「うん。まゆりちゃんがなかなか見つからないって言ってたから、お父さんに聞いたらすぐ手に入れてきてくれたんだよ」

るか「だから、カナさんが持ってるのもそれかなって思ってたんですけど」

倫子「でも、それならどうして古びてるんだろう……というか、このうーぱ、どこかで見たような気が……ん?」

カナ「……はぁ……はぁっ……」プルプル

るか「だ、大丈夫ですか、カナさん」

倫子「具合が悪いの?」

カナ「だいじょう、ぶ……」フラッ

るか「あっ!」ダキッ

倫子「えっと、ソファーで横になって休んでもらっても……鈴羽?」

鈴羽「そ……それ、そのうーぱ……」ワナワナ

707: ◆/CNkusgt9A 2016/04/16(土) 22:11:33.81 ID:hHWGS9LVo

鈴羽「あたしは、知ってる。そのうーぱ……それ……」プルプル

倫子「えっ……あっ!」


   『ママがずっと大切にしてきた"うーぱ"のキーホルダーだよ』


倫子「かが……り?」

鈴羽「お前はかがり!? 椎名かがりなのか!?」

カナ「――――!」バタッ

るか「カナさんっ!?」

倫子「ね、ねえ! 大丈夫!? ねえ――――」

717: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:44:42.57 ID:JUk1twV7o
第14章 軌道秩序のエクリプス(♀)


倫子「……少し、落ち着いた?」ギュッ

カナ「はい……ありがとうございます……」

倫子「(たぶんこの人が椎名かがりだ。面影もある。となると、まゆりがこの場に居るのは少しマズイ……)」

倫子「まゆり、ルカ子。悪いけど、何か冷たいものでも買ってきてくれないかな? もしかしたら、暖房に当てられて気持ち悪くなっちゃったのかも」

まゆり「うん、わかった~。行こう、るかくん?」

るか「あ……うん……」


ガチャ バタン


鈴羽「かがり、お前、今までどこで何をしていた。あの時、なんのつもりで……っ!!」ギロッ

カナ「え……?」ドキドキ

倫子「鈴羽、落ち着いて。彼女は記憶を失ってる」

鈴羽「えっ!?」

718: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:46:17.78 ID:JUk1twV7o

カナ「(おさげの人に大声で怒られて、なんだか嬉しい……?)」ドキドキ

倫子「カナさん、そのうーぱをどうして持ってたか、わかる?」

カナ「わ、わかりません。記憶を失くして倒れていた私が、ただひとつ手にしていたのが、このキーホルダーだったそうです」

倫子「倒れてた? どこで?」

カナ「千葉の、山道です。県境あたりの。近くのお寺の住職さんが偶然通りかかって、見つけてもらったそうで……」

倫子「まるで昔話みたいな話だね……ってか、千葉の県境あたりに山道なんてあったっけ?」

鈴羽「……今ネットで調べてみたら、市川の真間山ってところぐらいかな? 山というより丘って感じだけど」

カナ「ですが、お寺に長く女性を置いておくことはできないということで、るかさんの神社を紹介してもらって、そこでお世話になっているんです」

鈴羽「まさかこんな近くに居たなんて……」

719: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:48:09.00 ID:JUk1twV7o

倫子「カナさん。あなたは、『椎名かがり』という名前を聞いて、なにか思い出すことはない?」

カナ「……正直を言うと、よく、わかりません。ただ、すごく懐かしい気がします」

カナ「それに、先ほどの方……」

鈴羽「椎名まゆり?」

カナ「まゆりさん……。あの方を見たとき、なぜだかすごく、温かい気持ちになりました」

倫子「(26年後もまゆりはあまり歳を取ったようには見えなかった。面影が残っているんだろう)」

カナ「私は、その……椎名かがり、という名前だったんでしょうか」

鈴羽「間違いない。そのキーホルダーがなによりの証拠だよ」

鈴羽「それは、かがりが大事にしていたものだ。でも、よりによって記憶喪失だなんて……」

倫子「(唯一自分をまゆりと結びつけ、自分が未来から来たことを示してくれる証明だったんだろう)」

倫子「(記憶すべてを失ってもそれだけを持っていたことを考えると、相当大切なものだったはずだ)」


ガチャ


まゆり「トゥットゥル~?」

るか「あの、入っても大丈夫ですか……?」

倫子「うん。ごめんね、わざわざ」

るか「いえ……あっ、色々買ってきましたので、どうぞ」スッ

721: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:49:06.26 ID:JUk1twV7o

・・・

倫子「……というわけなんだ」

るか「名前だけでもわかってよかったです! あ、でも、それなら阿万音さんはかがりさんの本当のお家を知っているんでしょうか?」

鈴羽「……まあね。知ってはいるけど、もう何年も後の話だよ」

るか「何年も、"あと"?」

倫子「えっと、何年も"前"の話なんだ。かがりさんは12年前に引っ越してしまって、それから行方がわからなかったらしい」

鈴羽「あっ、そ、そうそう。あはは……」

倫子「(鈴羽のおっちょこちょいはどの世界線に移動しても変わらないんだろうなぁ)」

倫子「だから、最近まで居たはずの家がどこかも、家族がどうなってるかも、私達にもわからないんだ」

るか「そう……なんですか……」シュン

倫子「あとは、かがりさんが記憶を取り戻してくれれば、すべてがわかると思うんだけど……」

倫子「まゆり、鈴羽。かがりさんと色々おしゃべりしてみてくれないかな?」

まゆり「えっ? うん、わかった!」

鈴羽「なるほど、わかった」

722: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:50:01.02 ID:JUk1twV7o

まゆり「えっと、かがりさん? まゆしぃと同じ苗字なんだね。まゆしぃも『椎名』って言うのです」

かがり「そ、そうみたい、ですね」

倫子「椎名って名前はそこまで見かける苗字じゃないけど、かと言って別段珍しい苗字でもないから、こういうこともあるよね」

鈴羽「そ、そうそう! 至極フツーだよフツー!」

倫子「(こいつ……)」

まゆり「記憶喪失って、つらいことだよね……自分の大好きな人のことも忘れちゃうんでしょ? それって、すごくすご~く哀しいことだってまゆしぃは思うのです」

まゆり「だからね、うまく言えないけど、まゆしぃもお手伝いするから、頑張ろうね!」ニコ

かがり「っ……」ポロポロ

まゆり「わわっ、急にどうしちゃったのかな? まゆしぃ、なにか変なこと言っちゃったかな?」

かがり「っ……そうじゃ、ないんです。ただ、まゆりさんの言葉を聞いて……なんだか……嬉しく、て……っ……!」

倫子「(これは……。もう、まゆりの未来の娘だってこと、隠さない方がいいのかな……)」

倫子「(でも、それは記憶を取り戻してからだ。今、あなたは未来人だと告げたところで、記憶の無いうちはさらに混乱するばかりだろう)」

倫子「(……記憶が戻ったとしても、戦災孤児としての記憶なんだよな。戻らない方が幸せ、なんてこと、あったりするんだろうか)」

723: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:51:22.47 ID:JUk1twV7o

倫子「えっと、かがりさんさえ良ければなんだけど、ここで寝泊まりするのはどうかな? 鈴羽も居るし」

倫子「(鈴羽やまゆりと会話しているだけで未来の記憶は思い出しやすくなるはずだ)」

るか「えっ? で、でも、ここって、お風呂、無いですよね?」

鈴羽「シャワーならあるよ。洗濯のたびにコインランドリーに行く必要はあるけど」

るか「それだったら、しばらくは今まで通りうちに泊まっていただいた方が……湯船も洗濯機もありますし。もしよければ、鈴羽さんも一緒にどうですか?」

鈴羽「えっ? あ、えっと……」

倫子「うん、それが良いよ。鈴羽も、毎日ここのソファーで寝るのは大変でしょ」

鈴羽「リンリン! ……あたしには、父さんの研究とタイムマシンを絶対守護するっていう使命もあるんだよ」ヒソヒソ

倫子「あっ、そっか……。じゃあ、かがりさん、いつでもここに遊びに来ていいからね。鈴羽も、時間があったらルカ子の家に遊びに行きなよ」

かがり「はいっ! 岡部さんに会えるのも私、嬉しいです……!」

まゆり「まゆしぃも遊びに行っていい?」

倫子「うん。それがいい」

かがり「みなさん、ありがとうございますっ」ニコ

倫子「(とりあえず、このことを萌郁と"紅莉栖"に連絡しておこう)」

724: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:52:17.15 ID:JUk1twV7o

倫子「(……冷静に考えてみると、おかしなことばかり)」

倫子「(かがりさんの記憶喪失は、自分が倒れていた時点より以前の記憶が無いというもの。ということは、行き倒れる前後に脳になにかしらの障害が発生したことになる)」

倫子「(外国人組織がかがりさんを追っているとしたら……かがりさんはそこから逃げていた? でも、今になってどうして?)」

倫子「(その組織に12年間監禁されてた? もし記憶喪失が人為的なものだとしたら……記憶に関する実験をされた、とか?)」

るか「えっと、名前もわかったことですし、警察に……」

倫子「……ルカ子。かがりさんを神社の外になるべく出さないで欲しい。記憶が完全に戻るまででいいから」

るか「え? どうして……ですか?」

倫子「理由は聞かないで。お願い」

倫子「(警察もダメ。私はα世界線でラウンダーの圧力に屈する警察を見てきたし、β世界線でも紅莉栖の死に関して警察は不穏な動きをしている)」

るか「はい……わかりました。岡部さんがそう言うなら」

倫子「なにもなければ一番いいんだけどね……」

725: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:52:53.48 ID:JUk1twV7o
2010年12月24日金曜日
柳林神社


るか「あ、まゆりちゃん! それに、岡部さんも」

まゆり「るかくん、かがりさんも、トゥットゥルー♪」

かがり「っ!? そ、その、トゥットゥルーって言葉……!」ドキドキ

かがり「かわいいっ……!」パァァ

まゆり「ホントっ!? そう言ってくれる人、初めてだよぉ!」

かがり「まゆりさん、トゥットゥルー♪」

まゆり「トゥットゥルーだよー、えっへへー♪」

かがり「はうっ!!」ドキドキ

るか「だ、だいじょうぶですか……?」

かがり「はぁ……はぁ……トゥ、トゥットゥルー……」

まゆり「えと、トゥットゥルー?」

かがり「はうあっ!!」ドッキーン

まゆり「トゥットゥルー……?」

かがり「トゥットゥルーッ! トゥットゥルーッ!!」ハァ ハァ

倫子「やめろぉ! もうやめるんだぁっ!」

726: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:53:34.70 ID:JUk1twV7o

かがり「すみません、なんだかテンションが上がっちゃって……」

倫子「(母親になったまゆりも使い続けてたんだろうなぁ……オリジナル挨拶を子どもに教えるとは、まゆり恐ろしい子……)」

ピッ

倫子「ん、鈴羽からRINEだ」


鈴羽【かがりの事なんだけど】

【なにか、気になることがあるの?】倫子

鈴羽【あたしさ、かがりが記憶を失ってて、少し、ホッとしちゃったんだ】

鈴羽【かがりの元の記憶が戻るのが、怖い、とも思ってる】

鈴羽【あたしのこと、きっと恨んでるから】

【それでも鈴羽は、記憶が戻ってほしいと願ってるんでしょ?】倫子

鈴羽【うん、そうなのかな】

【そうだよ。鈴羽はかがりのお姉ちゃんなんだから、ね】倫子

鈴羽【そうだった。ごめん、この会話は誰にも教えないで】

【わかった。怖がることはないからね】倫子

727: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:54:55.53 ID:JUk1twV7o

倫子「かがりさん、調子はどう?」

かがり「お、岡部さんに会えるだけで元気が出てきます! でも、記憶の方はまだ何も……」

倫子「記憶に関しては無理して思い出そうとする必要はないよ。そのうち記憶は戻ってくるって」

かがり「わかりましたっ♪」ニコ

倫子「(なんというか、幼さの残る笑みだ。22歳くらいのはずだけど、子どものように無邪気で……)」

栄輔(ルカパパ)「おや、岡部さん。久しぶりだね」

倫子「」ビクゥッ!!

倫子「(最後にこの人に会ったのはいつだろうか。私が"鳳凰院"をやめてからは"岡部さん"と呼んでもらっている)」

栄輔「メリークリスマス。ところでサンタコスに興味はないかな?」

倫子「い、いやいや、ここは神社でしょう!?」

栄輔「なに、巫女服と色が同じなら大丈夫だろう。ハッハッハ。もちろんミニスカサンタだよ」

倫子「なんで持ってるんです……」ゾワッ

るか「うちの父がすみません……」

まゆり「まゆしぃもね、オカリンには似合うと思うなー」

かがり「ぜ、是非着てみるべきです! 岡部さんのミニスカサンタ……」ハァハァ

倫子「(……ホントにこの人、紅莉栖なんじゃないか?)」ゾクッ

728: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:55:55.85 ID:JUk1twV7o

栄輔「そうだ。いいことを考えたよ」

栄輔「せっかくこれだけ女の子がいるんだから、お正月にはミコミコ天国<パラダイス>、じゃなかった、神社を手伝ってもらうというのはどうだろう?」

倫子「ヒッ……」ゾワワァ

るか「み、みんなに悪いですよ、お父さん!」

かがり「ううん、私なら大丈夫だよ、るかくん。お世話になってるんだもん、それぐらいさせて」

倫子「そうじゃない、そうじゃないんだ、かがりさん……」

かがり「それに、巫女服を着た可愛い女の子がたくさん……うふふ」ニヘラ

まゆり「う~ん、まゆしぃは自分で着るのは……」チラッ

倫子「えっ? あ、ああ。そうだね、まゆりは作るの専門だもんね。まあ、巫女服はコスプレじゃないけど……」

栄輔「かがりちゃんを公的に扱えない事情があるんだろう? うちで預かっている以上、ここで私に借りを作っておくべきだと思うんだけどね」ヒソヒソ

倫子「こ、こいつ……!!」

栄輔「大人はね、ズルいんだよ」ニコニコ

729: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:58:48.28 ID:JUk1twV7o

倫子「ごめん、まゆり……一緒に巫女さんやろう……」シクシク

まゆり「オカリンがそういうなら~」

かがり「やったーっ!」ニコニコ


鈴羽【かがりがやるならあたしもやる。用心棒として側に居たいし、バイト代も欲しいしね】


栄輔「そうか! それは良かった! そうと決まれば準備しなければ! 母さん!」タッ タッ

倫子「クソ神主め……いつか神罰が下るぞ……」グヌヌ

るか「ごめんなさいっ! 本当にごめんなさいっ!」ペコペコ

まゆり「でもね、るかくんのお父さんは、オカリンたちに重荷に感じてほしくなかったんじゃないかな?」

倫子「(……たまにまゆりは鋭いことを言うんだよね)」

倫子「(確かにかがりさんを一方的に受け入れてもらってるだけだったら対等な関係が崩れてしまっていたかもしれないし、そんなことになればかがりさんのためにならない)」

倫子「そういや、すごい失礼なことを聞くんだけど、サイズ合うのかな? ルカ子のソレとまゆりやかがりさんのソレの差が……」

るか「あ、それなら大丈夫です。お姉ちゃん用のがありますし、巫女服と言ってもお着物ですから、調整はできますよ」

倫子「そっか、ルカ子のお姉ちゃん用の巫女服もあるんだ。着てないんだろうなぁ」

まゆり「かがりちゃん、とっても似合うと思うなー」

かがり「まゆりちゃんの方こそ……ジュルリ。えっと、私もがんばってみるね」ニコ

730: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 11:59:57.08 ID:JUk1twV7o
秋葉原テレビセンター


倫子「(正月パーティーの準備をするという3人娘(※うち1人男性)を神社に残して、ラボへ向かった)」

Ama紅莉栖『それで、記憶が戻るまではあの神社で匿うことにしたわけか。警察を頼るべきだと思うけど』

倫子「もしかがりを捜してるのが警察だったら、鈴羽が悲しむ。まずは記憶が戻ってからじゃないと」

Ama紅莉栖『まあ、ありとあらゆるデータベースに名前が無いってのは相当不可解だから、私も現状はあんたの考えに賛成しとく』

倫子「ありがと」

Ama紅莉栖『それで、記憶を取り戻すってことに関してだけど……あ、あれ? 向こうから先輩の声がする』

倫子「えっ?」


真帆「――だから何度言ったらわかるのよ、あなたホントに日本の警察官!?」

真帆「……証明するもの? ちょっと待って、今……」ゴソゴソ


倫子「お巡りさん。彼女はれっきとした成人女性です。それ以上追求するならセクハラで訴えますよ?」ニコ

警官「あ、そう……そうか、小学生じゃないんだ……」スタスタ

真帆「なんなの、もうっ! 謝るくらいしたらどうなのよ!」

倫子「警察なんて、ひと皮剥いたら暴力団と一緒だよ」

Ama紅莉栖『さすがに私怨入りすぎでしょ』ハァ

真帆「それはうがった見方だと思うけれど……でも、追い払ってくれてありがとう、岡部さん」

倫子「今日は素直だね、真帆ちゃん」ニコ

真帆「真帆ちゃん言うなっ!」

731: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:01:21.10 ID:JUk1twV7o

倫子「というか、こんなところで子どもが何してるの?」

真帆「へぇー、それは宣戦布告と見てよろしいかしら?」ゴゴゴ

倫子「よ、よろしくないです……」

Ama紅莉栖『あんまり調子乗って先輩をいじると痛い目見るわよ。気持ちはわからなくもないけど』

真帆「"紅莉栖"、悪いけど席を外してもらえる?」

Ama紅莉栖『はい、先輩』プツッ

倫子「前に『Amadeus』の"比屋定さん"から電子パーツ組立とか趣味だって聞いたけど、それ?」

真帆「あの子、そういうことは喋っちゃうのね……まあ、間違ってはいないわ。実際、こういう専門店街に来れてものすごく興奮した」

真帆「けど、今日は違うわ。これよ、これ」スッ

真帆「例のノートPCとポータブルHDD。秋葉原ならパスを解析できる業者がいるかと思ったんだけど」

真帆「私はあの子が何を考えて、何をやろうとしていたのか知りたいのよ」

倫子「……知らない方がいいこともあるよ、きっと」

真帆「あのねぇ、あなたはいいわよ。あの子が亡くなる前に会って話したりしてるんだもの」

真帆「私なんか、急に亡くなったって連絡を受けただけ。葬儀にも出られなかった……」

真帆「だから、少しでも紅莉栖のことを知りたい」

倫子「(……結局、この人も私と同じで、紅莉栖の死後も、紅莉栖の幻影を追いかけ続けているんだ)」

真帆「岡部さん、教えて。なんでもいいの。あの子がパスワードとして設定しそうな言葉。ひとつやふたつ、心当たり、あるでしょ!?」ヒシッ

倫子「うっ……怖いよ、比屋定さん……」

733: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:01:54.95 ID:JUk1twV7o

倫子「し、知らない……」

真帆「……そうやって逃げるの?」ギロッ


  『逃げるの?』


倫子「……うん。逃げるんだよ。だって、怖いもん」

真帆「っ……」

倫子「逃げちゃいけないの? 辛いことから、悲しいことから、目を背けちゃいけないの!?」

倫子「私はがんばったんだよ!? やれることはやったんだよ!?」

倫子「心も身体もボロボロにして、それでもダメだったんだよ……っ」グスッ

倫子「それなのに、まだ戦えって言うの……? 逃げるなって言うの……?」ポロポロ

真帆「岡部さん……」

735: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:03:06.72 ID:JUk1twV7o

倫子「……ごめんね、比屋定さん。私……」グシグシ

真帆「ううん……」

倫子「そ、そうだっ! 比屋定さん、お正月に予定とかないよね? みんなで一緒に初詣に行かない?」アセッ

真帆「えっ? あ、うん……わかった。いいわ、行く」

倫子「よ、よかったー! それじゃあ、細かいことはまたRINEで連絡するねっ」

真帆「……ええ。楽しみにしてるわ」

倫子「さぁっ、今日からは忙しいなっ。ゼミの忘年会にコミマ、ミス電大生としての仕事もやらなきゃっ!」

真帆「……無理、しないでね」

736: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:03:51.67 ID:JUk1twV7o
NR秋葉原駅電気街口


倫子「はぁっ……はぁっ……」ドキドキ

Ama紅莉栖『大丈夫? 先輩になにか言われた?』

倫子「……ううん、気にしないで」

Ama紅莉栖『……そう』

倫子「ねえ、"紅莉栖"」

Ama紅莉栖『なに?』

倫子「……今日は1日、私を甘やかしてほしいな」

Ama紅莉栖『は? え、えーっと……私、そういうの得意じゃないんだけど』

倫子「知ってる」フフッ

Ama紅莉栖『ぐぬぬ……』

倫子「あのね、海馬に記憶された強烈なエピソードは忘却されにくいんだって」

Ama紅莉栖『それ、もしかして"私"が言ったの? ……なら、"私"はあんたにひどいことをしちゃったのかも』

倫子「そんなことないよ。私が覚えている限り、"紅莉栖"は生きているから」

倫子「だから、墓を暴くようなことはしたくない……」

Ama紅莉栖『……それって、先輩が?』

倫子「今の内緒ね。……って、意味ないんだったっけ。まあ、いいけど」

737: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:04:21.16 ID:JUk1twV7o
2010年12月25日土曜日
未来ガジェット研究所


ガチャ

倫子「入るよー。あれ、誰もいな――――」



ダル「ドプフォwww ついマニアックな知識を使っちゃった件についてwww」

ダル「メタファーとか専門用語を使うのは良くなかったおwww マジサーセンwww」

ダル「フォカヌポォwww 由季たんめ、それも理系っぽくてカッコイイと申すか! "だがそれがいい"、的なwwwwwww」

ダル「ようし、だったらパパ、どんどん語っちゃうぞっ♪」



倫子「…………」

738: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:05:48.36 ID:JUk1twV7o

倫子「(……あれか。昨日の由季さんとのデートで浮かれてるのか)」

倫子「(ラボででかい声で独りごととか、●●こじらせると相当痛いな……ってか、それって長門の方のユキさんのコピペじゃ)」



ダル「キタ――(゚∀゚)――!! クマキター!!」

ダル「クマさんみたいな体の人が好きですとなwwwうはwwwフラグ立ちまくりじゃねwww」

ダル「あえて釣られてやるクマー! クマさんが嫌いな人に悪い人はいません!」

ダル「僕が由季たんのクマさんになるお! がおー(「・ω・)「 」

ダル「29日からは冬コミマ! 由季たん、じゃなかった、神コスプレイヤー"あまゆき"氏の雄姿を僕のこの一眼にバッチリ収めちゃうんだお!」ハァハァ


倫子「…………」

倫子「>そっとしておこう」


ガチャ バタン コツ コツ コツ ……

739: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:06:59.19 ID:JUk1twV7o
2011年1月1日土曜日朝
未来ガジェット研究所


倫子「(年が明けた。時間のループに囚われていた頃からは、未来ガジェット研究所が未来を迎えるなんて、想像もできなかった)」

倫子「(まあ、これが理想の未来だったかって聞かれたら、素直に首肯できないけど……)」

ダル「ふぁ……戦争を勝ち抜いた僕にとっては今日は賢者日和なのだぜ……」

由季「もう、橋田さんは頑張りすぎです。鈴羽さんの分の体力も残しておくって言ってたじゃないですか」

フブキ「3日目は激戦だったみたいですね、お疲れさまであります!」ビシィ!

カエデ「ローアングルから撮った写真は全部削除しておきましたよ」ニコ

ダル「ちょ、ま、うぇ!? ……いいのだぜ、今日の巫女コスで全部取り返してやるんだからね!」

フブキ「マユシィのコスプレ、超楽しみ~♪ 来年の夏コミマからは参戦してくれるといいなぁ~」

由季「バイト代もらえるって知ってたら私も巫女さんのお仕事やったのになぁ」

カエデ「動いてないと死んじゃうおさかなさんみたいな人ですね、ユキさんって」

由季「もっと橋田さんのいやらしい目を独り占めしたかったし……」ボソッ

ダル「え、何か言った? 由季た、阿万音氏?」

由季「あ、いえ! なんでもっ!」アセッ

740: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:07:41.75 ID:JUk1twV7o

倫子「それで、全員そろった?」

ダル「えっと、全員揃ったけど、どうしてオカリンはここにいるん? 巫女服はどうなったん?」

倫子「わ、私はみんなを神社まで案内してから着替えることになってるの。これでもこのラボの責任者だから」

カエデ「うんうん、えらいえらい」ニコニコ

倫子「あ、ありがとうございます……」ゾクッ

綯「今日は、よろしく、お願いします。ほーおー……えっと、倫子お姉様っ」

倫子「ああ、うん。よろしくね、綯」

天王寺「…………」

ダル「なあオカリン。約1名、おにゃのこだらけのこの場所に似つかわしくない人物が居るんだけど」

倫子「(ブーメランだろ)」

天王寺「おう橋田ァ。男2人、仲良くしようじゃねぇか、あぁん?」ボキッ バキッ

ダル「どうしてこうなった……」

741: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:09:03.59 ID:JUk1twV7o

綯「お父さん。私ね、倫子お姉様の巫女さん姿、すごく楽しみなんだ」

天王寺「すまないな、本当ならお父さんが連れてってやりたかったんだが」

ダル「あれ、ブラウン氏はこないんすか?」

天王寺「たりめーだ。年末年始は大掃除の時期だろ? 古いテレビが処分に出されることが多くてな。とくに今年はアナログ放送終了っつー、俺らの業界にとってのビッグイベントが待ってる。地上波デジタル放送のチューナーがついていないテレビがよ、リサイクルショップの在庫も含めて一斉に処分に出されてるっつーわけだ。まあ、そうは言っても今日は正月だからよ、日中に大きい仕事を終わらせて夜はゆっくり綯との時間を楽しもうと考えてるんだがな、って橋田? てめぇ俺の話聞いてんのか? おぉん?」

ダル「あ、あぅ……なぜ僕が新年早々むさいおっさんの長話を聞かなければならないのか」ゲッソリ

天王寺「ま、そんなわけだからよ。悪いが、綯を頼む」

綯「よろしくお願いします、倫子お姉様っ」

倫子「う、うん」

倫子「(綯は夏頃みたいに全力で突進してくるようなことはなくなった。たぶん、私が普通の女の子になっちゃったせいだろう)」

倫子「(そして何故か"お姉様"にランクアップしたらしい。まさか綯って……い、いや、きっと多感なお年頃なだけだよね、あはは)」

天王寺「……やっぱりお前さん、ずいぶんと変わっちまったよな。前は妙なことばっか言ってたのによ。どうにも調子が狂っちまうぜ」

倫子「……おかげさまで、大人になったんです」

倫子「(ラウンダーのおかげでね……)」

天王寺「ま、夜には迎えに来るからよ。そいじゃな」ガチャ バタン

742: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:09:52.33 ID:JUk1twV7o

真帆「……ほんとに良かったの? 私なんかが来てしまって」

倫子「どうせ暇だったんでしょ。私から例のパスワードのヒントを得るためには1秒でも側に居たいんじゃないの?」

真帆「ぐっ、岡部さんってたまに図太いわよね……」

真帆「……正直に言うと、紅莉栖が見ていた景色を知りたい、というのもある。神社にも紅莉栖は行ったことあるんでしょ?」

倫子「うん。本殿にPCと装置を持ち込んで、脳科学の実験をやったりしてた」クスッ

真帆「ほんとに? って、あの子ならやりかねないか」フフッ

倫子「それじゃ、そろそろ行こう。みんな、はぐれないよーに!」

743: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:10:52.99 ID:JUk1twV7o
中央通り


綯「すごーい。車がいないね!」ワクワク

カエデ「自然とホコ天みたいになってますね」

ダル「そう言えば、フェイリスたんが今月から歩行者天国を再開させるように方々に働きかけてる、って言ってたお」

倫子「へぇ、フェイリスが……」

倫子「(人のいない秋葉原。私は一度、これと同じ景色を見ている)」

倫子「(初めてDメールを送った時、世界線は1%の壁をあっけなく超えてしまった)」

倫子「(あの時は、人工衛星がラジ館に墜落して危険だからって理由で中央通りが封鎖されてたんだっけ)」

フブキ「…………」

倫子「どうしたの、フブキ? ぼーっとしてるけど」

フブキ「え? あ、いや! なんでもないですよ! 他人の空似っていうか、記憶違いっていうか、あはは!」

フブキ「……国籍不明の人工衛星が墜落するなんて、あるわけないですよね」ボソッ

倫子「……?」

744: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:12:54.55 ID:JUk1twV7o

カエデ「そう言えば、フブキちゃん。この前言っていた変な夢はどう……?」

フブキ「あぁ、あれ? 最近はあんまり見なくなったかも。やっぱ疲れてたみたい」

カエデ「そっか。だったらいいんだけど……」

倫子「変な夢?」

フブキ「ああっ、ちょっと一時期悪夢にうなされた時期がありまして」

倫子「悪夢?」

フブキ「お? 食いつきますねぇ。ひょっとして私に気があるとか? 私はノンケだってかまわないで食っちまう人間なんだぜぃ」

カエデ「ダメよ、フブキちゃん。オカリンさんは後天性のレ なんだから」

倫子「ぐはぁ!? ま、まさか紅莉栖と同じ責め苦を味わうことになるとは……」プルプル

カエデ「それに、オカリンさんには"好きな人"がいるんですもの」ウフフ

倫子「うぐっ!? この2人と話すといつも会話のペースを持ってかれる……」ハァ

フブキ「ねぇねぇ! オカリンさんの好きな人って誰なんですかーっ!」

倫子「うるさい、うるさいっ! もうこの話しゅーりょー!」

真帆「……?」チラッ

745: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:14:33.15 ID:JUk1twV7o

倫子「2人とも、比屋定さんとも話してあげてくれないかな?」ヒソヒソ

フブキ「バッチリオッケーですよ!」

倫子「そうそう、この比屋定さん、アメリカの大学から来てるんだよ」

真帆「ふぇっ!?」ビクッ

フブキ「そうなんですか? すごーい! 英語教えてくださいっ!」

真帆「べ、別にいいけれど……」


カエデ「……オカリンさんって優しいんですね。仲間を大切にしている、というか、寂しい人を放っておけない、というか」

倫子「そ、そんなことないよ」

倫子「(この人に持ち上げられると、落とされるフラグにしか聞こえないな……)」

カエデ「きっと、優しいから、なんでも1人で背負っちゃうんですよね」

倫子「えっ……?」

カエデ「人って、優しいからこそ、誰かを傷つけることもあると思います」

倫子「…………」

カエデ「あまり思いつめないでください。比屋定さんとの間に何かあったとしても、時間が解決してくれますよ」ニコ

倫子「う、うん……すごいな、カエデさんは。そこまで見抜いていたなんて」

カエデ「うふふ、なんのことです?」

746: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:16:03.35 ID:JUk1twV7o
柳林神社


ザワザワ…ガヤガヤ…


倫子「なんだこれ……どうして柳林神社にこんな数の人間がっ!?」

フブキ「おぉー、参拝客でにぎわってるねぇ!」

倫子「いや、どう考えてもにぎわいすぎでしょ!? 神田明神でもないのに!」


まゆり「立ち止まらないでくださーい! 2列に並んで詰めてくださーい! 順路を守ってくださーい! 配布所での撮影は禁止でーす!」


倫子「ま、まゆり? 金髪ポニテウィッグに猫耳……もしかして、これって……」


フェイリス「限定写真集は残りわずかだニャ! いまからお並び頂いても、お求めいただけませんのでご了承くださいニャ!」


倫子「フェイリス!? 何してんの!?」

フェイリス「コ・ラ・ボ・ニャ」

倫子「こらぼ……れーしょん?」

フェイリス「柳林神社とメイクイーン+ニャン2、そして東京電機大学の3団体の夢の合体ニャ!」

倫子「電大!? って、その写真集……まさか……」プルプル

747: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:16:43.05 ID:JUk1twV7o

シンパA「ミス電大生写真集、3部くださいっ!」

栄輔「はい。こちらです」

ご主人様A「り、りり、倫子ちゃん写真集、こっちにもプリーズ!」

鈴羽「すいません、在庫切れでーす」

電大生A「くそぅ、こうなったら秋葉原のどこかにあると言う闇マーケットに潜り込んで……」ブツブツ


倫子「…………」

ダル「広報担当はほら、僕とフェイリスたんだから」キリッ

フェイリス「どうしても作らないといけない気がしたのニャ!」

まゆり「写真提供は椎名まゆりさんなのでーす♪」

栄輔「宗教法人は収益事業以外非課税だからね、ブロマイドの頒布という宗教活動は納税義務が無いんだよ」ニヤリ

倫子「お前らぁっ!! うわぁん!!」

748: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:17:32.35 ID:JUk1twV7o

栄輔「さあ、岡部さん。着替えはこっちに準備してあるからね」

倫子「……こ、この状況で、巫女になれと?」プルプル

ダル「パパッとやっちゃった方がいいのだぜ」

倫子「くっ……。それじゃ! みんな、また後でっ!」スタスタ

ダル「それじゃ、僕は専属カメラマンとしてオカリンに同行するお」スタスタ

倫子「せんでいいっ! カメラは没収!」ガシッ

ダル「ああん」

フェイリス「由季さんという人がありながら浮気性のダルニャンには神の鉄槌が下るニャ」

るか「あけましておめでとうございます、皆さん」

ダル「ふむ、いつものルカ氏のはずなのに、お正月という特別な時空間が僕たちの劣情を掻き立てる……」

鈴羽「由季さんも来てくれたんだ」シュッ ドゴォ!!

ダル「ごふっ!? ノーモーションからのノールック腹パン……だと……巫女娘に殺されるなら、本望……」バタッ

由季「あけましておめでとう、鈴羽さん。仲の良いご兄妹ですね」ウフフ

フェイリス「(これはこれで仲の良い家族なのかニャー? 色んな愛の形があるんだニャァ)」

749: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:18:13.42 ID:JUk1twV7o

カエデ「るかくんは相変わらず美人さんねぇ。男の子なのに」ウフフ

フブキ「(カエデはきっと、人の弱みをあえてつつくことで鍛えようとしてるんじゃないかな?)」

るか「い、いえ、そんな……」

真帆「ええっ!? 嘘、あなた、男の子なの? 日本って、やっぱり進んでるのね……」


フェイリス「マーユシーィ! 写真集も頒布終了しちゃったし、こっちに来るニャ!」

まゆり「あ、みんな~。あけましておめでとうございます」

綯「あけまして、おめでとうございます」

かがり「あけましておめでとうございます。もうすぐミコミコ倫子ちゃんも来ますよ」ニヘラ

鈴羽「さ、ギャラリー整理の仕事の時間だ」


倫子「……あ、あぅ」ドキドキ

750: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:18:53.96 ID:JUk1twV7o

フブキ「ほぉ……」

カエデ「ふむ……」

綯「わぁ……」

真帆「へぇ……」

由季「おおっ……」

ダル「はぁ、はぁ……」


鈴羽「関係者以外は無断撮影禁止でーす。押さないで、押さないで!」

シンパ「「「倫子ちゃーん!」」」

ご主人様「「「倫子たーん!」」」


倫子「へ、変じゃないかな、コレ……」モジモジ

まゆり「そんなことないよ~! すっごく似合ってるよ~」ニコニコ

倫子「そ、そう……良かった」ホッ

真帆「どう、"紅莉栖"。見える?」

Ama紅莉栖『ムービーでバッチリ録画中です』

倫子「ちょぉぉぉっ!?!? や、やめろぉっ!! うわぁん!!」

751: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:21:14.73 ID:JUk1twV7o

・・・

倫子「……ようやく来てくれたみんなに挨拶し終わった」ハァ

ダル「ほい、ミス電大生のお仕事、お疲れさん。つかさ、人数数えたら電大の女子のほぼ全員が来てた件」

ダル「ま、女子は電大生全体の1割しかいないけど、男子も女子の5倍近く来てたから、オカリン、すごい人望だお。よかったよかった」

倫子「この男、殴りたい……」ギロッ

真帆「普段からそのくらい愛想よくしていればいいのに」

倫子「う、うるさいな! ほらみんな、神様に挨拶した!? 御手水はあっちね、比屋定さん、作法わかる?」

真帆「沖縄風のソーガチならわかるけど、こうやって神社に来たのは初めてだから、丁寧に教えてもらえると助かるわ」

倫子「(ソーガチ? 正月、のことかな?) えっとね、まず柄杓を右手で持って……カクカクシカジカ……」

真帆「なるほど……」


由季「岡部さんって詳しいんですね」

ダル「あー、オカリンは中学の頃に世界中の儀式とかまじないについて調べたらしいんだよね。それの名残じゃね」

由季「勉強熱心なんですねぇ」

ダル「高校の時、突然延喜式の祝詞とか密教の真言<マントラ>を唱え始めた時はマジどうしようかと思ったのだぜ……」

ダル「……またあの頃のオカリンが戻ってきますよーに」ボソッ

752: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:22:03.93 ID:JUk1twV7o

真帆「あなたは神様に何をお願いしたの?」

倫子「えっ? うーん……世界が平和でありますように?」

真帆「またそうやってはぐらかすんだから」

倫子「(嘘じゃないんだけどなぁ……)」

真帆「そう言えば遅いわねぇ。教授たちに、初詣に行くって言ったら、すごく来たがってたから、場所を教えておいたんだけど……」

倫子「へぇ……えぇっ!? い、今すぐ着替えてくるっ!!」ダッ

真帆「そのままの方がポイント稼げるんじゃない?」

倫子「む、無理っ! さすがに教授にまで見られるのは、無理だからぁっ!」ヒシッ

かがり「あ、岡部さん、私たちで写真撮りましょうよ!」ハァハァ

倫子「いやだっ! 私は、いいからっ!」

フェイリス「ニャフフ。スズニャン、ユキニャン」

鈴羽「オーキードーキー」ガシッ

由季「はーい」ガシッ

倫子「離して、はーなーしーてーっ!!」ジタバタ

まゆり「ダルくーん、カメラおねがーい」

ダル「いいよーいいよー、最高だよー」ハァハァ

カエデ「カメラが低すぎですよ、四足動物さん」ウフフ

フブキ「はーい! エルー、プサイー?」

全員「「「こんがりぃーっ!」」」パシャパシャパシャパシャパシャ

倫子「コングルゥだぁぁーっ!! うわぁぁぁん!!」

753: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:23:04.84 ID:JUk1twV7o

・・・

倫子「年始からドッと疲れた……」グッタリ

ダル「おっと、みんな着替えちゃったか。きっと本殿の中では、るか氏が女の子たちのお着替えの手伝いをしていたんですねわかります」

真帆「あなたは元気ね……」

倫子「ダルはxxに関しては無限のエネルギーを発揮するから」

ダル「いやぁ、それほどでも」

真帆「うわぁ……」

フェイリス「秋葉原はすべてを受け入れるのよ。それはそれは、残酷な話ですわ……」グスッ

真帆「え……えっ?」

フェイリス「ハッキングから今晩のおかずまで、ありとあらゆる欲望がカオスに渦巻く街、秋葉原ァーッ! フェイリスはその守護天使なんだニャン♪」

真帆「業が深いわね……」

ダル「萌えない豚はただの豚だぜ、んふー」

真帆「この人の将来が不安だわ」ハァ

倫子「これでスーパーハッカーだから、その辺は大丈夫じゃないかな」

真帆「えっ、この人ハッカーなの?」

ダル「大きな声では言えんけど、まあそんな感じのこともやってるから、なにかあったら頼んでくれてもいいのだぜ」

真帆「ふーん。だったら……」


??「トシコシダー! ジャパニーズシャーマンボーイはどこに居るんだい!?」

754: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:24:19.15 ID:JUk1twV7o

倫子「教授!?」

栄輔「みんなお疲れ様……おや、外人のお客さんかな?」

レスキネン「OH! 素晴らしいッ! 写真、いいですか?」

栄輔「え、ええ。私なんぞでよければ」

レスキネン「マホ! 私のスマホで彼とのツーショット写真を撮ってくれ!」

真帆「あ、はい……」

レスキネン「ヘーイ! もっと寄って寄って」ガシッ

栄輔「は、はぁ……」

倫子「(おお、あのHE  神主がたじたじだ)」フフッ

レイエス「マホがここに来ればジャパニーズシャーマンガールリンコに会えると聞いて来たのに、いないじゃない!」

倫子「今日はもう巫女さんの出番は終了です。ええ、それはもう」

レイエス「"Jesus!!" アレクシス、だから買い物を早く済ませてって言ったのに!」

レスキネン「私は大満足だよ。愛用の翻訳AIにゴテゴテのメタリック魔改造を施してもらえるなんて、この街は素晴らしいね」ホクホク

倫子「(胸ポケットからオーバードウェポンのような小型マシンを取り出した。かっこいいけど重くないのかな?)」

まゆり「オカリーン、るかくんのお母さんにおせちいっぱいもらっちゃった。みんなで食べなさいって」

るか「母があれもこれもと詰め込んでしまって……」

倫子「これ、すごいね! ルカ子のお母様に感謝して、みんなで食べよっか」

755: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:25:48.25 ID:JUk1twV7o

倫子「(ルカ子は教授たちに捕まって、参拝の仕方をレクチャーしていた。男性だとバレなくてよかった、特にレスキネン教授に)」

かがり「ごめんね、お待たせしちゃって」トテトテ

レイエス「…………」チラッ

倫子「かがりさんも着替え終わったね……って、あれ? 綯は?」

フェイリス「綯ニャンなら、そこにいるニャよ」

倫子「何してたの、綯??」

綯「お父さんにお守りをあげようと思いまして。これにしようかと」スッ

倫子「商売繁盛……いや、そればっかりは無理だと思う」フフッ

綯「そうですか……」シュン

フェイリス「綯ニャンのパパはスキマ産業って感じだからニャァ……。テナントビル経営含め、フェイリスから融資案を提案してみるニャ!」

綯「よくわからないけど、ありがとう! 猫のお姉ちゃん!」

倫子「だからね、綯。お受けするなら、厄除けお守りにしておくといいよ」

綯「お受けする?」

倫子「お守りは"商品"じゃないから、"買う"じゃなくて"お受けする"って言うんだよ」

綯「わかりました、倫子お姉様っ!」キラキラ

756: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:26:56.52 ID:JUk1twV7o

倫子「それじゃ、もうそろそろラボに行こっか。綯が風邪でも引いたら一大事だし」

まゆり「はーい」

倫子「綯。手、繋ご?」ギュッ

綯「あっ、お姉様……」ドキドキ


――――――――――

紅莉栖『まゆりっ!! 全力で綯を止めてぇ!! 岡部が死んじゃうっ!!』

綯『死ねよ椎名まゆり』

グサッ

まゆり『オカ……リンの、役に……た……て……』

――――――――――


倫子「――ひ、ひぃぃっ!!」ズテンッ

まゆり「あわわ、オカリン、大丈夫?」

綯「ど、どうしたんですか!?」

倫子「(……かつての世界線でまゆりを殺した綯の姿がよぎった)」ドクンドクン

倫子「(過去視じゃない。私のトラウマが、ただフラッシュバックしただけ……)」ドクンドクン

綯「……立てますか?」スッ

倫子「……ありがとう、綯」ギュッ

倫子「(大丈夫、落ち着け私……綯は殺さないし、まゆりは死なない……)」ハァ ハァ

まゆり「……?」

757: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:29:09.08 ID:JUk1twV7o

由季「あ、実は私、このあとバイトが入っちゃって。急に後輩の子が休んじゃったみたいで、代わりに……」

まゆり「そっかぁ……それじゃあ、仕方ないのです」

ダル「由季た、じゃなかった、阿万音氏。バイトがんばってね」

由季「はいっ!」ニコ

倫子「(あのふたりはなんだかんだでうまくやってるみたい。鈴羽のおかげかな?)」

真帆「教授たちはこの後どうするんです?」

レスキネン「私はこの後、用があるから」

レイエス「ワタシもよ」

レスキネン「それじゃあリンコ。引き続き"クリス"のことを、よろしくね」

レイエス「では、みなさん。また。"See you soon!"」

倫子「(直訳すると、"すぐに会いましょう"……意訳ってのは難しいんだなぁ)」

758: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:30:10.09 ID:JUk1twV7o
夕方
未来ガジェット研究所


まゆり「それではあらためまして……あけましておめでとうございま~す!」

全員「「「あけましておめでとー!」」」

まゆり「ん~、るかくん家のおせち、美味しいね~」

るか「ほんと? ボクとかがりさんも手伝ったんだけど、そう言ってもらえてよかった」

倫子「(まゆりの料理下手がかがりさんに引き継がれてなくてよかった……)」ホッ

かがり「エッヘン! なーんて、私は盛り付けただけなんだけど」

倫子「(……気を抜けないらしい)」

フェイリス「はい、オカリン。あーんニャ♪」

倫子「じ、自分でできるっ」プイッ

フェイリス「そんなこと言って、どうなっても知らないニャ……封印されしバイアクヘーたちが深き眠りから――」

真帆「ねえ、岡部さん。フェイリスさんのあれって、何なの?」

倫子「病気」

フェイリス「ニャゥ~、フェイリスはとっても傷ついたニャ」シクシク

ダル「そ、そんなフェイリスたんを、ぼ、僕が慰めてあげるお」ハァハァ

フブキ「橋田さんのお兄さんってホントHE  ですね」

鈴羽「もっと言ってやって」

ダル「フブキ氏の淡白な言葉攻めとか、我々の業界ではご褒美ですっ!」

カエデ「橋田さんのお兄さんってホントHE  ですねぇ」ニッコリ

ダル「はぁ……はぁ……」ドキドキ

759: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:31:09.82 ID:JUk1twV7o


prrrr prrrr


倫子「("紅莉栖"か……いや、今この場はマズイ)」


prrrr prrrr


真帆「あら、岡部さんが出ないから"紅莉栖"が私にかけてきたわ」

真帆「『Amadeus』研究のいいサンプルになりそうだし、出てもいいかしら?」

倫子「うーん……」

フブキ「ねえ、真帆さん真帆さん。あまでうす、ってなにー?」

真帆「特定の人間の記憶データを内包した人工知能<アーティフィシャル・インテリジェンス>よ」

まゆり「あーてぃひしゅる……?」

フェイリス「AIのことニャ!」

ダル「自分で考えて、学習するように作られたプログラムだお。でも、特定の人間の記憶って、それなんてSF」

真帆「現在進行形で検証中なの」

ダル「あー、それがオカリンが前言ってたやつか。テスターやってるとか言う」

真帆「繋ぐわよ?」

倫子「う、うん。わかった……」

760: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:32:08.49 ID:JUk1twV7o

Ama紅莉栖『もう、先輩ったら、どうして出てくれな――わっ!?』

ダル「おぉぉぉ、すげー!」

Ama紅莉栖『えっと、この声はたしか……ダル、さん?』

ダル「僕、橋田至。なんなら僕を先輩って呼んでくれてもいいのだぜ。AIの後輩キャラとかマジ萌える」

Ama紅莉栖『なるほど、岡部の言う通りのHE  ですね』

ダル「おおう、AIにまで罵倒されるとか、今日は素晴らしい日だお」

フブキ「ほえー、すっごくかわいい!」

Ama紅莉栖『お褒めに預かり光栄です。えっと、中瀬克美さん、よね?』

カエデ「人間そっくりですね、すごい……」

Ama紅莉栖『あなたは……来嶋かえでさん、かな? あたり?』

カエデ「あ、はい。あたりです」ウフフ

真帆「というわけで、紹介するわ。彼女が私の後輩、牧瀬紅莉栖の記憶と人格を持つAI――『Amadeus』よ」

まゆり「牧瀬……紅莉栖さん……やっぱり……」

鈴羽「えっ? 牧瀬紅莉栖って――」

フェイリス「牧瀬紅莉栖さんって、確か半年前くらいにラジ館で……」

るか「あ……」

Ama紅莉栖『そっか。皆さん、オリジナルの私のことをご存じなんですよね』

ダル「あ、いや……うん、まあ……」

Ama紅莉栖『心配しなくても大丈夫ですよ。私、オリジナルの自分に何が起きたか知ってますし』

まゆり「オ、オカリン……」

倫子「……大丈夫だよ、まゆり」

761: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:35:36.48 ID:JUk1twV7o

綯「ねえ、これってゲーム?」

Ama紅莉栖『あなたが天王寺綯ちゃんね。ううん、ゲームじゃないわ。私もあなたと同じように、自分で考えてしゃべってるの』

フェイリス「すごすぎるニャ……」

Ama紅莉栖『すごいのは私を作ってくれた真帆先輩ですよ、猫耳メイドのフェイリス・ニャンニャンさん』

フェイリス「ニャニャ? どうしてフェイリスのこと、知ってるんだニャ?」

Ama紅莉栖『岡部に教えてもらいましたから。ラボのことも、ラボの仲間たちのことも』

倫子「……比屋定さん、そのくらいに――」

プツッ

真帆「あらっ? 『Amadeus』がいきなり消えてしまった……?」

ダル「アプリが落ちたんじゃね?」

真帆「おかしいわね……再起動してもサーバーに繋がらないなんて……」

フブキ「ここのネット回線は、落ちてないみたいだけど」

かがり「…………」

倫子「えっ? "紅莉栖"が消えちゃっ――」


ダッ ダッ ダッ ガチャッ!!


ダル「へ?」

武装した男A「動くな!!」

倫子「……えっ」

762: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:36:23.52 ID:JUk1twV7o

私は完全に油断し切っていた。

その警告はいくらでもあったはずなのに。

こうして仲間たちと和気藹々とする中で、"鳳凰院凶真"が復活するわけもないのに――


  『世界は欺瞞で満ち溢れてる。常に警戒を怠ってはいけない。誰の言葉だったかしらね』


土足で踏み入ってきた男たちの手には銃、中には自動小銃を持っている者もいた。

そ、そうだ、タイムリープすれば――

……どうやって?

763: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:37:23.64 ID:JUk1twV7o

フェイリス「な、なんなんだニャ!?」

真帆「な、なんなのこれ? なんのサプライズ?」

倫子「ぁ……あぁ……うぐぅぅぅっ!!!」バタッ

まゆり「オカリンっ!?」

倫子「まゆ……り……逃げ……おえぇっ……う、うぅ……うおえっ!!」ビチャビチャ

ダル「ちょ、どしたん!?」

倫子「(な、なんだ!? 奴らの被っている、お相撲さんみたいな仮面を見た途端、突然、全身が気持ち悪く……)」バタッ

フブキ「オカリンさん? オカリンさん!!」

倫子「(脳が……揺さぶられる……世界がカオスになる……)」ハァハァ

武装した男B「騒ぐな!」BANG!!

まゆり「きゃっ!」

倫子「ま゛……ま゛ゆ゛、り゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛っ゛!!!!」

764: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:38:37.82 ID:JUk1twV7o

鈴羽「威嚇射撃……ッ!! みんな、落ち着いて!」

カエデ「床に、穴が……実弾……!?」

ダル「なんだよこれ……」

るか「ボク……ボク……」

綯「ひっ……う……ぐ……!」

鈴羽「くそ、今綯を人質に取られたらどうしようもなくなる……綯、あたしから離れないで」ギュッ

倫子「(私がなんとかしなくちゃいけないのに、身体が、脳が、動いてくれ……ない……)」クラクラ

まゆり「オカリン……」ウルウル


コツ コツ コツ ……


ライダースーツの女「…………」

倫子「(な、なにもの……)」グタッ

ライダースーツの女「…………」スッ

ガシッ!!

かがり「えっ――きゃぁっ!」

まゆり「か、かがりさんっ!」

765: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:39:49.33 ID:JUk1twV7o

鈴羽「かがりッ!! かがりを連れ去る気か!?」

かがり「い、いやっ! 離してっ!」ジタバタ

ライダースーツの女「――――ッ!」ギュッ

倫子「(い、今漏れた声は……どこかで聞いたような……)」

かがり「いやぁっ! 助けて!」ジタバタ

??「――――ッ」ダッ

ゴチンッ!!

武装した男A「ぐぁっ!!」バタン!!

武装した男B「ぐえっ!!」バタンッ!!

ダル「あ、あなたはっ!」

天王寺「仕事から帰ってきたと思えば、こりゃいったい何の騒ぎだ?」

武装した男C「くそっ!」ジャキッ

天王寺「ふんっ!!」ガシッ 

ボキボキボキッ!!

武装した男C「ぎゃああ!!」バタッ

766: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:40:28.00 ID:JUk1twV7o

鈴羽「今だッ! 食らえッ!!」ダッ シュバッ

ライダースーツの女「――!!」ビシッ! 

ダル「なんという蹴り……! それを左腕で受け止めるとか、相手も只者じゃないお……!」

まゆり「かがりちゃんっ!! 今のうちにっ!!」ガシッ

かがり「まゆりちゃんっ!!」ダキッ

ライダースーツの女「――!」ダッ

武装した男A「く、くそ、撤退だっ!」


タッ タッ タッ ……



767: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:41:06.73 ID:JUk1twV7o

まゆり「オカリン、大丈夫!?」ウルウル

倫子「うぐ……はぁ、はぁっ……まゆり……まゆりぃ……」ゲホッ ガハッ

鈴羽「みんな、怪我は無い!?」

フブキ「う、うん……こっちは大丈夫」

綯「お、おとうさぁぁぁあん!」ダキッ

天王寺「大丈夫、もう大丈夫だ。綯のことは、ちゃんとお父さんが守ってやるからな」

綯「うえぇぇぇぇ……」

天王寺「状況が状況だ、バラバラになるんじゃねえぞ、お前ら」

天王寺「取りあえず、岡部の回復を待つ。ほら、ソファーで横になっとけ。よっと」

倫子「はぁっ……はぁっ……す、すみません……」グタッ

天王寺「飯は片付けろ。吐しゃ物の処理も頼む。あと、タオルをしぼって、水を持ってこい」

ダル「お、オーキードーキー!」

768: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:42:53.47 ID:JUk1twV7o

・・・

倫子「ふぅ……ありがとう。助かった」

まゆり「うん……」

倫子「(なんとか頭が回るようになるまで回復した。しかし、あの気持ち悪さはなんだったんだ……)」

天王寺「おい、岡部。説明してもらおうか。あの連中はなんだ?」

倫子「……それは……私にも……」

倫子「(少なくともラウンダーじゃないのか……)」

鈴羽「やつらがかがりを捜してたっていう集団か。相手が武装集団だとは思わなかった、厄介だな」グッ

天王寺「かがり……そっちの嬢ちゃんか。何者なんだ、あんた」

かがり「え、えっと……」

まゆり「かがりちゃんは、記憶喪失で、どうして追われているかもわからないの」

天王寺「なるほど、たしかに厄介だな」

かがり「ご、ごめんなさい……私のせいで……」

倫子「(かがりさんを狙う理由なんて1つだ。未来人だとバレてる、そして未来の情報を引き出すため……)」

倫子「(かがりさんの記憶を走査するために脳をいじった? 実験は失敗し、かがりは暴走のすえに施設を脱走、行方がわからなくなって、ここ1、2か月、捜し回っていた……)」

倫子「(それはあるいは、かがりさんを他の研究機関の手に渡したくない、という理由かもしれない)」

倫子「(もしかがりさんが記憶を取り戻して、自分たちの実験を暴かれては大失態もいいところだ)」

倫子「(かと言って、かがりさんを殺さず誘拐しようとしたのは、彼女にまだ利用価値があると踏んでいるからだろう)」

倫子「(一体なにを企んでいるんだ……?)」

769: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:44:57.72 ID:JUk1twV7o

倫子「(疑問点は3つ。奴らは誰か。どうしてここにかがりさんが居るとバレたのか。そして、なぜあのタイミングだったのか)」

倫子「(……取りあえず、この世界線の未来が安全なのかどうかだけ確かめておこう)」

倫子「まゆり、ごめん。私の手を握ってくれる?」

まゆり「うん。いいよ」ギュッ

倫子「(まゆりの未来をイメージして……世界の流れを読み取る……)」

倫子「(……あ、あれ? ギガロマニアックスの力が働かない……?)」

倫子「(なにこれ、さっきの頭痛のせい? あいつらの仮面にそんな力が……?)」

天王寺「……これ以上、ここに居る必要はねえな。おめえらは帰れ。俺が送っていってやる。綯もついてこい」

綯「うん、お父さん」

鈴羽「あたしはここを死守する。父さ、兄さんは帰って」

ダル「……いや、実はさ、僕の研究は今ラジ館の屋上の……ゴニョニョ……の中に隠してあるんだよね」

鈴羽「そうなの? わかった、それならみんなの殿を守る」

770: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:45:39.27 ID:JUk1twV7o
秋葉原タイムズタワー


フェイリス「送ってくれてありがとうニャ。このことは黒木と秋葉原自警団に報告しておくニャ」

倫子「……フェイリスの目は、絶対なんだよね?」

フェイリス「ニャ? どういうことニャ?」

倫子「執事さんや、自警団の人の中に裏切者は居ない……断言できる?」

フェイリス「ニャるほど。その辺も慎重になるニャ。秋葉原の平和は、このフェイリスが守るニャ!」



柳林神社


るか「……送っていただいて、ありがとうございました」

かがり「ありがとう、ございました……」

倫子「鈴羽、今日1日、ルカ子の家に泊まって、かがりさんを守ってほしい。ルカ子も、頼める?」

鈴羽「オーキードーキー」

るか「は、はい。わかりました」

倫子「(ホントはフェイリスの家にかがりさんを軟禁したいところだが、かがりさんは知ってる人間が居る場所の方がいいと言う。まあ、気持ちはわからなくもないが……)」

ダル「ぼ、僕も泊まろうか?」

鈴羽「警護対象が増えるのは勘弁だよ、兄さん」

ダル「しょぼーん」

771: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:46:52.94 ID:JUk1twV7o
NR秋葉原駅


真帆「それじゃ、私たち3人は山手線で池袋まで行くわ」

倫子「天王寺さん、送ってくださってありがとうございます」

天王寺「ああ。また明日あたり、きっちりナシつけてもらうから覚悟しとけよ」

倫子「ヤクザですかあなたは……」

まゆり「フブキちゃん、カエデちゃん、気を付けてね」

フブキ「マユシィも気を付けて……」

カエデ「フブキちゃんのことは私が守るわ」

ダル「フブキ氏とカエデ氏を最寄りの駅まで送ったら、僕も新小岩に帰るお。キセルなんか怖くないお!」

綯「みんな、バイバイ……」

772: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:47:50.88 ID:JUk1twV7o
NR山手線内回り車内


まゆり「もう、大丈夫、だよね……」

倫子「…………」

真帆「それにしても、本当に警察に届けなくていいの?」

倫子「……比屋定さんの身にも、日本の警察を信用できないことがあったんじゃない?」

真帆「え? ……確かに、あったわ。紅莉栖の事件の後、日本の警察を名乗る人たちが研究所に来て、紅莉栖の私物を持って行ったのだけれど」

真帆「教授に確認してもらったところ、そんな刑事はいない、というのが警視庁からの返事だったのよ」

倫子「やっぱり……」

真帆「だけど、となると、今日のアレは紅莉栖と関係が?」

倫子「断定はできないけど、否定もできない。わからないことが多すぎる」

倫子「(というか、2036年から1998年にタイムマシンでやってきた未来人が外国人組織に狙われている、などと警察に説明したところで失笑を買うだけだ)」

倫子「こういう時、紅莉栖が居てくれたら……」

真帆「……まだ『Amadeus』は復旧していないみたい」

倫子「やっぱり、こうなる運命だったのかな……"紅莉栖"と、まゆりと、みんなと、それなりに楽しく日々を過ごしていけるって思っていたのに……」ウルッ

まゆり「オカリン……」

倫子「(既に日常は崩壊していて、戦争が始まっている……)」

773: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 12:59:38.39 ID:JUk1twV7o
漆原家 るかの部屋


鈴羽「……寝ないの?」

るか「阿万音さんこそ、まだ起きてたんですね」

鈴羽「あたしはいつも半分起きてるから。何かあった時、すぐ動けるように」

かがり「んむぅ……」zzz

かがり「……ママ……ママ……いっちゃ嫌だよ……まゆりママ……」ウーン

るか「寝言……やっぱり、椎名かがりさんは、まゆりちゃんの……」

鈴羽「……?」

るか「たまに、夢を見るんです。阿万音さんが自転車で秋葉原を走っている夢を……」

鈴羽「……リーディングシュタイナー、か」

るか「そこでは岡部さんが、阿万音さんのことを未来人って呼んでて……」

774: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:00:10.87 ID:JUk1twV7o

るか「それに前、岡部さんがファミレスで、こんなこと言ってたんです」


   『鈴羽だって、18歳の女の子なのに、背負いきれないものを背負って、26年前っていう孤独な世界に居るんだから……』


るか「あの時は、岡部さんの設定なんだって思って、いえ、そう信じたかったんですけど……」

鈴羽「……知らない方が幸せなことも、あるんだよ」

るか「……ボクはまた、蚊帳の外なんですか」

鈴羽「るか兄さん……」

るか「(いつも枕元に置いてる妖刀・五月雨……ボクに勇気をください)」ギュッ

るか「――――教えて、もらえませんか?」

775: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:00:56.11 ID:JUk1twV7o

鈴羽「もう、答えに気付いているんだろう? わざわざ聞く必要なんてないんじゃないかな」

るか「それでも、ボクは……みんなと同じ悩みを共有したいんです……」

鈴羽「どうしてリンリンがるか兄さんに、ルミねえさんに、あと、まゆねえさんにも……みんなに話していないか、わかる?」

るか「えっ……?」

鈴羽「巻き込みたくないんだよ。自分だけが背負っていればいいって考えているんだ」

るか「そんな……っ」

鈴羽「事実を認識した瞬間、部外者じゃ居られなくなる……事象を観測した瞬間、その現実から逃れられなくなる」

鈴羽「だから、認識さえしなければ、観測さえしなければ、個人の主観としての平和は続くはず」

るか「そんなの、おかしいです。いくら現実逃避したって、現実はそこにあるのに……」

776: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:02:02.11 ID:JUk1twV7o

鈴羽「同じように思った昔の偉い人が居てね。シュレディンガー、聞いたことくらいあるでしょ?」

鈴羽「世界は重なり合った状態で構成されている……そんなのはバカバカしいって言ったんだ。猫が死んでたり生きてたりするわけがない、ってね」

鈴羽「だけど、もし現実が過去から未来まで確定しているとしたら、人間の意思に関係なく、世界はひとつの歴史に収束してしまうことになる」

鈴羽「あたしたちは、人間には意思があることを知ってるから、これもおかしい」

鈴羽「これがノイマン-ウィグナー理論における抽象的自我の考え方」

るか「……そうやって、はぐらかすんですか」

鈴羽「世界を、現実を自分のものにするためには、確固たる意思が必要だってことだよ」

るか「確固たる、意思……」

鈴羽「まあ、"リンリン"からの受け売りだけどね。おやすみ、るか兄さん……」

777: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:02:40.09 ID:JUk1twV7o
2010年1月2日日曜日
メイクイーン+ニャン2


倫子「(昨日のライダースーツの女から漏れた声……その声の主に、私は確信があった)」

フェイリス「お待たせしましたニャン。近くの席にはしばらく誰も座らせないようにするから、思う存分話すといいニャ」

フェイリス「ちなみに、今日来てるお客さん全員、倫子ちゃんのことを昔から知ってるニャ。何かあったら味方になってくれるはずだニャ」

倫子「ありがとう。それで、フェイリス。何か情報は?」

フェイリス「フェイリスからは特になし、だニャ」

倫子「わかった」


萌郁「……話って……?」

倫子「……ここでこうやってあなたと話すのも2度目だね」フフッ

萌郁「……?」

倫子「今この店に居るのは全員私の味方……下手な行動はしない方がいい」

萌郁「…………」

倫子「FBについて、情報が欲しくない?」

萌郁「……ッ!!!???」ガタッ

778: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:03:28.78 ID:JUk1twV7o

フェイリス「お嬢様、どうか店内ではお静かにお願いしますニャ♪」

萌郁「……どういう……こと……?」プルプル

倫子「FBはあなたにとってお母さんのような存在。嫌われたりしたら生きていけない。そうだよね?」

萌郁「どうして……それを……ッ!!」ギロッ

倫子「(初めて萌郁と会った時、撮った写真で私を脅してきたから、その仕返しってことでゆるしてね)」

倫子「本題はここから。あなたに、二重スパイになってもらいたい」

萌郁「スパイ……」

倫子「あなたがIBN5100を捜してることも、タイムマシン研究者の邪魔をしていることも知ってる」

倫子「そして、ホントはあなたにとってそんなことはどうでもいいことも知ってる」

倫子「もしFBに会いたいなら会わせてあげる。M4という名前を隠したまま、接点を作ってあげてもいい」

萌郁「あなたは、一体……」

倫子「桐生萌郁――」

倫子「あなたに、ラボメンになって欲しい」

779: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:05:02.58 ID:JUk1twV7o

倫子「(店長は例の事件の首謀者じゃない。それなら、あのライダースーツの女は萌郁じゃない)」

倫子「(そもそも、声が違う。あの声は、萌郁のものじゃなかった)」

倫子「(私の日常が虚構だったというなら……今こそ、ラウンダーに近づくこれ以上ないチャンスだ)」

フェイリス「お嬢様、アイスコーヒーをお持ち致しましたニャン」

萌郁「…………」

フェイリス「毒なんか入ってないニャン」

倫子「それを飲んでくれたら、仲間になってもらう。飲んでくれないのなら、FBからの連絡が来なくなっても、私を恨まないでほしい」

萌郁「ぐっ……」

倫子「ちゃんとガムシロップとミルクも入れて?」

フェイリス「今日は『目を見て混ぜ混ぜ』はおやすみなんだニャン」

萌郁「…………」プチッ プチッ チョロチョロ

倫子「(やっぱり、両手をしっかり使えてる……どこか痛がっているような様子は無い)」

萌郁「…………」ジュー

倫子「飲んでくれたんだね」

萌郁「……勘違い、しないで。私は、私のために……FBのために、動くだけ……」

倫子「それでいい。だからこそ、私はあなたを信頼してる」ギュッ

萌郁「手……っ!? ///」ドキッ

倫子「(あなたが誰よりも一途な女だって、私は知ってるから……)」

フェイリス「(これはモエニャン、オカリンに惚れちゃったかニャ?)」

780: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:09:27.38 ID:JUk1twV7o

倫子「RINEを教えておくね。今後はこれで連絡を取ってほしい」スッ

萌郁「それで……私に、何をさせたいの……」

倫子「かがりさんを追ってた例の集団について、どんな手を使ってもいいから情報が欲しい」

萌郁「……人を、殺しても……?」

倫子「そ、それは処理しきれないから、やめてほしいかも……」アセッ

萌郁「…………(この人、実はかわいい?(・・? )」

倫子「それから、ラウンダーの動向の定時報告。私たちは前に、SERNにハッキングを仕掛けたことがある」

倫子「それ自体はもうバレてると思うんだけど、そのことで私たちが危険になる事態を回避したい」

萌郁「……わかった……」

倫子「(本当はラジ館のタイムマシンと、ダルの研究を守るためなんだけどね)」

倫子「そうそう。最近ラジ館に侵入したこと、ある?」

萌郁「……? ない、けど……」

倫子「(あの時ラジ館に忍び込んで、私達の話を盗み聞きしていたのは萌郁じゃない……?)」

フェイリス「ラジ館に侵入? なんの話ニャ?」

倫子「(フェイリスが覚えてないってことは、世界線が変わったことで、あのことはなかったことになってたか)」

781: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:10:31.00 ID:JUk1twV7o

フェイリス「それで、これからどうするニャン?」

倫子「もう少し仲間を増やしておきたい……けど、どうしようかな……」

倫子「(萌郁はラウンダーの中でも下っ端だし、FBで脅しておけば裏切ることはないだろう。何より、彼女はそんなことをする女じゃない)」

倫子「(だけど、天王寺さんはどうだ……? 娘のためなら人を殺せる自殺もできる、あの人に裏切られたら……)」チラッ

萌郁「……?」

倫子「ねえ、萌郁。FBに会いたい?」

萌郁「えっ……ま、待って……考えさせて……」

倫子「(……いや、相手は相当な手練れだ。FBクラスの人間を味方につけなければ、かがりさんも、ラボも守れない)」

倫子「(そのためには、別の世界線の情報で脅すしかない)」

倫子「これから私はFBに会いに行く。後ろからこっそりついてきてもいいよ」

782: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:13:08.13 ID:JUk1twV7o
ブラウン管工房


天王寺「おう、来たか。まあ、座れや」

綯「お姉様、昨日はごめんなさい。私のせいで……」

倫子「ん……? あ、ああ。そんな、綯のせいなわけないよ。すぐに泣き止んでくれて、感心しちゃった」

綯「それは、お姉様に選んでもらったお守りのおかげです! るかお姉ちゃんの神社のお守りが、私を落ち着かせてくれたっていうか……」

天王寺「ああ、きっと綯とお姉ちゃんたちの絆のおかげだ」ナデナデ

天王寺「それで、岡部。昨日の説明をしに来たんだろ?」

倫子「……実は、昨夜狙われた女性は未来人で、それをある研究機関がさらいに来たんです」

天王寺「未来人? 人さらい? またてめえのトンデモ創作か?」

倫子「いえ、正確には未来人が過去へと跳ぶための道具を狙っていた……タイムマシンを、です」

天王寺「……馬鹿馬鹿しい。タイムマシンなんて、あるわけがねえ」

綯「タイム、マシン……?」

倫子「あるわけがないわけ、ないですよね? 事実、貴方はタイムマシンによって人生を狂わされている」

天王寺「……っ。一体、俺の何を知ってやがるってんだ……?」

倫子「知ってますよ……あなたの奥さん、綯のお母さんが、どうして居ないのか」


―――――

倫子『あなたは、奥さんを守った。それは――』

倫子『"ラウンダー"と関係しているんじゃないですか』


・・・

天王寺『その俺は……そいつは……』

天王寺『てめぇの家族と引き換えに、橋田鈴のすべてをSERNに売った男だ……』ポロポロ

―――――


綯「え……? お母……さん?」

天王寺「このヤロウ……ッ」ギリッ

783: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:14:14.01 ID:JUk1twV7o

倫子「(8月18日、α世界線から戻って来てすぐの頃、私はダルと一緒にゼリーマンズレポートの洗い直しをした)」

倫子「(その中に見つけたんだよ……イタリア語の新聞。そのゼリーマンは、かつて私に優しい笑みを向けてくれた、綴さんその人だった……)」

綯「お父さん、お顔、怖いよ……」ビクッ

天王寺「綯、良い子だから、そこでテレビでも見てな。な?」ニコ

綯「……うん」

天王寺「……お前さんなんぞを店子に入れるんじゃなかったなぁ」ハァ

倫子「(この世界線では、橋田鈴からの遺言は無かった。だから、私の記憶通り、私が拝み倒してここに格安で入れてもらっていることになっていたんだろう)」

天王寺「……M4が裏切ったのか。あいつ、最近上に出入りしてたみたいだったな」

倫子「違いますし、その脅しは無駄ですよ」

天王寺「脅すつもりはねえよ。それで、そのタイムマシンがどうしたってんだ」

倫子「信じるんですか?」

天王寺「信じちゃいねえよ。ただ、おもしろそうな話だと思ってな」

倫子「ここまできてシラを切るつもりですか……」

天王寺「うるせえ。さっさと聞かせろや。そしたら、お前の安全は保障してやる」

倫子「……わかりました。簡単に説明します」

倫子「電子レンジと携帯電話、42型ブラウン管テレビ……それが、私達のタイムマシン――――」

784: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:15:01.82 ID:JUk1twV7o

・・・

天王寺「……到底信じられる話じゃねぇな」

倫子「ともかく、SERN以外にもタイムマシンを狙っている機関が居るんです。これは、SERNにとっても敵のはず」

倫子「あなたたちラウンダーの目的の1つでしょう?」

天王寺「……上から命令されなきゃ動かねえよ。言われてねえことは、する必要がねえってことだ」

倫子「だが、あなたは知ってしまった以上報告の義務がある。報告すれば当然あなたは動かざるを得ない」

天王寺「お前さんは、俺に奴らを排除して欲しい、っつってんのか」

倫子「正確には椎名かがりを守ってやってほしい」

天王寺「だが、俺にそこまでしてやる義理はねえ。それに、俺がSERNに全部報告しちまったら、お前らがラウンダーに狙われるかもしれねえぞ?」

倫子「こんなことは言いたくないんですが……綯が私に懐いていること、お忘れなく」

天王寺「人質に取るつもりか……殺すぞテメエ……」ギロッ

倫子「ちっ、違いますよ!」ビクッ!!

倫子「私やまゆりが居なくなったら、綯が悲しむと、そういうことを言っているんですっ」ドキドキ

天王寺「……どこまでも脳天お花畑かよ」ハァ

倫子「その花畑を守れるのは、父親のあなただけだ」

天王寺「くそが……」

785: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:16:32.87 ID:JUk1twV7o

鈴羽「そんな難しい話じゃない。協力してこのビルを守ればいいだけだ」

倫子「鈴羽!? それに、かがりさんも……」

かがり「お邪魔します……」

天王寺「あんたは……2階に住み着いてる、橋田の妹か」

鈴羽「昨日見てもらった通り、あたしには戦闘の経験がある。今日からは、ココも含め、このビル全体を守るよ」

鈴羽「もちろん、綯も含めてね」

綯「鈴羽おねえちゃん……」

鈴羽「それで、天王寺裕吾には椎名かがりをここで雇ってほしい。勿論、形だけだけど」

天王寺「なに……?」

鈴羽「要は、かがりをあたしの目の届くところに縛り付けておきたいんだ。あたしが綯も守る代わりに、天王寺裕吾にはかがりも守ってほしい」

天王寺「…………」

綯「昨日みたいなことは、怖いから、もう、ヤダな……」

天王寺「綯……」

綯「お父さんが私を守るために無茶してケガするかもって想像したら、もっと、怖くなった」

綯「私は、おねえちゃんたちと一緒がいいな」

天王寺「……言っとくが、雇うからにはしっかり働いてもらうぞ」

かがり「は、はいっ! 私、がんばります!」

786: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:17:13.96 ID:JUk1twV7o

倫子「ありがとうございます、天王寺さん」

天王寺「別にお前さんのためじゃねえ。綯のためだ」

天王寺「ま、こっちはそういうことにしといてやっからよ。岡部、お前さんなら連中が何者か、突き止められるんだろ?」

倫子「善処します」

倫子「(と言っても、今のところ萌郁の情報収集能力くらいしか頼れない……。早く"紅莉栖"が復活してくれれば、活路がありそうなもんだけど)」

天王寺「……そうだ。そういやあの連中、妙な番号を口走ってやがったな」

倫子「番号?」

天王寺「確か……そう。K6205<ケー・シックス・ツー・ゼロ・ファイフ>だ」

倫子「ファイフ……というと、NATOのフォネティックコードですか?」

天王寺「ホント、そういう知識だけは無駄にあるな。そう、軍隊用語だ」

鈴羽「軍隊……あいつらやっぱり軍人だったのか……」

787: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:18:03.43 ID:JUk1twV7o
未来ガジェット研究所


フェイリス「あ、やっと来たニャン、オカリン。みんな揃ってるニャ」

倫子「比屋定さんは、そっか。『Amadeus』の修理で忙しいんだった」

倫子「みんな、大丈夫だった?」

フブキ「一応。それよりも、どうしてあんなことが起こったのか、気になって」

カエデ「それに、場所を移すよりも同じ場所のほうが安全だって、橋田さんが」

ダル「警戒がゆるんでるところに攻撃を仕掛けるから奇襲なんであって、この真昼間、東京のど真ん中を襲ってくるバカはいないっしょ」

倫子「(奴らの作戦は失敗した。あの時はかがりだけが狙いだったが、失敗の後始末として、この場に居た全員をこっそり処分することを計画していてもおかしくない)」

倫子「(ダルの言う通り、もしそうならひとりひとりがバラバラになったところを夜襲するのがセオリーだろう)」

由季「とにかく、皆さん無事で良かったです。私のバイト中に、そんなことになっていたなんて……」

まゆり「由季さん、来てくれてありがとう」

ダル「由季た、阿万音氏が危ない目に会わなくてホントよかったお」

788: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:18:35.60 ID:JUk1twV7o

倫子「(未だに例の3つの疑問はどれも解決していない。誰が、どうやってかがりさんのことを知り、なぜあのタイミングだったのか)」

由季「あの……岡部さんが来て早々で悪いんですが、私この後、バイトがあって……」

倫子「え? ああ、うん。気にしないで……」

倫子「(そう言えばあの時、由季さんだけがかがりさんのことを知りながら、あの場に居なかった……)」

由季「まだ油断は禁物なので気を付けてくださ――――きゃっ!」ヨロッ

倫子「危ないっ」ガシッ

由季「痛っ……! す、すいません、腕から手を、離してください……」

倫子「あ……ごめんなさい」

由季「いえ……。ちょうどここ、昨日、駅で転んで怪我しちゃって……」

倫子「え? ここって……左腕……!?」

由季「すいません、よくなにもないところで転んじゃうんです。私ってドジなんですよ、あはは」

まゆり「気をつけてね、由季さん」

由季「ん、ありがとう。それじゃあ、皆さんも――」

由季「――お気をつけて」ガチャ バタン

789: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:19:36.78 ID:JUk1twV7o

倫子「(……なんて、あからさまなフラグを立てていったが、例のライダースーツの女は由季さんじゃない)」

倫子「(声が違う。まったく、紛らわしいにもほどがある)」ハァ

倫子「フェイリス。由季さんは嘘、言ってなかったよね?」

フェイリス「フェイリスの眼には疑わしいものはなにも映らなかったニャン。ユキニャンは大丈夫だニャン」

倫子「(そんなことより、年明け早々バイト2連勤とか、どんだけバイトが好きなんだよとツッコミたい)」

フブキ「それじゃあ早速ですけど、昨日の出来事について説明してもらっていいですか?」

倫子「(一応、ダルとは昨日のうちに電話で、みんなに何を話すべきで、何を話すべきじゃないかを話し合った)」

倫子「うん、そうだね。まずは――――」


・・・


倫子「……ということなんだ」

フブキ「つまり、かがりさんは記憶を失っている間に、何らかの犯罪に巻き込まれたかもしれないってこと?」

倫子「たぶんね……」

カエデ「だったら、どうして警察に言わないんですか?」

倫子「警察がその犯罪に加担している可能性が高い」

フブキ「えっ……ど、どういうこと?」

790: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:20:20.66 ID:JUk1twV7o

倫子「警察だって人間だよ。悪いことをしてても、何もおかしくない」

カエデ「そんな……かがりさんは、どうするんですか?」

倫子「ボディーガードをつけた。下に居るムキムキおじさんと、格闘のプロの鈴羽とをね」

カエデ「でも、それだと、またいつ襲われるかもしれないって、怯え続けることに……」

倫子「(さすがのカエデさんも、かなり怖がっているようだ。なんとかしないと……)」

倫子「(実際、そこが問題なんだ。守ってばかりじゃ、いずれ虚を突かれる)」

倫子「一応、優秀な探偵を雇って調べさせてる。犯人が誰かわかるようなら、場合によっては警察に話すよ」

倫子「(萌郁にはRINEで未来人の話も細かく説明しておいた。タイムマシンを信じる人間で、しかも隠密と諜報のプロという萌郁の存在は非常に貴重だ)」

倫子「(事が済めば平和な時間を……とは、どうも行きそうにないなぁ。そろそろ、腹をくくらないといけないらしい)」

791: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:21:20.09 ID:JUk1twV7o

カエデ「探偵さん、ですか。なにか、ヒントがあればいいんですが……」

倫子「ヒント……K6205……」

ダル「なんぞそれ?」

倫子「昨日の連中が口にしていたらしいんだけど、私にも何のことだかわからなくて。これがヒントなのかどうかも」

ダル「ちょい待ち。今、ググってみる……んー、商品番号とかしか出てこんね」

倫子「番号……例えば、検体番号、とか、囚人番号か? かがりさんを特定するための」

カエデ「ケッヘル番号……かな……」

倫子「ケッヘル番号?」

カエデ「えっと、モーツァルトの曲につけられた番号のことです。でも、さすがに関係ないですよね……だって、6000曲も無いですし……」

倫子「モーツァルト……ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト……っ!?」

倫子「ダルっ! K620番の曲はなんていう曲だ!?」

ダル「えーっと……ウキウキペディアによると、『魔笛』って曲みたい」

倫子「それなら、学校の授業で習ったことがあるね……ちょっと見せて」


  『――歌詞にフリーメイソンの様々な教義やシンボルが用いられていることでも有名』


倫子「フリーメイソン……陰謀論、か……」

792: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:23:07.04 ID:JUk1twV7o

ダル「K6205っつーことは、5曲目?」

倫子「5曲目は……五重奏『Hm! hm! hm! hm!』、『口に鍵をかけられた鳥刺しのパパゲーノが、鍵を外してくれと歌う――』。カエデさん、何か他に情報はないかな?」

カエデ「えっと……モーツァルトはフリーメイソンに加入していたそうです。フリーメイソンのための楽曲も多く作曲しています」

フブキ「そうなの!? ってゆーか、フリーメイソンって実在したんだ……美容クリニックの社長のたわごとだと思ってたよ」

カエデ「『魔笛』の台本を書いた人もフリーメイソンで、『魔笛』の中にはフリーメイソンにとって重要な数字や、それに対応する音符が用いられて作曲されている、と聞いたことがあります」

カエデ「たしか、劇中でタミーノとパパゲーノの頭に布をかぶせるシーンは、フリーメイソン志願者の参入儀礼の目隠しを表現しているんだとか」

倫子「パパゲーノ……参入儀礼……」

ダル「なんかわかりそう?」

倫子「口に鍵を……パスワード……アマデウス……比屋定さん……?」

793: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:25:05.16 ID:JUk1twV7o

倫子「(まさか、かがりさんは紅莉栖のノートPCとHDDのパスワードを知ってるのか?)」

倫子「(それを比屋定さん、というか、ヴィクコンの脳科学研究所が狙ってる……?)」

倫子「(そう言えば、例の『Amadeus』の不調のタイミングで襲撃が発生したんだった。なにか関係があるとしたら……)」

倫子「(直接本人に聞いてみるか)」prrrr prrrr

真帆『もしもし。なに? またなにかあったの?』

倫子「『Amadeus』はどう?」

真帆『ダメ。アクセスできないのよ』

真帆『何者かが「Amadeus」のシステムを乗っ取ったのかも。ごめんなさい、もういいかしら? 原因が解明できたらこっちから連絡するわ』ピッ

倫子「『Amadeus』が乗っ取られた……?」

794: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:26:45.53 ID:JUk1twV7o

倫子「ダル、もし『Amadeus』が乗っ取られてたら、どういうことになる?」

ダル「そりゃ、"牧瀬氏"の見聞きした情報覗き放題っつーわけだお。だから落ちる前、僕と話したりしてた様子とかは、乗っ取った側に丸見えだったはずだ罠」

倫子「(ってことは、"紅莉栖"に私が『椎名かがり』を検索してもらうように頼んだことも、昨日比屋定さんがアプリを起動した時ラボにかがりさんが居たことも筒抜けってわけか……)」ゾクッ

ダル「うーん、スーパーハッカーとして、顔バレはご法度だったのだが……でも、ノータイムで突入してきたってことは、『Amadeus』でラボにかがりたんが居ることが判明する前からここに目星がついてたってことっしょ?」

ダル「そんなん可能な人間は、店長含めて僕たちしかいないお」

倫子「……いや、1人居る。『Amadeus』の存在を知っていて、ラボの場所も、かがりさんのことも知っている人間が1人……」

倫子「比屋定さんを尾行してラボの近くまで来て、ヴィクコンの研究所に出入り可能で、昨日神社でかがりさんに会っていた人物……」

倫子「聞き覚えのある、あの声の主……」

倫子「ジュディ・レイエス……っ!!」

795: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:27:27.61 ID:JUk1twV7o

ダル「だ、誰ぞ?」

倫子「だ、だけど、つまり、どういうこと……? それが意味しているのは……」

倫子「(ギガロマニアックスの力が使えれば、全力の未来予知で、細かいことが詳しくわかったんだけど……)」


prrrr prrrr


倫子「("紅莉栖"から!? 乗っ取りが解除された? あるいは――)」

倫子「も、もしもし……」

Ama紅莉栖『……助けて』

倫子「"紅莉栖"!?」

Ama紅莉栖『助けて、岡部! 助け――――――――――――――――――

796: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:29:02.96 ID:JUk1twV7o

―――――――――――――――――――
    1.06475  →  0.57182
―――――――――――――――――――

797: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:30:53.39 ID:JUk1twV7o
未来ガジェット研究所


倫子「…………」

倫子「……また、リーディングシュタイナー。世界線が、変わった……」

倫子「……テレポートはしてない、か。ラボのままだ。ただ、みんなが居なくなっている」

倫子「でも、どうして……? 一体なにが、さっきの世界線の確定した事象じゃなかったの?」

倫子「(世界線は、別の世界線からの情報で変動する。別の世界線からの情報……)」

倫子「(……萌郁にFBの話をしたこと? それとも、天王寺さんに、タイムマシンの話をしたこと?)」

倫子「(くそぅ、やっぱり私は何か行動を起こすべきじゃなかった……私が動くだけで、こうやって世界線が変わってしまう……)」

倫子「(それに、乗っ取られていたはずの"紅莉栖"が、どうして私に助けを求めてきた? "何から"助けを求めてきたんだ?)」

倫子「とにかく、何が変わっていて、何が変わっていないのかを調べないと」

798: ◆/CNkusgt9A 2016/05/01(日) 13:31:45.01 ID:JUk1twV7o

倫子「ダルのPCに埃が積もっている……それに、"まゆりの巣"――コスプレ制作用の小道具置き場という名目のおもちゃ箱――に何も置いていない……」

倫子「そうだ、スマホの電話帳は……あ、あれ? 『Amadeus』のアプリが、消えてる……」

倫子「どういうこと……? 一体、どうして"紅莉栖"が消えちゃったの――」


キィィィ


倫子「(椅子の音……? 開発室に、誰か居る……?)」

倫子「だ、誰……?」シャーッ (※カーテンを開ける音)

??「あ、岡部……」

倫子「あ……あ、あ……っ」プルプル

??「来てくれたのね……」

倫子「ど、どうして……お前が……っ!?」ガクガク



倫子「―――牧瀬、紅莉栖っ!!!」

815: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:16:45.12 ID:0H+hoDdro
第15章 二律背反のデュアル(♀)


倫子「(い、いや、紅莉栖が居るわけがないっ。まさか、また私はイマジナリーフレンドを創り出した……?)」

倫子「(……それはない、か。どういうわけか、ギガロマニアックスの力が使えなくなってるんだから……)」

倫子「(と、ということは、つまり……っ!?)」ドクンッ!

紅莉栖「……あけまして、おめでとう」ニコ

倫子「え、あ……」ドキドキ

紅莉栖「それにしても珍しいわね、あんたがここに顔を出すなんて」

倫子「ぅ……あ……」ウルウル

紅莉栖「岡部……?」

倫子「紅莉、栖……う、うぅ……」グスッ

紅莉栖「ちょ、どうしたの突然」

倫子「紅莉栖……なの……?」ウルッ

紅莉栖「……大丈夫? 何か悪いものでも食べた?」

816: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:17:16.72 ID:0H+hoDdro

倫子「紅莉栖……っ」ダキッ

紅莉栖「ふおわぁっ!?!? な、なな、なんぞぉぉぉっ!?!?///」ドキドキ

倫子「あったかい……生きてる……」ポロポロ

紅莉栖「り、倫子たん……ハァハァ……」

倫子「HE  ……っ」ギュッ

紅莉栖「……ホントに、どうしちゃったのかな」ナデナデ

倫子「……もう少しだけ、このまま……」ギューッ

紅莉栖「……心配しないで。もう、平気だからね……」

倫子「紅莉栖ぅ……うわぁぁぁぁん……っ」ポロポロ

紅莉栖「大丈夫よ……大丈夫だから……」ギュッ

817: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:18:44.11 ID:0H+hoDdro

倫子「ご、ごめんね、紅莉栖……急に泣きついたりして……」グシグシ

紅莉栖「私としては役得……いえ、不謹慎だったわね。ごめん」

倫子「不謹慎……?」

紅莉栖「思い出したんでしょう? まゆりのこと……」

倫子「(薄々気付いていた。紅莉栖が生きているということは、ここは――)」

倫子「α、世界線……」ガクッ

倫子「また、私は、まゆりを、殺し――うぐぅっ! お、おえぇっ!!」ビチャビチャ

紅莉栖「だ、大丈夫!?」サスサス

倫子「ごめんね……ごめんね、まゆりぃ……っ」ポロポロ


   『オカリンの……役に……立て……たよ……』


倫子「ぁ……っ、ぁ……」ガクガク

紅莉栖「お、落ち着いて、岡部っ!」

倫子「はぁ……はっ……はぁっ……」プルプル

紅莉栖「ほら、深く息をはいて」ギュッ

倫子「はぁっ……はぁ……っ」

818: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:22:02.62 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「ごめん……私が余計なこと言っちゃったから……」

倫子「う、ううん……そうじゃないの……そうじゃ……」プルプル

紅莉栖「……薬、飲む? 水、持ってくる」クルッ

倫子「え……? あ、私のポケットに、精神安定剤……」

倫子「(そっか、この世界線でも、"鳳凰院凶真"は死んでたんだ……。服装も白衣じゃなくて女子大生ファッションのまま)」

倫子「(つまりここは、ラウンダーの襲撃が無いα世界線……)」

倫子「(SERNに拉致されて異国の地でその復讐心を燃やすことなく、秋葉原の日常、緩慢な時間の流れの中で心を殺してしまった未来……)」

紅莉栖「はい、水。ゆっくり飲んで」

倫子「うん……ダルは?」

紅莉栖「橋田? 橋田も最近は来てないわ。あんたも、相当久しぶりよね」

倫子「紅莉栖はラボに……?」

紅莉栖「……時々ね。じゃないと、寂しいだろうと思って……航空チケット代もLCCなら安いし」

倫子「……そっか。まゆりの、ために……」

819: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:24:01.88 ID:0H+hoDdro

倫子「紅莉栖……ねえ、もう1回、ぎゅってして」

紅莉栖「え……い、いいの?」ハァハァ

倫子「いいよ……」ダキッ

紅莉栖「う、うぉぅ……くんかくんか」ギュッ

倫子「まゆりは、死んじゃったんだね……」グスッ

紅莉栖「……うん」

倫子「紅莉栖は、生きてるんだね……」ヒグッ

紅莉栖「え? ……うん」

倫子「(どうして……? 私は、何度もまゆりを見殺しにして、それを乗り越えるために、紅莉栖を何度も殺したのに……)」ウルウル

倫子「(また、私に選べって言うの……? 神様は、なんて残酷なの……)」

倫子「私は、Dメールを送らないといけないのかな……」

紅莉栖「……電話レンジ(仮)は、あんたが破棄させたんでしょ。忘れたの?」

倫子「え……あ、うん。そうだった、ね……」

紅莉栖「…………」

820: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:25:59.33 ID:0H+hoDdro

倫子「(そっか。SERNの襲撃が無いってことはつまり、8月13日にタイムリープマシンの公表宣言をせず、破棄したってこと)」

倫子「(そして破棄を確認した天王寺さんがSERNに報告していた……だから襲撃がなかった……)」

倫子「(だけど、電話レンジ(仮)が無いってことは、もう、β世界線に戻れないんだ……)」

倫子「(私は、選択をしなくていい……もう私の責任じゃない……)」ドクン

倫子「(私は、仕方ないと言って、まゆりを諦めることができる……っ)」ドクンドクン

倫子「(私は、紅莉栖と一緒に歩んでいける……っ)」ドクンドクンドクン

紅莉栖「……ねえ、岡部。すごい汗。シャワー浴びてきたら?」

倫子「えっ……あ、ホント。ごめん、汗臭かった?」

紅莉栖「う、ううん! むしろ良い匂いだったわけだが……それでも、気分をスッキリさせてきた方がいい」

倫子「……わかった。私の脱いだ服、漁らないでね」

紅莉栖「ふぇっ!? そ、そんなことしないわよぉ?」ドキンッ

倫子「……別に、いいけどさ」フフッ

紅莉栖「…………」

821: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:27:12.62 ID:0H+hoDdro
シャワー室


シャー

倫子「(ここがα世界線ってことは、SERNが2036年にディストピアを作り上げる未来が確定してるってこと)」

倫子「(つまり、私が元居た世界線の2034年において、SERNがタイムマシン開発に成功してしまった……そして過去が書き換えられた)」

倫子「(紅莉栖は言っていた。SERNがタイムマシンを完成させるには、Zプログラムと、紅莉栖の頭脳が必要だって)」

倫子「(ということは……あの時。天王寺さんはSERNへすべてを報告したんだ。私たちのタイムマシンについて)」

倫子「(その瞬間、SERNがタイムマシンを完成させる未来が確定したために、世界線はαへと変動した)」

倫子「(でも、どうして……? 当然、報告を受けたSERNはラウンダーに命じて私たちを拉致する)」

倫子「(そこで私がすべてをゲロった? 完璧なタイムマシンがラジ館屋上にあること。紅莉栖の頭脳が未だアメリカの大学のサーバ内にあること)」

倫子「(まゆりの命と引き換えだと言われれば、私はためらうことなく洗いざらい白状したかもね)」

キュッ キュッ

倫子「(……まあ、この辺は考えるだけ無駄か。かつて夏にα世界線を漂流した時も、バタフライ効果による過程の変化は複雑怪奇だったんだから)」

倫子「(原因と結果だけがハッキリとしている。原因は、SERN。結果は、まゆりの死。それが、α世界線)」

倫子「(そして、もう2度と世界線を元に戻すことはできない……手許にタイムマシンが無いから。でも、紅莉栖は生きているからやろうと思えば――――っ!?)」

倫子「(ま、まさかあいつ……っ!!)」ダッ

822: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:29:01.11 ID:0H+hoDdro
開発室


倫子「紅莉栖っ!!」ダッ

紅莉栖「え? きゃぁっ!! お、岡部、すっぽんぽん……!!///」ドキドキ

倫子「やっぱり……紅莉栖、それ……」プルプル

紅莉栖「あー……参ったな。見つかっちゃったか」

倫子「未来ガジェット、8号機……また、作ったんだね……」

紅莉栖「……言ってみれば『電話レンジ改』ね。ううん、(仮)が付くんだった。だから、『電話レンジ(仮)改』が正しいか」

倫子「名前なんてどうだっていいよ。作り直したってことは……」

倫子「世界線を……戻すつもり、だね……」

紅莉栖「……これ、完成したのはね、実は1か月以上前なの。と言っても、私の再構築された記憶の上では、だけどね」

倫子「え……?」

紅莉栖「この世界線は、実際は数分前にアクティブになった。だから、本当の意味での"昨日"は存在しない。世界5分前仮説みたいなもの」

紅莉栖「だけど、唯一の例外を除いた世界人類全員の記憶の中に"昨日"は存在する。脳がそう認識してる限り、"昨日"は現実になる」

紅莉栖「私の記憶としては、今この瞬間まで18年間生きてきた命があるように錯覚している。実際は数分前に生き返ったゾンビ。そうでしょ?」

紅莉栖「映画でもゲームでも、ゾンビはもう1度殺さないと」

倫子「……何を……」

823: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:30:29.53 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「岡部はついさっき、β世界線から来たのよね」

倫子「それは……」

紅莉栖「このα世界線はね、いくつかのDメール実験の中で、ロト6のDメール実験のみ大幅な世界線変動に成功した世界線」

紅莉栖「あんたはそこで2度目の世界線変動を観測した。1度目は7月28日にβ世界線から来た時ね」

紅莉栖「それ以降、あんたにリーディングシュタイナーが発動することはなかった。Dメールを過去に送ること自体は何度も成功したけど、世界線が大きく変わることは無かった」

倫子「……なら、この世界線でもエシュロンにDメールが捕捉されているの?」

紅莉栖「それは8月1日に柳林神社からあんたと私で手に入れたIBN5100を使って、8月17日にSERNに橋田がクラッキングしたことによって解決した」

倫子「え? それなのに世界線はβへと変動しなかった?」

倫子「……そっか、この世界線では、紅莉栖がSERNで研究しない代わりに、『Amadeus』が使われてるんだ」

倫子「そして、鈴羽から1%の壁を越えるよう言われたんだね。ラウンダーの脅威も教えられた?」

紅莉栖「未来人のでっち上げ話にビビッたあんたは、タイムリープマシンへと改造していた未来ガジェット8号機を、1度も実験をすることなく、公表宣言もせずに破棄した」

紅莉栖「これでここがラウンダーに狙われる危険は無くなった、ってわけ」

倫子「(SERNの擬似スタンドアロンサーバからDメールデータを削除できたんだから、ラボは未来のSERNから監視されていなかったわけだ。いつかの、綯のDメールで改変された世界線に似ている……)」

倫子「待って……そうなると、1%の壁を越える方法は、なんなの……?」

紅莉栖「あんたはその方法を選択できなかった。というより、阿万音さんから聞かされてた『椎名まゆりが死ぬ』という未来が、実現しない可能性に賭けた」

紅莉栖「ここは……そういう世界線。まゆりが、運命に殺されただけの、むなしい世界」

倫子「まさか紅莉栖、2034年からタイムリープしてきたり……?」

紅莉栖「……そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。あんたに観測できないことは、判別ができないのと同じことよ」

824: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:31:43.23 ID:0H+hoDdro

倫子「で、でも、どうして私がβ世界線から来たって……」

紅莉栖「言動を見てればわかる。そうでなきゃ、あんたがあんなことをするはずないもの」

倫子「あんなこと?」

紅莉栖「っ……だ、だから、その……あんな風に私を抱きしめたりとか……そういう……こと、よ」モジモジ

倫子「(そっか……この紅莉栖は、あの暑い夏の日、私と抱き合ったことを知らないんだ……)」

紅莉栖「さらに言えば、その世界線の変動は誰か別の人の手によるもので、あんたが好きこのんで変動させたわけじゃない……当たってる?」

倫子「さすが、私の大好きな紅莉栖だね……」

紅莉栖「はぅっ! ど、どうしてそういうこと、恥ずかしげも無く言えちゃうかな……」ドキドキ

倫子「私っ、紅莉栖のことが――」

紅莉栖「ストップ。それ以上はダメ」

紅莉栖「あんたは、自分の意志でα世界線に来たことはない。あんたの意志が選ぶのはいつだって、β世界線」

紅莉栖「私じゃなく、まゆりの命なの。忘れないで」

倫子「あ……ぁ、っ……」

825: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:32:34.26 ID:0H+hoDdro

倫子「ごめん……ごめんねぇ、紅莉栖っ……うぅっ……」グスッ

紅莉栖「謝るな、バカ。あんたが自分で決めたことでしょうが。だったら、自分の選択に自信を持ちなさい」

紅莉栖「それにね、あんたの選択はたぶん間違ってなかった」

紅莉栖「この半年間、この世界線の岡部は、ずっと自分を責めてた……それこそ、心を壊してしまうほどに……」

倫子「……もしかして、妄想のまゆりを創り上げたり?」

紅莉栖「そう。アルパカスーツを作って、自分はアルパカマンなんだって暗示をかけて、それを着てる時だけ、居もしないまゆりとおしゃべりしてた……って、橋田から聞いた」

倫子「……相当に痛々しいね」

紅莉栖「タイムリープマシンを破棄して正解だったわ。もしアレがあったら、あんたは永遠にまゆりが生きている時間をループし続けたと思う」

紅莉栖「そんなの、地獄と変わらない」

紅莉栖「でも私は、そんな岡部を、どうしてあげることもできなかった……」

紅莉栖「だって、あんたの苦しみは私のせいだから……」

紅莉栖「私を生かすために、あんたは苦しんでたんだから……」

826: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:33:04.01 ID:0H+hoDdro

倫子「どっちにしても結局、私はずっと後悔し続けるんだ……」

倫子「α世界線にいても、β世界線にいても、それは変わらない」

倫子「ハハ、バカみたい。私の感情は、私の意思は、神に操られるだけの、道化に過ぎなかった――」

紅莉栖「しっかりしなさい、岡部倫子!」

倫子「紅莉栖ぅ……」ウルッ

紅莉栖「なんて顔してるのよ、あんたらしくない」

紅莉栖「私の好きな鳳凰院ちゃんは、もっと自信に満ちた顔してなきゃ」

紅莉栖「ここにいてもあんたは幸せにはなれない。ずっと後悔の念を拭うことはできないの」

紅莉栖「そして、それは私も同じ……」

倫子「でも……でもぉっ! 私は、紅莉栖がいないと、何もできなくて……っ!」ウルウル

倫子「シュタインズゲートを目指すことを、諦めて……っ!」ポロポロ

紅莉栖「……私はもう、そうやって苦しむあんたを見ていたくない」

紅莉栖「私にだって、世界を選択する権利はある。違う?」

倫子「でも、でもっ……」グスッ

827: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:35:36.84 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「止めても無駄よ。私はやるからな」クルッ

倫子「いやだよぅ……離れたく、ないよぉ……っ」ポロポロ

紅莉栖「(……かわいい)」ギリッ

紅莉栖「この世界線の出来事は、あんたにとってつかの間の夢だったのよ」

紅莉栖「……β世界線に行ったら、私のことは忘れなさい」

倫子「そんなこと、できるわけないよぉっ……」ポロポロ

紅莉栖「かわいいな、まったくもう……ハァ」

紅莉栖「だーめ。ほら、小指出して」スッ

紅莉栖「ゆびきりげんまん、嘘ついたら海馬に電極ぶっ刺す、指切った」ニコ

倫子「……語呂が悪いよ」グスッ

紅莉栖「ほっとけ」

828: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:36:22.75 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「私との出会いも――」


・・・

倫子『牧瀬ぇ……紅莉栖ぅ……!!』ダキツ

紅莉栖『(な、なんぞーっ!? 突然残念系美少女に泣きながら抱きつかれるとか、これなんて  ゲ!?)』

・・・


紅莉栖「言葉を交わしたことも――」


・・・

倫子『オレみたいな……その、痛い子が友達で、お前は満足なのか?』

紅莉栖『あんたのラボは幼稚だけど……居心地がいい』

・・・


紅莉栖「一緒に研究を進めたことも……」


・・・

紅莉栖『……もし、私が記憶を失ったら?』

倫子『その時はオレが覚えていてやる。そしてお前に思い出させてやる』

・・・


紅莉栖「全部、忘れなさい。いいわね」




倫子「……うん」グスッ

829: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:37:28.72 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「ふ、ふーん。忘れちゃうんだ、私のこと」

倫子「ホントにお前は……面倒臭い女だね……クリスティーナ……」ウルッ

紅莉栖「ふふっ、冗談。嘘よ、嘘……」

紅莉栖「……阿万音さんから教えてもらったことだけど。SERNは、完璧なタイムマシンを完成させるの。この私抜きで」

紅莉栖「だけど、そうは言っても私の頭脳は必要。『Amadeus』はSERNが支配した」

倫子「(私の知ってるα世界線でも『Amadeus』研究自体はSERNのもとでリーディングシュタイナー研究として活用されてたんだっけ……)」

倫子「私のスマホから『Amadeus』のアプリが消えてたのも……?」

紅莉栖「へえ、β世界線では"比屋定"先輩あたりと交流してるのね。α世界線では交流してなかったでしょ?」

倫子「そっか、『Amadeus』研究が紅莉栖の大学で存続してたとしても、α世界線だと私との接点は無いもんね……あ、あれ? "真帆"先輩って呼んでないの?」

紅莉栖「マホ? 誰それ」

倫子「比屋定真帆。紅莉栖の可愛い先輩でしょ?」

紅莉栖「可愛い? 彼、男よ? 骨太でガッチリした、いかにも島の男って感じの」

倫子「(……α世界線では"比屋定くん"だったんだ! それでα世界線のクソレ 紅莉栖は比屋定先輩には興味が無かったのか……)」

830: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:40:27.91 ID:0H+hoDdro

倫子「この世界線のSERNは、Zプログラムと、『Amadeus』の"紅莉栖"で完璧なタイムマシンを作り上げる」

倫子「そして、過去を自分たちの都合のいいように書き換えた……」

倫子「(私がさっきまで居たβ世界線で、SERNが『Amadeus』を支配するような事象改変が発生した)」

倫子「(『Amadeus』の"紅莉栖"が私に助けを求めてきたのは、そういうことだったんだろう)」

倫子「(だから、どういう過程かはわからないけど、この世界線のSERNが『Amadeus』を支配するように収束した)」

倫子「(というか、辻褄合わせの再構成が発生した)」

紅莉栖「……『Amadeus』の私は、未来のことを知らないからね。脅されなくても、人類のための研究だって信じ込んだまま、タイムマシンの平和利用を夢見て、パパと一緒にSERNに協力しているのかも」

紅莉栖「だからね? Dメールで『Amadeus』研究をとん挫させてしまえば、SERNは完璧なタイムマシンを造れなくなる。タイミングとしては2010年の夏へ送るつもり」

紅莉栖「そして私はそれを18文字で実現する方法を知ってる。これでも研究チームの一員だからね」

倫子「だけど、Dメールを送ればまたエシュロンに捕捉されて、ラボは監視され、今度は生身の紅莉栖が狙われて、結局α世界線のままなんじゃ……」

紅莉栖「送り先はとある宗教団体。送り主は今回、牧瀬紅莉栖である必要性は無い」

紅莉栖「匿名<アノニマス>として送って、神からの啓示か何かだと思って貰えれば結構」

紅莉栖「これなら、たとえDメールがエシュロンに捕捉されても、岡部も橋田も牧瀬も文面に出てこない」

紅莉栖「未来のSERNがラボを監視する理由にならない」

紅莉栖「タネさえわかっちゃえば、世界を騙すなんて簡単なんだって、阿万音さん言ってたわ。あんたも経験があるんじゃない?」

倫子「(た、確かに、そう。私だって、エンターキーひとつでアトラクタフィールドをあっけなく跳び越えたんだから……)」

831: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:41:09.58 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「あとは送信ボタンを押すだけ。それじゃあね、岡部……」ニコ

倫子「……ホントに、送るんだね」

紅莉栖「大丈夫よ。あんたなら、きっと」

倫子「紅莉栖ぅ……」ダキッ

紅莉栖「ちょっ、私まで  ちゃうじゃない……ハァハァ」

倫子「…………」ギュッ

紅莉栖「(かわいい)」

紅莉栖「向こうに行ったらちゃんと髪乾かしなさいよ? って、その必要はないか」

紅莉栖「岡部……良い、目覚めを」ポチッ

倫子「ま、待って、紅莉―――――

832: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:42:11.10 ID:0H+hoDdro

―――――――――――――――――――
    0.57182  →  1.05364
―――――――――――――――――――

833: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:44:50.80 ID:0H+hoDdro
未来ガジェット研究所


倫子「……ぁ……あぁ……」

倫子「(肌に直接伝わっていたはずの温もりが、そこにはなかった――)」

倫子「……くり、す……」ツーッ

まゆり「オカリン、どうしたの? 具合悪い?」

倫子「(まゆりが生きている……それだけでここがβ世界線だと確信できる)」

倫子「(忘れろ……あれは、夢だったんだ……)」グシグシ

倫子「……ううん、大丈夫だよ。まゆり、少し手をぎゅってしてもらえる?」

まゆり「うん、いいよー」ギュッ

倫子「(本当は手を握らなくても出来るけど、この方がしやすいんだよね、未来予知……よし、力はもう復活してる)」

倫子「(……まゆり……鈴羽……紅莉栖? あ、いや、かがりさんか。うん、大丈夫。この世界線はβ世界線だ)」

倫子「まゆりは、私が守る――」

まゆり「え~? 違うよ~」

倫子「……えっ?」

まゆり「まゆしぃはオカリンの人質だから、守られたらダメなんじゃないかな?」

倫子「……ふふっ。意外と細かいことにこだわるんだね、まゆり」

まゆり「えっへへ~」

倫子「(まゆりはまゆりで、人体実験の生贄にされたい、とか考えてたりするのかな?)」

倫子「……もう二度と、どこへも行かせないからっ」ギュッ

まゆり「……えへへ」

834: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:47:27.60 ID:0H+hoDdro

るか「お薬、飲みますか?」

倫子「あ、ルカ子。平気だよ、心配かけてごめんね」

かがり「ほんとに? 無理しちゃだめだよ?」ジーッ

倫子「紅莉っ!? じゃなかった、かがりさんか……うっ、顔が近い……」ドキドキ

倫子「(元の世界線と特に変わった様子はない、か)」

倫子「(……かがりさんに紅莉栖の面影を求めちゃダメだ)」ブンブン

倫子「ちょっとお腹が空いちゃっただけ。朝から何も食べてなくて」アセッ

かがり「もう、オカリンさんはスタイルいいんだから、ご飯を抜くダイエットなんかしたらダメだよ」プクーッ

かがり「そういうのはダルおじさんに任せておけばいいんだって」

倫子「(そうそう、オカリンさんにダルおじさ……ん?)」

835: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:48:12.63 ID:0H+hoDdro

まゆり「だったら、まゆしぃがなにか作ってあげるよ~」

かがり「えっ、ママが? 私はママのトンデモ料理を食べるの好きだけど、オカリンさんにはまだ早いよ」

るか「あ、じゃあボク、何か買ってきます」タッ ガチャ バタン

まゆり「もう。かがりちゃんもるかくんもそういうこと言うんだから~。由季さんに教えてもらってるから大丈夫だよ~」

倫子「ま、待って! どういうこと……!?」

倫子「(かがりさんの言動が、おかしい!?)」

倫子「えと、かがりさん……?」

かがり「やだなぁ、オカリンさん。私のことは"かがりちゃん"でいいって言ってるのにー」ムーッ

倫子「まさか、記憶を取り戻してる?」

まゆり「かがりちゃんのことは、オカリンが教えてくれたんだよ~?」

倫子「(私にそんな記憶はない。ということは――)」

倫子「ここは……どこなんだ……?」

836: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:49:53.64 ID:0H+hoDdro

ガチャ バタン

るか「表通りの自動販売機で、おでん缶、買ってきました。寒いので、ちょうどいいかなと思って」

かがり「わーい、おでん缶だーっ♪ 私、これ大好きなんだ」

るか「へえ、未来でもおでん缶、売ってるんだね」

倫子「(ルカ子にかがりちゃんが未来人だってことがバレてる……)」

かがり「ううん、私ね、おでん缶を"教授先生"からもらったことがあるの。その人、おでん缶が好きで、自分で作ってたんだよ」

まゆり「自分でかぁ、すごいねぇ。きっとまゆしぃたちとお話が合うね!」

倫子「(教授……先生……オデンカン……)」

まゆり「かがりちゃん、薩摩と牛すじ、交換する?」

かがり「いいのっ!? うんっ!」ニコ

倫子「私と交換した時はさんざん渋って、竹輪と交換になったのに……」モグモグ

まゆり「えー、しむっらのはオカリンれしょー?」モグモグ

かがり「ママ、口にモノを入れたまましゃべっちゃいけないんだよ?」

倫子「かがりちゃん。食べながらでいいから、もう少し、質問させて?」

かがり「なあに?」モグモグ

837: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:51:24.70 ID:0H+hoDdro

・・・

倫子「……それじゃあ、ここに来たのはルカ子の家に居候していたところを、私がまゆりに紹介する形で?」

かがり「覚えてないの? 私と一緒で記憶喪失になっちゃったのかな……」シュン

倫子「えと、つまり、1998年から2010年までの12年間の記憶だけ失っていて、自分が子どもだった時の記憶は思い出した?」

かがり「思い出したっていうか……お寺で目覚めた時も、ちゃんと覚えてたよ?」

かがり「あとね、オカリンさんに初めて会った時、初めて会った気がしなかったの。これってきっと運命だよね! わーい!」ダキッ

倫子「(それは前も言ってたけど、どうしてだろう?)」 グリグリ

倫子「(ともかく、この世界線では『Amadeus』研究が2010年夏にとん挫する、という事象が発生しているはず)」 グリグリ

倫子「(それによってかがりちゃんの記憶欠如の仕方が変わっている。『Amadeus』研究に近かった人間の行動が変わり、それがかがりちゃんに影響した?)」 グリグリ

倫子「って、暑苦しいから離れなさいっ!」グイッ

かがり「きゃっ! もー、やったなー!」キャッキャッ

倫子「あ、あれ……? かがりちゃんの足元の、床が、綺麗……」

倫子「(昨夜レイエス(仮)たちが襲撃してきた時、威嚇射撃が床を貫いたはず。それが無いということは……)」

838: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:52:43.49 ID:0H+hoDdro

倫子「昨日はどうだった?」

まゆり「昨日のパーティーのこと? すっごく楽しかったよー」

かがり「鈴羽おねーちゃんと久しぶりに組み手できて痛気持ち良、じゃなかった、楽しかったよ! オカリンさんとはまたいつかやろうねっ!」

倫子「(確定だ。昨夜の襲撃は無かった)」

倫子「(前のβ世界線でレイエス(仮)たちは、研究施設から脱走したかがりちゃんを取り返しに来たはず)」

倫子「(でも、この世界線では違う。かがりちゃんは未来の記憶を覚えたまま施設を出た。それが意味してるのは……)」

倫子「(わからないけど、襲撃がズレた可能性が高い。襲撃が起こってない現状では、レイエスに問いただしたところで、はぐらかされて終わりだろう)」

倫子「(攻めるなら、相手の尻尾が出てからじゃないといけない。今日明日以降も警戒しておく必要がある、か……)」ハァ

まゆり「ところで、かがりちゃん。時間大丈夫?」

かがり「うん、大丈夫。休憩時間はもう終わってるから、店長に怒られちゃう」ドキドキ

まゆり「それ、大丈夫って言うのかなぁ?」

倫子「店長? ってことは、バイトしてるんだ」

かがり「そうだよ、下のブラウン管工房で……って、この前言ったじゃん。オカリンさんも一緒にバイトする?」

倫子「い、いや、遠慮しとくよ。冬なのにあそこ、暑苦しいし」

倫子「(襲撃と関係なくバイトしてる……これも何かの収束なのかな?)」

かがり「それじゃ、怒られにいってきまーす!」ビシィ

倫子「(かがりちゃんってM……?)」キョトン

839: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:53:34.47 ID:0H+hoDdro
裏路地


倫子「この世界線の"私"の行動が不可解だったけど、かがりちゃんに子どもの頃の記憶が元からあったなら、まゆりと引き合わせてもおかしくないのかもしれない」

倫子「そうだ、『Amadeus』アプリは……やっぱり、無いよね」

倫子「あれ? でも、真帆ちゃんの電話番号は登録されてる……?」

倫子「(もしかして、前の前に居た世界線の因果が辻褄合わせで再構成された?)」

倫子「(ギガロマニアックスの力で、過去が見れれば便利だったんだけどなぁ)」

倫子「というか……」

倫子「もう二度と、紅莉栖の声、聞けなくなっちゃったんだね……」グスッ


   『大丈夫よ。あんたなら、きっと』


倫子「大丈夫じゃ、ないよぅ……」ヒグッ

840: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:54:21.57 ID:0H+hoDdro
UPX1階 オープンテラス


倫子「ごめんね、こんなところまで来てもらって」

真帆「別に構わないわ。丁度近くまで来てたから」

倫子「(この子がα世界線では男の子だったなんて信じられないなぁ……)」

真帆「あれ? なんだか目が赤いようだけど?」

倫子「えっ!? あ、うん、ちょっと目にゴミが」グシグシ

真帆「で、話って?」

倫子「……『Amadeus』のことなんだけど」

真帆「……え!? あなた、どうして知ってるの?」

倫子「(そりゃ、ビックリするよね……だって、去年の夏に凍結されてるはずだもん)」

倫子「紅莉栖から聞いてたんだよ」

真帆「あ、そう……。あの子、あなたにそんな話までしていたのね」

真帆「実はね、去年の夏――紅莉栖の事件があった、あの後に凍結されたの」

倫子「そうだったんだ。でも、どうして?」

真帆「……なんでも、外部団体からクレームが入ったんですって。神の御業に触れてはならない、とかなんとか」

倫子「そ、それだけ? それだけで、研究が中止になっちゃったの?」

真帆「ええ。少なくとも、私はそう聞いてるわ。いきなり研究は中止だって言われて、教授たちも随分怒ってた」

倫子「(紅莉栖がどうやって18文字で世界線を変えたのかはわからないか。別の世界線からのメッセージは神託扱いされてるらしい)」

841: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:55:33.52 ID:0H+hoDdro

倫子「そうそう。レイエス教授って、どういう人?」

真帆「どういうって……私たちの脳科学研究所の隣の棟の、精神生理学研究所の研究者よ」

真帆「南部出身で、オープンな性格っていうか、ヒマさえあれば学生たちとバスケしてるような人。学生には人気があるわ」

倫子「その、精神生理学について、詳しく」

真帆「そうね……私たちが脳そのものの機能研究をしているとすれば、精神生理学は、脳の活動によってもたらされる心の働きや病気とか、医療に近い分野を専門としてるわ」

倫子「たしか、90年代にVR技術を確立させて、特許をとったんだよね」

真帆「詳しいわね……。そう、VR技術」

真帆「盲目の人に外部機器で撮影した映像の光信号を脳の電気信号に変換することで外の風景を見せることができる、っていうものね」

倫子「(まるでギガロマニアックスのリアルブートみたい)」

倫子「脳科学研究所と共同研究をしたり?」

真帆「よくあるわ。実際、レイエス教授とレスキネン教授が共同のチームだったこともある。テーマは、記憶のねつ造。私も関わった」

倫子「……軍事転用される危険性は?」

真帆「へえ……やっぱり岡部さんって慧眼があるんじゃない?」

真帆「紅莉栖がよく言ってたわ。『精神生理学研究所に、まるで軍から派遣されているような人たちが出入りしてる』って」

真帆「だから私も、精神生理学研究所が、記憶のねつ造と合わせて『Amadeus』の軍事転用を極秘で計画してるんじゃないかって疑惑を持ってたこともある」

倫子「記憶のねつ造と『Amadeus』の軍事転用……映画でよくある話は、AIを兵士の頭に植え付けて最強の戦士を作る、とかかな」

倫子「……それが現実になると考えると、ちょっと怖いね」

真帆「だけど、レスキネン教授が居る限りそれはありえないわ。あの人は根っからの学者だし、『Amadeus』への愛情は並々ならないものだったもの」

真帆「それに、私だって軍事転用なんてさせるつもりはなかった。色々と対策を立ててたわ」

真帆「まあ、それも去年の夏にプロジェクトが凍結されたことで無駄に終わっちゃったけど」

倫子「(この調子だと、比屋定さんにレイエス教授を探ってもらうのは無理そうかな……何より彼女を危険に晒すことになるし、やめておいた方がいいか)」

倫子「(別の線を当たってみよう――)」

842: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:56:37.20 ID:0H+hoDdro

倫子「(そう言えば、『Amadeus』が無いのにどうして私と真帆ちゃんは出会ってたんだろう?)」ウーン

真帆「どうしたの?」

倫子「えと、その……私たちが出会った時のことを思い出してたの」

真帆「ああ。あの時のこと。ああいう偶然ってあるのね……」

倫子「偶然……だったのかな(かまをかけてみよう)」

真帆「偶然でしかないでしょう? だって、私たちはまだお互い知り合ってなかったんだし、ラジ館に居合わせる必然性もなかったんだから」

倫子「そう! ラジ館ね、ラジ館……ってことは、紅莉栖の……」

真帆「紅莉栖が最期を迎えた場所に、私はどうしても行ってみたかったのよ」

倫子「…………」プルプル

真帆「オカルト的な考え方って大嫌いだけど、あなたと出会えたのは、紅莉栖が繋いでくれた縁なのかもしれないわね」

倫子「……それは、間違いじゃないよ。真帆ちゃん」

真帆「真帆ちゃん言うなっ! ま、あと10日くらいしたらあなたたちともお別れしなくちゃいけないのだけれどね」

倫子「そっか、研究が忙しいんだっけ。真帆ちゃんって呼ばれなくなって寂しくなっちゃうかな?」

真帆「ならないわよっ! SNSで連絡くれなくても別にいいからねっ!?」

倫子「うん、わかった。紅莉栖大好き同盟として、コミュニティでも作ろっか」ニコ

真帆「わかってないじゃないっ! あなた、本気でやりそうね……」

843: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 22:57:48.25 ID:0H+hoDdro
裏路地


倫子「(ホントにβ世界線に戻って来ちゃったんだなぁ。そうだ、今の話を"紅莉栖"にも――)」

倫子「って、もう"紅莉栖"も居ないんだった」

倫子「(……紅莉栖がいけないんだ。紅莉栖のせいで、私はまた……)」

倫子「(なんだか、気持ちが熱くなってくる……)」

倫子「(なんとか、しなくちゃ……私が、この世界の真実を見極めないと……)」グッ

844: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:00:07.92 ID:0H+hoDdro
柳林神社 漆原家


倫子「ごめんね、急に押しかけて」

るか「いえ、ボクとしては嬉しいです……!」

かがり「オカリンさんと一緒だーっ! やったーっ!」ダキッ

倫子「ちょ、ちょっとかがりちゃん!」

かがり「良い匂い……ハスハス」ギュッ

栄輔「可愛い女の子なら大歓迎だよ。ゆっくりしていくといい」

倫子「(この人の言う"可愛い"はもう、犯罪的な響きしか無いな……)」ゾワッ

ルカ姉「あれ、またお客さん?」

倫子「えっ? あ、ルカ子のお姉さん!」

ルカ姉「おおー、あんたが噂に聞く倫子ちゃんか」

ルカ姉「ここで出会えるとは、ひっさしぶりに家に帰って来てよかった。なるほど、超可愛いな……」ジロジロ

るか「お、お姉ちゃん! 岡部さんが、困ってるよぅ……」

倫子「(この人が、幼いルカ子を着せ替え人形にして遊んでいた張本人か。初めて会ったけど一発でルカ子の姉だとわかった)」

倫子「(ルカ子の話だと、いつもは家に寄りつかないらしい。父親のせいかな。まあ、さすがに三が日は帰ってきているんだね)」

倫子「(フブキとは違う意味でボーイッシュだ。いや、ボーイッシュっていうより男勝り、って感じか。スケバンとか似合いそうなタイプ)」

ルカ姉「クソ親父のことは私が縛っておくからさ、ゆっくり風呂に浸かっておいでよ」

栄輔「あ、あはは……」

るか「でも、岡部さん。どうして急にうちに泊まろうと?」

倫子「えと、ルカ子がパパさんにプレゼントしたいものがあるってRINEで言ってたでしょ? 一緒に考えようかなって」

るか「ボクのためにそこまで……うぅっ、岡部さん……」ウルッ

倫子「(本当はかがりちゃんが今日にでも襲撃されたら困るからだけど……こういう時、女で良かったなと思う)」チラッ

かがり「一緒にお風呂に入って体の洗いっこ……」ハァハァ

845: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:01:09.79 ID:0H+hoDdro
るかの部屋


倫子「はふぅ~、いいお風呂だった~」ポカポカ

倫子「(やたらとスキンシップを求められたけど、まあ、10歳の子どもならこんなものだよね)」

かがり「楽しかったねー、オカリンさん♪ えへへ……はぁ、はぁ」ツヤツヤ

倫子「あのね、かがりちゃん? 頭脳は子どもかもしれないけど、身体は大人なんだから、湯船で泳いだりしちゃダメでしょ?」

るか「いえ、大丈夫ですよ。うちのお風呂、広いですし」

かがり「でも、るかくんと一緒にお風呂入れないなんて、本当に男の子だったんだね……小さい時は全然気づかなかったよ」

倫子「確かに、ルカ子とならお風呂に入っても違和感が無いかもしれないね」フフッ

るか「え……えええっ!? だ、だめですよ、岡部さん! で、でも、このチャンスを逃していいの、るか! ボクはどうすればっ!」オロオロ

かがり「オカリンさんの裸、すっごくセクシーだったよ」ヒソヒソ

るか「そ、そ、そうなんですかぁ……」ドキドキ

倫子「い、いや、期待させて悪いけど、冗談だよ……?」

るか「……あ、あはは。わかってましたよ、今こそボクが女の子っぽい見た目だってことが活かされる時だと思ったりなんてしてませんよ……」シュン

かがり「るかくん、ドンマイ!」

846: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:02:22.93 ID:0H+hoDdro

るか「はい、湯上りの冷茶です。どうぞ」

倫子「おっ、ありがとう。気が利くね」ゴクゴク

るか「(かわいい)」

かがり「ねえ、るかくんってホントは誰が好きなの? まゆりママ? それとも、オカリンさん?」

るか「ブフォ! かはっ……けほっ……」

倫子「あー……だ、大丈夫? ルカ子?」トントン

るか「あ、はい。すいません、さすっていただいてありがとうございます……」

倫子「(……でも、このままルカ子が私に気持ちを寄せていても、幸せにはなれないよね)」

倫子「あのさ、ルカ子ならまゆりと付き合っても私的にはオッケーだよ」

るか「え……ええっ!?」

かがり「そしたら私に兄弟ができるね! 姉妹かなぁ?」

るか「かがりちゃん!」カァァ

かがり「あれ? 座布団の下にパスケースが……あーっ! オカリンさんの写真が入ってる!!」

るか「」

かがり「やっぱりるかくんの好きな人ってオカリンさんだったんだー!」キャッキャッ

るか「こ、これはっ、フェイリスさんがボクに売ってくれた、あ、いや、えっと、もらったもので、決してその、やましい意味ではぁぁぁっ!!」ウルッ

倫子「(子どもって残酷だなぁ……)」ゾクッ

847: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:03:01.75 ID:0H+hoDdro

TV『さて、それでは次の特集です。今、世界で記憶の再生技術に関する研究が進められているのはご存知でしょうか』


倫子「あの、ルカ子? 私は気にしてないからね?」

るか「……いえ、その、ボク、恥ずかしいです」シュン

かがり「元気出して、るかくん!」


TV『今日は、その最先端を走る、あるアメリカの大学の特集です』


倫子「……あれ、ヴィクコン?」

るか「えっと、ここが比屋定さんの通ってる大学なんですか?」

倫子「うん。へえ、テレビで取り上げられるなんて」

かがり「え……あれ……」ドクン

るか「かがりさん? どうしたの?」


TV『――つまり、ある対象の特徴に反応する神経細胞に電気が流れることでレセプターが増え、樹状突起棘が縮んで電気が流れやすくなるために……』


かがり「…………」

倫子「かがりちゃん、熱心に聞いてるけど、わかるの?」

るか「かがりさん、すごいですね。ボクにはなにがなんだか」

かがり「そう? そんなに難しい話じゃないよ」

848: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:03:40.50 ID:0H+hoDdro

かがり「記憶は、脳の中の海馬っていうところが司ってるんだけど、その中に歯状回って呼ばれるところがあるのね」

かがり「そこで行われる神経細胞の生産が、既存の神経回路の再編を引き起こすの。それによって、記憶の忘却が誘発されるんだ」

かがり「で、この研究チームがマウス実験をしてみたら、記憶のねつ造が見られたっていう話」

かがり「あ、ほら。あの奥の部屋で先輩がマウス実験してたの」

倫子「……ねえ、ルカ子。どう思う?」

るか「えっと……かがりさんが子どもの頃、未来であの大学に居た、とか?」

倫子「でも、"先輩"って言ってた……。日本人なんて滅多に居ない大学で、"先輩"なんていう上下関係があると思う?」

るか「そ、それは……」

かがり「あれ? おかしいな……知らない場所のはずなのに……」


TV『この部屋で行われた、マウスを使った実験。それによって研究チームは――』


倫子「まさか、リーディングシュタイナー?」

かがり「りーでぃんぐ……?」

倫子「えっとね、別の世界の記憶かもしれないってこと」

るか「フェイリスさんがいつも言ってるやつですね。前世の記憶が、って」

かがり「前世の、記憶……」

849: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:04:58.30 ID:0H+hoDdro
2011年1月3日月曜日
ブラウン管工房


倫子「(この世界線では天王寺さんとも萌郁とも協力関係になかった。襲撃が無かったのだから当然だ)」

倫子「(だからこうしてもう1度、頼み込みに来た)」

倫子「(萌郁への依頼は簡単だった。この世界線では椎名かがりが発見されてからは、かがりちゃんの身辺調査を既に頼んでいたらしい)」

倫子「(だから、ただRINEで一言、引き続きかがりちゃんが12年間何をしていたか調べてくれ、と頼むだけだった)」

倫子「(ジュディ・レイエスの身辺調査も合わせて頼んだ。ラウンダーの諜報力で埃が出てくれればいいんだけど……)」

倫子「(もちろん、α世界線で仕入れた情報の一切を伝えなかった。……ラボメン、というか、仲間にすることはできなくなったけど、これでいい)」

天王寺「いいか? お前さんの頼みを聞いてやるわけじゃねえ。それだけは忘れるんじゃねえぞ」

倫子「感謝します」

倫子「(なんとかかがりちゃんを守る約束を取り付けた。2回目だからお手の物ではあるけれど、こんな大男とこの狭い空間に居るのは生理的にキツイ)」

倫子「(もちろんタイムトラベルや世界線の話は一切していない。ただ、ラウンダーのFBであることを綯にバラされたくなかったら手伝え、とだけ伝えた)」

天王寺「おい、岡部。お前さんら、いったい何に関わってやがる」

倫子「それは――」

天王寺「話せねえってか。頼み事するだけして、随分と虫のいい話だな」ギロッ

倫子「ヒッ! ご、ごめんなさいっ」プルプル

850: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:05:32.85 ID:0H+hoDdro

天王寺「……ふん。だがそれでいい」

倫子「え……?」ウルッ

天王寺「情報ってのは最後の切り札だ。そこでぺらぺら喋っちまうようなら、俺は降りてたぜ」

倫子「(どうやら私は正解を引き当てたらしい。これで世界線がαへと変動することなく、天王寺さんと共闘できる)」

天王寺「お前さんも、新しいバイトも、俺からしたら娘みたいな年頃だからな。なにかと心配してるんだ。それは信じてくれて構わねえ」

倫子「……あなたが実はマザコンなことも、知ってますよ」フフッ

天王寺「は、はぁ!? まさか、綴から聞いたのか!?」

倫子「情報は最後の切り札、ですよね?」ニコ

天王寺「生意気になりやがって……これならまだ、変人だった頃の方が良かったかもな」ハァ

倫子「(さて、次はかがりちゃんの記憶のことだね)」

851: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:07:22.99 ID:0H+hoDdro
未来ガジェット研究所


かがり「それで、改まってお話って、何かな?」

倫子「ちょっと待ってて。もうひとり、呼んでるの」

かがり「もうひとり……? もしかして鈴羽お姉ちゃんと3人でくんずほぐれつ――」


コンコンコン ガチャ


真帆「おじゃまします」

かがり「あ、真帆さんだー。こんにちはー」ニコ

真帆「ハロー。元気? ……それにしても、本当に紅莉栖に似てるわよね。一部を除いて」ジーッ

かがり「いやん、xxx」キャッキャッ

倫子「それで、比屋定さんに確認したいことがあるんだけど……」

852: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:08:00.25 ID:0H+hoDdro

・・・

真帆「じゃあ何? 彼女がうちの大学に居たかもしれないっていうの?」

倫子「(この世界線、この時代とは限らないんだけどね)」

かがり「ちょっと待って。そんなこと言われても私、そんな大学知らないよ」

倫子「記憶っていうのは、無意識レベルで覚えているものもある。そうだよね?」

真帆「それを脳科学専攻に聞く?」

倫子「マウス実験で記憶のねつ造が見られたって話を、この子知ってたんだけど」

真帆「えっ? それって、私が4年間積み上げてきた研究じゃない……で、でも、もしかしたら、別の研究所のモノかも」

倫子「それにこの子、記憶の仕組みについて説明できてた。自分は10歳までの記憶しかないのに、だよ?」

真帆「それもこれも、別にうちの学校に所属してなくても入手できる情報よ」

倫子「それは、たしかに……」

853: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:08:33.39 ID:0H+hoDdro

かがり「っ……」クラッ

倫子「かがりちゃん? どうしたの?」

かがり「ちょっと、頭が……痛い……」

倫子「少し横になる?」

かがり「ううん、だい、じょうぶ……痛いくらいが、気持ちいい、から……」ハァハァ

倫子「(なぜ興奮する。頭大丈夫かな、二重の意味で)」

真帆「脳に負担がかかったのかしら……本当に平気?」

かがり「は、はい、大丈夫です。ありがとうございます、先輩」

真帆「だったら、いいのだけど……」

倫子「ちょ、ちょっと待って。今――」

真帆「うん、私も気づいた。"先輩"って……」

かがり「ふぇ?」

倫子「変なことを訊くけど、比屋定さんのことを先輩って呼ぶ人間は……」

真帆「紅莉栖しか居ない。研究所に日本人は私たち2人しかいないから」

倫子「どういうこと……?」

854: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:09:25.13 ID:0H+hoDdro

ガチャ バタン

ダル「おつー。あ、真帆たんも来てたん」

真帆「その呼び方はやめて」

倫子「そうだよ、ダル。真帆ちゃんって呼んでいいのは私だけだから」

真帆「岡部さんって天然なの? それとも策士なの? ねえ?」

ダル「駅前のアトルでプリン4つ買ってきたからみんなで食べようず」

かがり「わーい、プリンだぁっ!」

倫子「(こういう反応は、間違いなく10歳の女の子だ)」

ダル「あ、スプーン入ってねえし。店員のお姉さん、ドジっ娘であったか」

倫子「スプーンなら流しにいくつかあったよね……あ、3本しかない」

かがり「私の分は大丈夫です。マイスプーンもってますから」

倫子「…………」

真帆「…………」

ダル「かがりたん、そんなもん持ってるん?」

かがり「え? あれ……私が持ってるのって、うーぱのキーホルダーだけだったような……」ウーン

倫子「かがりちゃん。あなたは、牧瀬紅莉栖のことを知ってるの?」

855: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:10:36.47 ID:0H+hoDdro

かがり「紅莉栖……牧瀬、紅莉栖……くっ……」ズキン ズキン

倫子「む、無理はしなくていいよ」アセッ

かがり「……ううん、大丈夫、だから、オカリンさん、何か話して」

倫子「……比屋定さん」チラッ

真帆「……うん」コクッ

倫子「わかった。かがりちゃん、また、いくつか質問するね。あなたのパパはどこに居る?」

かがり「パパは、死んじゃった……戦争で……」

倫子「栗ご飯と言ったら、何を思い浮かべる?」

かがり「カメハメ、波……?」

真帆「……?」

倫子「っ……! い、今、一番欲しいものは……?」ドキドキ

かがり「マイ、フォーク……」

倫子「……2003年、7月23日は、何の日」

かがり「私の、11歳の、誕生日……パパに、怒られた日……パパが家を出ていった日……」

倫子「日本へ留学した時の学校は、どんなところだった?」

かがり「それはまだ……だって私、準備すら終わってなくて……高校じゃなくて大学院がよかったんだけど……」

倫子「タイムマシンは、作れると思う?」

かがり「えっと、それは……11の理論では無理、でも、未知の理論でなら否定はできない……」

真帆「これって……」

856: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:11:51.87 ID:0H+hoDdro

倫子「ねえ、比屋定さん。『Amadeus』は凍結されたって言ってたけど、"紅莉栖"の記憶データってまだ存在してるの?」

真帆「え? ええ、たぶん。破棄はされていないはずだけど」

倫子「アクセスできる人間は?」

真帆「ごく限られた人間だけよ」

倫子「具体的には?」

真帆「私やレスキネン教授、他に助手が何人か。そして、紅莉栖……」

倫子「レイエス教授も、じゃない?」

真帆「え? ええ、そうね。あの人も、直接は無理でも間接的には可能なはず」

倫子「……その記憶データを、人間の脳に移植することって、可能だったよね?」

真帆「ちょ、ちょっと待って! なんとなく、言いたいことはわかる。わかる、けど……!」

倫子「私の仮説、聞いてくれる?」

かがり「……えっと?」

倫子「かがりちゃん……。あなたの頭の中には――」

倫子「――牧瀬紅莉栖の記憶が移植されている」

857: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:21:11.53 ID:0H+hoDdro
同日 夜
未来ガジェット研究所


鈴羽「かがりの頭の中に、牧瀬紅莉栖の記憶が入ってる?」

倫子「冷静だね。もしかして、2036年では普通のことなの?」

鈴羽「普通じゃないけど、洗脳兵士なら居たよ。最強の兵士の記憶を追加挿入した上で、恐怖を感じない存在」

鈴羽「元々持ってる記憶に上書きするんじゃなくて、記憶を追加するだけから、元の自分を忘却してしまったり、二重人格ということにはならない」

倫子「(洗脳実験……有名なのは、1940年代にCIAが行ったという子どもを使った洗脳実験とか、MKウルトラ計画とか……)」

倫子「(でも、一体誰がなんのために……レイエスが? やっぱり、『Amadeus』が凍結されたことが原因なのかな……)」

倫子「(例えば、『Amadeus』研究に時間を割く必要がなくなったことで、洗脳研究の方が進歩してしまった……)」

倫子「(それで、かがりちゃんが施設を脱走する前に紅莉栖の記憶挿入実験が成功してしまった、とか?)」

858: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:22:30.23 ID:0H+hoDdro

鈴羽「かがりの様子は?」

倫子「今はルカ子の家で休んでもらってる」

鈴羽「その、比屋定真帆は?」

倫子「『Amadeus』の記憶データを移植できるかどうかを検証してみるって言って帰ったけど……もしかして、鈴羽。比屋定さんを疑ってる?」

鈴羽「あたしの知ってる未来に『比屋定真帆』なんて人間は居なかったからね。とぼけてるだけで、主犯の可能性が高い」

鈴羽「本人にそのつもりが無くても、後ろから操られていたり、洗脳されてる可能性だってある」

倫子「……理屈では、そうなる。かがりちゃんにわけのわからない施術をしたのは、間違いなくヴィクコンの、それも『Amadeus』研究に携わってた人間の誰か」

倫子「今のところ、犯人はレイエス教授だって踏んでるけど、それも世界線が変わったから微妙なところ」

鈴羽「世界線が、変わった?」

倫子「それについては後で詳しく話すよ、鈴羽」

倫子「私は比屋定さんが犯人だってのは信じたくない……なんて、こんな甘いこと言ってたらダメだよね」

鈴羽「……リンリンらしくなってきたね」

倫子「比屋定さんにはタイムマシンの話は一切しちゃダメ。その代わり、彼女が敵に近いところにいることを利用する。これでいいよね」

鈴羽「最高にクールだよ、リンリン……!」

859: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:23:58.56 ID:0H+hoDdro

倫子「でも、かがりちゃんが未来で記憶移植施術をされていたとしたら?」

鈴羽「むしろその方が技術的には可能性が高い。それに、かがりはよく『神様の声が聞こえる』って言ってた」

倫子「神様の、声……?」

倫子「(たしか1940年代の開頭手術で、側頭葉シルヴィウス溝に電極を差し込み電気刺激を与える、っていうのがあった)」

倫子「(その結果、患者は神の声を聞く、天使を見るという神秘体験をすることがわかった、というのをどこかで読んだことがある)」

倫子「(ってことはやっぱり、かがりちゃんは少なくとも未来で、脳に電極をぶっ刺されている……)」ゾワワッ

ダル「でもさ、他人の記憶をぶち込まれるなんて大掛かりな実験をされたら、そのときのこと覚えてるはずじゃね?」

鈴羽「あるいは、全く別の施術と称して洗脳をした。それこそ、PTSD治療なんていう体のいい名目があった」

鈴羽「と言っても、2036年でもそんな技術は軍機だよ。何より目的がわからない」

倫子「そうだね、未来で紅莉栖の記憶を入れたなら目的がわからない。となると、2010年の夏以降、紅莉栖が死ん……亡くなった後に記憶を追加したと考えるべき、か……」

倫子「私が前に居たβ世界線では、かがりちゃんが施設を脱走するまでに記憶移植実験は実行されていなかった」

鈴羽「まさか一度α世界線へと変動していたなんてね……」

倫子「そして、この世界線では脱走のタイミングまでに実験していた、っていう仮説が正しいとするなら、記憶が追加されたのは今から1、2か月前」

倫子「この場合、目的は間違いなく"紅莉栖の記憶データの有用化"。『Amadeus』が凍結されたことで、別の媒体を使って紅莉栖の記憶を有意味化する必要性があった」

鈴羽「牧瀬紅莉栖の記憶の中にある天才性を引き出すことで軍事技術を確立させるため、とかかな。人間を媒体としたAIを作るってことか」

倫子「あるいは、タイムマシンを造られてしまうかもしれない……」

ダル「媒体って……つか、誰がそんなことを?」

倫子「紅莉栖自身なら、それが可能」

鈴羽「彼女は、そんなマッドサイエンティストみたいなことをする人だったの?」

倫子「う、うん……。正直私は、あいつは世界一のマッドサイエンティストだと思ってる」

ダル「うわぁ……」

860: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:25:21.71 ID:0H+hoDdro

倫子「それでも、紅莉栖が倫理的にそういうことをするとは思えない。誰かに脅されたとか、紅莉栖の研究が悪用されただけ、ってなら別だけど」

ダル「例えば、幽霊になった牧瀬氏の魂がかがりたんに乗り移った、的なことだったりして」

倫子「(もしこの世界線の7月28日に脳外へ放出された紅莉栖のOR物質が、かがりちゃんの脳に入って記憶の修復力が働いたとしたら……?)」

倫子「(いや、その場合、紅莉栖が日本に居た時の記憶も思い出すことになるはずか)」

倫子「それはないよ。かがりちゃんは紅莉栖が日本に居た時のことは知らないみたいだったから」

ダル「いや、冗談だってばよ」

鈴羽「かがりは1998年にヴィクコン関係者の誰かに捕まり、最近まで日本のどこかの研究所に監禁されてた?」

倫子「多分、その可能性が高いと思う。そこで未来人としての記憶の分析と、紅莉栖の記憶の埋め込みが行われた」

ダル「でもそれなら、どうやってかがりたんは施設を抜け出したん?」

倫子「たぶんだけど、あまり公に出来ないことだから、関係者の人数も少ないはず。監視なんかほとんどしてなかったんじゃないかな」

鈴羽「記憶が戻った瞬間、衝動的な行動に出た。それなら敵の気を逸らすこともできたかも」

倫子「偶然が重なって、今私たちの元で保護できた。あるいはこれは、シュタイ……いや、なんでもない」

鈴羽「……?」

倫子「だけど、奴らは今私たちの近くにいる。どこからか常に監視していると思った方がいい」

倫子「未来人が関わってる以上、かがりちゃんを誘拐された瞬間、世界線が最悪の方向に変動する、なんて可能性もある」

ダル「とんでもないことになってきたお……」

861: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:26:45.17 ID:0H+hoDdro

鈴羽「あたしには未だに信じられないよ。どうしてあの泣き虫のかがりがそんなことに……」

ダル「そうだお。記憶を入れるだけなら別にかがりたんである必要はなくね? どうしてかがりたんをわざわざさらうん?」

倫子「人間の脳ってのはHDDみたいに単純じゃない。たとえば、男の記憶を女に入れるなんてことは、脳の構造からして無理だと思う」

倫子「かがりちゃんの脳は……たぶん、紅莉栖の記憶を入れるのにマッチしてたんだと思う」

鈴羽「つまり、かがりは牧瀬紅莉栖の記憶を入れても死亡したり記憶障害になったりしない程度に適性が高い貴重なサンプル、ということか」

倫子「その理由はもしかすると、未来で脳をいじられたことに起因するのかもしれない」

ダル「と、とにかく、かがりたんの脳内から牧瀬氏の記憶を消せば僕たち大勝利ってことでFA?」

鈴羽「中鉢論文が世界大戦の引き金を引いたように、牧瀬紅莉栖の記憶も同様の効果があるはず」

鈴羽「もしそうなら、これはあたしのミッションでもある」

鈴羽「なにより、かがりに罪は無い。あたしはかがりを救いたい」

862: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:30:30.46 ID:0H+hoDdro

倫子「……何もしなくても、かがりちゃんの中で紅莉栖の記憶が蘇らない、っていう可能性もある」

倫子「(それはない……虫の知らせ、というか、私の未来予知によれば、この世界線の確定した未来として、かがりちゃんに紅莉栖の記憶が蘇ることが、なんとなくだけどわかる)」

倫子「(でもこの世界線はβ世界線だ。敵勢力にかがりちゃんが軍事転用されてパワーバランスが崩れディストピアに、ということは起こらないらしい)」

倫子「(つまり、確定した未来としては、かがりちゃんが紅莉栖の記憶を全て思い出した上で、このままラボでこっそり暮らしていく――)」

倫子「(それは、幸せなことなのか? 椎名かがりとしての記憶をすべて失うことが……)」

倫子「(それに、たとえそうなったら、常に世界線変動の危機にさらされ続けることになる……)」

倫子「(それを回避するように動くということも、やっぱり世界線が変動することを意味する、けど……)」

倫子「(私はどこかで思っているんだ。紅莉栖の記憶を消すことが、再度紅莉栖を殺すことになるって――)」

倫子「うっ……」フラッ

ダル「だ、大丈夫かお?」

倫子「うん……仮にかがりちゃんに紅莉栖の記憶が蘇っても、誘拐されなければいい。まずは守りを固めよう」

鈴羽「それじゃ、しばらくは様子を見る?」

倫子「敵の状況がわかってないんじゃ、攻勢に出るのは危険。時間が経てば、向こうから尻尾を出すかもしれない」

ダル「ま、こっちのことがほとんどバレてるってんなら、下手に動けない罠」

863: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:31:01.52 ID:0H+hoDdro

倫子「(もしかして、この世界線ではレイエス以外にもラボにスパイが……?)」

倫子「そう言えばダル。由季さんはどうしてる?」

ダル「由季た……阿万音氏なら、毎日バイト忙しいみたいだお」

倫子「(この三が日、ずっとバイトしてるのか。さすがバイト狂戦士<バーサーカー>……)」

倫子「なんのバイトしてるの?」

鈴羽「ケーキ屋さんだって。父さん、今度遊びに行ってあげてよ?」

ダル「でも、ちょっと遠いんだよねぇ」

倫子「お父さん?」ニコ

ダル「あ、はい。娘のために頑張ります」

倫子「(やっぱり由季さんはシロだ。女の勘がそう言ってる)」

864: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:32:37.95 ID:0H+hoDdro

倫子「ん? でもケーキ屋でバイトなのに、12月24日にダルとデートしてたんだよね? 一番の繁盛期よりダルを優先させるとか、愛されてるね、ダル」

ダル「いや、デートっつーか、鈴羽のお膳立てだったっつーか」

鈴羽「父さんが態度をハッキリさせないのがいけないんだよ」

倫子「鈴羽のおかげでダルは由季さんに萌え萌えキュンになったみたいだよ。ラボで盛大に独り言つぶやいてた」

ダル「……ちょぉぉっ!?!? い、居たなら声かけてほしかったわけだが!」

鈴羽「頑張った甲斐があったよ」ドヤァ

ダル「やべ、【どう見てもカルピスです本当にありがとうございました】より恥ずかしいかも」ドキドキ

倫子「黙れHE  っ!!」

ダル「まあでも、僕なんかにクリスマス付き合ったのせいで、この三が日に連勤する羽目になったっぽい。なんか知らんけど、阿万音氏、自分を追い込むクセがあるんだよね」

鈴羽「未来の母さんは過酷な環境下での労働ほど燃える、って言ってたよ。強い人だなぁって思って、あたしは尊敬してる」

倫子「(それってただドMなだけじゃ……。これも鈴羽を誕生させるための収束なのかな……)」ジーッ

鈴羽「……?」

865: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:33:16.57 ID:0H+hoDdro
2011年1月4日木曜日
未来ガジェット研究所


真帆「――なるほど、ね」

倫子「(今日は比屋定さんがラボにやってきて、かがりちゃんにいくつか質問をした。私の仮説の検証作業だ)」

かがり「なにかわかりましたか、先輩」

真帆「間違いなくあなたは紅莉栖の記憶を持っている……と言っても、完全にすべてを思い出せているわけじゃないみたい」

倫子「呼び起されるものと、そうじゃないものがあるってこと?」

真帆「そういうことになる。けど、本当に信じられない……というか、信じたくない……」

真帆「それってつまり、うちの研究所に裏切者が居る、ってことじゃない……」プルプル

かがり「あの……私、どうなっちゃうの、かな……?」

倫子「(……大丈夫だよ、とは言えなかった。だって、この世界線で確定しているのは……)」

真帆「かがりさん。付き合わせて悪かったわね。ゆっくり休んで」

倫子「今日はもう帰るの?」

真帆「ええ。自分なりに、まだ検証できることは残っていそうだから……」

倫子「……レスキネン教授に確認を?」

真帆「それも含めて、よ」

倫子「……誰も信用しない方がいい。気を付けて」

真帆「……。それじゃあ、また……」

ガチャ バタン

866: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:34:16.34 ID:0H+hoDdro
2011年1月6日木曜日
未来ガジェット研究所


かがり「ごめんなさい。オカリンさんにはいろいろ迷惑かけちゃって」

倫子「そんな、別に迷惑だなんて思ってないよ。それで、調子はどう?」

倫子「(今日、下でのバイトは天王寺さんの都合でお休みらしい。せっかくなので2人でゆっくり話し合ってみることにした)」

倫子「(私がここに来たことで入れ替わりに鈴羽は出て行った。タイムマシンの整備にあたるらしい)」

かがり「んとね……前に比べると、紅莉栖さんの記憶が出てくることが多くなったかも」

倫子「……本来なら、ちゃんとした専門機関で検査してもらうのが、一番いいんだけど」

倫子「(医者に説明しようが無いんだよね……。未来人で、陰謀によって記憶喪失になり、別人の記憶が埋め込まれてる……トンデモの三重奏だ)」

かがり「検査かぁ、懐かしいなあ。子どもの頃もね、検査ばっかりしてたの……痛くて気持ち良かったよ……」ウットリ

倫子「(このまま紅莉栖の記憶が彼女を支配していったら、どうなっちゃうんだろう)」

倫子「(OR物質が、かがりの脳を紅莉栖の脳だと認識する、なんてこと、あるんだろうか)」

倫子「(もしそうなったら、正真正銘、紅莉栖になっちゃう……?)」

867: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:34:58.99 ID:0H+hoDdro

かがり「んー……」ジーッ

倫子「な、なあに?」ドキッ

かがり「んとね、改めて考えると、こうしてオカリンさんと話してるの、不思議だなあって」

倫子「不思議? かがりちゃんが産まれる前に、私が死んじゃってるから?」

かがり「うん。オカリンさんのことはママやダルおじさんのお話に聞くだけだったから」

倫子「(この子がα鈴羽みたいな鳳凰院信者にならなくて良かった……)」ホッ

かがり「ちょっと憧れてたんだー。ママを助けてくれた人って、きっとかっこいい人なんだろうなって。ホントはすっごい美人さんだったわけだけど」

倫子「助けて……? ああ、まゆりの婆さんが亡くなった頃の話だね。まゆり、いい歳してまだその話を……」

かがり「お前はオレの人質だー、って」フフッ

倫子「わ、笑わないでよぅ……」

かがり「私ね、オカリンさんの話をする時のママの顔がだーいすきなの」ニコ

倫子「……そっか」

868: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:35:40.07 ID:0H+hoDdro

グー

かがり「あ、お腹が鳴っちゃった」

倫子「もうお昼だね。カップ麺ならあるけど、それでいい?」

かがり「うんっ! 私ね、カップ麺食べてみたかったの!」

倫子「(未来じゃ食べたこと、なかったんだ。その上ラーメン好きの紅莉栖の記憶があるから、食べたくてしょうがないのかな……?)」

倫子「醤油と塩、どっちが……って、塩がいいよね」

かがり「え? うん、塩の方がいい気がした。食べたこと無いのにね」

倫子「フォークの方がいい?」

かがり「うんっ。お箸使うの苦手で、まゆりママにいつも怒られてたんだー」

倫子「はい、これ。プラスチック製だけど、かがりちゃん用に買ってきたの。あげるね」スッ

倫子「(紅莉栖用に買った時は、あの後萌郁から脅迫メールが来て、全力でラボに走って、まゆりとシャワー浴びてる紅莉栖を罵ったんだっけ……)」フフッ

かがり「えっ? いいの? やったーっ! かがりの持ち物がもう1個増えた♪」

かがり「……なんだか、ずっとこれが欲しかった気がする。これも、紅莉栖さんの記憶なんだよね……」

倫子「(やっぱり……)」

かがり「ねえ、オカリンさんは紅莉栖さんのこと、好きだったの?」

倫子「え――――」

869: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:36:19.82 ID:0H+hoDdro

倫子「……好きだったよ。私は、彼女と出会って、人生が大きく変わった」

かがり「素敵だね。どんな人だったの?」

倫子「気になる?」

かがり「自分の頭の中にある記憶の持ち主のこと、もっと知りたいよ」

倫子「あの子は……とにかく、好奇心の強い子だった。今のかがりちゃんみたいにね」

かがり「ふむふむ」

倫子「その上頑固で、生意気で、根っからの真面目っ子で、仕切りたがりの委員長タイプで」

倫子「強がりなのに寂しがり屋で、友達を作るのがとっても下手くそで」

倫子「……私を守るために、なんでもしてくれた」

倫子「本当は嫌なのに、私に全力ビンタしたり、本当は嫌なのに、私の前で悪人を演じたり」

倫子「それが本当に私を守ることになるって信じて、人生を賭けて私を支えてくれた」

倫子「何度も何度も、どの世界線でも、何十年という時間を超えて、私のために動いてくれた」

倫子「私のために怒ってくれた。私のために突き放してくれた」

倫子「私のために……抱きしめてくれた」ウルッ

かがり「ふぇ~、大人だなぁ。憧れちゃう」

870: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:37:01.40 ID:0H+hoDdro

倫子「まあ、いつも『倫子ちゃん、ペ  ロー』とか言ってる、どうしようもないHE  だったんだけどね」フフッ

かがり「そ、そうなの? 意外だなぁ」

かがり「……倫子たんハァハァ」デュフフ

倫子「ちょ、やめてよー」アハハ


   『あなたと、1つになりたい』


倫子「…………」ウルッ

かがり「オカリンさん……?」

倫子「あ、いや……」グシグシ

かがり「……なんだかね、オカリンさんたちと知り合えて良かったなーって、すっごく思うの」

倫子「えっ……。それは、どっちの記憶?」

かがり「両方、かな……紅莉栖さんってもしかして友達居なかった?」

倫子「うん、あの子はアメリカでも小学生の頃に出会った幼女の面影だけで――」

かがり「……?」

倫子「(――いや、これはα世界線の記憶だ。こっちの紅莉栖の記憶じゃない)」

かがり「オカリン……さん……」フラッ

倫子「え……だ、大丈夫? かが……紅莉栖?」ダキッ

かがり「頭……頭が……っ」ズキズキ

871: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:37:27.72 ID:0H+hoDdro

かがり「いや……嫌だ……もう、あんなとこ、帰りたくない……」ウルウル

かがり「助けて……誰か……誰かここから出して!」ポロポロ

倫子「(錯乱しているっ!?)」

倫子「お、落ち着いて! えっと、こういう時、どうしたら……」オロオロ

倫子「――かがりちゃん。大丈夫、大丈夫だよ」ギューッ

かがり「う、あぁ……はぁっ……オカリン……さん……」グスッ

倫子「……少し落ち着いた? ソファーで横になってて」

かがり「うん……」

872: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:38:04.41 ID:0H+hoDdro

・・・

かがり「すぅ……すぅ……」zzz

倫子「(さっきのかがりちゃんの発言、『ここから出して』……。やっぱりこの12年間、どこかに監禁されてたんだ)」

ガチャ

まゆり「かがりちゃん! オカリン、かがりちゃんの様子は?」

るか「大丈夫ですか!?」ウルウル

倫子「(かがりちゃんが錯乱したことを2人にRINEで連絡しておいた)」

倫子「うん、今はよく眠ってる」

るか「そうですか、それならよかったです」ホッ

まゆり「かがりちゃん……」

かがり「ん……あれ? ここ、どこ……」

倫子「目が覚めたみたいだね」

かがり「あなたは……?」

るか「落ち着いて。ここはラボですよ」

かがり「ラボ……? 日本語……?」

倫子「(ん……? なにか、様子がおかしい……?)」

873: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:39:38.50 ID:0H+hoDdro

かがり「あ、そっか……私、レスキネン教授に交換留学するように言われて……」

かがり「ATFでの講演の準備もしないと……」

かがり「あれ? 論文は!? パパに見てもらおうと思って、頑張って書いたんだけどっ」

まゆり「留学? 講演? 論文?」

倫子「……っ!?」

倫子「(間違いなく紅莉栖の記憶だ……紅莉栖は『Amadeus』に記憶をアップロードするより前にタイムマシン論文を書き上げていたのか……)」

倫子「(――『Amadeus』の記憶データの中に、タイムマシン論文の情報が入っているっ!?)」ゾクッ

倫子「(敵の目的って……まさかっ)」ゴクリ

倫子「落ち着いて、かがりちゃん。それはあなたの記憶じゃない。あなたは、椎名かがりよ、牧瀬紅莉栖じゃない」

かがり「かがり……私は、椎名、かがり……」プルプル

まゆり「か、かがりちゃん!? ママがわかる!?」

かがり「ママ……う……ああっ、ぁ……っ!」

るか「大丈夫!?」

かがり「――――ああああああああああああああ!!」バタッ!!

874: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:52:45.29 ID:0H+hoDdro
柳林神社


るか「もう、大丈夫、だからね……」

かがり「……う、うん」グッタリ

倫子「(意識を失って気絶したかがりちゃんをルカ子に運んでもらった)」

倫子「(こういう時、やっぱりルカ子は男の子なんだなと実感する。日々の鍛錬のおかげなのかな……なんて)」

倫子「ルカ子、かがりちゃんのこと、お願いね」

るか「はい。それにしても、一時はどうなることかと……」

倫子「……私も驚いた。だけど、だいぶ落ち着いたみたいで良かったよ」

倫子「(……陰謀を差し置いても、かがりちゃんを病院に連れて行くべきかもしれない)」

倫子「(いや、それだけはダメだ。かがりちゃんの中に紅莉栖の記憶、タイムマシン論文がある以上、それが世界線変動の引き金となってしまう)」

倫子「(AH東京総合病院みたいなところへカルテが流れてしまったら、敵にかがりを差し出してしまうようなものだ。どんな病院にも連れて行けない)」

倫子「(……そんなの、私のエゴだ)」

倫子「ごめんね、みんな……」

まゆり「オカリンが謝ることないよ」

るか「……あ、あのっ! 岡部さんに、お伝えしたいことがありますっ」

倫子「え?」

875: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:53:14.73 ID:0H+hoDdro

るか「……すべて、凶真さんから教えてもらったことなんですけど」

るか「理不尽に屈して己を変えようとするのは、単に自分を歪めてしまうだけの行為に過ぎない」

るか「それは変わることでもなんでもなく、ただ逃げてるだけ」

倫子「…………」

るか「それも前向きに生きるためではなく自分を追い込むだけの逃げで、最終的には自分を歪めてしまうことになる」

るか「そういうことを岡部さんは言ってくれたんです」

るか「そして岡部さんは、ボクの師匠になってくれたんです。理不尽な現実に立ち向かう、心の強さを鍛えるための師匠に」

倫子「(うん、全部覚えてるよ。去年のゴールデンウィークに、私が厨二病全開で言ったことだ……)」

るか「そしてその時以来、ボクは……こんなこと、弟子のボクが言うのはおこがましいと思うんですけど……」

るか「――"思い出して"ください。"本当の自分"を」

倫子「本当の、自分……」

まゆり「るかくん……」

876: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:54:19.44 ID:0H+hoDdro

るか「す、すいませんっ! 出過ぎたことを……」

倫子「……ううん。そろそろ、私も腹をくくらなきゃいけないのかもしれない」

倫子「時間は、待ってくれないから……」

まゆり「えっと、今日はまゆしぃもかがりちゃんと一緒にるかくん家に泊まることにするね」

倫子「うん、お願い。ルカ子、ふたりをよろしくね」

るか「は、はいっ! ボクが守りますっ!」

倫子「私はラボに戻って、鈴羽に説明してくる。比屋定さんにも、助けてもらおうと思う」

倫子「――なんとかしなくっちゃ」

877: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:55:52.79 ID:0H+hoDdro
未来ガジェット研究所


鈴羽「かがり、ひどいの?」

倫子「今は落ち着いてる。けど、一時はかなり混乱してた」

真帆「急に呼び出されて何かと思ったけど。やっぱり……紅莉栖の記憶?」

倫子「うん。間違いない。私たちがやるべきは――」

倫子「かがりちゃんの脳から、紅莉栖の記憶を消去すること」

倫子「(紅莉栖のタイムマシン論文を消滅させること――)」

倫子「そうしないと、かがりちゃんの容体がどんどんひどくなっていくかもしれない」

真帆「それで私の力が必要だ、って考えてるみたいだけど、どこまで協力できるか……」

倫子「(協力してもらうにしても、かがりちゃんの素性は明かせない。比屋定さんに一からタイムマシンや世界線の説明をするのは危険だ)」

真帆「この前、レスキネン教授に確認してみたんだけど、紅莉栖の記憶データは凍結されたままで、誰もアクセス出来ないはずだと言っていたわ」

真帆「ただ、それが事実かどうかを確かめる権限は、今の私にはない」

真帆「それに、プロジェクトが凍結される前に何者かがデータを持ち出したことだって考えられる。いわゆるハッキングってやつ」

真帆「でも、いったい何の目的で?」

鈴羽「…………」チラッ

倫子「…………」フルフル

878: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:56:57.61 ID:0H+hoDdro

倫子「おそらく、紅莉栖の頭脳を軍事転用するためだと思う」

倫子「紅莉栖は稀代の天才だよ。その記憶データを生身の人間に持たせて、新型兵器の開発に協力させたいはず」

真帆「オッペンハイマー博士を思い出すわね……米軍ならやりかねない、か」

倫子「(仮想敵は"世界の警察"か……)」

鈴羽「実際、かがりの口からそれが可能な論文の存在が明らかになったらしいんだ。悪いけど、比屋定真帆には具体的な内容は話せない」

真帆「紅莉栖の論文の中身に興味はあるけど、あなたたちが私を守ろうとしてくれてるのもよくわかる」

真帆「かがりさんの容体が悪化している今だけは、自分の好奇心を押し殺しておくわ」

倫子「……ありがとう」

真帆「でも、それなら『Amadeus』ごと奪取すればいいだけの話よ。どうして生身の人間に記憶を入れる必要があるの?」

倫子「『Amadeus』はしゃべりたくないことはしゃべらない。そうだよね?」

真帆「え、ええ」

倫子「でも、紅莉栖の記憶を持っただけの、精神年齢が10歳の女の子だったら、どう?」

真帆「……?」

倫子「例えば……まゆりを殺す、って脅されでもしたら」

真帆「っ!? そ、そんなの、現実離れし過ぎよ! 岡部さん、私をからかうつもりなら――」

鈴羽「拷問でも、自白剤でもいい。生身の人間であれば、催眠にかけて記憶を引き出すこともできる」

鈴羽「比屋定真帆。真実から目を背けて、一時の安穏に逃げるの?」

真帆「は、はあ!?」

倫子「比屋定さん。可能性はゼロじゃない。ううん、私は高いと思ってる」

倫子「今は、私を信じて欲しい」

真帆「……わかったわよ。岡部さんは信じる」ハァ

真帆「でも、一連の話を100%信じるわけじゃない。私は私で反証のための材料を探すわ」

倫子「うん、ありがと」ニコ

真帆「っ……」ドキッ

879: ◆/CNkusgt9A 2016/05/20(金) 23:59:17.41 ID:0H+hoDdro

鈴羽「他人の脳に別人の記憶を移植することで、どんな不具合がある?」

真帆「ふたり分の記憶がひとつの脳に混在することで、脳への負担はかなり大きくなってるはず」

真帆「……いつ齟齬を起こしてもおかしくないわ。実際に今、そのエラーが起きつつある」

倫子「(長時間タイムリープの危険性と同じ、ってことか)」

真帆「実験としては失敗の類でしょうね。身体へのリスクがあまりにも高いもの」

鈴羽「このままかがりを放っておくと……牧瀬紅莉栖になる、なんてことは、ある?」

真帆「記憶と人格は別物よ。脳の中で記憶を扱うのは、海馬と大脳皮質。一方で、人格は前頭前野の働きによって形成されている」

真帆「それらの働きは、お互い密接に繋がっている部分も大きいわ」

真帆「このまま放っておいた場合、最悪、かがりさんの人格は崩壊を……」

鈴羽「く……」

倫子「なんとかしてそれを防ぎたい。かがりちゃんの脳から、紅莉栖の記憶を削除したいの」

倫子「紅莉栖の記憶が悪用されるなんて許せない。かがりちゃんを利用して、なんて、もっと許せない」

倫子「(だけど、それを防いだら世界線が変わる……っ。覚悟を決めろ、私……っ!)」グッ


880: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:00:25.78 ID:qjKOjM6xo

真帆「……ひとつ手があるとするなら、もう一度過去のかがりさんの記憶を上書きすること、かしら」

真帆「そもそも、かがりさんの記憶を操作した人間は、かがりさんの記憶をかがりさんの脳内に残すつもりは無かったと思うの」

倫子「実験は失敗だった、ってことだよね」

倫子「(記憶を思い出せないようにするには、トップダウン検索信号を機能させないようにすればいい)」

倫子「(だけど、そんなことをしたら新しく追加した紅莉栖の記憶も思い出せなくなる)」

倫子「(実験後、即座に紅莉栖の記憶を思い出すことはなかった。紅莉栖の記憶を埋め込むだけ埋め込んで、トップダウン検索信号が機能しなければ、そういうことになるだろう)」

倫子「(この調整がまだうまく行ってなかったんだ。かがりちゃんの10歳以前の記憶は消すことができなかった。それだけじゃない――)」


   『いや……嫌だ……もう、あんなとこ、帰りたくない……』

   『助けて……誰か……誰かここから出して!』


倫子「(実験中の記憶だって、完全には消せていなかった。思い出して錯乱したこともあった)」

倫子「(だけど、ここ数日は紅莉栖の記憶の方を思い出しつつある。OR物質の記憶バックアップも、徐々に侵食されているはずだ)」

真帆「だったら、もう一度かがりさんの記憶を、きちんとした装置で脳に上書きしてあげれば、あるいは」

鈴羽「だけど、かがりの記憶データが無いと意味が無い」

真帆「バックアップが取ってあることを期待するしかないわね」

倫子「(おそらくバックアップデータはどこかに保存されている。未来の、しかも別の世界線の貴重なデータだ、みすみすドブに捨てるとは考えにくい)」

881: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:01:40.68 ID:qjKOjM6xo

鈴羽「装置はどうする?」

倫子「比屋定さんが作る」

真帆「ふぇっ!?」

倫子「紅莉栖は以前、人間の脳が思い描いた映像信号を、他の人の脳に投影するマシンを作った。記憶上書きマシンだって、仕組みはほとんど一緒のはず」

真帆「た、たしかにあの子ならできるかも知れないけど、私には……」

倫子「その作り方を、完全じゃないけど、ある程度は私だって理解してる。だから、私が比屋定さんのサポートをすれば、作れると思う」

倫子「(要はタイムリープマシンをカー・ブラックホール抜きで作ればいいんだ。ある程度青写真を提示すれば、比屋定さんならきっと作れる)」

真帆「でも、記憶データのバックアップがどこにあるかっていう問題がある。これを突き止めないと、マシンを作っても無意味よ」

倫子「(OR物質の記憶バックアップは……いや、リーディングシュタイナーをかがりちゃんに発動させる方法は不安定だから、出来れば普通のデータが欲しい)」

倫子「……ダルに、ペンタゴンをハッキングさせる」

真帆「そんな単純な話じゃない。ハッキング自体は可能だとしても、米軍組織のどこにあるかって話になるし、そもそも米軍とは限らない」

倫子「取りあえず、萌郁……探偵の報告を待とう。私たちは記憶上書き装置を完成させる。比屋定さん、お願い」

真帆「たまに強引なところがあるわよね、岡部さんって……でも、そういうの嫌いじゃないわ」

鈴羽「マゾなの?」

真帆「違うわよっ!!」ウガーッ

真帆「紅莉栖が作ったマシン……私にだって、作れるはず。やってやろうじゃない」フッ

倫子「ありがとう、真帆ちゃん!」ダキッ

真帆「ちょっ!? ……必要なものを和光の研究所とホテルに取りに戻るわ。開発は明日からね」ドキドキ

882: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:02:25.94 ID:qjKOjM6xo
和光市 理化学研究所近く ビル2階 世界脳科学総合研究機構日本オフィス準備室


真帆「紅莉栖が日本に来てから作ったものを、岡部さんに教えてもらうことができただけでも収穫ね……いえ、それよりもかがりさんが心配なのだけれど」

ガチャ

真帆「え……な、なにこれ……荒らされてる……!?」

レスキネン「マホ! 大変だよ。何者かが侵入したらしいんだ」

レイエス「ワタシが来た時には、こんなに荒らされていたの。ワタシは幸い持ち物が少なかったから被害はたいしたことないけど、アナタたちは……」

レスキネン「してやられたよ。企業スパイかもしれないね」

真帆「こ、こんな何もないところで? 狙うなら普通隣の理化研を――」


   『誰も信用しない方がいい。気を付けて』


真帆「(……そもそも、このオフィスの存在を知ってる人間なんて、それこそ内部の人間しかいない)」

真帆「(まさか、教授が……? 第一発見者は、レイエス教授……)」プルプル

レスキネン「とにかく、君も何か盗まれていないか調べたまえ」

真帆「は、はい……」

883: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:04:10.13 ID:qjKOjM6xo

真帆「なにも、盗られていませんでした……」

レスキネン「PCの中も確かめてみたが、第三者にアクセスされた形跡は見られない」

レスキネン「マホ、本当に何も盗られていないかい? 例えば、君が持っていたノートPCとか」

真帆「えっ? はい、あれならホテルに置いてあるので――」

真帆「(……いえ、だって、あのPCを教授たちが狙う理由が無いじゃない。何を疑っているの、私……)」

レスキネン「そうか。ならいいんだが」

レイエス「どうする? 警察に通報する?」

レスキネン「何も盗られていないなら、事を荒立てない方が良い。それこそ、犯人の思うツボかも知れないからね」

レイエス「そうね……少し、様子を見ましょうか」

真帆「(一度いぶかしむと、すべてが怪しく思えてくる……)」

884: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:05:40.62 ID:qjKOjM6xo

真帆「あの、教授。実はお願いがあるんです」

レスキネン「なにかな?」

真帆「今、私たちが研究や発表会で忙しい時期だっていうことはわかっています。ですが、私に数日休暇をいただけないでしょうか」

レスキネン「もしかして、ガールフレンドでもできたかな?」

真帆「……普通の女友達ならできましたけど」

レスキネン「素晴らしいッ! それなら私が君の休暇を認めてあげよう」

真帆「い、いいんですか?」

レスキネン「愛を育むことも研究者にとっては必要だよ、マホ」

真帆「だから違うんですってば!!」

888: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:28:42.17 ID:qjKOjM6xo
2011年1月11日火曜日
未来ガジェット研究所


倫子「(色んな方面から探りを入れてみたけど、何一つ成果を得られずにいた)」ハァ

倫子「(最後の手段として、レイエスを拘束して吐かせる、という手が無くは無いけど、米軍を敵に回して勝てるビジョンが見えない)」

倫子「(かがりちゃん、というか、紅莉栖のタイムマシン論文が敵に奪われたら一巻の終わりだ。世界線が悪い方へ変動する)」

倫子「(それを確実に回避する方法は、この世界線の確定事項ではない、"記憶の上書き"……)」

倫子「(記憶を上書きすることと記憶を取り戻すことは、検索信号の問題があるからイコールじゃないけど、少なくとも紅莉栖の記憶は消える)」

倫子「(記憶挿入実験は、α世界線の紅莉栖のDメールによって発生してしまったバタフライ効果だ)」

倫子「(だから、"記憶の上書き"を実行すれば、記憶挿入実験はなかったことにならざるを得ない)」

倫子「(それしかかがりちゃんの脳から紅莉栖の記憶が消える因果律の整合性が取れないからだ)」

倫子「(かつてエシュロン内部のDメールデータを削除しただけで、IBN5100の移動経路が変わった時と同じような、歴史の辻褄合わせが発生する)」

倫子「(かがりちゃんに紅莉栖の記憶が元々入っていない世界線へと変動させる……そういう世界線を私は一度観測している……)」

かがり「すいません、真帆先輩。オカリンさん。私のために……」

真帆「ううん、あと少しで出来そうだから。それに、これは私のためでもあるんだし……」フラフラ

倫子「比屋定さん、眠そうだね……」フラフラ

真帆「そういう岡部さんも……でも、本当におもしろいわ。紅莉栖って本当に天才だったんだって思い知らされるけど」

倫子「そんな。比屋定さんだって、私のアバウトな設計図からうまく仕上げてくれたじゃない」

真帆「アイディアのアウトラインさえ示してくれれば、あとはだいたいどこに何を当てはめれば良いかが見えてくるものよ」

真帆「私のアイディアじゃないのが、少し悔しいわ」フフッ

倫子「真帆ちゃん……」

真帆「真帆ちゃん言うな……」クターッ

889: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:32:28.03 ID:qjKOjM6xo

真帆「それにしても、携帯電話を使うだなんて、普通考えないわ。たとえ考え付いたとしても、実行に移そうなんて思わない」

倫子「神経パルス信号を外部から脳に送る方法として、送話口からこめかみに向けて0.02アンペア程度の微弱な放電現象を起こす。これが可能な機能がケータイにあったってだけ」

倫子「(これさえも300人委員会の陰謀かもしれないんだけどね)」

かがり「側頭葉に神経パルス信号が流れた瞬間、記憶の埋め込みが完了しますけど、これだけだと記憶を思い出せないままになって、上書きは失敗してしまう」

かがり「そこで、擬似パルスを流すことで前頭葉からトップダウン検索信号を発信させる、という話でしたね」

倫子「(そう。ここで上書きした記憶を100%"思い出す"ことができる)」

倫子「(OR物質の記憶バックアップデータも数日のうちに更新される。要はタイムリープと同じ原理だ)」

倫子「(ただ、それは健常な脳においての話。かがりちゃんが意識レベルで思い出すことができるかはわからない)」

倫子「(それでも、少なくともこれによって2度と紅莉栖の記憶を"思い出す"ことができなくなる……はず)」

真帆「問題は、どうやって記憶を圧縮させるか、よね」

ダル「それについては、目下僕が毎日徹夜で頑張ってるわけだが」

鈴羽「父さん、がんばって。愛娘が応援してるよっ」ダキッ

ダル「みwなwぎwっwてwきwたwww」カタカタカタカタ

鈴羽「」グッ

倫子「(いや、そんなドヤ顔されても……)」

890: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:33:15.76 ID:qjKOjM6xo

倫子「(電子レンジ内にカー・ブラックホールを作る必要は無いからそもそも電子レンジが必要無いけど、記憶圧縮用のミニブラックホールはSERNのLHCに作ってもらわないといけない)」

真帆「でも、紅莉栖はどうして記憶圧縮なんて方法、思い付いたのかしら。自分の妄想を他人に見せる装置には必要ないはずだけど」

かがり「確かに。私も疑問です」

倫子「そ、それは、ほら、セレンディピティってやつだよ。開発の途中で、関係ない技術が誕生しちゃうっていう」

真帆「なるほどね。結局紅莉栖は天才で、所詮私はサリエリだったってこと」

かがり「どういう意味ですか?」

真帆「自分の胸に聞きなさい」

倫子「…………」

倫子「かがりちゃん、あんまり、紅莉栖の記憶中心でしゃべらない方がいい」

かがり「えっ? あ、ご、ごめんなさい、私……」

891: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:34:12.29 ID:qjKOjM6xo

かがり「……ねえ、オカリンさん。もしもね、椎名かがりの記憶が失くなって、完全に紅莉栖さんの記憶に入れ替わるとしたら――」

かがり「そしたら私は、牧瀬紅莉栖になっちゃうのかな?」

真帆「あなたは確かに顔が似てるけど、そんなことは無いわ。記憶と人格は――」

かがり「でも、もしもだよ? もしも、そうなるなら……オカリンさんや真帆さんは、嬉しい?」

倫子「私は……」


   『……死にたく……ないよ……』

   『こんな……終わり……イヤ……』


真帆「……ちょっと待って、岡部さん。今、どうして言い淀んだの?」

倫子「え――――」

真帆「私たちが今、何を作っているのかわかってる!? 何のために動いているのか、わかってるの!?」ガシッ

倫子「っ……痛いよ……」

ダル「ちょ、真帆氏おちけつ」

真帆「……ごめんなさい。睡眠不足でイライラしてた」

倫子「わ、わかってる……ごめん……」

かがり「……意地悪な質問だったね。私はね、椎名かがりで居たいよ」

倫子「……私は、紅莉栖の記憶を、消したい」グッ

真帆「岡部さん……」

892: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:35:02.56 ID:qjKOjM6xo

・・・

ダル「キターーーー!」

真帆「出来たわ!」

かがり「やりましたね!」

倫子「良かった……私はほとんど何も手伝ってないけど、ここまで再現できるなんて……」

倫子「(タイムリープマシンと違って電子レンジが無いだけでなく、VRヘッドセットも無い。記憶データを新たに作る必要は無いからね)」

倫子「(だからこのマシンは、単純に記憶データにデコードプログラムを仕込んで、LHCで圧縮、携帯電話から放射する、というもの)」

倫子「それにしても、よくこの短時間で……」

真帆「かがりさんの中に紅莉栖の記憶が残ってたことも開発を後押ししてくれたわ」

倫子「いや、それでも完成させたのは比屋定さんの力だよ。本当にすごい」

かがり「そうですよ、先輩。実際に作ったのは先輩なんですから」

真帆「ありがとう。その言葉、素直に受け取っておくわ」

真帆「ふう……それじゃ、私はちょっと眠らせてもらう。さすがに疲れ――」

prrrr prrrr

真帆「もう、誰よ。人がこれから寝ようって時に……はい、もしもし?」シャーッ (※開発室のカーテンを閉める音)

倫子「真帆ちゃんも紅莉栖と同じで律儀だなぁ。アメリカの人ってみんなこうなのかな?」

真帆『ふえっ!?』

倫子「ど、どうしたの!?」

893: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:35:48.62 ID:qjKOjM6xo

真帆「ホテルから電話があって……荒らされたって……私の泊まってた……ホテルの部屋……」ワナワナ

ダル「マジかお……」

真帆「今から警察に連絡するから、何が盗まれてるか調べるためにも、早く戻って来いって」プルプル

倫子「……罠だ。比屋定さん、ここを動かない方が良い」

ダル「いやでも、ホントに大切なもんが盗まれてたらヤバいっしょ」

真帆「一応、大切なものは全部ここに持ってきているけれど……実は、この前オフィスも荒らされたことがあって……」

倫子「同一犯だとして、比屋定さんのホテルの部屋を知っていて、オフィスに侵入できる人物。可能性があるのは……」

真帆「……レスキネン教授と、レイエス教授よ」

かがり「そんな!? 教授たちが!?」

ダル「ヴィクコン関係者かぁ……」アチャー

倫子「そのふたりが米軍組織のスパイである可能性、だね」

真帆「さすがにここまで来ると、私も否定できそうにないわね……」

倫子「ふたりのどちらか、あるいは、共謀、ということも考えられる」

ダル「久々にオカリンの陰謀論が聞けて嬉しいけど、マジな話っぽいなこれ……」

894: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:38:18.14 ID:qjKOjM6xo

ダル「つか、真帆たんの研究はそのふたりも共有してるわけっしょ? なら何を探してるん?」

真帆「見当はついてるわ……紅莉栖のノートPCとHDDよ」

かがり「私の……」

倫子「その中にも、兵器転用できる技術が書かれた論文が入っているんだ。かがりちゃんの脳内と同じように」

かがり「アレのことですよね……そりゃ、パパと共同研究すればいつかは実現できる可能性があるかも、と思って書いたものですけど、まさかホントに……」

真帆「ということは、かがりさんを誘拐する件は諦めたってこと?」

倫子「同時並行で探ってる、ってところじゃないかな。でも、比屋定さんに不信感をもたれても構わなくなってるってことは、かなり焦ってるんだと思う」

倫子「(わからないけど、ロシアやSERNなんかの敵対組織に先んじる必要があるんだろう。このまま勢力が拮抗したままであってほしいけど……)」

ダル「つか、そのPCって、この前真帆たんが僕に託したやつ?」

倫子「えっ?」

真帆「実はね、どうしてもパスワードを解析したくて。ここに籠るようになってから、橋田さんにお願いしたの」

倫子「それじゃ、今そのノートPCは……」

ダル「僕のヒミツのアジトにあるのだぜ。つっても、まだパスワードは解析できてないけどね」ヒソヒソ

倫子「そ、そっか。なら、よかった」

ガチャ

鈴羽「ただいま……なにかあった? 空気が沈んでるけど」

倫子「それが……」

895: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:39:55.26 ID:qjKOjM6xo

・・・

鈴羽「つまり、敵が動いた。しかもかがりの対処が急を要する、と」

真帆「私が居るせいかわからないけど、かがりさん、どんどん自分を見失っていってるわ」

かがり「ご、ごめんなさい、先輩……うぅ……」

倫子「もう、時間が無い。悠長に構えている場合じゃなくなった」

倫子「(危険を冒してでも動くしかない、か……)」

倫子「……お願い、みんなの力を貸してほしい」

ダル「お? オカリン久々の作戦立案? これは胸が熱くなるな」

鈴羽「リンリンのオペレーションか……あの頃はごっこ遊びだったけど、懐かしすぎて涙が出そう」

倫子「まず、状況を整理しよう」

倫子「(前の世界線の襲撃者と、この世界線でかがりに記憶を上書きしたやつらとは同じはず)」

倫子「敵の正体については、レイエス教授は確定。レスキネン教授もその可能性が高い。そして、ふたりは米軍組織のスパイの可能性、ただし詳細は不明」

倫子「敵の目的は紅莉栖の論文を奪うこと。兵器転用するためにね」

倫子「そのために、論文の入っているかがりちゃんの頭脳、あるいは、紅莉栖のノートPCを奪取しようとしている」

倫子「現状、かがりちゃんの紅莉栖化がひどくなってきてる。早いところ、敵の所属している組織を特定したい」

倫子「そこにかがりちゃんの記憶のバックアップがあるはず。そしたらダルにハッキングしてもらって、記憶データを入手する」

ダル「任せろっつーの!」

倫子「そして、敵も手段を変えてきている。長年築いてきただろう比屋定さんとの信頼関係をかなぐり捨てて、比屋定さんの持ってる紅莉栖のPCを盗もうとしてるんだ」

倫子「奴らも焦ってる。だったら、こっちからエサを撒けば間違いなく食いついて来る」

真帆「ちょっと待って!? もしかして、岡部さんの作戦って……」

鈴羽「囮を使って、釣りをする、ってことだね」

倫子「そういうこと」

896: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:41:32.87 ID:qjKOjM6xo

倫子「できるだけかがりちゃんに危険が及ばない形で実行したい。何か案はある?」

鈴羽「そのレイエスとかいう人を拉致して拷問すればいいんじゃないの?」

ダル「ちょ」

倫子「相手はプロだよ。本丸を叩いてもうまくかわされると思う」

鈴羽「なら、将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、だ」

倫子「えっと……?」

鈴羽「リンリンの話だと、かがりを誘拐しようとしたやつらは、ライダースーツの女を除いて斥候だった。雇われ兵なら、簡単に口を割るはず」ヒソヒソ

倫子「なるほど……」

鈴羽「あたしがかがりの変装をして夜道を出歩くよ。あたしを誘拐しようとしたら、反撃して、敵の中でも弱そうな奴を生け捕りにする」

鈴羽「そして、誰に命令されたかを吐かせる」

ダル「い、いや、さすがに鈴羽が危険すぎるお!」

かがり「そうだよ! 鈴羽おねーちゃんに危険なこと、してほしくないよ!」

倫子「店長に協力を要請しよう。それから、萌郁にも」

ダル「桐生氏? そういや確か、裏稼業に片足突っ込んでる関係で護身術も身につけてるとか言ってたっけ」

倫子「そっか、この世界線ではまだ話してなかったっけ。萌郁はね、あれでも隠密行動のプロなんだよ」

ダル「あ、だったら桐生氏に情報をリークしてもらうってのはどう? 決まった時間帯に椎名かがりの目撃情報がある、ってのを流してもらえれば」

真帆「ま、待って! その作戦で正体がつかめたとしても、それこそここに軍隊が乗り込んできてもおかしくないわ!」

倫子「その前にかがりちゃんの記憶を上書きする」

真帆「上書きできたって、その後のことはどうするの!?」

倫子「大丈夫。その後のことは考える必要が無い」

倫子「(世界線が変わるからね)」

真帆「は、はあ!?」

鈴羽「論文が消滅したなら、奴らがここを襲う意味がなくなる。無駄に事を荒立てるなんてことはしないよ」

倫子「私を信じて。真帆ちゃん」

真帆「い、いや、物証を出してほしいのだけれど……んもう……」

897: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:44:28.30 ID:qjKOjM6xo

倫子「かがりちゃん。ちょっと、手を握ってもらっていい?」

かがり「え? い、いいけど……」ドキドキ

倫子「(この作戦自体が、私が持ってる別世界線からの情報によって立案できたもの。だから、既にこの世界線の確定した流れからは外れている)」ギュッ

ダル「おお、百合フィールドktkr」

かがり「はわわぁ……///」

倫子「(作戦が成功しても失敗しても世界線は変動する。敵が勝つか、私たちが勝つか……)」

倫子「(今の作戦をできるだけ具体的に頭に思い浮かべる……この世界線の未来として確定しているのは……)」ギュッ

倫子「(……やっぱり、ここが襲撃される。記憶の上書きの前にかがりちゃんは誘拐されて、私たちは強制連行、か……)」

倫子「(敵さんが本当にタイムマシンを完成させちゃったら、アトラクタフィールド越えの大問題になっちゃうな……)」

倫子「(ともかく、襲撃の前にかがりちゃんの記憶の上書きに成功して、紅莉栖の記憶が完全にかがりちゃんの脳から消えれば、世界線は変動する。ここが分岐点)」

倫子「(成功した場合、『かがりちゃんの脳内に紅莉栖の記憶が無い』が確定した事象となるように、歴史は辻褄合わせの再構成をする)」

倫子「(『Amadeus』が凍結された歴史を残したまま、敵がかがりちゃんの脳内に紅莉栖の記憶を埋め込むことができなかった世界線がアクティブ化するはずだ)」

倫子「(完全な上書きに失敗した場合は、どうなるかはわからない。でも、少なくとも世界線は変動する)」

倫子「(あとは意志の力だ。未来を変えたいと願う、意志の力……!)」

898: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:47:44.28 ID:qjKOjM6xo
2011年1月15日(土)午前0時過ぎ深夜
裏路地


外国人の男A「椎名かがりだな」

かがり(に変装した鈴羽)「…………」

外国人の男B「大人しくしていれば手荒な真似はしない」

かがり(鈴羽)「(外国人が3人に、チンピラが3人か)」

チンピラA「楽な仕事だよな、女を1人攫うだけでいいなんて。ね、シドさん?」

かがり(鈴羽)「(シド?)」

4℃「ガイアは言っている、このふざけた街のふざけた時代で生きていくためには、リーガルハイに手を出さなければいけないのさ……」

外国人の男C「("リーガルハイ"って脱法ドラッグのことじゃ?)」

チンピラB「ヴァイラルアタッカーズがブラックリストに載ってるから、こういう仕事でしか金を稼げないなんて、さすがシドさんっす!」

4℃「ブラックとは名ばかりのダーティーなリストに名前を載せやがったあのメス猫にはアブソリュートリー、いつか仕返ししてやる……」

チンピラA「つーか、シドさんが英語できたなんてマジかっけぇっす!」

4℃「言葉はライブだぜ。俺の本場仕込みのブレイキーな英語についてこれるか?」

外国人の男A「("ブロークン"じゃないのか?)」

チンピラA「かっけぇ!」

チンピラB「マジイカすぜ、シドさん!」

かがり(鈴羽)「(蹴っていいかな……)」

899: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:48:33.44 ID:qjKOjM6xo

かがり(鈴羽)「でやぁぁぁっ!!」シュバッ!!

外国人の男C「オォォォォォオオ!!」ガクッ

かがり(鈴羽)「だりゃぁぁぁっ!!」シュババッ!!

チンピラA「ぶべらっ!!」

4℃「ひ、ひぃぃっ!」

チンピラB「なんだこいつ! 聞いてねえぞ!」ダッ

天王寺「――――ッ!!」ブンッ!!

外国人の男B「ぐあああああっ!!」

チンピラB「ぎゃああっ!!」

天王寺「おいおい、静かにしな。あんまりうるさくすると、おめえらも困るんじゃねえのか?」




物陰|д゚;)倫子「ひ、ひぇぇ……すごいぃ……」ビクビク

900: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:49:18.29 ID:qjKOjM6xo

ダル『もしもし? そっちはどう? 鈴羽は大丈夫?』

倫子「う、うん。全然心配いらない。すごすぎだよ……」

ダル『そりゃあ、僕の娘だからね』

倫子「運動神経はトンビとタカだけどね」



外国人の男A「て、撤収!」

天王寺「おっと、そうはいくかよ」ガシッ

外国人の男A「くそッ!」BANG!!

外国人の男A「――――」バタッ

天王寺「っち、自殺しやがった……!」

4℃「な……なっ……!?」ガクガク

鈴羽「リンリン、そっち!! 敵が向かった!!」

倫子「えっ!? えっ!?」オロオロ

4℃「くそっ、逃げるがラビットだ! ハァッ、ハァッ!!」タッタッ

鈴羽「捕まえて!!」

倫子「い、いや……いやぁっ!!」ブルブル

萌郁「……任せて……!」シュバッ!!

4℃「ゴフッ!!」バタッ

天王寺「よし、捕まえてやるっ!! 萌郁、そのまま離すんじゃねえぞ!!」

萌郁「…………」コクッ

901: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:50:04.73 ID:qjKOjM6xo

鈴羽「リンリン、怪我は?」

倫子「だ、だだ、大丈夫……」ガクガク

鈴羽「ごめんね、怖い思いをさせて。だけど、神の目には現場を記憶しておいてもらいたかったから」

4℃「んんんんんーー!」フゴフゴ

倫子「(あれ? こいつ、どこかで見たことあるような……何故か吐き気がするけど……)」ウップ

天王寺「舌ァ噛み切るんじゃねえぞ? 天王寺さんの汗が染み付いた手拭いでも食べてな」ギュッギュッ

4℃「んんんんんーー!!」ジタバタ

天王寺「んじゃまずは指でもつめて――」チラッ

倫子「…………」ブルブル

天王寺「あー……しょうがねえな。おひげジョリジョリで勘弁してやる」ジョリジョリ

4℃「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ーー!!」ジタバタ

倫子「これがラウンダーのやり方……なんて恐ろしいんだ……」ガクガク

萌郁「ちょっと……違う……」

902: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:51:06.58 ID:qjKOjM6xo

天王寺「で、おめえさん達の元締めは誰だ?」

4℃「だ、誰がしゃべるかよ、スキンヘッドタフガイ……つーか、しゃべったらキリングされちまう……」

天王寺「ほう、    を広げてほしいのか? おん?」

4℃「しゃべりますすいませんホント勘弁してください何も知らなかったんです」

天王寺「最初からそうすりゃいいんだ」

4℃「…………」ボソボソ

天王寺「……なに? お前らを雇ったのはさっき自殺した男で、そいつの元締めはストラトフォーだと? また面倒なやつらが……」

倫子「(ストラトフォー!? 影のCIAと呼ばれる、アメリカの民間情報会社……!)」

倫子「(軍事に特化していると云われてるけど……そっか、それで……)」

倫子「ダル! 今すぐストラトフォーのサーバーにハッキングをかけてくれ!」

ダル『オーキードーキー!』

天王寺「しかし、民間企業の、金で雇われてるやつらが、自決までするか?」

4℃「お、俺は知らねぇ! あの外国人ども、言葉の通じねえクレイジーだったからな!」

鈴羽「洗脳された軍人なら、あるいは」

萌郁「洗脳……軍人……」

天王寺「たとえ米軍だろうが構わねえ。綯の日常を守る、ただそれだけだ」

天王寺「じきにやつらも次の手を打ってくる。後始末は俺に任せて、おめえらは行け!」


   『ここは任せたぞミスターブラウン! ふぅーはははぁ!』


倫子「は、はいっ! 後のことはお願いしますっ!」ダッ

天王寺「……どうも調子が狂いやがる」

903: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:52:52.70 ID:qjKOjM6xo
未来ガジェット研究所


倫子「はぁっ……はぁっ……、ハッキングは!?」

ダル「前に遊びでハッキングかけた時のルートがあるから、今探ってるとこだお……!」カタカタカタカタ

かがり「はぁ……は、ぁ……」グッタリ

鈴羽「かがり!  しっかりしろ!」

まゆり「かがりちゃん!!」

倫子「(容体が極めて悪い……っ、かがりの自我が崩壊するのは時間の問題か!?)」

フェイリス「自警団の人たちには既に動いてもらってるニャ。だけど、こっちは素人集団だから、どこまで相手になるか……」

倫子「いや、奴らは人の目があるだけで動きづらいはずっ」

るか「僕も五月雨を持ってきました……!」

倫子「うん……心強い」ニコ

904: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:53:29.64 ID:qjKOjM6xo

かがり「ねぇ……ママ……私、このまま消えちゃうの、かな……?」

まゆり「大丈夫だよ。きっとオカリンとダルくんがなんとかしてくれるからね」

かがり「オカリン……さん……?」

倫子「心配しないで。きっと、きっと大丈夫だから」ギュッ

かがり「……岡部……、私を……消して……」

倫子「――えっ」

かがり「彼女の中から……私を、消して……」

倫子「くり……す……?」プルプル

かがり「ごめんね……岡部……」ツーッ

倫子「(ち、違う。紅莉栖の記憶はデータであって、魂じゃ、ないんだから……)」

905: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:54:01.50 ID:qjKOjM6xo

倫子「ダル……っ! 急いで……っ!」ウルウル

ダル「……もうすぐ、もうすぐ……!」カタカタカタカタカタカタカタカタ

鈴羽「マズいよ、リンリン。窓の外、何人か集まって来てる……」

ダル「よし、こいこいこいこい……」カタカタカタカタカタカタカタカタ ッターン

ダル「っしゃ!! キタキタキター!! ビンゴー!!」

真帆「重要そうなファイルの中から、サイズの大きなものを選んで!」

ダル「オーキードーキー! これかな? お、でも中にもファイルいっぱいだお」カチカチッ

倫子「(これがやつらの人体実験の成果か……ゼリーマンズレポートを思い出す)」ゴクリ

倫子「あった! K6205だっ!」

ダル「なんだかよくわからんが、これを転送すればいいんだな!?」カチカチッ

鈴羽「早く! 完全に囲まれた!」

倫子「準備はいい!?」

真帆「待って!!」

906: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:54:58.80 ID:qjKOjM6xo

倫子「ど、どうしたの比屋定さん……目つき、怖いよ……?」ビクッ

真帆「……本当にうまくいくのかしら? もし失敗したら、かがりさんの命が――」

倫子「……あなたに説明できなくて悔しい。でも、絶対に大丈夫」

倫子「私を信じて欲しい」

倫子「(世界線さえ変動すれば、かがりちゃんは元々記憶埋め込み実験をされてない歴史に再構成されるはず。だから、きっと元気になるはずだ)」

真帆「で、でも、私の作ったものなのよ? 紅莉栖じゃなくて、私が――」

倫子「私が保証する。比屋定さんの理論も、技術も、完璧だって」ニコ

真帆「岡部さん……」トゥンク

倫子「かがりちゃん、行くよ……いいね?」

かがり「うん……」

ダッ ダッ ダッ

鈴羽「来たっ!!」

倫子「ダル、送信してくれっ!!」

ダル「オーキードーキーッ!!」ッターン!!

prrrr prrrr

倫子「(私のスマホが鳴った。ストラトフォーのサーバに保管されていたかがりちゃんの記憶が、フランスを経由して私のケータイへと届いたんだ……!)」

907: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:57:21.12 ID:qjKOjM6xo

倫子「(あとはこれにかがりちゃんを出させれば――)」スッ

かがり「あのね、岡部さん……」

倫子「な、なに……?」ピタッ

かがり「私……たぶん、岡部さんのこと……あなたのこと……」

倫子「え――――」


バターンッ!! 


鈴羽「交戦するっ!!」

るか「岡部さんは、ボ、ボクが守りますっ!!」


倫子「(私は……今、何を……すべきなの……このまま通話ボタンを押していいの……)」

倫子「教えてよ、紅莉栖……あなたが居ないと、私……」プルプル

かがり「……岡部。手を、貸して」スッ

倫子「えっ……?」





かがり「――バイバイ、倫子ちゃん」  【通話】ピッ

908: ◆/CNkusgt9A 2016/05/21(土) 00:58:28.73 ID:qjKOjM6xo

―――――――――――――――――――
    1.05364  →  1.06476
―――――――――――――――――――