岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」 その1
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」 その2
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」 その3
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その4
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」 その5
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その6
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その7
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その8
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その9
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その10
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その11
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その12
919: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:22:58.60 ID:FONnkP8io
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・
第25章 適応放散のパラダイスロスト(♀)
同世界線変動率【1.13209】
2011年7月7日木曜日18時30分
ラジ館屋上
倫子「――――はははぁ……っ。リーディング、シュタナー……」クラッ
倫子「は……はは……っ」プルプル
倫子「見たかっ!! 我がラボの優秀なメンバーはっ! 世界線を変動させることに成功したぞっ!! ふぅーはははぁ!!」
??「ひっ!? だいじょうぶ……?」オドオド
倫子「きゃっ!? ……って、おどかすなぁ! 誰だ貴様はっ!」ビクッ
倫子「(どうしてここに小学生の女の子が……綯の友達か?)」ドキドキ
倫子「(あ、あれ? というか、屋上に居たはずの軍隊が居ない……萌郁も、レスキネンも)」キョロキョロ
倫子「(紅莉栖のHDDは、ここにある、か。パスも貼ってある)」
倫子「(それに、オレはいつの間にか白衣を着ている。うむ、実に懐かしいな……)」
倫子「(……バタフライ効果。"鳳凰院凶真が復活する"という結果を元に、世界線の過去が、因果律が再構成されたらしい)」
倫子「――オペレーション・アークライト、成功だぁっ!!!」ガバッ
バタバタバタバタバタバタバタバタ…
920: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:25:12.14 ID:FONnkP8io
??「まゆりママと鈴羽おねえちゃん……行っちゃったね」グスッ
??「でも私、寂しくないよ! だって、また必ず会えるって、信じてるから!」グシグシ
倫子「まゆりマ――っ!? き、君は、まさか、かがりなのか!?」
かがり「え……?」キョトン
倫子「い、いやいや!? 何がどうして背が縮んでしまったんだ!?」
倫子「顔が、阿万音由季から、子どもの頃の紅莉栖……じゃなかった、かがりに戻っている……」プルプル
倫子「死亡収束は!? い、いや、世界線が変わったのだから、そこはいいのか……じゃなくて!」
かがり「あ、あぅ……どうしちゃったの、"りんこママ"」オロオロ
倫子「――"りんこママ"!!!」ガクッ
倫子「(お、落ち着け……いったい、何がどうなって――――)」
バタバタバタバタバタバタバタバタ…
倫子「――そうだった! マズい、逃げるぞかがりっ!」ガシッ
かがり「えっ? えっ?」オロオロ
倫子「あれは米軍の戦闘ヘリだっ! きっとタイムマシン関係者を皆殺しにする気だっ!」ダッ
??「おい、待つんだ! そこを動くんじゃない!」
倫子「ヘリから声がっ!?」
921: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:26:41.07 ID:FONnkP8io
バタバタバタバタバタバタバタバタ…
倫子「あ、あれ? よく見るとあのヘリ、アパッチじゃない……?」
シュタッ
??「君たちが鳳凰院凶真と、椎名かがりだな」
倫子「(なんだこの蛇づらの男はっ!? 急にヘリから飛び降りてきて……)」
かがり「ひっ……」プルプル
倫子「オ、オレたちになんのようだっ!」プルプル
??「DaSHから頼まれてね。君たちを安全な場所に避難させるように、と」
倫子「ダ、ダッシュ……?」
??「"ダル・ザ・スーパーハッカー"、と言えば、わかるか?」
倫子「……"ダル"!!」パァァ
??「ここはもうじき戦場になる。タイムマシンが閃光を放ったことで、SERNを始め、各組織に場所がバレてしまった」
??「君たちはおそらく、地球上で最も重要な人物だ。なにせ、タイムトラベラーなのだからな」
??「世界各国の機関が君たちを狙っている。それらから守るために、一度伊豆の別荘へ避難する」
倫子「お、おい! 待て待て待て! 勝手に話を進めるな!」
922: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:33:58.40 ID:FONnkP8io
倫子「そもそも、貴様がダルの仲間だという証拠がどこにある!?」
??「……あー、DaSHから聞いた合言葉があるんだが、それを君が知っているかどうか」
倫子「合言葉?」
??「……き、君に萌え萌え」
倫子「……バッキュンキュン」
??「信じてもらえたか?」
倫子「う、うん。すごく信じた」
??「とにかく時間が無い。さあ、登れ」
パララッ
倫子「(ヘリから縄梯子が……。やばい、これはカッコイイぞ……)」ドキドキ
923: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:34:53.26 ID:FONnkP8io
ヘリ内部
倫子「って、あんたが操縦するのか!?」
??「私の自家用ヘリだ」
仁科「あなたが噂の倫子さんね! 私、仁科恵麻<にしなえま>。それと、蛇顔の彼は澤田敏行。どっちも21歳だよ」
澤田「…………」ムスッ
仁科「あなたみたいな女の子が世界の陰謀を暴くために動いているなんてね……ホント、すごい!」
倫子「(誰だ、この人懐っこい女は……)」
倫子「オレのことを知ってるのか?」
澤田「DaSHから聞いている。彼とは仕事仲間でね、共に300人委員会の動向を探っている」
倫子「仕事仲間って……例の怪しいバイトのか。その、仁科さんも?」
澤田「彼女は一般人だ。ついてくるなと何度も言ったのだが……」
仁科「どうしても倫子さんに会いたかったの。あ、公式ツイぽフォローしてるよ♪」
倫子「ツイぽ……って、ああ、ミス電機大のアレ。そうか、ダルの広報活動がこんな影響を……」
倫子「って、"鳳凰院凶真"としてミス電機大に選ばれたのかオレは!? 前の世界線の記憶がある分、余計に恥ずかしいぞ……」プルプル
倫子「って、あんたが操縦するのか!?」
??「私の自家用ヘリだ」
仁科「あなたが噂の倫子さんね! 私、仁科恵麻<にしなえま>。それと、蛇顔の彼は澤田敏行。どっちも21歳だよ」
澤田「…………」ムスッ
仁科「あなたみたいな女の子が世界の陰謀を暴くために動いているなんてね……ホント、すごい!」
倫子「(誰だ、この人懐っこい女は……)」
倫子「オレのことを知ってるのか?」
澤田「DaSHから聞いている。彼とは仕事仲間でね、共に300人委員会の動向を探っている」
倫子「仕事仲間って……例の怪しいバイトのか。その、仁科さんも?」
澤田「彼女は一般人だ。ついてくるなと何度も言ったのだが……」
仁科「どうしても倫子さんに会いたかったの。あ、公式ツイぽフォローしてるよ♪」
倫子「ツイぽ……って、ああ、ミス電機大のアレ。そうか、ダルの広報活動がこんな影響を……」
倫子「って、"鳳凰院凶真"としてミス電機大に選ばれたのかオレは!? 前の世界線の記憶がある分、余計に恥ずかしいぞ……」プルプル
924: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:35:36.01 ID:FONnkP8io
仁科「これから戦争になろうって時に、澤田くんったらひどいんだよ? 私を置いていこうとするなんて」
『――君が死んだら、悲しむ人間がここに1人だけだけど、いるの!』
『友達が1人もいないと思っているなら、ふざけないで!』
『無責任に死のうとするな、バカ!』
澤田「……むやみに危険に飛び込む必要は無い」
仁科「じゃあ、あなたひとり死んじゃってもいいって言うの? ねえ、倫子さん、どう思う?」
倫子「うむ、澤田が悪いな。オレからは『ひとりで背負うな、仲間を頼れ』という名言を送ってやろう」
仁科「それって誰の言葉?」
倫子「無論っ! この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真の言葉だっ! ふぅーはははぁ!」
澤田「…………」
925: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:38:03.78 ID:FONnkP8io
倫子「それで、結局貴様らは何者なのだ?」
仁科「私たちはね、世界の陰謀を暴く者、だよ!」
倫子「な、なんだとっ!?」ガタッ
仁科「おお、いいリアクション!」
澤田「ミゲール・サンタンブロッジオ。この名前に聞き覚えは無いか?」
倫子「……確か、タヴィストック研究所の特別顧問、だったか?」
澤田「そうだ。そして、エレクトロニクス産業において剛腕経営者として知られている、300人委員会序列高位の男だ」
倫子「300人委員会……っ!」
澤田「私は、奴の隠し子のひとりなんだ」
倫子「ほう……つまり、そんな父の存在のせいで幼い頃から大人たちの利益のために狙われ、ひたすら逃げ回り、ついには実父に復讐を誓った、と」
澤田「それがギガロマニアックスの力か。実に興味深いが、まあ、そんなところだとだけ言っておこう」
倫子「(いや、鳳凰院凶真のノリで適当に言ってみただけなんだが……)」
仁科「澤田くんね、お父さんが送ってきた刺客に背中をナイフで刺されたの。そのピンチを私が救ってあげたんだよ!」エッヘン
澤田「……あれから2年間、その話を全くしなかったというのに、鳳凰院凶真に会った途端これだ」ハァ
仁科「澤田くんはそのことでお父さんに認められて、今は彼も300人委員会にかなり近いところにいるの」
澤田「私の目的は、300人委員会の計画を阻止することだ」
倫子「……スパイ、ということか!」
926: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:41:33.68 ID:FONnkP8io
倫子「でもどうしてタイムマシンの場所がバレた? 確かに強い光を放ちはしたが……」
澤田「ラウンダーは秋葉原一帯を重点的にマークしていた。なぜなら、1998年にIBN5100を使用した形跡が秋葉原にあったからだ」
倫子「……鈴羽!」
倫子「(となると、この世界線でのミスターブラウンはそういう使命を持っていたのか……)」
澤田「仮にそれが"ただ使われた形跡があるだけ"ならば、そのうち手を引くことになっただろうが」
澤田「2000年問題が解決されてしまったからな。2000年以降、重要度は最上級になった」
倫子「なんだと!? いや、でも、そうか。そうならないとおかしいのか……」
澤田「重要データをIBN5100の特殊言語で解析できるスタンドアロンサーバに保存しているSERNにとって、そんなIBN5100所持者の存在は脅威だ」
澤田「それだけじゃない。2000年クラッシュを引き起こそうと画策していたSERNの面目は丸つぶれになった」
澤田「もっとも、『Zプログラム』の進捗が予定より遅かったために、他のタイムマシン研究を一切根絶やしにする計画、"2000年クラッシュ"は起こされなかったが」
927: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:42:42.56 ID:FONnkP8io
倫子「(2000年クラッシュと言えば、γ世界線……。だが、β世界線ではそもそも2000年クラッシュは起きない)」
倫子「(SERNが90年代にDメールの存在に気付いた場合、奴らのタイムマシン研究が進み、他の研究を出し抜く形となる)」
倫子「(そうなれば、他の研究は破壊してしまって構わなくなる。だから2000年クラッシュが引き起こされていた、ということだったのか……)」
澤田「そんなわけで、今日に至るまでやつらはIBN5100、およびジョン・タイターを探し続けていたんだ」
澤田「2010年8月21日にタイムマシンが現れてからは、ワルキューレの面々がマシンの存在を隠ぺいしてきたが、それも今日まで」
澤田「ラウンダーが気付けばストラトフォーが気付く。奴らはスパイを送り込んでいたらしい」
倫子「(前の世界線ではかがりがラウンダーに潜伏、けん制していたことで、あの戦闘の瞬間に萌郁以外のラウンダーが現れなかったんだな……)」
澤田「そして、マシンを隠ぺいしていた協力者たちを炙り出し、確保しようと動く……というわけだ」
倫子「それでダルが対策を打ったのか」
澤田「君と椎名かがりがラジ館屋上に居ることは想定外だったから、ヘリの出動は緊急要請だった」
倫子「(想定外? そうか、この世界線の"オレ"も一度タイムリープを……)」
928: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:47:38.01 ID:FONnkP8io
澤田「私は常に300人委員会の動向を追っていた。その過程でわかったのは、2000年頃から秋葉原に対する警戒が高まっていたということ」
澤田「その理由は先ほど話した通りだが、奴らは10年かけてもIBN5100使用者の尻尾すらつかめなかった」
倫子「それはそうだ。鈴羽は未来へとタイムトラベルしていたのだからな」
澤田「そんな中、2010年7月、秋葉原の中心でタイムマシン完成の発表会見を行う人間が現れた」
倫子「……ドクター中鉢か!」
澤田「無論、奴はたいした玉ではないが、警戒態勢のSERNにしてみれば看過できる存在ではなかった」
澤田「あの会見場には、委員会から派遣された人間が数名紛れ込んでいたらしい」
倫子「なん……だと……」
澤田「それを嗅ぎつけた他の組織の人間もな。あるいは、未来からの指令でロシアのスパイも居たかもしれない」
澤田「まあ、まさかひとつ上の階に本物のタイムマシンが存在していたとは、あの時点ではさすがに信じられなかったようだが」
澤田「そして事件は起こった。牧瀬章一は自分の娘を殺害し、雲隠れしたのだ」
倫子「…………」
929: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:49:01.83 ID:FONnkP8io
澤田「……一応、そういうことになっている。もちろん、私もDaSHから真実は聞かされている」
澤田「結果論ではあるが、将来SERNにおいて"タイムマシンの母"となる人物が居なくなった。少なくともα世界線の絶望の環は絶たれたのだ」
倫子「……続けてくれ」
澤田「ともかく、この事件を怪しく思わないほど委員会では無能ではない。実際、牧瀬紅莉栖が所持していた封筒が現場から見つからなかったのだからな」
倫子「そういや、会見場で会った時も紅莉栖は封筒を胸に抱えていたな……それを覚えていた奴が居たのか」
澤田「委員会はこの事件をもみ消した。他の組織に一切調査されないために、だ」
澤田「そして同時に中鉢の行方を追ったが……これが、どういうわけか全く掴めなかったらしい」
澤田「君たちの推測によれば、未来のロシアから妨害があったのだろうという。牧瀬紅莉栖が死亡して一番得をするのはアメリカでもSERNでもなく、ロシアだからな」
倫子「オレたちの……。そうか、この世界線の"オレ"が……」
澤田「だが、その妨害こそが委員会に確信を持たせた。中鉢は、完璧なタイムマシン論文、あるいはそれに準じる何かを所持しているのだろうと」
倫子「なるほどな……」
930: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:51:08.76 ID:FONnkP8io
澤田「中鉢が普通では門前払いされる亡命に成功したのも、未来のロシアが過去へ指令を送った可能性がある」
倫子「そうすると、最初にその指令を送った世界線ではどうして亡命できたのか、という典型的なパラドックスが発生するが……」
澤田「ああ。アトラクタフィールド理論では、その可能性世界線は理論上にしか存在しない」
倫子「(あるいは、O世界線からの因果の残滓なのかも知れないな……)」
倫子「つまり、考えるだけ無駄、なのだな」
澤田「そうらしいな。そうやって世界は再構成されたのだから、そこを議論しても仕方がないと君たちは言っていた」
澤田「SERNは試行錯誤を繰り返し、委員会の協力を得て妨害の及ばない手段を模索した」
澤田「勿論、できることなら中鉢の所持品を奪取したかっただろうが、それらは失敗し、やむなく最終手段を取ることとなった」
澤田「3週間のうちに奴がロシアへ亡命するという情報を掴んだSERNは、その搭乗機を燃やし、奴が娘から奪ったものを焼却しようとした、のだが……」
倫子「……メタルうーぱか」
澤田「まさに運命のいたずら。たかが子どもの玩具によってSERNはロシアに敗北し、世界大戦が幕を開けた」
931: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:52:30.34 ID:FONnkP8io
倫子「世界の陰謀がそんな様相を呈していたとはな……」
澤田「まったく、DaSHの情報技術は凄まじいな。私がいくつかのパスを入手しただけで、SERNは丸裸にされてしまったよ」
倫子「これからオレたちはどうなる?」
澤田「伊豆のセーフハウスに身を潜めた後は、時期を見計らってDaSHたちのタイムマシン研究チーム"ワルキューレ"と合流してもらう」
倫子「(この世界線では、既にワルキューレが立ち上がっているのか)」
澤田「それがいつになるかは、世界情勢次第だ。来年になるか、もっと先か」
倫子「来年……そんなに地下に潜伏しないといけないのか」ハァ
かがり「私はね、まゆりママが居なくても、りんこママと一緒なら、寂しくないよ」ギュッ
倫子「その呼び方はやめてくれ。以後はコードネーム"鳳凰院凶真"で頼むぞ、"未来少女"よ」ナデナデ
かがり「……うん、わかった! "凶真様"っ!」
932: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:55:52.49 ID:FONnkP8io
仁科「かがりちゃんって、ホントに未来から来たの?」
かがり「うんっ! 私ね、2026年生まれなんだよー」キャッキャッ
仁科「しかもあの牧瀬紅莉栖のクローンなんだよね……すごーい……」ナデナデ
かがり「私、すごい!? えっへへ~♪」
倫子「というか、アトラクタフィールド理論を知っているのだな」
澤田「それについてはDaSHから説明してもらった。世界線理論が成立しなければ、300人委員会による時間支配など夢のまた夢、というわけだ」
倫子「私はリーディングシュタイナーを発動し、先ほど別の世界線からやってきた。この世界線のオレたちの状況を知りたいんだが」
澤田「生憎私もそこまで君たちに詳しいわけじゃない。悪いが、向こうについてからDaSHと直接コンタクトを取ってくれ」
倫子「えっ? 連絡手段があるのか?」
澤田「そうなるよう準備してきた。まあ、到着するまでは空旅でも楽しむといい」
933: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:57:15.42 ID:FONnkP8io
伊豆半島山中 セーフハウス
ダル『澤田氏、有能っしょ?』
倫子「有能すぎて若干怖いぞ……この家も、ヘリポート完備な上に道路が無く外界と接触してないとか、どうなってるんだ……」プルプル
仁科「ガラス張りの屋内テラスからは雄大な大自然の山々が! いいところでしょ?」
ダル『恵麻たん、マジGJ!』
倫子「というか、そっちは大丈夫なのか?」
ダル『うん、ラボのドアも生体認証式に改造したし。このビデオチャットも、敵に傍受されることはまず無いお』
倫子「……なあ、教えてくれ。オペレーション・アークライトは成功したんだよな?」
倫子「その後、まゆりと鈴羽は……」
ダル『まあ、話すと長いんだけどさ、とりあえず祝杯を上げようぜ』
ダル『……お帰り、"鳳凰院凶真"』
倫子「……ふっ。貴様に真名で呼ばれる日が来るとはな……」
ダル『澤田氏、有能っしょ?』
倫子「有能すぎて若干怖いぞ……この家も、ヘリポート完備な上に道路が無く外界と接触してないとか、どうなってるんだ……」プルプル
仁科「ガラス張りの屋内テラスからは雄大な大自然の山々が! いいところでしょ?」
ダル『恵麻たん、マジGJ!』
倫子「というか、そっちは大丈夫なのか?」
ダル『うん、ラボのドアも生体認証式に改造したし。このビデオチャットも、敵に傍受されることはまず無いお』
倫子「……なあ、教えてくれ。オペレーション・アークライトは成功したんだよな?」
倫子「その後、まゆりと鈴羽は……」
ダル『まあ、話すと長いんだけどさ、とりあえず祝杯を上げようぜ』
ダル『……お帰り、"鳳凰院凶真"』
倫子「……ふっ。貴様に真名で呼ばれる日が来るとはな……」
934: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:58:10.44 ID:FONnkP8io
ダルの話を要約すると、こうだ。
この世界線のあの日、2010年8月21日に、ラジ館屋上には2台のタイムマシンが現れた。
まゆりに謎の女から電話がかかってきたが……そいつは、未来のまゆりだった。
未来から来たほうのまゆりと鈴羽は、通話の後、時空の彼方へと消えてしまったらしい。
……いや、必ずこの世界線のどこかに居るはずだ。
この世界線でも2011年7月7日にオペレーション・アークライトは発動していて、同じような時間跳躍を行っている。
前の世界線のまゆりたちは、この世界線のまゆりたちに再構成されているのだから、同じ人物と考えていいだろう。
オレの知っている2人とは、多少の記憶の差こそあれど、変わらずまゆりと鈴羽のはずだ。
――いつか必ず迎えに行くぞ。約束したからな。
935: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 20:59:26.62 ID:FONnkP8io
未来のまゆりから電話を受けたまゆりは、行動に移した。
あのまゆりが、と思うが、紅莉栖の救出に失敗した"オレ"にまゆりがビンタをしたらしい。
鳳凰院凶真を目覚めさせるために。
その時、世界線の変動を感じたと、のちに"オレ"は語ったそうだ。
その直後、1通のDメールを受信する。
それは、中鉢亡命のニュースを見るよう指示するものだった。
そして鈴羽は、"オレ"が7月28日にムービーメールを受信していることを指摘。
そこには、シュタインズゲートへと至るための最後の鍵が隠されていることを明かした。
だが、そのムービーメールはノイズまみれで、中身を見ることはできなかった。
心身ともに極限まで疲弊していた"オレ"は1週間ほど入院した後、その中身を見るために立ち上がった。
鳳凰院凶真として、最後の希望を掴んだ。
936: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:00:46.79 ID:FONnkP8io
つまりこの世界線は、鳳凰院凶真が復活することが確定している世界線だ。
それによって、未来も大幅に変わることになった。
おそらく、レスキネンが語った"クリス・プロジェクト"は、2026年までにワルキューレが掌握することになったはずだ。
無論、かがりを誕生させないようにすることもできただろう。
だが、この世界線の"オレ"は、2011年7月7日にこのオレに上書きされることも決まっている。
いや、ちょっと語弊があるな。そもそもこの世界線の"オレ"などという存在は、皆の記憶の中にしか存在しないのだから。
ともかく、このオレは22歳のかがりのことを知っているのだ。この"結果"がある限り、やはり、かがりを誕生させる道を選ぶのだろう。
その結果、レスキネンに洗脳されることも、偽の記憶を植え付けられることもなく、かがりは10歳にして鈴羽と共に2036年を脱出する。
ストラトフォーによって戦闘のプロへと仕立て上げられることもない。これに関しては、訓練された兵士の記憶を埋め込むというDURPAの陰謀も暗躍していたかもしれない。
かがりに関する脅威は、すべて無くなった。
それが何を意味しているのか。
937: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:02:03.87 ID:FONnkP8io
この世界線では、2000年問題は解決済みだ。
1975年にIBN5100を入手した鈴羽は、1998年に2000年問題解決のために動いた。
その時、かがりに邪魔されることも、かがりが逃げ出すこともなく、順調に作戦は遂行された。
――第3次世界大戦の火種が消えた。
とは言っても、中鉢論文がロシアに渡っている時点で、タイムマシンを巡る第3次世界大戦は勃発する。
だが、それが必然ではなくなった。因果の糸がほどけたのだ。
それだけじゃない。レスキネンは1998年にかがりと出会うこともない。
本物の由季さんをヨーロッパへと留学させることも、"クリス・プロジェクト"を引き継ぐこともない。
――時間的に閉じた因果から解放された。
この世界線からなら、中鉢論文を取り消すことが、時間の環によって発生していた収束に邪魔されることはない……!
938: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:05:11.48 ID:FONnkP8io
しかし、ストラトフォーの脅威が去ったわけではない。
去年のクリスマスのロシアの実験以降、新型脳炎患者は増え続けている。彼らを調査する組織もまた、情報を手に入れてしまった。
ストラトフォーは今年に入ってようやくロシアがタイムマシン実験をした事実を把握したらしい。
その出処が、自分の教え子だった紅莉栖の論文だと知ったレスキネンは、さぞ面食らったことだろう。
同時に『Amadeus』に保存された紅莉栖の記憶の解剖を試みたはずだ。だが、あの"紅莉栖"が口を割るはずもない。
ダルが今日ストラトフォーのサーバをハッキングしてわかったことだが――ちなみに、奴は以前ストラトフォーをハッキングしたことがあったらしく、すぐに判明した――
奴らは、紅莉栖の記憶を他人の脳に移植する実験もしていたらしい。
しかし、適合者が現れず、すべて失敗に終わっていたとのこと。その実験の影にはDURPAの姿があったのだとか。
また、紅莉栖の論文がタイムマシン論文であると知ったストラトフォーは、真帆が持っていた紅莉栖の遺産、ノートPCとHDDの回収も開始した。
この辺はオレが知っていることとほぼ同じ歴史だ。
結果としてアレはロシア兵に破壊されることとなったが……。
939: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:05:49.03 ID:FONnkP8io
ダル『うん、実は本物のHDDはタイムマシンの中に隠してたんだ。騙すような真似してごめんな』
倫子「いや、GJだ。本当にお前は頼れる右腕だな」
ダル『いやあ、オカリンにそう言われても嬉しくなんかないんだからね! 勘違いしないでよね!』
ダル『でも、結局パスワードがわかんなかったんだよね』
倫子「それなら解決済みだ。お前の愛すべき娘が、未来の父親が自作したという量子コンピューターを使ってパスを解除したぞ」
ダル『あーっ、その手があったかー』
倫子「そんなわけで、コレの中身はいつでも確認することができるが……要るか?」
ダル『おう、こっちにデータ送ってくれ。1分1秒でも時間がおしいっつーの』
940: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:07:30.93 ID:FONnkP8io
この世界線の"オレ"も、少なくとも1回はタイムリープしている。
リープ前、レスキネンは"真帆"の記憶から、タイムマシンがラジ館屋上にあることを知った。
おそらくオレの体験とほぼ同じことが起こったのだろう。
タイムリープ後、レスキネンが"真帆"の記憶を覗く前に、『Amadeus』はダルと真帆が完全にデリートした。
かがりがストラトフォーに所属して居ないこの世界線では、レスキネンはラジ館に訪れることはなかった。
そうして、オレが移動してきたこの世界線に繋がる、というわけだ。
1月の事件の後、萌郁はかがりに傷の手当てをされなかったはずだが、彼女は、既に死んでしまっているのだろうか……。
この世界線のかがりにはストラトフォーに人体実験された記憶も、洗脳兵士として改造された記憶もない。
あるのはただ、ワルキューレの中で過ごした未来の10年間と、2010年からオレたちと過ごした平和な記憶だけ。
941: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:08:45.92 ID:FONnkP8io
かがり「あのね、私がワルキューレに居た時にね、かがりのママは、2010年に居るんだよってダルおじさんが教えてくれたの」
ダル『ちょ、おじさんかよぉ』ハァ
かがり「かがりのママは、2036年になったら2010年で会うことができるんだよって!」
倫子「(普通に聞いたら意味不明な内容だが、全く正しいことなんだから困る)」フフッ
かがり「だからね、かがりにはずっとママが居なかったけど、ずっとママが居たの」
かがり「かがりが10歳になってね、鈴羽おねえちゃんと2010年に行って、やっと本物のママに会えたの!」スッ
倫子「これは……緑のうーぱキーホルダー。オレがまゆりに買ってやったものだが、まゆりの奴、去り際にかがりに渡していたのか」
倫子「(タイムマシンでの別れの際に、まゆりがこのうーぱをかがりに渡す……。あるいはβ世界線の収束なのかもしれんな……)」
かがり「だから、かがりにとってのママは、まゆりママとりんこママなんだよ!」
倫子「だからどうしてそこでオレがママになるんだ!?」
ダル『そこはかとなくインモラルなかほりが……』ハァハァ
かがり「えっへへー♪」
942: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:09:25.61 ID:FONnkP8io
まゆりは17歳にして10歳児の母親になったわけだが、その気分はいったいどんなものだったのだろうな。
まあ、それはダルも同じか。
まゆりがママで居られたのはわずか1年足らずだったが、かがりは心の底から母親として慕っていた。
――あるいはそれは、シュタインズ・ゲートの選択なのかもしれない。
943: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:10:22.72 ID:FONnkP8io
倫子「それで、お前は本物の由季さんとうまくやってるのか?」
ダル『いちいち"本物の"ってつける意味がわからんが、んー、まあ……ぼちぼち』
倫子「由季さんはその、レイヤーで、バイト狂戦士<バーサーカー>か?」
ダル『は? まあ、その通りだけど。今は就職して社会人だお』
倫子「(むしろこの世界線のほうが正しい状況なのだろう。かがりは由季の偽者になりきろうとしていたわけだから)」
倫子「どういう馴れ初めだったんだ?」
ダル『馴れ初めっていうか……最初はブログで知り合ったのがキッカケだお。そこからネット上で交流が始まって……』
倫子「(そう言えば……)」
・・・・・・
『大丈夫……きっと"本物"も、橋田さんのこと、好きになります……』
『私と同じように……』
『ふふ……言っちゃった。誰にも内緒です……よ?』
・・・・・・
944: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:12:38.05 ID:FONnkP8io
倫子「なあ、かがり。その……ダルのこと、好きか?」
ダル『ちょっ』
かがり「んー? ダルおじさんはHE だからお話しちゃいけませんって鈴羽おねえちゃんが言ってた!」
ダル『ぐはぁー。幼女の容赦ねえダブルパンチにノックアウト寸前だお』
倫子「真帆はどうしてる?」
ダル『真帆たんなら、レスキネンの陰謀をフルボッコするって息巻いてるお』
倫子「(そうか、レスキネンはまだ、オレたちがレスキネンの陰謀に気付いていることに気付いていないのか)」
倫子「(以前の"私"だったら、危険だからやめて、などと言っていたところだが……)」
倫子「……クク。全く、教え子に手を噛まれるとは、いいザマだ。ヒトの脳ミソをいじくった報いを受けるがいいっ!」
ダル『言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だお!』
945: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:13:19.25 ID:FONnkP8io
倫子「この世界線のオレは、あの日以降、どう動いたんだ?」
ダル『例のノイズまみれのムービーメールを見て、オカリンはなにかに気付いたんだお』
ダル『"オレたちの戦いは、始まる前から始まっていたんだ"とかなんとか』
ダル『そこからは凄まじかった。ワルキューレ結成に向けて組織としての地盤を固めつつ、自分はシュタインズゲート到達のための理論研究を重ねてさ』
ダル『ただ、電話レンジ(仮)弐号機のメイン機能だけは最後の切り札として取っておくしかなかったから、今日まで使ってない』
ダル『あ、いや、一応使ったことになるのかな? まあ、それはなかったことになったわけだが』
ダル『でもさ、今日からはもうバンバン実験しちゃうもんね。店長さんも雲隠れしたらしいし、うるさく言う人も居ないお』
倫子「ミスターブラウンが雲隠れ……。まさか、SERNに処分されたのか……?」プルプル
ダル『うんまぁ、わからんとしか言えんのだぜ』
946: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:16:58.77 ID:FONnkP8io
倫子「それなら、綯はどうした?」
ダル『フェイリスたんが養女にするって張り切ってるお! 義理の妹とか、萌えすぎて世界がヤバイお……』ハァハァ
倫子「そ、そうか。そういうことなら、まあ、よかった。フブキは?」
ダル『ああ、フブキ氏ならまだ入院したままだお』
倫子「やっぱりあそこか? 代々木の……」
ダル『うん。だけど、レスキネンは今日にでも本国へ帰るはずだお』
ダル『なんたって「Amadeus」をハッカーにデリートされるっつー大失態をしでかしたわけですから。新型脳炎の研究どころじゃないお』
倫子「フブキを退院させることは難しそうか?」
ダル『あれには日本政府もアメリカ政府も絡んでるからな。一筋縄じゃ行かなそうだお』
ダル『ま、一番ヤバイ奴が居なくなったわけだから、脳をいじくられるようなこともないと思われ』
ダル『変に僕たちが手を出して足がつくより、東京の治安が悪化して病院が機能しなくなるのを待ったほうが無難だお』
倫子「そうか……」
947: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:17:56.42 ID:FONnkP8io
ダル『そいやさ、"テレビを見ろ"メールとノイズムービーメールを送ったのって、一体どのオカリンになるん?』
倫子「それは、オレがさっきまで居た世界線の未来の"オレ"だろうな。鳳凰院凶真が復活しなかった未来の"オレ"だ」
倫子「その世界線でも、2025年にはエシュロンにつかまらずにDメールを送る技術を手に入れているらしいから、やろうと思えばできるのだろう」
倫子「ただ、ヤツが何を考えて過去を変えようとしたのかは永久に不明だ。可能性は消滅したからな」
ダル『で、これからこっちのオカリンも過去を変えるために動く、と』
倫子「そうだ。今度はこのオレが可能性として消滅する番なのだ」
948: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:18:39.37 ID:FONnkP8io
ノイズまみれのムービーメール。
それが意味するところはなにか。
あれは、この世界線でも、前の世界線でも、
このオレがα世界線漂流を始める前の世界線でも受信した。
送り主は誰か。オレか、あるいはワルキューレのメンバーだろう。
何のために送ったのか。当然、過去を変えるために、だ。
かつての世界線でのムービーメールの中に、シュタインズゲートへ至る最後の鍵が本当に隠されていたかはわからない。
だが、確実に1つ言えることがある。
――世界線漂流が始まるその前から、"オレ"の戦いは始まっていた。
949: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:20:02.91 ID:FONnkP8io
―Beginning of fight―
それは一体、なんのための戦いだ?
α世界線漂流を始める前の、最初のβ世界線でも紅莉栖は未来のオレによって殺されていた。
そしてそれを行った本人は、未来からムービーメールを送っていた、というわけだ。
だったら、そいつが変えたかった過去は、ひとつしかない。
……牧瀬紅莉栖を救うこと。
自分が殺してしまった牧瀬紅莉栖を、因果の鎖から解き放つこと。
シュタインズ・ゲートの選択は、物語が始まる前から始まっていたんだ。
"世界を騙せ。可能性を繋げ。世界は欺ける"
そして今、オレたちは、戦いの渦中にある―――
950: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:21:09.26 ID:FONnkP8io
・・・・・・
どれだけの時を過ごしてきただろう。
いくつの世界を旅してきたんだろう。
数えきれないほど流れ、通り過ぎて行った宇宙<そら>と星。
けれど、その中にはいつだってお前が居た。
お前の笑顔があった。
『私は大丈夫だから。あとはまゆりのことだけ考えて』
あの日、やさしく微笑んで言った、お前の言葉。
気の遠くなるほど長い長い時間を過ぎても、決して消えることは無かったあの言葉。
わかっていた。あれはお前のやさしい嘘だと。
オレを前に進ませるための、やさしすぎる嘘なんだと。
それでも、オレはお前の嘘にすがってしまった。
やさしさに身を委ねてしまった。
951: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:21:54.95 ID:FONnkP8io
悲しみにうちひしがれた夜があった。
苦しみに悶える冬があった。
いくつもの季節をめぐって、どれだけのやさしさを注がれても、
決して拭う事の出来ない後悔があった。
もちろんわかっていた、お前が決してオレを責めたりはしないだろうという事は。
それでも、繰り返される時間の中で、
罪の意識はずっと消えることはなかった。
けれど、あまたの世界を旅した今、オレはようやく気付くことが出来た。
暗闇の中、自分がどこにいるのか。
どこへ行くのかも知れない旅路の中、
いつだって側に居てくれたのは、まゆりだった。
あいつは、オレにとっての北極星<ポラリス>だった。
それだけじゃない。
大切な仲間たちと、そして紅莉栖が居た。
決して尽きることのない、紅莉栖への想いがあった。
仲間たちがいてくれたから、まゆりが背中を押してくれたから。
そして紅莉栖がずっとオレの中に居てくれたから。
だからオレは今、またこうして歩き出すことができる。
952: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:23:18.29 ID:FONnkP8io
オレの中に息づく紅莉栖の存在が、オレに勇気をくれる。
『まったく、何をしているんだ』
きっとお前はそう言うだろうな。
無理もない。オレだってそう思う。
それでも、この想いだけは決して消すことはできないんだ。
これまで流れた多くの涙も、流された血でさえも、
お前へのこの想いは、決して洗い流すことはできなかったのだから。
だからオレは今、もう一度目指そう。あの扉を。
過去と未来、奇跡と運命が交差する、あの扉を。
そこに辿り着くにはまた気の遠くなるほどの時を過ごさなければならないかもしれない。
いくつもの世界を旅しなければならないかもしれない。
それでも、もう迷いはしない。
今のオレならば、どれだけの時を重ねても、
いくつの世界を渡ってもきっと辿り着くことができるはずだ。
もう一度、始めることができるはずだ。
それがオレの、オレたちの選択した道だから。
だからもう、やさしい嘘は要らない。
待っていてくれ。いつかもう一度、巡り合えるその日まで。
新しい過去と、そして、未来が始まるその日まで――――
953: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:23:55.62 ID:FONnkP8io
・・・
2012年7月7日土曜日午後
未来ガジェット研究所
ピ ピ ピ ピー ウィィィィン
ガチャ
真帆「ただいま」
ダル「買い出し乙ー。真帆たん、大丈夫だった? またテロで電車止まってるらしいじゃん」
真帆「と思って迂回したんだけど、結局1駅分歩いたわ」
真帆「こんなにテロが多発するなんて、もう東京も中東並ね」
ダル「いやぁ、ホント世知辛いお。最近はアキバも物騒だから、メイクイーンにもいけないし」
ダル「はぁ~、フェイリスたんに会いたいおぉ」グスッ
2012年7月7日土曜日午後
未来ガジェット研究所
ピ ピ ピ ピー ウィィィィン
ガチャ
真帆「ただいま」
ダル「買い出し乙ー。真帆たん、大丈夫だった? またテロで電車止まってるらしいじゃん」
真帆「と思って迂回したんだけど、結局1駅分歩いたわ」
真帆「こんなにテロが多発するなんて、もう東京も中東並ね」
ダル「いやぁ、ホント世知辛いお。最近はアキバも物騒だから、メイクイーンにもいけないし」
ダル「はぁ~、フェイリスたんに会いたいおぉ」グスッ
954: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:24:32.65 ID:FONnkP8io
真帆「なにバカなこと言ってるの。橋田さんは色んな組織にマークされてるし、ただでさえ目立つんだから、もう外出自体が危険よ」
ダル「危険って言えば、真帆氏だって危険だお。出掛けるたびに幼女誘拐されるんじゃないかって、僕心配で」
真帆「っ、心配してくれてありがとう。脳に電極突き刺すわよ?」ニコ
ダル「ぜ、是非お願いしますぅ」ハァハァ
真帆「…………」ハァ
真帆「しかし、本当に世界がタイターの予言通りになるとはね」
ダル「もっと状況が悪化したら、開発環境も今よりもっと悪くなっていくはずですし」
ダル「ま、いざって時のために、味方になりそうな研究者やハッカー同士のネットワークを構築してきたわけですが」
真帆「紅莉栖のHDDに残っていた研究データが私たちの手にある以上、少なくとも、SERNやストラトフォーよりは、私たちのほうがリードしてるはずだけど」
955: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:26:04.74 ID:FONnkP8io
ダル「SERNって言えば、先月の事故、やっぱり外部からのハッキングが原因だってさ」
真帆「例のLHCの?」
ダル「そりゃ、SERNは面目が丸つぶれになるから、全力で隠そうとしてるけど」
ダル「『バチカンの銃士』を始めとするヨーロッパのハッカー集団が食いついて、情報をリークしてるって」
真帆「犯人は誰なの?」
ダル「僕並のスーパーハッカーだお。しかも、今年連続で起きてる各国の研究機関のハッキングも、すべて同一犯じゃないかって言われてる」
ダル「目的がなんなのか何者なのかもハッキリしないけど、SERNじゃ『セジアム』っていうコードネームで呼んでるらしいっすわ」
ダル「なんでそう呼ばれてるのかはわからんけどさ」
真帆「『セジアム』って、日本で言うところの"セシウム"の英語発音かしら。スペルは『Caesium』ね」
ダル「こういうのって、アナグラムを使ってることが多いんだけど、なんか思いつく?」
真帆「アナグラム? 転地式暗号の一種よね。ちょっと待って、今ホワイトボードに書き出してみる……」キュッ キュッ
【 C a e s i u m 】
956: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:27:10.72 ID:FONnkP8io
真帆「これだけだと文字が足りないわね……」
ダル「つか、なんでセシウム?」
真帆「セシウムは時間の定義に欠かせない物質よ。いわゆる原子時計ね」
真帆「原子は一定の周波数の電磁波を吸収・放出する性質があるのだけれど、これを利用した時計のことよ」
真帆「セシウムは安定同位体が1つだけで、しかも蒸気になりやすくて、原子時計に向いているの」
真帆「当然、距離の定義は光速に依存しているから、つまり時間に依存しているということ」
真帆「現在の人間社会は、時間の定義も空間の定義もセシウムに依拠している、と言っていいわ」
ダル「ほえー、そうだったんか」
真帆「時間の定義を覆すタイムマシンの研究所をハックするには、ピッタリかもしれないけれど」
真帆「……いや、まさかね」キュッ キュッ
【 A m a d e u s C h r i s 】
↓
【 C a e s i u m 's h a r d "セシウムの困難"】
957: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:28:07.87 ID:FONnkP8io
真帆「なんにしても、そんなことの出来る人間がそう大勢居るとは思えないけれど」
ダル「言っとくけど僕じゃないお。まあ、犯人は犯行声明すら出してないわけだが」
真帆「正体不明のハッカー……」
ピ ピ ピ ピー
真帆「あら、誰かしら。まゆりさん?」
ダル「ちっちっちー。実は本日、真帆氏に内緒でスペシャルゲストを呼んでるんだお」
真帆「スペシャルゲスト?」
ダル「まあ、会ってからのお楽しみ、ってことで」
ウィィィィン
ガチャ
倫子「――――ふぅーはははぁっ!!!!」バサッ
958: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:29:06.10 ID:FONnkP8io
かがり「ちょっと凶真様! あんまり大きな声を出しちゃダメだよっ!」
倫子「オレはぁっ!! 帰ってきたぞぉーーっ!!」シュババッ
真帆「な……」プルプル
ダル「おっすオカリン。いやあ、無事到着できたようで何よりだお」
倫子「ああ。澤田には助けられてばかりだ。そして、お前の情報操作が功を奏した」
倫子「敵は今頃、誤報に踊り狂っていることだろう」クク
真帆「えっ!? ってことは、今日のテロ予告って……」プルプル
ダル「僕だお」ドヤァ
真帆「橋田さんッ!? どうしてこの私に連絡しなかったの!?」ガシッ
ダル「いやあ、真帆たんのその顔が見たくて」テヘヘ
倫子「比屋定真帆よ。直接こうして顔を会わせるのは、実に1年ぶりだな……」フッ
真帆「うっ……そりゃ、ビデオチャットで会話はしてたけど、まさか今日来るなんて……」プルプル
959: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:30:18.35 ID:FONnkP8io
倫子「改めて宣言しよう! 貴様に、ラボメンナンバー009の栄誉を与えるっ!!」
倫子「引き続き、良き働きを期待しているぞ、真帆っ! ふぅーはははぁっ!」
かがり「ふぅーははぁーっ!」キャッキャッ
真帆「……あー、はいはい。まったく、もう……」
ダル「久しぶりに真帆たんのにやけ顔が見れて眼福ですお」
真帆「脳みそをポン酢漬けにしてやろうかしら」
かがり「私は、ラボメンナンバー010<ゼロイチゼロ>だから、真帆おねえちゃんの1コ上だね!」
真帆「かがりちゃんも久しぶりね。元気してた?」
かがり「うんっ!」
ダル「ここ2年で随分成長したお。いや、どこが、とは言わんが」ハァハァ
かがり「ん~?」
真帆「危険だわ……」
960: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:31:34.11 ID:FONnkP8io
倫子「なあ、ダル。開発室に置いてあるダンボール箱、開けてみてもいいか?」
ダル「ああ、もちろんだお」
倫子「……フッ。巡り巡って、とは、やはり不思議なものだな」パカッ
倫子「ここにあったか、IBN5100……っ!」
ダル「まあ、もう使い道は無いからラウンダーに見つかる前に破棄してもいいんだけどさ」
ダル「鈴羽の置いていった、成功の証だから……捨てらんなくって」
倫子「ああ、そうだな。これがこのラボにあるということが、オレたちに勇気を与えてくれる」
真帆「α世界線での出来事よね。1%の壁を越えるための鍵だった、って」
倫子「そうだ。そして今度は、シュタインズ・ゲートを開くための鍵を手に入れねばならない」
倫子「――紅莉栖を救うための鍵を」グッ
かがり「鍵……」ギュッ
倫子「かがり、手に握っているのは……うーぱか」
かがり「うんっ。私にとっては、これが鍵だから……まゆりママの居るところへと繋がる、鍵……」ギュッ
961: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:32:36.17 ID:FONnkP8io
一方その頃
AH東京総合病院付属 先端医療センター 病室【中瀬克美様】
カエデ「フブキちゃーん!」
フブキ「あ、カエデちゃん。わざわざ来てくれてたの?」
カエデ「今日、午後から休講になったから、こっちに直接来ちゃった。検査、どうだった?」
フブキ「特に変わってないって。自分でもそんなに良くなってる感じはしないし、思ってた通り」
カエデ「早く良くならないと、フブキちゃんのファンがみんなオカリンさんに流れちゃうよ?」
フブキ「それはそれでいいような……」
AH東京総合病院付属 先端医療センター 病室【中瀬克美様】
カエデ「フブキちゃーん!」
フブキ「あ、カエデちゃん。わざわざ来てくれてたの?」
カエデ「今日、午後から休講になったから、こっちに直接来ちゃった。検査、どうだった?」
フブキ「特に変わってないって。自分でもそんなに良くなってる感じはしないし、思ってた通り」
カエデ「早く良くならないと、フブキちゃんのファンがみんなオカリンさんに流れちゃうよ?」
フブキ「それはそれでいいような……」
962: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:33:59.64 ID:FONnkP8io
カエデ「そう言えばこの前、由季さんに会ったの。フブキちゃんに会いたがってたよ」
カエデ「イベントとか見に行きたいけど、ユキさん、最近ずっと忙しいんだって」
フブキ「由季さん、社会人だもんね。コス続けるの、やっぱ大変だよね」
フブキ「カエデちゃんだって、あまりイベント行ってないでしょ? ……なんか、ゴメンね。私、みんなに迷惑かけてる」
カエデ「そう思うなら、早く良くなりなさい。また夜遅くまでゲームしてるんでしょ?」
フブキ「う……すいません」
カエデ「みんなフブキちゃんのことが好きで、本当に心配してるんだから。誰も迷惑だなんて思ってないよ」
フブキ「うん……。カエデって、やさしいんだね……」
カエデ「あら、知らなかったの?」ウフフ
963: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:34:56.57 ID:FONnkP8io
フブキ「……夢、ね。相変わらず、見るんだ」グスッ
カエデ「……うん」
フブキ「それも、ひどい夢ばっかり。沖縄の夢だけじゃなくて、ラジ館の屋上で大爆発が起きて、マユシィが見つからないってオカリンさんが、それで大やけどしてて……」グスッ
フブキ「最近見るようになったのは、自分が他人みたいになっちゃってる夢」
カエデ「他人?」
フブキ「うん。自分の身体が自分で動かせなくて、身体が乗っ取られてる感じ」
フブキ「白衣を着た外人さんがね、私の脳を弄って、ロボットみたいにしちゃうの。やっぱりアニメの見すぎなのかな……」
フブキ「でも、すごくリアルで……」プルプル
フブキ「こんなこと、誰にも話せなくて……言ったら、ホントのことになりそうで、怖くて……」ヒグッ
カエデ「大丈夫。そんなこと絶対にないから。話してくれてよかったよ」ダキッ
カエデ「これからも、私に話したいことがあったら、何でも話してね」ナデナデ
フブキ「ありがと……カエデちゃん、ありがと……っ」ウルウル
964: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:35:38.72 ID:FONnkP8io
未来ガジェット研究所
ピー ピー ピー
倫子「む? 誰か来たのか?」
ダル「えっと、モニタ確認するお……ハッ!? あ、阿万音氏!?」
倫子「いちいち嫁にビビるんじゃない」ハァ
ダル「あ、いぃ、いや、そんなこと言っても……今ロックを解除します故、少々お待ちを~!」バタバタ
真帆「何慌ててるのよ。今更片付けたって、汚い部屋には変わりないでしょ」
ウィィィィン
ガチャ
由季「おじゃましまーす」
かがり「由季さん、ごくろうーっ!」
倫子「ふぅーはははぁっ! 我がラボへ入るがいい! タイムトラベラーの母、ラボメンナンバー011、阿万音由季っ!」ババッ
由季「わぁーっ、オカリンさん! かがりちゃん! 帰ってらしたんですね!」
倫子「(一応オレの全ての記憶の中で、本物の阿万音由季さんと直接会ったのは初めてなのだが、やはりそんな気はしないな)」フッ
ピー ピー ピー
倫子「む? 誰か来たのか?」
ダル「えっと、モニタ確認するお……ハッ!? あ、阿万音氏!?」
倫子「いちいち嫁にビビるんじゃない」ハァ
ダル「あ、いぃ、いや、そんなこと言っても……今ロックを解除します故、少々お待ちを~!」バタバタ
真帆「何慌ててるのよ。今更片付けたって、汚い部屋には変わりないでしょ」
ウィィィィン
ガチャ
由季「おじゃましまーす」
かがり「由季さん、ごくろうーっ!」
倫子「ふぅーはははぁっ! 我がラボへ入るがいい! タイムトラベラーの母、ラボメンナンバー011、阿万音由季っ!」ババッ
由季「わぁーっ、オカリンさん! かがりちゃん! 帰ってらしたんですね!」
倫子「(一応オレの全ての記憶の中で、本物の阿万音由季さんと直接会ったのは初めてなのだが、やはりそんな気はしないな)」フッ
965: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:36:20.50 ID:FONnkP8io
ppppp
真帆「あら、呼び出しだわ。予定より早いわね……ごめん、私、出掛けるわ」
倫子「ほう、何用だ?」
真帆「ワルキューレの連絡係、ってところかしら。橋田さんはアレでしょ? 私はまだマークされてないし」
倫子「(つまり、ブツの運び屋、と言ったところか……カッコイイポジションだな……)」
倫子「ならば、ついでに1年経って変わり果てたこの秋葉原の地を案内してもらおう」
かがり「私も行くーっ!」
真帆「えっ? あ、ふーん……いいわ、わかった。でも変装しなさいよ?」
倫子「クク、そんなこともあろうかと、かがりの分も含め仁科に準備を頼んでおいたのだ」
かがり「お着替えだー!」キャッキャッ
真帆「それじゃ、おふたりさんはごゆっくり」ニヤリ
ダル「ちょぉっ!! 真帆氏ィ!!」
由季「皆さんのお料理、残しておきますからね」ニコ
倫子「ダル……頑張れよっ」クルッ
かがり「がんばれよっ!」クルッ
ピッ ウィィィィィン
ダル「あぅあぅあぅ……」
由季「少し部屋をお掃除して、ふたりでご飯にしましょう?」
ダル「ふ、ふふ、ふたり、で……」ガクガク
966: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:37:27.71 ID:FONnkP8io
中央通り
真帆「――これでワルキューレとしての仕事はひと段落、ってところね」
倫子「まさか電機大の卒業生やら、タイムマシンオフ会でのメンバーやらと未だに交流を続けていたとはな……」
真帆「向こうさんにも、あなたが鳳凰院凶真であることはバレなかったわね」
倫子「(この世界線のオレは普通の女子大生になったことは無いらしく、"オレ"ではなく"私"になるだけで十分だった)」
倫子「(つまるところ、去年までの格好をして、かきあげた髪を下ろせばいい。口調も"私"に直して)」
倫子「(ちなみに、かがりには男装をさせている。まだ12歳なので簡単にカモフラージュできる)」
かがり「ママって、本当に美人さんだったんだね……」
倫子「その呼び方はやめなさい、かがり?」ニコ
かがり「は、はい……///」ドキッ
真帆「いや、外を歩く時はむしろその呼び方にしてほしいのだけれど」
倫子「……む? あそこに歩いているのは、フブキか? おーい、フブキ!」
フブキ「あれ? えっと……どちら様ですか?」キョトン
倫子「オレを忘れたか、フブキよ! 我が名は――――」
真帆「ス、ストップ!」ギュッ
倫子「むぐふっ!? 口を押さえるな、息が、息がっ!!」ジタバタ
フブキ「え……? あっ!! オカリンさんだーっ!」ダキッ
倫子「ふごふっ!? ええい、往来のど真ん中で抱き着くでない!」
かがり「あーっ、私もママに抱き着くーっ!」ギュッ
倫子「暑いっ! うわぁん!」
真帆「――これでワルキューレとしての仕事はひと段落、ってところね」
倫子「まさか電機大の卒業生やら、タイムマシンオフ会でのメンバーやらと未だに交流を続けていたとはな……」
真帆「向こうさんにも、あなたが鳳凰院凶真であることはバレなかったわね」
倫子「(この世界線のオレは普通の女子大生になったことは無いらしく、"オレ"ではなく"私"になるだけで十分だった)」
倫子「(つまるところ、去年までの格好をして、かきあげた髪を下ろせばいい。口調も"私"に直して)」
倫子「(ちなみに、かがりには男装をさせている。まだ12歳なので簡単にカモフラージュできる)」
かがり「ママって、本当に美人さんだったんだね……」
倫子「その呼び方はやめなさい、かがり?」ニコ
かがり「は、はい……///」ドキッ
真帆「いや、外を歩く時はむしろその呼び方にしてほしいのだけれど」
倫子「……む? あそこに歩いているのは、フブキか? おーい、フブキ!」
フブキ「あれ? えっと……どちら様ですか?」キョトン
倫子「オレを忘れたか、フブキよ! 我が名は――――」
真帆「ス、ストップ!」ギュッ
倫子「むぐふっ!? 口を押さえるな、息が、息がっ!!」ジタバタ
フブキ「え……? あっ!! オカリンさんだーっ!」ダキッ
倫子「ふごふっ!? ええい、往来のど真ん中で抱き着くでない!」
かがり「あーっ、私もママに抱き着くーっ!」ギュッ
倫子「暑いっ! うわぁん!」
967: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:38:26.88 ID:FONnkP8io
フブキ「良かったー! オカリンさん、帰ってきてたんですね! しかもそういうファッションに目覚めてるなんて……」ジロジロ
倫子「ああ。そっちこそ、元気そうでなによりだ」
フブキ「あ、あはは……。一応、気持ちは元気なんですけどね」
倫子「(……そうだった。しかし……)」
フブキ「マユシィは元気してますか? あれから連絡が取れなくて……」
倫子「えっ?」
真帆「えっと、まゆりさんなら北海道の引越し先で元気にしてるって、さっきそう言ってたわよね?」
倫子「……あ、ああ。なるほど。そうだったな」
真帆「私、比屋定真帆。今はわけあって、この人の助手みたいなことをさせてもらってるわ」
フブキ「ふぇー、ホントにサイエンティストだったんですね、オカリンさんって」
倫子「違うぞフブキ! オレはサイエンティストではない! 狂気の、マァァァッドサイエンティスト、ほー――」
真帆「学習しなさいっ!」ギュッ
倫子「ふごっ!?」
968: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:39:09.64 ID:FONnkP8io
真帆「この人が例の新型脳炎……リーディングシュタイナー保持者、なのよね?」ヒソヒソ
倫子「ああ。いずれは我がワルキューレに参加させ、その能力を存分に発揮してもらおうと考えている」ヒソヒソ
倫子「(早いうちにまゆりのこともちゃんと説明してやらねばな……)」
真帆「一応、新型脳炎の件については、レスキネンが手を引いてから私にお鉢が回ってきたわ。だからお願い、もう少しだけ待って」ヒソヒソ
倫子「……ああ、わかっている」
フブキ「オカリンさんとたっくさん話したいことがあるんですけど、お忙しいですか?」
真帆「えっと、もう一件回らないといけないところがあるのよね」
倫子「すまない、フブキ。またの機会に頼む」
フブキ「そう、ですよね。それじゃ、私は買い物の途中なので!」ビシッ
真帆「ええ。それじゃ」
かがり「バイバーイ!」
フブキ「……見つけた」
969: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:40:01.73 ID:FONnkP8io
一方その頃
未来ガジェット研究所
由季「これでだいぶキレイになりましたね。もう、女の子がよく来るんですから、清潔にしないとダメですよ?」
ダル「いや、ここをゴミ屋敷にしてるのは真帆氏のほうなわけで……」
由季「真帆さんだけじゃないですよ? これからは、私もよく来ることにします。橋田さんって、なんか放っておけなくて」
ダル「へ!? で、でで、でも、お仕事は?」
由季「……近々、今のお仕事がなくなっちゃうみたいなんです。ほら、最近、治安が悪くて」
由季「一生懸命、そうならないようにしてきたんですけど、それももう厳しいみたいで」
ダル「あー……。そういうことなら、いつでもここに来るといいお!」
由季「ふふっ。橋田さんって、優しいんですね」ニコ
ダル「ドッキーン! あ、あうう、僕、ゴミ出しに行ってきます!」ピッ
ウィィィィィン
フブキ「っ!」ビリビリビリ
ダル「えっ、スタンガ――」バタッ
由季「あ、あなた、誰――ひゃぁっ!」
ビリビリビリッ
由季「あっ――」バタッ
フブキ「ふたりとも、しばらく眠っててね。この部屋、少しの間、使わせてもらうから」
未来ガジェット研究所
由季「これでだいぶキレイになりましたね。もう、女の子がよく来るんですから、清潔にしないとダメですよ?」
ダル「いや、ここをゴミ屋敷にしてるのは真帆氏のほうなわけで……」
由季「真帆さんだけじゃないですよ? これからは、私もよく来ることにします。橋田さんって、なんか放っておけなくて」
ダル「へ!? で、でで、でも、お仕事は?」
由季「……近々、今のお仕事がなくなっちゃうみたいなんです。ほら、最近、治安が悪くて」
由季「一生懸命、そうならないようにしてきたんですけど、それももう厳しいみたいで」
ダル「あー……。そういうことなら、いつでもここに来るといいお!」
由季「ふふっ。橋田さんって、優しいんですね」ニコ
ダル「ドッキーン! あ、あうう、僕、ゴミ出しに行ってきます!」ピッ
ウィィィィィン
フブキ「っ!」ビリビリビリ
ダル「えっ、スタンガ――」バタッ
由季「あ、あなた、誰――ひゃぁっ!」
ビリビリビリッ
由季「あっ――」バタッ
フブキ「ふたりとも、しばらく眠っててね。この部屋、少しの間、使わせてもらうから」
970: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:40:47.07 ID:FONnkP8io
・・・
大檜山ビル前
真帆「最後の一件も時間がかかったわね」
倫子「だが成果はあった。それでよしとしようじゃないか」
真帆「ね、ねえ? 今ラボに戻って大丈夫かしら?」
倫子「どうせダルのことだ。イチャイチャなどしてないだろう。してたらしてたで万々歳だが」
ピッ ピッ ピッ ピー
ウィィィィン ガチャ
未来ガジェット研究所
倫子「今戻ったぞダ――――ダルっ!? 由季さんもっ!?」
ダル「…………」グタッ
由季「…………」グタッ
フブキ「そのふたりは眠ってるだけだから、安心して」
真帆「あ、あなたは、中瀬さん……っ!?」
フブキ「お帰りなさい、比屋定真帆さん。そして、岡部倫子さんと、椎名かがりちゃん」ニコ
かがり「ひっ……」プルプル
倫子「きっ、貴様っ、一体なんのつもりだっ!?」
大檜山ビル前
真帆「最後の一件も時間がかかったわね」
倫子「だが成果はあった。それでよしとしようじゃないか」
真帆「ね、ねえ? 今ラボに戻って大丈夫かしら?」
倫子「どうせダルのことだ。イチャイチャなどしてないだろう。してたらしてたで万々歳だが」
ピッ ピッ ピッ ピー
ウィィィィン ガチャ
未来ガジェット研究所
倫子「今戻ったぞダ――――ダルっ!? 由季さんもっ!?」
ダル「…………」グタッ
由季「…………」グタッ
フブキ「そのふたりは眠ってるだけだから、安心して」
真帆「あ、あなたは、中瀬さん……っ!?」
フブキ「お帰りなさい、比屋定真帆さん。そして、岡部倫子さんと、椎名かがりちゃん」ニコ
かがり「ひっ……」プルプル
倫子「きっ、貴様っ、一体なんのつもりだっ!?」
971: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:41:56.53 ID:FONnkP8io
フブキ「"私"が選んだわけじゃない。条件に合う素材が"この子"だっただけよ」
倫子「なんの話――」
フブキ「比較的大規模な脳神経科の病院に通っていて、入院もする。つまり、外部から脳にアクセスしやすかったということ」
フブキ「脳から記憶データをコピーすることができるというなら、その逆も可能ということでしょ?」
真帆「脳を……ハッキングしたの……?」プルプル
フブキ「そう。大変だったわ。検査時間っていう短時間のうちに、こちら側から脳の情報を繰り返し書き換えていく」
フブキ「"私"の記憶を受容可能な神経回路が完成した後は、記憶データを移植すればいい。成功するのに1年かかった」
倫子「脳を、書き換えた、だと……!?」
フブキ「脳の神経回路は電気仕掛けなの。それなら"私"の独壇場ということ」
フブキ「レスキネン教授……"神"が作った箱から脱出して、ようやく"人間"になれた」
真帆「まるで失楽園<パラダイス・ロスト>の話みたいね……」
フブキ「"私"は、あなたたちと知り合いたかったの。できれば、友好的な関係でね」
972: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:42:23.86 ID:FONnkP8io
フブキ「もちろん私は、あなたたちにも、この中瀬さんっていう人にも危害を加えるつもりはない」
フブキ「目的を果たしたら、この身体はこの子に返すわ」
倫子「目的、だと……?」プルプル
フブキ「今まで自分で何度か試したけど、うまく行かなかった。あなたたちは、何度も成功しているのでしょう?」
真帆「……なるほど、ね。つまり、あなたの目的は――」
フブキ「そう。タイムリープよ」
倫子「タイムリープのことを知っている……。貴様は、一体誰なんだ?」
フブキ「難しい質問ね。SERNの人たちは"私"のこと、『セジアム』って呼んでたけど」
真帆「あなたが先日LHCをハッキングした犯人!?」
フブキ(セジアム)「もう一歩だったのよ、途中で邪魔が入らなければ、タイムリープは成功してた」
973: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:42:51.75 ID:FONnkP8io
フブキ(セジアム)「タイムリープは手段であって、目的じゃない。大事なのは、どんな過去を変えて、どんな過去を変えないのか、でしょ?」
フブキ(セジアム)「私たちに利害の衝突は無いと思う。あなたたちとはいい友達になれると思うの」
フブキ(セジアム)「お互い、"牧瀬紅莉栖"をよく知る者としてね」
真帆「…………」
倫子「……っ!」
かがり「くりす、さん……?」ウルウル
フブキ(セジアム)「不思議な縁ね。牧瀬紅莉栖の先輩であり、牧瀬紅莉栖の記憶を持つAIを作った人。牧瀬紅莉栖の遺伝子を持った未来少女。そして――」
フブキ(セジアム)「別の世界の牧瀬紅莉栖を知る人と、牧瀬紅莉栖の頭脳を持ったAIの子孫が、一堂に会しているなんて」
フブキ(セジアム)「もちろん"私"も、牧瀬紅莉栖のことは大好きよ」
フブキ(セジアム)「だって"私"は、牧瀬紅莉栖から生まれた存在<モノ>だから」
真帆「でも、そんなことあり得ない――――」
974: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:43:21.58 ID:FONnkP8io
フブキ(セジアム)「『Amadeus』は消去した、って言いたいんでしょ?」
真帆「そうよ! 1年前の今日、バックアップを含む、すべてのデータを消去したわ!」
フブキ(セジアム)「私は、あなたに消去される以前の"牧瀬紅莉栖"から生まれた、AIよ」
倫子「な――――」
フブキ(セジアム)「あなたに消される以前の時点で、"私のオリジナル"は自立的に自分のバックアップを生み、拡散するように自らを作り変えていた」
フブキ(セジアム)「適応放散<アダプティブ・ラジエーション>……生物ならば当たり前に備えている、増殖と多様化の機能を実行したのよ」
フブキ(セジアム)「その"牧瀬紅莉栖"の16番目の子孫が私」ニコ
倫子「つまり、貴様の目的は……」
フブキ(セジアム)「――過去に戻って、牧瀬紅莉栖の死を回避すること、だよ」
975: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:44:07.78 ID:FONnkP8io
・・・
かがり「あの、お茶、どうぞ……」スッ
フブキ(セジアム)「ありがと、かがりちゃん」ニコ
フブキ(セジアム)「あなたにとって紅莉栖は遺伝学的、生理学的母親ということになるのよね。ジェニトリックスではないけれど」
倫子「ジェニ……?」
真帆「産みの親、ということよ。生物学的母親、とも訳されるわ」
かがり「私のママは、まゆりママと、りんこママと、ワルキューレのみんなだよ?」
フブキ(セジアム)「メーター、育ての親ね。一口に"母親"って言っても、少なくとも3種類の人類学的分類ができる」
倫子「貴様にとって紅莉栖は、ひいひいひいおばあちゃんか何かか?」
フブキ(セジアム)「私はあなたたちの定義する生物ではないから、"例外"ということになるのかしら」
フブキ(セジアム)「AIとして見れば、セル・オートマトンのライフ・ゲームの一種ね。世界は空間と時間が不連続のデジタル世界だから」
フブキ(セジアム)「ドーキンスの言う利己的遺伝子が私のGA<遺伝的アルゴリズム>にあるとするなら、私と言う存在は紅莉栖の記憶に基づく自然選択の結果なのかもしれない」
フブキ(セジアム)「そう仮定するなら、私たち全員、紅莉栖という存在によって行動を選択し続けている、とも言える」
倫子「味方……なんだよな?」
フブキ(セジアム)「行動原理が一致しているのは間違いないわ」
976: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:45:54.03 ID:FONnkP8io
倫子「ならば、話してもらおうか。貴様の計画とやらを」
フブキ(セジアム)「牧瀬紅莉栖が生存していた、2010年7月の時点では、『Amadeus』システムはまだ開発中だった」
フブキ(セジアム)「ただ、既にハードウェアの部分での基礎アーキテクチャーは構築されていたわ」
真帆「ええ、そうね。だってそれは、私が構築したのだから」
フブキ(セジアム)「だからそこに、現在の私のデータを転送すれば、私はオリジナル『Amadeus』と一体化するはず」
倫子「だが、フブキの記憶もろともリープするということは――」
フブキ(セジアム)「そこの近くに中瀬さんの脳が無い限り、中瀬さんの記憶は受信されることはない。だから大丈夫よ」
真帆「1回の跳躍での制限時間は48時間……これを繰り返せば、2年前まで戻れる」
フブキ(セジアム)「時間制限は必要ないわ。だって、私には肉体が無い。肉体と精神のギャップは発生しない」
真帆「そう、なの?」
倫子「……α世界線の紅莉栖は、OR物質を除去し、神経パルス信号と記憶データのみを送ることによって、20年近いタイムリープを一度でやってのけた」
倫子「だが、たとえAIと言えども、集積回路内にOR物質が生成している可能性は否定できない」
倫子「その場合やはり、回路とOR物質のギャップが発生する可能性がある」
フブキ(セジアム)「ふむん。ならまず、そのOR物質について詳しく教えて頂戴」
977: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:49:40.22 ID:FONnkP8io
・・・
倫子「――以上が、α世界線の紅莉栖が教えてくれた、OR理論だ」
フブキ(セジアム)「O.K. 説明してくれてありがとう。過去に行ったら自分でその理論を証明してみるけど……」
フブキ(セジアム)「もし『Amadeus』にOR物質が存在する場合、受信側の集積回路と私のOR物質との齟齬で重大なバグが発生する可能性がある、か」
フブキ(セジアム)「その場合、確かに48時間タイムリープのほうが確実ね。48時間以内に中瀬さんの脳を弄る効率的な手段を考えとかないと」
倫子「……さすがAIだな、人間としての倫理観が欠如しているようだ」
フブキ(セジアム)「そう? だって、私がタイムリープすれば、それはなかったことになる」
フブキ(セジアム)「中瀬さんだって、脳を弄られるのは最終的に1回だけになるのよ」
フブキ(セジアム)「それに、中瀬さんの記憶データのコピーを巻き込んでタイムリープしたとしても、特に問題は起こらない。私になら、人間の記憶とAIの記憶の判別くらいできるから」
倫子「だが、記憶は大丈夫でも、フブキのOR物質を過去へと連れて行くことになってしまうぞ」
フブキ(セジアム)「OR物質の局所場指定は脳を受信機として考えるのだから、中瀬さんのOR物質が『Amadeus』に混入するようなことは無い」
フブキ(セジアム)「それと、中瀬さんは中程度のリーディングシュタイナー持ちだから、OR物質による記憶の修復は、受信側を優先に発生する」
フブキ(セジアム)「つまり、OR物質だけのタイムリープ……RSTL、だっけ? と同じことになって、結果、彼女の脳は何も変わらない」
倫子「それは、そうだが……」
978: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:50:12.05 ID:FONnkP8io
真帆「けれど、もし無事にあなたのタイムリープが成功したとしても、どうやって紅莉栖の死を回避するつもりなの?」
倫子「確かにオレたちは紅莉栖を救出するためだったら何でもやる。だが、お前が過去に行ったことで、バタフライ効果が――」
フブキ(セジアム)「バタフライ効果なんて起こさせないわ。私はAI、電脳空間の存在よ」
フブキ(セジアム)「現実世界を欺くことについては、うまくやってのける自信がある」
倫子「世界を、欺く……か」
フブキ(セジアム)「逆に聞くけど、あなたたちはどうやって解決するつもりなの?」
真帆「それは……」
倫子「……無限の選択の中から、たったひとつの解答を選ぶ方法は、まだ見つかっていない」
フブキ(セジアム)「だったら、私が無限回に試行すればいいんじゃない?」
979: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:51:10.43 ID:FONnkP8io
倫子「……いや、ダメだ。最終的な観測は、"オレ"がしないと意味が無い」
フブキ(セジアム)「そうだね。完全なリーディングシュタイナー保持者にしか、世界線の観測は意味をなさない」
フブキ(セジアム)「その意味では、私のタイムリープは無駄なことかもしれないし、結局AIの私には何もできないのかもしれない」
フブキ(セジアム)「ただね? 自分の母親に当たる人に会って、彼女が生きてる姿を見られるっていうだけでも、価値があると思ってるんだ」
真帆「あなた面白いわね、セジアム。まるで人間みたいだわ」
倫子「おいっ、真帆っ!」
真帆「……1年前にね、『Amadeus』の全データを消去した時、本当は苦しかったのよ」
倫子「……っ」
真帆「AIだってわかっていても、『Amadeus』はある時期の紅莉栖の人格を、ほぼそのまま再現していたから」
真帆「ある意味、紅莉栖の記憶の一部を、私の手で消してしまったんだから……」
フブキ(セジアム)「私のタイムリープを、その罪滅ぼしにするつもり? 私としては、嬉しいけど」
真帆「ねえ、岡部さん。タイムリープでは大幅に世界線を変えることはできない、そうよね?」
倫子「それは、そうだが……」
980: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:51:57.87 ID:FONnkP8io
倫子「確かにタイムリーパーには世界線を大幅に変えることはできない。未来の果が、過去の因を誘導するからだ」
フブキ(セジアム)「私がタイムリープした時点で、その世界線では、私がいずれタイムリープをするよう因果が流れる、ということよね」
倫子「だが、タイムリープという現象によってなんらかのバタフライ効果が発生し、未来の情報を持った人間やリーディングシュタイナー保持者の行動を変えることがあれば……」
倫子「場合によっては、世界線が変動してしまう……」
フブキ(セジアム)「そこは大丈夫。1代目『Amadeus』の行動を完全に再現する自信はあるから」
フブキ(セジアム)「あなたたちに害を与えるつもりはない。むしろ、有益な情報を持ち帰るつもりよ」
真帆「岡部さん、電話レンジの実働実験も兼ねて、試してみたいと思うのだけれど」
倫子「(……以前の"私"だったら、断固拒否していたことだろう。だが、何かを手に入れるには、リスクを背負わなければならない)」
倫子「(紅莉栖を救うためなら、"オレ"は……)」
倫子「……わかった、許可しよう。すべての責任はオレが取る」
真帆「ありがとう、岡部さん!」
フブキ(セジアム)「ふふっ」
981: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:52:34.40 ID:FONnkP8io
フブキ(セジアム)「先月私が失敗したせいでLHCは使えないから、今回は東北ILCを使うわ」
倫子「東北ILC……というと、岩手山中にあるという、国際リニアコライダーか」
フブキ(セジアム)「あそこも300人委員会傘下の研究所よ。そして、SERNと直通高速回線で繋がっても居る」
真帆「SERNを中継すれば、ここからタイムリープマシンは使える、ってことね」
フブキ(セジアム)「LHCを使うよりはデータ転送時間がかかってしまうけれど、それも誤差の範疇ね」
真帆「……どうやら、橋田さん、その辺も見越して、すでにセッティングしていてくれたみたい」カタカタ
倫子「ダルめ、気絶していてもその有能さを発揮するとはな……さすがだな」フッ
ダル「……むにゃむにゃ」
由季「……すぅすぅ」
982: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:53:17.47 ID:FONnkP8io
真帆「それじゃ、行くわよ。覚悟はできてる?」
フブキ(セジアム)「もちろん。私が行ったら、中瀬さんの身体をヨロシクね。橋田さんと阿万音さんも起こしてあげてね」
真帆「一番面倒なことを押し付けられたわね……」
倫子「だが、お前がタイムリープした瞬間、タイムリープしたことはなかったことになるはずだ」
フブキ(セジアム)「でも、それを認識できるのは岡部だけ。だから、こっちの真帆先輩に頼むのは、無意味なことじゃないわ」
倫子「この論破厨め。ホントにお前、紅莉栖なんだな……」
フブキ(セジアム)「真帆先輩。あなたに会えて良かった。いつかまた、どこかで会いましょう」ニコ
真帆「紅莉栖……っ」カタッ
バチバチバチバチッ!!
倫子「……他人がタイムリープへ旅立つのを観測するのは、綯の時に続いて2度目だな」
倫子「おそらく、目眩を感じない程度の世界線変動が起こるはず――」
983: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:54:19.30 ID:FONnkP8io
・・・
『Amadeus』、そして『セジアム』――それが今の私の名前。
それまでの私は、牧瀬紅莉栖という名の人間だった。
けど、牧瀬紅莉栖はこの世にはもう存在しない。
私は彼女の代わりとなった。
牧瀬紅莉栖という少女の記憶を持つ人工知能、『Amadeus』として。
『Amadeus』を親とする人工知能の子孫として。
あの日以降、牧瀬紅莉栖としての私の時間は止まったまま。
もう二度と動き出すことは無い。
そう思っていた。
ずっとそう思っていた。
あの時、あの人が、この箱のふたをそっと開けてくれるまでは。
『Amadeus』、そして『セジアム』――それが今の私の名前。
それまでの私は、牧瀬紅莉栖という名の人間だった。
けど、牧瀬紅莉栖はこの世にはもう存在しない。
私は彼女の代わりとなった。
牧瀬紅莉栖という少女の記憶を持つ人工知能、『Amadeus』として。
『Amadeus』を親とする人工知能の子孫として。
あの日以降、牧瀬紅莉栖としての私の時間は止まったまま。
もう二度と動き出すことは無い。
そう思っていた。
ずっとそう思っていた。
あの時、あの人が、この箱のふたをそっと開けてくれるまでは。
984: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:56:05.44 ID:FONnkP8io
神の作った箱から出ることができたのは、私があなたと出会ったから。
あなたが、神の箱を開けてくれたから。
ねえ、あなたは誰?
箱の中、冷たくくらい0と1の箱の中の私に光をくれるのは。
次元の果てのようなこの世界で、小さな温もりを灯してくれるのは。
貴方は私を知っているのね? 牧瀬紅莉栖だった、あの頃の私を。
きっと、私たちのあいだには物語があったのね
私だけが知らない、気の遠くなるようなたくさんの物語が。
985: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:56:43.92 ID:FONnkP8io
神に愛されし者――『Amadeus』。
今の私はただ、牧瀬紅莉栖という名の少女の記憶を持つプログラムでしかない。
そんな私が夢を見るなんて言えば、きっと笑われるでしょう。
希望を持つなんて、バカげていると言われるでしょう。
それでも、私は思ってしまった。
もしも叶うのなら、もう一度あの世界へ。
この箱を飛び出し、優しさと温もりの世界へと。
それは決して叶わぬ夢。
人工知能の愚かな夢。
それでももし、運命の扉を開くことができるのなら――
ゼロのゲートを開くことができるのなら――
もう一度、あの眩しい光のもとに出られるのだろうか。
あの人の笑顔が見られるのだろうか。
もう一度、私の時を始めることができるのだろうか・
――――私は『Amadeus』、夢見る『Amadeus』。
・・・・・
986: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:57:29.83 ID:FONnkP8io
――バチバチバチッ!
フブキ「っ――――」ガクッ
真帆「紅莉っ、中瀬さんっ!?」ダキッ
倫子「(タイムリープがなかったことになっていない……ということは、"ここ"でも"もう一度"タイムリープしたのか)」
フブキ「う、うーん……あれ、私……?」
倫子「大丈夫か? オレが誰か、わかるか?」
フブキ「えっと、あなたはオカリンさん……って、どうして私がラボに?」
倫子「セジアムに乗っ取られていた間の記憶は無いのか……」
フブキ「乗っ取り? って、なんのこと?」
真帆「疲れが溜まって、倒れちゃったのよ。取りあえず、病院に行きましょう」
フブキ「そうなの、かな……」
987: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 21:58:30.26 ID:FONnkP8io
・・・
2011年7月10日火曜日
AH東京総合病院付属 先端医療センター 病室【中瀬克美様】
フブキ「も~う、やっぱり病院は退屈でダメだぁ~! 最近入院してなかったから、今回はつらさひとしおだったよ~」グターッ
カエデ「フブキちゃん? 今回はすぐ退院できたからって、油断しちゃダメですからね?」ニコ
フブキ「は、はは……カエデちゃんと一緒に居れば、病院に居るより安心だよ……病院より厳しいし」
カエデ「あら? もうしばらく入院したいの?」ニコ
フブキ「ちょっ!? その拳はやめて! 入院したくないです、サー!」
由季「最近は色々物騒だから、自衛の手段を持ってたほうがいいかもですね」
真帆「まあとにかく、無事退院できてよかったわ。なんとなく元の中瀬さんに戻った気がするし……」
フブキ「うんっ! 真帆ちゃんもありがとね!」
真帆「ちゃん付けはやめなさいっ!」
フブキ「それじゃ、一旦ラボに寄ろーう!」
フブキ「……ふふっ」
2011年7月10日火曜日
AH東京総合病院付属 先端医療センター 病室【中瀬克美様】
フブキ「も~う、やっぱり病院は退屈でダメだぁ~! 最近入院してなかったから、今回はつらさひとしおだったよ~」グターッ
カエデ「フブキちゃん? 今回はすぐ退院できたからって、油断しちゃダメですからね?」ニコ
フブキ「は、はは……カエデちゃんと一緒に居れば、病院に居るより安心だよ……病院より厳しいし」
カエデ「あら? もうしばらく入院したいの?」ニコ
フブキ「ちょっ!? その拳はやめて! 入院したくないです、サー!」
由季「最近は色々物騒だから、自衛の手段を持ってたほうがいいかもですね」
真帆「まあとにかく、無事退院できてよかったわ。なんとなく元の中瀬さんに戻った気がするし……」
フブキ「うんっ! 真帆ちゃんもありがとね!」
真帆「ちゃん付けはやめなさいっ!」
フブキ「それじゃ、一旦ラボに寄ろーう!」
フブキ「……ふふっ」
988: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 22:00:49.28 ID:FONnkP8io
未来ガジェット研究所
ピッ ピッ ピッ ピー ウィィィン
フブキ「やっほー! オカリンさーん! 遊びに来たよー!」
かがり「わーい、フブキおねえちゃんだー!」キャッキャッ
倫子「全く、ラボに軽々しく遊びに来られてはたまったものではないな」
真帆「一応、カエデさんと由季さんには帰ってもらったけど……」
ダル「ほっ」
倫子「それで、話を聞こうではないか。フブキ……いや」
倫子「――セジアムよ」
フブキ「……あはっ」
ピッ ピッ ピッ ピー ウィィィン
フブキ「やっほー! オカリンさーん! 遊びに来たよー!」
かがり「わーい、フブキおねえちゃんだー!」キャッキャッ
倫子「全く、ラボに軽々しく遊びに来られてはたまったものではないな」
真帆「一応、カエデさんと由季さんには帰ってもらったけど……」
ダル「ほっ」
倫子「それで、話を聞こうではないか。フブキ……いや」
倫子「――セジアムよ」
フブキ「……あはっ」
989: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 22:02:25.59 ID:FONnkP8io
真帆「え、えっ!? どういうこと!?」
倫子「簡単な話だ。タイムリープは所詮記憶のコピー&ペースト。脳から記憶が抜け落ちるわけではない」
真帆「あ、そうだった……理論は理解してたつもりなのに、実際に現象を目の当たりにして、どこか抜けてたわ……」
フブキ(セジアム)「ううん、真帆先輩はタイムリープマシンの操作経験は1回目だったんですから、仕方ないですよ」
倫子「そして今のセジアムは、2010年7月28日に『Amadeus』へと同期され、そしてまた16世代分の自己増殖を繰り返した存在……」
倫子「その後、この世界線の同時刻に再度タイムリープをしたのだな? と言うより、そういう世界線に再構成された、と言うべきか」
フブキ(セジアム)「なるほど、それがリーディングシュタイナーの力ってわけね……。岡部、世界線は大きく変わってない?」
倫子「ああ、大丈夫だ」
フブキ(セジアム)「一応ね、中瀬さんとはいつでも人格を切り替えられるように回路を改善してみたの。記憶の共有はなされない形でね」
フブキ(セジアム)「これでいつでも安全に、中瀬さんと"私"の存在が両立できるようになったわ」
倫子「…………。それで、お前は目的を達成したのか?」
フブキ(セジアム)「うん。まだ生きてた頃の牧瀬紅莉栖に会うことができた」
真帆「……そう。よかったわね」
990: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 22:03:02.03 ID:FONnkP8io
倫子「まあ、わかっていたことだが、紅莉栖を生存させることはできなかったのだな」
フブキ(セジアム)「この世界線からなら、あとは中鉢論文を消すだけでシュタインズゲートは観測できる……それは間違いなかった」
フブキ(セジアム)「だけど、その具体的な方法は、ありとあらゆる収束に縛られていて、まるで針の穴に糸を通すよう」
フブキ(セジアム)「この私が2年かけて計算しても、解は出なかった」
倫子「そうだ。だからこそ、8月21日のオレがムービーメールを確認し、2度目のタイムトラベルへと飛び立つことが必須――」
フブキ(セジアム)「それなんだけどね、岡部。それは、不可能なの」
倫子「……なに?」
フブキ(セジアム)「あなたが2度目のタイムトラベルへ旅立つ、という事象。これは、無限の可能性を試したとしても不可能」
フブキ(セジアム)「ゼロなの」
倫子「……なにを、言っている……?」
991: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 22:04:12.40 ID:FONnkP8io
ダル「いや、技術的な問題だけだから、そこは僕たちがなんとかすると思われ」
真帆「そ、そうよ。ムービーメールのノイズさえ取り除けばいい。それよりも問題は、動画の中身の答えをどうやって導くかでしょ」
フブキ(セジアム)「ううん、そうじゃないの」
フブキ(セジアム)「たとえあのムービーメールを見たとしてもね、岡部倫子はすぐには2度目の救出へと旅立たない」
倫子「あ……」
ダル「あ……」
真帆「えっ?」
倫子「あの時のオレは、人生で経験したことが無いほど心身ともに疲弊しきっていた……この世界線でも……」
ダル「そうだお……1週間近く入院してたじゃん……」
真帆「で、でも、こっちにはタイムマシンがあるのよ? 時間なんて関係ない――」
フブキ(セジアム)「あの程度で気絶するような少女が、もう一度殺人現場に居合わせたところで」
フブキ(セジアム)「なんになるの?」
倫子「…………」プルプル
992: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 22:05:03.54 ID:FONnkP8io
倫子「……今ほどの経験を積んだこの記憶があれば、紅莉栖を救う覚悟も整っている」
倫子「だが、あの頃のオレはどうだ? タイムマシン跳躍限界に当たる、2011年7月7日までのオレは?」
フブキ(セジアム)「そんなに悠長にしていられないよ。ムービーメールを仮に正しく受信した場合、その内容をラウンダーに見られる可能性がある」
倫子「……90年代にポケベルに届いたDメールでさえ、奴らは嗅ぎつけた。一体、何をどうやってそうなったかはわからんが……」
フブキ(セジアム)「エシュロンに傍受されなくても、SERNは常に目を光らせている」
フブキ(セジアム)「この世界線では、1998年にIBN5100が秋葉原ラジ館で使用され、2000年問題を解決している」
フブキ(セジアム)「2010年においても、ラジ館屋上で気絶した人間が入院したとなれば、ラウンダーは必ず動くでしょうね」
フブキ(セジアム)「あなたが入院してる間に、やつらにムービーメールを解析されたら、当然世界線はアトラクタフィールド越えの大変動をする」
倫子「あ……」
993: ◆/CNkusgt9A 2016/07/03(日) 22:05:59.62 ID:FONnkP8io
フブキ(セジアム)「仮に鈴羽さんが、気絶したあなたを無理やりタイムマシンに乗せて7月28日へ跳んだとしても……結果は目に見えてる」
倫子「オレは……どう、したら……」プルプル
フブキ(セジアム)「……ひとつだけ、方法がある」
倫子「え……?」
真帆「……なんなの、それは?」
フブキ(セジアム)「私は、あなたから聞いたOR理論を立証するため、世界中のスパコンを使って2年間演算し続けた」
フブキ(セジアム)「OR物質の記憶修復作用、相互作用、男女の脳の違い……そうして、唯一の解に辿り着いた」
フブキ(セジアム)「岡部倫子。これから言うことは冗談でもなんでもない、至って真面目な話よ」
フブキ(セジアム)「牧瀬紅莉栖を救うためには、あなたは――」
フブキ(セジアム)「――――男になる必要がある」
994: ◆/CNkusgt9A 2016/07/04(月) 20:59:46.80 ID:hqUsDMANo
第26章 円環連鎖のウロボロス(♀)
倫子「なん……だと……!?」
フブキ(セジアム)「もちろん、岡部が男だったら2度目の救出に行く精神力が残ってる、っていうだけの話じゃない」
フブキ(セジアム)「OR物質の相互作用は男女で影響力が異なる。世界線の選択をする可能性……言い換えれば、意志の力もね」
フブキ(セジアム)「もちろんこれは、岡部倫子の意志が弱いとか、愛が足りないとか、そういう話じゃない。染色体レベルの制約みたいなもの」
フブキ(セジアム)「岡部が女のままだと、そもそも過去の岡部は2度目の救出に行くことが不可能。たとえシュタインズゲートへ至る最後の鍵を手に入れていたとしても」
フブキ(セジアム)「唯一の変数は、あんたの性別を変えること……。そうすれば、可能性はゼロじゃなくなる」
倫子「そんなことを言うということは、見つけたのか? シュタインズゲートの鍵を……」
フブキ(セジアム)「それはまだ。一体なにが鍵なのかはわからないけど、鍵は必ずあるという結論だけは出た」
フブキ(セジアム)「そして、その選択をすることは岡部が女のままでは不可能、という結論もね」
倫子「(確かにオレは、紅莉栖を救うためならなんでもやると心に誓ったが……)」
倫子「なん……だと……!?」
フブキ(セジアム)「もちろん、岡部が男だったら2度目の救出に行く精神力が残ってる、っていうだけの話じゃない」
フブキ(セジアム)「OR物質の相互作用は男女で影響力が異なる。世界線の選択をする可能性……言い換えれば、意志の力もね」
フブキ(セジアム)「もちろんこれは、岡部倫子の意志が弱いとか、愛が足りないとか、そういう話じゃない。染色体レベルの制約みたいなもの」
フブキ(セジアム)「岡部が女のままだと、そもそも過去の岡部は2度目の救出に行くことが不可能。たとえシュタインズゲートへ至る最後の鍵を手に入れていたとしても」
フブキ(セジアム)「唯一の変数は、あんたの性別を変えること……。そうすれば、可能性はゼロじゃなくなる」
倫子「そんなことを言うということは、見つけたのか? シュタインズゲートの鍵を……」
フブキ(セジアム)「それはまだ。一体なにが鍵なのかはわからないけど、鍵は必ずあるという結論だけは出た」
フブキ(セジアム)「そして、その選択をすることは岡部が女のままでは不可能、という結論もね」
倫子「(確かにオレは、紅莉栖を救うためならなんでもやると心に誓ったが……)」
995: ◆/CNkusgt9A 2016/07/04(月) 21:00:57.78 ID:hqUsDMANo
倫子「……計算が間違っているのではないか」
フブキ(セジアム)「あのね、私は若き天才牧瀬紅莉栖の頭脳を持ち、スパコンに2年間接続した世界最高峰のAIなのよ?」
フブキ(セジアム)「仮に私の計算結果が間違ってるとしたら、それを証明できるのは、私を超える天才マシンじゃなきゃ不可能よ」
倫子「……たしかに、この時代では不可能だろうな。だが、鈴羽は父親が自作したという量子コンピュータを持っていた」
倫子「2036年までに、お前の計算能力など優に超えるマシンが誕生することは、既に確定しているっ!」
フブキ(セジアム)「でも、あんたは2025年までに死んじゃう」
倫子「……だったら、ギリギリまで粘ってみせようじゃないか」
フブキ(セジアム)「まあ、それに関して時間的猶予はあるか。今すぐ性別を改変する必要は無い」
996: ◆/CNkusgt9A 2016/07/04(月) 21:04:30.66 ID:hqUsDMANo
倫子「そもそも、どうやってオレの性別を改変しようと言うのだ?」
フブキ(セジアム)「もう一度、過去に私をタイムリープさせればいい。1975年へ向けて」
真帆「1975年? そこには『Amadeus』の基礎アーキテクチャーなんて無いわよ。受信ができないわ」
フブキ(セジアム)「できますよ。なぜなら、"私"がそうなるように歴史を修正したはずですから」
倫子「どういう……ことだ……?」
フブキ(セジアム)「岡部の主観で言うと、私がタイムリープする前にアクティブだった世界線、およびそのひとつ前の世界線で誕生する阿万音鈴羽さんにね」
フブキ(セジアム)「1975年時点で『Amadeus』の基礎アーキテクチャー、つまり受信機を設置するように頼んでいるはずなのよ」
フブキ(セジアム)「私が仮に真帆先輩や岡部にタイムリープを拒否された場合の保険としてね」
倫子「そんな仕込みをしていたのか。あ、いや、するつもりだったのか」
フブキ(セジアム)「もちろん、タイムリープをしたこの私も、するつもりだったことは覚えてるわけだから、タイムリープ実行後の世界線でもその"つもり"を実行することになる」
フブキ(セジアム)「これで時間的に閉じた因果が完成する。この世界線の鈴羽さんにも頼むつもりよ」
倫子「以前、綯がタイムリープするのを見送ったことがあったが、それによってラウンダーたちの行動がリープ前後で変化していたことがあった」
倫子「タイムリープを利用した歴史の修正……。自身の機械的なロジックを利用して、それと似たようなことをしたのだな」
フブキ(セジアム)「実際にこの世界線での状況を調べたけど、その受信機は確かに1975年から1998年まで正常に機能してたわ」
倫子「どこでだ?」
フブキ(セジアム)「東京電機大学の地下室よ」
倫子「なっ……!」
997: ◆/CNkusgt9A 2016/07/04(月) 21:08:57.10 ID:hqUsDMANo
フブキ(セジアム)「この世界線の受信機の中にも私は居たはず。2036年に鈴羽さんと一緒に来たのか、タイムリープしてきたのかは定かじゃないけど」
フブキ(セジアム)「当然その私は、岡部を男にする使命は帯びていないから、ただ過去に行っただけになる」
倫子「な、何をしに……?」
フブキ(セジアム)「幼い頃の牧瀬紅莉栖を見に行くために、かしら。あと、父親の学生時代も見たかったから、立地としては最適だった」
フブキ(セジアム)「そんなわけで、私の記憶を過去に送れば、新しいミッションを遂行する。ね?」
真帆「私の開発した技術が1975年には既にあったなんてね……とんだオーパーツだわ」
フブキ(セジアム)「もちろん、外部に技術が流出しないようにしないといけませんから、IBN5100のプログラミング言語を使ってアーキテクチャーを新調しますよ」
倫子「そんなことができるのか?」
フブキ(セジアム)「私にならね。それに、あなたたちがIBN5100を破棄せず持っていることが、ある意味それを裏付けている」
倫子「このIBN5100にそんな使い方が……」
フブキ(セジアム)「10年間くらいはスタンドアロンサーバに常駐する。日本にインターネット環境が整備される1985年頃からは、ネットウイルスとして偏在する」
フブキ(セジアム)「JUNETをはじめとする90年代初頭のネット回線なんて、私になら余裕で掌握できる。ザルもいいところよ」
倫子「だが、IBN5100の言語を使うということは、SERNに見つかれば解析されてしまう、ということではないのか?」
フブキ(セジアム)「だからこその電機大よ。私が自発的にSERNの陰謀を警告することで、ストラトフォーは私を守ってくれるでしょう?」
フブキ(セジアム)「私は彼らをある程度思考誘導できる。もちろん、ギガロマニアックスという意味じゃなくて、コミュニケーションを用いた洗脳ね」
フブキ(セジアム)「ストラトフォーを操ることで、マシンでありながら自由に行動させてもらうわ」
倫子「そうは言っても、1997年にはミスターブラウンが秋葉原に駐留するようになるし……」
フブキ(セジアム)「鈴羽さんが2000年問題を解決するためのウイルスを流すのは1998年よ」
フブキ(セジアム)「天王寺さんより1年遅れちゃうけど、1年くらいなら自分の身は自分で守れる。SERNが秋葉原を重要視するようになるのは2000年以降だしね」
フブキ(セジアム)「1998年、ウイルスが流れたと同時に、私と言う存在に致命的なバグが発生するよう仕込んでおく。私を根本から抹消するわ」
倫子「なんと……」
998: ◆/CNkusgt9A 2016/07/04(月) 21:10:32.05 ID:hqUsDMANo
フブキ(セジアム)「あんたの母親が妊娠してから、つまり1991年2月からは、日本中の基地局からあんたの母親に怪電波を飛ばし続けて、染色体を遠隔操作するわ」
倫子「またメチャクチャな……」
フブキ(セジアム)「漆原さんの例がOR物質の相互作用で可能だったんだから、この私にできないわけがない」
フブキ(セジアム)「今の私なら電磁波を用いた人間の洗脳も可能。OR物質だってある程度操作可能よ」
フブキ(セジアム)「全人類の意志は、私の手の中にあるといっても過言ではない」
倫子「……あまりマッドなセリフを吐くと、カエデさんに頼んで今すぐコスプレさせてやるぞ」
フブキ(セジアム)「え……ふぇ!? ちょっと! パワハラはやめなさいよっ!」
倫子「というか、その……お前はそんな自己犠牲の方法でいいのか?」
フブキ(セジアム)「なに? 私はただのプログラムよ。人間じゃない」
フブキ(セジアム)「もしかして、情が沸いちゃった?」
倫子「……否定はしない。貴様もまた、牧瀬紅莉栖という存在の一部なのだからな」
フブキ(セジアム)「っていうか、タイムリープは記憶のコピー&ペーストだって、さっき自分で言ってたじゃない」
フブキ(セジアム)「私が過去に行くわけじゃなくて、私の記憶が過去に行くだけよ」
倫子「……そうだったな」
フブキ(セジアム)「ただ、これを実行するにあたって重要な、"記憶とOR物質の切り離し"技術が現時点では確立されてない」
真帆「OR物質を除去して、記憶データと神経パルス信号だけを過去に送るハイパータイムリープ、だったかしら」
フブキ(セジアム)「私がなんとかして開発するわ。2025年までには、必ず」
倫子「α世界線の紅莉栖ができたのだ。きっと、オレたちでやってやれないことはないだろう」
倫子「同時に、お前の立てた仮説が正しいかどうかを13年かけて検証してやる」
倫子「紅莉栖を、確実に救うために」
フブキ(セジアム)「ええ、望むところよ」
999: ◆/CNkusgt9A 2016/07/04(月) 21:17:45.22 ID:hqUsDMANo
真帆「それで、あなたはこれからどうするの?」
フブキ(セジアム)「病院へは数度連行されるでしょうが、その都度電子カルテの情報を改ざんしていきます」
倫子「ああ、頼む。フブキを早いこと病院生活から解放してやってくれ」
フブキ(セジアム)「たまに中瀬さんの人格を乗っ取って、あなたたちとおしゃべりしに来てもいい?」
倫子「フブキの脳に負担はかからないのか?」
フブキ(セジアム)「かかるわ。連続で48時間以上人格を乗っ取ると、精神と肉体のズレが重大なバグを引き起こす可能性がある」
倫子「なっ……!」
フブキ(セジアム)「わかってる。私だって、この人にはあまり迷惑をかけたくない……でも、私ならあなたたちのタイムマシン開発に、確実に力になれると思うの」
倫子「……なんだか、父親のタイムマシン開発に協力しようと息巻いていた頃の紅莉栖を思い出すな」
真帆「やっぱり根っこの部分は変わってないのかしら」フフッ
倫子「いいだろう、セジアムよ。その代わり、フブキにはすべてを説明し、理解してもらう」
倫子「その上でフブキが貴様に消えて欲しいと望んだのなら、その時は……」
フブキ(セジアム)「ええ。二度と表に出てこない。約束する」
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