勇者「仲間TUEEEEEEEEEEEEEE!!」 前編

445: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:34:56.05 ID:nGrTViXfo
ー 村長の家 ー


村長「ああ、懐かしいのう。あの本を借りに来てた鼻たれ坊主が、本当に勇者様になっておるとは……」シミジミ

【山奥の村長】
『体力 :536万
 攻撃力:221万
 防御力:209万
 魔力 :348万
 素早さ:217万』


神父「まったくですなあ……。陛下から頂いた証明手形も本物……。いやはや、驚きましたよ」シミジミ

【山奥の神父】
『体力 :599万
 攻撃力:207万
 防御力:311万
 魔力 :475万
 素早さ:184万』


村長の奥さん「本当にねえ、立派になって」シミジミ

【山奥の村長の妻】
『体力 :487万
 攻撃力:218万
 防御力:265万
 魔力 :331万
 素早さ:189万』


女村人B「なんかもう、嬉しいわあ。オバサン、涙出てきちゃう」グスンッ

【山奥の女村人】
『体力 :842万
 攻撃力:694万
 防御力:716万
 魔力 :328万
 素早さ:652万』



勇者(全員、雰囲気がヤバい……!)ガクガク

446: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:36:25.44 ID:nGrTViXfo
村長「しかし、こうして見ると流石は勇者様じゃなあ。まず、体から溢れ出る雰囲気からして違うからのう」

神父「ええ、本当に。よくぞここまで凛々しくなりまして……」

村長の奥さん「乗ってきた馬も、凄かったわよねえ……。毛づやも良くて、張りがあって。さぞかし名馬なんでしょうねえ」

女村人B「本当にね、あんな小さくてやんちゃだった子がこんな立派になってね」グスンッ


勇者(今すぐ逃げ出したい……)ガクガク

447: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:37:06.79 ID:nGrTViXfo
村長「ああ、そうじゃ。ばーさん、お茶と菓子を。勇者様に何も出さんとは失礼じゃぞ」

村長の奥さん「ああ、そうですね。あんまりにも懐かしくてついね……。すぐに用意するわ」ソソクサ


勇者「いえ……お構い無く……」ガクガク


神父「しかし、あの子達の言う事は本当に正しかったんですね……。美しい友情です」ウンウン

女村人B「そうね。みんな、勇者は必ず来るって自信を持って言ってたものねえ」グスッ

勇者「!?」

448: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:38:00.36 ID:nGrTViXfo
勇者「あ、あの……! その『みんな』って言うのは、もしかして!」

神父「ええ、そうですよ。あなたが子供の頃に仲良く遊んでいた、あの五人です」ニッコリ

女村人B「みんなもね、村からはもう何年も前に出て行ったんだけどね。でも、ついこの間、帰ってきて」

村長「そうじゃったなあ。それで揃って、近い内に『勇者(名前)』がここに来るはずだからと言ってな。しかも、伝説の勇者になって帰って来ると」

勇者「みんなが……!」


村長の奥さん「ええ、そうなのよ」テクテク

村長の奥さん「私らはね。その時、ろくに信じてなかったんだけど……。だって伝説の勇者様でしょ? いくらなんでもねえって……。でも、ほんにその通りになって……」

村長の奥さん「あ、これ、お待たせしたわね。お茶と草餅。どちらも私が作ったのよ。口に合うかわからないけど」ソッ

勇者「あ、ありがとうございます」ペコッ

450: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:39:14.06 ID:nGrTViXfo
勇者「そうか……。もうみんな来てたんだ……!」

女村人B「嬉しいわよねえ。良い話だわあ……。あらやだ、また涙が。最近、めっきり涙もろくなって駄目ね……」グスッ

勇者「なら、すみませんけど、俺もすぐにみんなの所に行きます! いる場所はわかってるんで!」

村長の奥さん「あらそう? でも、せめてお茶だけでも飲んでったら? 折角用意したんだし、ね?」

勇者「あ、そうですよね、すみません! 頂きます!」パクッ、モグモグ

勇者「美味い! この草餅、凄く美味しいですね!」


タラッタラッタッター♪
【勇者の体力が19上がった!!
 勇者の攻撃力が16上がった!!
 勇者の防御力が18上がった!!
 勇者の魔力が20上がった!!
 勇者の素早さが18上がった!!】


村長の奥さん「そう? 隠し味に裏の畑で取れた種をすり潰して入れてるの。そのせいかしらね」


勇者「いや、本当に美味いです。初めて食べる味です、これ!」ゴクッ

勇者「わ、このお茶も清みきった味で美味しい!」


タラッタラッタッター♪
【勇者の体力が11上がった!!
 勇者の攻撃力が8上がった!!
 勇者の防御力が9上がった!!
 勇者の魔力が8上がった!!
 勇者の素早さが7上がった!!】


村長の奥さん「そっちもやっぱり種をすり潰したやつをブレンドして、少しだけ入れてあるの。腐るほど収穫出来るものだから、他の料理とかでも色々使ってるのよ」

神父「そういえば、あなたがいた時にはこの種はなかったものでしたね。今じゃこの村では香辛料や薬味の代わりとして当たり前の様に使われてるんですが」

勇者「いや、これ、凄く良いものですよ。何て言うか、力が湧いてくる感じで」

村長「こんなものが良いのかのう? わしらにはわからんがなあ……」

451: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:40:20.94 ID:nGrTViXfo
勇者「それじゃあ、すみませんが、俺はこれで行きます! ご馳走さまでした!」

勇者「また後で、改めて挨拶に来るので!」


村長「そうじゃな、再開を楽しんできなさい」

村長の奥さん「気を付けてね」

神父「積もる話もあるでしょうし、私たちの事は気にせず、ゆっくりしてくると良いでしょう」

女村人B「戻ってきたら、後であたしん家に来なよ。ご馳走するからね」


勇者「はい! それじゃ、また!」クルッ

ガチャッ、タタタタッ……



村長「若いのう……。羨ましいわい」シミジミ

村長の奥さん「ほんにねえ……」シミジミ

神父「しかし、良い子に育ってくれました……。精悍で、礼儀正しく、心の清い子です……」

女村人B「本当にねえ。イタズラしたり柵をこっそり抜け出したりとかで、毎日、村中を走り回ってたのが嘘みたいだねえ……」グスッ

452: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:41:35.73 ID:nGrTViXfo
ー 村の外れ近く ー


タッタッタ……


勇者「最初、どうなる事かと思ったけど……」


タッタッタ……


勇者「そりゃ、かなり驚いたし怖かったけど、やっぱりみんな良い人ばかりだった」


タッタッタ……


勇者「それに強い! 俺は、自分では強い方だと思ってたけど、それこそ井の中の蛙だったんだな。知らず知らず天狗になりかけてたんだ」


タッタッタ……


勇者「どうやってあれだけ強くなったのかわからないけど、でも、ここでその教えを乞えば、俺もきっと! もっと強くなれる!」


タッタッタ……


勇者「最初、気後れしたのが恥ずかしい。俺は勇者じゃないか! 勇者はいつでもどんな時でも諦めない、常に前向きに生きないと!」


タッタッタ……


勇者「みんなの為にも! 仲間の為にも! 俺は精一杯強くならないと駄目なんだ! それでこそ勇者なんだから!」


タッタッタ……


勇者「見えてきた! ここを曲がって通り過ぎれば、あの木が正面に……! 正面に……。正面に……?」


タッ……タッ……タ……


勇者「ない!? 折れてる!?」


切り株「」…………

481: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:53:16.82 ID:0AI19Bpuo
ここで、話は一旦、600年前にまで遡る……




ー 魔界、奥深くの山小屋 ー


魔老師「どうしても行くのか、小僧……」

魔王「ええ、師匠。失礼ながら、もう貴方から学ぶ事は何もない」

魔老師「ちいとばかし、強くなった程度ですぐに自惚れおって……。ワシから見れば、お前など半人前にもなりきれておらんぞ」

魔王「なら……試されますか? 師匠殺しの汚名を受けるのは本意ではないですが……」ゴゴゴゴゴ……

魔老師「この老体で、今更若いお前とやる気はないわい……。ワシが半人前だと言うておるのは、その血気盛んなところだ。お前は覇気が強すぎる……」

魔王「覇気があるのは結構、ないよりは遥かに良いかと」

魔老師「バカタレ。明鏡止水の心こそ、武の本質じゃ。結局、お前はワシから何も学んでおらんではないか……」

魔王「そうやって魔族らしからぬ妙な境地を悟ったせいで、魔界を統一出来る程の腕を持ちながらも振るわず、無為に腐らせ、今ではただの老いた一魔族へと変貌してしまったのが師匠でしょう」

魔老師「水が低きに流れるが如く、普通の一生を普通に生きただけじゃ。それが当たり前の事じゃろうが」

魔王「生憎、私と師匠とでは、『普通』に差がありすぎるようで。師匠の終着点が、私にとっては出発点ですから」

魔老師「魔界を統一する気か……。下らぬ事を」

魔王「覇道を歩むつもりです」

魔老師「だから、下らぬと言っておる。世俗にまみれおって……」

482: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:54:18.73 ID:0AI19Bpuo
魔老師「お前には期待しておったんじゃがな……。だが、ワシの目が曇っておったようじゃ……。腕ばかりが強くなって、心はまるで子供のままじゃ……」

魔王「ならば、それで結構。子供の夢が世界征服で何が悪いのか」

魔老師「…………」

魔王「師匠、私はその内魔界を統一し、ひいては神界、竜界まで統一しましょう。果ては伝説の中の異界まで!」


※注釈
竜界=人間界
魔族からしたら、人間は元から眼中にない


魔老師「戦乱を広げて何になる……。愚か者めが……」

魔王「その愚か者がこの世で唯一無二の覇者となる様、とくとご覧あれ」

魔老師「…………」


魔王「では、私はこれで。もう会う事もないでしょうが、残りの余生をどうか御自愛下さい」クルッ

魔王「」スタスタ……


魔老師「跳ねっ返りが……。実に嘆かわしいわい……」

483: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:55:28.17 ID:0AI19Bpuo
250年前




ー 魔界。魔王城、玉座の間 ー


魔学者「此度は、魔界の統一、おめでとうございます」

魔王「よい。堅苦しい挨拶は好きではない。それよりもこの忙しい時期にお前を呼び出したのには当然理由がある。早速本題に入るぞ」

魔学者「はっ。何でございましょう」

魔王「今、お前たちが研究している合成魔獣だ。これまで十年以上研究資金を出してきたが、その間に、成果はどれだけ出した」

魔学者「つい先日、御報告申し上げた通り、眠り獅子と二股ヘビの掛け合わせが成功し、『キメラ』というまったく新しい魔獣が生まれました」

魔王「そうだな。十年かけてあの程度だ。戦力にすらならん」

魔学者「ですが、新しい魔獣を生み出すのに成功しただけでも、これは記録的な大進歩です。これからこの研究を続けていけば、魔王様が望む、強力な魔獣が続々と生まれてくる事でしょう」

魔王「魔学者……。何を勘違いしている? これだけわかりやすく言っても自覚がないようだから説明してやる。今のお前は単なる無駄飯食らいだと、余は言っているのだ」

魔学者「い、いえ、ですが! 研究というものは時間がかかるものでして! そこは十年などではなく、百年二百年という長い目で見て頂かないと!」

魔王「言い訳無用。合成魔獣の研究は今日をもって取り止めとする。これ以上は続ける価値がない」

魔学者「っ!!」

魔王「代わりに、別の研究をしろ。神界・竜界・魔界を繋ぐ、通称『次元の扉』についてだ。これを解析して、移動条件を調べあげろ」

魔王「現状だと、運任せでしか移動出来ないからな。それでは、軍を送る事など不可能だ。そこを何とかしろ」

魔学者「軍……ですか?」

魔王「三界を制覇するのが、余の望みだ。これ以上、説明は不要であろう」

魔学者「……か、かしこまりました。研究員全員にその様に伝えておきます……」

魔王「うむ」

484: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:56:34.64 ID:0AI19Bpuo
ー 魔界、辺境の集落 ー


牛鬼「ヴォォォ。ヴォム、ヴァリリィ」(全長16メートル)

ベヒーモス「ヴルルルル。ヴォルルルフ」(全長23メートル)

(立ち話)


魔老師「」テクテク

魔老師「そうか……。あやつ、本当に魔界を掌握しおったか……」

魔老師「そして、次は神界や竜界にまで戦争を仕掛ける準備をしておるとは……」

魔老師「全て師たるワシの責任か……。だが、この老いぼれ、最早何も出来ぬわ……」

魔老師「歳を重ねるごとに弱くなっていくのがわかるからのう……。今や、全盛期の三分の一程度か……」

魔老師「もう魔界には未練もない。無為に死んでいく同胞も見とうない……。どこか静かなところで暮らしたいわ……」


魔老師「どこか、静かに死ねる場所を……」スタスタ……


485: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:57:47.32 ID:0AI19Bpuo
15年前



ー 竜界(人間界)。山奥の村 ー


少年B「…………」ブンッ、ブンッ (素振り)

少年B「」ハァ……

少年B「やっぱりあいつがいねえと物足りねえな……」ショボン

少女A「うん……」

少女C「言わなくてもわかってるってば、そんなの! でも、もういないんだから仕方ないじゃない!」

少女E「やめよう。またケンカになっちゃうよ……。『勇者(名前)』が出て行っちゃってから、まだ一週間も経ってないのに……。こんなんじゃ、きっと『勇者(名前)』もがっかりするよ……」

少年D「ならさ……これからみんなでちょっと冒険の旅に出ない? 練習みたいな感じで」

少女E「冒険の旅って……?」

少年D「柵の外に出るんだよ。抜け穴見つけたからさ。ちょっとだけ。夕飯が出来る前までの間だけでも」

少女A「だ、だけど、柵の外に出たら怒られちゃうよ……」

少年B「いや、俺は行くぞ! こうなったら魔物をギッタンギッタンにしてやる!」ブンッ、ブンッ

少女C「あたしも行く! やる事なくてつまんないし!」

少女E「みんなが行くなら……。私も行く」

少女A「え、みんな行っちゃうの……? じゃ、じゃあ、あの……わたしも行く……」

少年B「よしっ! そんじゃあ行くか! みんなで冒険の練習だ!」

少年D「決まりだね。それじゃあ、みんなこっちに来て。見つかったらまずいから、こっそりだよ」

少女C「うん!」

486: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:59:02.74 ID:0AI19Bpuo
ー 村の外 ー


少年B「なんか、すっごいドキドキするな」

少女A「う、うん……」ドキドキ

少女C「あたし、初めて村の外に出た。しかもこんなに遠くまで」

少女E「私も……。でも、結構、普通……」キョロキョロ

少年D「そりゃそうだよ。でも、魔物が時々出るから気を付けてね。スライムぐらいならどうにかなると思うけど、一角ウサギとか一つ目オオカミとか出たら、すぐに逃げるから」

少年B「んなもん、俺の剣で倒してやるってんだ。どっからでもかかって来い!」ブンッ

少女E「あ……。あそこ、見て。変な洞穴があるよ」

少年D「ホントだ! 中に入ってみる?」

少女C「うん! 入ろうよ! 探検、探検!」

少女A「で、でも、中は真っ暗だよ。怖いし、やめとこうよ……」オドオド

少年D「一応、ランプ持ってきてるよ。これで照らしながら進めば大丈夫だと思う」

少年B「だな! 俺は行くぜ! 中に魔物がいてもやっつけてやる!」


ガタッ!!! ガタゴト!! (洞窟の奥から物音)


少年B「」ビクッ!!
少女A「きゃあ!」
少女C「ま、魔物がいるの!?」
少年B「みんな、落ち着いて!」
少女E「う、うう……」ビクビク


カツーンッ、カツーンッ……

魔老師(魔物)「やれやれ……」ヒョコッ



「うぎゃああああああっ!! 出たああああああっ!!」



487: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:00:23.16 ID:0AI19Bpuo
老師(タイプ・悪魔)「おいおい、そこの人間の子供ら。ちいと静かにしてくれんかのう……。ワシは悪さする気はないんでな……」


「しゃべったあああああああっっ!!!」


魔老師「ああ、そうか……。この辺は人語を喋る魔物がおらんからのう……。そう珍しくはないんじゃが……」

魔老師「のう、子供ら……。さっきも言った通り、ワシは悪さもしなければ、お前さん達に危害を加える気もない……。じゃから、退治とか言わず、そっとしといてくれんか……?」


少年B「だだだだだだって、じじ爺さんは、ま、魔物じゃないか! そんなのウソだ!!」ブルブル


魔老師「そうじゃのう。確かにもう七千年ぐらいは、魔物やっとるがのう……」

魔老師「じゃが、嘘はつかんぞ……。ワシは魔物の中でもちょっと変わっとるんじゃ。そこまで攻撃衝動にかられる事はないしのう……」

魔老師「それにな。ここの山はな……。ええ、山なんじゃ……。色々旅したが、ここほど魔力が満ちておって、じゃが静かで落ち着いておる山はどこにもなかった……」

魔老師「多分、ここの地中の奥深くにでっかい魔石でも眠っとるんじゃろうなあ……。ここだけきっと特別なんじゃて……」

魔老師「じゃから、ワシは死ぬならこの山で死にたいんじゃ……。多分もう十年か二十年の命じゃからのう……」

魔老師「子供ら……。見逃してくれんか? あんまり騒がれると、ワシはこの山から出ていかなければならなくなる……。それは嫌なんじゃて……」


少年D「こ、こう言ってるけど……ど、どうしよう?」アセアセ

少女E「う、嘘ついてるかもしれないよ。簡単に信じちゃ良くないよ」

少女A「ううん……。わたし、わかるよ。このお爺ちゃん、ウソなんかついてない。本当の事だって信じる……」

少女C「う……。少女Aがそう言うなら……ホントかもね」

少年B「少女A、ウソを見破るの得意だもんな……」

少年D「そうだね。何故か『勇者(名前)』の嘘だけは見破れなかったけど……。それ以外だとこれまで外した事なかったし……」

488: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:01:58.91 ID:0AI19Bpuo
ー しばらく後 ー


少女A「へえ……。お爺ちゃん、元は『まかい』とかいうところに住んでたんだ」

魔老師「ああ、じゃがのう……。とある事があって、嫌気がさしてしもうてのう……。それで長い間、色々なところを旅してな……」

魔老師「それで、ようやっと見つけた落ち着ける場所がこの山だったんじゃ……」

魔老師「とある事については、詳しくは言えんが……。お前さんらには本当に迷惑かけたわい……」

魔老師「悪かったなあ……。謝って済む事じゃあないが、どうか許しておくれ……」ペコッ

少年D「?」

少年B「そんな事よりもさ、爺ちゃん! 魔族なら爺ちゃんも強いんじゃないか? いっちょ、俺と勝負してみないか!」サッ (木剣を構える)

魔老師「勝負か……。若いもんは元気があってええのう……。それに、お前さんはキラキラしたええ目をしておる。ワシの若い頃によう似とるわ……」シミジミ

少年B「げっ! 爺ちゃんにかよ! それはやだなあ」

少女E「」クスクス

魔老師「まあ、ええぞ。こういうのも久しぶりじゃからなあ……。どこからでもかかって来るとええ……」

少年B「どっからでもって、爺ちゃん、武器もないし座ったままじゃないか! これじゃ勝負になんないだろ!」

魔老師「ふぉっふぉっふぉっ、武器ならここにあるぞい」ソッ

少年B「!? 俺の木剣!?」

少女C「すごーい! いつのまに少年Bから取ったの!?」

少年D「全然気が付かなかった……」

魔老師「ワシとお前さんらでは、それぐらい差があるという事じゃ。勝負になるには二千年は早いかのう」

少年B「うぐぐぐぐっ……」

少女C「なら、お爺ちゃん! あたしとも勝負だ!」ビシッ (拳を構える)

魔老師「もうついとるぞい」

少女C「ふえああああああっ!!」ゴロゴロ

少女A「ああっ! 少女Cちゃんが転がってく!!」

少年B「爺ちゃんTUEEEEEEEEEEEEEE!!!」


魔老師「ふぉっふぉっふぉっ」

【魔闘錬清流・開祖】
『体力 :332万
 攻撃力:274万
 防御力:286万
 魔力 :245万
 素早さ:319万』

489: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:04:42.41 ID:0AI19Bpuo
少年B「なあ、爺ちゃん! 爺ちゃんスゲー強いし、良かったら、俺らに稽古をつけてくれないか!」

少年D「あ、それいいかも。僕ら、強くなりたいんです。大きくなったら、みんなで魔王を倒しに行くって約束をしてるから!」

魔老師「ほうほう……。あのバカ魔王をか……。ああ、そりゃええかもな。うん、ええ事じゃ」

少女A「……? お爺ちゃん、魔物なのに、魔王は嫌いなの?」

魔老師「そりゃもう、嫌いじゃわい。あやつはとんでもない大バカ者じゃて。せめて魔界の統一までにとどめておけば良かったものをなあ……」

魔老師「煙のないところに、わざわざ火を起こしおって……。その為にどれだけ無駄な犠牲が流れた事か……」

少女C「うん……。あたしも魔王は大っ嫌い! あいつのせいで、みんな困ってるんだから! 人だって一杯死んでるし!」

少女E「柵を作ってその中で暮らす事になってるのも、魔王のせい……。町に行けば、読んだ事のない本とか一杯あるのに、滅多に行けないし……」

少女A「『勇者(名前)』にずっと会えなくなったのも……魔王のせい。魔物がいなかったら、きっと普通に旅して会いに行けるのに……」グスッ

魔老師「そうじゃなあ……。例えどれだけ強くなろうとも、その強さに溺れて周りを傷付ける様な事だけは絶対にしてはいかん……。優しい心を持つ者こそが、真の強さを持つ者じゃ」

魔老師「それに、修業だけでなく、勉学もせねばならん……。知識は人の器量を大きくする。物語は人の心を育てる……」

魔老師「それらも一生懸命勉強すると言うのなら……お前さんらに教えてやってもええぞ」

魔老師「強さとは、どういうものかをな……」


少年B「じゃあ!」

少女C「稽古をつけてくれるの!」

魔老師「ああ、ええとも……。いつか、本当に強くなって、それで魔王を倒すといい……。そして、世界に平和をもたらしとくれ……」

少年D「やった!」

少女E「ありがとね、お爺ちゃん!」

魔老師「代わりにワシの事は内緒じゃぞ……。魔物と仲良しになっとったら、きっと村のもんが誤解するからのう……」

少女A「うん! 大丈夫だよ。絶対に内緒にする」

490: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:06:35.44 ID:0AI19Bpuo
ー 翌日 ー


魔老師「村の者には見つからんよう、ちゃんと出てきたかの?」

少年B「もちろん!」
少女A「大丈夫」
少年D「平気だよ」
少女E「」コクッ
少女C「まっかせて!」

魔老師「それでは、まずはこれからじゃな。ほれ」スッ

『少年少女はクワとスキを手に入れた!』

少女A「……?」

少年B「爺ちゃん、これ何だよ? 畑でも作るってのか?」

魔老師「うむ。まずは体力作りからじゃ……。畑を耕してこれを植えるのじゃぞ」スッ

『少年少女は、体力の種・力の種・守りの種・魔力の種・素早さの種を手に入れた!』

少女E「これ、何の種……?」

魔老師「ワシお気に入りの植物の種じゃ。茎や実は苦くて食えんが、種が美味でのう……。滅多にない貴重品じゃぞ」

魔老師「普通は栽培出来る様な代物じゃないんじゃが……長年かけてちょっと品種改良してやってな。種もかなり取れる様にしてやったわい。ここの土地はええ土地じゃから、きっと良い種が幾つも取れるじゃろ……」

少女A「じゃあ、まずはお爺ちゃんのお手伝いって事?」

少年D「授業料みたいな感じかな……。うん。ただで教えてもらうのも気が引けるし、やろうか」

少女C「だね! お爺ちゃんにも喜んでもらいたいし!」

少女E「がんばる……」

少年B「うしっ! 早速取りかかるぞ!」


魔老師「うんうん……。ほんにええ子揃いじゃなあ」ホロリ

492: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:08:36.92 ID:0AI19Bpuo
それから、五人の修業の日々が始まる……



魔老師「ほい、ほい。剣というものはじゃな、腕で振るのではなく、心で振るものじゃぞ」ペシッ、ペシッ

少年B「意味がわかんねえよ、爺ちゃん! あと、痛い! 痛いって!」


魔老師「お前さんは優しい良い心を持っておるな……。ならば、魔法なんぞに頼ろうとするな。慈悲の心こそが、真の回復魔法に通じる道じゃぞ」

少女A「????」


魔老師「ふぉっふぉっふぉっ。体を鍛えるなんぞ無意味じゃて。武道を極めようとするなら、まずは自然の声に耳を傾けてみ。筋力など不要になってくるぞい」ポーイッ

少女C「ふぎゃあああああっ!!」ヒューン


魔老師「まずは魔法ではなく、魔力そのものを出す事から始めようかの。これが出来れば、大体どんな魔法でも習得出来るようになるからの」

少年D「魔法じゃなくて……魔力??」


魔老師「お前さんは商人を目指すのか。なら、何よりも知識じゃろうて。昔話とか、偉人伝とか、民話とかそこらから始めて、果ては数学、経済学、帝王学、法学、経営学、生物学、科学、化学、魔法学、魔導学、まあそんなところを教えてやろうかの」

少女E「」

493: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:10:25.17 ID:0AI19Bpuo
案の定、途中で村の人達に見つかってしまったが……



少女A「やめて! このお爺ちゃんは良い魔族なの! 悪い事なんてしないの!」

少女C「そうだよ! 爺ちゃん、何もしてないじゃないか!」

少年B「それに、爺ちゃんをここから追い出そうって言うなら、俺らも村から出てくぞ!」

少年D「父さん母さん、話だけでも聞いてよ!」

少女E「お爺ちゃんの話をちゃんと聞けばわかるから! ね!」



村人A「むう……。村長……どうする?」

村長「……とりあえず、子供らが向こう側についとるからな。催眠とかそんな類いかもしれんが、話だけでも聞くしかなかろう」

神父「……ですが、もしもその途中で子供らに何かした時は」

村人B「俺らも鎌とか持ってからな。八つ裂きにしてやるべ!」

村人C「覚悟しとけよ!」


魔老師「わかっとる……。それより、後で子供らを責めんでやっとくれよ。ワシが秘密にしといて欲しいと頼んだ事じゃからな……」

少年B「爺ちゃんは悪くない! それに、爺ちゃん、スゴい強いんだからな!」

少女A「わたしたちも……勝手に外に出てごめんなさい。だから、お爺ちゃんを追い出すのはやめて……」グシュッ

少女E「お願い……」ペコッ

少年D「お爺さんは良い魔族なんだよ! それは本当だから!」

少女C「悪い事したのはあたしらだけ! 信じて!」



村長「……とりあえず、子供らがああ言っとる事だし、危害を加えない事だけは約束しよう。じゃから、子供らがこっちに戻ってくるよう説得してくれんか? 話はそれから聞くから……」

魔老師「もっともじゃな……。心配かけさせて、申し訳ないのう……。さ、お前たちは向こうにお行き……」

496: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:12:57.09 ID:0AI19Bpuo
子供たちの熱意もあり、紆余曲折の末、徐々に村人からの信頼を得ていく魔老師……



村長「話はわかった。じゃが、全部を信用した訳ではない。あんたが悪い魔物じゃないと、ワシらが信じるまでは、逐一、見張らさせてもらうが構わんか?」

魔老師「よいとも……。監視されて困る様な事はしておらんからのう……」


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村人C「爺さん……。突然、すまねえ。実は、うちの嫁さんが変な病気になっちまったんだ……」グシュッ

村人C「神父様も手に負えねえって……。あんた、子供らから聞いたけど魔法も凄いんだろ……? お願いだから、治せなくてもいいから、診てもらえるだけ診てもらえねえかな……」ポロポロ

魔老師「ええとも、ええとも。気功と魔法を修めたワシに治せん病気などないぞ……。安心するがええ」


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村人D「うわ! きょ、巨大な魔物が村のすぐ近くに!!」

魔老師「やれやれ……。軍からはぐれた魔物が迷い込んできよったのかのう……。ほいさと」ドゴオオオオオオオオン!!!

村人D「うおおおおおおおおっ!!! 爺さんTUEEEEEEEEEEEEEE!!!」


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村人E「今年は雨が降らねえな……。このままじゃ、凶作になっちまう……」

魔老師「雨は無理じゃが、水なら魔法でいくらでも出せるぞ。ほれ」ドボドボドボドボドボドボドボ

村人E「爺さんSUGEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」


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村人F「へえ、こりゃうめえな爺さん! この種、おらも育てたいから、少し貰ってもええだか?」

魔老師「ああ、ええぞ。子供らが育ててくれとるし、何よりここの土地は収穫が段違いだからのう……。腐るほどあるから、好きなだけ持ってくとええ」


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村人G「爺さん、良かったら子供たちだけじゃなく、おら達にも武術ってもんを教えてくれねえだか? 最近、やけに畑仕事が早く済むから時間が余ってんだべよ」

魔老師「ええとも、ええとも。習いたい者はいくらでも来るがええ。ただし、強さに溺れる事のないよう、他の事も一緒に教えていくからな……。強さと腕力自慢を履き違えるでないぞ……」


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497: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:14:52.80 ID:0AI19Bpuo
そして、魔老師と初めて出会ってから五年が過ぎたある日……



少女E(16歳)「それじゃあ、これで」

魔老師(7842歳)「うむ……。この五年でよくぞあれだけの学問を学んだわい……。物覚えが良すぎて、逆にワシが困ったほどじゃからな……」

少女E「代わりに、武術や魔法の方はまるで才能がなかったですけどね。みんなから置いてかれるばかりで」

少年B(16歳)「ホント、お前はそっちの才能はなかったよな。毎回一人だけ、別メニューだったし」

少女E「うるさいわね! 代わりに学問じゃ毎回別メニューだったでしょ!」

少女A(14歳)「結局、あの種まで品種改良しちゃったもんね、少女Eちゃん。おかげでもっと美味しくなったし」

少年B(15歳)「頭が良いっていうのも立派な才能だよね。僕にもその才能を少し分けて欲しかったって思うもんなあ」

少女C(15歳)「でも、本当に行っちゃうんだね。また、寂しくなるなぁ……」

少女E「もう16歳だしね。それに、武術とかじゃ勇者の役には立てないってはっきりしちゃったし。ここでない才能を伸ばそうとするより、別の事で私は役に立とうと思って」

魔老師「そうじゃな……。旅するには資金が不可欠じゃ……。それに、情報とかも。これは馬鹿に出来んぞ。むしろ、一番重要な事かもしれん」

少女E「私もそう思います。だから、これからはガンガンお金を稼いで、十年後には勇者がびっくりするぐらいの大金持ちになってやろうかなって」

魔老師「うむうむ……。それも良い事じゃて……。頑張るんじゃぞ。たまには帰って来いよ……」

少女E「はい! 行ってきます!」

498: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:17:29.80 ID:0AI19Bpuo
更に五年後……



魔老師「」ゴホッ、ゴホッ

魔老師「お前たち……。よくぞこれまで十年間、真面目に修業をした……」

魔老師「ワシから教える事は……もう何もない……」

魔老師「これからは……自分達で修業をしていくと良い……。世界を見て……己を知って……そして五年後に……」ゴホッ、ゴホッ

魔老師「幼い頃の約束通り……勇者と共に旅立ち……魔王を倒してくるのじゃ……」

魔老師「驕るな……負けるな……そして、大きく世界へと羽ばたいて来い……」ゴホッ、ゴホッ

魔老師「我が愛する弟子たちよ……」


少年B「はいっ! 師匠!!」グスッ

少女A「お爺ちゃんも……体に気を付けてね……。無茶しちゃ駄目だよ……」グシュッ、ヒック

少女C「あたし達、次に会った時はもっともっと強くなってるから!!」グスッ

少年D「先生も……どうかお元気で……」ポロポロ


魔老師「ふぉっふぉっふぉっ……。そうじゃなあ……。お前たちが戻ってくるまでは……絶対に生きておるからな……」ゴホッ、ゴホッ

魔老師「しっかり……強くなって帰って来いよ……」


「はいっ!!!」

 

499: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:18:20.45 ID:0AI19Bpuo
ー 下山後。山の麓辺り ー



少年B「それじゃあ、俺は手始めに東の国に行く。向こうは今、荒んでるって聞くからな。修業の身としては丁度いい」

少女A「わたしは北の国に行くね。向こうはいつも水不足に困ってるって聞くから」

少年D「僕は西の国に。向こうは珍しい本が沢山あるって話だからね」

少女C「あたしは船に乗って世界中を回ってみる」


少年B「だけど、忘れるなよ」

少女A「うん。少女Eちゃんみたいに、一年に一回は必ず山奥の村に帰ってきて……」

少年D「先生の様子を見に行く」

少女C「何かあったらすぐに連絡出来るよう、今の居場所を村長に教えておく事! 大丈夫だよな!」


「それじゃあ、またな! お互い強くなろうな!」

「うん!」

 

500: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:19:24.90 ID:0AI19Bpuo
しばらく後……


ー 東の国、地方の町 ー



役人「ふざけんなっ!! とっとと税金を納めやがれ!!」

商人「で、ですが、これだけ高くてはとても支払いなど……!」

役人「なら、代わりにてめえんとこの商品を貰ってくぞ! それしか方法がないからな!」ガタッ、ドサッ

商人「お、お止め下さい! それを取られては売る物が無くなって生活出来なくなってしまいます!」

役人「黙れ!」ドゲシッ

商人「ぐはっ!」ドサッ

役人「何なら、てめえんとこの嫁や娘を売り飛ばしてもいいんだぜ! それをされたくなかったら、大人しくしてろ!」チャキッ (剣を抜く)

商人「ひ、ひぃっ!!」

役人「しっかし、しけたもんしかねえな。ろくな物がありゃしねえ」ゴサッ、ゴトゴト、バリンッ

商人「あ、ああああああああっ!!」ポロポロ



少年B「これは酷いな……。想像以上だ……」

少年B「重税に、厳し過ぎる法律。なのに、逆に役人は威張り散らして、権力をかさに着てやりたい放題だ……」

少年B「こんなの、見過ごしておけるか! 俺がこの国を変えてやる!!」

501: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:20:39.24 ID:0AI19Bpuo
ー 北の国、小さな村 ー



少女A「はい、どうぞ。お水です。川を潤しておきますね」ドポドポドポドポ

村人A「おおっ! ありがたや、ありがたや……。これで田んぼに水が張れます。今年は何とか生きていける……」

少女A「そう、良かった。でも、ここら辺一帯には井戸とかないんですか? どこも水不足だって聞きましたけど……」

村人B「あるにはあるんだがねえ……。すぐに干からびちまうんだ。乾燥した地域だし、雨がろくに降らねえんでな……」

少女A「そうなんですか……」

村人C「昔はもっと雨が降ったもんなんだがなあ……。女神様の力が弱くなったかもしんなくてな……。魔王が出てきてからは本当に雨が少なくなっちまった……」

少女A「女神様の力が弱まって……」


「おーいっ!! 大変だあぁぁっ!!」


村人A「何だ、どうした!?」


村人D「」ハァハァ、ハァハァ

村人D「む、村の近くにりりり竜が出ただっ!! そんで、旅の娘が今、そこにっっ!!」


村人A「!!?」
村人B「竜が!?」
村人C「なしてこんなとこに!?」


少女A「!!」タタタタタッ

村人D「あ、ちょっとあんた、どこさ行くだ!!」

少女A「その子を助けに行くっ!!」タタタタタッ


村人D「む、無茶だ!! 絶対殺されるぞっ!!」

502: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:22:08.75 ID:0AI19Bpuo
ー 西の国、貴族の屋敷 ー



少年D「凄い……。王都でもないのに、これだけの書物があるなんて……」

少年D「しかも、魔法関連の書物ばかりだ。あ、こっちには魔導書が。こっちは魔物関連のが」バサッ、ドサッ

貴族「お気に召したかね、魔法使い殿?」

少年D「ええ、とても。ありがとうございます。助かります」

貴族「いやいや、礼など要らぬよ。我が領地に現れた魔物を無償で倒してもらったのだからな。こんな物で済むならお安いご用だ」

少年D「とんでもない。ここの図書室は金貨100枚以上の価値がありますよ。こちらは、貴族様が集められたのですか?」

貴族「いや、先代の先代が古書好きでな。私ではないし、私には価値がさっぱりわからんよ。書いてある文字すら読めんからな」

少年D「ほとんどが古代文字ですからね。しかし、素晴らしいです。しばらく滞在して、ここの本を読ませてもらう事は出来ますか?」

貴族「構わんよ。好きなだけいるといい。部屋も用意させておこう」

少年D「ありがとうございます!」

貴族「それでは、私はこれで失礼するよ。食事の時間になったら、メイドを遣わそう。それではな」クルッ、スタスタ

バタンッ……


少年D「助かるなあ。ありがたい話だ」

少年D「読みたいものばかりだからな。この魔物大全集とか、他にも魔導関連の書物が一杯」ゴソゴソ

ザザッ、バサッ (積み上げていた本が落ちる)

少年D「っと、いけない。貴重な書物だっていうのに」ササッ

少年D「ん……これは?」

少年D「異界移動の儀……? 昔、先生から異界の事は伝説として聞いてたけど、本当に異界なんてあるのかな……? あるのならここにも行ってみたいものだけど……」ペラッ、ペラッ……

503: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:24:33.13 ID:0AI19Bpuo
ー 南の国、海上 ー


船員「大変です、船長!! 向こうから海賊船が!!」

船員「あれは、疾風の海賊団の旗です!! まずい!!」


ワー、キャー、タスケテー!!


船長「舵を西に取れぃぃっ!! 逃げるぞ! 全速前進!! 」

船長「それと、客を落ち着かせろ!! 邪魔だから、船室にでも全員ぶちこんどけ!!」

少女C「うるさいわよ! ったく! 海賊船一隻ぐらいで騒がないで!」バタンッ!!

船長「おい、何だお前は! 邪魔だから向こうに」

少女C「聞きなさいっ!!!」ビリリッ

船長「」ビクッ!!

船員「」ビクッ!!

少女C「命令は変更! 舵を正面に!! 海賊船を逆に叩き潰すわよ!!」

船長「ア、アイサー!!」

船員「アイサー!!」


少女C「まったく……。そういえば、うちの国は海の魔物が比較的少ないから、一番海賊が多い海域だったっけ」

少女C「まあ、丁度いいわ。これも何かの縁よ。折角だから、海賊達をこの海から根こそぎ葬ってやろうじゃないの」

少女C「海賊を狩る海賊といったところね。名前を変えて、この海で一暴れしてやるわ!」

504: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:25:38.25 ID:0AI19Bpuo
ー 西の国、研究所 ー


少女E「とうとう立てたわ、私専用の特別研究所」

少女E「苦節、十年……。ようやく私の道が見えてきたわね」

少女E「商売の方は軌道に乗ったし、各支店長にある程度任せても大丈夫だし……」

少女E「ここで、思う存分研究出来るわ!」

少女E「そして、私が子供の頃からずっと考えてた『あれ』を現実のものにするの!」

少女E「魔結晶をたっぷり買えるだけのお金も今から貯金しておいて、五年後には『あれ』も完成させる!」

少女E「それで初めて、私は世界を救う勇者の仲間だと胸を張って言えるんだから!」

521: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:09:42.98 ID:JpBbyk/ao
そして、現在……

勇者が山奥の村に訪れる五日前の事……





ー 東の国、王宮 ー



兵士A「名剣士様、ご来訪ーーーっ!!」


バタンッ! (玉座の間の大扉が開かれる)


兵士B「」ビシッ (敬礼)
兵士C「」ビシッ (敬礼)
兵士D「」ビシッ (敬礼)
兵士E「」ビシッ (敬礼)

兵士F「」ビシッ (敬礼)
兵士G「」ビシッ (敬礼)
兵士H「」ビシッ (敬礼)
兵士I「」ビシッ (敬礼)


部屋の左右に並ぶ屈強な兵士たち

彼等は全員、歴戦の強者であり、その顔には大小の傷が武勲代わりに刻まれ、そのたたずまいには一分の隙もなかった

そんな彼等にして、自然と敬意を払わせてしまう男
それこそが部屋の中央、豪華な敷物の上をゆっくりと歩き、玉座へと近付いていく彼

即ち、名剣士である


名剣士「お久し振りでございます、陛下」

名剣士「いえ、ここではあえてこう言わせて頂きましょう。無礼の程をお許しを」


名剣士「お久し振りです、師匠」


剣聖「ははっ。そうだな。やっぱりお前はそういう言い方のがしっくり来るな」

522: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:11:43.24 ID:JpBbyk/ao
剣聖「しかし、相変わらずの厚かましさで安心したぞ。俺はお前を弟子にとった覚えなんかないんだが、いつの間にか師匠呼ばわりしやがって」

名剣士「心の師匠ですよ。それに多少は稽古をつけてもらいましたからね」

剣聖「勝手な事を。剣のいろはも教えた覚えはないんだがな」

名剣士「いの字ぐらいまでは教わったと自負してますよ。しかし、相変わらず軽いですね、師匠は。その甲冑を着こなしている身なりといい、とても国王様になられたとは思えない」

剣聖「こっちのが落ち着くんだよ。そう言うな。元は革命軍のリーダーだったのが、いきなり国王だとかに祭り上げられて一番戸惑ってるのは俺だからな」

名剣士「統率力や指揮能力とか考えれば当然ですよ。あと、その呆れるぐらいの強さもですけどね。俺は師匠に剣をかすらせた事すらないですから」

剣聖「剣の強さなんて、革命を行う上であまり必要なかったがな。クーデター起こそうってんじゃないんだ。国民の意識の改革から始めないと」

名剣士「実際、クーデターなら一日で終わってたでしょ、師匠は」

剣聖「で、何が変わるんだ? 血にまみれた独裁者が新しく誕生するだけだろ。そんなのは願い下げだ。政権が変わるのが大事なんじゃない、国民の意識が変わるのが大事なんだよ」

名剣士「わかってます。ただ、従うだけでは操り人形と同じだって。師匠の師匠の教えですよね。もう耳にタコなんで」

剣聖「俺にとっては血肉だ。師匠の教えがなければ、俺は今のこの強さも平和も手に入らなかった」

名剣士「尊敬されてるってのはよくわかってますよ。それよりも……」

523: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:13:26.04 ID:JpBbyk/ao
名剣士「多分、師匠の耳にも既に入ってますよね? 勇者が現れたって話」

剣聖「ああ、知ってる。その為に無理を言って、しばらくこの国を留守にする事を議会にねじ込んだからな。準備はもう整ってる」

名剣士「なら、わざわざ来なくても良かったですかね。師匠が動けなくて困ってるといけないと思って、何か助け船を出そうかと急いで来たんですけど」

剣聖「悪いな、気持ちだけもらっとく」

名剣士「残念ですよ。逆に恩を売る機会だと思ったのに」

剣聖「そういう奴だ、お前は。妙なところだけ俺に似てやがる」

名剣士「まあ、唯一の弟子なんでね。師匠譲りですよ、それは」

剣聖「だから、弟子にした覚えはないぞ」

名剣士「師匠と俺は元革命軍のリーダーと副リーダーじゃないですか。その時、政治やら剣術やら色々教わったし、言ってみればもう師弟みたいなもんですよ」

剣聖「強引過ぎるな。まあいい。それよりも名剣士、暇ならこれからちょっと付き合え。丁度今から旅立つつもりだったんだ。折角だから見送りをしていけ」

名剣士「もちろん、お付き合いします。久々に師匠の勇姿も見たいですしね」

524: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:15:14.71 ID:JpBbyk/ao
ー 大廊下 ー


名剣士「しかし、驚きましたよ。本当に師匠の言っていた通りになるなんて……」テクテク

剣聖「当たり前だ。ガキの頃から、俺は『勇者(名前)』にたった一回でも勝った事がないんだからな」テクテク

名剣士「そこらは正直、話し半分に聞いてたんですけどね。師匠に勝てる人間がいるなんて想像がつかなかったんで……」

名剣士「でも、師匠より強いってんなら、間違いなく世界を救う勇者に選ばれるでしょうし、実際そうなってますから。そりゃ流石に信じますよ」

剣聖「だから、俺の話した事は嘘や間違いじゃなかっただろ。今じゃ、あいつがどれだけ強くなってるか、俺にも想像がつかないしな」

剣聖「正直、剣の道はもう極めたと内心では思ってたんだが、とんだ驕りだった。俺もまだまだ修業不足だな。勇者に選ばれたあいつは、きっと俺よりも遥かに強くなってるだろうから」

名剣士「にしちゃあ、嬉しそうですよね、師匠」

剣聖「当たり前だ。子供の頃からの夢がようやく叶うんだぞ」

名剣士「っと、話してたらもう着いちゃいましたか、厩舎に」

剣聖「ああ、見送りはここまででいい。さ、行こうか、相棒」


天馬「」ヒヒーン!!

525: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:16:37.03 ID:JpBbyk/ao
剣聖「それじゃあな! 魔王を倒したら戻ってくる! 城の奴等にも宜しく伝えといてくれ!」ヒラリ

天馬「」ブルル


名剣士「ご武運を!」


剣聖「ああ、それじゃ行くぞ、相棒!」タンッ

天馬「」バッサ、バッサ (天に舞い上がってく)





名剣士「……しかし、相変わらずカッケーな、師匠は」

名剣士「天騎士の鎧に名剣デュランダルと伝説剣エクスカリバー、そしてペガサス……。神話に出てくる英雄そのものだ。勇者でないのが不思議なくらいだぜ……」

526: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:18:21.89 ID:JpBbyk/ao
ー 東の国、上空 ー



剣聖「さて、お前の速度なら山奥の村まで20分ぐらいで着くだろう。十五年前の約束を果たしに行くぞ!」

天馬「」バッサ、バッサ


剣聖「しかし、最近は政務ばかりで実戦は久し振りだからな。腕が鈍ってないといいが……」


剣聖「む……」

天馬「」バッサ、バッサ


剣聖「……珍しいな。こんなところで大型の魔物に出会うなんて」




焔鳥「SIGYAAAAAA!!!」バッサ、バッサ (全長41メートル)




剣聖「どれ、肩慣らしといくか」チャキッ


「飛剣! メ ル ト ス ラ ッ シ ュ ッ !!」


ザシュッ!!!!



焔鳥「シィ……ギィ…………」 (真っ二つ)


ヒューン……ドグシャッ!!!



剣聖「弱すぎて試し切りにもならんか。ちっ」

【天下無双の剣聖】
『体力 :9999億
 攻撃力:9999億
 防御力:9999億
 魔力 :9999億
 素早さ:9999億』

特殊技能:魔法剣
    :剛剣
    :柔剣
    :飛剣
    :聖剣
    :暗黒剣
    :暗殺剣
    :二刀流
    :無刀流
    :居合

528: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:20:05.22 ID:JpBbyk/ao
ー 中央国、大聖堂

  離れの特別礼拝堂

  最奥の間 巨大部屋 ー



ギギギギギギィィ…… (魔力でコーティングした鋼鉄製の扉が開かれる)


女「……ようやく。ようやく、お会い出来ました」

女「お久し振りでございます、女です」ペコッ……

女「今日は特別な知らせを持って参りました」

女「この世で唯一無二、世界にただ一人だけの特別なお方」

女「竜に愛されし聖女様……」



聖女「わ、久し振りだね、女ちゃん。懐かしいなあ」


その言葉とほぼ同時に、彼女のすぐ横に座っていた二匹の生物が低いうなり声を出しながら顔を上げた……

三界における最強の孤立種族ーードラゴンである


天海竜『グルルルッ……』(全長38メートル)
地海竜『ギルルルッ……』(全長38メートル)

【双子の竜族】(二匹の平均値)
『体力 :736万
 攻撃力:424万
 防御力:408万
 魔力 :357万
 素早さ:280万』

530: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:21:45.69 ID:JpBbyk/ao
聖女「少し痩せたんじゃない? 大丈夫? 元気にしてた?」

女「はい、体は健康そのものです。それもこれも全て女神様の加護の賜物です。聖女様こそ、お元気そうで何よりです」

聖女「もう、相変わらず固いなあ、女ちゃんは。もっとフレンドリーでいいって言ってるのに」

天海竜『…………』ジロッ
地海竜『…………』ギロッ

聖女「あ、ダメだよ、ドラリンにドラポン。この子はわたしの友達。攻撃したら、めっ、だからね」

天海竜『…………』コクッ
地海竜『…………』コクッ

聖女「うん。いい子たちだね。よしよし」ナデナデ

天海竜『ぐるるっ……』(ご満悦)
地海竜『ぎるるっ……』(ご満悦)


女「聖女様も初めてお会いした時から少しも変わっておられないようで安心しました……。あの時も聖女様はそうやって、竜をまるで赤子の様に大人しくさせてしまわれて……」

聖女「もう五年も前の話だっけ? そういえば女ちゃん、あの時、竜に襲われかけてたよね」

女「はい。そこを聖女様に助けて頂きました。まるで奇跡を見ているかのようでした」

聖女「大袈裟だよ。竜は元々大人しい種族なんだから、きちんと話せばわかってくれるもの。こっちに悪意とか恐怖がなければ平気よ」

女「それを言えるのは、世界で唯一、聖女様だけですよ。正直、私は今でも竜は怖いですし……」

聖女「そうなの? こんなに可愛いのにね」ナデナデ

天海竜『ぐるるるるっ……』(ご満悦)
地海竜『ぎるるるるっ……』(ご満悦)


女(猫みたいな鳴き声を出してる……)

531: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:23:48.91 ID:JpBbyk/ao
聖女「それで、今日はどうしたの? 何か特別な報せがあるって言ってたけど」

女「はい。吉報です。聖女様が前に話しておられた勇者様が現れたのです。名前も確認しましたが、以前お聞きしていた通り勇者様ご本人で間違いありません」

聖女「ああ、うん、知ってるよ。女神様から直接聞いたから」

女「そうですか。直接お伝えを受けるとは、流石は聖女様です。もしも知らなかったら、どうしてもお伝えしなければと、ここまで来たものですから」

聖女「わざわざありがとうね。ここに来るのも大変だったんじゃない? 忍び込んで来たの?」

女「いえ、色々ありまして、教会に復職する事になりました。不本意ではありますが、その内、また枢機卿に任命されるようです」

聖女「あ、戻っちゃうんだ。女ちゃんはそのまま教会とは縁を切ってた方が良かったと思うんだけど……」

女「申し訳ありません。こちらにも事情がありまして……。聖女様のお耳汚しとなる様な事なので、詳しくは申し上げませんが……」

聖女「うーん……。でも、気になる。教えてくれない?」

女「いえ、いくら聖女様と言えどもこればかりは……。しばらくの辛抱だと割り切りますし、あまりに長くなるようなら、その内、自分で何とか致します」

聖女「そうは言ってもなあ……。女ちゃんも困ってるみたいだし……」

532: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:25:14.56 ID:JpBbyk/ao
聖女「悪いけど、ちょっとだけごめんね」

女「?」

聖女「」パアアッ (後光が差す)

女「!?」

聖女「ふうん……。勇者の事で脅されちゃったんだ」

女「わ、わかるのですか!?」

聖女「うん。何となくだけど。でも、それなら平気だよ。私も一緒に行くし、何なら各地の教会に勇者は本物だって伝えるよう、天使さんを派遣してもいいし」

女「……て、天使様??」

聖女「うん。お話は聞いてたよね? いざという時はお願いしていい?」


ピカーッ (目映い光が部屋中を照らす)

天使A「心得ました」フワッ

天使B「全ては聖女様のお心のままに」バサッ

天使C「御安心を……」フワリッ

【聖女の世話役】(三天使の平均値)
『体力 :516万
 攻撃力:272万
 防御力:296万
 聖力 :264万
 素早さ:224万』



女「て、天使様が降臨を……!!!」

533: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:26:25.84 ID:JpBbyk/ao
女「け、結界は……大丈夫なのですか? この部屋には聖魔含めて最強の結界がかけられていたはずですが……」

女「唯一、通過出来る場所が、あの外側からしか開かない頑丈な扉だけだというのに……」

聖女「結界なら、この前ドラリン達が遊んでいる時にパリンッて割れちゃったみたい」

女「」

聖女「どっちにしろ、あの程度の結界じゃ、天使さんには意味ないけどね」

女「そ、そうですか……。流石は天使様……」

聖女「私自身も、前からこっそり抜け出して色々なところに行ってたりしてたし」

女「」

聖女「そもそもドラリン達なら、あの扉自体、壊すの簡単だと思うよ」

女「」

534: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:28:07.72 ID:JpBbyk/ao
女「な、ならば何故、聖女様はこの様な軟禁生活を受け入れられてるのですか」

女「私はてっきり、聖女様は封印されていて身動きが取れないからだと……。しかし、その気になればここからいつでも出られるというのに、何故!」

聖女「それは、ここの場所が聖地だけあって、みんなの信仰や祈りが世界中から集まってくるからだよ」

聖女「今、女神様が魔王によって封印されてるらしくって。だから私が女神様の代わりに、この場所でそれを祝福や加護に変えて与えてるの」

女「で、では、聖女様は今や実質的に女神様と同じ……。私の加護も聖女様が……」ガクガク、ガタガタ

聖女「うん。天使さんに頼まれてその代わりをしてるだけなんだけどね。私は力を貸してるだけで、細かい事は天使さんが全部やってくれてるよ」

女「そ、そうですか……。さ、流石は聖女様……」ガクガク

聖女「急にどうしたの? 震えてるけど? 寒いの?」

女「あ、い、いえ……。多少驚いてしまったので……」ガクガク

聖女「驚く程大した事はしてないよ。きっと女ちゃんでも出来るから。試してみる?」

女「ムリムリムリムリムリムリ、恐れ多いです! 私ごときではとてもとても!!」ブルブル

聖女「そんな謙遜しなくてもいいのに」

女「いえいえいえいえいえいえ!! 絶対ムリですから!! 無茶ぶりやめて下さい!!!」ガクガク

535: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:30:10.02 ID:JpBbyk/ao
聖女「でも、気軽に動けないと不便な時もあるからなあ。今回もどうしようかなって考えてたところだし」

女「そ、それはそうでしょうね……。勇者様のお供をすると言うのならかなり長い間、ここを空ける事になりますし……」ガクガク

聖女「そうなんだよね。二・三日ぐらいならいなくなっても平気なんだけど、何ヵ月も空けると世界中の加護とか祝福が少なくなっちゃうだろうから、みんな困ると思うし……」

女「は、はい……。そうでなくとも聖女様は教会のシンボル的なところありますし……。聖女様が行方知れずになったとなれば、世界中の者が悲しむはずです」

女「それに、竜に愛されてる聖女様の存在があるからこそ、教会は絶大的な信頼を得ています。最強の武力を有している事にもなるので、大きな顔が出来ている訳ですし……。きっと教会も聖女様の旅立ちを認めないでしょうね……」

聖女「言い方全然違うけど、何か教皇さんも似たような事を言ってたね。あの人の陰湿なやり方は嫌いなの、わたし。だから、女ちゃんがやってる事は応援してたよ」

女「で、では、聖女様も今の教会の方針を快く思ってはいないと……!」

聖女「うん。わたしはここから長い間離れられなくなっちゃったし、わたしが教会の事を悪く言うときっと女神様への信仰自体が弱くなっちゃうからね。そのせいで何も出来なかったんだけど」

聖女「だから、信仰を下げずに教会に反旗を翻している女ちゃんにはいつも感謝してたよ」

女「なら、私はすぐさま、以前の様に教会から袂を分かちます! まだ枢機卿になるという発表はされてませんし!」

聖女「そう? ありがとね。でも、その前にやっぱり女ちゃん、わたしの代わりに祝福や加護をみんなに与えてくれない?」

女「だからそれはムリですって!! 聖女様たっての頼みなので断りたくはないのですが、ムリなんです!!」ガクガク

536: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:32:03.45 ID:JpBbyk/ao
聖女「そんな事ないよ。結構簡単な事だし」

女「世界規模の加護や祝福を簡単とか言われても困ります!!」ガクガク

聖女「女ちゃんなら才能あるし大丈夫だと思うんだ。一度試してみればわかるから。わたしの聖力を少しだけ女ちゃんにも貸すしね。はい」パアアッ

女「あ、あああああああああああああああああああっっ!!!///」ビクンッ!

『女のパラメータが上がった!!』

【教会を破門された女】
『体力 :6254
 攻撃力:   1
 防御力:9999
 魔力 :8870
 素早さ:4209』
     ↓
【聖女の祝福を受けし女】
『体力 :7289万
 攻撃力:    1
 防御力:8753万
 聖力 :9999万
 素早さ:5047万』


聖女「それで、この地に送られてきてる祈りや信仰を女ちゃんに受け渡して」パアアッ

女「ふああああああっ!!///」ビクンッ!!!


聖女「ね? 平気でしょ?」

女「え、あ、はい……。大丈夫……みたいですね……」パアアッ (後光が差す)


聖女「それじゃ、お願いしてもいい? 細かい事は天使さんがやってくれるから」

天使A「ええ。私どもに万事お任せを……」ペコッ

女「は、はい!!」ビクッ


聖女「あと、念の為にドラポンを護衛に残しておくから。頼んだよ、ドラポン。女ちゃんを守ってあげるんだよ」

地海竜『グルルルッ!!』フンスッ

女「」ビクッ!!

538: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:33:53.58 ID:JpBbyk/ao
聖女「それじゃ行ってくるから。悪いけど、しばらくお願いね」

女「は、はいっ!! 聖女様からの頼みであれば、この命尽きるまでここでお待ちしております!!」

聖女「大袈裟だよ。でも、出来るだけ早く帰ってこられるように頑張るね」

女「はいっ!!」

聖女「魔王を倒して女神様の封印が解けたら、わたしもこの場所から自由に動けるようになるし、そうなったら、この教会の事も何とかしよう。女ちゃんと一緒なら良い方向に変えていけると思うし」ニコッ

女「あ、ありがとうございますっ! 聖女様!!」

聖女「それじゃ行こうか、ドラリン。よいしょっと」ピョン(竜の背に乗る)

天海竜『グルルルッ!!』フンスッ


女「」ビクッ

539: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:35:29.69 ID:JpBbyk/ao
聖女「魔王を倒したらすぐに戻ってくるから。どれだけかかるかわからないけど、女ちゃん、それまでドラポンと一緒に仲良くしててね」

地海竜『ぎるる』コクコク

女「は、はい!!」


聖女「じゃあ、行こっか。わたしの行く先を阻む物よ、一時、その力を消したまえ」パァァッ

(壁がぐにゃりと曲がり、巨大な穴が開く)


女「なにあのまほう……。わたししらない……」


聖女「進む先は山奥の村だよ。飛んで!」

天海竜『グルルルッ!!』バッサ、バッサ



ヒューン……!!!



女「はや!」


ウニョニョ……


女「あ、かべがもとにもどってく……。すごい……」

540: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:36:26.35 ID:JpBbyk/ao
ー 中央国、上空 ー


聖女「やっぱり空飛ぶのって気持ちいいよね」

天海竜『グルルルッ』バッサ、バッサ


聖女「それにしても、勇者、どんな風に変わってるかな? きっとスゴく強くなってるよね」

天海竜『グルルルッ!』バッサ、バッサ


聖女「だよね! あと、スゴくカッコよくなってるかもしれないね。昔からカッコ良かったし」

天海竜『グルルルッ!』バッサ、バッサ


聖女「え? 前? あ、魔物だね。悪霊系かな……?」





闇死霊「竜……!? た、退避……!!」フワリッ




天海竜『グルルルッッッ!!』バッサ、バッサ!!!

聖女「あ、いいよ。私がやるから」

聖女「闇より生まれし亡者よ、闇へと消え去りなさい」パァァ




闇死霊「あ、ああああっ……!!!」ビキキィィィ


パリンッ…… (消滅)




聖女「さ、行こう。十五年振りに勇者に会いに! 楽しみだね!」

天海竜『グルルルッ!!』バッサ、バッサ!!

【竜に愛されし聖女】
『体力 :9999億
 攻撃力:9999億
 防御力:9999億
 聖力 :9999億
 素早さ:9999億』

特殊技能:奇跡

541: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:37:43.12 ID:JpBbyk/ao
ー 南の海、凪の海賊団、アジト前 ー


女船長「大船長ーーーーっ!!!」ダダダダダッ


バキイッ!! ズゴーンッ!! ガッシャーン!!!

男船長A「ぐぼおらげほぐふげふわっっっ!!!」ビューン!!

【格闘王】
『体力 :7574
 攻撃力:8329
 防御力:6811
 魔力 :  36
 素早さ:6025』

女船長「!!?」


「大船長!! 考え直しぎゃぐいあぐげごぼがぎふあっっ!!!」

バリーィン!! ズガッシャーン!!

男船長B「が、ぐふっ…………」ドサッ

【三番艦隊、隊長】
『体力 :6597
 攻撃力:7134
 防御力:5468
 魔力 :   0
 素早さ:7256』


女船長「お、遅かったか、ちくしょう!!」

542: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:38:40.36 ID:JpBbyk/ao
ー アジト内 ー


ガチャッ!!!

女船長「大船長っっ!!」


女闘神「ああ、女船長、お帰り。悪いけど、今、ちょっと立て込んでてね」

副船長「がふっ……!!!」ドサッ……

【四海の小覇王】
『体力 :8187
 攻撃力:8255
 防御力:8436
 魔力 : 291
 素早さ:5923』


女船長「副船長までっ!!!」

女船長「やっぱり、この海賊団を抜ける気なんですか、大船長!!」


女闘神「そ。ひょっとしてあんたまで止めに来たの?」

女闘神「もしそうで、そこのみんなみたいに実力行使で止めようとするってんなら、床とキスする覚悟はしときなよ」



男船長C「」(気絶)
女船長D「」(気絶)
男船長E「」(気絶)
男船長F「」(気絶)
男船長G「」(気絶)
女船長H「」(気絶)
男船長I「」(気絶)


女船長「わ、私を除いた十番隊の船長全員が、もう……!!」

543: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:40:45.94 ID:JpBbyk/ao
女闘神「だから、最初に言っておいたのにさ。子供の時からの約束があるから、あいつが伝説の勇者になって現れたら、あたしは海賊稼業をすっぱりやめるって」


女船長「確かにそりゃ聞きましたよ!! でも、本当にその幼馴染みが約束通り勇者になって旅立つなんて、誰も思わないじゃないですか!!」

女船長「それに、大船長はもう世間じゃ海賊王だって言われてるんですよ!! この海賊団がここまでデカクなったのだって、大船長が率いていたからで!!」

女船長「大船長はこの海賊団の竜骨なんですよ!! 屋台骨なんです!! 今更抜けるって言われたら、そりゃ何としてでも止めますよ!!」


女闘神「それこそ勝手な言い分だね。あたしは初めから全員に言ってあるんだし、それでいいって話だったんだから」

女闘神「で、いざその時が来たら、納得出来ないからってムリヤリ捕まえようとしてくるなんてね。そりゃあたしだって反撃するよ」


女船長「大船長が抜けたら、その後、私らはどうしろってんですか! 解散しろって言うんですか!?」

女船長「こんだけデカイ海賊団まとめれるの、大船長だけなんですよ!! でなきゃ隊長同士で争いが起こりますって!!」


女闘神「ま、それについてはあたしも困るからね。だから、しばらくは副船長に任せる事にした。これ、一応委任状。あんたはその補佐にしといたから」ピラッ

女船長「ちょっ! 勝手ですって、そんなの!!」

女闘神「いいでしょ、別に。ずっとって訳じゃないんだし。魔王倒したらまた帰ってくるから、それまでの間だけだしさ」

女船長「それ、いつになるんすか!! 無理ですよ、私らじゃそんなに長い期間もたないですって!!」

女闘神「なら、お互い武闘家らしく、拳でケリつけよっか?」スッ

女船長「っ!!! そ、そっちも無理です……!! 大船長に勝てる訳ないじゃないですか!!」ガタガタ

544: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:42:28.86 ID:JpBbyk/ao
女闘神「ま、あんた達もそこそこ強くなった訳だし、平気だってば。もう、ここらじゃ敵なしぐらいの強さにはなってるはずだし」

女闘神「それに、海賊稼業もそろそろ潮時だったからね。これからは貿易でやっていこうかって話になってたし、あたしはあまり必要ないでしょ」

女船長「必要あります!! 大船長がいなかったら、私ら誰から経営学とか学ぶんですか!! ずぶの素人揃いなんすよ!!」

女闘神「そっちも、あたしが昔使ってた教本置いといたから、自分たちで学びなよ。小麦とかのあまり価格変動が起きないもの扱って堅実にやってけば、大こけはしないはずだから」

女闘神「ただし! 商売とかせずに、あたしがいない間に勝手に先祖がえりして、もしも商船の略奪を始めるようなら……」

女闘神「その時は容赦なく潰すから、それだけは忘れないようにしなよ」ゴゴゴゴゴ……

女船長「っ!!」ビクッ!!


女闘神「って事で、他の隊長達にも起きたらそう伝えといて。それじゃあね」ダンッ (窓から近くの大岩まで大ジャンプ)


女闘神「」ピィィーッ (指笛)



ヒューン……

鳳凰「」バッサ、バッサ (全長56メートル)

【神の使い】
『体力 :551万
 攻撃力:246万
 防御力:219万
 魔力 :336万
 素早さ:304万』




女船長「!!!???」



女闘神「さ、行こっか! 目指すは山奥の村!! 勇者と合流するよ!!」スタンッ (乗る)

鳳凰「シギャアアアアアアッ!!」ビリビリッ



バッサ、バッサ、バッサ……



女船長「っ……。け、結局、止めるどころか、一歩も動けなかった……」ヘナヘナ

女船長「大船長……。いつの間にあんな怪物手懐けたんだ……」

女船長「やっぱ化物だわ、あの人…………」ハァ……

545: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:44:31.89 ID:JpBbyk/ao
ー 南の国、上空 ー


女闘神「にしても、大変な騒ぎになっちゃったな。この五年の間にちょっと組織をデカくし過ぎたかも」

鳳凰「」バッサ、バッサ


女闘神「しっかし、楽しみだな。本当に勇者に選ばれちゃったし、あいつ。どれだけ強くなってるんだろ」

鳳凰「」バッサ、バッサ


女闘神「ま、伝説の勇者だし、それぐらい強くなってもらわないと困るか。ふふっ」

鳳凰「シギャアアアアッ!!」バッサ、バッサ


女闘神「ん、ああ……。下にちょっと強そうな魔物がいるね。女船長だけじゃ多分あれはキツいかな。他の面子は今気絶してるし、あたしが片付けておくか」





クラーケン「URYYYYYYY!!?」ビクッ (全長39メートル)




女闘神「行くよっ!!」ギュイイーン


「 烈 火 降 破 弾 !!!」(気功弾)



ズガッバキッガッシャーーーーーーーン!!!

クラーケン「GYUAAAAAAAAAA!!!」ドギャボギアガギ!!!


ゴボゴボゴボ…… (撃沈)




女闘神「よしっ! それじゃ、十五年前の約束を果たしに行こっか!!」

【武を極めし女闘神】
『体力 :9999億
 攻撃力:9999億
 防御力:9999億
 魔力 :9999億
 素早さ:9999億』

特殊技能:魔法拳
    :硬気功
    :柔気功
    :軽気功
    :外気功
    :秘孔
    :合気
    :消力
    :忍術
    :暗殺拳
    :殺意の波動

546: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:46:28.95 ID:JpBbyk/ao
ー 異界、中央巨大塔、最上階 ー


カツーン、カツーン……

魔王「さて、ここまで来てようやく真魔王と御対面という訳なのだが……」

側近「」チャキッ (剣を構える)

魔王「しかし、お前がこの世界の魔王とはな。その姿、意外としか言えないぞ」


侍女「?」

侍女「お前、誰だ。いきなり訪ねて来て無礼だろ」


魔王「無礼はそちらであろう。招かれざる客ではあるが、余は魔界から来た魔王だぞ。礼儀を知っているのならば、それなりの態度を持って遇せよ」


侍女「お前が魔界の王?」

侍女「嘘だな、お前、弱すぎる。論外だ」


魔王「ほう。ならば試してみるか……?」ゴゴゴゴゴ……


侍女「断る、面倒だ。客でないなら排除するだけ」ビュンッ!!

侍女「はいっ!!」ドゴオオオオオオオオンンンンッッッ!!!


ズガゴラギングワンバキンドグガッシャーーーーン!!!

魔王「ごぶげらがぎぐれごがぶぎがりごぼほあああああっっっ!!!!!」メキョ、バキッ、ガッシャーン!!!

側近「魔王様ぁぁぁぁーーーー!!!」



侍女「お前は見逃してやる。さっさと去れ」

側近「ぐっ、うおああぁっっ!!! ま、魔王様ぁぁぁっっ!!!」ダダダダダッ


侍女「とんだ無礼な奴らだ。あんなの、御主人様に会わせる価値もない」

【真魔王の式神】
『体力 :2000億
 攻撃力:2000億
 防御力:2000億
 魔力 :2000億
 素早さ:2000億』

547: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:48:55.20 ID:JpBbyk/ao
侍女「」ペタペタ、ヌリヌリ (魔王が吹き飛んで壊れた壁の修復中)


真魔王「おーい、侍女ー。さっき、何か大きな音がしたけど、何かあったのかい?」テクテク

侍女「変な奴ら来たから、追い出した」

真魔王「そうか。そりゃありがとう。いつも、御苦労様」

侍女「他愛ない。もっと誉めろ」フンスッ

真魔王「わかったよ。君は偉い、よくやってくれてる」

侍女「それほどでもない」フンスッ

真魔王「そっか。ああ、それとしばらく僕は出掛けてくるから、その間、留守番を頼んだよ」テクテク

侍女「何だ? 御主人様、どっか行くのか?」

真魔王「人間界に里帰りだよ。幼馴染みが勇者に選ばれたからね。だから、これから僕も一緒に魔王を倒す旅に出てくるのさ」

侍女「魔王か。きっと恐ろしく強いんだろうな。御主人様、大丈夫か?」

真魔王「どうだろうね……。とんでもないぐらいの強さだって話だし……。何せ三年間、僕の先生の元で修行しただけで、先生が戦わずして負けを認めたらしいからね……。正直なところ、僕の実力では叶わないだろうなって思ってる」

真魔王「でも、勇者の他にも僕には強い仲間達が一杯いるからね。皆で力を合わせて戦えばきっと何とかなるよ。どれぐらいかかるかわからないけど、必ず魔王を倒して帰ってくるから」ニコッ

侍女「それでも心配だ。私、留守番で平気か? 手伝うぞ?」

真魔王「大丈夫だよ、ありがとう。それに、僕は不老不死の秘法を会得してるしね。最悪でも、死ぬ事はないよ」

侍女「そうか。でも、やはり心配だ。気を付けろ」

真魔王「わかってる。それじゃ、ちょっと行ってくるから」スッ


真魔王「時空の扉を開けたまえ、我が目指すは人間界なり……」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


真魔王「じゃあ、留守番頼んだよ」フッ…… (消える)




侍女「行ったか」

侍女「無事に帰ってこいよ、御主人様。私はそれまで待ってるからな」

548: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:50:33.48 ID:JpBbyk/ao
ー 竜界(人間界)、妖魔の森すぐ近く ー


フッ……

真魔王「ん……。到着っと。ここは妖魔の森近くかな」

真魔王「おや……」



大賢者「」…… (骸)


真魔王「魔物にでもやられたのか……。だけど、亡くなってからそう時間が経ってる訳でもないみたいだ……」

真魔王「これなら……」スタスタ


真魔王「蘇生魔法。この者の魂を冥界から呼び戻したまえ……」パァァッ……

大賢者「っ……」ビクリッ……


真魔王「うん。甦ったな。あとは……」

真魔王「召喚魔法。我の魔力を贄としてその姿を現したまえ……。左より、守護の雷神」パァァッ

ズゴゴゴゴゴゴ……

トール「……我を呼びし者、何用だ」

真魔王「陰陽術。我との契約を結びし者、我の前に姿を見せよ……。右より、姿麗しき霊獣」ピカッ

ズゴゴゴゴゴゴ……

九尾の狐「……何じゃ、昼寝しとったところを呼び出しおって」


真魔王「我が名をもって命じる。トールはこの者を葬った魔物に、裁きの鉄槌を」

真魔王「九尾の狐はこの者を安全な場所に移して、回復するまで面倒を見てくれ」


トール「容易い願いだ……。叶えよう」

【古の雷神】
『体力 :624万
 攻撃力:482万
 防御力:376万
 魔力 :153万
 素早さ:219万』


九尾の狐「やれやれ……。その程度の事で妾を呼び出しおってのう……」

【傾国の美狐】
『体力 :377万
 攻撃力:213万
 防御力:159万
 魔力 :582万
 素早さ:252万』

549: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:51:57.68 ID:JpBbyk/ao
トール「出でよ、ミョルニル!」ズンッ


※注釈
ミョルニルは鎚の名前。名称は古ノルド語で「粉砕するもの」
決して壊れない。投げても的を外さずに再び戻ってくる


トール「ふんっ!!!」ブンッ (ぶん投げ)


ヒューン……





「UGIYUAAAAAAAAAA!!!」 (断末魔)




九尾の狐「どれ、では運んでやるか」パクッ、グイッ (口でくわえる)

大賢者「う……」ズルッ


九尾の狐「面倒じゃが、妾の屋敷で世話してやる。感謝するんじゃな」ピョーンッ

大賢者「こ、これは……ゆ、夢…………?」


ピョン、ピョーンッ……



真魔王「これで良しと」

真魔王「それじゃあ、僕も行くとしようかな。今から勇者に会うのが楽しみだ」ニコッ

【異界に君臨せし真魔王】
『体力 :9999億
 攻撃力:9999億
 防御力:9999億
 魔力 :9999億
 素早さ:9999億』

特殊技能:多重魔法
    :合成魔法
    :召喚魔法
    :陰陽術
    :回復・蘇生魔法
    :時魔法
    :時空魔法
    :移動魔法
    :即死魔法
    :魔力錬成術


真魔王「山奥の村まで! 移動魔法!」ヒュンッ……

550: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:53:12.23 ID:JpBbyk/ao
ー 西の国、専用研究所 ー


女大富豪「いよいよね。これで魔結晶は全部そこのエネルギータンクに入り終わったわ」

秘書「はい。しかし、膨大な数でしたな……」ゼェゼェ

女大富豪「そうね。でも、フルパワーでずっと動かそうとするなら、きっとこれぐらいは必要よ」


女大富豪「子供の頃、絵本やおとぎ話を聞いて、私はずっと思い描いてたの」

女大富豪「私は体を動かすのが得意じゃない。だから」

女大富豪「私の代わりとなって戦ってくれる、ゴーレムの様な存在が欲しいって」

女大富豪「そして、私は苦労の末に魔導鉄の開発に成功した。これは偶然じゃないと私は確信したのよ」

女大富豪「運命の女神が、私にこれを造れと、ずっと囁いていたのよ!」

女大富豪「魔結晶をエネルギーとして動き、魔導鉄と魔力回路によって自在に可動する、人が生み出したる神たる存在!」

女大富豪「この、『魔導機神、ウイングフリーダムゴーレム』をね!!」


魔導機神「」…… (全長19メートル・人型)

【最終決戦兵器・魔導機神ウイングフリーダムゴーレム】
『耐久力:9999億
 火力 :9999億
 装甲 :9999億
 運動性:9999億
 持続力:9999億』

武装:近接防御機関砲×2門
  :高エネルギー魔力出力砲×8門
  :魔力ソード×2
  :魔導シールド
  :対巨大魔獣用、大型魔力凝縮出力砲×2
  :魔導レールガン×6門
  :遠隔操作型、魔力出力小型砲台×32機
  :大型魔導弾バズーカ×2
  :光の翼(背面超大型魔力ソード)

551: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:54:47.26 ID:JpBbyk/ao
女大富豪「装甲は魔力コーティングを六重に施した強化魔導鉄。ちゃちな魔法や剣じゃ傷一つつかない仕様」

女大富豪「そして、魔導回路を計七十万箇所、ありとあらゆる部位に張り巡らせているから、どんな複雑な動きも可能」

女大富豪「エネルギーとして魔結晶三千万個を使用しているから、圧倒的な高火力、驚く程の運動性、途中でエネルギーが尽きる事もまずないわ」

女大富豪「操作法も魔力を流してイメージするだけ。それだけで自分の手足の様に動く」

女大富豪「そして、私の魔力のみで動くようにしてある特別専用機体!」

女大富豪「これが、私の十五年の結晶! 世界で唯一無二の、最強の操縦型ゴーレムよ!」ババンッ


魔導機神「」…… (全長19メートル)

553: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:56:29.88 ID:JpBbyk/ao
秘書「相変わらず圧巻ですな……このゴーレムは。試運転の段階で山を一つ、跡形もなく吹き飛ばしましたし……」

女大富豪「それぐらいの強さでなきゃ困るわよ。私の仲間はみんなその程度の事なら軽く出来るし」

秘書「はあ……」

女大富豪「で、勇者はきっともっと強くなってるだろうから、これでようやく私も勇者の仲間を名乗れる程度ね。多分これでも一番弱いわよ」

秘書「……あなたの話を聞いてると、むしろ仲間や勇者の方が魔王よりもよっぽど怪物の様に思えるのですが……」

女大富豪「ううん。魔王なんて、きっともっともっと化物なんだから。私の師匠の全盛期よりも強かったらしいし。未だに師匠に及ばない私達にとっては、もう想像出来ないぐらいの強さよ」

秘書「そうですか……」

女大富豪「さ、無駄話はここまでよ。約束の日までまだ何日かあるけど、早く行って悪い事はないんだし」ピョン (魔導機神のコクピットまで一足跳び)

秘書「……しかし、命がけの旅に出られるというのに、楽しそうですね。まるで、子供が遊び場に飛び出して行く様な感じで……」

女大富豪「ええ。正直、ワクワクしてるもの。待ちきれない感じよ。だってこれまでずっと十五年間も待ったんだから!」


秘書「左様ですか……。いえ、それは結構な事なのですが、決して浮かれて油断なさらないように」

女大富豪「ええ、わかってる。それじゃあ、研究所の扉を開けて。そこのスイッチよ」ガコッ、ウィーン…… (コクピットの中に乗り込む)

秘書「はい」ポチッ


ガガガガガガガガガ…… (研究所の壁が動き出し、ゆっくりと上に開いていく)


『ふふっ! 魔導機神ウイングフリーダム、出るわ!!』

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


ドシュンッッッ!!! (発進)



ブワッッ!!! (爆風)




秘書「行ってしまわれたか……」

秘書「願わくば、あの方に勝利の二文字を……」

554: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:58:30.98 ID:JpBbyk/ao
ー 西の国、上空 ー


ビュインッッ!!!


女大富豪『快適ね、空の旅は! 反応も上々、スラスターの具合も良好!』 (コクピット内)

魔導機神「」ドギュッッ!!!


女大富豪『何度乗っても、鳥になった気分ね! これだけ速い鳥は魔獣でもそうはいないだろうけど!!』

魔導機神「」ドギュッッ!!!



ピコーン、ピコーン……

女大富豪『ん、魔導レーダーに反応。識別、大型の魔獣・昆虫タイプ』

女大富豪『ここら辺では見ない魔物ね。これだけ大きいと流石に放置しとく訳にもいかないか。町が壊されちゃうだろうし』


女大富豪『じゃあ行くわよ! 戦闘準備! エネルギーチャージ!』ガコッ

魔導機神「」ググッ (構える)

女大富豪『照準、29キロ先の大型魔獣! バスターライフル、セット!!』

魔導機神「」ジャキッ (高速飛行しながら、大型魔力凝縮出力砲を装備)


女大富豪『発射っっーーーーーー!!!!』

魔導機神「」ガチッ!!!




ドギュウウウウウウウンンッッ!!!




555: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 16:00:07.06 ID:JpBbyk/ao
ー 29キロ先、上空 ー



琥珀蝶「」バッサ、バッサ (全長34メートル)


琥珀蝶「」バッサ、バッサ


琥珀蝶「」バッサ、バッサ



キラーンッ!!!


琥珀蝶「?」


チュゴゴゴゴゴゴゴオオオオオンンンンンン!!!!





琥珀蝶「!!!!!!」ジュワッ…… (消滅)





 

556: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 16:01:01.65 ID:JpBbyk/ao
女大富豪『レーダーから反応消失!』

魔導機神「」ドギュッッ!!!


女大富豪『バスターライフルを使う程でもなかったかもね。加減がまだイマイチわからないのよね』

魔導機神「」ガコッ、ジャキンッ (大型魔力凝縮出力砲をしまう)


女大富豪『ま、旅をしていけば、その内慣れるわよね。今は気にしないでおこ』

魔導機神「」ドギュッッ!!! (高速移動)





女大富豪『あ、山奥の村が見えた。早い早い。もう着いたのね』

魔導機神「」ドギュッッ!!!



女大富豪『逆噴射して減速! 降下するわよ!』

魔導機神「」ドシュゥッッ……



女大富豪『あの約束の木のすぐ横に降りる! 着地用意!』

魔導機神「」ヒューーンッ……


女大富豪『着陸っ!!』

魔導機神「」ドシンッ!!!

メキャッ!! ボキッ!!

約束の木「」グラッッ!! ドサッッ!!



女大富豪『あああああ!!! 折れたあああああああ!!!!』

616: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 16:49:46.24 ID:95TTvc4ho
ー 異界の最果て ー


側近「ま、魔王様ぁぁぁ!! 魔王様は何処に!!」キョロキョロ

側近「吹き飛ばされた方角からして、絶対こちらの方向にいるはずなのに! 最果てまで来ても一向に見つからない……!」

側近「一体、どこへ……!! 『闇の衣』を纏っている魔王様がやられるはずがない! あの方は絶対に生きておられる!!」



側近「魔王様ぁぁぁ!! 私の声が聞こえておられたら、どうかお返事を!! 魔王様ぁぁぁ!!」




「っ…………」




側近「!!」

側近「今、藪の中から、気配が……!! 声が……!!」


側近「魔王様! そちらにお出でなのですか!!」ダダダッ




魔王「ぁ……がっ……」ビクッ、ビクッ
残り体力:1

死神鳥A「カァァァ!! カァァァ!!」ツンツン
死神鳥B「カァァァ!! カァァァ!!」ツンツン
死神鳥C「カァァァ!! カァァァ!!」ツンツン
死神鳥D「カァァァ!! カァァァ!!」ツンツン
死神鳥E「カァァァ!! カァァァ!!」ツンツン
死神鳥F「カァァァ!! カァァァ!!」ツンツン
死神鳥G「カァァァ!! カァァァ!!」ツンツン
死神鳥H「カァァァ!! カァァァ!!」ツンツン



側近「ま、魔王様ぁぁぁぁぁーーーー!!!!!」

617: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 16:50:24.45 ID:95TTvc4ho
側近「このクソ鳥どもがっっ!! 魔王様に近付くな!!!」ジャキッ、ズバッ!!! (剣で払う)


死神鳥A「ガアアッ!!」バササッ (退避)
死神鳥B「ガアアッ!!」バササッ (退避)
死神鳥C「ガアアッ!!」バササッ (退避)
死神鳥D「ガアアッ!!」バササッ (退避)
死神鳥E「ガアアッ!!」バササッ (退避)
死神鳥F「ガアアッ!!」バササッ (退避)
死神鳥G「ガアアッ!!」バササッ (退避)
死神鳥H「ガアアッ!!」バササッ (退避)




魔王「っ……ぁっ……」ビクッ、ビクッ (瀕死)
『残り体力:1』


側近「おいたわしや、魔王様!! この様な無惨な姿に……!!」グスッ

側近「魔王様の盾となるべき私がついていながら、なんたる失態……!! 全てこの私の責任!!」ポロポロ

側近「今すぐお助け致します! 私の全魔力をお受け取り下さい!! これで魔王様は回復を!!」パァァァァッ!!!
『残り魔力:497万→0』


魔王「っ……! うぐっ……!!」ビクンッ!!!
『残り体力:1→62万』


側近「良かった……。持ち直されたか……。傷もふさがっていく……」グスッ

618: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 16:51:10.10 ID:95TTvc4ho
ー 数時間後、湖のほとり ー


魔王「うっ……」パチリ……

側近「魔王様、気が付かれましたか!」


魔王「ここは……」

側近「異界でございます! どこかは正確にはわかりませんが、かなり端の方かと!」


魔王「余は……何故……ここにこうして寝て……」

側近「そ、それは……。非常に申し上げにくい事なのですが……」


魔王「いや……良い。……思い出した」

側近「…………」


魔王「余は……負けたのだな……。この世界の魔王に……」

側近「はい……」


魔王「その辺りの記憶がいまいち戻って来ぬが……。余はどう負けたのだ……?」

側近「……ほとんど一瞬の事だったので、私にもわかりません。……気が付けば魔王様が吹き飛ばされていました」

魔王「そうか……。一瞬か……。一撃で余はやられたのか……」

側近「…………」

619: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 16:52:01.59 ID:95TTvc4ho
魔王「倒れていた時に……夢を見たのだ」

側近「……?」


魔王「夜に見る夢の方だ……。その夢の中では……余がまだ王にもなっておらぬ頃だった……。魔界を旅して……強くなって……」

魔王「もうこの魔界に敵はおらぬと思った頃……。師匠に出会い……そして今の様に一撃でやられた……」

魔王「実際は違うのだがな……。現実では……師匠は余を軽くあしらっただけで……手傷一つ負わせる事なく余に勝ったのだから……」

側近「…………」

魔王「その時の師匠と余ではそれだけの差があった……。だからこそ……こんな夢を見たのであろう……」

側近「……左様ですか」

魔王「そして、余はその夢の中で師匠に何か言われた……。覚えてはおらぬが、師匠は何と言っていたのか……」

魔王「困ったような……呆れたような……それでいて優しい顔をしていたが……」

側近「…………」

620: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 16:52:46.80 ID:95TTvc4ho
側近「魔王様……」

魔王「何だ……?」

側近「最終的には……魔王様は師匠を超えられたのですから。今度もまた……同じ事になると私は信じております」

魔王「そうだな……。余もそのつもりだ」

側近「一度の敗北など、取るに足りません。また研鑽を積まれ、次に会った時に雪辱を晴らせば宜しいかと」

魔王「わかっておる……案じるな。余は同じ相手に二度も負けはせぬ」

側近「はっ! それでこそ魔王様!! 我が主様です!!」

621: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 16:56:24.50 ID:95TTvc4ho
魔王「ならば……そろそろ行くか」ムクッ

側近「いえ! まだ休まれた方が! 御体調は万全とは言えません!」

魔王「構わぬ。話してる内に、感覚もずいぶんと戻ってきたからな。それに、手と足さえ動けば問題ない」

側近「ですが、まだ御養生なされるべきです!」

魔王「いや、時間の無駄だ。それに、再戦をしに行こうという訳ではないぞ。一時、魔王城へと戻る事とする。出直しだ」

側近「そうですか……それならば……」

魔王「異界に来たのは無駄足となってしまったが、新たな目標が出来たのだ。決して悪い気分ではない。凱旋は出来ぬが、それは次回の楽しみに取っておこう」

側近「はっ!」

魔王「それと、御苦労であったな、側近。倒れている間、余をずっと守っていたのであろう。この有り様を見ればお前がどれほど奮戦したか手に取るようにわかる」

側近「いえ、これしきの事は……」
『残り体力:26万』




烈火オオカミ「」…… (骸)
凍結鳥A「」…… (骸)
凍結鳥B「」…… (骸)
四手の怪奇サル「」…… (骸)
暗黒ゾウA「」…… (骸)
暗黒ゾウB「」…… (骸)
暗黒ゾウC「」…… (骸)
巨大キラーアントA「」…… (骸)
巨大キラーアントB「」…… (骸)
灼熱ムカデ「」…… (骸)
鋼鉄イノシシ「」…… (骸)
鬼ゾンビ「」…… (骸)
死神の鎧A「」…… (骸)
死神の鎧B「」…… (骸)
死神の鎧C「」…… (骸)

622: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 16:58:01.67 ID:95TTvc4ho
側近「それよりも、魔王様……」

魔王「何だ」

側近「魔王城へ戻りましたら、どうか私を処罰して下さい。どの様な処分でもお受け致します」

魔王「意味がわからぬな」

側近「私は魔王様の盾となるべき存在です。それが、あの時は何も出来ず、魔王様をみすみす危機に追いやりました。処罰を受けて当然の事でございます」

魔王「下らぬな。余はこうして生きているし、お前の働きがなければどうなっていたかはわからぬ。誉める理由はあれど、処罰する理由はない」

側近「いえ、あの時、私が魔王様の身代わりとなって死ぬべきでした。それこそが盾たる私の役目。それを全う出来なかったのは全て私の責任でございます。どうか、ご処罰を」

魔王「ならば、側近には次の事を命じる。心して聞け」

側近「はっ」

魔王「お前はこれから先、寿命以外で死ぬ事を許さぬ。その上で、生涯をかけて余の盾たる役目を全うせよ」

側近「……!」

魔王「良いな。それがお前への罰だ。余の許しなく勝手に冥界に行く事は許さぬ」

側近「はっ!! 必ずや!!」ポロポロ……

623: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 16:58:39.86 ID:95TTvc4ho
ー 同時刻、山奥の村 ー


約束の木「」…… (倒壊)



聖女「…………」

剣聖「…………」

女闘神「…………」

真魔王「…………」

女大富豪「ご、ごめんなさい……」シュン

624: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 16:59:32.34 ID:95TTvc4ho
真魔王「……折っちゃたんだ」

女大富豪「わ、わざとじゃないの……。ゴーレムで着陸した時に、当たっちゃって……」シュン

女闘神「何て言ったらいいか……。どうしような、これ……」

剣聖「……聖女、お前の奇跡で何とかならないか? これじゃ、勇者が戻ってきた時に悲しむぞ」

聖女「わかってる。そう思って、今、木さんにお願いしてるんだけど……」ソッ (木に手で触れる)


約束の木「」…… ピカーッ(光り輝く)


聖女「もう寿命が近いからって……。どうせ近い内に枯れるなら、治さずにこのままがいいって言ってるから……」シュン

剣聖「そうか……。それならもう仕方がないか……」

女闘神「真魔王、あんたでも無理? 時魔法とかで時間戻して何とかなんないの?」

真魔王「そこまで魔法は万能じゃないからね……。時の加速は出来ても、逆行は出来ないよ。そこら辺は女大富豪の方が詳しいよね?」

女大富豪「うん……。因果律に逆らう様な魔法は存在しないの……。それが出来たら歴史が目茶苦茶になっちゃうし……」


※注釈
因果律。原因があるから結果があるのであって、その逆は有り得ないという考え


女闘神「じゃあもう、どうしようもないって事か……」ハァ……

625: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:00:50.98 ID:95TTvc4ho
聖女「しょうがないよね……。勇者が来たら、訳を話して謝ろう。女大富豪ちゃんもわざとじゃないんだし、きっと許してくれると思うよ」

剣聖「そうだな。あいつは優しかったし、それに、器量も人一倍大きかった。きっと、許してくれるはずだ」

真魔王「そうだね。勇者なら間違いなく大丈夫だと思う」

聖女「木さんもごめんね……。女大富豪ちゃんを許してあげてね」ソッ


約束の木「」…… ピカーッ(光り輝く)


聖女「うん……そっか。大丈夫だって。気にしないでって言ってる。良かったね、女大富豪ちゃん」

女大富豪「うん……。ごめんなさい、それと今まで私達を見守ってくれてありがとね」

剣聖「最期は俺が見取る。また、苗木が生えて成長出来るように……」スッ


「聖剣技! メ サ イ ア !!」

スパッッ!!!


切り株「」……



女闘神「この倒れた木の方は、切って牧場の柵として使おうか。柵が結構壊れるって言ってたから、きっと牧場のおっちゃんも喜ぶだろ」ヒョイッ (重量2t)

聖女「そうだね。それがいいね」

女大富豪「あ、じゃあ、それは私がやる!」

真魔王「ううん。みんなでやろう。牧場のおじさんには昔から全員お世話になってるし、恩返しだと思ってさ」

剣聖「良い事言うな、真魔王。よっしゃ、なら全員で張り切って行くか!」



「おーっ!!」


 

626: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:01:51.46 ID:95TTvc4ho
ー そして、それから五日経った現在 ー


切り株「」……


勇者「…………」(茫然自失)



勇者「何で……切り株になって……」

勇者「皆とここで約束したのに……」

勇者「また……この木の下で会おうって……」


勇者「みんなは……じゃあ、どこに……」



ドッッッッゴーーーーーンンッッ!!!



勇者「」ビクッ!!!


勇者「な、何だ、今の音は!!」チャキッ (剣を構える)

勇者「まさか、またキメラが襲ってきたのか!?」

勇者「向こうの方から聞こえてきたな!! 村の外か!!」ダダダッ


ダンッ (柵を飛び越える)

 

627: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:02:47.50 ID:95TTvc4ho
ー 外にある特設訓練場 ー



女闘神「どーだっ! あたしがこの一年で編み出した最強奥義は!」


剣聖「痛てて……。参るな……。俺じゃなかったら死んでたぞ、これ……」


女大富豪「相変わらずだよね。二人とも強い強い。もう動きが目で追えないもん。羨ましい」

聖女「でも、剣聖って、もしかしてちょっと弱くなった? さっきから女闘神ちゃんに押されっぱなしだし」

真魔王「そういえば、今は国王様になってたんだっけ。革命が大詰めの時だったし、修行する時間はあまりなかったんじゃないかな?」


剣聖「まあ、確かに修行する時間は減ったかもしれないが、それを負けの言い訳にするつもりはないぞ。純粋に、俺の実力不足だ」

女闘神「違う! あたしが強くなったんだ!」


聖女「どっちだろうね、真魔王。ふふっ」

真魔王「なんかこういうやり取り、毎年の様に聞いてるからなあ。何だかんだで仲が良いんだよね、あの二人」

女大富豪「でも、恋愛関係とかにはならなさそうなのがね。なんか親友って感じだし」


アハハッ、ソーダネ、ハハハッ






ー 300メートル離れた地点 ー


勇者「確か、ここらから音が……」ダダタッ……

勇者「あ……」

勇者「あそこにいる五人って、まさか……」

628: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:03:45.84 ID:95TTvc4ho
女闘神「ん……?」ピクッ

剣聖「…………」ピクッ


聖女「二人とも、どうしたの?」


剣聖「いや、何か向こうから見られてる気配がな……」クルッ

女闘神「うん。殺気とかないし、気にする程じゃないんだけどさ……スライムかな?」クルッ




勇者「あ……こっちに気付いた……?」

勇者「行こう……!」タタタッ




女闘神「あ……ちょっとみんな、見て! 向こう!」

剣聖「あれはもしかして……!」


聖女「え?」クルッ
真魔王「どうしたの?」クルッ
女大富豪「?」クルッ


聖女「あ! あの格好……!」

真魔王「それに、その顔……!」

女大富豪「ひょっとして……!」



「「「「「勇者……!?」」」」」







勇者「」タッタッタ……

勇者「うん……。みんな……だよね?」



「勇者ぁっ!! 久し振り!!!」

「うん!! 久し振り、みんな!!!」




「会いたかったっ!!! 十五年振りっっ!!!」


 

629: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:04:54.14 ID:95TTvc4ho
勇者「みんな、変わったね! 少しだけ面影が残ってるけど!」

剣聖「そうか? 自分じゃ全然わかんないけどな!」

女闘神「あたしら、そんなに変わった?」

勇者「うん! みんな、何か凛々しくなったっていうか、格好良くなってる! あと、女の子達は綺麗になって!」

聖女「ゆ、勇者、いつからそんな御世辞覚えたの、もう//」

真魔王「流石、王都で長く過ごしてただけはあるね。そうやって、何人の女の子を口説いたんだい?」

勇者「いや、本当だって! 嘘なんかついてないよ! 全員、本当に立派になったし、美男美女になってる!」

聖女「で、でも、勇者も立派になってるよ!// 何かもう、見た目からして伝説の勇者って風格出てるもん!」

女大富豪「何せ勇者は、王都で騎士隊長就任の最年少記録出してるぐらいだもんね。私は色んな町を回ってたから、噂で活躍は何回も聞いてるよ。自分の事みたいに誇らしくってさ」

勇者「ありがとう。そう言われると素直に嬉しいよ。でも、みんなとの約束があったから、俺は今日まで頑張ってこれたんだよ。だから、みんなのおかげだよ!」

真魔王「そういうとこ、変わらないね、勇者は。僕はそれが嬉しいよ」

聖女「うん……。優しくて素直で、思いやりがあって明るい勇者のまま……。わたしもなんか嬉しくなっちゃう」

剣聖「そうだな。お前が変わってなくて本当に良かった」

女大富豪「そして、約束通り、世界でたった一人の勇者に選ばれて……」

女闘神「こうして、ここに帰ってきてくれた!!」



「勇者、おめでとう!! 子供の頃からの夢が叶って!!!」

「ありがとう、みんなっ!!」



630: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:06:07.55 ID:95TTvc4ho
女闘神「にしても、ホントにびっくりしたよ! 振り向いたらいきなり勇者がいるんだもん!」

剣聖「俺たち、勇者が来たらすぐに駆けつけようって思ってたのに、完全に虚をつかれたからな!」

勇者「そうだったんだ、何かごめん。いきなりで」

聖女「ううん。逆に感心したよ。ね、みんな?」

真魔王「そうだね。剣聖と女闘神の二人にまったく気付かれないって相当なものだからさ」

女大富豪「だよね。それだけ強さとか覇気を隠してたって事でしょ? なかなか出来る事じゃないよね」

勇者「……隠す?」

剣聖「まったくだな。勇者が来たら闘気とかですぐにわかると思ったんだけどな。悔しいというより流石だぜ」

女闘神「ね。そういうの欠片も感じなかったもんね。あれだけ近付くまで気付かせないってスゴいよ。あたしらでも、あそこまで力を抑える事出来ないもん」

勇者「??」

631: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:06:57.02 ID:95TTvc4ho
聖女「ね、勇者はもう村長さんとかに会った? きっとみんな喜ぶと思うよ」

真魔王「そうだね。神父さんとか、あと隣のおじさんおばさんとかも。勇者の事を気にしてたからさ」

勇者「あ、うん。会ったよ。一応、挨拶は済ませた。それよりもさ」

女闘神「?」

勇者「十五年前に約束したあの木が伐られてたんだけど……。あれ、一体何があったの?」

女大富豪「あ……」

聖女「あ、あの、ごめんね。悪気はなかったの……」

真魔王「あれ、女大富豪がはずみで折っちゃったんだよ……」

勇者「……え? はずみで?? え??」

女闘神「お、怒らないで聞いてくれよ、勇者。女大富豪もそんなつもりはなかったんだから。折ろうとして折った訳じゃないんだ」

剣聖「ちょっと勢いがつきすぎて、ぶつかったみたいでな……。事故なんだよ」

勇者「ぶつかってあの大木が折れるの????」

女大富豪「あ、あの、ごめんなさい! だから、勇者、怒らないで! 落ち着いて!」

632: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:07:47.81 ID:95TTvc4ho
勇者「いや……怒ってはないけど……。ただ、状況がよくわからないから……」

聖女「あ、そうだよね。勇者は何も知らないんだから、そうなるよね。ちゃんと順番に説明するね」

真魔王「えっと……まず、女大富豪がゴーレムを造ったんだよ」

勇者「!?」

剣聖「それで、そのゴーレムに乗ってここまで来たんだが、約束の木の下に着陸したら勢いがつきすぎたみたいでな」

勇者「着陸……??」

女闘神「で、元々あの木自体が寿命近くて脆かったみたいなんだよ。だから、ボキリと」

勇者「ボキリ!?」

女大富豪「ご、ごめんね……。聖女でも、真魔王でも、治せないらしくって……。だから……」

勇者「治す????」

633: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:08:36.35 ID:95TTvc4ho
女闘神「とにかくさ、女大富豪には悪気はなかったんだよ。本人も反省してるしさ、許してやってくれよ」

聖女「ね、勇者、お願い。残念だろうし、悲しいのはわかるけど、もうどうしようもなかったの」

剣聖「大切な思い出の場所だもんな、気持ちはわかる。だけど、な? 俺達からも謝るからさ」

勇者「あ、いや……大丈夫だよ……。いまいち理由がよくわからないけど、怒ってはないから。何か事情があったなら、もう仕方ないと思うし……」

真魔王「良かった……。それ聞いて安心したよ」

女大富豪「本当にごめんね、勇者……。その分、冒険の旅で頑張るから……」シュン

勇者「ううん、大丈夫。もう気にしてないから。こうしてまたみんなに会えた事だけで十分嬉しいし」

聖女「良かった。やっぱり勇者は勇者だね……。優しい」

剣聖「ああ、そうだな。快く許してくれたし」

女闘神「ホントだよ! あんたは変わらずいいやつだ!」

勇者「そんな、やめてよ。照れるよ」


ハハハッ、アハハッ


634: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:09:22.74 ID:95TTvc4ho
勇者「それよりもさ、女大富豪。さっき言ってたよね。冒険の旅って」

勇者「それって、ひょっとして……」

女大富豪「あ、そうだね。まだ全員言ってなかったっけ」

聖女「私たちもね、子供の時の約束、ちゃんと果たしてるよ」ニコッ

剣聖「そう。俺は戦士に!」

女闘神「あたしは武闘家に!」

真魔王「僕は魔法使い」

女大富豪「私は商人に!」

聖女「そして、わたしは僧侶になってるの」


勇者「本当に!? 凄いや!! みんな覚えててくれたんだ! 約束を果たしてくれたんだ!!」


「もちろん!!」


「だって、このみんなで魔王を倒すって決めたんだから!!!」


勇者「うんっ!!!」

635: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:11:26.45 ID:95TTvc4ho
ー 神界、封印の牢獄内 ー


女神「……良かった。無事に勇者は約束の場所へと辿り着けましたね……」

【慈愛と運命の女神】
『体力 :853万
 攻撃力:772万
 防御力:914万
 聖力 :ーーーー(人々の信仰で変動する)
 素早さ:649万』


大天使「はい……。どうにか無事に仲間たちと合流出来たようです」

【神界の三大天使】
『体力 :628万
 攻撃力:305万
 防御力:573万
 聖力 :421万
 素早さ:347万』


女神「これで私の役目はほぼ終わりました……」

女神「後はしばし待ちましょう……。彼らが魔王を倒してくれるのを……」

大天使「はい……」

636: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:13:35.31 ID:95TTvc4ho
大天使「しかし……肝心の勇者が心配ですね。実力差に心を抉られなければ良いのですが……」

女神「……ですが、あの者以外に勇者は務まりません。恐らく、辛い現実と向き合う事になるでしょうが、耐え忍んでもらう以外に方法は……」

大天使「やはり、いっその事……仲間の誰かを勇者に任命した方が良かったのでは……」

女神「その様な空気を読めない事が出来るはずありません……」

大天使「…………」


女神「あの者たちは世界を滅ぼす力を持っているのですよ……。あまりの強さに私の運命の干渉すら効果がありません……」

女神「あの山に張られていた特殊な結界のせいで、あの者たちの存在に気が付くのが遅すぎたのです……」

女神「十五年前の約束通り、あの者を勇者にしなかったら、一体何が起きるか最早私にも予測がつきません……。もしも、それがきっかけで仲違いを始めたらと思うと……」

女神「ただの喧嘩が三界全てを滅ぼす大戦争に発展する可能性もあるのです……。他の者を勇者になど、出来るはずがありません……」

女神「その為に神託も、十五年後に合わせて五年近くも待ったのです……。本来ならば、あの者たちは五年前にはもう、一人で魔王を倒す実力を十分身に付けていたというのに……」

637: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/18(金) 17:15:07.24 ID:95TTvc4ho
大天使「ですが、その五年のせいで、更に恐ろしいぐらいの差がつきましたが……」

女神「才能がありすぎたのです、あの五人は……」ハァ……


女神「人間にも魔族にも竜にも神にも、みな強さの限界というものがあるのです……。しかし、良き師と環境に恵まれたのでしょう……。あの四人はその限界を何回も何十回も越えてしまい……」

女神「一人だけ武術や魔法の才能がなかった子も、知力でそれを補って……」

女神「最早、私達に出来るのは、あの五人が喧嘩をしないよう、ただ祈る事だけです……」シュン


大天使「誰に祈れば良いのでしょうかね……私達は……」

女神「五人のまとめ役をしてくれる勇者に……。喧嘩を未然に防げる可能性があるとしたら彼だけでしょう……」

女神「この世界を滅びの道へと進ませないようにしてくれる事を彼に祈りましょう……」

大天使「真逆の立場なんですね、私達は……」

675: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:43:20.78 ID:+cGbtkouo
ー 山奥の村 ー


勇者「それじゃあ、みんな。今日はゆっくり休んで明日から冒険の旅に出ようか。みんなの話とかも聞きたいし」

聖女「そうだね。わたしたちも勇者の話を聞きたいから」

剣聖「ああ、じゃあ一旦村に戻るか」

真魔王「あ、待って。その前に先生に報告しに行こうよ。ここからすぐ近くだし」

女闘神「そうだな。勇者が来たって、師匠に報告しに行くか」

女大富豪「賛成!」


勇者「先生? 師匠?」

676: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:44:21.53 ID:+cGbtkouo
真魔王「うん。僕たち五人の先生だよ。勇者が王都に行ってから、しばらくしてからかな? 偶然会ってさ」

聖女「魔族だったから最初は驚いたんだけど、とってもいいお爺ちゃんだったの」

勇者「魔族!?」

女大富豪「あ、魔族って言っても、誤解しないでね! 先生は魔族の中でも特別で、優しくて穏やかな人だったから」

剣聖「ああ、魔王の事も悲しんでた。元は魔王の師匠だったんだが、魔王がああなったのも自分の責任だって嘆いてたし」

勇者「魔王の……師匠!?」

女闘神「それぐらい強かったんだよ。だけど、本当に良い爺ちゃんだった。村の人たちとも仲良くなってさ! ホントだから!」

真魔王「うん。村長とか神父様とか他の人にも聞いてもらえばわかるよ。先生は特別だって絶対に言ってくれるから」

勇者「……そうなんだ。みんながそう言うなら、それを信じるけど……」

聖女「うん。お爺ちゃんはいい人。勇者もそこは信じて。魔族だからって偏見を持たないでね。良い魔族の人だっているんだから」

勇者「うん。わかった。大丈夫だよ。偏見は持たない。安心して」

女大富豪「良かった。勇者に誤解されたら困るから」

真魔王「うん、信じてもらえて良かったよ」

677: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:45:11.57 ID:+cGbtkouo
女闘神「それで、話を元に戻すけど、その師匠がメチャクチャ強かったんだよ。だから、あたしら全員弟子入りしたんだ」

聖女「わたしたちだけじゃなくて、村のみんなもだよ。護身術を教えてもらったの」

勇者「え!」

女大富豪「急にどうしたの、勇者?」

勇者「あ、いや、なんか村の人たち、メチャクチャ強くなってたから……。ひょっとしてって……」

剣聖「ああ、そういえば、前に比べればみんな強くなったよな」

真魔王「そうだね、特に『女村人B(名前)』さんとか、かなりのものじゃないかな? 先生も筋がいいって誉めてたし」

勇者「それで……。そうか……」

聖女「お爺ちゃん、教え方もスゴい上手だったんだよ」

剣聖「最初、レベルが違いすぎて何を言ってるのか全然わからなかったけどな」


ダヨネー、ホントダヨー、アハハッ


勇者(そんな強い人がこの山にいるんだ! なら、俺も教えを乞えば、きっと今より強くなれる! なんかやる気出てきたぞ!)

678: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:45:55.40 ID:+cGbtkouo
女闘神「ま、そういう事でさ。師匠には村のみんな感謝してるんだ」

剣聖「俺達が束になってかかっても、きっと全盛期の師匠には叶わなかっただろうな。それぐらい強かった」

勇者「みんな、いい先生に出会えて良かったね。それで、俺も是非会って、しばらくここで学びたいんだけど、いいかな? 俺にも紹介してくれないかな」

聖女「うん……。紹介はもちろんいいんだけど……」

勇者「?」

女大富豪「学ぶのはもう……ダメなの。だって……」

真魔王「二年以上前に、病気で亡くなっちゃってね……。だから、これから行くのは先生のお墓なんだよ」


勇者「あ……」

679: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:46:51.63 ID:+cGbtkouo
勇者「そっか……。そうなんだ……。ごめん」

剣聖「いや、元から長くない身だったんだ……。死期が近いって、師匠も悟ってたからな……」

女大富豪「会う度にどんどんやつれていってね……。あの頃は辛かったな……」

聖女「でも、死に顔は安らかだったよ……。お爺ちゃんも満足して冥界に行ったと思う……」

女闘神「ああ、あたしたちに魔王の事を託してな……。だから、師匠の為にも、あたしらは絶対に魔王を倒さなきゃいけないんだ!」

真魔王「うん。必ず」

女大富豪「争い事が嫌いな先生でさ……。魔王の事でずっと心を痛めてたからね……」


勇者「……そっか。本当に良い先生だったんだね。会えなくて残念だよ」


剣聖「ああ、最高の師匠だった。俺達の誇りだ」

聖女「うん……。お爺ちゃんにはスゴく感謝してる」

女大富豪「私達の今があるのも、全部、先生のおかげなの」


勇者「……そっか。……俺にとっての騎士団長みたいな存在なんだ」


真魔王「勇者も……良かったらお墓まで付き合ってくれないかな。先生に紹介したいんだ。先生も勇者に会ってみたいって言ってたからさ」

勇者「うん。付き合うよ。俺も一言、挨拶をしておきたいから」

女闘神「ありがとな、勇者。じゃあ、こっちに来てくれ。案内するよ」

勇者「うん」

680: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:47:57.90 ID:+cGbtkouo
ー 魔老師の墓 ー


剣聖「ここだ。墓は俺達で建てたんだ」

女闘神「師匠は、静かに生きて静かに死にたいって、そういう人だったからさ。だから、死んだら墓とか建てずにこの山のどこかにひっそり埋めてくれってそう言ってたんだけど、それじゃ、あまりにも寂しいからさ……」


そこは崖の上、周りには色とりどりの花が咲き、山全体を見渡せる景観素晴らしき場所

そこに大理石で作られた十字型の小さな墓が建っていた。墓碑には名前も没した年数も書かれておらず、代わりにたった一言


『偉大なる恩師、ここに眠る』


 

681: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:49:58.43 ID:+cGbtkouo
勇者「村の墓地じゃないけど……魔物とかに壊されたりしないの? 大丈夫?」


聖女「わたしと真魔王で結界を張ってるから平気だよ」

真魔王「先生、ここからの景色がお気に入りだったからさ。どうしてもここに建てたかったんだ」


勇者「……そっか」

勇者「でも、結界とか凄いね……。そんな事も出来るんだ、二人とも」


聖女「それも、全部お爺ちゃんが教えてくれたから……」

真魔王「先生は何でも知ってたからね。知らない事なんかなかったんじゃないかってぐらい、色々知ってたよ」


勇者「……みんな、きっとかなり強くなったんだろうね」


女闘神「ああ。子供の頃よりもずっとな……」

女闘神「……師匠、見えるか? 伝説の勇者が今ここにいるよ。子供の頃からの約束を果たしてくれたんだ。あたしら、とうとう魔王を倒す旅に出るんだよ」

女大富豪「どこまでやれるかわからないけど……。私達、頑張るから。だから、ずっと見守っていて」

剣聖「師匠から教わった事、その集大成を全部魔王にぶつけて来るからな」

真魔王「先生の教えが正しかった事を、魔王に会って伝えてきます。そして、みんなでそれを証明したいと思います」

聖女「勇者がきっと、みんなを導いてくれるから……。だから、お爺ちゃんはわたしたちの後押しをお願い。お爺ちゃんの望んでいた平和な世界を作れるように……」


勇者「……初めまして、勇者です」

勇者「……出来れば、貴方とは生きている時にお会いしたかった。俺も教えを乞いたかったし、何よりみんなからこれだけ信頼され、慕われている貴方を一目見たかった……」

勇者「まだまだ未熟者ですが、女神様に代わって魔王を必ず倒してきます。どうかそれをここから見守っていて下さい」


魔老師の墓「」……

682: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:50:50.18 ID:+cGbtkouo
剣聖「……それじゃあ」

女大富豪「うん……。報告も済んだしね。村まで戻ろうか」

聖女「歩きでいいよね? 折角だし、ゆっくり勇者の話を聞きながら行きたいな」

真魔王「そうだね。王都に移ったばかりの頃の話とか、あと、それからの話とか色々。教えてよ」

勇者「結構、長くなっちゃうけどいい?」

剣聖「もちろん! 勇者の波瀾万丈な英雄譚だしな!」

女闘神「楽しみにしてたんだぜ! 聞かせてくれよ!」

勇者「うん……。じゃあ、王都に行ったばかりの頃から……」



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683: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:51:38.28 ID:+cGbtkouo
ー 夕方、村の集会所 ー


村長「では、この村から伝説の勇者様が出た事に」

「カンパーイ!!」


カチンッ、カチンッ、カチンッ


村人A「十五年振りに帰ってきた『勇者(名前)』にー……」

「カンパーイ!!!」


カチンッ、カチンッ、カチンッ


女村人B「明日からの勇者パーティーの活躍にー……」

「カンパーイ!!!!」


カチンッ、カチンッ、カチンッ


神父「世界平和の、前祝いに」

「カンパーイ!!!!!」


カチンッ、カチンッ、カチンッ



女闘神「ははっ、すっかり全員出来上がっちまったな」

真魔王「主役もいないのに、大盛り上がりだね。村の全員が集まって来てるし」

684: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:52:20.86 ID:+cGbtkouo
聖女「あれ。そういえば、勇者は?」キョロキョロ

剣聖「勇者なら、挨拶に出掛けてるぞ。あいつの両親のところへな」

聖女「あ、そっか……。お墓に……」

女闘神「王都にもお墓は建ってるらしいけど、やっぱりこっちのは特別だろうからな……」

女大富豪「十五年振りに会うんだね……」

真魔王「うん……」

685: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:52:57.64 ID:+cGbtkouo
ー 村の墓地 ー


勇者「ただいま、父さん、母さん」ソッ (花を添える)


墓「」……


勇者「もう少し早く来るつもりだったんだけど、戻ったら村のみんなが総出で出迎えてくれてさ。改めて挨拶とかしてたら、かなり遅くなっちゃったんだ」

墓「」……


勇者「それと、これ、わかる? 王様から頂いた勇者の印だよ」スッ

墓「」……


勇者「子供の頃、父さんは無理だって言ってたけど、俺、本当に勇者になれたんだ……」

勇者「母さんは応援してくれてたよね。おかげで夢が叶ったよ……」

墓「」……

686: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:55:14.59 ID:+cGbtkouo
勇者「王都での生活もさ、悪くなかったよ。最初はみなしごとか田舎者とか言われて散々からかわれたけど、でも、段々とみんなと仲良くなれてさ……」

墓「」……


勇者「それで、努力して……学校の成績も、剣術や魔法も一番になってさ……」

勇者「友達も沢山出来たよ。騎士団長の子供とも仲良くなったよ。色々な思い出が一杯出来たんだ」

勇者「騎士の試験にも受かってさ。それで手柄を立てて、騎士長に抜擢されて……。その後、騎士隊長にも昇進して……」

墓「」……


勇者「今は勇者だよ……。今なら、父さん母さんに誇りを持って言えるよ」

勇者「俺を生んでくれてありがとうって……。育ててくれてありがとうって……」

墓「」……

687: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:56:04.61 ID:+cGbtkouo
勇者「明日から、魔王を倒す旅に出るから……。また当分会えなくなるだろうけど、心配しないでね……」

墓「」……


勇者「俺には頼もしい仲間たちがいるから。みんな、この村で良い先生に出会えたらしくって、きっと凄く強くなってるんだ」

墓「」……


勇者「俺もしばらくは、旅をしながらみんなに特訓をつけてもらおうって思ってるしね……。俺はまだまだ強くなれると思う」

墓「」……


勇者「だから、次にここに来る時には、花じゃなくて……。この世界の平和を供えにくるよ……」

墓「」……


勇者「必ず魔王を倒して帰ってくるから。それまで待っていてね、父さん、母さん……」

墓「」……

691: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:58:32.03 ID:+cGbtkouo
ー 村の集会所 ー


ワイワイ、ガヤガヤ、ワイワイ、ガヤガヤ



剣聖「……そういえば、勇者だけでなく、牧場のおじさんの姿も見えないな」キョロキョロ

女大富豪「あ、うん……。誘ったんだけど、流石に遠慮するって言われたの。おじさん、ちょっと勇者に対して引け目があるからね」

聖女「勇者は別に気にしないと思うんだけど……。それでもって」

真魔王「『あの事』があるから会い辛いんだろうね。僕らに対しても、まだ秘密にしてくれって言ってたよ。魔王を倒して戻ってきたら、自分から話すつもりだからって」

女闘神「おっちゃん一人のせいじゃないとはいえ、辛い立場だろうからな……。気持ちはわかるけども……」

剣聖「まあ、こればっかりはな……。おじさんの気持ち次第だし、俺達じゃどうにもならないか……」

聖女「あ、あと、その時また『例のセリフ』言ってたよ。明日は旅立ちの日だから、こっちも魔王を倒してからになっちゃうけど」

女闘神「お、それ本当か? そりゃ気合い入れなきゃな」

真魔王「その前に、魔王を倒さないといけないんだけどね。全員無事に帰ってこられるといいんだけど……」

聖女「……大丈夫だよ、きっと」

女大富豪「そうね……。そう信じるしかないわね」

剣聖「こっちには伝説の勇者もいるしな」

女闘神「うん!」

692: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 17:59:50.96 ID:+cGbtkouo
ガチャッ

勇者「……ただいま」


聖女「あ、お帰り、勇者! もうお話は済んだの?」

勇者「……うん。終わった。伝えたい事は全部伝えてきたから」

剣聖「そうか……。なら、いいけどな」


村人C「おおっと! おーい、みんなー、伝説の勇者様が帰ってきたぞー!」

村人D「なら、乾杯すっかー! 勇者が戻ってきた事にー……」

「カンパーイ!!」


カチンッ、カチンッ、カチンッ


女村人E「勇者っ! 勇者っ!! もう一回っ!! それっ!!!」

「カンパーイ!!!」


カチンッ、カチンッ、カチンッ


勇者「えっと……」

女闘神「ま、見ての通り、村のみんなはもう完全に出来上がっちまってるからさ」

694: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 18:00:59.06 ID:+cGbtkouo
村人F「おーい、勇者ー! こっち来てくれ! お前も飲もうぜ、今日はしこたま飲み明かそうぜー!」フラフラ

女村人B「そうよー、勇者ー。こっち来て、こっち。おばさんにさー、色々と話聞かせてよー。ねえねえ」ヨロヨロ


真魔王「モテモテだね、流石は勇者」ニコッ

勇者「……性格悪くなった? 真魔王」


女大富豪「ま、今日はもう無理かな。おばさん、ああなるとなかなか止められないからね」

剣聖「諦めて、酒の肴になってきな。俺達とは明日も話せるからな」

聖女「二日酔いに気を付けてね、勇者」


勇者「……だね。覚悟しとく。ある意味、魔王相手にするより怖いかも」


ハハハッ、イイスギダッテ、アハハッ


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695: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 18:02:08.28 ID:+cGbtkouo


こうして、この日の夜はゆっくりと更けていく……。


故郷の温かさ、人々の希望、仲間からの信頼、そして絆、そんなものを勇者は感じ取りながら……。


心地好さと共に、時間も酒も通り過ぎていき、気が付けば深い眠りの中へと勇者は落ちていった……。





『勇者伝記』には、この夜の事がこう記されている。


勇者は仲間たちと共に笑い合い、それぞれの近況や過去の思い出話に花を咲かせ、大いにこの時間を楽しんだ。
故郷の温かさにも触れ、旅立ちの鋭気を養い、決意をより強く固めさせた。

後に勇者はこの様に述懐している。

『この夜は、自分の人生の中で二番目に最高の夜だった。仲間の頼もしさを次々と知り、ひたすら感激するばかりだった』

『良き友に、亡き父母に、生まれ故郷に、これほど感謝した日はなかった』と……。

698: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 18:05:43.78 ID:+cGbtkouo


だが……。

近年になって、南の国の地下遺跡から発見された一冊の書物。
勇者の自伝書とも、巧妙な偽書とも噂される『名もなき告白』には、こう記されている。


タロットカードの『愚者』同様、この時の私は何も知らない事で幸福でいられた。

私はこの夜、自分の過去を散々語りはしたものの、仲間の過去については機会を逃して聞けずにいたのだから。

また、幾つか推理の欠片となるものを与えられてはいたが、それは私の想像出来る範疇を遥かに越えるものであり、その少ない情報から真実に辿り着くのは恐らく誰でも不可能だっただろう。

聖女の名前を教会は公表していなかったし、女闘神は偽名を使っていた。真魔王は人間界では無名であったし、女大富豪は七つ星商会の方が有名過ぎて会長の名前はろくに巷に流布していなかった。

結局、私が知っていたのは、東の国の国王たる剣聖の名前だけだったが、それも同姓同名の別人だと私は初めから思い込んでいた。

この勘違いを誰が責められるだろうか。自分の幼馴染みが十五年の間に別の国の国王になっているなどと、誰が考えるだろうか。


(中略)


村人の強さから考えるに、この時点で、仲間が自分より強いであろう事は、ある程度、予想はしていた。
しかし、それはやはり『ある程度』であり、規格外な予想など私に出来るはずもなかった。


(中略)


この時点で、私の仲間達は、そうそうたる地位や肩書きを既に得ていた。
しかし、私が『伝説の勇者』という事もあり、それに比べれば大した事はないと考えていたらしく、誰もが自分からそれを言い出す事はなかった。

また、私の仲間達は、前述した師の教えにより、謙虚さを全員が身に付けており、自慢や見栄を張る様な真似は一切しなかった。
それも、私がこの事について気付くのが遅れた一つの要因となった。


(中略)


……そもそもの話をすれば、私はこの時、勇者に選ばれた事によって根本的な勘違いをしていた。
これは私が主役の物語だと心のどこかで思い込んでいたのだが、真実は一人の間抜けなピエロの話でしかなかった。

仲間と私とでは、太陽と蟻ほどの強さの差があったのだから……。
だが、この時の私はそれに全く気が付いていなかった……。




※注釈
タロットカードの『愚者』の絵柄は、上を向いてて先の崖に気付かず、幸せそうに歩いていく男という構図になっている。

699: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 18:06:56.62 ID:+cGbtkouo


記述に食い違いがある、この二つの書物……。

そのどちらが正しくて、どちらが間違っているのか。あるいは、何が真実で、何が嘘なのか。

それは、長い歴史の影に埋もれ、最早誰にも確かめようがない……。

だが、例えどちらであろうとも、『伝説の勇者』の冒険を記した書物には、ある一点のみ必ず共通している事がある。




それは、『伝説の勇者』の伝説は、この翌朝から始まるという事である……。



 

739: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:24:33.42 ID:AP8gEgBao
ー 朝、山奥の村 ー



村長「それではな……。達者でやっていけよ」

女村人B「頑張るのよ、勇者。必ず魔王を倒してきてね」グスッ

村人A「気張ってけよ、無茶さすんなよ!」

村人C「世界を頼んだぞ、勇者ぁ! 魔王を倒してここに錦を上げて帰ってこい!」


勇者「うん!」


神父「貴方に女神様の強い御加護があらん事を……。どうか無事にここへと帰って来るのですよ」

村長「ああ、ここはお前の故郷なんじゃからな」


勇者「はい! 行ってきます! みんな、ありがとう!!」ヒラリ (騎乗)

馬「」ヒヒーン



「がんばれよー! 負けんなー!!」

「しっかりなー! 毎日、女神様に勇者の無事を祈っておくからなー!」



勇者「うんっ! ありがとう、みんなー!」

勇者「ありがとうーーー!!!」

馬「」カッポ、カッポ

740: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:25:24.29 ID:AP8gEgBao
ー 山道 ー


勇者「それにしても、昨日あれだけ飲んだのに、体が軽いや。二日酔いとかにもなってないし」

馬「」ヒヒーン!!


勇者「やっぱり故郷の酒は特別なのかな。料理もどれもこれも美味かったし。心なしか、相棒も今日は元気に見えるしな」

馬「」ブルルッ


勇者「皆の期待に応える為にも、これから頑張らなきゃな。お前も頼りにしてるぞ、相棒」

馬「」バルルッ!!


前日
【伝説の勇者】  【名馬】
『体力 :204 『体力 :109
 攻撃力:115  攻撃力: 16
 防御力:110  防御力:  8
 魔力 : 77  魔力 :  0
 素早さ: 87』 素早さ: 24』
         ↓
本日
【伝説の勇者】  【名馬】
『体力 :307 『体力 :196
 攻撃力:213  攻撃力: 69
 防御力:210  防御力: 65
 魔力 :175  魔力 :  0
 素早さ:192』 素早さ: 78』



剣聖「お、勇者が来たな。皆の見送りも終わったか」

女闘神「あたしらは先に行っといて正解だったね。勇者、いい表情してる」

聖女「だね。みんなから、いっぱい元気をもらったんだろうね」


勇者「お待たせ、みんな。それじゃあ、行こうか」

馬「」ヒヒーン


剣聖「ああ! みんなで力を合わせて魔王を倒すぞ!」

女闘神「ついに、旅立ちの時だね!」

聖女「うん! みんな、頑張ろうね!」

真魔王「魔王を倒しに!」

女大富豪「出発するよ!」



「おーーーーっ!!」


 

741: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:26:48.48 ID:AP8gEgBao
勇者「それじゃあ、とりあえず一旦下の町まで降りようか。みんな、歩きで来たんだよね? なら、俺も歩くから、相棒に皆の荷物を乗せていって」ヒラリ (下馬)

馬「」バルルッ


真魔王「あ、大丈夫だよ、勇者。気を遣わないで。みんな、移動手段はあるから」

勇者「?」

女大富豪「それよりも、勇者。これからの行動についてちょっと話しておきたい事があるの。大事な事だから、少し時間をくれる?」

勇者「あ、うん。それはもちろん。これからの魔王を倒す旅の事についてだよね?」

女大富豪「そう。私は職業柄、世界中を飛び回ってたからね。その間に、魔王を倒す為の色々な情報を集めておいたの」

女大富豪「真魔王や女闘神にも色々と協力してもらったし、もう情報に関しては誰よりも詳しいわよ。任せて」ニコッ

勇者「そうなんだ、それは凄いや。ありがとうね、女大富豪」

女大富豪「ううん。情報収集とかは私の役目だしね。で、今から集めておいた情報を話すから、勇者、よく聞いててね」

勇者「うん。お願いするよ」

742: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:29:39.66 ID:AP8gEgBao
女大富豪「まず、魔王を倒すには『伝説の四装備』が必要なの」

勇者「四装備?」

女大富豪「剣・兜・鎧・盾の四つ。女神様の祝福を受けた、世界で最高最強の装備。勇者の為だけに作られた武器と防具で、絶対に壊れないと言われてるの」

勇者「そんなのがあるんだ。……知らなかった」

女大富豪「それで、特にこの中で一番重要なのが、『伝説の聖剣』。どうしてかって言えば、魔王は『闇の衣』っていう魔界の秘宝を装備してるらしいから」

女大富豪「この『闇の衣』っていうのは、『不死の秘宝』と呼ばれてて、装備してる限り、決して死ぬ事はないという伝説の宝具なの」

勇者「へえ……そうなんだ。それは厄介だね……魔王は不死身なんだ」

女大富豪「うん。それで、この『闇の衣』を断ち切れるのが、さっき話した『伝説の聖剣』。これだけ」

女大富豪「女神様が、『闇の衣』を斬り裂く為に用意した、世界でたった一本しかない特殊な剣なの」

女大富豪「そして、他の三つの防具は、その力を増幅する役割を持っているわ。だから、魔王を倒す為には、この『伝説の四装備』が必ず必要なの」

勇者「じゃあ、まずはそれを集めなきゃいけないんだね」

女大富豪「うん」

743: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:32:13.92 ID:AP8gEgBao
女大富豪「それで、この『伝説の四装備』がどこにあるかも私は調べておいてあるから、これから一つずつ場所を言っていくね」

勇者「そうなんだ、ありがとう。助かるよ」

女大富豪「まず、伝説の聖剣だけど、これは天空城にあるの」

勇者「天空城……? 空の上にあるって事?」

女大富豪「うん。遥か上空。雲の上に建てられてるお城で、そこの最上階に伝説の聖剣が突き刺さっているっていう事だったわ」

女大富豪「これは伝説の勇者以外は抜けないっていう、そういう噂があったの」

勇者「そうなんだ……。でも、空の上なんてどうやって行ったらいいのか……」

女大富豪「うん。それで、その話を知ってる人達に色々聞いたんだけど、この世界のどこかに天馬っていう空を飛ぶ馬がいるから、その馬に乗って取りに行くんだって」

剣聖「という事で、三日前に取ってきといた。受け取ってくれ」っ伝説の聖剣

勇者「え」

『勇者は伝説の聖剣を手に入れた!!』


勇者「……あ、えと……勇者以外抜けないんじゃ」

剣聖「それは噂だろ。確かに少し固かったけど、ちょっと力を入れたら引っこ抜けたぞ。でも、傷一つなかったし、流石は聖剣だな」ハハッ

勇者「……て、天馬は」

剣聖「何年か前に、天聖山に修行に行ったんだが、その時、湖のほとりで暮らしているのを見つけてな。妙になつかれて、それ以来、愛馬にしてる。後で紹介するが、いい馬だぞ」

勇者「……そ、そうなんだ。……ありがとう」

剣聖「いや、良い剣ってのは持ち主を選ぶ。それは勇者が装備するに相応しい剣だ。正しい持ち主のところにいけて、聖剣もきっと喜んでるだろう」

勇者「……だと……いいけどね」ズシリ……

745: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:33:12.37 ID:AP8gEgBao
女大富豪「それで、次は伝説の兜ね。これはどこかの国の地下に迷路で出来た巨大なダンジョンがあって、その中に隠されてあるって話だったわ」

女大富豪「それで、そのダンジョンがどこにあるのかは完全に謎。唯一の手がかりは、世界中にいくつも散らばっている古代文字で書かれた石板の欠片だけ」

女大富豪「だから、まずはその石板を全部集めて、更にそこに書かれてる古代文字を解読しないといけないんだけど」

真魔王「僕の魔力でダウジングして場所を探し当てたから、四日前についでに取ってきたよ。はい」っ伝説の兜

勇者「……あ、ありがとう」

『勇者は伝説の兜を手に入れた!!』


女大富豪「それで、次は伝説の鎧。これは水中深くにある海底遺跡に眠っているという噂ね。更にそこには恐ろしい怪物がいて、鎧を守ってるって事だったけど」

女闘神「あたしが、何年か前に巣潜りしてる時に偶然見つけてな。怪物もぶっ飛ばしておいた。はい」っ伝説の鎧

勇者「……う、うん」

『勇者は伝説の鎧を手に入れた!!』


女大富豪「それで、最後。伝説の盾。これは教会の大聖堂に厳重に保管されているそうよ。手に入れるには教皇の許可が必要になるわ」

聖女「だから、わたしが三日前にドラリンと一緒に行って、もらってきたよ。はい、勇者、使って」っ伝説の盾

勇者「…………」

『勇者は伝説の盾を手に入れた!!』

746: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:34:44.06 ID:AP8gEgBao
聖女「ね、早速装備してみて、勇者」ワクワク

女大富豪「そうね。晴れ姿を見せてよ」ワクワク


勇者「え……。う、うん……」ガチャリ、ガチャガチャ

『勇者は装備していた騎士団の剣・鎧・具足を外した!』
『攻撃力が24下がった! 防御力が36下がった! 素早さが17上がった!』

【伝説の勇者】
『体力 :306
 攻撃力:189
 防御力:174
 魔力 :175
 素早さ:209』


勇者「で、これを……」ガチャリ、チャキッ

『勇者は伝説の剣・兜・鎧・盾を装備した!』

『攻撃力が182万上がった! 防御力が246万上がった! 素早さが6下がった!』

【伝説の勇者】
『体力 :    306
 攻撃力:1820189
 防御力:2460174
 魔力 :    175
 素早さ:    203』


勇者「…………」

女闘神「おおっ! 勇者カッケー!! メチャクチャ似合ってる!」

聖女「うん! なんかもう、伝説の勇者って感じがスゴいするよ!」

剣聖「勇者専用の最強の装備だもんな、そりゃ似合ってて当然か!」

真魔王「本当に光り輝いてるね。流石だよ!」

女大富豪「私達も、勇者の為に取ってきた甲斐があったね!」


ダヨネ、アハハッ、ハハハッ



勇者「………………」

749: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:35:44.38 ID:AP8gEgBao
女大富豪「それじゃ、伝説の四装備も揃ったし、次は竜の話をするわね」

勇者「……う、うん」

女大富豪「今、竜と魔物が戦争をやっているでしょ。それは知ってるかしら?」

勇者「そうなんだ……。初耳なんだけど…………」

女大富豪「あ、そう? じゃあ、簡単に説明するけど、魔王軍が魔界からやってきて、この世界を侵略し始めたのね。それで竜王軍と戦いを始めたのよ。今のところ、形勢は互角なんだけどね」

勇者「そっか…………」

女大富豪「だから、魔王を倒すには竜の力も借りた方がいいって私たちは考えたの。幸い、こっちには聖女がいるし」

勇者「…………どういう事?」

女大富豪「あれ? 勇者って聖女の事知らなかった? 聖女、竜と喋れるの。だから、竜王と交渉して協力してもらおうと思って」

勇者「!?」

聖女「それで、一昨日、実際に行ってきてお願いしてきたよ。快く引き受けてくれたから。勇者の合図で竜王さん達も一斉攻撃に移ってくれるって」

勇者「お、俺の合図で!?!?」

真魔王「そう。その合図で魔物と竜とが全面戦争に突入する事になってるから、注意してね」

勇者「!?!?!?」

750: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:37:20.35 ID:AP8gEgBao
剣聖「それで、今、勇者の合図とほぼ同時に俺達も魔王城に突撃したらどうだろうって話になってるんだ。そうすれば、魔王軍には混乱が生まれるから竜王軍が優位に立てるし、俺達も魔王城の敵を片付けるだけで済むからな」

真魔王「増援が後ろから来ないし、敵の動揺も誘えると思う。みんなで相談したんだけど、これが一番いい作戦じゃないかって結論になってさ。勇者もそう思わない?」

勇者「え、あの、その……」オロオロ

聖女「竜王さん達が陸で戦って注意を引いてくれる間に、わたし達はその隙を突いて空から一気に魔王城に乗り込もうっていう作戦なの。上手く行くと思うんだけど……ダメかな?」

女闘神「先に頭さえ叩いちまえば、組織ってのは一気に崩れるからさ。あたしらのターゲットは魔王一人だけに集中出来るし、悪くないと思うんだよ」

女大富豪「どう、勇者? 昨日、皆で考えたんだけど、良くない? もし、勇者が別の作戦がいいって言うなら、私達も考え直すけど……」

勇者「い、いや、他には何も思いつかないし……。作戦的にはそれでいいと思うけど……」オロオロ

女大富豪「良かった。なら、もう突撃の準備は整ってるから。後は魔王を倒しに行くだけよ!」

勇者「え」

剣聖「よし! それじゃあ、勇者も伝説の装備が整った事だし、早速行こうぜ! 魔王城に!」


「おーーーっ!!」


勇者「え、え」

752: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:38:32.55 ID:AP8gEgBao
真魔王「じゃあ、僕からお先に行くよ。飛翔魔法」フワッ

勇者「浮いた!?」

真魔王「ああ、勇者は飛翔魔法、初めて見る? こっちの世界にはない魔法だからね」

勇者「え!???」

女闘神「じゃあ、あたしらも行こっか! みんな、おいで!」ピーッ (指笛)



バッサ、バッサ、バッサ!!


天馬「」ズササッ (全長2メートル)

鳳凰「」ヒュインッ!! (全長56メートル)

天海竜「」ドシンッ!! (全長38メートル)



勇者「はいい!!!???」

馬「!!??」ヒヒーン!!



女大富豪「来なさい、ゴーレム!」サッ


ドギュッ!!! (飛行)

魔導機神「」ドガッシャンッ!!! (着陸) (全長19メートル)



勇者「はああああああああ!!!???」

馬「!!!???」ブルルルッ!!!

753: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:39:28.75 ID:AP8gEgBao
女闘神「勇者、驚き過ぎだって。そんなに珍しい? ほいっと」ピョンッ

鳳凰「シギャアアアッ!!」ビリビリ


真魔王「ここら辺はあんまり巨大な魔物とか霊獣がいないからじゃないの? それに、女大富豪のゴーレムは僕らもびっくりしたしさ」フワフワ


女大富豪「ていうか、びっくりしてくれなきゃつまんないってば。造るの大変だったんだから。それっと」ピョンッ

魔導機神「」ガコッ、ウィーンッ


剣聖「ま、その辺は飛びながら話せばいいだろ。そういえば、昨日は勇者の事ばかりで、俺達の事はろくに話してなかったしな。じゃ、頼んだぞ、相棒」ヒラリ

天馬「」ヒヒーン


聖女「あ、勇者のそのお馬さんは空を飛べる? 大丈夫?」ピョンッ

天海竜『グルルルッ!!』



勇者「」

馬「」

755: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:40:35.49 ID:AP8gEgBao
勇者「こ、こんなの……無理だよ。俺は……皆と一緒に旅に行けない……」

聖女「え、勇者、どうしたの、急に?」オロオロ


勇者「お、俺は……あ、相棒以外、いないし……飛翔魔法とかいうのなんか……使えないから……」

勇者「だから……空も飛べないし……それに……」グスッ


聖女「あ、そうなんだ。ご、ごめんね、勇者。わたし達がちょっと無神経過ぎたね」オロオロ

剣聖「そうだよな……。昨日、苦楽を共にした馬だって話してたもんな……。空から行くって先に言っとかなかった俺たちが悪かった、許してくれ……」

女大富豪「昨日の内に言っとけば、勇者も何か考えてくれただろうからね……。私が軽率だった、ごめん」

女闘神「わ、悪い……。勇者が王都から来たって事、今まですっかり抜けててさ……。そりゃ霊獣とか連れて来るのは無理だよな……」

真魔王「普通は馬だけだよね……。僕達がちょっと常識外れになってる……。ごめんよ、勇者」


勇者「い、いや、みんなは悪くないんだ……。俺が……俺が空を飛べないのが悪いから……」グスッ

馬「」ヒヒーン!!!

756: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:42:14.97 ID:AP8gEgBao
女大富豪「お、落ち込まないでよ、勇者。空を飛ぶ事なんて普通出来ないんだから。飛翔魔法使えるの、私達の中でも真魔王だけなんだし」オロオロ

聖女「そ、そうだ。勇者、わたしのドラリンに乗ってく? 空を飛べないと妖魔の森を抜けるのが結構大変だから、そうした方がいいよ」

女闘神「あたしの鳳凰に乗ってってもいいぞ。二人乗りになるけど、こいつはデカイからな」

真魔王「僕の飛翔魔法の範囲を広げてもいいよ。残念だろうけど、その馬は今回置いていってさ。危険な道のりになるんだし、そっちの方がいいよ。ね、そうしよう、勇者?」

剣聖「ああ、俺の天馬も、魔王城までたどり着いたら危険だから逃げてもらうつもりだしな。みんなの言う通り、今回は置いていった方がいいと俺も思う」


勇者「そ、そりゃ……置いていくよ……。だって……もう無理だし……」


真魔王「あ、じゃあ、僕が移動魔法でその馬だけ村まで連れていくね。ちょっと待ってて」ヒュンッ (馬のすぐ側まで飛翔)

馬「!」ブルルルッ!!!

真魔王「移動魔法!」

フッ……


勇者「え、消え……!!」

聖女「それじゃ、勇者はわたしのドラリンに乗っていってちょうだい。さっきのお詫びがしたいから。ね?」スタッ (竜から降りる)

天海竜『グオオオッ!!』ビリビリ


勇者「!!」ビクッ

757: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:43:21.27 ID:AP8gEgBao
女闘神「んじゃ、聖女はあたしの鳳凰に乗ってくか?」

聖女「ううん。一人で行くから、大丈夫だよ。ほら」バササッ (背中から白い巨大な翼が生える)

勇者「!!??」


剣聖「凄いな……流石、聖女。初めて見たけど、それ、天使の翼か?」

聖女「うん。いつのまにか飛べる様になってたの。じゃあ、ドラリン。そういう事だから、勇者をお願いね」バサリッ、バサリッ (浮上)


天海竜『グルルッ』カプッ、ヒョイッ (くわえて背中に乗せる)

勇者「え、ちょ、あ、うわっ!!」ポイッ、ストンッ

758: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/24(木) 15:46:22.97 ID:AP8gEgBao
聖女「大丈夫だよ、勇者、落ち着いて。ドラリンはいい子だから。何も心配しないで」

天海竜『グルルルルルッ!!』フンスッ

勇者「」ビクッ


フッ……

真魔王「よしっと、お待たせ。馬の事は事情を村長に話して頼んでおいたよ。安心して、勇者」スタッ

勇者「え? あ、ありがとう、でも」オロオロ


女大富豪『じゃあ、改めて出発だね! ウイングフリーダム、起動!』ガコッ

魔導機神「」ゴゴゴゴゴ…… (浮上)


剣聖「行くぞ!」

天馬「」ヒヒーン


聖女「うん!」バササッ、バササッ


真魔王「天使の翼か……。凄いね、それ。もう何でもありだね、聖女」フワッ


女闘神「それは真魔王もだろ? ま、今に始まった事じゃないけどさ。行くぞ、鳳凰!」

鳳凰「シギャアアアッ!!」バッサ、バッサ



聖女・剣聖・女闘神・真魔王・女大富豪「いざ、魔王討伐の旅へ!!!」



勇者「ま、待って! まだ……心の準」

鳳凰「シギャアアアア!!」ビリビリ


女闘神「行くよ、駆け抜けろ!!」



バササッ!! バサッ、バサッ!!!


 

802: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 17:54:28.94 ID:MhQ+Ndmgo
ー 妖魔の森、北西地区

      魔王軍拠点 ー


魔軍師「魔王様が帰ってこられたのか!」

魔兵士「はっ! 昨日、時空魔法によってお戻りになり、魔王城にその姿を現されたとの事です!」


ガルーダ(鳥悪魔)「ほう。意外に早かったな」 (全長21メートル)

【北西地区担当、八大将軍の一人】
『体力 :525万
 攻撃力:319万
 防御力:250万
 魔力 :336万
 素早さ:327万』


ガルーダ「で、魔王様は異界からの援軍は連れて来られたのか?」

魔兵士「それが……手傷を負わされて、撤退された模様で……」

魔軍師「あの魔王様がか!?」

魔兵士「はっ。横に側近様がおられただけで、他には誰もいなかったそうです……」

ガルーダ「ふっ。ふはははははっ。情けない。つまりは負けて帰って来たという訳か」

魔軍師「……ガルーダ。今の発言は不敬に値するぞ。笑い事ではない。やめろ」

ガルーダ「ああ、そうとも。確かに笑い事ではない。竜界に侵略してより、早100年近く過ぎてるというのに、一向に決着がつかないままなのだからな。無駄に時間と兵が失われていってるのだぞ」

魔軍師「……だからこそ、魔王様も異界行きを決断されたのだ。今回はその結果が失敗に終わったが、現状は前と何も変わっていない」

ガルーダ「そう。前と同じだ。小競り合いの繰り返しで段々と戦力が削られていくだけだろう。消耗戦など、敵地でやる事ではない。だから、あの時、我は反対したのだ。神界の攻略のみで留めておくべきだと」

魔軍師「それについては今更だ。とにかく、士気を下げる様な事を将軍が口走るな。ただでさえ、この地区は連敗が続いてるのだ。これ以上、何か言うのであれば、将軍職の剥奪も考えるぞ」

ガルーダ「ちっ。面白くない」クルッ、スタスタ

魔軍師「待て、どこに行く」

ガルーダ「そこら辺を軽く回ってくるだけだ、今の気分で良い作戦など浮かぶはずがないからな」バサッ、バサッ!!


魔軍師「勝手な事を……」

魔兵士「…………」

803: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 17:56:03.33 ID:MhQ+Ndmgo
魔軍師「ガルーダは最近、常にあの様な感じか」

魔兵士「はっ……。前に比べて酒と魔結晶を飲む量が増えていますし……。連敗が続いた事と、長い遠征により、厭戦感が出ているようです……」

魔軍師「将があれでは兵もそうだろうな。本来ならばあいつは強くて粘りのある優秀な指揮官なのだが……。飢えと故郷を懐かしむ気持ちだけは私でもどうしようもない」

魔兵士「……正直なところを申し上げれば、私もそろそろ魔界に帰りたく思っています」

魔軍師「しかし、今戻ればそれこそ無駄な遠征だ。領土も何も得る事なく、犠牲と出費だけ出して帰る事になる」

魔兵士「それはそうでしょうが……」

魔軍師「……あるいは、戦力がまだある内に一大決戦を挑むべきかもしれんな。今のままでは、確かに旗色が悪いし、士気も下がっていく一方だ。今後、それが良くなる可能性もほとんどないだろうからな……」

魔兵士「…………」

魔軍師「余計な事を口走った。今の事は全て忘れろ。決して口外するな」

魔兵士「は、はい……!!」

魔軍師「この後、予定を変更して私も魔王城へと戻る。魔王様から今後の事について考えをお聞きしたいからな。各方面にはそう伝えておくように」

魔兵士「はっ!」

804: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 17:57:58.32 ID:MhQ+Ndmgo
ー 同時刻、魔王城 ー


魔王「そうか……。魔軍師は今、北西地区に出向いているのか」

側近「…………」


大魔導師「はい。留守を私めに任せて、一番旗色の悪い北西地区の守りへと向かわれました」

魔王「して、今の各方面の状況は。余が出る前と出た後で変化した事のみ挙げよ」

大魔導師「……日にちもさほど経ってはおりませんので、万事、変わりありません。以前と同じ状況でございます」

魔王「よしっ。ならば、全軍全面攻勢の用意をさせよ。本日を持って決戦の準備に入る!」

大魔導師「……!! 決戦ですか!?」

魔王「そうだ。これ以上戦いを長引かせる意味はない。何より、余はこれまで大きな勘違いをしていたからな」

大魔導師「勘違いとは、一体……」

魔王「竜王を倒し、三界を統一するのが最終目標だと余はそう考えていた。故に、これまで慎重に事を進めてきたが、それは過ちであった」

魔王「三界の統一など、余にとっては通過点に過ぎぬ。最終目標は異界を含めての四界の統一だ。故に!」

魔王「たかが竜界ごときに時間をかける必要など、皆無! 余、直々に出向いて、次の一戦で竜王を倒し、竜どもを残らず片付けてくれようぞ!」

大魔導師「!!」

魔王「大魔導師! 軍師に代わり、急ぎ、出陣の準備を整えよ! 魔軍師と各方面の将軍にも伝えよ! 次の一戦で竜王軍を蹴散らし、魔界へと凱旋するとな!」

大魔導師「は、ははーっ!」


魔王「それと、側近」

側近「はっ!」

魔王「余の盾の役目、しかと果たせよ。前に言った通り、死ぬ事は許さぬぞ」

側近「ははっ! 我が名と、既に散っていった同胞達の魂にかけて!」

805: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 18:00:05.76 ID:MhQ+Ndmgo
ー 妖魔の森、最南端付近、上空 ー


女大富豪『……って、感じかな? 今の私達は』

魔導機神「」ドギュッ!! (飛行中)


真魔王「そうだね。これが、僕達の大体の近況だよ」ヒュンッ (飛行中)


勇者「」

天海竜『』バッサ、バッサ!!! (飛行中)


聖女「驚いた、勇者? 勇者が頑張ったのと同じで、わたしたちもみんな頑張ったんだよ」バッサ、バッサ!!! (飛行中)


剣聖「そうだな。おかげで最近ようやく、勇者の仲間だって胸を張って言えるような強さと地位になれた」

天馬「」バッサ、バッサ!!! (飛行中)


女闘神「剣聖はそうだろうけどさ。残念だけど、あたしは地位じゃ胸を張っては言えないな。海賊王とか言われてても悪名だしさ」

鳳凰「」バッサ、バッサ!!! (飛行中)


真魔王「それを言うなら僕もかな。異界で魔法の開発とか研究してるだけだからね。働いてすらいないからなあ」ヒュンッ


女大富豪『というか、真魔王って働く必要ないんじゃないの? 錬金術も出来るんでしょ?』

魔導機神「」ドギュッ!!


真魔王「うん。マネーバランス崩しちゃうから、あまり使わない様にしてるけどね。異界だとお金持っていてもほとんど意味ないし」ヒュンッ


勇者「」

天海竜『』バッサ、バッサ!!!


女闘神「お金に価値を見出だしてないもんな。やっぱ、聖女と真魔王だけ別格かあ。聖女もこの前、石ころを宝石に変えてたしさ」

鳳凰「」バッサ、バッサ!!!


聖女「お金に困ってる子供がいたからね。女神様もそれぐらいの奇跡は許してくれると思うの。自分の為に使ってる訳じゃないし」バッサ、バッサ!!!


勇者「」

天海竜『』バッサ、バッサ!!!

806: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 18:02:16.97 ID:MhQ+Ndmgo
女大富豪『でも、あれ。私からしたら、聖女の奇跡ってほとんど反則なんだけどね。多分、魔法理論とかまったく無視してるし。どれだけ調べても原理の解明とか絶対出来ないと思う』

魔導機神「」ドギュッ!!


女闘神「それを言うなら、真魔王も十分反則だけどな。今、魔法で出来ない事とかないだろ、真魔王って?」

鳳凰「」バッサ、バッサ!!!


真魔王「そんな事はないよ。僕のは魔法理論に基づいてるから、聖女みたいな理論を超えた事は出来ないし」ヒュンッ

真魔王「それに、僕からしたら、誰でも使う事が出来る物を発明している女大富豪や、魔力がなくても大丈夫な気功とかを使える女闘神のがよっぽど凄いよ」ヒュンッ


剣聖「……何か、みんなの話を聞いてると、何故か俺だけ凡人みたいな気になってくるから自信を無くすんだよな。国王とは言っても、立憲君主制に移行してる最中だから、ほとんどお飾りみたいなもんだしな」

天馬「」バッサ、バッサ!!! (飛行中)


勇者「」

天海竜『』バッサ、バッサ!!!

807: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 18:03:37.75 ID:MhQ+Ndmgo
聖女「そんな事ないよ、みんなの中で一番偉くなってるのは剣聖なんだし。それに、剣の腕前じゃみんな敵わないでしょ?」バッサ、バッサ!!!


剣聖「そうだといいんだが、多分、勇者の方が強いだろうからな。剣の腕前でも勝てるかどうか」

天馬「」バッサ、バッサ!!! (飛行中)


勇者「!?」

天海竜『』バッサ、バッサ!!!


女闘神「というか、勇者を引き合いに出したら、あたしら全員、一番がいなくなっちゃうじゃん」

鳳凰「」バッサ、バッサ!!!


勇者「!!??」

天海竜『』バッサ、バッサ!!!


真魔王「だよね。勇者に選ばれてる訳だから僕らより強いのは間違いないだろうしさ。何よりネームバリューがね」ヒュンッ


聖女「『伝説の勇者』だもんね。それに比べたらみんな名前負けしてるよね」クスッ



アハハッ、ホントダヨ、サスガユウシャ、ハハハッ



勇者(多分みんなより弱いとか言い出せる雰囲気じゃない……助けて)グスッ

808: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 18:04:53.74 ID:MhQ+Ndmgo
女大富豪『しかも、あれでしょ? 勇者って魔王を倒したら、南の国のお姫様と結婚が決まってるんでしょ? そうしたら次期国王だしさ』

魔導機神「」ドギュッ!!


勇者「し、知ってたの!?」ビクッ

天海竜『』バッサ、バッサ!!!


剣聖「そりゃ、女大富豪は全世界に支店を持ってるしな。そんな大ニュースを聞き逃すはずがないだろ」ハハッ

天馬「」バッサ、バッサ!!!


勇者「」

天海竜『』バッサ、バッサ!!!


女闘神「それ聞いた時、あたし、ちょっとショックだったんだけどね。別に勇者の事を狙ってた訳じゃないんだけど、なんかこう複雑っていうか……」

鳳凰「」バッサ、バッサ!!!


聖女「わたしも残念だったなあ……。今だから言えるけど、わたし、子供の頃、勇者が好きだったもん……。でも、十五年も経ってるし、今更仕方ないけどね」バッサ、バッサ!!!


勇者「」

天海竜『』バッサ、バッサ!!!

809: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 18:07:21.04 ID:MhQ+Ndmgo
真魔王「国の事情とか絡んでるとね。個人じゃどうしようもない面とかもあるしね。でも、勇者も乗り気みたいだし、良かったよ」ニコッ


勇者「え、乗り気!?」ビクッ

天海竜『』バッサ、バッサ!!!


女大富豪『お姫様からの熱い求婚、喜んで受けたんでしょ? 今更隠さなくてもいいよ。私達も応援するって決めてるし』ニコッ

魔導機神「」ドギュッ!!!


勇者「いや、あれはでも、姫も俺もああ言わないと体面上まずいってわかってるからだし。確かに姫は美しい方だし、悪い気はしてないけど、でもあくまで儀礼的なものだし本当にどう思ってるかなんて」オロオロ

天海竜『』バッサ、バッサ!!!


女闘神「そんな、気を遣わなくてもいいって、勇者。優しさってのは時々、逆に人を傷付けるしさ。昔の話なんだし、聖女もそこまで気にしてないって」

鳳凰「」バッサ、バッサ!!!


勇者「ち、ちが」

天海竜『グルルルルッ!!』ビリビリ

勇者「!!」ビクッ!!


聖女「あ、妖魔の森が見えてきたよ!」バッサ、バッサ!!!

剣聖「ああ、もうすぐ決戦の時だな。残念ながら、お喋りはここまでだ」チャキッ

天馬「」ヒヒーン!!

女闘神「腕が鳴るね! この日の為に今まで修行して来たんだし!」ポキポキ

鳳凰「」バッサ、バッサ!!!

真魔王「勇者! 魔王の所へ辿り着くまでの露払いは僕達がやるから、任せて!」ヒュンッ!!

女大富豪『勇者は魔王の事だけ考えてて! 行くわよ!』ガコッ

魔導機神「」ジャキッ (大型魔力凝縮出力砲×2門を組み合わせて構える)



女大富豪『突撃!! 決戦の狼煙を上げるわ!!』


魔導機神「」ギュイイイイーーーンン…… (エネルギーチャージ)



「ツインバスターライフルッッ!! いっけええええーーーーー!!!」ガチッ!!




チュドオオオオオオーーーーンンンッッッ!!!!




勇者「!!!!????」ビクッ!!

天海竜『グルルルルッ!!』

810: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 18:08:35.13 ID:MhQ+Ndmgo
ー 北西地区 ー


ガルーダ「ちっ。ずいぶんと飛び回ったが、未だに腹の虫が収まらぬな」バッサ、バッサ (全長21メートル)

ガルーダ「が、戻ったらまたあの頭でっかちな軍師と下らぬ会議の続きだ」バッサ、バッサ

ガルーダ「配給品の酒と魔結晶も尽きてきた頃だし、そろそろ」


キラーン……


ガルーダ「?」



チュゴゴゴゴゴゴオオオオーーーーーーーンンンッッッ!!!!!



ガルーダ「!!!!」ジュワッ…… (消滅)



キラキラキラ…… (光)


 

811: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 18:09:30.55 ID:MhQ+Ndmgo
魔導機神から放たれた、大型魔力凝縮出力砲。

それは世界の五分の三を占めると言われる広大な森、妖魔の森上空を一直線に切り裂いて貫き、目映いばかりの光を放ちながら彼方へと消え去っていった。


この瞬間、妖魔の森にいたありとあらゆる生物が、上を向いた。


運悪く、その直線上にいた魔物は全て光へと還元した。


老いも若きも、強きも弱きも、魔物も竜も、等しくその光り輝く未知の閃光に見いった。


そして、彼らはその数十秒後、その光が放たれた先から、飛んで向かってくる者達の存在に気付いた。


彼等こそが、伝説の勇者、その仲間たち。


魔王を倒す、最強にして最高のパーティーが、今!


この地に君臨した瞬間だった!!


 

812: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 18:10:56.32 ID:MhQ+Ndmgo
ー 魔王城、玉座の間 ー


魔兵士「」ダダダダッ

魔兵士「も、申し上げますっ!! 南の方角から敵襲!!」

魔兵士「先程の閃光を放った者達かとっ!! また、その閃光により、北西地区のガルーダ様が巻き込まれ討死したとの事!!」


側近「ガルーダがっ!?」


魔兵士「はいっ! 更に奴等は迎撃に向かった兵士達をなぎ倒しつつ、この魔王城へ向けて進軍してきておりますっ!!」


大魔導師「何だとっ!!」

側近「っ!!」

魔兵隊長「まずい!!」


ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ!!!



城内にいた兵士達が一斉にどよめく。彼等もまた、あの光を見た者達だった。

あの瞬間、誰もが、何が起きたかは理解出来なかった。
だが、今が異常事態だという事と、その光の壮絶さだけは頭ではなく魔物の本能ではっきりと理解していた。

そして、今、この地に向かってきている者達が、自分達の理解を遥かに超えた者達であるという事は、容易に想像がつく。
だからこそ、動揺、恐慌、不安、そういったものがこの場にまるで伝染病の様に蔓延していく。

しかし!



魔王「狼狽えるなっ!!」ビリリッ


大魔導師「!」

側近「!」

魔兵隊長「!」


魔兵士たち「!!」



魔王「強い敵が来たなら、更に強い戦力で叩き潰せばいいだけの事だ! 何を恐れる事がある! お前たちは、それでも余の誇る最強の魔王軍か!」


魔王の鋭い一喝が広い玉座の間に響き渡る。これにより、玉座の間は再び元の静寂さを取り戻す。

かの者は魔王。歴代の魔族の中で最も強く、最も兵から信頼を受ける、常勝の軍神、覇王、英雄……。

その場にいる誰もが、その事をはっきりと思い出した。

813: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 18:12:44.85 ID:MhQ+Ndmgo
側近「……失礼しました、魔王様。思わず取り乱しました。陳謝します」

魔王「構わぬ。それよりも、報告を続けよ。その者らの数は」


魔兵士「は、ははっ。竜と巨大な霊獣・神獣ペガサス・天使、あと異形の怪物が一匹いるとの事です。その背には何故か人間が乗っている模様です!」


魔王「人間……? まさか、魔軍師が前に言っていた勇者とやらか?」

側近「御冗談を。人間ごとき、仮に女神の祝福や加護を受けようとも話になりません」

魔王「が、他には思い当たる節がない……。さしずめ、余を倒す為の混成軍を編成したというところか。天使も混ざっているという事は、間違いなく女神の差し金であろう。あの女め、封印されながらまだ余計な事を……」チッ

側近「……しかし。何にしろ、数が少ないのは幸いです。少数精鋭なのでしょうが、何重にも包囲して殲滅してしまえば取るに足りません。あの光にのみ注意しておけば問題ないでしょう」

魔王「うむ。出陣の準備を整えていたのは不幸中の幸いだな。魔王城に常駐させている遊撃部隊と近衛兵はもう出られるか」


大魔導師「はい! そちらは既に整っております」


魔王「ならば、余自ら出て殲滅戦の指揮を取る。五分後には遊撃部隊と近衛兵、両軍を魔王城前に集結させよ」

側近「魔王様自らがですか……。ここは大魔導師に指揮を任せても宜しいかと思いますが……」

魔王「元々、守りは性に合わぬ。果実も、人の手から与えられるよりは、自らの手でもぎ取った方が美味かろう」スクッ

魔王「出るぞっ! 他地区まで被害が広がる前に、一気に片付ける! 急げっ!!」


側近「はっ!」

大魔導師「ははっ!!」

魔兵隊長「急げっ! 出陣だ!!」


「ははっ!!!」

 

847: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:05:53.69 ID:TFwo0+zOo
ー 神界、封印の牢獄内 ー


女神「勇者達が、魔王城へと向かいましたね……」

大天使「ええ。ほとんどの過程を飛ばして、一路、魔王城へと……。もう妖魔の森上空にまで来ております」

女神「そして、未だに誰も勇者の本当の強さを知りません……」

大天使「はい」

女神「……運命の女神たる私が、この様な事を言うのは憚られますが」



「これも運命なのでしょうか……」



大天使「全ての出来事が、勇者を『伝説の勇者』たらんとせしめていますからね……」

女神「ええ……。幸運と呼ぶべきか不運と呼ぶべきか……。あるいはこれこそが本物の天運というものなのでしょうか……」

大天使「では、やはり……」

女神「ええ、この流れからすれば、そうした方が良いでしょう……」

女神「危険極まりない方法ですが、あの『計画』を実行へと移します……」

大天使「全ては世界の安定の為に、ですか」

女神「ええ……。私の最後の切り札です……」



「勇者には、強いと仲間から誤解されたままでいてもらいましょう……。その為の計画です」



849: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:07:15.70 ID:TFwo0+zOo
大天使「ですが、あの『計画』は両刃の剣ではないかと……。下手すれば、逆に世界を崩壊させる可能性も十分ありますが……」

女神「それも承知の上です……。ですが、今の関係がこの先、変にこじれるかもしれない事を考えると、まだこちらの手段の方が世界崩壊の可能性は低くなるでしょう……」

女神「それに機会は今しかありません……。決断の時です」

大天使「しかし……。かなりの不安が残ります……。私達もそれにより罪深い存在となってしまいますし……」

女神「もう決めた事です……。これにより私達は引き返せない位置へと進むでしょう……。そして、勇者も同様に後戻り出来ない地点へと……」

大天使「全て、覚悟の上ですか……」

女神「ええ……。この世界の平和の為に……」



「勇者にはこのまま『伝説』となってもらいましょう」


「この先、例え何年経とうとも、この勇者を超える事が出来ないと誰からも思われる様な絶対的な存在に……」


「無理矢理にでもなってもらいます……」



大天使「我らが罪を許したまえ、勇者よ」サッ…… (十字を切る)

850: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:08:46.31 ID:TFwo0+zOo
女神「それでは大天使は、今、聖女に代わって大聖堂にいる女に『例の連絡』を……」

大天使「はい……」

女神「私は残り最後の力を全て使って、少しの間だけ魂のみを竜界へと降臨させます……。これが私の最後の役割となるでしょう……」

大天使「勇者の元に行かれるのですね」

女神「ええ……。恐らく時間はそうありません。私が降臨し、そして勇者との会話が終わるまでには、大天使と女は全ての手筈を整えておいて下さい……」

大天使「はい……」


女神「必ず、世界中の皆に、『あの事』を伝えるように……」

大天使「わかっています……。万事つつがなく……」

851: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:09:42.23 ID:TFwo0+zOo
ー 中央国、大聖堂内、円卓の間 ー



教皇「…………」

枢機卿A「…………」

枢機卿B「…………」

枢機卿C「…………」

枢機卿D「…………」

神殿騎士団長「…………」



教皇「騎士団長よ。未だ……女は特別大礼拝堂に立て籠ったままか」

神殿騎士団長「……申し訳ありません。信じられぬほど強力な結界が中に張ってありまして」

神殿騎士団長「また、聖女様のドラゴンが女の側についております。仮に結界を破れたとしても、我等がその場で取り押さえるのは不可能かと……」

教皇「…………」

852: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:11:09.84 ID:TFwo0+zOo
教皇「しかし、これまで水も食事も渡しておらぬのであろう……。いかに女と言えど、そろそろ衰弱しておるのではないか」

神殿騎士団長「それが、扉ごしの会話にはきちんと受け答えをしております……。女曰く、天使様が補助してくれていると……」

枢機卿A「天使とはな……。世迷い言を……」チッ

教皇「…………」


枢機卿A「教皇貎下。今更の話ですが、あの女を教会に復帰させたのはやはり間違いだったのです」

枢機卿B「左様。聖女の逃亡の手伝い、許される事ではありません。捕まえたら魔女裁判にでもかけて処刑すべきです」

枢機卿C「今は過ぎた事を言っても仕方あるまい。それよりも、これらの事態を世間からどう隠すかについてを話し合うべきだろう。捕まえた後の事は、捕まえてから決めれば良い」

枢機卿D「だが、聖なる盾も聖女に奪われているのだぞ。こちらは勇者に渡すと言っていたから隠しようがないが、どうするつもりかね。偽物を作って誤魔化すとでも言うのか」

枢機卿A「奪われたのは神殿騎士団の責任だ。そちらで何とかしたまえ。聞けば、抵抗もせず聖女に渡したというではないか」

神殿騎士団長「それは……。ですが、竜を連れてる聖女様相手に我等が何が出来たというのです。抵抗してもしなくても結局は奪われたでしょう」

枢機卿B「それが言い訳になるか。『奇跡の鐘』・『聖女』・『伝説の盾』と、今や教会の三大シンボルの内、二つが消えているのだぞ。この事態をどうおさめるつもりだ」

枢機卿C「落ち着け。聖女に関しては、元から姿を滅多に見せていなかったのだ。そこはどうにかなる。伝説の盾も勇者に譲渡したとするしかあるまい。問題は今後の事だ。教会の威信をどう取り戻すかだろう」

枢機卿D「その前に、立てこもっている女を外に引っ張り出すのが先ではないのかね。女を人質にすれば、この後の事はどうとでもなるだろう」

枢機卿A「いや、『伝説の盾』を勇者に譲渡した事にするのであれば、先に勇者の存在を教会が認めねばなるまい。まずは急いで式典を開いて……」


教皇「頭が痛くなるな……。この事態、どこから手をつけるべきか……」ハァ

853: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:12:38.19 ID:TFwo0+zOo
コンコン、ガチャッ!!

大司教「し、失礼しますっ! 一大事です!」


枢機卿D「何だ、今は重要な会議中だぞ!」

大司教「申し訳ありません、ですがっ!!」


教皇「……どうした」


大司教「女が特別礼拝堂から出て、大聖堂へと向かっておりますっ!! 竜も一緒です!!」


教皇「!?」

枢機卿A「自分から出ただと……!!」

枢機卿B「一体、何が目的だ……!!」


大司教「そ、それが、『奇跡の鐘』を必要としているとっ!!」


神殿騎士団長「奇跡の鐘だと!? すぐ行くっ!!」スクッ

教皇「今度は何を企んでおる……あの女は!」

854: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:13:51.21 ID:TFwo0+zOo
ー 大聖堂内、中央礼拝堂 ー


神殿騎士A「お、お引き下さい! 奇跡の鐘は神聖な聖具でございます! 例え誰であろうと、許可なくこの鐘を渡す訳には!!」


女「……お下がりなさい。私は女神様の神託により、その鐘を必要としているのです。許可など必要ありません」

地海竜『ギルルルッ!』ギロッ


神殿騎士A「うぅっ!!」ビクッ!!

神殿騎士B「で、ですが!!」

神殿騎士C「それでも、あの鐘を渡す訳には……!!」


女「……お下がりなさいと私は言いました。私の言葉は、そのまま女神様の言葉だと思いなさい」ピカーッ (後光が射す)

天使「退くが良い……。女神は鐘を必要としておられる」フワリ (降臨)


神殿騎士A「!!」

神殿騎士B「せ、聖なる光が……!!」

神殿騎士C「て、天使様まで降臨を……!!」



女「では、行きましょう。鐘を鳴らす準備を整えに……」スタスタ……

天使「はい……」フワッ



神殿騎士A「い、一体、何の為にあの鐘を……」ガクガク

神殿騎士B「普段は絶対に鳴りもしないが、鳴れば世界中に響くと言われる伝説の鐘……」ガクガク

神殿騎士C「前にあの鐘が鳴ったのは、魔王が現れた時だと聞いているぞ……。じゃあ、今度は一体何があるって言うんだ……」ガクガク

855: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:15:54.24 ID:TFwo0+zOo
ー 同時刻、南の国

  王宮二階、バルコニー ー



姫「…………」




ー 王宮の庭 ー


騎士A「最近、姫様はよくバルコニーから外を眺めておられるな。今日もだ」

騎士B「ああ、以前はそんな事はなかったんだがな。やはり、勇者様の事が気になっておられるのだろうか」

騎士C「戻れば結婚されるという事だったからな。気にならない訳はないだろうが……」

騎士D「実際、どう思っておられるのだろうな? 姫様は勇者様の事を」

騎士A「さあな。だが、少なくとも悪くは思っておられないだろう。お嫌なら御自分の部屋にでも引き込もっておられるんじゃあないか?」

騎士A「勇者様の事が心配だから、ああして外を眺めておられると俺は思うがな」

騎士B「勇者様は美男子だし、真面目で誠実な性格をしていたからな……。姫も優しく賢いお方だからきっとお似合いの……ん?」



ピカーッ (後光が差す)


騎士A「!?」

騎士B「な、何だ!? 魔物か!?」ガチャッ (魔法銃を構える)

騎士C「いや、待て! あれは……!!」



天使「」フワリ

姫「!?」



「天使様!!?」

 

856: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:17:18.84 ID:TFwo0+zOo
ー 同時刻、東の国、王都 ー


「はい、いらっしゃい、いらっしゃい! 安くしとくよー!」

「おっと、そこの男前な兄さん、このかんざしとか贈り物にどうだい! 女の子にあげりゃイチコロだぜ!」

「安くて美味しいリンゴだよー! 昨日、果樹園からもいできたばかりのだ! 見てよ、この色ツヤ! 美味そうだろ!」

「一つ目オオカミの毛皮あるよー! どれも上物ばかりだよー! さあ、買った買った!」


名剣士「しっかし、ちょっと留守にしてる間に王都も活気が出てきたな」スタスタ

名剣士「前は役人の怒声と、悲鳴や泣き声ばかりだったからな。陛下の政治が上手くいってる証拠だ。俺も苦労した甲斐があったってもんだ」

名剣士「それじゃあ、王都の空気も十分堪能した事だし、そろそろまた旅にでも出ようかね。今度は西の国にでも行ってみるか。何か面白い事があるかもしれないしな」スタスタ


ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ!!!


名剣士「ん? やけに騒がしいな。何だ?」



「おい、聞いたか!? 今、記念広場の真上に天使様が降臨してるらしいぞ!!」

「天使様が!? 一体、何で!?」

「いや、知らないが、何でも重大な知らせがあるとかで!!」



名剣士「天使様が……!? それに、重大な知らせ!?」

名剣士「そうと聞いちゃ行くしかないだろ! 記念広場は確か向こうか!」タタタッ

857: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:19:08.96 ID:TFwo0+zOo
ー 同時刻。北の国、山奥の大屋敷 ー


大賢者「九尾の狐さん、九尾の狐さん」

九尾の狐「」スヤスヤ


大賢者「駄目か……。起きてくれない」ハァ

九尾の狐「」スヤスヤ


大賢者「すっかり体も回復したし、助けてもらったお礼をしたいのに……」

九尾の狐「」スヤスヤ


大賢者「ここ二日ばかり、ずっと眠りっぱなしだ。無理矢理起こそうとすると尻尾ではたかれるし……」

大賢者「危うくそれで死ぬとこだったからな……。一体、僕とどれだけ差があるんだろう……」

大賢者「本当にあの占い師のおばあさんの言う通りだったな……。上には上がいたし、世界は驚くぐらい広いや……」

大賢者「九尾の狐さん……。その世界の垣間でも良いので僕に少しだけ見させてもらえないでしょうか? 弟子入りさせてもらえないでしょうか?」

九尾の狐「」スヤスヤ


大賢者「まあ、ずっとこの調子だけどね……。僕が何を言ってもまるで起きてくれないし……」

九尾の狐「」スヤスヤ

大賢者「どうやったら起きてくれるかな……」


九尾の狐「」ピクッ

大賢者「!?」


九尾の狐「何じゃ、この予感は……?」ムクッ

大賢者「お、起きた!?」

九尾の狐「妾の第六感が強く告げておる……。じゃが、何じゃ……?」

大賢者「あ、あの、九尾の狐さん!」

九尾の狐「黙っておれ、小僧。今、妾は集中しておる」

大賢者「あ、す、すみま」

九尾の狐「向こうか。遥か北の方角じゃな……」トテトテ


ガラッ (屋敷の襖を開け放つ)


九尾の狐「一体、何が起こるというのじゃ……」(外を眺め、北の方角をじっと見つめる)

大賢者「……?」

858: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:20:42.63 ID:TFwo0+zOo
ー 同時刻。南の国、凪の海賊団アジト ー


うみねこA「」ニャー、ニャー

うみねこB「」ニャー、ニャー



男船長A「くそっ……。まだ大船長にやられたところが痛むぜ……」ズキズキ

男船長B「全員、派手にのされたからな……」ズキズキ

副船長「束になってかかっても、結局、足止めすら出来なかったからな……。完全にやられ損だ……」ズキズキ

女船長C「大船長からしたら軽く稽古つけた様なもんでしょ、あれ……。もう別世界の人よ、あんなの……」ズキズキ

女船長「にしても、これからどうしてくかよ。手探りで貿易やってくしかないけど、不安が……」


シーン……


女船長「ん?」ピクッ

男船長A「お前も気付いたか。何だ、この雰囲気……」キョロキョロ

男船長B「何かが襲ってきたって訳じゃない……。殺気も闘気も感じられない……。だが、何だ、この違和感は……? 急に何か変わったぞ」

副船長「いや、わかった! お前ら上を見ろ!」

女船長C「上?」ツイッ


シーン……


女船長「そうか……! 何か起こったんじゃなくて……!」

男船長A「ああ、消えちまったんだ……! あれだけ空を飛んでいたうみねこが、いつのまにか! どこにもいなくなってる! 鳴き声すら聞こえなくなったぞ!」

男船長B「だけど、お前……。この島を俺達のアジトにしてからもう四年以上経ってるが、その間、一度でもうみねこの声が聞こえなくなった事ってあったか……?」

副船長「……いや、覚えてねえな。なかったはずだ」

女船長C「じゃあ、何で急に……?」

女船長「何かあったのかも……。私らの知らないところで、何か大きな事が……」

副船長「あるいは……。これから何か起こるのかもしれないぞ……」

男船長A「何が起きるってんだよ、副船長……。鳥が一斉に避難する程の何かって事だろ、それ……」

副船長「船が沈没する前にはネズミがいなくなるってのはよく聞くが……」

女船長「何なの、一体……。気味が悪い……」

859: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:23:00.72 ID:TFwo0+zOo
ー 同時刻。西の国、農業で栄える町 ー


秘書「では、こちらの農園との専属契約はこれで全て交渉終了という事で……」

農民A「ああ、七つ星商会さんところに全部卸すだよ。いいブドウさ出来るのを期待してけろ」

秘書「ええ、宜しくお願いします」


大風車「」カタカタ、カタカタ…… (高さ12メートル)

大風車「」ピタッ……


秘書「おや……? 風が、止まった?」


農民A「そ、そんな嘘だべ! この町は風が常に吹いてる町なんだ。あの大風車が止まったとこ、俺は見た事ねえぞ」

農民B「俺もだ。生まれて初めて見ただ……。この町で風が止まる事なんかあるんだべな……」


秘書「……風が止まる。しかし、何故……」

秘書「!!」

秘書「あれは……! 風車の上に!」



天使「」フワリ…… (降臨)



農民C「て、天使様!?」

農民D「何でこったらとこに天使様が!?」



天使「皆の者、よく聞きなさい……。これより、勇者に関する事で、伝えるべき事がある」



農民A「ゆ、勇者の事で!?」

農民B「一体、なんだべさ!?」


秘書「まさか、女大富豪さん達に何かあったのでは!!」

860: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:24:10.20 ID:TFwo0+zOo
ー 妖魔の森、南西部、上空 ー


アスタロト(悪魔)「怯むな! 奴等を生かして帰すな!! 飛べる奴等は全員殺しにかかれっ!!」バッサ、バッサ!!

【南西地区担当、八大将軍の一人】
『体力 :617万
 攻撃力:422万
 防御力:365万
 魔力 :409万
 素早さ:158万』


剣聖「雑魚は、俺の前に出てくるなっ!!」チャキッ

天馬「」ヒヒーン!!!


「魔法剛剣技!! フ レ ア ダ ウ ン ッ !!」


ズバッ!!!!



アスタロト「っ!!!!」ガフッ!!!!

ヒューーーン……ドサッッッ!!!!



剣聖「冥土の土産だ! 魔法剣の威力、冥界でとくと語るといい!」

861: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:25:07.63 ID:TFwo0+zOo
巨大屍鳥A「グギャギャッ!!!」バササッ (全長31メートル)

巨大屍鳥B「グギャギャッ!!!」バササッ

巨大屍鳥C「グギャギャッ!!!」バササッ

巨大屍鳥D「グキャギャッ!!!」バササッ

巨大屍鳥E「グギャギャッ!!!」バササッ

巨大屍鳥F「グギャギャッ!!!」バササッ

巨大屍鳥G「グキャギャッ!!!」バササッ

巨大屍鳥H「グギャギャッ!!!」バササッ

巨大屍鳥I「グギャギャッ!!!」バササッ



女大富豪『ふふっ。飛んで火に入るなんとやらってやつね。この程度の数、ウイングフリーダムにとっては何の意味もないわよ! 武装展開!』ガコッ

魔導機神「」シュババババッ!! (遠隔操作型、魔力出力小型砲台×32機を背面から展開)


女大富豪『奏でなさい! 破滅のメロディ! フィンファンネル!!!』


小型砲台A「」ギュインッ、ドシュッ!! (空中を自在に移動しながら魔力レールガンを発射)

小型砲台B「」ギュインッ、ドシュッ!! (魔力レールガンを発射)

小型砲台C「」ギュインッ、ドシュッ!! (魔力レールガンを発射)


(以下略)


小型砲台Z「」ギュインッ、ドシュッ!! (魔力レールガンを発射)



巨大屍鳥A「ギッッ……!!」ヒューーーン……ドサアッ!!!

巨大屍鳥B「ガグッッ……!!」ヒューーーン……ドサアッ!!!

巨大屍鳥C「グギッッ……!!」ヒューーーン……ドサアッ!!!

巨大屍鳥D「ッッ……!!」ヒューーーン……ドサアッ!!!

巨大屍鳥E「ガッッ……!!」ヒューーーン……ドサアッ!!!

巨大屍鳥F「ギギッッ……!!」ヒューーーン……ドサアッ!!!

巨大屍鳥G「ガギッッ……!!」ヒューーーン……ドサアッ!!!

巨大屍鳥H「グギッッ……!!」ヒューーーン……ドサアッ!!!

巨大屍鳥I「ギッッ……!!」ヒューーーン……ドサアッ!!!



女大富豪『千年後に出直して来なさい!』

862: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:26:06.72 ID:TFwo0+zOo
集団コウモリ×4000「ギギギィッ!!!」バサササササッ!!!!



女闘神「へえ、まるで一匹の巨大なコウモリだね、気持ち悪い」

鳳凰「シギャアアアアッ!!」ビリビリッ


女闘神「でもさ、一匹一匹が話にならない弱さだよ。そんなんじゃ、あたしの足止めは出来ないね」スッ (気功破の構えを取る)



「いくぞっ!! 超 級 覇 王 真 光 弾 !!!」

女闘神「破ぁぁっっ!!」ドンッ!!


気功破「」ギュインッ!!!! (全長79メートル)



ドッゴオオオオオオオンンンンッ!!!



集団コウモリ×4000「グギィッ……!!!」ジュワッ…… (蒸発)



女闘神「武闘家、舐めんな!! 多対一でも弱点にならないのがあたしだ!!!」

863: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:26:56.98 ID:TFwo0+zOo
地獄トンボA「……!」ブイーンッ!!!! (全長16メートル)

地獄トンボB「……!」ブイーンッ!!!!

地獄トンボC「……!」ブイーンッ!!!!

地獄トンボD「……!」ブイーンッ!!!!



真魔王「速さも強さもそれほどでもないね……。君達程度に魔力を使うのはもったいないから、少し温存させてもらうよ」ブインッ…… (魔力で長大剣を生み出す)


「魔力剣! 乱 れ 雪 月 花 !!!」


ザシュッ、ドシュッ、ズバッ、ドシュッ!!!!




地獄トンボA「……!!!」 (一刀両断)

地獄トンボB「……!!!」 (一刀両断)

地獄トンボC「……!!!」 (一刀両断)

地獄トンボD「……!!!」 (一刀両断)



真魔王「魔法使いだからって、剣が使えない訳じゃないからね。むしろ、結構得意な方なんだ」ヒュンッ (高速飛行)

864: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:27:55.75 ID:TFwo0+zOo
グリフォン「ガギギャアアアアッ!!!」ビリビリッ (全長45メートル)

【伝説の魔獣】
『体力 :443万
 攻撃力:308万
 防御力:176万
 魔力 :292万
 素早さ:339万』



聖女「うん……。わたしもあなたに恨みはないけど、これでさよならだね」バササッ

聖女「回復魔法。この者に癒しの光を与えたまえ……」パアアッ



グリフォン「!??」

『グリフォンの体力が9999億回復した!!』

グリフォン「グッ……!! ゴッ……!!!」ガフッ!!!!

グリフォン「」ブクブク…… (気絶)

グリフォン「」グラッ、ヒューーーン……ドサアッ!!!!



聖女「わたしの回復は強すぎるの……。加減しないと、体がもたないぐらいにね……。ごめんね」バササッ

865: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:28:47.20 ID:TFwo0+zOo
虹色蝶A「…………」バッサ、バッサ!! (全長7メートル)

虹色蝶B「…………」バッサ、バッサ!!

虹色蝶C「…………」バッサ、バッサ!!




勇者「…………」ポツーン……

天海竜『グルルッ!!』グワッ (口を開ける)


天海竜『ギャオオオッ!!』ゴオオオッ (灼熱の炎)



虹色蝶A「!!!」ジュワッ (炎焼)

虹色蝶B「!!!」ジュワッ (炎焼)

虹色蝶C「!!!」ジュワッ (炎焼)

ヒューーーン……ポトッ、ポトッ、ポトッ



勇者「…………」ポツーン……

天海竜『グルルルルッ!!』フンスッ

866: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:30:01.41 ID:TFwo0+zOo
勇者「……俺は、一体、何の為にここにいるんだろう……?」

天海竜『グルルッ?』


勇者「いや、一人言だよ……。それにしても、お前は強いな……。さっきは守ってくれてありがとう……」

天海竜『グルルルッ』フンスッ


勇者「あ……。あれが魔王城かな……。ほら、地平線の先に微かに見えるけど……」

天海竜『グルルルッ』コクコク


勇者「あそこに魔王いるんだ……。きっと強いんだろうね……」

天海竜『グルルルッ』


勇者「でも、みんなも強いからなあ……。もう何か別世界の出来事みたいでさ……」

天海竜『グルルルッ?』

867: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:31:09.92 ID:TFwo0+zOo
勇者「もうさ……。出来れば、俺だけ帰りたいんだけど……。やっぱり帰っちゃ駄目なのかな……?」

天海竜『グルルッ??』


勇者「いや、俺もう完全に蚊帳の外だしさ……。いらないよ、ていうか無理だよ……。俺がいなくても大丈夫っぽいし……。むしろ、足手まといだよ……」

天海竜『グルルルッ……?』


勇者「あ、でも、伝説の剣を俺が持ってたっけ……。これがないと魔王倒せないんだよね……。ひょっとして、それだけの為に連れて来られたのかな、俺……」

天海竜『グルルルッ???』


勇者「あ、いや、ごめん……。ちょっと愚痴を吐きたくなってさ……。なんか想像してたのと全然違ったから……」グスッ

天海竜『グルルルッ!』アセアセ


勇者「俺、本当に何の為にここにいるんだろうって……。さっきから何もしてないし……。何も出来ないし……。勇者だってのに、何も……」グスッ

天海竜『グルルッ! グルルルッ!!』アセアセ

868: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:32:42.79 ID:TFwo0+zOo
ー 妖魔の森、東部 竜王のねぐら ー


竜王『ガルルッ……グルルルルッ……(勇者たちの一行が……破竹の勢いで進軍しておるな……)』

【竜族の長】
『体力 :904万
 攻撃力:818万
 防御力:796万
 魔力 :479万
 素早さ:682万』


黄龍『ギルッ……(はい)』


(以下、鳴き声省略)


竜王『それで……勇者からの合図はまだ来ておらぬのだな』

黄竜『はい。未だ……。とうに来てもおかしくはないのですが、まだ送られてきてはおりません……』

紫龍『ギリギリまで戦力を自分達に引き付けておいて、と考えているのでしょうかね』

竜王『かもしれぬな……。気遣われるのはむしろ我等の方であろうから……。あの者らなら、我等の力など必要としておらぬだろうに……』


竜王『依然、我等は待機だ……。勇者からの合図が来たら、我の命令を待たず、すぐさま魔王軍に襲いかかれ』

黄竜『はい』

871: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:37:39.77 ID:TFwo0+zOo
ー 同時刻。魔王城前、大広場 ー


大魔導師「魔王様。遊撃部隊八千名、近衛兵一万二千名。全て出陣の準備、整いました」

魔王「遅い!」

大魔導師「も、申し訳ありません!」

魔王「奴等、既に南西部を突破し、中央付近にまで来ているというではないか。すぐに出るぞ!」

大魔導師「は、はい!」

魔王「飛べる魔物は全員、鶴翼の陣を維持しつつ余に続け! 飛べぬものは下から向かえ!」ヒュンッ (浮上)


「はっ!!」


魔王「叩き落として地上戦に持ち込む故、下の者らはとどめの用意をせよ! 指揮は側近に任せる!」

側近「ははっ!」


魔王「よいか、皆の者!! 例え敵がどれ程の強敵であろうと、余と、余の誇る軍の敵ではない!」

「はっ!!」

魔王「前後左右に加えて、空と陸から完全に包囲して殲滅戦に持ち込めば我らの勝利は約束されている! 余の指揮に従うだけでお前たちは勝利の美酒にあずかれるのだ!!」

「ははっ!!」


魔王「皆、恐れず進め! 余自ら先陣を切る!!」ヒュインッ (高速飛行)


「ははっ!! 魔王様に続けーーーーっ!!!!」



『グオオオオオオッ!!!!』×魔物20000体


 

872: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:39:10.26 ID:TFwo0+zOo
ー 妖魔の森、中央部付近 ー


キラー女王蜂A「!!」ブイーンッ!!! (全長32メートル)

キラー女王蜂B「!!」ブイーンッ!!!



剣聖「しつこいっ!!」ズバッ!!!!

天馬「」バッサ、バッサ!!


キラー女王蜂A「!!!!」(一刀両断)




女大富豪『甘いよっ!!』ガチッ

魔導機神「」ドシュンッ!! (魔力レールガン発射)


キラー女王蜂「!!!!」(一撃死)




女闘神「ったく。強さは大した事ないんだが、数が多くて面倒だな」

鳳凰「」バッサ、バッサ!!


聖女「うん。予想してたよりも多いね」バササッ


真魔王「だけど、下、見てよ! やっと暗黒湖を越えたよ!」ヒュンッ


剣聖「お、本当だな! 竜王の話によると、これでようやく半分ってとこか。流石に妖魔の森は広い!」


女大富豪『ね、なら、そろそろ! 勇者に合図を送ってもらおうよ! これまでに十分魔物を引き付けたよ、私達!』


聖女「そうだね! 竜王さん達もきっと待ってるだろうし、そろそろ来てもらいたいよね!」


女闘神「じゃあ、あたしが代表して勇者と話してくる! 皆はそのまま近寄ってくる魔物を倒しててくれ!」


剣聖「了解! 頼んだぞ!」

874: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:41:17.05 ID:TFwo0+zOo
ー 仲間達からやや後方地点 ー


勇者「……なんかもう、これからどうしていいか、俺」グスッ

天海竜『グルルッ!!』アセアセ


「勇者ぁーー!!!」


勇者「」ビクッ

勇者「ぅっ……」ゴシゴシ


女闘神「よしっと、辿り着いた」

鳳凰「」バッサ、バッサ!!


勇者「ど、どうしたの、女闘神?」

女闘神「ああ、勇者。実はそろそろ合図を送ってくれないかってな」

勇者「合図?」

女闘神「ああ、竜王への一斉攻撃の合図だよ。勇者には勇者の考えがあると思うんだけど、あたしらは今が良いタイミングなんじゃないかって思ったからさ」

勇者「あ、合図ね。う、うん……。わかった、そうだよね、送るよ……。でも、どうやって送ればいいのかな……」

女闘神「何でもいいよ。女大富豪みたいに派手な事をしてくれりゃ、それで合図になるから。魔法でも気功でも剣技でも何でもいいからさ。勇者ならそれぐらい楽勝だろ?」

勇者「え」ビクッ!!

876: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/29(火) 20:44:54.63 ID:TFwo0+zOo
女闘神「え、ってどうしたんだよ、勇者。やっぱ送るのはもう少し後からの方がいいのか?」

勇者「い、いや、そうじゃないんだけど……!!」アセアセ

女闘神「なら、頼んだ。流石に近寄ってくる魔物が鬱陶しいからさ。ドカンと一発、派手なのかましてくれ」

勇者「あ、あの……で、でも……」オロオロ

女闘神「勇者? 本当にどうしたんだよ? 何かまずいのか?」

勇者「そ、その……実は俺は……」グスッ

女闘神「……?」

勇者「あ、あれだけ派手な合図なんて……出来な」



ピカーッ!!! (天からの光)



勇者「!?」

女闘神「!?」



キラキラキラキラキラ……


女神「お待ちなさい、勇者よ……」 (降臨)

女神「その先を言う必要はありません……」



勇者「女神様!!?」

女闘神「!!?」

895: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:30:36.87 ID:EDqZDKuQo
勇者「い、一体、何故ここに……!」


女神「もちろん、あなたを助ける為ですよ、勇者……」


勇者「俺を……!」

女闘神「勇者を……?」


女神「あなたの悩みは全てわかっています……」

勇者「!!」


女神「仲間との力の差がありすぎて、それで躊躇っているのですよね……」

勇者「……はい」

女闘神「力の差が……? そうなのか、勇者!?」

勇者「うん……ごめん」

女闘神「!!」

896: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:32:40.89 ID:EDqZDKuQo
勇者「本当にごめん……。今まで隠してて……。なんか言い出せなくて……」

女闘神「い、いや、あたしは別に気にしてないけど……。でも、それ本当に本当なのか……?」

勇者「うん、そうなんだ……。嘘とかじゃないよ……」


女神「ええ……。私も保証します……。勇者の言う事に嘘偽りはありません……」

女闘神「女神様までそう言うなら……本当なのか。そっか……」


勇者「うん……。悪い……。ずっと黙ってて……」

898: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:33:57.06 ID:EDqZDKuQo
女神「ですが、勇者よ……」

勇者「はい……」

女神「あなたは『選ばれし勇者』なのです……」

勇者「はい……」


女神「例えどれだけ仲間達と差があろうとも、その事をあなたが気に病む必要はありません……」

勇者「…………」

女神「あなたは、私が選んだ世界でたった一人の勇者なのです……」

勇者「はい……」

女神「自信を持って進みなさい……。あなたの仲間達も、それを気にする程、器の小さい者達ではないはずです……」

勇者「……ですが」


女闘神「いや、女神様の言う通りだ、勇者!」

勇者「え……」

女闘神「あたしはどれだけ勇者と差があっても、気にはしない! それは皆も同じはずだ!」

勇者「女闘神……。それ、本当に……?」

女闘神「ああ! 当然だろ!」

勇者「良かった……。ありがとう、女闘神……」グスッ

900: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:35:42.45 ID:EDqZDKuQo
勇者「俺……今までずっとその事でどうしようか悩んでて……」グスッ

勇者「ほんの少しだけど、嘘ついて誤魔化そうかとかも思ったんだ……。勇者だってのに……」グスッ

勇者「でも、それは俺が子供の頃から憧れてた勇者とは真逆の行為で……。そんな風に考えてしまった自分が情けなくて……」グスッ

勇者「だけど、皆から嫌われたり、呆れられたりするんじゃないかって風にも思えて……。だから……」ポロポロ……


女闘神「何を言ってんだよ、勇者! 泣くなよ!」

女闘神「あたしも、あたしらもそんな事で勇者の事を嫌いになる訳あるかよ! それは絶対だ! 断言出来る!」


勇者「女闘神……」ポロポロ


女闘神「むしろ、誇らしくあるぞ! それだけ勇者が強いって事なんだからな!」

勇者「え…………?」

女闘神「あたしらだって相当強くなったって思ってたんだ。でも、勇者はそれを遥かに越えてるってんなら、嬉しい限りだろ!」

勇者「あ、あれ……。女闘神……?」

女闘神「あたしらはそんな強い勇者の仲間でいられるんだ! 一生の自慢に出来る! あたしはそれが純粋に嬉しいよ!」

勇者「いや、あの、そうじゃなくて逆な」


女神「勇者よ、聞いての通りです。あなたのその強大な力の一端を、今こそ仲間達に……。そして、世界中の皆に知らしめなさい……」

勇者「え、ちょっ」

女神「その為の準備は全て整えてあります……。あなたの凄さを知らしめる用意が既に……」

勇者「!?」 

901: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:37:00.54 ID:EDqZDKuQo
ー 中央国、大聖堂

  大礼拝同、屋根の上 ー


女「では……女神様の神託通り、今こそ『奇跡の鐘』を鳴らします」

天使「はい……。お願いします、女様……」


女「勇者様の強さ、偉大さ、凄さ……。それを世界中の皆に届ける為に……」スッ (鐘に手で触れる)



『この世に生きる全ての者よ……』

『天上からの旋律のしらべを聞きなさい……』

『この鐘の音を全世界に……』



女「」ソッ (鐘に聖力を送り込む)



カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

  カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

   カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

902: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:38:12.61 ID:EDqZDKuQo
ー 同時刻、南の国

  王宮二階、バルコニー ー


カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……



姫「これは……。何て美しい響き……」

姫「空から、鐘の音が……」



天使「姫よ……。勇者の帰りを待ちし姫よ……」


姫「はい。天使様……」

姫「私に何かご用がおありなのでしょうか……?」


天使「鐘が鳴りし時、世界は動く……」

天使「そなたの想い人たる勇者……。かの者が魔王を倒すであろう……」


姫「!!」

姫「勇者様が!!」


天使「そう……勇者が。かの者の力、その一端をここから眺めると良い……。もうすぐそれは起こる……」


姫「もうすぐ……」

903: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:39:43.09 ID:EDqZDKuQo
ー 同時刻、東の国

  王都、記念広場 ー


カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……



「鐘の音が空から……」

「まさか……これが『奇跡の鐘』!」

「天使様も降臨されてる! 間違いない!」

「だけど、一体、何が起こるんだ、これから!」


名剣士「これが奇跡の鐘かよ……。生まれて初めて聴く音色だ……。ヤバイぐらいに綺麗だな……。ついつい聞きいっちまう」

名剣士「だが、この鐘が鳴る時は、災厄か奇跡のどちらかが起こるって噂だ。一体、今回はどっちだ……?」


ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ!!



天使「皆の者よ……。怯える事はない……」

天使「この鐘は奇跡の前兆……。女神様はこう仰られた……」


『鐘が鳴りし時、北の空を見上げよ……』

『さすれば、勇者のその強さが理解出来るであろう……』



ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ!!



名剣士「北の空……?」

名剣士「つまりは妖魔の森の方角か……。師匠達なら、もう妖魔の森に向かっててもおかしくないだろうが……」

名剣士「それと関係があるのか……?」クイッ (空を見上げる)

904: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:41:10.85 ID:EDqZDKuQo
ー 同時刻。北の国、山奥の大屋敷 ー


カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……


大賢者「これは……!」

九尾の狐「まさか、また聴く事になろうとはな……。奇跡の鐘の音じゃ……」

大賢者「やっぱり、そうなんですね! だけど、何て美しい音色なんだ……!」

九尾の狐「奇跡の鐘には二種類の音色があるんじゃよ、小僧。この美しき音は良い事が起こる前触れの方じゃな」

大賢者「良い事ですか……! だけど、今の時点で良い事と言えば……」

九尾の狐「前回は魔王が現れた時じゃったな……。となると、今回は魔王が倒されでもするのかの……」

大賢者「まさか、あの南の国に現れたという勇者が、もう……!」

九尾の狐「ほう。その様な奴がおったのか。しかし、人間ではあの魔王を倒すのは無理じゃと思うが……」

大賢者「いえ、勇者は魔王を倒す為に女神様が選んだ人です。不可能じゃありませんよ!」

九尾の狐「なるほどの、女神が一枚噛んでおるのか。それなら可能かもしれんが……さて、どうか」

九尾の狐「何にしろ、小僧。勇者が魔王を倒すにしても、今は北の空を見ておれ。妾の予感からすると、何か起こるなら向こうの方角じゃ」

大賢者「は、はい!」

906: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:42:39.55 ID:EDqZDKuQo
ー 同時刻。南の国、凪の海賊団アジト ー


カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……


男船長A「おい、今度は空から鐘の音が聞こえてきやがったぞ……!」

男船長B「こりゃ奇跡の鐘じゃねえのか!? 何かドデカイ事が起こった時に鳴るっていう伝説の!」


ザバザバザバッ!!

ザザザッ!! (水音)


副船長「マジかよ……。海、見てみろよ。今度は魚が一斉に南の方角に移動し始めてるぞ……」

女船長C「しかも、イルカとシャチが並んで泳いでるじゃないの……。周りを気にしてる余裕すら無いって事……?」


ザッバーーーンッ!!!

クジラ「」ザバザバッ



女船長「クジラまで南の方角に……。こりゃ、本格的にヤバイかもね……」

副船長「避難先が南なんだから……。当然、何か起こるとしたら北の方角か……」

男船長A「北の方角って言ったら、あれだよな……。妖魔の森があるとかいう……」

男船長B「魔王がいる場所かよ……。って事はもしかして大船長のせいか? 大船長なら速攻で乗り込んで派手にやらかしててもおかしくはねえが……」

副船長「だが、その大船長が前に言ってたぞ。あたしより勇者の方がきっと何倍も強いってな……」

女船長「じゃあ、何かよ、副船長……。今、魚や鳥が避難してるのは、大船長じゃなくて勇者の仕業だって事か?」

副船長「多分な……。流石にあの人が全力出しても、ここまで大事にゃならねえだろ……。あるとしたら、勇者か魔王のどっちかじゃねえか……」

女船長「どっちにしろ、半端ないね、きっと……」

副船長「だろうな……」

907: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:44:08.50 ID:EDqZDKuQo
ー 同時刻。西の国、農業で栄える町 ー


カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……


天使「さあ、皆の者よ、刮目して北の空を見よ……」

天使「後にも先にもこの勇者を越える者は現れぬ……」

天使「それを自分達の目で確かめると良い……」

天使「女神様の加護と祝福を受けし勇者の力を照覧せよ……」

天使「天地も、草木も、鳥も、地を這う獣も、人も、昆虫も、何もかも……」


天使「その目に焼き付けて後世に伝えるのだ……」


カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……



農民A「今から勇者様の力が……」ドキドキ

農民B「何が起こるんだっぺ……」ゴクッ

秘書「北の空か……」ジッ

908: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:45:22.03 ID:EDqZDKuQo
ー 同時刻。妖魔の森

  東部、竜王のねぐら ー


カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……


竜王『ガルルルルッ……(女神が降臨したとはな……)』

黄龍『ギルッ……。グギギルルッ……(はい。そして、この鐘の音は恐らく奇跡の鐘……)』


(以下、鳴き声省略)


竜王『何があったか……。はたまた、これから何が起こるかは想像もつかぬが……』

紫龍『恐らく、今日、魔王軍との決着はつくのでしょうな……』

竜王『そうじゃな……。それで間違いあるまい……』

黄竜『願わくば、我等に勝利を……』

竜王『勇者とその仲間達がおる……。余程の事がない限りは我等の勝利で終わるだろう……。後はこちらにどれだけの犠牲が出るかじゃな……』


竜王『我等の数も少なくなった……。出来れば犠牲は少なくおさめたい……』

竜王『勇者と女神に期待しよう……。かの者達の力に……』

竜王『女神が何をしに現れたかはわからぬが、あの者達から目を放すな……。しかと見届けよ……』

黄竜『はい……』

909: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:47:11.09 ID:EDqZDKuQo
ー 同時刻。魔王城近く、上空 ー


カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……


魔王「ちっ。耳障りな。これは奇跡の鐘か」ヒュンッ (飛行中)

大魔導師「いえ、魔王様、これは吉兆でございます! これこそ魔王様が今日、この世界を統一するという証! 奴等にとってのレクイエムでございましょう!」ヒュンッ (飛行中)

魔王「下らぬ事を。女神が創った玩具ごときに一々踊らされるな。余がそれを聞いて喜ぶとでも思ったか。二度とその様な事を口にするな」

大魔導師「は、ははっ! 失礼しました!」


ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ!!


魔王「見よ。案の定、軍が動揺し浮わついた。鐘一つで何を騒ぐ!」ビリリッ


シーンッ!!


魔王「一時、進軍を止めよ! 崩れた陣形を再編する!」

大魔導師「ははっ!」

魔王「しかし、余計な事を。女神め! とことんまで余の邪魔をするか!」

910: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:48:20.98 ID:EDqZDKuQo
ー 妖魔の森、中央部、上空 ー


カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……


女大富豪『ちょっと、これって……!』

魔導機神「」キキィッ


聖女「うん……。間違いないよ……」バサッ……


真魔王「奇跡の鐘だ……」ピタッ


剣聖「勇者の元に女神様も降臨してるのか! だが、何で鐘が鳴る!?」

天馬「」バッサ、バッサ……


女大富豪『勇者に何かあったの!?』

聖女「わからないけど、きっと!」

真魔王「どういう事だろ……」

剣聖「良い事か悪い事か、どっちだ!?」

911: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:49:13.28 ID:EDqZDKuQo
ー 仲間達からやや後方 ー


カラーン、コローン…… カラーン、コローン……

 カラーン、コローン…… カラーン、コローン……


女闘神「これ、奇跡の鐘か!?」

鳳凰「シギャアアアッ!」バッサ、バッサ……



キラキラキラキラキラ……


女神「時は来ました……」

女神「讃えなさい、誇りなさい、そして後の世にまで語り継ぎなさい……」

女神「この世に生きる全ての者よ……。今こそ伝説の勇者の力を見るのです……」



勇者「」

天海竜「グ、グルルッ!?」アセアセ

912: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:50:55.60 ID:EDqZDKuQo
勇者「め、女神様……」ガクガク

勇者「お、俺は……こんな……無理……」ガクガク


女神「安心なさい……勇者よ。あなたは魔王城目掛けて魔法を使うだけで良いのです……」

勇者「で、ですが……」ガクガク


女神「よく聞くのです、勇者よ……。今から私があなたに最後の祝福を与えます……」

女神「それにより、あなたはこの世で恐らく最強の魔法を手にする事でしょう……」

勇者「!?」


女神「この魔法をあなたに教えるかどうかで、私は相当悩みました……。それぐらい、この魔法は強力なのです……」

女神「ですから勇者よ……。この魔法は禁忌とし、これ以降、自ら使うのを封印なさい……」

女神「今のあなたが使えばこの世界そのものを崩壊させかねない……。それほどの魔法なのです……。私の最後の切り札なのです……」

勇者「そ、そんな魔法を俺に……!」


女闘神「勇者スゲーな! そんな桁違いに強いのかよ!!」キラキラ

913: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:52:27.95 ID:EDqZDKuQo
女神「ですので、勇者よ……。この魔法を使う時は可能な限り手加減をしなさい……」

女神「くれぐれも全力で使わない様に……。良いですね」


勇者「で、ですが……!」アセアセ


女神「では、頼みましたよ……勇者。あなたに最後の祝福を……」パァァッ……


勇者「っ!!」


『勇者は【伝説の魔法】を覚えた!!』



女神「さあ、その魔法を魔王城に……」


女闘神「勇者! 一発ぶちかましてやれ!」


女神「良いですか、勇者……。最大級の手加減をもって放つのですよ……」



勇者「そ、そんな事言われても……!」

914: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:53:09.13 ID:EDqZDKuQo
勇者(例え伝説の魔法だって、俺が使ってもきっと仲間達には遠く及ばないだろうし……)

勇者(全力で放っても構わないんじゃ……)


勇者(でも、女神様からああまで念押しされてるから……)

勇者(あ、間を取って半分ぐらいの力で……)


勇者「」スッ (手を上にかざす)



女闘神「」ドキドキ、ワクワク

女神「」ドキドキ、ハラハラ



勇者「……伝説の魔法」


「 ミ ナ デ イ ン !!!!」

 

915: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:56:08.13 ID:EDqZDKuQo
その瞬間、仲間達五人と勇者の力が一つになり、その全ての魔力エネルギーが、雷魔法へと還元した。

勇者だけでなく、仲間全員の魔力を増幅して放つ最強の雷魔法、ミナデイン。


大気そのものが震えた。

空全体が黒を通り越した漆黒の雷雲で埋め尽くされた。

信じられない程の轟音が世界全体を貫いた。

稲光によって世界は数瞬もの間、激しい閃光に包まれた。

それらが集約され、巨大な雷となって、信じられないほどの一撃が魔王城へと放たれた。


それは『雷』とは到底呼べない代物だった。最早、人類史上最悪最凶の天災と呼んでも良い。


稲妻の直径はおそよ30キロメートルにも及び、それがおよそ2分間、136秒もの間、一切途切れる事なく降り注ぎ続けた。

それは遥か遠くから見れば巨大な一本の大木に見えたに違いない。魔導機神が放った大型凝縮魔力出力砲の160倍以上ものエネルギーと規模がそこにはあった。


その小惑星の激突にも似た史上最大規模の『魔法』は、女神と天使達の尽力により、ほぼ世界中の人間が目にする事となった。

女神のハープにも似た音楽的な声が歌う様に全世界に奏でられ、天使達は一斉に祝福のラッパを鳴らした。


『勇者を讃えよ。これが勇者の力なり』



……目映いばかりの光が消え、北の空に見えていた巨大な光の柱がようやく見えなくなった時、人々は誰もが揃ってこう叫んだ。

916: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:57:52.37 ID:EDqZDKuQo
ー 中央国、大聖堂 ー


神殿騎士たち「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

大司祭「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

大司教「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

枢機卿「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

教皇「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

女「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」



ー 南の国、王宮 ー


騎士たち「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

騎士団長「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

国王「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

王妃「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

姫「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」



ー 東の国、王都 ー


町人「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

商人「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

神父「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

子供「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

名剣士「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

917: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:58:25.39 ID:EDqZDKuQo
ー 北の国、山奥、大屋敷 ー


大賢者「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

九尾の狐「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」



ー 南の国、凪の海賊団アジト ー


海賊たち「勇者SUGEEEEEEEE!!!!」

男船長A「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

男船長B「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

女船長C「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

副船長「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

女船長「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」



ー 北の国、農業で栄える町 ー


農民A「勇者SUGEEEEEEEE!!!!」

農民B「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

農民C「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」

秘書「勇者SUGEEEEEEEEEE!!!!」



ー 竜王のねぐら ー


竜王『ガルルルルッ!!!!(勇者SUGEEEEEEEE!!!!)』

黄竜『ガルルルルッ!!!!(勇者SUGEEEEEEEE!!!!)』

紫竜『ガルルルルッ!!!!(勇者SUGEEEEEEEE!!!!)』

919: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 17:59:44.73 ID:EDqZDKuQo
ー 妖魔の森、中央部、上空 ー


女大富豪『勇者TUEEEEEEEEEEEEEE!!!!』

魔導機神「」ヒュイン


聖女「勇者TUEEEEEEEEEEEEEE!!!!」


真魔王「勇者TUEEEEEEEEEEEEEE!!!!」


剣聖「勇者TUEEEEEEEEEEEEEE!!!!」

天馬「」ヒヒーン!!!!


女闘神「勇者TUEEEEEEEEEEEEEE!!!!」




勇者「え、え、あれ……」オロオロ

天海竜『グルルルルルルッ!!!!』フンスッ



女神「だから思い切り手加減をなさいとあれほど……」シュン

920: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/30(水) 18:00:26.80 ID:EDqZDKuQo
ー 『元』魔王城付近 

  『現在』巨大クレーター

  草木一本もない焼け焦げた荒れ地 ー



『この地全体に164兆2879億ダメージ』



魔物たち「」…… (炭屑)×20000体


側近「」…… (炭屑)

大魔導師「」…… (炭屑)



魔王「」ピクッ、ビクッ……
残り体力:1

956: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:34:43.47 ID:AnYy5EW8o
勇者があの一撃で砕いたのは、何も魔王城や魔王軍の一部だけではない!



ー 妖魔の森、西部 ー


ベルゼブブ(悪魔)「無理だ……。あの勇者には絶対に勝てない……」

ヤーマ(死神)「例え一生かかっても、あの勇者を超えるのは不可能だ……」

バアル(悪魔)「終わりの時が来たのか……」



ー 妖魔の森、北部 ー


アポフィス(破壊神)「自信を失った……。我はもう戦えぬ……」

カーリー(死神)「私が死を予感するとはな……。あれには勝ち目がない……」

ハデス(死神)「これで詰みだ……。全て終わったのだ」




勇者は魔王軍の戦意を! 士気を! 自信を! 根こそぎ砕き潰した!!

957: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:35:36.43 ID:AnYy5EW8o
ー 妖魔の森、中央付近、上空 ー



女神「勇者よ……」ハァ


勇者「は、はい!」ビクッ

天海竜『グルルッ!』


女神「これでもう理解しましたね……。あの魔法は世界を滅亡させかねないと……」

勇者「は……い……」

女神「出来れば、二度と使う事のないようにして下さい……。あなたには頼れる仲間がいるのですから……」

勇者「はい……」

女神「あなたのその力は絶対的なものなのです……。故に、抑止力として存在しなさい……。あなたにはそれだけの力があります……」

勇者「抑止力、ですか……」


女神「ええ、あなたが力を使う必要はないのです……。ただ力があるというだけで、それだけで皆にとっては十分なのですから……」

女神「故に、決して、絶対に、何があろうとも、その力に溺れる事のないようにして下さい……」

女神「世界大戦を起こさない為だけに、その力を使うのです……。それを約束して下さい……。勇者よ、良いですね……」


勇者「はい……。女神様……」

958: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:36:31.68 ID:AnYy5EW8o
女神「それでは、お願いしますね、勇者よ……」ニコッ

女神「私の力も残りわずかです……。もう神界へと戻らねばなりませんから……」


勇者「……はい。女神様のお言葉、忘れません」


女神「ええ、そうして下さい……。あなたは誠実で自然と人に好かれる性格をしています……。それはあなただけの才能です……」

女神「魔王がいなくなれば、この世界には平和が戻るでしょう……。その世界に、あなたのその才能はきっと必要とされるはずです……」

女神「伝説の勇者として……。この世界を争いのない平和な世界へと導いていって下さい……」

女神「仲間達を信頼し、尊敬し、時に引っ張り、時に諌めて、皆と仲良く協力してやっていくのですよ……」

女神「頼みましたよ、勇者……」


キラキラキラキラキラキラ……



勇者「消えていく……。神界へとお戻りになられたのか……」


勇者「ありがとうございます、女神様……。少しだけ自信を頂けました。そして、何より勇気を」

勇者「必ず、魔王を倒してみせます! そして、この世界に平和を!」

959: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:37:36.73 ID:AnYy5EW8o
女闘神「勇者! 女神様からあんなに頼りにされてるなんてスゲーな!」

鳳凰「」バッサ、バッサ


勇者「うん。素直に嬉しいよ。それに、凄い魔法を教えてもらったし」


女闘神「だよな! あれ、スゴかったぞ! あたしもびっくりしたよ! 流石、勇者だな!」

勇者「俺も驚いたよ。まさかあそこまで威力があるなんて。女神様の言う通り、この魔法は危険だから魔王を倒したら封印しようと思う。もう使わない方が良いだろうから」

女闘神「そうだな! そっちの方が良いかもな! あんなん連発したら世界が壊れちまうだろうし!」

勇者「そうだね。そうなったら俺が魔王になるのかな? 気を付けないと」

女闘神「ははっ。勇者が魔王とか信じられないけどさ!」

ダヨネ、オレモダヨ、ハハハッ



「勇者ぁぁー!!!」



勇者「あ、皆も! わざわざ来てくれたんだ!」

女闘神「そりゃ来るって! あれだけの事があったんだし!」

960: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:39:10.43 ID:AnYy5EW8o
女闘神「それにさ! さっきの勇者の魔法で魔物たち皆、攻撃してこなくなっちまったからな! スゲー痛快な気分だよ!」

勇者「そうだね。いつのまにか、魔物達がいなくなってる」


バッサ、バッサ!!


剣聖「おーい、勇者! 流石だな、この野郎! 何年経っても俺の遥か上を行きやがって!! スゲー嬉しいぜ!!」

天馬「」バッサ、バッサ


聖女「ホントだよ、スゴいよ、勇者! やっぱり勇者だけ昔から特別だね!!」バササッ


真魔王「だよね! 参ったよ、あんな凄い魔法見た事ないもん! 勇者はやっぱり僕たちの勇者だよ!!」ヒュンッ


女大富豪『うん!! 何かスッゴい自分の事みたいに嬉しい!! 思わず顔がにやけちゃうぐらい!! 勇者があんなに強かっただなんて!!』

魔導機神「」ドギュッ



勇者「ありがとう。でも、強いのはあの魔法だけだよ。俺自身はそうでもないんだ。他の事では、俺は皆よりもずっと劣ってると思う」


剣聖「おいおい、ここまで来て謙遜か! ったく! 叶わねえなあ、勇者には!」

聖女「勇者、慎み深いね! わたしも見習わなきゃ!」

女闘神「何せ、思いっきり手加減してあれだからな! あたしらの事は気にしなくていいってのにさ!」

真魔王「いや、気にするからこそ勇者なんだよ。昔からずっと僕たちの事を気遣ってくれてたしさ」

女大富豪「そうだよね! 引っ込み思案だった私が皆と仲良くなれたのも勇者のおかげだし!」


勇者「いや、本当なんだ。謙遜とか嘘とかじゃなくて。だからさ」


「? だから?」


961: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:40:21.81 ID:AnYy5EW8o
勇者「前に女大富豪が説明してくれた通り、魔王は不死身だって話だよね。だから、きっとまだ生きているはず」


剣聖「だな!」

聖女「うん……。まだ魔王の悪しき気配が残ってる」

女闘神「あれで死なないとか反則だよな! 魔王のやつ!」

真魔王「というか、最悪、ノーダメージって可能性もあるからね……。『闇の衣』以外にどんな秘宝を持っているかもわからないし……」

女大富豪『十分、気を引き締めていかないとって事ね!』


勇者「うん。だから、皆! こんな情けない俺を助けて欲しい! 手伝って欲しいんだ!」

勇者「皆がいないと、魔王を倒す事なんか俺には絶対に無理だから!」

勇者「だから、もう一度お願いするよ! 俺に力を貸してくれ、みんなっ!!」



剣聖「当たり前だっ!! 任せておけ!!」

聖女「もちろんだよっ!! 全力でわたしたちも勇者を手伝うから!!」

真魔王「僕たちで勇者をしっかりと補佐するよ!!」

女闘神「っし! 改めて、気合いを入れ直そうぜ!!」

女大富豪『だね、せーのっ!!』



「魔王を倒すっ!! 約束通り、この六人でっ!!!」



962: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:42:00.79 ID:AnYy5EW8o
【英雄譚、『伝説の勇者』より一部抜粋】


決意を新たにした勇者とその仲間達は、悠々堂々と魔王が待ち構えているであろう魔王城跡へと空から向かった。

その進撃を阻む魔物は一切存在しなかった。
竜ですら勇者からの合図があったというのに動きを見せようとはしなかったのだから。

各所にいた魔物たちは脅え震え、物陰に隠れつつ、ただ無気力な目を遠巻きから勇者一行に向けるだけだったと伝えられている。

ただし、『勇者伝記』によると、やけになった魔物達が一斉に群れとなって襲いかかったとされている。
また、各地に残る伝承によっては魔物達は揃って一目散に逃げ出したとされている場合もあり、真偽の程は定かではない。

しかし、竜が全く動かなかった時点で、戦争を起こす必要性がこの時には皆無だったのではないかという推測がされる為、魔物達が一斉に襲いかかったという『勇者伝記』の記述には疑わしいものがある。


何にせよ、この後、勇者一行はそのまま魔王城跡地へと進んでいき、そしてそこで初めて魔王と対面する事となる……。

963: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:43:12.82 ID:AnYy5EW8o
ー 魔王城、跡地

  現、巨大クレーター ー



魔王「」…… (瀕死・気絶状態)
残り体力:1



勇者「…………」


剣聖「…………」

聖女「…………」

女闘神「…………」

真魔王「…………」

女大富豪『…………』

964: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:44:06.23 ID:AnYy5EW8o
【古書、『勇者伝記』より一部抜粋】


勇者は魔王を見るなり強く叫んだ。それは名乗りであり、また自らの覚悟を声に出して外に出したものなり。

対して、魔王は不敵な笑みを浮かべ、妖しげな黒き魔力を全身から漂わせながら、勇者の実力不足と不運さを嘲笑し始めた。

かの伝説の魔法を受けても、その体には傷一つ無く、またその背後からは、新たに魔界から召喚された巨大な魔物が続々と現れ続けていたからだ。

これには流石の勇者も額に汗を滲ませ、自らの死を予感せざるを得なかった。

これまでの死闘により、仲間達は揃って満身創痍の体。かつ、自分の魔力と体力も若干の翳りを見せていたのだから……。

965: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:45:50.36 ID:AnYy5EW8o
魔王「」…… (瀕死・気絶状態)



勇者「えっと…………」


剣聖「勇者……その、なんだ……」

聖女「う、うん……」

女闘神「なんつうか……あれなんだけどさ……」

真魔王「僕らも、その……。正直、この事態は予想してなかったんだけど……」

女大富豪『勇者がちょっと強すぎたんだろうね……。うん……』


勇者「正直……こういう時、どういう顔をしたらいいかわからないんだけど……」


剣聖「い、いや。俺達の事は気にせず、喜んでくれればいいからな……」

聖女「そ、そうだよ、勇者……。勇者が魔王を倒したんだもん。子供の頃からの夢が……か、叶ったんだし……」

女闘神「だ、だよな! あたしらも苦労したかいが……! あ、あったと思うしさ……」

真魔王「あ、あの……! 本当に気にしなくていいからね。ゆ、勇者一人で魔王を倒すって凄い事なんだしさ……」

女大富豪『……う、うん。ちょっと呆気なかったけど、私達も勇者を護衛してここまで来た訳だし……。魔王を倒す役には少しは立ててる……様な気がするからさ……』



勇者「な、なんか本当にごめんね、みんな……」

勇者「俺一人で魔王を倒しちゃって……」

勇者「皆には何て謝ったらいいか……」



「き、気にするなって!! 大した事じゃないからさ!!」アセアセ

966: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:47:17.16 ID:AnYy5EW8o
剣聖「とにかく勇者! その、あれだ! ま、魔王にとどめを!」

女闘神「そ、そうだな、今の内に!」


魔王「」…… (瀕死・気絶)
残り体力:1


勇者「う、うん……。じゃあ……」チャキッ (伝説の剣を構える)


聖女「…………」

真魔王「…………」

女大富豪『…………』


勇者「さらば、魔王……。冥界へ旅立て……」ドスッ!!

魔王「!!!」ガフッ!!

『勇者は闇の衣を引き裂いた!!!』

『魔王に1のダメージ!!!』


魔王「っ! がっ!!!」ビクンッ!!!!

魔王「ぁ……。っ……」ゴフッ……


勇者「…………」


剣聖「…………」

女闘神「…………」

聖女「…………」

真魔王「…………」

女大富豪『…………』

967: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:50:20.49 ID:AnYy5EW8o
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余は夢を見た……。

長く果てない夢を……。

世界で誰よりも強い存在になるという真っ直ぐな夢を……。

魔界を統一した時、その夢は少しの間、叶った……。

神界を征服し、女神を封印した時も少しだけ叶った……。

だが、夢はあくまで夢でしかなかった……。

手に入れようとしていたものは指先からこぼれ落ち、そして余はこれまで手に入れたもの全てを失った……。

余の両目から、雫が一つ二つ落ちていった……。


「ようやく気が付いたかの、馬鹿者めが……」


気が付くと、横に師匠がいて……。

師匠は困ったような、呆れたような、それでいて優しい顔をしていた……。


「力で力を得ようなどと愚かな事じゃ……。ワシはそれを最期までお前に教えきらんかった……」

「じゃが、ワシの弟子達が……。そして、ワシの弟子達が慕う、勇者がそれを教えたじゃろうて」

「力で得たものは、更にそれより大きな力によって奪われるのじゃ……。じゃが、力以外で得たものはどれだけの力をもってしても絶対に奪えぬ……」

「信頼、絆、友愛、誇り、優しさ……。そういったものを得よ。それこそが真の強者というものじゃて……。ふぉっふぉっふぉっ」


ふと気が付くと、師匠の横には余の右腕と左腕たるルシファーと側近がいた……。

側近とルシファーはにこやかに笑っていた……。


「魔王様、次は冥界でナンバーワンとおなり下さい」

「私どもは魔王様にどこまでもついていきます」


余は静かに……。それが当然の様にうなずいた。


「行くか、二人とも。余の誇る、最強の矛と盾よ!」


「ははっ!!」
「はいっ!!」

968: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:52:27.51 ID:AnYy5EW8o
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魔王「」…… (骸)



勇者「終わったね……」


剣聖「ああ」

聖女「後は、残ってる魔王軍との戦いかな……」

女闘神「そうだな。残党狩りをしないと、まだ完全に平和が来ないだろうから……」

真魔王「殲滅戦か……。あまり気は進まないけど……」

女大富豪『竜達にも手伝ってもらって、私達も手分けして魔物を倒しに行こうか』


「待て! 勇者達よ!!」


勇者「!?」


魔軍師「」ヒュインッ、スタッ (上空から降り立つ)



勇者「魔物!!」チャキッ


魔軍師「剣を構えるな! 我等は降伏する!!」


勇者「!?」

969: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:55:40.58 ID:AnYy5EW8o
魔軍師「繰り返す! これ以上の争いは無用!!」

魔軍師「魔王様亡き今、我等は勇者達に全面降伏するっ!! 寛大な処置を願う!!」

魔軍師「既にこちらの戦意は潰えた! 先程確認したが、これは他の八大将軍達も含めた魔王軍の総意である!!」


魔軍師「繰り返す!! 魔王軍参謀総長、魔軍師の名にて通達する!! 我等は勇者達に全面降伏するっ!!」

魔軍師「どうか寛大な処置を願う!! 我等はこれ以上、侵略する気も抵抗する気もない!!」



勇者「……降伏」

剣聖「どうする、勇者? 魔王軍が動いていない今、全面降伏は信用していいと思うが……」

聖女「うん……。嘘はついてない……。わたしが保証するよ」

女闘神「聖女が言うなら本当だな……。後はあたしらがどうするかだけど……」

女大富豪『勇者、私は受けていいと思う。殲滅戦なんて、勇者のやる事じゃないだろうし』


勇者「そうだね……。俺達まで魔王の様な振る舞いをするのはやっぱり間違っていると思う」

勇者「降伏を受けよう。大人しく軍を退いて魔界に帰ってくれるのであれば、こちらもこれ以上戦わない。魔王の遺骸も引き渡すよ」

勇者「みんなもそれでいいかな?」


剣聖「ああ、いいぞ」

聖女「うん!」

女闘神「いいよ! 勇者に任せた!」

真魔王「じゃあ、竜達にもそれを伝えてこようか。聖女、ついてきてくれる?」

聖女「うん、わかった」

女大富豪『これで、魔王軍との事は決着だね!』


魔軍師「かたじけない……。勇者達の寛容な心に感謝する」

970: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 17:58:41.42 ID:AnYy5EW8o
【古書、『勇者伝記』より一部抜粋】


魔王と勇者との戦いは熾烈を極めた。

未知なる魔法の応酬が繰り広げられ、瞬きも出来ない程の斬撃が飛び交う。

既に仲間達は地に伏せ、息も絶え絶えの様子。その仲間達を守る為に勇者は一歩も退かじと奮戦す。

数万体もいた魔物達も今や残すは片手の指で足りる程度。全て勇者が葬るものなり。

この時、勇者の持つ伝説の盾は既に砕け散り。

伝説の兜も魔王の強大な魔法により跡形もなく壊れたり。

残すは鎧と剣の二つだけ。その二つも今やひびが入り、風前の灯火。

かようなまでに勇者は死闘を繰り広げ、魔王もこの強さと勢いを止められず、既に手酷い傷を負うものなり。

勇者もまた、これまでに負った手傷は幾百か。血を失い目の前が霞む。しかし、それでもその両の目には溶岩の様な熱い闘志が宿っていた。

諦めぬ者、勇者。どの様な逆境に遇おうとも、どの様な試練が与えられようとも。

この者は決して揺るがぬ。それこそが正に伝説の勇者たる証し。


その目を見て、魔王が気圧される。己の危機を感じ、魔王は最後の賭けに出た。

魔力全てを込めた一撃を食らわそうと詠唱を始める。

これを受け、勇者もまた、最後の賭けに出る。

人々に託された想い、願い、期待。その全てを背負いて剣を構え、魔王に向け渾身の一撃を食らわそうと走り出す。

魔王の最強の魔法が放たれた。

勇者はその一撃を食らいながらも、魔王に向けて剣を振る。


決着が着いた。


伝説の鎧は最後の役目を果たして砕け散り、また伝説の剣も根本から折れたり。

しかして、地上に立っていたのは勇者。

勝者は勇者。偉大なる勇者。女神様より神託を受けし、世界を救った勇者。


かの者こそ、世界で最も祝福を受けし者。最強無比の伝説の勇者なり……。

引用元: 勇者「仲間TUEEEEEEEEEEEEEE!!」