4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 15:44:48.78 ID:PN5bIXev0
 

ホロ「…」

ホロ「…」

ホロ「…むぅ」パタ

ホロ「のうぬしよ」

ロレンス「なんだい」

ホロ「眠れぬ」

ロレンス「…」

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 15:46:38.46 ID:PN5bIXev0
ロレンス「まったく」

ロレンス「…なんてため息をついてやりたいところだが、俺もだ」ハハ

ホロ「んむ」

ホロ「あの…コーヒーじゃったか…大した効き目じゃな」

ホロ「わっちの目がこんなにも冴え渡ることはそうありんせん」パタパタ

ロレンス「狼は月夜に遠吠えをしているイメージがあるが」

ホロ「…」バシ

ロレンス「いて」

ホロ「まあそうじゃな。こう頭がはっきりとするのは狩りをするときくらいのものかや」ギラ

ロレンス「…牙を剥くのはよしてくれ」

ホロ「くふふ」

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 15:48:55.83 ID:PN5bIXev0
ホロ「まあ。そう言うわけでじゃ」

パタ

ロレンス「…」

ホロ「のうぬしよ。今宵わっちは眠れそうもありんせん」

ホロ「そして出来ぬことを無理してするものでもありんせん、とわっちは思う」

ロレンス「…もっともだ」

ホロ「ならばどうするべきかの?」

ロレンス「外でもひとっ走りして来たらどうだ?」

ホロ「たわけっ」バシ

ロレンス「だから痛いって」

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 15:52:49.77 ID:PN5bIXev0
ロレンス「…」ハア

ロレンス「無駄遣いはしたくないんだが」

ホロ「くふ。分かっておる」

タッ

ホロ「ぶどう酒は残っておるし。肴はまあ」

カタン

ホロ「…月と、ぬしがおればよい」

ロレンス「それならたしかに安く済みそうだ」ハハ

ホロ「んむ」コク

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 15:55:24.49 ID:PN5bIXev0
・ ・ ・ ・ ・


ホロ「…ん」

チャポン

ホロ「ぷは。ほれ」

ロレンス「ありがとう」

ホロ「それでぬしよ」

ロレンス「ん?」コク

ホロ「何か面白い話でもしてくりゃれ?」

ロレンス「…」プハ

ロレンス「また難しい注文をするもんだ」

ホロ「くふ。せっかくの、たまの、のんびりとした月夜でありんす」

ホロ「こんな夜にお誂え向きの小噺はなにかないものかや?」

ロレンス「…そうだな」チビ

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 15:59:19.63 ID:PN5bIXev0
ロレンス「…」ウン

ロレンス「ちょうどこの町にちなんだ話がある」

パシ

ホロ「ふむ…」チビ

ホロ「ここはたしか、…クスコフと言ったかの」

ロレンス「そう。ここがずいぶん前に疫病で…」カジ

ロレンス「ほとんど壊滅したという話をしただろう?」モグ

ホロ「んむ。覚えていんす…」クイ

ホロ「む。それはなにかや」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:04:12.84 ID:PN5bIXev0
ロレンス「干し肉だが」モグモグ

ホロ「…わっちの分は?」

ロレンス「さっきパンに挟んで食べていたじゃないか」

ホロ「わっちにもちょうだい?」

ロレンス「いあだ」カジカジ

ホロ「な」

ロレンス「これは俺の取り分だからな」

ホロ「けち」バシ

ロレンス「いて」

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:07:59.47 ID:PN5bIXev0
ロレンス「こうなることを考えていなかったお前が悪い」カジカジ

ホロ「むー」プク

ロレンス「それよりさっきの話だけどな」

ホロ「んむ」ゴク

ロレンス「…俺の分を取っておけよ」

ホロ「…」ゴク、ゴク

ホロ「…ぷはっ。それで?」フゥ

ロレンス「…」ハア

ロレンス「ここの司祭も疫病の魔の手に倒れた。外部から司教が応援に駆け付けたり、代理の助祭を立てたりとてんやわんやだったそうだ」

ホロ「ふうん」クピクピ

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:11:14.60 ID:PN5bIXev0
ロレンス「それでな」モグ

ロレンス「その司教様は、町の復興を願ってある木の苗木を懐に忍ばせていたらしいんだが」

ホロ「…待った」

ホロ「苗木を持ち込むことが、どう町の復興に繋がるんじゃ」

ロレンス「さあ。教会の人間が考えていることなんて俺にはさっぱりだ」

ロレンス「聞くところによるとその木が咲かせる花はなかなか見応えがあるとのこと」

ホロ「…それが町の人々の支えになった、とかいう話かや。まあありきたりな手段ではありんす」フム

ロレンス「…それなら単純な話なんだがな」

ホロ「ん?」

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:14:17.21 ID:PN5bIXev0
ホロ「違うのかや」

ロレンス「ああ。その司教たちはここへ来る道中盗賊の被害にあった」

ホロ「まぬけな話じゃ」ゴク

ロレンス「そう言うな。時期が悪かったんだ」

ロレンス「疫病に疲弊した町を乗っ取ろうとした、隣町の仕業だったと聞いている」

ホロ「…人の世ではそう言う話にこと欠かんの」

ロレンス「そうだな」

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:17:14.14 ID:PN5bIXev0
ロレンス「苗木はその折紛失したとも聞いている」

ロレンス「これで終いなら、それこそただのまぬけな話だな」

ホロ「ふむ」

ピラ

ロレンス「ここに一枚の地図がある。例の書籍商から譲ってもらったものだ」

ホロ「なんじゃ。ずいぶんいろいろな頂き物があるんじゃの」ククク

ロレンス「…体よく処分を任されただろうがな」ハハ

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:20:45.09 ID:PN5bIXev0
パシ

ロレンス「結局…」ゴク

ロレンス「その司教にも、この町の誰にも――苗木の行方は知れないままになってしまった」

ロレンス「だがしばらくして、この辺りを縄張りにする行商人たちの間で、ずいぶん辺鄙な場所だがそれは見事な花を咲かせる巨木のことが話題になったそうだ」

ホロ「くふ。商人が伝え手とは下手な伝承よりも眉唾でありんす」

ロレンス「違いない」ハハ

ロレンス「だが面白い話だろう? その苗木は異国から持ち込まれたものとも聞いている。とても珍しいものだ」

ロレンス「月夜を向こうにして川岸に咲くその花は大層美しかったと」

ピラ…

ロレンス「わざわざ地図に場所をしたためるものまで現れた」

ホロ「…ふむ」

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:23:59.91 ID:PN5bIXev0
ホロ「…」

ロレンス「…」モグ

ロレンス「(ホロのことだ。こう話しておけばあとは想像で上手に補うだろう)」

ロレンス「(空想の中だからこそ、満開の景色はちょうどいい酒の肴になると思ったが…)」モグモグ

ホロ「くふ」

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:26:21.14 ID:PN5bIXev0
ホロ「ふむふむ。なるほどの」

ロレンス「満足頂けたかな」

ホロ「まさか」

ロレンス「…え?」

ホロ「のうぬしよ」

スス

ロレンス「…な、なんだ」

ホロ「わっちはつねづね言っていんす」

ホロ「馳走であれなんであれ想像させるだけさせてそれまでとは、たわけたことじゃ」

ロレンス「あ、ああ。たいてい、俺がお前に話した料理は、その後、巡り合わせがあれば買ってやっている」

ホロ「んむ」ニコ

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:30:01.87 ID:PN5bIXev0
ロレンス「…」

ロレンス「…いや。そうは言っても」

ロレンス「今の話は真偽も知れないんだ。季節だって違うかもしれないし、保険をかけてそばを通るくらいなら構わないが―――」

ホロ「くふ。ぬしは何を言っておる」

ロレンス「?」

ホロ「ぬしが教えてくれたのは“月夜に見る”花の話じゃろう?」

ロレンス「…そうだが」

パシ

ホロ「ならば今がその機ではないかや?」

ロレンス「…」

ロレンス「はい?」

ホロ「行ってみようぞ。その木を探しに!」

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:32:41.12 ID:PN5bIXev0
・ ・ ・ ・ ・


トントン

ロレンス「ち、ちょっと待て」

ホロ「んむ?」タタッ

ロレンス「ひとまず足をとめて聞いてくれ」

ホロ「くふ。いやじゃー」グイ

ロレンス「…」ハア

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:35:38.29 ID:PN5bIXev0
バンッ!


ホロ「…」

ロレンス「…」

ホロ「くふ。人気のない夜の町に立つというのも…なんだか不思議な気分じゃな」

ホロ「のうぬしよ。月が綺麗でありんす」

ロレンス「…ちょっと欠けてるけどな」

ホロ「たわけ」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:38:24.07 ID:PN5bIXev0
スタスタ

ロレンス「あのな…まずこんな夜更けに馬車を引いて町を出るわけにはいかない」

ロレンス「それにきちんと地図を見たか? 馬単独で行ったとしてとても今夜中には…」

ホロ「これ」バシ

ロレンス「いて」

ホロ「わっちをだれじゃと思っておる」

ロレンス「…」

ホロ「くふ」パタパタ

ロレンス「は…」

ロレンス「お前まさか、こんなことのために」

ホロ「んむ。今日はなんだか体が疼きんす」

ホロ「走ってくればと言ったのはぬしの方じゃろ?」

ロレンス「…ぐ。そ、それはそうだが…」

ホロ「まあついて来ぬと言っても勝手に咥えて行くがの」カカ

ロレンス「…それは勘弁してくれ」

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:41:23.30 ID:PN5bIXev0
ポリポリ

グオォ

ホロ『ほれ。ぐずぐずしておる時間はありんせん』

ロレンス「…」ハア

ロレンス「分かったよ。行けばいいんだろ」

ホロ『んむ』

ロレンス「…」ヨジヨジ

ホロ『早くしんす』

ロレンス「…もう少しかがんでくれよ」

ホロ『じれったいの』ガブ

ブウン

ロレンス「ぐえ」ボス

ホロ『くふ。案内は頼んだからの。しっかり掴まっておれ』

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:44:18.68 ID:PN5bIXev0
グオォ

ダダッ

ホロ『…』

ロレンス「…」

ホロ『…』グイ

ホロ『くふ。本当に今日は月が綺麗でありんす』

ビュウ

ロレンス「…そうだな」

ホロ『んむ』バサバサ

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:47:19.40 ID:PN5bIXev0
ダダッ

ロレンス「このまま真っ直ぐだ」

ホロ『分かった』

ロレンス「…」

ロレンス「なあホロ」

ホロ『うん?』ググ

ホロ『ぬしよ、あんまり喋っておると舌を噛んでしまいんす』

ロレンス「…脅かさないでくれ」

ホロ『くふふふ』

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:50:30.83 ID:PN5bIXev0
ロレンス「もう一度聞いていいか」

ホロ『何でも聞いてくりゃれ』

ロレンス「…本当に、ただ走りたかっただけか?」

ホロ『…』

ホロ『ちょっと跳ねる。しっかり掴まっていんす』

ロレンス「…」ググ

ビュウ

    ダダッ--
   
   ダン!

ロレンス「…っ」

ロレンス「…な、…なるべき穏便に頼むよ」

ホロ『善処する』

ロレンス「…」ハハ…

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:53:29.49 ID:PN5bIXev0
ホロ『ふむ…』

ホロ『どうしてそんなことを気にするんじゃ?』

ロレンス「…気にするな、って方が無理がある」

ロレンス「今までだって、好き好んで狼の姿に戻ることは…なかっただろう」

ホロ『…ふむ』

ホロ『ぬしの話ぶりがわっちをこのようにかき立てるほどのものじゃったと…素直に納得しておればよいのにと思うがの』

ロレンス「残念ながら。商人は面倒臭い生き物でな」

ロレンス「それに賢狼がそうなんでもすんなり答えてくれるとは思っていない」

ホロ『くふ…』

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:56:17.36 ID:PN5bIXev0
ホロ『…』

ロレンス「…」

ホロ『ぬしよ』

ロレンス「うん」

ホロ『わっちはこの通り、狼でありんす』

ロレンス「…うん」

ホロ『獣はいろいろと苦労する。いや人間だってぬしのようなたわけはいつだって埃と汗に塗れてはおるが』

ロレンス「よけいなお世話だ」

ホロ『くふ。拗ねるでない』

ロレンス「だから拗ねてないって」

ホロ『くふふ』

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 16:59:22.59 ID:PN5bIXev0
ホロ『獣には獣なりの苦労がありんす』

ロレンス「…それは」

ダダッ

ホロ『これで最後じゃ。絶対に手を離すでないぞ』

ロレンス「…お、おう」ググ


ダンッ!

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 17:01:48.05 ID:PN5bIXev0
---ドガッ

ゴロゴロ

ロレンス「がっ」

ホロ「ほっ」ボス

ロレンス「うげっ」

ホロ「くふ。ちょっと荒々しくなってしまったかや」

ロレンス「…」ゴホ

ロレンス「重いんだが」

ホロ「雌にそんな言い方はありんせん」グイ

ロレンス「…いひゃい」

ホロ「さっきのお返しじゃ♪」

ロレンス「…」グイグイ

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 17:04:46.22 ID:PN5bIXev0
ロレンス「…」

ロレンス「おい、ホ  ホロ「さっきの話じゃがの。ぬしさまよ」

ホロ「わっちは狼でありんす」

ロレンス「…」

ロレンス「うん。知っている」

ホロ「んむ」コク

ホロ「じゃが酒を飲み、――何の憂いもなく浴びるように酒を飲み、宿で寝転がることができるのは、町に住む、人の利でありんす」

ロレンス「…財布のことは気にかけてもらいたいがな」

ホロ「たわけ」クスクス

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 17:08:11.29 ID:PN5bIXev0
ホロ「じゃからの」

パッ

ホロ「楽しいから。それではだめかや?」

ロレンス「…」

ホロ「ぬしとこうして意味もなく夜更かしをするのも――」

クル

ホロ「…」


ロレンスに背を向けたホロの向こうに二人の探し物はあった。

星空に溶ける桜色の花びら、その先には少しだけ欠けた月が滲んでいる。

さすがの賢狼も目にしたことのない幻想的な景色だったろう。
感嘆に少し見開かれた琥珀色の瞳には、その情景がありのまま映し出されていた。


ホロ「…こんな風に美しい花を見て漫然と酒を飲むのも――」

ホロ「楽しいんじゃ。狼のわっちでは経験できぬことばかりでありんす」

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 17:10:38.79 ID:PN5bIXev0
ホロ「それになにより」

パシ

ホロ「どれもわっちが一人きりのころには…いや」

ホロ「一人きりでは。できないことでありんす」

ロレンス「…」

ロレンス「そうだな」

ロレンス「それは、俺も同じだ」

ホロ「んむ」ニコ


ギュ…

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/03/31(日) 17:13:28.19 ID:PN5bIXev0
バシ

ロレンス「いて」

ホロ「くふふ。ぬしはあれこれ考えすぎなんじゃ」

ホロ「もう少し肩の力を抜いて、のんびりと旅を楽しもう。のう?」

ロレンス「…ああそうだな」

ロレンス「まだ先は長いしな」

ホロ「んむ♪」

ホロ「さて。ではこの景色を肴に飲み直すかや!」

ロレンス「…帰りのことも考えて、ほどほどにな」


おしまい。

引用元: ホロ「狼と桜色の夜空」