【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】 前編 

【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】 中編 

【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】 後編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】 前編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】 中編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】 後編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】 前編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】 中編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】 後編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「これが私たちの答えです」【安価進行】 完結 

【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】  前編 

【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 中編

【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 後編 

【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 二章

【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 三章 前編 

【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 三章 後編

2: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/12(火) 21:01:17.81 ID:4+2O+BxJ0
【4章段階での主人公の情報】

‣習得スキル

・【花風Smiley】
〔毎日の自由行動回数が2回から3回になる〕

‣現在のモノクマメダル枚数…2枚

‣現在の希望のカケラ…24個

‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【新品のサラシ】
【ジャバイアンジュエリー】
【ユビキタス手帳】
【オスシリンダー】
【多面ダイスセット】
【アンティークドール】
【戦いなき仁義】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【壊れたミサイル】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】

3: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/12(火) 21:02:26.80 ID:4+2O+BxJ0
‣通信簿および親愛度

【超高校級の占い師】風野灯織…0【DEAD】
【超社会人級の料理人】 月岡恋鐘…5.5
【超大学生級の写真部】 三峰結華…0【DEAD】
【超高校級の服飾委員】 田中摩美々…0【DEAD】
【超小学生級の道徳の時間】 小宮果穂…1.0【DEAD】
【超高校級のインフルエンサー】 園田智代子…4.5
【超大学生級の令嬢】 有栖川夏葉…7.5
【超社会人級の手芸部】 桑山千雪…10.5【DEAD】
【超中学生級の総合の時間】 芹沢あさひ…6.0
【超専門学校生級の広報委員】 黛冬優子…6.5
【超高校級のギャル】 和泉愛依…0【DEAD】
【超高校級の???】 浅倉透…6.0
【超高校級の帰宅部】 市川雛菜…7.5
【超高校級の幸運】 七草にちか…0【DEAD】
【超社会人級のダンサー】 緋田美琴…4.0

4: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/12(火) 21:03:27.14 ID:4+2O+BxJ0
‣コロシアイ南国生活のしおり

【ルール その1 この島では過度の暴力は禁止です。みんなで平和にほのぼのと暮らしてくださいね】
【ルール その2 お互いを思いやって仲良く生活し、“希望のカケラ”を集めていきましょう】
【ルール その3 ポイ捨てや自然破壊はいけませんよ。この島の豊かな自然と共存共栄しましょう】
【ルール その4 引率の先生が生徒達に直接干渉する事はありません。ただし規則違反があった場合は別です】

【ルール その5 生徒内で殺人が起きた場合は、その一定時間後に、全員参加が義務付けられる学級裁判が行われます】
【ルール その6 学級裁判で正しいクロを指摘した場合はクロだけが処刑されます】
【ルール その7 学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、校則違反とみなして残りの生徒は全員処刑されます】
【ルール その8 生き残ったクロは歌姫計画の成功者として罪が免除され、島から脱出してメジャーデビューが確約されます】
【ルール その9 3人以上の人間が死体を最初に発見した際に、それを知らせる“死体発見アナウンス”が流れます】
【ルール その10 監視カメラやモニターをはじめ、島に設置されたものを許可なく破壊することを禁じます】
【ルール その11 この島について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません】
【ルール その12 “コロシアイ南国生活”で同一のクロが殺せるのは2人までとします】

【注意 なお、修学旅行のルールは、学園長の都合により順次増えていく場合があります】

6: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:25:33.95 ID:s0CqhW+t0
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CHAPTER 04

アタシザンサツアンドロイド

(非)日常編



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7: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:26:51.90 ID:s0CqhW+t0


有栖川夏葉。


明朗快活とした自身の性格は老若男女の支持を集め、放課後クライマックスガールズの最年長としてメンバーからの信頼も厚い。
アイドルとしてのパフォーマンスのレベルの高さはさることながら、自身のストイックさに裏打ちされた圧倒的な肉体美も評価が高い。
全身の筋肉はバランスよく鍛えられており、立つ座るの佇まいや歩く走るといった簡単な動作でも彼女の抜群のプロポーションを感じ取れる。

筋肉は全てを解決する、そう息巻く彼女の体は……今。



____カチコチの鋼に変わり果てていた。




8: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:28:16.39 ID:s0CqhW+t0

夏葉「みんな、どうしたの? そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

ルカ「どうしたもこうしたもねーよ……お、お前……その体、どうなってんだ?!」

夏葉「体……? ああ、私の体のことね。ルカ、あなた見かけのわりに随分と細かなところを気にするのね」


そうは言うが、頭から足の先まで全てを範囲とした時、それは細かなところだと言えるだろうか。
あの艶やかな長髪はワイヤーのようなものに作り変わり、くりりとした瞳は何かLED照明のようなものに付け変わっている。
全身の何が変わったかと挙げていけば何日あっても足りやしないだろう。
そこにはもはや、人間だった頃の有栖川夏葉のパーツは何一つとして存在していない。


智代子「ぶくぶくぶくぶく……夏葉ちゃんが、夏葉ちゃんがロボットになってしまった……」

透「え、やば。気絶した」

夏葉「もう……智代子、大袈裟ね。それにロボットだなんて無粋な呼び方はやめてほしいわね。私には人間の有栖川夏葉と何一つ変わらない自我がある……それはロボットというよりも、アンドロイドと呼んだ方が適切な状態ではないかしら」

あさひ「す、すごいっす! 中に夏葉さんが入ってるっすか?!」

夏葉「いえ、そうではないわ。この機体に私が入っているのではなく、私自体がこの機体なのよ」

あさひ「じ、人格が丸ごと機械に入ってるんっすね! すごい技術……!」


恍惚として会話を続ける中学生に私たちは完全に置いてけぼりだった。
突如として現れたモノクマロック、パンデミックの急な発生と鎮静、そして小宮果穂の人格復旧。
これまでにも非現実的なことは起きていたが、その中でも今回ばかりは次元があまりにも違う。
人がそっくりそのままアンドロイドに変わってしまうなんて、SF小説の中でしか起きちゃいけないことだ。

9: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:30:14.12 ID:s0CqhW+t0

夏葉「機械の体というのも便利なものよ。今の私は視力が光学望遠鏡並みにあるもの」

あさひ「本当っすか?! それじゃ、星も見放題っすね!」

夏葉「ええ……あれは、シリウスね」

冬優子「い、いやいや……星見たとこで名前がわかるわけでもないでしょうが」

あさひ「あ、それじゃああっちは!?」

夏葉「あれは……M78星雲ね」

冬優子「え、ウソ……本当に?」

雛菜「まあこの際機械になってるのは一旦置いとくとして〜、本当にあなたは放クラの最年長さんで変わらないんですか〜?」

夏葉「雛菜? それはどういう意味かしら」

雛菜「今はさも同一人物のようにお話ししてますけど、今雛菜たちの前にいるロボットさんが本当にそうなのかなって」

ルカ「……そうプログラムされただけのロボット、ってことか」

夏葉「……難しい話ね。私からすれば、私が私であることに疑いようはないのだけど、あなたたちからすれば私が有栖川夏葉だという確証は持てない」


残酷な話ではあるが、それは実際その通りだ。
今目の前にいるのは有栖川夏葉の見た目を模倣して設計されたアンドロイド。
喋り方、思考、佇まいの随所に彼女を感じることはできるが、もしそう動くために設計されたアンドロイドだというのならそれはそれで納得がいく。
いや、むしろ本人の人格を移し替えたなんて奇想天外な話よりも筋が通った話だと言えるかもしれない。
あまりの非現実を前にして、慎重になってしまうのは致し方がない。

10: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:32:27.14 ID:s0CqhW+t0


夏葉「……わかった、それならば私が有栖川夏葉であるということを証明してみせるわ」


そう言うとアンドロイドはベッドの上から立ち上がり、気絶して倒れている甘党女を引き起こした。
証明と簡単にいうが、かなりの難題のはずだ。
一体どうするというのか、黙って見守っていると、甘党女の耳元で何かを囁いた。すると目をパチリとさせて瞬時に目を覚ますではないか。
甘党女の目は点のようになり、耳から入った情報に戸惑っている様子。


智代子「ほ、本物だ……! 本物の夏葉ちゃんだよ!!」

夏葉「どうやらわかってもらえたみたいね」

恋鐘「な、なんば言いよっと……?」

夏葉「それは、智代子の合意が必要かしらね」

智代子「い、いや……別にそんな隠すほど恥ずかしいものではないんですが……みんな、コロッケって何をかけて食べる?」

冬優子「何って言われても……ソースの種類が違うくらいの話でしょ? ウスター、中濃、BBQ……」

雛菜「あとケチャップ混ぜて特製ソース作ったりとかですかね〜?」




智代子「……うち、醤油をかけるんだ」




ルカ「……は?」


11: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:33:26.29 ID:s0CqhW+t0

ルカ「しょ、醤油……?」

智代子「ほら〜! やっぱりそういう反応だ! そんなに変わってますかね?! コロッケに醤油?!」

ルカ「いや、ねーだろ……」

あさひ「合わない気がするっす」

美琴「コロッケは揚げ物だし、炭水化物だからあまり食べないかな」

透「えー、どうだろ。案外ありなんじゃん?」

智代子「心の友は透ちゃんだけだよ……!」

夏葉「……とまあ、智代子の変わった食べ方を知っていることで証明に代えさせてもらったわ」

智代子「あのね! この食べ方は放クラの5人が寮にいるときに話した事で……この5人以外は知らない情報なんだよ!」

恋鐘「たしかに……うちもそがん食べ方は初耳やったばい」

雛菜「なるほど〜、人格を移し替えてたからこそわかる情報って事ですね〜」


もっと平たく言えば合言葉みたいなものだ。
当の本人同士しか知り得ない情報、モノクマが知る由もない情報を持ち出せたのならたしかに信憑性は高まる。

12: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:34:23.61 ID:s0CqhW+t0

夏葉「確かに私は前とは姿が変わってしまって……もはや面影もないかもしれない。でもね、果穂から受け継いだもの……この胸に燃えたぎるもののためにあなたたちと一緒に戦わせてもらいたいのよ」

智代子「夏葉ちゃん……」

あさひ「燃えてるってエネルギー炉っすか?」

冬優子「あんたはちょっと空気を読みなさい」

夏葉「……どうか改めて仲間に迎え入れてもらえないかしら」


そう言って深々と頭を下げた。
かつてつむじがあった場所も渦巻くこともない鉄板にすり替わっていて、サラサラとその髪が風に靡くこともない。

変わり果てたその姿はどう考えても人間ではない……


13: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:35:34.81 ID:s0CqhW+t0





だが、人間でなくとも『仲間』として承認する事はできるらしい。






14: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:36:46.36 ID:s0CqhW+t0

恋鐘「夏葉、そげな真似をせんでもうちらは変わらんよ! この島で生きていく……283プロの仲間ばい!」

あさひ「あはは、アンドロイドになった夏葉さんがいれば今までできなかったこともできるかもしれないっすね!」

美琴「力を貸してもらえるなら、大歓迎だよ」

夏葉「みんな……ありがとう! たとえこの身が変わろうとも……私たちの想いは一つよ!」


流石にこれまで通り、とはいかないだろうが違和感はグッと押し殺して私も迎え入れることにした。
これ以上ことを複雑にしたくもないし、今のところこちらに害をなす雰囲気はない。
それに非現実を拒むなんて……もう今更だ。


夏葉「改めて仲間として迎え入れてもらえたところで……いいかしら」

ルカ「あ? なんだよ」




夏葉「……果穂のことについて、改めてみんなと話がしたいの」




15: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:38:46.49 ID:s0CqhW+t0

俄かに静まり返る。
有栖川夏葉の生死不明という状況に理由をつけて、必死に遠ざけようとしていた話題が、その張本人から投げ込まれたのだ。
全員の表情が急速にこわばってしまう。
何を口にするのかと思うと、メカ女は冬優子と長崎女の前に歩いていき、そのまま頭をまた下げ直したではないか。


夏葉「恋鐘、それに冬優子……ごめんなさい。あなたたちにはいくら詫びても詫びたりないわ。私が果穂を抑えることができなかったばっかりに二人の命を奪うことになってしまって」


おしおきの直後、病院に運び込まれてから数時間。
誰しもが、その顛末を振り返るだけの時間があった。
小宮果穂との壮絶な別離、それぞれの感情の吐露。
その最終的な終着点だけが、今の今まで持ち越されていた。
でも、この時間がメカ女には冷静な判断を取り戻させてくれたらしい。
冷静な判断が彼女にとらせたのは謝罪という行動。
あの時の狂乱状態では浮かんでこなかった言葉が、今なら口にできる。

当の二人は慌ててその謝罪を取り下げさせようとする。


16: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:40:15.72 ID:s0CqhW+t0

恋鐘「夏葉が謝ることなかよ! 今のこがん島ん暮らしじゃ何が起こるかわからんし、恨んでもなんもならん!」

冬優子「ふゆも同意見。それにあんたは絶望病にかかってたんだから、管理責任を問えるような状態じゃなかったの」


それでもメカ女の気はすまない。
冷静になればなるほど、自分にのしかかる責任と罪の意識が膨れ上がる。
赦しを得るか否かではなく、謝罪をしないことにはその金属製の心臓がどうしようもなく痛んでしまうのだ。
彼女の謝罪は、小宮果穂の殺害行為だけでなくその後の自分自身の言動にまで及んだ。


夏葉「それに、おしおきの執行前。私は果穂のことで頭がいっぱいになって……二人の前で果穂を庇い立てるような発言をして不快な思いをさせてしまったわ。そのことについても改めて謝罪をさせて頂戴」


クロの投票を行い、裁判が終了した直後。
メカ女は私たちに食ってかかってきた。
小宮果穂がクロである事は紛れもない事実、それでも彼女からすれば愛すべき仲間であることには変わりはなく、クロとして指摘を行った私たちに感情を暴走させて当たった。
そのことも彼女は相当に気にしていたらしい。


17: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:42:04.81 ID:s0CqhW+t0

冬優子「それも謝る必要なし。別に気にしちゃいないわよ。ふゆ達はもう気がついたら二人を失ってたけど、これから二人が死にますって言われたらきっと正気じゃいられない」

恋鐘「夏葉のあん時の苦しみは多分うちらの想像以上ばい、気に病まんでほしかよ。それに、あがん熱の入った言葉が言えるのは果穂のことを本当に大好きだった証明ばい。その言葉を自分で無碍にするような発言はしない方がきっと夏葉にとってもよかね」

夏葉「……二人とも、ありがとう」

冬優子「それに、こっちとしても感謝の言葉を言わせてもらうわ。あんたの訴えでモノクマは果穂ちゃんに自我を戻したわけだし……ふゆの感情に折り合いをつける機会をくれたのはあんただわ」

恋鐘「うちも、最後の最後に本当の果穂と話ができてよかったばい!」


喪った者と喪わせた者。両者がこんな形で再び手を握り合わせるとは不思議なものだ。
子ども同士の喧嘩じゃなく、両者の間には明確な罪と罰とが横たわっているのに、それを飛び越えてしまうのだから人の感情というのは分からない。
メカ女が再び顔を上げたとき、人間だったころの笑顔をそこに見たような気がした。

18: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:44:03.31 ID:s0CqhW+t0

智代子「よし、それじゃあ夏葉ちゃんも無事だったことだし……そろそろ行きますか!」

ルカ「あー、そうだな。ド深夜に裁判やってからぶっ続けですっかり日も登ってやがる。いったんコテージでそれぞれ休憩でも取るか?」

透「眠……」

夏葉「そうね、睡眠は健康管理そして精神面においても肝要よ。取れるうちにしっかりとっておきましょう」

あさひ「夏葉さん、アンドロイドになっちゃったけど眠るっすか?」

雛菜「そういえばそうですね~、体が機械ですけどどこまで人間と一緒なんですか~?」

夏葉「私もこの体について完全に理解しているわけではないのだけれど……睡眠はとることができるわ。この【おやすみタイマー】機能を使えばいいのよ」

智代子「お、【おやすみタイマー】……?」

夏葉「睡眠時間をあらかじめ設定しておけば、決まった時間内スリープモードにすることが可能よ。終了時刻になれば自動で目を覚ますことができるから、寝坊もなくて安心ね!」

美琴「へぇ……便利だね」

ルカ「そ、それって睡眠って言えるのか……?」

夏葉「背中には強制的にスリープモードにする【おやすみスイッチ】もあるから、そちらでも睡眠を取ることは可能ね」

あさひ「電源ボタンみたいなものっすかね」

冬優子「とりあえず……その右手を引っ込めなさい」

夏葉「ふふっ、こう見えて人並みに夢を見ることもできるのよ。手術中まさにそのスリープモードだったのだけど、智代子が山盛りのドーナツを平らげる夢を見たんだから」

智代子「……!? な、なぜそれを……!?」

夏葉「……正夢だったみたいね」

恋鐘「そいじゃあ今日の所はみんな自分のコテージに好きに睡眠をとって休まんば! 探索再開は明日からにせんね!」

透「ん、そうしよ」


事件発生からぶっ続けで全員の疲労も溜まっている。
私たちはふらつく足取りで第1の島まで戻り、それぞれのコテージへと帰って行った。


19: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:45:32.14 ID:s0CqhW+t0
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【ルカのコテージ】


「ふぅ……」


シャワーを浴びて、大きな息をつきながらベッドに横たわった。
瞼は随分と重たい、すぐにでも意識は遠のくことだろう。

ただ、その前の少しばかりの思考の時間……私は裁判のことを考えていた。
それは、小宮果穂のおしおきでも、メカ女の蘇生の事でもない。
この事件全容について改めて振り返っての検証だ。
私が気にかけていたのはクロではなく、その裏に潜んでいたであろう【狸】のことだ。
七草にちかと田中摩美々の犯行は露骨なまでに【狸】によって荒らされた形跡があり、その正体は冬優子の秘密を知り得る女ということで芹沢あさひに断定した。

しかし小宮果穂の犯行についてはどうだろうか。
今回の事件で起きたすべての事態について、あいつ自身の行動で説明がついた。
要は【狸】による介入を感じることができなかったのだ。
もちろんこちらの見落としの可能性もあるが、今までの二件ではあえて【狸】は粗の多い工作を行いこちらに勘づかせているような節があった。
それすらも一切見当たらないというのは流石に不自然だ。

今回の事件では芹沢あさひは事件中ずっと別の島にいたという。
介入することを諦めたり、飽きてしまったりしたのだろうか?
そんな単純な結論なのだろうか。

それに……和泉愛依の亡骸を見た時のあいつの反応。
事件を荒らして、私たちの裁判中の推理を嘲笑っているという【狸】のクソッタレのイメージとはあまりにも乖離している。
小宮果穂との別れもそうだ、あいつは感情をむき出しにして、その別れを心の底から惜しんでいた。


「……あいつじゃ、ないのか……?」


私の中に沸いた一つの疑問が、だんだんと膨れ上がっていくのを感じた。


20: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:46:29.10 ID:s0CqhW+t0
____
______
_________

【ルカのコテージ】

しばらくして目を覚ました。
ベッドに突っ伏してから五、六時間たっただろうか。日は徐々に沈みかけているのか、うっすらと橙色が滲み始めていた。
昼夜逆転の生活にはそれなりの経験がある、これももはや見慣れた光景だ。


「……眠くねえな」


今日はもう探索はしないというのが全体方針。
かといって今から改めて寝直すにしては寝足りている。
完全に時間を持て余してしまった状況で、後ろ手に頭を掻く。


「……あ」


そんな中、一つ思い当たることがあった。
こんな時、時間をつぶすのにうってつけの方法だ。
何年も何年も時間を食いつぶし続けた、体にもはや沁みついた方法。


自然と私の足はその場所へと体を運んでいた。

21: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:49:09.30 ID:s0CqhW+t0
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【第1の島:ビーチ】


「お、やっぱやってんな」
「……ルカ」

どうせこいつのことだ、探索を行わないと聞いて内心小躍りしていたんだろう。
休憩は最低限で済ませて、残りの時間は練習に充てていることが容易に察しがついた。
実際、既に全身に汗が噴き出していて、タオルはもう二枚目を使おうかという頃合い。
私もその隣に荷物を並べて、すぐに練習に合流した。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「……ったく、時間さえあれば練習すんのはずっと変わんねえんだな」
「うん、最高のパフォーマンスをするための努力は惜しみたくないから」
「妥協もしたくない、っつーわけな……」


そのままぶっ続けで数時間の練習。
日はすっかり沈んで夜空には星が煌めく。
途中途中で水を飲ませたり座らせたりをしたが、普段こいつは一体どうしているんだろうか。
いつか倒れはしないかと余計な気を揉む。


「……ねえ、ルカ」


海岸で隣に座る美琴が私に声をかけた。

22: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:50:46.82 ID:s0CqhW+t0

「……今朝の裁判、その捜査の事なんだけど」
「なんだよ、急に」



「……浅倉透、あの子と何かあった?」



こいつは余計なところで妙に勘が利く。
私との解散までの間、まるで私の心中には目も向けていなかったくせに、パフォーマンスに追いつけていないとか嫌な所ばかりに敏感な節があって今回もその限りだ。
私が病院であいつと交わした言葉、そこから生じた覚悟と歩み寄り、それを悟られてしまったらしい。

「……えっと」

この話は、まだ美琴には話す気はなかった。
美琴は七草にちかの死を未だにずっと引きずり続けている。
あいつが死の間際にぶち撒けた浅倉透への不信と糾弾、それが胸に楔のように打ち込まれており、私と行動する時でも何度も何度もそれが顔を出していた。
だから、あいつが真実を打ち明けない内から美琴が信頼を預けることはまずあり得ないだろうと思った。
私があいつをちゃんと見極めるまで、口にはしまいと思っていた。

23: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:51:46.64 ID:s0CqhW+t0


「……ルカ、話してもらえる? 私が非番のタイミング……事件が起きる前に、何か話したんだよね」
「……」


一体どうしたものか、話すにしたって私も何も聞かされていないのだ。
強いて言うなら、あいつは『元々のこの島での暮らし』を始めた人間の一人だという情報。
今のモノクマに乗っ取られる前の生活の運営者ということだが、これも伝え方に困る。
七草にちかとの敵対というバイアスがかかりまくっている状態の美琴なら更にだ。
コロシアイの元凶だと曲解してしまうことだってあり得るだろう。
私も実際、あいつと積極的に関わって見極めていこうと決めたばかり、胸を張って言えるような情報でもない。


「ルカ、教えてよ」


何を言えば、いいのだろう。

24: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:53:06.53 ID:s0CqhW+t0



「……あいつは敵じゃないって、そう言ってた」



結局、その言葉をなぞるしかできなかった。
今伝えられる情報のプールに、それしかないのだから仕方ない。
そう言い訳したが……美琴の表情は氷のように冷たかった。


「教えてくれないんだ」


光を失ったようなのっぺりとした瞳は、私から視線をずらす。
そしてそのまま数秒の沈黙の後、美琴は立ち上がった。


「……それじゃ」
「お、おい! か、帰んのか?」
「うん、また明日」

25: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:53:48.33 ID:s0CqhW+t0

掌に嫌な感覚があった。
私は何も触っていない、必死に必死に触らないように細心の注意を払っていた。
それなのに、宙を撫でたはずのその手はもっと別のものに触れていた。

海岸に私だけがポツンと残された。
誰も物言わぬ空間に、押し寄せる波音だけが響く。
波が砂を運んで行く度に、私の心にも後悔が募った。


「……七草にちか、面倒なものを遺してくれたよな」


その後悔を他人の責にすることでしか、感情の捌け口は見つからなかった。

26: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:55:17.21 ID:s0CqhW+t0
____
______
________

=========
≪island life:day 16≫
=========

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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


美琴との練習で体にはいい具合に疲労が溜まっていたので、睡眠自体は割としっかり取れた。
疲労は睡眠で解消できるが、この胸のモヤモヤは寝るだけじゃ払拭できない。

「……チッ」

昨夜のことを思い、舌打ちを一つ。
三峰結華の時は不用意に踏み込んで失敗して、今回は慎重になりすぎて失敗した。
自分のコミュニケーション力の低さがつくづく嫌になる。
解散をしてから他人と関わるのを避け、拒絶し続けた分の負債が今になってやってきたのだと思う。

……千雪の命令を、いつになったら私は守れるんだろうな。

重たい頭を無理やり持ち上げながら、部屋を後にした。


27: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:57:24.84 ID:s0CqhW+t0
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【ホテル レストラン】


夏葉「おはようルカ! 1日休んで疲労はすっかりなくなったかしら?」

ルカ「んあ……!? て、てめェか……驚かすなよ」


レストランに入るなりアンドロイドが出迎える。
だがこのアンドロイドは別に寝食の世話をしてくれるような万能コンシェルジュというわけではなく、
朝からうんざりするぐらいに張った声で私の眠気を無理やり引っぺがす動く目覚まし時計みたいなやつだ。

私は挨拶もそこそこに自分の席についた。
隣の席の美琴は、何も言わない。


恋鐘「1日休んでみんな体力は戻ったとね? 今日からまた頑張っていくばい!」

智代子「うん! 果穂のためにも……みんなで協力して脱出しないとね!」


28: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 21:59:25.62 ID:s0CqhW+t0

先の事件で大切な存在を失った連中も立ち直ったというのに、私と美琴の席だけに妙な不和が漂う。
それに気づいてか冬優子が私の元へとやってきた。


冬優子「ちょっと、なんであんたたちまた空気悪くなってんのよ」

ルカ「い、いやそのだな……」


まだ浅倉透とのやりとりはあまり公にしたくはない。
冬優子に説明しようにもまごついてしまう、ついその直後。


ギィィィィ…

透「おはよ」

夏葉「透……それに雛菜も……」


そうだ、こいつは私との会話で今後仲間からの信頼を勝ち取るために、幼馴染を説得して私たちに積極的に接触すると宣言したばかり。
当然この集まりにも参加してくることは想像できた。
本来なら私はそれを歓待するべきだ。

だが、今日ばかりは……タイミングが悪すぎる。


29: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:00:37.34 ID:s0CqhW+t0

透「来たよ。雛菜も一緒に」

雛菜「透先輩がみんなと協力してって雛菜に言うので、今日からまたよろしくお願いします〜」

ルカ「お、おう……」

美琴「……」


背中に美琴の視線を感じる。
冷たく突き刺すような視線が、私を貫いて浅倉透を刺す。


透「……あの」

夏葉「透、私たちはあなたたちを拒むつもりはないわ。ただ、あなたは外の世界の人間との関与が確定している、そのことについて疑いの目線を向けられていることは理解して頂戴」

透「うん……わかってる。でも、逃げないから。もう」

透「まだ本当のことは言えないけど……信じてもらえるように、頑張る」


浅倉透は覚悟を決めていた。
どれだけ疑いの眼差しを向けられようと、不信をもろに浴びせられようとも正面からぶつかっていく。
全てを話すことは出来ずとも、行動で信頼は勝ち取ることができる。
私が病院で話しただけの思いが、すでに固まっていた。

30: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:03:42.52 ID:s0CqhW+t0



美琴「……」


ガタッ

ルカ「え、ちょっ……美琴……?!」


それでもなお、美琴は受け入れようとはしなかった。
接触すら赦しをしない、七草にちかの遺恨が全てを拒む。
美琴は音を立てて立ち上がり、そのままレストランを後にした。


透「……うちらのせいだよね、絶対」

ルカ「悪いな、美琴のやつまだ七草にちかの死に際の言葉を気にしてるみたいだ」

透「悪いのはこっちだから。わかってもらわなきゃだよね、自分の言葉で」

雛菜「でもなんか一触即発って雰囲気じゃない〜?」


七草にちかとの絆はいつしか呪縛となり、檻となった。
美琴にとってその領域は誰の介入も許さない絶対的な聖域。
浅倉透に対する不信を取り除こうにも、硬く閉ざされたその檻をこじ開けないことにはどうしようもない。



でも、そのための鍵はもはやこの世に存在していない。


ルカ「……クソッ」


31: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:04:38.70 ID:s0CqhW+t0


美琴のことは今すぐに解決できる話でもない。
私たちは一旦話を切り上げ、これからの話へと移る。


冬優子「……ともかく、今はふゆたちに出来ることをやりましょう。まずは探索……これまで通りなら、今頃モノミがモノケモノを倒して新しい島が解禁されてるでしょ」

智代子「そうだよね、事件のたびにモノミが頑張って新しいエリアを解放してくれてたもんね!」

恋鐘「ジャバウォック諸島の島もあと二つばい、そろそろちゃんとした手がかりが欲しかね〜」

バビューン!!

モノミ「ミ、ミナサン……おはようございまちゅ……」

あさひ「あ! モノミ!」


話を聞きつけてか、どこからともなく姿を表すモノミ。
その体は前回同様に血に塗れている。
……だからといって心配などしないが。


32: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:05:50.07 ID:s0CqhW+t0

冬優子「やっと来た……新しい島ね、よくやったわね」

モノミ「あ、あの……それなんでちゅが……」

恋鐘「次の島はどげんもんがあるとやろ〜?」

モノミ「モノケモノ……なんでちゅが……」

雛菜「何か役立つものがあればいいですね〜」




モノミ「あちし……勝てませんでちた……くすん」




ルカ「……は?」

冬優子「あ、あんた……今なんて……?」

モノミ「ミナサンのために、一生懸命戦ったんでちゅが、あちし……あいつに手も足も出なくて……気がついたら目の前が真っ暗になってたんでちゅ」

透「え、それじゃあ今回は……新エリア、なし?」

モノミ「すみまちぇん……あちしが弱いからいけないんでちゅ、この柔肌細腕が非力なのが悪いんでちゅ……中がコットンじゃなくてせめてウールならなんとかなったんでちゅけど……」

(おいおいマジか……)


私たちにとって新エリア開放にモノミの勝利は不可欠。
てっきり今回もやってくれるものだとばかり思っていたが、思いもよらぬ形でその期待は裏切られることとなった。



33: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:06:53.73 ID:s0CqhW+t0



……だが、そんな期待には別の形で答えてくれるものがいた。



夏葉「ふふふ……今こそ私の出番のようね!」




智代子「な、夏葉ちゃんどうしたの?! 急に大きな声を出して!」

夏葉「人間の体では太刀打ちできなかった……でも、今の私なら! モノケモノだろうと、対抗できるのよ!」

ルカ「ま、マジか……?」

夏葉「昨日解散してから色々と試してみたのよ。せっかくのこの体、何か活かす方法ないかと思ってね。すると、ちょうど今の状況にうってつけの機能を発見することができたのよ!」

あさひ「わあ……! 夏葉さん、その機能って何っすか?!」

夏葉「ふふふ……それは実際試してみてのお楽しみね。みんな、早速第4の島に行ってみましょう!」


私たちは顔を見合わせたが、当の本人は気にせずズイズイと足を進めていってしまった。
私たちは半信半疑でその後をついていくこととなった。


34: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:07:55.96 ID:s0CqhW+t0
-------------------------------------------------
【中央の島 第4の島への橋前】


透「うわー……デッカ」

冬優子「モノミのやつ、ちょっとは善戦できたのかしら……? 全くの無傷に見えるけど」

あさひ「あれ、どうやって動いてるっすかね! ちょっと近づいてみてもいいっすか?!」

恋鐘「こーら! これから夏葉が破壊するから近づいたら危なかよ!」

ルカ「一体どうやってこんなの退けんだよ……」

智代子「夏葉ちゃん……本当に大丈夫? 無茶はしちゃダメだよ?」


モノミの言っていた通り、今もなおモノケモノは堂々たる様子で橋を守っている。
全身金属装甲で私たちの数倍はあろうかと言う巨躯。
とてもじゃないが一人の力でどうにかなるような機体ではない。
しかし、メカ女は全く臆する様子もなく私たちの前に割って出た。


夏葉「さて、それではお見せするわ。私がアンドロイドになって手に入れた、新しい力よ!」


35: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:09:14.72 ID:s0CqhW+t0

メカ女は高らかにそう叫ぶと左脚をI字バランスでもするかのように天高く持ち上げた。
そのままグッと振り下ろし右手に渾身の力を込め、パッと開かずグッと握って……

ダン!
ギューン!
ドカーン!!


夏葉「邪悪を打ち破る、正義の鉄拳を喰らいなさい!」


その体は蒸気が吹き出すほどに熱を帯びていた。
辺りに響くエンジン音と共に右手は振り抜かれ、

……そして、そのまま右手は射出されていた。


夏葉「はあああああああああ!!!!」

智代子「いっけええええええええ!!!!」


まるで少年漫画のような勢いで叫ぶと、その声に応えるようにジェット射出された拳はモノケモノをそのまま宙へとぶっ飛ばしてしまった。
その直後、島を揺らすほどの大爆発。



ドッカーーーーーーン!!!!!



36: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:10:47.08 ID:s0CqhW+t0

何ということだろう、メカ女は宣言通りただの一人でモノケモノを退けてしまったではないか。


夏葉「どうかしら、これが私の手に入れた新しい力……【ロケットパンチ】よ」

あさひ「すごいっす〜〜〜!!!」


宙を舞った右手はそのまましばらく旋回すると、元の位置、腕の接合部にピッタリと収まった。
それをみて爛々と目を輝かせる中学生。
……まあ、こいつからすれば大好物だろうな。


あさひ「それ、どうやってるっすか?! 自分で腕の制御はできるっすか?!」

夏葉「射出してからは標的をオートで追尾するの。もちろんマニュアル操作は可能よ」

あさひ「わたしも撃ってみたい……モノクマに頼めばつけてもらえるのかな」

冬優子「絶対にやんじゃないわよ」

智代子「す、すごい……まだ衝撃でビリビリしてるよ」

夏葉「モノケモノ程度なら簡単に吹き飛ばせる、強力な一撃よ。でもその分連発はできないし、エネルギーの充填と燃料の補充が大事なのだけれど」


何はともあれ、これで目的は達した。
モノケモノがいなくなれば第4の島の探索も可能になる。
私たちはメカ女を褒め称えながら、そのまま島を渡っていった。

37: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:12:02.08 ID:s0CqhW+t0
-------------------------------------------------
【第4の島】


「ここが第4の島……これまた雰囲気が全く違うな……」


これまでの島とはまた打って変わって大違いの島。
生活感とは完全に切り離された、ファンシーな雰囲気が漂う……一言で言うなら、それはテーマパーク。
そこら中で風船が宙を飛び、コースターのレールが至る所で視界に入り、気の抜けるBGMが大音量でかかっているのだ。


「こんなところに手がかりがあるのか……?」


◆◇◆◇◆◇◆◇


島の探索にあたっての分担。
これまではずっとユニットごとにまとまって行動をしていたが、現段階で生き残りは9人。
もはや分担は分担としての意味を持たない。


夏葉「今回は基本それぞれ個人の調査を行いましょう。手数は多いに越したことがないもの」

智代子「そっか……そうだよね、うん! それぞれの場所で全力を尽くそう!」

夏葉「ただ、その……」

冬優子「ん、あさひはふゆが見ておくわ」

ルカ「……浅倉透、今回は私と一緒に動いてもらうぞ」

透「ん、背中は任せたよ」

雛菜「え〜〜〜! 透先輩は雛菜と一緒に行くよね〜〜〜?」

透「おーおー、千切れるって、腕」

(……これは、引っぺがせそうにないな)


38: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:13:29.20 ID:s0CqhW+t0

さて……第4の島についてもまずはマップを確かめておくか。

パッと目につく【ジェットコースター】はやっぱり大きな面積を占めてるな。もしかして乗れるのか?
だからといってどう、と言うこともないが……

そして遊園地といえばこれも外せないな、【観覧車】だ。
とはいえ、こんなコロシアイの中で悠長に景色を眺める余裕なんかねーか。

【バイキング】……まあそう珍しくもないアトラクションだが、やたらデカイな。
なんか特殊なもんだったりするのか?

この【モノミハウス】ってのはなんだ……?
このテーマパークの中でも異色だが……アトラクションの一つなのか?

【ネズミー城】……多分ここがテーマパークの中心部なんだろう。
テーマパークを象徴する存在っぽいし、手がかりがあるならここか。


透「ついてくよ、どこでも」

雛菜「透先輩、雛菜も行く〜〜〜!」

ルカ「……はぁ」

さて、どこから調べる……?

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.ジェットコースター
2.観覧車
3.バイキング
4.モノミハウス
5.ネズミー城

↓1

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/13(水) 22:18:14.06 ID:BIXDK5Id0
4

40: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:20:18.10 ID:s0CqhW+t0
4 選択

【コンマ判定 06】

【モノクマメダル枚数6枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…8枚】

-------------------------------------------------

【モノミハウス】

テーマパークの一角に立っている、ピンク色した平屋づくりの一軒家。
……その屋根には巨大なミサイルが突き刺さっていた。


ルカ「……なんだこれ」

雛菜「全然ミサイルと家の色合いが似合ってないし、ナシかな~」

透「この物件はキープもしない、と……」

ルカ「なんのロケをやってんだてめーらは」


確か電子生徒手帳の情報ではここはモノミハウスとなっていたはずだ。
その字面を追うなら、ここはモノミにとっての居住空間ということだがこんな惨状で果たして本当に住んでいるのか?
そもそもあんなぬいぐるみに家がいるのかというのは甚だ疑問だが。
私はその家に近づいて、ドアノブを捻ろうとした。
その瞬間、どこからともなく大声とともにあいつが姿を現す。


41: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:22:16.15 ID:s0CqhW+t0

モノミ「あーーーー! いけまちぇん、いけまちぇんよ斑鳩さん!」

ルカ「なんだよ、うっせえな……」

モノミ「乙女の秘密を勝手に覗き見るなんて、あんたそれでも女の子でちゅか!」

ルカ「そんな細けぇこと気にしてんな、そんなんだからモノケモノにも負けんだろうが」

モノミ「うぅ……それを突かれると弱いでちゅ……でちゅけど、ここは譲れまちぇん! あちしの目が黒いうちは、中には入れられまちぇん!」

(……チッ)


どうやらここを譲る気は一切ないらしい。
私の前に立ちふさがってまんじりとも動かない。
ここは一度引いた方がよさそうだな。


雛菜「あれ、入らないんですか~?」

ルカ「モノミの野郎がうるせえからな、いったん引くぞ」

透「うぃー」

(……あれ、そういえば……モノミって、この島の暮らしを元々率いる立場だったんだよな?)

(だったら……浅倉透からすれば仲間、なのか……?)

(……ってことは、このモノミの拒絶って浅倉透の拒絶とイコールなのか……?)

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.ジェットコースター
2.観覧車
3.バイキング
4.ネズミー城

↓1

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/13(水) 22:25:27.34 ID:BIXDK5Id0
3

44: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:28:20.96 ID:s0CqhW+t0
3 選択

【コンマ判定 34】

【モノクマメダル枚数4枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数…12枚】

-------------------------------------------------

【バイキング】

遊園地の中に突然現れる巨大な帆船は、宙に浮いていた。
太くどっしりとした芯にガッチリと固定され、前後にスイングするこのアトラクションは案外絶叫系として一定の人気を獲得している。
だが、この島のそれは普通とは明らかに違う。
やたらデカく見える船は、なにやら尋常でない勢いでスイングして……むしろ一回転すらしていた。


ルカ「おいおい……あれ大丈夫なのか?」

透「安全バーは一応あるみたいだしさ、落下はしないでしょ」

雛菜「やは〜! あれすっごく楽しそう〜〜〜!! 雛菜も乗りたい〜〜〜〜〜!」


安全面には問題はないんだろうが……入り口付近に設けられた異常な数値の身長制限が私の意欲を削いだ。
なんだ、身長制限160cmって……そんなアトラクション聞いたことないぞ。


モノクマ「うちのバイキングはかかるGもかなり大きいからね。安全バーでしっかり固定するにはそれだけの身長が必要なんだよ」

ルカ「これ、中学生と甘党女はNGなのか……」

透「あと、生きてたら灯織ちゃんと結華さんとにちかちゃんもだね」

ルカ「……七草にちか、か」

雛菜「……ま、これはやっぱり乗らなくてもいいや〜」


私もこのアトラクションに乗るようなことは今後一生なさそうだな……

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.ジェットコースター
2.観覧車
3.ネズミー城

↓1

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/13(水) 22:34:40.07 ID:BIXDK5Id0
3

47: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:36:28.56 ID:s0CqhW+t0
3 選択

【コンマ判定 07】

【モノクマメダル7枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…19枚】

-------------------------------------------------

【ネズミ―城】

テーマパークの中央でひときわ目を引く建造物。
まるで物語の中から切り出してきたような、西洋風の建築をされている立派な城だ。
だが、その入り口らしきものは見当たらない。
城壁を道に従って歩いて行っても、迎え入れるための扉なんかはどこにもない。
私たちより先に来ていたであろう長崎女とメカ女もすっかり困り果てていた。


恋鐘「どこにも入り口が見当たらん……こん城は一体何のための施設ばい……?」

夏葉「謎が多いわね……ただのハリボテ、というわけでもなさそうだけど」

ルカ「よう、二人ともお困りか」

恋鐘「ルカ、透、雛菜~! こん城、入ろうとしても扉が無いからどうしようもなかよ~!」

雛菜「ん~? こんなにお客さんを迎え入れる雰囲気なのにですか~?」

夏葉「ええ……端から端まで行っても真っ白な壁が延々続くだけ。裏側に回る手段もないから途方に暮れているの」

ルカ「それこそお前のロケットパンチで壁ごと吹き飛ばしゃいいんじゃねーのか?」

夏葉「生憎だけどロケットパンチの射出には燃料と電力が必要よ。モノケモノの撃退で大分消費してしまっているから、準備にも時間がかかるわ」

恋鐘「それに夏葉がしおりのルール違反になることも考慮せんといかん! 不用意に破壊はせん方が賢明たい!」

ルカ「それもそうか……」


48: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:37:41.22 ID:s0CqhW+t0

夏葉「あ、それでも一つだけ手掛かり……というか、気になることがあるの」

透「え、何ですか」

夏葉「この城の敷地内、どうやらモノクマもモノミも足を踏み入れることができないみたいなの」

ルカ「……! それ、マジか……!?」


ここにきて重要な情報だ。
これまでコテージの個室内でもモノクマは平然と姿を現し、そこら中に張り巡らされた監視カメラによって行動はそのすべてが掌握されていた。
だが、唯一この城だけはその監視網から脱することのできる空間。
これを利用しない手はずはない。


夏葉「どうやらネズミ……が苦手みたいで、それをシンボルにしているこの城は近寄りがたい様子で」

雛菜「ネズミが苦手なマスコットってなんだかあれみたいですね~」

ルカ「おっと……不用意に名前は出すんじゃねーぞ」

透「あ、あれか。どら焼きの」

雛菜「うんうん、ポケットのやつ~~~!」

ルカ「ギリギリセーフか……?」

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.ジェットコースター
2.観覧車

↓1

49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/13(水) 22:39:04.76 ID:BIXDK5Id0
1

50: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:41:48.16 ID:s0CqhW+t0
1 選択

【コンマ判定 76】

【モノクマメダル6枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…25枚】

-------------------------------------------------

【ジェットコースター】

島を一周するほど長いレールが行き着く先、そして次の一週が始まるのがこの搭乗口だ。
カンカンと音を鳴らして階段を登れば、数両つなぎのコースターが安全バーを口のように開けて出迎える。
それに齧り付くようにして騒いでいるのは、案の定中学生だ。


あさひ「乗るっす乗るっす! ここまで来たなら乗らなきゃ勿体無いっすよ〜」

冬優子「あ〜もう、いい加減言うことを聞けっての! 人数揃わなきゃダメってんだから、諦めなさいよ!」

ルカ「よう、冬優子……大変そうだな」

冬優子「ルカ、あんた他人事だと思って……ったく、愛依がいればもうちょっとうまく手懐けるんだろうけど、この!」

あさひ「あ~、引っ張らないでほしいっす~」

透「乗りたいの、コースター」

あさひ「はいっす! せっかく遊園地なんすから、乗らなきゃ勿体ないと思うっす」

雛菜「雛菜もコースター乗りたい~!」

透「じゃ、乗ろっか」

冬優子「は、ちょっ……」

透「あれ、動かない」

冬優子「はぁ……何、こいつらも同レベルなの」

ルカ「か、それ以下かもな。このコースター、さっきも言ってたが人数が必要なのか?」


51: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:42:54.42 ID:s0CqhW+t0

冬優子「みたいよ。さっきモノクマが来て、乗りたければ生存メンバー全員連れて来いって。あんたんとこの緋田美琴も必要ですって」

ルカ「……美琴、も」

冬優子「まあ別にただのジェットコースターなら無視すればいいんだけど……何やら特典があるらしくって」

ルカ「特典?」

冬優子「ええ、この島の暮らしの真実にグッと近づく手がかり……モノクマはそういってたわ」


思わず浅倉透の方を見やった。
あいつもこの島の暮らしの真実、その一端を掴んでいる人間だ。
もしかするとその特典とやらはあいつの秘密を解き明かす鍵になるアイテムかもしれない。
私の中にも、興味の火が急速に灯されるのを感じる。


ルカ「だとしたら、乗るっきゃねえな」

冬優子「一回試してみるだけの価値はあるわね。……そのためにも、ルカ……緋田美琴、頼んだわよ」

ルカ「……あー」

冬優子「何があったのか、詮索はしないけど。せっかく和解出来たってのにまた仲悪くしてんじゃないわよ」

ルカ「おう……悪いな」


流石に少し気が重いが、美琴をここに連れてくるのは私の役目だろう。
他の場所の探索をすべてし終えたら、美琴のもとに行ってみようか。

-------------------------------------------------
【残り選択肢が一つになったので自動で進行します】

【コンマ判定によりモノクマメダルの獲得枚数を決定します】

↓1

52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/13(水) 22:44:32.10 ID:BIXDK5Id0
はい!

53: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:45:56.27 ID:s0CqhW+t0
【コンマ判定 10】

【モノクマメダル10枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…35枚】

-------------------------------------------------

【観覧車】

ルカ「これまたバカでかいな……何メートルあるんだよ」

透「んー、私10人分?」

ルカ「どころじゃねーぞ、その倍いてもおかしくねえ」


麓から見上げてもその頂点が見えないほどの高さの観覧車は絶えず動き続け、外と隔絶された空間をいくつも引っ提げて回転する。
なるほど確かに見晴らし自体はいいだろうが、こんな四方を海に囲まれた空間じゃ見るべきものも特にはないだろう。


智代子「あっ、ルカちゃんにノクチルの二人も来たんだね! ちょうどよかった、観覧車乗ってかない?」

ルカ「あ? おいおい、これ……一周結構時間かかるんじゃねーか?」


見る限り、その速度は一周数十分がかりか。
観覧車の規模が大きくなればなるほどかかる時間も増す。
今乗ってしまうと、どれだけ時間を食われて探索に遅れが生じるかわかったものではない。


智代子「うぅ……そうだよね。ロマンチックな乗り物だと思ったんだけど今は我慢か……」

雛菜「観覧車って結構恋愛系のお話だとよく出てきますよね~」

智代子「そうそう! 二人だけの誰にも邪魔されない特別な空間、そこから見える美しき夜景! その瞳に同じ景色を浮かべながら愛を語らうのです……」

ルカ「ケッ、今時そんなベタな展開流行らねーっての」

透「えー、私結構好きだよ。ベタ的なの」

54: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:46:57.40 ID:s0CqhW+t0


バビューン!!

モノクマ「さすがは園田さん! よく分かってますね! 当観覧車も恋人たちの健全なる愛の囁きを大いに応援しておりますぞ!」

ルカ「どっから湧いてきやがったこいつ……」

智代子「うんうん、観覧車と言えばやっぱりカップルだもんね!」

ルカ「この島のどこにカップルがいるんだよ、女しかいねーだろ」

智代子「愛の形は何も男女に限ったものではないんですよ、ルカちゃん……!」

ルカ「ああ……?」

モノクマ「当観覧車はカップルの時間を誰にも邪魔されないようにいろんなサポートをしております。観覧車の中ではロマンチックなBGMをオプションで流すこともできますし、飲食物の持ち込みもOK!」

智代子「いいねえいいねえ、せっかくなら間接キスもつけちゃって……!?」

モノクマ「カプセルは外からの干渉の一切を拒絶できるように、なんとナパーム弾ですら傷をつけられない最新鋭の防衛シェルター仕様!」

智代子「おお……それなら二人の時間を邪魔されない……!!」

ルカ「そんなシェルターが機能するなんてどんな状況だよ……」


そこからしばらく甘党女がひたすら妄想を膨らませ始めたので私は早々に退散。
恋愛映画だとかそういうのは私には間に合ってる。
興味のない分野のことには触れないでおこう。


55: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:48:06.45 ID:s0CqhW+t0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

探索を一通り終えたが、今回はまだ終わらない。
ジェットコースターの特典、それがこの島での暮らしの秘密を解き明かす重要な手がかりである以上スルーはできない。
全員を搭乗口に集めて、乗ってみないといけないな。

そのためにも、まず……私はあいつの元へ行かなくちゃならない。


ルカ「悪い、てめーら二人は先にジェットコースターに行っててくれ」

透「ん。雛菜、行くよ」

雛菜「わかった〜、元相方さんとの仲直り、頑張ってくださいね〜」


まるで他人事のように言ってくれるが、その原因はもろにこの二人にある。
だが浅倉透の覚悟に向き合うと決めた以上はそれをこちらから一方的に唾棄もできはしない。
美琴の説得は私の義務、か。
とはいえ千雪に無理やりやらされた時も、聞く耳を持たない美琴には結局強硬策でなんとかと言ったところ。
今回もどうなることやら。


56: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:49:35.93 ID:s0CqhW+t0
-------------------------------------------------
【第1の島 ビーチ】

案の定美琴はここにいた。
いつかの時と同じように、感情をぶつけまくって乱暴に手足を振り回しているダンス。
とても直視に耐えられるような代物ではない。
私は悟られないように、息を殺すようにしてゆっくりと近づいていった。
まるで草食動物がライオンにバレないようにサバンナを歩くようで、なんとも情けない光景だ。


「……違う、遅れた」


そんなことを呟きながら振り付けをリアルタイムに修正。
普段ならそれも真摯な態度、真面目なやつだと評価できるポイントかもしれない。
でも、今のこいつはいつのどこを目指してこんなことをしているんだ。
肝心の相方はもう生きちゃいない、この島から帰る目処も立っていない、外の世界のことも何もわからない。
今こうして改めて距離を置いて、美琴の異常さを再認識した。
現実逃避、なんて言葉で括れるものでもない。



こいつは、取り憑かれている。



57: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:51:08.21 ID:s0CqhW+t0

浅倉透のことについてもそうだ、あいつが私たちに敵対している存在ならとっくに仕掛けてきている。
事件をかき乱す狸の方が目に見えてよっぽど凶悪なのに、美琴は未だに浅倉透への僧念を絶やすどころか、その熱量は増している。
もはやここまで来ると呪いだ。

七草にちかの亡霊に、美琴は取り憑かれている。


「……よう、美琴」
「……」


逃げられないように距離を詰めてから話しかけた。
私がずっと気配を消していたので、美琴は本当に今この瞬間まで気づいていなかったらしい。
相当驚いた様子だが、すぐに鉄の仮面のような表情を無理やり戻して私に向き直る。
浅倉透への感情が、私への怒りへと出力されているのを肌でヒリヒリと感じる。


「メカ女がよ、モノケモノをぶっ飛ばしてくれたから第4の島に行けるようになったんだ。それで、美琴にも手伝ってもらいたいことがあるんだよ」


まずはここに来た理由を明らかにした。
下手に浅倉透とのこと、七草にちかとのことを突っつけばその段階で閉ざされてしまうかもしれない。
私だけでなく連中全員にも関わる話で、コースターに連れていくことだけは何よりも優先したかった。


58: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:51:52.49 ID:s0CqhW+t0

「……手伝うって?」
「第4の島にはジェットコースターがあるんだけどさ、それに乗ると島の秘密に関わる特典がもらえるらしくて……その乗るための条件に、残ってる全員が集まる必要があるんだよ」
「……」

(……頼むぞ)

「……わかった、行く」
「……! お、おう! 助かるよ、美琴!」

浅倉透と接触するリスクと貰えるであろう特典とを天秤にかけたようだが、なんとか望ましい方に傾いてくれた。
ホッと胸を撫で下ろす。

「よ、よし……美琴まだ場所わかんねーだろ? 私が連れてくから、用意してくれよ」
「……うん」

美琴は従順な様子で荷物をすぐに片付け始めた。
私が思っていたよりも怒ってはいないのか、そんな風に思ったのも束の間。




「ルカ、昨日の続き。……話してくれる?」


「えっ」


59: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:53:49.76 ID:s0CqhW+t0

なあなあで終わらせてはくれなかった。
まるで時が止まったように私の周りからは音が立ち消えて、美琴の手元の片付けの音だけが響いた。
物を持ち上げて下ろす、それだけの生活音が私の回答を急かす声のよう。
私の首筋を嫌な汗が伝う。

(美琴に、話すべきなのか……)

浅倉透はこの島に私たちを招いた人間の一人。
だが、その目的はまだ私に打ち明けてはいないし、おそらく自分の口からもまだ言うつもりはない。
七草にちかの時の『外部の人間との関与』からはわずかに進展はあったものの、信頼を勝ち取れるほどのものではない。
七草にちかの遺した感情を引き継ぐ美琴からすれば、火に油。
でも、だからと言ってここでまた黙ってしまえば、決定的だ。


「ルカ、教えて」


正解なんてきっと無い。
この状況に追い込まれていた時点で、きっと私は詰んでいたんだ。
私は、観念するしかなかった。


60: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:54:52.68 ID:s0CqhW+t0

「あいつから何か新しいことを聞けたわけじゃない。……でも、あいつは自分の行動で他の連中から信頼を得るために協力するって言ってた。だから、私もそれで見極めようとしている。その最中なんだよ」


あくまで浅倉透の話は隠した上で、あの時の会話をできる限り赤裸々に語った。
何も嘘はついちゃいないし、今の私のスタンスとしては間違っちゃいない。


「別にあいつの肩を持つとかそういうんじゃなくて……ただ、今のままじゃ真実も何もわからねえと思って……!」


狼狽するような言い訳だった。
私の手から美琴がすり抜けていくのが怖くて、嫌われないように言葉を選んだ。


「わかった。ルカはルカなりに一歩進む決断をしたんだよね」
「お、おう……?」


でも、それがまずかった。

61: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:56:03.12 ID:s0CqhW+t0






「にちかちゃんの言葉を、信じないで」







62: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/13(水) 22:56:46.80 ID:s0CqhW+t0

「お、おい……ちょっと待て、そうじゃなくて……」
「……ジェットコースターだっけ、早く連れて行ってよ」


もはや美琴は私に聞く耳を持たなかった。
冥府からの囁きで耳の中は既に満席、私の割り込む余地などなくなっている。
浅倉透に歩み寄るという行為自体が既に美琴からすればタブー、そういうことなのだろう。
誤解を解くとかそういう次元の話だと思っていた私の見立てが甘かったわけだ。


「早く」


この世界の全部が全部合理的に進むわけじゃ無いってのはわかっていた。
どうしても無理なものは存在していて、努力だとか理論だとかで埋めることもできない穴は迂回する他ない。
芸能界に身を置く私はそれを一番よく知っていたはずだ。
それなのに、この島で暮らして情に絆されるうちにそんな簡単なことすらも忘れてしまっていた。


「……おう」


私も、もう美琴の目を見れなかった。

66: 少し早いですが再開します ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:19:44.36 ID:HvMz0mwZ0
-------------------------------------------------
【第4の島 ジェットコースター】


あさひ「あっ、ルカさん、美琴さん! 遅いっすよ〜! 早くジェットコースター乗るっすー!」


搭乗口には私たち以外の全員が既に集まっていた。
中学生以外の連中は、私の沈痛な表情から全て読み取ったらしく、言葉に詰まっていた。


ルカ「わ、悪い悪い。ほら、これで全員だろ、さっさとジェットコースターに乗ろうぜ!」


居心地の悪さを押して、私は連中に乗車を促した。
こんなところで浅倉透と美琴の接触も認めたくない。


バビューン!!

モノクマ「あら、全員お揃いのようですね!」

あさひ「あ、モノクマ! みんな揃ったっすよ、早くジェットコースター動かして欲しいっす」

夏葉「ジェットコースターに搭乗した特典とやら、受け取らせてもらうわよ」

モノクマ「うむ、条件は満たしておるし良いでしょう! それでは皆々様、一列二人ずつで乗り込んで安全バーを下げてお待ちください!」


モノクマに言われるがまま、私たちはジェットコースターに乗り込んだ。
全員が乗り込み、バーを下げるとすぐに動き出した。


67: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:20:57.72 ID:HvMz0mwZ0
◆◇◆◇◆◇◆◇


ルカ「う、うおおおおおおおお?!?!」

(は、速い……!!!!!)

あさひ「あはははは!! すごい!! すっごく速いっす〜〜〜!!」

雛菜「やは〜〜〜〜〜〜♡ 風が気持ちいい〜〜〜〜〜!!」

智代子「わ〜〜〜〜〜〜!? め、目が回るよ〜〜〜〜〜!!」

(ジ、ジェットコースターにしてもこれはやりすぎだろ……!?)


◆◇◆◇◆◇◆◇

68: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:23:51.50 ID:HvMz0mwZ0

ルカ「や、やっと終わった……吐きそうだ……」

恋鐘「世界がひっくり返っとる……うちが下で、空が上ばい……」

夏葉「みんな、大丈夫? そんなに辛かったのかしら……」

智代子「夏葉ちゃん……今だけは機械の体になっていて正解だよ……わたしたちは足腰がもうおばあちゃんだよ……


思えばレールは島をぐるりと一周するほどあるのを自分の目で確認していた。
全身の臓器を振り回されるような早さと衝撃とからは中々解放もされず、はじめは余裕そうにしていた連中も下車する頃にはすっかりグロッキー。
這いつくばるようにしてなんとか戻ってきた私たちを見て、モノクマは腹を抱えて笑ってきた。


モノクマ「ぶひゃひゃひゃひゃ! 全員芋虫みたいになって出てきたじゃん、ケッサクケッサク!」

ルカ「お前、元からこのつもりで……」

モノクマ「餌さえあればオマエラ無警戒によってきてくれるんだもんなあ! いい見せ物になってくれて感謝感謝!」

美琴「……約束は守ってもらうよ。この島の秘密の手がかり、渡してもらえるんだよね」

モノクマ「散々笑わせてもらったからね、その代金はお支払いしましょう!」

69: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:25:00.94 ID:HvMz0mwZ0


モノクマ「ジャンジャジャーン! お望みのものはこちらかな!」


モノクマが持ち出したのは表紙が黒塗りのファイル。
文字らしきものも一切なく、内容はまるで窺い知れない。
この中に私たちが知りたがっている秘密へと繋がり手がかりがある。
思わず生唾をひとつ飲み込んだ。


モノクマ「ファイルはこの一冊しかないから仲良くみんなで回し読みしてね! それじゃ!」


モノクマは私にそのファイルを手渡すと、そのまま姿を消した。
内容について質問されるのを避けるためか、随分とお早い退散だ。


夏葉「とにかく中身をあらためてみましょう、見ないことには話も進まないわ」

雛菜「なんだかドキドキしますね〜」

冬優子「……ルカ、ページをめくってちょうだい」

ルカ「お、おう……行くぞ」


全員が見守る中、ゆっくりとそのページをめくっていった。


70: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:27:48.41 ID:HvMz0mwZ0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
283プロダクション連続殺人事件

本記は芸能事務所・283プロダクション所属のアイドルが多数命を落とした一連の事件についてまとめたものである。
事件に関与したとされるのは同プロダクションのアイドル全16名、同プロダクションの社長とその賛同者である。
アイドルのうち11名はなんらかの形で命を落としており、今回の事件の主犯格とその腹心も自殺に及び事件は事実上の未解決となった。

事件の大筋は、社長の天井努による殺人の強制である。
アイドル16名は学校を模して建築された専用施設に拉致監禁、その際に記憶を操作する何らかの手術も行われていたとみられている。
アイドル16名は社長たちによる恐喝・恫喝行為を受けたことにより冷静な判断能力を失い、お互いを手にかけるような一種の洗脳状態に陥っていた。
どうやら犠牲者は相互に加害者と被害者の関係に分かれているようだが、その事の次第は未だ明らかになっていない。

以下、本件における死者および検分に基づく推定死因。

【櫻木真乃】鳥獣に全身を食い荒らされ死亡
【八宮めぐる】服毒または至近距離で爆発を受けたことによる全身致死傷
【白瀬咲耶】水に濡れたところに高圧電流が通電したことによる感電死
【幽谷霧子】全身圧迫による複雑骨折および呼吸困難
【大崎甘奈】首元の裂傷による失血死
【大崎甜花】胸部の刺し傷が心臓にまで到達し死亡
【西城樹里】全身骨折および脳出血
【杜野凛世】爆破(死体の損壊が激しく一部発見できず)
【浅倉透】頭部に強い衝撃を受けたことによる脳挫傷
【樋口円香】腹部に槍のようなものが貫通し臓器を損傷
【福丸小糸】全身圧迫による内臓破裂
【天井努】高所より転落したことによる全身骨折および内臓破裂
【身元不明】事件現場において他のいずれとも違う人物の肉片が確認されている。もはや一人物と特定するのは困難な損傷であるため、身元不明として処理する。

また、事件現場からは生存者として5名の人物が保護された。
いずれも同プロダクションのアイドルであり、連続殺人の渦中に置かれていたため精神面で後遺症があるとみられ、現在では心身のケアが進められている。
彼女たちが無事立ち直ってから同プロダクションのプロデューサーの協力を受けた上で取り調べを行うこととする。

以下現場より保護された生存者
【風野灯織】【田中摩美々】【園田智代子】【和泉愛依】【市川雛菜】

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

71: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:28:43.17 ID:HvMz0mwZ0






「……は?」






72: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:30:43.05 ID:HvMz0mwZ0

書いてあることの、全ての理解を拒んだ。
登場人物、出来事、内容、そのいずれにおいても現実離れしている『あってはならない』こと。
読み進めていくうちに、一人また一人と言葉を失っていき、騒がしいはずの遊園地は気が付けば音が何もしなくなっていた。
やがてめくっていくページもなくなり、固い表紙裏に行きついて、ようやっと言葉を絞り出す。


ルカ「……な、なんだよ……これ……」

あさひ「……」

恋鐘「283のみんなが……死ん、どる……?」

夏葉「天井社長が283のみんなにコロシアイを強要した……? それに、社長も死んでいる……? 樹里と、凛世も命を落としている……?」


73: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:32:04.31 ID:HvMz0mwZ0

でも、誰も『悪い冗談だ』なんて言葉でその中身を否定はしなかった。
それは、そこに書いてあることを誰もが一度想定していたからだ。

千雪が命を落とすこととなった『二つ目の動機』。
そこで一度このコロシアイの可能性は示唆されていた。
この島にいない面々が登場して描かれた凄惨なコロシアイがゲームのシナリオとして私たちの前に出た時、
あのゲームは『ノンフィクション』だと宣言されていた。
そして、画面上に浮かび上がった大崎甜花の死体。

あの写真とここに書かれている死因とは完全に一致していた。
途端に死と喪失が実感を伴って目の前に立ちふさがった。


智代子「そ、それに……これ、どういうこと……? わ、わたしと雛菜ちゃん、それに灯織ちゃんに摩美々ちゃん、愛依ちゃんも……コロシアイの生き残り……?」

雛菜「……あは~?」


74: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:33:02.73 ID:HvMz0mwZ0

そしてもう一つ私たちの前に現れたのは、大きすぎる謎。
私たちよりも以前に行われたであろうこのコロシアイ……その中にこの島にいた人間の名前も含まれているのだ。
確かにあの『かまいたちの真夜中』でも風野灯織の名前は登場していた。
だが、あいつだけでなく五人の生き残りがそのままこのコロシアイにも参加しているとは思わなかった。
既に三人が命を落として、残るは二人のみ。
だが、園田智代子も市川雛菜も両方ともまるで心当たりがないという様子で目の前の事実に狼狽えている。


あさひ「……もしかして、一つ目の動機の話っすかね」

冬優子「モノミがふゆたちの記憶を奪ったって言うアレ……? それで、この二人もコロシアイの時の記憶を奪われてるの?」

智代子「し、知らない……わたし、こんなコロシアイなんて……知らない……」

智代子「わたしのなくなった記憶の中で……樹里ちゃんも、凛世ちゃんも……死んじゃってるの……?」


何度も頭を掻きむしった。
この脳には、確かにその時の記憶が刻まれていたはず……今もあるはずだ。
それなのに、その記憶は錠前をかけられたかのようにまるで取り出すことができず、自分にもその心当たりがない。
何よりも覚えていなくちゃならない記憶、何よりも忘れちゃいけない記憶なのに、その光景もその息吹も何もかもわからない。
数週遅れで効いてきた動機の圧に、園田智代子はその場にへたり込んだ。


75: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:34:08.19 ID:HvMz0mwZ0

美琴「……それよりも、聞かなくちゃいけないことがあるよね」


冥々たる雰囲気立ち込める中、ナイフのように鋭く冷たい言葉が差し込まれた。


雛菜「雛菜も、これは流石に無視できないですね~……」






美琴「……【浅倉透】、このコロシアイであなたは命を落としていると書かれているけれど、どうしてここにあなたがいるのかな」




透「……」

76: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:35:56.79 ID:HvMz0mwZ0

私ですら、目で追っているうちにその謎の前に思わず声を漏らしてしまった。
今私たちの目の前にいる、【浅倉透】という人間は既に死んでいた。

何度もファイルの写真と本人とを見比べた。
儚げな雰囲気の割にくりくりとした瞳、肩にかからないほどの長さでまとまった少し青みがかった黒髪。そのいずれも写真と相違ない。
だのに、途端にこの浅倉透という人物に薄靄が罹ったように錯覚する。
それほどまでにこの矛盾は異常、そして看過できないほどに大きい。


ルカ「……前にも一度、聞いたことがあったよな。ちょうど千雪の事件の裁判の後だ。あの時にもお前はコロシアイが以前にも一度あったのか聞かれて、知らないと答えた」

透「……」

ルカ「でも、それって……おかしいよな」


一度、この矛盾には手を触れかけた。
千雪の事件の時には、まだその確証がなかったので、私もその矛盾を前にしても感じたのはせいぜい違和感どまりだったが、
今こうして浅倉透のコロシアイの経験が確定して、それは明らかなものとなった。

こいつは、外の世界の人間との接触を認めている。
七草にちかの糾弾を全面的に認めつつも、あくまで敵ではないと主張した。

そして、千雪の事件の時にはこいつはコロシアイのことなど何も知らないと言った。
こいつが本当に一回目のコロシアイに関与していないのならばまだよかった。

77: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:37:15.39 ID:HvMz0mwZ0



だが、コロシアイの参加が明らかになった以上、『外の世界と通じていながらも記憶を有していない』なんてことは成立しえない明らかな矛盾だ。



ルカ「お前、全部知ってるんじゃないのか……?」



一度は信用しようと、歩み寄った一歩。
それはたった一日のうちに、取り消さざるを得なくなった。

78: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:38:11.59 ID:HvMz0mwZ0





透「そっか……私、死んでたんだ」






79: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:39:51.65 ID:HvMz0mwZ0

ルカ「……は?」

透「……ううん、知らない。私は、何も知らない。聞かされてもいなかったからさ、死んでたってのも」

美琴「ふざけるのもいい加減にしてもらえるかな」

ルカ「お、おい……美琴……」


美琴はどんどんと浅倉透に詰め寄っていき、やがて浅倉透からは見上げねば視界に顔が収まらなくなるほどの距離に。
美琴の頭には完全に血が上っているようだ。


美琴「あなたはにちかちゃんの命をかけた糾弾をどこまで時踏み躙りたいの。答えをいつまでも出さずに、バカにしているとしか思えない」

透「……ごめんなさい」

透「もう、言わざるを得ない……か」


その謝罪は美琴に宛てたものだったのか、別の誰かに宛てたものだったのか。

浅倉透は真上を見上げ、ひとつ息をつく。
宙に吐き出されたその息をしばらく見つめるようにしてから、あらためて美琴の顔を見た。

80: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:41:22.02 ID:HvMz0mwZ0





透「……わかりました、話します。私が何者で、みんながどうしてここにいるのか」






81: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:42:50.66 ID:HvMz0mwZ0

ルカ「……ま、マジか?!」

透「もう、言わないと……私が殺されちゃうしさ」

ルカ「……え?」


浅倉透は少し後退り、指で斜め下をさした。
その指先、さっきまで美琴の影と重なっていた部分に私たちも視線を落とす。


ルカ「……美琴!?」


そこには、刃渡り三十センチほどのサバイバルナイフがあった。
美琴は問い詰めるために詰め寄ったんじゃない、あのナイフを腹に当てて脅していたんだ。
逃げ場はない、話さないとここで殺す……と。


美琴「……」

(み、美琴……)


そして、浅倉透は語り出した。
静かに、ゆっくりと、瞳を閉じて。
自分自身のことだというのに、まるで昔話を語るような不思議なほどに穏やかな語り口だった。


82: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:43:48.05 ID:HvMz0mwZ0


透「私は、みんなの知ってる浅倉透とおんなじだけど違うんだ」


透「みんなが覚えてる浅倉透が今の『私』」


透「みんなの知らない浅倉透が写真の『私』」


透「……写真の『私』の過去の私が、今の『私』」



『私』という言葉を何度も繰り返す。
ただの一人称だったはずのその言葉はブランコのように理解と非理解との間を往復し、
言葉が本来持っていたはずの意味合いはやがて脱色していき不透明な物体へと移り変わる。


そして、そのモヤモヤしただけの物質をかき集めて浅倉透は、それを口にした。


83: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:45:13.34 ID:HvMz0mwZ0





透「『浅倉透』のある部分までの記憶と人格とをコピーして作られたのが、『私』なんだよ」






84: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:46:15.22 ID:HvMz0mwZ0



ルカ「…………………………………………………………は?」




一体いつから私はSF映画を見ていたんだ?
つい昨日まで言葉を交わしていた相手は一晩のうちにアンドロイドに作り替えられ、更に別の相手は自分の正体はコピーだと自白。
もうこれは小説や漫画の中の世界じゃないと説明がつかない。
浅倉透の口にした言葉は右から左へ私の中を通過して、通り掛けに脳の神経回路の隅々までをショートさせてしまった。


85: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:47:25.44 ID:HvMz0mwZ0

透「だから、みんながこれまで接してきた『浅倉透』とはちょっとだけ違うんだ」

透「その記憶も感触も、覚えてるんだ。でも、私の身体はそれを知らない」

透「……この体で経験してないことばっかり、覚えてる」


何もわからない。
こいつの口から出る言葉も、私の前に立っているこいつの正体も。
私の視界の中にいる『浅倉透』という人間に黒塗りがされてしまったように、もはやこいつの姿すらも視認できなくなった。


雛菜「意味、わかんない……意味わかんない……」

雛菜「透先輩が、何言ってるのか……わかんないよ……」


幼馴染でさえも、それを受け止めきれなかった。
わなわなと震えながら、両腕で自分の体を抱きとめてなんとか立っている。



86: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:48:43.62 ID:HvMz0mwZ0

美琴「……あなたがこのコロシアイのことを何も知らないって言うのは」

透「……私はきっと、このコロシアイより前の記憶で作られたコピー。なんじゃないかな」

美琴「……」

透「……『私』がもう既に死んでたなんて、今の今まで知らなかったんだ。ごめん」


ちょっと前、いやかなり前だったかもしれない。
晩飯を一人で食べながら、BGM代わりにつけた番組で生命だの倫理だので議論を交わす、おおよそ正気とは思い難い番組をちらりと見たことがあった。
そこで議題に上がっていたのはクローンという存在。
全く持って同じ遺伝子情報の持つ生命体を人間の手で生み出すことは許されるのか、否か。
私はくだらないとぶった切ってカップ麺を啜り上げていたはずだ。
自分と全く同じ存在がもう一つあったからと言ってなんになるんだ。今自分の持っている記憶がある限り、その生命体が同一であると見なされることはない。
例え遺伝子の一つまで同一だとしても、人を人たらしめるのはそういう条理の世界だと思っていた。

……なら、今私の目の前に立っている『これ』はなんだ?
『浅倉透』と全く同じ見た目、声、思考、そして記憶。
更に、こいつのオリジナルであった本物の『浅倉透』はおそらく……死んでいる。



『これ』はそんな状況下では……何に当たるのだろうか。




87: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:49:56.88 ID:HvMz0mwZ0

あさひ「……全然、気づかなかったっすよ。事務所で過ごしてきたときと、透ちゃんおんなじ喋り方だったし、雰囲気も変わんなかったっす」

透「人格も同じ、だから」

恋鐘「そがんことが……あり得るばい?」

冬優子「コピー……そんなの、信じられるわけないじゃないの……!」

智代子「でも、夏葉ちゃんのこともあるし……」

夏葉「……ええ、記憶・人格の移植自体は可能だと思うわ。私も実際アンドロイドの体に挿げ変わっているわけなのだし」

あさひ「わたしたちの時代の技術を、はるかに超えてるっすよ……」

透「うちらが知らないだけでさ、あったんだよ。そういう技術。国とかが、隠してたりで」

雛菜「……」


浅倉透の説明に当惑するばかりの私たちは、何度も何度も言葉をなぞって咀嚼しようと試みた。
でも、どれだけ繰り返そうとも一向に先には進まない。
呆然とその言葉を眺めることしかできない中、あいつだけは一歩先に立ち、吐き捨てるようにして言った。

88: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:51:18.15 ID:HvMz0mwZ0





美琴「……くだらない」






89: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:52:35.32 ID:HvMz0mwZ0

ルカ「み、美琴……?」

美琴「言い訳にしても酷すぎる。……そんな世迷言、私は信じられないな」

透「全部、本当だよ。私のこと、全部話したから」

美琴「あなたは浅倉透。それ以外の何者でもない……この目で、この肌で感じてきたものに間違いはないと思うの」

雛菜「……!」

美琴「黒幕と通じているあなたは、死んだと見せかけて生かされていたんだよね。今の今まで。それで平然と何もなかったように装って、記憶がないとかコピーだとか適当な言い訳を並べて」



美琴「……許せないかな」


ギリリと奥歯を噛んだ。口角はいやに吊り上がり、眉もそれに連動して動いた。
虫唾が走る、というのは今の美琴のような表情のことを指すのだろう。
きっと美琴にはもう浅倉透の言葉は届かないんだろうと思った。
整合性だとか論理性だとか、そういうものは感情の前では無力だ。
迷い戸惑う私たちとは別に、美琴はより一層その僧念の炎を猛らせる。


ルカ「……美琴!」



____凶刃が、舞う。




90: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:54:51.93 ID:HvMz0mwZ0



キィィィィィィン……!!




91: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:55:45.68 ID:HvMz0mwZ0



美琴「……なんで、あなたが」



それを制したのは、鋼鉄の体をもつ有栖川夏葉だった。


夏葉「間一髪、ね。体に改造を受けていて助かったわ。いくら鍛えていても、本来の肉体ならナイフの前には無力だったもの」


浅倉透の首元を狙った一振りはメカ女の掌底にぶつかり甲高い衝突音を立ててから地面に落下した。
その衝撃に美琴の肘がビリビリと痺れる。


夏葉「美琴……少し冷静になりましょう。透の今の話……たしかに鵜呑みにできるものではないけれど、はなから否定して殺意衝動に変えてしまうのは早まった決断よ」

夏葉「にちかの遺志を尊重したい。あなたのその気持ちは痛いほどに理解できる。ただ……あなたの中でその形は少し歪んでいないかしら。にちかはあなたに手を汚させることを良しとしないと思うの」

美琴「……ッ!」

ルカ「あっ! おい、美琴……!」


メカ女の説得にも耳を貸さず、美琴はそのままよろけながらその場を後にしてしまった。


92: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 21:58:09.82 ID:HvMz0mwZ0

残された私たちの元に、再び『コピー』というおおよそ許容し難い現実が戻ってくる。


透「……あのさ」

透「今、言ってもしゃーないかもだけど。コピーだとしても、浅倉透の偽物だとしても、味方だってのは変わんない」

透「モノクマの仲間なんかじゃない。信じて欲しいんだ」

ルカ「……」


きっと、嘘はついていないんだろうと思った。
あの病院で話した時と同じ、自分のことを分かってもらおうと真正面から向き合う態度、眼差し。
ただ、手放しで受け入れるにはあまりに情報量が多くて、酷な内容だったのだ。

私ですら突然突きつけられた現実にたじろいでいる。
『こいつ』のそれは、私の想像を絶する。


93: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:00:16.38 ID:HvMz0mwZ0

雛菜「……あなたは、雛菜の知ってる『透先輩』ではないんですよね〜」

透「雛菜」


市川雛菜と浅倉透は幼なじみだ。283プロ内でも勿論、芸能界でもそうそうそこまで長い時間を共に過ごしてきたアイドルはいない。
もはや心の根幹にも等しい人間が本当は別人だった、なんて世界そのものが揺らいでしまうほどの衝撃だろう。


雛菜「薄々、感じてたんだ〜……透先輩、嘘とか隠し事とかすっごく下手な癖に……雛菜に全然何も喋ってくれないんだもん〜……」

透「……!」


そんな揺らぎの最中、市川雛菜の表情はある種達観したものがあった。


雛菜「雛菜の大好きな透先輩と、なんだか違うなって場面が時々あって……」

雛菜「今、話を聞いて……意外とすっきりしてるんですよね〜」

智代子「雛菜ちゃん……」

雛菜「……そっか〜」


目を瞑って、今一度噛み締める。
次に瞼を上げた時、その瞳には先程まではなかった光が宿っていた。

94: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:01:45.63 ID:HvMz0mwZ0





雛菜「じゃ、今度から『透ちゃん』って呼ぶね〜!」






95: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:03:00.16 ID:HvMz0mwZ0

透「えっ」

雛菜「あなたは雛菜がずっと同じ時間を過ごしてきた透先輩ではないけど、この島で一緒に過ごしてきたのは変わらないでしょ〜?」

雛菜「雛菜は透ちゃんと変わらず仲良くしたいから! それでいいよね〜?」


「自分がどうしたいか」を優先した答え。
感情を整合性よりも先にして殺意に呑まれた美琴と、その文脈は似通っていた。

しかし至る所は全くもって違う。奔流に飲まれて自分すら見失った美琴と対照的に、そこには確固たる自我がある。
どんな状況でも、自分を見失わないこいつだからこそ出来た清々しいまでの答え。

どこか子供っぽさすら感じさせるその言葉は、私たちの胸に心地よい風を走らせた。

96: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:04:39.56 ID:HvMz0mwZ0


恋鐘「雛菜の言う通りばい! うちの知ってる透じゃなくとも、こん透だって島に来てからうち達と過ごしてきた時間は嘘じゃなかもん!」


冬優子「……そうね、これまで過ごしてきた時間は確かなんだし、その上でどう接するべきかは決めていけばいいのかもしれないわね」


あさひ「よくわかんないっすけど、透ちゃんが何か変わるわけじゃないんっすよね? それなら別にいいっす」


夏葉「透、よく話してくれたわね。あなたの抱え込んでいた秘密は、まだ飲み込み切れないけれど……あなたがそれを話してくれた、その勇気は信じてみたいと思うわ」


透「……ありがと。嬉しい、めっちゃ」



97: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:06:50.45 ID:HvMz0mwZ0

ルカ「……まあ、浅倉透のことに関してはそれで一旦受け入れるとしてもだ。実際……お前らはどうすんだよ、このファイルに書いてある出来事」

智代子「そうだよね……向き合わなくちゃ、いけないんだよね」

夏葉「……正直なところ、これまでにも何度も検討してきた可能性ではあったの。それがこうして具体的な形となって目の前に現れたけど……まだ飲み込めてはいないわね」

冬優子「……これが事実なら、283プロダクションのアイドルはここにいるメンバーしか残っていないことになるわ」

雛菜「……雛菜たちも、もう雛菜しかいないんだよね〜」

透「……ごめんね、雛菜」

雛菜「透ちゃんが謝ることは何もないよ〜?」

恋鐘「でも、まだこれが本当だって決まったわけでもなかよ! モノクマが提示したファイル、偽造の可能性だって全然あるばい!」

あさひ「これが本当かどうか、確かめてみる必要があるっす」

智代子「で、でも……どうやって?」

あさひ「生きてこの島を出て、確かめるっす。みんなで生き残って、それで自分の目で確かめるほか無いっすよ」

(……お前がそれを言うのか)


98: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:08:59.21 ID:HvMz0mwZ0

夏葉「……ひとまずは解散しましょうか。今日は色々とありすぎたわ」

智代子「夏葉ちゃんがアンドロイドになっちゃったことが半分くらい霞んじゃってるもんね……今日は濃すぎだよ……」

ルカ「……美琴のこと、私もどうにか出来ないか考えてみる。浅倉透、てめェにも協力してもらう場面があるかもしれない。覚悟しとけ」

透「うん、もちろん」

雛菜「雛菜もお手伝いしてもいいよ〜?」

恋鐘「それじゃあ今日は一旦かいさ〜ん!!」


私たちはジェットコースターをようやく後にした。
ファイルを開いてから、かなり長い時間を……いや、一瞬だったのかもしれない。
ともかく時間の感覚を失うほどの衝撃を受けてしまったのはたしかだ。

それぞれが胸にモヤモヤとしたものを抱えながら、目を向けたく無い答えを半目半目で見つめながら、自分たちのコテージへと帰っていった。

99: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:10:59.86 ID:HvMz0mwZ0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


「ああクソ、うぜェ……」


その罵倒の先にあるのは、自分だ。
ちょっとばかし交流していたからといって、連中のお仲間が死んでいたことに少なからずショックを受けている自分。
仕事先でたまに見かける程度の繋がりしかない相手が死んでいたから、なんだ。
私はそんな感傷的な人間だったか?
カミサマはもっと傲慢不遜で、独善的な……ぶくぶくと膨れ上がった自尊心の塊みたいな存在だったはずだ。
千雪をはじめとした283の連中にすっかり絆されてしまって、見る影もない。


「マジで、意味わかんねえっての……」


そうなると、自分の中に湧き上がる不安に目を向けざるを得なかった。
過去にあったコロシアイ、それと同じ状況にある自分。
そして、私を取り囲む人間たちの諸々。


「……はぁ」


記憶を失った生存者、浅倉透のコピー、そして美琴の暴走。


「病むっての、こんなの」


私も動かないといけない、解決しないといけないことが山積だ。
それは頭ではわかっていたが、今夜ばかりは体が言うことを聞かなかった。
ベッドに乱暴に自分の身体を叩きつけるようにして、そのまま目をつむった。



……何も、考えたくはなかった。


100: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:12:31.96 ID:HvMz0mwZ0
____
______
________

=========
≪island life:day 17≫
=========
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


「……あ」


目を覚まして、まず最初に自分の右手を見た。
指の長さ、皺、関節……どれも私自身、斑鳩ルカのものだ。
どうしてこんなことをしたかというと、それは眠っているときに見た夢に起因する。

私の隣に立っていた人間が突然自分の皮をはいで、そのグロテスクな正体を曝け出すという胸糞悪い夢。
その原因が分かり切っている。

私たちは、あいつを『浅倉透』のコピーであるということを理解したうえで受け入れると決めた。
本人ではないことを踏まえたうえでの承認。少々歪な体制ではある。
それは、倫理だとか論理だとか、諸々の面倒な思考に蓋をするためのその場しのぎの対策法だともいえる。
……それに、今更口出ししたとて仕方ないが。


「……ざけんなよ」


考えたって時間の無駄だ。
私は適当に支度を終えて、早足でレストランへと向かった。

101: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:14:45.67 ID:HvMz0mwZ0
-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】

雛菜「あ、おはようございます〜」

ルカ「……なんかすげえ変な感じだな」

夏葉「今朝は珍しく雛菜が一番乗りだったのよ」


つい昨日の出来事がどう作用したのかは分からない。
だが、やけに素直な笑顔を浮かべている様子からして『吹っ切れた』という言葉を使うのが適切なんだろうと思った。


智代子「なんだか、今日はちょっと食欲が……」

恋鐘「あ、あれ……なんか変な味がせんね……塩とお味噌、間違えてしもうとる……?」


他の連中はどうにも調子が悪そうで、対照的だ。
私も例に漏れずそっち側、特に言葉を交わすこともせず、美琴の隣……本来七草にちかが座っていた席に腰掛けた。


冬優子「……緋田美琴は、やっぱり来ないのね」

ルカ「……ああ、悪い。あの後私もすぐに寝ちまった」

冬優子「まあ……昨日は仕方ないわよ。ふゆだってそう。あさひなんか考え込んじゃって動かないんだから、ふゆが引きずってここまで連れてきたわ」

あさひ「……」

ルカ「まあ……あいつはそうなるだろうな」

(……あいつもあいつで、目をつけてなきゃいけないんだけどな)

102: 申し訳ない……眠気がすさまじいのでやっぱり今夜は安価を出すところまでで…… ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:16:17.95 ID:HvMz0mwZ0
◆◇◆◇◆◇◆◇


冬優子「……まだ色々と飲み込めてないだろうけど、ふゆたちがやるべきことは変わらない。むしろ出ていく理由が明確にできた今、脱出の方法を見つけ出すことに全力を尽くさないといけないわ」

夏葉「ええ、冬優子の言う通りね。真実を自分たちの目で確かめるためにも、全員が生きてこの島を出ていく術を見出す必要があるわ」

智代子「うん……私たちの前に現れた謎、その答えを知るまでは死ぬに死ねないよね……!」

恋鐘「摩美々に咲耶に霧子……うちらん前のコロシアイでは何があったとやろ……」

ルカ「情報の一端だけ毎度毎度小出しにしてきやがって、黒幕ってやつはよっぽど性格が悪いよな」

冬優子「まあ、今更よ」

あさひ「夏葉さん、最後のモノケモノはいつ倒せそうっすか?」

夏葉「ロケットパンチね。そうね、エネルギーの充填はまだしも燃料の確保が厳しいの……スーパーにあるオイルを借りているけれど必要量の半分と少ししかないわ」

夏葉「パンチを打つこと自体はできてもモノケモノを吹き飛ばすほどの火力には、少し足りていないわ」

雛菜「空港のジェット機に積まれてたりしないですか〜?」

智代子「雛菜ちゃん、あのジェット機はハリボテなんだ……」


103: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:17:18.84 ID:HvMz0mwZ0

ルカ「チッ……せっかくの機能も使えなきゃかたなしだな」

夏葉「あら、失礼ね。まるで私が木偶の坊みたいな言い回しではないかしら」

ルカ「いや、そこまで言ってねえけど……」

夏葉「ふふっ……そんなルカの鼻を明かしてみせようかしら」

智代子「夏葉ちゃん?」

あさひ「もしかして……何か他の機能があるっすか?!」

夏葉「ええ、あれからまた自分の体を少し研究してみたのだけど……また新しい機能を発見したわ!」

ルカ「マジか……脱出に使えんのか?!」

夏葉「刮目なさい! これが私の体に隠された新機能よ!」


そう高らかに宣言すると、メカ女は自分の両方の耳たぶを同時に捻った。
それがトリガーになって……次の瞬間。


104: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:18:46.91 ID:HvMz0mwZ0



ドバババババババババ!!!!




智代子「わ、わあああああ?!?!」

あさひ「すごい量の涙っすー!」

透「あれ……ただの涙じゃない、よね」

夏葉「よくわかったわね、透。これは右目からプロテインゼリー、左目からスポーツドリンクが溢れ出しているの!」

ルカ「お、おい……大丈夫なのかこの絵面」

夏葉「さあ、みんな遠慮せずにコップを持ってきてちょうだい! 好きな方を注いであげるわ!」

冬優子「……ふゆはパス」

ルカ「……私もいいわ」

透「あー、じゃあプロテインの方で」

ルカ「お前マジで勇者だな……」


105: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/15(金) 22:20:41.22 ID:HvMz0mwZ0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

衝撃的な光景を目撃して、なんだか食欲を削がれてしまった。
朝飯もそこそこにレストランを抜け出し、自分の部屋に戻る。

「……あいつ、どこまでも人間離れしていくな」

そんな風に独り言ちたが、よくよく考えれば当然のこと。
あいつはもう、人間ではない。

「……」

いや、これは言及すべきことではないか……

……余計なことを考えてしまう前に、行動するか。

【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…35枚】
【現在の希望のカケラ…24個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/15(金) 22:22:42.54 ID:b12LUKDN0
2

107: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/16(土) 21:23:07.07 ID:iZvNZh3u0

昨日は寝てしまって申し訳ない……

-------------------------------------------------
【第1の島 ビーチ】


「……」

気が付けばまたこの場所にいた……
別に島に来る前にもこんなにガチャガチャなんかやってたわけじゃねえんだけどな……

射幸心と言うか、人の欲と言うものは恐ろしいなとつくづく思う。

……何かと物入りだし、ちょっとぐらいならまあいいか。


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…35枚】
【現在の希望のカケラ…24個】

1.モノモノヤシーンを回してみる【枚数指定安価】
2.やっぱりやめる

↓1

108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/16(土) 22:13:40.45 ID:iH7KFdLB0
1
10枚

109: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/16(土) 22:27:12.73 ID:iZvNZh3u0
1 選択

「たまには使えるもんだせよ……?」

もう何度目の正直かはわからないが……ちょっとぐらいは期待してるんだからな

【コンマ判定を行います】
【このレスより直下10回連続でコンマ判定を行い数値に応じたアイテムを獲得します】

↓1~10

110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/16(土) 22:27:58.23 ID:iH7KFdLB0

120: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/16(土) 22:51:18.94 ID:iZvNZh3u0

【ジャバの天然塩】
【ファーマフラー】
【希望ヶ峰の指輪】
【ミレニアム懸賞問題】
【オスシリンダー】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【オカルトフォトフレーム】を手に入れた!

「まあ……そうだよな」

「何を期待してたんだ、私は……」

いつも通りの使い方も思いつかないようなガラクタの数々。
まあ……これはどれもあいつらに押し付けるとするか……

「……ハッ」

あいつら、意外なもんで喜んだりするからな。

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…24個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/16(土) 22:53:09.56 ID:tliTlCHwO

122: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/16(土) 22:57:57.74 ID:iZvNZh3u0
1 透選択

【第4の島 ネズミ―城前】

……流石に昨日の今日。
私と言えど、事態をそのままそっくりはいそうですかと飲み込めるわけもなく。
朝の集まりでは口にできなかった思いのはけ口を探して歩いていると、自然とここに辿り着いた。

ここは、唯一モノクマにもモノミにも干渉されない安息地。
それをどこまで信じていいのかは知らないが、そのとりあえずの知識と情報は、私にとってはこの上なく都合がよかった。


そして、それは当事者もその限りではなく。


ルカ「……お前」

透「……ども」

ルカ「……」

話をする、チャンスだ。


-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【新品のサラシ】
【希望ヶ峰の指輪】
【ジャバイアンジュエリー】
【ユビキタス手帳】
【ミレニアム懸賞問題】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【アンティークドール】
【戦いなき仁義】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【壊れたミサイル】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/16(土) 23:01:00.86 ID:tliTlCHwO
1 ミレニアム懸賞問題

124: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/16(土) 23:08:18.92 ID:iZvNZh3u0
【ミレニアム懸賞問題を渡した……】

透「げー……なにこれ、数学? 宿題はちゃんと自分でやりなって」

ルカ「ちげーよ、大体こっちはもう成人だ。宿題も何もねえって」

透「え、じゃあなにこれ」

ルカ「世界中の数学者を悩ませてる難問だとよ。これが解けたら滅茶苦茶なお金が振り込まれるんだとか」

透「……マジ?」

ルカ「らしいぞ、噂だけどな」

透「……これ、いつまで?」

ルカ「やるのかよ……」

(妙に食いついてきたな……こういうの、好きなのか……?)

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します!】


------------------------------------------------

これまでとは大きく状況が違っていた。
目の前にいる人間をどこまで信じればいいのかもわからず、かといって信じなければ前に進むこともできず。
そういう置かれた状況故の妥協が、つなぎとめている関係だった。

そこに投げ込まれたのは、あまりにも大きく、そして異常な真実。

目の前の人間は、自分を自分じゃないと言い放った。

私がこれまで観測していた事実を、その根底を、概念を、全部全部、ひっくり返した。


ルカ「……気分はどうだよ」


自分自身の気分も分からないままに、相手にゆだねた。


透「……清々しく、はないかな。言いたくなかったことではあるし」

透「でも、雛菜が……みんなが、受け入れてくれた。それは本当に良かった」


ルカ「……」

浅倉透はコピーである。
本物の浅倉透はとうに死んでいる。

本当に、他の連中はそれを受け入れたと言えるのか?
市川雛菜のあの言葉に追随しただけで、そこに思考はあるのか?
葛藤を無視しちゃいないか?

私にはずっとそんな脳内の声がうるさかった。


透「……ごめん、それも私の感想だから」

透「そっちのが、それどころじゃないよね」

ルカ「……そりゃな、頭がこんがらがったままだよ」


この島に来た時から混乱なら、しっぱなしだけどな。


1.オリジナルの浅倉透の事はどこまで知ってるんだ?
2.本当に、前回のコロシアイとやらのことは知らないんだな?

↓1

125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/16(土) 23:10:20.48 ID:tliTlCHwO
1

126: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/16(土) 23:22:25.39 ID:iZvNZh3u0
1 選択

こいつがコピーであるという話を、一応は信じるとして。
私には聞いておきたいことが一つあった。


ルカ「お前は、オリジナルの記憶と人格とを引き継いでるんだよな?」

透「……うん」

ルカ「なら、お前はオリジナルの浅倉透のことをどこまで知ってるんだ? 生まれてから、お前のコピーが作られる、その瞬間まで……全部を知り尽くしてるのか?」

透「……」


表情を変えることなく、視線もそらさずに十数秒。


透「……多分、全部知ってる」

透「小さい時のノクチルの四人の姿も思い出せるし、小学校の時にみんなで豚の貯金箱にお金を入れた映像も頭の中にある」

透「……人一人分の記憶と言えるだけのものは、揃ってるよ」


精巧で比類のないコピー。
きっとこいつが言っていることに偽りはない。
その時の記憶を語れと言えば隅々まで語るだろうし、絵に書けと言えば当時の色彩でキャンバスに描くはずだ。


透「でも、あくまで私はコピーだから」


だからこそ……本人はそのことを私たち以上に重くとらえている節があった。
コピーとして接する事、生きること。そのこと自体に対する負い目のようなものを言葉尻ににじませる。



しかし、次に紡ぐ言葉はそれでは終わっていなかった。


透「……私のことを、無理に浅倉透だと思わなくていいからさ」

透「雛菜と同じで、別の『浅倉透』だと思ってほしい」


幼馴染と定義されていた人間の言葉を、臆面もなく借りてみせた。


透「私はコピーだけど……それは作り出された瞬間までの話。そこから一緒に過ごした時間は……オリジナルだって。そう雛菜が言ってくれたから」


それは私の良く知る、この島での『浅倉透』の姿だった。
あのどこか抜けていて、それでいて目の離しづらい厄介な微笑み。
誰を真似たでもない微笑みが、その場所に転がる。


ルカ「……ハッ」

ルカ「……そんじゃ、とりあえずのところはそういうことで」

透「ん、よろしく」


-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【浅倉透の親愛度レベル…8.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…25個】

127: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/16(土) 23:27:08.02 ID:iZvNZh3u0
------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

本人と話したら不思議と気持ちは軽くなった。
別にコピーの話が飲み込めたわけではないが、疑問を疑問のまま受け入れる体制ができたとでも言えばいいだろうか。
『浅倉透』という人間を私の中でどう置くべきかの考えは固まったんだと思う。

……ま、元から理屈っぽいのは好きじゃないんだ。

大事なのは自分がどう思ってるか、そういう生き方しか知らない私が悩んだところで馬鹿らしい。


「ま、美琴はそう思っちゃくれないんだけどな……」


【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…25個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/16(土) 23:28:58.13 ID:UBiVJwOR0
1 ふゆ

129: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/16(土) 23:35:13.21 ID:iZvNZh3u0
1 冬優子選択

【第4の島 観覧車】

ルカ「……何やってんだ、冬優子」

冬優子「何やってるも何も、手持ち無沙汰でうろついてんのよ。散歩ってやつ?」

ルカ「ふーん……」

返事に少しだけ違和感を感じた。
冬優子にしては、受け答えが何だかおざなりな感じがするというか、覇気をあまり感じない。
目線もあまり合わないし、らしくないという印象を受けた。


ルカ「……」


……だけど、それを口にするのはなんだか気が引けた。

別に、友達ってことなら普通の事なんだろうが……
私たちは数日前まで気遣いなんてしあう仲でもなかったわけで、私の感じる照れは他の人間のそれとはレベルが違って……

なんて頭で言い訳をしているうちに、時間は過ぎていく。


ルカ「お、おい……!」


やるだけ、やってみるか。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【新品のサラシ】
【希望ヶ峰の指輪】
【ジャバイアンジュエリー】
【ユビキタス手帳】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【アンティークドール】
【戦いなき仁義】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【壊れたミサイル】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/16(土) 23:39:16.26 ID:UBiVJwOR0
アンティークドール

131: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/16(土) 23:53:27.54 ID:iZvNZh3u0
【アンティークドールを渡した……】

冬優子「えっ、嘘。普通に滅茶苦茶かわいいじゃない、どうしたのあんた。何か悪いもんでも食べた?」

ルカ「ひどい言われようだな……要らねえなら返せよ」

冬優子「バカ、褒めてやってんのよ。あんたもそういう女の子らしいこと少しは出来たのね」

ルカ「そういうの今の時代叩かれるぞ、ご自慢のセルフプロデュースはどうしたんだよ」

冬優子「おっと、確かに失言ね。訂正するわ、ルカもそういう心配りできたのね」

ルカ「……余計悪化してないか?」

冬優子「~~~♪」

(ま、喜んでるならいいか……)

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより多めに親愛度が上昇します!】

-------------------------------------------------

ルカ「お、おい……!」

何を言うかも決めずに呼び止めた。
とはいえ、別に冬優子は立ち去ろうともしておらず。要は私が突然に声を上げた形になったのだ。
冬優子は私の並みならぬ様子にしばらくキョトンとしていた。

それでも多分あいつのことだ。
私の中の葛藤と、私が冬優子に何を見たのかすぐに悟ってしまったのだろう。
先手を取ったのは、冬優子。

冬優子「ルカ、付き合いなさい」

ルカ「……え?」

冬優子「そんなアホ面しない、あんたが今いるここはどこ? 付き合ってもらうわよ」

ルカ「お、おい……ちょっと待てって……!」

冬優子は私の手をグイグイと引いてゴンドラへと乗り込んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

冬優子「ま、二人きりで話すなら個室はちょうどいいわね」


観覧車なんて乗るのはいつ振りか。
家族で乗った記憶すら朧気、久々の高所に少しだけ胸がざわつく。


冬優子「……話、付き合ってくれんでしょ」

ルカ「……おう」


ただ、冬優子の胸の内は私のそんなざわつきとはまた別に揺れていた。
私がさざ波なら冬優子は大時化。
彼女があまり口にしない、弱みのようなものが密室の中で吐き出される。


冬優子「……前回のコロシアイってやつ、血の気が引いたわ。283の人間があれだけ死んでたこと、それを手引きしたのが自分とこの社長だってこと」

冬優子「……ホント、頭が痛いわよ」

ルカ「……冬優子」

冬優子「……でも、もっと最悪なのがそのコロシアイに、愛依も参加してたってこと……ふゆはあいつを守ってやれずに命の危険に二度もさらして……」

冬優子「そして今回のコロシアイで、いよいよその命を落としてしまった……」

ルカ「……」

このシェルターは優秀すぎる。
外と中との空間を完全に断絶するせいで、中の空気もまるで外に流れて行かない。
この重苦しく手足を動かすのも躊躇われるような空気も、変わらない。

中の私が、何かしない限りは変わらないのだ。


1.今からでも守れるものを守るしかないだろ
2.和泉愛依がお前のことを恨んでると思うか?

↓1

132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/16(土) 23:56:57.65 ID:iH7KFdLB0
あえての2

133: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/17(日) 00:06:50.77 ID:7vcYdGG+0
2 選択

本当に、自分のことが嫌いだ。
こんな時に気の利いたこと一つ言えないし、右手を相手のために伸ばしてやることもできない。
つまらないプライド、くだらない言い訳ばかりが目に付く自分が嫌い。

それでも、なんとか励まそうとした。

私の口から出てくるのは、本心とは無関係な……月並みな言葉だ。


ルカ「和泉愛依が、お前のことを恨んでると思うか?」

ルカ「たとえコロシアイにあいつが二回巻き込まれてたからって……お前が救えなかったからって……お前を恨むような人間だって思うのかよ」

冬優子「……」

でも、相手が弱っているときは、月並みで足ることがある。
使い古されたような何気ないエピソードが、急に琴線に触れることがある。


冬優子「……よくわかったわ」

ルカ「……!」

冬優子「あんたが、こういう状況向いてないってことが」


そして、そういうのは私たちのような人間にはそうそうないことも知っている。
私たちのようなひねくれものは、弱っている時だからこそ綺麗な言葉を斜めから見つめ直したりする。
周りが熱狂しているときこそ醒めたりするような、そういうめんどくさい人間なのだ。


冬優子「別に責任に感じなくていい。ただ愚痴が言える相手が欲しかっただけだから。その分では十分役目は果たしてくれたわよ、ルカ」

ルカ「悪い……ホント、こういうの下手だから」

冬優子「そりゃね、上手だったら緋田美琴とあんなことにもなんないでしょ」

ルカ「……」

冬優子「他人よりもまずは自分の事。……ま、お互い様なんでしょうけど」


観覧車が一周するまでの間、私たちは言葉も交わさずに外の景色をただずっと眺めていた。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【黛冬優子の親愛度レベル…8.5】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…26個】

141: 少し早いですが再開します ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 21:12:38.45 ID:zxi6pPCO0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

私が口にした言葉は、きっと間違いじゃなかったんだと思う。
言葉に載せていた気持ちも、そこにある事実も、なにも間違っちゃいない。

ただ、タイミングとその間が少しだけ掛け違えていただけ。
相手が自分と同族であるということを見落としていただけ。

そしてそれはつまり、あの言葉は自分にとっても的を外れた言葉であるということ。

「……」

私にとって、それは_____


【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…26個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/27(水) 21:35:21.44 ID:4cXG/IBv0
1 透

143: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 21:44:19.51 ID:zxi6pPCO0
1 透選択

【第4の島 ジェットコースター】


動きもしないコースターとレールを茫然と見つめ立ち尽くす姿。
その影がこの場所で揺らいでから、まだ一日。
つい先ほども言葉を交わしたばかりだというのに、まるで陽炎のように映るのは人としての性質か。


ルカ「なんか、お互い忘れられない場所になっちまったよな」

透「……かも」


だが、こいつはあくまで『浅倉透』なんだ。
それは肯定的な意味合いでも、それでなくとも。

だから、こいつの姿をとらえられない……この虹彩が悪い。


-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【新品のサラシ】
【希望ヶ峰の指輪】
【ジャバイアンジュエリー】
【ユビキタス手帳】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【戦いなき仁義】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【壊れたミサイル】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/27(水) 21:48:27.99 ID:jG4XawVu0
戦いなき仁義

145: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 21:54:17.99 ID:zxi6pPCO0

【戦いなき仁義を渡した……】


透「おー、映画のDVD。やるね」

ルカ「お前、映画とか好きなのか?」

透「うん。映画館とか結構行ってた」

ルカ「……過去形?」

透「吹き飛んじゃったんだよね、映画館。爆弾で」

ルカ「はぁ……?」

透「冗談」

ルカ「……わけわかんねー」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

こいつの存在を許容するとして、そのうえでどうしても気になることがある。


ルカ「なあ、コピーってのは……その、どういうことなんだ?」

ルカ「本物と全く同じ記憶と人格を持った存在ってのは……お前は、人では……あるんだよな?」


そんな言葉が出てきたのは、きっと変わり果ててしまったメカ女と言う存在があるからだろう。
目の前の人間も薄皮一枚剥けば金属製の骨格が姿を現さないとも限らない。
こいつが、そうでないという確証もないのだ。


透「えー、人じゃん。どうみても」

透「手も足も、二本ずつ。目玉だってほら、丸いし」

ルカ「そういう意味じゃなくてだな……」

透「……私が、『浅倉透』になる前……の話?」

ルカ「……!」


どんな電子機器でも、それを制御するOSを入れる前には、入れるための器となる素体があるわけで。
人間と言う存在が、人格を何かに埋め込んで成立するのなら……『浅倉透』にそれを明け渡した前任がいることになる。
私たちはその考えから自然と意識を背けていた。


透「……私が人だって証明するなら、それがいるか」

ルカ「よくもまあ平然とそんなことが言えるよな」

透「まあ、もう今更じゃん?」


屈託のない笑顔を浮かべるその顔が、なんだか妙に無機質に感じた。


透「……でもね、言ったじゃん。記憶は浅倉透本人と全く同じ。もともとあった記憶に上書きされる形で私はこうなった」

透「……前が何かなんて、知らないんだ」

ルカ「……!」


1.後悔はしてねーのか?
2.もともと前の人格なんてなかった、とか?

↓1

146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/27(水) 21:58:28.38 ID:jG4XawVu0
1

147: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 22:07:05.51 ID:zxi6pPCO0
1 選択

ルカ「記憶がないとしてもだ。その……自分の記憶を手放したことに後悔はねーのか?」

透「……どうなんだろ」


彼女は、自分のあごに手を当てて考え込むようなそぶりを見せた。
自分の記憶の中に飛び込んで、その奥底に眠る何かを引っ張り出すような……そんな試行錯誤。
呼吸は停止と再生を繰り返し、一つの場所に行きつく。


透「……それもわかんない」

ルカ「そればっかだな」

透「しょうがないじゃん、今の私は『浅倉透』。それには変わりないから」


自分のことでよくもここまで冷淡に言えるな、と思った。

でも、それは冷淡に見えるだけで、その実は対極であった。


透「……『浅倉透』は言ってるよ。後悔は知らないけど……満足はしてる」

透「自分の選択だしさ、やっぱそれはポジティブで行かないと損だと思う」

透「浅倉透として、この場所に立ってること。雛菜と、みんなと一緒にいること……それは私が私になるだけの価値があったと思うよ」


ルカ「……くっせえセリフだな」

透「んー、元の人格?」

ルカ「照れ隠しがお粗末だ」

透「はは、言えてる」


暖簾に腕押しってのはこいつみたいなやつに使う言葉なんだろうか。
どれだけ不安と疑念を押し付けられても、のらりくらりとかわして、平気な顔をしてきやがる。

こんなやつだからこそ……ある種の諦めがつくのかもな。

こいつは、これでいい。

これで、受け入れたっていい。


たとえ、何者だろうと。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【浅倉透の親愛度レベル…10.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…27個】

148: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 22:09:30.90 ID:zxi6pPCO0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


一日経ってもまだ私の頭はまるで整理がついていない。
次から次へと押し寄せる謎の数々に頭が焼き切れそうなほどの情報量。
変に昂ったような脳髄は、なかなか冷め切らない。

……今、あいつはどうなのだろうか。

感情が情報をシャットアウトし、獣のように直情的な反応を示していた美琴。
その熱はこの夜風の中でも冷めていないだろうか。

……近づくことが怖い。

その熱に、肌が灼き切られてしまいそうだから。
その刃に、皮膚から肉まで貫かれてしまいそうだから。
その憎悪が、再び私に向けられてしまいそうだから。

……でも、向き合うことが出来るのは私だけ。

纏わりつく責任が、鉛のように重たい。

「……クソが」

手に持ったドアノブは、もっと重たい。

149: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 22:10:53.86 ID:zxi6pPCO0
-------------------------------------------------
【第2の島 ドラッグストア】


「なんでこんなとこにいんだよ……」


今まで通り、自分の体を痛めつけるような特訓に打ち込んでいればまだ良かった。
鬱憤やストレスを感じる時間が勿体ない。
気を沈めている余裕があるなら、それも全部練習に注ぎ込む。
緋田美琴とは、そういう人間だったはずだ。
なぜ、こんなところで薬品の吟味などしているのだろうか。


「……手ェ離せ!」
「ルカ……!?」


不意をついてその手から薬品をひっぺがした。
プラスチックの瓶は手を離れて落下しても割れることはなく、コロコロと転がってラベルが目に入る。



「コトキレルX……劇薬じゃねえか」




150: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 22:11:36.08 ID:zxi6pPCO0

「……ルカには、見られたくなかった」
「私だって、見たくねえよこんな美琴」


顔を背ける美琴を、下から無理やり覗き込む。
その表情は、これまで見てきたどれとも違う切迫したもの。


「お前……本気で浅倉透を殺す気なのか……?」
「……」
「お前も聞いただろ? あいつはコピーだ、それにこっちに敵意はない」
「そんな話、ルカは信じるの?」
「だから本当のことかどうかは確かめてみないことにはって何回言わせんだよ!」


七草にちかの亡霊は、なおもしぶとい。
美琴の瞳はあの時と同じくワインレッドに揺れていて、私の言葉にも耳を貸していない状態だった。


「……退いて!」


私の体は強引に右手で突き飛ばされた。
背丈は私よりも10cm以上高い美琴、その体格差の前に私話す術もなく尻もちをつく。


「あ、おい! 美琴!」


冷たい床の上、走り去っていく美琴の背中を見送ることしかできなかった。


151: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 22:12:25.54 ID:zxi6pPCO0
____
______
________

=========
≪island life:day 18≫
=========
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


あの後、棚を確かめたが薬品が持ち出された形跡はなかった。
私がすんでのところで止めたコトキレルX、あれ以外には手もつけていなかったらしい。
危ない淵だったのだとホッと胸を撫で下ろす。

だがきっと、この危ない淵は終わってなどいない。
美琴は何度も何度もその際に立ち、少しでも風が吹けばそこから落ちてしまう。
その手を掴んで、こっち側に引き戻さねばならないのに美琴は何度もその手を振り解く。

「クソ……病みそうだ」

……まるで、以前までの私だ。
美琴との解散を皮切りに勝手に自分の中で歪んだ感情を募らせて、接触という接触を拒んで認知も歪ませた。
他の誰の言葉にも耳を貸さず、自分だけが正しいんだと自己暗示をかけた。

要は、終わっていた。

私は美琴にそんな風になって欲しくない。
美琴は誰よりも華々しいステージが似合う女だ。
眩いばかりのライトの中で汗を散らし、声を枯らし、踊る姿に目を奪われる。

あいつが着るのは血に塗れた真紅のドレスなんかじゃなくて、スパンコールを散らしたステージ衣装だ。

「……チッ」

面倒、見てやらねーと。


152: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 22:13:57.61 ID:zxi6pPCO0
-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】

透「おはよ」

ルカ「……ん」

透「元気ないね」


お前のせいだ、と言ってやりたいがグッと飲み込んだ。
こいつはこいつなりに大変な時期、下手に背負わせたくない。
適当に誤魔化して、すぐに自分の席に逃れる。


智代子「あれから一生懸命思い出そうとはしてみてるんだけどね、全然思い出せないんだ……樹里ちゃんと凛世ちゃん……二人に何があったのか」

雛菜「雛菜もサッパリです〜、もう幼なじみでは雛菜しか残ってないって言われても実感もないですし〜」

透「ごめん、私もそれは聞かされてなかったから」

(そういえば浅倉透は、私たちの失った記憶に関して『忘れたままの方がいい』とか言ってたが……)

(その割に、前回のコロシアイが明らかになってなお焦る様子はない)

(あいつが言っていた失った記憶ってのは、これのことじゃねえのか……?)

(それなら他に何を忘れてるってんだ……?)


そのまま私たちは例のコロシアイについて話し合いながら食事を口に運んだ。
実感のない喪失、食事との噛み合わせはあまりいいもんじゃないな。
ここ最近、食うメシがあまり美味しくないのは気持ちの持ちようなんだろう。
少なくとも、隣の空席が埋まらない限りは私も食事を楽しむ余裕はない。



153: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 22:16:13.00 ID:zxi6pPCO0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

美琴と一緒に飯を食うようになったのも、そんなに前の話じゃない。
千雪に強引に連れられての会食を発端に、以降は一緒に食事をするようになって数日。
たったそれだけの期間、島に来る前の孤独な食事の方が圧倒的に回数も時間も上なのに、もうそれでは落ち着かない体になってしまった。

水槽の中のヤドカリをつつく。
海水浴場から連れてきたこいつは、ずっと一人。
この狭い空間の中に押し込められて、仲間とも切り離されて、孤独の中で生き、そして死んでいく。

「……悪いな」

それでも逃してやれないのが、人間のエゴだ。
孤独から引き戻された時の執着が、この水槽の蓋を外させない。
こいつを逃してしまうと、また孤独になるような気がしてしまう。

「……美琴」


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…27個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/27(水) 22:29:21.83 ID:jG4XawVu0
ちょこ

155: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 22:34:55.86 ID:zxi6pPCO0
1 智代子選択

【第4の島 バイキング】


智代子「あれ、ルカちゃん? どうしたの、観覧車を満喫中?!」

ルカ「この面がそんな様子に見えるかよ」

智代子「あはは……どうやら違いそうだね……」

ルカ「それよりお前こそどうしてここに居んだよ」

智代子「いや……このアトラクションの身長制限を聞きつけまして、検証のために訪れたんですが……」

智代子「ホントに私じゃ乗ることができませんでした……ガックシ」

(……確かにこいつちっせえよな)

中学生と大差ない身長のくせして、やたら気丈にふるまう甘党女。
あまりこうして二人で話をするような機械には恵まれなかったが……せっかくだ。
今回はちょっと付き合ってやるか。


-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【新品のサラシ】
【希望ヶ峰の指輪】
【ジャバイアンジュエリー】
【ユビキタス手帳】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【壊れたミサイル】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/27(水) 22:35:38.75 ID:jG4XawVu0
新品のサラシ

157: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 22:45:52.75 ID:zxi6pPCO0

【新品のサラシを渡した……】

智代子「こ、これは……サラシ……」

ルカ「……」

智代子「ジャパニーズ・切腹に使う奴だよね……?」

ルカ「いや、それだけじゃねえと思うけど……」

智代子「……凛世ちゃんなら、使い方も詳しいんだろうな」

ルカ「……」

(まあ、普通の反応か……)

-------------------------------------------------

智代子「ルカちゃんってすごくかっこいいよね! なんだかうちの事務所にはいない、クールさ……とも違ったかっこよさ!」

ルカ「……」

智代子「……ル、ルカちゃん? どうしたの、そんな睨みつけるような……わ、私何かまずいこと言っちゃった……?」


……こいつだって、内心それどころじゃねーはずだ。
ユニットの最年少、核ともいえる存在を失って間もないのに、そのうえ頼りにしていた年上はあんなことになっちまって。
それでいて、他の仲間は……


ルカ「……いい、変に取り繕うな」

智代子「……!」


____とっくに死んでいた。



ルカ「……痛々しいんだよ、そういう素振り。今ここで生き残ってるやつに、そんな明るさなんてあるはずない」

ルカ「心に突き刺さったモンの裏返しだって言うことが、いやでも分かっちまうのが……こっちだってつらいんだよ」

智代子「……」

智代子「ごめんね、ルカちゃん。……あはは、私ったら弱いなあ……どれもこれも、辛くて、頭の整理がつかなくて……」

智代子「頑張らなきゃ、頑張らなきゃ……それだけで頭がいっぱいになっちゃってるのかも」

ルカ「……」

智代子「……本当は、今すぐにでも叫び出したいし逃げ出したいよ。でも、果穂は最後まで逃げなかったから」


1.お得意の甘いもんはどうしたんだよ
2.……乗るか、なんかアトラクション

↓1

158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/27(水) 22:48:42.34 ID:4cXG/IBv0
2

159: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 22:56:32.10 ID:zxi6pPCO0
2 選択

甘党女の言葉が、耳にも辛くて私は気が付けば背を向けていた。
反対に昇った太陽がまぶしくて思わず手で瞼の上を覆う。


ルカ「……とりあえず、出るぞ」

智代子「え、ルカちゃん……?」


ここから立ち去りたいと思った。
この太陽が照り付ける子の地面は妙に熱くて、立っていられない。
身体と本能は、涼しさを求めた。

焼ききれそうな脳を、覚ますための涼しさを。


ルカ「このアトラクションじゃ身長制限、かかっちまうんだろ?」

智代子「……!?」

ルカ「……小学生も、小金持ちも……どっちも守りたいもののために最後まであいつらはあいつらを貫いたんだ」

ルカ「だとしたら……それにお前が報いるんだったら、笑顔を振りまくアイドルってのを貫くのも生き方の一つだと思う」

ルカ「……それが、自分自身の力で難しいなら……環境を借りろ」

ルカ「私が言いたいのはそれだけだ」

智代子「……ル、ルカちゃんらしからぬ甘いチョコのようなお言葉……!!」

ルカ「……るせー、あんま言うと私は帰るからな」

智代子「ああ、ごめん! ごめんねルカちゃん!」


そこからは甘党女とアトラクションをいくつか梯子。
コーヒーカップにメリーゴーランド、どれも私の趣味じゃあねえが……まあ、悪くはなかった……かもな。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【浅倉透の親愛度レベル…6.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…28個】

160: おそらくこの安価でおしまいです ◆vqFdMa6h2. 2022/04/27(水) 23:00:56.02 ID:zxi6pPCO0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

部屋に戻ってもあの間の抜けたメロディが頭から抜けなかった。
とぼけた世界に無理やり引き込もうとする、あの押しつけがましい夢の世界。
そこに浸るなんてこと、生まれてこの方避けてきた節すらある。

あんなので元気を取り戻す、なんてそれこそ夢物語じゃないのか。

そう思っていた。

いや、もちろんそれにほだされたわけではないし、私が得たのは疲労感だけだ。
慣れないことはするべきじゃない、それは間違いない。

ただ……


『ありがとう、ルカちゃん!』

「……ハッ」


元気を得られる人間は、確かに存在することは、学ぶことができた。

経済とは、マネージメントとは、どうやらそういうことらしい。

【自由行動開始】


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【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…28個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/27(水) 23:03:38.58 ID:jG4XawVu0
夏葉

165: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 20:59:10.70 ID:7IvLQWSG0
【第1の島 空港】

夏葉「……あら? ルカ、どうしたの、こんなところで」

ルカ「……流石に遠目でもお前がいるかどうかはすぐ分かるな。金属光沢が眩しいぞ」

夏葉「ふふっ、ありがとう。毎朝磨いて手入れをしている甲斐があるわね」

ルカ「……それよりお前こそ何の用だよ」

夏葉「ロケットパンチはもう一度見せたでしょ? あれを再度装填するために使える燃料があればいいと思ったのだけど……どうやらあては外れたみたいね」

ルカ「まあ、ここのは全部ハリボテだからな」


……そんなこと、こいつ自身もわかっていただろうに。
アンドロイドに作り替えられて、うまいこと機能していない……わけじゃあるまいし。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【希望ヶ峰の指輪】
【ジャバイアンジュエリー】
【ユビキタス手帳】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【壊れたミサイル】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/28(木) 21:07:50.56 ID:jq56BIj90
1 【壊れたミサイル】

167: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 21:16:58.86 ID:7IvLQWSG0
1 選択

【壊れたロケットを渡した……】


夏葉「こ、これは……本物の、ロケットなの……?」

ルカ「みたいだな、見ての通り錆びついちまってるから使えたもんじゃねえけど」

夏葉「物騒ね……ひとまず預かっておくわよ」

ルカ「え? お、おう……」

夏葉「なるほど、オーパーツのようなものなのかしら……」

ルカ「……何をそんなに見てんだよ」

夏葉「……調べてみる価値はあると思うの、ここに記された歴史、そして干からびた時間」

夏葉「もしかすると、私たちにとって何かプラスなものになるやもしれないじゃない?」

(まあ、普通に喜びはしたか)

-------------------------------------------------

こんな言葉をかけるべきじゃない。
それは流石に私でもわかっている。
こいつはこいつの選んだ道に後悔などしていない、むしろそれを誇りに思ってすらいるだろう。
でも、その妙に金属光する体を見ると、こう呟かずにはいられない。


ルカ「……お前、人間に戻りたくないのか」

夏葉「ルカ、よしてちょうだい。そんな現実離れした夢を口にするなんてあなたらしくないわ」

ルカ「……でもよ、今のお前の体に元々のお前だったパーツなんて何一つ残ってない……そんなの、お前_______」

夏葉「今の言葉、透の前で口にするのは控えてちょうだいね」

ルカ「……!」

夏葉「私は選択を後悔しない。あの時動いていなかった方が後悔をしていたし、それに今はみんなを守るだけの力を手に入れた」

夏葉「断言できるわ、私がこの姿になったのは正解だと」


流石はアンドロイドと言ったところだろうか。
覚悟を示すその仁王立ちは、人間のそれ以上に全くと言っていいほどに微動だにしない。
体に通うものの違いが、その両脚に確かな根を張らせていた。

でも、その芯は私たちのよく知るものと同一だ。
信念という言葉が、称するにはふさわしい。


夏葉「でもね、やっぱり人間の体のほうがよかったことだってあるの」

ルカ「……」

夏葉「人間の時には当たり前だったことでも、今の私ではそうじゃない」

夏葉「そのことに切なさを感じなくはないわ」


1.飯が食えねえのは辛いよな
2.飲み物が飲めねえのは辛いよな

↓1

168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/28(木) 21:19:44.45 ID:5OeIe0Kt0
1

169: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 21:29:11.55 ID:7IvLQWSG0
1 選択

ルカ「そりゃそうだよな……飯が食えねえなんて、人生の楽しみも何割減だっつー___」

夏葉「いえ、そうじゃないわ。この体には味覚もあるのよ?」

ルカ「えっ……?」

夏葉「エネルギー炉で燃焼して自家発電をおこなっているの、体外充電以外にも動力源として確保できるのよ!」

ルカ「すげーテクノロジーだな……」

夏葉「私が困っているのは、汗をかけないことよ」

ルカ「汗……? んなもん、かかないほうがいいだろ」

夏葉「何を言っているのルカ! 汗は代謝の証明のようなものよ。あれがあるからこそ運動をしている意味がある、汗がなきゃそれは運動といえないの!」

ルカ「はぁ……?」

夏葉「同じ文脈で筋肉痛も欲しいところよね、あなたも覚えがあるでしょう? 激しいトレーニングをしたはずなのに翌日に筋肉痛が来ないとかえって不安になる現象」

ルカ「あー、それはちょっとわかるかもな……」

夏葉「私は常にそれなの……その意味では生きている実感に乏しい、と言えるかもしれないわね」

ルカ「そこまでいうか?!」

夏葉「人間は運動あってこそ、そうでしょう?」

ルカ「言わんとすることはわかるけど……」


汗をかくだのなんだの、熱血っぽいことからは無縁な私には理解に苦しむ話だった。
でも、それを語るこいつは真剣に悩んでいる様子で……それだけに胸が痛む部分もあった。

……汗、筋肉痛か。

あって当然と思えるものが突然なくなるのは確かに怖い……かもな。

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【親愛度が上昇しました!】

【有栖川夏葉の親愛度レベル……9.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…29個】

170: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 21:33:27.42 ID:7IvLQWSG0
【ルカのコテージ】

身体を動かして、それに起きる反応で初めて確かな実感を得るってのはなんというか、あいつらしいというか……
どっかで聞いたような話なんだよな……

それにしても、汗や筋肉痛がないと落ち着かないってのはなんか言い方は悪いがマゾヒストじみてるような……?


ルカ「……くッ、ハハッ」


やっぱり283の連中はおかしなやつしかいねーのな。


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…29個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

171: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/28(木) 21:36:21.23 ID:iDW/96Zv0
1.冬優子

172: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 21:47:30.73 ID:7IvLQWSG0
1 冬優子選択

【第3の島 病院】

ルカ「……冬優子」

冬優子「……あんたってなんでこういっつもタイミングが悪いワケ?」


私の姿を見るなり冬優子は露骨にその顔をしかめた。
来てほしくないタイミングだったんだろう、すぐに不機嫌な表情は向こうを向いた。
でも、拒絶の言葉は吐かない。
ただ無言のまま廊下を眺めて、立ち尽くしている。

私はそれを合図と受け止め、冬優子の近くの椅子に腰かけた。

私の隣に彼女が座り込んだのは、そこから数分後の事だった。


-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【希望ヶ峰の指輪】
【ジャバイアンジュエリー】
【ユビキタス手帳】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

173: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/28(木) 21:51:50.62 ID:iDW/96Zv0
1.【ユビキタス手帳】

174: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:05:06.31 ID:7IvLQWSG0
1 選択

【ユビキタス手帳を渡した……】


冬優子「……あんたってどんな教育受けてきたの?」

ルカ「開口一番に失礼すぎんだろ……」

冬優子「いや、褒めてんのよ……そんななりしてプレゼントのセンスが結構いいのが謎すぎて」

冬優子「変にフリフリのもん渡されるよりこういう実用的なもん渡されるほうがこっちとしても助かんのよ。立場上悩みも多いし、整理つけたいことも多いから」

ルカ「……苦労人だな」

冬優子「そんな任務背負うつもり全くなかったのにね、ほんといい迷惑だわ」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します】

-------------------------------------------------

冬優子「……この前は、悪かったわ。ふゆも虫の居所が悪くて、あんたに当たっちゃった」

ルカ「……え? おう」

冬優子「……なによその生返事」

ルカ「いや、冬優子に謝られるのはなんかしっくりこねーっていうか……悪いのは私だろ?」

冬優子「あんたは口下手なりにふゆを励まそうとしてたじゃない、何が悪いってのよ」

ルカ「……」

冬優子「……ふゆはね、ずっと苛ついてんのよ。口ばっかで偉そうに、ふんぞり返るしかできない挙句……誰も守れない」

冬優子「そんなふゆ自身に」

冬優子「……あんたの言葉は、その事実を改めて突き付けて来たわ。ふゆが愛依を殺したって」

ルカ「そんなつもり……」

冬優子「分かってる。ふゆの曲解だって」

冬優子「でも……無理なのよ、あいつが恨むとか恨んでないとか、そういうんじゃないの……」

冬優子「ふゆが、ふゆ自身が何よりも自分のことを恨んでるんだから……!」


この姿は、前にも見たことがある。
明かりの落ちた部屋の中、シンクの前で髪を乱雑に掻き揚げて目元を力強く抑え込んで、奥歯を食いしばっていたあの姿。

美琴とユニットを解散した時の、あの夜の_____鏡に映っていた私の顔だ。

他に責め立てるものが見つからず、自らののど元にナイフを突き立ててている。
そんなかつての私が再び目の前に姿を現した。


(どうすれば……どうすればいい……)

(今の私が……冬優子のために、何を……)


1.冬優子を突き飛ばす
2.自らの手首をカッターで切る

↓1

175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/28(木) 22:13:56.38 ID:jq56BIj90
1

176: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:33:30.70 ID:7IvLQWSG0
1 選択


ドン!!


思考はまとまっちゃいなかった。
目の前でくしゃくしゃになっていくそれを、何とか止めたくて、どこかに逸らしたくて。
声よりも先に、音よりも先に、脳が電気信号を走らせていた。


冬優子「……痛っ……ちょっとあんた何を……」


そして、感情がすぐにそれに追いついた。


ルカ「気持ち悪い真似してんじゃねーよ! てめェがナヨって何になるんだ……!!」

冬優子「は、はぁ……!? なんて言いぐさよ、それ!」

ルカ「何がちげーんだよ! 自分だけ傷ついてればそれで満足か!? ちゃんとお仲間の死に目を向けてる証拠だからって自分を慰められるもんな!」

ルカ「でも、そんなの……何にもならねーんだよ……!! 自分を傷つけたって、その傷を誰かが見てくれるわけじゃない……扉を開けて出て行かねえと……見てほしいやつにも届かねえって……そう、三峰結華に教えたばっかじゃねえのかよ……!?」

冬優子「でも、その結華は死んじゃったのよ……!?」

ルカ「知るかそんなこと!」

冬優子「あ、あんた……いい加減に____」

ルカ「てめェのくだらねえ  行為に他人の死を利用してんじゃねえ!!」

ルカ「見てると私がイライラしてくんだよ……ウジウジウジウジ……同じとこで足踏みばっかしてよ……!!」

ルカ「アイドルで輝きたいとか抜かすんだったら、ステップの一つでも刻んでみろよ……冬優子!」


口から出た言葉を確かめているその間も肩の息は収まらなかった。
全身を走る沸騰した血液、その熱は中々醒めそうにもない。
やけに力のこもった眼球が、へたり込んだ冬優子をずっと睨みつける。


冬優子「……生意気」

冬優子「どの口下げてそんなこと言ってんのよ……あんたが一番、ウジウジしてんでしょうが……」

冬優子「一度うまくいかなかったからって、緋田美琴との間で軋轢が生じるの、もうトラウマになってんでしょ? いつまでそんなくだんないことに拘ってんのよ」

冬優子「他人を利用して自傷行為で悦に浸ってんのはあんたもでしょ!」

ルカ「てめェ……!!」


冬優子に返される言葉はまさに図星。
鋭いナイフが今度は自分に向けられて、抵抗することもできず胸に深く突き刺さった。


177: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:34:18.05 ID:7IvLQWSG0

お互いが血を流しあった醜い顛末。
それを締めくくるような綺麗な仲直りという終幕も用意されてはいない。

お互いがまだ熱を帯びる中、冬優子はやをら姿勢を直して背をむける。


冬優子「……はぁ、くっだんない。こんなヘラってる二人組で口喧嘩なんてこの世で一番生産性のない口喧嘩よ」

ルカ「……」

冬優子「……でも、あんたの言う通りかもしれないわね」

冬優子「ふゆは……責任に言い訳して、その檻に閉じこもってるだけ、なのかもしれない」

冬優子「……本当は、何も向き合っちゃいないのかもしれないわね」


冬優子は私の目の前を後にした。

私の中のイライラはまだ収まるところを知らない。
それはきっと冬優子だってそう。

しかし……ただフラストレーションで終わらせてしまうには、この熱は少しだけ胸の空くような感覚を帯びていた。


-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【黛冬優子の親愛度レベル…10.5】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…30個】


178: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:35:28.99 ID:7IvLQWSG0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


夜が島を満たす頃、私は頭を抱えてベッドの上。
日中ずっと行動していたのに、美琴の影すら見ることがなかった。
今の美琴を一人にするわけにはいかない。
それなのに、今の美琴の行動はまるでわからない。
練習に打ち込むその背中ばかり追いかけ続けた代償が今になって降りかかる。
緋田美琴という人間の内面の奥底を、もっと覗いておくべきだったんだろう。

だが、後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
なってしまったからには状況を受け入れて、その上でできる行動を。
とにかく今は足を動かして、目を凝らす他ない。
この島のどこかにいるはずの、美琴を捕まえるために。


179: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:36:36.21 ID:7IvLQWSG0
________
______
________

=========
≪island life:day 19≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


成果ゼロが齎した疲労はいっそう重たく、そしてしつこい。
一晩眠ったところで抜けることはなく、むしろ胸中にずっしりとした悪感情を募らせる。
ほとんど一晩探し回り、諦めて部屋に戻ったのは時計が三時を回る頃。
ジャバウォック諸島は今解禁されているだけでも5つも島がある。
その中で一人の人間を探し出すなんて到底容易なことじゃない。
姿を隠そうと思えば、どうとでもなる。
美琴が私の目を避けるようにしているのは、もはや火を見るよりも明らかだ。
殺意を膨らませた、次の段階に進んでいるような予感。
焦燥感で思わず肌がピリついた。


「……飯食ったら、すぐに探しにいくか」


180: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:37:46.79 ID:7IvLQWSG0
-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】

孤独な食事をしていた頃はどこへやら、もうすっかりレストランでの食事はルーティン化してしまった。
今日も一日美琴を追うための原動力を確保する、そう当然のように考えてレストランに足を踏み入れた。

……だが、その『当然』は『突然』に脅かされることとなる。


恋鐘「ない、ない、ない〜〜〜〜〜〜!!!!」

ルカ「ど、どうした……フライパンとフライ返しなんか振り回してよ」

恋鐘「緊急事態、エマージェンシーたい〜〜〜〜〜!!」

ルカ「だから、その中身を教えろって。まるで話が見えてこねーぞ」

恋鐘「ルカ、落ち着いて聞いて欲しか……!」

ルカ「お、おう……?」

181: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:38:31.71 ID:7IvLQWSG0





恋鐘「朝ごはんの材料が、一つも残っとらん〜〜〜〜!!」





182: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:40:10.33 ID:7IvLQWSG0

ルカ「……はぁ?」

恋鐘「レストランの厨房に、いつもやったらパンも卵も野菜も補充されとるはず! やけん、今日もみんなの分作っちゃろ〜って思って行ったのに……」

恋鐘「なんも……アスパラ一本すら残っとらんかったと!!!」

ルカ「……マジか」

雛菜「へ〜? それじゃ今日は朝ごはんないんですか〜?」

あさひ「え〜、嫌っすよ〜! 恋鐘ちゃんの朝ごはん、すごくおいしいのに〜!」

夏葉「材料がないなんて妙ね……今までも毎日ちゃんと補充されていたんでしょう?」

ルカ「ハッ、犯人なら分かりきってんだろ」

智代子「……ええっ?! な、なんでルカちゃん、私に疑いの眼差しを?!」

智代子「ち、違うよ?! 違うからね?! 流石に人数分も食べきれないし……そもそも材料から食べないよ?!」

ルカ「まあ……それもそうか」

冬優子「しかし変ね……ふゆ、昨日の晩にコーヒー飲みに来たけど、その時は材料も全部あったわよ?」

透「誰かが持ち出した感じですか」

恋鐘「うちは頻繁に出入りするからよく知っとるけど、とても一人で持ち出せる量じゃなかよ? 食べ切れる量でもなか!」

あさひ「……なんか、嫌な予感がするっす」

ルカ「……おい、まさか」

183: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:41:10.59 ID:7IvLQWSG0


バビューン!!


モノクマ「突撃隣の朝ごはん! どうもモノクマです!」

ルカ「やっぱりてめェの差し金か……!」

恋鐘「モノクマ、朝ごはんの材料をどこに隠したばい! 一日3食ちゃんと食べんと元気が出んし、困るばい!」

智代子「そうだそうだ! 私たちには食事の自由があります! 権利を主張します!」

モノクマ「クックックッ……随分と食欲オーセーなことで、いかにも育ち盛りって感じだね!」

冬優子「意味のわからない悪戯はさっさとやめてちょうだい。食い意地のはったコイツもさっきからうっさいのよ」

あさひ「お腹すいたっす〜!」

雛菜「このままじゃ雛菜たちのお腹と背中がくっついちゃいますよ〜」

モノクマ「うぷぷぷ……いいねえ、食欲という欲望を剥き出しにして、醜い獣のようだよ。でも、まだまだ足りないかな」

ルカ「はぁ? なに訳のわかんねーこと言ってやがんだ」

モノクマ「はぬ? これでも意味がわからないと?」

夏葉「……!」

智代子「夏葉ちゃん、どうしたの?」

夏葉「私の電子回路が最悪の試算を弾き出したの……モノクマが私たちに何かをけしかけるとき、これまでのデータから考えてみても行きつく結論はただの一つよ」

智代子「そ、それってもしかして……!?」

184: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:41:54.39 ID:7IvLQWSG0





モノクマ「そう! 今回ボクがオマエラに提示する動機は【コロシアイが起きるまで食事抜き】の学校規則だよ~!」






185: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:43:16.05 ID:7IvLQWSG0

ルカ「……マジかよ」


モノクマの動機の悪意は加速度的に増している。
記憶を奪ったという事実で不安を煽り、その失われた記憶の中から更なる恐怖を引きずり出す。
かと思えば感染症で身の危険をチラつかせ、いよいよここまで来た。
食事なんてものはもはや生物としての根源的な営み。
この星に生きる者は例外なく須らくが経口での栄養補給を必須としている。
それを剥奪してしまうことの残酷さは誰にでも一瞬で理解できる。


モノクマ「流石は【令和最新版】最先端アンドロイド LEDディスプレイ残量表示 新規設計デザインモデル 快適な使用感 【高出力パワー充電】の有栖川さんだよね! すぐに結論を導き出せちゃうんだもん!」

恋鐘「ちょ、ちょっと待たんね!? 食事ばのうなったら、身も持たん……絶望病ん時とはわけが違うばい!」

モノクマ「人間って食事を摂らなくても水だけで二週間は生きていけるって言うでしょ? まあ栄養失調で搾りかすみたいな姿にはなっちゃうかもしれないけど、それでもお仲間を手にかけるよりはマシなんじゃない?」

あさひ「本当に、食事は一切なにも無いっすか?」

モノクマ「モチのロン! レストランの食材は当然の事、スーパーマーケット、ビーチのモノモノヤシーン、牧場の家畜などなど……口に入れられるものはぜーんぶ没収させてもらいました!」

透「今、もう結構お腹空いてるんだけど」

雛菜「雛菜も昨日は夜食もしてないから既にペコペコ~……」

モノクマ「飽食の時代に生まれた若者たちに喝を入れる! うんうん、これもまた教育だよね! オマエラがステーキを口に運ぶその瞬間にも地球の裏側では泥水を啜る子供たちがいる……食事のありがたみを改めてよく知るいい機会になると思うんだ!」

ルカ「食事を取り上げるのとはわけが違うだろが……!」


186: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:44:30.90 ID:7IvLQWSG0

間違いなく、過去最悪の動機だ。
絶望病とは次元が違う。この島に生きる全員が一気に自分自身の命を懸けたチキンレースに参加させられるも同然。
体力も衰弱していき、判断能力も低下していく中で、否が応でも自分の本能的な欲望と他人の命とを天秤にかけさせられる。
ここまでくると、もはや殺人を強制されているも同然だ。


モノクマ「まあオマエラが今所持しているものに関しては無理くり取り上げはしないから、しばらくはそれで食いつないでから考えればいいんじゃないっすかね?」

智代子「そ、そんな無責任な……!」

モノクマ「ちなみに殺人が起きるまで食事提供の一切を行わない、このことを譲歩する気は微塵もないから理解しておいてよね。ルールは厳格に守らないと意味がないからね!」

夏葉「……あなた、本気なのね」

モノクマ「うぷぷぷ……オマエラがどこまで自分の命を切り詰められるのか、確かめさせてもらうよ。それじゃあね!」

バビューン!!

モノクマはそのまま姿を消してしまったが、誰もモノクマを呼び止めたり、抵抗しようとしたりはしなかった。
そんなことをしても無駄であることはこれまでの暮らしで嫌と言うほど理解しているし、今は無駄なエネルギー消費はしたくない。
食事を行えないことの恐怖が、行動を強く縛り付ける。


187: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:45:17.88 ID:7IvLQWSG0

ルカ「……クソッ、まずくねーか。流石に今回ばかりは……」

冬優子「とにかく無駄に体力を消費することは避けたほうがよさそうね。下手に動いて衰弱すると動けなくなるわけだし」

あさひ「……お腹すいたっすね~」

智代子「あさひちゃん、我慢だよ……とにかく今は耐え忍ぶのみ!」


自分自身の腹もそうだが、私にとっての一番の懸念材料は美琴だ。
すぐに島の状況を見て理解はするだろうが、今の美琴は冷静な判断能力を有していない。
断崖の淵に立つあいつは、モノクマの動機によって今まさに強風に煽られている。
どうにかしないと、すぐに事は起きてしまうかもしれない。


ルカ「……一応、島を回って何か食えるものはねーか探してみるか。どうせ残っちゃいないんだろうけど」

夏葉「ええ……そうね。それなら私も協力するわ、今の私はアンドロイド……人間としての食事は必ずしも必要じゃない、体力の消費は私が請け負う」

ルカ「おう、頼むぞ」

冬優子「あさひ、あんたは部屋でじっとしてなさい。あんたすぐに腹空かすんだから」

あさひ「わたし、図書館で本読んでるっす。何もやることがないと空腹のこと考えちゃうし、別のことに集中してる方がマシっす」

ルカ「……なあ、お前もあんま部屋から出んじゃねーぞ」

透「……あー、うん。そうする」

雛菜「雛菜、しばらく透ちゃんの部屋に泊まってよっか~? 一人でいるより、二人でいたほうが安心だよね~?」

ルカ「おう、そうしてやってくれ。……こっちでも、どうにか動いてはみるけどよ」


……とは言ったものの、私もあいつを追いかけまわして体力を消費するのも望ましくはない。とんだ手づまりな状況になっちまったな。


188: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:46:49.44 ID:7IvLQWSG0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

「……あぁ、クソ」


朝飯を完全に食らうつもりでいたから、お預けを食らった分余計に空腹に気が向いてしまう。
腹の虫が喧しいことに苛立ちを覚えながら、時計を見た。
まだまだ一日が終わるには時間がある、別の事でもして気を紛らわせないことには私もこの空腹に思考が支配されてしまう。


「……適当に、時間を埋めてみるか」


【自由行動開始】


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【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…30個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/28(木) 22:49:21.43 ID:iDW/96Zv0
1.冬優子

190: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 22:53:24.98 ID:7IvLQWSG0
1 冬優子選択

【冬優子の部屋】


冬優子「……あんた、肝座りすぎじゃない? 昨日のがあってすぐ来る? 普通」

ルカ「普通じゃねえだろ、私も、冬優子も」

冬優子「……言えてる」


冬優子の言う通り、昨日の今日だ。
冬優子の顔を見るなりフラッシュバックする衝突と感情とが、途端に頬を熱くした。

その感情の所在は怒りなのだろうか、それとも……

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【希望ヶ峰の指輪】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/28(木) 23:00:56.28 ID:iDW/96Zv0
1.【希望ヶ峰の指輪】

192: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 23:16:28.24 ID:7IvLQWSG0
1 選択

【希望ヶ峰の指輪を渡した……】

冬優子「……」

ルカ「……」

冬優子「……」

冬優子「………………」

冬優子「………………………………………………………………ありがと」

【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

居心地の悪い静寂が続いて、もうどれだけ経っただろうか。
一応の気遣いから入れてくれた珈琲にも手付かずで、あれだけ主張の激しかった湯気すらもうほとんど観測されない。
冷め切るだけの時間はもう十分に経ってしまっていた。


冬優子「……前回あんたに謝ったの、結構後悔した。あんたはふゆのこと気遣って拙い言葉で励まそうとしてくれてたと思ってたのに、まさかあんな罵倒のされ方をされるとはね」

ルカ「……冬優子こそ、私と美琴のことであんな風に思ってたなんてな」

冬優子「まどろっこしいのはお互いもうやめにしましょ、今ふゆたちがお互いに求めているのは謝罪なんかじゃない。お互い腹の内をさらしたんだから、やることはただ一つ、そうじゃない?」

ルカ「……おう」


同族であることの因果は思ったより強烈らしい。
どれだけお互いを傷つけあっても、憎しみあっても、お互いの考えてしまっていることは分かってしまう。
冬優子の口にする、ただ一つの結末なんてのも、もう分かり切っている。


ルカ「絶交だな」

冬優子「当然、あんたと友達なんてやってられないっての。自分自身を見てるようで気持ちが悪いのよ」

ルカ「こっちもだ、目障りな存在がいなくなってせいせいする」


関係の清算。それしか行きつく先はなかった。
お互いこのままズルズルと負の感情を引きずったまま行くよりは、よっぽどマシ。
それぞれが目隠しをして、耳をふさぐことで穏便に事は収まる。
人間関係ってのはそういうものだって、私たちは痛いほどよく知っている。


193: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 23:17:27.61 ID:7IvLQWSG0



冬優子「……」

ルカ「……」


……知って、いた。




194: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 23:18:28.51 ID:7IvLQWSG0

冬優子「……何よ、さっさと出ていきなさいよ。まだ用事?」

ルカ「……いや、別に。そっちこそ、なんだよ人の顔をじろじろ見やがって」

冬優子「なんでもないわよ、もうその面二度と見せないでちょうだい」

ルカ「こっちこそ願い下げだっての」


それでも、脚は動かなかった。
感じる視線は変わらなかった。
時計の針が奏でる音も、耳には入ってこなかった。
聞こえてくるのは、二人の呼吸音だけ。
妙に昂る心臓が、リズムの早い呼吸をさせた。
それがすごく耳障りで、でも耳の穴を防ぐことはできなかった。



冬優子「……」


冬優子「…………」


冬優子「……………………ねえ」


それに先に耐え切れなくなったのは、冬優子だった。

195: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 23:19:41.20 ID:7IvLQWSG0

ルカ「……」

冬優子「これ、ただの所感だから反応とか要らないけど。口喧嘩らしい口喧嘩、すごい久しぶりだったの。愛依もあさひも、他の連中も……口汚く罵るとか論外って感じで。あんな風にふゆを悪くいう奴、久しぶりに見た」

冬優子「小学校以来かしら、猫被ってるとか、いいカッコしいだとか。流石に罵倒のレベルもあのころとは大違いだけど」

冬優子「……気づいたのよね、あのころに比べると言い返せるようになってるって」

冬優子「同じ立場で、本気でムカついて喧嘩ができて……」

冬優子「それって、案外悪くないのかもって」

冬優子「……あんたと絶交出来て、楽しかった」


絶交と言う言葉を国語辞典で引いた方がいい。
そこにプラスのニュアンスなんて一つもない。
人と人の交わりを完全否定する言葉、それにどんな価値を与えるというのか。

本当にこいつは気分屋で自分勝手な女だと思う。
思わずその滑稽さに頬が緩んだ。


ルカ「お前、バカじゃねえの?」

冬優子「……はぁ?」

196: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 23:20:44.01 ID:7IvLQWSG0



ルカ「そんなに楽しかったんなら、また絶交するか」




ルカ「何回も絶交して絶交して……そのたびに本音を言い合って、本気で罵倒して……そんで楽になる」

ルカ「私たちに求められてる関係って、友達だとかそんな下らねえもんじゃねえんだろ」

冬優子「……流石、同族さんはよくわかってるわ」


滑稽なのは、私もそうだった。
あの時感じた胸の空くような感覚。
それに早くもとりこになっている自分がいた。
親相手にも、美琴相手にも、あんなにぶちまけたことなんてない。
自分とそっくりの鏡だからこそ言えた言葉、聞けた言葉。
その不細工な言葉の数々がとても新鮮で、手放すには惜しいと思った。

私も大概に、自分勝手な女だと思う。


197: ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 23:21:46.01 ID:7IvLQWSG0



冬優子「お互い、利用しあいましょ。ストレスの発散先として」



自分勝手なもの同士、それを繋ぐのはエゴイズム。
あくまでこれは自分のため。
自分にとって都合のいい時間を過ごすためだけの、都合のいい関係。
そこに絆なんて生易しいものはないし、美談めいた話もない。
現実主義を練り上げたような紐帯は、かたむすびをしたように妙に強固だ。


ルカ「おうよ、そんじゃま……とりあえずのところは」

冬優子「ええ、今日の所は」

ルカ「絶交、しとくか」

冬優子「ええ、あんたなんか大っ嫌い」

ルカ「……ハッ、身の入ってねえ言葉だこと」

冬優子「……うっさい」


私たちの関係は変わった。
ただの他人が友達になり、絶交してまた真っ白に。
その白さに、愛おしさを感じるなんて……


_____そんな日が来るなんて。


-------------------------------------------------

【黛冬優子との間に確かなつながりを感じる……】

【黛冬優子の親愛度レベルがMAXに到達しました!】

【アイテム:魔法のステッキを獲得しました!】

・【魔法のステッキ】
〔幼少期に冬優子が見ていたアニメのヒロイングッズ。可愛らしい効果音とともに夢と希望を振りまいたステッキは、誰にも愛される彼女自身のルーツ〕

【スキル:アンシーン・ダブルキャストを習得しました!】

・【アンシーン・ダブルキャスト】
〔学級裁判中誤答するたびにコトダマの数が減少する〕


198: この安価でおしまいにします ◆vqFdMa6h2. 2022/04/28(木) 23:24:15.07 ID:7IvLQWSG0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

何度だって絶交しあう関係、か……

なんともちぐはぐな収まり方をしたものだ。
千雪の命令には背く形になってしまったけど……きっとあいつなら、この終わり方をきっと認めてくれる。
そう思うんだ。

私は、一歩を踏み出すことができたんだって今はそう思わせてくれ。


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…31個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/04/28(木) 23:30:04.52 ID:jq56BIj90
1 透

203: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:00:50.19 ID:/h8laeKX0
1 透選択

【透の部屋】

ピンポーン

どうして、私はこいつの部屋のインターホンを鳴らしているのだろう。

透「……あれ」

ルカ「……よう」

透「珍しいね。うち、なんも食べるものとかないよ」

ルカ「別に集りに来たわけじゃねぇ……ちょっとだけ、入れてくれよ」


どうして、こんな得体のしれない奴に、ずっと私は付き合っているのだろう。

どうして、どうして……

その答えをどうしても知りたい……きっと、そういうことなんだろう。


-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

204: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/01(日) 16:03:41.65 ID:CYEyM7vd0
1.【バール】

205: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:12:25.80 ID:/h8laeKX0
1 選択

【バールを渡した……】

透「おー、これ。ゾンビとか殴るやつじゃん」

ルカ「……ゾンビ?」

透「知らない? これで首引っかけてガッやるの」

ルカ「いや、そんなバイオレンスな趣味はねーんだけど……」

透「これ、いいね。気に入った。これあれば生きていける」

透「ビバ、世紀末」

(映画趣味があって助かったな……)

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

思えば私は、こいつと会話をしたことがなかった。
私が言葉を交わしていたのはこいつを取り巻く情報。
島の外の人間と繋がっている、こいつは浅倉透のコピー、そういう表層に回遊しているものだけを掬って、そのことばかり気にしていた。

今目の前に立っている存在、そこに触れようとはしなかった。
触れてはいけないと、そう思っていたのかもしれない。



だってこいつは________



透「……昔見た映画なんだけどさ」

ルカ「なんだよ、急に」


206: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:14:18.57 ID:/h8laeKX0

透「なんか、魔法みたいなすごろくで。子供たちはそこに吸い込まれちゃうんだよね」

透「すごろくの中は、漫画とかアニメとか、そんな感じの世界で。でも、すっごく危ない場所で」

透「クリアしないと出られないのに、何年も、何十年もクリアするまでに時間がかかるの」

透「やっとの思いでクリアしたら、そのときの時間ごと……その世界はなくなっちゃうんだ」

ルカ「それって、プレイする前の状態に戻るってことか?」

透「うん、大きく成長した身体も、そこで育まれた愛とか、思いも全部ね」

ルカ「……やるせないな」




透「……そうかな」




207: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:16:06.96 ID:/h8laeKX0

ルカ「……え?」

透「そのゲームで、そうやって時間を過ごせたってことはさ。何度だって同じ道を歩けるってことでしょ?」

透「たとえ、その記憶が無くなろうとも、人格が無くなろうとも……その人はそれができるだけの何かを、持ってるってことでしょ?」


私たちの記憶を奪って、この島に連れてきた犯人の一人。
ほかならぬこいつ自身がそう言っていた。
そんなやつが口にしたとは思えない、古臭い映画とそのあらすじ。
そこからつかみ取った青臭いメッセージが何だか妙に私の耳に残った。
耳孔を跳ねて反響して、その奥に届く。

私たちが失って、必死に取り返そうとしている記憶の数々。
それを拒絶するでも否定するでもなく、そこに隠されている可能性を、浅倉透は肯定した。

自らを投げうち、忘れ、浅倉透に【なった】……こいつが。


208: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:17:32.00 ID:/h8laeKX0

透「……もしかしたら、忘れた記憶の中で世界救ってたりするかもじゃん」

ルカ「ハッ……だったらこの島に集まったのは英雄たちの同窓会、ってか」

透「かもね」


それは自己肯定だったのかもしれない。
自分自身の生き方を他人にとやかく言われたくないとか、そういう思春期丸出しの主張だったのかもしれない。
でも、たとえそうだったとしても、こいつが自分の立場からものを言ったのは、これが初めてだったのかもしれない。



透「私、ドラゴンだって狩れるから」



____そう感じることができたのは、その笑顔があまりにも自然だったから。


-------------------------------------------------

【浅倉透との間に確かなつながりを感じる……】

【浅倉透の親愛度レベルがMAXに到達しました!】

【アイテム:10年後のカセットテープを獲得しました!】

・【10年後のカセットテープ】
〔時を超えて音声とともに大事なものを結ぶ方舟。彼女がそこに吹き込んだ言葉は10年の時を待っている〕


【スキル:つづく、を習得しました!】

・【つづく、】
〔学級裁判中発言力がゼロになった時、一度だけ失敗をなかったことにしてやり直すことができる(発言力は1で復活する)〕

209: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:21:28.28 ID:/h8laeKX0
【ルカのコテージ】


記憶を失った自分、失った記憶の中の自分。
その二つをどちらも肯定して生きていく、なんてとんだ棚上げだと思う。

でも、映画のあらすじに駆け付けて話したそれが、不思議と悪くないプランに聞こえて、それが我ながらこっぱずかしくて、
話を早々に切り上げて私は撤収してしまった。

「……にしても、つくづくよくわからないやつだよ。オマエは」

今のあいつは、浅倉透という影もぶれて見える。
能天気女が言っていたように、ここで過ごしたあいつとしての時間が……じきに成熟しようとしているのだろうか。

本当に、読めないものだ。


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…32個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/01(日) 16:25:41.13 ID:CYEyM7vd0
1.あさひ

211: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:30:39.46 ID:/h8laeKX0
1 あさひ選択

【第2の島 図書館】

ルカ「……オマエ、またここにいたのか」

あさひ「あ、ルカさん! こんにちはっす!」


モノクマの動機提供があり、事態は大きく動き出す。
そうなると真っ先に注意を向けるべき対象が、こいつだ。
以前として狸の嫌疑のかかる中学生が、何かをしでかしやしないかと胸騒ぎがずっとしていたのである。


ルカ「なにをそんな熱心に読んでんだ……?」

あさひ「何か食べられる植物はないか探してたっす! お腹、やっぱり空いちゃってるっすから」


……でも、小宮果穂の処刑の時に見せたあの顔。
あの悲痛な叫びも、どれもこれも……偽物には見えなかった。

こいつの、正体って……本当は……?

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

212: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/01(日) 16:33:15.74 ID:CYEyM7vd0
1.【神の砂の嵐の角】

213: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:44:28.18 ID:/h8laeKX0
1 選択

【神の砂の嵐の角を渡した……】

あさひ「な、なんっすかコレ……!?」

ルカ「何の動物かもわからねえガラクタだ。いらねえしやるよ」

あさひ「すごい……ロマンっすよ、これ!」

あさひ「なんの動物の角なんっすかね……!? ユニコーン、それともケルピー!?」

あさひ「これ、風が読めるような気もするっす……これ持って外行ってくるっすよ!」

ルカ「あ、おい……ちょっと待て!」

ルカ「ちょっ……足、はや……!?」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します】

-------------------------------------------------

ひとまずの監視を行うかと近くの席に着座。
空腹を紛らす目的もあり、適当な文庫本を手に取ったのだが……視界の端でこいつはちょこまかと。

さっきまでご執心だった可食植物の本はどこへやら、机の上には人体の解剖図のようななんとも目に優しくない色合いのページが広がっていた。


ルカ「……おい、何やってんだ」

あさひ「え? ああ、これは研究っす。ほら、夏葉ちゃんの身体……変わっちゃったじゃないっすか?」

ルカ「……! お、おう……」

あさひ「だから、この人体と見比べてみようかなと思って。筋構造とか骨格とか、どう変わったのかなって気になったっす!」

ルカ「……」


私はもう齢20を過ぎる身だ。
かつてあった童心も随分と色あせてしまったし、興味関心なんてものも鳴りを潜めて久しい。

でも、そうだとしても……年頃の少女と言うのはここまで自分の好奇心に振り回されるものだろうか。
仲間の肉体が変わり果ててしまったという悲痛を差し置いて、その身体構造に目を向けて爛々と目を輝かせる。

それは果たして、健全な興味なのだろうか。


あさひ「あのロケットパンチとか、自分の意志で制御してたから脳神経と繋がってるっすかね?」

あさひ「神経回路の電気信号で動いてるんだとしたら、すごい技術……義手とかの技術の応用っすかね」

ルカ「なあ、おい」

あさひ「……? どうしたっすか?」

ルカ「オマエ、そもそもで引っ掛からねえのか? 仲間がロボットになった、なんて言われちまって」

あさひ「……」


私の問いかけを耳にした瞬間。

空気が突然に変わった。
眼からはハイライトが消えて、空調の音だけが空間に響く。


あさひ「それ、どういう意味っすか?」

あさひ「わたしが……夏葉さんの身体に、果穂ちゃんの死に何も感じてないって言いたいっすか?」

ルカ「……!」


1.オマエは自分の感情から逃避しようとしてるだけじゃねえのか
2.あの時の涙はなんだったんだよ

↓1

214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/01(日) 16:51:11.65 ID:CYEyM7vd0
2

215: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:55:19.03 ID:/h8laeKX0
2 選択

ルカ「……あの時の涙は何だったんだよ」

あさひ「……!!」

ルカ「小宮果穂と死別するときの、オマエのあの感情はどこに行ったんだ……メカ女が現れるなりそれに執心しやがって」

ルカ「ガキは時々残酷だっつーけどよ……オマエの振る舞いは、それにとどまらない」

ルカ「……小宮果穂の気持ち、本当に分かってやってんのか……?」

あさひ「……」

あさひ「……わたしだって、ずっとずっとつらいっす」

あさひ「起きる度に、体がなんだか重たいし、胸のあたりがずっとズキズキしてるっす」

あさひ「気を抜くと、愛依ちゃん、果穂ちゃん……みんなの顔が思い浮かぶし」

あさひ「夏葉さんの、あの優しくて、筋肉質な腕の感触が……蘇るっすよ」

あさひ「でも、だからって……それに縋ってちゃダメだって……冬優子ちゃんが戦えって、そう言うから……」

あさひ「……わたしは、負けられないっすよ」

あさひ「ストレイライトの芹沢あさひでい続ける限り、愛依ちゃんとも、プロデューサーさんとも約束したっすから」

あさひ「だから、凹んでいるよりも……もっと、次に続く何かがしたいっす。わたしに何ができるのか、わたしに何がわかるのか、ずっとずっと、考えたいっす」

あさひ「それに、果穂ちゃんが言ってたっす」

あさひ「わたしたちは大きくなれる、変わっていけるって」

あさひ「……なら、わたしがやるのは泣くことじゃないと思うっす」


こいつの振る舞い、わたしはその中で揺れ動いている感情が見えちゃいなかった。
こいつだって、年頃の子供でこの島に起きている出来事にかき乱されない道理なんてない。
脳を揺さぶられるような情報と感情の奔流に、こいつは必死に抗っていた。
自分自身の好奇心と言う逃げ道を用意して、それに縋ることで、やっとここまで歩いていた。

……残酷な仕打ちを受けているなと思う。


ルカ「……悪い」

あさひ「いいっすよ、別に。気にしてないっす」


こいつという人間に近づけば近づくほど、知れば知るほど……どんどん狸のイメージから遠ざかっていく。
この島で暗躍している影、その輪郭はどんどんぼやけていく一方だった。


-------------------------------------------------

【芹沢あさひの親愛度が上昇しました!】

【芹沢あさひの親愛度レベル…8.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…33個】

216: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:56:37.22 ID:/h8laeKX0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


時間がいくら経過しようとも胃を満たすのは消化液の蒸発した気体のみ。
ただでさえ痩せ型の体型の私は、この一日何も口にしないだけで目眩のするような感覚を覚えた。


「これは……想像以上に体力を持っていかれるな」


美琴の状況は気になるが、それ以前に私自身の身が危ぶまれる。
静かになれば部屋にはすぐに腹の虫が響く、耳栓をしたところで体の内側から聞こえるこの声はどうしようもない。
一人になったこの瞬間、空腹感が荒波のように押し寄せた。

……美琴が暴走をする前なら、二人で気を紛らわせる何かもあったかもしれないのに。
水槽のヤドカリを指先でつつく私は、空腹に加えて孤独を痛感せずにいられなかった。

218: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:58:26.48 ID:/h8laeKX0
____
______
________

=========
≪island life:day 20≫
=========

-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


目が覚めて、まず体に違和感を覚えた。とりもちに引っ付いたように、体が布団から持ち上がらない。
いっせーので目を覚ます、上体を起こすだけの動作が日ごろどれほどのエネルギーを消費して行っているのかをはじめて知った。
腹に意識して力を込めることでようやく持ち上がった体、気怠さがその先を継げない。


「レストランには……行ってもしょうがねえか」


どうせ行ったところで食事の支度はない。なら、無駄に歩くよりも他に時間の過ごしようがあるだろう。
そう思ったのも束の間。


『あ、ここでアナウンス! 朝ご飯が食べられなくなってオマエラも退屈してるだろうから、オマエラのために新しいレクリエーションを考案いたしました! 目を覚ました奴から順次中央の島のジャバウォック公園に集合ね、来なかった奴は分かってるよね~?』


最悪だ。
いや、モノクマの事だ。ただ食事を抜くだけで終わらないのはある程度想像もついたといえばついたか?
空腹に苛まれて思考の幅が狭まってしまっていたのだろう。
これだけほどのアナウンスに過大なショックを受けながら、私は千鳥足で中央の島に向かった。

219: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 16:59:35.28 ID:/h8laeKX0
-------------------------------------------------

【中央の島 ジャバウォック公園】


元から朝は得意な方じゃない。
こちらの都合などお構いなしに照り付ける太陽には毎朝舌打ちをしながら中指を立てていたというのに、
食事もナシにこう島の移動で歩かされると余計に苛立ちが募る。
イライラと鬱憤が溜まっていく状況だというのに、中央の島へと渡ると、更にそれに拍車をかけるようなレクリエーションが私たちを待ち受けていた。


モノクマ「はい、そのままゆっくりと状態を右から左へ回してくださいね!」

あさひ「はいっす!」

モノクマ「そのまま5秒間キープ! 気をため込んで……あ、片足はちゃんと上げたままね!」

智代子「ひ、ひぃ~~~~! バランスが、保てないよぉ~~~~!」

夏葉「智代子、しっかりと丹田に力を籠めるのよ!」

ルカ「機械で制御された体のやつが何を言ってんだ……」

モノクマ「はい、今度はお腹に力を入れて左腕を突き出して~?」

雛菜「このポーズ、可愛くないし雛菜やりたくない~……」

透「なんか昔映画で見た気がするかも。なんだっけ、あの……ジョッキー?」

恋鐘「それやと馬に乗ってしもうとるたい……」



220: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 17:01:09.08 ID:/h8laeKX0

モノクマが私たちに強要したのはまさかの太極拳。
緩慢な動作、されど肉体への負荷はかなり大きい。
原理は良く知らないが、はじめて十分と経たないうちに私たちは汗だくになっており、体力もゴリゴリと削られた。
動作が静かな分、嫌でも自分の空腹と向き合うことになるあたりが性格も悪い。


モノクマ「ふぅ! 朝からいい汗かきましたね! この調子で続けていけばみんなもきっと海王を名乗れるほどの実力が身に着きますよ!」

冬優子「何よ……黒曜石を球体にでも削らせる気?」

あさひ「何言ってるんすか、冬優子ちゃん」

モノクマ「モノクマ太極拳は毎朝10時からこの公園で全員参加! やむを得ない理由がある場合を除き、参加しなかった不届き者にはペナルティが課されるので覚悟しておくように!」

雛菜「えぇ~~~! 面倒くさい~~~~!」

ルカ「……チッ、無駄に毎日運動させやがって」

恋鐘「運動自体は悪くなかやけど……ちゃんとした食事があってこそのもんばい……!」

あさひ「やる前より更にお腹が空いた気がするっす~……」


モノクマの目論見通りと言ったところだろう。
口々に不満を漏らす私たち、いかにも噴出する寸前といった様相だ。
これが毎朝続くとなると私も気が気でいられない。


221: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 17:03:53.56 ID:/h8laeKX0

だが、こんな無意味な太極拳にも一つだけ大きな利点があった。
それは、美琴も必ずこの太極拳には参加しなくてはならないという点だ。
この島で暮らす以上はその規則の中でしか生きられない。
全員参加のイベントには必ず美琴も顔を出す。公園の端で一人ぽつんとではあったものの、確かに参加しているのを私も目撃していた。
モノクマが姿を消すと、すぐに美琴の元へ向かった。


美琴「……ふぅ」

ルカ「み、美琴……」

美琴「……!」


だが、声をかけるとすぐに美琴は背を向けて、その場を立ち去ろうとする。
美琴の体力も削られているようだ、その足取りはいつかに比べるとずいぶんと拙い。
今なら、聞いてもらえるかもしれない。


ルカ「待てよ、お前も体力だいぶ削られてんだろ? 無理すんなって」

美琴「……」

ルカ「なあ、頼む……もう一度、話をさせてくれ。浅倉透のことは置いといてもいい、私の気持ちだけでも聞いてはもらえねーか……?」

美琴「……」


それでも美琴は振り返らなかった。私たちと言葉も交わさずに去っていく。
その背中を追う力は、今の私には残されていなかった。
無力感と疲労感がこみあげて、地面にぺたりとへたり込む。


冬優子「ルカ……あんた、大丈夫?」

ルカ「……おう、悪い」

冬優子「……モノクマのやつ、あんたたちの決別のタイミングを狙ったのかしらね」

ルカ「かもな……クソッ、つくづく嫌な野郎だぜ」

冬優子「ええ、ドブネズミ以下ってところかしら。腐り切ってるわ」


タイムリミットは、そう長くない。


222: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 17:05:16.97 ID:/h8laeKX0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

部屋に戻って、ベッドの上。
空腹を無理やり眠って誤魔化そうとも考えたが、太極拳のせいで変に目が冴えてしまっている。
運動というのは健康な時には何よりの味方だが、肉体に異常が起きているときは毒になりうる。
運動が体を蝕んでいく感覚に、虫が全身を這い上がるような言い知れぬ不快感を覚えた私は、時間を埋める術を求めた。


「……一人でいたら、気が狂いそうだ」


【自由行動開始】

【事件発生前最終日の自由行動です】


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【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…33個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

223: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/01(日) 17:10:29.69 ID:CYEyM7vd0
1.夏葉

224: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 17:14:04.79 ID:/h8laeKX0
1 夏葉選択

【第1の島 牧場】

牧草地帯の緑の中に一人立ち尽くす……金属光沢。
明らかに異様な存在なので、数十メートルはあろうかという距離でもすぐに見分けがついた。


ルカ「……よう」

夏葉「ルカ……あなた大丈夫? だいぶげっそりとした様子だけど」

ルカ「しょうがねえだろ……腹も減ってるし、さっきのよくわからねえ太極拳でじり貧だっての……」

夏葉「そうよね……人間は体力的に厳しい段階よね……」

ルカ「……アンドロイド目線が沁みついてきたな」

夏葉「……! やだ、私ったら……」

ルカ「照れるのはそこなのかよ……」


-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

225: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/01(日) 17:16:18.40 ID:CYEyM7vd0
1.【ジャパニーズティーカップ】

226: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 17:28:41.97 ID:/h8laeKX0
1 選択

【ジャパニーズティーカップを渡した……】

夏葉「あら、随分風情ある贈り物ね。凛世が好みそうな装丁が施されてあるわ」

ルカ「ただの湯飲みってわけじゃないらしい。これを使うとただの水でも甘く感じるんだと」

夏葉「それはすごいわね……! ぜひ試してみたいわ!」

夏葉「惜しむらくは、今の私の味覚はあくまで再現品だということ。生身のうちに試してみたかったわ」

夏葉「でも、とても嬉しいわルカ。ありがとう」


【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

ルカ「……ああ、くそ」


元から健康体でない身体に食事抜きと言うのは思っていた以上に大きな影響を与えているようで、思わずよろけてしまった。
らしくもねえ、弱弱しい素振り。
そのままメカ女の手を取ってしまったのが余計に癪。


夏葉「ルカ……あなた、本当に大丈夫なの? 無理はせずちゃんと休んでちょうだい」

ルカ「別に無理なんかしてねー、それに何かしてねえと逆に空腹を意識しちまって頭が狂うんだよ」

夏葉「……そうよね、気持ちは分かるわ。でも……」

ルカ「南国の陽気が余計にきついんだろうな、日差しが体力を持っていきやがる」

夏葉「もう……すぐそこの小陰で少し休みましょう。備蓄していた水ならあるから……」


メカ女に促されるまま、木の下で座り込む。
私をエスコートするその間も、ずっとエンジンの駆動音が聞こえていたのがなんとも妙な感覚だ。


夏葉「……ごめんなさいね、私も体が変わってしまってから体調管理に少しだけ鈍感になってしまっているのかもしれないわ」

ルカ「自己意識の変化ってとこか」

夏葉「お恥ずかしい限りよ」

ルカ「いや、そういうもんだろ……もうオマエは管理の要らない完全体なんだから」


休息も栄養も、電気ですべて事足りる。
生物の高燃費で小回りの利かない生活よりは、よっぽどスマートだと言えるだろう。
でも、それを改めて口にすると……こいつは切なそうな顔をする。


夏葉「……完全、ね」

夏葉「私は、もともとカンペキな人間……トップを目指してここまで歩んできたわ。何をするにしても、やるからには頂点が信条だったの」

夏葉「でも……私はその景色を見る前に、道を違えてしまった。私の意志ではないにせよ、もう戻れないところまで来てしまった」


それは、おそらく体のことを指しているのだろう。
あれほどまでに自信に満ちた佇まいはすっかり錆びついて、しおらしくなっていた。
伏し目がちに、排気をしているその様子は、年季の入った旧車にすら重なって見える。


(……自信、か)

夏葉「誰かを守るため、この体になったことに後悔はないわ。でも……」

夏葉「生活が変わることに少しだけ寂しさを感じるのは、ダメなことなのかしら」

夏葉「こんな体では、もう元々の生活には戻れないでしょうから」


1.前例がないだけだろ?
2.オマエの周りの連中が、受け入れてくれないと思うか?

↓1

227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/01(日) 17:31:25.09 ID:3NZpndnO0

228: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 17:39:17.62 ID:/h8laeKX0
2 選択


ルカ「……らしくないんじゃねーの」

夏葉「……えっ」

ルカ「オマエは相当に周りに恵まれてる、そうじゃなかったのか? まあ、私からすりゃただの仲良し集団のお節介でしかねえんだけど……」

ルカ「あれだけ殺害予告しといた私を能天気に迎え入れた連中、それがオマエの周りにもいるんだろ?」

ルカ「だったら、何を心配することがあるんだよ。オマエの姿が変わったからって、他の連中の反応が変わるかよ」

ルカ「……実際、今ここにいる連中はオマエを化け物扱いはしてねーぞ」

夏葉「ふふっ……まさか、あなたにそれを教わることになるとはね」

ルカ「教えてねー、思い出させただけだ」


こんな青臭いことを師事したと恩義を持たれるのは御免だ。
私は友情だの絆だのとは無縁。
あくまで今の関係も、利用しあって生き延びるため、それだけの一時的な繋がり……

それなのに、メカ女はそのカメラレンズ越しの瞳を、無邪気に転がして私に微笑みかけた。


夏葉「……そうね、有栖川夏葉という存在をこの世界に、この歴史に刻み付けるうえではいいアクセントになるのかもしれないわ」

ルカ「かもな、私みたいな腫物でもやっていけてんのがこの業界だから」

夏葉「ふふっ、そんなことないわ。あなたのものも、れっきとした立派な個性よ」

ルカ「……うるせー」

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【有栖川夏葉の親愛度レベル……11.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…34個】

229: この安価で終わりにします ◆vqFdMa6h2. 2022/05/01(日) 17:43:39.67 ID:/h8laeKX0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

「……ハッ」

あんな安っぽい言葉ですぐに元気になるんだからお気楽な連中だ。
アンドロイドになったところでそれは変わらない、さぞ機械化するときの回路とコードも簡単だったことだろう。

それだけ簡単で単純なものなのに……きっと、作り出すのは難しい。

私は少なくとも、普通に歩んでいるだけじゃああはならなかった。

一体、どこから違うんだろうな。


【自由行動開始】

【事件発生前最終日の自由行動です】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…34個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/01(日) 17:45:19.79 ID:CYEyM7vd0
1.夏葉

235: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 16:56:06.60 ID:S6n2p1Il0
1 夏葉選択

【夏葉の部屋】

さっきの今、空腹と南国の陽気に当てられて。
時間を持て余しているからといってどこへ行けるでもなく、私の足は自然と休息を求めていた。
時間潰しと休息の兼ね合いという贅沢を前に、思考は一つの結論を導き出す。
「さっき一度迷惑をかけたのだから1回も2回も同じ」。


夏葉「あなたが部屋に来てくれるなんて珍しいわね」

ルカ「……嫌ならそう言え」

夏葉「とんでもない! 歓迎するわ、ルカ。あいにく飲み物はオイルしかないのだけど」

ルカ「……だと思って持ってきた。空調だけ効かせてくれれば結構だ」

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‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/05(木) 18:01:59.18 ID:Nl54n6u10
1:竹刀

237: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 21:20:58.50 ID:S6n2p1Il0
1 選択

【蒔絵竹刀を渡した……】

夏葉「これは……随分と凝った装飾の為された竹刀ね」

ルカ「オマエんとこのユニット、確か和服のやつがいただろ?」

夏葉「あら、それじゃあこれは凛世に言づけておけばいいのかしら?」

ルカ「……言づけるも何も」

夏葉「……意地悪を言ってしまったわね。ありがとう、ルカ。あなたの気持ちはよく伝わったわ」

夏葉「ありがとう、大切にさせてもらうわね」

ルカ「おう」

(まあ、普通に喜んだか)

-------------------------------------------------

ワックスのかけられたフローリングはゴム製のソールとの摩擦でアザラシの鳴き声のような音を立てる。
それに時折混ざるのが、金属質な者が奏でる駆動音。
熱気で思わず汗ばむ空間の中央で舞っているのは、彼女だった。


夏葉「……どうかしら、ルカ。振りも歌唱も衰えていないでしょう?」

ルカ「……おう」


いつだったかにテレビで見た通り。
有栖川夏葉は相変わらず画面の中とまるで同じな溌剌として愛らしいパフォーマンスをしてみせた。
完全すぎるほどの再現で。


238: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 21:22:14.29 ID:S6n2p1Il0

夏葉「この体になってからも練習は欠かしていないの。いつ元の生活に戻ってもすぐに人前に出れるようにしておきたいじゃない?」

ルカ「……」


果たしてその練習に意味はあるのだろうか。
元通りの生活に戻るとか、そういう文脈だけではない。
機械仕掛けの存在が、練習なんてことをするのに意味があるのか?
プログラムされた通りに同じ動作を繰り返す、その再現性には寸分の狂いもない。
1回目のパフォーマンスも、10000回目のパフォーマンスも全て同じはず。
本人がどれだけ力を込めようとも、どれだけ力を抜こうとも、そこに差異はない。
こいつがやっているのは、ただ自分の体に寿命を近づける……


______自傷行為だ。


239: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 21:23:13.30 ID:S6n2p1Il0

夏葉「私、こんな体になったからといって諦めるつもりはないの。一度決めたからには頂点を掴み取るまで妥協しない。有栖川夏葉の名前をこの世界に轟かせるわ」

ルカ「……」


やっぱり、こいつは美琴に似ていると思う。
高みを目指すという口実のもとに、目の前にある練習という麻薬に依存しているだけの空虚な存在。



『私には、これしかないの_________』




本当は練習の『その先』なんて、てんでぼやけているのに。



ルカ「なあ、そんなに盲目的になる必要は______」


240: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 21:24:21.13 ID:S6n2p1Il0



夏葉「そのための、最高のステージは自分自身で作り出してみせる」

ルカ「……!」




夏葉「わかっているわ、私の置かれた境遇が元通りを許してくれないことぐらい」


夏葉「好奇の目に晒され……同情だって向けられるかもしれないわね」


夏葉「だから、自分のパフォーマンスを磨くこと以上に……私は私自身の居場所を作り出すことに努力したい」


夏葉「私を待ってくれる仲間と、私を待ってくれるファンの人たちがいるのだもの。彼女たちと一緒に私は頂点に行く」


夏葉「可笑しいわね、初めは一人で登り詰めようと思っていたのに……それでは寂しく感じてしまうの」


241: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 21:26:44.49 ID:S6n2p1Il0


『アイドルでいられない人と私は組めない』


ルカ「……見当違いだったよ」

夏葉「ルカ?」

ルカ「いや、なんでもない。オマエはオマエの思う通り練習を続ければいいと思う」

ルカ「それぐらいしか、この島じゃ時間を潰す方法もないしな」

夏葉「ええ! もちろんよ! 1秒も時間を無駄になんてしていられないわ!」

ルカ「……皮肉が通じねえ」


人間のように豊かな表情筋は持たない。
機械的に口角が上がって目尻が動くだけ。
ただ、その先のライトの発光がほんの少しだけ柔和なものになったような気がするのは……


きっと電池の残量のせいなんだろうな。

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【有栖川夏葉との間に確かなつながりを感じる……】

【有栖川夏葉の親愛度レベルがMAXに到達しました!】

【アイテム:極上の赤ワインを獲得しました!】

・【極上の赤ワイン】
〔彼女の生まれ年に醸造させられた上質な赤葡萄のワイン。突き抜けるような爽やかな酸味が、20年と言う時の蓄積を感じさせる〕

【スキル:cheer+を習得しました!】

・【cheer+】
〔発言力ゲージを+5する〕

242: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 21:30:22.67 ID:S6n2p1Il0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

全てがすべて、人間が人間たる部分まで変えられてしまったというのに、変わらないものというのはあるらしい。
私たち生身の人間の方がよっぽど脆弱で、よっぽど変化させられている。

それほどまでに、あの機体に一本通った芯と言うものが強固なようだ。


「有栖川夏葉……か」


私と同世代で、対極にいるアイドル。

いや、対極に『いた』アイドル。

……今の立ち位置がどうなったかなんてのは、言うだけ野暮な話だろう。


【自由行動開始】

【事件発生前最後の自由行動です】


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【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…35個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1

243: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/05(木) 21:32:20.90 ID:jkNcRtH/0
1.雛菜

244: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 21:40:48.80 ID:S6n2p1Il0
1 雛菜選択

【第1の島 ロケットパンチマーケット】

雛菜「はぁ~……お腹すいた~……」

ルカ「……よう」

雛菜「あ、こんにちは~……何か雛菜にご用事ですか~?」

ルカ「用事かって言われてもな……」


常にお腹を押さえて前かがみ。
視線はどこか伏し目がちにため息交じり。
いつものこいつらしからぬ様子に、思わず声をかけずにはいられない。

空腹が不調を招いているのはもはや火を見るよりも明らか、と言った様相だった。


ルカ「ま、気を紛らわすのぐらいは手伝うってこった」

雛菜「……そうですか~?」


まあ、こいつはまた違った悩みもあるんだろうが。

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‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【ジャパニーズティーカップ】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

245: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/05(木) 21:43:14.82 ID:jkNcRtH/0
1.【クマの髪飾りの少女】

246: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:01:38.19 ID:S6n2p1Il0
1 選択

【クマの髪飾りの少女を渡した……】

ルカ「オマエ、確かクマのキャラ好きだったよな?」

雛菜「あ~、ユアクマちゃんですか~?」

ルカ「そう、よく知らねーけど……この絵にも似たようなキャラが書かれてて……」

雛菜「え~?」



雛菜「……こ、これ……何、この絵……」

ルカ「……え?」

雛菜「わかんない……雛菜、この絵に描かれている人も、キャラクターもまるでわからないけど……」

雛菜「見た瞬間から、寒気が止まらない……」

ルカ「お、おいどうしたんだよ……急に……!?」

雛菜「こんなの要らない……雛菜、この絵大嫌い~~~~~~~!!!」

ドンッ!!

ルカ「な、なんだよあいつ……突き飛ばしやがって」

ルカ「……こ、この絵……なのか? な、なんだったんだ……?」

(その絵に視線を落とすと)

(ピンクのツインテールに白と黒のクマの髪飾りをした少女がほほ笑んでいた……)


(……どうやら最悪のプレゼントだったらしい)

【BAD COMMUNICATION】

【親愛度が減少します……】

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【市川雛菜の現在の親愛度レベル…5.5】

247: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:03:02.19 ID:S6n2p1Il0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


はぁ……クラクラする。
ほんの二日、食事を抜く。それぐらいのことはこれまでにもあったかもしれない。
完全な断食ではないにせよ、多忙を極めた時はゼリー飲料を流し込んで終わらせるようなことだって何度かあった。

状況はそれとそう変わらないはずなのに、これほどまでに苦しいのは、きっとこの島のせい。
自分の身の上、過去にあったかもしれないコロシアイ、美琴との仲違い……
そういう漠然とした広大な不安感は私の精神をスリップダメージのように削り取り、肉体も内側から食い破っていた。
空腹はそこにトドメを指す最悪の一手。

自分の部屋でさえもぐんにゃりと粘土のように歪み始めた。
私も相当に来ているらしい。

なんでもいい、早く何かを口に入れたい……


「ああ、ダセェダセェダセェダセェ!! こんなの、私じゃねえっての……!!」


自分相手に自分を取り繕えなくなったらもうお終いだ。
こんな自分、見ていたくない。起きていたら余裕の無くした自分に気づいてしまって、いつか気が狂う。
ぐうぐうと喧しい腹の虫を無理やり押さえつけて、瞼を必死に下ろした。

248: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:04:13.50 ID:S6n2p1Il0
____
______
________

=========
≪island life:day 21≫
=========

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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


昨日よりも更にごりっと体力が持ってかれている。
もはや瞼を開けることも厳しいぐらい、口にまともなものがここ二日一度も入っていない。
食物を消化するために本来分泌されるであろう唾液は行き場を失い、口の中は妙な感触を作り出す。
頬と歯茎がくっつくように、妙に粘着質だ。
そんな中から迫出されるため息が清々しいものであるはずもなく。


「……そういや、ヤドカリって……あの見た目でカニの仲間なんだったか」


なんてクソみたいな考えもよぎるほど。
すっかり落魄れてしまったカミサマの姿がそこに在った。


「……落ち着け、とりあえず冷静になって……太極拳に行かねーと」


ぼんやりした思考に無理やりに行動の目的と言う核を埋め込んで、体を動かした。
顔を洗って服を着替えて、出る支度を整えるまでに幾度となく腹は鳴った。
もはや腹の音は聞きなれて環境音にも等しい。
『お腹が減った』という認識から、『何かを食さねば』という義務感に徐々に変わりゆく、そのフェーズの途中だ。


「……はぁ、行くか」

249: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:05:31.91 ID:S6n2p1Il0
-------------------------------------------------

【中央の島 ジャバウォック公園】


智代子「おはようブラックサンダーちゃん! 今日も甘そうだね!」

ルカ「……あ?」

恋鐘「智代子はさっきからこげん感じたい……もう目に入るものすべてが食べ物に見えとるとよ」

智代子「あはは、ちゃんぽんちゃん! そんなに私が食い意地を張ってるみたいな言い方はやめてよ~!」

あさひ「冬優子ちゃん、昨日図鑑で調べたんすけどゴキブリってエビみたいな味がするらしいっすよ」

冬優子「あんたそれ行動に移したら絶縁だから」

透「どっか芋とか埋まったりして無いかな」

雛菜「最悪土でも食べればお腹は膨れそうだよね~」


絶食状態もここまで続くと地獄絵図だ。
全員がその欲望を包み隠そうともしなくなり、荒唐無稽なことばかり口にして現実逃避。
そのやつれた頬も相まってかなり悲壮感の漂う光景、これまでの日常からは想像もしなかった世界だ。


250: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:07:32.79 ID:S6n2p1Il0

冬優子「はぁ……こんなでも太極拳はやらなきゃならないって、ほんと終わってるわ」

ルカ「……だな、腹の足しになるどころかマイナス……このままじゃマジで衰弱死しちまうんじゃねーのか」

冬優子「それだけは御免よ……死ぬ前の最後の食事ぐらい、選ばせてほしいわ」

ルカ「ハッ、言えてるな……」


だが、私たちがいくら愚痴を言おうとも……その日の太極拳は中々始まらなかった。
つい先ほど召集のアナウンスだって流れたはず、それなのにモノクマは一向に姿を現さない。


雛菜「もしかして、昨日の一回で飽きちゃったとか~?」

智代子「だとしたらアナウンスは普通やらないよね……?」

冬優子「……ていうか、なんかヘンよね?」



あさひ「人数、足りてないっすよ」



ルカ「……!?」


251: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:09:00.88 ID:S6n2p1Il0

空腹から来た眩暈でよく見えていなかったが、辺りを見渡してみると確かにその通りだ。
私たちから距離を置こうとしていた美琴……そして、この状況下で誰よりも元気なはず、食事を必要としない存在になった……



【有栖川夏葉】の姿が見えていない。



ルカ「お、おい……モノクマ! この状況……説明しやがれ!」


カメラに向かってそう叫んでもまるで応答はない。自分の叫び声が周辺の木々に吸収されて終わり。
ここしばらくの絶食で完全に抜けきっていた体の力が俄かに蘇る。
体力を維持するためにパフォーマンスを落としていた体の器官という器官が過剰なほどに活動を始めた。
視界は開け、耳は音をよく拾い、そして肺は必要以上に酸素を取り入れる。

それは活力なんて前向きなものではない、脳裏によぎった最悪な予感を検証するための……義務としての活動力。


252: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:10:19.40 ID:S6n2p1Il0

ルカ「急いで探しに行くぞ……!! 胸騒ぎがしやがる……!!」

冬優子「分かった、でも……どうするの? どこにいるかまるで見当もつかないじゃない」

あさひ「智代子ちゃんは夏葉ちゃんと一緒じゃなかったっすか?」

智代子「昨日の夜に会ってからはそれっきりだから……そ、そんなわけないよね!? 夏葉ちゃんが……そ、そんなわけないよね?!」

透「……確かめないと、絶対」

冬優子「しょうがない、片っ端から探し回りましょう。分担して、複数人で残り四つの島を調べるわよ」


冬優子の言う通りに私たちは少数グループをいくつか作り、第1の島から第4の島に至るまで、その全てを捜索する事にした。

私が請け負ったのはもっとも新しいエリア……第4の島。
遊園地なんて、訪れる理由は早々ねーはずだが……万が一のことだってあり得る。
嫌な胸騒ぎを感じつつも、私は島を渡った。


253: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:11:36.46 ID:S6n2p1Il0
-------------------------------------------------
【第4の島】

第4の島の広大な敷地、アトラクションのすべてを見ていたら正直キリがない。
ある程度見当をつけてから調べに行くべきだろう。

そう、思った。

調査にかける労力だけで見れば、この結末は幾分か助かるものだったかもしれない。
今のこの衰え切った体力と思考力では、いつ見つけられるかもわかったものではない。

そう、発見は早ければ早いほどいいものだ。それは間違いない。
でも、対面が早ければ早いほどいいというものでもない。


対面には必要な準備、【覚悟】と言うものがある。


……すっかり忘れていた。
この島がそんな覚悟なんてものに猶予を与えてくれるはずがない。
そんな慈悲があるのなら、私たちがこんな状況に陥っているはずがないのだから。




254: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:12:44.41 ID:S6n2p1Il0


「……嘘、だろ」


こいつだけは、死ぬはずがないと思っていた。
誰も殺せるはずがないと思っていた。
殺していいはずがないと思っていた。
だって、こいつはかけがえのないものを守るために、一度その身を挺して肉体を滅ぼしたのだ。
死の淵からよみがえった人間を改めてもう一度殺すなんて、そんな胸糞の悪い話が、あってたまるかよ。
きっと犯人は、人間として大事なものが欠落している存在なんだろう。



____そうでもなきゃ、



255: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:14:00.75 ID:S6n2p1Il0





【有栖川夏葉の身体をバラバラにして殺害】なんて、できるはずもない。






256: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/05(木) 22:15:09.90 ID:S6n2p1Il0
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CHAPTER 04

アタシザンサツアンドロイド

非日常編



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262: 少し早いですが再開します ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:39:03.45 ID:rCMCDoJ90
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CHAPTER 04

アタシザンサツアンドロイド

非日常編



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263: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:41:29.70 ID:OQT/+f4M0

よくテレビで世界の衝撃映像なんてくだらない番組をやっている。

世界中から集めたハプニング映像だとか、規模の大きな化学実験だとか、
そういうのを集めて出演者のリアクションを集めるのが目的の省エネルギー番組。
子供の時から、やる気のないバラエティだと思っていた。

そんな番組で時々、プレス機を使った実験をする動画が流れた。
水風船やスイカなんかをプレス機にかけてスロー再生したりだとか、子供のおもちゃを押しつぶしてその形態変化っぷりを笑ったりだとか。

なんというか、悪趣味だなと思った。

既に完成された形あるものを、抵抗もできないほどの圧倒的な力で捩じ伏せて破壊する。
その絶対的な力関係を体現したような動画を嬉々としてみる人間の気が知れなかった。



____普段見ているものが拉たり歪んだり、形を変えられてしまうことの気色悪さを、改めて噛み締めていた。



私の目の前に散らばっているのは人体ではない。

だが、人型であったはずのそれは……見る影もないほどにバラバラの鉄の塊となってしまっていた。


「嘘……だろ……? なんだよ、これ……」


264: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:42:45.00 ID:OQT/+f4M0

気がつけば私は両膝をその地面につけていた。
ここ暫くの断食による肉体の疲労も相まって、肉体の虚脱感は凄まじく、意識はもはや肉体の外にあった。
有栖川夏葉のその成れの果てを今のか細く弱りきった体ではとても受け止めきれず、空っぽになった臓物を絶望と困惑が埋め尽くした。

どうして、よりによってこいつなんだ……?
本当にこの島では不条理なことしか起きない。
一度助かったから、もう無事……なんて物語のお約束ごとなんてこの島では守られやしない。
小宮果穂を庇い、肉体を完全に失ったというのに、それに飽き足らず機械の体すらも引き裂いての殺害。
ただ命を奪うだけに終始しない、犯人の手口とそこに交じる感情に苦々しい液体外から迫上がる。
つい昨晩まで言葉を交わした口と言葉を生み出す咽喉は距離を隔て、
機械の体になってから筋肉もないのに鍛えていた自慢の肉体は無残に断裂し、血管のようなケーブルがその間間に垂れ下がる。
肉体を繋ぎ、エネルギーを運んでいただろう液体は地面を黄緑色に染め上げ、私の鼻を刺激的な臭いが刺した。


「……クソッ」


茫然としかける自分を何とか揺り戻す。
今私が死体を発見したこの瞬間から、命を懸けた戦いの火ぶたは切って落とされているのだ。
嘆いているような時間などない。
力の抜けきった膝は、不格好に震えながら上体を持ち上げた。

265: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:43:43.56 ID:OQT/+f4M0
____
______
________


恋鐘「な、夏葉……!? な、なんね……!? なにが起きとる!?」

冬優子「……惨いわね」

透「これ……エグいなぁー……」


これまでに死体を発見する事、三回。
そのいずれも凄惨という言葉を用いるに足る現場ではあった。
死を迎えた人間とはそうした修飾語を用いなくては表現のしようもない有体である。

だが、バラバラの死体ともなるとまた事情が違う。
これまでの凄惨とはまた尺度の異なる凄惨。
自分自身の身体の節々が妙にソワソワするような、そんな心地の悪い感触を抱かずにはいられない。


266: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:44:29.57 ID:OQT/+f4M0

智代子「なつ、はちゃん……?」


甘党女はその、頭部だったものを持ち上げて抱き抱える。
かつて眩しすぎるほどに輝いて、私たちを導いていたその瞳のランプはもう灯ってはいない。


智代子「どうして……どうして夏葉ちゃんが殺されなくちゃいけないの……」


甘党女の瞳から涙が滴り落ちて、その無機質な金属面を伝う。
これは感動的な御伽噺でも、ファンタジーのご都合話でもない。
いくら故人を偲んで涙を流そうが、命失し者はもう戻ってはこない。


智代子「なんで、犯人は2回も夏葉ちゃんを殺したの……? もう、果穂のおしおきで一度死んじゃってるんだよ……?」


その質問には誰も回答を返せなかった。

267: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:46:19.83 ID:OQT/+f4M0

ピンポンパンポ-ン!!

『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


黙りこくる私たちの背後で鳴り響くアナウンス。
すぐにモノクマもその姿を表した。


モノクマ「死……それは何よりも平等なもの……動物だろうと植物だろうと、有機物だろうと無機物だろうと等しく平等に訪れるのです……」

モノクマ「人間の魂を持った無機物だった有栖川さんにも、それは訪れる……回路の機能停止という絶対的な死がね……」

ルカ「来やがったなモノクマ……!」

モノクマ「いやはや、驚いたね。誰よりも強力な肉体と精神を手に入れた彼女がこんなカタチで退場しちゃうなんてさ、ユウェナリスもおったまげでしょ」

美琴「彼女が破壊された場合でも、やっぱり事件としてみなされるんだね」

モノクマ「当然! オマエラにとってかけがえのないお仲間だったことは変わりないでしょ?」

智代子「夏葉ちゃんはどんな姿に変わろうとも、夏葉ちゃんだったもん……その命を奪った犯人、絶対に見つけ出さないと……!」

ルカ「おう……こんな胸糞悪い事件、犯人をみすみす見逃すわけにはいかねえ」

雛菜「それに、雛菜たちの命だってかかってますからね~」

モノクマ「おっ、ノリノリですなぁ! でも、そんな体調で本当に犯人を見つけ出すことなんてできるのかな?」


268: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:47:27.94 ID:OQT/+f4M0

私たちを一瞥して首を傾げるモノクマ。
何を熱を冷ますようなことを言い出すのかと思うと、そのすぐ後に意図を介した。
仇を討とうと奮起する心情とは裏腹に、肉体は悲鳴を上げている。
ここ数日何も食事を口に運んでいないその体は、不自然なほどに震えていた。
事件に対する恐怖や不安とはまた別の震え、肉体に貯蔵されていた栄養素を分解しているであろう、見たことのない痙攣を前にして自分自身でギョッとした。


モノクマ「空腹は最大の敵! そんな状態じゃ捜査のために駆けずり回ったり、頭を働かせて推理したりなんて出来ないでしょ?」

あさひ「うぅ……お腹はずっと空いてるっすよ~……」

恋鐘「そげんこつ言うたって仕方なかよ……無茶をしてでも事件に向き合わんと!」

モノクマ「肉体に鞭を打ってでも学級裁判に向き合おうというその姿勢! いかにも日本人らしい社会の歯車精神ではございますが……」


モノクマ「今回はその必要はございません!」


そう言うとモノクマは仰々しく右手を高々と掲げてみせた。
そこに握りしめられていたのは……



モノクマ「あんパンと牛乳~~~~~!!」




269: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:49:45.79 ID:OQT/+f4M0

ルカ「お、お前……それって……」

モノクマ「約束だったからね、今回の動機は事件が起きるまで食事抜き! 事件が起きた今、オマエラには食事を口に運ぶ権利があるんだよ」

モノクマ「ほら、ここに段ボールに入れてきたのがあるから一人一セット、捜査の前にしっかり栄養補給してから臨んでよね。そうじゃないと学級裁判どころじゃないでしょ?」

ここ数日ずっと探し求めていた食料。
私たちは考える間もなくその箱に群がって飛びついた。

ずっと何も口に入れておらず、唾液ばかりを何度も味わい続けた口の中で、あんパンの優しい甘さがじんわりと広がっていく。
だが、そんな甘さを嚙みしめているような間はない。
本能と肉体とが、味の検証よりも栄養の補給を優先した。
両手に収まらないぐらいの十分な大きさがあったあんパンはみるみるうちに小さくなっていき、
瓶いっぱいにそそがれていた牛乳も、何のつっかえもなく咽喉へと注ぎ込まれて一瞬にして空。

食事と言うにはあまりにもお粗末な咀嚼をし終えて、一呼吸。
腹を満たす満足感、指の先まで染み渡る息を吹き返したような感触。

270: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:50:45.00 ID:OQT/+f4M0

そして、メカ女に対する並々ならぬ思いがこみ上げてくる。
今この体に入っていった栄養は、こいつの死があってこそのもの。
感謝なんてするわけではない、それは死の冒涜に他ならない。

かといって、謝るのも違う。私とメカ女との関係性をはき違えた言葉は送るべきじゃない。



____では、死を犠牲にして生き永らえた私たちから送るべき言葉はなんなのだろうか。



その答えがどうしても見つからず、私はただ手を合わせた。
何もしないのも気が済まず、手持ち無沙汰になった体で無理やりできる表現のかたち。
何を表現しているのかもわからないが、祈りとは元来そういうものなのだろうと悟った。
言葉にできない万感の思いと言う奴だ。
共に同じ時間を過ごしてきた人間として、私にできるのはそれくらいのものだった。


ルカ「……ごちそうさま」


他の連中も、一通り食事をし終えると不思議と手を合わせていた。
食前食後のただの習慣のやつもいたんだろうが、少なくとも甘党女のそれは私と同じ文脈にあるものだったんだと思う。
そうじゃなきゃ、わざわざメカ女の方に体まで向けはしないだろう。


271: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:52:22.67 ID:OQT/+f4M0

モノクマ「食事というのは間接的な他殺に他なりません。生きとし生けるもの、常に殺しと共にある。ぼかぁそういう営みの尊さを、この同期提供で噛み締めてもらいたかったんだよね」

モノクマ「どうだい? 有栖川さんを犠牲にしたあんパンのお味は」

ルカ「……クソまずい」

モノクマ「そうかいそうかい! 罪悪感のソースはお口に合いませんでしたか!」


モノクマには好きに言わせておくことにした。
私たちが感じているのは罪悪感なんかじゃない、せいぜいその見当違いな解釈ではしゃいでいればいい。
その余裕ぶった態度にできる油断の隙、それをいつか必ず穿ってみせると決めて、私は背を向けた。


ルカ「……美琴」

美琴「……」


美琴はなおも私と協力する気はないらしい。
言葉に何の反応も見せぬまま、死体のそばにより、一人で捜査を開始した。
寂しさよりも申し訳なさが先に立つ。
あんなに千雪が世話焼いて取り持ってくれた仲を守り続けることができなかったなんて、千雪の墓前でどんな顔をすればいいんだろう。


でも、それもこれも嘆いている暇などない。
手から零れ落ちてしまうのなら、それを掬い上げる何かを用意しなくてはならない。
この島において、それは事件の真実になるだろう。
間違った選択をしないこと、自分たちが生き延び続けること。
その道を歩み続ける限りは、対話の瞬間がきっと生まれるはず。

それを信じるほかないんだ。

気合入れろ、頼れるのは……自分だけだ。


【捜査開始】


-------------------------------------------------

272: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:54:42.40 ID:OQT/+f4M0

さてと、まずは事件の概要から確認しておくか。
電子生徒手帳を取り出して起動してみると、案の定既にモノクマによってデータが共有されていた。
指先で画面をつつき、モノクマファイルを展開する。


『被害者は有栖川夏葉。被害者は先日の学級裁判によるおしおきの巻き添えに遭い、身体機能の多くを失ってしまったため、機械の体に意識を移植する手術を受けていた。死亡推定時刻は昨日深夜3時ごろ、死体は第4の島の外周、砂地の上で発見された。人間にあるはずの臓器の類いを被害者は有してはいないが、全身に強い衝撃を受けたことにより回路系統を損傷して機能停止を起こしたことをもって死亡したと判定した。損壊は激しく、四肢と胴体部、頭部などはバラバラになっており、凹みも激しい』


なるほど、人間ではない被害者ということでどんな記述になると思ったが、
機械の体に埋め込まれている回路の損傷をもって死亡したと断定するらしい。
人間の心臓が拍動して体中に血液を巡らせ、栄養を運ぶように、アンドロイドの身体は回路が電気信号を走らせて情報を運ぶ。
まさに心臓部と呼べる部分があったんだろう。

死因と死体の有様とは矛盾しない。
死体はまさにバラバラ死体と言うべき状態で、ボコボコに凹んだ死体のパーツが辺りに散らばり、オイルもその場に撒き散らされいる。
その光景を人間に置き換えてみるとぞっとする。
……いや、そんなことを考えている自分の方が残虐か。

ともかく、今回の事件は特殊なんだ。
このモノクマファイルはいつも以上に有力な証拠になるだろうな。


コトダマゲット!【モノクマファイル4】
〔被害者は有栖川夏葉。被害者は先日の学級裁判によるおしおきの巻き添えに遭い、身体機能の多くを失ってしまったため、機械の体に意識を移植する手術を受けていた。死亡推定時刻は昨日深夜3時ごろ、死体は第4の島の外周、砂地の上で発見された。人間にあるはずの臓器の類いを被害者は有してはいないが、全身に強い衝撃を受けたことにより回路系統を損傷して機能停止を起こしたことをもって死亡したと判定した。損壊は激しく、四肢と胴体部、頭部などはバラバラになっており、凹みも激しい〕



273: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 20:56:21.98 ID:OQT/+f4M0

今回は、とにかくここを重点的に調べないことには進まないよな。
こういう言い方をするのもなんだが、人体ではなく機械の体だから、今回は自分自身で触って調べることもできそうだ。
まあ、流石につい昨日まで動いているところを見ていたから胸は痛むけどな。

死体を調べてみるとして……パーツごとに調べてみようか。

【頭部】……有栖川夏葉の人間だったころの名残を色濃く残しているパーツだな。あんなに饒舌だったのに、今となっては一切の言葉を発さない。

【胴部】……一番大きな胴体部のパーツだ。やっぱり頑丈なつくりになっているのか、そのまま切り出したような形でゴロンと転がっている。様々な機能がここに集中していたはずだ、確認しておこう。

【腕部】……この第4の島を解放したロケットパンチだ。……大丈夫だよな? 突然、暴発とかしないよな?

【脚部】……あの鋼の肉体を支えていただけあって、他のパーツとは違った構造の断面図が見え隠れしているな。詳しいことは分からねえけど。

-------------------------------------------------

さて、どのパーツから調べるか……

1.頭部
2.胴部
3.腕部
4.脚部

↓1


274: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 20:57:53.83 ID:Ubtp7SOH0

275: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:01:53.62 ID:OQT/+f4M0
1 選択
-------------------------------------------------
【頭部】

溌溂とした笑顔、はきはきとした喋り口、つい後ろをついていきたくなるような温かくも力強い眼光。
そうした彼女らしさに満ち溢れた顔は機械の体になってからも変わらない彼女のアイデンティティであり続けた。
構成する物質が変わりこそすれ、不思議とそれを受け入れられたのはきっと彼女自身が変わらなかったからなんだろうと今になって思う。

そんな、有栖川夏葉のなれの果てがこれなのだ。
大きく凹んだ頭頂部からはオイルがだくだくと溢れだし、カメラレンズとなった眼球は閉じることもなく光を失ってそこに鎮座する。
その表情は、どこか苦悶の色をにじませた。


智代子「……」

ルカ「……なあ、その……調べても、いいか」


甘党女の肩に触れる。載せた手が、彼女の肩に合わせて小刻みに上下した。
私の要求を聞いた甘党女は、しばらく自分の顔と同じ高さに有栖川夏葉の亡骸を持ち上げる。


276: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:02:54.68 ID:OQT/+f4M0

智代子「夏葉ちゃんはね、本当によくみんなのことを見ていてくれたんだ。ユニットで一番お姉さんだったからって言うこともあるけど……きっと、それ以上の理由があったんだと思う」

智代子「こんなカメラレンズなんかじゃなくたって、見えすぎちゃうぐらいの瞳があったんだ。わたしたちのいいところも、悪いところも、辛いところも全部見通しちゃう不思議な瞳」

智代子「こんな、こんなくすんだレンズなんかじゃないよ……!」


もはや直視は出来ていなかった。目を伏せるようにして首を振る。
頬を伝う涙が、動きに合わせて蛇行したのが目についた。
苦しみからもがき逃げ出そうとしているような、現実逃避が露わになったような絵面で痛ましい。
自分の口から出ている言葉を検証もできていないその様子は、流石に私でもこれ以上放っておくことはできなかった。


智代子「……どうして、こんな形で夏葉ちゃんは殺されなくちゃいけなかったんだろう。せめて人の姿のままでって思っちゃう……」

ルカ「それは違うんじゃねーのか」

智代子「え……?」

ルカ「あいつは……この姿になってから、一度だってその変化を嘆いたか? むしろその逆……小宮果穂の死の寸前まで、一番近いところに居たことを誇りに思ってただろ?」


有栖川夏葉という人間は、いつだって自分の選択に後悔はしていなかった。
小宮果穂のおしおきの夜、あの病院に居合わせた者が全員言葉を詰まらせる中でも、当の本人はその体をむしろ誇らしげに見せびらかすほど。
その全てが本当の彼女の心情だったとは言わない。

277: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:04:02.37 ID:OQT/+f4M0

でも、人に見せる姿はそうでありたいという彼女の信念があったことは確かだ。
他の連中を率いる年長者としての責任だけでない、大切な何かがそこに在った。それは甘党女が今口にした通りだ。
だから、こいつだけには……それを否定するような言葉は口にしてほしくなかった。


ルカ「なら、こいつの姿かたちをお前が嘆いちまうのは……こいつの生きざまと死にざまを否定しちまうのは……悲しいことだと私は思う」

智代子「……」


先ほど目を合わせずに逸らしてしまった頭部を、今度はじっと見つめた。
そのカメラレンズがどう映ったのかはわからない。
が、有栖川夏葉が生前守り続けた何かを僅かながらに掴んだんだろう。
意を決したように頷くと、私の方に向き直った。


智代子「……そっか、そうだよね。夏葉ちゃんは夏葉ちゃんで、ずっと変わらなかったんだもんね! ……よし!」

智代子「ルカちゃん、お願いします! 夏葉ちゃんのこと、とことん調べてあげて! それで……夏葉ちゃんの死を……どうか無駄にしないであげて!」

ルカ「……おう」


手渡しされたその頭部はズッシリと重たかった。


278: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:04:57.72 ID:OQT/+f4M0
◇◆◇◆◇◆◇◆◇

頭部の付近には明らかに目を引く異様な物体が落ちている。
いかにもこれで殴りましたと言わんばかりの……巨大すぎるハンマーだ。


ルカ「うお……なんだこれ、めちゃくちゃ重たいな……」

智代子「こんなので殴られたらひとたまりもないよ……夏葉ちゃんの身体がバラバラになっちゃうのも納得だね……!」

ルカ「確かに、これで殴られたらそうだろうな……」


なんとか私たちでも振り回せるぐらいの重量。
凶器として使うには申し分ないだろうが……


ルカ「でも、これで本当にメカ女を殺したのか?」

智代子「え?」

ルカ「きれいすぎるんだよ、このハンマーは」


その金属部分にはオイルが全く付着していない。
人間の血液とはわけが違う、油はしっかりと洗浄しなくては取れないものだし、拭っただけではどうにもならない。
メカ女を殴ったのでもあれば返り血ならぬ返り油が付着していないとおかしいはずだ。


ルカ「それに……疑問は他にもある。このハンマー、一体どこから出て来たってんだ」

智代子「そういえば、こんなに大きなハンマーはスーパーマーケットでも見かけたことなかったよね。見覚えがあれば、こんなの絶対に忘れないはずだよ」

ルカ「……なんなんだ、この不気味なハンマーは」


コトダマゲット!【ハンマー】
〔死体の付近に落ちていた巨大なハンマー。人を殴りつける金属部分にはオイルが全く付着しておらずあまりにも綺麗すぎる。出所不明〕

279: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:07:10.57 ID:OQT/+f4M0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「……しかし、どうやったらここまで大きく凹むんだろうな」

智代子「うん……夏葉ちゃん、ただでさえ石頭だったけど……機械の体になってからは磨きがかかってダイヤモンド頭ってぐらいだったよ」


メカ女の頭頂部は頭蓋骨のかたちに加工された金板ごとはっきりとくぼんでいた。
隙間からオイルが流れ出ており、妙な熱を帯びている。
太陽に透かして見るようにしてみると、全面が薄黒い色になっているのにも気が付く。


ルカ「ていうか……前面に煤がかかってるのか? これ」

智代子「う~ん……なんだか焦げちゃったパン、って感じになってるよね?」

ルカ「この頭の凹みと何か関係があるのか、これって……」


金属製の身体がここまでの有様になる、かなり大きな力が働いたことは間違いないだろうが……その全貌はいまだ見えてはこない。

続いて調査はその頭部のつくり自体に移る。
といっても専門知識は誰も持ってはいない。
機械いじりなんか中学化高校の技術の授業でラジオを作ったぐらい。
隙間から見える基盤なんか見たところで得られる情報は私たちにはない。


280: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:09:48.28 ID:OQT/+f4M0

唯一頼りになるのは、甘党女からの話ぐらいのものだろう。
ユニットの仲間として、誰よりも近くで長い時間を過ごしてきたこいつなら、深い情報まで知っている可能性はある。


ルカ「なあ、お前はメカ女のこの頭を見て……何か気づいたことはないか? 見た目の偏かとかじゃなくて……そう、機能面とかでさ」

智代子「機能? と、言われましても……」

智代子「あっ、夏葉ちゃんの眼、開いたまんま壊れちゃってるね」

ルカ「……? それって変なのか?」


甘党女の言う通り、メカ女の頭部は瞼が落ちておらずカメラレンズの瞳がむき出しの状態になっている。
どうやら人体の構造と同じように、球状のカメラがここには取り付けられているようだ。


智代子「別に変ってわけじゃないんだけど……これ、この状態なら多分……取り出せると思うよ、目玉」

ルカ「……は?! えっ、ちょっ、マジか!?」

智代子「あはは、大丈夫だよ。人間の本物の眼球じゃないんだから」

(いやいや……そういう問題か!?)


281: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:11:22.36 ID:OQT/+f4M0

智代子「……それに、夏葉ちゃんは使える情報は全部使ってほしいと思うはずだから。逃げない方がいいと思うんだ」

ルカ「……そんな風に言われると止められないじゃねーか」

智代子「よしっ、それじゃあいきますよ! ……よっと!」


甘党女が一思いに引っ張ると、すっぽりとカメラレンズの眼球が抜け落ちた。
ケーブルが眼孔から伸びているのがなんとも惨たらしい。


智代子「ちょっと確かめてみるね……夏葉ちゃんに、前にカメラの機能について聞いたことがあるんだ」

ルカ「へぇ……やっぱり、高機能なカメラなのか?」

智代子「うん、光学望遠鏡並みの視力があるのはみんなのいる前でも披露したけど……暗闇でも物が見えるような暗視補正機能もついてるんだ」

ルカ「暗視スコープみたいなもんか?」

智代子「うん、赤外線カメラなんだけどね。周囲の光量を感知して、一定以下になると暗視モードに切り替わるらしいんだ。それに伴ってレンズも変わるんだけど……」

智代子「あっ、やっぱり。このレンズは暗視用……つまり夏葉ちゃんの眼球は赤外線カメラモードに切り替わった状態で殺害されてるね」

ルカ「ってことは……モノクマファイルに書いてあった死亡推定時刻とは矛盾しないな」

智代子「うん、やっぱり夏葉ちゃんは深夜に暗闇の中で襲われたんだ」


私だけじゃこの眼球の見極めは出来なかった。
甘党女の時間の蓄積があるからこその発見だな。


コトダマゲット!【夏葉の眼球】
〔夏葉は光学顕微鏡並みの視力を持っていたほか、暗視モードも備えていた。暗闇を感知すると赤外線カメラに切り替わり、レンズも変化する。智代子曰く、死体となった夏葉の眼球も暗視モードになっていた模様〕


282: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:12:25.69 ID:OQT/+f4M0
さて、残りのパーツも調べちまうか…

1.胴部
2.腕部
3.脚部

↓1

283: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 21:16:30.66 ID:HPrrMSk90
胴体

284: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:18:35.26 ID:OQT/+f4M0
1 選択
-------------------------------------------------
【胴体部】

生前の抜群のプロポーションを形だけ準えたような無機質な胸板。
そこには彼女の努力で練り上げた筋肉も、芸術品のようにしなやかな動きも存在しない。
他の身体と切り離されて落ちている今となっては、もはや人間の胴体であることも疑わしいぐらいだ。
オイルの海に落ちているそれは座礁した船のようにも見えた。


透「あ、これ……使って」

ルカ「ん……ゴム手袋か?」

雛菜「なんか雛菜の看病してくれてた時のやつらしいです~」

(絶望病の時のやつか……)


とにかく、オイルを素手で触ると後が厳しい。この手袋は助かるな。
浅倉透から受け取ったゴム手袋を装着し、胴体部を持ち上げた。


雛菜「なんだかこのパーツ、焦げ臭くないですか~?」

ルカ「ん……? 言われてみれば、たしかに……」


辺りに撒き散らされているオイルの匂いが激しいので若干気づきづらいが、確かに匂いの中に焦げ臭さが混ざっている。
それに注意してみてみると、胴体部のパーツの部分部分は茶黒い焦げ跡のようなものが着いているのも確認できる。
これはなんだ……?



285: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:19:51.62 ID:OQT/+f4M0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「……なんか、砂被ってんな」

透「多分、殺されたときに胴体部分が地面にぶつかって砂を巻き上げたんだと思う。ほら、ここって砂地だし」


これまでの事件と違って、今回の事件は室内でも舗装された地面でもない。
第4の島の外周、何か名前のある施設でもないただの道の一部分なのだ。
踏み固められたただの砂の上に横たわる死体が砂を被っているのも言われてみればそう不自然なことでもない。


ルカ「……にしても、なんだか多くないか? 倒れ込んだ時って、接地面の裏側にまで砂って巻き上がるもんか?」

透「私たちよりかなり重たかったから?」

ルカ「あんまり女性相手に言うべき表現じゃねーだろそれ……」

雛菜「雛菜も不自然に思うな~。小糸ちゃんが小学校の時運動会のかけっこで派手に転んだことがあるんだけど……そのとき、前半分は砂まみれだったけど裏側はそうでもなかったんだよね~」


砂を巻き上げるほどの衝突となると、相当な勢いが必要になると思う。
誰かに撲殺されて地面に倒れ込んだだけで、こんなに砂を被るようなことがあるんだろうか?
ちょっと覚えておいた方がいい情報かもな。


コトダマゲット!【死体に被さっていた砂】
〔夏葉の死体は砂を被っていた。ただ転倒しただけではこれほどの量の砂が巻き上がるとは考えづらく、何か別に勢いよく衝突したのではないかと思われる〕


286: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:21:21.48 ID:OQT/+f4M0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「ちょっとひっくり返してみるか」


かなりの重量のある胴体部。転がすようにしてひっくり返して背面部を確認する。
纏っていた衣服もなく剥き出しになったその背中には……何かが取り付けられていた。
立橋を支えるブリッジ部のように、不完全な半円のような形のそれは何かを通すような構造をしていた。


透「これ、ワイヤーのフックじゃない? ほら、バンジージャンプの命綱とかに使う奴」


くだらないバラエティ番組なんかで見覚えがある。
この真ん中にワイヤーを通すようにして、落下を防止する単純な仕組みだ。


ルカ「まさかバンジージャンプに失敗して死んだ……とかじゃねえよな?」

雛菜「う~ん、バンジージャンプじゃないと思うけど~……このフック、だいぶ緩くなってるね~」


能天気女はフックの接合部をパカパカと開閉して見せた。
なるほど確かに少し強めな衝撃を受けてしまうと完全に開いてしまうようだ。
ワイヤーを通して命綱代わりにしたところで、これでは意味がない。
まさか……こいつの死は事故だなんて……そんなことが?


透「でも、ないよね。肝心のワイヤー」

ルカ「ああ、近くをざっと見た感じ……見当たらないな」

雛菜「なにかの拍子で外れちゃったのかな~」


もともとこいつの身体に取り付けられていたであろうワイヤーは、何かの原因があって外れてしまったに違いない。
その原因が何か突き止めることができれば……事件の全貌を掴むうえで大きな手掛かりになりそうだ。


コトダマゲット!【ワイヤーフック】
〔夏葉の胴体部に取り付けられていたワイヤーフック。だいぶ緩くなっており、少し強い衝撃を受けただけで簡単に開いてしまうようだ〕

287: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:23:09.67 ID:OQT/+f4M0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

私がこいつの背面を確認したのには大きな理由がある。
それは、生前にもこいつが意気揚々と発表したとある機能だ。


ルカ「おやすみスイッチ……どこにあるんだ?」


人間ではなくなったその体に睡眠は必要なのかと求められたときに、疑似的に人間の睡眠を再現する仕組みがあると教えられた。
タイマーを設定すればその時間通りに眠り、目を覚ます……
それが本当に睡眠と言っていいのかは少し言葉に詰まったが、それと同時に言っていたのが『おやすみスイッチ』だ。

押された瞬間にメカ女は強制的にスリープモードになり、一定の時間が経つまでは完全にシャットダウンとなってしまうらしい。
もし、それが事件のさなかで押されていたのであれば……犯人がどんな手口を取ったのかを明らかにすることができる。


透「確か、背中側だったよね」

雛菜「この人にとってはすごく大事な急所だったわけでしょ~? だったらそんなに見つけやすいところにはないよね~」


衣服の下などを重点的に調べてみた。
すると……背面部のかなり下、人間であれば広背筋の中央に当たる部分に……あった。
ガラス窓で守られたボタンには『押すな』のお触書。


透「……押されてるよね、これ」


そのガラス窓は、強引に指で押し割られた形跡があった。


288: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:24:28.74 ID:OQT/+f4M0

ルカ「犯人はこいつのボタンを押して、意識を奪ったうえで犯行に及んだ。どうやらそれは間違いないらしいな」

雛菜「人間でいえば、睡眠薬を飲まされた状態で殺されたみたいなもんですかね~」

ルカ「……でも、どうやってこのボタンを押したんだ?」


今確認した通り、このボタンは背面の押しづらいところにあった。
まさか犯人に言われるがままされるがままにメカ女も黙ってボタンを押されるのを受け入れるはずもない。
きっと抵抗だってするはずだ。

だが、こいつが本気で抵抗をすればこの島の誰も適いはしないはずだ。
ただでさえ体格がいいことに加えて、今は人体改造を受けて攻撃力も防御力も異常に上がっている。
それこそ殴り返されでもしたらひとたまりもない。
犯人は、いったいどうやってボタンを押したというのだろうか……?


コトダマゲット!【おやすみスイッチ】
〔夏葉の背中に取り付けられた強制スリープボタン。背面の見えづらいところに取り付けられたボタンで、夏葉の不意でも突かない限りは押すことは難しい。死体となった胴体部では、ボタンが押されていることが確認できた〕

-------------------------------------------------
さて、残りのパーツも調べちまうか…

1.腕部
2.脚部

↓1

289: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 21:26:43.82 ID:HPrrMSk90
うで

291: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:30:37.33 ID:OQT/+f4M0
1 選択
-------------------------------------------------
【腕部】

ゴロンと転がるパーツ群。
その中で、調査をしている人間が心なしか少ないのは……やっぱり、あれを見ているからだろうな。
モノケモノを一撃のもとに葬り去ったロケットパンチ、あれが暴発でもしようもんなら即死だろう。
こういうところで調査をしている人間となると、やはり……


あさひ「あ、ルカさん。これ見てほしいっす」

ルカ「……んだよ」


狸は私を無邪気に呼び寄せると、まるで臆す様子もなく腕をひょいと拾い上げた。


あさひ「なにか夏葉さん握ってるのに、手のひらが開かないっすよ。力を貸してほしいっす」

ルカ「あ? なにか握ってる……?」


促されるままに見てみると、確かに鉄の延べ棒みたいな指の先に何かが見える。
しっかりとした形のあるようなものではなさそうな、半固形の物質らしい。


ルカ「まさか毒とかじゃねえよな……?」


292: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:31:25.97 ID:OQT/+f4M0

訝しみながら指を一本一本開いていく。
なるほど金属の指は強く握り込まれており、死体そのものに力がこもっていなくとも開かせるには力とコツがいる。
中学生がすぐそばでソワソワしながら見つめる中、丁寧にそれを取り出した。


あさひ「……これ、なんっすか? 」


そこにあったのは、茶色の塊。
どこか湿っているそれは、指で触れるとすぐに形を崩して零れ落ちる。
液体のようにも見えるが、その触感はどこかザラザラもしている。


ルカ「【泥】……だな」


結構期待をして開けた分肩を落とした。
なんてことはない、ただ死の直前に強くその場で握り込んで泥を掴んだというだけの話なのだろう。


ルカ「はぁ、期待外れだったな。犯人に繋がる手掛かりでも握り込んでたら話は別だったが……」

あさひ「……」


293: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:32:16.03 ID:OQT/+f4M0

あさひ「このあたりの地面、別に湿ってないっすよね?」

ルカ「あ?」

あさひ「ぱっと見回してみても、砂地の地面は乾ききってるっす。泥なんて、他には見当たらないっすよ?」


言われてみれば確かにそうだ。
ここに来るまでの道中も、ここ自体もそう。地面は踏み固められた砂地で完走しきっている。
泥濘なんかどこにもない。


あさひ「ちょっと見せてほしいっす」


中学生は泥を手のひらに載せると、その粒を一つ一つ持ち上げて丁寧に覗き込んだ。


あさひ「……でも、混ざってる草とかはこのあたりのものと同じっすね。別に死体が他の所から運ばれたのを示す証拠ではなさそうっす」

ルカ「そうか……泥に含まれてるものがこの島以外のもんだったら、移動した可能性を示すものになりえたのか」

ルカ「でも、そうじゃねーんだろ? だったら……たまたまじゃねーの?」

あさひ「……そうなのかな」


誰かが飲み物を零して、1点だけに泥ができてたとかそんなオチだろうと思った。
……そんなに、不思議がるようなものなのか?


コトダマゲット!【泥】
〔夏葉の死体が握り込んでいた泥。あたりの地面は乾ききっているが、一体どこから出てきた泥なのだろうか〕

-------------------------------------------------

【選択肢が残り一つになったので自動進行します】


294: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:33:12.67 ID:OQT/+f4M0
-------------------------------------------------
【脚部】

かなりの重量がある全身を支えていた二本の柱。
流石に元の姿のままの細さとは言い難く、少しばかり元よりもたくましい作りになっているのが印象的だ。
とはいえ、脚も他のパーツと同様に凹みも激しく壊されてしまっているので、もはやその品評も意味はなさない。


冬優子「はぁ……こんなにスタイルよかったのに壊されちゃってるんじゃ形無しね」

ルカ「おいおい……んなこと言ってる場合か」

冬優子「……純粋に、惜しんでいるのよ。有栖川夏葉の気品や見せ方はふゆもよく見習っていたし……こんなバラバラにされた上に凹まされるなんて残念で仕方ないわ」


残念がる割に触ろうとしない冬優子をしり目に私は脚部を持ち上げた。
オイルが音を立てて跳ねて顔につく。
……冬優子のやつ、これが嫌で手を出してなかったな。


ルカ「……特に変わったところはなさそうだな。バラバラになって破損も激しいことぐらいで」

冬優子「何か脚部に機能は無いの?」

ルカ「これまでに聞いたこともないし……何か変化しそうなパーツも見当たらないな。腕と同じようにジェット噴射で飛び上がったり、とかもなさそうだ」

(まあ、そんなものがあれば脱出のために使ってるか)

冬優子「……そう」

どうやら、この脚部からは大して得られる情報はなさそうだ。

295: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:34:21.54 ID:OQT/+f4M0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

一通り死体のパーツは確認し終えた。
どれもこれもバラバラで凹みも激しい……今回の事件はやっぱり異色だな。
確かに人体とは構造も違うが、犯人のやつ随分と入念にやったものだ。


ルカ「……あれ」


一度距離を取って、遠目に死体を見てみると一つの事に気が付いた。
死体のパーツはいずれも損壊が激しいが……【脚部】とそれ以外のパーツでは発色が異なるのだ。

でも、これは脚部がおかしいのではなく、その逆。
他のパーツのいずれも黒ずんでいるのだ。
さっき各パーツを確認した通り、脚部以外にはすべて【焦げ跡】がついていた。
それがこの色の違いを生んでいるのが……どうして脚部だけ、逆に焦げ跡がついていないんだ?
そもそも、この焦げ跡はいつついたんだ……?
死体のバラバラと、何か関係があるのか……?


コトダマゲット!【死体の焦げ跡】
〔バラバラになっている夏葉の死体には焦げ跡がついている部分があった。脚部以外のパーツに焦げ跡は集中しているようだ〕


296: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:35:19.92 ID:OQT/+f4M0
-------------------------------------------------

現場での調査を一通り終えたが……困り果ててしまった。
これまでの事件ではいずれも死体を調べた後でも周りの物を調べたりだとか、別の現場を調べたりだとか調査の仕様はいくらでもあった。
でも……今回は違う。
死体が落ちているのは第4の島の外周に過ぎず、辺りには特に建物もないし、オイルを見ても死体が移動させられたような跡はない。

……私は、次に何をすればいい?

突如押し寄せた手持ち無沙汰にぶわっと汗が噴き出す。
もちろん調査の手を詰めるつもりは毛頭ない。
それでも、自分の行動の指針が見つからず不安に襲われてしまうのだ。


ルカ「と、とりあえず他の連中の話でも聞いてみるか……!」


迫る時間と空白の脳内。どうにか行動したという事実を求めて、当てもない聞き込みを開始するのだった。


297: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:36:17.11 ID:OQT/+f4M0












≪OTHER SIDE≫



298: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:37:44.87 ID:OQT/+f4M0

死体を確認してすぐに、私は移動を開始していた。

バラバラの死体にみんな目を奪われて、調査は当分彼女たちが占有するだろうし……情報ならちゃんと共有してもらえる。
それなら、私がいるべき場所はあそこではないと判断した。

ルカと同じ場所にいるのがきまずかったというのは否定しない。
あの子が目に付くのが煩わしかったのも確か。
でも、もっとそれ以上に……生き残るために行動をしたいという大義名分はある。

事件が起きたと聞いた瞬間に脳裏によぎった場所。
私はその前に立っていた。


「【ファイナルデッドルーム】……きっと犯人は、ここに来たんだ」


299: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:39:13.42 ID:OQT/+f4M0

私がこのアトラクションを見つけたのは、動機の提示された晩の事。
モノクマらしからぬ、手段を択ばない動機提供に違和感を覚えた私はその意図を調査するために単身第4の島にやってきていた。
この島は夏葉さんが強引に解禁した場所、モノクマにとってそれが想定外だったために決着を焦っているのかと思い、手掛かりを探しに来た。

……けど、どうやら違ったみたい。
モノクマは単純に血に飢えていた。そのためにあんな動機を用意したんだ。

島に来ていた当初は建設中の立て札が立てられていた場所に、我が物顔で鎮座するピエロの顔をした建造物。
入り口の看板にはこう書いてあった。


『ファイナルデッドルームにようこそ!
命を懸けた試練に挑め! クリアすればコロシアイ南国生活において絶対役立つ極上の凶器をプレゼント!』


『極上の凶器』……まさにこの動機のためだけに用意されたような文言。
一刻も早く誰かを殺さなくては自分が飢え死にする。
そんな思考にからめとられている中でこんなものがぶら下げられれば誰でも手に取りたくなる。


でも……気にかかるなのはその前の『命を懸けた試練』の言葉。
モノクマの事だから、はいそうですかとその極上の凶器は渡してくれないのは想像にたやすかった。

だから私はその時は一度引き返すことにした。
まだ……あの子を殺す覚悟もできていなかったし、ルカの説得を受けて少し思うところもあった。
今はまだ、行くべきタイミングじゃないと思った。



____その結果が、今。



300: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:39:55.85 ID:OQT/+f4M0

あのバラバラの死体とその脇に置かれたハンマーを見て、すぐにここが思い浮かんだ。
あんな殺し方は、今までの私たちでは出来ない。
きっと犯人はこの部屋の先で、新しい力を手に入れたんだろうと考えた。
私たちの想像を超える、『極上の凶器』という力を。

それなら、生き残るためには誰かが挑まなくてはいけない。
この島において、知識に隔たりがあること……それはもっとも致命的。

犯人が何を手にして、何を使ったのか。
それを知るために、犠牲となる人間が必要。


「……にちかちゃん」


私は振り返ることもなく、その一歩を踏み出した。


301: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:41:32.93 ID:OQT/+f4M0
-------------------------------------------------
【ファイナルデッドルーム】


ガラララララ……ガッシャーン!


部屋に入ると、すぐに背後の扉が閉められた。
地面からは槍のようなものが何本せりあがって天井に突き刺さった。
なるほど、ここは私のために作られた檻のような空間。
この檻の中で『命を懸けた試練』に挑むらしい。

……と、思いきや。


モノミ「あ、あれ……緋田さん、なんでここに……!?」


この部屋には、想定外の先客がいた。
モノミちゃんは部屋の隅で震えながら私の方を見る。


302: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:42:36.90 ID:OQT/+f4M0

美琴「モノミちゃん、あなたこそ……いつからここに?」

モノミ「えっと……事件が起きて、すぐに……ミナサンのために手掛かりを手に入れたくて……」


なんだ。事件が起きる前からではないみたい。
この様子だと、犯人の正体は知らないみたいだ。


モノミ「でも……この部屋からあちし、脱出できなくなっちゃって……途方に暮れてたところなんでちゅ」

美琴「……脱出できないの?」

モノミ「……はい、あちらを見てほしいんでちゅけど……」


モノミちゃんが指さした側にはもう一つの扉。
でも、そのカギは固く閉ざされている。いくらドアノブを捻ろうともびくともしない。


美琴「困ったね」

モノミ「どうやら、扉の横の機械を使って脱出するみたいなんでちゅけど……そもそも入力パネルすら開けなくて困ってるんでちゅ……」


モノミちゃんの言う通り、扉のすぐ隣には数字を表示している液晶。
その下はネジで留められて蓋をされている不自然なくぼみ。

303: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:43:13.76 ID:OQT/+f4M0

美琴「リアル脱出ゲーム……ってやつかな」

モノミ「みたいでちゅ……あちし、こういうのはからっきしでちて」


せっかく食事を手にしたばかりだというのに、ここから出られないんじゃまた餓死しちゃう。
それ以前に、捜査時間が終わってもモノクマロックに行けないとペナルティでおしおきされちゃうかもしれない。
そうか……そういう意味で『命を懸けた試練』なのかな?


美琴「……それなら、私が出してあげる」

モノミ「え! い、いいんでちゅか!?」

美琴「こういうのは経験ないけど……要はクイズみたいなものだよね? 一緒に頑張ろうか」

モノミ「緋田さん……よろしくお願いしまちゅ! あちし、今夜は温かいお布団で眠りたいでちゅ!」



【脱出開始】



304: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:45:37.13 ID:OQT/+f4M0

さて、この部屋について確認をしておこう。
東西南北、どれもコンクリートの壁で囲まれていて窓もないから情報はこの部屋の中で完結している。
まずはそれぞれの方向について整理をしておこうか。


【北】がさっきも確認した脱出口。
鍵は固く閉ざされていて、その脇には数字を入力するだろうパネル。
でも、今はネジで留められているのでパネルに触れることもできない。
他には壁に大きく『4』の数字が書かれていて、あとこれは……藁人形?
確か、凛世ちゃんがいつも持っている人形はこんな感じだったよね。
そのお人形は無残にも釘で壁に打ち付けられている。


【東】にはぱっと目につくのは大きな金庫とその上に載せられたレターボックス。
金庫はダイヤル式で、4桁の数字で開錠する仕組みみたい。
レターボックスは特殊なつくりをしている……間口の狭い穴の奥にボタンが見える。
どうにかあれを押せれば開きそうだけど……小指よりもさらに細い隙間だ。
何か細長いものをどこかで調達できないかな。
そして、ここの壁にも数字が書かれている。ここの数字は『1』だね。


305: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:46:45.24 ID:OQT/+f4M0

【西】には大きなデスクとその上にノートパソコンが置かれている。
ノートパソコンはキーボードを押しても反応がない。その左のUSBポートに何か指したら反応するのかな?
デスクの引き出しを開けてみたけど……
1段目には『ENSW』って書かれたメモ。これ……なんのことだろう?
2段目には年賀状……? 今年の干支の虎の格好をしたモノクマが書かれてる。
そうそう、虎って干支だと『寅』って書くんだよね。
よく間違えて書いちゃうんだよね……
そして壁の数字は『9』、これまた大きく書いてあるな……


【南】は私が入ってきた入り口でもある。槍のようなものがせり出して檻のようになっているあたり、もう逆戻りは出来ないんだね。
他にあるのはモノミちゃんにそっくりなぬいぐるみ。一瞬どっちが本物かわかんなくなっちゃうぐらいにはよくできてる。
そして、槍に阻まれて見えづらいけど……この数字は、『3』……かな?


大体今確認できるのはこれぐらい。
この中からどうにか脱出の糸口を見つけ出さないと。


306: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:47:18.64 ID:OQT/+f4M0

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
☆これよりファイナルデッドルームの試練、命を懸けた脱出ゲームが開始いたします。

緋田様がとれる行動は【入力】【アイテムの使用】【モノミに相談】の3つです。

【入力】は文字通りのパスコードの入力。
パスコードを入力したい対象を選択し、その回答となるパスコードをお答えください。
見事成功すれば、物語が進行いたします。

【アイテムの使用】で緋田様がゲーム中獲得したアイテムを使用可能になります。
使用したいアイテムと、使用したい対象を合わせて指定することでアクションを起こします。
アイテムは順次増えていきますので、指定をお忘れなきよう。

【モノミに相談】は詰まった時の救済手段。
進行状況に応じてヒントが得られます。
もうこれ以上ないというところまでモノミに相談を持ち掛けると、自動でパスコードを入力してしまうのでご注意ください。
何か別にお願いしたいことがあれば、書き込んでくださればモノミがフレキシブルに対応いたします。

以上のほど、ご確認よろしくお願いいたします。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

(さて、どうしようかな……?)

1.入力 【金庫】
2.モノミに相談

※アイテムが存在しないためアイテムの使用はできません

↓1

307: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 21:49:54.31 ID:HPrrMSk90
入力【金庫】:1439

308: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:53:32.82 ID:OQT/+f4M0
1 入力 【不正解】

ビー!!

美琴「……あれ」

モノミ「おかしいでちゅね……このメモに書かれたアルファベットって東西南北の頭文字なんでちゅよね?」

美琴「うん……そのはず。だからその通りに数字を追ったつもりなんだけど……」

モノミ「数字はどこからどうみても……1、4、3、9……」

美琴「……どこから、どうみても」

美琴「……見え方の違い?」

モノミ「緋田さん?」

美琴「もう一度、チャンスを貰えるかな」

1.入力 【金庫】
2.モノミに相談

※アイテムが存在しないためアイテムの使用はできません

↓1

309: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 21:54:55.22 ID:Ubtp7SOH0

310: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 21:58:42.29 ID:OQT/+f4M0
2 選択

美琴「ねえ、モノミちゃん。なんでこのパスワードじゃないんだと思う?」

モノミ「何でと言われまちても……パスワードが違うから、不正解なんでちゅよね?」

モノミ「そうなると、数字の順序か、数字自体が違うかのどっちかでちゅ。でも、順序はあのメモ以外にヒントはないでちゅし……」

モノミ「やっぱり、数字が違うんでちゅかね……?」

美琴「数字、か……」

(私の目に見えている範疇で数字に違和感は……)

(……あれ?)

(そういえば、最初に部屋を見渡した時にも思ったけど……あの数字だけ、障害物が被さってるよね……?)

美琴「……もしかして」


1.入力 【金庫】
2.モノミに相談

※アイテムが存在しないためアイテムの使用はできません

↓1

311: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 22:00:05.64 ID:HPrrMSk90
南の数字をちゃんと確認する

312: まあもうこれは正答なのでそのまま行きます ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 22:03:19.15 ID:OQT/+f4M0

美琴「……南の数字、槍に被さって見えづらいけど……よく見たら」

美琴「やっぱり……この数字、3じゃないよ」

モノミ「え?! な、なんででちゅか!?」

美琴「左半分が隠されているだけで……本当は8なんだ」

美琴「あとはデスクのヒントそのまま。『ENSW』はそれぞれ東北南西を英語にした時の頭文字。その順序で数字を入力すればいい」

美琴「だから、正しいパスワードは……『1489』」


ガチャ…


せっかく開いたことだし、金庫の中身を確かめてみよう。
金庫の中にあるのは……【バール】かな?
L字の工具で、尾っぽの部分が割れて細いものを挟めるようになってる。
これをどこかで使えってことだよね。

まさか……扉を壊すとかじゃないよね……?

【アイテム:バールを手に入れた!】


(さて、どうしようかな……?)

1.アイテムの使用 【バール】
2.モノミに相談

※パスコードの入力先が存在しないため入力はできません

↓1

313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 22:05:22.16 ID:HPrrMSk90
【バール】:北の藁人形を外す

314: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 22:07:45.66 ID:OQT/+f4M0
1 【正解】
-------------------------------------------------

美琴「よいしょ……」


バールの先っぽを釘の根元に添わせるようにして、力任せに引き抜いた!
どうやら釘は人形を貫通してかなり深いところまで刺さっていたみたい。


モノミ「あ、緋田さん! その釘は危ないでちゅからあちしが預かっておきまちゅよ!」

美琴「え? ああ、ごめんね。ありがとう」


モノミちゃんに釘を手渡して、私は人形を確かめる。
意味深に供えられていたんだもの、手掛かりがなにも無いわけないよね。
藁をかいくぐるようにしてまさぐると、その中から一つのUSBメモリが出てきた。


美琴「これ……どこかで中を見れないかな?」


【アイテム:USBメモリを手に入れた!】


(さて、どうしようかな……?)

1.アイテムの使用 【バール】【USBメモリ】
2.モノミに相談

※パスコードの入力先が存在しないため入力はできません

↓1

315: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 22:09:45.13 ID:HPrrMSk90
【USBメモリ】:西のノートパソコンのUSBポートに刺す

316: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 22:11:50.72 ID:OQT/+f4M0
1 【正解】
-------------------------------------------------

【西】の壁にあるノートパソコン、そのUSBポートに早速メモリを挿してみる。
するとさっきまでまるで反応しなかったパソコンは、息を吹き返したように音を立てて起動。


美琴「……あれ?」


でも、ログインの画面で止まっちゃった。
どうやらこのパソコンはひらがな二文字を入力してロックを解除するみたい。
ここに当てはまるひらがなを考えなきゃいけないんだ……
う~ん、これって一体……?


『とう→しわ→しま→□□→きと→しか→□□→おま→ふま→ひま→こら→はた』


何の法則性があって並んでるんだろう……?


(さて、どうしようかな……?)

1.入力【ノートパソコン】
2.アイテムの使用 【バール】
3.モノミに相談


↓1

317: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 22:19:32.19 ID:loNNWSVS0
3

318: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 22:24:51.67 ID:OQT/+f4M0
3 選択

美琴「……モノミちゃん、このパスワード……なんだろうね」

モノミ「うーん、意味がありそうでなさそうな2文字の群……全然ピンときまちぇんよ……」

美琴「……そうだよね」

モノミ「この手のクイズだと、何かの頭文字とか最後の文字とかそういうのを抜き取ったパターンが多いんでちゅかね……」

モノミ「大体の人が知ってるものの名前を題材にしてるケースが多いと思いまちゅ」

美琴「そういわれても……12個のものでこんな文字と関連があるような概念……」

モノミ「どうしてもわからないなら、部屋を改めて検証するのもいいかもしれないでちゅね!」

モノミ「アイテムも手に入ったことだし、何か他にできることもあるかもしれないでちゅよ!」

(そうか……謎を解く以外にもできることはあるかもしれない……!)


(さて、どうしようかな……?)

1.入力【ノートパソコン】
2.アイテムの使用 【バール】
3.モノミに相談


↓1

319: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 22:29:12.26 ID:HPrrMSk90
【バール】:東のレターボックスの奥のボタンを押せるか試す

320: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 22:34:52.13 ID:OQT/+f4M0
1 【不正解】
-------------------------------------------------

ガッ ガッ

美琴「……ダメみたいだね」


長ぼそい形状だから、と思ったけど。
そもそもバールでは前提としてサイズ感が違いすぎる。
間口につっかえてしまって、そもそも入ることすらない。
木の枝ぐらいに細長い物じゃないとこのレターボックスのボタンは押せそうにない。


モノミ「あ、あんまりやりすぎるとレターボックス自体が壊れちゃいまちゅ……」

美琴「でも、今手を付けられそうなのってこれくらいだよね……」


他に手の付けられそうな手掛かりらしいものもなにもない。
もしかして、何か別のアプローチで開けるのかな……?


-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【ノートパソコン】
2.アイテムの使用 【バール】
3.モノミに相談


↓1

321: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 22:41:15.71 ID:HPrrMSk90
モノミが持ってそうな木の棒とかモノミに回収された釘でボタンを押せないですかね?
無理そうならいっそバールでレターボックスをぶち壊したい

322: 想定解ですー! ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 22:45:17.58 ID:OQT/+f4M0
3 モノミに釘を貸してもらえるか相談する
-------------------------------------------------

美琴「モノミちゃん、さっきの釘貸してもらえるかな?」

モノミ「へ? 釘でちゅか? いいでちゅけど……何に使うんでちゅか?」

美琴「このレターボックス、奥のボタンを押すのに細長いものが必要なの。さっきの釘なら届きそうだと思って」

モノミ「はえ~、そんな使い道があったんでちゅね。はい、どうぞでちゅ!」


モノミちゃんから釘を受け取った釘を、そのままレターボックスのくぼみに押し込んでみた。
するとジャキッと音を立ててレターボックスが開き、その中身が明らかに。
中にあったのははさみみたい。ごく普通の右利き用のはさみ。


【アイテム:はさみを手に入れた!】


美琴「何か切るようなものでもあったかな……?」

モノミ「うーん……あちしにはサッパリでちゅ」


その他に入っていたのは……電車の時間のメモ?

『始06:00発 終10:52 着』

美琴「これは……なんのメモなんだろう?」

モノミ「どこかに出かける用事があったんでちゅかね?」

美琴「……随分と早くて、長旅だったんだね」

-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【ノートパソコン】
2.アイテムの使用 【バール】【はさみ】
3.モノミに相談


↓1

323: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 22:51:10.77 ID:HPrrMSk90
【はさみ】で南のモノミのぬいぐるみを解体する

325: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 22:53:02.65 ID:OQT/+f4M0
1 【正解】
-------------------------------------------------
……なんとも我ながら物騒な発想だけど、ほかに使い道を思いつかない。
それにモノクマが仕掛けたこのゲームなんだもん、それぐらい思い切った考え方をした方がいいのかもしれない。
私は右手にハサミを携えたまま、モノミちゃんにそっくりなぬいぐるみを持ち上げた。


モノミ「あ、緋田さん……いったい何をしようと……」

美琴「ごめんね……!」


後はぬいぐるみめがけて思いっきりハサミを振り下ろす!
鋭くとがった刃はすぐにその咽喉元を裂いて、ぬいぐるみは中の中綿を血液のように吐き出した。


モノミ「いや~~~~~! もう一人のあちしがスプラッターでちゅ~~~~~~! 見えちゃいけないところまで全部開陳しちゃってまちゅ~~~~~!!」

美琴「ごめんね、モノミちゃん。でも……これで間違ってなかったみたい」

モノミ「ほえ?」


出てきた中綿を押しのけ押しのけ、中を覗いてみると……そこには一つの小箱。
南京錠で締められた小箱にはカードも一緒に張り付けられている。


『1+2=3 3+4=3 4+5=3 11+12=2
 6+7+8+9+10=A 3×5×10=B
 パスワードは『A』『B』の順       』


美琴「……これは本格的な暗号だね」

モノミ「なんでちゅかこれ、計算が滅茶苦茶でちゅ!」

美琴「……きっと、純粋な数字ではないんだろうね。何か意味を持った数字に違いないよ」


うーん……これもなかなか複雑な暗号だね。
解くには結構時間がかかるかも……

-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【ノートパソコン】
2.アイテムの使用 【バール】【はさみ】
3.モノミに相談


↓1

326: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 22:53:41.24 ID:OQT/+f4M0
訂正
どちらの暗号からでもどうぞ
-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【ノートパソコン】【小箱】
2.アイテムの使用 【バール】【はさみ】
3.モノミに相談


↓1

327: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/06(金) 22:59:01.39 ID:Ubtp7SOH0

328: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/06(金) 23:04:40.44 ID:OQT/+f4M0
3 選択

美琴「パスワードを2つも要求されちゃったね……」

モノミ「むむむ……どちらも難しい暗号でちゅ……」

美琴「法則性を読み解かないことには、前に進めないね」

モノミ「これ以上は何か検証できそうなこともないでちゅよね?」

美琴「うん、持っているアイテムは一通り使ったはずだし……行動はあまりできそうにないかも」

モノミ「それなら、これまでに見てきたものを改めてみてみるのはどうでちゅか?」

モノミ「それこそ、初めのうちに見たものに何か手掛かりがあるかもしれないでちゅ!」

(情報を改めて見返してみるのもいいのかな……)

モノミ「それに、さっきの時刻表も気になりまちゅ! あれってなんの時刻表なんでちゅかね?」


335: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/08(日) 21:16:58.49 ID:XBGb0k8Z0

ファイナルデッドルーム後半戦より再開します。
あれから自分でも考えたんですけど小箱の暗号は少し捻りすぎた感じがしますね……
もうちょっと素直な暗号にすればよかった……

-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【ノートパソコン】【小箱】
2.アイテムの使用 【バール】【はさみ】
3.モノミに相談


↓1

336: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/08(日) 21:22:55.40 ID:ntBAReWj0
ノートパソコン

「なや」と「しべ」と入力

337: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/08(日) 21:25:16.75 ID:XBGb0k8Z0
1 【正解】
-------------------------------------------------

【なやしべ】


美琴「あっ、ログインできたみたいだよ」

モノミ「ええ?! ほ、ホントでちゅか!? この暗号、解けたんでちゅか!?」

美琴「うん、仕事柄お世話になることも結構多いから」

モノミ「仕事柄でちゅか……? そんなに謎解きゲームのお仕事って多いんでちゅか?」

美琴「ううん、そうじゃなくて、この暗号の事。このひらがな二文字の並びには規則性があったんだ」

モノミ「何かあるとは思ってまちたが……分かったんでちゅか?」

美琴「これはね、東海道新幹線・山陽新幹線の停車駅……その頭文字と最後の文字なんだ」

モノミ「しんかんせん……でちゅか!」

美琴「東京→品川→新横浜→名古屋→京都→新大阪→新神戸→岡山→福山→広島→小倉→博多……全部で12個だから、総数からなんとなく思いついたんだ」

モノミ「ミナサンより長くアイドルを続けているお姉さんの緋田さんだからこそ分かったんでちゅね!」

美琴「……」

美琴「そういうわけだから、この画面で穴あきになっているのは『名古屋』と『新神戸』の頭文字と最後の文字。二つを合わせて『なやしべ』がパスワードだよ」

モノミ「あ、あれ……あちし、何か良くないこと言っちゃいまちたか……?」


ログインに成功すると、ノートパソコンは私の操作を待つことなく自動で動き出した。
しばらくローディングをしたかと思うと、パソコンは一つの文書をその場で展開した。



338: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/08(日) 21:26:19.68 ID:XBGb0k8Z0

『1×2=1 11×2=2 11×22=3 111×22=4 111×222=5
11×222=A 111×2=B 1111×222=C 111×222=D
パスワードはABCDの順に並ぶ              』


モノミ「ま、また暗号でちゅか……?」

美琴「……これ以外には、何も閲覧できないみたいだね。どうやらこのパソコンはこの暗号を表示するためだけのものみたい」

モノミ「よーし、それなら早速謎を解き明かしまちょう!」

美琴「……それは、そうなんだけど」

モノミ「ほえ?」

美琴「この暗号、謎を解いたところでどこにパスコードを入力すればいいのかな」

モノミ「そのパソコンじゃ……ないんでちゅか?」

美琴「これはただテキストファイルを開いているだけ、入力フォームはどこにもないよ」

モノミ「なんと! 弱りまちたね……」


どこにも解答先のない暗号……
これってきっと、まだ見えていないどこか別の場所に入力するってことだよね。
だとすると、この暗号ってもしかして……最後の暗号だったりして。

-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【小箱】
2.アイテムの使用 【バール】【はさみ】
3.モノミに相談


↓1

339: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/08(日) 21:57:59.21 ID:nMFdWV670
現状で解決したものと未解決のものについて整理しておく

340: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/08(日) 22:14:18.07 ID:XBGb0k8Z0
3 整理

美琴「一度ここまでの情報を整理しておこうか」

モノミ「はい! そうでちゅね!」

美琴「これまでに金庫とノートパソコンの暗号を解いて……今未解決の物を二つ抱えているよね」


『1+2=3 3+4=3 4+5=3 11+12=2
 6+7+8+9+10=A 3×5×10=B
 パスワードは『A』『B』の順       』

美琴「これがぬいぐるみを裂いた中にあった小箱の暗号」


『1×2=1 11×2=2 11×22=3 111×22=4 111×222=5
11×222=A 111×2=B 1111×222=C 111×222=D
パスワードはABCDの順に並ぶ              』

美琴「これがノートパソコンにあった暗号で、入力先がまだ見つかっていない……」


モノミ「ヒントらしいものも未使用のものがありまちゅ!」

モノミ「初めの探索で見つけた寅の年賀状もその意味が分かってないでちゅね……」

美琴「アイテムは大体使い終えたかな?」

モノミ「そうでちゅね、ハサミもバールも……これ以上は使わないでちゅかね?」

美琴「……なら、まずは小箱の暗号を解いた方がいいかもしれないかな」


-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【小箱】
2.アイテムの使用 【バール】【はさみ】
3.モノミに相談


↓1

341: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/08(日) 22:29:43.73 ID:huYJK2yX0
年賀状についてモノミに相談する

342: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/08(日) 22:35:56.82 ID:XBGb0k8Z0


美琴「モノミちゃん、この年賀状の意味って何だと思う?」

モノミ「そうでちゅね……やっぱり暗号にまつわるヒントなんだと思いまちゅ」

モノミ「小箱の数式に登場する数字の最高が12でちゅし……もしかするとこっちの暗号は干支に関係するのかもしれまちぇん!」

美琴「うーん……まあそこは私も何となく察してはいたんだけど」

モノミ「はれ?! そ、そうなんでちゅか!」

美琴「うん……そのうえで何か、ない?」

モノミ「緋田さん……なかなかスパルタでちゅね……! えーっと、えーっと……」

モノミ「あっ! この年賀状、わざわざ『虎』じゃなくて『寅』の漢字になってまちゅ! これ、なにか意味がないでちゅか!」

美琴「……それは案外ありかもしれない」

美琴「漢字に書くことでこの数式に当てはまる法則が見えたりしてこないかな……」

(少し、考えてみようか)

-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【小箱】
2.アイテムの使用 【バール】【はさみ】
3.モノミに相談


↓1

343: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/08(日) 22:41:02.78 ID:GKMi2Asc0
もっと相談

344: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/08(日) 22:48:33.75 ID:XBGb0k8Z0
3 もっと相談

美琴「漢字、一度全部書いてみようか」

モノミ「は、はい……そうでちゅね、やってみまちゅ!」

モノミ「子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥……」

美琴「これと、数式を併せて見てみようか」


『1+2=3 3+4=3 4+5=3 11+12=2
 6+7+8+9+10=A 3×5×10=B
 パスワードは『A』『B』の順       』


モノミ「う~ん、閃かないでちゅね……」

美琴「数字を干支の順番に置き換えてみてみるとか?」


『子+丑=3 寅+卯=3 卯+辰=3 戌+亥=2
 巳+午+未+申+酉=A 寅×辰×酉=B    』


美琴「どうかな?」

モノミ「漢字ならではの共通項の数式、なんでちゅかね……?」


【次のヒントで自動で回答を入力します】


-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【小箱】
2.アイテムの使用 【バール】【はさみ】
3.モノミに相談


↓1

345: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/08(日) 23:18:07.29 ID:huYJK2yX0
部首とか画数とか音読みの数とか色々思いつく限りこねくり回してたけどわからんわからん!
これ以上ずっと考えてても答えが出ないで話が先に進まなさそうだしモノミに任せる任せる!

350: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/08(日) 23:38:14.86 ID:XBGb0k8Z0

すみません、時間的に厳しいのでもうきりあげさせていただくのですが、一応答えだけ貼っておきます。
正直これは自分でも奇を衒いすぎたと思うので……申し訳ない。

続きは明日またします。

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【1027】

美琴「……よかった、開いたみたい」

モノミ「すごい……緋田さん、よく開けられまちたね。あちしにはこの計算式が何を指すのか全然わかりまちぇんでちたよ」

美琴「うん……これはちょっと難しかったかな。この暗号は俯瞰的に見てみることが大事だったんだ」

モノミ「フカン的、でちゅか?」

美琴「まず、はじめの3つの計算式だけ見てもさっぱりでしょ? モノミちゃんの言う通り、計算が滅茶苦茶。ここを見ていても何も見えてこない」

美琴「だから注目するべきなのは『11+12=2』の式。数字の刻み方が一気にとんだ計算式をわざわざ書いてる……そうなると、何か意味があるはずだよね。」

美琴「それに、暗号の解読部もそれまでになかった数字が登場したり、足し算が掛け算になったりしてる。それって法則さえ読み解ければ類推ができるって言うヒントだよね」

モノミ「確かに言われてみればそうでちゅね……」

美琴「じゃあ、私たちの身近に『12』にまつわるものは何かないかな?」

モノミ「あっ、時計とか十二支とか……色々ありまちゅね!」

美琴「そう、十二支。子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥。これらを漢字にして書いてみたら何か思いつかないかな?」

モノミ「うーん……脚の数、じゃないでちゅよね……」

美琴「漢字に書く際にまっすぐな横線の数。途中で折れるものは含まないみたい」

モノミ「……ホントだ、それぞれ横線の数は順に1、2、3、0、3、1、2、2、2、3、1、1になるんでちゅね! これを計算式に置き換えると、確かに成立しまちゅ!」

美琴「だから1~12の数字を今モノミちゃんが言った通りに置き換えると……」


6+7+8+9+10=1+2+2+2+3=10
3×5×10=3×3×3=27


美琴「後はAとBの順に続けて並べればパスコードは『1027』になるんだ」

モノミ「これはだいぶ頭を柔らかくしなくちゃいけない謎でちた……!」


美琴「さあ、小箱の中を見てみようか」

南京錠を外して小箱を開けてみると、その中に入っていたのはドライバーが一つ。
なるほど……脱出までの道筋は見えてきた。


【アイテム:ドライバーを獲得しました!】


-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.アイテムの使用 【バール】【はさみ】【ドライバー】
2.モノミに相談

↓1


351: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/08(日) 23:42:14.10 ID:huYJK2yX0
ドライバーで北のパネルのねじを外す

363: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/09(月) 21:02:44.04 ID:oSQQXx2O0
1 【正解】

キュルキュルキュルキュル……

美琴「よし、外れたよ」


この部屋に入った時からあった、ネジで留められた入力パネル。
やっとそれを解放することができた。


美琴「……4文字を入力するみたいだね」

モノミ「数字4文字みたいでちゅね、何かヒントは……」

モノミ「あわわ! 近くに何のヒントもないでちゅよ!?」


モノミちゃんの言う通り、この入力パネルの他にはなにもなし。
入力すべき数字は、他の場所で見つけてこいということなのかな。
さあ、ここが正念場。
これさえ解けばきっと出ていけるはず……頭を回転させなきゃね。


美琴「落ち着いて、モノミちゃん。これまでに手に入れた情報から考えてみよう」

モノミ「ま、任せまちゅ……」


-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【パネル】
2.モノミに相談


↓1

364: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/09(月) 21:20:17.89 ID:39HwTkOF0
2

365: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/09(月) 21:24:22.82 ID:oSQQXx2O0
2 モノミに相談

美琴「モノミちゃん、これが最後のパスワードだね」

モノミ「はい! なんとしてもこの謎を解いて、脱出しまちょう!」

美琴「差し当たって解くべきなのは……やっぱりノートパソコンに表示されてた暗号だよね?」


『1×2=1 11×2=2 11×22=3 111×22=4 111×222=5
11×222=A 111×2=B 1111×222=C 111×222=D
パスワードはABCDの順に並ぶ              』


美琴「これの入力先がずっと見つかってなかったわけだし……他には何ももうなさそうだもんね」

モノミ「でちゅけど……これ、どういう意味なんでちゅか?」

モノミ「ヒントらしい怪しい物もこの部屋にはもう残ってないでちゅよ」

美琴「それなら……この暗号は本当にこの暗号だけで完結しているのかもね」

美琴「試しに、素直に計算してみるとかはどうかな?」

モノミ「どうでちゅかね……そんなことで見えてくるものなんでちゅか?」

美琴「わからないけど、立ち止まっている時間はないでしょ?」

モノミ「かっこいいでちゅ……緋田さん! 今の言葉、胸に刻み付けまちたよ!」

美琴「……」

(……自分で計算やらなきゃダメかな)

-------------------------------------------------

(さて、どうしようかな……?)

1.入力【パネル】
2.モノミに相談


↓1

366: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/05/09(月) 21:30:36.48 ID:3TtS9j0U0
入力:4365

367: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/09(月) 21:33:14.23 ID:oSQQXx2O0
1 【正解】


【4365】

ピピッ

美琴「……よし、正解だったみたい」


私が数字を入力し終えるとパネルは緑色に点滅。
認証したであろう電子音が鳴ると、部屋のどこからか駆動音が聞こえ出した。


モノミ「あ、緋田さん……最後の暗号もすっかりお任せしちゃいまちたね……」

美琴「ううん、気にしないで。元々そのつもりだったから」

モノミ「それで、この暗号はどういう謎だったんでちゅか? また難しい計算式みたいだったでちゅけど……」

美琴「これまでにやってきた暗号の中でも一番これが正統派の暗号だったよ。数字が1と2だけで構成してあるから、何か意味があるように見えるけど、単純な計算であることには変わりないみたい」

モノミ「え? でも、11×2は、22でちゅよね?」

美琴「うん。それに11×22は242だよ」

モノミ「それじゃあ計算が成立してないじゃないでちゅか!」

368: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/09(月) 21:33:53.42 ID:oSQQXx2O0

美琴「よく暗号の計算式と見比べてみて。何か別の見方はできないかな」

モノミ「むむむむ……あっ! もしかして桁数でちゅか!?」

美琴「大正解、計算式の右側の数字は左の掛け算をした時の解、その桁数を表しているの」

モノミ「なるほど、その法則に従ってパスコードも考えるんでちゅね!

11×222=2442で、『4』桁の数字
111×2=222で、『3』桁の数字
1111×222=246642で『6』桁の数字
111×222=24642で『5』桁の数字

これでパスコードが4365になるんでちゅね!」

美琴「そういうことだね。特に他にヒントはなかったけど、閃きさえあればすぐに解ける暗号だったよ」


【脱出成功】


-------------------------------------------------

369: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/09(月) 21:35:30.46 ID:oSQQXx2O0

命をかけた脱出ゲームとやらをクリアした私とモノミちゃん。
最後のパスコードを認証したことで、ついに北の扉も開く……そう思ったのだけど。
私の目の前の扉は開くことはなく、何か別のものが床から競り上がってきた。
私の腰の高さほどの台の上に置かれたのは銃と弾丸、そして一枚の紙切れ。


『おめでとう! あなたは命をかけた試練への挑戦権を獲得しました!』


美琴「どうやら、この脱出ゲームは前座だったみたいだね」

モノミ「え……ま、まだ続くんでちゅか?!」


『ここに一丁の銃と、弾丸を一発用意しました!
極上の凶器を手に入れるにはロシアンルーレットをクリアする必要があります!』


美琴「ロシアン、ルーレット……」


『ロシアンルーレットの作法
①弾を一発だけ込めて、リボルバーを回転させてください。
②銃口を自分のこめかみに当てます。
③引き金を引いて、見事生還できればクリアです』

モノミ「な、な、なんでちゅか……これ! こんなの、1/6の確率で死んでしまいまちゅ……!」


370: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/09(月) 21:36:52.70 ID:oSQQXx2O0

狼狽えるモノミちゃんとは対極に、私は納得がいったとばかりに何度も頷いていた。
命をかけた試練だという割に、脱出ゲームで時間との勝負なんてモノクマにしては生ぬるいと思った。
もっと生と死の狭間に身をおいて、肌がひりつくようなものじゃないと彼は喜ばないだろう。
そういう意味で、ロシアンルーレットはこれ以上なくうってつけ。


ガチャ…


モノミ「あ、緋田さん?! 何をやってるんでちゅか?! 銃を、銃を下ろしてくだちゃい!」


だから私は、特に抵抗もなく銃口をこめかみに当てた。
どうせこの挑戦に挑まないことには捜査時間の時間切れでペナルティ。

この部屋に入った時点で逃げ道はないんだから、やるしかない。


美琴「……? どうして? こうしなくちゃ、ファイナルデッドルームはクリアにならないみたいだよ」

モノミ「だ、だからって……自分の命をみすみす危険に晒す必要なんてないでちゅ! 何か……何か別の方法がきっとあるはずでちゅから……!」


モノミちゃんは縋るようにして私の説得を試みる。
でも、申し訳ないことに耳を貸すつもりなんて全くない。

私はまるで呼吸でもするかのように、日常の1ページを紡ぐように、何も考えず、何も不安に思わず、その引き金に指をかけた。

371: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/09(月) 21:37:57.14 ID:oSQQXx2O0

美琴「モノミちゃん、あのね……どうせクリアしないことには私たちは死んじゃうんだ」


美琴「それに、この先にある極上の凶器を知らないことには、真実にたどり着くことはできない」


美琴「少しでも生き永らえるため、にちかちゃんが死の間際に託してくれた想いを引き継ぐために、真実を解き明かす必要がある」


美琴「その真実が手に入るのなら__________」




美琴「_______死んだっていいの」




引き金を引いた。

372: ◆vqFdMa6h2. 2022/05/09(月) 21:38:51.53 ID:oSQQXx2O0

美琴「……生きてるね」


生き永らえるために死に身を置く。
我ながら倒錯した覚悟の啖呵を切ったと思うけど、どうやらその覚悟が生を手繰り寄せてくれたらしい。
私の体には一切の外傷もなく、見事クリアをすることができた。


モノミ「あ、あわわ……無事でよかったでちゅけど、あわや大惨事だったでちゅ……」


ガチャリという音がした。
私のクリアを確認したのか、これでようやっと北の扉が開いたらしい。
ドアノブを捻るとすんなりと回転した。


美琴「それじゃあ行こうか、極上の凶器を確かめに」

モノミ「え? あ、は、はい……特にクリア後の感想会なんかもやらないんでちゅね……」

美琴「うん、足踏みしている時間はないから。急いで確かめないと」

モノミ「あう……まだ衝撃でボーッとしてまちゅ……」