1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 19:47:32.90 ID:jq9A6OQT0
足音が止まない
誰の足音かなんて知らない

自分のベッドの下に潜り込んでる真美のすぐ横で、もう何分も行ったり来たりしてる
ぎしぎし、ぎしぎしって音を立てながら
なんとなくなけど、笑ってる気がするな

握りしめてるガラスコップに満たした塩水は、とっくに空っぽになってる
そういえば、飲み込んじゃいけなかったんだよね、これ
口に含むだけだって、ネットのサイトに書いてあったもん

……亜美はどうしてるかな?
まだ……
生きてるかな?

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 19:56:00.85 ID:jq9A6OQT0
ちょっとした思いつきだったんだよ
今日はパパもママもいないから、なんか暇つぶししよって

白いネコのぬいぐるみに名前を付けるのに、30分くらいかかったっけ

「どうする、真美?」

「もうニャー太郎でいいじゃん。このままだと名前決めるだけで朝が来ちゃうよ」

「だねぇ。ニャー太郎でいっかー」

てきとーに名前を付けたあと、カッターナイフでニャー太郎のお腹を横に切ったんだよ
それは亜美の役目で、中身の綿を取り出すのは真美の仕事だった

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 20:04:56.01 ID:jq9A6OQT0
「お米、こんなもんでいいかなー?」

亜美がちょっと眠そうな声で言ったっけ
もう夜中の2時をすぎてたから、仕方ないんだけどね
真美だってけっこう眠かったし

「それから……爪もいっしょに入れるんだってさ」

携帯のサイトを見ながら説明してた亜美
チラッと見た横顔やっぱり眠そうだった

「じゃあ真美、爪切り持ってくるよ」

「よろしくー」

なんかすでにめんどくさくなってたんだけど、止めようとは言わなかったんだよね、真美
だって、怖がってるって思われたらシャクだもん
ひょっとしたら亜美もおんなじように思ってたのかもしんないけどね

……あのとき止めとけばよかったね。あはは

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 20:10:23.12 ID:jq9A6OQT0
「この次はー?」

切った爪をニャー太郎の体の中に入れながら、亜美に聞いた

「えっとねー。赤い糸で切ったところを縫い合わせるんだってさ。そんで、余った糸はぬいぐるみに巻き付けるってさ」

「そっかー」

真美の声、明らかにめんどくさそうだったんだろうね
亜美がちょっと苦笑いしながら言ってくれた

「それは亜美がやっとくよ。真美はお風呂にお水入れてきて」

って
妹に気を使わせるなんて、お姉ちゃんシッカクだよね

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 20:18:16.61 ID:jq9A6OQT0
「あれ?でもお風呂にはお湯入ってるよ?冷たくなきゃダメなの?」

「どうなんだろ……。いちおーこのサイトには水って書いてあるんだけど……」

「そっか。じゃあお湯抜いて水入れるよ」

肝試しも(?)もけっこー細かいんだね
まぁ、ぬいぐるみを縫うよりはラクかなー、なんて思いながら、真美はお風呂場に向かったんだよね

……お風呂かー。
最後くらい、亜美といっしょに入っとけばよかったな

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 20:24:39.29 ID:jq9A6OQT0
トイレに寄り道してからリビンクに帰るとと、亜美はぬいぐるみに赤い糸を巻き付けてるとこだった

「もうすぐ終わるからね」

真美の方を見ようともせずにぬいぐるみをぐるぐる巻きにしてる亜美を見て、ちょっとだけイヤな感じがした

いまは……?
うん、
だいぶイヤな感じだね。
手足の震えが止まらないくらい。

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 20:29:11.78 ID:jq9A6OQT0
「しゅーりょーであります!」

これでもかってくらいぐるぐる巻きにされたニャー太郎を掲げなから、亜美が言った

「お疲れさまであります!」

左手で敬礼のポーズを取りながら、亜美に言った

いつも通りの亜美と真美
いつもと少しだけ違うのは……
亜美の目が笑ってなかったってことぐらい
亜美じゃない誰か、みたいにね

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 20:39:28.29 ID:jq9A6OQT0
「亜美はどこに隠れるのさ?」

キッチンで塩水を作りながら亜美に聞いた

「うーん。内緒」

「じゃあ真美も内緒」

そんなことを話しながら、その後の役割を決めたっけ
最初に鬼になる役、のね

2分くらいの話し合いの結果、それは真美の役割に決まった
まぁ最終的にはじゃんけんで負けたからなんだけどさ

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 20:45:03.61 ID:jq9A6OQT0
「おっ、3時になったよ、真美」

携帯電話の時計を見ながら、亜美が言った

「オッケー。じゃあ、始めますかな!」

テンションの高いフリをしながら亜美にそう言った後、こんどはニャー太郎の目を覗きこんだ
それから3回繰り返した

「最初の鬼は、真美だよ」

って

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 20:56:57.13 ID:jq9A6OQT0
それからニャー太郎を抱いてお風呂場に行った
亜美はお風呂場まで着いて来たけど、その後は自分の隠れ場所に向かったんだ

相変わらず笑ってない目で

「またあとでねー」

なんて言いながら

お風呂場で1人になった真美は、亜美から言われたとおりにニャー太郎を浴槽に入れた
顔を植えに向けて入れたんだけど、すぐに下を向いちゃった
何度やっても、すぐに下を
なんだか溺れてるみたいに見えたけど、すぐに下を向いちゃうんだもん
何度上に向けもさ
だから真美、もうそのままにしといた
だってめんどくさくなっちゃったんだもん
すぐに下を向いちゃうからさ

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 21:06:22.91 ID:jq9A6OQT0
それから真美は、家中の明かりを消して回った
亜美かそうしろって言うから
ただ、テレビの電源だけは入れといてねって
砂嵐にしとかなきゃダメなんだってさ
ややこしいけど仕方ないよね
それがルールみたいだから

「この後は…たしか……目をつむって10秒だったよね」

暗くなったリビング
明かりはテレビだけ
ざー、ざーっ
目をつむってる真美の耳に、砂嵐の音が飛び込んできた

10秒数え終わった真美は目を開けて……
ポケットの中のカッターナイフをテーブルに置いたんだっけ
それからキッチンに行って、包丁を手に取ったんだ
だってさ、よく切れるじゃん。包丁の方がさ

20: >>18 はい。遅くてすいません 2013/06/02(日) 21:12:22.28 ID:jq9A6OQT0
真っ暗な廊下
亜美を見つけてやろうかと思ったけど、泣いちゃいそうだから止めた
もちろん亜美が、だよ?

もちろんお風呂場も真っ暗
ちょっとだけ目が笑って慣れてたから、白いニャー太郎を見つけるのはそんなに苦労しなかった
相変わらず下を剥いて溺れてるみたいだったっけ

「ニャー太郎みっけ」

ニャー太郎の右手をつかんで、そのまま抱きかかえたら、真美の服もびしょ濡れになっちゃった
なんでだか分かんないけど、あんまり冷たくなかった

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 21:18:42.97 ID:jq9A6OQT0
これまたなんでだか分かんないけど、3回刺しちゃった
たぶん1回でいいんだろうけど、お腹を3回
自分でもなんでだか分かんないよ
だけどさ、そんな気分のとき、あるっしょ?
真美、そんな気分だったんだよ

「次はニャー太郎が鬼だから」

そう言ってからまたお風呂の中に入れた
やっぱり溺れてるみたいだったよ
ニャー太郎のお腹からこぼれたお米のせいで足を滑らしそうになった
まぁ、いいけどさ
刺しちゃったの真美だしね

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 21:32:32.14 ID:jq9A6OQT0
駆け足で二階にある真美たちの部屋に入ると、自分のベッドの下に潜り込んだ
頭のとこには塩水の入ったグラス
腕時計をみると3時15分だった

そのあとは……
忘れちゃったんだよね、真美
そのあとどうすればいいんだったか
だからさ、このままじっとしてよって
だってめんどくさいじゃん?

このままこうしとけば、そのうち亜美の声がするよ

「真美ー、もう寝よー」

って

……そう思ってたんだけどね
15分くらいたってから聞こえてきたのは、亜美の声じゃなかった

ざー、ざーって音
一階のリビングのテレビの、砂嵐の音
二階の自分たちの部屋にいる真美にも聞こえるくらい、おっきくなってた
ざー、ざざーって

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 21:41:16.61 ID:jq9A6OQT0
頭をよぎったのは、ニャー太郎のこと
溺れてるみたいなカッコでお風呂に浮かんでる、白いネコのぬいぐるみ

グラスの塩水を口に含んだ
手が震えて、歯がカチカチ鳴った

ニャー太郎のお腹
真美が3回も刺しちゃったから、ビリビリに破れてた

目を閉じてみたけど、怖くてすぐに開けちゃった
亜美!って叫びたかったけどそれもできなかった
途中で声を出すのはルール違反だから

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 21:49:50.12 ID:jq9A6OQT0
塩水は飲み込んじゃダメだって聞いてたのに、いつの間にか飲み込んじゃってた
すぐにグラスに口をつけて、また口の中に流し込む
また飲み込む

「双子にはテレパシーみたいなものがある」

って言う人がいるけど、あれはウソだね
だって真美、亜美の声聞こえないもん
たぶん亜美にも聞こえてないもん

聞こえてくるのは、砂嵐の音だけ
さっきよりも少しおっきくなってる
その音に混じって、変な音が聞こえた
ぎしっ、って音
『誰かが歩いてるような』音
グラスの塩水は、もう無くなってた

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 22:05:56.49 ID:jq9A6OQT0
そういえば……
真美、包丁どうしたんだっけ?
お風呂場からは寄り道せずにここまで来たけど……
真美、包丁持ってないよ
お風呂に置いてきた…のかな?

そんなこと考えてる間にも、砂嵐に混じった足音は一階から聞こえ続けてた

リビング、キッチン、パパたちの部屋、トイレ
それから足音は、ピタリと止まった
ちょうど真美の真下あたりで

そこにあるのはパパの仕事部屋
その部屋には、パパが仕事で使う本や書類を入れたダンボール箱がいくつか置かれてた
亜美がすっぽり入れちゃうくらいの、大きなダンボール箱も……

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 22:13:35.82 ID:jq9A6OQT0
真下の部屋から聞こえくるおとに耳をすませた
砂嵐のすき間をぬうようにして、じっと

かさっ
最初に聞こえてきた音
紙か何かが落ちたような

ぱんぱんっ
次に聞こえてきた音
あんまり固くない何かを叩いてるような

それから……
亜美の声
なんて言ったのかは聞き取れなかった
砂嵐がジャマしたから

だけど、その次の声は聞き取れた
砂嵐のすき間だったから

「…真美ちゃんも……見つけてくる」

たしかにそう言ったんだ

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 22:22:35.33 ID:jq9A6OQT0
足音が止まない
誰の足音かなんて知らない

自分のベッドの下に潜り込んでる真美のすぐ横で、もう何分も行ったり来たりしてる
ぎしぎし、ぎしぎしって音を立てながら
なんとなくなけど、笑ってる気がするな

握りしめてるガラスコップに満たした塩水は、とっくに空っぽになってる
漏らしたオシッコがパジャマを濡らしてるけど、冷たさなんて感じなかった

耳には、いろんな音
ざー、ざざーっ
ぎしぎしっ
カチカチ
それから、ドクンドクンっていう、自分の心臓の音

そして……
どすっ
真美のベッドの布団に、何かが刺さった音
何回も、何回も、何回も

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 22:32:01.59 ID:jq9A6OQT0
亜美、痛かったかな?
そんなことを考えた

真美も痛いのかな?
やっぱり3回刺されるのかな?
いやだな
いやだな……

足音は止まってる
だけどどすっ、は止まらない
手と足の爪先は、もうずっとしびれてる

どんっ!
いままでで一番大きな音
誰かがベッドに飛び乗ったような、そんな音
仰向けになってる真美の、すぐ上で

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 22:40:41.42 ID:jq9A6OQT0
ぎしっ
ベッドがきしんでる
それからゆっくりと、その『誰かは』ベッドに座ったまま、前かがみになって…ゆっくりと……ベッドの下を覗きこんだ

『真美ちゃんも、見つけた』

笑いながらそう言うと、ゆっくりと、真美に向かって手を伸ばした
包丁を握ってない手を、スローモーションみたいに、ゆっくりと……
そのお腹から、よく分からないものが床に落ちた
どさっ、っていう、気持ちの悪い音をたてて

砂嵐の音は少しずつ、遠くなっていったんだ……

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 22:51:27.96 ID:jq9A6OQT0
「……」

「……」

「 えっと…おしまい……なんだけど」

夜8時すぎの事務所
真美の前には、はるるんとまこちんが座ってる
お姫ちんもいたんだけど、真美が話はじめてすぐにどっか行っちゃった

「あ、あはは。そんなに怖くなかったかなー」

「そ、そうだよね!ホントにそんなヤツがいたら、ボクが軽くひねってやるよ!」

「そう言うわりにはお二人さん、顔がひきつってますぜ?」

クーラーの壊れてる事務所
暑くなってきたから、何か怖い話でも

まぁ、よくあるパターンですな

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 22:58:36.28 ID:jq9A6OQT0
「つ、作り話にしてはなかなか良くできてるんじゃないかな?ね、真?」

「ま、まぁね!ははは」

そんなこと言いながら思いっきり強がってる二人を眺めてると、携帯が鳴った
亜美からのメールだった

「……真美、そろそろ帰んなきゃ」

「そ、そっか!気をつけて帰ってね!」

「ありがと、はるるん。まこちんもバイバイ」

「うん、バイバイ!そんなに怖くなかったよ!」

二人に背中を向けて事務所から出ると、駐車場からこっちに歩いてくる兄ちゃんを見つけた

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 23:07:19.40 ID:jq9A6OQT0
「おう、真美。今から帰るのか?」

「うん。そだよ」

生あったかい夜風が真美と兄ちゃんの間を吹き抜けてる
その風が、糸を揺らした
真美の髪を束ねてる、赤い糸を

「ねえねえ兄ちゃん」

「ん?どうした?」

なかなか良くできた作り話
だけどもし、そうじゃなかったら?
鬼は見つけなきゃいけないんだよ
だって、そういう役割なんだから、さ

「兄ちゃん、見っけ」

次の鬼は、だーれだ?


お し ま い

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 23:09:26.20 ID:jq9A6OQT0
終わりです
お付き合い感謝。怪談難しい……
読み返してまいります

引用元: 真美「ふたりかくれんぼ」