1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 00:04:24.83 ID:ErdQi6E20
キョン「なっ……」

ハルヒ「…………」

キョン「…………」

ハルヒ「…………」


―――大学入学から約二ヶ月が経過したが、俺達は未だどのサークル・部活にも入れずにいた。

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 00:06:51.86 ID:ErdQi6E20
ハルヒ「…………」

キョン「い、いや落ち着けよハルヒ。まだ5月じゃないか……」

ハルヒ「今日からもう6月よ……」

キョン「え、あ、ああ……そうだったか……」

ハルヒ「…………」

キョン「…………」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 00:11:42.51 ID:ErdQi6E20
ハルヒ「新歓ももうほとんど終わってる……もうこの大学にあたし達の居場所は無いのよ……」

キョン「だ、だから落ち着けって。大丈夫だ、まだ慌てるような時間じゃない」

ハルヒ「じゃああんたにはどっか入れそうなサークルのあてでもあるの?」

キョン「え、い、いや……」

ハルヒ「別にサークルでなくてもいいわ。同じクラスで、仲良くキャンパスライフを謳歌できそうなグループとかでも」

キョン「……語学で席が近い奴と喋ったりはするが……」

ハルヒ「……どうせ、その授業が終わったらじゃあまたな、って感じで別々に帰るんでしょ」

キョン「……ああ……」

ハルヒ「…………」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 00:18:08.33 ID:ErdQi6E20
キョン「い、いやだがまだなんとかなるだろ? 大学は四年間もあるんだし……」

ハルヒ「甘いわね。そうやってそのうちなんとかなるとか思って何もしないまま結局気が付いたら卒業を迎えてるのよ。下手すりゃ単位足りずに留年コースだわ」

キョン「じゃ……じゃあどうすりゃいいんだよ。また高校の時みたいに自分達で部活を作るか?」

ハルヒ「それも考えたけど……」

キョン「けど?」

ハルヒ「なんかこう……あの頃みたいに、そういう気持ちになれないのよね」

キョン「まあ……お前も少しは成長したってことかもな」

ハルヒ「どういう意味よそれ」

キョン「いやなんでも」

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 00:22:25.18 ID:ErdQi6E20
ハルヒ「そりゃ作ろうと思えばいくらでも作れるわよ」

キョン「まあ、実際自分で新しいサークル作ってるヤツ結構いるみたいだしな」

ハルヒ「それよそれ。高校の時は他にやってる奴がいなかったからやってみようって気にもなったけど、大学だとそこまで珍しいことでもないのよね」

キョン「別に珍しくなくてもいいじゃねぇか。大体それを言うなら既存のサークルに入る方がもっとありきたりだぞ」

ハルヒ「だって大学のどこにも自分の居場所が無いのは寂しいし……」

キョン(……SOS団喪失症候群ってとこか……)

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 00:30:05.72 ID:ErdQi6E20
キョン「まあSOS団を解散して寂しい気持ちは分かるが……」

ハルヒ「べ、別に寂しいとか言ってないでしょ何よバカじゃないの!?」

キョン「今自分で寂しいって言ってただろうが」

ハルヒ「う、うるさい」

キョン「古泉も長門も朝比奈さんも、大学は違えど会えない距離ってわけじゃないんだ。というか、ついこないだのゴールデンウィークにも皆で集まったばっかじゃねぇか」

ハルヒ「……皆、それぞれの大学で楽しそうにやってるみたいだったわね……」

キョン「あっ……(やぶへびった)」

ハルヒ「まあみくるちゃんは去年から楽しそうだったからまだいいわ。古泉君もボードゲーム研究会なんて彼にうってつけのサークルだしね」

キョン「ハルヒ、お前疲れてるんだよ」

ハルヒ「でも有希は……有希だけは……なんとなく、まだあんまり大学自体に馴染めてないんじゃないかなーって思ってたのよね……」

キョン「まあ正直俺もそう思っていたな」

ハルヒ「まさか文芸部とコンピュータ研究同好会を掛け持ちしてその両方で既にキャラを確立していたなんてね……」

キョン「ああ……」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 00:37:46.07 ID:ErdQi6E20
ハルヒ「このまま話し相手があんただけの四年間なんて憂鬱どころの騒ぎじゃないわ……」

キョン「どさくさに紛れて失礼なこと言いやがって……つかお前、クラスの友達とかできてないのか?」

ハルヒ「できてたらこんな風になってるわけないでしょ……」

キョン「あ、ああ……うん、なんかごめん……」

ハルヒ「そりゃあたしだってちょっとは頑張ったわよ? 今思えば高校の時は最初の頃すごいそっけない態度だったから、今度はなるべくこっちから話し掛けたりして……」

キョン「そりゃまたえらい頑張ったな」

ハルヒ「でもね、やっぱり駄目だった。なんかわかんないけど、二言三言会話したらそこで沈黙になっちゃうのよ」

キョン「ああ、どうしたらいいんだろうなああいうとき……」

ハルヒ「SOS団の時はそんなことなかったのに……」

キョン(あれはまあ深い深~い背景事情もあったしな……)

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 00:42:08.64 ID:ErdQi6E20
キョン「というか、そんなにSOS団SOS団って言うなら、あのときやったみたいにしたらいいんじゃないか?」

ハルヒ「? さっき言ったでしょ。そういうのはもう珍しくないって……」

キョン「そうじゃなくて。あのときみたいに、強引にメンバーをかき集めたらいいんじゃねぇのか? お前はそうやってあの三人を引っ張ってきたんだ」

ハルヒ「有希は最初からいたけどね」

キョン「まさかお前にツッコまれる日が来るとは思わなかったが、今はそこじゃねぇだろ」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 00:47:54.80 ID:ErdQi6E20
ハルヒ「まああんたの言わんとしていることは分かるけど、その案は却下ね」

キョン「なんでだよ」

ハルヒ「ああいう無茶や横暴は、まだ年端のいかない高校一年生だからこそ許されたのよ。流石に大学生にもなって同じことをしていたらただの頭のおかしい奴としか思われないわ」

キョン(まあ高校の頃もほぼ間違いなくそういう評価を受けていたと思うがな)

ハルヒ「なんか言った?」

キョン「いや、なんでも。まあでもその通りだな。お前が世間一般の常識的感覚を身に付けてくれて嬉しい限りだ」

ハルヒ「何よあんた。まるであたしが今まで非常識だったみたいじゃない」

キョン「え?」

ハルヒ「…………」ボカッ

キョン「ってぇ!」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 00:54:43.95 ID:ErdQi6E20
キョン「肩パンやめろよな……地味に痛い」

ハルヒ「ふん。あんたが失礼なことを言うからでしょ」

キョン「……まあいい。それで? 結局これからどうすんだ」

ハルヒ「どうって……」

キョン「こうして俺達が学食でうだうだやってる間にも、見ろ。さっきまでそこで楽しそうにくっちゃべってたテニサー軍団が移動を始めたぞ。多分これから飲み会だな」

ハルヒ「やめて聞きたくない!」

キョン「おや、あっちの文化系サークルとおぼしき集団は早くも夏休み合宿の計画を立てているようだな」

ハルヒ「合宿行って何する気よ!? どうせ男女でわいわい遊ぶだけなんでしょ!?」

キョン「お前が言うな」

ハルヒ「……あの頃は楽しかった」

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 01:04:40.22 ID:ErdQi6E20
キョン(まあ……なんというか)

キョン(大学が楽しくないっていうよりは、高校が……というか、SOS団が楽しすぎたんだろうな)

キョン(SOS団は解散したが、別に三人と疎遠になったわけじゃない)

キョン(三人が俺達と違う大学に行ったのは、昔より遥かにハルヒの精神状態が安定してきていて、もはや常時傍で監視・観測する必要が無くなったと、それぞれ上から言われたためらしいが……)

キョン(当のハルヒは、そんな事情知る由も無いわけで……)

キョン(あの頃のような楽しさを求めても、おそらくそれはここにはない)

キョン(それが分かっているから、何かしなきゃとは思ってもいまいちその気になれない……ってとこだろう)

キョン(……だったら)

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 01:12:51.38 ID:ErdQi6E20
キョン「……なあ、ハルヒ」

ハルヒ「? 何よ?」

キョン「俺、新しい部活を作ろうと思う」

ハルヒ「はあ?」

キョン「だからお前も、俺が作る部活に入ってくれないか。部員その1として」

ハルヒ「……なっ……」

キョン「どうした。アホみたいな顔して」

ハルヒ「あ……アホとは何よアホとは! あんたにアホなんて言われたくないわよこのウルトラアホ!」

キョン「まあ落ち着けよ。それで、どうするんだ?」

ハルヒ「ど、どうって……」

キョン「もちろん、無理にとは言わん。俺はどっかの誰かさんみたいに、本人の意思を無視して強制的に入部させたりはせんからな」

ハルヒ「……む」

キョン「…………」

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 01:19:27.16 ID:ErdQi6E20
ハルヒ「……ちなみに、何の部を作るつもりなの?」

キョン「それはこれから考える」

ハルヒ「はあ? 馬鹿じゃないの?」

キョン「それこそお前にだけは言われたくない台詞だな」

ハルヒ「むぐっ……」

キョン「まあその、なんだ」

ハルヒ「…………」

キョン「俺は別に、SOS団大学版を作ろうと思ってるわけじゃない。つかそんなこと、そもそもできん」

ハルヒ「…………」

キョン「お前も、卒業式の後にやった団の解散式で言ったよな? 『我がSOS団は永遠に不滅です』って」

ハルヒ「…………」

キョン「俺もそう思う。団としては解散しても、俺と長門と朝比奈さんと古泉と……そして、お前がいる限り」

ハルヒ「…………」

キョン「俺達のSOS団は永遠に不滅だ」

ハルヒ「…………」

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 01:26:21.08 ID:ErdQi6E20
キョン「でも、いつまでもその思い出に浸ってちゃ駄目なんだ」

ハルヒ「…………」

キョン「別にSOS団を忘れろとは言わん。いやむしろ、ずっと心に刻んでおくべきことだ。俺達のあの三年間は」

ハルヒ「…………」

キョン「これから先、辛いことや嫌なことがあったら、そのときは楽しかったあの頃を思い出せばいい。それでまた元気を出せるんなら、それは逃げでもなんでもない」

ハルヒ「…………」

キョン「でも、それはあくまでも時々そうやって立ち戻るための場所だ。これからもずっと留まっていい場所じゃない」

ハルヒ「…………」

キョン「長門も朝比奈さんも古泉も、SOS団の思い出を心に刻んだまま、新しい人生を歩み始めてる。そんな中、俺達だけここで立ち止まってていいのか?」

ハルヒ「……それは……」

キョン「お前だって、本当はもう分かってんだろ」

ハルヒ「…………」

キョン「そうじゃなきゃ、サークルだの大学デビューだの、そんなことを俺に言ったりするはずがないもんな」

ハルヒ「…………」

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 01:31:33.42 ID:ErdQi6E20
ハルヒ「……分かったわよ」

キョン「! ハルヒ」

ハルヒ「……しょうがないから、入ってあげるわ。あんたの部活。ただし……」

キョン「ただし?」

ハルヒ「……とびっきり、面白い部活にしなさいよねっ!」

キョン「……ああ、任せとけ」



―――大学入学から約二ヶ月が経過したこの日、俺は新しい部活を作った。

―――部の名前はまだ決まっていない。何をする部なのかも、まだ。

―――部長は俺、部員はハルヒ。たった二人の部活動だ。

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 01:36:06.41 ID:ErdQi6E20
―――翌日。


キョン「それでは第一回部活ミーティングを行う」

ハルヒ「ぷっ」

キョン「いきなり笑ってんじゃねぇ!」

ハルヒ「いや、だってあんた……ぷぷっ、似合わな過ぎ……」

キョン「うるせぇ! 俺だって恥ずかしいんだ」

ハルヒ「はいはい、笑って悪かったわよ。じゃあ続けてちょうだい部長さん」

キョン「う……うむ。え、えーと……じゃあまず、今日はこの部の名称と活動内容を決めたいと思う。何か意見のある人は?」

ハルヒ「…………」

キョン「じゃあハルヒ」

ハルヒ「いきなりあたし? まずあんたから言いなさいよ。言いだしっぺなんだから」

キョン「うるさい。部長命令だ」

ハルヒ「えっ、偉そうに……まあ、いいけど……」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 01:45:19.90 ID:ErdQi6E20
ハルヒ「えーっと……まあなんか面白いことをやったらいいと思います」

キョン「雑過ぎんだろ」

ハルヒ「だってそれが分かんないからこんなことになったんでしょ」

キョン「こんなことってお前な……それこそ高校の時みたいに、宇宙人とか未来人とか超能力者とか、そういうのを探すとかでもいいじゃねぇか」

ハルヒ「あんた、大学生にもなって……そういうのはオカルト研究会とかにでも任せときなさいよ」

キョン「…………」

ハルヒ「? 何よ?」

キョン「ああいや、別に」

ハルヒ「?」

キョン(……この分だとあの三人も、そう遠くないうちに地球人と現代人と無能力者になってるかもしれんな……)

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 01:51:45.13 ID:ErdQi6E20
キョン「まあでも面白いことか……うーん」

ハルヒ「ねぇ部長」

キョン「なんだハルヒ部員」

ハルヒ「別に活動内容ってさ、そこまで厳密に考えなくてもいいんじゃないの?」

キョン「と、いうと?」

ハルヒ「なんていうかこう……とにかく面白いこといっぱいやります! みたいな? ほら、イベント系サークルっていうの? ああいうのでもいいんじゃないの」

キョン「まあ確かにそういうサークルも少なくないが……」

ハルヒ「? 何か問題あんの?」

キョン「やっぱり、部のコンセプトはちゃんと決めた方がいいと思う」

ハルヒ「なんで?」

キョン「イベント系サークルって、なんかチャラそうじゃないか。出会い系サークルとかと勘違いされたら困る。まして現部員が男女一名ずつなら尚更だ」

ハルヒ「……あんた、そんなこと考えてたの……」スッ

キョン「いや待てたとえばの話だっておい微妙に距離を取るな!」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 02:00:12.68 ID:ErdQi6E20
キョン「まあ無難に天文部にでもにするか」

ハルヒ「天文部? あんたそういう趣味があったの」

キョン「いや、ないけど」

ハルヒ「じゃあなんで?」

キョン「ほら、高3の夏の合宿のときに皆で天体観測しただろ。あの星空の綺麗さが忘れられなくてな」

ハルヒ「あー。あれは確かに見ごたえあったわね……って、それだけの理由で?」

キョン「まあ……うん」

ハルヒ「……呆れた」

キョン「いいだろ別に……人が集まらなかったら途中で変えたっていいんだから」

ハルヒ「あんたさっきコンセプトがどうとか偉そうに言ってなかった?」

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 02:06:00.74 ID:ErdQi6E20
キョン「……とうわけで、我が部の名称は天文部とし、活動内容は天体観測とします。以上、何か異議のある人は?」

ハルヒ「異議なーし」

キョン「それでは以上の通り可決します」

ハルヒ「わー」パチパチ

キョン「それでは本日のミーティングはこれで終了します」

ハルヒ「……ねぇキョン。毎回これやるの?」

キョン「……まあ、改善の余地はあるかな……」

ハルヒ「ていうかさ、やるならやるで具体的に動き出した方が良くない? 部員集めのチラシ作ったりとか」

キョン「ん? ああ、そうだな。そういうのも進めてくか」

ハルヒ「とりあえず天体観測の日を決めてさ。その日に来たい人来てくださいーって感じで」

キョン「そんなんで来るか?」

ハルヒ「分かんないけど、何も無いよりは来そうじゃない?」

キョン「まあそれもそうか」

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 02:11:43.03 ID:ErdQi6E20
―――その日から、俺とハルヒは忙しく動き回った。

―――部員集めのチラシを作ったり、配ったり。

―――天体観測といっても道具も何も無いから、せめてよく星が見える場所を探したり。

―――そんなこんなで、天体観測当日を迎えた……のだが。



キョン「……見事に誰も来ないな……」

ハルヒ「うん……」



―――星がよく見えると評判の、少し小高い丘にある公園。

―――俺とハルヒは二人で空を見上げていた。

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 02:16:45.15 ID:ErdQi6E20
キョン「周りはカップルばかりだし……」

ハルヒ「……なんか、気まずいどころじゃないわね……」

キョン「……まあでもせめて、少しくらい星見て帰ろうぜ」

ハルヒ「……うん。そうね……」

???「あの~……」

キョン「えっ」

ハルヒ「?」

???「〇〇大の天文部の方……ですよね?」

キョン「! あ、は、はい」

ハルヒ「も、もしかしてあなた……」

???「はい! きょ、今日は仮入部に来させて頂きました!」

キョン「! あ、ありがとうござま、ございます!」

ハルヒ「肝心なとこで噛んでんじゃないわよバカキョン!」

???「……くすくす」

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 02:25:25.38 ID:ErdQi6E20
ハルヒ「あ、それであなた、名前は……」

???「はい。私は綿橋保美と言います」

キョン「!」

ハルヒ「えっ」

保美「わたはしやすみ、です。『わた』は綿あめの『綿』で……」

キョン「…………」

ハルヒ「…………」



―――俺とハルヒは思わず顔を見合わせた。

―――言うまでもなく、『あの』渡橋ヤスミとは別人だ。

―――学年の計算が合わないし、そもそも顔が全然違う。

―――それに何より、あのヤスミはハルヒが作り出した幻像だ。

―――でも、何故だか俺はひどく安心した。それはハルヒも同じだったように思う。

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 02:35:18.79 ID:ErdQi6E20
キョン「おー……」

ハルヒ「綺麗……」

キョン「なんかこう……目が暗闇に慣れてきて、どんどん見える星が増えていくのがいいよな」

保美「そうですね」

ハルヒ「ねぇキョン、あれ何? なんか星座っぽいけど」

キョン「俺に聞くなよ。知るわけないだろ」

ハルヒ「呆れた。あんたそれでも天文部の部長なの?」

保美「……くすくす」

キョン「……あっ」

ハルヒ「え、と」

保美「……ふふっ、仲良いんですね、お二人は」

キョン「いえ、全く」

ハルヒ「全力で否定させてもらうわ」

保美「くすくす」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 02:35:59.58 ID:ErdQi6E20
―――こうして、第一回の天体観測はまずまずの成功を収めた。

―――その後も地道な宣伝活動が奏功したのか、綿橋に続き、新部員が男女一名ずつ入部してくれた。

―――こうして偶然にもSOS団と同じ男女構成となった我が天文部だが、もちろんSOS団とは決定的に違うことがある。

―――それは、この部には宇宙人も未来人も超能力者もいないということだ。……ああ、もちろん異世界人も。

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/02(日) 02:44:05.29 ID:ErdQi6E20
―――それでも、俺は天文部が楽しかった。

―――もちろんSOS団の時みたいに、宇宙的未来的超能力的な出来事に巻き込まれることは一切なかったが、それでも十分に楽しかった。

―――それはきっと、ハルヒも同じだったんだと思う。

―――こいつはもう、昔のように無茶を言ったりしたりはしなくなったけど、楽しむときは全力で楽しむし、その爛々とした瞳の輝きは今も何ら失われてはいない。

―――その大星雲を閉じ込めたような両の瞳を真っ直ぐに向けられながら、俺は今日も、ようやく言い慣れてきた台詞を口にする。





「それでは、本日の天文部のミーティングを始めます!」






引用元: ハルヒ「ねぇキョン……あたし達大学デビュー失敗してない……?」