2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 14:45:45.10 ID:dDsEzjd10
 ――シンデレラガールズプロダクション事務所――

卯月「おはようございまーす」

拓海「そうは言ってもよぉ!!」

卯月「わっ!」

礼子「落ち着きなさい、拓海」

志乃「そうよ。彼も静観しろと言っていたじゃないの。短気はいけないわよ?」

卯月「え? え? どうしたの?」

まゆ「あ、卯月さん、おはようございまぁす。こちらに来てください」

卯月「う、うん。まゆちゃんおはよう。拓海さん、すごい荒れてるけど……」

まゆ「そうなんです。いまは近づかない方がよさそうです」 

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 14:47:46.50 ID:dDsEzjd10
卯月「どうしたの? またプロデューサーさんが変な仕事でも……」

周子「そんな程度ならよかったんだけどねー」

卯月「あ、周子さん、おはよう」

周子「ん、おはよー」

卯月「それで、あれは……。猫ちゃんがいなくなった時でもあんなに荒れないのに……」

周子「うん。昔の仲間がらみだって」



拓海「あーもー! どうしたらいいんだよぉ!」



卯月「え?」

周子「拓海の昔の仲間……ま、ボーソー族だね。それがさ、警察に捕まっちゃったらしいんだ」

卯月「あー……暴走行為でですか?」

 

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 14:49:25.44 ID:dDsEzjd10
まゆ「いえ、それなら拓海さんは荒れないんじゃないでしょうか」

周子「うん。それなら拓海も気にはなってもあんまり表には出さなかったと思うよ。まあ、悪いことには違いないんだけどねぇ……。ちょっとね」

まゆ「大麻……だそうです」

卯月「た、たいま?」

周子「うん。しかも育てて売りさばいてたっていうんだから……。未成年でたばこ吸ったり、バイクでうるさくしたりするのとは……ね」

まゆ「拓海さんとしては、その行為だけでも腹立たしい。さらには事務所にも迷惑かかるかも……ってことで荒れちゃってるんです」

卯月「迷惑?」

周子「まあ、拓海はやってないわけだけど、一緒にやってたんじゃないかって、勘ぐるやつが出てくるかも、ってこと」

卯月「むう……」

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 14:51:13.11 ID:dDsEzjd10
 
 
周子「プロデューサーは余計なことするほうが変なこと言われるからって何もなかったように過ごせって言ってるんだってさ」

まゆ「今日は朝からスタッフはみんな出払って対策してるんですよねぇ」

卯月「それなら、そっちに任せておいた方が……」

周子「うん。拓海もそこはわかってるんだ。わかってるんだけど、気持ちがね、追い付かないっていうか」

まゆ「もどかしいんでしょうねえ。まゆはあの人が動かない方がいいって決めたんだから、それに従えばいいと思いますけど」

周子「まあね」

卯月「うーん……」

周子「とりあえず、お姉様方に任せておくしかないんじゃない? 拓海がキレても、どうにか出来るだろうし」

まゆ「同世代ではなかなか……ですよねえ」

卯月「うむぅ……」

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 14:53:14.77 ID:dDsEzjd10
 
 
真奈美「諸君、聞いてくれ」

留美「今日は、プロデューサーはじめ、スタッフの手が回らないので、事務方は私と真奈美が担当することになったわ」

真奈美「レッスンには私。現場には留美はじめ、年長組が同道する」

留美「拓海も、そろそろ落ち着いてちょうだい」

拓海「……わかったよ」

留美「では、分担を発表するわ。今日の現場は……」
 

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 14:56:10.79 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「大麻、ねえ……」

卯月「あんな独特のにおいがするもの吸ってたら、そりゃあ、捕まるよね」

卯月「今時はタブだよね。せめてリキッド?」

涼「卯月? なにぶつぶつ言ってんの?」

卯月「ああ、涼さん。んー、拓海さん落ち着いたかなって」

涼「あー、だいぶね」

卯月「そっかあ。よかった」

涼「……卯月は優しいね」

卯月「えへへー。そうですか?」

涼「ああ。……でもさ、アタシらはアタシらのやるべきことをやっておかなきゃ。卯月もレッスンだろ?」

卯月「はい、ダンスレッスンです。涼さんは?」  

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 14:56:55.95 ID:dDsEzjd10
 
 
涼「アタシはボーカルトレーニング。いろいろ気になるだろうけどさ、まずは気合い入れていこうぜ。拓海もきっとそのほうが喜ぶよ」

卯月「はい! がんばりましょう!」

涼「おう!」

卯月「じゃあ、私、ちょっとレッスン前にお手洗い済ませてきますね」

涼「ん、じゃ、またなー!」

卯月「はい!」


卯月「んー。今日のダンスは……。青半分でいっか」

 パリポリポリ……

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 14:58:00.61 ID:dDsEzjd10
 
 ――トレーニングルーム――

マスタートレーナー「……よし、いったん休憩だ」

卯月「ふいー……」ゴクゴク

マストレ「島村?」

卯月「は、はい?」

マストレ「汗がすごいな。大丈夫か?」

卯月「あ、はい。水飲みすぎですかね?」

マストレ「うん、いや、水分を摂るのは悪いことじゃない。しっかり飲みたまえ。まあ、体のキレは一番よかったし、問題はないか……」

卯月「本当ですか!? ありがとうございます!」

マストレ「うん。ああ、それと水だけじゃなく、塩分も摂っておきたまえ」

卯月「わかりました!」

 

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 14:58:50.16 ID:dDsEzjd10
 
 
かな子「卯月ちゃん、さすがだねー」

美嘉「そりゃあ、卯月はニュージェネの一角だもんね」

卯月「そ、それほどでも……」

かな子「ニュージェネと言えば、凛ちゃんはどうしたの? 未央ちゃんはさっき見たけど」

美嘉「凛は仕事だよ。な?」

卯月「う、うん」

かな子「お仕事?」

美嘉「そうそう。ほら、トライアドプリムスのほうの」
 

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 15:01:07.28 ID:dDsEzjd10
 


 
 
ああ、凛ちゃん人気だもんね。

そ、忙しいんだよ。卯月とは違うよ。

そうだね、卯月ちゃんとは違うね。

違う違う。

                あははは。



        あははははは。
 

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 15:06:37.15 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「……うるさい」

かな子「え?」

美嘉「え、なんか言った? 卯月」

卯月「え?……あ、う、ううん。あー、その、ちょっと歌詞覚えなおさなきゃなって」

美嘉「ああ、うん。踊りながら、やっぱり頭の中で回すよね、歌詞」

かな子「うんうん。でも、どうしても動きのほうに集中しちゃって……」

マストレ「全部一度にやらなくていいんだぞ。三村はまず動きを覚えてからだ」

かな子「あ、はい」

マストレ「さ、そろそろ再開するぞ。ほら、みんな準備したまえ」

アイドルたち「はーい」

卯月「……」

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 15:11:54.90 ID:dDsEzjd10
 
  ――卯月の自室――

卯月「今日は参ったなあ……」

卯月「幻聴があんなクリアーに聞こえるとは思わなかったよ」

卯月「やっぱバッドは怖いねー」

卯月「あれかなー。やっぱり、青はアイスの混ぜものが強すぎなのかなあ」

卯月「夜は青やめておこっか」

卯月「うーん。じゃあ、黒とピンクかなあ。ああ、でも、緑……。うーん」

卯月「よし、じゃあ、黒一つとピンクと緑半分ずつでいこっと」パリポリ
ゴクン


《アイスとは、覚醒剤の隠語である。なお、大麻樹脂はチョコと呼ばれる》

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 15:13:39.93 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「じゃあ、勉強しておこうかな」


 ……三十分後


卯月「あはは、数字が立ち上がってきた。お、喧嘩してる喧嘩してる」

卯月「ほらほら、3がんばれ、5に負けちゃうよ。あはは」


卯月「あははははははは!」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 15:18:41.49 ID:dDsEzjd10
 
 
 §三ヶ月前§


卯月「痩せられる薬?」

級友『そうそう。他校の友達なんて、一ヶ月で八キロも痩せたんだって』

卯月「……それって、あんまりよくないんじゃないのかな?」

級友『急に痩せるのが?』

卯月「うん。それもあるし、薬自体も……」

級友『まあ、一気に痩せるのは負担あると思うけどね。ただ、フツーに店で売ってるから、違法とかはないんじゃない?』

卯月「そうかなあ……」

級友『だって、大通りに面してる店で売ってるんだよ? 違法だったら、すぐに捕まっちゃうって』

卯月「うーん……」

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 15:23:48.38 ID:dDsEzjd10
 
 
級友『それに痩せるのは食べないからじゃなくて、動けるかららしいし』

卯月「動けるって?」

級友『なんか、楽しくなって、何時間も踊れたりとか』

卯月「余計怪しいよ」

級友『そうかな?』

卯月「そうだよ」

級友『まあ、卯月にはいらないかな。スタイルいいし』

卯月「それは事務所から言われるから……」

級友『そうだよねー。アイドルだもんねー。はっ、アイドルと長電話とか、贅沢だな、私!』

卯月「そうだよー! 島村卯月、アイドルがんばってますよ!」

級友『あはは……。そういえばさー……』

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 15:28:47.69 ID:dDsEzjd10
 
 ――とある繁華街――


級友たち「じゃあ、またねー」

卯月「うん、またねー!」

卯月「……さ、帰ろう」テクテク

卯月「そういえば、あの子の言ってたのってこの辺だっけ」

卯月「痩せられるかー」

卯月「……あと2キロが落ちないんだよねー」

卯月「覗いてみるだけ……」

卯月「ううん、いけない、いけない。怪しいものには近づいてはいけませんよ、卯月さん」

卯月「うーん、でも、興味は……」

卯月「……お店が見つかったら、見てみる。見つからなければ帰る。うん、そうしよう」

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:10:42.94 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「……またあっさり見つかっちゃった」

卯月「本当に大通りに面してるんだ。お店自体はビルの地階だけど……」

卯月「うー……」

卯月「入って、みちゃおうかなあ」


売人(以下P)「いらっしゃいませー」


《麻薬密売人は一般にプッシャーPusherと呼ばれる》


卯月「わー……こういうのなんていうんだろ。サイケデリック?」

卯月「いろいろなものがあるんだね。あ、輝子ちゃんが好きそうな感じ……」

P「なにか興味あったらいつでも言ってくださいねー」

卯月「あ、はい」

卯月(もっと軽い感じの人がやってるのかと思ったけど……。普通のお店の人っぽい?)

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:14:10.79 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「……」ウロウロ

P「……」ニコニコ

卯月「……」ウロウロ

P「……」ニコニコ

卯月「あ、あのー」

P「はい、なんでしょう」

卯月「こ、こういう所は、その……警察に怒られちゃうようなものは、その……」

P「んー。うちは違法なものは扱ってませんね」

卯月「そ、そうですよね」

P「……おねーさん。こういうのは初めて?」

卯月「あ、はい。えっと、その友達に聞いて……。はい」

P「そっかそっか。まあ、みんな最初はそうだよね。でも、興味はある?」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:18:42.38 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「えっと……。その、別に試してみようとかまでは……」

P「まあ、そうか。じゃ、今日は買い物しなくて良いからさ。俺の話聞いてみない?」

卯月「え? あ、は、はい」

P「この手の店はさ、最近は脱法ハーブ店なんて呼ばれるよね。なんで脱法っていうかわかる?」

卯月「えっと……違法でも合法でもないから?」

P「まあ、イメージとしてはそうかな。でも、本当のことを言えば、法律が追い付いてないってのが正しいんだ」

卯月「追い付いていない?」

P「そう。たとえば、覚醒剤は覚せい剤取締法、大麻は大麻取締法、その他の麻薬類は麻薬取締法で規制されてる。これは知ってるよね?」

卯月「はい。細かくは知りませんけど……」

P「うん、まあ、細かいのはいいんだけどね。ともあれ、それらの薬物は、人体に強烈な作用を及ぼすために規制されてるわけだね」

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:23:03.74 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「ふむふむ」

P「でも、ガンだとかどうしようもない痛みに対しては麻薬の一部を医療用に用いることもある。副作用と秤にかけてるにせよ、結局、それだけ効き目があるってことだ」

卯月「……なるほど」

P「こうして法で取り扱いが定められている薬物に対して、この手のお店で扱っているものがどんなものかというと……」

卯月「……というと?」

P「おおざっぱに言うと、似たようなもの、ってことになるな」

卯月「効果が似てるんですか?」

P「残念ながら違う。似てるのは構造だよ。化学構造」

卯月「化学構造……。分子の組み合わせとかでしたっけ?」

P「お、よく知ってるね。その通り。分子がどうつながって、どう形を成しているか、それが似てるわけだよ」

卯月「似てると……どうなんです?」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:27:37.17 ID:dDsEzjd10
 
 
P「効果も似てくると言いたいところだけど、そうでもない。物質がもたらす作用ってのは実に微妙でさ。分子の場所が一個違うだけで、まるで人体には効果がなかったりする」

卯月「そうなんですか……」

P「ただ、中には似たような効果を持つものもある。ごくわずかだし、いわゆる麻薬に比べたら、ごくごく効き目は薄いんだけどね」

卯月「なるほど」

P「とはいえ、似たような構造を持つ物質ってのは本当にたくさんあってね。まだ見つかっていないものや、作り出せていないものもいっぱいあるんだ」

卯月「へー……」

P「法で規制するには、麻薬に似た効果を持つ物質をちゃんと特定しなきゃいけない。だけど、さっきも言ったとおり、たくさんありすぎて……」

卯月「追い付かない、ってわけですか」

P「そ。だから、脱法。でもさ、実際には違法だと認定されるほど効果や中毒性が強いものってのはごく一部。よほど運がよくないと麻薬みたいな効果は得られないね」

卯月「……ということは?」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:32:34.92 ID:dDsEzjd10
 
 
P「この店で売ってるようなものは、たいていが気休め程度か、まあ……そうだね。煙草よりよほど効果がないくらいのものだ」

卯月「そんなものが売れるんですか?」

P「売れるよ。もしかしたら、と思って買う人もいるし、物珍しいからって試す人もいる。ま、お遊びだね」

卯月「……危なくはないんですか?」

P「そのまま食べちゃうとかすれば、お腹は壊すかもね」

卯月「友達は、ずっと動き続けられるとか……」

P「うーん。文字通りその作用だと覚醒剤になっちゃうからね。雰囲気や思い込みのほうが強いんじゃないかな?」

卯月「……なるほど」

P「リラックス作用とか、少しやる気になるとか、それくらいはあるよ。それを大げさに言ったのかもね」

卯月「そうかもしれませんね」

P「そうだね、たとえばこれなんかは……」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:35:21.34 ID:dDsEzjd10
 
 ――卯月の自室――


卯月「あの人、話うまかったなあ」

卯月「いつの間にか、試供品渡されちゃってるし……」

卯月「お香みたいに燃やしてみろって言われたけど……」

卯月「まあ、変なことなるようだったら、すぐ窓開ければいいよね」


 チリチリチリ……


卯月「……うーん?」

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:40:26.13 ID:dDsEzjd10
 
 ――ハーブショップ――

P「やあ、いらっしゃい」

卯月「こんにちは」

P「こないだ来てくれた子だよね? 渡したのはどうだったかな?」

卯月「あー、あれは……」

P「うん?」

卯月「なんか、変なにおいがしただけでした」

P「あー、そっか。じゃあ、合わなかったんだね」

卯月「合う合わないってあるんですか?」

P「あるねー。それどころか、体調とかによって、同一人物でも、効く時と効かない時ってあるよ。そこらへんは、一般の薬とはやっぱりちょっと違うね」

卯月「そうなんですか……」

P「そうだなあ……。じゃあ、これなんかどうかな」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:43:25.20 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「はい? 錠剤……ですか?」

P「そう。なんかかわいらしいだろ?」

卯月「色がピンクの上に花みたいな形ですものね」

P「クローバーって言うやつもいるけどね」

卯月「これは……?」

P「サプリメントみたいなものかな」

卯月「サプリメントですか」

P「うん。ハーブとは違うね。市販品でもあるだろ? エネルギーチャージみたいな感じ。栄養ドリンクとかが近いかもね」

卯月「へえ……」

P「これもあげるから試してみてよ」

卯月「え?」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:47:06.97 ID:dDsEzjd10
 
 
P「ついでにこのピルカッターもあげるよ。最初から丸々一錠飲む必要はないから」

卯月「ピルカッター?」

P「こういう錠剤を割る道具。ほら、ここに入れて閉じるだけでカットされるんだ」 

卯月「へー……。こんなのもあるんですね」

P「調整するのに便利だよ。成人男性と女の子じゃ体重自体違うし、同じ分量飲むのは変だろ?」

卯月「言われてみれば……」

P「じゃ、これあげるから。試してみて」

卯月「え? あ、はい。……わ、わかりました」

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:51:55.56 ID:dDsEzjd10
 
 §二ヶ月前§


P「やあ、しばらくぶりだね。どうだった?」

卯月「はい。あれすごいですよ! なんかすーっとして気持ちいいし、さわやかな気分になって体動かしたくなるし」

P「ほうほう」

卯月「おかげでどうしても絞りきれなかった体重が落ちましたよ!」

P「それはよかった。じゃあ、君に合ってたんだ」

卯月「そうかもしれません」

P「それはよかった」

卯月「はい!……あー、ところで……」

P「うん?」

卯月「あれって、商品としてはおいくらくらいに……?」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:56:06.67 ID:dDsEzjd10
 
 
P「うーん。一錠ごとだとこれくらいかな。もちろん、まとめれば多少は引けるけど」

卯月「……結構するんですね」

P「うん、まあね」

卯月「うーん……」

P「まあ、無理はしない方が良いよ。いまどうしても欲しいっていうのでなければ……」

卯月「でも……」

P「……ふむ。その様子だとなにかあったのかな?」

卯月「え、なんでわかるんですか!?」

P「いくら割って飲んだにしても、ちょっと間が空きすぎてる。きっと、君はある程度の効果があるのを知って、でも、これ以上はいいや、と思ったはずだ」

卯月「う……」

P「現状に満足していれば、余計なものを使う必要はないからね」

卯月「……はい」

P「でも、またここに来た。……ってことは、効果を得たいと思うなにかがあったんじゃないか。そう思ってね」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 16:58:12.20 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「そう……なんです。私……」

P「うん」

卯月「私……」

P「……」



 相変わらずニュージェネ人気だよねー。

 ニュージェネは、ね。

 なにその言い方。

 いや、人気なのはたしかだし、卯月もかなりなんだけどさ。やっぱり、しぶりんがいるから……。

 まあ……それは、ね。

 しょうがないよ。凛ちゃんはトップクラスの人気だもん。

 卯月だって、トップ集団からちょっと離れてるだけじゃん。

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:00:08.82 ID:dDsEzjd10
 
 
 そうだね、かなり売れてるほうだよね。ただ、バランスという意味では……。

 うーん。がんばってると思うんだけどなあ。

 私たちは普段の卯月も知ってるけど、世間の人は露出してる部分しか知らないしね。

 難しいねー。



卯月「私、もっとがんばらなきゃいけないんです!」

P「ふむ……」

卯月「それに、お金、ないわけじゃないし……」

P「そうなの?」

卯月「あんまり無駄遣いしちゃいけないって思ってたんですけど、これは役に立つものだから……」

P「まあね。それに一回一錠とは限らないし」

卯月「そうですよね。割って飲めば……うん」

P「そうだなあ……。こうしない?」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:01:19.26 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「はい?」

P「こないだ君にあげた奴、通称Xって言うんだけどさ」

卯月「はい」

P「あれって、作り手によって、色んな種類があるんだ。基本の成分は変わらないけど、作ってる場所で違ったりとか。ほら」

卯月「あ、いろんな色とか形があるんですね……」

P「そう。まあ、この中にも人によって効きが悪いとかいいとかあるんだけど、そこは試してみてもらわないと判断は難しいかな」

卯月「こないだもらったやつは……。あ、これですね」

P「うん。それは平均的に評判良い奴。でさ、この色んな種類のやつを、何種類も買ってくれたらサンプル扱いって事で、お安くしておくよ」

卯月「……いいんですか?」

P「うん。その中で君に合うのがあれば、今後まとめ買いしてくれるだろうし」

卯月「……ふむふむー」

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:03:30.93 ID:dDsEzjd10
 
 
P「そうだな。十種類で、これくらいにしちゃう」

卯月「え、いいんですか? 半額くらいですよ?」

P「まあ、最初だから」

卯月「……じゃあ、十種類もらっちゃおうかな……」

P「お、いいね。じゃあ、それぞれ説明しておこうかな。この青で十字マークは……」


《X(エックス)、×(バツ、ペケ)、E、タマなどの多くの通称を持つ『エクスタシー』はMDMAを中心としたドラッグである》
《ただし、実際の錠剤には多くの成分が含まれており、MDMAよりも覚醒剤等の混ぜ物のほうが多い場合もある》

《言うまでもなく、違法薬物である》

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:07:18.67 ID:dDsEzjd10
 
 §現在§


雪菜「卯月ちゃん。最近、ちょっと膚が荒れてない?」

卯月「え? そうかな?」

雪菜「うん。夜更かしとかしてない? メイクで隠れる程度だから問題ないとは思うけど……」

卯月「うーん。そうだね、ちょっと夜更かししちゃったかも」

雪菜「忙しいとは思うけど、気をつけてね。女の子はいつでも綺麗でいなくっちゃ!」

卯月「そうだね。ありがとう、気をつけるよ!」

雪菜「じゃあ、本番行きましょ」

卯月「うん、がんばろう!」
 

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:09:01.93 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「うーん。たしかにちょっと膚が……」

卯月「バツ食べ過ぎかなあ」

卯月「よし、明日は食べないでおこう!」




マストレ「どうした、島村」

マストレ「ふざけてるのか? やる気がないなら、さっさと帰れ!」

マストレ「……どうした、本当に。体調が悪いなら、先に言っておいてくれ」

マストレ「今日はここまで。体調管理も仕事の内だからな、島村」

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:15:03.53 ID:dDsEzjd10
 
 ――卯月の自室――


卯月「怒られちゃった……」

卯月「やっぱり……。バツないとだめだなあ……」

卯月「今日は……って、あれ、もうあんまり……」

卯月「電話してみよ」


P『卯月ちゃん?』

卯月「はい。あのー、バツが切れそうで……」

P『んー……。売るのはいいけどさ。先週のツケ精算してもらわないと』

卯月「う、いくらでしたっけ……」

P『――円だね』

卯月「え、そんなに?」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:18:40.10 ID:dDsEzjd10
 
 
P『うん。これだけ。払える?』

卯月「それは払えますけど……」

P『その口ぶりだと、次がきつい?』

卯月「……正直言うと」

P『そっかー。でも、ずっとツケってわけにもいかないからね。やっぱり、こっちも商売なわけだし』

卯月「はい……」

P『まあ、これを機会に少し減らしてみるとかどう? それに、減ったって言っても、結構持ってるでしょ、卯月ちゃん』

卯月「それは……ありますけど、でも、なんていうか……」

P『どうしたの?』

卯月「こう、じゃらじゃらって出来ないと……不安っていうか」

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:20:16.90 ID:dDsEzjd10
 
 
P『ふうん……。そっか……。そうだなあ、どうしてもって言うなら、お金を稼ぐ手段は紹介できるけどね』

卯月「紹介ですか?」

P『うん。卯月ちゃんも気持ちよくなれるお仕事』

卯月「……え?」

P『ま、でも、それは最終手段だよね。とりあえずはさ、これまでのツケ払ってくれたら、新しい分はツケでいいから。そうだね、念のため、いつもの半分にしとこうか』

卯月「……そうですね。それで、我慢して……みます」

P『ん、じゃあ、明日来る?』

卯月「はい。よろしくお願いします」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:24:32.70 ID:dDsEzjd10
 
 ――ハーブショップ――

P「いらっしゃい、卯月ちゃん」

卯月「こんにちは。あの……これ」

P「あ、はい。ええと……。うん、ぴったり。じゃあ、これ、新しい分ね」

卯月「……これだけ、なんですね」

P「まあ、いつも、半金は入れてもらって、半分ツケだったわけだし。ツケ分だけだと、その量になるよね」

卯月「そう、ですよね……」

P「うん。まあ、すぐ尽きるわけじゃないんだし」

卯月「はい……」


卯月「……」ウロウロ

卯月「……」ウロウロ

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:25:32.97 ID:dDsEzjd10
 
 
P「……どうしたの?」

卯月「やっぱり……いつもの分、もらえない、ですか?」

P「……お金は?」

卯月「……お仕事、あるんですよね?」

P「そうだね」

卯月「それって……その……」

P「Xって、ラブドラッグとも言うくらいだから……ね」

卯月「……」

P「やめとく?」

卯月「……どれくらい」

P「うん?」

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:26:34.25 ID:dDsEzjd10
 
 
卯月「時間はどれくらい……」

P「そうだね、ひとまず二時間かな。……ま、いずれにしても、ゆっくり話そうか」

卯月「……」

P「これ、あげるから、ね」

卯月「……はい」


《少女はわかっていた》
《もはや自分が逃れられない底なし沼にはまりこんでしまったことを》
《それでも、彼女は止められない。自らの体を売ってでも、麻薬のもたらす快楽に逃げ込むことを》

《一つの人生が、麻薬によって破壊された瞬間であった……》


                                              薬物乱用防止啓発ドラマ『蝕まれゆく心と体』・終

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:27:55.33 ID:dDsEzjd10
出演

  島村卯月

    ・

向井拓海/柊志乃/高橋礼子
佐久間まゆ/塩見周子/木場真奈美
和久井留美/三村かな子/城ヶ崎美嘉
松永涼/井村雪菜/青木麗

ナレーション 三船美優

製作協力・シンデレラガールズプロダクション

ダメ、ゼッタイ。
http://uploda.cc/img/img51c1356591307.png

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:31:15.77 ID:dDsEzjd10
 
 
 パチパチパチパチ……


P「さて、卯月主演の薬物乱用防止啓発ドラマの完成版を見てもらったわけだ。いかがですか、早苗さん?」

早苗「うんうん。良い出来じゃない? わざわざ古巣に営業に行った甲斐があったわね」

P「その節はお世話になりました」

早苗「まあ、ちょっと顔つないだだけよ」

拓海「でも、これ、アタシ、最初に出てイメージ下げただけじゃねえか?」

P「その代わり、交通安全のほうのドラマでかっこいい白バイ隊員の役もらえただろ?」

拓海「ま、まあ、あれは……久しぶりにキマッた仕事だったけどよ……。へへっ」

片桐早苗(28)
http://uploda.cc/img/img51c13a53d37c4.jpg

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:35:12.34 ID:dDsEzjd10
 
 
早苗「それより、卯月ちゃんよ。おつかれー! がんばったわね!」

卯月「あ、はい。えへへ」

真奈美「うむ、なかなか迫る物があったな。やはり、女子高生役はぴったりだな」

美嘉「アタシじゃちょっとギャルっぽすぎてだめなんだって。ちぇっ」

かな子「今回は普通の子が……ってコンセプトだしね」

留美「いずれにしても、かなりの熱演だったわね」

周子「熱演といえばプロデューサーもなかなかだったよ」

まゆ「まさか売人役で抜擢されちゃうなんて。さすがです」

P「なんか、素人っぽい奴を出したかったらしいよ。うん……」

涼「たしかに素人臭いのがうさんくささを助長してたな」

礼子「でも、本当になかなかだったわよ?」

卯月「そうですよ! すごい話もうまかったですし!」

P「あれ、全部でたらめだからな?」

志乃「適当なこと言って堕落させる役なんだから、それでいいじゃない」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:41:24.61 ID:dDsEzjd10
 
 
美優「卯月ちゃんも相手が慣れてる人だからか、気安い雰囲気を自然と出せてましたしね」

雪菜「でも、怖いですよねえ……。あんな風に優しげに近づく人が……」

凛「うん、怖かった」

未央「本当だよ」

P「お、凛、未央、どうだった?」

卯月「どうだった? どうだった?」

凛「さっきも言ったとおり、怖かったな。何も知らずにはまっていっちゃうと……」

未央「うんうん」

凛「卯月はよく表現してた思うよ。我慢しようとして、でも、頼っちゃうのとか……」

卯月「えへへー」 

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:43:26.06 ID:dDsEzjd10
 
 
未央「しまむーが主演でニュージェネの話もあるのに、私たちが出演できなかったのは残念だったけどねー」

P「凛と未央は15歳だからなあ。契約で16歳以上のみの出演ってことになってたから……」

早苗「いくら若い子向けのドラマとはいえ、あんまり子供を出すと怒られちゃうからねー」

凛「私たちも女子高生なんだけどな」

早苗「そこは、ほら、お役所だから」

凛「そっか」

P「さて、上映会も終わったし、打ち上げに行こうか。みんな応接間に移動してくれ」

アイドルたち「はーい」


 ワイワイ
 ガヤガヤ

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:44:17.69 ID:dDsEzjd10
 
 
未央「あ、しぶりん、ちょっといい?」

凛「うん? どうしたの?」

未央「うん、ちょっと……これ、さ。サインもらえないかな。五枚」

凛「サイン? いいけど、これニュージェネのCDじゃん。未央のサインは?」

未央「いや、まあ、ほら、私の知り合いだから、私のサインより凛のほうがいいって」

凛「ふうん? じゃあ、書いておくよ。あ、書くものあるなら、いま書いちゃうけど」

未央「うん、ペンあるよ」

凛「うん。……未央? どうしたの?」

未央「え?」

凛「いや、なんか汗すごいから……暑い?」

未央「あー……。さっきちょっと辛いお菓子食べたんだ」

凛「へえ……。でも、とりあえず拭いておきなよ」

未央「あ、うん。メイク崩れちゃうといけないから、化粧室行ってくるねっ!」

凛「うん。その間にサインしておくから」

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:45:04.69 ID:dDsEzjd10
 
 
未央「未央のサインは……って、あれだからしぶりんはさ」

未央「私のサインなんかほしがる人いないってわかってて、ああいう……」

未央「ううん、違う、違う。しぶりんはそんなこと思わない。私をばかにしたりなんか、しない」

未央「思ってるのは……」

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:45:35.62 ID:dDsEzjd10
 
 
 きゃはは、知ってる?

 なに?

 未央のあだ名。The Fifty-oneだって!

 あー、永遠の51位様ね。

 そうそう、ゼッタイに51位だから、放っておいてもCD出してもらえちゃう!

 ニュージェネレーションだからねー。

 事務所も困ってるんじゃないの。一人選び損ねたなあ、みたいな。

 うわ、ひっどーい。

 あんた、もっとひどいこと言ってたでしょ!

 あはは、それもそっかー。

 あはははははははは!

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/19(水) 17:46:51.56 ID:dDsEzjd10
 
 
未央「くうっ。まだ効かない。はやくキテよ」バリボリバリボリ

未央「……よし、もう半錠飲んじゃおっか」バリボリ

未央「あ……ちょっと、キタ……」

未央「私は特別……そう、特別なんだ。ニュージェネレーションで……」

未央「特別……アイドルだから……私は……私は……」


   あはは

             あはハアは

                   はハは

 は  はあは は は       ははァは      は



                        終

引用元: 島村卯月「蝕まれゆく心と体」